2017年09月25日

●「IT技術を習得することの必要性」(EJ第4611号)

 このところ新聞を見ると、AI(人工知能)やビットコイン関
連の記事が載らない日がなくなっています。これらに関連して、
IoT、フィンテック(Fintech) 、量子コンピューターなどの
記事も多くなってきています。
 日本経済新聞では、これらのICT関連技術について、連載囲
み記事を掲載し、その解説に努めています。それぞれに詳しい解
説が必要だからです。ビットコインの連載に関しては、既に何回
も取上げていますが、最近はそれに加えて、「ビットコイン狂騒
曲」のタイトルで、9月19日から23日まで、『迫真』で5回
にわたり連載が行われています。
 EJでもビットコインを取り上げています。2014年9月か
ら11月まで53回連載しています。ところで2014年といえ
ば、2月23日にビットコインの取引所での一つであるマウント
ゴックスが倒産しています。
─────────────────────────────
 2014年 9月 1日付、EJ第3866号
      〜2014年11月18日付、EJ第3918号
                  http://bit.ly/1wXUpx7
─────────────────────────────
 当時、多くの人は「マウントゴックスの倒産=ビットコインの
破綻」と考えており、その誤解を解くのが、EJ執筆のひとつの
目的だったのです。それが今やビットコインが、社会の大きな話
題になっています。2018年には、邦銀が連合して仮想通貨を
導入する計画が進んでいます。この仮想通貨は、ビットコインそ
のものではありませんが、ビットコインの中核技術であるブロッ
クチェーンを使っています。
 3年後の2020年の東京五輪までを考えても、VR(仮想現
実)、AR(拡張現実)、ドローン、自動運転車をはじめ、IC
T技術の進化によって、今までなら考えられなかったものが次々
に実現するはずです。その30年後の2050年までを考えると
人口動態や宗教、経済、文化にいたるまで「メガテック」と呼ば
れる大変化が起きるといわれています。それを予測することは、
非常に困難です。なぜなら、30年前の1987年に、アップル
アマゾン、フェイスブック、グーグルなどが席巻する今日の状況
をとうてい予測できなかったからです。
 しかし、3年〜5年後であれば十分予測することは可能です。
なぜなら、変化はある日突然起きるものではなく、既に存在する
技術が突然進化して、驚くべきものを生み出すからです。理論と
しては前からあった技術なのに、スマホが普及して、「ポケモン
GO」のアプリが開発されたことによって、突然注目されるよう
になったAR技術のようにです。つまり、今後3年後に変化を起
こすものは、既に現在の世界に存在する技術だからです。
 そこで本日からはじまるEJでは、それらの「技術/テクノロ
ジー」を取り上げることにします。
─────────────────────────────
   世の中を変化させる次世代テクノロジーについて知る
    ── 考えられないものが実現する5年間 ──
─────────────────────────────
 技術の話というと、文系の人は身構えます。そして、「それは
私の専門ではないので・・」とか、「それは技術の専門家にまか
せてあるので・・」とか逃げまくります。それでいて、わからな
くても恥ずかしいとは思っていないようです。
 文系の人の立場からいうと、理系の人は、エンジニアとして専
門的な教育を受けており、その道の専門家であるが、自分はそう
いう教育を受けていないので、わからなくても別に恥ずかしくは
ないという考え方の人が多いのです。
 しかし、この考え方は間違っています。私たちは、仕事でも生
活でもインターネットを利用し、スマホを使って、多くの人とコ
ミュニケーションをとっています。それにAI(人工知能)、ロ
ボット、ドローン、ビットコインなど、サイエンスや、テクノロ
ジーに囲まれて生活をしています。そのような時代に文系だから
といって、技術系のものから目をそむけていたら、完全に時代に
置いて行かれてしまいます。もはや、文系/理系と区分する時代
ではなくなっているのです。
 このような背景を受けてか、国立大学の文系学部廃止論が話題
になったことがあります。これは、2015年6月に文科省が発
表した文書が発端になったのです。そこには、いわゆる文系学部
の人文科学系学部と大学院、法学部や経済学部などの社会科学系
学部と大学院、教員養成系学部・大学院について、次のように書
かれています。
─────────────────────────────
 組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野
への転換に積極的に取り組むよう努める。   ──文部科学省
 「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」より
─────────────────────────────
 文科省のこの文書は、現代社会が理系人材を求めているので、
それに応えて文系学部の廃止に言及していますが、この考え方は
いささか乱暴です。文系学部を廃止してしまうのではなく、文系
学部の教育のなかに理数系教育を取り入れるべきであると考えま
す。現代は高度なICT社会になっており、文系学部といえども
理数系的センスを磨くべきであると考えるからです。
 私は、ある大学の経済学部で、ウェブサイトを構築する「イン
ターネット・プログラミング」講座を担当していたことがありま
す。経済学部の学生であっても、せめて自分でウェブサイトの構
築ぐらいできるICT対応力をマスターさせるべきであるという
大学の方針で、この講座が設けられたのです。
 2020年から小学校でプログラミング教育が開始されます。
他国に比して遅きに失してはいるものの、小学生の頃から理系セ
ンスを磨くのに役立つことは確かです。
            ──[次世代テクノロジー論/01]

≪画像および関連情報≫
 ●国立大の「文系廃止」の誤解はなぜ広がったのか?
  ───────────────────────────
   文部科学省が2015年6月に国立大学向けに出した人文
  系の組織再編を促す通知の波紋がなかなか収まらない。同省
  は「人文系切り捨てではない」と理解を求めるが、学術団体
  が7月に抗議声明を発表し、8月には一部の英字紙が「日本
  の大学が教養教育を放棄へ」と海外で発信する。文部科学省
  は「文系軽視は誤解」と火消しに躍起になっているが、果た
  して“誤解”は払拭されるのか。
   全国の国立大学を揺るがした今回の通知のタイトルは「国
  立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」。国立
  大の組織改編に向けた第3期中期目標・中期計画の期間が来
  年度からスタートするのに合わせて出されたものだ。
   しかし、通知を目にした国立大の人文系教員たちから「人
  文系軽視だ」などと不満が噴出。その原因をたどると“舌足
  らず”な文章構成に突き当たる。以下の一文が該当部分だ。
  《「ミッションの再定義」で明らかにされた各大学の強み・
  特色・社会的役割を踏まえた速やかな組織改革に努めること
  とする。特に、教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学
  部・大学院については(中略)組織の廃止や社会的要請の高
  い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする》
                   http://bit.ly/1O8lapc
  ───────────────────────────

「ポケモンGO/AR技術」.jpg
「ポケモンGO/AR技術」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月22日

●「豊洲プラス築地併用は実現するか」(EJ第4610号)

 築地市場の豊洲移転問題をここまで調べてきて、わかって来た
ことがあります。卸売市場の近代化を進めれば進めるほど、仲卸
業者が消えるという事実です。実際に海外の卸売市場には仲卸と
いう役割は存在しないのです。
 現在、日本の「和食ブーム」を担っているのは、築地市場にお
ける500社を超える仲卸業者の存在であるといわれています。
思想家にして人類学者でもある中沢新一教授は、仲卸の存在につ
いて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 築地市場のユニークさは物流センターとしての機能だけに限定
されない。仲卸を中心にしてかたちづくられてきた「中間機構」
の中に、味覚をめぐる莫大量の身体的暗黙知が蓄積され、それが
いまも健全な活動を続けている。
 食材にたいする「目利き」、魚体を扱う驚くべき職人技、料理
文化への繊細な配慮などによって築地市場は日本の食文化を根底
で支える存在になっている。築地市場は我々の宝物である。そし
てなによりも築地市場には未来がある。この未来を絶ってしまっ
てはならない。──中沢新一氏論文「築地アースダイバー」より
      『現代思想』2017年7月臨時増刊号/青土社刊
─────────────────────────────
 既に述べたように、諸外国の生鮮食料品を扱う卸売市場には、
仲卸業者はほとんど存在しておらず、日本のような中央卸売市場
は韓国と台湾にしかない独自のものです。これをもって、豊洲市
場移転推進派の人たちは、日本の卸売市場は遅れているという議
論をする人がいますが、この考え方は間違っていると思います。
なぜなら、日本が世界のなかで最も魚をよく食べる国のひとつで
あるからです。
 世界176ヶ国で1人当たりの1日の魚介類消費量ランキング
というものがあります。FAO(国連食糧農業機関)の2012
年のデータにおける順位は次のようになっています。
─────────────────────────────
          国名         消費量
     第 1位:モルディブ   381グラム
     第 2位:アイスランド  242グラム
     第 3位:キリバス    198グラム
     第 6位:日本      155グラム
     第 7位:韓国      154グラム
     第18位:フィンランド  101グラム
     第27位:ベトナム     89グラム
     第31位:中国       85グラム
                  FAO Statistics Division
                   http://bit.ly/2fBTMVE
─────────────────────────────
 この順位を見ると、日本は、魚をよく食べる国において、先進
国のトップに立っています。ダントツ第1位のモルディブは、イ
ンドの南西に浮かぶ島国で、約1200もの島々から成り立って
います。もっとも食べる魚はカツオで、3食カツオということも
珍しくないといわれます。
 それに比べると、日本は多種類の魚介類をさまざまな料理にし
て食べる国であり、魚介料理の豊富さに関しては世界に冠たる国
であるといえます。だから、いま世界で「和食ブーム」が起きて
いるのです。
 したがって、日本の中央卸売市場は仲卸を大事にする市場であ
るべきです。既出の東京財団上席研究員の小松正之氏は、著書で
築地市場や豊洲市場をオランダのイムイデン漁港市場、オースト
ラリアのシドニー水産物市場、ニュージーランドなどのオークラ
ンド水産物市場と比較して、大きく遅れていることを指摘してい
ますが、それらの国よりも、多くの魚を食べる国である日本は、
もっと独自の市場でもよいと思っています。しかし、先端のAI
やIT技術は積極的に取り入れる必要はあると考えます。
 豊洲と築地の2市場併用案について、築地市場協会の伊藤裕康
会長は、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 知事の発言は、比較的バランスの取れたものであったことは評
価したい。ただ、大づかみの方針が示されただけで中身はこれか
ら。都と話を詰め、理想的な市場に近づけたい。しかし、市場は
卸業者や仲卸業者などが一堂に会するものであって、2つの市場
は成り立たない。      ──築地市場協会の伊藤裕康会長
─────────────────────────────
 伊藤会長は、市場というものは、大卸、仲卸、買出人が一同に
会さなければ機能しないといいますが、豊洲市場は、水産卸棟と
水産仲卸棟は315号線という道路で分断され、1・5キロも離
れています。その行き来は、道路地下のアンダーパスをターレー
で行うことになり、相当時間がかかります。
 しかも、仲卸棟は4階建ての建物で、仲卸は1階、買出人は3
階と4階になっており、築地市場のように、とても「一同に会し
ている」とはいえないのです。大卸、仲卸、買出人が一同に会し
ている築地市場に比べて非常に不便です。
 そのため、築地市場が再整備された後は、豊洲市場は、高度に
自動化された全館冷房の物流センターに改造して使い、整備後の
築地市場は、セリなどを行う一部の市場機能を移転し、買出人の
店舗を築地市場に戻して食のテーマパーク化するというのが、小
池知事のいう「築地は守る、豊洲は活かす」の考え方なのです。
 東京五輪が終り、築地整備の終了する2025年までの約8年
間、その間の技術革新はきっと目をみはるものになるはずです。
この間の技術革新は、AI(人工知能)の力が加わるので、これ
までとは比べ物にならないほど、高速に進化します。そうなれば
豊洲と築地の距離の問題は解決しているはずです。7月3日から
書いてきた今回のテーマは本号が最終回です。長い間のご愛読を
感謝いたします。  ──[中央卸売市場論/最終回/057]

≪画像および関連情報≫
 ●豊洲へ市場は移転、築地は「食のテーマパーク」に!
  ───────────────────────────
   懸案の築地市場移転問題で昨日20日(2017年6月)
  小池都知事が会見して、「豊洲への移転」「五輪後に築地を
  再開発」という基本プランを明らかにした。ただ、具体的な
  活用案は今後詰めるとしている。知事は、この問題を都議選
  のテーマにしたいようだが、果たしてこれで票になるのかど
  うか。知事が示したプランは、1)豊洲は総合物流拠点とす
  る、2)築地は5年後をめどに「食のテーマパーク」など再
  開発する、3)具体的な活用案は今後、事業者・都民と広く
  検討する、というものだ。
   つまり、「築地は守る。豊洲を活かす」。築地は五輪まで
  に更地にし、2号線道路を通す。その後、築地は再開発──
  だが知事は、「豊洲移転」とは言わなかった。実際は豊洲へ
  市場機能を移すにしても、築地の当事者が依然、賛成・反対
  に分かれている。
   確かに築地の人気は高く、ブランド化もしている。日の入
  場者4万2000人、CNNが選ぶ「世界の生鮮市場ベスト
  10」の2位(1位はどこだ?)。観光客のスポットでもあ
  る。ここから動きたくないという人たちもいる。さらに費用
  の問題がある。豊洲移転に6000億円かかる。うち、44
  00億円は、築地の跡地を売却して捻出する予定だったのだ
  が、これを売らないとなると、どこかで捻出しないといけな
  い。               http://bit.ly/2yeOlTt
  ───────────────────────────

築地市場からの移転を待つ豊洲市場.jpg
築地市場からの移転を待つ豊洲市場
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月21日

●「世界に類のない日本の卸売市場法」(EJ第4609号)

 これからの中央卸売市場問題を考えるさいに知っておくべきこ
とがあります。それは、日本のような中央卸売市場制度は世界で
も珍しく、同様の制度は韓国と台湾にしかないことです。この場
合、韓国や台湾はかつて日本が統治していた国であり、日本の制
度が受け継がれたものと考えることができます。
 日本の中央卸売市場制度のどこが特異であるかというと、卸売
業者(大卸+仲卸)に対する法的な締め付けが大変に厳しい点に
あります。具体的にいうと、原則的に卸売業者は、法律で定めら
れた手数料でしか商品を売ってはならないことになっており、自
由に値付けができないのです。
 どうしてこのような制度になったのかというと、そのきっかけ
は、1918年(大正7年)に起きた米騒動にあります。当時イ
ンフレが発生するなかシベリア出兵が発表され、米相場は一気に
上昇します。そうすると、相場の上昇を見た各地の米問屋は、米
の買い占めや売り渋りをはじめ、主食の米が庶民に行き渡らなく
なってしまったのです。これが新聞で報道されると、この傾向は
一気に全国に波及したのです。これが「大正の米騒動」です。
 この事件をきっかけにして、公設市場開設への議論が一気に進
みます。しかし、立場によって、その狙いはバラバラであり、こ
れは現代にも引き継がれています。
─────────────────────────────
 ◎市民に食品を効率よく行き渡らせる ・・・ 社会運動家
 ◎都市の衛生のために市場を管理する ・・・   内務省
 ◎無駄の多い取り引きを統制させたい ・・・  農商務省
─────────────────────────────
 1923年に「中央卸売市場法」が成立し、1927年の京都
市を皮切りに、日本各地に中央卸売市場が誕生します。そこでは
公正な価格決定と取り引きの明朗化が謳われたのです。これによ
り、それまでの問屋市場は中央卸売市場に移され、取り引き方法
の合理化の手段として、委託販売、セリ売り、場内現物取引が決
められ、手数料制が導入されたのです。
 しかし、時代が進むにつれて、規制緩和が行われ、セリ売りに
ついても、制度としては1999年になくなっています。現在で
は、市場ごとに一部の水産物について行われていることは既に述
べた通りです。このままでは、セリ売りはやがてなくなってしま
うことは確実です。
 安倍内閣に規制改革推進会議というのがありますが、その農業
ワーキンググループが作成した次の文章があります。
─────────────────────────────
 特に、卸売市場については、食糧不足時代の公平分配機能の必
要性が小さくなっており、種々のタイプが存在する物流拠点の一
つとなっている。現在の食料需給・消費の実態等を踏まえて、よ
り自由かつ最適に業務を行えるようにする観点から、抜本的に見
直し、卸売市場法という特別の法制度に基づく時代遅れの規制は
廃止する。       ──中澤誠/水谷和子/宇都宮健児著
           『築地移転の闇をひらく』/大月書店刊
─────────────────────────────
 セリ売りが全廃されると、価格で競うしかなくなります。価格
競争になると、時間とともに鮮度の落ちる生鮮食品は、不利で足
元を見られ、買い叩きが起きてしまいます。そうなると、生産者
(漁業従事者)の収入がダウンし、とくに小規模の生産者は、割
に合わないと生産をやめてしまうことになります。この傾向は現
在も続いており、漁師を生業とする人たちは減っています。
 セリ売りがどれほど大事であるかについては、東卸市場労働組
合委員長の中澤誠氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 築地市場では、沖縄のマグロに一番いい値がついたことがある
のです。普通、マグロと言ったら大間が有名です。けれどもその
日並んでいた中で、これはどう見ても沖縄のマグロがいいと、そ
の日仲卸の目利きが、一番いい値段をつけたことがあります。そ
うすると東京中の一流の寿司屋が、築地で値段がついたならば間
違いないということで、その沖縄のマグロを買っていくのです。
 これはどういうことか。つまり、大間のマグロだったらブラン
ドとして名が知られていますから、素人でも値段が付けられる。
けれども、沖縄のマグロにもこうやっていい値段がつくというこ
とは、日本中にたくさんいる、ブランド力のない生産者のやる気
を引き出すんです。それが築地ブランドです。名前だけでない、
実体がともなっている。それが築地の実力なのです。
      ──中澤誠/水谷和子/宇都宮健児著の前掲書より
─────────────────────────────
 小池知事は、このセリ売りを何とかして残そうとしています。
それは仲卸業者を守ることで実現されます。そしてそれは「築地
を守る」ことにつながるのです。ということは、築地市場にも市
場機能持たせることを意味しています。小池知事の説明によると
民間に貸し付けて、一部の市場機能や商業施設を複合させ、食文
化の発信地として築地ブランドを守るとしています。つまり、築
地の民営化を目指しているのです。
 しかし卸売市場法では、20万人以上の人口を有する自治体が
設置する中央卸売市場について、民間参入を禁じており、2市場
併用案を実現するには、市場法の規制緩和が必要になります。こ
れについて小池知事は、ここに特区制度を活用しようとしている
のではないかといわれています。
 これは、特区制度を推し進めようとしている安倍政権にとって
悪い話ではないと思います。世論の関心の高い市場移転問題が特
区を利用して解決できれば、特区の有用性を宣伝でき、「築地を
守るため」「食の安全を守るため」という大義名分も立つので、
特区活用の可能性は十分あります。
 しかし、2市場併用案については、市場関係者にとって多くの
疑問があります。これについては、明日のEJで考えることにし
ます。           ──[中央卸売市場論/056]

≪画像および関連情報≫
 ●小池知事/「特徴を生かせば共存可能」2市場両立に自信
  ───────────────────────────
   「私は豊洲移転ありきではなく築地」。東京都の小池百合
  子知事は6月20日夜、産経新聞の単独インタビューに応じ
  市場移転問題を検討するにあたっては、築地ブランドの活用
  を重視していたことを明かした。豊洲移転・築地再開発の両
  立案には業界内からも批判が出ているが、「特徴を生かせば
  共存可能」と反論した。
   このタイミングで、具体性が十分でない基本方針を発表し
  たとの指摘には、「昨年に定めたロードマップ(工程表)に
  従って一つずつ詰めてきた」。ただ、その一方で築地への思
  いを強く打ち出した。「途中から豊洲移転の話がメディアに
  躍った。私は豊洲移転ありきではなく、築地なんですよ、基
  本的に。豊洲移転のイメージが先行しているのはよろしくな
  いと思った」。両立案によって市場機能が分割されることに
  業界内から批判が上がっていることに対しては「その前に、
  都内に11の卸売市場があることをどうするんだという話が
  ある」と反論。「いまネットで、個人が注文してしまう時代
  になっているわけで、市場を取り巻く環境はこれからも激変
  していく。それぞれの特徴を生かして共存できると思う」と
  指摘した。            http://bit.ly/2y8IHCn
  ───────────────────────────

2市場両立案は実現可能/小池知事.jpg
2市場両立案は実現可能/小池知事
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月20日

●「小池都知事は安全宣言を出すのか」(EJ第4608号)

 小池知事は、築地と豊洲の2市場併用プランを知事になるとき
から持っていたといわれます。さらに豊洲市場の土壌汚染の実態
についても、自身の環境大臣時代の人脈を使って相当程度情報を
掴んでいたはずです。つまり、その時点から基本的に築地市場で
の再整備を心のなかでは決めていたと思われます。
 これまで築地市場の再整備を阻んできたのは、築地市場を営業
しながら、工事をすることの困難さです。種地がなかったからで
す。しかし、現在は土壌汚染問題が残っているとはいえ、豊洲市
場がいつでも使える状態で完成しているのです。
 これを使わない手はないし、知事としても既に莫大なコストを
かけて完成している豊洲市場を活かさなければならない。そのた
め、2018年中に築地市場を豊洲市場に移転し、東京五輪終了
後に5年程度の年月をかけて、築地市場を再整備して戻すことを
考えていると思われます。それにその時点では、AIなどの技術
による社会のIT化が一段と進み、卸売市場そのものも大幅に変
革せざるを得なくなると読んでいます。「築地を守る、豊洲を活
かす」とはこういうことを示しているのです。
 しかし、2市場併用プランについては「現実的ではない」とか
「コスト的に無理」とか、「2つの市場はあり得ない」とか、い
ろいろな批判が出ています。これらの批判について、小池知事は
次のように反論しています。
─────────────────────────────
 どうして日本の宝物を両方とも生かさないのかと思いますね。
土地は一度売却してしまうと、あとはディベロッパーに切り売り
されるだけで元には戻らない。私たちの方針を批判する方々は、
そのことの意味をわかっているのでしょうか。江戸時代の日本橋
魚河岸から、関東大震災後の築地外国人居留地開発を経て現在に
至る築地の歴史的魅力を保つためにも、土地全体が残るかたちの
ほうがいい。築地が培ってきた文化と、世界への発信力に終止符
を打つなどという、それこそ「もったいない」真似をなぜするの
でしょうか。
 その一方で、市場移転について二十年も三十年も議論を続けて
いるうちに、物流の環境や技術が飛躍的に進歩しました。距離だ
けを問題にする従来の立地の在り方も大きく変わっています。フ
ロン規制による冷蔵施設の需要がさらに増大するなかで、私は目
先の利害よりも、将来にわたる施設としての「持続可能性」を考
えるべきと考えます。「とにかく決めたことだから、市場を早く
豊洲に移せ」というだけでは、あまりにも無責任。豊洲を生かし
築地も守ることを考えて何が悪いか、と思います。
      ──「Voice/ボイス」/2017年10月号
─────────────────────────────
 これに対し、築地市場の主要業界団体のトップで構成する「築
地市場協会」は、小池知事に対し、知事による豊洲市場の安全宣
言を求め、要望書を提出しています。その目的は、風評被害の払
しょくですが、もし豊洲市場で予期せぬ事態が発生したときの補
償などの目的もあるものと思われます。
 しかし、小池知事は明確な安全宣言は出さないと思います。な
ぜなら、豊洲市場は、改正土対法では土壌汚染区域に指定されて
いるからです。これについて、東卸市場労働組合委員長の中澤誠
氏と一級建築士の水谷和子氏は、小池知事の安全宣言について次
のように述べています。
─────────────────────────────
中澤:そんなこと(知事の安全宣言)が可能でしょうか。自分の
   やったわけではないものの責任を、小池さんが自ら背負う
   形で安全宣言できるでしょうか。
水谷:土壌汚染対策法上で言えば、豊洲市場用地はおそらくずっ
   と高濃度汚染地区です。環境基準の10倍を超える汚染区
   域です。小池都知事も、そんな場所に「安全宣言」は、と
   うてい出せないでしょう。そんな尻ぬぐいするとは思えま
   せん。
中澤:どう想像しても、小池さんが安全宣言をする場面が思い浮
   かびません。自分が行ったことならまだしも、人の尻ぬぐ
   で安易に安全宣言をしたら、その後何が起こっても、小池
   知事の責任になります。それと同じ理由で農林水産省も認
   可しづらいはずです。(一部略)
            ──中澤誠/水谷和子/宇都宮健児著
           『築地移転の闇をひらく』/大月書店刊
─────────────────────────────
 安全宣言といえば、舛添前知事が定例記者会見でそれに近い宣
言をしています。しかし、舛添氏は、土壌汚染対策はしなければ
ならないもの(マスト)ではなく、それがあるからといって市場
を開業できないわけではないことを強調しています。
─────────────────────────────
記者:じゃあ、市場関係者とか外に向かってここは安全ですよと
   宣言したということとイコールだと捉えても大丈夫なわけ
   ですか。
舛添:大丈夫ですよ。間違ってほしくないのは、それがなければ
   開けないというマストの条件ではありませんけれどやった
   ということ。よく誤解があって、それもやっていないのに
   開くのか、それやって結果が出たらどうなると。その因果
   関係は法律上は全くありませんということを申し上げたい
   ので、私はこれで十分安全であると、ですから市場を開設
   しますということを責任持って申し上げたいと思います。
        ──2014年12月9日、舛添知事定例会見
                   http://bit.ly/2y89z5C
─────────────────────────────
 要するに、舛添前知事は地下水に土壌汚染は残るが、豊洲市場
は「安全」として、安全宣言をしたのですが、その後に「盛り土
なし」が判明します。この時点で安全宣言は崩壊しています。
              ──[中央卸売市場論/055]

≪画像および関連情報≫
 ●豊洲移転、風評被害払拭は「安全宣言より情報発信」
  ───────────────────────────
   築地市場(東京都中央区)の豊洲市場(江東区)への移転
  問題を検証する都の市場問題プロジェクトチーム(PT)は
  8月4日、豊洲市場の風評被害の払拭に向け「『安全宣言』
  という単発的な対策ではなく、継続的な情報発信などを提案
  する」といった内容を含む提言をまとめた。今後、提言を盛
  り込んだ豊洲市場の安全・安心に関する報告書を小池百合子
  知事に提出する。築地市場の業界団体から移転前に小池氏が
  安全宣言をするよう求める声が上がっており、小池氏の対応
  が注目される。
   提言では都が市場移転に向けて実施する追加の土壌汚染対
  策工事を「安全・安心に資する」と評価する一方、対策に関
  するPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善の継続)を
  行うことが有用であると指摘。
   さらに風評被害払拭について「豊洲市場用地は、法律的・
  科学的に安全であり、被害が生じているわけでもない。こと
  さら『安全宣言』というのも奇妙だ」とした上で、追加対策
  の内容や効果、大気や水質の測定値を公表して正確な情報を
  発信するよう促した。小池氏は同日の定例記者会見で「(P
  Tの)提案を参考にしながら深めていきたい」として、情報
  発信の在り方などについて検討を進める見解を示した。
                   http://bit.ly/2hatWvG
  ───────────────────────────

記者会見する伊藤裕康会長.jpg
記者会見する伊藤裕康会長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月19日

●「3回連続汚染度悪化/追加の検査」(EJ第4607号)

 7月3日から書いてきた「中央卸売市場論」は、今回を含めて
あと4回で終了します。当初は30回程度でまとめたかったので
すが、調査していくと隠された事実が続々と出てきて、結局58
回まで膨らんでしまいました。しかし、大事なことはきちんと書
いたと自負しています。
 来年の秋に豊洲市場への移転を宣言した小池知事に対し、市場
関係者は「豊洲市場の安全宣言を出せ!」と迫っています。その
さなかのことですが、9月14日の日本経済新聞は次の記事を掲
載しています。
─────────────────────────────
 東京都は9月14日、豊洲市場の敷地内の地下水から8月中旬
に環境基準の120倍のベンゼンを検出したと発表した。昨年以
来、ベンゼンの濃度は100倍前後と高止まりが続いている。シ
アンとヒ素も基準超のまま。一方、同時期に実施した市場建物内
などの空気調査ではベンゼンなどの濃度は環境基準を満たした。
 土壌汚染対策の有識者からなる専門家会議は市場建物内の空気
について「科学的な安全は確保された状態にある」とのコメント
を公表した。地下水の結果に関しては「(従来に比べ)全体的に
見れば、大きく汚染状況が変化した傾向は確認できない」として
いる。豊洲市場では、地下水を生鮮食品の洗浄水や飲み水として
使わない。市場の業界団体は小池百合子知事に対して、豊洲市場
の「安全宣言」を求めている。  ──日本経済新聞電子版より
                http://s.nikkei.com/2x80HgX
─────────────────────────────
 ここで、この豊洲市場の地下水モニタリング調査は何のために
やっているのかを改めて考える必要があります。豊洲市場の地下
水調査は、東京都が土壌汚染対策工事を終えた2014年から2
年間の計画で調査し、1回〜8回はすべて環境基準以下をクリア
していたのです。そして、2017年1月公表の最後になる9回
目も環境基準以下がクリアできれば、改正土対法による汚染区域
(形質変更時要届出区域)のレッテルが外せたのです。ところが
第9回の調査結果は基準値の最大79倍のベンゼンなどが検出さ
れ、汚染区域のレッテルは現在も外せないままです。
 このことは、8月31日のEJ第4595号でも述べています
が、きわめて重大なことです。首都東京都の中央卸売市場が汚染
区域の上に建っているからです。
 なぜか、メディアは熱心に取り上げないのですが、この地下水
汚染調査は、不思議なことだらけです。なぜなら、石原、猪瀬、
舛添各知事のときの第1回〜第8回までの検査結果は、そのすべ
てが環境基準値以下であるのに、小池知事になってからの第9回
の調査結果だけが、なぜ、環境基準値の79倍のベンゼン検出な
のでしょうか。石原、猪瀬、舛添各知事が豊洲移転推進派であっ
たことを考えると、その調査結果に何らかの改竄があった疑惑は
否定できないと思います。
 おかしなことはまだあります。この9回目が突出して数値が高
かった理由について専門家会議は、9回目を担当した調査会社が
それまでと異なることや、調査手法が異なること、それに加えて
9回目のサンプル採取が地下水管理システムが稼働した直後だっ
たので、その違いが出たのではないかと述べています。
 専門家会議のこの発言は明らかにおかしいです。業者が違って
も、地下水の汚染調査の方法は、改正土対法に詳しく定められて
おり、誤差が出てもせいぜい数倍程度であって、79倍の差が出
るはずがないからです。
 それに、地下水管理システムが稼働した直後の地下水サンプル
採取だったというのも限りなく疑わしいです。それなら、専門家
会議のメンバーが主導して実施した第10回の地下水モニタリン
グ調査では、豊洲市場の29ヶ所の調査結果でも100倍にのぼ
るベンゼンが検出されたことです。数字が悪化しており、地下水
管理システムが稼働しているならば、数値が改善するか、現状維
持であるべきなのに、数値が悪化しているのは、地下水には深刻
な土壌汚染がまだあるということです。
 この仮説が明確に裏付けられたのが、第11回目に当たる今回
の調査結果です。なんと12O倍のベンゼン検出です。さらに数
値が悪化しています。
─────────────────────────────
         第 9回調査: 79倍
         第10回調査:100倍
         第11回調査:120倍
─────────────────────────────
 これについて、専門家会議の見解は、とても納得のいくもので
はありません。専門家会議は次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 地下水は、有害物質の濃度が低下傾向にある地点もあり、全体
的に見れば大きく汚染状況が変化したとは確認できない。市場で
地下水は使わず、大気も汚染されていないため安全である。
                   ──専門家会議の見解
─────────────────────────────
 随分甘い見解であると思います。79倍、100倍、120倍
と数値が高くなっていることには触れず、有害物質の濃度が低下
傾向にある地点があることをことさら強調し、数値の上昇につい
てはコメントしていないのです。明らかに逃げています。
 それに「市場では地下水は使わない」は、明らかに今までより
もハードルを下げています。しかも、ベンゼンは揮発性があり、
空気中に拡散し、当然市場内にも入ってきます。そのために専門
家会議は盛り土を提案したはずです。その盛り土がなかったので
すから、ベンゼンが空気中に拡散することになります。
 「地上と地下に分けて考える」──専門家会議のこの発言は、
土壌汚染が結局は除去できなかったことのエクスキューズに聞こ
えます。豊洲市場は、改正土対法の汚染区域の上に建っている事
実です。          ──[中央卸売市場論/054]

≪画像および関連情報≫
 ●「地上」の健康リスク指摘した報告書を都の専門家は無視
  ───────────────────────────
   東京都の築地市場(中央区)の移転先である豊洲市場(江
  東区)の地下水から、今年1月に環境基準の79倍のよベン
  ゼンが検出されたことを受けて再調査をしていた都の専門家
  会議(座長=平田健正放送大学和歌山学習センター所長)は
  3月19日、79倍が検出されたのと同じ井戸から100倍
  のベンゼンが検出されたと発表した。
   しかし、平田座長は、「(市場の建物内の)地上と地下は
  分けて考えるべき。地上の観測値に変化はなく、地上は安全
  だ」と述べた。実は都は今回のベンゼンが環境基準の100
  倍という結果では地上も安全とは言えない試算をした報告書
  を、日水コン(東京都、野村喜一社長)というコンサルタン
  ト会社にまとめさせていた。だが、同日の専門家会議ではそ
  の報告書にはまったく触れなかった。
   専門家会議は、ベンゼンなど揮発性ガスの上昇を抑える効
  果があるとして盛土を対策の柱として提言、2008年に一
  度解散した。だが昨年9月、肝心の盛土がないことが発覚、
  小池百合子都知事が新たな対策を提言してもらうために専門
  家会議を再招集した。2008年の提言では、地下水から揮
  発したベンゼン、シアンなどがガスとしてすき間などから地
  上の建物内に入り、人の健康や生鮮食料品にどの程度影響を
  与えるかを試算した。その結果、市場の地下水が環境基準以
  下に維持されていれば人の健康に問題はなく、食の安全・安
  心への悪影響も小さいと結論付けた。ただ、これはあくまで
  も盛土があることが前提だった。  http://bit.ly/2jBja2b
  ───────────────────────────

豊洲の地下空間を調べる平田座長.jpg
豊洲の地下空間を調べる平田座長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月15日

●「大局的戦略的発想のない豊洲市場」(EJ第4606号)

 小松正之氏による豊洲市場の問題点の指摘を続けます。今回は
3と4です。
─────────────────────────────
       1.   衛生・品質と温度管理
       2.情報の広域化とIT化の遅れ
     → 3.  減少する入荷量と集荷力
     → 4 .物流の近代化の大幅な遅れ
                ──小松正之著の前掲書より
─────────────────────────────
 「3」について考えます。
 かつて築地市場は、1980年代から1990年代頃のバブル
の絶頂期には、世界中から水産物を買い付け、国内からのものを
加えると、その水産物の取扱数量は90万トン、取扱金額にして
9000億円もあったのです。日本中のおいしい水産物はすべて
築地市場に集まってきたのです。
 しかし、現在では築地市場への入荷量は半減しています。20
16年の水産物の取扱量は、40万9866トンで、2006年
(57万2617トン)に比べて、28%も減っています。これ
に関して小松正之氏は、築地市場は近年凋落の一途を辿っている
日本の沿岸漁業に資源管理を徹底するようメッセージを発するべ
きであるとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 アイスランドやノルウェー、オーストラリア(シドニー)など
では、ITQ(「画像および関連情報」参照)のような厳格な資
源管理制度をベースにして、安定した漁獲物の提供、および漁獲
物の情報化が容易になっている。
 ところが日本では、そのようなシステムの構築と中央卸売市場
を結びつける構想など全くない。豊洲は水産物の集荷センターに
なるべきであるが、集荷の責任を負う卸売業者と仲卸業者は、何
ら新たな努力をせず、水産物は当然豊洲に集まるものとの甘い期
待感をもっているように見受けられる。    ──小松正之著
    『「豊洲市場」これからの問題点』/マガジンランド刊
─────────────────────────────
 「4」について考えます。
 築地市場はもちろん、最新の豊洲市場でも、その近代化は大幅
に遅れています。小松正之氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 オランダの花卉市場では、プログラミングされた動線に沿って
無人車両で商品を搬送できるようになっている。ところが豊洲市
場内の仲卸業者が卸から搬送する場合は、築地と同じように各社
ごとのターレ(豊洲では環境保全のために電動ターレのみ)を使
うことになっているため水産仲卸で500台以上、青果で150
台程度のターレが稼働する。各ターレの動きには一定の指示が与
えられないし、人件費なども膨大である。
 しかも、水産卸売棟と仲卸棟は1階⇔4階、青果棟は1階⇔3
階の移動が必要な場合がある。大型エレベーターと垂直搬送機が
あるとはいえ、上下移動にはそれなりの時間がかかる。
                ──小松正之著の前掲書より
─────────────────────────────
 現代は、運転手のいない無人自動車が一般道路を走行しようと
いう時代です。まして各種生産工場などでは、AI技術を駆使し
た、いわゆる「工場内物流」が常識になりつつあります。現代の
技術であれば、十分可能なことです。
 しかし、豊洲市場は、これから移転する最新の市場でありなが
ら、欧米の市場では既に行われているプログラミングによって、
商品を決められた場所に搬送する無人車両などの「市場内物流」
の構想がどこにもありません。
 せっかく巨額なお金をかけて豊洲に新市場を作りながら、どう
してこのようなことが起きるのかというと、築地市場から豊洲市
場への移転に当たって、日本の中央卸売市場をどう考えるかとい
う大局的・戦略的構想がまるでなく、豊洲新市場は、築地市場か
らの単なる物理的移転になってしまっているからです。
 小松正之氏は、むしろ築地市場の建築の方が、大局的、戦略的
な洞察があったとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 築地市場は、車社会になってからはその物流の動線がネックと
なったにせよ、鉄道・船舶輸送が全盛だった開設当時においては
じつによく考えられた施設構造になっていた。関東大震災後とい
うこともあり耐震技術も駆使し、床も水はけがよく滑らないよう
な石材を惜しげもなく使った。少なくともハード面の整備におい
ては、市場としての機能を検討、熟考した末に設計されたもので
豊洲市場建設のプロセスより格段に優れていたと思う。
                ──小松正之著の前掲書より
─────────────────────────────
 小松正之氏のこの著書は2017年1月に刊行されたものであ
り、小池知事の築地・豊洲2市場併用宣言は、当然その前提には
なっていません。既に完成している豊洲市場で理想の中央卸売市
場として運営するのは困難ですが、豊洲市場とこれから新築する
新築地市場を合わせて、大局的・戦略的構想に基づいた中央卸売
市場の運営を実現する余地は残されると思います。小松氏は、こ
の著作を次のようにしめくくっています。
─────────────────────────────
 豊洲の新しい中央卸売市場の開設が遅れれば、日本市場の優位
性と日本に集荷される水産物の減少を招くのみである。世界は、
現在の東京都と中央卸売市場関係者の対応を、冷めた日で見てい
ると思われる。世界規模の水産物の貿易流通調達の「ジャパン・
パッシング」を、豊洲市場移転論争は助長していると見るべきで
もはや一刻の猶予もない。    ──小松正之著の前掲書より
─────────────────────────────
              ──[中央卸売市場論/053]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ漁業補助金を撤廃できないのか/小松正之氏
  ───────────────────────────
   日本が資源回復の光明を見いだせないなかで、アイスラン
  ドやノルウェーなど回復に成功している国がある。その決定
  的な違いは採用している管理制度。主な漁業先進国が取り入
  れているのはオリンピック方式ではなく、IQ方式やITQ
  方式と呼ばれるものだ。
   まず、IQ方式だが、これは「Individual Quota」、つま
  り個別漁獲割当方式といって、TACで設定された漁獲量を
  それぞれの漁業者に割り当てる方法のことをいう。「自分の
  漁獲量が決まっているから、他人の動向に左右されることな
  く漁ができます。年間を通じて操業計画が立てられるのでコ
  ストの計算もできますし、市場を見ながら高い魚を選んで漁
  をすることもできる。韓国は1999年にIQ方式を導入し
  2003年に110万トンだった沿岸・近海の漁獲量が20
  08年には130万トンに増加しています」。
   しかし、このIQ方式には制約もある。たとえば、ある業
  者は2000トンの漁獲枠を割り当てられたが、達成するに
  は船を大型化するなどの新たな投資が必要になる。それを望
  まずに1000トンしか漁獲しなかった場合は、残りの10
  00トンの枠が無駄になる。経営戦略に合わせて漁獲量を調
  整することが難しいのだ。「そこで、漁業者同士で漁獲枠を
  賃貸・売買できるITQ方式が登場しました。これによって
  漁業者は、より計画を立てて漁ができるようになった。ノル
  ウェーやアイスランド、オーストラリア、アメリカはみんな
  ITQ方式を採用しています」。 http://nkbp.jp/2xh27rJ
  ───────────────────────────

小松正之氏.jpg
小松 正之氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月14日

●「豊洲新市場は本当に大丈夫なのか」(EJ第4605号)

 9月9日、東京都の小池知事は、築地市場からの移転方針を表
明後、改めて豊洲市場を視察しています。このとき、市場関係者
からは、知事に対し「安全宣言」を求めましたが、小池知事は、
消極的な姿勢に終始しています。おそらく小池知事は、「安全宣
言」は出さないと思います。それは、あくまで来年の豊洲移転が
一時的な移転であることを示唆しているからです。
 9月11日のEJ第4602号で、豊洲市場について東京都発
行の「築地市場の移転整備/疑問解消BOOK」を使ってご紹介
しました。しかし、これは、豊洲移転を促進する東京都が作成し
ているハンドブックなので、明らかに豊洲市場の良い点に重点を
置いて紹介した内容になっています。
 そこで、本当のところ実際はどうなのかについて、小松正之氏
の豊洲市場論をご紹介します。小松正之氏は、元水産庁の漁業交
渉官の経験があり、現在、東京財団上席研究員を務めておられま
す。小松正之氏は著書では、あくまで豊洲移転を前提としたうえ
で、豊洲市場の問題点を客観的に指摘しているからです。
 小松氏は、豊洲市場の最大の問題点として、建物の配置と交通
アクセスの不便さを指摘し、次のように述べています。
─────────────────────────────
 問題として一番目につくのは、市場機能の根幹をなす建物の配
置と交通アクセスの不便さである。豊洲新市場のメインの建物は
「水産卸売場棟(7街区)」「水産仲卸売場棟(6街区)」「青
果棟(5街区)」の3棟に分かれており、しかも水産の7街区と
6街区の間は都道(補助315号線)が分断している。
 両街区をつなぐのは道路下に設けられた約100mの4本の連
絡通路で、通路幅は12〜36m、天井までの有効高さは2・5
〜2・9m。ここをピークの時間帯には何百台ものターレが行き
来するのである。また7街区と5街区の間も都道(環状二号線)
が走っている。今の築地市場の水産仲卸と青果仲卸の店舗間は数
分あれば着く距離であるが、豊洲では6街区の水産仲卸棟と5街
区の青果棟をはしごして買物すると、その間は優に地下鉄一駅分
はある。                  ──小松正之著
    『「豊洲市場」これからの問題点』/マガジンランド刊
─────────────────────────────
 小松氏に指摘されるまでもなく、築地市場に比べて豊洲市場の
交通アクセスの不便さについては、最初からわかっていたことで
す。築地市場は、最寄りの都営大江戸線・築地市場駅に加え、東
京メトロ日比谷線・築地駅から徒歩5、6分。JR新橋駅からは
徒歩15分であるし、都営バスに乗れば6分で到着します。
 これに比べて豊洲市場には、ゆりかもめの市場前駅があるだけ
で、天候悪化でよく止まるので有名です。そうすると、車で行く
しかありませんが、晴海通り一本しかないのです。もし雪が降れ
ば、築地を通り過ぎてから凍結しやすい「橋梁」を3本通らなけ
れば豊洲に着かないのです。ちょっとした台風が来ても、豊洲に
たどり着くのは容易ではないのです。
 小松正之氏は、これに加えて、豊洲市場の問題点をさらに4つ
指摘しています。以下、内容を要約します。
─────────────────────────────
     → 1.   衛生・品質と温度管理
     → 2.情報の広域化とIT化の遅れ
       3.  減少する入荷量と集荷力
       4 .物流の近代化の大幅な遅れ
                ──小松正之著の前掲書より
─────────────────────────────
 今回は1と2について、2と3は、明日のEJで解説すること
にします。
 「1」について考えます。
 豊洲市場は、完全密閉型になっています。温度管理は、3つの
棟でそれぞれ異なります。
─────────────────────────────
     水産卸棟(7街区) ・・・ 10・5℃
    水産仲卸棟(6街区) ・・・ 25・0℃
      青果棟(5街区) ・・・ 23・0℃
─────────────────────────────
 築地市場に比べると、室温が下がることになりますが、何のた
めの室温低下なのかがはっきりしないのです。おそらくコールド
チェーンを狙ったのでしょうが、働く人の健康には配慮している
のでしょうか。海外市場では、鮮度劣化を防ぐために0〜5℃と
なっています。
 オーストラリアのシドニー水産市場では、温度による水産物の
劣化や腐敗を誰でも客観的に判断できる科学的基準で示していま
す。その結果、シドニー市場では次のような鮮度管理指針があり
−1℃から5℃の間の温度で管理することになっています。
─────────────────────────────
  4℃では、0℃の2倍の速度で劣化・腐敗が進行する
 10℃では、0℃の4倍の速度で劣化・腐敗が進行する
 16℃では、0℃の6倍の速度で劣化・腐敗が進行する
                ──小松正之著の前掲書より
─────────────────────────────
 「2」について考えます。
 豊洲市場における商品に対する情報化と透明化は、先進諸外国
比べて非常に遅れています。日本では、水産物のセリや相対取引
への参加者は買出人に限定されていますが、ノルウェーやアイス
ランドなどの水産物市場では、一定の条件を満たしていれば、セ
リや相対取り引きに、PCを使って誰でも参加できるのです。そ
れほど、開かれた市場になっているのです。
 そのためには、ITによる商品に対する情報化と透明化が不可
欠ですが、豊洲市場は、基本的に築地市場をそのまま持ってきた
だけであり、IT化には大きく遅れています。
              ──[中央卸売市場論/052]

≪画像および関連情報≫
 ●日本人に築地・豊洲への基本理解が不足/小松正之氏
  ───────────────────────────
   水産業の衰退に対し、水産行政が無為のまま時間をだらだ
  ら過ごし、漁業者からの不満に対しては補助金で何とかごま
  かし、基本的な漁業の法制度の改革をしないことに対して警
  鐘を初めて鳴らした書籍「これから食えなくなる魚」(幻冬
  舎新書)を出版したのが2007年5月であった。当時はと
  てもセンセショナル(衝撃的)な出版物であった。その時の
  編集担当者から、次は2年後に「「築地」を取り上げて書い
  ていただけませんか」とお願いされた。築地は奥が深そうで
  しかし、体系的な書物がないので、書きたい気持ちは大いに
  あったが、まだ知識と経験が不足し、時期尚早と判断したが
  気持ちの中に引っかかっていた。
   その後、「日本の食卓から魚が消える日」(日本経済新聞
  社)(2010年)の中で初めて流通や築地市場と豊洲新市
  場へ移転に、「東京湾再生計画」(雄山閣)(2010年)
  で外国市場との比較に触れた。私は農林水産省の役人時代か
  ら、築地市場にはよく通う。今は尚更、足しげく通う。視察
  と関係者との意見交換と教えを乞うためである。今は、年に
  30回以上も通うし、築地の隅々まで見て漸く質問ができる
  ようになったことは、私に築地市場や生鮮食品流通について
  知識と経験が蓄積されてきたことを意味する。
   ところで、私が水産庁課長や国際交渉担当参事官の時代に
  部下とともに築地市場の視察に出かけたが、彼らは築地市場
  の視察は一度で結構と言った。私には春夏秋冬そして日々顔
  が異なる築地市場がとても魅力的で何度通っても苦ではなく
  むしろ多大な至福であった。その思いは今でも変わらない。
                   http://bit.ly/2gWmSCI
  ───────────────────────────

豊洲市場施設概要.jpg
豊洲市場施設概要
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月13日

●「水産物の目利きは情報化が難しい」(EJ第4604号)

 このテーマの冒頭の部分で取り上げたことがありますが、かつ
てスーパーの魚が二級品だったことがあります。当時の卸売市場
法では、市場で魚の売買が相対取引でやれるのは、セリが終わっ
後と決められていたのです。セリが終わった後では、仲卸の目利
きから外れた魚しか残っていないから、必然的に二級品になるの
です。これは青果についても、同じことがいえます。
 しかし、これにはスーパーのような大量購入業者からクレーム
がつき、規制が緩和され、現在では夜中の1時頃からセリよりも
早く相対取引ができるようになっています。大量に魚を運び込ん
でくる大卸業者としては、大量に購入してくれるスーパーのよう
な大資本にまとめて売りたいと思うのは当然のことです。
 そういうわけで、現在スーパーには一級品の魚も多く出品され
るようになっていますが、二級品も多く混ざっています。しかも
スーパーでは魚や野菜はすべてサランラップに包まれ、光線の工
夫によって、すべて清潔に新鮮に見えてしまうのです。とくに鮮
魚の場合、素人の消費者がよい魚かどうか判断できるのは、見た
目の色あいか、価格ぐらいしかないのです。
 とくに刺身については、その当たり外れは、ヒフティー・ヒフ
ティーです。したがって、せめて正月くらいは、おいしい魚介類
を食べたいとして、多くの人が築地まで魚を買いに行くのです。
スーパーで買うのと違って、当たり外れが少ないからです。
 これに関して建築家の伊東豊雄氏は、「東京はサランラップ・
シティである」と主張し、次のように述べています。
─────────────────────────────
 だいぶ前に、僕は東京を指して「サランラップ・シティ」とい
うことを言いました。つまりコンビニに行くと、野菜や魚など生
鮮食品がすべてサランラップに包まれている。そうすると匂いも
ないし、全部清浄に見えてしまう。しかしフランスのスーパーに
行ったら、土のついた野菜が並んでいる。本来生まの商品をわれ
われは、ラップされることによって記号として消費しているので
す。要するにいま豊洲移転でやろうとしていることは巨大なサラ
ンラップ・シティというか、巨大なコンビニエンス・ストアにし
ていこうとしているのではないでしょうか。仲卸人の、動物的な
カンで魚の肌の色、その光具合を一瞬で見極め、値をつけ分けて
いく。それがなくなるわけですから。それはもう、いきなり大き
なマグロを切り刻んでパックにしてしまうようなものですよね。
           ──伊東豊雄氏×中沢新一(徹底討論)
               「『みんなの市場』をめざす」
           『現代思想』2017年7月臨時増刊号
─────────────────────────────
 シドニーの水産物市場は、情報化・IT化が非常に早くから進
んでいます。この市場の入札場には、3種類に区分された水産物
ごとに、時計型の電光掲示板が1台ずつ導入されています。
 電光掲示板のディスプレイには、魚の種類名、生産者、産地、
重量、色、等級が表示されます。等級は、「A+」から「B−」
まで4ランクに分かれています。この等級は、品質保証チームと
いうのがあり、そのチームが、魚の形や脂の乗りと傷み具合など
を総合的に判断して決めています。入札参加者は、電光掲示板の
ディスプレイに表示される、これらの情報を見ながら端末を使っ
て落札していくのです。築地市場のセリとは大きく違います。
 このシドニー水産物市場の場合、品質鮮度管理指針というもの
がよく整備されています。そうでなければ、鮮度の高い良い魚を
選定することは困難です。それでも「等級」に関しては、品質保
証チーム人の目で決めているのです。この部分は、今後AI(人
工知能)がよほど高度化しない限り、IT化するのは困難である
と思われます。
 築地市場では、そのIT化こそ大きく遅れているものの、ベテ
ランの仲卸たちの熟達した目利きによって魚を選んでいるところ
に、何物にも代えられない貴重な価値があるといえます。
 築地市場で海老専門の仲卸店を営む平井啓之氏はこの道45年
の経験があり、1日に1万本もの海老を扱ってきたため、ひとた
び海老を手にすれば、大きさ、重さ、状態を一瞬で見分けられる
といいます。平井氏は、海老の識別はどれほど機械が発達しても
人にしかできない仕事であるといい、次のように述べています。
─────────────────────────────
 生き物だから、色も見なけりゃなんない、鮮度も見なけりゃな
んない、色で識別もしなきゃなんない、指で触って柔らかさ固さ
も見なきゃなんない、脱皮してるかしてないか。まず形。形をお
客さんの注文のサイズに合わせて。みんな形が違うんだ。脱皮し
ながら大きくなっていくんですよ。プロのお客さんは大きさで使
い分けてるんです。焼き物にしたり刺し身にしたり。握って、首
と尻尾が出るくらいの大きさは天ぶらですね。
  ──弘 理子氏論文「築地市場─驚きの職人技と人間模様」
           『現代思想』2017年7月臨時増刊号
─────────────────────────────
 現在、日本には多くの外国人観光客が訪れますが、これらの観
光客で「築地」の名前を知らない人はいないといわれます。築地
市場には、和食ブーが続くなかで、観光、飲食、買い物などを目
的にして、毎日1万人以上の人が訪れます。もちろん、外国人観
光客だけでなく、日本人も含めてです。包丁を売る店の売り上げ
の約50%は外国人であるといわれます。そのような築地の文化
を簡単に潰してはならないのです。
 そういう築地ブランドを新設の豊洲市場が引き継げるかという
と、それは明らかに「NO」です。それに、豊洲市場には欧米に
見られるIT化された市場機能もないし、少し厳しいいい方をす
れば、ただの巨大な冷蔵施設に過ぎないのです。何よりも豊洲市
場では、築地市場の「宝」ともいうべき仲卸業者が生き残る余地
が少ないことがあります。それは、中間機構を廃止していこうと
する現代の資本主義の全体的傾向に対応した変化といえます。
              ──[中央卸売市場論/051]

≪画像および関連情報≫
 ●小池都知事方針/若林共産党都委員長に聞く
  ───────────────────────────
   東京都築地市場(中央区)の豊洲新市場(江東区、東京ガ
  ス豊洲工場跡地)への移転問題で、小池百合子知事は20日
  市場を豊洲に移転するとともに、築地市場は売却せず、市場
  としての機能を残す基本方針を発表しました。この基本方針
  をどう見るか、日本共産党東京都委員会の若林義春委員長に
  聞きました。
   小池知事が築地市場を売却せず、市場としての機能を残す
  と表明したことは、市場移転問題をめぐる都の従来の立場か
  らの大きな転換であると評価しています。石原慎太郎知事以
  来の都政は、築地市場を売却し、豊洲開発の原資にするとい
  うものでした。小池知事は、この立場からの大転換を都知事
  として初めて公式に発表したわけで、大変重い意味を持ちま
  す。築地の仲卸業者の8割が築地で商売したいと願い、すし
  屋さん、小売店も「やっぱりお魚は築地から」と声を上げて
  きました。日本共産党都議団も十数年間にわたって豊洲移転
  に反対し、築地市場の再整備を訴えてきました。こうした力
  が、石原都政以来の築地売却という方針の根幹を覆し、一歩
  動かしたことは明らかです。しかし、築地をいったん更地に
  して、豊洲移転を進めるという小池知事の基本方針には非常
  に重大な問題があります。豊洲市場の最大の問題は、東京ガ
  ス工場の操業がもたらした土壌汚染問題、食の安全・安心の
  問題です。小池知事は都議会第2回定例会で、都が約束した
  「無害化」は達成できていないとしておわびしました。汚染
  土壌を取り除くことはできず、安全が確保されていないこと
  を認めたわけです。        http://bit.ly/2vNYpSy
  ───────────────────────────

外国人観光客とセリの風景.jpg
外国人観光客とセリの風景
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月12日

●「市場が近代化すると仲卸が消える」(EJ第4603号)

 改めて卸売市場について考えます。卸売市場というのは、次の
3種類の人たちによって構成されています。再現します。
─────────────────────────────
        1.卸売業者──元卸/大卸
        2.仲卸業者─────仲卸
        3.        買出人
─────────────────────────────
 「1」の卸売業者(元卸/大卸)は昔の問屋のことで、各産地
から生産者(漁業者)が取ってくる魚を集め、市場に運んでくる
業者です。当然のことですが、大きな資本力が必要です。築地市
場には7社の大卸があって、いずれも大企業です。つまり、大卸
は、商品の提供者、売り手ということになります。
 一方、買出人は自分のお店──例えば、寿司店や料理店などを
持っており、店でお客に出す料理のネタを仕入れる業者のことで
す。したがって、買出人の先には一般消費者の世界が広がってい
ることになります。買出人は、商品の買い手です。
 この大卸と買出人の間に入るのが仲卸業者です。大卸が運び込
んでくる魚の目利きをし、セリによって魚の値段をつけ、魚の加
工をして、買出人に提供します。現在、築地市場の仲卸業者の数
は600社を超えますが、ほとんどは中小企業です。
 実は、この仲卸という仕事には、何度も廃止の危機が襲ってい
ます。明治の初めに日本橋魚市場でも仲卸の廃止が叫ばれたし、
築地に移るときも廃止論が出ています。しかし、それでも長い間
にわたって、仲卸は生き延び、現代にいたっています。
 仲卸の仕事で重要なのはセリですが、これは大昔に制度化され
仲卸の歴史とともにあります。しかし、1999年の卸売市場法
の改正で、国の制度としてのセリはなくなっています。現在は、
各市場で特定の魚に絞って行うようになっています。この制度と
してのセリの廃止も、仲卸という仕事を危機にさらしているとい
えます。このセリ制度について、現在仲卸の仕事をしている中澤
誠氏は、インタビューで次のように述べています。
─────────────────────────────
──:セリとは何よりも、生産者のために生まれた制度として
   始まった。
中澤:・・のだと思います。
   もしセリがなくて、法定価格みたいなものだとしたら、
   生産者はそれによって権力の支配下に置かれてしまいま
   す。その間のクッションとして仲卸のセリが生まれて、
   非常にうまく機能したということですね。
中澤:制度化したというのが大きいのではないでしょうか。逆
   に消費サイドから見た場合、セリとは品質に値段をつけ
   る制度ですね。セリをやるということは、生産者はいい
   品質のものを生産しよう、あるいはいい魚を取ってこよ
   う、いい状態で東京に送ろう、という動機になるわけで
   す。セリでいい値段がつけば自分が儲かるわけだから。
   消費者の側から見ると、生産者が良い品質のものを作ろ
   うとすることは消費者にとっても非常に良いシステムな
   んですね。この卸売市場を、品質の競争でやろうと決め
   たのは、これは天才ではなかろうかという感じです。
    ──インタビュー/中澤誠氏「天才的な築地市場」より
      『現代思想』2017年7月臨時増刊号/青土社刊
─────────────────────────────
 昨日のEJで検討した豊洲市場移転の3つのメリット、「食の
安全確保」「効率的な物流」「多様なニーズ」は、いずれも仲卸
業者にとってはほとんどメリットがないのです。
 「食の安全確保」については、仲卸業者の問題ではなく、市場
全体の問題です。それでも、本来は「古い、狭い、危ない」築地
市場から、「新しい、広い、安全な」豊洲市場への移転だったは
ずですが、「古い」は「新しい」になったものの、「狭い」は必
ずしも「広く」ならず、土壌汚染の問題が出たことによって「危
ない」は豊洲にそのまま残っています。
 「効率的な物流」も仲卸にはあまり関係がありません。入荷は
大卸の仕事ですし、出荷に関しては効率的になるメリットはあっ
ても、仲卸だけのメリットではないし、「多様なニーズ」に関し
ても仲卸には特段のメリットはありません。
 つまり、仲卸業者の視点から見ると、豊洲市場移転はお金ばか
りがかかって、ほとんどメリットはないのです。だからこそ、ほ
とんどの仲卸業者が築地市場再整備を求めて、豊洲市場移転に反
対しています。
 それだけではないのです。市場が近代化すればするほど、仲卸
の仕事はなくなっていく傾向にあります。それが証拠に海外の卸
売市場には仲卸に当たる職人がほとんどいないと、中沢新一氏は
いっています。
─────────────────────────────
 海外の物流センターには、築地市場の仲卸にあたる職人がほと
んどいない。いたとしてもその数も能力も限られていて、築地市
場のように数百人を超える上質の味覚職人を、常時揃えておくこ
となどはとうていできていない。こうした物流センター化した市
場では、スーパーで売っているような平均的な食材は簡単に手に
いれることができるが、平均値を超えた逸品は、なかなか手に入
らなくなっている。そのためフランスでもイタリアでも、以前に
比べると、味覚の水準が低下したと嘆く食通が多くなった。
        ──中沢新一氏論文「築地市場の『富』」より
      『現代思想』2017年7月臨時増刊号/青土社刊
─────────────────────────────
 和食がなぜブームになっているのか。なぜ、築地の寿司は、世
界一おいしいのか──それは腕の立つ仲卸職人がいるからです。
こういうものは、意識して残さないと、いずれ、消滅してしまい
ます。こういう仲卸たちを守ることが、築地ブランドを守ること
につながるのです。     ──[中央卸売市場論/050]

≪画像および関連情報≫
 ●食のプロの技が築き上げた“世界一の市場”
  ───────────────────────────
   築地場内には、マグロなどの大物鮮魚専門の店や、活魚が
  メインの店など、専門性の高い仲卸の店が所狭しと並んでい
  る。そのうちの二つの仲卸業者に、話を伺った。
   まず訪れたのは創業当時から生マグロにこだわる西誠(に
  しせい)。三代目代表の小川文博さんに、マグロを扱う際の
  知識と技について伺った。
   「せりの前には、『下ヅケ』と呼ばれる事前チェックをお
  こないます。尻尾の断面で脂の状態を確認し、味を想像しな
  がら下ヅケするんです。生マグロは時期を外すと見た目は一
  緒でも美味しくないこともありますし、いろんな知識をもと
  に値付けをしますが実際に切ってみたら予想と違った、とい
  うこともありますね」と小川さん。大きなマグロは、解体も
  一筋縄ではいかない。解体用の包丁は何種もあり、大きいも
  のでは150センチメートルほど。さらに片刃になっていて
  まっすぐ切るのも難しいが、プロの手と技によって丁寧に小
  分けにされ、店頭に並んでいく。
   マグロは獲れる場所や時期により種類が異なり、味もまた
  それぞれ。「築地市場のすごさは、たくさんのマグロが入っ
  てくることですね。その数はほかに類をみません。そのなか
  からお客さんの要望に合わせて、どういったマグロが良いか
  を考え、仕入れるのが私たちの仕事です」。
                   http://bit.ly/2eTV94X
  ───────────────────────────

築地仲卸「西誠」.jpg
築地仲卸「西誠」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月11日

●「豊洲市場最大の売りとは一体何か」(EJ第4602)

 築地移転問題の小池知事の結論である「築地は守る、豊洲は活
かす」は、なかなか意味の深い言葉です。この人はなかなかの造
語の名人であるといえます。けっして、追い込まれて苦し紛れに
出した方針でないことは確かです。
 「築地は守る」とは「築地ブランドを守る」ということです。
小池知事によると、「築地ブランドを守る」をいい換えると「仲
卸の人たちを守る」ということになります。なぜなら、豊洲市場
でそれは実現できないからです。これについては、これから明ら
かにしていきます。
 一方、「豊洲は活かす」は、文字通り既に出来上がっている豊
洲市場を活かすことです。築地市場を再整備するにせよ、巨額の
お金をかけて作り、せっかく完成している豊洲市場を使わないで
売るという選択肢はないはずです。
 しかし、豊洲市場は、土壌汚染区域というレッテルが貼られて
いる土地の上に建っています。したがって、生鮮食料品を扱う中
央卸売市場として不適格であり、築地市場に新しいスタイルの市
場が再建できたときは、市場機能を戻すということを言外に含め
て表現されています。これが「築地は守る」ということばに含ま
れる意味です。
 それでは、豊洲市場はどうするのかというと、豊洲は物流セン
ターとして活用するのです。これについては、既出の安東泰志氏
が次のように具体的に述べています。
─────────────────────────────
 では、豊洲市場はどうするのか。ここで注目すべきは、その立
地特性と優れた冷凍物流機能だ。すなわち、豊洲は羽田と成田に
近い上、今回の一連の意思決定の結果環状2号線が開通すれば、
一層利便性が高まり、湾岸地域の物流センターとして極めて有利
な立地である。そこで豊洲では、市場機能のうちの、転配送機能
や市場外流通機能を維持発展させることで発展的に用途転用する
ことが可能である。大手卸売業者は中央卸売市場としての豊洲市
場をベースにすることも合理的であろう。   ──安東泰志氏
                   http://bit.ly/2eQ0r1g
─────────────────────────────
 ここまでEJはどちらかというと、築地市場が重要であること
を中心に述べてきていますが、豊洲市場についてもよい点は、た
くさんあり、これについても述べる必要があります。
 豊洲市場について知るには、東京都が次のハンドブックを作成
しています。参照をお勧めします。しかし、このハンドブックは
築地市場には問題があり、豊洲市場へ移転するしかないというロ
ジックで作られていることを念頭に置いて読む必要があります。
─────────────────────────────
    「築地市場の移転整備/疑問解消BOOK」
              http://bit.ly/2hibqj9
─────────────────────────────
 以下の説明は、添付ファイルの「<基幹市場>として選ぶなら
どちら?」を見ながら、読んでいただきたいと思います。豊洲市
場のメリットは次の3つです。
─────────────────────────────
          1.食の安全確保
          2.効率的な物流
          3.多様なニーズ
─────────────────────────────
 「1」は「食の安全」です。
 ハンドブックでは、次のようなロジックで「食の安全」につい
て、説明しています。
─────────────────────────────
 豊洲新市場は閉鎖型の施設ですので、築地のように商品を野ざ
らしにすることはありません。さらに温度管理もしっかりとでき
るので、商品を低温を保持したまま途切れることなく流通させる
「コールドチェーン」が確立できます。
       ──「築地市場の移転整備/疑問解消BOOK」
─────────────────────────────
 豊洲市場は全館閉鎖型の施設です。「コールドチェーン」とは
生鮮食品や冷凍食品などを、産地から消費地まで一貫して低温・
冷蔵・冷凍の状態を保ったまま流通させる仕組みのことです。
 豊洲市場がコールドチェーンを確立するには、HACCP(ハ
セップ)を取得する必要があります。HACCPは、食品の衛生
状態を科学的に分析、管理するための手法のことで、食の安全を
高めるために必要であるだけでなく、食品の輸出にも結びつくこ
とになります。
 「2」は「効率的な物流」です。
 豊洲市場には、専用の荷さばき場を確保できるので、衛生面で
も品質面でも、より「安全・安心」を確保できます。築地では、
面積が狭いため、搬入する車両と搬出する車両が同じ駐車スペー
スを使わざるを得なかったのですが、豊洲では搬入口と搬出口を
分けることで可能になっています。食品の入り口と出口を別にす
ることで、食品同士の接触機会を減らし、衛生面を一段と向上さ
せることができます。
 「3」は「多様なニーズ」です。
 豊洲市場では、築地市場よりも面積が広いので、大手スーパー
などの食品加工やパッケージする施設を置くことが可能になって
います。これは市場としての付加価値であるといえます。
 また、大口顧客のために、商品を店舗ごとに仕分けられるスペ
ースがとれることや、一時保管するための低温倉庫なども置くこ
とが可能になっています。
 このように考えると、築地市場に比べて豊洲市場は良いことづ
くめですが、築地市場で一番多い「仲卸業者」の視点に立って考
えると、彼らにとって豊洲市場は、特段のメリットは何もないこ
とがわかります。それでいて移転にはカネはかかるし、店舗面積
も狭いのです。       ──[中央卸売市場論/049]

≪画像および関連情報≫
 ●最新設備コールドチェーン破綻で鮮魚が風雨にさらされる
  ───────────────────────────
   「こんなことでいいのか!」――。“推進派のドン”こと
  伊藤裕康築地市場協会会長も“激オコ”だ。豊洲移転の最大
  のウリは、魚介類を産地から途切れることなく低温を保ち輸
  送する「コールドチェーン」だ。鮮度を落とさず消費者に届
  ける“最新鋭設備”に大枚をはたいたはずが、使い勝手を無
  視した造りのせいで宝の持ち腐れ。ちっとも機能しそうにな
  いのだ。
   「豊洲では荷台が横に開く『ウイング型』の運送用トラッ
  クは、生鮮食品が外気に触れてしまうため採用できません。
  接車し荷卸しするための『バース』も、荷台の後部の扉が開
  くタイプのトラックが、バックで入ってくることを想定した
  造りになっています」(運送業界関係者)
   荷を卸しやすいウイング型にも対応した築地より、手間と
  時間がかかるのは確実。しかも、「3.5メートルの高さ制
  限のある場所があるため、通行できない車両がある」(東京
  都中央卸売市場輸送協力会の椎名幸子会長)というから、豊
  洲のコールドチェーンは破綻へまっしぐらだ。15日の市場
  問題プロジェクトチームのヒアリングで、伊藤会長がまあ怒
  ること。             http://bit.ly/2wNtcmc
  ───────────────────────────

基幹市場として選ぶならどちら?.jpg
基幹市場として選ぶならどちら?
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月08日

●「小池知事は最初から『築地温存』」(EJ第4601号)

 小池知事の「築地は守る、豊洲は活かす」について、前都議会
自民党幹事長の木啓氏は、公式ブログで次のように批判してい
ます。タイトルは「『決められない政治』への逆戻りは許されな
い」。なお、木啓氏は今回の都議選で落選しています。
─────────────────────────────
 都議会議員選挙が6月23日から告示される直前の6月20日
小池知事は延期していた築地市場の豊洲移転について、「築地を
守る、豊洲を活かす」という築地も豊洲も活用する考えを、これ
も独断で表明しました。今回も議会及び都庁の関係部局に知らさ
れることなく、この案は一方的に表明されたのです。(中略)
 結局、都議選前に「決められない知事」のイメージを払しょく
するためにこのような案を出したのでしょうが、内容は不透明な
部分がほとんどで、築地の業界関係者も判断のしようがないとい
うのが正直なところのようです。    http://bit.ly/2w8RHGa
─────────────────────────────
 ボロクソです。木啓氏は、築地市場の豊洲移転にストップを
かけている小池知事が「決められない知事」との批判を避けるた
め、わけのわからない案を出してきたととらえています。もっと
も「決められない知事」という印象操作をしていたのは、かつて
木幹事長が率いた都議会自民党ではありますが・・・。
 小池知事は、「築地は守る、豊洲は活かす」の方針を発表した
直後、築地市場に足を運んで市場関係者幹部に説明を行っていま
す。そのとき、東京都水産物卸売業者協会会長の伊藤裕康会長は
次のようにいっています。
─────────────────────────────
 伊藤:豊洲移転を決められたことは評価したい。しかし、豊
    洲と築地に2つの市場が併存することは絶対に理解が
    できない。
 小池:あくまで豊洲市場が中央卸売市場になります。
─────────────────────────────
 小池知事はここで「中央卸売市場は豊洲」と明言しています。
これに関連して、この小池知事の説明会に出席していた最大の業
界団体「東京魚市場卸協同組合」(東卸)の早川豊理事長は記者
に対して次の趣旨のことを話しています。
─────────────────────────────
 記者:小池知事の説明をどう思うか。
 早川:2つの市場は成り立たない。卸、仲卸、買参人が一堂
    に会して商品を評価し、販売するという市場本来の機
    能が2ヶ所同時並行で行えるとは到底思えない。もっ
    とも、再開発後の築地が中央卸売市場になるのであれ
    ば話は別だが。
─────────────────────────────
 小池知事は、明言はしていませんが、あくまで豊洲市場は、築
地が再開発されるまで一時的に中央卸売市場の機能を持つものの
築地が完成したあかつきには、中央卸売市場の機能は築地市場に
戻ることを示唆しています。
 なぜなら、豊洲市場は、追加土壌汚染対策はするものの、今後
とも土壌汚染はなくならず、無害化が困難との判断が小池知事に
あるからです。豊洲市場の土壌汚染は、初期段階できわめてゆる
い土壌汚染対策しかしておらず、その状態で建物を建てているの
で、いつまで経っても土壌汚染がなくならないのです。そのこと
は、環境大臣を務めた小池知事はよくわかっています。
 もうひとつ特記すべきことがあります。それは、この「築地は
守る、豊洲は活かす」のプランは、都議会自民党の印象操作であ
る「決められない知事」の批判を払しょくするために慌てて考え
出されたプランではないことです。
 小池氏は、知事に就任した時点で既に「築地市場温存」の方針
を決めていて、側近に命じてその実現プランを作成させているの
です。それを裏付ける文書も存在します。「現代ビジネス」編集
部がその文書を手に入れていますが、そこには市場問題の解決案
として、次の4つの選択肢が示されています。
─────────────────────────────
 1.予定通り豊洲に移転
 2.豊洲移転は中止、築地市場を改修して使う
 3.築地市場をそのまま使い、豊洲市場は倉庫として使う
 4.築地市場を再整備し、その間は一時的に豊洲へ市場機能
   を移転する          http://bit.ly/2wIVZHY
─────────────────────────────
 選択肢の1つずつについて、その実現性が検討され、最終的に
「4」が選択されたものと考えられます。この「4」こそ、小池
知事が明らかにした「築地は守る、豊洲は活かす」プランにつな
がるのです。そこには、次のように書かれています。
─────────────────────────────
 築地市場の再整備が終わり、市場機能が築地へ戻されたのちに
は豊洲市場を物流拠点やショッピングモールとして活用する。
                   http://bit.ly/2wIVZHY
─────────────────────────────
 なぜ「4」なのでしょうか。それは「築地のブランド」を守る
ためです。小池知事のいう「築地は守る」とは、20日の会見で
も述べた仲卸の人たちを守るということです。
─────────────────────────────
 築地市場の価値、そして高いブランド力というのは、これは東
京都の莫大な資産であると考えられます。高い知名度、そして長
い歴史、日本で唯一市場がブランドになった稀有な存在といって
いいかと思います。そして、その築地ブランドの核をなすのが仲
卸の皆さんでありまして、この仲卸の方々の目利き力ということ
が、まさにブランドの宝の中の宝という部分かと思います。
             小池知事  http://bit.ly/2vNXdmk
─────────────────────────────
              ──[中央卸売市場論/048]

≪画像および関連情報≫
 ●市場移転計画で見逃された「築地」ブランド/牧野直哉氏
  ───────────────────────────
   東京都観光汽船(TOKYO CRUISE)をご存じだ
  ろうか。浅草やお台場、日の出桟橋といった東京の湾岸エリ
  アを結ぶ船舶を運航している。東京湾に設けられた乗船地と
  隅田川を通って浅草を結ぶルートでは、漁船からも海産物の
  荷下ろしが可能な築地市場の岸壁を眺められる。この岸壁こ
  そ築地市場が移転せざるを得なくなった時の経過と環境変化
  を象徴している。
   築地市場は、日本橋にあった市場が関東大震災で潰滅的な
  被害を受け、当時の陸運と海運を考慮し、復興事業の一環と
  して移転されたという経緯がある。築地市場の開設以降、物
  流は鉄道輸送ではなく陸上のトラック輸送が主役となった。
  東京都中央卸売市場の「豊洲市場について」のページには、
  市場移転にまつわる情報が掲載されている。築地市場開業当
  時とは物流インフラも大きく異なっており、今や食品サプラ
  イチェーンはトラック輸送が支えている。豊洲市場は首都高
  速湾岸線に近い立地だ。築地から豊洲への移転理由の1つは
  物流手段の変化だ。世界最大の取扱量を誇る海産物も、いま
  や全国から陸上を経由してトラックで築地へ運びこまれる。
   物流手段の変化も、手狭なスペースの問題も、いずれも市
  場機能のハード(設備)の問題だ。一方で築地市場から豊洲
  市場への移転に必要となるソフト面は、どのように対応され
  てきただろうか。問題の根底には、移転後の市場に求められ
  る「あるべき姿」や「ビジョン」の欠落が大きく影響してい
  る。移転と同時進行で進んだ2020年の東京オリンピック
  の開催決定と準備が、ビジョンなき移転事業に拍車をかけて
  しまった。           http://nkbp.jp/2xQYBlA
  ───────────────────────────

早川豊理事長/伊藤裕康会長.jpg
早川豊理事長/伊藤裕康会長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月07日

●「豊洲は築地市場の一時的な移転先」(EJ第4600号)

 2017年9月5日、都議会では築地市場の豊洲市場への移転
関連事業費約55億円を盛り込んだ補正予算案が可決されていま
す。これには、共産党、日本維新の会、東京・生活者ネットワー
クが反対しています。
 これによって、東京都は豊洲市場で追加の土壌汚染対策工事を
行い、来年秋に築地市場を豊洲市場に移転させる予定です。これ
には、小池知事に反対姿勢をとる都議会自民党も反対はできず、
補正予算案に賛成しています。しかし、これは必ずしも築地市場
そのものの移転とは限らないのです。
 現在、豊洲市場の建物の下は地下空間になっています。その床
は砕石層であり、そこに水が溜まっています。これから都が行う
土壌汚染対策追加工事の目的は、その水を完全に抜いたうえで、
ここにコンクリートを敷き、下から土壌汚染物質が上がってこな
いようにすることです。
 しかし、この追加工事で土壌汚染が止まるほど、豊洲市場の土
壌汚染拡散の状況は生易しいものではありません。何しろ豊洲市
場の土地は「形質変更時要届出区域」という汚染地域のレッテル
が貼られたままです。こんなところを首都東京の中央卸売市場に
すれば、国際的信用を失ってしまうことになります。
 したがって、小池知事は表面上は「中央卸売市場は豊洲市場で
ある」といっていますが、これは本音ではないはずです。その根
拠は、小池知事が3年9ヶ月もの長期にわたって環境大臣を務め
ていたことと関係があります。
 しかも、小池知事は、土壌汚染対策法(土対法)が施行された
6ヶ月後に環境大臣になっているのです。
─────────────────────────────
      土壌汚染対策法施行:2003年2月15日
   小池百合子氏都知事に就任:2003年9月22日
─────────────────────────────
 そのため小池知事は、当然のことながら、土対法に詳しいし、
熟知しています。小池氏にしてみれば、環境大臣を務めた東京都
知事として、石原都政でやったこととはいえ、汚染区域のレッテ
ルが貼られている豊洲市場に生鮮食品を扱う中央卸売市場は作り
たくはないはずです。さらに、小池知事は、豊洲市場は今後いく
ら土壌汚染対策を施しても、いわゆる「無害化」は困難であると
考えています。これについては、平田健正専門家会議座長もその
ことに言及しています。
 しかし、築地市場を再整備するには、現在の築地市場を一時的
にどこかに移転させる必要があります。これまで築地市場の再整
備がうまく進まなかったのは、代替地がなかったことが原因であ
るといわれています。
 ところが今回は、土壌の無害化こそ達成されてはいないものの
豊洲市場が完成しています。そこで最小限度の追加的汚染防止対
策を施したうえで、一時的に築地市場を豊洲市場に移転させ、東
京五輪が終了すると同時に、豊洲市場も含めたかたちでの新しい
スタイルの中央卸売市場を作るという構想を立てているのではな
いかと考えられるのです。したがって、「豊洲市場=中央卸売市
場」であるとは限らないのです。
 まさかと考える人もいると思います。しかし、この説を支持す
る人は少なくないのです。ニューホライズンキャピタル取締役兼
社長の安東泰志氏は、小池知事のいう「築地は守る、豊洲は活か
す」に関して、次のように述べています。
─────────────────────────────
 小池都知事は20日の記者会見で、市場移転問題について「築
地は守る、豊洲は活かす」と述べ、事実上、築地再開発・再整備
を軸とする方向性を打ち出した。
 豊洲市場は、築地市場の一時移転先として利用した後、冷凍冷
蔵・物流・加工等の総合拠点として用途転用することで湾岸地域
の物流センターとして発展させていくという。メディアの中には
豊洲に一時移転することをもって「豊洲への市場移転」と報じる
向きもあるようだが、そうではない。
 現時点で、「白紙の状態から市場機能をどうするか」と問われ
れば、市場環境の変化を踏まえるならば豊洲市場のような巨大な
設備を、しかも東京ガスの工場跡地という、市場に最も不向きな
場所に整備することなどあり得ない判断であろう。しかし、現実
には既に土地建物を手当てし、整備してしまった以上、次善の策
を考えなければならない。その観点からすると、筆者は今回の案
は非常に理に適ったものであると考える。
         ──安東泰志氏/  http://bit.ly/2wwXDMR
─────────────────────────────
 小池都政の市場問題PTの委員の一人である東北芸術工科大学
の竹内昌義教授は、築地市場関連雑誌によく論文を寄稿されてい
る人です。EJがよく取上げる『現代思想』の「築地市場」特集
にも「築地市場改修案」という論文が掲載されています。竹内教
授の「築地は守る、豊洲は活かす」についての論評です。
─────────────────────────────
 私は市場問題PTの委員として市場のあり方を検討してきた。
その上で、小池都知事の今回の築地、豊洲両方を活かすという案
を支持する。これはこれでよく考えられた案だ。この市場の問題
は、長きにわたって議論され、検討されてきた。その過程で多く
の誤解や思い込みが存在する。(中略)
 小池知事の発表は具体的ではないと言われる。確かに現時点で
見えていないことは多い。また、市場を2市場、並存できないの
も事実である。ここへきての、逆の誤解もある。築地が更地にな
るかのような印象を話す人もいる。誰もそんなことは言っていな
い。築地を食のワンダーランド化するにあたり、築地自体の建物
の資源も必要と私は考える。確かに具体的にはまだなっていない
部分が多くある。           http://bit.ly/2eJDHjx
─────────────────────────────
              ──[中央卸売市場論/047]

≪画像および関連情報≫
 ●具体策なし 小池知事「築地は守る&豊洲は生かす」は裏目
  ───────────────────────────
   「知事が逃げた」――。20日行われた小池百合子都知事
  の会見で、記者の間からこんな失笑が漏れた。小池知事が満
  を持して発表した「築地市場移転」の最終案。表明したプラ
  ンは築地を豊洲に移転させる一方、さらに将来的に築地にも
  市場機能を持たせるというもの。「5年後をめどに築地を食
  のテーマパーク機能を持つ一大拠点に再開発する」というの
  だ。豊洲と築地の両市場が併存することを視野に入れている
  という。なんとも壮大な構想だ。
   ところが会見時間はわずか30分。しかも質疑応答は2人
  に限定し、時間もたったの4分だった。記者から「大事な問
  題だから、もうちょっとやりませんか?」との声が上がった
  が、小池知事は無視して会場を出て行った。
   「まさに“言語明瞭・意味不明”の会見でした。豊洲にい
  つ移転するのか、5年後に築地に市場機能を戻した場合、豊
  洲はどうなるのか、豊洲に業者の一部が残り、市場が2つに
  なっても弊害はないのかなど疑問は山ほどある。築地をどう
  つくり変えるのかも知りたいのに、十分答えないまま打ち切
  りになった。普段、オープンとか情報公開などと主張してい
  るのに、この日の小池知事は異常でした」(全国紙記者)
    「日刊ゲンダイデジタル」   http://bit.ly/2eDAi2d
  ───────────────────────────

築地市場における「せり」の風景.jpg
築地市場における「せり」の風景
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月06日

●「築地は守る/豊洲は活かすの意味」(EJ第4599号)

 都議選で大勝した後の小池百合子知事は、その都政に関して批
判が集まっています。都庁周辺を取材する都政新報は、就任1年
目の評価について、100点満点で次の評点をつけています。な
お、舛添前知事については1期目前半の評価です。
─────────────────────────────
      石原慎太郎元知事 ・・・ 71・1点
       舛添要一前知事 ・・・ 63・6点
       小池百合子知事 ・・・ 46・6点
─────────────────────────────
 小池知事に関しては、あまりにも評価が低いというか、厳し過
ぎると考えます。もし小池知事が豊洲新市場移転を延期しなけれ
ば、土壌汚染のこと、盛り土のことなど、すべてのことが闇に葬
られていたと思うからです。もし移転してから後でそれが発覚し
中央卸売市場の運営が中断されるようなことになったら、大変な
ことになります。9分9厘決まっていた移転を延期させることは
相当の勇気ある決断が必要であったと評価できます。だからこそ
小池知事の率いる都民ファーストの会が多くの都民の支持を得て
大勝したのです。
 さて、都議選に先立つ2017年6月20日に小池知事は、築
地市場の豊洲新市場への移転問題について、方針を表明していま
す。日本経済新聞の記事に基づいて、論点をまとめます。
─────────────────────────────
 築地の再開発を含む市場の新たなプランについて、都職員にま
とめるよう指示した。理由は2つ。まず豊洲市場はこれまで約6
千億円をかけてつくられてきたわけだが、豊洲ありきで移転後の
計画が不十分ではなかったか。築地市場を売却して費用の穴埋め
をするとの計画はあったが、移転後に毎年生じる年間100億円
近い赤字にどう対応していくのか。
 2点目だが、日本一の世界に誇る築地ブランドは長い間、汗水
流して必死の思いで育て守ってきた市場の人に対して、向き合っ
ていく必要があると感じたからだ。
 築地市場は5年後をめどとして再開発する。環状2号線は五輪
前に開通させる。そのあとの築地市場跡地は五輪用のデポ、輸送
拠点として活用する。その後、食のテーマパーク機能を有する新
たな市場として東京をけん引する一大拠点にする考え方だ。
 豊洲の中央卸売市場は冷凍、冷蔵、物流、加工などの機能をさ
らに強化することで、将来にわたる総合物流拠点になりうる。築
地再開発と豊洲利用の具体案は事業者、都民とオープンな場を設
け、広く情報公開しながら検討していく。都は業者、都民の皆さ
んの信頼回復に向けて徹底的に努力する。
                http://s.nikkei.com/2evcg9f
─────────────────────────────
 上記の小池発言をひとことで表現すると、「築地は守る、豊洲
を活かす」ということになります。この言葉は、何を意味してい
るのでしょうか。
 小池知事の話をトレースすると、まず、豊洲新市場に対してさ
らなる土壌汚染対策を施し、2018年秋までには築地市場を豊
洲新市場に移転させます。続いて、築地市場を解体し、その跡地
については、東京五輪用の輸送拠点として利用します。
 東京五輪終了後、築地跡地を整備し、食のテーマパーク機能を
有する新たな市場として東京をけん引する一大拠点にするといっ
ています。そのさい、豊洲新市場に移った市場関係者は希望に応
じて築地新市場に戻ってこれるようにするといっています。
 この表現ではっきりしていないのは、築地に作るという食のワ
ンダーランドとは具体的に何かということです。この食のワンダ
ーランドの正体について、現時点で都議会も市場関係者も明確に
把握できていない状況です。
 NHKテレビの「ニュース・ウォッチ9」では、小池知事が築
地移転問題について方針を表明したその日に、この問題を取り上
げています。テーマは「築地は守る、豊洲は活かす」です。番組
ではその席に、120年以上も続く仲卸業者の酒井兄弟──酒井
信義氏と酒井衛氏を呼んで、意見を聞いています。その一部をご
紹介します。
─────────────────────────────
◎保里リポーター
 小池知事の表明について、築地で働く人はどう受け止めたので
 しょうか。120年以上続く仲卸業者の酒井さん兄弟です。豊
 洲への移転の準備を進めながらも、できれば築地で商売を続け
 たいと願ってきました。小池知事が打ち出した築地の再開発に
 ついてどのように受け止められましたか。
◎仲卸業者/酒井信義さん
 小池さんの出された結論は、ぼくは違うと思う。やっぱり築地
 市場を守るなら築地でやるべきだと思う。
◎仲卸業者/酒井衛さん
 現実的じゃない。市場を将来的に二分するというのは、ありえ
 ないと思う。(中略)
◎仲卸業者/酒井信義さん
 仮に受けざるをえないとすれば、豊洲を使い勝手のいい、みん
 なが喜んで働ける市場にしてもらいたい。できるだけ築地に戻
 りたい。5年といわず、3年くらいで戻れるように。
                   http://bit.ly/2x44vCB
─────────────────────────────
 築地市場の仲卸業者のほとんどは、ここまで述べてきたように
豊洲新市場移転に反対です。ところが舛添知事に代わった小池知
事が豊洲移転を延期して、築地市場の再整備の可能性を期待して
いたのです。しかし、小池氏は「築地は守る」とはいったものの
豊洲新市場に移転の決断をしたので衝撃を受けています。
 しかし、小池知事の真意は別のところにあります。築地市場の
再整備は完全になくなったわけではないのです。
              ──[中央卸売市場論/046]

≪画像および関連情報≫
 ●【記者座談会】/「築地は守る、豊洲は活かす」
  ───────────────────────────
  A:東京都の市場移転問題で20日、小池百合子知事が基本
    方針を示したね。
  B:豊洲移転か築地再整備かと注目が集まる中、示された方
    針は「築地は守る、豊洲は活かす」という市場の両立案
    だった。市場機能を豊洲に移転した上で、築地市場は民
    間事業者とともに土地を有効活用し、5年後をめどに再
    開発する。豊洲は冷凍冷蔵・物流・加工などの機能を強
    化して将来にわたる総合物流拠点とする計画だ。
  C:小池知事は会見中の質疑で「豊洲は新たな中央卸売市場
    としての機能を優先させ、築地も市場機能を確保できる
    方策を見出したい」と発言した。築地は都にとって「莫
    大な資産」のため売却は考えず、貸し付ける。隣の浜離
    宮庭園の活用も想定している。築地は「築地ブランド」
    を生かした「食のテーマパーク」機能を持つ東京をけん
    引する一大拠点とし、豊洲は「ITを活用した総合物流
    センター」とする。両市場を通ることになる環状2号は
    2020年の東京五輪前に開通させ、築地市場跡地は当
    面五輪用の輸送拠点として活用するという。
  A:収支面は大丈夫なのだろうか。
  C:「賢い支出のための選択」により、持続可能な市場を構
    築できるとしている。豊洲の機能強化による賃料改善と
    築地の賃料や地代収入などで両市場会計を黒字化する見
    通しを立てている。築地市場の再開発は、銀座からも近
    く立地がいいだけに、その動向に注目が集まるね。特区
    制度を活用するという話も聞こえてくるけど。
                   http://bit.ly/2xIk3ch
  ───────────────────────────

築地移転方針を表明する小池知事.jpg
築地移転方針を表明する小池知事
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月05日

●「業界6団体が移転に賛成した理由」(EJ第4598号)

 かつて石原慎太郎元知事は築地市場を視察して「古い、狭い、
危ない」と宣言、豊洲での新市場開設を目指します。今になって
考えると、つくづく最悪の選択だったといえます。
 しかし、このなかで「狭い」については、あまり異論はなかっ
たと思われます。築地市場は明らかに狭かったからです。仲卸業
を営む中澤誠東京中央卸売市場労働組合委員長は、これはウソで
あると断言しています。
─────────────────────────────
 「豊洲新市場は広い」と説明されてきました。築地市場の狭隘
化を解消するのだと。これが大嘘なのです。現在の築地は総面積
が23ヘクタールで、豊洲新市場は、その倍となる40ヘクター
ルと説明されていますが、実際に、私たちが作業したり、物流の
ターレーなどが通るための可動域で考えてみると、圧倒的に豊洲
新市場は使える部分が少ない。豊洲新市場の建物で、物流に使え
る敷地は、建坪で言えば18・3ヘクタールしかないのです。そ
れ以外のほとんどは、車が待機するための駐車場と、外周道路と
公園です。
 築地の場合は、23ヘクタールのすべてが平面で広がっている
ので、逆に言えば、ありとあらゆる場所が物流の場所になるとい
うことです。市場用地とは別に中央区の駐車場などもあるので、
非常に効率よく面積を使うことができているんですね。
     ──中澤誠氏の論文「まだまだある、使えない」より
      『現代思想』2017年7月臨時増刊号/青土社刊
─────────────────────────────
 日本の伝統的な生活空間のモジュールは、畳一畳分、つまり、
1・8メートルですが、豊洲新市場の店舗の幅は1・5メートル
しかないのです。わずか30センチの差ですが、この差で人間は
狭さを感じるものです。このようなことになったのは、幅広く市
場関係者の意見を聞かず、市場のなんたるかを知らない人が設計
したからです。
 それでいて東京都は、「店舗スペースは広くした」といってい
ます。これに対して中澤誠氏はそれは料金を取る施設スペースの
部分を広くしただけだといっています。築地市場にも料金がかか
る施設スペースがありますが、その横や後ろには、必ず共用スペ
ースがあって、業者はそこに荷物や、集荷のためのターレーを駐
車させているのです。
 ところが、豊洲新市場では、そういう共用スペースをなくして
施設スペースにしています。事業者にとっては、お金を払う場所
は増えたものの、実質的に使えるスペースは狭くなるということ
で不満が高まっています。
 築地・豊洲問題をここまで東京都、すなわち移転を進める側か
ら年表をたどってみてきましたが、市場関係者側からも見る必要
があります。東京都は、自分たちの都合による移転であるにもか
かわらず、何とか業界団体の要望による移転というかたちにした
かったのです。築地市場には業界6団体というものがあります。
─────────────────────────────
       1.築地市場を利用する水産卸 〇
       2.        水産仲卸 ×
       3.          青果 〇
       4.       売買参加人 〇
       5.       関連事業者 〇
       6.       買出人組合 ×
               移転賛成:〇/移転反対:×
─────────────────────────────
 この「水産仲卸」には、東京魚市場卸協同組合(東卸)──こ
れは業界の中で最大の団体ですが、1998年11月に「築地市
場の豊洲移転の是非」について、全組合員投票を行っています。
その時点で移転候補地として豊洲の名前は出ていましたが、その
時点では、土壌汚染のことは誰も知らないことです。そのときの
投票結果は次の通りです。
─────────────────────────────
 現在地(築地)での再整備 ・・・ 495票 56・8%
 豊洲移転         ・・・ 376票 43・1%
                      註:白票1票
─────────────────────────────
 この時点で移転に賛成していたのは、水産卸、青果、売買参加
人、関連事業者の4団体です。これを見ると、移転反対は2団体
ですので、移転賛成が圧倒的のように見えますが、人数的には反
対が多数なのです。石原慎太郎氏が知事になる前の状況です。
 この結果を見て、当時の都の中央市場長である宮城哲夫氏は次
のように市場関係者に約束しています。
─────────────────────────────
 1団体たりとも、反対があれば、絶対に豊洲には行きません
                 ──宮城哲夫中央市場長
─────────────────────────────
 ところがです。6団体中2団体が「移転反対」だったのですが
この反対2団体の理事長が非常に不透明な理由で更迭され、その
2団体の理事長は移転賛成に回ります。東京都と都議会自民党の
非常に汚い裏工作の結果です。
 しかし、既に全組合員投票で豊洲移転を否決している東卸は、
理事長が代わったといっても、それだけで賛成に転ずることは困
難です。そこで東卸では、組合員のなかから選ばれた一部の組合
員で構成する「総代会」なるものを作って、2014年にその総
代会が、1998年の全組合員投票の移転否決決定を覆し、移転
を可決させてしまったのです。
 これは、例えていうなら、国民投票で決定されたことを国会が
勝手にひっくり返すような暴挙といえます。このような強引なこ
とが行われ、形の上では業界6団体としては、豊洲移転賛成で決
まっているのです。しかし建物は完成しても、現在も豊洲移転は
行われておりません。    ──[中央卸売市場論/045]

≪画像および関連情報≫
 ●大事な議論がされない(築地市場編)
  ───────────────────────────
   豊洲市場移転に反対する方々が挙げる反対理由は,土壌汚
  染,建物の耐震性不足,施設の設計不備というところです。
  これらの問題がなければ、喜んで移転するとはいきませんよ
  ね。なぜなら,本当に理由が別にありそうだからです。表向
  きの理由は当然,移転先が豊洲とわかった後,さらに豊洲市
  場の施設の設計内容が分かった後に出てきたものです。とこ
  ろが,東京都中央卸売市場のホームページの「築地市場移転
  決定に至るまでの経緯」によれば,移転先がどこだろうと,
  移転そのものへの反対運動が昔から繰り返されています。再
  初の反対運動は昭和50年代の大井市場(現・太田市場)移
  転の時から起こっています。移転構想自体は、昭和30年代
  からあります。築地市場が取扱量や交通量の増加に対応でき
  なったためで,そのころから問題を抱えているわけです。
   大井市場移転の時も,水産業界の意見がまとまらず,都は
  水産業界に統一見解の要請をしています。その間,移転反対
  の総決起集会が築地本願寺で行われたりしたためかどうか分
  かりませんが,移転をあきらめ,昭和61年に築地現在地で
  の再整備が決定しています。平成3年に再整備工事に着手し
  たものの,工期の遅れや工事費の増加,そして業界調整の難
  航のため頓挫します。       http://bit.ly/2x1udrD
  ───────────────────────────

中澤誠東卸労働組合委員長.jpg
中澤誠東卸労働組合委員長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月04日

●「使い勝手がすこぶる悪い豊洲市場」(EJ第4597号)

 ここまで豊洲新市場の用地の土壌汚染の劣悪さについて述べて
きましたが、既に完成している市場の建物についてはどうなので
しょうか。
 豊洲新市場の最大の問題点は、市場関係者の意見をほとんど聞
かないで設計され、建てられていることです。そのため、築地市
場ほどの市場を移転させようというときに必要とされる慎重さと
配慮がほとんど感じられない設計になっています。
 これは、豊洲の地形の問題ですが、豊洲新市場は環状2号線と
315号線が直交しており、市場の建物は次のように3分割され
ています。添付ファイルも参照してください。
─────────────────────────────
     1.    青果棟 ・・・・・ 5街区
     2.水産仲卸売場棟 ・・・・・ 6街区
     3. 水産卸売場棟 ・・・・・ 7街区
─────────────────────────────
 この場合、卸売と仲卸は、仕事上緊密な連携が必要ですが、豊
洲市場の場合、315号線という幹線道路で隔てられているので
道路の下に3本の「アンダーパス」が設けられています。しかし
これで1日に2000台ものターレー(小型運転車ターレット)
がスムーズに行き来できるかどうか非常に疑問です。築地市場の
ように、流れるような動線は望むべくもないのです。
 これについて、築地市場に詳しい中沢新一氏は、豊洲の卸売棟
と仲卸棟の問題点について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 仲卸棟は4階建ての建物になっている。水産仲卸の仕事場は1
階の部分、買い出しが3階と4階で、そこに駐車場が付属してい
る。卸売棟から仲卸棟までは、1・5キロほどの外周道路によら
なければたどり着けないようになっているので、荷受した荷物は
トラックなどで仲卸棟に運び込まなければならない。仲卸棟1階
で荷分けされた水産物の荷は、ターレに乗せられ、3階と4階の
買い出し人のもとに運ばれる。このときターレは、建物の外に接
してつくられたループ状の渡り廊下を登っていかなければならな
い。築地市場内を自在に動き回っていたターレもこの窮屈な渡り
廊下の中では一方向に流れていくしかなく、多くの仲卸はかえっ
て事故が起きやすくなるのでは、という懸念を抱いている。
       ──中沢新一氏の論文「築地市場の『富』」より
      『現代思想』2017年7月臨時増刊号/青土社刊
─────────────────────────────
 豊洲新市場の売り場面積は築地の売り場の1・1〜1・2倍で
あり、建物全体では1・7倍という「広さ」が強調されていたの
ですが、実際の豊洲の売り場には仕切りが設けられるなど、非常
に使い勝手はよくないのです。
 中沢新一氏は、「豊洲新市場は広い」という東京都の触れ込み
に疑問を持っています。売り場の設計がそれを使う人の立場に重
点をおいて設計されておらず、自由に広く使える空間が狭くなっ
ているからです。このような豊洲新市場の問題点を中沢氏は、次
の3つにまとめています。なお、読み易くするため、文章は一部
リライトしてあります。
─────────────────────────────
1.魚市場では、全国から運ばれてきた魚を並べ、選び、店に運
  ぶ、を繰り返す。荷物は移動するだけでなく、広げて仕分け
  する必要があるが、その空間が確保されていない。
2.物流の中心であるターレーの動き回れるスペースについての
  考慮がほとんどなされていない。そのため、集荷と荷分の作
  業の流れが、いちいち寸断され、非効率的である。
3.建物が立体構造になっているため、品物は縦方向に動かす必
  要がある。だが売れた品物を上階に運ぶためのエレベーター
  は7基、スロープは3本と決定的に不足している。
4.店舗のスペースが築地店舗よりも狭い。そのためマグロのよ
  うな大きな魚を切るのが不便であるなど、使い勝手がよくな
  い。使い勝手が悪いと、コストアップにつながる。
       ──中沢新一氏の論文「築地市場の『富』」より
─────────────────────────────
 考えられないことですが、東京都は何から何まで、ごく一部の
市場関係者を除いて、豊洲関係の情報を徹底的に隠しまくったの
です。市場関係者は、設計図を見せて欲しいと都に要求しますが
東京都は拒否しています。設計図は、2011年6月に日建設計
から東京都に納品されています。
 築地の業界紙「日刊食料新聞」は、都条例に基づいて情報公開
請求を出したのですが、東京都は全面黒塗りの設計図を出し、非
開示を貫いたのです。「日刊食料新聞」はこれを不服とし、裁判
になったのです。おかしな話です。情報公開請求は、内容を知る
ために行うのに、内容が全面わからないようにして返しても、開
示したことになることです。裁判は2年にわたって行われ、東京
都が敗訴し、やっと設計図は公開されたのです。
 豊洲新市場は、土壌汚染対策費を除いても莫大なカネがかかっ
ています。それでいて、その使い勝手は最悪なのです。市場関係
の意見を聞かないで作ったからです。仲卸業務を営む中澤誠氏は
その設計について次のように批判しています。
─────────────────────────────
 極端な話で言えば、お寿司屋さんがサシミのツマを買いに行く
にも、歩いて水産から青果に買いに行けない市場だということで
す。市場内の物流用ルートがまったくつながっていないので、一
度外に出て、車に乗って外周道路を通って行かないと買えない。
こんなことは論外です。買い物しやすい、しづらい、という話以
前に一度外に出てからでないと、買い回りがでない、ということ
です。         ──中澤誠/水谷和子/宇都宮健児著
           『築地移転の闇をひらく』/大月書店刊
─────────────────────────────
              ──[中央卸売市場論/044]

≪画像および関連情報≫
 ●豊洲移転問題は「公害紛争」/室伏謙一氏
  ───────────────────────────
   築地市場の豊洲新市場への移転問題は、当初移転を予定し
  ていた2016年11月7日を前に、小池知事が移転延期を
  決定したことを契機に、一気に注目を集めるようになった。
   小池知事は移転延期の理由として、@安全性への懸念、A
  巨額かつ不透明な費用の増大、B情報公開の不足を挙げてい
  る。このうち、@は言うまでもなく生鮮食料品を取り扱う豊
  洲新市場の敷地の土壌が汚染されており、食の安全や健康へ
  の影響が懸念されるということ、Aは整備・移転費用がなぜ
  そんなに大きな規模になったのか精査し、都民に説明する必
  要があるということ。
   延期決定の発表以降、この@とAに関するものを中心にメ
  ディアでは情報が飛び交っている。毎日どころか1日に数度
  新しい情報がもたらされることもあり、その度に東京都をは
  じめ、関係者の発言や説明は二転三転。多くの国民は、一体
  どこに真実があるのか?と思っているのではないだろうか。
   確かに、@及びAを中心に情報が飛び交っているといって
  も、問題の核心に迫るものがあるのかと言えば、まだそこに
  は至っていないというのが実情であろう。どころか、豊洲移
  転問題は一体何が問題なのかさえもみえにくくなっているよ
  うに思われる。筆者には、整備・移転費用の大きさもさるこ
  とながら、一義的には敷地の土壌汚染を巡る問題に思える。
  では、土壌汚染を巡る問題とは?漠然と食の安全、健康への
  影響や風評被害で豊洲市場経由の生鮮食料品が売れなくなる
  といった事柄が想定できそうだが、あいまいさは否めない。
                   http://bit.ly/2esj0oI
  ───────────────────────────

豊洲新市場配置図.jpg
豊洲新市場配置図
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月01日

●「専門家会議で改正土対法の先読み」(EJ第4596号)

 ここまでの経緯で既にわかると思いますが、なぜ豊洲の建物の
地下に地下空間が必要であったかについてまとめます。2001
年以降の土壌汚染対策関連の条例及び法律を再現します。
─────────────────────────────
  1.   環境確保条例/2001年10月 1日施行
  2.  土壌汚染対策法/2003年 2月15日施行
  3.改正土壌汚染対策法/2010年 4月01日施行
─────────────────────────────
 築地市場を豊洲に移転させる決断は、2000年のはじめに石
原元知事によって行われています。ただ、石原氏は、日本の技術
は世界一であるという信念を持っていて、土壌汚染ぐらい日本の
技術をもってすれば十分消滅させることができると信じていたの
です。だからこそ都知事選3期目の公約として「豊洲の土壌汚染
を解消させる」を掲げ、当選しています。
 この公約に基づいて石原都政がつくったのが、平田健正氏を座
長とする「専門家会議」であり、2007年5月19日に第1回
の会合を開いています。その時点で東京ガスは、都の環境確保条
例に基づく土壌汚染対策工事を行い、「汚染防止措置完了届」を
東京都にを提出しています。土対法の施行以前の対策工事なので
土壌汚染はまだ残っているものの、次の附則第3条により、土対
法の適用を免れることができたのです。
─────────────────────────────
【附則第3条】
 第3条の規定は、この法律の施行(2003年2月15日)前
に使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場又は事業場
の敷地であった土地については、適用しない。
─────────────────────────────
 土対法は、2003年2月の施行ですが、専門家会議が設置さ
れた時点で既に2010年4月に改正土対法が施行されることは
決まっていたのです。問題は、その改正で上記の附則第3条が撤
廃されるという情報が出ていたことです。
 そうなると、東京都は土地の買主でありながら、莫大な費用を
かけて、改正土対法に基づく大がかりな土壌汚染対策をしなけれ
ばならなくなります。まして、東京ガスとの契約では瑕疵担保条
項を外しているので、すべて東京都が負担しなければならなくな
ります。そういうわけで、専門家会議では、これにどう対応する
かが重要な課題になったのです。
 ジャーナリストの藤野光太郎氏は、これについて、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 言うまでもなく、東京ガスが豊洲の地の使用を廃止したのは土
対法の施行前である。もし、法改正でこの附則第3条が外された
り、または本則のどこかに新たに厳しい規定が盛り込まれるなど
して、豊洲の予定地が土壌汚染対策法の規制対象区域に指定され
れば、そこは「汚染地域」として確定し、手続き上、大掛かりな
汚染調査と根本的な汚染対策が義務づけられることになる。豊洲
の用地取得で都は、所有者である東京ガスが汚染対策を免れ得る
「瑕疵担保特約」を差し出して買収契約を成功させていたからで
ある。そうした経緯から、ただでさえ莫大なコストが発生するの
に、盛り土だけで埋め尽くしてしまえば、当然、その後の汚染再
発時に対策のための機器やシステムが搬入・設置できず、工事で
稼働させることになる重機の出入口もなくなる。
 東京都の幹部や担当者、専門家会議の委員たちが法改正の行方
を注視していたのは、豊洲予定地にそうした対策が必要になるか
否かで変わる土壌汚染対策の必要枠である。都の担当者は当時、
法改正で豊洲の敷地が汚染指定区域になった場合を想定し、前述
の諸作業に備えた建物下の空間確保がどうしても必要だったわけ
だ。こうした懸念から「盛り土が地下空間に化けた」のである。
                   http://bit.ly/2vtUQFj
─────────────────────────────
 専門家会議には、いうまでもないことながら、東京都の関係部
署の幹部が参加しています。彼らが最も恐れたのは、附則第3条
がなくなり、豊洲新市場の用地が「汚染地域」のレッテルを貼ら
れることです。それもこれもこれまでの土壌汚染をきちんとやっ
てこなかったからです。
 いやそれよりも問題なのは、そもそもひどい土壌汚染があるこ
とがわかっているガス工場の跡地を築地市場の移転地に選定し、
東京ガスに過分の恩典を与えてまで、購入したことです。常識で
は考えられない石原都政の最悪の決断といえます。
 専門家会議のメンバーの心配した通り、改正土対法から附則第
3条を撤廃され、豊洲新市場は「形質変更時要届出区域」に指定
されています。これは豊洲新市場が、土壌汚染区域であるという
レッテルそのものです。このレッテルは何としても外す必要があ
ります。そのための2年間の地下水のモニタリング調査だったの
ですが、最後の最後の9回目の調査で環境基準を大幅に上回る汚
染物質が生じています。
 しかし、建物は既に完成しており、東京五輪までにあと3年を
切っています。藤野幸太郎氏は、最後に次のような興味深いこと
を述べて、このテーマを閉じています。
─────────────────────────────
 ちなみに、旧法施行から約半年後に環境大臣となったのが、い
ま辣腕を揮っている小池百合子都知事である。環境大臣として3
年間在任中は、今回の汚染問題の急所である「附則第3条」が有
効な土対法が運用された。とはいえ、改正法の諸規定にも同様の
甘い規定が残っている。その改正法にさえ「形質変更時要届出区
域」として指定された豊洲予定地は、誰が判断しても明らかに生
鮮食料品の市場としては不適と言わざるを得ない。
                   http://bit.ly/2vtUQFj
─────────────────────────────
              ──[中央卸売市場論/043]

≪画像および関連情報≫
 ●もう「地下空間」というのはやめたらどう?/高橋洋一氏
  ───────────────────────────
   テレビでは依然として築地市場の豊洲移転に関する報道が
  多いが、実態としては先週の本コラムで書いた方向になって
  いる。つまり、マスコミがいくら「地下空間」という謎めい
  た名称で報道しようとも、地下ピットの水質調査や空気測定
  の結果は「環境基準の範囲内」、つまり安全なのだ。
   どこの建物にもある地下ピットを、「地下空間」と呼ぶこ
  とを筆者は疑問に思っていた。実際、筆者が出たテレビ番組
  では、そのスタジオがある建物にも、配管修繕のために地下
  ピットがあると説明したのに、それでも豊洲のピットのこと
  は地下空間と呼んでいたからだ。
   知人のメディア関係者は、どの建物にも地下ピットはある
  ものと分かっても、それでは視聴者がそれを問題あるものと
  見てくれないので、あえて問題があるような「地下空間」と
  いう表現を使うと言っていた。この話を聞いて、マスコミの
  底の浅さが改めてわかった。
   先週のテレビ報道では、鉛が出たとか一部マスコミはまだ
  騒いでいた。環境測定は、一定の方法で行うので、都議会の
  各政党が「独自調査でこれこれが出た」というのはあまり報
  道するに値しないのだが、何か出ないとマスコミとしても困
  るのだろう。しかし、結果として、都だけが調査するよりも
  はるかに都民を安心させることになった。
       2016年9月の記事/ http://bit.ly/2xzLpkJ
  ───────────────────────────

ジャーナリスト/藤野光太郎氏.jpg
ジャーナリスト/藤野光太郎氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月31日

●「9回目地下水汚染調査が悪い理由」(EJ第4595号)

 そもそも東京都は、改正土壌汚染対策法で「形質変更時要届出
区域」に指定されるような土地を築地市場の移転用地として購入
すべきではなかったのです。この決断をした石原慎太郎都知事と
それを後押しした都議会与党の責任はきわめて重大です。
 なぜなら、中央卸売市場が形質変更時要届出区域であることは
生鮮食料品の安全・安心のうえで、きわめて問題があり、かつ対
外的にマイナスです。そこで東京都は、形質変更時要届出区域の
指定を外すため、改正土対法に基づき、土壌汚染対策を行い、そ
れに加えて、2年間にわたる地下水の水質モニタリング調査を実
施しています。2年間の調査で測定値が環境基準以下であれば、
形質変更時要届出区域の指定が外されるからです。
 問題はその地下水のモニタリング調査です。2年間の地下水モ
ニタリング調査が開始されたのは、2014年11月からです。
同じ月に第18回の技術会議で汚染対策工事完了の確認が行われ
ています。ちなみに同年2月に舛添都政がはじまっています。
 この地下水モニタリング調査は、全部で9回が行われています
が、その8回目が終了し、9回目の調査結果が出る前の2016
年11月7日に舛添知事は、豊洲新市場開場を決めています。し
かし舛添知事の突然の辞任で2016年8月に小池百合子氏が都
知事に当選し、小池都政がスタートしています。そして、小池知
事により、築地市場移転の延期が決断されます。これら9回にわ
たる地下水モニタリング調査は次の企業に発注されています。
─────────────────────────────
  ◎第1回〜第3回
   環境計量:株式会社日立プラントサービス
   試料採取:株式会社日水コン
  ◎第4回〜第8回
   環境計量:ユーロフィン日本環境株式会社
   計量証明:IASジャパン株式会社産業分析センター
  ◎第9回
   環境計量:湘南分析センター
─────────────────────────────
 地下水モニタリング調査結果は、第1回〜第8回までの調査で
は、汚染濃度はすべて環境基準以下に収まっています。だからこ
そ、当時の舛添知事は、東京五輪用の道路のこともあるので、ど
うせ第9回目の調査結果も環境基準以下に収まると判断し、その
結果の出る2017年1月まで待たず、豊洲移転の時期を11月
7日に決めたと考えられます。
 しかし第9回の調査結果は衝撃なものでした。調査地点201
ヶ所のうち、72ヶ所という広範囲で。環境基準値を超えるベン
ゼンやシアンが検出されたからです。とくにベンゼンにいたって
は、基準値の79倍とこれまでにない濃度を検出したのです。
 事態を重く見た小池知事は、平田健正氏を座長とする専門家会
議を再招集し、原因究明を命じたのです。
 専門家会議は、急に数値の跳ね上がった第9回の調査結果は暫
定値として、メンバーが立ち会いの下で、地下水の採取、環境計
量などの調査を行い、2017年3月19日に第10回目の地下
水モニタリング調査の結果を発表しています。3月19日付の日
本経済新聞は、次のように報道しています。
─────────────────────────────
 東京都の豊洲市場(江東区)の土壌汚染対策に関する専門家会
議が、19日開かれ、地下水モニタリングの再調査結果を公表し
た。再調査の対象となった29地点のうち、ベンゼンは最大で飲
み水の環境基準の100倍を、ヒ素は同3・6倍を検出した。シ
アンは18地点で検出した。(中略)
 再調査は2回に分けて実施。数値の精度を確保するため、4つ
の検査機関で分析した。再調査結果を9回目結果と比べると、検
出濃度が高まった地点と低くなった地点がまざっており、同会議
の平田健正座長(放送大学和歌山学習センター所長)は「(地下
水の汚染状況は)上がったり下がったりなので、どちらの傾向と
も言えない」との見方を示した。 http://s.nikkei.com/2vuZqPs
    ──2017年3月19日付、日本経済新聞(電子版)
─────────────────────────────
 9回目の暫定値とその再調査の数値が跳ね上がった原因として
は、次の2つが考えられます。
─────────────────────────────
 1.1〜8回までの調査と9回、10回の調査に調査手法の
   違いが考えられること
 2.9回以降の調査は地下水管理システムが作動し、地下水
   の流れが変わったこと
─────────────────────────────
 結論からいうと、「1」は原因としては考えられないといわれ
ます。地下水の採取や環境計量の方法については、改正土対法に
定められており、調査会社による多少の違いがあったとしても、
そういう人為的な誤差は、出てもせいぜい数倍程度であり、環境
基準値79倍もの汚染が誤差として出るはずがないからです。
 そこで考えらせれるのは「2」です。地下水管理システムは、
2016年10月14日にはじめて稼働しています。9回目の地
下水の採取は、その後の11月24日と30日に実施されている
からです。汚染処理の専門家は次のように述べています。
─────────────────────────────
 観測用の井戸は筒状で、スクリーン(網)を通して土壌中の水
が浸み込んでくる構造になっている。地下水管理システムは水を
汲み上げると、地中の水が井戸に向って移動する。水に溶けた状
態で残っていた汚染物質が井戸に吸い寄せられ、あちこちの井戸
で観測された可能性が高い。基準値79倍のベンゼンは、土壌汚
染対策で取り切れていなかった汚染と見られる。
                  http://nkbp.jp/2wV4bW8
─────────────────────────────
              ──[中央卸売市場論/042]

≪画像および関連情報≫
 ●豊洲市場の9回目の地下水モニタリング調査
  ───────────────────────────
   豊洲市場の「地下水モニタリング調査」をめぐり、環境基
  準の79倍となるベンゼンなどが検出された、9回目の調査
  を担当した業者が都の指示により、過去8回とは違う手順で
  調査していたことを4日の都議会の委員会で明らかにしまし
  た。都は業者に対し、過去とは違う手順で行うよう伝えたこ
  とを認めました。豊洲市場の問題を審議する都議会の特別委
  員会は、平成26年から2年間にわたって、合わせて9回行
  われた「地下水モニタリング調査」を担当した業者を参考人
  として呼んで、質疑を行いました。
   この調査では、検出された有害物質が7回目までは環境基
  準を下回ったのに対して、8回目はわずかに上回り、さらに
  9回目では環境基準の79倍となるベンゼンなどが検出され
  ました。このため、4日の参考人の質疑は、一連の調査が適
  正だったかを焦点に進められ、9回目の調査については、担
  当した業者の統括部長が出席しました。
   モニタリング調査では、まず井戸に溜まっていた地下水を
  取り除く、「パージ」と呼ばれる作業を行ったあと、新たに
  井戸に溜まった地下水を採って分析することになっています
  が、統括部長は都の指示により、パージで取り除いた地下水
  そのものを分析に回していたことを明らかにしました。
                   http://bit.ly/2wbcagZ
  ───────────────────────────

地下水モニタリング調査の結果を説明する平田座長.jpg
地下水モニタリング調査の結果を説明する平田座長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月30日

●「改正土対法と豊洲市場の土壌汚染」(EJ第4594号)

 平田健正氏を座長とする専門家会議は、2007年5月19日
から2008年7月26日までの約1年間にわたって開催され、
「豊洲新市場敷地全体に4・5メートルの盛り土をする」ことを
提言し、解散しています。ちなみに専門家会議は小池都政になっ
て、平田座長の下に同じメンバーで再招集されています。
 専門家会議結成時点においては、2003年2月15日に土壌
汚染対策法(土対法)は施行されており、さらにそれが厳しい内
容に改正され、2010年4月1日から施行されるという情報は
メンバーには入っていたはずです。
 ジャーナリストの藤野光太郎氏によると、約1年間の専門家会
議では、土対法と改正土対法を強く意識する発言が相次いでいる
ことを指摘し、次のように述べています。旧専門家会議とは、石
原都政で設立された専門家会議のことで、小池都政になって再招
集された専門家会議(新専門家会議)と区別しています。
─────────────────────────────
 9回にわたって開かれた旧専門家会議の議事録を読むと、全体
を通して通奏低音のように東京都の担当者と専門委員との間で意
識されていることがあった。専門委員や都の担当者らのやりとり
に数回出てきた「土壌汚染対策法(土対法)」である。(中略)
 旧専門家会議で強く意識されていたのは、その土対法と、同時
期に環境省で審議されていた同法の改正(2008年5月参院通
過、09年4月公布、10年4月施行)にまつわる、関係者たち
の「心配事」である。「心配事」とは、端的にいうと、ユルユル
の法律である土対法の改正によって、豊洲予定地が汚染地域に指
定されるかもしれない、という懸念である。議事録には、そうし
た類の発言が散見される。       http://bit.ly/2gfjpie
─────────────────────────────
 専門家会議が改正土対法を「心配事」としてとらえたのは、東
京ガスから購入した豊洲の土地が、改正土対法で定めるところの
「要措置区域」に該当するからです。要措置区域とは、人の健康
被害のおそれがある土壌汚染が存在する土地のことで、法で定め
る措置が必要な土地なのです。豊洲の土地は、かつてガスを製造
していた工場の跡地ですから、その土壌は有害物質で汚染されて
おり、一定の土壌汚染対策が必要になります。
 しかし、豊洲の土地は、東京ガスによって時の東京都の環境条
例「環境確保条例」に基づいて土壌汚染処理が済んでおり、改正
以前の土対法では、それでOKだったのです。土対法は、200
3年2月の施行であり、それ以前に対策を済ましている土地には
適用されないからです。
 しかし、改正土対法ではその土地は「要措置区域」ではないも
のの、「形質変更時要届出区域」に指定されるのです。この場合
その土地をそのままのかたちで保有する場合は、人の健康被害の
おそれがないとして措置は不要ですが、その土地を宅地造成した
り、建物を建築する場合は、土地の形質を変更する土地として、
自治体に届け出し、法で定められた土壌汚染対策の措置を講ずる
必要があります。
 このことについて、第8回の旧専門家会議で、平田健正座長は
苦渋をにじませて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 土壌汚染対策法というのは何でもかんでも浄化しなさいという
ことではなくて、いわゆる有害物質があって、それが人に対する
健康影響を及ぼすような曝露経路は遮断しましょうということが
まず大前提。そのためには管理をしましょう。管理をするにも、
どこにどういう物質があって、濃度がどうであって、どういう管
理が必要かということをきちんとやりましょうというのが土壌汚
染対策法なのですね。
 ただし、附則のほうで、いわゆる平成15年ですか、2003
年の2月以前に対策を始めたものについては、土壌汚染対策法は
かかりませんよということだったのですが、今回は修正をされて
かかりますということですね。そうしたときにここはどうなるか
といいますと、また移転ありきかと言われるとつらいのですが、
東京都が東京都に対して計画書を出すわけです。そのときに環境
はどう判断をされるかというと、汚染があるわけですから、恐ら
く指定区域(「形質変更時要届出区域」)に指定をされると思い
ます。                http://bit.ly/2xCVWel
─────────────────────────────
 この場合、平田座長がいっているように、土地は東京都のもの
であるので、東京都が東京都に対して土壌汚染対策計画書を出し
て、東京都の決定に従うということになります。ここで問題にな
るのは、豊洲の土地は「形質変更時要届出区域」になるので、公
示されることです。これは、水産物などの生鮮食料品を扱う中央
卸売市場の土地や周辺の環境が、改正土対法の形質変更時要届出
区域であることが公開されることを意味します。いわゆる「豊洲
ブランド」を大きく損なうことを意味していてます。
 もっとも形質変更時要届出区域の指定を解除する方法はありま
す。平田座長は、専門家会議で次のように述べています。
─────────────────────────────
 指定区域に指定された後で、どういう対策をするのですかとい
うことを対策して、対策が終わった後、2年間は地下水をチェッ
クしてくださいということになるのですね。この骨格は変わりま
せんので、その間に地下水がオーケーであれば、指定区域は解除
をされるということになると思います。その手続があるというこ
とですね。              http://bit.ly/2xCVWel
─────────────────────────────
 結局、豊洲の土地は改正土対法に基づき、土地全域に4・5メ
ートルの盛り土を施すなどの土壌汚染対策を施し、2年間にわた
り、9回の地下水モニタリング調査を終了し、汚染が認められな
い場合に形質変更時要届出区域の指定が解除されるのです。しか
し、地下水モニタリング調査は、9回目の調査で高度の汚染物質
が検出されたのです。    ──[中央卸売市場論/041]

≪画像および関連情報≫
 ●築地市場の豊洲移転問題/大城聡氏
  ───────────────────────────
   豊洲市場予定地は東京ガスの工場跡地であり、昭和31年
  から昭和63年まで都市ガスの製造・供給が行われていた場
  所です。土壌からは、これまで環境基準を大きく超える汚染
  物質が見つかっています。
   東京都は土壌汚染対策を行ったとしますが、豊洲市場予定
  地は、現在でも土壌汚染対策法の汚染が存在する区域(形質
  変更時要届出区域)に指定されており、まだ指定解除されて
  いません。
   土壌汚染対策法は、土壌の特定有害物質による汚染の除去
  できた場合には、形質変更時要届出区域の指定を解除すると
  定めています(同法11条2項)。「汚染の除去」が完了す
  るためには、「地下水汚染が生じていない状態が2年間継続
  することを確認すること」が必要とされています(同法施行
  規則40条別表6)。これが2年間の地下水モニタリング調
  査の問題です。
   2014年11月18日から地下水を採取調査しています
  ので、2016年11月7日の移転予定日時点では、「地下
  水汚染が生じていない状態が2年間継続することを確認する
  こと」ができません。そのため、11月7日時点では、汚染
  が存在する区域(形質変更時要届出区域)の指定解除ができ
  ないのです。           http://bit.ly/2vhzxXf
  ───────────────────────────

専門家会議座長/平田健正氏.jpg
専門家会議座長/平田健正氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月29日

●「なぜ都は盛り土なしを隠したのか」(EJ第4593号)

 豊洲新市場の建物の地下に盛り土がなく、広大な地下空間が存
在していたという事実──小池都政がはじまってこのことが明ら
かになると、「盛り土か、地下空間か」の議論がはじまり、都政
ににわかに注目が集まります。テレビのワイドショーに連日取上
げられ、さまざまな議論が展開されたのです。
 しかし、この問題の本質は、専門家会議提言の盛り土が地下空
間に変更され、工事が行われたことを東京都が市場関係者や一般
都民に隠していたことにあります。たとえ「盛り土」が専門家会
議の提言であっても、都が諸般の事情から変更することは十分あ
り得ることです。盛り土をやめて地下空間に変更したのであれば
なぜそうする方がよいのかについて市場関係者と一般都民に説明
し、納得してもらえばよかっただけのことです。
 ところが東京都はそうしていない。それどころか設計図を盛り
土があるものと地下空間になっているものと2種類用意し、巧妙
に使い分けています。すなわち、建築関係者には地下空間のある
正規のものを示し、市場関係者に対しては盛り土のあるもの、そ
して一般都民には、ホームページなどで盛り土のある設計図を公
開しています。つまり、東京都はこのことで、市場関係者と一般
都民を騙したことになります。
 東京都はなぜそのようなことをしたのでしょうか。ネットなど
では、多くの人がこれについて書いていますが、ひとつだけ真実
に迫っているレポートを発見しました。それが、ジャーナリスト
/藤野光太郎氏の次のレポートです。
─────────────────────────────
  議事録で判明!豊洲「盛り土」が「空間」に化けた理由
             ジャーナリスト/藤野光太郎氏
                 http://bit.ly/2wPyUDK
─────────────────────────────
 以下、藤野光太郎氏のレポートをベースにして、EJが収集し
た情報も加えて、この問題を推理することにします。
 築地新市場の問題には、次の2つの土壌汚染関係の条例と法律
が絡んでいます。
─────────────────────────────
   1. 環境確保条例/2001年10月 1日施行
   2.土壌汚染対策法/2003年 2月15日施行
─────────────────────────────
 東京都の「環境確保条例」については、7月28日付のEJ第
4572号と7月31日付のEJ第4573号で詳しく書いてい
ますが、東京都が東京ガスから豊洲の土地を手に入れるために、
この条例は重要な役割を果たしています。
─────────────────────────────
 ◎7月28日付のEJ第4572号/「東京ガスを不当に儲
  けさせる内容」         http://bit.ly/2v1XbGr
 ◎7月31日付のEJ第4573号/「東ガスのシナリオに
  屈した東京都」         http://bit.ly/2v9wG1x
─────────────────────────────
 東京ガスは、当初ブラウンフィールドになることが確実な豊洲
ガス工場の跡地は売却するつもりはなかったし、売れるはずがな
いと考えていました。なぜなら、売却後に必ず生ずると思われる
土壌汚染の対策費用負担が耐えられないと判断したからです。そ
のため、東京ガス独自の土地の利用計画を策定していたのです。
 そこに東京都から豊洲の土地を買いたいという話があり、最初
は真剣に取り合わなかった東京ガスでしたが、石原都政になって
浜渦副知事から水面下での折衝を求められると、それに応ずるよ
うになります。
 2000年の暮れに浜渦氏から密かに持ちかけられた話は、東
京ガスにとって衝撃的なものでした。それは環境省が「土壌汚染
対策法」という法律の制定を準備しているという情報です。そし
て、東京都はそれに先駆けて土壌汚染対策に関わる条例を作るこ
とになっているが、いま売却を決断すればその条例に基づいて土
壌汚染対策を行うことになり、それは、国の土壌汚染対策法より
もはるかにゆるい基準で汚染処理が可能であるという話です。ま
さにこの条例が「環境確保条例」です。
 確証はないのですが、後で問題になる瑕疵担保条項の免除につ
いての密約もこの水面下の交渉で約束されていたと思われます。
これによって東京ガスは、豊洲の土地の売却に当たっての土壌汚
染対策は、土対法ではなく、東京都の環境確保条例で実施し、そ
の総額はたったの108億円で済んでいるのです。東京ガスは後
から78億円を追加支出し、土壌汚染対策費は合わせて180億
円負担しています。その代り、東京都は用地取得後の土壌汚染対
策費として858億円を支出していますが、それでも汚染は除去
できず、さらなる支出が必要になっています。これは本来東京ガ
スも負担すべき性格のコストですが、東京ガスとの売買契約には
瑕疵担保条項がないのです。
 さて、土壌汚染対策法は、2003年2月15日に施行されて
います。皮肉な話ですが、東京ガスはゆるい基準の環境確保条例
に基づき汚染処理を済ましているのに、豊洲の土地を購入した東
京都は、条例よりもはるかに厳しい基準の土対法で土壌汚染を処
理しなければならなくなっています。
 さらに土対法は、2010年4月1日に大幅に改正され、その
基準はさらに厳しくなっています。実は、このことと盛り土をや
めて地下空間を作ったこととは関係があるのです。
 土対法は、環境確保条例に比べれば、きわめて厳しい基準です
が、改正土壌汚染対策法(改正土対法)から見ると、ゆるゆるの
基準なのです。これについては明日のEJで述べます。
─────────────────────────────
     土壌汚染対策法/2003年 2月15日施行
   改正土壌汚染対策法/2010年 4月 1日施行
─────────────────────────────
              ──[中央卸売市場論/040]

≪画像および関連情報≫
 ●「豊洲の地下空間の謎」/小笠原誠治の経済ニュースゼミ
  ───────────────────────────
   豊洲の主要建物の地下が空間になっていることが謎となっ
  ています。何故こんなところに特別な用途もない空間を設け
  たのか、と。
   それに対し、東京都は、配管のためだなどと説明していま
  すが・・・どうにも腑に落ちません。仮にそれがそうだとし
  ても、では、何故配管のため地下空間を作ったことを隠して
  いたのか、と。
   対外的には、主要建物の下も4・5メートルの盛り土がな
  されたことになっていたからです。おかしいでしょう?費用
  を浮かすためだったのか、なんて声も上がっていますが、私
  はそれは違うと思います。
   では、何故地下空間を作ったかというと・・・
  新しい市場が稼働し始めた後、万が一、新たに環境基準を超
  える汚染物質が計測された場合に備えたのではないかと、私
  は想像します。
   どういうことかと言えば、東京都の担当者たちは、地下2
  メートルまでの汚染された土壌を掘り出し、そして、その上
  に4・5メートルのきれいな土を埋めることによって汚染対
  策は万全を期すことができると対外的に説明していたものの
  仮に新市場が稼働した後、基準値を超える汚染物質が計測さ
  れたような場合、主要建物の地下を掘り返す必要などが生じ
  る訳ですが、そうなると市場を通常どおり稼働させることが
  物理的に不可能になり、生鮮食品の取引に重大な影響を及ぼ
  し兼ねないことを懸念してのことだと思うのです。
                   http://bit.ly/2wGGhyb
  ───────────────────────────

豊洲新市場の地下空間.jpg
豊洲新市場の地下空間
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月28日

●「盛り土の有無をめぐる多くの意見」(EJ第4592号)

 7月25日付、EJ第4591号で、東京都がついた絶対に許
せないウソを2つ上げましたが、それを再現します。
─────────────────────────────
    1.「透水係数」を大幅に改竄していること
  ⇒ 2.「盛り土」をせず、地下空間にしたこと
─────────────────────────────
 今回は「2」について詳しく検討することにします。いわゆる
「盛り土問題」を新しい視点から考えます。
 小池都政になって、豊洲新市場のほとんどの建物の下にあるは
ずの盛り土がなく、建物の下には地下空間が広がっていたことが
わかり、さまざまな批判が盛り上がっています。盛り土は、専門
家会議の提言であり、移転を渋る市場関係者に苦渋の決断を迫る
切り札であっただけに市場関係者の怒りは頂点に達したのです。
 2016年10月15日、築地市場内の講堂で、再招集された
第1回の専門家会議において、仲卸「山治」の山崎康弘氏は、次
のように怒りを爆発させています。
─────────────────────────────
 僕たち五回も(豊洲移転反対の)デモをやって、六万、七万の
署名を石原知事に持って行きましたよ。でも、僕ら中小企業の仲
買なんですよ。(豊洲新市場を)あそこまでつくられたら、自分
の信念曲げてでもやっぱ向こうに行かなきゃいけないんだなと断
腸の思いで移転の準備をしてきましたよ。でも(都は)、盛土や
るって言っていたのにやってないじゃないですか!
         ──永尾俊彦著/岩波ブックレット/968
「ルポどうなる?どうする?築地市場/みんなの市場をつくる」
─────────────────────────────
 市場関係者、とくに中小企業の仲卸業者のほとんどは、豊洲新
市場への移転には反対です。しかも、東京都は、市場関係者の意
見も聞かずに豊洲新市場を建設し、専門家会議が約束した土壌汚
染を防ぐはずの盛り土をやっていなかったのですから、彼らが怒
るのは当然です。
 そもそも4・5メートルの盛り土の根拠は何なのでしょうか。
平田健正専門家会議座長は次のように述べています。
─────────────────────────────
 平田座長は、水や土の汚染が広がる経路を遮断することはでき
ても、大気の経路の遮断は難しいことから、盛り土によるベンゼ
ンやシアン化合物などの揮発性の汚染物質について地上汚染阻止
の効果についてRBCA(米方式)の計算式を使って評価しまし
た。条件で入力したのが4・5メートルの盛り土です。地表に到
達する汚染の軽減を計算で求め、安全を確認したとしています。
            ──中澤誠/水谷和子/宇都宮健児著
           『築地移転の闇をひらく』/大月書店刊
─────────────────────────────
 ネットなどを見ると、豊洲新市場の地下に盛り土がなかったこ
とを問題にするのは、建築的な知識のない人のいうことであると
いう意見の人も多くいます。建築家で、名古屋工業大学名誉教授
の若山滋氏は、盛り土について次のように述べています。
─────────────────────────────
 すでに竣工した建築の下に、しかるべき盛り土が行なわれてい
ない、というが、われわれの頭の中には、その程度の土は掘り返
して工事するものという考えがある。木造住宅や軽量の鉄骨造は
盛り土の上に載せる感覚であるが、規模の大きい鉄筋コンクリー
ト造では、地下空間と基礎構造が一体化され、最下部にはほとん
ど人の入らない水槽、配管、メンテナンス・スペースなどが設け
られることも多い。
 そして地盤の悪いところでは、ボーリング調査によって地耐力
の出る支持層まで杭を打って構造体を支えるのである。冷凍など
市場特有の設備に加え、防災や情報の設備も多くなり、最近の建
築はパイプ類が増えており、これが地下に集中する。東京の地下
は、地上と同様に都市化が進んでいると言うべきであろう。
                   http://bit.ly/2wtEWdI
─────────────────────────────
 安倍政権の内閣官房参与の藤井聡氏は、豊洲新市場を「地下室
が有るケース」と「盛り土上の建物ケース」に分けた場合、前者
の方が衛生的であり、しかも安全であるという説をブログに書い
ています。
─────────────────────────────
 そもそも、建築物を建てるときには「基礎杭」をうつのですが
その基礎杭にそって、(毛細管現象によって)盛土下の地下水が
建築物下に上がってくることは想定範囲内の事実です。そしてそ
こまで上がってきた地下水は、コンクリート壁の打ち継ぎ目の目
地や壁そのものに存在する小さな割れ目などを通って、建物内に
も浸入することは避けられません。つまり「地下室有りケース」
のみならず、「盛り土上建物ケース」でも、基礎杭を打つ以上は
地下水が建物内に侵入することは不可避なのです。
 したがって、そういう建物のところまで昇ってきた地下水をく
み上げる排水システムは、いずれのケースでも必須なのです。こ
の時、A)「地下室有りケース」の場合には、(排水システムが
適正である限り)、(市場で活用される)地上階に、地下水が浸
入する可能性はほぼゼロになりますが、B)「盛り土上建物ケー
ス」においては、(市場で活用される)地上階に、地下水が直接
浸入する危険性があるのです!逆に言うなら、A)「地下室有り
ケース」の場合には、その地下室のおかげで、地下水と、地上階
の市場施設を「遮断」することが可能となるのです!
                   http://bit.ly/2ivAzZA
─────────────────────────────
 しかし、「盛り土なし」は、東京都がそのことを発見されるま
で隠蔽していたことが問題なのです。地下空間が正しいのであれ
ば、なぜ、専門家会議は、「盛り土あり」を提言したのでしょう
か。            ──[中央卸売市場論/039]

≪画像および関連情報≫
 ●豊洲新市場“盛り土案潰し” 真犯人は石原元都知事
  ───────────────────────────
   信じられないデタラメが次々と発覚する豊洲新市場騒動で
  新事実が浮上した。「私はだまされた」と被害者面していた
  石原慎太郎元都知事が、実は盛り土案潰しの“真犯人”だっ
  たというのだ。
   石原氏は2016年9月13日のBSテレビで、豊洲新市
  場の建物下に盛り土がされず、コンクリートで固めた地下空
  間がつくられていた問題について、「私はだまされた。手を
  抜いて、していない仕事をしたことにして予算措置をした。
  都の役人は腐敗している」とまくし立てていた。
   ところが、在任中の2008年、敷地全体に盛り土すると
  の専門家会議の提言に難癖をつけ、地下にコンクリートの箱
  を埋め込む工法を都庁幹部に強く推していたことが分かった
  のだ。15日の東京新聞によると、石原氏は08年5月10
  日の定例会見で、豊洲の土壌汚染対策について「(盛り土案
  より)もっと費用のかからない、しかし効果の高い技術を模
  索したい」と語っていた。
   さらに同月30日の会見では「担当の局長にも言ったんで
  すがね。もっと違う発想でものを考えたらどうだと。どこか
  に土を全部持っていって(略)3メートル、2メートル、1
  メートルとか、そういうコンクリートの箱を埋め込むことで
  その上に市場としてのインフラを支える。その方がずっと安
  くて早く終わるんじゃないか」と語っていた。
                   http://bit.ly/2wtpLRA
  ───────────────────────────

内閣府参与/藤井聡教授.jpg
 
内閣府参与/藤井聡教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする