予断を許さない状況になっているといえます。問題は、インフレ
がなかなか収まらないことです。
日本の日本銀行に当たる米国のFRBは、5月2日〜3日に行
われたFOMC(米連邦公開市場委員会──日本の金融政策決定
会合)で、政策金利を0・25%引き上げる利上げを実施してい
ます。この会合の1日前、5月1日にはファースト・リパブリッ
クバンクが破綻するなど、銀行システムへの不安が再燃していた
のですが、FRBのパウエル議長は、個人消費支出物価指数(P
CEコア/食料、エネルギーを除く)が、3月に前年同月比「プ
ラス4・6%」と、FRBが目標とする物価目標2%を大幅に上
回っていたことから、引き続き物価の安定回復に比重を置いた政
策決定を行ったものです。
PCEに近い言葉にCPI(消費者物価指数)があります。C
PIは家計調査ですが、PCEは企業調査であり、より広い範囲
をカバーするものです。
しかし、3月10日にシリコンバレー銀行、3月12日にシグ
ネチャーバンクの破綻に続き、5月1日のファースト・リパブリ
ックバンクの破綻が起こっているので、FRBとしては、利上げ
には慎重にならざるを得ない状況下での追加利上げです。したが
って、次のFOMC(6月13日〜14日)では、利下げは難し
いが、利上げは行わず、政策金利は据え置かれるであろうと予想
されています。これが、世界経済に一服感をもたらしているとい
えます。
しかし、6月のFOMCで利上げが止まる可能性は少ないと予
想されます。なぜなら、インフレが依然として収まっていないか
らです。その理由について、6月6日付の日本経済新聞は、次の
ように報道しています。
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背景には、雇用の強さがインフレの高止まりにつながるという
市場の懸念がある。5月の米雇用統計は非農業部門の就業者数が
前月から33万9000人増え、市場予想(19万人)を大幅に
上回った。3月と4月の就業者数もそれぞれ4〜5万人程度上方
修正し、労働市場の強さを印象付けた。
みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは「平
均時給の伸びも前年比で4%を超えており、利下げを議論できる
段階ではない」と指摘する。雇用の強さは、人件費の影響を大き
く受けるサービス価格の上昇につながりやすい。賃金と物価の連
鎖的な上昇が続き、市場参加者のインフレへの懸念を高める。
仮に6月に政策金利を据え置いたとしてもそれは「ポーズ(休
止)」ではなく、「スキップ(見送り)」になるとの見方が大勢
だ。大和証券の山本賢治シニアエコノミストは「FRBは6月の
利上げを見送った上で、2023年末の政策金利見通しを前回よ
りも引き上げる」と予想する。
22年は、ドルの独歩高が進み、32年ぶりの円安を招いた。
23年はドル高が一服するとの予想が多かった。ドル高の継続は
各国のインフレ長期化や新興国からの資金流出につながり、世界
経済の波乱を招く恐れもある。(添付ファイル参照)
──2023年6月6日付、日本経済新聞
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なぜ、インフレは収束しないのでしょうか。
欧米の中央銀行が現在行っているインフレ対策は「利上げ」で
す。インフレには、需要サイドを原因として起こるものと、供給
サイドを原因として起こるものがありますが、利上げは、前者、
すなわち、需要サイドを原因として起きるインフレ退治に効力を
発揮するとされています。
需要サイドを原因として起きるインフレとは、具体的にどうい
うインフレでしょうか。
景気が良くなるとモノやサービスが良く売れます。象徴的なモ
ノに住宅の購入があります。しかし、景気が過熱し過ぎると、需
要が供給を上回るようになり、モノやサービスの価格が上昇して
インフレになります。これが需要サイドを原因として起きるイン
フレです。
こういうインフレに対して、中央銀行は金利を上げるこで対処
しようとします。利上げをすると、これに連動して動く住宅ロー
ンの金利が高くなり、住宅購入者が組めるローンの額が利上げ以
前よりも高くなります。その結果、住宅購入が減少し、家に関連
する家具や家電などの売り上げにも減少します。これによって、
需要が抑えられ、インフレ率も下がることになります。要するに
利上げによって、景気の過熱感を冷やすことによって、インフレ
率が下がることになります。
これに対して、供給サイドを原因として起こるインフレとは、
具体的に起きるどういうインフレでしょうか。
これは、供給サイドに原因があってモノやサービスの提供が不
足して価格が上がって起きるインフレです。現在、起きているイ
ンフレは、コロナ禍のダメージによって、サービス消費がモノ消
費に転換し、供給の担い手である労働力が不足して、モノやサー
ビスの価格が上がるインフレです。
この供給サイドに原因があって起きるインフレに対しても、各
国の中央銀行は、利上げで対応しています。利上げを繰り返し行
うと、需要が抑制されます。そして、少なすぎる供給と同じレベ
ルまで需要が下がってきて、インフレ率が低くなります。
どっちにしても、インフレ率は下がるではないかといわれるか
もしれませんが、これは経済の縮小均衡であって、真の問題の解
決にはならないといえます。何とか供給を増やす手段はないもの
でしょうか。しかし、供給不足に起因するインフレに対処するに
は、経済の大きな仕組みを変える構造改革が必要であって、中央
銀行のやれることを超えています。さらに、日本は、欧米諸国と
は異なる難問を抱えています。それは、慢性インフレと、世界イ
ンフレの2つです。 ──[世界インフレと日本経済/021]
≪画像および関連情報≫
●今の日本はインフレ、それともデフレ?意外と知られていな
い経済事情
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世界的にエネルギー価格や原材料価格が高騰している。ニ
ュースに目を通せば「世界的なインフレ懸念」という見出し
の記事をいくつも見るし、実際にガソリンを入れたり、スー
パーで買い物をしていたりすると日本でも物価上昇を実感す
ることもあるだろう。しかし、一方で日本は未だにデフレを
脱却出来ていないという話も聞く。今回は一見すると矛盾し
ている、この事象の背景について学んでいこう。
そもそも一般的に物価が上昇している、下落しているとい
う場合、何をもって物価というのだろうか。日本では総務省
統計局が毎月発表している「消費者物価指数」を指して物価
という。消費者物価指数は物価全体を表す「総合指数」以外
にも、「生鮮食品を除く総合」、「生鮮食品及びエネルギー
を除く総合」という2つのデータも重視されている。
なぜ、生鮮食品やエネルギーの価格を除くのか。それは台
風や干ばつなどの天候要因で価格が大きく変動してしまう生
鮮食品や、地政学リスクや投機資金の流出入など実需以外の
要因によって価格が大きく変動してしまうエネルギー価格の
影響を除くことで物価動向の実態を把握するためだ。冒頭で
インフレやデフレという言葉を使ったが、経済に馴染みのな
い方のために簡単に説明をしておこう。インフレは「インフ
レーション」の略で物価が継続的に上昇する状態を意味し、
デフレは「デフレーション」の略で物価が継続的に下落する
状態を意味している。
https://signal.diamond.jp/articles/-/952
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インフレ率は高く、失業率も低い