2019年07月17日

●「羅先にTHAADを設置する提案」(EJ第5048号)

 2019年7月11日のEJ第5045号で、「北朝鮮に米軍
基地を置く」という情報をお伝えしましたが、多くの人は「そん
な馬鹿な!そんなことはあり得ない」と考えたと思います。情報
の出所は4日発行の「夕刊フジ」の連載コラム、鈴木棟一氏のコ
ラム『風雲永田町』です。
 ところが7月4日発行の「夕刊フジ」で、今度はジャーナリス
トの有本香氏が、自身のコラム『有本香の以読制毒/読を以て毒
を制す』において、この情報について次のように述べています。
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 ◎北朝鮮に米軍基地計画情報/金正恩が懇願か
  筆者が最初にこの話を耳にしたのは、ベトナムの首都ハノ
 イで行われた米朝首脳会談の少し後。与太話の類と思って聞
 き流した。だが、最近、複数の朝鮮ウォッチャーが口にし、
 政府関係者からも「関心を寄せざるを得ない話題」との言を
 得、無視できないと思い直した。
        ──2019年7月11日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 有本香氏は、この情報に関連して、北朝鮮の北東部、日本海に
面する羅先(ラソン)という港町のことを取り上げています。こ
の羅先という町は、北朝鮮の経済特区になっており、主として中
国とロシアの資本が入っています。
 カジノが完備しているエンペラーホテルは、香港資本のホテル
であるし、羅津港は中国とロシアが整備しています。中国は羅津
港の一部埠頭の50年間の租借権を持っていますが、この契約を
率先してやったのが、叔父の張成沢であり、現在のところこの租
借権は宙に浮いています。
 ロシアは、ロ朝国境のハサン駅から羅津港まで約50キロメー
トルをロシアの車両が台車交換なしで直接乗り入れることができ
る工事を2013年秋に完成させています。
 このように、北朝鮮が他のアジア諸国の中国による港湾整備案
件と違うことは、中国だけでなく、ロシアやモンゴルなどにも利
用を呼びかけて、「3すくみ」の状態を作り、どこか一国、例え
ば中国に勝手をさせないようにすることです。この「3すくみ」
の状況について有本香氏は次のように述べています。
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 周囲の大国を次々と自らの問題に引き込み、時々に優勢な国に
付いて利を得る。この事大主義的外交術は、古来、朝鮮で行われ
てきた「伝統芸」だ。といっても現在のところ、中露をすくませ
るに十分な「第3の力」を得るに至っていない。
 そこで考えた「ウルトラC」の新ターゲットが、ドナルド・ト
ランプ大統領の米国ということのようだ。金正恩朝鮮労働党委員
長自身が「羅先」に言及し、トランプ氏やマイク・ポンペオ国務
長官に、「韓国が配備を嫌がっている米軍の最新鋭迎撃システム
『THAAD/高高度防衛ミサイル』をうちへ」といったとの仰
天話も聞かれる。 ──2019年7月11日発行「夕刊フジ」
          『有本香の以読制毒/読を以て毒を制す』
─────────────────────────────
 驚くべきことであるが、真偽のほどはわからないものの、金正
恩委員長は、「『THAAD』を羅先に設置してはどうか」と提
案しているというのです。それは、米軍基地を羅先に置くことを
意味しています。そうすると、羅先に申し分ない「米中露の3す
くみ」の状態ができることを意味し、金正恩委員長の狙いである
体制保証は実を結ぶことになります。
 実際にこういう提案が行われたかどうかは不明ですが、トラン
プ大統領としては、金正恩委員長を年齢は若いが、なかなかでき
る男と評価しているはずです。「この男、他にやることはないの
か」とか、「リトルロケットマン」とこき下ろしていたときと比
べると、大変な変化です。
 対照的に評価を大きく落としているのは、韓国の文在寅大統領
です。せっかく米朝の仲介役を買って出たのですが、以後は完全
にお役御免です。今回の板門店での歴史的米朝首脳会談にも、文
在寅政権は関与していないのです。
 そもそもG20大阪サミット直後の韓国訪問も、何度も米国に
懇願してやっと実現したものですが、トランプ大統領はその場を
利用して、韓国抜きで親書とツイートで確かめ合い、劇的に板門
店で会談を開いたのです。これについて、国際舞台で活躍する国
際交渉人の島田久仁彦氏は次のように解説しています。
─────────────────────────────
 今回のサプライズに際し、一つ確実に言えることがあるとした
ら、残念ながら「韓国そして文大統領は全く関与していない」と
いうことでしょう。29日のG20会合中に、トランプ大統領か
ら、「私のツイート見たか?」と尋ねられ、「はい」と答えたと
伝えられていますが、それまで何も知らされておらず、この“工
作”に全く関与できていないことが浮き彫りになりました。
 そして、面白いことに、頼みに頼み込んで大阪の後、ソウルに
立ち寄ってもらい、米韓首脳会談を!と狙っての招待だったにも
拘らず、実質的に米韓で話し合われた内容は、正直何もなく、こ
の訪問自体、うまくアメリカに“利用”されてしまいました。
 それでも意地からでしょうか。トランプ大統領に付き添って板
門店に赴きましたが、米朝の間に入ることはできず、38度線を
挟んでトランプ大統領と金正恩氏が握手するという歴史的な瞬間
にも立ち会うことが許されませんでした。
 皆さんも生中継の映像を観られたかもしれませんが、トランプ
大統領が韓国側の建物からドアを開けて出た際、後ろに文大統領
が控えていましたが、歩き出して自分も2人の首脳に加わろうと
思った矢先、目の前でドアを閉じられてしまいました。まるでト
ランプ大統領から「お前は用なしだ!」とでも言われたかのよう
な瞬間でした。           https://bit.ly/2xX9T9j
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/047]

≪画像および関連情報≫
 ●サプライズ米朝会談実現でも「文在寅はずし」は終わらない
  ───────────────────────────
   6月30日、トランプ米大統領の「ツイッター提案」から
  始まった板門店(パンムンジョム)でのサプライズ米朝首脳
  会談の推移を、韓国メディアは固唾を飲んで見守った。
   韓国メディアが関心を寄せたのは、会談そのものの成否だ
  けではない。それに劣らず、文在寅大統領の「立ち位置」が
  注目の的となったのだ。というのも、北朝鮮メディアはこの
  前日まで、「思考と精神がマヒしている」などと言葉を極め
  て文在寅大統領を罵倒していたからだ。
   文在寅政権はこの間、北朝鮮に対してたいへんな気の使い
  ようだった。特に、金正恩党委員長が最も批判されることを
  嫌う、北朝鮮国内における残忍な人権侵害からは露骨に目を
  背けてきた。
   それにもかかわらず、北朝鮮は最近になって、文在寅氏に
  対する個人攻撃を開始していた。日米との不協和音に加え、
  北朝鮮からもハシゴを外される危機に直面していたのだ。北
  朝鮮が腹を立てているのは、韓国が米国との協調を優先し、
  南北首脳会談で合意したはずの経済協力に、文在寅政権がな
  かなか踏み出そうとしないからだ。もっとも韓国としても、
  北朝鮮の非核化が進展していない以上、おいそれと経済協力
  に踏み出すことなどできない。そこで文在寅政権は、米朝対
  話の「仲介者」を自任して当事者としての立場を守ろうとし
  てきたわけだが、北朝鮮は「(韓国の)仲介など不要だ」と
  明言している。これを受けて韓国メディアは、北朝鮮が板門
  店での米朝首脳の対面の場から、文在寅氏を締め出すのでは
  ないかと心配したわけだ。    https://bit.ly/2xKdreN
  ───────────────────────────

劇的で歴史的な米朝首脳会談/板門店.jpg
劇的で歴史的な米朝首脳会談/板門店
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2019年07月16日

●「北朝鮮要人は漁船で日本に亡命か」(EJ第5047号)

 2018年12月20日、能登半島沖の日本の排他的経済水域
──そこに2隻の北朝鮮の漁船がいたのですが、この船にはたっ
た4人しか乗っていなかったのです。この4人とは、果して何者
でしょうか。この4人がどういう人物かについて、菅沼光弘氏の
本から要約します。
 金正恩氏の父、金正日氏が亡くなったのは、2011年12月
17日のことです。金正日氏がとっていた政治は「先軍政治」で
あり、軍が経済を含めてすべての国家権力を握る政治体制です。
このときは、当然のことながら、軍隊や軍人が優遇されていたの
です。なかでも、権力を持っていたのは、金ファミリーを護衛す
る任務を持つ護衛総局という部署で、李乙雪(リ・ウルソル)と
いう人物が司令官を務めていたのです。朝鮮人民軍元帥には、当
然金正恩氏が就任していますが、李乙雪も元帥の称号を持ってい
たのです。
 李乙雪は、金日成に仕え、あのパルチザン戦争にも参加した勇
者で、金正恩氏が2012年4月に軍事パレードを観閲したとき
はまだ健在であり、金委員長の隣に元帥の服を着て立っていまし
た。彼は贅沢三昧を尽くし、金ファミリーよりも、豪奢な生活を
していたといわれています。
 しかし、金正恩委員長は、父親の「先軍政治」とは異なる政治
体制を目指そうとしたのです。彼は、真の強国とは「経済に強い
国」であると考えていたからです。念頭にあったのは、中国では
なく米国です。それに当時の軍は腐敗にまみれており、根こそぎ
の改革が急務でした。中国と同じです。そして打ち出したのが、
「並進政治」です。並進政治とは、軍事建設もやるが、経済にも
重点を置き、軍事と経済を並進させるという意味です。
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        金正日 ・・・・ 先軍政治
        金正恩 ・・・・ 並進政治
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 金正恩委員長は、軍人よりも科学者、とくに核やミサイル技術
やIT技術に優れた科学者を優遇したり、何とか経済を活性化さ
せようと力を入れたのですが、それをやればやるほど、経済制裁
がきつくなっていったのです。それに軍の改革は、李乙雪元帥が
健在のうちは、さすがに手をつけられなかったのです。
 その李乙雪元帥は、2015年11月7日に死亡し、軍事改革
を進めるのに、障害はなくなったのです。それ以後のことについ
て、菅沼光弘氏は次のように書いています。
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 李乙雪が死んで、軍人の粛正が進めやすくなった。金正恩は、
次々と軍人を粛清してきましたが、最後に残ったのが護衛総局で
す。金正恩はこれに手を着け、かなりの人を逮捕した2018年
12月に「遭難した漁船」には、護衛総局の幹部の何人かが逃亡
するために乗っていたのではないか。金正恩が彼(ら)を捕まえ
てくれ、と文在寅に頼んだというのが、事の次第ではないかと私
は考えています。もし、そうだとすれば、日本も北朝鮮に協力し
たことになるのですね。海上自衛隊のP・1哨戒機は、すべてを
知っていたと考えるのが常識です。      ──菅沼光弘著
             『金正恩が朝鮮半島を統一する日/
        日本にとって恐怖のシナリオ』/秀和システム
─────────────────────────────
 この菅沼光弘氏の説は、なかなか説得力があります。人民軍の
幹部が次々と逮捕され、処刑されるのを見て、幹部級の大物が漁
船で日本を目指し逃亡を図る──十分考えられることです。なぜ
漁船なのかというと、北朝鮮の場合、航空機を使うことが困難で
あり、漁船を使うのが一番手っとり早いからです。目指すのは日
本。日本は沿岸警備が甘く、上陸しやすいのです。実際に、多く
の北朝鮮の漁船が沿岸で発見されています。
 推測ですが、当局が逮捕を予定していた元護衛総局の大物幹部
数人が漁船に乗って逃亡を図った。わかったのは、出航してかな
り経ってからです。報告を受けた金正恩委員長は、韓国の文在寅
大統領に電話して、「捕まえてくれ」と依頼したのではないか。
そのとき、武装していることも伝えています。
 文在寅大統領は、この要請を受けて、直ちに警備艇と攻撃され
ることにも備えて、駆逐艦を派遣したのです。もしかすると、日
本の哨戒機に発見されたとき、火器管制レーダーを発射して追い
払うことも最初から考えていたのではないでしょうか。文在寅大
統領としては、ここで金正恩委員長を助けておけば、あとあと韓
国にプラスになると計算したと思われます。
 韓国には「事大主義」という考え方があります。これは「弱い
者が強い者の言いなりになって仕えること」という意味です。直
近の「事大」として、菅沼光弘氏は、韓国におけるTHHADミ
サイル設置をめぐる一連の対中姿勢にあると指摘しています。し
かし、日本に対してはヒステリックに文句をつけてくるのです。
─────────────────────────────
 韓国はTHHADミサイルを2017年9月に慶尚北道星州に
配備したと発表しました。国内の反対運動が盛んで場所をどこに
するか、大もめにもめたのですが、結局ロッテ財閥が開発したゴ
ルフ場に設置されました。
 韓国の言い分では北朝鮮のミサイルに備えるという口実で配備
したのですが、設置場所から見ても、中国のミサイルがアメリカ
に飛んでいく前に迎撃するためだ、というのが明々白々でした。
当然、中国が韓国に対して猛烈なクレームを付けてきます。中国
は、中国国内にあるロッテグループの工場や店舗を全部閉鎖して
しまいました。それだけの報復を受けたわけですが、文在寅政権
はなんの抗議もしなかった。唯々諾々とそれを受け入れた。これ
を「事大主義」と言わずして何を事大主義と言うか。
                ──菅沼光弘著の前掲書より
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/046]

≪画像および関連情報≫
 ●半島国家の悲しき世界観/宮家邦彦氏
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   日本の嫌韓派の人々が韓国を批判する際によく使う言葉が
  「事大主義」の弊害なるものだ。事大主義といっても若い読
  者はあまりピンと来ないだろうが、北東ユーラシアの地政学
  を理解するうえで、「事大主義」は、「華夷思想」「冊封体
  制」「朝貢関係」などとともに、必須の概念だといえよう。
   事大主義とは、「小」が「大」に事える、つまり、強い勢
  力には付き従うという行動様式であり、語源は、『孟子』の
  「以小事大」である。国語辞典によれば、「はっきりした自
  分の主義、定見がなく、ただ勢力の強いものにつき従ってい
  く」という意味で、たとえば次のように使われる。
   事大主義とは朝鮮の伝統的外交政策だ。大に事えるから事
  大。この大というのはむろん中国のことなのだが。つまり中
  国は韓国の上位にある国だったから、そこから侵略されても
  ある程度仕方がないとあきらめる。しかし、日本は韓国より
  下位の国だ、だから侵略されると腹が立つ。上司になぐられ
  ても我慢できるが、家来になぐられると腹が立つ、という心
  理だ。(2013年12月16日付、『NEWSポストセブ
  ン』)朝鮮は、中国に貢ぎ物をささげる朝貢国として、存続
  してきた。大国に事える事大主義の伝統が抜きがたくある。
  日本が近代化に懸命に汗を流しているころも、官僚らは惰眠
  をむさぼり、経済も軍事力も衰亡していた。その朝鮮を国家
  として独立させ、西洋の進出に備えようというのが日本の姿
  勢だった。(2014年7月19日付、『産経新聞』WEB
  版)              https://bit.ly/30qElVo
  ───────────────────────────

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李乙雪元帥と金正恩委員長
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2019年07月12日

●「なぜ韓国はレーダーを照射したか」(EJ第5046号)

 日本による輸出規制の強化で韓国の文在寅大統領の対応がドタ
バタしています。7月10日、文大統領は、大手財閥のトップを
緊急招集し、「官民緊急体制」を構築しようとしています。この
文在寅大統領は、何事でもそうですが、本質と向き合おうとはせ
ず、姑息な対応に終始する人です。
 この会合に、サムスン電子の李在鎔(イ・ジョヨン)副会長と
ロッテの辛東彬(シン・ドンゴン)会長は日本出張のため、欠席
しています。サムスン電子の李在鎔副会長は今週はじめから日本
に滞在し、銀行をはじめ、日本で関係者と協議を重ねています。
大統領と話しても解決する問題ではないからです。この会議への
出席者の本音も次の通りです。
─────────────────────────────
 政府が話し合うべきは、われわれではなくて、日本政府では
 ないのか。             ──大手財閥トップ
─────────────────────────────
 韓国の文在寅政権と北朝鮮の金正恩政権はおかしい──このよ
うに考える人が多くなっています。文大統領は、2018年9月
に金正恩委員長の招きで訪朝し、首脳会談のあと、マスゲームに
招待されて、大歓迎され、完全に舞い上がってしまったのです。
もともと、この大統領は、着任当初から北朝鮮に融和姿勢をとっ
てきた人ですが、この訪朝で、完全に金委員長に取り込まれてし
まったといえます。
 実は、このことと、昨年末からの数々の韓国の日本に対する不
可解な対応とは重要な関係があるのです。先日、朝鮮問題に関す
る次の新刊書を購入し、現在読んでいます。
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       元公安調査庁調査第2部長/菅沼光弘著
         『金正恩が朝鮮半島を統一する日/
    日本にとって恐怖のシナリオ』/秀和システム
─────────────────────────────
 著者の菅沼光弘氏は、1959年に公安調査庁に入庁し、35
年間にわたって、ソ連、北朝鮮、中国の情報収集の仕事に従事し
た諜報関係のプロです。この本のなかに、韓国海軍のレーダー照
射事件のことが書かれています。
 その真相は、一般にいわれているものとは、まるで違うもので
す。それは、北朝鮮の内部事情がわかっていないと絶対に書けな
い内容であるので、EJのスタイルでご紹介することにします。
 期日は2018年12月20日、午後3時頃、場所は能登半島
沖の日本の排他的経済水域内に、韓国警備救難艦「サンボンギョ
5001」と北朝鮮の漁船2隻、それに加えて少し離れたところ
に、韓国海軍駆逐艦「クアンゲト・デワン(広開土大王)」がい
たのです。このとき、海上自衛隊P・1哨戒機が、能登半島沖の
海上で警戒監視中だったのです。
 この状況において、P・1哨戒機は、異様な船舶が集結してい
るので、監視しようとしたのです。そのとき、いきなり、韓国海
軍駆逐艦から、火器管制レーダーの照射を受けたのです。ここか
らすべてが始まっています。
 この火器管制レーダーの照射は、ミサイルや砲弾を命中させる
ために、目標にレーダー波を継続的に照射して、その位置や速度
などを正確に把握するために行うものです。したがって、レーダ
ー照射を受けた航空機は、急遽退避行動を取ります。
 そもそも、なぜ、日本の排他的経済水域に、2隻の北朝鮮の漁
船、韓国の警備救難艇、それに韓国の駆逐艦がいるのかです。韓
国側の説明によると、北朝鮮籍の漁船が遭難したので、それを救
助に来たというのです。しかし、当日の天候は悪くなく、遭難す
るような状況ではないのです。それに救難にしては、あまりにも
大袈裟です。2隻の小さな漁船に対して、5000トン級の警備
救難艇、さらに駆逐艦まで現場に駆けつけているからです。
 後でわかったことですが、漁船からはSOS信号は発信されて
いないのです。もし、無線でSOS信号が出ていれば、当然日本
も気が付くはずです。海上保安庁は無線をキャッチしていないの
です。それなら韓国は、どのようにして、漁船の遭難を知ったの
でしょうか。
 もうひとつ、表に出ていない情報があります。漁船は2隻で、
漁船に乗っていたのはたったの4人であるということです。それ
を助けるために、警備救難艇と軍艦が駆け付ける──きわめて異
常な状況です。
 推測ですが、それは、韓国から北朝鮮への「瀬取り」の現場で
あったとするものです。しかし、この説には難点があります。そ
れは、なぜ、日本の排他的経済水域というリスクの多い場所をわ
ざわざ選んだのかということです。もっと安全な場所がいくらで
もあるはずです。まして人数が4人ということになると、瀬取り
は考えられません。
 これに関して、菅沼光弘氏の推理はさすがです。これは、現在
の韓国と北朝鮮の親密度をよくあらわしています。
─────────────────────────────
 ここからは、私の推測ですが、どうも北朝鮮から韓国政府に対
して、ひそかに依頼があったのではないだろうか。
 北朝鮮から外に出ることになると、北にとって大変不都合な人
がその船に乗っていたのではないか。軍艦を派遣するというのは
武装している可能性があったからではないか。普通の巡視艇では
撃沈されるかもしれない。それでは、誰がその漁船″に乗って
いたのか。結果論から言うと不明です。韓国は、誰が乗っていた
かも、漁民であったかどうかも、一切発表していません。救出し
た人たちをただちに北朝鮮に送り返してしまった。
                ──菅沼光弘著の前掲書より
─────────────────────────────
 場所から考えて、4人は、漁船を使って日本に逃げ込もうとし
たと思われます。どういうことが考えられるかについては、来週
のEJでお話しします。   ──[中国経済の真実/045]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ韓国艦はレーダー照射したのか/長谷川幸洋氏
  ───────────────────────────
   韓国海軍の駆逐艦が、海上自衛隊P1哨戒機に対して火器
  管制用レーダーを照射した問題が長引いている。問題そのも
  のは、あまりに韓国が子供じみていて、まともに論じる気に
  もならないが、この際、「韓国とどう付き合うべきか」は考
  え直してみる必要がある。
   私は「もはや韓国は友好国ではない」という前提で対応す
  べきだと思う。韓国人に対する「90日間のビザなし入国措
  置」も見直すべきだ。簡単に問題を振り返ると、韓国駆逐艦
  は昨年12月20日午後、日本の排他的経済水域(EEZ)
  である能登半島沖で、海自哨戒機に対し、複数回、数分間に
  わたって火器管制用レーダーを照射した。当初、韓国海軍は
  レーダー照射を認めていたが、24日になって照射の事実を
  否定した。
   これに対し、防衛省は哨戒機が撮影した当時の映像を公開
  したが、韓国側は「威嚇的な低空飛行をした」として日本に
  謝罪を求めた。火器管制用レーダーを照射すれば特有の電波
  が記録されるので、日本側は証拠を握っている。防衛省が公
  開した動画でも、「間違いなく向こうのFC系(火器管制レ
  ーダー)です」「記録がとれているかどうか確認してくださ
  い」「データはとれています」という機長とクルーの冷静な
  やりとりが公開されている。   https://bit.ly/2LhBdra
  ───────────────────────────

韓国海軍の駆逐艦「広開土大王」.jpg
韓国海軍の駆逐艦「広開土大王」
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2019年07月11日

●「北朝鮮が米国と組む可能性を分析」(EJ第5045号)

 北朝鮮は、どこと組もうとしているのでしょうか。中国か、ロ
シアか、それとも米国なのでしょうか。
 金正恩委員長のハラは、おそらく米国と組みたいと考えている
と思います。金王朝は、3代にわたって、米国寄りです。初代の
金日成(キム・イルソン)は、在韓米軍を否定しなかったといわ
れます。
 北朝鮮から見た場合、中国とロシアはいつでも口実を作って、
北朝鮮に兵を入れることができる危険な隣国です。北朝鮮は長く
中国の植民地であったし、ロシアと北朝鮮の関係についても、真
田幸光愛知淑徳大学教授は次のように述べています。、
─────────────────────────────
 ソ連、ロシアには北朝鮮は領土の一部との意識が根強い。日本
の敗戦と同時に、ソ連軍の傘下にあった金日成を送り込んで北朝
鮮という国を作らせたのですから。
 というのにソ連崩壊後、後身のロシアは国力を落とし、北朝鮮
へのカネや食料を与える余裕を急速に失った。そこに中国が入り
込んで、北朝鮮は中国が仕切る国と見なされるに至った。しかし
北朝鮮はロシアの前身たるソ連の勢力圏にあったのです。
                  https://bit.ly/2LdaLzg ─────────────────────────────
 現在の金正恩委員長の率いる北朝鮮にとって、一番の脅威は中
国です。中国が考えているベストシナリオは、北朝鮮内部で何ら
かの反乱が起こり、北朝鮮が混乱に陥るケースです。そういう事
態になれば、中国は、治安維持を名目にして、人民解放軍を進駐
させることができます。そういう北朝鮮国内の反乱を中国が仕掛
けて起こす可能性もあるのです。
 また、真田教授はこういいます。中国には、200万人の朝鮮
族がおり、国籍は中国人です。「北朝鮮で圧政に苦しむ中国の同
胞を救いに行く」と大義名分を立て、進駐することも可能です。
このように、金正恩委員長にとって中国は危険な隣国です。だか
ら、権力掌握後もなかなか中国には行かなかったのです。そうい
う状況下で、叔父の張成沢(チャン・ソンテク)が、中国をバッ
クに権力を握ろうとしたので、粛清したのです。張成沢は、金正
男を擁して中国と図り、クーデターを起こそうとしたとも伝えら
れています。それほど、金正恩委員長は、中国を警戒しているの
です。中国に心を許すとは考えられません。
 こういう情報があります。2019年7月4日発行の夕刊フジ
『鈴木棟一の風雲永田町』の一節です。
─────────────────────────────
 米国のCIA(中央情報局)は、北朝鮮を中国から守るためと
して、「北朝鮮内に米国の基地を置く」ことを提案した、との情
報がある。習氏の北朝鮮訪問は、習氏の方から言い出したもので
米国に傾く正恩氏を引き戻そうという動きだ。
               ──『鈴木棟一の風雲永田町』
           /2019年7月4日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 「北朝鮮内に米国の基地を置く」とは驚くべき情報です。あり
えないという人も多いと思います。実際に、情報のウラが取れて
いるわけではありませんが、体制保証を取り付けようとする北朝
鮮に米国は、それに近い情報を北朝鮮に提供している可能性はあ
ります。中国は、いち早くこの情報を掴み、習近平主席が慌てて
G20サミットの前に、米国にシフトしかねない北朝鮮を急遽訪
問した可能性があります。
 事実上「決裂」という結果に終わったハノイでの米朝首脳会談
後の2019年3月15日、崔善姫(チェソンヒ)外務次官は重
要な発言を行っています。その要旨は次の通りです。
─────────────────────────────
・北朝鮮はハノイ会談での米国の要求に屈するつもりも、そのよ
 うな交渉を持つつもりもない。
・(ポンペイオ米国務長官とボルトン米大統領補佐官を名指し)
 敵意と不信感の雰囲気を作り出し、米朝の最高指導者間の建設
 的な交渉努力を阻んだ。米国のギャングのような姿勢は、いず
 れこの状況を危機に陥れる。
・(しかしながら)両最高指導者間の個人的な関係は依然として
 良好で、相性は不思議なことに素晴らしい。 ──菅沼光弘著
             『金正恩が朝鮮半島を統一する日/
       日本にとって恐怖のシナリオ』/秀和システム刊
─────────────────────────────
 崔善姫外務次官のこの発言のあと、北朝鮮国内では、国内政治
上、大きな動きがあったのです。4月9日、朝鮮労働党の拡大政
治局会議が開かれ、10日には第4回中央委員会総会、11日に
は、北朝鮮の国会に当る最高人民会議が開かれています。そこで
次の人事が決まっています。
─────────────────────────────
    ・金永南最高人民会議常務委員長  → 退任
    ・崔龍海(チョリンヘ)党副委員長 → 後任
    ・崔善姫外務次官 →  第1外務次官に昇格
             国務委員会メンバーに選出
─────────────────────────────
 最高人民会議常務委員長といえば、対外的な国家元首の役割を
果すポジションであり、長きにわたって、金永南氏が務めてきて
います。しかし、既に年齢は91才であり、このさい、退任させ
て、まだ69歳の崔龍海氏を昇格させたのです。
 合わせて、米国の事情に詳しく、米国に多くの知己を持つ崔善
姫外務次官を第1外務次官に昇格させたことは、今後のトランプ
政権とのディールに備えた布陣と考えられます。これによって、
崔善姫第1外務次官は、米朝協議においては、金正恩委員長の首
席報道官的役割を担うことになると思われます。この金委員長の
意欲が、板門店での第3回米朝首脳会談を実現させることにつな
がったのです。       ──[中国経済の真実/044]

≪画像および関連情報≫
 ●「親米国家」北朝鮮の誕生で日本の安全保障はこう変わる
  ───────────────────────────
   今後の東アジアの安全保障と国際関係を大きく左右する米
  朝首脳会談がいよいよ始まる。トランプ米大統領と金正恩朝
  鮮労働党委員長との「世紀の対決」の注目ポイントは何か、
  考えてみたい。
   今回の米朝首脳会談の結果次第では、北朝鮮とアメリカと
  いう「不倶戴天の敵」が「友好国」に一変する可能性を秘め
  ている。実際、おそらく米朝首脳会談が始まる段階で「北朝
  鮮の非核化」とその見返りとなる「体制保証」という大きな
  「取引」の枠組みは決まっていると推測される。
   ただ、枠組みをより具体的にさせ、友好国同士になるため
  には「敵」である米朝のどちらも相手に大きく譲歩する必要
  性がある。もし、譲歩が十分でなければ、米国側の経済制裁
  や軍事的圧力、北朝鮮の核・ミサイル開発の再開という昨年
  までの流れに戻ってしまうだろう。では、実際に何を米朝が
  譲ることになるのか。
   米国側の「誘い水」ともいえる妥協のポイントは、すでに
  少しずつ明らかになっている。中でも、トランプ氏が日米首
  脳会談直後の記者会見で伝えたように「朝鮮戦争終結宣言」
  は米国の考えるスタートラインのようである。北朝鮮に対す
  る「敵視政策」を止めるという意思表示であり、あくまでも
  「協定」とかではなく、「宣言」ならしやすいという見方で
  あろう。            https://bit.ly/2JCOTtC
  ───────────────────────────

昇格の崔龍海氏と崔善姫両氏.jpg
昇格の崔龍海氏と崔善姫両氏
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2019年07月10日

●「北朝鮮が求める『体制保証』とは」(EJ第5044号)

 北朝鮮の金委員長が盛んにミサイルを飛ばし、複数の核実験を
行っていたとき、まだ大統領になっていないトランプ氏は「私が
大統領になれたら、彼と会う用意がある」といっていたのを覚え
ています。これについて、副島隆彦氏は自著で、次のように書い
ています。
─────────────────────────────
 米大統領選で、共和党候補指名を確実にしたドナルド・トラン
プ氏は、5月17日(2016年)、ロイターとのインタビュー
に応じた。トランプ氏は、北朝鮮の核開発を阻止するため金正恩
朝鮮労働党委員長と会談することに前向きな姿勢を示した。(中
略)トランプ氏は北朝鮮対策については詳細には触れなかった。
だが、金氏と会談すれば、米国の北朝政策が大きく転換すること
になると強調。
 「私は、彼(金正恩氏)と話をするだろう。彼と話すことに何
の異存もない」と述べた。その上で、「同時に中国に強い圧力を
かける。米国は経済的に、中国に対して大きな影響力を持ってい
るのだから」と語った。           ──副島隆彦著
     『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社刊
─────────────────────────────
 トランプ大統領は、この約束をきちんと果しています。しかも
既に3回会って、首脳会談を行っています。4回目に会うときは
何かが決まる可能性があります。トランプ氏は、根っからのビジ
ネスパースンであり、会って話すことによって、その人物につい
て深く知ることができると考えています。
 「この男はバカか利口か。話し合う価値があるか。決断できる
男かどうか」は、会って話せばわかるとトランプ氏はいいます。
長年にわたって大勢の人を雇い、使ってきたトランプ氏らしいポ
リシーです。人は会って話してみないとわからない。これはいつ
も「戦略的忍耐」を口にして、金委員長と会おうとせず、結局何
もしなかった、いやできなかった、オバマ前大統領と大きな違い
です。その点、トランプ大統領は有言実行しています。
 トランプ大統領は、金正恩委員長とシンガポールとハノイで会
談し、金正恩を“できる男”と判断したものと考えます。そして
トランプ大統領は、事態を打開するために、米国として、何らか
の提案を金委員長にしたと思われます。それが、トランプ大統領
から金正恩委員長への親書に書かれていたと思います。
 そして、その親書を読んだ金委員長は、「大変興味深い提案で
ある」とコメントし、わざわざ親書を読む金委員長の写真まで付
けて、北朝鮮の労働新聞は伝えています。親書の内容が、単に板
門店で会いたいというものだけでなかったことは確かです。
 北朝鮮のミサイル技術と核開発は、軍事国家になろうとして開
発されたものはではないはずです。なぜなら、この程度のレベル
なら、仮に北朝鮮が一発でも核ミサイルを他国に向けて発射した
ら、あっという間にレベルの違う量の核攻撃を受けて、北朝鮮は
消滅してしまうからです。そんなことは、賢明な金正恩委員長は
十分わかっているはずです。
 したがって、北朝鮮の核ミサイル技術は、それがどんなに優れ
ていたものであっても、あくまで交渉のためのカードに過ぎない
のです。実際にそういう技術を持っていたからこそ、敵方である
米国の大統領が3回も会ってくれたのです。そういう意味で核開
発は北朝鮮にとって無駄ではなかったのです。
 金正恩委員長が非核化の条件として譲れないのは、自国の「体
制保証」です。この体制保証について、具体的に何を望んでいる
のか、北朝鮮は明らかにしていませんが、考えられることは、次
のようなものです。
─────────────────────────────
    1.          米韓軍事演習の中止
    2.        休戦中の朝鮮戦争の終結
    3.米国による北朝鮮への敵視政策を中止する
    4.上記により米国と北朝鮮との平和条約締結
    5.                その他
─────────────────────────────
 このうち、「1」については、トランプ大統領の決断により、
既に実現しています。2〜4についても、本当に「非核化」が実
現され、米朝双方がそれを望めば実現されるはずです。しかし、
問題は、それが北朝鮮の体制保証になるかといえば、そうではな
いと思います。確かに米国からの脅威はなくなるでしょうが、周
辺には、米国と並ぶ核大国である中国もロシアも存在します。
 「核を持つ」というのは、他国から攻められる脅威をなくすた
めです。日本も米国の核の傘に守られています。
 この問題については、昨日のEJでご紹介した7月5日の「プ
ライムニュース」のビデオのうち、後編の鈴置高史氏の発言が参
考になるので、視聴していただきたいと思います。
 トランプ大統領も、金委員長も、「非核化」という場合、「朝
鮮半島の非核化」という言葉を使っています。北朝鮮の立場から
考えて、もし本当に非核化してしまうと、北朝鮮はどこかの核の
傘に入らないと、国防が危なくなります。現在、韓国は米国の同
盟国であるので、米国の傘に入っています。
 北朝鮮が中国の核の傘に入るという選択肢もありますが、北朝
鮮は、本音のところでは関係性がよくなく、この選択肢をとらな
いでしょう。それは、北朝鮮としては、中国をとるか、米国をと
るかの選択であり、どちらをとってもリスクがあります。
 朝鮮は、古く、中国の同盟国だったのです。日清戦争の下関条
約(1895年)で、朝鮮は、はじめて中国から独立することが
できたのです。政治評論家の鈴木棟一氏は、日本に対して「恨み
百年」なら、中国に対しては「恨み千年」である──こういって
います。北朝鮮は、果して米国を選ぶのか、中国を選ぶのか、こ
のあたりのことも分析する必要があります。今回ばかりは、ウソ
をいって米国を騙すことは困難であろうと考えます。
              ──[中国経済の真実/043]

≪画像および関連情報≫
 ●金正恩が米朝会談後に「中国属国化」の道を選んだ理由
  ───────────────────────────
   世界が注目した米朝首脳会談(シンガポール)から半月が
  たった。この間、金正恩はまたもや習近平を訪問した。今年
  3度目である。北朝鮮は本当に非核化に向かっているのか?
  この疑問を検証する前に、少し復習しておこう。
   6月12日にシンガポールで行われた米朝首脳会談。共同
  声明の最重要ポイントは、「トランプ大統領は北朝鮮に安全
  の保証を与えることを約束し、金委員長は朝鮮半島の完全非
  核化への確固で揺るぎのない約束を再確認した」という部分
  だ。もっと簡潔に言うと、「米国は北朝鮮の体制を保証し、
  北朝鮮は完全非核化すると約束した」。これが、ディールの
  核心である。
   この米朝首脳会談、日本でも世界でも「大失敗だ」という
  意見が大半を占めている。しかし筆者は、「大成功だった」
  と考えている。「会談は失敗だった」と主張する人は、「共
  同声明文にCVID──完全かつ検証可能で不可逆的な核廃
  棄の文字がないではないか」と憤る。「完全な非核化」とい
  う表現だけでは、不十分であり、金正恩の思うツボだという
  のだ。そもそも、なぜ「CVID」という言葉が出てきたの
  だろうか?米国は、北朝鮮がウソをつくこと、すなわち「非
  核化の約束だけをして制裁を解除させ、経済支援を受け、体
  制も保証させ、しかし核兵器は保有し続ける」という状況に
  なるのを恐れたのだ。      https://bit.ly/2S23nal
  ───────────────────────────


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トランプ大統領からの親書を読む金正恩党委員長
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2019年07月09日

●「韓国は戦略物資を横流ししている」(EJ第5043号)

 重要なポイントなので、昨日のEJでご紹介した萩生田幹事長
代行の発言を繰り返します。ある時期、韓国の企業から、フッ素
関連の物品(高純度フッ化水素、エッチングガス)に大量発注が
急遽入って、その後、その企業の行方が分からなくなった。事実
関係を韓国側に問い合わせたが、答えが返ってこない──こうい
う内容であります。
 フッ素関連の物質は、毒ガスとか化学兵器の生産に使えるので
行き先は“北”ではないかという疑いです。ホワイト国であるか
らといって、何でもフリーパスというわけではなく、疑問がある
ときは情報を求めたり、話し合いをするのですが、文在寅政権に
なってからは、この話し合いは一回も行われていないのです。
 何しろ兵器にも転用可能な戦略物質なので、その行方は重要で
あり、管理に韓国側は重大な責任があるのに、行方不明というだ
けで、まともに答えてくれない。これではホワイト国として失格
であり、以後も続いて、特典を与えるわけにはいかないというの
が日本政府の見解です。話のスジは通っています。
 ところで、今回の日本政府による韓国のホワイト国取り消し問
題について、参考になるビデオがあります。それは、7月5日の
「BSフジ/プライムニュース」の要約版ですが、視聴する価値
は十分あります。前編と後編がありますが、前編はとくに興味深
いので、必ずご覧になることをお勧めします。
─────────────────────────────
    ●BSフジ/「プライムニュース」
     2019年7月5日/午後8時から10時
    ◎タイトル
     『日本の“対韓輸出規制”に揺れる韓国/文在寅政
     権と朝鮮半島情勢の今後は?』
    ◎出演者
     前防衛相/自民党安全保障調査室長/小野寺五典氏
             愛知淑徳大学教授/ 真田幸光氏
          元日本経済新聞編集委員/鈴置 高史氏
     前篇/21分33秒   https://bit.ly/2xAksig
     後編/22分07秒   https://bit.ly/2L3KPWz
─────────────────────────────
 このビデオのなかで出演者が語っていることは、韓国がホワイ
ト国という地位を利用して、兵器にも転用できる、日本から輸入
した戦略物質を第3国経由で、北朝鮮やイランに流していること
に米国が気付き、日本に相応の措置をとってくれと依頼してきた
ことの結果であるというものです。こういう論調は、表向きのメ
ディアには出てこないものです。
 表向きのテレビの論調は、韓国による徴用工最高裁判決や火器
管制レーダー照射などに対する韓国への報復措置として捉えてい
て、コメンテーターはそういう発言を繰り返しています。そうい
うコメントをさんざん聞かされてきた後で視聴したのが、7月5
日のBSフジ/プライムニュースです。とくに、真田幸光淑徳大
学教授と元日本経済新聞編集委員の鈴置高史氏の主張は実に明解
そのもの、ズバリと核心を衝いています。
 もうひとつの問題は、板門店での米朝首脳会談のウラ事情につ
いてです。この会談は、トランプ大統領がツイートで金正恩委員
長に呼びかけ、金委員長がそれに応じて実現したという簡単なも
のではないのです。
 まず、金正恩党委員長が、トランプ大統領に親書を送っていま
す。2019年6月11日、トランプ大統領は親書を受け取った
ことを認め、「美しい内容だった」と述べています。トランプ大
統領の誕生日は6月14日なので、誕生日祝いの親書だったこと
は明らかです。しかし、そこには、当然ではあるが、3度目の米
朝首脳会談の早期実現が要請されていたのです。
 これに対して、トランプ大統領は、今度は金委員長に返信の親
書を送っています。6月23日に北朝鮮国営中央通信社が親書を
受け取ったことを報道しています。内容は、明らかになっていま
せんが、「素晴らしい内容の書簡が盛り込まれていた」という金
委員長のコメントが報じられています。
 問題は、この親書の内容ですが、「6月末日に近くに行くので
会えないか」という誘いをしたことは確かですが、もうひとつ大
事な提案をしていると思われるのです。これについて、述べる前
に、金正恩という国家指導者の資質について、知っておくべきこ
とがあります。
 北朝鮮と韓国、北朝鮮とアメリカ、それぞれの国の規模につい
て、覚えておくと、便利な数値があります。
─────────────────────────────
          北朝鮮    韓国
            1    50
          北朝鮮    米国
            1  1100
─────────────────────────────
 国として比較すると、北朝鮮を1とすると、韓国は50であり
米国は1100になります。北朝鮮にとっては、韓国といえども
50倍の大国であり、米国については何と1100倍。しかし、
金正恩委員長は、若いにもかかわらず、このところ、この2つの
大国を完全に手玉に取っています。その指導者としての能力、力
量、政治的センスは、非常に優れていると考えるべきです。米国
は、金正恩委員長との2回の会談を通じて、それを十分見抜いて
います。「この男とは交渉できるかもしれない」と。
 金委員長は、韓国の文大統領が過去の日韓条約を否定して、元
徴用工問題を持ち出したことについて、不快感を持っているとい
われます。それは、北朝鮮が、いずれやらなければならない日朝
交渉において、日韓条約に基づいて支払われた金額をベースに日
本にカネを要求しようと思っているのに、韓国はそれを否定して
いるからです。彼はよく勉強しており、国際感覚が優れているこ
とがよくわかります。    ──[中国経済の真実/042]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ大統領から金氏への親書/飯田浩司氏
  ───────────────────────────
   北朝鮮の国営朝鮮中央通信は6月23日、トランプ大統領
  が、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に親書を送ったと報じ
  た。金委員長はすばらしい内容だとして満足感を示し、トラ
  ンプ氏の並外れた勇気を評価したとしている。
  飯田:内容については報じられていないなか、その反応だけ
   が報じられています。もともと、去年(2018年)6月
   12日のシンガポールでの首脳会談があり、その1周年で
   まずは、北朝鮮側から、アメリカ側に親書が送られていま
   した。
  須田:それを受けての返書ということだと思います。確かに
   ベトナム、ハノイでの米朝首脳会談はある意味で失敗に終
   わったけれども、だからと言ってトランプ大統領と金委員
   長の個人的な人間関係が悪くなったわけではない。両者の
   関係は、まだ良好な状況を保っていると受け取ってもいい
   のではないでしょうか。「トランプ大統領との個人的な人
   間関係までおかしくなったわけではない」という、北朝鮮
   からのメッセージだと受け止めるべきだと思います。それ
   を前提に考えてみると、イランへの対応を含めて、トラン
   プ外交のやり方がだんだん見えて来た。交渉相手に対して
   限界まで圧力を強め、その上で首脳同士で顔を合わせて話
   し合い、妥協点を探る、あるいはアメリカの要求を飲ませ
   る。力による外交かなと私は思います。
                  https://bit.ly/2XRoHEO
  ───────────────────────────

7月5日/プライムニュース/鈴置高史氏.jpg
7月5日/プライムニュース/鈴置高史氏
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2019年07月08日

●「韓国への輸出規制は報復ではない」(EJ第5042号)

 少し話の流れからは外れますが、G20大阪サミット以後、米
朝、日韓の間で、重要な動きがあり、それらは、いずれも中国に
関係する出来事であるので、それについてしばらく書くことにし
ます。この事実を知ると、現在、テレビに出て、これらの問題に
ついて語るキャスターやコメンテーターのレベルが、いかにひど
いかわかると思います。
 日本と韓国との関係はいまや最悪の状態です。レーダー照射問
題に始って、徴用工に関する最高裁判決の問題、慰安婦財団の解
散など、常識的にはありえないことばかりを韓国は、このところ
ずっとやっています。レーダー照射問題などは、最初は認めてい
たにもかかわらず後で否定し、自衛隊機の異常接近への非難に切
り換えたリ、理解できないことばかりです。
 メディアは報道しませんが、これには明白な理由があります。
文在寅政権になってからの韓国には、実は重大な疑惑があるので
す。疑惑とは何か。それは、ズバリ、北朝鮮に対して、さまざま
な物資を支援していることです。これは明白な国連安全保障理事
会制裁決議違反です。韓国は、いわゆる「瀬取り」を熱心に行っ
ています。その品目は、石炭の輸入や食糧支援だけではなく、日
米などから輸入する戦略物資も含まれていると考えられます。
 現在、「瀬取り」の監視チームは、日本、米国、オーストラリ
ア、ニュージーランド、カナダ、英国、フランスの7ヶ国ですが
どういうわけか、一番力を入れなければならないはずの韓国は参
加していないのです。
 韓国の軍艦からのレーダー照射は、瀬取りの現場を自衛隊機に
発見され、緊急措置として、慌ててやったものです。そうだとす
れば、その後の韓国の支離滅裂な言い訳は理解できます。表沙汰
になったら、韓国にとって大きなダメージになるからです。そう
いう事情は、すべて米国はわかっています。もはや米国は韓国を
一切信用していないはずです。
 このような前提事実に立って、今回の3品目の戦略物資の韓国
への輸出に関する手続きの見直しについて、世耕経産相の発言を
読んでいただきたいのです。
─────────────────────────────
 まず、半導体関連について申し上げたいと思いますが、今回の
見直しは、安全保障を目的に輸出管理を適切に実施するという観
点から、運用を見直すというものであります。一部報道、あるい
は韓国側の反応にあるような、いわゆる対抗措置といったもので
は全くありません。
 輸出管理制度というのは、国際的な信頼関係を土台として構築
されているものであります。韓国との信頼関係の下に輸出管理に
取り組むことが困難になっていることに加えて、韓国に関連する
輸出管理をめぐって不適切な事案が発生したこともありまして、
厳格な制度の運用を行って、万全を期することにいたしました。
見直し内容の詳細については、昨日のプレスリリース及び事務方
から御説明をさせていただいたとおりであります。引き続き、適
切な輸出管理制度の運用を行うため、必要な見直しを行ってまい
りたいというふうに思います。
         ──2019年7月2日、世耕経済産業大臣
                  https://bit.ly/309fGEG
─────────────────────────────
 今回の韓国をホワイト国から外すという日本政府の措置につい
て多くのメディアは、韓国によるレーザー照射や徴用工をめぐる
最高裁判決などへの日本政府の報復措置として報道しています。
それは明らかに違います。今回日本政府が韓国に対して、輸出規
制を強化した戦略物質は、次の3品目です。
─────────────────────────────
 1.   フッカ水素 ・・・    半導体の洗浄に使う
 2.フッ化ポリイミド ・・・    スマホの画面に使う
 3.    レジスト ・・・ 半導体の基板に塗る感光材
─────────────────────────────
 これらの物質はいずれも兵器に転用させることが可能です。だ
から、戦略物資といわれるのです。たとえば、フッカ水素はエッ
チングガス(高純度フッカ水素)といわれ、毒ガスや化学兵器な
どに転用できます。
 7月5日のことですが、この件について、萩生田光一幹事長代
行は、ある放送番組に出演し、次のように述べています。
─────────────────────────────
 今回の対韓国輸出規制措置の背景について、特定の化学物質の
行き先がわからない事案が発見されている。特定の時期にエッチ
ングガスに関連した物品の大量発注が急増した後、その韓国企業
の行方がわからなくなっている。これに関して韓国に問い正して
も、明確な回答が得られない。このような状況に対してわが国と
して措置をとるのは当然である。  ──萩生田光一幹事長代行
                  https://bit.ly/2RWTj2p
─────────────────────────────
 この萩生田幹事長代行の発言が、世耕大臣のいう「韓国に関連
する輸出管理をめぐっての不適切な事案の発生」という抽象的な
言葉の意味を解き明かしてくれます。徴用工問題に対する報復策
ではなく、もっと深刻な問題なのです。要するに、毒ガスなどを
含む兵器に転用できる戦略物質を、韓国は北朝鮮へ流しているの
ではないかという恐るべき疑惑があるのです。
 実は、米国は当然この事実を掴んでおり、今回の日本政府の措
置も米国からの要請があったのではないかといわれています。そ
もそも自衛隊機に慌てて火器管制レーダーを照射したのも、重要
物質の瀬取りの現場を写真に撮られ、動かぬ証拠にされないよう
にするための苦肉の策であったとすると、それ以後の韓国の行動
は十分納得に値するものです。
 韓国としては、あくまで徴用工問題への日本の報復というよう
にしないと、大変なことなってしまうことになります。
              ──[中国経済の真実/041]

≪画像および関連情報≫
 ●韓国への輸出規制の強化措置の狙い
  ───────────────────────────
  A:半導体製造に使われるフッ化ポリイミド、レジスト、エ
   ッチングガス(高純度フッ化水素)の3品目の軍事転用を
   防ぐためで、経産省幹部は詳細は明らかにしないが、「刑
   事告訴するレベルではないが、最近、韓国側に3品目の輸
   出管理をめぐる不適切な事案があった」と説明している。
  A:軍事転用される恐れのある部材については、部材の進化
   や国際情勢のめまぐるしさから国同士で2年に1度は最低
   でも取り扱い方法などを協議する必要がある。だが、20
   16年以降に協議は1度だけで、文在寅政権になってから
   はゼロ。徴用工訴訟や慰安婦問題、自衛隊機への火器管制
   レーダー照射など、文政権が執拗に繰り返す反日的な行動
   に対し、信頼関係が損なわれ、今後も協議ができないと判
   断した。
  A:これまで韓国に輸出する企業に日本政府への個別の輸出
   許可申請を免除する優遇措置を取っていた。原則3年間は
   個別の輸出ごとの申請が不要だったが、4日からは外国為
   替および外国貿易法(外為法)に基づいて、優遇措置をな
   くすことにした。これから個別の出荷ごとに政府への申請
   が必要になる。審査の標準的な期間は90日程度だが、企
   業や品目で違いが出る見込み。禁輸措置ではない。
                  https://bit.ly/2XRK2hn
  ───────────────────────────

世耕経済産業大臣.jpg
世耕経済産業大臣
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2019年07月05日

●「高級黒、低級紅全てダメの習政権」(EJ第5041号)

 一国の指導者に対して失礼な話ですが、中国に関するどの本を
見ても、表現はそれぞれ違うものの、習近平氏は無能であること
を指摘しています。つまり、中国のような大国を率いる指導者と
しては適していないという意味です。
 問題はそういう人がトップになった場合、何が起きるかです。
何よりも自分の地位を奪われることを心配します。とくに優秀な
人間を毛嫌いし、周りには自分に逆らわないイエスマンばかりを
集めるようになります。そして言論を統制します。猜疑心が強く
なり、内部にいる敵を排除しようとします。企業にもこういう上
司は存在しますが、一国のトップということになると、国の浮沈
に関わってきます。
 今から考えると、習近平以前の政権では、言論統制はそんなに
厳しいものではなく、食事などで仲間が集まれば、平気で共産党
の悪口をいっていたものです。しかし、習近平政権では、そうい
うことは絶対に許されなくなったのです。
 ケ小平は、政治体制、官僚組織、軍に関しては、共産党がしっ
かりと指導するが、それ以外のこと、とくに金儲けに関して、一
般市民の蓄財やビジネスに関しては、自由を解放したのです。つ
まり、そんなに息苦しくはなかったのです。しかし習近平政権に
なると事態は一変します。「改毛超ケ」を打ち出したからです。
これについて福島香織氏は次のように解説しています。
─────────────────────────────
 習近平は政権の座に就くと、アンチケ小平路線を打ち出した。
それはいわば「毛沢東のやり方を改造して、ケ小平を超える(改
毛超ケ)」というものでした。要するに、共産党員はみんな規律
正しく、素晴らしい行動をしなくてはならないと、共産党員に対
する言動・行動・思想、その他、日々の生活すべてを党中央がよ
り厳しく統制するようになりました。
 さらに民営企業も国営企業も外資企業も、共産党がきちんと指
導しなくてはならない。株式市場も為替も共産党がコントロール
する。一般庶民の日々生活・娯楽・思想・世論も、すべてきちん
と共産党が指導、コントロールする、となったわけです。
                 ──渡邊哲也/福島香織著
     『中国大自滅/世界から排除される「ウソと略奪」の
                中華帝国の末路』/徳間書店
─────────────────────────────
 言論封殺──これは国家として、絶対にやってはならないこと
です。かつてのソ連、中国、北朝鮮などの共産党国家では、これ
が平然と行われています。習近平政権の場合はそれが極端に徹底
して行われています。「庶民が何か行動を起こすのではないか」
と日々怯えているのです。
 2019年1月に、習近平政権は、次のような通達を出してい
ますが、どういう意味かわかるでしょうか。
─────────────────────────────
 いかなる方式の低級紅や高級黒もやってはならず、党中央に面
従腹背の人間を決して許さず、どちらにもいい顔をする両面派も
許さず、偽忠誠を決して許さない。 ──2019年1月の通達
           ──渡邊哲也/福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 ちんぷんかんぷんです。「低級紅」「高級黒」とは一体何のこ
とでしょうか。
 これは、最近の中国の流行語です。習近平政権のあまりの言論
統制の結果、庶民の批判というか、反発がこめられた言葉である
といえます。正確に書くと、次のようになります。
─────────────────────────────
         高級黒  ガオジーヘイ
         低級紅 ディージーホン
─────────────────────────────
 露骨に政権を褒めて、逆に風刺・皮肉を込めてこき下ろすのが
「高級黒」であり、低級の褒め称え方、いわゆる、ゴマスリのこ
とを「低級紅」といいます。そのどちらもやってはいかんという
のが1月の通達の内容です。これは、異常そのものです。こんな
細かいことまで、中国共産党は「指導」しているのです。
 あまりにも厳しいルールを定められると、それに不満であって
も、一応表面上はしたがう、いわゆる「面従腹背」を人間はとき
としてするものです。、習政権下ではそれもやってはいけない、
さらにあからさまなゴマスリもダメというのです。そんな人間の
行為にまで国家が統制を加えようとしているのです。
 かつての中国は、トップが交代すると、その後すさまじい権力
闘争が起きたのです。ケ小平は、それを身をもって体験してきて
いるので、政権交代のルールを定めたのです。そのルールの最初
の総書記/国家主席は、江択民氏であり、任期の2期10年で、
ルール通りに胡錦濤氏に政権交代が行われています。そこに大き
な権力闘争は起きていないので、ケ小平ルールは、一応成功して
いるといえます。
 このような権力抗争なき政権交代には、もうひとつ良い面があ
ります。それは、総書記/国家主席を務めた長老政治家が一定の
力を保って生き残るという点です。これには良い面と悪い面があ
りますが、現政権が間違った方向に進もうとしたとき、長老たち
のパワーで、コントロールが効くということです。しかし、現政
権が大きな改革をやろうとすると、長老たちの存在は、かえって
邪魔になります。
 習近平氏にとって、長老たちの存在は、邪魔以外の何ものでも
なかったのです。そこで、習近平氏は、かつてのトップには手を
つけないが、トップの手足を削ぐ必要があると考えたのです。そ
こで、就任直後からやったのが「腐敗撲滅運動」です。これを徹
底的に強力に行うことで、習近平氏は、総書記、国家主席に加え
て「核心」の地位まで手に入れることができたのです。権力とし
ては磐石そのものになったのです。
              ──[中国経済の真実/040]

≪画像および関連情報≫
 ●左右両方の言論統制強化〜「天安門」30年控え緊張高まる
  ───────────────────────────
   中国で民主化を志向する右派とマルクス主義に忠実な左派
  の両方の言論に対する統制が強化されている。習近平政権は
  国内経済の落ち込みなどの影響で、社会が動揺する事態を懸
  念。民主化運動が武力弾圧された天安門事件からちょうど、
  30年(6月4日)になるのを前に、政治的緊張が一段と高
  まっているようだ。
   香港メディアなどは3月下旬、中国トップレベルの名門校
  として知られる清華大学(北京)法学院の許章潤教授が停職
  処分となったと報じた。言論規制が厳しい同国でも、主要大
  学教員の処分は異例だ。許教授は昨年夏以降に発表した幾つ
  かの論文で、習近平国家主席の個人崇拝を批判したり、「反
  革命」の暴動鎮圧とされた天安門事件の評価見直しを要求し
  たりした。
   習氏は自分の最高指導者としての権力基盤を固めるため、
  昨年3月の全国人民代表大会(全人代=国会)で憲法を改正
  し、2期10年までとされていた国家主席の任期制限を撤廃
  した。許氏はこれに公然と反対し、改革・開放路線を守り、
  事実上の終身制だった毛沢東の極左路線で、全国が大混乱に
  陥った文化大革命(文革)の再現を防ぐため、国家主席の任
  期制を復活させるべきだと主張していた。また、その後、重
  慶師範大でも文学院副教授だった唐雲氏が「国の名誉を傷つ
  ける言論」を理由に教員資格を剥奪された。授業中に共産党
  もしくは党指導者に批判的な発言があったとみられる。学生
  が当局に密告したという説もある。https://bit.ly/32ijiWS
  ───────────────────────────

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中国ジャーナリスト/福島香織氏
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2019年07月04日

●「米中貿易戦争は価値観の衝突なり」(EJ第5040号)

 中国人民大学の向松祚教授は、米中貿易戦争について、次のよ
うにいっています。
─────────────────────────────
 米中貿易戦争は、貿易戦争でも経済戦争でもない。価値観の
 衝突である。              ──向松祚教授
─────────────────────────────
 価値観とは何でしょうか。
 ここでいう価値観とは、民主や法治、自由、人権など、全ての
先進国が共有している価値観であり、「普遍的価値観」のことで
す。しかし、普遍的価値観は、産業革命以降世界制覇を行った西
欧・米国の価値観であり、そのため、かならずしも「普遍的」で
はなく、世界には多様な価値観があります。
 しかし、中国がWTOに加盟し、自由主義貿易を展開する以上
国際的なルールにしたがう必要があります。WTOに加盟すると
いうことは、それらのルールを守ることが前提だからです。確か
に、はじめのうちこそ中国は、ルールにしたがっていたのです。
それがケ小平の「韜光養晦」の教えです。
 「韜光養晦」(とうこうようかい)は、中華人民共和国の国際
社会に対する態度を示す言葉であり、ケ小平の演説が根拠となっ
ているといわれます。これは、中国のなかでも聞き慣れない言葉
であり、中国人でも説明されないと、その意味を理解できない難
しい言葉です。
 「韜光」の本来の意味は、名声や才覚を覆い隠すことであり、
「養晦」の本来の意味は隠居することを意味します。この2つを
あわせると、爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術という
ことになります。
 習近平氏が政権を引き継いだとき、中国はまだ「韜光養晦」の
考え方を守っていたのです。しかし、習近平主席は現在では「韜
光養晦」の衣をかなぐり捨てています。それが明らかになったの
は、習政権が「中国製造2025」を発表したときです。
 普遍的価値観について、習近平主席は、就任直後の2013年
に「七不講」(チ−ブザン)という通達を大学や地方政府に出し
て、言論統制を行っています。「七不講」とは、口にしてはいけ
ない7つの言葉という意味であり、具体的には次の言葉です。
─────────────────────────────
        1.人類の普遍的価値
        2.報道の自由
        3.公民社会
        4.公民の権利
        5.党の歴史的錯誤
        6.権貴(特権)資産階級
        7.司法の独立
       ──2013年5月18日付、「産経ニュース」
─────────────────────────────
 まず、言葉から封じて行くというのが中国のやり方です。要す
るに、この「七不講」は、西側メディアのいう普遍的価値につい
て、語ってはならないというものです。そのうえで、中華思想を
徹底させようとしているのです。
 「中華」というのは、世界の中心にあって、花が咲き誇ってい
る国という意味です。その周辺には異民族がいますが、中華は中
央にあって、それに優越するものと考えています。そして、周辺
の異民族のことを次のように表現します。
─────────────────────────────
    東夷   (とうい) 中国では日本人も東夷
    南蛮  (なんばん) 日本ではポルトガル人
    西戒 (せいじゅう) 槍を使うのがうまい人
    北夷  (ほくてき) 北方異民族を意味する
─────────────────────────────
 よく考えてみると、「一帯一路」も「米中貿易戦争」も、いま
起きているのは、中国のイデオロギー、中華思想(華夷思想)と
西側の既存のスタンダード、主に米国の思想・価値観とのせめぎ
合い、ヘゲモニーの争いであるといえます。つまり、価値観の衝
突、文明の衝突といってもいいと思います。これについて、福島
香織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 習近平は2018年の秋ぐらいから何かと言うと、「100年
なかった末曽有の大変局に世界が直面している」と、ものすごく
重要なフレーズを繰り返し言っている。つまり、これから世界の
支配者が代わりつつあるところで、その変わっていく新しい秩序
・ルールをつくるのが中国でなければならない。しかもその中国
がつくろうとしているこのルールは、西側の三権分立でも司法独
立でもない。中国共産党の秩序、中国共産党が支配するルールな
んだ、ということを暗に言っているわけです。
                 ──渡邊哲也/福島香織著
     『中国大自滅/世界から排除される「ウソと略奪」の
                中華帝国の末路』/徳間書店
─────────────────────────────
 習近平主席は、世界の支配者が代りつつある現在、その変わっ
ていく世界において、覇権、ヘゲモニーを握るのは中国であり、
そのさい新しい秩序やルールを作るのは、当然中国でなければな
らない──こういっているのです。まさに中華思想です。
 中国がハーグの仲裁裁判所での裁定や、国際法を無視する横暴
極まる振る舞いは、それが過去の時代において、米国を中心とす
る西側諸国が作り上げたルールであって、中国は、そのようなも
のにしたがう必要はないという考え方です。きわめて自分本位の
身勝手な考え方ですが、来るべき新時代において、そのようなル
ールや秩序を作るのは、世界の覇権を握るであろう中国、いや、
中国共産党であって、世界はそれにしたがわなければならなくな
ると恐るべきこといっているのです。
              ──[中国経済の真実/039]

≪画像および関連情報≫
 ●中国人の尊大さ
  ───────────────────────────
  ◎古来、中国人は自らを「華人」と称してきた。「華人」と
   は「文明人」という意味である。「中華」とは世界唯一の
   文明という宣明である。こんな言葉を国名にした国がいっ
   たいどこにあろうか。(谷沢栄一)
  ◎「みなさん、下に見えるのが、偉大なる祖国の首都北京で
   す」。中国の旅客機が北京に近づくと、こんな放送が流れ
   てくる。(上村幸治)
  ◎古来、支那人の中華思想は世界に類例を見ないほど尊大で
   あった。フランスの中華思想は単に欧州の中心という意識
   にとどまるのだが、支那人は昔から支那の統率者とは考え
   ず、宇宙の支配者であると位置づけた。即ち、漢人の文化
   は世界最高の域に達した究極の文明なのである。故に漢の
   文物を生んだ中原の地を取り巻く周辺を僻陬の地と貶価し
   て「南蛮北狄東夷西戎」と呼ぶ。
    「蛮」=蛇の種族、「狄」=犬の種族「夷」=礼儀知ら
   ず「戎」=野蛮人異民族…これらに属する人物の名前を正
   史に記す場合、意識的に汚れを示す文字を当てる。(谷沢
   栄一)
  ◎過去を振り返ってみても、中国という国は、対等のパート
   ナーを持ったことなどありはしない。せいぜい上下関係、
   あるいは他国を併合してしまうことばかりだ。このことを
   我々は肝に銘ずべきだ。(石原慎太郎)
  ◎「中国人は外交の天才だ」と思っているが、それは大きな
   誤解である。実際、中国の外交はだいたい失敗の連続であ
   る。そもそも中国人が外交上手なら、19世紀末から20
   世紀にかけてあれだけ欧米から好き勝手に領土をむしり取
   られたりするわけがない。(日下公人)
                  https://bit.ly/2xsBEGg
  ───────────────────────────

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中華思想の図解
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2019年07月03日

●「ケ小平ルールを守った江・胡政権」(EJ第5039号)

 中国は今後どうなるか。それは、中国のトップである習近平中
国共産党総書記/国家主席の手に委ねられていると思います。習
近平というのはどういう人物であるのか、福島香織氏の本を中心
に探っていくことにします。
 ケ小平による中国のトップの「お墨付き」を得たのは、江沢民
氏と胡錦濤氏の2人です。江沢民氏は、上海市長を務めたことも
ある上海市の実力者で、いわゆる上海閥の代表者です。一方、胡
錦濤氏は、胡燿邦が作った共青団(共産主義青年団)出身の政治
家です。共青団というのは、中国共産党に優秀な若手政治家を補
充するための育成機関です。
 胡燿邦に近く、温厚な性格の秀才であり、トップに就任してか
らは、江沢民前総書記(当時)の外交政策の修正を行い、世界の
さまざまな国との関係を強化することに尽力しています。しかし
一般的には、「これといって目立つ特徴がないのが胡錦濤の最大
の特徴」といわれる人物ですが、やめるときは、すべての役職か
ら退いており、さわやかな印象を与えています。
 江沢民派と胡錦濤派としては、次のトップ(中国共産党総書記
・中国国家主席)を誰にするかについて、当然しのぎを削ること
になります。とくに胡錦濤氏は、共青団としては、北京大学出身
の秀才、李克強氏を次のトップにしたかったのです。しかし、こ
の争いでは、八代元老の習仲勲の息子という血統ブランドを持つ
習近平氏に決まったのです。これについて、福島香織氏は、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 習近平が総書記や国家主席になれたのは、胡綿濤と江沢民の激
しい権力闘争の攻めぎ合いのなかでの双方の妥協の産物でした。
胡錦濤は自分が共産主義青年団という官僚養成組織の出身なので
後輩で極めて優秀な李克強を総書記にしたかったのですが、江沢
民は、それを妨害して自分の派閥(上海閥)の人間を入れたかっ
たのです。ところが激しい権力闘争の結果、上海閥の一番のエー
スは胡錦涛によって失脚させられ、李克強も足を引っ張られて総
書記になれなかった。結果的に、さほど優秀ではないけれど、八
大元老の習仲勲の息子という血統ブランドを持つ、凡庸で小心者
の習近平が生き残ったわけです。
 習近平は江沢民や曾慶紅の長老政治に都合のよい人物として選
ばれ、胡錦濤から見れば、開明派の習仲勲の息子だから、話が通
じるかもしれない、ということでしょう。いずれにしても、双方
が、習近平は政治家としては自分たちより小物であり、どうにで
もコントロールできると思ったのだと思います。──福島香織著
   『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』/ワニブックス
─────────────────────────────
 江沢民氏にしても胡錦濤氏にしても、さほど優秀ではない習近
平氏であれば、たとえトップになっても、十分院政がひけると、
甘く考えていたことは確かです。
 習近平氏がトップに就任する前の話ですが、彼は、時の総書記
であり、国家主席である胡錦濤氏のことを、次のようにいってい
たといわれています。
─────────────────────────────
 茶葉売りの息子が中国共産党の最高指導者になるのは、おかし
なことである。革命によって国を作った中国のトップは、革命家
の子孫から出すべきである。          ──習近平氏
─────────────────────────────
 中国の革命家の子孫は、「紅二代」と呼ばれる、いわば特権階
級です。ちょうど貴族か王族のような存在であり、「太子党(プ
リンス党)」とも呼ばれることもあります。だから、江沢民派と
しては、習近平氏の後見人になるなどして、習近平氏をトップの
座へと押し上げたのです。
 この習近平氏について福島香織氏は、その基本的な性格を次の
ように紹介しています。こういう人物がトップとなって権力を握
ると、それを奪われまいと、独裁者になる可能性が高いのです。
─────────────────────────────
 習近平は、自信がなく、コンプレックスが強く、凡庸で能力も
低い、いじめられっ子体質です。その一方で親の七光りで出世も
早く、周りにちやほやする人も多かったので、自己評価が妙に高
い自信過剰家で、苦言を呈したり、厳しいアドバイスを言ったり
する人に対しては反発し、倣岸不遜な態度をとりがち。コンプレ
ックスが強いのにプライドが高い、しかもマザコンでシスコン、
妻にも尻にしかれて周りの女たちの意見を政治に持ち込んでしま
すという非常に残念″なキャラクターになります。
                ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 ケ小平の考え方に立脚する中国の外交政策は、多くの国との関
係を強化する「多極外交」です。それも、あくまで「外国から学
ぶ姿勢」や「国際スタンダードに寄り添う姿勢」が重要であると
いうのです。江沢民元主席、胡錦濤前主席ともにそういう多極外
交を展開してきています。
 しかし、習近平氏がトップになると、一転して「中華思想」を
持ち出してきたのです。「中華思想」とは何でしょうか。ウィキ
ペディアには、次の解説があります。
─────────────────────────────
 中華思想は、中華の天子が天下(世界)の中心であり、その文
化・思想が神聖なものであると自負する考え方で、漢民族が古く
から持った自民族中心主義の思想。自らを夏、華夏、中国と美称
し、王朝の庇護下とは異なる周辺の辺境の異民族を文化程度の低
い夷狄(蛮族)であるとして卑しむことから華夷思想とも称す。
        ──ウィキペディア https://bit.ly/1LDsSHW ─────────────────────────────
 中国は世界の中心の国──だから、中国というのです。だから
中国の秩序に世界の国は合わせるべきであるというとんでもない
思想なのです。       ──[中国経済の真実/038]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平とは何者なのか(1)/「ニーズウィーク日本語版」
  ───────────────────────────
   「ニューズウィーク日本語版」本誌1月19日号にも書い
  たが、ウィキリークスが年末に公表したアメリカ国務省の外
  交公電に、中国次期トップ習近平の知られざる素顔を暴く証
  言が含まれていた。「無骨な田舎者」「ビジネス感覚に長け
  たリーダー」「外国を敵視する危ない人物」――人となりを
  示す情報やエピソードが少なすぎるせいで、これまで習の素
  顔をめぐっては、チャイナウォッチャーの間でさまざまな憶
  測が飛び交っていたが、この証言は論争に終止符を打つかも
  しれない。それぐらい重要な中身が含まれている。
   公電は駐北京アメリカ大使館から09年11月に発信され
  た。情報源は、アメリカ在住の中国人学者だ。在米中国人の
  情報が北京を経由し、地球を半周して国務省に戻った理由は
  定かでないが、そういった不可解さを差し引いても、この学
  者が語る内容は具体的で生き生きとした習近平のエピソード
  にあふれている。
   公電によれば、学者は習と同じ1953年に生まれた。習
  近平と同じく、父親は新中国の建国に貢献した革命第1世代
  で、毛沢東の出身地である湖南省の別の村で生まれ、初期か
  ら中国革命に参加した。学者の説明によれば、父親は「同時
  に日本と香港でも生活。労働運動のリーダーとして次第に頭
  角を現し、49年に、中国に戻ったあと、初代労働部長(大
  臣)に就任した」のだという。  https://bit.ly/2XjtVtG
  ───────────────────────────

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胡錦濤前主席/江沢民元主席
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2019年07月02日

●「小粒な秀才の集団指導体制の確立」(EJ第5038号)

 6月29日にG20大阪サミットで開催された米中首脳会談は
本質的な議論を何もしないまま、関税第4弾は先送りになり、協
議は再開されることに決まったようです。さらに、5月に輸出を
禁止する「ELリスト」に加えた華為技術(ファーウェイ)との
取引を容認することも伝えられていますが、これも協議を通じて
決めることのようです。決まったのは、米国側の都合で関税第4
弾が一時的に先送りになったというだけのことです。
 毛沢東という人は、経済のことがまるでわかっていない人とい
われています。毛沢東は建国後の1949年、「大躍進」と呼ば
れる計画経済を人民公社を軸に推進します。しかし、この政策は
経済合理性を欠いていたため、数千万人の餓死者を出して、大失
敗に終わります。人民公社というのは、農村における農業の共同
経営を行う経済的主体であると同時に、「村」とか「鎮」などの
地方行政組織でもあったのです。
 1960年代になり、時の劉少奇国家主席とその配下のケ小平
は、人民公社方式を改め、農業などに個人経営の要素を取り入れ
経済の発展を図っています。毛沢東は、大躍進政策の失敗の責任
を取って、国家主席の地位を劉少奇に譲っていたのです。これに
よって、中国経済は少しずつ成長をはじめます。
 これに激怒したのがあくまでも思想にこだわる毛沢東です。毛
沢東は、劉少奇やケ小平らのやっていることを「資本主義の道を
歩むもの」として糾弾し、追放します。そして、以後10年に及
ぶ「文化大革命」が始まったのです。これによって、せっかく少
し持ち直した中国の経済はまた低迷に逆戻りします。
 1970年代に入ると、時の周恩来首相が、失脚して地方に追
いやられていたケ小平を北京に呼び戻し、文革路線の修正をはじ
めたのですが、毛沢東が生存している限り、やれることはどうし
ても限られていたのです。そのとき打ち出したのが、次の「4つ
の近代化」です。
─────────────────────────────
        1.  工業の近代化
        2.  農業の近代化
        3.  国防の近代化
        4.科学技術の近代化
─────────────────────────────
 しかし、1976年にケ小平にとって絶好のチャンスが訪れた
のです。その年の1月に周恩来が、9月に毛沢東が死去したので
す。そこでケ小平は、依然として毛沢東路線を主張する勢力と戦
い、勝利して権力を掌握します。
 そして、1978年からはじめたのが改革開放政策です。これ
によって、中国経済は急速に回復し、中国の4つの近代化が、ス
タートしたのです。しかし、1989年に天安門事件が発生し、
改革開放は一時中断されることになります。天安門事件は、学生
たちによる民主化の高まりという側面がある一方で、その背後に
は権力闘争があることは、既に述べた通りです。
 そこで、ケ小平は考えたのです。それまでの中国の歴史は権力
闘争の歴史であるといえます。それは、きちんとしたルールがな
いことが原因です。そこで作ったのが「ケ小平ルール」です。目
指したのは、「小粒な秀才による集団指導体制」です。
 なぜ、小粒な秀才なのでしょうか。
 これについて、中国に詳しいジャーナリスト、福島香織氏は次
のように解説しています。
─────────────────────────────
 小粒な人間は、一人ですべての責任を負うような決断はできま
せん。ケ小平は、そこで集団指導体制という、小粒ながら、そこ
そこ優秀な人間が7〜11人ぐらいで役割分担して、責任を分け
て国家運営を行うシステムを作り上げました。これを「集団指導
体制」と呼び、その最高指導部が政治局常務委員会です。
 政治局常務委員会に入れば、「刑不上常委」という暗黙の不逮
捕特権が与えられました。これは政治局常務委員の最高指導部内
でお互いを失脚させるような権力闘争を防ぐ狙いがあります。権
力闘争は相手に罪(反革命罪だとか汚職だとか)をかぶせて失脚
させるのが常套手段でした。
 かといってそれで権力闘争が完全になくなるわけではありませ
ん。5年ごとの党大会のときに政治局常務委員会(最高指導部)
メンバーを入れ替えます。このメンバーに誰を入れるか、序列を
どうつけるか、という派閥闘争のような権力闘争は行われてきま
した。ですが政治局常務委員会に入れば、みんなで権力と責任を
分担し合って協力し合うという暗黙の了解ができました。
                      ──福島香織著
   『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』/ワニブックス
─────────────────────────────
 このようなルールに適合する人材がケ小平の周りには2人いた
のです。江沢民氏と胡錦濤氏の2人です。江沢民氏は実の父親が
汪兆銘政府のスパイであり、育ての親が中国共産党革命烈士とい
う複雑な血統を持つ「凡才児(福島氏の表現)」です。ちなみに
汪兆銘政府は、1940年〜45年に存在した中華民国の国民政
府のことです。これに対して、胡錦濤氏は、茶葉の行商売りの息
子で、「勉強ができるだけが取り柄の真面目な秀才(福島氏の表
現)」といわれています。
 いずれも、一人で中国を担えるほどの人物ではないが、集団指
導体制で政治を行えば、十分やっていけるとケ小平は考えたので
す。しかも、政治局常務委員ですから、事実上の不逮捕特権を有
しており、これによって、誰かの足を引っ張ることができにくい
システムになっています。これがケ小平ルールです。
 しかし、それでも長くやると、どうしても腐敗するとして、任
期は「1期5年/2期10年」と制限します。そして、ケ小平は
新制度の最初の10年は江沢民政権、その次の10年は胡錦濤政
権と決めています。ケ小平が決めたのはここまでです。
              ──[中国経済の真実/037]

≪画像および関連情報≫
 ●いずれにしても共産党の一党支配は揺るがない
  ───────────────────────────
   もちろん2人(毛沢東とケ小平)には共通点もある。最も
  重要なことは、中国共産党一党支配を大前提として考え、そ
  れを脅かすものへの強硬な対応である。毛沢東時代はもっぱ
  ら党内権力闘争が中心だった。しかし、ケ小平時代にはさま
  ざまな形で西側の思想や文化が入り込み、民主化を求める動
  きが繰り返し出てきた。1989年の天安門事件が代表例だ
  が、ケ小平は民主化の動きに対しては妥協を許さない対応を
  した。「中国の特色ある社会主義」という言葉はケ小平が提
  起したものだが、この意味するところは、経済分野は改革開
  放路線で西側同様の市場経済を取り入れるが、政治システム
  はあくまでも共産党一党支配を維持し、民主主義的制度は排
  除するという考えだ。
   またケ小平は集団指導体制を取り入れたにもかかわらず、
  表の役職からはずれた後も実質的に最高実力者として権力を
  握り、意思決定の中枢に君臨した。胡耀邦や趙紫陽ら総書記
  を失脚させるなど、人事権も手放さなかった。その点も結果
  的には毛沢東と同じだった。
   では、習近平はどうだろうか。「報告」から浮かび上がる
  のは、ケ小平路線の終焉、あるいは否定という側面と、ある
  種の毛沢東路線への回帰だ。習近平は「党、政、軍、民、学
  の各方面、東・西・南・北・中の全国各地で、党はすべての
  活動を指導する」として、政治、経済、文化と中国社会のあ
  りとあらゆる分野への中国共産党の関与、指導を鮮明に打ち
  出した。専門家の間には「まるで文革時代を思い出させるよ
  うな言い回しだ」という人もいる。https://bit.ly/2Xfi0wY
  ───────────────────────────

トップ交代のルールを決めたケ小平.jpg
トップ交代のルールを決めたケ小平
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2019年07月01日

●「中国に最も貢献した人物とは誰か」(EJ第5037号)

 この原稿は29日の朝書いています。29日は、G20大阪サ
ミットの最終日であり、午前11時頃から、注目の米中首脳会談
が行われます。これに関するコメントは、明日のEJですること
にします。
 6月29日付、朝日新聞の「天声人語」は、中国をテーマにし
て、次のように書き出しています。
─────────────────────────────
 中国は、ひそかに、世界一の座をかけたマラソンに挑み、建国
100年の節目になる2049年までに米国を追い抜こうとして
いる。数年前から折々に聞く「100年マラソン」論である。提
唱したのは米政府の中国専門家マイケル・ピルズビリー氏。4年
前に著した『チャイナ2049』で、野心を巧みに隠しつつ、米
国の弱点を射抜こうとする中国を描いた。米国は油断し、迫る影
にも気づいていないと指摘した。
    ──2019年6月29日付、「天声人語」/朝日新聞
─────────────────────────────
 まさにその通りのことが、いま起きています。米国が、「中国
の迫る影に気が付いた」からこそ、現在米中の衝突が起きている
のです。「100年マラソン」でいえば、今年はちょうど「30
キロの壁」。急な疲れに襲われて米中が衝突し、世界中に緊張が
走っている状態といえます。
 現在の中国を理解するうえで、絶対に抜きにしては語れない人
物がいます。それは次の2人です。
─────────────────────────────
        毛沢東(1893〜1976)
        ケ小平(1904〜1997)
─────────────────────────────
 といっても、ここで中国論をやるつもりはないです。EJが追
及するのは、あくまで現在の中国がこの先どうなるかです。しか
し、それを探るにあたって、この2人について、基本的なことを
知る必要があるのです。
 中国の近代化は、日本と異なり、次の3つの経過をたどってい
るという社会学者の橋爪大三郎氏の指摘です。
─────────────────────────────
     1.スタートまでに多くの時間を要している
     2.すべてを中国共産党が主導していること
     3.欧米の近代化とは異なる独自の道である
─────────────────────────────
 橋爪大三郎氏によると、中国の近代化のスタートが非常に遅れ
た原因は「儒教」にあるというのです。儒教とは、約2500年
前に、中国に生まれた思想家である孔子の思想を基礎にした考え
方です。橋爪大三郎氏は、儒教と中国の関係について、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 中国を解くカギは儒教にある。儒教は、中国の社会構造を規定
し、中国を生きる人びとの意識を規定している。何千年もの時間
をかけて、中国文明の深いところまで儒教は根を下ろした。ゆえ
に、西欧文明のほうがよさそうだと思っても、日本人のようにす
ぐ飛びつくことはできなかった。
 儒教を解体して、中国を近代化のレールに乗せる。その大転換
を果たしたのが、毛沢東である。毛沢東は、中国革命を象徴する
人物だ。中国共産党を率い、旧体制を攻撃し、抗日戦争を戦い、
国民党を打ち倒し、共産党の幹部にも繰り返し牙をむいた。彼の
「革命的ロマン主義」は、しばしば現実から遊離し、中国にとっ
て危険でさえあった。
 儒教を解体するためには、それに代わる思想が、外から来る必
要があった。それがマルクス主義である。マルクス主義は革命の
ための、普遍思想である。毛沢東はそれを、中国化した。毛沢東
は中ソ論争を通じて、マルクス主義の解釈権を握った。中国共産
党は、普遍思想の担い手から、ナショナリズムの担い手に変わっ
た。だから中国共産党は、ソ連の脅威を前に、アメリカと手を結
ぶことができた。          https://bit.ly/2Nm66ga
─────────────────────────────
 ここで大事なのは、毛沢東が、ソ連とのマルクス主義について
の論争を通じてそれを中国化していることです。このマルクス主
義の中国化によって、中国共産党は、ナショナリズムの担い手に
なっています。中国は何かというと「核心的利益」といいますが
これはそこからきていると思います。
 少し脱線しますが、中国人に「死は恐いものではない」という
ことを納得させたのも儒教です。人間を「精神」と「肉体」に分
けると、精神の主宰者は「魂」、肉体の主宰者は「魄(はく)」
になります。「生きている」というのは、「魂」と「「魄」が一
致して融合している状態です。死ぬと、魂と魄が分離して天上と
地下に行く──確かに、この考え方は日本にもあります。儒教は
中国、朝鮮、日本という東アジアに強い影響力を持っているので
す。ただ、それが一番弱いのが日本といえるかもしれません。
 さて、毛沢東の死後、権力の空白を埋めて、外国との良好な関
係を築き、中国を経済超大国に導いたのが、ケ小平です。このケ
小平について、米国の社会学者で、中国と日本を筆頭に東アジア
の研究に従事したのはエズラ・F・ヴォーゲル教授です。ヴォー
ゲル教授は、ケ小平について次のように語っています。
─────────────────────────────
 後世の歴史家が、20世紀半ばからの新中国の歩みをふり返り
もっとも大きな貢献をした人物を一人選ぶとしたら、それは毛沢
東ではなく、ケ小平である。 ──エズラ・F・ヴォーゲル教授
─────────────────────────────
 毛沢東だけだったら、中国は崩壊し、分裂していたと思われま
すが、ケ小平がいたから、現在の経済大国の中国になったのは確
かです。しかし、習近平主席は、いま、そのケ小平イズムを壊そ
うとしています。      ──[中国経済の真実/036]

≪画像および関連情報≫
 ●「疑いのない歴史事実」だけを書いた禁欲的な本
  ───────────────────────────
   1999年から翌年にかけて私(橋爪大次郎氏)は客員研
  究員としてハーバード大学で過ごし、エズラ・ヴォーゲル教
  授の知遇をえた。ヴォーゲル教授はちょうど70歳で退職の
  年にあたり、これからケ小平についての本を書くつもりだ、
  と楽しそうに話していた。
   それは楽しみですね。ヴォーゲル先生しか書けないと思い
  ますよ。そして10年あまり、待ちに待った大作が書店に並
  ぶと、たちまちこの分野では異例のベストセラーとなった。
  中国語にも翻訳されて、大陸、香港、台湾の版を合わせると
  100万部を越えている。
   ヴォーゲル教授の仕事が画期的な点は、いくつもある。第
  一に、信頼できるデータにもとづいた、包括的な研究である
  こと。ケ小平のような近過去の指導者は、公開されない情報
  も多い。ヴォーゲル教授は、公開された文献情報をしらみつ
  ぶしにするのはもちろん、それを補うべく、可能な限り多く
  の関係者(家族や元部下、共産党の幹部、外国の政府首脳な
  ど、ケ小平を直接に知る人びと)をインタヴューして、裏付
  けをとった。特に中国の人びととは通訳なしに、中国語で話
  しあっている。
   第二に、膨大なデータをまとめるのに、社会学の理論を下
  敷きにしていること。ヴォーゲル先生の分析は、パーソンズ
  (著名な社会学者で、ヴォーゲル教授の指導教員だった)を
  思わせますね、と私がコメントすると、わかりますか、彼の
  理論は役に立つんです、と種明かしをしてくれた。
                  https://bit.ly/31WH22p
  ───────────────────────────

毛沢東とケ小平.jpg

毛沢東とケ小平
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2019年06月28日

●「習近平主席とはどのような人物か」(EJ第5036号)

 今後中国はどうなるのでしょうか。現在の中国は、内外に深刻
な“火種”を抱えており、危機的状態にあります。この危機を乗
り越えられるかどうかは、トップである習近平という人物の手腕
にかかっています。それでは、習近平とはどのような人物なので
しょうか。
 中国に詳しいジャーナリストの福島香織氏は、習近平氏につい
て、次のように表現しています。これは、福島氏の著書の小見出
しに出ている表現です。
─────────────────────────────
 高いプライドと強いコンプレックス。小学生レベルの傲岸不
 遜。それが習近平である。        ──福島香織氏
─────────────────────────────
 一国の、それも約14億人のトップに対する評価としては、か
なりひどいものです。トランプ米大統領も似たような評価をされ
たことがありますが、それでもトランプ氏の場合は、実業家とし
て一応成功を収めており、現在の大統領職でも、それが生きてい
る面があります。しかし、習近平氏にはそれがないのです。
 学歴は、精華大学大学院法学課程、法学博士号取得──立派な
学歴であるといえます。しかし、福島氏によると、習近平が入学
した1975年は、中国は文化大革命の最中であり、まともな大
学入試がなかったといいます。カネがあって、毛沢東のコネがあ
れば、誰でも入学でき、法学博士号論文も、代筆であったといわ
れています。
 習近平氏の父親の習仲勲氏は、建国八大元老の一人であるとい
うそれなりの政治家です。福島香織氏は、現在の習近平氏につい
て、次のように述べています。
─────────────────────────────
 「習近平は無能だ、頭が悪い」と言っている人は実はすごく多
いのです。改革派、開明派と呼ばれる知識人や官僚はもちろん、
保守派、左派の重鎮たちからも、私の知るかぎり、どちらからも
能力的な評価は低くみられています。彼を誉めちぎるのは、ヒラ
メ官僚(自分の出世と保身だけに気を使っている習近平の限られ
た取り巻き連中)だけという印象です。    ──福島香織著
   『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』/ワニブックス
─────────────────────────────
 中国の指導者としては、まず、毛沢東が上げられますが、この
人は、大変優れた軍事戦略家です。日中戦争後の国共内戦では、
蒋介石率いる中華民国を台湾に追放し、中国大陸に現在の中国で
ある中華人民共和国の建国を成し遂げた人物です。
 しかし、毛沢東は経済のことはまるでわかっていないのです。
嫉妬深く、権力欲が強いので、彼の生涯は権力闘争に明け暮れた
といっても過言ではありません。しかし、死去するまで同国の最
高指導者の地位にあった人物です。
 この毛沢東とは少しタイプが違いますが、ケ小平も稀代の天才
政治家です。この人は、権力闘争に3度も敗れますが、3度とも
復活するという不屈の精神の持ち主です。この人は経済のことが
よくわかっていて、社会主義国家であるのに、経済特区を設けて
自由主義経済体制を取り入れるという奇想天外な改革開放路線を
推し進めたのです。
 主として米国と日本を訪れ、視察を重ねた結果、中国が科学技
術の面において大きく遅れていることを知り、両国の力を借りて
改革開放に取り組んだのです。この外資導入による輸出志向型工
業化政策は、その後、きわめて大きな成果を収め、やがて現在の
ような中国になるのです。しかし、改革開放といっても、政治体
制だけはそのままのかたちで温存したのです。
 ケ小平のプラグマティズム(功利主義哲学)は、次の2つの言
葉によくあらわれています。
─────────────────────────────
   ◎白猫であれ黒猫であれ、鼠を捕るのが良い猫である
   ◎窓を開けば、新鮮な空気とともにハエも入ってくる
                      ──ケ小平
─────────────────────────────
 そのケ小平にも危機が訪れます。1989年6月4日の天安門
事件です。天安門事件は、中国共産党体制転覆の危機といっても
よいほどの大事件だったのです。ケ小平は、時の優れた政治家で
ある胡燿邦、趙紫陽と一緒に、中国を立て直そうとしたのですが
失敗し、天安門事件が起きてしまいます。これについて、福島香
織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 天安門事件については、学生たちの民主化運動の側面は広く理
解されていますが、実は、ケ小平、胡燿邦、趙紫陽の権力闘争が
背後にあります。最初はこの優秀な三人の政治家がトロイカ(三
頭立て馬車)のように仕事を分担して、国を立て直そうとしてい
たのですが、胡耀邦の人気が非常に高いので、ケ小平と趙紫陽は
嫉妬し、胡を失脚させました。すると今度はケ小平と趙紫陽が対
立することになりました。趙紫陽は学生運動を利用しようとし、
部小平は学生運動を鎮圧したのです。
                ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 ここでケ小平は、文革経験と天安門事件の経験から、中国を治
めるのは、1人に政権を託すのではなく、何人かの集団指導体制
を築く必要があると考えます。そして、才能がとくに優れている
わけではないが、江沢民氏に総書記、国家主席、中央軍事委員会
のトップの権限を与え、「5年2期/10年」という任期を定め
たのです。そして、江沢民政権の後で、後継者争いが起きないよ
う、次の指導者は胡錦濤氏であるとの指名を行っています。
 この流れのなかにおいて、胡錦濤政権の次に、習近平氏にトッ
プの座がまわって来たわけです。しかし、習近平氏は、現在、こ
のケ小平ルールを壊そうとしています。
              ──[中国経済の真実/035]

≪画像および関連情報≫
 ●李登輝が語る「天安門事件」が台湾の民主化に与えた影響
  ───────────────────────────
   天安門事件から30年を迎え、台湾や香港では大規模な追
  悼集会が開かれた。特に台湾は、言論の自由が保障されてい
  ることもあり、台北市内中心部の中正紀念堂で、戦車の前に
  立ちはだかった学生を模したモニュメントが展示されたほど
  である。
   奇しくも天安門事件の発生から9ヶ月後の1990年3月
  台湾でもまた自由や民主化を求める学生運動が起きていた。
  当時の総統は李登輝。これまで何度も書いてきたが、88年
  に蒋経国が急逝して総統職を継いだものの、すぐに権力をふ
  るうことなど不可能な環境だったといえる。周囲は李登輝を
  つかの間の代打と捉えるか、あるいは形ばかりの「ロボット
  総統」に仕立てて背後からコントロールすればよいと考える
  者ばかりだったそうだ。
   また、李登輝自身も「急進的な民主化」は望んでいなかっ
  た。もちろん頭のなかには「人々が枕を高くして安心して寝
  られる社会を実現したい」という青写真があったものの、と
  にもかくにも最優先させたのが、「社会の安定」だったとい
  う。それまでの台湾は戦後40年あまり、良くも悪くも国民
  党による強権統治の支配下にあった。蒋介石から息子の蒋経
  国へとバトンタッチされ、いちおうは国民党が一枚岩となっ
  てこの台湾を統治してきたのである。
                  https://bit.ly/2IQzPcD
  ───────────────────────────

胡燿邦氏と趙紫陽氏.jpg
胡燿邦氏と趙紫陽氏
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2019年06月27日

●「今年はチベット動乱60年である」(EJ第5035号)

 習近平政権になって、強力に推進されている「宗教の中国化」
は、その実態を調べてみると、あるわ、あるわ、5大宗教すべて
において、深刻な問題がたくさんあります。これを一つずつ、て
いねいに書くと、これだけでひとつのテーマになってしまうので
福島香織氏の本にしたがって、チベット(チベット仏教)の現状
についてのみ、述べるにとどめることにします。
 今年、2019年は、1956年から始まった、いわゆる「チ
ベット動乱」がピークに達した1959年3月10日の「ラサ蜂
起」から60年目に当ります。「ラサ蜂起」については次の【A
FP=時事】の記事をご覧ください。
─────────────────────────────
 中国の支配に対して武装蜂起し、ラサのポタラ宮前に集まった
チベット民衆。この日、ダライ・ラマ14世が中国側に拉致され
ると疑ったラサ市民数万人が解放軍と全面対決するに至った。ダ
ライ・ラマ14世はチベットを3月17日脱出した。中国当局は
動乱制圧後、「民主改革」(社会主義化)を推進。65年に自治
区を設立した(チベット・ラサ=当時)
        ──1959年3月10日/【AFP=時事】
                  https://bit.ly/2LbVOfX ─────────────────────────────
 ダライ・ラマ14世は、1935年生まれで、4歳のときに活
仏の転生者として認定されましたが、1959年のチベット動乱
のさい、身の危険を感じて、数万人の民とともにインドに亡命し
ています。おそらく彼は「世界一有名な難民」でしょう。
 チベット動乱では、正確な数字は出ていないものの、解放軍の
鎮圧による犠牲者は、120万人を超えるといわれます。これは
チベット人口の5分の1に該当します。
 習近平政権は、今年がチベット動乱から60年目であることを
警戒し、この3月から4月は、外国人のチベット地域への立ち入
りを制限しました。とくにダライ・ラマ14世の生まれ故郷のタ
クツェル村には、大勢の武装警察が出動し、厳重警戒をしていた
といわれます。
 それに加えて、中国当局は、今年の3月、「チベット民主改革
60周年白書」を発表しました。その内容はこうです。1959
年のチベット動乱は、中国共産党がチベットの人々を農奴制から
解放し、チベット地域の統治権確立を宣言して60年になるが、
中国共産党による「民主改革」は大きな成果を上げている。
 これに関連して、ダライ・ラマ14世は自身の政治的特権を守
るために、チベットの発展を阻害してきた害悪である。しかし、
中国共産党のおかげで、この60年の間に、チベットのGDPは
191倍になっている──こういう内容です。
 これは、中国共産党の立場に立ったときの意見ですが、チベッ
ト動乱以後のチベットについて、福島香織氏は、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 このチベット騒乱の鎮圧以降、ダライ・ラマ14世の中道路線
を求める希望もあり、チベットには大きな抵抗運動は起きていま
せんが、代わりに絶望したチベット仏教の僧侶や尼僧、信者らの
焼身自殺が相次ぎました。
 2018年暮れまでに150人以上が自らを燃やし、中国共産
党によるチベット弾圧の悲劇を世界に訴え続けてきました。です
が、世界的にはチベット問題に対する関心は依然と低く、チベッ
トの状況はますます厳しくなりました。    ──福島香織著
   /『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』ワニブックス
─────────────────────────────
 チベット人は、ウイグル人と違って、政権サイドへの対応はお
となしいように見えますが、これは、ダライ・ラマ14世が説く
「中道路線と非暴力」によるものです。チベット人は、忠実にそ
の教えを守っています。だから、おとなしいのです。
 既にダライ・ラマ14世は、2011年に政治から引退を表明
していますが、現在でも、彼はチベット人の精神的な支えになっ
ているのです。
 しかし、ダライ・ラマ14世は現在84歳、今年に入ってから
も、持病の肺感染症で入院するなど、健康がいまひとつ思わしく
ない。問題はダライ・ラマ14世が亡くなったときが大変です。
チベット人に何が起きるか。これについて、福島香織氏は次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 もし、ダライ・ラマ14世が入寂されたら、残されたチベット
人たちはどうなるのでしょう。私は、ダライ・ラマ14世の入寂
がきっかけで、チベット人たちの忍耐が切れるのではないか、あ
るいはそれを懸念しすぎる習近平政権が、先に今以上に徹底的な
チベット弾圧を展開するのではないか、と心配でなりません。ダ
ライ・ラマ14世は転生しないと宣言していますが、中国はダラ
イ・ラマ15世を自らの手で探し出し、あるいはでっち上げて育
て、チベット仏教そのものを中国化しようと試みるでしょう。
 そのような宗教への冒涜が行われたとき、これまで、おとなし
かったチベット人も立ちあがるかもしれません。チベット人は、
700万人程度と決しておおきな人口ではありませんが、ウイグ
ル人やモンゴル人ら、やはり自治と独立を望む人々が一斉に連動
して蜂起し始めたら、制度疲労を起こしかけている中国共産党体
制の屋台骨が揺らぐかもしれません。
                ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 同じようなことがキリスト教にも仏教にもあります。習近平政
権は、2018年9月にバチカンと司教任命権をめぐる対立に対
して、暫定合意をし、国交回復に動き出す構えを見せていますが
これも「宗教の中国化」の話です。もし、これに失敗すると、中
国分裂も十分起こり得ることになります。
              ──[中国経済の真実/034]

≪画像および関連情報≫
 ●チベット暴動/中国はダライ・ラマ派との「人民戦争」宣言
  ───────────────────────────
  [北京/2008年3月16日/ロイター]中国チベット自
  治区ラサで発生したチベット仏教僧らによる大規模な暴動を
  受け、中国の当局者らは、チベット仏教の最高指導者ダライ
  ・ラマ14世の支持者らとの「人民戦争」を戦うとの姿勢を
  強調した。同暴動をめぐっては、数十人の死者が出ていると
  の情報もある。
   ラサでは14日、けさをまとった者や独立を求めるスロー
  ガンを叫ぶ者が商店を破壊したり、銀行や政府関連の建物を
  攻撃、警官に石や刃物を振りかざしたりして、大規模な暴動
  に発展した。
   16日付のチベット・デーリー紙によると、中国政府当局
  者は15日の会合で「今回の乱闘や破壊、略奪、放火の憂慮
  すべき出来事は、国内外の反動的な分離派勢力が慎重に計画
  したもので、最終目的はチベットの独立だ」と指摘。「分離
  主義に反対し安定を守るため、人民戦争を戦う。こうした勢
  力の悪意ある行為を暴き出し、ダライ派の醜い面を明るみに
  さらけ出す」としている。
   住民らによると、ラサでは16日現在、鎮圧部隊が道路を
  管制した上で住宅を厳重に監視している。今回の暴動につい
  て、中国は少なくとも10人の「罪の無い市民」が、主にデ
  モ参加者の放火による火事で死亡したと発表した。これに対
  し、ラサとつながりの強い外部関係筋は、ロイターに対し、
  犠牲者はそれよりもはるかに多いと指摘。暴動とその後の鎮
  圧行為での被害者の遺体を実際に目の当たりにしたという人
  物の話として、「ある遺体安置所だけでも67体あったそう
  だ」と語った。         https://bit.ly/2IJftC0
  ───────────────────────────

ダライ・ラマ14世.jpg
ダライ・ラマ14世
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2019年06月26日

●「ウイグルを徹底的に弾圧する理由」(EJ第5034号)

 中国は、共産党一党独裁という国家体制を敷いている特殊な国
家です。国内には、多くの不満分子もいることから、国のトップ
である総書記/国家主席は、つねに命の危険にさらされていると
いえます。
 実際に中国の指導者はよく暗殺未遂に遭っています。ケ小平は
7回、胡錦濤元主席は3回遭っていますが、習近平氏は、総書記
になる前に2回、1期目の任期の5年間で10回、2期目に入っ
てからも2回遭っています。合計14回という多さです。
 習近平主席は、とくにウイグル人については、かなりひどいこ
とをやっています。福島香織氏の本によると、ごく最近のことで
すが、次のようなことがあったのです。
─────────────────────────────
 2019年2月5日。中国でいうところの春節″の日、中国
新彊ウイグル自治区グルジャ市(伊寧市)で一つの悲劇が起きて
いました。漢族役人たちが、春節祝いをもって、「貧困少数民族
救済」という建前で、ウイグル家庭に新年のあいさつにきたので
す。その春節のお祝いの品とは、ムスリムにとって禁忌の豚肉と
酒でした。役人たちはあたかも善意を装って、ウイグルの人たち
に豚肉を食べろと強要し、彼らが嫌がるそぶりを見せると、20
17年4月に制定された「脱過激化条例」に違反した、と言って
再教育施設に強制収用するつもりなのです。RFA(ラジオ・フ
リージア)という米国政府系資金が入ったメディアが報じていま
した。            ──福島香織著/ワニブックス
          『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』
─────────────────────────────
 「再教育施設」というのは、正式には、「再教育職業訓練セン
ター」といい、習近平政権2年目の2014年に、新疆地区を中
心に造り始めています。その実態は、職業訓練などではない、思
想の再教育をする強制収容所です。
 問題は、なぜ、新疆地区を中心に造ったのかというと、明確な
理由は分からないものの習近平主席自身が、2014年4月30
日に、ウルムチ南駅での爆破テロに遭っているからです。これに
ついて中国共産党は、ウイグル人全体が、祖国である東トルキス
タンを侵略されたと恨みに思っているせいであるとしています。
そのためウイグル人が持つ民族の思想、伝統、文化を丸ごと破壊
し、再教育をして、中国共産党に忠実な愛国者にしなければなら
ないと考えています。無茶苦茶なことです。
 この再教育職業訓練センターに収容され、奇跡的に生還したオ
ムル・ベカリ氏という人がいます。この人は、新疆ウイグル自治
区の地方都市トルファンで生まれ、民族的にはカザフとウイグル
の混血で、成人後はカザフスタンで国籍を取得したカザフスタン
人です。彼は、ビジネスマンとしてウルムチに出張し、たまたま
両親の住むトルファンに立ち寄ったところ、いきなり武装警察に
よって連行され、再教育職業訓練センターに収容されたのです。
 カザフスタンにいるオムル氏の妻が国連人権委員会に手紙を書
いて救いを求め、カザフスタン大使館からカザフスタン政府にも
訴えたのです。これに人権NGOやメディアも動き、2017年
11月4日にオムル氏はやっと釈放されています。カザフスタン
国籍であったからこそ、釈放されたといえます。
 オムル氏は、現在のウイグルの現状について、ある講演会で次
のように話しています。
─────────────────────────────
 ウイグル問題は、見方によってはシリアの内戦などよりも残酷
です。戦争が起きていれば、世界中の誰もが同情する。でも東ト
ルキスタンは新彊ウイグル自治区として、観光客が普通に訪れる
ことができる一見すると平穏な地域なんです。でも、ウイグル人
は厳しい監視下に置かれ、家族がある日忽然と消えても、収容先
で急死しても、何事もなかったかのような幸せなふりで”日常
を営まねば、今度は自分が収容されかねないという恐怖を抱えて
いるのです。          ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 ウイグル人弾圧は、習近平主席の3大悪代官の筆頭とされる陳
全国氏が、新疆ウイグル自治区の党委員会書記の地位に就いてか
ら一層ひどくなったのです。2016年8月のことです。この陳
全国は、泣いている子供に「陳全国が来るよ」というと、泣きや
むといわれるぐらい悪辣なことを平気でやる人物のようです。
 陳全国書記は、新疆地域を徹底的な監視社会化し、ウイグル人
が何をしているかを管理しています。おびただしい数の監視カメ
ラを設置するだけで満足せず、住民のスマホに追尾機能が付いて
いる「監視アプリ」を強制的にダウンロードさせ、その行動の監
視を始めたのです。それに加えて、12歳〜65歳の全ウイグル
人に対して、DNAや虹彩などの生体情報を含むあらゆる個人情
報を提出させ、スマホのGPSとAI付き監視カメラをリンクさ
せ、個人の行動、言論、人間関係などのすべてを監視することが
出来るようにしたのです。
 したがって、ウイグル人が、日常生活と少しでも違った行動を
すると、すぐに公安が訊問に訪れるといいます。これが、オムル
氏のいう「家族がある日忽然と消えても、収容先で急死しても、
何事もなかったかのような幸せなふりで”日常≠営まねば、今
度は自分が収容されかねない」という言葉の真の意味です。
 陳全国氏の悪辣さはこれに止まらないのです。2016年から
17年にかけて、警察官3万人、警察協力者9万人の大増員を行
い、とんでもないことをはじめたのです。それが、監視のための
「ホームスティー制度」です。
 ホームスティー制度とは、警察協力者が定期的にウイグル家庭
に泊まり込み、行動を監視する制度です。このように、家庭のな
かまで入り込んで、ウイグル人の全行動を把握しているのです。
つまり、ウイグル人のあらゆる「自由」を奪い、国家の監視下に
置いています。こんなことが許されていいのでしょうか。
              ──[中国経済の真実/033]

≪画像および関連情報≫
 ●日本で「ウイグル問題を報じづらい」3つの深刻な理由
  ───────────────────────────
   最近、中国が新疆ウイグル自治区でおこなっている少数民
  族ウイグル人への弾圧問題が、世界でのホットなトピックに
  なっている。国連人種差別撤廃委員会は2018年8月末、
  最大100万人のウイグル人が強制収容所に入れられている
  との指摘を報告。米中両国の政治的対立もあり、最近は米国
  系のメディアを中心に関連報道が続いている。
   トルコ系のウイグル人が多く住む新疆は、チベット・内モ
  ンゴルなどと並び、20世紀なかば以降にやっと中国政府に
  よる直接支配が確立した地域なので、少数民族の間では独立
  や自治獲得を望む意向が強い。
   だが、中国では1989年の六四天安門事件後、国家の引
  き締めのために漢民族中心主義的なナショナリズムが強化さ
  れ、また経済自由化のなかで辺境地帯の資源・都市開発や漢
  民族による移民が進んだ。結果、2010年前後からは追い
  詰められた少数民族による大規模な騒乱が増えた。少数民族
  のなかでも、イスラム教を信仰するウイグル人は、中国共産
  党にとっては「党以外の存在」に忠誠を誓っているように見
  える。彼らは人種や文化習慣の面でも漢民族との隔たりが大
  きく、中央アジアや中東との結びつきも強いことから、他の
  少数民族以上に強い警戒を持たれている。
                  https://bit.ly/2LhwViG
  ───────────────────────────

陳全国新疆ウイグル自治区党委員会書記.jpg
陳全国新疆ウイグル自治区党委員会書記
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2019年06月25日

●「習近平/宗教の中国化をはじめる」(EJ第5033号)

 習近平主席の宗教政策について、中国に詳しいジャーナリスト
福島香織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 習近平の宗教政策は、おそらく歴代中国共産党指導者のなかで
最悪であり、その異常性は習近平の数ある政策のなかでも突出し
ていると思います。             ──福島香織氏
               ──福島香織著/ワニブックス
          『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』
─────────────────────────────
 習近平主席の宗教政策は、2018年4月発行の宗教白書「中
国の宗教信仰の自由を保障する政策と実践白書」にあらわれてい
ます。そこで示されるキーワードは「宗教の中国化」です。
 「宗教の中国化」とは何でしょうか。
 この白書によると、中国には、次の5大宗教があり、その人口
は2億人を超えています。
─────────────────────────────
           1.   仏教
           2.キリスト教
           3.イスラム教
           4. ユダヤ教
           5.ヒンドゥ教
─────────────────────────────
 この「2億」という数字は、中国共産党が認める宗教者数のこ
とです。2億まではコントロールできると考えているのです。中
国には、中国共産党が認める宗教と未公認の宗教がありますが、
未公認の宗教は「邪教」とされ、排除・迫害の対象となっていま
す。「法輪功」は、江沢民主席の命令で「邪教」に指定され、迫
害を受けています。宗教人口の実際の数は不詳ですが、実数はこ
の2倍以上いるといわれています。キリスト教だけでも1億人以
上、仏教は3億人以上いるといわれます。
 中国は、宗教による結束を危険なものと考えています。これが
一定の数を超えると、なかなか解体させるのが困難になります。
そこで、これらの宗教は「国家宗教事務局」が管理してきました
が、2018年4月からこの事務局は、党中央統一戦線部という
組織の傘下に組み入れられています。これは、党中央が直接、宗
教を指導・管理できるようにしたことを意味します。
 これについて、元国家宗教事務局副局長の陳宗栄氏は次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 我が国の宗教の中国化方向を堅持し、統一戦線と宗教資源のパ
ワーを統率して宗教と社会主義社会が相互に適応するように積極
的に指導することを党の宗教基本工作方針として、全面的に貫徹
する。        ──元国家宗教事務局副局長の陳宗栄氏
                ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 党中央統一戦線部とは、正式には「中国共産党中央統一戦線工
作部」といい、中国共産党中央委員会に直属し、中国共産党と党
外各民主党派(中国共産党に協力する衛星政党)との連携を担当
する機構です。チベットや台湾に対する反党勢力への工作を行い
祖国統一を実現することを目的とする部署です。
 この党中央統一戦線部の傘下に国家宗教事務局が入るというこ
とは、祖国統一の工作と、宗教を一体化することを意味していま
す。具体的にいうと、台湾統一問題とカトリック教、チベット問
題とチベット仏教、ウィグル問題とイスラム教をそれぞれ一体で
考えるという発想です。
 つまり、宗教へのコントロールを強化して、それぞれの信者た
ちの思想のパワーを祖国統一へのパワーに結びつける。これこそ
が、中国共産党の任務であるというのです。これが「宗教の中国
化」の考え方です。この宗教の中国化について、福島香織氏は次
のように述べています。
─────────────────────────────
 “宗教の中国化≠ニは、”宗教の中国共産党化″あるいは宗教
の社会主義化″といえるかもしれません。ですが、宗教の社会
主義化など、本来ありえません。宗教を否定しているのがマルク
ス・レーニン主義なのだから。中国共産党規約によれば、中国共
産党員は信仰を持ってはいけないはずです。宗教が社会主義化す
るということは、つまり宗教が宗教でなくなる、ということなの
です。そもそもキリスト教の人道主義と、中国の一党独裁体制の
実情は相反しています。     ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 この「宗教の中国化」の政策のもと、習近平政権下で、激しい
宗教弾圧が始まっています。なかでも異常なほど厳しいのが、イ
スラム教を信仰するウイグル人への弾圧です。その弾圧は、他の
宗教に比べても異常なほど厳しく、残酷なものです。それは、習
近平政権になって強化されています。
 ウイグル人は、中国北西部の新疆ウイグル自治区に住んでいま
す。中国に5つある自治区の1つです。新疆ウイグル自治区は、
カザフスタンなどと国境を接し、希少金属など鉱物資源が豊富と
されています。もと新疆省であり、古来、シルクロードが通じる
交通の要衝であり、もと新疆省、古来、シルクロードが通じる東
西交通の要路、区都はウルムチ、別名、東トルキスタンとも呼ば
れています。新疆とは「新しい土地」という意味です。
 中国は「宗教の中国化」政策の遂行に当って、国際社会からク
レームがこないように、次のメッセージを出しています。
─────────────────────────────
 中国の宗教団体と宗教事務は外国勢力の支配を受けないし、い
かなる方法でも絶対干渉は受けない。中国の宗教は自立し、自主
的原則を堅持するものである。  ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/032]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平、宗教の「中国化」を標榜/上野景文氏
  ───────────────────────────
   欧州ではカトリック教徒数の減少に歯止めがかからない。
  かかる悩みを抱えるローマ・バチカンにとり、人口13億人
  を抱える中国は、信徒数拡大と言う観点から高い魅力を有す
  る。このため、ローマは、中国との関係改善「外交関係復活
  教会関連懸案改善」を目し、かねてより、北京との協議を続
  けて来ている。特に、フランシスコ法王就任後、熱意と協議
  の頻度は高まっている。
   ところが、最近、中国で、法王に「冷水」を浴びせるよう
  な展開があった。すなわち、昨年10月の第19次共産党大
  会における活動報告の中で、習近平総書記は、国政全般にわ
  たり統制色を強める中で、宗教についても、「宗教が社会主
  義社会に適応するよう導く」、「宗教の『中国化』の方向を
  堅持する」と明言――つまり党による宗教への「締めつけ」
  を強めると共に、外国の影響を抑えるということ――して、
  内外宗教関係者を憂欝にさせた。
   以下本稿では、中国カトリック教会に焦点を絞り、同教会
  の「中国化」にこだわる北京と、ローマと中国の教会の間を
  繋ぐ絲を守りたいローマとの間の「せめぎ合い」が、習政権
  下どう展開するか、占う。
   先ず、教会の現状につきおさらいしておこう。中国のカト
  リック教会には、北京政府系の中国カトリック愛国会(CC
  PA)に属し、その管理に服する「公認教会」と、CCPA
  に属さず、あくまでローマ法王に従うことを旨とする「非公
  認教会(地下教会)」の二つの「異質な教会」が併存する。
                  https://bit.ly/2Xvrsvi
  ───────────────────────────

新疆ウイグル自治区.jpg
新疆ウイグル自治区
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2019年06月24日

●「共産党を守るため国民を監視する」(EJ第5032号)

 今回のテーマは、主として経済の面から、現在の中国が持続可
能であるかどうかを検証しようとしています。しかし、経済以外
の面でも、中国の国家体制の維持を脅かすファクターは数多くあ
ります。政変やクーデターが起きたり、中国各地では農民の反乱
や動乱の兆しも漂っています。なかでも深刻なのは、宗教による
対立であり、下手をすると、これが原因で中国は、分裂国家にな
る可能性すらあります。
 「逢九必乱」の続きですが、1999年に「法輪功弾圧」とい
うのがあったのです。「法輪功」というのは、もともと宗教では
なく、気功学習を目的とするクラブ活動のようなもので、共産党
員も多く参加していたのですが、だんだん共産党中央の規制が強
化されるようになります。
 これに対して、法輪功学習者は、1万人が天安門広場に集まり
時の首相である朱容基氏に対し、不当な弾圧をやめるよう平和的
な抗議行動を起こします。朱容基首相は、法輪功学習者の訴えに
一定の理解を示し、当初は、今後の法輪功の活動も認める方針で
あったといいます。
 しかし、当時法輪功の学習者は、中国全土で共産党員を上回る
7000万人といわれ、その数の大きさに怯えた江沢民国家主席
は、法輪功を強引に「邪教」と位置付け、徹底的に弾圧せよと命
令を出したのです。とにかく中国は「数」を恐れるのです。共産
党政権にとって脅威であれば、何でも取り締まるし、それには手
段を選ばないのです。これが1999年です。
 そして、2009年にウイグル騒乱が起こります。広東省で起
きた中国人によるウイグル人の襲撃・殺害事件の真相を求めて、
ウイグル人がウルムチ市でデモを起こしたのです。このデモに対
し、中国の治安部隊が発砲したことから騒乱に発展します。この
とき、国営通信社である新華社も、2000人近い死傷者が出た
と発表しているので、実際にはもっと多くの死傷者が出ているも
のと思われます。天安門事件と同じです。実はこの騒乱も宗教深
く関係するのです。
 そして、今年、2019年です。既に、年の前半だけで、米中
貿易戦争が過熱化し、香港では「逃亡犯条例」を巡り、香港市民
の4分の1が反対を表明するデモが起きています。G20大阪サ
ミットでも米中貿易摩擦が解決するとは思えません。あと6ヶ月
あるので、このあと何が起きても不思議ではないのです。
 中国におけるICTの発達、とくに通信ネットワーク技術の向
上は、中国共産党体制を中国人民から守る目的で発達したもので
あり、動機がおかしいです。なぜ、自国人民を中国政府は警戒す
るのでしょうか。
 自国人民だけではありません。中国を仕事をしている外国人や
観光客にいたるまで、中国の監視システムは働いているのです。
福島香織氏は、記者として中国で仕事をしていたことがあります
が、次のような異常な体験を語っています。
─────────────────────────────
 中国で記者として取材していた時代は、いろいろと不自由なこ
とがありました。たとえば、軍事管制区に近づくと、見知らぬ人
から携帯に電話がかかってきて、「お前は今どこにいるんだ?」
と詰問されたり、人権派弁護士と喫茶店で待ち合わせていると、
斜め後ろにどこかで見たことある顔の、でもどこの誰かははっき
りしないカップルが座っていて聞き耳を立てていたり。
 あるいは友人と普通に電話していて、「南京大虐殺記念館の展
示物はみんな出鱈目だよ」なんて話をしていると、突然電話回線
がジャックされて「嘘を言うな!」と怒鳴られて、一方的に電話
を切断されたこともありました。──福島香織著/ワニブックス
          『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』
─────────────────────────────
 なにしろ、地球規模のレベルで膨大な情報が飛び交うこのネッ
トワークの時代に、中国は、中国共産党にとって都合の悪い情報
をすべて中国の人民から遮断する、いわば「情報の鎖国」を行っ
ていますが、それには、とてつもない膨大な人員と、当方もない
コストがかかっています。それは、中国を訪れる外国人にまで及
んでいます。
 問題は、それが生産性のない、経済にとって何のプラスにもな
らない、膨大な労力であることです。そんなことをしても、テク
ノロジーはどんどん進化し、やがて情報の遮断が不可能になるこ
とは目に見えています。なにしろ中国には、約14億人の人民が
いるのですから。
 既に述べているように、中国の人口は3億人の都市戸籍を持つ
人たちと、3億人の農民工の人たち、それに8億人の昔ながらの
貧農の人たちで成り立っています。全部で14億人です。
 都市戸籍を持つ3億人の人たちは中国共産党員やその親派であ
り、生活も豊かであるので海外にも出られますし、本当の情報が
把握できますが、反政府的な行動を起こさない人たちです。した
がって、中国政府にとって一番怖いのは、農民工と昔ながらの貧
農の8億人が組んで反政府行動を起こすことです。
 そのため、これらの8億人に対してとくに厳重に情報の遮断を
行っています。これに加えて中国の監視体制は徹底しており、街
中に設置されている監視カメラは、顔認証カメラも含めて、その
台数は、2022年までには、27億6000万台に達するとい
われています。つまり、中国人1人につき、2台の監視カメラが
設置される計算になります。途方もない監視社会です。
 そこまでして、中国政府は中国共産党を守ろうとしています。
現在、中国政府が一番警戒しているのは宗教です。なぜなら、宗
教のグループの結束力は非常に強く、どのような弾圧も跳ね返す
からです。とくに習近平主席の宗教政策は、歴代の中国共産党指
導者のなかでも最悪といわれており、その異常性は習近平主席の
数ある政策のなかでも突出しているといわれています。そのキー
ワードは「宗教の中国化」です。
              ──[中国経済の真実/031]

≪画像および関連情報≫
 ●「監視社会」として先進国の先を行く中国
  ───────────────────────────
   頻発するテロ事件や犯罪、災害、事故などを未然に防いだ
  り、被害を小さくしたりするために、ITなどの技術を使っ
  て、都市の安全性や効率性を高める動きが世界で広がってい
  る。こうしたパブリックセーフティー(公共安全)の向上を
  一気に推し進めようしている国の一つが中国だ。
   北京や上海といった大都市は、地方からの人口流入で渋滞
  や大気汚染などが慢性化し、都市機能は、限界に近づいてい
  る。中国政府は内陸部の小都市などの発展を促して大都市の
  問題解決を図るとともに、農村と都市の住民の間にある格差
  を解消しようとしている。テクノロジーを活用した公共安全
  の向上は、大都市の問題解決と小都市のレベルアップの双方
  に役立つ。さらに、インフラへの投資によって経済の活性化
  につなげる狙いだ。
   広東省深せん市や江蘇省南京市、山東省済南市などでは、
  顔認証技術を使い、信号を無視して交差点を渡る歩行者を撮
  影し、大型のディスプレーに映し出す仕組みが登場した。中
  国政府は公共安全の技術を使って、国民のマナー向上にまで
  つなげようと考えているようだ。ここまで来ると監視社会を
  感じさせるが、こうしたことができるのは社会主義国の中国
  だからこそだろうか。中国の信号無視対策はやりすぎだとし
  ても、テロなどの脅威が以前にも増して高まっている以上、
  より安全な都市を作りたいという要望が高まるのは自然な流
  れで、日本を含む民主主義国であっても同様だろう。
                  https://bit.ly/2FrkFJ3
  ───────────────────────────


国民を監視する中国の監視カメラ.jpg
国民を監視する中国の監視カメラ
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2019年06月21日

●「2019年は『逢九必乱』に該当」(EJ第5031号)

 習近平国家主席は、6月末の大阪サミットにおいて、トランプ
米大統領と首脳会談を行うことで合意しています。しかし、これ
までの交渉経緯をみる限り、合意できることはきわめて限られて
います。米国としても中国からのほぼすべての輸入品に高関税を
かける「第4弾」は、米国にとってもダメージが大きく、本心で
はやりたくないのです。
 それに、トランプ大統領は、18日に次期大統領選への出馬を
表明しており、なるべく国内にダメージを与えることはやりたく
ないし、米中交渉が決裂した場合、交渉をうまく取り運べなかっ
た大統領の責任も問われることになります。ところが、中国側か
らの首脳会談の諾否の連絡はなかなか来なかったのです。
 米中貿易交渉の難しさについて、20日付の日本経済新聞は次
のように報道しています。難問山積です。
─────────────────────────────
 米中貿易交渉の行方は世界経済の先行きも大きく左右するが、
主要論点を巡る双方の主張は隔たったままだ。特に産業補助金の
巡る溝は深い。米国が地方政府も含む全国規模での補助金全廃を
求めているのに対し、中国は「経済体制の根幹」にかかわるとし
て撤廃には慎重だ。発動済みの追加関税についても、中国は合意
時全廃するよう求め、一部を残したい米国との歩み寄りは見られ
ない。      ──2019年6月20日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 ところが、中国側は、G20の10日前になって、首脳会談に
応ずると返事をしてきたのです。習主席はなぜ、会談に応じたの
でしょうか。
 中国が米中首脳会談の実施に慎重だったのは、交渉が決裂した
ときに習近平国家主席が受けるダメージの大きさです。それは計
り知れないものがあります。そのため、中国側としては、何か米
中が合意できるカードを持つ必要があります。
 習主席は、トランプ大統領との電話会談のさい、貿易問題にと
どまらず、米中関係の根本的な問題で意見を交わす、拡大会合を
やりたいということで、両国は合意したといいます。そして、中
国側が切って来たのが、北朝鮮カードです。北朝鮮問題は、現在
の中国が対米交渉で主導権がとれる数少ないカードだからです。
本稿執筆時の20日、習主席は北朝鮮を訪問しています。
 中国としては、米中首脳会談にはアタマを痛めていたのです。
会談を行わなければ、「中国は逃げた」といわれるし、実施して
決裂すれば、習政権へのダメージが増幅します。しかし、このよ
うな拡大会合であれば、中国側は貿易問題で一切譲らなくても、
他の問題での合意ができれば、会談自体が決裂という結果にはな
らないわけです。
 なぜ、中国が慎重なのかというと、中国には「逢九必乱」とい
う言葉があり、末尾が「9」の年は、中国という国全体を揺るが
しかねない「必乱の年」になりかねないからです。福島香織氏の
最近著の冒頭に説明があったので、ご紹介することにします。
─────────────────────────────
     1919年 ・・・ 五四運動
     1949年 ・・・ 中国建国
     1959年 ・・・ チベット動乱ピーク
     1969年 ・・・ 珍宝島事件
     1979年 ・・・ 中越戦争
     1989年 ・・・ 天安門事件
     1999年 ・・・ 法輪功弾圧
     2009年 ・・・ ウィグル騒乱
               ──福島香織著/ワニブックス
          『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』
─────────────────────────────
 1919年の「五四運動」というのは、第一次世界大戦が終り
1919年のパリ講和会議で、西欧列強が山東半島の権益につい
て、日本の主張を擁護する側にまわったことに憤激し、同年5月
4日、北京大学の学生デモを皮切りに、反日運動が中国全土に拡
大したことをいいます。
 この五四運動がきっかけになって、1021年に中国共産党が
誕生することになります。そして、1949年に中華人民共和国
が建国されます。国共内戦が激化し、国民党政府は台湾に追い出
され、翌年から血みどろの反革命鎮圧、土地改革が行われ、多く
の国民党関係者や地主が殺害されたといわれます。
 1959年にはチベット動乱が起きています。中国共産党政府
によるチベット統治・支配に対し、民主改革や社会主義改造の強
要などをきっかけに1956年に動乱が起き、1959年に頂点
に達します。これがチベット動乱です。この動乱によって、ダラ
イ・ラマ14世はインドに亡命することになったのです。
 1969年に中ソ国境紛争が起きます。中国とソ連の国境にな
っているウスリー川上の珍宝島の領有をめぐって中ソ国境警備隊
同士が衝突したのです。これが珍宝島事件です。あわや中ソ全面
戦争に発展するかという危機に直面したのです。
 1979年には中越戦争が起きています。ケ小平は、文化大革
命でガタガタになった軍隊を立て直すため、米国との戦争で疲弊
しているベトナムに攻め込みます。相手がベトナムなら絶対に負
けないと考えたからです。
 ところが人民解放軍の弱いこと、60万人の1割の死傷者を出
す惨敗を喫したのです。ケ小平は、「無駄な兵士がだぶついてい
る」として、人民解放軍の100万人削減を断行します。もちろ
ん、国内的には「ベトナムに勝利」ということで、敗戦を隠して
いることは、この国ではいうまでもないことです。
 そして、1989年は天安門事件が起きています。中国人民に
よる民主化を求めるはじめての本格的デモです。そう、天安門事
件も末尾が「9」の年に起きているのです。ここまで一致すると
偶然とは思えなくなります。天安門事件以降については、来週取
り上げます。        ──[中国経済の真実/030]

≪画像および関連情報≫
 ●中国「逢八必災、逢九必乱」の法則/澁谷司氏
  ───────────────────────────
   中国では、「末尾が8の年」には必ず災害が起き、「末尾
  が9の年」には必ず動乱が起きるという言い伝えがある。こ
  れが本当かどうか、順番が逆だが、まず、後者(「末尾が9
  の年」)から検証してみよう。
   1949年には、中国共産党が国民党を大陸から追い出し
  政権を樹立した。1959年にはチベットで動乱が起きた。
  そして、ダライ・ラマ14世がインドへ亡命している。19
  69年には、「中ソ国境紛争」が勃発した。1979年には
  ケ小平がカンボジアに政治介入したベトナムを“懲罰”する
  として、「中越戦争」を起こしている。
   1989年には、中国共産党は「民主化」運動を弾圧し、
  「六・四天安門事件」が起きた。その後、中国の「民主化」
  は後退している。
   1999年には、法輪功修練者が、天安門広場で静座して
  中国共産党に抗議を行った。そこで、江沢民政権は「610
  弁公室」を立ち上げ、法輪功を邪教として弾圧を開始してい
  る。2009年には、新疆・ウイグルで「7・5事件」が起
  きた。確かに、1959年以降、これらの事件は全て中国共
  産党政権を揺るがす大事件だったと言えるだろう。今年(2
  019年)は、その年に当たる。おそらく、習近平政権は、
  ピリピリしているに違いない。  https://bit.ly/2WUEiPw
  ───────────────────────────

習近平国家主席の訪朝を伝える労働新聞/北朝鮮.jpg
習近平国家主席の訪朝を伝える労働新聞/北朝鮮
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2019年06月20日

●「林長官の事実上の『廃案』の宣言」(EJ第5030号)

 6月18日、「逃亡犯条例」改正案反対を訴えるデモは200
万人という空前の規模に達し、林鄭月娥香港行政長官は再び会見
を開き、謝罪しましたが、あくまで「無期限延期」を主張し、最
後まで「撤回」を口にしませんでした。林長官としては、自分の
意思で、撤回も辞任もできないのです。なぜなら、この改正案を
プッシュしたのは、中国政府であるからです。
 しかし、これ以上、改正案をゴリ押しすることは、中国政府は
今のところ考えていないと思われます。それは、林行政長官と記
者とのやりとりによくあらわれています。
─────────────────────────────
 記者:なぜ、「撤回」ではなく、「無期限の延期」なのか。
 長官:改正案の審理はもはや困難であり、事実上の「廃案」
    と同じである。
 記者:そこまでいうなら、なぜ「撤回」と明言できないか。
 長官:言葉の問題はもう繰り返したくない。どうか理解して
    ほしい。
─────────────────────────────
 改正案に対する抗議の声は経済界を巻き込み、デモの規模は中
国側の予想をはるかに超えるものだったからです。それに加えて
6月末には習主席も出席するG20大阪サミットがあり、中国政
府としては、香港騒動が争点化するのを避けるため、早期に幕引
きを急ぐ必要があったのです。したがってこの改正案は「事実上
の廃案」です。林行政長官は、中国政府のパペット(操り人形)
であり、これ以上の発言に踏みこむことはできないのです。
 それにしても、なぜこの時期に香港政府は、「逃亡犯条例」改
正案をゴリ押ししようとしたのでしょうか。
 中国政府に政策提言をする研究機関の研究員は、この改正案に
ついて次のように述べています。
─────────────────────────────
 中央政府は、香港が反体制派の基地になることを警戒し、国家
国家安全上の「穴」をふさごうとした。
           ──2019年6月19日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 この林鄭月娥という人物は、第1次習近平政権で香港を主管す
る中国政府の最高機関である「中央香港マカオ工作協調小組」の
当時トップの張徳江氏が推して、2017年3月に任命し、7月
に就任させたのです。張徳江氏は、当時中国共産党序列第3位の
大物です。
 もともと香港マカオ工作は、江沢民元国家主席派の曾慶江元国
家副主席が担ってきたのですが、習近平政権になって、張徳江氏
が引き継ぎ、現在の第2次習近平政権では、韓正筆頭副首相(序
列7位)がその地位にあります。林長官の「事実上の廃案」宣言
は、韓正副首相が出させたものと考えられます。
 しかし、習近平氏は、もともと江沢民派に属していたのですが
習近平氏は権力を握ると、態度を豹変させます。いわゆる「トラ
もハエも」の掛け声とともに、腐敗防止運動と称して、江沢民一
派の利権や資産を根こそぎ奪取し、江沢民派の幹部らを汚職で逮
捕・摘発してきているだけに、香港とマカオは習近平政権にとっ
て「危険地帯」になっているのです。
 したがって、今や権力絶大の習近平国家主席でも、最大限の警
戒レベルをひかないと、香港入りできないのです。習近平主席は
2017年6月に香港入りしていますが、保安当局や警察当局は
安全保障レベルでは最高級の「反テロ厳戒態勢」をとり、加えて
中国本土からも事前に人民解放軍や武装警察が大量投入されて警
戒にあたったのです。習主席は暗殺に怯えているのです。
 香港がこういう状況であるため、外国人も含む反習近平政権勢
力が、中国本土で反政府行為を行い、香港に逃げ込むケースが多
くなっており、香港マカオが反政権の基地になりつつあります。
そこで、それらの逃亡犯を逮捕し、中国政府に引き渡せるように
する「逃亡犯条例」の改正案を、何としても早期に成立させよう
としたのです。
 「逃亡犯条例」が成立すると、別に逃亡犯でなくても香港で逮
捕・起訴された犯罪人についても、何らかの理由をでっち上げて
中国政府に引き渡し、中国の裁判にかけることができることにな
ります。これは「一国二制度」であるのに、事実上香港も中国と
同じになってしまうのです。つまり、今回の改正案は「香港を香
港でなくする」ものといえます。
 それにしても上述のように今回の香港デモの規模は、中国政府
の予想をはるかに超えるものです。200万人というと、香港市
民の4分の1が参加したことになり、習近平政権にとって大きな
衝撃です。改正案の無期限延期は、事実上これに屈してしまった
ことを意味し、政権にとっては大打撃といえます。しかもデモは
まだ収まっていないのです。中国政府は、これをどのようにして
収めるつもりなのでしょうか。
 中国政府は、水面下で香港の経済界などへ説得工作を行い、デ
モの収束を図ると思われますが、それでデモが収まる保障は何も
ありません。彼らは、林行政長官の辞任も求めているので、デモ
を収めるのは容易なことではないといえます。
 この香港デモの収拾に失敗すると、同じ一国二制度を提案して
いる台湾問題に大きな影響を与えることになり、今年の秋に行わ
れる台湾総統選挙にも大きな影響を与えることになります。習近
平政権にとってアタマの痛い問題です。
 6月18日、トランプ米大統領は、28日〜29日に行われる
G20大阪サミットで、米中首脳会談を行うことになったことを
ツイートしています。ポンペオ米国務長官は、この国際会議の場
で香港問題を正式議題として取り上げると宣言していましたが、
首脳会談が行われることで、それはなくなると思われます。取り
引きをしたのでしょう。いずれにせよ、今回の香港デモは、習近
平政権の足元を揺さぶる大問題になっています。
              ──[中国経済の真実/029]

≪画像および関連情報≫
 ●米中首脳、G20で会談へ 電話協議で合意
  ───────────────────────────
   【ワシントン=鳳山太成、北京=原田逸策】トランプ米大統
  領は18日、中国の習近平国家主席と電話協議をし、28〜
  29日に大阪で開く20ヶ国・地域首脳会議(G20サミッ
  ト)に合わせて会談することで合意したと明らかにした。米
  中両政府の代表者で事前協議を始めるとも述べた。5月以降
  の対立激化で途絶えていた米中交渉が再開する見通しだが、
  妥協点を見いだせるかは不透明だ。
   トランプ氏はツイッターで「広範囲な会合を開く」と指摘
  し、貿易問題だけでなく、対北朝鮮外交を含む幅広い議題を
  扱う方針を示唆した。中国国営中央テレビも18日、米中が
  首脳会談の開催で合意したと伝えた。習氏は電話協議で「米
  中は対等に対話し、問題を解決すべきだ」と中国の主権への
  配慮を求めた。「米国が中国企業を公平に扱うことを望む」
  とも語り、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)へ
  の米制裁解除も暗に要請した。
   トランプ米政権は制裁関税の対象をほぼすべての中国製品
  に広げる「第4弾」の準備を進めている。トランプ氏は米中
  首脳会談の結果を踏まえて、発動の是非を判断する構えだ。
  中国の産業補助金の扱いなどを巡る意見の隔たりは大きく、
  貿易戦争に歯止めがかかるかは予断を許さない。トランプ氏
  と習氏は2018年12月の首脳会談で貿易問題の打開策を
  探る方針で一致した。   https://s.nikkei.com/2FfDrmf
  ───────────────────────────
G20大阪サミットで米中首脳会談開催で合意.jpg
G20大阪サミットで米中首脳会談開催で合意

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月19日

●「香港大規模デモについての3疑問」(EJ第5029号)

 「逃亡犯条例」改正案について、林鄭月娥香港行政長官は「先
送り」を表明しましたが、これについて、日経ビジネスの池田信
太朗氏は、次の「3つの疑問」を上げ、解説を行っているので、
EJスタイルでご紹介します。
─────────────────────────────
   第1の疑問:審議延期ということは「再開」するのか
   第2の疑問:今回の延期判断は中国政府の意向なのか
   第3の疑問:今後デモはどうなるのか、継続するのか
         ──池田信太朗氏 https://bit.ly/2KkW6kS ─────────────────────────────
 第1の疑問「審議延期ということは『再開』するのか」につい
て考えます。
 林鄭月娥長官は、この改正案は、北京政府から指示されたもの
ではなく、あくまで香港政府としての判断であることを強調して
います。そのためか、長官は撤回はせず、「期限を定めず、延期
する」と発表。混乱を招いたのは「説明不足」としており、この
文脈から考えると、再現の可能性は十分あります。
 しかし、池田氏は、2003年の「香港基本法第23条」条例
(EJ第5028号で解説)の頓挫に言及しています。2003
年のときも「撤回」ではなく、「延期」だったのですが、その後
この条例案は審議されていないことを指摘し、「延期」という言
葉で香港政府のメンツを保ち、現時点では、事実上の「廃案」に
なっています。
 第2の疑問「今回の延期判断は中国政府の意向なのか」につい
て考えます。
 林鄭月娥長官は、「香港政府の判断を北京政府は尊重してくれ
た」といっていますが、これを額面通りに受け取る人は少ないと
思います。なぜなら、今回の改正案は一国二制度の根幹にかかわ
る改正だからです。もしこれが成立すると、香港は中国本土と変
わらなくなる、つまり、香港が香港でなくなるぐらい重要な条例
になります。「逃亡犯条例」は、政治犯を対象にしていないと香
港政府はいっていますが、そんなことは、銅鑼湾書店の関係者の
失踪事件をはじめ、中国政府の強面(こわもて)を知る香港市民
は、香港政府のバックには中国共産党がいることを信じて疑う人
は誰もいないのです。
 池田信太朗氏によると、今回の延期の決定の前に、林鄭月娥長
官は深センに飛び、そこに滞在する共産党最高指導部で香港政策
を担当する韓正副首相と会談しているとの情報があり、複数の現
地紙がその事実を報道しています。会見では、記者から「韓正副
首相と会談したのか」と質問されていますが、長官は否定せず、
回答を拒否しています。そして、林鄭月娥長官は、「これは中国
にいわれてやっているのではない。香港政府の考え方である」と
の主張を繰り返したのです。
 それでは、中国政府は、なぜ、延期を容認したのでしょうか。
 それは、あまりにも時期が悪過ぎるからです。現在、中国は、
米国と貿易戦争の真っ最中であり、しかも6月末には、習近平主
席も出席するG20大阪サミットがあります。もしデモで死傷者
が多数出る事態になったら、中国は国際社会から非難を浴びてし
まいます。そこで事態の収拾を図ったものとおもわれます。
 今回の問題を受けて米国はさらに中国に圧力を加えようとして
います。米国は現在、「香港政策法」に基づいて、関税や投資で
香港を優遇していますが、上下両院の超党派議員は、同法の見直
しを視野に、香港の「高度な自治」に関する検証を毎年、米国務
省に義務づける法案を提出しています。
 第3の疑問「今後デモはどうなるのか、継続するのか」につい
て考えます。
 この原稿は、6月16日の夜に書いていますが、既に香港では
黒が基調の服を着た大勢の若者たちが大規模なデモを始めていま
す。今回のデモは、前回のデモの103万人を大幅に超えそうな
勢いです。デモは、香港政府が、「延期」ではなく、法案の「撤
回」を宣言するまで続くはずです。それにこの事態を招き、大勢
の負傷者を出した林鄭月娥長官の辞任も要求しています。デモは
200万人を超える、とんでもない規模になりつつあります。
 デモの様子を伝える毎日新聞の動画をご紹介します。デモは、
16日午後9時現在(日本時間)、まだ続いています。
─────────────────────────────
 ◎香港で再び大規模デモ 政府に「逃亡犯条例」改正の撤回
  要求(毎日新聞動画)     https://bit.ly/2WKRx50
─────────────────────────────
 これら3つの疑問の総括として、日経ビジネスの池田信太朗氏
は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 今回のデモが異例の規模に発展したのは、64集会(天安門事
件への反対集会)などと異なり、政治的に強い「反中」意識を持
っている人たちだけでなく、香港が当たり前に享受してきた安全
と自由が脅かされることに危機感を持った市井の人たちも参加し
たからだ。今後も政府に対して強硬な要求を続ける勢力はデモを
継続する可能性が高いが、そうでない人たちの参加は減っていく
と思われる。
 今後の争点は、デモの主宰者に対する「処分」だ。雨傘革命の
首謀者たちは逮捕、起訴され、一部が入獄した。ただし、雨傘革
命については政府は強硬な姿勢を崩さず、デモの要求は退けられ
た。今回は会見で、行政長官が遺憾の意を表明し、改正案の審議
を延期するというアクションを取った。政府が誤りを認めたから
デモ活動は不問に付すのか、それとも道路占拠や破壊などの不法
行為について粛々と処罰するのか。どこまで強面(こわもて)の
処分を下すかに、中国政府の怒りの強さが表れてくるだろう。
           池田信太朗氏/https://bit.ly/2KkW6kS
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/028]

≪画像および関連情報≫
 ●【解説】 なぜ香港でデモが? 知っておくべき背景
  ───────────────────────────
   香港で市民が立法会(議会)や主要道路をふさぎ、抗議デ
  モを行っている。警察はこれに催涙ガスやゴム弾で対応して
  いる。この抗議活動は表面上、犯罪容疑者の中国本土への引
  き渡しを認める「逃亡犯条例」の改正案に反対するものだ。
  だが、そこには改正案以上の理由がある。何が起きているの
  かを知るには、数々の重要な、中には数十年前から始まって
  いる文脈を見ていく必要がある。
   思い出して欲しいのは、香港が他の中国の都市と大きく違
  う場所だということだ。これを理解するには、歴史を振り返
  る必要がある。香港はかつて、150年以上にわたってイギ
  リスの植民地だった。香港島は1842年のアヘン戦争後に
  イギリス領となり、その後、イギリスは当時の清朝政府から
  「新界」と呼ばれる残りの地域を99年間租借した。
   それからの香港は活気ある貿易港となり、1950年代に
  は製造業のハブとして経済成長を遂げた。また、中国本土の
  政局不安や貧困、迫害などを逃れた人たちが香港に移り住む
  ようになった。
   99年の返還期限が迫った1980年代前半、イギリスと
  中国政府は香港の将来について協議を始める。中国の共産党
  政府は返還後の香港は中国の法律に従うべきだと主張した。
  両国は1984年に、「一国二制度」の下に香港が1997
  年に中国に返還されることで合意した。香港は中国の一部に
  なるものの、返還から50年は「外交と国防問題以外では高
  い自治性を維持する」ことになった。
                  https://bit.ly/31Agynf
  ───────────────────────────

2019年6月16日の香港デモ.jpg
2019年6月16日の香港デモ

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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