2010年07月26日

●「かつての楽園『旧大陸』が崩壊の兆し」(EJ第2862号)

 メディアの世界において、「旧大陸」と「新大陸」という言葉
が流行しています。「旧大陸」というのは、新聞、テレビ、出版
の世界を意味し、「新大陸」というのは、ネットの世界をあらわ
しています。いまこの新旧大陸の間で異変が起きているのです。
 現在、旧大陸の伝統メディアのビジネスが制度疲労を起こし、
何とか新大陸においてビジネスを成立させようとしているのです
が、うまく行かず焦っている──具体的にはネットは無料という
カベを乗り越えようとしているのですが、うまくいっていないと
いう状況になっているのです。
 EJでは、4月19日から65回にわたって「ジャーナリズム
論」を書いてきましたが、現代日本のジャーナリズムは既得権益
に守られた記者クラブの存在によって、必ずしも正しい報道が行
われているとはいえない実態があります。新聞は「社会の木鐸」
──「社会の人々を指導する人」という意味──といわれますが
その役割を果たしているとはいえないのです。
 しかし、最近のマスコミの偏向報道、劣化にはひどいものがあ
り、いまや、「マスゴミ」と呼ばれ、忌み嫌われ、軽蔑の対象と
すらなっているのです。権力におもねる、世論を煽るだけ煽る、
スキャンダルを過剰報道する、人権を無視する、自分たちにとっ
て都合の悪いことは報道しない、自分たち自身の誤報やスキャン
ダルに対しては、謝罪もしない、責任もとらない──最悪です。
 2009年9月にかねてから「記者会見のオープン化」を唱え
る民主党が自民党を破って政権交代が起こり、新聞・テレビの牙
城である記者クラブが今度こそ間違いなく崩壊すると期待された
ものの、既得権益の分厚いカベは阻まれて、それはいまだに実現
していないのです。
 それどころか、頼みの綱の鳩山政権が崩壊し、小沢幹事長も辞
任して菅政権が発足したことによって、記者クラブメディアの正
常化は完全に遠のいている感じです。この鳩山─小沢政権の崩壊
にもマスコミ一役買っているのです。これらのことについては、
65回の連載を通じて詳しく書いてきたつもりです。
 しかし、仮にそうしなくても、今やメディアの世界は別の要因
から激震が起こりつつあり、記者クラブメディアは遠からず崩壊
することになると思います。その大きな変化を起こそうとしてい
るのが、インターネットの発達とそれをベースとして2004年
以降に登場した数々のネットツールです。それらのネットツール
の中にあって、ひときわ異色を放ち、いま急速に利用者が広がり
つつあるのがツイッターです。
 今日からのEJの新しいテーマは、これらの新しいネットツー
ルによって、既存メディアが崩壊し、変貌していく動きを追いた
いと考えています。タイトルは次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    メディアは変貌しつつある/メディア覇権戦争
    ── とくにツイッターのもたらすもの ──
―――――――――――――――――――――――――――――
 まえおきはこのぐらいにして、早速はじめることにします。最
初の何回かは予告篇です。
 象徴的な数字があります。次の数字は何を意味しているか、わ
かるでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
         541億ドル対9億ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 「541億ドル」は、アマゾンの株式時価総額であり、「9億
ドル」は、全米にもっとも多くの書店網を展開するバーンズ&ノ
ーブル(B&N)の時価総額をあらわしています。その差、実に
60倍です。B&Nについては改めて取り上げますが、目下経営
危機にあえいでいます。もうひとつの数字を見てください。
―――――――――――――――――――――――――――――
        19・5億ドル対0・1億ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 「19・5億ドル」は、グーグルの2010年1月〜3月期の
純利益であり、「0・1億ドル」は、同じ時期のニューヨーク・
タイムズの純利益をあらわしています。その差153倍です。し
かも、グーグルは同じ時期に広告を20%伸ばしているのに対し
ニューヨーク・タイムズは逆に30%減らしているのです。
 ニューヨーク・タイムズに代表されるように、もはや紙の新聞
は売れなくなっているのです。したがって、広告収入も入らない
し、それを何とか補おうとしてやっているネット・ビジネスから
の収入はわずかであって、カバーできないでいる。これが伝統メ
ディアに共通する悩みなのです。
 もうひとつ比較数字を示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      408億円の赤字対88億ドルの黒字
―――――――――――――――――――――――――――――
 「408億円の赤字」とは今年の3月までのソニーの赤字額、
「88億ドルの黒字」は同じ時期のアップルの利益をあらわして
いるのです。
 こうなると、旧大陸の伝統メディアは、なりふりかまっておら
れず、新大陸メディアにすがって生き残りを図ろうとしています
が、そこから得られる利益は存続に必要な額にはとうてい達して
いない状況なのです。
 新大陸には既に強力なプラットフォーム企業が支配しており、
上陸してくる伝統メディアの前に立ちふさがっているのです。伝
統メディアが新大陸対応を怠っている間に、彼らは着々と新大陸
での支配力を強化しており、現在ではもはやそれを覆すことは困
難になってきているのです。
 アマゾンにしてもわずか5年前には黒字が出ず、債務超過の企
業であったし、グーグルにしても旧大陸伝統メディアから見ると
新興の弱小企業にしかみえなかったからです。
              ──[メディア覇権戦争/01]


≪画像および関連情報≫
 ●「社会の木鐸」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  歴史的オブジェとしての木鐸は、金口木舌(きんこうもくぜ
  つ)とも言われるように、金属の本体に木製の棒を打ち当て
  て音を出すもので、古代中国で人びとに情報を知らせる人が
  鳴らしました。為政者に遠ざけられた孔子が木鐸になぞらえ
  られた故実から、権力とは一線を画し、社会のあるべき姿を
  示すオピニオンリーダー、というニュアンスがあります。
http://blog.livedoor.jp/ikedakayoko/archives/51322671.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

アマゾン本社/シアトル.jpg
アマゾン本社/シアトル
posted by 平野 浩 at 04:10| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月27日

●「電子書籍化でリアル書店はどうなる」(EJ第2863号)

 バーンズ・アンド・ノーブル(B&N)の経営がピンチに陥っ
ているといわれます。B&Nというのは、米国で最大の書店チェ
ーンであり、最大の専門の小売店です。2009年10月現在の
数字ですが、米国50州とコロンビア特別地区で合計777店舗
を保有する米国最大のリアル書店です。
 B&Nは、大規模で高級感のある店舗を構えることで有名な書
店であり、多くの店舗がスターバックス・コーヒーを提供する喫
茶コーナーとベストセラー本を値引き販売するコーナーを設置し
ています。
 この書店は、表面的に見ると、オンライン化しており、電子書
籍化にも、独自端末「ヌック」を投入し、対応しているのです。
それでいて、新大陸のアマゾンに比べると、大きく遅れてしまっ
ているのです。
 メディア覇権戦争を特集した『週刊東洋経済』では、B&Nの
ことを次のように表現しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 B&Nの店内をのぞくと、ヌックの販売促進のために1人販売
 員を配置し、ヌックだけでなく、豊富なアクセサリーも販売し
 ている。が、店内には当然、多くの紙の書籍が売られており、
 設置されたスターバックスにはコーヒーやマフィンを買って、
 何時間も粘る相変わらずの常連客がいる。古い書店に、そのま
 まデジタルをつなぎ合わせたような印象だ。
             ──『週刊東洋経済』7/3号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 B&Nでは、リアル書店にしかできない読書会や近所の学校の
音楽クラブの演奏会を店内で行うなどの地域コミュニティ活動に
力を入れてきたのですが、このような文化活動をいくら行っても
収益面での貢献はきわめて小さいのです。
 B&Nを疲弊させたのは、リアル書店の高コスト体質を維持し
たままで、アマゾンとの厳しい値下げ競争を行い、「ヌック」な
どのデジタル投資を行ったからであり、それはB&Nの体力を確
実に奪ったのです。やはり、旧大陸に軸足を置いたままでの新大
陸開拓は、コスト面で先行企業に太刀打ちできないのです。
 全米第2位のリアル書店ボーダーズは、B&N以上に深刻な状
態にあるようです。2010年1月、ボーダーズはCEO以下の
全役員が辞職し、5月になってたばこ会社のベクター・ルポー氏
が高利ローン負債を負債を返済して、ボーダーズのCEOに就任
して当面の危機は乗り越えたものの、先行きは不安そのものの状
態にあります。
 この7月には、電子書籍端末を149ドル99セントで発売し
たものの、明らかに投入時期が遅れており、その評判はいまいち
であるといいます。
 結局は、B&Nとボーダーズの両社が経営統合し、リアル店舗
を大幅に閉鎖しない限り、両社の生き残りの道はないといっても
過言ではないという状況になっているのです。
 もともと米国の書店ビジネスは、出版社が表示した希望小売価
格どおりに販売すれば、40%の利幅がとれる利益性の高いビジ
ネスだったのです。したがって、店舗数を増やせば増やすほど、
利益がもたらされたのです。
 しかし、B&Nの場合、この多店舗戦略が裏目に出たのです。
2000年代に入ると、アマゾンの躍進により、大幅な値下げ販
売が行われ、低コスト体質のアマゾンのシェアがどんどん上昇す
るなかでB&Nの競争力が奪われたのです。
 この傾向は、日本の書店においても例外ではないのです。6月
21日のことですが、紀伊国屋書店では高井昌史社長が電子書籍
流通への参入を発表しています。高井昌史社長は次のように危機
感を表明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、2兆円の出版市場の10%がこの2〜3年で電子書籍に
 移行するだろう。非常に大きな市場であり、無視することはで
 きない。電子書籍に対応できるか否かに書店の将来がかかって
 いる。           ──高井昌史紀伊国屋書店社長
             ──『週刊東洋経済』7/3号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 紙の書籍を読者に届けるルートを考えてみましょう。日本の場
合は、出版社からトーハン、日販などの取次を経て書店に書籍が
届けられるのです。書店に届けられる冊数は取次によって決めら
れ、その時点で出版社には冊数分の代金が支払われます。この場
合、売れない本はやがて戻ってくるので、その分は出版社は返済
しなければならないわけです。
 電子書籍の場合はどうなるのかというと、取次、リアル書店を
経由しないので、リアル店舗は完全に「中抜き」の状態になって
しまうのです。
 1996年をピークに出版市場は縮小が続いているので、書店
の経営は苦しくなっています。それでいて電子書籍市場の勃興を
座視していれば、書店はますます危機に陥るだけです。
 そうであるなら、電子書籍を扱うプラットフォームの運営に乗
り出すべきである──日本の書店チェーンの第2位の丸善は、そ
のように考えて手を打っています。 丸善の小城社長は、次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 同じ紙の書籍を売るオンライン書店とリアル書店は食い合う関
 係だが、電子書籍はリアル書店と競合するものではない。ハイ
 ブリット化させることは可能なはずだ。
                     ──丸善小城社長
             ──『週刊東洋経済』7/3号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、新市場に討って出る余力のあるのは大手書店の一部に
過ぎないのです。出版界、取次、そしてリアル書店のすべてが変
わろうとしています。    ──[メディア覇権戦争/02]


≪画像および関連情報≫
 ●ボーダーズ電子書籍市場に遅すぎる参入
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ボーダーズが電子書籍の販売に参入することを明らかにしま
  した。同社はバーンズ&ノーブルに次ぐ書籍チェーン2位に
  位置する企業ですが、いままで電子書籍の販売はしてきませ
  んでした。投資をしているカナダのKobo という会社から技
  術提供を受けての販売開始です。アマゾン、バーンズ&ノー
  ブル、アップルのようにデバイス(ブックリーダー)は投入
  しません。ネットで見る限り、アイフォーンやアイパッド用
  アプリで対応するようです。この参入、遅すぎたんじゃない
  でしょうか。「この市場はいままさに始まったばかりで、遅
  いと言うことはない」と同社は説明しているんですけどね。
             http://www.retailweb.net/030/031/
  ―――――――――――――――――――――――――――

米書籍市場の現状.jpg
米書籍市場の現状
posted by 平野 浩 at 04:08| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月28日

●「ネットビジネスをどうとらえるか」(EJ第2864号)

 ここで、ネット上のビジネスの基本的構造について知っておく
必要があります。この分野に詳しい元竹中平蔵大臣の補佐官を務
めた岸博幸氏は、ネット上のサービスを次の4つのレイヤーに分
けて説明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.コンテンツ/アプリケーション
      2.プラットフォーム
      3.インフラ
      4.端末
―――――――――――――――――――――――――――――
 最下層は「端末レイヤー」です。これはネットにアクセスする
さいに使うPCや携帯電話などの端末を意味しています。この層
はPCと相場が決まっていたのですが、最近は、それがスマート
フォンやiPadなどに置き換わりつつあるのです。
 第3層は「インフラ・レイヤー」です。ネットにアクセスする
とき、このレイヤーを使って行います。NTTなどの通信事業者
やCATV事業者が属しており、光ファイバーやADSLなどの
ブロードバンドや携帯電話網を通じてネットへの接続と情報の伝
達というサービスを提供しているのです。
 第2層は「プラットフォーム・レイヤー」です。プラットフォ
ーム──ITの世界にはよく出てくる言葉です。難しく考える必
要はないのです。駅のプラットフォームと同じです。私たちは電
車を利用してどこかに行くとき、駅のプラットフォームを選んで
電車に乗りますが、それと基本的には変わらないのです。
 ネットを利用するとき、必ず使うグーグルやヤフーなどの検索
サービス、ミクシィなどのSNS、ユーチューブやニコニコ動画
などの動画サイト、これらはプラットフォーム・レイヤーが提供
するサービスです。
 第1層は「コンテンツ/アプリケーション・レイヤー」です。
このレイヤーは文字通りコンテンツ(情報の中身)をユーザーに
提供するレイヤーです。テレビ番組や新聞記事などのマスメディ
アの情報、音楽や映画などのコンテンツもこのレイヤーから提供
されるのです。
 一般論でいえば、第4層から第2層までは、いわば第1層を支
える土台の部分、つまり、第1層は本来花形であるべきです。確
かに米国ではネットが普及を始めた初期には、次のようなことが
いわれたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     content is king./コンテンツは王様である
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、最近米国では、この言葉は次のようにいい直されてい
るのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     content has never been king.
     コンテンツが王様になることはなかった
―――――――――――――――――――――――――――――
 これが現在テレビや新聞などのマスメディアや書店を窮地に追
い込んでいる原因なのです。これに関連して岸博幸氏は次のデー
タを示しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪米国ウェブサイトのユニーク・ビジター数/月間≫
 第 1位 グーグル ・・・・・・ 164086000人
 第 2位 ヤフー ・・・・・・・ 158251000人
 第 3位 マイクロソフト ・・・ 132618000人
 第 4位 AOL ・・・・・・・  98515000人
 第 5位 フェイスブック ・・・  97372000人
 第 6位 アスク・ネットワーク   88073000人
 第 7位 FOXテレビ ・・・・  82862000人
 第 8位 アマゾン ・・・・・・  69945000人
 第 9位 ウィキペディア ・・・  69492000人
 第10位 イー・ベイ ・・・・・  66987000人
          ──2009年10月/出典:コムスコア
            ──岸 博幸著/幻冬舎新書/156
 『ネット帝国主義と日本の敗北/搾取されるカネと文化』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで「ユニーク・ビジター数」という言葉について説明しま
しょう。ウェブサイトに訪れる人はカウントできますが、一人が
同じサイトを何回もアクセスすることもあます。その場合の重複
を排除した正味のビジター数を「ユニーク・ビジター数」と呼ん
でいるのです。具体的には、同じメールアドレスでアクセスして
くる人を1としかカウントしなければよいのです。
 このベスト10のうち、コンテンツ企業は第7位のFOXテレ
ビ一社のみであり、他はすべてプラットフォーム企業なのです。
上記4つのレイヤーについて総括的にいうと、第4層と第3層の
ビジネスはあまり儲からないビジネスといえます。
 これに対して、第2層のプラットフォームはビジネスとしては
一番儲かっているのです。第1層のコンテンツについては、本来
であれば、一番儲かってもいいのですが、そのおいしいところを
プラットフォーム企業に浸食された結果、あまり儲からないビジ
ネスになりつつあります。それを示しているのが、サイトへのユ
ニーク・ビジター数の順位なのです。岸氏の本には、ベスト10
ではなく、ベスト20が掲載されているのですが、コンテンツ企
業はそのうちの6社に過ぎないのです。
 このベスト10で注目すべきことは、Eコマースのアマゾンや
イーベイを除いて、基本的には広告収入に収益を依存した「無料
モデル」をビジネスモデルとして採用している点です。それは、
広告費の「マスメディアからネットへのシフト」が急速に進んで
いることをあらわしています。マスメディアとしては、この点が
もっともアタマの痛いところなのです。
              ──[メディア覇権戦争/03]


≪画像および関連情報≫
 ●『ネット帝国主義と日本の敗北』について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  今ネットの世界では、グーグル、アマゾンなどに代表される
  米国ネット企業だけが莫大な収益を上げ一人勝ちしている。
  これらの企業は、オバマ政権の後押しも受け、その帝国主義
  的拡大をさらに押し進めている。一例であるグーグル・ブッ
  ク検索の問題では、ヨーロッパ各国政府がグーグルの提示し
  た和解案に反対の姿勢を明確に示し、国家の威信をかけた抵
  抗が始まった。このままでは、いつまでも毅然とした姿勢を
  示さず政策を間違い続ける日本だけが、カネと文化を搾取さ
  れてしまう。国益の観点からネットの危機的状況を初めてあ
  ぶり出す。      http://booklog.jp/asin/434498157X
  ―――――――――――――――――――――――――――

岸博幸著『ネット帝国主義と日本の敗北』.jpg
岸博幸著『ネット帝国主義と日本の敗北』
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月29日

●「米新聞社の倒産ラッシュの原因」(EJ第2865号)

 2008年12月8日のことです。発行部数と売り上げで全米
第2位のトリビューン社が破産手続きを申請したのです。その負
債総額は130億ドル(約1兆3000億円)にのぼるのです。
 今から思えば、それが雪崩のような米新聞社の経営破綻のはじ
まりだったのです。3月までをメモしてみることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎2009年1月15日
  ・ミネソタ・スター・トリビューンが破産申請
 ◎2009年2月15日
  ・NYT社の経営危機が表面化
 ◎2009年2月23日
  ・フィラデルフィア・インクアイアラーズ社破産申請
 ◎2009年2月26日
  ・ロッキー・マウンテン・ニュースが廃刊
 ◎2009年3月31日
  ・サンタイムズ・メディア社破産申請
―――――――――――――――――――――――――――――
 同業の新聞社の倒産を伝える新聞の見出しには「大虐殺」の文
字まで躍り、倒産情報専門の「新聞死亡ウォッチ」というサイト
まであらわれるほどだったのです。
 ここに興味深いデータがあります。発行部数の上位5社の米新
聞社の2009年3月現在の発行部数と前年比です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.USAトゥデー
             2113725(− 4.60 %)
  2.ウォール・ストリート・ジャーナル/WSJ
             2082189(+ 0.61 %)
  3.ニューヨーク・タイムズ
             1039031(− 3.55 %)
  4.ロサンゼルス・タイムズ
              723181(− 6.55 %)
  5.ワシントン・ポスト
              665383(− 1.16 %)
―――――――――――――――――――――――――――――
 注目すべきことは、WSJだけが前年比がプラスになっている
ことです。実は全米トップ25紙中でも前年比プラスはWSJだ
けなのです。
 第1位のUSAトゥデーは、2009年10月には発行部数は
188万部に減少し、第2位のWSJのそれは202万部で全米
トップの地位を奪っているのです。なお、このWSJの数字には
40万部近い電子版が含まれています。
 このWSJとニューヨーク・ポストは、いくつものテレビ局や
新聞社を傘下に置くメディア王、ルパート・マードック氏の保有
紙なのです。マードック氏は、グーグルやヤフーなどのプラット
フォーム業者によるコンテンツの無料閲覧には強い危機感を持っ
ており、2009年4月2日の有線放送業者の年次総会で次のよ
うに怒りをぶつけています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 インターネットを使って、ニュース・コンテンツを無料で閲覧
 する時代を終わらせなくてはならない。いつまでグーグルなど
 が我々の著作権を盗んでいくことを許しておくのか。NYTや
 WSJといったブランド力のある媒体は、そんなことをさせる
 必要はない。   ──河内孝著『次に来るメディアは何か』
                    ちくま新書/826
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国では、2009年に入ると、新聞社、通信社などのコンテ
ンツの提供者──コンテンツ業者とグーグルやヤフーなどの集約
・配給者──プラットフォーム業者の間で、利益の配分や、最終
消費者に小額課金制を導入することの是非を巡って、厳しい対立
が続いています。
 元毎日新聞常務取締役で現国際厚生事業団理事の河内孝氏によ
ると、ここでいうコンテンツ事業者のことを「アグリゲイター」
と呼んでいますが、ここでアグリゲイターとは仲介業者という意
味になります。
 こういうマードック氏の「他人の作ったコンテンツを売り、広
告収入を上げながら、富をコンテンツ提供者と分かち合おうとし
ないプラットフォーム業者は寄生虫のようなもの」という批判に
対しては反論も少なくないのです。
 CNNのケビン・ボイグ記者は、マードック氏の批判を次のよ
うに批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マードックの言うことはいったんひねり出した歯磨き粉をチュ
 ーブに戻すような試みではないか。
          ──河内孝著『次に来るメディアは何か』
                    ちくま新書/826
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、マードック氏にしてみると、WSJについては電子版
の有料化に成功しつつあるものの、グループ全体の利益が前年に
比べて実に47%に落ち込み、約3200億円の赤字になってい
るので、事態を深刻と受け止めざるを得ないのです。
 そのため、マードック氏としては、数年かけて新聞「紙」から
撤退し、電子版に移行する──その前提として、インターネット
・アグリゲーター、消費者へのニュース提供を有料にするという
方針を打ち出し、実行に移そうとしてきているのです。
 つまり、新聞「紙」ビジネスをデジタルコンテンツ・ビジネス
に切り替えられない限り、マードック帝国の明日はないとみてい
るのです。鋭い時代感覚であり、日本のメディアの経営者も見習
うべきです。どうも日本では、電子書籍化の怒涛のような波が既
存メディアに襲いかかりつつあるという認識を持つ人が少ないよ
うです。          ──[メディア覇権戦争/04]


≪画像および関連情報≫
 ●FOXテレビでのルパート・マードックの言葉
  −――――――――――――――――――――――――――
  10年後には、ほぼすべてのニュース・コンテンツがパソコ
  ン、もしくはアマゾン社の携帯電子媒体キンドルなどを通し
  て、読者に読んでもらうことになるだろう。
         2009年6月8日/ルパート・マードック
          ──河内孝著『次に来るメディアは何か』
                    ちくま新書/826
  ―――――――――――――――――――――――――――

ルパート・マードック氏.jpg
ルパート・マードック氏
posted by 平野 浩 at 04:11| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月30日

●「本の読み方はどう変わるのか」(EJ第2866号)

 電子書籍市場にいちばん早く着手したのは、あのソニーなので
す。2004年にソニーは、電子書籍端末「リブリエ」を日本国
内で発売し、電子書籍事業をスタートさせたのですが、うまく行
かず、撤退しているのです。
 失敗の理由は、紙の書籍の売れ行きが鈍るのを恐れてか、コン
テンツを読める期間を2ヶ月に限定するなど、中途半端なサービ
スとの印象をぬぐえず、消費者の心をつかめなかったのです。
 その後ソニーは、2006年7月に正式に電子書籍事業をスタ
ートさせ、欧米において電子書籍事業を展開し、2009年12
月には、携帯電話(3G)網を利用する通信機能を搭載した「リ
ーダー・デイリー・エディション」を発表しています。
 これに対してアマゾンが「初代キンドル」を発売したのは20
07年11月のことです。そして、2009年2月には「キンド
ル2」、続いて同年5月には「キンドルDX」を発売し、この分
野でたちまち主導権をとったのです。
 しかし、2010年4月にアップルが「アイパッド」を米国で
発売、日本でも5月に発売すると、一挙に電子書籍ブームが盛り
上がったのです。アイパッドの用途は電子書籍端末だけではない
ので、これによって、今まで電子書籍に関心のなかった人もアイ
パッドで本を読むようになり、世界中で電子書籍ビジネスは加速
することが期待されたのです。
 それでは、キンドルやアイパッドによって、本の読み方や出版
形態はどう変わるのでしょうか。
 キンドルの場合、本を探すときは、画面からアマゾンが運営す
る電子書籍のオンライン書店「キンドルストア」にアクセスし、
お目当ての本を選びダウンロードする──それだけです。あとは
自分の読みたいときに、キンドルでいつでも読むことができるの
です。もちろん文字も簡単に拡大できます。
 雑誌の場合、定期購読を申し込むと、発売日に自動的にダウン
ロードされるのです。新聞も同様で毎朝、外に取りに行かなくて
もキンドルに毎日ダウンロードされるので、キンドルさえ手にす
れば、いつでも新聞が読めるのです。
 既存の書店でも電子書籍を購入できます。米国の最大手書店、
バーンズ・アンド・ノーブル──もともとこの書店では、立ち読
みならぬ「座り読み」がウリだったのです。B&Nの店内には、
スターバックス・コーヒー店があり、書架から購入したい本を持
ち込み、そこで読めるのです。
 最近日本の書店でも、ジュンク堂書店がはじめたことによって
「座り読み」は一般化していますが、B&Nが最初にはじめたの
です。最近B&Nでは、同社の発売した電子書籍端末「ヌック」
を手にするお客が増えているというのです。
 B&Nの場合、ヌックを持って店内に入ると、無線LANで興
味のある電子書籍を一時的にヌックにダウンロードし、試し読み
ができるのです。内容が気に入らなければ買わなければよいし、
購入する場合は、その場でダウンロードできるのです。B&Nは
生き残りに必死であり、電子書籍時代でもリアルの書店を何とか
して残そうと努力をしているのです。
 米出版社協会によると、2009年の業界全体の書籍売り上げ
は、239億ドルで前年比1.8 %減なのです。しかし、電子書
籍に関しては、3億1300万ドルで前年比176%増──電子
書籍関連の売り上げは、今年中に5億ドルを突破するとみられ、
市場の急拡大と競争の本格化が想定されるのです。
 しかし、そこにアイパッドが登場したのです。キンドルやヌッ
クが書籍専用端末であるのに対して、アイパッドはそうではない
ところに特色があります。キンドルやヌックのユーザーには中高
年齢層が多いそうですが、アイパッドやアイフォーンは若手層が
中心であることです。これがどう影響するのでしょうか。
 アイパッドやアイフォーンは、メールチェックや写真の閲覧、
さらに各種のソフトウェアをダウンロードすることによって、ゲ
ームや動画などを楽しむ端末として幅広く使われており、書籍端
末としてはどうかということを懸念する人もいたのです。
 しかし、次の2つのことでそれは杞憂に終わったのです。1つ
は、アイフォーン用のアプリの数で電子書籍がはじめてゲームソ
フトを上回るなど、アップル製品上でも電子書籍は成長傾向が見
込めたのです。これは2009年9月のことです。
 2つは、アイパッド発売日に25万冊の電子書籍がダウンロー
ドされたことです。アイパッドの魅力が電子書籍の裾野を大きく
広げたことを意味します。
 現在米国では、アイパッドの登場によって、電子書籍であって
も従来の書籍の枠を超えるものが、大量に出てきているというの
です。これについて、「電子書籍革命」を特集した『週刊エコノ
ミスト』は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 例えば、『不思議な国のアリス』の絵本。アイパッドを揺らす
 と、それに合わせて挿絵の懐中時計が左右に揺れる。めくると
 ストーリーに合わせてマーマレードの瓶が落ちてくるページも
 ある。また、好きな音楽をかけると、リズムに合わせて挿入人
 物がダンスする絵本もある。
         ──『週刊エコノミスト』6/1特大号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、出版形態がどうなるのか──これは米国の場合と日
本では事情が異なるのです。既に米国では多くのベストセラー書
籍が電子化されているのに対して日本はこれからです。
 日本の場合、著作者と出版社と流通において、収益分配をどう
するのかが決まっていないのです。それに日本の場合、再販売価
格拘束契約があり、価格による柔軟なマーケティングができない
のです。これをどう解決するかが課題になります。
 しかし、日本だけが電子書籍化に遅れると、またしてもカラパ
ゴス化する恐れもあります。この日本が抱える課題については、
このあと取り上げます。   ──[メディア覇権戦争/05]


≪画像および関連情報≫
 ●アマゾンの電子書籍「キンドル2」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ついにアマゾンの電子書籍リーダーのキンドルを入手した。
  キンドルとは、書籍版アイパッドして07年に米アマゾンが
  満を持して発売した読書用の携帯端末で、すでに30万冊以
  上の書籍や、ニューヨーク・タイムズ紙やウォール・ストリ
  ート・ジャーナル紙といった有名新聞やタイム、ザ・ニュー
  ヨーカー、ザ・エコノミストといった雑誌が対応している。
  今春には、第2世代にあたる「キンドル2」と大型版の「キ
  ンドルDX」がそろって発売されている。
            http://eiga.com/extra/konishi/116/
  ―――――――――――――――――――――――――――

キンドルを発表するジェフ・ベゾスCEO.jpg
キンドルを発表するジェフ・ベゾスCEO
posted by 平野 浩 at 04:08| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月02日

●「日本の電子書籍化を阻む3つの壁」(EJ第2867号)

 日本では電子書籍は果たして普及するのでしょうか。現在の日
本では、アイパッドで読める書籍は外国に比べて非常に少ないの
です。それは、出版各社が様子見をしていて、他社の動きや普及
状況をにらみながら、態度を決めようとしているからです。
 日本において、電子書籍の普及を阻んでいるのは、次の3つの
ハードルなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.独特の流通機構がある
        2.著作権という壁がある
        3.フォーマットの標準化
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は、「独特の流通機構がある」ということです。
 日本には、出版社・取次・書店の間での独特の流通機構がある
のです。電子書籍が普及すると、紙の本の売り上げは減少します
が、それにどう対応すべきか決まっていないのです。
 第2は、「著作権という壁がある」ということです。
 これまでは、出版社と著作者が契約書を交わすことはほとんど
なかったのです。しかし、電子化するとなると、既刊本でも新刊
本でも著作者から出版の許諾が必要になります。
 第3は、「フォーマットの標準化」ということです。
 紙の本を電子化するには、電子端末で読めるよう文字やレイア
ウトなどを一定のルールに基づいてデジタル化する必要があるの
ですが、その仕様がフォーマットなのです。しかし、日本ではそ
のフォーマットの標準化ができていないのです。
 ここで日本の再販価格制度──再販売価格維持制度について知
っておく必要があります。再販価格制度とは何でしょうか。
 再販価格制度とは、簡単にいうと、「定価販売」を義務付ける
法律のことです。出版社側(メーカー)がそれぞれの出版物の小
売価格(定価)を指定して、書店などの販売業者が指定価格通り
に販売することを義務付ける制度です。その対象商品は次の6種
類になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.書籍     4.音楽CD
      2.雑誌     5.音楽テープ
      3.新聞     6.レコード
―――――――――――――――――――――――――――――
 再販価格制度には期限が設けられているのです。したがって、
古本や中古CDなどが安売りされているのは、価格保持期限が過
ぎた商品だからです。
 しかし、不思議なことにDVDは、その姿・形は音楽CDそっ
くりですが、実は再販制度商品ではないのです。したがって、書
店などで激安で売られているのです。もし、電子書籍も再販価格
制度の適用外になると、書籍の激安が実現することになります。
 アマゾンは日本で「キンドル」を発売するにあたって、2つの
条件を打ち出しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.ベストセラータイトルの90%程度をラインアップ
  2.ホールセール契約(卸売りモデル)を採用すること
―――――――――――――――――――――――――――――
 アマゾンの提案による「ホールセール契約」とはどういう契約
でしょうか。
 出版社が卸売価格を決めて、小売価格はアマゾンが決めるとい
うのがアマゾンのホールセール契約なのです。再販価格制度があ
る日本では、価格による柔軟なマーケティングができないので、
アマゾンとしては小売価格決定権を持つ必要があるのです。
 このアマゾンの提案を受けて驚いたのは日本の大手出版社なの
です。そして彼らが慌てて立ち上げたのが日本電子書籍出版社協
会なのです。2010年2月1日のことです。
 日本電子書籍出版社協会は、講談社や小学館、集英社など大手
出版社21社が参加し、2000年に発足した電子文庫出版社会
を母体として、同会が運営する電子書籍の販売サイト「電子文庫
パブリ」を継承して、拡大させる方針で設立され、書籍のデジタ
ル化にさいして著作権者、ハードメーカーとの交渉や規格の共通
化、契約モデルの策定などを目指すのが目的です。
 要するに、抜け駆けをしてアマゾンとホールセール契約を結ぶ
出版社が現れないようにしようというわけです。それにしてもド
ロナワの対応そのものです。
 日本の場合、再販価格制度の他にもうひとつ委託販売制度とい
うのがあり、2つの制度の組み合わせで出版流通の仕組みが出来
上がっているのです。
 委託販売制度とは、一定の期間を定めて書籍を書店に販売委託
するのです。そして、その期間内に売れたものの代金を受取り、
売れ残ったものは返品してもらう販売システムのことで、日本の
出版物の大半がこのシステムを利用しているのです。
 取次は出版社から委託扱いで書籍を仕入れ、書店に委託扱いで
販売させる方式なのです。この方式のメリットは、書店は、売れ
なかった書籍を返品できるので、リスクが小さく多種類の銘柄書
籍を販売することができるという点です。
 しかし、日本の出版流通は、1996年をピークにして縮小し
返品率40%という異常事態の中でこの制度を維持できなくなり
つつあるのです。完全に制度疲労を起こしているのです。
 公正取引委員会の再販売価格制度を支える法的根拠は実は弱い
ものであり、公正取引委員会のスタンスは次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 出版物における再販売価格の拘束は認めているに過ぎない。多
 くの人は誤解しているが、「やっても構いません」というもの
 であって「やりなさい」ではない。
             ──『週刊東洋経済』7/3号より
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[メディア覇権戦争/06]


≪画像および関連情報≫
 ●「委託販売」から「買い切り」へ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  出版業界には「責任販売」という言葉がある。仕入れた側が
  責任を持って売るという、商売の世界ではごく当たり前で、
  改めて言うまでもないことなのかもしれないが、出版流通・
  販売の世界では、いま最も重要なキーワードのひとつになっ
  ている。ただし、「責任販売」に明確な定義があるわけでは
  ない。その範囲は、書店や取次が仕入れたものが売れ残って
  も返品できない「買い切り」から、返品すると仕入れ価格よ
  りも安くなる「返品ペナルティー」など、方法は様々で、主
  体も筑摩書房のような出版社(メーカー)のほか、大手取次
  (流通)、書店(小売)のそれぞれから提案されている。共
  通しているのは、「返品」をなくす、ないしは削減しようと
  いう点である。
http://www.asahi.com/digital/mediareport/TKY200904070280.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

「週刊/東洋経済」/メディア覇権戦争.jpg
「週刊/東洋経済」/メディア覇権戦争
posted by 平野 浩 at 04:13| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月03日

●「米出版大手のマクミランの抵抗」(EJ第2868号)

 アマゾンは2007年に初代キンドルを発売して以来、米国の
電子書籍市場で主導権をとってきています。しかし、いずれアッ
プルが参入してくることをアマゾンは読んでいたので、それまで
にこの市場の価格決定権を掴んで優位に立とうと考えたのです。
しかし、かなり強引なやり方もしたので、出版社からは相当の反
発を買っていたのです。
 そしてそのアップルは、2010年1月27日にアイパッドを
発表したのです。発売は4月3日ですが、既にアップルが出版社
との交渉を2009年12月頃からやっていることはアマゾンは
情報を入手していたのです。
 アマゾンは、電子書籍の販売価格を99.99 ドルに設定し、
どの競合書店よりも安く販売する出版社には、販売価格の70%
を印税として支払うという提案をしたのです。アマゾンとしては
この70%プランで出版社を囲い込み、安売り戦略でアップルの
アイパッドの出鼻をくじこうとしたのです。
 このアマゾンの安売り戦略に対して真っ向から反旗を翻す出版
社があらわれたのです。それが米出版大手のマクミランです。マ
クミランはアマゾンに対し、次の要求をしたのです。2010年
1月28日のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 12.99 ドル〜14.99 ドルの価格帯でキンドル向け電子
 書籍を販売したい。もし、了承しないときは、新刊書のキンド
 ル版の提供をハードカバー発売から数カ月遅らせる
―――――――――――――――――――――――――――――
 このタイミングでのマクミランの反旗は、その前日にアップル
がアイパッドを発表していることと無関係ではないと思います。
しかし、アマゾンはこれに激怒し、その翌日の1月29日にマク
ミランの紙の書籍と電子書籍の取り扱いを中止すると宣言し、ア
マゾンのマクミランの本のコーナーの「買う」ボタンを削除して
しまったのです。
 しかし、ここでアマゾンは不可解な行動をとるのです。それは
1月31日になってアマゾンはマクミランの提案を受け入れると
表明しています。ただし、エイジェンシー・モデルの採用が条件
であるというわけです。
 エイジェンシー・モデルとは、現在アップルがアイフォーンの
アプリケーション開発者に対してとっている方式です。このモデ
ルでは、開発者のアプリがアップルの審査に合格すると、アップ
ストアでそれを販売することが許されますが、価格は開発者が設
定していいのです。しかし、それが売れた場合は、価格の30%
をアップルに支払うというものです。
 アマゾンはマクミランの希望価格──12.99 ドル〜14.
99ドル)を受け入れるが、本が売れたときは、その販売価格の
30%の手数料を取るという条件を提示したのです。
 なぜ、アマゾンはマクミランに対してこのように日替わりに対
応を変えたのでしょうか。それはおそらくアップルがアイパッド
向けの販売価格を12.99 ドルか14.99 ドルのどちらかに
するよう要望を出していたという情報を掴んだからです。アマゾ
ンにとって一番怖い存在はアップルであり、そのアップルに出版
社を奪われることに危機感を感じたのです。
 しかし、マクミランはアマゾンの提案を受け入れることを表明
したにもかかわらず、アマゾンがサイト上のマクミランの紙の書
籍と電子書籍の「買う」ボタンを復活させなかったのです。
 これに怒ったマクミランは、2010年2月4日付のニューヨ
ーク・タイムズ紙に添付ファイルのような全面広告を掲載して、
アマゾンを批判したのです。そこには次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  Available at booksellers everywhere except Amazon.
  アマゾン以外のどこの書店からでも書籍は購入できます
―――――――――――――――――――――――――――――
 この広告が掲載された翌日の5日からアマゾンは、アマゾンの
マクミランのサイトに「買う」ボタンを復活させたのです。しか
し、このマクミランのアマゾンに対する対応を見ていた出版社の
中には、マクミランに同調するところが出てきたのです。
 米国で「ビッグ6」といわれる大手出版6社のうち、5社は自
社のウェブサイトで電子書籍の販売を行っています。なかでもマ
クミランは、子会社に電子書籍流通会社を有しており、自社主導
の流通を指向しているのです。だからこそ、アマゾンの一方的な
価格設定に対し、異議を申し立て、その結果、一定の譲歩を引き
出すことができたのです。
 しかし、出版社にとってネットのアマゾン書店は重要な存在で
あり、取り扱い停止は大打撃なのです。これまで伝統的メディア
は、何回もネット企業においしいところを握られ搾取されてきた
経緯があります。したがって、電子書籍販売において、グーグル
アマゾン、アップルが提案するプラットフォームにそのまま乗る
のではなく、端末も自前で開発し、自ら配信し、課金す方向に動
き出しているのです。
 これら米大手出版6社とは別に、メディア王といわれるルバー
ト・マードック会長の率いるニューズ・コーポレーションも自前
の流通を目指しての動きを加速させています。
 ニューズ・コーポレーションは、この6月には、ジャーナリズ
ム・オンライン社への出資を行っています。同社は、2009年
4月に設立された企業であり、課金代行ベンチャーで、豊富な課
金メニューを有しているのです。
 さらにニューズ・コーポレーションは、電子書籍端末のプラッ
トフォーム会社の「スキッフ」を買収したのです。しかし、ニュ
ーズの関心は端末ではなく、ビューアーや課金プラットフォーム
などのソフトウェアなのです。
 このように現在米出版業界は、新大陸のネット企業と旧大陸の
伝統的企業の熱い戦いを展開中なのです。しかし、ネット企業が
圧倒的に優位を保っています。──[メディア覇権戦争/07]


≪画像および関連情報≫
 ●ルバート・マードック氏の見解
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ◎新聞各紙は将来に向け、ネット版の有料化の動きを強めて
   いるが。
  「1〜2年以内にどのメディアも有料化に踏み切るだろう。
  新聞ばかりか、インターネットや携帯電話、読み取り専用携
  帯端末など配信手段は多様化しているが、今後もニュースに
  対する需要の強さは変わらないだろう。高いブランド力と正
  確さや公正さに対する信頼感があれば、読者を獲得できる」
                ──ルバート・マードック氏
  http://www.yomiuri.co.jp/net/interview/20091001-OYT8T00489.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

マクミランの全面広告/NYタイムズ紙.jpg
マクミランの全面広告/NYタイムズ紙
posted by 平野 浩 at 04:04| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月04日

●「グーグルの電子書籍戦略」(EJ第2869号)

 電子書籍ビジネスは、アマゾンを中心に展開されてきましたが
アップルがアイパッドを投入したことによって、アマゾン対アッ
プルの対立が生まれています。そして、アマゾンに嫌気した出版
社がアップルに擦り寄っているというのが現在の構図です。
 ところで、新大陸の雄であるグーグルは電子書籍に対して何を
しようとしているのでしょうか。
 実はグーグルこそ電子書籍にいちばん早く取り組んだ企業なの
です。それは、2004年12月にグーグルが、スタンフォード
大学やハーバード大学などで、書籍のスキャン作業を開始したと
きから始まったのです。
 グーグルのこの動きをついて、米国大学出版会はグーグルに対
して質問状を送り、その意図を確かめています。2005年5月
のことです。この質問状を受けて、グーグルはスキャン作業を一
時停止し、各出版社に対し、次のメッセージを送ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 スキャンした書籍データを公開するので、著作権内の作品で
 スキャンから外されるべきものを11月までに申し出ること
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対し、米国出版協会と米国作家協会がグーグルを訴えた
のです。2005年10月のことです。
 この訴訟の決着がついたのは、2008年10月になってから
です。米国出版協会と米国作家協会とグーグルは、和解案に到達
したのです。
 11月にこの和解案は、連邦地裁の仮承認を得たのですが、そ
の和解案に対し、抗議が持ち上がったのです。2009年9月に
なって、連邦司法省と米国著作権局が、和解案に対する異議を表
明したのです。
 実はグーグルがスキャンした書籍データの中には日本書籍も含
まれていたのです。そのため日本の作家、出版社も当事者になっ
たのです。しかし、グーグルサイドが日本については当面対象か
ら外す方向が示され、一段落しているのです。
 こうして、和解修正案が作られ、それに対して2009年11
月に連邦司法省と米国著作権局から仮承認が得られたのです。し
かし、2010年2月に、この和解修正案に対して、今度は米国
司法省が異議を表明して連邦地裁で公聴会が開かれています。こ
のようにもめにもめたのです。
 この6年以上にわたる訴訟の積み重ねを経てグーグルは、今年
の夏から「グーグルエディションズ」をスタートさせるといわれ
ているのです。そのスタート当初に品揃えができる書籍の数は、
出版社からライセンスを受けた200万冊に加えて、既に著作権
切れの書籍を含めると400万冊にもなるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    グーグル ・・・・・・・・・・ 400万冊
    アマゾン ・・・・・・・・・・  50万冊
    アップル ・・・・・・・・・・   6万冊
       ──「週刊エコノミスト」6/1特大号
―――――――――――――――――――――――――――――
 どうやらグーグルと、アマゾンやアップルの電子書籍に関する
アプローチには大きな差があるのです。現在のところわかってい
る、グーグルの独自性について、基本的な点をまとめると次の3
つになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.電子書籍を購入してもダウンロードできない
  2.専用端末はなく、どのデバイスでも見られる
  3.書籍価格については出版社が決定権を有する
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の「電子書籍を購入してもダウンロードできない」につい
ては、グーグルの場合、アクセスはウェブブラウザに限定される
からです。つまり、ネットに接続して見るわけです。これが、ア
マゾンやアップルと根本的に異なる点です。
 問題はオフラインで読むときはどうするのかということです。
これについては、現在のところ明らかになっていませんが、何ら
かの処置が講ぜられるはずです。
 第2の「専用端末はなく、どのデバイスでも見られる」につい
ては、グーグルの電子ストアでは、特定の端末に依存しないので
す。特定の端末を使わず、携帯電話、スマートフォン、PCなど
あらゆるデバイスで書籍を見ることができるのです。
 第3の「書籍価格については出版社が決定権を有する」につい
ては、グーグル自体は明らかにしていませんが、そういう方針で
臨むことを検討しているということです。
 グーグルでは、出版社から電子書籍の提供を受けて販売するだ
けではなく、他のオンライン書店への取次も行う方針であるとの
ことです。ライバルのバーンズ・アンド・ノーブルやアマゾンに
も、希望すれば卸すとしています。
 米メディア各社によると、出版社に価格決定権を与えて、出版
社とグーグルの取り分を次のようにするということです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ≪自社販売≫
     出版社  ・・・・・・・・・・ 63%
     グーグル ・・・・・・・・・・ 37%
    ≪取  次≫
     出版社  ・・・・・・・・・・ 45%
     書 店  ・・・・・・・・・・ 55%
―――――――――――――――――――――――――――――
 注目すべきことは、取次についてはグーグルはマージンをとら
ず、それをオンライン書店側の取り分にしていることです。これ
なら書店側は歓迎し、グーグルに取次を依頼する出版社も出てく
ると思われます。このように、これからはじまるグーグルの電子
書籍戦略は、アマゾン、アップルとは根本的にアプローチのしか
たが異なるのです。     ──[メディア覇権戦争/08]


≪画像および関連情報≫
 ●グーグル、電子書籍販売に参入へ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  グーグルが早ければこの夏にも電子書籍の販売事業に乗り
  出すと米ウォールストリート・ジャーナルが報じている。
  5月4日にニューヨークで開催された出版業界誌主催の討
  論会に出席したグーグルの戦略パートナー開発担当マネジ
  ャーが、その具体的なスケジュールを明らかにした。同社
  はこれまで、電子書籍のオンライン配信についてビジョンは
  語っていたもののその内容については発表してこなかった。
  現時点ではまだ不明な点があるが、ようやく概要が明らかに
  されたというわけだ。「グーグル・エディションズ」と呼ぶ
  この新サービスでは、ユーザーは同社の書籍検索・閲覧サー
  ビス「グーグル・ブック・サーチ」で探した書籍のデジタル
  コピーを購入できるようになる。
         http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3428
  ―――――――――――――――――――――――――――

東京国際ブックフェア/グーグル・ブース.jpg
東京国際ブックフェア/グーグル・ブース
posted by 平野 浩 at 04:10| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月05日

●「日本の出版界はどう対応するのか」(EJ第2870号)

 怒涛のように進む電子書籍化の波に対して日本の出版業界はど
のように対応しようとしているのでしょうか。ここで日本の置か
れている現状を整理してみることにします。
 シンプルに考えてみましょう。基本的に次の2つの大きな問題
があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.誰が本の権利者なのか
        2.誰がその本を売るのか
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の場合、一番問題になるのは、1の誰が書籍──コンテン
ツの権利を持っているかです。
 これははっきりしているのです。日本の著作権法では、著作権
は著者(著作権継承者)が持っているのです。出版社は著者から
本を発行する許諾を得ているに過ぎないのです。
 そのため、紙の本を出しているからといって、出版社は勝手に
その電子書籍を作るわけにはいかないのです。出版社としては、
今後デジタル化権を含めた包括的かつ排他的契約を著者と結びた
いところですが、著者が同意するかどうかわからないのです。
 現行の著作権法では、出版社の権利はほとんどないのです。こ
の場合、問題になるのは編集権や版面権──著作権隣接権をどう
ように認めていくかは大きな課題なのです。
 実際に本を作る場合、企画から取材までを著者と編集者が共同
で行い、タイトルも編集者が決めるのが普通です。しかし、コン
テンツの権利は著者が握っているので、紙の本はA社で出すが、
電子書籍はB社でといわれてしまうと、企画から関わったA社に
は編集などの対価が入ってこないことになります。
 次にもっと大きい問題、2の「誰がその本を売るのか」につい
て考えてみましょう。日本にはアマゾンやアップルのようなハー
ドウェアからコンテンツ販売までを一体的に扱う事業者は存在し
ないのです。
 紙の書籍の場合を考えてみます。紙の書籍の場合、次の3つの
主体があります。これらは「業界3社」とか、「業界三位一体」
といわれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.出版会社
           2.取次会社
           3.書籍会社
―――――――――――――――――――――――――――――
 多くの場合、大手出版会社は取次会社の株主であり、取次会社
が株主になっている書店も多くあります。さらにこれら業界3社
は次の2つの制度によって緊密に結びついているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.再販制度 ・・・・・ 定価制
      2.委託制度 ・・・・・ 返品制
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、EJ第2867号でも説明しましたが、観点を変えて
説明します。
 出版業界の流通に詳しいフリーライター永江朗氏は、この業界
3社の関係を次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 再販制度(=定価販売制度)と委託制(=返品制)によって業
 界三者は深く結ばれている。再販制度と委託制によって、紙の
 本はあたかもニセ金のように、あるいは業界内地域通貨のよう
 に振る舞う。    ──『週刊エコノミスト』6/1特別号
―――――――――――――――――――――――――――――
 出版会社が著者の許諾を受けて本を制作すると、それを取次会
社に持ち込みます。取次会社は内容を見てその本がどのくらい売
れるかを決め、配本数を決定します。
 出版会社が本を3000部印刷したとします。取次会社はその
うち1500冊の配本を決め、配本する書店を決めて書店宛に本
を送ります。このさい、書店の意向は無視されます。そして、出
版会社に対しては、配本部数の仕入れ代金を支払い、書店は取次
会社に仕入れ代金を支払います。
 普通の業界であれば、ものとお金の流れはこれで終わるのです
が、出版界では返品があるのです。書店は一定の期間店に本を置
いて売れなかった分は取次会社に差し戻します。取次会社はそれ
を出版会社に返品し、返品分の代金を受け取り、それを書店に返
します。といっても、実際は次の仕入れ代金と相殺されるのです
が、基本的にはこういうシステムになっているのです。なお、書
店から注文して仕入れた本については返品できないのです。
 現在日本の出版界は、売り上げは伸びないのに、新刊の点数は
増加しています。どうしてこのようなことになるのでしょうか。
しかも、現在の返品率は実に40%に達しているのです。
 出版会社は、返品された本の代金を取次会社に支払うため、お
金が要ります。その資金繰りのため、新刊書を出そうとします。
新刊書を出せば取次会社からお金が入るからです。
 既出の永江朗氏は、出版、取次、書店間のこのシステムについ
て次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 出版社は、常に返品を上回る新刊をつくらないとやっていけな
 い。自転車操業というより、新刊という燃料を入れて走る「オ
 ートバイ操業」である。こうやってモノとお金が出版界の中を
 ぐるぐる回っている。どこかで流れが詰まったり漏れたりする
 と、全体が壊れかねないデリケートなものだ。
           ──『週刊エコノミスト』6/1特別号
―――――――――――――――――――――――――――――
 この紙の書籍が電子化されて電子書籍になった場合、何がどう
変わるのでしょうか。少なくとも取次会社と書店は大きなダメー
ジを受けることは確かです。出版会社はどうなるでしょうか。
              ──[メディア覇権戦争/09]


≪画像および関連情報≫
 ●「キンドル」のニュース/2009年10月時点
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2009年10月14日、以下のようなニュースが流れた。
  毎日新聞を引用・要約すると次の内容となる。――米ネット
  通販大手、アマゾン・ドット・コムが発売した電子書籍端末
  「キンドル」(世界100カ国で販売)の開発、マーケティ
  ング、技術設計を担当するチャリー・トリッツシュラー氏は
  日本での販売に合わせて東京都内で記者会見し「どの言語に
  も対応することが長期ビジョンだ」と述べ、日本語書籍もダ
  ウンロードできるサービスを検討していることを明らかにし
  た。時期は明言を避けたが「キンドルは米国での発売から2
  年で世界で発売した」と述べた。
http://blog.livedoor.jp/samuraibenz/archives/443000.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●●図の出典/『週刊エコノミスト』6/1特別号P30より

業界三位一体の構図.jpg
業界三位一体の構図
posted by 平野 浩 at 04:15| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月06日

●「電子書籍流通での印刷会社の役割」(EJ第2871号)

 2010年8月4日のアサヒコムは、次のようなニュースを伝
えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎ドコモとDNP、電子書籍サービスを秋から提供、紙と電子
  のハイブリット型
 NTTドコモ(山田隆持社長)と大日本印刷(DNP、北島義
 俊社長)は、8月4日、携帯端末向けの電子出版ビジネスでの
 業務提携を発表した。コンテンツ収集から配信、電子書店の運
 営までを一貫して手がける電子出版サービスを、今秋から提供
 する。     ──2010年8月4日付、アサヒコムより
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに先立つ5月27日──アップルのアイパッドの発売前日
に、ソニー、KDDI、朝日新聞社、凸版印刷の4社は記者会見
を開き、次の発表をしたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ソニー、KDDI、朝日新聞社、凸版印刷の4社は7月1日付
 で電子書籍配信の企画会社を作り、年内には事業を開始する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これら4社のそれぞれの役割について考えてみると、次のよう
になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ソニー   ・・・・・ 読書端末
   KDDI  ・・・・・ 課金プラットフォーム
   朝日新聞社 ・・・・・ コンテンツ
   凸版印刷  ・・・・・ ?
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、凸版印刷の役割は何でしょうか。
 電子書籍の場合は、印刷をしないので、印刷会社は必要ないよ
うに思えるのですが、4社が揃った会見では、凸版印刷が一番や
る気満々だったというのです。
 紙の書籍づくりにおいて、出版社と印刷会社はこれまで一体と
なって、というよりも、まるで一つの会社のようにやってきたの
です。版下作成時におけるコンピュータの活用やDTP──デス
クトップパブリッシングなどの技術革新が必要になるたびに出版
社と印刷会社は手を取り合ってそれをクリアしてきた実績がある
のです。したがって、出版社が何かの新事業を行う場合、最も抵
抗なく組める相手が印刷会社なのです。
 既に紙の書籍として発刊済みの書籍を電子書籍にする場合、一
番必要になるのは、出版社の赤字校正を反映させた印刷用のデジ
タルデータ──これを「最終版」という──これが一番必要にな
るのです。
 問題は、この最終版をどこが持っているかです。本来最終版は
出版社のものなのですが、実際には最終版は印刷会社が持ってい
るケースがほとんどなのです。つまり、出版社は最終版を印刷会
社に預けたままにしているのです。
 実はこれに足止めをされて困っているのがアマゾンなのです。
というより、半ばあきれ顔なのです。なぜなら、出版社と電子書
籍の販売の話をしても、肝心のデータがなければ話が先に進まな
いからです。アマゾンの日本法人は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 校正などをすべて終えた最終版のデータを、速やかに印刷会社
 からもらうようにしてください。その前提がなければ、キンド
 ルでの販売はできません。──『週刊東洋経済』7/3号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は日本においては、電子書籍の配信を行う最もよいポジショ
ンを占めているは印刷会社なのです。実際に日本の代表的な印刷
会社である大日本印刷と凸版印刷は、既に電子書籍の配信事業を
やってきているからです。
 大日本印刷と凸版印刷は、1999〜2000年に主要な出版
社との提携によって、「電子書籍取次」を開始しているのです。
その電子書籍取次のための会社として大日本印刷は「モバイルブ
ック・ジェービ−」、凸版印刷は「ビットウェイ」を有している
のです。2010年5月末時点の書籍タイトル数は、次のように
なっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 モバイルブック・ジェービ− ・・・・・・ 約5.3 万冊
 ビットウェイ        ・・・・・・ 約4.0 万冊
―――――――――――――――――――――――――――――
 印刷会社としては、こういう電子書籍取次としてのノウハウを
今度新設する企画会社に提供していくという考え方です。これに
ついて、大日本印刷の常務取締役・森野鉄治氏は次のように述べ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 モバイルブック・ジェービーで電子書籍配信を行っているのに
 加え、書店(丸善、ジュンク堂、文教堂)、出版社(主婦の友
 社など)に出資することによって、総合的な「出版プラットフ
 ォーム」の研究を進めている。見込み生産で40%もの返本率
 がある出版社の経営はこのままでは厳しいし、書店もこれまで
 どおりの売り方では立ち行かない。かといって、アマゾシのよ
 うなネット販売や電子書籍にすべてを奪われるわけでもない。
 知恵を絞れば、出版社、書店の利益を伸ばし、読者にも喜んで
 もらえるような解決策が見つかるはずだ。
             ──『週刊東洋経済』7/3号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 印刷会社は、従来の紙の書籍に加えて、電子書籍の両方を提案
できる立場に立っており、今後大活躍しそうです。そういう意味
で、印刷会社は旧大陸に住んで動こうとしない老舗出版社をグー
グル、アマゾン、アップルなどが猛威を振るう新大陸にいざなう
役割を演ずるという意味でのキープレイヤーになることは確かな
ようです。         ──[メディア覇権戦争/10]


≪画像および関連情報≫
 ●斜陽NEWS●10/07/02より 本コレ!
  ―――――――――――――――――――――――――――
  出版取次大手のトーハン(近藤敏貴社長)は7月1日、電子
  書籍の取次ぎサービスを年内にも開始すると発表。これまで
  のリアル書籍に加えて、電子書籍の分野にも進出することに
  なった。電子書籍の普及で「中抜き」が懸念されている取次
  ぎ会社が、こうしたサービスを始めるのは相当な危機感があ
  る現れだ。トーハンが始めるサービスは、出版社から書籍の
  電子データを預かり、電子書籍端末や携帯電話、パソコンな
  ど、それぞれの形式に加工したうえで、アマゾン、アップル
  のような電子書籍配信会社に送付。配信会社からの集金や著
  作権の管理なども代行するというもの。また、オンライン書
  店「eーhon」を通じて電子書籍を販売し、出版社と書店
  を電子書籍ビジネスにおいてサポートするという。現在、配
  信会社は100社を超えているが、より出版社に近い位置に
  ある取次ぎ会社がこのようなサービスを開始することで、リ
  アル書籍市場がどうなるか注目される。
  ―――――――――――――――――――――――――――

ドコモ・大日本印刷提携.jpg
ドコモ・大日本印刷提携
posted by 平野 浩 at 04:11| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月09日

●「有料の日経電子版は成功するか」(EJ第2872号)

 実はEJでは、電子書籍をテーマに取り上げたことが一度ある
のです。2004年4月のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   EJ第1335号/2004年4月20日付 〜
   EJ第1344号/2004年5月07日付
―――――――――――――――――――――――――――――
 2004年というと、ウインドウズに対応したiPodが発売
された2年後なのです。iPodは爆発的に売れて、それまでの
МDプレーヤーを駆逐しつつあったのです。
 そしてiPodは、ケータイとともに常時携帯して持ち歩く電
子機器のひとつとして定着しつつあったのです。そのため、まだ
ディスプレーは小さいものの、ケータイやiPodなどのディス
プレーを利用して書籍を読ませる試みが少しはじまっており、電
子書籍が注目されていたのです。
 そこで、EJで10回にわたって取り上げたのです。しかし、
そのときはいろいろな情報を集めてみても、電子書籍が果たして
実現性のあるものかどうか実感が持てなかったのは事実です。
 それから6年後の現在、今回は明らかに雰囲気が当時とはぜん
ぜん違うのです。電子書籍について調べれば調べるほど、それは
明日からでも起こることのように思えてくるのです。
 フリージャーナリストの佐々木俊尚氏の本にこんなことが書い
てありました。ひと昔前はインターネット・メールのことを郵便
メールと間違えないよう「Eメール」と呼ぶのが一般的でしたが
今や「メール」といえば昔のEメールを意味します。なぜなら、
郵便メールよりもEメールの方が、はるかに多く使われるように
なったからです。
 電子書籍も最初は「Eブック(電子ブック)」などと呼ばれる
でしょうが、そのうちEが取れて「ブック」になってしまうとい
うわけです。今は「本」といえば紙の本ですが、そのうち「本」
は電子書籍を指すようになるというわけです。驚くべき変化の時
代であるということができます。
 ところで、新聞・雑誌の世界でとんでもないことが起きつつあ
ります。6月1日──ソフトバンクは、自社の携帯電話、アイフ
ォーン、アイパッド向けに定額コンテンツサービス『ビューン』
を開始したのです。
 『ビューン』とは、どういうサービスでしょうか。
 携帯電話では月315円、アイフォーンは30日ごとに350
円、アイパッドは30日ごとに450円を支払うと、『エコノミ
スト』、『AERA』をはじめ、雑誌21誌を発売初日から一部
分ではあるが、読めるというものです。当初は一部分であるが、
しだいに全部読めるようになるそうです。
 なお、毎日新聞、西日本新聞、スポーツニッポンの記事も読め
るのです。これら3社からは、それぞれ20本以上の記事が提供
されるのですが、アイパッド版については、きれいに見えるよう
に、写真を中心とする特別編集版を作って届けるようにするとい
うことです。紙の新聞とは異なる体裁にすることにより、紙との
競合を避けようとしているのです。
 現在、欧米の新聞社がいちばん頭を悩ましているのは、有料課
金モデル──ネットからいかに適正な収入を得るかなのです。こ
れは非常に難しいことですが、いくつかの有力紙でその試みは始
まっています。
 既に有料課金モデルを成功させている米ウォール・ストリート
・ジャナル──WSJを傘下に収めたメディア王と呼ばれるネパ
ート・マードック氏は次のように宣言しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    傘下の新聞のウェブサイトを速やかに有料化する
          ──『週刊東洋経済』7/3号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このマードック氏の宣言を受けて、英国ではネット有料化の実
験ともいうべきことが始まっているのですが、これについては改
めて述べることとして、すでに有料化モデルをスタートさせてい
る日本経済新聞の取り組みをご紹介します。
 日本経済新聞社は、今まで無料であった「日経ネット」を全面
改装して電子版をスタートさせたのです。2010年3月のこと
です。これに先立ち次の3つの登録を求めたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.無料
       2.日経ID登録を行う無料会員
       3.有料会員
―――――――――――――――――――――――――――――
 開始一ヵ月で全登録者数は30万人、そのうち有料会員は6万
人を超えたのです。この滑り出しは上々で、サービス開始初年度
の目標10万人の達成は間違いないと思われます。
 日経電子版の購読料は月4000円、紙の新聞と併読する「日
経Wプラン」の場合、5283円なのです。電子版の記事内容は
紙の新聞の内容に加えて電子版独自の記事を加えるなど、紙の新
聞とは異なる編集をしています。
 しかし、日本経済新聞によると、当初想定していなかったこと
が起きているそうです。それは日経の紙の新聞の読者が、電子版
のみを契約し、紙の契約をやめる人が想定以上に多かったことこ
とです。とくに日本経済新聞と朝日新聞を併読している読者が、
紙の日経を日経電子版の単独契約にするケースが多いといわれて
いるのです。
 さらに日経が考えていることは、日経電子版のシステムを「プ
ラットフォーム」として他の新聞社も利用できるように開放して
いくことです。これがうまくいくと、「紙の朝日+日経電子版」
と「紙の読売+日経電子版」、「紙の毎日+日経電子版」などの
購読者を増やしていく戦略なのです。このように、日経はプラッ
トフォームの覇権を目指しているのです。
              ──[メディア覇権戦争/11]


≪画像および関連情報≫
 ●『ビューン』のサーバー初日にダウン
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ソフトバンクグループの「ビューン」(本社・東京)が6月
  1日に始めた雑誌などのコンテンツ配信サービスは、初日に
  つまずいた。午前0時に始まった配信は約5分でストップし
  た。コンテンツを送り出すサーバーが大量のアクセスに対応
  できず、パンクしたからだ。その後、1カ月余りの間、サー
  バーの増強やソフトウエアの改修が終わるまで、サービスは
  停止した。ビューンのサービスは、米アップルの多機能端末
  「iPad」やスマートフォン「iPhone」などに、講
  談社、小学館、朝日新聞出版、毎日新聞社など13社、31
  媒体の記事、写真を月額315〜450円で配信するもの。
  新聞は紙の新聞とは違う特別編集版だが、雑誌は主要記事が
  誌面レイアウトのままで読める。
http://www.asahi.com/digital/internet/TKY201008060245.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

「ビューン」を発表する孫社長.jpg
「ビューン」を発表する孫社長
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月10日

●「産経、毎日、読売の業績とネット対応」(EJ第2873号)

 産経新聞は、2008年12月にアイフォーン上で新聞紙面を
無料で読めるサービス──『産経ネットビュー』を開始して話題
になっています。今まで産経新聞を読んでいなかった私は、この
サービスを利用して産経新聞を読み始め、残しておきたい記事が
あるときは、紙の産経新聞を買うようにしています。
 実は産経新聞は、PC上で新聞がそのまま見られる『産経ネッ
トビュー』を2005年からはじめていたのです。しかし、こち
らは有料で月額315円です。アイフォーンの無料版とどこが違
うのかというと、PC版は一週間分が読めるのに対し、アイフォ
ーン版はその日の新聞しか読めないことぐらい──しかし、タダ
の威力は大きく、PC版をやめてアイフォーン版に切り替えた人
は少なくないはずです。
 ところが、産経新聞はアイパッドが発売されると、高精細版と
称して有料にしたのです。問題はその価格なのです。「30日ご
とに1500円」──アイパッドで産経新聞を無料で読もうとし
ていた人はがっかりでしょう。どうしてこの新聞社は、このよう
に価格の振幅が大きいのでしょうか。
 これにはいろいろな説があります。産経新聞は当初700円に
しようと考えていたのですが、他の大手新聞幹部から安売りしな
いよう圧力がかかったというもの。もっともこれについて、産経
デジタルの近藤哲司社長は「自社で決めたもの」としています。
 しかし、産経新聞の発行部数は次のように減少する一方なので
す。この数値は、毎年の4月実績です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ≪産経新聞発行部数≫
    2008年    2009年    2010年
  2220762  1889069  1675744
―――――――――――――――――――――――――――――
 上の数値の2010年4月は167万5744部ですが、5月
は161万0241部と1ヵ月で65503部も減少してしまっ
ており、同新聞社の先行きに不安が広がっています。
 次は、産経新聞と同様に部数減少が顕著で心配されている毎日
新聞の対応です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ≪毎日新聞発行部数≫
    2008年    2009年    2010年
  3900544  3830582  3028656
―――――――――――――――――――――――――――――
 普通の新聞社は「新聞の情報をネットへ」という流れを作ろう
としていますが、毎日新聞社の場合、逆に「ネットの情報を新聞
へ」流そうとしているのです。それが「毎日RT」です。
 毎日新聞社はかねてからネットには力を入れており、同社の総
合ニュースサイト「毎日JP」には、ツイッターを組み込み、読
者の声を生かす工夫をしています。
 この「毎日JP」でよく読まれた記事をピックアップして、ツ
イッターによる読者の声を合わせて、タブロイド判の紙面に掲載
し、「毎日RT」として販売しているのです。ターゲットは、若
い層であり、毎日新聞にとってシェアの低い首都圏の新しい読者
を開拓するのが狙いです。月額1980円で販売は東京都、神奈
川県、千葉県、埼玉県であり、駅売りなどはしておらず、毎日新
聞の販売店から毎朝配達されるのです。しかし、そういう努力に
もかかわらず、2009年からの1年間で80万部が減少してい
るのです。
 それでは読売新聞はどうでしょうか。
 読売新聞は王者だけあって、1000万部以上の部数を維持し
ており、その結果、経営は安定しているといえます。2010年
3月期の経常利益は前期比55%増の127億5400万円にな
っています。巨人優勝も大きく貢献しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪読売新聞発行部数≫
    2008年     2009年    2010年
 10020392  10020688 10010724
―――――――――――――――――――――――――――――
 その余裕のせいか、同社の掲げる目標の中にはデジタル戦略の
記述はないのです。ネット事業としては、医療情報サービス「ヨ
ミドクター」記事の一部を有料化して販売している程度です。料
金は月額420円、読売新聞購読者は210円です。
 読売新聞の総帥、渡邊恒雄会長は、2009年合同新春所長会
議において次のように述べて、日本の新聞事業について自信を示
しているのです。そこにはネットの「ネ」の字もないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 欧米の新聞は収入の八割を広告に依存しており、半分になった
 らもう経営できない。戸別配達の割合が少ないので販売収入も
 安定しない。日本は広告依存度が三割程度で、完全戸別配達網
 が確立されているおかげで収入は安定している。
 必要はない。   ──河内孝著『次に来るメディアは何か』
                    ちくま新書/826
―――――――――――――――――――――――――――――
 実際に渡邊会長にネットの可能性について聞いてみると、次の
返事が返ってきたというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 IT企業の社長も毎日、新聞を読んで情報を仕入れている。こ
 れからも紙の新聞が揺らぐことはない。    ──渡邊会長
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、渡邊会長の言いたいことは、「紙の新聞に影響を与
えるようなデジタルビジネスはやらない」ということなのです。
毎年1000万部以上の実績が自信の裏付けになっているようで
すが、この3年間の数字は何とかやっと1000万部を維持して
いるようにも見えることから、そこに相当の無理があるとも考え
られています。        ──[メディア覇権戦争/12]


≪画像および関連情報≫
 ●『毎日RT』は中立を保てるか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  実はその『毎日RT』は普通の新聞ではない。なんとニュー
  スや時事問題に関する皆の意見が取り上げられるそうだ。ど
  のように?そこが目玉ですね。つまり毎日新聞のニュースサ
  イト「毎日JP」のニュース記事についてのツイッターによ
  るつぶやき(意見、コメント、批評)などがニュースと共に
  掲載されるという。
        http://www.amamoba.com/pc/mainichi-rt.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ツイッターの記事も見える毎日RT.jpg
ツイッターの記事も見える毎日RT
posted by 平野 浩 at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月11日

●「朝日新聞のデジタル戦略」(EJ第2874号)

 部数で読売新聞に次いで第2位の朝日新聞はデジタル化につい
て、どのような対応をしているのでしょうか。
 朝日新聞は、「紙からデジタルへ」ではなく、「紙もデジタル
も」の方針で行くといっています。朝日新聞の2010年3月期
は2期連続での赤字決算に沈んでいます。部数減少は止まらず、
2010年4月には遂に800万部を割り込んでしまっています
―――――――――――――――――――――――――――――
  ≪朝日新聞発行部数≫
    2008年    2009年    2010年
  8048703  8023842  7915072
―――――――――――――――――――――――――――――
 今年の4月以降、朝日新聞はいろいろなデジタル化の仕掛けを
やっているのです。
 4月20日は、ウェブ新書を有料で販売する「エースタンド」
を開始しています。エースタンドは朝日新聞の課金システムであ
り、これには自社コンテンツだけでなく、新聞社や出版社などに
も活用を呼びかけ、講談社や文芸春秋、時事通信社、ダイヤモン
ド社などの大手出版社のコンテンツも扱っています。
 5月27日には、ソニー、KDDI、凸版印刷とともに電子書
籍配信事業を行うことを発表しています。これについては、EJ
第2871号でご紹介しています。さらにソフトバンクの『ビュ
ーン』へも、「AERA」と「週刊朝日」が参加することを表明
しています。
 6月24日には、言論サイト「ウェブロンザ」を開設していま
す。ここには有料サイト「ウェブロンザ・プラス」があり、7月
1日から月額735円の課金が行われます。
 このように朝日新聞は現在有料のデジタル新事業を次々と立ち
上げているのです。その特徴というべきは、自社単独でなく、他
業界の企業と組んで行う新事業が多い点です。朝日新聞の経営企
画担当の和気取締役は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 新事業への展開では自前王義に陥らないようにしている、当社
 のコアコンピタンスである取材力、編集力と、それに裏打ちさ
 れたブランドカを評価してくれる企業と模極的に組んでいく。
 他社と組むことにより1社では負えないリスクをマネージする
 こともできる。              ──和気取締役
             ──『週刊東洋経済』7/3号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 「紙に集中」する戦略をとる読売新聞と、「紙もデジタルも」
の朝日新聞──どちらの戦略が正しいでしょうか。これはしばら
く時間が経過しないとわかりませんが、いずれにしても会社の命
運がかかっていることは確かです。
 朝日新聞の秋山耿太郎社長は、デジタル時代の朝日新聞のあり
方について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 紙からデジタルに舵を切るのではなく、紙もデジタルも、つま
 り両者の最適な組み合わせを追求していくしかないと考えてい
 る。というのも、朝日新聞の収入の9割が紙の新聞によるもの
 であり、それを支えているのが北は北海道の稚内から、南は奄
 美大島までの全国販売網であるためだ。(中略)紙の新聞でも
 デジタルでも、生き残っていくために必要なことは同じだと思
 う。商品力、競争力のあるコンテンツがカギとなるはずだ。
                ──秋山耿太郎朝日新聞社長
             ──『週刊東洋経済』7/3号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 新聞のデジタル化とその有料化について考える前に知っておく
べきことがあります。それは日本の新聞代金は、国際的にみて非
常に割高であるという事実です。
 日本の新聞代金は、朝日、読売、毎日については、朝刊・夕刊
セットで3925円、日本経済新聞については4383円、産経
新聞ついては夕刊なしで2950円です。
 海外、とくに米国に住んだことのない人は、新聞の代金はそん
なものかと考えますが、米国でしばらく生活したことのある人は
日本の新聞は異常に高く感じられます。
 国際厚生事業団理事で、元毎日新聞ワシントン支局長の経験の
ある河内孝氏は、1990年代にワシントンDCに暮らしていた
が、当時のワシントン・ポストの3ヵ月の購読料は宅配で18ド
ル前後であったといっています。当時の為替は1ドル=160円
であったので、3ヵ月で2880円、1カ月当たり1000円以
下なのです。現在では約20ドルであり、1ドル=100円とし
ても月2000円で、日本の約半分の価格です。
 さらに河内孝氏は、日本の新聞より安いと感じることはその分
量であるとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そういう感じを持ったのは、アメリカの新聞の分量にもある。
 夕刊がないといっても連日、政治・外交、経済、スポーツ、地
 域ニュースがセクション別になった、総計50〜60ページの
 束がポリ袋に詰められ、玄関先に放り込まれる。さらに週末と
 もなれば、電話帳のような日曜版が来るのだから、量を比較し
 てみると、優に日本の3倍にはなるだろう。
          ──河内孝著『次に来るメディアは何か』
                    ちくま新書/826
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の新聞は国際的に見てもこれほど高い価格をとっているの
に読売新聞は別として、他の新聞社の業績は危機的状況にありま
す。トップの読売新聞社においても相当無理をしての1000万
部維持であり、いつまでその状況が続けられるかきわめて不透明
であるといえます。そこにきて、デジタル化の問題があり、各紙
は相次いで有料課金化を進めていますが、果たしてうまく行くの
か注目されます。       ──[メディア覇権戦争/13]


≪画像および関連情報≫
 ●河内 孝氏のコラムから
  ―――――――――――――――――――――――――――
  5月中旬、グーグルが「ストリートビュー」のデータ収集時
  に誤って個人情報を収録した事件が報じられた。このプライ
  バシー侵害事件、欧米の各メディアはインターネット時代を
  象徴するショッキングな出来事として連日、大々的に取り上
  げ、論評している。一方、この問題についての国内での報道
  量はきわめて限られ、従って大きな反応もなく、各国とは極
  端なコントラストを見せている。この違いは、何を物語って
  いるのだろう。少し事件の経過をおさらいしてみよう。5月
  14、15日付のニューヨーク・タイムズによると5月上旬
  ドイツの消費者保護庁がグーグルに対し、個人情報の権利侵
  害に関し厳重な申し入れを行い、早急に是正を求めた。
  http://journal.mycom.co.jp/column/media/054/index.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

河内 孝氏の本.jpg
河内 孝氏の本
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(1) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月12日

●「一大実験/英『タイムズ』完全有料化」(EJ第2875号)

 ネットにおけるビジネスがいかに難しいかを示す象徴的な例が
あります。米国を代表する新聞であるニューヨーク・タイムズは
ネット上では有料で記事の閲読を許していたのです。毎月定額を
支払うユーザーは、過去の記事をすべて閲読できるという課金モ
デルです。
 ところが、2007年になると、同紙はそれまでの課金モデル
を廃止し、無料モデルに移行させたのです。その狙いは無料にす
ることによってネットの来訪者を増加させ、ネット上での広告収
入を上げることだったのです。
 結果はどうだったでしょうか。
 ニューヨーク・タイムズ紙の紙の購読者数は110万人であり
同紙のウェブサイトへの訪問者(ユニーク・ユーザー数)は月に
5000万人──紙のユーザー数の50倍もあったのです。
 しかし、無料モデルにしてから1年後の2008年の広告収入
は、次のようになったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  紙  からの広告収入 ・・・・・・ 約20億ドル
  ネットからの広告収入 ・・・・・・ 約 2億ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 読者数はネットの方が50倍も多いのですが、ネットからの広
告収入は紙の10分の1しかなかったのです。ちなみにネットか
らの広告収入だけでは、ニューヨーク・タイムズ紙の社員の20
%しか養えないのです。
 これは広告収入全体でもいえることです。米国の新聞産業全体
における2008年の広告収入は、紙とネットで次のようになっ
ています。ネットからの広告収入は紙の10分の1なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  紙  からの広告収入 ・・・・・・ 約347億ドル
  ネットからの広告収入 ・・・・・・ 約 31億ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ネットは儲からない」──これを証明する例は枚挙にいとま
がないほどありますが、2010年7月から英国において新聞界
の今後を占う一大実験のスタートが切られたのです。
 それは、エスタブリッシュの読む新聞として長い伝統のあるタ
イムズとその日曜版サンデー・タイムズのウェブサイトがこの7
月から有料化されたのです。
 英国の主要新聞の発行部数については、添付ファイルを参照し
ていただきたいのですが、タイムズは全英第4位、サンデー・タ
イムズは第3位の発行部数を有しているのです。
 英国の主要新聞で、サイト閲読について課金しているのは、そ
れまでは、フィナンシャル・タイムズ(FT)だけであり、タイ
ムズとサンデー・タイムズの有料化には注目が集まっています。
 しかし、フィナンシャル・タイムズの場合は、一定の本数は無
料で読める、いわばメーター制なのです。しかし、タイムズとサ
ンデー・タイムズの場合は、料金を支払った購読者だけが読める
全面有料になっています。
 紙のタイムズの平日版は1部1ポンドで販売されていますが、
ウェブサイトの場合も1日1ポンドなのです。つまり、紙の新聞
を買うのと同じ感覚で見られるようにしているのです。2日以上
読みたいときは、2ポンドで1週間読めるのです。なお、紙版の
定期購読者は、サイトは自由に閲読できるのです。
 タイムズとサンデー・タイムズの新サイトでは、新聞記事に加
えて、著名コラムニストとのライブチャットやジャーナリストと
の情報交換など、購読者を対象にした会員制クラブ「タイムズプ
ラス」が提供する文化的イベント─映画鑑賞、美術展、対談など
に無料または安価で参加できる特典も付いています。
 もちろんグーグルリーダーにもRSSにも記事は流れないよう
になっており、タイムズの記事を読みたければ紙の新聞を買うか
お金を払ってサイトを訪れるしかないようにしているのです。
 タイムズとサンデー・タイムズを有料化したのは、同社の親会
社であるニューズ・コーポレーションのルパート・マードック会
長の次の考え方によるものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   良質なジャーナリズムには、料金を払う価値がある
             ──ルパート・マードック氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 有料化移行前のタイムズ紙のウェブサイトの月間のユニーク・
ユーザー数は2300万人ですが、7月からの全面有料化でユー
ザー数は最大で90%減になるといわれています。
 これによるサイトの影響力ダウンは確実であり、「有料の壁」
をくぐり抜けてタイムズを読みにくる読者を広告主がどのように
評価するかにかかっているといえます。
 このように「紙からネットへ」の流れが加速するなか、紙の世
界で頑張っている経済誌があります。それは世界の政治・経済状
況を分析・解説する週刊誌、英『エコノミスト』誌です。
 小さな文字がギッシリ並んでいるだけの、けっして読みやすい
デザインでないにもかかわらず、発行部数は右肩上がりで伸びて
いるのです。2004年は90万部程度であったものが、現在で
は約160万部にまで伸びているのです。
 『エコノミスト』誌は、収入の65%は購読料、35%は広告
であり、購読料収入に大きく依存しています。読者だけが頼りの
雑誌であるといえます。その購読者が増えているのは、何といっ
てもコンテンツの質の良さなのです。それは「エコノミストを読
めば世界の情勢をフォローできる」とまでいわれています。
 さらに驚くべきことは、『エコノミスト』誌は、雑誌のコンテ
ンツをすべてネットで無料で公開しているのです。若干の時間差
はつけていますが、少なくとも次の号が出るまでにはネットです
べて公開されるのです。それでいて購読者は増える一方です。ま
さにコンテンツの勝利であり、他では得られない独特のコンテン
ツであるといえます。     ──[メディア覇権戦争/14]


≪画像および関連情報≫
 ●英『エコノミスト』誌/編集長インタビュー
  ―――――――――――――――――――――――――――
  先進国での新聞業界の暗い話や米ニュース週刊誌の不調が続
  く中、快進撃を続けているニュース媒体がある。しかも、ネ
  ットではなく、紙媒体だ。世界の政治・経済状況を分析・解
  説する週刊誌「エコノミスト」の発行部数は右肩上がり一辺
  倒で、現在約160万部に達している。2009年3月決算
  の収入は3億1300万ポンド(前年比17%増)、営業利
  益は5600万ポンド(前年比26%増)だ。ウェブサイト
  の広告収入は前期比29%増、ページビューは53%増とな
  った。     http://www.newsmag-jp.com/archives/4141
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●英国の主要新聞の発行部数
  出典/『週刊東洋経済』7/3号より

英国の主要新聞の発行部数.jpg
英国の主要新聞の発行部数
posted by 平野 浩 at 04:06| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月13日

●「ネットビジネスを本格化させるテレビ局」(EJ第2876号)

 書籍、雑誌、新聞のデジタル化の現状について述べてきました
が、テレビはどうなるのでしょうか。『週刊東洋経済』7/3号
を参考にしながら考えていくことにします。
 実は雑誌、新聞と同様に、テレビ広告はまるでつるべ落としの
ように減少していたのです。それは2005年から2009年ま
で5年連続で前年割れが続いていたのです。
 テレビ広告には、大別すると次の2つがあります。これがテレ
ビ局の収益の2本柱なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.スポット ・・・ 番組と番組の間に流すCM
   2. タイム ・・・ 番組スポンサーになる広告
―――――――――――――――――――――――――――――
 スポットとは、番組と番組の間の時間(ステーション・ブレイ
クと呼ぶ)に流すCMのことです。番組と連動しない単発売りの
CMがスポットです。
 これに対して、タイムとは、時間売りの番組提供のことです。
「この番組は××、○○、△△の提供でお送りしました」と名前
を出すスポンサー企業が局に支払う金額がタイムなのです。
 このうち、スポットについては、さまざまなクライアントが入
れ替わりますが、タイムについては、3ヵ月〜1年の長期契約に
なるので、固定的なスポンサーがつき、局側にとっては安定的な
収入源になっています。
 このうち、スポットについては、2009年までは続落してい
たのですが、東京地区に関しては2009年2月から上昇に転じ
たのです。これについては、添付ファイルのグラフを見ていただ
きたいと思います。
 しかし、タイムに関しては、景気の先行きが不透明な現況では
戻っていないのです。これについてキー局の首脳は、「タイムの
回復には2〜3年かかる」といっています。
 一方、東京のキー局5社──フジテレビ、日本テレビ、TBS
テレビ朝日、テレビ東京──については、顕著な業績の改善が行
われています。2008年度については全社減益でしたが、20
09年度については、日本テレビ、テレビ朝日、テレビ東京の3
社が増益を確保しています。番組制作費などの大幅削減や見直し
が行われたからです。
 業績面での落ち込みを何とか食い止めたテレビ局は、ネットに
対する戦略の見直しを行ったのです。これまでテレビ局は、ネッ
トを視聴者や広告を奪う「敵」と考えていたのですが、その考え
方を改め、積極的にインターネットの分野へ本格的な進出をはじ
めたのです。その動きをメモしてみます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ・2008年
    11月:「フジテレビオンデマンド」で地上波番組の配
        信サービスを開始
    12月:「NHKオンデマンド」開始
 ・2009年
     4月:「TBSオンデマンド」で地上波で放送した連
        続ドラマなどの配信を開始
     6月:「テレ朝動画」で地上波ドラマなどの配信開始
     9月:フジテレビ、日本テレビがヤフー傘下の映像配
        信会社のギャオに出資
       :TBS、テレビ朝日がユーチューブに公式チャ
        ンネルを開設
 ・2010年
     3月:テレビ朝日、TBS、テレビ東京ギャオに出資
     4月:テレビ東京ユーチューブに公式チャンネル開設
     5月:TBSは地上波とユーストリームを連動させた
        生放送の情報番組「革命×テレビ」を開始
             ──『週刊東洋経済』7/3号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は2005年に動きがあったのです。日本テレビは、動画配
信サイト「第2日本テレビ」を立ち上げているのです。ここでは
地上波での人気番組「電波少年」などをネットに配信したのです
が、テレビと同じ無料の広告モデルをネットで行ったのです。し
かし、番組スポンサーはトヨタ自動車やKDDIなど16社が名
前を連ねているのです。
 第2日本テレビを運営している日テレ編集局の土屋敏男エクゼ
クティブディレクターは次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 テレビに固執していても先細りになるだけ。多メディア化は大
 きなチャンス。様子見している段階ではなく、自分たちで積極
 的に仕掛けて新しいモデルを作っていく時代に入っている。
             ──『週刊東洋経済』7/3号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本テレビが目指しているのは、あくまで心を動かす作品を作
るコンテンツメーカーであり、アップルのようなプラットフォー
ムを持つつもりはないのです。
 当面ターゲットになったのは、ヤフー傘下の映像配信会社であ
るギャオ(Gyao)とユーチューブです。ギャオへの出資は、
東京キー局5社全部が行っているし、ユーチューブに関しては、
第2日本テレビを持つ日本テレビをのぞく4つのキー局すべてが
公式チャンネルを開設しているのです。
 昨年から今年にかけてテレビ局には、大きな地殻変動が起きて
いるようです。テレビとネットとの融合です。具体的には、既に
スタートしている地上波番組のネット配信がそれです。
 ネットの良い点は情報の即時性とコミュニティができる点にあ
ります。世界から生で発信されるネットの映像にテレビのノウハ
ウが加わることによって、今までにないクオリティの高い映像配
信が行われることが期待できます。
               ──[メディア覇権戦争/15]


≪画像および関連情報≫
 ●日本民間放送連盟会長/広瀬道貞氏の話
  ―――――――――――――――――――――――――――
  (テレビとは敵対しないのかの質問に)そう。今はビデオ・
  オンデマンドが先行しているが、これはパソコンでの通信の
  話。地上波をアイパッドで受信できるようになるのは時間の
  問題。テレビは家で見るものだと思うが、持って回れれば便
  利なことは問違いない。CMも見てもらえるだろう。問題は
  それ以上の価値を付けられるかどうか。テレビを見られる端
  末が増え、テレビの影響力が今より大きくなっても、それを
  理由に広告料がすぐに上がるとは思わない。独自の展開を考
  える必要がある。   ──広瀬道貞日本民間放送連盟会長
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/『週刊東洋経済』7/3号より

東京地区スポット出稿額の前年同月比推移.jpg
東京地区スポット出稿額の前年同月比推移
posted by 平野 浩 at 04:15| Comment(1) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月16日

●「キンドルの画期的な4つの特色」(EJ第2877号)

 ここでもう一度電子書籍の話に戻ります。今後この分野が激変
すると思われるからです。
 電子書籍端末としていちばん最初に普及したのは、アマゾンの
「キンドル」です。
 さて、このキンドル──名前の方は有名ですが、日本語対応さ
れていないので、詳しく知る人は少ないと思います。既にアップ
ルの「アイパッド」が発売されているので、アイパッドの書籍専
用版のようなイメージを描いている人は多いと思います。
 確かにキンドルは、アイパッドと基本的には変わりありません
が、キンドルはアイパッドにない大きな特色も持っています。そ
れにキンドルの発売は2007年11月であり、アイパッドより
もかなり早いのです。キンドルは、それまでの電子書籍端末に比
べて次の4つの特色があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.PCは不要で単体で操作可能
       2.膨大な数の書籍が購入できる
       3.書籍の価格が激安であること
       4.ネットワークを意識している
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の特色は「PCは不要で単体で操作可能」です。
 キンドル以前の電子書籍端末はPCが不可欠なのです。なぜな
ら、PCの画面から本を購入し、そのコンテンツをUSBケーブ
ル経由で端末にコピーしてやっと読める状態になるからです。し
かし、キンドルは電源オンで表示されるメニューから「キンドル
ストアで買う」を選択し、欲しい本の「購入」ボタンをクリック
するだけでOKなのです。
 つまり、キンドルは「音声通話のできない携帯電話」というこ
とができます。3G並みの通信機能が付いているのですが、通信
代金はアマゾン持ちなので、ユーザーには請求されないのです。
したがって、どこでも本を読んだり、購入したりできるのです。
 第2の特色は「膨大な数の書籍が購入できる」です。
 キンドルでは、購入対象になる書籍(電子ブック)の数が圧倒
的に多いことが大きな特色として上げられます。スタート当初に
おいて既に9万冊、現時点では約50万冊といわれています。
 50万冊といってもピンとこない人は、巨大書店として有名な
ジュンク堂池袋本店で約150万冊であり、その3分の1に当た
りますが、その数は今後ますます増えるものと思われます。
 アップルの書籍数はせいぜい6万冊ですが、グーグルエディシ
ョンは、400万冊を超える電子書籍を有しており、この分野で
恐るべき存在になりつつあります。
 第3の特色は「書籍の価格が激安であること」です。
 米国では紙の書籍のほとんどはハードカバーで売られており、
価格は2500円前後とかなり高いのです。日本の文庫本のよう
なものは少ないのです。しかし、キンドルストアでは、ハードカ
バー本の多くが9ドル99セント(約900円)で売られていま
す。このいきさつについては、EJ第2868号では述べていま
すが、アマゾンの電子書籍は、まさに価格破壊的な安さです。
 どうしてこんなに安いのでしょうか。
 実はアマゾンはハードカバーの紙の書籍を約13ドルの卸値で
仕入れているのですが、電子書籍にもこの価格を適用しているの
です。そうすると、13ドルで仕入れて10ドルで売るので、電
子書籍が一冊売れるごとにアマゾンは3ドルずつ損をしているこ
とになります。
 なぜ、こんなばかなことをやっているのでしょうか。
 それがアマゾンの電子書籍戦略なのです。アマゾンとしては先
行の利を生かして、電子書籍のプラットフォームを独占したいの
で、損を承知でやっているのです。
 第4は「ネットワークを意識している」です。
 キンドルストアから本を購入すると、それは指定するデバイス
──PCやアイフォーンなど──にも表示されます。少し難しく
いうと、デバイス間の同期が自動的に行われるのです。
 これについて、フリージャーナリストの佐々木俊尚氏は次のよ
うに述べています。佐々木氏は、既にキンドルを使って電子書籍
を読んでいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 たとえばある日、キンドルのリーダー上である本を34ページ
 から45ページまで読み進めたとしましょう。次に同じ本をパ
 ソコンのアプリで開いて見た時には、ちゃんと45ページが表
 示されています。パソコンでさらに54ページまで読み進めれ
 ば、次にキンドルリーダーで開くとちゃんと54ページが表示
 されます。つまり「どこまで読んだか」という情報もすべての
 デバイス間で同期してくれるのです。   ──佐々木俊尚著
  『電子書籍の衝撃/本はいかに崩壊し、いかに復活するか』
                 ディスカヴァー携書048
―――――――――――――――――――――――――――――
 以上がキンドルの特徴ですが、キンドルのハードウェアについ
ても述べておきます。最新の「キンドル2」は、重量は300グ
ラム以下であり、普通のPCの3分の1程度の大きさで、価格は
259ドル(約23000円)です。
 画面は液晶ではなく、「イーインク」という企業が生産してい
る電子ペーパーであり、白黒です。バックライトはないので、暗
いところでは読めません。
 電子ペーパーの問題点は動作が若干遅いことですが、画面を切
り替えない限り、電池はほとんど減らないのです。フル充電して
おき、かなり良く使うと2日、何もしないで放置しても一週間は
十分持ちます。なお、キンドルにはキーボードが付いています。
キンドルはPCとUSBケーブルで接続することができます。
 なお、無線LANには対応していないのです。これは不思議な
話です。おそらく新機種(キンドル3)からは対応すると思われ
ます。            ──[メディア覇権戦争/16]


≪画像および関連情報≫
 ●「イーインク」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米マサチューセッツ州のベンチャー企業が開発した超薄型デ
  ィスプレイの名称。企業名や商標にもなっている。2002
  年6月に発表された。「電子ペーパー」と呼ばれる技術の一
  種で、薄く軽量で紙のように折り曲げることができる表示装
  置である。表示方式はマイクロカプセル型電気泳動方式と呼
  ばれるもので、基材面に多数の小さい透明なカプセルをコー
  ティングし、カプセル内の帯電した白と黒の粒子に電圧をか
  け、電圧の強弱でグレースケール表示を行っている。紙に印
  刷した文字と同じく、外部からの光を反射して表示を行う反
  射型の表示法で、180度近い視野角があるとされる。また
  一度表示した画像の保持には電力が不要なため、消費電力が
  少ない利点ももつ。電子ブックや、デジタル時計、交通機関
  の表示板などへの応用が期待されている。
  ―――――――――――――――――――――――――――

アマゾン/キンドル.jpg
アマゾン/キンドル
posted by 平野 浩 at 04:11| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月17日

●「電子書籍をめぐる出版社の勝算なき戦い」(EJ第2878号)

 電子書籍時代になると、本を出版するさい、ほとんどの出版社
は紙の本に加えて、電子書籍の契約をかわすようになってきてい
ます。出版社としては当然の処置であると思います。
 しかし、1990年代ぐらいまでは、電子書籍のことなど想像
もしていないので、そのような契約をかわしていないのです。こ
の場合、電子書籍の出版の権利は書き手が有しており、それを出
版社以外の誰かに譲渡することは可能なのです。
 既刊本のほとんどは忘れられますが、その中でも時代を超えて
永く読み継がれている名著があります。司馬遼太郎の『坂の上の
雲』や吉川英治の『宮本武蔵』などの古典から、山崎豊子の『白
い巨塔』など、そういう本はたくさんあります。
 それらのいわゆるベストセラー書籍のほとんどは電子書籍の契
約を結んでいないのです。そのため、それらの著者やその家族が
既刊本のデジタル化の権利をアマゾンなどの企業に渡してしまう
ことは十分あり得ることです。
 米国では実際にそういう事例がたくさんあるのです。『7つの
習慣/成功には原則があった!』という本があります。1990
年に刊行された本で、スティーブン・R・コヴィーという人が著
者です。この本は全世界で1000万部以上を売り上げており、
現在でも毎年10万部以上が販売されているのです。まさにロン
グセラーそのもの。コヴィー氏には、このほかにもたくさんのベ
ストセラー書があるのです。
 この米国の売れっ子作家のコヴィー氏が『7つの習慣』の電子
書籍化権を大手出版社サイモン&シェスターからアマゾンに移し
てしまったのです。2009年の暮れのことです。
 アマゾンとコヴィーさんの契約にはロゼッタブックスという小
さな会社が入っています。電子書籍が売れて、この会社がアマゾ
ンから得る利益の半分以上がコヴィー氏に支払われるようになっ
ているそうです。米国の大手出版社の場合、ネット利益の25%
が著者の取り分になるのが慣例ですが、ロゼッタブックスによる
とコヴィー氏に対し、通常の倍以上の印税を支払う契約をしたと
いっています。
 既刊書のロングセラー書は、出版社にとって宝物なのです。出
版社はとくに宣伝などの努力をすることもなく、重版していくだ
けで、毎年利益を生み出してくれるからです。『7つの習慣』の
場合、その出版社であるサイモン&シェスターは、その宝物をア
マゾンにもっていかれたので、怒るのは当然ですが、これはどう
しようもないことです。
 コヴィー氏の息子のショーン氏によると、今後のコヴィー氏の
本については、紙の本と電子書籍の出版権については2本立てで
進めるといっています。そして、紙の本については今後もサイモ
ン&シェスターから出し続けるといっています。
 さて、コヴィー氏とアマゾンの間に入ったロゼッタブックスの
ような業者を「ディストリビュータ」といい、米国にはたくさん
そういう企業が出現しています。そのディストリビュータの中で
最も注目されているのは、スマッシュワーズという企業です。
 電子書籍を作るには、それが電子書籍端末で読めるようにパブ
リッシュする必要があります。スマッシュワーズの最大の特色は
どこの電子書籍のフォーマットにも対応できる「マルチフォーマ
ット」を有しているのです。したがって、スマッシュワーズを経
由すると、キンドル、ソニー、バーンズ&ノーブルのヌックなど
あらゆる電子書籍端末でパブリッシュできるのです。
 この対価として、スマッシュワーズは、著者が電子書籍で得る
印税の15%を手数料として請求しています。スマッシュワーズ
を経由して、キンドルストアで2000円の本を売る場合を考え
てみましょう。
 アマゾンは最近では違うレートを採用していますが、当初は販
売手数料を65%としていたのです。これによると、2000円
の本であれば、1300円をアマゾンが取り、スマッシュワーズ
は残りの700円の15%の105円を受け取り、著者には残り
の85%に当たる595円を支払うのです。
 このスマッシュワーズは、出版社やエージェントも利用するこ
とができます。そうすると、専用の販売サイトを持つことができ
スマッシュワーズの作った電子書籍を自由に販売できるのです。
その場合の印税も85%なのです。
 米国の電子書籍市場ではスマッシュワーズは台風の目になりつ
つあり、創業してから2年しか経っていないのに、著者2000
人、独立系の出版社80社と契約しています。販売された電子書
籍の数は3000冊を超えているのです。
 そうなると、本の書き手である著者は、大きな可能性が広がる
ことになります。今までは本を出すには、出版社から依頼を受け
るか、出版社に売り込むしかなかったのですが、電子書籍の時代
になると、紙の書籍は出さず、最初から電子書籍で行く書き手も
多くあらわれることになります。
 その場合、著者は、出版社ではなく、こういうスマッシュワー
ズのようなディストリビュータと契約するか、直接アマゾンと契
約する道を選ぶようになります。こういう動きについて、出版社
は相当の危機感を持っています。
 何しろアマゾンは2500円のハードカバーの本の電子書籍版
を900円で売ってしまうので、出版社としては、ハードカバー
の本を守るために対抗上いろいろなことを始めたのです。
 新刊のハードカバーの本を出すときは、紙の書籍の市場を守る
ために、電子書籍版の方を紙の本の刊行よりも4〜5ヵ月遅くし
たりするなど、アマゾンと必死に戦ったのです。サイモン&シェ
スターなどはその最右翼の存在であったのです。
 しかし、この戦いはどう見ても出版社が不利なのです。キンド
ルは、ますます急成長し、電子書籍のプラットフォームとしての
キンドルの支配力は強化されていったのです。そして、2009
年末のキンドルの市場シェアは60%、電子ブックの売上げでは
90%を支配したのです。   ──[メディア覇権戦争/17]


≪画像および関連情報≫
 ●Amazonで「電子書籍が上回った」意味
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米アマゾン社の発表によると、同社サイトでの『キンドル』
  向け電子書籍の販売数が、ハードカバー本の販売数を50%
  近く上回っているという。4月から6月の3ヵ月で見ると、
  同社の販売は、ハードカバー本100冊につきキンドル電子
  書籍143部という割合らしい。電子書籍販売は加速を続け
  ており、この1ヵ月で見ると、ハードカバー本100冊につ
  き、キンドル電子書籍が180部の割合にまでなっている。
  大きな理由は「今年6月にキンドルが、約260ドルから約
  190ドルという手ごろな価格にまで値下げされたためだ。
     http://wiredvision.jp/news/201007/2010072123.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

スティーブン・コヴィー氏の本.jpg
スティーブン・コヴィー氏の本
posted by 平野 浩 at 04:09| Comment(1) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月18日

●「アマゾンの巧妙な電子ブック戦略」(EJ第2879号)

 アイパッドが登場する前の段階のアマゾンの電子書籍に関する
戦略を整理しておくことにします。
 既に述べたように、米国ではハードカバーの本は書店で25ド
ル前後で売られています。アマゾンはその本を約半値の13ドル
で仕入れ、電子ブックとしてキンドルストアにおいて9・99ド
ルで売っていたのです。つまり、1冊売れるごとに3ドル損を出
していたのです。それは次なる敵があらわれる前に、電子書籍市
場を独占的に支配しておくための戦略なのです。
 この場合、出版社は小売価格決定権をアマゾンに渡すことと引
き換えに、13ドルでアマゾンに本を卸していたのです。この契
約を「ホールセールモデル」というのです。この場合のマージン
の割合はアマゾン65%、出版社35%です。
 これに対して米大手出版社のマクミランは、ハードカバー書籍
の安売りに抗議し、ホールセール契約に反対したのです。なぜな
ら、このままでは紙のハードカバーの本が売れなくなってしまう
からです。
 そして、2010年になると、アマゾンの敵はあらわれたので
す。アップルのアイパッドです。早速アップルは出版社に対し、
小売価格決定権を出版社に渡し、マージンは30%で良いと持ち
かけたのです。これはアップストアに出品されているアイフォー
ン用のアプリケーションが売れたときのマージンと同じです。こ
れを「エージェンシーモデル」と呼んでいます。
 このままでは出版社はアップルに取られる──このように判断
したアマゾンは早速対応策を取ったのです。エージェンシーモデ
ルに移行することを認めたのです。小売価格決定権は出版社に返
し、売れたときのマージンは30%とアップルと同じにしたので
す。しかし、仕入れ価格は小売価格の70%とし、しかも、しっ
かりと30%受け入れに次の4つの条件を付けたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.9・99ドル未満、2・99ドル以上の電子ブックの場合
   に限ること
 2.紙の本よりも20%以上安い価格で電子ブックを売る場合
   に限ること
 3.キンドルストアで用意されている全てのオプションを受け
   入れること
 4.他社(すなわち、アップル)より安い値段に設定したとき
   に限ること
―――――――――――――――――――――――――――――
 マクミランの抗議により実現したエージェンシー契約は、結果
としてマクミランよりもアマゾンを利することになったのです。
結局アマゾンは一冊電子ブックが売れるたびに7ドルの利益を出
し、マクミランは逆に3ドルのマイナスになったからです。
 もともとアマゾンは、本を13ドルで仕入れて9.99 ドルで
売っていたのですから、一冊ごとに3ドルマイナスになっており
逆にマクミランは、3ドルの利益が出ていたことになります。
 エージェンシー契約によって、小売価格決定権を得たマクミラ
ンは、本を14ドルで売ることにしたのです。一冊売れたときの
マージンは30%ですから、約4ドルがキンドルストアの手数料
としてアマゾンに入ります。
 それにマクミランは、これまでは13ドルの卸値でキンドルス
トアに卸していたものが、今度は小売価格の70%──約10ド
ルで卸さなければならないので、3ドルマイナスになります。結
局アマゾンは手数料の4ドルと、卸値が3ドル安くなったことで
合計7ドルのプラスになったのに対し、マクミランは、卸値が下
がったことで、3ドルのマイナスになったのです。
 現在はアップルの電子書籍戦略は始まったばかりであり、実際
にアップルが出版社と結ぶ契約がどのような内容になっているか
は明確にはわかっていないのです。これについて、既出の佐々木
俊尚氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 実際、アップルと出版社の契約交渉の内容が徐々に漏れてくる
 につれ、アップルのタフネゴシエイターぶりが明るみに出てき
 ています。それによると、アップルは当初の話では出版社に価
 格決定権を引き渡し、ハードカバーを一冊14ドル前後へと値
 上げすることを認めていたのにもかかわらず、交渉途中からは
 「ニューヨークタイムズ紙のベストセラーランキングに入って
 いる本と、もともと20ドル前後で安く売られている本につい
 ては、14ドルではなくもっと安い値段で売ることを契約条件
 に追加してほしい」と要求しているそうです。
                     ──佐々木俊尚著
  『電子書籍の衝撃/本はいかに崩壊し、いかに復活するか』
                 ディスカヴァー携書048
―――――――――――――――――――――――――――――
 結局アップルの提案したエージェンシー契約は、アマゾンが追
随した結果、内容的にほとんど変わりはないのです。それに書店
としては、アップルよりもアマゾンに依存度が高いのです。
 なぜなら、アマゾンはもともとオンラインながら書店であり、
紙の本も扱っているし、電子書籍の分野ではかなり先行しており
市場シェアも高いのです。したがって、出版社がアマゾンと縁を
切って商売をすることは難しいのです。
 実際問題として、最初にマクミランがアマゾンに叛旗を翻した
とき、オンライン書店におけるマクミラン・コーナーの「買う」
マークを外されて、売上が一時大幅にダウンしたことがあり、出
版社としては、アップルよりはアマゾンにシフトするのはやむえ
ないことなのです。
 それに現在、マクミランがキンドルストア上で、電子ブックを
9・99ドルから14ドルに引き上げたことに強い抗議が起きて
いるのです。当然ですが、読者としては安い方がいいに決まって
いるからです。        ──[メディア覇権戦争/18]


≪画像および関連情報≫
 ●「カラー版キンドル」は実現するか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  アマゾンの年次株主総会に関する英文報告ブログによると、
  アマゾン創設者・CEОのジェフ・ベゾスが「キンドルは読
  むことに集中」「カラー版キンドルは近日中にはない」「キ
  ンドルのデバイスとキンドル本は別のビジネス」などの見解
  を明らかにしたという。多機能をうたうアイパッドに対して
  ひたすら読むための機器を目指すという方針は、キンドル派
  の私にとっては非常に嬉しいことである(同様の意味で、ひ
  たすら書くための機能に集中しているポメラも好きだ)。カ
  ラー・イーインクは実用にはまだ遠いようだが、中途半端な
  状態では出さないという姿勢も好ましく思える。
       http://www.kotono8.com/2010/05/26kindle.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

佐々木俊尚著『電子書籍の衝撃』.jpg
佐々木 俊尚著『電子書籍の衝撃』
posted by 平野 浩 at 04:12| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月19日

●「本が売れない原因は流通機構にある」(EJ第2880号)

 電子書籍がなぜこれほど問題になるのでしょうか。若者の「活
字離れ」が問題視されてもう十数年経ちます。もし、これが本当
なら、電子書籍はこれほど大きな騒ぎにならないと思うのです。
 現在、書店に行くと新刊書があふれています。その中には見る
からにくだらない本もたくさんあります。新刊点数は今や年間8
万点に達する勢いです。
 しかし、新刊点数は増えているのに売上冊数は減少しているの
です。80年代は年間8億冊、ピークは、1996年の9億15
00万冊ですが、2008年には7億5000万冊まで減少して
しまっています。本一点当たりの売上は80年代と比べると、5
分の2ぐらいに減少しているのです。
 この数字を目の当たりにすると、「若者の活字離れ」論が出て
くるのですが、既出の佐々木俊尚氏は「それは間違いである」と
して、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそも、若い人ほ活字離れしていません。それを示す統計が
 いくつもあります。たとえば文部科学省が2009年11月に
 発表した調査結果。図書館を使う小学生が、2007年度に借
 りた本の冊数は平均で35・9冊もあり、これは過去最高でし
 た。1995年には15・1冊しかなかったのが、その後3年
 おきの調査で25・8冊、30・5冊、33・0冊と増えて、
 2007年には35冊を超えてしまったのです。図書館の利用
 回数も、95年の3・2回から07年には6・7回にまで増え
 ています。また、全国学校図書館協議会は毎年5月に「5月中
 に読んだ本の冊数」を調査していますが、高校生が1970年
 代には平均4・5冊だったのが、2004年には7・7冊にま
 で増えています。            ──佐々木俊尚著
  『電子書籍の衝撃/本はいかに崩壊し、いかに復活するか』
                 ディスカヴァー携書048
―――――――――――――――――――――――――――――
 今やブログや掲示板やSNSの時代です。これらのメディアが
出てくる以前の世代は、いわゆるテレビ世代であり、それこそ活
字離れはあったと思いますが、現代では「書く」と「読む」が中
心の時代なのです。
 かつてこんな話があったのです。現在巨人の監督をしている原
辰徳氏が人気絶頂の頃、テレビの番組で山岡荘八の『徳川家康』
を「読んでいる」ではなく、「聞いている」と発言したことがあ
るのです。私は偶然その番組を見ていたのですが、その発言を聞
いて「エッ」と思ったのです。
 彼は『徳川家康』の本ではなく、カセットテープを購入し、聞
いていたのです。そのとき、多くの人は時代が変わったなと思っ
たものです。ちょうど現在の原監督の前後の世代──現在50歳
〜60歳までの世代は確かに活字離れが進んでいたことは確かで
す。しかし、今の若者は違います。活字を使っての発信力が非常
に優れている世代なのです。
 前掲の佐々木氏の本によると、2008年に米国人が消費した
情報量は全体で36億テラバイトに達していて、動画やゲームが
占めるのはそのうちの55%、残りは文字情報で、毎日10万5
百語もの文字に触れ、そのうち36%を実際に読んでいるといわ
れています。今や活字離れどころか活字の時代なのです。
 それでは、なぜ本が売れないのでしょうか。
 それは若者の活字離れでも、コンテンツの問題でもなく、本の
流通構造の問題なのです。本に関わる日本の流通構造の問題につ
いては、8月5日のEJ第2870号で詳しく述べていますが、
本というコンテンツを流通させるプラットフォームが驚くほど劣
化してしまっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
≪EJ第2870号/2010年8月5日≫
http://electronic-journal.seesaa.net/article/158498267.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 それは「取次」という機構に問題があるのです。佐々木氏は取
次のビジネス機能として次の3つを上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.本を出版社から書店に運ぶ ・・・・・・「モノ」の流通
 2.本の代金の回収と支払いという ・・・・「カネ」の流通
 3.どんな本をどの書店には配本するかという「情報」の流通
               ──佐々木俊尚氏の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この3つの流通のうち3番目の『「情報」の流通』がまともに
機能していない──このように佐々木氏は指摘しています。
 書店によく行く人であれば、気がつくことですが、大型書店ほ
ど、同じような本が並んでいることに気がつくはずです。取次か
ら送られてくる本は大型書店ではどこも同じになるからです。
 私の事務所に近い人形町に「ピスモ/PISMO」という書店
があります。さほど大きくない小型書店ですが、この書店は品ぞ
ろえに特徴があり、他の書店では置いていない本がたくさんある
のです。私は週に2〜3回はその書店に行きますが、品ぞろえに
は、いつも変化があるのです。
 この書店で本を見つけ、ポイントの関係でそのあと大型書店に
行くのでそこで買えばよいと思って大型書店に行くとほとんどな
いということが何回もあったのです。それ以来、ピスモで見つけ
た本は必ずピスモで買うようにしています。
 しかし、大型書店の場合は、品揃えの特色が見られない──取
次から送られてくる本は返品できるので、それを並べておけばリ
スクがないのです。しかし、中小書店の場合は配本も少ないので
本を選んで注文を出さなければならないのです。注文した本は返
品はできないので、真剣に考えて選ぶことになるわけです。
 欧米の書店は、本は書店の買い切り制になっているのです。し
たがって、無駄な本が書店に並ぶことはないのです。日本の制度
は何かがおかしいといえます。 ──[メディア覇権戦争/19]


≪画像および関連情報≫
 ●出版取次とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  出版取次とは、出版とその関連業界で、出版社と書店の間を
  つなぐ流通業者を指す言葉。単に取次とも。取次と書店との
  関係は卸売問屋と小売店の関係に当たるが、返品を前提とし
  た委託販売制度により、書店が在庫管理を考えなくて済むの
  が大きな違いである。その代り、客からすれば、すぐに棚の
  中身が入れ替わる不便を強いられる。日本の取次会社数は、
  100社あまりと推定されているが、業界団体である日本出
  版取次協会の加盟会社数は2004年現在33社である。こ
  のうち2社でシェアの70%以上を占めるといわれるトーハ
  ンと日販が二大取次と呼ばれる。また、神田に中小取次が集
  中しているが、これを通称神田村という。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

佐々木俊尚氏.jpg
佐々木 俊尚氏
posted by 平野 浩 at 04:05| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月20日

●「ブログは電子書籍といえるか」(EJ第2881号)

 ここまで、とくに定義せずに「電子書籍」という言葉を使って
きましたが、このあたりで電子書籍を定義する必要があります。
そうでないと、グーグルがこの電子書籍市場で本当は何を狙って
いるのかが明確にならないと思うからです。
 8月4日のEJ第2869号でグーグルの電子書籍への取り組
みというか、訴訟と和解の繰り返しについて述べました。グーグ
ルは何を狙っているのでしょうか。アマゾンやアップルよりも早
く始めながら、明らかにその目指す方向は異なると思われるので
す。そして、訴訟によって締結された和解案とはどういう内容な
のでしょうか。この問題を究明していくと、グーグルの戦略の凄
さがわかってくると思います。
 ところで、ブログにアップロードされるコンテンツは、電子書
籍でしょうか。ツイッターは電子書籍でしょうか。
 ブログなんてただの個人の断片的な日記じゃないかという人が
います。ましてツイッターなどはただのつぶやきに過ぎないし、
そんなものが電子書籍であるはずがない──こういう人も少なく
はありません。
 しかし、それは大きな認識違いであると思います。ツイッター
の場合は、ワンツィート140字という縛りがありますが、ブロ
グは字数の制限がないので、ブログで長文を書く人は少なくない
のです。私の場合は、メルマガのコンテンツをそのままアップし
ているだけですが、比較的長期連載になっているので、一冊の本
ぐらいの分量のあるテーマも少なくないはずです。
 しかし、結論からいうと、ブログやツイッターは電子書籍とは
いえないのです。なぜなら、それらは作者の著作物ではあっても
出版物ではないからです。それにそのほとんどは無償であって、
有償のコンテンツではないということがあります。
 新潮社に在籍し、同社の電子出版を手掛けたことのある弁護士
の村瀬拓男氏は、電子書籍を次のように定義しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 電子書籍とは、必然的にブログなどのように個人がそのまま著
 作物を発表できる場ではなく、「何らかの編集行為が介在し、
 出版物として有償の流通を想定して作られたもの」ということ
 になります。               ──村瀬拓男著
           『電子書籍の真実』より/マイコミ新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、問題になっている電子書籍は、紙の本がまずあって、そ
れをデジタル化する──つまり、同じ内容の紙の本と電子の本を
出版するというものです。定義にもあるように、電子書籍には、
「何らかの編集行為が介在」するという要件があるのです。そう
であるなら、電子書籍の特性を生かしたエディションがあっても
いいと思います。
 コンテンツは紙の本と同じでも、電子書籍の特性を生かして、
音声読み取りソフトなどによる音声で聞けるバージョンや挿絵な
ども何らの工夫のできる余地がありそうです。
 また、当面は紙の本は作らず、電子書籍だけという出版企画が
あっていいと思います。そのためには、電子書籍の定義というも
のをきちんと決めておくことが大切です。
 もうひとつ考えてみるべきことがあります。それは「雑誌」の
電子化はどうなるのかという問題です。
 既出の村瀬拓男氏は、出版市場は本だけで構成されているわけ
ではないとして、電子書籍としての雑誌について次のように述べ
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 グーグルの和解案においては、定期刊行物すなわち雑誌は対象
 から除外されていました。アメリカにおいては書籍と雑誌とは
 かなり分かれていて、印刷物の流通も異なるようです。しかし
 キンドルでは新聞や雑誌も書籍と同じように購入できますし、
 アイパッドはやや大判のカラー端末ということもあって、グラ
 フィックな雑誌コンテンツが主流になるのではないかとも言わ
 れています。このように、電子書籍側では本と雑誌とを区別す
 る理由はありません。そもそもデジタルデータとなっている段
 階で、映像や音楽とも、コンテンツとしては共存するのですか
 ら、本だけをイメージして電子書籍を論じるのは妥当ではない
 ように思います。       ──村瀬拓男著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本においては、多くの出版社が本と雑誌の両方を扱っており
雑誌を専業とする出版社は少ないのです。しかし、雑誌は明らか
に本とは違います。村瀬拓男氏によると、雑誌には次の3つの特
性があることを指摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.雑誌は一定の流通期間を想定して編集される
   2.雑誌は多くの参加者によって制作されている
   3.雑誌は記事単位での再編集が可能であること
―――――――――――――――――――――――――――――
 本にも出版物としての寿命はありますが、雑誌の寿命はもっと
短いのです。コンテンツにもよりますが、多くは週単位、月単位
とその流通期間は限られています。したがって、本とは同列に論
じられないのですが、そうであるからこそ、電子版だけでもいい
のではという考え方もあるのです。
 一冊の本を分割して電子書籍版を作る状況は多くないですが、
雑誌の場合は記事単位で独立しており、分割して再編集すること
が可能なのです。むしろ電子化しやすいのです。誰でも考えられ
ることは、それをブログのコンテンツにするか、メルマガとして
配信することも可能です。
 ただ、雑誌は複数の著者のコンテンツによって成り立っている
場合が多く、その電子化にあたってはそれらの著者の権利関係が
複雑になります。文章だけのメルマガと違って写真や図入りの文
書を送り、アイパッドなどで見ることができる現代、雑誌の電子
化は普及の可能性があります。 ──[メディア覇権戦争/20]


≪画像および関連情報≫
 ●株式会社クリエイシオン/高木利弘氏の「電子書籍論」より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「電子書籍」とは、書籍のような体裁をしていて、ページを
  めくりながら読書できるものと考えるべきでしょうか?「辞
  書」も「地図」も、従来は「書籍」のひとつとして、書店の
  書棚に並べられ、流通していました。インターネットが登場
  するまでは、この仕組みがもっとも効率的な情報流通システ
  ムであったからです。持ち運びやすく読みやすいからという
  理由から、一定の大きさの紙を束ねた「書籍」という形状が
  とられていたのです。ところが、辞書も地図も物理的な制約
  から解き放たれたとたん、書籍のような体裁から自由になり
  ました。(中略)「電子書籍」というのは、従来、広義の意
  味における書籍、すなわち、「冊子の形をした情報パッケー
  ジ」で流通していたものが、電子化によって紙という物理的
  な制約から解き放たれ、ジャンルごとに別々の方向へ進化し
  つつある「流動的なもの」として捉えたほうがいいのではな
  いかと思われます。
  ―――――――――――――――――――――――――――

村瀬拓男著『電子書籍の真実』.jpg
村瀬 拓男著『電子書籍の真実』
posted by 平野 浩 at 04:07| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月23日

●「グーグルの仕掛けるブック検索」(EJ第2882号)

 電子書籍についてのグーグルがどのような動きをしたかについ
ては、EJ第2869号で書きましたが、ここではグーグルの本
当の狙いについて探りを入れます。
 2004年からグーグルは、スタンフォード大学やハーバード
大学で大学所蔵書籍について古いものを中心にスキャナーで本を
読み取り、デジタルテキスト化しているのです。このプロジェク
トには、慶応義塾大学も参加しており、その総冊数は700万冊
に及んだのです。凄い量です。
 その目的は「ブック検索」にあります。本のタイトルの検索だ
けではなく、本の中身に踏み込んだ検索です。ネット上のあらゆ
るものを検索するのがグーグルの目的であり、現在ではほとんど
が実現されています。しかし、今までどうしてもできなかったの
が書籍の中身の検索であり、グーグルはそれをやろうとして、書
籍のデジタルテキスト化に取り組んだのです。グーグルらしい検
索からの電子書籍へのアプローチです。
 米国の著作権法においては、日本にはない「フェアユース(公
共目的)での免責」ということが認められています。フェアユー
スであれば、著作権者の許可がなくても、著作物を利用できるの
です。しかし、このフェアユースの定義が曖昧であり、よく問題
が起きるのです。
 そのフェアユースという前提で、グーグルは図書館や大学所有
の書籍のブック検索──全文検索をできるようにしたのです。図
書館や大学経由で外部からのブック検索ができるのです。
 この場合、絶版本や著者の許可を得ているものについては全文
検索、全文表示──つまり、全部を読もうと思えばできるという
ことです。しかし、現在も販売されている本については、本の情
報や数行の抜粋だけを表示させるようにしています。検索結果で
表示されるのは全体の20%というルールがあるからです。
 しかし、米国出版社協会と米国作家協会はグーグルの主張する
フェアユースを認めず、クレームをつけてきて訴訟になったので
す。2005年10月のことです。一応の決着がついたのは3年
後の2008年です。グーグルと米国出版社協会および米国作家
協会との間で、ある内容の和解案が合意に達したのです。
 この和解案とは、いったいどういう内容だったのでしょうか。
この和解案によってグーグルは、絶版本に限定して次の3つのこ
とができるようになったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.オンラインで書籍のコンテンツを売ることができる
  2.図書館や大学経由で書籍内容に無料アクセスが可能
  3.ウェブで表示される書籍のページに広告を掲載可能
                     ──佐々木俊尚著
  『電子書籍の衝撃/本はいかに崩壊し、いかに復活するか』
                 ディスカヴァー携書048
―――――――――――――――――――――――――――――
 1については、ネットで絶版本をはじめ、著者の許諾が得られ
た書籍については販売できるというものです。それも本の全文だ
けでなく、一部の単位、例えば、章や節などの単位での販売も可
能であるといいます。いわば本のバラ売りです。
 2については、図書館に行かなくても本を選んだり、中身を全
文検索で読むことができるのです。現在、日本の図書館では本の
著者やタイトル、その予約状況などは外部から検索できるように
なっていますが、全文検索はできません。それが米国ではできる
わけです。
 3については、本の全文検索などで本のページを表示したさい
に広告を挿入できるというものです。グーグルの収入源はこうし
た広告であり、いかにもグーグルらしいといえます。
 以上が和解案でグーグルができるようになったことのすべてで
す。実はここにもうひとつの仕掛があるのです。グーグルがデジ
タルテキスト化した本には、絶版本だけでなく、現在も書店で販
売されている本も含まれているのです。
 グーグルはそういう本の権利者にすべてに対し、次の提案をし
ているのです。和解の受け入れを促しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.和解を受け入れない
 2.和解を受け入れる場合、グーグルがブック検索のビジネス
   によって得る収益のうち、63%は受け取る。
               ──佐々木俊尚著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この場合、「和解を受け入れない」とした場合でも、グーグル
がフェアユースとして裁判所に認められたこと──本の情報や数
行の抜粋で本全体の20%を超えない範囲の表示は行われること
になります。
 これについては、米国の出版業界やアマゾンから「すべての本
の利益配分のプラットフォームがグーグルに握られる」として、
批判が出たのです。とくにアマゾンは、マイクロソフト、ヤフー
などと連合してオープンブックアライアンス──ОBAという団
体を立ち上げて、グーグルを牽制したのです。
 もうひとつ、この和解案には問題があったのです。著作物に関
しては「ベルヌ条約」という国際条約があるのです。これは、あ
る国で書かれた本が海賊版として海外に出回るのを防ぐためにで
きた国際条約であり、この条約を批准したすべての国に適用され
るのです。
 ということは、この和解案はベルヌ条約批准国すべてに及ぶこ
とになります。もちろん日本も批准しているので、日本の書籍に
関しても当然及ぶのです。
 まさに黒船来襲です。今まで本のデジタル化に積極的でなかっ
た日本の出版業界は、上を下への大騒動になったのです。グーグ
ルに対する怒りのボルテージは、これによって大きく高まったの
です。しかし、ネットが普及すればこういう事態はいずれ訪れる
ことは予測できたはずです。  ──[メディア覇権戦争/21]


≪画像および関連情報≫
 ●修正された和解案/2009年
  ―――――――――――――――――――――――――――
  各国からの反発に驚いたグーグルとアメリカの出版業界は、
  09年11月になって和解案を修正しました。和解の対象を
  アメリカとイギリス、オーストラリア、カナダの英語圏4ヶ
  国に限定する。そして、売上の一部は著作権料の支払先のわ
  からなくなっている書き手の捜索にあてる。また絶版本につ
  いては、グーグル以外の企業も販売できるようにする。
                     ──佐々木俊尚著
  『電子書籍の衝撃/本はいかに崩壊し、いかに復活するか』
                 ディスカヴァー携書048
  ―――――――――――――――――――――――――――

ベルリンにおける本のオブジェ.jpg
ベルリンにおける本のオブジェ
posted by 平野 浩 at 04:09| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月24日

●「国会図書館から書籍のデジタル化は進む」(EJ第2883号)

 グーグルの和解案は、ベルヌ条約批准国に強い反発を招いたこ
とにより、見直され、2009年11月に和解修正案が仮承認を
受けたので、それによると、適用国が米国、英国、オーストラリ
ア、カナダの英語圏4ヶ国に限定されたのです。
 これによって日本の出版界は一息ついたのですが、それはきわ
めて甘い判断であったというべきです。なぜなら、紙の書籍のデ
ジタル化の流れは今まで少しずつ動いていたのですが、一度本格
的に動き出してしまうと、もう誰にも止められない奔流となって
世界中を席巻しつつあるからです。
 この2009年という年は、電子書籍の世界でも、政治の世界
でも大きな変化の起きる前触れの年となったのです。いうまでも
なく政治の世界では、2009年8月の衆議院選で民主党が自民
党を破り、政権交代が実現しています。
 こういう政治の動きとも関連して、日本国内において日本の出
版社や著者にグーグル問題よりもはるかに影響力の大きいあるプ
ロジェクトの動きが知られることになったのです。
 それは国立国会図書館蔵書のデジタル化の問題です。実はこの
作業は年に1億円程度の予算で、今まで少しずつ進められてきた
のです。そして2009年の時点で、明治大正期刊行図書14万
8000冊、江戸期以前の古典籍資料1000冊がデジタルデー
タ化され、図書館館内の端末で閲覧に供されていたのです。
 それが一般に知られることになったきっかけはリーマンショッ
クに対応する麻生内閣の2009年の補正予算において、従来の
100年分に相当する127億円が蔵書デジタル化予算として付
けられることになり、それが話題になったのです。
 その後民主党に政権が移り、この予算は見直しされたのですが
そのまま満額承認されています。これによって、デジタル化され
るのは、古典籍資料10万冊、戦前期刊行雑誌2万7000冊、
学位論文1万5000冊に加えて、1968年までに刊行された
図書を含めた75万4000冊に及ぶのです。
 重要なことは、これに伴い、著作権法が改正されたことです。
もともと図書館においては、資料の保存のための複製は認められ
ていたのですが、2009年の改正では、国会図書館に限定して
複製の範囲が拡大されています。その目的は「原本を利用される
ことによる滅失、損傷または汚損を避けるため」とはされていま
すが、今回の改正では「原本に代えて公衆の利用に供するため」
と記述されているのです。
 さらに、この改正案が国会で可決されたときに「その有効な活
用を図ること」という附帯決議が付いているのです。多額の税金
を注ぎ込んで、デジタル化する以上、これらのデータを広く国民
に提供するのは当然のことです。日本には納本制度というものが
あります。納本制度とは、次のような制度です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 納本制度は一国において、その国で流通された全ての出版物が
 図書館などの指定された機関に義務的に納入されることを目的
 とする制度のことである。納本制度により出版物の納本を受け
 る権利を有する図書館を納本図書館といい、特に法律によって
 定められた納本制度は法定納本あるいは義務納本と呼ばれる。
                    ──ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 国立国会図書館は納本図書館に指定されています。国会図書館
にはすべての書籍が集められるのです。したがって、そのデジタ
ル化は書籍の電子化そのものです。
 近い将来、電子書籍が普及し、日本の書籍や雑誌がすべてデジ
タル化され、そのデジタルデータが国会図書館に納本されるよう
になるはずです。そうなると、それらの書籍を図書館に足を運び
館内の端末でしか見られないのでは不便です。そこで、必ずイン
ターネットを通じた館外閲覧の要望が出てくるはずです。つまり
グーグルが提起したのと同じ問題が、日本国内に生じてくること
になるのです。
 紙の書籍の時代から、出版市場と図書館は、ある面では対立し
ある面では依存する関係だったのです。それは無料と有料のはざ
まで生まれる対立です。
 図書館の本の閲覧は無料であり、それは基本原則です。その一
方で図書館は利用者数を増やしたいのです。したがって、図書館
は、現在話題になっている書籍や売れている書籍を複数部購入し
て貸し出しています。これに対して出版社は、その分だけ本が売
れなくなると抗議するのです。
 しかし、無料で借りられますが、けっして読みたいときに読め
るわけではないのです。村上春樹さんの『IQ84』(新潮社)
などの貸出予約は2年分もあるのです。しかし、これがデジタル
化されると、予約する必要はなく、いつでも何人でも、館外閲覧
が可能になります。
 こういう場合は、読者の利益を中心に考えると、その道筋が見
えてきます。ポット出版の沢辺均氏は、グーグルの和解案を歓迎
して次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 すべての人が、書籍の書誌情報(タイトル・著者名など)だけ
 でなく、その全文にたいして一定の言葉の存在を検索できるこ
 とは、その人にとって有用な書籍を『発見』する手だてを格段
 に増やし、そのことで、社会全体でさまざまな知の共有が前進
 すると思う。              ──佐々木俊尚著
  『電子書籍の衝撃/本はいかに崩壊し、いかに復活するか』
                 ディスカヴァー携書048
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、ネット検索で書籍・雑誌を含めて全文検索ができるよう
になると、読者の利便性が一挙に高まり、書籍データが有用の知
として、生かされることになります。実はグーグルが、最初から
狙っていたのはこれなのです。電子書籍元年といわれる2010
年、それは確実に前進します。 ──[メディア覇権戦争/22]


≪画像および関連情報≫
 ●「産経ニュース」/2010.8.16
  ―――――――――――――――――――――――――――
  電子書籍の利活用に注目が集まるなか、国立国会図書館は、
  電子書籍からの文字データの抽出や全文検索する際の技術的
  課題を探る実証実験を行うと発表した。来年1月までに実験
  用システムを構築し、2、3月に実験を実施、結果を取りま
  とめる予定。デジタル出版(DTP)データから文字情報を
  抽出し、規格の共通化を行うほか、実験用システムを使って
  書籍の全文検索を行うなどの実験を想定している。同館では
  書籍データの提供などで実験に協力する出版社や印刷会社を
  募集している。
  ―――――――――――――――――――――――――――

国立国会図書館/東京本館.jpg
国立国会図書館/東京本館
posted by 平野 浩 at 04:09| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月25日

●「ドイツの出版界はどう対応しているか」(EJ第2884号)

 ここでドイツの動きを見てみたいと思います。なぜ、ドイツな
のかというと、ドイツは日本と同様に出版社が新刊書籍の再販売
価格を拘束できる国であるからです。
 しかし、ドイツは日本と違って、不況や少子化の影響にもかか
わらず、年々少しずつではあるが、書籍の売り上げを伸ばしてお
り、2008年は前年比で0・4%成長しているのです。
 2008年度のドイツの書籍売り上げは、約96・6億ユーロ
──1兆3137億円(1ユーロ=136円)ですが、その内訳
は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 新書店/専門書店   ・・・・ 52.6%(−1.0%)
 出版社直系      ・・・・ 18.2%(+0.2%)
 古書店/その他    ・・・・  9.2%(+0.1%)
 カタログ・ネット通販 ・・・・ 14.0%(+1.4%)
 読書クラブ      ・・・・  2.9%(−1.0%)
 デパート・小売店   ・・・・  3.0%(−0.7%)
             ──「週刊東洋経済」7/3より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中で注目されるのは、「カタログ・ネット通販」のシェア
が14%と大きく伸びていることです。そのため、2008年に
は4400店あった書店は4000店に減少しています。
 2009年に開催された「フランクフルト書籍見本市」におい
て、世界のメディア関係者に行った調査によると、回答者の50
%が次の結論を共有していることがわかったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪デジタル化展開は、出版界の紙媒体をどう変えるか≫
 2018年には電子出版物の売り上げは紙の書籍を上回る。も
 はや電子書籍化は避けられないとの認識は世界の出版界を支配
 している。
―――――――――――――――――――――――――――――
 冒頭に、「出版社が新刊書籍の再販売価格を拘束できる国」と
書きましたが、ドイツは日本とはかなり制度内容が違うのです。
 ドイツでは、書籍の価格は出版社が決め、書籍は卸売りや出版
社の配本に携わる会社──取次会社を通して書店に販売されるの
です。これは日本と同じですが、書籍は書店の買い取り制であり
返品できる書籍は出版社との契約によって定められた範囲内のも
のに限られるのです。したがって、ドイツ図書流通連盟の調査に
よると、返品率は次のとおりであり、10%以下なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       2005年 ・・・・・ 6.8%
       2006年 ・・・・・ 7.2%
―――――――――――――――――――――――――――――
 書籍の価格は出版社が決定するのですが、書籍価格拘束保護法
に基づき、価格の全国統一が求められているのです。この法律は
小規模書店の保護に配慮しているのです。
 ドイツでは、新刊書籍については定価で売るという価格拘束が
あるのですが、書籍価格拘束保護法によると、18ヵ月以上前に
発行された書籍の価格拘束を終了させることができるのです。
 売れ行きの良くない本や出版から相当時間が経過している本に
ついては、18ヵ月が経過していれば、書店の判断で価格を落と
して廉価本として販売できるのです。ここが日本の場合と大きく
異なる点です。
 しかし、電子書籍の波は予想よりも早くドイツに押し寄せたの
です。ドイツ連邦統計局の5月末の推定によると、アイパッドな
どのタブレット型PCは、今年50万台の売り上げを達成すると
しています。これに対してドイツ連邦政府は、電子書籍端末にお
いても紙の書籍と同様に、著作権を守り、新刊書籍の再販売価格
拘束を維持する姿勢をとっています。
 それに、ドイツ出版界では、アップルに対するアレルギーがあ
るのです。2009年11月のことですが、アップルがドイツの
週刊誌「シュターン」のアイフォーンアプリをアップストアから
突然削除したのです。その理由についてアップルは、ヌード写真
が多過ぎるため、アップルの規範に触れたといっており、事実で
あれば当然と思われる理由です。
 しかし、これに対してドイツの出版団体VZDがアップルに抗
議したのです。このことから、出版社が主体的に運営できるプラ
ットフォームが必要であるという動きが強まったのです。
 この騒ぎの中で、ベルリンに本社を置くベンチャー企業「ネオ
フォニー」のCEО、ヘルムート・ホーファー・フォン・アンカ
ースホフェン氏は、「ウィタブ」というアンドロイド端末を発表
したのです。といっても端末を売るのがメインのビジネスではな
く、電子書籍を含めて、アップルのようなビジネスを目指してい
るというのです。
 「ウィタブ」はアイパッドより少し大ぶりの端末であり、価格
は449〜569ユーロ──1ユーロ=136円とすると、3・
3万円〜7・5万円と少し高めです。
 ウィタブを使うシステムとしては、電子書籍の価格は出版社が
決定し、書籍を購入する人は、出版社から割引価格でウィタブが
購入できるプログラムが用意されています。ウィタブは2010
年9月19日からドイツでは発売される予定ですが、国外への発
売は来年以降になるといっています。
 既に人気月刊誌「ゲオ」、週刊誌「スターン」、「ガラ」を発
行する大手出版社のグルナー・ヤー、欧州最大部数の新聞ビルト
を発行するアクセル・シュプリンガー、スイスのリグニアー出版
など、代表的な出版社との提携を計画しているといいます。
 といっても、ウィタブによってアイパッドを打倒し、欧州から
駆逐することは考えておらず、新聞や雑誌をPCやスマートフォ
ンで、読みやすくするソフト「ウィマガジン」を普及させること
に重点を絞っているといわれます。果たしてドイツ人はウィタブ
を選ぶかどうか注目されます。 ──[メディア覇権戦争/23]


≪画像および関連情報≫
 ●フランクフルト書籍フェアについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  フランクフルト・ブックフェアは500年以上の歴史を有す
  る見本市である。15世紀半ばにヨハネス・グーテンベルク
  がマインツで活版印刷を発明したさほど経たない時期に、す
  ぐ近くのフランクフルトで地元の書籍商らによって最初の本
  の市が開かれた。この市は17世紀末までヨーロッパでもっ
  とも重要な本の見本市となってきたが、政治的・文化的要因
  により18の啓蒙時代にはライプツィヒの書籍見本市がより
  重要となり、フランクフルトの地位を奪った。第2次世界大
  戦後、1949年にパウルス教会で戦後最初の書籍見本市が
  再開された。その後、出版都市ライプツィヒが東ドイツ側に
  なったこともあり、西ドイツ側のフランクフルトがヨーロッ
  パ最大の書籍見本市の地位に返り咲いている。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

フランクフルト書籍見本市会場.jpg
フランクフルト書籍見本市会場
posted by 平野 浩 at 04:13| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月26日

●「プラットフォーム企業の世界支配」(EJ第2885号)

 このところ、書店とCDショップが相次いで閉店し、姿を消し
ています。なかでも、この8月22日に大型CDショップHMV
渋谷店が閉店したのは大きな話題を呼んだものです。
 HMV渋谷店は、日本の第1号店として、1990年に開店し
1998年に渋谷のセンター街に移転したのです。同店はHMV
中最大の店舗で、「渋谷系」と呼ばれる音楽などの情報発信で、
一世を風靡したものです。私は、N響の定期コンサートがあると
きは必ず行くことにしているCDショップだったのです。
 しかし、国内の音楽ソフト市場は皮肉にもHMVが渋谷に店舗
を移した1998年をピークに減少に転じ、音楽ソフトの生産額
は、2009年に3165億円と11年連続で前年を下回ってい
るのです。
 なぜ、このような事態になったのでしょうか。
 それは音楽の聴き方が変化したからです。iPodに代表され
る携帯音楽プレーヤーが普及し、それに対するネット配信が急速
に発達して、主要顧客だった若年層のCD離れが止まらず、CD
ショップの経営環境が悪化し続けているのです。
 同じことが書店でも起こりつつあります。書店も次々と姿を消
しているからです。しかし、日本ではまだ本の読み方はほとんど
変わっていないのです。ところが、iPadの普及やキンドルが
日本語対応をすると、日本人の本の読み方も一変するはずです。
そうなると、書店はもっと少なくなるでしょう。
 今回のテーマの3回目に「ネットサービスの4つのレイヤー」
について説明しました。再現しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.コンテンツ/アプリケーション
      2.プラットフォーム
      3.インフラ
      4.端末
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、ネット上のビジネスやサービスの構造をあらわしてい
るのです。われわれがネットに接続している間は、これら4つの
レイヤーが提供するサービスをすべて受けていることになるので
すが、一番世話になるのはプラットフォーム・レイヤーです。
 なぜなら、プラットフォーム・レイヤーは、情報空間の入口に
当たるからです。そして、このレイヤーがほとんど利益を一人占
めにしているのです。
 ところで、世界の先進国における日本車の割合は、どのくらい
かご存知でしょうか。2005年のデータでは、次のようになっ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      米国 ・・・・・・・・・・ 41.2%
      英国 ・・・・・・・・・・ 17.8%
     ドイツ ・・・・・・・・・・ 11.6%
    フランス ・・・・・・・・・・  8.7%
              ──日本自動車工業会/2005
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本車の最大のお得意様である米国でも、そのシェアは41%
です。しかし、ネット上のプラットフォーム・レイヤーである米
国企業のシェアはどうかというと、とんでもないことになってい
るのです。それでは、日本の場合は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ヤフー     ・・・・・ 51.3%
     グーグル    ・・・・・ 38.2%
     マイクロソフト ・・・・・  1.7%
     アマゾン    ・・・・・  1.0%
     エキサイト   ・・・・・  0.8%
            ──岸 博幸著/幻冬舎新書/156
 『ネット帝国主義と日本の敗北/搾取されるカネと文化』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の場合、ヤフー・ジャパンは米国発のサービスですが、日
本企業が筆頭株主であるので、自国企業がトップを占める特異な
ケースですが、このたび検索エンジンをグーグルに一本化したの
で、他のプラットフォーム・レーヤー企業を加えると、92%の
シェアになるのです。完全に米国の企業に支配されています。
 同様に、英国、ドイツ、フランスのこの分野の米国企業のシェ
アは次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      英国 ・・・・・ 93.7%
     ドイツ ・・・・・ 90.4%
    フランス ・・・・・ 90.5%
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本を含む先進国におけるプラットフォーム・レイヤーが米国
企業にほぼ完全に独占されていることは異常であるといえます。
問題なのは、これを異常と感じず、ごく当たり前のことと受け止
めてしまう姿勢です。
 仮に米国のネット企業の検索サービスを使ってさまざまなサイ
トを訪れているとすると、その行動履歴はすべて把握され、記録
されているのです。したがって、それらの行動履歴がマーケティ
ングの有用なデータとして販売される可能性もあるのです。
 さらに現在流行しているクラウド・コンピューティングを利用
する場合は、多くの情報をサーバーに丸ごと預けることになるの
で、一層リスクが高くなります。メールのやりとりをはじめ、す
べての情報が他に利用されない保証はないのです。
 そのように考えると、中国における当局とグーグルの諍いは別
の意味をもってくると思います。最近では、個人情報をネットに
書き込む場合は、そのプライバシー・ポリシィがどのように保護
されるのか、単なる言葉だけの約束ではなく、そのシステムまで
含めてチェックする必要があります。少なくとも企業はそうすべ
きです。           ──[メディア覇権戦争/24]


≪画像および関連情報≫
 ●米ニュー・ヨーカー記者/ケン・オーレッタの意見
  ―――――――――――――――――――――――――――
  検索の形態そのものが変わる可能性もある。「マハロ」のよ
  うなエキスパート型検索が台頭してくるかもしれない。嵐の
  ような数の検索結果に襲われるのではなく、数は少ないけれ
  ども短く簡潔にまとめられた専門家の意見などが得られるほ
  うが、使い勝手がいい場合があるからだ。もう一つが「ツイ
  ッター」「フェイスブック」の台頭。自分たちの伸問、信頼
  している人物に尋ねる方向に検索の軸足が移りつつある可能
  性もある。こうしたSNSは、グーグルが苦手としている領
  域である。       ──『週刊東洋経済』7/3より
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図出典/      ──岸 博幸著/幻冬舎新書/156
 『ネット帝国主義と日本の敗北/搾取されるカネと文化』より

ネットレイヤーの構造.jpg
ネットレイヤーの構造
posted by 平野 浩 at 04:07| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月27日

●「米国による情報支配の現実」(EJ第2886号)

 グーグルやアマゾンなどの米国のプラットフォーム・レイヤー
企業が各国のシェアを独占しています。日本をはじめ米国以外の
先進国は、この分野での競争には完全に遅れをとっています。こ
のまま行くと、何が問題になるでしょうか。
 慶応義塾大学教授の岸博幸氏は、米国のプラットフォーム・レ
イヤー企業による市場独占によって、次の3つの問題点を指摘し
ています。今週から来週にかけて検討して行きます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.米国による世界情報支配が強まる
      2.米国のソフトパワーが強化される
      3.米国の世界ネット広告市場の制覇
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は「米国による世界情報支配が強まる」ことです。
 ネットというのは情報の流通経路ですが、その中核はプラット
フォーム・レイヤーです。これは、情報を蓄積・加工・提供する
レイヤーですが、ここを米国企業に牛耳られつつあるのです。こ
れについてとくに日本人は何ら危機感を持っていないのです。
 「情報を米国に見られる」リスクについて考えたことがあるで
しょうか。典型的なものに、プラットフォーム・レイヤーが提供
するフリー・ツールがあります。ホットメール、Gメール、それ
に無料のビジネス・アプリケーションなど、これらを利用してい
る人はきわめて多数に上ります。
 しかし、それらのデータを蓄積しているサーバーが米国内にあ
るとき、それらのデータを米国で誰かに見られる可能性はけっし
てゼロではないのです。
 もちろん、それらのデータは一応守秘義務に守られています。
しかし、それは絶対的なものではないのです。既出の岸博幸氏は
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もちろん契約上は守秘義務などが書かれていて、情報のセキュ
 リティ確保が明示されているはずです。しかし、紙の上の文言
 を文字通り信じてしまうのは、ちょっとナイーブ過ぎるのでは
 ないでしょうか。(中略)性悪説や米国不信が過ぎる考え方か
 もしれませんが、個人的には、情報という点 に関しては米国
 は怖い国であると思っています。もしあなたや あなたの企業
 が米国に目を付けられたら、あなたが米国のネット企業のサー
 バーに預けている情報は、決して安全ではないと考えるべきで
 す。         ──岸 博幸著/幻冬舎新書/156
 『ネット帝国主義と日本の敗北/搾取されるカネと文化』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 「米国愛国者法」という法律が米国にあります。2001年9
月11日の米国同時多発テロ事件後45日間で成立し、米国内外
のテロリズムと戦うことを目的として、政府当局に対して権限を
大幅に拡大させた法律です。
 それまでの米国の法律では、当局が通信傍受できる対象にネッ
トが入っていなかったので、それが改正され、ネット上の情報の
収集についても大幅に当局の権限が拡大されています。
 これにより、電子メールも傍受の対象に入り、それにCATV
回線を使った通信も傍受できるのです。その他、医療情報、金融
情報や他の記録についても調査できる権限が与えられています。
 また、FBIがネット・サービス・プロバイダに対して個人情
報の提出を求める場合でも、プロバイダの同意が得られれば、裁
判所の関与なく捜査できるようになっています。
 この場合、ネット・サービス・プロバイダの定義が曖昧である
ので、それを拡大解釈して、プラットフォーム・レイヤー企業に
対しても、サーバーにストックされている情報を見ることが可能
であるといえます。
 要はテロと戦うという建前があれば、米国内にあるどのような
情報も当局が見ることは可能なのです。これは、国防という観点
からも放置できない問題であるといえます。
 重要なことは、日本は遅まきながらも、国内のプラットフォー
ム・レイヤー企業を育てる努力をするべきです。そういう意味で
日本の場合、ヤフー・ジャパンは51・3%のシェアを有する日
本企業です。これは世界でも例のないことです。
 といっても、米ヤフーとの関連で純粋な日本企業かどうかはっ
きりしない点があったのですが、今回ヤフー・ジャパンが、検索
エンジンを米ヤフーからグーグルに切り替えたことによって、ヤ
フー・ジャパン自身の立ち位置をはっきりさせたことになるとい
えるのです。
 なぜ、ヤフー・ジャパンが米ヤフーの提供する検索エンジンを
採用しなかったのには理由があるのです。米ヤフーはこれまで自
前の検索エンジンの開発を進めてきたのですが、昨年の夏に自前
の開発を断念し、マイクロソフトの検索エンジン「ビング」に切
り替える方針を固めたのです。そうすると、ヤフー・ジャパンに
も「ビング」が提供されることになります。
 ヤフー・ジャパンはこれを嫌ったのです。どうしてかというと
マイクロソフトのビングは開発の歴史が浅く、とくに日本語の検
索と広告配信の性能と処理能力が低いからです。そこでグーグル
に相談を持ちかけたのです。
 グーグルの立場に立つと、ヤフー・ジャパンの申し出を断る方
が戦略的にプラスだったといえます。なぜなら、ビング採用によ
って、ヤフー・ジャパンの検索の精度が下がり、多数の広告がヤ
フー・ジャパンからグーグルに移り、日本の51・3%のシェア
は切り崩されてしまうからです。
 しかし、グーグルはあえて供給に応じたのです。それは、長期
的かつ世界的な検索エンジンを巡る覇権競争が背景にあるからで
す。もし、日米のヤフーがビングになったら、大量の検索処理実
績をベースにビングの処理能力が向上することは間違いないから
です。したがってこれは、日本の唯一の砦であるヤフー・ジャパ
ンの防衛に寄与するのです。  ──[メディア覇権戦争/25]


≪画像および関連情報≫
 ●マイクロソフト「ビング」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米国時間2009年5月28日に、マイクロソフトは新しい
  検索エンジン「Bing(ビング)」を発表しました。元々、コ
  ードネーム「Kumo」という名前で開発されていたましたが、
  「Bing(ビング)」という名前に決まったようです。マイク
  ロソフトとしては、当然、グーグルと差別化する必要があり
  ますが、その差別化として「検索エンジン」ではなく、「意
  思決定エンジン」というコンセプトを挙げています。
   http://www.nextglobaljungle.com/2009/06/bing.php
  ―――――――――――――――――――――――――――

岸 博幸氏.jpg
岸 博幸氏
posted by 平野 浩 at 04:10| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月30日

●「ソフトパワーという米国の国家戦略」(EJ第2887号)

 アマゾンやグーグルなどの米国のプラットフォーム・レイヤー
企業のネットの独占による3つの問題点を再現します。前回、1
の検討が終ったので、今回は「2」について考えます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.米国による世界情報支配が強まる
   →  2.米国のソフトパワーが強化される
      3.米国の世界ネット広告市場の制覇
―――――――――――――――――――――――――――――
 第2は「米国のソフトパワーが強化される」ことです。
 「ソフトパワー」とは何でしょうか。
 国際政治の世界には、ハードパワーとソフトパワーという2つ
の概念があるのです。ハードパワーとは、相手の国を力で押し倒
す力のことであり、武力や経済力はハードパワーに属します。米
国はこのハードパワーで世界一の国家なのです。
 これに対してソフトパワーとは、周りの国を自国のファンや味
方にすることによって、国際合意の形成などで優位なポジション
に立つという、相手の国を引き込む力を意味しています。文化な
どはソフトパワーということになります。米国は21世紀になっ
てから意識的にソフトパワーを国家戦略として唱えるようになっ
ているのです。
 なぜ、米国国内において、ソフトパワーという考え方が唱えら
れたかというと、ブッシュ政権以降のアメリカの中東政策による
国際的な批判の高まりが原因なのです。
 とくにイラクの戦後統治などにおいて行った一連の政策が、圧
倒的な軍事力を背景にした強硬なものであるという国際社会から
の批判や、中東やイスラム圏を中心とした反米感情の広がり、ま
たそれを背景にしたテロリズムの頻発やその被害が拡大するなか
で、その事態の打開のための手法としてソフトパワーが提唱され
るようになったのです。
 ソフトパワーという概念を提唱したのは、クリントン政権下に
おいて国家安全保障会議議長や国防次官補を歴任した米ハーバー
ド大学大学院教授のジョセフ・ナイ氏です。ジョセフ・ナイ氏は
このソフトパワーによる対外政策の重要性を説く上でブッシュ政
権や政権の中枢を占めた、いわゆるネオコンという勢力に対し、
客観的に評価または批判をし、軍事力や経済力など強制力の伴う
ハードパワーにのみ依存するのではなく、アメリカの有するソフ
トパワーを活かすことの重要性を唱えたのです。
 さらに、ジョセフ・ナイ氏は、このソフトパワーをハードパワ
ーと相互に駆使することによって、国際社会の支持を獲得し、グ
ローバル化や情報革命の進む国際社会において真の国力を発揮し
得ると説いています。
 このソフトパワーについて、既出の岸博幸氏は、次のように述
べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ハードパワーは強くないけれど、ソフトパワーが強い国の典型
 例はイタリアだと思います。GDPは世界第7位で欧州の中で
 は英独仏より下位と、経済力は他の先進国ほど強くありません
 が、ローマ文明やルネッサンス文化の発祥の地、食文化の高さ
 など、文化の力が高く評価されているので、重要な先進国の一
 つとして認知され続けています。経済力がこれから低下する日
 本が目指すべきは、イタリアのようにソフトパワーが強い国で
 はないでしょうか。  ──岸 博幸著/幻冬舎新書/156
 『ネット帝国主義と日本の敗北/搾取されるカネと文化』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、PCを使う人で、マイクロソフトやグーグルなどの名前
を知らない人はいないし、本に興味のある人でアマゾンの名前を
聞いたことがない人はいないと思うのです。
 マイクロソフトのОSのウインドウズ、検索エンジンのグーグ
ル、ネット上の書店や電子書籍のアマゾン、アイフォーン、アイ
パッドのアップル──毎日使うものであり、いつも耳にしている
と、そこに何らかの近親感が湧いてくるもの、これこそソフトパ
ワーそのものです。
 ジョセフ・ナイ氏は、ソフトパワーの管理に関し、次のように
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 重要なことはソフトパワーは国家により管理できない。軍事力
 や経済力などのハードパワーと異なり、ソフトパワーは、部分
 的に政府の目標に影響しているに過ぎないし、そもそも自由な
 社会において国家がソフトパワーを管理することがあってはな
 らない。             ──ジョセフ・ナイ教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ソフトパワーといえども国家戦略なのです。米国に愛
国者法がある限り、プラットフォーム企業に個人情報を預けるの
は、そこに大きなリスクが生じないとは限らないのです。
 世界で5億人を超える会員を有するSNSのフェイスブックは
サイトの利用量で、既にグーグルを追い抜いているのです。この
フェイスブックは、2009年にSNSの信頼を揺るがす大事件
を起こしているのです。
 フェイスブックは、ほとんどのユーザーが気がつかないままに
プライバシーポリシーを変更してしまったのです。自分で設定し
直さない限り、メンバー以外の第三者にもプライバシー情報を開
示できるよう改変したのです。また、フェイスブックが、メンバ
ーの個人情報を広告主に「売る」ことで利益を得ていたことも発
覚しています。ユーザーがフェイスブック上の広告をクリックし
たさい、ユーザーの同意を得ないまま、広告主にユーザー名やI
D番号がわたっていたのです。
 米国の有名企業で、しかも「無料」ということはひとつのワナ
でもあるのです。ナイ教授は国家は管理できないといいますが、
それがソフトパワーという国家戦略である以上、利用者は慎重に
なるべきです。        ──[メディア覇権戦争/26]


≪画像および関連情報≫
 ●「ソフトパワー」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1、ハーバード大学教授ジョセフ・ナイが国際政治における
  ソフト・パワーの重要性を強調した後、軍事力や経済力とい
  うハード・パワーを国際情勢の決定的な要因とする見方に対
  して、ソフト・パワーを重視すべきであるとの論が出てきて
  いる。文化や制度の魅力が国際情勢に与える影響を無視すべ
  きではないことは当然である。しかしそれを過大に評価する
  と、逆の間違った判断に陥る危険がある。
  2、ある国の文化や制度に興味を持った場合、人はその国の
  言語を学ぼうとすることが多い。言葉を理解しないで、文化
  を理解することは(音楽や絵画は別だが)一般的にいって難
  しい。文化のなかで言語の占める位置はかなり重要なのでは
  ないかと思われる。その意味で、ある文化の魅力とその文化
  の言語への関心はある程度連動している。
 http://blogs.yahoo.co.jp/kokusaijoho_center/21088652.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジョセフ・ナイ教授.jpg
ジョセフ・ナイ教授
posted by 平野 浩 at 04:11| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月31日

●「広告費のネットシフトは何をもたらすか」(EJ第2888号)

 米国のプラットフム・レイヤー企業によるネット独占による3
つの問題点の「3」について今回は考えます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.米国による世界情報支配が強まる
      2.米国のソフトパワーが強化される
   →  3.米国の世界ネット広告市場の制覇
―――――――――――――――――――――――――――――
 第3は「米国の世界ネット広告市場の制覇」──ビジネスの問
題です。
 広告費が従来のマスメディア──新聞やテレビなど──から、
ネットへシフトしていることはビジネスパーソンであれば、誰で
も知っていることです。しかし、そういう流れは認めていても、
米国や日本の現状を見る限り、まだまだと思っている人が多いと
思います。
 米国の場合を考えてみましょう。米国ではまだマスメディアの
力は強いのです。日本も同じ状況です。2009年の広告市場全
体に占めるシェアは次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       テレビ ・・・・・ 30.1%
       新聞  ・・・・・ 14.6%
       ネット ・・・・・ 12.2%
            ──岸 博幸著/幻冬舎新書/156
 『ネット帝国主義と日本の敗北/搾取されるカネと文化』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、英国では急激な変化が起こっています。2006年に
既にネット広告は新聞広告を追い抜き、2009年前半にはテレ
ビ広告を上回っているのです。米国も日本も時間の問題で、必ず
そうなることは間違いないと思われます。
 さて、ネット広告の分類の方法はいろいろありますが、ウェブ
サイト上に載せる広告が主流で、次の2つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.バナー広告
           2.PPC広告
―――――――――――――――――――――――――――――
 「バナー広告」というのは、ウェブページ上に、画像やテキス
トを貼り付けるタイプのインターネット広告のことです。もとも
と、ウェブページ上に貼り付けるプレート状のボタンをバナーと
呼んだのですが、現在では画像や動画タイプのものまで含めてバ
ナー広告と呼んでいます。
 これに対して「PPC広告/pay per click」 は、検索連動広
告のことです。検索結果画面に広告が表示されても、ユーザーが
その広告をクリックしなければ広告料が課されることがないとい
う意味で「ペイ・パー・クリック」と呼ばれるのです。
 最近バナー広告として流行っているのは「ディスプレイ広告」
といわれるものです。これは、フラッシュ技術などによるアニメ
ーションや動画のストリーミング配信によるテレビCMのような
広告をいいます。
 米国の2010年第1四半期のディスプレイ広告に関する調査
結果によると、期間中のディスプレイ広告表示回数(インプレッ
ション)は、1兆1千億回に上り、売上高は前年同期比15%増
の27億ドルを記録しています。
 このディスプレイ広告のサイト別の表示回数の「トップ10」
は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
                  表示回数    シェア
  1.フェイスブック     176307  16・2%
  2.ヤフーサイト      131555  12・1%
  3.マイクロソフトサイト   60187   5・5%
  4.フォックス        53823   4・9%
  5.AOL          32100   2・9%
  6.グーグルサイト      25852   2・4%
  7.ターナーネットワーク   15685   1・4%
  8.グラムメディア       7819   0・7%
  9.イーベイ          7483   0・7%
 10.ダッグドコム        6804   0・6%
 ネット全体         1089732   100%
              ──註/表示回数単位は:百万回
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1005/14/news061.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 注目すべきは、ディスプレイ広告のサイト別のトップが米フェ
イスブックであることです。表示回数は1763億700万件で
あり、それまでのトップであったヤフーサイト1314億550
万件を抜き去ったのです。
 検索連動広告はいうまでもなく、グーグルをはじめとする米国
のプラット・フォーム・レイヤー企業に握られており、バナー広
告についても同様です。これは、世界の広告ビジネスのなかで、
もっとも成長性の高いネット広告市場を米国のプラット・フォー
ム・レイヤー企業によって押さえられることを意味しています。
 アナログ時代のマスメディアは、コンテンツの制作から流通ま
で、自社で一貫して行う垂直統合型のビジネスモデルにおいて、
流通部分を独占することによって、得られた超過利潤をコンテン
ツ制作へ回して、ジャーナリズムを支えるジャーナリストや文化
という社会インフラを育ててきたのです。
 しかし、ネットのプラットフォーム・レイヤーが米企業に押さ
えられると、これまでコンテンツ部門に回されていた利潤の多く
が米国企業に流出してしまうことになります。これは長い間には
その国の文化に影響を与えてくると思います。
 米国のプラットフム・レイヤー企業によるネット独占による3
つの問題点について検討してきましたが、このまま放置できない
問題を含んでいます。     ──[メディア覇権戦争/27]


≪画像および関連情報≫
 ●フェイスブックとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  フェイスブックは、世界最大のSNSである。元々は米国の
  学生向けに作られ、当初は学生のみに限定していたが、20
  06年9月26日以降は一般にも開放され、その後急速にユ
  ーザー数を増やしていった。現在、世界中に5億人を超える
  ユーザーを持つ世界最大のSNSである。そのうち日本国内
  のユーザー数は約100万人。13歳以上でなければ使用で
  きない。              ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

フェースブック創業者/マーク・ザッカーバーグ .jpg
フェースブック創業者/マーク・ザッカーバーグ
posted by 平野 浩 at 04:14| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月01日

●「情報技術に弱い平均的日本人」(EJ第2889号)

 グーグルと中国政府との検索結果検閲問題についてあなたはど
のように考えるでしょうか。
 国民に対して情報の制限を行う姿勢は一党独裁の国ではありう
ることです。しかし、その一方で中国は、グーグルに負けない検
索エンジンを開発しようと努力しています。これは強い国をつく
ろうとすれば当然のことです。
 中国は「百度──バイドゥ」という検索エンジンを開発してい
ますが、これはなかなかの優れものなのだそうです。現在、億人
単位の利用者をカバーできる汎用検索エンジン制作企業としては
次の3社しかないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.グーグル
          2.百度
          3.マイクロソフト
―――――――――――――――――――――――――――――
 グーグルは中国の政府方針に反対し、香港に移動することによ
って、事実上中国の検索市場から撤退したのですが、本音は撤退
したくなかったのです。なぜなら、1億人以上のユーザーをカバ
ーする市場での体験が今後役に立つからです。
 これによって中国の百度は、シェアを70%以上に高めながら
その精度をさらに磨き、日本や他のアジア地域への事業拡大を目
指しているのです。
 そういう姿勢は正しいのです。ヨーロッパの国々は、プラット
フォーム・レイヤーの米国支配に反発し、米国ネット企業の植民
地状態からの脱却を目指しています。
 中でもフランスは、自国の文化と伝統を大事にする国なので、
米国の支配をとくに嫌うのです。そういうわけで、フランスは、
2006年にドイツと共同で、グーグルの覇権を打破することを
目標に国産の検索エンジンを開発する「クエロ」というプロジェ
クトを立ち上げています。
 このプロジェクトは、全体資金の40%を政府、60%を民間
が拠出する方式でスタートしたのですが、その後何があったかは
知りませんが、ドイツが途中で離脱しています。しかし、プロジ
ェクト自体は現在も進んでいるといわれています。
 ところが日本にはそういう危機意識はないないようです。もっ
とも、2007年に経済産業省は、国産の検索エンジン開発プロ
ジェクトを「情報大航海PT」としてスタートさせています。し
かし、巨額な予算を食い潰すだけでまるで進んでいないのです。
おそらく事業仕分けで廃止に追い込まれると思います。
 そういうわけで、日本においては「情報データの空洞化」が一
段と進み、米国への依存度を強めています。軍事で米国へ依存す
るだけでなく、情報技術においてもほとんど完全に米国におんぶ
にだっこの状態です。
 日本では、政府でも企業──とくに大企業の、いわゆるエライ
人は情報技術やシステムについては専門家のやることだとして、
自ら真剣に勉強しようとはしない人が多いのです。したがって、
トップとエンジニアのコミュニケーションが成立しないのです。
 ある大企業のトップは、情報システム部が役員会に提出した事
案について、その内容が専門的過ぎると不満を漏らし、「オレに
わかる案を持ってこい!」と情報システム部長に対して注文をつ
けたそうです。
 コンピュータやシステムの事案は、どうしても内容が専門的に
なりやすいものですが、トップといえどもエンジニアと最低限コ
ミュニケーションが成り立つレベルの常識的な基本知識について
は、勉強しておくべきです。しかし、それができていない人が多
いのは事実です。
 政治家にもそういう人が多いです。首相に就任して以来の菅直
人氏の発言を聞いていると、ITとか、情報システムとか、ネッ
トワークとかいう言葉はいっさい聞こえてこないのです。彼は工
学部出身者ですが、現在の情報技術に関し、どれほどの知識があ
るか疑問です。何しろ鳩山首相もやったツイッターですら、彼は
やろうとはしないからです。
 どうも平均的日本人は、情報技術に弱いようです。しかし、そ
のようなことをしていると、ある日突然日本中のネットが使えな
くなり、次のようなことが起きる可能性があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 テレビをつけてみる。「日本国内から米政府への重大なハッキ
 ングが判明したため、米政府は日本から米本土へのアクセスを
 全面停止した模様です」──アナウンサーが繰り返し緊急ニュ
 ースの文面を読み上げていた。「今入った情報です。米政府は
 愛国者法に基づき、グーグルに日本人ユーザーのGメールデー
 タを一定期間分すべて提出するよう要請。グーグルは応じた模
 様です。         ──『週刊東洋経済』7/3より
―――――――――――――――――――――――――――――
 けっしてあり得ない話ではないのです。日本では現在いわゆる
「クラウドサービス」が大変盛況なのですが、それを支えるデー
タセンターのほとんどが日本にはなく、米国本土にあるのです。
この場合、そのデータはそのサーバーが置かれている国──米国
の法律の管理下にあります。当然のことです。
 上記のストーリーは、日本国内から米政府のシステムに重大な
ハッキングがあったということなので、米政府が業者であるグー
グルに対し、一定期間のデータの提出を米国の法律により、調べ
ることができるのです。
 クラウド・サービスについては明日のEJで述べますが、なぜ
データセンターが日本にないのかについては、理由があります。
それは、法人税や電力の価格、地価にかかるコストが高いことや
データセンターを作るには、建築基準法や消防法などのいろいろ
な法律に抵触するからです。そのため、米国のプラットフォーム
企業は日本を素通りして、シンガポールにデーターセンターを多
く作っているのです。     ──[メディア覇権戦争/28]


≪画像および関連情報≫
 ●フランスノ「クエロ」プロジェクトについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  シラク仏大統領は2006年4月25日、インターネットの
  新検索エンジン「クエロ」の開発など、産業革新庁の6つの
  プロジェクトを発表した。2年間で20億ユーロ(約280
  0億円)を投じる。クエロは米グーグルやヤフーに対抗、文
  字だけでなく音声や映像の膨大なコンテンツ(情報の内容)
  から欲しい情報をネットで容易に探しだせる検索エンジンを
  目指す。            ──「日経ネット」より
  ―――――――――――――――――――――――――――

データーセンターのイメージ.jpg
データーセンターのイメージ
posted by 平野 浩 at 04:08| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月02日

●「情報の扱いに慎重な米国と甘い日本」(EJ第2890号)

 クラウド・コンピューティングについてEJでは、昨年スマー
トフォンを中心に52回にわたって取り上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2009年10月14日〜12月29日までの52回
 http://electronic-journal.seesaa.net/category/7164880-1.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 「クラウド」とは「雲」という意味ですが、もともとは、コン
ピュータシステムを図であらわすときネットワークは雲のかたち
で表現することからきています。
 クラウド・コンピューティングを大別すると、次の3種類に分
類することができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.SaaS/Software as a Service
    2.PaaS/Platform as a Service
    3.IaaS/Infrastructure as a Service
―――――――――――――――――――――――――――――
 「SaaS」とは、ネット経由でソフトウェア機能のうち、ユ
ーザーが必要とするものだけをサービスとして提供し、利用でき
るようにしたソフトウェアの配布形態のことです。
 PCには非常に多くのソフトウェアがインストールされていま
すが、使っているのはそのほんの一部であり、実にもったいない
話です。そこで、ユーザーが使いたいソフトウェアだけをネット
を通じてダウンロードし、それらを使った時間だけ料金を支払う
システムが誕生したのです。それがSaaSです。
 「PaaS」というのは、アプリケーションソフトが稼動する
ためのハードウェアやOSなどの基盤をネット上のサービスとし
て遠隔から利用できるようにしたもので、これは個人が利用する
ものではなく、事業上のモデルです。SaaSを事業として展開
したいとき、その実行環境や課金システムなどの基盤をまとめて
提供してくれるサービスがPaaSです。
 「IaaS」は、企業が業務用のシステムを構築する場合にあ
らゆるものを提供するサービスのことで、「イアース」と呼称し
ます。企業が業務用のシステムを構築するときはいろいろなもの
が必要になります。開発・運用のための事業所や機材、回線、O
Sなどのソフトウェア環境や開発環境などを購入・入手し、これ
らを組み合わせてシステムが稼動するためのインフラを構築・維
持する必要があり、莫大なコストがかかるのです。
 IaaSは、こうした基盤一式を大規模なデータセンターなど
に用意して、仮想化されたサーバーなどのかたちで、顧客企業が
ネットを通じて必要なだけ利用し、利用実績に応じて課金すると
いうサービスのことです。
 このようにクラウドは、企業にとって非常に低コストでサービ
スが受けられるので、多くの企業に利用されています。しかし、
このクラウド・サービスを提供している業者のほとんどは、米国
のプラットフォーム企業なのです。そして、このクラウド・コン
ピューティングの運営には、米国連邦政府の意向が深く関わって
いるのです。
 米国においては、連邦政府がこのサービスを調達する場合、サ
ービスを提供する側が守るべき要件として、米国連邦一般調達庁
(GSA)の「IaaSに関するRFQ」というものがあるので
す。RFQとは、一種の見積書のようなものですが、ここでの意
味は調達基準というべきものです。GSAの調達基準は、次のよ
うなものなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 『IaaSに関するRFQ』──データセンターの施設やハー
 ドウェアが米国本土に置かれていること
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、クラウド・サービスを行うには、多数のサーバーを
設置するデータセンターが不可欠ですが、データセンターの場所
は外国であってはならず、米国本土であることが条件だというの
です。つまり、仮にハワイであってもダメというわけです。
 米国政府は、情報を扱うサービスについては、安全保障の観点
から非常に慎重なのです。クラウド・サービスに関する米国事情
に詳しい既出の岸博幸氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国の州政府や市政府などでもクラウド・コンピューティング
 のサービスを導入する例が増えていますが、例えば2009年
 にカリフォルニアのロサンゼルス市がグーグルの提供するクラ
 ウド・サービスを導入しようとしたときには、プライバシー、
 セキュリティ、情報の機密性の維持の観点から本当に安全なの
 かという議論が地元で高まり、市民団体が市政府にまずリスク
 ・アセスメントをしっかりと行うよう要求しました。ロサンゼ
 ルス市警察署も情報の機密性についての懸念を表明しました。
            ──岸 博幸著/幻冬舎新書/156
 『ネット帝国主義と日本の敗北/搾取されるカネと文化』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、情報の扱いは米国と日本では大きな差があるのです。
日本の場合は、行政や民間は、あまりにもクラウド・コンピュー
ティング・サービスを安易に受け入れてしまっているのです。ま
して、データセンターがどこにあるのかなどほとんど問題になっ
ていないのです。
 これは、平均的日本人がインターネットに関する知識が乏しく
ネットサービスの仕組み自体をよく理解していないケースが多い
のです。したがって、クラウドに不可欠なサーバーがユーザーの
意識の中に明確に存在していないのです。
 現代はインターネットの時代であり、非常に多くの人がネット
を日常的に使っていますが、ネット関する教育はどうなっている
のでしょうか。どこで指導を受けているのでしょうか。専門家は
別として、学校でもきちんとした指導が行われていないことは確
かなのです。         ──[メディア覇権戦争/29]


≪画像および関連情報≫
 ●屋根のない第四世代型データセンター構想/マイクロソフト
  ―――――――――――――――――――――――――――
  サーバやそれを収納するラックのことを考えた場合、最も気
  になるのはその密度。データセンター自体の面積に制限があ
  る以上、可能な限り密度を高めるべく、ブレードサーバやサ
  ーバの仮想化など、様々な方式がこれまで考えられてきまし
  た。が、それらを入れる「建物」から根本的に変えるべきだ
  とマイクロソフトは考えているらしく、なんと、屋根がなく
  工期も短いデータセンターを構想しているようです。これは
  過去30年間にわたるデータセンターの歴史において、一種
  のパラダイム的出来事であるとしています。
  ―――――――――――――――――――――――――――

屋根のないマイクロソフト社データセンター.jpg
屋根のないマイクロソフト社データセンター
posted by 平野 浩 at 04:10| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月03日

●「日本を素通りする米国のデータセンター」(EJ第2891号)

 クラウド・サービスが普及したお陰で、ネットを使ったビジネ
スを行う業者は、膨大な設備投資なしで、ビジネスを行うことが
できるようになっています。
 現在、ソーシャルメディアとして注目を集めるツイッター──
ユーザーが激増しているので、ツイッターに関連するアプリケー
ションソフトの開発も過熱しています。
 ツイッターの携帯電話向けのアプリケーションソフト「モバツ
イ」の開発者、藤川真一氏は、アマゾンの「EC2──エラステ
ィック・コンピュート・クラウド」というレンタルサーバーを駆
使してビジネスを行っています。現在、「モバツイ」は登録者数
が70万人もいますが、たった一人で対応しているのです。
 藤川氏は、通常はサーバー40台の利用契約をアマゾンと交わ
していますが、何かイベントがあって書き込みが急増することが
予想されるときは、PCから操作してサーバーを10台ほど増や
して対応しているそうです。
 まるで、水道の蛇口をひねるように、需要に応じ、自在にコン
ピューティングパワーを利用できるのが、クラウド・サービスの
特徴なのです。何しろ通信環境とPCさえあれば、個人でもベン
チャー企業でも、規模に応じて低廉な料金で使うことができるの
ですから、便利な時代になったものです。
 アマゾンの「EC2」に関して、藤川真一氏は次のように述べ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 EC2は、最も安いレンタルサーバーではないが、これほど臨
 機応変に増減できるものはほかにない。ビジネスのスピードを
 落とさないためには理想的だ。       ──藤川真一氏
                『週刊東洋経済』7/3より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このクラウド・サービスを提供している主役は、米国のプラッ
トフォーム企業であるアマゾン、グーグル、マイクロソフトなの
です。これらの企業は巨大なデータセンターを世界中に構築し、
その一部を世界中のユーザーに貸しているのです。
 このクラウド・サービス用のデーターセンターは、米国だけで
なく、世界中に置かれているのですが、日本にはないのです。ど
うしてでしょうか。日本のクラウド・サービスは盛況であり、外
資系のクラウド・サービス業者がひしめいているのです。
 クラウド上でデータを保存・共有するストレージサービスを展
開するシュガーシンクという企業があります。同社の「シュガー
シンク・マネージャー」の日本のユーザー数は世界全体の8%を
占めており、単一国では米国に次いで第2位なのです。
 同社のローラ・イーシーズCEОは、日本向けのマーケティン
グをしていなかったのに、このユーザー数は驚きであるとコメン
トしているほどです。
 まだあります。政府のエコポイント制度で、商品交換手続きな
どを行うシステムは、米セールスフォース・ドットコムのクラウ
ドに構築されているのです。セールスフォース・ドットコムは、
米国カリフォルニア州に本社を置く、CRМソリューションを中
心としたクラウド・サービスの提供企業です。
 それほど、クラウド・サービスが盛況な日本で、なぜ、データ
センターが置かれないのでしょうか。
 それは、コストの高さが原因なのです。法人税や電力価格が高
いことに加えて、日本の場合、高コストのビル型のデータセンタ
ーにしないと、建築基準法や消防法に抵触してしまうのです。
 しかし、現在データセンターはビル型から脱皮し、コンテナ型
やモジュール型のデーターセンターに移りつつあるのです。その
典型的なデータセンターがシカゴ郊外にあります。欧米やアジア
に6つのデータセンターを持つマイクロソフトのデータセンター
のひとつです。
 敷地面積は、東京ドームの1・4倍に当たる6万5000平方
メートルもあるのですが、データーセンターそのものは、簡素な
平屋の建物に過ぎないのです。内部には貨物コンテナが並んでお
り、その中にサーバーがぎっしりと収められているのです。
 コンテナ3個でサーバー11万台であり、日本のビル型データ
センター1棟に相当するのです。注目すべきは、マイクロソフト
の加治俊一CTОの次の発言です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 個々のサーバーが故障してもその状況を把握するだけで、取り
 換えない。一定の割合が壊れたときにコンテナ全体を取り換え
 る。          ──マイクロソフト加治俊一CTО
                『週刊東洋経済』7/3より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このコンテナ型のデータセンターは第3世代ですが、これから
は第4世代のモジュール型に発展しようとしているのです。モジ
ュール型では、コンテナは使わず、仕切り壁と骨組みを組み合わ
せたモジュールセルの中にサーバーは格納されるのです。
 冷却はどうするのかというと、近隣の水源からくみ上げた常温
の水を巡らすだけなのです。当然壊れるサーバーが出てくるので
すが、そのときは取り換えてしまうのです。その方がはるかに安
くつくからです。
 しかし、こうなると、コンテナ型やモジュール型は日本の建築
基準法や消防琺に抵触するので、日本では第4世代型のデータセ
ンターは作れないのです。そういうわけで、米プラットフォーム
各社のデータセンターは、日本を素通りしてシンガポールに設置
されてしまうのです。
 もっともシンガポールでもビル型以外は難しいのですが、法人
税率の低さや電力などの運用経費に対する補助金があり、十分コ
ストに見合うのです。日本でこういう問題に関して新しい動きが
見られないのは、国民全体のIT技術に対する知識不足が災いし
て、問題意識がきわめて低いからです。このままでは日本はアジ
アの二流国になります。    ──[メディア覇権戦争/30]


≪画像および関連情報≫
 ●電気代と法人税の比較/日本は圧倒的に不利
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ≪電気代≫
   日本     ・・・・・ 10・53円/KWH
   オクラホマ州 ・・・・・  4・55円/KWH
   ワシントン州 ・・・・・  4・65円/KWH
   オレゴン州  ・・・・・  4・76円/KWH
   アイオワ州  ・・・・・  4・81円/KWH
  ≪法人税≫
   日本     ・・・・・ 39・54%
   シンガポール ・・・・・ 18・00%
   アイルランド ・・・・・ 12・50%
   韓国     ・・・・・ 24・20%
  ―――――――――――――――――――――――――――

サン/МDS20.jpg
サン/МDS20
posted by 平野 浩 at 04:13| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月06日

●「データセンター特区を創設する」(EJ第2892号)

 「2010年は日本のクラウド元年である」──このように大
手ITベンチャーは口をそろえています。その流れを作ったのは
2008年10月に決まった麻生内閣の定額給付金であり、甲府
市の決断から始ったのです。
 支給の実行部隊は市町村になり、2009年3月からの実施で
す。とても新たなシステムを組んでいる時間はない。そういうわ
けで甲府市はクラウドを選択したのです。
 甲府市が選択したのは、NTTコミュニケーションズとセール
スフォース・ドットコムが構築した「セールスフォース・オーバ
ー・VPN」のです。理由としては、ハード、ソフトの購入やシ
ステム開発が不要であったからです。
 開発期間は1ヵ月、コストは当初予測の5分の1に抑えられた
のです。クラウドのメリットは、このように迅速に利用すること
ができることであり、ハード、ソフトなど、使用するIT資源の
増減が、状況に応じて簡単にできることにあります。
 しかし、最大の問題は個人情報である住民の情報が海外のデー
タセンターに置かれることです。もちろん、セキュリティは高い
レベルのものが確保されているとはいえ、データセンターのある
外国の管理下に置かれることが大きな問題となります。
 日本は本来世界のデータセンターのメッカになれる条件を備え
ているのですが、前回述べたように、法人税や電力価格が高いこ
とや、新しいスタイルのデータセンターを日本で作ろうとすると
建築基準法や消防法などの法律に抵触するので、ビル型の高コス
トのデータセンターしか構築できないのです。
 この点について、グーグル日本法人の名誉会長である村上憲郎
氏は次のように述べています。村上氏は2003年にグーグル日
本法人社長になり、2009年から現職に就いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 グーグルなどのIT企業は「機器を壊しながら使う」という考
 え方を採っているが、これが日本では受け入れられない。グー
 グルのデータセンターは室温30度ぐらい。がっちりしたビル
 で防寒着が必要なぐらい冷房を効かせている日本のセンターと
 はまったく違う。水で少しは冷却しているが、わざわざ電力を
 使って、冷却する必要はない。機器は4年程度で取り替えれば
 いいのだから、寿命を延ばすために冷やす必要がないのだ。
        ──グーグル日本法人・名誉会長/村上憲郎氏
              ──『週刊東洋経済』7/3より
―――――――――――――――――――――――――――――
 CPUの速度向上に関しては、次の「ムーアの法則」というの
が有名です。
―――――――――――――――――――――――――――――
    半導体の集積密度は18〜24ヶ月で倍増する
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、1年半から2年で価格性能比が倍になるという法則で
す。IT機器はこの法則が今でも働いており、4年後には同じコ
ストで4倍の演算能力を持つ設備が導入できるのです。
 そうであるとしたら、設備にお金をかけて機器を守るよりも、
4年ごとに交換した方が効率が良い。日本の環境はそういう考え
方になっていない──村上氏はこのように指摘するのです。
 このように、つねに最新のIT機器を備えておけば、データセ
ンターが世界のどこにあろうと、データ応答の待ち時間──レイ
テンシーは、ほぼゼロになっています。
 しかし、データの法的管轄権は確かに問題であり、重要なデー
タはコストがかかっも国内に置くようにすべきであるという意見
は強くなってきているのです。先進各国でもその動きが少しずつ
始まっているのです。
 カナダでは、政府機関が米国のクラウドサービスの利用を禁止
したのです。それは、米国の愛国者法が、国内サーバー上のデー
タを捜査対象とすることを認めていることに危機感を抱いた結果
の措置です。
 日本でも遅まきながら、総務省のスマート・クラウド研究会で
は、2010年5月に海外の大手事業者を誘致するため、データ
センター特区を誘致するプランを原口総務相に提出しています。
設置目標は2011年度ですが、民主党が参院選に敗北して党内
が不安定になるなど、実現は微妙な情勢です。
 しかし、これに対して既出の村上憲郎氏は、データの法的管轄
権の重要性はわかるが、むしろデータを特定地点にまとめて置く
ことの方が危険であるとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デ一夕の法的管轄権は大きな問題だ。特に政府がデータを預け
 る際、どこにデータを置くかは論点になりやすい。ただ実は、
 どこにどのデータがあるのかはグーグルにさえわからない。デ
 ータセンターの安全性は、データを複製し、世界中に分散保存
 することで確保している。ある特定の地点にデータを置いてし
 まうほうが危険だと考えている。      ──村上憲郎氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、そうなるとアタマの痛い問題が起きるのです。日本は
米国に次いでクラウド・サービスが盛んな国であり、定額給付金
やエコポイントの手続きなどのように政府機関がそれを使うこと
も多いのです。
 しかし、データセンターはほとんど海外にあり、つねに海外に
アクセスしないとつながらないことになります。しかも、日本の
ブロードバンド料金は先進主要国のうち世界一安いので、クラウ
ド・サービスの業者の多くは日本に拠点を置いて気軽に海外にア
クセスしているのです。
 このように海外のデータセンターから提供されるサービスの利
用量が急増した結果、国内から海外につながる通信トラフィック
量は急増し、国内のトラフィック全体の半分を占めるに至ってい
るのです。これは日本の通信網へのただ乗りになるという指摘が
出てきています。       ──[メディア覇権戦争/31]


≪画像および関連情報≫
 ●グーグルデータセンターの内側--明らかにされた独自性
  ―――――――――――――――――――――――――――
  グーグルがデータセンター業務を公開することは滅多にない
  が、米国時間の2008年5月28日、グーグルフェローで
  あるジェフ・ディーン氏が業務の一部を話題に取り上げた。
  28日に当地で開催された「グーグルI/O」カンファレン
  スの超満員の聴衆に対して講演を行ったディーン氏は、グー
  グルのインフラがいかに独特かを説明しながら、グーグルの
  の秘密を少しだけ明らかにした。
 http://japan.cnet.com/news/commentary/story/0,3800104752,20374847,00.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

村上憲郎氏とグーグル・データセンター.jpg
村上 憲郎氏とグーグル・データセンター
posted by 平野 浩 at 04:40| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月07日

●「プラットフォームと端末の融合戦略」(EJ第2893号)

 インターネットが日本でも利用されるようになって約15年が
経ちます。その時代から私はインターネットを使っていますが、
最近になってつくづく考えることがあります。
 現代はリアルの世界と並んで、ネットの世界がまるでパラレル
ワールドのように存在し、ネットの世界で起こったことが、リア
ルの世界に強いインパクトを与えるようになってきています。報
道にしても、リアルの世界の新聞やテレビなどのメディアの情報
だけでなく、ネットの世界の情報を見たうえで判断しないと、判
断を間違えることがあるようになっています。
 この原稿は9月4日に書いていますが、その時点での民主党の
代表選の候補者の支持率の情勢は、リアルの世界の新聞では「菅
支持85%VS小沢支持15%」なのに、ネットの世界では次の
ようになっているのです。リアルの世界とネット世界では正反対
の結果が出ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
                 菅支持    小沢支持
 ライブドア         37・2%   62・8%
 スポニチネット       20・0%   80・0%
 グーニュースネット     36・1%   63・9%
 ロイター通信オンライン調査 8162票   8477票
           ──9月4日発行/日刊ゲンダイより
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ネットの世界はPCやケータイなりでアクセスしない
と、見ることはできない世界です。ところが、「人間というもの
は目に見えないものは信じない」傾向が強いのです。そういう世
界があることはわかっていても、積極的に見ようとしない。日本
人はとくにそういう傾向の強い国民であると思います。
 したがって、リアルの世界では菅支持が圧倒的だが、ネットの
世界では真逆であるといくら強調しても、誰もアタマから信じな
い。新聞・テレビに完全に洗脳されてしまっているのです。
 これが進むとどうなるかというと、リアルの世界のことしか関
心を持たない人と、リアルとネットの両方を参照する人とは物事
に対する判断のしかたが大きく異なることになります。
 今回のテーマである「メディア覇権戦争」でも、ネットの世界
で起きつつある事態が、リアルの世界に大きな影響を及ぼしてき
ていることをここまで書いてきたのですが、リアルの世界で変化
が起きてはじめてわかるという人が多いのです。
 多くの人はインターネットにどのようにして接続するかについ
ては知っていますが、いったん繋がってしまうと、それから先の
ことには関心を持たないものです。しかし、その先のところで熾
烈な戦いが展開されているのです。それがプラットフォーム企業
によるメディア覇権戦争です。
 もちろん一般ユーザーにとっては、ネットの先のことまで知る
必要はありません。水道の蛇口をひねると水が出る──それだけ
知っていれば、どのようにして水は出るのかについて考える必要
がないのと同じです。
 しかし、国や企業はネットの先のところで起こっている戦争に
について熟知している必要があります。そうでないと、安全保障
やビジネスの肝心なところを米国のプラットフォーム企業に押さ
えられてしまうからです。
 2009年から新たなプラットフォーム・レイヤーの展開が本
格化しています。「ネットサービスの4つのレイヤー」を再現し
て、説明します。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.コンテンツ/アプリケーション
      2.プラットフォーム
      3.インフラ
      4.端末
―――――――――――――――――――――――――――――
 それは、プラットフォーム・レイヤーと端末レイヤーとの融合
の動きです。具体的な例として、アマゾンの電子ブックリーダー
「キンドル」がそれです。実はこのキンドル、端末としての完成
度は高く、なかなかの優れものなのです。
 アマゾンは、このキンドルによって、プラットフォーム・レイ
ヤーと端末レイヤーの融合を実現し、2つのレイヤーで強い競争
力を持ったことになります。
 アマゾンの戦略は、プラットフォーム・レイヤーにはグーグル
をはじめとするアップルやフェイスブックによって代表されるS
NSなどの強力な競争相手がひしめいていて、とうてい勝ち目が
ないので、プラットフォームに端末を融合させることによって、
対抗しようとしたものと考えられます。
 アップルは、アイフォーンやアイパッドなどの端末をアイチュ
ーンズというプラットフォームに融合させています。これに対し
てグーグルは、携帯用の自社OS「アンドロイド」を無料で配布
し、世界中に多くのアンドロイド携帯を誕生させています。
 これらはそれぞれメーカーは異なるけれども、グーグルとして
はOSを押さえているので、自社のプラットフォームと融合でき
るのです。これもプラットフォーム・レイヤーと端末の新しいか
たちの融合です。現在は、携帯電話からのネット利用が世界中に
急増しており、グーグルの戦略は実にタイムリーといえます。
 携帯端末からのネット検索の割合は、米国市場でも世界市場で
も、2009年段階ではPCなどを含む検索全体の1%程度です
が、今後これが大きく伸びることが予想されます。
 また、世界における携帯端末の売り上げは、2009年までは
少ししか伸びていないのですが、ネット接続機能やメール機能を
重視したスマートフォンの売り上げは、約13%も増えており、
今後は携帯端末からのネット利用が大幅に伸びることが予想され
ます。このように、現在でもプラットフォーム・レイヤーでの覇
権戦争は激化しており、予断を許さない情勢なのです。
               ──[メディア覇権戦争/32]


≪画像および関連情報≫
 ●パラレルワールドとは
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「この現実とは別に、もう1つの現実が存在する」というア
  イディアは、「もしもこうだったらどうなっていたのか」と
  いう考察を作品の形にする上で都合がよく、パラレルワール
  ドはSEにおいてポピュラーなアイディアとなっている。登
  場人物が何らかの切っ掛けで、自分が知っているのとは違う
  現実に迷い込んでしまうといった作品が多く存在する。この
  アイディアは広く一般化し、SF以外の作品でも、パラレル
  ワールドの概念を取り入れたものが作られることは珍しくな
  い。架空戦記作品に見られるような、史実とはどこかが異な
  る「もう1つの歴史」を扱うフィクションは多数存在するが
  これも我々の知る世界から見ればパラレルワールドである。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/岸 博幸著/幻冬舎新書/156
 『ネット帝国主義と日本の敗北/搾取されるカネと文化』より

プラットフォームと端末の融合.jpg
プラットフォームと端末の融合
posted by 平野 浩 at 04:10| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月08日

●「アマゾンとグーグルのアルゴリズム比較」(EJ第2894号)

 プラットフォーム企業の雄といえば、マイクロソフト、アップ
ル、グーグル、アマゾン──EJでは、マイクロソフトとアップ
ルは既に取り上げているので、アマゾンとグーグルを少し研究し
てみたいと思います。日本企業は、これらのプラットフォーム企
業に対抗できるのでしょうか。
 アマゾンから考えましょう。
 アマゾンは「ネットでものを売る」ノウハウを一番持っている
企業であるといえます。そのノウハウを確かなものにするために
何しろ7年間も赤字を重ねながら、ノウハウを積み上げ、その目
的を果たしているからです。
 アマゾンのショッピングサイトは、オリジナル商品を販売して
いるわけでなく、どこのネットショップでも買える商品ばかりを
販売しているのです。それでいてアマゾンがこの世界で優位に立
てたのには、品揃えの豊富さ、強力な物流網などゆえであろうが
他のライバルと比較して、ダントツなのは、購買データ、お客の
行動データの豊富さであり、その徹底的な活用なのです。
 そのデータ活用のひとつに「商品推薦システム」があります。
アマゾンで買い物をした人なら誰でも知っている「この商品を購
入された方は次の商品を購入しています」や「この商品を購入さ
れた方に次の商品をお勧めします」というあのメッセージです。
 これは「協調フィルタリング」というアルゴリズムで自動的に
計算されるのです。
 協調フィルタリングは別に難しいものではなく、その考え方は
シンプルです。最も簡単な例で説明します。
―――――――――――――――――――――――――――――
      太郎 ・・・ 商品A、B、Cを購入
      花子 ・・・ 商品A、B、Dを購入
      一郎 ・・・ 商品B、E、Fを購入
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見ると、購入実績で一番類似性の高いのは、太郎と花子
です。違う点は、太郎は花子の購入したDを購入していないので
Dを推薦し、花子にはCを推薦するのです。
 原理はこれだけのことです。しかし、膨大な数の商品を対象と
し、何百万人ものユーザーを抱える大規模サイトでこの類似度の
計算をやろうとすると巨大なデータベースとコンピュータが必要
になります。
 アマゾンは、当初からデータの重要性に着眼し、時間をかけて
インフラを構築してきたのです。設立から7年間も赤字が続いた
理由はこれだったと考えられます。そして現在ではインフラ構築
のノウハウを生かして、クラウド環境の提供というビジネスにも
力を入れているのです。
 続いてグーグルについて考えましょう。
 グーグルは、アマゾンと同様に巨大なデータをストックし、膨
大なデータベースを有している企業です。当初は検索可能なペー
ジの総数を競っている時代があったのですが、現在では検索結果
の順位付けを決めるアルゴリズムを開発し、その評価に基づいて
検索順位を並べる方法を開発したのです。このランキングアルゴ
リズムを「ページランク」というのです。
 このページランクをベースにして検索結果の順位を並べること
によってグーグルは莫大な広告収入を得ているのであり、グーグ
ルの成長にとってページランクは重要な開発だったのです。
 グーグルのページランクは、0〜10点法であり、評点によっ
て、サイトは次のように評価されます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      〇   ・・・・・ 評価なし
      1〜3 ・・・・・ 標準サイト
      4〜6 ・・・・・ 人気サイト
      7〜9 ・・・・・ ポータルサイト
     10   ・・・・・ 最高ランク
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、ホームページやブログには、グーグルによるランクが
付いており、誰でもそれを調べることができるのです。いまそれ
を知りたければ、次のURLをクリックして、[  ]の中にラ
ンクを調べたいホームページやブログのURLを入力し、となり
の「ページランクをチェック!」ボタンをクリックすればページ
ランクが表示されます。そのさい、「www」 を省略しないで入力
してください。
―――――――――――――――――――――――――――――
       http://www.pagerankon.com/
―――――――――――――――――――――――――――――
 ちなみに私のブログのランクは「4」です。しかし、11点法
なので、「3」までは比較的簡単に行けるのですが、それ以上に
上げるのは大変です。問題は、どういうメカニズムで、評点が決
められるかですが、グーグルは公表していないのです。しかし、
そのメカニズムはある程度わかっています。国立情報学大向一輝
准教授の説明が明快なので、ご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 10人が所属するグループで、各人が他のメンバーに対して1
 票ずつ投じることができることとする。メンバーは、残りの9
 人全員に1票ずつ入れることも、数人だけに入れることもでき
 る。これを集計すると、それぞれのメンバーの得票数は0〜9
 票となり、これを基本的な評価(持ち点)とする。次に、個別
 の票が誰から誰に投じられたかを確認し、持ち点の高い人から
 の票には加点を、持ち点の低い人からの票は減点する。こうし
 て持ち点を調整したうえで、その持ち点をもとに再び票の調整
 を繰り返していき、変動がなくなるまで続けると、最終的な評
 価が定まる。        ──国立情報学大向一輝准教授
         「週刊エコノミスト」臨時増刊8/9号より
―――――――――――――――――――――――――――――
               ──[メディア覇権戦争/33]


≪画像および関連情報≫
 ●「協調フィルタリング」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  協調フィルタリングは、多くのユーザの嗜好情報を蓄積し、
  あるユーザと嗜好の類似した他のユーザの情報を用いて自動
  的に推論を行う方法論である。趣味の似た人からの意見を参
  考にするという口コミの原理に例えられることが多い。協調
  フィルタリングにはユーザの評価付けによる明示的なものと
  システムの操作履歴(例えばブラウザの閲覧履歴)などを利
  用した暗黙的なものがある。     ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●表出典/『週刊東洋経済』7/3号より

米プラットフォーム企業の業績.jpg
米プラットフォーム企業の業績
posted by 平野 浩 at 04:11| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月09日

●「SNSとダンパー数の関係」(EJ第2895号)

 メディア覇権戦争というテーマを取り上げるに当って、どうし
ても取り上げる必要のある重要なメディアがあるのです。それは
SNS──ソーシャル・ネットワーキング・サイトです。
 現在SNSといわれているものには、次の巨大な2つのがあり
ます。このように、ユーザーが億をはるかに超えるレベルになる
と、その影響力は計り知れないものがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.フェイスブック ・・・・ 約5億人
     2.  ツイッター ・・・・ 約2億人
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国はもちろんのこと、日本では一部ですが、企業のウェブサ
イトには、フェイスブック、ツイッターの小さなロゴがあるのが
普通になっています。
 テレビ番組でもツイッターを使うケースが少しずつ増えてきて
います。次のようなメッセージを何回も聞いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 番組ではツイッターでもご意見を伺っております。URLは
 次の通りで、ハッシュタグは次のようにお願いします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ハッシュタグ」というような専門用語が平気で使われるよう
になっているのですが、ハッシュタグなどは、ツイッターのユー
ザーでも知らない人もいるほどです。ちなみに、ハッシュタグと
は、ツイッターの中の一種のグルーピング機能のことです。
 ここで、SNSとは何であるかについて考えてみます。SNS
の定義は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 SNSとは、人と人とのつながりを促進・サポートするコミュ
 ニティ型のウェブサイトである。
―――――――――――――――――――――――――――――
 コミュニティ型のウェブサイトといえばブログがあります。こ
れでもコミュニケーションは可能ですが、ブログによるコミュニ
ケーションはPCを使ってやるのが一般的であり、どちらかとい
うと時間差コミュニケーションであって、リアルタイム性が弱い
のです。携帯電話でもできますが、便利ではありません。
 それからもうひとつ、ブログの場合は、それぞれの記事につい
て完全に身分を隠して書き込みができることや、自分でブログを
開設していない人でもコメントをすることができるのです。その
ため、いわゆる悪意の「荒らし」がおきやすいメディアであると
いえます。
 これに対してSNSは、「リアルタイムウェブ」といわれるよ
うに、スマートフォンや普通の携帯電話でも、いつでもどこでも
やりとりできるので、コミュニケーションがリアルタイムにでき
るのです。
 さらにSNSは、基本的には自分のプロフィールを明らかにす
る前提でのコミュニケーションなのです。もちろんそのルールは
厳格なものではなく、ニックネームでもかまわないし、プロフィ
ールの公開も絶対条件ではないのです。ブログと違い、SNSを
やっていない人には見えない世界であり、メッセージに関してい
かなる書き込みもできないので、荒らしは起こらないのです。
 SNSを論ずるとき、よく「ダンバー数」というものが引き合
いに出されます。ダンバー数とは何でしょうか。
 人間がお互い同士良く理解し合ったグループを形成する場合、
平均150人が限度であるという学説があります。この説はもと
もと英国の人類学者のダンバーという人が発見して、ダンバー数
と名付けられているのです。
 150人というと、あまり大きい人数ではないように見えます
が、実は相当大きな数なのです。よく「バス1台に乗れる規模が
会社ではやりやすい」といわれます。バス1台では約50人であ
り、そのくらいの人数の会社は家族的な雰囲気で、やりやすいと
いわれています。いわゆる個人商店レベルです。
 携帯電話のアドレス帳に登録している人は、何か用事があると
きにすぐに電話のできる人です。はじめて会って名刺交換をした
ぐらいではアドレス帳に登録しないのが普通です。
 そのため、携帯電話のアドレス帳に登録している人数も、ほと
んどの人が50人以下であるといわれます。100人を超える人
はきわめて少ないのです。
 企業の場合、150人というのは中小零細企業が中堅、大企業
へと変貌するための大きな屈曲点になっているといわれます。従
業員の人数が150人を越えると、従来の個人的な関係の集合で
企業を運営することは不可能になってきます。組織、ミッション
評価というようなものが重要な意味合いを持つようになり、思い
つきで属人的な経営は許されなくなります。このように考えると
やはり、150人は大きなカベであるといえます。
 ロビン・ダンバーのいう組織は、親密度の高い組織ですが、こ
れに関してSNS、とくにツイッターはむしろ「緩い人間関係」
を狙っています。しかし、ツイッターを効果的に活用することに
よって、ダンバーのいうレベルに近づける可能性はあります。ダ
ンバー数の定義は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ダンバーの数とは安定的な社会関係を維持することができるた
 めの理論的な認知的限界値である。これは個々人間を相互に認
 識し、それぞれが相互にどのような関係にあるのか認知できて
 いる関係のことを指す。ダンパー数を支持する人たちの主張す
 るところでは、この数字を超えると安定的かつ団結力のある集
 団を維持するためには規制ルール、法律あるいは強化された社
 会規範が必要となる。正確なダンバーの数が、示されているわ
 けではないが、一般的に引用される数値は150である。
            http://hopper.o.oo7.jp/blog/?p=885
―――――――――――――――――――――――――――――
               ──[メディア覇権戦争/34]


≪画像および関連情報≫
 ●「ハッシュタグ」とは何か/あるブログより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ツイッターでつぶやいていると、特定のテーマについて何か
  つぶやきたくなることがあるでしょう。例えば、選挙のこと
  今やっているゲームや、見ているテレビ番組のことなど、同
  じテーマについて多くの人がつぶやくことがあります。そん
  な時便利なのがハッシュタグです。何らかの単語で検索する
  のも便利ですが、制限された文字数でつぶやくだけなので、
  それだけを読んでも何のテーマについてつぶやいているかは
  本人以外にはわかりません。そこに短いハッシュタグを加え
  るだけで、○○についてと書く必要なく、他人にも簡単にそ
  の話題だと言うことがわかります。
            http://wakarunavi.com/2009/09/180/
  ―――――――――――――――――――――――――――

ツイッター創始者エヴァン・ウィリアム氏.jpg
ツイッター創始者エヴァン・ウィリアム氏(右)
posted by 平野 浩 at 04:08| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月10日

●「ソーシャルメディア時代の広告」(EJ第2896号)

 もう少しソーシャルメディアについて考えてみる必要がありま
す。フェイスブックにせよ、ツイッターにせよ、その発信される
情報の一つひとつを見ると、たわいのない、断片的なつぶやきや
おしゃべりに過ぎないものばかりです。ブログの場合は、多少の
骨のある主張もありますが、140字足らずのつぶやきが何の役
に立つのか──そう考える人は少なくないと思います。
 しかし、企業はいま真剣にソーシャルメディア──とくにツイ
ッターを企業活動に利用しようとしています。それは消費者との
つながりが今まで以上に重視されてきているからです。
 基本から考えてみます。企業が製品を大量生産します。企業は
その製品をテレビや新聞の広告枠を買い取って、一方的に消費者
に告知します。かつてはこのように、川上から川下へ流れるよう
にモノも情報も消費者はそのまま受け取るしかなかったのです。
 しかし、商品にしてもサービスにしても、多かれ少なかれ消費
者の不満や苦情はあるものです。この対策として企業サイドとし
ては、お客様相談センターのようなものを作り、そこへと消費者
の不満や苦情を吸い上げているのです。
 このお客様相談窓口については、その企業のウェブサイトにも
そういうコーナーを設けて対応しています。しかし、リアルにし
ろ、ネットにしろ、製品やサービスに関する不満の情報はその担
当部署に積み上がるだけで、消費者の間で共有されるということ
は今までになかったのです。
 ここで企業のウェブサイト上にあるお客様相談コーナーについ
て述べておくと、そのコーナーにおいて、消費者が不満や苦情を
書き込んで送信しても、それは担当部署に届くだけで、消費者同
士で共有されないのです。これがホームページ──企業ウェブサ
イトの限界であるといえます。
 もし、この相談コーナーのページがブログでできていると、あ
る消費者がその企業の製品やサービスについて書き込んだ不満や
苦情は、そのままブログ上のコメント記事として残り、他の消費
者と情報を共有できるのです。しかし、企業は過度にそれを嫌が
り、ブログを採用しないか、採用してもわざわざコメント機能を
停止するケースが多いのです。「荒し」を恐れるからです。
 しかし、ブログを先陣とするソーシャルメディアの出現によっ
て「広告」というものが変貌してしまったのです。広告は、表現
は悪いかもしれませんが、その本質は商品にお化粧を施し、実際
よりも良く見せようとする手段です。
 元CМプランナーで、現在はコミュニケーション・デザインを
担当するクリエイティブ・ディレクターの佐藤尚之氏は、広告を
次のように表現しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 よく使われる比喩ではあるが、ボクは、広告は消費者へのラブ
 レターだと考えている。「ボクとつきあってください!ボクは
 あなたをきっと幸せにします!」という、消費者への強い口説
 きだと思っているのだ。(一部略)そう、広告とは、もともと
 商品に関心すら持っていない相手にこちらを振り向かせ、あわ
 よくば好きになってもらい、買ってもらおうと画策する、わり
 とハードルの高いコミュニケーションだと思うのだ。もちろん
 ラブレターを書いただけでは話にならない。ラブレターは相手
 に渡さないと意味がない。広告で置き換えるなら、ラブレター
 は制作した広告(テレビCМや新聞広告など)、そしてそれを
 消費者に渡す手段がメディアとなる。テレビとか新聞とかのメ
 ディアに載せて、消費者に見てもらうわけである。
 ──佐藤尚之著、『明日の広告/変化した消費者とコミュニケ
          ーションする方法』/アスキー新書045
―――――――――――――――――――――――――――――
 佐藤尚之氏は、かつて「ジバラン」というサイトを立ち上げ、
有名になった人です。「ジバラン」とは、自腹ランキングの略で
す。どんなサイトかというと、一般消費者が自腹でレストランに
行って料理を食べて採点し、そのランキングをサイトで発表する
のです。このサイトは既に閉じられていますが、当時類似のサイ
トがなかったので、大変話題になったのです。
 このジバランはマスメディアへの一種のアンチテーゼとなった
のです。雑誌やテレビから流れてくる「このレストランがいい」
という情報に、消費者をヨコにつなげて対抗し、逆襲を果たした
といえるからです。
 昔は著名な企業や権威ある有名人、親しい友人のお勧め情報は
信頼に足るものとしてほとんど無批判に受け入れたものですが、
現代人はそういうものの買い方はしません。ものを買うときは、
「価格コム」などのサイトを参照して一番安い店を調べ、商品に
付いているレビューを読んでから購買行動を起こすようになって
います。つまり、ヨコにつながった消費者の生の情報を参照して
購買行動を起こすのが一般的なのです。
 ジバランの反響から、佐藤氏はそこに広告が変質しているとし
て次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 雑誌やテレビから流れてくるトップダウンのレストラン情報に
 消費者をヨコにつなげて対抗したジバランと同じ構図が、普通
 の商品にも当てはめられるということだ。広告で商品にお化粧
 してマスメディアからトップダウンで流しても、消費者がヨコ
 につながって「商品のスッピンの姿」を教え合ってしまったら
 どうなるんだ?    ──佐藤尚之著、『明日の広告』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ジバランは普通のホームページだったのですが、現在のブログ
やフェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアは、消
費者を簡単にヨコにつなげてしまう強力な機能を自ら有しており
企業にとって無視できないメディアになりつつあるのです。これ
らのソーシャルメディアによって広告が大きく変質することは確
かです。来週は現在最も注目されているツイッターについてお話
しすることにします。     ──[メディア覇権戦争/35]


≪画像および関連情報≫
 ●「ジバラン」に関するあるブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ジバランは、そのサブタイトルが示す通り「自腹でレストラ
  ンを巡り、評価しよう」をコンセプトに据えた飲食店ガイド
  サイト。96年に開設され、05年に惜しまれながら閉鎖と
  なりました。96年といえば僕は高校生になったばかりで、
  PCどころかラジオもまともに使えなかった機械音痴時代。
  ・・・・まあ今でも機械音痴は全然直ってなくて、こないだ
  イヤホンのプラグをUSBの穴に必死で挿そうとしましたけ
  ど、そんな話は別にいいです。あのときは眠かったんです。
  そういうことにしといてください。
http://builder.japan.zdnet.com/member/u514442/blog/2008/11/19/entry_27018036/
  ―――――――――――――――――――――――――――

佐藤尚之氏と著書.jpg
佐藤 尚之氏と著書
posted by 平野 浩 at 04:11| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月13日

●「ツイッターで伝えられた無罪判決」(EJ第2897号)

 アマゾンが約7年間、赤字を続けたことは既に述べましたが、
スタートしてそれほど年数の経っていないツイッターは2009
年12月には黒字化を達成しています。かねてから明確なビジネ
スモデルがないといわれてきたツイッターが、なぜ黒字化に成功
したのでしょうか。
 ツイッターの収入源は、広告モデルでもユーザー課金モデルで
もないのです。グーグルとマイクロソフトに対して、ツイッター
のデータを検索可能にする契約を取り交わし、黒字化を果たした
のです。その金額は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    グーグル    ・・・・・ 1500万ドル
    マイクロソフト ・・・・・ 1000万ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 検索エンジンの側からみると、約2億人のユーザーによる1日
当り6500万ツィート(つぶやき)のツイッターのデータが検
索できるかどうかは死活問題です。なぜなら、検索エンジンは、
多くのアクセスを獲得するために不可欠な存在であり、そのため
には、この世に存在するあらゆるデータが検索できないと、その
優位性を維持できないのです。
 しかし、ツイッターはこのようにして落としたものの、SNS
──ソーシャル・ネットワーキング・サービスの雄といわれてい
るフェイスブック──全世界に5億人近いユーザー──は、検索
エンジンの検索を許していないのです。
 なぜなら、フェイスブックは、2007年にマイクロソフトか
ら4000万ドルの出資を受けて以降はサービス本体で十分な収
益があることから余裕があるのです。しかし、その一方で個人情
報を売るという不祥事を起こしています。
 ここで、改めて、SNSとは何かを明確にしてから先に進みた
いと考えます。SNSとはソーシャル・ネットワーキング・サー
ビス、またはソーシャル・ネットワーキング・サイト──どちら
でも同じ意味です。それでは、SNSの目的は何かについては、
次の一点に絞られます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ソーシャル・ネットワーキング・サービスの基本的な目的は、
 人と人とのコミュニケーションにある。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この定義からわかるように、コミュニケーションができないも
のは、SNSではないのです。これによって、普通のホームペー
ジ、ウェブサイトはSNSではないのです。
 コミュニケーションができるというのは、双方向のやり取りが
できるということを意味しています。そういう点ではコメントや
トラックバックができるプログはSNSということになります。
 一方において、SNSは人と人とのつながりを促進・サポート
する、コミュニティ型の会員制のサービスであるとする狭義の定
義もあります。この人のつながりを重視して、「既存の参加者か
らの招待がないと参加できない」招待制のシステムになっている
サービスもありますが、最近は登録制が多くなっています。
 日本のSNSとしては、最大の会員数を持つミクシィ、モバイ
ル向けのグリー、そしてモバゲータウンがあり、海外ではフェイ
スブック、マイスペースなどがあります。
 この中にあって、ツイッターはどういう位置を占めるのでしょ
うか。ツイッターは、自由にコミュニケーションができるので、
SNSのひとつであることは確かです。
 EJの読者にはツイッターをやっていない方が多いと思われる
ので、やっていない方でもある程度わかる解説を以下に試みたい
と思います。
 ツイッターによるコミュニケーションの最大の特色は、そのリ
アルタイム性とスピードにあります。この原稿は9月11日に書
いていますが、10日の午後、郵便不正事件の村木厚子元局長の
無罪判決があったのです。
 ちょうどそのとき私は事務所にいてテレビが見られない状況に
あったのです。午後2時過ぎになって、そろそろ判決が出た頃だ
と思い、新聞各社のニュース速報サイトにアクセスしたのですが
ぜんぜん出ていないのです。
 そこでグーグルの検索窓に次のキーワードを入れて検索をかけ
たのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          村木厚子 ツイッター
―――――――――――――――――――――――――――――
 そうしたところ、多くのツイッターのツィート(つぶやき)が
ずらりと出てきたのです。いずれも「村木厚子氏に無罪判決」と
書かれているツィートです。確か午後2時30分くらいだったと
思いますが、実際に判決は午後2時過ぎに言い渡されているので
ツィートはその直後に流されているのです。
 そのとき、そのニュースを伝えていたのはテレビだけだったと
思います。ちなみにネットのニュースサイトは、午後4時30分
になっても「村木被告無罪判決の見通し」のままだったのです。
既に5時過ぎには、一部の夕刊紙には村木氏無罪を告げる記事が
出ていたのです。どうやら、ネットニュースは、紙の新聞が出る
前にはどんな重要ニュースでも出さないきまりになっているので
す。ネットですから、事件発覚直後にも出せるのですが、紙の新
聞が売れなくなることを恐れるからです。
 おそらく無罪判決のニュースは法廷の傍聴席からアイフォーン
などのスマートフォンか普通の携帯電話によって発信されたもの
と思われます。そして、それが次々とリツィートされ、伝わった
のでしょう。ツイッターのツィートは上記のようにグーグルの検
索に対応するので、「村木厚子 ツイッター」で検索にヒットし
たのです。これがツイッターの驚くべきリアルタイム性です。こ
れがツイッターの最大の特色です。ネットのニュースサイトを遅
らせても意味はないのです。  ──[メディア覇権戦争/36]


≪画像および関連情報≫
 ●日本のSNSはもう限界なのか/コラム : 森祐治より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  海外の研究者と共著でSNSに対する考察を書いている。日
  本、韓国、米国でSNSというサービスが社会的にどのよう
  にとらえられ、またユーザーはどのような利用行動をとって
  いるのか、各国で異なるSNSサービスに求められる特徴と
  は何かといった議論をしている。それぞれ手元にあるデータ
  や対象とするSNSの仕様そのものが異なっているため3ヶ
  国カ国(論文では日韓2ヶ国の比較が中心となる予定)の完
  全な比較は難しい。だが、ほかの著者らとのやり取りを通じ
  て感じているのは(きわめて粗っぽい仮説だが)、日本にお
  けるSNSは人と人の「つながり」を重視し、つながった相
  手の動向を知ること、そして自分の動向を知らせることを志
  向する傾向が強いということだ。
http://japan.cnet.com/sp/column_mori/story/0,3800105544,20344483,00.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

村木厚子氏に無罪判決.jpg
村木 厚子氏に無罪判決
posted by 平野 浩 at 04:10| Comment(1) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月14日

●「ツイッターの世界に入ってみよう」(EJ第2898号)

 ツイッターのユーザーは全世界で2億人といわれています。本
当はもう少し少ないと思います。9月11日、午後3時の時点で
次の数字になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1億8942万3477人
  http://s.hamachiya.com/twitter/population
―――――――――――――――――――――――――――――
 最新の数字を知りたければ、数字の下のURLをクリックして
いただくとわかります。なお、日本人のユーザーは諸説がありま
すが、約1千万人といわれています。
 まず、ツイッターのコミュニケーションがどういうものかにつ
いて知っておく必要があります。ツイッターのコミュニケーショ
ンは、ツイッターのアカウントを持っている人同志でないと成立
しないのです。
 といっても、ツイッターのアカウントを持っていない人は、ツ
イッターの世界を何も見ることはできないのかというと、そうで
はないのです。ツイッターは、グーグルと提携し、ツイッターの
ツィートを検索対象にできるようになったので、ツィートを見る
ことはできるのです。つまり、グーグルの検索窓にキーワードを
入力して検索すると、関連のあるツィートにヒットすると表示さ
れるからです。
 ついでに触れておきますが、ここでツィートというのは、一般
に「つぶやき」といわれている140字以内のメッセージのこと
です。誰がツィートを「つぶやき」と訳したのかは知りませんが
あまり適切な訳だとは思えないです。
 なぜなら、140字のツィートに書かれるメッセージには多様
なものがあるからです。確かに、つぶやきのようなものも少なく
ありませんが、ニュース性のあるメッセージもあるし、ある問題
に関わる意見や提言もあるのです。そういう多様なメッセージを
丸ごと一括してつぶやきと称するのは無理があります。ですから
日本語に翻訳せず、単に「ツィート」と呼ぶのが一番良いと思い
ます。以下、すべてツィートと称することにします。
 ツイッターのアカウントを取得したばかりのツイッターのユー
ザーがいるとします。それぞれをAとBとしましょう。以下、こ
の前提で、ツイッターのコミュニケーションについて説明するこ
とにします。
 なお、ここでご説明することは、各種のツイッター本には当然
ていねいに書かれていなければならないことですが、なぜかきち
んと書かれている本は少ないのです。
 ツイッターのアカウントを取得すると、ツイッターの世界にお
ける自分の名前(ユーザー名)とアバター(アイコン)が決まり
ます。これはアカウント取得手続きのプロセスで、自分で決める
ことになっています。
 私の例で説明すると、ツイッターの世界での私の名前は次の通
りです。当然のことですが、この名前は私固有のもので、ツイッ
ターの世界では同じ名前は存在しないのです。これはツイッター
にログインするときの名前でもあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
              h_hirano
―――――――――――――――――――――――――――――
 次にアバターについて説明します。アバターというのは、正方
形のアイコンのことで、ツイッター側で用意されたデザインのも
のを使ってもいいし、自分で作ることもできます。自分の写真な
どでデザインされたアバターもあります。
 さて、アカウントを取得すると、ユーザーには次の2つのペー
ジが与えられます。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.マイページ
           2.  ホーム
―――――――――――――――――――――――――――――
 「マイページ」とは、文字通り自分専用のページであり、UR
Lを有しています。私のマイページは次の通りです。このURL
をクリックすると、ツイッターのユーザーでなくても、私のペー
ジを見ることができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
        http://twitter.com/h_hirano
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、このマイページを自分で使うことはほとんどないの
です。それでは何のためにマイページはあるのでしょうか。
 マイページでは、ツイッターの世界で私がどういう人間である
か、最少必要限度の情報を得られるようになっています。後で詳
しく述べますが、私をフォローするかどうかの判断材料を提供し
ているといってよいと思います。マイページで公開している情報
は次の5つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      @プロフィール
      A発信したすべてのツィート
      Bフォローしている数とその詳細
      Cフォローされている数とその詳細
      Dリストの数とその詳細
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでは「フォローしている」と「フォローされている」とい
うことについて説明していないので、これらの情報についての個
々の説明は、その説明が終わった後でいたします。
 このマイページには、ユーザー自身も他の人も一切何の書き込
みもできないことになっています。ツィートの発信はもうひとつ
のページである「ホーム」ですべて行うからです。
 したがって、ユーザー自身はほとんどホームを使っていて、マ
イページを使うことはあまりないのです。そしてホームは本人以
外誰も見られないのです。   ──[メディア覇権戦争/37]


≪画像および関連情報≫
 ●ツイッターとは何か
  −――――――――――――――――――――――――――
  2006年10月に米国でスタートしたツイッターは「今、
  なにしてる?」をひたすら更新していくという、とてもシン
  プルなウェブサービスでした。ユーザー登録をすると自分専
  用のページが(2つ)作成され、そこからいま何しているか
  を投稿していきます。投稿された発言はとくに設定をしなけ
  れば誰でも見ることができます。
   http://www.greenspace.info/twitter/whats_twitter.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●アバター  http://www.freeweb711.com/wordpress/?p=428

ツイッター/アバターの例.jpg
ツイッター/アバターの例
posted by 平野 浩 at 04:10| Comment(1) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月15日

●「ツイッターにおけるコミュニケーション」(EJ第2899号)

 ツイッターのアカウントを取ると、2つのページが与えられま
す。「マイページ」と「ホーム」です。マイページについては昨
日のEJで説明しましたので、ホームについて考えましょう。
 最初にホームのURLの話をします。そのURLは次の通りと
なっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
         http://twitter.com/home
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はどのユーザーのURLもすべて同じです。ちなみにこのサ
イトのグーグルページランクは「9」なのです。ツイッターを使
うすべてのユーザーがこのページを使うので、「9」という超高
いランクになっているのです。
 しかし、それでは、どのようにしてユーザーを識別しているの
でしょうか。順を追って説明します。ツイッターのアカウントを
取得するのは、次のURLをクリックして行います。
―――――――――――――――――――――――――――――
         http://twitter.com/
―――――――――――――――――――――――――――――
 表示されたサイトの右にある「今すぐ登録」を押して、必要事
項を入力して登録が終わると、表示されるのが「ホーム」の画面
なのです。ここでホームがはじめて出てくるのです。この段階に
おいてツイッター側のシステムはそのユーザの情報をキャッシュ
します。キャッシュとは、一時的に記録にとどめることをいうの
です。そのキャッシュの情報が消えない限り、ツイッターを立ち
上げると、その人自身のホームが表示されます。
 したがって、もし、ツイッターのショートカットをデスクトッ
プ上に作っておき、その後、それをクリックすると自分のホーム
が表示されるのです。リセットなどをしない限り、同じPCで操
作していれば、そのように使えるのです。しかし、別のPCで、
自分のホームを表示させるには、ツイッターの登録画面からログ
インしなければならないことはいうまでもないことです。
 さて、まえおきが長くなりましたが、これからツイッターのコ
ミュニケーションの基本について説明します。
 ツイッターのアカウントを取得したばかりのツイッターのユー
ザーがいるとします。それぞれをAとBとしましょう。
 AとBがそれぞれ「ツイッターをはじめました。よろしく」と
いうツィートを書いたとします。そうすると、そのツィートはど
こに行くのでしょうか。
 そのツィートはAとBそれぞれのホームに表示されるのです。
ホームのツィートが表示される場所のことを「タイムライン」と
いいます。ツィートはここに時系列に積み上げられていくので、
タイムラインと称するのです。
 自分で書いたツィートは自分のタイムラインに表示される──
何の意味があるのでしょうか。現在のAとBの状態──フォロー
される人がゼロ──この状態では基本的にツィートは本人のタイ
ムラインにしか届かないのです。
 ここで少し状況に変化を与えてみます。BがAのツィートを自
分のタイムラインで読みたいと考えたとします。この場合、Bが
Aのツィートをどこで見たかは別として、Bはそういう判断をし
たとするのです。
 BはAのアバターをクリックします。そうすると、Aのマイペ
ージが表示されます。そうすると、上部左側にあるボタン──+
マークと人型/フォローする──このボタンをクリックするだけ
で、BはAをフォローできるのです。システムはBを認識してい
るので、BがAをフォローすることがわかるのです。
 そうすると何が起きるでしょうか。
 AがツィートするとそのツィートはBのタイムラインに、B自
身の発信したツィートと共に表示されるのです。この場合、Bは
Aをフォローしたといい、AにとってBは「フォロワー」──自
分のツィートが届く対象ということになります。
 この場合、BがAをフォローしたことをAは何でわかるのでし
ょうか。それはツイッター本部から発信される次のメールによっ
て知ることができるのです。そして、ホームの右サイドバー上部
にある「フォローされている」が「1」になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 Bがツイッターであなたのツィートをフォローし始めました
―――――――――――――――――――――――――――――
 自分がBによってフォローされていることを知ったAは、上記
のメールに表示されているBのアバターをクリックして、Bのマ
イページを表示します。そして、Bのプロフィールとツィートを
読んで、AもBをフォローすることを決めたとします。やり方は
Bがやったのと同じであり、Bのマイページの上部左側にあるフ
ォローボタンをクリックすればいいのです。
 AがBをフォローした通知はBに届けられ、BはAが自分に対
してフォローを返してくれたことを知ります。この状況を「相互
フォロー」というのです。この時点でのAとBの状態を整理する
と次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  AとB  ともにフォローなし  ・・・ 他人の状態
  AとB  BがAをフォロー   ・・・ 片思い状態
  AとB  相互フォロー     ・・・ 友人の状態
―――――――――――――――――――――――――――――
 現状はABともに、AはB、BはAをフォローしているだけで
両者ともフォロワーはいないので、Aがツィートを発信するとB
がそれを読み、Bがツィートすると、Aに伝わる状態です。つま
り、2人でメールを相互に発信しているのと同じです。
 そうです。こういう使い方もあるのです。よくメールする人と
は相互フォローにしておくと、かえってメールなどより、手っと
り早いコミュニケーションがとれます。しかし、すべての情報は
公開されてしまいます。    ──[メディア覇権戦争/38]


≪画像および関連情報≫
 ●他人のタイムラインを読みたい要望はある/あるブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ツイッターに登録してなくても、人のつぶやきを読むことは
  できるが、自分がつぶやいたり他人宛にコメントするには、
  さすがに登録が必要になる。登録の仕方は前に少し書いた通
  り。大変なのは人間判別される時の文字読みかな。最初に入
  れた名前が通らないと、その前のところまで戻ったか何かし
  て、ちょっと戸惑った気がする。いや、気のせいではなくて
  ね、確かに何か戸惑ったはずだ。で、登録すると、メインコ
  ンテンツたるタイムライン(TL)表示と各種管理ができる
  「ホーム」に行けるようになる。ここは、ログインしてる自
  分本人しか読めない。
      http://blog.so-net.ne.jp/Al_Nasrain/2010-06-02
  ―――――――――――――――――――――――――――

フォローとフォロワーの関係.jpg
フォローとフォロワーの関係
posted by 平野 浩 at 04:07| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月16日

●「ツイッターは『炎上』が起きにくい」(EJ第2900号)

 ツイッターにおけるコミュニケーションは、ブログと違ってそ
の伝わる範囲は限定的であるといえます。SNSである以上それ
は当然のことです。
 ある人のツィートは、基本的にはその人のフォロワーにしか伝
わらないからです。そのため、ブログにはよくある「炎上」は、
ツイッターでは起きにくいのです。
 あるツィートについて批判的なメッセージを送ると、後で述べ
る「リプライ」や「リツィート」によって拡散される可能性はあ
りますが、その範囲はフォロワーに限定されるので、ブログのよ
うに大きく拡散されることはないのです。さらに、そういう批判
的ツィートは自分のタイムラインに入ってくるのですが、そのタ
イムラインは自分以外は見ることができないので、その影響はき
わめて限定的です。
 もうひとつ理由があります。ツイッターにおける対話は、アカ
ウントを持つ人同士のコミュニケーションであるので、マイペー
ジである程度どういう人であるかわかるという点です。もちろん
匿名でもやろうと思えばできますが、SNSの世界では完全に匿
名では信用されないので、そういう人のツィートは拡散されるこ
とはないのです。
 私の場合、2010年1月4日以来、プロフィールも氏名も明
らかにしてツイッターを使っていますが、批判的な書き込みはほ
とんどない状態です。お互いに身分を明かしたうえでのツィート
であり、そこには一定のマナーがきちんと保たれていると私は感
じております。ちなみに私のツイッート総数は、9月12日午後
2時現在で、1303ツィートです。
 しかし、ブログではときとして、匿名での批判的コメントが入
ることがあります。しかし、それはテーマにもよっても違います
し、全体からみればごくわずかです。むしろ多くの励ましをいた
だいております。私は批判的コメントも受け入れており、削除な
どはしていないので、どのようなコメントがきているかについて
は次のURLをクリックして見ていただきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
     http://electronic-journal.seesaa.net/
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、AとBが相互フォローの状態になった場合、「ダイレク
トメッセージ」という方法でメッセージをやり取りできます。ダ
イレクトメッセージとは何でしょうか。
 ダイレクトメッセージは、本人以外の人にはまったく伝わらな
いメッセージ交換です。しかし、これができるのは、相互フォロ
ーができている2人に限られます。AとBのケースでは相互フォ
ローができているので、ダイレクトメッセージは可能です。
 続いて「リプライ」について考えます。リプライは「返信」と
訳されていますが、メールの返信とはかなり違うのです。次の状
況を考えてみます。添付ファイルの図を参照してください。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.AとBは相互にフォローの関係にある
     2.AはFとG2人にフォローされている
     3.C、D、E、Fの4人にBはフォロー
―――――――――――――――――――――――――――――
 この状況のときにBは、Aにツィートを送ったとします。その
ツィートに対してAはリプライをする──そういう設定です。リ
プライの操作は簡単です。タイムラインに届いたツィートの右下
のところにマウスポインタを持っていくと「返信」というボタン
があらわれるので、それをクリックすると、返信のメッセージを
書き込むことができます。しかし、ツィートと合わせてメッセー
ジの字数は140字以内でなければならないのです。
 問題は、返信、すなわち、リプライのメッセージがどの範囲に
届くのかです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 リプライはツィートの発信者と受信者のフォロワーのうち、発
 信者と受信者の双方をフォローしている人だけに送られる。
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記のケースでは、B(返信者)とA(受信者)双方をフォロ
ーしているのはFだけなので、BとFに送られるのです。この場
合、FはAとBのツィートを読みたいと考えてAとBをフォロー
したので、AからBへのリプライには関心のある関係者であり、
リプライが届くのは合理的であるといえます。
 ツイッターにおいて、批判的なツィートを送る行為というのは
リプライで行う場合が多いのです。しかし、リプライは、このよ
うに届く先はかなり限定されているので、あまり拡散することは
ないのです。
 『週刊ダイヤモンド』7/17号の「ツイッターマーケッティ
ング入門」において、ツイッターが「炎上」を受けにくい理由に
ついて次のように述べられています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 その大きな理由の一つは「基本的に、発言(ツィート)はフォ
 ロワーにしか伝わらない」という構造にある。あるアカウント
 がどのような発言をしているかを認識するには、そのアカウン
 トをなんらかの過程で見つけ出し、タイムライン(発言が時系
 列で並んだもの)を遡るか、フォローして常に自分の元に発言
 が流れてくるようにするか、そのアカウントから直接メッセー
 ジを受け取るしかない。仮に、あるアカウントに対して暴言を
 寄せ続ける者がいたとしても、その事実は「攻撃を受けている
 者」「攻撃している者」「攻撃をしている者のフォロワー」に
 しか、伝わっていない(図参照)。それがツイッタ一時有の情
 報伝達の流れなのである。利用者一人ひとり、見えているもの
 が違う。だから、炎上が顕在化しにくいのだ。
            ──『週刊ダイヤモンド』7/17号
―――――――――――――――――――――――――――――
               ──[メディア覇権戦争/39]


≪画像および関連情報≫
 ●なぜ起こる?「炎上」の力学
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「炎上」という言葉は、ネット業界では以前から使われてい
  ましたが、最近「ブログが炎上」などと一般的なニュースに
  おいても聞くようになりました。ネットの世界での炎上とは
  主にブログやSNSの日記に批判的なコメントが殺到する状
  況を指します。私もライブドア事件の影響で、1つの発信に
  ついて、批判や、それに対する議論のコメントが1000以
  上付いた経験があります。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0609/04/news012.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図出典/『週刊ダイヤモンド』7/17号

ツイッターが炎上しにくい理由.jpg
ツイッターが炎上しにくい理由
posted by 平野 浩 at 04:11| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月17日

●「ツィートを拡散するリツィート」(EJ第2901号)

 ツイッターの面白いことは、その機能がメールに似ていること
です。メールはメールソフト(メーラー)──アウトルック・エ
クスプレスなど──に自動的に着信します。
 もう少していねいにいうと、メールはプロバイダのサーバーに
着信するのですが、メールソフトが一定の時間ごとにPCにそれ
を取り込むので、ユーザーにとっては自動的に着信したように見
えるのです。送信者は送信する相手を宛先に指定し、「送受信」
をクリックして送信するので、プッシュ型といわれています。宛
先に向けて押し込むようにして発信するからです。しかし、メー
ルは他の人がそれを見ることはできないのです。
 これに対して、ウェブサイトやブログは記事をアップロードし
ておき、そのサイトにアクセスしてくれるのを待つというスタイ
ルであり、プル型と呼ばれるのです。サイトの方から引き寄せる
という意味でプル(引き寄せる)型です。
 ツイッターは自分のタイムラインにツィートがメールのように
届きます。ツィートは140字の文字制限はあるものの、メール
のように相手のタイムラインに届けることができます。しかし、
届け先はフォロワー全員に同じツィートが届くのです。
 ツイッターをメールのように2人だけのメッセージ交換として
使いたければ、ツィートの送り先になる人全員がツイッターのア
カウントを登録して、自分をフォローしてもらい、こちらも相手
を全員フォローする──相互フォローの関係になっている必要が
あります。これが条件なのです。
 既に述べたように、相互フォローの関係になっていると、ダイ
レクトメッセージの機能が使えるのです。やり方はきわめて簡単
です。ダイレクトメッセージを送るときは、送りたい相手のアバ
ターをクリックし、相手のマイページを表示します。
 そして、右サイドパーの「操作」のところの「○○にダイレク
トメッセージ」をクリックすると、入力欄があらわれるので、そ
こに140字以内のメッセージを書いて「送信」をクリックすれ
ばいいのです。なお、このメッセージのやり取りは2人だけしか
見ることはできません。非公開だからです。
 このようにツイッターは、ツィートをメールのようにフォロワ
ーに対して押し込むように送れるので、プッシュ型といえます。
その届き方はメールよりも早く、リアルタイム性があります。
 一方、ツイッターはマイページを中心に見ると、プル型ともい
えるのです。ここが面白いところです。マイページはグーグルの
検索対象になるURLを有しているので、ウェブサイトの一種で
す。そのページには、自分がフォローしている人のツィートがど
んどんメールのように飛び込んできます。もちろん自分のツィー
トも時系列にマイページに表示されていきます。
 マイページとホーム(タイムライン)──ユーザーがこれら2
つのページを持つツイッターは、SNSの閉鎖性の壁を取り払い
グーグルの検察を許すというオープン性を示しながら、タイムラ
インを絶対に他人には見せないというセキュリティを持つユニー
クなネットツールです。しかも、これがすべて無料で使えるので
すから、使わない手はないのです。
 さて、前回、ツイッターは炎上しにくいということを指摘しま
したが、このことを額面通りに受け取ると、ツイッターは拡散性
が弱いと考えてしまうかもしれません。
 確かにリプライ(返信)機能だけを中心に考えると、その拡散
には限界がありますが、もうひとつ拡散のための強力な機能があ
るのです。それがリツィートです。これは、ツィートを拡散させ
るための強力なツールです。
 リツィートは、ツイッターに最初から備わっていた機能ではな
く、ユーザーが考えて使いはじめた機能なのです。しかし、この
機能の便利さが伝わると、ツイッター本部は後からこのリツィー
トの機能をツイッターの標準機能として追加したのです。したが
って、リツィートには次の2つの種類があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.非公式リツィート
         2.公 式リツィート
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでは公式リツィートについて説明しましょう。添付ファイ
ルのケースによって、リツィートを説明します。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.BはC、D、E、F4人からフォローされている
   2.DはH、I、J、K、Lからフォローされている
―――――――――――――――――――――――――――――
 以上の状況において、AからBに対してツィートが流されたと
します。そのツィートの内容がとても面白かったので、Bはそれ
をリツィートすることにしたのです。ツィートの全文をそのまま
フォロワーに流す行為がリツィートです。
 AからBのタイムラインに届いたツィートの右下にマウスカー
ソルを持っていくと、「リツィート」というボタンがあらわれる
ので、そのボタンをクリックします。それだけの操作でリツィー
トは完了です。
 上記のケースでは、リツィートによって、AのツィートはBの
フォロワー、C、D、E、Fの4人に流されます。さらに5人か
らフォローされているDがBからリツィートされたAのツィート
を再びリツィートしたとします。そうすると、そのツィートは、
H、I、J、K、Lの5人にも瞬時に流されます。
 このようにリツィートは、次から次へと連鎖されて拡散されて
行く可能性があります。その拡散性はリアルタイムにあっという
間にとんでもない多くの人に広がっていくのです。
 ツイッターでは、あるユーザーが発信したツィートはその人の
フォロワーに伝わるだけですが、そこから先は当の発信者の想像
を超えて拡散するのです。アイフォーンである事件の現場写真を
撮ってツイッターで流すと、どんどんリツィートされてとんでも
ない人数に届けられるのです。 ──[メディア覇権戦争/40]


≪画像および関連情報≫
 ●「リツィート」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「リツイート」は、あるユーザーが投稿した好きな情報を再
  投稿し、みんなに広めたいときに使います。投稿の「リツイ
  ート」ボタンをクリックすることでその投稿が、自分をフォ
  ローしているユーザーのタイムライン(画面)に表示されま
  す。この「リツイート」では、自分のコメントを追加するこ
  とはできません。フォローしていないユーザーが表示されて
  いることがあります。それは、自分がフォローしているユー
  ザーが「リツイート」した投稿が、自分のタイムラインに表
  示されるからです。その際、もとの投稿をしたユーザーのア
  イコン、ユーザー名が表示されます。ユーザー名の前に矢印
  のアイコンがある場合、それは「リツイート」された投稿で
  す。どのユーザーが「リツイート」したかは投稿の下に「○
  ○がリツイート」と表示され、複数のユーザーがリツイート
  した場合は、「○○と○人がリツイート」と表示されます。
   http://jikuwatcher.blog17.fc2.com/blog-entry-7296.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

リツィートとは何か.jpg
リツィートとは何か
posted by 平野 浩 at 04:06| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月20日

●「菅首相の政治とカネの疑惑」(休日特集号/04)

 本号はEJの「休日特集号」です。民主党代表選で小沢前幹事
長は敗れましたが、菅報複合体による小沢潰しは目に余るものが
あったと思います。参院選で惨敗を喫した菅首相が小沢氏が出馬
するや、急に支持率を回復する異常さ、何をしたいのかを明確に
せず、実際に何もしていない内閣が10ポイント近く支持率が上
昇する不思議さ──これを「異常」と考えない現状こそ異常であ
ると思います。
 小沢氏には依然として「政治とカネ」の問題が言われ続けてお
りますが、EJの休日特集で既に書いたように、とても現職国会
議員を含む小沢氏の秘書3人を逮捕・起訴してまで、追求する訴
因ではない。その証拠に検察は3人を起訴しながら、裁判を始め
られないでおります。
 とくに大久保秘書については結審の段階まできているのに、裁
判を開けない状況です。無罪が出ることが必至の情勢であるから
です。村木厚子氏のケースと酷似しているのです。
 それなら、小沢氏以外の民主党議員は、本当にクリーンなので
しょうか。そこでクリーンと自らいう菅直人首相の政治とカネの
問題を情報として提供したいと思います。
 菅氏の政治資金管理団体は「草思会」といい、政党助成金はこ
こに振り込まれています。小沢氏の陸山会に該当します。ところ
が、菅氏の政治団体はこれを含めて3つがあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.草思会
         2.菅直人を応援する会
         3.国のかたち研究会
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず、政治団体の主たる住所ですが、1と2については武蔵野
市の築24年の7階建てのマンションになっています。しかし、
マンション1階の郵便受けには、草思会の看板はなく、応援する
会のプレートしかないのです。
 問題は、草思会の経常経費のうち人件費が、1999年からの
10年間、「0」になっていることです。これに対して草思会と
同一の場所に置かれている応援する会の人件費はその10年間で
約2億2700万円が計上されているのです。明らかに草思会に
計上すべき人件費を応援する会に紛れこませています。
 単なる帳簿処理の問題というなかれ、これは経費の付け替えで
あり、政治資金規正法の虚偽記載に該当するのです。これは基本
的に小沢氏の一連の陸山会事件で、元秘書の石川知裕氏ら3名が
逮捕・起訴されたのと、同じ容疑なのです。
 不自然なのはまだあるのです。政治資金規正法では、事務所費
を、家賃、税金、保険料、電話代など、「事務所の維持に通常必
要とされるもの」と定めており、事務所費の大半は家賃が占める
のが通常なのです。
 ところが、草思会の事務所費は、1999年からの10年間で
約1億0710万円、同じ部屋を借りている応援する会は同期間
で約5500万円が計上されているのです。
 それでは、事務所費の大半を占める家賃はいくらなのでしょう
か。2008年の収支報告書によると、草思会の家賃・共益費と
して、年間342万円が計上されていますが、応援する会には家
賃の記載はないのです。
 そうすると、10年間で家賃以外に1億2880万円の事務所
費が使われている計算になります。それらは一体に何に使われた
お金なのでしょうか。まったく使途が不明です。
 これについて、政治資金オンブズマンで、神戸学院大学法科大
学院教授の上脇博之教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かにこの家賃にしては、事務所費が異常に多い。それに人件
 費が長い間、まったく計上されていないのは極めて不可思議な
 ことです。代表選で菅さんはクリーンを標模してきたが、菅さ
 んにも、「政治とカネ」の問題が出てきたと言わざるを得ませ
 ん。菅さんは過去にさかのぼって事務所費や人件費の内訳を明
 らかにする説明責任があります。 ──「週刊現代」9/25
             ジャーナリスト松田賢弥氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 もうひとつの国のかたち研究会の住所は、東京平河町の議員会
館に近い「ノーブルコート平河町」という豪華なマンションにな
っています。しかし、そのマンションに国のかたち研究会の看板
はなく、その304号室には「草思会」のプレートが掲げられて
いるのです。
 ところが国のかたち研究会は、人件費、光熱水費、事務所費な
どの経費は「0」なのです。これは、草思会と同様に応援する会
が国のかたち研究会の人件費も肩代わりをしていることを示して
います。応援する会が10年で約2億2709万円の人件費を計
上しているので、それとわかります。
 つまり、国のかたち研究会は、家賃を草思会に、人件費を応援
する会に肩代わりしてもらっている可能性が高いのです。これは
明らかに政治資金規正法が禁ずる虚偽記載そのものです。
 問題はなぜこんなことをするのでしょうか。その点小沢氏は政
治資金の出入りは、法律が求める以上のものをすべて公開してお
り、世田谷の土地の代金の支出と登記の日が約1ヵ月ずれている
──これは購入時に土地が農地であっため虚偽記載ではない──
というだけの容疑で秘書3人が逮捕起訴され、小沢氏はその共同
正犯の疑いで不起訴になったにもかかわらず、2つの検察審査会
の審査を受けているのです。
 しかるに菅氏は、草思会に入金されたほぼすべての資金を応援
する会に移し、そこでいろいろな操作をやっており、小沢氏に比
べると、はるかに悪質です。
 こんなことをしている本人がクリーンと称しているのはきわめ
て違和感があります。菅氏は総理であり、自らクリーンというの
であれば、きちんと国民に説明責任を果たす必要があるのではな
いかと考えます。なお、菅氏については引き続き、休日特集で取
り上げる予定です。         ── [休日特集/04]


≪画像および関連情報≫
 ●「薬害エイズの菅」のウソ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1996年、厚生大臣になった菅直人氏は、記者会見を開い
  て、1983年当時、厚生省内に非加熱製剤が危険だという
  認識があった旨の発表を行った。このとき菅氏は、エイズ研
  究班の、いわゆる「郡司ファイル」9冊を取り上げて、さも
  大発見であるかのような誤った緊急記者会見のパフォーマン
  スを行った。それをもとに「国の責任を認めて謝罪」という
  ことをした」という記述がありました。菅氏のこのときの言
  動が、いかにデタラメだったかは、以下の通りです。
http://tsiparehtonpyh.cocolog-nifty.com/blog/2010/09/post-f299.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

菅直人総理大臣.jpg
菅 直人総理大臣
posted by 平野 浩 at 03:20| Comment(1) | TrackBack(1) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月21日

●「ツイッターユーザーの2つのタイプ」(EJ第2902号)

 ツイッターは、これまで述べてきたように、フォローとフォロ
ワーの関係で成り立っているコミュニケーションツールですが、
フォロワーが増えないと、その本当の面白さはわからないと思い
ます。それでは、どのようにしたらフォロワーを増やすことがで
きるのでしょうか。
 ツイッターの世界では、フォロワーを増やすための次の言い伝
えがあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 フォロワーを増やすためには、ひたすらフォローすることで
 ある。そうすれば、その60〜70%はフォロワーになる。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この原則は、いわゆるツイッター本にも書いてあるので、多く
のツイッターのユーザーはこれを実施しています。それなら、ど
うしてフォローするとフォロワーが増えるのでしょうか。
 これにはそれなりの理由があるのです。ツイッターのユーザー
は、つねにフォローする人を探しています。フォローする価値が
あるかどうかを判断するポイントは、その人のプロフィールやこ
れまでに発信したツィートの中身ということになります。そのた
めにマイページがあるのです。
 Aという名前のユーザーがBというユーザーをフォローしたと
します。そうするとBには、Aがフォローし始めたというメール
が届きます。そうすると、Bはどういう人がフォローしてきたか
興味を示すはずです。そこで、メールの中のAのアバターをクリ
ックして、Aのマイページを表示します。
 マイページにはAのプロフィールやAが発信したすべてのツィ
ートがあります。Bはこれらを読んで、Aをリフォローするかど
うかを決めるわけです。
 つまり、誰かをフォローすると、そのつどリフォローされる可
能性があるわけです。したがって、多くの人をフォローすると、
フォロワーが自然に増えてくるのです。そういう意味で上記の言
い伝えは正しいといえます。
 ツイッターの世界に限りませんが、何といっても有名人は強い
です。名前が知られているので、あの人がどんなことをつぶやく
のかという興味があるのです。
 しかし、フォローしてみたら、意外につまらないことをツィー
トしているので、盲目的なファンは別として、フォローをやめる
人も出てくるのです。
 そういう意味で、人気がタレント生命を左右する芸能人にとっ
ては、ツイッターは「諸刃の剣」になりかねない危険性もあるの
です。何しろSNSというのは、いくらお化粧して隠しても、ど
うしても本物が出てしまうメディアであるからです。
 それでは名前の知られていない一般人が多数のフォロワーを持
つのは困難なのかというと、そんなことはないと思います。ただ
一般人にとっては、ツィートを書くしか自らをアッピールする手
段がないので、それにすべてがかかっていることをまず認識する
べきです。ツイッターのユーザーは大別すると、次の2つのタイ
プがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.コミュニケーション重視タイプ
      2.何かを伝えたい情報重視タイプ
―――――――――――――――――――――――――――――
 「コミュニケーション重視タイプ」というのは、自らはあまり
積極的にツィートしないで、多くの人をフォローし、届けられる
ツィートの中に自分が関心のあるものにリプライをかけるという
タイプのツイッターユーザーのことです。このリプライに反応す
る人もあり、それはいろいろなコミュニケーションに発展する可
能性があるのです。
 「何かを伝えたい情報重視タイプ」というのは、ニュース性の
ある情報を連続して発信するタイプのツイッターユーザーのこと
です。このタイプのユーザーは、情報性のあるツィートを厳選し
てフォローし、しかもそれをリストに整理して参照する人が多い
のです。自分も情報を発信するするが、価値のある情報の収集も
心がけるタイプのユーザーです。
 私の場合は2のタイプのユーザーです。日刊のブログをはじめ
いくつかの連載原稿を抱えているので、情報収集の目的で読む新
聞・雑誌や書籍などで、これはという情報を140字以内のメモ
にしてまとめ、後で自分がそれを参照するためにツィートすると
いう方針で続けています。
 そのため、あまりフォローせず、これはと思う情報源はリスト
を作って管理しています。リストというのは、自分がフォローし
ているユーザーを分類できる機能です。報道各社のニュース関連
ツィートなどは、リストで管理すると便利です。リストは、複数
のタイムラインを持てるので、使いこなせると便利です。
 あまり、多くのユーザーをフォローすると、自分のタイムライ
ンがそれらのツィートで埋まってしまい、ツィートが埋没してし
まうので、リストを利用して分類するのです。
 2のタイプのユーザーの立場に立つと、フォロワーを増やすに
は、ツィートの質が全てということになります。ツィートの質と
は何かというと、それは「読んで役に立つツィート」ということ
になります。したがって、フォロワーの数が全般的な評価のポイ
ントになります。
 フォロワーの数が多いということは、それだけその人のツィー
トが評価されたということになります。加えて、ツィートごとの
評価は、それぞれのツィートがどのくらいリツィートされたのか
によって決まります。
 ツイッターというメディアは、ものを書く人にとって厳しいメ
ディアです。もちろん文章がうまいかどうかではなく、コンテン
ツに価値があるかどうかが明確に出てしまうからです。それは、
どのくらいリツィートされるかどうかによって明確な評価が出て
しまうのです。      ──── [メディア覇権戦争/41]


≪画像および関連情報≫
 ●リストの機能に関する「シロクマ日報」より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  例えば僕が、三鷹吉祥寺エリアについて有益な情報を提供し
  てくれるアカウントをまとめたリストを作成したとしましょ
  う。そのリストが素晴らしい出来で、多くの人々にフォロー
  されれば、後からやってくるユーザーは「ああ、三鷹吉祥寺
  に興味があればこのリストをフォローすれば良いのだな」、
  「僕は常にこの地域の情報をチェックしたいから、リストの
  フォローではなくリストに含まれているユーザーをフォロー
  するようにしよう」などといった判断が可能になります。こ
  のように特定のテーマのアカウントを探しやすくなりますし
  またタイムライン上に流れるアカウントの数を増やさずに誰
  かをフォローするということも可能になるわけですね。
  http://blogs.itmedia.co.jp/akihito/2009/10/twitter-db86.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典:「週刊ダイヤモンド」1/23より

あるユーザーのフォロワー増加ペース.jpg
あるユーザーのフォロワー増加ペース
posted by 平野 浩 at 04:12| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月22日

●「なぜ、ツイッターは外されたのか」(EJ第2903号)

 2010年7月の参院選から解禁される予定であったネット選
挙──公職選挙法改正案は、鳩山首相、小沢幹事長の突然のダブ
ル辞任によって、いつの間にか消えてしまったようです。
 政権交代前にはネット選挙の実現にあれほど熱心だった民主党
の議員たちは、政権交代が成し遂げられると、まるで手のひらを
返すようにネット選挙実現に不熱心になったのです。むしろ今ま
で一貫して反対の姿勢をとってきた自民党の方が今やずっと熱心
になっています。
 それでも参院選前のネット選挙運用のプロジェクトでは、ホー
ムページとブログはいいが、メールとツイッターは見送りという
ことが決まっていたのです。なぜ、ツイッターがダメなのかにつ
いては、「なりすまし」の防止対策が不十分であるというのが理
由になっています。
 しかし、これはあくまで表面上の理由であり、ツイッターの驚
くべき拡散力に内心恐れを抱いていたとも思われるのです。表面
から見ると、民主党は鳩山氏も菅氏も理系の出身であり、党員も
若い人が多く、少なくとも年配者が多い自民党よりもITに強い
ように見えます。
 しかし、実際はそうではなかったのではないかと思われます。
鳩山首相はたちまちツイッターを使いこなしましたが、菅首相は
どうでしょうか。本当に使えるのでしょうか。
 私は首相に就任以来の菅氏の発言を注意深く聞いていますが、
これまでIT関連の話は一切出ていないのです。失礼ながら、ツ
イッターはおろろか、メールすらも使えないのではないと思われ
るのです。代表選の支持呼びかけで電話をするときも、本人がい
ないと留守電を利用してメッセージを残しており、PCにせよ、
携帯電話にせよ、メールは使っていないのです。もし、そうであ
れば、ネット選挙に賛成であるはずがないといえます。
 さて、ネット選挙のPTでは、なぜホームページとブログは許
されてツイッターは外されたのでしょうか。
 ここで重要になるのは動画については言及されていないことで
す。動画──ユーチューブやニコニコ動画などは、ホームページ
やブログと簡単に連動させられるので、使ってもいいということ
なのです。
 しかし、そのことを民主党議員は知っているかどうかはわかり
ませんが、ツイッターを許すと、ユーストリームまでOKになっ
てしまうことがあります。これは、ユーチューブやニコニコ動画
などとは根本的に異なるものなのです。
 ツイッターの拡散性を担っている機能は、既に述べているよう
に、リツィートです。「RT」──ツイッターの世界ではリツィ
ートのことをこのように書きます。
 ツイッターのユーザーがあるツィートをリツィートするという
ことは、そのツィートを自分のフォロワーにも読ませたいと考え
るからです。それはそのツィートの内容をリツィートする人が価
値あるものとして、評価したことを意味します。
 それでは自分の発信したツィートが、何人ぐらいの人にリツィ
ートされているかを知るにはどうすればよいでしょうか。
 ホーム(タイムライン)の画面の右のサイドバーに「リツィー
ト」というボタンがあります。そのボタンをクリックします。そ
うすると、その画面の上部に「リツィートされたあなたのツィー
ト」というボタンがあるので、それをクリックします。
 そうすると、そこには自分の発信したツィートが時系列に並ん
でいて、それぞれのツィートの下部に「○○人がリツィート」と
いう数値が出ています。そして、アバターが最大15個並んでい
ます。添付ファイルに私のツィートのリツィート状況を示してお
きますので、イメージはわかっていただけると思います。なお、
「EJ」というのがツイッターの世界での私のアバターです。
 これを見ると、2番目のツィートについては、実に377人に
リツィートされていることがわかります。私のフォロワーのうち
377人が、それぞれ自分のフォロワーに対してこのツィートを
届けたことを意味します。仮にそれぞれ一人平均100人のフォ
ロワーがいるとすると、3万7千700人にそのツィートは届い
たことになるのです。
 しかもこれは第1次のリツィートだけであり、第2次、第3次
のリツィートが繰り返されることも考えられるので、このツィー
トは相当多くの人に届くことになります。これがリツィートによ
る拡散性の凄さです。
 また、15人までではありますが、どのような人がリツィート
したかまで知ることができます。それぞれのアバターをクリック
すると、リツィートした人のマイページが表示されるので、プロ
フィールやツィートを参照して、どういう人かだいたい知ること
ができます。
 また、リツィートされるとフォロワーが増える可能性が高いの
です。リツィートの元になるツィートはその発信者のフォロワー
に届けられますが、それがリツィートされることによって、フォ
ロワーのフォロワーに届けられることになります。
 それらの人たちは元のツィートの発信者をフォローしていない
人たちなのです。したがって、リツィートされて届いたツィート
を読んで面白いと考えたとすると、フォローしてくる人はいるは
ずです。このようにしてフォロワーは増えるのです。
 私の場合、ツィートの拡散性の実験も兼ねてツイッターを使っ
ているので、フォローする人を絞っています。2010年1月4
日からツィートを発信しはじめて、9月18日現在私の数字は次
のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     フォローしている人 ・・・・・    9人
    フォローされている人 ・・・・・ 4534人
     発信したツィート数 ・・・・・ 1366人
―――――――――――――――――――――――――――――
             ──── [メディア覇権戦争/42]


≪画像および関連情報≫
 ●ツイッター除外に対する怒り/産経ニュースより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  インターネットを利用した選挙運動の解禁を検討している与
  野党の実務者協議会が5月12日、今夏の参院選から候補者
  と政党のホームページ(HP)とブログの更新を認める一方
  で、ミニブログ「ツィッター」を除外する方向で合意したこ
  とがネット内で波紋を広げている。鳩山由紀夫首相をはじめ
  多くの国会議員が利用しているツイッターを更新できないこ
  とに対し、ツイッターユーザーの間で批判の声が広がり、ツ
  イッターたちは対応に追われた。ツイッター解禁見送りのニ
  ュースがネットに流れると、メディアジャーナリストの津田
  大介さんは即座に「ネット選挙解禁、ツイッターは除外か。
  意味ねーーーー!」と投稿。ビデオジャーナリストの神保哲
  生さんは「これまじ?」、ジャーナリストの神田敏亜晶さん
  も「ツイッターを解禁しないでどうするんだ!」など、ツイ
  ッターで活躍するジャーナリストたちから批判が相次いだ。
http://sankei.jp.msn.com/politics/election/100512/elc1005121958004-n1.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

ツィートのリツィート状況.jpg
ツィートのリツィート状況
posted by 平野 浩 at 04:13| Comment(1) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月24日

●「ユーストリームという新技術がある」(EJ第2904号)

 9月14日、菅直人首相の民主党代表選勝利が決まったとき、
かねてから記者クラブの廃止を唱えてきたジャーナリストの上杉
隆氏は、アイフォーンで次のようなツィートを発信しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
        記者クラブ王国の勝利も確定
―――――――――――――――――――――――――――――
 もともと民主党の公約である記者クラブのオープン化は鳩山政
権発足後も各大臣にまかされ、遅々として進まなかったのです。
それでも民主党はこれまで首相の記者会見などのさい、ネットの
生中継を認めてきていたのです。ニコニコ動画やビデオジャーナ
リストの神保哲生氏によるビデオニュースなどによるネット生中
継がそれです。
 ですから、民主党代表選の生中継は当然あるものと考えていた
人は多かったと思います。かくいう私もそう思っていたのです。
私の事務所にはテレビがないので、ネット生中継で見ればよいと
考えていたのです。
 しかし、民主党はこうしたテレビ生中継を一方的に中止してき
たのです。上杉隆氏は投開票が行われる会場に向かう途中でそう
いう情報を聞いて、民主党関係者に片っ端から聞いたのですが、
誰も知らなかったというのです。中央選挙管理委員会のメンバー
ですら知らなかったといいます。
 それでは誰が決めたのでしょうか。上杉氏によると「党官僚」
といわれている広報の党職員たちが記者クラブと結託して決めた
らしいのです。上杉氏が党官僚にその理由を聞くと、民主党のホ
ームページで動画中継しているからそれでいいだろうという答え
が返ってきたそうです。
 最終的には、党職員が決定を覆して中継はできるようになった
のですが、この一事を見ても菅政権が記者クラブを廃止はもとよ
り、オープン化も無理ということが分かります。とにかく首相か
らしてあまりにも無関心なのです。仮に記者クラブは廃止をして
も記者クラブそのものの存在を隠しているメディアは新聞などに
書かないし、実績にはならないと考えているのでしょう。
 しかし、私は既にアカウントを持っている「ユーストリーム」
で、14日の午後2時から視聴することができたのです。しかし
奇怪なことは、このユーストリームでの生中継は、TBSから提
供されていたのです。なぜ、TBSだけ許されたのでしょうか。
何かコネがあったのでしょうか。納得がいかない話です。
 それはさておき、「ユーストリーム」とは何でしょうか。EJ
では、ユーストリームについて、前回テーマの「ジャーナリズム
論」の中で簡単に説明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 EJ第2843号/2010年6月28日
 「生中継されていた亀井大臣記者会見」
http://electronic-journal.seesaa.net/article/154688954.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 ユーストリームは「無料ネット生中継サイト」のことです。民
主党の事業仕分けがユーストリームで生中継されてから、一躍有
名になったのです。
 もともと普通の個人にとって生中継は非日常のことであり、ピ
ンとこない人が多いと思います。しかし、普通のノートPCとビ
デオカメラ、いや、アイフォーンやアンドロイド搭載のスマート
フォンでも生中継ができるのです。
 アイフォーンについては、ユーストリームのアカウントを持っ
ていることが前提ですが、アップストアから「ユーストリームラ
イブブロードキャスター」というソフトをインストールさえすれ
ば、生中継が可能になります。アイフォーンならつねに持ち歩い
ているので、誰でもいつでも生中継ができるのです。
 選挙のケースで考えてみましょう。ある候補者が街頭で演説を
行ったとします。それを事務所のスタッフが、ノートPCとビデ
オカメラを使って生中継する──それは可能です。ユーストリー
ムを使えば、世界中に演説の映像を発信できるからです。問題は
そこで演説の生中継をやっていることをどのようにして多くの人
に知らせるかです。
 ここがとても大切なところです。ユーストリームが他の生中継
サイトと違う点は、ツイッターとの連携にある点です。2009
年5月からユーストリームは、中継動画の横にツイッターのタイ
ムラインを表示できるようにしたのです。
 ユーストリームによる生中継が始まると、それを見ているツイ
ッターのユーザーは、中継を見ながら、コメントをツィートとし
て流すことができるのです。
 フォローしている人からユーストリームのツィートが流れてき
たとします。その場合、ツィートに付いているURLをクリック
すると、中継動画に飛ぶことができるので、その人は演説を視聴
できます。そして中継動画を見ながらツィートできるのです。視
聴している人が多ければ多いほど、たくさんの人に、中継の存在
が伝わって行くのです。こういう仕組みは今までになかったので
す。そのため、ツイッターの普及とともにユーストリームのユー
ザーはどんどん増えていったのです。
 しかもユーストリームの生中継では、次の2つの数値がつねに
画面に表示され、視聴者数を確認できるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.現在の視聴者数
          2.累計の視聴者数
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに演説を現在何人の人が見ていて、累計では何人の人が
見たかがわかるのです。さらにツイッターによるツィートで、意
見や質問が寄せられることもあります。しかも、それらの演説の
動画はユーストリームに残っていて、ユーチューブのように後か
ら多くの人が見ることができます。これがユーストリームの生中
継です。         ──── [メディア覇権戦争/43]


≪画像および関連情報≫
 ●アクティブユーザーの割合はどのくらいか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ツイッターのアクティブユーザーは私の体感値でフォロワー
  数の10分の1くらいです。フォロワー数が100人の人は
  10人、1千人の人は100 人、1万人の人は千人程度の
  ユーザーの行動に影響を与えます。しかし、ツイッタ一に常
  時アクセスしている人は少ないので、ツイートしたことにリ
  アルタイムで反応してくれるアクティブユーザーは、さらに
  10分の1くらいと考えるのが妥当です。
     ──川井拓也著『USTREAM世界を変えるネット
            生中継』/ソフトバンク新書/135
  ―――――――――――――――――――――――――――

川井拓也著の本.jpg
川井拓也著の本
posted by 平野 浩 at 04:10| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月27日

●「現代には2つの世界がある」(EJ第2905号)

 今回のテーマ「メディア覇権戦争」は今回で第44回に達して
おり、今週で終了する予定です。
 2010年もあと3ヵ月ですが、ちょうど10年前と現在では
大きく異なることがあります。現代は、次の2つの世界がまるで
パラレルワールドのように併存していることです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.リアルの世界
          2.ネットの世界
―――――――――――――――――――――――――――――
 インターネットが作り出す世界は、もちろんインターネットが
普及を始めた時点から存在しているのですが、10年位前から、
それがリアルの世界に大きな影響を及ぼすようになり、とくにビ
ジネスの世界では、これら2つの世界を意識せざるを得ない状況
になってきているのです。
 しかし、ここにきてこれら2つの世界の間には、大きな問題も
生じているのです。それを明らかにするのが今回のテーマであっ
たのですが、ここで整理してみることにします。
 既出の岸博幸氏──慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究
科教授は、これら2つの世界とは「常識の違う世界」であるとし
て、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 例えば、音楽の違法ダウンロードは端的に言えば万引き、泥棒
 です。それにも拘わらず、日本では中高生が何の躊躇もなくど
 んどんやっています。でも、彼らだってお店でCDを万引きす
 ることはしません。リアルの世界で万引きすれば補導されると
 分かっているからですが、リアルとネットでは常識が違うとい
 う端的な例ではないでしょうか。
            ──岸 博幸著/幻冬舎新書/156
 『ネット帝国主義と日本の敗北/搾取されるカネと文化』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 岸氏はもうひとつ重要な指摘をしています。もし、リアルの世
界において、身の回りのものやサービスのほとんどが、米国製ば
かりになったら、誰でもおかしいと考えるのではないかといって
いるのです。
 リアルの世界では、「食」は国の安全保障に関わるから、食料
自給率を上げるべきであるといわれますが、現在ネットの世界で
は、食料と並んで国の安全保障に密接に関わる「情報」について
は、そのほとんどを米国に委ねています。しかし、そのことにつ
いて多くの人は無関心です。
 リアルの世界とネットの世界の常識が違うのは、こんな時代に
なっても、ネットの世界を重視せず、その世界に入ってこない人
が少なくないことにも原因があります。
 今やリアルとネットの両方の世界を体験している人と、リアル
の世界だけの人とは、その考え方も、発想も、常識も、異なると
思います。情報量の差が大きいからです。
 どうして情報量が異なるのでしょうか。
 現代の若者は、新聞もテレビもあまり関心がないといわれます
が、ネットの世界だけは頻繁に出入りしており、相互のコミュニ
ケーションもネットの世界を介して行っています。一方、年配者
を中心にリアルの世界のテレビや新聞や雑誌はよく読んでいるも
のの、ネットの世界の情報にはほとんど関心がなく、信を置いて
いない人がまだたくさんいるのです。
 現在、リアルの世界の情報──テレビや新聞や雑誌などのマス
メディアに載った情報の多くはネット上でも発信されています。
それに加えて、マスメディアに載らない膨大な情報がブログなど
のソーシャルメディアに掲載されているのです。
 今まで、テレビや新聞や雑誌という別の媒体に散らばっていた
情報がネットに集約されている──そのようにいってよいと思い
ます。したがって、世の中の情報をチェックするには、ネットを
チェックすればよいことになります。そういう時代にネットを無
視すれば、情報量に差ができるのは当然です。
 しかし、ネットの世界は明らかにリアルの世界に大きな影響を
与えているのです。身近な例を上げると、ものを買うさいの人間
の購買行動に変化が生じているのです。
 家電製品や電子機器などを購入するとき、現代人はいきなり量
販店に行くことはしないはずです。ネットで「価格コム」などの
ソーシャルメディアを訪問し、製品の使い勝手などの購入者のレ
ビューを読んで製品の評価を参考にし、そのうえで、その製品の
安値価格を確かめたうえで、量販店を訪ねるという順序を踏むよ
うになっています。
 それだけではないのです。実際に量販店に行くこともせず、購
入すべき商品が決まれば、そのままネットで決済してしまうこと
も、ごく普通の購買行動として定着してきているのです。このよ
うに人々はごく自然にリアルの世界とネットの世界を使い分けて
おり、リアルの世界での人間の行動に影響を与えているのです。
 重要なことは、現在ネットの世界では「価格コム」などのソー
シャルメディアが幅をきかせていることです。ソーシャルメディ
アとは、CGM──コンシューマ・ジェネレイテッド・メディア
とほぼ同意義と考えてよいと思います。
 製品を売る側の情報ではなく、製品を購入して使っている人の
情報(レビュー)が出ているサイトです。その特徴を上げると、
次の3つになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.一般生活者が情報の発信者であり受信者でもある
  2.人と人(興味関心人そのもの)がつながれること
  3.不特定多数が参加できるプラットフォームである
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、消費者が生成し、消費者が発信するメディアがソー
シャルメディアなのです。ブログも、SNSも、もちろんツイッ
ターもそれに属します。  ──── [メディア覇権戦争/44]


≪画像および関連情報≫
 ●ソーシャルメディアとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ソーシャルメディアは、インターネットやウェブに基づく技
  術を用いて、ブログやツイッターのつぶやきのような一方方
  向の独り言を多くの人々に伝えることによって、多数の人々
  が参加する双方向的な会話へと作り替える。ソーシャルメデ
  ィアは知識や情報を大衆化し、大衆をコンテンツ消費者側か
  らコンテンツ生産者の側に変える。  ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

価格コム.jpg
価格コム
posted by 平野 浩 at 04:16| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月28日

●「マスメディアのネットへの対応」(EJ第2906号)

 テレビ、新聞、雑誌などのマスメディアの世界や映画、音楽な
どのコンテンツの世界では、コンテンツの制作から流通に至るま
で、すべてのプロセスを全部自社で行う垂直統合型のビジネスが
行われています。
 例えば、テレビ局では、自社ないし関連会社でコンテンツ、す
なわち番組を制作し、それを電波に乗せて、ユーザーのテレビに
送るまでの全てを自社で行っているのです。この流通独占によっ
て、テレビ局は多くの利潤を生み出してきたのです。
 新聞、音楽、映画においても、それぞれの媒体ごとに縦割りの
構造のなかで、制作、編成、流通の垂直構造を維持・管理し、そ
こを押さえることによって莫大な超過利潤を獲得しています。
 ネットの自由を主張するネットの専門家の多くは、そういうマ
スメディアの流通独占を既得権益として批判しますが、そういう
超過利潤によってジャーナリズムがこれまで育成され、ひとつの
文化として育ってきたことは確かなのです。
 既出の岸博幸氏は、ジャーナリズムに関して次のように述べて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ジャーナリズムには2種類の役割が存在します。1つは公にな
 った事実をそのまま伝える単純な事実報道、もう1つは隠され
 た事実の調査を積み重ねてその真実を明らかにし、新しい視点
 を提起するという調査報道です。前者の事実報道は素人でもあ
 る程度対応できるかもしれません。しかし、後者についてはプ
 ロのジャーナリストの働きが不可欠ではないでしょうか。(一
 部省略)アナログ時代は、新聞社が流通独占によって獲得した
 超過利潤でたくさんのプロのジャーナリストを養えたため、結
 果的にジャーナリズムが維持されてきたのです。
            ──岸 博幸著/幻冬舎新書/156
 『ネット帝国主義と日本の敗北/搾取されるカネと文化』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ネットにおける情報やコンテンツの流通経路では、こ
の縦割りの垂直構造が既に崩れているのです。ネット上では、誰
が制作したかは関係なく、すべての情報やコンテンツを流通して
しまうので、そこに「横割り」の流通機構ができているのです。
そしてそこには流通の担い手としてのネット企業が登場するので
す。(添付ファイルの図を参照)
 この状況をマスメディアサイドから見ると、今まで独占してき
た流通をネット企業に奪われてしまったことになるのです。それ
に加えてネット上のビジネスモデルとして定着している「無料モ
デル」によって、コンテンツ企業としてのマスメディアやコンテ
ンツ企業の収益は当然悪化したのです。
 マスメディアの収益がどれほど損なわれるかの例としてアマゾ
ンと新聞社のケースをご紹介します。既に述べたようにプラット
フォームに端末(キンドル)を融合させることで、新たなプラッ
トフォームを構築しようとしています。
 キンドルで新聞を定期購読すると、ユーザーは新聞のデータを
毎日ダウンロードすることになりますが、そのさいのパケット代
を気にすることはないのです。定期購読料のなかに通信料は含ま
れており、今や情報が流れる土管に過ぎなくなっているインフラ
・レイヤーをユーザーから見えなくしているのです。これによっ
てアマゾンは、「プラットフォーム+インフラ+キンドル」を融
合させた新しいプラットフォームを構築したのです。
 アマゾンと新聞社の契約条件は、米国での報道によると、ユー
ザーがキンドルに対して支払う新聞の定期購読料の70%がアマ
ゾンに入るのです。つまり、新聞社はどんなにコストをかけて良
い紙面を作っても、定期購読料の30%しか入らないということ
になるのです。このような状態では新聞社はよい紙面を維持する
ことは困難になること必至です。
 これに関して、マスメディア側の取るべき対策として岸博幸氏
は、次の2つを上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.ネットを含む情報/コンテンツのあらゆる流通経路のなか
   で、何らかの方法で新たな流通独占を作り出し、失った超
   過利潤を少しでも取り戻す方法である。
 2.流通独占を取り戻すのは諦め、流通はプラットフォーム・
   レイヤーのネット企業に依存するという決断をしたうえで
   適正な収益の配分を求める方法である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ひとつの動きがあります。「Hula」(フールー)というサイト
をご存知でしょうか。
 フールーは、2007年に米国のネットワーク局4局中の2局
(NBCとFOX)が共同で開発し、その後ABCも参加して、
3局が最新のテレビ番組の提供を始めたのです。コンテンツ・レ
イヤーに属するメジャーなテレビ局が意思を統一し、一緒になっ
て、プラットフォーム・レイヤーに進出したのです。
 フールーはなかなか好調で、米国の動画サイトでユーザーが視
聴したビデオの数で見ると、ユーチューブの105億には遠く及
ばないものの、フールーは、8・6億と第2位を占めているので
す。この数字は3位の2倍の規模に達しており、フールー上に掲
載されるディスプレイ広告の単価も他のサイトに比べて高い水準
に達しつつあります。
 フールーの成功に即発されて、米国では似たような動きが加速
しています。米最大出版社のタイム、コンデ・ナスト、ハースト
およびメレディスと新聞社のニューズ・コーポレーションの5社
が共同で、共同フォーマットの開発を行うことを2009年12
月に発表しています。
 この動きは、上記マスメディア側の取るべき対策の1に沿った
対応策であり、日本においても今後同じような動きが出てくるも
のと予想されます。コンテンツ企業の危機感による動きのひとつ
と捉えるべきです。    ──── [メディア覇権戦争/45]


≪画像および関連情報≫
 ●フールー設立を伝えるブログより/2008年3月
  ―――――――――――――――――――――――――――
  フールーの最初のプレスリリースから数ヵ月、プロジェクト
  の名前が未定だったそうです。しかも、最終的にフールーに
  落ち着きましたが、フールーはスワヒリ語で「差し止める」
  という意味だったそうです。さらにフールーの会社の目的を
  グーグルからコピーしたり、NBCユニヴァーサルのデジタ
  ル担当役員から良くない評価が出たリと、むちゃくちゃだっ
  たのです。フールーとNBCとニューズ・コーポレーション
  が立ち上げたものなので、NBCとユーチューブは提携関係
  を解消したそうです。
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図出典/岸 博幸著/幻冬舎新書/156『ネット帝国主義
  と日本の敗北/搾取されるカネと文化』より

従来メディアとネット.jpg
従来メディアとネット
posted by 平野 浩 at 04:41| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月29日

●「『ネット法』なるものが検討されている」(EJ第2907号)

 米国によるプラットフォーム・レイヤーの支配と日本における
ジャーナリズム文化の衰退──これは日本にとって由々しき問題
ですが、国民はほとんど無関心です。
 どうも日本人は見えないものに関する関心が弱いようです。こ
れはそれだけネットに関する関心度が薄いことに結びつきます。
日本はSNSといわれるブログにしてもツイッターにしてもその
ユーザーは非常に多いのですが、それを戦略的にとらえる人が少
ないように思うのです。
 したがって、ネット上において現在起きていること──米国に
よるプラットフォーム・レイヤーの支配などは指摘されてはじめ
てそうかと気が付くようなところがあると思います。現状は米国
ネット企業による植民地化に近いことが起きているのに誰もあま
り騒いでいないのです。
 現在、政府では次の2つの制度を検討していますが、ご存知で
しょうか。新聞などではほとんど報道されないので、知らない人
が多いと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.    ネット法
         2.フェアユース規定
―――――――――――――――――――――――――――――
 これら2つの制度は、政府自体が主体的に考えたものではなく
ネット・ベンチャー寄りの弁護士や学者によって提案されたもの
であって、国としてどうあるべきかという戦略的視点は抜けてい
ると思います。
 「ネット法」とは何でしょうか。2008年3月の高瀬徹朗氏
のブログから引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ネット法」は、映像や音声などのコンテンツがインターネッ
 ト上で流通するのを促すために、民間の研究団体であるデジタ
 ル・コンテンツ法有識者フォーラムが骨子をまとめた法案。イ
 ンターネット上のデジタルコンテンツ流通にのみ、包括的で横
 断的に対応できる特別法と位置づけ、現行の著作権制度から独
 立、あるいは現行制度上の規制に左右されない運営を念頭に置
 いている。                ──高瀬徹朗氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、ネット法というのは、ネット上でのコンテンツの流通
を増大させることを目的として、「ネット権」というものを創設
し、それを映画製作者や放送事業者などの流通を担う者に付与し
ようという構想です。
 この場合、ネット権を有する者がその権利を行使して、2次使
用を許した段階で、そのコンテンツに関係するすべての権利者が
合意したとみなすという規定が含まれています。
 そして、この問題に関連して上記2つの制度の2番目「フェア
ユース規定」が出てくるのです。ところで、フェアユース規定と
は何でしょうか。
 フェアユースというのは、米国の著作権法などが認める、著作
権侵害の主張に対する抗弁事由の1つです。米国における著作権
法107条によれば、著作権者の許諾なく著作物を利用しても、
その利用が次の4つの判断基準のもとで公正な利用(フェアユー
ス)に該当するものと評価されれば、その利用行為は著作権の侵
害にあたらないというものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.利用の目的と性格──利用が商業性を有するか非営利か
 2.著作権のある著作物の性質
 3.著作物全体との関係で、利用された部分の量及び重要性
 4.著作物の潜在的利用又は価値に対する利用の及ぼす影響
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の現行の著作権法には米国のようなフェアユースの規定は
なく、個別に著作権侵害とならない場合を定めています。第30
条の「私的使用のための複製」などがそうです。
 そこで日本でも日本版のフェアユース規定を作ろうとしている
のです。しかし、米国においてプラットフォーム・レイヤー企業
がここまで躍進したのは、同国のフェアユース規定のお蔭である
といえるのです。
 フェアユース規定よって、グーグルに代表されるプラットフォ
ーム・レイヤー企業は、検索結果に新聞記事を載せるために必要
な複製の対価を支払う必要がなく、書籍のデジタル化についても
著作権者の許諾なしで進められることが可能になったからです。
 ネット法とフェアユース規定──この制定に関して識者のコメ
ントは批判的です。池田信夫氏は、「ネット法」について次のよ
うにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう新法は実現するとも思えないし意味もない、というの
 が私の印象だ。著作権法を抜本改正し、隣接権を廃止して権利
 を著作者に集中し、許諾権や著作者人格権を廃止し、譲渡可能
 な報酬請求権として著作権を規定しなおすのが本筋だと思う。
 この場合、無方式主義を改めて登録制にし、いま放送業者だけ
 に認められている包括ライセンスを、すべてのユーザーに可能
 にする規定も必要だ。著作者の委託を受けて報酬を一括請求す
 る団体を流通業者からアンバンドルし、イタリアのSIAEの
 ような「ワンストップ・ライセンス」を可能にすることが望ま
 しい。      註・SIAE=イタリア著作者出版社協会
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/f8e700915ac15b9fb2128a3b1c3a2d0c
―――――――――――――――――――――――――――――
 現実問題として、ネットの存在が大きくなるにつれて、マスメ
ディアは劣化し、ジャーナリズムの衰退が始まっているように見
えます。日本でも、最近のテレビ番組の面白くないこと、新聞の
正月特集の内容のなさはそれをあらわしています。政府はネット
問題に正面から向き合い、適切なる対応策をとるべきときにきて
いると思います。     ────[メディア覇権戦争/46]


≪画像および関連情報≫
 ●「ネット法」で流通促進は根拠のない「おとぎ話」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本音楽著作権協会(JASRAC)は2008年12月9日
  「コンテンツの流通促進に本当に必要なものは何か」をテー
  マとしたシンポジウムを、東京都千代田区で開いた。パネル
  ディスカッションではパネリストから、「ネット法ができれ
  ばコンテンツ流通が促進されるというのは根拠のない『おと
  ぎ話』に近い」など、自民党などで議論されているネット法
  に批判的な意見が相次いだ。
http://journal.mycom.co.jp/articles/2008/12/12/jasrac2008/index.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

岸博幸慶応義塾大学大学院教授.jpg
岸 博幸慶応義塾大学大学院教授
posted by 平野 浩 at 04:08| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月30日

●「電子マンガで世界をリードする日本」(EJ第2908号)

 アイパッドとキンドル──これを電子書籍革命の黒船にたとえ
る人が多いようです。黒船というと、外国から攻め込まれるとい
うイメージですが、日本はある一面においては、世界をリードす
る電子書籍大国でもあるのです。
 しかし、日本の電子書籍市場は携帯電話向けが中心なのです。
「電子書籍ビジネス調査報告書2009」(インプレスR&E)
によると、2008年度の日本の電子書籍市場は約464億円に
達しているのです。その内訳は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.  PC向け ・・・・・  62億円
    2.携帯電話向け ・・・・・ 402億円
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように圧倒的に携帯電話向けが多いのですが、402億円
のうち、330億円は実は電子コミックなのです。電子コミック
は、コマ割りがあり、携帯電話の小さい画面で、それを1コマず
つ読んでいくスタイルなのです。「ケータイ小説」というのも一
時流行しましたが、あの小さな画面で文字を読むのはキツイです
が、マンガなら十分の大きさであるといえます。
 いうまでもないことながら、電子コミックは書店に行かなくて
も買えるし、売り切れがないというメリットがあります。電車内
とか、ちょっと時間が空いたときに、その場で購入して読める利
便性があります。
 電子コミックは、一話当り50円程度の価格で提供されていま
すが、その販売に当っていろいろな工夫が施されています。一話
目は通常無料、その続編から有料になり、その場で決済を済ませ
て次を読むというかたちになり、結局一冊を全部読んでしまう人
が多いようです。
 電子コミックは、携帯電話の料金と一緒に徴収される課金シス
テムですから、ついつい買い過ぎてしまうことが多いのです。そ
うなると、50円といえどもバカにならないのです。それにまと
め買いをすると安く読めるという特典付きの場合もあるのです。
 これまでの電子コミック市場は、携帯電話ユーザーの増加やパ
ケット通信料金の定額化によって、順調に成長してきたのです。
それは、過去に紙の本として販売してきた著名作家によるヒット
作品がたくさんあったからです。しかし、そういう作品のほとん
どは既に電子化して販売してきており、新作品がなかなか市場に
入ってこなくなっています。これが電子コミック業者の現在の悩
みになっているのです。
 電子コミックごとに一点売りをすると、著名作家の作品ばかり
が売れて、若手や新人の作品は売れないそうです。もともと週刊
や月刊のコミック誌は安価で売って、その中に人気作家の作品と
新人の作品をセットにしてあるのです。そうしないと、新人や若
手の作品はなかなか読んでもらえないからです。
 こういう売り方はCDのアルバム販売と共通するものがありま
す。ヒット曲を販売するのにあたって、ヒットしていない新曲も
セットしてアルバムとして売ってきたのです。しかし、これをネ
ットでバラして売ると、ヒット曲しか売れないという事態に陥る
のです。これはコミック誌のケースと同じです。
 こういう状況を踏まえて、マンガ雑誌出版社のコアミックスが
毎週金曜日に発刊している週刊コミック誌の携帯電話版『週刊モ
バイルパンチ』として丸ごと提供を始めたのです。価格は525
円です。雑誌は一冊280円であり、4週分なら1120円──
それが携帯電話版なら525円で読めることになります。
 NTTソルマーレという企業があります。国内電子コミック配
信の大手企業です。この会社では、世界に向けて電子コミックの
配信ビジネスを手掛けているのです。海外のキャリアやコンテン
ツ配信会社と提携し、現地の携帯電話でも読めるようにする作業
を含めて幅広く展開しつつあります。既に欧州、インド、中国な
ど29ヶ国や地域でビジネスを展開しているのです。
 このようにアイパッドやキンドルの上陸を黒船としてとらえる
風潮のなかで、携帯電話による電子コミックの世界では、既にビ
ジネスモデルを確立し、国内販売はもとより、海外進出も果たし
ている企業もあるのです。
 一方、アイパッドやアイフォーンなどのアップル端末を使って
マンガの販売を行っているケースもあるのです。小学館『月刊I
KKI』の編集長、江上英樹氏と編集プロダクション「ウィブッ
クス」を経営する倉持太一社長は、共同作業で、松本大洋原作の
『ナンバーファイブ(吾)』のアプリをアップストア上で販売を
始めたのです。アイパッド用としてです。
 アイパッドは画面が大きいので、単に迫力があるというだけの
ことではなく、携帯電話ではできないことができるのです。それ
は多言語対応です。アイパッドの言語設定を「英語」にすると、
セリフの吹き出しのなかは英語が表示されるのです。現在は日本
語と英語のみですが、さらに多くの言語に対応していくというこ
とです。(添付ファイル参照)
 現在、コミック誌は90年代半ばをピークとして部数の減少が
続いています。ピーク時には100万部を超えるコミック誌は9
〜10誌あったのですが、現在では、集英社の『少年ジャンプ』
と講談社の『少年マガジン』の2誌のみなのです。広告収入は減
少し、採算が厳しくなっており、新人を育成する機能は急速に低
下してきているといいます。
 そのため、小学館とウィブックスによるアイパッドを使った試
みは注目を集めているのです。ウィブックスの倉持太一社長は次
のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 まずは日本から世界へ売っていくが、いずれは逆もある。世界
 の才能を発掘してプロデュースすることができるであろう。
              ──「週刊東洋経済」7/3より
―――――――――――――――――――――――――――――
             ────[メディア覇権戦争/47]


≪画像および関連情報≫
 ●イーブックジャパン・鈴木雄介氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  紙の本は大量に在庫すれば保管費用がかかるうえ、紙質も劣
  化していく。そのため短期勝負だ。それに対し電子版は10
  年前にスキャンした作品もまったく色あせることはない。つ
  まりロングテールで長期間販売できるのが電子版。そこに棲
  み分けができる。    ──「週刊東洋経済」7/3より
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●写真出典/「紙を脱いだマンガは世界市場に飛び出す」──
  「週刊東洋経済」7/3

日本語と英語に対応したiPad対応コミック.jpg
日本語と英語に対応したiPad対応コミック
posted by 平野 浩 at 04:11| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年10月01日

●「セルフパブリッシング時代来る」(EJ第2909号)

 「メディア覇権戦争」のテーマの最終回に取り上げておきたい
ことがあります。それはアマゾンによって「セルフパブリッシン
グの時代」が到来するということです。既に日本語に対応してい
るキンドルが完成しているそうです。これによっていよいよ日本
でも本格的な電子書籍の時代が始まると思います。
 今まで普通の人が自分の本を出版するのは、大変なことなので
す。大きく分けて次の3つのケースがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.出版社が本の出版を依頼してくること
     2.自分で原稿を書いて出版社に持ち込む
     3.費用負担を条件に出版社に出版を依頼
―――――――――――――――――――――――――――――
 1の出版社が依頼してくるケースは、普通の人ではあまりない
ケースです。雑誌などの原稿募集キャンペーンで入賞するとか、
何かで有名になったということで、本の依頼がくることはあるで
しょうが、あくまでレアケースです。
 2の原稿の持ち込みは、飛び込みでは門前払いを食らうことが
多いし、コネがあったとしても、よほど原稿のできがよくないと
採用される可能性は少ないでしょう。
 3はいわゆる自費出版ですが、そうやって作った本は書店への
流通には乗らないのです。それに数百万もの費用がかかるケース
がほとんどです。
 新風舎という出版社があったのです。この企業は、新聞や雑誌
の広告で本を出版したい人を募り、共同出版の話を持ちかけ、書
店に出すからといって依頼者から莫大なお金を出させたのです。
しかし、特定の書店の小さなコーナーにしか本を並べず、執筆者
から苦情が出て、結局倒産してしまったのです。
 しかし、電子書籍の時代になると、誰でも本を出版することが
できるのです。アマゾンであれば、出版社の許可もいらないし、
本を作るという本人の意思とその原稿をデジタルテキストで作り
上げることができれば、電子書籍はできるし、しかもそれを「キ
ンドルストア」に並べてくれるのです。費用はISBNコードの
取得費数万円しかかからず、売れたときだけ、アマゾンに定価の
30%を支払えばよいのです。
 アマゾンのこのシステムの正式な名称は、既出の佐々木俊尚氏
によると、次のようになっており、既に使えるそうです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   アマゾン・デジタル・テキスト・プラットフォーム
―――――――――――――――――――――――――――――
 このシステムの特徴について、ITジャーナリスト佐々木俊尚
氏は著書で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 @費用を請求されないこと
 新風舎は出版にあたって書き手に数百万円の料金を求めていま
 したが、アマゾンDTPでは初期費用はゼロ。あくまでも売れ
 た分から手数料を差し引かれるだけです。
 Aプロの書き手のプラットフォームにもなる
 アマゾンDTPで刊行される電子ブックはそのままキンドルス
 トアに並びます。つまり他のブックとフラットに表示されるわ
 けで、「この本は自費出版だから普通の本と達う」などと区別
 されることはありません。つまりはプロもアマチュアも同じよ
 うに使えるプラットフォームになっているということです。
                     ──佐々木俊尚著
  『電子書籍の衝撃/本はいかに崩壊し、いかに復活するか』
                 ディスカヴァー携書048
―――――――――――――――――――――――――――――
 どのようなイメージで本を作るのかについて、佐々木氏の本を
参考にして述べます。まず、ISBNコード(図書コード)を取
得しておく必要があります。次のサイトを表示します。
―――――――――――――――――――――――――――――
   http://www.isbn-center.jp/shutoku/index.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 ISBNコードは申請して取得する必要があります。申請先は
「日本図書コード管理センター」です。詳しくは「登録申請を行
う前にご確認ください」の部分をゆっくり読んでください。そう
すると、個人(出版者)でも申請できることがわかります。
 「出版者記号申込書」をダウンロードして、フォーム通りに名
前や住所、電話番号、メールアドレスなどを入力して、印刷しま
す。そして、次の金額(10冊分で十分)を郵便局に振り込んで
その受領証を貼り付け、日本図書コード管理センターに郵送する
のです。コードは約3週間後に郵送されてきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    本 10冊分 ・・・・・・ 1万6800円
    本100冊分 ・・・・・・ 2万8350円
―――――――――――――――――――――――――――――
 続いて、アマゾンのIDを取ります。そしてログインすると、
次の3つのコーナーが現れます。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1. マイシェルフ
          2. マイレポート
          3.マイアカウント
―――――――――――――――――――――――――――――
 マイシェルフはそのIDを持つ人の本棚、マイレポートは売り
上げデータレポート、マイアカウントは印税振り込み銀行口座情
報であり、本の作成はマイシェルフで行います。
 本の原稿は、ワード文書、PDF、HTMLなどに対応してい
ますが、レイアウトなどはシステムが自動で行います。図や写真
などを入れることも可能です。価格は自分で決められ、売れた場
合に、70%が印税として振り込まれます。あなたも電子書籍を
発刊しませんか。────[メディア覇権戦争/48/最終回]


≪画像および関連情報≫
 ●電子図書発刊に当って登録すべき項目
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ・ISBNコード
  ・本のタイトル
  ・あらすじ
  ・出版者名
  ・言語
  ・刊行年月日
  ・ジャンル
  ・著者名
  ・検索されるためのキーワード
  ・版数(初版か第二版か)
  ・シリーズの名前
  ・表紙の画像
  ―――――――――――――――――――――――――――

佐々木俊尚氏と著書.jpg
佐々木 俊尚氏と著書
posted by 平野 浩 at 04:13| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする