2019年04月16日

●「米国は宇宙では中国に遅れている」(EJ第4989号)

 遠藤誉氏の本を読むと、こと量子暗号通信関連の技術では、米
国は中国に大差をつけられているように感じます。中国は、既に
どんなことをクリアしているか、以下にまとめておきます。
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 ◎2011年
  ・中国とオーストリアで「大陸間量子通信強力協定」締結
 ◎2016年 8月16日
  ・世界初の量子通信衛星「墨子号」打ち上げ成功
 ◎2016年
  ・潘建偉研究室が10個の光子ビットと10個の超電導量
   子ビットのもつれを実現/2つとも世界初、世界記録
 ◎2017年 5月 4日
  ・世界初の光量子コンピュータ中国が開発に成功
 ◎2018年 7月 3日
  ・18個の光量子ビットのもつれに成功。「もつれ数の世
   界記録」更新
 ◎2018年 9月29日
  ・「墨子号」が大陸間量子暗号通信に成功。量子暗号を用
   いた中国、オーストリア間の世界初の大陸横断ビデオ会
   議を実施
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 量子研究の進化のキーになるのは、量子コンピュータがいつ開
発されたかです。中国は、2017年5月4日に開発に成功した
と発表していますが、コンピュータの仕様などの詳細は、まった
く不明です。
 米国はどうかというと、カナダのベンチャー企業の開発による
「Dウェーブ・システム(以下、Dウェーブ)」という名の量子
コンピュータを2013年に、軍需産業を支えるロッキード・マ
ーチン社と米国航空宇宙局(NASA)が購入して使っているの
です。中国の開発成功よりも4年も前のことであり、米国がそれ
ほど遅れているようには見えないのです。なお、量子コンピュー
タの分野では、日本もがんばっており、既に量子コンピュータは
実用レベルに入っています。
 しかし、中国は、量子通信衛星「墨子号」を2016年8月に
打ち上げており、これについては米国は大きく遅れを取っている
といえます。中国は、かなり緻密な計画の下に、人材と資金を注
ぎ込み、着実に成功させています。
 そして、何よりも決定的に米国に明確な差をつけたと世界に思
わせたのは、2019年1月3日の次の記事です。
─────────────────────────────
 ◎中国探査機、世界初の月裏側着陸
 【北京=共同】中国国営の中央テレビによると、中国の無人探
査機「嫦娥4号」が3日午前(日本時間同)、世界で初めて月の
裏側への軟着陸に成功した。着陸後に撮影した画像の地球への送
信にも成功した。今後、鉱物資源などを調査する。習近平指導部
は「宇宙強国」の地位確立に向けた取り組みを加速する。
 嫦娥4号は昨年12月8日に打ち上げられた。「嫦娥」は中国
の月に住む伝説の仙女の名。地形や中性子線などの月面環境を観
測するほか、地質も調査する。月は常に同じ面が地球に向いてい
るため、裏側は地球から見えない。中国メディアによると、裏側
は表側より起伏が大きいなど環境が異なるため、新たな科学的成
果が期待できる。  ──2019年1月3日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 量子暗号衛星による量子暗号通信の成功に加えて、世界初の中
国探査機の月の裏側への着陸です。これには、米国の科学技術陣
と軍事当局は相当の衝撃を受けているはずです。
 地球から月の裏側に通信を送っても、月自体が遮蔽物になって
電波は届かないのです。1968年に、アポロ8号の宇宙飛行士
が始めて月の周りを飛行したとき、短時間ではありますが、地球
との通信が途絶えています。
 そのため、アンテナの役割をする衛星を打ち上げる必要がある
のですが、その衛星は月の周りのある1点に固定させなければな
らないので、その位置に正確に打ち上げるのはかなり至難の業な
のです。中国はその中継衛星「鵲橋(じゃっきょう)号」を20
18年5月に打ち上げに成功しています。
 これについて遠藤誉氏はウェブサイト上で、次のように説明し
ています。
─────────────────────────────
 アンテナの役割をする中継通信衛星は、月の周りの1点に固定
していなければならないが、中国はピンポイント的に、力の作用
がゼロになって動かない「ラグランジュ点」に焦点を当てて打ち
当てた。月の裏側に行くことよりも、実は、このラグランジュ点
にピンポイント的に衛星を打ち当てて、「宇宙で固定しておくこ
と」の方が遥かに困難だ。(中略)
 アメリカの科学者が「是非とも、中継通信衛星・鵲橋号を使わ
せてほしい」と申し出てきた。「アメリカも月の裏側に着陸した
いが、中継通信衛星を打ち上げることが困難なので、中国が利用
し終わっても、どうか回収しないでアメリカに使わせてほしい」
というのが、その科学者の申し出の内容だ。「中国は喜んで承諾
した」と、中国工程院の院士で中国月探査総設計師(リーダー)
の呉偉仁氏が述べている。これは、まずいではないか。
                  https://bit.ly/2Ueaz2x ─────────────────────────────
 これはどのように考えても、米国は、少なくとも宇宙において
は中国に完全に遅れているといわざるを得ない状況です。やはり
米国に昔日の面影はなく、あらゆるところに劣化が表面化してい
るといっても過言ではない状況です。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/070]

≪画像および関連情報≫
 ●ただの着陸ではない ── 中国が世界を震撼させたワケ
  ───────────────────────────
   地球から月への数週間の飛行の後、中国は無人探査機「嫦
  娥4号(じょうが4号)」を月面に着陸させた。だが、着陸
  地点はどこでも良かったわけではない。中国は自動車サイズ
  の着陸船と探査車を月の裏側に着陸させた──人類が過去上
  空からしか観測したことのない未知の場所だ。
   中国の偉業には世界中から祝福が寄せられた。宇宙探査に
  関心を持つ人はもちろん、NASAの高官からも。嫦娥4号
  は、月の成り立ちの謎を解明する手がかりを探り、地球から
  数十光年離れた場所から届く電波をスキャンし、氷が堆積し
  ている場所を探す。「アメリカの宇宙計画は常に世界をリー
  ドしてきた。中国による月面着陸は、紛れもなく科学的な成
  果」と引退したNASAの宇宙飛行士マーク・ケリー氏は、
  1月4日(現地時間)、ツイートした。
   さらに同氏は、中国のミッションは「政治のレベルを超え
  て、宇宙開発を進める必要があることを思い出させてもくれ
  た」と付け加えた。また、「世界は我々を置いてけぼりにし
  ている」と述べた──「我々」とはアメリカのことだ。ケリ
  ー氏は極めて愛国的な宇宙飛行士として知られ、宇宙開発に
  ついて熱心に発言している。また、中国は宇宙探査において
  世界中を打ち負かす存在になると考えているのは同氏だけで
  はない。「ただの着陸ではない」とオーストラリアの宇宙飛
  行士アラン・ダフィ氏は着陸の後、ワシントンポストに語っ
  た。              https://bit.ly/2PafkJz
  ───────────────────────────

月面を探査する玉兎号.jpg

月面を探査する玉兎号
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2019年04月15日

●「中国/量子もつれ個数の世界記録」(EJ第4988号)

 ここで中国とオーストリア間で、量子通信衛星「墨子号」を介
して実施されたとされる「量子暗号通信」のメカニズムを確認し
ておくことにします。
 量子通信衛星が発信するのは「量子暗号」です。この量子暗号
は「0」と「1」が重ね合わされた状態──いわゆる「量子のも
つれ」の状態で発信されます。
 既に述べているように、原子の先の量子の世界では、「0」と
「1」の他に、「0」と「1」の両方の状態を取ることができる
のです。この「量子のもつれ」を暗号の「鍵」として使うのが量
子暗号通信です。
 さて、宇宙空間を回っている墨子号から「量子のもつれ」の状
態で量子暗号が発信され、この暗号を使って地球上のAという地
点と、Bという地点で通信が行われたとします。この場合、もし
この通信がハッキングされたとすると、量子のもつれは破綻して
通信できなくなります。通信中のA地点とB地点もハッキングに
気がつくので、別の量子(光子ともいう)のペアが発信され、通
信を続けることができます。
 量子暗号通信衛星は、詳しいことは不明ですが、おそらく複数
の量子(光子)のペアを発信し、その1つのペアが「鍵」として
選択され通信しますが、ハッキングされると自動的に別の「鍵」
が選択され、通信をシームレスに続けることができるのではない
かと考えられます。この中国とオーストリアの量子暗号通信につ
いて、遠藤誉氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 2017年9月29日、中国科学院の白春礼院長とオーストリ
ア科学アカデミーのツァイリンガ一院長は、量子暗号を用いた世
界初の大陸横断ビデオ会議を行った。地上と衛星との間で量子暗
号を用いた世界初の大陸横断ビデオ会議を行った。地上と衛星と
の間で、量子暗号を用いて量子通信をしただけでなく、地上にお
ける大陸間横断を実施したわけだ。
 実験において、墨子号は河北省興隆市とオーストリア・グラー
ツの地上基地で、衛星地上間量子「鍵」配送を実施した。指令制
御衛星を中継とし、興隆地上基地とグラーツ地上基地間の鍵共有
を実現した。
 実験中の鍵共有量は、約800キロバイト。鍵共有に基づき、
ワンタイムパッドの暗号化を採用し、共同チームは北京とウィー
ンの間でも画像暗号化伝送を行った。共同チームは高級暗号化標
準「AES−128」と結びつけ、シードを1秒毎に更新し、北
京からウィーンに至る暗号化動画通信システムを構築した。さら
にこれを利用し、75分間にわたる中国科学院とオーストリア科
学院の大陸間量子機密ビデオ会議を行った。両国のアカデミーの
院長が、史上初めての量子暗号を用いた機密会議を行ったのであ
る。 ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 これによると、量子暗号通信をするには、複数の量子(光子)
のもつれを作り出す必要があります。この技術は絶望的に難しい
といわれています。
 ここにもう一人のキーマンが登場します。それは、1982年
に中国の浙江省で生まれた陸朝陽という人物です。また37歳と
いう若さですが、「量子の父」といわれる潘建偉氏の弟子であり
「量子の鬼才」と呼ばれています。
 陸朝陽氏は、中国科技大学物理学系に入学し、2004年に卒
業することになっていたのですが、偶然オーストリアから帰国し
た潘建偉教授の話を聞き、魅了されてしまったといいます。彼は
迷うことなく、マイクロ・スケール物理科学国家実験室量子物理
・量子情報研究科の修士課程に進み、潘建偉研究室で光子のもつ
れと量子コンピュータの研究に従事しています。
 2011年には、英国の奨学金を得て、ケンブリッジ大学のキ
ャンペンディッシュ研究所で博士学位を取得し、同時にケンブリ
ッジ大学チャーチル学院のフェローに選ばれています。その確率
は1%という難関を突破してのフェロー就任です。
 この陸朝陽氏を含む潘建偉チームは、この絶望的に困難な技術
の突破口を開くのです。これについて2018年7月3日の「人
民日報」は、次のように伝えています。
─────────────────────────────
 複数の粒子もつれの操作は、量子計算が超越できない技術的難
題として、世界の競争の中心になっている。播建偉のチームは、
2016年末に、10個の光子ビットと10個の超伝導量子ビッ
トのもつれを実現し、この2つの「世界記録」を更新し維持して
きた。長年にわたる模索と技術の難関突破により、研究チームは
18個の光量子ビットのもつれの実験と厳格な複数体もつれの検
証を実現し、すべての物理体系におけるもつれ数の世界記録を更
新した。同成果は大スケール・高効率量子情報技術に応用可能で
あり、同時に中国が世界の複数体もつれの研究をけん引し続けて
いることの証となっている。
          ──2018年7月3日付、「人民日報」
─────────────────────────────
 これによると、中国は既に18個の光量子ビットのもつれを作
り出すことに成功しているのです。それは、6つの光子の次の3
つの自由度を調節することで、世界ではじめて、18個の光量子
ビットのもつれの作り出しに成功し、すべての物理体系における
「もつれ数の世界記録」を達成しているのです。
─────────────────────────────
        1.         偏光
        2.ルート(光の進む経路)
        3.     軌道角運動量
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/069]

≪画像および関連情報≫
 ●「量子のもつれ」が相対論を脅かす/「日経サイエンス」
  ───────────────────────────
   私たちが経験から知っているように,この宇宙で私たちが
  直接に影響を及ぼすことのできる物体は直接触れているもの
  だけだ。しかし量子力学によると、「量子もつれ」という性
  質がもたらす遠隔作用が存在し、2つの粒子が何の媒介もな
  しに同期して振る舞う。この非局所効果は単に直観に反して
  いるだけではない。アインシュタインの特殊相対性理論に深
  刻な問題を投げかけ,物理学の根底を揺るがす。
   量子もつれとなる特性はいろいろある。例えば,それぞれ
  の自転の向きがはっきり決まっていないにもかかわらず,反
  対向きに自転していることは確実な2個の粒子がありうる。
  量子もつれは,粒子がどこに存在するかによらず,粒子が何
  であるかによらず,互いにどんな力を及ぼし合っているかに
  よらずに,2つの粒子を関連づける。原理的には,銀河の両
  サイドに遠く離れた電子と中性子が量子もつれになっている
  例も考えられる。
   一方で、子もつれは「非局所性」という非常に気味悪く
  徹底的に直観に反する現象を引き起こす。対象に触れず、そ
  こまでつながったどんな実体の連鎖にも触れることなく、物
  理的影響が及ぶ可能性が生じるのだ。
   非局所性の最大の問題は,その圧倒的な奇妙さを別とする
  と、特殊相対性理論に重大な脅威をもたらすという点だ。こ
  こ数年で,この昔からの問題がついに物理学の真剣な議論の
  対象となった。議論の行方によって,物理学の基盤は最終的
  には崩れるか,歪められるか,再創造されるか,確固たるも
  のになるか,あるいは腐敗のタネがまかれることになるだろ
  う。              https://bit.ly/2KCPFKZ
  ───────────────────────────
 ●添付フィル解説 https://bit.ly/2v5srmd

箱の中の猫.jpg

 箱の中の猫 
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2019年04月12日

●「中国経済は量子研究に耐えうるか」(EJ第4987号)

 問題は、量子暗号通信の分野で、中国は本当に米国を追い越し
たのかどうかということです。遠藤誉氏は、2016年8月16
日付の「ウォールストリート・ジャーナル」の次の記事を取り上
げています。この記事のタイトルは、なかなか含蓄あるものだっ
たのです。
─────────────────────────────
China's Latest Leap Forward Isn't Just Great─It's Quantum
   「中国の最近の「大躍進」は、まさに偉大なんじゃないか
    ──それは量子だ」   https://on.wsj.com/2Ub64Wu
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 「Great Leap Forward」とは、1958年から1961年にか
けて毛沢東が展開した「大躍進政策」のことです。毛沢東が、党
内の右派との抗争に勝利し、党内の主導権を獲得した高揚感から
「核武装をはじめ、経済的にアメリカ合衆国やイギリスを15年
以内に追い越す」と宣言して実施した農業と工業の大増産政が大
躍進政策です。
 この大躍進政策は、現実を無視した滅茶苦茶な手法によって行
われ、多数の人民を処刑死・拷問死させるなど、権力闘争のため
に中国国内で大混乱が起き、3000万人の餓死者を生むという
悲惨な結果を招いたのです。つまり、「大躍進=大失敗」だった
のです。ウォールストリート・ジャーナルの記事は、この大躍進
政策の失敗を念頭に置き、「過去の大躍進は失敗だったが、最近
の『大躍進』は、まさに本物の『グレイト』じゃないか」と書い
ているのです。そして「それは『クォンタム(量子)だ」と締め
くくっています。
 遠藤氏は、このウォールストリート・ジャーナルの記事をまと
めていますが、そのなかから米国のサイバー・セキュリティ機関
「ニュー・アメリカ」のフェローの発言を引用します。
─────────────────────────────
 「この分野における中国の投資は、米国のサイバー能力の恐怖
によって一部動かされている」と、サイバーセキュリティに特化
した「ニュー・アメリカ」のフェロー、ジョン・コステロ氏は言
っている。彼は同時に「アメリカが中国のネットワークに深く入
り込んでいる」という2013年の暴露を指摘してもいる(著者
注:スノーデンのことを指しているのか?)。彼はまた、アメリ
カの研究機関が、現在セキュア通信用に世界中で使われているベ
ースの暗号化を打ち砕くことが理論的に可能な、強力な量子コン
ピュータの 構築方法を、中国が研究していると指摘した。「中
国が電子的スパイ活動が可能になるところまで成長していること
を危倶している」と、コステロ氏は述べている。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 中国は、量子暗号の研究において、はるか先を走っている米国
になぜ追いつくことができたのでしょうか。
 それは「人材戦略」の成果であることは確かですが、それに伴
い、研究開発費も非常に伸びています。遠藤氏の本には、主要国
の研究開発費の推移と2024年までの予測値が出ているので、
それを添付ファイルにしてあります。
 中国が「千人計画」を始めたのは2008年のことですが、そ
の時点の中国の研究開発費は、日本とほぼ同じ規模であり、EU
28ヶ国や米国とは、大きく離されていたのです。しかし、そこ
から、中国の研究開発費は劇的に上昇し、2013年には、EU
28ヶ国と並び、2015年には、中国の研究開発費は米国に次
いで世界第2位になっている──このように国連のユネスコは述
べています。
 そして、2018年には中国は米国と並び、2019年には米
国を追い抜き、「中国製造2025」の到達年度である2025
年には中国の研究開発費は米国をはるかに上回る規模になると予
測しているのです。
 ただ、中国の経済が今後もそれに耐えられるかどうかについて
は疑問があります。米国は、中国の動きには気が付いていて、警
戒を深めており、経済がかぎを握ると考えています。そのため、
オバマ政権の後半からトランプ政権にかけて、中国との経済にお
ける対立を強めています。ボルトン大統領補佐官は、次のように
いっています。
─────────────────────────────
 中国とは、エンゲージメントを放棄せず、コンテインメントを
維持していく。          ──ボルトン大統領補佐官
─────────────────────────────
 「コンテインメント」とは何でしょうか。
 コンテインメントとは「封じ込める」という意味です。中国と
は、「エンゲージメントは放棄せず、コンテインメントを維持す
る」とは、交渉は粘り強く行うが、経済的に封じ込めるという高
等戦略を意味するのです。
 本来、コンテインメントは、第2次世界大戦後に米国が共産主
義の非共産主義諸国への浸透を防ぐためにアメリカ合衆国がとっ
た政策を意味しています。それをトランプ政権は、これまでのと
ころ、非常に巧妙にコンテインメントを行っているといえます。
 日本の航空自衛隊のF35Aが墜落しましたが、これは誠に深
刻な事態です。日本はF35(A、B、C)を大量導入して、日
本の空の守りを固めようとしています。しかし、中国の軍の関係
者はそれを嘲笑っているそうです。なぜなら、F35はステルス
性が最大の売りの一つですが、中国の量子研究が進み、「量子レ
ーダー」が開発されると、F35は裸にされてしまうからです。
F35のステルス性は、あくまで現在のレーダーを前提としてお
り、量子レーダーの下では、全く役に立たないからです。「量子
を制する者、世界を制す」は本当のことなのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/068]

≪画像および関連情報≫
 ●1年で集積度が驚異的に向上した量子コンピュータ
  ───────────────────────────
   「量子コンピュータ」とは、量子力学の原理を情報処理に
  積極的に利用したコンピュータである。従来のコンピュータ
  (以下「古典コンピュータ」と呼ぶ)における情報の最小単
  位は0と1、すなわち「ビット」である。一方、量子コンピ
  ュータでは、0と1、0と1の重ね合わせ状態である「量子
  ビット」が情報処理の基本単位だ。もし300量子ビットの
  量子コンピュータが存在すれば、2300(2の300乗)
  の重ね合わせが実現できる。この数字は、宇宙を構成する全
  原子数2261個よりも大きいという、天文学的に膨大な数
  である。量子コンピュータにおいては、この重ね合わせ状態
  に対して並列に情報処理を行う。その後、干渉効果を利用し
  て答えが得られる確率を巧みに増幅して、答えを読み出す。
   したがって、量子ビット数が1つ増えると並列度は2倍、
  量子ビットがn個増えると並列度は2n倍、というように、
  指数関数的に増大する。一方古典コンピュータは「32ビッ
  トから64ビット」のようにビット数が2倍になると表現で
  きる情報量が2倍になるだけで並列度は増大しない。このよ
  うにビット(量子ビット)数と性能の関係が、量子コンピュ
  ータと古典コンピュータでは大きく異なる点に注意してほし
  い。それでは、量子コンピュータは、古典コンピュータの性
  能を圧倒的に上回る「夢のコンピュータ」なのだろうか?
   実は、そう言い切ってしまうのはあまり正確ではない。古
  典コンピュータに対して量子コンピュータが指数関数的に高
  速になることが証明されている数学的問題はわずか60個程
  度である。           https://bit.ly/2v1d1iW
   ───────────────────────

研究開発費の推移(予測).jpg

研究開発費の推移(予測)
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2019年04月11日

●「量子暗号通信米国も負けていない」(EJ第4986号)

 ナチス・ドイツの暗号マシン「エニグマ」は、ポーランドのレ
イフェスキがヒントを提供し、英国の天才的暗号解読者、アラン
・チューリングが解読に成功したといわれています。実際にアラ
ン・チューリングがどのようにして「エニグマ」を解読したかに
ついては映画になっています。
─────────────────────────────
 『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』
             監督:モルティン・ティルドゥム
         出演:ベネディクト・カンバーバッチほか
                2015年3月13日公開
─────────────────────────────
 アラン・チューリングとは何者でしょうか。
 チューリングは、想像の世界で現代のコンピュータの前駆的マ
シンを作った人物です。そのマシンは「チューリング・マシン」
と呼ばれ、大変有名です。科学ライターの竹内薫氏の独特の筆致
で、チューリングマシンの基本的仕組みをご紹介します。
─────────────────────────────
 凄い機械なのだ(想像の産物やけど)。だが、構造はシンプル
だ。なんせ、チューリング・マシンには、たった3つの部品しか
ない。テープとヘッドと本体だ。まず1つ目は、書き換え可能な
テープ。このテープは「均等なマス目が1列に並んでいるような
もの」である。テープの長さは無限だ(想像の機械やからね)。
テープには、入力/出力データが書き込まれる。2つ目はテープ
に接するヘッド。ヘッドはテープの1マス分の大きさで、「マス
に書かれた情報を読み取ること」と「マスに情報を書き込むこと
/消去すること」ができる。さらにヘッドはテープの1を左右に
1マスずつ動くことができる。3つ目は、ヘッドと情報をやりと
りする本体。本体には、プログラムを格納でき、プログラムが実
行されている状況を一時的に記憶できる。ここでのプログラムは
状態遷移関数を並べたものだ。  ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/ Google、NASA で実用が
        始まった“夢の計算機”』/PHP新書987
─────────────────────────────
 竹内薫氏がいうように、チューリング・マシンは「想像上のマ
シン」であり、チューリングは、実際に機械を作ろうとしたわけ
ではないのです。チューリングは、『計算可能な数について』と
いう数学の論文のなかで、人間の論理思考を「機械」に喩えよう
としたのです。これは、現在のコンピューターの基本的なアーキ
テクチャーを決める、生物学でいうところのDNAの構造を確定
するような理論だったのです。
 前記の映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者
の秘密』では、「エニグマ」を解読するために、電気と歯車で動
く機械を組み立てて、その日のエニグマの設定を見つけ出そうと
悪戦苦闘する姿が描かれています。私は、現時点でこの映画を見
ておりませんが、時間のある時に観てみたいと考えています。
 ついでに述べておくと、英国軍が暗号解読にやっきになってい
たころ、アメリカでは大砲の弾道計算表をつくるために高速計算
機「ENIAC」が開発されたのです。これは世界初のコンピュ
ータといわれていますが、これは現在のコンピュータのように2
進数ではなく、10進数で作られていたのです。
 アラン・チューリングは、こういう天才にありがちな精神的な
葛藤から、青酸カリを飲んで自殺してしまうのです。1954年
のことです。遠藤誉氏も、このチューリングについて、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 このナチスの暗号を解読した功労者の一人に、イギリスのアラ
ン・マシスン・チューリング(1912年6月23日〜54年6
月7日)という暗号解読者がいる。彼がいなかったら、果たして
ドイツを敗北に追いやることができたか否かも怪しいほど、彼の
功績は大きい。(中略)
 もし、チューリングが生きていれば、量子暗号に関して中国と
オーストリアが協力体制に入ることもなかっただろうし、戦後の
国際社会の中で、かつてのあの大英帝国の威光を失ってイギリス
が没落していくことも、もしかしたら、なかったかもしれない。
アメリカ一国が強国となって、世界のトップに立つこともなく、
暗号を牛耳った者が世界を制するという原則に従って、中国をこ
のように「のさばらせなかった」かもしれないのである。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 欧米や日本は、早い段階から、中国を遥かに上回る高度なレベ
ルの通信技術を持っていたのに、なぜここにきて中国に抜かれて
しまったのでしょうか。
 これについてはこのあと検証しますが、2018年10月26
日、注目すべきニュースが入ってきています。
─────────────────────────────
 アメリカ東海岸に設置された全長800キロに及ぶ未使用の光
ケーブル(ダーク・ファイバー)が本格的な商用量子暗号ネット
ワークとして活用される。計画では今年中に最初の顧客を受け入
れるという。これにより量子暗号化によって暗号鍵を交換する商
用サービスがアメリカで初めて運用されることになる。(中略)
 量子暗号化を利用したネットワークというのは新しいコンセプ
トではない。しかしテクノロジーの発達と現行の暗号システムに
対する攻撃が繰り返され、安全性に懸念が生じていることの双方
の理由から最近急速に注目を集めるようになっている。これは量
子力学の理論と光子を利用して暗号鍵を交換する通信だ。理想的
な状態では傍受により量子状態が変化するため、中間での盗聴が
不可能となる。           https://tcrn.ch/2Iu2CEp
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/067]

≪画像および関連情報≫
 ●AIではなく、量子コンピュータが我々の将来を決める
  ───────────────────────────
   「量子(quantum)」 という言葉は、20世紀後半になっ
  て他の一般的な形容詞では表せない、何かとても重要なもの
  を識別するための表現手段となった。例えば「Quantum Leap
  (量子の跳躍)」は劇的な進歩のことを意味する(スコット
  主演の、90年代初頭のテレビシリーズのタイトルでもある
  が)。もっとも、それは面白いとしても不正確な定義だ。し
  かし、「量子」を「コンピューティング」について使うとき
  我々がまさに劇的な進歩の時代に入ったことを表す。
   量子コンピューティングは、原子と亜原子レベルで、エネ
  ルギーと物質の性質を説明する量子論の原理に基づいた技術
  だ。重ね合わせや量子もつれといった理解するのが難しい量
  子力学的な現象の存在によって成立する。
   アーウィン・シュレディンガーの有名な1930年代の思
  考実験は、同時に死んでいて、かつ生きているという一匹の
  猫を題材にしたもので、それによって、「重ね合わせ」とい
  うものの明らかな不条理を浮き彫りにすることを意図してい
  た。重ね合わせとは、量子系は、観察、あるいは計測される
  まで、同時に複数の異なる状態で存在できるという原理だ。
  今日の量子コンピュータは数十キュービット(量子ビット)
  を備えていて、まさに、その原理を利用している。各キュー
  ビットは、計測されるまでは0と1の間の重ね合わせの中に
  存在している(つまり、0または1になる可能性がいずれも
  ゼロではない)。キュービットの開発は、膨大な量のデータ
  を処理し、以前には不可能だったレベルの計算効率を達成す
  ることを意味している。それこそが、量子コンピューティン
  グに渇望されている潜在能力なのだ。
                  https://bit.ly/2U5qL65
  ───────────────────────────

映画「イミテーション・ゲーム」.jpg
映画「イミテーション・ゲーム」
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2019年04月10日

「エニグマはどうして解読されたか」●(EJ第4985号)

 戦争に暗号は不可欠なものです。日本の暗号「パープル暗号」
は、太平洋戦争が始まる前から、米国に解読されていたというお
粗末さでしたが、日本とともに連合軍と戦ったナチスドイツの暗
号「エニグマ」は、当時世界で最も強力な暗号であり、連合軍側
はなかなか解けず、悩み抜いたといわれます。
 この「エニグマ」によって、ドイツの潜水艦「Uボート」は、
連合軍側の商船を次々と沈め、数万人の生命を奪い、北米からの
物質や兵員を運ぶ重要な補給ルートを遮断したのです。
 「エニグマ」の仕組みについて、ここで詳しく説明するつもり
はありませんが、「エニグマ」の強みは、当日しか使えない「日
鍵」を使うことにあります。オペレータは「日鍵」のコードブッ
クに基づき、毎日機械の設定を調整し、暗号の配列や規則性を変
更していたのです。「エニグマ」は、添付ファイルの写真を見て
いただくとして、どのように操作するか、そのイメージは「エニ
グマ」について書かれた次の文章を読んでください。
─────────────────────────────
 キーボードで「P」のキーを叩くと、対応する電気信号が生じ
それぞれ26本のワイヤーが仕込まれている3枚のローターを経
由してランプボードまで流れる。
 この時ランプボード側で点灯するのは「J」という文字かもし
れない。そしてもう一度「P」のキーを叩くと、一番目のロータ
ーが回転して、配線が組み替わり、電気の流れる経路が変わるた
め、今度は同じ「P」のキーを叩いても、ランプボードで点灯す
るのは「F」のような別の文字になる。
 それぞれ回転するローターが3つあるため、例えばユーザーが
繰り返し「P」のキーを叩いた場合、エニグマが生成するランダ
ムな文字列は、1万9500キーストローク以上にならないと繰
り返さないものになる。そして1941年にドイツ海軍がUボー
ト用のエニグマに4つめのローターを加えたことで、ランダムな
文字列の長さは約45万7000キーストロークに増加した。
 そして、オペレーターから見て、キーボードの手前にあるのが
プラグボードだ。このプラグボードのおかげでエニグマのランダ
ムさがさらに増しているが、これは元々ドイツ軍の兵站に関わる
問題に対処するために考えられたものだった。
                  https://bit.ly/2YW4pHQ
─────────────────────────────
 しかし、「エニグマ」は、相当難航したものの、連合軍側は解
読に成功しているのです。ただし、解読したことは極秘にされた
ので、ドイツは最後まで「エニグマ」を使い続けたのです。それ
は、日本でも同じです。
 それでは、一体どのようにして、「エニグマ」を解読したので
しょうか。「エニグマ」の解読には、次の2つの説があります。
─────────────────────────────
    1.ポーランドのレイフェスキによる解読成功
    2.Uポートの捕獲成功による仕組み解読成功
─────────────────────────────
 「1」について説明します。
 1つの説は、この解読困難な暗号を解読したのが、ポーランド
の暗号解読班「ビュロ・シフロフ」に所属する、若き天才暗号解
読者・レイフェスキであるというものです。
 レイフェスキは、大量の暗号文を元に文字と文字のつながりの
法則を見つけ出し、1京通りある暗号パターンを105456通
りにまで削減することに成功したのです。この105456通り
の暗号文をパターン化して一覧表を作成し、その一覧表をデータ
ベースにして、スクランブラーの設定17576通りを総当たり
にチェックする装置を制作したのです。これにより、毎日変化す
るプラグボードの設定さえわかれば、当日の暗号は全て解読でき
るようになったのです。
 しかし、ナチスドイツはさらに「エニグマ」を複雑にしてきた
のです。こうなると、レイフェスキの作った解読装置では、処理
が困難になります。そこで、ポーランドは、同じ連合国である英
国やフランスの暗号解読機関にこれまでの成果を提供して協力を
求めたのです。
 英国では、やはり「エニグマ」を解読しようと大量の数学者、
科学者を集めていたのです。そのなかには、全英チェスチャンピ
オン、古典学者、美術オタク、焼き物の名人、クロスワードパズ
ルのマニア、トランプの名人など多彩な人物がいたのです。
 そのなかに、後にコンピュータの原型ともいえる「チューリン
グマシン」を開発したアラン・チューリングもいたのです。そし
て「エニグマ」は、彼らの手によってすべて解読され、その後、
間もなくドイツは降伏することになります。
 「2」について説明します。
 アメリカ軍のダニエル・ギャラリー大佐は、何とかドイツの潜
水艦Uボートを丸ごと捕獲しようと試みたのです。Uボートには
「エニグマ」マシンが搭載されているからです。しかし、これは
実に困難な作戦です。戦争に使われる船舶に関しては、その秘密
保持のため、どこの国でも自爆して何も残さないからです。その
ための自爆ボタンも取り付けられているのです。
 しかし、1944年、はじめて奇跡的にUボート「U505」
の捕獲に成功したのです。これについては、次のサイトに詳しい
説明があります。
─────────────────────────────
   ◎エニグマ暗号をすべて手に入れたアメリカ軍作戦
               https://bit.ly/2I5ZoaL
─────────────────────────────
 これによって、米軍は「エニグマ」の全貌を手に入れることが
できたのです。しかし、それはひた隠しに隠されたのです。この
とき捕獲された「U505」は、現在、シカゴ科学産業博物館に
展示されており、誰でも見ることができます。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/066]

≪画像および関連情報≫
 ●「ヒトラーの心を読んだコンピューター」
  ───────────────────────────
   世界は、あるイギリスのハッカー集団に感謝しなければな
  らない。1938年、イギリスで最高の数学者と科学者たち
  が、『エニグマ』の暗号を解読する方法を編み出すよう依頼
  された。
   エニグマとは、ドイツ軍が戦争中に情報をやり取りするの
  に使った暗号機械だ。その結果生まれたのが『コロッサス』
  という世界初の電子的なデジタル・コンピューターだった。
  後継機種である『コロッサス2』は1944年6月1日に稼
  動を開始し、すぐさま、ある暗号メッセージの解読に成功し
  た。そのメッセージはアドルフ・ヒトラーとドイツ軍の最高
  指令部が、連合国の策略――以前から予想されていたイギリ
  ス海峡を越えての進攻が、ノルマンディーの海岸ではなくカ
  レーを目指しているように見せかける計画――に引っかかっ
  ていることを裏付けるものだった。
   ドワイト・D・アイゼンハワー連合軍最高司令官は、この
  情報を武器に、『オーバーロード作戦』の計画を遂行した。
  そして6月6日、ヨーロッパ連合軍はノルマンディーに上陸
  し、史上最大の海越えの侵略を果たした。イギリスのチェル
  トナムにある政府通信本部では先週、コロッサス・プロジェ
  クトに関する文書を正式に機密扱いから外し、2冊からなる
  報告書を、イギリス全体の公文書類を保管する公文書館に移
  した。             https://bit.ly/2U55mtT
  ───────────────────────────

「エニグマ」暗号マシン.jpg
「エニグマ」暗号マシン
.
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2019年04月09日

●「太平洋戦争は暗号で敗北している」(EJ第4984号)

 中国に「量子暗号通信」の技術を先取りされることが、米国に
どれほど深刻なことであるかについて知る必要があります。考え
てみると、トランプ政権になってから米中の関係がとくに厳しく
なっているのは、中国の「量子暗号通信」の成功も、その原因の
一つになっているのです。
 トランプ政権が発足した約1年後の2018年1月20日、中
国政府の「新華網」は、米国にとって、第2の「スプートニク・
ショック」ともいうべきニュースを伝えたのです。そのニュース
について、遠藤誉氏の本から引用します。
─────────────────────────────
 中国とオーストリアの問で、墨子号を介して量子暗号による通
信に成功したという内容だ。中国科学院の院長、自春礼とオース
トリア科学アカデミーのツァイリンガーは、2017年9月29
日に、量子暗号を用いた世界初の大陸横断ビデオ会議を行ったと
のこと。中国科技大学の潘建偉と、同僚の彭承志らでつくる研究
チームは、中国科学院上海技術物理研究所の王建宇が率いる研究
チームやマイクロサット・イノベーション研究院、国家宇宙科学
センターといった機構と共同で、オーストリア科学アカデミーの
ツァイリンガーが率いる研究チームと協力し、量子通信衛星「墨
子号」を使い、中国とオーストリアの間で距離7600キロメー
トルの「大陸間量子鍵配送」を実現し、鍵の共有による暗号化デ
ータ伝送と動画通信を実現したのである。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 「暗号を制する者が世界を制する」といわれます。その象徴的
な事例として、日本と米国が戦った太平洋戦争があります。この
戦争で日本軍の暗号は最初から米軍に解読されていたのです。そ
れなら敗北は必至ですが、なぜ、日本軍による真珠湾攻撃だけは
成功を収めたのでしょうか。結論からいうと、暗号は事前に米軍
の優れた暗号解読者たちによって解読され、日本が攻撃を仕掛け
る6時間も前から、日本が何かをするとわかり、報告を上げてい
たのです。場所もパールハーバーの可能性が高いと特定していま
す。しかし、肝心の米国政府は、これに対して何の措置も取らな
かったのです。それは、次のロジックによる米国の油断があった
といえます。
─────────────────────────────
 ある一つの事柄について、我々は一種の思考凍結状態、あるい
は、心が麻痺した状態にあったように思われた。それは、我々の
推理が、次のようになるからであった。
 もし、日本がパールハーバーを攻撃すれば、それは戦争を意味
する。そして、戦争になれば、アメリカが勝つ。それなら、日本
はパールハーバーを攻撃するようなことがありうるだろうか。答
えは「ノー」である。        https://bit.ly/2UATeVP
─────────────────────────────
 日本軍が使っていた暗号機は、市販のマシンを絶対に解読され
ないように改良発展させたもので、それは「パープル暗号」と呼
ばれていたのです。
 マシンとしては、2台の電動式タイプライターと、その間に介
在する、プラグ盤と暗号用円盤箱から成るもので、左側のタイプ
ライターで平文をタイプすると、右側のタイプライターで暗号文
が打ち出される仕組みであったのです。(添付ファイル参照)
 しかし、米国は日本の機密事項を知るために、ウィリアム・フ
リードマンという人物に日本のパープル暗号機と同じものを作ら
せる仕事を与えたのです。彼のスタッフには、日本がパープル暗
号の前身である「レッド暗号」を解読したチームが協力し、約1
年半かけてパープル暗号機のコピー機を作り上げたのです。これ
によって、日本の外交機密文書は米国によって解読されることに
なったのですが、日本側はそのことを知る由もなかったのです。
 それにもかかわらず日本軍が真珠湾攻撃に成功したのは、いく
つかの要因があります。ワシントンでは、日本の野村、来栖両大
使がまとまるとは思えない平和維持の提案を行っている間に、日
本海軍機動部隊の32隻は、1隻また1隻と日本の領海を密かに
抜け出し、移動を開始していたのです。その艦上には430機に
も及ぶ日本海軍航空隊の精鋭が待機していたのです。
 米国の情報部は、日本軍の各艦艇から発信する無線を傍受する
ことによって、その動きを監視していたのですが、どこに向って
いるかはその時点ではわかっていなかったのです。しかし、突然
日本艦隊の航跡がわからなくなります。全艦が一斉に無線封止を
したからです。それを機に全艦がパールハーバーへと針路を変変
更したのです。しかし、米軍は日本艦隊の航跡を把握できなくな
ります。1941年12月2日のことです。
 問題は、日本としては、最後通牒をいつワシントンに届けるか
です。ワシントンとハワイの時差は約6時間あります。したがっ
て、パールハーバーを午前7時30分に攻撃するには、最後通牒
をワシントンに午後1時30分に届ける必要があります。それよ
り早く届けると、米国側に準備時間を与えることになります。
 日本政府は、攻撃予定日の前日の1941年12月6日から最
後通牒電の発送をはじめていますが、パープル暗号を14個に分
割し、18時間以上かけて発送しています。ワシントンの日本大
使館は、この暗号文の翻訳を開始しますが、そこから1キロと離
れていない米海軍省でも、同じ解読作業をはじめていたのです。
そして、12月7日早朝に14個目の暗号文が届きます。そこに
は、次のように書かれていたのです。
─────────────────────────────
 日本政府は、米国政府の態度にかんがみ、今後交渉を続けても
妥結にいたることは不可能であると考えるのを遺憾とする。
                  https://bit.ly/2UATeVP ─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/065]

≪画像および関連情報≫
 ●ミッドウェー海戦の敗北
  ───────────────────────────
   ミッドウエー海戦は短期間であったが、連戦連勝を続けて
  きた日本軍側が初めて経験した挫折であり、太平洋をめぐる
  日米両軍の戦いにおけるターニング・ポイントとなった。ま
  さにミッドウエー海戦は、「太平洋の戦局はこの一戦に決し
  た」というべき戦いであり、「戦史上特筆大書さるべき」海
  空戦であったが、それは日本側にとってではなく戦果絶大な
  ものがあったのは米軍側であった。この作戦は山本五十六司
  令長官のシナリオ通り進行。ミッドウエーを攻略することに
  よって米空母部隊の誘出を図り、これを捕捉撃滅することは
  現在の戦力からみて容易であると判断。ミッドウエー上陸予
  定日は月齢や気象を踏まえて6月7日(昭和17年)と計画
  され、同じにアリューシャン攻撃も行われることとなってお
  り、本作戦には日本連合艦隊の決戦兵力のほとんど動員され
  ていた。(350隻の艦隊、飛行機1000機、将兵10万
  以上の大出動)山本五十六司令長官に「日本海軍暗号の解読
  は絶対にありえない」と言はした暗号であったが、守勢の立
  場にあった劣勢の米国海軍の強い力となったのがこの暗号解
  読であった。日本海軍主力が太平洋のどこかで遠からず積極
  的な作戦に出てくることは確実であったが、その時期や目的
  地について判断がつきかねていた。https://bit.ly/2OWObdc
  ───────────────────────────

日本のパープル暗号機.jpg
日本のパープル暗号機
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2019年04月08日

●「国民栄誉賞か千人招聘人材戦略か」(EJ第4983号)

 5日の新聞各紙によると、現役を引退したイチロー選手が政府
に国民栄誉賞を辞退したそうです。辞退は、2001年と、20
04年に続いて3回目になります。2001年のときは「まだ若
い、発展途上」、2004年のときは「まだ野球人としてやるこ
とがある」と辞退の理由を述べています。
 この2回の辞退の言葉を聞けば、3回目も辞退するのはわかっ
ていたと思います。確かに2004年のときに「野球人生が終っ
たとき」といっていましたが、これは外交辞令でしょう。彼は国
民栄誉賞という、何か偉業を成し遂げたときに授与される勲章に
は、あまり関心がないようです。
 これに比べると、中国の「千人計画」は表彰ではありませんが
若い人にとっては魅力的です。他国に留学中に、国のトップから
「君はわが国にとって大切な人材だ。国として研究環境を整える
から、帰国して国のために尽くして欲しい」といわれたらどうで
しょうか。きっと帰国する人が多いはずです。人は上層部から期
待されるとやる気を出すものです。
 成果を出して、そのうえでもらう表彰ではなく、これから出す
成果に対して国が期待し、「千人計画」の一員に加えてくれるの
です。褒章ではなく、国が期待をかけてくれるのです。その方が
人間というものはモチベーションが上がるのです。
 吉林大学に黄大年という教授がいたのです。地球物理学者です
が、黄大年氏は英国に留学し、ここで骨を埋めるつもりで18年
間研究に没頭します。そのとき、「千人計画」の招聘教授の声が
かかったのです。いろいろ悩んだ末に、2009年に英国での研
究を放棄して、中国に帰国し、航空宇宙地球物理学探索技術研究
に従事することになります。もちろん「墨子号」の打ち上げにも
関わっています。
 彼は、50代の若さで亡くなっていますが、なぜ帰国したかに
ついて、遠藤誉氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 このとき彼に帰国を決意させた理由は、中国が大々的に「千人
計画」という人材戦略を策定し、国家予算を思いきりそこに注ぐ
という確固たる国家戦略に基づいて動こうとしている、その本気
度を感じたからだという。「国家がこの私を宝物のようにして欲
しがってくれており、大きな国家事業に向けてまい進しょうとし
ている。自分の人生が、そこで必要とされているというのなら、
戻って祖国のために尽くそう、という自尊心と尊厳を抱かせた」
と述べている。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 実際問題として、中国共産党中央当局としても、「千人計画」
や「万人計画」などの人材戦略が、これほどの成果を上げるとは
考えていなかったと思われます。とくに、潘建偉氏を中心とする
世界初の量子通信衛星打ち上げ成功には、中国科学技術大学を中
心として、中国科学院の上海技術物研究所、中国科学院光電技術
研究所、中国科学院上海微小衛星工程センター、中国科学院紫金
山天文台、中国科学院国家天文台などの多くの研究所や大学がま
さに一体となって取り組み、成功を成し遂げています。
 なお、実際の「墨子号」打ち上げに際しては、潘建偉氏の指導
教官であったオーストリアのツァイリンガー氏がリーダーを務め
るチームが、ヨーロッパの多くの量子物理学チームが関係する宇
宙局と連携をとって、宇宙と地上とを結ぶ通信をとるなど、全面
協力しています。別にこそこそ隠れて、秘密裡にやっていたわけ
ではないのです。
 科学誌「ネイチャー」は、毎年、今年の科学界を振り返るため
10人を選んで発表しています。選ばれる人は科学者とは限らず
患者さんもいるし、反科学の急先鋒もいます。そして、この20
17年度の10人の1人に潘建偉氏が選ばれているのです。その
10人の名前を以下に列挙しますが、これらの人がどういう人で
あるかは、NPO法人オール・アバウト・サイエンスジャパンの
西川伸一氏のコメントを参照してください。
─────────────────────────────
 ◎2017年度「ネイチャー」/今年の10人
  1.David Liu: Gene corrector
    遺伝子編集者
  2.Marica Branchesi: Merger maker
    中性子星合体の大観測体制
  3.Emily Whitehead: Living testimonyial
    生き証人
  4.Scott Pruitt:Agency dismantler
    環境保護局解体請負人
 ★5.Pan Jianwei
    量子通信の父
  6.Jennifer Byrne:Error sleuth
    論文の間違いを暴く刑事
  7.Lassina Zerbo: Test-ban tracker
    核実験禁止協定違反追跡者
  8.VICTOR CRUZ-ATIENZA:quake chaser
    地震追跡者
  9.Ann Olivarius: Legal champion
    法律のチャンピオン
 10.Khaled Toukan:opening sesame
    開けゴマ          https://bit.ly/2FU52sT
─────────────────────────────
 西川氏は、Pan Jianwei (潘建偉)のことを「熱意のみなぎる
楽天的性格で、リスクをとってよく考えて選んだテーマに果敢に
チャレンジする研究者として記事では紹介している」と記述して
います。この発表は2017年12月17日に「ネイチャー」か
ら行われています。  ──[米中ロ覇権争いの行方/064]

≪画像および関連情報≫
 ●ネイチャーの「今年の10人」に中国の潘建偉氏が入選
  ───────────────────────────
   ネイチャー誌は2017年12月17日、今年1年で科学
  に重要な影響を与えた「今年の10人」を選出し、中国から
  は物理学者の潘建偉氏が選ばれた。また、重力波観測施設の
  「VIRGO」の天文学者マリカ・ブランケージ氏らが選ば
  れた。ネイチャーの編集者は、「量子通信やゲノム編集、潜
  在的な核の危機、米国の環境保護政策の後退など、これら選
  出された10人が2017年の科学の成果と挫折をもの語っ
  ている」とした。科技日報が伝えた。
   ネイチャーは入選者全員を記事で紹介。そのなかで、「量
  子の父」と題した潘氏に関する記事では「彼は中国で、量子
  の父と呼ばれている。潘氏は、その呼び名にふさわしい人物
  だ。潘氏に率いられ、中国は、遠距離量子通信技術における
  リーダー的国家となった」と紹介された。潘氏が率いる世界
  初の量子科学実験衛星「墨子号」のチームは2017年6月
  1000キロ級の衛星・地球双方向量子もつれ配送を実現し
  世界で長年維持されてきた100キロ級の記録を打破した。
  関連成果はサイエンス誌に掲載された。それから約1ヶ月後
  同チームは再び世界で初めて1000キロ級の衛星・地球双
  方向量子通信を実現した。関連成果はネイチャー(電子版)
  に掲載された。これにより、潘氏のチームは墨子号の3大科
  学目標を、計画よりも前倒しで達成した。中国科学院の白春
  礼院長は当時、「墨子号の一連の成果が国際的に大変な評判
  となっている。中国の量子通信分野の 研究が、世界を全面的
  にリードする有利な地位を占めていることが分かる」と評価
  した。             https://bit.ly/2D11Ta6
  ───────────────────────────

潘建偉氏の研究室.jpg
潘建偉氏の研究室
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2019年04月05日

●「中国はなぜ量子通信で先行したか」(EJ第4982号)

 量子通信において、中国はなぜ米国を押さえてそれを成功させ
ることができたのでしようか。
 遠藤誉氏は、中国による量子通信衛星打ち上げ成功について、
著書で次のように述べています。
─────────────────────────────
 アメリカでは「独裁国家中国」だからこそ、すべてをかなぐり
捨てて巨額のカネをつぎ込んだ結果だと、腹立たしげに分析する
傾向にあるが、必ずしもそうではない。これまで本書で一貫して
追跡してきた「人材の獲得」にこそ、その成功の鍵がある。はん
けんい「墨子号」チームのリーダーとなっていた人物は、中国科
学院の院士の一人である潘建偉(パンジェンウェイ)だ。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 上記の遠藤氏の言葉の表現のなかから、読み取れることがひと
つあります。それは「すべてをかなぐり捨てて巨額のカネをつぎ
込んだ結果だと、腹立たしげに分析する傾向」という表現です。
この表現は、明らかに中国人の立場に立って、アメリカを強く非
難しています。「そんなんじゃない。ただカネを注ぎ込めばでき
るような簡単なことじゃない」と。
 私は、遠藤氏が、米国に先駆けて量子通信衛星の打ち上げ成功
した中国の快挙について、心のなかで誇らしいと考えているよう
な気がします。それは中国人ならではのことです。こういう表現
は、遠藤氏の本には、随所に見られることです。本書の「まえが
き」に次のような表現があります。
─────────────────────────────
 いま日本では「習近平一強」を語るに当たり、権力闘争ばかり
に焦点を当てたがる傾向があるが、そのような、日本人の耳目に
心地よい迎合型分析をしていると、これら一連の国家戦略が見え
てこない。それは日本の国益を損ねる。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 これは、日本のメディアに対して憤りをぶつけています。もち
ろん、遠藤氏としては、中国の事情に通じている日本人の学者と
して、「その分析は間違っている」ということを強調したいので
しょうが、その主張は、日本人としてよりも、中国サイドからの
主張に聞こえてしまうのです。遠藤氏は、この主張の最後を次の
ように締めくくっているからです。
─────────────────────────────
 その意味では(日本は)トランプに感謝すべきだろう。彼が米
中貿易戦争を仕掛けてくれたことにより、「2025」が持つ重
要性に焦点を当ててくれたのだし、中国の戦略をあばいてくれた
のだから。日本人が事実とかけ離れた権力闘争物語を面白がって
いる内に、中国はハイテク産業のコア技術で日本を追い抜き、宇
宙を支配してしまうかもしれない。 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 もちろん遠藤氏に責任があるわけではありません。中国につい
て論ずるときは、遠藤氏のような中国ウォッチャーからの情報は
不可欠であり、大変役に立つのですが、中国からの情報はいろい
ろな要素を勘案して、一歩引いて見る必要があると思うし、私は
そう心がけているので、そう書いたままです。
 遠藤氏のいうように、いくらカネを注ぎ込んだとしても、それ
だけで、量子通信衛星の打ち上げなどに成功できるものではない
のです。もちろんカネは不可欠ですが、何といっても、そのカネ
を使って、それを成し遂げる人材が必要です。
 中国は、千人計画や万人計画などを通じて、優秀な人材──中
国人を中心とするが、外国人でも──を計画的に中国国内に集結
させてきたのです。「墨子号チーム」のリーダーは、潘建偉(パ
ンジェンウェイ)という人物です。現在、49歳の若さです。こ
の潘建偉氏について、遠藤氏は次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 潘建偉は国家「千人計画」の特別招聴専門家の一人で、20年
ほど前(1996年、26歳で)、オーストリアに留学したとき
に、オーストリア科学アカデミー院長で宇宙航空科学において最
高権威を持つツァイリンガー教授に会っている。初対面は、19
96年の10月。そのときツァイリンガ一教授に、「あなたの夢
は何ですか?」と聞かれたそうだ。すると若気の至りもあって、
つい「中国で世界一流の量子物理実験室を持つことです」と答え
たとのこと。
 潘建偉はは当時を思い出し、「生まれたばかりの子牛は虎を恐
れない」という諺を用いて「経験の乏しい若者はこわさを知らな
いがゆえに無鉄砲なまねをするものだ」と照れながらも、結局そ
の夢を捨てきれずに、帰国後の2001年に中国科学技術大学で
量子物理学・量子情報実験室を持つことが叶い、こんにちまで走
り続けてきたと、墨子号発射の彼のインタビューで語っている。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 実は潘建偉氏は中国共産党員ではないのです。中国には、中国
共産党以外に、次の8つの民主党派があります。これを「八大民
主党派」と呼んでいます。潘建偉氏はこのうちの九三学社に入党
している変わり種です。
─────────────────────────────
   1.中国国民党革命委員会  5.中国農工民主党
   2.中国民主同盟      6.中国致公党
   3.中国民主建国会     7.九三学社
   4.中国民主促進会     8.台湾民主自治同盟
─────────────────────────────
 潘建偉氏は、中国科学技術大学の常務副学長にして、中国科学
院量子科学技術創新研究院院長を務めています。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/063]

≪画像および関連情報≫
 ●量子超大国を目指す中国で「量子の父」と呼ばれる男
  ───────────────────────────
   2017年年9月29日、中国の科学実験衛星「墨子号」
  が、地球半周分も離れたウィーンと北京の2都市間でハッキ
  ング不可能なビデオ会議の開催に成功した。墨子号は、時速
  2万9000キロメートルで進みながら、北京から北東に車
  で数時間の距離にある興隆の地上局に向けて小さなデータパ
  ケットを送信した。その後1時間以内にオーストリアを通過
  する際、別のデータパケットを、グラーツ市近くの地上局に
  送った。
   墨子号が送信したデータパケットは、データ伝送を保護す
  るための暗号鍵だった。この実験がひと際注目されたのは、
  衛星から送信された暗号鍵が繊細な量子状態にある光子の中
  で符号化されていたためだ。通信を傍受しようとするいかな
  る企ても、量子状態を壊して、情報を破壊し、ハッキングの
  痕跡を残してしまう。1と0を表す電気や光の信号の流れ、
  つまり読み取りや複製が可能な古典的な情報単位(ビット)
  で暗号鍵を送るよりはるかに安全な方法なのだ。
   映像は量子ではなく従来の方法で暗号化されていたが、復
  号に量子鍵が必要だったため、安全性は保証されていた。墨
  子号による実験は、世界初の量子暗号を用いた大陸間ビデオ
  接続となった。         https://bit.ly/2YQ5YXK
  ─────────―-−


(中国の学会で発表する潘建偉氏.jpg
中国の学会で発表する潘建偉氏
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2019年04月04日

●「量子もつれ現象を通信に活用する」(EJ第4981号)

 1952年生まれの、米アーカンソー出身のジョージ・ジョン
ソン氏という科学ライターがいます。『タイム』であるとか『ワ
イヤード』などに科学記事を執筆している人ですので、かなり名
のある科学ライターであると思います。
 技術の本というのは、著名な科学者自身の書いたものよりも、
ベテランの科学ライターが書いたものの方が分かりやすく、役に
立つことが多いですが、ジョージ・ジョンソン氏による量子コン
ピュータの解説は、まさにそれに該当します。
 私がいくつか購入した量子コンピュータの本のなかでダントツ
に役に立ったのは、ジョンソン氏の本です。それに、ミステリー
小説を多く出版する早川書房から出版されているのも興味深いで
す。ジョンソン氏の本をご紹介しておきます。
─────────────────────────────
            ジョージ・ジョンソン著/水谷淳訳
 『「数理を愉しむ」シリーズ/量子コンピュータとは何か』
                      /早川書房刊
─────────────────────────────
 原子レベルを超えて極少化されたチップによる「オン/オフ」
のスイッチには量子力学が姿を現しはじめます。ちょうどコマの
ように、回転軸を上に向けて反時計回りに自転する原子を「0」
と表現し、それをひっくり返し、回転軸が下を向いて時計回りに
自転するようにすれば、その原子は「1」という数字を表現する
ようになります。これはもちろん逆でも同じことです。
 しかし、原子が「0」か「1」のどちらか一つしか取れないと
きは、その原子は従来のチップと何も変わりはないのです。
 しかしさらにチップの極少化が進むと、チップは同時に「1」
と「0」の両方の状態を取ることができるのです。これが量子の
「重ね合わせ」の現象なのです。これについて、ジョージ・ジョ
ンソン氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 コンピュータ技術者が、量子レベルにまで小型化を進めると、
チップの中の出来事は、もはや決定論的ではなくなる。1と0を
はっきり区別できなくなるのだ。そして1と0に加えて、Φとい
う状態も取りうるようになる。(ここではこの記号はギリシャ文
字の「ファイ」の意味ではなく、0と1が量子的に重ね合わされ
た状態を表す)。量子はこのようなあいまいさを持っているので
同じ原因が同じ結果を及ぼすとは限らない。不確かさが支配する
のだ。正しい用語ではこれを「量子的不確定性」と言う。
           ──ジョージ・ジョンソン著/水谷淳訳
          『量子コンピュータとは何か』/早川書房
─────────────────────────────
 はじめの頃、エンジニアたちは、この重ね合わせを「困った事
態」ととらえたのです。そこでエンジニアたちは、いかにしてこ
の量子効果を抑え込んで、「0」と「1」が混ざり合うのを防ぐ
かに知恵を絞ったのです。
 しかし、その間にもコンピュータの部品の極少化は進み、量子
効果の抑え込みが困難になった1980年代になって、米国の2
人の物理学者、リチャード・ファインマン氏とポール・ベニオフ
氏は、むしろ量子的不確定性を活用すれば、かつてない装置を作
れるのではないかと気が付いたのです。それが、人類が量子コン
ピュータへの道をめざすきっかけになったのです。
 この「量子的不確定性」のことを「量子もつれ」とか「量子の
絡み合い」というようになり、英語で次のように表現するように
なったのです。
─────────────────────────────
  quantum entanglement/カンタム・エンタングルメント
─────────────────────────────
 この「カンタム・エンタングルメント」について、遠藤誉氏が
とてもわかりやすく解説してくれています。
─────────────────────────────
 カンタム・エンタングルメントと表現することからも分かるよ
うに、量子あるいは光子は、互いにどんなに遠く離れていても、
間に如何なる媒体がなくても、互いに影響し合うことを指す。こ
れは、量子が「波と粒子の二面性」を持っていると同時に「1つ
なのに、同時に複数の場所に存在する」という「状況の共存性」
という、摩訶不思議な性格を持っているからである。(中略)
 つまり、どちらかの状況に変化が起きると、もう片方にもすぐ
さま同じ影響が及ぶ現象を一種の遠隔作用というが、通信を暗号
化し、盗聴を防ごうと思ったときに、2つの「もつれた量子」が
途中で誰かにハッキングされたりすると、2点間で影響していた
「もつれの法則」が壊れてしまい、遠隔作用が成立しなくなって
しまう。そのため、ハッキングされたことが分かるので、こっそ
りハッキングや盗聴ができなくなるという効果があるのである。
人類の誰もが、この夢のような量子通信ができるための量子通信
衛星の発射に成功したいと競争していたのに「こともあろうに」
というか、アメリカではなく、もちろん日本でもなく、こともあ
ろうに、あの中国が先に成功したのだ。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 つまり、エンタングルメントの関係にある2つの粒子は、どん
なに離れていても、その一方だけを観測すれば、もう一方の状況
は認識できるのです。これは、「量子テレポーション」ともいう
べき現象であり、量子通信の基礎になるものです。
 中国は、そのための衛星を2016年に打ち上げに成功し、既
に実験を重ねているのです。この「量子のもつれ」を利用すれば
凄いことができるのではないかということに米国は、1980年
に気が付いているのです。それがどうして、後発であるはずの中
国に先を越されることになったのでしょうか。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/062]

≪画像および関連情報≫
 ●シンガポールとイギリスが量子通信衛星の打ち上げを計画!
  ───────────────────────────
   「量子鍵」配布による暗号化通信の実現のためには、衛星
  による量子通信技術の開発がカギとなる。量子暗号通信が実
  現すれば、理論上第三者による傍受が不可能となり、セキュ
  リティ強化の観点から国を挙げての取り組みが進められてい
  る。中国はすでに通信衛星からの量子もつれ配信を行う実験
  を成功させているほか、日本でも情報通信研究機構(NIC
  T)が、小型衛星を使っての量子通信の実験をおこなってい
  る。こうした世界情勢に後れをとるまいと、シンガポールと
  イギリスが手を組んだようだ。
   シンガポールとイギリスは、2021年までに小型量子通
  信衛星を打ち上げることを目指し、共同プロジェクトを開始
  した。両国の戦略は、量子通信の分野で先行する中国よりも
  はるかに小型で低コストな量子通信システムを開発し、広域
  をカバーする通信網を展開すること。
   中国の通信衛星の重量が600キログラム以上あるのに対
  して、シンガポールの開発する「キューブサット」は最終的
  に約12キグラムにまで軽量化する計画だ。ただ、通信衛星
  を小さくすればバックアップシステムなどを搭載する余裕が
  なくなり、冗長性を犠牲にせざるをえない。このため、シン
  ガポール国際大学の量子テクノロジーセンターが、発進の振
  動や宇宙での温度変化などを綿密にシミュレートし、そのう
  えで性能テストを実施。極力故障が起こらないシステムを設
  計しているようだ。       https://bit.ly/2OBDigo
  ───────────────────────────

量子の重ね合わせ(量子もつれ).jpg
量子の重ね合わせ(量子もつれ)
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2019年04月03日

●「量子とは何か理解する必要がある」(ĒJ第4980号)

 「量子とは何か」──今回は技術がメインテーマではないので
量子論を展開するつもりはありませんが、「量子通信」「量子暗
号」「量子通信衛星」については、量子の基本的なことを理解す
る必要があります。
 物質を形成しているのは「原子」です。その原子は、「電子」
「陽子」、「中性子」からできています。その陽子と中性子は、
さらに「クォーク」という粒子からできています。クォークは、
物質の最小単位の一つとされており、この粒子のことを物理学で
は「素粒子」といっています。同じ素粒子の仲間には、「電子」
と「光子」などがあります。
 これらの原子以下の電子、中性子、陽子などを「量子」と呼ん
でいるのです。単独に量子というものが存在するわけではないの
です。もうひとつ忘れてはならないのが「光」です。光は粒子と
しての性質と波としての性質がありますが、光を粒子としてみた
ときの「光子」や「ニュートリノ」などの素粒子も量子と呼んで
いるのです。
 このような量子の世界には、われわれの世界の力学とは異なる
力学が働くのです。量子の世界とは、ナノサイズ、またはそれよ
りも小さい世界です。ナノサイズとは、1メートルの10億分の
1の極小の世界であり、この世界においては、われわれの身の回
りにある物理法則、ニュートン力学や電磁気学などは通用せず、
「量子力学」というとても不思議な法則によって物事が動くので
す。壁をくぐり抜けたり、瞬時に別の場所に移動したり、それは
まるでハリーポッターの世界です。
 ここでいささか、わかりにくいことを理解しなければならない
のです。それは次のことです。
─────────────────────────────
    量子は「粒子」と「波」の2つの性質を有する
─────────────────────────────
 これは、光についてよく説明されるので、光を例にとって説明
を行います。なお、これについての説明は、2017年のテーマ
「次世代テクノロジー論」のなかの「量子コンピュータ」の部分
で取り上げていますので、そちらも参照してください。
 量子は、物理の世界で最小の、これ以上は分割できない物質や
エネルギーの基本単位です。量子は、粒子(粒子性)と波(波動
性)の両方の性質を持ち合わせているので、次の性質を持つこと
になります。
─────────────────────────────
     1.粒子性 ・・・       最小物質
     2.波動性 ・・・ エネルギーの基本単位
─────────────────────────────
 2017年12月21日のEJ第4671号で、光を取り上げ
量子が粒子性と波動性を両方を持っていることを確認する有名な
実験を紹介しています。それをここに再現します。添付ファイル
を参照してご覧ください。
─────────────────────────────
 最初に「波」について考えてみます。水を張った水槽があると
します。この水槽は2つの穴の空いた板で真ん中が仕切られてい
ます。この状態で、左側にコインを落としたとします。そうする
と、仕切り板に向って波が発生します。
 穴に到着すると、波は二つに分かれ、仕切り板の右側で相互作
用を起こします。相互作用とは、2つの山が重なり合うと、山は
大きくなり、波の強度が増し、逆に山と谷が重なると、お互いに
打ち消し合う、そのさまをいうのです。その結果、「干渉パター
ン(干渉縞)」という模様ができ上がります。これは「波」の存
在を示す証拠といえます。これについては、添付ファイルを参照
してください。
 続いて「粒子」の実験です。仕切り板で仕切られた2つの部屋
があります。仕切り板には2つの丸い穴が空いていますが、現在
は左の穴は塞がっており、右の穴だけ空いています。なお、右の
部屋の正面には、スクリーンが張ってあるとします。
 この状態において、左の部屋から仕切り板に対して光を当てま
す。そうすると、光は空いている右の穴を通ってスクリーンの右
側に丸い像を結びます。続いて、今度は右の穴を塞いで左の穴を
空けます。そうすると、光は左の穴を通して、スクリーンの左側
に丸い像を結びます。当たり前ですが、これは光が「粒子」であ
ることを示しています。
 問題は次です。今度は仕切り板の左右の穴を両方とも空けて、
左側の部屋から光を当てます。通常であれば、右の部屋のスクリ
ーンの左右に2つの丸い像が映し出させるはずです。しかし、実
際にはスクリーンには、干渉縞が映し出されるのです。これは光
が「波」であることを示しています。
      2017年12月21日付/EJ第4671号より
─────────────────────────────
 この量子の粒子性と波動性の性質の他に、量子には「重ね合わ
せ」という不思議な現象があるのです。現在のCPUのチップは
限りなく原子レベルに近づいています。反時計回りに自転する原
子を仮に「1」とします。それをひっくり返して回転軸が下を向
いて時計回りに自転するようすれば、その原子は「0」をあらわ
すことになります。もちろん、0と1は逆でもいいのです。この
場合、原子は極小のスイッチとして機能します。
 原子のレベルまでは、現在の力学が作用していますから、物理
的に何の矛盾はないのです。現在、多くの人が、このクラスのコ
ンピュータを使っています。しかし、微細化がさらに進んで素粒
子レベル、量子レベルに達すると、量子力学が働くのです。そう
すると、何が起きるのでしょうか。
 そうすると、量子は「0」と「1」の両方の状態をとるように
なります。これを量子の「重ね合わせ」といいます。実に不可解
な現象です。これについては、明日のEJで詳しく説明します。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/061]

≪画像および関連情報≫
 ●波と粒子の二重性から粒子と波の二重性へ
  ───────────────────────────
   光が波であるのか粒子であるのかはニュートンの時代から
  物理の大問題であった。この論争の決着には長い時間が必要
  だったが、19世紀には干渉や回折、さらには偏光が発見さ
  れ、ついに光が波であることが決定した。そして、一方で、
  マックスウェルの電磁気学により光を電磁波として取り扱う
  理論的基盤が構築されていた。
   それに対して、アインシュタインは改めて光の粒子性を主
  張したわけであり、そういう意味では、非常に大胆な提案で
  あったわけである。アインシュタインが光の粒子性を主張し
  たからといって、光の波動性を否定していたわけではないこ
  とに注意しておこう。古典的には、あるものが粒子であり波
  であるということはありえない。そして、私たちも、光は波
  であるか粒子であるかのどちらかであると考えてしまいがち
  だけれども、量子論の枠組みでは、光は波動的な面と粒子的
  な面の両方を持ち合わせたものなのである。これを波と粒子
  の二重性という。
   1905年のアインシュタインの光量子モデルから、次の
  話まで約20年の歳月が流れている。実際には、この歳月の
  間に量子論に関連した多くの進歩があり、「前期量子論」と
  呼ばれる時代を形成している。  https://bit.ly/2uCQubU
  ───────────────────────────

「ヤングの実験/干渉縞」無題.jpg
「ヤングの実験/干渉縞」無題
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2019年04月02日

●「中国が量子通信衛星打ち上げ成功」(ÉJ第4979号)

 米国が中国に決定的に差をつけられているのは、「宇宙開発」
の分野ではないかと思います。宇宙開発といってもいろいろあり
ます。ロケットの打ち上げにはじまって、人工衛星、惑星探査、
有人宇宙飛行、そして宇宙ステーションなど、いろいろです。
 この分野では、既に述べているように、米国は社会主義国に遅
れをとる傾向が強いのです。かつてのアイゼンハワー大統領時代
のスプートニクショックがその好例です。社会主義国では、最高
指導者が決断すれば、開発に必要なヒト、モノ、カネはすぐ揃い
ますが、民主主義国では、予算ひとつとっても、さまざまな手続
や審議を行う必要があり、どうしても遅れてしまうのです。
 それでは、実際に宇宙技術のどの分野で中国が米国をリードし
ているのかについて考えていくことにします。
 2016年8月16日のことです。中国の国営通信社、新華社
は、次のニュースを大々的に報道したのです。サイエンス・ポー
タル・チャイナからニュースを引用します。
─────────────────────────────
 中国は16日午前1時40分、「長征2号丁」ロケットを使い
酒泉衛星発射センターから世界初の量子科学実験衛星(略称は、
「量子衛星」)「墨子号」を打ち上げた。新華社が伝えた。
 量子衛星は中国科学院宇宙科学先導特別プロジェクト第1陣の
科学実験衛星の一つで、その主な科学目標は、△衛星・地球間高
速量子暗号通信実験を行い、これを踏まえたうえで広域量子暗号
ネットワーク実験を行い、宇宙量子通信の実用化で重大な進展を
目指す。△宇宙スケールで量子もつれ通信・量子テレポーテーシ
ョン実験を行い、宇宙スケールの量子力学の整合性を確認する実
験・研究を行う。          https://bit.ly/2UoHVjg
─────────────────────────────
 われわれは、このような衛星打ち上げの報道に接しても、あま
り強い関心を示さなくなっています。もはや衛星打ち上げなどは
現在ではニュースにならないのです。しかし、この衛星の打ち上
げは、超大ニュースそのものなのです。なぜなら、世界初の「量
子通信衛星」の打ち上げだからです。このニュースで一番ショッ
クを受けたのは、米国のはずです。おそらくスプートニク・ショ
ック級の大ショックです。これは、米国の軍事的優位を根底から
揺るがす大問題であるといえます。
 遠藤誉氏によると、ロケットの名称「墨子号」にも深い意味が
あるといいます。墨子といえば、日本では中国の戦国時代の思想
家として知られていますが、中国では「中国最古の科学者」とし
て知られているというのです。
 墨子は、物理学のなかでも光学に関して関心が深く、光の直進
性や反射性など、光に関するさまざまな実験をやっていたそうで
す。そういう意味で、超先端科学を担うロケットの名称に墨子の
名前を使ったのです。
 ところで、墨子といえば、あの小泉純一郎首相は、イラクへの
自衛隊派遣に関する国会論争において、墨子の次の言葉を使って
自分の正当性を主張したものです。
─────────────────────────────
 義を為すは毀(そしり)を避け誉(ほまれ)に就くに非(あ
 ら)ず                    ──墨子
─────────────────────────────
 ところで、普通の通信衛星と量子通信衛星とは、どこが違うの
でしょうか。
 難しい言葉を一切使わないでいうと、「量子通信」とは、第三
者には絶対に解読されない通信のことです。遠藤誉氏の言葉を借
りると、量子通信衛星とは次のようなものです。
─────────────────────────────
 量子力学の原理を利用して、他者には解読不可能な暗号を用い
た通信システムを構築するための人工衛星である。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 「他者には解読不可能な暗号を用いた通信システム」──その
ようなものが本当に存在するのでしょうか。
 よく「セキュアな通信」といいますが、それは「第三者に盗聴
されないよう対策を施してある通信」のことです。メールも電話
も一応「セキュアな通信」ですが、あらゆる手段を使って盗聴し
ようとすれば、それを防ぐことは困難になります。そういう意味
で「解けない暗号はない」のです。
 「RSA暗号」という有名な暗号があります。最初に「素数」
について知る必要があります。素数というのは、1とその数以外
に約数がない数のことです。たとえば、4は1とその数以外に2
で割れるので、素数ではありません。しかし、2と3と5は、1
とその数以外には割れる数がないので、すべて素数ということに
なります。
 ある数を素数の積に分解するのを因数分解といいます。たとえ
ば、「91」は何と何を掛けたものかと問われたら、すぐに答え
られますか。これを解くのが因数分解です。91は「7×13」
という素数の積に分解できます。ちなみに、7と13は素数とい
うことになります。
 しかし、因数分解は、桁が多くなると、計算に非常に時間がか
かるのです。たとえば、200桁の因数分解には、現代のスパコ
ンで約10年かかりますし、1万桁になると、スパコンでも10
00億年かかります。こうなると、物理的には計算はできるもの
の、実際上時間がかかるので不可能であるということで、暗号に
使われるのです。
 しかし、量子コンピュータが出現すると、200桁の因数分解
なら、数分、1万桁になっても、数時間から数日で説くことがで
きてしまいます。既に量子コンピュータが出現している以上、R
SA暗号は、暗号としては使えないことになります。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/060]

≪画像および関連情報≫
 ●この世の中の暗号がすべて無力になるかもしれない
  ───────────────────────────
   SSL/TLSの項でも触れられているが、秘密を守るた
  めの暗号技術の開発は何世紀にもわたって続いてきた。その
  おかげで、ネットで銀行振込や買い物を安心してできるわけ
  だけれど、世の中そんなに甘くなかった!というのが今回の
  話。どういうことかというと、「現在、多くの人が使ってい
  る暗号化技術が無力化する」可能性があるのだ。
   マジか!?と世界の研究者たちを震撼させたのは1994
  年に発表された"ショアのアルゴリズム"理論。発表した米ベ
  ル研究所の研究者ピーター・ショアさんいわく、「量子コン
  ピューターが実現すれば、現在の暗号は、すべて破れてしま
  う」。なるほどそういうことか。・・・で、量子コンピュー
  タて?
   量子コンピューターについてはこのICT用語事典でも取
  り上げているので、詳しくはそちらを読んでいただきたいが
  以下、簡単におさらいを。現在のコンピューターは、1ビッ
  トで0か1(有か無か)の1つの状態しか表すことができな
  い。量子力学の原理を利用した量子コンピューターでは、1
  量子ビットあたり2つの状態を表すことができる。たとえば
  「00000000」から「11111111」の組み合わせから特定の条件
  を選ぶ場合、今のコンピューターは律儀に総当たり計算をし
  て解を探すが、量子コンピューターでは大量の組み合わせを
  1回の計算で完了できるのだ。これはつまり、大量の計算を
  並列して一度に行うようなものだ。
                  https://bit.ly/2CFt6Pt
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「墨子号/打ち上げ成功」.jpg
「墨子号/打ち上げ成功」
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2019年04月01日

●「なぜ、中国は技術大国になったか」(EJ第4978号)

 日本では、最近モノを売るのに「日本製です」とか「メイド・
イン・ジャパン」を強調するようになっています。ハズキルーペ
のCMなどはまさにそうです。なぜ、そんなアナウンスをするの
かというと、その方が、購入者が安心するからです。「日本製な
ら、大丈夫だ」と思わせるためです。ネットでの販売ではとくに
この安心が必要なのです。
 こんな話があります。日本のマスク業者が中国に工場を建て、
生産し、販売していたのですが、よく売れたそうです。しかし、
そのデザインをそっくり真似た大量のニセモノが中国に出回り、
その商品の生産を中止せざるを得なくなったといいます。
 相当前の話なのに、そのニセモノマスクは現在も同じブランド
で大量生産され、一部は、日本にも入ってきているといいます。
その生産工場は不衛生で、マスクの品質も日本製に比べて、著し
く落ちるそうです。中国人の観光客も日本ではドラックストアな
どで、現在でもこうしたマスクなどの衛生商品、化粧品、薬など
を大量に購入しています。「中国人は、自分の国を信じていない
人が多い。中国製商品の安全性に不安があったり、偽物が横行し
ていると思っていたりする」と当の中国人がいっているのです。
自分の身は自分で守るというわけです。
 中国では、ちゃんとしたモーターが作れないといわれます。自
動車製造を例にとると、中国の自動車メーカーの多くが、三菱自
動車のエンジンの供給を受けているといわれます。三菱自動車は
中国に瀋陽航天三菱とハルピン東安三菱の2社の合弁会社があり
中国でエンジンを製造しています。なぜ、三菱製品を使うのかと
いうと、「三菱エンジンは安定していて燃費が良く、メンテナン
スが容易であり、中国で生産しているためコストも安い」という
ことを上げています。あるネットユーザーは、尖閣諸島国有化で
日本製品の不買運動が起きたとき、こういっています。
─────────────────────────────
 中国車でさえ心臓部は日本なのに、日本製品不買なんて言える
のか?ボールペンのボールすら作れないんだから、エンジンは言
うまでもない。中国ブランドには、成熟したエンジン製造技術が
ない。             ──ある中国ネットユーザー
─────────────────────────────
 そういう中国が、半導体製造や宇宙技術などの分野において、
世界を上回る技術を有し、やがては米国を超える可能性があると
いうのですから、そこにいささか違和感を持つ人がいるのは、不
思議ではないと思います。
 中国が自動車のエンジンなどよりも、はるかに難しい半導体の
生産において、米国のレベルに迫りつつあるというのは、大変な
驚きであり、にわかには信じられない人も多いと思います。だか
らこそ、まともに着実に研究を積み上げた結果ではないのではな
いかと思われてしまうのです。
 ペンス米副大統領は、今や有名になった中国を批判する演説で
「中国共産党は自由かつ公正な貿易とは対照的な『政策的武器』
を使っている」といい、その政策的武器とは、関税・総量規制・
為替操作・強制的技術供与・知的財産窃盗、および対外投資に必
ず組み込まれる国営企業群などであり、それによって、北京の製
造業基盤が作り上げられたと指摘しているのです。
 しかし、半導体製造や宇宙技術などの分野において中国が高度
なレベルに達しているのは事実のようです。それらについて、今
までは詳しい情報はなかったのですが、遠藤氏の『中国製造20
25」の衝撃』の著作に詳しく書かれています。それは凄い情報
です。この著作のなかで、遠藤氏は、自分が「中国の回し者」と
思われてしまうと困るので、日本の半導体のコア技術の専門家の
言説を詳しく紹介し、そういう疑念を持たれないようにしている
として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 私が中国の土着の感覚で追いかけている中国の裏事情から行き
つく結果と、彼等(日本の半導体コア技術の専門家)の分析結果
が、最終的には一致していくのも心強く、興味深い。
 さて、こういった専門家たちが異口同音に強調し、驚いている
のは、中国半導体産業の驚異的な発展のスピードなのである。私
が中国生まれの中国育ちであり、かつては中国政府のシンクタン
ク中国社会科学院で客員教授を務めていたことから、「アイツは
親中だ」とネットで罵倒する人もいれば、『毛沢東日本軍と共謀
した男』(新潮新書)などで「中国共産党の嘘」を徹底して暴い
たものだから、「アイツは反中、反共だ!」と、これもまたネッ
トで叩かれたりする。「親中」と「反中」の両方を非難されるの
なら、ちょうど「中立」だということが分かっていいのかもしれ
ないとも思う。
 しかし、「2025」を解剖するに当たり、また「親中」とか
「中国を褒めすぎ」などと謂れなき非難を受けるのも不本意だし
何よりもここに書いている内容が事実であることを信じてもらわ
ないと困るので、日本の第一級の専門家たちの客観的な見解を引
用させていただこうと思う。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 遠藤誉氏の本を読んで、私自身は遠藤氏のことを「親中」とか
「中国を褒めすぎ」とは思いませんが、何となく習近平主席への
畏敬の念というか、尊敬の念というか、そういうものが少しある
のではないかと感じます。しかし、この本に書かれている情報は
真実であり、その内容は驚くべきものです。
 また、遠藤氏の文章に、高度な半導体技術やハイレベルな宇宙
技術を持ち、米国に迫りつつある中国という国に対する高揚感の
ようなものを感じるのは、私だけでしょうか。この点については
この問題に関心を持つ普通の日本人とは少し違うなという感じを
抱いています。やはり、中国で生まれ、中国で育つと、そうなる
のでしょうか。    ──[米中ロ覇権争いの行方/059]

≪画像および関連情報≫
 ●花田編集長の右向け右!/動画あり
  ───────────────────────────
   2015年4月3日、金曜夜10時、第46回のゲストは
  東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授の遠藤
  誉さんです。『チャイナ・ナイン』『チャイナ・セブン』な
  どのベストセラーで中国を分析されてきた遠藤さんが、アジ
  アインフラ投資銀行(AIIB)をめぐる米中の暗闘を徹底
  解説します。遠藤さんは「中国は一党支配体制を維持するた
  め腐敗撲滅に力を入れているが、同時に一党支配を批判する
  言論を激しく弾圧している。しかし言論弾圧の中では腐敗は
  撲滅できない。言論を弾圧する一党支配があるからこそ腐敗
  は生まれるのだ。そこには中国の根本的な矛盾がある」と言
  います。そして、言論の自由のないところに、国際金融セン
  ターは似合わないとも言います。
   国際金融センターをアメリカから北京と上海に移そうとし
  ている中国。その中国が主導するAIIBに、イギリス、ド
  イツ、フランス、イタリアが雪崩を打って参加を表明しまし
  た。その切り崩しの背景とは?水面下では米中によって何を
  行われているのか?「習近平の力は、政権スタート時から毛
  沢東を越えている」と遠藤さん。「紅い皇帝」習近平が激し
  く進めている反腐敗運動の狙い、それは第一義的には「紅い
  王朝」の崩壊を防ぐという目標だったが、いまや国際金融界
  の覇者となる条件を整えるための最後の一手を打とうとして
  いると遠藤さんは言います。中国の戦略とチャイナ・マネー
  が勝つのか「自由と民主」に勝つのか。遠藤さんの分析を伺
  います。            https://bit.ly/2YBJzNI
  ─────────────────────


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毛沢東を超える習近平主席
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2019年03月29日

●「中国では政府に国家人事部がある」(EJ第4977号)

 中国の人口は13億9008万人ですが、現在中国人は世界中
に住んでいます。諸外国に住む中国人のことを「華僑」といいま
すが、中国共産党政府による定義では次のようになっています。
─────────────────────────────
 「華僑」とは、中国大陸・台湾・香港・マカオ以外の国家・地
域に移住しながらも、中国の国籍を持つ漢民族である。
                  https://bit.ly/1Nyl4Y4
─────────────────────────────
 華僑の他に「華人」という言葉もあります。華僑は、中華人民
共和国の国籍を保持したまま外国に居住する者と、現地国籍も有
する二重国籍の者の両方を意味します。この他に、もともとは中
国人であるけれども、現地国籍しか持っていない者がいます。こ
れを「華人」というのです。現在の中国は、国に役立つ技術を持
つ華僑はもちろん、華人も含めて帰国させようとしています。
 ケ小平が目標として目指した「4つの近代化」を達成するため
には、優秀で、将来中国の発展に役立つ人材は、どこにいようと
中央政府として把握しておく必要があります。
 世界各国には、「中国人博士協会」というものがあります。日
本にも「全日本中国人博士協会」があります。そのサイトには、
協会について次の説明があります。
─────────────────────────────
 全日本中国人博士協会(以下、博士協会と略記)は、1996
年7月に発足し、日本の教育機関・研究機関・民間企業などにお
いて、学術研究・技術開発・企業経営などに従事している中国人
博士ならびに日本から帰国された博士により構成されている団体
です。               https://bit.ly/2Wtdkib
─────────────────────────────
 これら各国の博士協会は、国家人事部(名称は頻繁に変更され
ている)という中央行政省庁が管轄しています。つまり、全世界
の博士協会が「できる華僑・華人」をウォッチングし、上層部に
報告しているのです。
 遠藤誉氏の本に、在日中国博士協会による中国人留学人員の現
況報告のメールの概要が掲載されています。これは、遠藤氏の筑
波大学での教え子からの転送メールです。タイトルは「広州科技
交流会の報告」になっています。
 このなかで、米国、とくにシリコンバレーに留学している留学
人員の意識の高さに比べて、日本に留学している留学人員の意識
の薄さが指摘されています。その部分を引用します。
─────────────────────────────
 いま、アメリカや世界各地で活躍している留学人員たちが帰国
して中国で創業するのがブームになっています。アメリカのシリ
コンバレーの中国人企業主の同胞たちは、ふつうの白人たちの収
入よりも何倍も多い収入を得ているようです。カリフオルニアの
シリコンバレーには2万社にのぼる企業が林立しているそうです
が、そのうち、中国人とインド人によって起こされた企業の割合
は、現地の白人が起こした企業数を遥かに上回り、白人はもはや
「少数民族」になりつつあると聞いています。そこでは、新しい
技術を持った創業者は、つねに新しい機会に恵まれているようで
す。日本にいる皆さんには、まだまだこのような意識が薄いと思
います。自分は日本人よりも優れていると自認している人は多い
でしょうが、それでも結局は日本人が経営する大企業とよばれる
会社に就職して、日本人と同じ給料がもらえれば、それで万々歳
と思う人が、それ以上に多いことは非常に残念な事実です。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 在日の中国博士協会が焦っているのは、日本には高学歴の中国
人留学生の数が少なく、それを反映して在日の博士協会のパワー
も小さくなっているからです。現在、日本には観光レベルでは、
中国人が圧倒的に多いですが、学問や新技術の開発などにおいて
日本は魅力のある国ではなくなっているのです。ちなみに、日本
の筑波大学は、各国留学生にとって「日本のシリコンバレー」と
いわれているそうです。日本人のほとんどはそんなことは知らな
いと思いますが・・・。
 2000年頃からは、「SCOBA(スコバ)」という制度も
始まっています。「SCOBA」は次の略号です。
─────────────────────────────
  ◎SCOBA/硅谷留美博士企業化協会
  Silicon Vally Chinese Overseas Business Association
─────────────────────────────
 遠藤氏の情報が凄いことは、たとえば、この「SCOBA」に
してもウィキペディアには、中国のサイトを含めて、出てこない
ことです。つまり、最新の情報ということになります。
 SCOBAとは、「留学人員向けの短期帰国資金援助国家教育
部経費」というタイトルで始められた制度ということですが、制
度の詳細に関しては不明です。ただ、そのときのSCOBAの担
当は、国家教育部になっていて、国家人事部ではないのです。
 しかし、1999年に国家人事部が「グローバル・チャイナ・
タレンツ・ネットワーク」を立ち上げると、それ以後は、国家人
事部の担当になったのです。遠藤氏によると、当時国家人事部と
国家教育部の間には、相当根強い縄張り争いがあったのではない
かということです。
 そもそも企業のように、国家人事部とか国家教育部という中央
政府行政組織があることが異常であり、国家が人民を国家権力に
よって厳しく管理している実態が読み取れます。中国にとって目
下の「敵」は米国のみです。したがって、米国にマトを絞って手
段を選ばず、人材戦略を展開中です。しかし、これに「待った」
をかけたのはトランプ米政権です。これはトランプ大統領の大成
果であるといえます。これに対しオバマ前大統領は本当に何もし
なかったといえます。 ──[米中ロ覇権争いの行方/058]

≪画像および関連情報≫
 ●外国人留学生がガッカリする日本の就職事情
  ───────────────────────────
   「就職の面接で『いずれは母国に戻る』と回答したら不採
  用になると聞きました。せっかく日本で勉強したのだから、
  まずは日本で仕事をしてみようというのが素直な気持ちです
  が、正直に答えてはいけないのは変だと思います」
   「日本で働きたいと思っても、大企業ならともかく、そも
  そも名前を知らない中小企業と出会うチャンスはほとんどあ
  りません」「大学の留学課は、生活や履修のことには相談に
  乗ってくれますが、就職のこととなると、まるで取り合って
  くれません。『キャリアセンターに相談してください』と言
  われ、キャリアセンターに行ったら、『留学課で相談してく
  れ』とたらい回しにあいました」「工場や小売り・サービス
  業で働くために日本へ留学に来たワケではないのですが、就
  職できそうな企業はそれらばっかりです」
   これは海外から日本へ学びに来ている外国人留学生の声で
  す。彼ら、彼女らの多くが日本国内で就職をしようと思って
  も、さまざまなハードルに阻まれ、うまくいく人は多くあり
  ません。日本政府は2008年に、当時14万人だった留学
  生を2020年をメドに30万人まで増やす「留学生30万
  人計画」を打ち出しました。
   首相官邸のウェブサイトによれば、同計画は、日本を世界
  により開かれた国とする「グローバル戦略」の一環だとして
  います。計画の実施から9年経ったいま、日本学生支援機構
  の高等教育機関などの外国人留学生在籍状況調査によれば、
  2016年5月1日現在の外国人留学生は、23万9287
  人。8年で約10万人増えた計算です。
                  https://bit.ly/2uvYz25
  ───────−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


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遠藤誉氏/日本記者クラブ講演
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2019年03月28日

●「中国の留学生管理は徹底している」(EJ第4976号)

 1978年に改革開放を実施して、中国で「4つの近代化」を
成し遂げようとしたケ小平は、そのときから「諸外国から情報を
集める」ことを徹底しようと考えていたといいます。「4つの近
代化」とは次の4つです。
─────────────────────────────
        1.  「工業」の近代化
        2.  「農業」の近代化
        3.  「国防」の近代化
        4.「科学技術」の近代化
─────────────────────────────
 そのさい、外交方針としては、「韜光養晦」の方針を徹底させ
たのです。「韜光」とは名声や才覚を覆い隠すこと、「養晦」は
隠居するというのが本来の意味ですが、一般には、爪を隠し、才
能を覆い隠し、時期を待つ戦術を形容する言葉とされています。
そ-うでないと、情報は集まらないと考えたからです。
 具体的には、世界中に散らばる中国からの留学生を中心とする
情報収集、中国に進出する外国企業からのノウハウの収集です。
それは、実に巧妙なものであり、それが現代の中国を作ることに
貢献したのです。しかし、現代の中国の習近平政権では、「韜光
養晦」の方針のマントをかなぐり捨て、あらゆる方面に中国の力
を誇示するようになっています。
 それでは、留学生を通じて、どのようにして情報を収集するの
でしょうか。その具体的な管理方法について遠藤誉氏は、自らの
体験から、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 世界各国にいる中国人留学生は、各大学で、「中国留学生学友
会」というものを結成していて、学友会の会長は各国に駐在して
いる中国大使館教育処と連携を取り、大学における中国人留学生
の基本情報を提供している。つまり、どの国のどの大学における
中国人留学生も、全員が中国大使館教育処の管轄下にあるという
ことになる。
 この情報を一瞬で、中国中央政府の国家教育部に報告すれば、
中国政府中央は全世界にいる中国人留学生の情報を掌握し、監視
あるいは管轄することが可能となる。中国人留学生の安全を守る
ため、と言われれば何も言い返せないが、目的がそれだけではな
いことは、誰の目にも明らかだろう。小さな大学とか、その大学
にあまり多くの留学生がいない場合は例外だが、たとえば日本の
国立大学などは、すべてこの管轄下にあるということは言える。
それは大学院に進んでも同じで、教育機関を卒業し、その国の企
業で働いていたり、あるいはその国で起業している人たちは、国
家人事部という中央行政省庁が管轄する。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 これで分かるように、中国では、留学生が、どこで、どのよう
な研究をし、どのような仕事を得て、現在どのような地位に就き
どういう成果を上げているか、完全に把握しているのです。
 中国では、留学生のことは、「留学人員」、もしくは「海外学
子」という言葉で呼んでいます。遠藤誉氏によると、2001年
6月に次のようなイベントが開かれているのです。
─────────────────────────────
  期日:2001年6月29日
  内容:「留学人員科学技術交流会」
  主催:瀋陽市人民政府/科学技術委員会工業科学技術処
─────────────────────────────
 このイベントでは、事前にウェブサイトに出ている「難題招標
表」に基づいて、留学人員は招標する必要があります。「招標」
とは「入札」と同じ意味です。
 「難題招標表」には、瀋陽市にある重点企業が抱える「難題」
──文字通り、なかなか解決できないでいる課題が載っているの
です。留学人員は、そのなかで、自分が解決できると思われる難
題をマーキングし、提供できる技術、専門分野、連絡先、現職な
どを記入するのです。これが「招標」です。企業側は、応募して
きた留学人員を検討し、最も適切と思われる「頭脳」を落札し、
その留学人員には、科学技術交流会に出席する資格を与える仕組
みになっています。
 その交流会に実際に出席した遠藤誉氏によると、儀式は瀋陽体
育館に約7000人集めて行われ、中国人民解放軍儀仗隊による
国旗掲揚まであるものものしいものです。そして、別会場で行わ
れた交流会の様子を遠藤氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 盛大な開幕式が終わると、会場は藩陽市の国家ハイテク技術産
業開発区にある施設(文字が難しく表示できないのでこの表現を
使うことにする)に移った。「難題招標表」だけで何組かは海外
にいた段階で「落札」してしまったらしい。これを「得標」と称
する。地方政府が資金援助をするので、堂々と公開で技術提供の
調印式を行う。
 いかにも「羽ばたきます」ということを象徴したような、翼を
空に広げた造りの21階建ての施設には、インターネットで見た
「難題招標表」よりも詳細な人材募集のポスターが並んでいる。
あの「難題招標表」リストに載っていた以外の技術を求める人材
募集広告も新たに付け加えられていて、業績や能力により通常の
10倍以上の給料を出すというものもある。調印式は1階の国際
会議場で行われた。真紅の絨毯が敷き詰められた階段教室のよう
な大会議場には、大きな半円を措いた舞台があり、20人ほどが
横並びに座れる横幅がある。細いテーブルと椅子の後ろに、儀式
に立ち会う国や地方の指導層がズラリと立って並んでいる。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/057]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の海外留学に変化の兆し/海帰族・海待族
  ───────────────────────────
   中国経済が世界に大きな影響を及ぼすようになってきた。
  中国躍進の背景には、「海帰族」(海外留学帰国者)という
  大きなブレーン集団が貢献していることは間違いない。20
  05年までに「海帰族」は23万人を超えた。一方、最近に
  なって一部の「海帰族」が「海待族」(仕事が見つけられず
  家で待機する「海帰族」)に転化する現象が生まれている。
  同じ「海帰族」でありながら、その明暗がはっきり分かれて
  いる。しかしこれは、中国社会がさらに進化していく過渡期
  の現象であり、決して悲観する必要はない。
   1970年代以降、中国では改革開放政策が取られ、社会
  の各方面で改革が行われてきた。また、欧米諸国の先進科学
  技術を習い、文化大革命によって多大の影響を受けた欧米諸
  国との経済格差を取り戻すため、1978年に最初のアメリ
  カ留学組が派遣され、長い間、中断されていた留学生の海外
  派遣が再開された。
   しかしその後、長年にわたって海外に出る留学生の人数は
  大きな成長を見せず、1992年には、6540人に過ぎな
  かった。このような状況は1990年代後半まで続き、留学
  はいわゆる少数のエリート学生のみの特権になっていた。こ
  れらのエリートをいかに帰国させ国内で活動させるか。これ
  が中国の大きな課題となっていた。
                  https://bit.ly/2YnaVau
 ‐--------------------------------------------------------------------‐

国連で演説するケ小平.jpg
国連で演説するケ小平
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2019年03月27日

●中国のある有名な教授の自殺事件(EJ第4975号)

 2018年12月1日のことです。この日、アルゼンチンのブ
ェノスアイレスで、米中首脳会談が開催され、米中貿易戦争の一
時休戦が決まっています。同時にこの日は、ファーウェイの孟晩
舟副会長兼CFOが、カナダで逮捕されています。
 これらのニュースは、世界中に大々的に報道されたので、誰で
も知っています。しかし、その同じ12月1日に、スタンフォー
ド大学の張首晟教授が亡くなっていることについては、一部の人
しか知らないはずです。死因は自殺と見られています。しかも、
これら3つの事件は、無関係ではなく、すべてがつながっている
のです。
 張首晟スタンフォード大学教授とは何者でしょうか。
 張首晟氏は、1963年に中国・上海で生まれ、15歳で上海
の名門・復旦大学に入学し、ドイツ留学後、ニューヨーク州立大
学で物理学博士号を取得しています。33歳で米スタンフォード
大学の教授になり、トポロジカル絶縁体と量子スピンホール効果
で画期的成果を上げ、「将来のノーベル賞候補」といわれるよう
になっていたのです。
 米科学誌「サイエンス」は、張教授率いるチームが2006年
に提唱した量子スピンホール効果について「世界10大成果」の
1つと評価するほど、価値のある素晴らしいものだったのです。
 ところが、12月1日、カルフォルニア州サンフランシスコ市
の大学構内で、飛び降り自殺をしたとされています。まだ55歳
の若さであり、研究者として前途洋々であっただけに、その死を
訝る人が多くなっています。
 2018年4月、グーグルでの張首晟教授の講演(英語)の映
像があります。
─────────────────────────────
 ◎ITの将来──量子コンピューティング、AI、ブロック
  チェーンについて  ──張首晟スタンフォード大学教授
                 https://bit.ly/2TSpsMT
─────────────────────────────
 これほどの実績を上げている学者を中国が放っておくはずがあ
りません。張首晟氏はスタンフォード大学教授とともに、習近平
主席の母校である北京・精華大学の客員教授や、江沢民国家主席
の長男が学長を務める上海科技大学の特任教授も務めていたので
す。したがって、当然「千人計画」のメンバーに選ばれていたこ
とは間違いないと思われます。
 それどころか、この張首晟教授こそ「千人計画」の発案者の1
人ともいわれているのです。それに加えて、単なる研究者とは思
えないこともあります。それは、習近平氏が副主席のときに創設
された「国家一等功」賞を次のメンバーとともに受賞しているの
です。この賞を授与されるということは、国家に多大な貢献をし
ていることの証になります。したがって、「千人計画」の対象者
になっていることは明らかです。
─────────────────────────────
  1.香港「フェニックステレビ」の劉長楽会長兼CEO
  2.「アリババグループ」ジャック・マー(馬雲)会長
  3.中国IT企業「テンセント」のポニー・マーCEO
  4.ファーウェイ(華為技術)の創業者/任正非CEO
  5.張首晟スタンフォード大学教授/精華大学客員教授
─────────────────────────────
 トランプ政権になってからは、FBIが「千人計画」の対象者
に対する捜索を開始し、「知財泥棒」として逮捕されるケースが
多くなり、海外にいる中国人の間では、「千人計画」ならぬ「入
獄計画」と揶揄されるようになったのです。
 2018年6月には、米国防総省は、下院軍事委員会の公聴会
で、次の警告を行っています。
─────────────────────────────
 超ハイレベル人材選抜プログラム(「千人計画」)の目的は
 米国の知的財産を獲得することにある。  ──米国防総省
─────────────────────────────
 一体何が起きたのでしようか。
 これに関連する情報は、ネットに散見されますが、「大紀元」
の情報を引用します。この「大紀元」というメディアは、米国の
華僑によって設立され、新聞のかたちで主に中国人に向けて配信
されますが、中国共産党に対立するスタンスでの、中国国内事情
の暴露報道が特徴的です。
─────────────────────────────
 サウスカロライナ大学の謝田教授は3つの情報源から得た話と
して、「ヒューストンの研究機関にFBIが訪れた。その直後、
複数の中国人研究者が解雇された」と大紀元に伝えた。在米学者
の間では「FBIは千人計画のリストに基づいて違反者を摘発し
ている」との話が広がっている。
 テキサステック大学は「千人計画に参加するアメリカ人教員を
処罰する」との声明を発表し、同大で客員教授に就任予定の中国
人教授の招へいをキャンセルした。
 そんな中、ネット上の複数の投稿によると、中国教育部は各大
学に対して、「千人計画」が含まれた情報をウェブサイトから削
除するよう通達したという。「友人が通う大学では、千人計画に
リクルートされたある教授に関する情報が全て削除された」「国
内では、(当局が)大規模に『千人計画』の4文字が含まれた投
稿や、リストに入っている研究者の情報を削除している。なぜだ
ろう」。SNS微信(ウィーチャット)の投稿によると、教育部
は、その後、各大学のウェブサイトを点検したという、徹底ぶり
だった。              http://exci.to/2HVy4e6
─────────────────────────────
 このようなFBIによる捜査のなかで、2018年12月1日
ファーウェイの孟晩舟副会長が逮捕され、FBIの追及に追い詰
められたと思われる張首晟教授が自殺をしているのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/056]

≪画像および関連情報≫
 ●「千人計画」のリクルーターになる/財経新聞
  ───────────────────────────
   日本のシリコンバレーと称される筑波で科学技術を学び、
  日本政府から6億円ほどの支援を得てハイテク分野の研究で
  日本と中国で成果を収めてきた中国人の科学技術者がいる。
  中国に帰国した彼は現在、中国共産党政府が、海外のハイレ
  ベルの人材を招聘するプログラム「千人計画」のリクルータ
  ーとなり、人材をスカウトしている。
   中国共産党中央組織部が率いる、海外ハイレベル人材招致
  「千人計画」は2008年にスタートした。当局が公開する
  資料によると、研究職、技術者、大企業での知的財産、技術
  保護の能力など、海外のハイレベルの人材を中国に高待遇で
  招き入れ、そのスキルを中国へ「輸入」する人材計画だ。
   人材の募集要項によると、55歳以下で国籍を問わず、著
  名研究機関の研究者や大手企業で上級管理職を経験した人物
  また中国が求めるハイレベルイノベーション創業人材などを
  対象としている。
   対象者はかなりの厚遇で迎えられる。中央財政からは対象
  人材に一人当たり100万元(約1400万円)の国家奨励
  金とする一括補助が受けられるほか、社会保障制度が適応さ
  れ、配偶者の就業先や子女の就学も希望に応じて手配される
  という。また収入水準も雇用機関と協議できるとしている。
                  https://bit.ly/2U69air
  ───────────────────────────

4975-ショーチェン・ザン博士.jpg
ショーチェン・ザン博士


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2019年03月26日

Electronic Journal 第4974号/「中国は米国に深く手を入れている」

 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
 □□□□□□□□ Electronic Journal  □□□□□□□□
 □□□□□□□□ No.4974 2019/03/26  □□□□□□□□
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■ Hirano Office ■■■■■■■■■
 ■■■■■■■ h_hirano@d1.dion.ne.jp ■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 2016年の米国大統領選挙──習近平政権としては、選挙に
おいて、ヒラリー、トランプ、どちらの候補者が勝っても対応で
きるよう両様の構えをとっていたのです。とくにトランプ大統領
が実現したとき、何が起きるか、中国への影響はどうか、につい
て、慎重に分析し、準備していたのです。
 習政権は、トランプ氏が選挙中に次のようにいっていたことを
重視し、あらかじめ対策を立てています。
─────────────────────────────
        中国を為替操作国に指定する
─────────────────────────────
 このため習近平主席は、自身の母校である清華大学経済管理学
院にある「顧問委員会」に、米国の名だたる企業のトップに委員
になってもらうことによって強化し、トランプ大統領が本当に中
国を為替操作国に指定しようとしたときに、力になってもらおう
としていたフシがあります。この顧問委員会について、遠藤誉氏
は自著において、次のように述べています。
─────────────────────────────
 この顧問委員会は、清華大学の出身である朱鎔基元首相(国務
院総理)が2000年に設立させたもので、もともとは90年代
後半に朱鎔基首相が強力に推進していたWTO(世界貿易機関)
に加盟するための経済貿易研究が目的だった。
 顧問委員会の名誉主席は今も朱鎔基元首相だが、そこにはアメ
リカの大手企業のCEOが数十名も入っている。たとえば、ゴー
ルドマンサックスの元CEOで、元米財務長官だったヘンリー・
ポールソンやJPモルガン・チエースのCEOであるジュイミー
・ダイモンなどがおり、習近平は2016年になって、さらに新
しくテスラ・モーターズやスペースXのCEOであるイ一口ン・
マスク氏を委員に入れた。ザッカーバーグも新委員だ。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 遠藤氏の本には、顧問委員会の最新のリストが掲載されていま
すが、それを見ると、遠藤氏が上げた人たちの他にも、米国の著
名な金融企業、IT企業などのトップが、ズラリと名前を並べて
いるのです。
 ティム・クックアップルCEO、マイケル・デル/デルテクノ
ロジー会長兼CEO、インドラ・ヌーイペプシコ会長兼CEO、
ジニ・ロメッティIBM会長兼社長兼CEO、それに、カルロス
・ゴーン氏の名前まであります。
 遠藤氏によると、なかでもシュテファン・シュワルツマン/ブ
ラックストーングループ共同創立者およびCEOが委員にいるこ
とは重要であるといっています。ブラックストーングループは投
資ファンドです。シュテファン・シュワルツマン氏は「蘇世民」
という中国名を持つほど、親中国派の人物で、習近平氏とは大の
仲良しであり、トランプ政権が誕生してしばらくの間、「大統領
戦略政策フォーラム」という組織の議長をしていたほどです。
 ちなみに、イーロン・マスク氏もこのシュワルツマン氏がフォ
ーラム・メンバーに選んだのですが、イーロン・マスク氏がトラ
ンプ政権の移民政策を批判したことが原因で、フォーラム自体が
撤廃されてしまっています。しかし、2人とも顧問委員会の委員
にはしっかりと残っています。
 注目すべきことは、シュワルツマン氏は精華大学のなかに「蘇
世民書院」という名の機関を立ち上げていることです。この機関
は、各界のトップリーダーを目指すグローバル人材を育てること
を目的としています。これについて、遠藤誉氏の本には、次の説
明があります。
─────────────────────────────
 アメリカを中心として、世界トップの経営者を教授として招聘
し、書院を卒業したのちに関連したアメリカの大企業で実習させ
世界トップレベルの経営者に育てていく。顧問委員会の多くの委
員が、アメリカのCEOなどなので、その企業に行くケースが多
い。(中略)
 蘇世民書院で教えている教授陣の多くは、アメリカのハーバー
ド大学、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学、イェ
ール大学、カルフォルニア大学などの名門大学や、イギリスのオ
ックスフォード大学やウェストミンスター大学あるいは、シンガ
ポールのシンガポール国立大学の教授や名誉教授など、錚々たる
メンバーが30名ほど揃っている。 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 しかし、どうやら、習近平主席の目論見は外れたようです。ト
ランプ大統領は、規格にはまらない大統領であり、ボールは習政
権が予想していない角度から飛んできたのです。それは、米国の
知的財産の保護という視点からの中国批判です。それは、ペンス
副大統領の演説(以下、参照)に明確にあらわれています。
 この問題は、小手先の対応策では収めることは不可能です。ト
ランプ政権が続いて、この方向からの攻撃が強まると、上記蘇世
民書院などは確実に槍玉に上がります。
─────────────────────────────
 中国政府は、21世紀の経済の圧倒的なシェアを占めるために
官僚や企業に対し、米国の経済的リーダーシップの基礎である知
的財産を、あらゆる必要な手段を用いて取得するよう指示してき
ました。中国政府は現在、多くの米国企業に対し、中国で事業を
行うための対価として、企業秘密を提出することを要求していま
す。また、米国企業の創造物の所有権を得るために、米国企業の
買収を調整し、出資しています。最悪なことに、中国の安全保障
機関が、最先端の軍事計画を含む米国の技術の大規模な窃盗の黒
幕です。そして、中国共産党は盗んだ技術を使って大規模に民間
技術を軍事技術に転用しています。  https://bit.ly/2OPqMwq
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/055]

≪画像および関連情報≫
 ●中国ビジネス研究所代表、多摩大学大学院フェロー/沈才彬
  ───────────────────────────
   シュワルツマンは、アメリカ人の名前で、ニューヨークに
  本社を置く米国最大の投資ファンド会社『ブラックストーン
  グループ』のCEOを務めるスティーブン・シュワルツマン
  氏のこと。蘇世民は氏の中国語名である。清華大学には20
  学院、54学部があるが、人の名前で学院や学部を命名した
  のは初めてである。
   外国人8割、世界名門校の教授陣による英語授業、全寮制
  食事無料、最高額奨学金支給、入学のための国際旅費全額支
  給など、清華大学に前例がない事柄が多く、神秘なる学院と
  言われる。なぜ米国人の名前で学院を命名したか?シュワル
  ツマン学院は一体どんな学院?何のために設立し、どんな特
  徴を持つか?筆者は今年7月下旬、多くの疑問を持ちながら
  清華大学シュワルツマン学院を訪れた。
   広大な清華大学キャンパス。周囲を歩けば、1時間以上か
  かる。正門から北方の奥に向かい、約40分歩くと、緑に囲
  まれる灰色のレンガ造りの低層ビルが見えてくる。入口付近
  の壁には「SCHWARZMAN COLLEGE」と「蘇
  世民書院」と書いてある。ここはまさに神秘なるシュワルツ
  マン学院だ。学院関係者の紹介によれば、2013年ブラッ
  クストーングループCEOを務めるスティーブン・シュワル
  ツマン氏は1億ドルの私財を清華大学に寄付し、毎年200
  名の外国留学生を支援する奨学金プロジェクトを設立した。
  これはこれまで中国の大学が海外から受け入れた最大規模の
  寄付金でもある。        https://bit.ly/2FxncSs
  ───────────────────────────

蘇世民書院交流午餐会
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2019年03月25日

●「人材を集めるにはその背景がある」(EJ第4973号)

 胡錦濤政権が2008年から実施している「千人計画」の募集
要領は次のようになっています。
─────────────────────────────
 ◎「千人計画」募集要領
  55歳以下で国籍を問わず、著名研究機関や大手企業で上
 級管理職を経験した人物、海外で博士学位を取得した人物、
 また、中国が求めるハイレベルイノベーション創造人材など
 を対象とする。
─────────────────────────────
 募集要領では、外国人を含め、幅広く人材を求めているようで
すが、当面中国籍で海外、とくに米国の大学や研究機関などで働
いている人物をピックアップし、説得して中国に帰国させようと
しているのです。そのさいの処遇に関しては次の通りです。
─────────────────────────────
 気になる処遇の方だが、まず着任時に100万元(執筆時のレ
ートで1645万円ほど)の一括補助金(所得税免除)が出て、
その後は、たとえば日本と比べるなら、ほぼ日本における給料の
2倍近い月収を出す。5年以内の中国国内における収入の内、住
宅手当、飲食手当、引越し代、票訪問にかかる経費、子女の教育
費などについて免税となる。毎招致人材の雇用機関が、招致人材
の帰国あるいは入国前の収入水準を参考に、本人と協議し、合理
的な賃金額を決めるとなってはいるが、中国人で「祖国愛が強い
人」は別だが、外国人は、表的には給料がよほど良くない限り動
かない。したがって、給料は「魅力的な程度に」いいと考えてい
いだろう。             ──遠藤誉著/PHP/
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 このような処遇もさることながら、研究者にとって関心がある
のは「研究費」です。これに関しては、高いレベルの人材を獲得
しようと、中国の各地方政府で競争になっています。これについ
て、遠藤誉氏は次のように書いています。
─────────────────────────────
 2017年3月24日付の「光明日報」(1949年6月に創
刊された中共中央宣伝部直轄の新聞)は、研究者に対する史上最
高の待遇として、「年収500万元(約8225万円)、科研費
3000万元(約5億円)」という金額が現れたと報じた。
 それも地方の大学で、たとえば華北水利水電大学、杭州電子科
技大学天津工業大学などで、天津は別だが、わりあい地方に分散
している。            ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 この「千人計画」に基づいて集めた各領域におけるハイレベル
の人材は、2012年7月の時点で、千人の倍以上の2263名
に達しています。そこで2011年8月からは、「千人計画」の
なかで「外専千人計画」を加えて、外国国籍の専門家の招聘にも
力を入れています。既に2014年の時点で、242人の招聘に
成功しているといわれています。
 国籍については、米国が最も多く、シンガポール、英国、カナ
ダ、ドイツ、デンマーク、オーストラリア、そして日本と世界中
から招聘しているのです。さらに、2012年8月には「万人計
画」が発足しています。「万人計画」は、向こう10年間と期限
が切られているので、2022年までに達成を目指すことになり
ます。2012年から発足した習近平政権は、「万人計画」の達
成には、強い意欲を示しています。
 それは、2012年11月に総書記に就任したばかりの習近平
氏が、12月5日に、中国で研究に従事している外国人専門家を
招集して、北京で座談会を開いていることでも習政権がこれに力
を入れることは明らかであったのです。
 このように、中国では、今や国を上げて、ハイレベルの人材集
めに狂奔していますが、これには、米国に追い付き、追い越すと
いう目標達成のためだけではなく、その背景として、中国の強い
危機感があるのです。それは、「人材の持続性」を将来的に確保
するための人材戦略です。
 それは、中国の文化大革命の結果生じたもので、遠藤誉氏はこ
れについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 なぜなら中国には、1966年から76年にかけて、教育機関
が閉鎖されていたという、人材育成に関する「空白の10年間」
がある。したがって政界だろうと経済界だろうと、年齢的にその
時期にさしかかった若者たちは教育を受けていなくて、「人材の
空白」があるのだ。1978年12月に改革開放が宣言され、中
国国内の大学も77年から再開されたものの、知的欲求に餓えて
10年間も肉体労働に従事させられていた頭脳たちは、まるで堰
を切ったように一斉に海外に出てしまった。国費留学生の出国が
認められたのは1981年で、私費留学生は83年からである。
 だから1996年の第9次5ヵ年計画から、海外に散らばった
頭脳たちを呼び戻す「中国全球人材信息網」というネットワーク
を形成して、留学人員創業パークに招き入れたのだが、これにも
やがては限界が来る。       ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 毛沢東の愚かな10年におよぶ文化大革命によって教育を奪わ
れた世代は、物凄い知的欲求に衝かれて海外に飛び出していった
人たちであり、根性があり、それぞれ優秀な人材に育った人が多
いのです。だからこそ、中国政府は、それらの人材を中国に帰国
させようとしてやっきとなっているのです。これが「千人計画」
「万人計画」の背景にあるのです。
 企業の人材の採用でもそうですが、景気が悪いからといって、
採用しなかったり、採用を大幅に絞ると、人材の持続性が切れ、
企業の成長力に支障をもたらすことになるのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/054]

≪画像および関連情報≫
 ●国内ハイレベル人材育成「万人計画」名簿第一弾発表
  ───────────────────────────
   中国中央人材工作協調グループ弁公室はこのほど、国家ハ
  イレベル人材特別支援計画(通称「万人計画」)の対象者名
  簿第一弾を正式に発表したことを明らかにした。人民日報が
  報じた。
   「万人計画」は、「千人計画(海外ハイレベル人材招致計
  画)」と並行して進められている、国家級重大人材誘致プロ
  ジェクトで、対象者第一弾に選ばれたのは、合計277人。
  277人の内訳は「傑出した人材」6人、「科学技術イノベ
  ーションのリーダー型人材」72人、「傑出した青年人材」
  199人。このほか「科学技術起業分野のリーダー型人材」
  「哲学・社会科学分野のリーダー型人材」「大学教学分野の
  優秀教員」「百千万プロジェクトのリーダー型人材」の4タ
  イプの人材についても、すでに第一回評定・選抜が終了して
  おり、最終評定・選抜や公示などの手順を経て近く公表され
  る。「万人計画」の対象者選抜は、国内外での実績を十分に
  考慮し、「成功の経験を参考とし、『ベスト・オブ・ザ・ベ
  スト』を選抜する」という原則にのっとり、度重なる推薦を
  通じ、厳しい篩分けによって進められた。今回選ばれた「傑
  出した人材」と、「科学技術イノベーションのリーダー型人
  材」は全員、「863計画」や「973計画」など国家重大
  科学研究計画のチームリーダーや、ハイレベル革新チームの
  リーダーを担当している。    https://bit.ly/2TwKzPO
  ───────────────────────────

中国文化大革命.jpg
中国文化大革命
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2019年03月22日

●「中国の超大規模な『人狩り』作戦」(EJ第4972号)

 習近平政権がいかに留学生制度──とくに留学後に中国に帰国
させることに力を注いでいるかを示すデータがあります。遠藤誉
氏の本に出ているものですが、以下に要約します。
 1978年の改革開放後に中国を出国した中国人の留学生の数
は、516万4900人、そのうち、学業終了後に帰国した留学
生の数は、2017年の時点で、313万2000人です。つま
り、40年かけて約6割の人が帰国したことになります。
 ところで、習近平政権になってから帰国した中国人留学生の数
は231万3600人です。習近平政権は2012年に発足して
いるので、約6年間でこの人数が帰国したことになります。パー
センテージでは、40年かけて帰国した313万2000人の約
74%が6年間で帰国したことになります。
 このデータを発表したのは、中国共産党機関紙「人民日報」で
すが、習政権になってからの留学生の帰国率はきわめて高く、そ
れだけ中国人民が習政権に期待している証であると「人民日報」
は誇らしげに強調しています。
 中国は既に追いつき、追い抜くべきターゲットとして、はっき
りと米国を見据えています。それは、マラソンで、はるか後方か
ら追い上げてきて、トップを走る米国の背中が見えている状況に
よく似ています。習近平氏は、2012年11月15日に、中国
共産党中央委員会総書記に選出された半月後、中国国家博物館の
「復興の道」展を視察したときに、次の発言を行っています。こ
れが「中国の夢」といわれるものです。
─────────────────────────────
 誰しも理想や追い求めるもの、そして自らの夢がある。現在み
なが「中国の夢」について語っている。私は「中華民族の偉大な
復興」の実現が、近代以降の中華民族の最も偉大な夢だと思う。
この夢には数世代の中国人の宿願が凝集され、中華民族と中国人
民全体の利益が具体的に現れており、中華民族一人ひとりが共通
して待ち望んでいる。        https://bit.ly/2HHClBQ
─────────────────────────────
 そして、2013年6月8日、習近平主席は、オバマ米大統領
と米カリフォルニア州サニーランドで非公式会談を行ったさい、
「中国の夢」について次のように説明しています。
─────────────────────────────
 中国の夢は国家の富強、民族の振興、人民の幸福であり、協力
発展、平和、ウィンウィンの夢でもある。それは、米国のアメリ
カンドリームや各国国民の夢とは共通している。
                  ──習近平中国国家主席
                  https://bit.ly/2HHClBQ
─────────────────────────────
 習近平主席は言葉を慎重に選びながらも、米国との「ウィンウ
インの夢」を実現し、二大大国としてやっていきたいという気持
ちに溢れています。それは、米国を射程にとらえたという自信か
ら来るものです。そのためには、何といっても「人」──頭脳を
集める必要があるということで、留学生として送り出したからに
は、中国に戻ってもらえるよう研究施設を増設し、そのための報
酬、研究開発費などの予算を積み増しているのです。
 優秀な人材をいかにして増やすか──これまで中国はこのこと
に力を入れ、とくに胡錦濤政権時代からは、具体的な人集め政策
を実施しています。それが2008年からスタートした「千人計
画」です。この計画の英語表記は次のようになっいます。
─────────────────────────────
    The Recruitment Program of Global Experts
      グローバル人材のリクルート・プログラム
─────────────────────────────
 3月18日のEJで述べたように、中国には、後にも先にもノ
ーベル賞受賞者は3人しかいないのです。これでは、二大大国と
して米国と肩を並べるにはほど遠い状態です。しかし、それは国
籍にこだわっているからであって、「中国系」まで含めるのであ
れば話は別です。
 楊振寧という学者がいます。1922年に安徽省で生まれてい
るので、中国人です。1957年にノーベル物理学賞を受賞して
いますが、楊振寧の国籍は「中華民国」であって、「中華人民共
和国」ではないのです。したがって、中国人が取得したことには
ならないのです。しかも1964年には、楊振寧はアメリカの国
籍を取得しています。
 これに目をつけたのが、胡錦濤主席(当時)です。胡錦濤主席
も安徽省であるところから、胡錦濤政権によるさまざまな働きか
けによって、2003年に、中国に呼び戻すことに成功していま
す。そして2008年に「改革開放30周年記念における中国に
最も影響を与えた海外専門家」として表彰を受けています。そし
て、最新の情報によると、2016年末において、中国籍に戻っ
ています。
 このことがきっかけになって、千人計画の対象者には「国籍を
問わない」という項目が入ったのです。国籍がどこであれ、親中
国の学者を中国に集めることに成功すれば、次世代を育てるのに
役立つからです。このことに関して、遠藤誉氏の本には、楊振寧
についての次のエピソードが出ています。
─────────────────────────────
 当時国家主席だった胡錦濤が直接楊振寧に会ったときに、彼は
大学院ではなく学部の学生に講義をしていた。それを目の当たり
にした胡錦濤は感動し、「こんなご高齢なのに」と言ったところ
「いえ、科学者は自分の知識を次世代に伝えてこそ、その役割を
果たすことができるのです。そうでないと、科学の発展は、そこ
で止まります」という回答が戻ってきたのである。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/053]

≪画像および関連情報≫
 ●楊振寧が昨年末に中国国籍に/理科系のノーベル賞は2人
  ───────────────────────────
   1957年に中国系の物理学者、楊振寧と李政道の2名が
  ノーベル物理学賞に輝いた。研究対象は「パリティ対称性の
  敗れ」だが、詳しい事は分からない。楊振寧は中華民国安徽
  省合肥市、李政道は中華民国江蘇省蘇州市の出身だ。いまな
  ら大陸中国出身だが、当時は中華民国だから、大陸中国人の
  受賞ではない。
   というわけで理科系の学者で中国人として初のそして唯一
  のノーベル賞は、2015年に大村智と同時に医学・生理学
  賞の屠ゆうゆうだ。抗マラリア薬の開発が評価された。しか
  しなぜか彼女は中国では冷遇されている。
   しかし最近になって中国人ノーベル賞受賞者が一人増えて
  2人になった。先ほどの楊振寧が外国籍を放棄し中国籍にな
  り、中国科学院士になったのだ。
   ノーベル賞受賞者の国籍など本来はどうでもいいことだ。
  科学の発展に寄与すれば誰であっても構わない。どの国での
  受賞者が何人いるなどはノーベル賞の本来の趣旨からはそぐ
  わない議論だ。それでもある国から出ればその国の人は嬉し
  いし喜びだし誇りでもある。
   楊と李の受賞には、もう一人の中国系科学者の功績も大き
  い。パリティ対称性の破れを実験で確かめたのは呉健雄とい
  う女性科学者で上海出身だ。本来なら彼女も同時にもらって
  おかしくないところだ。     https://bit.ly/2Wh1cAO
  ───────────────────────────

「中国の夢」を語る習近平国家主席.jpg
「中国の夢」を語る習近平国家主席
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2019年03月20日

●「『ヒト』において絶対優位の中国」(EJ第4971号)

 ヒト、モノ、カネといいますが、このすべてが揃わないと、科
学技術は発達しないのです。今の中国には、このすべてが揃って
います。それに、民主主義国にはある手続きやルールという面倒
なものが社会主義国にはない。トップが決断すれば、ヒト、モノ
カネはすべて揃うのです。
 この差が宇宙技術において、よく反映されています。1957
年10月4日のことです。ソ連が人類初の人工衛星「スプートニ
ク1号」の打ち上げに成功したのです。これによる米国をはじめ
とする西側諸国のショックは、計り知れないものがあり、それを
「スプートニクショック」と呼んだのです。
 それまで米国は、自国を「宇宙開発のリーダーであり、それゆ
えミサイル開発のリーダーでもある」と信じており、いささかも
疑っていなかったのです。米国も人工衛星計画「ヴァンガード計
画」を進めていましたが、うまくいっていなかっただけに、ソ連
の人工衛星計画の成功は、全米をパニックに陥れたのです。
 それ以来、宇宙技術、少なくとも月探査技術に関しては、米国
は、中国、ロシアに続く3位に甘んじています。中国は「宇宙を
制するものは全世界を制す」と考えており、ここ5年ぐらいでこ
の分野の真の覇者が決まると考えられます。
 中国が最大の競合相手の米国に対して、絶対的優位に立つもの
があります。それは「ヒト」、つまり人口です。現在、中国の人
口は次に示すように世界一であり、2位のインドとつば迫り合い
をやっています。
─────────────────────────────
     中 国 ・・・・・ 13億9008万人
     インド ・・・・・ 13億1690万人
     米 国 ・・・・・  3億2589万人
                  https://bit.ly/2udXprQ
─────────────────────────────
 中国と米国の人口の差は10億人以上あります。この差は絶対
的なものであり、米国は対抗不能です。もちろん数ばかりが多く
てもそれは必ずしも優位性にはなりません。「大而不強」という
言葉もあり、人材の質が問われます。そこで、カギを握るのは、
「留学生制度」です。
 どこの国も留学は国として奨励していますが、民主主義国の場
合、何を学び、将来留学で得た経験や技術を何に使うかはあくま
で本人の自由です。それらが結果として国のためになればよいと
いう考え方に立っているからです。
 しかし、中国のような社会主義国では、彼らが自ら学びとるこ
とに加えて、国が何らかの目的と任務を与え、それらの情報収集
をさせることも不可能ではないと思います。あくまで表向きは、
合法的な情報収集ですが、最初からそういう意識を持って留学す
れば、それは国として物凄い情報収集パワーになります。それも
数が多ければ多いほど効果的です。
 それでは、中国では、どのくらいの人が留学しているのかにつ
いて調べてみると、2017年の中国人出国留学人数は、60万
8400人、初めて60万人を突破しています。前年比11・7
%のプラス、留学生資源国トップの座を維持しています。
 博士号取得者は22万7400人、14・9%のプラスです。
出国留学の目的国は、欧米の先進国に集中しています。2017
年の特徴は、“一帯一路”沿線国家群への留学が増加しているこ
とです。合計6万6100人、前年比15・7%の伸びです。中
国人出国留学生の留学先トップ10を示すと、次のようになって
います。
─────────────────────────────
     1.韓国       6.ロシア
     2.タイ       7.日本
     3.パキスタン    8.インドネシア
     4.米国       9.カザフスタン
     5.インド     10.ラオス
                  https://bit.ly/2TSIMZj
─────────────────────────────
 ちなみに、日本人による海外留学数についても触れておくと、
文科省発表のデータによると、数は多くはないものの、増加はし
ています。2017年度は10万5301人であり、対前年度比
で8448人増えています。留学先・留学者数のベスト5は次の
通りです。
─────────────────────────────
      1.米国       19527人
      2.オーストラリア   9879人
      3.カナダ       9440人
      4.中国        7144人
      5.韓国        7006人
                  https://bit.ly/2TGJ3iR
─────────────────────────────
 国家としてハイレベルの人材を増やすには、基本的には2つの
方法があります。
─────────────────────────────
    1.自国の若い人材を優秀な人材に育て上げる
    2.諸外国から優秀な人材を積極的に招致する
─────────────────────────────
 どこの国でも上記の2つについては、当たり前のようにやって
いることですが、中国はこれらの2つを、かなり緻密な計画を立
てて積極的にやっています。
 「1」に関しては、中国は留学生制度を、他国よりも積極的に
活用し、緻密な計画を立てて優秀な人材づくりを行っています。
 「2」に関しては、2008年からの「千人計画」、2012
年からの「万人計画」によって、文字通り、国を上げて人を集め
ており、かなりの成果を上げています。何といっても「ヒト」な
のです。       ──[米中ロ覇権争いの行方/052]

≪画像および関連情報≫
 ●「世界中の留学生の4人に1人」を占める中国人
  ───────────────────────────
   飲食店やコンビニなど、日本の至る所でアルバイトに励む
  中国人留学生を目にする機会はすこぶる多い。独立行政法人
  日本学生支援機構(JASSO)が2016年3月に発表し
  た『平成27年度外国人留学生在籍状況調査結果』によれば
  2015年(平成27年)に日本に滞在した外国人留学生の
  総数が20万8379人であるのに対して、中国人留学生は
  9万4111人で、実に全体の45・2%を占め、国別で第
  1位となっている。第2位のベトナム人留学生が、3万88
  82人で18・2%であるから、中国人留学生の多さは突出
  している。
   12月12日に“中国社会科学院文献出版社”から出版さ
  れた『中国留学発展報告(2016)』によれば、2015
  年に中国は海外留学生が最も多い国になったという。同書は
  “中国与全球化智庫(中国グローバル化研究センター、略称
  :CCG)”が、2015年における中国の海外留学の動向
  を研究した結果を取りまとめた報告書である。報告書の要点
  は以下の通り。
  【1】2015年における中国の海外留学生は126万人で
  全世界の海外留学生総数の25%を占めた。これは、世界中
  の海外留学生の4人に1人が中国からの留学生であることを
  意味する。           https://bit.ly/2CptYrr
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プートニク打ち上げ成功記念切手.jpg
プートニク打ち上げ成功記念切手
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2019年03月19日

●「銭三強と銭学森による核実験成功」(EJ第4970号)

 中国の核実験を成功させた立役者としては、銭三強の他にもう
一人の人物が必要です。それは、銭学森(センガクシン)という
人物です。銭学森は弾道ミサイルの専門研究者です。
 銭学森とはどのような人物でしょうか。
 銭学森は、世界的に有名な中国の科学者であり、アーサー・ク
ラーク原作の映画『2001年宇宙の旅』に出てくる中国の宇宙
船「チェン号」は、銭学森の名前からとられています。ネット上
に出ている銭学森の経歴を引用します。
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 銭学森は1911年、杭州生まれ。1935年に渡米してマサ
チューセッツ工科大学に留学後、カリフォルニア工科大学に移っ
て、数学者セオドア・フォン・カルマンの下で研究を始める。カ
ルテクでは後にジェット推進研究所(JPL)の母体となった学
生ロケット研究グループ「スーサイド・スクワッド」に参加して
いた。そのままフォン・カルマンが初代所長となったJPLに加
わり、陸軍の資金を受けて、JPL初期の活動である「コーポラ
ル」といったミサイル開発に関わる。
 銭自身が優れたロケット研究者であったのみならず、ナチス・
ドイツのロケット工学者ウェルナー・フォン・ブラウンが、ペー
パークリップ作戦後に合衆国に移送された際には、最初の面談を
行い、その技術をアメリカのミサイル(ロケット)開発に融和さ
せる役割も果たした。        https://bit.ly/2FcgPCz
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 ウェルナー・フォン・ブラウンについては、こんな話がありま
す。ドイツ軍が、連合軍に対して劣勢に傾いていた1943年、
ヒットラー総統の命令で、ナチス・ドイツにおいて、当時の究極
兵器として、長距離弾道ミサイル「V2ロケット」を開発し、ロ
ンドンを攻撃する準備をフォン・ブラウンが中心になって進めて
いたのです。
 しかし、根っからのエンジニアであるブラウンは、ロケットに
ついての壮大なプラン──地球を回る軌道に乗せるロケットや、
月ロケットのことをあちこちで話し過ぎるとして、SS(ナチ親
衛隊)とゲシュタポ(国家秘密警察)は、国家反逆罪としてブラ
ウンを逮捕してしまうのです。
 しかし、V2ロケットの開発中であり、ブラウンは必死に釈放
を求めましたがうまくいかず、最後にはヒトラー総統自身がSS
とゲシュタポを説得してやっと釈放されたのです。
 1945年5月になると、ドイツの敗戦は確実な情勢になった
ので、ブラウンたちの仲間は、亡命先としてどの国にするかを検
討したのです。彼らにはロケット技術があり、それを亡命先に高
く売ってよい条件での亡命を勝ち取ろうとしたのです。
 科学者たちのほとんどはロシアを恐れ、フランスは奴隷のよう
に扱うから嫌だという者が多く、英国はいいのだが、ロケット計
画を賄う資金がないということで、結局米国が一番良いというこ
とになったのです。そして、ブラウンが実際に米国に赴いたとき
銭学森はブラウンと面談し、彼らの有する技術を米国のミサイル
開発に融合させる技術的な貢献を果たしています。
 しかし、1950年、折からの「赤狩り」で、銭学森は共産主
義者のスパイであるとして逮捕され、米国の自宅に軟禁されてし
まうのです。それを知った毛沢東と周恩来は、あらゆる外交の手
立てを駆使し、銭学森の奪還を図ります。結局、1955年に朝
鮮戦争の米軍捕虜との引き換えに銭学森を取り戻し、中国に帰国
させたのです。
 毛沢東は、銭学森を銭三強のいるソ連に向わせ、合流させるの
です。これによって、中国としては、原子爆弾製造のための磐石
な体制を作ったことになります。しかし、ソ連との関係は最初か
らあまりよくなかったのです。おそらくスターリンは中国に原子
爆弾を保有させたくなかったものと思われます。そのため、ソ連
との関係悪化は加速し、1959年6月にはソ連から中国への援
助は完全に打ち切られています。
 一方、フランスとの関係はうまくいっていたのです。フランス
のキューリー研究所に留学していた放射能科学者、楊承宗は帰国
に当って、キューリー研究所から素晴らしいプレゼントがもたら
されたのです。遠藤誉氏の本から引用します。
─────────────────────────────
 楊承宗は、1947年にフランスのキューリー研究所に留学し
て博士学位を取得したのだが、新中国誕生後、毛沢東の呼び掛け
に応えて中国に帰国しようとした。するとイレーヌ・キューリー
夫妻が、炭酸バリウムによって純化された10グラムのラジウム
標準資料を楊承宗にプレゼントしたのである。これは世界的に見
ても、誰もが喉から手が出るはど欲しいものだった。彼女は中国
の成功を祈ると言い、原爆成功と同時にフランスは中国と国交を
結ぶにちがいないと言って、毛沢東に1つの「言葉」を送ってく
れと頼んだのである。それは「もし原子爆弾に反対するのなら、
自分の原子爆弾を持ちなさい」という言葉だった。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
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 毛沢東は、1960年に中華人民共和国第9局(核兵器製造機
関)を設置し、チベット族自治区に核開発のための第9学会(北
西核兵器研究設計学会)を設立しています。第9学会のコードナ
ンバーは「211」です。そして、1964年に中国は、次の2
つの核に関する実験に成功しているのです。
─────────────────────────────
 1.第9学会で開発された初の中国核兵器(コードネーム=
  596)が、核爆発に成功したこと
 2.核弾頭を装備した東風2号Aミサイルが発射され、標的
  上空569メートルで爆発したこと
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/051]

≪画像および関連情報≫
 ●金正恩より恐ろしい核指導者は毛沢東―米外交専門誌
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   2017年7月18日、米華字メディアの多維新聞による
  と、米外交専門誌ナショナル・インタレストはこのほど、北
  朝鮮の最高指導者である金正恩氏より恐ろしい核指導者は、
  中国の毛沢東だと指摘している。
   北朝鮮は、2017年7月4日、大陸間弾道ミサイル(I
  CBM)の発射実験を行った。米国、韓国、日本などは金正
  恩の核武装計画により絶え間ない脅威にさらされている。だ
  が歴史上、金正恩が及ばない核指導者が少なくとも1人は存
  在した。それが中国の毛沢東だ。
   毛沢東が数十年間戦争と混乱に陥った中国に統一をもたら
  した変容的で歴史的な指導者であることは疑いようのない事
  実だ。だが彼は権力を引き受けた瞬間から、核戦争に「無邪
  気な」態度を取るようになった。
   この中国の革命的指導者は、米国と敵対するだけでなく、
  重要な大国のソ連との力比べも惜しまなかった。中ソの紛争
  は1969年、中国軍がソ連の国境警備隊を襲い、50人の
  兵士を殺害した際に頂点に達した。毛沢東ははるかに強力で
  核武装した国との戦争の危険にさらされた。毛沢東の最も恐
  ろしい側面は、中国が1964年に最初に実験した核兵器に
  関する彼の見解であった。ソ連は当初、中国が独自に核兵器
  を建設するのを支援することに同意した。だが、毛の核戦争
  に対する「遠慮のない」態度に対する懸念から、支援を打ち
  切っている。          https://bit.ly/2Fijyvm
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銭学森と毛沢東
    
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