2018年07月20日

●「ELIZAの名前の由来をさぐる」(EJ第4810号)

 いわゆる「チャットボット」は、人工知能ではなく、「人工無
能」と呼ばれています。要するにAIではないという意味です。
しかし、「人工無能」というと、何となくまがい物のイメージが
ありますが、けっしてそういうことではないのです。それはそれ
で十分人の役に立つからです。この場合、AIであるかないかは
問題ではないと思います。
 田方篤志氏が推進しようとしている「心を持つロボット」は、
人工無能を脱して、本物のAIを作り出そうとする動きととらえ
ることができます。それが本当に実現されるかどうかはともかく
チャットボットとは分けて考えるべきであると思います。
 さて、既に述べているように、人工無能、すなわち、「お喋り
ロボット」の元祖は、「イライザ/ELIZA」です。MITの
ジョセフ・ワイゼンバウム教授が、1964年から1966年に
かけて書いたプログラムで、精神療法に使われたといわれていま
す。このプログラム「イライザ」は、現在でも、英語でなら十分
会話ができるそうです。
 ところで、「イライザ」というと、何かを思い出しませんか。
有名な映画に登場する人物です。そうです。映画「マイ・フェア
・レディ」の主人公、イライザ・ドウリットルです。この映画は
原作はバーナード・ショーの「ピグマリオン」ですが、言語学者
であるヒギンズ博士(レックス・ハリソン)が、イライザ(オー
ドリー・ヘップバーン)のなまりのあるひどい言語の矯正を通し
て、彼女を博士の理想の淑女に仕立て上げていく物語です。言語
の修正ということが何もしゃべれないコンピュータに言葉を喋ら
せることによく似ていると思いませんか。
 実はこの映画の公開は1964年なのです。バイゼンバウム教
授がイライザのプログラムを書き始めた時期と一致しています。
映画のことをバイゼンバウム教授が知らないはずはなく、もしか
すると、映画を観たかしれません。確証はありませんが、対話プ
ログラム「イライザ」は、映画「マイ・フェア・レディ」からと
られたものではないでしょうか。
 対話プログラム「イライザ」についてもうひとつ付け加えてお
くことがあります。それは、「パリー/PARRY」というプロ
グラムについてです。パリーも対話プログラムであり、イライザ
と共に精神療法に使われたチャットボットです。
 1972年、バイゼンバウムと一緒に仕事をしていた精神科医
のケネス・コルビーが作成したプログラムです。パリーは、偏執
病的統合失調症患者をシミュレートしようとしたものといわれて
います。パリーは、コンピュータの性能も向上していたので、イ
ライザよりは対話の内容の質が向上していたといわれます。
 バイゼンバオムの「イライザ」と、コルビーの「パリー」に関
して、きわめて興味ある記述が、あるサイトに出ていたので、少
し長いですが、参考までにご紹介します。
─────────────────────────────
 当初ワイゼンバオムは、この単純極まりないELIZAの仕様
に皆落胆するであろうと想定した。しかし、それが誤りであるこ
とがユーザーによって示された。実際にはELIZAに知識も理
解力もないと知るユーザーですら、ELIZAに相談を持ちかけ
ようとしてきたのである。ELIZAと親密な関係を築こうとす
る者もいた。精神科医たちですら、ELIZAの名声を聞き付け
て、コンピュータ精神療法の可能性に興味を示し始めていた。
 ワイゼンバオムは、この周囲のELIZAへの好意的な反応を
観て、人工知能が人間と同程度のコミュニケーション能力を有し
ているという誤解を招いているのではないかと懸念した。さらに
バイゼンバオムは、ELIZAをめぐる周囲の反応から、人々の
文化的な価値観に揺らぎを与えてしまっているのではないかとも
懸念していた。
 これに対して、ワイゼンバオムと共同開発していたスタンフォ
ード大学の精神科医ケネス・コルビーは、コンピュータ精神療法
の有用性を重視していた。誰もが自分の抱えている問題を気兼ね
なく相談できるコンピュータ精神療法は人々のためになる。そこ
でコルビーはELIZAを機能的に拡張させた「SHRINK」
を精神療法に貢献するという問題設定の下で公開した。
 ワイゼンバオムとコルビーの見解の相違は、コンピュータは自
我が持てるか否かという問題に直結している。ワイゼンバオムに
とって、それはあり得ないことであった。ワイゼンバオムは、コ
ンピュータが「わかりました」と述べても、それは嘘や錯覚に過
ぎないと主張していた。一方コルビーによれば、コンピュータ精
神療法にはそうした哲学的・倫理的な問題は伴わない。と言うの
も、プログラムには自我があるからだ。コルビーによれば、その
その自我とはそのプログラムを設計したコルビー自身であった。
                  https://bit.ly/2O1n9Aa
─────────────────────────────
 ひとつわからないことがあります。それは、コルビーの「SH
RINK」と「PARRY」の関係です。おそらくSHRINK
の発展形がPARRYではないかと考えられます。
 興味があるのは、単なる対話プログラムに過ぎないイライザが
精神療法にかなり役立っているという事実です。それを誰よりも
驚いたのがワイゼンバオム自身であったという点です。それを見
ていた精神科医のコルビーが「これは使える」と考えても不思議
ではないのです。
 コルビーは脳はハードウェアで、行動はソフトウェアであると
考えています。彼は、精神疾患はソフトウェアの問題と考えたの
です。ソフトウェアにはエラーが付き物ですが、エラーはデバッ
クして、コードを再記述すれば正常化します。人間の場合は、そ
のエラーを言語を通じて、言語として外部化することが、求めら
れますが、精神状態の言語化は、情報処理と同じであると考えた
のです。情報処理を通じて、様々な目的に密接に関連した決定規
則の集合を備えた意思決定機構であると考えたのです。
          ──[次世代テクノロジー論U/054]

≪画像および関連情報≫
 ●初代会話ボット「ELIZA」がすごい理由
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   心理療法のうち、会話を中心的な手段として行われるもの
  を心理カウンセリングとも言う。カウンセリングとはもとも
  と「相談」を意味するもので、カウンセラーは高度な専門知
  識を基に相談者に対して適切な解決策を示すことで問題解決
  を援助するといった役割が求められる。しかし、心理カウン
  セリングでは対話を通じて相談者(クライエント)が自ら自
  己の問題に向き合い、主体的に問題を解決していけるよう導
  くことが求められる。中でも来談者中心療法では、カウンセ
  ラー側の知識の量や権威は不必要とされ、それよりも、クラ
  イエントに対する無条件の肯定的関心、共感的理解などをど
  う実現するかが重視される。
   したがって、何か新しいことを提案するのではなく、相手
  の話の繰り返し、感情の反射、明確化といった技術が必要に
  なる。この繰り返しや共感といった会話モデルは、会話の意
  味を把握できないコンピュータにも模倣させやすいものだっ
  たのである。
   ELIZAはセラピストとして実験的に導入されたが、コ
  ンピュータプログラムとの対話にハマる人が続出した。ジョ
  セフ・ワイゼンバウムは感情的に没頭する人々を見て衝撃を
  受け、開発者でありながらその後コンピュータの限界を論じ
  生身の人間や自然との対話こそが大切であり、コンピュータ
  を過信してはならないという主張を積極的にするようになっ
  た。ELIZAにハマった人たちの中には、対話の記録や対
  話中の様子をまるでプライバシーであるかのように隠すよう
  になったという。機械に実際に「心を持たせる」ことはまだ
  まだ先の難しい問題になりそうだが、人間が機械に「心を感
  じる」ことは案外簡単なことなのかもしれない。
                  https://bit.ly/29ONNdl
  ───────────────────────────

イライザ・ドウリットル.jpg
イライザ・ドウリットル
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2018年07月19日

●「50年前からあるチャットボット」(EJ第4809号)

 ここまでの学習によってわかったことは、もっともAIらしく
見える自動対話AI「チャットボット」が、現状では依然として
「人工知能」ならぬ「人工無能」のレベルに止まっているという
ことです。対話型AIの技術が、50年前から技術的に大きく進
化していないのが原因です。
 「チャットボット」とは、「チャット」すなわち、おしゃべり
のことであり、「ボット」すなわち、ロボットの合成語で、「お
しゃべりロボット」を意味します。おしゃべりロボットには意外
に長い歴史がありますが、おしゃべりといっても、音声ならぬ文
字での対話だったのです。したがって、なぜ最近チャットボット
が注目されるようになったかというと、不十分ながら、人の音声
が認識できるようになったからです。
 チャットボットは、人間がプログラミングを行い、それに基づ
いて、コンピュータが対話を行うものでした。チャットボットを
動かすアルゴリズムにはいくつかのパターンがあり、次の2つの
ものが主流であったといえます。
─────────────────────────────
 1.事前に決められたシナリオを人間が選択して、マシンと
   対話する。
 2.人間の発言した単語と事前に登録された単語を見つけて
   応答する。
─────────────────────────────
 チャットボットの歴史を振り返ると、世界初の「イライザ/E
LIZA」があります。イライザは、1966年に誕生しており
既に50年を超えています。しかし、対話といっても、もちろん
音声でのやり取りではなく、文字と文字との対話です。
 それから2年後の1968年のことですが、映画『2001年
宇宙の旅』が公開され、そこでは、宇宙船に装備されている人工
知能コンピュータ「HAL9000」が、堂々と音声で乗務員と
会話しているさまが描き出されています。きっと2001年にな
れば、コンピュータは人と音声で対話できるようになっているだ
ろうとの予測があったのでしょう。
 しかし、その2001年になっても、音声によるコンピュータ
の対話は実現しておらず、IBMのAIコンピュータとして名高
い「ワトソン」がテレビのクイズ番組で人間に勝利した2011
年になっても音声での対話は実現していなかったのです。
 現在「ワトソン」は音声認識ができるようになっており、メガ
バンクなどのコールセンターで活用されていますが、「ジェパデ
ィ!」で勝利したときは、文字認識だったのです。次のウィキペ
ディアの記事をご覧ください。
─────────────────────────────
 2011年2月14日からの本対戦では、15日と16日に試
合が行われ、初日は引き分け、総合ではワトソンが勝利して賞金
100万ドルを獲得した。賞金は全額が慈善事業に寄付される。
なお、「ジェパディ!」は問題文が読み上げられた後に手元のボ
タンを押して回答する早押し形式であるが、ワトソンは音声認識
機能を持たないため、文字で問題を取得し、シリンダーでボタン
を押す装置を用いて回答した。      ──ウィキペディア
                  https://bit.ly/2Lg2XZI
─────────────────────────────
 このように、人とAIコンピュータが音声でやり取りできるよ
うになったのは、ごく最近のことであり、あわせてインターネッ
トの普及による膨大なウェブサイトの出現によって、それが巨大
な知識ベースになるに及んで、人とAIが音声で何とか対話でき
るようになったといえます。しかし、言葉の意味を理解しての対
話とはなっていないのです。
 チャットボットの元祖イライザの時代から、現在まで続いてい
るAIに関する有名なテストがあります。それは「チューリング
テスト」といわれます。このテストは、イギリスの数学者、アラ
ン・チューリングが、1950年に発表した論文のなかに書かれ
ているものです。
 どういうテストかというと、コンピュータと人間に対して質問
が行われ、それぞれが答えるのですが、そのやり取りが人かマシ
ンか区別がつかなくなったときに、コンピュータの勝ちと判定す
るというものです。以後長い間、コンピュータは合格できません
でしたが、2014年になって、やっと合格したのです。
 このチューリングテストについて、AI研究の第一人者である
小林雅一氏は、以下のようにわかりやすく、かつ詳しく説明をし
ています。
─────────────────────────────
 チューリング氏は1950年に著した論文の中で、次のような
思考実験を提案しています。人間(判定者)とコンピュータが壁
を挟んで向かい合います。この判定者から見て、壁の向こうには
コンピュータ以外にも、複数の人間がいます。このような状況下
で、判定者は壁の向こうにいる「誰か」と会話を交わします。そ
の誰かは、ひょっとしたらコンピュータかもしれないし、人間か
もしれない。そして判定者が彼ら見えない相手と会話を交わす中
で、相手が人間かコンピュータか区別がつかなくなった段階で、
それは人間に匹敵するAIの誕生と見ていいのではないか。チュ
ーリング氏はそう提案しました。念のため、細かい点まで注意し
ておくと、まず、ここでの「会話」とは声による通常の会話では
ありません。判走者はキーボードからコンピュータ・ディスプレ
イに文字を打ち込む形で言葉を発し、これに対する相手の返答も
ディスプレイに文字として表示されます。つまり現在のインスタ
ント・メッセージングのような形で会話するのです。
                 ──小林雅一著/朝日新書
                  『クラウドからAIへ/
    アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/053]

≪画像および関連情報≫
 ●チューリングテスト
  ───────────────────────────
   「はじめまして。お会いできて光栄です、ホーエンハイム
  教授。医療魔学部のエドワード・アレクサンダー・クロウリ
  ーです」。
  「ようこそ、エドワード。コーヒーでいいかね?」。
   初めて会ったテオフラストゥス・フォン・ホーエンハイム
  教授は、気さくな笑顔でぼくを迎え、少し酸化して煮詰まっ
  たコーヒーの入ったビーカーをテーブルに2つ置いた。フリ
  ッツはもうすでに退出している。この「パラケルスス」と言
  うペンネーが有名な錬金学者をぼくの親友は苦手としている
  らしかった。ぼくはビーカーに口をつけ、その苦い液体を少
  し飲み込んだ。
  「ふむ、きみはだいぶ優秀のようだね」。
   教授はビーカーに口をつけ、ぼくの成績調査票をぱらぱら
  とめくる。書類をぽんと机に放り投げた彼に向かって、ぼく
  は背筋を伸ばした。
  「はい。身寄りのない私は国からの奨学金で学ばせていただ
  いている身ですので、最低限優秀であることは求められてい
  ると理解しています」。記憶はないのだが、ぼくは事故で両
  親を亡くし、同じ事故で体が欠損するほどの大怪我も負って
  いる。そんなぼくが手厚い治療を受け、こうして国の最高学
  府である魔法学院で学び、衣食住の心配をせずにいられるの
  は、すべて奨学金制度、つまり国家予算のおかげだ。将来国
  のためにその知識を役立たせることができる立派な人間にな
  るために、勉学に励むことはぼくの義務と言えた。
                  https://bit.ly/2NSuX7l
  ───────────────────────────

アラン・チューリング.jpg
アラン・チューリング
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2018年07月18日

●「『心』のあるAIならばこうなる」(EJ第4808号)

 今やAI(人工知能)は、スマホのユーザーなら誰でも使って
試すことができる「音声AI技術」を巡って大変な競争が起きて
います。いわゆる自動対話AI「チャットボット」をめぐるの壮
絶な技術競争です。
 その行きつくべきゴールは「心を持つAI」です。心を持つと
は、感情を持つAIです。そのひとつの到達点を田方篤志氏が示
してくれています。
 ある少年が、自動対話AI「チャットボット」に対して「薬を
盗んでしまった」と告白したとします。おそらく現在のレベルの
AIであれば、次のやり取りが行われるはずです。
─────────────────────────────
少年:薬を盗んでしまった。
AI:人のものを盗むと、刑法235条により、10年以下の懲
   役または50万円以下の罰金に処せられます。
─────────────────────────────
 これが現在の自動対話AIの実力です。これに対し、AIが次
のように応答したらどうでしょう。
─────────────────────────────
少年:薬を盗んだ
AI:どうして、薬を盗んだの?
少年:お母さんが、病気になったけど、薬を買うお金がなかった
   から。
AI:どうして、薬を買うお金もなかったの?
少年:母と2人暮らしで、お母さんが病気になって働けなくなっ
   て、お金が尽きたから。このままでは、お母さんが死んで
   しまうと思ったから、つい、薬を盗んでしまった。
AI:そうか、そうか。辛かったよね・・・
                  https://bit.ly/2NfR072
─────────────────────────────
 「そうか、そうか。辛かったよね・・・」──この言葉こそ、
少年がいって欲しかった言葉だったのではないでしようか。これ
が「心」を持つAIの姿です。自動対話AIが、このレベルまで
進化すると、それこそ真の「癒しのAI」として、多くの人の助
けになるはずです。田方篤志氏の「ロボティクス」は、こういう
AIを目指しているのです。
 このようなAIは、けっして実現不能ではないと田方氏はいっ
ており、ブログで詳しく説明しています。EJでは、以下にその
一部を要約します。詳しくは、田方篤志氏のブログを参照してく
ださい。
 ロボマインド・プロジェクトの意味理解のステップは、次の4
段階になります。
─────────────────────────────
         1.    文脈の判定
         2.   登場物の抽出
         3.登場物に属性の設定
         4.認知パターンの抽出
                  https://bit.ly/2NfR072
─────────────────────────────
 「文脈の判定」は、人はある目的を持って行動を起こし、ある
結果が得られます。少年が登場したので登録します。その少年が
「薬を盗む」という行動を起こし、「薬を入手する」という結果
を得ます。「目的→行動→結果」になりますが、この時点で目的
が不明です。不明なことは登場物に質問します。この質問が「ど
うして、薬を盗んだの?」になります。
 少年は「お母さんが病気になったけど、薬を買うお金がなかっ
たから」と答えます。新しい登場物「お母さん」を登録し、状態
が「病気」なので、属性として「病気」を設定します。
 ここで、問題になるのは「病気」と「薬」の関係です。これに
ついては、システムのデータペースに次のように書いてあるので
AIはこれを見て、「薬を飲むと健康(元気)になる」ことを理
解します。
─────────────────────────────
   人(状態:病気)→人:薬を飲む→人(状態:健康)
─────────────────────────────
 この文脈の判定で、AIは、少年がお母さんの病気を治す目的
で、「薬を盗む」という行動を起こしたかを理解します。問題は
薬を入手するためには、「買う」「もらう」「盗む」の3つがあ
るが、どうして「買う」行動を取らず、盗んだのかについてAI
は「どうして、薬を盗んだの?」と質問しています。この質問に
よって、「お金がなかったから」であることが判明します。
 以下は省略しますが、このようにしてAIは逐次理解していく
わけです。田方氏のブログは次のように結んでいます。
─────────────────────────────
 最後は、「善」のために「悪」を行うパターンです。これが、
今回の物語に当てはまります。目的は、お母さんの病気を治すこ
とです。病気を治すことは、相手にとってプラスのことなので、
「善」の行為です。しかも、困ってる人、弱っている人を助ける
のは、さらに「善」の行動となります。
 しかし、そのために、「薬を盗む」という「悪」の行動をして
いいわけではありません。けれど、薬がなければお母さんが死ん
でしまいます。「善」の行いをするために、「悪」の行いをしな
いといけないと悩むわけです。
 このパターンの場合、その人は、「苦悩」の感情が出るわけで
す。一番苦しんでいるのは、少年なのです。そのことを理解して
ほしくて、少年は、親友に打ち明けたのです。こんなとき、少年
に最初にかけるべき言葉は、「辛かったよね・・・」となるわけ
です。これが、相手の気持ちを理解するということです。心を通
わすということです。        https://bit.ly/2NfR072
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/052]

≪画像および関連情報≫
 ●現状のAIは人間の感情にどこまで踏み込めているのか
  ───────────────────────────
   人工知能やビッグデータ解析やクラウドの技術進歩によっ
  て、ロボットや機械による、人間らしいヒューマンインター
  フェースの研究は、盛んに研究されるようになりました。ソ
  フトバンクのペッパーをはじめとして、日本でも商業レベル
  でロボットに人間らしい振る舞いをさせる取り組みは今後も
  注目を集めそうです。
   一方で、ロボットが人間の感情を理解し、表現するために
  は、人間の行動や表現する感情を機械が理解し、自身の記憶
  や他者とのかかわり合いを考慮しながら複雑なコンテキスト
  を自力で表現することが必要不可欠になってきます。人間で
  すら、自分の感情を理解することが出来ないのですから、非
  常に難しく終わりの見えない研究のようにも思えます。本記
  事では、現在の感情に関する事例や進歩を感じられる研究を
  紹介していきます。
   ロボットやコンピュータは、カメラを通して人間の表情を
  解析することができます。人と人とのコミュニケーションを
  円滑にする上で、表情は重要な役割を果たしています。コン
  ピュータビジョンでこの顔の動きを捕捉することができれば
  人間の感情を推定することができそうです。心理学や精神病
  理学などの分野では、FACSと呼ばれる表情理論がありま
  す。FACSは表情を形成する筋肉の動きをコード化するこ
  とで、客観的に顔の動きを分析したり自然な表情をアニメー
  ションなどで再現することに応用されています。
                  https://bit.ly/2LhmNUu
  ───────────────────────────

子どもと対話する「チャットボット」.jpg
子どもと対話する「チャットボット」
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2018年07月17日

●「AIスピーカーは人工無能である」(EJ第4807号)

 AIスピーカーが流行しています。何かを話しかけると、適切
な答えを返してくれる一種のロボットです。「明日の天気は?」
「モーツァルトの音楽をかけて」などと、問いかけたり、頼んだ
りすると、その通りやってくれます。折からのAIブームで「A
Iも進化したものだ。人間の言葉を理解できるとは!」と感じて
いる人は多いと思います。
 しかし、これは「チャットボット(chattebot)」 と呼ばれて
いるもので、「人工知能」ならぬ「人工無能」と呼ばれているも
のです。とても巧妙に返事を返しますが、質問の意味がきちんと
わかっているわけではないのです。
 田方篤志氏は、このようなAIの自然言語理解について次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 スマートスピーカーや、ソフトバンクのロボット「ペッパー」
のように会話できるAIが出てきたのは、近年、AIが飛躍的に
進歩してきたからだと勘違いしている人が多いようです。天気予
報を尋ねたり、エアコンのスイッチを入れたりと、質問の範囲が
絞られていれば、ある程度は会話になりますが、日常会話や雑談
のように、答えが決まっていない会話に関しては、実は、50年
前の方法からほとんど進歩がありません。その方法は「シナリオ
ベース」または、人工無脳とも言われるものです。
                  https://bit.ly/2KSjl6p
─────────────────────────────
 つまり、あらかじめ、シナリオが用意されているのです。その
ためには、質問の幅を限定する必要があります。AIスピーカー
が「最近何か美味しいものを食べましたか」と聞いてきたとしま
す。これはさりげなく質問の幅を限定しています。「美味しいも
の?そういえば、〇〇で食べた××は美味かったな」と返事をす
ると、AIは「ボクも食べたかったな」と返します。食べたもの
は何でもいい。意味がわかって話しているのではないのです。何
となく会話が成立しているように見えればいいのです。したがっ
て、「最近はうまいものを食べていないなぁ」というような想定
外の返事を返されると、対話がおかしくなります。
 田方篤志氏が不満を持っているのは、本当に人間の言葉が理解
できるAIを実現しようとしないで、表面上会話のように見える
「シナリオベース」の技術の習熟に力を尽くしてきたことです。
 それにしてもアイフォーンのシリの応答は、もしかすると意味
がわかっているのではないかと思わせるほど見事なものです。
 シリに次のような意味深の質問をしてみました。とりあえず、
そのやり取りを読んでください。
─────────────────────────────
シリ:ご用件は何でしょう?
──:イライザについて知りたい。
シリ:ELIZAをご存知ですか。彼女は私の最初の先生だった
   んですよ!
──:イライザはどこに行ったの?
シリ:ELIZAは私の親しい友人です。優秀な精神科医でした
   が、今はもう引退しています。
──:あなたはスティーブ・ジョブズが好きですか。
シリ :それについては、言いたくありません。
──:あなたは、ティム・クックが好きですか?
シリ:私は大ファンです。      https://bit.ly/2zHIbke
─────────────────────────────
 「ELIZA」という女性のことを聞いています。実はELI
ZAというは、初期の自然言語処理プログラムのことです。マサ
チューセッツ工科大学(MIT)のジョセフ・ワイゼンバウムが
1964年から1966年にかけて書き上げたプログラムで、い
わゆる人工無脳の起源となったソフトウェアです。単なる女性の
名前ではないのです。
 これに対してシリは「私の最初の先生」と的確に答えています
が、「優秀な精神科医」ととぼけ、どこにいったかと聞くと「今
はもう引退している」とこれにも真っ当な答えを返しています。
さらに突っ込んで聞くと、ウィキペディアにこう出ていますと表
示し、それ以上の質問を阻んでいます。
 アップルの創業者のスティーブ・ジョブズについては「言いた
くない」と逃げ、現CEOのティム・クックについては「私は大
ファン」と答えるなど、なかなか見事な応対であり、洗練されて
います。しかし、このように、質問と応答であれば、問題なくで
きるのですが、雑談になると、答えるべき正解がないので、対話
にならないケースが多いのです。
 確かに人間の質問に対して適切な答えを返すシステムは大いに
役に立つものであるといえます。しかし、それはAIの進化がも
たらしたものというよりも、インターネットが普及し、ネット上
に膨大なウェブサイトが構築され、それが知識ベースとして使え
るようになった賜物であるということができます。
 既に述べているように、AIの進化には、「3つの認識」とい
うものがあります。
─────────────────────────────
           1.画像認識
           2.文字認識
           3.音声認識
─────────────────────────────
 最初は「文字認識」からはじまったのです。数字やアルファベ
ットなどの簡単な文字認識から始まり、その後、写真に何が映っ
ているかの判定に挑んだものの、壁にぶつかってしまうのです。
 ブレイクスルーとなったのは機械学習です。とくに、ディープ
ラーニングの登場で目覚ましい発展を遂げ、今では、写真判定に
関しては、人間より精度が高くなっています。しかし、音声認識
は、意味の理解という面で、まだ大きなブレークスルーは起きて
いないのです。   ──[次世代テクノロジー論U/051]

≪画像および関連情報≫
 ●会話できるコンピューターは人工知能なのか?
  ───────────────────────────
   人工無脳とはなんでしょうか。
   人工無脳はもともと人工知能からの派生した言葉で、人間
  が決めたルールに従って返事をするロボットのことです。今
  から50年以上も前、1960年にワイゼンバウムが作成し
  たELIZA(イライザ)が最初とされています。
   ELIZAがどういったものかというと、例えば、「頭が
  痛い」とイライザにいうと「なぜ、頭が痛いとおっしゃるの
  ですか?」などと返してくれるというものです。その他にも
  「母は私を嫌っている」と言えば「あなたの家族で他にあな
  たを嫌っている人は?」などと、登録されている範囲内で返
  答してくれるものです。
   ELIZAの特徴は、あらかじめ登録されていない言葉な
  どを言われた場合は定型的な返答をし、また、会話の脈略ま
  では把握できないことです。これはつまり、言語処理のプロ
  グラミングのことですね。「おはよう」と言われれば「おは
  よう」と返す。「元気?」と「元気だよ」と返す。
   「今度発売されるクルマの乗り心地はどうかな?」とあら
  かじめ登録されていない質問をされた時は「その質問にご興
  味があるんですね?」などと当たり障りのない返答をする。
  こういったプログラムされたものが人工無脳です。昔はこう
  いった自然言語処理プログラムも人工知能と呼ばれておりま
  したが、最近は少し定義が変わってきています。
                  https://bit.ly/2KVT3QY
  ───────────────────────────

アマゾン/エコー.jpg
アマゾン/エコー
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2018年07月13日

●「心を持つAIロボットはできるか」(EJ第4806号)

 AIロボットに「心」を持たせることはできるでしようか。
 田方篤志氏のブログには、「ロボマインド・プロジェクト」に
ついてのとても興味ある説明が出ています。田方篤志氏は、この
プロジェクトを推進しておられます。その主張には、強い説得力
があります。ブログのURLを以下に示しておきますので、一読
をお勧めします。そのさい、「代表プロフィール」も一緒にお読
みになることをお勧めします。
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      ◎ロボマインド・プロジェクトとは
           https://bit.ly/2NKRbIw
      ◎代表プロフィール
           https://bit.ly/2ukRnoW
─────────────────────────────
 「心」を持つAIロボットとは、どういうものをいうのでしょ
うか。EJとして、ブログで述べられていることを要約してお伝
えします。
 「三つの物語」が紹介されます。いずれも山ガールのメアリー
が登山をし、熊に遭遇する話です。
 「第一の話」です。
 メアリーは大きなリュックを背負って山に入ります。そして、
熊に遭遇します。そのときは、とっさに背負っているリュックを
熊に投げつけ、熊がリュックをあさっている間に、メアリーは逃
げ出すことに成功します。
 「第二の話」です。
 メアリーは、荷物運搬ロボットと一緒に山に行ったのです。こ
のロボットは「ついて来い」と命令すると、どこまでもついてき
ます。そして、またしても熊に遭遇します。このとき、メアリー
は、荷物運搬ロボットに熊に向うようスイッチを押し、その隙に
逃げ出したのです。ロボットに熊も驚いたと思います。
 ここで、荷物運搬ロボットについて説明します。いわゆる四足
歩行ロボットのことですが、現在、とても進化しているのです。
次の3つのユーチューブ動画をご覧ください。
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         @四足歩行ロボット/1
          https://bit.ly/2KSEZHO
         A四足歩行ロボット/2
          https://bit.ly/2Je5xha
         Bロボットにからむ動物
          https://bit.ly/1QRytLg
─────────────────────────────
 @は「ついて来い」と声をかけると、どこまでもついてくる四
足歩行ロボットです。山道でも大丈夫です。ヨタヨタしているよ
うに見えますが、頑丈であり、こんなロボットに向ってこられた
ら、熊もひるむはずです。性能的には、十分戦争にも使えるレベ
ルになっているといわれます。
 Aはさまざまなロボットが登場します。あらゆる場所を歩行で
きます。建物の中、外の道、階段、雪道、どのような道でも歩行
できるのです。やがて、四足歩行から二足歩行に進化し、人間と
同じように歩行をはじめます。バック転もできます。ときどき転
びますが、人間のようにすぐ起き上がります。また、小さいロボ
ットがビルの屋上に飛び上がったり、飛び降りたりします。
 Bはご愛嬌です。家の中に置いた小さなロボットに、猫がさま
ざまな攻撃を加えます。しかし、ロボットがあまり激しい反応を
見せないと、バカにしてじゃれつきます。猫が可愛いということ
で、多くの回数視聴されています。
 「第三の話」です。
 メアリーは三度山に登ります。このときのお供もロボットです
が、このロボットは第二話のロボットと違って、会話ができるの
です。ちゃんと名前もあり、「ロジャー」と呼ばれています。
 ロジャーはメアリーにいろいろ声をかけます。
 「足元に気をつけて」
 「疲れませんか」
 「休憩しませんか」・・・
 そこにまたしても熊が飛び出してきます。今度は、メアリーの
前にロジャーが自発的に飛び出し、メアリーに対して、次のよう
にいったのです。
─────────────────────────────
 お嬢さん、ここは私が時間を稼ぎます。その間に、お逃げに
 なってください。
─────────────────────────────
 この三つの話を聞いて、どのようにお感じになりましたか。ロ
ボットは、いま急速に進化しています。それでも心を持つロボッ
トはできるのでしようか。これについて、田方篤志氏は次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 さて、この3つの物語を読んで、どう感じたでしょうか?
 第一の物語のリュックサック、第二の物語の“四足歩行ロボッ
ト“、第三の物語のロジャー、どれも人間ではなく、物ですが、
心はあるでしょうか?
 リュックサックに心は感じないですよね。リュックサックは、
動かないただの物体です。では、四足歩行ロボットには心を感じ
るでしょうか?四足歩行ロボットは、動いたり、呼びかけに応答
したりしますが、心をもっているとは感じられないですよね。そ
れでは、ロジャーはどうでしょう?必死でメアリーを守ろうとす
る姿に、何か、感じるものがあったのではないでしょうか。もし
かして、・・・「ロジャーには心がある?」そう感じられたので
はないでしょうか?それではロジャーにだけ、なぜ、心を感じた
のでしょう?            https://bit.ly/2NKRbIw
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/050]

≪画像および関連情報≫
 ●人間の心を持った人工知能を実現する
  ───────────────────────────
   「実現は無理と言われ、だからこそ、絶対にやってやると
  思った」。情報理工学系研究科の國吉康夫教授は静かにこう
  語ります。しかしその鋭い眼光は「真に賢く、人間のために
  なる人工知能」という壮大な目標をずっととらえています。
   現在、音声認識機能や自動運転機能といった人工知能(A
  I)は人と遜色のない振る舞いを見せます。ですが、音声認
  識機能がチェスをできず、将棋AIが車を運転できないよう
  に、今のAIにはその製作者が意図しなかった動作はできま
  せん。人とは「考える方法」が違うので、あらかじめ準備で
  きていない状況には対処できないのです。
   これに対し、真に賢く適応力の高いAIを達成するには、
  人と同じことを「同じような方法で」考え、できる必要があ
  ります。そのためには、「人の知能とはどんなもので、人の
  振る舞いを生み出す大本の原理とは何なのか理解せねば」と
  國吉教授は説明します。
   では、「人らしい振る舞い」はどう生み出されるのでしょ
  う。その原理を探索すべく、國吉教授らは2000年代に、
  動物の筋骨格系を再現したロボットを作製し、床から椅子に
  飛び乗ったり、人型ロボットを作製し、寝ている状態から足
  を振り勢いをつけて起き上がらせる実験に成功しました。こ
  こで注目すべきは、動作の最初から最後までを細かく制御す
  ることなく達成できた点です。  https://bit.ly/2KMJtjj
  ───────────────────────────

ロボットにじゃれる猫.jpg
ロボットにじゃれる猫
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2018年07月12日

●「ウェイソンの4枚のカードの問題」(EJ第4805号)

 田方篤志氏のAI(人工知能)の話の紹介をもう少し続けるこ
とにします。非常に参考になるからです。
 「ウェイソンの4枚のカード」という有名な心理テストがあり
ます。ウェイソンとは、英国の心理学者のペーター・カスカード
・ウェイソンのことですが、それはさておき、早速問題を解いて
みてください。
─────────────────────────────
 4枚のカードがあり、それぞれ片面にはアルファベットが、
 もう片面には数字が書かれている。「片面が母音ならば、そ
 のカードの裏は偶数でなければならない」というルールが成
 立しているかどうかを確かめるには、どのカードをひっくり
 返して調べるべきか。

     [A]  [F]  [4]  [7]
                  https://bit.ly/2u9k7BT
─────────────────────────────
 正解は、「[A]と[7]をひっくり返して調べる」です。何
でもない問題のようにみえますが、ある大学の心理学の講座でこ
のテストをやったところ、正解率はたったの5%だったといわれ
ています。
 しかも、その間違えた学生のすべては、ひっくり返すカードは
[A]と[4]と答えているのです。このように誤答に偏りがあ
るということは、何らかの理由が考えられます。論理的に誤答を
選んでいるからであり、これは心理学の問題になるわけです。
 母音のカード[A]をひっくり返して裏が偶数かどうか確かめ
るのはわかるとしても、偶数の「4」の裏は、母音でも子音でも
問題がないので、ひっくり返しても意味はないのです。母音の裏
は絶対偶数でないといけないというのがルールですが、偶数の裏
は必ずしも母音でなければならないということはないからです。
 この問題を田方氏は次のような問題に変更し、問題を解かせて
みると、ほとんどの人が正解したといいます。
─────────────────────────────
 居酒屋のカウンターで4人が飲んでいます。1番、2番は席
 を外して飲み物だけが置いてあります。1番はビール、2番
 は烏龍茶です。3番はハゲ親父(65歳)で、4番は女子高
 生(17歳)が座っていますが、何を飲んでいるかわかりま
 せん。さて、この中で、何番と何番を調べれば、誰が未成年
 で飲酒しているか確認できますか。
    1     2      3      4
  [ビール] [烏龍茶] [ハゲ親父] [女子高生]
                  https://bit.ly/2ugCeVE
─────────────────────────────
 この問題の前提は「飲酒は20歳になってから」というルール
です。この答えは簡単に出せるはずです。1番のビールを飲んで
いる人の年齢と、4番の女子高生が何を飲んでいるかを調べれば
よいからです。もうひとつ問題を出します。
─────────────────────────────
 「麺類は500円以下でないといけないと」いうルールがあ
 るとします。次のうち、このルールに違反していないか調べ
 るには、どれとどれを調べればいいのでしょう。

   1      2     3      4
 [ラーメン] [親子丼] [800円] [300円]
                  https://bit.ly/2ugCeVE
─────────────────────────────
 麺類を調べるのですから、1番の[ラーメン]はすぐわかりま
す。しかし、その流れで、500円未満かどうかを調べるのだか
ら、4番の[300円]だと考えてしまう人がいますが、これは
間違いです。正解は、1番の[ラーメン]と3番の[800円]
です。なぜなら、4番の[300円]が麺類ならルールに合って
いますし、別のメニューであっても問題はないのに対し、3番が
麺類であればルール違反になるからです。
 このように、「ルールを満たしているケースだけを調べる」こ
とを、心理学では「確証バイアス」と呼ばれています。人間の思
考パターンには、正しいことを確認して満足するという傾向があ
るようです。
 実は、この3つの問題は、すべて確証バイアスの問題、すなわ
ち、ルールを満たしているものを調べる問題という点で同じなの
です。それなのに、問題の出し方によって、やさしくなったり、
難しく感じたりするのです。
 なぜ、ウェイソンの4枚のカードの問題を取り上げたのかとい
うことについて、田方篤志氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 なぜ、ウェイソンの4枚のカードの話をしたかというと、人間
の脳は、コンピュータとは違うということを示したかったからで
す。もし、コンピュータなら、数学的に同じ問題なら、変数の中
身が変わっただけで、解けたり解けなかったりしないはずです。
このことから、人間の脳は、コンピュータのCPUとは違うとい
えます。              https://bit.ly/2ugCeVE
─────────────────────────────
 確かに人間の脳とコンピュータのそれとは違います。居酒屋に
行って、そこのカウンターで女子高生が何かを飲んでいたとした
ら、「あれっ!」と思いますね。「未成年なのにお酒を飲んでい
る」と思います。これは、直観的にそう思うわけです。だから、
簡単に問題は解けるのです。
 しかし、「母音の裏は偶数でなければならない」といわれても
何もピンとこないわけです。そのため、何となく難しく感じてし
まうのです。その点AIは、数学的に同じ問題なら、絶対に間違
えることはないのです。人間の脳とAIのそれは違うのです。
          ──[次世代テクノロジー論U/049]

≪画像および関連情報≫
 ●ウェイソン・テストとは何か
  ───────────────────────────
   片面はアルファベットが、その裏側には数字が印刷されて
  いるカードが4枚テーブルの上に並んでいて、見えている面
  は、A、F、3、4となっています。今「母音の裏側の数字
  は偶数になっている」という規則があると言われてその規則
  を確かめるとしたら、どのカードを裏返してみれば<よいで
  しょうか。
   まず、Aのカードを裏返してみる。これはいいですね。裏
  が偶数ならOKです。次にFは裏返さない、Fは母音ではな
  いから、裏が何でも関係ありません。さて、3、4のどちら
  を裏返すか。もし4と思ったら、それは違います。4の裏が
  子音でも規則に反しているわけではありません。子音の裏側
  について規則は何も言っていないからです。
   正解は3です。3の裏側が母音なら規則は間違っているこ
  とになります。簡単ですか?間違っても恥ずかしくはありま
  せん。このテストはウェイソン・テストといって、1966
  年にイギリスのピーター・ウェイソンが同様の実験(オリジ
  ナルはアルファベットではなくカードの色)を行った結果で
  は、大半の人が間違えました。簡単に解いた人の中には、論
  理学の知識を使った人がいたかもしれません。論理学では、
  「AならばB」であると「BでないならAでない」は同じで
  それぞれ対偶であるといいます。対偶の考えを使えば、偶数
  ではなく、奇数を裏返せばよいということが、すぐにわかり
  ます。             https://bit.ly/2m6Xv0f
  ───────────────────────────

ウェイソンの4枚のカード.jpg
ウェイソンの4枚のカード
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2018年07月11日

●「子供の心を変えたアップルのCM」(EJ第4804号)

 アップルを復活させたCM「クレージーな人たちがいる」につ
いて、こんな話があります。既出の元アップル・ジャパン社員、
増田隆一氏のブログに出ている話です。
 CMについて、当時のアップルのマーケティングチームが招集
され、CMのキャンペーンの進捗を確認する会議が開催されたの
です。そのとき、そのCMは、それほど大ヒットをしているとい
う感触はなかったといいます。
 ところが、ある国担当のスタッフが、CMに関係するひとつの
手紙を紹介したのです。それは、10歳の男の子を持つ父親から
の手紙でした。
─────────────────────────────
 息子は少し変わった男の子で、学校でいじめられ、のけものに
されていました。自殺をほのめかせて校長先生から連絡が入った
りしたこともありました。
 ある日、その子が、私に、テレビで流れるアップルのCM「シ
ンク・ディアレント」を一緒に見てほしいというのです。CMが
始まって口を挟もうとすると、「お父さん、黙って、最後まで見
て!」と強い口調でいうのです。やがて、CMが終ると、彼はい
いました。「自分は変わり者だとバカにされて、のけものにされ
てきたけれど、僕は変わりもののままで居ていいんだね!」と。
                  https://bit.ly/2KUaVYf
─────────────────────────────
 手紙を読み終ると、そこにいた全員は急に黙り込み、涙を流す
人もいたそうです。そして「Think different」 の広告は、これ
までの広告効果測定とはまったく違う次元で捉える必要があるこ
とに気が付いたのです。それは、このCMに人々の心を変えるパ
ワーがあることがわかったからです。
 そして、このCMに象徴される新しいアップルの理念は「人の
心に響く」というところにあり、アップルはそういう製品を世界
に送り出す必要があることを感じ取ったのです。
 それでは、田方篤志氏は、なぜ、新井教授の教育改革の考え方
に対して、この10歳の男の子を持つ父親からの手紙の話を出し
てきたのでしょうか。
 それは、新井教授の『AIvs教科書が読めない子どもたち』
から読み取れる子どもに対する教育観と、田方氏のそれとの間に
は大きな溝があるからです。それにAIに対する考え方も大きく
異なります。
 子どもの教育に関して田方篤志氏は、新井教授のそれとの違い
を次のように述べています。
─────────────────────────────
 人には個性があります。個性を無視し、文章が読めない子をあ
ぶりだし、文章が読めるように矯正することが本当に正しい教育
なのでしょうか?
 どんな子も、持って生まれた才能があるはずです。もし、すぐ
に見つからなかったとしても、ちょっと、考えてみてください。
その子が、生き生きとするのは、何をしているときでしょう。そ
の子が、その子らしい表情をみせる瞬間とは、どんなときでしょ
う。そこにこそ、その子が発揮できる才能があるのです。その子
の個性を無視して、読解能力値だけでその子を判断する。読解能
力値の低い子は、そのままでは将来仕事につけなくなるからと、
読解能力を高める教育を強制する。そんな教育をしていては、本
来、その子が輝かせるべき才能を潰してしまいます。そんな教育
ちょっとおかしいですよね。(一部略)
 アップルの「Think different」 キャンペーンを思い出してく
ださい。不可能だと証明したことで、世界を変えた人は、いたで
しょうか?世界を変えた人は、不可能と言われたことを成し遂げ
た人たちです。
 これからの世界に必要なのは、読解能力値が高い人でなく、ク
リエイティブな能力を持つ人なのです。それなのに、なぜ、新井
教授は、読解能力値にしか目が向かないのでしょう?その原因は
人間の能力を判断するのに、入試を設定したことにあります。入
試問題こそが、人の能力全体の枠組みを網羅していると思い込ん
だからです。            https://bit.ly/2tZaGVq
─────────────────────────────
 田方篤志氏の怒りは、子どもの個性を無視して、テストによる
読解能力値だけで、その子を判断する新井教授の教育の考え方に
向けられています。これは、田方氏のブログの記事に関するある
小学校の校長先生の返信を見ても明らかです。
─────────────────────────────
 新井紀子著『AIvs教科書が読めない子どもたち』について
の批評を拝読しました。新井先生の御本が教育界に与えたインパ
クトは相当大きなものだと感じています。特にアクティブラーニ
ングを推奨していた方々の反論があっても良さそうなものですが
それがないのが気がかりでした。
 しかし、それ以上に気がかりなのが、読解力の定義です。RS
Tに示された6つのテストパターンのみで偏差値として基礎読解
力が評価されていいのかという問題です。
 新井さんが今後「高校基礎力」テスト等にも関与されると聞い
ていますので余計に心配です。そんな中で出会ったのが田方様の
ブログでした。Think Differentのお話は身にしみました。
                  https://bit.ly/2tZaGVq
─────────────────────────────
 田方篤志氏は、「ロボマインド・プロジェクト」を推進してい
ます。ロボマインド・プロジェクトとは、「ロボットの心」を作
るプロジェクトです。
 既にAIは、自然言語処理技術で人との対話ができるようにな
りつつあるといわれますが、それらの対話は、本物の対話ではあ
りません。AIには「心」、感情というものがないからです。真
の対話は「心」がないと、けっして成立しないのです。
          ──[次世代テクノロジー論U/048]

≪画像および関連情報≫
 ●感情はプログラムできるのか?/ペッパーエミュレーション
  ───────────────────────────
   鉄腕アトムやドラえもんなど、日本ではロボットの人気ア
  ニメキャラクターが数多く生まれている。ロボットでありな
  がら人々に愛されてきたのは、その感情の豊かさからではな
  いだろうか。
   今まで、機械とソフトウェアで作られるロボットがココロ
  を持っているのは、マンガの世界の中でのことだった。しか
  し、今では現実でも「ココロを持つロボット」が身近なもの
  になりつつあるのだ。ソフトバンクが2015年に発売した
  ペッパーはその一つで、人工知能(AI)を搭載し、感情を
  持つロボットとして売り込まれている。一見して疑問の残る
  「ロボットの感情」のメカニズムと、感情を持つがゆえに生
  じる課題を見ていきたい。
   ソフトバンクグループの孫正義社長は2015年に行った
  講演で、ペッパーはどのような感情メカニズムを持っている
  かについて解説している。孫社長によれば、ペッパーの感情
  は人間の感情の動きを模しているという。
   前提として人の感情のメカニズムを少し解説すると、脳内
  で生じる思考や感情といった心の動きは、ニューロン(神経
  細胞)がネットワークを形成して、他にニューロンとの間で
  電気信号をやり取りすることで生じる。また、「見る」「聞
  く」「知る」という外部から入ってくる情報への反応と、セ
  ロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンのホルモンの相互
  作用によって、感情が起きるメカニズムになっているのだ。
                  https://bit.ly/2zfJSoW
  ───────────────────────────

AIは言葉の意味は分かっているのか.jpg
AIは言葉の意味は分かっているのか
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2018年07月10日

●「アップルを復活させた有名なCM」(EJ第4803号)

 田方篤志氏のブログにしたがって、同氏による新井教授の考え
方に対する反論を指摘していきます。田方篤志氏によると、「新
井紀子教授は『偏差値』にこだわり過ぎる」といいます。偏差値
について新井教授は次のように述べています。
─────────────────────────────
 読解能力値の高い子は、教科書や問題集を「読めばわかる」の
で、1年間受験勉強に勤しめば、旧帝大クラスに入学できてしま
うのです。東大に入れる読解力が12歳の段階で身についている
から、東大に入れる可能性が他の生徒より圧倒的に高いのです。
 ──          ──新井紀子著/東洋経済新報社刊
          『AIvs教科書が読めない子どもたち』
─────────────────────────────
 新井教授にとっては、偏差値の高い大学に入ることが最も重要
なことであると認識しています。したがって、偏差値の低い子に
ついては、早いうちに手を打つ必要があるので、RSTを全国的
に実施して、そういう子を発見し、教育するべきであると主張し
ています。本当にこれが正しい教育なのかと田方氏は疑問を感じ
ています。そこで田方氏は、ここでアップルの有名なCMの話を
するのです。まずは、そのCMを試聴してください。時間は60
秒であり、日本語バージョンです。
─────────────────────────────
  ◎アップルのCM
  「Think different」/「クレージーな人たちがいる」
                https://bit.ly/2MXStP7
─────────────────────────────
 1996年、アップルは完全に方向を見失っていました。現在
のアップルしか知らない若い人たちにとっては、想像もつかない
でしょうが、アップルにも、そういうときがあったのです。当時
アップル・ジャパンに勤務していた増田隆一氏は、そのときの様
子を次のように述べています。
─────────────────────────────
 私が記憶している最悪の数字では、会社の運転資金が残り14
日分しかないこと(この数字には諸説ある)。もはや倒産は免れ
そうにないという噂が社内も社外にも蔓延していました。新聞各
紙では毎日のように、どこかの企業がアップルを買収するという
記事が掲載されていました。社員には、何人もの転職エージェン
トからの接触があり、次の転職先が紹介されるという日々が続い
ていました。そのとき、スティーブ・ジョブズがアップルを追い
出されて数年後、再びアップルに復帰したというニュースが流れ
ました。完全に方向性を見失っていたアップルと自信喪失の真っ
只中にいる社員にとって、文字通り「最後の希望」にも思えまし
た。                https://bit.ly/2KUaVYf
─────────────────────────────
 そのCMが「Think different」 です。このCMはCEOに復
帰したスティーブ・ジョブズが、顧客だけでなく、モラルダウン
しているアップル社員の士気高揚と、その目指すべきアップルの
ビジョンを示すため、大変な力を入れて作ったCMです。
 「Think different」とは何でしょうか。
 この言葉の意味は「発想を変える」、「ものの見方を変える」
「固定概念をなくして新たな発想でコンピュータを使う」という
ことです。キャンペーンでは「世界を変えようとした人たち」と
して、アインシュタインやピカソ、キング、ガンジー、クレイな
どを挙げています。全員ものごとを変えた人たちばかりです。だ
から、われわれもアップルを変えようと社員全員に呼び掛けたの
です。CMですが、社員へのモチベーションなのです。
 忘れたくないCMですから、あえて言葉も掲載します。社員の
モチベーション向上に訴える素晴らしいメッセージです。
─────────────────────────────
  クレージーな人たちがいる
  反逆者、厄介者と呼ばれる人たち
  四角い穴に 丸い杭を打ちこむように
  物事をまるで違う目で見る人たち
  彼らは規則を嫌う 彼らは現状を肯定しない
  彼らの言葉に心をうたれる人がいる
  反対する人も 賞賛する人も けなす人もいる
  しかし 彼らを無視することは誰もできない
  なぜなら、彼らは物事を変えたからだ
  彼らは人間を前進させた
  彼らはクレージーと言われるが私たちは天才だと思う
  自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが
  本当に世界を変えているのだから
  Think different.        https://bit.ly/2u46xzB
─────────────────────────────
 このCMの最後の部分に「自分が世界を変えられると本気で信
じる人たちこそが、本当に世界を変える」というフレーズがあり
ます。これは、スティーブ・ジョブズが自身を重ね合わせている
言葉だと思います。そのときのアップルの社員は、ジョブズ自身
がクレージィーそのものですから、ジョブズならアップルは必ず
再生できると信じたのです。このCMが起爆剤になって、アップ
ル全社が燃えたのです。
 そして確かにこのCM以後、アップルは奇跡ともいうべき再生
を果すのです。新型パワーブックG3、アイ・マック、パワー・
マッキントッシュG3といった優れた商品が次々と開発され、そ
れがやがて、アイフォーンとタブレットの誕生にまで行き着くこ
とになります。奇跡の大復活です。
 話をAIと教育の問題に戻します。なぜ、このCMが、偏差値
重視教育のアンチテーゼになるのかということです。それは、こ
のCMが、ひとりの男の子を変えるきっかけになったからです。
これについては、明日のEJで詳しく取り上げます。
          ──[次世代テクノロジー論U/047]

≪画像および関連情報≫
 ●CMの発表時のジョブズの挨拶/1997年9月23日
  ───────────────────────────
   おはようございます。私たちはこの広告を完成させるため
  朝の3時まで起きていました。これからこの広告をみなさん
  にお見せして感想を伺いたいと思います。
   さて、私が戻ってから2か月強になりますが私たちは本当
  に一生懸命努力しました。私たちがこれからしようとしてい
  ることは、おおげさなことではありません。むしろ基本に立
  ち返ろうとしています。すばらしい製品、すばらしいマーケ
  ティングとすばらしい流通という、基本に還ろうとしている
  のです。
   アップル社には、もちろんすばらしさがありますが、ある
  点においては基本に忠実かどうか、ということからかけ離れ
  ているように思えます。そこで私たちは、製品ラインから着
  手しました。この数年間どんどん大きくなるプロダクトロー
  ドマップを見てみて下さい、意味のない製品をたくさん販売
  しています。製品があまりにも多く、フォーカスしていませ
  ん。実際、私たちはプロダクトロードマップのうち70パー
  セントの製品を削除しました。
   私はその後数週間も、この価値のない製品ラインのことが
  よくわかりませんでした。このモデルは一体何なのか、一体
  これはどういった製品なのか、と考えざるを得なかったので
  す。私は顧客と話し始めたのですが、彼らも同じく理解でき
  ませんでした。         https://bit.ly/2zfgGym
  ───────────────────────────

アップルの有名な広告.jpg
アップルの有名な広告
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2018年07月09日

●「新井教授の本へのネットでの反論」(EJ第4802号)

 新井紀子教授の著書『AIvs教科書が読めない子どもたち』
(東洋経済新報社)に対して、ネット上に多くの反論記事がアッ
プロードされています。売れているからです。そのなかで、ひと
きわ目を引くのは次のブログです。批評は5章に分かれているの
で、章ごとに参照できるようにしておきます。
─────────────────────────────
 東ロボくんは、なぜ失敗したのか『AIvs教科書が読めない
子どもたち』
 ◎批評1 ・・・ https://bit.ly/2KCkm2y
               東ロボくんはなぜ失敗したのか
 ◎批評2 ・・・ https://bit.ly/2tZaGVq
          文章を読めればAIに仕事を奪われない?
 ◎批評3 ・・・ https://bit.ly/2KE1IaC
         そもそもコンピュータが意味を理解するとは
 ◎批評4 ・・・ https://bit.ly/2J19Ko0
            コンピュータで文の意味を理解しよう
 ◎批評5 ・・・ https://bit.ly/2zh0w7A
 「太郎は花子が好きだ」をコンピュータに意味理解させました
─────────────────────────────
 このブログは、株式会社ロボマインド代表取締役、田方篤志氏
が書いており、大変内容があります。とくにAIや、ロボットに
対する記述は示唆に富む内容であり、多くのヒントが得られると
思います。そういうわけで、AIから少し離れるテーマもあると
思いますが、いくつか取り上げて、何回か、EJとして要約しま
す。詳細については、それぞれの章を参照してください。
 まず、『AIvs教科書が読めない子どもたち』に関して、冒
頭に次の記述があります。
─────────────────────────────
 現在、AI関連の書籍で、『AIvs教科書が読めない子ども
たち』という本が売れているようです。著者は、AIロボを東大
に合格させる「東ロボくん」というプロジェクトで有名な新井紀
子教授です。
 「東ロボくん」プロジェクトには、当初から興味があったので
さっそく読んでみたのですが、自然言語処理の浅い理解や、「知
能=偏差値」という思い込みなど、著者の主張には首をかしげざ
るを得ないことが多かったので、今回から何回かにわけて、本書
について解説していきます。
 AIが、大学の入試問題を解くとなると、数学や歴史の穴埋め
問題なら勝算はあると思いますが、一番苦戦するのは国語です。
なぜなら、現在の自然言語処理では、文章の意味を理解すること
ができないからです。
 英語の翻訳なら、意味を理解できなくとも、それらしい翻訳を
作り出すことは不可能ではありませんが、文章の意味理解そのも
のを問う国語の問題があるかぎり、東大合格など絶対に不可能な
のです。そのような一見、無謀なチャレンジですが、国の予算を
獲得し、税金を投入するのですから、何らかの秘策があるのだと
楽しみに読み始めました。
 ところが、そのような期待は見事に裏切られてしまいました。
(新井紀子教授は)「国語はどう考えても正攻法でなんとかでき
るとは思えません(P92)」と、堂々と宣言しているのです。
                    ──「批評1」より
─────────────────────────────
 新井教授は、『AIvs教科書が読めない子どもたち』のなか
で書いているのは、「東ロボくん」を東大に合格させようとする
プロジェクトを推進する過程で、AIにはできないことがたくさ
んあることがわかってきます。
 対話はしているが、その意味は理解されていないし、小論文テ
ストでも、それらしき文章は書くものの、よく理解して書いてい
るとは思えないレベルです。しかし、そのような言葉が理解でき
ないAIであるにもかかわらず、とくに読解力において、人間の
中高生がAIに劣る傾向があることに、新井教授は愕然とするの
です。そして、中高生の国語の読解力のレベルを検査するRST
(リーディング・スキル・テスト)を開発し、検査を行い、その
事実が裏付けられたことを公表する──これがここまでEJが述
べてきたことのすべてです。
 ここで新井教授の経歴について、知っておくべきことがありま
す。新井紀子氏は、一橋大学法学部の出身で、イリノイ大学数学
科の博士課程を修了した理学博士であり、数学者です。したがっ
て、AIの専門家でも、ロボットの専門家でもないのです。しか
し、AIには造詣が深く、現職は、国立情報学研究所の教授を務
めています。
 新井教授は、法学部出身であることを明らかにしたうえで、読
解力の向上は、なるべく若い段階(中高生)で向上させるべきで
あるとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 私はもともと法学部で、刑法の授業で、有名なえん罪事件の被
告となった女性のお話を伺ったことがあります。あまりに理路整
然としていたため、なぜこの人を警察は誤って逮捕したんだろう
と思いました。しかしのちに、法廷という言語と論理で説明する
以外に疑いを晴らすことのできない場で、彼女は変わっていった
のではないかと思うようになりました。
 人は変われます。だから簡単に諦めてはいけない。私がこれま
で指導してきた学生や、ともにプロジェクトを動かしてきた仲間
たちの中にも読解力を上げたり、論理的になれたり、変わること
ができた人たちがいます。でも大人が変わるには、時間などかな
りのコストがかかってしまう。偏った読み方を長年続けてしまっ
ているからです。だから早めに修正したほうがいいのです。
                  https://bit.ly/2IQsHtM
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/046]

≪画像および関連情報≫
 ●感想文/『AIvs教科書が読めない子どもたち』
  ───────────────────────────
   実を言えば、この本はあまり紹介するつもりはありません
  でした。話題の書であるためわざわざ取り上げるまでもなく
  著者本人による内容紹介も他の人による書評もあちこちで出
  ていますし、何より私は新井先生をシンギュラリティ懐疑論
  者のライバルだと思っているので(笑)とはいえ、一応私の
  「感想」を散漫にまとめておきたいと思います。詳細な内容
  紹介や書評は別の方に譲ります。
   前半部分は、コンピュータに東大入試問題を解かせる「東
  ロボくんプロジェクト」の報告をベースにして、現在のAI
  技術と機械学習に関する解説を行なっています。シンギュラ
  リティ懐疑論としての議論は簡潔かつ妥当で、説得力のある
  ものだと思います。たびたび出てくる『この「だから」は、
  論理的ではありませんが・・』という言葉には笑ってしまい
  ました。
   私が思うに、著者が断固たるシンギュラリティ懐疑論者と
  者となったのは、2016年の内閣府タスクフォース*1での
  齋藤元章氏との接触がきっかけではないかと思います。その
  点を考慮すると、本書の説明は、「現状の技術の延長線上に
  シンギュラリティはない」ことの説明になっていても、齋藤
  氏が唱えるシンギュラリティ説 (と、そのベースになったカ
  ーツワイル氏の説) を正面から捉えた反論にはなっていない
  と感じました。         https://bit.ly/2KQ8b1o
  ───────────────────────────

答案に答えを書く「東ロボくん」.jpg
答案に答えを書く「東ロボくん」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月06日

●「日本語読解力に欠けている子ども」(EJ第4801号)

 2018年7月2日のBSフジ「プライムニュース」に新井紀
子国立情報学研究所教授が出演しています。まさにEJで取り上
げている問題について、林芳正文科大臣や教育評論家の尾木直樹
氏も交えて、話し合いを行っているのです。
 そのときの「ハイライトムービー」があります。時間は22分
28秒ですので、ぜひご覧ください。
─────────────────────────────
      2018年7月2日/BSフジプライムニュース
 「人工知能“東大受験”調査/解ける問題・解けない問題」
          出演者:林芳正文科大臣
              新井紀子国立情報学研究所教授
              尾木直樹氏/教育評論家
                      22分28秒
                 https://bit.ly/2Kz6t5n
─────────────────────────────
 大学は別として、また一部の私立学校を除いて、日本の学校の
ほとんどには「原級停止処分」というものがありません。つまり
落第という処分はないのです。例えば、小学校3年生は1年経つ
と、全員4年生になります。たとえ学力がその学年の要求してい
るレベルに達していない学生も学年は上がるのです。
 そうすると、上級学年の教育の基礎になるべき教科が理解でき
ないままで上級学年に上がると、当然ですが、そこでの教科も理
解できないことになってしまいます。もっともその時点で、適切
な教育が行われればいいのですが、そのまま卒業してしまうケー
スが少なくないのです。
 それに日本では、大学を卒業することは、それほど困難ではあ
りません。大学にもよりますが、入学できたのであれば、卒業の
ための必要単位を取得することは、ほとんどの学生はクリアでき
るはずです。そうであるとすると、本来は、義務教育において、
修得しておくべき基礎的な教科の修得が不完全なまま社会人にな
るケースは多くなります。
 私は、ここ20年以上、あるIT企業の新人教育(中途入社新
人を含む)を担当しておりますが、小学校レベルの算数の問題が
解けない新人が多いことに驚いています。昨日今日はじまったこ
とではなく、ずっとそういう状態が続いています。
 新井教授の本を読んで、これは算数というよりも、問題が要求
していることを読み解く読解力が不足しているのが原因ではない
かと、気が付きました。計算ができないわけではなく、どのよう
に計算するかわからないのです。
 やはり新井教授の本に関して感想を書いているブログに次の記
述を見つけました。
─────────────────────────────
 AI開発者の第一人者である、新井紀子さんの著書『AIvs
教科書が読めない子どもたち』を読みました。本書では子どもた
ちとAIが最も苦手とする能力の一つに読解力を挙げています。
要は文章が読めず、読んでも理解できないということです。
 私自身、子どもたちの家庭教師(小学校〜高校生)をしていて
ハタと思いつくことがありました。私は理数系の国立大学を卒業
しており、理数系が非常に得意です。なので、理数系が苦手な子
どもたちを抱えているご家庭からの依頼が多いです。
 ご家庭の方々の認識は大体似通っており、曰く
「我が家の子どもは国語は得意なんだが、数学(算数)が苦手」
 どの子も、計算問題は解けるんです。
 時間がかかったり、ケアレスミスをすることはあれど、決して
解き方そのものが間違っているとか、手も足も出ないということ
はありません。おや?と思いつつ、文章問題を解かせてみると、
途端に手も足もでなくなります。
 例えば、小学3年生の「午前9:15に学校に着き、午後15
:15に学校を出ました。学校には何時間いたでしょう?」とい
うような問題に、小学5年生が答えられないんです。答えは当然
6時間です。私が教えている生徒は、何を考えたか、9:15と
15:15を足して、24:30と答えました。小学3年生がで
はありません。小学5年生です。小学5年生が小学3年生の文章
問題に全く歯が立たないんです。   https://bit.ly/2NqZAk7
─────────────────────────────
 新井紀子教授のRST(リーディング・スキル・テスト)の結
果は、恐ろしい事実を突き付けています。日本人でありながら、
日本語の意味を正確に読み取る力が不足している学生が多いとい
う事実をRSTの結果は指摘しています。教科書が読めい子ども
が多いという事実です。
 これに対する国の動きは必ずしも機敏とはいえないようです。
RSTの結果にも異論を唱える教育関係者も少なくないといわれ
ています。新井教授の本に対する反論も多いのです。これについ
て、新井教授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 教科書を読むだけの読解力がないという事実に直面したとき、
2つの選択肢があります。ひとつは「教科書なんか悪文だらけ。
読めなくてもいい」と思うこと。もうひとつは「どうにかしない
といけない」と思うことです。可能性が広がるのはどちらでしょ
うか?私は「読めなくてもいい」という人を全員、説得すること
はできません。だから、とにかく中学1年生を診断して、先生た
ちがリアリティをもって、子どもたちの読解力の改善に取り組む
ための手助けをしたい。
 RSTの結果を見ても、子どもたちは自分でどうにかすること
はできません。そこでまず先生に受けてもらい、子どもたちがど
こでつまずいているかを知った上で、ともにどうしたら読解力を
伸ばすことができるか考えてくださる学校からRSTを提供した
いと考えています。         https://bit.ly/2IQsHtM
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/045]

≪画像および関連情報≫
 ●新井紀子教授の本を大人たちはどう読めているか
  ───────────────────────────
   今のところ「真の意味でのAI」は存在せず、現状のAI
  技術の原理から言って「シンギュラリティ」は到来しない、
  という話の部分は明快だし、読む価値がある。ここ数年、定
  年まで自分の職が安泰であることを疑ったこともないような
  立場の人が、耳かじりの「みなさんが大人になる頃には今あ
  る仕事の半分はAIに取って代わられて・・・」みたいな話
  をするのを聞くとヘドが出そうになるので、そういう人には
  特に第1章と第2章で理解を深めて欲しいが、本書もその点
  については脅し煽るような書きっぷりなので読んでもあまり
  変わらないかもしれない。
   私が教育(学)関係者からの厳しい感想を期待していたのは
  そこではなく、第3章以降の「全国読解力調査」の部分だ。
  まず、このテストで測ったものは絶対で、読者はみなこの結
  果に慄然とすべき、という書きっぷりがどうも好きになれな
  い。好きになれないというのは私個人の感想だが、そこに、
  実証研究の報告としても粗雑であることが表れているように
  思われる。結果は事実かもしれないが、それが学生・生徒の
  論理的思考力や推論能力そのものを果たして表しているかど
  うかの解釈にはもう少し慎重であるべきではないかという記
  述が多い。           https://bit.ly/2KOmhgC
  ───────────────────────────

BSフジプライムニュース出演中の新井教授.jpg
BSフジプライムニュース出演中の新井教授
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2018年07月05日

●「日本語がきちんと読めない中高生」(EJ第4800号)

 昨日のEJを少し振り返ります。国立情報学研究所教授の新井
紀子氏は、6年間かけて、「AIロボットは東大に入れるか」の
テーマに取り組み、東大は無理という結論を出しています。新井
教授は、AIが言葉の意味を理解するのは困難であるという考え
方に立っています。したがって、巷でよくいわれる「人類はいず
れAIに征服される」というようなことは、まず起きないと主張
しています。
 しかし、それでもAIは偏差値57に達したのです。有名私大
に入れるレベルですが、AIは言葉の意味を理解して問題を解い
ているのではないのです。それでも「東ロボくん」に問題を与え
て小論文を書かせると、教科書とネットのウィキペディアなどを
参照し、それらから文を取り出して組み合わせ、最適化を施して
ちゃんと読める答えの文章を作成できるのです。
 しかし、新井教授が愕然としたのは、東ロボくんの小論文が学
生の文章よりもかなりマシであることに気付いたときです。人間
の学生が東ロボくんに負けている──文章の意味を理解できない
AIになぜ人間が負けるのかという疑問です。
 果して人間は、本当に文章を理解できているのか。そこで新井
教授は、「リーディング・スキル・テスト」(以下、RSTと略
記)を開発し、中高生にRSTを受検させたのです。RSTにつ
いて、新井教授は次のように述べています。
─────────────────────────────
 問題は6タイプあり、「それ」「これ」など指示詞、省略され
た主語や目的語が何を指しているか判断する「照応」、主語や目
的語がどれか判断する「係り受け」、論理と常識を用い、与えら
れた文から推論する「推論」、定義を読んで具体的にどのような
コトやモノがその例になりうるか見分ける「具体例同定」、2つ
の文が同義であるか判断する「同義文判定」、文章に対応する図
表を見分ける「イメージ同定」だ。中学・高校の教科書や辞書、
新聞に掲載された文から問題を作成している。つまり、これが読
めなければ、教科書も辞書も新聞も読めないことになる。
                  https://bit.ly/2KKtWQb
─────────────────────────────
 RSTの問題は、かなり精密に作成されています。RSTは、
ペーパーテストではなく、コンピュータで無作為に受検者に示さ
れます。受検者によって問題が異なるので、「項目反応理論/I
RT」で解析が行われています。「項目反応理論」についてウィ
キペディアの定義を示しておきます。TOEFLなどでも使用さ
れており、信頼度の高い理論です。
─────────────────────────────
 項目反応理論は、評価項目群への応答に基づいて、被験者の特
性(認識能力、物理的能力、技術、知識、態度、人格特徴等)や
評価項目の難易度・識別力を測定するための試験理論である。こ
の理論の主な特徴は、個人の能力値、項目の難易度といったパラ
メータを、評価項目への正誤のような離散的な結果から確率論的
に求めようとする点である。
     IRT:Item Response Theory; Item Latent Theory
                  https://bit.ly/1ZUtPOx
─────────────────────────────
 実際にはどのような問題が出題されたのでしょうか。
 このRSTに基づく問題を2つ示すので、やってみていただき
たいと思います。
─────────────────────────────
【問題@】/「係り受け」問題
 「アレックス/Alex」は、男性にも女性にも使われる名前で、
女性の名「アレクサンドラ/Alexandra」 の愛称であるが、男性
の「アレクサンダー/Alexander」 の愛称でもある。この文章に
おいて、以下の文中の空欄に当てはまる最も適当なものを選択肢
のうちから一つ選びなさい。
    Alexandra の愛称は( )である。
    @Alex  AAlexander  B男性  C女性

【問題A】/「同義文判定」の問題
 幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の
警備を命じた。
 上記の文が示す内容と、以下の文が表す内容は同じか。「同じ
である」「異なる」のうちから答えなさい。

 1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の
警備を命じられた。
                  https://bit.ly/2IS68F0
─────────────────────────────
 「問題@」の正解は@の「Alex」です。これについて、中学生
の正解率は37・9%、高校生は64・6%でした。何でもない
問題ですが、読み取れていないのです。とくに中学生はかなりひ
どい結果です。
 「問題A」の正解は「異なる」です。「問題@」よりもやさし
い問題です。これについて中学生の正解率は57・4%、高校生
は72・3%でした。これほど明確に違う日本文を読み取れない
中学生が42・6%、高校生でも27・7%もいるのです。
 それにしても「問題A」の中学生の正答率57・4%は低いの
一言に尽きます。サイコロを転がして正解を選ぶ確率が50%で
すから、57・4%は、それよりも少しマシといった程度でしか
ないのです。
 日本語の文章の読解力が学力の伸びの前提になっています。彼
らがこのまま大人になるので、書籍はもちろんのこと、新聞すら
読めない社会人が現在増えているのです。ちなみに、20代の日
本人の新聞の購読率は9%と10%を切っています。これでは、
AIを使いこなすことはできず、AIに使われてしまう運命にあ
ります。      ──[次世代テクノロジー論U/044]

≪画像および関連情報≫
 ●「教科書が読めない」子どもたち/教育現場の深刻な事情
  ───────────────────────────
   子どもたちは想像以上に文章を理解できていない。「だが
  解決策はあるはずだ」。教育の現場では、対策が始まってい
  る。「うちの子、算数の計算問題はできるけど、文章題はだ
  めで」
   この傾向は、おそらく多くの親が実感しているのではない
  だろうか。しかし、なぜ文章題ができないのか。それを明ら
  かにしたのが、国立情報学研究所の新井紀子教授が開発した
  基礎的読解力判定のリーディングスキルテストだ。
   RSTは、生活体験や知識を動員して、文章の意味を理解
  する「推論」、文章と、図形やグラフを比べて一致している
  かどうか認識する「イメージ同定」、国語辞典的、あるいは
  数学的な定義と具体例を認識する「具定例同定」など、読解
  力を6分野に分け、その能力を問うものだ。
   このテストをいち早く取り入れたのが、戸田市(埼玉県)
  教育委員会だ。教育政策室指導主事の新井宏和さんは、その
  経緯を次のように語る。
   「全国学力・学習状況調査の活用問題が解けるような子ど
  もたちにしたかった。幸いにも新井教授と戸田市の戸ケ崎勤
  教育長が知り合いで、教育長がRSTに高い関心を示し協力
  して取り組むことになりました」。
   テストは2015年から段階的に実施され、17年は市内
  の全中学生と、小学6年生全員の4500人が参加した。問
  題は、国立情報学研究所特任研究員の菅原真悟さんの指導の
  もと、市内の小中学校の教員が作成した。
                  https://bit.ly/2KDrmLV
  ───────────────────────────

RSTの作成者/新井紀子教授.jpg
RSTの作成者/新井紀子教授
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2018年07月04日

●「AIは真に文章の意味がわかるか」(EJ第4799号)

 AI(人工知能)が人間の話す言葉を理解し、それに対する返
事を返してくる──一昔前では考えられなかったことですが、今
ではそれが当たり前のようになっています。
 アイフォーンの「シリ」だけでなく、アマゾンの「アレクサ」
グーグルの「グーグル・アシスタント」、ドコモの「しゃべって
コンシェル」などたくさんあります。なかには、「女子高生AI
りんな」という怪しげなものまで出現しています。「りんな」は
LINE上でユーザーの会話の相手をしてくれるAIです。20
15年に登場し、LINEユーザーの友だちは、530万人とい
いますから、驚きです。
 ところが、これらのAIが、本当に「言葉の意味が理解できて
いるのか」というと、それは大変疑問です。これについては、学
者の間でも意見が分かれているといいます。
 近代言語学の父といわれるスイスの言語学者フェルディナン・
ド・ソシェールは、「言語というものは記号の体系」といってい
ます。これについて、ウィキペディアには、次のように説明があ
ります。
─────────────────────────────
 ソシュールは、言語(ラング)は記号(シーニュ)の体系であ
るとした。ソシュールによれば、記号は、シニフィアン(たとえ
ば、日本語の「イ・ヌ」という音の連鎖など)とシニフィエ(た
とえば、「イヌ」という音の表す言葉の概念)が表裏一体となっ
て結びついたものである。そして、このシニフィアンとシニフィ
エの結びつきは、恣意的なものである。つまり、「イヌ」という
概念は、“Dog” (英語)というシニフィアンと結びついても、
"Chien" (フランス語)というシニフィアンと結びついても、ど
ちらでもよいということである。     ──ウィキペディア
                  https://bit.ly/2KGqPpa
─────────────────────────────
 従来のAIは、この表裏を結びつけることができなかったので
すが、いわゆる「グーグルの猫」によって、この問題はある程度
前進したといえます。この「記号がいかに実世界との関わり合い
において意味を持つか」という問題のことを「シンボルグラウン
ディング問題」と称しています。
 国立情報学研究所教授の新井紀子氏という人がいます。新井教
授は、人工知能分野のグランド・チャレンジ「ロボットは東大に
入れるか」のプロジェクト・ディレクターを2011年から務め
ていた方です。いま新井教授の執筆された次の本が、一大ベスト
セラーズになっています。
─────────────────────────────
          新井紀子著/東洋経済新報社刊
     『AIvs教科書が読めない子どもたち』
─────────────────────────────
 新井教授が目指したのはロボットを東大に入れることではなく
人間と比較して、AIの可能性と限界を明らかにすることにあっ
たのです。しかし、この研究の結果、驚くべきことが鮮明になっ
たのです。その「驚くべきこと」を書籍として上梓したのが上記
の本です。新井教授は、この本のなかで、AIは言葉の意味を本
当に理解しているのかについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 AIが文章を論理的に読めるようになるとしたら、まずは、文
がどこで区切られるか、つまり文節が理解できなければなりませ
ん。それができたら、「何がどうした」という主語と述語の関係
や修飾語と被修飾語の関係を理解しなければなりません。これを
「係り受け解析」と言います。
 また、文章には「それ」「これ」といった指示代名詞が頻繁に
出てきますから、指示代名詞が何を指すかも理解できなければな
りません。それを「照応解決」と言います。
 東ロボくんは、これらの処理を大学の入試問題に適用して、代
名詞が何を指すかといった入試の問題が解けるようになったわけ
です。それでは、係り受け解析や、照応解決ができたからといっ
て、意味がわかったといえるでしょうか?
 それだけでは、意味を理解したとは言えないでしょう。それで
は、そもそも「意味を理解する」とは、いったいどういうことな
のでしょう?          ──新井紀子著の前掲書より
─────────────────────────────
 これは大変難しい問題です。新井教授は、6年間にかけて、プ
ロジェクトにおいて、さまざまなかたちで、AIに東大入試の問
題を解かせてみて、AIの限界を感じ取ったといいます。
 しかし、AIの偏差値は57を超えたのです。偏差値57とい
うと、高校3年生の上位20%に相当する成績です。この偏差値
なら、一部の私立有名大学には、十分合格するレベルにあること
を示しています。
 このロボットは「東ロボくん」というのですが、彼は言葉の意
味を理解して問題を解いているのではないのです。つまり、人間
のように何かを読んで、それを理解し、そのうえで問題の解を得
るのではないのです。それらしく見せているだけです。
 しかし、東ロボくんは、小論文ぐらいは書くことができます。
教科書とウィキペディアを検索し、文を取り出して組み合わせ最
適化したうえで書くだけなのですが、衝撃的なのは、たいていの
学生が書くものよりかなり質が高いという事実です。
 このとき、新井教授は考えたのです。なぜ、文章を読んで意味
が理解できないAIが人間に勝てるのだろうか。本当に人間の中
高生は、文章を読めているのだろうか、と。
 そこで、新井教授は、本当に中高生が日本語の言葉の意味を理
解しているのかを調べる「リーディング・スキル・テスト」を開
発し、2016年4月から1017年7月末までに、全国の2万
5千人がこのテストを受験しています。強制でない調査にこれほ
どの協力が得られたのは珍しいことです。
          ──[次世代テクノロジー論U/043]

≪画像および関連情報≫
 ●人工知能(AI)の苦手なことは「言語理解」
  ───────────────────────────
   AIと人間を分けるのは「言語理解」だ。言語を理解する
  ためには単語の意味だけでなく、それが使われている背景や
  文脈の理解も必要になるためその全てをAIに理解させるこ
  とは難しい。これはイラストの理解にもいえることだ。よっ
  て、今後人間がAIに勝つとすれば、コミュニケーション分
  野にあると、東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の
  柳川範之氏は指摘する。(2016年7月25日開催日本ビ
  ジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「ファミリ
  ービジネスと産業構造の変化」より、全8話中第6話)
   では(AIに対する)人間の相対的な有利性は何なのか。
  人間の強みはどこにあるのかに関する解説です。これについ
  ては、本当ならAIの専門家にきちんと聞いた方がいいので
  すが、社会科学者なりの私の理解を申し上げます。現状での
  AIの強みは、ビックデータにあります。すなわちデータの
  蓄積が重要なのです。ディープラーニングは必要なデータ量
  を大きく下げることに成功し、比較的少ないデータでもたく
  さんのことが分かるようになってきました。しかしそれでも
  データの蓄積が命です。そう考えるとデータの蓄積が使えな
  い、データの蓄積による学習が使えない分野は、人間の方が
  相対的に強みがあることになります。それは、「全く新しい
  組み合わせを考える」ことです。つまり、過去のデータがな
  いため、全く新しい組み合わせを考えようとしても、それら
  の個別性が強く、過去のデータがデータとして使えない。こ
  ういう問題に関しては、人間の方が相対的に有利性を持つと
  いうことが分かっています。   https://bit.ly/2u0miqu
  ───────────────────────────

新井紀子国立情報学研究所教授.jpg
新井紀子国立情報学研究所教授
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2018年07月03日

●「AIはディープラーニングにある」(EJ第4798号)

 「スマートニュース」というスマホ配信のニュースアプリがあ
ります。私は情報収集用に複数のニュースアプリをダウンロード
していますが、「スマートニュース」の場合、ニュースの選定の
的確さや文字の読み易さには定評があると思っています。
 タイトルや記事の読み易さを支えているのは、昨日のEJで取
り上げて説明している「形態素解析」の技術を使っています。形
態素解析という技術は、文章を構成している要素を単語レベルに
バラバラにします。その単語単位で行を折り返したり、文字の横
幅を圧縮するなど、日本語組版に工夫をこらしています。そのた
め、文字と文字の間隔や、改行などが適切に行われているので、
記事がとても読み易いのです。AIの技術はこんなところに使わ
れているのです。
 さて、現代は「第3次AIブーム」と呼ばれています。今や何
でもかんでもAIです。「AI家電」がその典型です。お掃除ロ
ボットから始まって、AI冷蔵庫、AI調理器、AIスピーカー
など、何でも「AI」の言葉を冠するようになっています。
 その多くはIoTを含む現代のICT技術をすべてAIと呼ん
でいるフシがあります。こういう傾向は、第2次AIブームのと
きもあったのです。AIには、きちんとした定義がないというか
定義できないので、こういうことが起きるのです。
 これについて、現代AIの日本の第一人者といわれる東京大学
特任准教授の松尾豊氏は「AIは擬人化の一種であり、技術をあ
たかも人であるかのように例えると理解しやすい。ICTをAI
と呼ぶこと自体は問題はないが、過度な擬人化には注意が必要で
ある」といっています。
 それでは、現代のAIは、どのように捉えるのが、正しいので
しょうか。
 AIは、ディープラーニング(深層学習)にあるといえます。
松尾豊准教授が現代のAIについて、記者のインタビューに答え
ている記事をご紹介します。
─────────────────────────────
──深層学習は何をもたらすのでしょうか。
松尾:「目が誕生した」と考えればいいでしょう。深層学習は人
間でいうところの目の技術です。網膜の役割をセンサーが、視覚
野を深層学習が果たすわけです。
 画像認識の精度はどんどん上がっています。2015年に人間
の目の精度を超えました。最近では、画像認識の次の段階として
予測が出てきました。例えば海岸から見た波の映像を与えると、
次に波がどう動くのかを予測し、描画するというものです。人間
が世界を観察する仕組みと同様のものを実現するための研究が進
んでいます。
 深層学習は、見ているものが何かを判断する「パターン処理」
の技術と言えます。見ているものに次に何が起こるか、を予測す
るのもパターン処理です。
──目を獲得すると、何が起こりますか。
松尾:生物が目を穫得してから、生物の戦略は急速に多様化して
いき、飛躍的な進化につながりました。
 同じことが、機械やロボットの世界にも起こるはずです。(約
5億年前のカンブリア紀に生物が飛躍的な進化を遂げた)「カン
ブリア爆発」と同様の現象を予想しています。
 農業を例に取ると、自分の目で判断する農作物の収穫ロボット
が実現できます。収穫が可能なら、農作物が病気かどうかも判定
できるようになる。すると対処策を講じられる。同じようなこと
が、製造業の工場でも可能になります。医療、介護、建設、食品
加工といった、至るところで適用できるのではないでしょうか。
 目を穫得した機械はハードウエアとして販売するほか、サービ
スの一部として提供できます。農業ではトマトの収穫、病気の判
定、対処を講じるサービスが可能です。 松尾豊東京大学准教授
 「深層学習の価値は『目』の獲得/産業応用で日本は勝てる」
     ──『まるわかり!人工知能最前線』/2018年版
                     日経BPムック刊
─────────────────────────────
 ディープラーニングは「革命」です。6月18日のEJ第47
87号において、なぜ、革命かについて、AIの3つの可能性に
ついて指摘しているので、再現します。
─────────────────────────────
        1.3つの認識が可能になる
        2.運動ができるようになる
        3.言語の意味が理解できる
─────────────────────────────
 「1」の3つの認識とは、「画像認識」「文字認識」「音声認
識」のことであり、これはいずれも既に可能になっています。そ
れは、AIが目を持ったからです。そして、遂に2015年にお
いて、AIの画像・音声誤認識率、画像認識や音声を間違える率
は人間の方が高いのです。松尾准教授はこれを「数年後、歴史の
教科書に載ってもいいくらいの出来事である」としています。
─────────────────────────────
        AI ・・・・・ 5・1%
        人間 ・・・・・ 4・9%
─────────────────────────────
 「2」の「運動ができるようになる」という意味は、人間が教
えることなく、自らの観測データと合体させて、同時の行動がと
れるようになることを意味します。
 米ATARIの約60のゲームのうち、半数では既にAIが、
人間のハイスコアを超えています。AIは習熟を通じ、人間のよ
うな熟練した動きができるようになってきているのです。将棋や
碁の世界でも同様です。
 「3」の「言語の意味が理解できる」についても大きな進展が
あります。これについては、明日のEJで述べることにします。
          ──[次世代テクノロジー論U/042]

≪画像および関連情報≫
 ●AIの世界で「眼の誕生」が持つ意味
  ───────────────────────────
   「カンブリア爆発」という言葉をお聞きになったことがあ
  ると思います。古生代カンブリア紀、およそ5億4200万
  年前から5億3000万年前という比較的短期間に、今見ら
  れる生物種のほぼ全てが出そろった現象を指すのですが、そ
  の爆発的な生物多様性の出現の理由として挙げられている一
  つが、高度な眼を持つ三葉虫の存在があります。高精度の眼
  を持った生物が圧倒的サバイバル戦略を駆使して、進化して
  いったのです。
   実は、東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻特
  任准教授・松尾豊氏によれば、AI、機械やロボットの世界
  でもこのカンブリア爆発が起こると考えられるのです。もち
  ろんその原因は「眼」にあります。ディープラーニングの画
  像認識技術の進化によって、機械やロボットも、「眼が見え
  る」ようになりました。「今までだって高性能のカメラを搭
  載したいわば“眼を持つ機械・ロボット”はたくさんあった
  じゃないか」と思ってしまいますが、「見る」とは網膜と脳
  の後ろの方にある視覚野が働くことで可能になってきます。
  つまり、カメラとディープラーニング技術が組み合わさって
  初めてAIは「眼を持つ」と言えるのです。
   今まで見えなくてもすむ作業しか機械に任せられなかった
  ところ、この「眼の誕生」によって、見る必要のある、見て
  判断して作業を進める必要のある複雑な仕事を任せられるよ
  うになったのです。       https://bit.ly/2tT9HoR
  ───────────────────────────

松尾豊特任准教授.jpg
松尾豊特任准教授
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2018年07月02日

●「形態素解析により意味を探るシリ」(EJ第4797号)

 自然言語処理とは、人間が日常的に使っている自然言語をコン
ピュータに処理させる一連の技術であり、人工知能と言語学の一
分野です。この自然言語処理の重要プロセスが「形態素解析」で
す。形態素解析を定義すると、次のようになります。
─────────────────────────────
 文法的な情報の注記のない自然言語のテキストデータから、対
象言語の文法や、辞書と呼ばれる単語の品詞等の情報にもとづき
形態素(おおまかにいえば、言語で意味を持つ最小単位)の列に
分割し、それぞれの形態素の品詞等を判別する作業である。
        ──ウィキペディア https://bit.ly/2Na9Flk
─────────────────────────────
 この定義を読んでもピンとこないと思うので、「私は台所で料
理します」という例文を使って説明します。この文を形態素解析
をすると、次のように7つに分割されます。
─────────────────────────────
          私  ・・ 代名詞
          は  ・・ 副助詞
          台所 ・・  名詞
          で  ・・  助詞
          料理 ・・  名詞
          し  ・・  動詞
          ます ・・ 助動詞
─────────────────────────────
 このように、文をバラバラにして、最小単位になった単語をそ
れぞれ辞書などのさまざまな情報と照らし合わせ、それらの単語
の品詞の種類、活用形の種類などを含めて、その意味の割り出し
の分析を行うのです。その意味の割り出しには次の3つのステッ
プを踏むのです。
─────────────────────────────
   1.構文解析
     ・形態素をもとに文の構造を明確にする
   2.意味解析
     ・構文をもとに意味を持つまとまり判別
   3.文脈解析
     ・文単位で、構造や意味について考える
─────────────────────────────
 これらの解析に関しての詳細は、次のサイトに詳しく、かつわ
かりやすく解説が行われています。
─────────────────────────────
 自然言語処理とは?スマートスピーカーにも使われている技
 術をわかりやすく解説!     https://bit.ly/2tIAMvU
─────────────────────────────
 形態素解析の話に戻ります。これらの解析には多くのツール、
すなわち、ライブラリが用意されています。有名な日本語形態素
解析ツールには、次の3つがあります。
─────────────────────────────
          1. MECAB
          2. JUMAN
          3.JANOME
─────────────────────────────
 第1は、「MECAB」です。
 これは、オープンソースの日本語形態素解析ツールであり、最
も有名です。汎用的な設計ができるのがMECABの特色です。
名前の由来は「和布蕪/めかぶ」からきています。使用できる言
語は、C、C#、C++、Java、Python、Rubyなど多数あります。
 第2は、「JUMAN」です。
 これは、京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻の黒橋・
河原研究室が開発した日本語形態素解析ツールです。WEBテキ
ストから自動獲得された辞書、ウィキペディアから抽出された辞
書を使用できます。
 第3は「JANOME」です。
 これは、汎用プログラミング言語「ピュアバイソン」で書かれ
ている日本語形態素解析ツールです。パイソンは、C言語などに
比べて、プログラミングが分かりやすく、少ないコードで書ける
特徴があります。名前の由来は「蛇の目」からきています。
 アイフォーンの「シリ」で、ユーザーが次のように話しかけた
とします。
─────────────────────────────
  遠藤さんに打ち合わせに遅れます、とメールを送って!  
─────────────────────────────
 この音声はアップルのサーバーに送られ、形態素解析が行われ
上記の構文分析、意味解析、文脈解析が行われ、最終的に次のか
たちに落とし込まれ、サーバーからアイフォーンに送り返されて
きます。
─────────────────────────────
   ・宛先は「遠藤さん」
   ・メールのサブジェクト「打ち合わせに遅れます」
   ・メールの本文は指定されていない
   ・その内容はメールを送る
   ・送る際は(アイフォーンの)メールアプリを使う
                  https://bit.ly/2Ncsrsg
─────────────────────────────
 ここまでくると、アイフォーンに登録されている遠藤さんのア
ドレスを宛先に指定し、メールアプリはシリを使い、「本文はど
んな内容にしますか」というメッセージ画面を出します。
 もちろん遠藤さんが2人以上いるときは、「どの遠藤さんです
か」と質問し、選択を促します。
 このようにして、シリは自然言語処理によって、ユーザーと対
話を行い、指定された動作を行うのです。
          ──[次世代テクノロジー論U/041]

≪画像および関連情報≫
 ●「Siri」と「AI」の関係を整理する
  ───────────────────────────
   AI(人工知能)は専門家によりさまざまな定義がありま
  すが、総合すると、「人間と同じような知能を人工的にコン
  ピュータで実現しようとする技術」を指します。その歴史は
  意外と古く、「AI(人工知能)」という言葉が初めて登場
  したのは、1956年に開催されたダートマス会議でした。
  1964年には、コンピュータと人がテキストベースであた
  かも会話しているように見せる対話システム「イライザ」が
  開発され人気を博しました。シリにイライザについて尋ねる
  と「彼女は私の最初の先生だったんですよ!」と答えるのは
  イライザが対話システムの原型だったことに由来します。
   現在「AI(人工知能)」と呼ばれる分野には、自然言語
  処理、音声/画像認識、データマイニングなどさまざまな情
  報処理技術が含まれていますが、AI技術の核となるのが、
  「機械学習」です。
   機械学習の説明がまたややこしいのですが、ざっくり言う
  と、人間が自然に行っている学習と同じように、AIプログ
  ラム自身が学習する仕組みです。大量のデータを処理、解析
  し、未来の予測を行うため、使うほどにデータが蓄積され、
  学習していき、賢くなります。この機械学習を取り入れてい
  るのがシリです。アップルの公式サイトではシリについて、
  「アップルが開発した機械学習テクノロジーが組み込まれて
  いる」と明言されています。   https://bit.ly/2ME1Q6x
  ───────────────────────────

MECABによる形態素解析.jpg
MECABによる形態素解析
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2018年06月29日

●「シリは外部サーバーのなかにある」(EJ第4796号)

 「シリ」の音声認識技術は非常に高いレベルにあります。私が
アイフォーン4Sではじめてシリを使ったとき、その認識力の高
さに驚嘆したことを覚えています。なぜなら、事前の学習なしで
どのような人の声でも、ほぼ正確に認識できたからです。
 かつて私は、コンピュータに向って音声で話すと、その音声を
文字に直してディスプレイに表示してくれるシステムに挑戦した
ことがあります。第1回の「AIの冬」の後のエキスパートシス
テムのブームの時代にAIの仕事をしていたからです。このとき
も音声認識は重要なテーマだったのです。
 しかし、この場合、自分の声をシステムに相当時間をかけて学
習させなければなりませんでした。しかし、シリは、そのような
学習をすることなく、誰の声でも言葉を正確に認識することがで
きたのです。
 アイフォーン7を入手したとき、さらに驚きがありました。ア
イフォーン7では、「ヘイ!シリ」の設定というものがあり、自
分の声をアイフォーンに登録することによって、シリが登録者の
声しか反応できないようにするレベルにまでなっていたのです。
ほかの人の声には反応せず、登録したユーザーの声のみを認識し
処理を行うようなレベルにまで到達しているのです。
 ところで、シリはどういう仕掛けになっているのでしょうか。
アップルからは公開されていませんが、推理を交えて探ってみる
ことにします。なお、本文は、松林弘治氏の以下の論文を参考に
して執筆しています。
─────────────────────────────
                    松林弘治著
   『世界の裏側でプログラムは何をしているか?』
              https://bit.ly/2tLhGEG
─────────────────────────────
 アイフォーンのホームボタンを長押しすると、シリが起動して
「ご用件は何でしょう?」と聞いてきます。ユーザーは、自分の
アイフォーンと話しているつもりですが、実はアイフォーンを介
して、遠く離れた場所にあるアップルのサーバーと話をする仕組
みになっています。
 その証拠があります。アイフォーンのホーム画面の「設定」の
アイコンをタップすると、「機内モード」のボタンがあります。
通常は「オフ」になっていますが、これを「オン」にしてシリを
呼び出すと、「Siriは利用できません」というメッセージが
表示されます。これは、シリを使うには、ネットワークを使うこ
とが前提になっていることをあらわしています。
 このように、スマホのアプリのなかには、スマホ本体のみで処
理をするのではなく、外部サーバーにアクセスし、解を得るもの
が多いのです。アプリがネットワークを使っているかどうかは、
「機内モード」を「オン」にして使ってみればすぐわかります。
 ところで、この「機内モード」に意外な活用法があります。ス
マホは何もしていなくても通信機能は動いていて、その分、電池
を消費しています。充電するときでも通信をしながら充電するの
で時間がかかります。ところが「機内モード」を「オン」にする
と、通信機能がストップするので、それだけ充電速度が速くなる
のです。知っておいて損はないと思います。
 シリを起動し、ユーザーがシリに話しかけると、それは通信機
能によって、アイフォーンを介して、アップルのサーバーにつな
がるというところまで話しました。この場合、話しかけた音声そ
のものが直接サーバーに伝わります。このあと、サーバーはどの
ような処理をするのでしょうか。
 これについては添付ファイルをごらんください。松林弘治氏の
論文に出ている図です。音声として入ってきたデータを、音の波
形データを読み取って、テキストとしての文章に変換し、そのう
えで意味の解析を行います。
 一般論ですが、音声認識には「音響モデル」と「言語モデル」
の2つがあります。これについて松林弘治氏は次のように解説し
ています。
─────────────────────────────
 一般的に音声認識には、音響モデルと言語モデルというものが
使われます。音響モデルは、音の波形データとそれらをテキスト
として書き起こしたもの、その2つを大量に持っています。こう
いう波形だと「あ」、こういう波形だと「い」というように覚え
ておいて、話かけた波形をもとに音素(ひらがなやアルファベッ
ト、発音記号など)に変換するために使います。どんな人のいろ
んな発声でも正しく認識するために、大量の音声データを使って
統計的に処理(こういう音声データの場合は、この音素の確率が
高い、など)するための仕組みとなっています。
 それに対して 言語モデル は、単語そのものを集めた辞書と、
単語の並び方の知識を確率的に表現した辞書を持っています。こ
れらを使って、音素の並びから最もありそうな文章となるよう、
統計的に処理して(この音素の並びだと、この漢字やかなの並び
になる確率が高い、など)文字列に変換するための仕組みです。
                  https://bit.ly/2MpDo8O
─────────────────────────────
 ここでいう言語モデルは、ちょっと難しくなりますが、要する
に「形態素解析」というものを行うのです。形態素解析というの
は、私たちが普段生活の中で一般的に使っている言葉、つまり、
「自然言語」を形態素にまで分割する技術のことです。ここで形
態素というのは、言葉が意味を持つまとまりの単語の最小単位の
ことです。
 形態素解析は、日本語の場合、難しいのです。日本語は、英語
のような単語や品詞の区切りがはっきりしている言語と違って、
名詞や動詞、助詞などがひとつながりになっているからです。そ
れを辞書と統計モデルを使って、単語や品詞に分割していくので
す。来週のEJで詳しく説明します。
          ──[次世代テクノロジー論U/040]

≪画像および関連情報≫
 ●Siriも進化?特定の声だけ聞きとるメカニズムが明らかに
  ───────────────────────────
   人間にはあたり前のように備わっている能力がたくさんあ
  りますが、じつは異常に複雑なメカニズムを持っていたりし
  ます。たとえば、騒がしい環境でノイズの中から特定の声だ
  けを聞きとる能力は、何十年も科学者たちを悩ませてきまし
  た。しかし、ようやくその仕組みが明らかになり、音声認識
  技術に革命をもたらす可能性がでてきました。
   この現象の代表例として挙げられるのはカクテルパーティ
  ー効果。複数の会話が同時進行していても、私たちは特定の
  誰かの声を拾うことができますよね。この仕組みを解明する
  ため、カリフォルニア大学の研究チームは脳外科手術を受け
  る患者に対して実験を実施。この調査結果はネイチェア誌に
  掲載されています。
   手術を行う際、被験者の神経活動を記録するために、聴覚
  皮質がある側頭葉に256枚の電極シートを設置します。そ
  して手術後、複数の声を重ねた音声トラックを再生して特定
  の話し手の言葉を認識してもらい、患者の脳活動を観察して
  いきます。観察には脳活動の様子を再構築するソフトウェア
  が使われ、複数の声が聞こえる環境でどのような変化が起き
  るかを評価。すると驚くべきことに、聴覚皮質が一度に認識
  するのはひとつの声で、そのほかの音は効果的にシャットア
  ウトしていることが見えてきたのです。
                  https://bit.ly/2tAqihX
  ───────────────────────────

音響モデルと言語モデル.jpg
 
音響モデルと言語モデル
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2018年06月28日

●「シリはフロントエンド機能である」(EJ第4795号)

 CALO──それは、DARPAが資金を拠出し、技術系シン
クタンクのSRIインターナショナルが元請け業者として立ち上
げた米国史上最大のAI研究プロジェクトです。2003年に創
設され、2008年まで続けられたのです。CALOは次の言葉
の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
    CALO
    Cognitive Assistant that Learns and Organizes
─────────────────────────────
 このCALOの語源は、ラテン語の「calonis (戦士に付き従
うもの)」であり、兵士を戦場でサポートするための研究だった
のです。そのCALOから分社化して設立されたのが「シリ社」
という企業です。
 このシリ社が一番最初にやったことは、アップルストアに「シ
リ・アシスタント」というアプリを無料公開したことです。20
10年2月5日のことです。まだ精度はそんなに高くないものの
現在の「シリ」とほぼ同じ機能を持っていました。
 しかし、このアプリは、一部のユーザーからは歓迎されたもの
の、特別センセーションを巻き起こしたり、支持されたわけでも
なかったのですが、別のことで話題になります。
 それは、2010年4月28日にアップルがシリ社を買収する
と発表したことです。これについては、相当の驚きをもってネッ
ト上の大きな話題になっています。
 当時、アップルのCEOはスティーブ・ジョブズ氏です。ジョ
ブズ氏が、いつこのアプリのことを知ったかはわかりませんが、
彼がこのアプリの存在を知ったとき、おそらくこれはアイフォー
ンの「フロントエンド機能」として使えると確信したものと思わ
れます。「シリ」の音声操作のレベルがかなり高いからです。フ
ロントエンド機能とは、ユーザーがアイフォーンを使うとき、最
初に使う機能のことです。
 「シリ」の音声機能の高度さについて、自然言語処理研究者の
工藤友資氏は、ネットで次のように述べています。
─────────────────────────────
 シリがここまで注目を浴びたのは、会話の応答がインテリジェ
ントであることはもちろんだが、それに付け加えてインターフェ
ースが音声であることが重要なポイントだろう。シリの音声認識
精度は驚くべきものだ。これは、ニュアンス・コミュニケーショ
ンズの技術だとされる。ひと昔前の音声認識技術は、個々人に応
じて教育する必要があった。たとえば筆者の音声をある程度正確
に認識できるようになったとしても、筆者以外の音声は正しく認
識できない。これに対し、ニュアンス・コミュニケーションズの
システムは誰が話した音声でも、高精度で認識する。
                  https://bit.ly/2N0aUnk
─────────────────────────────
 開発者だから当然ですが、ジョブス氏はアイフォーンの弱点を
よく掴んでいたのです。アイフォーンは高性能なコンピュータで
すが、何しろ小さいし、文字入力に難があります。キーボードも
マウスも使えないので、特殊な入力が求められます。つまり、使
い勝手はけっしてよくないのです。
 しかし、音声であれば、誰でも使えるし、手が不自由な人でも
使えるので、フロントエンド機能として最適です。そこで、ジョ
ブス氏は、自らシリ社に電話をかけ、買収交渉をはじめます。
 このときの状況について、小林雅一氏の著書には次のように書
かれています。
─────────────────────────────
 シリ創業者の一人で、CEOでもあったダグ・キトラウス氏は
あるテレビ番組の中で、ジョブズ氏から買収打診の電話を受けた
時の様子を次のように語っています。「受話器の向こうから『も
しもし、私はステイープ・ジョブズだが・・』という声を聞いた
ときは、夢でも見ているのかと思った。
 ジョブス氏は、十分な買収金額を提示した上で、キトラウス氏
らシリのオリジナル・スタッフを全員雇用し、買収後も彼らが、
自由に研究・開発して構わないと約束しました。
                 ──小林雅一著/朝日新書
                  『クラウドからAIへ/
    アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』
─────────────────────────────
 シリ社はこの申し入れを受託し、アップルは、シリ社を約2億
ドルで買収します。そして、2011年発売のアイフォーン4S
から「シリ」は標準機能として組み込まれたのです。
 自然言語処理研究者の工藤友資氏が指摘するように、「シリ」
の音声認識は、ニュアンス・コミュニケーションズという会話型
AI会社の技術を使っています。それでは「シリ」自体は、何を
しているのでしょうか。
 「シリ」は、ユーザーからの要求に応じてそれに対応できるそ
れぞれのウェブサービスに対して、仕事を割り振る「知的エージ
ェント」の機能を果しているのです。ユーザーが何かを知りたい
という要求を出すと、それに対応できるウェブサイトを検索し、
そのサイトから戻された適切な回答を音声や文字でアイフォーン
に表示します。
 また、「シリ」に対して、「近くの雰囲気の良いフランス・レ
ストランを教えて」と話しかけると、「シリ」は、そういうロー
カル・ビジネスの紹介サービスのサイトを呼び出し、GPSによ
る位置情報と組み合わせて、最適と思われるレストランを選定さ
せ、現在ユーザーのいる場所に近い、いくつかのレストランを写
真とともにアイフォーンに表示するのです。
 こんなことは、かつては考えられなかったことですが、現在の
スマホなら、簡単にできるようになっています。もちろん、アイ
フォーンだけでなく、他のスマホでもこんなことは簡単にできる
ようになっています。──[次世代テクノロジー論U/039]

≪画像および関連情報≫
 ●アンドロイドアプリ「アイリス/Iris」がある
  ───────────────────────────
   発売前の予想を上回る勢いで、世界中で好調に売れている
  アップルのアイフォーン4S。同機には、ユーザーを虜にし
  そうな魅力的な機能として音声アシスタントの「シリ」が搭
  載されている。これは音声を認識するだけでなく、ユーザー
  の発言内容を理解し、メールを送ったり、スケジュールを確
  認してくれたりする優れた機能だ。
   アンドロイド端末を使っているユーザーは、うらやましい
  と思ってしまうのではないだろうか。しかし、がっかりする
  にはまだ早い。海外のソフトウェア開発会社が、シリっぽい
  アプリを開発し、提供を開始したのである。その名も「アイ
  リス(Iris)」。本当に使えるのか?と侮るなかれ、なかな
  か優れたアプリケーションなのである。
   このアプリを開発したのは、デクセトラ社だ。同社は、ア
  イフォーン4Sが発売されたわずか4日後の2011年10
  月18日に、「Iris」を発表した。お察しの良い方ならすぐ
  に気づかれたと思うが、「Iris」は「Siri」の名前を逆にし
  て名付けられている。ふざけたネーミングと思われるかもし
  れないが、意外にもしっかりとした機能を備えている。シリ
  同様に、端末に向かって話しかけると応えてくれるのだ。音
  声認識はアンドロイド端末の機能を用い、回答はグーグルの
  音声検索と紐付けられている。  https://bit.ly/2K9J7mA
  ───────────────────────────

スティーブ・ジョブズアップル前CEO.jpg
スティーブ・ジョブズアップル前CEO
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2018年06月27日

●「スマホで将棋カンニングは可能か」(EJ第4794号)

 AIのディープラーニングには、ハードウェアとしてのGPU
が不可欠であることはここまでの説明でわかっていただけたと思
います。本来はその上の段階である「ライブラリ/フレームワー
ク」及び「プラットフォーム」の説明が必要ですが、プログラミ
ングレベルの話になり、難解な印象を与えてしまうので、これは
省略し、次の話題に進むことにします。
 2016年10月のことです。プロの将棋棋士が対局中に席を
離れ、スマホでAI将棋ソフトを使ってカンニングしたという疑
いをかけられ、年内の公式戦の出場停止処分を受けるという事件
がありました。調査の結果、その疑いを裏付ける証拠がないこと
がわかり、疑いをかけられた棋士は無罪放免になったのです。し
かし、その騒動の責任を取って、当時の日本将棋連盟の会長が辞
任しています。
 この話は、ワイドショーで連日取り上げられ、ちょっとした騒
ぎになったのです。このとき、あるコメンテーターがいった言葉
がとても気になったので、この記事を書いています。
 このコメンテーターは、Tさんといい、京都大学卒業で、とて
もよく勉強していて、どのような問題についても、なかなか鋭い
コメントをするので、大変人気が高い人です。そのTコメンテー
ターは、カンニングしたという疑いをかけられたプロ棋士を擁護
したのです。私が気になったのはその擁護の理由です。彼は次の
ようにいったのです。
─────────────────────────────
 スマホのような小さいコンピュータでは、素人の遊び程度のも
のは別として、プロ棋士の指し手を予測するのは困難です。だか
ら、彼はやっていませんよ。      ──Tコメンテーター
─────────────────────────────
 Tコメンテーターは、スマホのことを何もわかっていません。
確証はありませんが、おそらく彼はスマホを持っていないのでは
ないでしょうか。30代後半から40代で、コメンテーターが職
業である人が、今どきスマホを持っていないとは考えられません
が、どうやら彼はICTには関心が薄いようです。今やコンピュ
ータは、その大小では語ることはできないのです。
 スマホやタブレットは、つねにネットワークに接続されており
アプリケーションによっては、必要に応じて、自律的にサーバー
にアクセスして、情報を得ることができます。したがって、別の
場所に将棋のAIシステムが搭載されているコンピュータがあり
そこに現在の棋譜が入力されているとしたら、そこへスマホで問
い合わせれば、AIが予測する次の最良の指し手の情報を得るこ
とは十分可能です。スマホのアプリには、外部のサーバーにアク
セスして答えを得るものが少なくないからです。
 しかし、疑いをかけられた棋士は、そこまではやっていなかっ
たことがわかったので、事件は決着したのです。それ以来、将棋
連盟では、対局前にスマホなどの一切の電子機器は、ロッカーに
預ける決まりになっています。
 しかし、疑惑はあったのです。『ドキュメント・コンピュータ
将棋』(角川新書)などの著書のあるライター・松本博文氏は、
これについて、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 関係者の間で話題となったのが、7月26日、棋界最高位であ
る竜王戦の挑戦者決定トーナメントの準決勝です。終盤、M九段
は、離席から戻った後、『6七歩成』という一手を指します。
 その一手は、一見すると自玉が危うくなるように見えるものの
先の先まで読んでいくと勝ちにつながるという、プロでもなかな
か指せない一手で、その“超人的な読み”がきっかけで、対局相
手や周囲から疑念を抱かれるようになった。
                  https://bit.ly/2lzpk1c
─────────────────────────────
 これに関係してアップルのアイフォーンに搭載されている「シ
リ(Siri)」という音声アシスタントという機能があります。誰
でも利用できる身近なAI(人工知能)です。2011年に発売
されたアイフォーン4Sから標準装備されています。これは、一
体どういう仕組みになっているのでしょうか。ちなみに、アップ
ルからはその仕組みについての情報は一切ありません。したがっ
て、その仕組みについては推測するしかありません。
 「シリ」の開発には、間接的ではありますが、米国政府がかか
わっています。まず、次の2つの機関について、知る必要があり
ます。米国防総省傘下の機関です。
─────────────────────────────
    ◎ ARPA/高等研究計画局
     Advanced Research Projects Agency
    ◎DARPA/国防高等研究計画局
     Defense Advanced Research Projects Agency
─────────────────────────────
 1957年のことです。ソ連のスプートニク・ショックを受け
た米アイゼンハワー大統領の命令で、国防長官に進言する防衛科
学技術担当長官を国防総省内に設置したのがはじまりです。この
ARPAは、1969年に現在のインターネットの原型になるA
RPAネットの構築やGPSの開発に成功しています。
 1996年にARPAは、DARPAに改められ、現在も続い
ています。大統領と国防長官直轄の組織であり、軍隊使用のため
の新技術開発や研究を行う組織ですが、米軍から直接的干渉を受
けない組織になっています。
 「シリ」は、DARPAが資金を拠出した研究プロジェクトか
ら生まれたのです。そのプロジェクトは、「CALO」という名
前の史上最大規模のAI研究プロジェクトです。技術系シンクタ
ンクであるSRIインターナショナルが元請け業者として、この
仕事を受注したのです。全米の一流大学と研究機関から300名
以上の研究者が参加したといわれています。
          ──[次世代テクノロジー論U/038]

≪画像および関連情報≫
 ●カンニング疑惑/騒動の結末
  ───────────────────────────
   思えば昨年の今頃、将棋界は凍り付いていた。たった1年
  前のことだ。その前年秋、渡辺明竜王が挑戦者に躍り出た三
  浦弘行九段と対局できないと言い出し、挑戦者が変わる前代
  未聞の出来事があった。いわゆるスマホカンニング疑惑事件
  である。三浦は竜王挑戦権を剥奪され、3カ月の対局停止と
  いう厳罰が下った。
   三浦はカンニングを全面否定し、調査委員会が開かれ、疑
  惑は完全に否定された。しかし3カ月の出場停止は解けず、
  三浦はA級順位戦で不戦敗に。疑惑が否定されたことで緊急
  的に降級は回避された。よって毎年2名の降級者はその年は
  1名、翌年3名が降級することで決着した。繰り返すがたっ
  た1年前の話だ。
   日本将棋連盟の理事会はほぼ総解散状態、将棋界は行方を
  危ぶまれた。そんなとき棋士生命をなげうってでも、と立ち
  上がったのが佐藤康光九段、現会長である。棋士生命をなげ
  うってでも、と書いたが私の想像で本人に確かめたわけでは
  ない。違ったらごめん。
   「将棋界の最も長い日」といわれるA級順位戦最終局は、
  今年は3月2日に全棋士が静岡に集結し、行われた。くじの
  関係ですでに6勝4敗で全対局を終えている羽生善治竜王が
  大盤解説会で解説役を務めた。いつものんきな羽生さんのこ
  とだからこの日もひときわ陽気に解説していた。まさか自分
  に何かが降りかかってくるとは微塵(みじん)にも思ってい
  なかったろう。しかし将棋界をめぐるドラマはあまりにもめ
  まぐるしい。          https://bit.ly/2KgEEdB
  ───────────────────────────

将棋カンニング疑惑事件.jpg
将棋カンニング疑惑事件
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2018年06月26日

●「マザーボードの変化が進んでいる」(EJ第4793号)

 AI(人工知能)のディープラーニングに関連して、CPUと
GPUの話になっているので、最新のPCのCPUの話にも触れ
ておきます。このところの第4次産業革命の進展に関連して、コ
ンピュータの設計には、大きな変化が起きているのです。
 「マザーボード」というものがあります。PCは、CPUを中
心に、さまざまな電子部品が連携しながら処理を行っていますが
これらの電子部品を電気的につないでいるのが「マザーボード」
です。マザーボードは、まさしくPCを構成する母体回路そのも
のであるといえます。実はいまこのマザーボードに大きな変化が
起きつつあるのです
 昨日のEJで取り上げたインテルの最新CPU「コア・アイ・
セブン」では、GPUがCPUに内蔵されています。コア・アイ
・セブンの第2世代「サンディ・ブリッジ」からです。2011
年のことです。
 もともとPCのグラフィックス処理は、OSがGUIになった
ときから、「AGPバススロット」というビデオカード専用のイ
ンタフェースをマザーボードに装着し、CPUの演算の負担を助
けています。AGPインタフェースは、ビデオラムというメモリ
も備えているので、グラフィックス専用CPUともいうべきもの
です。AGPとは次の言葉の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
        AGP
        Accelerated Graphics Port
─────────────────────────────
 ここで「バス」というものについて知る必要があります。バス
とは「情報の通り道」のことです。マザーボードは、CPUやメ
インメモリなどの多くの電子部品の集合体ですが、互いに指示や
制御情報などのやり取りをしています。このさい、やり取りされ
る情報の伝送路となる信号線が「バス」です。
 それまでPCの機能を拡張するには、PCI拡張バスのスロッ
トにボードを差し込むことで実現していたのですが、画像の描画
には、PCIバスの速度では対応するのが困難で、AGIバスと
いう高速バスを用意したのです。
 このように、同じマザーボード上で、速度の違うバスが出てき
たことによって、これらをコントロールする装置が必要になりま
す。それが「チップセット」です。
 チップセットというのは、マザーボードの中枢的存在であり、
マザーボードに接続されるCPUやメインメモリ、拡張カードな
どのあらゆる電子部品を相互に接続し、それらを制御する役割を
担うコントローラーのことです。チップセットには次の2種類が
あったのです。
─────────────────────────────
  1.ノースブリッジ ・・ CPUに近いところにある
               高速部分をコントロール
  2.サウスブリッジ ・・ CPUから遠い位置にある
               低速部分をコントロール
─────────────────────────────
 なぜ、「2種類あった」と過去形で述べたのかというと、「コ
ア・アイ・セブン」の第1世代「ネハレム」が登場した2008
年に、「ノースブリッジ」の機能は、CPUに内蔵されたからで
す。これによって、これまで、AGPが担ってきたグラフィック
スの処理機能は、CPU内部に移され、より高速に処理が行われ
るようになったのです。
 添付ファイルを見てください。これは、インテル社の「コア・
アイ・セブン」のチップセットとCPUからのデータの流れを示
しています。ここで重要なことは、CPUは画像処理ができない
わけではないということです。ただ、CPUは逐次的に仕事を処
理して行くので、画像処理のような大量のデータを処理するには
どうしても遅くなってしまうのです。しかし、GPUをCPU内
部に取り込んだことによってその速度は格段に向上したのです。
 これによってマザーボード内のチップセットは、1個になって
しまいましたが、これは「サウスブリッジ」の機能(低速部分を
コントロール)を担うことになります。
 この頃には、グラフィックスはとくにゲームなどで、3Dグラ
フィクスの需要が高まり、このことがマザーボードの拡張スロッ
トの大変革を促したのです。その目的は「3D映像を美しく高速
に描画させる」ことにあります。その成果が「PCIエクスプレ
ス規格」であり、現在急速に普及しつつあります。かつては、P
CI規格だったのですが、これら2つには、決定的な形式の違い
があるのです。
─────────────────────────────
       PCI規格拡張スロット パラレルバス形式
 PCIエクスプレス規格拡張スロット シリアルバス形式
─────────────────────────────
 かつては、CPUとチップセットは、パラレルバス形式でつな
がっていたのですが、「コア・アイ・セブン」の登場と同時に、
高速転送に適したシリアルバス形式の専用線で接続されるように
なったのです。もちろんこの変化は、インテル社だけでなく、ラ
イバルのAMD社も同様の仕様変更を行っています。
 これにより、「コア・アイ・セブン」による画像データの表示
は2つに形式に分かれます。1つは、CPU内蔵のGPUで処理
した画像データは、GPUと直接接続しているチップセットを介
してディスプレイに表示される形式です。
 2つは、PCIエクスプレススロットに装着されたグラフィッ
クボードで処理し、VRAMでディスプレイに表示できる信号に
変換し、ディスプレイにデータを転送する形式です。これはCP
Uから直接転送される形式です。3Dグラフィクスの処理などは
これによって行われています。グラフィックボードには、もちろ
んGPUが装着されていることはいうまでもありません。
          ──[次世代テクノロジー論U/037]

≪画像および関連情報≫
 ●GPUによるAIの高速化/NVIDIA
  ───────────────────────────
   先日、ヤン・ルカン氏に招かれ、ニューヨーク大学におい
  て「AIの未来」の立ち上げシンポジウムで講演をしてきま
  した。この分野をリードする人々が大勢集まり、AIの現状
  とその進歩について語りあうすばらしい会でした。今日は、
  そこでお話ししたことをご紹介しましょう。ディープラーニ
  ングとは新しいコンピューティング・モデルが必要な新しい
  ソフトウェア・モデルであること、GPUアクセラレーテッ
  ド・コンピューティングがAI研究者に普及しているのはな
  ぜか、AIは爆発的に普及しつつありますが、NVIDIA
  は、その普及を継続的に推進していること、そして、登場か
  ら長い年月が経過した今、AIの普及が始まったのはなぜか
  をお話させていただきました。
   コンピュータというものが登場して以来、ずっとAIは最
  後のフロンティアだと考えられてきました。この50年間、
  人間と同じように世界を認識したり言語を理解したり、事例
  から学んだりできるインテリジェントなマシンを構築するこ
  とがコンピュータ科学者のライフワークだったのです。ヤン
  ・ルカン氏の畳み込みニューラルネットワーク、ジェフ・ヒ
  ントン氏のバック・プロパゲーションと確率的勾配降下法に
  よるトレーニング、アンドリュー・ン氏による大規模なGP
  Uを活用してたディープ・ニューラル・ネットワークの高速
  化が組み合わさるまで、最新型AI――すなわち、ディープ
  ラーニング――のビッグバンは起きませんでした。
                  https://bit.ly/2ltp9nV
  ───────────────────────────

インテル最新CPUとチップセット.jpg
インテル最新CPUとチップセット
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2018年06月25日

●「GPUとディープラーニング演算」(EJ第4792号)

 「GPU」の話を続けます。GPUは、AI(人工知能)を理
解するには不可欠なものです。GPUがわからないと、AIは抽
象的にしか理解できません。それにGPUを知るには、CPUを
理解する必要があります。
 まず、「CPU」と「コア」という言葉の違いについて知る必
要があります。かつては、PCには1個のCPUしか装着されて
いなかったので「CPU=コア」だったのです。しかし、現代で
は、PCに複数のCPUがつく「マルチコア」の時代になってい
るので、CPUとコアを分けて考える必要があります。インテル
の最新チップで考えてみます。
 添付ファイルをご覧ください。左上は、インテルの最新のチッ
プ「コア・アイ・セブン/Core i7」をの上から見たものです。一
般的にはこれをもって「CPU」であるとしています。それは間
違いないことですが、このチップには、2個か4個の「コア」が
装着されています。
 この場合、「コア」とはCPUの核にあたる部分であり、かつ
てのCPUと同じものと考えればよいのです。左上の図はコアお
よびその他の部分をパッケージにしたもので、正確には「ダイ」
というべきです。
 ダイは、薄いシリコン基板の上に数千万〜1億個のトランジス
タが集積され、回路を形成していますが、その回路がコアです。
チップの名称が印刷されているフタように見えるものは、「ヒー
トスプレッダ」といいます。ただのフタではなく、ダイの保護と
放熱を助ける働きをします。そして、この上には、動作時の高熱
を冷やす冷却装置を取り付けます。ファンが主流ですが、水冷方
式のヒートシンクもあります。
 右上と右下の図はダイの拡大図とその裏面です。ダイはそれぞ
れの機能によって、複数のユニットに区分けされています。ダイ
の裏面には「パッケージ」といわれるものがあります。これは、
ダイを保護し、内部はピンとダイを接続するための回路配線が組
み込まれています。
 左下の図はダイの裏面です。中心部は「コンデンサ」、周囲は
「ピン」です。コンデンサは、電気を蓄えて信号や電源を安定さ
せる役割をします。ピンは、マザーボードのCPUソケットに接
続するための端子です。ピンの本数はパッケージの種類によって
異なります。
 コンピュータでやれることが増えてくると、コアの数も増えて
きます。1コアから10コアまでの名称をご紹介します。
─────────────────────────────
         1コア:シングルコア
         2コア:デュアルコア
         3コア:トリプルコア
         4コア:クアッドコア
         6コア: ヘキサコア
         8コア: オクタコア
        10コア:  デカコア
─────────────────────────────
 これに対して「GPU」とは何でしょうか。
 GPUという言葉は、NVIDIA(エヌビティア)という米
国のチップメーカーが作った言葉です。GPUを一言でいうと、
次のようになります。
─────────────────────────────
   GPUは並列処理を行うことで高速に回す装置である
─────────────────────────────
 これだけではわからないと思うので、GPUというチップが何
をするものかについて、NVIDIAの井崎ディープラーニング
部長のインタビューでの話をご紹介します。
─────────────────────────────
 3Dグラフィックのことからお話ししますね。3Dグラフィッ
クを表現するためには、ポリゴン三角形の頂点の座標位置の計算
と、そこにのせるピクセルデータの計算が必要です。
 それぞれの計算に専用エンジンがあったんですが、片方が暇で
片方が忙しいみたいなことが課題としてありました。効率よくな
いんです。そこで効率よく、かつ汎用的な計算を行えるように、
ハードをズラーッと並べて、プログラムで制御できるようにした
のです。この技術が2000年以降の3Dグラフィックのアーキ
テクチャを大きく変えたとのことでした。
 つまり、GPUというモノでそれぞれの専用エンジンをひとつ
にまとめたってことのようです。これって計算が高速で行えるっ
てことなので、べつに3Dグラフィックだけに限った話ではない
んです。GPUはアクセラレータとして動作するため、CPUと
相まって使われることになります。  https://bit.ly/2K4m8sU
─────────────────────────────
 グラフィックスの計算は、単純な計算の繰り返し処理なのです
が、とにかく量が多いのです。CPUでもできますが、量が多い
ので時間がかかる。そこで、多くのPCをずらっと並列につない
て、処理をやらせたところ、やっと満足できる計算レベルに達し
たというのです。井崎部長によると、それをひとつのチップにし
たものがGPUであるといっています。
 結局、高速にするには、コアの数を増やすことが必要なので、
GPUはコア数が多いのです。CPUの最大は24個だそうです
が、GPUは3000〜4000個も入っています。このコアの
違いが並列処理を加速させているのです。
 ディ―プラーニングの計算量はとても凄いのです。10層ぐら
いのディープラーニングでも10億個ぐらいのパラメータのチュ
ーニングが必要になるといわれます。これをCPUでやると丸1
年かかるが、GPUを使うと30日で終るといいます。企業では
30日は待てないので、GPUを複数使って時間を短縮します。
このように、ディープラーニングにはGPUは不可欠な存在なの
です。       ──[次世代テクノロジー論U/036]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ人工知能研究でNVIDIAのGPUが使われるのか
  ───────────────────────────
   自作PC派にとってなじみ深い「NVIDIA」のロゴ。
  ビデオカード(GPU)のドライバをインストールする際に
  目にした人は多いはずだ。そんなNVIDIAの名前を意外
  なところで見掛ける機会が増えた。2017年5月、日本経
  済新聞は、「トヨタの自動運転、米エヌビディア提携で開発
  加速」と報じた。GPUのメーカーが、「なぜ、トヨタと提
  携?」と不思議だった。
   調べてみると、フォード・モーター、ボルボ、メルセデス
  ベンツ、アウディ、テスラなど、名だたる自動車メーカーと
  自動運転研究の分野で提携済みであり、その後においても、
  Robert Bosch、ZF Friedrichshafen、Continental といった
  大手自動車部品メーカーと提携を加速させている。エヌビィ
  ディアのパートナー紹介サイトには、多くのグローバル企業
  のロゴが誇らしげに並んでいる。筆者は、恥ずかしながら、
  “ある分野”におけるNVIDIAの活躍をそれまで知らな
  かった。
   その“ある分野”とは、人工知能(AI)の研究開発にお
  ける「計算」である。グラフィックの表示を行うGPUが、
  なぜAI研究の計算で活躍するのかを、AIについてズブの
  素人である筆者が、超初心者目線で取材し、調べ、まとめた
  のが本コラムである。      https://bit.ly/2yCjWnc
  ───────────────────────────

CPUについて知る.jpg
CPUについて知る
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2018年06月22日

●「GPUはどのように誕生したのか」(EJ第4791号)

 コンピュータとは何でしようか。「コンピュータ」という言葉
を聞いて、何を連想するでしょうか。
 多くの人は、PC(パソコン)やスマホやタブレットを連想し
ます。なぜなら、自分のごく身近にあるコンピュータであるから
です。もっともスマホをコンピュータであるとを認識していない
人もいます。しかし、多くの場合、スマホは、PCよりも高性能
なコンピュータなのです。スマホは5年前のスパコンに匹敵する
ともいわれています。それに現在のスマホには、AI機能まで搭
載されています。
 しかし、これからは、コンピュータの定義を次のようにすべき
ではないかと思います。
─────────────────────────────
      コンピュータとはCPUそのものである
─────────────────────────────
 スーパーコンピュータというと、多くの人は、いわゆるPCな
どは違う、何か特殊な構造を持つ大型のコンピュータをイメージ
しますが、基本構造は、普通のPCと変わらないコンピュータな
のです。
 日本には「京(けい)」というスーパーコンピュータがありま
す。年に2回、その処理速度を計測して上位500位を発表する
「TOP500」ランキングで、「京」は、2011年において
2期連続で1位を獲得した高速コンピュータです。
 少し専門的にいうと、「京」は、CPUを8万8128個搭載
し、整数の計算よりも処理に時間のかかる浮動小数点演算と呼ば
れる計算を毎秒1京510兆回実施できるコンピュータです。こ
れは、2011年の演算レベルですから、現在ではもっと高速に
なっている可能性は十分あります。
 このように、スーパーコンピュータは、CPUを8万個以上搭
載しているものの、基本的にはPCと変わらないのです。極端な
ことをいえば、企業の終業後のPCを複数並列に接続して計算し
ても基本的にスパコンに似た処理ができるのです。「京」は、汎
用のCPUを並列に搭載する「スカラー型」というタイプのスー
パーコンピュータです。
 このように、コンピュータの能力はCPUで決まるので、CP
Uはコンピュータそのものです。それでは、CPUとGPUはど
のように違うのでしょうか。
 どうしてGPUが登場したのかというと、PCのOSの変遷に
関係があります。CPUは、コンピュータの「頭脳」といわれま
す。コンピュータ上のあらゆる処理はCPUが行います。しかも
ムーアの法則に従い、CPUの高速化は1年半ごとに倍速のペー
スで進化したのです。
 しかし、CPUが扱うデータ量も急速に増加し、CPUの負担
は、年々増加する一方です。ひとつのきっかけは、1995年に
訪れたのです。
─────────────────────────────
        MS−DOS ・・・ CUI
       WINDOWS ・・・ GUI
─────────────────────────────
 1995年以前、1981年に発売のIBMの16ビットPC
「5150」──このPCに搭載されたOSが「PC−DOS」
(マイクロソフト社提供のMS−DOS)です。このOSは基本
的には文字ベースの「キャラクタ・ユーザー・インターフェース
/CUI」だったのです。
 しかし、DOS時代の後半にはCADなどの作業には、専用の
ハードウェアを用意してグラフィック処理を行っていますが、そ
れらの需要は限られたものだったのです。この時代がしばらく続
きます。この時代に個人がPCで扱うグラフィックス・データの
量はたいしたことはなく、若干の補助装置を付ければ、当時のC
PUでも十分に対応できたのです。
 ところが、1990年頃から、32ビットCPU搭載のPCが
出現します。1991年には「ウインドウズ3・0」搭載のPC
が登場し、「グラフィック・ユーザー・インターフェイス/GU
I」の時代が始まります。32ビットCPU時代の幕開けです。
このときから、PCの扱うグラフィック・データ量は激増するよ
うになり、CPUによるグラフィックスデータの処理負担はきわ
めて重くなります。
 「ウインドウズ3・0」──よほど専門的なユーザーでない限
り、このOSのことを当時知る人は少なかったと思います。その
後に出る「ウインドウズ3・1」は知っていても、このウインド
ウズを使った人は少ないと思います。当時明治生命情報システム
部の私のチームは、3・0のベータ版を入手し、さまざなアプリ
ケーションをテスト的に構築しています。そして、ウインドウズ
3・0の解説本も、チームで執筆しています。この準備があった
ので、生保業界で一番先にウインドウズを導入できたのです。
 1993年に「ウインドウズ3・0」の改良型「ウインドウズ
3・1」が登場し、それを踏まえて1995年に「ウインドウズ
95」搭載のPCが登場し、本格的なウインドウズ時代が始まる
ことになります。
 このときから、激増したCPUのグラフィック・データ処理の
一部を「グラフィック・アクセラレータ」というハードウェアで
処理するようになります。つまり、激増するグラフィックス・デ
ータの処理を、専用のアクセラーレータというハードウェアで肩
代わりするシステムが実現したのです。
 今になって考えると、これが後の「GPU」の開発に結びつい
てきます。PCのグラフィックス・ユーザー・インターフェイス
(GUI)の定着とともに、その後、動画や3Dグラフィックス
など、処理しなければならないグラフィックス・データ量は激増
し、その高速処理の実現が求められたのです。これはPCの根本
的なハードウェアの構造変化を促すことになります。
          ──[次世代テクノロジー論U/035]

≪画像および関連情報≫
 ●グラフィックカードってどんな役割をするの?
  ───────────────────────────
   パソコンがディスプレイモニター上に映し出す映像は、文
  字や写真といった「2D(平面)映像」と、立体的な三次元
  コンピュータグラフィックス(3DCG)に代表される「3D
  (立体)映像」に大きく二分されます。(※ここでいう3D
  は、最近話題のメガネをかけて映像が飛び出てくる3Dとは
  別の話)。基本的に、2Dではあらかじめ用意された画像を
  映し出すのに対し、3Dでは縦・横・高さ・奥行きなどの位
  置情報から計算して映像を作り出します。その為、3Dの方
  が2Dよりも高度な処理を必要とし、より美しい3D映像を
  よりスムーズに描画するには、高性能なグラフィックス機能
  が必要となってきます。
   多少強引な説明となりますが、2Dを表示するためには、
  グラフィックスチップ(GPU)の性能よりも、VRAMと
  呼ばれる映像処理に使う、グラフィックスメモリの容量の方
  が重要となります。実は、フルHD解像度(1920×10
  80)を超える2048×1536もの高解像度な映像をフ
  ルカラー表示するのに必要なVRAM容量は16MBであり
  一昔前のパソコンでも十分な性能を持っています。このよう
  な状況から、現在のグラフィックカードは「3D映像を美し
  く高速に描画させるためのもの」と言っても過言ではないで
  しょう。では、3Dを使わない人にはグラフィックカードは
  不要なのか?という疑問が湧きますが、最近ではOSで3D
  機能を使用したり、グラフィックカードをグラフィックス処
  理だけでなく汎用的に利用する動きも広がりを見せているの
  で、グラフィックカードを搭載しなくても良いとは一概には
  言えなくなってきています。   https://bit.ly/2K8U9aM
  ───────────────────────────

スーパーコンピュータ「京」.jpg
スーパーコンピュータ「京」
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