2017年11月14日

●「ウーバーVSエアビーアンドビー」(EJ第4645号)

 「見えない大陸」、「もうひとつ地球」について、具体的にそ
れは何であり、そこでは何が行われるのかについて考えていくこ
とにします。
 「スマートフォン・セントリック」という言葉があります。そ
れは、「すべてのテクノロジーはスマートフォンに集約されてい
る」という意味です。大前研一氏は、デジタルアイランド(島)
がデジタルコンチネント(大陸)になるといいましたが、スマホ
こそデジタルコンチネントを形成しているというのです。
 スマホがあれば、新聞を読むことも、動画を見ることも、地図
と音声で道案内をしてもらうこともできます。音楽を聴くときも
わからないことを尋ねることもできますし、買い物の決済も可能
です。また、電車に乗ることも、車を呼ぶことも、株や外貨を買
うこともできます。何でもできる夢のマシンです。
 スマホで注目すべきは、それを動かすシステム(OS)は、世
界中で使っているのに次の2つしかないことです。
─────────────────────────────
      1.   iOS ・・ アップル系
      2.アンドロイド ・・ グーグル系
─────────────────────────────
 OSはこのように2つに分かれていますが、スマホのアプリの
ほとんどは共通に開発されており、どのアプリも、アイフォーン
(iOS)でもアンドロイドスマホでも使えるのです。つまり、
スマホのなかに全世界をカバーする新しい経済圏・デジタルコン
チネント(大陸)ができているといえます。
 このスマホというマシンは、機能がアプリで、次々と追加でき
る強みがあります。しかも、現在、世界中の人のほとんどは、こ
のスマホを常時携帯して持ち歩いており、いつでもどこでも使う
ことができる状態にあります。
 スマホが普及しなければ、絶対に生まれることがなかった企業
の代表的な例として、ライドシェアのウ―バー(Uber)という企
業があります。2009年の創業です。ライドシェアといっても
ウ―バーは、車を作っているわけでも、特別な技術を持っている
わけでもなく、単なる自動車配車ウェブサイトと配車アプリを制
作しただけです。世界中に走っている自家用車やタクシーを世界
中の人たちがいつでも好きなときに使えるようにするアイデアを
創出しただけのことです。
 それでいて、5年足らずで、現在は時価総額7兆円、世界中で
3000人の従業員を使う巨大企業に成長しています。ウーバー
はサンフランシスコ生まれですが、単なる米国企業ではないので
す。大前研一氏はウ―バーについて次のように述べています。
─────────────────────────────
 Uberはサンフランシスコで生まれながら、本社機能はオラ
ダにあります。世界のどこかで誰かがUberを使うと、その瞬
間にオランダの本社に取引情報が送信されます。運転手に売上の
85%を支払う業務は、オランダで行われているのです。
 さらにオランダ本社はそこから経費を除いた利益を、タックス
・ヘイブン(租税回避地)であるバミューダに本社登録した別会
社に送り、最終的にサンフランシスコの親会社に送られる「技術
料」は全体の1・45%だけです。
 そのため、Uberが大成功しても、米国政府には税収がほと
んど入りません。Uberの実際の本社はサイバースペースにあ
り、世界中のあらゆるオーダーを同じシステムで決済しているの
で、国という単位はほとんど意味を成していないのです。これが
21世紀の企業の形であり、テクノロジー4・0時代の企業の形
です。                   ──大前研一著
 『テクノロジー4・0/「つながり」から生まれる新しいビジ
              ネスモデル』/KADOKAWA
─────────────────────────────
 ウーバーの創業とほぼ同時期にエアビーアンドビー(Airbnb)
という企業が誕生しています。ウ―バーと同じサンフランシスコ
生まれの企業です。
 サンフランシスコのアパートに同居する3人の貧乏な若者がい
たのです。彼らはとって目下の急務は、アパートの家賃をどのよ
うにして支払うかです。相談の結果、自分たちのアパートを貸す
ことにします。要するにまた貸しです。サンフランシスコでは、
よく国際会議が開かれるので、安く部屋を借りたい人は必ずいる
との判断です。
 しかし、彼らはベットを持っていないので、エアマットを持ち
込み、彼らの作る朝食付きで貸すことにし、サイトでお客を募集
します。そのため、当初、サービスをそのままあらわすサイト名
をつけます。しかし、後からそれを短縮しています。
─────────────────────────────
     Airbedandbreakfast.com → Airbnb.com
─────────────────────────────
 このエアビーアンドビー、初日には3人のお客が付き、次々と
お客が付いたので、彼らはこの事業に手ごたえを感じ、ネット上
で、自宅や部屋を誰かに貸したい人と部屋を借りたい人をマッチ
ングさせ、このビジネスを推進したのです。スマホさえあれば、
それはきわめて容易であり、ニューヨーク、ハンブルグを皮切り
に、宿泊施設が不足している観光地や、宿泊費の非常に高い大都
市、世界5000都市でビジネスは急速に拡大させます。そして
創業からわずか5年で、時価総額5兆円のベンチャー企業に成長
したのです。
 ウ―バーにしてもエアアンドビーにしても、それぞれの国の法
律や規制を無視してビジネスを展開させたので、今になっていろ
いろなトラブルを抱えていますが、あまりにもシンプルで、あま
りにも速いので、国の対応がどうしても遅れてしまいます。しか
し、この流れを止めることは困難です。これが、スマートフォン
・セントリック、見えない大陸でのビジネス展開です。
            ──[次世代テクノロジー論/35]

≪画像および関連情報≫
 ●21世紀競争の主戦場は「見えない経済大陸」/大前研一氏
  ───────────────────────────
   クラウド型会計ソフト「MFクラウド会計」をはじめとす
  るビジネス向けクラウドサービス「MFクラウドシリーズ」
  や、個人向け自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワ
  ード」など、お金に関するプラットフォームを提供するマネ
  ーフォワードが、4月末に開催した「MFクラウド・エキス
  ポ/2015」。MFの辻庸介代表取締役社長CEOや、今
  やIT分野の有識者と認められている堀江貴文氏に加えて、
  世界的なビジネスオピニオンリーダーである大前研一氏が講
  演するなど、最新のビジネス事情についての知見が共有され
  た。大前氏はその中で、経営コンサルタントとしての豊富な
  経験や、幅広い調査から、21世紀の経営者が踏まえるべき
  ことや、使うべきツールを紹介。1990年代後半の執筆活
  動から蓄積してきた、サイバースペース内のプラットフォー
  ムに富が蓄積されることや、グローバル化などの基本的な条
  件に改めて言及するなど、幅広く解説した。今回はその、大
  前氏の講演の全体を前編、中編、後編にわけて紹介する。以
  下が大前氏の講演だ。
   21世紀と20世紀とどこが違うのかということを、何十
  年か書いてきています。ちょっと古い本ですけれども、まず
  は『「新・資本論」/見えない経済大陸へ挑む』という本を
  14〜15年前に書きました。その本で、どういうことを書
  いたかというと、21世紀の経済って実は見えないんだ、見
  えない部分が多いんだよねということです。
                   http://bit.ly/2Aminpq
  ───────────────────────────

ライドシェア/ウ―バー.jpg
ライドシェア/ウ―バー
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月13日

●「ソフトウェア概念誕生とノイマン」(EJ第4644号)

 世界初のコンピュータである米国のENIAC(エニアック)
と、それに続く英国のEDSAC(エドザック)──これらにつ
いて、もう少し述べることにします。
 正確にいうと、ENIACは世界初のコンピュータではありま
せん。ENIACは1946年の開発ですが、1942年に「A
BC」という名前のコンピュータが開発されているからです。
─────────────────────────────
      ABC(Atanasoff Berry Computer)
─────────────────────────────
 ABCというコンピュータは、特定の計算にしか対応できない
専用マシンです。別の計算をする場合は、真空管の配列や配線を
変更する必要があり、事実上の作り直しになります。
 それから4年後に開発されたENIACは、1万8800本の
真空管を使い、重量は30トン以上で、設置には165平方メー
トルもの面積を必要とする巨大なマシンですが、基本的にはAB
Cと同じ専用マシンです。弾道計算をする目的で開発された専用
コンピュータです。もし、別の計算を行うには、そのつど真空管
の配列を変更するなどの膨大な手間がかかるので、専用のハード
ウェアそのものであるといえます。
 ところが、1949年に英国によって開発されたEDSACは
汎用コンピュータである点に最大の特色があります。つまり、真
空管の配置や配線などのハードウェアはそのままで、プログラム
というものを変更することで、いろいろな計算ができるのです。
これは凄い発明であり、ソフトウェアの概念の誕生を意味してい
ます。このアイデアを創出したのが、ジョン・フォン・ノイマン
です。彼が「コンピュータの父」といわれるゆえんです。
 EDSACは、現代のコンピュータの5大装置を備えており、
処理方式は逐次処理方式です。ちなみに、PCもノイマン型コン
ピュータそのものです。
─────────────────────────────
    @ 入力装置 ── データを入力する
    A 制御装置 ── 入出力データを制御する
    B 演算装置 ── 計算を実施する
    C主記憶装置 ── データを記憶する
    D 出力装置 ── データを出力する
─────────────────────────────
 当時はコンピュータの計算速度を向上させるためには、真空管
の数を増やさなければならなかったのです。しかし、真空管を小
さくするには技術的な限界があり、必然的にコンピュータは大型
化していくことになります。
 1965年に真空管に代わる半導体素子としてトランジスタが
開発されると、コンピュータの規模は急速に小型化します。さら
に、1975年にIC(Integrated Circuit)集積回路が開発さ
れるに及んで、コンピュータはPCの大きさまで小さくなり、し
かもその性能は大幅に向上することになったのです。
 ICが登場して2年後の1977年のことです。アップル社は
「アップルU」という小型のコンピュータを発売します。これが
爆発的に売れ、現代のPCの先駆け的存在になります。このよう
に、PCに関してはアップル社が先行したのです。
 しかし、世界に広く普及したのは、IBM仕様のPC/ATマ
シンだったのです。これは、IBMのデファクト・スタンダード
戦略の成果といえます。OSについてはIBMと寄り添ってOS
の標準化を狙ったマイクロソフトのウインドウズの開発の成功が
そういう状況を作り出したといえます。
 現在、普及しているPCは、次の2種類しかありません。しか
し、OSは違うものの、両者のPCのハードウェアの構造として
は、ほとんど同じマシンであるということができます。
─────────────────────────────
   PC/AT互換機 ・・・・・ ウインドウズPC
   マッキントッシュ ・・・・・ アップル・マシン
─────────────────────────────
 これらPC/AT互換機にしても、アップル・マシンにしても
ノイマン型コンピュータであることには違いがないのです。した
がって、現代の技術をもってしても、コンピュータに関しては、
ノイマンを超えることはできないのです。これは、ノイマンがい
かに偉大な仕事をしたかをあらわしています。
 ノイマン型コンピュータを超える「量子コンピュータ」の開発
も進みつつあります。これについては日本の技術も入っており、
大いに期待されますが、量子コンピュータについは改めて取上げ
ることにします。
 ノイマンには負の側面もあります。とくに日本人にとってはそ
ういうことがいえます。昨年のEJのテーマ「現在は陰謀論の時
代」でそれを取り上げています。日本への原爆投下を一番強硬に
主張したのは、ほかならぬノイマン自身であったからです。その
一部を以下に再現します。
─────────────────────────────
 ノイマンは、ニコラ・テスラの「フィラデルフィア計画」を引
き継いだ人物でもあり、第2次世界大戦中は、「マンハッタン計
画」の軍事顧問として原爆の製造にも参加しています。ノイマン
は、爆薬を32面体に配置することにより、核爆弾が製造できる
ことを10ヶ月にわたる計算で導き、原爆製造にも貢献したこと
によって「原爆の父」ともいわれるのです。
 実は原爆の日本投下に関しては、多くの反対意見があったので
すが、ノイマンはあくまで「無警告で投下すべき」と強硬に主張
し、実際に広島と長崎に原爆は投下されたのです。これはノイマ
ンの負の側面ですが、その他の多くの業績により、この面はあま
り強調されていないようです。
     ──2016年8月16日付、EJ第4238号より
─────────────────────────────
            ──[次世代テクノロジー論/34]

≪画像および関連情報≫
 ●ハンガリー人宇宙人説
  ───────────────────────────
   現代社会は、天才であふれている。はずみで大魚をつかん
  だ運才、自称天才、エセ天才、ただの詐欺師。もちろん、本
  物の天才もいる。もっとも、本物の天才ともなれば、ヒトと
  は限らない。染色体の数が47本、つまり両親から受け継が
  ない秘密の染色体を持っている可能性もある(人間の染色体
  は46本)。ところが、さらに恐ろしい仮説もある。
   1950年代、アメリカの名門プリンストン大学に、ジョ
  ン フォン ノイマンという数学者がいた。彼は非常な変わり
  者だったので、こんな陰口をたたかれていた。「ノイマンは
  人間そっくりだが、本当は宇宙人」。
   たいていの本では、ジョークですませているが、中には真
  に受けている本もある。いずれにせよ、それが本当なら、染
  色体の数どころの話ではない。染色体があるかどうかも怪し
  い。宇宙人なのだから。
   アメリカのニューメキシコ州に、歴史上初の原子爆弾を開
  発したロスアラモス研究所がある。1945年8月、ここで
  つくられた2個の原子爆弾は広島と長崎に投下されたが、こ
  の忌まわしい研究所で、不気味なうわさが流れていた。「ハ
  ンガリー人はじつは火星人である」。これが普通の職場なら
  「ただのヨタ話やろ」で一件落着なのだが、天下の頭脳が集
  まる研究所である。噂を流した本人も、第一級の科学者だろ
  うし、何か根拠があったに違いない。
                   http://bit.ly/2j8bLYB
  ───────────────────────────

ノイマン型コンピュータの「逐次処理」.jpg
ノイマン型コンピュータの「逐次処理」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月10日

●「ノイマンの提案によるEDSAC」(EJ第4643号)

 「情報」の概念について学ぶ必要のある3人の科学者のうち、
クロード・シャノンとハーバード・サイモンについては既に説明
は終わっています。
─────────────────────────────
  1.   クロード・シャノン/1916〜2001
  2.  ハーバート・サイモン/1916〜2001
 →3.ジョン・フォン・ノイマン/1903〜1957
─────────────────────────────
 第3に、ジョン・フォン・ノイマンについて考えます。
 ジョン・フォン・ノイマンといえば、ハンガリーのブタペスト
出身の米国の世界的に優れた数学者であり、8歳のときに微分積
分を理解していたいわれるほどの天才です。コンピュータの発達
にも優れた業績を遺した人物ですが、岩本敏男氏は「ゲームの理
論」の創設者として、ノイマンを取り上げています。
 ゲームの理論は、社会において複数の主体が関わる意思決定の
問題や行動の相互依存状況を数学モデルを用いて研究する学問で
あり、数学家のノイマンと経済学者のオスカー・モルゲンシュテ
ルンによる共著書『ゲームの理論と経済行動』(1944年)の
上梓によって誕生しています。
 ゲームの理論では、人間は自分の知り得る情報を活用し、相手
の戦略を予想し、自身の「利得」が最大になる行動を選択すると
されています。ノイマンは、このゲームの理論の枠組みで「情報
の利用価値」について次のように述べています。
─────────────────────────────
 情報の利用価値とは、情報が存在する場合の利得から、情報が
存在しない場合の利得を減じたものである。
               ──ジョン・フォン・ノイマン
      ──岩本敏男著/『IT幸福論』/東洋経済新報社
─────────────────────────────
 岩本敏男氏は、これらのシャノン、サイモン、ノイマンたちが
述べたことをまとめ、情報を次のように定義し、トフラーの『第
三の波』の次の一節を紹介しています。それは、現在起きつつあ
る情報通信革命への対処を教えてくれます。
─────────────────────────────
◎情報とは何か
 情報とは、不確実性を減らし、利得を極大化するための源泉で
 ある。
◎第三の波への対応
 これからのわれわれの生活の枠組みになるのは、この変革の第
 三の波である。滅びゆく文明から、いま、その姿をあらわし始
 めた新しい文明へ円滑に乗りかえ、しかも自分自身を見失わず
 に、これから迫ってくる、いよいよ激しい危機を乗り切るため
 には、第三の波の変革を正しく捉え、むしろ積極的にその変化
 を推し進めていかなければならない。
                 ──アルビン・トフラー著
  徳山二郎監修/鈴木健次・櫻井元雄訳/日本放送出版協会刊
                ──岩本敏男著の前掲書より
─────────────────────────────
 ジョン・フォン・ノイマンの話が出てきているので、彼のコン
ピュータの発展への貢献について述べておきます。これは、現在
開発されつつある「量子コンピュータ」について述べるときの前
提になります。
 世界初のコンピュータは「ENIAC」といい、1946年に
弾道計算のために、米国陸軍の弾道研究室によって設計され、完
成しています。報道では「巨大頭脳/グレート・ブレイン」と紹
介され、当時の電気機械式計算機に比べて、約1000倍の速度
だったと紹介されています。
 これに対して1949年に英国のケンブリッジ大学で「EDS
AC」というコンピュータが開発されています。一般的にはこの
コンピュータはノイマンが開発したといわれていますが、正確に
いうとそうではないのです。
 ノイマンは「EDVAC」というレポートを発表しているので
すが、この内容に刺激されたケンブリッジ大学の数学研究チーム
がEDSACを開発したのです。レポートの内容は、当時として
は誠に斬新なアイデアに満ちたものだったといいます。ENIA
CとEDSACの違いを次に簡単にまとめておきます。
─────────────────────────────
◎ENIAC
 Electronic Numerical Integrator and Computer
 1946年完成/10進数/ハードウェア/弾道計算を目的と
 する専用の計算機
◎EDSAC
 Electronic Delay Storage Automatic Calculator
 1949年完成/ 2進数/ソフト内蔵/大量のデータ処理の
 ための汎用計算機
─────────────────────────────
 ノイマンによるEDSACの重要な特徴は2つあります。1つ
は、ENIACの10進数に対して2進数を採用したことです。
2つは、プログラム内蔵型のコンピュータであることです。
 EDSACは、真空管を3000本使い、主記憶装置としては
水銀遅延菅、入力には紙テープを利用し、出力にはテレタイプを
使うなど、構成部品は現在のコンピュータとまるで違うものの、
その基本的な仕組みや考え方に変化はないのです。
 現在のコンピュータは、スマホまで含めて、2進数を採用し、
プログラム(アプリ)の命令にしたがってCPUが処理を行う仕
組みであり、その基本的な仕組みは、EDSACと変わらないの
です。そのため、現在のコンピュータは「ノイマン式コンピュー
タ」と呼ばれています。これを超えるコンピュータとして期待さ
れているのが「量子コンピュータ」です。
            ──[次世代テクノロジー論/33]

≪画像および関連情報≫
 ●ジョン・フォン・ノイマンの生涯
  ───────────────────────────
   1903年12月28日、ジョン・フォン・ノイマン(ハ
  ンガリー名:ナイマン・ヤーノシュ)はハンガリーの首都ブ
  ダペストにて、父が弁護士をしているユダヤ系ドイツ人の家
  庭に三人兄弟の長男として生まれた。
   ノイマンは幼少期から英才教育を受けており、ラテン語と
  ギリシャ語の覚えが早く、時には古典ギリシャ語でジョーク
  を言うこともあった。6歳になる頃には6桁の計算を暗算で
  こなし、筆算では、8桁の掛け算までできるようになってい
  た。また8歳になる頃には、微分積分などの高等数学を理解
  していたという。
   その興味は数学だけにとどまらず、ウィルヘルム・オンケ
  ンの全44巻からなる「世界史」や、ゲーテの詩集・小説な
  どを片っ端から読破し、歴史・文学の分野にも強い関心を見
  せるようになった。その反面、運動や音楽などについては全
  く才能が見られず、どれほど練習しても、上達することはな
  かったという。
   1914年10歳になったノイマンはブダペストにあるギ
  ムナジウムという学校に入学した。この学校は日本の中高一
  貫校に相当する学校であり、1963年にノーベル物理学賞
  を受賞することになるユージン・ウィグナーとは一学年違い
  だった。入学から間もなく、ギムナジウムの教授がノイマン
  の才能を見抜き、それからの約8年間、ノイマンはブタペス
  ト大学の数学者によって個人授業を受けることになる。
                   http://bit.ly/2A8fN6w
  ───────────────────────────

ノイマンの考案したEDSAC.jpg
ノイマンの考案したEDSAC
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月09日

●「情報の最小単位と情報のコード化」(EJ第4642号)

 「情報」の概念について、学ぶ必要のある3人の科学者を年号
付きで再現します。
─────────────────────────────
  1.   クロード・シャノン/1916〜2001
  2.  ハーバート・サイモン/1916〜2001
  3.ジョン・フォン・ノイマン/1903〜1957
─────────────────────────────
 クロード・シャノンの話を続けます。「情報」については次の
ような話もあります。当時は物理学が全盛の時代で、世の中のす
べてのことは物理学で説明できると考えられていたのです。
 チンパンジーにタイプライターを与えて打ち方を指導し、適当
に文字をタイプさせます。一方で人間にはシェイクスピアの詩を
タイプさせます。
 そして、シャノンは、チンパンジーのタイプした紙と人間のそ
れを示し、これらはどちらもタイプライターのインクが付いた紙
であり、物理学的には同じものであると説明します。そのうえで
次のように続けたのです。
─────────────────────────────
 大きな違いがあります。チンパンジーのタイプしたものは内容
が意味不明ですが、人間のそれはシェイクスピアの詩になってい
ます。そこには大きな差があります。この差を私は「インフォメ
ーション/情報」と呼ぶことにします。──クロード・シャノン
─────────────────────────────
 「情報」という言葉は、そのとき既に存在し、使われていたの
ですが、非常に曖昧な概念だったのです。シャノンはその言葉を
明確に定義してみせたといえます。
 シャノンは、大学院のときに「継電器とスイッチ回路の記号論
的解析」という論文を書き、「デジタル」の概念につながる理論
を発表しています。電気回路が閉じているときが「オン」、回路
が開いている状態を「オフ」とし、情報の最小単位を「ビット」
と称し、オンには「1」、オフには「0」を対応させたのです。
このように情報は「0」と「1」で表現されるようになります。
─────────────────────────────
     ビット=bit/2進数字
     Binary Digit/バイナリー・ディジット
─────────────────────────────
 これによってシャノンは「情報」を数式や方程式で扱えるよう
にしたのです。それを可能にしたのが「情報のコード化」です。
情報のコード化とは何でしょうか。その最も分かりやすい例とし
て「モールス信号」をあげることができます。
 モールス信号は、「トン」(短音)と「ツー」(長音)という
2種類の信号の組み合わせで、文字を伝える方法です。これには
よく考え抜かれた工夫がこらされています。
 英文の中に使われる文字には、よく使われる文字とそうでない
文字があり、統計的に判明しています。
─────────────────────────────
 ≪最もよく使われる文字≫
  E ・・・ −         トン
  T ・・・ ――        ツー
 ≪あまり使われない文字≫
  Q ・・・ ―― ―― − ――  ツー・ツー・トン・ツー
  Z ・・・ ―― ―― −    ツー・ツー・トン
─────────────────────────────
 どうでしょう。最もよく使われる文字は短く、あまり使われな
い文字には長い音を割り付けています。少しでも早く情報を伝え
るための処置といえるでしょう。これがシャノンの考えた「情報
のコード化」です。
 第2に、ハーバート・サイモンについて考えます。
 ハーバート・サイモンは米国の経済学者であり、その研究の中
心は組織論の分野であり、組織における人間の意思決定過程の研
究を行い、これによって1978年にノーベル経済学賞を受賞し
ています。
 この意思決定という人間の営みには「情報」が深く関わってく
るのですが、サイモンは情報には「階層」があることを指摘し、
次のように述べています。
─────────────────────────────
 データ、インフォメーション、インテリジェンスという情報の
階層を経て、われわれは意思決定をすることができる。
                 ──ハーバート・サイモン
      ──岩本敏男著/『IT幸福論』/東洋経済新報社
─────────────────────────────
 「情報は対象の不確実性を減少させる」とシャノンはいいまし
たが、その情報、すなわちインフォメーションは「事実」、デー
タの積み上げられたものです。岩本敏男氏の言葉を借りれば「デ
ータを分類して意味を持たせ、分析や評価の対象にしたものが、
インフォメーション」といえるのです。
 しかし、このインフォメーションだけでは意思決定に使えない
のです。多くの情報をシステマティックスに積み上げて、もうひ
とつ上の階層に引き上げることが意思決定には必要になります。
そうなると、これは単なる情報ではなく、インテリジェンス、い
わば「知見」のレベルになっているといえます。
 このようにサイモンの意思決定のプロセスの説明をたどってい
くと、情報には次の3つの階層があることがわかってきます。
─────────────────────────────
         1.      データ
         2.インフォメーション
         3. インテリジェンス
                ──岩本敏男著の前掲書より
─────────────────────────────
            ──[次世代テクノロジー論/32]

≪画像および関連情報≫
 ●意思決定は合理的ではありえない/ハーバード・サイモン
  ───────────────────────────
   「需要曲線と供給曲線の交点で、価格と生産量が決定され
  る」。この法則は、ミクロ経済学の教科書を読んでいなくて
  も、ほぼだれでも知っている基礎知識です。「需要と供給の
  一致」、つまり「神の見えざる手」ですね。需給の交点で市
  場は均衡するわけです。
   しかし、この法則の成立には前提があります。市場には供
  給側も需要側も十分に多数の参加者が存在し、全員が同じ情
  報を持っていることです。これを「完全競争市場」といいま
  す(正反対の概念は「独占市場」)。
   さらに、企業は利潤を最大化し、人々は効用を最大化する
  行動をとることが前提にあります。効用の最大化とは、予算
  の制約のなかで欲望を最大化すること、と言い換えてもいい
  でしょう。人々は同じ財・サービスであれば、必ず価格の一
  番安いものを買う、といったことです。なぜならば、それが
  合理的な行動だからです。つまり、人間の合理性が大きな前
  提条件として組み込まれていることがわかります。人間の合
  理性を前提に、経済学は計算可能なサイエンスとして発達し
  たわけですが、現実の社会で完全競争市場はほとんどありえ
  ません。実際は完全競争市場と独占市場の間にグラデーショ
  ンのようなさまざまな市場があり、人間は完全に合理的な行
  動をとることもありえないのです。 http://bit.ly/2zkCCGD
  ───────────────────────────

情報の巨人:シャノン/サイモン/ノイマン.jpg
情報の巨人:シャノン/サイモン/ノイマン
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月08日

●「トフラーの第三の波は現代社会か」(EJ第4641号)

 『第三の波』という本があります。1980年に刊行されてい
ます。アルビン・トフラーという米国の作家で、未来学者が執筆
した大変有名なベストセラーズです。トフラーは、この本のなか
で、人類の歴史における大きな技術革新の「波」の概念に基づい
て、三種類の社会を描いています。
 第一の波は農業革命、第二の波は産業革命、そして第三の波は
現代の情報革命が進む社会を暗示していると考えられます。この
本が執筆された1980年は、コンピュータは高度に進化し、そ
の小型化も進んでいた年です。既に1975年にマイクロソフト
次の年にはアップルが創業し、現在のPCの前身である小型コン
ピュータも既に姿を現しているのです。
 ネットワークでは、インターネットの原型といわれるARPA
ネットは1969年に3つの大学と1つのシンクタンクの間で開
通し、1975年には、その接続拠点は既に50拠点を超え、安
定運用が行われています。当時の米国の状況について、村井純慶
応義塾大学教授は自著で次のように述べています。少し専門的で
すが、ネットワークが相当進んでいたことはわかると思います。
─────────────────────────────
 1970年代初頭、さまざまなネットワークをARPANET
を用いて相互接続することが考えられ、このときにネットワーク
プロトコルとしてTCPが考えだされた。そして1978年、T
CP層から経路制御機能を担う部分をIP層として分離するアイ
デアが出され、1981年に正式にTCP/IPとなつた。同時
にARPANETはTCP/IPを使用したネットワークヘ移行
した。       ──村井純著/『インターネットの基礎/
  情報革命を支えるインフラストラクチャー』/角川学芸出版
─────────────────────────────
 おそらく、何かが変わろうとして蠢いていた時代であり、トフ
ラーは、かなり具体的に情報通信革命が進む社会について描くこ
とができたのではないかと考えられます。既出の岩本敏男氏は、
このトフラーの『第三の波』を自著の冒頭にに引用し、トフラー
のいう第三の波のもらたす社会は「情報を主体とする社会」であ
り、現在も人類はこの情報通信革命の真っ只中に置かれていると
指摘しています。
─────────────────────────────
 コンピューターは、断片的な情報文化をきちんとした情報の形
に組織し、総合するのに役立つだけでなく、可能性の範囲を押し
広げる働きをする。図書館や資料の入ったキャビネットは、それ
自体、ものを考える力は持っていない。もちろんユニークな発想
など生まれてくるはずもない。ところがコンピューターは『人間
の考えおよばないこと』を考えたり、以前は『思いもよらなかっ
たこと』を考えさせるのに役立つ。コンピューターは、言葉の真
の意味で、われわれがこれまで考えもせず、想像もしなかった新
しい理論、概念、イデオロギー、芸術的直観、技術的進歩、経済
的および政治的革新というものを、可能にしていく。それによっ
てコンピューターは、歴史の変化の速度を早め、第三の波の社会
の多様化を推し進めるのである。  ──アルビン・トフラー著
  徳山二郎監修/鈴木健次・櫻井元雄訳/日本放送出版協会刊
─────────────────────────────
 ここで「情報」について考える必要があります。岩本氏は情報
の本質は、次の3人の科学者に学ぶ必要があるといっています。
─────────────────────────────
       1.   クロード・シャノン
       2.  ハーバート・サイモン
       3.ジョン・フォン・ノイマン
─────────────────────────────
 第1に、クロード・シャノンについて考えます。
 クロード・シャノン──この名前をご存知でしょうか。この偉
大なる米国の科学者の名前を知っている日本人は、ほとんどいな
いはずです。驚くべきことに、現在システム系の仕事をしている
人でも、シャノンを知る人は少ないのです。
 シャノンについては、次の有名な言葉があります。シャノンが
いなければ、現在のようなPCは出現しなかっただろうというも
のです。教育でICTの歴史を教えていないからです。
─────────────────────────────
 もし、クロード・シャノンなかりせば、コンピュータは高級
 そろばんで終わっていたであろう。
─────────────────────────────
 クロード・シャノンは、情報の概念の創出者です。シャノンは
情報を次のように定義しています。
─────────────────────────────
   情報とは、対象の不確実性を減少させるものである
               ──クロード・シャノン
                      ──岩本敏男著
              『IT幸福論』/東洋経済新報社
─────────────────────────────
 これは何を意味しているのでしょうか。岩本敏男氏は、これを
トランプを例にして説明しています。トランプは、ジョーカーを
除くと、52枚あります。このなかから、ある人が1枚のカード
を引いたとします。このカードが何かを当てる場合、この段階で
は52枚中のどれか見当はつきません。これは不確実性が52枚
で、最大の状態です。
 しかし、引いたカードがハートであることがわかったとすると
不確実性は52から13に減少します。この不確実性を減少させ
たものは、「カードはハートである」という事実です。この事実
が不確実性を減少させたので、情報ということになります。これ
に加えて「カードは1」であることが判明したとすると、引いた
カードは「ハートの1」と確定し、不確実性は0になります。
 シャノンの情報論については、明日のEJでも引き続き論じる
ことにします。     ──[次世代テクノロジー論/31]

≪画像および関連情報≫
 ●「第三の波」のアルビン・トフラーに想いをはせる
  ───────────────────────────
   情報化社会の到来を予言した「第三の波」などのベストセ
  ラーで知られる作家で、未来学者のアルビン・トフラー氏が
  2016年6月27日、米カリフォルニア州ロサンゼルスの
  自宅で死去した。トフラー氏と妻、ハイジさんが創設したコ
  ンサルタント会社、トフラー・アソシエイツが29日、ホー
  ムページで公表した。死因には触れられていない。87歳。
   1980年代に見事に未来を予見したのが、アルビン・ト
  フラーの「第三の波」だった。第一の波は農業革命、第二の
  波は産業革命、第三の波として情報革命。その中でも「消費
  生産者=プロシューマー」という概念が、現在のソーシャル
  メディアをとりまく環境を言い当てている。トフラーのメタ
  ファーで考えると・・・。
   第一の波は、生産者の誕生だった。捕食によって得られた
  栄養を農業によって生産することができ、定住して、集団を
  まとめるチカラと役割分担が明確になり、ヒエラルキーが生
  まれた。第二の波は、大量生産が可能となった時代。マスエ
  ネルギーによる生産と消費で人口が爆発的に増える。生産者
  と消費者が共存せずに役割が明確にわかれる。資本家と労働
  者の時代。そして、第三の波は、消費しながら、情報を活用
  して、生産者にもなり得るというプロシューマーの到来だ。
  まさに、一部のユー・チューバーやプロのブロガーやアフィ
  リエイターなどがそうかもしれない。しかし、これはまだ一
  部なので、プロシューマーとはいえない。また、ソーシャル
  メディアからのゴールがマスメディアという構図も本当の意
  味での第三の波ではない。そう、私たちは、第三の波が起こ
  る、最初のいくつかの小波にゆらされているにすぎない。
                   http://bit.ly/2h1REa1
  ───────────────────────────

『第三の波』/アルビン・トフラー.jpg
『第三の波』/アルビン・トフラー
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月07日

●「もうひとつの地球/技術進化速度」(EJ第4640号)

 「バラダイムシフト」という言葉があります。今まさにそれが
起きているので、EJでこのテーマを取り上げたのですが、その
言葉の意味をはっきりさせておく必要があります。
─────────────────────────────
 パラダイムシフト(英: paradigm shift)とは、その時代や分
野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の
価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することをいう。パラ
ダイムチェンジともいう。        ──ウィキペディア
─────────────────────────────
 岩本敏男氏のいう「もうひとつの地球」では、まさにパラダイ
ムシフトが起きているのです。その原動力になっているものは、
次の3つです。
─────────────────────────────
          1.   CPU
          2. ストレージ
          3.ネットワーク
─────────────────────────────
 この3つが「もうひとつの地球」において、どのようにパラダ
イムシフトを起こしているかについて、岩本氏の主張をまとめる
と、次のようになります。
 従来の地球では、人や機械などの「何かを動かすもの」が機能
することによって生産活動を行ってきたのです。それが「もうひ
とつの地球」において、その「何か」は情報であり、それを動か
すものの役割を「CPU」が担っているということです。情報を
インプットして受け入れ、プロセスで加工し、アウトプットとし
て出力する──そういう生産活動における中核的機能を果すのが
CPUであります。
 従来の地球では、情報を記録する手段は紙であり、メモ、ノー
ト、書面、新聞、書籍、雑誌のように、情報の多くは紙のなかに
存在していたのです。それが「もうひとつの地球」では、ハード
ディスクなどに「0」と「1」のデジタル情報の集合体として保
存されるようになっています。このような情報の保管場所のこと
を「ストレージ」といいます。ストレージという言葉の意味は、
データが保存・保管される場所のことです。
 また、従来の地球では、人と人のコミュニケーションは主とし
て郵便や電話という手段で、離れた場所にいる人とコミュニケー
ションをとってきていますが、「もうひとつの地球」では、情報
のデジタル化によって、電子ネットワークによるコミュニケーシ
ョンが可能になっています。「1対多」の情報発信が可能になり
しかもその情報を受信した人が、瞬時にそれに対する反応を個人
ないし複数の人に返すことができるようになっています。
 CPU、ストレージ、ネットワーク──岩本敏男氏は、これら
を「情報通信技術の3要素」と位置づけて、著書で詳しく論じて
います。この本は技術書ではなく一般書ですが、現代人であれば
このくらいの技術的知識は、誰でも、とくに経営者は、知ってお
かなければならないという著者の思いが強く感じられます。
 これら情報通信技術の3要素について、岩本氏は次のように締
めくくっています。
─────────────────────────────
 「もうひとつの地球」を構成するこれらの要素(情報通信技術
の3要素)の進化が目覚ましいのは、既に示したとおりだ。19
97年からの15年間でCPUの処理速度は約80倍、ストレー
ジのデータ保存容量は約2万倍、電子ネットワークの通信速度は
約15万倍にもなった。各要素におけるこのような指数関数的な
伸びは、少なくともこれから10年は続くと考えられる。人や歯
車、紙、郵便や電話という要素で構成されていた従来の地球では
おそらくどの時代の15年に焦点を当てても、これだけの進化が
見られたことはなかっただろう。       ──岩本敏男著
              『IT幸福論』/東洋経済新報社
─────────────────────────────
 「従来の地球」と「もうひとつの地球」における大きな違いは
桁違いに進化のスピードが速いということです。それが上記のC
PU、ストレージ、ネットワークの驚くべき進化によくあらわれ
ています。
 それにAI(人工知能)の進化があります。従来の地球では人
が判断していたことが、AIの判断がそれに加わることによって
進化のスピードが加速します。そのため、昨日できなかったこと
が今日にはできるようになっていることがたくさんあるのです。
現時点では顕在化していない技術であっても、何かのきっかけで
一瞬のうちに顕在化することは十分あり得ることです。つまり、
技術が顕在化しようとしたときにビジネスモデルを考えても「時
既に遅し」というわけです。
 したがって、まだ顕在化されておらず、現在進行中の未来の技
術を見抜く目が必要になります。そのため、このテーマの冒頭か
ら技術の未来論の重要性を述べているのです。『エコノミスト』
誌のトム・スタンデージ副編集長のいうように、過去を振り返り
現在進行中の現象を鋭く見極め、SF小説で描かれている未来を
調べる──そういう未来予測が現代ビジネスパーソンに求められ
ているといえます。岩本氏は、まだ顕在化されてはいないものの
現在進行中の技術を見極めることの重要性について、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 重要なのは、まだ表面に出ていない潜在的な技術、あるいは顕
在化しつつあるが、一部の感受性の高いアーリーアダプター″
層しかまだ興味を示していない技術の中から、将来的に影響を与
えるようなものを見極めることである。そうしたITが活用され
ることを予見し、事前にその活用のための準備をしておくことこ
そ重要なのである。       ──岩本敏男著の前掲書より
─────────────────────────────
            ──[次世代テクノロジー論/30]

≪画像および関連情報≫
 ●技術論に終始する「日本の予測本」の異様さ
  ───────────────────────────
   世界の賢人たちによる未来予測本は、みな独自性にあふれ
  たものだ。しかし、それらを足し合わせて平均してしまえば
  「現状と何も変わらない」という陳腐極まりない結論になっ
  てしまう。そのことを前回の「未来は「平均値」で考えては
  いけない」で触れさせていただいた。つまりは、それぞれの
  予測を集めて多数決を採るのではなく、「いいとこどり」を
  していく必要があるということだ。
   実際に、未来予測に関するリポート『メガトレンド201
  4〜2023』(日経BP未来研究所)を執筆する前段階と
  して私もこの作業に挑んだわけだが、その際に気づいたのは
  個々の予測は、著者が属する国や地域、そして著者の専門分
  野などを強く投影したものになっているということである。
  それは個性、あるいは独自性とも言えるものであり、各著作
  の魅力となっている。だが、彼らの予測を具体的な事業計画
  などの参考にしようとするのであれば、このことには十分留
  意すべきだとも思う。
   著名予測本の具体例として前回、BIノルウェービジネス
  スクール教授のヨルゲン・ランダースが著した『2052年
  今後40年のグローバル予測』(日経BP社、2013年)
  と英エコノミスト誌編集部がまとめた『2050年の世界/
  英『エコノミスト』誌は予測する』(文芸春秋2012年)
  の内容について紹介させていただいた。今回はさらに著者の
  「地域」を広げ、それらの特徴を探ってみたい。
                  http://nkbp.jp/2zbAxen
  ───────────────────────────

岩本敏男氏.jpg
岩本 敏男氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月06日

●「ニューグローバル/岩本敏男社長」(EJ第4639号)

 大前研一氏は、現在のインターネットの世界を「見えない経済
大陸」と呼んでいますが、NTTデータ代表取締役社長の岩本敏
男氏も大前氏に近い考えをもっています。こちらは「もうひとつ
の地球」です。
─────────────────────────────
 46億年にわたり「地球」はひとつでありつづけた。地球がひ
とつであるというのは当然のことであり、突飛なことをいうもの
とあるいは思われるかもしれない。しかし、現実として「もうひ
とつの地球」が生まれつつある。そのような認識を私はもってい
るのである。「もうひとつの地球」に対して、私は真剣に思いを
巡らせている。
 では、その「もうひとつの地球」とはどのようなものなのか。
その存在を示す言葉として私は「ニューグローバル」という表現
を用いている。海外のニュースをタイムリーに知る。会ったこと
のない人と友だちになる。海外の街並みを見られる。現地に行か
ないと買えなかったものを家で買える。これまでの長い歴史で作
られてきた常識では説明のつかないような世界が生まれている。
物理的な距離、国境、国家ではとらえきれない新しい世界だ。
                      ──岩本敏男著
              『IT幸福論』/東洋経済新報社
─────────────────────────────
 なぜ、多くの識者が、現在われわれを取り巻いている社会を規
定し直そうとしているのでしょうか。
 それはいま未来を予見することの重要性が高まっているからで
す。ビジネスではとくにそうです。ビジネスモデルが変貌してし
まうからです。現代は、少なくともあと5年後、10年後に社会
がどのように変貌するか、素人では見通せなくなっていることは
確かです。それでいて、素人でも、大きな変化が起きるだろうと
いうことは実感しているのです。そのため、書店では、未来予測
をテーマとする書籍が多く出版されています。
 岩本敏男氏は、「もうひとつの地球」の存在を示す証として、
「ニューグローバル」という言葉を使っていますが、グローバル
化していく社会では次の3つのことが起きると述べています。
─────────────────────────────
          1. ボーダーレス
          2.インテグレート
          3.  リプレース
─────────────────────────────
 起きることの第1は「ボーダーレス」です。
 米国では「州」はひとつの国のようなものであり、ビジネスに
しても物流にしても、ほとんどのことが州単位にまとまっていた
のです。その州としてのまとまりを壊したのが鉄道と郵便制度の
発達です。岩本氏は、その例として、現在も巨大な百貨店として
残る「シアーズ・ローバック」を上げています。
 「シアーズ・ローバック」は、ミネソタ州で鉄道の駅員をして
いたリチャード・ウォーレン・シアーズと、時計商のアルヴァ・
C・ローバックが起こした企業です。彼らは、当時、発展途上に
あった郵便制度と鉄道を利用して、物品の通信販売をはじめたの
です。ミシン、自転車、スポーツ用品などの商品カタログを作り
それを郵便や鉄道を利用して配付したのです。
 代金決済は基本的に前払いで、現金のほか、小切手、郵便振替
郵便切手などが使われています。したがって、このビジネスが発
展すればするほど、州を超えて拡大することになったのです。こ
れが「ボーダ−レス」です。
 起きることの第2は「インテグレート」です。
 インテグレートは、業態を超えて統合することを意味していま
す。インテグレートの例として岩本氏が上げたのが、世界最古の
百貨店といわれるフランスのボン・マルシェ百貨店です。当時パ
リでは、専門店が乱立し、多くの商品を扱う百貨店という業態は
なかったのです。岩本氏は、ボン・マルシェ百貨店がどのように
して誕生したのかについて次のように述べています。
─────────────────────────────
 パリにあったこの店は、もともとは布の生地だけを扱う、いま
でいうところの専門店だった。しかし、1852年、事業家のア
リスティッド・ブシコーがこの店を買い取り、夫人とともに、現
在の百貨店に通じるような数々の新しい売り方を導入した。例え
ば、誰もが店に出入りできるようにしたこと、商品に定価を付け
るようにしたこと、また、ショーウィンドウに商品を並べて通行
人の注目を集めること、季節ものの大安売りをすること、などで
ある。ブシコーが導入した斬新な販売方法がもうひとつある。も
ともと店で扱っていた布の生地だけでなく、医薬品や香水など他
の種類の商品も店で売るということを、ブシコーは始めたのであ
る。業態を超えて商品を統合的に取り扱う、つまりインテグレー
トがここに見られる。      ──岩本敏男著の前掲書より
─────────────────────────────
 起きることの第3は「リプレース」です。
 「リプレース」とは、商品やサービスが新しいものに代替され
ることを意味しています。これについて岩本氏はエドワード・ロ
イドのテムズ河畔、タワー街に開店したコーヒーハウスを例とし
て取り上げています。当時コーヒーハウスは、情報入手の中心的
な役割を果たしていたのです。この店には、主として船主たちが
多く集まって、コーヒーカップを片手に情報を交換したといいま
す。やがてこの店は船舶保険を扱うようになり、これがロイズ保
険会社の起源となったのです。
 1785年、ロンドンの印刷業者ジョン・ウォルターによって
世界初の日刊新聞「デイリー・ユニバーサル・レジスター」が創
刊されています。これは、コーヒーハウスという情報交換の場が
日刊新聞へと代替されるようになったのです。これが「リプレー
ス」という現象であるといえます。ビジネスにおける状況変化の
ひとつです。      ──[次世代テクノロジー論/29]

≪画像および関連情報≫
  ●書評『IT幸福論』(岩本敏男著)
  ───────────────────────────
   本書は進化する情報社会の中における、企業リーダーのI
  Tの活用方法とITへの向き合い方について、NTTデータ
  代表取締役社長が提言した一冊です。著者であるNTTデー
  タ代表取締役社長の岩本敏男氏は、インフラ系システムを中
  心に、長年に渡りITビジネス業界に身を置いてきた人物。
  手掛けたプロジェクトには、中央省庁システム、日本銀行、
  東京証券取引所といった、まさに日本を代表する企業が名を
  連ねています。このように、IT業界で長年にわたり活躍し
  てきた著者ですが、現代のIT技術の進化を、農業革命、産
  業革命に続く「第三の革命期」、つまり「情報通信革命」で
  あると述べています。
   『私は現在も人類はこの情報通信革命の真っ只中に置かれ
  ていると考えている。情報通信革命により、われわれは、大
  きな生活の変化を経験した。いつでも、どこからでも、求め
  られる情報へ瞬時にアクセスすることが可能となり、また、
  手軽に世界中の人びととコミュニケーションがとれるように
  もなった』。以前はアナログの媒体で取り扱われてきた情報
  が急速にデジタル化し、企業の業務プロセスも、ITをより
  駆使することができるようになっています。また、IT技術
  の進歩は日進月歩であり、iPhoneやFacebook といった従来
  では考えもつかなかったようなアイデアが、どんどん世の中
  に生み出されています。      http://bit.ly/2zZLP4j
  ───────────────────────────

岩本敏男NTTデータ社長.jpg
岩本敏男NTTデータ社長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月02日

●「滴滴出行配車アプリで日本へ進出」(EJ第4638号)

 先日、自宅からタクシーを利用するため、タクシー会社に電話
して、配車を依頼したところ、すぐには配車できないといわれた
ので、バスで駅まで行ったのです。ところが駅にはそのタクシー
会社のタクシーが多数客待ちをしているのです。この客待ちの時
間が長ければ長いほど、配車の効率が低下することになります。
 多くの場合、タクシー会社は、配車依頼の電話が入ると、無線
で配車依頼者の場所に近いところを走っている空きタクシーをそ
こに向わせるやり方を昔からとっています。しかし、この方法で
は、タクシーの客待ちロスを減らすことは困難です。
 いわゆるライドシェアサービスのウ―バー(Uber)の創業者は
サンフランシスコであまりにもタクシーがつかまらないのに業を
煮やして、2009年3月に自分で会社を設立しています。実体
験に基づいているのです。そのウ―バーは、5年足らずで時価総
額7兆円の巨大企業になっています。発想が違うのです。
 そのウーバーも、自家用車の有料配送の規制のある日本にはお
手上げの状態ですが、2017年10月30日付の日本経済新聞
は、次のニュースを一面トップで報道したのです。
─────────────────────────────
          中国配車アプリ、日本進出
       /最大手・滴滴/タクシーと連携
─────────────────────────────
 中国の滴滴出行といえば、タクシー配車とライドシェア(相乗
り)サービスの世界最大手です。滴滴出行は、日本ではタクシー
国内最大手である第一交通産業と提携し、来年春にもタクシーを
配車できるようにするという内容の記事です。
 お客が滴滴のスマホのアプリの地図で、出発地と目的地を指定
すると、その情報を登録タクシーが受信し、一番出発地の近くに
いるタクシーが出発地に迎えに行くという仕組みです。もちろん
そのさいには、何分で出発地に迎えに行けるかをお客に知らせ、
料金はスマホを通じて支払われることになっています。
 滴滴出行は、来年の春にも都内で500台の規模で運用します
が、第一交通産業としては、主として中国人旅行者のタクシー需
要を取り込めるメリットがあります。中国からの旅行者は、日本
に来る前にネット上で配車を依頼し、料金を払い込んでしまうの
で、成田や羽田空港などには、登録タクシーが続々と迎えに行く
ことになります。
 滴滴出行としては、第一交通産業の保有する約8700台のタ
クシー全てをアプリで配車できるようにするとともに、他のタク
シー会社とも提携することによって、大阪などの他都市にも対象
を拡大し、徐々に登録車の台数を増加させる計画です。
 白タクの規制緩和は、タクシー会社の反対もあって簡単には実
現するとは思われないものの、いつかは条件付きで実現される日
が来ます。しかし、そのときは、既にタクシー配車で実績を持つ
滴滴出行によって事業は独占されてしまうことは目に見えていま
す。日本の企業のテクノロジー4・0への対応は遅いのです。
 これについて、大前研一氏は、ウ―バーの例をひいて次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 私はよくオーストラリアに行きますが、今やゴールドコースト
に昔ながらの流しのタクシーはほとんど走っていません。以前か
らよく知っているタクシーの運転手に尋ねると「街で手を挙げて
タクシーをつかまえる人がいなくなりました」と言います。Uber
を利用する人が多いので、街を流して走っていても客も見つけら
れないそうです。しかもUber の方が操業度は高く、ドライバー
にとっては実入りも良いのです。(中略)
 Uberが急成長した背景には、配車を可能にする位置情報、デー
タを解析して配車を効率化するビッグデータ、そして代金のやり
取りに関わるFinTech があります。つまり、これからのビジネス
においては、ひとつのテクノロジーを理解しているだけでは駄目
なのです。システム(テクノロジー)がつながって、サービスや
ビジネスを形成しており、テクノロジーがどうつながっているか
を知ることが重要です。           ──大前研一著
 『テクノロジー4・0/「つながり」から生まれる新しいビジ
              ネスモデル』/KADOKAWA
─────────────────────────────
 「スマートフォン・セントリック」という言葉があります。大
前研一氏がこの言葉を使っています。大前氏は、「スマホはデジ
タルコンチネントを形成している」というのです。考えてみると
スマホは何でもできるマシンであることがわかります。
 電話やメールで、いろいろな人と連絡をとることができますし
ラジオやテレビ、動画も見ることができ、音楽を聴いたり、写真
を撮ったり、録音をすることも可能です。GPSを利用して、道
案内をしてもらうこともできます。VRもARもスマホがあれば
体験できます。
 それに加えてスマホで買い物をして決済するだけでなく、リア
ルな店舗での買い物の支払いをしたり、電車やバスに乗ったりも
できます。さらに銀行の資金の出し入れや振り込みをしたり、残
高照会をすることもスマホで可能です。
 これだけではありません。スマホにおいて最も重要なことがあ
ります。それは、大前研一氏のいう次の指摘です。
─────────────────────────────
 世界中で使われているスマホを動かすシステムは、アップルの
iOSか、グーグルのアンドロイドしかありません。しかもアプ
リは、ほとんど共通に開発されています。したがって、ひとつの
都市で開発された事業が、即、全世界に展開できるのです。
 つまり、スマホの中に全世界をカバーする新しい経済圏・デジ
タルコンチネント(大陸)ができたのです。
                ──大前研一著の前掲書より
─────────────────────────────
            ──[次世代テクノロジー論/28]

≪画像および関連情報≫
  ●注目すべきテクノロジーが1つにつながる
  ───────────────────────────
   「位置情報3・0」の周りにはいろいろと注目すべきテク
  ノロジーがあります。まずはやはりビッグデータ。それから
  IoTやフィンテック(FinTech)、 AI(人工知能)もそ
  うです。そして今、位置情報も含め、これらのテクノロジー
  が1つにつながってきているというのが私の実感です。
   今、これら全てのものが、皆さんが手にしているスマート
  フォンに集約されています。こうした状態を「スマートフォ
  ン・セントリック(Smartphone Centric)」と言います。ス
  マホのエコシステムの中に、様々な機能やサービスが取り込
  まれているというわけです。ですから、これらの技術に関す
  る事業を1つでも取り上げて見てみると、そこにあらゆる技
  術が入ってきていることが分かります。
   たとえばセーフィーという会社は、170度モニターでき
  るカメラとスマホを連携させるセキュリティサービスを提供
  しています。このカメラで捉えた映像を、自分のPCやスマ
  ホで見ることができるというものです。このカメラを自宅の
  玄関前に取り付けておいて、月々980円払っていれば、誰
  か来たときにセンサーがそれを感知し、自分のスマホに、ア
  ラートで通知してくれます。さらに、録画されたデータの1
  週間分はクラウド上に保存されていますから、もしなにかト
  ラブルがあったときには、それを警察に持ち込めば分析して
  もらえるのです。         http://bit.ly/2zk6Kmx
  ───────────────────────────

滴滴出行.jpg
滴滴出行
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月01日

●「ネット靴店『ザッポス』の売り方」(EJ第4637号)

 「見えない経済大陸」のもうひとつの覇者、アマゾンについて
述べます。なぜ、アマゾンは見えない大陸、すなわち、インター
ネットでのビジネスの覇者になることができたのでしょうか。
 アマゾンの創業は1995年8月、1997年5月にナスダッ
クに上場を果たしています。2000年11月に日本語のサイト
を立ち上げ、アマゾン・ジャパンを設立し、日本に進出。以来、
事実上1社が独占的に提供する電子商取引としては、日本最大の
ECサイトになっています。しかし、アマゾンは、最初のうちは
何度も浮き沈みを繰り返し、苦労を重ねて、最後には世界最大の
Eコマース業者になっています。
 このアマゾンについて、かなり長い間、多くの日本人は、「イ
ンターネット上の書店」と考えていたと思います。しかし、アマ
ゾンの創業者ジェフ・ペソス氏は、最初から、次のように考えて
いたといいます。
─────────────────────────────
 自分は本屋になるのではない。自分は、世界一のリテーラー
 小売業者になるのだ。
          ──大前研一著/『テクノロジー4・0/
         「つながり」から生まれるビジネスモデル』
                     KADOKAWA
─────────────────────────────
 それでは、なぜ、書店だったのかということです。大前研一氏
によると、ジェフ・ベソス氏は、ネット上で売れる商品には次の
2つがあることを認識し、最初に書籍を選んだといいます。
─────────────────────────────
           1.左脳型商品
           2.右脳型商品
─────────────────────────────
 「左脳型商品」とは、お客が注文した商品と届いた商品がほぼ
一致する商品であるということです。つまり、書籍は最も誤発注
の少ない商品なのです。「著者は大前研一、書籍名はX、出版社
はZ」というように特定できるからです。
 航空機の席も同様です。「JALのX便、Z行き、Y時Y分発
席はF席」というように間違えようがないからです。こういう商
品のことを左脳型商品というのです。
 しかし、スーツ、ジャケットなどの衣服、カーテン、バッグ、
ソファ、靴などは、ウェブサイトだけで商品を伝えることには限
界があります。「色が気に入らない」「肌触りがわるい」「サイ
ズが合わない」「(靴などの)履き心地がよくない」など、ネッ
トだけでは商品を十分伝え切れず、どうしても返品が多くなって
しまうのです。こういう商品を大前研一氏は「右脳型商品」と呼
んでいます。
─────────────────────────────
 あるときベゾス氏は、米国でザッボスという企業を経営してい
た台湾出身の経営者に出会います。ザッボスは靴のeコマースで
売上を伸ばしていました。調べると、ザッボスは「返品自由」と
いうシステムをとっていました。ユーザーは3足ほどを一度に注
文して、一番合う靴を残し、ほかは返品してしまう。不思議なも
ので、それを何度か繰り返すと、自分に合うのはこういうモノで
こういう注文の仕方をすればいい、ということをユーザーが分か
るようになり、返品率が下がっていくのです。
                ──大前研一著の前掲書より
─────────────────────────────
 ジェフ・ベソス氏が、なぜザッポスに目をつけたかには理由が
あります。ベソス氏は、アマゾンで、いろいろな商品をネットで
売ってみたのですが、実は靴の返品が非常に多く、苦労していた
からです。ところが、ザッポスは創業の1999年のゼロから、
2009年には12億ドルの売上高に達していたのです。
 この企業の特色は、既存顧客売り上げが75%を占める目を見
張るようなリピート率に支えられていることにあります。つまり
新規よりも既存顧客に焦点をあてたサービスによる営業が可能な
企業なのです。また、経営のやり方が非常に巧みであり、フォー
チューン誌が「働きがいのある企業100」のランキングにも選
出する有名企業になっていたのです。
 どのようにして売っているのかというと、大前氏の本にあるよ
うに、自分に合いそうな靴を複数注文させ、合わない靴は送り返
すシステムを導入したのです。そのさい、商品の返品は無料で自
由ですが、送り返す費用は自己負担にしたのです。
 ジェフ・ベソス氏は、この右脳型の商品の扱いが上手なザッポ
スを破格の条件の900億円で買収し、自らの傘下に収めている
のです。このようにあらかじめ返品を予想して、それを認めたう
えで商品をネットで販売するビジネスモデルは、今までにない発
想であるといえます。
 ザッポスのサービスの素晴らしさを物語る有名なエピソードは
ザッポスで、母親へのプレゼントとしてシューズを購入したある
女性の次の話です。
─────────────────────────────
 購入直後に母親が病で突然亡くなってしまい、シューズどころ
ではなくなってしまった彼女の所に、ザッポスのコンタクトセン
ターの社員から購入した靴の様子を尋ねるEメールが届く。母親
が亡くなってしまい返品したかったが、貨物集配所まで持ってい
く時間が無かった事、必ず返品するので何とかもうしばらく待っ
て欲しい事を伝えると、「そういう事情でしたらご自宅まで集荷
便を送りますから、ご心配なく」というEメールが直ちに帰って
きた。翌日、お悔やみの花束が届く。同封されていたメッセージ
カードの封を開けてみると、それはザッポスからの手書きのカー
ドだった。感動のあまり号泣した彼女はその感動をブログに投稿
し、それが人から人へと広まっていく。 http://bit.ly/2zOpE10
─────────────────────────────
            ──[次世代テクノロジー論/27]

≪画像および関連情報≫
 ●ザッポスの“伝説的”顧客サービスはどこがすごいのか?
  ───────────────────────────
   2000年11月にアマゾン・ドットコムは同社史上最大
  の買収額でザッポス・ドットコムを買収した。アマゾンは、
  買収時点でザッポスが扱う靴などの商品をすでに取り扱って
  いたにもかかわらず、ザッポスを独立したブランドとして存
  続させるという。重複や余剰などの冗長性を嫌う米国式マネ
  ジメントでは珍しいこの判断は、いかにアマゾンがザッポス
  のブランド価値を高く評価しているかを示している。
   ブログメディアのマッシャブル共同編集者ベン・パーは、
  アマゾンによるザッポス買収の理由を次の4つにまとめてい
  る/2009年7月22日。
   1.ザッポスの大きな成長ポテンシャル
   2.ザッポスの成功を実現したユニークな企業文化
   3.ザッポスの伝説的な顧客サービス
   4.ザッポスの人材・・・・リーダーシップと社員
   ザッポスの成長は、確かにめざましいものがあり、創業の
  1999年のゼロから10年後の2009年に12億ドルの
  売上高に達している。さらに、アパレルなど靴以外の商品の
  急成長もあって、2010年第1四半期は前年比で売上高は
  50%増。2010年11月現在2800人の従業員だが、
  2011年はこれにさらに2000人(シーズンの一時雇用
  を含む)を加える計画だという。  http://bit.ly/2ybhhQN
  ───────────────────────────

ジェフ・ベソス氏.jpg
ジェフ・ベソス氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月31日

●「グーグルの独自のビジネスモデル」(EJ第4636号)

 「見えない経済大陸」でビジネスに成功するには、従来のビジ
ネスモデルを超える発想がないと、成功できない──昨日のEJ
の最後に書いた言葉です。ここでいう従来のビジネスモデルを超
える発想とは何でしょうか。
 わかりやすい例として、グーグルとアマゾンの成功が上げられ
ます。これら2つの企業は、まさに見えない経済大陸、すなわち
インターネットの世界での覇者といえるからです。これについて
は異論がないと思います。
 グーグルについて私が認識を改めたのは、梅田望夫氏の『ウェ
ブ進化論』(ちくま新書)を読んでからです。この本は、ブログ
が登場した頃の2006年に刊行されており、インターネットの
世界がまだ少ししか見えていないときです。そのとき、多くの人
は、グーグルという企業は、検索エンジンを作る技術を持つ企業
で、インターネット上の広告を扱うらしいぐらいの認識しか、な
かったと思います。梅田望夫氏の『ウェブ進化論』に印象深い次
の一節があります。
─────────────────────────────
 文章を書く、写真を撮る、語り・対話・議論を録音する、音楽
を作る、絵を描く、ホームビデオで録画する、映像を作る。そし
て、その結果を皆がインターネット上に置く。ではそれで何が起
こるのか。
 確かにこんなことはインターネットが登場してまもない10年
前から盛んに議論され、たくさんのビジネスが試されては消えて
いった。バブル崩壊と共に終了した第1次インターネット・ブー
ム時の結論は「何も起こらない」だった。
 「普通の人が何かを表現したって誰にも届かない」が当時の結
論。でもそれは、玉石混交の彪大なコンテンツから「玉」を瞬時
に選び出す技術が、当時はまだほとんど存在していなかったから
である。         ──梅田望夫著/ちくま新書582
     『ウェブ進化論/本当の大変化はこれからはじまる』
─────────────────────────────
 ウェブサイトが普及し、ほとんどの企業がウェブサイトを持つ
ようになったとき、当時は「そんなもの作ったって、誰も見やし
ないよ」という声が多くあったことは確かです。実際に、第1次
インターネットといわれる2005年まではそうだったのです。
 当時ウェブサイトを検索するには、インターネット・エクスプ
ローラを使っていたのですが、その検索能力のレベルは、今から
考えると、きわめて低いものであり、目指すウェブサイトにたど
りつくには、URLを正確に入力しないとできなかったのです。
 グーグルが創業したのは1998年のことです。最初にやった
ことは、検索エンジンを無料で頒布したことです。その検察の精
度は、明らかに当時のインターネット・エクスプローラを超えて
いたのです。そこで多くの人がグーグルの検索エンジンを使うよ
うになります。その精度は年を追って高くなり、URLではなく
キーワードでの検索がはじめて可能になったのです。
 グーグルは2004年に株式公開を果たし、2005年10月
にその時価総額は10兆円を超えています。それは、検索エンジ
ンの性能アップによって、玉石混交の膨大なコンテンツのなかか
ら「玉」を選び出すことが少しずつ可能になったことを示してい
ます。誰でも無料で使える検索エンジンの性能が上がればブログ
を含むどのようなウェブサイトも見つけられるようになり、グー
グルの広告は拡大発展するからです。梅田望夫氏は、これについ
て次のように述べています。
─────────────────────────────
 グーグルの登場は世界中のIT関係者を刺激した。「増殖する
地球上の膨大な情報をすべて整理し尽くす」という領域について
の研究、技術開発、ビジネス創造が今や大変な勢いで行われるよ
うになった。ここが、ポスト・ネットバブルたる現代の本質で、
90年代後半とは全く様相を異にしているところである。そして
それはすべて、インターネット登場以来の懸案だった玉石混交問
題の解決につながる営みなのである。
 それと同時に「チープ革命」も粛々と進行中で、表現行為のた
めのコスト的敷居は年々低くなり、道具は誰にでも使える方向に
進化するから、表現者は増加の一途をたどる。グーグルと「チー
プ革命」が相乗効果を起こす形での「本当の大変化」はこれから
始まるのである。        ──梅田望夫著の前掲書より
─────────────────────────────
 ここに「チープ革命」という言葉が出てきます。これはどのよ
うな意味なのでしょうか。
 コンピュータやネットワークの発達によって、膨大なコンテン
ツがネット上に広がりますが、それを見つける道具をインターネ
ットを利用する全員が持つと、人々は大陸というよりも宇宙に匹
敵するほどの広大なネットのなかから、必要なコンテンツを見つ
けられるようになります。そのため、ネット広告をはじめとする
あらゆるビジネスを展開・拡大することが可能になります。だか
らこそグーグルはその道具である検索エンジンを売らずに無料で
頒布したのです。これは、今までになかったビジネスモデルであ
り、梅田氏は「チープ革命」と呼んでいるのです。これは従来の
ビジネスモデルを超える発想です。
 改めてチープ革命というのは、ICTに関するほとんどのハー
ドやソフトが、きわめて低コスト、いや多くは無料で入手できる
ことをいうののです。つまり、ICTに使う道具はタダ同然に手
に入れられるということです。
 これは、スマートフォンについてもいえることです。マシン自
体はかなりコストがかかっているのですが、メーカーや携帯電話
会社は、さまざまな工夫によって、誰でも手に入れられるように
しています。いわゆる「実質ゼロ円」の戦略です。少しでも多く
の人に保有させ、毎月の通信料で稼ぐ──これもチープ革命であ
るといえます。総務省はこれにブレーキをかけていますが、時代
錯誤の判断です。    ──[次世代テクノロジー論/26]

≪画像および関連情報≫
 ●2045年のチープ革命
  ───────────────────────────
   鈴木健です。梅田望夫さんは、漸進的なコンピュータの性
  能向上が、いかにして新しい技術やサービスを生み出すかを
  チープ革命という概念で説明します。これは、フォーブス誌
  コラムニストのリッチ・カールガードがもともと発明した言
  葉です。それまでであれば無駄だと思われていたようなリッ
  チなリソースの使い方が、チープ革命によって十分可能な領
  域に入ると、新しいイノベーションが起きるのです。
   産業技術総合研究所から、最近アップル社に移籍したイン
  ターフェイス研究者の増井俊之さんにいわせれば、富豪的プ
  ログラミングということになるでしょうか。
   チープ革命がどのように進行するかを予測すれば、次のト
  レンドがどこにあるのかを言い当てることができそうです。
  たとえば、アップルのアイポッドは、小型HDDの容量が音
  楽を1000曲格納可能なところまで増えたことから可能に
  なりましたし、近年のユーチューブなどの動画共有サイトの
  勃興は、ブロードバンドの普及率が閾値を超え、サーバー側
  のストレージ容量も動画を置くのに十分なほど安くなったこ
  とから可能になりました。そこで、2045年までに、この
  チープ革命がどのように進行するかを予測して、そこから見
  えてくる世界を想像してみましょう。
                   http://bit.ly/2zO4RKO
  ───────────────────────────

梅田望夫氏.jpg
梅田 望夫氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月30日

●「『テクノロジー4・0』とは何か」(EJ第4635号)

 現代をどのような時代として捉えるべきでしょうか。大前研一
氏は、現代を「テクノロジー4・0」と呼んでいます。3つのテ
クノロジー革命を経て、現代にいたっているというのです。
─────────────────────────────
      ◎テクノロジー1・0
       ・技術革新に伴う産業上の変革
      ◎テクノロジー2・0
       ・工業化による大量生産の時代
      ◎テクノロジー3・0
       ・情報革命による通信変革時代
      ◎テクノロジー4・0
       ・スマートフォンセントリック
          ──大前研一著/『テクノロジー4・0/
         「つながり」から生まれるビジネスモデル』
                     KADOKAWA
─────────────────────────────
 「テクノロジー1・0」とは、18世紀から19世紀にかけて
英国で起きた産業革命のことを指しています。モーターが開発さ
れ、電気が普及し、ジェームス・ワットが新方式の蒸気機関を開
発し、機関車が動いたあの産業革命です。これによって、内燃機
関、機械設備を持つ工場が稼働するようになり、大量生産の体制
ができるようになったといえます。
 「テクノロジー2・0」とは、工業化による大量生産の時代を
意味しています。工業化が進展し、各家庭に比較的安い価格で家
電製品が入るようになり、勤労者のなかに中産階級が育つように
なります。
 「テクノロジー3・0」とは、いわゆる情報革命です。電話や
PCが企業はもちろん家庭にも普及し、メールをやりとりし、通
信革命が起きます。このテクノロジー3・0について、大前研一
氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 電話線によっていろいろな人かつながり、情報伝達の手段が充
実するようになります。留守番電話ができ、その場にいなくても
メッセージを受け取れるようにもなりましたし、ファクシミリに
よって離れた相手に文字などの情報を一瞬にして伝えられるよう
になりました。それが情報革命の初期であり、さらにパソコン通
信ぐらいまでが、テクノロジー3・0時代と位置付けられます。
(中略)トフラーの言った第3の波とは、「張り巡らされたネッ
トワーク」によって世界中のコンピュータがつながっていくこと
を意味しており、いわゆるインターネット第一世代を指していま
す。              ──大前研一著の前掲書より
─────────────────────────────
 大前研一氏は、テクノロジー3・0を「パソコン通信ぐらいま
で」といっています。パソコン通信といっても、インターネット
世代の若い人は知る由もありませんが、特定のサーバ(ホスト)
とその参加者(会員)の間だけの閉じたネットワークサービスの
ことです。1980年代から1990年代が最盛期です。199
5年のウインドウズ95の発売までは、インターネットは日本で
はほとんど普及していなかったのです。
 その後に「テクノロジー4・0」の時代がやってくるのです。
そして現在はまさにその真っ只中にあります。大前研一氏はこの
テクノロジー4・0の時代を経済に関連させて論じ、フィンテッ
ク、位置情報ビジネス、IoTなどに関わる新時代のビジネスモ
デルについて論じていますが、その内容はなかなか深く、時代を
読む参考になります。
 コンピュータが進化することによって、あらゆるものにデジタ
ル化が進みます。ファクシミリ、電話、録音機、カメラ、そして
テレビ、ビデオなど──すべてにアナログからデジタルへの変化
が進行したのです。
 これらは、そのひとつひとつがモノを中心とした島、デジタル
アイランドを形成します。それぞれが独立した島です。やがて、
これらのデジタルアイランドがひとつにつながり、デジタルコン
チネント(大陸)になる変化が起きます。これについて、大前研
一氏は次のように説明しています。
─────────────────────────────
 これまでの状況は、商品別に独立した島があったようなもの。
つまりデジタルアイランドだったわけだ。ところが、今後はそれ
らがつながっていって、大陸(コンチネント)が生まれていく。
例えば、登場当初はただの定期券の発展版に過ぎなかったスイカ
(Suica) が、いつの間にやらコンビニ決済機能まで持つように
なったのはその典型である。
 「デジタルアイランドからデジタルコンチネントへ」とは、業
界の大再編が行なわれようとしている、ということを意味してい
る。この動きが理解できれば、新しい事業機会を予見できるので
はないだろうか。そのためには、今やっていることが淘汰される
側にあるのか、成長する側なのかをしっかり考えることだ。デジ
タル社会はスピードが速いので、ぼやぼやしていると取り残され
る危険がある。気が付いてから対応したのでは間に合わない可能
性もあるのだ。           http://nkbp.jp/2y9SIDJ
─────────────────────────────
 大前研一氏は、このデジタルコンチネントのことを「見えない
大陸」と呼んでいます。大前氏は2001年に『新・資本論/見
えない大陸へ挑む』(東洋経済新報社)を上梓していますが、副
題に「見えない経済大陸」という言葉を使っています。この本の
なかで、この大陸の覇者になるのは、従来のビジネスモデルを超
える発想がないと、成功はできないといっています。
 テクノロジー4・0は、このデジタルコンチネントにおける情
報革命であり、物流革命であり、生活革命であり、企業競争の革
命であると大前氏は主張しています。
            ──[次世代テクノロジー論/25]

≪画像および関連情報≫
 ●「テクノロジー4・0が生む『新しい格差』」/大前研一氏
  ───────────────────────────
   テクノロジー4・0を理解するうえで重要なのは、「テク
  ノロジー」という言葉が使われているからといって、テクノ
  ロジー4・0を電子技術やコンピュータ技術だと思うのは大
  間違いということです。
   インターネットの発達でサイバースペースが広がり、マル
  チプルでデジタルコンチネントが加速度的に構築され、国境
  がないボーダレス経済となっても、パン屋さんがパンを焼き
  配送トラックが街を走るといったリアル経済の空間はなくな
  りません。むしろ、ほかの空間で成長が起きれば、リアル経
  済の成長が促されることもあるでしょう。
   従来どおりのリアル経済、ボーダレス経済、サイバー経済
  の中で、マルチプルという飛び道具を使って、見えない大陸
  =デジタルコンチネントを切り開いていく。そして従来型の
  企業を凌駕していく。それがテクノロジー4・0時代に成功
  するためのビジネスモデルなのです。
   これからのビジネスマンに必要なのは、テクノロジー自体
  の理解はもちろんのこと、「それぞれのテクノロジーのつな
  がりを俯瞰する視点」です。位置情報とIoTを組み合わせ
  て新しいサービスを提供する、IoTをベースとしたサービ
  スを利用する際にフィンテックによって生まれた決済方法を
  利用するなど、テクノロジーを組み合わせることで新しいビ
  ジネスモデルが誕生しています。テクノロジーのつながりを
  俯瞰することで、ビジネスのアイデアが生まれやすくなりま
  す。               http://bit.ly/2hdT6qr
  ───────────────────────────

大前研一氏.jpg
大前 研一氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月27日

●「スパコンでも解けない問題がある」(EJ第4634号)

 ムーアの法則を継続させる──なぜこのことが問題なのかとい
うと、それが今後のコンピュータの発展を左右するからです。コ
ンピュータはつねに発展していかなければならないのです。
 スパコンについて、かつて民主党(当時)蓮舫議員は、「2位
じゃ、ダメなんでしょうか」という有名なことばを口にしました
が、2位じゃダメなのです。科学技術を発展させるためには、コ
ンピュータが最速である必要があります。コンピュータは、現在
も発展途上のマシンであるからです。
 スパコンの「京」でも解けない問題があります。それは、次の
ような循環セールスマン問題です。
─────────────────────────────
 セールスマンが、いくつかの都市を一度ずつすべて訪問して、
出発点に戻ってくるときに、移動距離が最小になるような経路を
求めなさい。           ──循環セールスマン問題
─────────────────────────────
 ちょっとできそうな問題に見えます。数学的にいうと、都市数
を「n」とすると、可能な経路は「n!/2n」通り存在するこ
とになります。「n」の値が小さいときは、全ての組み合わせを
調べられるので、最短経路はわかるのですが、「n」が大きくな
ると、この組み合わせの総数は爆発的に増加し、すべてを調べる
ことは困難になります。
 例えば、都市数を10としましょう。そのときの組み合わせの
総数は181440通りですが、30都市になると、次のように
なります。
─────────────────────────────
    30都市の場合 → 4・42×10の30乗
─────────────────────────────
 この計算を「京」で解くと、1401万年もかかるのです。事
実上計算は困難です。それでは、この問題を解くメリットは何か
というと、問題が解けると、あらゆる自動車の移動ルートを最適
化できるので、世界中から交通渋滞を解消させる可能性があるの
です。実現すれば大きなメリットがあります。
 また、これまであり得なかったような効き目の医薬品が開発で
きる可能性もあります。医薬品メーカーは、いまタンパク質の構
造をどう変えれば、薬効の高い医薬品ができるか、コンピュータ
を使って懸命に分析しています。このようなタンパク質の構造分
析も組み合わせの最適問題に属します。組み合わせ問題は、数学
好きなヒマ人の道楽ではないのです。
 このように、コンピュータにも「革新」が求められており、現
在「量子コンピュータ」の開発が進められています。量子コンピ
ュータは、量子力学の原理を応用して演算を行うコンピュータで
す。既存のコンピュータに比べて圧倒的に高速に計算できる夢の
マシンであり、1990年代から世界中で開発が進められていま
すが、現在のところ完成していないのです。
 しかし、今までのアプローチとは異なる「ディーウェーブシス
テムズ」と称する量子コンピュータができており、既にNASA
やグーグルで試験的に使われています。これによって、今までは
「近似解」しか出せなかったものが、「厳密解」を出せるように
なっているといいます。しかし、まだ実用化のレベルには達して
いるとはいえない状況です。
 ここでスパコンの話から従来のコンピュータ(PC)に話を戻
します。PCの速度は何によって決まるでしょうか。PCの速度
についてはさまざまの要素が絡みますが、基本的にはCPUの速
度で決まります。CPUはトランジスタで構成されていますが、
これは電子スイッチとして使われます。
 CPUには「クロック周波数」という数値がありますが、これ
はCPUの能力を示す尺度のひとつになります。クロック周波数
は、例えば「3・4GHz(ギガヘルツ)」というように表現し
ます。G(ギガ)は10億であるので、「3・4GHz」は、1
秒間に34億回オンとオフを繰り返す速度になります。なお、現
在の多くのPCはこのクロック周波数を上回っています。
 1秒間に34億回ですから、速いというイメージはありますが
1969年にはじめて月面着陸に成功したアポロ11号のクロッ
ク周波数が「1MHz」程度でしかなかったことを考えると、こ
れは物凄い速度です。
 CPUはどのような構造になっているでしょうか。簡単にいう
と次の3つから構成されます。
─────────────────────────────
           1.   コア
           2.キャッシュ
           3.   バス
─────────────────────────────
 中心部は1の「コア」です。各種の演算処理を行う中心部分で
あり、CPUそのものです。2の「CPUキャッシュ」はデータ
を一時的にストックしておくメモリで、処理速度を向上させるも
のです。3の「バス」は外部とつながる経路です。
 コアは、2000年までは1個であり、ムーアの法則により、
年々速度を上げてきたのです。8ビットCPU、16ビットCP
U、32ビットCPUまではコアはあくまで1つであり、シング
ルチップといわれます。
 しかし、64ビットCPUからはシングルチップでも出ました
が、多くは、コアは2個ないし、4個になっています。これは、
CPUの微細加工の限界と、速度を上げることに伴うCPUの発
熱を回避するため措置なのです。なお、CPUの数によって、次
の名称があります。
─────────────────────────────
     1.CPUが2個 ・・ デュアル・コア
     2.CPUが4個 ・・ クアッド・コア
─────────────────────────────
            ──[次世代テクノロジー論/24]

≪画像および関連情報≫
 ●デュアルコア/クアッドコア/オクタコア
  ───────────────────────────
   スマートフォンやタブレットの宣伝だけではなく、コンピ
  ュータの宣伝でも見かけることの多い「クアッドコア」とか
  「オクタコア」という言葉ですが、そもそもどういう意味な
  のでしょうか?クアッド(Quad)とは英語で4倍を意味する
  言葉で、オクタ(Octa)とは同様に8倍を意味します。つま
  り、CPUにコアが4個であるとか、8個搭載されていると
  いう意味になります。少数派では有りますが、6個のヘキサ
  コアであるとか、12個のドデカコアもあります。
   昔のCPUはひとつのコアしか搭載していませんでした。
  しかしCPUがどれだけ高速になっても、1つのコアは同時
  に1つの事しか行うことが出来ません。CPUを早くしても
  一度に一つのことしか出来ないので、コアを増やして一度に
  複数のことを同時に行えるようにしたのが、デュアルコアや
  クアッドコア、オクタコアと呼ばれるマルチコアCUです。
  そのため、コアの数イコール性能といううわけではありませ
  ん。コアの数の多さのみをあらわしています。オクタコアや
  クアッドコアでコアを沢山積んでいても、一つ一つのコアの
  性能が低く計算が遅いようでは、CPUとしての性能は高く
  は有りません。なお、この計算の速さをクロック数と呼び、
  1・8GHzとか書かれている数字が、クロック数です。厳
  密には、CPUの性能はこれだけでは比較できないのですが
  今回の記事では割愛します。    http://bit.ly/2iA2oR1
  ───────────────────────────
 ●図形出典/岩本敏男著/『IT幸福論』/東洋経済新報社刊

デュアルコア/クアッドコア.jpg
デュアルコア/クアッドコア
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月26日

●「ムーアの法則を続けるテクノロジ」(EJ第4633号)

 限界説が出ているとはいえ、「ムーアの法則」がここまで続い
ている原動力になっいる「デナード則」、正確には「デナード・
スケーリング則」について、もう少し詳しく説明します。デナー
ド則というのは、IBMのエンジニアのロバート・デナード氏が
提唱した法則で、定義は次のようになっています。
─────────────────────────────
 半導体の回路をK分の1に細かくすると、細かくした分だけ動
作速度がK倍上がり、回路の集積度はKの2乗になり、一方で消
費電力がK分の1に下がる。         ──デナード則
─────────────────────────────
 なぜインテルが、困難なICの高集積化に挑んだのかというと
それには企業としての大きなメリットがあるからです。集積度が
上がるとICのサイズは小さくなります。チップのサイズが小さ
くなると、材料も少なくなり、製造コストが下がります。
 機能面ではチップ内の素子から素子への配線は短くなり、省電
力化・高速化につながります。インテルの世界初のマイクロプロ
セッサ「4004」には2300個のトランジスタが使われてい
ましたが、最新の「スカイレーク」には10億個を超える数のト
ランジスタが使われています。2つの性能を比較すると、性能は
3500倍、電力効率は、90000倍、トランジスタの単価は
60000分の1になっています。これがレナード則といわれる
ものです。
 しかし、インテルが、最先端のプロセッサである「スカイレー
ク」を発表した2015年以降のことですが、ムーアの法則の限
界が指摘されるようになったのです。それは、次の2つ要因に基
づくものです。
─────────────────────────────
     1.微細化したトランジスタの機能不全
     2.高集積度の回路から発する熱の問題
─────────────────────────────
 第1の要因は「微細化したトランジスタの機能不全」です。
 チップの微細化が高度に進むと、電子が配線から漏れ出すよう
になり、それが指数関数的に増えて、やがてトランジスタが機能
しなくなります。「スカイレーク」は線幅が14ナノメートルで
したが、微細化の最大の壁は、線幅7ナノメートルであるといわ
れています。ムーアの法則がこのまま続くとすると、線幅が7ナ
ノメートルになるのは2020年頃になります。
 7ナノメートルの壁に関しては、トランジスタの形状を変化さ
せて、ムーアの法則を継続させる考え方があります。これに関し
て、英『エコノミスト』の科学記者のティム・クロス氏は、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 コンピュータの性能をこれまでのようなペースで向上させつづ
けるには、もっと劇的な変革が必要になるだろう。たとえばチッ
プの3次元化によって、ムーアの法則を持続させるといったこと
だ。現代のチップは本質的に2次元(平面)だが、すでにコンポ
ーネントを積み重ねるチップの開発が進んでいる。それによって
チップの底面積は縮小しないかもしれないが、高層ビルのほうが
低層ビルより多くの人を収容できるのと同じで、チップに組み込
むコンポーネントの数を増やせることになる。
         ──英『エコノミスト』編集部/土方奈美訳
   「2050年の技術/英『エコノミスト』誌は予測する」
                       『文藝春秋』
─────────────────────────────
 チップの3次元化はきわめて実現性のある技術です。微細化に
頼らずに、チップを何層にも積み重ねて立体的に接続することで
性能を高めることができます。フラッシュメモリでは、30層〜
40層に積み重ねる技術が既に完成し、商品化されています。こ
のような既存の技術を活用すれば、チップの3次元化は十分可能
であるといえます。
 第2の要因は「高集積度の回路から発する熱の問題」です。
 集積度を高めた回路を高速で動かすと、高い熱が発生します。
トランジスタを動かす電圧を低くすることで、ある程度対応でき
ますが、0・7ボルト以下にすると、トランジスタの動作が不安
定になることがわかっています。
 チップの熱、とくに3Dチップの場合は頭の痛い問題です。現
状のヒートシンクやファンでは、どうしても限界があります。こ
れに関して、科学記者のティム・クロス氏は、次のような画期的
な提案をしています。
─────────────────────────────
 熱を逃すための表面積は発熱量の増加に見合うスピードでは増
えないし、同じ理由から、3Dチップに十分な電力とデータを供
給しつづけるのも難しい。このためIBMが靴箱並みのスーパー
コンピュータをつくるには液体の冷却材が必要だ。そして冷却液
を循環させるため、個々のチップには微細な経路を開けなければ
ならない。冷却液は冷却に加えて、電源の役割も担えるとIBM
は考えている。つまり冷却液をフロー電池の電解質としで使うの
だ(フロー電池では電解質が固定された電極を通過していく)。
        ──英『エコノミスト』編集部著の前掲書より
─────────────────────────────
 コンピュータチップから発する熱は、多くの場合、ファンで冷
却するのが通例ですが、水冷、つまり液体の冷却液で冷やすとい
うアイデアは斬新です。
 かつて私は、水冷のPCを使っていたことがあります。NEC
の特殊な一体型のPCです。今どきのPCは十分オーディオ装置
として使えますが、PCには強力なファンがついているので、オ
ーディオ装置としては最悪です。ティム・クロス氏のいう液体の
冷却材のアイデアはそういう意味で斬新です。これだけのアイデ
アがあれば、ムーアの法則は、まだ十分に継続可能であるといえ
ます。         ──[次世代テクノロジー論/23]

≪画像および関連情報≫
 ●「ムーアの法則」終焉説は根拠なし
  ───────────────────────────
   自民党議員が安全保障関連法案に批判的なメディアに対し
  て、「マスコミを懲らしめるには広告収入をなくせばいい」
  などという発言を行ったことが明るみになり、世間を騒がせ
  た。日本国憲法第21条第1項では、「集会、結社及び言論
  出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と定めら
  れており、メディアは批判的な報道をしても一向に構わない
  ことになっている。したがって、発言が出た同党若手議員に
  よる勉強会「文化芸術懇話会」代表の木原稔議員が同党青年
  局長を更迭されたのは、当然の処置である。
   しかし、明らかに間違っていることを報道した場合、その
  メディアは真摯に間違いを認めて修正報道を行い、陳謝すべ
  きである。それを怠ると、「吉田証言」「吉田調書」をめぐ
  る誤報問題で批判を浴びた朝日新聞のように、大きく信頼を
  失墜させることになる。最近筆者が気になっているのは「半
  導体の微細化」に関する日経グループの一連の報道である。
  彼らは、頭から「微細化は終焉する」と決めてかかって報道
  を行っている気配がある。そのため事実は歪曲され、それを
  読んだ半導体業界関係者をミスリードする危険性がある。本
  稿では、その間違いを指摘し、半導体の微細化は今後少なく
  とも10年は続くことを論じたい。
   月刊誌「日経エレクトロニクス」(日経BP社/4月号)
  は『さらばムーアの法則』というタイトルの記事で、ムーア
  の法則が終焉するという主旨の記事を掲載した。
                   http://bit.ly/2l9bTr7
  ───────────────────────────

インテルの「スカイレーク」.jpg
 
インテルの「スカイレーク」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月25日

●「『ムーアの法則』について考える」(EJ第4632号)

 梅田望夫氏の代表作である『ウェプ進化論』(ちくま新書)は
今改めて読み直してみても名著であると思います。いわゆるIC
T革命の方向性が実によくわかるからです。この本の冒頭に「チ
ープ革命が生む方向性」と題して、「ムーアの法則」に関する次
の記述があります。
─────────────────────────────
 情報技術(IT)が社会に及ぼす影響を考える上で絶対に押さ
えておかなければならないことがある。インテル創業者ゴードン
・ムーアが1965年に提唱した「ムーアの法則」に、IT産業
は40年たった今も相変わらず支配され続けており、これから先
もかなり長い間、支配され続けるだろうという点である。
 もともとは「半導体性能は一年半で2倍になる」というシンプ
ルな法則だったものが、現在は広義に「あらゆるIT関連製品の
コストは、年率30%から40%で下落していく」という意味に
転じた。新しい製品分野が登場してすぐは、「こんな機能もほし
い」「もっと高い性能を」「より使いやすく」という顧客ニーズ
が多いから、製品価格が下落するのではなく、同じ価格の製品の
機能・性能・使いやすさが向上していく。しかしその製品分野が
十分成熟し、顧客にとって「必要十分」の機能が準備されると一
気に価格下落が急となる。「ムーアの法則」が40年も続いてき
た結果、ついに私たちは今「チープ革命」とも言うべき状況の恩
恵を蒙る時代に入ったのではないか。こんな問題提起をしている
のが、米フォーブス誌コラムニストのリッチ・カールガードであ
る。           ──梅田望夫著/ちくま新書582
     『ウェブ進化論/本当の大変化はこれからはじまる』
─────────────────────────────
 梅田氏の『ウェプ進化論』の第1刷は2006年2月に刊行さ
れています。ICTの変化にとって大きな第1の波は2005年
からはじまっています。「ウェブ2・0」といい、ブログなどが
登場し、ウェブの新しい波がはじまったのです。この本はそうい
う時期に刊行されています。
 しかし、それから、約10年が経過していますが、少し事情が
変化しています。それは「ムーアの法則」に関する梅田氏の次の
記述です。「『ムーアの法則』は、これから先もかなり長い間、
支配され続けるだろう」という部分です。実は、最近ムーアの法
則の限界がいわれるようになっているのです。
 そこで、ムーアの法則についてしばらく考えることにします。
改めて、ムーアの法則とは何でしょうか。
 ムーアの法則は、米インテルの創業者の一人であるゴードン・
ムーア氏が、1965年にまだ登場していない集積回路の進歩を
展望する自らの論文に予測として書いたのがはじめてですが、後
に公式化されているのは次の通りです。
─────────────────────────────
 集積回路上のトランジスタ数は、18か月(=1・5年)ご
 とに倍になる。            ──ムーアの法則
─────────────────────────────
 トランジスタは、半導体チップの基本素子ですが、これを電子
スイッチとして使います。すなわち、スイッチの「オン」と「オ
フ」を切り替えることによって、情報の最小単位である「0」と
「1」を表現します。
 計算の高速化は、トランジスタを集積回路上に積み上げること
によって得られます。したがって、トランジスタは小さくなれば
なるほど、1つのチップに収まる数を多くすることができるので
その微細化を追究することで性能を向上させてきたのです。さら
にインテルは、チップ自体の微細化も実現するため、回路の線幅
を細くする技術を開発しています。
 1971年にまだ無名だったインテルは「4004」という半
導体チップを発表しています。このチップの線幅は10マイクロ
メートル(マイクロは100万分の1)で、そこに赤血球ほどの
大きさのトランジスタが2300個組み込まれています。世界初
の商用プロセッサの誕生です。これによって、インテルは半導体
業界の雄になったといえます。
 そして2015年、いわゆるムーアの法則にそってチップの開
発を進めたインテルは、最新のマイクロプロセッサ「スカイレー
ク」を発表します。このチップの線幅は14ナノメートル(1ナ
ノメートルは100万分の1ミリ)になっており、10億個以上
のトランジスタを搭載するまでになっています。インテルによる
と、プロセッサの計算能力は、半世紀で3500倍になっている
といっています。
 半導体の微細加工とはどういうものなのでしょうか。
 シリコン基板の表面にトランジスタなどの素子を作り込み、回
路を作成します。感光樹脂を塗って、回路を描いたフォトマスク
を重ね、これを露光装置で焼きつけます。その後、回路以外の部
分の樹脂を流し、シリコンに不純物を注入する作業を行い、絶縁
膜を作る工程などを繰り返します。インテルは、これらの微細加
工技術を磨き上げ、それを進化させていったのです。
 ムーアの法則は1971年の「4004」から始まったのです
が、それは現在まで、22回のサイクルを刻んできています。そ
の原動力になったのは、1974年にIBMの職員であったロバ
ート・デナード氏が提唱した「デナード則」にあります。
 デナード則とは、簡単にいうと「コンポートネントを小型化す
るほどチップは高速かつ省電力になり、製造コストも低くなる」
という理論です。つまり、チップ(CPU)は、1年半ごとに倍
速になり、価格も低くなるということです。これなら、インテル
としては、消費者に1年半ごとに最新PCを買い替えるよう説得
できるし、実際に消費者もほぼ2〜3年ごとにPCを買い替えて
きたといえます。
 しかし、ムーアの法則はここにきて、限界を露呈しつつありま
す。もし、この法則が止まると、多くの面に影響が出てくること
は必至です。      ──[次世代テクノロジー論/22]

≪画像および関連情報≫
 ●ムーアの法則が通用するのは2021年まで
  ───────────────────────────
   ムーアの法則は、これまで数十年間にわたって集積回路の
  イノベーションの進歩を支配してきたが、2021年には通
  用しなくなるかもしれない。最近、米国半導体工業会(SI
  A)が、発表したレポート「国際半導体技術ロードマップ」
  (ITRS)によれば、この年には、マイクロプロセッサで
  使用されるトランジスタをこれ以上微細化することは現実的
  ではなくなるという。
   ムーアの法則とは、集積回路に使用されるトランジスタの
  数に関する経験則だ。この法則の名前は、1965年に初め
  てこの予想を発表し、1975年に修正したインテルの共同
  設立者ゴードン・ムーア氏にちなんでいる。
   シリコンチップにより多くのトランジスタを詰め込むため
  には、トランジスタそのものが微細化される必要がある。し
  かし、451リサーチアナリストチーフアナリストのエリッ
  ク・ハンセルマン氏は、ITRSの中で2021年になると
  トランジスタはそれ以上微細化できなくなり、「シリコンウ
  エハ上に、より微細なジオメトリを作り出すために使ってき
  たトリックは種切れになる」と述べている。「ITRSのレ
  ポートが明らかにしたのは、これ以上は、手品のようにシリ
  コンの帽子から兎を出してムーアの法則を維持することはで
  きないということだ」とハンセルマン氏は述べている。
                   http://bit.ly/2gC9q7k
  ───────────────────────────

ゴードン・ムーア氏.jpg
ゴードン・ムーア氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月24日

●「仮想空間SLとVR/ARの融合」(EJ第4631号)

 映画『スターウォーズ』のどのシリーズかは忘れましたが、円
卓テーブルで会議をやるシーンがあります。何人かが会議に参加
しているのですが、小柄な老人という異形のスタイルのヨーダも
参加しています。よく見ると、会議参加者の何人かは身体が透き
通っているのです。
 身体が透き通っている会議参加者は、本人は別の星にいて、会
議に参加しているのです。基本的にはテレビ会議と同じですが、
『スターウォーズ』での会議は、身体が透明であるとはいえ、本
人が会議に参加して、出席者の話を聴いたり、発言したりしてい
るのです。リアルの世界の実際の会議とほとんど変わりません。
そんなことはできるはずがない。おとぎ話の世界である──少な
くともこの映画が公開された時点では、そんなものが実現すると
はだれも考えてなかったと思います。
 ところが、これは2000年代後半に、仮想空間「セカンドラ
イフ」のなかで、ほとんど実現しています。米IBM社は、セカ
ンドライフという仮想空間のなかに会議室を作り、そこに支店長
がアバターとして出席して会議を行う「セカンドライフ支店長会
議」を実験としてやっています。これなら、わざわざ出張する必
要もないので、コストもかからないのです。ネットに接続できる
少し性能の高いPCがあれば十分可能です。
 仮想空間セカンドライフについては、2007年9月にEJで
も取上げています。そのなかで、IBMの支店長会議にも言及し
ているので、その号をご紹介しておきます。
─────────────────────────────
        2007年9月20日付/EJ第2169号
 「セカンドライフでの支店長会議」 http://bit.ly/2zGuYEC
─────────────────────────────
 もっともこの場合、仮想空間に入るのは、あくまで本人のアバ
ターであり、本人はリアル空間にいて、そこで話したり、聴いた
りすることになります。これを逆にして、リアル空間での実際の
会議に、別の場所にいる本人のアバターが登場すれば、『スター
ウォーズ』の会議に近くなりますが、これは現在では「AR(拡
張現実)」の技術を使えば、実現可能ではないかと考えます。
 このようにSF映画から、未来の技術を読み説くことは、きわ
めて意義のあることなのです。
 これについて、英誌『エコノミスト』のトム・ブランデージ氏
も、スマホによって仮想現実(VR)と拡張現実(AR)の融合
が起きるとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 これからどうなるのか。現在のトレンドは、パソコンではなく
スマートフォンが、中核的デバイスとなる方向を明確に示してい
る。このため、パソコンやゲーム機ベースのVRは過渡的段階に
過ぎず、VRの未来はスマートフォン・ベースのメディアになる
ように思える。(中略)
 今後について技術者やSF作家のあいだには、VRのイメージ
を現実世界と融合させた拡張現実(AR)が、タッチスクリーン
に続く新世代のコンピュータ・インターフェースになる可能性が
高いという共通認識がある。空想と現実が重なり合う世界という
のはSFにおなじみのテーマだ。
         ──英『エコノミスト』編集部/土方奈美訳
   「2050年の技術/英『エコノミスト』誌は予測する」
                       『文藝春秋』
─────────────────────────────
 1950年代のことですが、「シネラマ」という立体映画が日
比谷の帝国劇場で上映されていたことがあります。3台の撮影機
でパノラマ式に撮影し、これを横長の画面に3台の映写機で写す
映画ですか、少し立体的に見えるだけのことです。
 現代では、その画面のなかに入っていくことができます。VR
(仮想現実)です。VRは現在、ブームになりつつありますが、
技術自体は昔からあるのです。VRは、1968年にユタ大学の
アイバン・サザーランド氏によって、ヘッドマウントディスプレ
イが開発されています。ちなみに、サザーランド氏は、インター
ネットの前身といわれるアーパネットの開発者の一人です。
 VRよりもビジネスでの利用が進んでいるのは、AR(拡張現
実)です。これは、VRの変種といわれています。そのとき、周
囲を取り囲む現実環境に情報を付加・削除・強調・減衰させ、人
間から見た現実世界を拡張させるものをARといいます。
 ARは実際に見る方がわかりやすいので、次のURLをクリッ
クしていただきたいと思います。リアルの空間にあるはずのない
ヘリコプターが出現し、部屋中を飛び回ります。
─────────────────────────────
     「リアル空間を飛び回るヘリコプター」
             http://bit.ly/2xXKdfa
─────────────────────────────
 現在、ARはビジネスに多用されています。セールスパーソン
は、販売する商品を3D化し、スマホかタブレットにダウンロー
ドして、客先に持っていき、ARの技術で、実際の部屋などに再
現して顧客に見せることが一般化しています。たとえば、家具営
業では、リアルの部屋にその家具を置いたイメージをプレゼンで
きるのです。といっても、なかなかピンとこないと思うので、そ
のプレゼンの様子を次のURLをクリックして見ていただきたい
と思います。スマホやタブレットはここまで活用できるのです。
─────────────────────────────
       「ARによる営業でのプレゼン」
            http://bit.ly/2irGwY0
─────────────────────────────
 ここまで述べているように、過去に実現できている技術が現実
のビジネスで幅広く使われるようになっているのです。このよう
な技術の応用は、その技術のことを理解することが何よりも必要
になります。      ──[次世代テクノロジー論/21]

≪画像および関連情報≫
 ●セカンドライフの思い出
  ───────────────────────────
   インターネット上の仮想世界で、ユーザーは、好みのアバ
  ターになって生活します。いわゆるMMORPG(オンライ
  ンゲーム)とは違って、ゴールや目標などはありません。こ
  の三次元世界を模した仮想世界で、何をしようと自由です。
  運営は米国のリンデンラボ社が行っています。このセカンド
  ライフ、人口も最盛期と比べるとガクッと減ったようですが
  今も細々と運営されているようですね。かくいう私は、最盛
  期当時、セカンドライフ(以下、SLと略します)にはまっ
  て、あの仮想空間で3年ほど遊びました。その思い出話も絡
  めつつ、SLについて書きます。
   私がSLをやっていたのが2006〜2008年頃だった
  と思います。SLが最も賑わっていた時期でした。世界や日
  本の著名な企業の参入も相次ぎ、TVや書籍などで大いに紹
  介されて、ユーザー数(人口)も激増しました。トヨタが支
  店を出したり、電通がSL内の広大な土地を買い占めたりと
  あの頃はバブルだったなあ〜
   2006年、私も好奇心でSLに登録しました。登録は現
  在も無料で行えるようです。始めた当初は、SL内の広大な
  仮想空間をうろうろと見て回っていたのですが、そのうち探
  検にも飽きてビジネスのまねごとを始めました。商品販売の
  仕事です。            http://bit.ly/2itgPGt
  ───────────────────────────

映画「スターウォーズ」での会議.jpg
映画「スターウォーズ」での会議
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月23日

●「なぜ、『スターウォーズ』なのか」(EJ第4630号)

 グーグルは、なぜ、わざわざ、マウンテンビューの映画館を借
り切ってまで、全社員に映画『スターウォーズ』を見せているの
でしょうか。今やグーグルは時代の先端を走っている企業であり
この“なぞ”を解いてみる価値はあると思います。
 その前に映画『スターウォーズ』について少し述べる必要があ
ります。この映画は一言でいうと、次のように表現できます。
─────────────────────────────
 映画『スターウォーズ』とは・・・・・
  遠い昔、遥か彼方の銀河系を舞台に、映画、アニメーショ
 ン、小説、コミック、ゲームなどによって展開されるスペー
 スオペラ・シリーズである。     ──ウィキペディア
─────────────────────────────
 このシリーズは、米国の映画監督にして映画プロデューサー、
脚本家でもあるジョージ・ルーカス氏の構想に基づいて、自らが
監督として率いるルーカスフィルムが制作したものです。
 この映画は、構想としては「エピソード1」から「エピソード
9」まであるのですが、「エピソード1」からはじめるのではな
く、冒険活劇として完成度の高いと自負する「エピソード4」か
らはじめたのです。連作映画の場合、第1作で失敗すると、資金
繰りの関係から次の映画を制作できなくなるからです。
 さいわい「エピソード4」は成功したので、ルーカスはこの作
品が全9作であることを明かしています。しかし、その後、この
作品は6作で終了すると宣言し、「エピソード3」でこの作品は
終了したのです。製作費の関係であると思われます。
 しかし、2012年10月、ウォルト・ディズニーがルーカス
フィルムを買収し、このシリーズは、全9作すべてが制作される
ことになったのです。そして、2015年に「エピソード7」、
2017年12月には「エピソード8」が公開予定です。「スタ
ーウォーズ」全9作は次のようになっています。
─────────────────────────────
   1977年/エピソード4/    新たな希望
   1980年/エピソード5/    帝国の逆襲
   1983年/エピソード6/  ジュダイの帰還
   1999年/エピソード1/ファントム・メナス
   2002年/エピソード2/  クローンの攻撃
   2005年/エピソード3/    シスの復讐
   2015年/エピソード7/  フォースの覚醒
   2017年/エピソード8/  最後のジュダイ
   2019年/エピソード9/      未発表
─────────────────────────────
 なぜ、『スターウォーズ』なのでしょうか。それは、どうして
も『スターウォーズ』でなければならない理由があるのです。そ
のヒントは梅田望夫氏と平野啓一郎氏の対談のなかにあります。
─────────────────────────────
平野:映画『ブレードランナー』や『マトリックス』じゃなくて
   『スターウォーズ』ってところがミソですね。
梅田:そうです。まさに恐るべき子供たちですよ。大好きな数学
   とプログラミング技術を駆使した凄いサービスを開発して
   『スターウォーズ』の世界をイメージしたりしながら、世
   界中の情報をあまねくみんなに行き渡らせたいと思ってい
   る。           ──梅田望夫/平野啓一郎著
                『ウェブ人間論』/新潮新書
─────────────────────────────
 映画『マトリックス』は、VR(仮想現実)のことを描いてい
るので論外として、映画『ブレードランナー』は宇宙のことを描
いており、『スターウォーズ』と関連があります。
 『ブレードランナー』は1982年公開の映画ですが、それか
ら37年後には、環境破壊により人類の大半は宇宙に移住し、地
球に残った人々は人口過密の高層ビル群が立ち並ぶ大都市での生
活を強いられていたとの想定に立っています。
 宇宙開拓の前線では、遺伝子工学により開発された「レプリカ
ント」と呼ばれる人造人間が、過酷な奴隷労働に従事していたの
です。この人造人間には4年の寿命しか与えられていないのです
が、なかには人間社会に紛れ込もうとするレプリカントもいたの
です。そのレプリカントを摘発する専任捜査官が「ブレードラン
ナー」という役回りです。
 しかし、同じ宇宙空間のことを描いていても、『スターウォー
ズ』の方がはるかにスケールが大きいのです。平野啓一郎氏は、
梅田望夫氏との対談で次のように述べています。
─────────────────────────────
平野:『スターウォーズ』はあの広大な宇宙空間を自在に行き来
   して、その中に異形の生物だとか、妙な惑星なんかが満ち
   溢れていて、そこに出会いや発見の驚きがあり、ヨーダみ
   たいなのから知識を得て・・というあの映画の風景は、確
   かにネットの風景と重なり合う感じがします。そこにルー
   ク・スカイウォーカーの世界を変えてやろうというピュア
   な情熱が加わるのかな。
梅田:だからプログラムを作っている彼らは、自分で新世界の創
   造に参加しているというか、自分でプログラムを書くこと
   によって、小さな奇跡を起こすということのワクワク感の
   中にいるんでしょう。
          ──梅田望夫/平野啓一郎著の前掲書より
─────────────────────────────
 結局、『スターウォーズ』の世界は、インターネットがさらに
高度に発展した世界を描いているのではないかと考えます。現実
には、あり得ない世界を描いているようでいて、そのなかには実
際に実現出来るものが多く含まれており、多くのヒントが得られ
るのです。だから、グーグルでは『スターウォーズ』を全員で見
ることが恒例になっているのです。
            ──[次世代テクノロジー論/20]

≪画像および関連情報≫
 ●ルーカス/『スター・ウォーズ:フォースの覚醒』を語る
  ───────────────────────────
   10年ぶりの正伝新作にして、初のディズニー製作となっ
  た『スター・ウォーズ:フォースの覚醒』について。これま
  で無難な発言でお茶を濁してきたジョージ・ルーカスが「レ
  トロ映画。気に入らない」「スター・ウォーズファン向け」
  と語るインタビューが公開されました。
   シリーズの生みの親であるルーカス氏は、新作の物語につ
  いて自身の案が、ディズニーに却下されたこと、当初は『帝
  国の逆襲』『ジェダイの帰還』のように製作に関わるつもり
  だったものの干渉が多く断念したことなども発言。『スター
  ・ウォーズ』をディズニーへ売却した後の葛藤について「愛
  する我が子を奴隷商人に売ってしまった」と口を滑らせて後
  に不適切な表現を詫びるなど、内面を吐露したインタビュー
  内容です。
   ジョージ・ルーカス氏が『フォースの覚醒』について語っ
  たのは、米国のテレビ番組ホスト Charlie Rose 氏とのイン
  タビューの席。収録は『フォースの覚醒』ワールドプレミア
  前ですが、放送は映画公開から一週間ほど経過したタイミン
  グです。時期的には新作公開あわせではあるものの、内容は
  『スター・ウォーズ』ばかりでもなく、スピルバーグとのラ
  イバル関係やコッポラとの関係、自身の映画観や監督業、映
  画業界の課題などなど、約55分にわたって、幅広い話題を
  扱っています。         http://engt.co/2yx1g73
  ───────────────────────────

『スター・ウォーズ:フォースの覚醒』.jpg
『スター・ウォーズ:フォースの覚醒』
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月20日

●「SF映画から未来予測はできるか」(EJ第4629号)

 英誌『エコノミスト』副編集長であるトム・スタンデージ氏に
よると、2050年を見通す鍵は、過去、現在、そして「SFで
描かれる未来を調べること」とあります。
 確かに、大半が未来のことを描いているSFは、小説であれ、
映画であれ、作者は何らかの根拠に基づいて書いているはずなの
で、未来を予測するヒントになり得るといえます。その典型的も
のに、次のSF映画の傑作があります。
─────────────────────────────
           映画『2001年宇宙の旅』
            原題:2001:A Space Odyssey
     製作・監督:スタンリー・キューブリック
─────────────────────────────
 この映画は、1968年4月6日に公開されているのですが、
この映画の表題になっている「2001年」は、映画の公開から
33年後の世界です。まさにSFです。
 映画のなかでは、木星探査の宇宙船ディスカバリー号には「H
AL」という名のコンピュータが搭載されています。HALは、
宇宙船乗務員が「音楽を頼む」といえば、音楽が流してくれ、話
しかけると、適切に応答してくれる音声認識のできるAI(人工
知能)そのものです。このことは、映画公開後、約50年で、既
にわれわれのスマホで実現しています。やはり、この映画は、約
50年後のコンピュータを予測していたといえます。このAIコ
ンピュータ「HAL」には、次の隠された意味があるのです。
─────────────────────────────
           次のアルファベット
         H ・・・・・・・ I
         A ・・・・・・・ B
         L ・・・・・・・ M
─────────────────────────────
 HALの3文字のアルファベットの次の文字は、それぞれIB
Mになります。つまり、当時のコンピュータの巨人のIBMより
も優れたコンピュータであるという意味です。
 この未来の予測に関して、トム・スタンデージ氏は次のように
述べています。
─────────────────────────────
 SFは単に未来を予測するだけではない。技術者が新しいもの
を生み出すためのひらめきも与える。たいていの技術者はひと皮
むけばSFファンだ。1990年代のフリップ開閉式の携帯電話
などは、1960年代のテレビ番組『スタートレック』に登場す
る携帯通信機に触発されたように見える。また、コンピュータと
直接会話するというのも『スタートレック』に登場していたアイ
デアだが、このところ新たな潮流としてアマゾンの「アマゾン・
エコー」をはじめ、音声を基本的なインターフェースとする、常
時オンの手ぶらで使えるコンピュータ端末が登場している。
         ──英『エコノミスト』編集部/土方奈美訳
   「2050年の技術/英『エコノミスト』誌は予測する」
                       『文藝春秋』
─────────────────────────────
 テレビ番組『スタートレック』は、23世紀の宇宙船USSエ
ンタプライズのクルーが、未知の宇宙を探索する物語です。若く
有能なジム・カーク船長、ヴァルカン人と地球人のハーフである
スポック、皮肉屋ドクター・マッコイの3人を中心として展開。
毎週のように登場する異星人や未知の惑星との遭遇が、基本形と
なって話が展開します。
 『スタートレック』は、あのスティーヴン・ホーキングが熱烈
なファンであり、自らの講演でよく引用するそうです。エンジニ
アのファンの多い番組といわれます。
 この『スタートレック』というテレビ番組に対して、『スター
ウォーズ』という映画があります。名前がよく似ていますが、全
然違う作品です。この両作品のメガフォンをとったJ・Jエイブ
ラムス氏は、この両作品の違いを次のように述べています。
─────────────────────────────
 『スター・ウォーズ』は、常におとぎ話のようなファンタジー
だ。そして『スター・トレック』はSFなんだ。『スター・ウォ
ーズ』は遠い昔で、一方の『スター・トレック』は未来が舞台と
いうのもおもしろい違いだね。もちろん似ている点があるのも確
かだよ。宇宙船とかエイリアンとかね。でも根本的に違うんだ。
違うトーンに、違う感情だし。    ──J・Jエイブラムス
─────────────────────────────
 これに対して、グーグルは『スターウォーズ』の新作が封切ら
れると、マウンテンビューにある2つの映画館を借り切って、全
社員に『スターウォーズ』を見せています。業務命令です。梅田
望夫氏が、作家の平野啓一郎氏との対談のなかで、そのことを明
かしています。
─────────────────────────────
◎梅田:少なくとも彼らが政府とか言うときのイメージってすご
    く単純ですよ、そこに人文科学系の深みのようなものは
    ないです。「スター・ウォーズ」といえば、公開される
    前日は、シリコンバレーのマウンテンビュー市の映画館
    全部がグーグルの貸切だったんですよ。
◎平野:えっ、そこまで?社員全員が見るんですか?みんながそ
    の価値観を共有しているんですか?
◎梅田:価値観を共有」といえば強すぎるけれど、けっこう影響
    はされていると思う。それは「はてな」の近藤(淳也社
    長)たちも一緒で、僕は取締役になるための通過儀礼と
    して「スター・ウォーズ」のDVDを全部見てくれって
    言われたんですから。  ──梅田望夫/平野啓一郎著
                『ウェブ人間論』/新潮新書
─────────────────────────────
            ──[次世代テクノロジー論/19]

≪画像および関連情報≫
 ●『スター・トレック』『スター・ウォーズ』は全然違う!
  ───────────────────────────
   映画界のみならずカルチャーシーンにも多大な影響を与え
  てきた2大メガシリーズ『スター・トレック』と『スター・
  ウォーズ』の両作品でメガホンを取った、唯一の存在、J・
  J・エイブラムスが、『スター・トレック・ビヨンド』のプ
  ロモーションで来日した際に、両シリーズの違いなどについ
  て語った。
   2009年にエイブラムスがリブートさせた新『スター・
  トレック』シリーズの第3弾にあたる『スター・トレック・
  ビヨンド』。本作では、『ワイルド・スピード』シリーズの
  ジャスティン・リンがメガホンを取り、エイブラムスは製作
  にまわった。「ジャスティンは、とてもよくやってくれたと
  思う。特にアクションシーンは僕にとってとても勉強になっ
  た。彼はアクション映画のプロだからね」と今作について切
  り出すエイブラムスは、「正直、嫉妬したね。だって、俳優
  陣は素晴らしいし、(サイモン・ペッグとダグ・ユングの書
  いた)脚本はとてもおもしろい」と打ち明ける。
   実は、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の編集真っ
  只中で、本作の撮影現場にあまり行くことができなかったの
  だという。「彼らに重大な課題を託していったわけだけど、
  彼らがとても素晴らしい仕事をこなしてくれて本当に感謝し
  ているんだ」とキャスト&スタッフをねぎらう一幕も。
                   http://bit.ly/2xNUQAV
  ───────────────────────────

映画「2001年宇宙の旅」.jpg
映画「2001年宇宙の旅」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月19日

●「日本のガラケーはスマホの先取り」(EJ第4628号)

 トム・スタンデージという人がいます。英誌『エコノミスト』
の副編集長兼デジタル戦略責任者です。彼は、2050年のテク
ノロジーの未来予測に関して、次のように述べています。
─────────────────────────────
           過去、現在、SFで描かれる未来。
     この3つが2050年を見通すための鍵になる。
  15年前、スマートフォンの登場を予測していた人々は
  日本人の女子高生に注目した。
         ──英『エコノミスト』編集部/土方奈美訳
   「2050年の技術/英『エコノミスト』誌は予測する」
                       『文藝春秋』
─────────────────────────────
 トム・スタンデージ氏は、2050年の未来のテクノロジーを
予測するには、最初に「過去」を振り返ってみるべきだと説きま
す。テクノロジーの歴史には、繰り返し、登場するパターンが存
在するからです。まず、トム・スタンデージ氏による次の文章を
読んでいただきたいと思います。
─────────────────────────────
 新たなネットワーク・テクノロジーは、長距離通信に革命的変
化をもたらす。通信はそれまでより圧倒的に安く、便利になる。
企業はそれを熱狂的に受け入れて、投機ブームが巻き起こる。新
たなテクノロジーは支持者からはひたすら称賛され、反対派から
は徹底的に中傷される。また、新たなビジネスモデルが可能にな
ると同時に、かつてない犯罪にも道を拓く。政府は暗号技術の拡
散防止に手を尽くし、あらゆる通信の開示を求める。個人はネッ
トワークを使って友達を作り、恋に落ちる。コミュニケーション
によって国境は消え、人類は一つになる。そのため、新たなテク
ノロジーは世界平和につながると見る者もいる。
        ──英『エコノミスト』編集部著の前掲書より
─────────────────────────────
 これは、どう考えてもインターネットの描写としか思えません
が、実は19世紀半ばの電報についての話なのです。1837年
9月のことですが、サミュエル・モールスは、電気的テレグラフ
の公開実験を行っています。
 レジスタという通信文を紙のテープに記録するための端末装置
が開発され、公開実験によって、首尾よく5キロメートル離れた
ところまで通信文を送ることに成功しています。そして1844
年5月には、ワシントンDCとボルティモア間の64キロの通信
に成功しています。電信的電報システムがこのときからはじまっ
たのです。
 このような新しい「メディア」の登場は、それが斬新であれば
あるほど、そのときの社会には大きな影響を与えます。それは、
多大なる賞賛と期待がある一方で、それに匹敵する量の批判や不
安があるものです。電報の場合でも、現代のサイバー犯罪ともい
うべき問題が発生していたのです。「犯罪者ほど科学の最新の成
果を迅速に取り入れる集団はない」といわれます。これは、その
後のビデオの導入や、インターネットでウェブサイトが見られる
ようになったときでも同様に起きています。
 テクノロジーについて知る場合、その技術の開発の歴史を調べ
ることは重要です。誰が、いつ、どのようなニーズのもとに、そ
の技術を誕生させ、どのように普及していったのかについて知る
ことは、未来のテクノロジーを開発するときに役に立つのです。
そのため、「過去を振り返る」ことは、新しい技術を生み出す原
動力になるといえます。
 「過去」に続いて「現在」をよく観察する必要があります。テ
クノロジーは、突然登場するように見えますが、実はその前身に
なるものは、とっくの昔に姿をあらわしているのです。つまり、
明日のテクノロジーは、今日既に登場し、普及している可能性が
高いのです。トム・スタンデージ氏は、その典型は21世紀初頭
における日本のガラケーであるといっています。よく考えてみる
と、ガラケーは現代のスマホそのものといえます。
─────────────────────────────
 2001年の日本ではカメラ付き、カラーディスプレイ付きの
携帯端末が当たり前に普及していた。道案内付きの地図を表示で
き、電子書籍、ゲームなどのアプリもダウンロードできた。ジャ
ーナリストやアナリストは、そんな電話を見るために日本詣でに
いそしんだ。欧米の技術系カンファレンスで日本人が懐から携帯
端末を取り出すと、それは時空の切れ目から落ちてきた貴重な未
来のかけらのように丁重に扱われた。日本が他国に先駆けで未来
に到達したのは、通信業界が孤立した独占的性質をもち、また国
内市場に十分な規模があったためである。これによって、日本の
ハイテク企業は、他国のシステムとの互換性など気にせずに、創
意工夫することができたのだ。
        ──英『エコノミスト』編集部著の前掲書より
─────────────────────────────
 日本人が何も考えずにガラケーを使っていたとき、欧米をはじ
めとする世界の人々はそれを驚きのまなざしで観察していたので
す。米国の「WIRED」誌には、しばらくの間、「日本の女子
高生ウオッチ」なる連載コラムがあったほどです。そして、この
観察の結果、日本のガラケーは、遂にアップルのアイフォーンに
姿を変えて、鮮烈なデビューを果たしたのです。
 まず、コンセプトが違います。日本の携帯電話は、多機能では
あっても、あくまで電話機であるのに対して、アップルのそれは
電話機能を持つ小型のコンピュータというコンセプトのマシンで
あり、OSを搭載し、ソフトウェア(アプリ)のダウンロードに
よって付加価値をつけるという画期的なかたちで登場したので、
日本独特スタイルのガラケーは敗退せざるを得なかったのです。
このように、現在すでに普及し、使われているもののなかに未来
の技術の基になるものが必ずあるのです。
            ──[次世代テクノロジー論/18]

≪画像および関連情報≫
 ●「ガラパゴス化は勝ち筋戦略」/高杉康成氏
  ───────────────────────────
   赤道直下のエクアドル共和国から西へ約900キロの太平
  洋上にガラパゴス諸島があります。ダーウィンの進化論で有
  名なこの島々は、外界から遮断された結果、そこに住む生物
  が独自の進化を遂げた珍しい地域です。
   ビジネスの世界では、これに習って「ガラパゴス化」と揶
  揄されることもあります。有名なのは「ガラパゴス・ケータ
  イ(ガラケー)」です。世界のモバイル・IT事情とは異な
  った、日本独自の進化を遂げた日本の携帯電話のことで、先
  進的な技術や機能がありながら、海外では普及しませんでし
  た。スマートフォン(スマホ)の普及とともに徐々に市場を
  失い、多くの日本企業が携帯電話ビジネスから撤退していき
  ました。このようにビジネスにおいてガラパゴス化は、とも
  すれば「悪い例え」に聞こえます。しかし、本当にそうなの
  でしょうか。そこで今回は、このガラパゴス化について深く
  掘り下げて考えていきます。
   なぜスマホが売れてガラケーは衰退していったのか。ビジ
  ネスパーソンであれば、この問題について一度は、ウェブ、
  雑誌、新聞などで記事を目にしたことがあるでしょう。諸説
  がある中で、筆者は以下のような見立てをしています。
                  http://nkbp.jp/2gphFUd
  ───────────────────────────

女子高生とガラケー.jpg
女子高生とガラケー
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月18日

●「現代はトリリオンセンサーの時代」(EJ第4627号)

 昨日のEJでご紹介した「マビー/MaBeee」には、面白い機能
があります。例えば、プラモデルのミニ四駆にマビーをセットし
専用アプリをスマホにダウンロードしてスタートさせるとき、ス
マホを上下に振るだけでよいのです。この振りを強くすると、ミ
ニ四駆はスピードアップし、ゆっくり振るとスピートダウンしま
す。しかも、スマホ一台でミニ四駆を10台まで同時発車できる
ので、カーレースを楽しむことができます。
 問題は、どうしてこんなことができるかです。それは、スマホ
には「加速度センサー」が付いているからです。マビーはそれを
利用しているのです。
 加速度センサーとは、モーションセンサーともいわれますが、
スマホにかかる動きの検知に使われます。スマホが机の上に置か
れているのか、手に持っている状態なのか、それともポケットに
入れて歩いているのかなどをつねに検知しています。
 スマホの状態に合わせた画面の回転、振り回すシェイク機能や
歩数計、睡眠時の寝返り判定などは、この加速度センサーがある
からできるのです。手にスマートフォンを持って振り回したとき
振りはじめたときにはプラスの加速度、止めたときはマイナスの
加速度がかかるようになっています。
 加速度センサーを利用したゲーム機に、任天堂の「Wii」 やマ
イクロソフトの「Kinect」がありますが、スマホには加速度セン
サーが装備されているので、このセンサーを利用して、同じよう
なアプリを作ることが可能です。
 もうひとつスマホには「気圧センサー」というものが装備され
ています。ハードウェアにしては、一辺3ミリにも満たない小さ
いセンサーです。これは、アイフォーン6から付いているのです
が、どのようなときに使えるのでしょうか。実際に、アップスト
アで調べてみると、このセンサーを使ったさまざまなアプリが用
意されていることがわかります。これに関する「産経ニュース」
の記事を次に示します。
─────────────────────────────
 スマホはいつも持ち歩くため、健康を管理する機能も期待され
ているが、気圧計があれば、従来の歩数計測に加えて階段や坂道
での上下動も分かるため、よりカロリー計算などのデータが正確
に計測できる。ネット上では「低気圧のときは頭痛がひどい」な
ど、気圧と頭痛の相関性についての記述が多く見られる。そして
頭痛の到来を予想する「頭痛−る」なるアプリもあった。
 2015年の「シーテックジャパン」のあるブースでは、急激
に気圧が低下する「爆弾低気圧」や竜巻などの異常気象の察知が
できるようになれば、キーアプリになるのではないかという声が
聞かれた。確かに昨今、こうした異常気象による災害が目立つ。
思わぬ災害を避けられるかもしれない。 http://bit.ly/2ywyRxL
─────────────────────────────
 「トリリオン・センサー・ユニバース」──こういう構想があ
ります。トリリオン(Trillion)とは「1兆」という意味です。
したがって、トリリオン・センサーは、1兆個のセンサーという
ことになります。「トリリオン・センサー・ユニバース」という
のは、1兆個を上回るセンサーを活用し、社会に膨大なセンサー
・ネットワークを張り巡らすことにより、地球規模で社会問題の
解決に活用しようとする壮大な構想です。
 現在、世界の人口は、約72億人と推計されているので、毎年
1兆個以上というのは、一人当たりおよそ150個という数にな
ります。1年間に使われるセンサーは約1000億個なので、1
兆個のセンサーは年間需要の100倍ということになります。
 このトリリオン・センサー・ユニバースに似ている試みがあり
ます。「スマート・ダスト」(賢い塵)です。これは、カルフォ
ルニア大学・バークレー校のクリストファー・ピスター教授が、
1998年に発表した構想です。「賢い塵」の構想は、次のよう
なものです。
─────────────────────────────
 プロセッサ1基と、わずかなコンピュータメモリ、そして低電
力の無線トランシーバー、電源などが納められた「mote」(塵)
と呼ばれる小型センサを大量にばらまくことで、自然環境を観察
したり、ビルや工場などを監視したりして得た情報を、防災、環
境の観察、軍事目的などに利用しようというものです。この考え
は1990年代の末に提唱されたものですが、「mote」のコスト
やサイズ、エネルギー効率などの問題、通信の標準化の問題、セ
ンサから送られてくる膨大なデータをフィルタリング・解析する
ツールの開発の問題などもあり、現在のところ、コンセプトの一
部がセンサーネットワークとして、農場や工場などの監視用途で
使われているにすぎません。スマート・ダストではビルのコンク
リートや道路のアスファルトの中にも混ぜたりして、遠方の道路
の状態や建物の中の状態を把握するとか、空中に散布するという
アイデアなどもだされていたようです。 http://bit.ly/2xKnT3p
─────────────────────────────
 センサーを利用する研究は、さらに意外な方向に発展しつつあ
ります。「センサーを内蔵した錠剤」です。抗精神病薬に使われ
ています。錠剤に埋め込んだ1ミリ角大のセンサーには、微量の
マグネシウムと銅が含まれており、服用すると胃液と反応して電
流が発生し、センサーから信号が医師に発信されるようになって
います。患者が薬を飲んだかどうかをチェックするのです。
 グーグルは、涙に含まれる糖の値を測り、糖尿病患者の血糖値
を常時記録できるセンサー付きコンタクトレンズを開発していま
す。レンズはシリコーン製の樹脂でセンサーを組み込んだリング
状のアンテナが挟まれた構造になっています。これによって測定
した血糖値はスマホやPCに送られ、そこで管理をしたり、外部
に転送したりしています。
 この他、人の身体につけて使うシート型スキャナや触角を持つ
人工皮膚なども開発されており、健康状態をモニタリングできる
ようにもなっています。 ──[次世代テクノロジー論/17]

≪画像および関連情報≫
 ●トリリオン・センサー時代に日本は巻き返し可能か
  ───────────────────────────
   VLSIシンポジウムは、LSIに関する最先端の成果が
  毎年報告される世界最高峰の国際会議。「半導体のオリンピ
  ック」と呼ばれる国際固体素子回路会議(ISSCC)は回
  路技術のみ、国際電子デバイス会議(IEDM)はデバイス
  技術のみを扱う。一方、VLSIは回路とデバイス技術の両
  面から議論するのが特徴だ。
   2016年の会議のテーマは「スマート社会への変革の兆
  し」。半導体の微細化のスピードが鈍化する中で、システム
  レベルのイノベーションが産業の変革を促すと見通す。従来
  のように、汎用の半導体を量産するだけでは顧客のニーズを
  十分に満たせない。会議では、システムを明確に志向した先
  端半導体の論文が発表される。
   なかでも、VLSI回路シンポジウムのジェフリー・ギー
  ロウ実行委員長が「IoTによる産業エレクトロニクスの変
  化が一つの焦点になる」と表明するように、スマート社会を
  実現する大前提にIoT技術がある。
   IoT分野の注目論文の一つが米インテルが発表する自己
  給電可能な無線のセンサー端末だ。太陽電池で給電し、10
  00ルクスと暗い室内の照明でも連続的に動作する。周囲の
  環境から採取した微小なエネルギーを利用する環境発電(エ
  ネルギーハーベスティング)技術を使って、完全無線による
  自己駆動を実現した。       http://bit.ly/2yugRUv
  ───────────────────────────

加速度センサー.jpg
加速度センサー
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月17日

●「センサーはどこまで進化をしたか」(EJ第4626号)

 今や、センサーやIoTの話題が新聞にニュースとして掲載さ
れる日が多くなっています。とにかくスマホには各種センサーが
付いているので、これを利用して、今まででは考えられなかった
アイデアが続々と実現しています。
 10月16日付の日本経済新聞朝刊には、次の記事が掲載され
ています。
─────────────────────────────
    生活にIoT/広げるVB(ベンチャー企業)
             ノバルス/玩具を遠隔操作
             マモリオ/忘れ物自動通知
         ──2017年10月16日/日本経済新聞
─────────────────────────────
 第1は、2015年創業のノバルスというベンチャー企業が開
発した「マビー/MaBeee」が紹介されています。
 マビーは単4電池をセットするケースのようなもので、単3電
池サイズです。単4電池は4個までセットすることができます。
そうすることによって、専用アプリによって、ブルートゥースを
通じて通信できる一種のセンサーのような役割をします。
 専用アプリをスマホにダウンロードし、マビーを玩具の電車に
セッティングし、動力に接続すると、電車の発車と停止、スピー
ドのコントロールなどがスマホからできるようになります。
 本来電池というものは、オンとオフしかコントロールできない
ものですが、マビーを介すと、電池を自由にコントロールするこ
とが可能らなります。また、マビーを使えば、今までオン/オフ
しかできなかったLEDライトの調光が可能になります。クリス
マスツリーの調光もスマホから可能になります。これらはIoT
モノインターネットの典型です。
 第2は、マモリオというベンチャー企業開発の「マモリオ」と
いう商品が紹介されています。
 商品自体は、長さ3・5センチのタグです。これがセンサーに
なっています。これを財布などの貴重品に付けておきます。マモ
リオの購入者は専用アプリをスマホにダウンロードし、必要な登
録をします。
 そうすると、タグとスマホが30メートル程度離れると、通知
がスマホに届くようになっているのです。他人が財布を奪って逃
げても追跡できます。最近は鉄道会社と提携し、主要な駅の拾得
物を管理する場所に専用アンテナ「マモリオスポット」を設置し
タグ付きの物品が届くと、自動的に本人に通知が届くようになっ
ています。これもIoTです。
 もともとセンサーは、急に出現したものではなく、前から家電
製品などに付けられていたのです。オーブンレンジには、設定し
た内部の温度制御を行う温度センサーが搭載されていたのです。
この他、自動ドアには、人の接近を検知する人感センサーが付け
られています。しかし、それはあくまで裏方としての機能であり
人々の認識に上ることはなかったのです。
 しかし、ここにきて、センサー自体や周辺技術が大きく進化し
たため、IoTとして、にわかに注目を浴びるようになったので
す。添付ファイルをご覧ください。これは、センサー技術の進化
をあらわしています。センサーの進化のプロセスは、次の3つの
段階にわたって大きな変化を遂げています。
─────────────────────────────
        1.    過去のセンサー
        2.デジタル時代のセンサー
        3.システム化したセンサー
─────────────────────────────
 「1」は「過去のセンサー」です。
 過去のセンサーとは、従来のセンサーのことです。物理現象や
化学現象などを検知するセンサーは、データを検知するだけの働
きしかできなかったのです。これは、完全に裏方の仕事です。
 「2」は「デジタル時代のセンサー」です。
 このセンサーは、単にデータを検知するだけでなく、検知した
データに一定の処理を行うところまでやってくれます。これだけ
でも人間としては非常に助かります。
 「3」は「システム化したセンサー」です。
 これが現在のセンサーです。現代のセンサーの進化について、
株式会社エンライト代表の伊藤元昭氏は、デジタルカメラの進化
に関連して次のように述べています。
─────────────────────────────
 こうしたセンサーの進化を最も身近に感じられるのがデジタル
カメラである。登場まもない頃のデジタルカメラは、撮影範囲の
中央にある被写体に自動的にピントを合わせていた。それが、人
物を見分けてピントを合わせられるように進化した。いまでは、
笑顔になった時だけシャッターを切る、動きまわる子どもにいつ
もピントを合わせるといったことができるようになった。
 データを取り込むイメージセンサーは、大幅な性能向上はして
いるが、原理的にはそれほど大きな変化はない。デジタルカメラ
こうした変化は、取り込んだ画像を処理・分析・解釈する技術の
発達によるものだ。      ──伊藤元昭氏論文/洋泉社刊
  「世界を変える7つの次世代テクノロジー/センサー革命」
─────────────────────────────
 澁谷のスクランブル交差点を渡った人数を計測するのは、デジ
タル時代のセンサーでもできますが、システム化したセンサーで
あれば、渡った人数だけでなく、男女の比率、外国人の数まで把
握可能になります。
 AI(人工知能)が加わることによって、交差点を渡る人の顔
や体の認識や分析が出来るようになり、男女や外国人の識別まで
が可能になっています。このまま技術革新が進むと、センサーは
さらに強力な認識能力を持つことになり、「AIの目」としての
機能を果すことができるようになります。
            ──[次世代テクノロジー論/16]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ、今センサなのか/伊藤元昭氏
  ───────────────────────────
   革新的な機器の中で、センサが効果的に活用されている例
  が目立ってきた。例えばアップル社の「iPhone 6」には、わ
  ずか123・8ミリ×58・6123.8nl×7・6ミリ
  の筐体の中に800万画素のメインカメラと120万画素の
  フロントカメラ、マルチタッチセンサ、マイク、その他にも
  指紋、加速度、3軸角速度(ジャイロ)、近接、環境光、指
  紋認証、気圧などを検知するセンサがそれぞれ搭載されてい
  る。まさにセンサ技術のデパートといった様相である。
   電子機器や家電製品、家庭や工場などで使われる設備にセ
  ンサが組み込まれるようになったのは、今に始まったことで
  はない。オーブンレンジには設定した庫内の温度制御を行う
  温度センサが搭載されてきた。自動ドアには人の接近を検知
  する人感センサが搭載されてきた。ハードディスクドライブ
  のように、一見センサに関係無いような機器にも、機器の落
  下を検知する加速度センサが搭載され、衝撃に弱い読み書き
  機構を故障から守るために使われてきた。ただし、さまざま
  な場所で使われていたセンサではあったが、その役割は、機
  器の本来の機能を支える脇役としての仕事が中心だった。と
  ころが近年、センサを効果的に活用することで、機器や設備
  に新たな価値を盛り込む動きが活発化してきた。
                   http://bit.ly/2gcrilc
  ───────────────────────────

センサー技術の変化.jpg
センサー技術の変化
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする