2019年11月29日

●「民間銀行の信用創造こそ規制せよ」(EJ第5139号)

 現代の日本人は「GDPの2倍を超える政府債務」をことのほ
か、深刻に考えるようになっています。これは、何度もいうよう
に、財務省のプロパガンダの成果です。これが増税を容認する考
え方につながるのです。財務省は長年にわたって、政府の債務の
大きさを日本人のアタマに刷り込んできたからです。
 しかし、太平洋戦争のさいに発行された戦時国債の額はいくら
かご存知ですか。GDPの約8倍、いまの金額に直すと4000
兆円にもなるのです。したがって、1000兆円を少し超える程
度の政府債務は大したことはないし、ケタが違います。
 そういう日本人にヘリコプターマネーの話をすると、「とんで
もない」とか、「大インフレになる」とかいって、まともに考え
てもらえない。そこでひとりの人物を紹介します。アデア・ター
ナー元英金融サービス機構(FSA)長官です。彼は近著『債務
さもなくば悪魔、ヘリコプターマネーは世界を救うか?』(日経
BP社)のなかで次のように述べています。
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 マネタリーファイナンスの技術的な論理は明快である。政府が
減税を実施するか、国民に直接現金を配るか、財政支出を増やす
一方、中央銀行がこの財源を新規通貨の発行で賄えば、マイナス
金利や国債発行による財政出動など、他の政策が効かない時でも
常に需要は刺激される。物価と成長率に対する影響は、刺激の規
模に依存する。この政策が必然的に過度なインフレを引き起こす
との主張は、単純に誤っている。また、将来の「インフレ税」や
銀行収益に対する暗黙の税が見込まれるので効果がないとの主張
は混乱した論理に基づいている。このため、ヘリコプターマネー
について唯一の反論、とはいえきわめて重要な反論は、政治的な
ものになる。どれだけ規模が小さくとも、いったんタブーを破っ
てマネタリーファイナンスを実施してしまうと、政治家が際限な
くマネタリーファイナンスを求め、インフレが冗進するのではな
いか、というものだ。だが、このリスクは、物価目標を掲げる独
立した中央銀行に、マネタリーファイナンスの規模の上限の決定
権を付与することで抑制することができる。
            ──アデア・ターナー著/高橋裕子訳
        『債務、さもなくば悪魔ヘリコプターマネーは
                     世界を救うか?』
─────────────────────────────
 アデア・ターナー氏は、危機をもたらすのは、民間金融機関の
信用創造であり、これをきちんと規制すべきであると主張してい
るのです。彼は2008年9月のリーマンショックの最大の原因
は民間金融機関が金融工学を使ってとんでもない信用創造を行っ
たからであると指摘しています。この考え方に立って、規制すべ
きは民間金融機関であって、政府や中央銀行には、もっと自由度
を与えるべきではないかと主張しているのです。
 これだけでは、少しわかりにくいと思うので、2017年1月
の日経記者によるアデア・ターナー氏との一問一答を参考までに
ご紹介します。きわめて貴重なやり取りであると思います。
─────────────────────────────
──近著『債務、さもなくば悪魔』でも、ヘリマネを提唱してい
 ますね。
ターナー氏:世界経済はかつてない債務の積み上がりに直面し、
 債務削減圧力と低すぎるインフレ率のために、伝統的な政策手
 段は行き詰まっている。
――日本の場合は
ターナー氏:2020年にプライマリーバランス(基礎的財政収
 支)を黒字にするのは、事実上不可能だ。黒字にしようと無理
 をして再びデフレ不況に陥れば、公的債務のGDP比は低下す
 るどころか上昇する。
――どうすればよいとお考えですか
ターナー氏:日銀が保有する国債の一部を、無利子の永久債に置
 き換えたらいい。ヘリマネと呼ばれる策だが、政府の利払いと
 元本償還が減り、そのぶん財政は自由度を回復する。
――財政規律が失われる心配がありませんか
ターナー氏:野放図なヘリマネが悪性のインフレを招いた歴史が
 あるのは確かだ。中央銀行による歯止めが必要なのはもちろん
 だ。どのくらいの金額の保有国債を無利子永久債に置き換える
 かは、日銀の金融政策決定会合が独立性を持って決める必要が
 ある。
――何か基準がないと心もとないのでは
ターナー氏:その際に歯止めとなるのはインフレ目標だ。経済が
 デフレを脱却し、2%の物価目標が実現されたなら、ヘリマネ
 政策は打ち止めにすべきだ。
――将来、金利が上昇した際に日銀の財務内容が悪化しないか
ターナー氏:無利子永久債は日銀の資産。それに対応する負債は
 民間銀行から預かっている準備預金だ。無利子永久債に相当す
 る金額の準備預金を無利子とすれば、日銀の財務内容は悪化せ
 ずにすむ。
――ヘリマネ政策を導入するタイミングは
ターナー氏:低インフレと低成長が長引けば、公的債務のGDP
 比は上昇するばかりだ。2%の物価目標を達成し、公的債務比
 率の分母となるGDPを拡大させるためにも、ヘリマネの採用
 時期は早ければ早い方がよい。https://s.nikkei.com/34v2gpf
─────────────────────────────
 お金を作り出すというと、中央銀行だけができることと考えま
すが、民間銀行も「信用創造」というメカニズムで、お金を創り
出しています。アデア・ターナー氏は、その民間の信用創造に、
もっと規制を厳しくすべしといっています。しかし、民間の銀行
もお金を創り出しているといってもピンとこないと思います。そ
れには「信用創造」というものをきちんと理解する必要がありま
す。これについては、来週のEJにおいて、詳しく説明します。
            ──[消費税増税を考える/037]

≪画像および関連情報≫
 ●マネタリーファイナンスはなぜ日本に必要か/ターナー氏
  ───────────────────────────
  [東京:10日]根強いデフレ圧力と公的債務問題に対して
  日本が取り得る最も有効な打開策は、中央銀行が財政赤字を
  穴埋めする「マネタリーファイナンス」を国民に向けて明示
  的に実行することだと、元英金融サービス機構(FSA)長
  官のアデア・ターナー氏は述べる。
   具体的には、政府が2019年10月の消費増税を延期し
  た上で2020年代半ばまで大幅な財政赤字を出し続ける一
  方、日銀は政府による国債発行とほぼ同じペースで国債購入
  を続け、かつその一部を無利子の永久債としてバランスシー
  トの資産に計上し、実質的に「消却」すべきだと説く。同氏
  の見解は以下の通り。
   日本政府と日銀に対する提案は3つある。第1に、政府は
  2019年10月に予定している(8%から10%への)消
  費税率引き上げを再延期し、高水準の財政赤字を計上し続け
  るべきだ。民間貯蓄超過を穴埋めするためには、相当規模の
  公的赤字が2020年代半ばまで必要なことを甘受すべきで
  ある。第2に、日銀は、政府による国債発行とほぼ同じペー
  スで国債を購入し続けるべきだ。そうすることで、日銀以外
  の主体が保有する国債が増えないようにする必要がある。
  第3に、日銀は、保有国債の一部を無利子永久国債としてバ
  ランスシートの資産に計上し、実質的に「消却」すべきだ。
                  https://bit.ly/2ONCS7e
  ───────────────────────────

アデア・ターナー氏.jpg
アデア・ターナー氏
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2019年11月28日

●「『金融緩和+減税』が正解である」(EJ第5138号)

 日本の2016年度の名目GDPに占める個人消費の割合は、
55・7%です。米国は68・1%、英国は64・9%、ドイツ
は53・9%です。したがって、経済を活性化させようとすれば
個人消費を増加させる政策を取ればきわめて効果的です。減税は
その有力な手段のひとつになります。
 しかし、日本では、減税に、政治家が必ずいう言葉は「財源が
ない」。それに加えて、次の言葉を付け加えるのです。
─────────────────────────────
 「お金をばらまいても、消費者はその資金を貯蓄に回すので、
消費は増えない」と主張する経済学者もいる。確かに、手元にお
金が配られても、それが将来、増税となって跳ね返ってくるので
あれば、消費者は貯蓄をするだろう。しかし、ヘリコプターマネ
ーは、返す必要のない借金を財源としているのだから、将来の増
税はない。それでも、全額貯金をする消費者は残るだろうが、大
部分の国民はお金を使うだろう。ただでさえ、生活に余裕がない
からだ。         ──森永卓郎著/角川新書K126
  『消費税は下げられる!/借金1000兆円の大嘘を暴く』
─────────────────────────────
 アベノミクスでは、日銀は年間平均約80兆円の国債を購入し
ています。重要なことは、この分は返さなくてもよいので、それ
が減税の財源になります。ところが、本来であれば、「金融緩和
+減税」すべきところを「金融緩和+消費増税」をしてしまった
のですから、アベノミクスが真の成果を出せないでいるのです。
 極端な話ですが、仮にこれらの資金をすべて減税で国民に戻し
たとしたら、国民一人当たり63万円、4人家族の場合は252
万円、これだけのお金が政府からばらまかれたとしたら、かなり
の人がそれを貯蓄に回したとしても、消費は爆発し、物価は上が
り始めるはずです。
 ひとつ大きな疑問があります。安部首相は自民党の政治家です
が、少なくとも増税派ではないはずです。財務省とは一定の距離
を置いており、財務省の指示通りに動く政治家ではありません。
増税を2回にわたって延期したのも、安倍首相ならではです。他
の首相なら、たとえ当時の民主党の首相であっても、増税は計画
通りに実施したはずです。
 それに安部首相には、浜田宏一元イエール大学教授という学者
が、内閣官房参与として付いています。浜田教授はアベノミクス
の設計者です。それなのに、なぜ、明らかに間違いである「金融
緩和+消費増税」をやってしまったのでしょうか。
 それは、消費増税が、「社会保障と税の一体改革」として、法
律化されていたことが原因です。増税の規模と実施時期をあらか
じめ示し、法律化まですることは最大の悪手です。クリストファ
・シムズ教授も「人々は「将来に増税が待っている」と思えば消
費を拡大しない」といっているではありませんか。
 増税の時期の明示とその法律化は、財務省の仕組んだワナに政
権がはまったことを意味します。彼らとしては、どの政権になっ
ても、確実に増税が履行されるように法律化を企んだのです。当
時の民主党の野田政権と自民党の谷垣総裁という財務大臣経験者
がまんまとそのワナに嵌ったといえます。安部首相としても、浜
田教授としても、法律化までされている増税を無視はできなかっ
たものと思われます。本来であれば、2%の物価目標を掲げて、
「その達成までは増税しない」と宣言し、「金融緩和+減税」を
実施すべきだったのです。
 さて、シムズ理論には、わからないことが残っています。シム
ズ教授と「週刊ダイヤモンド」の記者のインタビューをもう少し
紹介することにします。
─────────────────────────────
──FTPL自体は1990年代からあったにもかかわらず、昨
 夏の米ジャクソンホール会議で急速に注目を集めました。
シムズ教授:日本においては、安倍晋三首相の存在が密接に関係
 しているでしょう。政治的な状況、ということです。ただ、私
 の論文に対する強い反響がその他の多くの場所であったことに
 は驚きました。
──ご自身の考えが政治的に利用されることをどう感じますか。
シムズ教授:政策が実行される際に、私の考えが政治家の目的に
 沿って使われるのであって、それぞれの政治家にとって役立つ
 かどうかは気にすることではありません。危険は常に、財政に
 よる刺激策が政治的なアピールに使われることにあります。私
 が主張しているのは、将来的な物価動向の行方がどうなるかを
 考えながら政策プランを策定することです。当局者は私が単純
 に支出を今すぐ増やせ、と言っているのだと誤解すべきではあ
 りません。
──ドナルド・トランプ米大統領は、減税やインフラ投資など財
 政拡大を掲げています。
シムズ教授:彼の政策では、何が実際に起きるのか不透明です。
 (FTPLにのっとったものではなく)ただ、財政赤字を膨ら
 ませる政策のように見えます。しかし、共和党内には、健全財
 政派の勢力もあり、トランプ氏の政策が全て実行されることに
 はならないでしょう。
──シムズ教授は、財政拡大はインフレターゲットを達成するま
 でのものであり、放漫財政を容認しているわけではないと言っ
 ているのですね。
シムズ教授:“適度”な財政悪化がインフレを起こすのに必要と
 言っているだけで、健全財政を放棄してもいいわけではありま
 せん。プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化も重
 要だとは思いますが、デフレ脱却にはインフレターゲットを実
 現するまでは、財政拡大が有効だと言いたいのです。税収が増
 加すれば、プライマリーバランスも改善します。
                  https://bit.ly/2KQ9dcx ─────────────────────────────
            ──[消費税増税を考える/036]

≪画像および関連情報≫
 ●ヘリマネは「政府の債務整理」で将来への不安を減らす
  ───────────────────────────
   アベノミクスが行き詰まる中でMMTが注目されている。
  これはマクロ経済理論としては新しい話ではないが、ヘリコ
  プターマネーを公然と主張している点が論議を呼んでいる。
  これはそれほど突飛な話ではなく、不換紙幣は返済しなくて
  もいいという政府の特権を利用するものだ。
   もちろんヘリコプターからお金をばらまくというのは思考
  実験で、現実にはいろいろな実装手段が考えられる。これは
  金融政策ではなく政府支出をともなう財政政策なので、ダリ
  オの話を整理して、こういう非伝統的な財政政策を4つに分
  類してみた。
      クーポン配付        政府紙幣
        永久国債     国債の日銀引受
   このうちわかりやすいのは、今年10月の消費増税のとき
  予定されている「ポイント還元」のようなクーポンの配布だ
  ろう。これはヘリコプターから無差別にお金をばらまく政策
  に近い。今回の増税対策では約2兆円の財源が用意されてい
  るが、こういう一度限りのバラマキでは何も起こらない。い
  ちばん過激なのは、2003年にスティグリッツの提言した
  政府紙幣である。これは日銀券とは別の通貨を政府が発行す
  るものだが、国債との違いは通貨は返済の必要がないという
  ことだ。                ──池田信夫氏
                  https://bit.ly/2KOJBMY
  ───────────────────────────

浜田宏一元イエール大学教授.jpg
浜田宏一元イエール大学教授
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2019年11月27日

●「デフレ脱却のシムズ理論とは何か」(EJ第5137号)

 経済の状況には、インフレ的な状況とデフレ的な状況がありま
す。ともに「的な状況」でなくなり、本当に「インフレ」や「デ
フレ」になると、大変なことになります。それら2つの関係をま
とめると、次のようになります。
─────────────────────────────
    「インフレ的」な状況 → 経済は活性化する
          インフレの対処策には経験がある
     「デフレ的」な状況 → 経済は失速・低迷
          デフレの対処策には経験が乏しい
─────────────────────────────
 経済を活性化させようとするには、何らかの方法でインフレ的
な状況をつくり出す必要があります。ましてデフレに陥った場合
は、政府と中央銀行が協力してコトに当る必要があります。つま
り、政府の財政政策と中央銀行の金融政策を合体して、実施する
必要があるわけです。
 2016年8月のことです。ワイオミング州ジャクソンホール
で毎夏開かれる経済シンポジムは、「世界の中央銀行のお祭り」
といわれますが、その会議で、プリンストン大学教授のクリスト
ファー・シズム氏による基調報告があったのです。シムズ教授は
計量経済学の権威で、2011年に「マクロ経済における因果関
係の統計的な研究」の功績によって、ノーベル経済学賞を受賞し
ています。
 このときのシムズ氏の基調報告について、アベノミクスの設計
者といわれる浜田宏一元イエール大学教授は、インタビューを受
けて次のように答えています。
─────────────────────────────
 私はシムズ氏の論文を読み、衝撃を受けました。「金融政策は
なぜ効かないのか」という問いに、明快な答えを与えていたから
です。シムズ氏は「金融政策が効かない原因は『財政』にある」
というのです。
 中央銀行が量的緩和で貨幣量をふやしても、同時に政府が財政
赤字を減らそうとして増税を行えば、インフレにはならず、デフ
レになってしまう。シムズ氏の分析は(貨幣の価値を究極的に保
証しているのは国家の徴税権力である)とする物価水準の財政理
論(FTPL)の応用でした。そして、現在の日本の状況も例に
挙げて、なぜ金融政策だけではうまくいかないかをずばりと言い
当てていました。
 シムズ氏は、金融緩和が有効であることを認めたうえで「より
強い効果を出すためには、減税など財政拡大と組み合わせよ」と
提唱しています。従来の経済学では、財政規律が緩むと、過度な
インフレを招くうえに財政赤字はかさみ、経済にダメージを与え
ることが強調されていました。しかし、シムズ氏は意図的に「赤
字があっても財政を拡大するべき(時もある)」と主張します。
これは斬新なアイデアでした。        ──森永卓郎著
  『消費税は下げられる!/借金1000兆円の大嘘を暴く』
                     角川新書K126
─────────────────────────────
 「FTPL」とは、何でしょうか。
 FTPLとは、物価動向を決める要因として、財政政策を重要
視する考え方です。政府が将来増税しないと約束し、財政支出を
増やしていけば、人々が財政赤字拡大から、将来、インフレが起
こると予測し、消費や投資を拡大します。それが物価上昇の圧力
となり、インフレが発生して、デフレや低インフレ状態から脱し
得ると説く。FTPLは、次の言葉の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
       FTPL=物価水準の財政理論
       Fiscsl Theory of Price Level
─────────────────────────────
 このシムズ教授に「週刊ダイヤモンド」の記者が、19年の増
税前にインタビューをしています。
─────────────────────────────
──日本で19年に消費増税の実施を予定していますが、消費増
税については延期、凍結、実施のどれが望ましいのでしょうか。
シムズ教授:日本で19年10月の消費増税の実施はすでに決定
 ずみとなっています。ただ、当局が過ちを犯したと思う点は、
 彼らが、19年10月という具体的な時期を明文化したことで
 す。なぜなら、財政拡大策と消費増税による財政緊縮策を同時
 に行うことは矛盾しているからです。人々は、「将来に増税が
 待っている」と思えば、政府が財政支出を拡大しても、消費を
 拡大しないでしょう。もし、目標のインフレ水準が達成される
 まで「消費増税をしない」と言えば、人々に前向きな影響をも
 たらせたでしょう。その方針を続ける限り、人々はインフレを
 受け入れやすくなります。そうすれば彼らはお金を使うように
 なり、マネーの流れも活性化するに違いありません。
──「FTPL」を政策として実行した場合、成功すると思われ
 ますか。
シムズ教授:それが成功するかどうかは、政策当局者が将来の民
 間の意識を変えられるかどうかに懸かっています。ただ、非常
 に難しいことであることは確かです。
──仮にインフレが発生した場合、物価上昇率が、3%、4%な
どと、行き過ぎてしまう危険はないのでしょうか。
シムズ教授:インフレ対策については、中央銀行も財政当局も経
 験があり、何をすべきか、知っているはずです。例えば、政策
 金利の引き上げや財政改革(歳出抑制など)です。超低金利低
 インフレからいつまでも脱することができないというのも決し
 ていいことではありません。予期しない物価上昇などで急な調
 整を迫られたときに、打つ手がなくなるからです。
                  https://bit.ly/2XIzCOu ─────────────────────────────
            ──[消費税増税を考える/035]

≪画像および関連情報≫
 ●コラム:シムズ理論、10の疑問=河野龍太郎氏
  ───────────────────────────
  [東京/2017年2月21日]──日本の財政について、
  筆者が懸念しているのは、ノーベル経済学賞を受賞した米プ
  リンストン大学のクリストファー・シムズ教授らが主張する
  「物価水準の財政理論(FTPL)」を根拠として、安倍晋
  三首相が財政健全化の方針を転換し、2%インフレが達成さ
  れるまで、消費増税と基礎的財政収支(プライマリーバラン
  ス、PB)黒字達成目標を凍結することである。
   以下、筆者がよく尋ねられる疑問に答える形で、「シムズ
  理論」を現実に応用する問題点を指摘したい。
  Q1)シムズ理論とは何か。
  理論のエッセンスは、1)ゼロ金利制約で金融政策が有効性
  を失う場合、追加財政が代役となり得る、2)その場合の追
  加財政は、将来の増税や歳出削減で賄うことを前提にした通
  常の財政赤字ではなく、インフレでファイナンスされた財政
  赤字、というものだ。これまで追加財政を繰り返しても、必
  ずしもインフレ醸成につながらなかったのは、追加財政を行
  う際、政府が、同時に財政健全化を約束していたからだとい
  う。追加財政を行っても、将来の増税や歳出削減を政府がア
  ナウンスすると、人々もそれを前提に行動するから支出は必
  ずしも増えず(リカーディアン効果)、それゆえ、需給ギャ
  ップの改善も十分ではなく、インフレ醸成にも十分つながら
  なかった。そこで、リカーディアン効果を回避すべく、増税
  や歳出削減を一切予定せず、インフレによる返済を前提とし
  た追加財政を行うべき、というのがシムズ教授らの主張だ。
                  https://bit.ly/35xkqGR
  ───────────────────────────


クリストファ・シムズ教授.jpg
クリストファ・シムズ教授
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2019年11月26日

●「通貨発行益について改めて考える」(EJ第5136号)

 少しややこしい話をします。
 「通貨発行益」には、2つの考え方があります。日本政府が国
債を発行して、民間銀行がそれを購入し、日銀が金融緩和の一環
として、それを買い取ります。この場合、政府は国債の利払いを
日銀に対して行いますが、その金額は後になって、日銀剰余金と
して政府に戻されます。政府はこれを「歳入」として受け入れ、
毎年の予算のなかで活用しています。この剰余金のことを通貨発
行益と呼ぶ経済学者がいます。
 しかし、これは間違いです。本当の通貨発行益というのは、日
銀が買い取った国債金額そのものから、その印刷代を差し引いた
ものをいうからです。したがって、その金額は利払い費を含む剰
余金とはケタ外れの金額になります。
 これに対して、経済アナリストの森永卓郎氏は、次の疑問を呈
しています。
─────────────────────────────
 (通貨発行益によって)日銀が国債を保有している限り、政府
は元本返済の必要はない。だから、本来であれば、国債の日銀買
い取りに基づく通貨発行益は、税収とともに政府の歳入として、
きちんと位置づけるべき性格のものなのだ。それをせずに、いわ
ば秘密の財源としてずっと隠してきたというのが、これまでの日
本財政の歴史なのだ。   ──森永卓郎著/角川新書K126
  『消費税は下げられる!/借金1000兆円の大嘘を暴く』
─────────────────────────────
 そういわれてみれば、森永氏の主張の通りです。問題は、政府
が、なぜ歳入として受け入れないかです。それは、何となくうし
ろめたさを感ずるからではないでしょうか。
 実際に政府は、通貨発行益を財源として活用しています。こう
いうことは、平時では何も問題を起こしていないのです。ただひ
とつ、貨幣の供給を増やし過ぎて、インフレーションになってし
まうときに限られます。
 井上智洋氏という日本の経済学者がいます。駒澤大学経済学部
の准教授です。井上氏に次の著作があります。
─────────────────────────────
                   井上智洋著
    『ヘリコプターマネー』/日本経済新聞社刊
─────────────────────────────
 井上智洋氏の本に出ているのが、「間接的財政ファイナンス」
というタイトルの図です。この図を添付ファイルにしてあります
ので、見てください。
 政府が国債を発行します。民間銀行がそれを購入します。その
国債を日銀が金融緩和の一環で買い取り、その代金を民間銀行の
日銀当座預金に振り込みます。本来であれば、銀行はその資金を
企業に融資して市中に通貨を拡大させるのですが、デフレ下では
企業に資金需要がなく、それができないのです。
 そのため、資金が日銀当座預金に法定準備を超えて積み上がる
だけです。しかも、法定準備を超える預金にはマイナスの金利が
かかるのです。アベノミクスでは、この段階で止まっており、市
中にお金が出回っていないのです。
 井上智洋氏は、ヘリコプターマネーには政府紙幣を発行する直
接方式と、国債を中央銀行が買い取り、その資金を財政資金に充
てる財政ファイナンスの2つの方式があり、このヘリコプターマ
ネーは、金融政策と財政政策の組み合わせであり、必要に応じて
駆使すべきものといっています。
 それに基づいて、森永卓郎氏は、いまやらなければならないこ
とについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 (政府が)やらなければならないのは、中央銀行による国債買
い取りで得た通貨発行益を減税などの形で、政府が国民に戻すこ
とだ。銀行に資金を渡しても融資に回らないなら、国民に直接資
金を渡せば、国民の持つお金が増えるから、消費が増えて景気が
回復するのだ。         ──森永卓郎著の前掲書より
─────────────────────────────
 ここで考えてみることがあります。アベノミクスは、浜田宏一
元イエール大学教授が設計者といわれますが、アベノミクスの、
いわゆる「3本の矢」の構想は、次のようになっています。
─────────────────────────────
           1.金融緩和
           2.財政出動
           3.成長戦略
─────────────────────────────
 このうち、「金融緩和」と「財政出動」を重ねてやっている初
期の段階では、アベノミクスによる経済状況の回復は著しいもの
あったのです。しかし、そこで安部政権は、既に法律化されてい
た5%から8%の消費増税をやったのです。経済の状況が少し改
善したと判断したからです。
 しかし、これは大失敗でした。経済がデフレの状態を脱出する
ことができなかったからです。このとき、安倍政権がやるべきこ
とは、増税ではなく、通貨発行益を利用した減税であったからで
す。財源は通貨発行益になります。おそらく安部首相の頭には、
企業への減税は別として、一般消費者に対する減税の発想はかけ
らもなかったと思います。それに、安部首相自身が通貨発行益が
わかっているとは、とても思えないからです。
 日本人の頭のなかには、日本はひどい財政赤字を抱えていて、
減税なんかとんでもないとの思いがあります。財務省の長年にわ
たるプロパガンダが見事に効いているからです。この財政赤字へ
のこだわりが経済の状況をおかしくしています。
 このアベノミクスの失敗を設計者である浜田宏一氏も認めてい
ます。プリンストン大学教授、クリストファー・シムズ氏の論文
を読んだからです。この論文については、明日のEJで考えるこ
とにします。      ──[消費税増税を考える/034]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ、財政赤字は減らないのか?/塚崎公義氏
  ───────────────────────────
   日本の財政が大幅な赤字である事は、誰でも知っているで
  しょうが、どれくらいの赤字なのでしょうか?昔から赤字を
  減らす努力をしているのにどうして減らないのでしょうか。
   毎年の財政が赤字だということは、その分の借金が積み重
  なり、借金の金額も莫大なものとなっていますが、一体どれ
  くらいでしょうか。そんなに借金していて、日本政府は倒産
  しないのでしょうか。今回は、日本の財政赤字について学び
  ましょう。国(中央政府)と地方公共団体に財政があり、国
  には一般会計と特別会計がありますが、単に「財政赤字」と
  呼ぶ場合には、国の一般会計の赤字を指すのが普通ですので
  本稿もそうします。
   ちなみに、「国が赤字」というのは「日本国の中央政府の
  一般会計が赤字だ」ということで、「日本国が赤字だ」とい
  うことではありませんので、注意して下さい。日本国と外国
  との取引は、経常収支統計に示されているように、大幅な黒
  字です。2017年予算の歳出は97兆円です。予算は歳出
  と歳入が同額ですから、歳入も97兆円です。もっとも、歳
  入の中には税収等63兆円のほかに「公債金」34兆円が含
  まれています。これは、税収等だけでは歳出のための費用が
  賄えないため、国債を発行して資金を調達する必要があるか
  らです。一般には、歳入予算の公債金を財政赤字と呼ぶ場合
  が多いようです。        https://bit.ly/35tFHkz
  ───────────────────────────
 ●図の出典/井上智洋著/『ヘリコプターマネー』/日本経済

間接的財政のファイナンス.jpg
間接的財政のファイナンス
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2019年11月25日

●「明治維新のとき発行した政府紙幣」(EJ第5135号)

「ヘリコプターマネー政策」(以下、ヘリマネ政策)は、その
命名が、ヘリコプターからお金をばらまくというところからきて
いるので、「怪しいもの」、「やってはいけないもの」、「究極
の経済政策」という印象が強いと思います。その一般的な定義は
次の通りです。
─────────────────────────────
◎ヘリコプターマネー政策とは何か
 ヘリマネ政策とは、中央銀行が生み出した返済する必要のない
お金を、政府が国民に配る政策である。国が元利払いの必要がな
い債券(無利子永久債)などを中央銀行に渡し、引き換えに受け
取ったお金を商品券などの形で国民にばらまく。
─────────────────────────────
 ヘリマネ政策には、反対意見が多く、とくに日本では評判がよ
くない。お金というものは、ひたいに汗して働いた対価として得
られるもので、印刷して作るなんてとんでもないという考え方で
す。これは、国の政策を一般家庭のそれと同等に見ていることか
らくる誤解です。これについて、経済アナリストの森永卓郎氏は
次のように説明しています。
─────────────────────────────
 ヘリコプターマネーというのは、政府や中央銀行が、まるでヘ
リコプターからおかねをばらまくように、市中に貨幣を供給する
ことから名づけられた。このヘリコプターマネーは、日本ではと
ても評判が悪い。まるで打ち出の小槌のような魔法がありうるは
ずがないという先入観があるからだ。だから、主要政党のなかで
ヘリコプターマネーを支持する政党はないし、官僚も、財界人も
そして安倍総理までが、ヘリコプターマネーの実施を否定してい
る。しかし、私は、このヘリコプターマネーに対する無理解こそ
が、バブル崩壊以降、四半世紀にわたって日本経済を低迷させた
最大の原因だと考えている。
 ヘリコプターマネーは、けっしてあやしいものでほない。ヘリ
コプターマネーのアイデアは、ノーベル経済学賞受賞者であるミ
ルトン・フリードマンが1969年に提唱し、同じくノーベル経
済学賞受賞者であるポール・クルーグマンが、同様の政策を日本
経済に対して提案し、ベン・バーナンキ元FRB(連邦準備制度
理事会)議長が導入を推奨するなど、多くの偉大な経済学者が支
持をしている。      ──森永卓郎著/角川新書K126
  『消費税は下げられる!/借金1000兆円の大嘘を暴く』
─────────────────────────────
 なぜ、世界の名だたる経済学者が、日本にヘリマネ政策を勧め
るのかというと、日本の経済ががデフレ下にあり、そこから長い
間にわたって脱出できていないからです。それに、日本の場合、
既に検討したように、ヘリマネ政策を実施するさいに生ずる恐れ
のある副作用が起きる心配がほとんどないからです。しかし、安
倍政権は思い切りが悪く、実施できていません。
 それどころか、それらの著名な経済学者がやるべきではないと
アドバイスした消費増税を2回にわたって実施し、税率を5%か
ら10%に倍増させるという愚かな政策をとっています。経済と
いうものが、まるでわかっていない人たちです。
 歴史を遡ると、事実上のヘリマネ政策を日本は、明治維新のと
き、実施しています。ただ、明治維新のとき使ったのは「政府紙
幣」です。当時日本には中央銀行がなかったからです。ところで
「政府紙幣」とは何でしょうか。
─────────────────────────────
◎「政府紙幣」とは何か
 政府紙幣とは、「通貨発行権」を持つ政府が直接発行する紙幣
または、持たない場合において中央銀行が発行する銀行券と同じ
法定通貨としての価値や通用力が与えられた紙幣のことである。
        ──ウィキペディア https://bit.ly/2QIPcby ─────────────────────────────
 江戸時代には、地方の諸侯が領内での流通に限定した藩札を発
行していました。これも一種の地方政権の発行する政府紙幣の一
種であって、発行目的のひとつに領内の殖産興業があり、藩によ
っては濫発したため、額面よりも実際の価値が幕府発行の貨幣に
対して著しく低い場合も少なくなかったといいます。
 明治維新──日本の経済社会を根こそぎ作り替える大改革です
から、膨大な資金が必要だったのです。その資金を明治政府は、
政府紙幣の発行でまかなったのです。政府が発行する紙幣ですか
ら、その発行額から印刷経費を差し引いた全額が、通貨発行益と
して、直接政府の手元に残るのです。
 具体的にいうと、1868年(慶応4年)に明治政府は、政府
紙幣「太政官札」を発行します。その発行残高は次の通りです。
当時の物価はわからないが、現在まで物価がおよそ1万倍になっ
ていると仮定すると、現在の物価で4800億円になります。巨
額な資金です。
─────────────────────────────
     太政官札4800万両 → 4800億円
─────────────────────────────
 太政官札は、期限付きの政府紙幣であったので、1872年に
明治政府は、新しい政府紙幣「明治通宝」を発行し、太政官札の
大部分は、明治通宝に引き継がれたのです。しかし、その5年後
の1877年に西南戦争が勃発します。明治政府は戦費調達のた
め、明治通宝の大量発行に踏み切るのです。
 しかし、その結果、激しいインフレに見舞われます。そこで明
治政府は、1882年に日本銀行を設立し、1885年から日本
銀行券(兌換銀行券)が発行されたのです。これによって、明治
通宝は1899年に正式に運用停止になっています。
 太平洋戦争のときも日本政府は戦費調達のため、戦時国債が大
量に発行され、それを日銀に引き受けさせたので、インフレが昂
進し、戦後になってもなかなか収まらなかったのです。
            ──[消費税増税を考える/033]

≪画像および関連情報≫
 ●明治維新150年に振り返る「日本のお札」
  ───────────────────────────
   ところで、日本にお札(紙幣)が誕生したのはいつ頃かご
  存じですか。日本銀行金融研究所貨幣博物館によれば「16
  00年頃、伊勢の山田地方で、神職でもあった商人(御師)
  により秤量銀貨の釣り銭の代わりに山田羽書(小額銀貨の預
  り証)が発行され、紙幣として同地域で流通した」のが始ま
  りだとか。最初は私札だったのです。その後、各藩で藩札が
  大量に発行されました。
   全国で通用する紙幣が発行されたのは、明治政府誕生以降
  です。1868年(明治元年)に初めての政府紙幣「太政官
  札(だじょうかんさつ)」が発行されました。ただし、独立
  行政法人国立印刷局によれば「単純な製法のため偽造券が多
  発した」そうです。
   そのため、ドイツや米国などに製造を依頼し、「明治通宝
  札(十円券)」、「神功皇后札(十円券)」、「国立銀行紙
  幣(十円券・旧券)」などを発行しました。国産第1号の洋
  式紙幣は1877年に発行された「国立銀行紙幣(5円券・
  新券)」です。
   日本で初めて全国通用の政府紙幣「太政官札」が発行され
  て、間もなく150年になります。お札の発行に関して大き
  な転機となったのが、1882年に日本銀行が誕生したこと
  です。当時の紙幣は金や銀と交換できる兌換(だかん)券で
  した。しかし、1877年に西南戦争が勃発したことから、
  大量の政府紙幣や国立銀行紙幣が発行され、激しいインフレ
  ーションが発生し、実際には金銀と交換できない不換紙幣に
  なっていました。        https://bit.ly/2Da13r7
  ───────────────────────────

明治通宝.jpg
明治通宝
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2019年11月22日

●「ジョン・ローの壮大な失敗の物語」(EJ第5134号)

 「通貨発行益(シニョリッジ)」というわかりにくい概念があ
ります。「シニョール」(seignior)というのは、古いフランス語
で中世の封建領主のことで、シニョリッジとは領主の持つ様々な
特権を意味していたのです。
 あなたがある国の王様だったとします。当然通貨発行権を持っ
ています。王室の生活を支えるためには費用がかかります。その
費用をあなたは、王立銀行券を作ってそれらの支払いに充てたと
します。支払われた王立銀行券は、その後、民の間に流通してい
きますが、あなたが作成した銀行券で購入したモノやサービスは
一切返済の必要がありません。これが「通貨発行益」です。
 このシニョリッジを理解するために、知っておくとよい話があ
ります。ジョン・ローの話です。しばらくお付き合いください。
「簿記の歴史物語」のサイトから、EJ風にアレンジしてご紹介
することにします。         https://bit.ly/2O5iEqm
 18世紀のフランスの時代の出来事です。ルイ14世統治下の
フランスです。ジョン・ローはもともとプロのギャンブラーでし
たが、最新の経済・金融知識を身に付けていたのです。
 当時、ルイ14世の放漫経営で、フランスは深刻な財政破綻状
態に陥っていたのです。1715年9月、ルイ14世が崩御する
と、オルレアン公フィリップが摂政となり、支配者になります。
ジョン・ローは、このオルレアン公に取り入ったのです。
 当時のフランスは、金銀の貴金属を貨幣として使っており、紙
幣は使っていませんでした。そうした貨幣は、一部の金持ちに集
まり、金持ちだけが儲かる社会だったといえます。
 ジョン・ローは、貴金属ではなく、紙幣を発行すれば流通する
はずだとして、民間銀行「バンク・ジェネラル」を設立します。
そして紙幣を発行するのですが、それを使う人がいなければ流通
しません。そこで、ジョン・ローは、オルレアン公の権力を背景
に、外国為替銀行を説き伏せてネットワークを作り、海外貿易の
決済にバンク・ジェネラルの銀行券を使えるようにしたのです。
 さらにオルレアン公は、税金はすべて銀行券で支払われなくて
はならないと命じました。効果はてきめんでした。銀行券は広く
流通し、貿易を刺激するようになったのです。これによって、王
室もなんとか賄えるようになっていったのです。
 1718年にバンク・ジェネラルは国有化され、王室銀行(バ
ンク・ロワイヤル)と名を改めました。代表者であるローは、よ
り強い権限を持つに至ります。
 次にジョン・ローのやったことは、銀行券の発行を貴金属の準
備と切り離したことです。つまり、ジョン・ローは、1971年
にリチャード・ニクソン米大統領がやったことを先取りしたので
す。すなわち、貴金属との交換できる保証のない「不換紙幣」を
誕生させたことです。
 たとえ貴金属と交換できなくても、「国王とその臣下が適切な
判断のもとに紙幣を発行しているはずだ」と人々に信じさせるこ
とができれば、貨幣制度は崩壊しないというのが、ジョン・ロー
の考え方です。ここまではある程度成功を収めており、ジョン・
ローの評価は高まっていました。そこで、ジョン・ローは、フラ
ンス政府の抱えている公的債務を解消し、フランスに巣食ってい
る金持ちどもを一掃する壮大な計画に着手します。
 ジョン・ローはオルレアン公の許可を得て、1717年に「西
方会社」を設立します。さらに、当時フランスの植民地だった米
国ルイジアナの開発権を入手するのです。当時ルイジアナは、ミ
シシッピ川の流れる未開の原野でしたが、ジョン・ローは、そこ
を地上に現れたエデンの楽園であるかのように過大に喧伝したの
です。この地は、フランスに莫大な富をもたらす約束の地であり
西方会社は必ずや大きな利益を上げるはずであると。
 この宣伝は効いたのです。そして、西方会社の株式をフランス
政府の公的債権と交換するように呼び掛けます。株式は、王室銀
行の銀行券で買えるようにしてあったのです。フランス国民は、
我がちに保有する国債を政府に売って、王室銀行券を手に入れ、
その銀行券で西方会社の株式を購入したのです。この頃から、西
方会社は「ミシシッピ会社」の愛称で呼ばれるようになっていき
ます。以下、その愛称を使います。
 この場合、政府が国債の買い取りに必要な王室銀行券は、王室
銀行が政府に貸し付けたのです。その結果、何が起こったかとい
うと、フランス経済は通貨の供給量の拡大にともなって活性化し
財政再建は急速に進んだのです。そしてジョン・ローは、国債を
王室銀行券にすり替えることによって、政府債務をゼロにするこ
とに成功したのです。1720年1月、ジョン・ローは、フラン
スの財務総監に任命され、彼の威光は頂点に達します。数週間後
には、ミシシッピ会社と王室銀行が統合されています。
 しかし、肝心のルイジアナの開発がうまくいかなかったことや
通貨を増やし過ぎたことによってバブルが発生します。そして、
バブルが崩壊したのです。株式市場の外では、深刻なインフレが
進行し、王室銀行券は信用を失っていきます。しかし、ミシシッ
ピ会社のバブル崩壊と、銀行券の信用失墜はもはや止められませ
んでした。そしてジョン・ローの作り上げた経済体制は完全に崩
壊します。ジョン・ローの話は失敗話として伝えられていますが
ヘリコプターマネーのヒントはここからとられています。森永卓
郎氏はこれについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 ジョン・ローはフランスを追われるようになり、彼は「稀代の
詐欺師」とか「錬金術師」と呼ばれるようになったが、ジョン・
ローの失敗はありもしない事業をでっちあげてバブルを起こした
ことにあって、ヘリコプターマネーが経済活性化と財政健全化に
大きく寄与したという事実は、このとき確認されている。
             ──森永卓郎著/角川新書K126
  『消費税は下げられる!/借金1000兆円の大嘘を暴く』
─────────────────────────────
            ──[消費税増税を考える/032]

≪画像および関連情報≫
 ●ヘリコプターマネーは、どうして危ないのか
  ───────────────────────────
   これまで「机上の空論」扱いされてきた政府・日本銀行に
  よる「ヘリコプターマネー政策」(以下、ヘリマネ)が全国
  紙の一面を飾り、ありうる政策の選択肢として堂々と議論さ
  れている。本当に投入されるとしたら、2013年4月開始
  の異次元金融緩和、2016年1月に導入が発表されたマイ
  ナス金利政策を上回る衝撃度である。
   ヘリマネ政策の主唱者の一人であるベン・バーナンキ前F
  RB(米連邦準備制度理事会)議長が12日に来日し、安倍
  晋三首相と会談したために、先週はヘリマネが市場の話題を
  さらった。7月28、29日に開かれる日本銀行の金融政策
  決定会合を控え、「日本でもヘリマネ政策が導入されるので
  はないか」とマーケットの憶測を呼んでいる。
   菅義偉官房長官が記者会見で「検討している事実はない」
  といくら否定しても、市場は浮き足立ったまま。黒田東彦日
  銀総裁が直前まで「考えていない」と言っておきながらマイ
  ナス金利政策を導入した過去を考えると、「あるかも」と市
  場関係者が考えるのは無理もないのかもしれない。
   ヘリマネ観測だけが原因ではないだろうが、為替市場は、
  7月15日に1ドル=105円台まで円安方向に大きく振れ
  た。英国がEU離脱を決定した後、一時、1万5000円台
  を割っていた日経平均株価は7月11日の週、5営業日の続
  伸となった。          https://bit.ly/32Zz5ZK
  ───────────────────────────

ジョン・ロー肖像画.jpg
ジョン・ロー肖像画

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2019年11月21日

●「日銀国債保有で政府債務が消える」(EJ第5133号)

 「ヘリコプターマネーはとても納得いかない」と考える人は多
いと思います。経済学者がこぞって反対していることについて高
橋洋一氏は、「経済学者はすこぶる会計に弱い。連結BSとかい
うと、さっぱりお手上げの学者が多いが、この程度は簿記レベル
の話である」といっています。
 そこで、平成27年度(2015年)末の日銀のバランスシー
トから、必要な数字を引き出して考えてみることにします。
─────────────────────────────
  ◎平成27年度末/日本銀行バランスシート
      【資産の部】
        金地金     4412億円
         現金     2099億円
         国債  3491955億円
   (資産の部合計)  4056481億円
      【負債の部】
      発行銀行券   955947億円
         預金  2829396億円
     うち当座預金  2754394億円
   (負債の部合計)  4020984億円
             ──森永卓郎著/角川新書K126
  『消費税は下げられる!/借金1000兆円の大嘘を暴く』
─────────────────────────────
 これによると、2015年末の日銀の資産は406兆円で、そ
のうち349兆円は国債であることがわかります。日銀の資産の
9割は国債なのです。負債の方をみると、発行銀行券、すなわち
日本銀行券が96兆円、日銀当座預金は275兆円、計371兆
円、この2つで負債の9割を占めています。
 したがって、日銀のバランスシートは、日銀券発行で得た資金
と銀行から預かっている当座預金で、国債を買っているという構
造になっていることがわかります。
 少し難しい2つの説明が必要です。
 1つは「日銀当座預金」です。日銀当座預金というのは、日銀
が、取引先の金融機関などから受け入れている当座預金のことで
す。それらの金融機関のうち、準備預金制度の対象となっている
金融機関(銀行預金残高1600億円超の信用金庫、農林中央金
庫)は他行との取引の決済をスムーズにするため、中央銀行の当
座預金口座に一定の準備預金を預け入れることが義務付けられて
います。この準備預金の最低金額(積むことが義務付けられてい
る金額)を超えて中央銀行に預けている預金を「超過準備」と呼
ぶのですが、この超過準備に付く金利をマイナスにする政策が、
「マイナス金利(政策)」です。
 2つは、日銀券の発行残高と、日銀当座預金の合計を「マネタ
リーベース」と呼んでいます。市中に出回っているお金の流通現
金と日銀当座預金の合計のことです。
 これらのことを頭において、経済アナリスト森永卓郎氏の次の
解説を読んでください。
─────────────────────────────
 国債を民間が保有していれば、政府は毎年国債の利払いをしな
ければならないし、満期がきたら、元本を返済しなければならな
い。しかし、日銀が持てば、話は別だ。政府はとりあえず日銀に
も利払いをしなければならないが、その利払い分は政府に戻って
くる。日銀は剰余金をすべて政府に納付することになっているか
らだ。また、日銀が国債を持ち続けてくれる限り、政府は元本を
返済する必要もないのだ。つまり、日銀が国債を買って、日銀券
を発行するということは、政府・日銀を一体として考えれば、国
債を日銀券にすり替えるということを意味する。日銀券に利払い
はされないし、元本返済がなされることは、もともとないから、
日銀が国債を買った瞬間に、借金が消えるのだ。
                ──森永卓郎著の前掲書より
─────────────────────────────
 ここでひとつ疑問が生じます。日銀は保有している国債を今後
どうするのでしょうか。
 この国債を日銀が保有し続ければ、政府の借金は消えたままで
す。しかし、日銀が金融政策の一環として、金融引き締めをしな
ければならないとき、日銀は国債を売ることになります。これは
金融緩和の逆をすることになります。
 金融緩和は、国債を買って、代金としての資金を提供すること
ですが、金融引き締めは、国債を売って、資金を回収することに
なります。別な表現でいうと、マネタリーベースを減らすことで
す。そうすると、売った国債は民間の手に戻ることになるので、
政府はその分の国債の利払いや元本返済の義務を負うことになり
ます。しかし、現在はデフレであって、日銀は国債を買うペース
を少し落とすだけでも十分な金融引き締め効果があるので、そう
いう事態がすぐ訪れることは考えにくいことです。
 日銀が、国債を買って保有すると、その分を政府の借金から棒
引きしてよいということに違和感を覚える人は少なくないと思い
ますが、それは「通貨発行益」というものが理解できていないか
らです。財務省は1000兆円を超す政府の借金を一般家庭の借
金に譬えて説明していますが、政府と一般家庭を同列に扱うこと
は大きな誤解を生みます。
 なぜなら、個人の借金は必ず返済しなければなりませんが、政
府の借金は返す必要があるかどうかは疑問です。もちろん借金が
増加することは避けなければなりませんが、それは、長期間にわ
たって少しずつ返済していけばいいだけの話です。
 それに政府は緊急の場合、通貨を発行することができますが、
それは個人にはできないことです。この場合、通貨を発行すると
発行者には「通貨発行益」が与えられます。これが理解できてい
ないと、日銀が国債を保有すると、政府の借金が減るのか、納得
できないと思います。明日のEJでさらに説明します。
            ──[消費税増税を考える/031]

≪画像および関連情報≫
 ●「通貨発行益」とは何か/シェイブテイル日記2
  ───────────────────────────
   政府の収入、いわゆる歳入の源は、どこにあるのでしょう
  か。歳入=税収+国債ですか?いいえ。ちょっと違います。
  歳入=税収+国債+通貨発行益です。
   ではその通貨発行益とは一体何なのでしょうか。
  この重要な政府歳入源を知るか知らないかで、政府の財政に
  対する考え方は大きく異なってくるのは間違いありません。
  リフレ派の論客、高橋洋一嘉悦大学教授(大蔵省出身)は通貨
  発行益は、政府貨幣でも日銀券でも通貨を増やせばその殆ど
  が通貨発行益だという主張をしています。
   「金利がゼロなら貨幣と国債は完全代替物となるといえる
  が、実際には金利はゼロでない。だからこそ、マネタリーベ
  ースのところはシニョレッジ(通貨発行益)が発生するが、
  国債には発生しないのだ。これをイメージしやすくしたもの
  が、実は政府通貨のアイデアである。会計上の違いによって
  シニョレッジ(通貨発行益)の計上は、日銀の量的緩和では
  各期の利払い相当額、政府通貨発行では当期に全額となって
  いるが、現在価値ベースでみれば両者は同じ。要するに、マ
  ネタリーベースの増加額がシニョレッジ(通貨発行益)にな
  る。【シニョレッジ(通貨発行益)を見落としている量的緩
  和「懐疑論」の誤り】      https://bit.ly/2XvyRsa
  ───────────────────────────

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経済アナリスト/森永卓郎氏
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2019年11月20日

●「財政ファイナンスの3つの副作用」(EJ第5132号)

 スティグリッツコロンビア大学教授による「日銀が保有する国
債を「相殺」することで、政府債務を減少させてはどうか」とい
うアドバイスに対して、政府委員を務めている経済学者たちは、
一様に顔をしかめたといいます。なぜでしょうか。
 経済学者たちは「それは『財政ファイナンス』であり、やって
はならない」と考えたからです。このことから、「スティグリッ
ツ教授は間違っている」という学者もいたといいます。しかし、
相手は2001年のノーベル経済学賞受賞の経済学者です。間違
えるはずがないではありませんか。そんなことだから、日本はい
つまで経ってもデフレから脱却できないのです。そんな国は、世
界中で日本しかありません。「御用経済学者よ、恥を知れ!」と
私はいいたいです。
 アベノミクスは、最初の1年目にやったことは正しかったと思
います。これによって停滞していた日本経済が急速に改善をはじ
めたからです。しかし、せっかく経済が立ち直ろうとしていると
きに消費増税をして、またしてもデフレに逆戻りさせています。
デフレの最中に増税という緊縮財政をとる──そんなことをすれ
ば経済がおかしくなるぐらい素人でもわかります。
 確かに日銀による国債の直接引き受けは、財政法第5条で禁止
されています。
─────────────────────────────
◎財政法
 第五条:すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引
 き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれ
 を借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合におい
 て、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。
─────────────────────────────
 日銀は、金融緩和の手段として、主として銀行が保有する国債
を買い取り、国債の保有をはじめたのですが、日銀が政府から直
接国債を引き受けようと、市場を通じて買おうと、日銀が国債を
保有するという事実には変わりがないので、アベノミクスは、財
政ファイナンスであるといえます。
 太平洋戦争のさい、政府は戦費調達のため、日銀に大量の国債
を引き受けさせています。しかし、このことが原因で、高率のイ
ンフレを招いてしまい、苦しんだことがあります。お金を大量に
供給させようとしたので、お金の価値が落ちて、インフレになっ
たのです。財政法の第5条は、そのときの苦い経験に懲りて設け
られたものです。
 なぜ、財政ファイナンスはいけないのでしょうか。中央銀行が
国債を買うと、次の3つの副作用が生まれるからです。
─────────────────────────────
         1.物価が上昇すること
         2.国債の価格が下がる
         3.国の通貨が安くなる
─────────────────────────────
 ここで考えてみるべきことがあります。現在の日本経済の状況
は、通常とは異なり、デフレの状況下にあります。経済アナリス
トの森永卓郎氏は、上記の財政ファイナンスの副作用が現在の日
本にはすべてプラスに働くとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 これらは、通常の経済状況だったら、大きな問題になる。しか
し、いまの日本ではまったく問題にならない。第1の物価上昇だ
が、現在の消費者物価指数は、前年比マイナスであり、日銀が掲
げる2%上昇という目標に遠く及んでいない。つまり、いまの日
本にとっては、物価が上がることのほうが、よいことなのだ。
 第2の国債価格の下落は、いまの日本では心配がない。10年
国債でも、ゼロ金利になっているからだ。むしろ少々国債価格が
値下がりして、プラスの金利がつくことのほうが、金融市場の正
常化のためには、望ましいことだ。
 第3の通貨安についても、2017年1月下旬現在の為替レー
トは、1ドル=110円台で、2016年初めの120円からみ
ても、円高が進んでいる。だから、本来の為替水準に戻すために
も少々の円安は、進んだほうが望ましいのだ。
 金融緩和の3つの副作用がすべてプラスに働く国は、現代の日
本くらいしかない。アベノミクスは、この好条件を活かして、財
政再建を進めてきたのだ。 ──森永卓郎著/角川新書K126
  『消費税は下げられる!/借金1000兆円の大嘘を暴く』
─────────────────────────────
 添付ファイルのグラフを見てください。これは、連結財務諸表
でみた純債務(細かな点線)と、日銀の国債保有額(太い点線)
そして純債務から、国債保有額を差し引いた実質純債務(太い実
線)をあらわしたものです。
 1997年の3%〜5%の消費増税によって日本経済はデフレ
に突入しています。1998年度の連結純債務は134兆円だっ
たのですが、毎年のように悪化し、2013年度には451兆円
に膨れ上がったのです。デフレが財政を破壊したのです。
 ところが、安倍政権のアベノミクスによる金融緩和で、デフレ
にブレーキがかかります。そして2013年から日銀の国債保有
は急激に増加します。その結果、それによる実質連結純債務は、
急速にゼロに向って伸びています。これがゼロになると、日本政
府は「無借金経営」を達成したことになります。
 「そんな、バカな!」というなかれ、これは手品でもマジック
でもインチキでもなく、正当な手続きなのです。しかし、安倍首
相がそこまでわかっていてやったとは思えない。結果として、そ
うなったとしか思えないのです。これは、別名「ヘリコプターマ
ネー」とも呼ばれており、安倍首相はこれに反対しているからで
す。ヘリコプターマネーは、日本では評判が悪いですが、これに
対する政府の無理解が、日本経済をいつまでもデフレの底に沈め
ているのです。これについてさらに詳しく説明します。
            ──[消費税増税を考える/030]

≪画像および関連情報≫
 ●政府の債務は返さなくてもいい/MUFGレポート
  ───────────────────────────
   政府の債務残高が1000兆円を超えてしまっており、も
  はやこの膨大な借金を返済することは不可能ではないかと言
  われたりすることが多い。その疑問には、自信(?)を持っ
  て答えることができる。返済が不可能であるどころか、借金
  の残高を削減することすらできない。つまり、債務残高が今
  後も増え続けるのは確実である。
   考えてみれば、それは驚くことでも何でもない。一般に借
  金残高を減らそうとすればフローの収支を黒字にする必要が
  あるから、政府の債務残高を削減するためには、毎年の財政
  収支を黒字化させなければならない。しかし、それを実現す
  るのはおよそ不可能である。   https://bit.ly/2OlyImX
  ───────────────────────────
 ●グラフの出典:──森永卓郎著の前掲書より

連結財務諸表から見た日本財政の推移.jpg
連結財務諸表から見た日本財政の推移
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2019年11月19日

●「『統合政府』という考え方がある」(EJ第5131号)

 昨日のEJの続きです。2017年3月14日のことです。米
コロンビア大学教授のジョセフ・E・スティグリッツ氏は、経済
財政諮問会議に出席しています。そのときの写真を添付ファイル
にしてあります。
 これに関する資料は内閣府のウェブサイトに出ていますが、日
本のメディアは、なぜか、これを無視し、ほとんど報道していま
せん。高橋洋一嘉悦大学教授によると、このときのスティグリッ
ツ教授の発言の意味を理解できていなかったのが原因ではないか
というのです。
 スティグリッツ教授のこのときの発言について、内閣府は次の
ように伝えています。
─────────────────────────────
 スティグリッツ教授は、諮問会議での発言のなかで、政府・日
銀が保有する国債を「無効化」することを提言した。政府・日銀
が保有する国債を「無効化」することで、政府の債務は「瞬時に
減少」し、「不安はいくらか和らぐ」と主張。また、債務を永久
債や長期債に組み換えることで、「政府が直面する金利上昇リス
クを移転」できるとしている。    https://bit.ly/346nVn6
─────────────────────────────
 問題は、スティグリッツ教授がいう「無効化」をどのように捉
えるかです。高橋洋一教授によると、スティグリッツ教授の英文
原稿資料には「canceling」 になっています。これは、会計用語
で「相殺」を意味しています。それでは、何と何を「相殺」する
のでしょうか。
 その当時、日本銀行(中央銀行、以下日銀)は、約400兆円
の国債を保有していたのです。なぜ、そんなに巨額になったのか
というと、日銀はアベノミクスの一環で、史上最大規模の金融緩
和を行っているからです。具体的には、銀行の保有する国債を買
い上げ、通貨供給量を増やす量的金融緩和を行っているのです。
ちなみに、2018年3月末の時点では、日銀の保有する国債は
459兆5862億円になっています。日本のGDPに匹敵する
巨額の国債保有です。
 スティグリッツ教授がいうのと、約1000兆円の政府債務か
ら、当時日銀が保有する約400兆円の国債を相殺してしまえば
政府が抱え国債残高は、瞬時に、600兆円に減るじゃないかと
いっているのです。
 なぜ、そのようなことができるのでしょうか。
 これについては、日銀、すなわち、中央銀行について知る必要
があります。日銀には、次の3つの役割があります。
─────────────────────────────
           1.紙幣の発行
        →  2.政府の銀行
           3.銀行の銀行
─────────────────────────────
 ここで中央銀行論を述べるつもりはありませんが、ここで関連
があるのは、2の「政府の銀行」という機能です。日銀は、政府
の委託を受け、国のお金を管理しています。また、国債の発行や
外国為替の決済処理も行っています。
 そして、ここが一番重要なことですが、日銀は株式会社であり
その株式の55%は政府が持っています。つまり、日銀は、政府
の連結子会社ということになります。
 以下は、高橋洋一教授の言説です。経済学者は、財政・金融問
題を考えるとき、政府と中央銀行を一体として考えますが、それ
を「統合政府」といいます。この統合政府のバランスシートにつ
いて考えてみます。
 右側の「負債」を見ると、国債残高です。ところが左側の「資
産」を見ると、そこに中央銀行の保有する国債があります。これ
は「相殺」できます。右側のグロスの国債残高1000兆円から
左側の日銀保有国債残高を差し引くと、国債残高は、600兆円
と瞬時に減少します。つまり、統合政府という観点から見ると、
1000兆円の借金は600兆円に減少するのです。この程度の
政府の借金であればどうということはありません。
 スティグリッツ教授にいわせると、何を悩んでいるのかという
わけです。具体的にというと、スティグリッツ教授は、「政府債
務が巨額だからといって、それを前提に消費税を増税などするな
よ」と暗にアドバイスしてくれたのです。
 それを財政諮問会議でいうと、財務省の役人は苦虫を噛み潰し
たような顔になり、政府委員の経済学者は「とんでもない」とい
う顔になり、首相をはじめとする政治家はポカンとしてしまった
というわけです。
 それでは、国債の利払いはどうなるのでしょうか。
 日本政府は律義に日銀に利息を支払っていますが、それは最終
的には、日銀から政府への納付金として戻されてくるのです。し
たがって、利払いをする必要はないのです。つまり、日銀が政府
が保有する国債を買い取った瞬間、すなわち買いオペをした瞬間
に国債の償還は終ったという考え方です。
 ここで大事なことがあります。政府の子会社は日銀だけではな
いということです。それは、天下り役人を抱える特殊法人も子会
社です。現時点でそれらは約600兆円ほどあります。したがっ
て、これらを連結してバランスシートにして「相殺」してしまう
と、国債の債務残高(借金)は、ゼロになってしまいます。財務
省が「余計なことをいいやがって」と、苦虫を噛み潰した表情に
なるのは当然です。
 そういうわけで、財務省は消費増税の目的を「財政再建」では
なく、「社会保障の財源」としてアッピールする戦術に変更して
います。昨日のEJの「画像および関連情報」に読売新聞の社説
をご紹介しましたが、内容は財務省の思惑をそのまま代弁してい
ます。社会の公器としてのメディアというよりも、財務省の提灯
持ちのメディアになってしまっています。
            ──[消費税増税を考える/029]

≪画像および関連情報≫
 ●滑稽すぎる 「日本の財政は破綻する」論/高橋洋一氏
  ───────────────────────────
   このようにバランスシートで見ると、日銀の量的緩和の意
  味がはっきりする。政府と日銀の連結バランスシートを見る
  と、資産側は変化なし、負債側は国債減、日銀券(当座預金
  を含む)増となる。つまり、量的緩和は、政府と日銀を統合
  政府で見たとき、負債構成の変化であり、有利子の国債から
  無利子の日銀券への転換ということだ。
   このため、毎年転換分の利子相当の差益が発生する(これ
  をシニョレッジ〔通貨発行益〕という。毎年の差益を現在価
  値で合算すると量的緩和額になる)。
   また、政府からの日銀への利払いはただちに納付金となる
  ので、政府にとって日銀保有分の国債は債務でないのも同然
  になる。これで、連結ベースの国債額は減少するわけだ。
   量的緩和が、政府と日銀の連結バランスシートにおける負
  債構成の変化で、シニョレッジを稼げるメリットがある。と
  同時にデメリットもある。それはシニョレッジを大きくすれ
  ばするほど、インフレになるということだ。だから、デフレ
  の時にはシニョレッジを増やせるが、インフレの時には限界
  がある。その限界を決めるのがインフレ目標である。インフ
  レ目標の範囲内であればデメリットはないが、超えるとデメ
  リットになる。幸いなことに、今のところ、デメリットはな
  く、実質的な国債が減少している状態だ。
                  https://bit.ly/37aVJ4B
  ───────────────────────────

経済財政諮問会議でのスティグリッツ教授.jpg
経済財政諮問会議でのスティグリッツ教授
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2019年11月18日

●「IMFグラフで分かる財務省の嘘」(EJ第5130号)

 先週のEJ第5128号、第5129号の2回にわたってお届
けしたIMFのグラフは、日本の財務省に衝撃を与えています。
こんなものを公表されると、自分たちの工作がバレてしまうから
です。これに対する対策かどうかわかりませんが、財務省は「純
債務残高の国際比較/GDP比」という資料を出しています。こ
の資料を添付ファイルにしていますが、ここには、次の説明文が
付いています。
─────────────────────────────
 純債務残高とは政府の総債務残高から政府が保有する金融資産
(国民の保険料からなる年金積立金等)を差し引いたものです。
我が国は、純債務残高で見ても、主要先進国で最悪の水準となっ
ています。                   ──財務省
─────────────────────────────
 財務省は、このグラフではIMFのグラフには入っている「非
金融資産」を除いて比較しています。入れてしまうと、「最悪の
水準」にならないからです。財務省は、何が何でも「日本は主要
先進国で最悪の水準」にしたいようです。
 一般的に悪いところを隠そうとするならわかりますが、わざわ
ざ悪いところを見せつけようとする日本の財務省は異常です。そ
れは、一部のキャリア官僚の華麗な老後のために、消費増税を実
施しやすい環境を作ろうと必死になっているからです。
 国会などで野党が「借金が多いといっても、相応の資産がある
じゃないか」と財務省に迫っても、「そのような資産があっても
すぐには売却できないので、現実的ではない」と反論します。こ
れは非金融資産のことをいっています。IMFのグラフでわかる
ように、日本の資産の金融資産と非金融資産の割合は、半々であ
り、これを対GDP比で示すと、次のようになります。
─────────────────────────────
    金融資産 ・・・ 112%(対GDP比)
   非金融資産 ・・・ 109%(対GDP比)
─────────────────────────────
 「対GDP比200%の借金」といいますが、これによると、
資産(金融資産+非金融資産)の方も、対GDP比200%を超
えています。何の問題もないではないですか。資産に言及せず、
債務だけを強調するのは異常です。これについて、高橋洋一嘉悦
大学教授は次のように述べています。
─────────────────────────────
 財務省やマスコミは、借金が対GDP比200%を超えている
ということを喧伝しますが、縷々述べてきたように、日本はそれ
に見合った資産をもっています。借金の利払いが膨大になるとし
ても、対GDP比112%の金融資産をもっていますから、当然
金利収入が入ってきます。国の借金の大部分は国債です。国債の
金利は金融商品のなかで最も低い。一方、国がもっている金融資
産の金利は国債レベルかそれ以上ですから、わざわざ国債の利払
いだけを心配する必要はありません。     ──高橋洋一著
        『消費増税は嘘ばかり』/PHP新書1174
─────────────────────────────
 また、対GDP対比200%の政府の借金に関連して財務省は
次のように表現したことがあります。
─────────────────────────────
 債務残高が200%を超えるのは「敗戦当時の日本と同じ」
 である。                  ──財務省
─────────────────────────────
 これは、ひどい比喩です。敗戦当時の日本と21世紀の日本を
同列に比較しているからです。いうまでもなく、敗戦当時の日本
にはほとんど政府資産はなく、債務残高が200%を超えていた
のです。これは深刻であり、国家破綻の危機です。
 財務省は、現在の日本をこのときの日本と同じだといっている
のです。日本で最もアタマの良い人だけが就職できるといわれる
財務省の役人がこんな馬鹿げた比較をしています。だから、タメ
にするプロパガンダと言われるのです。21世紀の日本は、対G
DP対比200%超の政府債務はあっても、資産の対GDP比も
200%を超えています。敗戦当時とまるで違います。200%
を超える借金が心配ならは、資産を売って債務を減らせばよいの
です。2017年に来日したジョセフ・スティグリッツコロンビ
ア大学教授は、経済財政諮問会議で、日本の債務残高について、
次のように重大な発言をしています。
─────────────────────────────
 日本の政府債務残高は、実際のところ、多くの人がいうほど悪
くないということだ。なぜなら、政府債務残高の40%は、自分
自身が抱えているからだ。政府と日本銀行が一体となって政府債
務を相殺すればよい。少なくとも、債務残高に縛られて行動する
のはやめるべきだ。自分自身が抱えているのだから、債務残高は
見かけよりもずっと低いものとして考えるべきだ。
                ──高橋洋一著の前掲書より
─────────────────────────────
 スティグリッツ教授は、重要な指摘をしています。それは「政
府債務の40%は自分自身が抱えていてる」という発言の部分で
すが、その意味がわかるでしょうか。
 それは、日銀が日本国債を約400兆円抱えていることを指摘
しています。だから、政府負債が1000兆円あっても、相殺す
れば、40%は瞬時に相殺されるといっているのです。
 これに対して、日本の名だたる増税派の御用学者たちは、何と
いったと思いますか。「スティグリッツ教授は間違っている」と
いったのです。こんなことだから、日本はいつまで経ってもノー
ベル経済学賞は取れないのです。しかし、この様子を見ていた財
務省の高級官僚たちは、「財政破綻を防ぐための増税」という戦
術から、「社会保障の財源としての増税」という戦術に切り換え
る必要があると察したようです。アタマは悪くないからです。
            ──[消費税増税を考える/028]

≪画像および関連情報≫
 ●消費税10%/社会保障支える重要な財源だ/読売新聞
  ───────────────────────────
   消費税率が5年半ぶりに引き上げられ、8%から10%に
  なった。社会保障制度を安定させ、財政健全化を進めるため
  には欠かせない増税である。得られる新たな財源を、国民の
  将来不安の軽減に生かさなければならない。
   少子高齢化の進展に合わせて、社会保障費は着実に増えて
  いく。これを支えるには、毎年安定した税収が見込める税が
  望ましい。だが、法人税は、企業業績の浮き沈みによって増
  減する。所得税も賃金や雇用に連動するため、景気が悪化す
  れば大きく減る。
   こうした税に比べて、消費税には税収が景気に左右されに
  くい特長がある。生活を維持するため、一定の消費が必要だ
  からだ。消費税は公平性も高い。所得税は、働く現役世代を
  中心に課税するのに対し、高齢者を含め商品やサービスを購
  入する人から幅広く徴収するためだ。
   安倍内閣は、現役世代への支援を手厚くする「全世代型社
  会保障」の実現を主要政策に掲げている。負担を現役世代に
  しわ寄せしないためにも、消費税の活用が重要である。今回
  の引き上げで税収は約4・6兆円増える。このうち約2・8
  兆円を社会保障の充実などにあて、残りは財政再建に使う。
  国の借金は1000兆円を超える。債務残高のGDP比は主
  要国で最悪水準だ。将来世代へのツケ回しを避けるためにも
  財政の立て直しは急務である。政府は消費税の重要性を丁寧
  に国民に説明するべきだ。    https://bit.ly/2Ohkcwt
  ───────────────────────────

純債務残高の国際比較(対GDP比).jpg
純債務残高の国際比較(対GDP比)


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2019年11月15日

●「資産を売り負債を圧縮しない理由」(EJ第5129号)

 「日本の財政状況は健全であり、改善の傾向にある」──高橋
洋一嘉悦大学教授の主張です。財務省のいっていることと真逆の
ことを財務省出身の学者が明言しているのです。証拠も示してい
ます。財務省はなぜ間違ったことを主張するのでしょうか。財務
省はウソをついていることになります。
 いや、さすがにウソはついていないのです。ウソをつけばバレ
たとき責任を取らされるからです。「政府の債務は、GDP対比
で200%以上である」ということ自体はウソではないのです。
ただ、資産に言及していないだけです。
 しかし、そういう発表を長くしていると、メディアは完全に間
違って事態をとらえます。2018年12月22日付、朝日新聞
の社説は、国債残高が1989年に161兆円だったのが、20
19年度には、897兆円に増えると指摘した上で、次のように
心配しています。高橋教授の指摘です。
─────────────────────────────
 歳出全体のおよそ4分の1は借金の返済にあてる国債費が占め
る。このままでは、安定した公的サービスを続けるのも難しくな
る。その危機感を政権に感じられないところが、恐ろしい。
          ──2018年12月22日付、朝日新聞
 ──高橋洋一著『消費増税は嘘ばかり』/PHP新書1174
─────────────────────────────
 財務省は、こういう文章をメディアに書かせたいので、政府の
債務だけを強調し、危機感を煽るのです。こういう記事を読むと
読者は、日本は借金で危機的な状況にあるので、借金を返すため
に増税はやむを得ないなと感じるでしょう。
 もうひとつ、こういう記事を朝日新聞が書いていることで、記
事にリアリティがあります。朝日新聞はどちらかというと、政権
に批判的な新聞だからです。新聞読者別の安倍政権の支持率を示
します。2017年6月実施の調査です。
─────────────────────────────
           支持する    支持しない
     産経新聞   86%       5%
     読売新聞   43%      29%
   日本経済新聞   41%      38%
     朝日新聞   14%      70%
     毎日新聞    9%      59%
     東京新聞    5%      42%
                  https://bit.ly/350KwBL
─────────────────────────────
 ここでもうひとつ、決定的なデータを示します。添付ファイル
を見てください。このグラフは一般政府(中央政府+地方政府)
の資産と負債をあらわしているIMFのグラフです。
 昨日のEJで示したグラフは、中央政府と地方政府、政府関係
機関、中央銀行のすべてを合わせた国全体のバランスシートの国
際比較であるのに対して、今回のグラフは、一般政府(中央政府
+地方政府)の資産と負債のバランスシートの国際比較です。
 このグラフで、一番目立っているのは日本です。なぜなら、負
債は238%、資産は220%と突出しているからです。グラフ
は、純資産順に並んでいます。日本の純資産は、次の計算をする
と、対GDP比マイナス18%になります。
─────────────────────────────
    資産210% − 負債238% = −18%
─────────────────────────────
 このグラフは、純資産額が大きい順に並んでいます。縦線(黒
い棒)が左側にある順です。これによると、日本は、アメリカ、
カナダ、ドイツよりは純資産が少ないですが、フランス、英国、
イタリアよりは純資産が多いことを示しています。
 このグラフを見て、世界の財務担当者は、一様に次のような疑
問を持つと思います。
─────────────────────────────
 グラフからはみ出すほど日本は資産が多いのに、なぜ資産を売
却して、負債を減らさないのか。 ──高橋洋一著の前掲書より
─────────────────────────────
 当然の疑問です。これについて、高橋洋一氏は、財務省の魂胆
を次のように明らかにしています。
─────────────────────────────
 「まず資産を売って負債を減らす」のがバランスシートを保つ
ための優先策のはずです。では、なぜ日本の(財務省の)常識は
違うのか。財務官僚が愚かで、会計の基本に気付かないからでは
ありません。何よりも財務省が「資産」を抱え込むことが、同省
の官僚に大きなメリットをもたらしているからです。
 そのメリットは、「天下り先の確保」です。政府資産の大半は
金融資産で、天下りに使われているものです。したがって、資産
の売却は天下り先を減らし、官僚の人生設計に狂いを生じさせま
す。彼らは自分の再就職先を守るため、「資産は売れない」と異
を唱えているのです。      ──高橋洋一著の前掲書より
─────────────────────────────
 日本は、採算が良いとはいえない多くの政府機関・団体などの
資産を数多く保有しています。普通の国では、負債が大きいとき
はそれらの資産を売却して負債を圧縮し、資産と負債のバランス
をとるものですが、日本ではそれをやると、「天下り先」が少な
くなってしまうので抱え込むのです。だから、グラフは他国と比
べると、異常な状態になるのです。これは、ほとんど犯罪的な行
為です。これらの自分たちにとって大事な資産を守るため、今後
も消費税の増税をやろうとしているからです。
 問題なのは、財務省が資産については語らず、負債の方だけを
強調することです。つまり、添付ファイルのIMFグラフの左側
(負債)だけを取り上げて、「債務残高の対GDP比を見ると、
我が国は主要先進国のなかで最悪の水準になっている」と訴えて
いることです。     ──[消費税増税を考える/027]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ日本は多額の借金でも「つぶれない」のか
  ───────────────────────────
   日本の借金は1071兆円──財務省が、2017年5月
  10日に発表した今年3月末時点の残高である。この額は今
  世紀に入って約1・5倍に膨らみ、今後も当面増え続ける。
  主要先進国の中で最大の借金を抱える日本は破綻しないのか
  私たちの生活はどうなるのだろう?
   この額を総人口で割ると、1人あたり850万円近く、こ
  れにはもちろん、0歳児も含まれる。年間の給与所得の平均
  520万円(15年、国税庁調べ)と比べると1・6倍以上
  だ。誤解のないよう申し添えると、これはあくまで国(日本
  政府)の借金で、後述のように国民はむしろ貸している側で
  ある。借金がここまで膨らんだのは、政府が長年赤字を続け
  ているからだ。2000年降で見ると、年間の平均赤字額は
  30兆円以上にのぼり、これがほぼそのまま借金になる。
                  https://bit.ly/2QgPgPv
  ───────────────────────────
  グラフ出典/──高橋洋一著の前掲書より

各国政府の資産と負債のバランスシート/2016年.jpg
各国政府の資産と負債のバランスシート/2016年
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2019年11月14日

●「日本の財政は健全であり問題ない」(EJ第5128号)

 今から8年前、第2次安倍政権が発足する1年半前の2011
年6月のことです。当時与党だった自民党は、次の報告書を公表
しています。時の自民党総裁は谷垣禎一氏です。
─────────────────────────────
     「X─dayプロジェクト報告書」/自民党
─────────────────────────────
 「X─day」とは何でしょうか。
 これは国債暴落で財政危機が起きる「X─day」のことで、
その日に備える報告書です。
 この報告書では、積み上がった借金が原因で日本国債が信認を
失い、政府の資金調達が困難になり、金利が暴騰し、経済や国民
生活が大打撃を受ける可能性を指摘しています。この報告書が、
当時の民主党政権と野党の自民、公明両党が5%から10%への
消費増税を決めた12年の「3党合意」を後押ししたのです。
 参院選前の与野党の党首が並ぶ討論会で、安倍首相は次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 今後10年間ぐらいの間は、私は消費税を上げる必要はない
 と思っています。             ──安倍首相
─────────────────────────────
 このとき、記者は、与野党の党首に対し、「未来永劫、10%
からあげなくてよいと考える党首は挙手願います」と聞いていま
す。複数の野党党首はこれに挙手しています。これに対し、安倍
首相は「未来永劫はいくらなんでも無責任」といい、「今後10
年間ぐらいの間・・」と発言したのです。しかし、その後、安倍
首相はこの「10年間」を何回も繰り返しています。これに財務
省は警戒感を深めているといいます。
 しかし、「X─dayプロジェクト報告書」は、一種のプロパ
ガンダです。財務省は、こういうプロパガンダを何十年もかけて
行い、国民に対して財政危機意識を植え付けることに成功してお
り、「社会保障と税の一体改革」で消費税は税率が10%になっ
てしまっています。そのカネは社会保障の充実に使うといってい
るものの、政府は、社会保障をどんどん削っています。EJは、
こういう政府のウソを暴いていきます。
 多くの日本人は、日本はGDPの2倍以上の借金を抱える借金
大国であり、財政再建が何よりも急務であると信じています。し
たがって、財政再建は必要であり、消費増税はやむなしというこ
とになるのです。
 しかし、これはウソであるとはっきりという人がいます。高橋
洋一嘉悦大学教授です。高橋洋一氏はただの学者ではなく、財務
省の出身であり、この問題の権威です。高橋氏は、ある座談会で
この問題について次のように述べています。
─────────────────────────────
 「財政再建」についてですが、世間には、「財政再建のために
増税を先送りするな」という人が結構いますが、「バランスシー
ト」の視点からいうなら、財政は何も危なくないというのは、一
目瞭然です。私は財務省にいた当時、誰もバランスシートをつく
ろうという人がいなかったけど、半ば強引に自分で作ったら、財
政危なくないって答えが明白になった(笑)。そして今も全くそ
の状態。というかむしろ、「改善」してます。 ──高橋洋一氏
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 「日本の財政は何も問題なく、最近ではむしろ改善している」
というのです。このように財務省出身の有名な学者がいっている
のに、財務省は何も聞こえないフリです。「証拠を示せ」という
人もいます。
 高橋洋一氏は、その証拠を今年の3月に上梓した書籍で発表し
ています。その証拠は、2018年10月のIMF(国際通貨基
金)の次のレポートに掲載されています。
─────────────────────────────
  Fiscsl Monitor October 2018 Managing Public Wealth
 「公的機関のバランスシート/対GDP比/2016年」
           ──高橋洋一著『消費増税は嘘ばかり』
                    PHP新書1174
─────────────────────────────
 このグラフを添付ファイルにしています。このグラフは、中央
政府と地方政府、政府関係機関、中央銀行のすべてを合わせた国
全体のバランスシートを国際比較したものです。
 グラフの見方を説明します。横棒グラフの真ん中の線に注目し
てください。この線の左と右は、次のことを意味しています。
─────────────────────────────
    左の部分 ─→ 資産/金融資産+非金融資産
    右の部分 ─→      負債/資産−負債
─────────────────────────────
 線(黒い棒)のある位置はそれぞれ違いますが、それは「純資
産」で、純資産の多い順に上から並んでいます。線(黒い棒)が
左へ行くほど純資産が少なく、右に行くほど純資産が多くなって
います。一番右に位置するのが、ポルトガルと英国です。逆に、
ロシアとノルウェーは純資産が少ないことを示しています。
 日本の純資産(資産−負債)は、ほぼゼロの近くにあります。
借金は多いけれどもそれに見合う資産があり、バランスがとれて
います。したがって、このグラフで見る限り、日本の財政状況は
健全であるといえます。IMFは、日本の財政の健全さをグラフ
にして、示してくれています。なお、このグラフは、年金も含め
たものであり、年金を含めても、日本の財政は健全であるという
ことです。どこが「破綻寸前」なのでしょうか。何を根拠に財務
省は、日本の財政を破綻寸前などとウソをつくのでしようか。そ
れは、消費税を増税したいからです。そのため、そういって国民
を騙しているのです。  ──[消費税増税を考える/026]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の財政が破綻しない数多くの理由
  ───────────────────────────
   今回は、久留米大学商学部教授の塚崎公義が、財政破綻の
  可能性と増税の必要性について考えます。
   消費税の増税が迫って来ました。「財政赤字が巨額だから
  増税しないと」という緊縮財政派の主張に基づくものでしょ
  うが、増税しなくても財政は破綻しません。一方で、無理に
  増税して景気が悪化してしまえば税収は減り、景気対策は必
  要となり、財政はむしろ悪化してしまうかもしれません。そ
  こで今回は、増税の必要性を考える一助として、増税しない
  と財政が破綻するのか否かを考えてみましょう。
   理論的に日本の財政が破綻することはあり得ません。政府
  が日銀から借金して国債を全部償還してしまえば良いからで
  す。しかし、それはハイパーインフレをもたらしかねません
  から、本稿では考えないことにしましょう。
                  https://bit.ly/2KhCNaJ
  ───────────────────────────


公的機関のバランスシート(対GDP比/2016年).jpg
公的機関のバランスシート(対GDP比/2016年)
posted by 平野 浩 at 04:45| Comment(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月13日

●「将来世代に『経済不況』を残すな」(EJ第5127号)

 EJで「消費税増税」をテーマに取り上げるのは、実は2回目
です。2014年に同じテーマで84回にわたって書いており、
ブログで見ることはできるので、ご紹介しておきます。
─────────────────────────────
 ◎消費税増税はなぜ必要かについて改めて考える
  2014年1月06日、EJ第3703号
       〜2014年5月09日、EJ第3786号
                  https://bit.ly/2NVmfpL
─────────────────────────────
 2014年1月6日が第1回ですが、この年の4月から消費税
が5%〜8%に引き上げられることが決まっていたのです。日本
の消費税には多くの疑問があります。このとき、それらの消費税
の疑問について明らかにするつもりで書いたのですが、十分書き
切れていません。そこで今回、その書き切れなかったところに重
点を置いて書いていくつもりです。
 消費増税をするさい、その大義名分として、よくいわれる次の
言葉があります。
─────────────────────────────
     将来世代に、現世代の「ツケ」を残すな!
─────────────────────────────
 現在日本の財政学者は、そのほとんどが財務省寄りの御用学者
であり、彼らは、「国の財政は、長期的安定が必要であり、健全
な保守政権というものは、現在だけでなく、将来を見据えて、持
続性のある財政を設計すべきである」と、まことしやかに説き、
上記の言葉を頻繁に口にします。
 これに対して、藤井聡京都大学大学院教授は、次のように猛反
論しています。
─────────────────────────────
 彼らが根本的に間違っているのは、将来に残してはいけないも
のは「経済不況」そのものなのだ、ということを無視していると
ころにあります。もしも、現世代の経済財政政策のせいで、「経
済不況」が放置され続けてしまえば、将来世代は「貧弱な国家経
済」や「格差社会」や「貧弱な科学技術水準の国家」を生きなけ
ればならなくなる。
 さらには、「防災力」も「国防力」も貧弱なままの国家を生き
なければならなくなる。政府それ自体も税収が得られなくなって
結局、将来世代の政府の「税収」も低くなってしまい、結果的に
は、将来世代の「借金」を増やしてしまうことになる。つまり、
彼らこそ近視眼的な「目先の借金」を削ることに躍起となってし
まった結果、経済、防災、格差、所得、福祉、軍事といったあら
ゆる側面で、「貧弱」な国家を将来世代に「つけ回し」してしま
い、その結果、「将来の財政」をさらに悪化させてしまうことに
なる。彼らこそが、「長期的な視野を持たない、浅薄で近視眼的
な態度」なわけです。            ──藤井聡教授
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 数ある消費税の本をていねいに読んでみると、多くの国民は、
政府というか財務省に騙されていることがいかに多いかよくわか
ります。しきりに消費増税を仕掛けているのはつねに財務省です
から、以後はその犯人を「財務省」として書くことにします。
 そもそも増税が必要なことは一応認めるとしても、なぜ、大衆
課税である消費税に真っ先に依存するのか、他にやるべきことが
たくさんあるはずです。それは、彼ら、財務省の一部のキャリア
官僚にとって、おいしいことがあるからです。
 そもそも多くの国民は、「日本の消費税は低い」と内心感じて
います。財務省のプロパガンダもありますが、それは「税率」を
見ているからです。確かにスウェーデンの消費税は25%であり
日本の10%はその半分にも達していません。しかし、少し別の
角度から見ると、意外な事実が判明するのです。
─────────────────────────────
   ◎主要国の国税収入全体に占める消費税の割合
        イギリス ・・・・・ 21・1%
         ドイツ ・・・・・ 35・6%
        イタリア ・・・・・ 28・3%
      スウェーデン ・・・・・ 18・5%
          日本 ・・・・・ 37・O%
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 これは、国税収入全体に占める消費税の割合について、日本と
欧州各国とを比較したものです。これで見ると、日本の10%の
消費税率は、国税収入に占める消費税の割合では、37%であり
スウェーデンの18・5%を大きく上回り、このなかでは一番高
くなっています。これは、日本の税収が消費税の税収に大きく依
存していることを示しています。大衆課税である消費税を増税し
法人税や高額所得者の所得税を下げているので、こういう結果に
なっているのです。これは、同時に税収全体のなかで日本は、法
人税と所得税がいかに少ないかを示しています。これによって、
次のことがウソではないことが分かります。
─────────────────────────────
 現自民党政権は、庶民には「増税」、大企業や高額所得者に
 は「減税」をしており、今後さらに消費税を上げることによ
 り、その傾向を強めようとしている。
─────────────────────────────
 英国は消費税の最高税率は20%ですが、軽減税率の幅が広い
のです。通勤交通費、食料品、新聞、雑誌、書籍、子供服、家庭
用燃料、電力、衣料品は税率ゼロであり、これを見ると、日本の
消費税がいかにお粗末であるか、よく分かると思います。
            ──[消費税増税を考える/025]

≪画像および関連情報≫
 ●消費税10%になぜ増税となった?
  ───────────────────────────
   日本で初めて消費税が導入されたのは、1989年4月で
  した。当時、3%に設定されていた税率は、数年おきに国会
  でも議論の的になり、1997年に5%、2014年に8%
  と段階的に引き上げられてきました。
   そして2019年10月1日(火)、消費税は、8%から
  10%へ引き上げられ、いよいよ消費税率2桁の時代に突入
  します。
   そもそも消費税はなぜ導入されたのでしょうか?消費税が
  導入される以前、日本政府の税収は所得税が中心でした。し
  かし、社会構造の変化やサービス・消費の多様化など、世の
  中が大きく動いていくうちに、所得に応じて課税する所得税
  は時代遅れの制度面での課題が目立ち、税制の不均衡が、問
  題視されるようになりました。そこで、所得に関係なく、消
  費活動に対して誰にでも等しく課税する消費税が導入されま
  した。消費税は、所得状況とは無関係に課税されますから、
  働き手が少なくなっても税収が安定しています。そして、年
  金や福祉に関する財源とした目的税として消費税が導入され
  人口の高齢化が進行するとともに、その税額が引き上げられ
  ていったのです。消費税は導入されてから3%、5%、8%
  そして今回の10%へと少しずつ税率が引き上げられていま
  す。しかし、消費税率が2桁の10%ともなると、心理的な
  影響も大きく、多くの人が税負担を重く感じてしまいます。
                  https://bit.ly/2p5RyWH
  ───────────────────────────

「経済不況」を残してはいけない/藤井教授.jpg
「経済不況」を残してはいけない/藤井教授
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2019年11月12日

●「消費増税は必然的にデフレを導く」(EJ第5126号)

 藤井聡京都大学大学院教授の話を聞いていると、何でもかんで
も原因を消費増税に結びつけている──このように感ずる人がい
るかもしれません。「他の多くの国でも消費税を導入しているで
はないか。それらの国はデフレにはならず、日本だけがなるのは
おかしい」という理屈です。
 当然の理屈です。最初は私も感じた疑問です。こういう疑問に
対して、藤井教授は、次のように反論しています。
─────────────────────────────
 (消費税を導入している)これらの国々がデフレではないのだ
から、消費税率をたかだか5%にあげたぐらいで日本だけがデフ
レになるなんてあり得ないじゃないか──しばしば消費税論者は
こうして消費税のさらなる増税を主張する。
 しかし、問題なのは「税率」そのものではない。
 彼らが「いつ」消費税をあげたのか、という点こそが問題なの
だ。そもそも1997年と言えば、世界の経済史の中でも特筆さ
れるほどの大事件であった1990年〜1991年にかけて生じ
た「バブル崩壊」の直後だった。文字通り「バブル景気」で沸い
ていた日本の株価が一気に下落し、多くの資産家が、資産を失っ
た。当時日本から消えてなくなってしまった資産額は、1500
兆円(!)とも言われている。     ──藤井聡著/晶文社
         『「10%消費税」が日本経済を破壊する』
─────────────────────────────
 空前のバブル景気が一気に崩れたのです。まさに未曾有の事態
です。こういうとき、政府は何をすればよいでしょうか。政府は
経済が失速することを何よりも恐れて、大規模な経済政策を始め
たのです。ここまでは正解でした。そのおかげで我が国は、19
96年までは、未曾有のバブル崩壊にもかかわらず、経済は失速
させないできています。したがって、そのまま続ければ、よかっ
たのです。しかし、政府の借金を異常なほど気にする財務省と、
その進言を受け入れた橋本龍太郎首相は1997年4月に3%〜
5%への消費増税を断行しています。この橋本龍太郎首相は、も
ちろん財務大臣、当時の蔵相を次のように務めています。橋本首
相は、大蔵大臣のほか、厚生大臣、運輸大臣、通産大臣も務めて
いる大臣のベテランです。
─────────────────────────────
  ◎第93代〜第94代大蔵大臣
   1989年 8月10日〜1991年10月14日
  ◎第103代大蔵大臣(兼務)
   1998年 1月28日〜1998年 1月30日
─────────────────────────────
 デフレがどのようにして発生するかについては、いくつかの説
があります。そこで、藤井聡教授による「消費増税をする時期を
誤ると、なぜデフレが発生するか」について、以下に説明するこ
とにします。添付ファイルを見てください。
 消費税の税率を上げると、当然のことながら、消費が縮小しま
す。消費が縮小すると、物価は下落し、それに伴い企業業績は悪
化します。そのとき企業はどうするでしょうか。
 企業としては、企業業績悪化に伴い、コスト削減を図らざるを
得なくなり、当然従業員の給与もカットされます。これによって
国民はさらなる貧困化、困窮化し、消費はさらに落ち込むことに
なります。このようにデフレスパイラルが起きます。
 企業は、「投資」を控えるようになり、「攻め」ではなく「守
り」の姿勢が強くなります。企業が投資を控えるようになると、
投資を生業とする企業の業績が悪化し、それによって企業の投資
意欲はさらに悪化し、ここでもデフレスパイラルが発生します。
このようにして、「世帯」と「企業」の両方でデフレスパイラル
が起きるのです。そうすると、倒産する企業も出現し、その結果
労働者の失業も増えていきます。
 以上のまとめとして、藤井教授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 こうして、消費、物価、企業業績と投資、所得の全てが、互い
に循環的に影響を及ぼしあいながら同時に下落していくというの
が「デフレ不況」という経済現象なのである。
 そしてこのデフレ・スパイラルが進行していくプロセスの中で
政府においては財政を悪化させ、国民においては自殺者数が10
万人以上もの規模で「激増」したのである。そしてGDPは伸び
悩み、「衰退途上国」と化し、世界経済におけるGDPシェアが
転落していったのである。
 なお、以上の「デフレのメカニズム」の一つひとつのプロセス
はいずれも、単なる「理屈」や「イメージ」を並べ立てたものな
のでは決してない。いずれも、実証的なデータの裏付けのあるも
のばかりである。しかも、それらの「全て」が「1997年の消
費増税」こそが、デフレを導いた真犯人であることを雄弁に物語
っているのである。        ──藤井聡著の前掲書より
─────────────────────────────
 資本主義とは、企業の負債と投資拡大なしには、成長できない
経済モデルであるといえます。日本の場合、それが1990年の
バブルの崩壊によって行き詰まり、1996年までは、政府支出
を拡大し、国内の需要不足を補ったのです。ここまでは経済学の
セオリー通りであり、そのまま大胆に継続していけば、少なくと
もデフレにはなっていなかったはずです。
 しかし、日本は、そのとき米国から構造改革、すなわち、グロ
ーバリズムを迫られたのです。グローバリズムの目的は、「小さ
な政府」を目指すことであり、これは必然的に政府の規制や予算
を縮小することに繋がります。「緊縮財政」「規制緩和」「自由
貿易」の3つの政策を同時に推進するのがグローバリズムです。
 蔵相の経験の長い橋本首相は、政府支出をそのまま拡大する路
線がとれなかったのです。そして一貫して緊縮財政にのめり込み
1997年には最悪の消費増税を断行して、日本経済をデフレ化
させてしまったのです。 ──[消費税増税を考える/024]

≪画像および関連情報≫
 ●橋本龍太郎元首相の「悪」評価
  ───────────────────────────
   橋本龍太郎元首相が7月1日午後2時、多臓器不全のため
  入院先の東京・新宿の国立国際医療センターで、亡くなりま
  した。68歳でした。「50、60ははなたれ小僧、70、
  80は働き盛り、90になって迎えが来たら100まで待て
  と追い返せ」という言葉がある政治の世界では早すぎる死、
  ということになるでしょう。
   橋本氏といえば、ニックネームのハシリュウで知られ、自
  民党総裁時代には党本部に「龍ちゃんプリクラ」が設置され
  るなどの人気を博した人物。しかし、投資家の評価は決して
  芳しいものではありませんでした。それは、株価が如実に物
  語っています。
   日経平均株価はバブル景気の絶頂期1989年12月29
  日に、38915円87銭と史上最高値をつけました。しか
  しその後一転し、1991年2月から急落。1998年10
  月9日には、最高値から、実に67%の下落の12879円
  97銭となりました。この株価下落をよく見てみると、キッ
  カケに橋本氏が絡んでいるのです。
   橋本氏は80年代後半のバブル期には、大蔵大臣として不
  動産関連融資の総量規制を実施し、バブル崩壊の原因となり
  ました。総量規制とは、大蔵省(現財務省)が1990年4
  月から1991年末にかけて実施した、不動産向け貸出を抑
  制する規制のこと。不動産向け貸出額は激減し、それに伴っ
  て地価が大きく下落し始めたのです。長く続くバブル崩壊の
  始まりでした。         https://bit.ly/33wks0Y
  ───────────────────────────
 ●グラフ出典/──藤井聡著の前掲書より

消費増税がデフレを導くメカニズム.jpg
消費増税がデフレを導くメカニズム
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2019年11月11日

●「消費増税は国民の生命に直結する」(EJ第5125号)

 先週のEJ第5123号の続きです。消費税の税率を上げれば
税収は増えるはずです。しかし、実際はそうなっていない。19
97年4月の橋本内閣による消費税3%から5%の増税の場合、
その前後1年の1996年と1998年の国の総税収を比較する
と、次のようになっています。
─────────────────────────────
      1996年 ・・・・ 52・1兆円
      1998年 ・・・・ 49・4兆円
─────────────────────────────
 増税後、2・7兆円も税収が減少しています。なぜ、こんなこ
とになったのでしょうか。
 1980年代の後半から起こったバブル景気は、1991年か
ら1993年にかけて、高騰していた株価や地価が急落し、その
後、日本経済に負の影響が拡大していったのです。日本の経済成
長は停滞し、後に「失われた20年」といわれるようになる長い
トンネルに入ってしまったのです。
 そんなときに、橋本政権は、1997年に、前村山政権時代に
決まっていた3%から5%への消費増税を断行します。それだけ
でも経済にとって大ダメージであるのに、1998年に法人税を
37・5%〜34・5%に下げています。
 橋本政権がこの消費税の引き上げによる経済悪化が原因で退陣
すると、次の小渕内閣でも、1999年に34・5%に下げた法
人税をさらに30%まで下げています。つまり、消費税の増税直
後に7・5%も法人税を下げたことになります。国民との約束は
無視して増税するのに、財界との約束はきちんと果すのです。こ
れでは増税をしても税収が増えるはずがない。ちなみに2012
年のさらに4・5%の法人税の減税は、財務省に洗脳された民主
党の野田佳彦首相の下で行われています。
─────────────────────────────
 ◎1997年/消費税3%から5%に増税
  1998年/法人税37・5%から34・5%に引き下げ
  1999年/法人税34・5%から30・0%に引き下げ
  2012年/法人税30・0%から25・5%に引き下げ
─────────────────────────────
 この税収の減収がいかに大きかったかは、1997年を境とす
る赤字国債の増加によくあらわれています。添付ファイルを見て
ください。これは「赤字国債発行額の推移」を示しています。こ
れについての藤井聡教授の解説です。
─────────────────────────────
 1997年までは、増減しながらも「政府の借金」の金額は低
い水準に抑えられていた。1997年までの10年間の平均は、
3・1兆円というオーダーだった。ところが、1997年を境に
「政府の借金」はうなぎ登りに上昇。瞬く間に20兆円〜30兆
円の間をうろつく程の高い水準になってしまった。
 そして、その後の10年間の平均で、実に22・9兆円という
それまでよりも、約20兆円も高い水準になってしまったのであ
る。これは要するに、1997年を境に、日本経済が「デフレ不
況」に陥り、経済が「衰退」し、税収が大きく減ったことが原因
だ。                 ──藤井聡著/晶文社
         『「10%消費税」が日本経済を破壊する』
─────────────────────────────
 要するに藤井教授によると、今やGDPの2倍を超える政府の
借金の原因が、1997年4月に実施された3%から5%への消
費税の増税にあったというのです。バブルが崩壊して、デフレに
向かいつつあった時期において、それまでの勢いこそ失ったもの
の、そこそこ成長できていた日本経済に、壊滅的なダメージを与
えて、脱出困難なデフレに追い込んだのは、1997年の消費増
税だったのです。
 デフレは、経済政策において、よほどのミスを積み重ねない限
り、めったに陥ることはない経済現象です。その証拠に、先進国
はもちろんのこと、他の国においても、デフレに苦しんでいるの
は日本だけです。それよりもっと深刻なことは、デフレに陥った
真の原因が消費増税にあることが、為政者がまるでわかっていな
いことです。
 藤井教授は、デフレがどれほど悲惨なことかについて、次の説
明をしています。それは、自殺者数の推移との関連です。
─────────────────────────────
 消費増税直前の自殺者数が約2万2000人であったところ、
消費増税でそれが一気に3万3000人に拡大。自殺者数が実に
1万人以上も増大したのであり、その増大がまさに、消費増税に
よってデフレ化した1997年の直後に生じているのである。
 この1997年の異様な自殺者数の激増は、この年に何か決定
的な出来事が我が国で起こつたことを雄弁に物語っている。それ
こそ、日本の「デフレ不況への突入」なのであり、そしてそれを
導いた「消費増税」だったのである。
 ◎1997年前後の自殺者数の推移
  1997年以前10年平均自殺者数 ・・ 22418人
  1997年以後10年平均自殺者数 ・・ 32560人
                 ──藤井聡著の前掲書より
─────────────────────────────
 数字で見る限り、1997年を境に自殺者が平均で1万人以上
増えています。つまり、藤井教授がいいたいことは「10年間で
10万人以上もの人々が、消費税の増税によって自殺に追い込ま
れている」という深刻な事実です。
 このように、国の経済政策というものは、10万人単位の国民
の生命に直結するきわめて重大な影響をもたらすものであり、間
違えたでは済まないのです。藤井教授が前掲書を書こうと考えた
のは、このことが根本的な動機であると激白しています。政府は
今後も消費税を20%ぐらいまで上げようとしています。狂気の
沙汰です。       ──[消費税増税を考える/023]

≪画像および関連情報≫
 ●『「10%消費税」が日本経済を破壊する』書評
  ───────────────────────────
   2017年にメディアが報じた「戦後2番目に長い経済成
  長(いざなぎ景気)超えの好景気」には違和感を覚えた人も
  多いだろう。庶民には生活が良くなったとの実感がまったく
  ないからだ。
   17年末に、朝日新聞が報じた世論調査でも、景気回復を
  「実感していない」が82%に上っている。その庶民感覚が
  間違っていないことを著者の藤井聡教授がマクロデータを基
  に明らかにする。
   日本経済が、いまだデフレ経済下にあること、国内企業の
  99%を占める中小企業の景気は年々悪化し続けていること
  サラリーマンの給与が下がったままであること、その元凶が
  消費税増税にあったこと。
   1997年に消費税が3%から5%に上がった。消費増税
  後にデフレ不況に突入し、それまで22000人程度だった
  年間の自殺者が33000人に増え、10年以上も高止まり
  し続けたことが、著者が本書を出版することを企図した根本
  的な動機だという。デフレ化の原因が同年の「アジア通貨危
  機」ではないことも検証されている。17年の総選挙の時に
  「10%への消費増税」を公約に掲げる自由民主党が圧倒的
  多数を獲得したことで、消費増税を「国民世論が支持した」
  ことになってしまい、19年の秋に消費増税をすることが当
  たり前の空気ができてしまった。 https://bit.ly/2K5YA53
  ───────────────────────────

「赤字国債発行額」.jpg
「赤字国債発行額」
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2019年11月08日

●「97年増税がデフレの真因である」(EJ第5124号)

 財務官僚、それも超エリートのキャリアにとって、3%から5
%への消費増税がデフレの真因といわれるのは、きわめて都合の
悪いことです。自分たちの夢の老後の計画がオジャンになってし
まうからです。彼らは、やっと10%になった消費税をここ数年
間のうちに、20%程度まで税率を引き上げることをもくろんで
います。国のためではなく、自分たちのためです。
 私は安倍晋三首相の政策スタンスに必ずしも賛成ではありませ
んが、ひとつだけ評価していたとがあります。それは、財務省の
いいなりにならず、既に法律化していた「社会保障と税の一体改
革」、つまり増税の先延ばしを図ったことです。それどころか首
相は一時は「8%を5%に下げる案」も検討したともいわれてい
ます。しかし安倍首相は、結果として2回の税率の引き上げを行
い、5%から10%に消費税率を倍増させてしまっています。
 経済アナリストの森永卓郎氏によると、なかなか増税しようと
しない安倍首相に対し、財務省は安倍政権の倒閣運動まで考えた
というのです。
─────────────────────────────
 私は、そもそも森友学園の問題は、財務省が安倍政権を追い
 詰めるためにやった自作自演の大芝居だったと考えている。
            ──森永卓郎著/角川新書K−241
            『なぜ日本だけが成長できないのか』
─────────────────────────────
 仰天の新説ですが、これについては、真偽のほどはわかりませ
んが、改めて取り上げるつもりです。当時財務省は、なかなか増
税しない安倍政権にいらだちを強めており、倒閣も視野に入れて
いたといわれています。
 さて、昨日のEJの巻末の「関連情報」でご紹介した財政制度
等審議会(財政審)のロイターニュースによるレポートを取り上
げます。この財政審は、民主党の鳩山政権時代の2010年5月
18日に行われています。ロイターニュースの伊藤純夫記者は、
この財政審の分科会において、井堀東大教授のコメントを次のよ
うに紹介しています。
─────────────────────────────
 18日の財政審・分科会では、井堀利宏東大教授が97年4月
の消費税率引き上げ(3%から5%に)が景気に与えた影響に関
連して、1)経済への影響をネットで見た場合、消費税増税より
も不良債権処理問題やアジア通貨危機の方が大きかった、2)増
税は将来の減税と等価であれば経済に中立、3)増税の使い道も
大きな問題−−などと説明した。
 当時の実質国内総生産(GDP)は消費税率引き上げ後の97
年4〜9月、98年1〜6月にマイナスに落ち込んだが、大串政
務官によると会合では、「消費税率引き上げが主たるマイナス要
因ではなかったとの議論が多かった」とし、不良債権処理問題や
アジア通貨危機による輸出の落ち込みが主因などとの見解が委員
の中から示されたという。      https://bit.ly/2NeRX2g
─────────────────────────────
 そもそも今回の消費増税の実現は、当時の鳩山政権において、
副総理兼財務・経済財政担当相を務めていた菅直人氏が、財務省
に完全に洗脳され、「お金の使い道を間違わなければ、増税して
も景気は良くなる」というわけのわからない言説を広めるように
なったことが原因にあります。
 そもそも財務省が主管する財政審において、消費増税の影響の
深刻さに言及する意見が出るはずがありません。財務省は何が何
でも消費増税を実現したいからです。そのため、財務省寄りの井
堀利宏東大教授は、増税後の景気の落ち込みの原因について「消
費税増税よりも、不良債権処理問題やアジア通貨危機の方が大き
かった」ことを強調しているのです。
 この考え方について、添付ファイルの上のグラフを見ていただ
きたいのです。このグラフは、藤井聡教授の本に掲載されていた
ものですが、これについて藤井教授は次のように述べています。
─────────────────────────────
 この図は、日本からの総輸出額の推移を示しているが、アジア
通貨危機が起こった1997年の直後、輸出はほとんど変わらず
「横ばい」となっている。これは、リーマンショック時の激しい
下落に比べれば雲泥の差があることがお分かりいただけよう。こ
の点から考えても、アジア通貨危機がデフレとなった原因である
という結論は引き出しようがないのである。
                   ──藤井聡著/晶文社
         『「10%消費税」が日本経済を破壊する』
─────────────────────────────
 もうひとつ専門家の間では、「日本がデフレ不況なのは、人口
減少が原因である」という説が話題になっています。この人口減
少説は、人口が減ると、モノやサービスを買う人が少なくなり、
経済が低迷し、少しずつデフレになっていくという考え方です。
 これについて、藤井聡教授は、日米欧の人口増加率のグラフを
示して、次のように反論しています。添付ファイルの下のグラフ
を見てください。
─────────────────────────────
 これは「日米欧」の各国の1995年から2017年にかけて
人口増加率を示したものだ。ご覧のように、我が国日本より人口
の減った国が実に15ヶ国もある。人口が最も減少している国は
リトアニアだが、その減少率は実に22%。人口減少がデフレの
原因であるのなら凄ましいデフレになり、GDPは大きく下落し
ている筈だ。しかしリトアニアの名目成長率は何と606%。経
済規模は実に7倍まで拡大しているわけだ。(中略)つまり「人
口が減れば、デフレになって経済が衰退する」という話は、事実
から完全にかけ離れた単なる「デマ」なのだ。
                 ──藤井聡著の前掲書より
─────────────────────────────
            ──[消費税増税を考える/022]

≪画像および関連情報≫
 ●「デフレの正体」信じる愚劣/高橋洋一氏
  ───────────────────────────
   国債格付けばかりか、経済そのものにも「疎い」菅直人首
  相が2011年1月10日、東京・八重洲の書店で、日本政
  策投資銀行参事役、藻谷浩介氏の『デフレの正体』(角川新
  書)など7冊を購入したというニュースがあった。やはり首
  相の経済ブレーンがしっかりしていないのだなと思わざるを
  えない。
   同書はかなり好評であり、公称50万部突破と、売れてい
  る。「そうだったのか」のわかりやすい解説で定評のある池
  上彰氏も「藻谷さんは、労働力人口が減るということは、活
  発な消費活動をする若い人が激減するのだから、需要不足に
  なり、デフレになるのは当然だ、と指摘します。(中略)目
  からウロコでした」(「文藝春秋」2010年8月号)と絶
  賛した。            https://bit.ly/32fdzjo
  ───────────────────────────
 ●グラフ出典:──藤井聡著/晶文社/『「10%消費税」が
  日本経済を破壊する

デフレの真因のグラフ.jpg
デフレの真因のグラフ
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2019年11月07日

●「なぜ1997年が問題になるのか」(EJ第5123号)

 少し固い話になりますが、消費増税がいかにマイナスかを理解
するうえでの前提知識になります。GDP(国内総生産)には、
それを支える3要素があります。次の3つです。
─────────────────────────────
   GDP=「民需」+「政府支出」+「貿易収支」
─────────────────────────────
 このなかの「民需」に注目していただきたいのです。「民需」
とは次の3つの要素の合計です。
─────────────────────────────
  「民需」=「個人消費」+「住宅投資」+「設備投資」
─────────────────────────────
 日本のGDPの構成要素は、個人消費が6割を占めています。
個人消費とは、個人(家計)が、物やサービスの購入に充てた金
額の総計です。しかし、住宅への投資は、別区分として扱われま
す。この個人消費が伸びないと、景気の回復は望めないのです。
─────────────────────────────
      個人消費がアップ ・・・ 景気回復
      個人消費がダウン ・・・ 景気悪化
─────────────────────────────
 最新の個人消費(消費支出)を日本経済新聞の「経済指標ダッ
シュボード」でチェックすると、最新の数字は、2019年8月
現在で「1%」です。これは、「2人以上世帯、実質前年比」で
す。あまりピリッといない数字です。
 個人消費(消費支出)は、平均所得によって左右されます。平
均所得が多くなればなるほど、個人消費は増加し、景気を押し上
げます。こんなことは小学生でもわかる理屈です。
 添付ファイルの上のグラフを見てください。これは、一世帯当
たりの平均所得金額の推移をあらわしています。90年代中盤ま
では所得は増加し続けていたのですが、1997年後は一貫して
右肩下がりで下落し続けています。1993年時点で平均所得は
664万円であったものが、2012年には、529万円まで下
がってしまっています。90年代のピーク時よりも135万円も
下落し、その分日本人は貧乏になっているのです。これについて
藤井聡教授は自著で、次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本のGDPの停滞、衰退は、一軒一軒の世帯の視点から言え
ば、こうした世帯収入の下落を意味しているのである。ちなみに
万一日本経済が衰退せず、世帯の所得がピーク時から(さらに成
長せずとも)下落していなかった場合と実際の所得の推移とを比
較すれば、平均的な世帯は90年代からの約20年間で、約15
00万円もの所得をさらに得ていたという計算となる。
 逆に言うなら、日本がデフレになり、「衰退」しはじめたこと
で、日本の平均的な世帯は、約1500万円ものカネを失ってし
まったのである。それだけのカネがあれば、日本の各世帯は今よ
りも、どれだけ豊かな暮らしが出来たのだろうか。誠に残念な話
であるが、それこそ日本が「衰退途上国」と化してしまったこと
による、それぞれの世帯に対する「リアルな被害」の内実なので
ある。                ──藤井聡著/晶文社
         『「10%消費税」が日本経済を破壊する』
─────────────────────────────
 「消費税は消費に対する罰金である」といわれます。消費をす
るたびに罰金を科せられるのです。タバコ税は、タバコを吸う人
に対する罰金です。実際に、タバコ税を上げると、タバコの消費
が減少します。タバコは健康にとってよくない結果をもたらすの
で、タバコ税はいくら上げてもよいとさえいわれます。
 したがって、消費税を増税すれば当然消費が減少します。GD
P全体の約60%が個人消費ですから、消費税を上げればGDP
も減少します。今回の場合は、実質賃金が大幅にダウンしてきて
いるのに消費税を上げたのですから、当然消費に回るお金が少な
くなり、さらに個人消費を冷え込ませ、景気が悪化します。当た
り前のことが起きているのです。
 消費増税でもうひとつ指摘すべきことがあります。消費税を上
げれば、税収は増えるはずです。しかし、実際には税収は減少し
ています。添付ファイルの、下のグラフを見てください。このグ
ラフは、政府の税収の推移を示しています。増税直前には一時的
に税収は増加しているものの、増税直後の1998年には、直前
の52・1兆円から、49・4兆円まで、2・7兆円もの税収が
減少しています。その後、実際に消費税が入ってきて一時的に税
収は回復しますが、後は一貫して下がっています。どうしてこう
なるのでしょうか。
 税収を増やすために実施したはずの消費増税が、税収を下げて
いるのは、増税によってさらに景気が悪化し、日本経済全体が停
滞してデフレ化し、その結果、法人税や所得税などがすべて縮小
してしまった結果です。そのため、増税からわずか6年で、総税
収は10兆円以上も縮小してしまっています。
 これについて、藤井聡教授は、エコノミストである安達誠司氏
の次の発言を引用しています。
─────────────────────────────
 圧倒的多数の「専門家」は夏場に発生した「アジア通貨危機」
の影響の方がはるかに大きいと結論づけており、アジア通貨危機
がなければ、1997年の消費増税も景気に影響を与えなかった
だろうとと考えている。      ──藤井聡著の前掲書より
─────────────────────────────
 この説は一見正しいように見えます。しかし、アジア通貨危機
は、少なくとも日本にとっては一過性のものです。したがって、
時間の経過によって、やがては回復基調に戻るものです。それに
消費増税が重なったことが問題なのです。つまり、増税するタイ
ミングが最悪だったといえます。これについては、さらに問題を
掘り下げていくことにします。
            ──[消費税増税を考える/021]

≪画像および関連情報≫
 ●97年の消費税上げ、景気のマイナス要因ではない=財政審
  ───────────────────────────
  [東京 18日 ロイター] 財政制度等審議会(財務相の
  諮問機関、会長:吉川洋東大教授)の財政制度分科会は20
  10年5月18日、97年4月の消費税率引き上げが景気に
  与えた影響について議論を行った。会合後に会見した大串博
  志政務官によると、当時の消費税率引き上げは景気に対して
  主たるマイナス要因ではなかったとする意見が大勢を占め、
  成長率の低下について不良債権処理問題やアジア通貨危機の
  影響を指摘する声が多かったという。菅直人副総理兼財務・
  経済財政担当相は「お金の使い道を間違わなければ増税して
  も景気は良くなる」と指摘しており、財政審の見解はこうし
  た菅財務相の考えを追認した格好だ。
                  https://bit.ly/2JLmORW
  ───────────────────────────

1997年を境に起きた変化.jpg
1997年を境に起きた変化


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2019年11月06日

●「経済に関わる数値にはウソが多い」(EJ第5122号)

 安倍政権の問題点は、経済に関わる数値にウソというか、すり
かえというか、ごまかしというものがあることです。このことは
消費税増税にも関係があるので、いくつもありますが、分かりや
すいものを2つご紹介します。
─────────────────────────────
 安倍政権6年間(2012〜18年)で384万人の雇用が
 増加している。これはアベノミクスの成果である。
                      ──安倍首相
─────────────────────────────
 この数字に違いはないのですが、その内訳が問題です。384
万人増の内訳は次のようになっています。
─────────────────────────────
     ◎384万人増の内訳
      65歳以上 ・・・ 266万人増
     25〜64歳 ・・・  28万人増
     15〜24歳 ・・・  90万人増
     ◎ 90万人増の内訳
     高校生・大学生など   74万人増
           その他   16万人増
─────────────────────────────
 安倍政権の間に、雇用が384万人増えたといっても、その約
70%の266万人は65歳以上の高齢者です。老後2000万
円問題などもあり、年金が少ないので、働かざるを得ない高齢者
が多いのです。
 また、90万人増えたといっても、その約80%が高校生・大
学生であり、彼らは高い学費のために働かざるを得ない状況に追
い込まれているのです。15〜64歳の生産年齢人口は約44万
人しか増えていません。内訳を語らず、384万人の就業者増を
アベノミクスの成果と強調するのは問題があります。
 まだあります。安倍政権は、2015年10月に、日本の国民
経済の「生産」「支出」「所得」の金額の合計、名目GDPにお
いて、「2020年までに600兆円を達成する」ことを政権の
目標に掲げています。実はこれにはからくりがあるのです。GD
Pの統計手法を変更したからです。
─────────────────────────────
       平成17年基準/1993SNA
       平成23年基準/2008SNA
            SNA=System of National Accounts
─────────────────────────────
 今までの計算方法は「平成17年基準」ですが、これを「平成
23年基準」に変更すると、「研究開発投資」がGDPに乗って
くるのです。諸外国では、既に2008SNAを使用しているの
で、日本が2008SNAに変更すること自体は、当然のことで
すが、安倍政権はそのことを国民に周知させる必要があります。
 2008SNAに変更すると、GDPは、約30兆円近く増加
します。これがあったからこそ、安倍政権は、名目GDP600
兆達成目標を掲げたものと思われます。安倍政権は必ずともそれ
を隠しているわけではありませんが、そのことを明らかにしたう
えで、名目GDP600兆円を打ち出してはいないのです。多く
の国民はその事実を知らないでしょう。
 これについて、経世論研究所所長の三橋貴明氏は、次のように
安倍政権を批判しています。
─────────────────────────────
 (統計手法を変更するのであれば)当然の話として「名目GD
P600兆円目標」は、「630兆円」にアップデートしなけれ
ばならないはずだ。ところが、安倍政権は統計基準変更によるG
DPの拡大があったにもかかわらず、目標金額は「600兆円」
のままで据え置きした。「統計詐欺」、以外に何と表現するべき
なのか、筆者には言葉が見つからない。
 本書では紙幅の関係で取りあげることはできないが、安倍政権
及び財務省は様々な「統計マジック」を駆使し、あるいは「統計
詐欺」に手を染めているのだ。具体的には、厚生労働省の毎月勤
労統計調査の詐欺的なサンプル変更、公共事業の当初予算に社会
資本特別会計を含めることによる水増し、エンゲル係数を低く見
せるための「修正エンゲル係数」の公表、2014年4月以降の
景気後退を「隠蔽」した上で、「いざなぎ超えの景気拡大」と発
表するなど、枚挙にいとまがない。      ──三橋貴明著
            『米中覇権戦争/残酷な未来透視図/
    世界を救う最後のトリデは日本だった!』/ビジネス社
─────────────────────────────
 さて、ここから政府に騙されることなく、消費増税の影響を見
ていくことにします。添付ファイルは、日本の実質賃金の推移を
示しています。矢印で示してあるように、一貫して右肩下がりで
落ち込んでいます。
 その頂点を探ると、1997年です。いうまでもなく1997
年は、橋本政権によって、3%から5%への消費増税が行われた
年です。このことは、後で述べますが、このときの増税は、時期
も、タイミングも最悪のときに行われています。
 この増税によって、年々実質賃金が下がり、国民はそれに応じ
て消費できなくなるので、当然実質消費が減少します。そうする
と、需要が縮小し、それによって生産性向上が不要になるので、
実質賃金がまた下がるという悪循環で、どんどん実質消費がダウ
ンしているのです。
 安倍政権は、このような最悪の状況下で、2014年には消費
税の税率を5%から8%に引き上げ、実質賃金のさらなる落ち込
みを招いています。安倍政権は、経団連に対して、賃金引き上げ
の呼びかけをしていますが、そんなことをしても実質賃金は上昇
しないのです。そして、2019年10月、安倍政権は消費税率
の8%をさらに10%に引き上げたのです。まさに狂気の振る舞
いといえます。     ──[消費税増税を考える/020]

≪画像および関連情報≫
 ●いずれ議論不可避 消費税の「段階的増税論」とは
  ───────────────────────────
   10月1日、消費税率が、8%から10%へ引き上げられ
  た。10%超への追加増税については、安倍晋三首相が「今
  後10年、必要ない」と述べ“封印”したが、高齢者の増加
  で医療、介護など社会保障費が膨脹しており、「議論はいず
  れ避けられない」との見方が多い。仮に追加増税の議論が始
  まった場合、アイデアの一つとしてささやかれているのが、
  税率を小刻みに引き上げる“段階的増税論”だ。
   「現時点で(消費税率を8%へ引き上げた)平成26年の
  ような大きな駆け込み需要はみられない」。安倍首相は今月
  15日の参院予算委員会で、こう答弁した。政府は10%へ
  の増税にあたり、令和元年度当初予算に盛り込んだ2兆円超
  の「臨時・特別の措置」のほか、住宅ローン減税の拡充、食
  品などの税率を8%へ据え置く軽減税率の導入など、合計6
  兆6000億円分の景気底上げ策を打ち出した。
   足元の消費動向が安倍首相の答弁通りなら、政府の打ち出
  した対策が奏功したことになる。今後、米中貿易摩擦などに
  よる世界経済減速の影響も見極める必要があるが、景気が腰
  折れするような事態にならなければ、今回の消費税増税は、
  “成功”といえる。財務省にとっても、今後、消費税増税を
  続けていく突破口になりそうだ。 https://bit.ly/2N7F5uC
  ───────────────────────────
 ●グラフ出典──三橋貴明著「米中覇権戦争/残酷な未来透視
  図/世界を救う最後のトリデは日本だった!」/ビジネス社

日本の実質賃金の推移(現金給与総額).jpg
日本の実質賃金の推移(現金給与総額)
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2019年11月05日

●「1997年からデフレ経済に突入」(EJ第5121号)

 安倍首相がアベノミクスの成果について誇らしげに語るとき、
いつも決まっていう言葉があります。
─────────────────────────────
 アベノミクスによって、日本経済は、もはやデフレとはいえ
 ない状況になっている。          ──安倍首相
─────────────────────────────
 しかし、2017年以降、安倍首相は、この言葉を口にしなく
なっています。それもそのはず、添付ファイルのグラフを見てい
ただくとわかるように、GDPデフレーターが、2017年から
マイナスになっており、デフレに逆戻りしているからです。
 ところで、「GDPデフレーター」とは何でしょうか。
 GDPデフレーターについて知る必要があります。経済学では
GDPデフレーターを次のように定義しています。
─────────────────────────────
 GDPデフレーターとは、ある国(地域)の名目GDPから
 実質GDPを算出するために用いられる物価指数である。
   名目GDP ・・・ 物価変動の影響を排除していない
   実質GDP ・・・ 物価変動の影響を排除済みである
                    ──ウィキペディア
                  https://bit.ly/34kHyHZ
─────────────────────────────
 したがって、GDPデフレーターの増加率が、プラスであれば
インフレーション、マイナスであればデフレーションとみなせる
のです。つまり、日本経済は2017年からデフレに逆戻りして
います。IMFや内閣府は、2年以上の継続的な物価下落をデフ
レと定義しています。
 確かに、2013年から民主党の野田政権から政権を引き継い
だ安倍政権は、アベノミクスによって、2014年から2016
年までは、GDPデフレーターはプラスになっており、デフレか
ら一応脱却したといえますが、2017年から再デフレに突入し
てしまっています。「もはやデフレとはいえない」とは、さすが
にいえない状況です。
 ところで、日本の現在のGDPは、約500兆円ですが、19
80年時点では250兆円しかなかったのです。約40年かかっ
てやっと倍増したことになります。そこで、日本の名目GDPの
推移を確認することにします。グラフにすることができないので
数字であらわすことにします。
 まず、1980年〜1996年までを2年ごとの数字を並べて
みると、次のようになります。
─────────────────────────────
  ◎1980〜1996年名目GDP推移  増加率
   1980年 ・・・ 250兆円
   1982年 ・・・ 282兆円 112・8%
   1984年 ・・・ 313兆円 119・9%
   1986年 ・・・ 350兆円 111・8%
   1988年 ・・・ 393兆円 112・2%
   1990年 ・・・ 453兆円 115・2%
   1992年 ・・・ 495兆円 108・8%
   1994年 ・・・ 501兆円 101・2%
   1996年 ・・・ 525兆円 104・7%
                  https://bit.ly/2Ny7pp3
─────────────────────────────
 これを見ると何のことはない。1980年から14年後に日本
の名目GDPは500兆円に達しています。倍増です。増加率は
すべて100%以上で順調に伸びています。
 しかし、1998年に入ると、状況が一変します。1998年
〜2012年までは、次のようになっています。
─────────────────────────────
  ◎1998〜2012年名目GDP推移  増加率
   1998年 ・・・ 527兆円 100・3%
   2000年 ・・・ 526兆円  99・8%
   2002年 ・・・ 515兆円  97・9%
   2004年 ・・・ 520兆円 100・9%
   2006年 ・・・ 526兆円 101・1%
   2008年 ・・・ 520兆円  98・8%
   2010年 ・・・ 500兆円  96・1%
   2012年 ・・・ 494兆円  98・8%
                  https://bit.ly/2Ny7pp3
─────────────────────────────
 増加率を見るとすぐわかるように、明らかに減速しています。
 藤井聡教授は、この間の名目GDPの伸びについて、次の指摘
をしています。
─────────────────────────────
 1997年以降、名目GDP、つまり、私達の所得の総額が縮
小する局面に入った。それ以後、米国バブルやリーマンショック
震災、そして安倍内閣下のアベノミクスなどの影響を受けて上下
してはいるものの、1997年以降、かつてのような力強い成長
は見られなくなった。そして、この1997年という時こそ、我
が国が3%から5%へと消費税を増税させた年なのだ。(中略)
 我が国は、1997年に「デフレ経済」に突入し、それ以後、
一向にそのデフレ状況から脱却できなくなったのである。
                   ──藤井聡著/晶文社
         『「10%消費税」が日本経済を破壊する』
─────────────────────────────
 1990年から日本経済は低成長期に入ったといわれますが、
1996年まではそれなりに成長してきています。しかし、19
97年以降は、上記の数値でも明らかなように、確かに成長しに
くくなっています。しかし、これだけのデータでは、原因が消費
増税とは断定できないと思います。他のデータも当ってみる必要
があります。      ──[消費税増税を考える/019]

≪画像および関連情報≫
 ●山一や拓銀の破綻から20年を経て想うこと
  ───────────────────────────
   今年(2017年)の秋で、1997年11月に相次いだ
  北海道拓殖銀行(拓銀)や山一証券などの経営破綻から20
  年が過ぎた。その当時、筆者は霞が関から松江財務事務所に
  派遣され単身赴任を始めたばかりであったが、「社員は悪く
  ありません」で記憶に残る山一社長の号泣記者会見の模様な
  ど、当時の状況を今も鮮明に覚えている。言うまでもないが
  拓銀は都市銀行の一角を占め、山一も四大証券の一角を占め
  る超名門企業であるとともに、「ツウ・ビッグ・ツウ・フェ
  イル」が典型的に当てはまる巨大金融機関でもあった。この
  11月は、三洋証券の破綻で始まったが、拓銀や山一までも
  が破綻したと聞いて、金融の世界がメルトダウンして行くよ
  うなうすら寒さを覚えたものである。また、この1997年
  であるが、7月にはタイを起点とする「アジア通貨危機」が
  発生し、日経平均株価もまたまた再暴落して行く中での金融
  危機でもあった。
   それから20年が過ぎた今、筆者が思うことはこの97年
  の金融危機が1980年代後半の資産価格(地価と株価)の
  高騰が紛れもなく「バブル」であったことを人々に自覚させ
  たことである。それと共に、90年代初頭からの資産価格の
  下落がバブルの崩壊であることを思い知らせたのである。
                  https://bit.ly/2oFXUvJ
  ───────────────────────────
 ●グラフ出典──三橋貴明著「米中覇権戦争/残酷な未来透視
  図/世界を救う最後のトリデは日本だった!」/ビジネス社


日本のGDP成長率とGDPデフレータ(_対前年比).jpg
日本のGDP成長率とGDPデフレータ(_対前年比)
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2019年11月01日

●「日本はなぜ長期デフレに陥ったか」(EJ第5120号)

 現在、米国は、世界最強の「軍事力」を保有しています。しか
し、圧倒的な軍事力は相手側を威圧し、外交などでは有利に働き
ますが、実際にそれを行使することは、大きなデメリットも伴う
ので、簡単にはできません。そこで、米国は「経済力」という武
器を多用しています。現在、トランプ米政権が中国に仕掛けてい
る「関税戦争」がまさにそれです。米国にこれを仕掛けられると
どこの国でも、まず勝ち目はありません。
 「プラザ合意」が結ばれるまで、米国にとって日本は、その経
済力において、脅威的な存在だったといえます。現在の中国と同
じです。何しろ、安いコストで優れた製品を製造し、怒涛のよう
に輸出してくるからです。これに歯止めをかけるため米国は「プ
ラザ合意」による経済戦争を日本に仕掛けてきたのです。まさに
問答無用であり、日本はそれを拒否できなかったのです。
 1985年のプラザ合意によって、「1ドル=240円」だっ
た対ドル為替レートは、2年後の1987年末には、「1ドル=
120円」の超円高になっています。これは、日本から輸出する
製品に対して、一律100%の関税をかけるのと同じ影響を日本
にもたらしたといえます。
 あまり知られていないことですが、終戦後の沖縄で日本はプラ
ザ合意と同じような体験をさせられています。それは、1946
年4月に、米軍が発行する「B円」という軍票が沖縄での公式通
貨になったことです。はじめのうちはB円と日本円は等価の扱い
でしたが、その2年後の1948年7月には日本円の使用が禁止
され、沖縄で使える通貨はB円だけになっています。
 そして突然1950年4月から、「1B円=3円」に切り上げ
が行われたのです。これは、米軍が日本から資材などを輸入する
さいのコストを下げるのが、狙いだったと思われます。
 1958年にB円は廃止され、沖縄ではドルが使われるように
なりましたが、この8年間の「B円高」によって、沖縄の製造業
は国際競争力を失い、壊滅状態になります。現在でも、沖縄の製
造業は、他の地域に比べると、きわめて脆弱であり、産業全体の
GDPに占める製造業の割合は、全国平均の20・8%に対して
沖縄は4・9%程度です。通貨高の影響はとても大きいのです。
 このプラザ合意による超円高により、当然のことながら、日本
の輸出産業は、大きなダメージを受け、日本経済は深刻な景気後
退に突入します。政府と日銀は、この景気後退を食い止めるため
大規模な財政出動を行い、それに大胆な金融緩和を重ねる経済政
策を展開します。しかし、これが後になって、巨大なバブルを発
生させる原因になったといわれます。
 日銀は、そのとき「5・0%」だった公定歩合を1986年中
に4回も連続して下げています。
─────────────────────────────
     1986年 1月 ・・・・・ 4・5%
           3月 ・・・・・ 4・0%
           4月 ・・・・・ 3・5%
          11月 ・・・・・ 3・0%
     1987年 2月 ・・・・・ 2・5%
─────────────────────────────
 しかし、経済アナリストの森永卓郎氏は、バブルを発生させた
真の原因は、日銀の「窓口指導」にあることを指摘して次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 日銀は、それぞれの銀行ごとに貸し出しの伸び率の上限を指示
する窓口指導をずっと行ってきた。バブル期には、窓口指導は表
向き廃止されたことになっていたが、現実には続いていた。銀行
は窓口指導で示された融資の伸び率を何が何でも達成しなければ
ならない。万が一達成できないと、翌年の伸び率を減らされてし
まうからだ。役人が予算を使い切ろうとするのと、同じ構造だ。
ところが、いくら融資を増やしたくても、円高不況で融資を受け
たいという資金ニーズがない。
 そこで、銀行がのめり込んでいったのが、不動産融資だった。
表向き、銀行は、不動産投機のための資金を貸してはならないこ
とになっている。しかし、体裁を整えることは難しいことではな
い。銀行は、不動産投機をビジネスに偽装して、不動産融資を拡
大していったのだ。不動産市場に投機資金が大量流入するのだか
ら、当然、不動産価格は、急上昇していくことになった。しかし
そのことは銀行にとって願ってもない変化だった。地価の上昇に
よって、不動産投機への融資が焦げ付くことがなかったからだ。
            ──森永卓郎著/角川新書K−241
            『なぜ日本だけが成長できないのか』
─────────────────────────────
 森永氏によると、バブルを発生させた犯人は、一応大蔵省と日
銀であるとしていますが、そのバックには“本当の犯人”として
の米国の存在を指摘しています。それは「前川レポート」と呼ば
れる日本としての構造改革レポートによって明らかであるとし、
次のように結論づけています。
─────────────────────────────
 (米国の意図は)プラザ合意によって日本を超円高に追い込み
円高不況に陥った日本に、景気対策としての大規模公共事業を実
施させる。さらに「海外資本による投資環境」という名の日本企
業の売却環境を整えさせる。私は、もうこの時点で、米国は、日
本経済の乗っ取り計画をきちんと整えていたのではないかと考え
ている。            ──森永卓郎著の前掲書より
─────────────────────────────
 このようにして発生したバブルの崩壊によって、日本経済は深
刻なデフレに陥り、その後「失われた30年」といわれる経済成
長しない長いトンネルに入ってしまうのです。そして日本経済は
まだその長いトンネルから、完全に抜け出せないでいます。経済
政策のどこが間違ったのでしょうか。
            ──[消費税増税を考える/018]

≪画像および関連情報≫
 ●「1・57ショック」を打ち消した「バブル崩壊」
  ───────────────────────────
   エコノミストの立場から平成という時代を考える場合、振
  り返ってみて非常に重要な意味があったのが、平成元年(1
  989年)の日本の合計特殊出生率が、午(ひのえうま)の
  昭和41(1966年)の1・58を下回り、1・57まで
  低下していた「1・57ショック」である。
   平成2年(1990年)6月に人口動態統計から明らかに
  なった。人口減・少子高齢化が進む厳しい時代に突入してい
  く日本の将来像が、この時点で人々の知るところとなったわ
  けで、政府が危機感をテコにしながら人口対策を強力に推進
  していれば、現在の日本の経済および社会の姿は、良い方向
  で大きく違っていたはずである。
   ところが、平成元年の年末(終値3万8915・87円)
  をピークに、日経平均株価は急落した。さらに、不動産価格
  も大きく下落するという巨大バブル崩壊の衝撃によって、日
  本経済は暗くて長いトンネルに入ってしまった。大規模な公
  的資金の投入などによって銀行の不良債権問題への対処が進
  み、金融システムにまつわる不安感がなくなるまでに、相当
  な時間が必要だった。日本経済の「血液循環」を早急に回復
  させることが経済政策の焦点になり続ける間、人口の問題が
  顧みられる機会は大きく減り、長い時間が過ぎ去ってしまっ
  た。観光客誘致・少子化対策・女性や高齢者の活躍推進とい
  うメニューだけでは、人口面からの日本経済の「地盤沈下」
  を食い止めるのは、物理的にもはや困難である。
          ──上野泰也氏 https://bit.ly/32ZFhSf
  ───────────────────────────

森永卓郎氏.jpg
森永卓郎氏



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