2023年05月11日

●「FRBが悪戦苦闘するインフレ退治」(第5949号)

 2023年5月5日、日本経済新聞は次の記事をトップ記事と
して、掲げています。
─────────────────────────────
◎FRB、0・25%利上げ決定/打ち止めの可能性示唆
【ワシントン=高見浩輔】米連邦準備理事会(FRB)は3日開
いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、0・25%の利上げ
を決めた。相次ぐ米銀破綻で金融システム不安が高まっているが
インフレ抑制を優先する姿勢を改めて明確にした。
 同時に公表した声明文には「追加策がどの程度必要か決定する
際には、これまでの金融引き締めの累積的な効果や経済や物価に
時間差で与える影響を考慮する」と記した。「追加の政策措置が
適切」としていた前回会合時の表現を修正し、利上げの打ち止め
を示唆する内容になった。
          ──2023年5月5日付、日本経済新聞
               https://s.nikkei.com/3LCd4bA
─────────────────────────────
 FRBパウエル議長は、これまで10回にわたって利上げを繰
り返してきています。しかし、米国のインフレは収まっておらず
その利上げの結果として、3月から5月にかけて、米銀3行が破
綻しています。銀行破綻については、パウエル議長にも責任があ
ります。パウエル議長は記者と次のやり取りをしています。
─────────────────────────────
          記者:後悔はあるか
          議長: 少しはある
            ──2023年5月5日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 パウエル議長の「少しはある」について、朝日新聞は、フラン
ク・シナトラの1969年の名曲「マイ・ウェイ」の「後悔、少
しはあるさ」という歌詞にひっかけて、反省の弁を述べたと書い
ています。
 そこで、パウエル議長の本音を探るために、フランク・シナト
ラが歌った「マイ・ウェイ」の該当部分の歌詞を示します。
─────────────────────────────
      Regrets, I’ve had a few
      後悔、少しはあるさ
      But, then again, too few to mention
      けどね、ふれるほどでもないさ
      I did what I had to do
      わたしはね、やるべきことをやったよ
      And saw it through without exemption
      例外なく、やり通したんだ
                  https://bit.ly/3LX6ldN
─────────────────────────────
 要するにパウエル議長がいいたかったことは、「わたしはね、
やるべきことをやったよ」ではないでしょうか。それにしても、
パウエルさんは、見た目は堅い人物に見えますが、歌にかこつけ
て自分の本音をいうとはなかなか洒落た人物のようです。
 それはさておき、パウエル議長は会見で「われわれは終わりに
近づいている」とも述べています。これは6月には利上げを止め
ることを意味していると思われます。しかし、現在、米国のイン
フレは5%台とまだ高い水準にあります。FRBが悪戦苦闘して
いる割にはインフレは収まっていません。
 そもそもこのインフレは何によって起きたのでしょうか。
 世界がインフレに見舞われることは、実は久しぶりのことなの
です。しかも米欧の主要先進国で、8%〜9%の高い水準で物価
上昇が起きることは、近年ほとんど起きていません。むしろ、イ
ンフレ率が低すぎること──低インフレが問題になっていたはず
です。とくに日本は、インフレ率が低過ぎて、デフレになってし
まっています。この低インフレは、何によって起きたのでしょう
か。要因としては3つが考えられます。
─────────────────────────────
           @グローバル化
           A 少子高齢化
           B生産性の停滞
─────────────────────────────
 第1の要因として上げられるのは「グローバル化」です。
 グローバル化が進行すると、世界中に貿易網が張り巡らされ、
企業は少しでもコストを安く生産できる場所を求めて生産拠点を
移動させます。企業は、もし、この動きに乗り遅れると、高めの
価格を設定しようとしますが、そういう企業は、直ちに他の企業
にとってかわられます。このような状況では、製品の価格は上昇
しにくくなり、低インフレの状態になります。
 第2の要因として上げられるのは「少子高齢化」です。
 少子高齢化の進行は、将来の働き手の減少を意味します。働き
手の減少は、将来の生産(GDP)や所得の減少につながること
になります。このような状況になると人々は、それに備えて貯蓄
をしようとするので、どうしても消費が減少します。これはイン
フレの下押し圧力になります。
 第3の要因として上げられるのは「生産性の停滞」です。
 情報通信技術やAIなどの一部の技術革新を除くと、技術革新
は頭打ちになっており、経済全体として捉えると、生産性の伸び
が停滞しています。生産性の停滞は、GDPの成長を鈍化させ、
低インフレの状況になります。
 今日から新テーマです。これまで低インフレが問題であったの
に、なぜインフレなのかに迫ってみたいと思います。
─────────────────────────────
    低インフレは、なぜ世界インフレになったのか
     ── 日本経済が置かれた特異な状況 ──
─────────────────────────────
          ──[世界インフレと日本経済/001]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ今、世界的インフレ懸念
  ───────────────────────────
   「なぜ急にインフレ懸念」と思われている方も多いことだ
  ろう。そもそもつい最近まで世界には「デフレ懸念」が残り
  各国の中央銀行は、インフレ率を目標の2%に引き上げるこ
  とにさえ苦労していた。それ故の超緩和姿勢の長期維持だっ
  た。しかも新型コロナウイルス禍以降の世界では、景気は跛
  行(はこう)的だが全般に悪く、懸命の財政・金融政策で支
  えられているのが現状。いくつかの国で経済復調の目は出て
  いるが総じて弱く、支えをまだ外せない。
   しかし、今世界のメディア(マーケット関連記事)で目立
  つ言葉は「インフレ懸念」だ。例えば、2021年9月15
  日の日経新聞のウォール街ラウンドアップの見出しは「なお
  拭えぬインフレ懸念」となっている。懸念だけではない。主
  要国ではないものの、世界の一部の国の中央銀行は政策金利
  の引き上げを発表している。チェコや韓国だ。
   では市場を見る我々として、この「急速に台頭してきたイ
  ンフレ懸念」をどう見れば良いのか。そもそもどのような背
  景からこの懸念が広まっているのか。そしてその懸念はどの
  程度持続し、場合によっては深化(深刻化)するのか、でな
  ければいずれ離散するのか。今回はマーケットを長期的に見
  るためにも、この点を少し考えてみたい。
                  https://bit.ly/3AUgp0O
  ───────────────────────────
苦悩するFRBパウエル議長.jpg
苦悩するFRBパウエル議長
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2023年05月10日

●「『ラピダス』小池敦義社長の経歴」(第5948号)

 日本の半導体新会社「ラピダス」の社長を務めるのは、小池敦
義氏という人物です。半導体業界に身を投じ、40年以上の経験
を持っています。日立製作所で技術者としてキャリアをスタート
させ、生産技術本部長を務めた後は経営者の道を歩んでいます。
台湾との合弁企業で社長に就き、後にTSMCが主導権を握る製
造受託ビジネス(ファウンドリ)を日本に根付かせようとしたの
ですが、失敗に終わっています。
 2006年にメモリーを手掛ける米サンディスク(現ウェスタ
ンデジタル)に転じて以来、直近まで日本法人トップを務めてい
ます。サンディスクと協業する東芝、キオクシアとの窓口役を担
い、韓国勢としのぎを削ってきた経験を持ち、日米が手を握れば
世界の最先端で十分戦えるとの思いは現在、確信に変わっている
といわれます。日本の半導体新会社のトップとして、十分な経験
を持つ人物であることは確かです。
 小池敦義社長は、今年1月4日のNHKのインタビューで、な
ぜ、いまラピダスなのかについて、次のように語っています。
─────────────────────────────
 これはもう「将来はない」っていうぐらいの危機感を持ってい
た。いまこの半導体が、あらゆるものに使われている。昨今、何
でこれだけ半導体が注目されているかというと、自分の買いたい
車が手に入らない、家電製品も手に入らない、全然手に入ってこ
ない。それが1つの半導体が手に入らないってことで、これはよ
く見えなかったけど、すごく重要なんだっていうことを皆さんが
理解していただけたんですね。これは今までなかったことだと思
う。だからこそこの機会を逃してしまったら、日本のあらゆる産
業はだめになる。あるいは日本だけでなくて、世界がおかしくな
ると感じ取っていた。        https://bit.ly/3NM3dTy
─────────────────────────────
 ラピダスのロードマップは、もの凄くタイトなスケジュールで
す。工場建設から2027年の量産開始まで、たった4年しかな
いのです。既に経済産業省は、工場建設のために2600億円の
補助を決めており、既に3000億円超の支援をしています。し
かし、実際に量産を開始するためには、5兆円規模の資金が必要
になるともいわれており、さらなる投融資を呼び込むことが求め
られます。
 インタビューアーは、成功のためには、何が一番必要かと小池
社長に尋ねたところ、小池社長は次のように述べています。
─────────────────────────────
 やっぱり「人」、「もの」、「金」で言うと、いちばん大事な
のは「人」。これがないと他のもの、金やものがあってもどうに
もならない。だから優秀な人材がいちばんだと思っている。われ
われずっと考えているのは、当然優秀な人に来てもらう、これも
大事なことですけど、優秀な人を育てることだと思う。
 「ラピダスにとって、まさにふもとで、これからちょっとずつ
登り始めるわけですけども、ある程度の人員計画に基づいて、優
秀な人々を日本あるいは世界から集まっていただくことを着実に
やっていくことが大事。われわれの精鋭部隊を送り込んで学習す
ることを具体的に進めていく。2023年は具体的に動き出す非
常に大事な年。「できないことなどないんだ」という信念を持っ
て頑張っていきたい。       https://bit.ly/3NM3dTy
─────────────────────────────
 その肝心な「人」の採用は順調にいっているようです。「毎日
のように、世界中からすごい数の応募がある」と小池社長は打ち
明けています。最先端半導体の製造に携わる人材は、世界中で獲
得競争が激しくなっていて、人材獲得は懸念事項のひとつと見ら
れていましたが、蓋を開けてみれば50代のエンジニアを中心に
採用はすこぶる順調であるといいます。
 EU(欧州連合)も半導体誘致政策がスタートしています。欧
州半導体法に基づいて、ドイツのインフィニオンテクノロジーズ
の工場新設に対して1500億円の補助をすることになっていま
す。5月2日に開かれた工場の着工式に、EUの執行機関である
欧州委員会のフォンデアライエン委員長やショルツドイツ首相が
出席しています。5月3日付の日本経済新聞は、次のように報道
しています。
─────────────────────────────
◎EU、半導体誘致策が始動/独インフィニオンに1500億円
 補助へ/電力価格に懸念、米の3倍
【ドレスデン(ドイツ東部)=林英樹】欧州連合(EU)による
半導体産業の誘致策が始動する。ドイツの半導体大手が2日、同
国ドレスデンで新工場の建設に着手した。EUは4月に暫定合意
した欧州半導体法を初適用し、投資額の2割を補助する予定だ。
経済安全保障の観点から、EUは米中に劣る半導体の域内生産拡
大を目指すが、コスト高などが影を落とす。
          ──2003年5月3日付、日本経済新聞
              https://s.nikkei.com/3AZHpfr
─────────────────────────────
 インフィニオンでは、電気自動車(EV)のモーター制御装置
などに使われるパワー半導体を生産する計画であり、2026年
秋の稼働を目指しています。しかし、米国が企業の投資額の40
%の補助をするのに対し、EUは20%程度にとどまることに対
して、EUとしては焦りを感じているといわれます。
 今回のテーマは、1月4日から64回にわたって書いてきまし
たが、途中に2回も病気で入院せざる得なくなり、書店に行けな
いなど、テーマに対して十分な情報取集ができないなどの事情に
より、テーマとして、うまくまとめることができない状況になっ
てしまっています。
 既に64回書いていますし、このまま続けて書くよりも、新し
い話題を取り上げたいので、今回のテーマは、本号をもって終了
し、明日から、新しいテーマを取り上げることにします。
       ──[メタバースと日本経済/064/最終回]

≪画像および関連情報≫
 ●「ラピダス」に2600億円を追加支援/経産相表明
  ───────────────────────────
   西村康稔経済産業相は25日の閣議後記者会見で、次世代
  半導体の国産化を目指す新会社「ラピダス」に2600億円
  を追加支援すると表明した。ラピダスが北海道千歳市に建設
  を予定している工場の試作ラインの基礎工事などに充てる。
  経産省は、昨年11月にも研究開発のために700億円の支
  援を決めており、ラピダスへの支援額は計3300億円とな
  る。半導体開発をめぐる国際競争が激しさを増す中、国が前
  面に立ち新技術の確立を後押しする。
   追加支援の2600億円は、令和4年度補正予算で確保し
  た4850億円の一部を充当する。千歳市での試作ラインの
  基礎工事に加え、ベルギーの研究機関「imec(アイメッ
  ク)」や米IBMと技術開発を進める費用などに使う。
   半導体は、回路線幅が狭いほど性能が高まる。ラピダスは
  回路線幅が2ナノメートル(ナノは10億分の1)相当の微
  細な半導体の生産技術を開発する計画で、2月には千歳市に
  工場を建設すると発表。令和7年に試作ラインを立ち上げ、
  9年の量産開始を目指している。 https://bit.ly/3NK3LJy
  ───────────────────────────
小池敦義ラピダス社長.jpg
小池敦義ラピダス社長
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2023年05月09日

●「『チーム甘利』と日米半導体協力」(第5947号)

 「チーム甘利」というのは、雑誌『選択』の造語ではなく、実
際に存在します。「甘利」とは、甘利明自民党前幹事長のことで
す。「チーム甘利」の存在を明らかにしたのは、2022年5月
11日付の「しんぶん赤旗」です。そこには、次のように記述さ
れています。
─────────────────────────────
◎「チーム甘利」/大学ファンド私物化か
 岸田政権が成長戦略の柱と位置づける10兆円の大学ファンド
にかかわって、自民党の甘利明衆院議員・前幹事長に連なる「チ
ーム甘利」の問題が急浮上しています。2022年4月27日の
衆院文部科学委員会で調査を迫った日本共産党の宮本岳志議員に
末松信介文科相はまともに答弁できなくなり、同委理事会への報
告を求められる事態となっています。
 宮本氏が取り上げたのは、主に大学をテーマとした雑誌『文部
科学教育通信』2019年11月11日号の「国立大学は『知識
産業体』の自覚を」と題した甘利氏のインタビュー記事です。
 この中で甘利氏は、政権復帰後、政府の総合科学技術・イノベ
ーション会議(CSTI)の議員だった橋本和仁氏から、後に東
大総長となる五神(ごのかみ)真氏を「この人を東大総長にした
いと思っている」「甘利大臣の大学改革にも興味を持っている」
と紹介されたと証言。甘利氏が「あなたが総長になったら、私に
ついてきてくれますか」と聞くと、五神氏が「その節には一緒に
やります」と応じたとしています。
 五神氏は、実際に東大総長となり、「運営から経営へ」という
キャッチフレーズのもとに国立大学初の大学債(200億円)を
発行しました。こうした姿勢は「『運営から経営へ』などという
国の方針を鸚鵡(おうむ)返しに唱えることが果たして『自立』
だろうか」(駒込武氏編『「私物化」される国公立大学』)と批
判されています。         ──「しんぶん赤旗」より
                  https://bit.ly/3LMNa6z
─────────────────────────────
 これでわかったことがあります。半導体製造の新会社ラピダス
と米IBMの提携に「チーム甘利」──とりわけ、その中心メン
バーである五神真理化学研究所理事長(前東大総長)が深くかか
わっていることです。甘利前幹事長は、自民党の「半導体戦略推
進議員連盟」会長でもあります。
 IBMとしては、自社の「2ナノ技術」の売り先がないまま、
量子コンピュータの第1号機の供与先の日本に、親しいエマニュ
エル駐日大使を引っ張り出し、「チーム甘利」を通じて2ナノ技
術でラピダスとの提携と、IBM製量子コンピュータ2号機の設
置の両方を日本に売り込んだことになります。
 しかし、IBMの2ナノ技術はまだ量産化には成功しておらず
果たしてどれほどラピダスにとって役に立つのか不明です。しか
も、かつてのIBMの大口顧客であった米グローバルファウンド
リーズに訴訟を起こされており、それほど有り難い技術提携であ
るとは思えないのです。
 しかし、量子コンピュータに関しては、少なくとも日本の方が
一歩リードし、国産化が期待されているのに、肝心の理化学研究
所が中心になって、IBMの2号機の導入を決めたことは、量子
コンピュータの国産化にとってブレーキになります。さすがに、
IBMマシンは、理化学研究所ではなく、東京大学に設置される
予定になっています。これについて、『選択』5月号は次のよう
に書いています。
─────────────────────────────
 理研が量子コンピュータを短期間で開発できたのは、超伝導の
要素技術が蓄積されているからだ。希釈冷凍機、低温高周波部品
など超伝導デバイスを構成する部品は、IBMマシンにも使われ
ているが、日本が圧倒的な強みをもつ分野。その技術を、東大と
の共同研究を足掛かりに吸収したいのがIBMの本音だろう。
            ──『選択』2023年/5月号より
─────────────────────────────
 もっとも米国が最先端の半導体の製造をこの時期に日本に委託
しようとするのは、米国の経済安全保障の観点から考えても必要
なことであるといえます。2021年1月13日、世界最大のI
DM、インテルのCEOに就任したパット・ゲルシンガー氏は、
半導体をめぐる環境について、次のようにいっています。
─────────────────────────────
 半導体をめぐる環境は大きく変わりつつある。現在ファウンダ
リーの最先端の製造施設の大部分はアジアにある。このため、業
界では地政学的にもっとバランスを取ってほしいという声が増え
ている。そうした中で、インテルの製造施設は米欧に集中してお
り、ユニークなポジションにある。新しいニーズ、具体的には、
「信頼される半導体のサプライチェーンの構築」というニーズに
応えることができる。──パット・ゲルシンガーインテルCEO
─────────────────────────────
 米国は、世界の半導体出荷額の5割程度を占めていますが、そ
の製造の大部分をファウンドリ最大手の台湾のTSMCに委託し
ています。製造能力において、米国は約1割ぐらいのシェアしか
持っていないのです。そのため、台湾有事などの地政学的リスク
に備えて、同盟国内で最先端半導体の製造能力を確保したいとい
う思惑があります。
 そういう観点から見ると、米国にとって最も期待できるのは日
本なのです。日本は、2ナノの製造技術は持っていないが、半導
体の製造装置や半導体の部品や材料などのトップメーカーが多く
アジアではあるものの、同盟国にしてG7のメンバーであり、米
国としては信頼できる存在です。そういう意味において、この時
期にラピダスが誕生したといえます。ラピダスが成功するか否か
はどのようなビジネスモデルを構築して事業に取り組むかによっ
て決まるといえます。果たしてどのようなビジネスモデルで取り
組むのでしょうか。  ──[メタバースと日本経済/063]

≪画像および関連情報≫
 ●米日の半導体協力・・IBM、販売まで支援する理由とは
  ───────────────────────────
   スーパーコンピューターや人工知能(AI)などに使われ
  る次世代半導体を日本で生産するため、米国が研究と人材育
  成から販売に至る全分野で積極的に協力することにした。
   ジーナ・レモンド米商務長官と西村康稔経済産業相は5日
  (2023年)、ワシントンで会談し、半導体など経済安全
  保障分野の協力を強化することで合意した。この会談には、
  米国のIT大手のIBMと日本の大手企業8社が昨年作った
  半導体会社「Rapidus(ラピダス)」の幹部も同席した。
   両社は次世代半導体の共同研究開発だけでなく、IBM側
  がラピダスの技術者の育成と販売先の開拓などにも協力する
  ことにした。日本経済新聞は「IBMの高性能コンピュータ
  向けの半導体生産をラピダスが受託する」と報じた。先月両
  社は次世代半導体の共同開発を進める内容の協約を結んだ。
   ラピダスは新生企業であるがゆえに優秀な人材と販売先の
  確保が大きな課題に挙げられていたが、今回IBM側が協力
  を約束したことで、負担を大きく減らすことになった。西村
  経済産業相は会談後、記者団に対し、「両社の協力は日米間
  の象徴的なプロジェクトだ。力強く後押ししていきたい」と
  し、「日本が次世代半導体を早期に国産化できるよう協力を
  強化する」と述べた。
                  https://bit.ly/3HqLD3u
  ───────────────────────────
「チーム甘利」.jpg
「チーム甘利」
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2023年05月08日

●「なぜ、IBMとの提携できたのか」(第5946号)

 2023年3月27日のことです。同日付けの日経電子版は、
次のニュースを伝えています。
─────────────────────────────
 理化学研究所は3月27日、次世代の高速計算機、量子コンピ
ューターの国産初号機の稼働を始めインターネット上のクラウド
サービスで公開した。企業や大学に利用を促し、将来の産業応用
に向けた知見を蓄える。日本は米中が主導してきた量子コンピュ
ーターの開発競争で名乗りをあげ、巻き返しを図る。
 理研は埼玉県和光市の拠点に量子コンピューターを設置した。
国内では2021年に川崎市に米IBM製の量子コンピューター
を設置した事例があるものの、国産機の稼働は初めてとなる。計
算の基本単位で性能の目安となる「量子ビット」は64で、IB
M製の27量子ビットを上回る。開発した量子コンピューターは
極低温に冷やし、電気抵抗をなくした超電導の回路で計算する技
術方式を採用する。開発には、理研のほか産業技術総合研究所、
情報通信研究機構、大阪大学、富士通、NTTが参画し、政府も
18年度以降に約25億円を投じたプロジェクトなどを通じ支援
した。      ──2023年3月27日付、日本経済新聞
              https://s.nikkei.com/3ADumAh
─────────────────────────────
 スーパーコンピュータ「冨岳」で、世界を制覇している日本に
とって、国産量子コンピュータの開発は世界に誇るべき大ニュー
スです。当然3月27日には、披露式典が行われていますが、な
ぜか、岸田首相は出席していないのです。当初首相は出席する予
定だったのですが、急遽取りやめになったといいます。一体何が
あったのでしょうか。
 以下の情報は、『選択』2023年/5月号の記事「量子技術
も米国の『属国化』」に基づいて記述していることをあらかじめ
お断りしておきます。驚くべき内容であり、日本の関係者の個人
名も出てくるので、EJとしては個人名の表記は最小必要限度に
とどめることにします。
 仕掛け人は、駐日米国大使のラーム・エマニュエル氏です。エ
マニュエル氏は元シカゴ市長で、シカゴ市といえば、シカゴ大学
と組んで、IBMの量子コンピュータを活用した社会実装の一大
拠点となっています。エマニュエル大使としては、5月19日か
らのG7広島サミットを利用し、そこへ東大を呼び込む仲介役を
自身が演ずることによって、存在感を示したい思惑があるようで
す。その伏線として、1月の岸田首相の初訪米のさいに東大総長
の藤井輝夫氏が随行を求められ、IBMとの関係強化が画策され
ています。米国の狙いは、IBMの127量子ビットの最新マシ
ンの東大への売り込みにあります。
 実は、IBMの量子コンピュータは、2021年7月に川崎市
の施設に27量子ビットの実機が設置され、JSR、トヨタ自動
車、みずほフィナンシャルグループ、三菱ケミカルグループなど
17法人が活用しています。量子イノベーションイニシアチブ協
議会(QII)なる組織とIBMと提携し、実現しています。当
時の東大と理化学研究所のトップがからんでいます。
 しかし、このIBMのマシンは、量子ゲート型機特有の計算エ
ラーが生ずるので、実用としては役に立たないのです。このエラ
ーの訂正機能を備えるには、1000量子ビット以上まで集積度
を高める必要があります。しかし、今回導入しようとしているマ
シンは、127量子ビットでしかないので、実用化にほど遠いと
いえます。もっともIBMは、2023年度中に、1121量子
ビットを達成し、エラー訂正機能を実現するとはいっています。
 不可解なのは、このマシンの導入は既に決まっており、経済産
業省は200億円の支援資金を昨年度の補正予算に計上していま
す。手回しの良い話です。そういう状況にあるので、岸田首相は
理化学研究所と富士通が開発した日本独自の国産量子コンピュー
タの披露式典に、米国大使とIBMに忖度して出席しなかったも
のと思われます。
 文科省のある幹部は、経済産業省が用意している200億円の
支援資金について、次のように非難しています。
─────────────────────────────
 日米協力の名を借りた200億円の予算執行は、いわばIBM
への”賄賂”だ。国産機開発をないがしろにする五神さん(理化
学研究所理事長)の罪は重い。
            ──『選択』2023年/5月号より
─────────────────────────────
 本当に量子コンピュータの国産化は可能なのでしょうか。これ
については、IBMの力を借りなくても十分可能性があります。
これについて、「選択」は次のように書いています。
─────────────────────────────
 1999年、超電導量子デバイスの制御に世界で初めて成功し
たのは、NECの中村泰信である。現在の理研の量子コンピュー
タ研究センター長だ。IBMマシンはこの原理を基礎にしており
最新の127量子ビットの開発までに20年かかっている。比べ
て、中村ら理研の国産機スタッフは、量子コンピュータに唯一積
極的な富士通と共同開発し、わずか2年で64量子ビットに漕ぎ
つけた。理研の国産機開発の可能性は小さくない。(中略)
 「背景にあるのはIBMとの最先端半導体の技術提携だろう。
五神さんは、”チーム甘利”の有力メンバーだから・・」なるほ
ど、電機・電子業界の一部ではこんな囁きが交わされる。
            ──『選択』2023年/5月号より
─────────────────────────────
 半導体の話がなぜ量子コンピュータの話になったのかというと
ラピダスとIBMとの「ビヨンド2ナノ」の提携とこの話が深い
関係にあるからです。案外IBMとしては、日本の量子コンピュ
ータの先端技術が欲しいのではないでしょうか。超電導にかけて
は、日本は世界をリードしているからです。
           ──[メタバースと日本経済/062]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の研究グループが世界新の成果 今さら聞けない
  「超伝導」の基礎と歩み
  ───────────────────────────
   <生活に直結する実用的な科学技術で、日本人研究者の貢
  献も目立つ超伝導研究。発見されてからの100年の歴史と
  応用例について概観する>
   成蹊大、東大などの研究グループは、世界最高の超伝導臨
  界電流密度(Jc)を持つ材料を作成したと発表しました。
  マイナス269°Cで、1平方センチメートル当たり1億5
  千万アンペアを達成。総合科学誌ネイチェア系の専門誌であ
  る「NPG Asia Materials」に掲載されました。
   超伝導(「超電導」とも記述)は、研究の発展の節目ごと
  に何度もノーベル賞を受賞しており、日本人研究者の貢献も
  顕著な分野です。医療用のMRI(磁気共鳴画像診断)など
  で、すでに私たちの生活にも導入されている、実用的な科学
  技術でもあります。
   とはいえ、人類が超伝導を発見したのは20世紀になって
  からです。この100年間でどんな進展があったのでしょう
  か。超伝導の歴史と応用を概観しましょう。
   超伝導とは、特定の金属や化合物を絶対零度(0K、マイ
  ナス273・15°C)近くまで冷やしていくと、ある温度
  で電気抵抗が急にゼロになる現象です。電気抵抗とは電流の
  流れにくさのことです。電流が流れると、超伝導体(超伝導
  が起きている物質)以外では熱が発生し、電気のエネルギー
  の一部が失われます。超伝導では、電気抵抗がないため発熱
  せず、エネルギーのロスが起こらないため、電流が流れ続け
  ます。             https://bit.ly/3HrlUb9
  ───────────────────────────
エマニュエル駐日米国大使.jpg
エマニュエル駐日米国大使
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2023年05月02日

●「構造改革ができぬ日本の半導体企業」(第5945号)

 かつての半導体王国の日本の世界シェアが6%になってしまっ
た4つの原因を再現します。@については説明が済んでいます。
─────────────────────────────
       @日米半導体協定による米国の圧力
    →  A垂直統合に固執し構造改革に失敗
    →  B魅力的な製品を作り出せない資質
    →  C内向きで海外企業の連携が少ない
─────────────────────────────
 第2の原因は「垂直統合に固執し構造改革に失敗」です。
 半導体の設計・製造には莫大なコストがかかります。まして最
先端のチップの製造になると、研究開発費もかかるし、製造技術
も高度化するので、工場を保有して、半導体の設計と製造を一貫
して行う「IDM」を維持することが技術的にも、資金的にも困
難になってきます。IDMとは、次の言葉の省略形です。
─────────────────────────────
◎IDM
 Integrated Device Manufacturer
 自社内で回路設計から製造工場、販売までの全ての設備を持つ
 垂直統合型のデバイスメーカーのこと。
─────────────────────────────
 そこで、1980年代の後半になると、米国では、IDMを脱
皮し、工場を持たずにICの設計・販売に特化する企業と、受託
を受けて、ICの製造に特化する企業に分離していったのです。
この考え方は、限りある資金をその企業が得意とする分野に投入
するという意味でも、合理的な考え方であるといえます。
─────────────────────────────
   @工場を持たず、ICの設計と販売に特化する企業
                ──→  ファブレス
   A工場を有し、受託を受けてICの製造を行う企業
                ──→ ファウンドリ
─────────────────────────────
 これは一種の構造改革ですが、この考え方を取り入れ、現在最
も成功しているのが、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)とい
う企業です。日本の半導体企業はこの動きについていけなかった
のです。そもそも日本という国は、構造改革が苦手な国であると
いえます。
 日本の半導体企業について、この業界に詳しいグロスバーク合
同会社代表の大山聡氏は、2014年のコメントですが、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 誤解を恐れずに言えば、日系半導体メーカーの問題点は、自社
のこだわりや強みを製品ロードマップ上で主張できなかったこと
だろう。技術やノウハウは持っているのに、何を作ったら良いの
か(売れるのか)明確な判断ができず、製品企画の時点で海外企
業に後れを取ったことが最大の原因だ、と筆者は考えている。
 IDM形態で実績を残せなかった日系各社は半導体事業の分社
化にとどまらず、製造部門の売却や閉鎖を進めようとしている。
だが業績悪化の原因は製造部門ではなく、製造部門をフル回転さ
せるだけのヒット商品を作れなかった設計開発部門のはずだ。製
造部門を切り離すことで、確かに固定費の負担は軽減されるだろ
うが、それでヒット商品を生み出すことができるのか、はなはだ
疑問である。むしろ、切り離される製造部門にこそものづくりの
ノウハウが蓄積していて、これをファウンドリー事業に活用する
ことで、本当の「業界再編」が果たせるのではないだろうか。
                  https://bit.ly/40RvqLB
─────────────────────────────
 第3の原因は「魅力的な製品を作り出せない資質」です。
 アップルのアイフォーンは、2021年に2379億台も売れ
ています。対前年18%の増加です。しかし、そのアイフォーン
をバラしてみると、その60%の部品は日本製なのです。しかし
部品はきわめて秀逸なのに、日本のメーカーはそれを集めて魅力
的な製品を作れないのです。
 枡岡富士雄氏という人がいます。ほとんどの人が知らないと思
います。もともと東芝のエンジニアですが、「米国の物まねでな
い新しい技術をつくりたい」として、大変な努力の結果、一人で
NAND型メモリ「フラッシュメモリ」を発明したのです。
 今や「フラッシュメモリ」といえば、デジタルカメラ、アイポ
ッド、USBメモリをはじめ、自動車のエンジン制御やスマホな
どに幅広く使われ、大ヒットしていますが、東芝では正しい評価
が行われず、枡岡富士雄氏は東芝を退社し、東北大学教授に転身
しています。その枡岡富士雄氏のことを2005年11月24日
に読売新聞は「顔」に取り上げ、紹介しているので、添付ファイ
ルにしてあります。日本企業はどうしてこうなのでしょうか。技
術を生かせないのです。
 第4の原因は「内向きで海外企業の連携が少ない」ことです。
 日本は「井の中の蛙」で、国内ばかりに目を向け、海外企業と
連携が少ないことです。対照的なのは、韓国です。韓国は80年
代半ばから、政府の援助を受けて、サムスンなどの財閥が半導体
の生産に乗り出しています。しかし、国内市場だけでは生き残れ
ないと考えて、早い時期からシリコンバレーなどの海外の企業と
も連携を深めていたのです。
 その成果が出て、1991年に世界初の「16M/DRAM」
の開発に成功し、続いて「64M/DRAM」の開発にも成功し
ています。そして、1992年にはDRAM市場で日本を抜いて
世界一になっています。これには、折しもバブル崩壊でリストラ
された70数名の日本の半導体エンジニアが好条件でサムスンに
移籍したことはよく知られています。韓国の凄いところは、現在
でもDRAM市場において圧倒的なシェアを占めて、トップを維
持していることです。日本と大違いです。
           ──[メタバースと日本経済/061]

≪画像および関連情報≫
 ●フラッシュメモリの開発者は「評価されない英雄」
  ───────────────────────────
   こんにちは。NHKエデュケーショナルの佐々木健一と申
  します。今回は、私が作った番組をもとに、『世界を変えた
  「フラッシュメモリ」/日本発の革新的デバイスはいかにし
  て生まれたのか?』というテーマについて、5回にわたって
  お話します。
   まず、このテーマについて話すことになった経緯を軽く説
  明します。私は『ブレイブ/勇敢なる者』という特番シリー
  ズを企画・制作しており、2017年11月に、その第3弾
  として「硬骨エンジニア」という番組を作りました。これは
  東芝フラッシュメモリに関する番組だったのですが、放送後
  多くの反響がありました。
   この番組制作のために取材を始めたのは、東芝の経営問題
  に関するメディア報道がすごく多い時期でした。例えば『週
  刊東洋経済』2017・4・22号や『週刊ダイヤモンド』
  2017・6・3号などのビジネス雑誌のタイトルは『東芝
  が消える日』『三流の東芝 一流の半導体』等で、原子力事
  業に始まり、東芝の経営問題が非常にクローズアップされて
  います。            https://bit.ly/3oVdoe3
  ───────────────────────────
枡岡富士雄氏「顔」.jpg
枡岡富士雄氏「顔」
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2023年05月01日

●「なぜ、日の丸半導体は敗れたのか」(第5944号)

 エンジニアを目指す現代の日本の若者に「日本はかつて半導体
の王者であり、その世界シェアは50%を超えていた」と話すと
びっくりした顔をします。確かに、半導体における日本のシェア
が6%を切っている現状を見れば、「信じられない」と考えるの
は、むしろ自然であるといえます。
 なぜ、50%を超えるシェアが6%になってしまったのか──
このことを振り返ってみることは、けっして無駄なことではない
と思うので、少していねいに考えてみることにします。原因は4
つあります。
─────────────────────────────
       @日米半導体協定による米国の圧力
       A垂直統合に固執し構造改革に失敗
       B魅力的な製品を作り出せない資質
       C内向きで海外企業の連携が少ない
─────────────────────────────
 第1の原因は「日米半導体協定による米国の圧力」です。
 そもそも半導体産業は、終戦直後の1947年のトランジスタ
の発明からはじまるのです。本格的にトランジスタの工業生産が
はじまるのは1950年代半ばからですが、このとき、日米では
その発展のしかたが大きく異なっており、自然に住み分けができ
ていたといえます。
 トランジスタが発明される前は真空管が使われており、当時主
力の電気製品であるラジオは、現在の電子レンジぐらいの大きさ
だったのです。ソニーをはじめとする日本のメーカーは、真空管
の代わりにトランジスタを使うことによって、弁当箱程度の大き
さの小型ラジオを製作したところ、これが世界的に大ヒットし、
日本の花形輸出商品になります。
 これに続いて、日本の家電メーカーは、白黒テレビ、カラーテ
レビ、VTRもトランジスタを使って、真空管式よりはるかに良
いものができるようになり、それが後のソニーのウォークマンな
どにつながっていきます。その結果、半導体を使った家電製品は
日本の独壇場になり、世界中を席巻したのです。
 これに対して米国の半導体産業はどうかというと、軍事用にシ
フトし、ミサイルやロケットにトランジスタを使うことによって
軽量化を実現させ、遠くまで飛ばせるようになります。1958
年にはトランジスタに続いてIC(集積回路)が発明され、これ
が主流になります。集積回路は爪ぐらいの大きさにトランジスタ
を何百個も搭載することができ、これによって、米国のアポロプ
ロジェクトでは、有人宇宙船の制御システムとしてICが数多く
搭載され、その結果として、人類は無事に月に降り立つことがで
きるまでになったといえます。
 このように、「日本は家電用/米国は軍事用」という住み分け
ができていたので、この頃は貿易摩擦などは起きなかったし、米
国は日本を警戒していなかったのです。1960〜1970年代
のことです。
 しかし、1971年にインテル社がコンピュータに搭載される
DRAMというメモリを開発し、日本でも生産しはじめるように
なって、日米間の確執がはじまります。DRAMは、1キロビッ
トからはじまり、それが4キロビット、16キロビットと、約3
年ごとに4倍ずつ増えるのですが、16ビットまでは米国がりー
ドしており、日本など眼中になかったといえます。しかし、64
ビットになると日本が追いつき、日本が米国をリードするように
なります。
 米「フォーチューン」誌は、DRAMにおける日本の発展につ
いて、1981年に2回にわたり、次の特集記事を掲載し、米国
に警戒を促し、これによって米国に大ショックを与えたのです。
─────────────────────────────
    「日本半導体の挑戦」   1981年 3月
    「不吉な日本半導体の勝利」1981年12月
                 ──「フォーチューン誌」
─────────────────────────────
 フォーチューン誌の3月の記事には、シリコン・ウェハーに擬
した土俵上で関取(日本人)とレスラー(米国人)がにらみ合っ
ているイラストが描かれていましたが、そのイラストを添付ファ
イルにしてあります。
 このフォーチューン誌の記事がきっかけになり、米国は「日本
はダンピングをしている」という難癖をつけ、米商務省が調査に
乗り出します。そして1986年9月に締結されたのが、「日米
半導体協定」です。その内容たるやひどいもので、不平等協定そ
のものであったといえます。日米半導体協定の重要条項をピック
アップすると、次の2つに要約されます。
─────────────────────────────
 1.日本市場における外国製半導体の購入拡大
   日本政府は、外国製半導体の国内のシェアをモニターし、
  これを20%以上に拡大させるよう努力する。
 2.日本製半導体製品のダンピングを防止する
   日本政府は、日本の半導体メーカー各社に半導体のコスト
  と販売データなどを4半期ごとに米国へ提出する。とくに、
  DRAMとEPROMについては、米国政府がFMV(公正
  販売価格)を決定して各メーカーに指示する。
─────────────────────────────
 ふざけた話です。1つは、当時半導体における日本のシェアは
圧倒的で、日本国内での外国製品のシェアは10%ぐらいしかな
かったのです。それを倍の20%に引き上げよというのです。こ
の数値目標が日本の半導体産業の発展を阻むことになります。
 2つ目はもっとひどい。重要半導体のDRAMとEPROMに
ついては、コストや販売データを日本に提出させたうえで、価格
については米国が決めるというのです。当時は中曽根康弘内閣の
時代ですが、国力の差とはいえ、なぜ、日本政府は、何もできな
かったのでしょうか。 ──[メタバースと日本経済/060]

≪画像および関連情報≫
 ●「米国は30年前と同じ」、日米半導体交渉の当事者がみる
  米中対立
  ───────────────────────────
   「このままでは中国は八方ふさがりだ。まるで30数年前
  と同じですよ」
   こう話すのは元日立製作所専務の牧本次生氏。1986年
  から10年間続いた日米半導体協定の終結交渉で日本側団長
  を務めた、半導体産業の歴史の証人だ。米国と中国が繰り広
  げる半導体をめぐる対立に日米半導体摩擦を重ね合わせる日
  本人は多い。牧本氏は「ここで覇権争いに負けたら、中国は
  30数年前の日本のように競争力がそがれるだろう」と警鐘
  を鳴らす。
   米国は2020年9月に華為技術(ファーウェイ)に対す
  る輸出規制を発効し、中芯国際集成電路製造(SMIC)向
  けの製品出荷にも規制をかけた。「『一国の盛衰は半導体に
  あり』をよく理解している米国は、ファーウェイやSMIC
  への禁輸など、中国のエレクトロニクス産業の生命線を絶と
  うとしている」(牧本氏)
   牧本氏は、最先端半導体の製造技術で中国に追いつかれな
  いよう米国が神経をとがらせていることに注目する。微細化
  に欠かせない露光装置を手掛けるオランダの装置メーカー、
  ASMLの機器や技術が中国に渡らないよう、米国は19年
  からオランダ政府に働きかけてきた。
                 https://bit.ly/3AFQ1HO
  ───────────────────────────
1981年3月「フォーチュン誌」記事.jpg
1981年3月「フォーチュン誌」記事
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2023年04月28日

●「失敗は絶対に許されないラピダス」(第5943号)

 ラピダス(Rapidus) とは、ラテン語で「速い」を意味するそ
うです。ところで、ラピダスは果たして成功するのでしょうか。
そういう不安が生ずるのは、これが経済産業省が中心となる国策
プロジェクトだからです。日本は、過去の例を見ても、こういう
国策プロジェクトの運営が上手ではないからです。
 西村康稔経済産業相は、記者会見において、次のように抱負を
語っています。
─────────────────────────────
 次世代半導体はあらゆる分野で大きなイノベーション(技術革
新)をもたらす中核技術だ。米国をはじめとする海外の研究機関
産業界とも連携しながら、わが国の半導体関連産業の基盤の強化
競争力強化につなげていきたい。   ──西村康稔経済産業相
─────────────────────────────
 しかし、景気の良いことばかりはいってはいられない。かつて
政府の主導で作られ、最終的に経営破綻したエルピーダの失敗が
あり、今回のラピダスも、同じことを繰り返すのではないかとい
う不安が一部にあることは確かです。
 ところで、「エルピーダ」という企業をご存知ですか。
 エルピーダは、1999年以降、NEC、日立製作所、三菱電
機のDRAM事業を統合して設立され、2003年には三菱電機
の半導体部門を吸収し、日本で唯一であるDRAM専業メーカー
となった企業です。「日の丸半導体メーカー」といえます。
 DRAMは、PCのメインメモリに使われているメモリですが
現在、DRAMの分野では、韓国勢が圧倒的なシェアを誇ってい
るのです。サムスン電子とSK・ハイニックスを合わせると、実
に70%を超えるシェアを有しています。しかし、1980年代
では、この分野は日本が圧倒的なシェアを独占していたのです。
 ところが「日の丸半導体メーカー」のエルピーダは、2012
年に破綻してしまうのです。
 なぜ、エルピーダは破綻したのでしょうか。微細加工研究所所
長の湯之上隆氏は、エルピーダの破綻について、次のようにコメ
ントしています。
─────────────────────────────
 事業は各社の不採算部門の寄せ集めで、各社からエルピーダに
配属された従業員は、「能力もやる気もない、指示待ち族の集ま
り」と酷評された。
 出身会社ごとの規格を統一することもかなわず、エルピーダの
収益力は低迷。経営危機に陥り、リーマン・ショック後の200
9年には、日本政策投資銀行を通じて300億円の公的支援が行
われた。だが、それでも持ち直すことはできず、最終的に12年
会社更生法の適用を申請して経営破綻した。
                  https://bit.ly/3Lebgpe
─────────────────────────────
 しかし、ラピダスの設立はエルピーダのときとその背景事情が
大きく異なるのです。その一番大きなものは、米中対立の激化で
す。「半導体の開発では絶対中国には負けられない」という強い
決意のもと、2022年8月9日、バイデン米大統領は「CHI
PS法」に署名し、法案を成立させています。CHIPS法とは
次の言葉の省略形です。
─────────────────────────────
     ◎CHIPS法
      The CHIPS and Science Act of 2022
─────────────────────────────
 この法律の目的は、先端半導体技術において、米国がリーダー
シップを取り戻し、中国の競合をかわすことにあります。この法
律では、安全保障上の懸念のある国において、最先端および先端
半導体製造能力の「実質的な拡張を含む重要な取り引き」が禁止
されます。
 この法律により、米国内の半導体の生産や開発を支援する補助
金として527億ドル(約7兆5000億円)が使われることに
なっています。支援を受ける企業は、今後10年間、28ナノ以
降の半導体製造にかかわる中国向けの投資が禁止されます。これ
に加えて、2022年10月からは、18ナノ以下のDRAM、
128層以上のNANDメモリ、3ナノ以下の回路や基盤を設計
するEDAツールが輸出できなくなっています。これによって、
中国が大きな打撃を受けることは確実です。
 以上が米国の状況ですが、EUも同様の半導体開発支援を目的
として、公的資金110億ユーロを投資し、その他、民間を加え
て、430億ユーロ(約6兆円)を投資することが12月のEU
閣僚理事会で決定しています。
 そもそも半導体不足は何で起きたかですが、それは、コロナ禍
が原因です。これについて、英国の調査会社オムディアの杉山和
弘コンサルティング・ディレクターは、次のようにコメントをし
ています。
─────────────────────────────
 コロナ禍の半導体不足から、半導体サプライチェーンにおいて
製造は、台湾・韓国依存が高いことが認識されました。これに加
えて、米中対立による地政学的なリスクから、日本も自国で必要
な半導体は自国で生産する必要がある、という自国に回避するこ
とが前提にあると思います。この理由は、経済安全保障のリスク
マネージメント要因が大きいとみています
        ──杉山和弘コンサルティング・ディレクター
                 https://bit.ly/3HguQQt
─────────────────────────────
 ラピダス設立は、日本にとって周回遅れの状態から脱出する最
後のチャンスといえます。日本は、世界の半導体の技術レベルと
比較して、10年〜20年以上遅れています。果たして、ラピダ
スによって世界のレベルに追いつくことができるのか、大きな関
心をもって、注視していく必要があります。
           ──[メタバースと日本経済/059]

≪画像および関連情報≫
 ●エルピーダ破綻に見る産業政策の「不在」
  ───────────────────────────
   2012年2月末に、日本唯一のDRAMメーカーで、D
  RAM世界市場3位のエルピーダメモリが会社更生法の申請
  を行い、製造業として戦後最大の負債総額4480億円で経
  営破綻した。2009年6月末に産業活力再生特別措置法の
  認定を経済産業省から受けて、日本政策投資銀行(政投銀)
  の増資引き受け(300億円)や、政投銀と民間銀行団の融
  資(約1000億円)によってテコ入れされてから、3年弱
  だった。この失敗を日本政府、経済産業省の産業政策との関
  わりで評価し、今後のあるべき政策を示唆したい。
   結論を先回りすると、筆者の考えでは、この失敗は産業政
  策の過剰ゆえではなく深いレベルの産業政策の不在ゆえであ
  り、また政策における賢さと断固たる粘り強さの不足ゆえで
  ある。以下、その点を示すが、最初にエルピーダ社自身の問
  題も指摘せねばならない。
   あまり報道されていないが、同社を救済したときの法的認
  定を正確にみると、携帯電話などに向けた「プレミアDRA
  M」を中核とした事業再構築計画に対する認定だった。確か
  に、2010年度に同社のプレミアDRAM売り上げは大き
  く伸びた。だが、それでもその売り上げ比率は同年度に金額
  で30%に過ぎなかった。2009年の救済認定当時から、
  パソコン用などの一般DRAMの生産能力を台湾に移管し、
  同社の広島工場は、プレミアDRAMの生産に傾斜するはず
  だったが、2011年9月末の報道によると、実際は広島工
  場の能力12万枚/月のうち約4割に当たる5万枚分を「こ
  れから」台湾に移管するとされていた。
                  https://bit.ly/3V826ix
  ───────────────────────────
エルピーダメモリ広島工場.jpg
エルピーダメモリ広島工場
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2023年04月27日

●「GAA構造チップとはどういうものか」(第5942号)

 ラピダスが米IBMから提供を受けるのは「GAA構造」の技
術です。2ナノ世代プロセスの製造に必要な半導体の技術です。
日本の半導体メーカーが量産化できるレベルは40ナノ〜60ナ
ノ程度でしかないのです。IBMでも2ナノ世代プロセスの製造
の技術は持っているものの、量産化技術は持っていないのです。
 トップランナーは、台湾のTSMCと韓国のサムスン電子です
が、この2社も2ナノ世代プロセスのチップは作れるが、量産化
技術はまだ持っていないといわれています。
 このように考えると、ラピダスの目標がいかに高いかわかると
思います。半導体の生産において、よく「微細化」という言葉を
使いますが、微細化とは何でしょうか。なぜ、微細化が必要なの
でしょうか。
 それにはトランジスタの基礎について知る必要があります。ど
こまでやさしく説明できるか自信はありませんが、以下説明を試
みることにします。これから半導体不足問題は、世界レベルで、
さらに深刻になり、話題になることが多くなるので、知っておい
て損はないと考えます。
 半導体にもいろいろありますが、これから説明するのは、「ロ
ジック半導体」の話です。ロジック半導体とは、スマホやPCの
CPUとして使われるもので、電子機器の頭脳の役割を担うもの
です。これまで回路を微細にして、トランジスタ(素子)の数を
増やし計算能力を高めてきています。
 ロジック半導体で使われている「MOSFET」と呼ばれる半
導体があります。「MOSFET」とは次の言葉の省略形です。
─────────────────────────────
  ◎MOSFET/金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ
   Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor
─────────────────────────────
 添付ファイルの「図A」をご覧ください。これがMOSFET
の一種であるプレーナFETの構造図です。「G(ゲート)」と
呼ばれる部分がありますが、そこに一定以上の電圧を与えるか、
与えないかによって「S(ソース)」と「D(ドレイン)」とい
う部分に電流が流れます。つまり、G(ゲート)は、ON/OF
Fのスイッチの働きをしているのです。これが2進数の0と1に
対応します。
 しかし、チップの微細化によって──これはゲート幅が短くな
ることを意味する──このスイッチの働きが曖昧になります。具
体的には「リーク電流」が起きてしまうのです。つまり、OFF
のときでも電流が流れてしまう現象です。S(ソース)とD(ド
レイン)が水平なので、微細化によって、SとDが近づきすぎる
と、リーク電流が生ずるのです。
 この現象をホースで庭に水をまくさい、ホースを足で踏みつけ
たり、離したりすることに例えることがあります。これではON
/OFFがうまく機能しなくなるのです。
 そもそもなぜ「微細化」が必要なのでしょうか。その理由には
4つあります。
─────────────────────────────
           @ コスト削減
           A 低消費電力
           B動作速度向上
           C  高機能化
─────────────────────────────
 @は「コスト削減」です。
 ここでいうコストとは、トランジスタの製造コストの削減のこ
とです。半導体は、1枚のウェハーという物質の上にトランジス
タを積み上げるのですが、1枚のウェハーに含まれるトランジス
タが増えれば増えるほど、トランジスタ1個当たりの製造コスト
が下がることになります。ちなみにウェハーとは、半導体材料を
薄く円盤状に加工してできた薄い板のことで、半導体基板の材料
として用いられています。
 Aは「低消費電力」であり、Bは「動作速度向上」です。
 微細化とは、トランジスタが小さくなることをいいます。トラ
ンジスタが小さくなるということは、ゲート長が短くなることを
意味しますが、これに成功すると、オン/オフに必要とされる電
子の個数および移動時間が小さくなり、小さな電力かつその素早
い移動によって、低消費電力と高速化が可能になります。
 Cは「高機能化」です。
 これまで複数のチップで実現していた機能を一つのチップ内に
収めることができれば、AとBの理由によって、機能間の通信を
高速化できるし、省電力化も実現できます。
 プレーナFETは、オフのときでも電流が漏れるリーク電流が
問題だったのです。これを防ぐため「FinFET」が考案され
ています。添付ファイルの図Bの真ん中の図形をご覧ください。
リーク電流を防ぐため、チャネルをゲートに食い込ませることで
3面から囲み、リーク電流を抑制しています。「Fin」とは、
英語で魚のヒレを意味し、そのように見えることから「FinF
ET」というのです。
 実は、この「FinFET」は日本が開発した技術です。19
89年に日立製作所が発表しています。しかし、商用生産ができ
るようになったのは20年後の2011年で、その担い手は日本
企業ではなく、インテルだったのです。
 その発展形が図2の一番右の図です。これが「GAA」です。
GAAは「ゲート全方向(Gate All Around)」 と呼ばれ、その
名の通り、ゲートが全方向からチャネルを包み込む構造になって
います。「FinFET」との大きな違いは、チャネルの制御面
を3面から4面に増やしたことです。具体的にいうと、「Fin
FET」のチャネルを90%回転し、縦に積層し、リーク電流を
ほぼ完璧に抑えていることです。いずれにしても、現在ではこの
ように立体構造になっているのです。
           ──[メタバースと日本経済/058]

≪画像および関連情報≫
 ●IBMが「2nm」プロセスのナノシートトランジスタ公開
  ───────────────────────────
   IBMは、米国ニューヨーク州アルバニーにある研究開発
  施設で製造した「世界初」(同社)となる2nmプロセスを
  適用したチップを発表した。同チップは、IBMのナノシー
  ト技術で構築したGAA(Gate-All-Around) トランジスタ
  を搭載している。同社は、「この新しいプロセス技術によっ
  て、2nmチップは、現在生産している最先端の7nmチッ
  プと比べて45%の性能向上と75%の消費電力削減を実現
  できる」と述べている。
   IBMは、7nmと5nmのテストチップのデモンストレ
  ーションも業界で初めて行っている。IBMが発表したテス
  トチップは、約500億個のトランジスタを搭載し、GAA
  トランジスタの一部にナノシート構造を採用している。GA
  Aは、その前身となるFinFETのスケーリングの限界に
  対する解決策として開発された新しいトランジスタアーキテ
  クチャである。         https://bit.ly/3n245s9
  ───────────────────────────
GAA構造とは何か.jpg
GAA構造とは何か
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2023年04月26日

●「ラピダスとGFのIBM提訴問題」(第5941号)

 4月25日の朝日新聞にラピダスに関する次の記事が掲載され
ています。ラビダスに関する情報が増えてきています。
─────────────────────────────
◎ラピダス追加補助2600億円
 政府方針/次世代半導体新工場に
 大手企業8社が、次世代半導体の国産化をめざす共同出資会社
「Rapidus(ラピダス)」 が北海道に建設する新工場に対し、政
府は新たに2600億円を補助する方針を固めた。次世代半導体
をめぐる国際競争が激しさを増すなか、政府肝いりの事業として
すでに700億円の補助を表明しており、計3300億円に上る
巨額の国費を投じることになる。
           ──2023年4月25日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 何度も繰り返し述べているように、ラビダスは、2022年8
月に設立された日本版の最先端半導体のファウンドリ(製造受託
企業)です。その目標は「ビヨンド2ナノ」です。ナノは10億
分の1を意味します。現在この世界の最先端は2nm(2ナノメ
ートル)ですが、ラピダスは1nm台を狙おうとしています。先
を行くTSMCやサムスン電子を追撃しようというのですから、
その「やる気やすこぶる良し」といえるでしょう。
 ラピダスは、工場建設地に北海道千歳市を選んでいますが、本
気で最先端を目指すのであれば、将来的に3〜4棟の工場は必要
であり、そのためには相当大きな敷地が必要になるからです。つ
まり、今後の拡張性を重視して千歳市を選んでいます。現在、2
つの工場の建設が予定されており、それは「IIM1」と「II
M2」と呼ばれています。
─────────────────────────────
  「IIM(イーム)1」 ・・・ 2nm世代対応工場
  「IIM(イーム)2」 ・・・ 1nm世代対応工場
─────────────────────────────
 ところで、「IIM」とは何でしょうか。
 「IIM」とは、「ファブ(Fab)」 (工場)に代わる半導体
工場の独自の呼び方です。ラピダスの小池淳義社長が口にした言
葉であり、これまでの半導体の常識を打ち破るまったく新しい半
導体の製造を目指しているといいます。なお、IIMは次の英語
の省略形です。
─────────────────────────────
    ◎IIM(イーム)
     Innovative Integration for Manufacturing
─────────────────────────────
 小池社長によると、IIMと呼ぶには、具体的には、次の3つ
のことに力を入れるからであるといいます。
─────────────────────────────
      @サイクルタイムの極限までの短縮
      AAIを活用した製造工程の自由化
      B前工程と後工程の統合の受託生産
     註:前工程=ウェハー工程、後工程:パッケージング
─────────────────────────────
 ラピダスでは、新技術開発のため、どのくらいの人数を集めよ
うとしているのでしょうか。
 既に100人程度の技術者が集まっているといいます。これを
2023年中に200人まで増やす計画で、最終的には300〜
500人の規模になるといいます。どういう人を集めているのか
というと、国内で他企業に移籍した半導体技術者や、海外に移っ
た半導体技術者などで、世界中から毎日のように応募がきている
といわれ、エンジニア集めには苦労していないようです。平均年
齢は50歳程度といわれます。
 ラピダスは、第1陣の技術者を米IBMの開発拠点であるアル
バニー・ナクテク・コンプレックスに派遣しており、開発業務に
当たっているといっています。このことによってわかることは、
ラピダスと米IBMの関係が非常に緊密であるということであり
GFの訴訟は、ラピダスにも大きな影響を与えます。
 アルバニー・ナクテク・コンプレックスとは、ニューヨーク州
アルバニーにあるIBMの先端半導体の研究所のことです。IB
Mは、2015年に半導体の工場と外販の設計チームを別会社に
事業譲渡していますが、先端技術の基礎研究はこの施設で研究開
発を続けているのです。そこでは、IBMの研究員たちが、公共
機関や民間企業のパートナーたちと緊密に、コラボレーションし
ロジック・スケーリングや半導体の能力の限界を超えるために働
いているのです。
 現時点においてのラピダスのIBM依存度は、相当高いと考え
るられます。したがって、もし、GFの訴訟においてIBMの動
きに制限が加えられた場合、人材の確保や半導体の生産自体にも
大きな影響が及びます。これらについて、4月21日の日本経済
新聞は次のように報道しています。
─────────────────────────────
 ラピダスとIBMが量産を目指す2ナノ品はTSMCやサムス
ンも開発を進めている。2ナノ品では素子構造が従来から大きく
変わる。材料や製造手法も変化し、ラピダスのように最先端品参
入を狙う動きがある。GFについても「提訴を通じて、IBMと
(特許を相互利用する)クロスライセンスを結び、最先端品への
参入の足がかりにするのではないか」との見方もくすぶる。
 IBMは「(GFの)申し立ては全く根拠のないものであり、
我々は裁判所が同意すると確信している」とコメントした。ラピ
ダスは「コメントする立場にない」としている。仮にIBMとい
う後ろ盾がなくなった場合、量産化は実現できるのか。先端品の
国産計画はシナリオの複線化も求められている。
         ──2023年4月21日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
           ──[メタバースと日本経済/057]

≪画像および関連情報≫
 ●ラピダスに入り混じる期待と不安
  ───────────────────────────
   近年、様々な面で注目を浴びている半導体業界だが、20
  22年も多くのニュースがあった。そのなかの1つが、次世
  代半導体の量産を目指す新会社Rapidus(株) (ラピダス/
  東京都千代田区)の始動だ。キオクシア(株)、ソニーグル
  ープ(株)、ソフトバンク(株)、(株)デンソー、トヨタ
  自動車(株)、NEC(日本電気(株))、NTT(日本電
  信電話(株))、(株)三菱UFJ銀行といった日本の大手
  企業が出資し、2020年代後半に、2nm世代の最先端ロ
  ジックファンドリーとして量産することを目指すと発表し、
  半導体業界に大きなインパクトを与えた。
   国もバックアップする体制を示しており、NEDO(新エ
  ネルギー・産業技術総合開発機構)プロジェクト「ポスト5
  G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先端半導体製造
  技術の開発」を介して、700億円が、ラピダスに助成され
  る。この助成金を活用してラピダスは、2nm世代のロジッ
  ク半導体技術の開発を行い、国内でTAT(生産の開始から
  終了までにかかる時間)が短いパイロットラインを構築し、
  テストチップによる実証を行う。22年度については、2n
  m世代の要素技術の獲得、EUV露光機の導入着手、短TA
  T生産システムに必要な装置、搬送システム、生産管理シス
  テムの仕様策定、パイロットラインの初期設計を実施する。
                 https://bit.ly/41O0ooQ
  ───────────────────────────
ラピダスが工場建設を決めた工業団地.jpg
ラピダスが工場建設を決めた工業団地
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2023年04月25日

●「なぜ、GFはIBMを提訴したのか」(第5940号)

 IBMがGF(グルーバルファンドリーズ)に訴訟を起こされ
ている件ですが、このGFという半導体製造企業について知る人
は少ないようです。なぜなら、「GF」をキーワードとして検索
しても出てこないからです。
 GFは、インテルと並んでウィンテル陣営を支え、このところ
「ライゼン」という名前のCPUが人気のAMD(アドバンスト
・マイクロ・デバイセズ)から、2009年3月、分離・独立し
たファウンドリです。つまり、GFはもともとはAMDの半導体
製造部門だったのです。
 今回GFがIBMを訴えたという訴訟は、IBMの方が先にG
Fを契約不履行であるとして訴えている訴訟と無関係ではないと
いえます。そもそもIBMとGFは、どのような関係にあるので
しょうか。IBMとGFの関係について、ネット上に次の情報が
あります。
─────────────────────────────
 IBMは2014年当時、半導体製造事業から撤退しようとし
ていた。老朽化した製造施設の一部を売りに出したが、一つも売
却先を見つけることができず、最終的にはGFに実質的に15億
米ドルを支払い引き取ってもらった。両社は当時IBMがそれま
で開発に取り組んでいた14nmの製造プロセスをGFが完了さ
せることで合意した(実際にGFはそうした)。GFはIBMに
14nmチップを供給し(これも実際にそうした)、同時に次の
ノードの開発に取り組む計画だった。
 「次のノード」には10nmが想定されていたが、半導体製造
事業での競争状況を踏まえ、GFは10nmを飛び越えてすぐに
7nmに進んだ。GFは、IBMがこの決定にも賛同したと主張
している。
 当時GFは、7nm開発においてTSMCとサムソン電子に大
幅に後れを取っており、2018年には、同プロセスの開発を完
了できない見込みであることを発表した。7nmの開発を完了さ
せていたら、財務面で破滅的な状態に陥っていた可能性があると
同社は主張している。IBMによる契約不履行の訴えの核心は、
GFが7nmチップ製造プロセスの開発に失敗したことである。
                  https://bit.ly/3V1i0LB
─────────────────────────────
 上記のいきさつから判断すると、IBMは自社の半導体部門を
売却するにあたって、GFに15億米ドルを提供し、さらに追加
として10億米ドルを支払っています。これは、半導体部門の売
却というよりも、条件付き資金付きの譲渡のようなものです。そ
れは、GFに対して、生産する最先端の半導体をIBMに優先的
に提供するという約束のためであると思われます。
 GFは、IBMから得た資金を投じて、IBMの製造設備を改
修し、14nmプロセスを開発、続いて7nmプロセスの開発に
着手したのです。なぜ、10nmプロセスではなく、7nmプロ
セスとであるかというと、IBMとは最先端の半導体生産の約束
をしていたからです。
 しかし、競合相手のTSMCやサムソン電子は、既に数百億ド
ルの資金を投入して7nmプロセスに着手しており、GFとして
は大きく遅れていたのです。実際問題として、14nmプロセス
から7nmプロセスへの飛躍は、技術的にきわめて困難であると
判断し、GFは7nmチップの生産を断念し、戦略を転換したの
です。2018年のことです。
 どのように戦略を転換したかというと、1桁台のプロセスノー
ドの生産を断念し、TSMCやサムスン電子では引き受けてもら
えない半導体の生産に切り換えたのです。実は、この需要はたく
さんあって、そのための設備が充実しているGFは売り上げが増
大します。そして、2020年には、IPO(新規株式公開)の
情報もあります。この戦略転換がうまくいって、現在、ファウン
ドリとしては、TSMC、サムソン電子に次いでGFは、世界第
3位になっているのです。
 しかし、IBMはGFの変化を契約違反であるとして、7nm
チップをサムソン電子に委託しています。そして、2020年に
なってGFを契約違反であるとして提訴したのです。その内容は
次のようなものです。
─────────────────────────────
 GFは、高性能半導体チップの開発/供給を含め、IBMに対
する法的義務を果たしていない。この訴訟は、そうした不正と意
図的な契約不履行を隠蔽するためのGFによるさらにもう一つの
試みである。IBMはGFが次世代チップを供給できるよう同社
に15億米ドルを提供したが、GFは最後の支払いを受けてすぐ
にIBMから完全に離れ、自社の発展のためにIBMとの取引で
得た資産を売却した。それによる重大な損害の回復を探る機会を
IBMは歓迎する。         https://bit.ly/3V1i0LB
─────────────────────────────
 2020年といえば、日本が米国政府からの強い要請を受けて
本格的な半導体企業を設立しようと模索していたときです。その
動きをIBMが知らないはずはなく、1桁台の最先端半導体を求
めていたIBMは、日本の関係者に接近し、IBMの技術提供を
提案したのではないかと思われます。つまり、IBMとしては、
GFに期待していたものの、GFが約束を守らなかったので、ラ
ピダスに生産を委託しようと考えたものと思われます。実際に、
IBMとラピダスは、2022年12月に提携を発表し、2ナノ
メートル(ナノは10億分の1)の半導体製造において、協力し
ていくことを約束しています。
 この事実を知ったGFは、IBMが2021年に次世代半導体
技術で協業すると発表したインテルに知的所有権を不法に開示し
悪用したと主張し、「IBMは、潜在的に数億ドルのライセンス
収入やその他の利益を不当に受け取っている」として、IBMを
提訴したものと考えられます。
           ──[メタバースと日本経済/056]

≪画像および関連情報≫
 ●グローバルファウンドリーズがIBM提訴、「ラピダスと
  知財不法共有」
  ───────────────────────────
   [オークランド(米カリフォルニア州)19日ロイター]─
  米半導体受託生産大手グローバルファウンドリーズは19日
  トヨタ自動車やソニーグループなど日本企業8社が出資して
  設立した半導体メーカー、Rapidus(ラピダス)と知
  的所有権および営業秘密を不法に共有したとして、米IBM
  を提訴した。
   IBMとラピダスは2022年12月に提携を発表し、2
  ナノメートル(ナノは10億分の1)の半導体製造で協力し
  ている。グローバルファウンドリーズはまた、IBMが20
  21年に次世代半導体技術で協業すると発表したインテルに
  知的所有権を不法に開示し悪用したと主張。「IBMは、潜
  在的に数億ドルのライセンス収入やその他の利益を不当に受
  け取っている」とした。訴状によると、グローバルファウン
  ドリーズとIBMはニューヨーク州オールバニで数十年にわ
  たり共同で技術を開発。15年にその技術のライセンスと開
  示の独占権がグローバルファウンドリーズに売却された。グ
  ローバルファウンドリーズはIBMに対し、補償的損害賠償
  および懲罰的損害賠償のほか、営業秘密の使用を禁止する差
  し止め命令を求めている。またIBMがグローバルファウン
  ドリーズのエンジニアを採用する動きがラピダスとの提携発
  表から加速しているとし、こうしたリクルート活動の停止を
  命じるよう裁判所に求めた。IBMはロイター宛ての電子メ
  ールで「申し立てには全く根拠がない」と反論した。インテ
  ルはコメントを控えている。ラピダスは「コメントする立場
  にない」としている。      https://bit.ly/3H2I4jt
  ───────────────────────────
4ナノメートルまで微細化された半導体チップ.jpg
4ナノメートルまで微細化された半導体チップ
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2023年04月24日

●「GFがIBM提訴/ラピダスに影響か」(第5939号)

EJを半月ぶりに復刊します。体力はまだ万全ではないものの
EJを復刊できるレベルに達したと考えています。3日間の新入
社員研修も無事に終了できています。
 今回のテーマにおいて、EJは、3月31日付の5937号ま
でお送りしています。半導体製造装置の規制のことを書いていま
したが、最新のニュースから入ることにします。いずれにしても
半導体に関する話です。
 4月19日のことです。米半導体受託製造大手企業であるグロ
ーバルファウンドリーズ(GF)が、IBMを提訴したのです。
日本の半導体ファンドリとして新設したラピダスはIBMと提携
を結んでおり、ラピダスに影響が及ぶ恐れがあります。これにつ
いて、4月20日の日本経済新聞は次のように報道しています。
─────────────────────────────
【シリコンバレー=渡辺直樹】米半導体受託製造大手のグローバ
ルファウンドリーズ(GF)は19日、知的財産と企業秘密を不
正に利用したとして米IBMを提訴したと発表した。GFは20
15年にIBMの半導体部門を買収したが、IBMが、その後も
提携する日本のラピダスと米インテルに技術を開示したとしてい
る。日本の先端半導体戦略に影響が及ぶ可能性がある。
 米ニューヨーク州の南部地区の連邦裁判所に提訴した。GFは
IBMが部門をすでに売却したにもかかわらず、知的財産と企業
秘密をラピダスなどの提携企業に開示し、「IBMが数億ドルの
ライセンス収入やその他の利益を不当に受け取っている」と主張
している。日本経済新聞はIBMにコメントを求めたが返答がな
かった。同日の決算会見でも訴訟について言及しなかった。ラピ
ダスの広報担当者は「コメントする立場にない」と話し、インテ
ルもこの件についてコメントはないとした。
         ──2023年4月20日付、日本経済新聞
              https://s.nikkei.com/3H51mop
─────────────────────────────
 なぜ、米IBMはGFから提訴されたのでしょうか。
 これについて知るには、日本の半導体企業「ラピダス」がなぜ
誕生したかについて知る必要があります。ラピダスは、2022
年8月に設立されています。それも「ビヨンド・2ナノ」を目指
す本格的なファウンドリです。
 日本に本格的な半導体企業を設立することを一番望んでいたの
は米国政府です。米国としては、米中摩擦の緊張が高まるなかに
あって、地政学的に安全性の高い日本から先端半導体を調達した
かったからです。現在は台湾のTSMCに依存している状況です
が、その依存度がさらに高まるのは、地政学的にも好ましくない
と考えているのです。それに、日本はかつての半導体製造王国で
あり、そのDNAを持っていると米国は考えたのでしょう。
 米国政府と同じ思惑を米IBMも持っていたのです。IBMと
しては、スーパーコンピュータや量子コンピュータの開発に先端
プロセス半導体は欠かせないし、それによってTSMCへの依存
度がさらに高まることは経営戦略上も不安がある──IBMはこ
のように考えたのです。
 一方、米国政府から先端半導体工場設立の要望を受けた日本政
府と国内の半導体関連団体は揺れに揺れていたといいます。なぜ
なら、政府がこれはという企業に打診しても、先端半導体製造を
担おうとする企業が1社も現れなかったからです。それは、技術
的にも資金的にも高い壁があったからです。
 そういうときに、米IBM社から、2ナノ世代プロセスの製造
に必要な「GAA構造」という構造技術を提供するという提案が
きたのです。これを受けて、浮上したのは、既存の企業ではなく
新会社を設立するという考え方です。それは、ラピダスとLST
Cを設立するというアイデアです。LSTCとは、中央研究所機
能を担う半導体研究機関です。STCとは次の省略形です。
─────────────────────────────
  ◎LSTC/技術研究組合最先端半導体技術センター
   Leading-edge Semiconductor Technology Center
─────────────────────────────
 ところで「GAA構造」とは何かです。GAAは「ゲート・オ
ール・アラウンド」(Gate All Around) の省略形で、既存の設
計よりも性能と効率が大幅に向上し、多くの高性能製品の競争力
が変わる可能性があるといわれる半導体の技術です。このGAA
構造を巡って、インテル、サムスン電子、TSMCは、莫大な投
資を行い、技術を競っているのです。GAA構造をやさしく説明
するのは極めて困難なことですが、これは明日のEJ以降で概要
を説明することにします。
 「GAA構造技術を提供する」というIBMからの提案は、新
会社設立を模索していた関係者にとって大きな朗報であり、設立
への決断になったことは確かです。そして、ラピダス設立から4
カ月後の2022年12月、IBMと最先端の回路線幅2ナノメ
ートルの半導体製造で提携しています。そのIBMが、GAAを
含む技術権利の件で、そのGFから訴えられたのです。ラピダス
にとっては大事件です。
 このニュースについて朝日新聞デジタルは、次のように報道し
ています。
─────────────────────────────
◎「ラピダスに秘密を提供」──米半導体受託製造大手がIBM
 を提訴
 GFによると、IBMは、2015年に半導体事業をGFに売
却。GFは、その際、IBMと共同開発した技術の独占的な権利
を譲り受けたにもかかわらず、IBMが提携先のインテルやラピ
ダスに技術を提供し、数億ドルの収入を不正に得ていたと主張し
た。GF側は損害賠償や技術提供の差し止めを求めている。
                 ──朝日新聞デジタルより
─────────────────────────────
           ──[メタバースと日本経済/055]

≪画像および関連情報≫
 ●存在感増すラピダス、2ナノ半導体量産へ打つ布石
  ───────────────────────────
   回路線幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)以下とい
  う世界最先端のロジック半導体の量産を目指すラピダス(東
  京都千代田区、小池淳義社長)が本格的に始動した。3月に
  は北海道千歳市に新工場の建設を決めたほか、ベルギーの世
  界的な次世代技術の研究機関imec(アイメック)と次世
  代半導体の微細加工に必要な極端紫外線(EUV)露光技術
  の開発で連携するなど着々と布石を打っている。
   「新工場は、顧客が望む最終製品に近い形で提供する最初
  のファブ(工場)にしたい。人工知能(AI)を駆使した完
  全自動のファブにするが、後工程でチップを3次元に重ねる
  3Dパッケージング(実装)技術も、融合することを検討す
  る」。4月19日、日刊工業新聞などの取材に応じた小池社
  長は千歳市に建設する新工場について試作ライン段階から、
  ウエハーに回路を形成する前工程だけでなく、ウエハーから
  半導体を切り分けてチップにする後工程も含め、一貫生産を
  する可能性があるとの考えをあらためて示した。こうした半
  導体工場は世界的にも例がない。
   小池社長は、「我々が供給する先端半導体を非常に速いス
  ピードで届けることで、それを使った企業が新たな価値や商
  品を生み出す、そういういい循環を期待している」とした上
  で、「サイクルタイムを極限まで短くするには(複数の半導
  体を一つのチップのように扱う)『チップレット』の技術が
  重要で前工程と後工程が融合しないと成果が刈り取れない」
  と指摘した。          https://bit.ly/3oy3bE4
  ───────────────────────────
ラピダス米IBMと提携.jpg
ラピダス米IBMと提携
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2023年04月03日

●「半導体の製造装置中国への輸出規制」(第5938号)

 4月1日(土)の日本経済新聞の1面と3面に半導体関連の重
要記事が掲載されています。
─────────────────────────────
◎半導体「ブロック化」鮮明
 日本が先端半導体の製造装置の輸出規制に踏み出す。中国への
対抗姿勢を強める米国の要請で足並みをそろえる。オランダも同
調する。経済のブロック化が鮮明になり、企業は戦略の見直しを
迫られる。分断のコストが成長の重荷になる懸念も強まる。
          ──2023年4月1日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 このニュースは日本にとって衝撃的です。遂に恐れていたこと
が始まった感があります。ところで、半導体製造装置とは、その
名の示す通り半導体を製造するための装置です。
 半導体の製造工程はきわめて複雑で、たくさんの工程がありま
す。半導体の材料を洗浄する工程、フォトリソグラフィという回
路のパターンを転写する工程、検査をする工程、組み立てる工程
などたくさんの工程があります。
 これを止められると、半導体メーカーは半導体を生産できなく
なります。米国の要請によるもので、事実上中国を対象に、日本
では、外国為替法を改正し、半導体の製造に必要な「洗浄」「成
膜」「露光」「検査」などの各工程において、先端品向け23項
目を今年の7月から規制対象に加えることになります。
 なぜ、これがなぜ日本にとって衝撃的かというと、中国は、半
導体製造装置の重要なお得意様であるからです。規制するという
ことは、それだけ、売れなくなるということであり、売上高の減
少を招くということになるからです。
 当然中国は反発するでしょうし、報復措置も十分あると考えら
れます。早速中国外務省の毛寧副報道局長は、次のような反発の
コメントを出しています。
─────────────────────────────
 世界のサプライチェーン(供給網)の安定を破壊する行為で
 ある。          ──中国外務省毛寧副報道局長
─────────────────────────────
 米国が半導体製造装置の輸出規制にまで、関係国と組んで規制
を行うのは、事態を深刻に認識している証拠です。ところで、世
界の半導体製造装置の市場はどうなっており、日本はどのような
位置を占めているのでしょうか。
 2021年度の半導体装置の世界シェアを以下に示すと、次の
ようになります。
─────────────────────────────
  1位:アプライドマテリアルス ・・・・・ 22・5%
  2位:ASМL ・・・・・・・・・・・・ 20・5%
  3位:東京エレクトロン ・・・・・・・・ 17・0%
  4位:ラムリサーチ ・・・・・・・・・・ 14・2%
  5位:KLA ・・・・・・・・・・・・・  6・7%
  6位:ASМパシフィックテクノロジー ・  3・3%
  7位:SCREENホールディングス ・・  2・7%
  8位:日立製作所(旧日立ハイテク) ・・  2・1%
  9位:キャノン1 ・・・・・・・・・・・  2・7%
 10位:KOKUSAI ・・・・・・・・・  1・5%
                  https://bit.ly/4307Pur
─────────────────────────────
 売上高ベースで評価した場合、トップに位置しているのは、米
国のアプライドマテリアルス、2位のオランダのフィリップスが
出自のASМL、3位は日本の東京エレクトロン、4位は米国の
ラムリサーチです。これら4社は、「半導体製造装置の四天王」
といわれ、この業界に君臨しています。今回はこれら4社が組ん
で輸出規制を行うので、中国への輸出は事実上困難になり、中国
は大きなダメージを受けます。
 ところで、東京エレクトロンはどういう企業でしょうか。
 東京エレクトロンは、売上高海外比率80%超、世界の拠点数
76のわが国を代表する超一流のグローバル企業です。TBSの
出資によって設立され、フラットパネルディスプレイ製造装置に
も強みを持ちます。
 KLAというのは、1975年に設立された米国に本拠を置く
大手半導体製造装置メーカーです。ウエハ検査・計測装置に強み
を持つ企業です。ASМパシフィックテクノロジーは、オランダ
に本拠を置く半導体製造装置メーカーです。成膜工程に強い企業
です。
 7位から10位までは日本企業です。SCREENホールディ
ングスは、ウェハ洗浄に強みをもつ洗浄装置大手です。日立製作
所はプロセス製造装置に強みを持っています。キヤノンは、19
37年に創業された日本を代表する光学・OA機器メーカーで、
カメラ、複写機、プリンターなどの分野で業界首位級です。半導
体露光装置では、オランダのASМL社に差をつけられつつある
ものの、ニコンと並び露光装置大手のメーカーです。
 KOKUSAIは、日立国際電気の半導体事業が2018年6
月に分社して誕生した製造装置メーカーです。半導体回路周辺の
絶縁膜等の成膜装置に強みを持ちます。このように、多くの日本
企業が半導体製造装置にかかわっています。
 この半導体製造装置の輸出規制について、西村康稔経済産業相
は、「最先端品向けに品目を絞っており、影響は限定的である」
と説明しているが、日本企業にとって、かなりの影響を受けるこ
とが必至の情勢です。どうしてこんな楽観的なことがいえるので
しょうか。2022年に10月の中国に対する輸出規制の影響で
10〜12月期の中国向け輸出額は、日本が前年同期比16%減
ですが、米国にいたっては50%減で、アプライドマテリアルス
とASМLの順位が入れ替わっています。それでも止めないとい
けないところに日米輸出規制の難しさがあります。
           ──[メタバースと日本経済/054]

≪画像および関連情報≫
 ●日本政府、半導体製造装置を輸出管理対象に
  米が対中規制要請
  ───────────────────────────
  [東京/31日ロイター]経済産業省は31日、軍事転用の
  防止を目的に、半導体製造装置を輸出管理対象に追加すると
  発表した。中国の台頭を懸念する米国は、製造装置に強い日
  本とオランダに輸出規制の強化を求めていた。日本は,管理
  対象の仕向け地を中国に限らず全地域とし、高性能装置の輸
  出を事前許可制とする。日本メーカー10数社が影響を受け
  る。外為法の省令を改正し、輸出には経産大臣の事前許可が
  必要になる。パブリックコメントの募集を経て5月に公布、
  7月の施行を予定している。対象の仕向け地は全地域だが、
  輸出管理体制の状況などを踏まえ米国など42カ国向けは包
  括許可に、中国を含めその他向けは輸出契約1件ごとの個別
  許可とする。
   東京エレクトロンが手掛けるエッチング装置やニコンが手
  掛ける露光装置など6分類23品目が対象で、回路線幅14
  ナノ前後よりも微細な先端半導体を製造できる高性能装置が
  規制される。経産省によると、10数社が影響を受ける。
   米国は昨年10月、中国が軍事転用する恐れがあるとして
  半導体の輸出規制を強化。先端半導体を作るのに必要な技術
  や製造装置の輸出に広く網をかけた。製造装置メーカー最大
  手の米アプライドマテリアルなどが影響を受ける中、米国は
  有力な製造装置メーカーを抱える日本とオランダにも足並み
  をそろえるよう求めていた。   https://bit.ly/3Gxzzgr
─────────────────────────────
半導体製造装置メーカーの売上高ランキング(四半期ベース).jpg
半導体製造装置メーカーの売上高ランキング(四半期ベース)
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2023年03月31日

●「日の丸半導体はなぜ敗れたか」(第5937号)

 今回のテーマ「メタバースと日本経済」で、3月7日から半導
体のことを書いています。メタバースが成功するかどうかも、日
本経済が立ち直れるかどうかについても、半導体と無関係ではな
いからです。本日で18回目です。
 「チップ4」という米国主導の枠組みをご存知ですか。
 これは、特定国家──中国のことですが、半導体から中国を排
除しようという意図を持つ考え方です。もっとわかりやすくいう
と、米国主導で、日本、韓国、台湾をまとめ、一種の「半導体同
盟」を作ろうという試みです。
 米バイテン政権がこの枠組みを提案したのは、世界の半導体生
産の8割がアジアに集中しており、それが、米国半導体の弱点に
なっていることに気が付いたからです。半導体生産に関しては、
米国は10%のシェアしか持っていないのです。
─────────────────────────────
      ◎半導体生産の8割はアジア集中
        韓国 ・・・・・・ 24%
        台湾 ・・・・・・ 23%
        中国 ・・・・・・ 15%
        日本 ・・・・・・ 14%
        米国 ・・・・・・ 10%
        欧州 ・・・・・・  5%
       その他 ・・・・・・  9%
                  https://bit.ly/40nNeyt
─────────────────────────────
 半導体生産のシェアで重要なのは、韓国と台湾で47%を生産
していることです。約半分です。とくに台湾は、世界最大のファ
ウンドリのTSMCを中心に米国半導体の多くを作っているとこ
ろです。この状況で、もし、台湾有事で中国が台湾に侵攻し、手
中に収めたら、何が起きるでしょうか。中国側にサプライチェー
ンを握られてしまい、国家の安全保障、軍事防衛を考えると、そ
れは米国の危機そのものといえます。
 かつての日本は半導体生産に圧倒的に強く、1988年には世
界の半導体生産の50%以上を占めていたのです。その日本が今
や中国にも抜かれており、世界第4位に転落しています。一体何
があったのでしょうか。
 これについて、東洋経済・解説部コラムニストである山田雄大
氏は、次のことを指摘しています。
─────────────────────────────
 1940年代後半に、半導体を発明したのはアメリカだ。19
80年代にそのアメリカに日本は半導体の製造で勝った。それは
1970年代に日本が新しい技術を作ったからだ。たとえば、ク
リーンルームという概念を生み出した。アメリカでは製造現場に
靴で入っていたが、日本では清浄な環境で造らないと不良品が出
るとクリーンルームを作った。半導体の基本特許はアメリカ発か
もしれないが、LSI(大規模集積回路)にしたのも日本だ。私
たちの先輩がゼロから切磋琢磨しながらやった。
  もう1つ大事なことがある。マーケットがあったことだ。当
時日本の大手電機は、みんなNTTファミリーで通信機器やコン
ピュータを造っていた。半導体は自社の通信機器やコンピュータ
の部門が大口顧客だった。自社のハードを強くするために強い半
導体がいる。通信機器部門やコンピュータ部門にとって、自社で
半導体部門を持つメリットがあった。各社がよりよいコンピュー
タを作ろうと競い合った。自社の大口顧客に応えるために、半導
体部門も開発に力を注いだ。半導体を利用する顧客が近くにいる
ことでよいものができた。それを外に売れば十分に勝てた。19
80年代から90年代の初頭まではね。
                 https://bit.ly/3M1KWAM
─────────────────────────────
 それほど天下無類であったの日の丸半導体が、なぜ崩壊してし
まったのでしょうか。
 それは、マーケットが通信機器からPC(パソコン)に変わっ
たことが原因です。それも各社独自仕様のPCを作っていたとき
はまだ良かったのですが、1981年からのIBM互換機の時代
になると、半導体は良いものを作るというよりも、同じものをい
かに安く作るかの競争になったのです。
 当時の日本としては、NTT仕様の自社通信機器向けの半導体
は35年の世界で、設計、プロセス、品質管理もその水準でやっ
ており、PC向けについても同じサービスを提供したのですが、
そのとき必要とされたものは、品質よりも安さだったのです。当
時のPCは数年持てばよいと考え方であったといいます。
 もう1つ原因があります。日本は、技術振興のための国家プロ
ジェクトが上手ではないということです。国産コンピュータ製作
国家プロジェクト「TAC」が、個人で製作した富士写真フィル
ムの「FUJIC」に敗れています。その理由について、山田雄
大氏は「半導体部門が決定権を持っていない」として、次のよう
に訴えています。
─────────────────────────────
 半導体部門自体が決定権を持っていないということは、国プロ
が成功しないという問題だけにとどまらなかった。投資などを決
めるのは本社様で、半導体のマーケットをわかっている人間が、
(投資の)賭けに打って出ることはほとんどできなかった。しか
も、半導体が儲かったときは(利益を)全部吸い上げられるし、
損をしたときは(事業を)止めろと言われる。
 欧米では1990年代に半導体事業が総合電機からスピンアウ
トした。日本でそれが起こったのは2000年になってからだ。
そうしてできたのがエルピーダ(メモリ)とルネサス(エレクト
ロニクス)の2社だが、意思決定が10年以上遅かった。
                  https://bit.ly/3ZnELK3
─────────────────────────────
           ──[メタバースと日本経済/053]

≪画像および関連情報≫
 ●日本が半導体戦争に惨敗した真因ーーソフト開発軽視
  が致命傷に
  ───────────────────────────
   1954年、東京通信工業(現ソニー、以下:東通工)で
  テープレコーダーの製造部長を務める岩間和夫氏が、米国ペ
  ンシルベニア州にあるウエスタン・エレクトリック(WE)
  社を訪れた。
   多くの人にとってウエスタン・エレクトリックはまだ聞き
  慣れない名前かもしれないが、傘下にかの有名なベル研究所
  を抱えている。世界のチップ産業の土台をなす「トランジス
  タ」はベル研究所で発明された。1952年、ちょうど米国
  を視察中だった東通工の創業者・井深大氏はトランジスタが
  テープレコーダーの開発に活用できると考え、2万5000
  ドル(当時のレートで約900万円)でトランジスタの特許
  使用契約を結んだ。しかしこの決断は社内から猛反対を受け
  る。トランジスタを発明した米国人でも作れないのに、日本
  人が製造できるはずはないというのだ。井深氏が買い取った
  特許権には、技術の詳細や製造方法は含まれておらず、どう
  作るかも分からないものの図面に大枚をはたいたようなもの
  だった。当時、東通工にあった唯一の資料といえば、同じく
  創業者の盛田昭夫氏が米国から持ち帰った書籍「トランジス
  タ技術」3冊のみだった。途方にくれていたとき、前出の岩
  間氏がトランジスタ研究のため米国に赴くことを申し出る。
  米国ではウエスタン・エレクトリック社の職員が家族のよう
  に喜んで迎えてくれたものの、写真撮影やノートをとること
  は一切許されなかった。    https://bit.ly/42MOaxT
  ───────────────────────────
IC(集積回路).jpg
IC(集積回路)
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2023年03月30日

●「ARMプロセッサHPC分野進出」(第5936号)

 ARMプロセッサが、スマホやIоTデバイス、ラズベリー・
パイや組み込み機器などの比較的小型電子機器などに幅広く使わ
れているだけでなく、いわゆる「ウインテル」がこれまで支配し
ていたPCの分野や、スーパーコンピュータなどへも進出してい
ることは、ここまでの記述でわかると思います。
 なぜ、そこまで普及したのかというと、ARMのプロセッサは
その性能に対して消費電力少ないことと、発熱が少ないことがメ
リットとして上げられるからです。この消費電力が少ないことと
発熱の少ないことが、コンピュータをはじめとするあらゆる電子
機器において、現在、最も重要になっているのです。
 そしていまARMがターゲットにしているのが、サーバー分野
への進出であり、それは既に始まっています。ARMのサーバー
分野への進出について、ARM日本法人の内海弦社長は、201
9年12月の講演で、次のように述べています。
─────────────────────────────
 一番最近ですと、サーバーやクラウドでも利用が始まっていま
す。サーバーやクラウドは、ほかのプロセッサで言う“パフォー
マンス重視”の場合の一番の牙城だったわけです。そこでも、だ
んだん電力消費が問題になってきたんですね。
 なぜかと言うと、サーバーのデータセンターを運営する場合に
エアコンの電気代もほぼ同じくらい電気を食っていることが、み
なさんもうおわかりになってきたんです。そうすると、どうやっ
て下げるかと言うと、一番電気を食っているプロセッサとストレ
ージの部分の電力を下げないといけない。電力の先鋒となるプロ
セッサに、電力効率がいいものが求められてきているというのが
現状でございます。         https://bit.ly/3TOvycC
─────────────────────────────
 まだ十分見えていないところが多いですが、ARMのサーバー
向けプロセッサについて、情報を集めてみることにします。AR
Mがサーバー専用プロセッサブランドとなる「ネオバース」を発
表したのは、米国における技術者向けのイベント「ARMテクコ
ン/2018」においてです。「ネオバース/Neoverse」は、サ
ーバー向けに設計されるプロセッサとなり、ARMとしてはこの
「ネオバース」によって、本格的にサーバー向けのプロセッサに
参入したことになります。
 現在、「ネオバース」は、「HPC4分野」といわれる分野に
おいて、着実に採用が拡大しています。「HPC4分野」とは次
の4つの分野です。
─────────────────────────────
      ◎HPC4分野/High Performance Computer
       @クラウドやデータセンター
       A5Gなどの無線通信インフラ
       Bネットワーク/エッジ機器
       Cスーパーコンピュータ
─────────────────────────────
 とくにAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)や、マイクロソ
フトの「アジュール」といったパブリッククラウドへの浸透で、
ARMとしては手応えを得ているといいます。
 ARM英国本社において、インフラストラクチャ事業部門・シ
ニア・バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーを務めるク
リス・バーギー氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 現在、ARMのなかで、最も勢いのある事業は「車載」、そし
て「インフラ」である。       ──クリス・バーギー氏
─────────────────────────────
 @のクラウドレベルの採用において、アマゾンのAWSや、マ
イクロソフトのアジュールのほか、オラクルの「オラクル・クラ
ウド・インフラストラクチャ」、アリババの「アリババ・クラウ
ド」、テンセントの「テンセント・クラウド」などに採用が拡大
しています。
 Aの5Gなどの無線通信インフラ向けでは、レノボ、デル・テ
クノロジーズ、そして、HPE(ヒューレッド・パッカード・エ
ンタプライズ)が、「ネオバース」ベースのシステムをリリース
しています。
 今後、ARMのサーバー用プロセッサ「ネオバース」がどこま
で拡充するかについて、デル・テクノロジーは、次のような見解
を述べています。
─────────────────────────────
 デルとしては、x86サーバー(インテル系)がすべてARM
サーバーに切り替わるとは思っていません。x86サーバーとA
RMサーバーが共存する「ハイブリッドデータセンター」といっ
たイメージを描いています。
 PCやモバイル、スマートフォンなどの膨大なアクセスをさば
くには、高密度で、低消費電力のウェブサーバーが、多数必要に
なります。ウェブサーバーの上のレイヤでは、大規模なメモリ容
量を必要とするmemcached(メムキャッシュディ)、 データベー
ス、アプリケーションサーバーなどが必要になります。こういっ
たソフトウェアは、現状ではx86をベースとした既存のサーバ
ーが利用されると思います。
 将来的に、64ビットARM上で多くのアプリケーションやシ
ステムが開発され、成熟してくれば、いくつかの機能が、ARM
サーバー上に置かれるようになるでしょう。ただ、現状ではOS
やアプリケーションなどのソフトウェアが開発途上にあるため、
どこまでARMサーバーに置き替わるかわかりません。フロント
のウェブサーバーとして利用するには、現状でもARMサーバー
はメリットがあると思います。    https://bit.ly/42NtndC
─────────────────────────────
 HPC分野の話になると、技術的に難しい言葉がたくさん出て
くるので、内容を正確に把握するのは大変だと思います。
           ──[メタバースと日本経済/052]

≪画像および関連情報≫
 ●ARMは2025年までにデータセンター向けCPUの
  22%を占める
  ───────────────────────────
   台湾の調査会社トレンドフォース(TrendForce)は、クラ
  ウドサービスプロバイダーによるARM対応プロセッサの採
  用が進み、2025年までにデータセンターサーバにおける
  ARMアーキテクチャの普及率が22%に拡大すると予想し
  ている。
   3月下旬に発表されたレポートでは、ARMベースのクラ
  ウドインスタンスの設置台数を増やしているAWSが、AR
  MのCPU設計図が、サーバーに普及する大きなきっかけに
  なっていると指摘し、競合するクラウド事業者が、自社製の
  チップ設計でキャッチアップすることを余儀なくされている
  と述べている。この報告書には、先月NVIDIAがARM
  の買収に失敗し、その後ARMが米株式市場への再参入を計
  画していることが、サーバーの採用にどのような影響を及ぼ
  すかについては言及されていない。
   いずれにせよ、人工知能(AI)や高性能コンピューティ
  ングなどの分野でより大きな需要に直面するクラウドプロバ
  イダーにとって、こうした自社開発のARM互換チッププロ
  ジェクトは、より柔軟な対応を可能にしている。これがデー
  タセンターにおけるARMの採用が今後も続くと、トレンド
  フォースが考える大きな理由の1つだ。「テストが成功すれ
  ば、これらのプロジェクトは2025年に大量導入を開始す
  ると予想される」        https://bit.ly/3npzhBl
  ───────────────────────────
「ネオバースV2」.jpg
「ネオバースV2」
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2023年03月29日

●「ARM・PC/使い勝手が変化する」(第5935号)

 SoC(System on Chip)といえば、スマホ用CPUのことで
したが、今や「PC用のSoC」というものが続々と登場してい
ます。そこで、米クァルコム(Qualcomm)のSoC「スナップド
ラゴン/Snapdragon」を使ったノートPCをもう1台ご紹介する
ことにします。クァルコムは、カリフォルニア州に本社を置く米
国のモバイル通信技術関連の大手企業です。
 現在のノートPCに求められる機能としては、次の4つが上げ
られます。
─────────────────────────────
      @パワフルな性能
      A長時間のバッテリー駆動
      B5G回線による常時ネットへの接続
      Cテレワークでの使いやすさ
─────────────────────────────
 このノートPCの条件にすべて合格するノートPCが、ヒュー
レッド・パッカード(HP)製の次のノートPCです。
─────────────────────────────
      ARM系CPUでもウインドウズが動く
   ヒューレッドパッカード/エリート・フォリオ
                 HP Elite Folio
─────────────────────────────
 「エリート・フォリオ」はどのようなPCであるのか、その主
要機能を以下に示すことにします。
─────────────────────────────
   CPU:クァルコム/スナップドラゴン/8cx Gen2(3GHz)
 コア数など:8コア/8スレッド
   メモリ:LPDDR4X/8GB(16GB)
 ストレージ:NVMeSSD(256GB/512GB)
    OS:ARM版ウインドウズ10プロ
    無線:WiFi6、ブルーツゥース
    重量:1・3Kg
    価格:18万4580〜19万7780円
─────────────────────────────
 CPUの欄に「スナップドラゴン」とあります。CPUとあり
ますが、正確にはPCの各種機能が集約化されたSoCです。こ
れはスマホでは定番のARM系のCPUですが、“8cx Gen 2”
はPC用に設計された高性能モデルです。8コア8スレッド(C
PUが8個付いたモデル)で、動作クロックは最大3GHzであ
りながら、きわめて低い消費電力でそれを実現しています。
 添付ファイルに、このエリート・フォリオで、マイクロソフト
オフィスがどのように動くか、インテルのコアi5−7200搭
載ノートPCと比較したベンチマークテストの結果のグラフを付
けています。青がヒューレッド・パッカード、赤がインテルを表
しています。アウトルック以外は、ヒューレッド・パッカードが
上回っているように見えます。
 しかし、インテルのコアi5は、インテルのCPUとしては低
いレベルであると思うので、むしろARM系のCPUでも、イン
テルのコアi5レべルまで来たというぐらいに捉えるべきである
と思います。
 この日本HPエリート・フォリオを試用した芹澤正芳氏は、そ
の使用体験について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 スマホ感覚の実現でもう1つ欠かせないのが長大なバッテリ駆
動時間だ。公称で約21・1時間を実現しており、これならば、
カフェや移動中の社内などでPCを使っても日中の充電は不要と
言える。駆動時間を気にすることなく仕事ができるし、充電器を
持ち運ぶ必要もない。寝るときに充電すれば十分というのはまさ
にスマホと同じだ。(中略)
 また、テレワークでの利用を想定してパワーポイントでスライ
ド作成15分、ワードで文章作成15分、Zoomでウェブ会議
15分、ウェブブラウザ(Edge)でサイト巡回を15分の合計1時
間の利用でバッテリの消費は7%だった。単純計算ではあるが、
この使い方なら約14時間30分はバッテリが持つことになる。
実に心強い。
 ARM版ウインドウズ10ということで動作アプリの問題が一
番気になるところだろうが、32ビット(x86)版アプリが動
き、ARMネイティブアプリも増えつつあるので現状仕事で困る
ことはあまりない。
 何よりファンレスで十分なパフォーマンスがあり、バッテリの
残量を気にせず1日使えるのは何より心強い。カフェで仕事する
際にコンセントが使えるか調べる必要もないし、会議や打ち合わ
せでもバッテリが保つか心配することもなくなるので、ACアダ
プタを持ち歩く必要もない。
 まだまだ数は少ないが、圧倒的な低消費電力を持つARM系C
PU搭載ノートPCは、新たなビジネススタイルを生み出す可能
性を十分持っていると、今回HPエリート・フォリオを試用する
ことで実感できた。        https://bit.ly/3nn0UuW
─────────────────────────────
 HPのエリート・フォリオについて、大事なことを一つ忘れる
ところでした。このノートPCには、CPUを冷やすファンが付
いていないことです。そのため、バッテリーの持ちがよくなって
います。それがARMのCPUの最大の特色です。
 ARMのプロセッサがスマホから発展して、ノートPCまで進
出し、ノートPCの使い勝手が変わろうとしています。13・5
型のディスプレイは、タッチ仕様に加えて、専用ペンの利用も可
能になっています。ペンでちょっとしたことをメモしたり、スマ
ホ感覚でタッチパットも使えます。
 実は、ARMプロセッサの進撃は、インテルとAMDが支配す
るサーバー分野にも進出を行おうとしています。明日のEJで取
り上げます。     ──[メタバースと日本経済/051]

≪画像および関連情報≫
 ●中国半導体業界 脱海外発の動き──RISC−V
  ───────────────────────────
   2020年9月、「ソフトバンクがアームをエヌビディア
  に売却」と大きく報道された。アームもエヌビディアも、一
  般の人々が直接触れることの少ない半導体に関係するIT企
  業だが、ソフトバンクは243億ポンド(約3・3兆円)で
  買収し、400億ドル(約4・2兆円)で売却する、という
  額が桁外れで話題となった。
   日本で時価総額4兆円の企業はセブン&アイ、みずほグル
  ープ、三井物産あたりになる。そのアーム社はコンピュータ
  の基本設計といわれるアーキテクチャー(設計構造)を開発す
  る会社。アーキテクチャーはいわば構造で、組立て方、接続
  方法、指令方法などの規格体系。ICの設計は、決まった受
  け皿の上に設計者が必要な機能を載せていくイメージ。
   同社は、主に半導体企業にライセンス供与して収入を得る
  英国起源の会社である。といってもやはり、なんだそれは、
  と普通思うだろう。例えば、スマートフォンの中核で司令塔
  に当たるプロセッサーは、アイフォーンもアンドロイドもほ
  とんどがアームのアーキテクチャーを採用している。主な理
  由は、アームの特徴である低電力消費にある。スマートフォ
  ン最大の弱点で、いつまでたっても抜本的に解決されない課
  題は電池。現在主流のリチウムイオン電池を搭載した例えば
  アイフォーンも、ほぼ毎日充電しないといけない。そのため
  とにかく消費電力が低いことが求められる。
                  https://bit.ly/3FUrGBe
  ───────────────────────────
エリート・フォリオのベンチマーク.jpg
エリート・フォリオのベンチマーク
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2023年03月28日

「PCプロセッサのARM化が進行中」( 第5934号)

 WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本が3大
会ぶりに優勝!!これは快挙です。専門家の試算によると、その
経済効果は、およそ600億円に上るといわれます。これまで低
迷を続けてきている日本経済の浮上に一役買うことは確かである
といえます。
 ここまで、国産半導体メーカーの新会社「ラピダス」の誕生に
とってその投資陣にARMを傘下に擁するSBGが加わっている
ことの意義について、ARMについて詳しく述べてきています。
たびたび取り上げているARMホールディングの日本法人、アー
ム株式会社の代表取締役社長の内海弦氏は、ARM買収による日
本経済への貢献について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 海外企業の日本法人ではあるものの、アームとして日本の経済
に貢献したいという気持ちは強い。買収前は、英国本社や株主の
意向が重視されており、そういった気持ちを実業につなげるのは
難しいことも多かった。しかし現在は、株主であるソフトバンク
が日本にいるわけで、以前よりも格段に風通しが良くなった。
 日本は技術のタネができる国であり、自動車、ハイテク、FA
医療機器などの分野では技術のトレンドセッターだ。その技術の
タネを使って日本の経済に貢献する活動を強い意志を持ってやれ
る環境が整ったと感じている。  ──アーム株式会社内海社長
                  https://bit.ly/40yEgOy
─────────────────────────────
 ARMについては、まだ述べることがたくさんあります。AR
Mは、コンピュータ・プロセッサとしては、インテルやAMDな
どのCISCアーキテクチャのファミリーと違い、RISCアー
キテクチャのファミリーに属しています。
 プロセッサー・アーキテクチャとしてのRISCは、現在、世
界で最も普及しており、各種センサーからウェアラブル端末、ス
マートフォン、スーパーコンピュータに至るまで、毎年数十億個
ものARMベース・デバイスが出荷されており、過去30年間に
パートナーが出荷したARMベースのチップは2500億個を超
えています。
 2022年10月13日未明のことです。マイクロソフトは、
次のオンライン・イベントを行い、自社ブランドPC「サーフェ
ス」シリーズ3種類の新製品群を発表しています。
─────────────────────────────
     ◎「Microsoft Fall 2022 Event」
      @「サーフェス・ラップトップ5」
      A「サーフェス・スタジオ2+」
      B「サーフェス・プロ9」
─────────────────────────────
 注目なのは「サーフェス・プロ9」です。これには2機種あっ
て、次のようにそれぞれプロセッサーが異なるのです。
─────────────────────────────
 @インテルの「第12世代コアiシリーズ」プロセッサーを
  搭載した仕様/インテル版/価格16万2580円
 Aクァルコムと協業で開発したARM系プロセッサー「SQ
  3」を搭載した仕様/SQR版/価格21万6480円
─────────────────────────────
 注目はAです。この機種は正確には「サーフェス・プロ9ウィ
ズ5G」といい、5Gでの通信機能を標準搭載するモデルであっ
て、「SQ3」というARM系プロセッサーを搭載しています。
遂にPCのプロセッサーにもARMが登場してきています。
 2つの機種とも、ボディサイズ・重量にほとんど違いはなく、
ディスプレイなど基本的なスペックは同じですが、「バッテリー
駆動時間」が違います。インテル版が「一般的な処理で15・5
時間」とされているのに対して、SQ3版は「19時間」となっ
ており、ARM系プロセッサーの特徴を表しています。なお、S
Q3版で動作するのは、ARM版ウインドウズ11ということに
なります。「サーフェス・プロ9」について、ITジャーナリス
トの西田宗千佳氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 マイクロソフトは、SQ3を使った「サーフェス・プロ9ウィ
ズ5G」を、主に企業向けと位置付けている(公式サイトからの
注文では個人でも購入は可能)。個人ユーザー向けに出荷するの
は、あくまでインテル製プロセッサーを使った「サーフェス・プ
ロ9」となる。これは、エミュレーションによる分かりにくさに
関するリスクなどを避けた結果かとも思う。
 マイクロソフトのこの対応は、2020年にアップルが一気に
「M1」でARM系チップに舵を切ったのとは、対照的とも言え
る。アップルも、当初はエミュレーションを売りにしてアプリの
互換性を担保していたからだ。また、5G接続は企業ニーズが中
心、ということも影響しているだろう。だから、インテルのシェ
アが一気に下がる・・・ということは考えづらい。
                  https://bit.ly/3nnqMqz
─────────────────────────────
 ここで「コンピュータ・プロセッサ」といわれ、単に「プロセ
ッサ」と呼ばれることのあるこの技術用語が非常にわかりずらく
なっています。おおまかには「プロセッサ=CPU」と考えて大
きな間違いはありませんが、ARMの拡大によって「SoC」も
プロセッサと呼ばれることもあるからです。PCの世界にもAR
Mプロセッサが進出しつつある現在、CPUとSoCの違いにつ
いて、再度頭の整理をしておく必要があります。
 スマホではSoCは当たり前ですが、ノートPC向けSoCも
あるのです。ノートPCにSoCが搭載されると、何が変わるの
でしょうか。ノートPCを購入するときの前提知識になる可能性
があります。いずれにしても、プロセッサは、インテルとAMD
の時代ではなくなってきているといえます。
           ──[メタバースと日本経済/050]

≪画像および関連情報≫
 ●巻き返しの準備を進める「Intel」/約束を果たせなかった
  「Apple」――プロセッサで振り返る2022年
  ───────────────────────────
   2022年の大みそか――アップルはこの日までに“全て
  の”Macをアップルシリコン化、すなわち自社設計SoC
  への移行を完了するはずだった。しかし現実を見てみると、
  「Macミニ」の一部モデルと「Macプロ」の全モデルに
  は、“いまだに”インテル製CPUのままである。その理由
  は定かではないが、アップルが珍しく自信を持ってアナウン
  スしていた計画を達成できなかった例となってしまった。
   一方でインテルはパフォーマンスコア(Pコア)と高効率
  コア(Eコア)のハイブリッド構造を本格採用した「第12
  世代コアプロセッサ(開発コード名:Alder Lake)」が好評
  を持って迎えられ、一時期の“停滞”を脱してかつてのいき
  おいを取り戻しつつある。
   2022年を締めるに当たり、主にアップルとインテルと
  の2社を、SoC(CPU)視点で振り返ってみよう。
   ここ数年、アップルは自社設計のSoCをうまく活用し、
  さまざまな驚きを演出してきた。
   あまりに多くの人が手にしているため軽視されがちだが、
  アイフォーン13/13プロシリーズが搭載した「A15バ
  イオニックチップ」は、電力効率とピークパフォーマンスの
  バランスに優れた“名作”ともいえるSoCだった。
                  https://bit.ly/42Sg7o6
  ───────────────────────────
「サーフェス・プロ9」.jpg
「サーフェス・プロ9」
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2023年03月27日

●「SBGのARM売却が不成立の理由」(第5933号)

 ARMに対するソフトバンクグループの孫会長の対応を再現し
ます。@とAについては、既に述べていますので、今日は、Bに
ついて述べることにします。
─────────────────────────────
   @ソフトバンクの孫会長はなぜARMを買収したのか
   AARMはなぜソフトバンクの買収を受け入れたのか
 → BARMをなぜエヌビディアに売却しようとしたのか
─────────────────────────────
 2020年9月13日のことです。同日の日本経済新聞に次の
記事が掲載されたのです。
─────────────────────────────
 ソフトバンクグループ(SBG)が傘下の英半導体設計アーム
を米半導体大手エヌビディアに売却する方向で最終調整に入った
ことが13日、明らかになった。2社はSBGがエヌビディア株
を取得するなど、売却に株式交換を組み合わせる方向で調整して
いる。売却額は4兆円規模となる見通しだ。
         ──2020年9月13日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 EJは、技術の専門マガジンではないので、エヌビディアにつ
いて説明する必要があります。エヌビディア(NVIDIA)と
は、コンピュータの画像処理を行うための半導体、GPU(グラ
フィックス・プロセッシング・ユニット)の世界有数の米国のメ
ーカーです。ゲーム分野やAIの機械学習などに用いられること
が多く、1993年に創業し、1999年に米NASDAQ市場
に上場しています。AIのためには、なくてはならない企業の一
つです。
 なんと孫会長は、彼の類稀なる先見の明によって獲得したAR
Mを売却するというのです。売却額は最大400億ドル、日本円
にして4・2兆円になります。ARMは3・3兆円で買収してい
るので、損はしませんが、孫会長が投資目的のために、ARMを
買ったとは思えないのです。
 最大の理由は、SBGの手元資金確保のためと考えられます。
おそらく背に腹は代えられないという思いではないでしょうか。
SBGは投資会社としての側面を強めてきており、「ソフトバン
ク・ビジョン・ファンド」を設立して、多くのAI関連企業に投
資をして事業拡大を進めてきたところだったのです。なかでもA
RMは、近い将来価値が出るとして、SBGが大事に育ててきた
企業です。
 しかし、コロナ禍で、投資先企業の株価下落などによって業績
が急速に悪化し、資金不足に陥ったのです。その防衛策として、
Tモバイルの米国法人や、アリババ、ソフトバンクなど、同社が
持つ株式の一部を売却するなどして、現金の確保を積極化してき
たのです。そこに、エヌビディアが有力な買い手として、登場し
たというわけです。
 米国へのARMの上場か、それとも売却か──どちらも大きな
カベがありますが、上場より多く利益が出せる可能性の高い買い
取り手が現れたことによって、SBGの孫会長の心が大きく動い
たものと思われます。
 しかし、ARMのエヌビディアへの売却は実現しなかったので
す。本契約をめぐり、米連邦取引委員会(FTC)は2021年
12月に半導体市場の競争を阻害するとして、買収差し止めを求
めてエヌビディアを提訴したからです。英国やEU各国の政府な
ども反対姿勢を見せたといいます。
 米連邦取引委員会は、SBGの孫会長を警戒しているのです。
孫会長は、独占禁止法によって、この買収を差し止めるのは無理
があるとして次のように批判しています。
─────────────────────────────
 通常、同じ業界の2社が合併する場合は独占禁止法の問題で止
められるが、エヌビディアとARMは、エンジンとタイヤぐらい
違う物を作っている。そんな2社の合併を独占禁止法で阻止する
のは、同法が始まって以来初めてのケースである。なぜそれほど
までに止めなければならなかったのか。非常に驚いた。
 IT企業や各国政府が、そこまで止めなければならないという
くらいに、ARMは欠かすことのできない最重要企業の一つであ
るということである。         ──SBG孫正義会長
                  https://bit.ly/3JIhZqA
─────────────────────────────
 FTCや英国やEU各国の政府は、孫会長の本音を見抜いて、
売却を差し止めたのではないかと思われます。その本音とは「A
RMをエヌビディアに合併させ、そのうえで、エヌビディアの筆
頭株主になる」というものです。つまり、ARMのエヌビディア
の子会社化で、半導体業界最強の会社を作り、SBGがそこの筆
頭株主になるというものです。
 それでは、孫会長はどうしようとしているのでしょうか。
 それは「プランA」に戻ることです。プランAとは、ARMを
米NASDAQへ上場させることです。ARMの技術はこれまで
IоT機器やスマートフォンのSoCなど、省電力性が求められ
る機器に採用されてきていますが、処理能力の向上で、クラウド
サーバやEV、メタバースなど、さまざまな分野での活用が見込
めるようになっているからです。そういうわけで、孫会長は、半
導体業界史上最大の上場を目指すとしています。
 この売却不成立によって、買収時にエヌビディアが先払いした
12・5億ドル(約1448億円)は、大型買収の手付金のよう
な性質があるため、エヌビディアに返却されず、SBGの利益に
なるといいます。SBGにとって大儲けのように思えますが、エ
ヌビディアは、ARMから20年間のライセンス利用権を取得し
ているので、損はしていないのです。エヌビディアほどの規模で
あれば、20年のライセンス料としての12・5億ドルは、「か
なり格安」といえるからです。
           ──[メタバースと日本経済/049]

≪画像および関連情報≫
 ●ARM再上場を準備するソフトバンクG、孫氏復活は
  「もうしばらく時間を」--赤字は継続
  ───────────────────────────
   ソフトバンクグループは2月7日、2023年3月期第3
  四半期決算を発表。売上高は前年同期比6・4%増の4兆8
  758億円、税引前損益は2900億円、純損益は9125
  億円と、今期も赤字決算となった。
   中国アリババの株式を一部手放すなど、アリババ関連の取
  引で3兆6996億円の利益を得た一方、AI関連を中心と
  した投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」で
  の投資損失が5兆68億円と大きく響いたことが赤字の主な
  要因となっている。
   その背景には世界情勢不安などによる株式市場の不安定さ
  があり、同社もこの四半期、ソフトバンク・ビジョン・ファ
  ンドで新たに投資した企業は2社のみとのこと。攻めから守
  りへと戦略を大きく転換したことから、今回の決算からは代
  表取締役会長兼社長執行役員の孫正義氏が登壇せず、代わり
  に取締役・専務執行役員・CFO兼CISOの後藤芳光氏が
  単独で説明する形が取られている。
   その後藤氏も、株式市場の不安定な時期がまだまだ継続し
  ており「とても楽観視できる状況にない」と話す。それに加
  えて為替の大幅な変動や金利の上昇などもあって市場全体の
  不安定要素が増していることから、後藤氏はソフトバンクグ
  ループの財務健全性に重点を置いた説明を実施している。
                  https://bit.ly/42CSYFZ
  ───────────────────────────
ARMをNVIDIAに売却へ.jpg
ARMをNVIDIAに売却へ
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2023年03月24日

●「ARM買収などをめぐる3つの謎」(第5932号)

 ARMに対して、ソフトバンクグループの孫会長の対応には、
3つの謎があります。
─────────────────────────────
   @ソフトバンクの孫会長はなぜARMを買収したのか
   AARMはなぜソフトバンクの買収を受け入れたのか
   BARMをなぜエヌビディアに売却しようとしたのか
─────────────────────────────
 まず、@について考察します。
 ソフトバンクグループ(SBG)がARMの買収を発表したの
は2016年9月のことです。そのとき、多くの人が考えたこと
は次の疑問です。
─────────────────────────────
 携帯通信事業のソフトバンクが、なぜ半導体の設計会社を買収
するのか。一体SBGは何を考えているのか。
─────────────────────────────
 しかも、買収金額が高額過ぎるのです。SBGのこれまでの買
収金額と比べても倍近いからです。
─────────────────────────────
  @ボーダフォン日本法人買収 ・・ 1兆7820億円
  A米スプリントの買収 ・・・・・ 1兆8000億円
  BARMの買収 ・・・・・・・・ 3兆3000億円
─────────────────────────────
 これについて、SBGの孫会長は、買収の目的を囲碁に例えて
次のように述べています。
─────────────────────────────
 囲碁は碁石のすぐ隣に打つのは素人のやり方。遠く離れたとこ
ろに打ち、それが50手目、100手目になると力を発揮する。
3年、5年、10年が経過すれば、ソフトバンクグループにAR
Mがいる意味が分かる。ソフトバンクグループの中核中の中核に
なる企業がARMである。      https://bit.ly/2lYeRje
─────────────────────────────
 考えられることがひとつあります。携帯通信事業には、いわゆ
る「土管化」のリスクがあります。携帯通信会社は、その事業に
専念すると、スマホにもアプリにも影響を与えることができず、
ただ通信データを流すだけの土管屋になってしまうリスクがある
ことです。何の付加価値も得られず、通話料や通信料の値下げで
しか、競争に勝つ手段がなく、利益率を押し下げてしまいます。
 孫会長が目をつけたのは、あそらくIоT市場であると思われ
ます。IоTは「モノインターネット」といわれますが、それら
のモノにARMの半導体が入り、インターネットに繋がります。
今後そのモノが激増することから、IоT市場は今後17%の高
い成長が見込まれています。
 もうひとつSBGがARMを買収する大きなメリットがありま
す。半導体の設計をする企業を買収すると、メーカーが今後どの
ようなテクノロジーを必要としているかについて、情報が得られ
ることです。そうすると、そこで得られた機密性の高い情報に基
づいて、SBGは先手を打った事業開発や投資を行うことができ
ることになります。つまり、ARMを買収することによって、携
帯通信のバリューチェーンにおいて川下にいたSBGは、川上に
立つことができるわけです。
 続いて、Aについて考えます。
 既に述べているように、ARMという企業は、資本効率が非常
に高い企業です。粗利益は約95%、営業利益は42%、きわめ
て高い指標を示しています。しかも、ARMの収入源は、ライセ
ンス料とロイアリティが中心です。しかも、このようにして得ら
れるIP(知的財産権)は25年以上有効というのですから、安
定そのものです。
 SBGがARMを買収する前年の2015年でいうと、ARM
が設計した集積回路は148億個、さらにARMチップを搭載し
たスマホが14億個も売れて売れています。モバイル端末での市
場シェアは実に82%、これによってARMには莫大なロイヤリ
ティが入ってきます。
 しかし、業績が好調であればあるほど、株主は「小さくしか儲
けていないんじゃないか」という批判が出てくるものです。それ
が内海弦社長がいう「ARMは2000億円企業です」によくあ
らわれています。
 しかし、ARMとしては、サーバー製品のようにインテルに独
占を許している分野がたくさんあり、その競合に勝利するには、
多くの資金が必要であることがよくわかっています。その点、S
BGの孫正義会長は、早くからARMを高く評価しており、英国
の首相や財務大臣にも会っており、英国政府からも信頼されてい
ます。ARMの経営陣としては、ARMの将来の発展を考えるの
であれば、ソフトバンクの買収に応ずるのは、マイナスではない
と考えても不思議はないとて、SBGの買収に応諾したのではな
いかと考えられます。
 この点について、現在、スペイン在住のITコンサルタント・
佐藤隆之氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 このように競争が激化する半導体設計の中で、ARMの技術力
は突出しており、競合のインテルやAMDですらARMの力を借
りる、つまりライセンス契約を締結するほどです。ほとんどの半
導体市場で高いシェアを有するARMですが、唯一、サーバー製
品だけはインテルの独占を許しています。現在の株価に42・9
%のプレミアムの付いたソフトバンクによる買収により、ARM
は巨額の資金を調達できるので、強みを持つモバイルや組み込み
機器へはもちろん、サーバー製品への投資も拡大させると見られ
ています。  ──スペイン在住・コンサルタント/佐藤隆之氏
─────────────────────────────
 Bについては、来週のEJで述べることにします。
           ──[メタバースと日本経済/048]

≪画像および関連情報≫
 ●ソフトバンク孫社長はARM買収で「シンギュラリティ」
  を先取りしようとしている
  ───────────────────────────
   ソフトバンクグループによるARM買収という発表を受け
  た業界の反応は、総じてネガティブなものだった。「なぜソ
  フトバンクが半導体会社を買うのか」「既存の事業とのシナ
  ジーが期待できない」といったところだ。
   さらに世間を驚愕させたのが、約3兆3000億円という
  あまりにも巨額な買収金額である。過去に、ソフトバンクが
  行ってきたボーダフォン日本法人買収の1兆7820億円、
  米スプリント買収の約1兆8000億円と比べても2倍に近
  い金額なのだから、にわかには、理解できないのも無理はな
  い。実際、翌7月19日の株式市場はソフトバンク株が急落
  した。
   なぜ、孫正義社長は、このような大胆な買収に踏み切った
  のだろうか。もちろん単なる勢いでこんなことをやれるはず
  がない。すべての始まりは、いまから約40年前の孫社長が
  まだ19歳だったときのこと。カリフォルニア大学バークレ
  ー校の学生だった孫社長の目にとまったのは、読みかけのサ
  イエンス雑誌に掲載されていた1枚の摩訶不思議な写真。そ
  れがマイクロプロセッサーの拡大写真であることを、そのと
  き初めて知ったのである。「大きなコンピュータが、指先に
  乗っかるサイズになった。ついに人類は、自らの知性を超え
  るものを自らの手で作り出してしまったという思いに手足が
  ジーンとしびれ、涙が止まらなかった。そのときの感動と興
  奮を、これまでの40年間にわたって潜在意識に中にずっと
  封印していた」まさにその封印を解いたのが、ARMとの出
  会いだったわけだ。       https://bit.ly/3LAJt47
  ───────────────────────────
ARM買収について語る孫正義会長.jpg
ARM買収について語る孫正義会長
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2023年03月23日

●「ARMのビジネスモデルとは何か」(第5931号)

 半導体業界において、プロセッサやSoC分野は、次の2つに
分けられます。なお、ここでいうプロセッサとは、CPUのこと
であると考えていただいた結構です。
─────────────────────────────
  ファブレス ・・ 工場(ファブ)を持たない設計専門の
           半導体メーカー
 ファウンドリ ・・ 半導体デバイスを製造する工場を持つ
           半導体メーカー
─────────────────────────────
 ファウンドリには2つがあります。設計から製造までを一貫し
て手掛けるメーカーと、製造に特化するメーカーです。前者が米
国のインテル、韓国のサムスン電子、後者に該当するのは、台湾
のTSMCです。
 ところで、世界で有名な半導体メーカーといえば、クアルコム
アップル、エヌビディア、AMD、そしてARMが上げられます
が、これらはすべてファブレス、半導体を製造する工場を持って
いないのです。
 もっともAMDは、インテルと同様に設計から製造を手掛けて
きたのですが、2012年に自社の製造部門を「グローバルファ
ウンディーズ/GlobalFoundries」 という別会社に分離し、AM
Dはファブレスになっています。ファブレスになってからのAM
Dは好調で、2019年にはCPU「ライゼン」を開発発売し、
販売台数シェアで、今やインテルを突き放しています。
 忘れてはならないのが、日本の半導体メーカーとして誕生した
新会社「ラピダス」はファブレスかファウンドリかのどちらに属
するかです。ラピダスは、「2ナノプロセス以下の製造技術」を
掲げているので、当然、半導体の設計から製造までを手掛ける、
ファウンドリを目指しています。
 このように考えると、世界の半導体メーカーのほとんどは、設
計専門のファブレスということになります。その設計専門のファ
ブレスのなかにあって、ARMが異彩を放っているのは、なぜで
しょうか。
 この疑問に答えるのは、かなりテクニカルな説明が必要なので
この時点では、ARMの場合、同じ設計専門といっても、そのレ
ベルが違うということだけを申し上げておきます。つまり、AR
Mは、単なるファブレスではないということです。
 ARMは、自社設計による半導体のテクノロジーを「知的財産
権」として開発し、半導体メーカーにライセンスを付与していま
す。知的所有権は、IPと呼ばれますが、IPは次の意味を持っ
ています。
─────────────────────────────
◎知的財産権/intellectual property rights
 知的財産権(IP)は特許、著作権、商標などによって法律で
保護されている。こうしたことによって、イノベーターはその発
明もしくは創造によって社会的に認識され、かつ金銭的な利益を
得ることができる。
─────────────────────────────
 それでは、ARMのビジネスモデルとは何でしょうか。
 ARMのテクノロジーを利用するには半導体メーカーは、AR
Mに対して、ライセンス料を支払う必要があります。そのうえで
その後のチップの販売数に応じたロイアリティ(印税)を支払わ
なければなりません。
 これを「2度取り」として、批判する向きもあります。しかし
この批判に対して、アーム株式会社代表取締役社長の内海弦氏は
次のように反論としています。
─────────────────────────────
 これ(ロイアリティ)をやってこなかった半導体知財の会社は
ほとんど潰れているんですね。なぜ潰れるかというのは2つ理由
があります。まずはこれまでのお客様とちゃんと信頼関係を築い
ているのにもかかわらず、新興のお客様に「ロイヤリティはいり
ませんよ」と言ってビジネスモデルを崩しますと、大変信頼関係
が崩れるんですね。
 一貫性を持ったビジネスモデルを30年近く続けていますと、
このモデルできちんと成功を共有できる。これは今となっては非
常にわかりやすいモデルで、リカーシブビジネスモデルとか言わ
れてますけれども。30年前は異端中の異端だったことは間違い
ないと思います。
 最近では半導体メーカーさんだけじゃなくて、セットメーカー
さんにも直接ライセンスする形態もございます。日本ですと最近
は理研さん、富士通さんに使われました。スパコン「富岳」と言
います。ポスト京のスパコンですね。これなどにはセットメーカ
ーさんというかたちで、富士通さんと理研さんに対してライセン
スを行っております。
 こういった先端のことをやられる企業さんの場合は、直接ライ
センスを持って設計に手を加えたいというケースがございます。
そういった場合は、ビジネスモデルとしては同じなんですけれど
も、セットメーカーさんからもまずライセンスフィーをいただい
て、そのあとロイヤリティもいただくことを一貫して行っており
ます。               https://bit.ly/3TqgCBn
─────────────────────────────
 半導体の市場規模は40兆円ぐらいですが、それに乗っかるソ
フトウェアの市場規模は60兆円くらいになります。ハードウェ
アとセットの場合は、175兆円ぐらいに膨らみます。そのなか
にあって、ARMは、せいぜい約2000億円の企業であると、
内海社長はいいます。このままではいけないと内海社長は考えて
いるようです。ビジネスモデルを変革する必要がある、と。
 それてにしても、ソフトバンクグループの孫正義会長は、何に
目を付けて、ARMを買収したのでしょうか。その意図について
も考察してみる価値があると思います。
           ──[メタバースと日本経済/047]

≪画像および関連情報≫
 ●半導体の特需は一巡、在庫調整は2023年後半まで続く
  見込み(世界)/日本貿易振興機構ジェトロレポート
  ───────────────────────────
   インフレの高進や、中国の新型コロナウイルス対策のゼロ
  コロナ政策に伴う経済活動制限、ロシアによるウクライナ侵
  攻の長期化などに伴う世界的な需要の低迷は、2021〜2
  022年に過去最高額を更新する勢いで成長を遂げた半導体
  市場にも、マイナスの影響を及ぼしている。とりわけ、デー
  タの記憶保持の役割を担う半導体回路装置、すなわち、メモ
  リー半導体に対する世界的な需要の減速は、同分野の主要メ
  ーカーに対し、業績見通しの下方修正や投資計画の見直しを
  迫る。半面、電気自動車(EV)をはじめとする車載向けや
  データセンター向けに利用されるパワー半導体などの分野で
  は旺盛な需要が継続しており、市場の二極化が進んでいる。
   他方、最大の需要国の中国の経済失速や、2022年10
  月以降の米国による半導体の対中輸出管理規制の強化に伴い
  中国との取引に関わる半導体のサプライチェーンの再編を模
  索する動きも徐々に進展することが見込まれる。グローバル
  市場向けの半導体供給のハブである韓国、台湾の業界団体や
  有識者の見方を中心に、半導体市況の変化と今後の市場の展
  望を概観する。
   WSTS(世界半導体市場統計)が2022年11月末に
  発表した2022年秋季半導体市場予測によると、同年の世
  界の半導体市場は前年比4・4%増と、前年の伸び(26・
  2%増)から大幅に減速した。2023年については4・1
  %減と、4年ぶりのマイナス成長を見込んでいる。
                  https://bit.ly/3Jxtj8K
  ───────────────────────────
ARMのビジネスモデル.jpg
ARMのビジネスモデル
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2023年03月22日

●「ジョブズがアップルでやったこと」(第5930号)

 スティーブ・ジョブズ氏が、アップル社のCEOになったのは
2000年のことです。スティーブ・ジョブズ氏は、ヘッドハン
ティングし、自ら創業したアップル社のCEOに就任させたジョ
ン・スカリー氏らによって、アップル社を追い出されています。
まるでドラマそのものです。
 アップル社を去ったジョブズ氏は、新しいコンピュータ「NE
XT」とOSを開発し、1996年に業績不振に陥っていたアッ
プル社にNEXTを売却する形で、1997年にアップル社の暫
定CEOに就任します。
 そしてやったことは、不倶戴天のライバルといわれていたマイ
クロソフト社のビル・ゲイツCEOと提携し、同社からの支援を
得ることに成功するかたわら、アップル社の社内のリストラを進
めるなど、会社の業績を向上させたことです。
 そして、2000年、スティーブ・ジョブズ氏は正式にアップ
ル社の社長兼CEOに就任します。しかし、基本給与として1ド
ルしか受け取っていなかったことで、「世界で最も給与の安い最
高経営責任者」といわれます。なぜ、1ドルを受け取ったかとい
うと、居住地のカリフォルニア州法により、社会保障番号を受け
るための給与証明が必要だったからです。
 それからのスティープ・ジョブズCEOの活躍は誰でも知る通
りです。MacOSをNEXTの技術を基盤とするMacOSX
へと切り替えるという基本的なことをしたうえで、ARMと組ん
で、音楽再生機アイポッド、携帯電話アイフォーン、そしてアイ
パッドと、アップルの業務範囲を従来のPCから、デジタル家電
とメディア配信事業へと拡大させています。これには、スカリー
氏が手掛けて失敗に終わっているPDA「ニュートン」の技術も
生きていると思います。
 なかでもジョブズCEOの重要な決断は、それまでアップル社
が採用していたパワーPCのプロセッサをインテル社へと切り替
えたことです。2006年のことです。これは当時としては驚天
動地の決断といえます。パワーPCは、アップル社、IBM、モ
トローラ社の提携で構築されたRISCタイプのとても良いマイ
クロプロセッサだったからです。アップル社のマッキントッシュ
やIBMのRS/6000で採用されており、スーパーコンピュ
ータでも広く採用されています。
 それにしても、ジョブズCEOは、なぜ、インテルのプロセッ
サを採用したのでしょうか。
 マイクロプロセッサ(CPU)を変更することは、変更する側
のアップル社の負担が尋常ではありません。まして、RISCか
らCISCへの変更であり、それまでアップルの開発したソフト
ウェアを動かすには、多くの困難があるからです。
 それでも、ジョブスCEOが決断したのは、当時のインテル/
ウインドウズ陣営の勢いというか、繁栄ぶりであり、売れるPC
を作るには、マーケティング的には、インテルプロセッサの採用
しかなかったからと思われます。
 参考までに、実際にインテルのプロセッサが搭載されたアップ
ル商品を以下に掲載しておきます。
─────────────────────────────
           @iMac
           AMac mini
           BMacBook
           CMacBook Air
           DMacBook Pro
           EMac Pro
           FXserve
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 スティーブ・ジョブズ氏について、もうひとつ述べておきたい
ことがあります。ジョブズ氏は、2003年に膵臓がんと診断さ
れていることです。アップル社の社長兼CEOに就任して、3年
後のことです。膵臓がんと宣告されれば、手術できないケースが
多く、手術に成功したとしても、5年生存率は20〜40%とい
われています。
 ジョブズ氏は自らの死期を悟っていたものと思われます。そし
て、2011年10月5日、CEOに就任して11年後、がんと
診断されて7年後に、スティーブ・ジョブズ氏は亡くなっている
のです。おそらく自分がやらなければいけないことをすべてやっ
て、本当に世界を変えて、亡くなっています。現在のアイフォー
ンやアイパッドの普及を考えると、本当に惜しい人材を亡くした
ものです。
 なお、インテルMacの評価について、日経クロステック誌の
テクニカルライター出雲井亨氏は、次のように評価し、その変更
が正しかっと述べています。
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 大きな理由は、その性能だ。インテルマックが採用するインテ
ル・コア・デュオは、パワーPCよりも明確に速い。アップルは
数種類のベンチマークの結果として、インテルCPU搭載のiM
acが従来機種と比べて2〜3倍、ノート型のMacBookに
至っては4〜5倍速い、とアピールする。実際に試した結果は後
述するが、確かにインテルマックは従来機種と比べてはっきり体
感できるほどキビキビと動作する。
 パワーPCの性能向上が限界に達しつつあったことも移行の理
由といえる。2003年6月の開発者向け会議で、ジョブズ氏は
「1年以内に3GHzのモデルが登場する」と約束したが、2年
たっても実現しなかった。また最新CPUのパワーPC・G5は
発熱の問題でノートに搭載できず、マックのノートはハイエンド
モデルでも一世代前のパワーPC・G4を搭載していた。このよ
うな状況の中で、アップルがインテルCPUへの移行を選択した
のは自然なこととも思える。     https://bit.ly/3n7u7cX
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           ──[メタバースと日本経済/046]

≪画像および関連情報≫
 ●スティーブ・ジョブズとは何者だったのだろうか?
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   後年のスティーブ・ジョブズは病気を別にすれば幸運にも
  恵まれ、かつ市場やメディアに対する対応の仕方を学習した
  からだろう・・・少なくとも対外的には大人の対応が目立つ
  人物になった。しかしスティーブ・ジョブズはスティーブ・
  ジョブズであり、ことアップルに関して自分のビジョンに反
  する意見や相手には相変わらず辛辣で容赦がなかった。果た
  して、スティーブ・ジョブズとは何者だったのだろうか?
   スティーブ・ジョブズはなぜシリコン・バレーに乱立した
  幾多のベンチャー企業の創業者たちと比較してもこれほどま
  でにカリスマ性を失わずにいられたのだろうか?以下は、そ
  んな私自身が常々疑問に思ってきたことに対するひとつの回
  答でもあり、いたづらに神とか天才といった言葉で祭り上げ
  るのではなく、スティーブ・ジョブズという男の本当の凄さ
  をあらためて認識したいとする試みのひとつだ。
   ところで「トラブルメーカー」・・・。この言葉ほど、ス
  ティーブ・ジョブズという人物を一言で表すのにふさわしい
  言葉はないかも知れない。ともかく他人の意見には耳をかさ
  ない・・・という以前に自分の言動に対して他人からどう思
  われるかなどまったく気にしない人物だった。交渉に出向い
  た会社で会議冒頭に「もっとマシな話はないのか」とテーブ
  ルをひっくり返さんばかりの癇癪を起こしたりもした。
                  https://bit.ly/3JPrXrn
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スティーブ・ジョブズ元アップル社長兼CEO.jpg
スティーブ・ジョブズ元アップル社長兼CEO
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする