2021年05月17日

●「大前研一氏ディエムについて語る」(第5489号)

 2021年5月14日のことです。当日付の朝日新聞朝刊は、
次のタイトルの記事を報道しています。
─────────────────────────────
 ◎FB主導の仮想通貨 また縮小
 米フェイスブック(FB)が主導して立ち上げを目指していた
暗号資産(仮想通貨)「ディエム」の発行・管理団体(本拠・ス
イス)は12日、スイス金融当局への許可申請を取り下げ、主要
拠点を米国に移すと発表した。スイスを拠点にグローバルなデジ
タル通貨の立ち上げを目指してきたが、米国の既存銀行と提携す
る形に切り替える。当初の構想からは大きく後退した形である。
           ──2021年5月14日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 「ディエム」とは、フェイスブックの仮想通貨「リブラ」を改
称した名前です。なぜ、名称を改称したのでしょうか。
 「リブラ」では、日本円も含む複数主要通貨(中国・人民元は
含まず)によるバスケットに連動する仮想通貨を管理団体である
リブラ協会が発行するという野心的な計画だったのですが、主要
国の政府や中央銀行が、米ドルにとって代わりうるとの懸念や、
マネーロンダリングに利用される恐れがあるなどして猛反発、計
画を変更せざるを得ない状況に追い込まれたのです。
 そこでフェイスブックは、通貨の名称を「ディエム」に変更し
ディエムの管理団体であるディエム協会が、シルバーゲート銀行
と提携し、同銀行がドルに連動する「ディエム・ドル」を発行す
ることになったのです。シルバーゲート銀行とは、仮想通貨関連
会社へのサービスで現在業績を伸ばしている、カルフォルニア州
に本拠を置く銀行です。いずれにせよ、当初の計画から考えると
大幅な計画変更であり、後退であるといえます。
 この「ディエム」、かつてのリブラ構想については、多くの識
者──とくに世界の金融関係の学者や評論家が警戒し、疑問を呈
するなか、経営コンサルタントの大前研一氏は大賛成してしてい
ます。どのような点が賛成なのかについて、参考になると思うの
で、大前研一氏の意見をご紹介しておきます。
─────────────────────────────
 現在の通貨制度には大きな問題がある。まず基軸通貨であるは
ずの米ドルが、ドナルド・トランプ前大統領の時代に、彼の身勝
手な発言や思いつきのツイートに反応して乱高下してしまってい
た。それから、世界の国際決済システムの中核を担っているSW
IFT(国際銀行間通信協会)がアメリカの強い影響下にあるた
め、アメリカが制裁対象にした国や地域の銀行や企業はSWIF
Tが使えなくなり、米ドル建ての送金や決済ができなくなる。実
際、イランの制裁にこれを用いたために、フランスの石油会社ト
タルは同国での石油掘削事業から撤退してしまった。
 つまり、現在の通貨制度だと、アメリカの大統領の一存で世界
中が振り回されてしまうのだ。そうならないためには米ドル以外
の基軸通貨、それからSWIFTではない国際決済システムが必
要であって、デイエムはまさにその役目を果たすのが目的なので
ある。しかも、デイエムは、ビットコインのような発行・運営団
体が不在で価値の裏づけもない仮想通貨とは異なる。デイエム協
会が発行・運営し、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドなどの主
要通貨や短期国債などで裏づけることによって、価値が大きく変
動しにくい設計になっているのである。(中略)
 フェイスブックCEOのザッカーバーグ氏も、本気なら、フェ
イスブックを辞めて、自分の財産をここに半分くらいつぎ込むべ
きだろう。そうすれば「信用」が生まれる。
              ──大前研一著/プレジデント社
                   『大前研一DX革命』
─────────────────────────────
 大前研一氏といえば、2001年に上梓した『大前研一新・資
本論/見えない経済大陸へ挑む』(東洋経済新報社)のなかで、
21世紀は、リアルの経済の他に、サイバー、グローバル、マル
チプルが加わった4つの経済空間が生まれると予測しています。
ビットコインやフェイスブックのリブラ(ディエム)のような仮
想通貨は、サイバー空間の経済へ導くテクノロジーといえます。
 そして、おそらく2021年中には、ディエムに加えて、中国
のデジタル人民元のような中央銀行による仮想通貨(CBDC)
も出現し、サイバーの経済空間が一層よく見えるようになると思
われます。これは先端テクノロジーを使いこなすディスラプター
(破壊的イノペーター)であり、対応を怠ると、業界もろとも消
滅させられるほどの破壊力を秘めています。
 しかし、日本では、2021年になっても、20世紀のリアル
な経済しか見えていない経営者や政治家が、過半数を占めていま
す。これでは、日本経済がいつまでもデフレの底に沈んで、低迷
から脱却できないのも無理はないのです。大前研一氏にいわせる
と「DX」の本質は次のようになります。
─────────────────────────────
 DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、単にITや
デジタルテクノロジーを取り入れるといった単純なことではなく
デジタルテクノロジーを用いて、21世紀型企業に変革を図るこ
とである。                 ──大前研一氏
─────────────────────────────
 実はGAFAのうち、もっとも破壊力の大きい企業は、アマゾ
ンであると私は考えています。アマゾンは、最初から「あらゆる
商品の品揃え」を行い、それらをECでなるべく安い価格で販売
し、自ら届けることを目標としており、そのため、物流には最も
力を入れています。DXを語るうえで、アマゾンという稀有な企
業のことをもっと詳しく知る必要があります。
 アマゾンを単なるEC企業と考えると、とんでもない間違いを
犯すことになります。そういうわけで、EJでは、しばらくアマ
ゾンについて調べてみることにします。
             ──[デジタル社会論U/017]

≪画像および関連情報≫
 ●英ディエムの弁護士立ち上がる、フェイスブックのリブラ
  改名に障害
  ───────────────────────────
   最近ディエムに改名したフェイスブックのステーブルコイ
  ン、リブラのブランド再生計画の試みは、同名の英国フィン
  テック企業が法的措置を取る準備をしており、再び壁にぶつ
  かったようだ。計画の運営組織であるリブラ協会は最近、新
  たなスタートを切るためにラテン語で「日」という意味の、
  ディエム協会に改名したと話した。
   しかし、シフティッドの報告によれば、フェイスブックや
  関係機関は、小規模の買い手や売り手がインターネット上で
  所持品を交換できるロンドン拠点のディエムプラットフォー
  ムとの厄介な法的論争に陥るかもしれない。メディアはディ
  エムの創設者でCEO(最高経営責任者)のジェリ・クピ氏
  の発言を引用した。
   「12月1日にフェイスブックのリブラ協会がディエムに
  改名することを知り、驚愕した。(中略)小規模新興企業と
  て、リブラのアルトコインから生じる顧客の混乱が私たちの
  成長に大いに影響を与えるのではないかと懸念している」法
  的論争の合図となりそうだ。またメディアは、クリス・アデ
  ルスバッハ氏というディエムの投資家が、法律専門家はフィ
  ンテックチームに「ディエムの銘柄を守る」ように助言した
  と話したと伝えている。     https://bit.ly/33HOCAh
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大前研一氏.jpg
大前研一氏
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2021年05月14日

●「アマゾンドットコムの基本的戦略」(第5488号)

 新型コロナウイルスの感染者拡大が止まらず続いています。心
配なのは、東京、大阪だけでなく、感染拡大が地方に広がってい
ることです。2021年5月12日現在、直近一週間における人
口10万人当たりの感染者は次のようになっています。
─────────────────────────────
     ◎人口10万人当たりの感染者数
        東京都 ・・・・ 41・3人
        大阪府 ・・・・ 67・7人
        福岡県 ・・・・ 56・6人
       久留米市 ・・・・ 65・8人
       5月12日、羽鳥慎一モーニングショウ/データ
─────────────────────────────
 これを見ると、久留米市は、数値が大阪府に近づいており、福
岡県も感染者が拡大しています。そういうなかにあって、東京都
は、かなり感染を抑えているように感じます。
 ところで、5月11日、「デジタル改革関連法」が参院内閣委
員会で可決され、本原稿執筆時の12日に成立する見通しになっ
ています。しかし、この法案は、菅政権発足後、たった5か月で
まとめられた法案であり、しかも計63本の法案が束ねられ、多
くの影の部分もあるにもかかわらず、野党が十分に追及できない
状態のまま成立することになります。
 「デジタル改革関連法」は、デジタル庁設置法案のほか、デジ
タル社会の理念を定めた「デジタル社会形成基本法案」、個人情
報保護法や行政手続きの押印廃止に必要な法律の改正案を盛り込
んだ「デジタル社会形成整備法案」、マイナンバーと預貯金口座
をひもづければ、公的な給付金の受け取りをスムーズにし、災害
や相続時の口座照会もできる法案から成っています。
 デジタル庁については、もっと情報が集まってから、改めて述
べることにして、本題に戻ることにします。
 GAFAの4大プラットフォーマーのなかの2つの「A」、1
つはアップル、2つはアマゾンです。これらの2社は、グーグル
とフェイスブックとは、少し違うスタンスを持っています。アッ
プルは、もともとPCメーカーであると同時にソフトウェアメー
カーです。しかし、インターネットを使うことが前提であるスマ
ホ、アイフォーンを開発しているので、GAFAの有力な一角を
占めています。
 アマゾンは、そのメインはEC、エレクトロニック・コマース
すなわち、電子商取引がメインの企業です。アマゾンは、当初は
「インターネット書店」として世の中に認識されましたが、はじ
めから、本だけを売るのではなく、あらゆる商品を扱う世界一の
EC事業を目指し、実際にそうなっています。書籍は、著者、書
名、出版社などのデータが明確であり、商品を間違える心配がほ
とんどないので、最初の商品になったのです。
 アマゾンが「インターネット書店」として開業したのは、19
95年7月のことです。そのとき、アマゾンの創業者のジェフ・
ペゾス氏があるレストランで、知人にナプキンの紙にペンで描い
て説明したというアマゾンの事業計画があります。図については
添付ファイルをご覧ください。
 ジェフ・ペゾス氏は、顧客によい体験をしてもらうことが大切
と説きます。たとえば、他の書店を何軒まわっても、絶対に見つ
からなかった本がアマゾンで簡単に見つかり、買えたとします。
しかも、即日手に入ったとします。これは顧客にとってよい体験
です。「アマゾンは何でもあるんだな」という体験です。
 こういう体験が積み重なると、トラフィック、すなわち、サイ
トには、多くのお客が集まってきます。多くのお客が集まると、
さらに本が売れるようになり、アマゾンとしては、さらにセレク
ション(品揃え)が豊富になり、さらに一段と本が売れるように
なります。
 このような良いサイクルが続くと、アマゾンは売上高を伸ばし
て成長し、低価格でサービスを提供することになります。物流は
規模の経済が働くので、低コストで商品が提供できるようになり
ます。そして、それが顧客体験の向上につながり、トラフィック
が増えるという循環になっていくのです。
 尾原和啓/島田太郎両氏は、このジェフ・ベソス氏の理論は、
グーグルやフェイスブックにも同じことがいえるとして、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 顧客体験の向上を起点として、商品の拡充とコスト低減という
2つのサイクルがうまく循環しています。この2重構造がアマゾ
ンの独占性を生み出しているのです。
 この構造は、グーグルやフェイスブックにも同じことが言えま
す。グーグルを使えば探しているものが見つけやすいから、ユー
ザーはグーグルを使う。すると情報提供側はより見つけてもらい
やすいよう、グーグルの仕様に合わせて情報をアップするように
なり、さらにグーグルで情報が見つけやすくなる。こうして、構
造的にスケールフリーネットワークがより展開しやすくなってい
るのです。
  ──島田太郎/尾原和啓著『スケールフリーネットワーク/
        ものづくり日本だからできるDX』/日経BP
─────────────────────────────
 GAFAに代表されるインターネット企業が革新を起こした分
野は、小売業と広告業の分野だけです。これら2つの分野の合計
は、米国のGDP約19兆ドルのわずか7%に過ぎないのです。
そういう意味において、まだ、革新を起こせる分野は93%も手
つかずに残されています。
 そういう意味において、日本にも十分なチャンスが残されてい
るといえます。そのためには、日本社会を徹底的にデジタル社会
に改変する必要があります。日本はコロナ禍から脱却できていま
せんが、そのデジタル化のスタート年は今年からはじまると考え
ています。        ──[デジタル社会論U/016]

≪画像および関連情報≫
 ●<ストーリー戦略>アマゾン、スターバックス/楠木建氏
  ───────────────────────────
   先ほど戦略の本質は「違いをつくって、つなげる」ことだ
  と述べた。このうち、どちらが戦略の真髄かというと、それ
  は違いをつなげていく「シンセシス(綜合)」にある。違い
  の一つひとつは静止画にすぎない。「こうするとこうなる。
  そうなれば、これが可能になっていく」という時間展開を含
  んだ因果論理でつなげていくことで、はじめて動画のような
  戦略ストーリーを語ることができる。
   そのことはビジネスモデルと比較することでより明確にな
  る。図の左側にあるのがアマゾンのビジネスモデルで、右側
  が創業者であるジェフ・ベゾス氏が事業を構想しているとき
  に、レストランの紙ナプキンに描いたとされる戦略のストー
  リーである。ビジネスモデルは、自社、顧客、サプライヤー
  などの空間的な配置形態を示しているにすぎない。
   それに対して戦略ストーリーでは、「アマゾンならではの
  ユニークな購買体験を提供すればトラフィックが増大する。
  多くの人が訪れるサイトになれば、出版社などの売り手を引
  きつけ、セレクションが充実する。すると顧客の経験をさら
  に充実させ、トラフィックが上がっていく・・・」という時
  間展開を含んだ好循環の因果論理が一目瞭然になっている。
                  https://bit.ly/3uKpx3A
  ───────────────────────────
アマゾンの事業戦略.jpg
アマゾンの事業戦略
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2021年05月13日

●「GAFA相互に事業領域を侵食中」(第5487号)

 GAFAの一角を占める米アップルが、2021年1〜3月期
決算で、売上高が前年同期比1・5倍の895億8400万ドル
(約9兆7000億円)、純利益も2・1倍の236億3000
万ドル(約2兆5700億円)に膨らみ、1〜3月期として過去
最高を記録しています。この傾向は、マイクロソフトを加えたG
AFAMも同様で、いずれも好業績を達成しています。
 好業績の理由は、なんとコロナ禍。コロナの感染拡大によって
デジタル技術の導入が加速しているからです。リモートワークの
定着で、自宅用PCの買い換えが増加し、関連器具の売り上げが
増加しているというのです。
 これと対照的だったのは、コロナ前の2019年1〜3月期の
決算です。このときの決算について、日本経済新聞は次のように
報道しています。
─────────────────────────────
【シリコンバレ=中西豊紀】グーグルやアップルなど、「GAF
A」と呼ばれる米IT(情報技術)大手4社の2019年1〜3
月期決算が出そろった。広告やスマートフォン(スマホ)などそ
れぞれの中核事業で稼ぐ力が弱まり、4社ともに売上高の伸び率
が鈍化している。各社は互いの得意分野に踏み込まざるを得なく
なっている。    ──2019年5月3日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 GAFAのこういう状況を変えたのは2020年から感染が拡
大したコロナです。しかし、これはコロナが収まると、元の状態
に戻ってしまうことになります。元の状態とは、どういう状況の
ことでしょうか。
 それは、「GAFA」がそれぞれ互いの事業を侵食し合う状況
のことです。それが一目でわかる表があります。
─────────────────────────────
          FB グーグル アマゾン アップル
 データよる広告  *◎   *◎    ○
  ネット小売り   ○    ○   *◎    ○
     スマホ        ○        *◎
    クラウド        ○    ◎
 AIスピーカー   △    ◎    ◎    ○
    動画配信   ○    ○    ○    △
   自動運転車        ◎         △
   AI半導体   ○    ○    ○    ○
   <記号解説>
          ◎市場で圧倒的な地位 *◎コア事業
    ○一定のユーザー獲得 △ 開発中か今後本格参入
               https://s.nikkei.com/3bijviS
─────────────────────────────
 この表を見ると、グーグルがいかに多くの分野に力を伸ばして
いるかがわかります。しかし、GAFAは、これまでは、それぞ
れ絶妙のバランスで事業領域の住み分けしてきたものの、今後の
成長の鈍化を補う戦略として、互いの中核事業に触手を伸ばす構
図が強まっています。
 フェイスブックやグーグル、アップルはいずれもアマゾンの主
力のネット小売りへ進出しつつあります。その一方で、グーグル
とフェイスブックの牙城だった広告分野は、アマゾンがシェアを
伸ばし、侵食しています。
 スマホでは、アップルが高価格帯で苦戦を強いられているなか
グーグルが自社開発のスマホ「ピクセル」で攻勢を強めていると
いう状況です。動画の配信については、GAFAすべてが参入し
激戦になっています。
 人工知能(AI)スピーカーについても、参入検討まで含めれ
ば、4社が市場を取り合う構図になっています。一方で、グーグ
ルが先行する自動運転では、アップルが水面下で開発を進めてい
るといわれます。
 GAFAのなかの対立で最もはげしさを増しているのが、個人
情報をめぐるアップルとフェイスブックです。これについて、日
本経済新聞は、次のように報道しています。
─────────────────────────────
【シリコンバレー=白石武志】プライバシーを巡って、米フェイ
スブックと米アップルの対立が先鋭化している。自社製品上での
個人情報の収集を制限するアップルに対し、広告収入の減少につ
ながるフェイスブックは、中小企業の利益を損なうと批判を強め
る。両社が互いの急所を攻める異例の展開となっている。「我々
はあらゆる場所で、中小企業のためにアップルに立ち向かってい
る」。フェイスブックは、2020年12月16日付の米主要紙
にアップルを名指しで批判する意見広告を掲載した。消費者の関
心に沿ったターゲティング広告を制限するアップルの動きを「中
小企業が消費者に効果的に接触するのを制限するものだ」と指摘
し、新型コロナウイルスの影響でオンライン販売に活路を求める
企業に負担を強いる行為だと批判した。アップルはプライバシー
を「基本的人権」と位置づける。https://s.nikkei.com/2QcEbBC
─────────────────────────────
 これらの関係は、添付ファイル「米IT大手は相互に事業領域
を侵食している」として図としてまとめられています。
 4月26日、アップルは、アイフォーンなどの新OSの配信を
はじめています。新OSは「iOS14・5」です。このOSで
は、プライバシー保護の観点から、アプリを立ち上げるごとに、
デジタル広告市場に個人データを提供するか否かを消費者が事前
に選べるようになっています。これは、ネット広告市場をけん引
している「ターゲッティング(追跡型)広告」に大きな打撃を与
えることになります。これに承認する人は、30〜40%といわ
れています。
 アップルのこの措置は、世界的な個人情報保護の流れを受けた
もので、このアップルの政策にはグーグルも賛成しています。
             ──[デジタル社会論U/015]

≪画像および関連情報≫
 ●アップルとフェイスブック、初代iPadアプリから関係が
  険悪だったと判明
  ───────────────────────────
   現在アップルとエピック・ゲームズとの訴訟が再開され、
  それに伴い様々な機密資料が証拠として法廷に提出されてい
  ます。その中にあったアップル幹部らのメールから、アップ
  ルとフェイスブックが初代アイパッド用アプリをめぐって揉
  めていたことが明らかとなりました。
   2020年8月、フェイスブックは、アップストアポリシ
  ーによりiOS版「フェイスブック・ゲーミング」アプリ内
  からゲーム削除を余儀なくされたとして、アップルを批判し
  ていました。そうした両社の対立は、はるか昔にまで遡るよ
  うです。
   米CNBCは、2011年にスティーブ・ジョブズを含む
  3人の元アップル幹部らが交わした電子メールを裁判資料か
  ら発見したとのこと。それに基づき、10年以上前のアイパ
  ッド用フェイスブックアプリ配信が遅れた理由の1つとして
  アップルとフェイスブックの間に同じような対立があった可
  能性が高いと報じています。
   初代アイパッドは、2010年に発売されましたが、アイ
  パッド用フェイスブックアプリのリリースは、翌2011年
  10月のことです。この間、フェイスブックのエンジニアは
  「アップルとの関係がぎくしゃくしていた」ことを理由に、
  アプリのリリースが遅れたことをブログで公表してから退社
  していたとのことです。     https://engt.co/3f9HphB
  ───────────────────────────
米IT大手は相互に事業領域を侵食している.jpg
米IT大手は相互に事業領域を侵食している
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2021年05月12日

●「ネットワークをどのように作る(第5486号)

 ドイツの国家プロジェクト「インダストリー4・0」は、要す
るに工場のあらゆる装置をインターネットに接続できるようにし
て、製造業をスケールフリーネットワーク化することです。
 ドイツのこのような動きに対して、日本は国家ではなく、民間
でしか対応していないのです。菅政権になって、やっとデジタル
庁の設立をしようとするレベルです。これまで日本政府は、何を
してきたのでしょうか。
 尾原和啓/島田太郎両氏の本では、スケールフリーネットワー
クの作り方について書かれています。これについては、示唆に富
むことが多いのでご紹介することにします。スケールフリーネッ
トワークを作る方法は、次の3つがあります。
─────────────────────────────
       1.     「お金を燃やす」
       2.「デジュールスタンダード」
       3. 「アセット・オープン化」
  ──島田太郎/尾原和啓著『スケールフリーネットワーク/
        ものづくり日本だからできるDX』/日経BP
─────────────────────────────
 第1は「お金を燃やす」方法です。
 「お金を燃やす」とは、ひたすら製品を無料で提供することを
いいます。これは、GAFAなどのプラットフォーマーの無料サ
ービスのことを指しています。グーグルは、最初検索エンジンを
無料で配布し、一定のこシェアを獲得したうえで、広告などでマ
ネタイズを行っています。
 これには当然お金がかかりますが、米国のシリコンバレーでは
有望なスタートアップには資金援助を惜しまない個人投資家やベ
ンチャーキャピタルが多く存在しているのです。尾原和啓/島田
太郎両氏は、そういう意味で、この方法を「アメリカ方式」と呼
んでいます。
 第2は、「デジュールスタンダード」です。
 これは、デファクトスタンダード(事実上の標準)を積み重ね
て、それをIEC(国際電気標準会議)やISO(国際標準化機
構)といった標準化団体に登録し、その規格を世界に広めていく
方法のことをいいます。現在、ドイツがやっている「インダスト
リー4・0」も、この方式で世界標準を狙っているのです。した
がって、この方法を「ヨーロッパ方式」と呼んでいます。
 第3は、「アセット・オープン化」です。
 「アセット」というのは、「経済資源」もしくは「価値がある
もの」という意味ですが、ICTの分野では、企業などの情報シ
ステムを構成する機器や資材、ソフトウェア、ライセンス(使用
権)、サービス契約などをまとめて「ITアセット」と呼ぶこと
があります。
 「アセット・オープン化」について、尾原和啓/島田太郎両氏
の本では、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 製品やサービスをオープン化し、自社製品だけでなく、他社の
製品やサービスも自由に接続できるようにします。そのメリット
を享受するのはユーザーです。これまで連携が取れなかった機器
やサービスが連携できるようになれば、ユーザーは喜んでさまざ
まな機器やサービスをつなぐでしょう。
 そうなると、ユーザーのニーズに応じて対応機器がどんどん投
入されていくはずです。こうして自然と、スケールフリーネット
ワークが出来上がり、成長を続けていきます。そして結果的に、
公開した仕様はデファクトスタンダードになるのです。
           ──島田太郎/尾原和啓著の前掲書より
─────────────────────────────
 さらに尾原和啓/島田太郎両氏の本では、「アセット・オープ
ン化」の例として、1980年代の「IBM互換機」の話が出て
きますが、これについては、私自身がその当時、システム系の仕
事にかかわっていて、実際に体験していることでもあり、EJス
タイルで説明することにします。
 1980年代におけるコンピュータの巨人はIBMです。IB
Mは、CPUが8ビットCPUのときは動かず、インテルによる
16ビットCPUの発売に合わせて、自社PCの発売に打って出
たのです。1982年3月のインテルによる「80286」の発
売がそうです。IBMからいわゆる「IBM PC/AT」とし
て、発売されたPCにはCPUに80286が採用され、マイク
ロソフト開発のMS−DOSが「PC−DOS」という名前で搭
載されていましたが、IBMはその内部仕様を公開するオープン
アーキテクチャ戦略を採用したのです。これは、当時としては驚
天動地の戦略だったのです。
 仕様が公開されているので、誰でもIBM PC/AT(以下
PC/AT)と同じ仕様のPCを開発することができるし、PC
ATに対応したソフトウェアの開発やその周辺機器メーカーが激
増したのです。このようにしてPC/ATは、あっという間に業
界標準、デファクトスタンダードを獲得したのです。その後、も
はやPCといえばPC/ATということになり、IBMのアセッ
トオープン化戦略は大成功を収めたのです。
 ここで重要なことがあります。それは、PC/AT自体は必ず
しも優れた魅力的なPCであったわけではないということです。
1984年には、アッププル社のPC、マッキントッシュが発売
されていますが、こちらの方がPC/ATよりもはるかに魅力的
なPCであったといっても過言ではありません。
 しかし、オープンとクローズドの差は歴然だったのです。マッ
キントッシュとデファクトスタンダードを獲得したPC/ATの
シェアは歴然としていたのです。PC/ATは、使えるソフトウ
ェアは多数あり、OSもMS−DOSがウインドウズになり、ま
すますPCとしての使い勝手は向上し、ユーザーのネットワーク
は拡大したのです。これは、まさにアセットオープン化戦略の勝
利といえます。      ──[デジタル社会論U/014]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ、IBM/PCなのか
  ───────────────────────────
   IBMは1981年にIBM/PCをもってパソコン市場
  に新規参入し、劇的な成功を収めた。そうしたIBMの成功
  を説明する主要な見解の一つに、「IBM/PCは技術的に
  は平凡なマシンであったが、IBMのブランド力によって成
  功した」というものがある。IBM/PCは、その当時の技
  術水準から見て極めて平凡なマシンであったにも関わらず、
  IBMが大型コンピュータ(メインフレーム)市場として、
  それまでに築き上げてきたブランド力によってPC市場でも
  成功した、というのである。
   例えばイノベーションに関するドミナント・デザイン論で
  有名なアッターバックは、その代表的著作『イノベーション
  ダイナミックス』の中で、「(IBM/PCの発売当時に)
  ほとんどの専門家は、IBM/PCは、技術的には飛躍的前
  進がまったくない (no breakthrough technological break
  -through) と評価していたにも関わらず、IBM/PCは瞬
  く間に業務用市場の30%を押さえてしまった。・・技術的
  にみれば必ずしも十分ではなかったにもかかわらず、IBM
  製品は(ドミナントデザインの地位を獲得し)パソコン産業
  を普遍的なものとして確立させた。」(アッターバック『イ
  ノベーションダイナミックス』有斐閣、引用文中の括弧内は
  引用者による補足)とか、「(機械式タイプライターにおけ
  るアンダーウッド5型機と同じようにIBM/PCは、ブレ
  ークスルーとなる技術を市場に対してほとんど何ももたらさ
  なかった。           https://bit.ly/3hdNgoA
  ───────────────────────────
IBM PC/AT.jpg
IBM PC/AT
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2021年05月11日

●「インダストリー4・0とその目的」(第5485号)

 昨日のEJで、せっかく2012年にフェイスブックの傘下に
入ったインスタグラムの2人のトップ、ケヴィン・シストロム氏
とマイク・クリーガー氏が、2018年9月にフェイスブックを
去っていることについて書きましたが、フェイスブックの個人情
報の取り扱いについて意見が合わなかったといわれています。
 私がSNSをはじめたのは早いですが、ある理由から、フェイ
スブックとLINEは利用せず、ブログと情報の発信は、ツイッ
ター、相互連絡はSMSを利用することにしています。
 トッププラットフォーマーといわれるGAFAの信頼度を調査
したデータがあります。調査企業トルーナによれば、多くの消費
者から「最も信用の置けない企業」とみなされているのは、フェ
イスブックです。それにしても40%とは驚きです。2018年
のデータです。
─────────────────────────────
      フェイスブック ・・・・・ 40%
        ツイッター ・・・・・  8%
         アマゾン ・・・・・  8%
         ウーバー ・・・・・  7%
         グーグル ・・・・・  6%
          リフト ・・・・・  6%
         スナップ ・・・・・  4%
         アップル ・・・・・  4%
      マイクロソフト ・・・・・  2%
     ネットフリックス ・・・・・  1%
          テスラ ・・・・・  1%
                  https://bit.ly/3f4BhY0
─────────────────────────────
 所有する情報の扱いという点でGAFAにはそれぞれ問題があ
りますが、いずれもインターネットのスケールフリー性を高めて
それを活用し、企業の巨大化に成功した企業です。
 ドイツは、インターネットの登場から現在までの歴史を俯瞰的
に分析し、「われわれはインターネットで敗北した」と認め、イ
ンターネットで起きたことを産業の世界で起こすことを目標とし
て「インダストリー4・0」というものを現在推進しています。
ところで、「インダストリー4・0」とは何でしょうか。
 「インダストリー4・0」とは、現在ドイツの政府や産業界が
主導して推進している製造業の国家戦略プロジェクトのことで、
第4次産業革命といわれています。製造業におけるコンピュータ
活用に重点が置かれており、AIやIоTといったICT技術を
フルに活用し、製造業を改革することを目指しています。
 このようにいうと、工場にはCAD(コンピュータ支援設計)
や製造ロボットなど、既に十分ICT技術が取り入れられている
ではないか、それとどこが違うのかという疑問を持つ人がいるか
もしれません。
 これまで行われてきたことは、コンピュータ導入による部分的
な効率化ですが、インダストリー4・0では、製造プロセスなど
においてデジタル技術がフルに活用され、従来の製造プロセスの
仕組みそのものを再構成し、新しい製造プロセスを生み出すこと
をいうのです。具体的にいうと、別々のシステムで構成されてい
た各プロセスをプラットフォームで連携させることで、製品設計
から設備設計、製造に至るまで、シームレスに行なうことが可能
になるのです。
 それでは、モノインターネットといわれるIоTとはどう違う
のかというと、インダストリー4・0でも、モノとモノとがイン
ターネットで接続されますが、業務プロセス同士も連携し、情報
の交換が可能になります。インダストリー4・0では、このよう
な複合的な連携により、生産の効率化を目指すのです。
 これについて、尾原和啓/島田太郎両氏は、インダストリー4
・0について、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 インダストリー3・0の時代、つまり従来の製造業の世界は、
ピラミッド型の階層構造になっていました。工場内にはワークセ
ンター、作業ステーション、制御装置、そしてフィールド機器と
いった階層があり、情報のやり取りは階層間で行われます。これ
の何が問題かというと、階層を飛び越えてデータを直接見ること
ができない点です。すべての機器が上の階層の端末にぶら下がる
樹形図型のネットワークでした。
 これがインダストリー4・0の世界になると、生産システムの
あらゆるコンポーネントが階層の垣根を超えてつながるようにな
ります。必要なときに必要な機械やセンサーの情報を自由に取れ
るようになるのです。また、一つの工場内だけでなく、他社の生
産設備とも、インターネットを介してつながれるようになるので
す。──島田太郎/尾原和啓著『スケールフリーネットワーク/
        ものづくり日本だからできるDX』/日経BP
─────────────────────────────
 日本の製造業の場合、構造的問題があります。製造業は、最終
製品を作る大企業と、その下請けの中堅中小企業から成り立って
います。この場合、大企業には、スマートファクトリーのような
技術や高度なノウハウを持っていますが、それらの技術が下請け
の中小企業に還元されているとはいえない状況です。
 この場合、製造プロセス自体を効率化して高度化し、さらにレ
ベルアップするには、中小企業が実施している下請けの作業と大
企業のそれを一体化する必要があります。それに加えて、インダ
ストリー4・0が求めている付加価値の高い製品を大量生産する
には、熟練労働者が保有している技術やノウハウを数値化しなけ
ればなりません。昔はそのようなことは不可能でしたが、現在で
は、AIでそれを実現することが可能なのです。
 そして、このインダストリー4・0でもスケールフリーネット
ワークがそこに深く介在することになるのです。
             ──[デジタル社会論U/013]

≪画像および関連情報≫
 ●世界の“なぜ”を読み解くスケールフリーネットワーク
  ───────────────────────────
   私たちを取り巻く社会にはさまざまな“ネットワーク”が
  存在する。インターネットはもちろん、人間関係や企業の提
  携関係、俳優の相関図、航空機の路線、電力線などが挙げら
  れる。さらに、生物の本質もネットワークだといえる。脳は
  軸索によって接続された神経細胞のネットワークであり、神
  経細胞自体も、生化学反応でつながった分子のネットワーク
  だ。SARSのような感染症、噂や流行も人間関係のネット
  ワークに沿って広がる。複雑に込み入った食物連鎖や生態系
  は種のネットワークといえるだろう。
   こうした複雑なシステムは多種多様でばらばらに見えるが
  実は重要な特性を共有している。それは多数のサイトとつな
  がった比較的少数の「ノード」に支配されていることだ。
   「ハブ」と呼ばれる一部のノードは膨大な数のリンクを持
  つ一方で、ほとんどはごくわずかなノードとしかつながって
  いない。ハブの中には,数百,数千,中には数百万ものリン
  クを持つものもある。こうした点でスケール(縮尺)が存在
  しない(フリー)ように見える。
   スケールフリーネットワークは重要な性質をいくつか持っ
  ている。その1つとして,偶発的な障害に対しては非常に強
  いことが挙げられる。高速道路網のようなランダムネットワ
  ークはノードがいくつか破壊されると、システムは通信不能
  な孤島に寸断されてしまうが、スケールフリーネットワーク
  ではいくつかの経路が残り続ける。https://bit.ly/3uHKWdm
  ───────────────────────────
 ●図の出典/島田太郎/尾原和啓著の前掲書より
インダストリー3・0/インダストリー4・o.jpg
インダストリー3・0/インダストリー4・o
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2021年05月10日

●「インスタ創業者はなぜ辞めたのか」(第5484号)

 2012年のことです。フェイスブックは、写真共有アプリの
インスタグラムを買収しました。そのとき、フェイスブックが、
インスタグラムに支払った金額は10億ドル(1130億円)と
いう巨額な金額だったのです。
 この金額は、当時月間アクティブユーザー数が、3000万人
程度であったインスタグラムに対する買収価格としてはベラボー
な金額だったのです。ちなみに、買収当時のインスタグラム社の
スタッフはたったの13人だったといわれています。インスタグ
ラムの共同経営者は、次の2人です。
─────────────────────────────
        ◎最高経営責任者(CEO)
           ケヴィン・シストロム氏
        ◎最高技術責任者(CTO)
            マイク・クリーガー氏
─────────────────────────────
 しかし、これらインスタグラムの創業者は、既にフェイスブッ
クから去っています。これは、フェイスブックに原因があります
が、それはさておき、インスタグラムの特性について述べること
にします。
 フェイスブック、ツイッター、インスタグラムにLINEを加
えて、4大SNSといわれています。このうち、フェイスブック
とツイッターは、当初は文章の入力によって、人と人をつないだ
のです。当時はスマホではなく、PCがメインだったからです。
私はツイッターを2010年1月からはじめていますが、当時は
スマホは登場したばかりであまり普及しておらず、PCでツイッ
ターをはじめたものです。
 少し歴史を振り返ってみると、2008年にスマホがはじめて
登場し、それが普及しはじめた2010年にインスタグラムが発
足しています。その頃から、少しずつスマホのカメラの性能が高
度化するにしたがって、SNSでは文章よりも写真を送る人が多
くなっていったのです。このようにして、2012年にはインス
タグラムのユーザーは3000万人に到達していたのです。そし
て、インスタグラムはフェイスブックに買収されるのです。
 インスタグラムは、写真によって人とつながれるSNSです。
ツイッターやフェイスブックのように、その人や、アカウントを
フォローするのではなく、写真に付けられた「ハッシュタグ」と
いうキーワードをフォローすることによって、多くの人とつなが
ることができます。これについて、尾原和啓/島田太郎両氏は、
次のように解説しています。
─────────────────────────────
 例えば、サーフィンが趣味なら「サーフィン」というハッシュ
タグをフォローすれば、世界中のサーフィンの写真を見られるの
です。さらに細かく、朝の静かな時間帯のサーフィンばかりを集
めた「モーニングサーフィン」や、世界中の大きな波を見られる
「ビッグウェーブ」といったハッシュタグもあります。
 自分の趣味を通して世界中の人とつながることができます。こ
のようなつながりを「インタレストベース」のネットワークと呼
びます。(中略)
 フェイスブックが、リアルな人間関係をベースとしたスケール
フリーネットワークであるのに対し、インスタグラムは、興味や
趣味、関心によって、まったく知らない人とつながるスケールフ
リーネットワークを構築しています。
  ──島田太郎/尾原和啓著『スケールフリーネットワーク/
        ものづくり日本だからできるDX』/日経BP
─────────────────────────────
 このように、インスタグラムはフェイスブックの発展・拡大に
大きく貢献したのですが、インスタグラムの共同経営者であるケ
ヴィン・シストロム氏とマイク・クリーガー氏の2人は2018
年9月24日に、フェイスブックを去っています。
 なぜ、一番よいときにフェイスブックを去ったのでしょうか。
ケヴィン・シストロム共同経営者兼CEOによるフェイスブック
辞任の挨拶は、次の通りです。
─────────────────────────────
 マイクと私は、インスタグラムで8年を過ごし、フェイスブッ
クのチームと6年を過ごした。我々は13人から世界中のオフィ
スに1000人以上が働くまでに成長した。我々が作ったプロダ
クトは10億人を超える人々に使われ、愛されている。我々は次
の人生への準備が整った。
 我々はしばらく休養し、好奇心とクリエイティビティを、もう
一度、取り戻そうと思う。新しいものを作るために立ち止まり、
我々をインスパイアしてくれるもの、そしてそれを世界が必要と
しているかどうかを突き詰める。そんなことを我々は計画してい
る。我々はリーダーから10億人の中の2人のユーザーとなるが
インスタグラムとフェイスブックの未来に依然、興奮している。
イノベーティブで非凡な会社の取り組みに期待している。
       ──共同創業者兼CEO、ケヴィン・シストロム
                  https://bit.ly/3xVAZeH
─────────────────────────────
 円満退社といわれていますが、そんなことはないと考えます。
その証拠は、挨拶にマーク・ザッカーバーグの名前がないことで
す。会社の創業者に対する感謝の言葉は、形式的なものかもしれ
ませんが、重要なものです。それがないということは、事態が円
満退社ではないことをあらわしています。
 本当の原因は外部からはわかりませんが、2人はザッカーバー
クCEOの金儲け主義や拡大路線に嫌気がさし、フェイスブック
を去ったものと考えます。何よりも決定的なのは、フェイクブッ
クがインスタグラムの個人情報まで商売に使おうとしたことが決
定的です。それは、フェイスブックとインスタグラムのアドレス
帳の統合の要請です。2人はこれに反発して、フェイスブックを
去ったのです。      ──[デジタル社会論U/012]

≪画像および関連情報≫
 ●インスタグラム共同創業者2人が電撃辞任
  ───────────────────────────
   激震走る・・・。
   フェイスブックに6年前に10億ドルで身売りしたインス
  タグラム(インスタグラム)も、今や評価額1000億ドル
  (12兆円超)。こんなに大きくなってうれしい反面、共同
  創業者2人は売らなきゃよかったと悔しくて眠れない夜もあ
  るんだろうなあと思っていたら、2人揃って辞任の電撃ニュ
  ースが入り、椅子から転げ落ちそうになりました。
   辞め方がとにかく尋常ではなく、講演スケジュールがびっ
  しりなのにもかかわらず、いきなり、ニューヨークタイムズ
  の独占スクープで報じられ、何時間もフェイスブックからは
  なんの発表もないまま時が流れてゆき、憶測が憶測を呼ぶ異
  様な雰囲気となりました。
   当の本人であるケヴィン・シストロムCEOもマイク・ク
  リーガーCTOも辞める理由は明らかにしていませんが、イ
  ンストグラム公式ブログにシストロムCEOが発表した辞任
  の挨拶にはマーク・ザッカーバーグのマの字もなく、「確執
  の噂は本当だったのか・・」との見方が強まっています。イ
  ンスタグラムは、今年6月にユーザー10億人の大台に乗り
  今後5年で20億人という成長曲線まっしぐら。ユーザー滞
  留時間ではフェイスブックとほぼ互角に迫っています。
                  https://bit.ly/3uwlJmq
  ───────────────────────────
インスタグラムの共同創業者.jpg
インスタグラムの共同創業者
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2021年05月07日

●「どうスケールフリー性を高めたか」(第5483号)

 グーグルの検索エンジンの世界的シェアは、次のようになって
います。2019年8月現在です。ビングはマイクロソフト、ヤ
ンデックスはロシア、バイドーは中国です。
─────────────────────────────
        グーグル ・・ 88・6%
         ビング ・・  5・1%
        ヤフー! ・・  2・7%
      ヤンデックス ・・  0・8%
        バイドー ・・  0・7%
         その他 ・・  2・1%
                  https://bit.ly/3ePXvNb
─────────────────────────────
 このように、グーグルが圧倒的ですが、グーグルは「ページラ
ンク理論」に基づいて、スケールフリーネットワークの成長を促
進する仕組みが導入されています。ページランク理論については
ネット上に解説がたくさんありますが、数学の理論なので、いさ
さか難解です。
 簡単にいうと、ページランク理論とはウェブページの重要度を
決定するためのアルゴリズムであり、「信頼性の高いページから
リンクされているページほど信頼性が高い」という考え方です。
グーグルの創業者であるラリー・ページと、セルゲイ・ブリンに
よって、1998年に発明されています。
 学術論文でも同じことがいえます。基本的には、論文の引用数
の考え方と同じです。優れた論文は、多くの論文に引用されるも
のであり、そういう引用数の多い論文は優れているという考え方
です。これに関して、日本国内の「高被引用論文数ランキング」
というものがあり、研究機関ごとに公表されています。2017
年度のインパクトの高い論文数分析による日本の研究機関ランキ
ングのベスト5は次の通りです。
─────────────────────────────
         高被引用論文数  高被引用論文の割合
  東京大学      1326       1・6%
  京都大学       764       1・2%
  理化学研究所     623       2・4%
  大阪大学       540       1・1%
  東北大学       497       1・0%
                  https://bit.ly/3eho8eS
─────────────────────────────
 考えてみると、グーグルの検索精度の向上により、どのような
ニッチでマイナーなサイト(情報)であっても、キーワードによ
る検索結果によって、現在では表示されるようになっています。
まさに、ロングテールの法則が働いているのです。
 このグーグルのページランク理論とスケールフリーネットワー
クの関係について、尾原和啓/島田太郎両氏は、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 重要なべージからリンクを集めるほどページの評価が上がる、
というページランク理論そのものもスケールフリーネットワーク
化の要因となりました。重要なべージの管理人同士が連絡を取り
合い、お互いにリンクを貼り合うようになったのです。こうして
一部のハブが膨大なリンクを集めるようになり、もともとスケー
ルフリーネットワークであったウェブのスケールフリー性がさら
に強化されました。
 すべてのウェブページをリンク数によって評価し、スケールフ
リーネットワークとして構造化することで、グーグルは検索エン
ジンとして圧倒的な地位を築きます。そして検索エンジンを利用
する膨大なユーザーを基盤にして莫大な収益を上げるようになり
ました。        ──島田太郎/尾原和啓著/日経BP
              『スケールフリーネットワーク/
             ものづくり日本だからできるDX』
─────────────────────────────
 ここまでは、グーグルの話です。続いて、フェイスブックにつ
いて考えてみることにします。
 フェイスブックの創業者、ザッカーバーグ氏は、ハーバード大
学の学生が交流を図るための「ザ・フェイスブック」というサー
ビスを開始したのですが、その数日後にスタンフォード大学やコ
ロンビア大学、イエール大学などの学生からの「同じようなサイ
トが欲しい」との要望に応え、いわゆるアイビー・リーグの学生
にも開放されたのです。つまり、学生同士がつながるためのSN
Sがフェイスブックとして発足したのです。
 はじめは、プロフィールの交換のようなものだったのです。そ
れが「ウォール」というツイッターのタイムラインに当たるもの
ができたことで、人と人がつながる機能が強化されといえます。
しかも、フェイスブックは、実名での登録が入会の条件であるこ
とが、匿名が許されているツイッターとは異なります。
 それに加えて、フェイスブックは、人と人のつながりを作り、
緩やかなつながり「ウィークタイ」を含めて、可視化したことが
スケールフリーネットワーク化の拡大に貢献したのです。それに
加えて、フェイスブックの場合、ちょうどスマホが普及するタイ
ミングに間に合い、普及の加速が促進されたことです。これは、
フェイスブックにとって幸運であったといえます。
 フェイスブックは、2012年に7億1500万ドルで、写真
SNSであるインスタグラムを買収しています。その急拡大ぶり
に脅威を感じたフェイスブックのCEOであるザッカーバーク氏
がフェイスブック陣営に囲い込んだのです。
 インスタグラムは、基本的に写真によって人と人がつながれる
システムを有しています。これによって、フェイスブックは、ス
ケールフリー性を急拡大させる原因となったということがいえま
す。これについては、来週続いて考えていくことにします。
             ──[デジタル社会論U/011]

≪画像および関連情報≫
 ●フェイスブックがインスタグラム買収に大金を投じた理由
  ──両社の狙いと写真共有にもたらす影響
  ───────────────────────────
   世界最大の写真共有サイト(そしてソーシャルネットワー
  ク)であるフェイスブックは、米国時間2012年4月9日
  インスタグラムを買収すると発表した。インスタグラムは、
  非常に高い人気を誇るスマートフォン向けモバイル写真共有
  アプリを提供している企業だ。この買収を早速評価して、フ
  ェイスブックにとって、非常に強力な戦術的かつ戦略的な動
  きであるとする分析もある。
   この件でフェイスブックが勝ち取った重要なものは、モバ
  イルとのかかわりだ。インスタグラムのユーザー数は2年足
  らずの間に3000万人に達している。フェイスブックは、
  数年前からモバイルアプリを提供しているが、インスタグラ
  ムほどはユーザーの愛着を勝ち得ていない。フェイスブック
  は、モバイルアプリの中で最高の相手(少なくともユーザー
  開拓という点においては)を買収することによって、将来の
  競争相手を排除するだけでなく、モバイル分野での存在感を
  強化できる。
   インスタグラムは、小さな企業かもしれないが、買収の日
  まではフェイスブックに対する脅威となっていた。フェイス
  ブックは、1日あたり約2億5000万枚の写真が、アップ
  ロードされる世界最大の写真共有サイトになったが、そのソ
  ーシャルネットワークのユーザーベースに頼って安心してい
  たのでは、現在の地位を強化し続けることはできない。
                  https://bit.ly/2QJv0cb
  ───────────────────────────
世界検索エンジンシェア/2019.jpg
世界検索エンジンシェア/2019
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2021年05月06日

●「入り口を押さえた者が勝者になる」(第5482号)

 スケールフリーネットワークの説明で「リンクを貼る」という
言葉が何回も出てきていますが、どういう意味かわかるでしょう
か。ICTの世界では、ごく普通に使う言葉です。しかし、その
本当の意味は、意外に知られていないのです。「リンクを貼る」
とは、次のことを意味しています。
─────────────────────────────
 「リンクを貼る」の「リンク」とは、「インターネットに公開
されているページにジャンプ(移動)するために、テキスト(文
字)内にURLを組み込むこと」をいう。
─────────────────────────────
 EJは、多くのサイトとリンクを貼っています。つまり、EJ
のコンテンツ(文字=テキスト)のなかに、URLをいくつも組
み込んでおり、多くのサイトにジャンプできます。
 いわゆるGAFAは、スケールフリーネットワークを巧妙に利
用して事業を拡大していますが、そのなかでグーグルとフェイス
ブックは、事業をスタートさせると同時にネットワークそのもの
を育て、それから事業の黒字化に取り組んでいます。
 「マネタイズ」という言葉があります。2007年頃から使わ
れるようになった言葉で、その意味は、ネットの無料サービスか
ら収益を得ることを意味しています。
 グーグルがマネタイズしたのは、創業から4年後であり、具体
的には、検索連動型広告をはじめたことです。フェイスブックが
マネタイズに動き出したのは、創業から3年後にマイクロソフト
と組んでからであり、黒字化のメドが立ったのは、上場後にモバ
イル化の波にうまく乗れたことです。
 ところで、現在、検索エンジンの王者といえばグーグルですが
実は検索の世界でグーグルは後発中の後発であり、そのグーグル
がこの分野で検索の王者になるとは、とても考えられないような
状況でした。かつては、検索といえば、ダントツでヤフー!だっ
たからです。
 決定的なことがあります。それは、ヤフー!とグーグルの創業
の違いです。
─────────────────────────────
       ヤフー! ・・ 1995年3月
       グーグル ・・ 1998年9月
─────────────────────────────
 既に米国のヤフー!は廃業していますが、1996年1月設立
のヤフー!ジャパンは、現在でも、さまざまな事業を展開してい
ます。このことは、前回のテーマでも述べていますが、そもそも
ヤフー!は、ポータルサイトという発想で、ネットの入り口を押
さえようとしたのです。「入り口を押さえたものがネットビジネ
スを制する」ことができるからです。
 ウェブサイトには、URLというサイトの住所がありますが、
それをつなぐことをハイパーリンクといいます。この仕組みでは
クリックするだけで一瞬にその指定のサイトに飛ぶことができま
す。ヤフー!は、ポータルサイトへの人力でユーザーが役に立つ
と思われる「お役立ちリンク集」を作ることによって、大勢のユ
ーザーを集めようとしたのです。ユーザーが多く集まれば、当然
広告効果も上がることになるからです。
 ここで大事なことがあります。インターネットを利用するとい
うことは、どこに何があるが、探す必要があります。しかし、そ
の探すべきものがないときでも、何となく漠然とインターネット
を見るときがあります。そういうとき、まるで新聞のように、い
ろいろな情報が掲載されているサイトがあれば、何はともあれ、
そこにアクセスします。そこに興味のある情報があれば、さらに
詳しい情報を求めて、アクセスすることになります。
 現代の若者は新聞を購読しません。月に何千円も支払って新聞
を購読しなくても、「ネットで無料で読める」というのです。こ
れは、一見合理的な考え方のように思えますが、この考え方は完
全に間違っています。
 確かにネットには多くの情報サイトがあり、ほとんど無料で記
事を読むことができます。しかし、新聞社との関係で記事のサイ
ズは限られており、何が起こっているかはわかりますが、そこか
ら詳しく何かを学び取るには情報が不十分です。
 それに、そもそもネットは、探すべき何かが先にあって利用す
るメディアであり、自分の関心のないニュースなどは無視するこ
とが多いはずです。とくに現在の若者は、自分の興味のあるもの
にしか関心を示さないのです。
 お金を支払って新聞をとる場合、それが電子版であっても、お
金を支払った以上、すべての記事にざっと目を通すはずです。そ
こからは、自分が予想していない貴重な情報を発見することが、
多々あります。そういうニュースを「開いた回路の情報」という
のです。新聞をとらず、ネットだけで済まそうとする現代の若者
は、日々この「開いた回路の情報」が得られず、本人はそう思っ
ていませんが、現在、深刻な情報不足に陥っています。デジタル
社会の現在は、幅広い情報入手が不可欠ですが、そういう情報は
新聞やテレビのようなメディアからしか得られないのです。現代
の20〜30代の新聞の購読率は10%を大きく切っています。
 ヤフー!は、ネットでそういう新聞型のメディアを目指して、
ポータルサイトで勝負しようとしたのですが、米国のヤフー!は
既に消滅し、ソフトバンク系のヤフー!ジャパンは、2010年
からは、グーグルの検索技術を取り入れています。まさに「勝負
あり」です。現在では、ネット上の情報が爆発的に増加し、人力
で情報を集めようとしても、情報の増加スピードに追いつくこと
が不可能になったからです。
 グーグルは、「スパイダー」というロボット(プログラム)を
使って、ネット上のすべてのページの情報を取集し、ロボット型
検索を取り入れ、インターネットの入り口をほぼ押さえることに
成功しています。今や検索エンジンの王者です。
             ──[デジタル社会論U/010]

≪画像および関連情報≫
 ●ポータルサイトを徹底解説
  ───────────────────────────
   そもそも「ポータルサイト」の「ポータル」には「玄関」
  や「入口」という意味があります。そのため、ポータルサイ
  トとはインターネット上にあるさまざまなページの玄関口と
  なる巨大なウェブサイトのことを言うのです。
   では、ポータルサイトのメリットにはどんなことが挙げら
  れるのでしょうか?
   ポータルサイトの利用者のメリットは、インターネット上
  に散らばっている多くの情報から必要としている情報を検索
  で探し出せるという点です。また、検索機能の他にも、天気
  やテレビ番組表、占い、株価など生活に役立つ情報を閲覧で
  きるという点も大きな魅力です。
   企業視点からのメリットを考えると、ポータルサイトを運
  用することによって、コーポレートサイトでは接触が難しい
  ユーザーに接触する機会が得られて集客効果が見込めます。
  利用者・企業ともにメリットがあるので、数多くのポータル
  サイトが作成されているのです。
   検索サービスを提供していたサイトが、ジャンルごとに、
  ウェブサイトへのリンクをまとめたことから、ポータルサイ
  トが誕生しました。その後、コンテンツ(天気予報、株価、
  占い、翻訳、地図など)が追加されていき、インターネット
  の総合サービスの形態を取り出したのです。
                  https://bit.ly/2QQArFZ
  ───────────────────────────
ポータルサイト.jpg
ポータルサイト
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2021年04月30日

●「改めてインターネットを分析する」(第5481号)

 「スケールフリーネットワーク」について、考えています。G
AFAの急拡大にも関係があります。現在、インターネットその
ものについて考えるときがきていると思います。それがこれから
のビジネスの展開について必要であるからであり、イノベーショ
ンを生む土壌になるからです。
 もう一度「スケールフリーネットワーク」について考えてみる
ことにします。添付ファイルの下の図をご覧ください。
 ●印はネットワークの最小単位の「ノード」をあらわしていま
す。点と点を結ぶ線は「リンク」といいます。このように、ノー
ドでつながれているネットワークを「ランダムネットワーク」と
いいます。
 これに対して◎印は、ハブをあらわしており、蜘蛛の巣状のネ
ットワークになっています。これが「スケールフリーネットワー
ク」です。WWWの一番最後の「W」である「Web」は、蜘蛛
の巣という意味です。つまり、インターネットは、スケールフリ
ーネットワークということになります。
 スケールフリーネットワークは、空港のネットワークに似てい
ます。いわゆるハブ空港にリンクが集中しているのがよくわかる
と思います。
 ランダムネットワークでは、一つのノードが持つリンクの数の
分布をグラフ化すると、上の図の左の釣り鐘型になります。ラン
ダムネットワークでは、平均的なノードは一定の平均的な数に収
まるというスケール(尺度)というものがあるのです。そのため
釣り鐘型のグラフになります。
 これに対して、スケールフリーネットワークは、上の図の右の
グラフのようになります。このグラフは、何を意味しているので
しょうか。
 これは、グラフの左寄りの形状に見られるように、大多数のノ
ードが、ごくわずかのリンクしか持たない傾向を示しているのに
対して、ごく一部のノードがハブとなって、膨大なリンクを持つ
ことをあらわしています。これがスケール(尺度)のないスケー
ルフリーネットワークの特徴です。
 これに関連して、尾原和啓/島田太郎両氏は、次のように指摘
しています。
─────────────────────────────
 バラバシ教授は交通網の例でスケールフリーネットワークの特
徴を説明しましたが、ほかにも私たちの世界には至るところにス
ケールフリーネットワークがあることが分かっています。
 分かりやすいのは人間関係でしょう。同じ映画で共演した俳優
のつながりをネットワークとして見ると、その構造はスケールフ
リーネットワークになっています。つまり、ほとんどの俳優は数
人の俳優としか共演していませんが、ごく一部の「ハブ」俳優が
膨大な数の俳優と共演しているケースがあります。これは、論文
を共同執筆した科学者の関係にも見られる傾向です。
            ──島田太郎/尾原和啓著/日経BP
              『スケールフリーネットワーク/
             ものづくり日本だからできるDX』
─────────────────────────────
 スケールフリーネットワークのグラフは、「ロングテールの法
則」のグラフとそっくりです。このグラフは、いろいろな現象を
あらわすグラフとして使われるのです。
 「ロングテールの法則」とは、そもそもアマゾンがウェブ上の
書店をスタートさせたことからいわれるようになったのです。物
理的な実店舗の書店では、どんな大書店でも販売するために展示
する書籍には一定の限界があります。したがって、売れる可能性
の高い本を中心に展示し、専門書など、ごく一部のユーザーにし
か読まれない書籍は棚から外すのが普通です。
 しかし、ウェブ書店では、物理的限界はないので、売れる本か
ら、めったに売れない書籍まで、あらゆる書籍をすべて揃えてお
くことができます。
 そのアマゾンの強みを如実に示すデータがあります。「アマゾ
ンならすべての本がある」という評判で、アクセス数も上がり、
実書店で売れるヒット作よりも、一般書店では入手できない本を
買うユーザーが多く利用しています。私の場合も実書店には置い
ていない書籍は、アマゾンで購入することにしています。実際に
アマゾンの売り上げは、販売部数ランキング4万位から、230
万位の間の書籍の販売で支えられているのです。
 同じようなことをアップルが運営する音楽配信サービス「アイ
チューンズ・ストア」もロングテール戦力を利用して売り上げを
伸ばしています。誰でも知っている世界的ヒット曲から、知る人
ぞ知る無名アーティストが販売するような楽曲まで、幅広い商品
を用意することでユーザーを呼び込み、国内外を問わず、ダウン
ロードされています。
 無名アーティストのCDなどは流通数も少ないため手に入れる
のも難しいですが、アイチューンズ・ストアを利用することで、
それまで購入できなかったユーザーが、いつでも入手できるよう
になっています。
 このように、スケールフリーネットワークであるインターネッ
トをフルに利用するビジネスが出てきたときは、関連する事業体
は、それまでのビジネスというものを根本から考え直す必要があ
ります。なぜなら、それらはこれまでのビジネスの常識を変えて
しまうパワーを持っているからです。
 その典型的な成果物が、現在世界経済のなかで、巨大な価値を
持つGAFAです。現在、GAFA4社の時価総額は、とんでも
ない巨額に達しています。2020年において、GAFAにマイ
クロソフトのMを加えたGAFAMの時価総額は、東証一部上場
企業2160社の時価総額を上回ったのです。これはとんでもな
い出来事です。彼らは、スケールフリーネットワークを巧妙に活
用して、それを成し遂げているのです。
             ──[デジタル社会論U/009]

≪画像および関連情報≫
 ●ロングテールとは?正しく理解して売上をあげよう
  ───────────────────────────
   今まで、実店舗などの販売は、全体の2割ほどを占める売
  れ筋商品に注力する手法がとられていました。これはパレー
  トの法則(別名:80対20の法則)と呼ばれる、「売上の
  8割は2割の優良顧客が生み出している」という考え方の元
  2割の優良顧客を優遇するマーケティングが取られていまし
  た。これは、人的リソースを全員に満遍なく割こうとすると
  その分コミュニケーションコストが比例して上がっていくた
  めです。万人に割いたとしても、売上のほとんど(8割)は
  2割の優良顧客がもたらすため、それであれば2割に集中し
  ようという考えが元になっています。
   しかし、ロングテールは反対で、ほとんど動かないような
  いわゆる「死に筋商品」がその総合計としては、人気商品の
  売上に迫る、ということで注目されました。
                https://ferret-plus.com/296
  ───────────────────────────
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スケールフリーネットワークとは何か
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2021年04月28日

●「WWWはどういうネットワークか」(第5480号)

 人間は、ネットワークの威力によって、地球上での生き物の王
者として、君臨するようになっていますが、これを大きく支えた
のがさまざまなテクノロジーの発明です。
 人間にとって基本的なコミュニケーションの手段は「会話」で
す。人間は直接言葉を交わすことによって、共同体を運営してき
たのですが、やがて文字が誕生します。文字は、今から約500
0年前にメソポタミア地方で誕生しています。
 メソポタミア地方は、ゴンドワナ大陸がユーラシア大陸と衝突
したあと、両大陸の間の海に土砂がたまって生まれた土地です。
文字は、人間活動の時空間を支配しようとする王朝の意思と、認
識能力を超えた広大な平原の相乗効果で作り出されたものです。
伝搬距離が限られ、1秒もしないうちに消える音声と比べて、時
空間に遍在する安定性に文字の真骨頂があるといえます。
 そして、約6000年前にヨハネス・グーテンベルグが活版印
刷技術を考案したことで、情報の流通量が非常に増えたのです。
印刷技術の開発によって、紙に文字を印刷して残せるようになり
聖書などが印刷され、普及したのです。グーテンベルクの活版印
刷機は、羅針盤、火薬と並び、ルネッサンスの三大発明のひとつ
といわれています。
 そして約145年前のグラハム・ベルによる電話の発明です。
ちなみに、グラハム・ベルが、電話機を発明してから14年後の
1890年(明治23年)、日本初となる東京〜横浜間での電話
サービスが開始されています。電話の登場でコミュニケーション
のスビートは格段に上昇し、さらに約50年前の米国でのインタ
ーネットの原型である「アーパネット」の登場と、約30年前の
インターネットの本格的普及により、世界中が瞬時につながるよ
うになったのです。
 そして、ネットワークの進化は、それにとどまらず、ソーシャ
ルネットワークサービス、SNSによって、人と人がデジタルネ
ットワークにつながり、さらに「人と人」だけでなく、「人とモ
ノ」、すなわち、IоTがつながろうとしています。これについ
て、尾原和啓氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本でも開始された次世代の通信規格「5G」は単に通信速度
が高速化されただけではありません。遅延が起きにくく、かつ、
多数の機器を同時に接続できるようになります。そのため、Iо
Tがより一段と進むことが期待されています。人とモノをつなぐ
技術も整いつつあります。ネットワークを物理的な限界を超えて
劇的に加速し、強化する。それがデジタル化の本質と言えます。
            ──島田太郎/尾原和啓著/日経BP
              『スケールフリーネットワーク/
             ものづくり日本だからできるDX』
─────────────────────────────
 以上は、ユヴァル・ノア・ハラリ氏によるネットワークの理論
ですが、現在、われわれがいつも使っているWWW(ワールド・
ワイド・ウェブ)についての新しい発見があったのです。その研
究の中心者は、アルバート=ラズロ・バラバシ教授です。
 バラバシ教授は、WWWの形は「ランダムネットワーク」にな
ると予想していたのですが、そうならなかったのです。ネットワ
ークの構成要素を「ノード」といいますが、こういうネットワー
クでは、大多数のノードを持つ、つながり、これを「リンク」と
いいますが、そのリンクの数がほぼ同じ範囲に収まるのが特徴に
なります。これを「ランダムネットワーク」といいます。
 ランダムネットワークでには、平均的なノードはこの程度のリ
ンクという「スケール」というものがあります。これを「尺度」
といいます。
 しかし、WWWの構造は、それまで考えられてきたような均質
な性質をもっているものではなく、スケールフリー性と呼ばれる
新しい性質をもっていることを発見したのです。すなわち、ネッ
トワークにおける個々のノードと、それらをつなげているリンク
数の分布は、均質、ランダムな事象に基づく正規分布ではなく、
そこでは、わずかなリンクしかもたない大多数のノードと莫大な
リンクをもつノードが共存していることを見出したのです。19
99年のことです。
 このことを数学的な言葉でいえば、「べき乗分布」を示すこと
を明らかにしたのです。この分布には全体を表現できる平均値は
理論上存在せず、このことから同氏は、全体を表現する平均値の
ような尺度がないという意味で、その性質を「スケールフリー」
と呼んだのです。
 このスケールフリーネットワークについて、尾原和啓氏は次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 当時の研究によると、調査したウェブページの80%以上は、
リンク数がわずか4未満でした。一方、0・01%にも満たない
ごく一部のページに、1000以上のリンクが集中していたので
す。そこにはこれまでに研究されてこなかった、まったく新しい
ネットワークの姿がありました。ランダムネットワークには平均
的なノードはこのくらいのリンク数を持つといぅ「スケール(尺
度)」があります。ところが、この新しいネットワークには特徴
的なスケールも平均的なノードも存在しません。調査対象のウェ
ブサイトが、1000個でも1万個でも1億でも、リンク数のグ
ラフは同じ形を措くのです。そこでバラバシ教授は、このネット
ワークを「スケールフリー(尺度がない)ネットワーク」と呼ぶ
ことにしました。
      ──島田太郎/尾原和啓著/日経BPの前掲書より
─────────────────────────────
 インターネットというネットワークは、ここでいうところのス
ケールフリーネットワークなのです。このネットワークについて
さらに考えていくことにします。
             ──[デジタル社会論U/008]

≪画像および関連情報≫
 ●ネットワーク科学のイノヴェイターがたどり着いた「成功の
  法則」:アルバート=ラズロ・バラバシに訊く
  ───────────────────────────
   あの世ではなく、この世で幸せをつかみ取るために、人類
  は「成功」という二文字を必死に追いかけている。そのため
  の方法論として広く知れ渡っているのが、「夢を描き、必死
  で努力せよ」というものだろう。
   しかし、そこには決定的に抜け落ちている視点があると、
  アルバート=ラズロ・バラバシ教授は指摘する。気の早い読
  者のため先に結論を述べておくと、努力して「成果」をあげ
  ることと、「成功」をつかむことは、区別して考えなければ
  ならないのだ。
   たとえば、スポーツの世界を考えると、分かりやすいだろ
  う。100メートル走において、世界1位と世界2位の「成
  果(タイム差)」は極めてわずかなものの、「成功(得られ
  る名誉や報酬)」という観点ではとんでもない差が開いてい
  る。あるいは、アートの世界も同じだろう。ヒットチャート
  の1位になるのは、必ずしも「一番いい作品」ではない。
   さらにいえば、科学やビジネスなど、実は多くの分野にお
  いて「成果」と「成功」の分離が起きているとバラバシは指
  摘する。なぜだろうか?
   謎を解く鍵は、「ネットワーク思考」にある。バラバシは
  様々な分野における「成功」をネットワークという観点から
  研究することで、これまで知られていなかった新たな「成功
  の法則」を見つけ出したのだ。それらを一般向けにまとめた
  のが、『ザ・フォーミュラ 科学が解き明かした「成功の普
  遍的法則」』(江口泰子 訳、光文社 刊)である。
                  https://bit.ly/3nngvGR
  ───────────────────────────
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アルバート=ラズロ・バラバシ教授
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2021年04月27日

●「ネットワークはどう生成されるか」(第5479号)

 3回目の緊急事態宣言の発出です。「またかよ」というのが国
民の本音であると思います。新型コロナウイルスの感染を防ぐの
は、PCR検査とワクチンが重要といわれます。しかし、日本は
1年もあったのに、この2つともクリアされていないのです。検
査体制は依然として盤石ではないし、ワクチンにいたっては、そ
の接種率は世界でも最下位に甘んじています。
 加えて、4月25日の北海道の衆議院選挙、長野選挙区、広島
選挙区の重要な3選挙に与党は3連敗するという最悪の結果を招
いていますが、これは菅政権のコロナ対応の不満も入っていると
いわれます。
 与党にとって、今回勝てる可能性があったのは、唯一保守王国
の広島選挙区だけだったといえます。北海道は最初から候補を立
てず、不戦敗のかたちをとったので、広島で勝てば、1勝1敗1
不戦敗というかたちで、何とか面子が保てるからです。
 それほど大事な広島の選挙ですが、自民党として、総力を結集
して選挙を戦ったかというと、そうではないのです。河井案里氏
のときは、安倍首相をはじめ、菅官房長官など、党の幹部を何回
も広島に投入し、それに加えて、候補者に党から1億5千万円も
の資金を投入して勝ち取ったのに、今回は菅首相は選挙の応援に
入らず、地元の県連会長である岸田前政調会長に全責任をとらせ
るかたちで、責任回避を図っています。菅陣営から見れば、これ
で岸田文雄氏というライバルの力を削ぎ、総裁選での優位を得よ
うという作戦だったのではないかといわれています。
 以上が、昨日から今日にかけての状況です。ここから、デジタ
ル社会論の話に入ります。
 世界的なイスラエルの歴史学者であり、哲学者でもあるユヴァ
ル・ノア・ハラリ氏という人がいます。ヘブライ大学歴史学部の
終身雇用教授であり、世界的ベストセラー『サピエンス全史文明
の構造と人類の幸福』、『ホモ・デウステクノロジーとサピエン
スの未来』の著者でもあります。
 そのユヴァル・ノア・ハラリ氏は、英国の著名な経済誌『フィ
ナンシャル・タイムズ』に、新型コロナウイルス後の世界に関し
て、一文を寄せています。その冒頭の一節をご紹介します。興味
があれば、全文を読んでいただくことは可能です。
─────────────────────────────
 人類は今、グローバルな危機に直面している。それはことによ
ると、私たちの世代にとって最大の危機かもしれない。今後数週
間に人々や政府が下す決定は、今後何年にもわたって世の中が進
む方向を定めるだろう。医療制度だけでなく、経済や政治や文化
の行方をも決めることになる。私たちは迅速かつ決然と振る舞わ
なければならない。だが、自らの行動の長期的な結果も考慮に入
れるべきだ。さまざまな選択肢を検討するときには、眼前の脅威
をどう克服するかに加えて、嵐が過ぎた後にどのような世界に暮
らすことになるかについても、自問する必要がある。そう、この
嵐もやがて去り、人類は苦境を乗り切り、ほとんどの人が生き永
らえる――だが、私たちは今とは違う世界に身を置くことになる
だろう。              https://bit.ly/32KW795
─────────────────────────────
 なぜ、ユヴァル・ノア・ハラリという人物を取り上げたのかと
いうと、「ネットワーク」というものの根源を独自の視点でとら
えているからです。少し学問的な話になりますが、それはなかな
か興味深いものです。このハラリ氏には、『サピエンス全史』と
いう、ベストセラーズがあります。ここでは、人間と他の生物の
違いについて述べられています。
 ハラリ氏は、チンパンジーの群れの上限はおよそ50頭である
と述べています。なぜ、50頭以上のネットワークが形成されな
いのかというと、群れの個体数が増えるにしたがって、秩序が不
安定になって、群れは分散してしまうからです。
 しかし、人間は50人という壁を突破しています。そこで重要
な役割を果たしたのは「うわさ話」、すなわち「情報」であると
いっています。誰が信用できるのか、誰が何をしているのかとい
う「うわさ話」という情報を集団で共有することによって、人間
の集団は、50人を超えることができたというのです。しかし、
そういう情報共有でまとまっている集団のサイズは150人であ
るといっています。それよりも大きな集団になると、名前と顔が
一致しなくなり、「うわさ話」という情報が機能しなくなるとい
うのです。
 尾原和啓氏は、ハラリ氏の主張を取り上げ、それに基づいて、
次のように述べています。
─────────────────────────────
 歴史を振り返ると、古代ローマの争いを見ても、中国の赤壁の
戦いを見ても、何万人、何十万人という人間が集まり、同じ目的
のもとで力を合わせて戦っています。これこそ他の生物にはでき
ない、人類だけが獲得した能力です。
 巨大なネットワークを作り、目的を共有する共同体として動け
ることこそ、ほかの生き物にない人間の特徴です。ネットワーク
の力によって地球上で王者として君臨するようになりました。そ
して、そのネットワークの威力を強化してきたのがテクノロジー
です。         ──島田太郎/尾原和啓著/日経BP
              『スケールフリーネットワーク/
             ものづくり日本だからできるDX』
─────────────────────────────
 「赤壁(せきへき)の戦い」とは、中国後漢末期の208年、
長江の赤壁(現在の湖北省咸寧市赤壁市)において起こった曹操
軍と孫権・劉備連合軍の間の戦いのことです。このとき、数10
万とも言われる兵と朝廷の権威を擁する曹操の大軍が動員されて
います。つまり、何10万人という人間が集まり、それが一体と
なって、同じ目的のために力を合わせて、戦っているのです。こ
れは人類にしかなしえないことであるというのです。
             ──[デジタル社会論U/007]

≪画像および関連情報≫
 ●コロナ危機、ハラリ氏の視座 「敵は心の中の悪魔」
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルスによる感染症の脅威に世界中がすくん
  でいる。私たちはどう立ち向かうべきなのか。人類史を問い
  直し、未来を大胆に読み解く著作で知られるイスラエルの歴
  史学者、ユヴァル・ノア・ハラリさんが電話でのインタビュ
  ーに応じた。今まさに分かれ道にさしかかっていると言う。
  ――ウイルスの感染拡大で、私たちはどのような課題に直面
  していると考えますか。
   世界は政治の重大局面にあります。ウイルスの脅威に対応
  するには、さまざまな政治判断が求められるからです。三つ
  の例を挙げてみましょう。
   まず国際的な連帯で危機を乗り切るという選択肢がありま
  す。すべての国が情報や医療資源を共有し、互いを経済的に
  助け合う方法です。他方で、国家的な孤立主義の道を選ぶこ
  ともできる。他国と争い、情報共有を拒み、貴重な資源を奪
  い合う道です。どちらの選択も可能で、政治判断に委ねられ
  ています。また、ある国はすべての権力を独裁者に与えるか
  もしれない。独裁者がすでにいる場合もあれば、新たな独裁
  者が生まれる場合もあります。一方で、別の国では民主的な
  制度を維持し、権力に対するチェックとバランスを重視する
  道を選ぶでしょう。       https://bit.ly/3tRUC4F
  ───────────────────────────
ユヴァル・ノア・ハラリ氏.jpg
ユヴァル・ノア・ハラリ氏
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2021年04月26日

●「DBS銀行とはどんな銀行なのか」(第5478号)

 DXの成功例といわれるシンガポールのDBS銀行について、
もう少し詳しく調べてみることにします。この銀行が有名になっ
たのは、金融専門情報誌『ユーロマネー』が、世界で最も優れた
デジタル銀行として、このDBS銀行を2度にわたって表彰した
からです。
─────────────────────────────
      「ワールズ・ベスト・デジタルバンク」
         2016年度/2018年度表彰
         金融専門情報誌『ユーロマネー』
─────────────────────────────
 DBS銀行の何が評価されたかというと、次の4つを指摘する
ことができます。
─────────────────────────────
1.デジタル取引を行う顧客は、店舗訪問の顧客と比べて、2倍
  の売り上げをもたらし、より多いローンと預金を保有する。
2.デジタル取引を行う顧客の獲得にかかるコストは、従来の顧
  客を獲得するコストに比べると、57%も低くなっている。
3.従来の顧客の取引からは19%のROE(自己資本利益率)
  が得られるが、デジタル取引顧客のそれは27%にのぼる。
4.デジタル取引を行う顧客は、従来の顧客と比べると、16倍
  も多く、自発的取引を行う傾向があることがわかっている。
─────────────────────────────
 DBS銀行は、次の2つのフェーズを経て、デジタルバンクに
変身を遂げたのです。
─────────────────────────────
  ◎第1フェーズ/2009年〜2014年
   デジタルバンクを構築するための基礎を固める時期
  ◎第2フェーズ/2014年以降〜
   全社的にデジタルバンクとして仕上げるための時期
─────────────────────────────
 第1フェーズにおいてDBS銀行が行ったことをまとめます。
 まず、銀行システムの持つ脆弱性を解消する目的で、データー
センターを増設し、セキュリティオペレーションセンター、モニ
タリングセンターを設立しています。
 また、エンジニアリングやテクノロジーの外部依存からの脱却
に挑み、現在では、85%の内製化が実現しています。そして、
チャンネル、プロダクト・サービス、イネーブラー(経営情報シ
ステムなど社内のシステムやインフラ)ごとに、不必要なアプリ
ケーションを売却し、必要なアプリケーションを購入することに
よって、2014年までにデジタルバンクとしてのインフラやプ
ラットフォームを構築しています。
 続いて、第2フェーズにおいて、DBS銀行が行ったことをま
とめます。これは、デジタルバンクとしての仕上げの時期です。
 第2フェーズにおいては、全社的にデジタルバンクになるため
の組織改革に取り組んでいます。プロジェクト型組織からプラッ
トフォーム型組織へとか、アジャイルな開発チームの編成などの
テーマで、組織改革を進めています。
 アジャイル開発とは、既に述べているように、システムやソフ
トウェア開発における臨機応変なプロジェクト開発手法の一つで
あり、「アジャイル」とは「素早い」という意味であり、従来の
ウォーターフォール開発などよりも開発が素早いとことを意味し
ています。
 DBS銀行は、さらにデジタルトランスフォーメーションの柱
として、次の4つの目標を掲げています。
─────────────────────────────
 @クラウドネイティブになる
 AAPIによって、エコシステムのパフォーマンスを上げる
 B顧客第一主義の徹底を図る。
 C人とスキルへ投資する。
─────────────────────────────
 @のクラウドネイティブとは、クラウドのサービス利用を前提
に構築されるシステムやアプリケーションのことです。クラウド
の利点を最大限に活かして構築することで、短期間で効率的にシ
ステムを実装させることが可能です。
 Aは、200以上のAPIを通して、60以上のパートナーと
エコシステムを構築するということを意味しています。これによ
り、様々なパートナーと連携したカスタマーエクスペリエンスの
向上を実現しています。
 Bは、顧客接点のデジタル化を図り、リテール・バンキングの
口座開設がオンラインでできるなど、顧客視点での「当たり前」
を実現しています。
 Cの「人とスキルへ投資」とは、「徹底した顧客第一主義」を
ベースに「データドリブン」、「リスクを取って、実験に挑む」
「アジャイル型」、「学ぶ組織になる」の5つの指針を掲げ、そ
のための学びのスペースやスタートアップとのコラボスペースの
設置などを行ったのです。
 そして、2018年5月、DBS銀行は、「銀行を意識するこ
となく、生活を楽しもう」をミッションとして採用しています。
これを英語では、次のように表現しています。
─────────────────────────────
         Live more, Bank less.
─────────────────────────────
 「バンク・レス」──「銀行はなくなってもいい」。これは、
銀行としては尋常ではない声明であるといえます。この真意は、
DBS銀行としては、「目に見えない銀行」を目指すという意味
です。デジタル化するということは、顧客は銀行の店舗に行かな
くなり、銀行というものが人々の意識からは消えることを意味し
ます。DBS銀行としては、それでもいいから、DBS銀行はと
ことんデジタル化を推進するといっているのです。
             ──[デジタル社会論U/006]

≪画像および関連情報≫
 ●"金融界のアマゾン"DBS銀行のすごい目標
  ───────────────────────────
   日本では一般的には知られていませんが、世界中の金融関
  係者から注目を集めている銀行がシンガポールにあります。
  それがDBS銀行です。DBS銀行は、金融専門情報誌『ユ
  ーロマネー』から「World’s best digital bank」の称号を
  2016年と2018年の2度にわたり獲得しています。
   DBS銀行がデジタルトランスフォーメーションを推し進
  めるにあたりベンチマークとしたのは、同業他社ではありま
  せんでした。彼らが目指したのは、グーグル・アマゾン・ネ
  ットフリックス・アップル・リンクトイン・フェイスブック
  といったメガテック企業です。
   DBS銀行はこれらメガテック企業の頭文字(G・A・N
  ・A・L・F)に自らの頭文字Dを入れて、「G・A・N・
  D・A・L・F(ガンダルフ)」の一角を担う存在になると
  決意しました。
   メガテック企業には、DBS銀行が見習うべき点がいくつ
  もありました。例えばグーグルのオープンソースソフトウェ
  ア志向。アマゾンのAWS上での、クラウド運用。ネットフ
  リックスのデータを利用したパーソナル・レコメンデーショ
  ン。アップルのデザイン思考。リンクトインの「学ぶコミュ
  ニティーであり続ける」こと。フェイスブックの「世界中の
  人々  への広がりを持つ」こと。https://bit.ly/2QxutKb
  ───────────────────────────
DBS銀行.jpg
DBS銀行
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2021年04月23日

●「DXは業務のデジタル化ではない」(第5477号)

 「デジタル技術」は、「ABCD5G」というキーワードで表
すことができます。
─────────────────────────────
       A ・・・・ AI
       B ・・・・ ブロックチェーン
       C ・・・・ クラウド
       D ・・・・ ビックデータ
      5G ・・・・ 5G
─────────────────────────────
 現在、この「ABCD5G」が怒涛のように押し寄せてきてい
ますが、日本はコロナ禍にかき回され、なかなかデジタル化の波
にうまく乗れないでいます。何か歯車が噛み合っていないような
気がします。
 ある医療機関で、PCR検査の結果、コロナ陽性者が出たとし
ます。この場合、医療機関は所定の用紙に必要事項を手書きで記
入して、FAXで保健所に送ります。そして、保健所は、それを
同じくFAXで自治体に報告します。
 所定の用紙に必要事項を記入し、それをFAXで送る──これ
がとても現代的で便利だった時代があります。しかし、それは一
般企業の場合、はるか昔の話です。これはデジタルではなく、ア
ナログ技術です。アナログで送られてきた書類をそのまま紙ファ
イルとして、綴じておくと、必要なデータを集計するときなどは
大変です。データ化しようとすると、データをシステムに入力す
る必要が生じます。
 医療機関と保健所、そして自治体へのコロナ陽性者の連絡は、
少なくとも2020年5月までは、このようにFAXで行われて
いたのです。なぜ、2020年5月かというと、厚労省は「HE
R−SYS」(ハーシス)というシステムを構築し、2020年
5月から実証実験をはじめているからです。現在、「HER−S
YS」がどのように動いているか、詳細は不明ですが、厚労省は
次のようにアナウンスしています。
─────────────────────────────
 「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム/
HER−SYS」は、自治体の保健所などの業務負担を減らし、
新型コロナウイルス感染者の情報を医療機関・保健所・都道府県
等で迅速に集約・共有したり、データ分析したりすることで、感
染対策に役立てることを目的に厚生労働省が2020年に開発・
導入したクラウドベースのシステムです。略称の「HER−SY
S」は、次の省略形です。
 ◎「HER−SYS」
  Health Center Real-time information-sharing System on
  COVID-19
─────────────────────────────
 「デジタル社会論」について情報を集めるため、最近、尾原和
啓氏という人の著作を読んでいます。尾原和啓氏は、フューチャ
リスト、京都大学大学院で人工知能を研究、マッキンゼー・アン
ド・カンパニーやNTTドコモ、グーグル、リクルート、楽天な
ど、数多くの企業で新規事業の立ち上げを担い、現在は、シンガ
ポールのバリ島が拠点です。私の購入した書籍は次の2冊です。
少し難解なところがありますが、奥が深い感じの書籍です。
─────────────────────────────
                 尾原和啓著/NHK出版
  『ネットビジネス進化論/何が「成功」をもたらすのか』
             島田太郎/尾原和啓著/日経BP
             『スケールフリーネットワーク/
            ものづくり日本だからできるDX』
─────────────────────────────
 最近「DX」という言葉が盛んに使われます。DXとは、デジ
タルトランスフォーメーションの略ですが、多くの場合、業務の
デジタル化と勘違いしています。
 DXの成功例として、尾原和啓氏は、シンガポールの銀行最大
手のDBSグループ・ホールディングスを上げています。DBS
のCEOのピュシュ・グプタ氏は、次の3つの宣言で、DXを実
施しています。
─────────────────────────────
   1.Become digital to the core.
   2.Embed ourselves in the customer journey.
   3.Create a 22,000 start-up.
      ──島田太郎/尾原和啓著/日経BPの前掲書より
─────────────────────────────
 「1」は、「芯までデジタルに変革する」という意味になりま
す。これによって、DXを起こさせる土台を作るのです。
 「2」は、「自らをカスタマージャーニィーへ組み込む」こと
です。カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを知り
最終的に購買するまでのカスタマーの「行動」「思考」「感情」
などのプロセスです。つまり、顧客志向でDXの拠点を作ること
を意味しています。
 「3」は、「従業員2・2万人を、スタートアップへと変革す
る」という意味です。社内をスタートアップ体質へと変貌させ、
DXが頻発するようにするのです。
 これに関して、尾原和啓氏は、日本に関して、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 日本においては、1は必須のものとして実施が進む段階に入り
2の議論も「アフターデジタル」をきっかけの一つとして浸透し
てきました。しかし、3のDXが起きる場の布置が日本のDXに
おいて抜けがちな論点なのです。
      ──島田太郎/尾原和啓著/日経BPの前掲書より
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論U/005]

≪画像および関連情報≫
 ●世界最高のデジタルバンク、シンガポール最大手〜
  DBS銀行はどこが凄いのか
  ───────────────────────────
   邦銀が今、課題とする銀行業のデジタル化において、世界
  トップを走る銀行がシンガポールにある。同国最大手のDB
  S銀行だ。金融専門誌「ユーロマネー」から2年前、アジア
  の銀行で初めて「世界最高のデジタルバンク」の表彰を受け
  今夏には2度目の受賞も果たした。
   そんなDBSがデジタル化の取り組みを重視している様は
  2017年のアニュアルレポート(年次報告書)の表紙を見
  れば明らかだ。シンガポール政府により、国の開発の融資機
  関として、1968年に設立されたDBS。元来の略称は、
  「Development Bank of Singapore」だが、 この表紙ではあ
  えて頭文字の「D」を「Digital」 とし、この方針が今後も
  揺るぎないとの意志をにじませている。
   背景には、既存の銀行業への危機感がある。業績こそ堅調
  だが、中国通販大手アリババ集団が決済機能を充実させるな
  ど、異業種からの侵食が脅威と化しているのだ。邦銀も置か
  れた環境は同じだが、金融当局の規制が日本より柔軟なこと
  もあり、変化のスピード感が異なっている。
   では、数年前から力を入れるデジタル化は、収益面でどん
  な影響を与えているのか。アニュアルレポートには次ページ
  の図の通り、銀行としては珍しくも思える内容が開示されて
  いる。             https://bit.ly/32zS5jP
  ───────────────────────────
尾原和啓氏.jpg
尾原和啓氏
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2021年04月22日

●「起業家になろうといない日本若者」(第5476号)

 アイフォーンをお使いの方に限定して、COCOAについての
新しい情報を提供します。これは、アイフォーンのユーザーでも
案外知らない人が多いのです。これは、iOS13.7から装備
されている機能です。本日現在のiOSの最新バージョンは次の
通りです。最新のバージョンにアップデートすべきです。
─────────────────────────────
          iOS14.4.2
─────────────────────────────
 iOSを最新にすると、「設定」のアイコンのなかに「接触通
知」というアイコンが現れます。このアイコンが表示されていれ
ば、COCOAのアプリをインストールしていなくても、COC
OAが使えるようになるはずです。機能しないようであれば、C
OCOAのアプリをインストールしていただきたいと思います。
 この「接触通知」をタップすると、「接触通知」の画面が表示
されます。このページの一番上の「接触通知をAppで表示」を
タップすると、COCOAのアプリの画面になります。
 「接触のログ記録の状況」の項目が「使用中」になっています
が、そこには次のメッセージが表示されています。
─────────────────────────────
 このiPhoneは、ほかの携帯電話とランダム識別子を交換して、
それらのログを記録します。過去14日間の接触ログを確認する
リクエストはすべて保存されます。
─────────────────────────────
 この「使用中」のボタンの横にある「>」をタップすると、本
人認証が行われるか、パスワードの入力が求められます。そうす
ると、「接触チェックの記録」が表示されます。ここで日付を選
んでタップすると、その指定日の「チェックの詳細」が次のよう
に表示されます。私のアイフォーンの画面で説明しています。
─────────────────────────────
 「チェックの詳細」
   タイムスタンプ 2021/04/19 1:51
  一致したキーの数               0
    データソース         接触確認アプリ
  新規ファイネール
  13本のファイル(省略)
─────────────────────────────
 この状況について解説します。4月19日に私は外出しました
が、そのとき、13本の携帯電話と1メートル以内、かつ15分
間以上接触し、それぞれ相互に接触記号を交換したことを示して
います。
 もし、そのなかでコロナの陽性者がいれば、通知サーバーから
キーが通知され、そのキーと一致するファイルがあれば、「1」
と表示されます。私は、13本のファイルを全部開いてみました
が、「一致したキーの数」は「0」でした。つまり、感染者とは
接触していないことになります。つまり、すべてが「0」ならば
コロナ陽性者との接触はなかったことになります。
 どうでしょう。私はCOCOAはインストールしましたが、ど
うも反応がないようなので、いろいろ情報を集めて、アイフォー
ンの「接触通知」のことを知りました。仕組みとしてはよくでき
ています。それにしてもアイフォーンだけに「接触通知」のボタ
ンが付いているのは、どうしてなのでしょう。アンドロイドOS
を使う携帯電話にはこの機能は付いていないのです。しかも、O
Sをバージョンアップするだけで、自動的にCOCOAのアプリ
もインストールされるのです。なぜ、アンドロイド版にはこの機
能はないのでしょうか。
 COCOAの話はこのくらいにして、デジタル社会論の本題に
入っていくことにします。
 もともと日本は、技術の国であり、半導体など、日本の技術が
世界をリードしていた時期もあったのです。それがなぜ、米国は
ともかくとして、なぜ中国にも大きく差をつけられてしまったの
でしょうか。
 日本は、米国、中国とでは、起業家気質の差があるといわれて
います。米国バブソン大学やロンドン大学ロンドン・ビジネスス
クールなどの研究者らが継続的に実施している国際調査「グロー
バル・アントレプレナーシップ」の2014年版によると、「職
業として起業家はよい選択である」に賛成した割合は、次のよう
になっています。中国が米国を抜いてトップなのです。
─────────────────────────────
       米国 ・・・・・ 64・7%
       中国 ・・・・・ 65・7%
       日本 ・・・・・ 31・0%
 ──「グローバル・アントレプレナーシップ」の2014年版
─────────────────────────────
 中国の技術力が急速に伸びたのは、何といっても米国から学び
取ったものが大きかったと思います。多くの中国の若者が米国に
留学して学び、さらには、米国のカルフォルニア州、南サンノゼ
から北サンマティオに広がるGAFAの聖地、シリコンバレーに
多くの中国人の若手エンジニアが就職して住み着き、シリコンバ
レーのノウハウをマスターしたのです。その結果、米国のGAF
Aに続き、アリババ、テンセント、バイドウ、ファーウェイなど
が続々と誕生し、急速に業績を伸ばしています。デジタル革命を
主導してきたのは、これらのベンチャー企業なのです。
 これに対して日本は、諸外国に留学する学生の数は年々減少し
内向きになっています。就職先も生涯安定した収入が得られる公
務員などの安定性志向が強く、起業を志す者はほんの一握りに過
ぎないのです。この安定主義がデジタル革命において、米中の後
塵を拝しているといえます。今頃になって、デジタル庁を作るの
はわるくありませんが、それによって、日本のデジタル化が一挙
に進むとは到底思えないのです。
             ──[デジタル社会論U/004]

≪画像および関連情報≫
 ●日本は起業家が少ない?大学生を通して見る
  日本の“起業観”
  ───────────────────────────
   日本は本当に起業の割合が低いのだろうか? 「中小企業
  白書」(2019年、中小企業庁)の起業活動の国際比較で
  は、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オラン
  ダ、中国の7カ国を比較している。
   独立・社内を問わず、新しいビジネスを始めるための準備
  を進めている人や、起業して3年半以内の人の割合をみると
  日本は4・8%で、アメリカ12・3%、中国10・7%に
  比べれば低い数字だが、ドイツやイギリスの6・2%と比較
  すると、一概に低いともいえない。フランスなどは3・1%
  で日本よりも低水準にある。
   ただ、起業に無関心な日本人の割合は、75・8%と群を
  抜いて高い。アメリカ21・6%やオランダ23・9%、ド
  イツ32・1%どころか、日本の次に高いフランス43・5
  %にも大きく水をあけられている。
   国際的な起業活動の比較を行うGEM調査(2018年)
  によるアンケートでも、職業選択にあたり「新しいビジネス
  を始めることが望ましい」と答えた日本人の成人人口は22
  ・8%にとどまり、先進各国で軒並み50%を超えているの
  を鑑みると、日本人の起業意識は低いといわざるを得ない。
                  https://bit.ly/3tEx4jB
  ───────────────────────────
アイフォーンの「接触通知」.jpg
アイフォーンの「接触通知」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論後編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年04月21日

●「中心開発者は既に手を引いている」(第5475号)

 COCOAのようなアプリケーションを開発する場合、ゲーム
アプリの開発でよく行われる「アジャイル開発」という開発手法
があります。
 「アジャイル開発」とは、ごく簡単にいうと、「あらかじめ全
工程にわたる計画を立て、それに基づいて開発を進める」方法で
はなく、開発中に発生する様々な状況の変化に対応しながら開発
を進めていく手法のことをいいます。この場合、あらかじめ全工
程にわたる計画を立て開発を進める開発手法を「ウォーターフォ
ール開発」といいます。
 あるゲーム会社の幹部は、アジャイル開発について次のように
述べています。
─────────────────────────────
 不具合対応だけでなく、機能改善のためにも最低でも2週に1
度はアプリをアップデートできる体制を整えている。もし、それ
をやらないと、利用者の不満がビジネス面での損失に直結するか
らである。    ──2021年4月17日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 COCOAは、このようなアジャイル開発ができる業者に発注
すべきであったのですが、厚労省は、元受会社として、パーソル
プロセス&テクノロジー社に発注したのです。この会社は、人材
大手のパーソルホールディグスの子会社であり、同社は、そのよ
うな開発業務に対応できていなかったと考えられます。
 厚労省は、「HER−SYS」(ハーシス)というシステムを
開発し、2020年5月から実証実験を重ねていますが、このシ
ステムをパーソルプロセス&テクノロジー社が発注し、開発、保
守・管理を行わせています。
 「HER−SYS」とは、どういうシステムでしょうか。
 新型コロナウイルス感染症について、医療機関から保健所への
報告、各保健所から自治体への報告はすべてFAXで行われてい
ます。このやり方では、データの再入力が生ずるなど、「報告に
時間がかかり、新規感染者数の迅速な公表ができないこと、集計
ミスのリスクが高いことなどがさんざん指摘されてきたのですが
このシステムによって、新型コロナウイルス感染者などについて
情報把握・管理を一元化できることになります。
 もともとCOCOAは、「HER−SYS」の一部として追加
で契約され、COCOAで接触通知のあった人々を「HER−S
YS」に登録し、感染対策に役立てることを最初は想定していた
のです。しかし、政府の検討会で感染者の特定につながるとして
COCOAは、HER−SYSとは切り離して開発されるように
なったのです。
 添付ファイルに、2020年5月20日以降の発注プロセスの
図をつけていますが、開発の中心にいるのは、日本マイクロソフ
トです。日経クロステックは、その間の事情について、次のよう
に書いています。
─────────────────────────────
 注意が必要なのは、日本マイクロソフトは接触アプリを公正に
選べる立場になかった点だ。「COVID-19 Radar」には同社社員も
おり、その接触確認アプリは、サーバーの稼働環境に「アジュー
ル」を使い、グーグルのアンドロイドとアップルのiOSで共通
に稼働するコードを開発するツールには、同社の「ザマリン」を
使っているなど関係が深かった。厚労省は当時、こうしたITベ
ンダー側の事情も知る立場にあったとみられる。事前に日本マイ
クロソフトなどと調達方針について話し合いや調整があった可能
性もある。          https://s.nikkei.com/2QjyMZt
─────────────────────────────
 上記記述の「アジュール」とは、ウインドウズなどの開発・販
売を行っているマイクロソフト社が提供するクラウド・サービス
のことです。
 しかし、日本マイクロソフトは、厚労省とのメインの契約主体
ではないのです。それでは、図にある、パーソルP&Tやフィク
サー、エムティーアイとマイクロソフトは、どういう関係にある
のでしょうか。それにCOCOAの原型として採用されたエンジ
ニア集団(COVID-19 Radar Japan)はどうなったのでしょうか。
これについて、日経クロステックは次のように書いています。
─────────────────────────────
 パーソルP&Tやフィクサー、エムティーアイは、いずれも日
本マイクロソフトのクラウドサービス「アジュール」の有力な開
発パートナーでもある。各社は厚労省の選考に勝ち残った「日本
マイクロソフトの呼びかけでプロジェクトに参加した」(パーソ
ルP&TのDXソリューション総括部の責任者)
 さらに、現状では調達方法が最善だったかを外部から検証する
ことが難しくなっている。厚労省が20年6月19日に、COC
OAの最初のバージョンをリリースした後、COVID-19 Radarの中
心メンバーは接触確認アプリの開発から離れることを表明し、6
月末には、当時の調達に関わった厚労省の担当者も異動したから
である。           https://s.nikkei.com/3mZ59bO
─────────────────────────────
 EJとしては、あちこちからCOCOA開発について情報を集
めて検証しようとしたものの、あいまいのまま、終わらざるを得
ない状況です。4億円近くの予算を投じ、人口の6割近くに普及
すれば、ロックダウンを避けることが可能になる効果を期待でき
るとして、鳴り物入りで登場したCOCOAであるが、その信頼
は失われ、普及率はいまだ人口の2割にとどまったままです。
 いかに日本がデジタル技術に弱いとはいえ、なぜ、この程度の
ことを成功させられないのでしょうか。厚労省は、今後内閣官房
IT総合戦略室と協力しながら、COCOAの運用を担っていく
としていますが、一度大きく失った信用を取り込むのは、容易で
はないと思います。ちなみにこの件で責任をとったのは、厚労省
の事務次官と健康局長の2人です。4億円、あまりにも、もった
いない投資です。     ──[デジタル社会論U/003]

≪画像および関連情報≫
 ●COCOAの不具合検証、「正常に作動するようお手伝いし
  たい」/平井デジタル相
  ───────────────────────────
   平井大臣は厚労省担当の政府CIO補佐官から不具合に関
  するヒアリングを受けたことを明らかにした上で、「COC
  OAが正常に作動するようなお手伝いをしたい。厚労省から
  検証作業に関する詳細をあまり聞いていないが、検証には、
  (IT室の)政府CIO補佐官が協力することになるのでは
  ないか」との見解を示した。
   COCOAを巡っては2月3日、新型コロナウイルス陽性
  者と接触したユーザーへの通知が送られない不具合がアンド
  ロイド版アプリで見つかった。2020年9月28日付で行
  われたアプリのアップデートが原因という。
   こうしたことを受け、厚生労働省は2月中旬までにアプリ
  を再リリースできるよう省内で検証に当たっている。現在、
  原因究明や今後、必要な対応などを検証しているといい、同
  省は「不具合の解消に向けて全力を挙げる」としている。
   ただ、アプリ改修にはデジタル分野の専門知識を持った職
  員が必要なことから「IT室と協力する必要がある」とも話
  している。会見では、報道陣からiOS版にも不具合がある
  のではないかとの質問が飛んだ。平井大臣は「(障害の)可
  能性は十分あり得るだろう」との認識を示し、「そうした可
  能性も含めて見ていく」とコメントした。
                  https://bit.ly/32tBDBx
  ───────────────────────────
COCOAの発注体制.jpg
COCOAの発注体制
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論後編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年04月20日

●「COCOAとはどういうアプリか」(第5474号)

 2月9日のことです。平井卓也デジタル改革相は、COCOA
について、次の見解を示したのです。
─────────────────────────────
 COCOAは、アプリそのものの出来があまりよくなかったと
考えている。          ──平井卓也デジタル改革相
─────────────────────────────
 確かにCOCOAには重大なバグがあり、発注元の厚労省は、
そのバグの発見に遅れをとっているので、現状アプリは機能して
いるとはいいがたく、そういわれても仕方がないといえます。し
かし、正常に機能すれば、このアプリの構想自体は、素晴らしい
ものであると思います。
 もともとCOCOAの原型は、1月26日のEJで示したよう
に、ボランティア目的で、フェイスブックを通じて集まった有志
の技術集団が制作したもので、そのリーダーは、日本マイクロソ
フトのエンジニアです。オープンソースで、そのソースコードは
公開されています。アプリの原型自体は、とても素晴らしいもの
であるといえます。
─────────────────────────────
           COVID-19 Radar Japan
─────────────────────────────
 そもそもCOCOAとは、どのようなアプリなのでしょうか。
ある日、COCOAから、あなたに対して、次のメッセージが届
いたとします。
─────────────────────────────
 COVID−19にさらされた可能性があります。新型コロナ
ウイルス陽性登録者と、接触した可能性があります。詳細はこち
ら。Appからその接触の日付、期間、および信号の強さにアク
セスしました。
─────────────────────────────
 もし、あなたが知人数人と会食し、その後、そのうちの誰かが
コロナ陽性になったときは、ほとんどの場合、その陽性者本人か
保健所から連絡が来るはずです。「あなたは濃厚接触者の疑いが
あり、至急PCR検査を受けてほしい」と。
 しかし、陽性者が知らない人であった場合は、連絡のしようが
ありませんが、COCOAはそれを知らせてくれるのです。つま
り、COCOAから通知があるということは、前後の14日間に
おいて、あなたは、その知らない陽性者と1メートル以内に15
分以上一緒にいたことを意味します。そういわれれば、念のため
検査を受けてみようという気になるはずです。その結果、陰性で
あればよいし、陽性だった場合、それだけ他の人への感染リスク
を減らすことにつながります。
 問題点は、陽性だった場合、そのことをCOCOAに書き込み
登録するかどうかは本人の意思にまかされるということです。仮
に書き込んだとしても、本人が特定される恐れがまったくないに
もかかわらずです。プライバシー保護の心配がないのであれば、
陽性である以上、厚労省は情報を発信すべきです。
 それにしても、アプリが正常に機能すれば、感染リスクが減ら
せるのに、どうして何の役にもたっていないのでしょうか。
 これには、いくつもの失敗があります。COCOAの開発にあ
たり、当時ITの担当の副大臣として陣頭指揮を執った自民党の
平将明氏は、政府内には専門の知識や技術を備えた人材が極度に
不足しているとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 厚労省は、コロナ対応で多忙を極めている上、IT関係にはあ
まり強くない役所だ。業者任せにならないようにするには発注者
側にもかなりIT技術がわかる人が必要だが、定員や予算の縛り
があり、十分ではなかった。政府は今まさにデジタル庁をつくる
べく進めているが、その問題意識の一つが顕在化してしまった。
 COCOAも、これまでに7回の改修を重ねている。しかし、
実際に使って「バグ」と呼ばれる不具合を洗い出していくという
開発過程を考えると、実はこの回数は少ないという指摘もある。
                       ──平将明氏
─────────────────────────────
 そうでなくてもコロナ対応で超多忙の、ICTに弱い厚労省が
COCOA開発の中心を務めなければならなかったのには理由が
あります。2020年4月下旬のことです。COCOAの基盤を
世界的に提供していた米アップルと米グーグル(iOSとアンド
ロイド)が、接触確認アプリの提供元は各国の公衆衛生当局に限
るという「1国1アプリ」を打ち出したからです。
 これによってそれまで接触アプリ導入に消極的であった厚労省
が、「公衆衛生当局」として、その調達を担当することになって
しまったのです。
 この「1国1アプリ」が打ち出される前は、接触確認アプリを
巡っては、行政のICT化を支援する非営利団体のコード・フォ
ー・ジャパンと、日本マイクロソフトの技術者らが中心となった
有志の開発グループ「COVID-19 Radar Japan」、そしてかねてか
開発意向を内々に表明していた楽天なのです。
 内閣官房IT総合戦略室や経産省が1本化に動いたものの、1
本化できず、3グループがそれぞれ独自にアプリを開発・配布し
政府がそれを容認して、普及を図る方針だったのです。
 しかし、「1国1アプリ」の方針によって、最も接触確認アプ
リに消極的にして、その何たるかがわかっていない厚労省が前面
に立たざるを得なくなったのです。
 そこで厚労省は、接触確認アプリの調達をパーソルP&Tに一
任したのです。しかし、この企業は、積極確認アプリに十分な知
見はないので、日本マイクロソフトにCOCOAの調達や、プロ
ジェクト管理を任せたのです。まさに丸投げの連鎖です。結果と
してマイクロソフトはCOCOAの原型としてマイクロソフトの
エンジニアが中心の「COVID-19 Radar Japan」が開発したアプリ
を採用したのです。    ──[デジタル社会論U/002]

≪画像および関連情報≫
 ●COCOA中核機能のバグを4カ月放置 開発ベンダー選定
  の「丸投げ」に遠因
  ───────────────────────────
   2021年2月、厚生労働省は接触確認アプリ「COCO
  A」の障害を明らかにした。アンドロイド版で「接触を検知
  ・通知できない」不具合を4カ月以上放置していた。障害の
  直接の原因は2020年9月に実施した改修時のパラメータ
  ー変更ミス。2020年11月には外部の第三者がバグを指
  摘したものの開発チームは見逃した。テストにも問題があっ
  たが、根本には、調達時の不透明なベンダー選定が影を落と
  す。新型コロナウイルス感染症対策の切り札として期待され
  ていた「COCOA(ココア)」。そのCOCOAを「無用
  の長物」と化すバグが4カ月以上も見過ごされていた。厚生
  労働省は2021年2月3日、COCOAのアンドロイド版
  に陽性登録したアプリ利用者と接触しても検知しないという
  接触確認の根幹に関わる不具合があると明らかにした。
   直接の原因は、2020年9月28日のアンドロイド版の
  「1.1.4」 への改修にある。
   COCOAのベースである米アップルと米グーグルが提供
  するソフト基盤「Exposure Notification API」は 「接触あ
  り」と判定するパラメーターがiOSとアンドロイドで異な
  る。開発チームは改修の際、アップルの指示に従ってパラメ
  ーターを変更した。そのとき誤ってアンドロイド版のパラメ
  ーターも変更してしまい、接触を判定できなくなった。
                  https://bit.ly/3ehMIeC
  ───────────────────────────
平将明氏.jpg
平将明氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | デジタル社会論後編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年04月19日

●「ぜんぜん修正されないCOCOA」(第5473号)

 今日から「デジタル社会論」の後編に入りますが、最初のテー
マとして再び取り上げるのは、新型コロナウイルス接触確認アプ
リ「COCOA」の話題です。4月17日(土)の各紙に厚労省
から同アプリの不具合報告書が提出されたからです。日本経済新
聞と朝日新聞は、次のタイトルで取り上げています。
─────────────────────────────
 ◎COCOA無責任の連鎖/行政DXへ重い教訓
  多重委託/厚労省に専門知識なく
         ──2021年4月17日付、日本経済新聞
 ◎COCOA不具合放置
  国と企業無責任連鎖/厚労省検証
           ──2021年4月17日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 このCOCOAトラブルは、日本の役所がいかにICTに弱い
かを露呈しており、世界から見ても実にみっともない話です。実
は、英国は、日本から3ヵ月遅れて同種のアプリを導入していま
すが、アプリのダウンロード数は、この2月に2100万件を超
え、人口の3分の1に達しています。これについて、英国政府と
信頼ある機関は次のように公表しています。
─────────────────────────────
 2月9日には、アラン・チューリング研究所とオックスフォー
ド大学が「(このアプリで)60万件の感染を予防できた可能性
がある」との検証結果を政府と公表しています。
 日本は、こうした検証の入り口にすら立てていない。アプリの
ダウンロード数は3月末で人口のほぼ4分の1の2653万件。
肝心の陽性登録数は、1万2千件にとどまる。信頼の失墜も大き
い。       ──2021年4月17日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 ところで、COCOAはどのようなアプリなのでしょうか。復
習しておくことにします。
 COCOAは、ブルートゥースのクラス3を利用しているので
COCOAをインストールしているスマホ同士が、1メートルの
範囲内に入り、15分以上そのままだと、スマホ同士で「接触符
号」を交換し、それぞれのスマホに保存します。
 さて、COCOAをインストールしているユーザーの誰かが、
PCR検査を受けて陽性が判明したとします。この場合、そのユ
ーザーは、あくまで自分の意思で、アプリに登録することになり
ますが、そのさい保健所から発行される「通知番号」をアプリに
入力することになっています。
 「通知番号」が入力されると、アプリは、感染していた可能性
のある期間の「日次鍵」と時間情報をまとめた「診断鍵」と呼ば
れる情報を通知サーバ−に送ります。通知サーバーは、受け取っ
た「診断鍵」をCOCOAをインストールしている全ユーザーに
送信します。
 スマホ側では、「診断鍵」に含まれる情報から、陽性者の「接
触符号」を生成し、過去に交換して、スマホに保存中の「接触符
号」と比較し、一致するものがあると、感染の可能性があるので
ユーザーに通知するという仕組みです。ロジックは実によくでき
ています。
 COCOAが機能していないことは、どのようにして判明した
のでしょうか。
 それは、コロナ陽性になったPR会社社長、次原悦子氏が、そ
の結果、濃厚接触者になった家族のスマホに、接触通知が届いて
いないことを不審に思ったことがきっかけです。この社長は、ツ
イッターで、次のようにツイートしています。
─────────────────────────────
 拡散希望。接触確認アプリCOCOA。今はこれを絶対に鵜呑
みにしないで!責任追及は後にして、陽性登録したのに過去14
日間どころか、私が濃厚接触者にしてしまった家族にさえ、誰に
も、通知はきていません。ブルーツゥースも確認済み。COCO
Aを見ている人がいるならばそれはとても危険! ♯コロナ陽性
─────────────────────────────
 このPR会社社長は、このことを国民民主党代表の玉木雄一郎
氏に訴えたのです。そこで、玉木代表は、1月13日の衆議院内
閣委員会で、厚労省に問い正しています。ところが、厚労省の役
人は、ぬけぬけと次のように答弁しています。
─────────────────────────────
 1メートル以内で15分以上実際には接近していなかったり、
ブルートゥース機能をオフにしてしまったりなど、適切に作動で
きていないケースも考えられる。      ──厚労省担当者
─────────────────────────────
 この役人、まるで、ユーザー側に責任のあるようなものいいで
す。しかも、COCOAのアンドロイド版の不具合を厚労省が認
めてから、約4ヵ月も経過した後でも、この表現であり、おまけ
にこのPR会社社長のスマホはアンドロイドではなく、厚労省が
問題なしとしているアイフォーンなのです。
 ちなみに、「設定が違っている」といわれたこのPR会社社長
は、アプリのアップデートを最新にし、ブルーツゥースの設定を
確認し、息子のスマホを横に並べて、再度実験しましたが、何も
届かなかったとといいます。
 厚労省に限らず、日本の役所のICT感度のレベルは、きわめ
てローレベルです。今どき厚労省はまだFAXを使っているよう
ですが、これはそこで働く人のICT感度が低いことを表してい
ます。一般企業であれば、事務を担うレベルからの提案で、せめ
てFAXは引退させられるはずです。田村厚労大臣は、ポツリと
こういっています。「オレのところにも届いていいはずの通知が
届いていない。オレも被害者の一人」と。
 冗談ではない。田村厚労相は、最高責任者です。総額3・9億
円も使って、こんなチンケなものしかできないのでしょうか。責
任重大です。       ──[デジタル社会論U/001]

≪画像および関連情報≫
 ●接触確認アプリCOCOA失敗の本質
  ───────────────────────────
   接触確認アプリCOCOAが政治問題化しています。昨年
  6月、首相の肝煎りでリリースされ、感染対策の切り札担う
  かと期待されました。ダウンロードは2千万件を超えました
  が、9月末から2月中旬まで、ユーザーの3割ほどを占める
  アンドロイドユーザーに通知が届かない不具合が見つかりま
  した。そしてiOSにも深刻な不具合があると発表されまし
  た。政府は、相次ぐ不具合を修正することで、COCOAを
  正常に機能させようと躍起になっています。僕は絶望してい
  ます。COCOAは日本人の能力を超えたプロジェクトでし
  た。そのことを人々が認められないことに、僕は絶望してい
  ます。厚労省だけの問題ではない。犯人探しをして処分すれ
  ば済むというものではない。ITの問題ですらない。なぜそ
  れが分からないのか。これは日本の統治能力の問題であり、
  民度の問題です。
   「現時点の我々の政府の能力では、このプロジェクトを成
  功させることはできない」という戦略的思考ができない。精
  神論でなんでも出来ると認めようとしない。あの敗戦から何
  も学んでいない。開発に失敗したことを怒るべきではないの
  です。やったこと自体が間違いだったのですから。
   「なぜやったのだ」と怒るべきなのです。その合理的思考
  ができない人々に絶望しています。あの敗戦から何も学ばな
  かった人々に。         https://bit.ly/3gmSOwH
  ───────────────────────────
世紀の大失敗/COCOA.jpg
世紀の大失敗/COCOA
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論後編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年04月16日

●「現在の中国は戦前日本と似ている」(第5472号)

 今回のテーマ「デジタル社会論」は、1月から約4か月間にわ
たって書いてきましたが、本日をもっていったん閉じます。当初
のこのテーマの目的は、中央銀行のデジタル通貨(CBDC)の
解明にあったのです。
 しかし、リブラ(ディエム)やデジタル人民元などについては
現時点でわかっていることについては、ほとんど書いたつもりで
おります。ちなみに、昨年から今年にかけて、これらについての
最新情報は、ほとんど入ってきておりません。
 しかし、唯一の成果というべきは、カンボジアの「バコン」の
情報です。CBDCの「バコン」については、ネット上でも情報
は少なく、まさにこのテーマを取り上げなかったら、多くの人に
知られていない情報だったと思います。
 EJの読者のから「地球温暖化問題を是非取り上げて欲しい」
との要請があります。ありがとうございます。確かに、取り上げ
るべきテーマのひとつであると考えます。しかし、一つのテーマ
を取り上げるには、相当資料集めをする必要があります。資料を
集めたいと考えています。
 実は、気候変動の問題は、一度EJで取り上げています。20
08年のことです。
─────────────────────────────
 ◎地球温暖化懐疑論
  2008年2月 6日/EJ第2259号
        〜2008年3月21日/EJ第2289号
─────────────────────────────
 このテーマについては、書いてから10年以上前のことであり
再度取り上げる価値はあると思います。
 しかし、「社会のデジタル化」については、まだ書くべきこと
が山ほどあります。とくに日本のデジタル化については、スムー
ズに進行するとは思えないのです。難問が山積だからです。
 このところ半導体をめぐるニュースが多くなっています。半導
体の供給に不足が生じているからです。「デジタル化」に関係の
ある話題ですが、これについて、4月12日、バイデン米政権は
バイデン大統領が出席してウェブ会議を開いています。朝日新聞
デジタルは次のように報道しています。
─────────────────────────────
 バイデン米政権は12日、世界的な半導体不足への対応策につ
いて、半導体大手インテルなど米主要企業や台湾の台湾積体電路
製造(TSMC)の幹部らとウェブ会議で協議した。半導体の供
給網の安定化は中国との経済・軍事競争をにらんだ重要課題で、
16日の日米首脳会談でも話し合う。バイデン大統領は、半導体
分野の中国の巨額投資に触れ、「中国や世界は我々を待っていて
くれないし、我々が待つ理由もない」と強調した。米半導体産業
の育成については、対立の激しい米議会でも、超党派で支持があ
る。バイデン氏は、3月末に公表した総額2兆ドル(約220兆
円)超のインフラ投資案にも、半導体製造・研究に500億ドル
の支出を求める項目などを盛り込んでおり、改めて議会に協力を
呼びかけた。ウェブ会議はサリバン米大統領補佐官(国家安全保
障担当)やディーズ国家経済会議議長らが主導し、米グーグル、
自動車大手ゼネラル・モーターズなど主要企業が参加した。
       ──2021年4月13日付、朝日新聞デジタル
                  https://bit.ly/32hMBtC
─────────────────────────────
 この会議には、インテルなどの半導体米大手のほか、半導体の
世界的ファンドリである台湾のTSMCの幹部も出席しているこ
とに注目すべきです。つまり、この背景には、米中対立の激化が
あります。このテーマについては、16日の日米首脳会談でも取
り上げられ、協議される予定になっています。
 半導体だけではないのです。現在、中国は、新疆ウイグル自治
区への、いわゆる「ジェノサイド」で、世界的包囲網を敷かれて
います。ジェノサイドといえばブリンケン米国務長官による発言
が印象に残っていますが、これをもともといい出したのは、英国
の外相、ドミニク・ラーブ氏が、新疆ウイグル自治区で、「おぞ
ましく、はなはだしい」人権侵害が起きていると公表し、世界中
に知られることになったのです。
 これに基づき、ラーブ外相は、目隠しをされたウイグル人が、
列車で強制収容所に連行される映像や、ウィグル人女性に「不妊
手術が行われている」という証言を劉暁明駐英中国大使に突きつ
けたのがはじまりです。劉駐英中国大使は「そんなのデタラメ」
と一蹴したものの、その言葉の白々しさは、世界中に広がること
になったのです。さらにラーブ外相は、「ジェノサイド(民族浄
化)」という言葉を使って、中国政府の行為をナチスの蛮行にた
とえて、批判したのです。2020年7月19日のことです。
 新疆ウイグル自治区の問題は、英国政府は前から知ってはいま
したが、見て見ぬ振りをしてきたのです。しかし、香港の自由を
侵害する中国政府のやりかたを牽制するため発言したのです。
 これを受けて、7月21日、ポンペオ国務長官(当時)は、次
の発言をし、協力を呼び掛けています。
─────────────────────────────
 中国共産党の試みに対抗するため、英国を含むすべての国に協
力してほしい。脅威を理解し、対応できる連合を築ければ・・
              ──ポンペオ米国務長官(当時)
─────────────────────────────
 このようにして、ジェノサイド問題は、燎原の炎のように世界
にひろがっていったのです。
 来週からのEJは、このような流れを受けて、「デジタル社会
論」の後編という位置づけで、中国、いや中国共産党対日本を含
む自由主義国との対決の構図で、引き続き、リブラ(ディエム)
や、デジタル人民元など、デジタル技術問題を取り上げて、書い
ていくことにします。ご愛読をお願いします。
          ──[デジタル社会論/072/最終回]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の台頭/かつての日本との類似点と相違点
  ───────────────────────────
   日本は20世紀に二度、欧米に戦いを挑んだ。最初は軍の
  主導により強大な帝国になろうと試み、二度目は工業大国を
  目指した。そしていま、中国が世界の舞台に立とうとしてい
  る。第二次世界大戦での日本の降伏から75年、日本のバブ
  ル崩壊後30年が経ったいま、21世紀にアジアの大国であ
  る中国が台頭し、世界の現状に揺さぶりをかけている。
   日本がそうであったように、欧米の強大国に立ち向かう中
  国は、その増大する経済力や、軍事力が脅威とみなされてい
  る。一方で中国は、かつての日本とまた同様に、欧米諸国が
  中国の台頭を抑えようとしていると危惧し、国民と指導者の
  間で国家主義的な感情を煽っている。
   だが、世界の様相は一変した。植民地は独立し、多くの国
  が核武装している。国際的な機関があり、経済的な依存関係
  はさらに深まっている。中国の目標は日本と似ている。経済
  成長のための資源を確保しながら、近隣地域での影響力を行
  使する点は共通しているが、その方法が異なる。軍事的な侵
  攻により直接的な支配を強いるのではなく、経済的な誘因、
  文化面での働きかけ、軍事力の段階的な構築を通して、中国
  はその地位を高めようとしている。ダートマス大学のアジア
  専門家、ジェニファー・リンド氏は、「国力を高めようとす
  る中国の手段は、実に多様だ。他国なら二の足を踏むような
  手段でもある」と述べている。  https://bit.ly/3dlDhv2
  ───────────────────────────
ラーブ英国外相.jpg
ラーブ英国外相
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2021年04月15日

●「中国ハイテク企業に吹く強い逆風」(第5471号)

 中国では「科創板」という新しい株式市場が2019年から設
立されています。上海証券取引所による開設です。中国において
「科創」とは科学技術と創新(イノベーション)を意味します。
─────────────────────────────
    ◎「科創板」
     Science and technology innovation board
─────────────────────────────
 科創板は、米中対立が激しさを増していた2018年11月に
習近平国家主席が、創設を命令したものです。資本面で米国に依
存しない体制を整えて、半導体や医療・バイオ、軍需産業などに
成長資金を流し込みたいからです。
 中国の最高権力者である習主席が推奨する株式市場であるので
当然上場が殺到し、開設以来260社に迫る勢いです。しかし、
ここにきて大きな問題が起きつつあります。それが、2021年
4月13日付、日本経済新聞朝刊のトップ記事です。
─────────────────────────────
 ◎中国ハイテク新興に逆風
  アリババ締め付け/米中対立/上場取りやめ88社
       ──2021年4月13日付、日本経済新聞朝刊
─────────────────────────────
 この2021年4月13日付の記事と、昨日の2021年4月
11日付の記事とを比較して見ることにします。
─────────────────────────────
◎2021年4月13日付記事
 ここにきて中国を代表するユニコーン(企業価値が10億ドル
=約1100億円以上の未上場企業)などが新規・上場を中断・
中止する事例が増えており、年初からの3ヵ月半で88社に達す
る。2019年7月から20年末までの1年半の累計中止者数は
64社を大きく上回る。
◎2021年4月11日付の記事
 中国企業の米国上場の勢いは続いている。中国のメディアによ
ると、2020年は、中国のスタートアップ34社が、米国で上
場、21年1〜3月には20社が上場した。さらに20社近くが
SEC(米証券取引委員会)と米国の上場の準備を始めている。
30社以上が米国上場を検討しているもようだ。
─────────────────────────────
 問題は、なぜ中国のハイテク企業が「科創板」を敬遠するよう
になったかです。それは、アリババ傘下の金融会社、アント・グ
ループの上場を直前に差し止めるなどの中国政府の不透明な市場
運営に強い懸念をもったからといわれています。そのため、中国
のスタートアップ企業の多くが、米中対立が深まるなか、続々と
米国市場に上場ラッシュをかけているのです。
 [上海/香港 4月12日 ロイター]は、これに関して、次
の報道を行っています。
─────────────────────────────
 中国ハイテク新興企業の間で、中国版ナスダック市場への上場
計画を中止する動きが広がり、一部は香港での上場を視野に入れ
ている。アリババグループ傘下の金融会社アント・グループが計
画していた370億ドル規模の新規株式公開(IPO)が、昨年
11月に延期されて以降、中国規制当局がIPO申請企業への審
査を強化させているためだ。
 ロイターが中国の取引所への申請書類を調べたところ、アント
のIPO中止以来、100社以上が上海の「科創板(スター・マ
ーケット)」と深センの「創業板(チャイネクスト)」への上場
申請を自主的に取り下げたことが分かった。
 バンカーや企業幹部によると、前代未聞の相次ぐ撤回の背景に
は、上場目論見書の審査が規制当局によって急激に厳格化され、
IPOの延期や却下、さらには処罰にまでつながっている状況が
ある。企業があわてて申請を取り下げる様子は、中国のIPOの
質、そして引受会社によるデューデリジェンスの頑健性に疑問を
生じさせる。
 この傾向が続けば、香港やニューヨークの取引所のような世界
的取引所に対抗したいという中国の野望は危うくなる。折しも中
国は海外上場企業を呼び込むための新取引所の設置を検討中だ。
                  https://bit.ly/2Rl57iz
─────────────────────────────
 どうやら、科創板への上場までに要する期間が長期化している
のです。その期間は、従来の平均6カ月から同12カ月に延び、
現在100社以上が科創板への上場を待っている状態だというこ
とです。なぜ、長期化しているかですが、IPO案件数件を抱え
る投資銀行関係者によると、「規制当局が細部の点検や立ち入り
検査に執ように関心を払い、企業を脅して追い払っている」と説
明しています。
 このような状況のなかで、バイデン米政権による中国ハイテク
企業への対立姿勢も厳しいものがあります。バイデン政権は、4
月8日、中国でスーパーコンピュータの開発を手掛ける企業や研
究機関など、7社・団体に事実上の禁輸措置を発動すると、発表
しています。
 トランプ米政権以来のことですが、中国を中国国民と中国共産
党に分けて発言しています。2020年8月2日、ポンペオ国務
長官(当時)は、中国製アプリに関して、次の厳しい発言を行っ
ています。
─────────────────────────────
 TiKTоKやテンセントのウィーチャットは、中国共産党に
直接情報を流している。        ──ポンペオ国務長官
─────────────────────────────
 中国の「国家情報法」を前提にした発言です。このような法律
を作れば、中国企業は、いずれは、中国親派国以外の世界中の国
から締め出されてしまうことは確実です。
              ──[デジタル社会論/071]

≪画像および関連情報≫
 ●中国は人治国家?それとも法治国家?
  ───────────────────────────
   中国に住んでいると、様々な場面で不条理というか、ルー
  ルが存在しないのではないかと思う場面に遭遇する。何か新
  しい法律が出来ると、それをただ守るのという考え方でなく
  どのように対応するかを考えるといった姿勢がその典型であ
  る。まさに「上有政策,下有対策」(上に政策あり、下に対
  策あり)という言葉そのままである。これが中国を「人治国
  家」と感じる瞬間である。
   しかし、実際にはどうなのだろうか。労働争議や民事裁判
  の際も、全て証拠物件に基づいて話をする必要があり、特に
  当事者の証言は、あまり重視されない。徹底的な証拠主義を
  取っている。
   例えば残業の未払いに関する労働争議であれば、残業をさ
  せたという証拠物件が必要になる。第三者の証言や命令書な
  ど具体的な証言が必要になる。法治国家であれば当然と言え
  ば当然だが、中国の混沌としたイメージからは意外と感じる
  人も多いのではないでしょうか。
   ではなぜ、多くの人が人治国家として中国を感じているの
  だろうか。それは労働争議や民事争議に発展しているケース
  を見ていくとわかってくる。一番の原因は中国に法律が、非
  常にラフであり裁判官の裁量権が非常に大きく(裁量できる
  範囲が広く)、過去の判例にあまり沿わない結論が出る可能
  性があるという点である。    https://bit.ly/3g0NjDQ
  ───────────────────────────
ラッキンコーヒー上場時セレモニー.jpg
ハイテク企業の上場誘致に再起動
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2021年04月14日

●「3年後に米国から中国企業が消滅」(第5470号)

 2021年4月11日付の日本経済新聞に中国の配車アプリの
最大手「滴滴出行(ディディ)」が米国に上場する手続きに入っ
たとのニュースが出ています。「滴滴出行」にはアップルなどの
米企業が出資しています。
 米金融界には、高成長が期待できる中国企業への投資意欲が強
いのです。それを受けて、中国のスタートアップ企業の米国上場
の勢いは激しさを増しています。上記の日本経済新聞は次のよう
に書いています。
─────────────────────────────
 中国企業の米国上場の勢いは続いている。中国のメディアによ
ると、2020年は、中国のスタートアップ34社が、米国で上
場、21年1〜3月には20社が上場した。さらに20社近くが
SEC(米証券取引委員会)と米国の上場の準備を始めている。
30社以上が米国上場を検討しているもようだ。中国の金融機関
幹部は「米国の投資家が高成長を期待できる中国のスタートアッ
プに多く出資しており、米国市場で資金回収を狙っている」と指
摘する。     ──2021年4月11日付の日本経済新聞
─────────────────────────────
 しかし、トランプ前政権は、大統領選に敗れることがわかって
いながら、2020年12月18日、トランプ大統領は「外国企
業説明責任法案」に署名しています。この法案は、2020年5
月に上院で可決、12月2日に下院で可決しています。
 この法案について、経済評論家の渡辺哲也氏は、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 「外国企業説明責任法」では、外国企業は3年間連続でアメリ
カの監査を受け、外国政府の支配下にないことを証明しなければ
上場廃止になることが定められている。もちろんアメリカ政府が
指定した軍の支配下にあると認定された企業は、この監査に対応
できない。つまり3年間の猶予期間を経て中国共産党系、中国軍
系の企業にアメリカの株式市場での上場廃止処置がとられると考
える。これらの企業は外貨を市場から入手できなくなるというこ
とだ。3年間の猶予期間を許さない状況も生まれている。日経平
均株価やダウ平均などは「指数」と呼ばれ、株式には平均以外の
さまざまな指数(インデックス)がある。2020年12月4日
には、ロンドン証券取引所で金融商品指数を算出しているFTS
Eラッセルが、中国監視カメラ大手のハイクビジョンなど、アメ
リカから中国軍の支配化企業と認定された8社を除外した。
                      ──渡辺哲也著
        『2030年「シン・世界」大全』/徳間書店
─────────────────────────────
 なぜ、中国のスタートアップ企業は米国に続々と上場しようと
するのでしょうか。
 それは、何といっても米国の中核技術は最先端であり、優れて
いるからです。そのため、技術の輸入や共同開発を組む相手とし
ては、米国がベストなのです。中国は独自技術をもっているわけ
ではなく、第3国から借りてきた技術を応用して、最先端に焼き
直しているだけです。したがって、その土台の部分の技術や部材
の供給を停止されると、それ以上大きく発展させることができな
くなるのです。それに米国で上場すれば、何といっても、ドルの
調達が容易になります。したがって、中国としては、少しでも多
くの企業を米国で上場させたいのです。
 しかし、「外国企業説明責任法」が厳格に適用されると、中国
企業は、3年も経てば米国からすべて消えてしまうことになりま
す。すでにそういう企業が続々と出てきています。
 このように米国から追い出された中国企業は、香港や中国市場
で重複上場することになりますが、中国国内では人民元しか調達
できず、外貨、とくにドルの獲得は不可能になります。
 中国がここまで米国への上場を果たそうとするまで力を得たの
は、何といっても、オバマ政権時代の中国に対する緩い対応にあ
ります。このことについて、経済評論家の渡辺哲也氏は次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 中国はオバマ政権の8年間、アメリカによる融和策を一方的に
利用し続けた。軍事利用をしないと明言しながら時間稼ぎをして
結果的に軍事基地を完成させた南シナ海の人工島問題がその典型
だ。十分な信用があり、額面価額どおりの価値を広く認められ、
国際市場で他国の通貨と容易に交換が可能な通貨は「ハードカレ
ンシー」と呼ばれる。IMFの特別引出権SDRに入ることは、
ハードカレンシーの証明だ。しかし中国はオバマ政権時代の20
16年10月に、人民元をSDR入りさせた。その代わりに為替
と資本移動の自由化を確約したのだが、これもいまだに守ってい
ない。この現実によって、トランプ政権はチャイナデカップリン
グを選択し、議会もそれを後押ししてきたのだ。そしてワシント
ンの官僚も議会のブレインたちも中国の欺瞞を知悉している。そ
のことはバイデン政権になっても変わらない。
                ──渡辺哲也著の前掲書より
─────────────────────────────
 このように米中が激突しているときに、米中双方にとって重要
な存在になりうるのは日本です。日本には半導体をはじめ、多く
の原産のテクノロジーを持つアジアの民主主義国です。もともと
通信やハイテクは日本の得意とする分野です。しかも、米国とは
同盟国であり、世界第3位の経済大国でもあります。
 中国にしても米国がダメとなったら、そういう面で頼れるのは
日本です。これまでも、米中の対立がひどくなったら、中国は日
本に対してよい関係を保とうとします。しかし、それでいて、日
本が一番嫌がる尖閣諸島への圧力をやめないのは、中国は日本の
ことがよくわかっていないのです。日本は、そういう絶好のポジ
ションにいることを十分自覚するべきです。
              ──[デジタル社会論/070]

≪画像および関連情報≫
 ●米上場「中国企業」の監督を強化する法律が成立
  ───────────────────────────
   アメリカのドナルド・トランプ大統領は12月18日、ア
  メリカの証券市場に上場する外国企業の監督強化を目的にし
  た「外国企業説明責任法」の法案に署名した。これにより、
  主に中国企業を標的にする同法が最初の法案提出から20カ
  月を経てついに成立した。
   外国企業説明責任法は、アメリカに上場する外国企業にア
  メリカの会計監査基準の厳守を求めている。具体的には、そ
  の企業が外国政府に所有ないし支配されていないことを証明
  できない場合や、その企業の監査法人が公開会社会計監査委
  員会(PCAOB、アメリカの上場企業の監査法人を監督す
  る機関)の検査を3年連続で受け入れなかった場合、株式の
  取引が禁止されて上場廃止となる。
   同法は共和党のジョン・ケネディ上院議員と民主党のクリ
  ス・バン・ホーレン上院議員を中心とする超党派の議員団に
  より起草され、2020年5月20日に上院が全会一致で可
  決。12月2日には下院でも全会一致で可決された後、トラ
  ンプ大統領に提出されていた。目下、ニューヨーク証券取引
  所やナスダックには230社を超える中国企業がADR(ア
  メリカ預託証券)を上場している。その時価総額は1兆ドル
  (約103兆円)を上回り、アメリカ株式市場の時価総額全
  体の約3%を占める。      https://bit.ly/326icyA
  ───────────────────────────
ラッキンコーヒー上場時セレモニー.jpg
ラッキンコーヒー上場時セレモニー
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