2010年04月19日

●「日本の首相がバカにされている」(EJ第2797号)

 1月4日から3ヵ月半かけて「小沢一郎論」を書いてきました
が、その期間中連日2000人〜2500人の読者が私のブログ
を訪れていただいており、このテーマの関心の高さに驚いている
しだいです。
 そこで次のテーマを何にしようかと悩んだのですが、次のテー
マで書くことにしました。
―――――――――――――――――――――――――――――
     改めて問う/真のジャーナリズムとは何か
      ─ 日本のマスメディアのあり方 ─
―――――――――――――――――――――――――――――
 新しいEJのテーマに、このテーマを選んだ理由としては次の
3つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.前テーマ「小沢一郎論」と連続性があること
   2.日本のマスメディアは現状のままでいいのか
   3.ブログ、ツイッターなど新メディアとの関係
―――――――――――――――――――――――――――――
 最初にこの話題から取り上げます。
 鳩山首相は4月12日からワシントンで行われた核安全保障サ
ミットに出席しましたが、事前の調整にもかかわらず──調整を
しなかったことになっている──オバマ大統領とは会談ができな
かったのです。
 これに対して日本のマスメディアは「日本はオバマ大統領に会
談を懇願したが、会ってもらえなかった」というように書いてい
ますが、この表現は日本のマスメディアが目指しているはずの不
偏不党や客観報道からかなり逸脱していると思うのです。
 米国側としては今鳩山首相と会って中間報告を聞いても仕方が
ないという思惑もあり、会わなかったのでしょうが、多くの首脳
が米国との会談を求めていて調整がつかなかったというのも真実
であると思うのです。とくに今回のサミットは、かつてないほど
に各国の首脳がオバマ大統領との距離の近さを競い合い、必死に
なったことはなかったといいます。
 そこで外務省は夕食会のさい、鳩山首相の席をオバマ大統領の
隣の席にするよう働きかけ、それを実現させています。そして、
10分間ではあったけれども鳩山首相はオバマ大統領と1対1の
会談をしているのです。
 このことはどのメディアも書いていますが、そのさい大事なあ
る出来事を日本のメディアはあえて報道していないのです。それ
は全員が夕食会の席に着いたとき、オバマ大統領は立ち上がり、
次の趣旨のようなことを述べたことについてです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これから約10分間ほどは私は(日本の鳩山首相と)話があり
 ます。みなさんはゆっくりと食事を楽しんでください。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはオバマ大統領としては、会談ができなかったことへの鳩
山首相に対するささやかな配慮であると思います。席が隣なので
すから、別にそんなことをいう必要はないからです。しかし、そ
の事実を日本のマスメディアは報道しなかったのです。この事実
を知らない場合と知っている場合では、日本人のオバマ大統領に
対する印象は大きく異なると思います。
 しかし、14日の米ワシントンポスト紙の報道は、いささかき
ついものであったのです。産経ニュースはこれについて次のよう
に伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 【ワシントン=佐々木類】藤崎一郎駐米大使は15日の記者会
 見で、核安全保障サミットに出席した鳩山由紀夫首相に関し、
 米紙ワシントン・ポストが14日付のコラムで「首相が最大の
 敗者」などと報じたことについて、「一国の首相に対して失礼
 だ」と不快感を示した。藤崎大使は「記事はコラムであり、ポ
 スト紙の考え方を反映しているとは思わない」としながらも、
 同紙に対して抗議するのではなく、日本の立場を説明する機会
 を設けるかどうか検討する考えを示した。記事は風刺調のコラ
 ムとして掲載された。この中で鳩山首相を「不運で愚かな日本
 の首相」と紹介。米軍普天間飛行場の移設問題で首相のことを
 「まったくあてにならない」とこきおろし、「あなたは同盟国
 の首相ではなかったか。首相を相手にしたのは中国の胡錦濤国
 家主席だけだ」と皮肉った。       ――産経ニュース
―――――――――――――――――――――――――――――
 たとえコラムとはいえ、日本の首相をバカにした表現を使って
いますが、日本のメディアはその事実を伝えるだけで──こうい
うときは客観報道になる──鳩山首相がいかにダメであるかを強
調して報道しています。そして、世論調査を実施していかにこの
政権がダメな政権であるかのダメ押しまでしているのです。なぜ
日本のマスメディアは抗議をしないのでしょうか。もし、米国の
大統領に対して日本のメディアがこういう報道をしたらどうなる
でしょうか。米国から物凄い抗議がきます。
 ワシントンポスト紙が鳩山首相に使った言葉は、英語の次の言
葉です。
―――――――――――――――――――――――――――――
        hapless and increasingly Loopy
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ルーピー」とは、くるくる回るという意味ですが、要するに
「くるくるパー/バカ」という意味です。自国の首相に対しここ
までいわれても抗議もせず、逆に「こんなひどいことをいわれて
いるじゃないか」と、自分の国の首相を貶める日本のマスメディ
アはあまりにもおかしいと思います。
 このまま行くと、普天間問題は解決せず、衆参同日選がますま
す現実のものになります。野党の党首も「辞任」を口にしていま
すが、衆参ダブル選挙なると、小沢幹事長の采配がものをいうこ
とになります。     ――──[ジャーナリズム論/01]


≪画像および関連情報≫
 ●「哀れなハトヤマが最大の敗者」/ワシントンポスト紙
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「哀れなハトヤマが最大の敗者」。14日付の米紙ワシント
  ン・ポストは3面のコラムで、核安全保障サミットでの各国
  首脳外交を総括し、オバマ米大統領と公式の首脳会談を行え
  なかった鳩山由紀夫首相を皮肉った。筆者は著名コラムニス
  トのアル・カメン氏。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)
  の移設問題をめぐる迷走の結果、米政権で鳩山氏に対し「変
  わり者」「信頼できない」との評価が広まっていると紹介。
  首脳会談を申し込んだが受け入れられず「残念賞が夕食会で
  の“非公式”会談。メーンディッシュとデザートの間にやっ
  たのだろうか」とこき下ろした。さらに普天間問題を5月中
  に解決すると約束しながら実現しそうにない現状に触れ「ユ
  キオ、盟友のはずだろう?米国の核の傘で何十億ドルも節約
  しただろう?」と畳み掛けた。一方で“勝者”の筆頭には、
  首脳会談が1時間半に及び主役の座を手にした中国の胡錦濤
  国家主席を挙げ、オバマ大統領が握手をしながら胡主席に頭
  を下げている写真が掲載された。(ワシントン共同)
  ―――――――――――――――――――――――――――

夕食会での鳩山・オバマ会談.jpg
夕食会での鳩山・オバマ会談
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(2) | TrackBack(1) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月20日

●「マスコミとジャーナリズムの違いは何か」(EJ第2798号)

 フリーランスのジャーナリストである上杉隆氏は、著書の冒頭
で、次のように読者に問いかけています。「日本にジャーナリズ
ムはあるのだろうか」と。これに対して、上杉隆氏は自ら次のよ
うに答えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 結論から先にいえば、「日本に『ジャーナリズム』はある」。
 ただし、それは日本独特のものであり、海外から見ればジャー
 ナリズムとはいえない。           ──上杉隆著
        『ジャーナリズムの崩壊』/幻冬舎新書089
―――――――――――――――――――――――――――――
 マスコミ、ジャーナリズム、報道、取材などなど、いろいろな
言葉が使われていますが、それぞれの言葉の意味することをちゃ
んと区別できるでしょうか。
 とくに「マスコミ」と「ジャーナリズム」は、同じもののよう
に考えている人が多いですが、これらは次のように、ぜんぜん別
のことを意味する概念なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    マス・コミュニケーション ・・・・・ 現実
         ジャーナリズム ・・・・・ 理念
―――――――――――――――――――――――――――――
 現代社会には、利害ではなく特定の理念によって構成される社
会領域があるのです。ジャーナリズムもそのひとつです。その社
会領域で働く人々は、そうした理念に基づいて活動するのです。
しかし、時間が経過するにつれて、そうした理念はさまざまな利
害によって浸食され、形骸化していくことが多いのです。
 マス・コミュニケーションは、もともとジャーナリズム活動と
してはじまり、それを柱として発展してきたという歴史的事情が
あります。しかし、その発展プロセスの中で、ジャーナリズムの
理念がしだいにその比重をうすめて、ジャーナリズムがマス・コ
ミュニケーションのひとつの機能に過ぎないと考えられるように
なっていったのです。そのため、「理念」をあらわすジャーナリ
ズムが「現実」をあらわすマス・コミュニケーションとよく混同
されるのです。ジャーナリズム研究家の新井直之氏は、ジャーナ
リズムの本質を次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ジャーナリズムの本質とは、「いま言うべきことをいま言う」
 ことであり、「いま伝えなければならないことをいま伝える」
 ことである。『伝える』とは、いわば報道の活動であり、『言
 う』とは、論評の活動である。それだけが、おそらくジャーナ
 リズムのほとんど唯一の責務である。    ──新井直之氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主主義とは何でしょうか。
 民主主義とは国民が直接的、間接的に政治に参加すること──
自分たちのことは自分たちで決めるという原則です。そのとき、
重要なのは、自分で決定するさいの知的条件というか情報──自
分たちの現状について、できるだけ正確で詳しい知識や情報を有
している必要があるということです。
 国民一人ひとりが平等に自分たちの現状について、その知識や
情報を平等にわかちあっていることが民主主義の前提条件という
ことになります。これが「国民の知る権利」です。
 ところが、民主主義的手続きによってひとたび権力が成立する
と、意思決定に必要な知識や情報が権力の極の方に集中し勝ちに
なり、平等に配分されなくなってくるのです。もし、この傾向が
放置されると、権力は国民による正当なコントロールから外れ、
逆に権力が国民をコントロールする事態を招くことになります。
 そうならないようにするため、なんらかの制度的対策が必要に
なってきます。新井直之氏が前述したように、「いま言うべきこ
とをいま言う」ことと「いま伝えなければならないことをいま伝
える」こと、すなわち、ジャーナリズムが要請されるのは、この
ためなのです。ジャーナリズム活動の正当性は、国民がもともと
もっている「知る権利」の代行──具体化にあります。
 原則論はこのくらいにして、日本の現状について考えてみるこ
とにします。日本において「ジャーナリズム」といっているのは
海外における「ワイヤーサービス」に該当するのです。それでは
「ワイヤーサービス」とは何でしょうか。
 ワイヤーサービスとは、日本でいうと、共同通信や時事通信の
ような通信社のことをいうのです。すなわち、ワイヤーサービス
とは、速報性を最優先業務とするメディアのことです。ここで重
要なのは通信社と新聞社はその役割が違うということです。
 通信社と新聞社はどこが違うのでしょうか。
 1999年7月にANA61便がハイジャックされたことを覚
えているでしょうか。そのとき上杉隆氏は、ニューヨーク・タイ
ムズでインターンとして働きはじめたばかりのときであり、いき
なり大事件に遭遇していささか慌てたそうです。自分は何をすベ
きかわからなかったからです。
 そこで、上杉氏は当時の支局長であるニコラス・クリストフ氏
に電話をして指示を仰いだのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今ハイジャックが発生している。当該機はまだ飛行中だ。私は
 羽田空港に行くべきか、運輸省(当時)に行くべきか、あるい
 は全日空の本社に行くべきか、判断がつかない。他のスタッフ
 との兼ね合いもあるだろうから、支局長からの指示がほしい。
                      ──前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の新聞社なら「すぐ空港へ行け!」というような指示が出
されることが予想されたのですが、クリストフ支局長からは予想
に反して次のような暢気な返事が返ってきたのです。
 「なぜそんなに慌てる必要があるのか」と。それから、支局長
はゆっくりと解説をはじめたのです。
            ――──[ジャーナリズム論/02]


≪画像および関連情報≫
 ●ワイヤー・サービス(Wire Service)とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  プレスリリースを、メディアに配信し、さらにサービス事業
  者のウェブサイトや提携メディアに掲載する広報通信サービ
  ス。日本では配信だけを行うサービスも多い。元は報道機関
  にニュース情報を提供している通信社が、電話回線などを使
  って企業のリリースを配信していたため「ワイヤー」と呼ば
  れている。リリース配信先をサービス事業者が最新のものに
  保ってくれることや、リリース掲載によってリンクが増える
  ことが、サービス利用のメリットだといわれている。
  ―――――――――――――――――――――――――――

上杉隆氏.jpg
上杉 隆氏
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2010年04月21日

●「日本メディアの客観報道と不偏不党」 (EJ第2799号)

 クリストフ支局長は「ハイジャックは確かに大きなニュースで
あるが、発生したばかりの現時点でわれわれが動く必要はない。
それはAPやKYODOなどの通信社の仕事である」といったう
えで、次のように上杉氏に説明したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 われわれ新聞の仕事は、ハイジャック自体にどういった背景が
 あるのか、それは政治的なものなのか、単に金銭目当てのもの
 なのか、あるいは無事に解決したのか、悲惨な結果に終わった
 のか、そういったものをすべて見極めた上で初めて、取材をス
 タートするかどうか判断を下すべきなのだ。その上で、本当に
 ニューヨーク市民や米国の読者にとって、それが有益なニュー
 スなのかどうかよく吟味したのちに記事にするのかどうかを決
 める。それまではわれわれの仕事ではない。それは通信社の仕
 事だ。彼らの仕事の邪魔をしてはいけない。われわれは新聞記
 者なのだ。                 ──上杉隆著
         『ジャーナリズム崩壊』/幻冬舎新書089
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国の新聞社では、新聞社と通信社の仕事を完全に分けており
日々のニュースなどはワイヤーサービスに依頼しているのです。
そして、自らの仕事をジャーナリズム的役割に特化しているわけ
です。したがって、記者の数も少ないのです。
 2000年の時点で、ニューヨーク・タイムズの海外特派員は
たったの33人、すべての記者を合わせても300人ほどしかお
らず、それでいて連日、通常版で約100ページ、日曜版だと約
300ページを超える記事を書いているのです。
 これに対して日本の新聞社の記者の人数は非常に多いのです。
1990年代の数字ですが、読売新聞で約4000人、朝日新聞
で約3000人の記者を擁していたのです。もっとも読売、朝日
は全国紙で、ニューヨーク・タイムズは地方紙ではあるものの、
それでも人数は圧倒的に多いのです。
 こんなに記者の人数が多くても日本の新聞は朝刊で36ページ
程度であり、ニューヨークタイムスの100ページに到底及ばな
いのです。新聞記者としての能力が不足しているのです。
 日本の新聞社の記者の人数が多い理由は、地方支局にも記者を
配置していることや個々の記者が日々のニュースを追いかける通
信社的な仕事もやらなければならないことがあります。
 それでいて、ニューヨークタイムスのように、分析や批評記事
を書ける記者はごく一部なのです。これは、毎日のように日々の
ニュースを追いかけているうちにそれが自分の仕事であると勘違
いしてしまう記者が多いことを示しています。自分がジャーナリ
ストであることを忘れてしまっているのです。
 それに米国の新聞記事の一文は非常に長いのです。一本が週刊
誌のトップ記事の長さ程度はあるのです。したがって、米国の新
聞は日本でいう週刊誌のようなものであると考えるとわかりやす
いと思います。
 また、日本の新聞社では、政治部、経済部、社会部、運動部と
いうカテゴリーがありますが、海外の新聞社には基本的にそのよ
うなものはないのです。したがって、海外の記者は政治でも経済
でも同時並行的に取材して記事を書いているのです。
 しかし、日本では、そのカテゴリーによって記者ががんじがら
めになっているのです。それぞれのカテゴリーの記者は、他のカ
テゴリーに属する取材もできないし、記事も書けないのです。例
えば、政治部の記者は経済の取材もできないし、経済記事を書け
ないのです。
 上杉隆氏によると、政治部記者の中でも与党担当と野党担当が
あって、同じ政治部の記者でも与党担当の記者は野党議員にイン
タビューできないというのです。与党担当記者がどうしても野党
議員に取材したいときは、野党担当記者に代役を頼むか野党担当
記者に同行するしかないのです。こんなことをやっている新聞社
は日本しかないのです。
 もうひとつ日本の新聞社は、よく知られているように次の2つ
の原則を守っているといわれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.客観報道
           2.不偏不党
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の原則は「客観報道」です。
 これは一見立派なことのように見えます。しかし、記事という
ものを本来通信社の担当であるストレートニュースとジャーナリ
ズムの担当である分析・批評に分けることなく、ただ単に「客観
報道」を標榜するというのはナンセンスです。
 ストレートニュースなら客観的事実に即して報道すべきである
という議論はわかるとしても、分析・批評をするには、ジャーナ
リストとしての主観が入ってくるのであって、「客観報道」は困
難であると思います。
 第2原則は「不偏不党」です。
 米国の報道機関ははじめから支持政党を明らかにしています。
上杉隆氏によると、先の大統領選挙では、予備選のときからニュ
ーヨークタイムスは、共和党はジョン・マケイン、民主党はヒラ
リー・クリントン、ロサンゼルス・タイムスは共和党はジョン・
マケイン、民主党はバラク・オバマというように明確に支持政党
を明らかにして記事にしているのです。
 しかし、日本の記者クラブメディアはどうでしょうか。「不偏
不党」を謳いながら、その実態は、従来政権与党に擦り寄った報
道を繰り返しています。政治記者は政権に肉薄し、永田町の実情
を詳しく知りながら、与党政治家に対して厳しい報道をしたこと
がないのです。日本では週刊誌が先行して報道し、それを後追い
するかたちで報道するのが常であり、様子を見極めてから報道す
る──少しも「不偏不党」ではないのです。
            ――──[ジャーナリズム論/03]


≪画像および関連情報≫
 ●報道の不偏不党はどこまで守られているか/切込隊長ブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  漆間さん問題、つか、本当は鴻池さんのこともあるんだろう
  けれども、小沢さんの秘書逮捕というのは非常に大きい流れ
  であったことも考えるとマスコミが大騒ぎして内閣支持率が
  上がったの下がったの、首相に相応しい人のアンケート結果
  に一喜一憂するのも仕方ないことだとは思うんですよ。ただ
  ネットで見るニュースはもちろん、マスコミが民主党を煽っ
  てワントップ小沢体制ができあがってしまい、そのキングで
  ある小沢さんにスキャンダルが発生すると一気にバブル崩壊
  気味の世評になるのも仕方がない。民主党に人材がいないと
  いうことではなく、小沢さんは選挙に強く、政権交代が実現
  するまでは小沢さんに引っ張っていってもらおう、というの
  がマスタープランだったんだろう。だから、岡田さんであれ
  前原さんであれあまりでしゃばることなく、また若手を糾合
  して小沢対抗軸になるようなこともしなかった。
  http://kirik.tea-nifty.com/diary/2009/03/post-ae96.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ニューヨークタイムス本社ビル.jpg
ニューヨークタイムス本社ビル

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2010年04月22日

●「日本の新聞はなぜつまらないか」(EJ第2800号)

 日本の新聞・テレビの報道は、どれもこれも同じような内容で
あると思ったことはないでしょうか。
 その典型はテレビの政治報道です。日曜日の午前中は政治番組
が多いのですが、一番時間が早いのは、午前7時30分のフジの
「新報道2001」です。その番組に出演した与野党の議員が午
前9時からのNHKの「日曜討論」にも出演し、さらに午前10
時からのテレビ朝日の「サンデープロジェクト」(現在は「サン
デー・フロントライン」)に出演することが多いのです。
 テーマも似たり寄ったりであり、発言も同じ人間ですから、同
じというわけで、そこに新鮮さは何もないし、番組の特徴という
か、個性がほとんど出ていないのです。政治に関心のある視聴者
は、日曜日の一連の政治番組をハシゴして視る傾向があることぐ
らいテレビ局はわかっているはずです。
 テレビだけではないのです。新聞も同じです。各紙のどの記事
も基本的に同じ内容なのです。ほとんどがワイヤーニュースが中
心で、分析・批判記事が少ないので、どの新聞の記事も同じに見
えてしまうのです。
 どうしてこうなってしまうのでしょうか。
 上杉隆氏は、著書において国会での次のような不思議な光景を
披露しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国会で取材をしているとしばしば不思議な光景に出くわす。何
 人もの記者たちが円陣を組んで額をつき合わせている光景だ。
 ひとりの記者がメモを片手に何かコメントを囁いている。周囲
 の記者たちは、逐一その語彙を確認しながら、ペンを走らせて
 いる。ライバルに対して塩を送るようなこの行為は「メモ合わ
 せ」と呼ばれている。            ──上杉隆著
         『ジャーナリズム崩壊』/幻冬舎新書089
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の記者は、なぜ「メモ合わせ」をするのでしょうか。
 それは、同じテーマの記事について自分の書いた記事が間違っ
ていたら困ると記者が考えているからです。これではまるで期末
試験を前にした大学生が、教授の講義の内容の把握・理解に間違
いがないかどうかの内容合わせをしているのと何も変わらないと
思うのです。記者がこのような考え方では、新聞の記事の内容が
同じようになるのは当たり前のことです。
 さらにこんな話があるのです。日本の新聞記者はあるスクープ
を掴んで、記事を書いたような場合、どの新聞社も後追い記事を
書いてこないと不安になるそうです。
 そこで何をやるかというと、信じられないことですが、自らの
ライバルにたちに情報をリークして、他紙に同じテーマの後追い
記事を書かせるというのです。そうしないと、スクープを書いた
記者は安心できないのです。違っていたときの責任回避です。
 これについて、上杉隆氏は、怒りをもって次のように述べてい
ます。海外の記者であれば、このようなことは絶対にやらないこ
となのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 彼らの職業は一体何なのか?自分を信頼できない人間が、記者
 と名乗って自信のない記事を書く。それを読むのは読者だ。読
 者こそが災難だ。一体、自らの自信の持てない記事を出して、
 どのように読者を納得させようとしているのか。どの新聞を読
 んでも同じなのは、こうした無意味な横並び意識を持ったまま
 取材を行い、執筆しているからであろう。哀しいかな、これが
 日本の新聞の現実なのだ。         ──前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の新聞の場合、基本的な記事については、各紙ほとんど同
じになるからくりについてはここまで述べた通りですが、その分
スクープに属する記事については週刊誌で報道されることが多い
のです。新聞で報道する前に週刊誌で報道しておいて、それが間
違いなくその通りであると判明した時点で、そうする価値があれ
ば、はじめて新聞が後追いすることが少なくないのです。週刊誌
なら、多少問題のあることを書いても大丈夫であると考えている
のでしょうか。
 しかるに、現在最も売れている新聞は読売新聞で約1000万
部であるのに対し、もっとも売れている週刊誌は「週刊文春」で
その発行部数は約60万部程度といわれているのです。この数字
をみると、日本は新聞だけを読んで週刊誌を読まない人が非常に
多くいることがわかります。
 ところが、週刊誌の世界では、スクープに属する比較的詳細な
記事──ジャーナリスティックな記事──が多く掲載されるのに
対し、新聞では横並びの似たような記事しか掲載されないという
ことになると、週刊誌を読まない多くの日本人には真実を伝える
情報が届かないことになります。
 もちろんテレビがあるので、情報不足になることはないとして
も、テレビでは週刊誌ほど詳細に情報を伝えられないことも多く
あるのです。
 日本の新聞は週刊誌をバカにしているところがあります。それ
は新聞が週刊誌の記事を引用するとき、「一部週刊誌が報じたこ
とによると」という表現をよく使うことによってそれがいえると
思うのです。引用であるのに、きちんとその週刊誌のクレジット
を入れていないのです。これは新聞のメンツ以外の何物でもない
と上杉隆氏はいうのです。
 もし、日本の新聞の記事が海外の新聞のようにワイヤーニュー
スと分析と批判記事に切り分けされ、両方掲載されるようになれ
ば、国民の「知る権利」にとって重要な存在になります。そのた
めには、日本の新聞には大きな改革をする必要があります。
 しかし、日本の新聞の改革は容易なことではできないのです。
日本の場合は、新聞だけでなくテレビや雑誌などを含めたマス・
メディア全体の改革が必要になるからです。このあと、ひとつず
つ見ていくことにします。――──[ジャーナリズム論/04]


≪画像および関連情報≫
 ●上杉隆氏のプロフィール
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1968年福岡県生まれ。NHK報道局勤務、衆議院議員公
  設秘書、ニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者を経て、
  2002年よりフリーランスのジャーナリストとして活動。
  著書『官邸崩壊』(新潮社)はベストセラTに。NHK勤務
  に関し経歴詐称を取り沙汰されるが、東京地裁が認定した2
  年超の勤務実態を根拠に反撃。中傷にも屈しない打たれ強さ
  に定評がある。徹底した取材と精緻な分析で、記事・作品を
  発表するたび永田町が震撼する気就のジャーナリスト。
  ―――――――――――――――――――――――――――

上杉隆著「ジャーナリズム崩壊」/幻冬社.jpg
上杉隆著「ジャーナリズム崩壊」/幻冬社
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月23日

●「最後まで実現できるのか/オバマ大統領」(EJ第2801号)

 現在の日本の新聞やテレビは、鳩山首相と小沢幹事長に対して
きわめて冷たい態度をとっています。しかし、あれほど露骨で厳
しかった小沢バッシングは、最近ほんの少しですが、鳴りを潜め
つつあります。相変わらず幹事長辞任を求める声は多いですが、
そのパーセンテージはほんの少しながら小さくなっています。
 しかし、その分鳩山首相への攻撃が以前よりも厳しくなったよ
うな気がします。新聞、テレビは、鳩山首相が核サミットでオバ
マ大統領との会談がセットされず、夕食会での10分程度の会談
になったことを「日米同盟の危機」であるとし、出発前からさか
んに首相を責め立てていたのです。まるでメディアは、何が何で
も鳩山首相と党を握る小沢幹事長を貶めて、民主党を潰そうとし
ているように見えます。そんなことが日本のマスコミの使命なの
でしょうか。
 10分間の会談で実際には何が話し合われたのでしょうか。
 10分の半分ぐらいは、北朝鮮とイランの核問題に関する話題
だったといいます。それは、4月から日本が国連安全保障理事会
の議長国を務めるので、その協力要請の意味があったといわれ、
オバマ大統領は鳩山首相から「国際社会による追加的措置もやむ
を得ない」との言質を引き出しています。
 普天間基地問題では、鳩山首相は「日米同盟が大変大事という
中で、普天間の移設問題に努力している最中である。5月末まで
に決着したいので、大統領にも協力をお願いしたい」と申し入れ
て終わったといわれます。
 実は鳩山首相の席をオバマ大統領の隣の席にしたのは、外務省
の要請ではなく、米国側だったのです。「同盟国への処遇として
バランスをとるため」──日米関係筋──の配慮であり、普天間
問題で首脳間に決定的な亀裂が生じることは米国側も望んではい
なかったからです。だからこそ、オバマ大統領は食事前に小さな
スピーチをして、食事中にどこかの首脳が席を立って話しかけて
くるのをあらかじめ断ったのです。
 しかし、そういう日本の首相に対してワシントンポストは厳し
い論評を出しましたが、これは米国のジャーナリズムのなせるわ
ざであり、仕方がないことです。しかし、同盟国に対して非常に
失礼な報道であり、日本のメディアとしては反論があってしかる
べきであります。
 しかるに、日本のメディアは、ワシントンポストの報道はその
まま客観報道し、鳩山首相というのはこんなにダメな首相である
ことを印象ずけたのです。それがオバマ大統領がいったとされる
次の言葉なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        Can you follow through ?
        きちんと最後までやり通せるのか
―――――――――――――――――――――――――――――
 この報道をしたのは読売新聞ですが、首相は「そういう発言は
ない。少なくとも私の耳には聞いていない」と否定し、岡田外相
も「直接、大統領の発言をフォローした人間から確認したが、そ
ういう英語は使われていなかった」と述べています。外務省首脳
によると、岡田氏は会談に同席した日本側通訳から直接、オバマ
氏の発言内容を確認しているのです。したがって、これはおそら
くためにする報道であり、鳩山内閣をさらに追い詰めてやるとい
う意思のあらわれであると思います。それだけ日本のマスコミが
劣化していることをあらわしています。
 こうなると、その発言が本当のことかウソかは問題にならない
のです。どうせ新聞社は情報源は秘匿するに決まっており、もし
鳩山内閣を貶めるのが目的であれば、それが真実でなくてもきっ
とそうするでしょう。今まで小沢報道においても平気でデタラメ
の記事を書きておきながら、何ら反省していないからです。
 どうしてここまでマスコミは民主党に対して偏向報道をするの
でしょうか。
 それは前回の「小沢一郎論」で述べたように、今まで検察に代
表される官僚機構プラス自民党、大企業(経団連)と大マスコミが
連合軍化して利権を享受してきたのです。しかし、政権交代が起
こって民主党が政権をとったため、その構造が壊されようとして
いるので、それを必死になって守ろうとしているのです。大マス
コミは、その中にあって連合軍に都合のよい世論を形成する重要
な役目を担っているのです。
 現在の民主党のアキレス腱は、小沢幹事長、組合、連立を組む
社民党、そして鳩山首相です。そのため連合軍は一致協力して小
沢幹事長を起訴寸前に追い込み、普天間基地移設問題で鳩山内閣
を攻撃し、成果を上げてきています。ただひとつ、うまくいって
いないのは自民党の支持率が上がらないことだけです。
 小沢問題の情報を集めてみて、日本という国は非常におかしな
国になっていることがわかってきました。それを証明する事例は
たくさんありますが、今週のEJの最後にそのひとつを指摘して
おくことにします。
 元参議院議員の平野貞夫氏が近著で面白いことを披露していま
す。面白いことというのは、次のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 昭和30年以降、衆議院議員が25名逮捕されている。そのう
 ち東大卒はゼロだが、何かあるのだろうか。 ――平野貞夫著
   『小沢一郎完全無罪/「特高検察」の犯した7つの大罪』
                         講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 そんなことは偶然の一致だという人が多いと思います。しかし
ある検察OBはそれを否定しないのです。いままで一番犯罪立件
の可能性の高かった政治家は中曽根康弘氏なのですが、彼は証人
喚問に複数応じながらも逮捕されていないのです。
 そういう意味で東大卒でない小沢一郎氏はきわめて危険である
といえます。それでも小沢氏が起訴されることがあれば、それは
日本の終わりです。   ――──[ジャーナリズム論/05]


≪画像および関連情報≫
 ●最近本の出版やテレビ復権しつつある高橋洋一氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  またひとり、犯罪者が「赤門」から輩出された。都内温泉施
  設で、財布と高級腕時計を盗んで逮捕された元財務官僚で東
  洋大教授の高橋洋一(53)。霞が関埋蔵金の存在を指摘し
  て話題を呼んだ“異色官僚”である。高橋は78年に東大理
  学部を卒業後、再び東大経済学部に進学。80年に卒業し、
  旧大蔵省に入省した変わり種だったが、今世紀に入ってから
  というもの東大卒エリートの犯罪がやたら目立つ。
  http://blog.goo.ne.jp/kintaro-chance/e/576520b1c09f91d8204abcbfda99cb06
  ―――――――――――――――――――――――――――

日本のいない核サミット.jpg
日本のいない核サミット
posted by 平野 浩 at 04:16| Comment(1) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月26日

●「検察の劣化は帝人事件にはじまる」(EJ第2802号)

 これからしばらく戦前戦後の政治的大事件にからんで、当時の
マスコミがどのように動いたかについて見て行くことにします。
そうすることによって、検察に代表される官僚機構プラス政権与
党(自民党)と大企業とマスコミがどのようにして連合軍を組むに
いたったかが見えてくると思うからです。
 1934年のことです。「帝人事件」という事件が起こったの
です。帝人──帝国人造絹絲株式会社は当時鈴木商店の系列下に
あったのですが、1927年の恐慌で鈴木商店が倒産すると、帝
人の株式22万株は台湾銀行の担保になったのです。
 業績が回復したので、鈴木商店の金子直吉氏が台湾銀行の株を
買い戻すため、鳩山一郎氏や「番町会」という財界人グループに
働きかけ、11万株を買い戻したのです。その後で帝人が増資を
決定したため、株価は大きく値上がりしたのです。
 1934年に時事新報(武藤山治社長)が「番町会」を批判す
る記事を掲載し、その中で帝人株をめぐる贈収賄疑惑を取り上げ
たのです。当時文部大臣の鳩山一郎氏は議会で関連を追及され、
「明鏡止水の心境」と述べたところ、辞任の意思表示だと報道さ
れたため、嫌気がさして辞任してしまうのです。
 その後、帝人社長や台湾銀行頭取、番町会の永野護、大蔵省の
の次官・銀行局長ら全16人が逮捕・起訴されたのです。これに
より政府批判が高まり、同年7月に斎藤内閣は総辞職することに
なったのです。なお、この事件の逮捕者の拘留期間は200日に
及び拷問による自白の強要もあったといわれます。
 これが「帝人事件」なのですが、司法部(検察)は、捜査段階
からまったくデタラメなリーク情報をマスコミに流し続け、それ
によって鳩山文部大臣をはじめ、遂に斎藤内閣自体が崩壊してし
まったのです。ところが、1937年に起訴された全員が無罪に
なったのです。そのため、検察による強引な取調べと起訴が批判
され、「検察ファシズム」といわれたのです。このときの捜査と
小沢捜査は酷似しているのです。
 戦後になると、1954年に「造船疑獄事件」が起こります。
これは、海運・造船業界が、国からの巨額の助成金を引き出すた
め、政官界にカネをばら撒いたとされる事件です。
 海運・造船業界幹部の逮捕から始まった捜査は政界・官僚にお
よび、有田二郎氏ら国会議員4名の逮捕などを経て、さらに発展
する気配をみせていたのです。そして1954年4月20日、検
察庁は、当時与党自由党幹事長の佐藤栄作氏を収賄容疑で逮捕す
る方針を固めたのです。
 しかし、逮捕を予定した4月21日、犬養毅法務大臣は検察庁
法第14條による指揮権を発動し、佐藤幹事長は逮捕を免れたの
です。この指揮権発動は、当時の内閣総理大臣吉田茂氏の意向に
よるものであったといわれます。
 この指揮権発動をめぐり、衆議院は吉田首相の証人喚問議決を
要求したのですが、病気を理由に拒否しています。その後、衆議
院はその拒否事由が不十分として、議院証言法違反で吉田を告発
したものの、結局不起訴処分になったのです。
 結局逮捕者は71名にのぼったものの、そのほとんどが無罪判
決となり、造船疑獄の捜査がいかに杜撰なものであったかが明ら
かになったのです。そして現在では、この造船疑獄は、吉田内閣
を打倒し、鳩山一郎氏や岸信介らの政治家の再登場の道を開くた
めに入念に仕組まれた帝人事件と同様の検察ファッショの一例に
過ぎないとされているのです。
 そして、1978年にはロッキード事件、1988年にはリク
ルート事件というようような政財界を巻き込大事件が相次いで起
こったのです。その結果、時の総理大臣・田中角栄氏は失脚し、
ベンチャー企業の雄、江副浩正氏を完膚なきままに叩き潰したの
です。その結果、検察の奢りと劣化はますます進み、それが現在
の小沢事件にまでつながっているのです。
 長年にわたって小沢一郎氏と行動を共にし、もっとも小沢氏を
理解しているといわれる平野貞夫氏は、現在の民主党政権の現状
について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2009年の衆院選は、(国民の手による)無血革命だったとい
 っても過言ではない。55年にわたり権力を握り続けてきた自
 民党、官僚はそれを失ったのであるから、非常に危機感を抱い
 ている。だからこそ、なりふり構わず、民主党の求心力の中心
 ともいえる小沢一郎を狙ってきているのだ。彼らは小沢を政治
 的に潰せば、民主党も掌に乗せることができると考えている。
 だが、残念なことに肝心の民主党議員がそのことを認識してい
 ないのである・・・。それが、与野党を含め、親小沢と反小沢
 の低次元の争いに表れている。それを助長したのは渡部恒三元
 衆院副議長である。            ――平野貞夫著
   『小沢一郎完全無罪/「特高検察」の犯した7つの大罪』
                         講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 平野貞夫氏は、「民主党は民衆が官僚政治を打破するためにつ
くった政権」であるといっています。その民主党の中で最も政治
的経験の深い小沢が幹事長としてその体制を盤石なものにするべ
く日夜奔走していますが、検察は大マスコミと手を組んで、小沢
の政治的暗殺を企んでいます。あの手この手を駆使して、小沢を
表舞台から引きずり降ろそうとしています。そして情けないこと
に民主党の内部にもそれに同調する者がいることです。
 そういう検察ファッショをマスコミの側から分析しようという
のが今回のテーマです。そして、その日本のマスメディアがどう
いうものであるかを知る一番良い事例が「リクルート事件」なの
です。なぜなら、この事件では大手マスメディアが完全に検察の
狂言回しに成り下がったからです。
 明日から、リクルート事件についてマスメディアが何をしたの
かについて考えていきたいと思います。
            ――──[ジャーナリズム論/06]


≪画像および関連情報≫
 ●帝人事件と西松事件の共通点
  ―――――――――――――――――――――――――――
  元東京地検特捜部長の宗像紀夫氏が以前、朝日新聞のインタ
  ビュー記事の「特捜の体質変容を危惧」の中で、メディアと
  検察の関係について「マスコミは検察と一体になってしまっ
  ていますね。弱者の目を持たなければならないのに、強者の
  目で事件を見ているように見える。私は在職中は検察に好意
  的な新聞記事を読むと心地よかったのですが、検察の磁場を
  離れた今、そうした記事を読むと異常な感じがします」と述
  べている。
  http://blog.goo.ne.jp/kintaro-chance/e/3e63552f7a365055272fd23f8c54a5ee
  ―――――――――――――――――――――――――――

佐藤栄作氏.jpg
佐藤 栄作氏
posted by 平野 浩 at 04:13| Comment(1) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月27日

●「リクルート事件の発端は川崎市」(EJ第2803号)

 「リクルート事件」という言葉を聞いて、それがとのような事
件であったか説明できるでしょうか。
 リクルート社の創業者である江副浩正氏が、系列のリクルート
・コスモス社の未公開株を政財界の要人多数に賄賂目的で幅広く
譲渡し、それが発覚して多くの関係者が事情聴取されたり、逮捕
・起訴され、竹下首相退陣の原因のひとつにもなった戦後最大級
の構造汚職疑惑である──詳しい人でもせいぜいこの程度の記憶
ではないかと思われます。
 ところで、公開前の株式譲渡というのは違法なのでしょうか。
 はっきりしていることは、公開前の株式譲渡自体は違法ではな
いということです。これは業界の慣行であり、多くの企業が行っ
ていることであったからです。
 ただし、江副氏の場合、その譲渡先が政治家や官僚、財界人な
どの多岐・多数にわたっており、賄賂性があるのではないかと疑
われたのです。しかし、未公開株の賄賂性を問うのは、極めて困
難であり、普通なら検察は動かないものなのです。
 1988年6月18日付の朝日新聞の朝刊、社会面のトップに
次の見出しの記事が報道されたのです。のちに、「リクルート事
件」として大騒ぎになる最初のニュースであったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   『リクルート』川崎市誘致時 助役が関連株取得
       ──1988年6月18日付の朝日新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 JR川崎駅西口前にかわさきテクノピア地区と呼ばれる再開発
地域があります。リクルートは、川崎市から誘致を受けてその地
区にインテリジェントビルを建てたのです。記事の内容は、その
誘致をした川崎市の小松秀煕助役に対し、リクルートの関連会社
リクルートコスモスの未公開株が店頭登録前の1984年12月
に譲渡されていたというものであったのです。
 朝日新聞の記事には間違いはなく、確かにリクルート側は、小
松助役に対してリクルートコスモスの未公開株3000株が譲渡
されていたのです。このコスモス株はその後株式分割され、同助
役の保有株は3万株になったのです。小松助役は、この株を19
86年10月にリクルートコスモスの株が店頭公開されたときに
売却し、約1億2000万円の利益を得ているのです。
 本来未公開株は公開時には値上がりするものであり、まして業
績好調のリクルートの関連会社であるリクルートコスモスの未公
開株であれば、値上がりは確実なのです。しかし、前述したよう
に、未公開株の譲渡は慣行として行われており、それ自体には違
法性はなく、まして賄賂性は考えられなかったのです。
 問題はリクルート側が川崎への進出に当たって、川崎市に対し
何かを依頼することがあったかどうかです。これに対して江副氏
は、はっきりと「ない」といっているのです。
 ただひとつ疑点があります。リクルートがかわさきテクノピア
地区への進出を決めたのは1985年4月のことなのですが、そ
のときは建物の容積率が300%しかなく、ビルを建てても採算
に合わなかったということです。
 しかし、リクルートが契約を結んだ1ヶ月後に、川崎市はこの
地区を「特定街区」に決めているのです。特定街区になると、容
積率は700%になり、リクルートは20階建てのビルを建てる
ことができたのです。それに小松助役は、企画調整局長としてテ
クノピア地区の開発を担当していたのです。
 朝日新聞の記事には、リクルート側が小松助役に特定街区の指
定を依頼し、その見返りとして値上がり確実な未公開株を割り当
てたのではないかと書かれていたのです。これなら賄賂の可能性
が出てくるのです。しかし、川崎市としては、企業をテクノピア
地区へ誘致するさい、それを特定街区にすることは企業側に話し
それを前提として営業しているはずです。それにその便宜を受け
るのはリクルートだけではないのです。
 さらにリクルート側は、小松助役に対し、コスモスの未公開株
をファーストファイナンスというリクルートグループの金融会社
の融資まで付けて譲渡しているのです。これなら、手持ち資金が
なくても未公開株の譲渡を受けられるのです。
 しかし、世の中というものは、濡れ手で粟を掴むような大儲け
をした人には厳しいものです。「うまくやりやがったな」と思わ
れてしまうからです。結局、小松助役は解職になったのですが、
検察は動かなかったのです。どうしてかというと、譲渡されたの
が未公開株で、賄賂性の立証が困難であったからです。
 この件について、田原総一朗氏は、自著『正義の罠』(小学館
刊)で次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 朝日新聞の横浜支局が川崎市助役とリクルートとの関係につい
 てのスクープを得た舞台裏について、こう説明している。「朝
 日新聞の横浜支局が、神奈川県警の捜査二課が川崎市役所の小
 松助役のサンズイ(汚職)を追及していて、捜査の進展が早そ
 うだ、という確かな情報を掴んだのは、88年4月上旬であっ
 た。ただし、二課の動きを察知したのは、朝日新聞だけではな
 かった。捜査二課に張り付いていれば、掴める動きであった。
 贈賄側がリクルートコスモスだという事実も掴んだ。小松助役
 の逮捕近し、との感触も県警筋から得ていた。ところが、5月
 中旬に神奈川県警は捜査を断念した。贈賄側(リクルート)の
 時効である三年を超えていたことと、譲渡されたのが未公開株
 で、賄賂性の立証が困難だと判断したのであった。各社は県警
 の断念で取材を打ち切った。事件にならない素材を追及しても
 意味がないと考えたのである。だが、朝日新聞の横浜支局だけ
 は、逆に取材体制を強化した。実をいえば、横浜支局でも取材
 を打ち切ろうという意見が強かったのであるが、デスクの山本
 博が「取材を続行すべき」だと強硬に主張したのである。
        ──田原総一朗著、『正義の罠』(小学館刊)
―――――――――   ――──[ジャーナリズム論/07]


≪画像および関連情報≫
 ●かわさきテクノピア地区とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  テクノピアと言っても実態は先端企業の貸事務所と1.2階
  は店舗の普通のビルで、このアリーナは昼食時のみ、食事を
  する人たちで満杯となるがその他の時間は何もない空間であ
  る。周辺には東芝のオフィス、データーベースを保管する川
  崎テックセンターなどがあるが、事務所ビル街といった感じ
  で潤いが余りない。残念だがまだ工業都市の事務所街であり
  情報化社会のオフィス群になっていないと言うのが正直な感
  想である。とは言えこの地域は、かの有名な”リクルート事
  件”の発端となった場所である。
  http://blog.goo.ne.jp/goo200803/e/f11773e25a30f92d215b47218f5edc65
  ―――――――――――――――――――――――――――

かわさきテクノピア地区.jpg
かわさきテクノピア地区
posted by 平野 浩 at 04:16| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月28日

●「誰がこの国の支配者かを巡る権力闘争」(EJ第2804号)

 神奈川県警による川崎市の小松助役への立件断念を受けて、報
道各社は1社を除いて取材体制を解いたのです。もし、そのとき
報道各社がすべて取材をやめていたら、政治とカネをめぐる戦後
最大の疑獄事件とされるリクルート事件は、陽の目を見ることは
なく終わっていたはずです。
 このように書くと、悪が表に出ないで終わっていたというよう
に取られるかもしれませんが、そうではないのです。本来企業の
オーナーが関連会社の株式上場に当たって、企業発展に尽力して
いただいた親しい人に未公開株を譲渡し、以後安定株主になって
もらうこと自体は違法でないし、その譲渡を受けたからといって
法に問われることはないのです。
 したがって、江副氏の場合、やりすぎた感は確かにあるものの
あくまで法律の範囲内でやったことであり、それに対して約15
年に及ぶ322回の公判の結果、彼に下された「懲役3年/執行
猶予5年」の罪が相応しいものであったかどうかは疑念の残るこ
とであります。
 さて、県警の立件断念によっても報道を中止するどころか、逆
に取材体制を強化したのは朝日新聞なのです。それは同社の山本
博デスクの判断であったのです。なぜ、山本デスクが取材体制を
継続・強化したかについて田原総一朗氏は、当の山本デスクに取
材して、次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず、川崎市は伊藤三郎市長が革新系で革新市政だつたのです
 よ。革新の売り物は、何よりも清潔。これだけでしょう。無能
 なんですから。その売り物の清潔さが首席助役によって汚され
 ている。これはおもしろいじゃないか。それに贈賄側が土建屋
 ならば、当たり前すぎておもしろくないが、いまをときめくリ
 クルートで、きわめて特異な成長企業として日本中の注目を集
 めている。そのリクルートの贈賄というのは、意外性があって
 おもしろい。さらに、『株をやらないのは化石人類』だといわ
 れる株ブームの中で、現金ではなく株の操作が賄賂のように使
 われた。バブルを利用した。この手口もおもしろい。
                     ──田原総一朗氏
                 ――平野貞夫著/講談社刊
   『小沢一郎完全無罪/「特高検察」の犯した7つの大罪』
―――――――――――――――――――――――――――――
 「革新市長の売りの清潔さ」、「今をときめく成長企業リクル
ート」、「株操作による新しいタイプの賄賂」──これら3つの
要素は意外性があって面白いし、刑事事件として立件できるかど
うかはわからないが、社会的に批判を浴びる事件であり、ジャー
ナリズムの責任として追及すべきであると山本博デスクは取材を
続けた理由についてこのように話しているのです。
 「小沢一郎論」のときにも述べましたが、佐藤優氏は2009
年の政権交代によって官僚組織と国会議員による「誰が日本国家
を支配するか」の権力闘争がはじまったと述べています。
 官僚組織にとって国民は無知蒙昧な存在であり、国を支配する
のは国家公務員試験や司法試験などの難しい資格試験に合格した
エリートであるべきであり、結果としてそれが国民の幸せにつな
がるのだと考えている──2009年8月までは、そういう官僚
主導の政治が続いたのです。
 これに対して民主党は、国家を支配するのは国民により選挙さ
れた国会議員であるとして、「政治主導」を推進しつつあるので
すが、いろいろな面で官僚組織による妨害工作を受けてかなり不
安定な政権運営を強いられています。
 官僚組織は、あくまで主役は国会議員であるようにして黒子を
演じ、けっして表面に立たないようふるまっていますが、国を動
かすあらゆる決定は、実質上キャリア組トップの事務次官を頂点
とする官僚組織がやってきたのです。そして、問題が生じたとき
は、国会議員である大臣に責任を取らせるという巧妙きわまるシ
ステムを長い年数をかけてつくり上げてきたのです。
 事務次官といえば、キャリア組の出世の最終ゴールです。その
割には「事務次官」とは控えめな名称ではないでしょうか。もと
は「次官」だったのですが、「次官」といえば上があり、一歩引
いたように見えるところがなかなか巧妙です。このようにして自
分の身を安全な場所に置いて事実上国を動かし、失敗すれば大臣
に責任を取らせてきたのです。
 さらに事務次官の経験者を中心に自らが国会議員になる人も多
くいるのです。そういう元官僚の国会議員は、一部の例外はある
ものの、従来の官僚機構の慣行を忠実に守るので、官僚主導によ
る政治が長い間にわたって続いてきたのです。
 それでもたまには力のある国会議員が登場することもあり、彼
らが今までの慣行を変えようとすると、官僚か国会議員のどちら
がエライか国民に示すことが必要になります。
 そういうときに登場するのが官僚エリートの代表ともいうべき
検察なのです。彼らは「世の中をきれいにする」ことを標榜し、
ときには総理大臣でも与党幹事長でも逮捕します。そして、国民
にこの国を支配しているのはどちらかを知らしめるのです。検察
が総理大臣を逮捕すれば、どちらがエライかいうまでもないこと
です。そうして起こった事件が帝人事件であり、ロッキード事件
であり、これから述べるリクルート事件なのです。そして、現在
進行中の小沢事件も同様です。
 まして民主党はあろうことか、キャリアトップの事務次官の職
を廃止し、公務員制度を改革しようとし、天下りの廃止を強行し
ているのです。したがって、官僚組織としては、それこそ死に物
狂いになって抵抗しようとします。
 それが検察による国会議員の摘発にはじまって、さまざまな局
面での妨害やサボタージュなどの足のひっぱりを行っています。
鳩山政権が迷走しているように見えるのはそのためです。それは
彼らの存亡を賭けた戦いであり、これからますます加熱してきて
くるはずです。     ――──[ジャーナリズム論/08]


≪画像および関連情報≫
 ●事務次官とはどういうポストか/オールアバウトより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  大臣政務官の下が事務次官で、ここからが公務員つまり官僚
  たちのポスト、専門的にいうと「一般職」になります。事務
  次官は官僚がつく最高のポストで大臣を助ける重要な役職で
  す。事務次官の下はいくつかの「局」で構成されています。
  局のトップである局長もまた、重要なポストです。また、局
  と同等の機関として官房(トップは官房長)があります。官
  房は企業でいうと総務部と人事部をまとめたようなもので、
  実際には局よりも力をもっています。また、事務次官を補佐
  する役職が置かれることがあります。例をあげると外務省の
  外務審議官、財務省の財務官、農林水産省の農林水産審議官
  などです。こういう役職は専門用語で「総括整理職」といわ
  れています。
  http://allabout.co.jp/career/politicsabc/closeup/CU20010807/
  ―――――――――――――――――――――――――――

田原総一朗氏.jpg
田原 総一朗氏
posted by 平野 浩 at 04:15| Comment(4) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月30日

●「政財界工作と誤解された未公開株譲渡」(EJ第2805号)

 運命の年である1988年1月、江副氏はリクルートの社長を
位田尚隆氏に譲って会長に就任しています。このとき、江副氏は
51歳であり、リクルートはグループの売上高1兆円、経常利益
は1000億円を目前にしていたのです。
 川崎市の小松助役が解職されたのは1988年6月20日──
朝日新聞報道の2日後のことです。当時リクルート会長の江副浩
正氏は、その時点では小松助役解職が契機になって、その後あの
ような一大事件に発展するとはまったく考えていなかったと自著
で述べています。
 ところが、1988年6月14日の時点で朝日新聞横浜支局に
は情報提供者からあるリストが届いていたのです。それは、19
84年12月のリクルートコスモスの未公開株譲渡先リストだっ
たのです。その情報提供者は明らかにされていませんが、リクル
ート社内の人間ではないかといわれています。
 そのリストによると、リクルートは100人に話を持ちかけて
そのうち76人が購入し、46人がファーストファイナンスから
融資を受けていたことが判明したのです。
 そのリストには、驚くなかれ、政財界の著名人の名前がズラリ
と並んでいたのです。朝日新聞はこのリストを手にしたからこそ
取材を継続し、疑惑究明の名の下に長年にわたる報道を行うこと
ができたのです。
 まず、6月24日に森喜朗代議士が秘書を通じてコスモス株の
譲渡を受けて売却益を得ていたという報道が行われると、その次
の日から、渡辺美智雄代議士の家族や秘書、加藤六月代議士の秘
書、加藤紘一代議士、塚本三郎代議士の秘書らへのコスモス株の
譲渡が次々と新聞で報道されたのです。
 そして7月に入ると、遂に中曽根康弘首相、安倍晋太郎自民党
幹事長、宮沢喜一蔵相の各秘書へのコスモス株譲渡の報道が行わ
れたのです。ここまでくると、各新聞社やテレビなどのメディア
が一斉報道し、それが日に日に加熱していったのです。
 さらに「朝日ジャーナル」(現在は休刊)のある記者が入院中
の日本経済新聞社社長の森田康氏にコスモス株譲渡に関するイン
タビューを行い、それを次のタイトルで発表したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     政・マスコミ界を汚染するリクルート商法
―――――――――――――――――――――――――――――
 江副氏は、日経の森田社長とはとくに親しく、そういう意味で
株を持ってもらったといっています。これについて江副氏は自著
で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそもこの記事は、「リクルート商法」と銘打ちながら、取
 材は森田社長に対してだけで、私への裏付け取材もない。同業
 他社のトップを退陣に追い込む可能性のある内容を掲載すると
 きには、確かな根拠に基づき公正な報道をするのが常識であろ
 う。だが、その記事は森田社長への一方的な非難や中傷に終始
 し、同社長の釈明談話もなかった。     ──江副浩正著
    『リクルート事件・江副浩正の真実』/中央公論新社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 日経の前身は「中外物価新報」であり、日経の記事で株価が動
くことがあるのです。そのため日経では、内規によって上場会社
の株式の所有を禁じているのです。そのため、森田社長は公開時
に売却したのです。悪いことであるとは、夢にも思っていなかっ
たのしかし、それが「朝日ジャーナル」の記者の知れるところに
なり、森田氏は辞任に追い込まれたのです。
 これにショックを受けた江副氏は、このままではリクルートや
コスモスにも悪い影響が及び兼ねないとして、7月6日夜6時に
リクルートの緊急取締役会を開催して会長を辞任し、取締役相談
役に就いたのです。続いてリクルートコスモスの緊急取締役会も
招集して、そこでも会長を辞任しています。
 辞任した次の日の朝刊には、江副氏の会長辞任の記事が5大紙
のトップ記事として次のように扱われ、社会面にもトップ扱いで
次のタイトルが踊ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪第1面トップ≫
 江副リクルート会長辞任/関連株譲渡で引責
 ──朝日・読売・日経
 江副リクルート会長が辞任/非公開株譲渡で『社会的責任』
 ──毎日
 江副氏、会長を辞任/各界への波及で引責」──産経
 ≪社会面トップ≫
 誤算「すき間産業」の旗手/政界工作、次々明るみ──朝日
 『世間騒がせた』自ら役員会押し切る──産経
 江副「風雲児」苦悩の退場/『浅慮悔いる』言葉残し─読売
 「情報の城」大揺れ/立志伝、突然の幕──毎日
―――――――――――――――――――――――――――――
 江副氏としては、この報道にはかなりの違和感があったといい
ます。なぜ、こんな大きな報道になるのだろうか。自分としては
少なくとも政界工作などやっていない。自分はあくまで付き合い
の深い知人に未公開株の譲渡をしたに過ぎないと考えていたので
す。これは大きな誤解である。何とか誤解を解かなければ・・と
考えて、マスコミ報道の火消しをやろうとしたのです。しかし、
今にして思えば、それが大きな間違いのもとであったのです。江
副氏の失敗については、来週のEJで述べることにします。
 しかし、報道がここまで加熱してきても、検察は一向に動こう
とはしなかったのです。それは、未公開株の譲渡が贈賄罪として
は立証することが困難であったからです。
 仮に江副氏から事情を聞いても、お世話になった知人に好意で
譲渡したといわれてしまえば、贈賄の意図を証明できないからで
す。それに検察側は江副氏が非常に交際の広い人物であることを
よく知っていたからです。――──[ジャーナリズム論/09]


≪画像および関連情報≫
 ●江副浩正氏の本について         ――堀江貴文氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ところで、リクルート創業者江副氏のリクルート事件の実録
  書が遂に出た。いや、出たことは知っていたのだが品川駅の
  売店でふと見つけ新幹線の中で一気に半分ほど読んだところ
  である。逮捕された年齢、逮捕されるまでの時間は大分違う
  し特に前段の彼の苦悩は相当だったようだ。睡眠がとれず食
  事はのどを通らず。私は強制捜査から逮捕まで、一週間程度
  だったので、彼ほどは追い詰められなかったし、自殺衝動の
  ようなものも無かったが、彼ほど長い間不安定な立場に立た
  されていたらどうなったか分からない。  ──堀江貴文氏
    http://ameblo.jp/takapon-jp/entry-10375916985.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

江副浩正氏の本.jpg
江副 浩正氏の本
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2010年05月03日

●「『起訴相当』の議決理由は何か」(EJ休日特集号/001)

 2010年4月27日、東京第5検察審査会は小沢民主党幹事
長を11人の審査員全員一致で「起訴相当」と議決しています。
これに伴いマスコミは世論調査を行い、改めて小沢バッシングを
強化しています。例によって、民主党の中の反小沢派の連中も辞
任要請や「説明責任を果たせ」と発言しはじめています。次の首
相を窺う菅副総理・財務相まで「説明責任」を口にする始末。し
かし、この間ネットにおいては、この議決に対して冷静な批判を
展開する論調が多くなり、表のマスコミとはぜんぜん違う様相を
呈しています。
 EJでは、その中で「オリーブ!ニュース」と郷原信郎氏の所
論を中心にご紹介していくことにします。
 マスコミは「起訴相当」の議決が出たことを伝えるだけで、議
決内容をほとんど伝えていないのです。なぜ、伝えないのでしょ
うか。結論からいうなら、詳細に伝えると、小沢のどこが悪いの
かと疑問を持つ人が出てきてしまうからです。
 議決内容をお伝えします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢一郎・民主党幹事長に対する東京第5検察審査会の議決の
 要旨は次の通り(敬称略)。
 被疑者 小沢一郎
 不起訴処分をした検察官 東京地検検事 木村匡良
 議決書の作成を補助した審査補助員 弁護士 米沢敏雄

 2010年2月4日に検察官がした不起訴処分(嫌疑不十分)
 の当否に関し、当検察審査会は次の通り議決する。
 【議決の趣旨】
 不起訴処分は不当であり、起訴を相当とする。
 【議決の理由】
 第1 被疑事実の要旨
 被疑者は、資金管理団体である陸山会の代表者であるが、真実
 は陸山会において04年10月に代金合計3億4264万円を
 支払い、東京都世田谷区深沢所在の土地2筆を取得したのに、
 1.陸山会会計責任者A及びその職務を補佐するBと共謀の上
   05年3月ころ、04年分の陸山会の収支報告書に、土地
   代金の支払いを支出として、土地を資産として、それぞれ
   記載しないまま総務大臣に提出した。
 2.A及びその職務を補佐するCと共謀の上、06年3月ころ
   05年分の陸山会の収支報告書に、土地代金分が過大の4
   億1525万4243円を事務所費として支出した旨、資
   産として土地を05年1月7日に取得した旨を、それぞれ
   虚偽の記入をした上で総務大臣に提出した。
        ──5月2日付、「オリーブ!ニュース」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これについて、郷原信郎氏は、「第88回定例記者レク概要」
において、次のように述べています。これはツイッターのフォロ
ワーから提供していただいた情報です。表のマスコミには絶対に
出ない情報です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず、驚いたのが被疑事実ですが、平成16年の陸山会の収支
 報告書に、小沢一郎氏から現金で4億円借入をしたのに、それ
 が記載されていなかったということが、今まであれだけ問題に
 されてきた。この年の収入がその分過小だったということが、
 石川氏の起訴事実になっているはずですが、それが今回、起訴
 相当とされた被疑事実に入っていないのです。何が起訴相当な
 事実とされているかというと、要するに1つは、16年分の収
 支報告書に土地代金の支払いを支出として記載しなかった。平
 成16年10月に3億4260万、土地代金として支払ったの
 を、この年の政治資金収支報告書に記載していなかったという
 支出の虚偽記入。それと、そこで不動産を取得したことを、こ
 の年の収支報告書に記載しなければいけなかったのに、それを
 記載していない。それから、翌年の収支報告書に、支出をして
 いないのに、土地を取得した事実はないのに土地を取得したと
 いうことと、その土地代金を事務所費として支出したというこ
 とを記載した。これもウソだということ。これが検察審査会が
 起訴相当とした事実です。         ──郷原信郎氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、土地の取得の時期が2ヵ月ずれており、したがって、
土地代金の支払いの時期も2ヶ月ずれて翌年の1月になっていた
こと──たったそれだけです。たまたまその時期が年度をまたい
でいることが、マスコミがコトを針小棒大に問題化しているだけ
なのです。
 この程度の「期ずれ」の事実だけで、国民から選ばれた国会議
員を国会直前に逮捕・起訴し、さらに現在、国を動かしている与
党幹事長を特捜部が一年かがりで調べた結果「不起訴」としたも
のを、わけのわからない検察審査会なるものが数週間で覆し「起
訴相当」にする──これは日本の司法制度の根幹にかかわる問題
であります。
 さらに不可解なことは、検察審議会への申立人が「甲」という
匿名になっていることです。匿名で申し立ててはいけないという
規則はないようですが、普通なら匿名では却下されるのが通例な
のに今回は取り上げているのです。それなら、「小沢不起訴」に
不満を持つ特捜部の一部が匿名で申し立てをしたのではないかと
疑われても仕方がないでしょう。マスコミはこの事実を秘匿し、
ひたすら「市民団体」と伝えています。
 さて、それでは百歩譲って「期ずれ」が犯罪に該当するのであ
れば小沢事務所にも過失はあったといえます。しかし、結論から
いうなら、この「期ずれ」は過失ではないのです。これについて
は、4日の休日特集号/002で詳しくら説明します。
        ――──[休日特集『続・小沢一郎論』/01]


≪画像および関連情報≫
 ●堀江貴文氏のプログより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  佐藤優氏の予測は恐らく正しい。検察審査会はもう一度起訴
  相当の議決をすることだろう。法廷で証拠をもう一度洗い直
  せばよいと思う。ただ起訴相当の議決が出たからといって即
  クロだとする報道姿勢をしているところには疑問を感じる。
  疑わしきは無罪。これが司法の大原則だ。まあ、そうやって
  政治生命を失わせようという事なんだろうが、この原則を国
  民に理解してもらうためにも徹底抗戦を小沢氏にはおススメ
  する。しかし悪人面やマスコミ嫌いとされる点については、
  それで小沢氏は随分損をしていると思う。鳩山首相が不起訴
  相当とされたのとは対照的である。政治手腕は小沢>鳩山な
  んだろうし、鳩山首相はその政治手腕を国民の70%以上が
  評価していないにもかかわらず、善人面の金持ちのぼんぼん
  の世間知らずの天然宇宙人と思われているから起訴相当の議
  決は受けない。
    http://ameblo.jp/takapon-jp/entry-10520141257.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

郷原信郎名城大学コンプライアンス研究センター長.jpg
郷原信郎名城大学コンプライアンス研究センター長
posted by 平野 浩 at 10:24| Comment(2) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月04日

●「期ずれは過失でも虚偽でもない」(EJ休日特集号/002)

 少し法律論を展開しますが、誰でもわかるように平易に記述し
ます。まず、前提とすべきは、この小沢事件が起こった当時、政
治資金で土地を購入することは禁じられていなかったということ
です。マスコミは小沢氏だけが土地を購入していると書いていま
すが、事実と異なります。自民党はもとより他党の多くの議員が
政治資金で土地を購入している事実があるのです。
 「政治団体」とは何かについて論ずる必要があります。「オリ
ーブ─X!ニュース」をそのまま引用します。ちなみに「小沢一
郎」は通称であり、政治団体代表名は「小澤一郎」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.政治団体は、所謂、【権利能力無き社団】という法的立場
   にある。
 2.権利能力無き社団においては、政治団体名義あるいは政治
   団体代表者肩書き名義での土地登記権限が無い。(判例も
   同じ)
 3.したがって、権利能力無き社団においては、その代表者個
   人名義ないし構成員共有名義にて登記する。
 4.しかしながら構成員の変更に伴い持分争いが起きることか
   ら原則として代表者個人名義にて登記することになる。
 5.即ち、陸山会は本件【権利能力無き社団】に該当し、それ
   が如何に著名な政治団体の代表者であっても登記をなすこ
   とが出来ない。
      ──5月2日付、「オリーブ─X!ニュース」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢氏の政治団体である陸山会は、ここでいう「権利能力なき
社団」に該当し、土地を買っても登記はできないのです。それで
はどうすればよいのか。それは「代表者個人名義」、すなわち、
「小澤一郎」名義でしか登記はできないのです。
 しかし、方法はあります。その手続き──土地の登記手順を具
体的に説明します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.まず、陸山会は、土地購入資金に該当する金額の定期預金
   をつくる。これには小沢氏の個人資金が使われている。
 2.この定期預金を担保にして、個人小澤一郎が「銀行より土
   地代金の融資」を受ける。
 3.個人小澤一郎は、その融資を原資として、不動産の所有者
   に対して地代を支払う。この時点では、土地は個人小澤一
   郎が地主に土地代を支払っている関係でしかない。
 4.個人小澤一郎は、土地を登記する。これによって、個人小
   澤一郎は土地の所有者となる。
 5.所有権が確定した個人小澤一郎は、その所有権に基づき、
   土地利用権が陸山会に帰属することを明示する契約を陸山
   会と交わす。
 6.その契約日をもって陸山会は、土地代金相当を個人小澤一
   郎に支払い、同時に土地を陸山会の資産として計上する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記1〜5までは陸山会は支出が発生していないのです。した
がって、2004年(平成16年度)の陸山会の収支報告書には
土地取引の記載はないのです。しかし、土地代金に見合う資金の
約4億円は、「資金繰りとして借り入れた借入金」として、小澤
一郎が明記されているのです。その借入金は土地取引問題と関連
していますが、その構成要件ではないのです。
 それでは、2004年10月末に行われた東京都世田谷区深沢
所在の土地取引は何であったのかというと、陸山会にとっては、
その土地を押さえる手続き上のプロセスに過ぎないのです。この
時点では登記も個人小澤一郎との契約もできていないので、それ
ができた時点で行うこととして、2004年度陸山会政治資金収
支報告書には記載されず、契約ができた2005年度に正しく記
載されたのです。これが「期ずれ」の原因です。何が問題なので
しょうか。
 つまり、「期ずれ」は小澤事務所の過失でも虚偽記載でもなく
政治資金で土地を購入するための必要な手続きにおいて、必然的
に発生するものなのです。したがって、何ら政治資金規正法に違
反していないのです。
 いつも不思議に思うことがあります。それは、民主党には枝野
氏をはじめとして、多くの弁護士がいます。つまり、法律のプロ
がごろごろいるのです。そういう人たちは、小沢幹事長に「辞任
せよ」とか「説明責任を尽くせ」という前に、なぜ、事実関係を
調べないのでしょうか。別に小沢氏に聞かなくても、公開されて
いる情報を調べれば、誰でもわかることです。まして弁護士なら
そういう事実関係は掴めるはずです。その事実関係は以上の通り
なのです。党としての調査の結果、問題がないとわかれば、民主
党に対する不当な議決であるとして、堂々と反対意見を述べても
いいのではないでしょうか。
 ところが、そういう前向きの努力を一切しないで、しめたとば
かり小沢氏の足を引っ張る。実に見苦しいです。政権運営がさま
ざまな点でもたついているのは仕方がないでしょう。まだ一年経
っていないのですから。慣れていないの一言に尽きます。国民も
性急過ぎると思います。民主党の小沢氏と距離を置く人々は、政
権交代までは小沢氏を利用し、それが実現したいまは小沢氏は追
い出そうとしているのではないでしょうか。
 本当に小沢氏が悪いことをしたのであれば、それは許されるこ
とではありません。しかし、ネットなどから情報を集めて分析を
する限りにおいて、小沢氏はご本人のいう通り、法律を犯すこと
は何もしていないのです。それなのに、なぜこれほどバッシング
されるのでしょうか。その罪はマスコミにあります。たとえ検察
がおかしなことをしても、マスコミが健全であればそれは是正さ
れます。それがマスコミの使命であると思います。
       ――──[休日特集『続・小沢一郎論』/02]


≪画像および関連情報≫
 ●石川議員の逮捕・起訴こそ問題である/郷原信郎氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  小沢氏を不起訴にした段階で、なぜ不起訴にしたのかという
  ことをしっかり説明していれば、それが報道されて、起訴で
  きないことの正しい理由が分かっていたはずです。ところが
  検察は、それまでの捜査を正当化するために、負け惜しみ的
  な説明をした。どっちに転ぶか分からないぐらい微妙な判断
  で、ぎりぎり不起訴になったんだというような説明をしまし
  た。私に言わせれば、現職の国会議員の石川氏の逮捕・起訴
  に重大な問題があるのであって、小沢氏の方は箸にも棒にも
  かからないです。そこをはっきり言わないから、結局、検審
  の審査員にも誤った認識を与えてしまう。なぜ言えないかと
  いうと、それは捜査が最初から無茶苦茶だからです。
                      ──郷原信郎氏
  ―――――――――――――――――――――――――――

「起訴相当」を受けて会見する小沢氏.jpg
「起訴相当」を受けて会見する小沢氏
posted by 平野 浩 at 04:26| Comment(1) | TrackBack(1) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月06日

●「朝日新聞の謀略/江副インタビュー」(EJ第2806号)

 江副浩正氏には、なぜこれほど多くの政治家や財界人にコスモ
スの未公開株を譲渡したのかという疑問があります。普通の経営
者であれば、これほど幅の広い人脈は持っていないでしょう。こ
れについて、当の江副氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は社員に「外飯・外酒」を推奨し、自らも財界人に誘われ、
 日本YPO以外に、稲山嘉寛さんを囲む会、永野重雄さんを囲
 む会、三重野康さんを囲む会、眞藤恒さんを囲む会などに参加
 していた。稲山さんは「政治献金は企業にとって必要なことで
 ある」と強調されていた。永野さんは「政治家は嘘が許される
 が、経営者は嘘は許されない。そのことを君たちは誤解しない
 ように」などと言われ、私は先達から多くを学んでいた。それ
 らの会のなかに政治家を囲む会があった。  ──江副浩正著
    『リクルート事件・江副浩正の真実』/中央公論新社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このようにして増えた多くの知人に江副氏は、いずれも一流人
ばかりであったので、今後の親交を深めるため未公開株の譲渡話
を持ちかけたのです。当時のリクルートは堅実な成長を遂げてお
り、とくに政界工作など必要ではなかったし、ましてそれが賄賂
を意図したものではなかったのです。
 リクルートとコスモスの会長を辞任した後江副氏は、帝国ホテ
ルにこもっていたのですが、7月にリクルートの広報室に『AE
RA』からインタービューの申し込みが入ったのです。しかし、
広報担当の生嶋誠士郎常務が断ったのですが、それは執拗に何回
も申し入れてきたのです。
 1988年7月7日に広報担当役員で社長室長の松原弘氏から
次の連絡が入ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 『AERA』編集長の富岡隆夫氏から「単独インタビュー」に
 応じてくれたら、「打ち方やめ」にするといっている。
                    ──松原弘社長室長
―――――――――――――――――――――――――――――
 江副氏は、富岡編集長と朝日新聞の中江利忠専務とは、ときに
は酒を飲んで歓談する間柄だったのです。松原社長室長も2人と
親交があったというのです。
 このとき「打ち方やめ」という言葉は江副氏にとって魅力的で
あったのです。さんざん迷ったあげく『AERA』限りなら引き
受けてもいいと返事をしたのです。しかし、念のため、中江専務
にも電話を入れ、「本当に『AERA』限りということを守って
くれますね」と念を押したのです。中江専務は「富岡から聞いて
了解している」といったので、引き受けることにしたのです。し
かし、これは江副氏の大失敗のひとつだったのです。
 インタビューの日は、1988年7月23日午後3時、場所は
当時リクルートがフロアの半分を借りていた大手町の日本鋼管ビ
ルの応接室だったのです。
 『AERA』限りという事前の約束であったにもかかわらず、
実際にやってきたのは次の面々だったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  『AERA』編集長富岡隆夫氏 副編集長田岡俊次氏
  朝日新聞横浜支局鈴木啓一氏 社会部次長落合博美氏
  朝日新聞の遊軍記者数名とカメラマン4名
―――――――――――――――――――――――――――――
 対するリクルート側は、江副相談役、生嶋常務、深谷広報室課
長の3名だったのです。「約束が違う」と生嶋常務は徹底的に反
対したが、先方が一歩も引かない。そこで「30分限り」と時間
を決めてはじめたが、約束は破られ、インタビューが終了したの
は、午後5時を回っていたのです。その間、間断なくフラッシュ
が焚かれたのです。
 後日、江副氏は、朝日新聞が誇らしげにまとめた『ドキュメン
ト/リクルート報道』を読んで愕然としたのです。そこには、信
頼していた編集長富岡隆夫氏自身が朝日の他の記者を誘ってイン
タビューを行ったと書いてあり、最初から騙すつもりだったこと
がわかったからです。江副氏は、ジャーナリストにも信義がある
と信じていた自分が不明であったと述懐しています。
 もうこの時点で「江副は悪者」という先入観というか、イメー
ジができてしまっており、マスコミ自身がそうしておきながら、
悪い奴には何をしてもよいと考えるようです。そうなると、自分
の出世のためなら、信義など平気で踏みにじる輩があまりに多く
なっているようです。
 その同じ7月23日には、日本の重大海難事故とされる「なだ
しお事件」が起きるのです。「なだしお事件」とは、横須賀港を
基地とする海上自衛隊所属の潜水艦なだしおと遊漁船・第一富士
丸とが、7月23日午後3時38分ごろ横須賀港東部海域におい
て衝突し、30人の人が亡くなった事件です。
 24日の朝刊では各紙この記事を全面に取り上げたのですが、
25日になると、他紙が「なだしお事件」が中心だったのに対し
朝日新聞だけはトップに次の見出しを掲げたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      リクルート関連株で江副氏語る
      『政治家への譲渡』の認識否定せず
         ──1988年7月25日付、朝日新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この朝日新聞の報道を契機に各紙一斉に江副攻撃の火蓋が切ら
れたのです。中でも一番情報を握っている朝日新聞は、最もセン
セーショナルな報道で他紙をリードしたのです。「打ち方やめ」
は大ウソで「打ち方はじめ」のサインであったのです。現在の小
沢幹事長と同様に、これではすぐ「天下の極悪人」になってしま
うでしょう。      ――──[ジャーナリズム論/10]


≪画像および関連情報≫
 ●池田信夫氏の批評/『正義の罠』(田原総一朗著)について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  自戒をこめていうと、当時のメディアは、検察をまったく批
  判しなかった。それは、この種の事件を立件することがいか
  にむずかしいかを知っているからだ。政治家のスキャンダル
  は、永田町には山ほど流れているが、事件になるのはそのう
  ち100件に1件ぐらいしかない。特にリクルートのように
  「ブツ」の出てくる事件は非常に珍しいので、やれるときは
  徹底的にやって「一罰百戒」をねらうことになりがちだ。
   http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51292854.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

当時を述懐する江副浩正氏.jpg
当時を述懐する江副浩正氏


posted by 平野 浩 at 04:22| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月07日

●「なぜ、検察は当初動かなかったのか」(EJ第2807号)

 ある業績好調の企業が上場するに当たり、その未公開株を世話
になった人に対して譲渡する行為は慣行となっており、違法では
ない──これは何回も述べた通りです。
 リクルートが関連会社リクルート・コスモスの未公開株を幅広
く譲渡しているという情報を、朝日新聞の横浜支局が掴んだので
す。確かにその行為自体は違法ではないが、当時のリクルートと
いえば名だたる先進企業であり、未公開株の譲渡先が政治家、財
界人の多数にわたっている──朝日新聞としてはこれはスクープ
になると考えたのです。
 しかし、難点はあったのです。リクルートは、公共事業を請け
負っている許認可事業の会社ではなく、その事業の中心は情報誌
の出版であり、官庁から受けている許認可は郵政省(当時)の第
三種郵便物認可だけしかないという点です。そうであるとすると
単に親交を深めるために未公開株の譲渡をしたといわれてしまう
と、それ以上追及できなくなる──そこでひとつのストーリーを
組み立てたのです。
 それは、リクルートが将来のビジネスを念頭に置いて、その商
法上役に立つと思われる政財界の大物たちに未公開株を譲渡した
というストーリーです。
 考えてみると、これは小沢事件に似ています。現在、小沢氏は
なぜ巨額な資金を持っているのかが疑われています。マスコミは
長年にわたって小沢氏の金脈を追っていますが、確たる証拠が掴
めずにいます。しかし、これは小沢氏からみると、余計なお世話
であるということになります。
 そこでストーリーを組み立てたのです。そのストーリーとは、
小沢氏がこれまでの政治経歴において、ダムや道路づくりなどに
関連して不正に献金させ、それをさまざまな手口で隠している。
まして小沢氏は師である田中角栄元首相、金丸信元副総理に近い
存在であったため、きっとそういう手法をマスターしたに違いな
い金権政治家であるというものです。
 そして、一貫してマスコミは小沢氏をそのストーリーに基づい
て報道してきているのです。しかし、小沢氏について詳しく調べ
てみると──小沢氏を肯定的に書いている本だけでなく、批判文
書もすべて読んだうえでの結論ですが──小沢氏はそういう政治
家ではないと確信できるのです。
 小沢氏は田中・金丸氏には世話にはなったが、金集めの手法に
関しては賛同できず、そのため政治改革を進めたのです。しかし
自民党では改革ができないと考えて、自民党を離党しています。
以後は昨年までは一貫して野党の議員として過ごしてきており、
金権に関する疑惑をもたれるいわれはないのです。
 リクルート事件の発覚時に小沢氏は自民党の副幹事長を務めて
おり、リクルート事件を調べる側にいたのです。当時小沢氏は既
に大物といわれており、もし、江副氏が賄賂目的で未公開株を譲
渡しようとしたのであれば、小沢氏にも声をかけたはずですが、
そういう事実は一切ないのです。
 しかし、「小沢=金権政治家」というイメージでの報道が長年
にわたっていると、今や国民の間にはそういうイメージの刷り込
みができてしまっています。これほど理不尽な話はないし、また
いまだかつてこれほど叩かれながら、逮捕も起訴もされていない
政治家はいないのです。だから、検察審査会の「起訴相当」の議
決が出たのでしょうが、今度こそ起訴しようとしているのです。
 江副氏に話を戻します。朝日新聞は前記のストーリーを組み立
てたことで、その報道は他紙のそれとは明らかにリクルートにこ
だわっていたのです。例えば、他紙がなだしお事件について詳細
に報じているのに対し、朝日は次のように報じていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      リクルート関連株で江副氏語る
      「政治家への譲渡」の認識否定せず
           1988年7月25日付、朝日新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず、疑われたのは証券取引法違反です。7月29日になって
大蔵省証券局の担当官がリクルート、コスモス、幹事証券会社に
立ち入り調査を行っています。しかし、調査の結果、「特段の問
題なし」という評価をもらっているのです。
 その後、国会でもたびたび野党議員によってこの問題は取り上
げられましたが、問題はないということで終わっています。した
がって、この時点で江副氏としては、逮捕・起訴など考えてもい
なかったといっています。実際に検察はこの時点でもピクリとも
動いていなかったのです。
 未公開株の譲渡が違法ではないというのは、未公開株が公開時
に必ず値上がりするという保証はないからです。それはコスモス
の株も同じであったのです。たとえ賄賂目的で譲渡しても、公開
時の価格が譲渡価格と同じであったり、値下がりしたとすれば、
賄賂にはなり得ないからです。
 1988年8月9日のことです。半蔵門病院に入院していた江
副氏は、衆議院予算委員会のコスモス株の証取法問題についての
質疑が終了したことをテレビで知ったのです。
 これを契機に病院前に陣どっていたカメラマンたちはいなくな
り、報道はようやく終息に向かう気配が見えていたのです。江副
氏は、この機に海外に行くことに決めて、計画を練っていたので
す。これまでにも海外に行こうとはしていたのですが、そうする
と「江副氏海外逃亡か!?」と書かれますよといわれて、報道が
終息するのを待っていたのです。
 しかし、9月5日になって、とんでもないことが起こったので
す。コスモスの取締役社長室長で広報も担当している松原弘氏が
楢崎弥之助代議士を訪ねて、頭を下げて現金贈与を申し出ている
映像が日本テレビで繰り返し、報道されたのです。
 一体どうなっているのか。江副氏は愕然としたのです。これが
後にいう「松原事件」です。詳細は、連休明けの10日からの週
に書きます。      ――──[ジャーナリズム論/11]


≪画像および関連情報≫
 ●証券取引法とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  証券取引法は現在「金融商品取引法」になっています。金融
  商品取引法とは、証券市場における有価証券の発行・売買そ
  の他の取引について規定した日本の法律である。平成19年
  9月30日より前の法律の題名は証券取引法であった。金融
  商品取引法において規定されるルールの中にはインサイダー
  取引などの不正な取引を排除するための規制や、有価証券そ
  のものや有価証券の発行会社などの関連法人に関する開示に
  関するルールが含まれる。また、株式の公開買付制度など株
  式の取得に関するルールを規定し、それぞれの金融商品を取
  扱う業者についての取扱いを定めている。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

江副浩正氏.jpg
江副 浩正氏
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2010年05月10日

●「松原事件とは何か/真相はこれである」(EJ第2808号)

 社会民主連合(社民連)に楢崎弥之助という代議士がいます。
既に政界を引退していますが、楢崎元代議士は「国会の爆弾男」
の異名で知られ、誰もが驚くようなネタ掴んで鋭く質問すること
で与党議員から恐れられていた存在だったのです。
 その楢崎代議士が、1988年7月以降に、リクルートとコス
モスに何回もやってきて、次のように迫ったというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国政調査権がある。コスモス株の譲受人の名簿をすべて提出し
 てもらいたい。             ──楢崎弥之助氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、名簿を渡すと、名前が明らかになっていない株譲受人に
迷惑がかかるので、幹部はその対応に苦慮していたのです。そう
いうときに、松原社長室長に危機管理を専門にしていると自ら売
り込んで、リクルートに中途入社した男がいるのです。田中辰巳
氏というのです。この田中なる人物は、江副氏が保釈後にリクル
ートを退社し、株式会社リスク・ヘッジを設立しています。この
会社は現在でも存在はしていますが、今ひとつ素性がはっきりし
ていないのです。
 その田中なる人物は、楢崎代議士の狙いはカネであるとし、赤
坂の議員宿舎にカネを持っていくよう主張したのです。それをリ
クルートの間宮常務が真に受け、カネを持って楢崎代議士のとこ
ろを訪問するよう松原社長室長に指示したというのです。今にし
て思えば、中途入社の素性のはっきりしない人物の言を信ずるな
ど考えられないことですが、困り果ててうかつにも悪魔のさそい
に乗ってしまったのではないと思われます。
 間宮常務の指示を受けた松原氏は、8月4日の夜、楢崎代議士
の議員宿舎を訪ねて、株の譲受人の名簿はご容赦いただきたいと
いって、楢崎氏にカネを渡そうとしたのです。しかし、楢崎氏は
カネは受け取らなかったのです。
 しかし、それから26日後の8月30日、楢崎代議士から松原
氏に電話が入り、「例のものを持ってきて欲しい」と要請された
というのです。そこでその日の午後3時頃に楢崎代議士の議員宿
舎を訪ねて、前回と同様にカネを渡そうとしたところ、また断ら
れたというのです。これには、松原氏はおかしいとは思ったので
すが、そのときも目的を果たせず、引き上げたのとです。
 それは、リクルート・コスモス側からのカネの提供──コスモ
スは、そういうことですぐカネを出す企業体質の会社であるとの
証拠にするため、楢崎氏が誰かと仕組んで、隠しカメラで松原氏
とのやりとりの模様を撮影させたのです。そして、楢崎事務所は
そのテープを日本テレビに持ち込んだのです。
 このテープの放映を巡って、日本テレビ内では相当議論があっ
たようです。しかし、結局は「スクープ特番」として、9月5日
に日本テレビから放映されたのです。これが「松原事件」と呼ば
れるものです。1988年9月8日、楢崎代議士は東京地検に松
原、江副氏らを告発したのです。
 もし、リクルートが田中なる人物のいうことを無視し、楢崎代
議士の事務所にカネなど持って行かなければ、検察も動かず、リ
クルート事件はそれで終わっていたのです。しかし、それでは困
ると考える人たちがいて、何とか騒ぎを大きくしたかったと思わ
れるのです。
 検察は、コスモスの未公開株譲渡事件では最初から動くつもり
はなかったのですが、松原事件によって「これならいける」と考
え直したのです。最低でも松原弘室長は贈賄容疑で起訴できると
確信したからです。
 10月12日に、半蔵門病院入院中の江副浩正氏に対し、衆議
院の「税制問題等調査特別委員会」による病床質問が行われたの
です。その委員会の委員長は、あの金丸信氏であったのです。
 翌日13日の朝日新聞は次のように報じ、江副氏のイメージは
だんだん最悪になっていったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        ≪第一面トップ≫
         江副氏、株譲渡先の公表拒む
        ≪社会面トップ≫
         刑罰受けても話せぬ
             ──10月13日付、朝日新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに朝日新聞は、10月15日に次の見出しでリクルート疑
惑の徹底解明を謳っているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  株譲渡解明へ捜査態勢を強化/リクルート疑惑で東京地検
            ──10月15日付、朝日新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 告発を受理した東京地検特捜部は、10月19日にリクルート
本社や関連会社など数か所の強制捜査を着手したのです。このと
き、リクルート本社には捜査員が30人、コスモス社には20人
が動員されたのです。そして、その翌日、特捜部は松原室長を贈
賄容疑で逮捕したのです。
 しかし、楢崎代議士のやったことは、その後大きな問題になっ
たのです。この件については、文芸評論家の山本七平氏が次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 決定的瞬間を隠し撮りするために期待をもたせて何度も通わせ
 たのは国会議員が国民を罪に陥れようとしたことで、道義的に
 問題である。               ──山本七平氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 いずれにしても、この松原事件は、リクルート事件のターニン
グポイントになったのです。このようにして、いったん終わりか
けていたリクルート事件は息を吹き返し、その後ますます大事件
になって、政財界に大きな影響を及ぼしたのです。
            ――──[ジャーナリズム論/12]


≪画像および関連情報≫
 ●楢崎氏の手記/事実と異なる話になっている
  ―――――――――――――――――――――――――――
  私がこれはおかしいなと思い始めたのは、それまで何の面識
  もない松原弘リクルートコスモス社長室長が私の予算委員会
  質問の前日、八月四日の夜遅く、突然、赤坂議員宿舎の私の
  部屋を訪れたからだ。引き続いて旧盆休み明けの二十五日、
  そして二十八日、二十九日は二日間続けてわざわざ東京から
  私の故郷、博多の自宅にまで彼が飛んできてからである。毎
  回「できるだけのことはいたしますので、何分お手柔らかに
  よろしくお願いします」とか「どうぞ助けて下さい」などと
  いって、「先生も政治活動には何かと費用がかかりましょう
  から」と執拗に現金を私に受け取らせようとする言動、そし
  て「先生が議員活動を続けられている限り、リクルートとし
  ては最後まで、ご支援をさせていただきたいと思っておりま
  す」という支援申し込み、これは余りにも異常である。
        http://www.eda-jp.com/books/usdp/3-29.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

楢崎弥之助氏.jpg
楢崎 弥之助氏
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2010年05月11日

●「江副浩正と大物検事との攻防」(EJ第2809号)

 1988年11月7日、遂に特捜部が半蔵門病院にやってきて
江副氏は松原事件に関する事情聴取を受けたのです。そのとき、
やってきたのが、樋渡利秋検事──現検事総長です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 樋渡検事は頭脳明断で沈着冷静な紳士との印象を受けた。
 「松原弘の楢崎氏への贈賄申込みに君は関与しているの」
 「関与していません。テレビを見て初めて知りました」
 「お金の出どころはどうなつているの」
 「分かりません」
 「君は本当に関与していないの」
 「はい。テレビを見て初めて知りました」  ──江副浩正著
    『リクルート事件・江副浩正の真実』/中央公論新社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで江副浩正という経営者について少し説明をしておく必要
があると思います。そうでないと、江副氏がなぜあれほど多く
の政治家やその秘書にコスモスの未公開株の譲渡をしたことが理
解できないと思うからです。
 江副氏自身は、自分の付き合いについて自著で次のように述べ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 40代になり、銀座に本社ビルを建て、そのあと日軽金ビルを
 買ったころから、私は社外へ目を向けるようになった。経団連
 に入会、経済同友会の幹事や日経連(日本経営者団体連盟)の
 政策委員になり、経済同友会の軽井沢での夏季セミナーや、日
 経連が開催する富士吉田の合宿研修に参加するうちに、他の経
 営者との付き合いが深まっていった。そうした場で知り合った
 経営者から、「僕が応援している政治家の出版記念パーティが
 開かれることになった。僕は世話人代表だが君も世話人の一人
 になってくれないか」と話しかけられることが時折あった。ま
 た、私は取締役会に政治家を招いて話を聞くこともしていた。
 全社マネジャー会議でも、学者や経済評論家だけでなく同じよ
 うに政治家も講師に招き、国の経済政策や外交問題など、ビジ
 ネスには直接関係のないテーマで講演してもらっていた。
                ──江副浩正著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 そうした付き合いを通じて、江副氏は積極的に政治献金をする
ようになっていったといいます。政治献金なしには良い政治家は
輩出されない。良い政治家が出てこなければ良い国はできないが
政治家は代議士の身分でいること自体にお金が必要である──そ
う考えて、江副氏は積極的に政治献金やパーティー券の購入を拡
大していったのです。そこには、何らかの見返りを求める気など
きったくなかったのです。
 実は検察も江副氏に関するそういう情報はある程度掴んでいた
のです。しかし、松原事件で腰を上げた検察は、そういう江副氏
を落とす──起訴して有罪──にするにはどうするかを徹底的に
研究したのです。検察の立場からすると、腰を上げた以上そうい
う成果が得られなければ、検察の敗北を意味していたからです。
 そこで検察は、EJ第2807号でも述べたようにあるストー
リーを組み立てたのです。それは、江副氏がリクルートのさらな
る事業の拡大を図るために積極的に政治献金を行い、値上がり確
実なコスモスの未公開株を政財界に幅広く譲渡することによって
近い将来何らかの便宜を計ってもらうというストーリーです。
 1988年12月20日、特捜部から「マスコミを避けるため
こちらから出向くので、どこか場所を指定して欲しい」という連
絡が入ったのです。そこで、リクルートグループのホテル「芝グ
ランドプラザ」に部屋を用意し、江副側の牧義行弁護士が検察庁
に検事を迎えに行ったのです。
 容疑は「証券取引法違反」、担当検事は宗像紀夫氏であったの
です。いきなり大物検事の登場です。そのやりとりの一部を江副
氏の本から紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「なぜ大勢の人に株譲渡をしたのですか。親しさもあるでしょ
 うが、利害関係もあるでしょう」
 「50歳にもなれば、仕事の関係と友人とを区別するのは難し
 くなります。経営者の集まりで知り合って、友人関係になるこ
 ともあります」
 「それはよく分かります。利害関係がなければいいんですよ。
 仮にあなたが私と学生時代からの親しい関係で、私に譲渡した
 のならば問題はない。しかしそうでない人もいるでしょう」
 「株譲受人と特段の利害関係はありません」
 「政治家は違うでしょう?見返りを期待しない政治献金はない
 と、どの新聞も書いています」
 「政治家を応援しようという気持ちからで、見返りを期待した
 ものではありません」     ──江副浩正著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 宗像検事は、「グレーのスーツに厚い眼鏡で中肉中背、実直な
公僕というイメージ」と江副氏は書いています。この人は穏やか
な口調で話す人で、けっして怒鳴ったりしないそうです。
 宗像検事は「新聞では」というフレーズをよく使う人です。上
記のやりとりでも「見返りを期待しない政治献金はないと、どの
新聞も書いています」といっています。
 取り調べが終わると、宗像検事は「次回は調書を作ってくるの
で署名だけしてもらいたい」といって帰っていったといいます。
この調書というのが、前述の検察の作ったストーリーが書かれて
いるのです。
 宗像検事が引き揚げた直後に、江副氏がテレビのスイッチを入
れると「本日、東京地検特捜部は江副前会長を取り調べた模様」
と報道していたのです。メディアを避けるといいながら、ちゃん
とメディアとつながっていたのです。
            ――──[ジャーナリズム論/13]


≪画像および関連情報≫
 ●東京地検特捜部の取り調べを伝えるメディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「江副氏の事情聴取は、今回の捜査で主任検事を務める宗像
  紀夫・特捜部副部長が自ら行ったが、特捜部の副部長が調べ
  に乗り出すのはきわめて異例。そこに、特捜部の並々ならぬ
  意気込みがのぞく。江副氏は、問題の株ばらまき工作で紛れ
  もない中心人物。江副氏にすべてを語らせない限り、リクル
  ート疑惑の全容解明はあり得ない、と多くの捜査関係者は指
  摘する。しかし、表面はソフトな語り口ながら、こうと決め
  たら口を開かない江副氏のしぶとさは、株譲渡を受けた民間
  人の氏名公表を詰め寄られても、あくまで応じなかった国会
  証言で実証済み。     ──12月29日付、読売新聞
  ―――――――――――――――――――――――――――

樋渡利秋検事総長.jpg
樋渡 利秋検事総長
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2010年05月12日

●「ストーリーを作って調書を取る」(EJ第2810号)

 宗像検事は、「証券取引法違反」でひとつのストーリーを作っ
て江副氏に攻め込んできたのです。どういうストーリーかという
と、江副氏はコスモス株の公開直前に既に譲渡している未公開株
を5社から買い戻して、それを改めて何人かの知人に配ったとい
う証取法違反を問うストーリーなのです。既に特捜部は5社から
未公開株が流れたという情報は掴んでいたのです。
 創業者というものは、公開直前になると、自分の株を知人や友
人に譲渡したくなるものといわれます。ところが、これは証券取
引法違反なのです。江副氏も実際そういう気持ちになったといい
ます。しかし、江副氏はコスモスの株式公開の幹事会社である大
和証券の山中一郎専務から、事前に絶対にやってはいけないとい
われていたので、別の合法的方法をとったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そこで、公開1年10ヵ月前の昭和59年12月の増資のとき
 一株2500円でコスモスの増資を受けてもらった会社のうち
 親しい友人が経営する会社5社にお願いして、コスモスの幹部
 社員や外部の有力者に1株3500円で株式を譲渡してもらっ
 た。それらの会社から譲受人への譲渡だから、私は仲介者にす
 ぎない。5社と譲受人との間で売買約定書が結ばれ、有価証券
 取引税も納付している。資金が私の口座を通っているわけでも
 ない。                  ──江副浩正著
    『リクルート事件・江副浩正の真実』/中央公論新社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 宗像検事は、40〜50枚の証取法に関する調書を作ってきて
江副氏に署名を求めたのです。調書を読むと、江副氏が5社から
株を買い戻して譲渡したと書かれており、事実と異なるので、署
名はできないと断ったのです。
 そうすると、穏やかだった宗像氏は「そういう態度だと、今度
は検察庁に来てもらうよ」といったのです。こちらがわざわざ出
向いてやっているのにその態度はけしからんというわけです。
 このように嫌味をいったその日はそれ以上署名は求めないで、
宗像検事は帰って行ったのです。そして、その翌日、宗像検事は
またやってきて、同じ内容の調書に署名を求めたのです。
 取り調べというのは、その名のように被疑者を取り調べてそれ
に基づいて調書を作るのですが、特捜部はそのようなことはしな
いのです。あくまで特捜部が作成したストーリーをそのまま飲ま
せようと何回も繰り返し、執拗に署名を求めるのです。その取り
調べの模様の一部を江副氏の本から紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「証取法違反について詳しく聞いていきます。株はあなたが買
 い戻して売ったものでしょう」
 「違います。前回も申し上げましたが、関係者の間で売買約定
 書があります」
 宗像検事は身を乗り出し、声を落として言った。
 「不動産の取引に、節税のための中間省略というのがあります
 よね。これもそうでしょう」
 「違います。各社と譲受人とで売買契約を交わし、印紙を貼り
 有価証券取引税を納めています」。
  宗像検事はじっと私を見つめて言った。
 「新聞は5社からの還流と書いているでしょう。還流5社とた
 びたび報道されていますよ。私もあなたが5社から株式を買い
 戻して譲渡したものだと思っています」
 「私の友人がオーナーの5社に頼んで、譲受人に売ってもらっ
 たものです。私は斡旋しただけで、私が買って売ったのではあ
 りません。売買約定書もすべて当事者間で交わされています」
                ──江副浩正著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このやりとりの中で注目すべきことがあります。「新聞は5社
からの還流と書いているでしょう。還流5社とたびたび報道され
ていますよ」の部分です。
 これは明らかに自分でマスコミにリークしておいて、「新聞も
書いているように」とそれを客観的事実のようにして、被疑者を
追い詰めるのです。それに逮捕前の取り調べは検事は語調などに
気を使いますが、逮捕後は語調がガラリと変わるそうです。
 攻める方は、プロ中のプロといわれる検事であり、受ける方は
本能的に警察を怖がり、不安にさいなまされている被疑者です。
毎日同じことを問われており、ときには脅しを入れられると、面
倒くさくなって署名してしまうそうです。そのようにして冤罪は
生まれるのです。だからこそ、取り調べの「全面可視化」が必要
なのです。
 1989年1月31日に江副氏は、宗像検事からこれから先は
別の検事が担当すると告げられたのです。その検事の名前は神垣
清水氏といい、胸板が厚く、太い声で押出しがよく、あたりを払
う貫禄があったそうです。
 江副氏の本には、この神垣検事との取り調べのやりとりが詳細
に出ていますが、特捜部の取り調べの様子が具体的に綴られてお
り、取り調べの可視化の格好の資料になると思います。
 神垣検事が江副氏に最初にいった言葉は次のようなものであっ
たのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 検事の神垣です。僕はあなたをとても立派な人だと思っていま
 す。僕が抱いているあなたのイメージを壊さないようお願いし
 ます。            ──江副浩正著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はこれが彼のやり方であったのです。とくにインテリ人を落
とす場合、こういうやり方は効果的であるといいます。とくに相
手が有名人であるときは、最初はその人の業績を賞賛し、自分は
あなたのファンであると持ち上げて、検察の描くストーリーの調
書に署名させようとするのです。
            ――──[ジャーナリズム論/14]


≪画像および関連情報≫
 ●取り調べの全面可視化について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  法務省の加藤公一副大臣は17日に開かれた同省の政策会議
  で、捜査段階の取り調べの全過程を録音・録画する「全面可
  視化」の導入に向けたスケジュールを説明した。民主党は全
  面可視化の実現をマニフェストに掲げているが、導入のため
  の法改正案が国会に提出される時期は2012年以降になる
  見通しとなった。全面可視化導入の法案は、民主党が野党時
  代に参院に提案して2度可決させてきた経緯がある。党内か
  らは「一刻も早く実現を目指すべきだ」と批判する声も出て
  いる。
http://www.asahi.com/politics/update/0317/TKY201003170480.html   ―――――――――――――――――――――――――――

当時の宗像紀夫検事.jpg
当時の宗像 紀夫検事
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2010年05月13日

●「ターゲットにされたNTT眞藤会長」 (EJ第2811号)

 そのとき東京地検特捜部は、何とか眞藤恒NTT会長(当時)
を逮捕したかったのです。そのためには、特捜部側で作成した次
のストーリーが成り立つことが前提になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.江副浩正は、値上がり確実なリクルート・コスモスの未公
   開株を賄賂目的で、将来リクルートビジネスに対して便宜
   を図ってもらう目的で譲渡したこと
 2.江副浩正は、上記1について取り調べにおいて賄賂目的で
   コスモスの未公開株を多くのビジネス関係者に譲渡したこ
   とを認め、調書に署名していること
―――――――――――――――――――――――――――――
 未公開株の配布先のうち、受け取ると一番危ないのは、公務員
である官僚と政治家です。この中においてNTT関係者は準公務
員であり、どちらかというと、特捜部が一番最初に落としたかっ
た存在であったのです。
 そこで、特捜部は、上記2を江副氏に認めさせるため、執拗に
特捜部作製の調書にサインさせようとしたのです。しかし、江副
氏は、そういう目的で未公開株を譲渡したのではないと強硬に主
張していたのです。そして、これは真実であったと思われます。
 1989年2月13日、午後3時に江副氏は神垣検事から「逮
捕」を告げられたのです。逮捕容疑は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   NTT長谷川寿彦、式場英に対する単純贈賄容疑
―――――――――――――――――――――――――――――
 江副氏としては、取り調べでは、眞藤会長のことしか聞かれな
かったので、眞藤会長の逮捕を心配していたのですが、そうでな
くて少しホッとしたそうです。
 実際は、眞藤会長の秘書の村田氏と長谷川、式場両氏とがうま
くつながらず、関係者を逮捕・拘留して、江副氏を含めてウラを
取り、眞藤会長を逮捕しようとしていたのです。
 江副氏は逮捕を告げられると、神垣検事と一緒に車に乗せられ
小菅拘置所に向かったのです。車が拘置所に近付くと、神垣検事
は江副氏に次のようにいったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで君に手錠をかける。これから大勢のカメラマンが君を撮
 る。手錠がカメラに映らないように、手を下げて両足の間には
 さんでおいた方がいい。門を入るときにどういう姿勢をとるか
 は君の自由だが、君のような立場の人は正面を向いて胸を張っ
 て映される方がいいだろう。        ──江副浩正著
    『リクルート事件・江副浩正の真実』/中央公論新社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 何のことはない。マスコミに逮捕情報をリークし、拘置所に入
る瞬間の写真を撮らせて、共同演出を図っているのです。そして
拘置所の門のところで車はスピードを落とし、カメラマンが車中
の江副氏の写真を撮りやすいようにしたのです。これは、まるで
「見せしめ」であり、人権侵害そのものです。ちなみに先進国で
こんなことをやっている国は日本だけです。
 逮捕されたその日の午後7時36分に取り調べが行われたので
す。担当検事は同じ神垣検事ですが、その態度は逮捕前とは一変
して高圧的になったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私の正面に座るやいなや、検事は大声で言った。
 「お前の家のガサ入れ(家宅捜索)で何も出なかった!病院に
 もブツ(証拠物)はなかった!どこに隠したんだ!」
 「どこにも隠していません」
 「バカヤロー!嘘をつくな!」
 窓ガラスが割れるような大声を浴びせかけられながら、「おか
 しなことを言う」と私は思った。初めて取調べを受けてから、
 55日後の逮捕。隠す物があれば時間は十分あった。今になっ
 て証拠物が何もないと怒るのはおかしいし、そもそも私には隠
 すべきものは何もない。    ──江副浩正著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 特捜部は徹底的にNTTとリクルートの関係を聞いてきたので
す。特捜部としては、冒頭に述べたストーリーの2をクリアする
必要があったからです。江副氏は、リクルートとNTTは取引関
係にはあったが、NTTの大口顧客がリクルートであって、リク
ルートはNTTにお金を払う立場であって、NTTの長谷川、式
場両氏に特別の便宜など受けていないと何回も説明したが、神垣
検事はまったく聞く耳を持たないという状況だったのです。
 こういう押し問答は何日も続いたのです。
 遂に特捜部は江副氏に上記2のストーリーを認めさせるために
最も卑劣な「脅し」をはじめたのです。リクルート常務の間宮舜
二郎とコスモス取締役の舘岡精一の2人が逮捕されたのです。
 2月16日、神垣検事は江副氏に対して、次のように言い渡し
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 君の態度は極めて挑戟的である。このような態度をとり続ける
 とさらに逮捕者が増えるぞ。館岡、間宮も君が正直に話せば、
 逮捕する必要はなかったが話さないので逮捕した。もし、この
 まま君が黙秘を続けるなら、第3弾、第4弾の逮捕も考える。
 位田社長、池田友之(コスモス)社長も逮捕せざるを得なくな
 る。             ──江副浩正著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 逮捕して無罪か有罪かを調べるのが検事の役割のはずです。し
かし、この調べ方は裁判で有罪にするための調書を取るのが検事
の仕事のようになっています。
 それにしても、検事の求める供述をさせるために罪のない関係
者を逮捕するというのは、権力の乱用そのものではないでしょう
か。これは戦前の特高そのものです。
             ―──[ジャーナリズム論/15]


≪画像および関連情報≫
 ●政治家の小菅拘置所訪問記
  ―――――――――――――――――――――――――――
  建設環境委員会で小菅拘置所を視察した。職員から「ようこ
  そいらっしゃいました」と迎えられたが、ちょっと変な感じ
  だ。3010名の定員に対して現在1984名が収容されて
  いる。窃盗などの犯罪が一番多いのかと思ったら、何と覚せ
  い剤がトップで23%を占めている。年齢では20代・30
  代で45.5%と半数近い。若い世代の犯罪が増えるのは、
  展望を見出すことができないからだろうか。建物の屋上にあ
  る運動場は狭く、外へでて土を踏むことはできない。人権の
  観点から問題にされている。外へ出られないので、これまで
  の拘置所の周りの高い塀も取り壊されつつある。
  ―――――――――――――――――――――――――――

東京小菅拘置所.jpg
東京小菅拘置所
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2010年05月14日

●「ビックネーム逮捕に異常な執念」(EJ第2812号)

 江副氏は当時NTTの会長であった眞藤恒氏とは面識があった
のです。経営者6人による新橋「松山」での「眞藤さんを囲む会
/眞藤学校」のメンバーでもあったのです。その最初の出会いは
こういういきさつがあったのです。
 当時日米貿易摩擦問題が起きており、米国のヤイター通商代表
という、うるさい官僚がいて、日本は保護貿易政策をとっている
といっていろいろな分野の開放を求めてきていたのです。その中
にクレイ社のコンピュータも買えというのがあったのです。
 その矢面に立たされていたのが、NTTなのです。NTTは米
国製品調達協定を結んでいたのですが、調達実績が目標に達して
おらず、困っていたのです。しかし、NTTは国産のスーパーコ
ンピュータを有しており、追加して購入するわけにはいかなかっ
たのです。
 そういう背景があって、リクルートとの取引でNTT側の責任
者である営業部長の式場英氏から江副氏に連絡があり、眞藤会長
の顔を立てて、クレイ社のスーパーコンピュータをNTT経由で
リクルートが買ってくれないかと要請を受けたのです。1985
年9月のことです。
 江副氏は、リクルートでもス−パ−コンピュータは必要なので
クレイ社のスーパーコンピュータ「XMP16」を購入してもよ
いと返事をしたのです。その翌日、NTTの山口常務から連絡が
あり、「このたびはご配慮いただき感謝する。眞藤から直接御礼
を申し上げたい」というので、その翌日NTT本社で、短い時間
ではあったが、眞藤会長と山口常務と話をしているのです。こう
いうわけで、江副氏が眞藤氏と面識があるということがあとで眞
藤氏にとって不利に働いたのです。
 1988年11月21日、衆参両院の「リクルート問題調査特
別委員会」から江副氏は証人喚問の要請を受けたのです。そこで
は、クレイ社のコンピュータ買い取りの話も質問のなかに入って
いたのです。
 このとき江副氏は、弁護士から、証取法違反は最高でも一年で
すが、偽証罪は最高刑が10年ですから、絶対に偽証はしないよ
うにとくぎを刺されたのです。
 しかし、NTTの弁護士からは、スパコンがNTT素通しであ
ることがわかると、日米貿易摩擦が再燃しかねないので、その点
ご配慮願いたいという要請が入り、実のところ、どうしたらよい
か迷ったのです。
 江副氏は、熟慮のすえ、ことは米国との貿易問題であり、政治
問題になるのは避けなければならないので、自分は偽証罪になっ
ても仕方がないと腹をくくって、次のようにウソの証言をしたの
です。しかし、これは結果として、眞藤会長の逮捕につながって
しまったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 スパコンの購入は単なる「素通し」ではなく、NTTにバック
 アップを受けるつもりでした。       ──江副氏証言
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに加えてもうひとつ江副氏にミスがあったのです。それは
逮捕前に宗像検事から取り調べを受けたさい、調書を取られてい
たことです。村田幸蔵氏というのは、眞藤会長の秘書です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「村田(幸蔵)さんへの株譲渡は、眞藤(恒)さんを念頭に置
 いた株譲渡でしょう」
 「ええ、そうです」
 「村田さんとどのような話をしたのですか」
 「『眞藤さんとご相談の上、コスモス株をご購入いただければ
  ‥…・』と言いました」
 「そうでしょう。そのことをこれから調書にしますよ」
 宗像検事はそう言って、村田さんへのコスモス株譲渡は眞藤さ
 んを念頭においたものであるとの調書を作成し、署名を求めて
 きた。私が調書に署名すると宗像検事は「よし!これでいい」
 と、満足げであった。           ──江副浩正著
    『リクルート事件・江副浩正の真実』/中央公論新社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 1989年3月6日、江副氏は小菅の近くの足立区検察庁に連
れて行かれ、そこで逮捕状を見せられたのです。眞藤氏への単純
贈賄での再逮捕です。逮捕状に眞藤氏の名前があるので、眞藤氏
が逮捕されたことをそれで知ったのです。
 1988年12月14日に株譲渡がマスコミに報道されたとき
眞藤会長は直ちに会長を辞任し、そのうえで、自分の預金通帳は
すべて秘書の村田に任せていたといっています。
 江副氏は宗像検事への供述として、株譲渡の話を村田氏にして
いるのですが、この眞藤氏の話を聞き、村田氏の一存で処理し、
一切眞藤氏には伝えていなかったことがわかったのです。
 この村田幸蔵という人物は、眞藤氏が石川島播磨からNTTに
移るとき、唯一連れていった人物であり、眞藤氏がもっとも信頼
していた秘書だったのです。そのため、検察は何度取り調べても
「村田→眞藤」のルートがつながらず、困惑したのです。
 そこで検察は、江副氏から「村田氏の株譲渡は眞藤氏を念頭に
置いたもの」という調書を取り、それを基にして村田秘書に迫っ
たのですが、それも不発に終わったのです。そこで時間を稼ぐた
め、長谷川、式場両氏を逮捕し、そのあとで眞藤、村田を逮捕す
るという手順で、あくまで眞藤落としにこだわったのです。なん
といってもビックネームであるからです。
 こうなると、真実はどうでもいいのです。裁判で有罪になる証
拠(調書)を積み上げて有罪にしてしまうのです。これでは冤罪
が生まれるはずです。検察は自分たちが有罪にしたい人を誰でも
有罪にできることになります。それはビックネームであればある
ほど検事の評価は上がるのです。小沢氏などはまさにビックネー
ムですが、検察は起訴できなかったのです。
             ―──[ジャーナリズム論/16]


≪画像および関連情報≫
 ●長谷川寿彦氏について/江副浩正氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  長谷川さんがNTTのデータ通信事業本部長をしていたとき
  あるスキャンダルに巻き込まれて関係者が警視庁に告発され
  それが週刊誌に報道された。そのため、長谷川さんはNTT
  を辞めることを決めておられた。長谷川さんはそれがなけれ
  ばNTTデータの初代社長になるはずの方で、私は「リクル
  ートにお迎えしたい」と申し出た。私がコスモス株譲渡の話
  を長谷川さんに持ちかけたのは、リクルートに来られること
  が内々に決まってからのことである。
                ──江副浩正著の前掲書より
  ―――――――――――――――――――――――――――

眞藤恒元NTT会長.jpg
眞藤 恒元NTT会長
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2010年05月17日

●「切り違い尋問で調書を取られる」(EJ第2813号)

 東京地検特捜部としては、どうしても眞藤会長を立件したかっ
たのです。しかし、眞藤会長が収賄目的で未公開株を譲渡された
という確たる証拠は何もないのです。それでも収賄として立件し
てしまうところに検察の怖さがあります。
 江副氏は眞藤会長の秘書の村田幸蔵氏に未公開株のことを話し
眞藤会長とご相談のうえ、よろしければ未公開株を持っていただ
きたいと依頼しているのです。この件について江副氏は「あくま
で眞藤会長を念頭に置いたもの」であることは認め、宗像検事の
求める調書にサインしているのです。
 結果として未公開株は眞藤氏に譲渡できたのですが、江副氏と
しては何かの便宜を計ってもらうための贈賄などではなく、あく
まで個人的にお世話になっている知人として勧めたに過ぎないの
であって、それは違法なことではないのです。
 特捜部は、それがわかっていても何とか贈収賄罪に問えないか
と考えたのです。NTT関係者は準公務員に当たり、これが立件
できると、政治家や官僚は比較的容易に立件できるからです。
 ちょうどその頃の世論は、マスコミの過熱報道によって、コス
モス株を譲渡されていたというだけで犯罪行為をしたとみなされ
てしまう異常な雰囲気であったのです。当時、私自身眞藤会長が
逮捕されたというニュースを知って、あの人も賄賂をもらってい
たのかという気持ちになったことを覚えています。そういう未公
開株を譲渡されること自体が犯罪だと思っていたからです。
 特捜部は、贈賄側として江副氏を逮捕し、何とか村田秘書と眞
藤会長を結び付けようとしたのですが、まったくつながらなかっ
たのです。そこで、これでは眞藤会長は立件できないと考えた特
捜部は、得意のシナリオを組み立てたのです。
 そのシナリオとは、眞藤会長へのコスモス株譲渡は村田秘書の
一存で決めたものではなく、江副氏が眞藤会長に直接電話をかけ
て要請したことによって決まったものであるとしたのです。なお
江副氏はこれについては全面否定しています。
 特捜部にとって江副氏は大きなカベであったのです。論理的に
詰めていこうとすると、きわめて理路整然と論理的に返してくる
──脅しても頑として否定するし、何度も確認しようとすると黙
秘するという具合で特捜部は相当手こずったのです。
 これを特捜部はどのようにして突き崩したかです。1989年
3月18日の午後6時18分、夜の取調べが始まると、すぐ神垣
検事は、取調室を出て行き、20分ほどして凄い勢いで戻ってき
たのです。そして江副氏に次のようにいったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「お前は嘘をついていた。眞藤はさっき落ちた!眞藤はお前か
 ら直接電話を受けたと話している!これまで俺に嘘をついてい
 たな!俺にこんな態度を取ったのはお前が初めてだ!」
 言うや否や、私の椅子を窓側の横から蹴り上げた。その勢いで
 キャスターが横に滑り、私は頭から反対側に転げ落ちかけたが
 素早く検事が反対側に回り私の身体を支えた。その身のこなし
 から、検事の動作は計算ずくだ、と思った。
 検事はたたみかけるように怒鳴った。「立て!窓側に移れ!」
 取調室の窓側で、私は検事と向き合う形となつた。
 「俺に向かって土下座しろ!」       ──江副浩正著
    『リクルート事件・江副浩正の真実』/中央公論新社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 そのとき江副氏はさすがに恐怖感を感じたといいます。検事に
向かい手をつき、土下座をしていると、悲しいことに検事のマイ
ンドコントロールに入ってしまったと述懐しているのです。そし
て、検事のいわれるままに、検事の作成した次のような趣旨の調
書にサインしてしまったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は、検事に土下座してお詫び申し上げます。いままで検事に
 対し、眞藤さんに直接声をかけたことはない、村田さん個人に
 お譲りしたものであるなどと嘘を申し上げてきました。
                ──江副浩正著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 保釈後に江副氏が新聞のスクラップファイルをチェックしたと
ころ、次の記事が目にとまったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     江副の株譲渡持ちかけ 眞藤に直接だった
     収賄罪成立確実に ──毎日新聞夕刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 日付を調べると3月14日であり、江副氏が調書を取られた4
日前だったのです。つまり、4日前にそういうシナリオができて
おり、特捜部はマスコミにリークしていたのです。それでは、当
の眞藤氏はどうだったのでしょうか。
 NTTルートの裁判が始まってわかったことですが、江副氏が
土下座させられ、調書をとられた日と同じ日に作成された眞藤氏
の調書には、「江副から連絡を受けた村田秘書から知らされた」
とあり、江副氏から直接連絡を受けたとは、どこにも書かれてい
なかったのです。江副氏は完全に神垣検事に騙されていたことに
なります。この神垣検事のやった取り調べは「切り違え尋問」と
いう違法な捜査手法なのです。
 もうひとつ江副氏が衝撃を受けたことがあります。眞藤氏の秘
書の村田幸蔵氏は、20日間拘留されながら取られた調書が一通
もなかったことです。どんな人も逮捕され、取り調べを受けて調
書をひとつもとられない人はまずいないそうです。さすが眞藤氏
がたった一人NTTに連れて行った人だけあって、肝のすわった
立派な人物だったのです。
 村田氏のように取り調べでの証書がひとつもないと、公判での証
言がそのまま証拠になるので、検察に不利になります。そのため、
特捜部は多少手荒なことをしても江副氏から、直接眞藤氏に電話し
たという調書を取りたかったのです。しかし、こんなことがあって
よいのでしょうか。     ―──[ジャーナリズム論/17]


≪画像および関連情報≫
 ●「切り違え尋問」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  AとBとに取調べを行う場合に、先ずAに対し「Bが○○と
  供述した」と告げてAの供述を引き出し、その後Bに対して
  「Aが○○と供述した」と告げ、Bの供述を引き出す手法を
  「切り違え尋問」という。昭和45年11月25日最高裁判
  所大法廷判決(刑集第24巻12号1670頁)によると、
  このような手法で捜査機関が得た自白について、「偽計によ
  って獲得された自白はその任意性に疑いがあるものとして証
  拠能力を否定すべき」とされている。
                 ──ヤフージャパン知恵袋
  ―――――――――――――――――――――――――――

逓信ビル.jpg
逓信ビル
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2010年05月18日

●「既に取り調べの可視化は行われている」(EJ第2814号)

 江副浩正氏の本をていねいに読んでいくと、いろいろな発見が
あります。本の中に次の一節があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 雑談の時間に時折、検事は言った。「調書がなかなか作成でき
 ないので、僕はヘッドクオーターから、『いつまでぼやぼやし
 ているんだ』と叱られているんだよ。部長(松田昇)は叱らな
 いがヘッドクォーターは「鬼の吉永(祐介)」と言われていて
 検察庁でも有名な恐い人なんだ。僕の立場も察してくれよ。毎
 晩帰るのは3時過ぎ。朝も早い。事務官には残業手当がつくが
 検事には残業手当はつかない。事務官より僕の方が収入は少な
 いんだよ。                ──江副浩正著
    『リクルート事件・江副浩正の真実』/中央公論新社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 江副氏は、神垣検事がいつもいう「ヘッドクォーターは・・」
というのは何かなと思っていたのです。あるときは「取り調べの
状況が甘いとヘッドクォーターから叱られた」という発言も何度
も聞いているのです。
 これらのことから、江副氏は取調室にはどこかに監視カメラが
あって、それが本庁とつながっていることに確信を持ったそうで
す。そうでなければ、ヘッドクォーターとやらが、取り調べの状
況などを把握できるはずがないからです。したがってそれは、録
画されている可能性もあります。そして、有罪の証拠になるとき
だけその部分を出してくるのではないかと思われるのです。
 現在取り調べの可視化の議論が盛んであり、検察関係者は大反
対ですが、何のことはない、検察は既に別の目的でそれをやって
いるわけです。したがって、検察がその気になれば、すぐにでも
取り調べの可視化を実現できるのです。
 これについて、江副氏の本には、専門家の意見として次のこと
が指摘されています。取り調べの可視化の参考になると思われる
ので、引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 第二次世界大戦中の日本では、銃撃の命中率を上げるために極
 小高性能の電子カメラの研究が進められ、月明かりでも敵の歩
 哨を撃てる暗視カメラが開発されました。戦後その技術が基礎
 となり、胃カメラなどの極小カメラ分野で、日本は世界一の先
 端技術の国になりました。想像ですが、取調室内の天井ボード
 の穴には極小電子カメラを組み込んだビスのようなものを貼っ
 て、そこから髪の毛ほどの細い高速デジタル回線か、マイクロ
 ウエーブで映像を本庁へ送信しているのでしょう。マイクは小
 型の一センチ四方、二〜三ミリの厚みで、接見室のテーブルの
 下や椅子の下に設置し、無線で音声を送れます。途中で増幅し
 て、検事の控え室や本庁に送信することもできます。
                ──江副浩正著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで「江副氏の犯罪」について整理してみます。江副氏はコ
スモス社の未公開株を何らかの見返りの意思なしに多くの知人に
譲渡を勧誘した──これは事実です。しかし、これは違法ではな
く、慣例として認められているのです。
 しかし、その譲渡を勧めた対象が政治家をはじめとして、官僚
や経営者など、常識を超えて広く多岐にわたっており、そこに何
らかのビジネス上の期待があったのではないかと疑われても仕方
がない状況なのもまた事実であるのです。
 この「政財界に幅広く譲渡」ということがなければ、江副氏は
逮捕はもちろん起訴もされていないと思われます。しかし、騙さ
れたとはいえ、松原事件のようなものが起こると、メディアが派
手に報道しているので、検察としても動かざるを得なくなるので
す。さらに特捜部が動くとなると、そのプライドとしても事件と
して立件しないと収まりがつかないことになります。そこで大事
件として派手に報道したいメディアと組んで、意図的に一大贈収
賄事件に仕立て上げた観があります。
 そうなると、未公開株譲渡の中心人物である江副氏を贈賄罪で
起訴しなければならないのです。そのうえで利益を得た者のうち
公務員を収賄罪で起訴する──こういう手順になります。
 しかし、江副氏は知人に譲渡を勧めたのであって、何らかの見
返りを期待していないとあくまで否認したのです。しかし、江副
氏としても、「今後の付き合いを考えて」という漠然たる期待が
いっさいなかったかというとそうともいえないはずです。
 そこで江副氏は「単純贈賄」という罪に問われたのです。この
罪の最高刑は3年であり、江副氏は初犯なので、ほとんどのケー
スで執行猶予がつくのです。検察としては江副氏についてはこれ
で十分としていたのです。しかし、特捜部の予想に反して江副氏
はなかなか落ちなかったのです。
 この場合、特捜部側としては、江副氏を落とす方法はいくらで
もあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.罪のない関係者を逮捕するぞと脅すか実際に逮捕する
  2.リクルートの社長を逮捕すると脅すか実際に逮捕する
  3.保釈できる状況になっても保釈させず、長期拘留する
―――――――――――――――――――――――――――――
 1と3については、実際に江副氏に適用されています。しかし
2の「位田を逮捕するぞ」という脅しには江副氏は動揺したとい
います。当時リクルートには1兆7000億円の借入金があり、
借り入れている銀行は20行を超えていたのです。もし、位田社
長が逮捕されると、下位行は資金を引き揚げるはずです。しかし
世間体があるので、コア・バンクはその肩代わりを拒むはず。そ
うなるとリクルート・グループは資金ショートして倒産する──
江副氏に対する最も残酷な脅しだったのです。
 リクルートを潰さないため、自分が罪を受け入れても、3年以
下の懲役に執行猶予が付く。どう考えてもそうした方が得策と考
えてしまいます。     ―──[ジャーナリズム論/18]


≪画像および関連情報≫
 ●「賄賂」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  賄賂は、主権者の代理として公権力を執行する為政者や官吏
  が、権力執行の裁量に情実をさしはさんでもらうことを期待
  する他者から、法や道徳に反する形で受ける財やサービスの
  こと。大和子と手場では「まいない」。日本国などの賄賂罪
  は贈賄先が公務員(法律上のみなし公務員規定により、公務
  員として扱われる民間人を含む)であることが要件であり、
  法人の責任者や従業員が他者から利得を得て株主などの利益
  や団体の趣旨に反する裁断を下した場合は、収賄罪ではなく
  背任罪に問われる。         ──Weblio辞書より
  ―――――――――――――――――――――――――――

東京地方検察庁.jpg
東京地方検察庁
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2010年05月19日

●「検事は被疑者に取引を迫ってくる」(EJ第2815号)

 検事は被疑者を有罪にするための証拠として被疑者から調書を
取ろうとします。検察にとって、その内容が事実と違っていても
そんなことはどうでもいいのです。
 逮捕され、拘置所に入れられた被疑者は、一日も早くそこから
出たいと考えます。しかし、それは検事の思う壺なのです。その
ため、検察側としては理屈上、拘置所の環境は劣悪であればある
ほどよいことになります。江副氏は弁護士から「早く出ようと思
うな!」と念を押されています。
 小菅は、拘置所と取調室と刑務所に分かれています。江副氏は
逮捕され、拘置所に収監されたのです。しかし、拘置所と刑務所
には冷暖房設備がないのです。ですから寒い冬などは、拘置所と
取調室では20数度の温度差があるといわれます。江副氏が逮捕
されたのは、平成元年2月13日ですから、寒いさかりだったの
です。また、逆に夏では、取調室には冷房が入っているので、や
はりそこは快適な空間になります。
 そのため、寒さや暑さに弱い被疑者は何とかして取り調べを受
けようとし、検事に迎合するような、ありもしないことを供述し
たりします。少しでも環境の良い場所に行きたがるのです。そし
て少しでもそこに長時間いたがるのです。
 水谷建設の水谷元会長が刑務所に収監中に、小沢一郎氏に対し
5000万円の裏金を渡したとの供述もこういう状況でなされて
います。水谷元会長はそういうウソの供述をした前科があるので
すが、検事たちはそんなことはまるで意に介さないのです。
 検事はそのことが真実であろうとなかろうと、そういう調書は
証拠となるので、それをマスコミにリークして、ありもしないこ
とでも平気で犯罪人を製造するのです。小沢氏はこういう手法に
よって不起訴であるにもかかわらず、既にまるで重犯罪人である
かのようにされてしまっています。
 これでは冤罪がたくさん生まれるのは当たり前です。とにかく
日本では起訴されたから最後、とくに政治家は、即その時点で犯
罪人にされてしまうのです。検察がマスコミに執拗にリークする
ので、そういう悪いイメージが世間に定着し、そのイメージはな
かなか拭えないのです。
 さて、取り調べにおいて検事は、被疑者に対しいろいろな取引
を仕掛けます。日本では司法取引は認められていませんが、検事
は自分たちにとって都合のよい調書にサインさせるため、被疑者
にいろいろな働きかけをするのです。
 江副氏の本から、そういう例をいくつかひろってみることにし
ましょう。
 神垣検事は腰痛の持病を持っているようです。ある日、検事は
腰痛でひどく苦しんでいたのですが、そのとき彼は江副氏にこう
いっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「腰がものすごく痛い。医者に行きたいが、調書が取れないと
 医者に行けない。協力してくれ。頼む!」(一部略)
 「求刑は検察が起訴時に決める。本件ではリクルートがNTT
 から利益を得たわけでもNTTが損害を蒙ったわけでもない。
 被害者のいない事件だ。起訴時の求刑は軽くできる。起訴時の
 求刑と論告の求刑とは同じだ。日野先生(江副氏の弁護士)に
 聞いて確かめてくれ。現金ではなく、所詮株の譲渡話だ。調書
 には君の言い分も書く。早期保釈はヘッドクオーターも了解し
 ている。頼む」それまで恐かった検事からしんみりと語りかけ
 られ、私は当惑した。           ──江副浩正著
    『リクルート事件・江副浩正の真実』/中央公論新社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 加藤六月農相の件で、宗像検事は「自民党から2名、野党1名
をあげる方針が決まった」といい、ところでといって、次のよう
な話を持ちかけてきたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そう言って宗像検事は私に身を近づけると、上目遣いで声のト
 ーンを落として言った。「そこであなたとのネゴシエーション
 なんだが・・・。政治家の件では君を逮捕しない。4回も逮捕
 されたらあなたの世間体も悪いだろう。僕もしのびないと思っ
 ている。任意の調べになれば弁護士と毎日自由に接見できる。
 それもあなたにとって有利なことなんだよ。政治家については
 任意で取り調べる。僕が作る調書に署名してくれれば、軽い求
 刑にして、早期に保釈する。求刑は起訴時に検察が決めるんだ
 よ。悪いようにはしないことを約束する」
                ──江副浩正著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 脅したり、すかしたり、泣き落しをかけたり、懇願したり、検
事はいろいろ被疑者に仕掛けてくるのです。このようなときに江
副氏は、リクルート大阪支社の顧問弁護士の笹川俊彦先生に次の
ようにいわれたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 肉体労働者や暴力団組員などは長期勾留でも耐えられるけど、
 江副さんのような神経を使っている人は長期勾留されると元に
 戻るのに随分時間がかかる。新聞で見る限り罪にされても大し
 た罪ではない。おそらく執行猶予や。江副さんの弁護士は人権
 派のようだが、事実に反する調書に署名したらあかんと言うか
 もしれへんが、結果はたいてい同じで、あとでむなしい思いを
 するだけや。ここは検察官が作る調書に署名して早期保釈を受
 けた方がええ。あんまり頑張りなさんな。
                ──江副浩正著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロッキード事件では、田中角栄元首相の調書は一通もなかった
のですが、秘書の榎本氏や丸紅関係者の調書で有罪になっている
のです。どうせ有罪にされるのなら、ここで取引に応じた方がラ
クかなと考えて、江副氏は不本意ながら検事作成の調書にサイン
をはじめたのです。    ―──[ジャーナリズム論/19]


≪画像および関連情報≫
 ●司法取引とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  被告人による罪状認否の制度が存在する英国法の国で可能に
  なる制度であるが、実際に司法取引を使っているのは米国だ
  けである。犯罪の多い米国では刑事裁判の大部分が司法取引
  で行われている。一方、大陸法の国では、被告人が罪を認め
  ても裁判は行われ、裁判官がが有罪にする十分な証拠がない
  と判断すれば無罪となるというように、基本的に被告人によ
  る罪状認否という制度が無い。そのため、司法取引を行わな
  いか、限定している国が多い。    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

加藤六月元農相.jpg
加藤 六月元農相
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2010年05月20日

●「検察はマスコミを使って捜査する」(EJ第2816号)

 江副氏の取り調べを担当した神垣検事は、新聞をはじめとする
メディアを非常に重視する人です。神垣氏に限らず、そもそも検
事はメディアを自分たちの手足のように使って事件を立件してい
るのです。宗像検事も例外ではないのです。
 彼らは、「新聞はこういっている」とか、「新聞も書いている
ように」とか、「新聞にはこう書いてあったが」などを連発する
のです。あたかも新聞が独自の判断でそう書いているような表現
ですが、実は検察に都合の良い情報をマスコミにリークしている
と思われるのです。
 江副氏は、取り調べの雑談のときに神垣検事に「どうして検事
さんは新聞記事や記者の話を私にするのですか」と尋ねたところ
次の答えが返ってきたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 特捜の人員はたかだか30数名。新聞やテレビ、週刊誌などの
 記者はわれわれの数十倍いるんだ。こちらは手が足りないんだ
 よ。特捜がどこかに犯罪がないかと探しに行ったって見つかる
 わけがないじゃないか。疑惑があると報道された中から挙げら
 れそうなものを選んで立件するしかない。リクルート事件も報
 道が続いているから、立件することになった。新聞は世論。特
 捜は世論に応えなければ、権威が失墜する。 ──江副浩正著
    『リクルート事件・江副浩正の真実』/中央公論新社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 一見もっともな意見のように聞こえます。確かに新聞社が独自
の取材を重ねて報道した事件を特捜部が取り上げるケースもある
と思います。しかし、逆に検察の方が立件したい事件のためにマ
スコミを利用し、捜査経過を特捜部に都合がよいようにマスコミ
に報道させることもたくさんあるのです。
 フリージャーナリストの上杉隆氏は、検察があの堀江貴文氏を
逮捕するためにあるマスコミを利用しているとして、自著におい
て次のようなに書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 実例を挙げよう。06年にライブドア事件で堀江貴文民が逮捕
 される1年ほど前、ノンフィクションライターの窪田順生氏は
 知人の全国紙社会部記者に呼び出された。
 「特捜部が堀江を狙っていて、情報を欲しがっている。女ネタ
 でもクスリでも酒でもいいから、情報をくれないか」
 記者クラブは検察の「御用聞き」をしていたのである。窪田氏
 は堀江氏と面識のある女性を、記者を通じて検察に紹介した。
 1年後、堀江氏は逮捕された。        ──上杉隆著
   『記者クラブ崩壊/新聞・テレビとの200日戦争』より
                     小学館101新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢一郎論でも書きましたが、「政党」、「検察」、「マスコ
ミ」、「企業(経団連)」、「国民」というように、バラバラに
とらえると物事が分からなくなることがあります。
 検察が民主党の小沢幹事長の政治とカネの問題に対して強制捜
査をし、マスコミはそれを大々的に報道する──検察は社会正義
のためにそうしているのだと国民は考えます。そして、検察に対
して喝采を送ります。その結果、小沢幹事長は「巨悪」にされつ
つあります。80%以上の国民が「幹事長を辞任せよ」、「議員
辞職すべし」といっているのですから、既に「巨悪」にされてい
るといってよいと思います。小沢氏が何をしたのでしょうか。こ
れはリクルート事件の構図と同じです。この事件の場合、中心人
物が江副浩正氏という稀有の企業経営者でしたが、現在小沢一郎
氏がその立場にいるのです。
 そこで物事の見方を変えてみるのです。政権交代を果たした民
主党政権対検察を頂点とする官僚組織と自民党、新聞・テレビの
大マスコミ、そして大企業の連合体の抗争劇ととらえると、少な
くとも一般とは違った見方ができると思うのです。
 既出のフリージャーナリストの上杉隆氏は、検察とマスコミの
関係について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 筆者がずっと言っている「官報複合体」──官僚機構とメディ
 アの癒着こそが問題なのに記者クラブメディアはそのことに気
 づいていないか、もしくは気づいていても触れようとしないの
 である。本来、検察とは別の視点からも取材し、それによって
 得た事実も合わせて報道し、その上で独自の判断を下すのが世
 界のジャーナリズムの常識である。ところが日本の記者クラブ
 メディアはその基本を忘れ、捜査ごっこ″に協力してしまっ
 ている。とりわけ検察と記者クラブメディアが強い「官報複合
 体」を形成している証拠に、記者クラブメディアは検察批判に
 対して極めて及び腰である。なぜか。それは批判をすれば、一
 定期間出入り禁止処分を食らってしまうからだ。記者クラブメ
 ディアは、自分の社だけが情報がないために報道できない「特
 オチ」を極端に恐れる。     ──上杉隆著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 113日もの長期間の拘留の間、江副氏はノートに毎日克明に
取り調べの模様を書きとめていたのです。江副氏の著書、『リク
ルート事件・江副浩正の真実』(中央公論社刊)は、その膨大な
る記録をもとに執筆されています。
 今までにも不本意にも検察に逮捕され、起訴された人の拘留・
取り調べに関する手記は多く出版されていますが、江副氏の本の
ように取り調べ担当検事、日付、時間にいたるまできちんと書か
れているものは他に例を見ないものであるといえます。
 ご本人は「自分が書くものだから、自分に都合のよい記述が多
くある」とあえて断っていますが、それを割り引いてもその内容
は鬼気迫るものがあり、リアリティを感ずるとともに、現在の検
察捜査のあり方に疑問を感じざるを得ないのです。このあとも引
き続きEJでは同書を参照しますが、ぜひご一読をお勧めしたい
書籍であります。     ―──[ジャーナリズム論/20]


≪画像および関連情報≫
 ●上杉隆著『記者クラブ崩壊』についてあるブログの記事
  ―――――――――――――――――――――――――――
  別のレビューで、最近「○○崩壊」という言葉をよく見聞き
  すると書いたが、この「記者クラブ崩壊」は国民にとって歓
  迎すべきことだ。著者の上杉隆氏は前著「ジャーナリズム崩
  壊」から一貫して「記者会見のオープン化」を訴え続けてい
  る。つまり記者クラブが主要新聞・TV・通信社のみの閉鎖
  組織のため、すべての情報が国民に伝わっていないというこ
  とだ。以前の私にとっては、全くそのようなことは思いもよ
  らぬことで、新聞報道やTV報道を信じ切っていたのだが、
  今は懐疑的に受け止めるようになった。確かに各誌、各チャ
  ンネルが横並びで同じ内容の報道ばかりしている。特に民主
  党政権になってからはさらにひどくなってきているようだ。
     http://www.yafo.net/blog/2010/04/-200-by-101.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

上杉隆著『記者クラブ崩壊』.jpg
上杉 隆著『記者クラブ崩壊』
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2010年05月21日

●「面子のために立件するという考え方」(EJ第2817号)

 リクルート事件の裁判が終了して一年ほど経過したある日、江
副氏は藤原歌劇団のオペラ『椿姫』を観にオーチャードホールに
行ったのです。そのとき、ホールのロビーで偶然に宗像紀夫氏に
会ったといいます。
 宗像氏は、そのとき名古屋高検検事長を退任して弁護士になっ
ていたのです。宗像氏はオペラやクラシックが好きで、コンサー
トにはよく出かけるといっていたそうです。そのとき、宗像氏は
リクルート事件について次のように述懐しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いやぁ、あの事件は本当に苦労しましたよ。当初は松原事件で
 江副さんまで贈賄申込みが繋がったら、そこで終わりにしたか
 ったんですよ。ところが、松原さんに黙秘を貫かれ、松原さん
 の取調検事(堤守生特捜部副部長)の立場が悪くなって、止め
 るわけには行かなくなった。そこで捜査を続けざるを得ないこ
 とになつて、たいへんな苦労をしましたよ。僕が弁護側だった
 ら、もしかしたら無罪にできたかもしれない、と思うほど苦労
 しました。                ──宗像紀夫氏
                      ──江副浩正著
    『リクルート事件・江副浩正の真実』/中央公論新社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は宗像氏はかなり率直に事実を話しているのです。松原弘元
コスモス社長室長は、1988年10月20日に逮捕され、11
月10日に起訴されたのですが、松原氏は完黙を押し通して江副
氏は不起訴になったのです。松原氏の工作について江副氏は本当
に知らなかったので、起訴できるはずはないし、別に特捜部の手
抜かりなどではないのです。
 しかし、検察上層部は、松原氏に「江副氏の指示を受けた」と
いう供述をさせられなかったとして、取り調べ検事であった堤守
生特捜部副部長を更迭したのです。それが真実であるかどうかで
はなく、検察のシナリオ通りの供述が取れなかったのが更迭の理
由なのです。これは、最強の捜査機関である検察が敗北した瞬間
であったのです。
 これでは検察の面子が立たない──そこで東京地検特捜部は宗
像紀夫特捜部副部長を主任検事として、リクルート事件に本気で
取り組むことになったというのです。そのため、検察側のシナリ
オに沿う調書をどのような手段を使ってでも取る──これはかつ
ての特高警察そのものです。
 検察の面子を晴らすために捜査を継続する──きわめて危険な
思想であるといえます。それをリクルート事件の主任検事を務め
た宗像紀夫氏が平気で口にするところに、日本の検察組織の異常
さがあります。そういう検察の体質が今も続いている証拠に、小
沢一郎氏への一連の捜査があります。小沢捜査とリクルート事件
のそれは驚くほど酷似しているといえます。
 リクルート事件が起きたとき、国会では消費税関連法案で紛糾
していたのです。このとき小沢一郎氏は、与党自民党の官房副長
官の職にあり、国会対策に奔走していたのです。
 ちなみに、そのとき自民党の国会対策委員長は渡部恒三氏であ
り、副委員長は小泉純一郎氏だったのですが、この2人に任せて
いたのでは、とても国会は正常化しなかったのです。そのため、
小沢官房副長官が奔走していたのです。平野貞夫氏はその小沢氏
をサポートする仕事をしていたのです。
 小沢官房副長官は、公明党と民社党との修正協議に応じること
で取引が成立したときにこの事件が起きたのです。それでせっか
くの工作がストップしてしまったのです。リクルート未公開株疑
惑は、そのとき与党議員だけではなく、野党にも飛び火していた
ので、とくに野党が事件解明を強く求めており、これを解決しな
いことには、国会は前進しない状態に陥っていたのです。そのさ
なかに自民党は税制改革特別委員会で、消費税関連法案を強行採
決し、国会は一層紛糾していたのです。
 そこで、小沢官房副長官は、次の2つの提案を平野貞夫氏にし
てきたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.リクルートコスモス社「未公開株譲渡先リスト」の公表
 2.江副浩正リクルート社元会長の証人喚問を実施すること
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、これは両方とも難問だったのです。コスモス社は全リ
ストの提出に難色を示していたからです。そこで小沢官房副長官
は次の提案をしてこれら2つをクリアしたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 衆参にリクルート問題調査特別委員会を設置する。特別委員長
 からの国政調査による資料請求として、政治家関係に限定し、
 リクルートコスモス社から名簿を提出させる。
                 ──平野貞夫著/講談社刊
   『小沢一郎完全無罪/「特高検察」が犯した7つの大罪』
―――――――――――――――――――――――――――――
 1988年11月21日、衆議院リクルート問題調査特別調査
委員会で江副氏の証人喚問が行われたのです。江副氏としては、
この証人喚問が自らの身の潔白を明らかにするチャンスと考えて
応じたのですが、実際にはそうならず、その日の夕刊には「疑惑
深まる」の記事一色になったのです。検察のシナリオでは、江副
氏が何を話そうと立件することを固めており、マスコミはそれに
したがって報道したからです。
 小沢氏に対する説明責任も同じなのです。小沢氏がどのように
説明しても「説明不十分/疑惑深まる」になるようなシナリオに
なっているからです。それは「自分は悪いことをしました。白状
します」といわない限り、説明責任は果たせないのです。マスコ
ミの疑惑報道によって、はじめから「クロ」の印象が強ければ、
何を説明しても絶対に潔白にはならないのです。連日のマスコミ
報道で「クロ」を吹き込まれた人のアタマには「シロ」の部分は
ないのです。       ―──[ジャーナリズム論/21]


≪画像および関連情報≫
 ●証人喚問について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1988年、リクルート事件が発生すると、自民党は喚問中
  の撮影禁止を条件に証人喚問を受け入れると野党に提案し、
  共産党以外はこの条件を受け入れたため、同年の第113回
  国会で議院証言法が改められ、喚問中のテレビカメラによる
  撮影や、カメラマンによる写真撮影が一切禁止されるように
  なった(当時の議院証言法第五条の三)。この後、証人喚問
  が開始される直前には、議長によりカメラマンが退去させら
  れる姿やカメラを天井に向ける姿が映し出され、テレビ中継
  では、喚問前に撮影された映像からの静止画面と音声だけの
  中継、という形式が定着する。    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

証人喚問中の江副浩正氏.jpg
証人喚問中の江副 浩正氏
posted by 平野 浩 at 04:11| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月24日

●「フェアでない、ためにする新聞報道」(EJ第2818号)

 宮崎県で発生した家畜伝染病口蹄疫は、日を追うにつれて深刻
な様相を呈しつつあります。しかし、気になるのは、マスコミが
これを政権バッシングの道具として使いはじめていることです。
 宮崎口蹄疫関連の新聞各紙のタイトルをいくつか上げてみるこ
とにしましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
       「政府の対応の遅れに対する不満」
           ──5月19日の毎日新聞
       「初動遅れ/感染拡大」
           ──5月20日の産経新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 いずれも政府の対応の遅れを批判する論調になっています。し
たがって、この記事を読むといかにも与党民主党はモタモタして
いるという印象を受けてしまいます。実際にそういうところはな
いとはいいませんが・・・。
 さらに5月18日夕刻の某民放ニュースは、宮崎2区選出の自
民党江藤議員が、4月22日の国会審議で激しく政府の対応をな
じる場面の映像を放映し、いかにも政府の対応の悪さを印象づけ
ています。しかし、公式には、4月20日にコトが発覚している
のです。それを22日に取り上げて政府を批判する──野党だか
ら仕方がないのかもしれませんが──これはいささか性急過ぎる
のではないでしょうか。
 しかし、本当のところはどうなのでしょうか。
 最初に強調しておきたいことは、家畜伝染病予防法ではその初
動の措置及びまん延防止のための措置は、県知事に責任があると
いうことをです。新聞・テレビではこのことをいわないか、ぼか
して報道しており、いかにも国に責任があるような印象を与えて
います。家畜伝染病予防法には次の条文があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 都道府県知事及び市町村長は、特定家畜伝染病防疫指針に基づ
 き、この法律の規定による家畜伝染病の発生の予防及びまん延
 の防止のための措置を講ずるものとする。
  ──家畜伝染病予防法/特定家畜伝染病防疫指針第3条の2
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、宮崎県は口蹄疫の発生をいつ知ったのでしょうか。
5月18日付の読売新聞は次のように伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 宮崎県家畜保健衛生所が3月31日に4頭の水牛に発熱や下痢
 などの症状が出ているのを確認したが、「普段の下痢」と判断
 して口蹄疫の可能性を疑うこともなく、農林水産省には報告し
 なかった。この水牛農家から600メートル離れた繁殖牛農家
 で4月9日に口の中がただれた牛が1頭見つかった。そして東
 国原宮崎県知事に報告が上がったのが、4月20日であった。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この経緯を知ると、3月31日の時点はともかくとして、4月
9日の時点で宮崎家畜保健衛生所は東国原知事に報告を上げる必
要があったと思います。いずれにしても知事への報告が遅れたこ
とは明らかに県の手抜かりであることは確かです。
 ところで、当の東国原知事のブログ「そのまんま日記」には、
次のような記述があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 4月20日/家畜伝染病である「口蹄疫」の疑似患畜が県内で
 確認された。県と農水省では、直ちに口蹄疫防疫対策本部を設
 置し、家畜伝染病予防法及びこれに基づく防疫要領に沿って、
 適切かつ迅速な対応・措置を行っている。「そのまんま日記」
―――――――――――――――――――――――――――――
 これによると、農水省は4月20日に防疫対策本部を設置して
いるのです。東国原知事の場合、4月9日の時点で知事に報告が
上がっていないことは知事の責任ですが、国としては、知事に報
告が上がったその日に直ちに対策本部を立ち上げているのですか
ら、遅いといわれることはないはずです。
 しかし、4月22日の国会審議で、自民党の江藤議員が質問に
立ち、農水省が20日に対策本部を立ち上げたのが「遅い」とな
じっているのです。なぜ、遅いのでしょうか。
 口蹄疫牛の発生地域は、江藤議員の選挙地盤であり、江藤氏は
20日以前に後援者(=育牛農家)から口蹄疫の発生情報を受け
西川議員自身4月20日に現地調査をしているのです。それなの
に、知事に報告があった4月20日に政府が対策本部を立ち上げ
たのを、遅かったと批判するのはおかしいではないでしょうか。
 それを5月18日になって、某テレビ局が西川議員の国会質問
を映像で流しているのです。この映像は4月22日のものなので
すが、テレビの映像を見る人はそんなことはわからないので、対
策本部立ち上げ以後の政府の対応の遅さを自民党が批判している
と誰でも思ってしまいます。
 22日の国会での議事録では、宮崎県から深夜に農林水産省に
連絡があり、その翌朝8時に政務三役による対策本部会議を開い
ています。しかし、この時点で対策を打つのは霞ヶ関ではなく、
現地なのです。まして、宮崎県は10年前の経験から早期防疫対
策は慣れているはずなのです。
 万が一にもそういうことはないと思いますが、初動対策の責任
は県であることを知事は知らなかったのではないでしょうか。記
者会見で知事は記者からそのことを指摘されるとヒートアップし
「夜も寝ないでがんばっているのに何をいうか」と逆ぎれしてい
ましたが、痛いところを衝かれたからではないでしょうか。
 しかし、テレビではその部分をカットして編集し、国の対応の
遅さに知事はイライラしているという印象の映像にしてしまって
いるのです。とにかく最近のテレビ報道は、意図的に民主党のマ
イナス面を強調する、ためにする報道ばかりです。一応不偏不党
・客観報道を謳っているのですから、そういう報道をしていただ
きたいと思います。    ―──[ジャーナリズム論/22]


≪画像および関連情報≫
 ●記者会見で逆ぎれする宮崎東国原知事
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「我々は毎日寝ずに話している。(マスコミは)対応が甘か
  ったとか、防疫措置がどうかとかいうが、一生懸命やってい
  る」と時折涙を浮かべ、いら立ちをあらわにした。記者会見
  で、今後の防疫について方法や時期を重ねて問われた知事は
  顔を紅潮させて「帰ります。ケンカを売っているのはそっち
  だ」と声を荒らげ、席を立つ場面も。再び席に戻り、その後
  の質問に「封じ込めに失敗したとは思っていない。感染源は
  多岐にわたり、完璧なディフェンス(防御)はできない」と
  強調した。    ──2010.5.18/読売新聞より
  ―――――――――――――――――――――――――――

宮崎東国原知事/記者会見.jpg
宮崎・東国原知事/記者会見
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2010年05月25日

●「小沢氏2度目の不起訴/まだやるのか」(EJ第2819号)

 5月21日、東京地検特捜部は小沢一郎民主党幹事長に対し、
再び不起訴処分を下しています。当たり前のことです。日本にお
ける最強の捜査機関が一年以上かけて捜査して起訴できなかった
ものを、検察審査会の審査員全員が「きわめて感情的に」『起訴
相当』を議決したからといって、新証拠もないのに起訴できるは
ずがないからです。
 しかし、大半のメディアの反応は検察の再度の不起訴に関して
批判的であり、小沢一郎はワルイ奴だから、このさい幹事長職は
もとより国会議員を辞職させよというトーンで報道しています。
これに呼応して自民党を中心とする野党は国民の知る権利として
「証人喚問だ」と騒いでいます。
 しかし、冷静に考えてみるべきです。一体小沢氏は何の罪でこ
れほどまでに追及されているのでしょうか。
 小沢氏の政治団体である「陸山会」が購入した土地の取得時期
が2ヶ月ほどずれている──ただそれだけのことです。ましてそ
れにもちゃんと根拠があることは、EJの休日特集号で詳しく書
いた通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
http://electronic-journal.seesaa.net/article/148565996.html
http://electronic-journal.seesaa.net/article/148240501.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 今までメディアの報道によって多くの国民は、小沢一郎氏に対
して次のような疑惑を持っているのではないでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢氏は自分の地元のダム建設の受注に対して天の声を出し、
 水谷建設などから4億円の賄賂を受け取り、それを原資として
 陸山会を通して世田谷に土地を購入したが、それを大久保、石
 川らの秘書と共謀して、4億円の原資の収支を不透明な会計処
 理を駆使して隠蔽した。
―――――――――――――――――――――――――――――
 以上は東京地検特捜部が作った小沢氏逮捕へのシナリオです。
メディアはほぼこの線に沿って執拗に報道を繰り返し、現在まで
に国民のアタマの中には、以上のようなイメージが出来上がって
いると思うのです。
 しかし、既に水谷建設などからの4億円の賄賂の線は消え、秘
書らとの共謀の証拠も出ないことによって4億円は小沢氏自身の
カネであるとされています。
 そうすると、残るのは不動産の購入時期のずれだけになったの
です。もしこれが収支報告書の記載ミスであれば、形式犯として
会計責任者が罰せられますが、小沢氏まで責任が及ぶことはない
のです。しかし、私の調べたところによると、これは収支報告書
の記載ミスですらないのです。これについても先の休日特集号で
詳しく説明したつもりです。
 百歩譲って、収支報告書の「期ずれ」が犯罪であることを認め
るとしても、この程度のことで、現職の国会議員を逮捕・起訴し
国を動かしている与党の幹事長を国会開会中にもかかわらず、任
意とはいえ3度も事情聴取することはまともなことでしょうか。
まして、いつも選挙が迫っている重要な時期にこのようなことが
繰り返されるのです。これは究極の選挙妨害ではありませんか。
 最初の時点でのメディアの論調は、政治団体が政治資金で不動
産を購入することはけしからんということだったのです。しかし
小沢氏だけでなく、町村元官房長官をはじめ多くの与野党議員も
政治資金で不動産を購入している事実が出てくると、その線をあ
きらめ、別の角度から小沢氏を追及する──メディアは何が何で
も民主党政権を選挙で敗北に追い込みたいようです。そのウラに
何があるかはいずれこの連載中に明らかにします。
 しかし、メディアの戦略は少しずつ成功しつつあります。なぜ
なら、執拗なメディアの論調が国民に刷り込まれていった結果、
多くの人が「小沢=巨悪」のイメージを持ちはじめたからです。
 最近メディアは小沢氏が記者のマイクを手で払う映像を小沢氏
のことが話題になるたびに繰り返し流しています。これをやられ
ると、「小沢=不遜で傲岸な男」というイメージが刷り込まれて
しまうのです。ひどい話ですが、そういう映像を撮るため、記者
がわざと踏み込んでマイクを突き付けるテレビ局もあるというこ
とを聞いたことがあります。
 それから街の声を聞くと称して、よく新橋の駅前でかなり酒の
入ったオジサンにインタビューしていますが、小沢氏を擁護する
声も必ずあるはずですが、それはカットされています。これは、
ジャーナリストとして最もやってはいけないことですが、それを
平気でやっているのです。
 そういう小沢氏に対して検察審査会は審査員全員一致で「起訴
相当」を出したのですが、この制度もおかしいのです。この議決
には何らかの意図が感じられるからです。新聞は報道しませんが
議決文の中には「小沢氏ほどの絶対権力者が秘書のやっているこ
とを知らないはずはない」と明記してあるからです。私が冒頭に
「きわめて感情的に」と書いたのはそれを意味しています。
 そもそも検察審査会で審査員に説明するのは担当検事であり、
それを補助する弁護士だけです。名前もわかっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  被疑者 小沢一郎
  不起訴処分をした検察官 東京地検検事 木村匡良
  議決書の作成を補助した審査補助員 弁護士 米沢敏雄
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、被告側の弁護士が同席しないのでしょうか。ましてこの
事件は検察の暴走が指摘され、「不起訴」も検察側の苦渋の決断
といわれているのです。そういう検事だけ話をさせて、被告人の
弁護士は呼ばない──不公平ではありませんか。
 それに補助弁護士もいわゆるヤメ検であり、検察サイドの人間
です。それにこんな制度がいつ決まったのか、多くの国民は知ら
ないと思うのです。    ―──[ジャーナリズム論/23]


≪画像および関連情報≫
 ●補助弁護士/米澤敏雄氏はどういう人物か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  補助弁護士のアドバイスが審査員の判断に影響を与えるのは
  言うまでもない。一度目の「起訴相当」の議決文作成を手伝
  ったのは、ヤメ検・ヤメ判弁護士の米澤敏雄氏(73)。米
  澤氏が再任されるのか、新たな弁護士が就くのかによって、
  審査員の判断が大きく変わる可能性があるのだ。肝心の米澤
  氏は4月下旬の議決以降、都内の事務所に一度も姿を見せず
  行方知れず″のまま。「忙しい方なので、いつ来るのか予
  定は分かりません」(事務所)と繰り返すばかりである。引
  き続き補助弁護士を引き受けるのかどうかは不透明なのだ。
  「小沢氏を『絶対権力者』などと感情を前面に出した議決文
  を作成した。「これには法曹界からも異論が出ています」。
 (前出の司法記者)そんな声を気にして、米澤弁護士が降りて
  新しい弁護士に代われば、「微罪の容疑からいって起訴議決
  にならずに終わるんじゃないか」とみられているのだ。
      ──2010年5月18日発行/日刊ゲンダイより
  ―――――――――――――――――――――――――――

小沢幹事長再び不起訴.jpg
小沢幹事長再び不起訴
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2010年05月26日

●「参院選前の小沢氏強制起訴の可能性」(EJ第2820号)

 小沢氏の第1回目の不起訴が決まった後の3月のサンデープロ
ジェクト(テレビ朝日)で、出席していた検察サイドを擁護する
宗像紀夫弁護士は、小沢氏不起訴について意見を求められたので
す。そのとき宗像氏は「この後は検察審査会を中心とする展開に
なりますから」と自信ありげに述べたのです。私はこれを見てい
て、検察と検審は一体なんだなと思ったのです。
 そしてその第5検察審査会は小沢氏に対して「起訴相当」を議
決しています。かくして再びボールは検察に戻ってきたのですが
実は、検察がいつ不起訴処分を出すのかに注目が集まっていたの
です。検察自らが起訴する可能性もあったのですが、もしそれを
やると、民主党から「選挙妨害」との批判が出て、収拾がつかな
くなってしまうのです。
 そこで、検察としては早めに小沢氏に不起訴処分を下し、検察
審査会に委ねてしまう作戦に出たのです。そうすると、参院選が
予想される7月11日までに50日もあるので、それまでに検察
審査会が再び「起訴相当」を出す可能性があるからです。
 第5検察審査会の審査員11人のうち5人は任期満了で4月末
に入れ替わっています。しかし、「起訴相当」を議決した6人は
残っているので、新任の5人中2人が「起訴相当」に合意するだ
けで、小沢氏は「強制起訴」になります。まして今回検察は捜査
らしいことを一切していないので、検察審査会に提出する捜査資
料は前回と変わらないはずです。したがって、審査員が協議する
のにそう時間はかからないという考え方です。
 そうすると、7月11日の前に検察審査会が再び「起訴相当」
を出し、小沢氏は強制起訴されることになります。その可能性は
かなり高いと思われます。特捜部としてはそれを狙って今回早々
と不起訴処分を出したのです。検察審査会は市民目線ということ
ですから、選挙前に起訴しても批判は受けないという巧妙な判断
です。何としても小沢幹事長を潰し、民主党を参院選で大敗させ
その次の衆院選で民主党を下野させようとしているわけです。
 さらに検察は石川被告の初公判を6月に開こうとしています。
狙いは検事が述べる冒頭陳述にあります。ここで石川調書を読み
上げて小沢氏の関与を強調すると、マスコミはそれを過大に報道
するので、参院選での民主党大敗の流れは確実になります。
 しかし、小沢氏が強制起訴されても辞任しないで選挙に突入し
それでも民主党が負けなかったとき(与党で過半数)、または小
沢氏が幹事長は辞任するとしても政治的影響力を残して議員辞職
はしない場合のことを検察上層部は心配しているそうです。どう
してかというと、小沢氏の起訴後の裁判で検察側の勝利は望めな
いからです。検察関係者は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 強制起訴の場合、弁護士が検事役に選ばれ、検察は公判に直接
 携われない。それでは、小沢氏に付いている名うてのヤメ検弁
 護士たちには太刀打ちできないだろう。政界の最高実力者を相
 手に、公判で有罪を勝ち取るのは絶望的で、結果として検察の
 敗北になる。         ──「週刊文春」5/27号
―――――――――――――――――――――――――――――
 したがって、検察審査会の「起訴相当」の再議決が参院選後に
なってしまうことは検察にとって最悪なのです。何としても参院
選前に出させる必要があるのです。明らかに検察は何らかのかた
ちで検察審査会とつながっているのです。
 しかし、これには小沢氏サイドも危機感を深めています。民主
党は検察審査会が起訴相当を出した翌日に民主党議員20人が突
然「司法のあり方を検証・提言する議員連盟」を立ち上げている
のです。この議連が後で効いてくるはずです。さらに次のような
動きを「週刊文春」5/27は伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 法務官僚OBが建設会社に天下りし、大規模な法務省関連施設
 工事で受注調整に暗躍したというネタをキャッチし、民主党が
 法務委員会あたりで爆弾質問しようと画策しているのです。千
 葉景子法相とも通じているようです。
                ──「週刊文春」5/27号
―――――――――――――――――――――――――――――
 これだけではないのです。元参議院議員で小沢氏の心友といわ
れる平野貞夫氏が動いているのです。2010年5月18日に平
野氏は、朝日ニュースター(CS放送)「ニュースの深層」に突
然登場し、次のような驚くべきことを話したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    http://www.youtube.com/watch?v=qWveSoGbLCk
―――――――――――――――――――――――――――――
 平野貞夫という人は、いい加減な話をする人ではないのです。
伝聞とはいえ聞き捨てならない発言です。もし、これが本当なら
大スキャンダルになり、自民党は大打撃を受けるとともになり、
民主党にとっては起死回生の一打となります。この平野発言にメ
ディアは無視を続けていますが、5月22日発行の日刊ゲンダイ
だけが次のように取り上げているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (昨年の3月に小沢事務所の大久保秘書が逮捕された)西松事
 件の捜査に、当時の森英介法相(61)が「介入」した疑いが
 浮上し、民主党が問題にし始めている。森英介議員が現職法相
 時代、親しい経済人に「あれは私が指示した事件だ」と漏らし
 たというのだ。経済人は「こんなことが許されるのか」と驚い
 たという。経済人から森前法相の発言を聞いた元参院議員の平
 野貞夫氏が、きのう(21日)、「真相を解明すべきだ」と民
 主党に申し入れた。申し入れを受けた民主党の小川敏夫広報委
 員長、佐藤公治副幹事長、辻恵副幹事長は、森前法相の発言が
 あったのかどうか「司法のあり方を検証・提言する議員連盟」
 で取り上げるという。    ――日刊ゲンダイ5/22発行
―――――――――――――――――――――――――――――
             ―──[ジャーナリズム論/24]


≪画像および関連情報≫
 ●事件の黒幕は誰か──若干の補足
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2009年の大久保秘書逮捕は、麻生内閣の支持率が低下し
  このままでは政権交代は必至と見られていた時期である。そ
  ういう自民党にとって西松事件は願ってもないものであった
  と思われる。それに加えて2010年の石川議員、大久保秘
  書ほかの逮捕のバックに3人の首相がいるという説がある。
  第1は小泉元首相、第2は安倍元首相、そして第3は麻生前
  首相の3人の首相である。本当かウソかはわからないが、ネ
  ットでは大きな話題になっている。本当であるとしたら、日
  本の司法は完全に歪んでいる。
  ―――――――――――――――――――――――――――

爆弾発言をする平野貞夫氏.jpg
爆弾発言をする平野 貞夫氏
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2010年05月27日

●「訴因変更を繰り返す検察の公判戦術」(EJ第2821号)

 2010年5月22日、ほとんどのメディアが「小沢氏再び不
起訴──21日」を報道しているなかで、次のことが小さく報道
されたのをご存知でしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 西松建設違法献金事件で公判中の小沢一郎民主党幹事長の元公
 設第1秘書、大久保隆規被告について、東京地裁(登石郁朗裁
 判長)は21日、西松建設事件の起訴内容に陸山会事件を加え
 る訴因変更を認める決定をした。すでに始まっている西松事件
 の公判のなかで、陸山会事件の審理がされることになった。
           ──2010年5月21日付、産経新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 この記事を読んで、これが何を意味するかわかる人は少ないと
思うのです。大久保隆規被告がどのような訴因で起訴されたかと
いうと、2009年3月に西松建設事件で、2003年〜06年
に同社から受けた計3500万円の献金を「ダミー団体」から受
けたと偽って政治資金収支報告書に記載したというものです。
 しかし、大久保隆氏は今年の1月16日に陸山会の土地購入を
めぐって同報告書に虚偽記載した容疑で再び逮捕されているので
す。そのため、検察としては西松建設事件と重複する04、05
年分について、2009年3月の訴因に加えたいと、東京地裁に
訴因変更を請求していたのです。
 一見当然のことのように思えます。しかし、これにはウラがあ
るのです。実は大久保被告の裁判は既に判決を出せるところにき
ており、今年の3月にも判決が出る予定だったのです。そのため
大久保被告の弁護団は「既に公判前整理手続きで争点整理を終え
ており、起訴内容の変更は許されないと」と反論していたのです
が、21日に東京地裁は検察側の主張を認めたという報道です。
 まず、大久保被告の最初の訴因での公判は昨年の12月以降2
回にわたって開かれ、大久保被告無罪の判決が出るところにきて
いたのです。それは献金を受けた団体が「ダミー団体」ではない
事実が検察側証人から明らかにされたからです。この詳細につい
ては、2010年3月9日付のEJ第2769号を参照していた
だきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
http://electronic-journal.seesaa.net/article/143116270.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は今年の1月の時点で検察は新しい証言が飛び出し、苦悩し
ていたのです。このままいくと大久保被告に無罪の判決が出る可
能性がきわめて高くなったからです。小沢事務所が献金を受けた
2つの団体には実態があり、西松建設のダミー団体ではないこと
が証言されたからです。
 それに加えて、大久保被告は特捜部による取り調べで完黙して
いるのです。この場合は、裁判での大久保被告の陳述がそのまま
証拠として採用されるのです。これについては、リクルート事件
のところで述べた通りです。さらに大久保被告弁護団は経験豊富
なベテラン弁護士が揃っており、強力なのです。
 もし、大久保被告に無罪判決が出ると、ただでさえ検察の暴走
が批判されているときであり、検察の権威は地に落ちてしまうこ
とは必至です。そこで検察は何をやったのでしようか。
 石川議員らが逮捕されたのは1月15日ですが、大久保氏につ
いては、この容疑で逮捕する予定はなかったのです。しかし、検
察は判決をとりあえず伸ばす必要があると考えて、急遽大久保氏
を逮捕したのです。3人のうち大久保氏の逮捕だけが一日遅れた
ことがそれを物語っています。
 大久保氏逮捕の直後、検察は東京地裁に大久保被告のそれまで
の訴因に今回の陸山会事件を加える訴因変更を請求しています。
なぜなら、これによって3月に予定されていた判決を合法的に延
期できることと、それまでの訴因でたとえ無罪でも陸山会事件で
有罪の判決が出れば無罪判決の屈辱は避けられると考えたものと
思われるのです。
 実はこういうテクニックを検察をよく使っているのです。とく
に無罪判決が出そうな事件ではよく使われるのです。佐藤栄佐久
事件でも、郵便制度悪用事件でも似たようなことを検察は行って
いるのです。こんなことをやっていると、冤罪はこれからも次々
に出てくるものと思われます。
 その検察の訴因変更を東京地裁は21日に認めたのです。これ
によって検察の狙い通りになったわけです。しかし、これはいか
にもその場逃れの措置であり、単なる判決の先延ばしに過ぎない
のです。おそらく検察が有罪を勝ち取るとする陸山会事件でも検
察は敗れる可能性が出てきているのです。
 正しい判断というものは、正しい情報や判断をするのに十分な
情報に基づいて行われるものです。ところが今回の小沢氏を巡る
事件について新聞やテレビなどのメディアは、正しい情報を意図
的に歪めて報道し、正しい判断に必要な情報の多くの部分をあえ
て報道しないという姿勢を感じます。これでは、世論は間違った
方向に誘導されてしまうことになります。
 そのひとつの例として先の検察審査会の小沢氏に対する「起訴
相当」の議決についての報道があります。オリーブ=X!ニュー
スはこれについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 郷原信郎氏が、あるテレビ番組で、(検察審査会の)起訴相当
 の中身を説明したら、全員が驚いたそうだ。当然だ。マスコミ
 は、検察審査会の議決の中身抜き・吟味抜きで、「小沢氏はま
 だ居直るのか」(朝日)「全員一致は重い」(毎日)など、煽
 るだけ煽ったのだ。マスコミは、関東軍の従軍記者として「戦
 勝」報道をし、国民を欺いたのだ。その前に、読売と毎日は、
 21億円がどこに消えたのかの検証(=敗戦)報道をすべきな
 のだ。      ──5.22付、オリーブ=X!ニュース
―――――――――――――――――――――――――――――
             ―──[ジャーナリズム論/25]


≪画像および関連情報≫
 ●なぜ、大久保秘書まで逮捕したのか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  小沢一郎民主党幹事長の公設第1秘書、大久保隆規容疑者の
  逮捕についての記者会見は1月16日正午から、東京・霞が
  関の東京地検で開かれ、佐久間達哉特捜部長が約30人の記
  者の質問に答えた。大久保秘書はすでに西松建設の違法献金
  事件で起訴され、東京地裁で公判中。このため、今回は逃亡
  の恐れや証拠隠滅の可能性は低いのではないかとの質問に対
  し、佐久間部長は「石川(知裕衆院議員)、池田(光智・元
  私設秘書)の両容疑者と逮捕時期にずれはあったが、基本的
  には一連の事件とみられる。共犯者間で罪証隠滅されるおそ
  れはあり、逮捕せざるを得なかった」と説明した。
      http://www.asyura2.com/10/senkyo77/msg/662.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

大久保隆規氏.jpg
大久保 隆規氏
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2010年05月28日

●「小沢問題/どこに違法性があるのか」(EJ第2822号)

 小沢氏をはじめ、大久保・石川・池田3氏の逮捕・起訴で問わ
れているのは、陸山会による東京都世田谷区の土地購入を巡る事
件での「政治資金規正法違反(虚偽記載)」です。
 これについての詳細は、5月4日の休日特集号/02を参照し
ていただくとして、その核心部分は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2004年10月末に行われた東京都世田谷区深沢所在の土地
 取引は何であったのかというと、陸山会にとっては、その土地
 を押さえる手続き上のプロセスに過ぎないのです。この時点で
 は登記も個人小澤一郎との契約もできていないので、それがで
 きた時点で行うこととして、2004年度陸山会政治資金収支
 報告書には記載されず、契約ができた2005年度に正しく記
 載されたのです。これが「期ずれ」の原因です。
                 ──EJ休日特集号/02
http://electronic-journal.seesaa.net/article/148698542.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 休日特集号/02では、「期ずれ」にはちゃんとした理由があ
り、そこに違法性など何もないことを明らかにしてありますが、
もうひとつ新しい事実が出てきたのです。
 それは、2004年10月時点の世田谷区の土地の地目は農地
であることです。そうであるなら、小沢氏の名義は「所有権移転
請求権」に過ぎず、小沢氏に所有権は移転していないのです。そ
して2005年1月に農地転換が完了し、地目が宅地になった時
点ではじめて小沢氏名義の本登記が完了されているのです。
 したがって、陸山会における事務所費計上は、農地では法的に
困難であるので、農地時点での10月の事務所費記載は記載され
ていなくて当然なのです。そうなると、「期ずれ」ですらないと
いうことになります。一体どこに犯罪性があるのでしょうか。
 一番わからないのは、司法試験に合格して検事に任官された人
の中で、最も優秀な人だけが集まるといわれる東京地検特捜部の
検事ともあろう人が、こんな基礎的な法的事実がなぜわからない
のかということです。
 元検事の郷原信郎氏は、現時点でも多くの国民は──おそらく
検察審査会で小沢氏に「起訴相当」を議決した11人の審査員も
含めて──この事件を次のように考えているに違いないと自著で
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ほとんどの国民が、小沢氏から四億円の現金が提供されている
 のに陸山会の2004年の収支報告書には、「小沢氏からの借
 入金」についての記載がまったくなく、それが政治資金規正法
 違反に問われているものと思っていたはずだ。『サンデープロ
 ジェクト』に出演した私が、「陸山会の2004年の収支報告
 書に借入金として小沢氏からの四億円が記載されている」と発
 言した途端、司会の田原総一朗氏は「ええっ」と驚樗の声を上
 げ、スタジオ中が静まりかえった。     ──郷原信郎著
            『検察が危ない』/ベスト新書274
―――――――――――――――――――――――――――――
 郷原氏が述べている『サンデープロジェクト』は私も見ていた
ので、新聞関係者がうろたえていたのをよく覚えています。新聞
社は、きちんと事実を調べないで憶測記事を書いているのでしょ
うか。そうであるとしたら、メディアも劣化しています。
 郷原氏の本を読むと、『サンデープロジェクト』で郷原氏が4
億円の借入金が記載されていると指摘したあと、読売新聞の記者
が郷原氏の事務所を訪れ、『サンデープロジェクト』での発言に
ついて抗議してきたというのです。記載されているものを記載さ
れているといってなぜ抗議されなければならないのでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「陸山会の収支報告書に小沢氏からの借入金四億円の記載があ
 ると私が発言したために、世の中の多くの人は、その記載があ
 ることで政治資金規正法違反が成立しないかのように思い込み
 新聞がその事実を意図的に報じてこなかったように誤解した。
 私のテレビでの発言で世の中がハレーションを起こしている」
 というようなことを言って私の発言を批判してきた。それがま
 ったく的外れの批判であることは、既に述べたところからも明
 らかであろう。              ──郷原信郎著
            『検察が危ない』/ベスト新書274
―――――――――――――――――――――――――――――
 一連の小沢報道において、メディアの中で一番小沢氏──とい
うより民主党政権──に悪意をもって書いているのは、読売新聞
と産経新聞ですが、それにしてもよくこんな幼稚なことで大新聞
の記者が抗議にこれるものかとあきれてしまいます。
 「小沢=巨悪」と考えている人たちから見ると、この郷原信郎
氏という元検事を小沢寄りの人物ととらえていると思いますが、
ぜんぜん違うのです。
 郷原氏は民主党の政治家では、反小沢派とされる仙谷由人議員
と長年親交があり、仙谷氏の紹介で原口一博議員や枝野幸夫議員
とも協力関係にあったのです。このような経緯で郷原氏は小沢氏
が代表になる前から、主として仙谷氏を中心とするグループに参
加して、いろいろな仕事をしてきたのです。
 しかし、小沢氏が代表になると、小沢グループの力が強くなり
仙谷氏のプロジェクトの予算が削られることもあったのです。つ
まり、郷原氏にとって小沢氏は「百害あって一利なし」という存
在であり、けっして小沢親派などではないのです。
 その郷原氏でも、今回の検察の捜査のやり方はあまりにも乱暴
であり、支離滅裂であるというのです。あの宗像氏でさえテレビ
の番組では検察擁護の立場に立つものの、番組終了後の話では検
察の暴走を認めているのです。
 検察とメディアが一体となって動くと、これからも冤罪は続出
します。一度でも検察に睨まれると、誰でも巨悪にされてしまう
からです。        ―──[ジャーナリズム論/26]


≪画像および関連情報≫
 ●郷原信郎著『検察が危ない』/ベスト新書の書評
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「検察が危ない(ベスト新書)」が話題になっています。ど
  のようなきっかけでこの本を書かれたのでしょうか。
  本のタイトルである「検察が危ない」には2つの意味があり
  ます。ひとつは、このところ質の劣化した捜査で暴走を繰り
  返す特捜検察が、社会にとって"危ない"存在になっていると
  いうこと。もう一つは、そういった存在になってしまった検
  察組織そのものも"危ない"状態にあるということです。
  http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2010/05/post_561.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

郷原信郎著『検察が危ない』.jpg
郷原 信郎著『検察が危ない』
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2010年05月31日

●「政権政党の態をなしていない民主党」(EJ第2823号)

 鳩山政権の評判は最悪です。メディアのターゲットにされてい
るせいもありますが、実際に政権運営がもたついていることは確
かです。鳩山政権の悪口はいろいろありますが、一番傑作なのは
評論家の大宅映子さんの次の表現です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2000円で食べ放題、時間無制限と聞いてレストランに行っ
 たのに料理が全然なくて、でもデブにならなくてよかった、と
 言われたようなものです。   ──「週刊新潮」6/3日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 大宅氏は、事業仕分けはパフォーマンスであると斬り捨て、無
駄の削減という当初の目標はたいして達成できなかったけれども
今まで隠されていたことが国民に明かされてよかったではないか
という意見に対して上記のように皮肉をいったのです。
 しかし、現在大臣をやっている人は、まさに初体験そのもので
あり、政権交代からまだ一年も経過していないのですから、もた
つくのは当然のことです。それに自民党のように党内に大臣経験
者がほとんどおらず、先輩もいない状況なのです。うまくいかな
いのは当然のことであると思います。
 しかし、メディアは鳩山政権の負の面しか報道しませんが、自
民党時代ではとても実現しなかったようなこともたくさんやって
いるのです。ですから、この時点で政権を袋叩きにするのはいか
がなものかという気がします。そのように考えている国民もたく
さんいると思うのです。
 思えば、福田首相との大連立構想をめぐって、小沢民主党党首
(当時)が、民主党はまだ人材が育っていないので、閣僚経験が
豊富な議員が多くいる自民党の力を借りる選択肢もあるといった
のはさすがであると思います。現在起こっている事態をちゃんと
見抜いていたのです。
 人間というものは、誰かから教育や指導を受けてスキルを身に
付けるよりも、ごく身近にいる多くの先輩の仕事に対する取り組
み姿勢や仕事ぶりを見て、自然にいろいろなことを学び成長する
のです。これは40年に及ぶ私のサラリーマン経験からも実感で
きることです。
 しかし、民主党には与党経験のほとんどない議員の集まりなの
です。そういう議員がいきなり国を動かす大臣などのポストに就
いたらどうなるか──まして官僚を使いこなして「政治主導」で
仕事を遂行しなければならないとしたら・・・それはきわめて困
難なことであることは明らかです。
 当時の小沢党首としては、自民党と連立を組めば公務員改革や
国会改革などは先に伸びるかも知れないが、民主党の人材が力を
つけてくれば、いつでも党を割って政界再編を仕掛け、真の保守
政党を創れるのではないかと考えたのでしょう。
 しかし、親の心子知らずで、小沢党首が自民党との大連立の話
を民主党に持ち帰ると、鳩山幹事長(当時)をはじめ多くの幹部
が反対したので、その話は潰れ、小沢氏は党首を降りると宣言す
る騒ぎになったのはご承知の通りです。
 そのとき小沢党首に反対し、「民主党が未熟とは失礼だ」と批
判した人たちのほとんどすべてが、鳩山政権で大臣をやっている
のです。果たせるかな、小沢氏が心配した通り、現在のところ鳩
山内閣は内閣としての態をなしていないのです。
 方向性の定まらない鳩山首相をはじめ、何をしているのかさっ
ぱり分からない平野官房長官、次の総理を狙っているのか仕事を
しているようには見えない菅財務相、成長は見えるものの官僚に
踊らされているように見える岡田外相や北沢防衛相、いろいろな
ことをやっているように見えるが、さっぱり実を伴っていない前
原国交相、さっぱり公約の年金改革・後期高齢者医療制度の改革
が進まない長妻厚労相など、いずれの大臣も悪戦苦闘しているよ
うにみえます。やはり、小沢氏が心配したようになっているので
す。もっともご本人はそうは思っていないと思いますが・・・。
 これに対していささか強引なところはあるものの、仕事に関し
ては段取りをつけて着実に進めている亀井金融相、そして党務、
とくに選挙に関しては、自民党の牙城であった組織・団体の大部
分を切り崩し、磐石の選挙基盤を築きつつある当の小沢幹事長の
2人は、やはり、実力の差、経験の差は歴然としています。
 ところが、検察とメディアは、その小沢幹事長を狙い撃ちにし
て叩いています。
 それは小沢氏が権力を握りつつあるからです。小沢氏が官僚組
織・マスメディア・大企業・自民党の連合軍にとって、大きな脅
威になっているからです。検察を中核とする官僚組織とメディア
にとって、小沢幹事長が中心となって進めようとしている改革が
彼らにとって大きな不利益をもたらすからです。そのため、総力
を挙げて潰しにかかっているのです。
 実際に検察とメディアが手を組むと──既にとっくに組んでい
ますが──どのような人でも悪者にされ、社会から葬り去られて
しまうのです。それはリクルート事件の結末がどうなったかを見
れば誰でもわかることです。
 しかし、一年以上にわたって官僚組織・メディア・大企業・自
民党の連合軍があれほど総力を挙げて潰しにかかっても小沢氏は
潰れないし、一向にひるんでいるようには見えないのです。実に
タフです。普通の議員であれば、自分の事務所の秘書や会計担当
者がすべて逮捕・起訴され、自らも3度も事情聴取されれば、そ
れだけで議員辞職に追い込まれてしまうものです。
 しかし、今度ばかりは、小沢幹事長は絶対に辞めないと思いま
す。年齢のこともあるし、今まで一貫して実現を目指してきた政
治改革を仕上げるまではやめられないと考えているからです。そ
れにメディアが責め立てているような法に触れるようなことを一
切やっていないからでもあります。
 それにしてもメディアはなぜ小沢叩きにかくも熱心なのでしょ
うか。その理由とメディアの世論誘導について次回から考えてい
くことにします。     ―──[ジャーナリズム論/27]


≪画像および関連情報≫
 ●「鳩山総理」について・・・大宅映子氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  普天間問題では「誠心誠意尽くす」と言いましたが、その表
  現は、夫婦の間で浮気が発覚したときに使うのならいいです
  が、政治の世界では一文にもなりません。全員が「イエス」
  と答えることなどない中で決断し、結果を出すのが政治なの
  です。あるところは黙らせ、でもこの先の見通しはこうする
  んだ、と多数を説得できるかどうかです。
           ──大宅映子氏/「週刊新潮」6/3号
  ―――――――――――――――――――――――――――

大宅映子氏.jpg
大宅 映子氏
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2010年06月01日

●「あり得ない話ではない小沢総理」(EJ第2824号)

 官僚組織やメディアが、なぜ小沢幹事長を攻撃するのか──そ
れははっきりしています。小沢幹事長を失脚させれば、民主党は
瓦解するからです。
 その小沢氏をターゲットとする官僚組織・メディア・大企業・
自民党の連合軍(以下、連合軍)の攻撃は今のところ成果を収め
つつあります。というのは、国民の多くが連合軍の戦略によって
「鳩山退陣」+「小沢幹事長辞任」を求めるようになってきてい
るからです。メディアが連発する世論調査によって、その傾向は
はっきりと出てきています。
 ここにきて鳩山政権は、普天間問題で「国外・県外」をあきら
め、「辺野古」移設を決めたことにより、「鳩山首相辞任せよ」
の動きはこれから一層激しさを増すことになります。これに民主
党はどう対応すべきでしょうか。
 しかし、民主党党内は、鳩山首相、小沢幹事長に対する目立っ
た退陣要求は出ていないのです。反小沢派の動きも比較的静かで
す。その狙いは何でしょうか。
 それは、このまま鳩山・小沢体制で選挙をすれば選挙にはかな
り負けるものの、他党との連立によって何とか政権は維持できる
と計算しているからです。そして、選挙敗北の責任をとって鳩山
・小沢両氏には辞めてもらおうと考えているからです。とくに小
沢幹事長には選挙敗北で責任を取らせるのが一番確実で有効な方
法であると思っているのです。反小沢派の中心である仙谷、前原
枝野氏らのグループは、場合によっては自民党との大連立さえや
りかねないのです。
 選挙には敗れるが、他党との連立で政権は維持する──この考
え方はあまりにも甘いと思います。このまま選挙をすれば、自民
党以外の他党との連立を組んでも与党を野党が上回る「ねじれ」
が起きる可能性がきわめて高いからです。だからこそ、鳩山・小
沢抜きの民主党なら、自民党との連立を組む可能性だってあるの
です。まるで、細川政権のデジャヴを見ているようです。
 まして小沢幹事長としては、自民党以外の野党との連立によっ
て政権を維持できても、参院選に敗れれば、辞任せざるを得ない
立場になるので、鳩山・小沢体制のまま選挙に突入することは避
けることになると思われます。
 実は連合軍がひそかに恐れていることがあります。それは次の
ような驚くべき戦略です。まさかとは思うが、小沢幹事長ならや
りかねないと連合軍は警戒しているのです。ところが、皮肉なこ
とにその可能性がますます高まってきているのです。
 その戦略とは何でしょうか。
 今のところ鳩山首相は辞めるつもりはないように見えます。し
かし、野党の激しい揺さぶりによって辞任する可能性はかなり高
いと考えます。その場合は、6月16日の今国会閉会後、両院議
員総会か、党員・サポーターによる代表選が行われます。その場
合、誰が立候補するするかです。
 おそらく、菅副総理兼財務相、岡田克也外相、仙谷国家戦略担
当相などが名乗りを上げるでしょうが、小沢幹事長が出馬する可
能性もあるのです。まさかと考える人が多いでしょうが、その可
能性は高く、出馬すれば勝利する可能性は低くはないのです。
 もともと「権力の二重構造」といわれている民主党です。もし
小沢氏が首相になれば、それはなくなります。そういう意味では
国民から見てわかりやすいことは確かです。しかし、それを国民
が支持するかどうか──そのための参院選ですし、場合によって
は、国民の信を問うというかたちで、衆参同日選も考えられない
選択肢ではないのです。
 その場合、小沢氏の最大のネックは自身の資金管理団体をめぐ
る虚偽記載事件での検察審査会による「起訴相当」の議決です。
既に検察は再び「不起訴」を出していますが、検察審査会がもう
一度「起訴相当」を出す可能性はきわめて高いのです。
 これについて、あの郷原信郎弁護士は、次のように述べている
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 たとえ首相であっても、検察審査会が起訴相当の議決を出すこ
 と自体は制約されません。ただし、「国務大臣はその在任中、
 首相の同意がなければ訴追されない」という憲法の規定で、起
 訴相当の議決を2回受けても、首相本人が自分の起訴に同意す
 ることは考えられませんから、検察官役の弁護士は事実上、強
 制起訴の手続きは取れません。       ──郷原信郎氏
                「サンデー毎日」5/23号
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、小沢氏が首相になれば、検察審査会の「起訴相当」は
その在任期間中は刑事訴追を受けることがないので、クリアでき
ることになります。
 つまり、連合軍はこの事態を恐れているのです。しかし、皮肉
なことに、その可能性は高くなっているのです。もし、そういう
ことが起きると、メディアは一斉に「小沢、起訴逃れ」と書き立
てることは目に見えています。
 しかし、その間にいろいろな情勢の変化があります。現在、無
罪判決が出ると思われる郵便不正事件の村木被告の裁判の流れを
受けて、大久保、石川被告らの裁判も無罪判決が出ると思われま
す。その可能性が高いことは今まで書いてきた通りです。
 もし、大久保、石川被告らの裁判に無罪判決が出れば、小沢氏
に対する検察審査会の議決は意味を失います。検察に対する国民
の怒りは高まり、検察制度や取り調べの可視化や検察審査会の制
度の見直しも必至になると考えられます。
 もし、小沢首相になれば、その政権運営は格段に安定感が出て
民主党の人材も育ってくるはずです。そして、小沢氏は懸案をひ
とつずつ片づけて、現在の衆議院議員の任期の切れる3年後には
政界を引退すると思われます。ちょうど、小沢氏は3年後に70
歳になるからです。果たしてどうなるかの結論は間もなく出ると
思われます。       ―──[ジャーナリズム論/28]


≪画像および関連情報≫
 ●陸山会事務所取得にかかる【登記記録】/「オリーブ・ニュ
  ース」より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  順位番号   
  登記の目的  所有権移転請求権仮登記
  受付番号   平成16年10月29日 第77290号
  ←ここで計上は無理!×
  原因     平成16年10月5日売買予約
  権利者    岩手県水沢市袋町2番38号 小澤一郎
  登記の目的  所有権移転
  受付番号   平成17年1月7日第695号
  原因     平成17年1月7日売買
  ←ここで計上が正解。◎
  所有者  岩手県水沢市袋町2番38号 小澤一郎
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  平成16年10月29日に所有権移転請求権仮登記がされて
  います。原因表記は、「平成16年10月5日売買予約」で
  す。平成17年1月7日所有権移転登記がされています。原
  因表記は、平成17年1月7日売買です。これで完全に農地
  法5条関係にかかる土地取引であることが立証されました。
  検察審査会さん、何処が虚偽記載なのですかー?
  ―――――――――――――――――――――――――――

どう出る ! 小沢幹事長.jpg

どう出る ! 小沢幹事長
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2010年06月02日

●「政治世論調査のからくりと欺瞞性」(EJ第2825号)

 日本ほど世論調査を頻繁にする国はないといわれます。この半
年間でいうと、朝日新聞は12回、読売新聞は14回、毎日新聞
は9回も行っており、これに日経、産経を加えた主要5紙に通信
社、NHK、民法キー局などの大メディアを合わせると、国民は
3日に1度の頻度で世論調査を目にする計算になります。
 なぜ、世論調査がこれほど多いのかについて、報道側の立場か
らは、政治部記者の取材能力の低下を指摘する声があります。昔
の政治部記者は、政治のメカニズムについてよく研究しており、
自民党の派閥の有力者の駆け引きで政治の流れが決まることを把
握していたのです。そのため、有力議員に取り入って意見を聞き
政治全体の動きを判断して記事を書いていたのです。
 ところが、現在の政治部記者は取材のいろはを知らず、政治に
ついての勉強も足りないので、誰を取材したらよいか、取材して
も何を聞いたらよいかわからないのです。つまり、独自に取材す
る能力に欠けているわけです。
 そういう政治部記者を助けているのは──政治部記者だけでは
ないが──日本独自の記者クラブ制度と世論調査なのです。記者
は自ら取材することなく所属記者クラブから情報をもらい、それ
をそのまま記事として流しているのです。記者会見ですら記者ク
ラブ記者に限定されているので、記者クラブに入っていないその
他メディアが入手できない情報が優先して手に入るのです。
 これでは、記者の取材能力が落ちるのは当然であり、そのよう
なことをしているから、リベラルな朝日新聞から保守的な産経新
聞まで論調が同じになってしまうのです。新聞としては自殺行為
なのですが、日本の新聞は、記者クラブ制度の廃止を公約に掲げ
て政権交代した民主党の政権になっても、記者クラブ制度の存続
に依然としてこだわっているのです。
 既出のフリーランス記者、上杉隆氏は、日本のマスコミについ
て、かつてのニューヨーク・タイムズ時代の上司であるハワード
・フレンチ元東京支局長の言葉として次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本のマスコミは、危機に瀕した時のダチョウそのものだ。ダ
 チョウは自らの身に危険が訪れると、砂の中に首を突っ込んで
 現実から目を背けようとする。だが、もちろん身体は地上にあ
 るままで、身を守ることにはなっていない。現在の日本のマス
 コミはまさしく現実を直視せずに、砂の中に頭を突っ込んでい
 るに過ぎないのだ。             ──上杉隆著
          『ジャーリズム崩壊』/幻冬舎新書089
―――――――――――――――――――――――――――――
 世論調査は、有効回答が1000人以上になるような調査を面
接方式でやると1回で2000万円、電話調査でも1回300万
円もかかるのです。これほどのお金がかかると、一面トップの記
事にしないと、合わないのです。
 問題は質問内容なのです。政治関係の調査では最初から新聞の
タイトルを考えて質問項目を作るのです。「鳩山政権崩壊か」と
か、「小沢幹事長辞任すべきか」というような見出しが出せるよ
うな質問項目を工夫するのです。
 鳩山首相訪問時の沖縄報道において、「首相は老若男女から嫌
われている」という映像を撮るために、子供に対して「鳩山さん
は好きか」という質問をし、「キライ」という返事を集めて編集
するのと同じ手法です。
 このようにして調査結果が出ると、記者たちは大臣会見などで
それを質問するだけで、結構刺激的な記事になるのです。小沢幹
事長の辞任を求める国民の声を示して大臣たちから、次のような
コメントを引き出して記事にするのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎政治とカネにまつわる問題を通じての失望感が大きい。
                 ──仙谷由人・国家戦略相
 ◎(小沢一郎幹事長は)しかるべき時期に、しかるべき判断を
  されると確信している。    ──枝野幸男・行政刷新相
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この世論調査は質問の作り方によって結果が大きく変
わってくるのです。『週刊ポスト』6/4号のレポートです。今
年の2月時点の調査です。
 最初のケースは朝日新聞です。朝日新聞は「鳩山内閣を支持す
るか」、「支持する政党は」、「今夏の参院選の比例区ではどの
政党に投票するか」の順に聞いたところ、民主党の支持率と参院
選挙で民主党に投票する人は、同じ32%だったのです。
 次のケースは読売新聞です。読売新聞は一貫して民主党に厳し
い論調をする新聞ですが、質問の順番が違っています。
 読売新聞は、内閣支持率と支持政党を尋ねる順番は朝日新聞と
同じですが、そのあとにわざわざ小沢氏の政治資金事件の説明と
「責任を取って、小沢氏は幹事長を辞任すべきだと思いますか」
「鳩山首相は偽装献金など自らの『政治とカネ』の問題について
国民に説明責任を果たしていますか」など、一連の政治資金スキ
ャンダルについての質問を挟んだうえで、最後に「参院選での投
票先」を質問しているのです。
 その結果、民主党の政党支持率は33%、参院選での投票先を
民主党にすると答えた人は27%で、政党支持率を6ポイントも
下回ったのです。明らかに意図的です。この調査結果を読売新聞
は次の見出しを付けて報道しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      参院比例選投票先 民・自が接近
           2月7日付、読売新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 完全なマッチポンプです。小沢幹事長がマスコミの世論調査は
当たらないというのも当然です。大新聞がこんなことをしていた
のでは、新聞の先行きが不安になります。どうしてもこういう報
道をしたいのなら、読売新聞として自民党支持を打ち出すべきで
あります。        ―──[ジャーナリズム論/29]


≪画像および関連情報≫
 ●記者クラブを廃止しないとどれほど国民に損か/上杉隆氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  どんな損をしているか? 具体的に挙げていけば「きりがな
  い」としかいいようがない。たとえば、薬害エイズの問題は
  櫻井よしこさんらフリーランスや雑誌メディアが80年代か
  らずっと追及してきました。でも、雑誌が問題を追及する記
  事を掲載しても、当時の厚生省はその問題に反するデータを
  捏造して記者クラブに提供する。すると、記者クラブの記者
  たちは、そのデータをそのまま記事にしてきた。仮に、櫻井
  さんが記者会見で「おかしいんじゃありませんか?」と質問
  できていたら、血液製剤でHIVに感染する人の数は減らす
  ことができたかも知れないんです。
  http://promotion.yahoo.co.jp/charger/200912/contents03/vol38.php
  ―――――――――――――――――――――――――――

フリーランス記者に開放した亀井金融大臣室.jpg
フリーランス記者に開放した亀井金融大臣室
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2010年06月03日

●「世論調査政治になっていないか」(EJ第2826号)

 2005年の郵政民営化をめぐる、いわゆる「小泉劇場」のさ
い、メディアはどう対応したでしょうか。「民営化こそが改革の
本丸」として、徹底的に民意を煽り、支持率が下降ぎみであった
小泉政権を圧勝させています。
 しかし、2009年11月に朝日新聞が行った世論調査では、
「郵政民営化の見直し」に対して「賛成」は49%、「反対」は
33%なのです。これによって、あの郵政改革ブームは世論誘導
ジャーナリズムの作り出したものであることがわかります。
 前回述べたように、日本では3日に1回の割合で内閣支持率に
ついて世論調査が行われている計算になるのです。テレビ番組の
視聴率調査やタレントの人気度調査ではあるまいし、内閣の仕事
は最低でも一年程度の期間でとらえないと、成果など問えるもの
ではないのです。そして、結局のところそれが選挙の結果に反映
する──これでは世論調査政治になってしまいます。
 埼玉大学社会調査研究センター長である松本正生教授が次のよ
うに警鐘を鳴らしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 忘れてはならないことは、民意の動向を探る世論調査は国民投
 票のシミュレーションにすぎないということ、世論調査の結果
 が政治の行方や選挙の意義が危うくなってしまう。
              ──『週刊ポスト』6/4号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 世論調査が悪用されると、それは恐ろしい結果を招くのです。
EJでは、公開されている情報を分析して70回以上にわたって
小沢氏の犯罪(?)を調べましたが、どこにも彼の犯罪を実証す
るものはないのです。しかし、それにもかかわらず、今や小沢氏
はまるで犯罪人扱いです。それはメディアの執拗な小沢批判の結
果であると思います。
 桂敬一立正大学元教授──日本新聞協会研究所所長を歴任し、
ジャーナリズム研究の第一人者は、普天間問題について次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 本来、世論調査は、日米安保はどうあるべきか、普天間基地を
 どこに移設し、沖縄県民の負担を国民がどのように分担するべ
 きと考えているかと聞くべきでしょう。そういった質問はなく
 各紙横並びで鳩山退陣を煽り、国民総ヒステリーの状態に追い
 込んでいる。これではジャーナリズムとは言い難い。
              ──『週刊ポスト』6/4号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 普天間問題を振り返ってみると、最初に岡田外相と北沢防衛相
がその移転先についていろいろなことを言い出したことを覚えて
おられると思います。このバックには明らかに官僚の存在があり
ます。官僚の方から意見具申に行ったでしょうし、外相や防衛相
が、それまで普天間問題を担当してきた官僚の意見を聴取したこ
とも考えられます。
 これは担当閣僚として当然ことです。しかし、問題なのはそれ
がリサーチの段階であるにもかかわらず、責任ある地位にいる閣
僚が安易に口にしてしまったことです。これによって、民主党は
閣僚によっていうことが違う内閣不一致批判を生んだのです。
 それに加えて、今回の普天間問題を一番迷走させた張本人が登
場し、問題を一層混乱させたのです。その人は、沖縄基地問題検
討委員会委員長である平野博文官房長官です。
 既出のフリージャーナリストの上杉隆氏は、平野官房長官につ
いて次のように厳しい意見を述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 普天間問題に限定すれば、私はある人物が官邸に存在する以上
 必ずこうなると一貫して指摘してきました。その元凶は言うま
 でもなく平野官房長官です。その平野氏を政権の要である内閣
 官房長官に据えた昨年9月、さらにはその無能な人物を沖縄基
 地問題検討委員会の委員長に定めた昨年12月、この2つの人
 事が鳩山政権のすべての失敗と迷走の始まりだったのです。
              ──『週刊朝日』5/21号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 上杉氏は、徳之島案がここまでこじれたのは、平野官房長官の
ついたウソが原因であるといっています。上杉氏は取材を通して
当初徳之島の3町長は「政府が誠意を持って話し合うつもりなら
話し合いに応じないことはない」といっていたのを確認している
のです。
 ところが、平野長官がおそらく記者懇でリークしたとみられる
「徳之島案」が報道されると、徳之島の3町長が官邸を訪ねてそ
の真意を確かめたのです。そのとき平野長官は「政府内では徳之
島の『と』の字も出ていない」と答えているのです。長官として
はその時点ではいえないという判断なのでしょうが、もともと情
報を漏らしたのは平野長官自身なのです。
 この平野長官のウソによって、3町長は島に帰って、住民や議
会や有力者に「徳之島案はない」と説明してしまったのです。ま
た、平野長官は、昨年12月には次のようなことをいって、顰蹙
を買っているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 極論ではありますが、危険除去のために普天間基地から地域住
 民に動いて、移ってもらうことなど、いろいろな方法がある。
              ──『週刊朝日』5/21号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 また、ルース米大使が折り入って相談したいと申し入れてきた
とき、大使側がマスコミに漏れないよう大使館や長官公邸を希望
していたのに、わざわざマスコミに伝わるようホテルオークラを
セットし、米側の不信を買うなど、やることなすことすべてに問
題のある人物なのです。しかし、何よりも責任があるのは、そう
いう人物を官房長官という重要ポストに据える鳩山首相であると
いえます。        ―──[ジャーナリズム論/30]


≪画像および関連情報≫
 ●自民党政治の残滓としての平野官房長官
  ―――――――――――――――――――――――――――
  平野博文官房長官。報道でも皆さんご承知のとおり、普天間
  基地移転問題に関し、名護市長選挙の結果を受けて「民意を
  斟酌する必要はない」と発言されました。この発言が波紋ど
  ころか、「波浪警報」を呼んでいる状態です。わたしもちょ
  っと表現する適切な言葉が思いつきません。もちろん、市長
  選挙が「基地問題だけ」が争点ではなかったのは確かでしょ
  う。しかし「斟酌する必要はない」というご発言には度肝を
  抜かれました。この人はそもそも、民主党推薦の稲嶺名護市
  新市長の当選を願っていたかどうかさえ疑わしい。自公推薦
  の島袋候補が当選し、「名護市は基地を受け入れました。」
  ということにしたかったのではないか、という疑いさえ抱か
  せます。
      http://www.janjannews.jp/archives/2452892.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

平野官房長官.jpg
平野官房長官
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2010年06月04日

●「メディア全般に機密費が渡っている」(EJ第2827号)

 「記者懇」というものがあります。これは表向きの会見とは別
に、大臣をはじめとする内閣関係者が夜回り記者たちに対し、オ
フレコを前提に話す懇談会のことです。なお、記者懇は与党の幹
部も開いています。
 以下にご紹介するのは、自民党時代に官邸がやっていた話であ
り、民主党がやっているかどうかはわかりません。あらかじめお
断わりしておきます。情報源は、『週刊ポスト』6/4号(上杉
隆/本誌取材班)です。
 オフレコといってもそれに参加するすべての記者は、ICレコ
ーダーを回し、後でそれを文章に書き起こしてメモ化します。こ
れを「記者懇メモ」というのです。
 記者は文章化した記者懇メモを上司のキャップにメールで送り
ます。そのとき「これはオフなので、絶対に表に出さないでくだ
さい」と断り書きを付けて送るのです。
 それを受け取ったキャップは、同じように断り書きを付けてデ
スクに送ります。そして、デスクは政治部長に、政治部長は編集
局長に順次送られます。記者懇メモは、大勢の政治部記者から上
がってくるので、相当な量になります。
 いわゆる政局記事は、こうしたメモを基にして書かれているの
ですが、このメモはもうひとつ重要な働きをするのです。それは
編集局長がそれらのメモを官邸に上納するからです。
 このメモを読むと、与党の各派閥や他党の動向が手に取るよう
にわかるのです。官邸にとってはとくに反主流派の政権批判や官
邸内でしか知りえない情報を野党の幹部が話しているような場合
どこから情報が漏れたかを調べることができるのです。
 官邸としては、一か月に1回程度の割合で編集局長などの新聞
社の幹部を食事に招待し、情報の対価として機密費から100万
円程度を支払うのです。このシステムはそれを作り上げた官房長
官の名前をとって、「Nシステム」──おそらくNは野中──と
呼ばれていたのです。なお、Nシステムといわれる前は「Gシス
テム」──おそらくGは後藤田──と呼ばれていたのです。
 それだけではないのです。これとは別に各記者クラブから一名
ずつ総勢10名ほどが参加する官房長官招待の食事会があるので
す。この帰りには官房長官の地元の銘菓などが参加者ひとり一人
にお土産として渡されるのですが、ただの銘菓ではなく、その中
に100万円程度の現金が入っていたとされています。もちろん
お金は機密費から出されています。
 このように新聞・テレビは機密費の毒に冒されているのです。
野中元幹事長はこれを「毒まんじゅう」と呼んでいますが、国民
に大きな影響力を持つ言論界が毒まんじゅうに汚染されているこ
とは、メディアの伝えることに信頼が置けなくなり、ジャーナリ
ズムの崩壊の原因になります。このようなカネを受け取っている
メディアに小沢氏の政治とカネの問題を正義ぶって批判する資格
などないと思います。
 しかも、毒まんじゅうをもらったのは、メディアの上層部だけ
ではないのです。彼らはメディア全体に「共犯関係」を形成する
ため、次のようなことをやっているのです。これについて、『週
刊ポスト』6/4号は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 機密費を受け取った人間が、ある日、社内の後輩記者と食事し
 ながら囁く。「大変だろうから、お小遣いとっといて」。上司
 のポケットマネーかと思って受け取ると、後輩記者もその日か
 ら「毒まんじゅう」を食らった仲間入りだ。あるいは、上司が
 新任の部下や見込みのある若手記者を官房長官らに引き合わせ
 る。それぞれのお土産には、またもや菓子とともに現金が入っ
 ている。           ――『週刊ポスト』6/4号
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに加えて、自民党──とくに経世会周辺では「就職陳情」
と呼ばれるものがあるのです。政治家自身の子息や後援者などか
らの就職依頼に関して、新聞・テレビへの就職の口利きをしてい
るのです。新聞・テレビに政治家の子息が異常に多いのはそのた
めです。中には、そのように就職した子息たちの中には、最初か
ら「色の消えたスパイ」として活躍している者もいるのです。
 こうした機密費を介したメディアとの「共犯関係」は自民党政
権を通じて強固に構築されてきたのです。それは習慣化しており
それが悪いことだとは誰も考えていないのです。
 だからこそ、元自民党官房長官の野中広務氏の機密費発言に対
して、新聞・テレビが一切報道しないのは、自らにやましいこと
があるからです。しかし、自分たちの都合の悪いことは報道しな
いという姿勢は、メディアの自殺行為といえます。
 しかし、なっとくできないのは、政権交代した民主党の平野官
房長官が公約であるはずの機密費の公開に背を向け、記者クラブ
の存続にも力を貸していることです。とくに官邸については再三
の申し入れにもかかわらず、会見のオープン化に抵抗しているの
です。これは完全に公約違反です。
 マニフェストに書かれていることの多くは、財源の問題もあり
すぐには着手できないものも少なくないでしょうが、機密費の公
開や記者クラブの廃止などはその気になればできるはずです。つ
まり、やればできることをやらないのです。こんなことを続けて
いると、真の民主党支持者まで民主党から離れてしまいます。ま
さか自民党時代と同じことをやっているわけではないでしょうが
何をもたもたしているのでしょうか。
 上記の『週刊ポスト』の記事は、既出のフリージャーナリスト
上杉隆氏によるものですが、現在上杉氏は、地上波民放テレビ各
局からの出演依頼はゼロになっているそうです。どうやら「上杉
を使うな」という談合が行われているからです。テレビ局は、メ
ディアを批判する者をテレビに出さないのです。上杉氏はメディ
アの敵なのです。上杉氏だけではないのです。今までにもメディ
アに批判的な多くの評論家たちが外されているのです。
             ―──[ジャーナリズム論/31]


≪画像および関連情報≫
 ●井沢元彦/上杉隆会談/平野官房長官は何をしている!?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  上杉:鳩山さんも記者クラブ側も内閣報道室も当初はオープ
     ン化は仕方ないとあきらめていたんです。ところが、
     直前になっても平野博文官房長官が準備をしている様
     子がないので、内閣記者会(官邸記者クラブ)が「ど
     うするのか」と聞いたら、平野さんは限定的な開放に
     留めるよう指示したようなんです。しかもその後、平
     野さんは「自分は開けろつて言ったのに、内閣記者会
     が反対して開けなかった」って言ったものだから、内
     閣記者会が怒っちゃって。
  井沢:それは怒るね。平野長官はなぜそうしたんですか。
  上杉:オープンにすると記者クラブが怒る、政権の最初から
     敵を作るのはよくないと役人に騙されたんでしょう。
  井沢:それに対して岡田克也外相と亀井静香金融相はオープ
     ンにしていますよね。        ──上杉隆著
           『記者クラブ崩壊』/小学館101新書
  ―――――――――――――――――――――――――――

野中広務元官房長官.jpg
野中 広務元官房長官
posted by 平野 浩 at 04:08| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月07日

●「鳩山首相の無血クーデター/親指の意味」(EJ第2828号)

 政治評論家の鈴木棟一氏が興味深いことをいっています。鳩山
・小沢ダブル辞任は「鳩山の無血クーデター」であるというので
す。民主党の創立者である鳩山氏と菅氏は、自民党との二大政党
の一つという地位を確立しましたが、政権交代には自民党との間
に絶望的ともいえる差があったのです。
 そこで選挙に勝って政権交代を達成するため、鳩山氏と菅氏は
小沢氏率いる自由党と民主党の民由合併を図り、小沢グループに
民主党のひさしを貸したのです。おそらくこの時点では、本当に
政権交代が実現できるとは思っていなかったはずです。
 しかし、小沢氏の政治力は抜群であり、メール問題で前原代表
(当時)が辞任してガタガタになっていた民主党を、党代表に就
任して立て直し、その勢いを止めようとした検察によって代表を
辞任したものの、2007年の参院選を勝ち抜き、2009年の
衆院選で圧勝して、遂に政権交代が実現したのです。もし、小沢
氏がいなければとても実現しなかったといっても過言ではないと
思います。ところがせっかくの鳩山政権は、首相の政権運営があ
まりにも稚拙であり、加えて首相自身と小沢幹事長の政治とカネ
の問題があって、支持率が急落したのです。
 しかし、小沢幹事長の政治とカネの問題については謀略の疑い
が濃厚であり、EJではそのことを多くの情報を提示して説明し
てきたつもりです。小沢事件に関しては、仙谷国家戦略相に近い
郷原信郎弁護士など、限りなく「シロ」であると主張している人
が多く、それを示す資料は誰でも容易に入手できるのです。
 しかるに、いわゆる反小沢派といわれる人々は、そのほとんど
が弁護士であるにもかかわらず、それが実質的には民主党への卑
劣な攻撃であるのに何の手助けもせず、繰り返し説明責任と辞任
を迫るという権力闘争に終始したのです。明らかにこの事件の責
任をとって小沢氏に辞めて欲しいという意図は明らかです。用事
は済んだので、辞めてくれとは実に身勝手な話です。
 しかし、何といっても民主党の支持率低下に拍車をかけたのは
首相の普天間問題の迷走なのです。今ある情報を総合すると、昨
年末には代替基地は普天間しかないとわかっていたにもかかわら
ず、「最低でも県外」と主張して沖縄の人の心を弄んだ挙句、結
局普天間で日米共同宣言をしたのです。これに反発して社民党が
政権離脱して支持率がさらにダウンすると、今度は小沢幹事長を
道連れにして辞任し、政権を放り出したのです。小沢氏もこれほ
どひどいとは考えてもいなかったと思います。
 確証はありませんが、さまざまな情報を分析した結果、鳩山首
相(当時)の小沢氏道連れ辞任については、事前に菅副総理と相
談していたものと思われます。時期は小沢幹事長と輿石参院幹事
長が鳩山氏を尋ねた前後であると思われます。その前から鳩山氏
と小沢氏は電話で次のようなやり取りをしていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 『社民党を切ってはならない。選挙協力をどうするのだ』と小
 沢氏は強く言っていた。普天間の決着は、もう少し、選挙後ま
 で延ばせばいいじゃないか、と。
     ──「鈴木棟一の風雲永田町」4日発行「夕刊フジ」
―――――――――――――――――――――――――――――
 この時点で鳩山氏は辞任を考えていたと思います。「オバマを
取るか小沢をとるか」──結局首相として何かを残したい鳩山氏
は、オバマを取り、小沢幹事長を道連れにして自爆テロを行なっ
たのです。オバマに褒めてもらいたかったのです。
 2回目に鳩山氏が小沢、輿石両氏と会ったとき、鳩山氏は小沢
氏に幹事長辞任を迫っているのです。そのとき、小沢氏が辞任を
受け入れたので、鳩山氏は外に出たとき、親指を立てたのです。
これは菅副総理への勝利のサインであると考えられます。
 要するに、これは鳩山──菅両氏の出来レースなのです。両氏
としては、小沢氏に「ひさしを貸して母屋を取られた」と考えた
ので、自分が小沢氏と道連れ辞任をすることで、クリーンな民主
党を取り戻したという構図なのです。
 さて、4日に菅首相が確定すると、直ちに仙谷官房長官、枝野
幹事長という情報が駆け巡り、ちょっとした騒ぎになって首相の
記者会見が大幅に遅れたのです。これは菅首相サイドが作成した
執行部の主要人事と主要閣僚リストが流れたからです。わざと流
したのか、漏れたのかはわかりませんが、そういうものが既にで
きていたことは確かなのです。したがって、菅氏は、かなり前か
ら準備していたフシがあります。
 もし、今回の民主党内の政権交代が、鳩山・菅の連携プレイで
あったとすると、このさい徹底的に「小沢外し」をやってくると
思います。今回は「小沢色を消す」という大義名分があるので、
菅首相にとっては絶好のチャンスといえます。ポイントになるの
は「枝野幹事長」があるかどうかです。この原稿を執筆している
5日正午の時点では、菅氏のグループ内から反対意見が相次いだ
ということで、ペンディングになっていますが、この人事は変わ
らないと思います。逆にこれが変わるようであれば、菅氏のリー
ダーシップに疑問符が付きます。
 この人事があると、枝野氏は小沢氏がこれまで組み立ててきた
システムをすべて壊してくると思われます。会期を延長したのは
郵政法案を通すためだけでなく、政調会の復活や参院選の戦い方
まで干渉してくる可能性があります。もっと露骨にやると、小沢
氏に政倫審での説明が証人喚問を求めることもあると思います。
国対が変わると、それは十分あり得ることです。
 しかし、これは危険な賭けであると思います。小沢グループは
一斉に反発し、党内は混乱します。現在、国対幹部は小沢グルー
プで占められ、選挙は小沢氏が一手に握っています。もし、枝野
氏がこれに手を突っ込んでくると、小沢グループは選挙から一斉
に手を引くでしょう。それで選挙が戦えるのでしょうか。
 かつて小沢氏が辞めるといったとき、それを思いとどまるよう
説得したのは、誰だったでしょうか。鳩山氏と菅氏ではありませ
んか。          ―──[ジャーナリズム論/32]


≪画像および関連情報≫
 ●岩手総決起大会での小沢一郎氏のビデオ演説
  ―――――――――――――――――――――――――――
  菅直人新首相が誕生した6月4日、「小沢王国」といわれる
  岩手では、盛岡市で参院選に向けた民主党県連主催の「総決
  起集会」が行われた。当初は出席の見通しだった小沢一郎氏
  は欠席したものの、ビデオで心境を語った。小沢氏は今回の
  幹事長辞任について「ご迷惑をかけて申し訳ない」と謝罪。
  「いったんは幹事長から身を引いたが、本当の意味で私の理
  想を実現するため頑張っていく」と思いを語ると約1500
  人の民主党支持者が埋め尽くした会場から拍手がわいた。た
  だ、小沢氏は「理想」の具体的中身は語らなかった。
  ―――――――――――――――――――――――――――

鳩山首相勝利のサイン.jpg
鳩山首相勝利のサイン
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2010年06月08日

●「記者クラブ開放はなぜできないのか」(EJ第2829号)

 「記者クラブのオープン化」──EJでも何度か取り上げてい
ますが、不思議なほど議論が盛り上がらないテーマなのです。民
主党は「記者クラブのオープン化」をマニュフェストに掲げて昨
年の衆院選を制したのですが、大臣によってそれへの対応の姿勢
が大きく異なっています。
 現在、記者クラブ開放の全体状況がどうなっているのかについ
て知る国民はいないと思います。また、記者クラブがどういうも
のかについて知る人も少ないと思います。どうしてかというと、
メディアがそれを報道しないからです。それどころかメディアは
記者クラブという存在そのものも隠そうしています。メディアは
都合の悪いことは報道しないのです。
 現在、民主党のマニュフェストというと、「財源の根拠なきバ
ラマキ」といわれています。奇怪なことに民主党の議員自体も半
ばそれを認めてしまっています。しかし、行政の無駄の排除は短
期間でできるものではありません。まして政権を取ったら、一年
以内にすべてやるといっているわけではないのです。
 民主党が約束したマニフェストの中に、財源がなくてもできる
ものはたくさんあるのです。「記者クラブのオープン化」もその
ひとつです。しかし、概して民主党の議員たちはそういうことに
は熱心ではないのです。もし、そういうことに民主党が熱心に取
り組み、次々と片づけていたら、民主党の支持率は少々のことで
は揺るがなかったはずです。
 「記者クラブのオープン化」に一番熱心に取り組んだのは、岡
田克也外相(当時)です。2009年9月29日、岡田外相は記
者クラブ開放の記者会見を行なっています。そのとき、記者たち
に配付された資料には次のように書かれてあったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 外務省では、国民の知る権利と行政の説明責任の双方を担保す
 るため、9月18日付で『大臣会見に関する基本的な方針』を
 岡田大臣が発表し、すべてのメディアに記者会見を開放するこ
 ととしました。しかし、外務省記者会(霞クラブ)より留保の
 申し入れがあったため、その実施を見合わせていましたが、本
 日に至るまで、霞クラブから記者会見の開放について明確な見
 解は示されませんでした。そこで、改めて、別添の『基本的な
 方針』に基づき、本日より大臣・副大臣等の記者会見をすべて
 のメディアに開放することとしましたのでお知らせします。
              ──上杉隆著/小学館101新書
     『記者クラブ崩壊/新聞・テレビとの200日戦争』
―――――――――――――――――――――――――――――
 岡田外相は、大臣に就任すると、すぐ外務省幹部に外務省の記
者会見をすべてのメディアに開放するよう指示したのです。しか
し、外務省記者会「霞クラブ」より留保──しばらく待ってくれ
という要請があったのですが、いくら待っても何の音沙汰もない
ので、今日からすべてのメディアに記者会見を開放すると発表し
たのです。岡田外相は党としての約束を守ったのです。
 実はこの会見が行われた2009年9月29日の記者会見の始
まる30分前の午後5時30分の段階では、外務省の当時100
席ある会議室にはフリーの記者と外国メディアしかいなかったの
です。いつもであれば、この時間にはよい席を取ろうとして席の
取り合いをするのが常なのに、外務省記者会の記者たちは一人も
いなかったのです。そしてこの状態は、会見開始の5分前になっ
ても変わらなかったのです。
 どうしてこんなことになったのかというと、大臣の記者会開放
の方針に読売新聞の記者などが反対し、会見ボイコットをしよう
としていたのです。これは実に理屈に合わないことです。
 メディアの記者たる者は、役所に対して「国民の知る権利」の
ために情報公開を迫るのが仕事であるのに、国民の知る権利に異
議を唱えていることになるからです。外務省記者会の記者は、結
局はボイコットはまずいと判断して、記者会見に参加したようで
すが、一流メディアの記者とは思えないまことに児戯に等しい行
為であったといえます。
 しかし、本当の意味での記者クラブのオープン化を実施したの
は外務省だけであり、金融庁や総務省は開放はしたものの、いろ
いろな制約がついている開放なのです。
 金融庁は既に述べたように金融記者クラブは大臣の要請にもか
かわらず開放には同意しないので、亀井金融相(当時)の判断で
記者クラブとフリー記者のそれぞれに対して2回会見を行ってい
る状態なのです。これは本当の意味での開放ではないのです。
 総務省は1月から記者クラブに加盟していないフリーのメディ
アに対して総務相の定例会見を開放したものの、大臣に質問でき
るのは総務省記者クラブ記者だけであり、フリーのメディアが質
問をするには事前に記者クラブの承認がないとできないのです。
実際にはなかなか承認はしないので、質問権なしでフリー記者の
参加を認めたかたちなのです。妥協の産物といえます。
 もうひとつは、総理大臣記者会見のフリー記者への一部開放で
す。鳩山前首相は、かねてから会見をフリー記者に開放すること
に意欲を示していたのですが、平野官房長官(当時)が反対して
実現できず、今年の3月25日になって一部開放されたのです。
これについては、改めて取り上げますが、それほど記者クラブの
抵抗は強いのです。
 その他の省庁の記者クラブに関しては、私の知る限り、何も開
放されていないのです。大臣も知らん顔です。このたび総理に就
任した菅直人財務相の管轄下の財務省の記者クラブなどはまるで
開放されていないのです。菅氏は何もしていない。彼にとってこ
の公約は関心のないテーマのようです。
 そうなると、この公約をきちんと仕上げたのは岡田前外相だけ
ということになります。彼は外務省の「密約」調査もきちんと仕
上げています。そういう意味で岡田氏は立派ですが、他の大臣は
何をしているのでしょうか。それは大臣の資質をあらわしている
と思うのです。      ―──[ジャーナリズム論/33]


≪画像および関連情報≫
 ●北海道の地域誌「北方ジャーナル」における記者クラブ問題
  ―――――――――――――――――――――――――――
  東京の政府機関関係の記者クラブをめぐっては、3月26日
  に首相官邸で行われた鳩山由紀夫首相の記者会見が初めて記
  者クラブ非加盟のメディアやフリーランス・ジャーナリスト
  に広く開放される出来事がありましたが、省庁ごとにまだバ
  ラつきも残っています。総じて記者クラブ問題は、クラブ加
  盟の新聞・放送の既存メディアと非加盟の雑誌、ネットメデ
  ィアやフリーランス・ジャーナリストとの対立構図が目立ち
  がちです。また、開放の方法論については、基本的にいずれ
  かのメディア団体に所属するメディア企業の一員か寄稿者で
  あることを参加資格にしています。日本新聞協会加盟のマス
  メディアかそれに準じるメディアの所属という従来の参加資
  格から広がりはしましたが、プロに限るという枠組み自体は
  変更がなく、NPOや個人ブロガーは排除されていることに
  変わりはない、との指摘もあります。
   http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20100328/1269753166
  ―――――――――――――――――――――――――――

開放された外務省の大臣会見.jpg
開放された外務省の大臣会見
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2010年06月09日

●「記者クラブの国民洗脳化システム」(EJ第2830号)

 ここで、日本の記者クラブはどのような経緯でできたのかにつ
いて知っておく必要があります。
 記者クラブの歴史については、前回のテーマ「小沢一郎論」に
おいて5回にわたって取り上げているので、参照願います。
―――――――――――――――――――――――――――――
http://electronic-journal.seesaa.net/article/140535932.html
http://electronic-journal.seesaa.net/article/140547532.html
http://electronic-journal.seesaa.net/article/140710144.html
http://electronic-journal.seesaa.net/article/140883520.html
http://electronic-journal.seesaa.net/article/141160100.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、話の流れにおいて記者クラブの歴史は必要なので、こ
こでは、上杉隆氏の『記者クラブ崩壊』(小学館101新書)を
基にして簡単にご紹介します。
 明治23年(1890年)に帝国議会が発足したのですが、そ
れと同時に記者たちが「議会出入り記者団」を結成したのです。
これは隠蔽する体質の根強い官庁──官僚組織に対して記者が団
結して情報公開を求めるために結成され、全国の省庁、自治体、
警察などに設置されたのです。これが記者クラブの始まりです。
 1930年代になると、政府の言論統制が厳しくなり、結局は
それに力負けして記者クラブは官庁の傘下に入ってしまったので
す。そして、第2次世界大戦においてメディアは、世論を戦争に
誘導し、ウソの戦果を報告する、いわゆる大本営発表を繰り返す
ことになったのです。明らかにメディアの堕落です。
 戦後になって1949年に記者クラブは復活します。しかし、
その目的は公共機関に配属された記者たち有志が集う「親睦社交
団体」であり、取材上の問題には一切関与しないことを基本方針
としていたのです。
 しかし、1978年になると、日本新聞協会の編集委員たちは
記者クラブに対する見解を次のように一変させたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 記者クラブの目的はこれを構成する記者が、日常の取材活動を
 通じて相互の啓発と親睦をはかることにある。 日本新聞協会
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、記者クラブは、「取材活動に関係のない親睦団体」か
ら「取材活動を通じて親睦を図る団体」へと変化したのです。こ
れによって記者クラブは単なる親睦団体から取材拠点へと変わっ
たのです。この取材拠点には大手メディアしか参加できず、同じ
ジャーナリストである外国人記者やフリージャーナリスト、雑誌
やネットメディアは締め出されたのです。これが現在の記者クラ
ブにつながっているのです。
 記者クラブの問題点を考えてみます。報道の現状を見ると、い
わゆるマスメディアの報道内容は画一的であることが誰の目にも
明らかです。これに対して週刊誌や夕刊紙などのメディアは内容
が多彩であり、いわゆる、特ダネはこういうメディアに寄稿する
フリーランス記者に限られているのです。なぜ、こんなことが起
こったのでしょうか。
 記者クラブの一番大きな問題点は、報道内容そのものに対する
競争が消えてしまったことにあります。官僚組織というものは元
来強い隠蔽体質を持っているものです。もともと記者クラブは、
この官僚の隠蔽体質に切り込んで国民の知る権利に応えるために
結成されたものなのですが、戦前から戦後にかけてそうであった
ように次第に権力側に屈していったのです。
 確かに権力側から記者クラブに加盟するメディアだけに流され
る情報を各社横並びに伝える環境にひたっていると、競争心など
なくなってしまいます。さらにこういうことが当たり前になって
いった結果、記者クラブに属する記者は、権力側に強く依存する
ようになっていったのです。
 そして、上杉隆氏は、このシステムは権力側と結託した国民に
対する一種の洗脳システムとして機能する危険を次のように指摘
しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そこには国民の知る権利など存在せず、官僚化した新聞・テレ
 ビの報道が、事実上、国民を洗脳することになってしまってい
 る。この状態を新聞・テレビは30年間も続けており、不幸な
 ことに何も知らない国民はそれこそ「一流のジャーナリズム」
 だと信じこんでいる。まさに「日本国民一億総洗脳化」以外の
 なにものでもない。    ──上杉隆著/小学館101新書
     『記者クラブ崩壊/新聞・テレビとの200日戦争』
―――――――――――――――――――――――――――――
 メディアによる国民洗脳化の最も象徴的な被害者は、おそらく
小沢一郎氏であると思います。なぜなら、小沢氏は権力側+メデ
ィアの洗脳システムによって、ありもしない「政治とカネ」の象
徴的存在とされ、鳩山首相に道連れ退陣を仕掛けられ、今のとこ
ろ政治的な失脚に追いやられた観があるからです。
 それに加えて小沢氏は、顔はこわもて(強面)で、あまりもの
を喋らず、いい訳をしないため、メディアの伝える映像によって
「小沢一郎 → 独裁者 → 政治とカネ → 巨悪」というイ
メージが作られてしまっているのです。こうなってしまうと、小
沢氏が本当は「シロ」であっても「小沢は悪い奴」というイメー
ジは消えず、間違った判断を下してしまうことになります。
 それは記者クラブ・メディアの報道によって、国民のアタマが
洗脳されてしまっているからです。今や国民の10人中8人まで
が小沢氏を「カネに汚い腹黒い政治家」というイメージを持って
います。記者クラブ・メディアの洗脳は、着々と成功しつつあり
ますが、これは大変恐ろしいことです。
 かつての日本は負けるとわかっている戦争に突入し、多くの富
と国民を失いましたが、そうなったのは記者クラブ・メディアに
よる国民のアタマの洗脳によって、多くの日本人の判断が狂って
いたからです。      ―──[ジャーナリズム論/34]


≪画像および関連情報≫
 ●記者クラブの体質/千日ブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  普天間基地の移転に関して、橋下知事の「関西受け入れ論」
  が話題になっています。この発言が大きく報道されたのは、
  2009年11月30日だそうですが、実はその2週間以上
  も前に、同様の発言を記者クラブの記者たちにしていたそう
  です。どうもこのときには、記者クラブ所属各社横並びで発
  言を黙殺し、報じざるを得なくなってから、一転して「一斉
  報道」に走ったということのようです。
   http://1000nichi.blog73.fc2.com/blog-entry-341.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

記者クラブ開放を主張する上杉隆氏.jpg
記者クラブ開放を主張する上杉 隆氏
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2010年06月10日

●「記者クラブは百害あって一利なし」(EJ第2831号)

 記者クラブがなぜ問題なのかというと、そこに所属するメディ
アの報道内容が権力側の意向に左右されることです。それどころ
か、本当に権力側が出したくない情報は記者クラブメディアでは
記事にはなりにくい傾向があるからです。
 権力側が隠していることがあれば、記者として取材をし、権力
側に質問して明らかにすると記者クラブメディアはいうでしょう
が、実際には記者クラブメディアは権力側と癒着するので、それ
がなかなかできないのです。
 これについて、既出の元東京地検特捜部の郷原信郎氏は、次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 本来、検察などの国家権力、政治権力、マスコミの間には力の
 バランスが取れていなければなりません。ところが現実には司
 法記者クラブ、そのOBたちを中心とした『司法マスコミ』の
 取材活動が検察の捜査活動と一心同体化してしまっています。
 検察も司法マスコミも、案件が事件化すれば社会の中で存在感
 を増し、評価が高まる。利害が一致しているのです。そのため
 司法マスコミはまるで自分たちも捜査活動の一翼を担っている
 かのように振る舞い、検察と同じ視点でしかものを見られない
 んです。         ──上杉隆著/小学館101新書
     『記者クラブ崩壊/新聞・テレビとの200日戦争』
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢事件をめぐって「検察リーク」が大きな問題になったのは
記憶に新しいところです。しかし、この議論で間違えやすいのは
検察リークが悪いのではなく、記者クラブメディアの報道姿勢が
問題であるという点です。
 そもそもジャーナリストにとっては、検察をはじめ国家権力の
内部にいる人間に情報をリークさせることは必要不可欠なことな
のであり、それが役割なのです。これを否定したら正確な報道が
できなくなってしまうのです。
 権力側に情報をリークさせ、それに対して膨大な取材・調査を
重ねてウラを取り、それに基づいて正しい報道をするのがメディ
アの使命なのです。
 しかし、実際はそうなっていないのです。仮に権力側から情報
がリークされたとして、メディアがそのウラをとったところ、事
実と異なっていた場合、メディアがそのように報道しているかと
いうと、けっしてそうではないのです。
 とくに検察の記者クラブの場合、もし所属メディアが検察批判
をしようものなら、一定期間クラブへの出入り禁止処分を受けて
しまうのです。これはメディアにとって大問題です。もし、クラ
ブへの出入りが禁止されると、その社だけ記事の書けない「特オ
チ」になってしまうからです。
 とくに司法記者クラブへ出入りが禁止されると、捜査情報や今
後の捜査方針などがまったく入ってこなくなるので、メディアは
存亡の危機に陥るのです。そのためどうしても検察に逆らわない
報道をするようになるのです。先の郷原信郎氏はこれに関して、
次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 捜査状況や今後の見通しを説明する会見は「公式リーク」と呼
 ぶべきとのことだが、公式リークを受けられるのは記者クラブ
 だけで、極めて秘匿性が高いのである。佐久間達哉・東京地検
 特捜部長が「有罪にする証拠がなかった」と敗北宣言した2月
 4日の記者会見にも、フリーランスの記者らは誰ひとり入るこ
 とが叶わなかった。            ──郷原信郎氏
                 ──上杉隆著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 メディアには2種類あるのです。記者クラブ所属メディアと非
所属メディアです。表現は適切でないかもしれませんが、これは
まるで、現在NHKの大河ドラマで描かれている土佐藩の武士の
身分制度「上士」と「下士」の関係と同じようなものです。
 しかし、そういう記者クラブの埒外に置かれているフリーラン
ス記者たちが、記者クラブメディアとは比べ物にならない不利な
状況のなかで、地道な取材活動を重ねて明らかにした大事件がい
くつもあるのです。
 その代表的な一つに「薬害エイズ問題」があります。
 薬害エイズ問題とは、HIVに感染したと推定される外国の供
血者からの血液を原料に製造された「血液凝固因子製剤」を、ウ
イルスの不活性化を行なわないままに流通させ、治療に使用して
HIV患者を増やしてしまったことです。これを不加熱製剤とい
うのです。さらに、その後ウイルスを加熱処理で不活性化した加
熱製剤が登場したにもかかわらず、2年4ヶ月以上にわたって厚
生省(当時)が認可せず、その結果、不加熱製剤を使い続けたこ
とによってエイズの被害が拡大したのです。
 この問題を指摘したのは、フリーランス記者である桜井よしこ
氏なのです。桜井氏は、1995年に薬害エイズ事件を報じた次
の著作で、第26回大宅壮一ノンフィクション賞を取り、この問
題の深刻さを世界に知らしめたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          桜井よしこ著/中公文庫刊
      「エイズ犯罪・血友病患者の悲劇」
―――――――――――――――――――――――――――――
 なお、薬害エイズ問題に関する桜井よしこ氏には批判も多くあ
ります。薬害エイズ事件で櫻井氏から厳しく追及された安倍英氏
は無罪判決を受け、櫻井は名誉毀損で訴えられているのです。
 しかし、もし、桜井よしこ氏が厚生省の記者会見にフリーラン
ス記者として参加できていたら、おそらく大臣に鋭い質問を連発
して、この問題はもっと早く世間に認識されていたはずです。
 このほかに「年金問題」もあります。社会保険庁の杜撰さを指
摘したのは、フリーランス記者の岩瀬達哉氏なのです。記者クラ
ブは機能不全になっています。──[ジャーナリズム論/35]


≪画像および関連情報≫
 ●桜井よしこ氏に対する批判ブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  櫻井よしこと小林よしのりの言論人としての原点は「薬害エ
  イズ報道」であったが、しかし彼らの「安部英犯人説」を中
  心とする「薬害エイズ・バッシング報道」は櫻井よしこがそ
  の著書『エイズ犯罪/血友病患者の悲劇』(中央公論社)を絶
  版にして、読者の目に届かないようにしていることからも明
  らかなように、医学的にも、また資料的・実証的にも、間違
  いだらけであり、今から考えると典型的な「犯罪報道の『犯
  罪』」事件であったということが出来る。
      http://www.asyura2.com/09/hihyo10/msg/138.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

桜井よしこ氏の著作.jpg
桜井 よしこ氏の著作
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2010年06月11日

●「連合軍が立てた3つの作戦方針」(EJ第2832号)

 EJでは、現在の政治情勢を「民主党」対「官僚組織+記者ク
ラブメディア+大企業(経団連)+自民党による連合軍」と位置
づけて分析しています。記者クラブはこの連合軍のなかの情報戦
を担当する中核的存在なのです。したがって、記者クラブの開
放だけは連合軍は絶対に阻止する方針なのです。
 昨年の衆院選で自民党が敗退し、民主党が天下を取ったとき、
連合軍には危機感が充満したのです。このままでは政治主導で官
僚組織は弱体化し、大マスコミの牙城である記者クラブは廃止に
追い込まれ、政官財のトライアングルが崩れる──連合軍として
は、いかなる手段をとっても何としても民主党を叩き、劣勢を挽
回する必要があると考えたのです。
 そこで連合軍は周到なる計画の下に次の3つのことの実現を目
指して走り出したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.小沢一郎幹事長を失脚させて鳩山内閣を崩壊させる
  2.各省庁の官僚による抵抗で記者クラブ温存をはかる
  3.2010年参院選で民主党を過半数割れに追い込む
―――――――――――――――――――――――――――――
 この作戦のターゲットになったのは小沢幹事長です。なぜ、小
沢幹事長なのかというと、民主党は小沢氏さえいなければ、どう
にでもなる政党であると考えているからです。この根拠はいずれ
示しますが、これについては、多くの政治評論家や識者もそのよ
うにいっています。
 既に1については実現したのです。東京地検特捜部は、小沢氏
一人ををターゲットとし、彼の秘書や会計責任者を微罪で繰り返
し逮捕・起訴し、小沢氏自身に対しても3度にわたる事情聴取を
行ったのです。
 そして記者クラブメディアはその一部始終を連日のように報道
し、「小沢は政治とカネの疑惑まみれの政治家である」というイ
メージを作り上げることに成功したのですが、それでも小沢氏を
起訴できなかったのです。そのため、検察審議会制度まで使って
小沢氏を「起訴相当」に追い込んでいます。まさに二重三重の仕
掛けといっても過言ではないでしょう。
 しかし、鳩山首相の普天間の「稚拙な処理」がなければ、おそ
らくダブル辞任はなかったし、鳩山内閣で参院選を戦っていたは
ずです。しかし、この鳩山氏の稚拙な普天間処理は、国民サイド
から見ると、鳩山氏は首相としての能力に欠けていた宰相という
ように見えますが、これを鳩山サイドから見ると、われわれが一
般的に認識しているのは相当違う光景が見えるのです。
 ごく簡単にいうと、側近や官僚などによってがんじがらめにさ
れ、鳩山首相は官邸に孤立し自由に動けなかったのです。もちろ
ん首相としての能力については問題はあるものの、米国も含めて
何としても辺野古へという圧力が首相を縛ったのです。これにつ
いては情報を集めており、いずれ書くつもりです。
 連合軍の3つの作戦の1については既に達成されてしまってい
ます。それでは、2の記者クラブの解放はどうでしょうか。
 既に述べていますが、これはきわめて中途半端に終わっていま
す。達成度の高い順からいうと、外務省、総務省、金融庁、官邸
ということになります。たったの4つです。大臣の名前でいうと
岡田外相、原口総務相、亀井金融相、鳩山首相になるのです。
 記者クラブの開放ができるかどうかは、大臣のやる気と実力に
かかっています。大臣が「やれ!」と部下の官僚に命令を出して
も、官僚は記者クラブと一体であるので、簡単には動かないので
す。そういう官僚の抵抗を押し切る実力がないと実現できないと
いえます。したがって、鳩山首相をはじめ、岡田、原口各大臣は
実力者であるといってもよいでしょう。
 首相になった菅財務相、実力者として呼び名の高い前原国交相
それにミスター年金の長妻厚労相など、財務省、国交省、厚労相
のほか、他の省庁の記者クラブは何事もないように存続していま
す。明らかに公約違反ですが、他の公約と違って、記者クラブメ
ディアが一切書かないので、批判されないのです。国民はこの現
実に気が付いていないのです。
 「民主党目玉政治家」対「官僚」の対決は圧倒的に官僚の勝利
に終わっているのです。これについてもいずれ詳しくご紹介しま
すが、「AERA」6/14号では、5人の民主党の大臣、副大
臣、副長官を取り上げて次の罪状を課しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  平野博文官房長官   ・・・・・ 調整能力ゼロの罪
  松井孝治官房副長官  ・・・・・   仮面官僚の罪
  長妻昭厚生労働相   ・・・・・  沈黙し続けた罪
  前原誠司国土交通省  ・・・・・ 口 だけの男の罪
  大塚耕平内閣府副大臣 ・・・・・  郵政で転向の罪
             ──『AERA』6/14より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中に松井孝治官房副長官という人がいます。松井氏は、役
割上、今までは表面には出てこない人だったのてすが、鳩山首相
が退陣するや、あちこちのテレビに相次いで出て、何となく言い
訳めいたことを話しています。彼こそ鳩山首相の方向を誤らせた
戦犯の一人です。
 松井孝治氏が起用されたのは、官僚出身のため霞ヶ関の有職故
実に詳しく、細かな制度や仕組みに精通していたからです。しか
し、彼はあくまで官僚側に立って物事を判断し、上司の平野官房
長官を操って改革が進まないよう調整したフシがあるのです。そ
のため、「仮面官僚」といわれているのです。
 実は各省庁には、こういう官僚が配置されていて、大臣の暴走
を止めたり、けし掛けたりして政権を揺さぶっているのです。彼
らがいる限り、記者クラブ開放など夢のまた夢ということになり
ます。連合軍はかくも強力です。菅新政権は大丈夫でしょうか。
3については来週のEJでお伝えいたします。
              ──[ジャーナリズム論/36]


≪画像および関連情報≫
 ●政策通とはほど遠い民主党の目玉大臣
  ―――――――――――――――――――――――――――
  長妻も前原も大塚も「政策通」という前評潮は大嘘だった。
  民主党の政治家たちは「まだ政権をとって半年しかたってい
  ない」などと甘えた言い訳をしてきたが、半年間もあってで
  きないことを、彼らが今後達成できるとは思えない。政樺交
  代直前の昨年8月下旬後に環境相に任じられる小沢鋭仁は、
  「(政権交代の)最大のポイントは人だよ、人。諮問会議が
  機能したのは竹中のときだけだった.でしょ」と言って、竹
  中を買った。民主党には、非難ごうごうの中でも突き進む竹
  中のような仕事師がいなかった。
               ──『AERA』6/14より
  ―――――――――――――――――――――――――――

松井孝治官房副長官(当時).jpg
松井 孝治官房副長官(当時)
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2010年06月14日

●「ダブル辞任の仕掛け人はどちらか」(EJ第2833号)

 6月11日のEJで、政官財プラス記者クラブメディアの連合
軍が小沢幹事長を中核とする鳩山政権を崩壊させるために組んだ
3つの目標を示しましたが、再現しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.小沢一郎幹事長を失脚させて鳩山内閣を崩壊させる
  2.各省庁の官僚による抵抗で記者クラブ温存をはかる
  3.2010年参院選で民主党を過半数割れに追い込む
―――――――――――――――――――――――――――――
 この1と2については、既に達成されています。問題は3です
が、これについてはどうでしょうか。既に参院選は7月11日に
投開票が行われることに決定しています。
 つい2週間前までは、民主党の過半数割れはほぼ確実の情勢で
あったのです。しかし、小鳩政権が崩壊し、菅政権になってから
は、民主党の支持率は急回復して、単独過半数も不可能ではなく
なっています。これは連合軍側にとっては大きな計算違いになり
つつあります。
 実は連合軍が一番恐れたのは、小沢幹事長が権力を維持したま
ま民主党が参院で単独過半数を達成することだったのです。その
ため、相当荒っぽい手段まで取って小沢幹事長潰しをやったので
す。はっきりいうならば、世論の誘導です。これはメディアが一
番やってはいけない禁じ手です。
 もし、一人の現職国会議員を含む小沢氏の秘書3人の逮捕・起
訴がなければ、鳩山政権の失政があったとしても、連合軍側が恐
れた最悪の事態──小沢氏が権力を維持したまま民主党が参院選
で単独過半数を達成──これは実現していたはずです。今回の民
主党の支持率の急回復を見ると、小沢氏にからむ「政治とカネ」
の問題が、いかに鳩山政権や民主党の支持率の足を引っ張ってい
たかが歴然としています。何しろ、何もしていない菅政権の支持
率が鳩山政権時の3倍も回復しているからです。
 さて、今後の政治情勢を判断する重要なポイントは、今回の鳩
山─小沢のダブル辞任の本当の仕掛け人が、鳩山か小沢かのどち
らであるかということです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.仕掛け人は「鳩 山首相」である ・・・・ 鳩山主導
 2.仕掛け人は「小沢幹事長」である ・・・・ 小沢主導
―――――――――――――――――――――――――――――
 興味本位の詮索ではなく、このどちらの立場に立つかによって
今後の政治情勢は違ってくるのです。つまり、無役になった小沢
氏の影響力をどう見るかの度合いが違ってくるからです。
 小沢氏を批判する側──政官財プラス記者クラブメディアの連
合軍は1の立場に立ち、「小沢の時代は終わった」と宣伝してい
ます。これに対して、小沢主導説に立って報道している週刊誌メ
ディアがあります。どちらが正しいのでしょうか。
 6月7日のEJ第2828号では、私は鳩山主導説に立って記
事を書きましたが、その後の調査によると、鳩山主導説は違って
いる可能性が高くなっています。
 鳩山主導説を最初に口にしたのは、田原総一朗氏です。6月2
日の小鳩辞任を受けて急遽設けられたテレビの特別番組で田原氏
はこういったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は首相を訪ねてきた小沢幹事長、輿石参院幹事長に対して、
 最初に辞任を迫ったのは鳩山さんなのです。自分も辞めるから
 小沢さんも辞めて欲しいとね。      ──田原総一朗氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを私は聞いていたのです。さらに、「夕刊フジ」のコラム
『風雲永田町』を担当している鈴木棟一氏がやはり鳩山主導説に
立って、鳩山氏の立てた親指と小沢氏への辞任要求を結び付けて
書いていたので、7日の時点では正しいと思ったのです。
 鈴木棟一氏は9日発行のコラムでも次のように書いて、さらに
鳩山主導説を展開しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 6月1日の鳩山、小沢、輿石の3者会談。鳩山首相が言ったと
 いう。「私も責任を感じております。しかし、幹事長、あなた
 も辞めてください。この(支持率低下の)事態は普天間問題で
 はない。リーダーシップでもない。『政治とカネ』の問題です
 よ」。これに輿石氏が強く反発したという。「とんでもない、
 いま小沢幹事長に辞められたら、参院選をどう戦うのだ」。鳩
 山氏が重ねて言った。「私は一緒に辞めるというなら辞めます
 が、小沢幹事長が辞めなけば辞めません」(一部略)「鳩山は
 同時辞任を提案したので、小沢と輿石が鳩山辞任のホコを収め
 るのではないかと期待してた節もある」。「夕刊フジ」6/9
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、最初に鳩山主導説の口火を切った田原総一朗氏はBS
の政治番組で、微妙に表現を修正させ小沢主導説に舵を切ったよ
うに見えるのと、6月7日発売の『週刊ポスト』の上杉隆氏の記
事「官邸崩壊再び──すべては小沢の『永田町爆弾』だ」は完全
に小沢主導説に立っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 鳩山氏は小沢氏に対して辞任を求めたと語り、報道も「鳩山が
 小沢を道連れにした」との見方が一般的だ。だが、今回の辞任
 劇は小沢氏が巧妙に仕組んだものだ。鳩山氏には小沢氏を辞め
 させるような力はない。一方の小沢氏は、自分が辞める時は鳩
 山氏を抱きかかえて辞めると決めていた。つまり、逆である。
             ──『週刊ポスト』6/18・25
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに決定的なのは、10日発売の『週刊文春』6/17の冒
頭記事「菅総理『小沢斬り』の全内幕」において、小沢主導説が
展開されていることです。『週刊文春』は一貫して反小沢側の雑
誌であり、それが小沢主導説に立っているのです。その内容は明
日のEJで述べます。    ──[ジャーナリズム論/37]


≪画像および関連情報≫
 ●W辞任は織り込み済み──仕掛け人は小沢氏?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  関係者によると1日の会談では参院選の厳しい情勢を踏まえ
  輿石氏が首相に辞任を促したという。その際、輿石氏は野党
  が参院に首相の問責決議案を提出した場合、社民党や民主党
  の一部議員が賛成し可決の可能性が高いことなどを説明。そ
  の背景には「小沢幹事長が水面下で社民党に対して働きかけ
  て、同党が問責決議案や衆院での内閣不信任案に賛成する方
  針を表明することで鳩山首相に圧力をかける構図を作った。
  これを裏付けるかのように社民党の又市征治副党首がこの日
  の退陣表明を正確に“予言”していた」(民主党の内情に詳
  しい報道関係者)。小沢氏は先月30日に側近議員らに「鳩
  山降ろしに動いていい」と指示を出したとされる。
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2010/06/03/03.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

仕掛け人はどちらか.jpg
仕掛け人はどちらか
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2010年06月15日

●「予想できなかった鳩山の裏切り」(EJ第2834号)

 すべては小沢氏のシナリオ通りに動いたのです。ただ、ひとつ
の計算外のことを除いてです。
 小沢氏のシナリオでは、6月4日に鳩山首相と小沢幹事長が辞
任して、その日のうちに新首相で組閣し、翌日5日に認証式を終
える──すなわち、挙党態勢で電撃的に新体制に移行するという
シナリオです。しかし、5日は土曜日であり、天皇陛下の健康状
態も含めて、スケジュール的に可能であるかまで調べているので
す。5月28日のことです。
 ここで大切なのは挙党態勢ということです。代表選をやると政
治空白ができ、猟官運動がはじまって、誰が代表になるにしても
グループ間に亀裂が起きる──選挙前にそういうことを起こした
くないと小沢氏が考ええたのです。
 5月31日に、鳩山首相は小沢幹事長と輿石参院幹事長に面会
を求められたのです。このとき、小沢氏はシナリオを首相に打ち
明け、首相にこう話しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 鳩山さん、新体制になれば、起死回生になる。僕も退くから、
 鳩山さんも退いてくれないか。──『週刊文春』6/17より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、いきなり退陣要求を突き付けられた鳩山首相は、煮え
切らない態度を取り続けたのです。しかし、輿石幹事長から「参
院議員の命を預かる代表ではないか!」と一喝されると鳩山首相
は、「しばらく考えさせて欲しい。その方向で考えますから」と
いったので、小沢氏と輿石氏は引き揚げたのです。もちろん、小
沢氏が鳩山首相にこのことは誰にも喋るなと念を押したことはい
うまでもないことです。
 そして次の6月1日、2度目の3者会談が行われ、鳩山首相は
辞任を了承したのです。ここまではシナリオ通りだったのです。
しかし、小沢氏の想定外の事態が起こったのです。それは、前夜
の3者会談の内容をすべて菅氏に喋っていたのです。
 「あとは菅さんがやってくれるか」と鳩山氏がいったところ、
菅氏は「条件がある。非小沢でやりたい」と鳩山氏に提案したと
いうのです。ここで、小沢シナリオは一気に崩れ、代表選の流れ
ができてしまったわけです。
 小沢氏は裏切られたのです。その怒りは相当のものであったと
いわれます。その証拠に小沢氏の関係者は、鳩山氏側にわざわざ
次のように通告しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢が怒っていることは2つある。約束を違えて喋ったこと、
 菅への根回しは小沢がやるつもりだった。次に小沢外しを陰で
 画策していること。     ──『週刊文春』6/17より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは何を意味するのでしょうか。
 これは完全に小沢氏に喧嘩を売っています。小沢氏としては菅
首相を中心とする反小沢グループに加えて、鳩山氏も許せないで
しょう。しかし、これは政治の世界というものなのでしょう。小
沢氏は党内の権力抗争を避けようとしたのですが、結果としては
民主党の首脳陣が小沢氏に喧嘩を売り、権力抗争になってしまう
ことは確実です。
 6月4日の代表選の朝のことです。衆議院第一議員会館の会議
室に一年生議員が続々と集まってきたのです。その数は約60人
ほどです。菅支持グループが前日からFAXやメールで一年生議
員に連絡を回したのです。菅氏を支持する総決起大会への誘いな
のです。彼らは小沢チルドレンの切り崩しを画策したのです。
 会議室に入ると、数人がマイクを手に自分の思いを喋り始めた
のです。「今までは自由な政治活動ができなかった」とか、「暗
い気持ちで過ごした」とか話し始め、それは小沢批判集会そのも
のになったのです。
 6月7日の両院議員総会のあった日のことですが、奇妙な情報
が党内を駆け巡ったのです。それは民主党本部の金庫を開けたら
空っぽだったというウワサであり、間もなくそれは根も葉もない
ガセネタとわかったそうです。
 しかし、この一件は、今回の執行部人事で、日頃小沢氏に批判
的な発言を繰り返す小宮山洋子議員が財務委員長に就任したこと
に関係があります。小沢氏のカネの使い方を調査し、公表するぞ
との牽制であるとの見方もあります。次元の低い話です。
 しかし、民主党の前途は多難なのです。せっかく小沢氏が選挙
前に党内にそういう波風を起こさないように自らの身を捨てて選
挙に勝利するよう考えたプランを踏みにじり、逆に党内を反小沢
で結束させるなど最悪の選択といえます。一体誰のお陰で万年野
党の民主党が政権がとれたと思っているのでしょうか。そこに小
沢氏に対する少しは感謝の念はないのでしょうか。
 ところで、支持率が回復した民主党ですが、果たして参院選は
勝てるのでしょうか。目標は3つあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.単独過半数 ・・・・・・ 60議席
     2.改選数維持 ・・・・・・ 54議席
     3.改選第一党 ・・・ 自民党を上回る
―――――――――――――――――――――――――――――
 現時点の分析ではっきりしていることは、「単独過半数」は難
しいということです。社民党が連立離脱をしなければ、現在の支
持率があれば単独過半数も可能だったのですが、今となってはよ
ほどのことがない限り、困難です。
 菅政権は「改選数維持」を目標としていますが、選挙戦が最も
うまくいってこのレベルです。しかし、これもギリギリの目標で
あり、ハードルは高いといえます。
 結局達成できそうなのは、3の「改選第一党」です。自民党が
獲得できそうな議席は最大で46議席であり、これ以上は伸びな
いと考えられます。民主党は少なくともこれを上回ることは可能
であるといえます。     ──[ジャーナリズム論/38]


≪画像および関連情報≫
 ●民主党が改選議席数を下回わるとどうなるか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  与党が改選議席数を下回り、参院で過半数割れに陥ると、衆
  参ねじれ国会となり、民主党はかつての自民党と同様に国会
  運営に行き詰まる。この場合、公明党と連携を探る必要が出
  てくるが、「民主党幹部で公明党とパイプがあるのは小沢氏
  ぐらいです。小沢氏は連立組み替えの窓口役となることで、
  復権のきっかけをつかむのではないか」(伊藤氏敦夫氏)
  ―――――――――――――――――――――――――――

鳩山・小沢体制の終焉.jpg
鳩山・小沢体制の終焉
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2010年06月16日

●「小沢を斬った菅政権に明日はあるか」(EJ第2835号)

 現在民主党は支持率が回復して有頂天になっていますが、風に
頼る選挙──無党派層の票をあてにする選挙は浮き沈みが激しい
ものです。小沢・自由党と合併するまでの民主党の選挙は、すべ
て風頼みだったのです。しかし、風頼みの空中戦ではとてもじゃ
ないが、政権など取れないのです。
 ところが、小沢氏は党代表、選挙担当、それに幹事長時代を通
じて、あらゆることを選挙に結び付け、組織固めをして、風があ
まり吹かないときでも、逆風のときでも、選挙に勝てる体制を少
しずつ構築してきたのです。そのことを民主党の幹部は、小沢氏
を「選挙だけの人」と小馬鹿にし、評価していないのです。
 現在の民主党にとって参院選で単独過半数を獲得することが、
自民党時代の古い政治を打破し、大きな改革を進める大前提のは
ずです。それなくして、与党の民主党の存在価値はないといって
も過言ではないと思います。野党の立場でどんなに颯爽として鮮
やかに与党を追い詰めても、自民党は何も変わらなかったはずで
す。政権交代をして与党になったからこそ、いろいろな改革に着
手できるようになったのではないでしょうか。
 民主党にとって幸いなのは、小沢幹事長の選挙の布陣がほとん
ど完成した時点での幹事長辞任であり、鳩山首相と幹事長のダブ
ル辞任の効果によって、支持率が急上昇しているので、なんとか
改選数54議席の維持ができるところまできているのです。しか
し、仮にそれが達成されても、どこかと連立を組まない限り、安
定した政権運営はできない状態なのです。
 既に社民党は連立を解消し、国民新党と連立を組んではいるも
のの、郵政法案の次の臨時国会への先送りによって亀井大臣は辞
任しており、臨時国会での郵政法案の成立いかんによっては国民
新党の離脱もあり得るのです。というのは、民主党の選挙の勝ち
方いかんによっては、民主党は国民新党との約束を反古にし、郵
政法案を修正をする可能性も十分あり得るのです。
 というのは、菅総理としては、民主党の枝野幹事長をはじめと
する幹部が、みんなの党の江田議員と親しいことから、同党との
連立を模索する動きがあるからです。しかし、みんなの党は郵政
法案に反対しており、そういうときは国民新党との約束を破るこ
とだって政治の世界ではあり得るのです。亀井大臣が責任をとっ
て辞めたのは民主党にプレッシャーをかけたのです。
 しかし、民主党がもっと負けて、改選第一党になった場合には
公明党あたりと組まないと、参議院は「ねじれ」状態になり、し
かも社民党が離脱した衆議院は再議決に必要な3分の2がない状
態になっているのです。こうなると、一本の法案も通らなくなっ
てしまうのです。しかも、公明党の幹部との強いパイプを持って
いる民主党は小沢氏しかいないのです。
 民主党政権の一番の問題点は、何といっても閣僚や幹部スタッ
フが経験不足で、実行力や決断力が十分ではなく、政治主導を掲
げながら、自民党時代のとき以上に官僚に取り込まれてしまって
いるのに本人たちにその自覚がないことです。
 その典型的な存在が今回再任された前原誠司国土交通相です。
前原大臣は民主党の中ではもっとも国民から期待の大きな大臣で
すが、その手腕には大きな疑問符が付けられています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 八ッ場ダム、JAL、高速料金など、最初は威勢のいいことを
 言うが、何ら打開策を見出せていない。大臣のせいで馬淵澄夫
 副大臣が尻拭いに追われている。小沢氏への伝達役をしたり、
 省外の調整役を押し付けられ、さすがに嫌気がさしているそう
 です。今回の代表選で支持してもらった手前、菅首相も再任せ
 ざるをえなかったのでしょう。(国交省関係者)
               ──『週刊文春』6/17より
―――――――――――――――――――――――――――――
 前原氏と同様に年金制度改革の国民的期待を担って就任した長
妻厚労相については、最近はさっぱりメディアに登場しませんが
厚労省関係者は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 官僚には、「始業時間を守れ、残業はするな」というくせに、
 自分は平気で会議に遅れる。大臣が十、二十分遅れると、一番
 下の若手官僚では計一時間ものロスが出てくるんです。それで
 いて、一言も謝罪することはないんだから、もはや軽蔑されて
 いる。(厚労省関係者)   ──『週刊文春』6/17より
―――――――――――――――――――――――――――――
 鳩山内閣のほとんどの閣僚を居抜きした菅内閣ですが、中身が
変わっていないことと、小沢氏の重しがとれたことで、早晩行き
詰まる可能性は高いと思われます。
 「しばらく静かにしていてくれ」といわれた小沢前幹事長、名
前は「静香」なのに静かでない亀井前大臣は既にいないのです。
おそらく小沢氏は、9月の民主党代表選までは動かないと思いま
す。一体彼は何を考え、いつどういう行動を起こすのか。注目が
集まるところです。それは小沢氏の赤坂の個人事務所に掲げられ
ている第26代米大統領セオドア・ルーズベルトの次の言葉が暗
示していると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 重要なのは、批評する者ではありません。強い男のつまずきを
 指摘したり、りっばな仕事をした者にケチをつけたりする人間
 でもありません。真に称賛しなければならないのは、泥と汗と
 血で顔を汚し、実際に戦いの場に立って勇敢に努力する男。努
 力に付きものの過ちや失敗を繰り返す男です。しかし彼は実際
 に物事を成し遂げるために全力を尽くします。偉大な情熱と献
 身を知っています。価値ある大義のために全力を傾け、最後に
 は赫々たる勝利を収めます。たとえ敗れる時であっても敢然と
 して戦いつつ敗れます。だからそういう男を、勝利も敗北も経
 験しない無感動で臆病な連中と断じて同列に並べるべきではあ
 りません。          ──セオドア・ルーズベルト
――――――――――――――──[ジャーナリズム論/39]


≪画像および関連情報≫
 ●第26代セオドア・ルーズベルトとは?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  眼鏡、口ひげ、大きな歯という特徴で誰からも愛され、漫画
  の登場人物としても人気があったローズヴェルトは、そのエ
  ネルギー、熱血、活力、正義感などで知名度抜群であった。
  しかし、後世の歴史家の評価は、「偉大に近い大統領」に留
  まっている。本人の自己評価によれば、第一にパナマ運河建
  設、第二に自然保護活動、第三に日露戦争調停を業績として
  挙げている。名門出身、家庭教師による教育、ハーヴァード
  大学優等生、スポーツ万能、狩猟を好むこと、幅広い交友な
  ど、ヨーロッパ好みの東海岸上流アメリカ人の典型であった
  という。新聞、雑誌などを効果的に利用し、最初の「メディ
  ア大統領」と言われている。精力的に外交、内政、及び世界
  政治の場で果たした役割は非常に大きく、多くの自然を開発
  から救って遺した功績も高い。
             http://www.c20.jp/p/roosev_t.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

セオドア・ルーズベルト米大統領.jpg
セオドア・ルーズベルト米大統領
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2010年06月17日

●「ウソは大きく訂正は小さく」(EJ第2836号)

 菅政権の支持率が異常に高いです。しかし、この支持率は果た
して本物なのでしょうか。
 菅内閣は「脱小沢」を鮮明にしただけであり、他に何もやって
いないのです。組閣にしてもほとんど居抜き内閣です。それでい
て、内閣支持率が鳩山内閣の17%から60%に、参院選の投票
先は、鳩山内閣時の20%から39%へと急上昇です。
 国民は政治家の評価を何によってしているのでしょうか。これ
について、政治評論家の本澤二郎氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政治家に対する評価は本来、実績や理念に対して下されるもの
 です。ところが、最近の有権者は政治家の『キャラ』や、その
 時の『気分』で判断している。舛添要一を『総理にふさわしい
 政治家』のトップに選んでいたのが典型です。菅内閣が誕生し
 た途端、あっという間に順位を下げている。本気で舛添総理を
 望んでいたわけではなかったということです。いかに世論がい
 い加減かを証明している。残念ながら、まだ日本の民主政治は
 成熟していないということです。      ──本澤二郎氏
              6/12発行/日刊ゲンダイより
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう点で小沢一郎氏は損をしていると思います。小沢氏は
見た目は強面で怖いし、愛想もけっして良くない。しかも無口で
あって、記者会見のときなどはくだらない質問をするメディアを
叱りつけることもしばしばあるなど、全体的印象の面で損をして
います。それに加えて、政官財+大メディアが過大に政治とカネ
の問題を煽り、小沢氏を巨悪に仕立て上げるのに成功しているの
で、今や民主党における巨悪の存在にされてしまっています。
 菅首相がこの小沢氏を斬り、反小沢で人事を行なったことで、
国民は喝采したのです。それだけで、30%以上の支持率回復な
のです。これは逆にいうと、民主党において小沢氏がいかに大き
な存在であるかを意味しているのです。
 いわゆる小沢報道で大メディアが何をやったのかについてはこ
れまでEJでは詳しく論じてきているので、繰り返しませんが、
誰でもわかるひとつの事例を示したいと思います。それを見てい
ただくと、小沢問題についてメディアがいかに罪深いことをした
かがわかると思います。
 「一市民が斬る!!」というブログがあります。このブログから
EJのブログに繰り返しコメントをいただいております。その中
で「石川知裕議員の虚偽報道」については納得できるものであり
今回EJでご紹介することにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
       http://civilopinions.main.jp/
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢氏をめぐる「政治とカネ」の問題で、既に裁判で争われ、
これから争われようとしている疑惑は、陸山会が購入した世田谷
の土地の登記時期が2ヶ月ほどずれているという「期ずれ」の問
題に過ぎないのです。しかも、その「期ずれ」ですら、購入した
土地が農地であったことから、何ら違法ではないことが明らかに
なっています。しかし、その事実はまったく報道されず、メディ
アは沈黙したままです。
 しかし、国民は小沢一郎氏は岩手県のダム工事で天の声を出し
工事を請け負った建設企業から多額の賄賂を受け取り、その資金
を帳簿から隠すために不自然な会計操作を行った疑いがあるとい
う疑念を持ったままです。それは、大新聞・テレビ・雑誌などの
メディアがこの問題を大々的に報道したからです。
 しかし、これは事実無根であり、裁判のテーマではなくなって
いるのです。東京地検特捜部としては、その容疑を確信して石川
議員らを急遽逮捕したのですが、その事実はなく、苦し紛れに登
記のずれという微罪で、国会開催中の現職国会議員を起訴したの
です。しかし、記者クラブメディアは起訴事実がそうなっている
ことを知りながらまったく報道していないのです。
 とくに記者クラブメディアは、小沢事務所側が水谷建設から多
額の賄賂を受け取るために、当時の石川知裕秘書が都内のホテル
に出向いたという報道を繰り返し行ったのです。テレビではその
模様を示す動画まで作り、それを繰り返し流したのです。記憶に
ある人も多いと思います。
 しかし、これは、完全に記者クラブメディア側のでっち上げで
あったのです。水谷建設側は、2004年10月15日に全日空
ホテル(現ANAインターコンチネンタルホテル東京)で、石川
秘書(当時)に賄賂を渡したと供述していたのです。
 ところが、押収した石川議員の手帳に水谷建設側が賄賂を渡し
たと主張する10月15日の部分に「全日空」と書いてあったと
する検察リークを真に受け、1月25日の夕刊で『「現金授受」
供述と同じ日』という記事(添付ファイル)を書いたのです。し
かし、「全日空」の記述があったのは2005年10月15日で
あり、間違いだったのです。日本経済新聞では1月26日の朝刊
で「訂正記事」を出したのですが、ほとんどの人が気がつかない
ほど小さいのです。そういうわけで「一市民が斬る!!」ブログで
は、「ウソは大きく、詫びは小さく」と抗議しているわけです。
 そもそもホテルでの現金授受などなかったのです。だから小沢
氏は不起訴になったのです。日本経済新聞は、日付を間違ったの
で訂正記事を出していますが、他の記者クラブメディアでは、そ
ういう事実はないらしいとわかった後もなかったという証拠もな
いとして、訂正など一切していないのです。
 そうなると、国民としては「石川けしからん、小沢わるい」と
いう疑惑を持ち続けることになります。小沢氏に対する「政治と
カネ」の疑惑とはこういうことなのです。そんなことは民主党内
の反小沢派の議員はわかっているのです。しかし、絶好の機会だ
から、このさい政敵を倒せということでしょうか。「政倫審だ」
「証人喚問だ」「説明責任だ」と主張し、小沢潰しにかかってい
るのです。         ──[ジャーナリズム論/40]


≪画像および関連情報≫
 ●石川知裕議員に対する虚偽報道/2010年1月25日付、
  日本経済新聞記事より  /「一市民が斬る!!」ブログ提供

石川知裕議員に対する虚偽報道.jpg
石川 知裕議員に対する虚偽報道
posted by 平野 浩 at 04:10| Comment(2) | TrackBack(1) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月18日

●「マスメディアの真の役割は何か」(EJ第2837号)

 前にも書きましたが、最近のメディアの報道にはいささか問題
があると思います。そのため、無批判に特定の新聞やテレビの報
道を見ていると、物事に対する考え方が偏ってしまう傾向があり
ます。これは恐ろしいことです。
 とくにネットは一切見ないで表のメディアの報道だけを見てい
ると真実を見失ってしまう危険があります。現代は複数のメディ
アを参照しないと真実は見えてこないのです。
 EJは小沢氏を擁護し過ぎるというコメントをいただくことが
あります。しかし、EJではほとんどの小沢氏に関する書籍や諸
雑誌──小沢氏を支持するものだけでなく、批判するものの両方
を集めてていねいに読み、それに加えて可能な限りの情報を表の
メディアやネットも含めて収集し、努めて客観的に書いているつ
もりです。その結果、どのように考えても、昨今の世間の小沢叩
きは異常と考えるのでそう書いているだけです。しかし、世の中
にはそれが当たり前だと考えている人が多いようです。
 国民新党の亀井静香代表が6月14日の大臣記者会見で次のよ
うにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 電話調査はカネをかけないでできるからか、マスコミが毎週世
 論調査をやっている。やりすぎだ。芸能人の人気のようにパー
 ッと上がったり、捨てられたり目まぐるしい。国民は大脳皮質
 で考えていない。非常に感覚的な面が強い。支持率にあまりこ
 だわらず、支持率がゼロになっても、国民にとってやるべきこ
 とはやるんだという覚悟が政党にないと代議制の意味がない。
 代議制では選ばれた人が自信をなくして世論を気にしている。
                 ──亀井静香国民新党代表
            6月15日発行「日刊ゲンダイ」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 最近の電話調査はRDD方式──ランダム・ディジット・ダイ
アリングといわれ、コンピュータで乱数計算を基に電話番号を発
生させて電話をかけ、応答した相手に質問を行なう方式を大手メ
ディアは採用しています。しかし、いきなり電話をかけるので、
あまり深く考えず、適当に答えたり、イエスかノーかで聞くケー
スが多くなるので、イエスが多くなる傾向があるといわれます。
つまり、「どちらともいえない」という中間的なケースも、イエ
スかノーで答えてしまうこともあるのです。鳩山内閣や菅内閣の
支持率もこの電話調査で調べているのです。
 例えば、「小沢氏は幹事長を辞任すべきだったと思いますか」
とか、「鳩山首相の普天間対応を評価しますか」と聞かれれば、
それぞれ「イエス」「ノー」と答えるはずです。ちなみに実際に
被調査対象者に直接会って聞き取る時事通信の対面調査では、菅
内閣の支持率は41.2%であって、新聞社の調査と20%もの
差があるのです。果たしてどちらが本当の支持率をあらわしてい
るのでしょうか。
 従来は、電話帳を基にして調査員が直接電話をかけていたので
すが、電話帳に自宅の電話番号を掲載しない人も多くなったので
RDD方式を採用するようになったというのです。
 しかし、いずれにせよ、かけるのは固定電話だけであり、携帯
電話は入っていないのです。改めていうまでもなく、現代は携帯
電話の時代であり、固定電話はほとんど使わない人も少なくない
のです。さらに調査をするのは昼の時間帯であると考えられるの
で、その時間帯に固定電話に出る人はかなり限定された層である
ということになります。そのような電話調査の結果は、本当に世
論を代表しているといえるのでしょうか。
 ちなみに、朝日新聞の世論調査によると、子ども手当の来年度
からの満額支給断念に対して72%が賛成し、読売新聞では消費
税率の引き上げについて66%が賛成という結果が出ているので
す。これらはいずれもRDD方式の電話調査なのです。これは果
たして本当に国民の声を反映しているのでしょうか。
 民主党は、菅政権の支持率が意外にも非常に高いので、少しで
も早く選挙を行おうとしていますが、宮崎の口蹄疫の感染が終息
しない現在、果たして選挙を行うべきでしょうか。少なくとも、
宮崎県は選挙どころではないはずです。
 口蹄疫と選挙との関係について私たちは、英国のケースを参考
にすべきであると思います。
 1967年11月にイングランド中西部シュロプシャー州で口
蹄疫が発生。感染源は輸入肉とされたため、家畜や畜産品の輸入
を停止するとともに、のべ44万人の軍隊を投入、40万頭以上
を殺処分にし、感染の根絶に7カ月を要したのです。これは英国
にとって貴重な経験であったはずです。
 しかし、この「初期対応のスピードがすべて」という教訓は生
かされなかったのです。2001年2月、ブレア政権の時代、同
南東部エセックス州で感染が確認されたものの、初動が遅れて、
のべ21万人の軍隊が650万頭以上を殺処分にし焼却したので
す。ブレア首相は総選挙や地方選挙を1カ月延期して、政府が事
実上の終結宣言を出したのは翌2002年1月のことだったので
す。影響は畜産業にとどまらず観光業や地方経済に広がり、被害
総額は80億ポンド。当時の為替レートを1ポンド=180円で
換算すると1兆4400億円にのぼったのです。これによってブ
レア政権は大きく評判を落としたのです。
 2007年にも口蹄疫が流行したのですが、このときはブラウ
ン前首相が陣頭に立ち、感染の早期根絶に成功しています。それ
までの経験を生かした対策を取ったからです。
 この話は現在の日本でも参考になるはずです。一部の自民党議
員がテレビの政治番組で英国のブレア政権の失敗について話して
はいますが、新聞やテレビは、内閣の支持率ばかり調べていない
で、こういう問題こそ取り上げるべきであると思います。それこ
そメディアの真の役割であると思うのです。すべてをチェックし
ていませんが、取り上げたところはなかったと思います。
――――――――――――――──[ジャーナリズム論/41]


≪画像および関連情報≫
 ●「朝日RDD」方式とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  朝日新聞社では、「電話」「面接」「郵送」などの方法で、
  国民の意見を探るさまざまな世論調査を実施しています。こ
  のうち、内閣支持率などを調べる毎月の調査や、大きな出来
  事があったときに実施する緊急調査は、「朝日RDD」方式
  による電話調査で行っています。朝日新聞社では、選挙情勢
  を探る調査で、1999年11月の奈良県知事選挙から、調
  査方法を「朝日RDD」方式に切り替え、選挙結果の予測な
  どが正確にできることを確認しました。そのうえで、200
  1年4月から内閣支持率などを調べる全国世論調査について
  も「朝日RDD」方式に切り替えました。
       http://www.asahi.com/special/08003/rdd.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

亀井大臣退任会見.jpg
亀井大臣退任会見
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2010年06月21日

●「遂に検察庁も記者会見をオープン化」(EJ第2838号)

 検察庁が遂に記者会見のオープン化を宣言したのです。それは
4月22日に最高検が「国民により開かれた会見を実施したい」
として通達してきたのです。これは画期的なことです。
 しかし、フリー記者らの出席には事前登録が必要で、資格は既
にオープン化した外務省などに準じ、署名記事などの実績が必要
であるとされています。
 これに基づき、6月10日に東京地検は、はじめてのオープン
記者会見を開いたのです。その会見には司法記者クラブ非加盟の
記者15人を含む約60人が出席したのです。
 しかし、司法記者クラブに属さない、フリーの記者たちで事前
登録に応募したのは、雑誌やインターネットメディアなど15社
35人と、フリーの記者13人の計48人でしたが、このうちフ
リー5人は地検が求めた「直近3カ月の署名記事提出」などの要
件を満たないとして登録できなかったといいます。しかし、出席
を認められた43人のフリー記者のうち、出席したのはたったの
15人だったのです。
 その他にも録音や撮影が認められないなど、制約はたくさんあ
るのですが、何はともあれ、「開かれた意義は大きい」という好
意的な声も多く聞かれたといいます。
 この日、質疑応答のトップバッターはジャーナリストの江川紹
子さんで、登録基準について「フリーにとってハードルが高い」
と指摘し改善を迫ったところ、片岡弘総務部長はそれに対し「他
省庁の例も参考にしたが、意見は聴き対応を考えていきたい」と
答えています。
 また、録音や撮影を認めていない理由を尋ねられると、「庁舎
を訪れる事件関係者には顔を見られたくない人もおり、プライバ
シーにかかる質問への配慮も必要」と答えています。会見時間は
予定を15分超える約35分間に及んだのですが、会見後に江川
紹子さんは次のように感想を述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 会見時間が短いなど改善の必要はあるが、開かれた意義は大き
 い。会見で検察がきちんと説明することが国民の信頼を高める
 ことにつながると思う。          ──江川紹子氏
        2010.6.11付、「産経ニュース」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 かねてから、記者会見のオープン化について情熱を傾けている
フリージャーナリストの上杉隆氏は、中央の各省庁に質問状を送
付し、記者クラブに対し、どれだけの便宜供与が行われているか
調査したのです。そうしたところ、回答を拒否してきた省庁が3
つあったのです。
 3つとは、首相官邸(内閣官房)、財務省、国税庁です。その
理由は「セキュリティ確保の観点から」という納得のいかないも
のだったのです。官庁内を民間団体に占有されている事態こそセ
キュリティ上問題であるのに、まるで、木で鼻をくくったような
返答だったのです。
 このように記者クラブとその占有を認めている官庁の官僚は利
害関係者であって一体化しており、癒着の構造が出来上がってい
るのです。したがって、大臣が命令しても、容易なことではオー
プン化をやろうとしないのです。それが首相であってもです。
 上杉隆氏に関してはこういう話があります。上杉氏はオープン
化の急先鋒であるということで、「上杉を絶対に当てるな」と各
省庁間で申し合わせが行われていたようなのです。
 2009年5月に小沢代表が辞任して、鳩山氏の代表就任記者
会見が行われたとき、上杉氏は知己の民主党議員に質問しやすい
席をとってもらったのです。民主党は野党でしたが、記者会見は
いつもオープンにしていたのです。そして質問時間になったとき
上杉氏は真っ先に手を上げて指名を待ったのです。そのとき何が
起こったかについては上杉氏の著書を引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところが、何度挙手しても一向に当てられない。実はその日の
 会見担当の党広報スタッフは、情報公開の精神など微塵も持ち
 合わせていないことで有名なT氏であった。前列の記者クラブ
 のメンバーがすべて指名されても、フリーランスの筆者の番は
 回ってこない。ついには、居眠りしていた新聞記者までが指名
 されるに至ってようやくT氏の意図を理解した。筆者に当てる
 つもりはないのである。と、その時予想外のことが起きた。壇
 上の鳩山代表が他の記者の質問の最中に、「上杉君は、何で当
 たらないの」とマイクを通して問い始めたのである。不思議そ
 うに「何で」を繰り返す鳩山氏に「避けられているんですよ」
 と筆者が答えると、ついに鳩山氏はT氏に向かって言い放った
 のだ。「何で上杉さんを指さない?最初からずっと挙げている
 じゃないか」。      ──上杉隆著/小学館101新書
     『記者クラブ崩壊/新聞・テレビとの200日戦争』
―――――――――――――――――――――――――――――
 党の広報担当者は、記者クラブメディアとは仕事の関係上つな
がっており、「上杉を絶対に当てるな」という要請はきちんと伝
わっていたのです。
 しかし、首相になって官邸入りした鳩山氏は、頼みの平野官房
長官が官僚に取り込まれ、首相でありながら思うように記者会見
をオープン化できなかったのです。官僚から見れば平野官房長官
ぐらい丸め込むのは朝飯前のことだったのです。
 それでも鳩山首相の強い要請で少しはオープン化したのですが
まったく何の動きも見せなかったのが、財務省と国税庁です。そ
れは、藤井元財務相にしても菅前財務相にしても、こと記者会見
のオープン化に関する限り、何もしていないのです。そんなこと
はどうでもよいという姿勢です。
 反小沢の代表格の前原国交相をはじめとして、小沢氏と距離を
置く大臣は何も努力していないといえます。その中にあって、岡
田外相はこの件に関してはよくやったと思います。
              ──[ジャーナリズム論/42]


≪画像および関連情報≫
 ●ほとんど何もしなかった平野前官房長官
  ―――――――――――――――――――――――――――
  上杉氏は亀井前金融相に官邸の記者会見のオープン化につい
  て、平野官房長官に進めるよういって欲しいと依頼したので
  ある。亀井氏はその場で平野氏に電話を入れてくれたが、電
  話はつながらなかった。だが、数時間後、亀井金融相からわ
  ざわざ筆者の携帯に顛末を知らせる電話がかかってきた。官
  房長官との間で次のような会話が交わされたという。
  亀井:記者会見の開放はどうなっているんだ。
  平野:大臣クラスまではOKとなっておりまして、今まさに
     どこまで入れるか仕分けしている最中で、何とかやっ
     ております。
  亀井:四の五の言わずにどんどんやればいい。
  平野:今、やっております。  ──上杉隆著の前掲書より
  ―――――――――――――――――――――――――――

鳩山代表就任会見.jpg
鳩山代表就任会見
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2010年06月22日

●「期待薄い記者会見クラブ開放/菅内閣」(EJ第2839号)

 前回も述べたように、民主党の反小沢系大臣──菅、前原、野
田、長妻などの各大臣は記者会見オープン化の公約を一顧だにせ
ず、無視し、今まで通り、記者クラブメディアに対してだけ、記
者会見を行っています。検察庁までオープン化しているのにわれ
関せずの態度です。
 国民の意識もこの問題に対する関心は薄いようです。なぜか。
大メディアが一切報道しないからです。メディアは自分たちに都
合の悪いことは報道しないのです。機密費がメディアにも流れて
いることが問題になったときもまったく報道していないのです。
しかし、唯一東京新聞を除いてはです。
 したがって、記者会見のオープン化はおそらく菅内閣では実現
しないでしょう。現在菅内閣では、「脱官僚」を事実上廃し、廃
止したはずの事務次官会議も復活させる方向です。微妙な言い回
しながらも、仙谷官房長官はそう発言しています。そんな前言撤
回を恥じない内閣が記者会見のオープン化などやるはずがないと
思います。そしてそのことをメディアは批判しない──当たり前
である──ので、首相が何もいわなくても各省庁のオープン化記
者会見は元のかたちに戻ってしまうでしょう。菅内閣は多くの国
民が最も自民党的と考える「小沢なるもの」を引っ込めて、結局
は自ら民主党の自民党化を進めていることになります。
 そういうなかで光っているのは岡田外相です。彼は反小沢であ
りながら、この10ヵ月あまりの間に一度も小沢批判をしていな
いのです。「一人で懸命に闘っておられる小沢幹事長に対し『説
明責任』などいうべきではない」といっています。不起訴の段階
で人を罪人扱いする他の一部の大臣とは一線を画しています。
 岡田外相は、普天間問題で戦犯扱いされていますが、在任中に
沖縄返還密約を明らかにし、記者会見をオープン化、さらに民間
人を中国大使に就任させるなど、今まで外務省ができなかったこ
とを仕上げています。しかし、記者クラブメディアの報道は、あ
まりその点について岡田外相を評価していないように見えます。
 記者クラブ開放に焦点を合わせて、岡田外相の動きを追ってみ
ましょう。
 2010年2月、岡田外相は記者クラブだけに許されてきた閣
議後の「ぶら下がり取材」に応じないと宣言したのです。ぶら下
がり取材とは何でしょうか。当時の朝日新聞の記事を引用してお
きます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 会見場やホテルなどを使う通常の記者会見とは異なり、記者が
 取材対象者を取り囲んで行う取材方式。首相取材では、首相の
 横を歩きながら録音やメモをしないで行う方式が定着していた
 が、小泉前首相(当時)からカメラの前に立って質問に答える
 現在の形になっている。安倍首相(当時)は原則として1日1
 回、官邸内でぶら下がり取材を受けている。
       ──2007−06−08/朝日新聞朝刊/政治
―――――――――――――――――――――――――――――
 国民が日常目にする記者会見とは、正式な就任記者会見などを
除くと、首相が官邸で何人かの記者に囲まれ、代表記者が質問す
ることに答えるあの会見風景です。これを現在では、「ぶら下が
り取材」と呼んでいるのです。どうしてこういう形になったので
しょうか。
 それは首相官邸が新しくなったことに関係があるのです。それ
まで記者は官邸内部を自由に歩き回ることができたのです。当
然首相と会う機会も増えるので、移動中の首相を呼び止めて、突
発的な取材をすることが普通に行われていたのです。もともとこ
れを「ぶら下がり取材」と呼んでいたのです。
 しかし、新しい首相官邸ができると、当然のことながら警備体
制が強化されたのです。これによって、記者の官邸への出入り、
移動は厳しく制限されるようになったのです。そのため邸内を移
動中の首相を呼び止めて行う突発的な取材が困難になり、官邸と
記者クラブの話し合いの結果、現行スタイルが定着したのです。
 このぶら下がり取材は、テレビで報道されないので、知らない
人が多いのですが、閣議終了後の各大臣も同じようなスタイルで
あ゛ら下がり取材を受けているのです。
 岡田外相はこの閣議後のぶら下がり取材をしないと言明したの
です。これに対して、2月18日付の産経新聞ウェブ版は次のよ
うに批判的に報じています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪岡田外相が閣議後の取材を拒否へ≫
 記者クラブ側は、民主党政権の閣議では実質的な議論が行われ
 ているとされているため、閣議後の取材機会は重要と主張。し
 かし、岡田氏は、2月に入ってからぶら下がり取材に対し「何
 もありません」と言うだけで、質問は無視して立ち去るケース
 が続いていた。    ──2月18日付の産経新聞ウェブ版
―――――――――――――――――――――――――――――
 「なぜ外相だけ話が聞けないのか」──この批判に対し、岡田
外相は次のように反論しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今のお話だけ聞けば何か取材を制限しているように聞こえます
 が、全体を見て考えて頂きたいと思います。どこの省庁でオー
 プンで、そして1時間近く毎週2回、こういう形で会見をして
 いる、そういう大臣がいるだろうかということです。(中略)
 閣議直後に官邸内や国会の中であれば、それは一部の人しか参
 加できない、端的に言えば記者会の皆さんしか参加できない、
 後の人はなかなか入るのが容易ではない。そういう中で、取材
 の機会が偏ってしまうので、それよりはこのような会見の場で
 オープンで取材機会に偏りがない中でやるべきだというのが私
 の基本的な考え方です。  ──上杉隆著/小学館101新書
     『記者クラブ崩壊/新聞・テレビとの200日戦争』
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[ジャーナリズム論/43]


≪画像および関連情報≫
 ●沈黙の菅官邸──取材制限の方向へ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  菅内閣は「開かれた官邸」を掲げた鳩山前内閣と対照的に、
  記者団への取材対応に消極的な姿勢を見せ始めた。8日の就
  任記者会見で「取材を受けることで政権運営が行き詰まる状
  況も感じられる」と語った首相は9日朝、前政権で通例だっ
  た朝のぶら下がりをさっそく拒否。続いて仙谷官房長官の秘
  書官が9日、内閣記者会に今後の取材対応案を提示した。内
  容は(1)首相の朝夕2回のぶら下がり取材のうち朝の分は
  やめ、代わりにフリー記者も含めた記者会見を月1回程度開
  く。(2)官房長官の記者会見は1日1回とし、午前の記者
  会見は官房副長官が行う──の2つ。いずれも旧自民党政権
  の報道対応に比べても大幅に後退した内容だといえる。
              ──産経ニュース/ウェブ版より
  ―――――――――――――――――――――――――――

菅首相就任記者会見.jpg
菅首相就任記者会見
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2010年06月23日

●「世界中から非難のマトの記者クラブ」(EJ第2840号)

 記者クラブの中で最もプライドの高いのが、司法記者クラブと
財研(財政研究会)記者クラブであるといわれます。すなわち、
財研の記者クラブとは、財務省の記者クラブのことです。
 財研記者クラブは、国内の主要新聞、放送、通信社のほか、海
外メディアも所属しています。「財研」の略称で知られ、各社の
経済部エリートが集い、経済記者の中でのステータスはきわめて
高いのです。彼らの主張は大蔵省時代から一貫して官僚と同じ財
政規律至上主義が多く、財政危機や巨大公共事業反対の論調はこ
こで作られるのです。業界紙などによる別の「財政くらぶ」とい
う団体も財務省内に存在しています。
 以下は、この財研についての亀井前金融相と上杉隆氏との対談
の一部です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 亀井:財研に所属する記者クラブの記者たちは、財務省の大本
    営発表にコントロールされて、その感覚でしか予算を見
    ないし、経済を語れない。そういう報道を見た国民は、
    自分たちを不幸な方向に連れて行く予算であっても、拍
    手喝采してしまうんだよ。そういうことから抜け出さな
    いとダメだよ。
 上杉:だから、どうしても縮小予算を是とする報道になりやす
    い、というわけですね。
 亀井:予算編成の責任者である主計局長の任期は基本的に1年
    なので、自分の任期中に組む予算ではできるだけ国債発
    行額を減らしたいと考える。
 上杉:省内での評価はそこで決まるわけですよね。
 亀井:その結果、経済が萎もうが、彼らは関係ない。安穏とし
    た生活は保障されてるから。彼らは優秀なアナリストで
    はなく、予算の「切り屋」なんだよ。彼らには未来を作
    る力がないんだ。だから、おれは、そんな財務省の受け
    売り記事を書いている記者クラブは信用しない。
              ──上杉隆著/小学館101新書
     『記者クラブ崩壊/新聞・テレビとの200日戦争』
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本がバフル崩壊後、「失われた20年」といわれるほど、弱
い経済になった責任を私たちは時の政権のせいにします。自民党
が支持率を下げている原因はまさにそれなのです。それは当然の
ことであり、時の政権の責任は免れませんが、もっと悪いのは、
そういう政権を裏から操る財務省の官僚と財研の記者クラブなの
です。彼らは諸悪の元凶なのです。
 日本は経済が立ち直りかけると、すぐ縮小予算を組み、増税を
してそれを潰してきたのです。そのため、20年以上かかっても
デフレから脱却できず、現在もなお、経済は低迷したままです。
 そうなった責任の多くは財務省にあるのです。彼らは、亀井大
臣のいうように「経済が萎もうが、彼らは関係ない。安穏とした
生活は保障されてるから。彼らは優秀なアナリストではなく、予
算の『切り屋』である」という批判は当たっているのです。そし
て、その財務省の作ったシナリオを何の批判も加えず、たれ流し
ているのが、財研の記者クラブなのです。菅政権は手もなくその
財務省の官僚に洗脳され、増税路線に走ろうとしています。小沢
氏のいない民主党の正体見たりという思いです。
 日本のメディアは報道しませんが、2009年11月21日付
の「ニューヨーク・タイムズ」の国際面のトップに亀井大臣の写
真を大きく掲載する記事が出たのです。そのタイトルは次のよう
になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の新しい指導者たちは記者クラブとの癒着関係に終止符を
 打とうとしている。
 ──2009年11月21日付「ニューヨーク・タイムズ」紙
http://www.nytimes.com/2009/11/21/world/asia/21japan.html?_r=2&ref=global-home
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の記者クラブは世界中で嫌われているのです。これも日本
のメディアは伝えていませんが、米国の週刊誌である「タイム」
や「ニューズウィーク」が、相次いで東京支局を閉鎖して中国に
移ったことを中国共産党の機関紙である「人民日報」が次のよう
に論評したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 その理由には中国の台頭が背景にあるのはもちろんのことだが
 「記者クラブ」制度が中国にはなく、より簡単に取材できるこ
 とも同時に認められるべきだろう。
          ──2010年1月8日付、「人民日報」
―――――――――――――――――――――――――――――
 自由な言論が保障されていないとして先進国から批判されてい
る中国から、メディアの閉鎖性を指摘されるようでは日本は終り
です。記者クラブメディアは恥ずかしくないのでしょうか。
 歴史作家の井沢元彦氏はこういっています。「テレビの番組名
にまでなっている番記者という言葉があるが、これは自由な報道
とは正反対の象徴である」と。情報を自分たちだけでずっと独占
していればそれは一種の利権と化し、政治家側や官僚側から利用
されやすくなるのです。
 英国人の在日ジャーナリストは、自らの体験から日本の記者ク
ラブを次のように断罪しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本政府は記者クラブによって海外メディアのアクセスを規制
 し、また日本人記者も記者クラブを介して私たちを妨害してい
 ると言える。国の文化という側面もあるだろうから、記者クラ
 ブを組織するのは勝手だが、私たちの取材活動の邪魔をされて
 は困ります。記者クラブは有害であり、日本の新聞を退屈にし
 ているのではないか。      ──上杉隆著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[ジャーナリズム論/44]


≪画像および関連情報≫
 ●「記者クラブをめぐる『ほんとうの話』」/神林毅彦氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  何度か会ってくると「ささやき」をするアメリカ人がいる。
  そのささやきに共通しているのは「日本の一番の問題は日本
  の大学とメディア」だということだ。これには異論があるだ
  ろうが、自分の経験からも、やはり、アメリカと一番異なる
  のはこの二つではないかと思う。もちろん、日本人や欧米の
  人も同じことを「ささやく」。しかし、この「ささやき」を
  大手メディアの人間や日本の大学教授にするだろうか。
  http://www.news.janjan.jp/media/0904/0903310594/1.php
  ―――――――――――――――――――――――――――

ニューヨーク・タイムズ紙と亀井前大臣.jpg
ニューヨーク・タイムズ紙と亀井前大臣
posted by 平野 浩 at 04:13| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月24日

●「記者クラブを事業仕分けせよ」(EJ第2841号)

 記者クラブは、その制度そのものが問題であるだけでなく、そ
れを維持するに当たって、莫大な税金が使われているという問題
点があるのです。
 というのは、記者クラブメディアは、庁舎内に記者室を有して
おり、各社ごとに一定のスペースを確保しています。記者たちは
そこで記事を書いたり、資料を作成するなどの作業を行うことが
できます。つまり、そこは彼らの勤務先なのです。
 それに加えて、記者クラブが主催権を持つ記者会見場に関して
も、非記者クラブを締め出すかたちで、事実上の占有を行なって
いるのです。
 これは非常に恵まれた環境であるといえます。米国では、記者
室のような作業場所はいっさいなく、すべての記者が記者会見場
のそばにあるフリースペースを取り合って、作業をするのです。
その場所は全メディアに公平に開かれており、無償であっても何
ら問題はないのです。
 韓国ではかつて日本と同じような記者クラブがあったのですが
2007年に盧武鉉政権が大統領府や国防省などを除いて原則禁
止しています。その代わりに、すべての記者に開かれた「合同ブ
リーフィングセンター」が新設されています。このように今や記
者クラブがあるのは日本だけなのです。
 2009年9月に消費者庁が発足したさい、高層ビルに入居す
るということで大きな問題になったのです。このビルは永田町の
山王パークタワーという民間ビルで、年間8億円もの賃料負担が
かかるとして新聞・テレビがこぞって書き立てたことを覚えてお
られると思います。何と贅沢なことか、と
 ところが、その豪華ビルの約130平方メートル分は記者室で
あり、そこに記者クラブはちゃっかりと無償で入居していたので
す。新聞・テレビでは豪華、贅沢、無駄と書き立てながら、自分
たちがその中の大きな部分を無償で占有することに対しては、知
らん顔をして口をつぐむ。これは実におかしなことであると思い
ませんか。
 山王パークタワービルの賃料は、1平方メートル当たり月1万
1034円、これを基にして年間の賃料を計算すると、記者室だ
けで約2600万円、会見場まで含めると、年間約5600万円
にもなるのです。
 ここで留意すべきは、消費者庁は新しい官庁であるということ
です。ところが、そういう新しい官庁ができると、同時に消費者
庁記者クラブが作られ、次のように新規加盟条件が決められてい
たのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 加盟2社以上の推薦を必要とし、総会で3分の2以上の承認を
 必要とする。       ──消費者庁記者クラブ加盟条件
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、中央官庁の記者クラブが占有しているスペースを家
賃として払った場合、どのぐらいの金額になるのかについて、上
杉氏は計算しています。その総額は、年間12億6268億円に
も上ることがわかったのです。しかし、これは賃だけです。
 そのほか備品があります。記者室にセットしてある机、椅子、
電話、ファックス、テレビ──外務省にはプラズマビジョンまで
あるのです。それと電気代は全記者クラブにおいて官庁の負担で
中には電話やファックス代まで負担している官庁もあるのです。
 さらに記者クラブのために、専従の職員をつける官庁もありま
す。農林水産省の例でいうと、記者クラブの受付要員として3名
を外部委託し、年間1068万円の人件費を払っているのです。
これらの経費を計上すると、年間で記者クラブ関係の経費は次の
金額になることがわかったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          13億4308万円
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党は記者クラブこそ事業仕分けするべきです。なぜなら、
記者クラブこそ税金の無駄遣いであり、存在することが百害あっ
て一利もないからです。
 既に述べたように、記者クラブ制度は日本にしかないのです。
しかも、それによって外国の特派員記者は何回もひどい目に遭っ
ていて、評判は散々なのです。
 ニューヨーク・タイムズの東京支局長であるマーティン・ファ
クラー氏は、西松建設事件について関心を持ち、取材しようとし
たのですが、やはり記者クラブの壁に阻まれたといっています。
彼は日本の記者クラブはカルテルにも似た最も強力な利益集団だ
といっています。かつてニューヨーク・タイムズ紙に在籍したこ
とのある上杉氏によるインタビューの一部です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 記者クラブによるほとんどの報道が検察のり−ク情報に乗るだ
 けで、検察の立場とは明確に一線を画し、なぜこの時期に検察
 は民主党代表の小沢氏を夕−ゲットにしているのか、自民党の
 政治家は法律上問題のある献金を受けていないのか、といった
 視点から独自の取材、分析を行なうメディアはなかったように
 思います。西松建設事件の時、私も東京地検に取材を申し込み
 ました。しかし、「記者クラブに加盟していないメディアの取
 材は受けられない」と拒否されました。以前ウォールストリー
 ト・ジャーナル東京支局の記者だった時には、日銀総裁の記者
 会見に出席しようと思い、日銀に許可を申請したところ、記者
 クラブに申請するよう求められました。記者会見への出席をメ
 ディアがメディアに依頼しなければならない、というのは異常
 なことです。仕方なく日銀の記者クラブに連絡したところ、当
 時の幹事社だった日本経済新聞社から「出席は認めるが、質問
 はできない」と言われました。─上杉隆著/小学館101新書
     『記者クラブ崩壊/新聞・テレビとの200日戦争』
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[ジャーナリズム論/45]


≪画像および関連情報≫
 ●池田信夫氏のブログより/花岡信昭氏説に対する批判
  ―――――――――――――――――――――――――――
  産経新聞の元政治部長だった花岡信昭氏が、日経BPで「記
  者クラブ制度批判は完全な誤りだ」と主張している。昨今の
  記者クラブ開放に反対する勇気ある発言、といいたいところ
  だが、その論理があまりにもお粗末で泣けてくる。
  彼はこう宣言する。
  日本の記者クラブは閉鎖的だという主張は完璧な間違いであ
  る。アメリカのホワイトハウスで記者証を取得しようとする
  と、徹底的に身辺調査が行われ、書いてきた記事を検証され
  指紋まで取られる。そのため、記者証取得には何カ月もかか
  る。しかし、日本の内閣記者会には日本新聞協会加盟の新聞
  社、通信社、放送会社に所属してさえすれば、簡単に入会で
  きる。これは「閉鎖性」とは何の関係もなく、アメリカはセ
  キュリティ・チェックがしっかりしていて、日本はいい加減
  だということである。私がNHKに勤務していたころは、記者
  証を政治部の記者に借りて首相官邸の中まで入ったこともあ
  る。武器のチェックもしないので、テロリストが記者証をも
  ってまぎれ込んだら一発だ。
       http://www.asyura2.com/09/hihyo9/msg/601.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

花岡信昭氏.jpg
花岡 信昭氏
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2010年06月25日

●「菅首相を強気にさせたある世論調査」(EJ第2842号)

 菅首相の消費税発言で民主党の支持率がメディア各社で大きく
ダウンしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  報道ステーション(テレビ朝日) ・・・ 45.3%
  NHK ・・・・・・・・・・・・・・・ 49.0%
  朝日新聞 ・・・・・・・・・・・・・・ 50.0%
  読売新聞 ・・・・・・・・・・・・・・ 55.0%
―――――――――――――――――――――――――――――
 いずれも平均60%からのダウンですが、選挙前のこの時期の
ダウンは民主党にとって痛いはずです。だから、「まだ先のこと
だ」とか、「実施する前には総選挙で信を問う」とか釈明に追わ
れているのは見苦しいです。
 しかし、この世論調査の数字は、本当に信用できるものなので
しょうか。菅政権誕生直後のある世論調査では、消費税増税や民
主党のマニュフェスト修正には高い支持が出ていたことが夕刊紙
などで報道されたのです。その内容は次のようなものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 【問3】消費税についてどう思いますか。
  ・現在の5%が妥当       ・・・ 35.0%
  ・10%なら増税してもよい   ・・・ 49.2%
  ・15%までなら増税してもよい ・・・  7.6%
  ・20%までなら増税してもよい ・・・  1.2%
  ・25%までなら増税してもよい ・・・  1.0%
  ・その他            ・・・  6.0%
 【問5】民主党は、子ども手当の減額など、昨年の衆院選で
  のマニフェストの変更も検討していますが、これについて
  どう思いますか。
  ・変更してもよい        ・・・ 73.4%
  ・変更するべきでない      ・・・ 21.0%
  ・その他/わからない      ・・・  5.6%
 http://digest2chnewsplus.blog59.fc2.com/blog-entry-16369.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、首都圏成人男女500人に対する電話調査の結果なの
ですが、どこが実施したのかはっきりしないのです。しかし、夕
刊紙などにはその調査結果が大きく掲載されたのです。したがっ
て、菅政権がこれを見ていた可能性は十分あります。
 この時点で菅政権の支持率は60%以上あったのです。そのた
め、菅政権首脳が「これはいける!」と強気に考えても不思議は
ないのです。それに自民党が「消費税10%」をマニュフェスト
に取り上げている──それなら、ウチも打ち出しても大丈夫だと
判断したのではないでしょうか。
 しかし、これは軽率な判断だと思いします。自民党は野党であ
り、民主党は与党なのです。首相が「消費税10%」と口にした
瞬間からそれは現実味を帯びるのです。菅氏はまだ野党気分から
抜けていないのではないかと思います。
 世論──日本的民意に関して、小泉元首相が対イラク武力攻撃
に対する、当時の民主党の直嶋正行議員(現経産相)の質問に対
して次のように答えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 世論は世論であります。尊重しなけりゃならないと思いますけ
 れども、世論の動向と日本全体の利益を考えてどう判断すべき
 かというのは、政治の責任に当たる者として十分配慮しなきゃ
 いけないと思っています。世論の動向に左右されて正しいかと
 いうのは、歴史の事実を見ればそうでない場合も多々あるわけ
 であります。私は、そういう面におきまして、戦争か平和かと
 問われれば、だれだって平和を望みますよ。(略)世論が、あ
 る場合は正しい場合もある、ある場合は世論に従って政治をす
 ると間違う場合もある。それは歴史の事実が証明しているとこ
 ろであります。             ──小泉純一郎氏
     佐藤卓己著『輿論と世論/日本的民意の系譜学』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 もともと菅首相がここは消費税を上げなければならないと考え
ていたのであれば、信念を貫けば良いのです。そのような意味で
考えると、45%〜55%の支持率はむしろ高いといえます。
 そうではないから問題なのです。菅氏は与党になってからも消
費税を増税するときは、それこそ雑巾を絞って絞ってもう一滴も
水が出ないほどムダを削って、なおかつ足らなければ、増税をお
願いすることもあるといっていたのです。
 菅氏が財務相のとき、国会の休憩中にある新書本を読んでいる
のをテレビカメラが放映していたのを見たことがあります。その
本をご紹介しておきましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
           与謝野馨著/文春新書
      『民主党が日本経済を破壊する』
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう本を読むこと自体は菅さんらしいといえますが、国会
内で読むときはカバーをつけて何の本かわからないようにすべき
であると思います。それともわざと自民党に見せつける作戦だっ
たのでしょうか。
 ところで、菅政権にはこんな噂があったのです。菅政権が発足
したのは6月8日のことですが、10日になると「衆参同日選」
の噂が流れたのです。シナリオは3つあるのです。1つは所信表
明の演説の直後、2つは16日の会期末、3つは国会を1日延長
した17日です。これでメディアは大騒ぎになって、「ダブル選
予測」まで出す新聞まであったのです。
 これは、郵政法案の採決を迫る国民新党に対するブラフという
見方もあるのです。もうひとつ、今衆院解散を仕掛ければ自民党
は壊滅し、そして「小沢=巨悪」のイメージで、オザワ・チルド
レンの大半は落ちる──そうすれば真の「脱小沢」が実現できる
と考えたのではないか、と。 ──[ジャーナリズム論/46]


≪画像および関連情報≫
 ●『民主党が日本経済を破壊する』の一つの書評
  ―――――――――――――――――――――――――――
  与謝野馨氏と平沼赳夫氏が新党「たちあがれ日本」を結成し
  た時に買った本です。時間的に読む暇が無かったのですけれ
  ど、ようやく読み終えました。読んだ感想として一番に思っ
  たのは「たちあがれ日本」には何も期待できないという事で
  す。この本のタイトルは、民主党への批判です。しかし、与
  謝野氏が、この本を書いた動機は別だと思います。私は、去
  年の選挙前に行った自分の行動の正しさを示すために書いた
  気がするのです。第1章と最期の第7章は民主党批判ですけ
  れど、第2章からして『麻生総理に退陣を迫った日』なので
  すから。与謝野氏が自己弁護するのは構いません。その言い
  分を素直に聞けるかどうかは別にして。それよりも私は、こ
  の本を読んで驚いた事があります。それは与謝野氏自身が、
  『耳学問の与謝野経済学』と明かしてしまっている事です。
  与謝野氏は政策通、経済通と思っていただけに意外でした。
  しかし、これで解った事があります。それは与謝野氏の主張
  が、どうして財務省の主張にそっくりであるかがです。財務
  の役人が意見を与謝野氏の耳に入れ続けたのでしょう。
     http://d.hatena.ne.jp/oguogu/20100426/1272274140
  ―――――――――――――――――――――――――――

与謝野氏の民主党批判本.jpg
与謝野氏の民主党批判本
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2010年06月28日

●「生中継されていた亀井大臣記者会見」(EJ第2843号)

 6月23日のEJ第2840号「世界中から非難のマトの記者
クラブ」の記事は非常に多くの方に読んでいただきました。同じ
コンテンツをアップしているEJのブログの当日の訪問者とペー
ジビューを以下に示します。
―――――――――――――――――――――――――――――
        訪問者 ・・・・・  4652人
     ページビュー ・・・・・ 12061回
http://electronic-journal.seesaa.net/article/154150411.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 その記事の中で、亀井前金融相がニューヨーク・タイムズ紙に
大きく取り上げられているのに、日本のメディアはどこも取り上
げていないということを伝えたのです。ニューヨーク・タイムズ
紙の記事は「日本の新しい指導者たちは、記者クラブとの関係に
終止符を打とうとしている」というものです。
 当時亀井前金融相は、記者クラブのオープン化を財研の記者ク
ラブに通告したのに記者クラブ側がこれを拒否。そのため大臣は
記者クラブメディアとフリーランスメディアの2回に分けて記者
会見を行っていたのです。
 この亀井大臣のフリーランスメディアの記者会見に、「そらの
ちゃん」がいたのです。彼女がそこにいるということで、記者ク
ラブのオープン化が文字通りのオープン化というか、現実味を帯
びてくることになるのです。このようにいうと、いったい何の話
かと思われる人も多いと思いますので説明します。
 「そらのちゃん」というのは、株式会社ソラノートというIT
企業の社員であり、新技術「ユーストリーム」を駆使して、ネッ
ト中継をして有名になった女性のことです。「そらの」というの
は、彼女のネットのハンドルネームです。お名前はわかりません
ので、そらのちゃんと書くことにします。添付ファイルにそらの
ちゃんの写真を付けておきます。
 ところで、「ユーストリーム」とは何でしょうか。
 ユーストリームをひとことでいうと、「無料生中継サイト」と
いうことになります。「ユーチューブ」とはどう違うのでしょう
か。ユーチューブは「無料動画共有サイト」です。事前に映像を
撮影しておいて、時間に制限があるので、10分以内に編集した
動画をユーチューブにアップロードするのです。そうすれば、大
勢の人がネットを通じていつでもどこでも見てもらうことができ
るのです。
 しかし、ユーストリームはPCにつないだビデオカメラがあれ
ばそれでOKなのです。編集などいっさい必要ないのです。ユー
ストリームのサイトにアクセスして「サインアップ」をクリック
し、ユーストリームのアカウントを取得すれば、すぐにでも生中
継ができるのです。
 もっとも最近のノートPCにはウェブカメラが内蔵されている
ものが多く、そういうPCがあれば、解像度は低いですが、ビデ
オカメラはなくても、PCが一台あればよいのです。
 生中継はきわめて簡単です。イメージが湧くように簡単に書き
ます。ユーストリームにログインし、右上の「ライブ開始」のボ
タンをクリックします。そうすると、画面にカメラの映像があら
われるので、画面の右側にある「配信の開始」のボタンを押すと
中継が開始されます。生中継などというと大袈裟ですが、ユース
ストリームであれば特殊な技術はいらないので、誰でも中継がで
きるのです。
 テレビの生中継は数千万円の機械を使って行われますが、ユー
ストリームの場合は、誰でも所有しているごく普通のPCとビデ
オカメラを使いながら、数千万円の装置では絶対にできないこと
ができるのです。
 それは、今生中継の映像を見ている人の数──視聴者数がリア
ルタイムにわかることです。もっと正確にいうと、「現在の視聴
者数/のべ視聴者数」がリアルタイムでわかるのです。これは凄
いことです。
 どうしてそんなことができるのか不思議に思う人もいると思い
ます。しかし、それは何でもないことなのです。ユーストリーム
の生中継の動画にはURLが付いており、それをクリックしてく
る人をカウントしているだけの話です。
 ここでそらのちゃんに話を戻します。そらのちゃんは、フリー
ランス記者として亀井大臣が大臣室で開く2回目の記者会見に出
席し、ノートPCとビデオカメラをセットし、亀井大臣の記者会
見の模様を生中継していたのです。もし、これが行われると、記
者クラブなど完全に無意味なものになってしまいます。
 ところで、ユーストリームの生中継のことはイメージとしては
わかるが、その生中継をしていることをどうやって知り、どのよ
うにして見るのかということです。実は現在ユーストリームが話
題になっているのは、ユーストリームがツイッターと連携してい
るからなのです。
 ユーストリームでは、生中継の画像を見ながら、気軽にコメン
ト(ツィート=つぶやき)を入れることができるのです。ツイッ
ターについては改めて説明しますが、生中継の画像を見ながら、
ツィートすると、そのツィートには、中継動画のURLと「ハッ
シュタグ」というものが、自動で挿入されるのです。
 ハッシュタグというのは、ツイッター内でのグルーピング機能
のことで、ある特定の話題について言及しているツィートをまと
めて一目で見ることができるのです。
 いずれにしても生中継動画に言及したツィートが、ネットの中
を流れると、ツイッターをやっている人のタイムラインにそうい
うツィートが流れることになります。なお、そういうツィートは
グーグルでも検索することができます。
 いずれにせよ、このツィートのお陰で多くの人が生中継のこと
を知ることになり、興味のある人は中継動画を見に来るようにな
るのです。なお、そらのちゃんは事業仕分けの中継もやっており
それで有名になったのです。 ──[ジャーナリズム論/47]


≪画像および関連情報≫
 ●そらのちゃんのニュース
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ダダ漏れ女子のそらのちゃんが新たなユーストリーム企画に
  挑戦している。そらのちゃんは海の向こうの「とある国」の
  魅力を伝えるべく、6月1日の夕方に現地へ向けて成田を出
  発した。出発直前の成田や機内から行われた彼女のダダ漏れ
  を見て、行き先である「とある国」を予想してツイッター上
  で正解をつぶやいたユーザーには抽選で、そらのちゃんが現
  地で買ったお土産がプレゼントされる「行き先予想クイズ」
  が2日の現地到着まで行われた。
   http://www.rbbtoday.com/article/2010/06/02/68093.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

そらのちゃんの生中継.jpg
そらのちゃんの生中継
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2010年06月29日

●「記者クラブの廃止は改革の第一歩」(EJ第2844号)

 EJではここまで何回も記者クラブの廃止と記者会見のオープ
ン化の重要性について書いてきています。なぜなら、それが最善
の日本のジャーナリズム改革になるからです。少なくとも私は民
主党にそれを期待してきたのです。
 しかし、民主党はそれを公約に掲げて選挙を戦いながら、政権
を取ると一部の大臣──岡田外相、原口総務相、亀井前金融相な
どを除いて、真剣にこの公約に取り組もうとしない。しかもこの
公約は実施に当たって財源を必要としないのです。大臣としての
実力があれば、即やれるのです。にもかかわらず彼らはやろうと
しない──大臣として政治主導が何ら果たせていないのです。実
力がないからできないのです。菅総理(財務相時代を含めて)も
まったく手をつけようとしないのです。
 むしろ記者クラブを廃止することによって税金のムダをなくせ
るのです。したがって、記者クラブを事業仕分けにかければいい
のですが、誰もそのようなことはいわない。記者クラブメディア
が報道しないのをいいことにして、彼らは公約を破っても平気な
顔をしているのです。これは裏切りです。
 それに加えて国民もいまひとつ熱心ではありません。どうして
でしょうか。それは、国民自体が記者クラブの存在や実態を知ら
ないからです。記者クラブメディアが、ひたすら記者クラブの存
在を隠そうとしているからです。したがって、それに関わる報道
はいっさいしないのです。亀井前金融相が記者クラブのオープン
化に向けて行動していることをニューヨーク・タイムズ紙が好意
的に伝えていることを知りながら、伝えないのです。そういうわ
けで、大事なことは次の事実です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 記者クラブメディアは、自分たちにとって都合の悪いことは
 いっさい報道しない
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに現代はインターネットが発達し、ある程度のことは自分
で調べることができるようになっていますが、そういうことがで
きない人もたくさんいるのです。今でも大手メディアの影響力は
絶大なのです。それにしても鳩山政権時代の記者クラブメディア
の報道は明らかに常軌を逸していたと思います。
 副島隆彦氏は、記者クラブメディアと各省庁の官僚について、
自著で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今の日本の民放テレビ5局(全国ネットワーク)と大新聞5社
 の計10社、さらにはNHKまでもが、まったく誹謗中傷とし
 か言いようがない状態です。彼らは、意図的に、民主党政権へ
 の謀略攻撃を仕掛けています。報道の中立性や公平性をかなぐ
 り捨てて、現政権への憎悪感だけで記事づくりをしている。こ
 こまで民主党政権に対して、悪意と憎しみを込めて非難・中傷
 を行なうところを見ると、彼ら、テレビ・新聞の幹部たちはよ
 ほど長年、アメリカに抱き込まれて、育てられてきたと思いま
 す。日本の官僚(高級公務員組織)たちも同じです。彼らは、
 アメリカの国家情報機関であるCIAや、「知日派」と呼ばれ
 るアメリカ人の高官や学者たちに育てられ、若い頃から留学や
 奨学金供与などの便宜や利益を受けてきたのです。そして、彼
 らはこれまで「出世街道をまっしぐら」で、自分たちの地位を
 安泰にしてぬくぬくと生きてきた属国・日本の支配階級の人々
 です。       ──副島高彦×佐藤優著/日本文芸社刊
  『小沢革命政権で日本を救え/国家の主人は官僚ではない』
―――――――――――――――――――――――――――――
 昨日のEJで、亀井前金融相の第2記者会見をそらのちゃんが
生中継することによって、多くの国民が大臣の記者会見を視聴す
ることができる──これこそオープン化そのものですが、とても
意義のあることだと思います。
 ちなみに、亀井氏の後任の自見大臣の記者会見に関しては、記
者クラブ側が折れて、非加盟メディアも参加することを了承した
ので、6月8日以降はそのルールで一回の会見が行われているの
です。これは亀井前大臣の強い姿勢に記者クラブ側が一歩譲った
かたちになっています。他の大臣は何をしているのでしょうか。
 現在、参議院選挙中ですが、「消費税の増税」が選挙の焦点に
なっています。これは、菅首相が選挙前に消費税増税を口にした
からです。問題は、どのようなプロセスを経て、そういう発言に
なったかです。もともと菅氏は、財政再建を明確に口にしていな
かったし、まして増税など主張していない。そんなことよりも、
公務員の数を減らし、給与を下げてムダを徹底的に排除する──
濡れ雑巾を絞って、もう一滴の水もできない状況になってなおか
つ足りないときは国民にお願いするといっていたのです。それが
財務大臣になって変貌したのです。
 それは、財務官僚に洗脳されたという見方も根強くあるものの
ここで増税を口にしておくことの有利さを素早く政治的に判断し
発言したのかも知れないのです。菅氏のこれまでの政治家として
の行動をていねいに見て行くと、その政治的センスというか判断
力が優れていることは確かに読み取れるのです。
 知られざるこんな話があります。1991年4月のことですが
菅氏は自民党の竹下登元首相に呼ばれているのです。当時菅氏は
社民連の政審会長をしていたのです。何のことかと菅氏が竹下氏
の個人事務所を訪れると、竹下氏はいきなり「君は自民党に入る
気はないか」と切り出し、次のようにいったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 うちの派閥には小沢をはじめ幹事長の人材は多士済々だが、い
 い総理候補がいない。君なら将来総理になれる。
              ──「週刊朝日」6/18号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹下氏は菅氏の政治的センスの良さに注目し、自民党入りを勧
めたのです。もちろん菅氏はその場できっぱりと断ったことはい
うまでもないことです。   ──[ジャーナリズム論/48]


≪画像および関連情報≫
 ●菅氏の数学力についての同級生の証言
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「成漬はよかった。とくに数学はすごくて、こちらが問題を
  解いてる問に、同じ問窺で2通りの解き方を考えてた。旺文
  社の全国テストでは、約16万人中の2ケタの順位だった」
  (大高さん)「男前で格好よかったけど、ガールフレンドは
  いない感じ。どちらかといえば硬派で、よく正論をぶってま
  した」(別の同級生)  ──「週刊朝日」6/18号より
  ―――――――――――――――――――――――――――

サミットに出発する菅首相.jpg
サミットに出発する菅首相
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2010年06月30日

●「2つの『政府』の権力闘争」(EJ第2845号)

 現在の政治状況を理解するには、少し根本的なことを理解する
必要があります。それは「日本という国を実質上治めているのは
誰か」という観点に立って考えてみることです。こういう考え方
もあるというように読み取っていただきたいと思います。
 作家の佐藤優氏は、現在の日本は目に見えない「2つの政府」
による権力闘争が行われているといっています。2つの政府とは
次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.民主党政権による政府
         2.霞が関官僚による政府
―――――――――――――――――――――――――――――
 これら2つの政府には基本的な違いがあります。それは、「民
主党政権による政府」は選挙によって国民から選ばれていること
であり、「霞が関官僚による政府」は明治憲法体制から民主党政
権の現在まで、連綿として継続しているということです。
 後者の霞が関官僚による政府とは何でしょうか。これについて
立花隆氏は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 明治期、大日本帝国憲法において、天皇と官僚は直接結びつい
 ていました。それに対して、憲法上、政治にはそれほど大きな
 役割が与えられていなかった。天皇にすべての主権があって、
 天皇に直結する官僚が国を動かすシステムだったんです。だか
 ら、政治家は自分たちが政治を動かしているという幻想を持っ
 ていますが、実際にはずーっと官僚が国家運営を切り回してい
 た。これは日本の政治の基本構造で、戦後も実態としては変わ
 っていない。            ──立花隆/佐藤優著
     『ぼくらの頭脳の鍛え方必読の教養書棚冊』文春新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、明治憲法以来現在まで、日本という国は事実上官僚に
よって統治されてきたのです。あらゆる政治の制度がそのように
設計されているからです。
 それなら、自民党時代はどうなっていたのでしょうか。佐藤優
氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 自民党政権時代には名目的権力は政治家、実質的権力は官僚と
 いう棲み分けができていた。しかし民主党連立政権は、本気で
 政治家が日本国家を支配することを考えている。この「暴挙」
 を、ありとあらゆる力を結集して阻止するというのが、官僚の
 「集合的無意識」だ。──副島高彦×佐藤優著/日本文芸社刊
  『小沢革命政権で日本を救え/国家の主人は官僚ではない』
―――――――――――――――――――――――――――――
 明治憲法下には「官吏服務令」というものがあったのです。こ
れは官吏の服務上の義務を規定していた法規のことで、明治20
年(1887年)勅令39号で発布され、昭和23年(1948
年)に国家公務員法の施行により廃止されています。
 官吏服務令においては、官僚は国民ではなく、天皇に対して忠
誠を誓う内容になっていたのです。当時の官僚は表面的には「全
体の奉仕者」の顔をして国民に接しているものの、腹の中では国
民を無知蒙昧な有象無象の存在とし、官僚の「頭脳」に対して国
民は「手足」と考えられていたのです。したがって、官僚は国家
のために必要と考えるとき、国民を平気で切り捨てることに良心
の痛みなどいっさい覚えないのです。
 「官吏服務令」は1948年に廃止され、敗戦によって天皇は
国政に対する機能を失いましたが、明治憲法以来続いてきた官吏
服務令の精神や考え方は、現在の国家公務員法にちゃんと受け継
がれているのです。そして、今や官僚は天皇なき抽象的日本国家
に対して忠誠を誓って行動しているのです。
 もちろん、大手メディアについても、事実上の国家の支配者で
ある官僚組織に対して基本的に服従的姿勢を取り、それを遵守し
ていれば自身は安泰という考え方で報道を行っているのです。こ
れが記者クラブという世界中から嫌われるシステムを生み出した
のです。つまり、官僚とメディアは一体なのです。
 しかし、2009年の衆院選によって政権交代が起こり、鳩山
政権が誕生したのです。この政権は、発足するや自民党時代とは
異なり、本気で政治家が日本国家を支配する権限を官僚たちから
奪い取る手を次々と打ち始めたのです。
 鳩山政権は、まず、事務次官会議を廃止し、事務次官のポスト
もいずれ廃止すると宣言したのです。これは各省庁の司令塔を官
僚から奪い取ることを意味しています。そして事業仕分けによっ
て、官僚をマスメディアの前でさらし者にし、これによって、国
家を支配しているのが政治家であることを官僚に皮膚感覚で教え
込んだのです。
 官僚たちにとってはこれは大問題であり、彼らは自然に「集合
的無意識」による、その「暴挙」を阻止するための行動をはじめ
たのです。それはけっして計画的に行われたものではなく、それ
ぞれの立場で鳩山政権を崩壊に導く手が打たれたのです。
 小沢幹事長に関しては検察官僚が自らの職権を使って追い詰め
鳩山首相に関しては外務官僚と防衛官僚が日米同盟を破壊すると
して、普天間問題で封じ込める──記者クラブメディアはそれに
呼応して嵐のような報道を巻き起こし、一年経たない間に鳩山─
小沢体制を崩壊に追い込んだのです。彼らはまだ小沢氏の権力が
温存されているので、決着していないと考えています。
 この考え方は、副島隆彦氏と佐藤優氏の共著として6月20日
に緊急出版された次の新刊書に展開されているものです。この後
のEJはこの本をベースにして展開していくことにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
             副島隆彦×佐藤優著/日本文芸社刊
  『小沢革命政権で日本を救え/国家の主人は官僚ではない』
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[ジャーナリズム論/49]


≪画像および関連情報≫
 ●小沢一郎が「平成の悪党」になる日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「小沢一郎幹事長、あたなも辞めてください」という鳩山発
  言をめぐり、「あれは小沢一郎との刺し違い、道ずれだ」と
  いうメディア論について、副島隆彦氏はご自身が主宰する学
  問道場【言論系のネット革命】の6月4日付の記事で「鳩山
  ・小沢体制を破壊しようとする日本のオール官僚たちのクー
  デターの悪だくみが実現しつつある」と指摘し、今は決戦主
  義をとらずに敵が敷いた包囲網の外側へ逃げることが重要だ
  と説いている。
http://sumichi7878.cocolog-nifty.com/blog/2010/06/post-a780.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

「小沢革命政権で日本を救え」.jpg
「小沢革命政権で日本を救え」
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2010年07月01日

●「財務官僚が菅氏に仕掛けた罠」(EJ第2846号)

 鳩山─小沢体制が崩壊して菅政権が誕生しましたが、官僚はこ
の政権をどのように見ているのでしょうか。
 官僚たちは、菅政権が「脱小沢」を宣言して政権をつくったこ
とを好感しています。彼らにとって一番怖いのは小沢一郎という
剛腕政治家だけなのです。
 さらに、菅直人氏自身が合理性を重視する現実主義者であるこ
とから、官僚たちは政権をコントロールできるという自信を持っ
ているのです。権力中枢をコントロールできれば、民主党には自
民党と同様に官僚的体質の国会議員が多数いるので、権力を十分
奪取できる──すなわち、自民党時代と同様に実質的権力は官僚
が握れると考えているようです。彼らは民主党を第二の自民党に
しようとしているわけです。
 2009年10月の頃、菅副総理(当時)は、官僚のことを次
のようにいって見下していたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  霞が関の官僚なんて成績が良かっただけの大馬鹿である
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、首相就任会見では「官僚は政策のプロフェッショナル
である」と180度変化してしまっています。どうしてこうなっ
てしまったのでしょうか。
 菅首相が副総理兼国家戦略相のときの話です。予算編成権につ
いて当時の藤井財務相と大バトルを演じたのです。そのとき菅氏
は次のように主張したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     予算編成の基本方針は国家戦略室で決める
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに財務官僚は愕然としたのです。時の藤井財務相は「予算
編成権は財務省にある」と発言し抵抗したのですが、これは藤井
裕久財務相のウソであったのです。藤井財務相は財務省出身者で
あり、完全に財務省サイドの人間だったのです。小沢幹事長(当
時)はそのことがわかっているので、財務相就任に難色を示した
のです。憲法上、予算編成権は「内閣」にあり、財務省にあると
いうのは正しくないのです。しかし、財務省はわかっていてつね
に「財務省にある」と強弁していたのです。本当にそうだと思う
政治家も少なからずいたからです。
 このままでは予算編成権を奪われかねないと危機感を募らせた
財務省は、菅副総理の秘書官として大矢俊雄参事官、国家戦略室
スタッフとして高田英樹主計官補佐を配置したのです。大矢俊雄
氏は主計局出身のベテランです。
 大臣の秘書官を押さえておくと、菅副総理に会う人物を制限で
きるのです。つまり、会わせたくない人物と会わせないようにす
ることが可能になるのです。その効果は絶大であり、それ以後、
菅氏には情報が届かなくなり、国家戦略室は開店休業状態になっ
てしまったのです。
 何人かの民主党議員が菅副総理に政策の提案をしようとして大
臣室に連絡を入れると、秘書官に「時間が取れない」と断られて
会えず、本人と直接電話がつながっても「その件は財務省と相談
してくれ」といわれる始末です。
 それでも何とかして菅氏と連絡を取って会う場合でも、菅氏は
大臣室を使わず、議員会館の部屋で話すようになったのです。菅
氏にその理由を尋ねると、大臣室で会うと大臣としての立場で言
質を与えることになると役所からそういわれていることを明らか
にしたのです。議員会館の部屋での話なら、議員同士の意見交換
ということで問題はないというわけです。
 しかし、せっかく大臣室がありながら、そこで自由に話せない
となると不便であり、その結果、菅氏に用事のある民主党議員と
のコミュニケーションは大幅に減少したのです。これは役人が大
臣への情報を遮断する常套手段であり、俗に「座敷牢」と呼ばれ
ている官僚手法なのです。これと同じことを鳩山首相もやられて
いるのです。
 そして、2010年1月に菅氏が財務大臣に就任すると、財務
省は手ぐすねを引いて待ち構えていたのです。財務相は最初のう
ちは財務官僚を敬遠し、距離を置いたのです。そのため、財務官
僚も手を抜き、最小必要限度のレクしかしなかったのです。
 そうしたレクの中で財務官僚は、大臣が基本的な経済用語であ
る「乗数効果」について勘違いしていることを知り、本来であれ
ば大臣に説明するところ、あえて黙っていたのです。
 そしてあろうことか、それを質問者である自民党の林芳正議員
に「財務相は乗数効果を知らないので、論戦を吹っかけたら面白
いことになりますよ」と伝えたのです。
 果せるかな、1月26日の参院予算委員会で、麻生内閣の経済
財政担当相を務めた林芳正議員が少数効果で論戦を挑むと、菅財
務相はトンチンカンな答弁を繰り返し、審議が4回も止まったの
です。これによって、「菅直人は経済がわからない」というレッ
テルを貼られてしまったのです。
 菅氏は頭のいい政治家で知識には自信のある人です。それが政
治家の檜舞台ともいうべき国会で大恥をかいたのです。それ以来
はじめのうちは自らの言葉で語るべきだといっていた菅財務相の
答弁は官僚の答弁書の棒読みになり、それは首相になってからも
続いています。
 それからもうひとつ菅氏は官僚──とくに財務官僚と手を握る
と政敵のスキャンダルから官邸や党内の動きまで詳細な情報が得
られることがわかり、次の首相を狙う菅氏としてはそれが絶対に
必要なことであると判断して官僚と手を握ることにしたのです。
おそらく財務相のとき、官邸や検察の動きにいたるまで、詳細な
情報が菅氏には入っていたと思われるのです。
 その見返りとして菅氏が官僚に踏まされたのが「消費税増税」
なのです。これでは、国民を裏切って地位を買ったといわれても
仕方がないでしょう。官僚にとって菅氏を籠絡することはいとも
簡単だったのです。     ──[ジャーナリズム論/50]


≪画像および関連情報≫
 ●乗数効果で参院予算委員会の混乱/菅財務相答弁
  ―――――――――――――――――――――――――――
  菅直人副総理・財務相が26日の参院予算委員会で答弁に詰
  まり、審議を中断して官僚の助言を仰ぐ場面があった。「脱
  官僚依存」の先頭に立つ菅氏だが、疎いとされる経済政策の
  難しさを痛感させられた格好だ。「官依存」は自民党の林芳
  正前経済財政担当相との質疑で起きた。菅氏は「1兆円の予
  算で1兆円の効果しかないやり方をやってきた」と述べ、自
  民党政権の投資は経済波及効果が低かったと批判した。
     http://news020.blog13.fc2.com/blog-entry-211.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

乗数効果を巡って迷走/菅財務相.jpg
乗数効果を巡って迷走/菅財務相
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2010年07月02日

●「本当に日本はギリシャのようになるのか」(EJ第2847号)

 菅総理は頭の良い政治家です。しかし、どんな理由であれ、選
挙前に増税宣言をするのは不利です。それなのに彼はなぜ急に増
税論者になったのでしょうか。理解できないのは、菅総理が消費
税増税を口にすると、記者クラブメディア、テレビまで増税容認
の論調になってきていることです。
 財務省を中心として官僚や自民党の政治家、そして大手メディ
アが増税キャンペーンを張るときの根拠として必ず持ち出してく
るのは次の3つです。ひとつずつ検証してみることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.日本は深刻な財政危機である
       2.日本はギリシャのようになる
       3.子孫に借金を残すべきでない
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は「日本は深刻な財政危機である」であるかどうかです。
 財務省は国と地方自治体を合わせた借金は、2009年3月末
に900兆円に達し、GDPの2倍近くになるといいます。
 これは議論のあるところですが、財政が危機的状況にあるかど
うかを見るひとつの指標は「長期金利」の動きです。
 「長期金利」というのは10年物国債利回りのことです。この
長期金利が上昇すると、まさに財政危機そのものです。ギリシャ
国債の長期金利は8・8%に上昇しているのです。日本の現状は
どうなのでしょうか。専門家の意見を聴いてみましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本国債利回りの低位安定が続いている。足元では、株式など
 のリスク資産から国債へのシフトが一層進み、6月10日時点
 で、日本の長期金利の指標となる10年物国債利回りは1・3
 %を切る水準にまで低下している。もっともこの低位安定は今
 に始まった事態ではない。1990年代末以降、10年物国債
 利回りは、景気の波を通じて2%を切る水準を維持している。
  ──国際通貨基金アジア太平洋局エコノミスト/徳岡喜一氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 長期金利が低位安定している理由は、いくつかありますが、一
番大きいのは、ストックベースでGDP比で約300%にも及ぶ
巨額の家計金融資産の存在です。これに関しては、日本金融財政
研究所の菊池英博氏の意見を聴くべきです。菊池氏は以前から一
貫してこの主張をされています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財務省が煽る財政危機論にはトリックがある。900兆円近い
 借金の金額だけを宣伝し、日本政府が社会保障基金や特別会計
 の内外投融資など約505兆円の金融資産を持っていることが
 議論から抜けている。国の借金を問題にする場合、当然、資産
 を差し引いて考えなければならない。計算すると日本の国家の
 純債務は367兆円くらいで、他の先進国とそれほど変わらな
 い水準です。 ──菊池英博氏/『週刊ポスト』7/9号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 続いて第2の「日本はギリシャのようになる」について考えま
しょう。この論法は人に増税を訴えるときわかりやすいし、説得
力があるので、菅総理は今でも使っています。
 しかし、これはやめた方が良い。なぜなら、こんなことをいう
と、菅という総理大臣は本当に経済がわかっていないことを宣伝
してしまうからです。国際金融論が専門の相澤幸悦埼玉大学経済
学部教授は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそも日本とギリシャを同等に語る政治や行政の見識を疑い
 ます。         ──相澤幸悦埼玉大学経済学部教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 考えてみると、財政破綻する国が出ると「日本もそうなる」と
いうことが必ずいわれるのです。アルゼンチン、アイスランドの
ときもそういわれたのです。
 相澤教授のいわんとしていることはこうです。ギリシャはもと
もと経済力の弱い国です。そういうギリシャの国債を多くの国が
買っているのです。ギリシャ国債の外国人保有率は約70%なの
です。なぜ、彼らはギリシャの国債を買ったのでしょうか。
 それは国債に魅力があるからです。利回りは高いし、ユーロ圏
なので何かがあればEUが救うであろうと考えて、各国の金融機
関はギリシャの国債を買ったのです。
 これに対して日本はギリシャと違って、独自通貨を持っている
ので、もし財政危機に陥れば、市場で株や債券が売られ、円安に
なります。そうすると、輸出産業が活性化してマイナスとプラス
がバランスを取り、調整機能が働くのです。リーマンショックで
財政が破綻したアイスランドが何とか生き延びているのは、この
調整機能があるからです。
 最後に「子孫に借金を残すべきでない」について考えます。経
済評論家の上念司氏はこれについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の国債の93%は国民が買っている。ということは次世代
 に借金をほとんど残していないということです。わかりやすく
 するために、少子化がどんどん進んで、人口が1になったとし
 ます。最後の日本人は左手に借金、右手に国債をもっているか
 ら相殺できる。本当の借金は外国が持つ7%の日本国債で、純
 債務で見ると、国民一人20万円ほどの借金にすぎません。
         ──上念司氏/『週刊ポスト』7/9号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 といっても、日本の財政は多くの問題点を抱えていることは確
かです。しかし、今日明日を争う問題ではないのです。時間は十
分あるのです。増税を先にやって、財政再建に成功した国はない
のです。菅総理は、いまひとつ納得できない小野理論に乗って、
消費税の増税するハラのようです。いくら秀才でも何人かの専門
家の話を聞き、本をちょっと読んだ程度で経済や財政のメカニズ
ムがわかるとは思えないのです。─[ジャーナリズム論/51]


≪画像および関連情報≫
 ●田中秀征氏による菅政権批判
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ──「最小不幸社会の実現」についてどう思いますか。
  政治家にとってそれは基本的な仕事だ。ただ、菅政権は「使
  うこと」や「配ること」に関心が集中するあまり、「稼ぐこ
  と」が二の次にならないか心配だ。菅首相、仙谷官房長官、
  枝野幹事長が分配を優先しがちな旧革新トリオであることが
  気がかりだ。   ──「週刊エコノミスト」6/29より
  ―――――――――――――――――――――――――――

「週刊エコノミスト」6/29.jpg
「週刊エコノミスト」6/29
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2010年07月05日

●「菅首相の増税発言で揺れる民主党」(EJ第2848号)

 菅政権になったとたんいわゆる記者クラブメディアと大手テレ
ビメディアは、今まで集中豪雨のようにやっていた民主党叩きを
なぜか中断させているようにみえます。
 菅政権が反小沢を鮮明にし、財務省を中心とする官僚組織の意
向に沿った路線になりつつあることを受けて、官僚サイドが「し
ばらく打ち方ヤメ!」を指示したものと思われます。民主党の支
持率が一挙に急回復したのも、記者クラブメディアのそういう報
道のサジ加減によるものと考えられます。
 菅首相が消費税増税路線を打ち出しても、メディアは基本的に
容認の論陣を張り、菅政権をサポートしています。しかし、時間
が経つにつれて、菅首相の経済や財政や税制についての知識の浅
さが露呈するに及んで、かなり雰囲気が変わりつつあります。
 そもそも菅首相がなぜ消費税増税を口にし、その税率まで踏み
込んで発言したかについて、政官財の事情通がそれぞれ意見を述
べ合う「日刊ゲンダイ」紙の「政官財ウオッチング」では、次の
ように解き明かしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 永:たしかに、消費税増税など持ち出さず、マニフェストに書
 いたように「税制改革の論議を野党に呼びかける」と言うだけ
 にとどめておけば単独過半数はそう難しくはなかっただろう。
 でも、菅氏の「勘」では、そこが違った。ここで小沢一郎前幹
 事長が封印してきた消費税引き上げを掲げて参院選に勝てば、
 小沢氏離れが完全に進む。そうひらめいて、周囲の制止も振り
 切った。 ──「日刊ゲンダイ」紙の「政官財ウオッチング」
―――――――――――――――――――――――――――――
 マニュフェストに「税制改革論議をする」ということを掲げる
ことは別に問題ではないし、国民も反対しないはずです。小沢前
幹事長も反対していないはずです。しかし、その論議をする前に
菅首相は、10%の税率まで踏み込んで発言したのです。
 消費税を上げるとなった場合は、その使い道を明確にする必要
があります。一体何を増税分で賄うのかについてきちんと説明が
必要です。それこそ族議員の根絶のために廃止した政調会を復活
させたのですから、そこで論議すべきです。何に使うかを決めて
はじめて必要な金額と税率が出てくるのです。しかし、何も議論
しないまま、いきなり菅首相によって、税率10%が打ち出され
たのです。党内の意見もバラバラで未調整です。
 ところが、消費税増税の評判が悪く、政権の支持率が下がり出
すと、菅首相は慌てて発言をトーンダウンさせて、複数税率の導
入や低所得者に対しては「かかる税金分は全額還付する」などと
いい出しています。
 しかし、低所得者の定義が揺れ動いているのです。400万円
以下といったかと思うと、300万円や200万円までも口にす
る始末──これでは、ドロナワそのものです。
 経済評論家の高橋乗宣氏は、菅首相がどれほど税制を理解して
発言しているのか疑問であるといっています。とくに低所得者ほ
ど負担感が増す逆進性の緩和の道筋や複数税率の導入については
基本的な知識が欠けているとして、複数税率の導入について次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 複数税率の導入も簡単ではない。日本の消費税は欧米の付加価
 値税と違って、消費税の支払いと受け取りを記録するインボイ
 ス方式を採用していない。事務処理の負担増を最小限にするよ
 うに自民党が企業に配慮したため、不完全な格好でスタートし
 たのだ。その欠陥を改めるのは当然としても、すでに20年以
 上も放置してきたツケは大きい。今さらの制度設計には相当な
 時間が掛かりそうである。         ──高橋乗宣氏
              「日刊ゲンダイ」7/2発行より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ここにきてそれまで静かにしていたはずの小沢前幹事
長が動き始めたのです。しかも、はっきりと「増税反対」を明言
して、幹事長時代に擁立した新人候補を中心に応援を開始してい
るのです。これは菅政権にとってはショックです。
 しかも、その小沢氏には強力な助っ人がついています。河村た
かし名古屋市長です。河村市長は菅首相の増税に反対し、「消費
税5%を4%に下げよ」と主張しています。菅民主党の「増税民
主党」に対して、「減税民主党」を主導しようとしています。河
村市長は、北海道を皮切りに、宮城、千葉、京都、大阪、兵庫な
どの10選挙区を回っています。これは完全な分裂選挙です。
 小沢氏は少なくとも現在は動けない状況にあります。選挙の結
果を見て動くといわれていますが、そうではないと思います。ど
うせ選挙は民主党が過半数を確保すれば、メディアは枝野執行部
の手柄を称えるでしょうし、過半数が取れなければ小沢の選挙対
策の失敗と書くに決まっています。
 そうではなく、小沢氏は現在、検察審査会の議決を待っている
はずです。その検察審査会の議決は7月末にも出ると予想されて
います。その結果によって行動が大きく変わってくるからです。
 もし、「起訴相当」が出ると、菅政権は小沢氏に議員辞職か離
党を迫ることは確実ですし、小沢氏も離党するはずです。選挙結
果によりますが、問題は何人を引き連れて離党するかです。それ
によっては、小沢氏は政界再編を仕掛ける可能性があります。
 そのためにこそ小沢氏がいわゆる小沢候補者を応援する理由が
あるのです。一人でも小沢グループを増やしておく必要があるか
らです。民主党は衆議院の方は人数に余裕がありますが、参議院
の議員はぎりぎりなので、小沢氏と一緒に参議院議員が党を離れ
ると、菅政権は崩壊しかねないのです。
 しかし、小沢氏は、はっきりと消費税増税に反対を明言して活
動を開始したのです。これは党からみると反党行為になります。
これには、ある状況変化があるのです。小沢グループはそれを読
み取って行動を起こしたと考えられます。
              ──[ジャーナリズム論/52]


≪画像および関連情報≫
 ●選挙の票読みの達人・小林吉弥氏の民主党分析
  ―――――――――――――――――――――――――――
  選挙資金を平等に分配するのではなく、負けそうな重点地区
  に集中して投入する選択と集中″は、選挙の基本です。複
  数区に2人の候補を立て、お互いに切磋琢磨して票の底上げ
  を図るのは、かつて自民党もやっていたこと。小沢氏が幹事
  長を辞任して単独過半数を取れる体制を整えたのに、首相の
  増税発言や稚拙な選挙対策で台無しにしてしまった。挙げ句
  に、仲間が選挙を戦っているさなかに、枝野幹事長がみんな
  の党との連携に言及したりする。これでは士気が下がる一方
  ですよ。オウンゴールで議席を減らしているのです。
       ──小林吉弥氏/「日刊ゲンダイ」7月1日発行
  ―――――――――――――――――――――――――――

兵庫県朝来市を訪れた小沢一郎氏.jpg
兵庫県朝来市を訪れた小沢 一郎氏
posted by 平野 浩 at 04:14| Comment(2) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月06日

●「検審の2回目の議決は9月以降になる」(EJ第2849号)

 菅首相が消費税増税を巡ってブレまくっています。しかし、な
ぜかメディアはあまり痛烈に批判していないのです。鳩山─小沢
政権のときとは大違いです。これは官とメディアが一体であるこ
との証拠です。官僚組織にとって怖いのは小沢一郎氏であって、
小沢氏のいない民主党などは怖くないのです。菅政権は、官僚に
とって安全な政権であるとみなされているのです。
 作家の佐藤優氏は、保釈になった翌日の2月4日に石川知裕議
員に会い、取り調べの状況を詳しく聞いています。あるとき検事
は石川氏に小沢氏の関与を認めるように勧める説得において、次
のような逆説論法を使ったとして次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「小沢一郎を助けることを考えろ。仮にここで不起訴になって
 も今後検審(検察審査会)で2回「起訴相当」の方針が出る。
 そうなれば、国民の力によって小沢さんはボロボロにされる。
 今、君が本当の勇気を出して踏み越えることで小沢さんを助け
 てあげられるのだ」。こんな奇妙な理屈で攻められたと石川議
 員は言っていました。そして、この検察審査会に関する検事の
 予言は成就するでしょう。しかし、それくらいのことで小沢幹
 事長は潰れないと思います。検察官の勘違いも甚だしい。検察
 官連中は本も読まず、国際スタンダードでの教養に欠ける。だ
 から、自分がやっていることが政治行為だということをわかっ
 ていない。これは、明らかに三権分立の原則を踏み越えていま
 す。国民の意思によって動く政治に対して、介入している行為
 なのです。     ──副島高彦×佐藤優著/日本文芸社刊
  『小沢革命政権で日本を救え/国家の主人は官僚ではない』
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを読むと、2つのことがわかります。1つは、検察審査会
が検察とつながっていること。2つは、「国民の力によって小沢
さんはボロボロにされる」という表現です。これはメディアによ
る集中砲火を浴び、小沢氏はボロボロになるという意味であり、
明らかに官僚組織とメディアはつながっています。
 しかし、ここにきて官僚組織側に異変が生じているのです。当
初小沢氏は、検察審査会の2回目の議決を待っていたのです。そ
れは7月末までに出ることが確実だからです。
 なぜ、確実なのかというと、7月末で5人の審査員──起訴相
当を出した審査員──が交代するからです。実は、東京第5検察
審査会では、第2回目の審理はまったく行われていないのです。
 なぜでしょうか。検察の補助弁護士が決まっていないのです。
補助弁護士は、一般有権者から選ばれた審査員に事実関係や法律
解釈を説明する弁護士です。補助弁護士は1回目はつけてもつけ
なくてもよいのですが、2回目は必ずつけなくてはいけないので
す。各検察審査会が地元弁護士会を通じて選任する仕組みですが
1回目に弁護士がついた場合は、その弁護士がそのまま2回目を
担当することになっているのです。
 小沢氏の場合、「起訴相当」を出した1回目は米澤敏雄弁護士
が補助弁護士を務めたのですが、米澤氏は1回目が終わると、補
助弁護士を降りてしまったのです。
 なぜ降りたのでしょうか。その理由の詳細は5月25日のEJ
第2819号を読んでいただきたいのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
http://electronic-journal.seesaa.net/article/150967007.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 1回目の議決のとき、米澤弁護士は「あの独裁者の小沢氏が」
というような感情的な表現の議決文──新聞は報道せず──を書
いたことで、検察上層部の不快感を買い、それが原因で米澤弁護
士は降りたのです。
 この時期に補助弁護士が決まっておらず、審理が一度も行われ
ていないとすると、7月末の議決は不可能です。2回目の議決が
出るのは早くても9月以降になることは確実なのです。つまり、
民主党の代表選以前には出ないということです。
 そうなった場合、検察審査会の議決内容は一変する可能性があ
ります。どうしてでしょうか。
 検察審査会は、11人の審査員によって審理されますが、1回
目の議決で「起訴相当」を出した審査員のうち6人が、4月末で
交代しています。それでもまだ5人は残っています。ところが、
この残りの5人は7月末に交代してしまうのです。そうすると、
「起訴相当」を出した審査員は7月末には一人もいなくなってし
まうことになります。それに補助弁護士も確実に変わるのです。
当然、議決結果に影響が出ることは必至です。
 もともと検察による小沢不起訴の訴因は、5000万円とかの
ウラ金の収受などではなく、世田谷の不動産購入の登記に関する
「期ずれ処理」に小沢氏が関与したかしないかというつまらない
疑惑に過ぎないのです。この「期ずれ」も土地が農地であったこ
とから適法であることも既にEJで明らかにしています。これを
白紙から検討すれば、「起訴相当」が出る可能性はきわめて低く
結論は検察決定通り「不起訴相当」になる可能性が高いのです。
 小沢前幹事長が活動を始めたのは、このことと無関係とは思え
ないのです。検察審査会の2回目の議決が9月以降になると、民
主党の9月の代表選に小沢氏が何かを仕掛けてくる可能性は十分
あります。小沢氏の考えている目標の達成が現状遠のいているか
らです。しかし、小沢氏の年齢を考えると、そんなに多くの時間
は残されていないのです。したがって、乾坤一擲の勝負に出る可
能性は高いと思います。
 検察の高級官僚は、今でも小沢氏に恐怖感を持っています。小
沢氏が民主党に残り、一定の権力を維持し続ければ、「検事総長
の政治任命」という手を打ってくると考えているからです。また
検察から捜査機能が奪われ、特捜部が解体される恐れも十分にあ
るのです。そしてこのことと補助弁護士が決まらないことは無関
係ではないのです。     ──[ジャーナリズム論/53]
              

≪画像および関連情報≫
 ●副島隆彦氏のマスコミ(マスゴミ)批判
  ―――――――――――――――――――――――――――
  副島:メディア(マスゴミ)は小沢憎しのヒドイ報道を続け
  ました。私の言い方では、NHKを含めた6杜のテレビ局ネ
  ットワークと5社の大新聞、計11社が襲いかかりました。
  あの4ヵ月間にわたって、検察からのリーク情報を、どこの
  新聞もほとんど同じ文面で書いていました。恐るべき談合で
  す。TBSに至っては、「石川知裕が、4億円の賄賂を受け
  取ったシーン」というのまで映して、控造番組を放送しまし
  た。彼らはそこまで賎しい国民煽動、偏向報道を行なった。
  それでも小沢の不起訴は崩れなかったのです。
           ──副島高彦×佐藤優著/日本文芸社刊
  『小沢革命政権で日本を救え/国家の主人は官僚ではない』
  ―――――――――――――――――――――――――――

講演する佐藤優氏.jpg
講演する佐藤 優氏
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2010年07月07日

●「われわれの敵は3つの権力である」(EJ第2850号)

 EJ第2832号において私は次のような書き出しではじめて
います。これは前から何度もそう書いていたはずです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 EJでは、現在の政治情勢を「民主党」対「官僚組織+記者ク
ラブメディア+大企業(経団連)+自民党による連合軍」と位置
づけて分析しています。   ──EJ第2832号/6・11
―――――――――――――――――――――――――――――
 そうしたところある読者から「あり得ない前提である」という
お叱りをいただきました。「メディアに対して失礼でないか」と
も「小沢一郎を擁護し過ぎる」とも批判されています。
 そうお考えになるのであれば、それはそれでよろしいと思いま
す。しかし、これは72回にわたる「小沢一郎論」と既に50回
を超えている「ジャーナリズム論」を書くに当たって私が読破し
た数多くの本とネットをはじめとするさまざまな情報、それにテ
レビなどのメディアから得られた情報などを総合的に分析して立
てた仮設なのです。それが正しいといっているのではなく、あく
までひとつの仮説なのです。しかし、この仮説に立ってものごと
を見るといろいろ納得できるものがあるのです。常識的な見方ば
かりではなく、こういう見方があってもよいと思うのです。
 現在の世の中をテレビや新聞・雑誌などから得られる情報だけ
で判断していると、大事な事実を見落としてしまいますし、真相
が見えなくなってしまうものです。
 既にご紹介している副島隆彦氏と佐藤優氏の最新刊の対談本に
おいて、私の「敵たち」として次の記述があります。これがこの
本の前提になっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 @各省庁の官僚トップたち。とりわけ2010年2月の「小沢
 対検察」で国民に丸見えになった検察・警察の幹部と法務省と
 裁判官。それからA公共電波であるテレビと新聞(マスコミ)
 を握る者たち、Bそして戦後65年間、アメリカの下僕となっ
 て、甘い汁を吸ってきた財界人たち。この3つの権力との正面
 からの闘いです。  ──副島高彦×佐藤優著/日本文芸社刊
  『小沢革命政権で日本を救え/国家の主人は官僚ではない』
―――――――――――――――――――――――――――――
 まったく同じ考え方であると思います。この本は、2009年
12月14日から2010年3月17日まで、4回にわたって行
われた(佐藤優氏と副島隆彦氏との)対談に拠っている──本書
のトビラにはそう書かれています。
 本書のまえがきは佐藤優氏が書いており、日付は2010年6
月6日になっています。そこにはこうあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 当初、私たちはこの本を2010年の秋に出版する予定にして
 いた。7月に予定されている参議院選挙で、民主党が大敗し、
 検察官僚が小沢一郎氏を政界から放逐し、外務官僚が鳩山由紀
 夫氏を統制下に置くクーデターを今年末(特には11月〜12
 月に予定される沖縄県知事選をにらんで)に行なうと見ていた
 からだ。目に見えない権力闘争の姿を、普通の国民に伝え、日
 本がファッショ化することを何としてでも阻止したいと思い、
 本書を準備していた。しかし、事態は予定よりも早く進捗して
 いる。そこで、本書を緊急出版することにした。菅直人氏が第
 94代目の内閣総理大臣に就任し、闘争はますます深刻化して
 いる。            ──前掲書「はじめに」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 副島氏の本や副島氏と佐藤氏の対談本はほとんど全部読んでい
ますが、今回の本は凄い内容が書かれています。すべてが真実で
あるとは思いませんが、われわれの知らない驚くべき事実が詳細
に実名で明かされています。このあとEJでもエッセンスは取り
上げていきますが、ぜひ一読をお勧めしたいと思います。
 本書の対談において、メディアと官僚の関係が話し合われてい
る部分があります。ご紹介しましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
 副島:官僚と新聞記者たちは本当にベタベタしていますね。根
 が同族なのですね。特ダネ貰いという「恩義・互恵の関係」が
 ありますからね。
 佐藤:恩義や互恵など実際には関係ないことです。官僚にすれ
 ば自分たちの利益になるから特ダネを流しているだけで、逆に
 新聞記者のほうが使われているのです。ところが記者たちはこ
 の辺を冷徹に理解していないのです。
 副島:これは本当は腐敗ということです。官僚も腐敗していま
 すが、新聞記者である自分たちも腐敗しているという自覚がな
 いのです。新聞記者というのは、正義の味方であるフリをして
 「冷蔵庫の中で腐ったままの状態で、いつまでも冷凍状態でい
 るような存在」です(笑)。
 佐藤:いっそ冷蔵庫ごと捨てたほうがよいと思います(笑)。
 副島:普通の官僚は、裏金や汚いお金は貰ってこそいませんが
 ク表に出ている汚い金≠ナ動くのです。やはりそれは天下りで
 す。天下ることで高い給料が付随している地位を貰うというこ
 とも腐敗なのです。            ──前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 副島、佐藤両氏ともメディアが問題であるという点で一致して
います。彼らはメディアを「マスゴミ」といっています。佐藤氏
は、官僚の知人たちに、夏目漱石の『それから』という小説を読
むように勧めているといっています。『それから』は、新聞記者
の嫌らしい側面を描いた小説であり、新聞記者の正体がよくわか
るというのです。
 副島氏によると、産経新聞は論説委員のクラスに、小沢潰しの
突撃隊、決死隊を抱えているといいます。私は産経新聞は、アイ
フォーンで読んでいますが、確かにそういうところはあると思っ
ております。しかし、この新聞の政治記事以外は実に素晴らしい
ものがありますが・・。   ──[ジャーナリズム論/54]


≪画像および関連情報≫
 ●『小沢革命政権で日本を救え』(日本文芸社)書評
  ―――――――――――――――――――――――――――
  本日アマゾンより副島隆彦氏と佐藤優氏の共著&緊急出版で
  ある「小沢革命政権で日本を救え」が届き、今1回読み終え
  たところです。内容は、ただ単に小沢 VS 検察という形だ
  けでなく、多種多様に渡って議論されており非常に内容の濃
  い書となっています。もちろんお互いが全ての問題について
  意見が合っているわけでもなく、副島氏と佐藤氏の考えが違
  っている部分もありますが、またそこが良いところでもある
  でしょう。
     http://ameblo.jp/kriubist/entry-10566596152.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

副島隆彦氏.jpg
副島 隆彦氏
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2010年07月08日

●「財務省が仕掛ける大増税キャンペーン」(EJ第2851号)

 ここまでEJでは「官僚組織」という言葉を使ってきましたが
官僚のトップはどこかを明らかにする必要があります。一般的に
は、官僚のトップは財務省といわれています。なぜかというと、
財務省は特別会計をコントロールしており、カネを握っているか
らです。しかし、副島隆彦氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の官僚のトップは財務省(旧大蔵省)だと私も倣って思い
 込んできましたが、どうやら法務省・検察庁だったようです。
 そのことが明るみに出ました。このことがスゴイことでした。
 他の官庁であれば政権の大臣たちが人事を握り、省予算を握れ
 ば政治家が勝つことができます。それが「官僚主導から政治主
 導へ」という小沢革命の根幹です。ところが、検察庁だけは、
 お金と人事では動かせない仕組みになっていました。
           ──副島高彦×佐藤優著/日本文芸社刊
  『小沢革命政権で日本を救え/国家の主人は官僚ではない』
―――――――――――――――――――――――――――――
 これには異論があります。やはり、カネを握っている財務省が
トップであると思います。むしろ、民主党──鳩山─小沢政権が
「政治主導」を本気で進めようとしてきたので、財務と検察が組
んでいるのではないかと思います。官僚組織を守るのは、彼らの
共通の目標であるからです。
 財務省がいかに狡知にたけているかについて、その一端をご説
明することにします。財務省は菅政権ができ、野田財務相がいる
今こそ「大増税」のチャンスであると思っているようです。
 民主党の政府税制調査会は、6月22日に税制改革をまとめた
中間報告書を発表しています。そこにはこうあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国民が安心して暮らせる社会を実現するためには、格差の拡大
 とその固定化を食い止めることが重要な課題であり、社会保障
 制度と併せて、税制の再分配機能の回復を図ることが重要な課
 題である。このため、所得や資産に対する課税において、累進
 構造を回復させる改革を行って、税制の再分配機能を取り戻す
 必要がある。             ──政府税制調査会
―――――――――――――――――――――――――――――
 重要なのは、後半の「所得や資産に対する課税において、累進
構造を回復させる改革を行って税制の再分配機能を取り戻す」の
部分です。簡単にいうと、消費税増税で低所得者の負担が重くな
るのだから、格差を是正するために、高所得者には「所得税の最
高税率」を引き上げて税金をもっと取ろうというわけです。
 政府税制調査会のトップは、副総理時代の菅氏が、現在は野田
財務相が会長を引き継いでいます。しかし、事務局は財務省主税
局であり、専門委員会のメンバーには、菅首相のブレーンの学者
も入っていますが、その主張は財務省の考え方そのものです。
 その政府税制調査会の議論では、相対的貧困率が取り上げられ
たのです。日本の相対的貧困率はこの10年で増え続け、次のよ
うに世界4位になっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       メキシコ ・・・・・ 18.4%
       トルコ  ・・・・・ 17.5%
       米国   ・・・・・ 17.1%
       日本   ・・・・・ 14.9%
―――――――――――――――――――――――――――――
 OECD加盟国平均は10.6 %であるので、日本は相当高い
貧困率といえます。西欧諸国は大半が10%以下なのです。これ
について、財務省や御用学者たちは、次のような信じられない意
見を述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 我が国の相対的貧困率の数値が国際的に見て高いのは、中位所
 得者の税負担が軽いことを示唆している。要するに、貧困率の
 高さは税金が低いせいである。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは実におかしな理屈です。相対的貧困率は社会の格差是正
をあらわすものですが、貧乏人からも金持ちからも税金をとって
その格差を是正しようというのですから無茶苦茶です。
 はっきりしていることは、増税をすれば消費が落ち込み、景気
が悪化するということです。どのような理屈をつけてもそうなる
ことは自明のことです。
 民主党政権が誕生する前後から何かにつけて「財源」が問題の
焦点になっています。確かに財源を議論することは必要ですが、
これをいうことによって、問題の解決のための自らの手足を縛っ
ているように思います。
 菅首相は早々と国債を増やさないと明言しています。しかし、
 景気を上げるには増税ではなく、減税をすればいいのです。現
在世界の潮流は増税ではなく、減税なのです。これについて、埼
玉大学経済学部の相澤幸悦教授は次のように指摘します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府は国債を増やさないといっているから、所得税減税をすれ
 ば歳入が減っていやでも行政の無駄を削らなければならなくな
 る。無駄削減と消費が拡大する効果を合わせると、おおよそ乗
 数効果は「2」と考えられる。つまり、1兆円減税すれば2兆
 円の経済効果を生むということ。世界の潮流が減税となってい
 る中、菅さんが正反対の増税を打ち出したことがいかに間違っ
 ているかここでもわかります。      ──相澤幸悦教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 菅首相の発言を聞いていると、「財政再建」と「増税」をセッ
トにして話しているところがあります。経済が回復すれば増税は
しなくても済むわけであり、そのためには「減税」もひとつの方
法であり、経済活性化の有効な方策なのですが、財源論が先行す
ると、その話を持ち出しにくくなるのです。
              ──[ジャーナリズム論/55]


≪画像および関連情報≫
 ●「相対的貧困率」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  OECDによる定義は等価可処分所得(世帯の可処分所得を
  世帯員数の平方根で割った値)が、全国民の等価可処分所得
  の中央値の半分に満たない国民の割合の事。絶対的貧困率と
  違い数学的な指標なので主観が入りにくいとされる。絶対的
  貧困率と異なり国によって「貧困」のレベルが大きく異って
  しまうという可能性を持つ。この為、先進国にすむ人間が相
  対的貧困率の意味で「貧困」であっても、途上国に住む人間
  よりも高い生活水準をしているという場合と先進国において
  は物価も途上国より高く購買力平価を用いた計算をすると途
  上国よりも生活水準が低い場合が存在する。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

相澤幸悦教授.jpg
 
相澤 幸悦教授
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2010年07月09日

●「増税は2012年実施で進められている」(EJ第2852号)

 いよいよ2日後に参院選の投開票が行われます。ここまでのメ
ディアの論調を見ていると、主力メディアは菅首相が打ち出した
消費税増税に関して一貫して容認の姿勢です。『週刊ポスト』7
/16は、朝日新聞と読売新聞を例として取り上げ、そのことを
指摘しています。
 6月28日付、朝日新聞の朝刊は、「消費税最大の焦点は19
%」という見出しで次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 朝日新聞が26〜27日の両日に実施した全国電話世論調査に
 よると、消費税の引き上げを参院選の最大の争点だと思う人は
 19%で「消費税以外にも大きな争点がある」とする人は71
 %にのぼった。有権者の多くは幅広い問題を選択基準にしよう
 としている。    ──6月28日付、朝日新聞の朝刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この報道を読むと、国民は消費税増税をそんなに気にしていな
いのだなという印象を受けてしまいます。増税に反対だった人も
大方の人は増税容認の姿勢なんだと感じると、自分の考え方を修
正する人も多く出てくるのです。これがメディアの力です。
 しかし、この世論調査には問題があるのです。質問は次のよう
になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ●消費税引き上げの問題は、あなたにとって参院選の一番大き
  な争点になると思いますか。消費税以外にも大きな争点はあ
  ると思いますか。
  ・一番大きな争点になる
  ・消費税以外にも大きな争点はある
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは極めて不自然な二者択一です。大手メディアの元世論調
査室長は次のように疑問を呈しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 有権者に選挙の争点を聞く場合、例えば、消費税、景気対策、
 社会保障、政治とカネの問題などと選択肢を列挙して選ばせる
 のが最もニュートラルな方法です。しかし、朝日は「他にもあ
 る」という網羅的で選びやすい選択肢と「一番大きな争点」と
 いう限定的で選びにくいものを二択にしている。この結果をも
 って、「消費税は参院選の争点ではない」という結果を導き出
 すのは恣意的といわれても仕方がない。
                ──『週刊ポスト』7/16
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、読売新聞はどうでしょうか。読売新聞は6月29日
付、朝刊一面で「消費税/問われる決断」と題して、丸山淳一経
済部長が消費税引き上げを迫っていますが、英国の例を引いたく
だりで、意図的とも思えるミスリードがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 首相が「政治主導の見本」とする英国では、キャメロン新政権
 が政権交代からわずか40日で、付加価値税率の引き上げや、
 子ども手当の3年間支給停止などを柱にする財政再建の具体策
 をまとめた。     ──6月29日付、読売新聞朝刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これだけみると、どこにも問題はないように見えます。英国の
新政権でも付加価値税率の引き上げや子ども手当支給停止を打ち
出している──同様なことを菅政権はやろうとしているだけでは
ないかと考えてしまうものです。
 しかし、それは違うのです。英国の新予算の基本の柱は、官僚
の採用抑制や昇格停止という4兆円以上の緊縮財政なのです。確
かに付加価値税率の引き上げをしていますが、同時に所得税減税
と銀行税新設、それに法人税引き下げが行われているのです。
 それなのに、「消費税引き上げ」と「子ども手当支給停止」だ
けを取上げているのは恣意的であり、ジャーナリズムにあるまじ
き虚報である──このように『週刊ポスト』は批判しています。
 それでは、どうして大新聞が菅政権に肩入れするがごとき態度
をとるのでしょうか。それは、記者クラブメディアと財務官僚が
つながっているからです。
 財務省は恐るべき役所なのです。財務省では課長や主計官クラ
スから審議官、局長までが担当を決めて、テレビの解説委員や新
聞の論説委員、各社の経済部長などと会談を行い、消費税引き上
げの必要性を説いて回るローラー作戦を展開中なのです。
 そのさいには財務官僚機密費で記者に飲み食いさせたり、財務
省が望む都合の良い記事を書かせることなど朝飯前なのです。菅
政権が参院選に勝利すれば、増税は確実視されるので、選挙の争
点にしないよう新聞で世論誘導報道をさせているのです。
 実は財務省内には「増税司令部」ができているといわれます。
彼らは綿密なスケジュールに沿って計画を立てて動いており、菅
首相の「消費税10%発言」もその計画に沿ったものです。政府
側の担当者は、玄葉政調会長兼特命相なのです。玄葉特命相は入
閣前には衆議院財務金融委員長であり、財務省と税制改正につい
て入念なスケジュールを組んでいるのです。
 そして、菅首相が「消費税10%発言」を表明するや、玄葉氏
は「最速で2012年秋」と述べています。ここで間違ってはな
らないことは、2年間かけてじっくり議論するという意味ではな
いことです。
 消費税の税率を引き上げる場合、銀行のAТMから商店のレジ
や企業の会計システムの変更など、膨大なインフラ整備が必要に
なるので、少なくとも一年はかかります。しかし、複数税率や国
民番号制のシステムづくりまでやるのはとても無理であり、場合
によってはやらないで増税をする可能性もあります。12年の秋
にやるとすれば、少なくとも来年の秋の臨時国会までに増税法案
を成立させる必要があります。その場合、必ずしも選挙で信を問
わない陰謀もあるのです。  ──[ジャーナリズム論/56]


≪画像および関連情報≫
 ●『特会仕分け』はアリバイ工作
  ―――――――――――――――――――――――――――
  内閣府の幹部はこううそぶく。「財務省が菅故確に消費税を
  を早くやらせようとしているのは、このままの税収では嫌で
  も特会のカネに手をつけるしかなくなることを恐れているか
  らだ。特別会計にも無駄削減のメスを入れたという姿勢は見
  せておく必要はあるが、まァあれは増税を前提にしたアリバ
  イづくりに過ぎない」。菅氏らは、ここまで官僚に馬鹿にさ
  れてもなお、国民を裏切って、彼らのために働くつもりなの
  か。            ──『週刊ポスト』7/16
  ―――――――――――――――――――――――――――

玄葉光一郎民主党政調会長.jpg
玄葉 光一郎民主党政調会長
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2010年07月12日

●「鳩山辞任は米外交の勝利である」(EJ第2853号)

 7月11日の「参院選/2010」──このEJが届く頃には
決着がついていると思います。おそらく民主党は過半数をとれな
いと思います。
 もし、鳩山─小沢体制に政治とカネに関わる検察の暴挙がなけ
れば、さらにあの普天間基地問題の処理の失敗がなければ、民主
党は単独過半数は簡単に取れたと思いますし、それによってこの
国の民主主義は大きく前進したはずです。なぜなら、小沢前幹事
長の改革はまだ道半ばであるからです。
 ところで、鳩山前首相の普天間処理の失敗について、現在多く
の人が考えているのとは、まったく違う考え方があるのです。つ
まり、これは鳩山政権の失敗ではなく、あれ以外には解決策がな
かったという考え方です。その証拠に、菅政権になっても何ら問
題は解決されていないのです。もし、菅政権が普天間の日米合意
を強行すると大変なことになると思います。
 しかし、米国の見方は違います。カーネギー国際平和財団のロ
バート・ケーガン上級研究員は、2010年6月29日付のワシ
ントン・ポスト紙に寄せたコラムのなかで、オバマ政権が6月に
「5つの外交の勝利」を上げたと評価し、その3番目に「鳩山辞
任」を上げています。鳩山辞任は米国に仕掛けられた謀略だった
のです。このコラムは同日付のワシントン・ポスト紙19面に出
ていますが、次のURLで原文を見ることができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   http://dankai.miwako-kurosaka.com/?eid=967225
 鳩山首相が退陣し、米国へのコミットメントは確認されたと。
 「この成果は、日本の中国に対する『恐怖』以外のなにもので
 もないが、しかし、オバマ政権は正しい方向に舵をとることを
 助けたということで賞賛される価値がある」、と。)
―――――――――――――――――――――――――――――
 ケーガン氏の「5つの外交の勝利」をご紹介しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.アフガニスタン駐留米軍司令官の更迭
  2.国連安保理のイラン制裁決議
  3.日本の鳩山首相辞任による日米同盟公約の再確認
  4.米韓自由貿易協定交渉の前進
  5.ロシア大統領にグルジア問題を明確に指摘
―――――――――――――――――――――――――――――
 これについて、名古屋大学教授春名幹男氏は、次のように解説
しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この(ケーガン氏の指摘の)中で最も注目すべきことは、鳩山
 前政権が中国寄りに軸足を変更しようとした、と米側が判断し
 ていたことだ。その脈絡で、普天間基地問題でも鳩山前政権の
 対応を批判したのである。鳩山政権の東アジア共同体構想にも
 オバマ政権は神経をとがらせていた。    ──春名幹男氏
   ──『国際情報を読む』/18日発行の日刊ゲンダイより
―――――――――――――――――――――――――――――
 普天間問題に関して鳩山政権では、岡田外相と北沢防衛相、そ
れに、前原国交相や長島昭久防衛政務官などが、鳩山首相とは違
う趣旨の、ばらばらな発言をして顰蹙を買いましたが、これには
わけがあるのです。
 彼らの発言には、米国の意向がバックにあるのです。このこと
を理解するには、米オバマ政権内部の人的関係について知る必要
があります。これについては、佐藤優氏と副島隆彦氏の本を参考
にして述べることにします。
 オバマ政権で国家安全保障担当・大統領補佐官を務めるジェイ
ムズ・ジョーンズという人がいますが、彼は海兵隊出身です。彼
は、海兵隊の司令官をやっていたのです。海兵隊は陸海空3軍に
次ぐ4番目の軍隊であり、格がひとつ下なのです。大佐が最高位
であり、司令官/コマンダーがトップになるのです。
 このジョーンズ大統領補佐官を中心にオバマ政権には海兵隊出
身者が大きな政治力が持っているのです。このなかで東京で暗躍
して政治干渉をしているのは次の「2人のマイケル」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
          マイケル・シファー
          マイケル・グリーン
―――――――――――――――――――――――――――――
 マイケル・シファーという人物は、オバマ政権でアジアを担当
するウォレス・グレッグソン国防次官補の下で国防次官補代理を
努める高官です。副島氏によると、マイケル・シファー国防次官
補代理は、100人ぐらいのCIA要員を動かして横田基地と南
青山の米軍施設を固めて、カート・キャンベル国防次官補と連動
して、非常に危ない動きをしているというのです。共和党政権時
代はアーミテージ国防次官補が同様の任務をしていたのです。
 このマイケル・シーファーの上司はローレス国防副次官であり
その上がロバート・ゲーツ国防長官です。ローレス国防副次官は
沖縄の米軍基地のグアム移転計画の実行責任者です。
 もうひとりのマイケルは、マイケル・グリーン──CSIS/
戦略国際問題研究所研究員です。彼は東アジア上級部長をしてい
たことがあり、渡辺恒雄(民主党渡辺恒三議員の息子)は彼の忠
実な部下です。また、前原誠司国交相や長島昭久国防政務官も、
このマイケル・グリーンの影響を受けています。なお、あの小泉
進次郎衆議院議員もCSISの大学院を出ているのです。
 これら2人のマイケルは、いわゆる安保マフィア──日米安保
でメシを食う人々といわれ、沖縄利権に深くかかわっているので
す。このように鳩山政権の閣僚の多くが、米国の安保マフィアの
意向を代弁しており、これでは鳩山氏がいくらがんばっても、思
うように前に進まないのは当然のことです。それに小沢前幹事長
については、渡辺恒雄氏を通じ、渡辺恒三氏の口を借りて巧みに
辞任を迫るという方法をとっていたわけです。すべてはつながっ
ており、恐るべきことです。 ──[ジャーナリズム論/57]


≪画像および関連情報≫
 ●長島昭久氏という政治家の正体/あるブログより
  ―――――――――――――――――――――――――――
   今日の東京新聞朝刊第2面(政治)に見過ごしてしまいそう
  な目立たない場所に、しかし見過ごすわけにはいかない次の
  ようなとんでもない記事があった。
  「長島氏は『米国は歓迎されないところには置かない。沖縄
  が本当に反対し、日本政府も出て行けとなれば、簡単に出て
  行く可能性は非常にある』と発言。「沖縄の海兵隊は日本の
  安全保障の根幹。駐留は当分続かざるを得ない」と述べ、海
  兵隊を沖縄にとどめておくためにも、五月までの決着が必要
  と強調した。
      http://adat.blog3.fc2.com/blog-entry-1430.html
             http://q.hatena.ne.jp/1274077297
  ―――――――――――――――――――――――――――

マイケル・グリーン前アジア上級部長.jpg
マイケル・グリーン前アジア上級部長
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2010年07月13日

●「民主党大敗/今後どうなるのか」(EJ第2854号)

 予想通り民主党は参院選で大敗です。50台割れは確実と思い
ましたが、40台後半と考えていたのです。それがまさかの44
議席、菅政権が目標とする54議席に届かないこと10議席、し
かも自民党に改選第一党まで取られてしまったのです。
 なぜ、民主党は敗れたのでしょうか。
 大方の意見は「消費税増税」を打ち出したことが大敗の原因と
していますが、そうではないと思います。もし、そうなら自民党
も負けているはずです。
 11日のテレビ各社の選挙特番において、出演したキャスター
や政治評論家は、小沢前執行部の2人区擁立を失敗と断じ、相変
わらず、小沢氏の政治とカネも原因であると、なぜか現執行部で
はなく、小沢批判を展開していたのです。ある局では、党内の小
沢批判の急先鋒である渡部恒三議員まで出演させていたのです。
 読売新聞のアンチ小沢の姿勢はいつもの通りですが、今まで小
沢前幹事長に対して比較的中立的立場を取っていたテレビ朝日ま
でが、小沢系候補に「小沢マーク」をつけ、それが落選していく
様子を印象付ける演出をしていたのです。解説者も小沢批判色の
強い政治評論家田崎史郎氏と朝日新聞論説委員星浩氏がしきりと
負けの原因は、小沢氏の政治とカネの問題と選挙戦略の失敗であ
るとして、小沢批判を展開していたのです。
 これにより、テレビ朝日の『サンデープロジェクト』が廃止に
なった理由が読めてきました。『サンデープロジェクト』は司会
の田原総一郎氏にはいささか問題があるものの、同番組のレギュ
ラースタッフ陣は、どちらかというと、小沢氏の問題を感情的で
はなく、冷静に公平に扱っていたので高く評価していたのです。
そのため、上層部がやめさせたのでしょう。
 負けの原因に小鳩政権の政策運営の失敗がないとはいいません
が、それなら、鳩山政権のツー・トップのダブル辞任のあとの民
主党の支持率急回復は何だったのでしょうか。あの勢いを維持し
て選挙に臨めば、過半数獲得は容易であったと思います。選挙態
勢は万全であったからです。
 今回の参院選の敗因は、国民が菅直人という政治家の本性を見
抜いたからだと思います。菅首相は首相に就任するや執行部の人
事は反小沢で固め、何も仕事をしないで国会を閉じ、早々と選挙
に突入しました。ここまでは国民は容認していたと思うのです。
 そのあと党内合意のないままに「消費税10%増税」を打ち上
げたのです。それに加えて新執行部は、マニュフェストを大幅に
修正しているのです。
 枝野幹事長は、この決定には小沢幹事長も関与しているように
いっていますが、それは事実ではないのです。確かにマニュフェ
ストの修正の話は出ていたと思いますが、鳩山─小沢ダブル辞任
の時点ではまだ決まっていなかったのです。その証拠に消費税に
関する記述は新執行部が付け加えているのです。
 菅首相は「脱官僚」といいながら、平気で消費税増税を宣言し
税率まで踏み込んでいます。しかし、増税は財務官僚の意に沿う
ものであり、裏切り行為です。
 マニュフェストの変更については、マニュアルまで作り、候補
者に次のようにいうよう指示しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マニュフェストは生き物であり、環境や状況の変化に応じて、
 柔軟に見直すことも重要である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、これは「公約破り」であり、あまりにも有権者をバカ
にしています。さらに菅首相は、サミットで「中国をG8に招聘
せよ」という場違いの提案をして、G8首脳から顰蹙を買ってい
ます。これは外務省幹部と何の打ち合わせもせず、いきなり発言
したのです。
 さらに国民新党の連立合意──郵政法案を今国会で成立させる
──をわずか数日で反故にし、しかも国民新党が連立離脱か否か
で深夜まで協議を重ねているときに、首相は既に寝ていたことが
わかり、これまた大きく国民新党との信頼関係を損ねています。
 さらに、選挙に突入し、消費税発言が受けが悪いとわかると、
深い考えもなしにころころ発言を変更し、ほとんど何も考えずに
消費税増税を打ち出したことがわかってしまっています。
 さらにメディアが9党首討議会を開くことを提案したときには
8対1では不利だと主張して逃げまくり、テレビ局に時間振りや
逆質問を認めさせて出演するなど、男らしくないです。
 国民は、短い間ではあるものの、一連の菅首相の行動や発言を
見て、愛想をつかしたのです。10%の消費税増税でも、小鳩の
政治とカネでもないのです。首相の行動を見ていて、こんな男に
は日本をまかせられないと判断したからこそ、民主党に鉄槌をを
下したのです。
 もうひとつ菅政権には許せない裏切りがあります。仙谷官房長
官は、マニュフェストから電波料値上げにつながる「電波オーク
ション」を外してテレビ局に恩を売り、記者クラブの存続と優遇
を約束しています。また、官房機密費がメディアに渡っている疑
惑については、追求しないことを約束するなどの、メディア対策
を行っていたのです。
 だからこそ、大新聞はそろって「消費税増税」賛成の論陣を張
り、とくに増税派の急先鋒とされる読売新聞は、独自の世論調査
で菅政権を擁護しています。読売新聞の策動については、「関連
情報」の情報もお読みください。
 菅首相は、自らの退陣を否定し、枝野幹事長も留任させると明
言していますが、それはきわめて困難です。連立の相手は自民党
しかないのですが、首相には自民党のつてはないのです。そこで
いわれているのは、読売新聞の渡辺氏の仲介で与謝野氏を通じて
自民党との連立を仕掛けるはずです。しかし、これだけは阻止し
ないと、せっかくの政権交代が元の木阿弥になってしまいます。
 一体これからどうなるのでしょうか。民主党の去就が注目され
るところです。       ──[ジャーナリズム論/58]


≪画像および関連情報≫
 ●読売の露骨な「援護射撃」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  参院選終盤の7月7日付の読売朝刊は、「参院選ネットモニ
  ター」調査で小沢氏の執行部批判を75%が「評価しない」
  と回答したことを報じ、「小沢氏の公約違反批判などは、民
  主党内の意思統一に対する有権者の不安を増幅させているの
  ではないか」という識者コメントを掲載した。民主党の枝野
  幹事長が参院選後のみんなの党との連携に言及して、与党内
  から厳しい批判を浴びたことについても民主党支持者の58
  %が「評価する」(同アンケート)とかばっている.
              ──『週刊ポスト』7/23より
  ―――――――――――――――――――――――――――

選挙中の菅首相.jpg
選挙中の菅首相
posted by 平野 浩 at 04:08| Comment(2) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月14日

●「鳩山前首相の思考法を解明する」(EJ第2855号)

 鳩山前首相は、本気で「普天間基地の県外移設」を考えていた
し、そのための腹案をちゃんと用意していたのです。徳之島とは
別の案です。その腹案を作ったのは、桜美林大学大学院客員教授
の橋本晃和氏を中心とするグループなのです。
 鳩山前首相としては、政権交代のときしか米軍基地を沖縄から
移動させることはできないと考えて、それに政治生命を賭けて挑
んだのです。小沢氏もそれに同意していたのです。
 しかし、鳩山首相は、平野官房長官(当時)をはじめとする官
邸のスタッフの人選に失敗したのです。これによって、まったく
官邸が機能しないどころか、政権の足を引っ張ったのです。これ
は鳩山氏が犯した最大の失敗といえます。
 それに加えて、米国の安保マフィアの存在に首相は気づいてい
なかったようです。鳩山氏を取り巻くマイケル・グリーンの門下
生たちは、何の臆することもなく、次のように米国の代理人のよ
うなことをマスコミを通して何回も発言し、首相を牽制したので
す。とても同じ党の政権を担う閣僚や政務官のいうべきことでは
ないし、政権としての態をなしていなかったといえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 鳩山政権は、アメリカの言うことを聞くべきだ。今の対立的な
 日米関係は危険である。
           ──副島高彦×佐藤優著/日本文芸社刊
  『小沢革命政権で日本を救え/国家の主人は官僚ではない』
―――――――――――――――――――――――――――――
 もうひとつ多くの国民は、鳩山氏の考え方について行けなかっ
たところがあると思います。だから、鳩山氏は宇宙人といわれて
おり、本人もそれを認めています。これについて、佐藤優氏と副
島氏は非常に面白い分析をしているのです。佐藤氏によると、鳩
山由紀夫氏は大変な学者であるというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 最近、私は鳩山首相が英語で書いた学術論文を読んでみてびっ
 くりしました。まず英語が見事なうえに、論文内容も素晴らし
 い。政治家になるまで腰掛けで学者をしていたのではなく、間
 違いなく本物の学者でした。その論文のテーマはロシアの天才
 数学者、アンドレイ・マルコフが唱えた「マルコフ保全理論」
 の研究でした。    ──副島高彦×佐藤優著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 アンドレイ・マルコフといえば、「マルコフ連鎖」という確率
理論を提唱したことで有名です。マルコフの理論は、簡単にいう
と次の考え方に基づいています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    未来は現在のみに関係し、過去には関係しない
―――――――――――――――――――――――――――――
 サイコロを指で押して転がす例で考えてみます。現在、1の目
が出ているとします。このとき過去にどの目が出ていたかに関係
なく、指でひとつ転がして出る目は2,3,4,5のいずれかの
目であることになります。つまり、過去のことは考慮せず、すべ
て現在から未来を思考するのです。これが基本的な考え方です。
これがベースになってОR──オペレーション・リサーチが生ま
れたのです。
 佐藤氏は、鳩山首相の政治哲学はこのマルコフ理論の影響を受
けているといっています。この理論を「偏微分」を駆使しながら
数理的に実証していくのです。鳩山氏はスタンフォード大学で博
士課程を修了しており、その専攻はオペレーション・リサーチな
のです。つまり、ロジスティクスの専門家なのです。
 普通の政治家は「足して2で割る」ということに象徴されるよ
うに加減乗除の思考しかできなかったのですが、鳩山氏は「微分
積分」を駆使することができるのです。これについて、佐藤氏は
鳩山氏について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 鳩山発言は二転三転してブレていたように言われます。という
 のも、鳩山首相の思考は、オバマ政権の国家戦略や東アジアの
 国際情勢、沖縄の世論、さらには小沢幹事長と検察の闘いなど
 を「項」とする「関数体」となっているからです。その関数体
 の中で、ときにはアメリカ情勢が変数となることもあるし、最
 近なら検察の小沢一郎捜査が変数となっています。その時々の
 変数によって、自らの解答を変えるわけです。たとえば普天間
 問題だけを例にとれば、ゲーツ国防長官による桐喝のように、
 アメリカの対日姿勢の「項」が変化したことを受けて「日米合
 意を無視しない」と言ったかと思えば、別の日には沖縄の人々
 のいらだちが強まるという事態を踏まえて、「合意を前提とは
 しない」とも発言しました。外部からはブレたと言われますが
 彼の思考形態自体は、一貫して不変なのです。
            ──副島高彦×佐藤優著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 普天間基地の代替候補地の決定は難問だったのです。多くの要
素がからまっていてすぐに解を出せなかったのです。そこで鳩山
氏は、マルコフ理論を使い、自分があるタイミングを決めて、そ
の直近のどこかで自分が決めて起きたことを基準点にして、そこ
と比較して「よりましなシナリオ」を選択する──これを「最適
解」とする考え方を実施したと思われるのです。
 そこで、鳩山氏は5月末というタイミングを決定したのです。
そして5月の終りの状況以外は何も考えなかったのです。そして
5月の終わりになって、その現実と比べて、よりましなシナリオ
が、とりあえず、「普天間飛行場を辺野古に移設する」という決
断だったのです。
 きっと鳩山氏は、それによって沖縄の反対が激しくなれば、別
なオプションを出す予定だったのでしょうが、その前に自分が退
陣に追い込まれてしまったのです。彼が狙っていたのはあくまで
「基地の県外移設」だったのです。
              ──[ジャーナリズム論/59]


≪画像および関連情報≫
 ●オペレーションリサーチとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  政策実行や企業経営などの各種活動において、課題となる対
  象(問題)を操作・対応可能な系としてモデル化して分析・
  計算を行い、最良の対策や行動を導き出す数学的/統計的方
  法群のこと。あるいは、これらの方法を研究する学際的学問
  分野をいう。また、これらの方法を用いて諸問題の解決法を
  明らかにする活動そのもの、ないしそれを通じて意思決定者
  を支援することと定義される場合もある。
        http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/or.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ORの専門家/鳩山由紀夫氏.jpg
ORの専門家/鳩山 由紀夫氏
posted by 平野 浩 at 04:13| Comment(1) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月15日

●「日本郵政斎藤社長人事の真相」(EJ第2856号)

 「悪徳ペンタゴン」という言葉があります。植草一秀氏の造語
です。「悪徳ペンタゴン」とは次の5つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     「政」 ・・・・・ 政治家
     「官」 ・・・・・ 特権官僚
     「業」 ・・・・・ 大資本
     「外」 ・・・・・ 米国
     「電」 ・・・・・ 記者クラブメディア
http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-a726.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、「政」は民主党が政権党として支配しているものの、既
に小沢氏は政権の座から降りており、菅政権は「官」に支配され
かかっています。さらに深刻なのは、「官」が参院選や衆院選に
立候補して、「官」の仮面を被った「政」が続々と増えてしまう
ことです。民主党の中にもそういう議員はたくさんいます。
 また、悪徳ペンタゴンの中に「外」──米国が入っていること
をわれわれは注目すべきです。鳩山政権の普天間基地移設を潰し
たのは「外」(米国)であり、その手先となって動いたのは、民
主党内部の「政」の一部です。
 小泉政権のとき、来日したアーミテージ国務副長官(当時)が
田中真紀子外相(当時)に面会を申し込んだとき、外相は面会を
拒絶し、メディアはそれを非礼として報道しました。これにより
多くの国民は田中外相を外交儀礼をわきまえない人物と考えたと
思います。しかし、それは違うのです。田中外相はアーミテージ
国務副長官の正体──CIAを使って日本国内で政治活動を行い
安保でメシを食う人々の1人であることを知っていて会わなかっ
たのです。同じような話を最近佐藤優氏が話しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 鈴木宗男・新党大地代表は立派な政治家です。キャンベル元国
 防副次官補が会見を申し込んできたとき、鈴木宗男さんは「俺
 はあなたと会いたくない」、「見苦しい」「目障りである」と
 言いました。今、こんなことを言えるのは彼一人しかいないで
 す。民主党側も自民党も、まったくだらしのない状態です。
           ──副島高彦×佐藤優著/日本文芸社刊
  『小沢革命政権で日本を救え/国家の主人は官僚ではない』
―――――――――――――――――――――――――――――
 鳩山─小沢政権における亀井前金融相の存在について、考える
必要があります。亀井氏が、昨年12月3日に次のようなことを
いって胸を張ったことがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の政治は国民新党中心で動いている───亀井前金融相
―――――――――――――――――――――――――――――
 多くの人は亀井大臣のいつもの大言壮語と考えたと思いますが
違うのです。財務省の勝栄二郎主計局長を脅し上げて、15兆円
の埋蔵金を奪い取ってきた直後だから胸を張ったのです。それに
よって今年度(2010年度)の予算が成立したのです。
 財務省は、菅首相や野田財務相はまるで問題にしていませんが
亀井大臣には一目置いているのです。それにその当時は小沢氏が
幹事長の職にあり、小沢─亀井の連携があることを財務省は掴ん
でいるので、反対できなかったのです。
 日本の政治家は首相や閣僚クラスでも平気で携帯電話でやり取
りしていますが、小沢─亀井ラインは携帯電話を絶対に使わない
のです。副島隆彦氏によると、日本の政・財・官のトップたちの
会話は、エシュロンで盗聴され、一部は日本の情報機関(米国の
手先の部局)や検察庁に流れているのです。このことを熟知して
いる2人は携帯電話などでは会話しないのです。
 これに関連して、日本郵政の社長に斎藤次郎氏──元財務省事
務次官──を任命したのも小沢─亀井ラインの知恵なのです。メ
ディアはこの人事に対し、一斉に批判しましたが、これにもウラ
があるのです。
 小沢─亀井ラインの狙いは、財務省が30の特別会計に隠して
いる埋蔵金を吐き出させることにあります。その大仕事をかつて
「10年に1人の最強の事務次官」といわれた官僚のトップであ
る斎藤次郎氏にやらせようと考えたのです。
 現在、埋蔵金について熟知している幹部官僚は次の3人です。
いずれもこの10年間、財務省の最高幹部だったからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    勝勝栄二郎主計局長
    武藤敏郎大和総研理事長──財務省元事務次官
    坂篤郎・元内閣官房副長官補
―――――――――――――――――――――――――――――
 この3人のうち、坂篤郎氏は小泉政権下で官房副長官補を務め
た人物ですが、現在、日本郵政の斎藤次郎社長の下にいます。民
主党に寝返り、小泉郵政改革を潰す側にまわったのです。郵貯・
簡保は、30ある特別会計の源流の川上に当たるのです。
 郵政改革法案を成立させ、米国に資金を流失させるのを防ぐと
ともに、特別会計に隠されている埋蔵金を吐き出させるために、
斎藤次郎氏を日本郵政の社長にしたのです。
 ところが、あの鳩山─小沢のツー・トップの辞任劇によって誕
生した菅政権は、早くも財務省の軍門に下り、10%の消費税を
打ち出し、小沢、亀井両氏の作ったせっかくの仕掛けを壊そうと
しています。その象徴的な出来事が勝栄二郎主計局長の事務次官
昇進人事です。小沢前幹事長は、香川俊介総括審議官を推してい
たのを覆したのです。菅政権は反小沢を一層確かなものにするた
めに勝氏を事務次官にしたのです。
 菅政権は秋に事業仕訳で特別会計に踏み込むといっていますが
ここまで財務官僚に取り込まれてしまっては到底無理です。勝栄
二郎氏を事務次官にすることは「菅」が「官」になったことを何
よりも意味しているといえます。小沢氏のいない民主党はかつて
の自民党と同じです。    ──[ジャーナリズム論/60]


≪画像および関連情報≫
 ●日本郵政・斎藤社長/民業圧迫に反論/朝日新聞
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ゆうちょ・かんぽ資金を国内外の大型プロジェクトの投融資
  にあてる構想を巡っては、亀井静香郵政改革相が原口氏、斎
  藤社長の3人で構想を練ったと説明していた。しかし、斎藤
  社長は「アイデアを言ってもらうのはありがたいが、運用に
  手をつける人材も育っておらず、リスク管理能力もない。何
  も決めていない」と述べた。また、日本郵政は7日、グルー
  プ内に約20万人いる非正規社員の正社員への採用の方法を
  正式発表した。原則として勤続3年以上、週30時間以上働
  く60歳未満の約6万5千人が対象。今年度は夏ごろから面
  接など2段階の審査を実施し、11月をめどに採用する。不
  合格でも研修を受けて再挑戦できるように、休眠状態の職員
  研修機関「郵政大学校」を復活させる。最終的な採用人数は
  決めていない。
http://www.asahi.com/business/update/0508/TKY201005070563.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

日本郵政斎藤社長.jpg
日本郵政斎藤社長
posted by 平野 浩 at 04:10| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月16日

●「説明責任が問われるメディアの姿勢」(EJ第2857号)

 政治家に「政治とカネ」の問題が起きると、メディアは集中豪
雨のように報道します。しかし、そういう報道するメディアの記
者たちが政府からカネをもらっているとしたら、報道する内容に
大きな疑念が生じます。
 民主党の小沢前幹事長の政治とカネを巡る疑惑については検察
からのリーク情報に基づき、過剰なほど報道するメディアが、自
分たちの問題になると、いっさいだんまりを決め込み、報道しな
い──こんなバカなことがあってもよいのでしょうか。
 この問題で一人頑張っているのが、フリージャーナリストの上
杉隆氏です。彼にはメディアサイドから有形無形のさまざまな圧
力が今でもあるそうです。その上杉隆氏にまつわる知られざる2
つの話題を提供します。
 ひとつはテレビ朝日系『ビートたけしのTVタックル』から上
杉氏に連絡があり、6月1日に官房機密費の特集を収録するので
ゲスト出演して欲しいという依頼があった話です。ところが、直
前になっていきなり中止になったというのです。
 局側に説明を求めると、同番組では野中広務氏をメイン出演者
にする予定であったが、野中氏のスケジュールが合わず、VTR
にも出たくないということで中止になったというわけです。
 上杉氏は、TV局がいったん企画を立てて出演依頼をしておき
ながら、突然中止になるということはまずないことなので、何か
企画を中止せざるを得ない「力」が働いたと思われる──このよ
うに述べています。
 もうひとつは、日本テレビ系『太田光の私が総理大臣になった
ら・・・』での話です。6月18日のことです。番組側は当初、
政治評論家ら10数名に出演を依頼したものの、ほとんどの人に
断られてしまったというのです。
 結局、出演したのは、政治評論家の有馬晴海氏と上杉隆氏の2
人だったのです。しかも上杉氏は米国出張中で、海外からの衛星
中継での出演だったのです。したがって、当初の企画とはかなり
違う内容になったのですが、とにかく放送されたことは画期的な
ことだったといえます。爆笑問題の太田光氏は、番組自体には何
も働きかけの事実はないとし、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マスコミが報道しない、メディアが口をつぐんでいるというこ
 とになれば、日本のメディアは全部駄目ということになる。俺
 はその中にいて、どうしてもそうは思えない。いままでに『太
 田総理』でこういって欲しいといわれたこともない。
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、上杉氏が「それなら、なぜいつもは出演するマスコミ
の人たちが、10数人も出演を断ったのですか」と聞くと、「そ
れはおかしいと思う」と太田氏は認めたというのです。
 一般的にいえば、人は新聞が書いていることやテレビが報道し
ていることは正しいと思っているし、まして繰り返し報道されれ
ば、ますますそれが正しいと信じてしまいます。
 それに検察が誰かを逮捕・起訴すれば、きっとその人は悪いこ
とをしたのだと考えるものです。誰も、検察のやっていることを
露ほども疑っていないからです。ましてや検察とメディアが記者
クラブを介してつながっているなど考えもしないと思います。
 しかし、今回の小沢一郎氏をめぐる検察の取り調べ、逮捕、起
訴やそれを無批判に垂れ流すマスコミの報道のウラを探ってみる
と、こと小沢問題に関する限り、検察や検察審査会、それをめぐ
るメディアの報道は常軌を逸しています。
 かくして小沢一郎氏は、政治に絡むカネを集める古いタイプの
薄汚い政治屋というイメージを着せられており、多くの国民がそ
れを信じています。野党、いや同じ民主党内の反小沢派といわれ
る人々も、それを政治的に利用して既に幹事長職を降りた小沢氏
に対して、その追い落としをはかろうとしています。
 しかし、事実はまるで違うのです。普通小沢氏を批判する人ほ
ど小沢氏についてよく調べず、自分の感情と世間一般の風評だけ
で「あいつは悪いヤツだ」とアタマから決めてかかっていますが
それはメディアが作り出した虚像です。
 小沢氏にかかわるあらゆる情報を集めて客観的に分析した結果
では事実はぜんぜん異なるのです。それはEJの72回の「小沢
一郎論」、ここまで61回の「ジャーナリズム論」を読んでいた
だければわかっていただけると信じます。
 はっきりしていることは、小沢氏に敵対する人は、小沢氏を強
敵と見ており、潰しておかないと、自分たちにとって不利益であ
ると考えているということです。それは小沢氏が稀有な能力を持
つ有能な政治家である証拠であると思います。
 参院選も終ったことですし、「ジャーナリズム論」は今回で終
了し、「新ジャーナリズム論」に引き継ぎます。最後に、副島・
佐藤両氏の次の言葉を紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 副島:民主党の若い大臣たち、と言っても私より5歳ぐらい若
 い政治家ばかりですが、放っておくとすぐに旧い勢力に取り込
 まれる。アメリカの手先にも進んでなろうとする。はっきり申
 し上げれば、小沢一郎が倒れたら、今の民主党は危機を迎えま
 す。小沢一郎の革命路線を守るためには、佐藤さんが言われた
 「協同戦線党」的な国民運動をつくるしかない。もっと民衆が
 民主党政権の存亡に関心を寄せなければいけないと思います。
 佐藤:そのとおりです。小沢一郎を守ることによって、たとえ
 一時、経済が苦しい状況になっても、なんとか持ちこたえるこ
 とができると私は思っています。もし、ここで小沢一郎が敗れ
 れば、どーんと二重底の底が抜けて、恐らく国民の6000万
 人から7000万人がその底のほうに落ちて、永遠に這い上が
 れないという状況が私には見えます。
           ──副島隆彦×佐藤優著/日本文芸社刊
  『小沢革命政権で日本を救え/国家の主人は官僚ではない』
――――――――――――――──[ジャーナリズム論/61]


≪画像および関連情報≫
 ●国会記者と代議士との関係/バルザック
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「国会記者と代議士の関係は、口−マ人と芝居の関係に等し
  い」とバルザックは200年前にいった。ローマ人とは芝居
  の隠語で、「サクラ」のこと。政治記者というのは本当に政
  治家の伴奏者だったとね。それがフランスではなく、今の日
  本の政治記者に当てはまるんだから、本当にどうしようもな
  い。 ──元NHK記者/川崎泰資氏/『週刊ポスト』より
  ―――――――――――――――――――――――――――

太田光氏/爆笑問題.jpg
太田 光氏/爆笑問題
posted by 平野 浩 at 04:14| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月19日

●「検察は訴因を操作している」(EJ休日特集号/003)

 本号はEJの「休日特集号」です。EJ第2857号において
「ジャーナリズム論」は7月9日をもって終了することをお伝え
し、20日からは新しいテーマについて書くことをお約束しまし
た。しかし、「ジャーナリズム論」は7月23日まで継続するこ
とにします。
 というのは、民主党の小沢一郎前幹事長の資金管理団体「陸山
会」をめぐる政治資金規正法違反事件で、東京第1検察審査会は
15日、平成19年分の政治資金収支報告書への虚偽記載容疑に
関し、不起訴処分になった小沢氏について「不起訴不当」と議決
したと公表したのですが、その報道において、あまりにもメディ
アが事実と違うことを伝えているので、それを正しておきたいと
考えたからです。
 第1検察審査会の今回の「不起訴不当」は、第5検察審査会が
出した「起訴相当」に比べると、一段と軽い議決なのです。なぜ
かというと、この「不起訴不当」は検察に再捜査を求める点では
第5検察審査会の「起訴相当」と同じですが、再捜査の結果、検
察が再び「不起訴」を出すと、それで終了なのです。検察は間違
いなく「不起訴」を出すはずです。
 「なぜ、そんなことがわかる?」といわれるかもしれませんが
検察がここで起訴処分にすると、第5検察審査会に対して出した
「不起訴」と整合性がとれなくなってしまうのです。
 もともと小沢一郎氏を一番起訴したかったのは検察なのです。
そのため、かなり前から小沢氏を捜査してきており、最後の詰め
として現職の国会議員──石川知裕氏を逮捕までして、必死に捜
査したのですが、起訴できなかったのです。それを素人同然のグ
ループが短期間調べて「不起訴不当」を出してきても、検察とし
ては起訴できるはずがないからです。
 普通の感覚を持つ新聞社であれば、そういう事情に基づいて第
1検察審査会の「不起訴不当」は「軽い」扱いにするはずです。
しかし、産経新聞は、この事件を一面トップで大きく扱い、2つ
の「主張」(社説)の上の段に「検察は『追及不足』を晴らせ」
というタイトルの記事を書き、第3面にも第5面にも関連記事を
掲載し、第25面には紙面の半分以上も割いて、「国民目線“ク
ロ”判断」のタイトルでこの問題を扱ったのです。これはあまり
にも異常なことであると思います。
 産経新聞は、かつて小沢氏を「小沢容疑者」と書いてトップが
民主党に詫びを入れた勇み足もあり、小沢氏に対していささか感
情的です。これほどはひどくなくても他のメディアも似たり寄っ
たりの報道であり、小沢氏の印象が限りなく“クロ”になってい
ます。これには「どうしても小沢を潰してやる!」という強い意
思を感じます。
 われわれのアタマの中には、知らず知らずのうちに次の2つの
前提が刷り込まれており、それによって物事を判断しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.検察は社会の悪に立ち向かい、正義を実現する集団であり
   そのやることにいささかも間違いはない。
 2.新聞は不偏不党の精神に基づき、地道な取材を積み重ねて
   事実に基づき、正しい記事を書いている。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この前提で考えると、小沢一郎という政治家は「カネに汚い政
治屋」になってしまうのですが、小沢氏について書かれている多
くの本を読む限りにおいて、彼はそういう政治家とは正反対の人
物であることがわかります。
 しかし、今回の小沢捜査をめぐる検察のやり方を見ていると、
残念ながら、上記1の前提が崩れざるを得ないのです。それは次
の2つの本に読むことによって一段と強くなると思います。なぜ
最近冤罪事件が多いのか、その原因がわかります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ◎江副浩正著/中央公論社
     『リクルート事件・江副浩正の真実』
    ◎佐藤栄佐久著/平凡社
     『知事抹殺/つくられた福島汚職事件』
―――――――――――――――――――――――――――――
 リクルート事件については、EJでご紹介したように、検察の
取り調べには多くの疑問があります。福島汚職事件も現在進行中
の裁判ですが、裁判が進行するにつれて、こちらも限りなく冤罪
に近くなっています。
 これらは両方とも被疑者の書いた本ですが、事実に基づいてき
わめてていねいに記述されており、冤罪はこのようにして作られ
るのかということがよくわかるのです。
 前提2についても、ここまで書いてきたように日本のメディア
には多くの問題があります。とても不偏不党の精神に基づいて公
正に記事を書いているとは思えないのです。
 それは官邸機密費がマスコミに渡っているのではないかという
疑惑に対してメディアはいっさい報道しないことによって、明ら
かです。メディアは自分たちに都合の悪いことはいっさい報道し
ないのである、と。
 小沢事件は何かが仕組まれています。5月に第5検察審査会の
出した「起訴相当」と7月に第1検察審査会の出した「不起訴不
当」──まるで別々の公訴事件のようです。事情の知らない人は
「小沢というのはいろいろ悪いことをやっている」と思ってしま
うでしょう。
 しかし、これは同じ事件なのです。なぜ、一本化して審理しな
いのか。そんなことをしているのに、検察と裁判所は、大久保秘
書を西松建設・ダミー献金公判の訴因を変更し、それとは別の事
件である今回の事件と一緒にして審理しようとしているのです。
まったく矛盾しています。それは訴因変更しないと、大久保被告
は無罪になるからです。検察は村木事件でも佐藤栄佐久事件でも
同じことをしています。これはとても公正な裁判とはいえないで
しょう。このことはメディアでは報道されないので、一般には知
られていませんが、検察も自分たちに都合のよいように裁判を動
かしています。 ──[休日特集『ジャーナリズム論』/03]


≪画像および関連情報≫
 ●検察審査会とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  検察審査会とは、検察官が独占する起訴の権限(公訴権)の
  行使に民意を反映させ、また不当な不起訴処分を抑制するた
  めに、地方裁判所またはその支部の所在地に設置される、無
  作為に選出された国民(公職選挙法上における有権者)11
  人によって構成される機関。     ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

注目される小沢一郎.jpg
注目される小沢 一郎氏
posted by 平野 浩 at 04:13| Comment(1) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月20日

●「4億円関連の虚偽記載はない」(EJ第2858号)

 まず、産経新聞の記事を以下に掲載します。これは他の新聞も
同じことを書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 東京地検特捜部は2月、陸山会が16年10月に東京都世田谷
 区の土地を購入した際、土地代金の原資として小沢氏から借り
 た4億円を収入として政治資金収支報告書に記載せず、土地代
 金約3億4千万円の支出も記載しなかったなどとして、元私設
 秘書で衆院議員の石川知裕被告(32)らを起訴した。
           ──2010年7月16日付、産経新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 この記述には事実と異なることがあります。それは「土地代金
の原資として小沢氏から借りた4億円を収入として政治資金収支
報告書に記載せず」の部分です。これは事実誤認です。
 陸山会の2004年(平成16年)度政治資金収支報告書には
次の記載があるからです。考えられないことですが、検察はこの
記載を見落したのでしょうか!?
―――――――――――――――――――――――――――――
   2004年10月29日:小沢一郎 借入金4億円
―――――――――――――――――――――――――――――
 既にEJ第2767号で述べていますが、1月10日(日)の
サンデープロジェクト(テレビ朝日)において、郷原信郎名城大
教授(元特捜検事)が実物を見せておりますし、私もそれを自分
の目で見ています。なぜ、この時期になっても、事実と異なるこ
とを大新聞は平気で書くのでしょうか。
 実はここが問題なのです。一般の人のアタマには政治資金収支
報告書(以下、収支報告書)は公開されていて、誰でも見ようと
思えば見ることができると思っています。ましてTVや新聞社な
どのマスコミは、職務上当然チェックできる立場にいます。
 ところがです。結論から申し上げるならば、現時点では誰も見
ることはできないのです。なぜでしょうか。
 理由は2つあります。1つは、総務省は収支報告書の公開を過
去3年分に絞っていることです。したがって、2004年分の収
支報告書は誰も見ることができないのです。
 2つは、2009年3月の大久保公設秘書の逮捕にからんで小
沢事務所を家宅捜査したとき、検察は2004年分の収支報告書
の原本を押収していることです。つまり、もはや陸山会の収支報
告書は、小沢事務所の人も見ることはできないのです。
 見ることができるのは、特捜部の検事だけです。特捜部の検事
は、事情聴取のさい、石川議員に4億円の未記載の理由を聞いて
います。6年も前の帳簿の数字の話です。原本を押さえておいて
「記載していないじゃないか」と問い詰められれば、誰でも記載
しなかったかもしれないと思うのではないでしょうか。
 普通であれば、6年も前のことですから、原本を調べて返事す
ると答えるでしょうが、それはできないのです。検察の卑劣なこ
とは、押収した収支報告書を石川氏に見せ、記載されていないこ
とを指摘していないことです。検察としてはそれはできないはず
です。なぜなら、それはきちんと記載されているからです。
 そうすると、大きな疑問が生じます。郷原信郎氏はそのことを
何で知ったのかです。郷原氏は検察関係者だから知ることができ
たと考える人が多いと思います。さらに、郷原氏がテレビで見せ
た書類は何であったかです。
 実は、収支報告書は官報に記載されるのです。官報とは、政府
が公式に発行する政府機関紙であり、法律、政令、条約などの公
布、国や特殊法人などの諸報告や資料を公表する文書です。郷原
氏がテレビで公開したのは、おそらく官報であろうと思います。
以下にそのPDFを示します。これは「オリーブX!ニュース」
の徳山勝氏がサイトで公開されているものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪官報/号外第223号≫
 http://www.soumu.go.jp/main_content/000047155.pdf#page=162
―――――――――――――――――――――――――――――
 「陸山会」が出ているページは247ページです。スクロール
すると表示されますが、面倒な人もいると思うので、その肝心な
部分は添付ファイルとして付けておきます。
 収支報告書が官報に載っていることを知っている人は限られる
と思います。検察としては、まさか元特捜部の検事がそれを暴く
とは考えてもいなかったと思います。それだけ、検察の郷原氏を
見る目は今後厳しくなると思われます。
 いずれにせよ、2004年(平成16年)の収支報告書に4億
円は、小沢一郎からの借入金としてちゃんと記載されているので
す。しかし、石川議員はその収支報告書の虚偽記載──ミスを認
めたので、逮捕・起訴までされているのです。当然のことながら
これは錯誤であって、公判では確実に無罪になります。
 陸山会が土地取引をしたのは、2004年10月29日のこと
です。前後のお金の流れから見ると、土地を購入する資金が陸山
会にはなかったので、石川議員は小沢氏にそのことを話し、4億
円を現金で借り、陸山会に入金したのです。土地の代金支払いに
はその金が使われものと思われます。
 収支報告書に上記の記載があるので、土地購入に関する陸山会
の手続きには何も問題がないことになります。つまり、虚偽記載
でも何でもないということです。
 ここで、もうひとつ事実があります。陸山会には小沢一郎名義
の4億円の定期預金があるという事実です。石川議員はその4億
円を担保にして銀行から同額の融資を受けているのです。
 メディアはこれを「複雑な資金操作」と書いて批判しています
が、陸山会によると、お金が足りなくなると、この定期預金を担
保にして銀行から資金を借り、その後の陸山会への政治資金の入
金の中から銀行に返済することは何回もやっているのです。別に
違法ではないし、「複雑な資金操作」などではないのです。
              ──[ジャーナリズム論/62]


≪画像および関連情報≫
 ●衝撃の郷原発言/サンデー・プロジェクトより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  田原:
  この土地を買ったという4億円が、どうも小沢さん側が言っ
  ているように銀行から融資を受けたんではないと。どうもこ
  れは小沢さんの金ではないかと。
  郷原:
  私も最初はこう理解していたんですね。2005年に土地を
  買ったということになっていたけれども、実際には2004
  年に買っている。2004年の土地を買った原資のことが、
  全然収支報告書に出ていない。だから不記載だ。だから石川
  さんは違反だ。ということかと思っていたんですね。ところ
  がよく見てみると、2004年の収支報告書には小沢さんか
  らの4億円の借入れの記載は、あるんです。
  田原:
  えっ。ちょっと大変なことだ。何ですか?
  郷原:
  2004年の収支報告書には「小澤一郎 400,000,000」 と
  いうのは書いてあるんです。
  田原:
  この4億円が全く書かれていない謎の金ではなくて。ちょっ
  とアップしてください。郷原さんの持っている紙。どこに書
  いてありますか?
   http://ameblo.jp/hirokane604/entry-10431618730.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

サンプロでの衝撃の発言/郷原信郎氏.jpg
サンプロでの衝撃の発言/郷原 信郎氏

陸山会/2004年収支報告書.jpg
陸山会/2004年収支報告書
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2010年07月21日

●「『期ずれ』は必然で違反ではない」(EJ第2859号)

 陸山会の小沢一郎名義の4億円の定期預金は何に使われたので
しょうか。これについてはすでにEJでは書いていますが、整理
をしておきたいと思います。
 世田谷の土地購入のときは、陸山会には資金がなかったので、
小沢氏から4億円を現金で借り、それで土地代金を支払い、同時
に銀行には定期預金を担保にして4億円の融資の手続きをしたの
です。小沢氏に返済するためです。
 小沢氏から4億円の現金を借り、それを小沢氏名義の同額の定
期預金を利用して返済するのはおかしいではないかという人もい
るでしょう。それでは、小沢氏から8億円借りたのと同じではな
いかと。実際に、検察は小沢氏から借りた4億円と銀行借り入れ
の4億円の計8億円を収支報告書に記載していなかったとして、
収支報告書虚偽記載で石川知裕議員を起訴しているのです。
 これは想像するしかありませんが、恐らく陸山会の小沢氏名義
の定期預金は、同会の政治活動において、不意の資金繰りに使っ
てもよいという了解を小沢氏から受けているのではないかと思わ
れるのです。小沢氏の政治活動ですから、別に不思議なことでも
何でもないと思います。
 検察のいう8億円の虚偽記載のうち、小沢氏から借りた4億円
は収支報告書にちゃんと記載があるので、問題はないのです。そ
れでは、定期預金を担保に銀行から借りた4億円の記載はなぜな
いのでしょうか。
 結論からいうと、これは記載しなくてもよいのです。なぜなら
小沢名義の定期預金を担保にして銀行から借り入れた4億円は、
政治資金収支報告書の「収入」には該当しないので、記載する必
要がないからです。
 これもEJ第2766号で述べていますが、繰り返して説明を
します。政治資金規正法第4条の政治団体の「収入」の定義は、
次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  「収入」とは、金銭、物品その他の財産上の利益の収受で、
  第八条の三各号に掲げる方法による運用(銀行預金など)の
  ために供与し、又は交付した金銭等の当該運用に係る当該金
  銭等に相当する金銭等の収受以外のものをいう
               ――政治資金規正法第4条より
―――――――――――――――――――――――――――――
 法律用語はわかりにくいですが、要するに政治団体が手元資金
を銀行預金で運用し、それを担保に相当額を借り入れても、その
借入金は政治資金規正法上の「収入」には該当しないのです。
 そうであると、残りの4億円も問題がないことになります。そ
れでは、石川議員はどうして逮捕・起訴されたのでしょうか。
 想像ですが、政治資金規正法の「収入」の定義については、石
川議員は、知らなかったと思います。そのため、そこを検察から
指摘されると「記載していない」ことを認めてしまったものと思
われます。だから、虚偽記載とされたのです。
 しかし、記載する必要がないものを記載しないことを訴因とし
て逮捕・起訴されてはたまったものではありません。検察はそれ
ほど乱暴な捜査をやったことになります。もっとも裁判になれば
石川氏の弁護陣はそこを衝くでしょうから、虚偽記載は錯誤にな
り、無罪になると思われます。しかし、それは先の話です。無罪
の判決が出る頃はほとんどの国民は忘れています。検察としては
小沢氏を貶めることが目的なので、それでいいのです。「小沢に
退場してもらう」ことに目的があるとしたら、ひどい話です。
 そうすると、小沢氏から借り入れた4億円は記載があり、銀行
借り入れの4億円は記載が不要なら、石川議員は何をもって起訴
されたのでしょうか。
 なお、陸山会が保有している小沢一郎名義の4億円の定期預金
──この定期預金の使い方については別の考え方もあります。そ
れは、5月4日付のEJ休日特集号第2号に詳細に書いたので、
関心があればそちらを参照していただきたいと思います。これも
石川知裕議員の無罪を立証しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
≪EJ休日特集号第2号/2010年5月4日≫
http://electronic-journal.seesaa.net/article/151320192.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、特捜部としては、何をもって石川議員を有罪にしようと
して起訴したのでしょうか。
 そうして出てくるのが、土地を購入した時期にその記載がなく
登記をした時期がずれているという、いわゆる「期ずれ」だけと
いうことになります。
 世田谷の土地を購入して代金を支払ったのは、2004年10
月29日のことです。ところが、その土地の登記が行われたのは
2005年1月7日なのです。購入と登記に2ヶ月のずれがあり
しかも年度をまたいでいる──したがって、政治資金収支報告書
の虚偽記載であるというわけです。
 しかし、それには理由があるのです。これについては既に5月
28日付のEJ第2822号で次のことを指摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 それは、2004年10月時点の世田谷区の土地の地目は農地
であることです。そうであるなら、小沢氏の名義は「所有権移転
請求権」に過ぎず、小沢氏に所有権は移転していないのです。そ
して2005年1月に農地転換が完了し、地目が宅地になった時
点ではじめて小沢氏名義の本登記が完了されているのです。
 したがって、陸山会における事務所費計上は、農地では法的に
困難であるので、農地時点での10月の事務所費記載は記載され
ていなくて当然なのです。そうなると、「期ずれ」ですらないと
いうことになります。一体どこに犯罪性があるのでしょうか。
             ──5月28日付EJ第2822号
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[ジャーナリズム論/63]


≪画像および関連情報≫
 ●うろたえるメディア/1/10のサンデープロジェクト
  ―――――――――――――――――――――――――――
  財部:僕はやっぱり星さんと岸井さんにお尋ねしたいんです
  が、いま郷原さんの04年の収支報告書に4億円の借入れ記
  載がちゃんとあるというのはちょっと衝撃的で、新聞はない
  と報じていますよね。それはあまりにも事実と乖離し過ぎま
  せんかね?
  岸井:
  そうですね。そこは確認しなければいけないけれども、少な
  くとも04年も05年もあるんです。同じ4億なんですね。
  財部:
  でも新聞は04年が問題だと言ってるじゃないですか。
  岸井:
  だからその辺の捜査の仕方がなんか変だな、という所はね。
  それと今や本当に実力者ですから、小沢さんは。政治をあれ
  しているわけですから。私もずっと取材していて感じるんだ
  けど、田中角栄さん、金丸さん、竹下さん、つまり政治は力
  と思っていて、それは数だという所に必ずお金が絡んできて
  しまうわけでね。それでみんな失脚したでしょ。
  田原:
  私は率直に言いたい。どうも毎日新聞を始め、日経新聞、読
  売新聞。検察の肩を持ち過ぎているんじゃない?
  岸井:
  いやそんなことはないです。けっこうメディアというのは検
  察とは緊張関係ですから、いつも。
    http://ameblo.jp/hirokane604/entry-10431618730.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

石川知裕議員.jpg
石川 知裕議員
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2010年07月22日

●「検察と検察審査会の関係」(EJ第2860号)

 現在、ある意味で政治家小沢一郎氏の命運を決める第5検察審
査会での小沢氏に対する審理はストップしています。審査補助弁
護士が決まっていないからです。
 これについては、7月6日付のEJ第2849号に書きました
が、その後新しい情報が入ってきたので、もう少していねいにお
伝えすることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
≪EJ第2849号/2010年7月6日≫
http://electronic-journal.seesaa.net/article/155558742.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 東京地検特捜部が今年の1月に石川知裕議員を「政治資金収支
報告書虚偽記載」の容疑で逮捕したとき、それとほぼ同時にある
市民団体(個人)が小沢氏を同じ容疑で検察に刑事告発している
のです。この事実は新聞には載りましたが、扱いが小さかったの
で、ほとんどの人が気が付かなかったと思います。
 実は、東京地検特捜部が小沢氏に対して2度にわたる事情聴取
をしたのは、この告発を受けてのものだったのです。一般的には
小沢事務所の秘書など関係者3人が逮捕されていたので、事務所
のトップである小沢氏が事情聴取されたのであろうと思われてい
ますが、実は違うのです。2009年3月にも特捜部は小沢事務
所の大久保秘書を逮捕していますが、そのさい小沢氏本人は事情
聴取されていないのです。やはり小沢クラスの政治家になると、
特捜部が主体的に事情聴取しにくいのです。これに対して市民団
体からの刑事告発の場合、特捜部主体ではないというスタンスが
とれるので、事情聴取がやりやすいものと思われます。
 それだけに、小沢氏を告発した市民団体にはウラがありそうで
す。あまりにもタイミングが良すぎるからです。検察審査会はあ
くまで検察とは別の組織ですが、それは外部からの見方であり、
内部的にはつながっていないとはいえないのです。とくに気にな
るのは、石川議員の逮捕にからんで小沢事務所で働いていた職員
が検察に情報をもたらしています。あくまで推測ですが、こうい
う人物が告発人になる可能性が十分あるのです。
 一般的には、検察審査会は、検察官の下した公訴権の行使に対
して民意を反映させ、また不当な不起訴処分を抑制するための機
関であって、検察とは対立する組織なのです。
 しかし、小沢事件の場合、検察が起訴しにくい不起訴の事案を
強制起訴させることが可能であるという点で検察と検察審査会の
目的は合致するのです。したがって、そこに何らかのつながりの
ようなものがあっても不思議ではないといえます。
 まして、刑事告発を受ける受けないの判断は検察庁が行うので
す。したがって、検察がやりたくないものは受け付けないことも
十分考えられます。今までにも千葉県知事への告発や自民党が選
挙敗北後に官邸機密費を使ったという疑惑の河村元官房長官への
告発など、多くの告発が行われていますが、それらを検察は門前
払いにしたり、受け付けても放り出して審理していない事案はた
くさんあるのです。ところが、小沢問題に関してはすぐ受け入れ
直ちに審理に入る──実に違和感があります。
 そもそも検察審査会という制度は、公平な制度とはいえないと
思います。裁判員制度の裁判員のように、公開されたルールにし
たがって運営されておらず、審査は、実質的に検察審査会事務官
と運営補助員の弁護士により取り進められるだけです。
 11人の審査員はくじで選ばれた法律の素人であり、彼らに対
して説明できるのは、担当検事と検察の指定した補助弁護士だけ
であり、被告発人の弁護士などはいっさい説明する機会が与えら
れないのです。つまり、検察側だけが検察審査会の議決に影響を
与えることができることになり、これは不公平です。それでも検
察審査会が2回続けて「起訴相当」を出せば、被告発人は強制起
訴されてしまうのです。
 どうやら、今年の1月に小沢氏の秘書など3人が逮捕された直
後に小沢氏を刑事告発した市民団体は2つあったようです。そし
て、検察が小沢氏に対して不起訴処分を出すと、それぞれの告発
人は、起訴を不当として検察審査会に審査を申し立てたものと思
われます。
 今回の小沢一郎氏への告発では、同じ事件を2つの検察審査会
で審査するという不思議な方法がとられています。第5検察審査
会は、土地購入代金の支払い日を2005年に虚偽記載したとき
に謀議があったという提訴を審査しています。
 そして、第1検察審査会は、2007年に小沢氏に4億円返済
したときに虚偽記載の謀議があったとの提訴に基づいて審査する
ことに加えて、2004〜2005年の報告書記載についても審
査しているのです。さらに第1検察審査会の場合は、消えたはず
の水谷建設の話が出てきているのです。これについて、「オリー
ブX!ニュース」の徳山勝氏は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 市民団体が検察審査会に小沢氏を「不起訴不当」として訴えた
 事由は、土地購入に関して動いた資金を、政治資金報告書に虚
 偽記載する時に、小沢氏と秘書たちが謀議したに違いない、と
 云うものである。その動機として、水谷建設からの資金を隠蔽
 する必要性があったと言いたいらしい。それなら、なぜ第五検
 察審査会は、その点に触れなかったのだろう。そう云う疑問が
 浮かび上がってくる。今回の議決要旨には、水谷建設からの資
 金提供は「本件の虚偽記載とは直接結びつかないが」と書いて
 ある。おそらく審査員の中から、「なぜ、何を謀議する必要が
 あるのか」との趣旨の質問が出たのだろう。そこで検察は「水
 谷建設からの資金提供を隠すためだ」とのシナリオを展開した
 と推測される。しかも、検察が捜査し立件した事件ではない。
 検察が一年以上かけ捜査しても立証できなかった容疑である。
   http://www.olive-x.com/news_ex/newsdisp.php?n=93760
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[ジャーナリズム論/64]


≪画像および関連情報≫
 ●第5検察審査会の「起訴相当」に思うこと/動画付き
  ―――――――――――――――――――――――――――
  議決書の内容をほとんど検証することなく、小沢氏が起訴相
  当とされた事実のみをマスゴミは報道する、政治家も起訴相
  当という判断だけを取り上げ大混乱、一般国民も何も考えず
  に小沢氏が悪いとみなす。思考停止状態、異常事態です。ネ
  ットだけが冷静に真実を追求している。11人の素人検察審
  査員と審査補助員が作成した議決書はとんでもない、驚くほ
  ど呆れた内容。郷原 信郎 弁護士は検察審査会の議決書は、
  これでは検察側も困るだろう!さすがにこの議決書では検察
  も驚いただろう。起訴になった場合、指定弁護人に今までの
  資料を提供するのは、いろんなものがあり、それを指定弁護
  人に渡すのは検察にとっても屈辱以外なにものでもない。し
  かし、この議決書では起訴することはできない。これは審査
  補助員弁護士が11人の素人審査員に複雑な小沢献金問題を
  公正に正確に伝えなかった。それは審査補助員弁護士自身が
  理解していなかったのか、説明不足なのか、わざと誘導した
  のかマスゴミが報道して植えつけた小沢=悪の先入観をさら
  に増幅させた。その結果市民感情だけが優先し、11人全員
  が起訴相当と議決。とんでもない議決書を作成された。11
  人の素人審査員は審査補助員弁護士に誘導された可能性が高
  く、このとんでもない議決書がもたらした混乱の責任は審査
  補助員弁護士が非常に大きい。(動画付き)
    http://oujyujyu.blog114.fc2.com/blog-entry-822.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

郷原信郎氏/「起訴相当」議決について.jpg
郷原 信郎氏/「起訴相当」議決について
posted by 平野 浩 at 04:09| Comment(1) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月23日

●「国民を惑わすメディアの小沢報道」(EJ第2861号)

 検察審査会の議決が出るたびに4億円とか8億円とかの数字が
新聞紙上に躍ります。この数字が根拠がないことについては、こ
れまで述べてきたことで明らかであろうと思います。
 しかし、現在2つの検察審査会で審査が行われているのは、石
川知裕氏を含む3人が逮捕・起訴のさい、事務所の責任者である
小沢一郎議員が不起訴になったことを不当としての訴えに基づく
ものです。
 ところで、検察が石川知裕氏を含む3人の罪状は一体何なので
しょうか。新聞は「政治資金収支報告書への虚偽記載」とのみ報
道し、それ以上のことはすべて省き、一切書いていないのです。
そうすると、何が起きるかというと、新聞の読者は虚偽記載と4
億円や8億円を結びつけ、小沢氏らは裏金を受け取り、悪いこと
をしていると思ってしまいます。
 しかし、起訴容疑は、小沢事務所が世田谷の土地を購入するさ
い、土地代金を支払った日─2004年10月29日には収支報
告書に記載がなく、土地を登記した日──2005年1月7日に
記載している。これは収支報告書の虚偽記載であって、これに小
沢一郎議員は共謀加担している──だから共同正犯として小沢氏
も起訴すべきだというだけのことなのです。4億円も8億円もカ
ケラもないのです。
 当初東京地検特捜部は、小沢氏が陸山会に貸した資金4億円は
水谷建設の裏金ではないかと疑い、現職の国会議員まで逮捕して
捜査したのですが、そういう証拠がなかったのです。だから検察
はそれを訴因にできなかったのです。
 しかも、小沢氏からの借入金である4億円は収支報告書に記載
されており、同額の定期預金を担保として銀行から借り入れた4
億円は収支報告書の「収入」に該当しないので、記載する必要は
ないのです。したがって、それを虚偽記載に問えない。このよう
に検察は、「虚偽記載」の中身をどんどん変更し、結局土地の代
金支払い日と登記の日がずれていて、年度をまたいでいるという
いわゆる「期ずれ」しか虚偽記載に問えなかったのです。小沢氏
はその「期ずれ」処理の共同正犯として2つの検察審査会で審査
が行われています。
 しかもです。その「期ずれ」も虚偽記載ではないのです。それ
は購入した土地の地目が「農地」であり、代金支払いの時点では
事務所経費として計上できなかったからです。そのため登記時点
で計上したものであり、虚偽記載ではないのです。
 「オリーブX!ニュース」の主宰者の徳山勝氏はこれに関連し
て次のように書いています。
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 郷原氏が、あるテレビ番組で、(検察審査会の)起訴相当の中
 身を説明したら、全員が驚いたそうだ。当然だ。マスコミは、
 検察審査会の議決の中身抜き・吟味抜きで、「小沢氏はまだ居
 直るのか」(朝日)「全員一致は重い」(毎日)など、煽るだ
 け煽ったのだ。
    http://www.olive-x.com/news_ex/newsdisp.php?n=90280
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 いちばん卑劣だと思うのは、民主党の反小沢グループの幹部た
ちが、その事実を知りながら、それを小沢一郎議員の追い落とし
のための政争の具にしようとしていることです。このようなこと
をしているようでは民主党は終わりであると思います。
 ところで第1検察審査会の審査について注目すべき事実があり
ます。第5検察審査会は、まさしく「期ずれ疑惑」の小沢氏の共
同正犯を扱っているのに対し、第1検察審査会の方は、「本件の
虚偽記載とは直接結びつかないが」と断って水谷建設の資金提供
疑惑の記述があることです。本件に関係ないのになぜ書いたので
しょうか。
 これについて、既出の「オリーブX!ニュース」の徳山勝氏は
次のように述べています。
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 おそらく審査員の中から、(代金支払いの虚偽記載の謀議につ
 いて)「なぜ、何を謀議する必要があるのか」との趣旨の質問
 が出たのだろう。そこで検察は、「水谷建設からの資金提供を
 隠すためだ」とのシナリオを展開したと推測される。しかも、
 検察が捜査し立件した事件ではない。検察が1年以上かけ、捜
 査しても立証できなかった容疑である。
    http://www.olive-x.com/news_ex/newsdisp.php?n=90280
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 本来検察審査会の審査の模様は守秘義務があって、絶対に外に
漏らしてはいけないことになっているのですが、なぜか漏れてき
ています。新聞はいっさい報道しないのですが、4月27日の第
5検察審査会の議決直後に評決が11対0の全員一致だったとす
る報道が流れたのです。それをめぐって、ある市民団体が東京地
検に補助弁護士を務めた米澤敏雄弁護士ら多数の関係者を「検察
審査会の守秘義務違反」で告発状を出したのです。しかし、検察
はこの告発状を受理しなかったようです。
 この告発を受けて米澤敏雄弁護士は補助弁護士を降り、現時点
でも第5検察審査会の補助弁護士は空席のままです。この市民団
体がどういう団体であるかは不明です。だれでもそういう告発は
できるはずですが、検察は自らにとって都合の悪い事案について
は拒否してしまうのです。
 しかし、これで第5検察審査会の議決が出るのは、早くても9
月以降になることは確実なのです。それにしても検察は、石川知
裕議員らの公判をなぜやろうとしないのでしょうか。
 それは明らかです。もし、公判を開いても検察の負けは必至で
あり、それが第5検察審査会の議決に影響を与えることは確かな
のです。したがって、特捜部としては第5検察審査会にもう一度
「起訴相当」を出させたかったのでしょう。しかし、頼みの第1
検察審査会も「不起訴不当」であり、どうやら検察の小沢潰しは
失敗に終りそうです。──[ジャーナリズム論/65/最終回]


≪画像および関連情報≫
 ●第5検審の再議決は「起訴相当」にはならない!?
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  関係者の間では、「小沢氏強制起訴」の可能性は以前より低
  くなった、とする見方が強い。法曹関係者はこう指摘する。
  「最初に陸山会事件で、小沢氏を告発した人は、反小沢的な
  考えの持ち主。今回、米澤氏らを告発しようと動いたのは、
  親小沢的な考えの持ち主でしょう。どちらの結論が出るにし
  ても、告発した『市民団体』の政治的意図を知りえないまま
  検察審査会が政治利用されている。現行の検察審査会制度に
  何らかの問題があることが、今浮き彫りになってきたのでは
  ないでしょうか」  『アエラ』7/19/編集部三橋麻子
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朝来市を訪れた小沢氏.jpg
朝来市を訪れた小沢氏
posted by 平野 浩 at 04:11| Comment(3) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする