2022年07月04日

●「欧米と日本はロシアに負けている」(第5764号)

 西側陣営に属している日本から見ると、ロシアは、主権国家で
あるウクライナに理不尽にもいきなり大量の戦車などで軍事侵攻
し、ウクライナの各都市をミサイルで破壊して多くの人命を奪っ
ています。そして現在も、軍事作戦を継続し、世界中から非難を
浴びても平然としています。しかし、西側諸国からの今までにな
いほど厳しい経済制裁によって、ロシア経済は、壊滅的な打撃を
受けているように見えます。
 しかし、これは西側の有力国、なかんずくG7から見た風景で
す。6月30日と7月1日付の日本経済新聞のトップコラム『岐
路に立つG7』によると、「自由民主主義国」と分類される国は
2012年には42カ国ありましたが、2021年には34カ国
に減少しています。人口ベースで見るならば、自由民主主義国は
世界のわずか13%でしかないのです。そこで悩んでいるのは、
新興国と呼ばれる国々です。どっちの陣営につくのがプラスか、
迷っているからです。
 「BRICS」といわれる新興国の枠組みがあります。ブラジ
ル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国による枠組
みです。ところで今回のG7サミットでは、アルゼンチンとイン
ドネシアの両首脳を招いています。
 ところが、G7会合の前日、BRICSは、オンラインで拡大
会合を開き、そこには、アルゼンチンとインドネシアの両首脳の
姿があったのです。しかも、アルゼンチンの首脳は、その場で、
BRICSへの正式加入を希望しています。おそらくプーチン大
統領の策略でしょうが、G7が招いたアルゼンチンとインドネシ
アの首脳をわざわざ拡大会合として招待したのです。
 インドネシアのジョコ大統領は、G7の会合を終えると、その
足でモスクワに向かい、30日にプーチン大統領と対面での会談
に臨んでいます。もっともインドネシアの場合は、G20の議長
国であり、そのための訪問であって、モスクワ訪問はG20成功
のための業務の一環とも考えられます。そのために、ジョコ大統
領は、G7の前に、ウクライナを訪問して、ゼレンスキー大統領
とも会い、ゼレンスキー大統領の親書をプーチン大統領に届けて
います。インドネシアが、ロシアとウクライナの仲裁役を買って
出ようとしているのでしょうか。どちらからも嫌われない作戦の
ように見えます。
 「ロシアに制裁!」といっても、G7各国は一枚岩ではなく、
それぞれに政治的なウィークポイントを抱えています。G7のな
かで、ロシアに一番依存していないのは米国で、石炭、原油、天
然ガス、いずれも禁輸に踏み切っています。しかし、米国では、
11月に中間選挙があり、バイデン現政権は、インフレなどの影
響もあって、支持と不支持が逆転し、足元に大きな政治的不安を
抱えています。
 英国は、制裁には熱心であり、石炭と原油の禁輸に合意してい
ますが、その実施は、2022年末までにとしており、まだ実施
に移していない状況です。
 EUとしては、石炭については禁輸で合意していますが、その
実施は2022年8月からであり、まだはじまっていません。ま
た、EU各国も、それぞれ苦しい事情を抱えており、その政治的
な足元はそれぞれきわめて不安定です。
 フランスは、エネルギー問題が物価高などを通じて内政に影響
を及ぼし、マクロン陣営は、低所得者層を中心に不満が充満し、
6月19日の国民議会(下院)選挙で敗北し、与党連合は過半数
割れに追い込まれています。
 ドイツのシュルツ首相は「ロシアへのエネルギー依存度を下げ
ることが必要だ」とはいうものの、ガス問題については口を閉ざ
しています。国際エネルギー機関(IEA)によると、ドイツの
20年のロシア産ガスへの依存度は46%であり、これはG7の
なかでは最も高いのです。英国の依存度は3%、フランスは20
%です。しかも、ドイツは既にロシアからパイプラインを通じた
ガス供給を一部削除されており、苦しい状況にあります。
 それでは、日本についてはどうでしょうか。
 ロシアは、岸田政権が前安倍政権と異なり、ウクライナ侵攻を
めぐって欧米と共同歩調を取って、厳しい対ロ制裁に加わってい
ることに対して、日本を欧米と共に「非友好国」に指定していま
す。そしてとくに日本が直接関係のない北大西洋条約機構(NA
TO)の首脳会議にまで出席したタイミングを狙って、ロシアは
日本に対して、切り札を切ってきたのです。それがロシア大統領
令「サハリン2/譲渡命令」です。究極の嫌がらせです。7月2
日付の朝日新聞は、これについて、一面トップ記事で次のように
伝えています。
─────────────────────────────
◎サハリン2/譲渡命令/ロシア大統領令
 日本、LNG権益失う恐れ/プーチン氏、制裁対抗か
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ロシアのプーチン大統領は、6月30日、日本の商社も出資す
るロシア極東の液化天然ガス(LNG)・石油開発事業「サハリ
ン2」の運営を、新たに設立するロシア企業に譲渡するよう命令
する大統領令に署名した。
 ウクライナ侵攻をめぐり対ロ制裁を強める日本への対抗措置と
みられ、日本側が事業の権益を失う恐れが出てきた。サハリン2
で生産するLNGの約6割は日本向けとされ、日本のエネルギー
戦略にも大きな影響を与える可能性がある。
            ──2022年7月2日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 「サハリン2」は、生産する6割が日本向けとされ、三井物産
(12・5%)と三菱商事(10%)が参加しています。この権
益が奪われると、日本のエネルギー政策にとって大打撃になるこ
とは確実です。しかも、日本も現在、参院選の真っ只中であり、
選挙結果にも重大な影響があるものと考えられます。
              ──[新しい資本主義/120]

≪画像および関連情報≫
 ●「サハリン2」継続か撤退か、割れる経済界 欧州は「脱
  ロシア」急ぐ
  ───────────────────────────
   日本企業が出資するロシア・サハリンの資源開発から欧米
  企業が撤退を表明し、日本の経済界にも、波紋が広がってい
  る。エネルギーの安定供給を優先するのか、痛みを伴ってで
  も欧米企業と足並みをそろえるのか、主張は割れている。
   英石油大手シェルが撤退を決めた「サハリン2」は日本へ
  のLNG(液化天然ガス)の輸出拠点で、三井物産が12・
  5%、三菱商事が10%出資している。日本はLNGの約8
  %をロシアからの輸入に頼る。石油の約4%と比べて依存度
  は高い。三井物産幹部は今後の対応について「エネルギー安
  全保障をどう考えるか政府と協議する」と話す。
   サハリン2で生産するLNGの約6割は日本向けとされ、
  東京電力と中部電力が出資する火力発電会社JERAのほか
  東京ガスや大阪ガスなどが調達する。広島ガスのように調達
  量の約5割を占めるところもある。撤退によって供給がスト
  ップし、代わりに価格の高い短期契約で市場から買うことに
  なれば、電気代やガス代のさらなる値上がりにつながる。
   日本商工会議所の三村明夫会頭は3日の会見で「都市ガス
  や電気を使うユーザーに影響することをきちっと考えて対応
  すべきだ」と強調。日本企業が権益を手放しても中国がその
  分を引き受ける可能性に触れ、現実的な対応を求めた。萩生
  田光一経済産業相も8日の参院経産委員会で「我々が権益を
  手放しても第三国がただちにそれをとって、ロシアが痛みを
  感じないのであれば(経済制裁の)意味がない」と述べた。
                 https://bit.ly/3I70KxU
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サハリン2.jpg
サハリン2
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2022年07月01日

●「消費減税なら年金財源3割カット」(第5763号)

 6月26日のNHKの『日曜討論』で、またしても与党から、
とんでもない発言が飛び出し、騒ぎが起こっています。発言の主
は、自民党の茂木幹事長です。
─────────────────────────────
 消費税なんですが、みなさんからお預かりしている消費税、こ
れは年金・介護・医療そして子育てシェア、社会保障の大切な財
源です。これをですね、野党のみなさまがおっしゃるように下げ
るとなると、年金財源は3割カットしなくてはならなくなる。
     ──26日の「日曜討論」における茂木幹事長の発言
                  https://bit.ly/3yoOuph
─────────────────────────────
 茂木幹事長という人は頭の良い人です。その理由をちゃんと説
明しています。年金には「国庫負担分」があります。金額にする
と12・8兆円。公的年金の収入は52・5兆円(2020年度
予算)。12・8兆円はその24%に相当します。この国庫負担
金は消費税収を財源にしています。したがって、消費税を6%引
き下げると、年金収入は13兆円の減収になり、年金財源が約3
割カットされてしまうことになります。
 理路整然としています。しかし、これは自民党の立場からの論
理展開です。年金制度が創設されてからしばらくの間は、保険料
が大量に入ってくる一方で、出て行く年金が少なかったので、年
金資金は貯まる一方だったのです。そのため、無駄な箱モノを建
てたりして、巨額の資金が無駄に使われ、財源が相当減少してし
まったのです。そのため、年金の種類に関係なく、誰でも受け取
れる基礎年金の部分に税金を投入することが決められたのです。
それが国庫負担分です。
 そのため政府は、年金支給のため、毎年国庫負担金分を税金か
ら手当てしなければならなくなり、その財源に毎年苦慮するよう
になります。何しろ日本は経済が30年も成長しない国であり、
税収が増えないからです。しかし、それは政府の責任であり、ひ
いては、超長期政権の自民党の責任です。そこで考えられたのが
消費税を増税し、それを国庫負担分の財源にする方法です。
 そういうわけで、消費税を5%から10%に税率を引き上げる
ときに、消費税法第1条第2項に「毎年度、制度として確立され
た年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するた
めの施策に要する経費に充てるものとする」を加えて、主たる使
途を明記したのです。
 しかし、これは、消費税を社会保障の目的税にしたわけではな
く、税金として入ってくるものから国庫負担を手当てすることに
は変わりがないのです。お金には色はついていないからです。こ
のことは、6月27日のEJで述べています。
 しかし、そもそも年金は、収入のなくなった高齢者が支給を受
けるものです。その支給の原資を、一部とはいえ、年金以外に収
入のない高齢者も負担せざるを得ない消費税で用意する──完全
に間違っていると思います。
 しかも、コロナ禍はまだ終わっておらず、そうでなくても国民
全般に収入が減っているのに、物価は高騰し、実質収入は激減し
ています。政府として何か対策を立てるべきです。そのための政
権与党ではありませんか。
 しかし、収入を突然上昇させることは困難であり、誰もが支払
わざるを得ない消費税を暫定的に減額し、実質収入をこれ以上下
げないように配慮する──これが政府として採択すべき合理的な
政策であると思います。消費税減税は、コロナ禍以降、経済対策
の一環として世界中で行われています。減税を実施している国と
地域は、世界で91になるのです。主要国で減税していないのは
まさに日本だけです。
 税理士で、立正大法制研究所特別研究員の浦野広明氏は、今回
の茂木発言について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 恐らく茂木さんの言った「年金3割カット」は国が負担する社
会保障費の3割、約10兆円規模を指しているのだと思いますが
消費税を減税しても、他に財源を見つければ解決する話だと思い
ます。例えば、試算によると、金持ちや大企業優遇の現行の税制
を見直して“応能負担”に基づく累進化を進めれば、約40兆円
の税収が見込まれます。消費税が法人税減税などの穴埋めに使わ
れているといった問題もあるのに、いきなり「年金カット」を言
い出すのは、いくら何でも乱暴です。
 消費税減税に踏み切って、法人税の累進化を進められないのは
自民党が輸出製造業などから莫大な企業献金をもらっているとい
うこともあるのでしょう。でも、物価高に苦しむ多くの有権者は
消費税減税を望んでいると思います。消費税減税は自民党政権に
とって弱点となっているようです。      ──浦野広明氏
                 https://bit.ly/3NkMYZC
─────────────────────────────
 減税は絶対にしない──これが岸田内閣のポリシーのようであ
り、だから「財務省寄り」といわれています。岸田首相は、減税
に関してだけは「聞く耳」をまったく持っていないようです。し
かし、この物価高で何もしないで選挙に突入するとは大変な自信
であり、それは驕り以外のなにものではありません。
 直近の毎日新聞と社会調査研究センターの世論調査では、支持
は48%で、5月21日の前回調査(53%)より5ポイント下
落しています。不支持は44%で、前回調査(37%)より、7
ポイント上昇しています。支持が50%を切り、支持と不支持が
「48対44」と4ポイント差に迫っています。
 選挙まで、今日を含めて、まだ9日間あるのです。ひとつでも
失言が出ると、支持と不支持は逆転します。岸田内閣のこの考え
方から推測すると、防衛費を増加させるのは、赤字国債は論外で
必要な歳出を削減するか、増税で賄うしかないという方針でくる
と考えられます。「新しい資本主義」はどこへ行ってしまったの
でしょうか。        ──[新しい資本主義/119]

≪画像および関連情報≫
 ●岸田政権の「新しい資本主義」よりも「新しい経済政策」の
  ほうがよほど重要だ
  ───────────────────────────
   岸田政権の「新しい資本主義」を批判するのは無駄だ。な
  ぜなら、筆者に言わせれば中身がゼロであり、岸田政権自身
  もそれを知っていて、ほかにもっといいキャッチコピーを思
  いつかなかっただけのことではないか。「アベノミクスとは
  ちょっとだけ違うよ」(わずかに左だよ)ということ以上のも
  のはない。
   そもそも、資本主義とは、制度でも体制でもなく、近代に
  生まれた社会の状況を描写したにすぎず、一政府ごときに作
  れるものでも変えられるものでもない。善悪を超えて、歴史
  的事実として、社会的現状として受け入れざるを得ないもの
  だ。一方、経済政策は作ることができる。変えることができ
  る。それこそが政権の役割だ。ただ、残念なことに、どうも
  岸田政権にはいいアイデアが浮かばないようだ。資産所得倍
  増政策は所得倍増計画をモジっただけで、中身は株式投資の
  すすめにすぎず、アベノミクスと同じになってしまった。当
  初の戦略から離脱してしまっている。さらに、現在の物価高
  に対して、財政政策で金をばら撒くという180度逆の政策
  を行っており、経済学どころか、経済の原理原則も、わかっ
  ていないようだ。財政出動すればインフレは加速する。
  インフレを抑えるためには財政を絞り、金利を上げ、景気の
  過熱を抑え、円安を止めるしかない。正反対だ。
                 https://bit.ly/3A7BkOG
  ───────────────────────────
茂木幹事長.jpg
茂木幹事長
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2022年06月30日

●「バイデン対習近平長時間電話会談」(第5762号)

 バイデン米大統領の支持率は、最新の調査によると、先週から
6ポイント低下して、36%と就任以来最低の数字を記録してい
ます。このままだと、今年11月の中間選挙で民主党が上下両院
もしくはどちらかで、過半数議席を確保できない可能性が高まっ
ているといえます。
 問題は不人気の原因は何かです。新型コロナウイルスへの対応
に関する支持率(47%)は不支持率(46%)と拮抗しており
経済への取り組みを支持する登録有権者は28%、銃による暴力
(32%)や、ロシアによるウクライナ侵攻への対応(42%)
も、それほど支持されていないようです。
 このバイデン大統領について次のような話があります。5月の
始めのことです。バイデン大統領は、バーンズCIA(米中央情
報局)長官、オースティン国防長官、ヘインズ国家情報長官の3
人を呼びつけ、こっぴどく叱りつけたというのです。それは、米
側が流した情報をもとにウクライナ軍が輝かしい成果を挙げたと
いう報道について、「このようなリークは絶対に許さん。即刻辞
めるようにいえ!」という強い口調で叱りつけたといいます。
 確かにその後この手の情報は、ピタリと報道されなくなったこ
とは事実です。こんなことで、ロシアのプーチン大統領を刺激し
てはいかんというわけです。
 もうひとつ、ピューリッツァー賞を何度も受賞したベテラン評
論家、トマス・L・フリードマン氏は、5月6日付のニューヨー
クタイムズ紙に寄せた論評において、バイデン大統領が、中国の
対ロ軍事支援を阻止したことを高く評価しています。この論評に
よると、バイデン大統領は、3月18日に習近平国家主席との2
時間にわたる長い電話会談で、習近平国家主席にそれを決断させ
たといわれます。そのとき、バイデン大統領は、習主席に次のよ
うに迫ったといわれます。
─────────────────────────────
 もし、中国がロシアへの軍事援助に手を貸すようであれば、中
国は、米国、欧州の2大市場を失うという「きわめて否定的な結
果」を招くことになるだろう。     ──バイデン米大統領
           ──『正論/7月号』/巻頭コラムより
─────────────────────────────
 中国としても台湾進攻を行えば、米国をはじめとする西側の厳
しい経済制裁を受けることはわかっていますが、それをどのくら
い深刻に受け止めるかの問題です。中国という国の隆盛は、経済
力があってのことであり、もし、米欧という二大巨大市場を失う
ことの打撃は大きいと思います。
 その会談のとき、習近平主席は「台湾に関して米国の政策は変
わったのか」とバイデン大統領に尋ねています。そのときのバイ
デン大統領の返事は「不変である」というものだったといわれま
す。この点に関してバイデン大統領の考え方は一貫しています。
 バイデン大統領は、来日のさいの記者会見で「中国が台湾に対
して侵攻したら、米国は軍事的に関与するのか」と問われ、「イ
エス。われわれにはそうする責任がある」と答えています。これ
に対して、ホワイトハウスとオースティン米国防長官は、すかさ
ず、米国の立場に変更はないと火消しに走っています。そのため
この発言は、バイデン大統領の失言といわれているのですが、こ
れは失言ではありません。
 なぜなら、バイデン大統領は、「イエス」に続いて次のように
述べているからです。
─────────────────────────────
 われわれは「一つの中国」の方針に関しては遵守しているが、
武力で現状を変更しようとする試みには賛成できない。
                   ──バイデン米大統領
─────────────────────────────
 バイデン大統領の発言は次のように読み取れます。中国と台湾
が平和的に「一つの中国」になることについて、われわれは異を
唱えるつもりはない。しかし、武力でそれを行うのは反対であり
何らかの対応をせざるを得ない──これは、もし、中国が武力で
台湾を奪い取ろうとすれば、米国として何らかの対応処置を取る
ということを意味しているといえます。
 中国の習近平主席が米欧による経済制裁を受けることについて
ロシアの例を参考にすることは間違いないことです。プーチン大
統領は、サンクトペテルブルグで開催している「国際経済フォー
ラム」でオンラインで演説し、西側のロシアに対する経済制裁に
ついて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 欧米側は、ロシア経済を破壊しようとしたが、明らかに失敗し
た。今年の春先には、ロシア経済の先行きに対して悲観的な見通
しが予想されたが、現実のものとなっていない。制裁にもかかわ
らず、ロシアの経済対策が機能している。ロシアへの制裁によっ
て、欧米側でむしろ物価が上昇しているとしたうえで、欧米側は
世界的な食料などの価格高騰の責任をロシアに転嫁している。
                    ──プーチン大統領
─────────────────────────────
 しかし、これはプーチン大統領の強がりです。プーチン政権の
1期目と2期目──2000年から2008年までは、ロシアの
経済成長率は平均して7%伸びています。プーチン大統領は上機
嫌で、「ルーブルを国際通貨にする」と豪語していたものです。
しかし、ロシアがクリミアを併合した2014年以降は、ロシア
は経済成長していないのです。2014年から2020年までの
GDP成長率は、年平均0・38%です。欧米と日本が今回より
もはるかに軽い経済制裁をかけた結果です。
 これに今回の非常に重い経済制裁が加わったのですから、その
ダメージは尋常なものではないはずです。経済制裁は年が経つに
つれて効いてきます。それは、今年の夏から秋にかけて、はっき
りと目に見えるかたちになっていくはずです。
              ──[新しい資本主義/118]

≪画像および関連情報≫
 ●中国はウクライナ戦争で台湾戦略を変化させるのか
  /岡崎研究所
  ───────────────────────────
   バーンズ米中央情報局(CIA)長官は、5月7日に行わ
  れたフィナンシャル・タイムズ紙とのインタビューで、ウク
  ライナ情勢は中国指導部の台湾統一戦略に何らかの影響を与
  えているだろう、と述べた。
   習近平がロシアによるウクライナ侵略の残忍性との関連に
  より中国にもたらされる可能性のある評判の低下に少々動揺
  し、戦争がもたらした経済的な不確実性にも不安になってい
  るとの印象を強く受ける。
   中国は「プーチンがやったことが欧州と米国を接近させた
  事実」にも失望しており、台湾につき「どんな教訓を引き出
  すべきか慎重に検討している。
   プーチンのロシアからの脅威を過小評価することは出来な
  いが、習の中国は「われわれが国家として長期的に直面する
  最大の地政学的課題」だ。
   上記のバーンズの発言は、慎重な言い回しのなかにも、米
  CIA当局の判断が的確に示されている、と言って良いだろ
  う。プーチンと習近平は、オリンピックの開会式に合わせて
  北京で会談し、両者の間の連携には「限界」はない、と宣言
  した。しかし、ロシアのウクライナ侵攻後、欧米各国の間で
  反ロシアの同盟関係が急速に進んでいることを見て、習近平
  は不安の色を隠せないようだ。 https://bit.ly/3QRRmCg
  ───────────────────────────
習近平主席を説得できたか/バイデン米大統領.jpg
習近平主席を説得できたか/バイデン米大統領
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2022年06月29日

●「防衛費増強をめぐるさまざな暗闘」(第5761号)

 日本には、中国やロシアなどよりも、もっと恐ろしい「抵抗勢
力」が国内に存在します。それが、財務省であり、その財務省の
論理を各界へ浸透させる便宜手段としての組織「財政制度等審議
会(財政審)」です。財政審には、財務省の息のかかった経済学
者、財界人、金融専門家など30人で構成されています。
 財政審では、財務省の主計局の官僚が議題と報告書を提出し、
何度かの会合を経て、官僚が諮問案をまとめて財務相に提出する
かたちをとるのですが、この会合で反対が出ることはほとんどな
く、財務省はこれで各界の総意を得ているというお墨付きにして
いるのです。財務省の意見に反対するような人は絶対にメンバー
にしないからです。したがって、財務省の自作自演同然なカラク
リといえます。現在のメンバーについて知りたければ次をクリッ
クしてください。          https://bit.ly/2EX6c8V
 この財政審が、5月25日に建議を取りまとめています。自民
党内に広がる防衛費増強に対する議論に、あらかじめ、防衛線を
張ったかたちになります。JIJI.COMは、これについて、
次のように報道しています。
─────────────────────────────
 財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は、5月25日、建議
(意見書)を取りまとめた。国と地方を合わせた基礎的財政収支
(PB)を2025年度に黒字化するという財政健全化目標を堅
持するべきだと強調。政府・与党内で大幅な増額を求める声が強
まっている防衛費については、「規模ありきではない」とけん制
した。政府が6月に閣議決定する経済財政運営の基本指針「骨太
の方針」に反映させたい考えだ。
 建議は「危機に対応できる余力を持った持続可能な財政構造の
確立」の必要性を指摘。最近の円安進行を踏まえ、「円に対する
市場の信認がこれまで以上に問われる中、仮にPB目標を後退さ
せれば信認を失うリスクが大きい」と警鐘を鳴らした。
 防衛力の強化をめぐっては、「経済・金融・財政の強いマクロ
構造がなければ、防衛力を継続的かつ十分に発揮することはでき
ず、結果的に『戦わずして負ける』ことにもなりかねない」と強
調した。              https://bit.ly/3yipdNp
─────────────────────────────
 問題は、この財政審の建議に何が書かれているかです。建議で
は、日本には、経済、金融、財政面において脆弱性があり、それ
らの低減と防衛力強化をいかにして両立させるかが問題であると
指摘しています。そして防衛力は、国民生活、経済、金融などの
安定性があってはじめて発揮できるものであると説いています。
要するにプライマリーバランスがマイナスの状態ではダメである
ことを強調しているのです。
 そして、各国の防衛費対GDP比を一層増加させるためには、
他経費を削減して、国防費に一層重点配分するか、国民負担を増
加させるしかないと指摘しています。さらに、欧米、中国、韓国
と日本とを比較しながら、公共投資、文教、社会保障など、他の
政策経費を削減するか、増税で国防費増を賄うか、それとも双方
を選択するしかないと強調しています。
 この財政審の建議が提出されているからこそ、岸田内閣は防衛
費増強の財源を明確化できなかったのであり、それを骨太の方針
に反映させられなかったのです。選挙前に増税などといったら、
選挙に勝てないからです。この建議について産経新聞特別記者で
ある田村秀男氏は、次のように批判しています。
─────────────────────────────
 「経済・金融・財政面における『脆弱性』」をここまで深刻化
させてきたのはだれか。「経済・金融・財政面の脆弱性を低減」
する役割を担うのは何か。GDPの5割以上相当の資金を占める
財政を取り仕切る財務省と財務官僚のはずである。国家エリート
としての矜持、内心忸怩たる思いがまるでない。(中略)
 経済が持続的にプラス成長している他の主要国と、四半世紀以
上もの間、経済規模が委縮し続けているデフレ日本と同一視する
無定見ぶりにはあきれるが、固より、財務官僚にはその自覚はな
い。財政を含む国家の根幹となる政策を決定する国会と内閣がそ
んな財務官僚に誘導されてきた。(中略)
 「中長期の経済財政への試算」は、GDP成長率について、安
倍晋三政権時代以降の政府目標である実質2%、名目3%の「成
長実現ケース」と、従来の低成長ケースに分け、財政手出、税収
基礎的財政収支などを2031年度まで試算している。21年度
は補正予算、22年度は政府予算通りで、23年度以降は見通し
とは言え、財務省の腹積もりである。添付ファイルは、この成長
実現ケースの数値をもとに作成した財政の緊縮・拡張度である。
                        田村秀男著
   ──『正論』2022年7月号「国防こそ最大の福祉/」
       財政均衡主義が日本の安全を壊す」/産経新聞社
─────────────────────────────
 防衛費増大をめぐる論争には防衛省事務次官人事もからんでい
ます。政府は、6月17日の閣議で、防衛庁の島田和久事務次官
を退任させ、後任に鈴木敦夫防衛装備庁長官を充てる人事を決め
ています。この人事をめぐり、ギクシャクがあったのです。
 島田次官は、安倍元首相の秘書官を6年半務め、官房長を経て
そのまま次官になり、丸2年やってやっていて、安倍元首相の主
導する防衛費増強を支えていました。岸田首相は、事務次官の任
期は2年であるとして、事務次官交代を図ったのです。
 まず、岸防衛相が官邸に島田次官の続投を打診して断られ、安
倍首相が松野官房長官に電話して、「功労者に対してこういうや
り方はあり得ない」とクレームをつけたところ、岸田首相が安倍
氏の議員会館事務所を訪問して、「人事は既に決まっている」と
告げています。選挙の勝敗にもよりますが、防衛費をめぐり、こ
んなやり取りがあったのです。健康の懸念もあることから、選挙
後の改造で岸防衛相の交代も考えられます。安倍元首相に取って
ピンチです。        ──[新しい資本主義/117]

≪画像および関連情報≫
 ●防衛費の増額は本当に必要か? 「巨費を投じても効果は
  乏しい」専門家は否定的〈AERA〉
  ───────────────────────────
   ロシアや中国の軍事的脅威に対応するため、岸田文雄首相
  は日米首脳会談で「防衛費の相当な増額」を表明した。自民
  党が掲げる国内総生産(GDP)の2%を防衛費にすれば、
  約11兆円に相当する。今年度の防衛費の約6兆円から約5
  兆円の増額だ。巨費を投じてどんな効果があるのか。そもそ
  も、本当に必要なのか。──AERA2022年6月13日
  号から。
   防衛省は、ステルス戦闘機F35を147機購入する計画
  だ。陸上基地用のF35A(1機約100億円)が105機
  空母用のF35B(同約140億円)を42機購入するが、
  米国側が契約後に値上げすることもあり、円安も手伝って、
  より高価になりそうだ。旧式化しつつある戦闘機を新鋭機に
  入れかえるのは当然であっても、ミサイル攻撃に対し「敵基
  地攻撃」や「反撃能力」で対処しようとし攻撃用の各種のミ
  サイルの購入や開発に巨費を投じても効果は乏しい。山岳地
  帯のトンネルに潜み、自走発射機で移動するミサイルを秒速
  7・9キロで1日1回世界各地の上空を通過する偵察衛星で
  撮影するのは極めて困難。高度3万6千キロで周回する静止
  衛星からはミサイルのような小さな物は映らない。無人偵察
  機を上空で旋回させれば対空ミサイルで撃墜される。相手が
  先にミサイルを発射すればその首都など固定目標に反撃する
  ことは可能だが、首脳部の現在位置はわからない。核ミサイ
  ルに対し火薬弾道ミサイルで報復するのは、大砲に対し拳銃
  で応戦するような形となる。  https://bit.ly/3HVBfzO
  ───────────────────────────
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激烈な緊縮財政を企図する財務省
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2022年06月28日

●「消費増税分は法人税減税の穴売め」(第5760号)

 昨日の続きです。「消費税は法律上社会保障目的税として位置
付けられている」──この岸田首相発言は完全な間違いです。と
いうよりも、これを首相が発言すると、国民に大きな誤解を与え
ます。岸田首相は、「聞く耳を持っている」ということを売り物
にしていますが、「減税」だけは聞く耳を持っていません。真っ
向から反対します。
 目的税というのは、ある特定の経費を支弁する目的で賦課する
租税のことであり、地方道路税、都市計画税、水利地役税、入湯
税、国民健康保険税などがそれに該当します。
 例えば、都市計画税というのは、市街化区域に土地または家屋
を所有している人に課税される目的税です。納める税金は、道路
や公園、または下水道などの都市計画事業に充てる費用として使
われます。
 消費税は、確かに第1条第1項に主たる使途についての規定は
ありますが、目的税ではありません。この規定は、消費税が導入
されたときには存在せず、消費税導入から20年以上たった20
12年、消費税率を5%から10%に段階的に引き上げる法律を
決めたときに、国民の批判をかわすためにというより、少し厳し
くいえば、国民を騙すために付け加えられたものです。しかし、
いったん税金として入ってきてしまえば、お金に色は付いてない
ので、消費税は何にでも使えるのです。
 実際に消費税増税分は、社会保障費ではなく、その「8割」が
政府の(国ではない!)借金返済に使われているのです。このこ
とを2019年1月28日、第98回国会で安倍首相(当時)自
身が施政方針演説で明言しています。「増税分の5分の4を借金
返しに充てていた」と。国の借金ではありません。政府の借金を
増税して返す──政府として一番やってはいけないことではあり
ませんか。自民党はそれをやっています。
 もうひとつ、高市政調会長が怒り狂っているという消費税が法
人税減税の穴埋めに使われているのではないかという件ですが、
これも事実です。しかし、これもお金に色は付いていないので、
消費税の税収分が法人税減税で減った部分の穴埋めに使われたと
いう証拠は残念ながら示せませんが、消費税を増税するときはい
つも法人税を減税していることは事実です。そのためか、財界の
首脳のコメントは、消費税増税は賛成で「よくやった」と政府に
ヨイショしています。
 財務省の「一般会計税収の推移」によると、消費税が導入され
た1989年度の消費税の税収は3・3兆円でしたが、昨年度は
21・1兆円と6倍になっています。これに対して、法人税は、
1989年は19兆円でしたが、昨年度は12・9兆円に減って
います。消費税収は6倍も伸びているのに、法人税収は減少して
いる──これでは、消費税収が法人税減税の穴埋めに使われたと
いわれても、反論できないのではないでしょうか。
 高市政調会長は、消費税減税について「増税前の駆け込み需要
や減税前の買い控えも起こる」「事業者も大変ですよ」などと必
死にできない理由を並べ立てていましたが、これは『文藝春秋』
上に載った矢野康治財務事務次官の主張をそのままトレースした
ものです。
 これについて、昨日のEJでご紹介した税理士で立正大法制研
究所特別研究員の浦野広明氏は次のように反論しています。
─────────────────────────────
 事業者から「変更が大変だから、消費税減税はやらないで欲し
い」との声は聞いたことがありません。多少手間がかかっても、
減税により消費が上向くことを望んでいます。そもそも、引き上
げはできるのに、引き下げはできないのはおかしい。また、値上
げラッシュで価格変更は日常茶飯に行われており、値札替えが負
担とも思えません。高市氏の発言は消費税減税の否定が先にあり
きで、かえって国民の不信を招いたような気がします。
    ──浦野広明氏/6月20日発行「日刊ゲンダイ」より
─────────────────────────────
 日銀の黒田総裁の話ですが、安倍首相(当時)が消費税率を5
%から8%に引き上げるとき、多くの学者などの意見を聞いて、
さんざん迷っていたのですが、そのとき、黒田総裁は次のように
いって、安倍首相の決断を促したのです。
─────────────────────────────
 消費税を予定通り8%に引き上げないと、国債が暴落するテー
ルリスクがある。             ──黒田日銀総裁
─────────────────────────────
 アベノミクスが金融緩和と財政出動で軌道に乗りつつあったと
きです。信頼している黒田総裁から、このようにいわれた安倍首
相は、消費税を8%に引き上げる決断をします。
 実はこのとき、財務省は財務省出身の日銀総裁である黒田氏に
「首相に増税をきちんとやるよう勧めてくれ!」と、強いプレッ
シャーをかけていたのです。黒田総裁としては、本当はやらない
方がいいのだが、立場上「やるな」とはいえないので、「テール
リスク」という言葉を使って首相に謎をかけたのです。安倍首相
は、おそらく「テールリスク」を単なる「リスク」だと勘違いし
て、税率を8%に引き上げたのです。しかし、テールリスクとは
次の意味なのです。
─────────────────────────────
 マーケットには大小さまざまなリスクがありますが、発生する
確率が非常に低いリスクによって暴落や暴騰が実際に発生するこ
とをテールリスクと呼びます。ちなみに、テールとは、騰落率分
布の端や裾野を意味する言葉。突然の政権交代やテロなどが代表
的なものです。           https://bit.ly/3ybYbGz
─────────────────────────────
 黒田総裁としては、「法律として決まっている消費税率引き上
げをやらなくても、国債が暴落する恐れはない」ということを首
相に伝えたかったのだと思います。
              ──[新しい資本主義/116]

≪画像および関連情報≫
 ●消費増税で穴埋めされる法人減税 逆累進性の解消が急務
  ───────────────────────────
   法人税の法定税率である法人実効税率が、2011年38
  ・54%、13年37%であったが、18年には29・74
  %に引き下げられた。しかし法人税を納税できる利益を上げ
  る企業は、全企業の3割ほどで、ほとんどが大手や中堅企業
  だ。それゆえこの法人税率引き下げは、これらの企業を利す
  るが、大多数の企業には及ばない。他方で消費税収の約8割
  が、この法人減税の穴埋めとなった。
   消費税を導入した1989年から2018年度までの30
  年間の消費税収額合計は372兆円、その間の法人税減額合
  計は291兆円(出展・消費税をなくす全国の会「ノー消費
  税」300号)。要するに法人税の減税分を、消費税で穴埋
  めしてきた。
   ところで30%弱の法人実効税率は「資本金1億円以上の
  外形標準課税適用法人」の実効税率であり、これらの企業は
  法人税と「事業税プラス地方法人特別税」を外形標準課税率
  で支払う。これに対して外形標準課税の対象でない資本金1
  億円以下の中小企業では、たとえば18年4月〜19年3月
  事業年度の同様な法人税率が36.81%、19年10月か
  らは33.58%と高く、逆進的となっている。これまで法
  定税率について述べたが、企業が実際に納税しているところ
  の実効負担率で見ると、法人税はさらに「逆累進」となって
  いる。       ──早稲田大学名誉教授・田村正勝氏
  ───────────────────────────
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大石晃子氏VS高市早苗氏
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2022年06月27日

●「消費税減税をめぐる与野党の攻防」(第5759号)

 6月22日に参院選が公示され、選挙戦が始まっています。7
月10日投開票ですので、19日間と選挙戦が非常に長期間に及
びます。20日現在の岸田内閣の支持率を見ると、次の2つの新
聞社については、支持率が5〜6%下がっています。
─────────────────────────────
  ◎6月20日現在/岸田政権支持率
                支持      不支持
  日本経済新聞  60%(▲6%)  32%(9%)
    朝日新聞  48%(▲5%)  44%(7%)
─────────────────────────────
 支持率自体は高いのですが、支持率のグラフのトレンドは下方
に向かっています。原因は物価上昇です。日本経済新聞の調査に
よると、資源高騰や円安などによる足元の物価上昇については、
「許容できない」が64%で、「許容できる」の29%を大きく
上回っています。物価高対策を「評価しない」は69%で5月か
ら8ポイント上昇しています。
 物価の問題は、国民全般に関係するので、与党としては、よほ
ど具体的な対策を打ち出さないと、野党攻勢もあるので、支持率
は投開票日までどんどん下落し、思わぬ敗戦を喫することがあり
ます。21日午前に物価対策本部で岸田首相は、次のように述べ
ていますが、肝心の物価高への対策としては、具体的には何もな
い状態です。
─────────────────────────────
 正確に直結する物価動向を注視し、きめ細かく切れ目なく対応
していく。                  ──岸田首相
─────────────────────────────
 これに対する野党7党は、「消費税減税」にマトを絞っており
こちらはきわめて具体的な政策をぶつけてきています。しかし、
21日午後の党首討論では、岸田氏は、消費税減税に対しては、
次のように発言しています。
─────────────────────────────
 消費税減税は考えておりません。消費税は法律上、社会保障目
的税として位置づけられております。      ──岸田首相
─────────────────────────────
 岸田首相のこの発言が出るや、SNS上では、「目的税ではな
くて、何でも使える普通財源」「一般財源でごちゃ混ぜになって
いる」「ウソを垂れ流すのダメ」という、もの凄い批判のツイー
トが飛び交ったのです。
 この岸田首相の「消費税は法律上社会保障目的税として位置づ
けられている」という発言は、間違っています。それでは岸田首
相は何を根拠にそういっているのかというと、次の消費税法第1
条第2項の条文です。
─────────────────────────────
◎消費税法第1章第2項
 消費税の収入については、地方交付税法に定めるところによる
ほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会
保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する費用に充て
るものとする。
─────────────────────────────
 しかし、条文に書かれているといっても、「消費税は社会保障
目的税」とはいえないのです。これに対して、税理士で、立正大
法制研究所特別緊急員の浦野広明氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 岸田首相が消費税を社会保障目的税と断言したのは、国民をミ
スリードする問題発言です。確かに消費税法上、使途は社会保障
や少子化対策と規定されており、目的税のように錯覚しがちです
が、法人税や所得税と同じく一般財源です。実際には、消費税は
国の借金返済や社会保障以外の歳出に充てられています。この規
定自体、国民を欺くために設けられたと考えられます。
                      ──浦野広明氏
 ──22日発行「日刊ゲンダイ」/ https://bit.ly/3ynj0QF
─────────────────────────────
 「お金に色はない」といいますが、たとえ法律上使途を明らか
にしていても、一般財源として入ってくると、基本的には何にで
も使えるのです。実際に2019年1月の衆参本会議で安倍首相
(当時)は、「消費税の増税分の5分の4を国の借金返しに充て
ていた」と認めています。要するに、消費税は何にでも使える一
般財源(普通財源)であり、社会保障の目的税ではないのです。
まして、物価が1%上がると、年間の消費税負担は、約2000
億円も増えるので、財務省はホクホクです。
 19日(日)にも、SNSを騒がせる事件があったのです。そ
れは、NHKの日曜討論においてです。れいわ新選組の政審会長
大石晃子議員と高市政調会長の次のやり取りです。
─────────────────────────────
大石:数十年にわたり法人税は減税、お金持ちは散々優遇してき
 たのに消費税減税だけをしないのはおかしい。
高市:れいわ新選組から消費税が法人税の引き下げに流用されて
 いるかのような発言が何度かありました。これは事実無根であ
 ります。消費税は法律で社会保障に使途が限定されており、デ
 タラメを公共の電波で言うのはやめていただきたい
  ──20日発行「日刊ゲンダイ」/https://bit.ly/3xLOU7G
─────────────────────────────
 れいわ新選組の大石晃子議員といえば、6月10日のEJでご
紹介したように岸田首相を「財務省の犬」と命名した議員です。
大石議員は大阪大学工学部出身のリケジョで、消費税のことは十
分すぎるほど調べ上げている人物です。
 このときの高市発言に対して、SNS上では「デタラメ、ウソ
つきはどっちだ」「高市に税収の表見せてやって」など批判が溢
れたのです。これの真偽は明日のEJで明らかにします。
              ──[新しい資本主義/115]

≪画像および関連情報≫
 ●岸田政権の空っぽインフレ対策で参院選は波乱あり
  選挙中発表の「経済指標」に自民ビクビク
  ───────────────────────────
   参院選の最大の争点は物価高──時事通信が10〜13日
  に実施した世論調査によれば、岸田政権の物価高への対応に
  ついて「評価しない」が54・1%と「評価する」の13・
  8%を大幅に上回った。内閣支持率も、4カ月ぶりに5割を
  切った。国民は岸田政権の空っぽの物価対策に気づきつつあ
  る。参院選は「自民優勢」との前評判だが、「波乱含み」に
  なってきた。
   7月10日の投開票が確定した参院選。勝敗のカギを握る
  のが接戦の17選挙区だ。この17選挙区を、与党、野党の
  どちらが制するのかで選挙結果は大きく変わってくる。北海
  道(改選数3)は自民、立憲がそれぞれ2人の候補を立て、
  大激戦となっている。東京(同6)は、自民が2人擁立して
  いるが、2議席確保は困難とみられている。維新が関西掌握
  を目指す京都(同2)も自民候補は決して安泰ではない。新
  潟、長野、山梨、沖縄は、6年前、野党が勝った1人区。自
  民は野党と激しく競り合っている。
   この17選挙区は投開票日までに自民に“逆風”が吹けば
  自民が落としてもおかしくない。自民党に打撃を与えそうな
  のが、選挙中に発表される2つの経済指標だ。岸田首相周辺
  もどんな数字が出るのか戦々恐々としているという。公示日
  (22日)直後の24日、総務省が発表するのが5月の「消
  費者物価指数」だ。4月は2%台の物価上昇率だったが、5
  月は、さらに物価高騰と円安が進行しているだけに、2%台
  を上回る可能性がある。    https://bit.ly/3OeSU7D
  ───────────────────────────
浦野広明氏.jpg
浦野広明氏
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2022年06月24日

●「GDPギャップというものがある」(第5758号)

 高橋洋一氏の分析による米FRBの対応をさらに見ていくこと
にします。
─────────────────────────────
         A=全体の消費者物価指数対前年同月比
         B=Aからエネルギーと食品を除く指数
       1月    2月    3月    4月
  A  7・5%  7・9%  8・5%  8・3%
  B  6・0%  6・4%  6・5%  6・2%
─────────────────────────────
 FRBが政策金利を3月中旬になって「0・0〜0・25」か
ら「0・25〜0・5%」へ引き上げ、さらに5月上旬になって
「0・75〜1・0%」へと再引き上げ。したがって、ビハイン
ド・ザ・カーブ」、すなわち、後追いといわれるのです。
 ここで政策金利というのは、日銀など各国の中央銀行が金融政
策において使用する短期金利のことで、金融機関の預金金利や貸
出金利などに影響を及ぼします。
 米国のケースに比べると、日本の4月の消費者物価指数対前年
同月比(A)と、Aからエネルギーと食品を除く指数(B)は、
次の通りで、利上げをする状況ではないのです。
─────────────────────────────
                4月
           A  2・5%
           B  0・8%
─────────────────────────────
 つまり、米国は現在インフレですが、日本はインフレではない
のです。日本には巨額なGDPギャップがあり、インフレではな
いからです。GDPギャップというのは、経済の供給力と現実の
需要との間の乖離のことをいいます。
 それでは、日本のGDPギャップはどのくらいあるのでしょう
か。これについては、2022年6月7日付の日本経済新聞が、
内閣府の発表として、次のように報道しています。
─────────────────────────────
◎国内需要不足21兆円/22年1〜3月前四半期から悪化
 内閣府は6月6日、日本経済の需要と潜在的な供給力の差を示
す「需給ギャップ」について、2022年1〜3月期はマイナス
3・7%だったとの試算を発表した。
 金額は年換算で21兆円の需要不足だった。21年10〜12
月期のマイナス3・3%(19兆円)から悪化し、10四半期連
続のマイナスとなった。需給ギャップは消費や設備投資といった
経済全体の需要と、労働時間などから計算する潜在的な供給力と
の差をいう。需要が供給を上回ると物価は上がりやすくなる。
        ──2022年6月7日付、日本経済新聞より
─────────────────────────────
 およそ21兆円のGDPギャップ──米国はドル高なのに高い
インフレですが、日本は円安なのにインフレではない。どこが違
うのかというと、バイデン政権は、発足直後に、大型財政出動を
行っており、GDPギャップが解消されているので、インフレ率
が高くなっているのです。
 5月25日に、ニッポン放送 「飯田浩司のOK! Cozy up!」
に高橋洋一氏が出演し、これについて、問答を行っているので、
以下にご紹介依します。
─────────────────────────────
飯田:補正予算案は、「物価高騰緊急対策」などと言われていま
 すが。
高橋:まず、セオリーがわかっていて、やっているのだと思いま
 す。現状を考えると、4月の物価がどうなっているのかという
 ことですが、総合で2・5%上がって、「生鮮食品を除く総合
 指数」で2・1%上がっています。「インフレ」とみんな言い
 たくなるのだけれども、「生鮮食品及びエネルギーを除く総合
 指数」を「コアコア指数」と言うのですが、これが物価の基調
 なのです。
飯田:コアコア指数が?
高橋:それを見ると、コアコア指数は0・8%で全然上がってい
 ない。ですので、インフレにはなりません。アメリカやヨーロ
 ッパの「生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数」は6%以上
 6〜8%という数字になっているのです。そのくらいにならな
 いとインフレではないのです。どうして日本だけ違うのかと言
 うと、総供給と総需要の差である「GDPギャップ(需給ギャ
 ップ)」という言葉があります。
飯田:GDPギャップ?
高橋:日本はまだ30兆円程度のGDPギャップがあります。ヨ
 ーロッパやアメリカはほとんどありません。だから物価が上が
 るのです。逆に言うと、GDPギャップがあるから日本は物価
 の基調である「コアコア指数」が上がらない。このときの対策
 はセオリーが簡単で、GDPギャップをまず埋めるのです。
  ギャップを埋めると、実は物価が上がる。物価が上がるけれ
 ども、対策を行うので「上がった物価の多くの部分は、経済対
 策によって吸収できる」というのがセオリーなのです。でも、
 それをやっていないのです。    https://bit.ly/3y9ETCS
─────────────────────────────
 つまり、GDPギャップがプラスの場合(総供給より総需要が
多い)はインフレギャップといい、好況や景気が過熱しており、
物価が上昇する要因になります。逆にGDPギャップがマイナス
の場合(総需要より総供給が多い)はデフレギャップといい、景
気の停滞が不況になって、物価が下落する原因になります。
 日本のGDPギャップは、上記日経の記事に見るように、21
年10〜12月期のマイナス3・3%(19兆円)から悪化し、
10四半期連続のマイナスになっているのです。したがって、日
本は、金利を上げる状況にはぜんぜんないのです。
              ──[新しい資本主義/114]

≪画像および関連情報≫
 ●米FRB利上げ:識者はこうみる
  ───────────────────────────
  [15日/ロイター]米連邦準備理事会(FRB)は14─
  15日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデ
  ラルファンド(FF)金利の誘導目標を75ベーシスポイン
  ト(bp)引き上げ、1.50─1.75%とした。27年
  ぶりの上げ幅で、会見したパウエル議長は、7月の次回会合
  でも50bpもしくは75bpの利上げを示唆した。FOM
  C後、米株は上昇、ドルは売られた。市場関係者の見方は以
  下のとおり。
  <アクサ・インベストメント・マネージャーズ/債券ストラ
  テジスト 木村龍太郎氏>
   FRB(連邦準備理事会)の先行きの景気に対する自信が
  やや揺らいでいるようだ。期待インフレに働きかけるヘッド
  ラインのインフレ率が、国際商品価格やサプライチェーンと
  いったFRBがコントロールできない要因に左右され、利上
  げしたとしても将来のインフレが予想通り下がるか自信がな
  いということで、安定的・持続的な成長パスもやや揺らぎつ
  つあると感じた。また今回が75ベーシスポイント(bp)
  の利上げ、7月も50bpまたは75bpの利上げというの
  は結構タカ派な決定だったが、にもかかわらず米金利は短期
  まで含めて大きく低下で反応した。
   特に2023年末には政策金利が3.8%まで上がるとい
  うのがFOMC(連邦公開市場委員会)参加者の中央的な見
  通しだが、足元の市場の織り込みは3.3%まで低下。投資
  家の間ではFRBは見通し通りに利上げができないのではな
  いか、あるいは利上げしても来年末には既に利下げに追い込
  まれるのではないか、と景気の持続性にやや悲観的な見方を
  している。つまり「FRBの見通しほどうまくいかないだろ
  う」ということで、FOMC後の金利低下につながった。
                 https://bit.ly/3ObqOKJ
  ───────────────────────────
インフレギャップとデフレギャップ.jpg
インフレギャップとデフレギャップ
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2022年06月23日

●「物価高騰に対しどう対処すべきか」(第5757号)

 現在米国ではインフレが進行し、大変なことになっているよう
です。ニューヨークでは、家賃が今年1月までの1年間で33%
アップし、今年3月までの消費者物価は8・5%に上昇している
からです。何しろ醤油ラーメンが約20ドルといいますから、現
在のレートであれば、2500円を超えることになります。それ
にチップも支払う必要があります。しかし、平均時給は5・6%
上昇するなど、賃上げも行われているので、苦しいけれども米国
人は何とかやっていけるのです。ただ、ガソリン高などの影響で
バイデン大統領の支持率は低下しています。
 19日に投開票されたフランス国民議会(下院)の決選投票で
マクロン大統領率いる与党連合が議席を346から245に減ら
し、過半数ラインの289を大きく下回り、敗北しました。物価
高騰への有権者の不満が逆風になったのです。
 日本の場合、さまざまな要因で物価が高騰しているのに、賃上
げは行われておらず、年金が6月から減額されており、実質的な
収入減で生活が苦しくなっています。しかし、岸田内閣はそのた
めの対策としては何も行っておらず、参院選に突入しようとして
います。この内閣は、何かをやったわけでもないのに支持率は高
く、参院選は乗り切れると考えているのでしょう。
 しかし、物価に関わるときの選挙は厳しいのです。1998年
7月の参院選がそうです。当時の橋本龍太郎政権は、支持率は高
かったのですが、選挙中所得税の恒久減税をめぐる総理の発言が
二転三転したことによって、国民の「橋龍人気」は急落し、自民
党は予想を大きく下回る44議席で大敗し、橋本政権は退陣に追
い込まれています。
 気になるのは、立憲民主党です。立憲民主党の泉健太代表は、
5月20日の衆院予算委員会において、次のように政府に対して
質問しています。
─────────────────────────────
 物価高を止めるという意味では、金融政策において、金利を少
し引き上げることも選択肢に入れるべきではないか。
                   ──立憲民主党泉代表
─────────────────────────────
 また、民主党出身の元首相で、公約に反し、自民党と組んで、
社会保障と税の一体改革を成立させ、5%の消費税を10%にさ
せた野田佳彦氏は、6月20日に街頭演説で、次のように訴えて
います。
─────────────────────────────
 世界中どの国も物価を下げようと努力しているが、日本だけ金
融緩和を続けている。金融緩和ということは物価を上げようとい
うことだ。内外金利差が広がれば、金利が高いところにお金が流
れるのは当たり前だ。ドルがどんどん買われ、円安になる。こん
な国に誰がしたのか。            ──野田元首相
─────────────────────────────
 このように立憲民主党は、日銀の金融政策は間違っており、こ
のさい、他国のように、金利を引き上げて、物価上昇に歯止めを
かけるべきであると訴えていますが、これは間違っています。
 ジャーナリストの歳川隆雄氏は、6月20日発行「夕刊フジ」
の自身のコラム「歳川隆雄の永田町・霞が関インサイド」におい
て、次のように泉健太代表を批判しています。
─────────────────────────────
 (日米の金融政策の違いにおける)こうした円安に加えて、ロ
シアのウクライナ侵攻による原油高騰のダブルパンチを受けた日
本は、急速な物価高に直面している。
 では、金融緩和路線にこだわる黒田氏にその責を求めるべきな
のか。答えは「否」である。
 野党第一党の立憲民主党は、物価上昇を奇貨として、岸田文雄
政権批判を強め、日銀にインフレ対策(金融引き締め)を要求し
ている。他方、物価高対応という面では岸田政権の財政出動(財
政拡大)は不十分だとする。まさに「金融引き締め」と「財政拡
大」を同時に求めるという、相矛盾した支離滅裂な批判である。
        ──2022年6月20発行「夕刊フジ」より
─────────────────────────────
 ここまで述べてきているように、経済学はけっしてやさしくは
ありませんが、国の経済を動かす立場の国会議員としては、もっ
ときちんと勉強すべきです。
 現在、米FRBのとっている金利の性急な引き上げは、「ビハ
インド・ザ・カーブ」ではないかという声が出ています。ビハイ
ンド・ザ・カーブ(behind the curve)とは何でしょうか。
 ビハインド・ザ・カーブとは、一般的に「遅れる」とか「後手
に回る」という意味になります。投資に関しては金融政策におい
て、景気の過熱や物価の上昇に遅れるかたちで政策金利の引き上
げ(利上げ)を行うことを意味します。
 戦略的・意図的に利上げを遅らせる場合と、意図しないうちに
利上げが遅れてしまっている場合の両方に、ビハインド・ザ・カ
ーブという言葉を用いることができますが、今回の場合は、後者
ではないかといわれています。
 これについて、マネックス証券のチーフFXコンサルタントの
吉田恒氏は、FRBの金融政策の急速な見直しは、ビハインド・
ザ・カーブであるとして次のように述べています。
─────────────────────────────
 FOMC(米連邦公開市場委員会)の金融政策見通しの急変が
続いている。これほどの急変ぶりでは、「ビハインド・ザ・カー
ブ(後手に回る)」批判を受けるのも当然ではないか。そして、
「ビハインド・ザ・カーブ」を巻き返す急激な金融政策の変更は
金融市場の混乱をもたらす可能性があることを過去の歴史が示し
ているだけに、今後の影響は要注意だろう。
                  https://bit.ly/3QLceLE
─────────────────────────────
              ──[新しい資本主義/113]

≪画像および関連情報≫
 ●米FRBはまだわかっていない。インフレ率は2023年
  も高いままだ
  ───────────────────────────
   0・75%の大幅金利引き上げを実行しながらも、FRB
  (連邦準備制度)はいまだにインフレを理解していない。そ
  の結果、米国民は今後数年間、強いインフレを経験し、最終
  的にFRBは、現在予想されている以上に高い金利を推し進
  めることになるだろう。6月15日に発表された0・75%
  の金利引き上げは、それまでのより緩やかな政策からの好ま
  しい転換だった。FRBによるバランスシート縮小の決定は
  正しい方向への新たな一歩だ。そして政策決定委員会は「本
  委員会はインフレ目標を2%に戻すことを確約します」と正
  しい発言をした(金融政策は、FRBの理事7名と地域連邦
  準備銀行総裁12名中5名からなる連邦公開市場委員会によ
  って実施される)。しかし、そのインフレ予測と金融政策は
  FRBが理解していないことを示している。彼らはインフレ
  のダイナミクス、とりわけ金融政策がインフレに影響を与え
  るのに要する時間を誤解している。供給問題は不定期に去来
  することから、FRBは「コアPCEインフレ」を監視して
  いる。これは食料とエネルギーを除いた個人消費支出の価格
  指標の変化のことだ。この指標が過去12カ月間に5%上昇
  した。今回の決定に合わせて公表された見通しによると、委
  員会は2022年のインフレ率(12月における前年同月と
  の比較)を4・3%と予測している。
                  https://bit.ly/3ObvOir
  ───────────────────────────
立憲民主党泉健太代表の質問.jpg
立憲民主党泉健太代表の質問
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2022年06月22日

●「7月に黒田支持派を切り崩す策略」(第5756号)

 今週のメディアは「黒田日銀総裁論」一色です。6月16日〜
17日開催の金融政策決定会合で、金融緩和継続を決めた黒田総
裁の判断を巡って賛否両論があります。これは、経済というもの
を知る良い機会でもあるので、黒田総裁の判断の是非について引
き続き考えたいと思います。
 そもそも黒田東彦日銀総裁とはどういう人物なのでしょうか。
 黒田氏は、東京教育大付属駒場中学・高校から、東大法学部を
経て、大蔵省(現財務省)に入省しています。いわゆる秀才コー
スですが、黒田氏は若くして度胸が据わっていて、エリート官僚
らしからぬ人物だったようです。
 1989年のことです。この年に消費税が創設されていますが
その年の参院選で自民党は大敗を喫し、過半数割れに追い込まれ
ています。この参院選で、土井たか子委員長が率いる社会党が躍
進し、マドンナ旋風といわれたのです。「山が動いた」のです。
 自民党敗北の原因は、消費税だけではなく、リクルート事件や
宇野宗佑首相の女性問題など、いろいろあって、自民党に逆風が
吹いたのです。
 このとき、大蔵省主税局の官僚たちは消費税が廃止されると右
往左往していましたが、当時大蔵大臣秘書官だった黒田氏は、そ
ういう官僚たちに対し、「動ずることはない。廃止されることは
ない」といっていたそうです。その頃から、黒田氏は将来の次官
候補の一人として、注目される存在になっていったのです。
 日本の金融機関破綻が相次いだ金融危機のさなかの1999年
に黒田氏は、大蔵省内ナンバー2といわれる財務官に就任し、通
貨政策を担うことになります。この頃の黒田氏は、あまり目立つ
存在ではなかったようです。前任者の「ミスター円」といわれる
榊原英資氏の存在が大きかったからです。
 なぜ、榊原氏が「ミスター円」といわれるようになったかです
が、1995年当時、「1ドル=79円」まで進んだ超円高を前
例のない巨額介入によって解決した手腕が買われたのです。黒田
氏は、この榊原流の大胆さから学んで、「異次元金融緩和」に踏
み切ったのではないかといわれています。その榊原英資氏も今回
の黒田氏の判断は正しいと支持しています。
 黒田氏は省内少数派の金融緩和論者であり、次期日銀総裁の候
補に名前が挙がっている伊藤隆敏・コロンビア大学教授と金融緩
和について共同論文を提出しています。さらに2002年、黒田
氏は、インフレ目標など非伝統的な金融政策採用を訴える論文を
元アジア開発銀行研究所長で東大名誉教授の河合正弘氏と共に発
表しています。
 それから、10年後のことですが、これらの論文がきっかけと
なって、当時野党だった自民党の安倍晋三総裁の目に止まり、首
相となった安倍氏が当時財務官僚の「天下り指定席」といわれる
国際機関「アジア開発銀行総裁」をしていた黒田氏を日銀総裁に
任命し、黒田理論を全面的に取り入れたアベノミクスがはじまっ
たのです。これについて財務省は「次官でない人物が日銀総裁に
なる人事は前例がない」という、どうでもいい理由で最後まで反
対の姿勢を貫いていたといわれます。
 岸田首相は、安倍/菅時代の経済路線を転換して、自前の経済
政策を進めたいと考えています。その肝心の自前の「新しい資本
主義」は何のことか、一向に見えてきていませんが、要するに、
財務省主導の路線に戻そうとしているのです。だから「財務省の
犬」といわれるゆえんです。
 岸田首相は、今回の黒田発言を「失言」とみなし、参院選の終
了後の7月20日を反転攻勢の日と定めているようです。これに
ついて、『週刊ポスト』7月1日号は次のように書いています。
─────────────────────────────
 天王山とみられているのは7月20日の金融政策決定会合だ。
 岸田内閣は国会同意人事で、7月に任期が切れる2人の日銀審
議委員の1人に財務省に近い金融緩和慎重派″のエコノミスト
を指名した。これによって日銀政策決定会合の勢力は、黒田路線
支持派(4人)と慎重派(5人)が逆転することになる。
     ──2022年6月20日発売/「週刊ポスト」より
─────────────────────────────
 しかし、黒田総裁の意見に反対する新任の日銀審議委員の就任
は、7月22日付であり、7月の金融政策決定会合が開かれるの
は、その2日前であるので、黒田支持派が優位の状態で会合が開
催されることになります。
 しかし、岸田首相は、黒田総裁の来年の退任後も残る日銀審議
委員に働きかけて、7月の会合において、黒田総裁に「NO」を
突き付けるよう説得しようとしているようです。官邸と財務省は
8月末が来年度予算の概算要求の締め切りであるので、何とか7
月の決定会合で金融政策を変更させたいと考えている──このよ
うに『週刊ポスト』は書いています。つまり、岸田政権は、黒田
総裁の首を取ろうとしているようです。
 どのように考えても、現在の日本の経済の状況では、ここは黒
田総裁のいうように、金融緩和を続けるしかないと思います。そ
してそれによる物価上昇に対しては、思い切った財政出動をし、
消費税の減税などを行うべきです。しかし、何が起ころうと、財
務省に支配されている岸田内閣は、減税、まして消費税の減税は
絶対にやらない方針です。
 ここで日銀が利上げに動くと、それは金融引き締めを意味する
ことになり、経済状況はさらに悪化し、デフレはさらに深化しま
す。しかし、それが財務省の思うツボなのです。財務省は経済と
いうものがわかっていない。デフレの最中に緊縮財政をする──
無茶苦茶です。もちろん、参院選が終わると、黒田総裁の首切り
だけではなく、高市早苗政調会長をはじめとするアベノミクス支
持派を人事で外し、「反アベノミクス政権」を築くつもりのよう
です。岸田首相は、周辺に次のように漏らしています。「参院選
に勝てば人事は好きなようにやらせてもらう」と。
              ──[新しい資本主義/112]

≪画像および関連情報≫
 ●黒田総裁発言の騒動が示した「リフレ派の終わり」
  ───────────────────────────
   黒田東彦・日本銀行総裁は6月6日、東京都内で講演し、
  商品やサービスの値上げが相次いでいることに言及したうえ
  で「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」と述べ
  これを持続的な物価上昇を実現するための「重要な変化」と
  形容した。これがたいへんな批判を浴びて、8日に黒田総裁
  が撤回したことは大々的に報じられているとおりである。
   しかし、この発言は予定稿どおりの発言であり、黒田総裁
  による「失言」というのは正確ではなく、純粋に描写が政治
  的配慮を欠いた、ラフに言えば民意との齟齬があったという
  事案と言える。
   擁護するわけではないが、発言はこれまでの政策姿勢と何
  ら矛盾しない。2013年以降、アベノミクスの名の下でリ
  フレ政策が目指したのは拡張的な財政・金融政策により日本
  の民間部門(とりわけ家計部門)の粘着的なデフレマインド
  を払拭し、インフレ期待を底上げしようというものだった。
  それは物価上昇(ラフに言えば値上げ)が普通に行われる社
  会を目指すということでもあった。
   物価上昇を起点に賃金上昇も起こり、景気も回復する――
  物価上昇が「原因」で景気回復が「結果」というリフレ派と
  呼ばれる人たちの思想は、筆者などエコノミストの一部から
  は明らかに倒錯していると指摘されたが、その政策思想を民
  意を受けているはずの国会議員の多くが熱狂的に支持したの
  が9年前だ。そして、現在、世界的にインフレ懸念が高まろ
  うとも緩和路線を続けて、円安に躊躇することなく指値オペ
  で金利を抑え続けるという黒田体制の路線は、是非は別にし
  て、一貫性がある。       https://bit.ly/3tLXzFY
  ───────────────────────────
黒田東彦氏/榊原英資氏.jpg
黒田東彦氏/榊原英資氏
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2022年06月21日

●「日本が選ぶのは地獄@か地獄Aか」(第5755号)

 「日本橋のプーチン」──最近投資家の間で流行りつつある言
葉です。誰のことかというと、日銀の黒田東彦総裁のことです。
投資家たちの多くは、「黒田は円安を放置し、円売りを招いてお
り、世界の非常識といわれている」と考えているので、この名前
が付けられたそうです。これに関して、6月18日発売の「日刊
ゲンダイ」は次のように報道しています。
─────────────────────────────
 15〜16日には先進国の中央銀行が相次いで金融引き締め方
針を打ち出した。米連邦準備制度理事会(FRB)は通常の3倍
にあたる「0・75%」の大幅利上げを決定。英・イングランド
銀行も5会合連続の利上げを決め、スイスの中央銀行は市場の予
想に反して「きさか」の利上げに踏み切った。
 主要中銀以外でも5月以降は、豪州、インド、ブラジル、サウ
ジアラビア、チェコ、ポーランド、アルゼンチン、メキシコ、南
アフリカ、韓国、ハンガリーなどの中銀が利上げを決定した。欧
州中央銀も7月1日に量的緩和を終了し、21日の次回会合で、
0・25%の利上げに踏み切る方針を表明済み。気がつけば日銀
だけが国際レベルの利上げの潮流から完全に取り残されている。
         ──6月18日発売の「日刊ゲンダイ」より
─────────────────────────────
 実は、6月15日のことですが、円を買い戻す動きが起きてお
り、16日には一時「1ドル=132円台」まで、円は上昇して
いたのです。これを「有事の円買いの復活」と報道したメディア
もあったのです。世界中の中央銀行が利上げをしているので、さ
すがの黒田総裁も利上げに動くのではないかと投資家は考えたか
らだと思います。
 しかし、日銀はピクリとも動かなかったのです。これで少なく
とも黒田総裁の任期(2023年3月)までは、金融緩和策は続
くものと考えられます。
 19日の日本経済新聞の社説では、日銀の金融政策が変更され
ないことを前提にして、次のように社説を書いています。
─────────────────────────────
 これ(円安)にどう対応すべきか。円安による輸入物価の高騰
で幅広い品目が値上がりし、購買力が毀損する痛手は大きいが、
円安には円安の利点もある。円安の風をうまく生かす政策や経営
が重要になる。
 即効性がありそうなのは、海外からの観光客や投資の誘致だ。
政府はインバウンドについて外国人観光客は団体旅行しか認めな
いなどの制約を課しているが、こんな不自然な縛りのある国はほ
ぼない。政府は一日も早く外国人の受け入れを本格化すべきだ。
 外からの直接投資が増える効果にも期待したい。台湾の半導体
大手、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県で新工場建設を決
めたのに続き、米マイクロン・テクノロジーも広島工場で最先端
メモリーの量産を近く始める。日本政府の補助金が両社の投資の
呼び水になったが、日本事業が軌道に乗れば、追加投資につなが
る循環が期待できる。      ──2022年6月19日付
  日本経済新聞「社説」より https://s.nikkei.com/3OlLTlh
─────────────────────────────
 しかし、こうした日銀の政策と岸田政権の経済政策は、必ずし
も息が合っているとはいえないのです。日経の社説が指摘してい
るように、円安の日本にとって、インバウンドは絶好のチャンス
です。しかも、日本は、コロナ禍後において、世界中の人が行き
たい国のトップを占めているからです。
 日本政策投資銀行と日本交通公社が共同で行った特別調査によ
ると、アジア居住者では旅行先として、日本は67%で圧倒的に
トップであり、欧米豪居住者でも日本が36%とトップを占めて
いるからです。
 それなのに、岸田政権は、海外旅行者をツアーガイド付き団体
旅行に限定し、しかも、マスク着用の条件を付けて制限している
のです。フランス人などは、早々にマスク着用なら、日本ではな
く、別のところに行くといっています。これは、海外旅行者を大
幅に受け入れて、感染者が増大し、直後の参院選に影響を与える
ことを恐れた判断であると思います。
 なぜ、黒田総裁は金融緩和政策を続けているのでしょうか。
 これについて、経済学者で、イエール大学アシスタント・プロ
フェッサーの成田悠輔氏は、19日のテレビで面白いことをいっ
ていました。日本の場合、政策的に無策ではなく、どっちに転ん
でもいいことはあまりなく、「地獄@」と「地獄A」しかないと
いうのです。
 「地獄@」は、このまま金融緩和政策を続けると、円安はさら
に加速し、物価は高騰し、生活が苦しくなる地獄です。
 「地獄A」は、日銀が利上げに踏み切ると、企業に資金がさら
に回らなくなり、景気が深刻化します。まして日本は、デフレ下
にあるので、利上げのような緊縮政策をとると、さらに景気は悪
化し、デフレがさらに深化する恐れがあります。そうであるなら
は、他国に比べれば日本の物価はまだ安いので、「地獄@」を選
択したと思われるというのです。
 「地獄@」をとった以上、政府はそれに対応する経済政策を実
施する必要があります。すなわち、円安による物価上昇に対する
対策です。岸田内閣は、これに対する対策をまだ実施していない
からです。
 最も政府として行うべきは、全野党が求めている消費税の減税
です。政府は無視していますが、無策では済まないと思います。
フランスでは、マクロン大統領は楽勝と思われていた大統領選で
極右国民連合のルペン氏に大苦戦しています。その背景にあった
のはインフレです。物価上昇率は、1月2・9%、2月3・6%
3月4・5%、4月4・8%に上昇していたのです。これに対し
ルペン候補は、ガソリン税の大幅引き下げと、日本の消費税に当
たる付加価値税を生活必需品で0%にするなどを訴えて、マクロ
ン陣営を揺さぶったのです。 ──[新しい資本主義/111]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ円安?なぜ日銀は金融緩和を続ける?日本と世界の
  「経済力格差」の真相
  ───────────────────────────
   2021年10〜12月期のGDPギャップ(潜在的な需
  要と供給の差)はマイナス3・1%、金額にして年換算で、
  17兆円の需要が不足している。人々が欲しいと思うモノや
  サービスが見当たらず、新しい需要を生み出すための構造改
  革が足りないからだ。需要の旺盛さをはじめ「経済の実力の
  差」が、米国やユーロ圏とわが国の金融政策の方向性の違い
  に明確に表れている。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
   米国およびユーロ圏とわが国の金融政策の違いが鮮明であ
  る。4月中旬以降の米国では、「より大きな幅で追加利上げ
  が実施される」と予想する投資家が急増した。想定を上回る
  ペースで物価が上昇しているため、連邦準備制度理事会(F
  RB)が追加利上げやバランスシート縮小を急ぐとの警戒感
  は高まるだろう。
   ユーロ圏でも物価は高騰している。早ければ7月に欧州中
  央銀行(ECB)が利上げに踏み切る可能性がある。その一
  方で、わが国の需給ギャップはマイナスだ。日本銀行は、物
  価の上昇を定着させるべく、緩和的な金融政策を続けるだろ
  う。金融政策の方向性の違いは、実体経済と株価や為替レー
  トなどの金融市場に顕著な影響を与える。今後、米国の追加
  利上げなどによって、世界経済の減速は鮮明化する可能性が
  高い。             https://bit.ly/3tKt2IH
  ───────────────────────────
成田悠輔氏.jpg
成田悠輔氏
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2022年06月20日

●「黒田日銀総裁異次元金融緩和継続」(第5754号)

 黒田総裁の率いる日銀の物価目標は「2%」です。なぜ、2%
なのでしょうか。黒田総裁は、2014年3月の日本商工会議所
での講演で、次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本銀行としては、「物価の安定」を消費者物価指数の前年比
で数値的に定義すると「2%」であると考えています。その理由
をあらかじめ申し上げると、次の3つです。
 第1の理由は、消費者物価指数の特性、すなわち、消費者物価
指数には、上方バイアス、つまり、指数の上昇率が高めになる傾
向があるということです。
 第2に、景気が大きく悪化した場合にも金融政策の対応力を維
持するために、ある程度の物価上昇率を確保しておく方が良いと
いう、「のりしろ」と呼ばれる考え方です。
 第3に、こうした考え方は、主要国の中央銀行の間では広く共
有されており、多くの中央銀行が「2%」の物価上昇率を目標と
する政策運営を行っていることです。つまり、「2%」は、「グ
ローバル・スタンダード」になっているということです。
    ──黒田日銀総裁の講演より/https://bit.ly/3y1osZe
─────────────────────────────
 消費者物価指数というのは、消費者が購入するモノやサービス
などの物価の動きを把握するための統計指標であり、総務省から
毎月発表されています。
 消費者物価指数は、全国と東京都区部の2種類あり、東京都区
部は速報で集計され、当月分が発表されます。全ての商品を総合
した「総合指数」の他、価格変動の大きい生鮮食品を除き500
品目以上の値段を集計して算出されている「生鮮食品を除く総合
指数」も発表されます。この数値が2%台を持続的に維持するよ
うにしようというわけです。
 物価論をはじめると長くなるので、これ以上踏み込みませんが
黒田総裁は豊富な資料に基づいて、緻密な話をされる人です。こ
の人にとって失言はあり得ないと思います。まして講演で話をさ
れるときは、多くの資料分析に基づいて話をされています。「家
計が値上げを受け入れている」という発言は、講演で黒田総裁が
提示したグラフをメディアが掲載しなかったことに原因があると
思います。「表現が不適切だった」と陳謝したのは、黒田総裁は
この件で騒ぎを大きくしたくなかったのだと思います。
 4月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、前年比で「2・
1%」に達しています。といってもこれは、物価上昇率の上振れ
であり、一時的なものとされています。2%が安定的に持続され
ることが大切なのです。実際に、食料、エネルギー、情報通信費
を除く消費者物価は「プラス0・5%程度」とされています。
 現在米国では、中央銀行に当たるFRBが、金融政策として、
利上げを繰り返していますが、これは急速なインフレを抑えよう
として必死になっているからです。その物価上昇率は8%を超え
ており、深刻です。これに対して日銀は一貫して異次元の金融緩
和政策を続けており、これが異常な円安の原因になっているので
す。西側諸国の物価上昇率と今年の経済成長の見通しは次のよう
になっています。
─────────────────────────────
           物価上昇率 今年の経済成長見通し
      米国 ・・ 8・6%       3・7%
    ユーロ圏 ・・ 8・1%       2・8%
      日本 ・・ 2・1%       2・4%
           ──2022年6月18日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 日銀は、6月16日〜17日に開催した金融政策決定会合にお
いて、黒田総裁は利上げに動くという観測もありましたが、大規
模金融緩和を継続する方針を決めています。これは、当然のこと
であるといえます。なぜなら、日本のGDPが新型コロナウイル
スの流行前の水準にまだ戻っていないからであり、景気回復の勢
いが依然として弱いからです。
 しかし、これによって、さらに円安が進み、「1ドル=140
円」もあり得る状況になっています。これがさらなる物価上昇を
招き、賃金も上がらず、年金も減額されているなかで、国民の生
活が一段と苦しくなることは確かです。
 円安によるインフレ──これを「岸田インフレ」と野党は呼び
日銀に対しても利上げを迫っていますが、もし、利上げをした場
合、ただでさえ勢いのない日本の景気をどん底に落としかねない
のです。利上げは緊縮政策であり、デフレ基調の日本でこれをや
るとデフレが一層深化してしまうからです。
 ガソリン代も「1リットル=170円」を超えようとしていま
すが、政府はガソリンの元売り会社に補助金を支払い、対応して
いるだけです。これはきわめて姑息なやり方です。補助金でお茶
を濁しているからです。
 こんなときこそ「減税」──それも野党各党の掲げる消費税の
時限的引き下げです。財務省は、時間がかかることや、戻すとき
大変であることなど、できない理由を並べてやろうとしませんが
減税も立派な経済政策であり、今こそやるべきです。
 岸田首相は、「消費税は社会保障の安定的財源であり、時限的
にせよ、引き下げは考えていない」と述べていますが、消費税の
増税分はほとんど社会保障に回っていません。消費税は、社会保
障の目的税ではないからです。
 コロナ禍での経済疲弊、諸物価高騰、上昇しない賃金など、こ
れだけ揃っても、政府が何もしないとすればそれは無能です。コ
ロナ禍では西側のほとんどの国が減税をやっています。やらない
のは日本だけです。トリガー条項を解かないのも、消費税の減税
がからんでいるからです。とにかくこの内閣は、減税に関わるこ
とは絶対にやらない方針です。それどころか、参院選が終わった
ら、防衛費増強のために増税をしかねない内閣です。
              ──[新しい資本主義/110]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀黒田総裁の常識は「世界の非常識」 緩和継続・円安
  放置で海外投資家の笑いモノに
  ───────────────────────────
   もはやテコでも動かず、円安を放置だ。日銀は17日まで
  開いた金融政策決定会合で、異次元緩和の継続を決定した。
  会合後の会見で、黒田東彦総裁は「最近の急激な円安は経済
  にとってマイナス」との認識を示したが、「為替をターゲッ
  トに政策を運営することはない」とも語り、庶民を苦しめる
  物価高騰の元凶である円安進行にはノータッチ。会見終了後
  は、ジワジワと円安が進み、再び1ドル=135円台に近づ
  いている。
   「会合前の市場は、外国人投資家が日銀の緩和策も限界と
  とらえ、政策修正に動くとの観測から円を買い戻す動きが活
  発化。16日には一時132円台まで上昇していたのです。
  なぜなら、世界規模の物価上昇を受け、『緩和どころじゃな
  い』が海外の常識。各国とも積極的な利上げで通貨価値を下
  支えし、輸入インフレ防止に必死です。かたくなに緩和を維
  持する黒田総裁の常識は世界の常識と乖離しています」(経
  済評論家・斎藤満氏)
   15〜16日には先進国の中央銀行が相次いで金融引き締
  めの方針を打ち出した。米連邦準備制度理事会(FRB)は
  通常の3倍にあたる「0・75%」の大幅利上げを決定。英
  ・イングランド銀行も5会合連続の利上げを決め、スイスの
  中央銀行は市場の予想に反して、「まさか」の利上げに踏み
  切った。           https://bit.ly/3OsWsDf
  ───────────────────────────
会見する黒田日銀総裁.jpg
会見する黒田日銀総裁
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2022年06月17日

●「黒田日銀総裁発言をめぐる珍対応」(第5753号)

 黒田日銀総裁がつるし上げを食っています。なぜ、つるし上げ
られているのでしょうか。6月6日に行われた講演で、次のよう
にいったことが原因です。
─────────────────────────────
    日本の家計の値上げ許容度も高まってきている
                 ──黒田日銀総裁
─────────────────────────────
 黒田総裁は「表現が適切でなかった」と謝罪しましたが、これ
は、マクロ経済のなかの話であって、別に失言ではないと考えま
す。黒田総裁は、添付ファイルのグラフを示して、次のように話
しています。
 なじみの店で、いつも買うなじみの商品が10%値上がりした
とします。その場合、そのままその商品を購入するか、他店に移
るかを調べると、日本では、2021年8月と2022年4月で
は次のように異なるのです。
─────────────────────────────
         2021年8月   2022年4月
  そのまま購入する   43%       56%
  他店に移る      57%       44%
─────────────────────────────
 これによると、2021年8月の時点では、値上げがわかると
安い価格で売る他店に移った人が多かったものの、2022年4
月の時点になると、そのままその店で買う人が多くなっているこ
とを示しています。これを黒田総裁は「家計の値上げの許容度が
高まった」と表現したのです。
 これについて、慶応義塾大学経済学部准教授・小幡績氏は、次
のように黒田総裁を擁護しています。
─────────────────────────────
 今回の発言は配慮に欠けていたと思いますが、もともと日銀に
は“家計の値上げ許容度”という統計の指標があって、いわば学
術用語みたいなものなんです。 だから、黒田さんも、悪気なく
使ってしまったのではないかと・・・。
           ──小幡績慶応義塾大学経済学部准教授
─────────────────────────────
 この件に関して、経済学者の高橋洋一氏も、「黒田総裁の発言
は別に失言ではない」として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」との発言はイ
ンフレ期待の底上げが実現しつつあるという趣旨を含んでいたと
思われるが、「値上げを受け入れている」とのヘッドラインに変
換されたことも相まって世論の大きな反発を招き、新聞・テレビ
・雑誌を筆頭に多くのメディアがこの発言を批判的に報じた。
 正直、言葉尻を捉えるという類いの報道であるとも感じるが、
この騒動は「いかに日本という国において物価上昇が受け入れら
れないか」を示したものともいえる。     ──高橋洋一氏
                  https://bit.ly/3zCqXCf
─────────────────────────────
 そもそもメディアは、黒田発言を取り上げるのであれば、添付
ファイルのグラフも示すべきであるのに、そうしていません。日
銀総裁の講演は、すべて日銀のウェブサイトに公開されており、
発言はグラフに関係するので、グラフも一緒に示すべきです。た
だ、一部の言葉だけを切り取って、報道するのでは、黒田総裁の
真意を伝えることに不十分です。
 これは、高橋洋一氏が指摘していることですが、黒田日銀総裁
に対して国会で質問した国会議員の経済──とくにマクロ経済に
関する知識のあまりにもなさです。まず、立憲民主党・白真勲参
院議員の次の質問と黒田総裁の答弁です。
─────────────────────────────
白 :日本銀行は通貨および金融の調節を行うに当たっては、物
 価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資するこ
 とをもってその理念とすると日本銀行法の第2条にありますが
 最近食料品を買った際、以前と比べて価格が上がったと感じる
 ものがあったのかどうか、ご自身がショッピングしたときの感
 覚、実感をお聞かせください。
黒田:私自身、スーパーに行ってですね、物を買ったこともあり
 ますけれども、基本的には家内がやっておりますので、包括的
 にですね、物価の動向を直接買うことによって、感じていると
 いうほどではありません
─────────────────────────────
 「物価」といっても、白議員のいう物価と、黒田総裁のいう物
価の概念は異なるのです。黒田総裁のいう物価は、消費者物価指
数のことをいっているのです。これについては、来週のEJで取
り上げる予定です。
 続いて、立憲民主党代表、泉健太氏の黒田日銀総裁への質問で
す。ちなみに、泉健太代表も黒田発言について、党会合において
「全く生活実感のない、生活実態を見ていない、無神経な発言を
している」と酷評していたのです。
─────────────────────────────
 物価高を止めるという意味では金利を少し引き上げることも
 選択肢に入れるべきではないか。     ──泉健太代表
─────────────────────────────
 民主党政権時代は、円高ドル安であり、政府として介入して円
高を是正したことが記憶にあるのだろうと思われます。しかし、
円安の場合は、円高のときに同じことはできないのです。高橋洋
一氏の話によると、枝野幸男前代表も「金利を上げた方が経済成
長する」といっていたといいますが、あまりにも経済に疎いので
はないかと思われます。もし、いま利上げを行うと、設備投資需
要がさらに落ち込み、GDPギャップは拡大し、日本経済は、デ
フレの底に落ち込んでしまうことになります。
              ──[新しい資本主義/109]

≪画像および関連情報≫
 ●三浦瑠麗氏/立憲議員の国会質問にあきれ「日本全体の議論
  の質を落としている」
  ───────────────────────────
   国際政治学者の三浦瑠麗氏(41)が、6月7日放送のフ
  ジテレビ情報番組「めざまし8(エイト)」(月〜金曜前8
  ・00)に生出演。日銀の黒田東彦総裁をめぐる参院予算委
  員会の答弁について「議論の質を落としている」と語った。
   黒田総裁は3日に行われた参院予算委員会に出席し、物価
  高をめぐる政府の対応について立憲民主党・白真勲参院議員
  から「食料品を購入する際、以前と比べ価格が上がったと感
  じるものがあるか」などと質問を受けた。
   この質疑に対し三浦氏は「こういう取り上げ方は一番やっ
  てはいけないと思う」と発言。「みなさんの一人ひとりのこ
  とではないんですよ、家計というのは。日本全体の家計とい
  うこと。事実しか語っていない」といい「黒田総裁は専門家
  なわけです。専門家がマクロの全体の話を見て言っているの
  に“私が行った今日のスーパーでは、白菜はこのくらいの値
  段でしたけど”っていうね、エピソードベースで反論しよう
  というのは一番やってはいけない。これが日本全体の政治や
  経済に関する議論の質を落としている。感情論で専門家の意
  見に反対するのはやめた方がいい」と持論を展開した。黒田
  総裁の発言については、「給料を上げるまでの時間稼ぎがで
  きるだけ、全体としてみれば家計に貯蓄があるということ。
  低所得者に保障とか保険をすべきでない、と話しているわけ
  ではない。給料を上げるのに相当の期間がいる中、ベアが決
  まるまでの時間稼ぎができると言っているわけです」と分析
  した。            https://bit.ly/3tyYnOv
  ───────────────────────────
値上げに対するアンケート調査.jpg
値上げに対するアンケート調査
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2022年06月16日

●「資本主義は借金をすることで回る」(第5752号)

 なかなか受け入れられない考え方かもしれませんが、「資本主
義は借金をすることで回る」のです。なぜなら、誰かの借金は、
誰かの資産になるからです。日銀が金融緩和を続けていますから
資金は潤沢にあるのです。しかし、そのお金が市中に流れず、滞
留してしまっています。それがデフレの原因です。
 借金とは正反対ですが、無駄遣いをせず、せっせと貯蓄に励む
──これは一人ひとりにとっては正しいことですが、国民の多く
がこれをやると、経済は停滞してしまいます。企業も同様です。
銀行から借金をして積極的に事業を拡大せず、過去の負債をひた
すら返済する──バランスシートを修復すると、確実に経済の成
長は止まってしまうのです。
 これを「合成の誤謬」といいます。個々のレベルでは正しい対
応をしても、経済全体で見ると、悪い結果をもたらしてしまうこ
とをいいます。かつて野村総合研究所創発センター主席研究員の
リチャード・クー氏が、日本のデフレを「バランスシート不況」
と名付けて次のように解説しています。
─────────────────────────────
 一国の経済というのは家計部門が貯蓄した資金を企業部門が借
りて使うことで回っている。ところが、企業部門がバランスシー
トの修復のため借り入れをやめ、借金返済に回ると、家計部門が
貯蓄した資金は借りて使う人がいなくなり、そのまま銀行に滞留
してしまう。しかも企業部門も全体で見て借金返済の方が借り入
れより大きいとなると、この純借金返済額も誰も借りる人がいな
いことになり、銀行に滞留してしまう。ということは、現状では
家計の貯蓄総額と企業の借金返済の合計が「使われぬカネ」とな
り、経済全体のデフレギャップとなってしまうのである。この状
況を放置しておくと、毎年毎年、家計の貯蓄と企業の借金返済分
だけ総需要が失われ、経済は縮んでいくことになる。
            ──リチャード・クー著/楡井浩一訳
     『デフレとバランスシート不況の経済学』/徳間書店
─────────────────────────────
 添付ファイルを見てください。これは1980年から2017
年までの38年間のM2、GDP、国内銀行貸出残高、国債残高
を示しています。
 「M2」とは何でしょうか。正確には「マネーストックM2」
──これは、日本中の現金・預貯金のうち、ゆうちょ銀行や農協
に預けたお金を除いた金額のことです。全てを含めたものを「マ
ネーストックM3」というのですが、M2が日銀のデータで一番
継続性があるので、よくM2が使われます。
 これを見ると、@のマネーストックM2は、一貫して右肩上が
りで増え続けています。しかし、バブル崩壊後の1991年から
1992年にかけて一瞬停滞しているのがわかります。信用収縮
が起きたからです。
 信用収縮とは、信用が破綻して借金が減り、同時にお金が減る
ことを意味しています。バブルが崩壊し、経済成長がストップし
た状態です。信用収縮は信用創造の逆です。
 信用収縮の前と後が対照的なのはBの民間銀行の貸出です。信
用収縮の前は、1980年から右肩上がりで上がっていて、一時
は500兆円でピークをつけています。しかし、信用収縮後は急
激に減り、100兆円減って400兆円まで下っています。しか
し、アベノミクスが始まる2013年頃からは、グラフは、少し
上向きになっています。しかし、日本の銀行は、1993年以降
はお金を貸さなくなっています。
 その原因を作っているのは、CのGDPがまったく横ばいであ
ることです。つまり、経済が成長しなくなったからです。経済が
成長しなくなると、銀行は貸し出しを増やせないのです。
 しかし、@のマネーストックM2は、右肩上がりで増えていま
す。これを支えているのは、Aの国債残高です。バブル崩壊後は
国債残高は急激に増加し、@に迫る勢いです。これは、銀行が民
間貸出を増やさなくなったので、政府が代わりに借金を増やして
M2を支えているのです。そのおかげてマネーストックM2は一
応右肩上がりで増えているのです。
 私は、安倍政権は、森友問題、桜を見る会など、いろいろ不祥
事がありましたが、それまでの政権に比べると、経済運営はよく
やった方だと思います。アベノミクスもその考え方は間違ってい
なかったし、最初の1年はそれまでの民主党政権のときとは見違
えるほど、経済に勢いが出てきたのです。それは、異次元の金融
緩和と機動的財政出動が効いたといえます。
 問題は、既に法律化されている8%への消費増税です。しかし
安倍首相は異例の2度目の首相登板であり、その経験から財務省
の役人のいうことをそのまま受け入れず、多くの識者から意見を
聞いても引き上げに慎重だったのです。しかし、信頼する黒田総
裁からも要請があったので、最終的に増税を決断します。これに
ついて、田村秀男氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 奇妙なことに、日銀の黒田東彦総裁は、2013年に「消費税
を予定通り8%に引き上げないと、国債が暴落するテールリスク
がある」と増税に慎重な安倍晋三総理(当時)を脅して、増税に
踏み切らせました。テールリスクとは巨大隕石の衝突のような天
文学的確率のリスクのことですが、それを強調するようでは中央
銀行総裁の資格はありませんね。そんな詭弁を弄してまで、出身
母体である財務省の増税画策に与したのです。増税の結果、デフ
レ不況が長引き、日銀自身が政府との共同声明で公約している物
価安定目標のインフレ率2%を達成できなくなっています。そう
いう意味でも黒田さんの罪は重いと私はいまでも憤っています。
                      ──田村秀男著
                 『「経済成長」とは何か/
    日本人の給料が25年上がらない理由』/ワニブックス
─────────────────────────────
              ──[新しい資本主義/108]

≪画像および関連情報≫
 ●検証アベノミクス:2度の消費増税で財政政策が機能せず
  =藤井・元内閣参与
  ───────────────────────────
  [東京26日/ロイター]第2次安倍内閣で内閣官房参与を
  務めた藤井聡氏(京都大学大学院教授)は、歴代最長政権と
  なった安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」について、
  消費増税によって第2の矢である財政政策が十分に機能しな
  かったとの見方を示した。
   その上で足元のコロナ禍で内需が低迷する状況に対応する
  ため、さらなる財政出動と消費税減税が必要と語った。24
  日に書面で回答した。
  <財政政策がマイナスに>
   藤井氏はアベノミクスの成果について、「2014年3月
  までの期間、消費税5%の状況下で10兆円の補正予算を組
  んだこと。この時、非常に大きな効果があったことは間違い
  ない」と指摘。3本の矢のうち、2本目に当たる「機動的な
  財政出動」の初期の対応を評価した。一方で藤井氏は「14
  年の消費増税で、この成功は消し飛んでしまった。そもそも
  第2の矢は『財政支出額マイナス増税額』で測るべきもので
  増税前まではプラスだったものが14年4月の増税以降、そ
  れがマイナスになった」と説明。「アベノミクスをやろうと
  してやれなかったことを意味する」との見方を示した。「第
  1の矢(大胆な金融政策)や第3の矢(民間需要を喚起する
  成長戦略)をいくらやっても、第2の矢を打たなければ資金
  は市場には回らないし、デフレも終わらない」と述べた。
                 https://bit.ly/3tsWAdG
  ───────────────────────────
マネーストックとGDP/借金の推移.jpg
マネーストックとGDP/借金の推移
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2022年06月15日

●「実体経済をいかに活性化させるか」(第5751号)

 このところ、よく産経新聞特別記者、田村秀男氏の所説を取り
上げています。産経新聞は保守系の新聞で、田村秀男氏は、その
新聞の特別記者にして、編集委員兼論説委員を務める大物記者で
す。田村氏が書く実名記事は、注目されていて、とくに大物政治
家に大きな影響を与えるとされています。その田村氏は、現在の
日本経済について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 現代の経済というものを考える際に前提にしなければならない
のは、実体経済と金融経済(または資産経済)があるということ
です。まずは、実体経済なのですが、これはGDP──国内総生
産。一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付
加価値の合計額のこと──に直結していて、モノとサービス、そ
して人が動く世界です。
 もうひとつの金融経済、こちらのほうはまだ経済学が全容を解
明していない部分で、資産市場において動きます。例えば株式が
該当します。株式は、いわば企業にとってみれば借金です。元本
(株価)は、払う必要はないけれど、配当はしなければなりませ
ん。株式市場では元本が変動して、どんどん上下して、それが投
資家同士で売った、買った、得した、儲けた、損したという話に
なるわけです。               ──田村秀男著
                 『「経済成長」とは何か/
    日本人の給料が25年上がらない理由』/ワニブックス
─────────────────────────────
 実体経済というのは、いわば人々の暮らしの経済です。そこで
は、モノやサービスが動きます。企業は、設備投資をしたりして
新しいビジネスに備えようとし、一般家庭では、子供の教育を充
実させようと子供を塾に通わせたり、若者は、将来の見通しを立
てたうえで、結婚したり、子供を作ったり、住宅を建てたりしま
す。こういうことは、すべて「実体経済」のなかで行われます。
ごく普通の人にとって、経済といえば実体経済のことなのです。
 しかし、現在の日本では、実体経済にお金が回らずに、金融経
済にばかり、お金が動いています。金融経済の中心であるはずの
銀行は、本来であれば、企業にお金を貸して、設備投資や雇用増
加を促すなどして、実体経済にお金を回す努力をすべきです。家
計であれば、住宅ローンを貸し付けて住宅建築を勧めたり、家の
リフォームのための資金を貸し付けたりします。そうすれば、住
宅産業や電機メーカーなどにもお金が回り、実体経済がうるおう
はずだからです。
 ただ、銀行は、いずれにしても、きちんと返済のできる企業や
人を探し、融資を積極的に促進すべきなのですが、そういう営業
努力を怠っていると思います。経済がデフレ化しているので、仕
方がない面もありますが、銀行は、営業を強化して、融資先を開
拓する努力を怠っているように感じます。ここに日本のGDPが
成長しない重要な原因があります。
 銀行は、それよりむしろ、資金を資産運用に回した方が儲かる
として、証券部門まで作って、資金をそちらで運用したり、国内
に投資すべきところがない場合は、国外に投資する先を探し、海
外投資を増やしています。昨日のEJで、「対外純資産」が日本
が31年連続でトップである話をしましたが、銀行などの金融機
関が海外投資を増やしている結果として、対外純資産が膨らんで
いるということも考えられます。
 このような現象が生じたうえで、何が起きるかについて、田村
秀男氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 実体経済が委縮していくと、企業は企業で、国内で商売しても
設備投資しても、人を雇っても全然ダメだという判断をします。
見通しがありませんから。ということで企業もますます国外に出
て行くことになります。要するに、日本経済は自滅している。残
念ながら、いまはそういう過程をたどっているのだと思います。
         ──田村秀男著/ワニブックスの前掲書より
─────────────────────────────
 長年続く異次元の金融緩和によって、お金は、ジャブジャブに
余っています。家計の金融資産だけで2000兆円!──このお
金を実体経済に取り入れる必要がありますが、どうすればいいの
でしょうか。
 一方で、お金を借りたいと思っている人がいます。お金という
ものはどこかで余っていて、貸し手はたくさんいるものです。な
ぜなら、お金は持っているだけでは増えないので、どこかに貸し
て、利益を還元したい──そう思っている人はたくさんいるから
です。このお金の借り手と貸し手の利害が一致するから、資本主
義ではお金が動いて、パイが大きくなるのです。これが経済の成
長であり、資本主義は借金で回るといえます。
 さて、実体経済にお金を回すにはどうすればよいでしょうか。
答えはあります。誰かが借りて実体経済に回せばよいのです。そ
の「誰か」とは誰か。実体経済の主体は次の3つです。
─────────────────────────────
             @企業
             A家計
             B政府
─────────────────────────────
 第1に企業ですが、利益の出ている企業ではお金が余っていて
お金を金融市場で運用しており、借金する必要はありません。つ
まり、資金需要がないのです。一方、赤字の企業には、資金需要
はありますが、銀行がなかなか貸してくれません。
 第2に家計ですが、貸せるほどお金を持っている人は、リスク
を恐れてゼロ金利でも銀行に預けて、現預金で持っています。し
かし、銀行は、貸したい企業や人は借りてくれないし、借りたい
企業や人には、焦げつきを恐れて貸そうとしません。
 結局、Bの政府しかないということになります。ここは政府の
出番なのです。       ──[新しい資本主義/107]

≪画像および関連情報≫
 ●激震コロナショック〜経済危機は回避できるか〜
  ───────────────────────────
   この記事は、2020年3月28日に放送した「NHKス
  ペシャル/激震コロナショック経済危機は回避できるか〜」
  をもとに制作し、2020年4月3日に公開したものを再公
  開しました。
   日本は今、新型コロナウイルスの感染爆発を防げるかどう
  かの瀬戸際にある。感染拡大は私たちの仕事や暮らしに大き
  な影を落とし、ロックダウンと呼ばれる、いわゆる“都市封
  鎖”も対岸の火事ではない。世界経済は大きく揺さぶられ、
  日経平均株価はわずか1か月で30%以上も下落した。コロ
  ナショックによる世界的経済危機をどうしたら回避すること
  ができるのか。3人の専門家を交えて、徹底検証する。
   世界の180を超える国と地域で猛威を振るう新型コロナ
  ウイルス。未知のウイルスは、世界経済を直撃し、いわゆる
  「コロナショック」を引き起こしている。世界の金融市場に
  は動揺が走り、ニューヨーク株式市場では歴史的な下げ幅を
  記録。アメリカの4月から6月までの国内総生産(GDP)
  は前期比でマイナス24%という衝撃的な予測も出ている。
   世界はリーマンショックを超える危機的な状態に陥るので
  はないかという不安が連鎖している。未曾有の危機に直面し
  ている当事者たちは、今回のコロナショックをどのように受
  け止めているのか。グループの傘下にアメリカのウイスキー
  メーカーなどを持つグローバル企業の経営者、新浪剛史さん
  は事態を深刻に受け止めている。 https://bit.ly/3aK7i94
  ───────────────────────────
田村秀男氏/産経新聞特別記者.jpg
田村秀男氏/産経新聞特別記者
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2022年06月14日

●「日本はけっして借金大国ではない」(第5750号)

 もう一度矢野康治財務事務次官の論文の冒頭部分を読んでみて
ください。
─────────────────────────────
 私は一介の役人に過ぎません。しかし、財政をあずかり、国庫
の管理を任された立場にいます。このバラマキ・リスクがどんど
ん高まっている状況を前にして、「これは本当に危険だ」と憂い
を禁じ得ません。すでに国の長期債務は973兆円、地方の債務
を併せると1166兆円に上ります。GDPのの2・2倍であり
先進国でずば抜けて大きな借金を抱えている。それなのに、さら
に財政赤字を膨らませる話ばかりが飛び交っているのです。
               ──財務事務次官/矢野康治著
    「財務次官、モノ申す/このままでは財政は破綻する」
             『文藝春秋』/2021年11月号
─────────────────────────────
 散々聞かされてきている「国の長期債務は973兆円、地方の
債務を併せると1166兆円、GDPの2・2倍」──借金だけ
が誇張されていますが、正確にいうと、ウソがあります。メディ
アなどは、「国の借金1000兆円/国民一人当たり800万円
の借金」と大々的に報道しています。国民はこれをそのまま信じ
ています。メディアはわかっていないかもしれませんが、財務省
は、よくわかっていてウソをついています。
 それは「国の長期債務973兆円」という部分です。これは、
正確にいうと「政府の長期債務」というべきです。国と政府は違
います。「国=政府」ではなく、国とは、政府と民間を合わせた
ものをいいます。確かに、政府は約1000兆円の借金を負って
いますが、そのほとんどは民間が貸しています。
 つまり、貸し手も日本、借り手も日本、これは国のなかでの貸
し借りの問題であって、国の借金ではないのです。この場合、民
間といってもピンとこないと思うので、正確にいいます。日本政
府の国債の90%以上は日本の機関投資家が保有しています。機
関投資家とは何でしょうか。銀行、生命保険会社、損害保険会社
年金運用基金など、国民の資産を集めて運用する機関が機関投資
家で、彼らが日本政府の借金(国債)のほとんどを貸しているの
です。民間が貸しているのですから、民間の「資産」ということ
になります。
 ところで、2022年5月28日付の日本経済新聞に次の記事
が掲載されています。
─────────────────────────────
◎日本の対外純資産最高/昨年末15%増411兆円、円安影響
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日本に住む人が海外で保有する資産の評価額が、円安の影響で
膨らんでいる。財務省が27日発表した対外資産負債残高による
と、2021年末時点の日本の対外純資産は20年末に比べて、
15・8%増の411兆1841億円と、過去最高を更新した。
31年連続で世界最大の純債権国となり、2位のドイツを100
兆円近く引き離した。
 日本の対外純資産が400兆円を超えたのは初。13年末以降
は300兆円台で推移していたが、21年末は増加幅が56兆円
とこれまでで最も大きかった。20年末に33兆円程度に縮まっ
たドイツとの差が再び開いた。
         ──2022年5月28日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 対外純資産については、毎年財務省が発表しています。しかし
これについては、毎回非常に控え目に報道されるので、多くの人
は気がつかないで、見逃してしまいます。
 日本を主語にしていうと、対外純資産とは、日本が海外に投資
している金額から、海外から投資されている金額を差し引いた金
額のことです。ここで投資とは、政府債券や社債、株式、土地な
どの資産を現地通貨で保有することです。
 確かに日本も海外から投資を受けていますが、それよりもはる
かに多くの金額を海外に投資しています。日本の対外純資産が世
界一多く、しかも31年連続で日本は世界一なのです。それなの
に、多くの日本人は、日本は世界一の借金大国であることを信じ
ています。財務省のプロパガンダがそうさせているのです。
 ただ、対外純資産が長年にわたって日本が世界一であることに
はマイナスもあります。それは、日本国内に魅力的な投資先がな
いことを意味するからです。これについて、みずほ銀行チーフエ
コノミストの唐鎌大輔氏は、次のようにコメントしています。現
在の日本には、巨大な借金よりも改善すべきことがあるのです。
─────────────────────────────
 対外純資産が増えること、つまり国内から国外への証券投資や
直接投資(端的にいえば外国企業の買収・合併)が旺盛だという
ことは、裏を返せば、国内への投資機会が乏しいということにも
なる。日本経済の1990〜2010年は「失われた20年」と
呼ばれるが、その間一度も転落することなく「世界最大の対外純
資産国」であり続けてきたということは、それは「失われた20
年」の産物だったともいえるのではないか。
 ちなみに、直接投資の急増は、この10年弱で進んでいるトレ
ンドだ。「失われた20年」を経て、多くの日本企業が「国内市
場には期待収益の高い投資機会はない」と判断した結果なのだろ
う。より厳しい言い方をすれば、縮小し続ける国内市場に投資す
るより、海外企業への買収や出資を通じて時間や市場を買うほう
が中長期的な成長につながると判断した結果だったともいえる。
 2010〜2020年の10年間は「日本の企業部門が日本と
いう国を見限り始めた期間」という解釈は、対外純資産の内訳を
見る限り、もはや的外れとは言えない現状がある。今後、198
080〜2020年が「失われた30年」と呼ばれる日もやって
くるのかもしれない。       https://bit.ly/3MLuOQq
─────────────────────────────
              ──[新しい資本主義/106]

≪画像および関連情報≫
 ●日本が一番の対外純資産保有国…世界全体で対外純資産額の
  実情(2022年時点最新版)
  ───────────────────────────
   国単位での資産額は債務と債権を相殺した、特定の国から
  他の国々に対する「対外純資産額」で示される。その額につ
  いてIMFの公開値を基に、世界全体での実情を確認する。
  対外純資産とは、対外資産と対外負債を合算したもので「対
  外」とは該当国が他国に保有している資産や負債のこと。大
  まかな説明としては「資産…海外に対して色々な形で貸し付
  けているもの」「負債・・・海外から色々な形で借り受けて
  いるもの」となる。
   次に示すのはIMFのデータベースで対外純資産額を確認
  できる国のうち、年ベースで取得可能な最新値となる、20
  20年分がある国はその値、またない国は得可能な2005
  年以降の値で最新のものを適用した計174か国について、
  上位国と下位国を抽出したもの。基データにある通り米ドル
  換算された値を用いている。
   全世界を対象としても、最大の対外純負債を持つのはアメ
  リカ合衆国。次いでスペインだが、アメリカ合衆国の額が大
  きすぎてグラフがアンバランスとなっている。アメリカ合衆
  国とスペインとの差は10倍以上。スペインの次はイギリス
  フランス、アイルランド、オーストラリア、メキシコ、ブラ
  ジル、トルコ。経済的に難儀していることもあり、やはりそ
  うなのかという感想を抱く国もあれば、意外なところで顔を
  見せていると思わせる国もある。 https://bit.ly/3xE1jM2
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対外純資産/2020年.jpg
対外純資産/2020年
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2022年06月13日

●「骨太の方針をめぐる党を割る論争」(第5749号)

 6月7日のことです。政府は今年の「経済財政運営と改革の基
本方針/骨太の方針」を閣議決定しています。とくに今年の骨太
の方針の決定は重要であったといえます。考えてみると、日本が
長期デフレでも、十分な財政出動ができなかった理由の一端は骨
太の方針の内容にもあるからです。
 これは、政府プラス自民党と財務省のいわば戦いです。今回は
財務省を代表する財政健全化推進本部と、政調会長を中心とする
財政政策検討本部の2つのグループに分かれて、骨太の方針をめ
ぐって、激しい議論が行われたのです。麻生元財務相と安倍元首
相の戦いといってよいと思います。その激しさは、党を割るので
はないかといわれるほど、激しかったといいます。
 しかし、岸田首相は明らかに財務省寄りであるので、政府とし
ては、財政健全化グループと財政積極派グループの中間に位置し
ている感じです。当初財務省は、当然のように今年度の骨太の方
針に次の文言を明記することを政府に働きかけています。
─────────────────────────────
 2025年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字
化目標を堅持する。
─────────────────────────────
 しかし、これについては、財政積極派グループが猛烈に反対し
削除を要求しています。最終的に財務省はこれを受け入れざるを
得なくなり、最終段階になって、次の一文を加えてきたのです。
─────────────────────────────
 骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進
する。             財政健全化推進本部の追加文
─────────────────────────────
 骨太方針2021には2025年のプライマリーバランス黒字
化達成が明確に記述されており、この一文は財務省の猿芝居であ
ると高橋洋一氏はいっています。これは事実上黒字化目標堅持を
継続し、当初予算が抑制されるので、自民党政調全体会議は大紛
糾することになります。これについて財政政策検討本部長の西田
昌司氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 「姑息」というのは、新たな一文が文案の最後に何事もなかっ
たように加えられていたことだ。これが財務省のやり方で、油断
も隙もない。PB黒字化に固執すれば岸田首相が掲げる「新しい
資本主義」はもちろん、喫緊の課題である防衛力強化など、長期
的視野に立った重要政策の当初予算を柔軟に実行できない。
 財務省は、民間経済への視点を著しく欠き、深い考えもなく、
PB黒字化に固執している。政治や国民を下に見て、日本経済を
停滞させ、デフレを招く根源は、息の根を止めないといけない。
              ──西田昌司財政政策検討本部長
              2022年6月8日付、夕刊フジ
─────────────────────────────
 しかし、財政健全化推進本部はこの追加分のカットには頑強に
反対し、次の一文を加えることで、骨太の方針は閣議決定される
ことになったのです。
─────────────────────────────
 ただし、(それが)重要な政策の選択肢をせばめることがあっ
てはならない。               ──最終追加文
─────────────────────────────
 これだけの騒ぎになっているのに、肝心の岸田首相の態度は、
まったく煮え切らないの一語に尽きます。これでわかることがあ
ります。矢野康治現財務次官の『文藝春秋』への論文投稿は、独
断でやったものではなく、麻生前財務相、現鈴木財務相が了承の
うえでやったのではないかということです。もしかすると、岸田
首相も事前に伝えられていたと考えられます。もし本当だとすれ
ば、「財務省のイヌ」といわれても仕方がないと思われます。
 財務省が拠りどころとしているには、財政法第4条です。第4
条とは、「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その
財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付
金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を
発行し又は借入金をなすことができる」とあります。一体なぜこ
のような法律が存在するのでしょうか。
 この財政法第4条と憲法第9条は、占領下の1947年に制定
されたもので、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)から日本
に押し付けられたものです。GHQが財政政策を縛ったのは、日
本を経済的に発展させないためであり、憲法第9条とともに、日
本を「戦争ができない国」にするためのものです。当時の世界は
日本が再軍備することを極端に恐れたのです。
 この財政法第4条に関して、産経新聞特別記者の田村秀男氏は
次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本共産党は『しんぶん赤旗』で「この規定、戦前、天皇制政
府がおこなった無謀な侵略戦争が、膨大な戦時国債の発行があっ
て、はじめて可能であったという反省にもとづいて、財政法制定
にさいして設けられたもので、憲法の前文および第9条の平和主
義に照応するもの」と説明しています。国家主権を自ら制限する
もので、いかにも日本共産党の言い分ですね。しかし、共産党が
墨守する憲法解釈に、保守を自称する与党の政治家の大半が縛ら
れるのは奇々怪々と言うしかありません。
 そもそも憲法は、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権
利」の尊重を謳っています。政府が財政均衡主義を貫くことで、
デフレ不況を引き起こし、経済をゼロかマイナス成長にしてしま
うことは、国民が幸福になる権利をブチ壊すようなものです。
                      ──田村秀男著
                 『「経済成長」とは何か/
    日本人の給料が25年上がらない理由』/ワニブックス
─────────────────────────────
              ──[新しい資本主義/105]

≪画像および関連情報≫
 ●風化する財政法4条、戦前の教訓どこへ
  ───────────────────────────
   建設国債の発行を認めている財政法4条を巡る議論がにわ
  かに熱を帯びている。教育無償化などの財源を、建設国債の
  発行で賄おうとの動きだ。麻生太郎財務相は「名を変えた赤
  字国債と変わらない」と否定的な姿勢を堅持するが、自民党
  では安倍晋三首相の指示のもとでの検討が進む。戦前の教訓
  はどこへいったのか。
   財政法は4条で「国の歳出は公債又は借入金以外の歳入を
  以て、その財源としなければならない」として国債発行を原
  則禁止しているが、「公共事業費、出資金及び貸付金」向け
  の建設国債の発行を例外的に認めている。1966年に戦後
  はじめて発行した建設国債は2016年度末に277兆円と
  政府債務全体の約3割に及ぶ。1990年代までは赤字国債
  よりも発行額が大きく、借金の膨張の要因となってきた。
   使途拡大の議論の焦点となりそうなのが、無形資産への計
  上を認めるか、という点だ。財政法の解説で権威のある「予
  算と財政法」には研究開発費のような使途であっても「(出
  資金であれば)後世代がその利益を享受でき、その意味で無
  形の資産と観念しうるものについては妥当性がある」と記し
  ており、使途拡大の論拠のひとつとなっている。政府内には
  出資金の要件を満たさなくても、計上可能にしようともくろ
  む向きさえある。    https://s.nikkei.com/3zu5ewg
  ───────────────────────────
田村秀男氏と近刊書.jpg
田村秀男氏と近刊書
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2022年06月10日

● 「社会保障に使われていない消費税」(第5748号)

 6月1日のことです。衆議院予算委員会において、れいわ新選
組の大石晃子議員が、先週の予算委員会で岸田首相が「消費税の
減税は考えていない」と答弁したことに対し、首相を「資本家の
犬、財務省の犬」といった言葉を使い、複数枚のパネルを使って
批判したことが話題を呼んでいます。
 仮にも一国の首相をこのような言葉を使って批判するのは、国
会議員として失礼であると思います。ネット上で話題になってい
るので、そのときの動画をご紹介します。
─────────────────────────────
     期日:2022年6月1日(水)
     場所:衆議院予算委員会
     質問:れいわ新選組の大石晃子衆議院議員
     時間:4分22秒
             https://bit.ly/3NOV25m
─────────────────────────────
 しかし、言葉遣いには問題がありますが、大石議員が指摘して
いることはほぼ事実です。ところで、日本各地で組織された「民
主商工会」(民商)の全国組織である全国商工団体連合会(全商
連)という組織があります。その全商連が「消費税は社会保障の
ために本当に使われているのか」のタイトルで書いたレポートが
あります。これによると、消費税は社会保障の安定財源という割
には、消費税が導入されてから、社会保障が充実するどころか、
むしろ改悪されていることを次のデータで示しています。
─────────────────────────────
       消費税導入以前/1988年度  2020年度
サラリーマン本人の窓口負担      0%→    10%
高齢者の窓口負担(外来)       1割→     3割
国民健康保険料・税/1人平均 56372円→ 90233円
厚生年金支給開始年齢        60歳→    65歳
国民年金保険料(月額)     7700円→ 16610円
介護保険料              なし→  5869円
障碍者福祉の自己負担  応能負担/9割無料→ 定率1割負担
                  https://bit.ly/3xj5woj
─────────────────────────────
 確かにこれによると、社会保障はどんどん厳しさを増していま
す。しかし、それは、少子高齢化が急速に進むなどの要因もあり
仕方がないことであるともいえます。
 それに消費税は最初から社会保障の安定財源として導入された
ものではなく、そう呼ぶようになったのは、2012年に、当時
与党の民主党と、自民党と公明党の3党が組んで成立させた「税
と社会保障の一体改革」からです。バックに財務省がいます。
 しかし、そうであっても消費税は社会保障の目的税ではなく、
それを目指すというに過ぎません。消費税の税収は、一般財源と
して何にでも使えるのです。お金に色はついていないので、税収
として入ってくると、何にでも使えるし、仮にそれを指摘された
としても、どのようにでも言い訳はできるようになっています。
ここにまやかしがあります。実際には、消費税収分のほとんどは
社会保障にまわっていないのです。
 財務省という役所が、一般会計と特別会計で動かすお金の額は
GDPの50%相当といわれます。それだけ財務官僚は、日本の
命運を握っています。しかし、財務官僚は、何よりも、プライマ
リーバランス(基礎的財政収支)──一般会計で歳入総額から国
債発行などによる収入を引いた金額と、歳出総額から国債費など
を引いた金額のバランス──これをプラスに持っていくことに、
偏執狂的な情熱を燃やしています。
 これは、国債を償還することになるので、緊縮財政です。これ
をすると、市場からお金を吸い上げる一方で、税金が実体経済に
戻らなくなるので、不況になって経済が委縮し、経済が成長しな
くなります。「国が借金をすることで、国民の資産が増える」こ
とをどうしても彼らは理解できないようです。
 産経新聞特別記者の田村秀男氏は、近著で矢野康治財務事務次
官について次のように触れています。
─────────────────────────────
 一時期、民主党政権のトップたちが「このままでは日本はギリ
シャのように財政が破綻する」と言っていましたが、あれは完全
に民主党政権が財務官僚に洗脳されてしまっていたのです。財務
官僚に「ギリシャみたいになったらどうしますか。あなたのせい
にされますよ」と言われて震え上がって、一生懸命消費税の増税
を画策して、三党合意にもっていった。
 「財務省はまず国のことを思って、経済を良くしようと考える
はずなのに・・・」と思われるかもしれませんが、財務官僚とい
う人たちはほんとうに不思議です。
 いまの事務次官の矢野康治さんと話をしたとき、「いや、私は
財務省のなかでも、経済のことはいちばんわかってますから」と
の自負を述べておられましたが、その矢野さんが、一生懸命増税
と緊縮財政のことばかり考えている。
 財務省自身が魔物みたいなもので「財政は均衡させなきやいけ
ない。均衡させるためには緊縮財政をやらなきやいけない。増税
をしないといけない」という”緊縮狂”というべきか、これが性
根になっているとしか思えません。      ──田村秀男著
                 『「経済成長」とは何か/
    日本人の給料が25年上がらない理由』/ワニブックス
─────────────────────────────
 財務省は、偏執狂ならぬ緊縮狂に陥っている──このあたりに
日本が経済成長できない原因があります。政治家は、財務省と張
り合うことはマイナスと考えていて、積極的には戦おうとしない
のです。財務省の力は、政権運営に慣れていない民主党を手玉に
とったことで十分発揮されています。一番わからないのは、財務
官僚は本当に国家運営を家計と同じように考えているのかという
ことです。         ──[新しい資本主義/104]

≪画像および関連情報≫
 ●プライマリーバランス黒字化目標導入という罪とは別のもう
  一つの罪/杉っ子の独り言
  ───────────────────────────
   私はプライマリーバランス黒字化目標に対して批判的な立
  場です。デフレ脱却のためには「国債増刷」と「財政出動」
  のセットの政策以外に、有効な方法がありません。
   もし、国家の財政運営を家計簿や企業経営と同じように考
  えて、「政府の政策は税収の範囲内で行うべき!」という人
  が居られれば、それはGDP3面等価の原則を知らない人で
  しょう。知っていても理解していない人でしょう。
   なぜならば、支出=生産=所得であって、支出するのは、
  家計(個人)でなくても企業(法人)でなくてもよく、政府
  が支出するでも全く問題がないからです。実際、内閣府のホ
  ームページで公表されるGDPの1次速報、2次速報、確報
  値では、政府最終消費支出という項目があります。個人消費
  や企業設備投資の他に、公務員(警察官・消防官・救急隊・
  自衛隊・学校の先生・役所省庁職員など)の給料や公共事業
  投資もまた支出であることに変わりありません。
   国債を増刷して、その財源を元に公務員を増やした結果、
  公務員に払う給料が増えた場合、政府支出増=政府サービス
  (医療・介護・防衛・防犯・災害救助・教育などなど)の生
  産増加=公務員の所得増加となりまして、経済成長(GDP
  拡大)に貢献するのです。さて、そもそもこのプライマリー
  バランス黒字化を導入されたのはいつか?そしてそれは誰が
  主導したのか?2001年に竹中平蔵氏がプライマリーバラ
  ンス黒字化を言い出しました。その結果、日本は景気が悪く
  なって財政出動をしなければならない状況に陥ったとしても
  財政出動ができなくなってしまったのです。
                 https://bit.ly/3GQdubw
  ───────────────────────────
れいわ新選組/大石あきこ議員.jpg
れいわ新選組/大石あきこ議員
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2022年06月09日

●「一番滞納が多いのは消費税である」(第5747号)

 「われわれはウクライナに侵攻していない」──ロシアが大量
の戦車でウクライナの首都キーウに向けて攻め込んでいる映像が
テレビで大量に流されているなかでロシアのラブロフ外相がいっ
た言葉です。明らかにウソです。ラブロフ外相の立場に立てば、
そういわざるを得なかったのです。
 こういうウソを「プロパガンダ」といいますが、プロパガンダ
には、2つがあります。情報源を明らかにして行うプロパガンダ
が「ホワイト・プロパガンダ」、情報源を隠して行うプロパガン
ダが「ブラック・プロパガンダ」です。
 ロシアの場合、ホワイト・プロパガンダでもウソをついていま
す。つまり、国民に嘘をついているということです。政府声明な
ので、国民の知るところとなりますが、対外的に本当のことをい
えば、国内向けにいっていることがウソだとわかってしまう。し
たがって、ここは国際社会からいかに非難を浴びようとも、国民
にいっていることと同じこと、すなわち、ウソをいわざるをえな
いのです。ラブロフ外相やネベンジャ国連大使が、明らかにウソ
だとわかることを対外的声明や国連でのスピーチで堂々といって
のけるのはこのためです。
 何でプロパガンダの話をしたかというと、財務省も国民に対し
てさまざまなプロパガンダを行っているからです。たくさんあり
ますが、「このままでは日本の財政は破綻する」とか「消費税の
多くは社会保障の財源に使われる」などは、その代表的なものと
いえるでしょう。
 矢野康治財務事務次官は、『文藝春秋』において、消費税を一
時的にも下げることが、どれほど大変なことかについて、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 日本では、消費税はきちんと価格に転嫁しなければならないと
法律で定めていますので、あらゆる財・サービスの値段を具体的
にどこまで下げるか、電車やバスの運賃料金からから診療報酬に
至るまで、値決めと値札の付け替えをせねばならず、実行するま
でに最低半年以上かかることになります。法改正等も含めた政策
実現ラグを考えると、引き下げの実施はずっと先の話になり、そ
もそもコロナ対策としての有効性が甚だ疑問なのです。(中略)
 いったん引き下げた消費税率をいつ上げ戻すのか、上げ戻す場
合の駆け込み需要と反動減対策はどうするのか・・・などと難題
は他にもあまたあります。さらに、もう一つだけ問題点を指摘し
ますと、仮に消費税率を5%に引き下げた場合、軽減税率対象品
目については108分の3引き下げられ、その他は110分の5
引き下げられることとなり、低所得者ほど恩恵が(額でみても率
でみても)小さくなってしまうという逆進性が高まってしまう問
題もあります。
 ──矢野康治著『財務次官、モノ申す「このままでは国家が財
    政は破綻する」』/『文藝春秋』/2021年11月号
─────────────────────────────
 経済を成長させるということはGDPを伸長させることです。
そのために一番効果的なのは、個人消費を伸ばすことです。なぜ
なら、日本の場合、GDPの60%が個人消費だからです。まし
て、昨今は生活に欠かせない諸物価が高騰しており、その一方に
おいて、コロナ禍も続いていて、労働者の賃金が上がっておらず
実質収入は減少しているのです。これでは、個人消費は上がるど
ころか、下がってしまいます。
 賃金を上げるには、経済を成長させる必要があります。これが
できないのであれば、時限的に消費税を引き下げ、実質所得を増
やさなければなりません。しかし、財務省のトップは、消費税を
下げることや、さらにそれを元に戻すことの事務負担がどんなに
大変かをめんめんと訴えています。
 しかし、それをするのが財務省をはじめとするすべての役所の
仕事なのです。そのために、世の中に何が起きようと公務員は給
与が保証され、昇給もきちんと行われているのです。そういう優
越的立場にいて、いうべきことではないと考えます。
 ちなみに、コロナ禍の緊急経済対策として、56の国と地域が
日本の消費税に当たる付加価値税を下げています。英国では、半
世紀ぶりに大企業向けの法人税率を現行の19%から25%に引
き上げる(23年4月から)ことを発表。米国のバイデン大統領
も、連邦法人税率を現行の21%から28%への引き上げを提案
し、イエレン米財務長官は、各国の法人税引き下げ競争を終わら
せ、G20が協力して共通の最低税率を設ける国際的な取り組み
を呼び掛けていますが、日本は知らん顔です。
 消費税は、コロナ禍であろうと、天変地異が起ころうと、赤字
であろうと、徴収される税金です。とくに日本の場合、いったん
上げた税率は、何が起ころうと、上げることはあっても、絶対に
下げないのです。したがって、その消費税の滞納額たるや、国税
全体の半分以上を占める3200億円に達しています。まさに日
本経済の成長を止めているのは、この消費税です。
─────────────────────────────
      ◎2019年/国税新規発生滞納額
       所得税  22%/1249億円
       法人税  14%/ 765億円
       相続税   5%/ 275億円
       消費税  58%/3202億円
       その他   1%/  36億円
                  https://bit.ly/3arqAQH
─────────────────────────────
 消費税は、社会保障財源の目的税ではありません。したがって
「社会保障に使われる」といっても、お金に色はついていないの
です。このテーマは、EJでは何回も取り上げていますが、最近
のデータを使って、本当のところ何に使われているのかについて
検討してみることにしたいと思います。
              ──[新しい資本主義/103]

≪画像および関連情報≫
 ●消費税は社会保障のため?本当に消費税は必要なのか?
  ───────────────────────────
   TOKYO MX(地上波9ch)/朝のニュース生番組
  「モーニングCROSS」(毎週月〜金曜7:00〜)。9
  月24日(木)放送の「オピニオンオピニオンCROSS
  neo」のコーナーでは、公認会計士で税理士の森井じゅん
  さんが“消費税と社会保障”について述べました。
   菅首相(当時)は総裁選中の質疑応答で、「社会保障の財
  源確保のため、将来的には消費税を引き上げる必要がある」
  と述べました。しかし、翌日の記者会見では「安倍首相(※
  会見当時)は『今後10年ぐらい上げる必要がない』と発言
  している。私も同じ考えだ」と軌道修正しており、今後の菅
  政権の方針が注目されています。
   菅首相(当時)は「消費税は社会保障のための財源」とし
  ていますが、森井さんは「そもそも消費税導入の理由は、社
  会保障ではない」と指摘。導入理由は「直間比率の是正」で
  直接税が高いのでもっと間接税を増やすという話だったと言
  います。直接税とは「納税しなければいけない人と負担する
  人が同じ」で、いわゆる法人税や所得税のこと。一方、間接
  税は「実際に納税する人と負担する人が異なるもの」で、た
  ばこ税などがそれにあたり、「消費税も間接税としてカウン
  トされているが、そこは議論の余地があるところ」と森井さ
  ん。そして、消費税導入の要因でもある「直間比率の是正」
  については、「これは法人税と所得税を下げ、消費税を引き
  上げるという財界の要望」と指摘。結果的に、日本の税収は
  今やその要望通りに法人税が減り、消費税の割合が増加して
  います。           https://bit.ly/3aHLxH9
  ───────────────────────────
消費税の引き下げは好ましくはない/矢野次官.jpg
消費税の引き下げは好ましくはない/矢野次官
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2022年06月08日

●「政治に問題があって成長できない」(第5746号)

 「コンクリートから人へ」──これは、2009年に就任した
民主党の鳩山由紀夫首相が、公共事業から家計支援に軸足を移す
ことを宣言した経済政策のスローガンです。
 このとき、政権を失った自民党は「財源がどこにある」といっ
て徹底的に反対の姿勢をとり、財務省は政権与党に慣れていない
民主党の大臣への洗脳作戦で「コンクリートから人へ」の政策を
潰し、最も首相にしたくない小沢一郎氏を検察を使い、証拠を改
ざんするなどの汚い手を使って、政治的に排除し、民主党をして
公約にない消費税の増税をさせたのです。それが現在の10%の
消費税です。
 しかし、「コンクリートから人へ」──これは正論です。この
言葉は、あの田中角栄元首相の次の語録からきています。
─────────────────────────────
       政治とは何か。それは生活である
                ──田中角栄
─────────────────────────────
 その意味するところは、国民が働く場所を用意し、衣食住を向
上させ、戦争を起こさず、穏やかに暮らせるようにするのが政治
の目的であるということです。小沢一郎氏はこの言葉の精神を自
身の政党名に込めて「国民の生活が第一」と命名しています。
 添付ファイルを見てください。これは、みずほリサーチ・テク
ノロジーズのレポートに出ていたものです。人への投資の割合を
官民で、GDP比で主要国と比較したものですが、日本の投資は
圧倒的に少ないことが分かります。「コンクリートから人へ」の
経済政策は間違っていないのです。この責任は政権与党、とりわ
け自民党にあります。しかし、それでも、多くの日本人は、何が
あっても、自民党に投票します。
 岸田政権においては「コンクリートも人も」になっており、重
点投資ではなく、バラ撒きに近く、日本の経済を成長させる政策
であるとは思えません。これでは、これまでと同じであり、経済
は成長せず、賃金も上がりません。政治は、国民を豊かにして、
はじめて成功したといえるのです。そのためによい方法があるは
ずです。それは、現在10%の消費税の税率を一時的に下げるこ
とです。まして、現在は円安の影響や、コロナ禍、ウクライナ危
機もあって、電気代や食料をはじめとして、生活に欠かせないあ
らゆるものの物価が大幅に上昇しつつあります。しかし、賃金は
依然としてまったく上昇していないので、国民の生活は一段と苦
しくなっています。
 こういう経済状況ですから、もし、野党のいうように、消費税
を10%から5%に下げれば、その分国民の生活はラクになりま
す。コロナ禍では、米国をはじめとして、あの財政規律の厳しい
ドイツでも、減税をしていますが、日本は絶対にやりません。日
本の政権与党の議員の頭には、法人税の減税は許容しても、消費
税の減税などする意思はまったくないのです。その動かぬ証拠が
ここにあります。
 先の衆院選の候補者全員に対して、毎日新聞が行った調査で、
消費税の一時的減税について聞いています。その全体と自民党の
投票結果は次のようになっています。
─────────────────────────────
 ◎消費税をどうするべきか
                   全体   自民党
  引き上げるべき          1%    2%
  当面は10%を維持すべきである 38%   89%
  引き下げるべきである      58%    5%
  その他              3%    4%
                  https://bit.ly/3NlU54N
─────────────────────────────
 ここで重要なのは、野党を含めた全体では「引き下げるべきで
ある」がトップの58%を占めていることです。これが国民の意
思です。驚くべきなのは「10%を維持すべき」が、自民党では
89%を占めていることです。この考え方こそが、日本がデフレ
から脱却できない理由です。
 「消費税を時限的に下げるべき」というと、首相をはじめとす
る閣僚は、必ず次のように答弁し、反対します。これは、財務省
の役人からのQ&Aです。
─────────────────────────────
 消費税は社会保障の一部財源になっており、一時的であって
 も、引き下げることは困難である。
─────────────────────────────
 この点について、現職の矢野康治財務事務次官は『文藝春秋』
で、次のように反論しています。
─────────────────────────────
 コロナ対策の窮余の一策として、一時的に消費税率を引き下げ
てはどうか、という政策の提案もあります。しかし消費税は、す
でに社会保障制度を持続させていくための、極めて重要な「切り
札」として位置づけられています。
 増え続ける高齢世代の社会保障費をいかに支えるか。この方策
については長年議論されてきました。その結果、少子高齢化の進
展を見据え、減りゆく勤労世代からの保険料や所得税などだけで
は高齢世代を支えていけないという結論に達したのです。
 ──矢野康治著『財務次官、モノ申す「このままでは国家が財
    政は破綻する」』/『文藝春秋』/2021年11月号
─────────────────────────────
 消費税を社会保障の財源にする──これは、財務省の策略に与
党議員が騙されてしまった結果です。そんなことをしている国は
ありません。もし、そんなことをすれば、今後社会保障は増える
一方ですから、消費税の税率は上がる一方になります。財務省は
いいでしょうが、国民は悲惨なことになります。それに、消費税
の財源は、消費増税にさいに同時に行われている法人税の減税の
原資になっているのです。  ──[新しい資本主義/102]

≪画像および関連情報≫
 ●「社会保障のための増税」はまやかし/控える給付減
  ・負担増
  ───────────────────────────
   安倍内閣は10月から消費税率を10%に引き上げる姿勢
  を崩していない。しかし、7月1日の日銀短観(企業短期経
  済観測調査)では企業の景況感が2期連続で悪化。2015
  年6月と16年12月のこれまで2回の10%への増税延期
  時よりも現在の経済状況は悪く、到底増税に耐えられる状況
  にない。
   参院選に関する各種世論調査では、社会保障と並んで消費
  税増税の是非に有権者の関心が高く、軒並み「反対」が「賛
  成」を上回る。「10%ストップ!」の声を投票行動に結び
  つけ、審判を下す必要がある。
   6月に閣議決定された「骨太の方針2019」は、10月
  の10%への消費税増税を明記。「社会保障に対する安定的
  な財源を確保する」などとしている。
   しかし「社会保障のための消費税増税」という議論は、法
  人税や所得税を減らす分を消費税分で置き換えるに過ぎず、
  まやかしの議論であることは、この間の経緯を見ても明らか
  だ。1989年度から2018年度までの消費税収は、累計
  372兆円。一方で、同時期の法人税の減収分は累計291
  兆円となる。消費税収の約8割が法人税収の穴埋めに使われ
  たことになる。消費税導入時との比較では、現在の税収構造
  は、減税等により所得税収、法人税収が低下。消費税収が、
  所得税収に匹敵するまでに増えているにもかかわらず、国の
  税収全体はほとんど増えていない。
                 https://bit.ly/3MkdTUK
  ───────────────────────────
日本の人への投資は官民ともに見劣りする.jpg
日本の人への投資は官民ともに見劣りする
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月07日

●「『骨太の方針』をめぐる党内論争」(第5745号)

 5月24日のEJで、現在、自民党には、元財務相の額賀福志
郎氏を本部長とする「財政健全化推進本部」と、安倍派の参院議
員の西田昌司氏を本部長とする「財政政策検討本部」という2つ
の組織があり、国の財政運営の基本を決める「骨太の方針」につ
いて、激しい路線対立が起きていることを伝えています。
 「財政健全化推進本部」のバックには麻生副総裁、「財政政策
検討本部」には安倍元首相が、それぞれ最高顧問として控えてお
り、今年度の経済財政運営方針をめぐって対立しているのです。
 5月19日のことです。財政健全化推進本部の事務局長を務め
る越智隆雄元内閣府副大臣の携帯電話に安倍元首相から怒りの電
話がかかってきます。越智氏は安倍派に属する衆議院議員です。
以下は、そのやりとりです。
─────────────────────────────
安倍:君はアベノミクスを批判するのか。
越智:批判はしていません。
安倍:周りはアベノミクス批判だといっているぞ。
越智:僕はアベノミクス信奉者です。だって、経済政策を担う副
 大臣を2回もやったじゃないですか。
安倍:そうだな。    ──2022年6月3日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 このとき安倍元首相の手元には、骨太の方針の提言案の情報が
入っていたのです。そこには、次のようなことが書かれていたと
いいます。安倍元首相は、それがアベノミクスの批判であると受
け取って、事務局長の越智氏に抗議の電話をしたのです。
─────────────────────────────
 近年、多くの経済政策が実施されてきたが、結果として、過去
30年間のわが国の経済成長は主要先進国の中で最低レベル。ま
た、「初任給は30年前とあまり変わらず、国際的には人件費で
見ても「安い日本」となりつつある。
            ──2022年6月3日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 財政政策検討本部は「アベノミクスの批判は許さない」として
財政健全化推進本部との間で、何度か文書のやりとりが行われま
したが、それでも決着がつかなかったといいます。そのため、5
月23日午後、議員会館の安倍氏の事務所に、安倍、麻生、西田
額賀のトップ4氏が顔を揃え、その場で安倍氏側の修正案が示さ
れ、それを受けて提言を修正をすることを条件として、額賀本部
長に一任されたのです。そして、やっと5月26日に、推進本部
は、提言を発表するに至っています。
 安倍政権が発足した2012年12月と、6月1日時点の主要
指標を比較すると、次のようになります。
─────────────────────────────
◎第2次安倍政権以降の主な経済指標
             2012年         現在
  日経平均株価  1万 0230円    2万7457円
  為替相場/対ドル  85円15銭    128円92銭
  実質賃金指数     105・9      100・6
  有効求人倍率     0・83倍      1・23倍
    国債残高  705兆72億円 991兆4111億円
            ──2022年6月3日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 これを見ると、日経平均株価は倍増し、有効求人倍率も大きく
伸びているものの、その一方で大幅な円安が進行し、賃金は減少
しています。その結果、国債残高は286兆円増加しています。
 アベノミクスは失敗だったのでしょうか。
 アベノミクスについては、EJのテーマとして取り上げたこと
があります。2014年11月19日から109回にわたって書
いています。興味があったら、参照してください。
─────────────────────────────
 「検証!アベノミクス」
 2014年11月19日/EJ第3919〜
           2014年5月01日/EJ第4027
                  https://bit.ly/3Q11N5Y
─────────────────────────────
 アベノミクス自体はけっして失敗ではなかったと思います。し
かし、その間に増税を2回やったのでは、うまくいくはずがあり
ません。この点について、産経新聞特別記者・田村秀男氏は、新
刊書で同様のことを次のように述べています。
─────────────────────────────
 アベノミクスにしても金融緩和、財政政策、成長戦略の3本の
矢を推進するとぶち上げました。初年度はとくに金融緩和と財政
出動を積極的にやり、成功したと言つてもいいでしょう。ところ
が翌年は、財政を引き締めてしまい、消費税の増税までやってし
まいました。これは大失敗です。財務省の仕業ですが、この財務
省のロジックを、政治家が跳ね返せなかったことが、最大の問題
です。跳ね返せない理由のひとつは世論でしょう。とくに学者で
す。財務省の考えに近い学者が主流になつていることです。これ
らの学者たちがメディアを使って──と言っても大体「日本経済
新聞」や「朝日新聞」なのですが──いつも均衡財政論をぶちま
す。財政均衡、つまり政府の予算で経常収入(租税や印紙収入な
ど)が経常支出(最終消費支出や移転支出など)と相等しくなく
てはいけないと主張するのです。そのため、消費税の増税はしな
ければならない、財政支出は削減しなきやいけない。そうすれば
財政は均衡するとばかり言っています。それで日本国民に「しゃ
あないな」という雰囲気にさせているわけです。財務官僚は百も
承知でもそれに乗っかっています。      ──田村秀男著
                 『「経済成長」とは何か/
    日本人の給料が25年上がらない理由』/ワニブックス
─────────────────────────────
              ──[新しい資本主義/101]

≪画像および関連情報≫
 ●安倍首相の評価は真っ二つ/「アベノミクス」の成功と失敗
  をどう見るか/近藤駿介氏
  ───────────────────────────
   その日は突然やってきた。2020年8月28日、7年8
  カ月続いた「安倍一強体制」は総理の持病悪化による辞任に
  よって予想外のタイミングで幕引きとなった。第二次安倍政
  権ほど賛否がはっきり分かれた政権も珍しい。政権支持率は
  発足当時は期待から高く、その後徐々に落としていくのが一
  般的なパターンである。第二次安倍政権の支持率も紆余曲折
  があったものの、全体的にはこの一般的なパターンの範囲内
  だった。第二次安倍政権と他の政権との違いが鮮明になった
  のは辞任後だった。
   世間が驚かされたのは、安倍総理辞任会見直後に実施され
  た世論調査で支持率が急上昇したことだった。日本経済新聞
  の8月世論調査での支持率は55%と前月比12%上昇し、
  共同通信の調査でも56・9%と前週比20・9%も上昇し
  た。辞任発表後の支持率急上昇に対しては、「辞任を歓迎し
  た」といった冷ややかなものから、「アベノミクスの成果に
  対する敬意」といった前向きのものまで様々な見方が出てい
  る。このように評価が大きく分かれる原因は、基準を「政治
  姿勢」に置くか、「経済政策」に置くかの違いによるものだ
  と思われる。総裁選に立候補した岸田政調会長が「国民の声
  を丁寧に聞く、人の声を“聞く力”。こうしたものも政治に
  求められるのではないかと思う」と「聞く力」を強調し、石
  破元幹事長が「国民を信じて、“共感と納得”の政治を目指
  す」として「納得と共感」をスローガンに掲げているのは、
  安倍政権の問題が「政治姿勢」にあったとみているからであ
  る。逆説的にいえば「経済政策」には批判する隙がないとい
  うことでもある。       https://bit.ly/3Mf5D8w
  ───────────────────────────
安倍首相退陣/アベノミクスの成否.jpg
安倍首相退陣/アベノミクスの成否
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする