2019年03月18日

●「なぜ、中国の技術は急進展したか」(EJ第4969号)

 このようにいうと失礼ではあるが、かつて中国の「技術」など
とるに足らないものであったはずです。少なくともそういう時代
が長く続いたことは確かなことです。
 しかし、「中国製造2025」を立ち上げた2015年以降は
中国は多くの技術面で米国を猛追する存在になりつつあります。
宇宙などの特定分野では、既に米国を抜いています。それをイヤ
というほど世界に見せつけたのは、今年の1月3日発表の中国の
宇宙技術での大成果です。
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 ◎月面争覇/中国「宇宙強国」掲げ巨費/軍関与
 月探査に本格参入して十数年という中国が、3日、半世紀を超
える歴史を持つ米ロ両国に先んじて月の裏側への着陸を成功させ
た。習近平指導部の大号令のもとで、「宇宙強国」の実現にひた
走る。資源の埋蔵が有望視される月を「主戦場」に、各国の競争
が激しくなるのは確実だ。
          ──2019年1月4日付、朝日新聞より
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 経緯を簡単にいうと、中国が月面の撮影を目的とする「嫦娥1
号」を打ち上げたのは、2007年のことです。その時点では、
中国は技術開発で出遅れ、月探査では、旧ソ連、米国、日本、欧
州に続く存在だったのです。
 しかし、2013年に中国は「嫦娥3号」を月の表側に着陸さ
せることに成功します。この時点で、中国は、旧ソ連、米国に続
き、3番目に月面着陸に成功した国に躍進します。
 そして、それから5年後、中国は「嫦娥4号」を月の裏側への
着陸に成功させ、月面探査の分野では、世界のトップに立ったの
です。さらに今年は、「嫦娥5号」を打ち上げ、月の裏側の表土
の試料を地球に持ち帰る計画を進めています。
 これだけではないのです。月探査に続いて、2022年に完成
を目指す中国独自の宇宙ステーション、中国版「GPS」の衛星
測位システム「北斗」の構築など、宇宙関連の技術開発は激しさ
を増しています。まさに「米中2強時代」が現実のものとなりつ
つあります。
 そういう宇宙技術開発の進展は、人類に寄与するのであればよ
い傾向といえますが、中国の宇宙開発には人民解放軍が深く関与
し、情報はほとんど開示されないのです。そういう先端技術の軍
事利用を目指しているからです。情報自体が開示されないので、
そういう分野でのノーベル賞受賞者が少ないのではないでしょう
か。これまでの中華人民共和国としてのノーベル賞受賞者は、わ
ずか3人しかいないのです。
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     2010年     平和賞/  劉暁波
     2012年     文学賞/   莫言
     2015年 生理学・医学賞/屠ユウユウ
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 注目すべきは、中国の技術開発の速度の速さです。どのように
してそのような高度な技術開発を可能にしたのでしょうか。
 遠藤誉氏によると、そのヒントは、1964年の中国の核実験
の成功にあるとして次のように述べています。
─────────────────────────────
 1964年10月16日、中国は初めての核実験に成功し、世
界を驚かせた。農民を中心とした革命戦争に勝利して、1949
年10月1日にようやく誕生した新中国(中華人民共和国)に、
科学技術などあり得るはずもないと、誰もが思っていただろう。
あのとき、中国における農民の割合は90%に近く、毛沢東は農
奴の屈辱的なエネルギーを味方に付けて革命に成功している。
 1917年のロシア革命は、都市の労働者が中心だったので、
旧ソ連のスターリンは毛沢東を「田舎バター」として軽蔑し、ロ
シア革命の中心となった都市労働者がいないような「文明的に遅
れた中国」で、革命など成功するはずがないとバカにしていたの
だ。ところが毛沢東は、その予想に反して中国の革命戦争に勝利
して新中国を建国しただけでなく、核実験に成功する。世界が驚
かないはずがないだろう。       ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 銭三強という人物がいます。1936年に精華大学を卒業して
フランスに渡り、マリー・キューリー研究所に留学します。あの
ノーベル賞を2回も受賞したマリー・キューリーの研究所です。
キューリー自身は1934年に他界していたものの、娘のイレー
ヌ・ジョリオ・キューリーがいたのです。銭三強は、彼女の下で
原子核の研究に没頭し、原子物理学で博士号を取得しています。
 1946年にウラニウムの核分裂において成功をおさめ、この
功績で、銭三強はフランスアカデミーの物理学賞を受賞し、19
48年に中国に帰国しています。その翌年の1949年10月1
日に新中国──中華人民共和国が誕生するのです。まさに絶妙の
タイミングだったのです。
 実は、毛沢東は、原子爆弾の製造に執念を燃やしていたといわ
れています。それは、当時中国から見て、戦争での圧倒的な強さ
を誇っていた日本が、米国による原子爆弾2発で降伏したのを見
て、これによって、自分が誕生させた新生中国を強国にしようと
考えたからです。
 1949年11月に中国科学院が設立されると、銭三強は、そ
の傘下の近代物理学研究所の所長に任命されます。朝鮮戦争が休
戦協定を締結した1955年、毛沢東は早速動き始めます。中国
の核の力を強めるために、プロジェクトチームを立ち上げさせ、
銭三強をそのリーダーに任命します。そして1956年、銭三強
は、40数名の科学者を引き連れて、毛沢東の命令でソ連に行き
原子爆弾についての調査と研究をスタートさせるのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/050]

≪画像および関連情報≫
 ●「毛沢東の狂気」が蘇る時/毛沢東 語録
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   最近、中国の国内メディアで、「毛沢東」にまつわるいく
  つかの興味深い記事が見つかった。1つは、人民日報社の自
  社サイトである「人民網」が2011年1月17日に掲載し
  た記事で、1957年11月に毛沢東がソ連で開かれた社会
  主義陣営の各国首脳会議に参加したときのエピソードを紹介
  したものである。
   記事によると、毛沢東はこの会議で、当時のソ連共産党フ
  ルシチョフ第一書記の提唱する「西側との平和的共存論」に
  猛烈に反発して次のような過激な「核戦争論」をぶち上げた
  という。
   「われわれは西側諸国と話し合いすることは何もない。武
  力をもって彼らを打ち破ればよいのだ。核戦争になっても別
  に構わない。世界に27億人がいる。半分が死んでも後の半
  分が残る。中国の人口は6億だが半分が消えてもなお3億が
  いる。われわれは一体何を恐れるのだろうか」と。
   毛沢東のこの「核戦争演説」が終わったとき、在席の各国
  首脳はいっせいに凍りついて言葉も出なかったという。さす
  がの共産党指導者たちも、「世界人口の半分が死んでも構わ
  ない」という毛沢東の暴論に「圧倒」されて閉口したようで
  ある。毛沢東という狂気の政治指導者の暴虐さをよく知って
  いる中国の知識人なら、この発言を聞いても別に驚かないの
  だが、筆者の私が興味深く思ったのはむしろ、人の命を何と
  も思わない共産党指導者の異常さを露呈し、党のイメージダ
  ウンにつながるであろうこの「問題発言」が、他ならぬ共産
  党機関紙の人民日報社の自社サイトで暴かれたことである。
                  https://bit.ly/2HqfTOe
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毛沢東総書記
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2019年03月15日

●「社会信用スコアという制度が始動」(EJ第4968号)

 英国のジョージ・オーウェルという作家の作品に、『1984
年』というのがあります。全体主義国家によって分割統治された
近未来世界の恐怖を描いた作品です。ちなみにこの作品は、19
48年に執筆されており、近未来とされている1984年とは、
「4」と「8」と入れ替えたアナグラムという説があります。
 現代はジョージ・オーウェルのいう社会が既に存在します。そ
れが現代の中国であり、いみじくもそれを指摘したのは、米国の
ペンス副大統領です。2018年10月4日、ペンス副大統領は
ハドソン研究所における演説で、次のように述べています。
─────────────────────────────
 今日、中国は、他に類を見ない監視国家を築いており、時に米
国の技術の助けを借りて、ますます拡大し、侵略的になっていま
す。彼らが「グレートファイアウォール(インターネット検閲)」
と呼ぶものも同様に厳しくなり、中国人への情報の自由なアクセ
スを大幅に制限しています。
 そして2020年までに、中国の支配者たちは、人間の生活の
事実上すべての面を支配することを前提とした、いわゆる「社会
的信用スコア」と呼ばれるジョージ・オーウェル式のシステムを
実施することを目指しています。同プログラムの公式青写真によ
れば「信用できない者が一歩も踏み出せないようにしながら、信
用できる者が天下を歩き回ることを許可する」というものです。
   ──ペンス米副大統領演説より https://bit.ly/2OPqMwq
─────────────────────────────
 中国という国家にとって一番大切なものは、中国共産党という
政治体制です。人民解放軍は、中国という国を守る軍隊ではなく
中国共産党を守る軍隊なのです。そのため、中国という全体主義
国家にとって一番警戒すべきものは、他ならぬ中国の国民であり
そのため、過度の監視体制を敷いています。最先端のICT技術
を使い、国民を監視しているのです。中国の軍事費は日本の4倍
といわれますが、それ以上のお金をかけて、約14億人の中国国
民の動向を監視しています。
 その具体的なシステムのひとつが、2014年からスタートし
た「社会信用スコア」という制度です。ペンス副大統領が、ジョ
ージ・オーウェルの世界と呼ぶのがこの制度です。この「社会信
用スコア」について遠藤誉氏は、自著のなかで、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 中国では「社会信用システム」という制度が2014年から動
いている。正確には2014年6月14日に国務院が「社会シス
テム構築の計画概要(2014〜2020年)」という通知を発
布している。
 これは所得やキャリアあるいは日常の社会的言動などからすべ
ての国民を評価してランキングを付けるもので、評価基準は「公
務の誠実性」「商業の誠実性」「社会に対する誠実性」だ。一見
「社会責任」に似ているように見えるが、実は似て非なるもの。
すべての人民および中国大陸に居住する外国人と外国企業を含め
たすべての「人間」と「組織」を一部始終監視するためのシステ
ムなのである。中国の商店ではどこでも電子決済が進んでいると
日本の一部のメディアでは中国を褒めている情報が散見されるが
顔認証も徹底的に進展させて、中国大陸上に居住するすべての人
間が「中国共産党に忠実であるか否か」「反政府的行動をしてい
ないかどうか」を完璧に監視するためのシステムなのだ。このよ
うな恐ろしいものが動き始め、中国に進出する日本企業とその従
業員も、監視の対象となっていく。喜んでいる場合ではない。
                   ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 この遠藤誉氏の記述で注意すべきは、この制度が適用されるの
は中国人だけではないことです。その対象は「すべての人民およ
び、中国大陸に居住する外国人と外国企業を含めたすべての『人
間』と『組織』」となっている点です。中国から見て、外国人も
外国企業も対象になるのです。実際にこの制度で、どんなことが
起きるのでしょうか。
 2018年5月2日付の「ニューズウィーク」に掲載されたク
リスティーナ・チャオ氏による次のレポートがあります。
─────────────────────────────
 14億人を格付けする中国の「社会信用システム」本格始動
 へ準備           ──リスティーナ・チャオ氏
                 https://bit.ly/2jmQ03V
─────────────────────────────
 このレポートでは、中国で調査報道記者として活動している劉
虎(リウ・フー)氏は、自分の名前がブラックリストに載ってい
ることを知ったのは、航空券を買おうとして、航空会社から拒否
されたときです。劉氏は、航空会社が保有するリストに、中国政
府が航空機への搭乗を禁止する「信頼できない人物」として自分
の名前が載っていることを知って愕然としたといいます。
 その原因は、2016年に公務員の腐敗を訴える記事をSNS
で発信し、中国政府と衝突しています。中国政府から罰金の支払
いを求められ、劉氏はそれに従っています。劉氏としては、これ
で一件落着すると思ったからです。
 しかし、劉氏はその後も「不誠実な人物」として格付けされ、
航空機の切符が買えないだけではなく、その他にも多くの制約を
受けています。このように一度スコアを落とされると、なかなか
回復できないことが劉氏のケースでわかります。
 しかし、中国政府は、このシステムについて「このシステムの
目的は、調和のとれた社会を推進することである」としています
が、一方において、この制度は市場や政治行動をコントロールす
るツールに過ぎないとの批判も存在します。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/049]

≪画像および関連情報≫
 ●中国を変えた"信用格付けシステム"の怖さ
  ───────────────────────────
   広大な領土に多大な人口を擁する中国では、むかしから統
  治者は「いかに秩序をもたらすか」に頭を悩ませてきた。長
  い年月の中で、恐怖による圧政、寛容による仁政、教育によ
  る統制などさまざまな統治が試みられてきたが、ここにきて
  ついに統治者は画期的な方法を手に入れつつあるようだ。そ
  の方法とは、「予測アルゴリズム」という情報テクノロジー
  のことである。
   中国では、長年にわたり食品生産や医薬品製造の安全性は
  保たれておらず、偽装や偽造、詐欺、脱税に官僚の腐敗、学
  術上の不正も横行し、治安当局の取り締まりも十分な効果を
  発揮してはいなかった。そのため、企業や消費者の取引コス
  ト、経済秩序に関する行政のコストも大きく、人びとの規範
  意識を高めることは切迫した課題であった。
   そうした中で、新たな統治手法として注目されるのが「予
  測アルゴリズム」だ。これは、オンライン上の購買や、閲覧
  ・行動の履歴といったパーソナルデータや、企業の信用取引
  データなど、いわゆる「ビッグデータ」を分析し、対象とな
  る人物や企業の動向を予測する情報テクノロジーだ。中国政
  府は、いま、こうした技術を統治能力の改善に役立てようと
  している。           https://bit.ly/2VWNHG4
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ジョージ・オーウェル
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2019年03月14日

●「国家情報法第8条の内容とは何か」(EJ第4967号)

 遠藤誉氏によれば、ファーウェイのバックに人民解放軍がいる
といわれるのは、創業者の任正非CEO自身が人民解放軍兵士の
経験があり、ケ小平のいわゆる「軍民転換」によって、とくに技
術系の企業に軍の出身者が多くいるのは、当たり前であるという
のです。
 しかし、問題は先端企業に元軍人が多いか少ないかではなく、
ファーウェイが通信機器の開発メーカーであることと、2017
年6月から施行されている「国家情報法」があることです。とく
に問題があるとされる同法第7条を再現します。
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 国家情報法第7条
 いかなる組織及び個人も、国家の情報活動に協力する義務を
 有する。
─────────────────────────────
 この条文の意味するところは、中国の企業と個人は、国家が必
要と認めて命令すれば、いかなる組織や個人の持つ情報も提供し
なければならないというものです。この条文だけ見ると、国家が
命令すれば、中国人民と企業は必要に応じてスパイにならざるを
得ないことになります。
 これに対して任正非CEOは「私はそのような法解釈はしてい
ない。外交部がはっきり述べているように、中国はどんな法律も
企業にすべてを要求するようなことはしない」と述べています。
 わかったようなわからないような任正非CEOの発言ですが、
「外交部がはっきり述べているように」という部分に注目して、
外交部の発言を探したところ、2019年2月20日の耿爽(グ
ン・シュアン)報道官の次の発言が見つかったのです。
─────────────────────────────
記 者:一部のメディアからファーウェイ(華為技術)に関する
 情報が報じられています。米国およびその同盟国がファーウェ
 イが中国政府に協力して情報を摂取しているという確かな証拠
 を示せていないという内容がある一方、中国の「国家情報法」
 第7条の規定に憂慮を示し、ファーウェイの参入を制限すべき
 という内容もあります。これについて、どう評価しますか。
報道官:私の理解が間違っていなければ、これらを報じたメディ
 アは西側諸国のメディアですね?
記 者:(うなづく)
報道官:私たちはこれらのメディアが、米国などの国が情報窃取
 の証拠を示せていないという点を認めていることについて、肯
 定的に評価する。これは客観的な態度だ。ここで強調しておき
 たい。第7条では確かに「いかなる組織や公民も国家の情報活
 動を支持、協力し、知り得た秘密を厳守しなければならない」
 と書かれているが、続く第8条では「国家の情報活動は法に基
 づいて行われ、人権を尊重、保障し、個人や組織の合法的な利
 益を守らなければならない」とされている。この法律を批判す
 る人は、本当に詳しく条文を読んだことがあるのだろうか。こ
 の法律を一方的に、切り取って見るのではなく、全面的に見て
 正確に理解することを求める。   https://bit.ly/2CjWn1O
─────────────────────────────
 グン・シュアン報道官のいう通り、第8条を示されれば、それ
なりに納得はできますが、少なくともネット上で調べる限り、国
家情報法の詳細の情報はなく、専門家でない限り、私も含めて、
第8条の内容をはじめて知った人が多いはずです。
 しかし、第7条にしても第8条にしても、条文は抽象的表現で
あり、国家の意思によって、恣意的に判断される余地は大きく、
国家情報法という法律の存在自体が脅威です。
 なお、遠藤誉氏の著作「『中国製造2025』の衝撃」には、
「国家情報法」自体の記載は見当たらないのです。この本で述べ
ていることと、国家情報法は無関係ではないにもかかわらず、不
思議な話です。ちなみに、この法律の施行は2017年6月であ
り、本の発行は2019年1月11日になっています。
 これに関連して、ネット上には次のようなツイートが発信され
ているのを発見しました。やっぱり何かあると思います。
─────────────────────────────
 ◎北の遊び人/2018年12月16日:13:06
 今朝のフジテレビ「報道プライムサンデー」で遠藤誉オバチャ
ンは、なぜ「ファーウェイの社員には、中国共産党員が大勢いる
こと」を隠し、「ファーウェイ副会長がもっていた7通のパスポ
ート」には一切触れないし「中国の国家情報法」について説明し
ないのだろう?           https://bit.ly/2VU7HsO
─────────────────────────────
 遠藤誉氏の論文やレポートで、「国家情報法」について書かれ
ているものがないか探してみましたが、見つかっていません。そ
の代わり、中国の「反スパイ法」について、日本人として心得て
おくべき記事はあります。
─────────────────────────────
    中国「反スパイ法」の具体的スパイ行動とは?
                ――日本人心得メモ
              https://bit.ly/2qN3tos
─────────────────────────────
 この記事には恐ろしいことが書いてあります。中国に旅行に行
くとき、誰かから、どこそこの景色を写真に撮って送って欲しい
と頼まれたとします。そういうことはよくあると思います。
 実は、そこは撮影不可の場所なのですが、現場には、それが撮
影不可とわかる看板などの表示は、見当たらないことが多いので
す。たとえ看板が出ていたとしても、気が付かないことが多いと
思われます。そこで依頼されたようにそこの景色を撮影し、ネッ
トで送ったとすると、それは、「反スパイ法」による「スパイ行
為」に該当するのです。遠藤誉氏は、日本人に注意を喚起してい
るのですが、国家情報法については、どこにも書いていないので
す。         ──[米中ロ覇権争いの行方/048]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ、米国の企業秘密を盗んでいない可能性
  ───────────────────────────
   2018年12月1日に中国通信機器大手ファーウェイの
  孟晩舟・副会長兼CFO(最高財務責任者)が、米国の要請
  によりカナダのバンクーバーで逮捕されて以降、米国による
  ファーウェイへの攻撃が激しさを増している。
   今年1月16日に米紙ウォール・ストリート・ジャーナル
  は、米政府がファーウェイを米企業の企業秘密を盗んだ疑い
  で本格捜査していると報じた。また、1月21日にカナダ紙
  グローブ・アンド・メール(電子版)は、米政府がカナダに
  ファーウェイの孟副会長の身柄引き渡しを正式要請する方針
  を固めたと報じた(1月23日付日本経済新聞)。
   そして米国司法省は1月28日、ファーウェイと孟副会長
  を、イランとの違法な金融取引に関わった罪および米通信会
  社から企業秘密を盗んだ罪で起訴した。
   このように米国がファーウェイを攻撃する根拠として、筆
  者は以下のように考えていた。恐らく、多くの人も同じよう
  に理解をしていたのではないか。
  (1)通信基地局の売上高シェアで世界1位のファーウェイ
  は、中国政府の手先であり、17年6月28日に中国で成立
  した「国家情報法」に基づいて、中国政府の指示により米国
  の知的財産を盗んでいた。
  (2)上記の技術盗用の証拠をつかんだ米国が、カナダへ要
  請し、孟副会長を逮捕・起訴するとともに、18年8月13
  日に米国が制定した「国防権限法2019」に基づいて世界
  中からファーウェイを排除しようとしている。
                  https://bit.ly/2VP7QxI
  ───────────────────────────


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グン・シュアン中国報道官
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2019年03月13日

●「華為技術の後ろに軍隊がいるのか」(EJ第4966号)

 「ファーウェイのバックには人民解放軍がいる」といわれるこ
とがあります。それは、本当のことなのでしょうか。中国研究家
の近藤大介氏のレポートを読むと、任正非CEOはファーウェイ
という企業を「軍隊」と捉えており、世界の市場を「戦場」と表
現してします。まさに「軍隊的経営」です。
 任正非CEOは、2019年の年明けに社員向けのメールを配
信していますが、そのなかのフレーズのいくつかを示します。
─────────────────────────────
 ・5Gは地雷であり、東でも西でも炸裂する。
 ・新たな戦闘で這い上がるのだ。
 ・管理部門の幹部から「将軍」を選抜する。
 ・自己革新と隊伍の「血液交換」を断行する。
 ・われわれは多くの派兵を惜しまない。
 ・チベットの将軍に空母を動かせといっても意味がない。
                  https://bit.ly/2EVBISf
─────────────────────────────
 なぜ、ファーウェイと人民解放軍が結びつけられるのかについ
て、遠藤誉氏は自著のなかで、任正非氏の生い立ちを含めて、詳
しく書いています。詳しくは、遠藤氏の著書を読んでいただくと
して、以下に要約することにします。
 背景としては、3月5日付のEJ第4960号において、「大
而不強」という言葉の説明として取り上げたケ小平によるベトナ
ム戦争(中越戦争)後の、人民解放軍の100万人削減がありま
す。「兵士はたくさんいるが、無駄な兵士が、だぶついているだ
け」と判断し、兵士の大幅削減を決断したのです。
 そして、職を失った解放軍兵士の技術兵を中心にして、ケ小平
は、かつて武器製造の根拠地だった内陸部のあちこちで「自動車
産業」を起こすよう指示したのです。重要なのは「技術兵を中心
として」という部分です。これを「軍民転換」といいます。19
80年代のことです。
 任正非氏は、1944年に貴州省の極貧の家に生まれ、成人に
なる時点で文化大革命に遭遇しています。任正非氏は、重慶建築
工程学院(現在の重慶大学)で学んでいたのですが、卒業の一年
前に文化大革命が起きてしまうのです。
 文化大革命については、表面的にはきれいごとをいっています
が、その本質は、大躍進政策の失敗によって国家主席の地位を劉
少奇党副主席に譲った毛沢東共産党主席が、自身の復権を画策し
紅衛兵と呼ばれた学生運動を扇動して政敵を攻撃させ、失脚に追
い込むための、中国共産党内部での権力闘争です。
 とくに大学教授などの知識層が狙われたといいますが、非常に
多くの人が、この文革によって被害を受けたのです。共産党の資
料に残されていないのですが、40万人から1000万人の人が
何らかの被害を受けたといわれています。
 しかし、「農工兵」に関しては迫害から逃れることができると
知って、任正非氏は人民解放軍入隊を選んだのです。なお、「農
工兵」とは、「農」は農民、「工」は工場従事者、「兵」は兵隊
のことです。任正非氏は人民解放軍を志願したところ、重慶建設
工程学院で学んだ経歴により、基礎建築兵に配属され、正式に兵
士になったのです。
 もともと技術レベルが高かったので、順調に出世し、技術員、
工程師になり、副所長にまでなっています。しかし、そこで突然
解雇され、深せんの南海石油後方勤務サービスに配置換えになる
のです。ケ小平による人民解放軍の100万人削減の影響です。
 しかし、新しい仕事には興味も関心もない任正非氏は、周囲か
ら、2万1000人民元(日本円で約30万円)をかき集めて、
ファーウェイ(華為技術)を立ち上げるのです。1987年のこ
とです。
 しかし当時は、雨後の竹の子のように小さい企業が立ち上がっ
ては消えていくという時代であり、事業経営が最も難しい時代で
あったといえます。ファーウェイはどのようにして生き残ったの
でしょうか。遠藤誉氏は、このちっぽけな企業、ファーウェイが
生き残ったの理由には次の2つあるといいます。
─────────────────────────────
  1.通信機器開発&サービスをメインの事業にしたこと
  2.当時としては珍しい従業員持ち株制を導入したこと
─────────────────────────────
 ファーウェイは、起業時期のタイミングが実によかったといえ
ます。中国は、固定電話が普及しておらず、ポケベルの時代を経
て、いきなり携帯電話の時代に突入しています。ファーウェイは
それを先取りしたのです。従業員持ち株制も画期的です。当初、
任正非CEO自身の持ち株は1・3%、残りの98・7%の株主
はすべて従業員なのです。従業員のやる気が起きて当然です。
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 起業当初のホァーウェイの顧客は、中国電信、中国移動、中国
網通(網はインターネット)、中国聯通などの、中国企業が中心
だったが、1997年に香港のハチソン・ワンポアと海外契約を
得たのを皮切りに、2000年代以降は、ブリティッシュ・テレ
コム、ドイツテレコム、テレフォニカ、テリア・ソネラ、アドバ
ンスト・インフオ・サービスおよびシンガポール・テレコムなど
全世界の大企業向け事業も大きく展開して、世界のホァーウェイ
として一気にグローバル化していく。
 2012年には売上高でエリクソンを超えて、世界最大の通信
機器メーカーとなっている。製品によっては世界シェア1位だ。
特にスマホにおいては、出荷台数、シェアともに世界3位であり
2017年には世界シェアでアップルを抜いて世界2位になった
こともあった。            ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/047]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ急成長の謎を解く/日経XTECH
  ───────────────────────────
   まずは、「ファーウェイ基本法」について。「ファーウェ
  イ基本法(以下、基本法と略)」とはファーウェイの基本理
  念や経営方針をまとめたものだが、驚くべきことにウィキペ
  ディアの中国版ともいえる「百度百科」にも一項目として記
  載され、全文が掲載されている。本書によれば、基本法は、
  1996年ごろから考案され、1998年に正式に発表され
  たものであり、基本理念のほかに、経営方針、組織編制、人
  材開発、管理方針、後継者およびその改正方法などからなる
  2万字に及ぶ「憲法」である。本書では事あるごとに「基本
  法」に言及され、いかにファーウェイにとってこの基本法が
  重要な存在かがわかる。
   また、本書では触れられていないが、「百度百科」ではこ
  の基本法について面白い解説を付けている。「この基本法が
  ほかの企業から大変な関心を寄せられているのは、普段低姿
  勢な(永井注:本書の中でも、任正非CEOについて何度も
  『低姿勢』『謙虚』といった表現が現れる)ファーウェイが
  このように高らかに自らの理念を謳い上げているからだ。こ
  のようなファーウェイの2面性がより人々に『ファーウェイ
  は理解できない』と感じさせるのである。」このように本稿
  の冒頭でも述べたとおり、中国人にとってもファーウェイは
  謎なのだ。なぜ、このように、ファーウェイは謎と感じられ
  るのか。            https://nkbp.jp/2u41PS8
  ───────────────────────────

ファーウェイ本社.jpg
ファーウェイ本社
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2019年03月12日

●「任正非華為CEOは何を語ったか」(EJ第4965号)

 2018年8月13日のことです。トランプ大統領は、「20
19年度国防権限法」に署名しています。この法律で、中国のZ
TEとファーウェイに関して、向こう7年間の取引停止を命じて
います。この法律では、政府職員や政府とビジネスを行う可能性
のある企業は、両社の製品を使ってはならないとしています。
 その後、トランプ政権は、日本、英国、カナダ、ドイツといっ
た米国の同盟国に対しても、これを強制するようになり、ファー
ウェイ包囲網は、世界的な広がりを見せつつあります。そして、
2018年暮れには、ファーウェイの創業者である任正非氏の娘
である孟晩舟副会長が、イランとの不正取引容疑でカナダで逮捕
されてしまうのです。
 これに対して、2019年1月18日、ファーウェイのCEO
である任正非氏は記者会見を開き、「ファーウェイは各国の法令
を順守している」と強調してみせたのです。任正非CEOは、大
の記者会見嫌いで知られていますが、さすがに世界的な包囲網に
危機感を感じたと思われます。基本的な記者とのやり取りを再現
しておきます。
─────────────────────────────
記 者:中国政府や共産党から機密情報の提供を求められた場合
 反対できますか。
任正非:過去30年間、様々な顧客と向き合うなかで、安全上の
 問題が起きたことはない。顧客企業の不利益になる形でデータ
 を提出するように求められたとしても拒絶する。
記 者:娘である孟晩舟副会長が、イランとの不正取引に関わっ
 た疑いでカナダで逮捕されました。
任正非:大変な驚きだ。司法手続きに入っているので、コメント
 は控えたい。
記 者:米国の制裁で同業の中興通訊(ZTE)は、部品は調達
 できず、経営危機に陥りました。
任正非:当社はZTEのようにはならない。仮に、米国の制裁が
 あったら、自ら代替品を生産するが、そうなると米国にとって
 も不利になるのではないか。制裁があっても影響は大きくない
 だろう。
記 者:欧米や日本でもファーウェイ製品排除の動きが広がって
 います。
任正非:全体としてあまり影響を受けていない。今年も当社は大
 きく成長を続ける予定だ。ただ成長率は、2018年の20%
 を下回る可能性がある。個人としては、日本政府から排除され
 る動きがあるとは感じておらず、日本社会には今後も受け入れ
 てもらえると思う。
         ──2019年1月19日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 冒頭の記者の質問「中国政府や共産党から機密情報の提供を求
められた場合、反対できますか」は、2017年6月から施行さ
れた「国家情報法」を念頭に置いての質問です。任正非CEOは
「顧客企業の不利益になる形でデータを提出するように求められ
たとしても拒絶する」と答えていますが、これは国家情報法違反
の犯罪になってしまう恐れがあります。国家情報法第7条には、
次のように規定されているからです。
─────────────────────────────
 国家情報法第7条
 いかなる組織及び個人も、国家の情報活動に協力する義務を
 有する。
─────────────────────────────
 「国家情報法」に関する記者と任正非CEOのやり取りは、他
にもあります。記者は、かなり突っ込んで聞いており、任正非C
EOも詳しくそれに答えていますが、任正非CEOの答えは、希
望観測的なところがあります。そのあたりが限界なのでしょう。
そのやり取りを以下に示します。
─────────────────────────────
記 者:なぜ中国には、クアルコムのような知的財産を扱うこと
 によって発展していく企業が生まれないのか。
任正非:知的財産が、もしも物権法の一部に組み込まれていたな
 ら、オリジナルを発明した側にもっと有利だったろう。それで
 も西側諸国に言い訳するわけではないが、知的財産の保護は、
 国の長期的な発展にとって有利だ。中国もニセ札やニセ物を支
 持しなければ、ますます競争力がつく企業が現れるだろう。
記者:現在の世界は再び、人々に共産主義の帽子を被せて叩くと
 いう「マッカーシー(赤狩り)時代」に舞い戻っているのでは
 ないか。中国でも「国家情報法」、とりわけ第7条が施行され
 て、華為が国際展開する上で、何か障害が起こっているか。
任正非:まず、私は、そのような法解釈はしていない。外交部が
 はっきり述べているように、中国はどんな法律も、企業にすべ
 てを要求するようなことはしない。中国政府はまた、国連、ア
 メリカ、EUの輸出や制裁に関する法律も含めて、進出する企
 業はその国々の法律法規を遵守しなければならないと強調して
 いる。              https://bit.ly/2ENlE58
─────────────────────────────
 口では比較的のんきなことをいっている任正非CEOですが、
実は会見を開いてここまで語るのは、焦慮感に駆られている証拠
といえます。なぜかというと、ファーウェイは、1987年の創
業以来、非上場を貫いており、任正非CEOはめったに人前に出
ない厚いヴェールに包まれた「謎の経営者」といわれてきた人だ
からです。そのCEOが会見を開き、記者の質問にていねいに答
える──相当追い詰められているといえます。
 ファーウェイのバックには人民解放軍がいるといわれています
が、それは本当のことでしょうか。現在、中国では、アイフォー
ンから、ファーウェイに乗り換える人が増えており、アップルの
順位は5位にまでダウンしています。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/046]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイCEOが米国に「証拠を見せろ」と反論
  ───────────────────────────
   ここしばらくの中国のファーウェイに関するニュースを見
  ると、メディアの種類によって報じ方が大きく異なることが
  わかる。テック系のメディアは、同社が2018年にリリー
  スしたスマートフォンやラップトップが高い評価を得ている
  ことや業績が予想を上回る見込みであることを報じている。
   一方で政治・経済系のメディアは、同社と米政府とのトラ
  ブルを盛んに報じている。ファーウェイのスマートフォンは
  この1年で販売数量だけでなく、評価の面でも大きな躍進を
  遂げた。かつては、中国製スマートフォンを見下していた欧
  米系メディアは、今やファーウェイ製品の革新性や性能の高
  さをアップルやサムスンと同等に評価している。
   筆者が住む香港の人々は、中国製品を敬遠する傾向がある
  が、最近では、ファーウェイ製品をよく見かけるようになっ
  た。ファーウェイのCEO、胡厚崑(同社のCEOは3人の
  交代制)は先日、同社の東莞市の施設で記者会見を開いた。
  胡によると、クリスマスまでにスマートフォンの出荷台数が
  同社史上最高の2億台を突破し、売上高は、1000億ドル
  (約11兆円)に達する見込みだという。
   欧米系メディアは、今回の記者会見を直前になって知らさ
  れた。会見では、12月1日に逮捕された同社の孟晩舟CF
  Oのことや、米政府が同盟国に対してファーウェイ製品の使
  用中止を求めていることについては全く語られなかった。
                  https://bit.ly/2TEQPc7
  ───────────────────────────

ファーウェイ任正非CEO.jpg
ファーウェイ任正非CEO

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2019年03月11日

●「米国政府によるZTE潰しの意味」(EJ第4964号)

 ハイシリコン(HiSilicon) とは、「海思(ハイスー)」とい
う中国語を英語表記したものです。なぜ、「海思」なのかについ
て、遠藤誉氏が追跡しています。大陸の中国で「海」という言葉
が出てくるのは、何か意味があると感じたからだそうです。
 ハイシリコンの総裁は、既に述べているように、1969年生
まれの何庭波氏という50歳の女性です。元ファーウェイの社員
で、2004年10月に独立して、ハイシリコンを創業していま
す。経営者になりたかったわけでなく、あくまで「自分は『工程
師』である」という精神文化を持っていて、半導体製品は外販せ
ず、ファーウェイのために研究し、ファーウェイのためにチップ
を開発しているのです。
 何庭波総裁とは、どういう人物なのでしょうか。
 何庭波総裁は、ハイシリコンの新入社員には、単なる挨拶を超
えて、いつも熱く語りかけます。そのなかで何庭波総裁は、次の
ように述べています。来月入社してくる新人に何を話すべきかの
参考になると思います。
─────────────────────────────
 私たちは国内各地だけでなく、世界とつながっています。そし
て必要が生じれば、どこにでも行きます。たとえば、私は(ファ
ーウェイ)入社したその日から、半導体チップの製造に取り掛か
りましたが、2年後の1998年には上海の研究所に行かなけれ
ばならない事態に迫られました。無線通信に関する研究拠点が、
上海にあったからです。
 そこで私は一人で上海に行き、そこのチームの仲間入りをして
研究開発に没頭しました。ようやく成果が出て、深せんに戻って
また半導体の研究開発に没頭しましたが、しばらくすると任総裁
にアメリカのシリコンバレーに行ってこいと言われたのです。
 私は、シリコンバレーに2年間出向しました。この2年間で私
が学んだものは多く、半導体設計の大きなギャップを思い知らさ
れました。その後、全世界から多くの多彩な人材を吸収するに至
りました。(中略)
 創造することに価値を見出して下さい。あなた方の技術と知識
をホァーウェイに注いでください。ホァーウェイは、あなた方が
いるからこそ美しく輝くのです。あなた方は高速鉄道のような動
力車に乗ったのではなく、あなた方がその先頭の運転席にいるの
です。運転するのは、あなた方なのです。
 ホァーウェイは、あなた方が輝かせるのです!自分の人生を美
しく輝かせることがホァーウェイを美しく輝くことにつながる。
期待しています!ありがとう!     ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 この何庭波総裁の新入社員への挨拶から遠藤誉氏は、「海思」
という社名は「海の彼方から祖国を思う」と意味ではないかと推
定しています。祖国の中国から遠く離れたアメリカから、多くの
ことを学び、それを祖国の中国に持ち帰る──そういう思いが、
「海思/ハイスー」という社名になったというわけです。
 社名はさておき、ハイシリコンの最大の特色は、既に述べてい
るように製品を「外販しない」ということです。半導体を提供す
るのはファーウェイ一社のみというわけです。つまり、ハイシリ
コンという企業は、独立企業でありながら、ファーウェイの専属
の研究開発部門であり、他社には一切製品を提供しないことをポ
リシーにしているのです。
 そのポリシーを守る姿勢は、米クアルコムから長く半導体の提
供を受けていたZTE(中興通訊)が、クアルコムから突然提供
を断られ、ピンチに瀕したときも、ハイシリコンは提供に応じな
かったことでも、ポリシーを守る頑固さがわかります。仮に習近
平政権が命令しても提供しないと思われます。
 ZTEは、米国で成功した数少ない中国ブランドといえます。
ZTEは、高機能なスマホを低価格で販売することに加え、NB
Aの試合のスポンサーを務め、ロビー活動に多額の費用を投じて
政治家やパートナー企業から信頼を獲得し、米国市場で4位とな
る11%のシェアを獲得することに成功したのです。そのような
親米企業でも、国防に懸念があるとなったら、米国は絶対に許さ
ないのです。
 中国の通信機器に関しては、2012年の議会報告書書──そ
のタイトルは「中国の通信機器企業ZTEとファーウェイによっ
て引き起こされたアメリカの国家安全問題」の段階から、中国へ
の警戒感は強くなってきており、この問題に関しては、大統領よ
りも議会の方が警戒感が強いのです。したがって、この問題でト
ランプ大統領が中国と取引しようとしたら、米議会は絶対に許さ
ないと思われます。
 遠藤氏は、この米国政府によるZTE排斥問題に関して、自著
で次のように述べています。
─────────────────────────────
 トランプ政権が2018年4月17日に、中国の国有企業であ
るZTE(中興通訊)に、向こう7年間の取引禁止を発表すると
中国のネットは燃え上がった。多くは「やるなら、やれ!中国に
は華為と中微がある!」と叫んでいる。
 「中微」は、中国人が「中微半導体設備(上海)有限公司」/
AMECを指して言うときの略語だ。中国の一般庶民の感覚とし
て、ホァーウェイ、特にその頭脳であるハイシリコンと中微(A
MEC)を応援する声が高い。誰もZTEには関心を持たないし
中国の青年を取材したときの「ZTEはバカだから」という、吐
き捨てるような反応が一般的だ。そして異口同音に言うことは、
「トランプが中国の半導体産業の猛進を加速させた」という視点
だ。それは、残念ながら、真実に近い可能性を孕んでいる。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/045]

≪画像および関連情報≫
 ●日本人が知らない中国「ZTE」の覇権/米スマホ市場4位
  ───────────────────────────
   米中貿易摩擦が悪化する中、最初の犠牲者となったのが、
  中国の通信機器大手「ZTE(中興通訊)」だ。同社の業績
  悪化は長期間に及びそうだ。
   米トランプ政権は深センに本拠を置くZTEが対イラン制
  裁に違反したとして、同社が米企業からスマートフォンや通
  信機器に不可欠な部品を購入することを7年間禁止すると発
  表した。
   この措置により、ZTEは主要事業の運営停止に追い込ま
  れている。トランプはツイッター上でZTEへの制裁緩和を
  示唆したが、同社の顧客の中には供給体制への不安から取引
  を縮小するケースが出ており、業績の影響は甚大だ。こうし
  た中、ライバル企業がZTEの顧客獲得に動いており、一度
  失った契約を取り戻すのは容易ではないとアナリストらは指
  摘する。トランプは、2018年5月14日に次のようにツ
  イートした。「巨大企業であるZTEが速やかに事業に戻れ
  るよう、習主席と方策を協議している。中国ではあまりに多
  くの職が失われた。既に商務省に対して指示を出した」。
   ZTEの中で打撃が最も大きいのは、スマートフォン事業
  だ。現在、アリババが運営する「Tモール」の、ZTE公式
  ショップは販売を停止している。また、オーストラリアの大
  手通信会社「Telstra」 は「米国の制裁により当社への商品
  供給が困難になった」と述べてZTE製スマートフォンの販
  売を取り止めた。        https://bit.ly/2Hq3aKY
  ───────────────────────────

ZTE(中興通訊).jpg
ZTE(中興通訊)

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2019年03月08日

●「ファーウェイにハイシリコンあり」(EJ第4963号)

 ここで「ICとは何か」を明らかにしておく必要があります。
IC(アイシー)とは次のようなものです。
─────────────────────────────
 IC(integrated circuit)とは、トランジスタやダイオード
や抵抗、コンデンサなどの電子部品を集積し、シリコンなどでで
きている半導体チップのことをいう。集積回路とも呼称する。そ
こに使われている素子の数が、1000〜10万個程度のものを
LSI(Large Scale Integration)と称する。
─────────────────────────────
 米半導体調査会社のICインサイトによると、2017年のI
C市場におけるファブレスメーカーが占める割合は27%で、そ
の市場規模は1014億ドル、10年前の割合は18%であった
ので、10年間で9ポイント上昇したことになります。
 国別でみると、1位はアメリカ、2位は台湾、そして3位は中
国です。中国についてICインサイトは、添付ファイルのグラフ
を示し、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 3位となった中国は、近年、徐々に市場での存在感を増しつつ
ある。その結果、市場シェアも2010年の時点で5%に過ぎな
かったものの、2017年には11%へと増加しており、高い成
長を続けていることが窺える。ファブレス半導体企業トップ50
社中、中国のファブレス企業は、2009年の時点でハイシリコ
ンのみであったが、2017年には10社に増加している。
 中でも清華紫光集団(ユニグループ)は中国最大のファブレス
半導体企業であり、世界でも9位のファブレス企業として位置づ
けられるまでに成長している。また、ハイシリコンは、90%以
上の売り上げを親会社であるファーウェイに依存しており、これ
とZTE、デイタング両社の社内消費分を除外すると、ファブレ
ス市場における中国のシェアは約6%に低下するとのことで、中
国のシステムメーカーの勢いが強いことが窺える。
                  https://bit.ly/2H3gDJi
─────────────────────────────
 世界が「中国恐るべし」と最初に衝撃を受けたのは、2012
年のことです。それまでの中国のスマホは、製品自体は非常に優
れてはいるものの、チップセットに米国のクアルコムや、台湾の
メディアテックの製品を使っているなど、中身はまだ「中国」の
ものではなかったのです。
 しかし、2012年にファーウェイ傘下のハイシリコン(海思
半導体)という半導体メーカーが、突然「K3V2」というチッ
プを発表したのです。これは実に驚くべきものだったのです。
─────────────────────────────
       K3V2 ・・・ 150Mbps LTE Cat.4
             bps bit per second
─────────────────────────────
 なぜ、驚くべきかというと、当時このスピードのチップに対応
しているメーカーは世界中に1社もなかったからです。アメリカ
のクアルコムでさえ「100Mbps LTE Cat.3」 であったからです。
「150Mbps」 というのは、1秒間に150メガビットの情報を送
れる速度という意味です。
 その後、クァルコムが「スナップドラゴン/855」という新
製品を出すと、ハイシリコンも「麒麟/Kirin980」 という新
製品をぶつけて、対抗するという激しい競争が繰り広げられるよ
うになったのです。いつの間に、どのようにして、ハイシリコン
はこれほどのハイレベルに達したのでしょうか。そもそもハイシ
リコンという企業はどういう企業なのでしょうか。
 中国のネット上では、ハイシリコンに対して、次のようなメッ
セージが多く発信されています。
─────────────────────────────
   海思(ハイスー)よ、あなたこそが、中国の芯だ!
                   ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 ここで「海思」というのはハイシリコンのことです。「海思」
の英語表現が「HiSilicon/ハイシリコン」 ということになりま
す。「海思」には、創業者の熱い思いが込められているのですが
これについては改めて述べるとして、ハイシリコンの営業の最大
の特色について、研究解析調査会社「テカナリエ」の清水洋治氏
は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 ハイシリコン社は外販をしていません。ファーウェイ社のため
のハーウェイ社によるハーフェイ社のためのチップなのです。こ
れほど高性能のチップを、中国の他のスマホメーカーに供給し始
めたら、クァルコム社もメディテック社も、あっという間に市場
を失ってしまう可能性があります。      ──清水洋治氏
                  https://bit.ly/2C9Gzi2
─────────────────────────────
 遠藤誉氏によると、ハイシリコンの総裁は女性で、1969年
生まれ、まだ50歳であり、とても若い。実に知性的で飾り気が
なく、研究にいそしんでいる印象を与える人だそうです。その名
前は次の通りです。
─────────────────────────────
        何庭波氏/ハイシリコン総裁
─────────────────────────────
 もともとファーウェイの社員であり、1996年に入社し、半
導体チップデザイン業務の総工程師を務めていたのです。そして
2004年10月に「海思半導体有限公司」を設立したのですが
あくまでファーウェイの研究開発部門としての位置付けを守って
おり、他のいかなるメーカーにも半導体を売らないのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/044]

≪画像および関連情報≫
 ●わずか6年で世界トップに/中国半導体メーカーの実力
  ───────────────────────────
   「中国とどう向き合うか。真剣に考えるべき」。技術者塾
  「半導体チップ分析から見通す未来展望シリーズ」で講師を
  務めるテカナリエの清水洋治氏は、その重要性を指摘する。
  中国の強みといえば、かつては「コスト」や「人口・市場」
  と言われていたが、最近では技術やサービスの競争力が急速
  に高まっている。特にハイテク分野でその傾向が顕著だ。
   例えばフィンテック。スマートフォン(スマホ)を活用し
  た決済サービスの進化は、日本をはるかにしのぐ。また、電
  気自動車(EV)の普及でも世界をリードする存在になりそ
  うだ。こうした中国躍進の波は、技術力の根幹ともいえる半
  導体にも押し寄せる。
   日経BP社は「中国のNVIDIAは誰か?中国企業の技
  術力を探る」と題したセミナーを、上述の未来展望シリーズ
  の第1回として開催する。1年前の2017年2月に開催し
  たセミナー「半導体回路の分析から、中国エレクトロニクス
  企業の技術力を探る」の内容を更新し、中国の最新スマホチ
  ップやスマートスピーカーなどの新しい情報を盛り込む予定
  だ。本稿では、好評を博した17年2月開催のセミナーから
  中国のスマホ用半導体に関する内容の一部を紹介する。
                  https://nkbp.jp/2tVAPE0
  ───────────────────────────

中国のファブレスICサプライヤー.jpg
中国のファブレスICサプライヤー 

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2019年03月07日

●「半導体市場における中国勢の躍進」(EJ第4962号)

 中国が「中国製造2025」という国家戦略を発布したのは、
2015年5月のことです。少なくともこの時点までは、中国の
製造技術は大したことがなかったのです。ところが2015年以
降、中国の製造技術に大きな変化が起きているのです。
 次の表をごらんください。
 この表は、「ファブレス半導体」の2017年度の売上高トッ
プ10ですが、そこに中国企業が2社入っているのです。これは
本当に驚異的なことです。「ファブレス」とは、「工場を持たな
い」という意味です。製造工場を持たないで製品の企画・設計を
行い、製品はOEM供給を受ける形で調達し、自社ブランドの製
品として販売する企業です。
─────────────────────────────
 ◎2017年のファブレス半導体トップ10売上ランキング
            企業名     本社 2017年
      1   クアルコム   アメリカ 17078
      2  ブロードコム シンガポール 16065
      3  エヌピディア   アメリカ  9228
      4 メディアテック     台湾  7875
      5    アップル   アメリカ  6660
      6     AMD   アメリカ  5249
   ★  7  ハイシリコン     中国  4715
      8  ザイリンクス   アメリカ  2475
      9    マーベル   アメリカ  2390
   ★ 10    紫光集団     中国  2050
                   単位:100万ドル
        2018年1月4日/米ICインサイト発表
                   ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 第7位の「ハイシリコン」は、独立企業ではあるものの、現在
話題のファーウェイ(華為技術)にのみ半導体を収めているメー
カーです。ほぼファーウェイへの提供分だけで、売上高において
第7位を占めているのですから凄い実績です。
 第10位の「紫光集団」は、チンホワ・ユニグループといい、
1988年に精華大学の「校営企業/精華大学科技開発総公司」
として誕生しています。校営企業は教育機関に付設されている企
業のことです。校営企業については、遠藤誉氏の本に次の説明が
あります。
─────────────────────────────
 中国には、実は毛沢東時代から「校営企業」というのがあって
学校(専門学校や大学)に企業が付設されていた。というのは、
毛沢東時代は、まさに社会主義をそのまま地でいっていたので、
教育機関はすべて国営(地方は公営)で無料。学費が無料なだけ
でなく、学校のキャンパスには、必ず無料の宿舎があり、食堂も
完備していて、学生は国家の丸抱えで学園生活を送っていた。そ
の代わりに卒業したら、必ず国家が分配する国営企業に行って働
かなければならない。
 そのため、準備期間として、学生たちはその教育機関に関係す
る国営企業で実習を行っていた。その小型版を教育機関に付設し
これを「校営企業」、中国文字では「校弁企業」と称していた。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 精華大学はかつては「精華学堂」と呼ばれていたのです。少し
歴史を振り返る必要があります。清朝の末期のことですが、19
00年に「義和団の乱」という排斥運動が起きたのです。これを
利用して、清王朝の女帝の西太后は、中国を侵略していた帝国主
義列強に対して宣戦布告して戦争になったのです。
 しかし、当時の中国が欧米列強に勝てるわけがなく、2ヶ月も
しないうちに壊滅的敗北を喫し、莫大な賠償の支払いを余儀なく
されたのです。そのとき、米国のジョン・ヘイ国務長官は西太后
に同情し、条件付きで賠償を減額する案を提案します。その案と
は、優秀な中国人学生の米国への留学生派遣(1940年まで)
および、そのための教育施設の設置を行うというものです。これ
により、1911年に設立されたのが「精華学堂」です。精華学
堂は、中国の優秀な学生を米国に留学させるためのいわば予備校
としての位置づけです。
 精華大学といえば、1998年3月〜2003年3月までの朱
鎔基国務院総理、それ以後2期の国家主席、胡錦濤国家主席、習
近平国家主席は、いずれも精華大学出身です。これは大変珍しい
ことです。
 さて、1993年2月13日に中共中央・国務院が産学連携を
奨励すると、精華大学科技開発総公司は、「大学」の文字を外し
て「精華紫光(集団)総公司」に改称しています。その後、民間
企業の「北京健坤投資集団有限公司」と合併し、国有企業(ここ
では精華紫光(集団)総公司)との混合所有制になります。その
民間企業のトップを務めていていたのは、趙偉国氏という人物で
あり、その趙氏が、以後紫光総公司の菫事長(法人を代表する責
任者)を務めることになります。
 趙偉国CEOは、「半導体の虎」という異名を持つスゴ腕の持
ち主であり、紫光集団をファプレス半導体の第10位にランキン
グさせたのは、趙偉国CEOの力が大きいといえます。なお、趙
偉国CEOは、2013年には、当時ナスダック市場に上場して
いた「スプレッドトラム」(上海市)を買収しています。
 2011年にスプレッドトラムは、世界のファブレス半導体企
業のトップ17位に入っていたのです。このとき、ハイシリコン
は16位にランクされています。しかし、そのとき、スプレッド
トラムは、成長率(対前年比)で見ると、230%のダントツで
トップなのです。趙偉国CEOはそこを見逃さなかったのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/043]

≪画像および関連情報≫
 ●韓国経済に打撃か、中国が半導体を大量生産へ―韓国紙
  ───────────────────────────
   2018年2月27日、韓国紙・亜州経済は、中国企業が
  2018年末から半導体の大量生産を始めようとしており、
  グローバル市場における韓国企業の立場に深刻な影響が生じ
  るのではないかとの懸念が深まっていると伝えた。
   記事によると、半導体にはリード・オンリー・メモリ/R
  OMとランダム・アクセス・メモリ(RAM)があり、RO
  Mは半導体市場の4分の3を占める。ROMの分野に限れば
  中国の技術はすでに韓国を上回っているという。
   半導体市場調査会社・米ICインサイトが25日に発表し
  た統計では、09年の時点ではファブレス半導体企業トップ
  50社のうち中国は1社だけだったが、16年になると11
  社にまで増え、シェアも10%を突破。一方、韓国は1社の
  みでシェアも1%にとどまっている。
   中国のファブレス半導体企業は、近年のモノのインターネ
  ット(IoT)や人工知能(AI)、自動運転車などの急成
  長を背景に業績を大きく伸ばし、韓国のサムスン電子と並ぶ
  総合半導体メーカーに成長。その影響力を拡大させている。
  記事は「中国が『自給自足』するようになって自国のシェア
  を高めれば韓国の半導体輸出にも影響が生じることになる。
  そうした中、中国の半導体企業は年内にも3ヶ所の工場を完
  成させ、大量生産をスタートさせる」と伝えた。
                  https://bit.ly/2HfRTwB
  ───────────────────────────

精華大学(中国).jpg
精華大学(中国)
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2019年03月06日

●「なぜ中国ハイテク技術は伸びたか」(EJ第4961号)

 「大而不強」についてもう少し考えます。朱高峰という人がい
ます。中国工程院の設立に尽力し、2002年まで、工程院の副
院長を務めていた人物です。彼は、当時の中国製造(メイド・イ
ン・チャイナ)をどう表現するかと記者に聞かれ、次のように答
えています。
─────────────────────────────
 生産量は非常に大きいが、しかし価値はそれほど高くない。メ
イド・イン・チャイナは、全世界を覆っている。多くの国がメイ
ド・イン・チャイナなしに生活することができないほどだ。しか
しその中国製は、未だ中低級の製品であることを認めなければな
らない。つまりひとことで言えば「大而不強」(大きいが強くな
い)という4文字で表現するのが、最も適切だ。 ──朱高峰氏
                   ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 習政権が成立した年である2012年の中国の製造業の状況は
どうであったかについて、遠藤氏の本からまとめると、次のよう
になります。
─────────────────────────────
      ◎2012年/製造業の対前年増加幅
       米国:1兆8533億ドル
       中国:2兆3307億ドル
                世界銀行の統計
─────────────────────────────
 上記の数字で分かるように、中国は、額としては米国を大きく
上回っています。それは、全世界の製造業の20%の生産量を占
めています。
 しかし、中国製造業の付加価値を調べてみると、そこには大き
な問題点を指摘できます。これについて遠藤誉氏は、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 工業先進国の製造業付加価値は、平均35%強であるのに対し
て、中国製造業の付加価値は21・5%に過ぎない。製造業の増
加幅が中国のGDPの32・6%しか占めていないのに対して、
その製品を製造するためのエネルギー消費量は全国のエネルギー
消費量の58・0%を占めている。つまり、生産性は32・6%
しかGDPに頁献していないのに、その製品を製造するためのエ
ネルギーは、国家全体の58・0%を奪っているので、建設的で
なく、損をしているということだ。 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 要するに中国は、表面からは見えないキー・パーツの部分に弱
く、それらを外国から輸入し、組み立てているに過ぎない中国製
品が数多くあるのです。中国は、人体大の原子爆弾を作ることは
できても、心臓大のエンジンを製造することができないでいる状
態にあるのです。とくにエンジンを作ることができないでいるこ
とは有名です。そのおかげで日本電産は大儲けしています。
 中国の製造業における問題点としては、次の3つを上げること
ができます。
─────────────────────────────
   1.イノベーション能力と核心のコア技術に弱い
   2.基盤技術(汎用性高い多目的技術)に欠ける
   3.製造に当って資源の浪費と環境汚染がひどい
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 2012年の中国の技術のレベルでは、米国のそれに追いつき
追い越すためにはあと「30年」はかかる状態だったのです。中
国は、2025年を起点として、第2段階を2035年、第3段
階を2045年として計画していたのです。
 問題は、少なくとも習近平政権ができるまでは、その程度の技
術レベルであった中国が、AIをはじめ、あらゆる技術のキー・
パーツになる半導体の分野において、信じられない速度で、米国
に追いついてきたことにあります。具体的にいうと、中国は、半
導体産業に関して、世界ベスト10に入る企業があらわれるほど
急激に成長してきているのです。
 それが果して事実であるかどうか。もし事実であったとすると
なぜそんなことができたのか。これらについては、これから書い
ていくことになりますが、それが事実であるからこそ、トランプ
政権は、中国に貿易戦争を仕掛けたのです。しかし、その真の狙
いは貿易問題ではなく、「中国製造2025」にあります。
 このトランプ大統領と習近平主席のバトルについて、遠藤誉氏
は、自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 トランプは、この10年の問に中国が成し遂げるであろう成果
にストップをかけ、中国にアメリカを凌駕させる足がかりを絶対
に与えてはならないと、米中貿易戦争という手段を通して挑戦し
ている。それを見抜いたトランプの目は鋭い。
 習近平は、この10年間で何としても中国のハイテク分野にお
けるコア技術の自国による自給自足を満たし、宇宙開発において
アメリカに追いつき追い越そうとしている。国家主席の任期制限
を撤廃してまで、自分の手で成し遂げようと死闘しているのであ
る。そうしなければ、彼が政権スローガンに掲げた「中華民族の
偉大なる復興」を成し遂げる「中国の夢」は実現せず、中国共産
党による一党支配体制は崩壊するという危機感を抱いているから
だ。「アメリカこそが偉大だ」とするトランプと「中華民族の偉
大なる復興」を叫ぶ習近平と、ここは「偉大さ比べ」になった格
好だが、どちらに軍配が上がるのか。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/042]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平の「自力更生」は「中国製造2025」の達成
  ───────────────────────────
   習近平が最近よく言う「自力再生」は、決して文革時の毛
  沢東返りではなく、「中国製造2025」によりコア技術の
  自給自足達成を指している。「中国製造2025」を見なけ
  れば、中国も米中関係も日中関係も見えない。
   その証拠に、2018年5月8日の中国政府の通信社「新
  華社」電子版「新華網」の報道を見てみよう。「中国製造2
  025:困難に遭い、自ら強くなる」というタイトルで「中
  国製造2025」と「自力再生」の関係が書いてある。文字
  だけでなく、写真に大きく「中国製造2025」とあるので
  一目瞭然だろう。なお、中国語では「製造」は「制造」と書
  く。小見出しには「2018年は絶対に普通ではない年にな
  る!」とあり、冒頭に、おおむね以下のような趣旨のことが
  書いてある。──いまわれわれは、国家戦略「中国製造20
  25」を推進しており、改革開放40周年を迎えようとして
  いる。ある国が、わが国に高関税をかけてわが国のハイテク
  製品輸出に徹底的な打撃を与えようとしている。どこまでも
  つきまとう執拗な封鎖を通して、われわれは「困難から抜け
  出すには、ただ一つ自力再生以外にない」ということを知ら
  なければならない!ここにある「ある国」とは、言うまでな
  く、「アメリカ」のことである。
                  https://bit.ly/2IMrpVL
  ───────────────────────────

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習近平国家主席VSトランプ大統領
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2019年03月05日

●「『大而不強』という中国語の意味」(EJ第4960号)

 日本政府が尖閣諸島を民間から買い上げ、国有化することを決
めたのは、2012年9月10日の閣議決定においてです。交代
直前の胡錦濤政権下のことです。これによって、中国各地では、
日中国交正常化以降最大の規模にまで、反日デモが膨れ上がった
のです。当然日本製品不買運動も起きています。
 しかし、ネットの一部には、構成する部品のほとんどが日本製
品であるスマホまで捨てるのかという意見が拡散したのです。こ
れについて、現代中国分析の第1人者である遠藤誉氏は、自著で
次のように述べています。
─────────────────────────────
 「まさか携帯電話まで、ボイコットするんじゃないよね?」と
いうコメントがネットに貼り付けられているのを発見した。それ
は北京にある某科学研究院の研究員が書いたもので、彼は、彼の
アイフォーン4Sの図をコメントに添えていた。そして「液晶画
面、フラッシュメモリー、ブルートゥースからカメラ・モジュー
ルに至るまで、裏には東芝、シャープ、ソニー、TDK、セイコ
ーエプソンなどのロゴがある。それでも、このアイフォンは日本
製品と言えないのだろうか?」という疑問を投げかけている。
 中国の視点から見てみると、たしかにほとんどのアイフォンは
中国大陸か台湾などで組み立てられている。そして驚くべきこと
に、1台のアイフォンの利潤に関しては、理念設計側のアップル
が80ドルほどを儲け、キー・パーツを製造する日本企業は20
ドルほどを稼ぎ、そして組立作業しかやっていない中国は、ほん
の数ドルしか稼ぐことができないのである。
                   ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 日本では、中国の反日デモは、中国政府がウラでコントロール
しているといわれていますが、「それは事実と異なる」と遠藤氏
はいいます。習近平体制になってからは、反日デモが起きないよ
う厳しく取り締まっているからです。しかし、それは日本のため
ではなく、反日デモが起きると、やがて、その批判の矛先は中国
政府に向けられる恐れがあるからです。
 確かに製品の表面には「メイド・イン・チャイナ」となってい
るものの、それらの製品、とくにハイテク製品の部品のほとんど
が、「メイド・イン・ジャパン」であることが多いからです。若
者が必ず持っているスマホはその典型です。
 そのため、習政権では、中国人民、とくに若者への監視体制を
強化させ、反日デモが起きないようネット言論を厳しく抑え込ん
だのです。中国が何よりも一番恐れているのは、米国でもロシア
でもなく、まして日本でもなく、自国の人民なのです。
 しかし、取り締まりには限界があり、中国自身の技術力自体を
向上させるため、2013年に入ると、習近平主席は中国工程院
に命じて「製造強国戦略研究」に着手させ、その成果物として、
2015年に「中国製造2025」が発表されています。
 中国工程院とは何か。中国工程院とは、中国政府(国務院)直
属のアカデミーの1つであり、技術分野の最高研究機関です。中
国政府には次の3つの院があります。
─────────────────────────────
      1.  中国科学院/1949年設立
      2.中国社会科学院/1977年設立
      3.  中国工程院/1994年設立
─────────────────────────────
 遠藤誉氏は、90年代半ばから2000年初頭まで、中国社会
科学院社会研究所の客員教授・客員研究員を務めています。この
社会科学院の社会研究所は、「中国政府のシンクタンク」と称さ
れている組織です。
 遠藤誉氏のテレビでの話や著作における言説には、習近平国家
主席をやや強く礼賛するところがあるような気がしますが、他の
中国ウオッチャーでは語られることのない新鮮な情報がもたらさ
れることがしばしばあるので、私は遠藤氏の著作や話を注目して
読んだり、聞いたりしています。
 2012年10月1日、国慶節ゴールデンウィークの中国のカ
ラーテレビ市場では、日本製品が駆逐され、中国製と韓国製だけ
になっており、それに大衆は歓呼の声を上げているとの報道に対
して、中国社会科学院全国日本経済学会理事の白益民氏が、ウェ
イボー(微博)で、次の投稿をして、報道に対して「冷や水」を
浴びせています。
─────────────────────────────
 日本の製造業経済は強大だ。ソニーや松下(原文ママ)、ある
いはシャープが必ずしも日本製造業のレベルを真に代表するとは
限らない。ニコン、川崎(原文ママ)、石川島播磨、京セラなど
の電子装備製造業こそが、実は日本製造業の象徴なのだ。
               ────遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 中国には「大而不強」という言葉があります。「大きいが強く
ない」という意味です。1979年にケ小平は、ベトナムが中国
の友好国のカンボジアを攻撃したことを理由にして、ベトナムに
攻撃を仕掛けます。
 ケ小平は勝てると踏んで戦争を仕掛けたのです。軍の規模が圧
倒的に大きかったからです。しかし、当時ベトナム戦争で疲弊し
ていたはずのベトナムは滅法強く、勝てなかったのです。まさに
「大而不強」──「大きいが強くない」です。ケ小平は、「無駄
な兵がだぶついているだけ」として、中国人民解放軍の100万
人削減を断行しています。
 遠藤誉氏は、ちょうど日本が尖閣諸島の国有化をしたことを境
に、中国の製造業増強の考え方が大きく変化したといっているの
です。それは、ちょうど習近平体制が始まった時期と一致するの
です。        ──[米中ロ覇権争いの行方/041]

≪画像および関連情報≫
 ●2012年の中国で日本製品不買運動/尖閣国有宣言
  ───────────────────────────
   中国と日本との尖閣諸島(中国名・釣魚島)領有権を巡る
  対立が激化している中、中国内での反日空気が、強まってい
  る。所々で反日デモが行われ、在中日本人たちが中国人らか
  ら攻撃を受けた。日本製品の販売が大幅に落ち込み、中国人
  の日本への旅行計画のキャンセルが殺到している。
   13日午後5時半ごろ、北京・朝陽区の日本大使館前では
  「釣魚島は中国の領土だ」と主張する中国人らにより突然、
  デモが行われた。帰宅途中の市民たちが加わり、デモ隊は一
  時、2000人にまで増えた。現在、中国のインターネット
  には今週末と休日の15日と16日、満州事変発生日の18
  日に、反日デモを繰り広げるべきだという書き込みが相次い
  で掲載されている。中国は、1931年9月18日、日本が
  満州に攻撃を加えた日を、国恥日と定めている。
   上海在住の日本総領事館は、日本政府による尖閣諸島国有
  化措置(11日)以降、日本人の被害事例が計6件寄せられ
  ていると明らかにした。中国政府が経済的報復可能性に触れ
  ている中、民間レベルでの日本製品の不買運動に、火が付い
  ている。13日、中国上海江楊北路にある日系自動車「ホン
  ダ」代理店前では、一人の中国人が自分のホンダ自動車を燃
  やした。彼は反日スローガンの書かれたプランカードを手に
  し、掛け声を叫んでいたが、公安によって制止された。その
  関連写真は中国のインターネット上で急速に広まっている。
                  https://bit.ly/2TbokU3
  ───────────────────────────

遠藤誉氏.jpg
遠藤誉氏
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2019年03月04日

●「米国を追い上げる中国の先端技術」(EJ第4959号)

 今週から世界中で話題になっている「ファーウェイ」の問題を
取り上げます。ファーウェイはどのような企業なのでしょうか。
本当に通信機器に仕掛けを施し、情報を盗み取るような企業なの
でしょうか。
 2018年9月のことです。中国通信機器の最大手、華為技術
(ファーウェイ)の創業者の娘、孟晩舟副会長は、故郷である四
川省成都での講演会で、誇らしげに次のように述べています。
─────────────────────────────
 「十年一剣」を磨く。我々は既に5Gでの技術優位である世
 界標準を獲得している。  ──孟晩舟ファーウェイ副会長
─────────────────────────────
 けっして過大な表現ではないのです。次世代通信技術「5G」
関連の特許に占める割合でファーウェイは、断然トップであり、
実用化でも先行しています。
─────────────────────────────
       ◎5G関連特許に占める割合の順位
      1位:ファーウェイ ・・・ 29%
      2位: エリクソン ・・・ 22%
      3位:サムスン電子 ・・・ 20%
          ──2019年2月4日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 しかし、この講演会から3ヶ月後、孟晩舟氏は、米国からの要
請により、カナダ当局に逮捕されています。「米企業から秘密情
報を盗んだ疑い」などが逮捕容疑です。
 中国は、AI(人工知能)の分野でも、国と企業が一体となっ
て技術力を向上させ、世界レベルの技術を持ちつつあります。中
国には、AIの分野では、米国の「GAFA」に対応する「BA
TIS」という国家プロジェクト「AI発展計画」があり、次の
5つの企業がプラットフォーマーになっています。
─────────────────────────────
    B ・・ バイドウ        自動運転
    A ・・ アリババ     スマートシティ
    T ・・ テンセント      ヘルスケア
    I ・・ アイフライテック    音声認識
    S ・・ センスタイム       顔認識
─────────────────────────────
 習近平政権は、これら民営企業5社に対して、補助金や許認可
などの面で手厚い保護を与えています。つまり、国家ぐるみの巨
大プロジェクトなのです。
 米国の「GAFA」4社は、公正なルールに基づいて激しい市
場競争を勝ち抜いて現在の地位にいるのに対し、中国の「BAT
IS」は、国家が指名し、国家が資金を与え、場合によっては、
国家(軍)が、サイバー攻撃などによって入手した情報まで民営
企業に与え、国際的技術競争に勝ち抜こうとします。それはまさ
に「電子戦」そのものです。
 このように書くと、同じようなことを米国もやっているという
かもしれませんが、中国の場合は政治状況が異なるので、そこに
「自由な競争のルール」など、かけらもないのです。それは、ま
さに「戦争」であって、勝つためには手段を選ばないのです。こ
れについて、日本経済新聞は、次のように書いています。
─────────────────────────────
 米国の手も真っ白とは言いがたい。NSA元職員のエドワード
・スノーデン氏は、14年、NSAが中国の通信機器最大手、華
為技術(ファーウェイ)のシステムに侵入して機密情報を得たと
暴露した。米国法は外国人のデジタル通信を令状なしで監視する
ことを認めており、「中国のハイテク企業幹部はくまなくデータ
を調べられる」(米中外交筋)という。
 それでも西側軍事筋は「米国政府は、入手した情報を民間企業
に提供することはない」と強調。習近平(シー・ジンピン)国家
主席が掲げる「軍民融合」の掛け声の下、盗んだ先端技術を国有
企業に横流しする中国の活動は一線を越えていると主張する。
          ──2019年2月5日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 このように、科学技術の分野での中国の躍進を支えているのは
豊富な資金力です。次の数字の意味はわかるでしょうか。
─────────────────────────────
         51兆円 VS 45兆円
─────────────────────────────
 これは、米国と中国の研究開発投資の額です。米国の51兆円
に対し、中国の41兆円、あと10兆円まで迫っています。20
16年の中国の研究開発投資は、官民合わせて約45兆円、これ
は、2000年の約10倍、2009年に日本、2015年に欧
州連合(EU)を抜き去り、米国の51兆円に肉薄しようとして
いるのです。
 全米科学財団(NSF)の調査によると、研究論文の数におい
ては、2016年時点で既に中国は、次のように米国を上回って
いるので、このままでは、中国の研究開発投資は、米国を抜いて
世界一になる可能性があります。
─────────────────────────────
    ◎研究論文の数の比較
    米国:40万9千本 VS 中国:42万6千本
─────────────────────────────
 確かに、数の面では中国の勢いは圧倒的ですが、質になると、
いろいろな問題があります。党主導の計画に合わせたノルマもあ
り、中国系米国人のシュエイン・ハン氏は、次のように分析して
います。
─────────────────────────────
    トップダウンの研究環境がひずみを生んでいる
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/040]

≪画像および関連情報≫
 ●貿易で折れても、覇権争いでは決して折れない米国
  ───────────────────────────
   米国と中国の貿易摩擦、そして、覇権争いがエスカレート
  している。その影響もあって、中国の経済指標の悪化が目立
  つ。中国の2018年自動車販売台数は28年ぶりの対前年
  比マイナスに沈んだ。1月21日に発表された2018年の
  実質GDP成長率は6・6%増と、こちらも28年ぶりの低
  い水準となった。日本に目を向けても、中国向け工作機械受
  注等が減速。1月中旬には、日本電産が中国の需要低下を背
  景に2019年3月期の業績予想を下方修正し、一転減益見
  通しとした。マーケットは、日本企業への影響を懸念してい
  る。海外投資家からは日本株は景気の影響を受けやすいと見
  られていることもあり、売りを浴びやすい地合にある。
   米国は、中国との貿易に関する協議で合意できない場合、
  2000億ドル分の制裁関税を10%から25%に引き上げ
  るとしている。これまで、制裁関税の応酬を繰り広げてきた
  が、実体経済に影響が見られ始め、金融市場にも、懸念が広
  がっていることもあり、米中の景気共倒れリスクを回避する
  方向で双方歩み寄る可能性もあろう。
   しかしながら、知的財産等、ハイテク覇権に関する事項に
  関しては、そう簡単に折り合うことは無さそうだ。米国のペ
  ンス副大統領が2018年10月にハドソン研究所における
  演説で、中国を痛烈に批判したことは記憶に新しい。中国に
  覇権は渡さない、対立も辞さないという強いスタンスは、ト
  ランプ大統領の「ご乱心」では決してない。
                  https://bit.ly/2HaFwBN
  ───────────────────────────

四川省成都での孟晩舟講演会.jpg
四川省成都での孟晩舟講演会
 
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2019年03月01日

●「当局と企業が一体化している中国」(EJ第4958号)

 「米中ひとまず休戦へ」―─26日の新聞の見出しです。貿易
不均衡に関しては、中国は、今後6年で大豆やLNGなど、1兆
ドル規模の輸入拡大を約束してきており、知財問題などでは進展
がなくても、休戦に意義あると米国は考えています。
 中国側としては、3月5日に開幕する全国人民代表大会(全人
代)の直前に追加関税を10%から25%に引き上げられる最悪
の事態だけは避けたいと考えているので、休戦合意が成立したの
ではないかと思います。
 しかし、構造問題に関してはほとんど前進していないのです。
そのため、これについては「長期戦」に持ち込み、トランプ後を
見据える作戦です。とくにファーウェイやZTEなどのハイテク
産業の補助金や国有企業優遇策の撤廃には、中国は国家資本主義
の根幹ともいえる産業政策の撤廃には、まったく応じていないし
今後も応じるつもりはないようです。もともと、ファーウェイの
孟晩舟副会長の逮捕に関しては、北朝鮮とイランへの制裁逃れを
画策した容疑なのです。これについてのケビン・メア氏と冨坂聡
氏とのやりとりです。
─────────────────────────────
メア:ファーウエイ副会長の拘束は、米中対決とは違う文脈のも
 のではないですか。そもそも、国際法違反という別の理由があ
 るでしょう。彼らは、イランの制裁逃れのために組織的に密輸
 していたのだから、
冨坂:勿論その通りです。昨年4月にアメリカが中国の通信会社
 ZTEに取引禁止の制裁を課したのも北朝鮮とイランへの制裁
 逃れという同じ理由でした。彼らがなぜ制裁違反をするのか。
 私はこれも「田舎者の論理」で説明できると思うんです。「バ
 レなきゃいいでしょ」と考えてずっとやってきたら、「ゲッ、
 バレたか!」というような・・・。中国はこの辺の感覚が国際
 社会とズレているのです。
        ──メア氏/冨坂聡氏『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 冨坂聡氏は、中国筋から情報を得ているジャーナリストですの
で、若干中国を庇うというか、優しいところがあります。田舎者
だから、国際ルールを守らないという論理です。しかし、田舎者
も都会に慣れてくれば、そのうち守るようになるという含みをも
たせています。
 2013年の中国海軍のフリゲート艦による自衛隊護衛艦に対
する火器管制レーダー照射事件や、その翌年の中国戦闘機の自衛
隊機への異常接近事件も、すべて「田舎者だから」の論理で説明
してしまっています。しかし、これらは、田舎者だからでは済ま
ない話です。
 宮家邦彦氏は、中国の南シナ海における人工島建設を巡る一連
の軍事活動は、満州事変を引き起こしたかつての日本陸軍の過ち
に酷似しているとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国の南シナ海での軍事行動を見ていると、1930年代の日
本の陸軍が犯した過ちを繰り返しているように思えるんです。例
えば、中国は南シナ海に油田開発のために人工島を建設しました
が、あれは言ってみれば、現代の満州事変″でしょう。
 そして南シナ海の資源について、国際仲裁裁判所が中国の主張
する管轄権を否定する裁定を出しましたが、あれは正に現代の
リットン報告書≠ナす。その意味で中国は、すでにレッドライン
は超えている。もしかするとかつての日本と同じように大破局の
道を歩むかもしれません。
           ──宮家邦彦氏『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 満州事変とは、1931年9月18日、奉天郊外の柳条湖で、
南満州鉄道が爆破されことを受け、日本の関東軍は、それを中国
国民軍に属する張学良軍の犯行であると断定し、鉄道防衛の目的
と称して反撃し、軍事行動を拡大したのです。この柳条湖事件か
ら開始された、宣戦布告なしの日中両軍の軍事衝突が満州事変と
いわれるのです。
 リットン報告書というのは、リットンを委員長とする調査団が
満州事変に関して現地調査してまとめられた報告書のことです。
リットン報告書では、満洲国に対する日本の主張は認められず、
否認され、それをもって日本は、国際連盟を脱退し、戦争への傾
斜を深めていくのです。
 宮家邦彦、呉軍華、ケビン・メア、冨坂聡4氏による米中超大
国の覇権争いの分析の最後のところで、メア氏と宮家氏が次のや
り取りをしています。
─────────────────────────────
メア:ファーウェイやZTEが製造する通信機器には、「バック
 ドア(裏口)」が仕掛けられており、中国当局が世界中から機
 密情報を吸い上げているというのは、公然の秘密でした。
宮家:バックドアに関しては、2009年にアメリカ国家安全保
 障局(NSA)が「米政府はファーウェイ及びZTEの機材を
 使うな」と警告を出しています。近年になって表面化しただけ
 で、この話は情報のプロの世界では知られていました。
         ──メア氏/宮家氏『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 ここにきてファーウェイは、米国に対して開き直っています。
「バックドアというなら証拠を示せ」と。ファーウェイの副会長
の郭平副会長は、26日、スペインで開かれている世界最大の携
帯関連見本市「MWC19バルセロナ」において講演で、スノー
デン事件に関連して「米国の法律は、政府機関が国境を越えて、
データにアクセスすることを認めている」と批判しています。
 しかし、米国の場合、政府機関が捜査で入手した情報を民間企
業と共有することなどあり得ないのです。しかし、中国は情報当
局と企業は一体化しており、捜査で抜いた情報を共有しているの
です。        ──[米中ロ覇権争いの行方/039]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ問題の核心/丸山知雄氏
  ───────────────────────────
  <ファーウェイが情報を盗んでいるという決定的な証拠は今
  のところない。世界有数の技術力を持ち、経済性にも優れた
  ファーウェイ製品が使えないのであれば、5Gへの投資をし
  ばらく猶予するというのも一つの選択肢ではないだろうか>
   ファーウェイ(華為技術)はいま中国でもっとも高い技術
  力を持つ企業である。スマホや、スマホでの通信を支える基
  地局、通信ネットワークの機器を作って、世界じゅうに売っ
  ている。
   ファーウェイは10数年前までは日本のNECや富士通の
  後を追いかける存在だったが、今では移動通信の基地局では
  スウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキアと並ぶ世
  界三強の一角を占め、直近では世界1位である。スマホでも
  最近アップルを抜いて韓国のサムスンに次いで世界2位であ
  る。こうした競争力は重厚な研究開発力に支えられている。
  従業員18万人のうち8万人が研究開発に従事し、2017
  年には売り上げの15%に相当する1兆5000億円以上を
  研究開発に投入した。
   アメリカは早い段階からファーウェイに対して疑いの目を
  向けてきた。民間企業だと言っているが、本当は政府や軍の
  息がかかっているのではないか、製品のなかに「裏口」が仕
  掛けられていて、中国がそこから、情報を抜き取れるように
  なっているのではないか、といった議論が議会で盛んに行わ
  れていた。           https://bit.ly/2C55F1R
  ───────────────────────────

冨坂聡氏.png
冨坂聡氏
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2019年02月28日

●「習近平体制は簡単には崩壊しない」(EJ第4957号)

 事実上の終身国家主席の地位と権限を手に入れた習近平体制は
その直後に米国から貿易戦争を仕掛けられ、中国経済に大きなダ
メージを与えています。現在、中国国内で何が起きているかにつ
いて、日本総研理事の呉軍華氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 現状のままでは、習近平政権は続くでしょう。唯一、習近平政
権の阻害要因になりうるのが「アメリカ」という要素なんです。
今後アメリカがどの程度、中国に圧力をかけるか。それによって
中国国内にどのくらいの影響が出るか。
 現に最近、中国国内で現行政策への批判が表面化しつつあるの
です。習近平は、2014年頃からケ小平以来の中国の国家方針
であった「才能を隠して好機を待つ」という意味の「韜光養晦」
(とうこうようかい)を葬り、強硬な「対米主戦論」を前面に打
ち出した。ところが、昨年夏、米中貿易戦争が始まると、「習近
平は韜光養晦を止める時期を見誤った」という批判の声が出始め
たのです。これもアメリカが国内に与えた影響の一つです。
           ──呉軍華氏/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 2018年8月21日と22日の2日間、習近平主席は北京で
全国宣伝思想工作会議を招集し、社会主義思想の引き締めを図っ
たのですが、その席上、幹部たちに対して、次のように釈明して
いるのです。
─────────────────────────────
 私に対する個人崇拝が進んでいることは知らなかった。自分が
青年時代に7年間、下放されていた狭西省の寒村・梁家河が「革
命の聖地」となっていることを、中国中央電視台のニュースで、
はじめて知って驚いた。           ──習近平主席
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 これによって、党の指導部は方針を変更し、習近平主席のポス
ターを撤去したり、終身国家主席の誕生のために用意されていた
国威発揚映画『すごいぞ、わが国』の公開の中止を決めたりして
います。個人崇拝が進むのはまずいのです。
 現在のところ米中貿易戦争の3月1日の交渉期限は延期され、
3月中に米中首脳会談が行われる可能性が大です。しかし、これ
によって通商協議は解決する可能性がありますが、知財侵害や国
有企業への補助など、米国が問題視する中国側の「構造問題」は
落としどころはまったく見えない状況にあります。
 もしこの問題がこじれて、経済が悪化すると、中国はどうなる
のでしょうか。
 冒険投資家のジム・ロジャーズ氏は、リーマン・ショックから
10年が経過し、「次の経済危機は既に静かにはじまっている」
と述べ、その経済危機はリーマン・ショックをはるかに上回る規
模になるとし、次のような不気味な予言をしています。
─────────────────────────────
 中国での想定外の企業や地方自治体などの破綻が火種になるだ
ろう。中国では、この5年、10年に債務が膨張した。足元では
債務削減を進めているが、その影響で景気は減速し、世界経済も
停滞に陥る。            ──ジム・ロジャーズ氏
           2019年2月24日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 中国政府にとって一番怖いのは国民の反乱です。外部には伏せ
られていますが、現在中国の失業率は最悪の状態です。もし、米
国との交渉がうまくいがず、経済がさらに悪化した場合、共産党
体制に何らかの影響が出るのでしょうか。中国は、北朝鮮などと
違って、世界中に中国人は住んでおり、米国をはじめとする自由
な国の様子を見ています。それで自分の国の独裁政治は誤ってい
るとは考えないものでしょうか。
 これについて、呉軍華氏は、「共産党体制はそんなに簡単には
壊れない」として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 共産党への反発は今もすでにあるんです。しかし、共産党への
反発=政治不安定とはならない。歴史を紐解くと、1960年代
文化大革命で何千万人が餓死し、人民の不満は募りました。しか
し、あれだけ酷い状況でも共産党は権力を維持した。「共産党や
習近平は気にいらない。でも彼らがいなければ国が大混乱に陥り
もっと大変なことになる」と考えていてる人が大半なのです。
           ──呉軍華氏/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 一党独裁で、政治的自由は与えないが、経済は自由で、金儲け
は賛成という国は中国以外にもあります。その典型はシンガポー
ルです。基本的にはベトナムもそうです。米朝首脳会談で、北朝
鮮が、その会談場所としてシンガポールやベトナムを選ぶのは、
そこにシンパシイを感じているからでしょう。
 しかし、シンガポールは小さな島国で、統治が簡単ですが、中
国のような大きな国で一党独裁制をとると、どうしても無理が出
てくるのです。呉軍華氏は、もし、中国の体制の危機について、
次のように述べています。
─────────────────────────────
 体制が揺らぐという意味で中国にとって最も脅威になるのは、
アメリカによる「ピンポイント・アタック」。つまり、有力者や
企業、機関を対象とした制裁だと思います。昨年9月、アメリカ
は人民解放軍の兵器管理部門である李尚福中央軍事委員会装備発
展部部長を制裁対象にしました。個人が対象になったのは初めて
です。12月には通信機器企業ファーウエイ創業者・任正非CE
Oの娘、孟晩舟副会長がカナダ当局に拘束されました。
           ──呉軍華氏/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/038]

≪画像および関連情報≫
 ●中国は5年以内に"隠れ不良債権"で壊れる/関辰一研究員
  ───────────────────────────
   金融は各種の経済活動を下支えする社会インフラであるが
  ゆえに、容易に、経済と社会の危機を誘発する導火線にもな
  る。経済成長を続け、GDPでは日本を抜き去り、米国に迫
  る中国経済の「罠」とは、水面下で、金融リスクが大きく高
  まったことである。金融リスクの核心が不良債権問題である
  ため、その実態に迫った。後述するように中国の公式統計は
  信頼性に欠けると思われる点がいくつもあるからだ。
   中国の不良債権の実態を知るために、筆者は中国上場企業
  2000社余りの財務データを基に、中国の潜在的な不良債
  権の規模を推計した。結論を先に述べれば、推計額は公式の
  不良債権残高統計の約10倍となった。中国の不良債権問題
  は深刻であり、何らかのきっかけで金融危機が発生する可能
  性は払拭できない。
   不良債権とは、一般的に、金融機関にとって約定どおりの
  返済や利息支払いが受けられなくなった債権、あるいはそれ
  に類する債権を指す。中国では、金融機関がリスクを軽視し
  た融資審査のもと、過剰な融資を行ってきた。利息の支払い
  余力が不十分な企業に対しても、追加で資金を貸し続けてい
  るケースも多い。その結果、金融機関は巨額な不良債権を抱
  えるようになったとみられる。  https://bit.ly/2U7aTAQ
  ───────────────────────────

呉軍華日本総研理事.jpg
呉軍華日本総研理事
 
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2019年02月27日

●「ドラゴンスレイヤーが米国を守る」(EJ第4956号)

 米国は、現在、本当の意味で中国を「脅威」と位置づけていま
す。それは「脅威」というより、「恐怖」に近い感情になりつつ
あります。「このままでは自分たちのヘゲモニー(主導的地位)
を奪れるかもしれない」という恐怖です。これについて、NMV
コンサルティング上級顧問のケビン・メア氏は、次のように表現
しています。
─────────────────────────────
 確かにアメリカ政府は、中国を「脅威」と位置付けています。
南シナ海・東シナ海における人民解放軍の軍事的な脅威、サイバ
ー攻撃の脅威、人工衛星破壊実験など宇宙開発における脅威、人
工島建設でサンゴ礁を破壊した環境に対する脅威・・・中国はア
メリカにとって、さまざまな意味で「脅威」となりつつある。
 しかし、私が強調したいのは、「脅威」である一方、巷間言わ
れている「中国が台頭したからアメリカが衰退した」という見方
は間違っているというものです。アメリカは中国が発展すること
は歓迎します。容認できないのは、国際ルールを無視し、「中国
のルール」を押し通そうとしていることなのです。
        ──ケビン・メア氏/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 現在のトランプ政権の対中国政策は、大統領選挙中のトランプ
陣営の政策顧問だったピーター・ナバロ氏とアレックス・グレイ
氏による次の論文に基づいています。なお、ピーター・ナバロ氏
は、現在、国家通商会議委員長の職にあります。
─────────────────────────────
       ピーター・ナヴァロ/アレックス・グレイ共著
「ドナルド・トランプのアジア太平洋への『力による平和』」
            ビジョン」/2016年11月発表
─────────────────────────────
 この共同論文では、「アジアの自由主義的秩序を保つためには
中国の軍事覇権を抑える力の実効が欠かせない」ことを強調して
おり、これに基づき、トランプ大統領は、アジア主体に海軍艦艇
の274隻から350隻への増強、そして、海兵隊の18万から
20万への増強計画を発表しています。
 心配の種は、トランプ大統領のむらっ気です。果して計画通り
実行できるかどうかです。北朝鮮の非核化問題でも、ノーベル平
和賞がちらつくと、大きく北朝鮮に譲歩してしまう可能性すらあ
ります。このトランプ大統領について、宮家邦彦氏は、次のよう
にコメントしています。
─────────────────────────────
 トランプの存在がトランプ政権の最大の変数ですからね。彼は
戦略家なのか。戦略がないのか。私はこの2年間ずっと自問した
けど、結局答えは出ませんでした。トランプは「自己愛性人格障
害」の傾向があり、人から賞賛されることが最優先される。内政
も外交もその手段に過ぎません。だから常識では考えられない判
断もします。
 しかし、多くのドラゴンスレイヤーがホワイトハウスにいる限
り、戦略的警戒感は解けないでしょうし、トランプも本能的に警
戒心は抱いていると見ています。
       ──宮家邦彦氏の意見/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 続いて、習近平体制について考えます。「2期10年」の任期
を撤廃し、事実上終身の国家主席になったことについて、どう見
るかです。
 米国の大統領の場合は、「2期8年」が限界であり、これ以上
大統領を務めることはできないのです。貿易戦争を仕掛けられて
慌てている中国にしても、じっと我慢して、トランプ後を待つ戦
略だってあるのです。
 習近平は権力欲にとりつかれているという見方もありますが、
宮家邦彦氏は「習近平は相当悩んだ末に権力の集中をしたのでは
ないか」という見方をしています。
 これと同じ考え方をするのは、元伊藤忠会長の丹羽宇一郎氏で
す。丹羽氏は、2010年、民間出身では初の中国大使に就任し
現在は、公益社団法人日本中国友好協会会長を務めています。尖
閣諸島国有化(2012年)当時の中国大使であり、大変苦労を
されています。その丹羽氏は、「私が習近平でも、改革のために
は権力を一手に掌握したかもしれない」といって、習近平主席に
よる憲法改正について理解を示しつつ、習近平氏について次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 終身権力者の立場という利己主義的発想だけで、憲法を改正し
たと見ることは、習近平を見誤ることにつながる。習近平には、
いや大部分の国や組織の指導者の心底には、国民のためという大
義があると私は確信している。
 たしかに、憲法改正直後に散見した中国系メディアの「中国に
とって、社会主義の現代化を実現するにあたって重要なステージ
で、中国と中国共産党は安定した、強力で、一貫したリーダーシ
ップを必要としている」という主張は、いかにもご都合主義に映
る。だが、その一方で中国が世界の大国・一流国になるには、強
く優れたリーダーの存在が欠かせないというのも事実だ。
 習近平を一方的に独裁者と切り捨てるのではなく、政治の本道
に立って、もう少し彼の言葉と行動に注目してもよいだろう。
 習政権において権力が腐敗するか否かは、習近平の退き際にか
かっている。私は多くの日本のメディアや有識者が考えているよ
りもずっと早く、習近平本人による退任の宣言があるものと考え
ている。そのときは、盟友、王岐山も一緒かもしれないし、王岐
山のほうが少し早いかもしれない。人の真価は、結局その退き際
で決まるものだ。    ──丹羽宇一郎著/東洋経済新報社刊
          『習近平の大問題/不毛な議論は終った』
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/037]

≪画像および関連情報≫
 ●中国、習近平終身主席か/文化大革命再来の懸念
  ───────────────────────────
   中国共産党中央委員会は2月下旬、国家主席の任期の上限
  に関し、連続2期10年までとする条文を憲法から削除する
  改憲案を全国人民代表大会(全人代:日本の国会に相当)に
  提出した。3月5日に開幕する全人代で可決され、正式決定
  する。中国の改憲は2004年以来14年ぶり。習近平国家
  主席(党総書記=64)は13年に国家主席に就任しており
  今回の全人代で再選される。任期の上限撤廃により23年以
  降の3期目はおろか、終身主席も可能となる。
   国家主席は国家機構のトップで、国家元首に相当する。党
  トップである総書記の任期については党規約に明確な規定は
  なく、習氏に党、国家、政府、さらに軍という中国の4大権
  力が習氏に集中することになり、実質的に習近平独裁体制が
  始動する。
   また、今回の全人代では、習氏の指導理念を憲法に明記す
  ることも決まるほか、国家と政府の最高指導部人事にも習氏
  の側近が多数任命される見通しだ。党内外で習氏への個人崇
  拝の動きが広がっており、かつての毛沢東張りの独裁者の誕
  生となり、党内外では1000万人以上が殺害された文化大
  革命(1966〜76年)の悲劇が繰り返されることを懸念
  する声も出ている。       https://bit.ly/2IxERNl
  ───────────────────────────

ケビン・メア氏.jpg
ケビン・メア氏 
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2019年02月26日

●「ペンス演説は米政府の意向である」(EJ第4955号)

 『文藝春秋』3月特別号で、次のメンバーによる中国について
討論を特集しています。なかなか中身があるので、そのコアな部
分をご紹介します。
─────────────────────────────
     「トランプVS習近平/『悪』はどっちだ」
     宮家邦彦/キャノングローバル戦略研究所研究主幹
     呉 軍華/日本総研理事
    ケビン・メア/NMVコンサルティング上級顧問
     冨坂 聡/ジャーナリスト
               ──『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 米国はアジアをどう見ているのか──トランプ政権は、明確な
形でアジア戦略を発表していませんが、今回の貿易戦争でそれは
見えてきています。
 通常であれば、そういう国家戦略は、大統領の一般教書演説で
発表されるものですが、トランプ大統領は、アジア戦略を中国へ
の貿易戦争というかたちでそれを示したのです。だが、トランプ
大統領が気にしているのは、対米貿易赤字だけです。しかし、ペ
ンス副大統領が、昨年10月の演説で米国の考え方を表明し、ト
ランプ発言を補っています。これについて冨坂聡氏は次のように
解説しています。
─────────────────────────────
 現在のアメリカの考え方は、昨年10月のマイク・ペンス副大
統領の演説によく表れていました。端的に言えば、アメリカが、
「西側的な価値観、国際ルールの中での(中国の)台頭ならば歓
迎する。しかし、今の習近平のやり方は間違っている。それを修
正するのか、しないのか」と、中国に決断を迫ったのです。
        ──冨坂聡氏の意見/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 トランプ大統領のツイートを見ていると、混乱することが多い
と思います。あれほど、ファーウェイ排除に強硬姿勢を見せてい
たのに、このところ、一転「排除見直し」にも言及しています。
中国は、これには徹底抗戦の構えです。米国の排除の呼びかけに
乗ろうとする米国の同盟国に対して露骨な嫌がらせを執拗に繰り
返しています。
 米国と諜報活動などの機密情報を共有する5ヶ国で作る「ファ
イブアイズ」という協定があります。米国、英国、カナダ、オー
ストラリア、ニュージーランドの5ヶ国です。これら5ヶ国は、
米国の呼びかけに対して、ファーウェイ排除を決めています。秘
密情報を共有するのですから当然です。
 これに対し中国は、カナダ以外の4ヶ国に対して、露骨な嫌が
らせをやっています。英国のハモンド財務相は訪中を突然キャン
セルされ、ニュージーランド航空機は理由もなく上海着陸を拒否
される。ニュージーランド首相の訪中は延期され、オーストラリ
ア産の石炭の輸入禁止などの露骨な嫌がらせです。
 こうした中国の嫌がらせに屈したのか、英高官は「ファーウェ
イ製品の安保上のリスクは管理可能」と発言し、ニュージーラン
ドのアーダン首相は、「われわれはまだファーウェイ製品を排除
すると決めたわけではない」と発言するなど、足元の乱れが起き
ています。ファーウェイ幹部を逮捕したカナダについては、カナ
ダ人複数名の身柄を確保するなど、中国はやりたい放題の圧力を
かけています。
 そのせいか、ファーウェイの創業者の任正非氏は、「我々を宣
伝してくれて本当に感謝している。いまわれわれは5Gを売りは
じめているが、すぐに6Gを迎えることになる」と米国に対して
皮肉を交えつつも自信をのぞかせています。
 しかし、宮家邦彦氏は、トランプ大統領が何をいおうとも、ペ
ンス副大統領の演説が米国政府のコンセンサスであるとして、次
のように述べています。
─────────────────────────────
 ペンス副大統領の演説は、アメリカ政府のコンセンサスだと考
えていいと思います。ペンスはオーソドックスなワシントンの論
理を知る政治家です。あの内容は、突然思いついたわけではなく
何ヶ月もの間、各省庁が議論や協議を行い、一枚のペーパーにな
った演説だと見るべきでしょう。
 アメリカは、自国の脅威となるものは、すべて潰してきた国で
す。不正義と見なしたものはどんな力を使ってでも変えるという
国ですから、。日本も1930〜40年代にかけて脅威とみなさ
れ、潰された。だから今回も中国に対してとことんやる気とみた
ほうがいい。 ──宮家邦彦氏の意見/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 米国内には、中国に対する姿勢について、次の2つの人種がい
るのです。
─────────────────────────────
     1.   パンダハガー(対中融和派)
     2.ドラゴンスレイヤー(対中強硬派)
─────────────────────────────
 宮家邦彦氏は、現在のワシントンは、パンダハガーが政策の決
定過程から激減しているといっていますが、これを呉軍華氏は次
のように肯定しています。
─────────────────────────────
 2015年あたりが転換期だったと思います。元CIAのマイ
ケル・ピルズベリーなど、代表的なパンダハガーたちが相次いで
公の場で反省の弁を吐露し始めた。流れが変わると思っていたら
やはりドラゴンスレーヤーが増えたのはもとより、対中融和を訴
える声がほぼなくなっていきました。トランプ政権はこの流れを
受け継いだ形で対中アプローチをしているといっても過言ではあ
りません。   ──呉軍華氏の意見/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/036]

≪画像および関連情報≫
 ●欧州のパンダハガー(独仏英)が中国警戒に急傾斜
  ───────────────────────────
   英国政府筋はチャイナバッシングの開始を示唆している。
  欧州はこれまでパンダハガーとして、やみくもに中国とのビ
  ジネスを拡大してきた。そのためにもAIIBにも率先して
  加盟した。
   しかし買収されやすく、他方で欧州企業の中国企業買収に
  は高い壁がある。見えない条件があって、うまく行かないと
  いう不満が拡がっていた。ロンドンの豪華住宅地やマンショ
  ンの不動産価格は中国の爆買いによってつり上がり、庶民か
  ら不満が突出し始めた。
   中国と異常なほどの「蜜月」を享受してきたドイツ政府も
  EU加盟国に、「不公平な中国からの投資を警戒するよう」
  に呼びかけた。EU全域には中国の企業買収などの過激な投
  資進出に不快感が拡がっていたが、中国贔屓と見られたドイ
  ツでも、とうとう中国への堪忍袋の緒が切れた。メルケルの
  中国傾斜路線に黄信号が灯ったのだ。
   直接の理由は中国の国家安全保障に直結するハイテク技術
  やロボット企業を片っ端から買収し始めたことへの不安から
  である。シグマ・ガブリエル独副首相は中国と香港を五日間
  に亘って訪問したのち、「EUは中国のIT企業や最先端技
  術の企業買収を許可してきたが、われわれEUのメンバーが
  中国の企業や思案買収は対等ではなく不公平である」と不満
  をぶち挙げた。「中国の通商関係を切る意思はさらさらない
  が」としてミカエル・クラウス駐中国独大使も発言を補強す
  る。              https://bit.ly/2IxgTlj
  ───────────────────────────

宮家邦彦氏.jpg
宮家邦彦氏

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2019年02月25日

●「米中貿易戦争で今まで起きたこと」(EJ第4954号)

 米中貿易戦争で、米国と中国において、これまで何が起きたか
重要なポイントについて、ていねいに見る必要があります。
 2017年6月のことです。6月3日にシンガポールにおいて
「アジア安保会議」が開催されたのです。トランプ政権のアジア
政策がみえないなか、ジェームズ・マティス国防長官(当時)が
どんな話をするか注目されたのです。このとき、マティス長官は
中国を名指しして、次の趣旨の非難演説を行っています。
─────────────────────────────
 中国の国際法に反する海洋進出や軍事拠点化に対し、米国は
 断固反対する。     ──マティス米国防長官(当時)
─────────────────────────────
 実はこの会議に中国は大物を送っていないのです。過去数年人
民解放軍の副参謀長クラスを送っていた中国が、そのときはずっ
と位の低い軍事科学院副院長の何雷中将の派遣にとどめているの
です。何があったのか理由ははっきりしませんが、当時、中国と
シンガポールの間はトラブル続きであり、そういうことが影響し
たとも考えられます。
 2017年6月28日、中国において「国家情報法」が施行さ
れます。これについての「産経ニュース」の記事を引用します。
─────────────────────────────
 中国で28日、国家の安全強化のため、国内外の「情報工作活
動」に法的根拠を与える「国家情報法」が施行された。新華社電
によると、全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会で昨年
12月に審議に入りし、今月27日に採択された。国家主権の維
持や領土保全などのため、国内外の組織や個人などを対象に情報
収集を強める狙いとみられる。
 習近平指導部は反スパイ法やインターネット安全法などを次々
に制定し、「法治」の名の下で統制を強めている。だが、権限や
法律の文言などがあいまいで、中国国内外の人権団体などから懸
念の声が出ている。       ──2017年6月28日付
       ──「産経ニュース」 https://bit.ly/2U1Lf0B
─────────────────────────────
 この法律の成立によって、「いかなる組織および個人も国家の
情報活動に協力する義務を持つ」ことになります。ビジネスなど
で得られた情報も、国家がそれを要求すれば、国家に提供しなけ
ればならなくなります。この法律がある限り、中国以外の国は、
中国との取引に慎重にならざるを得なくなります。
 2018年3月のことです。3月11日、中国は、全国人民代
表大会で、ケ小平の定めた国家主席の「2期10年」の再選制限
が撤廃されたのです。権力ポストは、長くやっていると、必ず腐
敗すると見抜いたケ小平が「2期10年」の制限を設けたのです
が、習近平主席はこの制限を外し、フリーにしたのです。自ら腐
敗防止キャンペーンの先頭に立っていながら、自分だけは大丈夫
と考えているのでしょうか。これによって、習近平国家主席は、
終身国家主席でいることができるのです。
 2018年3月22日、米国は、通商法301条に基づき、中
国の知的財産侵害に制裁関税を課すことを表明しています。これ
によって貿易戦争の戦端は開かれたといえます。
 2018年4月4日のことです。中国は、米国産の自動車や綿
花などに25%の関税を課すと発表しています。中国が先に仕掛
けてきたのです。これに対して米国は、2018年4月16日、
米企業に中国ZTEとの取引を禁じる制裁を発効させます。
 2018年7月6日、米国は、中国製品340億ドルを対象に
制裁関税第1弾を発動し、続いて、8月に第2弾、9月に第3弾
を発動します。はじめのうちは、中国も米国に合わせて報復関税
をかけていましたが、やがてそれもできなくなります。
 2018年8月13日、米国で「国防権限法2019」が成立
します。これに基づき、2020年8月から、ファーウェイなど
中国5社の製品を使用している企業は、米政府との取引が禁止に
なります。
 そして、2018年10月4日、ペンス副大統領はハドソン研
究所で演説します。その演説は、対中冷戦への決意を述べる、中
国にとって、きわめて激しい内容ですが、これは米国政府のコン
センサスであると考えるべきです。その一部を引用します。
─────────────────────────────
 過去17年間、中国のGDPは9倍に成長し、世界で2番目に
大きな経済となりました。この成功の大部分は、アメリカの中国
への投資によってもたらされました。また、中国共産党は、関税
割当、通貨操作、強制的な技術移転、知的財産の窃盗、外国人投
資家にまるでキャンディーのように手渡される産業界の補助金な
ど、自由で公正な貿易とは相容れない政策を大量に使ってきまし
た。中国の行為が米貿易赤字の一因となっており、昨年の対中貿
易赤字は3750億ドルで、世界との貿易赤字の半分近くを占め
ています。トランプ大統領が今週述べたように、大統領の言葉を
借りれば、過去25年間にわたって「我々は中国を再建した」と
いうわけです。
 中国政府は現在、多くの米国企業に対し、中国で事業を行うた
めの対価として、企業秘密を提出することを要求しています。ま
た、米国企業の創造物の所有権を得るために、米国企業の買収を
調整し、出資しています。最悪なことに、中国の安全保障機関が
最先端の軍事計画を含む米国の技術の大規模な窃盗の黒幕です。
そして、中国共産党は盗んだ技術を使って大規模に民間技術を軍
事技術に転用しています。      https://bit.ly/2OPqMwq
─────────────────────────────
 2018年12月1日、アルゼンチンで、米中首脳会議が行わ
れ、次の段階に進むのを90日間(2019年3月1日)延期す
ることで双方合意しています。しかし、その同じ日、米国の依頼
でカナダ当局によって、ファーウェイ創業者の娘の孟晩舟副会長
が拘束されます。これは中国に大きなショックを与えたのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/035]

≪画像および関連情報≫
 ●米中貿易戦争で一段と進む中国の景気悪化/産経新聞
  ───────────────────────────
   中国の景気悪化が一段と進み、2018年末の上海株式市
  場は前年末比約25%安、12月の景況感指数は2年10ヶ
  月ぶりの低い水準となった。米中貿易戦争の痛みの顕在化は
  米アップルをも直撃している。中国経済への逆風は今後さら
  に増すとの見方が強く、米国との貿易協議にも影響を与えて
  いるもようだ。
  「1年を通じて低迷が続いた」
   中国の経済メディア「東方財富網」は18年の上海株式市
  場をこう振り返った。同市場の代表的な指数である総合指数
  の18年末の終値は2493・90と、前年末(3307・
  17)比で24・6%下落した。米中貿易摩擦の深刻化とと
  もに低迷基調を強め、12月27日には終値が約4年1ヶ月
  ぶりの安値を記録している。
   中国経済では消費の冷え込みが目立つ。11月の消費動向
  を示す小売売上高の伸び率は、03年5月以来15年半ぶり
  の低水準。年明け早々の今月2日に米アップルが中国での販
  売不振を理由に業績予想を下方修正したのも、消費者の財布
  のひもが固くなったことが大きい。中国メディアによると、
  18年の中国の新車販売台数も1990年以来28年ぶりの
  前年割れになる見通しとなっている。悪影響は製造現場にも
  広がる。政府が昨年末に発表した12月の景況感を示す製造
  業購買担当者指数(PMI)は49・4と、好不況の節目の
  50を割り込んだ。2016年2月以来2年10カ月ぶりの
  低水準だ。           https://bit.ly/2IvvnSI
  ───────────────────────────

中国を糾弾するペンス副大統領演説.jpg
中国を糾弾するペンス副大統領演説
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2019年02月22日

●「発展途上国が遭遇する2つの要因」(EJ第4953号)

 中国は、ある意味において、非常にタイミングの悪いときに米
国から貿易戦争を仕掛けられたといえます。それは、ちょうど中
国の経済が減速しているさなかの貿易戦争だったからです。
 それは、発展途上国が必ず遭遇する次の2つの要因による経済
の減速のさなかだったのです。
─────────────────────────────
          1. 中所得国の罠
          2.ルイスの転換点
─────────────────────────────
 1は「中所得国の罠」です。
 中所得国の罠は、自国経済が中所得国のレベルで停滞し、先進
国(高所得国)入りがなかなかできない状況のことをいいます。
これは、新興国が低賃金の労働力などを原動力として経済成長し
中所得国の仲間入りを果たした後、自国の人件費の上昇や後発新
興国の追い上げ、先進国の技術力などの先端イノベーションの格
差などに遭って競争力を失い、経済成長が停滞してしまう現象を
指しています。
 2は「ルイスの転換点」です。
 「ルイスの転換点」は、英国の経済学者、アーサー・ルイスに
よって提唱された概念です。これについては、2013年に執筆
したEJのテーマ「新中国論」で一度説明しているので、それを
引用することにします。
─────────────────────────────
 「ルイスの転換点」という言葉があります。農業を中心として
きた低開発国が、高度成長期になったとき、農村の未活用の余剰
労働力が都市部に移動して製造業などに投入されるため、人件費
は上昇しないのです。
 中国も外資系大手企業の間で「魔法のような国」といわれたこ
とがあります。人を雇おうと思って広告を出すと、広告枠の何倍
もの内陸の若者たちが次から次へと出稼ぎに来るので、いくら人
を雇っても人件費が上がらない国という意味で、「魔法の国」と
呼んだのです。
 しかし、労働力移動が峠を越えて完全雇用に近づくと、人件費
は向上し、人出不足になってくるのです。それに既に職に就いて
いる労働者たちは賃金値上げのためのストを頻繁に行い、人件費
が高騰してくるのです。そのターニングポイントを「ルイスの転
換点」と呼んでいます。
     ──2013年4月11日付、EJ第3525号より
─────────────────────────────
 これら「中所得国の罠」と「ルイスの転換点」は、新興国は必
ず遭遇しますが、日本では1960年代後半ごろにこの転換点に
達しています。中国の場合、国が広いので、完全雇用とはいえな
いものの、既に2006年頃にはこの転換点に達しているものと
考えられます。
 ルイスの転換点を過ぎると、求人難が起こり、それは人件費の
高騰を招きます。全国各地で法定最低賃金が引き上げられ、そう
いうところから、もはや現在の中国では「ものを安く作れない」
状況が生まれているのです。
 2013年時点の日本総研の湯元健治氏(シニアエグゼクティ
ブエコノミスト)のレポート(「中国は中所得国の罠を回避でき
るか」)によると、やはり中国は、ルイスの転換点を超えている
として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国では農村から都市への労働力移動がストップし、労働力不
足と賃金上昇が経済成長を抑制する「ルイス転換点」をすでに通
過した可能性が高い。このままでは、今後10年間の潜在成長率
が5〜6%に低下しかねない。労働や資本に依存した成長パター
ンからイノベーション・生産性主導型成長への転換が急務だが、
国有企業による基幹産業の独占の弊害、外資依存の低賃金加工組
立型経済モデルの行き詰まり、民営企業の活力低下などが指摘さ
れている現在、「国進民退」のトレンド転換は容易ではない。国
有企業の民営化や先進的な民間企業の育成によって、イノベーシ
ョン能力を高めなければならない。  https://bit.ly/2Xf1uJx
─────────────────────────────
 このように、中国は、ルイスの転換点は既に達していますが、
中所得国の罠からは、まだ抜け出せていないのです。これから抜
け出すためには、一人当たりGDPがもっと上昇していかなくて
はなりませんが、中国の2017年の一人当たりGDPの順位は
74位(日本は25位)と低迷しています。
 中国は、こういう状況で、米国から貿易戦争を仕掛けられたの
です。この貿易戦争がこのまま続くと、今後中国から外資の大量
撤退をもたらし、グローバルな産業再配置を促しています。こう
した産業の連鎖構造再配置の過程で、中国で発生するのは資本の
流出と失業の増加です。
 中国では、現在メディアでの「報道禁止事項」が増え続けてい
ます。この数ヶ月だけで、貿易戦争、失業、外貨準備高の流失、
株式市場、不動産のマイナス情報が「報道禁止事項」に加えられ
ました。失業率も報道禁止事項に入っているのです。
 2018年8月に、「7月の全国の都市の失業率は5・1%で
あり、前年より0・3%上昇した」と発表されましたが、誰もこ
の数字を信用していない状況です。現在、日本でも統計不正が問
題になっていますが、本当の失業率は、実に22%ともいわれて
いるのです。
 日本の共同通信によると、現在までに6割の日本企業が、中国
から他の国へ撤退、あるいは撤退中で、残る4割もいかに撤退す
るか考慮中だとしています。もともと中国の失業率は高かったの
です。これに大量の外資撤退による失業を加えると、そうでなく
ても深刻だった傷口に塩を塗られるようなものであり、失業問題
は今後さらに深刻の度を加えることは確実です。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/034]

≪画像および関連情報≫
 ●中国のますます深刻化する失業状況/2018年10月
  ───────────────────────────
   中・米貿易戦争は、外資の中国からの大量撤退をもたらし
  グローバルな産業再配置を促しています。こうした産業の連
  鎖構造再配置の過程で、発生するのは中国などの新興国家か
  らの資本流出と失業増加です。米国は税制改革と規則の緩和
  によって経済発展を促進させ、グローバルな投資家の避難港
  となりました。8月だけで、全米の雇用は20万1千人増え
  失業率は3・9%です。しかし、中国では大量の外資撤退に
  よって、もともと深刻だった失業問題の傷口に塩を塗られた
  ようなものです。
   中国では、現在ますます「報道禁止事項」が増え続けてい
  ます。この数カ月だけで、貿易戦争、失業、外貨準備高の流
  失、株式市場、不動産のマイナス情報が「報道禁止事項」に
  加えられました。しかし、そんなことをしても、様々な方法
  で中国の失業問題の深刻さを計算することは出来ます。国家
  統計局は、8月中旬に「7月の全国の都市の失業率5・1%
  であり、前年より0・3%上昇した」と発表しました。
   こういったデータは中国経済のアナリストたちは信用して
  いません。まず、この統計規格そのものが「中国的特色」を
  帯びており、今年の4月以降に、中国政府は発表する失業率
  を「都市登記失業率」から「調査失業率」に改変しました。
  政府に委託を受けた専門家グループは「調査失業率の全面解
  析における9つの問題」として、まことしやかに、調査失業
  率は以前の都市失業率より信用できると”論証”しています
  が、専門家たちはみなこの中国的特色の調査は本当の失業率
  ではないことを承知しています。 https://bit.ly/2SSJtlK
  ───────────────────────────

不可解な中国の失業率.jpg
不可解な中国の失業率
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2019年02月21日

●「米中貿易戦争で中国経済失速拡大」(EJ第4952号)

 2月14日のEJ第4947号から書いてきた中国のEC企業
の雄、アリババのジャック・マー(馬雲)会長の突然の退任の話
はこのくらいにして、米中貿易戦争の話に戻ることにします。
 2月20日現在、ワシントンにおいて、次官級の貿易協議が続
いていますが、本日と明日の22日にかけて開催する予定の閣僚
級の会合に向けての地ならしをやっています。3月1日まで今日
を含めて8日しかありませんが、トランプ氏は次のように延長の
可能性をほのめかしています。
─────────────────────────────
 タイミングは正確にはいえないが、3月1日は「魔法の日(マ
ジカル・デイト)」ではない。多くのことが起こりうる。
                   ──トランプ米大統領
       ──2019年2月20日付、日本経済新聞夕刊
─────────────────────────────
 そもそも中国は米国に経済では絶対に勝つことは困難です。そ
の国力の差が謙著だからです。2017年の時点で、中国のGD
Pは米国の63・2%であり、約3分の2です。したがって、両
国がガチンコでぶつかれば、その体力差は歴然としています。
 もうひとつ、中国は、金融システムが米国に比べて脆弱です。
自由市場のなかで150年もの間、もまれ抜いてきている米国の
金融システムに比べて、中国のそれは、1992年に始めた社会
主義市場経済という独自のシステムであり、その強靭さは比較に
ならないでしょう。ソ連が崩壊したことからわかるように、国家
が経済をコントロールできるかどうかはきわめて疑問です。しか
し、中国はできると固く信じているようです。
 米中貿易戦争がはじまってからも、秋ぐらいまでは中国経済は
きわめて好調だったのです。しかし、今にして思うとそれは駆け
込み需要であり、12月には遂に前年同月比4・4%減少の失速
になったのです。中国の経済は次のように誰の目にも明らかなよ
うに、目下失速しつつあるのです。
─────────────────────────────
 中国経済に関して、足元で最大の衝撃は、昨年の自動車販売が
2・8%減の2808万台と前年比マイナスに転落したことだろ
う。日本の新聞は「28年ぶり」と書いているが、28年前とは
89年6月の天安門事件の翌年で、中国経済は国際制裁を受け、
過去最悪と言われた年であり、昨年の自動車販売は事実上、史上
初のマイナスなのである。
 それが年間3000万台を前にした足踏みでないことは年明け
の動きでわかる。北京、上海ともに自動車販売は「ディーラーが
一部の店舗の閉鎖を始めた」(中国の自動車業界関係者)ほどの
不振。2月5日の春節を前に例年なら盛り上がる高額商品の消費
は真逆の様相を示している。
            ──『選択』/2019年2月号より
─────────────────────────────
 「小米(小米科技)」という中国の企業があります。スマホ会
社として創業し、現在、スマホの世界シェア4位のIT大手企業
です。中国のIT企業というと、どちらかというと、習近平主席
から睨まれている企業が多いのですが、小米は習近平主席のお気
に入りといわれています。
 中国当局は、中国国内の株式市場を活性化させるため、すでに
海外市場で上場している中国の有力企業や「ユニコーン」と呼ば
れる中国の新興企業群を中国国内でも上場させる計画を立ててい
ます。ちなみに「ユニコーン」と呼ばれる企業とは、次のような
企業のことです。
─────────────────────────────
 「ユニコーン企業」とは、創設10年以内、評価額10億米ド
ル以上、未上場、テクノロジー企業といった4つの条件を兼ね備
えた企業を指す。アメリカの調査機関の集計によれば、2017
年12月1日時点で、世界に220社のユニコーン企業が存在し
それらの多くはアメリカもしくは中国の企業だ。アメリカ発の企
業は109社で全体の49・5%を占めている。これに続いて中
国発の企業が59社で全体の26・8%を占める。日本は(当時
上場が決まっていなかった)メルカリの1社のみ。
                  https://bit.ly/2BL6MDq
─────────────────────────────
 中国には、CDR(中国預託証券)という制度があります。ア
リババやテンセントなどの中国のIT企業は、中国ではなく、米
国や香港で上場しているので、中国国内の投資家がそれらの企業
の株式を購入するにはカベがあるのです。そこで、他国で上場さ
れている株式を人民元建てで取引できるようにする制度です。中
国国内の信託銀行に証券を預けて、受領書を発行してもらうこと
で、実質的に株式を保有できるのです。これをCDR(中国預託
証券)といい、CDRは次の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
        CDR
        Chinese Depositary Receipt
─────────────────────────────
 中国当局としては、CDRの最初の適用事例としようとしたの
は、小米だったのです。小米もこれを受け入れ、香港市場と上海
市場に同時に上場する計画を立てていたのです。資金調達予定額
は、それぞれ50億ドルで、香港と上海で100億ドルを狙って
います。
 しかし、小米は、6月19日になって、突然上海での上場を延
期し、香港でのみ上場したのです。小米は、中国当局との約束を
破ったことになります。これは相当勇気のいることです。
 小米の創業者の雷軍CEOは、米中貿易戦争による中国経済の
不安定さに懸念を抱いたのです。ビジネスマンとしては、当然の
判断であるといえます。これは、中国内外の有力企業の「中国離
れ」を意味しています。中国経済は現在どんどん不安定化を増し
ています。      ──[米中ロ覇権争いの行方/033]

≪画像および関連情報≫
 ●日本が中国に「ユニコーン企業」数で大敗北を喫した理由
  ───────────────────────────
   グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンという4
  大IT関連企業は、それぞれの頭文字を取ってGAFAと呼
  ばれることがある。一方、百度(バイドゥ)、アリババ、テ
  ンセントの3社の呼称であるBATに、ファーウェイのHを
  付け加え、私はこれら4社をBATHと呼んでいる。
   BATHの成長はきわめて著しく、GAFAを猛追してい
  る状況だ。特に上場済みのBATの時価総額は2017年の
  1年間で倍増し、2017年12月末時点の額を合計すると
  1兆米ドルを超えている。
   個別で見た場合、GAFAの時価総額に続くのは、アメリ
  カ企業を除くと6位のテンセントと8位のアリババのみだ。
  米中企業以外を見ていくと、ヨーロッパ企業の最上位は18
  位の英蘭企業のロイヤル・ダッチ・シェルで、時価総額は、
  2746億米ドルである。トヨタは42位にランクインして
  おり、時価総額は1891億米ドルだ。ヨーロッパ勢も日本
  勢も、米中のトップ企業からは大きな差をつけられていると
  見ていいだろう。では中国のBATHがアメリカのGAFA
  を追い越す日はやってくるのだろうか?利益額ではすでにア
  リババはアマゾンを大幅に上回っている。時価総額ではアマ
  ゾンに及ばないアリババだが、いずれアマゾンを凌ぐことに
  なるだろう。          https://bit.ly/2BL6MDq
  ───────────────────────────

中国内の「小米」の店舗.jpg
中国内の「小米」の店舗
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2019年02月20日

●「馬雲会長は先を読んで逃げたのか」(EJ第4951号)

 一連の急成長企業の若手経営者、「安邦保険集団」の呉小暉C
EO、フランスで急死した「海航集団」の王健会長、そして米国
で逮捕された「京東集団」の劉強東CEO、いずれも不可解な事
件で失脚させられています。
 一般的な観測では、これらの若手経営者は、これからの中国を
支える重要な人材であり、国のトップである習近平主席としては
交流を密にしているとされていましたが、そうではなく、むしろ
警戒心を高め、敵対しているのです。習近平政権にとって最も重
要な国有企業の存在を脅かす存在としてとらえているようです。
中国の民営企業の位置付けはあくまで次の通りです。
─────────────────────────────
    外資系企業<中国の民営企業<中国の国有企業
─────────────────────────────
 このうち、安邦保険集団の呉小暉CEOと、海航集団の王健会
長のケースには共通点があります。
 呉小暉CEOは、ケ小平の孫娘の婿であり、安邦保険集団はケ
小平一族の企業なのです。中国建国十大元帥のひとり陳毅の息子
・陳小魯も董事を務めています。ケ小平と陳毅という最強の革命
ファミリーの名前を背景に、呉小暉は“中国のバフェット”と呼
ばれる手腕で一民間企業・安邦集団を巨大化し、中国2位の保険
収入を誇るまでに成長させています。
 故王健氏が率いていた中国複合企業、海航集団(HNAグルー
プ)は、江沢民派が後ろ盾といわれています。HNAの大株主で
ある海南省慈航公益基金会のトップが海南省元高官である一方で
HNAが89年創業当時から、資金調達で当時の劉剣峰・海南省
省長のバックアップを受けていたのです。
 劉剣峰氏は、1984年に中国電子工業部の副部長兼規律検査
組の組長を務め、1997年には、国有通信大手のチャイナ・ユ
ニコムの会長に就任しています。これに対して、江沢民氏は19
83年〜85年まで電子工業部部長(大臣クラス)を務めており
劉剣峰氏の上司の関係です。それに加えて、チャイナ・ユニコム
は、江沢民氏の長男である江綿恒氏が実質オーナーを務める江沢
民一族の利益基盤であり、そういう関係もあって、HNAのバッ
クには江沢民一族がいるのです。
 習近平主席は、成功した若手経営者のバックには大物の政治が
いるとして、とくに警戒しています。なかでも、江沢民元主席の
勢力がバックにいる民営企業に対しては、さまざまな方法を駆使
して潰しにかかります。
 ジャック・マー(馬雲)氏は、江沢民元主席の孫で、投資ファ
ンドを運営する江志成氏と近い関係にあります。江志成氏は、江
沢民氏の孫です。これは、アリババの「潜在的リスク」といわれ
ジャック・マー会長も、十分それを意識していたのです。
 中国に詳しい宮崎正弘氏は、アリババのジャック・マー会長と
江沢民派の関係について、次のように書いています。
─────────────────────────────
 アリババは中国最大のネット通販、そのシェアは8割を超え、
筆頭株主は孫正義の「ソフトバンク」である。つまり最大の裨益
者は日本企業という皮肉!
 創業者の馬雲は通販ビジネス成功の勢いに乗って盛んにM&A
作戦を展開し、映画製作、百貨店、サッカーチームにまで経営の
手を広げた。馬雲は世界的なビジネスリーダーとなり、神話も生
まれた。本社は浙江省杭州市。ハイテク団地に近い川岸に巨大な
本社ビルがある(筆者も何回か目撃しカメラに収めた)。
 中国の通信ビジネスで大成功を収めたのは、このアリババと、
「騰訊」、そして「百度」だ。アリババのCEO馬雲は個人資産
が218億米ドルといわれ、江沢民の孫、江志成と「親密」な関
係が指摘されている。江志成は米国留学後、香港へあらわれて、
「博裕ファンド」を設立した。
 この江沢民の孫ファンドが、アリババの相当数の株主であるこ
とが分かっている。また、このファンドが、馬雲のすすめるベン
チャー・ビジネスに出資しているとも云われ、持ちつ持たれつの
ズブズブ関係がある。おりから江沢民の子分だった周永康ら「石
油派」が失脚し、江沢民は、捲土重来を期していると囁かれてい
る。                https://bit.ly/2SGdtkD
─────────────────────────────
 つまり、アリババは、早い時点から、習近平政権に睨まれてい
たし、ジャック・マー氏自身も十分それを認識していたのです。
2015年には、中国人民大学公共管理学の劉太剛氏が次のコラ
ムを書いてからは、アリババに対する風当たりは一層厳しくなっ
たのです。
─────────────────────────────
     アリババのビックデータは国家安全を脅かす
─────────────────────────────
 2017年には、中国人民銀行(中央銀行)がアリババのアリ
ペイはじめ、電子マネーを傘下に収容する通達も出しています。
建前は、スマホ決済の安全性を高めるためとなっていますが、こ
れによって、2019年以降、年換算で1000億円相当のアリ
ペイ金利収入が、人民銀行に接収されることになっています。
 こうした状況を踏まえて、時代の空気に敏感なジャック・マー
会長は、逃げを打ったのではないかと考えられます。
 福島香織氏は、これは終生国家主席を続けようとする習近平主
席への痛烈な、最後の当てこすりであるとして、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 野心の強い劉強東がはめられ、賢い馬雲は逃げを打った、と言
う噂が本当なら、声高にスゴイと叫ばれる中国のIT業界の前途
は、けっこう暗雲が垂れ込めているという気もするのだ。
                  https://bit.ly/2tonYtV
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           ──[米中ロ覇権争いの行方/032]

≪画像および関連情報≫
 ●上場後のアリババを「やっつける」か/北京指導部情報
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   【大紀元日本9月19日】中国の電子商取引最大手、アリ
  ババ集団(BABA)は19日に、ニューヨーク証券取引所
  (NYSE)に上場する見通し。米紙ニューヨーク・タイム
  ズ(NYT)は今年7月、謎めいた政治的背景を持つアリバ
  バの投資会社や「紅二代」株主について報じた。香港メディ
  アは最近、北京指導部の情報筋の話として、中国当局は米国
  上場後にアリババを「やっつける」可能性があると伝えた。
   NYT紙は7月21日、長篇評論「アリババの背後にある
  多くの「紅二代」株主が米国上場の真の勝者」を掲載し、深
  い政治的背景を持つアリババの投資会社の状況を明らかにし
  た。報道によると、江沢民元国家主席の孫、江志成氏が設立
  した「博裕ファンド」や、陳雲元副総理の子息、陳元氏が、
  15年間率いた「国開金融」(CDBキャピタル)、中国共
  産党序列5位の劉雲山政治局常務委員の息子、劉楽飛氏や中
  国共産党の革命元勲、王震・大将の息子、王軍氏に関係する
  「中信資本」(シティック・キャピタル)など、いずれもア
  リババに投資しているという。NYT紙はまた、「今や、ア
  リババを倒すためには巨大な衝撃を与える必要がある。・・
  ・諸々の国家部門では多くの密接な政治的同盟者を有する」
  と、北京ベースの証券分析会社美奇金投資コンサルティング
  会社の共同創立者楊思安氏の話として述べた。
   香港誌「中国密報」の最新号は、「アリババと四大太子の
  黄金の宴」と題する記事では、北京の情報筋の話として「N
  YTの分析は根も葉もない話ではなく、目下の中南海(北京
  指導部)の情勢に関する一つの客観的論述である。
                  https://bit.ly/2UXX7Aw
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江志成氏/江沢民元主席の孫.jpg
江志成氏/江沢民元主席の孫
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月19日

●「京東集団CEOが米国で逮捕報道」(EJ第4950号)

 2018年8月31日のことです。中国の電子商取引(EC)
企業では、アリババに次ぐ2位の「京東集団」の創業者、劉強東
CEO(45歳)は、出張先の米国ミネソタ州ミネアポリスで地
元警察に逮捕されるというニュースが流れたのです。
 容疑は強姦罪で、裁判で有罪になれば、最低でも懲役12年、
最高の場合、懲役30年が科されるといわれます。しかし、劉C
EOはすぐ保釈され、北京の本社に戻っていますが、ミネアポリ
スでの裁判の決着はまだついていないのです。
 このように書くと、EC企業の若手経営者の単なる性犯罪じゃ
ないかといわれますが、事件のバックに習近平指導部の影がちら
ついており、ハニートラップの疑いもあるので、少し詳しく見る
ことにします。
 京東集団は、なかなかの有力企業で、米IT大手グーグルと米
小売り大手ウォルマートを後ろ盾につけ、世界進出を加速する計
画を持っています。劉強東CEOは、インタビューで、グーグル
から数ヶ月前に5億5000万ドル(約610億円)規模の出資
を受け、中国外の顧客を獲得するため、グーグルと戦略を立てて
いる初期段階にあると表明しています。習近平主席は、このタイ
プの中国の民営企業を最も警戒するのです。
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 財経ネット報道を参考にすると、劉強東はミネソタ州立大学と
清華大学経済管理学院の合同DBAプログラムに参加するために
訪米した。8月27日に妻子を連れてプライベートジェットでミ
ネアポリス入りし、29日夜には家族でミネトンカ湖上の遊覧船
で晩餐会を行った。この晩餐会に被害を主張する25歳の中国人
女子留学生も参加していた。
 事件は30日夜に発生した。市内の日本食レストランで、劉強
東は清華大学経済管理学院教授の崔海濤が引率してきた学生、留
学生らも招いて晩餐会を開き、例の女子留学生も参加。この席で
は32本の葡萄酒が空けられ、かなり乱れた酒宴となった様子が
レストランの従業員らに証言されている。
 この晩餐会のあと、酔った女子留学生は、劉強東に学生寮まで
送ってもらった。だが、その女子留学生からその夜午前2時ごろ
警察に通報があった。女子留学生は男友達の助けを借りて警察に
連絡をしたというが、警官が駆け付けてみると「間違いました。
すみません」と言うだけだった。
 31日夜も有名イタリア料理店で留学生たちを招いた宴会が開
かれ、その女子留学生も参加。9月1日午前1時ごろ、その女子
留学生は学校職員の助けを借りて警察に通報した。警察が呼び出
されたのはミネソタ州立大カールソン管理学院の小教室で、そこ
にいた劉強東が、性暴行既遂として逮捕されたのだった。劉強東
はそこで女子学生と会う約束をしていた、と主張した。
                  https://bit.ly/2BEkA2N
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 話が複雑なので整理します。この事件の主役は、米国に出張し
た劉強東京東集団CEOと、米国の大学に留学している中国人の
女子留学生です。劉強東氏は、現地の日本食レストランで、中国
人留学生を招いてパーティーを開催しています。それらの留学生
を連れてきたのは、清華大学経済管理学院の崔海濤教授です。劉
強東氏は、そのパーティーの席で、崔海濤教授からその女子留学
生を紹介されます。おそらくパーティーは他にも女子留学生が参
加していたと思われますが、崔海濤教授はその留学生を特定して
紹介しているのです。
 パーティー終了後、劉強東氏は酒に酔ったその女子留学生を学
生寮まで送っています。初対面の女子留学生に、なぜそこまです
るのかというと、崔海濤教授からその女子留学生を特定して紹介
されたからでしょう。そこで何かがあったとみるべきです。おそ
らくその女子留学生は性被害に遭ったと考えられます。
 学生寮に戻ったその女子留学生は、事情を聞いた寮の男友達、
おそらく米国人の友達の助けを借りて、深夜に警察に通報します
が、警察官が来ると、何でもないとして警察官を帰しています。
 次の日も劉強東氏は、別の中国人留学生を招いてパーティーを
開いていますが、その女子留学生も参加しているのです。その席
で、劉強東氏はおそらくその女子留学生に「後で会おう」といい
ミネソタ州立大カールソン管理学院の小教室で会うことを約束し
ます。約束の時間に、その小教室に女子留学生と学校職員と警察
官が踏み込み、劉強東氏は逮捕されるのです。女子留学生は、昨
夜は思いとどまったものの、翌日になって警察に通報することを
決めたと思われます。誰かの強い勧めがあったからです。
 怪しいのは、留学生を引率した崔海濤教授です。この重要証人
は早々に帰国しています。彼が中国共産党とつながっていた可能
性は十分あります。しかも、崔海濤教授の授業は9月から休講に
なり、彼のプロフィールが掲載されている所属する精華大学長江
商学院のサイトから消えているのです。
 この事件について中国の事情に詳しい福島香織氏は、中国で今
も行われている「性賄賂」について、次のように述べています。
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 男尊女卑の根強い中国には「性賄賂」が横行している。それは
大学においても同じで、金主や政治家にさまざまな資金援助や便
宜を得る見返りに女子学生にキャバクラ嬢やそれ以上の真似事を
させることがある。女子学生は単位や奨学金、留学チャンスなど
と引き換えにそれに応じることもある。崔海涛は昨年のDBAプ
ログラムでもよく似たことをやったという匿名証言が一部で流れ
た。そう仮定すると、引率の教授が特定の女子留学生を何度も劉
強東に引き合わせたことも、彼女の名前が劉強東の初恋の人と同
じであったというのも偶然ではなかったかもしれないし、彼女が
警察に通報しながら逡巡したのも納得できよう。
                  https://bit.ly/2IjcUbJ
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           ──[米中ロ覇権争いの行方/031]

≪画像および関連情報≫
 ●性的暴行容疑で逮捕の中国大手ECトップ/米紙
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   2018年9月6日、中国ネット通販大手・京東集団(J
  Dドットコム)の劉強東(リウ・チアンドン)最高経営責任
  者(CEO)が訪問先の米ミネソタ州で女性に性的暴行を加
  えたとして逮捕された問題で、新聞は米紙ウォール・ストリ
  ート・ジャーナル(WSJ)が逮捕前後の詳細について報じ
  た記事を取り上げた。
   WSJによると、被害を訴えたのはミネソタ大学に通う中
  国人女性で、女性は先月30日夜、同州ミネアポリスにある
  日本料理店で開かれたワインと料理を楽しむ食事会で劉氏と
  同じテーブルに着いた。問題は食事会の後に起きたという。
   記事はまた、店にいた人の話として「出席者は20人余り
  だった」と説明。出席者の中に劉氏がいたかどうかは不明と
  のことだが、「周囲からボスと呼ばれる人がいた」「食事会
  は9時ごろ終わったが、何人かは酔いつぶれていた」とのコ
  メントが寄せられたことも報じた。
   新聞はこのほか、「事件発生は31日午前1時。劉氏の収
  監までに約22時間を要した。この間、一体何が起きたのか
  情報は明らかにされていない」と説明し、WSJの報道とし
  て「警察は事件の因果関係やその他の側面について議論する
  ことを拒んでいる」とも伝えている。 (翻訳・編集/野谷)
                  https://bit.ly/2GNLUiu
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劉強東京東集団CEO.jpg
劉強東京東集団CEO
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