2009年10月14日

●携帯電話が変貌しつつある(EJ第2673号)

 携帯電話が劇的に変貌しつつあります。アイフォーンをはじめ
とするスマートフォンがどんどん普及しているからです。私事で
すが、今年4月末日に「アイフォーン3G」を購入し、既に5ヶ
月使ってきていますが、使い勝手は上々です。
 EJでは携帯電話のテーマを過去に何回も取り上げています。
それは技術革新が最も顕著にあらわれるのが携帯電話であるから
です。EJの一番新しい携帯電話の記事は、2007年1月5日
から3月6日までの41回にわたる連載です。
 2006年12月に番号ポータビリティ制度を利用して、19
99年5月から利用してきたNTTドコモからソフトバンクに切
り替えたのです。ソフトバンクの孫社長の携帯電話の改革に賭け
る意気込みに共感したからです。
 このときの連載は大変反響を呼び、ブログでは多くの方からア
クセスをいただきました。この内容は、現時点でも背景を知るに
は役立つと思いますので、興味があればぜひブログを読んでいた
だきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
     EJ第1993号〜第2033号
     『ケータイ2.0/生き残るのはどこか』
       ― 知られざる衝撃の通信戦争 ―
http://electronic-journal.seesaa.net/category/2498896-1.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 あれから2年半以上が経過し、孫社長の仕掛けたケータイの革
命は急激に進んでいます。そして、2008年7月11日――日
本でアイフォーンが発売されたのです。
 そのとき、発売日前日からキャリアになるソフトバンクモバイ
ルの原宿表参道の旗艦店の前には長い行列ができたのです。東京
メトロ・明治神宮前駅近くから始まった行列は総延長900メー
トル、渋谷駅に近い東京電力・電力館前まで続いたのです。行列
した人数は約1500人といわれています。
 しかし、発売当日の人気にもかかわらず、日本でのアイフォー
ンの普及は現在でも今ひとつであり、大きく伸びているとはいえ
ないのです。その理由は、日本のケータイの環境が世界に比べる
ときわめて特殊であり、「ガラパゴス」といわれていることに深
く関係しているからです。
 しかし、ケータイの変革の波は、世界レベルで津波のように起
こっており、日本だけ特殊環境――けっして居心地の良くない環
境――のままでいられるはずがないのです。おそらく数年のうち
に劇的変化が起きることは確実と思われます。
 そこで、EJの今回のテーマを次のように決め、本日から連載
することにします。最新情報を盛り込む予定ですので、ご愛読を
お願いします。今回は予告編です。
―――――――――――――――――――――――――――――
   『電話が変貌する!スマートフォン時代が到来する』
    ─iPhone革命とクラウド・コンピューティング─
―――――――――――――――――――――――――――――
 2007年6月29日――米国でアイフォーンが発売された日
です。米国でも、アイフォーンの販売を行う各地のアップルスト
アとAT&Tのショップの前には長い行列ができたのです。
 予約受付を廃し、アップル社とコネのある人にも一切配慮せず
実際に並んだ順番でしか購入できないという販売方式をとったか
らです。そのため、行列には多くの有名人が並んだのです。
 ニューヨークのソーホーにあるアップルストアでは、映画監督
のスパイク・リーや女優のウーピー・ゴールドバーグ、フィラデ
ルフィアでは、第97代目のジョン・F・ストリート市長までが
並んだのです。
 このストリート市長は、フィラデルフィア市内全域を無線LA
Nによってカバーする計画を強力に推進するITに強い市長であ
り、そういう市長だからこそ、アイフォーンは誰よりも早く手に
したいと思ったのでしょう。
 もっとも象徴的だったのは、シリコンバレーのサンタクララに
あるアップルストアの前に並んだスティーブ・ウォズニアックで
す。ウォズニアックといえば、アップル社の現CEOスティーブ
・ジョブズと一緒にアップル社を創立した仲間です。
 実はウォズニアックのもとには、ジョブズCEOから翌日の土
曜日にアイフォーンを届けるというメッセージが入っていたので
すが、彼は明日まで待っていられないとして、発売日の午前3時
半から並び、子供の分を含めて自ら購入したというのです。
 このようにして、米国国内でアイフォーンは、最初の2日間で
27万台、3ヶ月で100万台が販売されたのです。それから、
わずか一年間でアップル社は世界のベスト10圏内に入る携帯電
話メーカーになったのです。
 アップル社がアイフォーンを発表したのは2007年1月9日
のことです。これに対して、アップル社の長年のライバルであり
アップル社のiPodに対抗して発売したマイクロソフト社の携
帯音楽プレーヤー「Zune」の開発者は、当時次のように論評
したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (そのような製品は)携帯電話として優秀か、携帯音楽プレー
 ヤーとして優秀かのどちらかしかない。電話とメディアプレー
 ヤーを一緒にした場合、デザイン上の問題が起こる。様々に異
 なる入力をどう行わせるか、最適な画面サイズは何か、バッテ
 リー駆動時間などだ。           ――大谷和利著
     『iPhone をつくった会社』/アスキー新書/073
―――――――――――――――――――――――――――――
 その時点では、アップル社がどのような製品を出してくるか想
像もできなかったのだから仕方がないですが、マイクロソフト社
の開発陣の限界がよくあらわれています。電話と音楽プレーヤー
との一体化どころか、アップル社はネットをしっかりと視野に入
れていたからです。―[クラウド・コンピューティング/01]


≪画像および関連情報≫
 ●マイクロソフト社発表/2009年9月15日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「Zune HD」 は有機ELタッチスクリーン、「NVIDIA Tegra
  HD」プロセッサを搭載し、HDラジオ、ウェブブラウザなど
  の機能を搭載する。16GB版が219.99 ドル、32G
  B版が289.99 ドル。Zune HD に合わせて新版 Zuneソ
  フトと各種サービスも提供開始した。新版ソフトは検索機能
  やレコメンド機能を備え、最近追加したコンテンツやお気に
  入りのコンテンツにホーム画面からワンタッチ、ワンクリッ
  クでアクセスできるクイックプレイ機能などが盛り込まれて
  いる。         ――ITメディア・ニュースより
  ―――――――――――――――――――――――――――

「Zune/マイクロソフト社」.jpg
「Zune/マイクロソフト社」
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2009年10月15日

●「スティーブ・ジョブズとはどんな人物か」(EJ第2674号)

 1998年のiMac、2001年のiPod、そして、20
07年のアイフォーンの発売、いずれも成功し、今やアップル社
は世界中の注目を浴びる企業になっています。何しろアップル社
は米『フォーチュン』誌による「21世紀初頭に全米で最も尊敬
される企業」のひとつになっているのです。
 しかし、今から15年ほど前の1990年代半ばにはアップル
社の財政は最悪の状態にあり、いつ倒産してもおかしくなかった
のです。それなのにどうしてアップル社は立ち直ることができた
のでしょうか。
 それは、1996年にかつてCEOであったスティーブ・ジョ
ブズが特別顧問としてアップル社に復帰したことが、アップル社
の大復活につながったことは間違いないのです。
 これからのケータイ新時代において、アップル社が何を仕掛け
てくるかはきわめて重要です。それを予測するには、ジョブズが
アップル社に復帰してから何をしたかについて知っておくことは
役立つと思うので、それについて調べてみることにします。
 アップル社の創業は1976年ですが、スティーブ・ジョブズ
は1985年にアップル社を追われています。それも自らがペプ
シコーラから引き抜き、CEOに据えたジョン・スカリーによっ
て社を追われているのです。なぜ、アップル社を追われたかにつ
いては著作もたくさんあるので、それに譲ることにします。
 スティーブ・ジョブズが去った1985年から、ゆっくりとで
すが、アップル社の求心力は失われていったのです。1990年
代に入ってしばらくすると、アップル社はウインドウズPCメー
カーに追従するようなしないような曖昧な戦略をとり、OS開発
の滞りなども重なって評判を落とし、1990年代半ばには会社
の存続は風前のともしび同然になってしまったのです。
 ジョブズはアップル社を追われた1985年に所有していた同
社の株式650万株を売却し、そのお金でネクストという会社を
設立したのです。
 しかし、事業は成功せず、赤字続きだったのです。業績不振の
会社は人間関係がおかしくなるものです。まして、ジョブズとい
う人物は、傲岸不遜の言動、超自己中心的な性格として知られて
おり、創業時の優秀な人材が次々と辞めていったのです。
 ジョブズは自分のメガネに合う5人の人物をネクストに連れて
行っています。この人選はジョブズがアップル社の会長のときに
行われたのですが、ジョブズは「業務や現在アップル社が手がけ
ている製品開発に支障をきたすメンバーではない」と明言してい
たのです。しかし、これは本当ではなかったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 新会社へ行くのは、アップルの重要な仕事には関わっていない
 低レベルのメンバーだと信じていたスカリーにも、やっとジョ
 ブズの本心がわかったのだ。リストには、アップル技術者の最
 高の名誉「アップルフェロー」であるリック・ペイジが入って
 いた。ソフトウェア開発マネジャーのダニエル・ルインも入っ
 ていたし、アップルがもっとも強いとされる教育市場のマーケ
 ティング責任者まで名を連ねていたのだった。
         ――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ジョブズをアップル社に復帰させたのは、1996年
からアップル社のCEOであったギル・アメリオなのです。アメ
リオは、アップル社の再生を託すのはジョブズしかいないと考え
て、ネクスト社の作ったOS「ネクストステップ」を次期アップ
ルマシンのOSとして採用し、同時にネクスト社自体を買収して
ジョブズの復帰を歓迎したのです。それに現金3億7750万ド
ル(約434億円)とアップルの株式150万株を贈るという破
格の待遇です。つまり、ジョブズにとってアメリオはとても足を
向けては寝られない大変な恩人になるのです。
 アメリオは膨れ上がったアップル社の在庫を圧縮し、大幅な人
員整理に手をつけ、当時数百にも及んでいた大量の新規プロジェ
クトを一気に削減しています。これらの果断な処置でアップル社
の財務体質は確実に改善されていったのです。そのうえで、ジョ
ブズにアップル社の再建を委ねたのです。
 しかし、当のジョブズは、恩人であるアメリオに感謝するどこ
ろか、その追い落としを仕掛けるのです。ジョブズは、アップル
社の取締役でデュポンの会長を兼務するエド・ウラードに接近し
味方に引き入れています。そして、取締役会でウラードにアメリ
オCEOがアップル社の業績向上に寄与していないことを発言さ
せ、辞任を迫ったのです。このクーデターは成功し、アメリオは
1997年に退社しています。アメリオを退任に追い込んだ取締
役会は、ジョブズにCEO就任を要請したのです。
 しかし、ジョブズもしたたかです。彼は年俸を「1ドル」とし
さらにCEOの頭に「暫定」の文字を付けてみせたのです。年俸
を1ドルにしたのは、「お金が目的でCEOをやってるんじゃな
い。自分のつくった会社を救いたいだけである」ことをデモンス
トレーションし、「暫定CEO」としたのは、「ずっとCEOを
やるんじゃない。適任者が見つかるまでのつなぎである」ことを
アップル社の社員に訴えたのです。
 これに関して、アップル社でマックOSのライセンス事業に携
わったこともある竹内一正氏は、アップル社の再生について次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 危機的状況にあった企業が、たかがトップの交代によって、ほ
 んの数か月で復活するはずがない。本当の立役者は、在任中に
 財務を改善した前CEOギル・アメリオなのだ。彼のまいた種
 が芽を出そうとした絶妙のタイミングで、ジョブズがCEOを
 引き継いだだけのことである。 ――竹内一正著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
        ――[クラウド・コンピューティング/02]


≪画像および関連情報≫
 ●スティーブ・ジョブズについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  スティーブ・ジョブズはアメリカ合衆国の企業家。スティー
  ブ・ウォズニアック、マイク・マークラらと共に商用パーソ
  ナル・コンピュータで世界で初めて成功を収めたアップル社
  の共同設立者の一人。また、そのカリスマ性の高さから、発
  言や行動が常に注目を集め続ける人物である。ファーストネ
  ームをスティーブンまたはステファン、ファミリーネームを
  ジョブスとして表記されることもあるが、アップル日本法人
  公式サイトではスティーブ・ジョブズと表記している。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

アップル社/スティーブ・ジョブズ.jpg
アップル社/スティーブ・ジョブズ
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2009年10月16日

●「アップルには秘密警察がある」(EJ第2675号)

 スティーブ・ジョブズは、暫定CEOに帰り咲くと、まず最初
にやったことは、宿敵マイクロソフト社のビル・ゲイツに直接電
話を入れたことです。1997年のことです。いったいどんな話
をしたのでしょうか。
 電話の内容は、アップル社の持っている特定の知的財産のいく
つかをマイクロソフト社に譲渡したいという提案だったのです。
それは、ウインドウズのGUI――グラフィカル・ユーザ・イン
ターフェース構築のためにビル・ゲイツがのどから手が出るほど
欲しがっていることをジョブズはよく知っていたからです。
 マイクロソフト社がウインドウズを構築するときにアップル社
の持つ多くの知的財産(特許)が大きな壁になったのです。その
ときの詳しい状況については、元イギリスのマイクロソフト社に
入社し、その後同社の日本法人に移籍したトム・佐藤氏の著書に
出ているので、その一部をご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウィンドウズ1.0 出荷のさい、アップルとマイクロソフトは
 大喧嘩をした。そしてマイクロソフトがマック用ソフトを開発
 して販売する代わり、ウィンドウズのルック&フィール(デザ
 インなど視覚的なもの)を認める契約を交わしていた。ゲイツ
 は交渉事に関しては圧倒的に強く、2.0 がマックに似たよう
 なものになっても問題ないように、契約をしたつもりだった。
 ところが、ウィンドウズ2.0 についてアップルのジョン・ス
 カリーCEOは、マイクロソフトを契約不履行ではなく、コピ
 ーライトの侵害で提訴した。アップルはGUIのルック&フィ
 ールは自社の知的財産権であり、真似した部分を削除せよと要
 求したのである。      ――トム佐藤著/新潮社298
        『マイクロソフト戦記/世界標準の作られ方』
―――――――――――――――――――――――――――――
 とにかくこのときの訴訟合戦は大変だったのです。もともとウ
インドウズのGUIの原型はゼロックス社の「STAR」であり
これを巡りゼロックス社、アップル社、マイクロソフト社――そ
れにウインドウズ2.0 上で簡単なユーザーインターフェースを
制作したヒューレッド・パッカード(HP)社までが訴訟合戦に
巻き込まれたのです。
 この訴訟合戦を見てIBMはウインドウズをOS/2プロジェ
クトから遠ざけたのです。もし、ウインドウズ2.0 をPCにバ
ンドルすると、このドロ沼の訴訟合戦に巻き込まれる懸念があっ
たからです。後から考えると、このことがマイクロソフト社に幸
いし、IBMは大きなチャンスを逃したのです。
 それはさておき、アップル社のジョブズ暫定CEOから提案が
あった件についてビル・ゲイツは、それを受け入れる決断を下し
たのです。
 その結果、ジョブズはマイクロソフト社からアップル社へ1億
5000万ドル(173億円)の投資を引き出したのです。さら
に、マッキントッシュPC用の「マイクロソフト・オフィス」の
販売とアップデート継続の約束をとりつけたのです。
 スティーブ・ジョブズは、人から受けた恩義などはすぐ忘れる
人であり、人間的には大いに問題がある人物なのですが、事業経
営に関しては天才のひらめきを見せるのです。こういうジョブズ
について、既出の竹内一正氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「過去をなつかしんで見る暇があったら、未来を見る」―――
 ジョブズにとって過去は忘れ去るべきものでしかないようだ。
 だから、受けた恩にも感謝しない。恩知らずと言っていいほど
 情実無用だ。だからこそ、しがらみによって判断が鈍ることが
 なかったともいえる。目的達成のためには、たとえ宿命のライ
 バルであるビル・ゲイツとでも、平気で手を結ぶことができる
 のである。恩義を忘れる一方で敵とは握手を交わすという驚愕
 の行動はアップルのファンから轟々たる非難を受けたが、ジョ
 ブズは気にもとめなかった。生み育てたアップルが、自分が不
 在の間に、パソコン市場の片隅に追いやられている。この会社
 を短期再生するためには、市場を牛耳っているマイクロソフト
 と提携するのが唯一の策だったのだ。
         ――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 スティーブ・ジョブズが戻る前のアップル社が業績不振にあえ
いだ理由のひとつに社内情報の管理不足があるのです。この会社
は、社員でないと知り得ない情報がすぐ漏れるのです。たとえば
新製品の出荷時期などは簡単に漏洩してしまうのです。
 良い意味ではオープンな社風なのですが、だんだん度が過ぎる
ようになっていったのです。例えば、社内であるプロジェクトの
計画があるとき、それに反対するスタッフが仲の良い記者にマイ
ナスの情報をリークしてプロジェクトを潰すということまで行わ
れるようになったからです。
 暫定CEOになったジョブズは、この情報リークを防ぐため、
旧ソ連の秘密警察KGB並みの情報統制をひいたのです。社員が
マスコミと話すことを禁止し、内部情報を漏らした者は即解雇す
るという厳しい情報管理体制です。
 やがて、アップル社からの新製品を含む発表は、スティーブ・
ジョブズ暫定CEOの口から直接語られるようになったのです。
そのため、マックワールドなどのフェアにおけるジョブズの基調
講演には、マスコミ各社が大勢押し掛けて、何を話すか真剣に聞
き入るようになったのです。
 首相のぶらさがり会見のように多くの記者はジョブズのコメン
トをとろうとして追いすがりますが、ジョブズは絶対に話さない
のです。その様子は何となく民主党の小沢幹事長を見ているよう
な感じがします。しかし、どんなにじゃけんにされても記者たち
の間ではスティーブ・ジョブズは人気があるのです。不思議な魅
力があるからです。―[クラウド・コンピューティング/03]


≪画像および関連情報≫
 ●ジョブズはチョコレート/ある女性記者
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ジョブズはチョコレートのようなもの。私にとってよくない
  ことはわかっている。でも、とっても好きなの。だから家の
  真ん中には置かないようにするの。私はジョブズのまわりに
  いることが好き。それは彼が世界の中心的存在だから。
         ――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジョブズCEOのスピーチ.jpg
ジョブズCEOのスピーチ
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2009年10月19日

●「バージョン2・0に弱いアップル」(EJ第2676号)

 1996年にアップル社に復帰を果たした暫定CEOスティー
ブ・ジョブズが中心となり、社内のごく限定されたチームで開発
を進め、1998年に発表したPCが「iMac」です。
 iMacは、アップル社の社員でも発表会ではじめて知った者
が多く、ジョブズ肝いりの秘密警察がいかに機能を発揮したかが
よくわかります。このPCは、後のPCの規格に大きな影響を与
えるエポックメイキングな製品になったのです。
 iMacがどんなPCであるかについて概要をまとめると次の
ようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 15インチCRT(ディスプレイ)を装備した一体型のケース
 キーボード、マウス、果ては電源ケーブル、付属のモジュラー
 ケーブルにいたるまで半透明(トランスルーセント)というス
 タイリッシュなデザインや、ボンダイブルーと呼ばれた印象的
 な色を使い、18万円を切る、当時しては低価格が若年層や女
 性に広く受け入れられ、大ヒット商品となる。
                    ――ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 なお、文中の「ボンダイブルー」とは、アップル社の造語で、
ボンダイはシドニーにあるボンダイビーチからとられているので
す。添付ファイルでもわかるようにアップルらしい斬新なデザイ
ンですが、専門的には次の特徴があるのです。
 それは、今までどのPCにも付いていた「レガシーデバイス」
をすべて廃止していることです。少し専門的になってしまいます
が、レガシーデバイスとは、プリンターをはじめ、他の周辺機器
を接続する装置――RS−232C、RS−422系のシリアル
ポート、フロッピーディスクを廃止し、USBを全面的に採用し
ていることです。
 1998年のことであり、ハードディスクがまだ高価でUSB
メモリーが普及していない頃のことですから、フロッピーディス
クを廃止することは相当思い切った決断であるといえます。また
当時言葉ですら普及していなかったUSBポートを装着したこと
によってUSB対応の周辺機器がその後続々と開発され、現在な
ら誰でも使っているUSBメモリーが大きく普及するキッカケを
つくったのです。USBメモリーは2004年前後から爆発的に
幅広く普及し、現在ではきわめて低価格になっています。
 実は、iMacの開発に当たってジョブズが制作チームに命じ
たことは「シンプル!」だったのです。iMacが一体型であっ
てゴチャゴチャしていないのはそのためです。
 ところが、このように画期的なiMacが発売されても、ウイ
ンドウズPCを使っているユーザーの大半は、わざわざiMac
に乗り換えようとはしなかったのです。なぜなら、マイクロソフ
ト社とアップル社では文化が違うので、今までウインドウズPC
に慣れたユーザーがiMacに乗り換えるには、かなり大きな壁
があったからです。
 アップル社とマイクロソフト社の文化の違いはかなり大きなも
のがあります。企業には得意な分野と不得意な分野があり、それ
はアップル社の次のような体質の違いを形成しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アップル社は、バージョン1.0 の製品は全力を傾けて作る
 が、バージョン2.0 の製品が出てこない会社である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、アップル社は世の中にないものを出す創造的作業に強
い企業なのですが、そのバージョンアップである2.0 になると
急に意欲というか、やる気がなくなり、ひどいときは2.0 が出
てこないこともあったのです。マッキントッシュも初代バージョ
ンで燃え尽きてしまい、改良バージョンである2.0 の発売が遅
れ、販売不振を招いているのです。
 それに対してマイクロソフト社は、この2.0 が得意の企業な
のです。マイクロソフト社について、既出の竹内一正氏は次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 たとえばビル・ゲイツのマイクロソフトはバージョン2・0が
 得意だ。ウィンドウズは、ウィンドウズ95を1995年に出
 して以来、いくつもの新バージョンが出たが、どれも大局的に
 は同じである。新技術は生み出されていない。「マイクロソフ
 トは95年の製品をマイナーチェンジだけして13年も売り続
 けている」と評する人も少なくない。しかし、バージョン2・
 0という「改善」にエネルギーを費やすマイクロソフトは世界
 一のソフトウェア企業となり、ゲイツは13年連続で世界一の
 金持ちとなっている。竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ジョブズがアップル社に復帰して、この面も改善され
ていると私は思います。アイフォーンは、初代バージョン、3G
それに3GSとバージョンアップしてきていますが、その外形に
変化はなく、外からはバージョンの違いはわからないのです。
 もちろん機能は向上しているのですが、その新機能についても
ネットからのOSやソフトウェアのダウンロードで、旧バージョ
ンの人も使えるよう配慮されているのです。
 あるマシンを購入したすぐ後で改良されたニューマシンが発売
されると、購入者は損をしたように思うのは人情です。しかし、
少なくともアイフォーンに関する限り、3Gでも3GSでもソフ
トウェアの追加によって差はあまりないのです。
 社員に対しては、傲岸不遜で人情知らずといわれるスティーブ
・ジョブスでも顧客に対してはそういう配慮をするようになって
きたことはアップル社の大きな進歩であると私は考えます。
 アップル社がiMacを出しても誰も驚きませんが、iPod
を2001年に発表したとき世界は驚愕したのです。明日のEJ
で取り上げます。――[クラウド・コンピューティング/04]


≪画像および関連情報≫
 ●iMac登場/1998年
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1998年、パーソナルコンピュータのデザインに革命が起
  きた。iMacの登場である。それは、CRT一体型でポッ
  プな色づかい、しかも内部構造が半透明の筐体から透けて見
  えていた。それはPC・AT互換機の「箱」とまで形容され
  る機能一辺倒で無骨なデザインに、無機質で「オフィスアイ
  ボリックカラー」とも呼ばれる一辺倒なカラーリングの製品
  を見なれている人々を驚かせ、好意をもって迎えられた。i
  Macの常識を打ち破るデザインは、女性や若年者や初心者
  あるいは無骨なデザインに飽き飽きしていたユーザの心を釘
  付けにした。内部的には変形五角形の専用ロジックボードが
  使用されこれにより、他のパソコンには見られない個性的な
  フォルムを実現している。      ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

アイマック/初代バージョン.jpg
アイマック/初代バージョン
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2009年10月20日

●「iPodはなぜ成功したか」(EJ第2677号)

 ある新製品の発表会のさい、スティーブ・ジョブズは次のよう
なことをいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 数年に一度、革命的な製品が世の中に現れて、すべてを変えて
 しまう。そういう製品を一度でも送り出すことができれば恵ま
 れているが、アップル社は、非常に幸運なことに、過去に革命
 的な製品をいくつか誕生させてきている。
                 ――スティーブ・ジョブズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 このジョブズの発言に該当するものとしては、1984年の初
代マッキントッシュと2001年のiPodが上げられます。前
者はその後のコンピュータ業界を一変させましたし、iPodは
音楽業界の在り方をすっかり変えてしまっただけでなく、それに
続く存在としてアイフォーンが登場し、携帯電話の世界に変革を
もたらしつつあります。
 ところで、ジョブズはなぜ携帯音楽プレーヤーに目をつけたの
でしょうか。
 ジョブズは日本や台湾のメーカーから発売されている携帯音楽
プレーヤーの操作が必ずしも簡単ではなく、PCとのやり取りも
複雑である点に目をつけたのです。「これなら総取りすることは
可能だ」とジョブズは考えたのです。
 そこで、ジョブズは、敏腕のエンジニア、トニー・ファデルを
加えた携帯音楽プレーヤーの開発チームを編成し、2つの注文を
出したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.説明書なしで、簡単に使うことのできる独創的プレーヤー
 2.製品の完成は一年後のクリスマスシーズンに間に合わせよ
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ジョブズから毎日のように電話がきて、次々と条件を
加えはじめたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 曲を出すのに3回もボタンを押すなんてダメだ。それに音量が
 低いし、シャープさが足りない。メニュー表示も遅い。デザイ
 ンもよくない。もっとオシャレなデザインにすべきだ、など。
―――――――――――――――――――――――――――――
 期間は約1年半程度しかないのです。その期間中に世界のどこ
にもない独創的な携帯音楽(MP3)プレーヤーを作れというの
です。しかも、ジョブズの出す条件はどんどん厳しくなる一方な
のです。それに、アップル社はPCのメーカーであって、音楽プ
レーヤーなんか作ったことはないのですから、無茶苦茶です。
 しかし、アップル社には、こういう困難な開発をやり遂げるD
NAがあるのです。果せるかな、約束通りクリスマス商戦に間に
合う2001年10月――ちょうど1ヵ月前の同時多発テロの影
響が色濃く残るなかでiPodは発表されたのです。
 iPodは、「四角と丸で表すことができる」独特のデザイン
それに大きな液晶画面を備え、その下にはiPodの象徴ともい
うべきホイールがあるのです。このホイールを用いて選曲、音量
調整、早送り、巻き戻し、画像・動画閲覧などすべての操作を直
感的に行えるのです。
 iPodの出来栄えは自らも音楽をよく聴くジョブズを満足さ
せるものだったのです。しかし、最大のネックはやはり価格――
399ドルにあったのです。発売当初、マスコミは「たかが携帯
音楽プレーヤーに399ドルも払って1000曲もの楽曲を持ち
歩く者などいるものか」と冷たく批判したものです。
 しかし、iPodは市場を独占するほどの人気を得るようにな
り、収録する楽曲は1000曲では足りないとまで、いわれるよ
うになったのです。それにiPod成功の最大の要因はiTMS
に5大レーベルを参加させることに成功したからです。ちなみに
iTMSとは音楽配信サービスのことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       iTMS/iTunes Music Store
―――――――――――――――――――――――――――――
 本来アップル社は、というより、スティーブ・ジョブズは、音
楽のビジネスに関しては門外漢のはずです。それにもかかわらず
大手レコード会社を巻き込んで音楽配信サービス――iTMSを
大成功させています。どうしてうまくいったのでしょうか。
 それは、ジョブズ自身が音楽が好きだったからです。彼はとく
にボブ・ディランの大ファンであり、新製品のお披露目のときな
どはよくボブ・ディランの「時代が変わる」の音楽を使っている
ほどです。もし、ジョブズが音楽好きでなかったら、iTMSは
成功しなかったでしょう。「好きこそものの上手なれ」、このあ
たりがビル・ゲイツと違う点です。
 iTMSの交渉において、当時全米レコード協会会長を務めて
いたヒラリー・ローゼン氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 テクノロジーの世界の人々にとって、音楽はソフトウェアにす
 ぎない。でも、スティープは熱狂的な音楽ファンだった。これ
 は音楽業界の人々にとって大きな意味があった。
           竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 音楽業界の人は、音楽をビジネスの道具と考える人に対しては
ガードを高くしてなかなか妥協しないのですが、ジョブズのよう
に自身が熱狂的な音楽ファンであり、音楽を生み出すことの大変
さをよく知り、そのすばらしさを理解している人との交渉に関し
てはガードを下げて話し合うことがあるのです。
 また、アップル社は、あのビートルズとも長い法廷論争を行っ
てきたのですが、ジョブズはビートルズにもiTMSに参加する
よう呼び掛けていたのです。しかし、ビートルズ側はかたくなで
あったのです。 ――[クラウド・コンピューティング/05]


≪画像および関連情報≫
 ●iPodが大成功した理由/竹内一正氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  iPodが大ヒットした理由は、iTMSに5大レーベルを
  参加させ、利用者を満足させたことにある。だがジョブズは
  決して、気楽に5大レーベルのCEOたちとの交渉に臨んだ
  わけではない。彼は音楽業界の専門家ではなかったからだ。
  だが、「専門じゃないからやりたくない」と言っていたら、
  iPodの成功はなかった。いやなことをやり遂げて、やっ
  と自分の好きなことをやれるようになるのだ。コミック大国
  ・日本で、総販売数2億冊を誇るメガヒット「ゴルゴ13」
  の作者さいとうたかをは、好きで「ゴルゴ13」を描き始め
  たのではないという。本当は時代劇を描きたかったのだ。し
  かし、出版社の要請で、我慢して「ゴルゴ13」を描いた。
  それだけでなく入魂の作品にした。そのおかげで、その後、
  時代劇漫画もつぎつぎと手がけることができたのだ。日常の
  仕事で、つい「専門外です」と自分に限界線を引いてはいな
  いだろうか。線引きをしている限りは、仕事の質を高めるこ
  とは難しい。能力アップも起こらない。新しいチャンスも摘
  み取ってしまっている。それではもったいない。
           竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
  ―――――――――――――――――――――――――――

iPod/1G.jpg
iPod/1G
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2009年10月21日

●「なぜソニーはiPodを開発できなかったのか」(EJ第2678号)

 私が最初にiPodの音を聴いとき感じたのは何やら重い重低
音──それも魅力的な余裕のある良い音であったと記憶していま
す。もっとも、そのとき聴いた曲が日本の歌謡曲であったので、
そういう音が響いたのかもしれません。
 しかし、その音は、それまでに私の体験したソニーのウォーク
マン(カセット)、МDウォークマン、MP3プレーヤーの音を大
きく上回る音であったことは確かです。ジョブズが注文をつけた
音量が大きくシャープな音という条件は実現されたのです。
 後から考えると、初期のiPodはハードディスクであったた
め、そういう音──重低音が響いたものと思われます。現在では
フラッシュメモリが採用されており、ハードディスク・タイプの
iPodは「iPodクラシック」と呼ばれています。私の場合
ハードディスク・タイプの「iPodミニ」のあと、「iPod
ナノ」を購入したので、ハードディスクタイプの音とフラッシュ
メモリタイプの音とは明らかに違うことを確認しています。もち
ろんフラッシュメモリの方が音質は上回っています。
 回転部分のあるハードディスクタイプと回転部分のまったくな
いフラッシュメモリとは当然のことながら、音質は大きく違って
きます。もっともiPodに音楽を収録するには、PCのハード
ディスクに収録するので基本的にはハードディスクの音というこ
とになるのは避けられないことです。
 いずれにせよ、PCメーカーのアップル社の作った携帯音楽プ
レーヤーが、日本のソニーや松下を尻目に業界標準の地位を勝ち
取ったのです。これは大変なことです。どうしてそんなことがで
きたのでしょうか。
 ところでビジネススクールでは、次の英語の表現を教材に使っ
てビジネスの常識を教えているそうです。
―――――――――――――――――――――――――――――
            Wag the dog.
―――――――――――――――――――――――――――――
 どういう意味かというと、犬が尻尾を振っている様子を尻尾が
犬を振り回すと見誤ることに由来するのです。したがって、この
英語の表現は「本末転倒」という意味になるのです。
 ビジネススクールでは「Wag the dog」 を「失敗するビジネス
モデル」のひとつであると教えているのです。
 当時アップル社の主力PCの価格とiPodの価格は約10倍
の開きがあったのです。PCの価格を20万円とするとiPod
は2万円ということになります。
 この場合、iPodがいくら売れても10倍の単価の製品――
アップル社のPCを主力とする事業を救うことはできないという
教えです。つまり、尻尾のiPodが犬のPC事業を振り回して
もダメということです。
 しかし、アップル社は明らかに成功しているのです。iPod
の使い勝手の良さに感激したユーザーがウインドウズPCを捨て
iMacに乗り換えるケースが出てきているからです。
 しかし、ビジネススクールでは、それはCEOであるスティー
ブ・ジョブズのスーパープレイであり、ビジネスの世界では稀有
なことであるというのです。したがって、それは参考にはなるが
一般的な成功するビジネスモデルとしては使えないというわけで
す。つまり、大リーグのイチローの打撃術よりも、高校野球の送
りバンドの方が教科書として使えるという理屈です。
 iPodがなぜ専門の音楽メーカーから生まれなかったのかと
いうことについて、竹内一正氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  iPodはなぜ日本のソ二ーや松下から生まれなかったのか
 という疑問を何度も聞かされた。たしかに、アップルはパソコ
 ンメーカーだ。オーディオ製品なら、世界中で1億台以上売れ
 辞書にまで載っている「ウォークマン」を生んだソ二−が、先
 んじてつくって当然だと思える。松下しかりである。いろいろ
 な解釈があるが、私は経営者の力量の違いだと断言したい。す
 ごいモノを生み出すには、現場の「ノー」を受け取らない鬼軍
 曹的な管理職が必要である。現場の「できないコール」に耳を
 傾けてしまうやさしい管理職は不要だ。常識の限界で立ち止ま
 っている部下には、背中を蹴り飛ばすことだ。たとえば本田宗
 一郎は「『常識』は人間が考えたこと。それを疑って打ち破っ
 ていくのが進歩だ」と言い、ときには部下に鉄拳を見舞ってい
 た。      ――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ジョブズは、開発チームが約束した期日に遅れそうになったり
技術的に壁にぶつかったりして電話をかけてくると、おだやかに
話を聞き、チームの優秀さを称えたあとで、「やればできる」と
いって電話を切ってしまうそうです。部下からは絶対に「ノー」
という返事を受け取らない人なのです。
 このようにジョブズは目標は大きく具体的に示すのですが、そ
の達成方法については一切部下にまかせるのです。上司が達成方
法にまで踏み込むことは、部下に余計な先入観を与え、実現の可
能性を限定的なものにしてしまう恐れがあるからです。
 ソニービルができる前のことですが、ソニーの盛田昭夫社長は
広報部長に対し、こういう指示を与えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1年たったとき、東京のどこかからタクシーに乗って、ひと言
 「ソニービル」と言うだけで運転手が連れて行ってくれるよう
 なPRを考えろ。――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 目標は誰でもわかる具体的なものです。社長はそれを指示し、
その達成方法は広報部長にまかせたのです。達成方法は無限にあ
るでしょう。あらゆる可能性を追求せよ――それをやるが部下の
仕事なのです。 ――[クラウド・コンピューティング/06]


≪画像および関連情報≫
 ●フラッシュメモリとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  フラッシュメモリとは、データの消去・書き込みを自由に行
  なうことができ、電源を切っても内容が消えない半導体メモ
  リの一種。半導体メモリには、データの読み書きを自由に行
  なえるが、電源を切ると内容が消えるRAMと、一度書き込
  んだ内容は消去できないが、電源を切っても内容が消えない
  ROMがあるが、フラッシュメモリは両者の要素を兼ね備え
  たメモリ――性質はROMである。
  ―――――――――――――――――――――――――――

iPod nano.jpg
iPod nano
posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(2) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月22日

●「ビートルズ対アップルの法廷論争」(EJ第2679号)

 アップル社といえば「かじられたリンゴ」のマークで有名です
が、同じリンゴのマークを使う会社があるのです。ビートルズの
音源を管理する英国のアップル・コープスという会社です。
 両方ともリンゴをロゴマークにしており、きわめて紛らわしい
のです。そのため両社は長期にわたる法廷闘争の歴史を持ってい
るのです。
 会社の創設時期を比較すると、アップル・コープス社の方が先
なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  アップル・コープス社 ・・・・・ 1968年創設
  アップルコンピュータ ・・・・・ 1976年創設
―――――――――――――――――――――――――――――
 アップル・コープス社は、1968年の創設時期からグラニー
スミスと呼ばれるオーストラリア原産の青リンゴをモチーフとし
たロゴを使用してきています。このアップル・コープス社は、現
在、ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、ジョン・レノン
の未亡人オノ・ヨーコ、ジョージ・ハリスンの遺産管財人によっ
て共同所有されています。
 一方のアップルコンピュータ社は、1976年に創業し、右側
に一口かじった跡のある、横縞6色のカラフルなリンゴのマーク
をロゴとして長らく使用してきています。しかし、アップル社を
追放されたスティーブ・ジョブズが1997年に復帰したとき、
カラフルな色調は単色に変更されて現在にいたっています。
 リンゴを企業の顔とする「アップル」同士の闘いは、アップル
コンピュータ社の創業時より始まっています。アップル・コープ
ス社は直ちに「アップル」を企業名に使ったことに関して、アッ
プルコンピュータ社を相手取り、訴訟を起こしたのです。企業と
して当然の措置であるといえます。
 しかし、1991年に両社は和解し、両社の間で商標契約が結
ばれたのです。アップル・コープス社は高額な和解金と引き換え
に、アップルコンピュータ社が「アップル」の名前を企業名とコ
ンピュータ製品に使用することに同意したのです。
 もう少し詳しくいうと、アップルコンピュータ社は音楽を配信
するためのデバイスとソフトウエアに、アップル・コープスは楽
曲の制作と販売に「アップル」という名称を独占的に使う権利が
認められたのです。ただし、音楽市場に参入しないことが条件と
されたのです。
 ところがです。ジョブズ率いるアップル社がiTMSのスター
トに当たって、ビートルズ側にもiTMSに加わらないかという
打診を行ったところ、ビートルズ側は、これは「1991年の商
標利用の合意を破るもの」として、再びアップル社を提訴してき
たのです。
 この裁判は、ビートルズの故国である英国の法廷で争われたの
ですが、これについてiPodがいかに世界中で愛されているか
を示すエピソードがあるのです。
 それは、この裁判を担当する判事が、「私はiPodのファン
であり、自分は審理を担当する資格はない」として降りてしまっ
たというのです。これは改めて単なる携帯音楽プレーヤーに過ぎ
ないiPodが、どれほど多くの人のライフスタイルに影響を与
えているかを示す証左となったのです。
 2006年に判決が出たのですが、その結果は次のようにアッ
プル社の勝利に終わっているのです。裁判所もiPodの影響力
に左右されたのでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アップルコンピュータは記録された音楽ではなく、データを配
 信しているにすぎない。         ――裁判所の判決
―――――――――――――――――――――――――――――
 スティーブ・ジョブズは、この裁判の結果を受けて、次のよう
にコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビートルズを愛している。ビートルズの曲をiTMSで配信す
 るために協力できることを望んでいる。
         ――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 2007年1月のことです。アップル社の最大のイベントであ
る「マックワールド・エキスポ」の直前にアップル社はある決断
を行っています。それは、「アップルコンピュータ」から「コン
ピュータ」の文字をカットし、文字通りのアップル社となったの
です。これはアップル社にとって大きな決断だったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      Apple Computer.Inc  → Apple Inc
―――――――――――――――――――――――――――――
 そして、この「マックワールド・エキスポ」において、ジョブ
ズは、アイフォーンの発表を行ったのです。もうPCだけの会社
じゃないという強いメッセージを世界に送ったのです。そのとき
ジョブズは有名な次のフレーズをウェブサイトのトップに掲げて
いるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      最初の30年は単なる始まりだった
―――――――――――――――――――――――――――――
 この社名変更を行ったとき、アップル社は、2007年度第1
四半期の売り上げ高が70億ドルを超えて、純利益も過去最高の
10億ドルを記録したのです。
 過去にアップル社が犯した最大のミスは早い時期にマックOS
を他社にライセンスしなかったことです。というのは、マイクロ
ソフト社が初期のウインドウズの開発に苦しんでいたとき、同社
はもしマックOSがライセンスされるのであれば、OS事業から
撤退しも良いとライセンスを求めたのに対し、アップル社は応じ
なかったのです。−―[クラウド・コンピューティング/07]


≪画像および関連情報≫
 ●大衆が絶賛する商品とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  大衆が絶賛する商品とは、大衆がまったく気づかなかった楽
  しみを提供する独創的なものだ。市場調査に頼って商品開発
  を進めると、「ちょっといいもの」で終わる。大衆が手にし
  てはじめて「あっ!これがほしかったんだ」と気づくような
  「どこにもないもの」は市場調査からは決して生まれない。
  目の前に見える需要を追うのではなく、「自分たちが需要を
  つくる」ことが、これから、より強く求められている。
         ――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
  ―――――――――――――――――――――――――――

アップルコープス社対アップル社ロゴマーク.jpg
アップルコープス社対アップル社ロゴマーク
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月23日

●「ハードウェアを持つアップル社の強み」(EJ第2680号)

 現在、世界中のほとんどの人はマイクロソフト社のOS――ウ
インドウズを使っています。それはウインドウズがOSのデファ
クト・スタンダード(業界標準)になっているからです。
 その結果、ウインドウズが本当に使い勝手の良い優れたOSな
のかどうかの判断は、普通のユーザーにはわからないと思うので
す。選択肢があまりにも限定されているからです。すなわち、ど
こにでもある普通のウインドウズPCを選ぶか、マックPCを選
択するかの二者択一であるからです。
 それでは、ウインドウズOSとマックOSはどちらが使い勝手
が良く、どちらがより優れているかということになると、これは
後者に軍配を上げざるを得ないのです。
 それは、業界標準のOSが大幅な機能の変革をやりにくいのに
対し、マックOSは世界にただ一つアップル社しか使っていない
OSなので、変革がやりやすいということもあると思います。
 前回少し触れたように、マイクロソフト社創立者のビル・ゲイ
ツは、初期のウインドウズの開発と販売に不安を持っていて、当
時アップルのCEOのジョン・スカリーに対して、マックOSを
ライセンスして欲しいと提案したのです。
 そのときのビル・ゲイツの考え方は、マイクロソフト社はOS
の開発から手を引き、アプリケーションソフトウェアの開発と販
売に注力するつもりでいたのです。ウインドウズ戦略が大成功し
た現在ではそのことを知る人はあまりいないと思います。
 もともとマイクロソフト社はOSの開発はどちらかというと苦
手であったのです。IBM社から開発を委託されたウインドウズ
の前身OSである「MS−DOS」にしても、当時のデファクト
・スタンダードであったデジタル・リサーチ社の「CP/M」を
模倣したものであったし、ウインドウズについても先行するアッ
プル社のOSを参考にせざるを得なかったのです。したがって、
ビル・ゲイツはマックOSのライセンスを提案したのです。
 しかし、ビル・ゲイツのこの提案は、アップル社の役員会で否
決されてしまうのです。逆にいうと、これがマイクロソフト社に
とって幸いしたといえます。ここでOS事業から手を引いていれ
ば現在のマイクロソフト社はなかったと思うからです。
 その後アップル社は、マイケル・スピンドラーがCEOのとき
マックOSを他社にライセンスすることに踏み切るのです。19
94年のことです。
 その翌年から、数社からマック互換機が発売になっています。
アップル社のこの変貌を見て、多くのアナリストたちは、アップ
ル社はやがてハードウェアから撤退し、マイクロソフト社のよう
にOSやソフトウェア開発に専念のではと考えたのです。
 しかし、1996年にアップル社に復帰したジョブズは、この
マックOSライセンスを打ち切り、マック互換機戦略を終焉させ
たのです。そのため、再びマックOSをプラットフォームとする
メーカーはアップル社だけとなったのです。
 ジョブズにいわせると、ハードウェアを捨ててソフトウェアに
専念するなどということは絶対にやってはならないと考えている
のです。どうしてジョブズがこういう考え方を持ったのかという
と彼はネキストコンピュータ時代にハードウェア事業を切り捨て
ソフトウェア事業に特化して失敗しているからです。事実ジョブ
ズはネキストコンピュータ社からネキストソフトウェア社に社名
を変更しているのです。
 なぜ、ハードウェアを切り捨てることが問題になるのでしょう
か。このことに関するジョブズの考え方は非常に説得力がありま
す。テクノロジー・ジャーナリストの大谷和利氏の言葉を借りて
いうと、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 OSやソフトウエアの良さは、ある程度使い込んでみないとわ
 からない。しかも、その分野に対するそれなりの知識がないと
 的確な判断が下せない場合が多い。これは、自動車の走行運動
 性能などと似ている。これに対し、ハードウェアの外観は車の
 外装と同じく、好きか嫌いかという主観レベルのものも含めて
 誰もが話題にできる。つまり、その価値判断を行うことで、製
 品に興味を持ち、心理的に関われるのだ。そこでアップル社は
 同社製品がもたらす優れたユーザー体験を知ってもらうための
 呼び水として、魅力的な外装デザインにも力を入れた。これは
 自社ブランドのハードウェアを持たなければ採ることのできな
 い戦略だ。                ――大谷和利著
     『iPhone をつくった会社』/アスキー新書/073
―――――――――――――――――――――――――――――
 マックOSがどんなに良いといわれても外形的に見ても絶対に
わからないのです。しかし、アップル社のiMacはデザインが
斬新で魅力的であるということは誰もが認めています。もちろん
使ってみなければiMacが本当に良いかどうかわかりませんが
それだけで「欲しい」と思わせることは十分可能なのです。
 しかし、機能に関しては、アップル社ほどの知名度のある企業
であれば、他のメーカーに比べてそれほど差があるものではない
ことはユーザーはわかっているので、デザインの斬新さと価格し
だいで売れるのです。
 こういう点で、今まで基本的にハードウェアを持たない戦略で
急成長してきたマイクロソフト社は現在方針を変更しつつありま
す。確かにマイクロソフト社のハードウェアというと、携帯音楽
プレーヤー「Zune」や家庭用ゲーム機「Xbox」、PC向
けのキーボードとマウスなどしかないのが現状です。
 しかし、ZuneはiPodに遠く及ばず、Xboxは米国で
は成功しているものの、全世界的なヒット商品にはなっていると
はいえないのです。しかし、マイクロソフト社の中心製品はOS
ですが、シェア90%に達している現状では良くて当たり前であ
り、問題のあることだけが批判の対象になる――ここにきてハー
ドウェアを持っていないことがマイナスに働いてきているといえ
ます。     ――[クラウド・コンピューティング/08]


≪画像および関連情報≫
 ●スティーブ・ジョブズの真骨頂
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ようやくアップルに復帰をしたものの、ここも赤字で、ブラ
  ンド力も低下していた。パソコンiMacをヒットさせたが
  長くは続かない。「よし、つぎは携帯音楽プレーヤーだ」と
  思いつくが、開発できる社員は、アップルにはいない。それ
  でもなんとか開発したiPodを専門家はみんな「ダメだ」
  とこき下ろした。音楽楽配信サービスiTMSの立ち上げに
  は、大手音楽会社の強者たちとのタフな交渉が待ち受けてい
  た。このようなピンチ続きを、ジョブズは決して嘆かなかっ
  た。むしろ「チャンスだ」ととらえ、すさまじい執念をもっ
  て要所要所の交渉を成功させた。それが彼の真骨頂といえる
  かもしれない。ピンチは嘆くものではなく、乗り越えるペき
  ものと考える人だけが、チャンスの入り口に立てるのだ。
         ――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
         『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
  ―――――――――――――――――――――――――――

竹内一正氏の本.jpg
竹内一正氏の本 
posted by 平野 浩 at 04:23| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月26日

●「デザイン重視のジョブズのアップル社」(EJ第2681号)

 1996年にスティブ・ジョブズがアップル社に暫定CEOと
して復帰したとき、ジョブズは技術者よりもデザイナーの流出を
心配したというのです。
 業績の悪化した企業からは優秀な人材が流出してしまうもので
すが、ジョブズはマーケティング・スタッフや一部の技術者の流
出は仕方がないと考えていたものの、優秀なデザイナーの流出だ
けは何とか食い止めたいと考えていたのです。
 技術者についてジョブズは、アップル社に復帰するとき、ネク
スト時代の技術者を連れてきているので、技術者よりもむしろデ
ザイナーを守ろうとしたものと考えられます。
 その結果、アップル社にとってきわめて幸いだったのは、工業
デザイン担当副社長兼工業デザイングループディレクター、ジョ
ナサン・アイブが残ったことです。このアイブが後のiMac、
PowerBook、iPod、そしてアイフォーンを生み出す
ことになるのです。
 ジョナサン・アイブは現在42歳ですが、英国出身で、大学在
学中から多くの有名企業の誘いを受けていたという天才的インダ
ストリアル・デザイナーなのです。
 ジョナサン・アイブをアップル社に入社させた功績は、工業デ
ザイン担当副社長の前任者ロバート・ブルーナーにあります。ブ
ルーナーは自分の後継者を探していて、アイブに目をつけたので
す。そのとき、アイブは、ロンドンにおいて急成長を続ける自分
のデザイン・スタジオ「タンジェリン」を率いていて、その地位
を捨てて、一企業のインハウスデザイナーになるとはとても考え
られなかったのです。
 しかし、ブルーナーはアイブを熱心に口説いたのです。実はそ
のときアイブは、タンジェリンであらゆる分野のデザインを担当
してみて、自分のライフワークは電子機器のデザインで行こうと
決めていたのです。
 アイブは熱心に入社を勧めるブルーナーの勧めにしたがい、家
族と一緒にアメリカに移住したのです。そして1992年にアッ
プル社に入社し、20周年記念のマッキントッシュのデザインで
頭角をあらわし、ロバート・ブルーナーの退任後は同社のデザイ
ン部門を率いているのです。
 結局、アイブはスピンドラー、アメリオという2人のCEOを
経て、デザインに知識も理解もあるジョブズCEOとの出会いを
果たすのです。
 ところで、アイフォーンの製品外装を見ると、次のように印刷
されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       Designed by Apple in California
      Assembled in China. Model No.A1241
―――――――――――――――――――――――――――――
 最近は、ほとんどの電気製品で「メイド・イン・チャイナ」と
か、「メイド・イン・タイワン」とか、「メイド・イン・マレー
シア」というように、生産国表示をアジア諸国とするものがほと
んどですが、アップル社の製品も例外ではないのです。
 しかし、アップル社の製品にはすべて次の一文を掲げられてお
り、他社との違いをみせています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    Designed by Apple in California
    この製品はカリフォルニア州のアップル社で
    デザインされたものである
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見れば、アップル社がいかにデザインを重視し、誇りを
持っている会社かわかると思います。もうひとつ興味深いのは、
「米国のアップル社」ではなく、「カリフォルニア州のアップル
社」となっている点です。アップル社に限らず、シリコンバレー
で起業した企業にとって、カリフォルニアの自由な風土は愛すべ
きものであり、こだわりを持っているのです。これは、もはやカ
リフォルニア州を離れることはないというアップル社の決意表明
と受け取ることもできると思います。
 もうひとつアップル社には、製品製作のこだわりとして、次の
フレーズを守っているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        “Hot,Simple and Deep”
        ホットで、シンプルで、ディープ
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、アップル社が、アップルU向けに優れたゲームソフト
を開発するさいの指針として打ち出したフレーズなのですが、こ
の指針にこだわって製品開発を進めるのです。
 最先端で格好良いものを見たとき、英語では「It's hot !」と
いうのですが、そういうものを作る――これがアップル社の指針
なのです。もっとも最近では、比較的若い人の間では、同じ表現
を「It's cool !」 ともいうのです。
 例えば、iPodを広告や店頭で初めて見た人は、どう感ずる
でしょうか。
 まず、シンプルですっきりとしたデザインに惹かれるものがあ
ります。だが、電気製品に付きものの、ボタンスイッチが一切な
いことに奇異に感ずるはずです。
 そこで実際に製品を手にして、クリックホイールを回してみる
と、その動きと画面のスクロールやボリーム調整の表示が直結し
ているような感覚に一驚する。そしてスムーズに音が出る――そ
の時点で「It's hot !」または「It's cool !」となります。
 「斬新で、取っつきやすく、それでいて奥が深い!」――アイ
フォーンにしても同様のことがいえると思います。別にマニュア
ルがなくても、あっちこち触っていると、基本的なことはすぐで
きるようになる――それでいて一台のマシンで多くのことができ
るので、奥が深いのです。アップル社の製品はすべてそういう仕
様になっています。―[クラウド・コンピューティング/09]


≪画像および関連情報≫
 ●ジョナサン・アイブについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  iPodの爆発的人気は社会現象となっており、日本でもソ
  ニーなど他社の追随を許さないほど。今年は、記憶媒体に軽
  量で音跳びが少ないフラッシュメモリーを使ったiPodシ
  ャッフルとiPodナノを発売し、各ユーザーの需要に合わ
  せた商品展開で人気を不動のものとしているのだ。iPod
  デザインチームのリーダーであるアイブ氏は、アップル社の
  チーフ・デザイナーでロンドン生まれ。アイブ氏のチームは
  iPodだけでなくiMac、iBookなどのデザインも
  担当し、英国美術協会や広告業界団体、ドイツのデザイン博
  物館、米国工業デザイナー協会などから数多くの賞を受け、
  その作品はニューヨーク近代美術館など世界中の美術館で展
  示されているそうなのだ。
        http://www.narinari.com/Nd/2005125410.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジョナサン・アイブ.jpg
ジョナサン・アイブ
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2009年10月27日

●「A社とM社のOSの考え方の違い」(EJ第2682号)

 10月22日に「ウインドウズ7」が発売されましたが、この
OSは従来のOSのバージョンアップとはかなり異なるのです。
これからのスマートフォン時代には、OSが非常に重要な意味を
もってくるので、アップル社のOSを中心にOSの問題を考えて
いきたいと思います。
 1985年にスティーブ・ジョブズをアップル社から追放した
CEOジョン・スカリーは、アップル社としてのビジョンを求め
ていたのです。そこで、スカリーが目をつけたのは社内のスティ
ーブ・サマコンという技術者が手がけていたペン入力コンピュー
タ技術だったのです。
 スカリーCEOは、これを「ニュートン・プロジェクト」とし
て推進したのです。そして、1993年に「アップル・ニュート
ン」として発売しているのです。日常生活のさまざまなシーンで
人間の情報活動をサポートする世界初の手帳型PDAとしてそれ
は大きな話題を呼んだのです。
 当時携帯端末の担当をしていた私は、この「アップル・ニュー
トン」をシャープの展示会で手にしたことがあるのですが、操作
が複雑でハードウェア的にもソフトウェア的にも完成度は今一つ
というマシンだったことを記憶しています。しかし、今から考え
ると、これが現在のアイフォーンの原型であったといえなくもな
いのです。
 「ニュートン・プロジェクト」はその後も継続され、1997
年には相当完成度の上がった「ニュートンメッセージパッド20
00」を発表しています。しかし、当時業績が悪化していたアッ
プル社には、PCのOSと合わせてニュートン用のOSの開発を
続ける余力がなくなり、アップル社に復帰したジョブズによって
「ニュートン・プロジェクト」は中止されたのです。
 もともと現在のウインドウズのようなOSの原型を世界で一番
早く開発したのはゼロックス社のパロアルト研究所であり、その
OSは「アルト」という小型コンピュータに搭載され、既にマウ
スも付いていたのです。
 アップル社は、OSには相当の力を入れて、リスクを恐れず最
高のものを取り入れてきています。1983年に発表された「リ
サ」にも、続いて発表された「初代マック」にもGUI――グラ
フィカル・ユーザー・インターフェースという概念が取り入れら
れているのです。これは、当然パロアルト研究所のGUIが参考
にされているのです。ジョブズCEOは、同じカリフォルニアに
あるパロアルト研究所には何度も足を運んでいるのです。
 しかし、パロアルト研究所はGUIの技術をコンピュータに応
用するのには消極的だったのです。ゼロックス社の考え方を知っ
て失望したジョブズは、ゼロックス社にその気がないのであれば
われわれでやろうじゃないかと決心したのです。
 そして、ゼロックス社から技術者を引き抜き、自社のスタッフ
に合流させて、その後20年にわたってPCの業界に影響を与え
た「マックOS」を送り出したのです。
 「マックOS」の歴史を振り返ると、2つの時期に分かれるの
です。最初は「OS」という名称を使わず「システム」と表記し
ていたのですが、バージョン7までは「システム」と呼び、バー
ジョン8以降「マックOS」の名称を使っています。
 ここでOSに関してアップル社とマイクロソフト社の考え方の
違いについて述べておく必要があります。マックの開発チームは
OSについて次のようにいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   OSは限りなく透明に近い存在であるべきである
               ――マック開発チーム
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、アップル社においてOSとは、ユーザーにとって完全
な裏方の役割に徹するべきであって、正面にしゃしゃり出るべき
ものではない――これが「透明に近い存在である」という意味な
のです。そのため、1984年のマックOSにアップル社はとく
に名前を付けず、「システム1.0」と呼んでいたのです。
 これに対してマイクロソフト社は、アップル社とは対照的にあ
たかもOSがコンピュータのすべてであるような宣伝を行って、
ウインドウズを売り出しているのです。つまり、OSがつねに前
面に出ているのです。そのため、ユーザーは、OSとアプリケー
ションの違いもよくわからないのに、OSの名前だけは強く意識
させられてきたのです。
 その後のマックOSの進化について、既出の大谷和利氏は次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 その後のマックOSの進化も、単なる機能向上に留まらず、美
 しいテキスト表示を実現するためのアウトラインフォントの充
 実や、音楽やデジタルビデオの編集と再生を強力に支援するマ
 ルチメディア技術「クイックタイム」の実装、世界の主要言語
 のシステムレベルでのサポートなど、それまで生産性ツール的
 側面の強かったコンピューターをクリエイティブなメディアへ
 と変貌させる役割を果たした。       ――大谷和利著
     『iPhone をつくった会社』/アスキー新書/073
―――――――――――――――――――――――――――――
 1996年にジョブズがアップル社に復帰すると、OSも大き
な変化を遂げるのです。「マックOS」バージョン8の時点で、
ネクスト由来の新技術を取り入れた新しいOSの導入が進められ
「マックOS」バージョン9を経て、「マックOS−X」(エッ
クスではなく『テン』)として登場するのです。
 マイクロソフト社のOSは、バージョンが上がるごとに機能が
強化されてきたのですが、それはビスタまでであって、この22
日に発売された「ウインドウズ7」は、ビスタのマイナーアップ
デートに過ぎないといわれているのです。「ウインドウズ7」対
「マックOS−X」──これについては、明日のEJで述べるこ
とにします。  ――[クラウド・コンピューティング/10]


≪画像および関連情報≫
 ●アップル・ニュートンについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ニュートンは主に次の2つの理由で商業的には失敗したとい
  える。一つは高価であった(2000型および2100型は
  1000ドル近くした)ことと、もう一つは大きすぎた(標
  準的なコート、シャツ、パンツなどのポケットに収まる大き
  さではなかった)ことである。また、評論家はその手書き認
  識についても酷評した。ニュートンは手書き入力をうたい文
  句にしていたが、初期の頃は非常に不正確な認識しかできな
  かった。手書き認識システムは、ロシアのパラグラフ・イン
  ターナショナル社がライセンス供与した「カリグラファー」
  と呼ばれるエンジンを用いていた。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

アップル・ニュートン.jpg
アップル・ニュートン
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2009年10月28日

●「マックOS−XはどのようなOSか」(EJ第2683号)

 もともとアップル社では、ハードウェアとOSとを一体のもの
と考えており、「××OS」という呼び方はしていなかったので
す。どうしてかというと、アップル社のOSは同社のPC「マッ
キントッシュ」専用のOSであり、とくにハードウェアとOSを
区分する必要がなかったからです。そのため「システム××」と
呼ばれていたのです。
 しかし、EJ第2680号で述べたように、1994年にマイ
ケル・スピンドラーCEOのときにOSのライセンスに踏み切っ
ているのです。つまり、その時点で数社のマック互換機が誕生し
ているわけです。
 しかし、OSのライセンスはジョブズがアップル社に戻ると同
時に打ち切られるのですが、その時点からアップル社では、ハー
ドウェアとOSは一体のものではなく、別のものという考え方が
生まれ、「マックOS」と呼ばれるようになるのです。
 ジョブズがアップル社に復帰したとき、アップル社の財政は底
をついている状況だったのですが、ジョブズは、これからのイン
ターネット時代に備えて新しいOSを開発する必要性に迫られて
いたのです。
 そのため、すべてをアップル社で自社開発することをあきらめ
他社の技術を導入しようと考えたのです。一時は「BsOS」や
「ソラリス」をはじめ、「ウインドウズNT」まで検討の対象に
したといわれます。
 結局、ジョブズが主宰していたネクスト社のOS「オープンス
テップ」と「マックOS」の融合版である「ラプソデイ――コー
ドネーム」を開発したのです。しかし、その後2001年にジョ
ブズの頑張りによる、今までのものとはまったく異なる新OSを
発表したのです。これが「マックOS−X」なのです。
 「マックOS−X」はどのようなOSなのでしょうか。
 「マックOS−X」は、従来の「マックOS」と比べると動作
が非常に安定しており、「アクア」と呼ばれる独自の美しいユー
ザーインターフェースのウインドウシステムを採用しており、ア
ップル社のOSとしては珍しくオープンな標準規格を採用してい
るのです。すなわち、すべてのバージョンで、アップル社のC
PUである「パワーPC」版とインテルのCPU版が用意されて
いたのです。ウインドウズPCとの互換です。
 「マックOS−X」のもうひとつの大きな特色は、UNIXベ
ースになっていることです。そのため、UNIX系のOS――B
SDやリナックスなどのソフトウェア資産は、ごく簡単な移植に
よって「マックOS−X」上で動くのです。
 UNIXは、1968年に米国のAT&T社のベル研究所で開
発されたOSであり、C言語というハードウェアに依存しない移
植性の高い言語で記述され、またソースコード(プログラム)が
比較的コンパクトであったことから、多くのブラットフォームに
委嘱されたのです。
 実はこの「マックOS−X」――モバイル機器のアイフォーン
やiPod、iPodタッチ、それにテレビに接続して使用する
ビデオ再生装置「アップルTV」に使われているのです。大きく
てパワフルな製品から小さくて省電力の製品までスケーラブルに
対応できる万能OSの様相を呈しているのです。
 ところで、現在のPCには文字入力にはキーボード、ウインド
ウズ画面操作はマウス──ウインドウズ・マウスはボタンが2つ
というようにかなり複雑です。しかし、アップル社のPCは全体
がスッキリしており、マウスのボタンもひとつしかないのです。
 アイフォーンを使っている人は分かることですが、文字入力ボ
ードは必要なときに画面上にあらわれ、スクロールなどは「ころ
がす」という表現がぴったりです。
 アップル社のノートPCである「パワーブック/G4」は、手
前の中央にかなり広いトラックパットがあり、そこに指を1本当
てて動かすときはマウスポインタが移動し、指を2本にするとウ
インドウのスクロール、指を2本置いた状態でボタンをクリック
すると、ウインドウズ・マウスの右クリックと同じことになり、
右クリックメニューが表示されるのです。こんなことが2005
年頃からできるようになっていたのです。これがアイフォーンの
操作性につながってくるわけです。
 実はこれを可能にしたのは、アップル社がフィンガーワークス
社を買収したからです。このフィンガーワークス社は、米国デラ
ウェア州の企業で、「マルチタッチ」という技術を得意とし、手
を使ってジェスチャーをファイルを開くなど,ごく一般的なコン
ピューター操作の命令に置き換える優れた技術を開発していたの
です。ジョブズは早くからこの企業に目をつけ、交渉を重ねて、
2005年に同社を買収したのです。
 2005年当時、フィンガーワークス社買収はまさに青田買い
に近い先行投資であったのです。しかし、アップル社は同社の技
術をさらに発展させ、ハイレベルのマルチタッチスクリーン技術
にまで育て上げたのです。このあたりはマイクロソフト社は完敗
といったところです。
 このマルチタッチ技術は、PCの操作にある程度慣れたマック
ブック上でだんだん熟成されていったのです。たとえば、トラッ
クパッドに指2本をあてて、回転すると選択されている画像が回
転したり、コントロールキーを押した状態で2本指の上下方向に
スライドさせると、画面全体の拡大と縮小ができたり、3本指を
上下左右方向へスライドさせると、前後の写真の表示の切り替え
やページめくりができるまでになったのです。
 これらの技術はすべてアイフォーン上でもっと簡単な操作で実
現しており、アップル社の先行投資はモノをいったといえます。
既にマルチタッチ技術は特許の関係で他社は追随できない部分が
多くなっており、アップル社はとくにノートPCや携帯電話の世
界でほぼ独占的にこの技術を向上させていくようになると思われ
るのです。このように技術面においては、今やアップル社は首位
に立っているのです。[クラウド・コンピューティング/11]


≪画像および関連情報≫
 ●UNIXとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  UNIXはコンピュータ用のOSKの一種である。公式な商
  標は「UNIX」だが、商標以外の意味として「Unix」
  またはスモールキャピタルを使用して「Unix」などとも
  書かれる。UNIXは1969年にAT&Tで最初に開発さ
  れたが、現在では「UNIX」という語はUNIX標準に準
  拠するあらゆるオペレーティングシステムの総称でもある。
  現在ではUNIXシステムは多数の系統に分かれており、A
  T&T開発時代の後も、多数の商用ベンダーや非営利組織な
  どによって開発が続けられている。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

パワーブック/G4.jpg
パワーブック/G4
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2009年10月29日

●「iPodはトロイの木馬である」(EJ第2684号)

 私はMS−DOSの時代からマイクロソフトOSを使い続け、
ウインドウズにいたっては、仕事の関係もあって、ウインドウズ
3.0 の頃から使ってきています。現在もウインドウズ・ビスタ
搭載のPCを使っていますから、根っからのウインドウズ・ユー
ザーということになります。
 しかし、そういう私でも、既にマイクロソフト社の最新OSに
なっている「ウインドウズ7」へのバージョン・アップ(?)を
ためらっています。少し様子見をしたいというのが本音です。な
ぜかというと、今回ばかりは本当にバージョン・アップになるの
かどうか疑問だからです。
 ところで、アップル社は「ウインドウズ7」の発売に合わせて
デスクトップの「iMac」とノートPCの「MacBook」
の新機種をぶつけてきています。
 しかし、PCの世界では、一度ウインドウズ・ユーザーになっ
てしまうと、アップル社からいくら魅力的な製品が出ても、もろ
もろの事情から途中でアップル社のPCに乗り換えることはきわ
めて困難になります。
 少なくとも今までに関しては、ほとんどのウインドウズ・ユー
ザーにとって、アップル社のPCはまるで関心がなく、それはま
さに別の世界のものであって、この世に存在しないものになって
しまうわけです。
 スティーブ・ジョブズはこの点を悩んでいたのです。しかし、
ジョブズは、iPodにウインドウズ・ユーザーの関心が集まっ
ているのを知って、ひらめいたのです。そして、直ちに音楽ジュ
ークボックスソフトウェアである「アイチューンズ」のウインド
ウズ版を開発するとともに、iPod自体のウインドウズ対応の
充実化を図ったのです。そして、アイチューンズはネットを通じ
て無料で頒布したのです。
 今までのアップル社であれば、純正のウインドウズソフトを開
発するのは敵の軍門に下るとして絶対にやらなかったことである
と思います。しかし、「マックOS−X」の開発以降、アップル
社の戦略は明らかに考え方が変わっていて、自社ビジネスを柔軟
にとらえ直しているのです。
 ウインドウズ版アイチューンズを無料でダウンロードできるこ
とを知った音楽ファンは、iPod以外のMP3プレーヤーを持
つユーザーまでが使い始めたのです。そして、その使い勝手の良
さをはじめて知ることになるのです。
 ところでアップル社は日本市場を非常に重視しています。なぜ
かというと、日本にはアップルPCの熱烈なファンが多くいるか
らです。そこでジョブズはiPodの発売を機に日本の象徴的な
場所にアップルストアを建築し、そこに、マックPC以外のPC
ユーザーを集客することを考えたのです。
 2003年11月──こうした狙いで誕生したのが、アップル
ストア銀座店です。ちょうど銀座松屋デパートの道路をはさんだ
反対側で銀座4丁目交差点からすぐ近くの場所であり、銀座に来
た人が普通に通る場所に面しています。あの齧ったリンゴのロゴ
マークがきわめて目立っています。
 私がiPodミニを手に入れたのは2004年秋のことです。
これは私が手に入れた最初のアップル社の製品なのです。そうい
う人は多いと思います。そしてアップル社の製品のユニークさ、
使い勝手の良さを知ることになります。そして私自身もiPod
ナノ、アイフォーンと続いてアップル製品を購入したのです。
 ところで、アップル社がアイチューンズを無償提供したことに
ついて、既出の大谷和利氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ギリシア神話のトロイア戦争において、トロイを陥落させる決
 め手となったのは城壁の中に持ち込まれた大きな木馬だった。
 城壁の外側から攻めても強固な守りに阻まれて落とすことので
 きなかったトロイも、木馬の中に隠れていた兵士による内側か
 らの侵攻にはなすすべもなく陥落した。これになぞらえて、ア
 イチューンズはウィンドウズユーザーにiPodを購入させる
 ための「トロイの木馬」として機能したと言える。
                      ――大谷和利著
     『iPhone をつくった会社』/アスキー新書/073
―――――――――――――――――――――――――――――
 ひとつでもアップル製品を持っている人なら、たまたま銀座の
アップルストアの近くに来たとき、ブラッと入ってみようという
気になるものです。そうすると、店にはあらゆるマック製品が陳
列してあり、操作することができるのです。
 2階には相談コーナーがあり、何でも相談に乗ってもらえるし
スタッフの応対もなかなかのものです。3階はマックPCなどの
使い方のデモをいつもやっており、4階にはアップル・グッズを
販売しています。
 こういう店舗が持てるのもアップル社がハードウェアを扱って
いるからであり、OSやソフトウェアを主力商品とするマイクロ
ソフト社にはできない芸当であると思うのです。マイクロソフト
社としては、せいぜいビックカメラのような量販店で製品のPR
をするしかないのです。
 私のようにiPodやアイフォーンを持つウインドウズ・ユー
ザーが、各地にあるアップルストアに行って最新のアップルPC
を操作してみるということを繰り返すことにより、アップル製品
に関する心理的バリアが薄れてくるものです。
 そこでPCの買い替えのさいに思い切ってアップルPCに切り
替えるユーザーも出てくるはずです。つまり、今までこの世に存
在しなかったものを現実的に触ってみる──ちょっと前ではあり
得なかったことが現実に起こりつつあるからです。
 iPodはトロイの木馬である──実に含蓄に富む表現である
と思います。現実に私の書斎の中にも少しずつアップル社の木馬
が増えつつあるのです。しかし、ジョブズの仕掛けはこれだけで
はないのです。 ──[クラウド・コンピューティング/12]


≪画像および関連情報≫
 ●アップルストア/銀座店のオープンに米国から参加!?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  感謝祭の休暇を利用しゲリー・アレン氏(56歳)は、20
  03年11月26日(米国時間)、16歳の息子と2人でカリ
  フォルニア州バークレーの自宅を出て、日本行きの飛行機に
  乗った。米アップルコンピュータ社が東京の銀座にオープン
  する直営店の開店イベントに立ち会うためだ。29日(日本
  時間)の早朝に起床した2人は、30日午前の開店時には行
  列の先頭にいようと、雨の中28時間、新店舗の外で過ごし
  た。そして目的を達成し、記念品のTシャツを手にすると、
  翌日の12月1日には帰国した。
   http://wiredvision.jp/archives/200312/2003121101.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

アップルストア/銀座店.jpg
アップルストア/銀座店
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2009年10月30日

●「大幅に修正されたウインドウズ7」(EJ第2685号)

 ここで「ウインドウズ7」について述べておく必要があると思
います。「ウインドウズ7」は、2009年10月22日の発売
以来その売れ行きは好調のようですが、それはある意味で当然の
ことであるといえます。
 というのは、前のOSである「ウインドウズ・ビスタ」が極度
の販売不振であったからです。具体的にいうと、それまでのOS
をビスタにバージョン・アップしようとすると、PCを買い替え
ないと軽快な動作が保障されなかったからです。そのため、XP
からのバージョンアップがスムーズに行かなかったのです。
 当初ウインドウズ・ビスタについて、マイクロソフト社として
は相当自信を持っていたのです。広告宣伝にもふんだんにお金を
使い、とくに「エアロ・グラス」と呼ばれる画面の半透明処理を
テレビCMで徹底的にPRしたのです。とくにPCのOSに関心
がなくても、あのCMは見たことがあると思います。確かに見た
目に派手で、未来を感じさせるデザインであったので、期待した
PCユーザーは多かったと思います。
 しかし、ウインドウズXPがかなり完成度が高かったこともあ
り、多くのユーザーはXPに慣れていたのです。それに加えて、
XPは2001年以来5年以上にわたって使い続けてきたので、
いまさらPCを買い替えてまで、ビスタにバージョンアップする
のは得策ではないと考えたユーザーが多かったので、その売れ行
きはさっぱりだったのです。とくに法人ユーザーはその多くが、
XPからのバージョンアップをやらなかったことは、マイクロソ
フト社にとって相当の痛手になったと思われます。
 ところが、ウインドウズ7はどうだったでしょうか。発売日以
前にウインドウズ7のCMを見た人はいるでしょうか。少なくと
も私は見ていないのです。
 米国では、ウインドウズ7のCMをテレビのゴールデンタイム
の枠を買うことなく、ネットで流していたといわれます。そのC
Mは、次のURLをクリックすれば見ることができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   http://wiredvision.jp/news/200810/2008100920.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 明らかにウインドウズ7についてマイクロソフト社は、ビスタ
とは対照的に地味な戦略で臨んでいるように思います。実はウイ
ンドウズ・ビスタを主軸に据えるPC用OS戦略についてマイク
ロソフト社は大幅な修正を行っているのです。その原因は「ネッ
トブック」と呼ばれる小型PCの出現にあるのです。
 ネットブックは、一言でいえば「安価な小型ノートPC」なの
です。サイズはB5判程度と小さくて持ち運びが簡単であり、価
格も3万円から8万円程度のPCです。ノートPCに比べるとか
なり価格は安いのです。
 ネットブックの狙いは、移動先や旅行先、自宅の寝室やリビン
グなどで、メールをしたり、ウェブアプリを利用する――こうい
う使い方にあります。本格的な作業をするためのPCではない、
2台目、3台目のPCという位置づけです。
 ところが2008年10月以降、このネットブックが非常によ
く売れたのです。2008年10月以降、店頭で出荷されたPC
のうちなんと25%がネットブックだったのです。2007年の
同じ時期には、このジャンルは存在しなかったので、伸びは「爆
発的」であったといえます。
 台湾のアスーステック・コンピュータ社が、2007年末に台
湾や米国で発売した「EeePC」がヒットしたこともあって、
デル、ヒューレット・パッカード、東芝、NECなどの大手メー
カーが相次いでこのジャンルに参入して大混戦になったのです。
 どうしてこういうPCが出現したかというと、インテルが将来
の携帯電話や家電製品のニーズを考えて、性能は多少落としても
低価格・低消費電力に焦点を絞った「アトム」というCPUを開
発し、製造を始めたことにあるのです。
 ところがこれらのネットブックに搭載されているOSは、ウイ
ンドウズXPであり、当然のことながらビスタではないのです。
そこでPCメーカーとしては、マイクロソフト社に対し、ウイン
ドウズXPのサービスの存続を要望したのです。
 しかし、これはマイクロソフト社にとって頭の痛い問題なので
す。なぜなら、ウインドウズXPとビスタ、それに次に出る予定
の新OS「ウインドウズ7」の3つを維持しなければならなくな
るからです。これはとてもできない相談なのです。3つのOSを
抱えることは、そのセキュリティの面から考えても、不可能に近
いことだからです。
 そうかといって、マイクロソフト社としては、このネットブッ
ク市場を失いたくない――そこで、当初2009年4月に終える
としていたXPのサポート期間を2014年4月まで延長すると
いう措置をとったのです。
 ネットブックを製造するメーカーとしては、2008年時点で
もしマイクロソフト社がXPの提供を打ち切るのであれば、無償
のリナックスOSを使う意思を表明しており、マイクロソフト社
は早急な対応を迫られたのです。そのため、ウインドウズ7を当
初考えていたものから大きく修正することになったのです。
 そこでマイクロソフト社は、2008年10月の「PDC20
08」において、ウインドウズ7の方向性を明らかにしているの
です。その基調講演の中で、マイクロソフト社でウインドウズの
開発を統括するスティーブン・シノフスキー副社長は片手にネッ
トブックをかざしながら次のようにいったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウインドウズ7は、クロック周波数1ギガヘルツ、メモリ1ギ
 ガのこのPCでも快適に動作する。実際、メモリはまだ半分も
 空いている。              ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
        ──[クラウド・コンピューティング/13]


≪画像および関連情報≫
 ●「ネットブック」はどういうPCか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ネットブックは、ネットワーク機能を備えてインターネット
  に接続し作業する事を主な用途とした、比較的安価で小型軽
  量なノートパソコンであり、その製品やカテゴリーの呼称で
  ある。2007年10月にアスーステック・コンピュータが
  販売した「EeePC」が最初に販売されたネットブックと
  される。ただし「ネットブック」の名称を初めて提唱したの
  は、2008年3月米インテル社が自社CPUである「イン
  テル・アトム」について語った時であると見られている。イ
  ンテル自身もこの時点ではあまり明確な基準ではなく、「イ
  ンターネット利用に特化した低価格モバイル」程度の意味で
  あった。              ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ビスタ・エアロ.jpg
ビスタ・エアロ
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2009年11月02日

●「ウェブ版オフィス14とは何か」(EJ第2686号)

 「ウインドウズ7」の販売はなかなか好調のようです。アップ
ル社の猛追に対してマイクロソフト社としては、どのような戦略
で立ち向かうのでしょうか。
 実はマイクロソフト社は2008年の時点で2009年以降の
戦略を固め、そのうえでこの10月22日に「ウインドウズ7」
を出したのです。そこで、ここまでは、アップル社を中心にその
戦略を述べてきたので、しばらくマイクロソフト社の戦略につい
て述べることにします。
 2008年9月のことです。マイクロソフト社は、次のような
注目すべきメッセージを世界に発信しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       Windows Life Without Walls
―――――――――――――――――――――――――――――
 「壁のないウインドウズ・ライフ」──これは何を意味してい
るのでしょうか。
 今まではPCをはじめ携帯電話など各情報機器ごとにそれぞれ
何らかの「壁」が存在していたのです。しかし、現代では、サー
バーで処理する部分を増やすことによって、少しずつ「壁」がな
くなってきているのです。やがてそれは「壁のない世界」に到達
することになりますが、マイクロソフト社はそれを目指すといっ
ているのです。
 マイクロソフト社のこのポリシーは、2008年9月に開催さ
れた家電展示会の開催に合わせて開かれた会見において、その趣
旨が米マイクロソフト社の副社長ブラッド・ブルックス氏から伝
えられたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 あらゆる壁を乗り越えて人々のコミュニケーションを促すとと
 もに、10億人のウインドウズ・ユーザーに選択肢を与える。
 これからの新しいウインドウズでは、家庭や職場だけでなく、
 移動中や娯楽中にも『壁のない世界』を体験できるだろう。
                ──ブラッド・ブルックス氏
                     ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 続く2008年10月、マイクロソフト社は、米ロサンゼルス
で開かれた同社製品に関する開発者会議「PDC2008」にお
いて、次の2つの重大な発表を行ったのです。これには当然「壁
のないウインドウズ・ライフ」を踏まえた2つの製品のコンセプ
トの発表ということになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.ウインドウズ7
          2.オフィス 14
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、「ウインドウズ7」はともかくとして、「オフィス
14」とは何でしょうか。
 「オフィス14」は、ワードやエクセルなどのあの「マイクロ
ソフト・オフィス」の新バージョンのことです。既に「オフィス
2007」がリリースされていますので、その次のバージョンの
「オフィス」ということになります。
 「オフィス14」は仮称──コードネームですが、次の2つの
種類があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.ローカル・アプリ版/オフィス14
     2.ウェブ ・アプリ版/オフィス14
―――――――――――――――――――――――――――――
 「オフィス14」は、おそらく「オフィス2010」という名
称のオフィスの次期バージョンと考えてよいと思います。2つの
うち、「ローカル・アプリ版/オフィス14」は、パッケージに
入った普通のオフィス製品のことです。
 ここで「ローカル」というのは「ハードディスク」のことであ
り、パッケージに入っているCDをハードディスクにインストー
ルして使う、普通タイプのオフィス製品です。
 これに対して「ウェブ・アプリ版/オフィス14」というのは
マイクロソフト社としてははじめて投入されるものです。つまり
「ローカル」に対して「ウェブ」――自分のPCのハードディス
クにインストールするのではなく、ネット上にあるオフィスをブ
ラウザを通して使う今までにない画期的なオフィスのことです。
 画期的というだけのことはあるのです。ブラウザというと、マ
イクロソフト社の場合は「インターネット・エクスプローラ/I
E」ということになりますが、この「ウェブ・アプリ版/オフィ
ス14」の場合は、「サファリ」や「ファイアフォックス」とい
うIE以外のウェブブラウザでも動くのです。しかも同様にOS
にも依存しないのです。
 それに加えて高機能なウェブブラウザを持つ、アイフォーンな
どの一部の携帯電話でもそれは動くということです。そしてさら
に驚くべきことは、多くのウェブ・アプリと同様に「無料」で公
開されることが予測されているのです。
 そうすると、こういうことになります。「ローカル・アプリ版
/オフィス14」はいつものように有料であるのに対し、同じ機
能を持つ「ウェブ・アプリ版/オフィス14」は無料で使えると
いうことになります。この場合、ウェブ・アプリ版オフィスが非
常に使い勝手が悪いということではないのです。ローカル・アプ
リ版とほぼ同じように使えるということです。
 なぜ、マイクロソフト社はこの決断をしたのでしょうか。
 それは、2006年6月からグーグルがはじめた「グーグル・
ドキュメント」が原因なのです。これは、無料で使えるウェブ版
ワープロや表計算ソフトなのです。もちろん、オフィスには機能
的に及ばないものの、オフィスのファイルを編集するぐらいのこ
とは簡単にできるのです。マイクロソフト社はこれに強い危機感
を抱いたのです。──[クラウド・コンピューティング/14]


≪画像および関連情報≫
 ●「グーグル・ドキュメント」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  グーグル・ドキュメントは、文書(ワープロソフト)、スプ
  レッドシート(表計算ソフト)、プレゼンテーション)の3
  つの機能が提供されている。ドキュメントはいずれもグーグ
  ルのサーバ上に保存されるが、他形式とのインポート・エク
  スポートも可能。他のユーザとのドキュメント共有をサポー
  トしている。一つの文書ファイルは500KBまで、画像フ
  ァイルは2MB、縦書きには対応していない。また、保存し
  た時点でフォーマットが失われるため取り出した文章も横書
  きのままである。          ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

オフィス次期バージョン.jpg
オフィス次期バージョン
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2009年11月04日

●「ウェブ・サービスとしてのオフィス」(EJ第2687号)

 ここで「ウェブ・アプリ」がどのようなものであるか知る必要
があります。それには、「ホームページ」と「ブログ」の違いに
ついて理解することが問題の解決に役立つと思います。
 ここまでブログが普及した現在においても、ホームページとブ
ログの違いがわかっていない人は多いのです。それはマスコミの
報道のやり方にも責任があります。報道する記者自身が、よくわ
かっていないのです。
 ブログが登場したときマスコミは、「簡易ホームページ」とか
「日記風ホームページ」という表現で紹介しています。このよう
に表現されると、ホームページもブログも基本的には同じもので
あって、ブログはホームページを簡単にしたもの、つまり、ホー
ムページの簡易版――このようにとらえてしまいます。
 「簡単にしたもの」という表現をすると、ブログは技術的に簡
単なもの、すなわち、技術的にホームページの下にくるものとい
う間違ったとらえ方をしてしまいます。しかし、実際には、技術
的にはホームページよりもブログの方が進化しており、情報発信
やサイトの更新が簡単になっています。
 もうひとつ最近の話ですが、「ツイッター」というものが流行
しつつあります。マスコミは例によってこれを「ミニブログ」と
か「簡易ブログ」と表現しています。マスコミの記者自身が自分
でもよくわからないまま、このように報道しているのです。
 最近では「ブログ」に括弧書きで説明することはなくなってい
ますが、実際にブログをやっていない人は、依然としてブログが
何であるか知らない人は多いと思います。そういう人にとっては
「ミニブログ」とか「簡易ブログ」といわれても、一層わからな
くなり、困惑してしまいます。
 そこで、改めてホームページとブログの違いをなるべく専門的
にならないように説明します。そうすれば、ツイッターも容易に
理解できるようになります。
 ホームページを構築するときは、一からプログラミングするか
ホームページ作成ソフトを購入し、自分のPCで作ることになり
ます。ページのレイアウト構造などはすべて自分で作り上げる必
要があるし、ある程度のウェブの構造などの技術的知識が必要に
なるので、素人にとっては相当敷居の高い作業になります。その
代わりプログラミングをマスターすると、全体ページのレイアウ
トやデザインなどについては、自分の好みの綺麗なホームページ
を作ることができます。しかし、相当の努力が必要です。
 そして、ホームページが完成すると、そのファイルをプロバイ
ダーの指定のサーバーに転送してはじめてインターネット上に公
開されることになります。しかし、こういう作り方では着手から
完成まで相当の期間がかかります。コスト面からみても、ホーム
ページ作成ソフトの購入費やサーバー関係の費用など、それなり
のコストがかかります。
 それに対してブログの場合はどうでしょうか。
 一般的にブログの場合は、それを提供する業者のサーバーに接
続した状態でサイトを作成するのです。ユーザーのPCと業者の
サーバーが接続されていると、ブログの構築についてサーバー側
がいろいろな支援をユーザーに対して行うことが可能になるので
す。技術的にはCMS――コンテンツ・マネジメント・システム
というソフトウェアによってそれを可能にしているのです。
 これによって、ブログの場合は、ユーザー側に技術的知識がな
くてもサイトを短時間で作り上げることが可能になります。人に
もよりますが、レイアウトなどに凝らなければ、半日もあればブ
ログを立ち上げることができます。しかも、料金は無料です。
 そして何よりも便利なのは、ブログの場合は情報の発信――ブ
ログの更新が簡単にできることです。これもCMSの恩恵なので
す。ホームページの場合は、いったんPCでコンテンツの追加や
削除を行い、その修正ファイルをプロバイダーのサーバーに転送
する――このようにホームページの情報の発信は不便です。
 実はこのユーザーのPCと業者のサーバーがつながった状態で
マイクロソフト・オフィスのサービスを提供しようというのが、
「ウェブ・アプリ版・オフィス14」のサービスなのです。
 ローカル版オフィスでは、自分のPCのハードディスクにイン
ストールしたオフィスを使うのに対し、ウェブ版オフィスの場合
は、マイクロソフト社のサーバーに接続した状態で、オフィスの
サービスを受けるウェブ・サービス――そういう位置づけになり
ます。ローカルで必要なのはウェブブラウザだけです。
 ウェブ版オフィス14は、現在のところ無料で使えるとアナウ
ンスされています。しかし、近い将来、それは有料になると私は
予測しています。ユーザーのPCと業者のサーバーがつながった
状態でユーザーがオフィスを使うと、ユーザーがオフィスのどの
ソフト――たとえばワード――をどれだけの時間使ったかを管理
できるので、その分だけの料金を請求するというかたちに発展す
ると思います。これが「SaaS」といわれる新しいコンピュー
タの使い方です。
 こういうウェブ・サービスが実現するには、次の3つの条件が
必要になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.ネット接続の容易性
         2.サーバーの性能向上
         3.ブラウザ機能の増大
―――――――――――――――――――――――――――――
 最近ではネット接続は本当に簡単になっています。アイフォー
ンを使っていると、どこでネットにつながったのかわからないほ
どです。これに伴い、サーバーの性能が向上しています。現在の
サーバーは10数年前と比較すると、その能力は100倍以上に
向上しています。だからこそ、ブログのように凝ったレイアウト
を自動生成し、多くの人の閲覧に耐える速度で提供できるように
なったのです。PCの使い方に構造的な変化が生じていることを
知るべきです。 ──[クラウド・コンピューティング/15]


≪画像および関連情報≫
 ●CMSとは何か/コンテンツ・マネジメント・システム
  ―――――――――――――――――――――――――――
  CMSとは、ウェブ・コンテンツを構成するテキストや画像
  レイアウト情報などを一元的に保存・管理し、サイトを構築
  したり編集したりするソフトウェアのこと。広義には、デジ
  タルコンテンツの管理を行なうシステムの総称。CMSを導
  入すれば、テキスト制作者はHTMLなどの知識を習得する
  必要はなく、デザイナーはテキストが更新されるたびに作業
  を行なう必要はなくなり、それぞれ自らの作業に集中するこ
  とができる。また、サイト内のナビゲーション要素なども自
  動生成するため、ページが追加されるたびに関連するページ
  にリンクを追加するといった煩わしい作業からも解放される
  ことになる。      http://e-words.jp/w/CMS-1.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ホームページ作成ソフト.jpg
ホームページ作成ソフト
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2009年11月05日

●「エイジャックスという驚くべき技術」(EJ第2688号)

 もともとホームページ――ウェブサイトは「静的」なものだっ
たのです。いわば雑誌のページを表示するだけのもので、そこに
動きを取り入れることは非常に困難なことだったのです。
 たとえば、ある場所の地図をウェブページとして表示したとし
ます。しかし、地図の端にマウスポインタを持ってくると、サー
バーがその位置を計算して地図全体の再書き込みをするのです。
その間、数10秒――とにかくスムーズに動かないのです。
 これに対してハードディスクにインストールして使う地図ソフ
トはスピーディーに動いたのです。そういう操作性にかけてウェ
ブ上の地図ソフトは大きく性能が劣っていたのです。
 しかし、2006年頃に突如として登場したグーグル・マップ
は、ウェブ・ページ上であるにもかかわらず、スムーズに動いた
のです。ページの上をクリックしてマウスを動かすと、地図を自
由にスクロールできたのです。そのため、現在見ている地点の周
辺をチェックするときもスムーズにでき、その動作性はローカル
で動く地図ソフトと同等のレベルであったのです。
 このグーグル・マップについて、IT評論家の佐々木俊尚氏は
自著の中で次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マウスで地図上をクリックしたり、ドラッグしたりすると、す
 るすると地図が右や左、上や下に流れるように移動し、スムー
 ズに地図の上を動くことができるのだ。拡大・縮小も自由自在
 で、まるで地上から発射されたロケットの窓から地表を眺めて
 いるように、自宅周辺の細かい地図から世界地図までするする
 と縮尺を変えていくこともできた。    ――佐々木俊尚著
     『グーグルGoogle/既存のビジネスを破壊する』より
                      文春新書501
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、このようなことができるのかというと、そこには「エイ
ジャックス」という技術が使われているからです。エイジャック
スは、処理をウェブブラウザ側とサーバー側に分割し、それぞれ
が協調して動作することによって、ウェブ上でスムーズな動きを
実現しているのです。
 グーグルは、このグーグル・マップに先んじて「Gメール」を
スタートさせています。これにもエイジャックスが使われており
ウェブブラウザ上で「アウトルック」のようにメールの読み書き
を可能にしたのです。
 さらにグーグルは、2005年10月に、サン・マイクロシス
テムズと提携を発表したのです。何が目的の提携かというと、当
時サンが「オープン・オフィス」(別称:スター・オフィス)と
いう無償のオフィスソフトを開発していたからです。
 もちろんこれはマイクロソフト・オフィスに対抗して開発した
のですが、完成度も高く、しかも無料で使えたにもかかわらず、
サンはどうしても普及させることができなかったのです。
 しかし、そのサンがグーグルと提携するということになると、
マイクロソフト社には脅威になるのです。なぜなら、エイジャッ
クスの技術を使い、ウェブ上にオープン・オフィスを無料で提供
するとなると、マイクロソフト・オフィスにとって大打撃になる
からです。
 しかし、不思議なことに提携の記者会見で明らかになったこと
は、オープン・オフィスのエイジャックス版開発の話などは出ず
かなり限定的な内容の提携にとどまったのです。一体そこに何が
あったのでしょうか。
 結局、次の年の2006年6月にグーグルがスタートさせたの
は、オープン・オフィスより機能が劣る「グーグル・ドキュメン
ト」――ウェブ上でワープロや表計算ソフトが使える――であり
マイクロソフト社が恐れる事態にはならなかったのです。このグ
ーグル・ドキュメントでもエイジャックスの技術は駆使されてお
り、次々とバージョンアップが行われています。その機能レベル
は年々向上してきているのです。
 このように次々と仕掛けてくるグーグルの攻勢に対し、マイク
ロソフト社は危機感を抱いたのです。そこでマイクロソフト社は
グーグルとサンの提携の1ヶ月後に、次の2つのサービスを相次
いで発表したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.  オフィス・ライブ
        2.ウインドウズ・ライブ
―――――――――――――――――――――――――――――
 「オフィス・ライブ」というのは、ウェブブラウザ上で使える
オフィスのサービスを中小企業などに低価格で提供するというサ
ービスです。「ウインドウズ・ライブ」は、Gメールと同じよう
に、ウェブブラウザ上でメールの読み書きが行えるというもので
あり、明らかにグーグルへの対抗策であったのです。
 これに伴い、マイクロソフト社は、次の2つの技術を開発して
いるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.ウインドウズ・アジュール
       2.    ライブ・メッシュ
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ウインドウズ・アジュール」とは何でしょうか。
 ウインドウズ・アジュールとは、サーバーを構築するために使
われるOSであり、それに付随するさまざまな開発基盤(プラッ
トフォーム)を統合したものです。オフィス14のウェブ・アプ
リ版もこのプラットフォーム上で動作するのです。
 もうひとつの「ライブ・メッシュ」とは何でしょうか。
 ライブ・メッシュを簡単にいうと、データをネット上に置くた
めの技術のことです。メールなどのデータを簡単にネット上に置
けるようにし、複数のPCや携帯電話から同じデータを見られる
ようにしたのです。これら2つの技術をマイクロソフト社は保有
しているのです。──[クラウド・コンピューティング/16]


≪画像および関連情報≫
 ●エイジャックス(Ajax)とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  従来のウェブアプリケーションでは、サーバにリクエストを
  送信後、レスポンスを新たにウェブページとして受け取り画
  面遷移が発生していたが、エイジャックスにより画面遷移を
  伴わない動的なウェブアプリケーションの製作が実現可能に
  なる。例えば、ウェブ検索に応用することで、従来は入力確
  定後に行っていた検索を、ユーザがキー入力をする間にバッ
  クグラウンドで行うことによってリアルタイムに検索結果を
  表示していくといったことが可能になる。
  ―――――――――――――――――――――――――――

アイフォーンでグーグル・マップ.jpg
アイフォーンでグーグル・マップ
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2009年11月06日

●「ウインドウズ・アジュールとは何か」(EJ第2689号)

 昨日のEJで取り上げたマイクロソフト社の2つの新技術――
「ウインドウズ・アジュール」と「ライブメッシュ」について、
もう少し詳しく説明することにします。
 何のための技術かというと、一言でいうと「クラウドのための
先端技術」ということになります。「クラウド」というのは、ク
ラウド・コンピューティングのことですが、これは今回のテーマ
そのものであり、これについては改めて詳しく説明します。
 ウインドウズ・アジュール――これはいわば「クラウド内に存
在するウインドウズOS」なのです。ネット上で動く「ウェブ・
アプリ版/ウインドウズ14」は、このウインドウズ・アジュー
ル上で動作するのです。
 マイクロソフト社は、数年前から温めてきた「ソフトウエア+
サービス」というキーワードを今回強く打ち出したかたちですが
これはグーグル社の動き見ての対応策であると考えられます。
 注目すべきは、マイクロソフト社がこの技術を打ち出した場が
「PDC2008」であるという点です。PDC2008とは、
何を目的とするものなのでしょうか。「PDC」というのは次の
ことを意味しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   Professional Developers Conference 2008(PDC 2008)
  ―― マイクロソフトの開発者向けカンファレンス ――
―――――――――――――――――――――――――――――
 ソフトウェアというものは特定のOSの環境下で動作します。
それはOSに合わせてソフトウェアを開発するからです。マイク
ロソフト社としては、ウインドウズベースのソフトウェアを作る
開発業者を増やす必要があります。もちろんローカルのOS市場
を制しているマイクロソフト社には当然多くのソフトウェアの開
発業者が存在します。そういうソフトウェア開発者の会議がPD
Cなのです。
 ローカル市場でのマイクロソフト社の優位は、主戦場がウェブ
に移ると事情が一変するのです。ウェブに移るということは、主
戦場がサーバーになるということを意味しています。つまり、サ
ーバーOSの競合がはじまっているということです。
 もちろん現在のところサーバーOSの世界でも、マイクロソフ
ト社は優位を保っています。2008年第2四半期におけるサー
バーOSの世界シェアは次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ウインドウズ ・・・・・ 36.5 %
    ユニックス  ・・・・・ 32.7 %
    リナックス  ・・・・・ 13.4 %
    zOS    ・・・・・ 11.8 %
    その他    ・・・・・  5.6 %
                     ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 以上のサーバー用OSの世界シェアで焦点の当たっているのは
第3位の「リナックス」なのです。これは基本的には無償のOS
であり、ウインドウズにとっては最大の強敵なのです。
 ローカル・アプリが少しずつウェブ・アプリに移行してくると
ウェブ・アプリを開発する業者が増えてきます。そういう業者に
対して、個人向けウェブ・アプリを多く開発しているグーグル社
は、サーバーを貸し出すサービスをはじめています。しかし、そ
のサーバーにはウインドウズを使わず、「リナックス」を自社で
改良したものを使っているのです。
 通販サービス大手のアマゾン・コムもグーグルと同様にウェブ
・アプリを構築する企業に対してサーバーを貸し出す「アマゾン
EC2」というサービスをはじめています。こちらもOSの中心
はウインドウズではなく、リナックス改良版なのです。
 マイクロソフト社は、そういう動きに対し、開発者の集まりで
あるPDC2008で、「ウインドウズ・アジュール」を打ち出
し、グーグルなどへの流れを抑えようとしたのです。
 既出の西田宗千佳氏は、ウインドウズ・アジュールの正体につ
いて、次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今後、様々なところでウェブサービス・ウェブアプリが増えて
 くることになると、自社でサーバーを持たず、グーグルやアマ
 ゾンのような企業から借りる、という形も増えてくるはずだ。
 その時、ウィンドウズ・サーバーが使われる保証はない。この
 ままでは、最終的に「ウェブアプリの時代」に得られる利益を
 失うのでは・・・。マイクロソフトはそう考えたわけだ。ウェ
 ブアプリの構築に必要な技術をまとめ、既存のウィンドウズ・
 アプリケーションも動作し、EC2(アマゾン)などのような
 「レンタル」形態にも対応できるソフトウエア。それこそが、
 ウィンドウズ・アジュールの正体である。ローカルのアプリケ
 ーションからウェブアプリヘ。その潮流は、マイクロソフトの
 ビジネスモデルそのものに、大きな変革をもたらそうとしてい
 るのである。              ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 今やマイクロソフト社には、グーグル社とアップル社という2
つの強敵がいます。ITの世界が一斉にクラウド――ウェブの世
界に向かう中で既に激しい攻防戦が始まっているのです。その主
戦場はサーバー市場なのです。
 この攻防は、サーバーの世界の話であって、一般的にはよく見
えない世界での熾烈な戦いなのです。その中で大きく先行してい
るのはグーグル社ですが、アップル社もマイクロソフト社もそれ
ぞれ独自の戦略でしのぎを削っています。
 そのためのマイクロソフト社のひとつの技術が「ウインドウズ
・アジュール」なのです。「ライブ・メッシュ」については来週
述べます。   ──[クラウド・コンピューティング/17]


≪画像および関連情報≫
 ●「PDC2008」でのマイクロソフト社発表
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米マイクロソフトのPDC2008。初日は同社チーフ・ソ
  フトウエアアーキテクトのレイ・オジー氏によるキーノート
  で幕を開けた。参加者は約6500人で、うち5000人が
  開発者。彼らから大きな尊敬を集めるオジー氏だけあって、
  彼の言葉に皆が熱心に聞き入った。「このPDCは、マイク
  ロソフトの製品やサービス、戦略にとって大きな転換点にな
  る」と開口一番に語ったオジー氏が発表したのは、「ウイン
  ドウズ・アジュール」。ウインドウズ・アジュールは、いわ
  ば「クラウド内に存在するウインドウズOS」。マイクロソ
  フトがデータセンターを運用し、その上でストーレージ、仮
  想化、システム管理を含むホスティング・サービス、「Live
  サービス」(文書や画像の共有)、「SQLサービス」(デ
  ータベース、検索)、「. NETサービス」(ビジネスにお
  けるワークフローやアクセス・コントロール)を提供するも
  のだ。               ――2008.10
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20081028/317929/
  ―――――――――――――――――――――――――――

ウインドウズ・アジュール.jpg
ウインドウズ・アジュール
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2009年11月09日

●「登録機器のデータを同期する技術」(EJ第2690号)

 既に述べたように、ライブメッシュは、「データをネット上に
置く」ための技術です。オフィス14もこの技術を基盤のひとつ
として使っており、両者は非常に密接な関係にあります。マイク
ロソフト社がどのような目的でライブメッシュを開発したのかに
ついて考えてみることにします。
 グーグルの「Gメール」というサービスがあります。2004
年4月から始まっていますが、マイクロソフト社の「ホットメー
ル」、ヤフーの「ヤフーメール」よりも後発でありながら、現在
ではそれらをしのいで、大きく普及しています。
 ホットメールやヤフーメールは、「ウェブメール」と呼ばれて
います。Gメールももちろんウェブメールです。ウェブメールは
専用のメールソフトを利用せず、複雑な設定作業がなく、しかも
無料で使えるので、人気を集めてきたのです。
 たとえば、旅行者がインターネット・カフェやホテルなどの共
用PCを使ってメールをやりとりできることから幅広く使われて
きたのです。しかし、グーグルの進出に対して、既に寡占状態に
あるウェブメールの市場に莫大な資本を投入して参入する意義が
あるかどうか疑問視する声が多かったのです。
 そのとき多くの人は、ウェブメールを外出時などの「補助的な
メール」として使っていたのです。しかし、Gメールはユーザー
それぞれに大容量の保存エリアを与えるなど、他のウェブメール
サービスと違うところが多かったので、後発でありながら、多く
のユーザーを獲得するにいたったのです。なかにはGメールを自
分のメインのメールサービスとして使うユーザーも増えてきてお
り、まさにグーグルの狙い通りです。そういう意味でGメールは
「ローカルからウェブへ」の転換を促す格好のツールとなったの
です。Gメールは現在次のように評価されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (Gメールは)パソコンとインターネットの未来を決定づけた
 「画期的サービス」(である)      ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 今までPCユーザーは、メールをはじめとするあらゆるデータ
をローカル、すなわちハードディスクに保存してきたのです。し
かし、データをローカルに保存すると不便なことが多いのです。
 まず、ハードディスクの容量の問題があります。すべてのデー
タを残しておこうと考えると、ハードディスクの容量を無限に増
やしていく必要があります。これにはコストがかかるのです。
 続いて安全性の問題があります。もし、PCのハードディスク
が壊れたら多くの場合、データは失われます。そうかといって、
他のPCのハードディスクなり、CDなどにバックアップ保存す
る方法は、現実的な方法とはいえないのです。
 もうひとつの問題はデータをPCのハードディスクに保存する
場合は、そのデータを見たり、編集したり、データを作るときは
そのPCでやらなければならないということです。例えば、外出
時にPCに届いたメールを見ることはできないし、もちろんメー
ルを発信することもできないのです。
 しかし、Gメールのようにメールデータをウェブに預けると、
どこでも他のPC、アイフォーンなどのスマートフォン、携帯電
話などのネットにつながる機器で見ることができます。
 そこでマイクロソフト社は、メールだけでなく、PCで扱うす
べてのデータをウェブ上に置いて使うプラットフォームを作る必
要に迫られたのです。それが「ライブメッシュ」というかたちで
実現を見たわけです。
 しかし、「データをネット上に置く」といっても、グーグル・
ドキュメントとライブメッシュとはそのポリシーがかなり異なる
のです。その違いについて説明しましょう。
 グーグル・ドキュメントでは、それを使って作成したデータは
グーグルが預かっています。それをさまざまな場所から見て、編
集するというかたちになります。つまり、データの原本はグーグ
ルの手元にあると考えるとわかりやすいと思います。
 しかし、既出の西田宗千佳氏はライブメッシュを次のように定
義しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ライブメッシュは複数のパソコンや携帯電話の間で、データを
 「同期」するサービス。それぞれのパソコンや携帯電話が持っ
 ているデータを、常に「同じ状態に保つ」、という仕組みが中
 核となっている。            ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 どういうことかというと、データがウェブ上にあるので、ネッ
トPCを含むどのPCでも、スマートフォンでも、携帯電話でも
データを見ることはもちろんのこと、データを編集したり、作成
することもできるのです。
 ライブメッシュは、それぞれのデータを常に同期して、同じ状
態にしてくれるのです。この場合、ライブメッシュでは元データ
――すなわち原本という概念はなく、原本と同じものが分散して
いるのです。つまり、データを作成・編集しているのはあくまで
それぞれの機器の中にあるデータなのです。
 これに対してグーグルの場合は大変わかりやすいのです。それ
はグーグルのサーバーにすべてのデータを預かるからです。これ
はいわばデータの原本であり、それをいろいろな機器から見たり
編集したり、作成したりするが、あくまで原本はグーグルのサー
バーの中にあるのです。
 しかし、この方法は相当のリスクを伴うのです。データを集中
させると必ずパンクの原因になるからです。実際問題として、G
メールは何回かパンクしているのです。
 これに対して、ライブメッシュの場合は、あの悪名高き「ウィ
ニー」のようなシステムをベースにしているのです。詳しくは明
日のEJで述べます。[クラウド・コンピューティング/18]


≪画像および関連情報≫
 ●「ウイニー」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ウィニーは、マイクロソフト・ウインドウズで動作するP2
  P技術を利用したファイル共有ソフトである。ウィニーは、
  ファイル共有に中央サーバーを必要としないピュアP2P方
  式で動作する。それ以前のいわゆる「P2Pファイル交換ソ
  フト」では、各クライアントの情報をサーバーに集積する様
  式(ハイブリッドP2Pモデル)が主流であったため、サー
  バー非稼動時には利用できないという問題を抱えていた。そ
  の意味でウィニーはシステム上の障害に対して非常に強く、
  一度稼働を始めたネットワークは止められないことが特徴で
  ある。               ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ライブメッシュを伝えるニュース.jpg
ライブメッシュを伝えるニュース
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2009年11月10日

●「ウィニーと似ているライブメッシュ」(EJ第2691号)

 マイクロソフト社の最新の技術「ライブメッシュ」の説明の続
きです。一般論として、複数の人でデータを共有するときどうす
るでしょうか。
 どこかのサーバーにデータを預けて、それにさまざまな場所か
らアクセスするというかたちになると思います。いわゆる集中管
理方式です。グーグル・ドキュメントはこの方式を採用している
のです。
 しかし、集中管理方式には難点があります。それはアクセスの
過度の集中です。とくに無料でワープロや表計算ソフトが使える
となると、常態的にアクセスが殺到するのは当然であり、いかに
パンクを防ぐかが大きな課題になります。現実的にグーグル・ド
キュメントには、過度のアクセス集中によるトラブルやデータ共
有において多くの問題が発生しているのです。
 ところで、昨日のEJで述べたように、ライブメッシュはデー
タ共有ソフト、ウィニーと大変よく似ているのです。データを単
純にサーバーに集めるのではなく、各自のPCにデータを分散し
て持ってもらい、あるデータを欲しい人は、そのデータを持って
いる近くのPCに取りに行く方式なのです。といっても、この説
明では、イメージが描けないと思います。
 ウィニーの場合、ユーザーのPCのハードディスクの一部を共
有エリアとして設定し、ネット上でそれらの共有エリアを連結し
巨大な共有ハードディスクを構築するのです。
 この場合、ユーザーは自分が共有しようと思うデータ──ウィ
ニーの場合は音楽データや映像データなど──そういうデータを
自分のPCのハードディスクに設定した共有エリアにコピーする
だけでよいのです。
 どのようなデータがどこにあるのか──これはユーザー同士で
は検索すればわかるようになっているので、それを取りに行くこ
とができるのです。それが音楽のデータであれば、その音楽をユ
ーザー同士で共有できるわけです。もちろん無料です。
 このウィニーの最大の欠陥は、公開してよいデータと公開した
くないデータを厳然と切り分けることができなかった点にあるの
です。たとえば、あるウィニーのユーザーが自分のPCのハード
ディスクの共有エリアに音楽データを置いたとします。
 しかし、そのPCのハードディスクには仕事用の重要情報がた
くさん入っており、当然のことながら、これらのデータは非共有
エリアにあったのです。
 ところが共有エリアと非共有エリアの切り分けがきちんとでき
ず、ハードディスクのすべてのデータが公開情報として外部に流
出してしまったのです。この場合、いったんデータが流出してし
まうと、それは不特定多数のウィニー・ユーザーに流通してしま
い、取り返しがつかないことになります。
 このウィニーによって代表される通信とデータの流通のシステ
ムは、「P2P/ピア・ツウ・ピア」と呼ばれ、ライブメッシュ
はこの仕組みを採用しているのです。
 しかし、ライブメッシュの場合は、共有されるのは「自分が指
定した機器同士」の「自分が指定したデータ」だけであり、ウィ
ニーのように不特定多数と共有されるわけではないのです。
 ライブメッシュの場合、一見ローカルにデータがあるようにみ
えて、実はネットにつながっているのです。つまり、ローカルと
ネットとの境目がなくなっているので、これがマイクロソフト社
のいう「壁のない世界」ということになるわけです。
 ところで、データ共有のやり方として、グーグル・ドキュメン
トのような集中管理方式とライブメッシュのようなピア・ツウ・
ピア方式の2つがあるのですが、これはLAN――ローカル・エ
リア・ネットワークの次の2つの方式に対応しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.クライアント/サーバー方式
      2.   ピア・ツウ・ピア方式
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここまでマイクロソフト社の「ウインドウズ・アジュール」と
「ライブメッシュ」という2つの技術について説明してきました
が、これら2つの技術がいわゆるクラウド・コンピューティング
の基礎になるものです。イメージが描けるように、2つの技術を
整理しておくことにします。
 オフィス14ではじめて登場するウェブ・アプリ版オフィスは
ウインドウズ・アジュール上で動作します。ユーザーは、ブラウ
ザ──マイクロソフト社のインターネット・エクスプローラだけ
でなくアップルのサファリやその他のブラウザでもOK──を通
じて、オフィスを操作することになります。
 この場合、ウインドウズ・アジュールは登録ユーザーがどのソ
フトのどの機能をどれだけの時間使ったかを管理します。今のと
ころマイクロソフト社は発表していませんが、当面はウェブ・ア
プリ版オフィスは無料で使えるようです。しかし、近い将来ユー
ザーがオフィスを使った分だけ料金を請求するスタイルになると
思われます。これを「SaaS/サース」というのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      SaaS/Software as a Service
―――――――――――――――――――――――――――――
 一方、これに加えてマイクロソフト社は、とくにメールなどを
中心に指定した機種間においてデータを「同期」するサービスを
展開します。例えば、自宅のPC、携帯電話、マイクロソフト社
のサーバーの三者の特定データをつねに同じに保つのです。これ
により、ユーザーがどこにいても携帯電話で着信メールを確認し
たりエクセル・データを参照したりできることになります。これ
を可能にしているのが、「ライブメッシュ」です。
 アップル社でも、アイフォーンと自宅PCの特定データを同期
する「モバイル・ミー」という有料サービスを実施しています。
今や情報の入手は場所を選ばないのです。
        ――[クラウド・コンピューティング/19]


≪画像および関連情報≫
 ●「SaaS」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ソフトウェアをネットワーク経由でサービスとして提供する
  事自体は、ASPとして、従来より行われている。有料の電
  子メールサービス、各種の検索サービス、オンラインゲーム
  などである。1999年に設立された米国のセールス・フォ
  ース・コムは、「SaaS」を提唱し、SaaS専業ベンダ
  ーとして、従来はパッケージ販売される事が多かったCRM
  ソフトウェアのSaaSによる提供を開始した。2006年
  には「クラウド・コンピューティング」という言葉が普及し
  SaaSはその一形態と呼ばれるようになった。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図出典
   http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20060315/232609/

ウィニーにおける検索の仕組み.jpg
ウィニーにおける検索の仕組み
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2009年11月11日

●「エリック・シュミットの予言」(EJ第2692号)

 今回のテーマの狙いは、現象的には電話がスマートフォンに変
貌する時代をとらえると同時に、それを裏側で支えるクラウド・
コンピューティングを明らかにすることにあります。
 まず、アイフォーンが注目されているアップル社を取り上げ、
それに対抗するマイクロソフト社の戦略について19回にわたっ
て述べてきたのです。しかし、もうひとつ語るべき重要な会社が
があります。それは、グーグル社です。今回からグーグル社につ
いて述べていきます。
 グーグル社について述べるとき、注目しなければならないのは
グーグル社の最高経営責任者であるエリック・シュミットという
人物です。エリック・シュミット氏とは何者でしょうか。
 エリック・シュミット氏は米パロアルト研究所や米ベル研究所
米ザイログ社を経て1983年にソフトウェアマネージャーとし
て米サン・マイクロシステムズ社に入社しています。シュミット
氏は同社でJavaの開発とインターネット戦略をプログラミン
グし、後に最高技術責任者と執行役員を歴任したのです。
 そして、1997年から米ノベル社の最高経営責任者を務め、
重要な経営戦略や技術開発の中心的な役割を果たしたのです。し
かし、2001年3月に米グーグル社の会長に就任したのです。
そして、ラリー・ページ氏、セルゲイ・プリン氏の2人とともに
「三頭政治」を展開することになるのです。
 1997年の春、このエリック・シュミット氏は、ノベルの会
長になってはじめて行った基調講演において、きわめて注目すべ
き発言を行っています。この講演をリポートしたITジャーナリ
ストの小池良次氏による記事の一部を紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 シュミット博士は、これからのネット時代をさまざまに分析し
 た。まず、これまでのクライアント/サーバー時代は、「クラ
 イアント/サービス」の時代に変わろうとしている。そして現
 在のネットワークは階層構造になっているが、インターネット
 ・イントラネットの普及で階層を持たない「ミックスド・ティ
 ア」の時代になるという。また、DSL技術の登場によって、
 データと音声の垣根がなくなり、データ回線の上に音声が走る
 時代がくると展開した。あんまり「自己宣伝はしたくはないの
 だが」と前置きしながら、こうした新時代にはディレクトリー
 (ネットワーク上の住所録に当たる)がますます重要になる。
 ネットワークはデスクトップばかりでなく、ラップトップ、携
 帯電話、ページャー、テレビなどさまざまな端末と結ばれるこ
 とになる。「それはホモジーニアス(同質)な世界における調
 和じゃない」とウィンドウズでネットワークの制覇をねらうマ
 イクロソフトをやんわりと皮肉り、「ノベルはヘテロジーニア
 ス(異質)な世界での調和を目指している」と話した。
   ――小池良次著、『クラウド』より/インプレスR&D刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでの指摘は、とても今から12年前に行われたものとは思
えないほど新鮮な内容なのです。とくに、「クライアント/サー
ビス」や「ミックスド・ティア」、「ヘテロジーニアス(異質)
な世界での調和」という概念は、まさにクラウド――グーグル社
が現在展開しているものと同じなのです。そのため、この基調講
演は「エリック・シュミットの予言」といわれているのです。
 ところで、ノベルとはどういう企業でしょうか。
 ノベル社といえば、インターネットの原型といわれるARPA
NET(アルパネット)まで源流をさかのぼれる企業なのです。
いわば、ネットワーク・ビジネスの最先端にいた企業です。とく
にノベルは「ネットウェア」というネットワークOSによって初
期のLANの時代――1980年代はネットワークの世界で君臨
していたのです。
 1993年には、AT&Tからユニックス・システム・ラボラ
トリーを買収してユニックスOSを手に入れ、続いてクアトロ・
プロを買収して、ワードパーフェクトや表計算ソフトでマイクロ
ソフト社のウインドウズやオフィスとしのぎを削ったのですが、
敗れています。そのため、シュミット氏がCEOに就任した19
97年には同社は相当疲弊していたのです。
 したがって、ノベル社としてシュミットCEOに期待したこと
は経営の再建とマイクロソフト社を打倒することだったのです。
しかし、シュミット氏は2001年に、まだ海のものとも山のも
のともわからないグーグル社のCEOに移籍したのです。
 当時のグーグル社は、ヤフーやAOLに検索機能を提供するサ
ービス・プロバイダの一つに過ぎなかったのです。検索サービス
は商業化することはとても難しい世界で、それまでにもライコス
やインフォシーク、アルタビスタなどの多くのベンチャーがそれ
に挑んでいずれも成功していないのです。
 したがって、グーグル社という企業は、当時いかに業績が疲弊
していたとはいえ、ユニックスコミュニティーの老舗であるノベ
ル社の会長がその任期途中で移るような企業ではないのです。
 当時グーグル社は合議制による経営を行っていたのです。さま
ざまな経営事項を社員全員が参加する会議で議論して決めていた
のです。シュミット氏は自らそういう会議に参加したのです。
 シュミット氏がグーグル社に移った2001年から3年間とい
うもの、シュミット氏の消息はまるで消えてしまうのです。一体
何をしていたのでしょうか。
 今考えると、その間グーグル社内部では、ラリー&サーゲイ体
制からシュミット体制への移行が進み、はっきりとクラウド・コ
ンピューティングやモバイル・サービスに経営の向きが大きく変
えられていたのです。つまり、グーグル社はエリック・シュミッ
ト氏によって、単なる検索エンジンプロバイダからの脱却を果た
していたのです。シュミット氏はまるでクラスルームのような企
業であるグーグル社をクラウドを制する大企業へと方向変更させ
ることに成功したのです。
       ―――[クラウド・コンピューティング/20]


≪画像および関連情報≫
 ●米グーグル社とはどういう会社か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米国グーグル社は、人類が使う全ての情報を集め整理すると
  言う壮大な目的をもって設立された。独自開発したプログラ
  ムが、世界中のウェブサイトを巡回して情報を集め、検索用
  の索引を作り続けている。約30万台のコンピュータが稼動
  中といわれる。検索結果の表示画面や提携したウェブサイト
  上に広告を載せることで、収益の大部分をあげている。検索
  エンジンとしては後発であるものの、リンクの集まる重要な
  ページを上位に表示したり、表示に備えて検索対象のウェブ
  ページを保存しておいたりと、それまでの検索エンジンには
  ない機能によって2002年は世界で最も人気のあるものに
  なり、AOLなどのクライアントを通じてインターネット検
  索のトップを占めるまでになっている。日本では、ヤフー・
  ジャパンに次いでシェア2位である。 ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

エリック・シュミット氏.jpg
エリック・シュミット氏
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(1) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月12日

●「肉屋が魚市場で魚のセリに参加する」(EJ第2693号)

 既出のITジャーリストである小池良次氏の言によれば、過去
何年にもわたって、シリコンバレーではマイクロソフト社が嫌わ
れ者の筆頭であったというのです。なぜ、マイクロソフト社は嫌
われているのか――それには次の3つの理由があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.PCのOSで独占的立場にある
      2.新市場を巨大資金力で入手する
      3.シアトルに本社が存在すること
―――――――――――――――――――――――――――――
 シリコンバレーでは、権力の集中を嫌うのです。したがって、
PCのOSのシェアで独占的立場にあるマイクロソフト社は嫌わ
れているのです。
 また、あるベンチャーが新市場を作り出すと、それを巨大な資
金と組織力を持ってわがものにしようとする、競争に勝つために
は手段を選ばない好戦的なマイクロソフト社の社風が嫌われてい
ます。それにシアトルに本社があるということは、シリコンバレ
ーにとってはヨソ者――そういう意味で嫌われているのです。
 しかし、最近では、マイクロソフト社に代わって嫌われ者は、
グーグル社に移りつつあるといいます。最近の話では、グーグル
社がマイクロソフト社による買収騒ぎに乗じて、宿敵のヤフー社
を自分の陣営に取り込んでしまった手法が批判されています。
 どうしてかというと、もし、グーグルとヤフーの両社が手を組
むと、ウェブ広告の90%以上を独占することになるからです。
こういう権力の集中をシリコンバレーは嫌うのです。
 こんな話があるのです。2007年10月23日のことです。
サンフランシスコで開催されたCTIA・ITの会議での出来事
です。CTIA・ITの正式名称は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  CTIA・IT/CTIA Windows I.T.& Entertainment
―――――――――――――――――――――――――――――
 CTIA・ITの会議では、携帯コンテンツやモバイルサービ
スに内容を絞っており、参加者はもちろん携帯電話業界の人々な
のですが、そのときの基調講演は、マイクロソフト社のスティー
ブ・バルマーCEOだったのです。
 そのときのマイクロソフト社のバルマーCEOの講演は今ひと
つであったそうです。しかし、基調講演の後で行われた主催者と
バルマーCEOのやり取りでは面白いことがあったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 講演後、主催者との対談で、マイクロソフトがグーグルをから
 かう場面に出くわしたからだ。これは主催者から「アナログテ
 レビ跡地の無線免許競売にマイクロソフトも参加するのか」と
 聞かれ、バルマーCEOが「いや、G社とは違うからね」とグ
 ーグルを皮肉った時だつた。このとき、会場は拍手と大爆笑の
 渦になった。それだけでなく、拍手に混じって「そうだ!そう
 だ!」といったグーグルへのヤジもあった。この雰囲気こそグ
 ーグルに対する通信業界の恐怖を如実に表している。
   ――小池良次著、『クラウド』より/インプレスR&D刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これには少し説明が必要です。グーグル社は、当時2008年
1月に行われることになっていた携帯無線の事業免許オークショ
ンへの参加を表明していたのです。
 この競売は、2009年2月のアナログテレビ放送停止を受け
て、空白(アナログ跡地)となる周波数帯域を次世代無線サービ
ス用に再割り当てするために行われたのです。結果は、携帯大手
のAT&Tとベライゾン・ワイヤレスの2社が総額の80%を押
さえて圧勝しグーグル社は敗退しているのですが、こういうオー
クションにグーグル社が、どういう意図で参加するのかが見えな
かったので、話題を呼んだのです。これについて、小池良次氏は
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 大げさにいえば、魚市場に突然肉屋がやってきて、魚の競りに
 参加するようなものだ。しかも、その肉屋は、精肉業界最大手
 で資金も技術も営業力もある。当然、魚市場は混乱する。いっ
 たい、この肉屋は仕入れた魚をどう売りさばくのだろうか、肉
 屋は魚屋になるのだろうか――と憶測が飛び交う。メディアは
 「いよいよ肉と魚を使った融合料理の時代だ」と騒ぐ。ちょう
 ど、バルマーCEOが基調講演を行った時はこの混乱のさなか
 で、CTIA・IT会議にやってきた携帯業界人は皆グーグル
 の一挙一動に目が離せなかった。そこで司会者が茶目っ気たっ
 ぷりに、マイクロソフトも魚の競りに参加するのですかーと尋
 ね、「G社とは違うからね」(――わが社は市場荒らしはしな
 い)と答えたわけだ。だから会場はヤジと大爆笑に包まれた。
   ――小池良次著、『クラウド』より/インプレスR&D刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそもマイクロソフト社のバルマーCEOが、CTIA・I
T会議会議に出てきた理由は、同社のウインドウズ・モバイルの
ためなのですが、このOSもアップル社やグーグル社との競合に
さらされてきたのです。
 ウインドウズ・モバイルのスマートフォン向けの出荷台数はこ
のところ着実に伸びており、同社の収益に大きく貢献しているの
です。しかし、この世界には、シンピアン、ブラックベリー、ブ
リューなどの主流派携帯OSが強く、ウインドウズ・モバイルは
それらとやっと肩を並べたところだったのです。
 しかし、そのマイクロソフト社の足元を脅かしつつあるのが、
アップル社のアイフォーン、これから詳しく述べるグーグル社の
アンドロイドなのです。マイクロソフトとしてはこの競争に勝た
ないと次の展望が描けないために、バルマーCEOとしては、必
死にならざるを得ないのです。しかし、アイフォーンの世界的成
功にマイクロソフト社としてはその対策に苦慮しているところな
のです。   ―――[クラウド・コンピューティング/21]


≪画像および関連情報≫
 ●CTIA・IT/2007のバルマーCEO基調講演
  ―――――――――――――――――――――――――――
  サンフランシスコ発--過去20年間PC市場を牛耳ってきた
  のと同じように、マイクロソフトががモバイルソフトウェア
  市場を支配する日は来るだろうか。マイクロソフト社の最高
  経営責任者(CEO)スティブ・バルマー氏は、モバイル市
  場に大きなチャンスを見いだしている。何百万人もの消費者
  が携帯電話を購入しており、携帯電話の能力が上がるにつれ
  その延長線上にマイクロソフトの中核事業であるPC用オペ
  レーティングシステムとアプリケーションの販売が位置づけ
  られるのは自然なことだからだ。
  http://japan.cnet.com/interview/story/0,2000055954,20359920,00.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

CTIA・IT/2007でのバルマーCEO.jpg
CTIA・IT/2007でのバルマーCEO
posted by 平野 浩 at 04:23| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月13日

●「アイフォーン対各社各様のGフォーン」(EJ第2694号)

 エリック・シュミット氏がノベル社の会長の地位を捨て、まだ
学生ベンチャーの雰囲気が抜けないグーグル社のCEOになって
5年間――グーグル社は大きく変貌を遂げたのです。
 その間、グーグル社に何が起こっていたのでしょうか。
 シュミット氏をCEOに迎えたグーグル社は、2004年には
オンライン写真サービスの「ピカサ」、2005年には携帯ベン
チャーの「アンドロイド」、2006年にはウェブ・ワープロの
「アップ・スタートル」、3Dモデリングソフトの「アットラス
ト・ソフト」――これらの企業を次々と買収しています。
 これらの企業はいずれも検索サービスとはまるで無縁の企業ば
かりです。それに加えて、2005年から2006年にかけては
国際回線事業者大手のグローバル・クロッシング社から大量の国
際回線を購入しています。
 また、2006年の秋にも米国内で光ファイバーの買い漁りを
行っており、その年には、グーグル社が本社を構えるマウンテン
ビューで、無料の無線ISPサービスを始めているのです。
 一体グーグル社は何を目指しているのか――その疑問に答える
ように、エリック・シュミットCEOは、2006年8月にカリ
フォルニアで開催された「サーチエンジン戦略会議」において、
今から考えると、きわめて重要な発言を行っているのです。そこ
には、グーグル社が今後進むべき道が示されていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 我々はまさにいま新しいモデルに直面しています。ですが、そ
 れがどのくらい大きなチャンスをもたらすか理解してません。
 (中略)PCかマックか、携帯電話かは無関係です。「雲/ク
 ラウド」のような、巨大なインターネットにアクセスすれば、
 その利益、恵みの雨を受けられる時代になつています。
        ――エリック・シュミット/グーグル社CEO
                     ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このシュミット氏の発言から、IT業界では「クラウド・コン
ピューティング」という言葉が、誰いうともなく流行することに
なったのです。
 シュミット氏のいう「クラウド」に対して、敏感に反応したの
はアップル社です。同社はアイフォーン3Gの発売と同時に開始
した「モバイル・ミー」というネット・サービスのシンボルマー
クにクラウドのイメージを採用しているのです。雲の中にカレン
ダーや電子メール、写真などが隠れているというものです(添付
ファイル参照)。ちなみにこの「モバイル・ミー」は、アップル
社がそれまで提供していた「ドットマック」というサービスを発
展させたものなのです。
 グーグル社が何をしようとしているかは、2005年に同社が
携帯ベンチャーのアンドロイド社を買収したことによって、ある
程度見当がついていたのです。それはグーグル社が携帯事業に参
入するというものだったのです。「Gフォーンが来る」――この
噂は世界中を駆けめぐったのです。
 しかし、2007年11月5日、グーグル社の発表した内容は
意外なものだったのです。「Gフォーン」の姿などはどこにもな
く、実際に発表されたのは、次の2つだったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.OHA/,オープン・ハンドセット・アライアンス
  2.オープン・ソースの携帯OS「アンドロイド」提示
―――――――――――――――――――――――――――――
 ちょっと拍子抜けしたような発表のようにみえますが、アップ
ル社にとっては衝撃的な内容なのです。なぜなら、OHAには、
KDDIやNTTドコモ、スプリント・ネクステル、ティー・モ
バイル、テレフォニカなどの大手携帯事業者が参入しており、さ
らに、モトローラやサムスン電子などの端末メーカーなど、多彩
なメンバー34社が顔を揃えているからです。
 アイフォーンのアップル社からみると、グーグル社がGフォー
ンを出してくるよりも、アンドロイドOSを使った強力な携帯大
手が端末メーカーと手を組んで、各社色とりどりのGフォーンを
出してくる方が明らかに脅威です。これは、グーグル社がアップ
ル社に対して挑戦状を叩きつけたかたちになっているのです。
 しかも、携帯OS「アンドロイド」は、オープンソースであり
自由に自社風にカスタマイズできるのです。
 グーグル社のモバイルプラットフォーム担当重役のアンディ・
ルビン氏は、次のように抱負を語っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この業界のビジネスモデルをオープンにしていきたい。これま
 での垂直統合ではできないことがアンドロイドの登場によって
 実現可能になってくる。たとえば、加盟している各社はアンド
 ロイドに付加価値を加えて提供することができるようになる。
                  ――アンディ・ルビン氏
  ――石川温著『グーグルVSアップル/ケータイ世界大戦』
                       技術評論社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 実際に「アンドロイド」は、各機能を部品のように使えるよう
になっており、メーカーやキャリアはその中から自由に機能を取
捨選択できるのです。
 記者会見が行われた2週間後の11月12日にはアンドロイド
の開発キット――SDKのベーター版が公開され、誰でも無償で
ダウンロードできるようになっています。
 さらにグーグル社は、アンドロイド向けのアプリケーションを
一般から募集するキャンペーンを打ち出しています。グーグル社
は、自分の得意なところは自社開発し、不得手なところは一般に
開放して、アイデアを募る――非常にうまい作戦を展開している
のです。アイフォーン対アンドロイド搭載のGフォーンの激突の
構図です。  ―――[クラウド・コンピューティング/22]


≪画像および関連情報≫
 ●OHA/オープン・ハンドセット・アライアンスとは何か
  ――――――――――――――――――――――――――
  OHAとは、2007年11月にグーグル社の呼びかけで設
  立された、携帯電話における共通のソフトウェア基盤の開発
  ・普及を推進する業界団体。同社および世界の携帯電話事業
  者や端末メーカーなど34社により設立された。OHAでは
  グーグル社が推進する携帯電話端末向けのソフトウェア実行
  環境「グーグル・アンドロイド」を基盤に、対応端末の開発
  や関連するソフトウェアやサービスの普及などに取り組む。
  OHAは緩やかな連合で、アンドロイド搭載端末や関連サー
  ビスのリリースが義務化されているわけではないため、参加
  企業が将来必ずしもアンドロイドへの対応を行なうとは限ら
  ない。          http://e-words.jp/w/OHA.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

アップル/モバイル・ミー.jpg
アップル/モバイル・ミー
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2009年11月16日

●「グーグル社は何を目指しているのか」(EJ第2695号)

 当然グーグル社が直接「Gフォーン」を出してくると思ってい
たのに、発表したのは、オープン・ソースの携帯OS「アンドロ
イド」と、そのOSを使ってビジネスを行うOHA──オープン
・ハンドセット・アライアンスの枠組みだけだったのです。
 そのため、ドコモやKDDIをはじめとするOHA加盟会社に
よる色とりどりの「Gフォーン」が今後続々と登場してくること
になり、独自のOSを採用するアップル社などには衝撃を与える
ことになったのです。
 しかし、携帯電話会社になる気がないとしたらグーグル社は、
一体今後何を目指そうとしているのでしょうか。
 それを解明するには、2005年以降にグーグル社がどういう
ところに投資してきたかを知ることが必要になります。前号と若
干重複しますが、少していねいにチェックしてみましょう。
 2005年7月にグーグル社は、電力線ブロードバンドのカレ
ント社に出資しています。そして、2005年から2006年に
かけて、グーグル社はグローバル・クロッシング社から大量の国
際回線を購入しています。
 さらに2006年8月にはグーグル社の本社周辺──カリフォ
ルニア州マウンテンビュー市で、380ヶ所のアクセスポイント
を敷設して無料無線ISP事業を開始しています。
 2007年夏には、フェムトセル(小型宅内携帯基地局)のベ
ンチャー「ユビキシス」へ出資し、2007年暮れには、最先端
コア・イーサスイッチ(10Gビット・パー・セカンド)の社内
開発を業界紙が報じて、注目を集めています。そして、この年に
は携帯OS「アンドロイド」の発表を行っています。
 2008年2月には、KDDIなどと日米海底ケーブルの建設
プロジェクトに参加し、自社専用の日米海底ケーブルの取得に乗
り出しています。そして、既に述べたように、同年春には、成功
しなかったものの、アナログテレビ跡地競売に参加しています。
 また、同じ年に次世代モバイル網ワイマックスへ5億ドル──
575億円規模の大型投資を行い、同年9月には衛星通信のベン
チャー「03bネットワークス」社にも投資しています。
 このようなグーグル社の海底ケーブルや光ファイバー網の買い
漁りは、検索広告サービスの用途をはるかに超えるものであり、
通信事業者の規模に該当する──グーグル社は通信サービスに参
入しようとしているのでしょうか。
 これに関して既出の小池良次氏は興味ある分析をしているので
す。グーグル社は上場以来急成長を続けており、米国の証券筋は
少し成長に陰りが見えるマイクロソフト社やヤフーよりも、「ハ
イリスク・ハイリターン」の代表企業として注目しています。そ
ういう企業が「ローリスク・ローリターン」の代表格である通信
ビジネスに参入するはずがないというわけです。
 それにグーグル社の投資行動は通信分野だけではないのです。
これについて、小池良次氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 たとえば、2005年9月に同社はNASA(米航空宇宙局)
 エームズ研究センターと提携している。その目的は「巨大デー
 タ管理」や「超巨大分散コンピューティング」などとなってお
 り、2006年には提携強化を発表し、研究項目に「ヒューマ
 ンコンピューターインターフェース」などを追加した。そして
 2008年6月には、エームズ研究センター内にグーグルの研
 究施設建設も約束している。なぜ、検索広告の大手グーグルが
 ロケットサイエンスの総本山であるNASAと手を組まなけれ
 ばならないのだろうか。
   ――小池良次著、『クラウド』より/インプレスR&D刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 海底ケーブルにワイマックス網への巨大投資、日本をはじめと
する主要都市での光ファイバーの買い漁り、それに最先端通信機
器の社内開発と米航空宇宙局との提携──これらは、明らかに検
索広告を超えています。
 これらの先にあるものといえば、「クラウド・コンピューティ
ングのインフラ整備」しか考えられない──このように小池良次
氏は推測しています。
 このあたりで、今回のメインのテーマである「クラウド・コン
ピューティング」について、その歴史的経過を含めて考えてみる
ところにきていると思います。
 「クラウド・コンピューティング」については、データベース
・システムの最大手、オラクル社のラリー・エリソンCEOは、
2008年9月の「オラクルオープンワールド」において、クラ
ウドについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 クラウドコンピューティングで興味深いのは、クラウドコンピ
 ューティングという言葉が再定義され、われわれが既に行って
 いるあらゆることが含まれるようになったことである。どんな
 発表を見ても、クラウドコンピューティングを標榜していない
 ものはない。コンピュータ業界は、女性ファッション業界より
 も流行志向が強い唯一の業界だ。わたしがバカなのかもしれな
 いが、みんなが何を言っているのか理解できない。いったい何
 のことなのか、まったくわけが分からない。このバカ騒ぎはい
 つ終わるのだろうか。当社もクラウドコンピューティングの発
 表を行うだろう。わたしはこういったことに抵抗するつもりは
 ない。しかしクラウドコンピューティングという点について言
 えば当社の宣伝文句のほかに何が変わるのか理解できない。以
 上がわたしの考えだ。
 http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0810/01/news031.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 このラリー・エリソンCEOのスピーチは、明らかにグーグル
社のエリック・シュミットCEOの発言を痛烈に批判していると
いっても過言ではないでしょう。
       ―――[クラウド・コンピューティング/23]


≪画像および関連情報≫
 ●ラリー・エリソンについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ローレンス・ジョセフ・エリソンは、データベースソフトを
  はじめとする大手ビジネスソフトウェア企業オラクル・コー
  ポレーションの共同設立者であり、CEOである。世界的な
  大富豪であると同時に、3度の離婚歴を含む華麗な(?)私
  生活、幾多の訴訟や買収合戦、ビル・ゲイツとのライバル関
  係など華々しい話題に事欠かない人物である。自宅を和風建
  築にしてしまうほどの親日家としても知られている。近年で
  は、中小規模向けSaaS型アプリケーション企業のネット
  スウィート社設立メンバーの一人としても知られる。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

オラクル社/ラリー・エリソンCEO.jpg
オラクル社/ラリー・エリソンCEO
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2009年11月17日

●「クラウド・コンピューティングの原点」(EJ第2696号)

 「クラウド」の概念は、そういう言葉は使わないまでも、それ
をあらわす考え方は大型コンピュータの時代からあったのです。
そのとき使われた言葉としては次のものがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      ユーティリティ・コンピューティング
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ユーティリティ・コンピューティング」とは何でしょうか。
 ここでいう「ユーティリティ」という言葉は、電気、ガス、水
道、電話などの公共サービスのことを指しています。「ユーティ
リティ・ビル」といえば「公共料金」のことです。
 これらの公共サービスでは、例えば、スイッチを入れれば電気
がつき、蛇口をひねれば水が出る――利用者は自分が使った分だ
けの料金を支払えばよいのです。ガスも電話も同じようにして利
用できますが、コンピュータもそうならないかという考え方が出
てきても不思議はないのです。
 利用者の立場からは、どのようにして電気が供給され、どうい
うメカニズムで蛇口から水が出るのかなどは詳しく知る必要はな
い――そんなことは、「クラウド」の中のことであって利用者は
知らなくても利用できるのです。
 電気、ガス、水道、電話などの公共サービスは、いずれも莫大
な初期投資が必要であり、設備や資源をひとつの組織に集約し、
必要に応じて分配する方式の方が資本効率がよいのです。こうい
う考え方に立って実現しようとしたのが「ユーティリティ・コン
ピューティング」なのです。
 現在のようにPCがなかった1960年代までは、コンピュー
タといえば大型コンピュータであり、非常に高価だったのです。
したがってコンピュータを何台も導入できないので、一台の大型
コンピュータを何人もの人たちが端末(ターミナル)を通して使
う「タイムシェアリング」という方式を考え出したのです。これ
も一種のクラウドであったといえます。
 このようなクラウドの構想は、今までに何度も出てきているの
です。なかでも積極的だったのは、オラクル社のラリー・エリソ
ンCEOとネットスケープ・コミュニケーションズです。
 ラリー・エリソンCEOは何とかPCを安くしようとして19
96年に「NC/ネットワーク・コンピュータ」を発表したので
す。そのキャッチ・フレーズは「500ドルPCの実現」だった
のです。1996年といえば、日本では「ウインドウズ95」が
発売されてから1年後のことであり、PCは17万円から30万
円以上はしたのです。
 その構想はある意味では極めてシンプル――大型コンピュータ
をサーバーとする「タイムシェアリング」だったのです。この場
合、端末に当たるのは500ドルPCのNCであり、ハードディ
スクを持たず、OSやデータはサーバーに置くという構想です。
 オラクルとしてはサーバーで集中管理をするのであれば、デー
タベース機能が必要になるので、そこを押さえればビジネスにな
ると考えたのです。
 それでは、ネットスケープ・コミュニケーションズは何を考え
ていたのでしょうか。この企業は、1990年半ばにウェブブラ
ウザをめぐってマイクロソフト社と戦ったのです。そのウェブブ
ウザ「ネットスケープ・ナビゲータ」は、当時明らかにマイクロ
ソフト社の「インターネット・エクスプローラ」の機能を超えて
おり、インターネット普及の初期の時代において、市場を席巻し
マイクロソフト社を激しく追い詰めたのです。
 マイクロソフトとしては、こうしたライバル社の動きに対して
次のような警戒感を持ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アプリケーションがサービス化すれば、OSにもう支配力はな
 い。もはや、ウェブラウザこそがOSなのだ。
                     ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、結果として両社はマイクロソフト社を追い込めずに終
わったのです。それは当時ブロードバンドがなく、ケータイも単
なる電話に過ぎなかったからです。
 そもそもオラクル社にしてもネットスケープ社にしても、戦略
に計画性も余裕もなく、強大なマイクロソフト社と戦うにはあま
りにも無理があったといえます。
 オラクル社の500ドルPC――NCは採用企業があらわれず
ビジネスモデルも明確ではなかったのです。ましてブロードバン
ドがない中で、企業内のシステムとしてしか実現できなかったの
です。そうしているうちにPCはハードディスクやOSを搭載し
たまま普及して価格を下げていったのです。そして、現在、NC
は「ネットブック」として実現しています。
 ネットスケープ社については、企業の体力に問題があったとい
えます。その目指す方向は正しかったものの、マイクロソフト社
との激しい競争の中でマイクロソフト社のソフト開発力に敗れて
品質を落とし、AOLに買収されてしまっています。
 抵抗勢力を排除したマイクロソフト社は、2000年にある動
きを加速させます。その背景として2000年にはPCも大きく
普及し、ブロートドバンドが実現しつつあったのです。そして、
もはやインターネットというものを無視できない状況になってい
たのです。
 そのある動きとは、「マイクロソフト・ドットネット戦略」な
のです。2000年6月、マイクロソフト社は、次世代インター
ネット戦略として、「ドットネット」を打ち出したのです。
 マイクロソフト社はこの戦略を「MS−DOSからウインドウ
ズへの移行に匹敵するほどの根本的なパラダイムシフト」として
大きく打ち出したのです。これはマイクロソフト社にとって、満
を持して打ち出したとっておきのネット戦略であったのです。
       ―――[クラウド・コンピューティング/24]


≪画像および関連情報≫
 ●マイクロソフト・ドット・ネットとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  インターネットを含むネットワーク上に散在したアプリケー
  ションが自らの機能を「サービス」として公開して、各種の
  端末から利用するための基盤となるソフトウェアや記述言語
  ・プロトコルなどの規約の集合を構築することを目指してい
  る。「.NET」に対応した端末はJava仮想マシンのような
  ソフトウェアの動作環境が搭載され、OSの種類に関係なく
  サービスを受けられるようになる。
         http://e-words.jp/w/Microsoft202ENET.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

西田宗千佳氏の本.jpg
西田宗千佳氏の本
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2009年11月18日

●「ドット・ネットとアジュールの関係」(EJ第2697号)

 「マイクロソフト・ドットネット」の発表前のコードネームは
「NGWS」といわれていたのです。これは「ドット・ネット」
の狙いをそのままあらわしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  NGWS/Next Generation Windows Service Platform
―――――――――――――――――――――――――――――
 NGWSは、ウインドウズをネットサービス化し、次世代の礎
にしようという計画だったのです。すなわち、すべての情報機器
がインターネットに接続されるという前提に立って、ネット上に
あるアプリケーションやデータを必要に応じて情報機器から引き
出して利用できる環境を作るというのですから、まさにクラウド
・コンピューティングそのものといえます。
 しかも、2000年といえば、ブロードバンドや携帯電話もあ
って、NCやネットスケープの時代とは異なるのです。マイクロ
ソフト社は時代を先取りしたかに思われたのです。
 しかし、結果としてドット・ネットは失敗に終わったのです。
どうして失敗したのでしょうか。
 オンラインサービスでは、アクセスしてきた利用者が本人であ
ることを確認する個人認証のシステムが必要になります。マイク
ロソフト社では、この個人認証のシステムとして「ヘイルストー
ム」というものを用意したのです。ヘイルストームを直訳すると
次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
         ヘイルストーム=雹の嵐
―――――――――――――――――――――――――――――
 個人認証といえば「ID」と「パスワード」がありますが、各
ネットサービスごとにIDとパスワードを設定していくと、数が
増えてしまい、しまいにはわけがわからなくなります。
 この弊害をなくすために、オンラインサービスのユーザーは、
ヘイルストームに対して個人情報を記録します。この個人情報と
ひとつのIDとパスワードを照合し、認証を行うのです。すなわ
ち、各ネットサービスは個人情報を蓄積しないで、必要になった
ときに、ヘイルストームを参照し、個人情報を一時取得するので
す。そして不要になったらそれを廃棄します。
 こういう方法でひとつのIDとパスワードで済ますようにした
のです。このこと自体は別に問題はないのです。しかし、このヘ
イルストームがマイクロソフト社から発表されたとたんに強烈な
拒否反応が出たのです。
 当時マイクロソフト社は、PCのOSをほぼ独占状態にしてお
り、それに関連する多くの訴訟も起こされていたのです。そこに
もってきて、ヘイルストームで個人情報の蓄積をやろうとしたの
で、「マイクロソフト社はOSのみならず、個人情報までも牛耳
るつもりなのか」と非難されたわけです。
 それにヘイルストームという名前も悪かったのです。ヘイルス
トームとは「雹の嵐」――マイクロソフト社が天から雹を降らせ
て個人情報を奪うとして拒否反応が起こったからです。マイクロ
ソフト社は直ちに「ドット・ネット・マイサービス」と改名して
対応したのですが、一度ついた悪いイメージは消えず、ドット・
ネット・マイサービスは、自社のウェブサイトの一部で使うシス
テムにとどまったのです。
 なお、ドット・ネットは、マイクロソフト社の技術基盤「ドッ
ト・ネット・フレームワーク」として採用され、広く使われてい
ますが、当初予定したものより大きく後退してしまったのです。
 この2000年のドット・ネット構想を一新して登場したのが
既にご紹介した「ウインドウズ・アジュール」なのです。これこ
そ「ウインドウズ・クラウド」というべきものであり、本質的に
は、2000年のドット・ネットと同じ技術ですが、きわめて画
期的な技術であるといえます。
 このウインドウズ・アジュールについて、マイクロソフト社の
チーフソフトウェアアーキテクトのレイ・オジー氏は次のように
解説しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (ウインドウズ・アジュールは)ウインドウズという名前は付
 いているが、これは市販、あるいはOEMされる新しいOSで
 はない。クラウド・サービスを開発、運営するためのプラット
 フォームだ。その中身は、データセンターを構成するウインド
 ウズサーバーとマイクロソフト製ミドルウェアで構成されてい
 る。クラウドサービスを提供するのは、マイクロソフト自身、
 あるいはマイクロソフトのパートナー企業だ。
   ――2008年12月13日付、『週刊/東洋経済』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 マイクロソフト社がOSを独占できたのは、ウインドウズ95
と同時に発売された「オフィス95」の大成功にあるとオジー氏
はいうのです。
 ライバルのソフトウェアベンダーが大幅に改良されたウインド
ウズ95への対応を手間取っている間にオフィス95でライバル
社を抜き去り、引き離したのです。
 OSが盤石の体制を整えるには、そのOSの環境で動く多くの
アプリケーションの質と数が必要です。すなわち、新OSベース
のソフトウェアを構築するための優れた開発ツールが必要である
とオジー氏はいうのです。
 マイクロソフト社はウインドウズに機能を追加するたびに開発
ツールの方もバージョンアップさせ、その使い勝手を大幅に向上
させてきたのです。その結果、1997年に生まれたのが、「ビ
ジュアルスタジオ」という、今日、世界中の開発者たちが利用す
る開発ツールなのです。
 特質すべきことは、ウインドウズ・アジュール上で動くアプリ
ケーションの開発にもビジュアル・スタジオが使えることなので
す。これは、クラウド対応のソフトウェアの開発に大きな威力を
発揮するのです。――[クラウド・コンピューティング/25]


≪画像および関連情報≫
 ●レイ・オジー戦略メモについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ここ数年ビル・ゲイツの靴を埋めるので必死だったマイクロ
  ソフト社チーフ・ソフトウェア・アーキテクトのレイ・オジ
  ーが自分なりの一歩を歩み出した。社員に宛てた驚くべき戦
  略メモの中でオジーは基本的に、マイクロソフトのミッショ
  ンをパソコン用ソフトとスタンドアローンのサーバー作りか
  ら、デバイスと人の間を繋ぐメッシュ作りへと転換を図ろう
  としている。ウインドウズやオフィスを捨て去るわけではな
  い。氏が言っているのは、MSのソフトウェアの価値を決め
  るのは「それ独自で何ができるか」ではなく、今後ますます
  「他のものと一緒に何ができるか」という方にかかってくる
  だろうということだ。もはやソフトウェアがどうこういうよ
  りも、ウェブベースのサービスとしてどうなのか、そちらが
  重要になってくる。
  ―――――――――――――――――――――――――――

マイクロソフト社のレイ・オジー氏.jpg
マイクロソフト社のレイ・オジー氏
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2009年11月19日

●「クラウド開発ツールをめぐる競合」(EJ第2698号)

 昨日のEJで述べたように、OSの世界で成功を収めるには、
そのOSの環境上で動くアプリケーション――たとえば、ワード
やエクセルなど――の数や種類が多いことと、それぞれのアプリ
ケーションの質が高いことが条件になります。
 そのためには、そういうアプリケーションを開発するツールを
充実させる必要があります。マイクロソフト社の場合、「ビジュ
アルスタジオ」という開発ツールがあり、これが世界中の開発者
たちに受け入れられていることがウインドウズというOSの成功
につながったのです。
 マイクロソフト社は、この「ビジュアルスタジオ」に加えて、
「MSDN」というサービスを開発者に提供しています。MSD
Nとは、開発者が必要とする情報をタイムリーに提供するととも
に、開発時に必要となるソフトウェアのライセンスを条件付きで
提供するサービスのことです。
 このビジュアルスタジオとMSDNによって、開発者はワンス
トップで開発に必要となるほとんどの情報と環境が得られるよう
になり、開発の効率化に大きく寄与したのです。
 これに関連して、チーフソフトウェアアーキテクトのレイ・オ
ジー氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 開発ツールとサービスがプログラマーたちの支持を得ている
 限り、マイクロソフトは敗れない    ――レイ・オジー
―――――――――――――――――――――――――――――
 マイクロソフト社は、このようにしてPCのOSの世界では覇
権を成し遂げたのですが、今や主戦場はクラウドの世界――サー
バーの世界に移っているのです。しかし、クラウドの世界では、
グーグル社が先行しているように見えます。
 2008年4月のことです。グーグル社は「グーグル・アップ
・エンジン」というクラウド・アプリケーション用の開発キット
を発表しています。これに対してマイクロソフト社がウインドウ
ズ・アジュールを発表したのは、2008年10月であって、グ
ーグル社よりも大きく遅れているように見えます。
 クラウド・コンピューティングのプラットフォームを提供して
いる企業は、マイクロソフト社以外にグーグル、セールスフォー
ス・ドットコム、アマゾンなどがあります。これらの企業は、そ
れぞれが展開するサービスをコンポーネントとして利用するため
のインターフェース仕様を公開し、開発者が独自のクラウド・ア
プリケーションを開発できるようにしているのです。
 クラウド時代になり、ソフトウェアの中心がクラウドに移行す
るに当たって、開発者たちはどこの企業の開発環境を選ぶか迷っ
ていたのです。というのは、現行の「クライアント・サーバー」
と「クラウド・コンピューティング」の間には断絶があって、今
までとは違う新しい技術――たとえば、パイソン(関連情報を参
照)などを勉強しなければならないのではと考えたからです。
 しかし、マイクロソフト・アジュールの発表によって、開発者
たちが抱いていた不安は一掃されたのです。どうしてかというと
ウインドウズ・アジュール上で動くアプリケーションを開発する
には、ビジュアルスタジオを使うことができることがわかったか
らなのです。
 現在、PCのOSの世界は、ウインドウズがほぼ独占している
ので、開発者のほとんどはその開発環境であるビジュアルスタジ
オを使っています。したがって、アジュール上で動くアプリケー
ション、すなわち、クラウド・アプリケーションがビジュアルス
タジオでやれるのであればラクだからです。
 つまり、これによって、今まであると思われていた現行の「ク
ライアント・サーバー」と「クラウド・コンピューティング」の
間の断絶がなくなってしまったからです。どうやらこれはグーグ
ル社の「宣伝」に乗せられていたと思われるのです。
 たとえば、こんなことが可能です。マイクロソフト社が70%
のシェアを持つデーターセンター向けのアプリケーションをきわ
めて容易にアジュールに移植したり、ある顧客向けに開発したア
プリケーションをアジュール上でパッケージ商品として実装し直
すことによって、自社でクラウドサービスを提供するデータセン
ターを持っていなくても、クラウド向けのサービスを簡単に実施
できるからです。
 話が相当ややこしくなってきたので、ここで整理をしておきた
いと思います。
 マイクロソフト社はPCのOSとしてウインドウズを導入し、
それを大きく普及させたことによって、そのアプリケーションは
PCの機種の違いを乗り超えることができたのです。そのウイン
ドウズもバージョンを重ねて現在では「ウインドウズ7」が最新
バージョンになっています。
 しかし、クラウド・コンピューティングの時代になり、ウェブ
・アプリケーション――クラウド・アプリケーションが登場して
きています。その先陣を切ったのはグーグル社です。2004年
には「Gメール」、2006年には「グーグル・ドキュメント/
グーグル・ドッグズ」の無料運用を開始し、それまでマイクロソ
フト社の牙城であったローカル・アプリケーションの分野を脅か
すことになったのです。そして、2008年4月にグーグル社は
「グーグル・アップ・エンジン」を発表し、開発者が独自のクラ
ウド・アプリケーションを開発できる道を拓いています。
 これに対してマイクロソフト社は、2008年10月にウイン
ドウズ・アジュールを開発し、アジュール上で動作するアプリケ
ーションをビジュアルスタジオで開発できるようにしたのです。
 ウインドウズ7搭載のPCからウェブ・アプリケーションを使
うには、ブラウザでネットにアクセスするのですが、ブラウザは
インターネット・エクスプローラでなくてもよいのです。しかし
その先にはウインドウズ・アジュールというOS上でウェブ・ア
プリケーションは動くことになるのです。
        ――[クラウド・コンピューティング/26]


≪画像および関連情報≫
 ●「グーグル・アップ・エンジン」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「グーグル・アップ・エンジン」における開発言語は「パイ
  ソン」で、プログラムコードを一度記述すれば、あとはグー
  グル・アップ・エンジンがすべてのプラットフォームで作動
  するように処理を行う。また、アクセス増加による突発的な
  トラフィックにも対処し、グーグルのの他のサービスに容易
  に統合できるという特徴がある。これにより、開発者による
  システム管理や、メンテナンスなどに関わる労力の軽減が図
  られるとされている。
    http://www.sophia-it.com/content/Google+App+Engine
  ―――――――――――――――――――――――――――

マイクロソフト社のクラウド・サービス.jpg
マイクロソフト社のクラウド・サービス
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2009年11月20日

●「アップス対ウインドウズ・アジュール」(EJ第2699号)

 「クラウド」を解説しようとすると、どうしても話が理屈っぽ
くなってしまいます。しかし、クラウドを正しく理解することは
近未来のIT環境をビジネスに使いこなせるかどうかの重要なカ
ギを握るので、もうしばらくお付き合いください。
 考えていただきたいことがあります。現在のほとんどのPCは
ウインドウズというOSを搭載したコンピュータという箱にソフ
トウェア──アプリケーションが閉じ込められた状態にあるとい
うことをです。こういう状態が20年ほど続いているのです。
 ほとんどのPCがウインドウズPCですから、ユーザーの観点
からいえば別に不自由はないのです。しかし、全体を俯瞰して見
ると、ほとんどのユーザーは強大なマイクロソフト王国に閉じ込
められ、それよりも外に出ることが困難になっています。既出の
小池良次氏は、この状態を「OSの束縛」と呼んでいるのです。
 しかし、ウインドウズだけがOSではないのです。マックOS
もありますし、リナックスというOSもあるのです。OSが違う
ということは、それぞれのPCが違うマシンであることを意味し
ています。
 もし、ウインドウズ対応のローカル・アプリであるワードやエ
クセルをそのままアップルPCやリナックス・マシンで使おうと
しても使えないのです。これが小池氏のいう「OSの束縛」とい
うことになります。つまり、ソフトウェアはOSに閉じ込められ
ている状態であり、他のOSの環境では動かないのです。
 しかし、インターネットの利用については、OSに関係なく、
使うことができます。たとえば、ウェブサイトを見る場合はOS
が異なるどのPCでも表示できます。それはOSの違いをウェブ
ブラウザが中和してくれるからです。そのため、ここにきてウェ
ブブラウザの機能をどのように強化するかが大きな課題となって
いるのです。
 このようなネット時代に力をつけてきた代表的な企業がグーグ
ル社です。グーグル社は「ネットの申し子」といわれているので
す。グーグル社は次のような壮大な目標を掲げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 すべてのアプリケーションをインターネット経由で提供する
                     ──グーグル社
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、グーグル社は「グーグル・アップス」というサービスに
力を入れています。メール、スケジュール管理、チャット、表計
算、ワープロソフトをセットでネット経由で提供するサービスで
そのターゲットは企業であり、着々と成果を上げつつあります。
 この企業向け「グーグル・アップス」には次の2種類があって
現在ユーザー数は着実に増加しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.スタンダード版──無料
        2. プレミアム版──有料
―――――――――――――――――――――――――――――
 「プレミアム版」について説明します。
 このサービスは、2007年2月から開始されています。ユー
ザー1人当たりの料金は年間50ドル、広告を外して、セキュリ
ティを強化しています。利用企業は現在100万社を超えている
といわれます。同社のエンタープライズ部門担当社長のデイブ・
ジラールド氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 当初は、一日平均1000件程度が利用を始めていたが、現在
 では一日3000件と利用企業数は加速度的に増えている。
                 ──デイブ・ジラールド氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界的な景気後退の時期でもあり、どの企業でもITコストを
削減しようとしてアップスを採用する企業が増えています。アッ
プスを採用すると、アプリケーション運用コストを大幅にカット
できることやサーバーのお守りする専門スタッフが不要になるの
で、その分大幅にコストを削減できるのです。
 現在のところアップスの利用は中小企業が中心ですが、大手バ
イオ企業ジェネンテックが採用するなど、大企業が採用する動き
も出てきているのです。
 アップスの課題としては、ウェブ・アプリをオフラインでも使
えるようにすることです。実際に顧客からの要望が一番多いのは
「Gメール」をオフラインでも使えるようにして欲しいという要
望です。既に「グーグル・ギアーズ」という機能を使って文書作
成ソフトはネットにつながっていない状態でも利用可能になって
います。
 このようにグーグル社は、グーグル・アップスなどを使って法
人向けのサービスに力を入れているのです。これに対してマイク
ロソフト社はウインドウズ・アジュールでこれに対抗しようとし
ています。
 これについてグーグル社のデイブ・ジラールド氏は次のように
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マイクロソフトの進出は「脅威にはなりうる」とジラールド氏
 も認める。もともと多くの企業はこれまでに、ウィンドウズ上
 で走らせる社内アプリケーションソフト等に莫大な投資をして
 おり、大企業などはこうしたアプリケーションを容易にはクラ
 ウドヘ移植できないという事情があった。ところが、マイクロ
 ソフトが新たに発表した「ウィンドウズアジユール」を用いれ
 ば、簡単にタラウド上へ移植できる。
    ──2008年12月13日付、「週刊東洋経済」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かにウインドウズ・アジュールが画期的であることはグーグ
ル社も認めるところですが、これはネット上のウインドウズその
ものであり、「OSの束縛」からは依然として逃れられないこと
になるのです。 ――[クラウド・コンピューティング/27]


≪画像および関連情報≫
 ●「グーグル・アップス」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  グーグル・アップスは独自ドメインでいくつかのグーグル製
  品を使えるようにする、グーグルによって提供されているサ
  ービスである。グーグル・アップスはには従来のオフィスス
  イートに似た機能を持つ、Gメール、グーグル・カレンダー
  トーク、ドキュメントやサイトといったウェブアプリケーシ
  ョンが含まれる。          ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

デイブ・ジラールド氏.jpg
デイブ・ジラールド氏
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2009年11月24日

●「クラウドビジネスには2つの柱がある」(EJ第2700号)

 「主戦場はサーバーに移っている」――EJ第2689号で私
はこう書きました。これからクラウド化がどんどん進むと、企業
内でサーバーが続々と増えていくことになります。
 社内にサーバーが続々と増える――実は米国では1990年代
の終り頃からそういう現象が起こっていたのです。初期の頃のサ
ーバーは両手で抱えるほどの大きさがあり、それが増えてくると
社内は手狭になってしまいます。
 住宅には一戸建て住宅と集合住宅があります。しかし、人口が
増えてくると、一戸建て住宅よりも集合住宅――アパートやマン
ションが多く利用されるようになります。サーバーについても同
様で、集合住宅に当たる「データーセンター」がサーバーの提供
業務を始めるようになっていったのです。すなわち、企業ごとに
サーバーを置くのではなく、データーセンターが企業のサーバー
業務をすべて肩代わりするようになっていったのです。
 しかし、これではデーターセンターがサーバーで埋まってしま
います。もちろん技術革新によってサーバーの小型化・薄型化は
進み、配置する密度は上がったのですが、今度はサーバーが熱を
持ち、それを冷やすための強力なエアコンがうなりを上げる――
ちょうどすし詰めの通勤電車のようになってしまっています。
 そうなると、データーセンターは巨大な電力を食うのです。大
型のデーターセンターになると、一般家庭の数千軒から一万軒ぐ
らいの電力が必要になるのです。また、空冷のための電力コスト
もばかにならないので、データーセンターを寒冷地の地下深くに
移すことも検討されているほどです。
 これをみると、グーグル社が巨大投資を行っている謎が解けて
きます。これについて、既出の小池良次氏は次のように述べてい
るのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 グーグルは、何億人というユーザーが同時にソフトウエアを利
 用しても耐えられる巨大データセンターを準備している。それ
 には、NASAのような巨大コンピューター設備の管理技術や
 原子力発電所による電源確保、そして世界の通信大消費地に広
 がる光幹線網が必要だ。そして、それら幹線網を結ぶ海底ケー
 ブルもなければならない。グーグ〜はソフトウエアがコンピュ
 ーターから解放され、インターネットを自由に飛び回る世界を
 予測し、インターネット世界の中を巨大なソフトウエア流通シ
 ステムにしようとしている。そのための巨大なハードインフラ
 を着々と準備しているわけだ。
   ――小池良次著、『クラウド』より/インプレスR&D刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで考えてみるべきことがあります。現在は、あくまでPC
が処理したデータをハードディスクに保存していたのですが、ク
ラウド化が進むと、そのデータをサーバー側に移すようになって
きます。それがさらに進むと、すべての処理をサーバー側で行い
PCは操作と表示を担当するターミナル化することになります。
これに関連しますが、「クラウド」に似ている概念に次の2つが
あるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.ホスティング
    2.ASP/Application Service Provider
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ホスティング」とは何でしょうか。
 「ホスティング」とは、サーバーを貸し出すサービスのことを
いいます。サーバーを貸し出す主体はデーターセンターというこ
とになります。データーセンターは、一括して設備投資を行った
うえで、ウェブサービスを構築したい企業に対してサーバーを貸
し出すことで利益を得るビジネスです。通販などのウェブサービ
スによく使われています。
 サーバーを借りる側の企業も設備投資や管理費や通信費を削減
できるので、そのメリットは大きいのです。個人でも少し凝った
ウェブサイトを作りたいという場合などは、自分でサーバーを構
築するより、はるかに低価格で実現できるので、よくこのホステ
ィングが利用されています。
 「ASP/アプリケーション・サービス・プロバイダ」とは何
でしょうか。
 通販をウェブサービスとして構築する場合、サーバーを借りる
だけでは何も始まらないのです。決済機能や顧客管理、在庫管理
などの業務処理が必要になります。これらのアプリケーションを
提供する業者がASPなのです。
 これらのホスティングとASP―――本来は企業が用意すべき
機能をネットを介して提供するという意味において、クラウド・
コンピューティングとよく似ています。それをもっと大がかりに
したものがクラウド・コンピューティングなのです。
 クラウド・ビジネスには、サービス事業とインフラ事業の2つ
があるのです。サービス事業としては、アプリケーションを提供
する「クラウド・アプリケーション」、つまり、ASPのことと
考えればよいでしょう。
 そしてインフラ事業としては「クラウド・データーセンター」
つまり、ホスティング事業がそれに該当します。
―――――――――――――――――――――――――――――
            I―― クラウド・アプリケーション
 クラウドビジネス ――I
            I―― クラウド・データーセンター
―――――――――――――――――――――――――――――
 これまでのグーグル社の動きをみると、サービス事業とインフ
ラ事業の2つをやろうとして進めていることがわかります。とく
に巨額の投資が必要になるインフラ事業については、グーグル社
のほかにIBMやHP、AT&T、アマゾンの子会社であるアマ
ゾン・ウェブ・サービシーズなどが着々とその地位を築きつつあ
ります。    ――[クラウド・コンピューティング/28]


≪画像および関連情報≫
 ●「ASP」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  一般に用いる場合、事業者を指す言葉である事が多く、業務
  用のアプリケーションソフトをネットワーク(特にインター
  ネット)を利用して、顧客にレンタルする事業者あるいはサ
  ービスを指す。利用者はインターネットに接続された環境で
  ブラウザソフトを使ってASP事業者のサーバーにアクセス
  し、ASP事業者から提供される各種アプリケーションソフ
  トを利用する。高額なデジタル専用回線に代わり、ADSL
  やFTTHなどブロードバンド回線で大容量・常時接続が低
  価格で提供され、導入しやすくなった2001年頃から普及
  し始めた。一方、システム設計構築の用語としては、システ
  ム内でアプリケーションソフトを動作させ、サービスを提供
  するコンピュータサーバーをASPサーバと呼ぶ。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

データーセンターのイメージ.jpg
データーセンターのイメージ
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2009年11月25日

●「仮想化技術というものがある」(EJ第2701号)

 「クラウド」の進行によって現在サーバーが増えており、企業
は自社専用のサーバー保有をあきらめ、サーバーの集合住宅であ
るデーターセンターからサーバー環境の提供を受けて使うように
なりつつあります。しかし、そのデーターセンターのサーバーは
どうなるのでしょうか。小池良次氏は近未来のデーターセンター
について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 近い将来、クラウドインフラプロバイダーの次世代データセン
 ターには、大型サーバーがいくつも並ぶことになる。しかし、
 ユーザーはその大型サーバーを借りる必要はない。仮想化技術
 は、大型サーバーの中に、必要なサイズの仮想サーバーをいく
 つでも作り出せるからだ。また、サーバーだけでなく、ストレ
 ージ(記憶領域)やネットワークなども自由に作り出せる。外
 見はひとつのサーバーだが、中には何十台ものサーバー機能が
 詰まっている。
   ――小池良次著、『クラウド』より/インプレスR&D刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 もう少し具体的な話をしましょう。
 「EC2」というデーターセンター・サービスがあります。E
C2というのは、次の言葉の略語です。
―――――――――――――――――――――――――――――
   EC2/エラスティック・コンピュート・クラウド
                Elastic Compute Cloud
―――――――――――――――――――――――――――――
 「コンピュート」と「クラウド」のように2つ「C」が付くの
で「C2」というわけです。これは、アマゾン・ウェブ・サービ
シス社――AWS社が提供している次世代データーセンター・サ
ービスであり、「EC2」と呼称されます。
 「エラスティック」というのは、弾力性や伸縮自在性という意
味であり、「弾力性に富んだクラウドコンピュータ」という意味
になるのです。これは次のことを意味しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 EC2/仮想化技術を駆使して柔軟にオンラインアプリケー
 ションを提供できる。
  ――小池良次著、『クラウド』より/インプレスR&D刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中に出てくる「仮想化技術」という言葉があります。およ
そこの言葉ぐらい説明が難しいものはないのですが、現在PCを
使っている人にも関係のある技術ですので、知っておく必要があ
ると思います。EJはけっして技術系の人向きのレポートではな
いのですが、今後の社会の動きの一つとして理解しておくと後で
役立つと思います。
 「Java」という言語をご存知でしょうか。
 「Java」は、インターネット上の利用に適した言語で、PCだ
けでなく、サーバーや携帯電話にも利用が広がっています。サン
・マイクロシステムズ社が開発した言語です。
 「Java」はコンピュータの機種の違い――OSの違いを問わな
いというところに大きな特色があります。すなわち、「Java」で
記述したソフトウェアは、ウインドウズ上でも、マックOS上で
も、リナックス上でも問題なく動くのです。
 どうしてそんなことができるのでしょうか。その秘密は「仮想
マシン」にあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
       仮想マシン/Virtual Machine
―――――――――――――――――――――――――――――
 「仮想マシン」について説明します。
 「ジャバ語」という外国語があったとします。そのジャバ語で
書かれたメッセージがあるとして、それを日本人と米国人に伝え
たいとします。この場合、ジャバ語のメッセージをそのまま日本
語や英語に翻訳しないで、その前段階の「共通コード」というも
のに翻訳します。
 そのうえで、日本人に対してはその共通コードを理解できる日
本人通訳をあてがい、米国人に対してはその共通コードを理解で
きる米国人通訳をあてがって伝えるのです。これによって、日本
人にも米国人にも同じメッセージが伝わることになります。
 これに加えて、イタリア人にもそのメッセージを伝えたい場合
は、共通コードが理解できるイタリア人通訳をあてがえば伝わる
ことになります。
 「Java」のプログラムは、これとまったく同じ方法をとってい
るのです。次をごらんください。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ジャバ語のメッセージ ・・・・・  「Java」プログラム
 共通コード ・・・・・・・・・・ 「Java」バイトコード
 共通コードを理解する通訳 ・・・  「Java」仮想マシン
 日本人、米国人、イタリア人 ・・  コンピュータ+OS
                     ――藤田英時著
     『人間の考え方プログラムの考え方』/ナツメ社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 「Java」のプログラムは、「Java」コンパイラによって翻訳さ
れ、実行可能なプログラムになるのですが、CPUが直接命令す
る機械語ではないのです。これは、「Java」バイトコードという
特殊なコード(命令)であり、それを解釈して実行するソフトウ
ェアが「Java」仮想マシンなのです。
 「Java」仮想マシンは、ウインドウズやマックOSなどに対応
したものがそれぞれ用意されており、OSに代わって「Java」バ
イトコードを実行するのです。これがコンピュータなどの機器や
やOSに依存しないで「Java」のプログラムが動く仕組みになっ
ているのです。プログラムを書いて「Java」バイトコードに翻訳
しておけばどのような機器でもそのソフトウェアは動くのです。
        ――[クラウド・コンピューティング/29]


≪画像および関連情報≫
 ●「EC2」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  EC2とは、商用ウェブサービスであり、顧客が計算資源を
  借り、アプリケーションの実行を可能にするものである。E
  C2は、アプリケーションのスケーラブルな展開を可能とし
  ており、顧客はバーチャルマシンと呼ばれるサーバインスタ
  ンスを作成することで、希望するのソフトウェアを実行する
  ことができる。顧客はサーバインスタンスを必要に応じて作
  成、実行および停止することができ、起動しているサーバに
  対し毎時ごとに対価を払うので「エラクティック」と呼ばれ
  る。顧客はサーバインスタンスを互いに隔離されたゾーンに
  作成することにより、障害時において互いにバックアップと
  なり、ダウンタイムを最小化するような構成をとることがで
  きる。               ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/藤田英時著『人間の考え方プログラムの考え方』
                        ナツメ社刊

Javaプログラムが異機種で動く仕組み.jpg
Javaプログラムが異機種で動く仕組み
posted by 平野 浩 at 04:29| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月26日

●「仮想化技術は古くて新しい技術である」(EJ第2702号)

 昨日のEJで「Java」の仮想マシンについて説明しました。こ
の「Java」という言語を使ってソフトウェアを書くと、ウインド
ウズやマックOSやUNIXなどのどのOS上でも、またPCだ
けではなく、どういう情報機器でも、携帯電話でも――そのソフ
トウェアはちゃんと動作するのです。
 それは、それらの機器に「Java」実行環境を用意して組み込む
ことによって実現されるのですが、その実行環境を「Java」仮想
マシンと呼んでいるのです。
 ホームページを開くと、アニメや音声などが再生されることが
ありますが、ホームページ自体は基本的には静止画であって、そ
れに動きをつけることはできないのです。どうして動くのかとい
うと、ブラウザには「Java」プログラムを解釈して実行する機能
があり、ホームページが開くと同時に「Java」プログラムを実行
する環境が作られ、そのなかで動作するからです。
 そういうわけで、「Java」プログラムは次の2つの種類があり
区別されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 OS上で動くもの ・・・・・ 「Java」アプリケーション
 ブラウザ上で動く ・・・・・ 「Java」アプレット
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはソフトウェアの仮想化技術ということができます。なお
これとは別にホームページ上に動きを付けることができる「ジャ
バ・スクリプト/JavaScript」という言語がありますが、これは
「Java」とはまったく違う言語ですので混同しないことです。
 現在、仮想化技術といわれているものは、この「Java」仮想マ
シンよりも幅広い概念ですが、この技術は実は古くて新しい技術
なのです。なぜなら、その歴史をたどると、大型汎用機のOSが
現れた時点で既に仮想マシン環境が利用されているからです。
 仮想マシン環境は、ハードウェアを仮想化し、その仮想ハード
ウェア――仮想マシン上でOSを動作させる技術です。仮想的な
ハードウェアを複数用意することで、同時に複数のOSを実行さ
せることも可能です。
 大型汎用機時代に仮想マシン環境が重視されたのは、過去の資
産の継承なのです。新しい汎用機を導入したときに、2つの汎用
機の間には互換性がなく、古い汎用機用に作られた高価なアプリ
ケーションプログラムは新しい汎用機上では動かないのです。
 そこで、この問題を解決するために仮想マシン環境を作り出し
その環境上に古い汎用機のハードウェアをエミュレートすること
によって、アプリケーションプログラムをその仮想マシン環境の
中で使い続けることを可能にしたのです。
 なお、「エミュレート」というのは、コンピュータの世界では
「模倣する」という意味であり、そういう働きをするソフトウェ
アを「エミュレーター」と呼んでいます。
 昔のことですが、新しい汎用機を導入しても、その新しい汎用
機で、古い汎用機に合わせて作ったアプリケーションもちゃんと
動くという説明をIBМのSEから非常にうまいたとえ話で聞い
たことがあります。それは小田急のロマンスカーの話です。
 小田急のロマンスカーは箱根湯本が終点です。それがどうした
といわれそうですが、どうして箱根湯本までロマンスカーが行け
るのか不思議に思ったことはありませんか。
 小田原から箱根登山電車が発着しています。箱根登山電車の軌
道は山道ですので、線路が広軌になっているのです。しかし、小
田急線の軌道は広軌ではありません。もちろんロマンスカーも同
様なのです。そうすると、ロマンスカーは小田原と箱根湯本の間
は広軌の線路を通っていることになります。
 一体どうなっているのかです。実は小田原から箱根湯本までの
線路は3本になっており、広軌でも狭軌でも通れるのです。広軌
を新しい汎用機とすると、それに線路を一本追加することによっ
て、狭軌用のアプリケーションも動くと説明したのです。実に見
事な説明であり、今でも覚えていますが、本当は仮想マシン環境
によってそれを実現させていたのです。
 現在、仮想化技術が求められるようになってきているのは、こ
れまで述べてきたように、汎用機時代の動機である「資産継承」
ではなく、マシン台数の削減が目的なのです。何しろ、クラウド
の進行で、サーバーが増加して、そのハードウェアコストおよび
運用コストが増大傾向にあるのです。そこで、その台数を減らし
コストを下げるためのひとつの手段として、仮想マシン環境の利
用が検討されているのです。
 現在、それを可能にするコンピュータのハードウェア環境も整
いつつあります。高性能のPCサーバマシンが手ごろな価格で入
手可能になっていますし、マルチコアプロセッサ、大容量メモリ
が標準的な環境になる今後のサーバでは、仮想マシン環境は非常
に有望な技術として注目されてきているのです。
 添付ファイルをご覧いただきたいのです。あるOS――ホスト
OSと呼称――の上に、ハードウェアをエミュレートする環境、
すなわち、仮想マシン環境を載せ、その上で別のOS――ゲスト
OSと呼称――を動作させるのです。エミュレートはホストOS
が持つ機能を利用して実現するのです。
 個人ユーザーでもこの方法を使うと、ウインドウズ・ビスタを
ホストOSとし、そこにマックOSとリナックスOSの環境を作
るという使い方ができることになります。これが仮想化技術とい
われるものです。
 2007年にアマゾンEC2は本サービスを開始し、2008
年4月にグーグルは「アプ・エンジン」、マイクロソフト社も同
年10月に「アジュール・サービシーズ・プラットフォーム」の
試験サービスを開始しています。
 これら3社は、これまでは考えられなかった「個人や零細企業
のためのデーターセンター」という新市場で現在しのぎを削って
いるのです。このように現在クラウドは驀進しています。
        ――[クラウド・コンピューティング/30]


≪画像および関連情報≫
 ●「Java」の起源について/「ウェブを支えるジャバ」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「Java」は、現在ではインターネットと密接なかかわりを持
  つ言語として位置付けられていますが、開発された当初の本
  来の目的は、プラットフォームに依存しないオブジェクト指
  向言語の実現にありました。オブジェクト指向を取り入れた
  言語であれば、開発コストを大幅に低減することができます
  し、プラットフォームに依存しないのであれば開発したプロ
  グラムを多くのOS上で動作させることが可能となります。
  つまり、この言語を用いて開発したプログラムは、メインフ
  レームでも、PCでも、はたまた家電製品においてでも動作
  させることが可能となるわけであり、そのことによって得ら
  れるメリットは多大なものとなるはずです。
      http://intres.jp/jtnet/web-Java82CC8BN8CB9.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

仮想化技術.jpg
仮想化技術
posted by 平野 浩 at 04:22| Comment(1) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月27日

●「クラウドの実現を支える2つのこと」(EJ第2703号)

 クラウド――クラウド・コンピューティングがもの凄い勢いで
進んでいます。クラウド自体はけっして新しい技術ではなく、構
想としては前からあったのですが、今までなかなか実現しなかっ
たのです。どうして、実現しなかったのでしょうか。
 結論からいうと、次の2つが実現していなかったからです。ク
ラウドには2つとも揃うことが必要なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.通信速度の高速化
        2.モバイルの高普及
―――――――――――――――――――――――――――――
 「通信速度の高速化」は、いわゆるブロードバンドの普及が拡
大するにつれて一気に進んだのです。回線利用料が月額固定制に
なり、ネットを時間を気にしないで使えるようになったことで通
信速度も一挙に2ケタ高速化したのです。
 とくに日本は、通信速度当たりの利用料金において、世界で最
も安価な水準を維持続けているのです。このように少なくともク
ラウドが実現する条件のひとつである「通信速度の高速化」は実
現しているといえます。
 「モバイルの高普及」についてはどうでしょうか。
 モバイルの前に、PCの普及について考えてみます。2008
年現在、全世界で10億台のPCが利用されています。調査会社
ガートナーの調べによると、年間1億8000万台のPCが買い
換えられ、2014年のはじめには全世界での利用台数は20億
台に達するといわれています。
 続いて携帯電話ですが、国際電気通信連合(ITU)の発表に
よれば、2007年末時点での携帯電話の世界普及台数は33億
台であり、PCの3倍以上になっています。
 携帯電話に関しては、文字通り街を歩いている人の全員が持っ
ているといっても過言ではないほど普及しており、なかには一人
で複数台数の携帯電話を持っている人も少なくないのです。
 しかも、これらの夥しい数の携帯電話はすべてがネットに繋が
り、ネットがいつでも、極端にいうと本人がそれと気がつかない
うちにどこでも使われている――これが現在の状況なのです。
 今までPCは建物の中で使われるというのが常識であったはず
です。しかし、ノートPCが増加して少しずつ外でも使われるよ
うになりましたが、それはパーセンテイジでいえばわずかなもの
であったはずです。
 しかし、携帯電話がネットに繋がるようになり、その機能が拡
大されて、PCに近づいてきています。その結果、誕生したのが
アイフォーンによって代表されるスマートフォンです。スマート
フォンになると、これはPCそのもの――究極のネットブックで
あるといえます。
 その結果、PCは建物の中で使われるのは当たり前のこととし
て、外においても非常に多くの人が使うようになってきているの
です。そうなると、ほとんどが外で使われる携帯電話については
建物の中のPCとの関係において、何らかのサポートなり、管理
が必要になってきます。
 ここにクラウドの必要性が出てくることになります。「通信の
高速化」と「モバイルの高普及」の2つが実現したからです。そ
うなると、今後のモバイルがどうなっていくかが、重要な問題に
なってきます。
 アップル社は、2009年9月9日にアイフォーンの世界全体
の出荷台数が累計3000万台を超えていることを発表したので
す。初代のアイフォーンの登場から2年強ということを考えると
急成長であるといえます。
 アイフォーンと同じOSを搭載しているアイポッド・タッチの
出荷台数と合わせると、全世界で5000万台の規模に達してい
るのです。
 この5000万台という実績をどう評価するかについてはいろ
いろな意見があります。携帯の端末で比較すれば、フィンランド
のノキアの出荷台数は四半期だけで1億台近くを売り上げており
アイフォーンなどはその足元にも及ばないのです。
 現在のNTTドコモの契約者数は5500万人前後であること
を考えると、アイフォーンとアイポッド・タッチの5000万台
はアップル社が「iモード」を抜き去りつつあることを意味して
いるのです。なぜなら、日本の携帯電話市場の飽和状態とNTT
ドコモの「iモード」の利用がほとんど国内に限定されているこ
と、それに全世界に展開を図っているアイフォーンの成長性を考
えたときそういえるのです。
 アップル社が口火を切ったのは確かです。これに続けとばかり
グーグル社はアンドロイド端末の世界展開を目指しており、さら
にノキアやスウェーデンのエリクソンも同様のコンテンツプラッ
トフォームを考えているといわれます。
 実はアップル社は、日本の「iモード」をよく研究しているの
です。日本では約1億人が携帯電話を使っていて、その80%は
象徴的な意味での「iモード」を使っているのです。なぜなら、
「iモード」は、EZWebやヤフー!ケータイを含めたモバイ
ル・インターネットの象徴であるからです。
 しかし、世界のケータイ・ユーザー33億人の中で、「iモー
ド」を使っているのはわずかに2%以内なのです。1999年に
アップル社に在籍し、プラットフォームや製品戦略の仕事をして
いた日本通信常務取締役CMO兼CFOの福田尚久氏は「iモー
ド」について、アップル社としては、1999年の時点で次の結
論を出していたと語っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「iモード」は当然日本では伸びるだろうが、世界では伸び
 ない。                 ――福田尚久氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 何しろ、日本の端末メーカー全社の世界シェアは5%を切って
いるのです。  ――[クラウド・コンピューティング/31]


≪画像および関連情報≫
 ●「iモード」の世界展開について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本での「iモード」の大成功を背景に、2002年ごろか
  ら諸外国の携帯電話サービス会社に対して「iモード」の技
  術とライセンスを供与し始めた。しかし、「iモード」のよ
  うな閉鎖的なコンテンツへの需要が少ないこともあり、海外
  展開は苦戦を強いられている。海外では「iモード」のライ
  バル規格であり、事実上の世界標準となっているWAPとM
  MSが普及している。シンギュラーワイヤレスに買収される
  前のAT&Tワイヤレスは、ドコモが大株主であったことも
  あり、AT&Tワイヤレス版の「iモード」を展開し始め
  ていたが、立ち上がってほどなく、AT&Tワイヤレス自体
  が買収によりなくなってしまった。  ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

「iモード」の海外広告.jpg
「iモード」の海外広告
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月30日

●「日本のケータイはガラパゴス」(EJ第2704号)

 日本の携帯電話端末メーカー全社の世界シェアは5%を切って
います。この数字、実は不思議な数字なのです。なぜなら、日本
のメーカーが外に出て行っていないし、海外のメーカーが日本に
入っていないからです。
 しかも、日本人の持っている携帯電話──あえてケータイと呼
ぶことにしますが、実に多機能で豪華そのものなのです。「iモ
ード」を中心として、「着うた」「絵文字」「デコメール」など
ケータイに特化したサービスが利用できるようになっており、ス
イカやパスモの代わりができる「お財布ケータイ」まである──
すべて日本独自の規格なのです。
 こういうケータイを約1億人の日本人が持っているのです。当
然大きなビジネスになるので、着うたや音楽やゲームなど、ケー
タイの限られた画面サイズに合わせ、ケータイの単純な操作キー
でも快適に使えるように調整を行い、それに加えて、しっかりと
した課金システムを確立させているのです。
 しかし、そのさい、PCの連携はとくに意識されていないので
す。つまり、日本のケータイはPCがなくても、ケータイでほと
んどのことができるようにしてあるのです。そのため、若者の中
にはPCを持っていないユーザーもたくさんいるのです。
 こうしたケータイ用のコンテンツを売る業者としては、そうい
うものに最もお金を落とす層──20歳代から30歳代層にター
ゲットを絞り、ゲームや着うたなどを重視する「エンターテイン
メント指向」のビジネスを推進してきたのです。
 日本の場合、ケータイの世界とPCの世界は、同じネットを使
いながら、別々に発展しており、そこに明らかに「壁」のような
ものが存在するのです。その典型的なものが「メール」です。
 日本では、PCのメールとケータイのメールは別のものとして
進化してきています。そのためケータイのメールアドレスとPC
のメールアドレスは違うし、ケータイの場合は絵文字などのPC
のメールではできないことができる反面、添付ファイルの利用が
制限されるなどの不便な点があります。
 こういう日本のケータイの現状に不満を抱く層は明らかに存在
するのです。それは、PCに大きく依存し、PCを中心にネット
を利用しているビジネスパーソンの層がそれです。欧米のPCの
利用率は圧倒的であり、日本でもこういうビジネス層が増加して
きているのです。
 ケータイはビジネスにおけるコミュニケーションツールとして
今後ますます重要な機能を果たしていくことになるが、ビジネス
相手のPCのメールアドレス以外にケータイのメールアドレスが
存在することはきわめて不便です。PCのメールアドレス、ケー
タイの電話番号、ケータイのメールアドレスの3つの情報を入手
しなければならないからです。
 その点日本を除くほとんどの国では、ケータイの電話番号さえ
わかっていれば、相手の人がどこのキャリアと契約していても、
ケータイの電話番号をアドレスにして、ショートメールが送れる
のです。いわゆる「SMS/ショート・メッセージング・サービ
ス」がそれです。
 もちろん日本にもSMSはあります。しかし、同じキャリアの
ユーザー同士──ドコモ同士、au同士、ソフトバンク同士でな
いとSMSはできないようになっているのです。
 ケータイの電話番号を知っている人というのは、よくコミュニ
ケーションを取り合う人ということになります。この場合、必ず
しも直接電話しなくても簡単なメッセージで済むケースも多くあ
ります。こういう場合、日本以外の国では相手のケータイの電話
番号をそのままアドレスとして簡単にショート・メッセージが送
れるのです。
 この機能を利用して欧米では、忙しい相手に電話をする場合は
最初に「これから電話していいですか。イエスなら空メールをく
ださい」というショートメッセージを送るのがマナーになってい
るそうです。「空メール」というのは、メッセージのない返信の
ことです。これは合理的であり、便利です。
 しかし、キャリア同士でないとSMSが送れない日本では、相
手がどこのキャリアと契約しているかを知らないとSMSが使え
ないことになります。その点ソフトバンク・モバイルの開発した
サービスは実に画期的です。
 それは相手に電話をしたとき、その人が同じソフトバンク・モ
バイルのユーザーであれば、「プップップッ・・・」という音が
聞こえるのです。実際に電話がつながるのはその後なので、そこ
で電話を切ってショート・メッセージを送ることができます。そ
ういう音が聞こえないときは、相手はソフトバンク・モバイル以
外のキャリアであることがわかるので、SMSが使えないことも
わかるということになります。
 しかし、この事実を知らない日本人は多いのです。なぜ、他の
キャリアのユーザーとSMSができないのかは、キャリア側の事
情によるものと思われますが、少なくともユーザーのためになら
ないことは確かです。やろうと思えばできるはずです。
 まさに世界の常識は日本の非常識の典型です。ユーザー自身が
知らなければそんなものだと思ってしまいます。私見ですが、長
文のメールはPCで送るべきであり、ケータイのメールはショー
ト・メッセージで十分です。欧米では、PCを使うことを前提に
してケータイが進化しており、日本のようにPCを持たないでケ
ータイだけを使うユーザーは少ないのです。
 大雑把にいうと、欧米型のケータイ・メールは「SMS」、日
本型のケータイ・メールは「MMS/マルチメディア・メッセー
ジング・サービス」なのです。しかし、絵文字やデコメールとい
う「装飾の多いメール」がビジネスで果たして必要なのでしょう
か。現在、日本で流行しているケータイ・メール文化は20歳代
から30歳代の若者が使っている独自の文化に過ぎないのです。
だから、「日本のケータイはガラパゴス」といわれるのです。
        ――[クラウド・コンピューティング/32]


≪画像および関連情報≫
 ●ITと携帯電話で成功した韓国、敗れた日本
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2004年に韓国を旅行したときのことだ。ソウル市内の南
  大門市場(日本で言えば上野のアメ横のような街)で韓国海
  苔を買ったら,店のお婆さんが,会員カードを作ってあげる
  から用紙に名前と住所を書きなさいと,流暢な日本語で言っ
  てくる。別にカードは欲しくなかったが,その場の流れで書
  いて差し出すと「メール・アドレスも書きなさい」という。
  正確には覚えていないが,割引情報などをメールで送ってく
  れるようなことを言っていた。
  http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20070123/259361/
  ―――――――――――――――――――――――――――

ガラパゴス化した日本のケータイ.jpg
ガラパゴス化した日本のケータイ
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月01日

●「自画自賛の日本のケータイ文化」(EJ第2705号)

 NTTドコモで「iモード」の開発に携わり、「iモード」の
父とまでいわれる夏目剛氏は、NIKKEI NETのコラムで
次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本は文句なしのケータイ大国である。一部で「ガラパゴス」
 などと揶揄(やゆ)する向きもあるが、実用化されているケー
 タイのサービスレベルは世界の羨望の的である。ケータイでE
 メールを打つことすら、日本ほどの規模で行われている国はな
 い。せいぜいケータイ同士だけの短いSMS(ショートメッセ
 ージサービス)だ。ましてや、ケータイで駅の改札を通り、コ
 ンビニでお金を支払い、彼女と喧嘩し、デコメでご機嫌をとり
 3Dゲームに飽きたら、音楽を聞きながらケータイで書かれた
 小説を読む・・・なんていう生活を、若者がフツーに行ってい
 る国は日本だけだ。
 http://it.nikkei.co.jp/business/column/natsuno.aspx?n=MMIT33000021102008
―――――――――――――――――――――――――――――
 夏目剛氏はこのように自画自賛(?)しておられるが、やはり
日本のケータイは「ガラパゴス」なのです。確かにひとつの文化
ではあるが、それはあくまで日本の若者のそれであって、とても
世界の標準にはなれない。それが世界シェア5%以下という厳し
い数字となってあらわれているのです。日本の技術は素晴らしい
かもしれないが、ビジネス戦争では完敗なのです。
 話題になっている業務仕分けにおいて、スーパーコンピュータ
の費用を仕分けチームが削減したことについて、ノーベル賞受賞
学者が反論しているが、この反論は完全に的外れです。だいたい
高名な学者を多く集め、莫大な国家予算を注ぎ込んで成功したプ
ロジェクトなどけっして多くないのです。それは、わが国初のコ
ンピュータの開発の歴史をひも解いてみれば明らかです。
 といっても、この国産初のコンピュータ開発の話は、国として
はあまりオープンにしたくない話なので、ネットで容易に見つけ
ることは困難であると思います。これについては、2007年3
月9日のEJ第2036号を読んでいただきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
http://electronic-journal.seesaa.net/article/35530748.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 11月28日付の「日刊ゲンダイ」には、スパコンの契約にま
つわる次の話が報道されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 理研は、07年にスパコンの設計開発をNEC、日立、富士通
 の3社に共同発注しました。これが随意契約だったばかりか、
 スパコン開発のプロジェクトリーダーは文科省から理研に移っ
 た元NEC社員。総費用のうち800億円は、開発費として、
 メーカーに割り当てられているため、当初から疑問視されてい
 るのです(業界関係者)。
        ――2009年11月28日付(27日発行)
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかも、NEC、日立、富士通の共同開発だったのに、日立と
NECが降りて富士通一社の開発になっているのですが、その変
更に伴うリスクについて仕分け人から説明を求められたのに、文
科省の担当者はほとんど答えられなかったというのです。
 この件については、あのホリエモン――堀江貴文氏はネットの
JCASTニュースで正論を展開しています。ぜひ、読んでみて
いただきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
   次世代スパコン開発「異議あり」
   ホリエモン「自分の稼いだ金でやれ」
   http://www.j-cast.com/2009/11/16054024.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 スパコンの悪口はこのぐらいにして本題に戻ります。なぜ、日
本のケータイメールが「MMS/マルチメディア・メッセージン
グ・サービス」かというと、これは「写メール」が流行したから
です。2000年11月、Jフォン――現ソフトバンク・モバイ
ルが携帯電話にはじめてデジカメを組み込み、写真をメールに添
付して送り合う「写メール」の流行がきっかけだったのです。
 このときNTTドコモの夏目剛氏は、テレビのインタービュー
で、ドコモの携帯電話にはいつからカメラがつくのかを聞かれた
とき、次のように答えていたことを私は覚えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 当社としては、現在のところ、携帯電話にはカメラは不要と考
 えております。               ――夏目剛氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、その数カ月後には、NTTドコモはカメラ付き携帯電
話をずらりと店頭に並べたのです。
 これと同じことが携帯電話にワンセグを搭載するかどうかでも
起こっています。このときの主役は、当時のNTTドコモの社長
中村維夫氏ですが、彼は携帯電話にワンセグを付けても弊社とし
てメリットがないと述べているのです。これについては2007
年1月12日のEJ第1997号を読んでください。
―――――――――――――――――――――――――――――
http://electronic-journal.seesaa.net/article/31268543.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ケータイはあくまでPCとの連携のもとに使うものと
考えるべきです。10億台のPCと33億台のケータイ――20
08年現在――2014年になるとPCは20億台に達すると予
測されています。そうすると、そこに誕生するのは、ケータイで
もPCでもない新しいケータイ――スマートフォンなのです。
 あくまで、PCを使うことを前提として使われるスマートフォ
ン――これは今までになかったマシンといえます。今後のクラウ
ド時代を担うマシンとして目下急速に普及しつつあります。
        ――[クラウド・コンピューティング/33]


≪画像および関連情報≫
 ●長崎大の浜田助教授/3800万円のスパコン
  ―――――――――――――――――――――――――――
  東京・秋葉原でも売っている安価な材料を使ってスーパーコ
  ンピューター(スパコン)を製作、演算速度日本一を達成し
  た長崎大学の浜田(剛つよし)助教(35)らが、米国電気
  電子学会の「ゴードン・ベル賞」を受賞した。政府の「事業
  仕分け」で次世代スパコンの事実上凍結方針が物議を醸して
  いるが、受賞は安い予算でもスパコンを作れることを示した
  形で、議論に一石を投じそうだ。(毎日新聞)
  ―――――――――――――――――――――――――――

3800万円のスパコン.jpg
3800万円のスパコン
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2009年12月02日

●「iモードとアップル社の戦略の違い」(EJ第2706号)

 日本のケータイがネットに接続できるようになったのは、19
99年2月のことです。「iモード」がこのときからはじまった
からです。
 ところで「iモード」の「i」は何を意味しているがご存知で
しょうか。
 これは4つの「i」を意味しているのですが、そのうちの3つ
を次に示します。
―――――――――――――――――――――――――――――
     第1の「i」 ・・・・・ interactive
     第2の「i」 ・・・・・ information
     第3の「i」 ・・・・・ internet
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは4つ目の「i」は何かというと、それは「アイ」――
「私」という意味なのです。
 通信は「パケット方式」で行われ、通信料金は通信時間単位で
はなく通信データ量(パケット量)に応じた課金システムとなっ
ているのです。
 ここでよく誤解されるのは、ケータイからインターネットに接
続するといっても、PCからネットに接続するのとは違うという
ことです。ケータイの場合は、キャリアのネットワーク経由でイ
ンターネットに接続しているのです。したがって、キャリアはパ
ケット料金を徴収できるのです。
 しかし、1999年の時点では、ケータイからPC向けのウェ
ブサイト見ることは困難だったのです。ケータイはPCよりも小
型で、より低い電力で動作することを求められる機器であり、と
くに今から10年前の時点では、フルブラウザの搭載などできる
わけがなかったのです。
 そこで、NTTドコモとしては、その非力なハードウェアに合
わせて可能な限り動作を快適化させる「組み込み向けソフトウェ
ア」という技術を利用し、そういうケータイに合わせたサイトを
作成したのです。重要なことは、この段階で日本の場合、縦画面
が標準となったことです。
 そのうえでNTTドコモなどのキャリアは、そのサイトにさま
ざまなコンテンツの提供をコンテンツ・プロバイダに求めたので
す。その結果、ニュース、天気予報、ゲーム、コミック、音楽、
着うた、小説、動画にいたるまで、多岐にわたるコンテンツがコ
ンテンツ・プロバイダによって作られたのです。
 これらのサイトはもちろんネット上にありますが、PCからは
見ることはできないようになっていたのです。したがって、これ
らのサイトは、日本のケータイ・ユーザーのための特殊なゾーン
をネット上に形成していたということができます。
 コンテンツ・プロバイダとしても、キャリアがきちんと課金回
収をしてくれるので、それは「確実にお金が回収できるビジネス
モデル」として定着していったのです。
 しかし、「iモード」が開発された時点において既にアップル
社は、最初からコンテンツはあくまでインターネット・コンテン
ツと決めていたのです。なぜなら、日本のキャリアのように、コ
ンテンツ側の人にケータイに合わせたコンテンツを書いて欲しい
と要請することには限界があることを知っていたからです。当時
ケータイの端末は発展途上にあり、大幅な機種変更があったとき
に対応できないと考えたからです。
 そのためアップル社は、iPodの段階からPC向けのサイト
がスムーズに表示できるようPC並みのOSとフルブラウザを搭
載できるよう技術的努力を重ねたのです。ここがアップル社と日
本のキャリアの戦略の違いです。アップル社はハードウェアの非
力を補うためにソフトウェアの力で解決しようとしたのです。
 それでは、アップル社はどのような技術的努力をしたのかにつ
いて簡単に述べることにします。小さな筺体――初期の40GB
の「iPod」、現在のアイフォーンとほぼ同じ大きさを前提と
して、いかにしてOSとフルブラウザを搭載するかに心血を注い
だのです。インタネット・コンテンツを見るにはフルブラウザが
必要であるという考え方からです。
 しかし、フルブラウザの搭載だけでは問題があり、使い勝手を
よくするには、「フルブラウザ+オブジェクト」にする必要があ
る――ここでいうオブジェクトとは、アプリケーションのことで
あり、小さなオブジェクトが通信して必要なデータを取ってくる
というシステムです。
 実はアップル社はそれを可能にするOSを既に1991年に開
発していたのです。それは「タリジェント」というOSです。現
在はこれが「OS−X」に姿を変えており、その中心機能がアイ
フォーンに搭載されているのです。そして「サファリ」というフ
ルブラウザがアイフォーンに搭載されています。長年目標として
きたものがアイフォーンというマシンに結実したのです。
 今後この「フルブラウザ+アプリケーション」のタイプのケー
タイは急速に増えていくと思われます。アンドロイド搭載のスマ
ートフォンも同じタイプです。これに動揺しているのは、日本の
キャリアにコンテンツを提供しているコンテンツ・プロバイダな
のです。
 アイフォーンによって代表されるスマートフォンによってPC
向けのウェブサイトがいつでもどこでも見られるとなると、わざ
わざパケット料金を支払ってまで、いわゆる「iモード」コンテ
ンツを見る必要はなくなってしまうからです。
 音楽系コンテンツにおいても、一曲丸ごと配信する着うたコン
テンツは、アイチューンズ・ストアで可能になるし、既に海外で
は、アイチューンズ・ストアで購入した楽曲データを使い、アイ
フォーンの着信音に設定するサービスが始まっているのです。
 このアイフォーンというスマートフォン――今までのケータイ
の常識を超えるマシンなのです。このように、今や「iモード」
は存亡の危機に立たされているといっても過言ではないのです。
        ――[クラウド・コンピューティング/34]


≪画像および関連情報≫
 ●「サファリ」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  サファリとは、アップル社が独自に開発したウェブブラウザ
  である。「マックOS−X」にの標準ブラウザとして内蔵さ
  れている。タブブラウザ機能や、グーグルによる検索機能を
  統合したツールバー、ポップアップブロック機能などを搭載
  している。特徴的な機能としては、最後に入力したURLま
  たは最後に選択したブックマークのページに一気に戻ること
  ができる「SnapBack」機能がある。サファリは、オープンソ
  ースのソフトウェアをベースにしており、レンダリングエン
  ジンにはKDEオープンソースプロジェクトの「KHTM
  L」および「KJS」が採用されている。
  ―――――――――――――――――――――――――――

サファリ.jpg
 
サファリ
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2009年12月03日

●「携帯電話には2種類がある」(EJ第2707号)

 クラウド化が進行する社会では、それを生かすも殺すも「携帯
電話」がカギを握ります。いや、携帯電話がこれだけ普及したか
らこそクラウド化がここまで進んだともいえるのです。
 現在市場に出ている携帯電話には次の2種類があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.一般的携帯電話
         2.スマートフォン
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は「一般的携帯電話」です。
 この携帯電話は、携帯電話事業者の定めたサービスを利用する
ことを前提とした端末です。ウェブサービスは「iモード」に代
表される携帯電話向けのものを中心に使うのです。現在利用され
ているほとんどの携帯電話はこのタイプです。
 第2は「スマートフォン」です。
 これは電話というよりもPCそのものです。PC用と同じ機能
を持つ電子メールソフトやウェブブラウザを備え、利用するサー
ビスもPCと変わらない。現在、急速に普及しつつあるアイフォ
ーンはこのタイプに属するのです。
 ここでいう「一般的携帯電話」でもPC用ウェブをそこそこ見
れるようになっています。しかし、それはけっして満足するレベ
ルには達していないのです。しかし、キャリア側としてはそこに
は次のような甘えがあったと思うのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 満足すべきレベルに達していなくても、携帯電話でもここま
 でやれるということを示せばいいのではないか
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、それはスマートフォンが現れる前はそういうことでも
許されたと思うのですが、スマートフォンが思ったよりも安い価
格で出現してくると、一般的携帯電話のサービスに不満を持って
いる人は確実にスマートフォンに切り換えるはずです。そうなる
と、いわゆる携帯電話は、限りなく電話に近いケータイと、限り
なくPCに近いケータイに二極化すると思われます。
 さて、クラウド時代にはスマートフォンということになります
が、スマートフォンには代表的なものが3つあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.アイフォーン
          2.アンドロイド
          3.ブラックベリー
―――――――――――――――――――――――――――――
 アイフォーンは、いうまでもなくアップル社の開発による、特
徴的なタッチ操作のスマートフォンです。日本では、ソフトバン
ク・モバイルがサービスを担当しています。
 アンドロイドは、グーグルが中心になって開発している携帯電
話向けのOS「アンドロイド」を搭載したスマートフォンです。
現時点では、NTTドコモより、「HT−03A」が発売されて
います。auのアンドロイドは来年の発売といわれます。
 ブラックベリーについては、既出の西田宗千佳氏の説明を引用
します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ブラックベリーは、カナダのリサーチ・イン・モーション社が
 開発した企業システムとの連携やメールの読み書きを重視した
 端末で、フルキーボードを搭載している機種が多いこと、アメ
 リカのオバマ大統領が愛用していることなどで知られている。
 日本では、NTTドコモでサービスが行われている。
                     ――西田宗千佳著
 『クラウド・コンピューティング仕事術』/朝日新書/195
―――――――――――――――――――――――――――――
 スマートフォンを使う目的とは何でしょうか。
 スマートフォンを携帯電話と考えないことです。それは、肌身
離さず身に付けているPCと考えるべきです。そのように考える
と、スマートフォンにはさまざまな使い方が考えられるのです。
 ちなみに、「PCはソフトがなければただの箱」といわれまし
たが、ソフトには次の2つがあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.データを「作る」ソフト
       2.データを「見る」ソフト
―――――――――――――――――――――――――――――
 「データを作るソフト」とは、ワープロや表計算ソフトなどの
ように、操作した結果、データが残るものをいいます。PCが普
及した初期のソフトウェアは、ほとんど「データを作るソフト」
だったのです。
 しかし、PCがネットワークにつながるようになると、「デー
タを見るソフト」が登場してきます。具体的には、ヴァル研究所
の「駅すぱあと」によって代表される「鉄道経路検索ソフト」や
各種の地図ソフト、「ぐるなび」によって代表されるお店探しソ
フトなどがそれに当たります。
 しかし、鉄道経路検索ソフトにせよ、地図ソフトにせよ、お店
探しソフトにせよ、PCのソフトとして使う場合、出かけるとき
印刷して、その紙を持ってでかけるという使い方をせざるを得な
かったのです。
 携帯電話がインターネットにスムーズにつながるようになると
それらのソフトは外で、現場で、見ることができるようになりま
す。この方がはるかに便利です。
 最近では、仕事の打ち合せの場所や宴会の場所などを伝えるさ
い、メールで地図サービスのアドレスを送ることが一般化してい
ます。画像データを送るのであれば大変ですが、URLをメール
に貼り付けるだけでよいので便利です。
 このように「データを見るソフト」が普及してくると、そうい
うソフトの提供者は大きくビジネスモデルを変更せざるを得なく
なります。   ――[クラウド・コンピューティング/35]


≪画像および関連情報≫
 ●「ブラックベリー」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ブラックベリーは、カナダのリサーチ・イン・モーションが
  1997年に開発したスマートフォン。欧米のビジネスマン
  を中心に広く使われており、世界で130カ国以上3200
  万人以上が利用している。販売台数は5000万台を超えて
  いる。日本でも外資系企業を中心に使われ、1200社以上
  が国内で導入している。主に、法人向けサービスのブラック
  ・ベリー・エンタープライズ・サービス(BES)と個人・
  中小企業向けサービスのブラック・ベリー・インターネット
  サービス(BIS)の2種類がある。 ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ブラックベリー.jpg
ブラックベリー
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2009年12月04日

●「アイフォーンに勝つのは容易ではない」(EJ第2708号)

 現在、日本国内の携帯電話市場は明らかに伸び悩んでいますが
スマートフォンは着実に顧客層を広げています。調査会社のMM
総研の調査によると、2007年度に国内で21万台――携帯電
話全体の0.4 %に過ぎなかったスマートフォンは、2010年
度には250万台――同7.7 %になると、予想されています。
 アップル社のアイフォーンは、全世界で累計3000万台を販
売し、日本では発売以来100万台以上を販売しています。この
マシンはアップル社独特のコンセプトで作られており、今後日本
国内でも大きく伸びると予想されます。
 グーグル社は、今年の10月に携帯メーカーに無償で提供する
携帯端末向けのOS「アンドロイド2.0」 の提供を開始しまし
たが、早くも台湾HTC社は、NTTドコモからアンドロイドを
搭載したスマートフォン「HT−03A」を販売しています。そ
して、2010年にはシャープもアンドロイド搭載端末を出すこ
とが伝えられています。
 この台湾HTC社とは、1997年創業の企業で、設立当初か
らPDAやスマートフォン端末を開発し、世界50ヶ国以上でビ
ジネスを展開しています。
 日本では、2006年にソフトバンク・モバイル、NTTドコ
モ、イー・モバイルから携帯端末を出しており、今年になって、
KDDIからも製品を出荷して、国内4キャリアすべてに製品を
提供する有力なメーカーなのです。
 おそらく2010年には数多くのメーカーからアンドロイド端
末が発売されると考えられますが、果たして非アンドロイドであ
るアイフォーンにどこまで迫れるか注目されます。アップル社の
戦略は実に入念に練られており、後発のアンドロイド端末は相当
苦戦を強いられると予測されるのです。
 なぜなら、アイフォーンは2007年に初代モデルを発売し、
2008年にはアイフォーン3G、2009年にはアイフォーン
3GSと機能を強化させているのに対し、アイフォーンに対抗す
るアンドロイド搭載のスマートフォンでは、日本製品はまだ発売
されていないのです。こんなことで果たしてアップル社に追いつ
けるのでしょうか。
 初代アイフォーンで世界の端末メーカーが仰天したのがアップ
ル社のタッチパネルの使い方のうまさです。それまでにもタッチ
パネルを採用した端末はありましたが、その利用レベルやユーザ
ーインターフェースのできは、決して優れたものとはいえなかっ
たのです。
 初代アイフォーンの発売以降、世界の端末メーカーはアイフォ
ーンのタッチパネルの使い方を意識して、端末に組み込むケース
が増えています。そのため、タッチパネルの生産量が急増してい
るのです。米「PCワールド」誌は、これに関して次の記事を書
いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今年度は全世界で3億4100万枚の出荷が見込まれているも
 のが、2012年には6億8200万枚、さらに2013年に
 は、8億3300万枚に達し、64億ドルの巨大市場を築き上
 げるというのである。           ――大谷和利著
     『iPhone をつくった会社』/アスキー新書/073
―――――――――――――――――――――――――――――
 これによって、NTTドコモはシャープ製の「FOMA/SH
906i」というタッチパネル端末を投入しています。このよう
にこの会社は素早く手を打つのですが、肝心のトップには自社の
製品のことがよくわかっていないようなのです。
 『iPhone をつくった会社』の著者である大谷和利氏は、当時
のNTTドコモの社長であった中村維夫氏のことを「キャリアの
トップ自身が自社扱いの製品についてよくわかっていないのでは
ないかと思わせる」として、次のような話をしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中村社長は、ドコモがアイフォーンを扱う可能性がないことを
 語った後で、記者からアイフォーン(初代モデル)を持たされ
 「アイフォーンは若干重いですね、やはり」、「今日本のは軽
 いですからね、ものすごく」と感想を述べた。急な取材を受け
 何か自社に有利な印象を残そうとして、思いついたことをうっ
 かり発言してしまったのだとは思うが、実際のところ、アイフ
 ォーンは決して重い端末ではない。それどころか、例えば最新
 の「FOMA906i」シリーズ8機種のうち、3機種が初代
 アイフォーン(135グラム)と重量が同等あるいは重く、アイ
 フォーン3G(133グラム)に至っては4機種が同等あるいは
 重い。しかも、アイフォーンはそれらすべての機種の中で最大
 となる3・5インチ液晶ディスプレイを搭載し、公称の連続通
 話時間も「FOMA906i」シリーズで公表されている3機
 種との比較で1・3〜1・5倍確保されている。
                      ――大谷和利著
     『iPhone をつくった会社』/アスキー新書/073
―――――――――――――――――――――――――――――
 信じがたいことですが、日本のキャリアのトップにはこういう
ことは不思議ではないのです。大会社から天下りでやってきた人
ですから、自社製品のことすら理解していないケースが他のこと
でも散見されるのです。大谷氏はその点を衝いているのです。
 その点、ソフトバンク・モバイルの孫正義氏は別格です。IT
全般に関しては社内の誰よりも詳しく、自社製品のことはいうに
及ばず、その詳細にいたるまで理解しており、ネットワークやそ
れに関する法律に関しても詳しく理解している――技術の先端を
行く企業のトップはこうでなければダメなのです。
 私が長い間使ってきたNTTドコモをソフトバンクに変更した
のは、同社のトップをはじめとする経営幹部の発言のブレなどに
失望したからです。私自身アイフォーンを使っていますが、アッ
プル社の技術力の高さとその先見性に驚嘆しているところです。
        ――[クラウド・コンピューティング/36]


≪画像および関連情報≫
 ●「HT−03A」の詳細について
  ――――――――――――――――――――――――――
  HT−03Aは、アンドロイドというOSを日本で初めて
  搭載したスマートフォン。アンドロイドは、業界団体「O
  HA」による、主に携帯電話をターゲットとしたプラット
  フォーム。OHAはグーグルがが中心となって設立した業
  界団体で、ドコモも参加している。グーグルがOHAやア
  ンドロイド開発を主導していることもあり、アンドロイド
  はグーグルのオンラインサービスとの親和性が高い。発表
  会のプレゼンテーションでは、「ケータイするグーグル」
  とも紹介された。
  http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/45367.html
  ――――――――――――――――――――――――――

NTTドコモ/HT−03A.jpg
NTTドコモ/HT−03A
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2009年12月07日

●「iPhone 3G/3GSとは何か」(EJ第2709号)

 ここで「スマートフォン」がどのようなものであるかについて
知っておく必要があります。そんなことはわかっている──そう
いう人がいるかもしれません。もちろん、既にスマートフォンを
持っている人はわかりますが、こればかりは持って使っていない
と、その素晴らしさや楽しさがわからないものです。
 アイフォーンをひとつのモデルとして、スマートフォンについ
説明することにします。スマートフォンはアイフォーンだけでは
ありませんが、一番に注目されているスマートフォンであり、モ
デルにふさわしいでしょう。
 アイフォーンに代表されるスマートフォンの基本的特徴を上げ
ると、次の4つになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.スムーズにネットにつながること
      2.大容量の記憶容量が備わっている
      3.PCとほぼ同等の機能があること
      4.GPS機能が搭載されていること
―――――――――――――――――――――――――――――
 これについては、次回からひとつずつ述べていきますが、今回
は、その前提となる事実について述べることにします。
 さて、アイフォーンの正式名称は次の通りです。日本では、ほ
とんどの人は、いわゆる「3G」を持っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       iPhone 3G/iPhone 3G[S]
―――――――――――――――――――――――――――――
 「3G」とは何でしょうか。
 これ、意外に知っている人は少ないのです。知らないで使って
いる人は多いです。少し詳しい人は、「3Gとは第3世代のこと
である」と答えてくれます。「スリー・ジェネレーション」──
すなわち「3G」ですね。
 それでは、第3世代とは何か──こうなると、かなり難しい話
になってしまうのです。
 「第3世代移動体通信システム」というのがあるのです。これ
は、国際電気通信連合──ITUの定める「IMT−2000」
規格に準拠した通信システムのことで、これが3Gなのです。
 この「IMT−2000」では、標準の通信速度が定められて
いるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     高速移動時 ・・・・・ 〜144Kbps
     低速移動時 ・・・・・ 〜384Kbps
     静止時   ・・・・・ 〜  2Mbps
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで「K」はキロ、「M」はメガです。「bps」というの
は「1秒間に〜ビット」という意味です。3Gの携帯電話は、静
止しているときは「2Mbps」──1秒間に2Mビットの情報
が送れる通信速度が標準という意味になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
        bps = bit per second
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、これはスマートフォンに限ったことではないのです。
日本における3G携帯電話は、NTTドコモのFOMAが口火を
切って以来、急速に普及が進んで、今やそのユーザー数は1億回
線──移動体通信全体の80%を占めているのです。
 しかし、スマートフォンで高速通信を実現するには難しい点が
たくさんあるのです。電話のつながりの問題だけでなく、頻繁に
ネットに接続したり、プログラムをダウンロードしたりすること
が一般の携帯電話よりもどうしても多くなるからです。
 だからといって高速通信にしようとすると、今度はバッテリー
の寿命が一挙に短くなる──だからこそ、ジョブズCEOは、初
代アイフォーンを2・5Gで発売したのです。高速のイメージよ
りもバッテリーの持ち時間を気にしたからです。
 これについて、既出の大谷和利氏は、当時のアップル社の事情
を次のように説明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アップル社は、初代モデルをあえて2・5G規格で投入してき
 た。同社は、イメージを優先する企業と思われているところも
 あるが、実際にはかなり冷静に現状を分析しながら、求められ
 る仕様を決定していることが、ここから見えてくる。まず、世
 界展開を視野に入れているとしても、最初の足がかりとなるア
 メリカでは、3Gよりも2・5G規格のほうが普及しており、
 対応エリアも広かった。加えて、2・5Gで動作させるほうが
 消費電力が少なく、バッテリーも長持ちする。――大谷和利著
     『iPhone をつくった会社』/アスキー新書/073
―――――――――――――――――――――――――――――
 アップル社はアイフォーンを世界中で売ることを考えているの
ですが、最初に最も売れるのは米国であり、それによって足元を
固めなければなりません。しかし、米国では3Gよりも2・5G
のエリアの方が多いのです。このことを考慮に入れて、あえて初
代は2・5Gとしたのです。
 日本では、NTTドコモがFOMAで3Gをスタートさせたの
ですが、当初は使えるエリアが限られていることと、旧タイプの
ムーバのユーザーが多かっため、その転換に手間取って、サービ
スとしては後発のauに先を越される結果になっています。しか
し、日本では携帯電話のほとんどが3Gになっているのです。
 アップル社にとって日本は重要市場です。しかし、日本は通信
環境の違いによって、即アイフォーンを投入できない──そこで
ジョブスCEOは日本には「アイポッド・タッチ」を投入して反
応を調査したのです。アイポッド・タッチは、電話機能のないア
イフォーンと考えてよいのです。多くの日本人は、アイポッド・
タッチのタッチパネルの使い勝手に仰天したはずです。私もその
一人です。   ――[クラウド・コンピューティング/37]


≪画像および関連情報≫
 ●3Gと何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  3Gとは、第3世代の携帯電話方式の総称。ITUによって
  定められた「IMT−2000」標準に準拠したデジタル携
  帯電話のこと。基本的にCDMA方式を採用──一部は改良
  型のTDMA方式を利用──高速なデータ通信やマルチメデ
  ィアを利用した各種のサービスなどが提供されるといわれて
  いる。2001年年5月に世界に先駆けNTTドコモがW−
  CDMA方式による試験サービス「FOMA」を開始し、話
  題を呼んだ。本格サービスインもFOMAの2001年10
  月が最初である。           ──IT用語辞典
  ―――――――――――――――――――――――――――

アイフォーン3G.jpg
アイフォーン3G
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2009年12月08日

●「ネットに快適につながる条件とは何か」(EJ第2710号)

 スマートフォンの基本的特徴を再現して、説明を続けることに
します。3・5インチの大型ディスプレイ
―――――――――――――――――――――――――――――
   →  1.スムーズにネットにつながること
      2.大容量の記憶容量が備わっている
      3.PCとほぼ同等の機能があること
      4.GPS機能が搭載されていること
―――――――――――――――――――――――――――――
 特徴の第1は「スムーズにネットにつながること」です。
 スマートフォンは、常時ネットを使うことが前提で設計されて
います。したがって、ネット接続に時間がかかることは許されな
いのです。
 それでは、スマートフォンのネット接続を快適に行うには何が
必要でしょうか。ポイントは次の3つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.3Gネットワークであること
      2.無線LANが常時使えること
      3.ブラウザの機能が高度である
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず、基本になるのは「3Gネットワーク」なのです。これは
スマートフォンに限らず普通の携帯電話でも同様ですが、スマー
トフォンの場合はとくにネットに頻繁に接続するので、高速の通
信が必要なのです。したがって、基本は3Gになります。
 3Gについては、昨日のEJでも述べましたが、もう少し詳し
く説明しましょう。このさい、正確に覚えておくと、携帯電話や
スマートフォンを選ぶとき、役に立つと思います。
 IMT−2000は、第1世代がアナログ方式、第2世代がデ
ジタル方式、そして第3世代、すなわち3Gが、より高速のデジ
タル方式というようになっています。
 IMT−2000にはいくつかの方式がありますが、次の2つ
の方式が中心です。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.W−CDMA   ・・・・・ 日本と欧州
   2.cdma2000 ・・・・・ 米国
―――――――――――――――――――――――――――――
 共通していることは、どちらも2GHz帯の電波を使うことに
なっていることです。大きく違う点は、周波数の帯域幅の違いで
す。もちろん帯域幅が広い方が高速になります。
 W−CDMA方式の帯域幅は「5MHz」、これに対してcd
ma2000の帯域幅は「1.25 MHz」であり、W−CDM
A方式4分の1程度と狭いのです。しかし、cdma2000は
第2世代方式の「cdmaOne」と互換性があるのが特徴なの
です。そのため、3波を重ねて使うことによって、高速通信を実
現しているのです。
 日本では、NTTドコモとソフトバンク・モバイルはW−CD
MA方式、au(KDDI)はcdma2000方式を採用して
おり、方式が異なります。なお、後発のイー・モバイルは、20
07年から1.7 GHz帯で、W−CDMAのサービスを行って
います。
 さて、スマートフォンを快適に使うには、無線LANを有効に
活用することが必要です。無線LANとは、無線通信を利用して
データの送受信を行うLANシステムのことです。
 無線LANにもいろいろな方式があります。詳しく説明すると
足をとられるので、必要最小限度の説明にとどめます。一番普及
しているのは、IEEE802.11 シリーズです。
 ところで、アイフォーンを使い出すと、次の言葉をよく目にす
るようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
          Wi-Fi/ワイ・ファイ
―――――――――――――――――――――――――――――
 ワイ・ファイが、無線LANのことであることは分かっていて
も、意味がよくわからず、使っていない人も多いのです。しかし
これはとてももったいないことです。
 なぜなら、アイフォーンで、同じ場所、同じサイトですべてを
表示する時間の実験をした結果は次の通りであるからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     初代アイフォーン ・・・・・ 59秒
     アイフォーン3G ・・・・・ 21秒
     Wi−Fi    ・・・・・ 17秒
―――――――――――――――――――――――――――――
 ワイ・ファイは、IEEE802.11 機器に関する業界団体
である「ワイ・ファイ・アライアンス」による相互接続性の認定
の名称なのです。
 アイフォーンは、ソフトバンク・モバイルの電波を使って通話
やメールのやりとりをしているのですが、アイフォーン・ユーザ
ーには同社の「公衆無線LANし放題」が申し込みなしで使える
という特典があるのです。
 「公衆無線LANし放題」の利用エリアは、BBモバイルポイ
ントのエリアに準じており、JRの主要駅、マクドナルドや一部
のドトールの店内など、全国約4000ヶ所のワイ・ファイ・ポ
イントを無料で使うことができるのです。
 しかし、ワイ・ファイを使うには、事前にアイフォーンにその
ための設定をしておく必要があります。なお、これ以外にも無線
LANを開放しているエリアは多く、増えつつあります。ワイ・
ファイの設定がしてあれば、その場所に来ると、自動的に無線L
ANが使えるようになるので便利です。
 私自身が試したところによると、マクドナルドは全店でワイ・
ファイを使うことができ、しかも、店内でケータイを充電できる
ようになっています。まさに至れり、尽くせりです。
        ――[クラウド・コンピューティング/38]


≪画像および関連情報≫
 ●iPhone 3G[S]の「S」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  アイフォーン3Gの最新型には「S」の字がついています。
  ところが、この「S」の意味がソフトバンク社のサイトのど
  こを探しても出ていない。ソフトバンク社に問い合わせたと
  ころ次の返事がきたので、ご紹介します。
  『アイフォーン3GSの「S」は「Speed」のSとなっ
  ております。ご参考になりましたら幸いです』。
            ――ソフトバンク・モバイル/木下氏
  ―――――――――――――――――――――――――――

ワイ・ファイ/無線LAN.jpg
ワイ・ファイ/無線LAN
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2009年12月09日

●「好みのマシンにできるアイフォーン」(EJ第2711号)

 3Gと無線LAN――これら2つはスマートフォンのネットに
接続する速さを決める重要な要素ですが、もうひとつ重要な条件
があるのです。それは「ブラウザの機能が高度である」という条
件です。
 アイフォーンには「サファリ」というウェブブラウザが搭載さ
れています。このサファリ――スマートフォン用のブラウザでは
なく、MacOS−Xの標準ブラウザなのです。したがって、こ
のブラウザはケータイ用の簡易サイトを見るのではなく、PC用
のウェブサイトをアイフォーンの画面に表示するのです。
 サファリは必要なデータを読み込んで描画するまでの時間を極
力短縮し、表示の高速化を実現した高速ブラウザとして評価され
ています。しかし、普通のケータイよりも大きいものの、3・5
インチのスマートフォンの画面でPC用のサイトを見る場合、ど
うしても見にくいことは否定できないのです。
 こういう場合、アイフォーンには、次の2つの機能が用意され
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.フリック
        2.ピンチアウト/ピンチイン
―――――――――――――――――――――――――――――
 表示されたウェブサイトの必要な部分に行き着くまで、ケータ
イではカーソルキーを何度も叩いてスクロールさせなければなら
なかったのですが、アイフォーンでは、指で画面を弾くようにす
ると、画面は軽快に素早く動いて一気に必要な場面に達すること
ができます。この操作を「フリック」というのです。
 しかし、サイトの見たい部分を表示できたとしても、小さくて
よく見えないときは、その部分に2本の指を置き、そのまま2本
の指を左右に広げるとその部分が拡大されるのです。これを「ピ
ンチアウト」といい、逆に閉じるときは指をつまむようにすれば
よいので、これを「ピンチイン」といいます。
 3Gと無線LAN、それに加えて高機能なブラウザ――これら
3つが揃うと、ネット接続は快適に行われることになります。
 再びスマートフォンの基本的特徴に戻ります。
 特徴の第2は「大容量の記憶容量が備わっている」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.スムーズにネットにつながること
   →  2.大容量の記憶容量が備わっている
      3.PCとほぼ同等の機能があること
      4.GPS機能が搭載されていること
―――――――――――――――――――――――――――――
 アイフォーンの場合、記憶容量はが8GB、16GB、32G
Bの3種類です。これは、スマートフォンとしてはきわめて大き
な記憶容量といえます。
 なぜ、これほどの大容量が必要なのでしょうか。
 ひとつはっきりしていることがあります。それは、アイフォー
ンの場合はiPodが付いていることです。多くの音楽を収録す
るには大容量である方がよいに決まっています。
 しかし、それだけではないのです。大容量が必要な理由はまだ
ほかにあるのです。それは、スマートフォンの基本的なあり方に
かかわることでもあります。
 今までのモバイル――電話機能はなかったものの、シャープの
ザウルスをはじめとする多くのPDA――パーソナル・デジタル
・アシスタントがあったのです。しかし、それらのモバイルは、
購入した時点で装着されている機能がすべてであって、その機能
を高めることはできなかったのです。
 しかし、ゲームソフトなどが収録されているSDメモリーなど
をモバイルに装着することによって、本来のモバイルの機能を向
上させることはできたのです。しかし、それはあくまでモバイル
の基本的機能プラスアルファの機能追加でしかなかったのです。
しかも、いちいちSDメモリーの着脱を伴うなど、使い勝手は必
ずしもよいものとはいえなかったのです。
 これに対して、アイフォーンは、購入した時点で付いてくるア
プリケーションは、誰でも使う、必要最小限度のものに限られて
います。それらは、電話、メール、カメラ、カレンダー、時計、
サファリ、iPod、電卓などの20機能程度に絞り込まれてい
ます。これらは、最初からアイコンの状態で購入直後から使える
ようになっているのです。
 アップル社ではこれらを「ファームウェア」と呼び、出荷時に
合わせてバージョン――すなわち、アプリケーションの組み合わ
せを適宜変えているのです。
 スマートフォンは人によって欲しい機能が違ってきます。そう
いう機能が自分で自由に選べたらどうでしょうか。そして、そう
いうアプリケーションが豊富に提供されていて、自由に選べたら
どうでしょうか。
 アイフォーンでは、そういうアプリケーションが「アップ・ス
トア/App Store」 というウェブ・ショップにおいて売られてい
るのです。その数たるや、ざっと3万点以上――しかも、現在、
ますます増加しつつあるのです。そうであるとすると、ファーム
ウェアに自分の好みのアプリケーションを追加して、アイフォー
ンを自分好みのマシンに仕上げることができるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  「ファームウェア」+「希望ソフト」=自分好みのマシン
―――――――――――――――――――――――――――――
 問題はそのアプリケーションの価格です。ニンテンドーのソフ
トのように、5000円も10000円もするのではとても購入
できません。
 しかし、その心配はないのです。膨大な数に及ぶ無料ソフトの
外に、せいぜい数百円のアプリが満載です。これなら誰でもアイ
フォーンを機能強化できます。しかし、そのためにはPCが必要
になります。  ――[クラウド・コンピューティング/39]


≪画像および関連情報≫
 ●「ファームウェア」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ファームウェアとは、ハードウェアの基本的な制御を行なう
  ために機器に組み込まれたソフトウェア。機器に固定的に搭
  載され、あまり変更が加えられないことから、ハードウェア
  とソフトウェアの中間的な存在としてファームウェアと呼ば
  れている。パソコンや周辺機器、家電製品等に搭載されてお
  り、機器に内蔵されたROMやフラッシュメモリに記憶され
  ている。パソコンのBIOSももファームウェアの一種であ
  る。機能の追加や不具合の修正のため、後から変更できるよ
  うになっているものが多い。
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●画像解説/アイフォーンのファームウェア

ファームウェア.jpg
ファームウェア
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2009年12月10日

●「アイフォーン用ソフトを売るアップストア」(EJ第2712号)

 スマートフォンの基本的特徴の2番目「大容量の記憶容量が備
わっている」について話を続けます。昨日のEJでスマートフォ
ンの機能は次の図式で決まってくるという話をしました。
―――――――――――――――――――――――――――――
  「ファームウェア」+「希望ソフト」=自分好みのマシン
―――――――――――――――――――――――――――――
 すなわち、スマートフォンの購入時には、最小必要限度のアプ
リケーションが装備されているだけであるので、ユーザーは自分
が必要とするアプリケーションをアップル社が運営する「アップ
ストア」で購入し、スマートフォンを自分好みのマシンに仕上げ
るという使い方になるのです。
 ここで「アップストア」について述べる必要があります。この
ウェブショップを利用するには、アップル社の制作による「アイ
チューンズ/iTunes」というソフトウェアをダウンロードする必
要があります。
 アイチューンズは、2001年にiPodの発売に合わせて、
その音楽再生・管理ソフトウェアとしてアップル社によって開発
されたものです。
 ここでアップル社は、ウインドウズからマッキントッシュへの
スイッチ(乗り換え)を狙ってマッキントッシュ専用にしたので
すが、思うようにいかないので、戦略を切り換えたのです。
 その新戦略とはこうです。具体的には、アイチューンズのウイ
ンドウズ版を作り、無償でダウンロードを許したのです。これに
よって、iPodは一挙に普及することになり、ウインドウズ・
ユーザーに伝わったのです。しかし、アップル社の本当の狙いは
単にiPodを売るだけでなく、アイチューンズとiPodの操
作性を通して、アップル流の操作感覚を知ってもらうことで、マ
ックへスイッチさせる――これがアップル社の狙いなのです。
 この挑戦は現在も続いており、おそらくアイフォーンが成功す
れば、ウインドウズからマックにスイッチするユーザーは増えて
くるものと思われます。なぜなら、アイチューンズの使い勝手は
MacのOS−X上の方がはるかに高速に動作するし、安定性が
高いからです。それに既にアイチューンズは、音楽再生・管理ソ
フトだけではなくなっているのです。
 アップル・ストアにアップ・ストア、この他にアイチューンズ
・ストアというのがあり、マック・ストアという言葉まであるの
です。解説書にもすっきり書いているものが少ないのです。
 整理すれば、アイチューンズというソフトウェアを通して音楽
やアプリケーションを購入するウェブ・ショップをアイチューン
ズ・ストアというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
               I―― アップルストア
  アイチューンズストア ― I
               I―― アップ・ストア
―――――――――――――――――――――――――――――
 「アップルストア」というのは音楽を売っており、「アップス
トア」はアイフォーンで利用するアプリケーションを売っている
と理解すればよいと思います。「App/application」 という
のは「アプリケーション」のことです。
 したがって、アイフォーンのユーザーが自分のアイフォーンの
機能を強化したいときは、アップストアに接続し、欲しいアプリ
ケーションを購入すればよいのです。
 なお、アプリケーションの購入は、アイフォーン本体に付属す
るアイチューンズ・ボタンからでも可能です。しかし、時間もか
かるので、アプリケーションをあれこれ物色したいときは、PC
上のアイチューンズから行う方がスムーズにアプリケーションの
取り込みができます。やはり、アイフォーンを使うにはPCは不
可欠なのです。
 ここまで説明すればわかると思います。アイフォーンが「大容
量の記憶容量が備わっている」という特徴を持っているのは、音
楽情報を収録することに加えて、アップストアから購入するアプ
リケーションを収録するためでもあったのです。
 もうひとつ大事なことがあるのです。それは、アップストアで
販売するアプリケーションをどのようにして提供するかというこ
とです。アイフォーンを世界中に販売する以上、アップル社だけ
でなく、多くのアプリケーション開発事業者の力を借りる必要が
あります。それにアイフォーンが世界中でたくさん売れれば、そ
のアプリケーションや音楽を売る市場は巨大化し、大きなビジネ
スになるからです。
 そのためには、誰でもアイフォーンのアプリケーションを開発
できる純正SDK――ネイティブ・アプリケーション開発キット
の公開が必要になります。しかし、アップル社は初代のアイフォ
ーンの開発から一年以上、その方向には動かなかったのです。そ
れは、完全に自由なアプリケーション開発とインストールを許し
てしまうと、既存のコンピューターと同じようにウィルスが流布
して、アイフォーンの評判が下がることを懸念したのです。
 しかし、アップル社はその一年間で、これを回避する方法を練
り上げて、アイフォーン3Gの発売と合わせてSDKプログラム
を公開したのです。
 このSDKを使ってアイフォーン用のアプリケーションを作成
するには、年額99ドルの登録料と販売金額の30%をアップル
社に支払うことを承諾する必要があります。これは企業であれ、
個人であれ、同じ条件です。この個人制作のソフトも受け入れる
という点は画期的です。
 アップル社一社が全世界のオンライン流通を仕切っているので
開発されたアプリケーションは全世界に販路が広がるのです。こ
の場合、有料のアプリケーションについてはそれを提供する個人
や企業が決めることができるのです。しかも、料金回収はアップ
ル社の決済機能が使えることになります。
        ――[クラウド・コンピューティング/40]


≪画像および関連情報≫
 ●SDK/Software Development Kitとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ソフトウェア開発キットは、特定のプログラミング言語用の
  インターフェイスのためのファイル群という形式のAPIの
  ような簡単なものである場合もあるし、何らかの組み込みシ
  ステムと通信するための精巧なハードウェアを含む場合もあ
  る。一般的なツールとしては、統合開発環境や他のユーティ
  リティなどのデバッグ用のツールが含まれる。SDKには、
  サンプルコードやサポートのための技術ノートなどの何らか
  の文書が含まれていることが多い。  ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

アップストア.jpg
アップストア
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2009年12月11日

●「6500万人のIDを持つアップル」(EJ第2713号)

 アイフォーンのアプリケーションを開発するキット「SDKプ
ログラム」――その開発に使われる言語は「オブジェクティブ―
C」というやや特殊な言語です。開発者はこの言語をマスターす
る必要があります。
 開発したアプリケーションは、アップル社の審査を受けてアッ
プストアに掲載されることになりますが、その手続きがかなり面
倒で3週間ほどかかるということです。しかし、NTTドコモや
KDDIの公式サイトのビジネスに比べると、問題にならないほ
ど営業がラクであると開発業者はいっています。
 公式サイトでビジネスを行うには、まず携帯電話事業者(キャ
リア)へ企画書・ビジネス提案書を提出したうえで、その事業内
容の精査を受ける必要があるのです。それらの審査にパスしない
と、公式サイトにコンテンツを載せられないのです。したがって
そこで提供されるコンテンツが無料ということはほとんどないと
いっていいでしょう。
 それに比べると、アップストアの場合は、企画・提案などの面
倒なことは一切必要なく、利用料の99ドルさえ払えば企業でも
個人でも参加できるのです。しかし、「オブジェクティブ―C」
という特殊な言語をマスターしなければならないことと、複数の
書類を用意するなどの、やや複雑な手続きという2つのことが壁
になり、逆に質の良いコンテンツが集まる傾向があります。
 既出の西田宗千佳氏は、スマートフォンのアプリケーションに
ついて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ソフトウエアには色々な形態がある。それなりに体裁の整った
 ゲームやアプリケーションのように「お金を払うのが当然」と
 いう体をなしたものもあれば、ちょっとした操作を補助するユ
 ーティリティ・ソフトや、単に人を笑わせるだけの、一発芸的
 なジョークソフトなど、お金をとるほどの規模はないが、みん
 なで使って、楽しんでほしい、というようなものもある。イン
 ターネットの活力はこういった「雑多なクリエイティビティ」
 を支えるインフラとなっている、という点にある。携帯電話の
 公式サイト型ビジネスモデルは「企業のつながり」でできあが
 るシステムであるだけに、こういった部分を取り込むことが難
 しいのだ。だがアップストアのシステムなら、それも可能であ
 る。だから、ソフトがどんどん増えてゆき、活気ある市場がで
 きあがる。               ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 アップストアで販売しているアプリケーションの中に、西田氏
がいう「単に人を笑わせるだけの一発芸的なジョークソフト」が
たくさんあります。そのひとつに「印籠」というアプリがありま
す。価格は115円。アップストアで販売されています。これは
おそらく人を笑わせ、人間関係の緊張を解くという目的で使われ
るアプリでしょう。このアプリケーションを起動すると、カウン
トダウンが始まるので、「0」のタイミングで次のセリフをいう
と、その声がマイクに入ってプログラムが起動し、荘厳な音楽と
ともに印籠が表示されるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         この紋所が目に入らぬか
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういうアプリケーションは、アップストアのようなシステム
でないと、出てこないでしょう。同じような目的で使われるアプ
リケーションにアイフォーンの全画面に赤色と黄色が交互に表示
されるだけのものがあります。色の切り換えはアイフォーンを回
転させて行うのです。何かで問題があるとき、イエローカードと
レッドカードを突き付けるとき使います。こういうアプリがある
というところにアップストアの強さがあります。ちなみにこのア
プリの価格は無料です。
 なお、アイチューンズにはウインドウズ版が用意されています
が、アイフォーンのSDKはMacOS−X対応だけしかなく、
ウインドウズ版は用意されていないのです。したがって、このS
DKを使ってアイフォーン用のアプリを開発するには、iMac
を導入する必要があります。これもアップル社の仕掛ける「トロ
イの木馬」になる可能性があります。アップル社はなかなかよく
考えて戦略を練っています。
 このアップストアのビジネスモデルをグーグル社が黙って見逃
すはずはないのです。グーグル社は「アンドロイド」という携帯
電話用OSを無料で提供し、その開発キットであるSDKプログ
ラムを公開しています。
 そしてアップストアに当たるものとして「アンドロイド・マー
ケット」を作り、アプリケーションの開発を促しています。しか
し、アップル社に比べこの面では大きく立ち遅れています。
 今のところ、NTTドコモが早くもアンドロイド・ケータイを
投入したことは既に述べましたが、台湾のHTCの製品です。そ
れにNTTドコモという企業は世界のさまざまなプラットフォー
ムをいずれも積極的に取り入れ、幅広い製品を用意しようとして
いるのですが、これで行くというものが決まっていないのです。
 アンドロイド陣営がもたもたしている間にアップル社において
は、アップル社のオンラインショップに入るためのアップルID
のアカウント数が6500万を超えているのです。この数字は、
2008年9月時点のものであり、現在ではもっと増えているは
ずです。しかも、このIDはクレジットカードの番号をひも付け
られているのです。つまり、アップル社はIDとして6500万
人の決済機能を持っていることになります。
 これに対して、アンドロイド陣営はまだまだこれからという感
じがします。既に勝負ありと考えるのは私だけでしょうか。この
ように、アンドロイドはまだ完全に立ち上がっていないのですが
グーグル社は、33億人という膨大な広告市場に手を伸ばしつつ
あるのです。  ――[クラウド・コンピューティング/41]


≪画像および関連情報≫
 ●「オブジェクティブ―C」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  オブジェクティブ―CはCを拡張してオブジェクト指向を可
  能にしたというよりは、Cで書かれたオブジェクト指向シス
  テムを制御しやすいようにマクロ的な拡張を施した言語であ
  る。従ってベターCに進んだC++と異なり、C&オブジェ
  クトシステムという考え方であり、ある意味2つの言語が混
  在した状態にある。プログラマは問題領域に合わせて双方を
  使い分けることができるため、お互いの利点を活かしやすい
  のが特徴である。          ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

アプリ/印籠.jpg
アプリ/印籠 
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2009年12月14日

●「アイフォーンはGPS機能を持つPC」(EJ第2714号)

 スマートフォンの基本的特徴の第3は、「PCとほぼ同等の機
能があること」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.スムーズにネットにつながること
      2.大容量の記憶容量が備わっている
   →  3.PCとほぼ同等の機能があること
   →  4.GPS機能が搭載されていること
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ウェアラブルPC」という言葉が流行ったことがあります。
これは着衣そのものがコンピュータになっており、体の動きでコ
ンピュータが操作できるというものです。
 医療目的とか軍事目的とかの特殊な目的であればいざ知らず、
普通の人がウェアラブルPCを身につけるとは考えられない、と
少なくとも私はそう思っていたのです。
 しかし、現代には既にほぼウェアラブルPCといわれるものが
存在します。それはスマートフォンです。ほとんどの人はスマー
トフォンを肌身離さず持っています。どこに行くにも絶対に離さ
ない。それは電話機能があるからです。いつ電話がかかってくる
かわからない。だから、常時携帯しているのです。したがって、
これはウェアラブルPCといっても差支えないと思います。
 スマートフォンを携帯電話と考えないことです。電話機能付き
のPCと考えるべきです。つまり、スマートフォンを購入すると
いうことはPCをもう一台導入することを意味します。したがっ
て、使うに当たって各種の設定が必要になります。
 現代のPCの要件を考えてみると、次の4つになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.インターネットにつながること
      2.メールの送受信機能があること
      3.作るソフトで業務処理ができる
      4.外部から各種ソフトを追加可能
      5.相当量の記憶装置が付いている
―――――――――――――――――――――――――――――
 このなかで、スマートフォンが弱いのは、3の「作るソフトで
業務処理ができる」という点ぐらいのものです。ここで「作るソ
フト」というのは、データを作るソフトという意味であり、ほと
んどの業務処理ソフトがそれに該当します。
 具体的にいうと、ワード、エクセルなどのソフトが主たるデー
タを作るソフトですが、この業務処理を本格的にやるのはやはり
PCということになります。スマートフォンでは、そのようにし
てPCで作ったデータを参照したり、修正したりする程度ですが
今までのケータイではそれすらできなかったのです。
 しかし、スマートフォンはそれ以外の1、2、4はすべてクリ
アしており、ほとんどPCそのものです。それに加えてスマート
フォンでは、電話、カメラ、GPSなどのPCにはない機能が付
いているのです。外で使うPCとしては、これ以上のものはない
と考えていいのです。
 スマートフォンの基本的特徴の第4は、「GPS機能が搭載さ
れていること」です。ところで、GPSとは何でしょうか。GP
Sは、次の言葉の省略です。
―――――――――――――――――――――――――――――
      GPS/Global Positioning System
      全地球測位システム
―――――――――――――――――――――――――――――
 GPSとは、人工衛星を利用した測位システムのことです。地
球を周回するGPS衛星からの電波を受信できる場所なら、世界
中のどこにいても現在の位置――緯度・経度・高度が割り出せる
システムのことです。
 具体的には何ができるのでしょうか。
 アイフォーンのGPS機能を例にとって簡単に説明します。ア
イフォーンを購入した直後は、GPS機能は「オフ」になってい
ます。この機能を使うと、相当の電力を消耗するので、出荷時は
「オフ」になっているのです。
 設定を「オン」にすると、アイフォーンは自分のいる位置を認
識し、「マップ」のボタンをタップすると、現在、アイフォーン
のある位置を表示します。
 次に画面の左下にある「追跡モード」のアイコンをタップする
と、地図が現在の位置付近に素早く移動し、画面の中央に青色の
円マーカーが表示されます。第1段階では、比較的大きな円マー
カーが表示されるのですが、第2段階でさらに範囲が絞り込まれ
て行きます。
 位置情報サービスには、自動追尾機能が搭載されており、アイ
フォーンがが移動すると、地図も連動してスクロールし、現在位
置を追尾し続けるのです。移動は車でも電車による高速移動でも
高い精度で追尾してくれるのです。目的地が小さくて見にくいと
きは、地図画面を2本の指でピンチアウトして、拡大することが
できるので便利です。
 また、マップの画面で「検索ボタン」を押して、「最寄駅」と
入力して検索すると、地図上に赤いピンで複数の最寄駅が表示さ
れるのです。アイフォーンを携帯していて駅に行く道に迷ったら
このように「最寄駅」と入力して検索し、駅への道を知ることが
できます。アイフォーン自身が現在位置を認識しているのでこう
いう芸当ができます。もちろん「住所」を入力して検索したり、
連絡先の住所をタップすると、直ちに地図上にその場所を赤いピ
ンで示してくれます。
 アイフォーンのマップの正体は、さまざまな縮尺が用意された
世界中のオンライン地図です。その正体は、「グーグル・マップ
ス」をアイフォーン用に最適化したものなのです。したがって、
世界中どこに行ってもこれは役に立つのです。驚くべき機能が付
いたものです。スマートフォンの基本的な4つの特徴の説明はこ
れで終わです。 ――[クラウド・コンピューティング/42]


≪画像および関連情報≫
 ●GPSとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  GPSとは、アメリカ合衆国が軍事用に打ち上げた約30個
  のGPS衛星のうち、上空にある数個の衛星からの信号をG
  PS受信機で受け取り、現在位置を知るシステムである。G
  PS衛星からの信号には、衛星に搭載された原子時計からの
  時刻のデータ、衛星の軌道情報などが含まれている。GPS
  受信機にも正確な時刻を知ることができる時計が搭載されて
  いるならば、GPS衛星からの電波を受信し、発信受信の時
  刻差に電波の伝播速度――光の速度と同じ30万キロ/秒を
  掛けることによって、その衛星からの距離がわかる。3個の
  GPS衛星からの距離がわかれば、空間上の一点は決定でき
  る。                ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

初期のGPS衛星.jpg
初期のGPS衛星
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2009年12月15日

●「アイフォーンの世界シェアは14%に拡大」(EJ第2715号)

 ケータイに装備すべき機能を最初に決めておき、それらが快適
に動くように独自のプラットフォームを構築する──これが今ま
でのケータイの作り方だったといえます。
 しかし、スマートフォンになると、PCのように後からいろい
ろなソフトをインストールしてその機能強化を図るというスタイ
ルに変わってきます。そうなると、端末メーカー独自のプラット
フォーム(OS)では対応できなくなります。
 PCの世界を考えてみてください。現在はウインドウズとマッ
クOSしかないので、ソフトを提供する業者としてはシェアの圧
倒的なウインドウズ対応のソフトを多く作ることになります。そ
の方が商売になって、しかもリスクが少ないからです。
 これからスマートフォンの時代になると、ケータイの世界でも
プラットフォームをめぐる激しいシェア争いが起こってきます。
これを「プラットフォーム世界大戦」という識者もいます。
 ところがケータイの世界のプラットフォームはどうなっている
かというと、2008年第1四半期までの12ヶ月間の累積では
次のようになっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    シンビアン ・・・・・・・・・・・・ 60%
    リナックス ・・・・・・・・・・・・ 12%
    マイクロソフト・モバイル ・・・・・ 11%
    RIMブラックベリー ・・・・・・・ 11%
    アップル ・・・・・・・・・・・・・  4%
    その他 ・・・・・・・・・・・・・・  2%
                ──石川温著/技術評論社刊
         『グーグル対アップル/ケータイ世界大戦』
―――――――――――――――――――――――――――――
この数字を見るとき留意すべきなのは、2008年第1四半期ま
での12ヶ月間という時期から考えて、ここには、アップルのア
イフォーンの効果がほとんど出ていないということです。
 これに対して、英キャナリー社による最新の市場調査では驚く
べき結果が出ているのです。同社による2009年第2四半期の
スマートフォンの世界シェアは次のようになっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ノキア ・・・・・・・・・・・・ 44.3%
    RIMブラックベリー ・・・・・ 20.9%
    アップル・アイフォーン ・・・・ 13.7%
    その他 ・・・・・・・・・・・・ 21.1%
―――――――――――――――――――――――――――――
 ブラックベリーが20.9 %のシェアを得ているということは
王者ノキアは、RIM──リサーチ・イン・モーション社にビジ
ネスユーザーを奪われるかたちになっています。
 なお、アイフォーンの13.7 %のシェア獲得は驚異的であり
しかもこの数字には、アイフォーンの最新型3G「S」の数字は
入っていないのです。
 同じ2009年第2四半期のプラットフォーム別に見た数字は
次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ノキア ・・・・・・・・・・・・・・ 50%
    RIMブラックベリー ・・・・・・・ 21%
    アップル・アイフォーン ・・・・・・ 14%
    ウインドウズ・モバイル ・・・・・・  9%
    アンドロイド ・・・・・・・・・・・  3%
    その他 ・・・・・・・・・・・・・・  3%
―――――――――――――――――――――――――――――
 これによると、ノキアは2008年には60%以上あったシェ
アを10%ダウンさせており、ブラックベリーとアイフォーンに
よって大きくシェアを奪われています。
 また、後発のアイフォーンがウインドウズ・モバイルにシェア
において5%の差をつけているのを見ると、アップル社において
アイフォーンによるスマートフォンの戦略がいかに功を奏したか
が明らかです。
 キャナリー社のアナリストであるピート・カニンハム氏は、こ
れについて次のようにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アップルはスマートフォンという分野に革命を起こし、実績の
 あるライバルを一気に飛び越えた。──ピート・カニンハム氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 エリア別でみると、北米エリアにおけるスマートフォン市場で
はアイフォーンのシェアは23%で、最大のライバルであるRI
Mブラックベリーのシェアは52%です。北米においては今のと
ころブラックベリーが優勢です。しかし、欧州、中東、アフリカ
エリアではノキアが64%とシェアを保持したのに対し、アップ
ルは13.6 %で第2位、ブラックベリーは10.3 %でそれに
続いているのです。
 このような状況の中で、ガラパゴスといわれる日本のケータイ
はどのようになっていくのでしょうか。
 実はこのケータイの世界は、非常に複雑なことになっているの
です。そこでこれまでの経緯を含めて説明していきますが、その
動きの中から、NTTドコモやKDDIが何を考えて行動してい
るのかを考えていただきたいと思います。
 今までケータイの世界は、ノキアを中心とするシンビアン陣営
の存在感が強く、世界をリードしてきたのですが、ここにきて大
きな波紋を広げているのは、オープンプラットフォームの登場な
のです。その代表的なものがグーグル社の「アンドロイド」なの
です。アンドロイドはオープンプラットフォームとして、自由に
アプリケーションを開発できる環境が、多くのソフトベンダーに
とって、魅力的に映っているのです。
 アンドロイドとそれに対抗するプラットフォームについては明
日取り上げます。──[クラウド・コンピューティング/43]


≪画像および関連情報≫
 ●RIM社とブラックベリーについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ブラックベリーは、カナダのRIM──リサーチ・イン・モ
  ーション社が1997年に開発したスマートフォン。欧米の
  ビジネスマンを中心に広く使われており、世界で130カ国
  以上3200万人以上が利用している。販売台数は5000
  万台を超えている。日本でも外資系企業を中心に1000社
  以上で使われている。        ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

スマートフォン世界シェア.jpg
スマートフォン世界シェア
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2009年12月16日

●「影響力を増すLiMoファウンデーション」(EJ第2716号)

 昨日のEJで、スマートフォン市場におけるオペレーティング
・システムのシェアの現状について述べましたが、再現して話を
進めることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
   シンビアン       ・・・・・ 50.3 %
   RIM         ・・・・・ 20.9 %
   MacOS−X     ・・・・・ 13.7 %
   ウインドウズ・モバイル ・・・・・  9.0 %
   グーグル・アンドロイド ・・・・・  2.8 %
   その他         ・・・・・  3.3 %
            ――2009年第2四半期現在
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで出ているOSの中には「リナックス」というのはありま
せんが、「グーグル・アンドロイド」はリナックス系です。しか
し、アンドロイド以外のリナックスもあるのです。それは「その
他」の中に入っています。しかし、「その他」の3.3 %はすべ
てがリナックスではないので、リナックスのシェアはアバウトで
すが、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    (2.8 % + 3.3 %)= 6.1 %以下
―――――――――――――――――――――――――――――
 リナックスのシェアは2008年第1四半期では12%あった
のですが、アイフォーンの出現によって、シェアを大きく減らし
てしまったことになります。
 さて、このリナックス陣営には、次の2つのグループが存在し
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
            1.アンドロイド
            2.  LiMo
―――――――――――――――――――――――――――――
 既に述べたように、アンドロイドはグーグルの提供するOSで
すが、このOSはOHA――オープン・ハンドセット・アライア
ンスに所属する企業に提供されるのです。これは2007年11
月に発足しています。
 OHA加盟企業は、グーグル、HTC、インテル、KDDI、
モトローラ、サムスン電子、NTTドコモなど、当初34社でス
タートしたのですが、その後ソフトバンクモバイル、ボーダフォ
ンなど多くの企業が参加しているのです。
 それでは、LiMo(リモ)とは何でしょうか。おそらくほと
んどの人は、はじめて聞く名前であると思います。LiMoの正
式名称は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      LiMo/Linux Mobile Foundation
―――――――――――――――――――――――――――――
 LiMoファウンデーションは、NEC、NTTドコモ、パナ
ソニック、モバイルコミュニケーションズ、サムスン電子、ボー
ダフォングループの6社――これらのファウンダーメンバーによ
り、2007年に設立された団体です。
 LiMoファウンデーションの目的は、リナックスをベースと
する低コストで、迅速に開発できるプラットフォームを目指し、
世界のキャリアやメーカーが採用することを狙っているのです。
その後10社のコアメンバーが加わり、それに加えて多数の一般
メンバーが参加しているのです。注目すべきことは、NTTドコ
モが両方のグループに加入していることです。
 NTTドコモは、あちこちのグループに食指を動かしているの
です。リナックスの話ではないですが、王者ノキアの「シンビア
ン財団」というのがあるのです。この財団は、各モバイル端末ベ
ンダーとアプリケーションプロバイダとで構成されるのですが、
2008年6月にノキアによって創設されているのです。
 その創業メンバーは、ノキア、ソニーエリクソン、AT&T、
モトローラ、NTTドコモ、LGエレクトロニクス、サムスン電
子、STマイクロエレクションズ、テキサツ・インスツルメンツ
の10社です。このシンビアン財団にもNTTドコモは、ちゃん
と入っているのです。
 LiMoの話に戻ります。そもそもLiMoは、モトローラが
ボーダフォンに呼ばれて、プラットフォームを3つに集約したい
といわれたことにはじまるのです。3つのプラットフォームとは
ウインドウズ・モバイル、シンビアン、そしてクアルコムのBR
EWの3つです。BREW――ブリューは、CDMA携帯電話向
けアプリケーションのプラットフォームなのです。
 しかし、それは簡単ではなく、モトローラはリナックスを提案
したのです。そこでマルチメディア関連の特許を多く持つパナソ
ニックに声がかかったのです。その関係からNTTドコモに誘い
が入り、一緒にNECも参加したのです。その一方でボーダフォ
ンはサムスン電子を連れてくるなど、組織はどんどん大きくなっ
ていったのです。
 そのLiMoの成果といわれるものに「RI」といわれるもの
があります。これはLiMoプラットフォームに準拠する第1弾
なのです。このRIによって、「P905i」や「N905i」
が開発されているのです。
 といってもこれはNECやパナソニックのドコモ向けの端末だ
けでなく、モトローラやサムスン電子などの端末もRIで開発さ
れているのです。2008年時点では、7社から18種類のRI
搭載端末が発表されているのです。
 2008年になると、LiMoに日本のACCESSとフラン
ステレコムのオレンジがメンバーに加わります。オレンジは携帯
向けの「LiPS(関連情報参照)」フォーラムの創設メンバー
であり、ACCESSもLiPSのメンバーです。オレンジは、
LiMoのファウンダーに加わって7社となり、LiPSは活動
停止します。  ──[クラウド・コンピューティング/44]


≪画像および関連情報≫
 ●「LiPS」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  LiPSの目標は、携帯電話に対応する各種のオープンソー
  ス・プロジェクトで採用されるような標準の策定にあり、2
  007年末には最初のエディションが完成していた。一方、
  LiMoは、当初からコードの作成に取り組み、マルチメデ
  ィアやネットワーク、DRM(デジタル著作権管理)、メッ
  セージングなどの重要なミドルウェア機能をサポートする統
  合ソフトウェア・フレームワークの開発を進めてきた。
      http://www.computerworld.jp/news/mw/113389.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

FOMA/N905i.jpg
FOMA/N905i
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2009年12月17日

●「Android(OHA)とLiMoはどう違うか」(EJ第2717号)

 リナックス系のOSをめぐる2つの団体――LiMoとアンド
ロイド(OHA)という2つのオープン・プラットフォーム団体
がしのぎを削りつつあります。
 このLiMoとアンドロイド――これら2つのプラットフォー
ムはどこが違うのでしょうか。これについて、フランステレコム
のオレンジと一緒にLiMoに加入したACCESS社の鎌田富
久副社長兼CTOは次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 やはり目的が違う。アンドロイドはグーグルのサービスが入り
 やすくするためのツール。彼らのビジネスモデルは広告なので
 市場が膨らむことを期待しているのだろう。それはそれである
 のだと思う。一方でプラットフォームを共通化するためリナッ
 クスにするのは携帯電話のソフトウェアが複雑化、高機能化し
 てきて、開発費を下げなくてはいけないというニーズがあるか
 ら。しかし、キャリアの既存サービスとの継続性も求められて
 おり、そこをきっちりとしていかなくてはいけない。LiMo
 とACCESSはそこをやっている。LiMoとアンドロイド
 は似ているようだが、出発点は全然違うという気がする。
                ――石川温著/技術評論社刊
      『グーグルvsアップル/ケータイ世界大戦』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 グーグルのアンドロイドは、鎌田氏のいうように「彼らのビジ
ネスモデルは広告なので市場が膨らむことを期待している」――
つまり、アンドロイド搭載端末の拡大を期待しているのです。
 このあたりのことをグーグルは十分考えてアンドロイドを作っ
ています。少し専門的な話になりますが、アンドロイドには「ダ
ルヴィック・バーチャルマシン(VM)」というものが用意され
その上ですべてのアプリケーションがスムーズに動くのです。
 アンドロイドのアプリケーションは、「Java」というコンピュ
ータ言語で書くのですが、ダルヴィックVМは通常の「Java」の
実行環境とほとんど変わらないように動きます。つまり、アンド
ロイド用のアプリケーションを開発する事業者にとって、あまり
制約がない環境なのです。したがって、今後アプリケーションは
大量に提供されると考えられます。
 つまり、アンドロイド対応のアプリケーションが豊富になれば
なるほどアンドロイド端末は増えることになり、広告にとっては
大きな市場になるわけです。
 それでは、LiMoはどうなのでしょうか。アンドロイドとは
どう違うのでしょうか。これについて、実際にLiMoとアンド
ロイドでアプリケーションを開発しているGClue社の佐々木
陽社長は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 LiMoでは「Java」バーチャルマシン(VM)がミドルウェ
 アの層に実装されていて、LiMoコミュニティの外にいる僕
 らの作ったアプリは「Java」VM上でしか動きません。さらに
 「Java」VMからライブラリにつながるところは限られていま
 す。僕らがネイティブのブラウザと同じようなものを「Java」
 アプリで作ろうとすると結構苦労します。事実上、できないと
 言った方がよいかもしれません。
               ――日経コミュニケーション編
           『iPhoneの本質とAndroidの真価』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 何をいっているのかというと、いわゆる外部アプリケーション
の開発に対しては、かなり制限があるというのです。そのため作
成できるアプリはせいぜいゲームやそこそこのアプリに限られ、
ビジネスレベルのものは難しいのです。したがって、LiMoに
対応してアプリを書こうとする事業者はアンドロイドに比べると
どうしても少なくなると思われます。
 LiMoはどちらかというと、NTTドコモの「iモード」の
ように、キャリア独自のサービス――公式サイトを提供している
業者には向いている協業団体であるといえます。同じようなもの
を皆で作るなら、共有してコストを下げ、進化の速度を速めよう
ということを目的とする団体なのです。
 このように見ていくと、オープン・プラットフォームという言
葉の意味には2つあることがわかります。
 1つは、今まで各メーカーが独自に作ってきたプラットフォー
ムを共同して構築し、その開発費用を下げることによって端末価
格を削減する――これが効率化につながるという考え方です。
 2つは、プラットフォームを統一し、なるべく制約の少ない環
境においてアプリケーションの開発ができるようにし、少しでも
多くの開発業者、サードパーティを呼び込むという考え方です。
 これら2つのうち、LiMoは明らかに1の考え方に立脚して
いるのに対し、アイフォーンやアンドロイドは2の考え方を目的
としているといえます。
 もともとキャリアの視点に立つと、2の考え方に立つアンドロ
イドはキャリアのビジネスモデルには合わないのです。これにつ
いて既出の鎌田氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アンドロイドはケ一夕イをパソコン化したもの。音声はアプリ
 の1つという位置づけにしかすぎない。そこまで行ってしまう
 と、大部分の収益を音声通話で稼いでいるキャリアからすると
 メインの商品はなりにくいと想像できる。
                ――石川温著/技術評論社刊
      『グーグルvsアップル/ケータイ世界大戦』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 グーグルからすれば、音声電話はIP電話として提供してもい
いはずなのです。しかし、キャリアからすると、そんなことは絶
対に認められないことであり、アンドロイドを無条件に受け入れ
ることには抵抗があるのです。しかし、アイフォーンは急速に伸
びているのです。──[クラウド・コンピューティング/45]


≪画像および関連情報≫
 ●「Java」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「Java」とは、サン・マイクロシステムズ社が開発したプロ
  グラミング言語。C言語に似たに似た表記法を採用している
  が、既存の言語の欠点を踏まえて一から設計された言語であ
  り、最初からオブジェクト指向性を備えている点が大きな特
  徴。強力なセキュリティ機構や豊富なネットワーク関連の機
  能が標準で用意されており、ネットワーク環境で利用される
  ことを強く意識した仕様になっている。「Java」で開発され
  たソフトウェアは特定のOSやマイクロプロセッサに依存す
  ることなく、基本的にはどのようなプラットフォームでも動
  作する。その反面、標準ではどのプラットフォームでも実現
  できる最大公約数的な機能しか利用できないため、プラット
  フォーム固有の機能を利用する用途には向かない。
                   ――IT用語辞典より
  ―――――――――――――――――――――――――――

「iPhoneの本質とAndroidの真価」.jpg
「iPhoneの本質とAndroidの真価」
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2009年12月18日

●「アンドロイドの4つのキーワード」(EJ第2718号)

 現在、携帯電話は少しずつスマートフォン化しつつあります。
スマートフォン化すると、電話はスマートフォンのひとつのアプ
リになり、いわゆる「電話機」というイメージから離れていくこ
とになります。
 キャリアの立場からすると、総収入のほとんどを音声電話が占
めていることでもあり、いわゆるケータイが電話機から離れてい
くことは望ましいことではないはずです。したがって、何とか電
話を守ろうとします。そのひとつの象徴がLiMoという団体の
設立にあらわれていると思うのです。
 NTTドコモが「FOMA905i」――LiMoのRIによ
る開発――を発表したとき、当時の中村維夫社長は次のように述
べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もう905iで3G(第3世代移動体通信)の携帯電話は完成
 形に近づいた。すべての機能を標準搭載した。
               ――日経コミュニケーション編
          『iPhone の本質とAndroid の真価』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言には、これからの携帯電話というものがOSやソフト
ウェアによって決まるという考え方が微塵も見えていないような
気がします。もはやこれまでのように、機能を屋上屋のように重
ねていくだけでは差別化はできないということに気がついていな
いように思えるのです。
 そういう意味で携帯電話の将来を占う場合、グーグル社のアン
ドロイドは重要な位置を占めることは間違いないところです。そ
こでアンドロイドについて、既出のGClue社の佐々木陽副社
長の意見を参考にして述べることにします。GClue社は20
00年4月頃から携帯アプリを制作している会社です。
 ところで「プラットフォーム」とは何でしょうか。このあたり
の定義から明確にしておく必要があります。
 佐々木陽氏は、グーグル社がアンドロイド発表時に提示した4
つのキーワードを分析すると、アンドロイド・プラットフォーム
の定義が見えるといっています。
 第1のキーワードは次の言葉です。ちなみに「Apps」とはグー
グル社が提供するオンラインアプリケーションのこと。Gメール
やGカレンダー、Gドキュメントといったお馴染みのアプリケー
ションのことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  第1のキーワード/ Apps are created equal.
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは「すべてのアプリケーションは対等に扱われる」という
意味です。ブラウザも電子メールも、すべてがアプリケーション
として起動するというわけです。
 今までのケータイでは、これらはメーカーがハードに組み込む
アプリ――ネイティブ・アプリ――だったのですが、グーグル社
では、基本的にすべてのアプリがダウンロードして実行できると
いう仕組みになっているのです。これが「イコール」という意味
になります。
 第2のキーワードは次の言葉です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  第2のキーワード/ Apps can easily embed the web.
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは「簡単にウェブを取り込める」という意味です。専門的
になりますが、自分で作ったアプリの中にブラウザを簡単に組み
込めるということです。自分の携帯アプリの中にブラウザ・コン
ポーネントを気軽に、非常にシンプルに、コードでいうと3行ぐ
らいで組み込める構成になっているのです。
 第3のキーワードは次の言葉です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  第3のキーワード/ Apps can run in parallel.
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは「アプリが並行して複数起動する」という意味です。今
までのケータイでは、あくまで動くのは1つのプロセス、1つの
アプリだけだったのです。しかし、アンドロイドでは複数のアプ
リが同時に作動するのです。PCでは当たり前のことですが、ケ
ータイにおいては革命です。
 第4のキーワードは次の言葉です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  第4のキーワード/ Apps without borders.
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは「アプリには境界はない」という意味です。ここでいう
「境界」とは何でしょうか。佐々木陽氏は「境界」について、次
のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 例えば、Webと携帯アプリが連動するゴルフゲームを作りま
 した。「グーグル・マップ」でゴルフ場を選択、そのコース1
 にキャラクタを配置してマップ上でゴルフゲームができます。
 大阪大学に留学していた「Enkin」 (遠近)というドイツ人のチ
 ームは、僕らとは異なる定義をしました。彼らの考えた境界は
 リアルとバーチャルの境界線。この境界線をなくすというアプ
 ローチです。彼らはまず、電子コンパス(地磁気センサー)、
 重力センサー、GPS(全地球無線測位システム)を搭載する
 デジタルカメラを作りました。端末が向いている方向や位置の
 情報をセンサー群から取り出し、パソコンのアンドロイドのエ
 ミュレータ上で動かすアプローチです。例えば、ある駅に到着
 したときにどの方向を向いていて、目的地まであと何メートル
 かという情報を出せます。  ――日経コミュニケーション編
          『iPhone の本質とAndroid の真価』より
―――――――――――――――――――――――――――――
        ──[クラウド・コンピューティング/46]


≪画像および関連情報≫
 ●GClue社はどういう会社か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本のケータイ電話電話向けのコンテンツやミドルウエアの
  開発経験を生かし、オープン・プラットフォーム向けコンテ
  ンツやミドルウエアの開発を行っております。2009年現
  在、携帯電話の契約者数が40億契約を突破しました。アイ
  フォーン/アンドロイドにより開かれたオープンな世界が、
  あたらしいモバイルユーザエクスペリエンスを実現し、世界
  中に広がりつつあります。2012年には、世界の20億人
  以上がオープン・プラットフォームに移行していくものと予
  想しています。その時に必要なコンテンツやミドルウエアを
  世界に先駆け、会津から発信していこうと考えております。
               ――GClue社のサイトより
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●写真出典/日経コミュニケーション編
       『iPhone の本質とAndroid の真価』より

佐々木陽氏.jpg
佐々木陽氏
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2009年12月21日

●「『砂場』から『大平原』への大転換」(EJ第2719号)

 ここで、単なる携帯電話がPCに近い機能を持つスマートフォ
ンに進化するまでの歴史を開発者という立場から振り返ってみる
ことにします。
 第1に取り上げるべきは、NTTドコモによる「iアプリ」と
いう仕組みです。「iモード」が出たのは、1999年のことで
あり、「iアプリ」は2001年からはじまっています。既出の
佐々木陽氏は「iアプリ」は携帯業界における破壊的なイノベー
ションであるといっています。
 それは、世界で初めて日本で「携帯電話向けアプリケーション
・ビジネス」が立ち上がったからです。確かにこの時点でNTT
ドコモは、世界の携帯市場をリードする存在であったことは確か
なことです。
 ところで、「iアプリ」とは何でしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「iアプリ」というのは、NTTドコモの携帯電話で実行でき
 る「Java」を使用する「Java」アプリケーションおよびサービ
 スのことである。           ――ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 「Java」の世界には「砂場」――サンドボックスという考え方
があります。サンドボックスについてケータイ・アプリの開発者
である佐々木陽氏は次のよう説明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「iアプリ」のモデルは、「Java」の世界でいうサンドボック
 ス(砂場)モデルです。セキュリティの関係で、僕らに与えら
 れたアプリケーションを書ける場所は砂場しかありません。世
 の中は広く、いろいろな環境や土地がありますが、僕ら携帯ア
 プリを作るエンジニアに与えられた環境は砂場だけ。非常に狭
 い場所です。ただ、それでも画期的でした。それまでは僕らが
 活躍できるフィールドがなかったのですが、それがある日突然
 サンドボックス・モデルが登場して、砂場で遊べるようになっ
 たのです。         ――日経コミュニケーション編
           『iPhone の本質とAndroidの真価』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 本来、サンドボックスというのは公園などにある子供の遊び場
の砂場のことです。ウェブページに配置された「Java」アプレッ
トやフラッシュ、「Java」スクリプトなどのプログラムは自動的
に実行されます。
 これらのアプリは気づかないうちにコンピュータ上にあるファ
イルを盗み見たり、書き換えてしまったり、あるいはコンピュー
タウイルスに感染する恐れがあります。そこで安心してウェブサ
ーフィンを楽しめるように提供されたのが、そういった攻撃ので
きない、セキュリティに守られた安全な砂場――それが、サンド
ボックスなのです。
 第2に取り上げるべきは、J−フォン(現・ソフトバンクモバ
イル)が同社のネットサービス「J−SKY」用の「Java」なの
です。「iアプリ」用の「Java」とどう違うのでしょうか。
 佐々木氏は、「砂場であるが、遊具が付いている」という面白
い表現を使っています。ここで遊具というのは、3D(三次元画
像)エンジンのことです。この3DのAPI――アプリケーショ
ン・プログラミング・インターフェース――に「Java」アプリ上
からアクセスできるようになったのです。
 ここで「API」について説明します。APIを電気のコンセ
ントにたとえるのです。パンを焼きたいとき、トースターをコン
セントにつなぎます。これは、どこの家でも、どんな人でも同じ
ようにしてトースターを電源につなぐはずです。それは、どこの
家でも標準化されたAPIを備えているからです。APIとはそ
ういうものです。
 「J−SKY」用の「Java」では、「iアプリ」からAPIを
通して3D――三次元画像にアクセスできるので、砂場であるが
砂場を忘れさせる拡張性があるのです。
 第3に取り上げるべきは「BREW」――ブリューです。20
04年に米国のクアルコム社が開発し、日本国内ではKDDIが
採用しています。「BREW」についての説明はビジネスメディ
ア「誠」の次の説明を引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在auの端末は、基本的に全機種が「BREW」対応になっ
 ている。携帯上で動かすアプリを利用しようとする場合、ドコ
 モユーザーにとっての「iアプリ」に対し、auユーザーは、
 「BREW」アプリを使うことになるが、しかしアプリの配布
 ・運営の点において、「iアプリ」と「BREW」アプリには
 大きな違いがある。それは「iアプリ」が自由に開発・配布が
 できるのに対し、「BREW」アプリはKDDIの承認を得な
 くてはエンドユーザーへ配布できないというところだ。さらに
 言えば「BREW」アプリを配布するには原則としてKDDI
 のサーバにアップロードし、そこからユーザーがダウンロード
 する形を取らなくてはならないという決まりがある。これは自
 前のサーバにアップロードし、そこからユーザーに配布できる
 「iアプリ」とは大きな違いといえる。
 http://bizmakoto.jp/bizmobile/articles/0508/30/news004.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 これについて、佐々木陽氏は「これは僕らからするともう大平
原であり、すべてできる。砂場ではない。しかし、入口と出口に
は警備員がいる」という面白い表現を使っています。これは「B
REW」を開発するには許可がいることをあらわしています。つ
まり、「許可が必要な大平原」であるといえます。
 そして第4に取り上げるべきは、2008年のアイフォーン3
Gの登場になるのです。佐々木氏によると、「何の許可もいらな
い自由な大平原」であるといっています。しかし、たまには入れ
ない柵付きの場所もある――佐々木氏はこのように表現している
のです。    ──[クラウド・コンピューティング/47]


≪画像および関連情報≫
 ●「BREW」その将来は?/三田隆治
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2003年1月29日、KDDIは、かねてより一部の端末
  で採用されていたアプリケーションプラットフォームを今後
  発売するauの第3世代携帯電話機に順次導入していくと発
  表しました。携帯電話に搭載するアプリケーションとして、
  今までKDDIはNTTドコモの「iアプリ」の後塵を拝し
  てきました。ドコモの「iアプリ」対応モデルは現在約16
  00万台が出荷されていますが、これはKDDIの「Java」
  搭載端末約400万台の4倍にも当たる数です。今後KDD
  Iはローエンドの機種に対しても、「BREW」サービスを
  搭載していく方針であり、年間で700万台程度の「BRE
  W」対応端末を出していくとしています。つまり1年後には
  700万台ほどが「BREW」対応ケータイとなるというわ
  けです。
  http://japan.internet.com/column/allnet/20030206/6.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

「BREWアプリ」/お天気時計.jpg
「BREWアプリ」/お天気時計
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2009年12月22日

●「スマートフォンは3Cを目指す」(EJ第2720号)

 今後スマートフォンはどのような方向に進むのでしょうか。
 これについて、GClu社の佐々木陽社長は、次のキーワード
を示しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     3C + エキスパンド + オープン
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず、「3C」ですが、これはグーグルが挑戦する3つのキー
ワードです。具体的には、次の3つを意味しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1C ・・・・・ クラウド
      2C ・・・・・ コネクティビティ
      3C ・・・・・ クライアント
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の「C」は「クラウド」です。
 グーグル社の場合、「クラウド」では、次の2つのアプローチ
があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.「グーグルマップ」と携帯電話のシームレスな連携
 2.「ウェブキット」というフルブラウザをOSに搭載
―――――――――――――――――――――――――――――
 こうすることで、携帯電話でもグーグルのクラウドと連携でき
るようにすることができます。ところで「ウェブキット」とは何
でしょうか。
 「ウェブキット」(WebKit)というのは、アップル社によって
開発されたシステムフレームワークの名称です。ウェブキットは
ウェブページの描画――レンダリングやアプリケーションとして
のインターフェースを形成するためのフレームワークとして用い
られています。
 ウェブキットは、レンダリング・エンジン「KHTML」を搭
載しているMacOS−X標準のブラウザ「サファリ」をはじめ
として、ダッシュボードやメール、RSSリーダーなど、Mac
OS−Xにおけるさまざまなアプリケーションで採用されている
のです。つまり、アップル社の技術です。
 第2の「C」は「コネクティビティ」です。
 コネクティビティでは、いつでもどこでも誰でも簡単にリアル
空間とサイバー空間を連携することが求められています。アンド
ロイドでは、最大の期待、最大の目的を持っているテーマです。
 グーグル社としては、家の外でもグーグルのサービスを使える
デバイスが必要なのです。そのために、アンドロイド・プラット
フォームを提案したのです。これは、アンドロイドでなくても、
アイフォーンでもブラックベリーでもかまわないのです。
 第3の「C」は「クライアント」です。
 ここでの狙いは、「JavaScript」/ジャバスクリプトを高速に
動かすことなのです。ウェブキットを搭載することで、PCと同
等のブラウジング能力、レンダリング能力を獲得することができ
るのです。
 アップル社の場合、独自の3Cモデルを作ろうとしています。
クラウドとしては、「モバイルミー」、デバイスはアイフォーン
を使うという垂直型です。一社で3Cを完結しようとしているの
です。しかし、アップル社はグーグルのサービスと緊密に連携す
るモデルをとっているのです。また、クラウドで足りないところ
は、マイクロソフトとでも連携する姿勢です。
 グーグル社としてはネット・サービスに強みを持っているので
ネットから端末に向かうというアプローチをとろうとしているの
です。すなわち、ネット上だけでできていたことを携帯電話まで
広げて、どこでもグーグルにつながるようにしようとしているの
です。それがアンドロイドなのです。
 これに対してマイクロソフト社は、ハードウェア――PC/サ
ーバーからネット側へ攻め上がる戦略を取っています。佐々木陽
氏は、マイクロソフト社が提供している携帯端末向けのウインド
ウズ7は、アイフォーンやアンドロイドとほぼ同格であると考え
ています。
 しかし、今のところアップル社のアイフォーンが先行しており
大きく世界シェアを伸ばしていることは既に述べた通りです。ま
た、最近になってグーグル社が「ネキサスワン」という名前のス
マートフォンを発売するという次のニュースが流れています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 グーグルブランドで発売されると言われているスマートフォン
 ――Nexus One が、米通信連邦通信委員会(FCC)の承認を得
 ていることが分かった。FCCのWebサイトで、製造元であ
 るHTCが9月に提出した申請書などが公開されている。その
 中にはFCCの認可ラベルもあり、ラベルにはNexus Oneと書
 かれている。   ――2009年12月15日「せかにゅ」
―――――――――――――――――――――――――――――
 携帯電話のノキアもクラウドへの挑戦をはじめています。ノキ
アのクラウドは「Ovi」――フィンランド語で「ドア」――と
いう名称を使い、自社でクラウドサービスを用意したアプリケー
ションの配信をはじめています。
 3C以外のキーワードの「エキスパンド」――拡張性です。こ
れはアイフォーンの「アップストア」と同じ考え方です。それか
ら「オープン」というキーワードがあります。佐々木氏によると
「オープン」はどちらかというと下の層のポリシーであり、アン
ドロイドを冷蔵庫やカーナビやテレビに入れるということも可能
になるといっています。
 いずれにせよ、これからの携帯電話、とくにスマートフォンは
3Cモデルを標準で装備しないと、世界では売れなくなることは
間違いないと思われます。
 添付ファイルとして、各社のプラットフォームの比較表を付け
てあります。これを見ると、アップル社の技術が多く入っている
ことが分かります。─[クラウド・コンピューティング/48]


≪画像および関連情報≫
 ●JavaScriptとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  JavaScript はスクリプト言語である。主に Webブラウザ
  上で動作し、HTMLの動的書き換えや入力フォームの自動
  補完など、ウェブページの使用感向上を目的として使用され
  たり、リッチクライアントアプリケーションの構築に使われ
  る。文法は、プロトタイプベースのオブジェクト指向型であ
  る。多くの場合は、C言語に似た手続き型のようなスタイル
  で書かれるが、関数型言語とも多くの類似点がある。近年で
  はその柔軟な設計が評価され、様々なアプリケーションで自
  動実行の用途におけるマクロ言語としても採用されている。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ●表の出典        ――日経コミュニケーション編
           『iPhone の本質とAndroidの真価』より

携帯各社のプラットフォームの比較.jpg
携帯各社のプラットフォームの比較
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月24日

●「オープン・プラットフォームとは何か」(EJ第2721号)

 携帯電話のことを最近はよく「ケータイ」とカタカナで書きま
す。携帯電話とケータイ――どう違うのでしょうか。
 EJでもよく「ケータイ」と書きますが、きちんと定義して書
いているわけではないのです。といっても「ケータイ」に明確な
定義が存在するわけではないのです。漠然とした定義があるだけ
なのです。
 音声電話中心の使い方をしていた時代の携帯用電話機は文字通
り「携帯電話」と呼ばれます。しかし、メールが使えるようにな
り、それに加えてネットに接続して各種アプリが使えるようにな
ると、それに応じてその使い方は必ずしも音声電話中心ではなく
なってきます。そういう時代の携帯用電話機は今までの携帯電話
と区別して「ケータイ」と表現するのです。
 しかし、ケータイはさらに発展してスマートフォンと呼ばれる
ようになりつつあります。こうなると、もはやケータイではなく
電話機能付きPCということになります。
 12月22日のEJで、これからの時代のスマートフォンの条
件をご紹介しましたが、再現しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
     3C + エキスパンド + オープン
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中の「オープン」という言葉ですが、考えてみると、実に
曖昧な表現です。「オープン」とは何でしょうか。
 「オープン」とは、「オープンソース」のことです。オープン
ソースとは、ソフトウェアの著作者の権利を守りながら、ソース
コードを公開することを可能にするライセンス(ソフトウェアの
使用許諾条件)を指し示す概念です。ちなみに、ソースコードと
は、ソフトウェアの設計図にあたるものであり、それをインター
ネットを通じて無償で公開し、誰でもそのソフトウェアの改良や
再配布が行なえるようにすることをいいます。
 それでは、ケータイの「オープン」とはどういうことを指すの
でしょうか。それは具体的には「オープン・プラットフォーム」
を意味しています。
 NTTドコモ・フロンティアサービス部の担当部長である山下
哲也氏は「オープン・プラットフォーム」に関して明解な定義づ
けを行っています。ここからは、添付ファイルの表を見ながら読
んでいただきたいと思います。
 表の縦軸は、対象とするプラット・フォーム・ソリューション
が、オープンソース・ベースのものか独自ベースのソリューショ
ンなのかをあらわしています。表の横軸は、ソリューションに関
する情報がオープンなのか、それともクローズになっているかを
あらわしています。つまり、この表では、何かオープンなのか、
何がオープンでないのかを示しているのです。
 リナックスとウインドウズ・モバイルを例にして考えてみるこ
とにします。
 最初は「リナックス(Linux)」です。
 リナックスはフリーソフトウェアのライセンス規定「アパッチ
・ライセンス」にしたがったオープンソースになっています。し
たがって、これは「オープンソース・ソフトウェア」ということ
になります。「アパッチ・ライセンス」というのは、アパッチソ
フトウェア財団(ASF)によるフリーソフトウェア向けのライセ
ンス規定のことです。
 情報のオープン化についてはどうかというと、SDK――ソフ
トウェア開発キットをはじめとする開発・利用に技術情報が十分
開示されていると思われるので、「オープンソース・ソフトウェ
ア」にして「情報がオープン」に該当すると思われます。これは
狭義のオープンソース・ソフトウェアといえます。
 次は「ウインドウズ・モバイル(Windows Mobile)」です。
 ウインドウズ・モバイルを含むウインドウズは、市場に広く普
及し、様々な開発情報が提供されているので、「オープンソース
・ソフトウェア」といえます。しかし、問題は情報は100%提
供されているとはいえないのです。
 したがって、ウインドウズ・モバイルは、広義のオープンソー
ス・ソフトウェアである――NTTドコモとしてはそのように考
えているといえます。こういう観点に立って山下哲也氏は、アン
ドロイドは、次の3点で最も理想的であるといえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.多様性を促進するオープンなソリューションである
  2.開発者のコミュニティが急速に成長・拡大している
  3.アプリ実行を視点にした設計方針で組成されている
―――――――――――――――――――――――――――――
 この3つの中で最も注目すべきは、3の考え方であると思いま
す。今までの商用デバイス(端末)の開発スキームは、まず、物
理的なハードウェアを決めて、そのハードを動かすためのソフト
を作り、そのうえで何ができるかを決めていたのです。つまり、
ハードウェア中心の考え方です。
 これに対して、まず何をやりたい、これをやらなければ意味が
ないという視点に立って、アプリケーションのフレームワークや
デバイスの設計をするというのがアンドロイドの考え方です。
 そういう点でうまくいっているのはアイフォーンです。山下氏
はアイフォーンについて次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 一つのいい例はアイフォーンです。アイフォーンの一つひとつ
 のコンポーネントは最高というわけではないと思います。とこ
 ろがエンドユーザーから見てなぜアイフォーンが面白いかとい
 うと、グラフィカルなユーザー・インタフェースが非常に気持
 ちいい、直観的にストレスを感じないという具合に、バランス
 が取れているからです。   ――日経コミュニケーション編
           『iPhone の本質とAndroidの真価』より
―――――――――――――――――――――――――――――
       ――─[クラウド・コンピューティング/49]


≪画像および関連情報≫
 ●アパッチ・ライセンスについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  他のフリーソフトウェア向けライセンスと同様、アパッチ・
  ライセンスではユーザーがそのソフトウェアの使用/頒布/
  修正、派生版の頒布をすることを制限しない。アパッチ・ラ
  イセンスは、頒布される二次的著作物が同じライセンスで提
  供されたり、フリー/オープンソースソフトウェアとして頒
  布されることを要求しない。要求するのは、ユーザーがその
  ソフトウェアにアパッチ・ライセンスのコードが使われてい
  ることを知らせる文言を入れることだけである。従って、コ
  ピーレフトライセンスと異なり、アパッチ・ライセンスコー
  ドの二次創作物のユーザーには、フリーなライセンスが適用
  されない可能性もある。       ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●表の出典         ――日経コミュニケーション編
           『iPhone の本質とAndroidの真価』より

オープン・プラットフォームの定義.jpg
オープン・プラットフォームの定義
posted by 平野 浩 at 04:20| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月25日

●「オープンプラットフォームのゆくえ」(EJ第2722号)

 2009年も本日を含めてあと7日です。今年のEJは29日
までお届けします。今回のテーマは29日まで続けて、新年は1
月4日から新テーマがスタートします。
 ケータイの世界は今や激動のときです。そのなかにあって、ガ
ラパゴスといわれる日本のケータイはどうなるのでしょうか。残
りの3回でこの問題を考えてみます。
 ケータイのプラットフォーム戦争は、どこが勝利を収めるので
しょうか。
 ノキアのシンビアン、LiMo、グーグルのアンドロイド、マ
イクロソフトのウインドウズ・モバイル、ブラックベリーRIM
そしてアップルのMacOS−X――たくさんあります。
 各プラットフォームがそれぞれ団体を作り、オープンな環境を
目指すのはなぜでしょうか。
 それははっきりしています。キャリアやメーカーは「開発費を
低減したい」のです。プラットフォームをPCのOSと考えると
わかりやすいと思います。
 キャリアにとって、プラットフォームが複数あると、製品化す
る前のテストが大変なのです。テストが増えれば、当然コストも
かかるわけです。したがって、プラットフォームはなんとか統一
させたいと考えるわけです。
 ここで予備知識として知っておくべきことは、キャリアと端末
メーカーの関係が、日本と世界では事情が違うことです。日本で
はキャリアの数は少なく、端末メーカーが多いのです。したがっ
て、キャリアの力は絶大ですが、海外ではまったく逆であるとい
うことです。
 ケータイ・ジャーナリストの石川温氏は、LiMoに関連して
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTTドコモ関係者はLiMoに参画するキャリアの実情を語
 る。「ほかの海外キャリアは、だれもがドコモになりたがって
 いる。自らのコントロールで端末メーカーに製品を作らせるの
 が夢なのだ」。実際、海外キャリアが端末メーカーに「この機
 能を入れてくれ」とお願いしても、反発されることがほとんど
 だ。特に言うことをまったく開かないのがノキア。海外では、
 キャリアの数が圧倒的に多く、端末メーカーの数が少ない。結
 果、端末メーカーのほうが立場が強いのだ。このあたりが日本
 とは大きく違うといえる。参加するキャリアには端末メーカー
 に自社主導のサービスに対応した端末を開発させたいという本
 心がある。端末メーカーには、LiMoへの参加をきっかけに
 世界進出を狙いたいという願いがある。また、それ以外の企業
 としては、大手キャリアと大手メーカーと組むことで、販路が
 広がるともくろんでいるのだ。 ――石川温著/技術評論社刊
      『グーグルvsアップル/ケータイ世界大戦』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 リナックス陣営であるLiMoには、既に述べたように、有力
なキャリアやメーカー、ソフトウェアベンダーが名を連ねており
統一プラットフォームをつくりやすい環境にあるといえます。
 しかし、船頭が多すぎて船が先に進まない観があります。それ
にNTTドコモのようにリスクの分散を図るために、複数の団体
に入っているキャリアやメーカーもあり、腰が定まっていないよ
うに見えます。どのくらい本気で取り組む気なのか、見えない不
安もある。果たしてうまくいくのでしょうか。
 とくに海外では、ボーダフォンやオレンジを使っているという
イメージよりもノキアを使っているというイメージの方が強いの
です。端末メーカーの方が圧倒的に強いのです。それほど海外で
はノキアのブランド力は強大なのです。
 それにリナックスは安く開発できるというイメージが強く、多
くの企業が参集するのですが、それは幻想であり、実態はかえっ
て高くつくプラットフォームになっているのです。
 それでは、同様にリナックス陣営であり、日本のキャリアが加
盟しているアンドロイドはどうでしょうか。
 キャリアの視点で考えると、音声通話サービスの提供という面
でアンドロイドのコンセプトに合っていないといえます。ここで
いうキャリアの視点とは、音声通話の考え方です。すなわち、ア
ンドロイドから見ると、音声通話はアプリケーションのひとつで
あり、メインストリームのサービスではないのです。
 グーグル社の立場からいうと、音声通話の部分をIP電話とし
て提供することも視野のなかに入っているのではないかと思われ
るのです。そんなこと、NTTドコモやKDDIは絶対に認めな
いでしょう。
 したがって、NTTドコモやKDDIがアンドロイド端末を投
入しても、おそらく音声通話サービスはこれまで通りの仕組みを
使ってくるはずです。つまり、アンドロイドとは、コンセプトが
合っていないのです。
 日本のケータイの場合、品質管理においては膨大なチェックを
行っています。コンシューマー製品ですから、品質管理は厳重に
行うことが必要です。しかし、アンドロイドにはそういう発想は
ないのです。グーグル社としては、ネットレベルの品質を確保す
ればよいと考えています。通信ネットワークを利用して、ソフト
ウェアのアップデートを行えばよいという考え方です。
 しかし、そのさいデータが消失する恐れがあります。したがっ
て、データを保護する仕組みをキャリアやメーカーが用意しなけ
ればならないことになります。そうすれば、当然コストが跳ね上
がり、チェックに時間がかかれば製品投入のタイミングを失う恐
れもあるのです。アイフォーンの場合は、OSまでネットでバー
ジョンアップさせていますが、アイチューンズと同期させること
により、データのバックアップをとっています。
 このように、オープンプラットフォームの先行きはまだ見えて
いないのです。しかし、ケータイがPC化する流れは止まらない
といえます。 ――─[クラウド・コンピューティング/50]


≪画像および関連情報≫
 ●LiMoについてのインタビュー/2009年4月
  ―――――――――――――――――――――――――――
  共通のリナックスベースのミドルウェアプラットフォームを
  作成することを目標に、2年前、創業メンバー6社により設
  立されました。現在、メンバー企業は約55社で、LiMo
  プラットフォームの開発を共同で進めています。LiMoプ
  ラットフォームは、ミドルウェアプラットフォームで、コー
  ドはすべて参加企業が貢献したものです。メンバー企業は資
  産を共有しつつ競合しています。昨年(2008年)、最初
  のバージョンとなるR1を発表しました。現在、LiMo端
  末は33機種あります。先日、R2の作業が完了し、現在、
  内部でプラットフォームを統合しています。R2をベースと
  した端末は年内に登場すると見ています。すでに機能ベース
  では、最新の機能が端末に搭載されています。
  http://journal.mycom.co.jp/articles/2009/04/02/limo/index.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

石川温氏の著書.jpg
石川温氏の著書
posted by 平野 浩 at 04:34| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月28日

●「日本の垂直統合モデルの2つのタイプ」(EJ第2723号)

 仮にケータイの統一プラットフォームができたとします。その
プラットフォームが将来にわたってどのようなデバイスでも対応
できる適応力のある環境であれば、メーカーは自分たちの作りた
いケータイを低コストで開発できることになります。
 しかし、これは専門家にいわせると、夢の世界なのです。なぜ
なら、メーカーは競合上、他のメーカーの製品と差別化を図る必
要があるからです。この差別化とプラットフォームはどうしても
矛盾する面ができてしまうのです。
 本当にメーカーが端末の差別化をしようと思ったら、デザイン
などのレベルだけでは対応できず、OSレベルでの改良も必ず必
要になってきます。
 ひとつ実例を上げて説明することにします。ウインドウズ・モ
バイルといえば、端末メーカーにとって、少ない開発者で製品化
できる唯一のプラットフォームとして人気があります。
 シャープがイー・モバイル向けの端末「EM・ONE」を開発
したときの話です。その当時、ウインドウズ・モバイルは、ワイ
ドVGA表示には非対応になっていたのです。
 そこでシャープとしてはマイクロソフト社に対し、VGA対応
を要望したのですが、米国マイクロソフト社がなかなかいうこと
を聞いてくれなかったのです。マイクロソフト社としては、全世
界に向けたプラットフォームを日本個別に改良するというのは効
率的ではないとして要求には「ノー」をつきつけたのです。
 結局は米国マイクロソフト社としては、マイクロソフト日本法
人、シャープ、イー・モバイルの3社の合同の説得に屈し、VG
A対応をしたのですが、それにはお互いに多くの手間とコストが
かかったのです。
 その点アップル社のアイフォーンは、米国向けのモデルであっ
ても、英語以外の言語にもしっかりと対応していたのです。した
がって、米国向けの初代アイフォーンであっても、日本語のサイ
トを見てもきれいに閲覧できたのです。
 本体に日本語フォントと日本語入力アプリケーションが内蔵さ
れていたので、それが可能になったのです。もっとも、初代アイ
フォーンでは日本語入力アプリケーションに目につかないように
制限がかけられていたのですが、初期の段階からきちんと世界対
応を考えたうえで、手が打たれていたのです。
 それというのもアイフォーンの場合、MacOSはアイフォー
ンしか搭載されないという大前提があるからこそ、そういう全世
界対応ができたのです。アップル社のOSは統一機構なので、機
種差分は気にすることはないからです。これに対してウインドウ
ズ・モバイルは、それを採用するケータイ端末も多く、幅広いた
め、機種差分の問題はマイクロソフト社の大きな課題となってい
るのです。
 日本国内の携帯電話業界について考えてみます。キャリアと端
末メーカーは次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪キャリア≫        ≪端末メーカー≫
 1.NTTドコモ      1.シャープ
 2.au          2.パナソニック
 3.ソフトバンクモバイル  3.NEC
 4.イー・モバイル     4.富士通
               5.東芝
               6.カシオ計算機
               7.日立製作所
               8.京セラ
               9.ソニー・エリクソン
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本ではキャリアの力が圧倒的に強く、数が多くて競争環境に
ある端末メーカーを下に置くピラミッド型の「垂直統合モデル」
になっているのです。垂直統合モデルには、次の2つのタイプが
あります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪垂直統合モデル≫
  1.キャリア主導/メーカー指定 ・・・ SIMロック
  2.メーカー主導/現地キャリア ・・・ SIMロック
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の場合は、上記1のタイプです。キャリアがメーカーを指
定して端末を作らせるモデルであり、このケースはほとんど「S
IMカード」が外せないようにロックされています。
 SIMカードは、GSMやW−CDMAなどの方式の携帯電話
で使われている電話番号を特定するための固有のID番号が記録
されたカードのことです。SIMとは次の省略語です。
―――――――――――――――――――――――――――――
     SIM/Subscriber Identity Module Card
―――――――――――――――――――――――――――――
 SIMカードがロックされていると、キャリアを変更するたび
に現在持っている端末を捨てて、新しい端末を購入しなければな
らないのです。これはきわめて不合理な話ですが、キャリアを変
更しにくくなるので、キャリアにとって有利になります。
 上記2の垂直統合モデルは、具体的にいうと、アップル社のア
イフォーンのモデルです。アイフォーンは完全にメーカーである
アップル社主導であり、アップル社は現地キャリアであるソフト
バンク・モバイルのキャリアサービスを使っています。
 アップル社のメーカー主導は徹底していて、ソフトバンク・モ
バイルは、アイフォーンに自社マークすら付けることはできない
厳しさです。しかも、このケースでもSIMカードはしっかりと
ロックされているのです。
 日本は総務省の指導により、垂直統合モデルをもうひとつのモ
デルである「水平分離モデル」に移行させる計画を立てていたの
ですが、アイフォーンが登場したことで、ペンディングになって
しまっています。―─[クラウド・コンピューティング/51]


≪画像および関連情報≫
 ●GSM方式の携帯電話とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本と韓国を除く全世界で使用されている。2008年現在
  全ての携帯電話方式の中で世界で最も使われている。世界の
  携帯電話端末市場の82%はGSM方式であって、全世界の
  212ヵ国で約20億人が利用している。GSM方式のSI
  Mロックされていない端末を一台持っておくと、世界のほと
  んどの国で、現地の事業者の発行するSIMを格安の料金で
  買い求めて、現地の携帯電話として現地の電話料金で携帯電
  話を使用できる。多くの国では空港に携帯電話会社のサービ
  ス窓口があり、プリペイドSIMカードを入手しすぐに使用
  を開始できる。           ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

EM・ONE.jpg
EM・ONE
posted by 平野 浩 at 04:22| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月29日

●「アップルが鍵を握る日本のケータイ」(EJ第2724号)

 海外の携帯電話業界のキャリアと端末メーカーの状況は、どう
なっているのでしょうか。
 海外では日本とまったく逆になっています。すなわち、端末メ
ーカーは少なく、キャリアの数は膨大なのです。世界的に影響力
のある端末メーカーは次の5社です。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.ノキア(フィンランド)
     2.サムスン電子(韓国)
     3.モトローラ(米国)
     4.ソニー・エリクソン(スウェーデン)
     5.LGエレクトロニクス(韓国)
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、キャリアはどうかというと、これは膨大な数がひし
めいています。GSM圏内であれば200以上あるし、一つの国
に複数あり、さらにヨーロッパや米国、アジア、アフリカなどを
考えれば膨大な数になるのです。したがって、海外では端末メー
カーの力は強いのです。なかでもノキアの強さは突出していると
いえます。
 このように端末メーカーの力が強い海外では、「水平分離モデ
ル」が一般的になっています。このモデルは、ユーザーの立場か
ら考えるとわかりやすいと思います。ユーザーは自分の好むメー
カーの端末を購入し、自分にとってサービスが良いと考えるキャ
リアを選んで契約する――これが水平分離モデルです。
 PCと光ファイバーの契約の関係と同じです。ユーザーは自分
の好むメーカーのPCを購入し、光ファイバーの契約は、NTT
のフレッツを選ぶか、KDDIの「ひかりONE」を選ぶか──
これはユーザーの判断です。
 水平分離モデルでは、端末は自由に選べるのでSIMカードは
ロックされていたのでは困ります。なぜなら、端末を換えるとき
は、SIMカードを外して新しい端末にセットし直すことになる
からです。現在の日本では、キャリアを変更するたびに現在使っ
ている端末が無駄になるので、水平分離モデルの方が合理的であ
るといえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪水平分離モデル≫
 メーカーとキャリアは別々に契約 → SIMロックフリー
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本では垂直統合モデルに加えて販売奨励金モデルを導入して
います。端末メーカーは、キャリアがユーザーを獲得するご
とに一定の販売奨励金を支払っていたのです。販売奨励金の額は
明らかではありませんが、端末一台について1〜3万円程度は出
ていたようです。
 キャリアは、端末の価格からこの販売奨励金を割り引いて端末
を安くすることによって、多くの加入者を増やすことに成功した
のです。日本のケータイは一般的に高機能であり、ほとんどの機
種が5万円を超えていたのですが、販売奨励金によって2〜3万
円の価格で入手できたのです。しかし、その分キャリアは通信費
を少し高くし、長い期間をかけて取り戻すのです。海外ではこう
いう売り方をしている国はなかったのです。そういう意味から、
日本はケータイの販売についても「ガラパゴス」だったのです。
 しかし、2007年に総務省は販売奨励金モデルの見直し指導
を行い、ケータイの加入方式を海外での一般的な売り方に合わせ
ようとしたのです。ところが、販売奨励金モデルをやめることに
より、2008年から端末価格は高騰し、端末の買い替え需要は
大幅にダウンしてしまったのです。そこに切り込んできたのが、
アップル社のアイフォーンなのです。
 ところでアップル社は、初代アイフォーンを8GBは599ド
ルで販売し、キャリアからは通信料金収入の一部を要求していた
のです。この方式を「レベニューシェア」といいます。AT&T
イギリス・02、フランス・オレンジ、ドイツ・T・モバイルは
これに応じていたのです。
 しかし、それから一年間というものアップル社はさまざまなこ
とを学習し、アイフォーン3Gでは8GBを199ドルにして発
売したのです。これに合わせてアップル社は、キャリアに評判の
悪いレベニューシェア方式をやめています。
 その代わりに取り入れたのは、日本の販売奨励金モデルなので
す。ガラパゴスといわれる日本の制度を逆にアップル社は取り入
れたのです。日本政府はその販売奨励金モデルを逆にやめさせる
指導をしているのですから、なにおかいわんやです。
 アイフォーンは日本のキャリアにとって新規顧客獲得の切り札
になることは確かですが、自社のコンテンツやサービスの普及に
はブレーキがかかるのです。
 なぜなら、アイフォーンのユーザは音楽はアイチューンズ・ス
トア、ソフトウェアはアップ・ストアというように、アイチュー
ンズに大きく依存するようになります。そうなってくると、それ
以外に「iモード」のようなものはいらなくなってしまうことに
なります。海外でも端末メーカーが強いように、この世界では何
といっても、ハードウェアを持っている方が強いのです。
 アイフォーンを導入した場合、確かに音声通話サービスを提供
するのはキャリアですが、端末を供給するのも、アイフォーンに
アイチューンズ・ストアで音楽配信サービスを提供するのも、そ
れらへの課金も、すべてアップル社が管理しているのです。
 このように考えてくると、すべてはアップル社に握られつつあ
るのです。アイフォーンがこのまま全世界で好調に売れ続けた場
合、アップル社の影響力はますます増大します。日本ではその侵
食の一部が始まっているのです。アップル社の手のうちでどのよ
うにして生き残るかという事態にならないように日本のメーカー
やキャリアは真剣に考えるべきです。このテーマは今回で終了し
ます。  ―[クラウド・コンピューティング/52/最終回]


≪画像および関連情報≫
 ●垂直統合型か水平分離型か/平田正之氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  情報通信産業に、長期に渉り取り憑いている不可思議があり
  ます。電話サービス以外の、レイヤを異にする新しいサービ
  スを推進するにあたっての、「神学論争」とも言うべきもの
  です。それは、垂直統合型がよいのか、水平分離型がよいの
  か、を巡る議論であり、経済学的視点と産業規制論の立場と
  が、複雑に絡み合った問題となっています。さらに、議論を
  混乱させるのは、利害関係を有する事業者の思惑が働き、主
  義主張の応酬となって、実際にサービス開発を担う当事者を
  悩ませています。
  http://www.icr.co.jp/newsletter/report_tands/2009/s2009TS248_2.html
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ノキア本社
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする