2009年07月13日

●「オバマ大統領は何をしているか」(EJ第2611号)

 ラクイラ・サミットが終わりましたが、G8首脳の中では在職
日数が最短のオバマ米大統領はどうだったのでしょうか。果たし
て、リーダーシップを発揮できたのでしょうか。
 テレビ報道だけで見ていると、何となくかつての米大統領より
も影が薄かったように感じた人が多かったのではないかと思いま
すが、結構がんばっているのです。
 オバマ米大統領は、初日の夕食会で「核安保サミットの開催計
画」を発表して各国首脳を驚かせ、主要国経済フォーラム――M
EFでは自ら議長を務めて、温暖化問題に消極的な米国のイメー
ジ転換を図って次のように述べるなど、なかなか指導力を発揮し
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国は温室効果ガスの主要排出国としての責任を果たしてこ
 なかったが、そうした日々は終わりだ。――米オバマ大統領
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はオバマ米大統領は、国内の状況があまりにひどい状態なの
で、どこかの首相と同じように外交で点を稼ごうとしているとい
われているのです。
 米国のマスコミは、大統領就任後100日間は「ハネムーン期
間」と称し、その期間中に大統領がやったことについてはあまり
厳しい批判をしない慣習になっています。それでも現下の米国の
金融・経済は厳しい状態であるので、大統領のやり方によっては
ハネムーン期間であっても厳しい評価をすることがあります。
 2009年4月29日――この日はオバマ氏が大統領に就任し
てちょうど100日目に当たるのです。米調査機関のピュー・リ
サーチ・センターは、米主要新聞、3大ネットワーク、『ニュー
ズウィーク』誌や公共放送7社による1261本の報道内容を調
査した結果を次のように発表しています。パーセンテージは、報
道のうち大統領に肯定的な内容の数字をあわわしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     オバマ現大統領   ・・・・・ 42%
     ブッシュ前大統領  ・・・・・ 22%
     クリントン元大統領 ・・・・・ 27%
―――――――――――――――――――――――――――――
 ギャラップ社の世論調査では、オバマ大統領の就任以来の平均
支持率は63%であり、非常に高いのです。しかし、この数字を
上回った米大統領がいるのです。それは、1977年のカーター
大統領の69%です。
 注目すべきはこのカーター政権の米国なのです。このカーター
大統領の異常に高い高支持率はどの後どうなったでしょうか。そ
れは大きな失望に変わったのです。どうして、そのようなことが
起こったのでしょうか。カーター政権については、ひとつの事例
研究として検証してみたいと思います。
 振り返ってみると、昨年の11月4日に行われたオバマ候補に
よる大統領選勝利演説で彼は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今こそが大切な時なのです。今こそ、われわれは人々をもう一
 度職に就け、子どもたちのために機会の扉を開け、繁栄を取り
 戻し、平和という大義を推進し、アメリカン・ドリームを再生
 すべきなのです。そして、再確認すべきなのです、基本的な真
 理を。すなわち、多数からひとつへであり、われわれは一つな
 のだということを。息をし続ける限り、われわれは希望を持ち
 続けるのだということを。われわれが冷笑主義と疑いで応じら
 れる場所や、われわれにはできないと言ってくる人たちに対し
 て国民の精神を端的に表す不朽の信条でわれわれは応じます。
 大丈夫、われわれにはできる、「Yes,we can.」と。
  ありがとう。皆さんに神の祝福を。そして神がアメリカ合衆
 国を祝福しますように。
       ――2008年11月4日大統領選勝利演説より
               『オバマ演説集』朝日出版社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 とても見事な演説です。しかし、「われわれはできる」といい
ますが、一体何ができるのでしょうか。
 最近は、現実の世界とネットの世界では、世論が180度違う
ことがよくあります。民主党の小沢問題にしても現実世界の新聞
紙上では「説明責任を果たしていない」とする人が80%となっ
ているのに、ネットの世界では逆転しています。
 『ウォールストリートジャーナル』誌がウェブサイトでブログ
を使って実施している調査によると、オバマ大統領の支持率はさ
んざんなのです。
 最高ランクは「A」ですが、それは10%に達しておらず、最
下位の「F」は76.6 %にもなっているのです。これも逆転の
調査結果です。
 もっとも『ウォールストリートジャーナル』誌の調査ですから
一般的なイメージでの人気ではなく、オバマ政権による金融危機
への対応に不満が高まっているものと考えられます。これは、オ
バマ大統領の責任というより、前任者の責任に帰すべきですが、
国内の大統領に対する評価は低迷気味なのです。
 ところで、オバマ氏とは何者でしょうか。
 政治のリーダーとしてどのような思想を持ち、どのような政策
を実践しようとしているのでしょうか。
 このように問われると、オバマなる人物について、米国人でも
あまりにも不明部分が多くてわからないという人が多いのです。
大統領選のときから、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポ
スト、ロサンゼルス・タイムズという大手新聞、そしてCBS、
NBC、ABCの3大テレビネットワーク、CNNテレビなどは
民主党側に立った報道が多く、オバマ候補の影の部分については
ほとんど報道が行われていないのです。
 明日から、少しずつバラク・オバマなる人物の正体に迫ってい
きたいと考えています。     −―[オバマの正体/01]


≪画像および関連情報≫
 ●オバマ大統領/ハネムーンは終わった
  ―――――――――――――――――――――――――――
  今週水曜日に発表されて調査によると、特にここ数ヶ月間に
  行った自動車産業での救済、政府の急激な出費、その他の経
  済政策について、オバマ大統領の資質に国民が疑問符をつけ
  始めている。今年の1月から大統領としての仕事を始めた彼
  だが、今まで比較的安定した支持率を保っていたが今回の調
  査では前回より5%支持率を落とし56%という数字になっ
  ていると、NBCニュースとウォール・ストリートは伝えて
  いる。
  http://amefuji.blog22.fc2.com/blog-entry-112.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ラクイラでのオバマ大統領.jpg
ラクイラでのオバマ大統領
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2009年07月14日

●「オバマ出自には疑惑がある」(EJ第2612号)

 オバマ米大統領には、その出自をめぐる疑惑があるのです。こ
の疑惑をもとに大統領に立候補するに当たって、「大統領立候補
無効」の訴えが、各地で十数件起こされているのです。
 実は、米国憲法の第2条第1項には米国大統領になるための基
本的な資格条件として次のことが定められているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.本人が米国で生まれているか
     2.両親がともに米国国籍である
―――――――――――――――――――――――――――――
 この場合、両親のうち一人が外国籍の場合は、米国籍の所有者
は10年以上米国に住んでいること、しかも、そのうち少なくと
も5年間は16歳以降であることという条件になっています。
 オバマ氏自身は「自分の出生地はハワイ州のホノルルである」
と主張しているのですが、それに疑いが持たれているので、訴訟
が起こされるのです。
 オバマ氏は、ケニア人の黒人留学生を父に、カンザス州出身の
白人女性を母に、1961年8月にハワイで出生している――こ
れは公式にいわれていることです。
 オバマ氏の父は「バラク・オバマ」といい、オバマ氏は父の名
前をそのまま受け継いだことになります。さて、オバマ氏の名前
は、ミドル名まできちんと書くと、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
        バラク・フセイン・オバマ
―――――――――――――――――――――――――――――
 この「フセイン」というミドルネームは、ケニア人のイスラム
教徒だった祖父であるフセイン・オニャンゴ・オバマからの継承
なのです。
 オバマ氏は、イスラム教徒をあらわす「フセイン」というミド
ルネームを徹底的に隠しています。イスラム教徒に別に罪がある
わけではありませんが、キリスト教が絶対多数の米国ではそれは
明らかにマイナスなのです。
 なぜなら、イスラムは往々にして非民主主義的価値観や、最悪
の場合、テロリズムに結びつけて考えられることが少なくないか
らです。それにイラクのフセイン元大統領を連想されることもマ
イナス要因であったのです。
 しかし、大統領選ではこの「フセイン」というミドルネームは
ほぼ完全に伏せられたのです。それは民主党寄りの大手メディア
が協力したからです。もし、共和党陣営で「フセイン」を口にす
ると、オバマ陣営は「人種や宗教の差別である」として、激しい
反撃が浴びせられたので、オバマ氏のミドルネームを口にするこ
とはタブーとなったのです。
 しかし、もし共和党側の候補者が、「フセイン」というミドル
ネームを持っていたとすると、ニューヨーク・タイムズをはじめ
とする大手メディアは、その政治家のルーツを検証する調査報道
を徹底的にやったであろうことが予測されるのです。ところが、
オバマ氏の場合は、大手メディアはこの件に関しては一切報道し
なかったのです。大手メディアが民主党寄りとはいえ、これも不
思議な話であるといえます。
 オバマ氏に関しては、ハワイに母親であるアン・ダナムさんの
両親が住んでいたことから、オバマ氏は実際にはケニアで生まれ
たにもかかわらず、ハワイで出生届を出したのではないかと疑わ
れているのです。
 仮に生まれたのはハワイであることが事実だとしても、オバマ
氏が生まれたとき母親のアンさんは18歳であったので、10年
以上米国で住んでいる――少なくともそのうち5年以上は16歳
以降という条件に抵触し、子供に米国国籍を与える手続きができ
ないはずなのです。
 そういう疑惑があるので、米国の100万人近くの有権者は、
オバマ大統領の出生地に疑惑があるとして、ハワイ州政府に対し
て、オバマ大統領の出生記録のコピーの提出を要請しているので
すが、ハワイ州政府はこれに応じていないのです。
 2008年の夏には、ニュージャージー州の弁護士レオ・ドノ
フリオ氏は、次の趣旨の訴訟をニュージャージー州の裁判所に起
こしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ氏は父親がケニアの宗主国のイギリス国籍であり、母親
 のアメリカと二重国籍だったので、『アメリカ国内で生まれた
 アメリカ国籍の人間』という要件を満たさない。
 ――古森義久著、『オバマ大統領と日本沈没/知られざる変幻
                と外交戦略』/ビジネス社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この訴訟とほぼ同時期に、ペンシルベニア州の弁護士フリップ
・バーグ氏は、同州の裁判所に対して、次の趣旨の訴訟を起こし
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ氏は実際には父親の祖国ケニアで生まれ、ハワイ州の出
 生証明書は偽造である。  ――上記古森義久氏の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これ以外にも数十件の訴訟が起こされていますが、ドノフリオ
弁護士の訴えは、2008年12月4日に最高裁で却下されてい
るのです。しかし、事実は何一つ明らかになっていないのです。
 また、奇怪なことに、この手の訴訟騒ぎは大統領をめぐる疑惑
であって、大きなニュースであるにもにかかわらず、大手メディ
アでの報道は一切行われていないのです。一体どうなっているの
でしょうか。
 出自などは、間違っていないのであれば、きちんと証明できる
事柄です。しかし、なぜ、オバマ大統領はそれを進んでやらない
のでしょうか。それどころか、オバマ大統領は有力な弁護士を多
く雇い入れ、何とか事実を隠ぺいしようと、必死になっていると
いうのです。          −―[オバマの正体/02]


≪画像および関連情報≫
 ●書籍『オバマ国家』にはオバマ出自に詳しく書いている
  ―――――――――――――――――――――――――――
  『オバマ国家』の筆者は、ジェローム・コーシ氏。自ら哲学
  博士の肩書をつけている。4年前の大統領選の際には、民主
  党大統領候補だったジョン・ケリー上院議員のベトナム戦歴
  にいちゃもんをつける本を出して、物議をかもした人物だ。
  ケリー陣営は当初、この本を全く無視していたが、選挙戦後
  半で響いてしまったのは記憶に新しい。2007年、ヒラリ
  ー・クリントン上院議員ら民主党政治家が次々と大統領候補
  に立候補するや、コーシ氏は全米各地で講演し、「ビル・ク
  リントンをホワイトハウスに近づけるな。やつが大統領の時
  には連続レイプ事件が全米に蔓延したからだ」「マケインも
  ダメだ。やつは麻薬組織とつながりのあるイスラム過激派を
  支援するロビースト団体から政治資金を得ている」などとぶ
  ちまくった。そしてオバマ氏が正式に民主党候補に指名され
  るタイミングを待っていたかのように、本書を世に問うたと
  いうわけだ。
  http://blogs.yahoo.co.jp/yoshimizushrine/55334396.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

オバマの出自に詳しい「オバマ国家」.jpg
オバマの出自に詳しい「オバマ国家」
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2009年07月15日

●「なぜ、出自をそこまで隠すのか」(EJ第2613号)

 オバマ大統領の出自に関する有権者からの訴訟に関しては、国
際政治経済学者の浜田和幸氏の著書に詳しく記述されています。
この事実を知ると、オバマ氏のイメージが大きく変わると思うの
で、ご紹介することにします。
 オバマ大統領は、自分の出自を探られるとよほど困ることがあ
るのでしょう。しかし、自分の出生証明などの出自記録をすべて
隠すのはかなり大変なことなのです。生まれた病院や出生地の記
録、学校関係の記録、パスポートの記録など――これらの情報が
一切外に出ないようにするには有能なスタッフと強い権力が必要
になるのです。
 そこでオバマ氏は、ワシントンやロサンゼルスの有力な弁護士
を多く雇い入れ、現在もそれらの記録を外に出さないようにして
いるのです。これには多額の資金がかかりますが、これに関して
浜田和幸氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2009年4月に公開された選挙管理委員会の資料を見ると、
 オバマ選対本部が大統領選挙が終わった後も、集めた選挙資金
 のなかから100万ドル以上を使い、これらの弁護士を雇い続
 けていることがわかる。なぜ、そこまで隠そうとするのであろ
 うか?また、多くの有権者からの疑問を受け、オバマ大統領の
 出生記録を入手しようとした別の弁護士に対して、オバマ大統
 領の代理人というロサンゼルスの弁護士集団が圧力をかけた。
 彼らは、必要書類申請を取り消さなければ、弁護士活動に支障
 が生じると言っているという。実に、不可解である。そのうえ
 ウィキペディアでオバマ氏の出生に関する疑惑について書き込
 みをしようとると、すべて消されてしまうという。
     ――浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 自分の出自の記録をここまで徹底して隠そうとするのは、本当
のことがわかると自分の立場が危うくなる――具体的には、大統
領職を降りなければならなくなるからです。そうでないなら、出
自について世間の疑惑が生じたら、その記録を隠すのではなく、
積極的に開示すれば疑惑は簡単に晴れるはずだからです。
 レーガン時代に国連大使をしていたことのある黒人のアラン・
ケイズ博士は、自分が大統領選に出馬した経験もある立場から、
この問題ははっきりさせる必要があると考えて、自ら最高裁判所
にまで出かけて行き、必要な情報開示についての手続きを行った
のです。2008年12月11日のことです。
 その申請書類一式は、ジョン・ロバーツ主席判事によって受理
され、その内容は最高裁のウェブサイトで誰でも見られるように
なったのです。しかし、それがどうなったのかについては、浜田
氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところが、オバマ大統領の就任式の直後、1月21日には、そ
 の申請書類の情報が最高裁のネット閲覧から突然削除されてし
 まったという。明らかに、オバマ大統領の側からなんらかの圧
 力が加えられたしか思えない。民主主義を標ぼうする国アメリ
 カにおいて、このような情報操作が行われるとは、にわかには
 信じがたい。しかも、ケイズ博士の代理人の弁護士に対し、オ
 バマ氏が雇ったワシントンのロバート・バウアー弁護士から文
 書が送られてきている。その内容は「ただちに申請を取り下げ
 なければ、重大な事態に直面するだろう。いっさいの訴訟費用
 はそちらの負担になることを覚悟するように」というものだ。
 これは、まさに脅迫状である。
     ――浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 1月20日までネットで見れたものが、次の日の21日には見
れなくなっている――ご存知のように1月20日にオバマ氏は大
統領に就任しているのです。大統領権限で情報開示を中止したと
いわれても仕方がないと思います。
 オバマ氏の選挙管理委員会の報告書によると、2009年1月
〜3月の3ヶ月間に950万ドルのお金が支出されており、これ
は弁護士などへの資金であるといわれています。何しろ10億円
近い金額なのです。その中には、副大統領ジョー・バイデン氏の
息子であるハンター・バイデン氏の法律事務所にも支払いが行わ
れているのです。
 オバマ大統領というのは、クリーンな政治家というイメージが
あり、多くの日本人はそう思っていると考えます。しかし、この
事実を知ると、イメージが違ってくると思います。
 『オバマ国家』という本――EJ第2612号の添付ファイル
参照――があります。2008年のはじめに出版されると、たち
まち全米ベストセラーとなったのです。著者は、ジェローム・コ
ルシ氏というハーバード大学で政治博士号を取得した学者です。
 コルシ氏によると、オバマ氏の父親は、ハワイに留学してきた
ときは、既にケニアでケジアさんという女性と結婚し、子供が2
人いたのです。そして、そのハワイでアンさんという米国籍の女
性と出会って結婚し、オバマ氏を出産するのです。したがって、
母親アンさんとは事実上の重婚になるのです。
 しかし、オバマ氏の父親は、アン母子を捨てて、アメリカ本土
にわたってしまうのです。さらに母親のアンさんは、オバマ氏の
誕生から4年後の1965年にインドネシアの留学生のロロ・ソ
エトロ氏とハワイで再婚しています。
 しかし、継父となったソエトロ氏が当時、誕生したばかりのス
ハルト政権に呼び戻されることになって、一家はインドネシアに
移住するのです。ソエトロ氏は他のインドネシア人と同様、イス
ラム教徒だったのです。
 インドネシアは米国と違い、二重国籍を認めていない国なので
す。そのため、母親のアンさんはインドネシアで生活するために
オバマ本人の米国籍を放棄していることになります。これは大統
領就任条件に抵触します。    −―[オバマの正体/03]


≪画像および関連情報≫
 ●ホット・ニュース/岸井成格『激論激場』より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  オバマの出自は人種、民俗から言えば黒人の血が流れている
  だけでなく、ケニアからの留学生の血で母方は白人、母方の
  祖父はイングランドとスコットランドの血だが、祖母はネイ
  ティブ・アメリカン、つまりインディアン。そして母親が離
  婚し再婚した相手はインドネシア人で、イスラム教の濃いイ
  ンドネシアで育ち、その上にハワイという人種・民族のるつ
  ぼのような所で過ごした経験を持つ。大統領就任の演説でも
  オバマはやはり詩的だと感じたものに「我々は何者か」とい
  う問いかけがあった。「人類はどこから来てどこへ行くんだ
  私は誰だというのを、今日は刻み込む日です」と言ったのは
  これまでに色んな経験を積んできて、自分の出自、置かれた
  立場と戸惑い、そして民俗、人種という問題を表した哲学的
  なものだったと思う。そしてこれは今まさにアメリカが置か
  れている状況をも示す。
  http://news.www.infoseek.co.jp/special/j-is/commons0901_029.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

『オバマの仮面を剥ぐ』.jpg
『オバマの仮面を剥ぐ』
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2009年07月16日

●「オバマにあるノン・アメリカン的雰囲気」(EJ第2614号)

 オバマ大統領は、出自や生い立ちについて聞かれると、いつも
決まってこういうのです。「私は自叙伝を書いている。私の過去
について知りたいなら、それを読んでくれ。そうすれば、すべて
は氷解するから」と。その自叙伝とは次の本のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         バラク・オバマ著/白倉三紀子・木内裕也訳
 『マイ・ドリーム/バラク・オバマ自伝』/ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、その本の中では、肝心の出自については曖昧のままぼ
かされています。都合の悪いことはすべて伏せられているとしか
考えられないのです。
 この本によると、母親のアンさんとオバマ氏は、継父になった
ソエトロ氏と1968年から71年までの4年間ジャカルタ地区
で暮らしていたとしています。オバマ氏が6歳から10歳までの
期間がそれに当たります。しかし、産経新聞ワシントン駐在編集
特別委員・論説委員の古森義久氏の調査によると、オバマ氏のこ
のジャカルタでの生活については、事実と異なる部分が多いとい
うのです。
 1970年にアンさんはソエトロ氏の子供を出産しています。
オバマ氏の妹に当たるマヤ・ソエトロ氏です。そのマヤさんの証
言によると、オバマ氏と一緒にジャカルタで暮らしたのは、19
73年までといっています。自伝に書いているよりも2年長く、
自叙伝と異なっています。
 添付ファイルの写真は、インドネシアで暮らしていたときのオ
バマ・ファミリーです。母親のアン・ダナムさんが抱いているの
が、妹のマヤさんです。
 また、自伝では、オバマ氏はジャカルタの私立のカトリック系
インターナショナル・スクールに入学したことになっているので
すが、古森氏の調査によると、インドネシア側での記録や証言と
必ずしも一致せず、次のような情報が出てきたというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ●当時、バリー・ソエトロと呼ばれたオバマ少年は2年ほど地
  元の公立学校に通い、イスラム教に基づく教育を受け、イス
  ラム聖典のコーランを読誦させられていた。
 ●オバマ少年は、一時はイスラム教を集中的に教えるマドラサ
  (学院)にも通い、宗教教育を受けていた。
 ●インターナショナル・スクールの書類には『バリー・ソエト
  ロはホノルルで生まれたインドネシア国籍の少年である』と
  いう記述があった。    ――古森義久著/ビジネス社刊
   『オバマ大統領と日本沈没/知られざる変幻と外交戦略』
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう情報にもかかわらず、大統領選で繰り返し伝えられた
のは、次のことなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ氏は最初からキリスト教徒であって、かつてイスラム
 教徒だったことない。
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、既出のジェローム・コルシ著の『オバマ国家』の中で
は、オバマ氏が何かのときにコーランの一節をとても流暢に口に
したということが紹介されています。これが事実ならオバマ氏は
イスラム教徒であった可能性が高くなります。
 既に述べたように、オバマ氏の出生については、明確になって
いないのです。オバマ氏は、バラク・フセイン・オバマ氏とアン
・ダナムさんとの間に生まれていますが、実はケニアで生まれた
にもかかわらず、母親の親戚がいるハワイで出生届を提出したの
ではないかという疑いが持たれているのです。しかし、ハワイ州
政府は現時点でも情報の開示には応じていないのです。
 それに加えて、母親の再婚によるインドネシアでの生活がある
のですが、そこにも不明な点があるのです。自叙伝でオバマ氏は
インドネシアで4年間暮らしたと述べていますが、6年暮らして
いるという義理の妹の証言もあります。
 さらに、「ホノルルで生まれたインドネシア国籍の少年」とい
う学校の記録が正しいとすると、母親がインドネシア人と結婚し
てインドネシアに行ったときに、オバマ本人も米国籍を放棄して
いる可能性は高いのです。インドネシアでは二重国籍は認めてい
ないからです。
 そうであるとすると、仮に後から米国籍を取得したとしても、
それは米国に帰化したことを意味し、米国大統領の資格要件を満
たしていないことになる可能性もあるのです。
 一国の大統領が自分の出自に関して疑いを持たれているにもか
かわらず、自ら情報を開示して疑惑を晴らすことをせず、権力を
行使して隠蔽しようとしているのは奇異な話です。これに対して
浜田和幸氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ホワイトハウスのロバート・ギブス報道官は「大統領の出生証
 明書はインターネット上で公開してある」と答えているが、こ
 の証明書はハワイ州政府が作成した抄書で出生場所の特定がな
 されていない。しかも、1961年生まれのはずのオバマ大統
 領の記録でありながら、当時は使われていなかったはずのレー
 ザープリンターで作成されている代物。明らかに偽造文書であ
 る。  ――浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 昨年の大統領選でマケイン候補に投票した人の中には、オバマ
氏について「得体のしれない人物」という印象を持っている人が
多く、一部には「何となく怖い」と考えて、オバマ氏に投票しな
かった人もいるといわれています。何となく彼に「ノン・アメリ
カン」的な雰囲気を感じている人が多いのです。それは、オバマ
氏自ら出自を明らかにしようとしない姿勢にあるといっても過言
ではないと思います。オバマ氏には出自だけでなく、他にもたく
さんの疑惑があります。     −―[オバマの正体/04]


≪画像および関連情報≫
 ●2008年8月7日「共同」記事/「売れるオバマ批判本」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米大統領選の民主党指名候補となるオバマ大統領を批判する
  本の売れ行きが米国内で好調で、ベストセラー上位に顔を出
  してきた。共和党の選挙戦術の一環ともいえ、オバマ陣営は
  神経をとがらせている。インターネット書店大手アマゾンの
  ベストセラー10冊(ノンフィクション部門、6日現在)に
  はオバマ氏の批判本が1位、3位、6位に並ぶ。このうち新
  刊で1位の「オバマ・ネーション」の副題は「左翼政治と個
  人崇拝」。オバマ氏とイスラム教との結びつきなどを強調し
  大統領になれば「民主党が失敗してきた過激な政策」を繰り
  返すと警鐘を鳴らしている。著者のジェローム・コルシ氏は
  共和党系の作家で、前回大統領選では民主党候補だったケリ
  ー上院議員を攻撃する本を出版。効果をあげた“実績”を持
  つ。                   ――「共同」
 ●添付ファイル写真出所
  浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

インドネシアでのオバマ一家.jpg
インドネシアでのオバマ一家
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2009年07月17日

●「テレプロンプターに頼る大統領」(EJ第2615号)

 「イエス・ウイ・キャン」――これは、オバマ大統領が選挙中
に演説の最後で使っていたフレーズです。演説の中でせいいっぱ
い「夢」や「希望」や「明るい未来」を語り、最後は「イエス・
ウイ・キャン」――われわれはできるでしめくくるのです。
 ところが、大統領選の最中にヒラリー陣営は、オバマ候補の演
説は「パクリ」だとクレームをつけたのです。何のパクリかとい
うと、マサチューセッツ州知事のデバル・パトリック氏の演説と
そっくりだというのです。
 既出の浜田和幸氏の本から、オバマ氏とパトリック氏の演説の
一部を比較すると、次のようになります。きわめてよく似ている
というより、そっくりです。
―――――――――――――――――――――――――――――
≪オバマ氏≫
Don't tell me words don't matter."I have a dream".
Just words ? "We hold these truths to be self-evident,
than all men are created equal". Just words ?
"We have nothing to fear but fear itself".
Just words ? Just speeches ?
≪パトリック氏≫
"We hold these truths to be self-evident, that all men
are created equal".Just words ?
"We have nothing to fear itself". Just words ? "Ask not
what your country can do for you, ask what you can do
for your country". Just words ? "I have a dream".
Just words ?
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは当然なのです。なぜなら、同じスピーチ・ライターが書
いたからです。選挙の演説をスピーチ・ライターに依頼すること
はよくあることです。このスピーチ・ライターが、ジョン・ファ
ブローなる27歳の青年であることはよく知られています。
 しかし、それは演説をする本人がスピーチ・ライターに演説し
たい内容を話し、それをスピーチにまとめてもらうのが普通なの
です。オバマ氏とパトリック氏の2人がたまたま同じスピーチ・
ライターに依頼したのであれば、スピーチのトーンは似てくるか
もしれませんが、内容は違ってくるのが当然です。しかし、この
2人は演説の内容まで同じです。どうなっているのでしょうか。
 それは、オバマ氏もパトリック氏も、同じ人に選挙をプロモー
トしてもらっているからです。その陰の選挙プロモーターは次の
人物です。
―――――――――――――――――――――――――――――
        デイビット・アクセルロッド
―――――――――――――――――――――――――――――
 アクセルロッド氏は元新聞記者で、現在はシカゴ政界の黒幕と
いわれる人物であり、政治コンサルタントとして隠然たる影響力
と資金力を持つ民主党寄りの選挙プロモーターです。
 オバマ氏もパトリック氏もアクセルロッド氏がスピーチ・ライ
ターのジョン・ファブロー氏に書かせた原稿を暗記して話してい
るだけであるといわれているのです。アクセルロッド氏は世論を
動かす天才プロモーターです。
 そのアクセルロッド氏の現況について、浜田和幸氏は次のよう
に伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 その天才演出家アクセルロッド氏は、いまやホワイトハウスの
 奥深い執務室で、オバマ大統領の顧問として、日々新たなメデ
 ィア対応に采配をふるっている。現在の最大のターゲットは、
 金融再生策や経済刺激策をどう国民に売り込むかである。ブッ
 シュ前政権時代に「影の大統領」とも椰掩されたカール・ロー
 プ顧問と同じ立場といえそうだ。このアクセルロッド氏こそが
 「夢と希望の政治」のシナリオライターである。
     ――浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、これはおかしな話です。オバマ大統領は人前に出て何
かを話すときは、どうやらすべてアクセルロッド氏の考える文案
をスピーチ・ライターが演説原稿にまとめていると思われるから
です。これでは自分の考えそのものがないということになってし
まいます。
 まさかそんなことはあるまいと誰でも考えますが、それを裏付
ける事実はいくつもあるのです。そのひとつが、「テレプロンプ
ター疑惑」です。
 テレプロンプターというのは、普通、演壇の前の左右両側に設
置される透明なガラス板で、演説の文章が電子的に表示されてい
くのです。演説する側は左右の表示を順番に読むわけですが、テ
レビには板が映らないため、自然に発言しているようにもみえる
のです。オバマ大統領は、どんな短い演説においてもこのテレプ
ロンプターを使うので、「テレプロンプター・プレジデント」と
呼ばれています。
 2009年2月25日、ロック商務長官の指名発表という短い
スピーチにおいてもプロンプターを使ったのです。それに対して
ロック商務長官はポケットから取り出したノートだけで演説をす
る姿が対照的だったと新聞は報道しています。
 話す内容から話す原稿まで人手を借り、しかもそれをプロンプ
ター映してしゃべる――これでは自分というものがまったくない
ということになります。
 記者との一問一答でもオバマ大統領はプロンプターを見ながら
話しているというのです。記者から質問が出て、オバマ氏が答え
る前に、瞬時に答えの基礎となる資料や答えそのものが背後のス
タッフから提供され、プロンプターに映るというのです。オバマ
氏は自由自在の質疑応答であるはずのやりとりでも、他者によっ
て既に書かれたスクリプトを読み上げるだけだといいます。
                −―[オバマの正体/05]


≪画像および関連情報≫
 ●オバマ大統領とテレプロンプター
  ―――――――――――――――――――――――――――
  同報道によると、この依存度は歴代大統領でも異例なほど高
  い。大統領歴史研究家のマーサ・クマー氏は「他の大統領は
  だれもこれほど一貫してプロンプターを使ったことはない」
  と述べ、その理由の1つはプロンプターが演説者と聴き手の
  障壁になるためだと指摘した。ブッシュ前大統領は主要演説
  以外ではまず使わず、簡単な声明や地方遊説ではせいぜい小
  さなノートを使用する程度で、他の大統領も使用の頻度はず
  っと低かったという。オバマ大統領のプロンプター依存には
  「演説が不自然で人工的になりすぎる」という批判がある一
  方、ホワイトハウスでは「大統領が国民に訴えることはその
  内容が最重要であり、伝達の方法は問題ではない」と反論し
  ている。
  ―――――――――――――――――――――――――――

どこでもプロンプターがないと話せない大統領の風刺画.jpg
どこでもプロンプターがないと話せない大統領の風刺画
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2009年07月21日

●「チェンジすべきものは何か」(EJ第2616号)

 先週はオバマ米大統領の出自に不明な点があるという問題を取
り上げました。本来出自については本人であるオバマ氏に責任は
ないわけですが、ことは大統領の資格にかかわる問題であり、そ
れを隠していることには問題があります。
 ところで、オバマ米大統領は、大統領に就任してからは、選挙
期間中にしきりに訴えていたことと異なることをいくつもやって
いるのです。いわゆる「オバマの変節」です。それは小さいこと
から大きいことまでいろいろありますが、これについては少しず
つ明らかにしていきます。
 オバマ大統領は、2009年1月20日の大統領就任演説にお
いて次の趣旨のことを述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカの経済はひどく弱体化しており、一部の強欲な資本主
 義者と「多くの一般の国民」が、難しい決断を避け、新しい時
 代に備えることができなかったことにその原因がある。
              ――オバマ米大統領就任演説より
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、米国の経済が弱体化してしまったのは、一部の強欲な
資本主義者と多くの一般の国民が難しい決断を避けたことが原因
であるといっているのです。
 しかし、選挙期間中にオバマ氏は同じ趣旨のことを何回も繰り
返し訴えているのですが、そのさいには、米国経済を弱体化させ
た責任は、「一部の強欲なウォール街のファンド・マネージャー
や金融機関の経営陣にある」とはっきりと特定していて、「多く
の一般の国民」は入っていなかったのです。もし、オバマ氏が国
民にも責任があると本当に思うなら、選挙のときの演説でもはっ
きりとそういうべきであったのです。しかし、それをいえば選挙
は負けていたかもしれないのです。
 また、選挙期間中の演説で訴えていたグリーンニューディール
政策や500億ドルの資金を投入して500万人の新たな雇用を
創出するなど、具体的に政策を訴えていたのに、就任演説ではそ
ういう具体的な目標や数字は影をひそめ、きわめて抽象的ないい
回しに後退してしまっているのです。たとえば、米国の産業競争
力を高めるために、大学や医療を無料化するという表現は、「新
しい時代の要請に合うように大学を変えていく」という抽象的表
現に後退しています。
 そしてかつてのケネディの演説のように、国家の困難に立ち向
かうには、すべてを国に頼るのではなく、国民一人ひとりが困っ
ている人に親切心や無私の心で救いの手を差し伸べ、国民全体の
責任ある態度と行動によって、難局を乗り切ろうと、ここでも国
民の責任を強調しているのです。
 もっともこれは仕方がないことであるかもしれないのです。オ
バマ氏は選挙中は米国がそこまで傷んでいるとは考えていなかっ
たのではないかと思います。しかし、実際に政権を担当するにあ
たってあまりにも厳しい米国の実情を知り、自分が選挙中に訴え
てきた「チェンジ」をすることがいかに困難であるかわかってき
たので、表現を大幅に後退せざるを得なかったのでしょう。そし
て、次のように国民に対して責任ある役割を求めるトーンの就任
演説にならざるを得なかったと考えることができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この試練を乗り越えるためには、資本主義も社会主義もない。
 あるのは責任主義である。国家に頼る気持ちを捨て、国民一人
 ひとりがどれだけ責任ある役割に目覚めるかである。
                    ――オバマ米大統領
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ氏は、選挙を通して次の3つのキーワードで有権者に訴
えてきたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.ホープ  ・・・・・   希望
      2.チェンジ ・・・・・   変革
      3.ビリーブ ・・・・・ 信ずる心
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中で最もインパクトが強かったのは「チェンジ」です。一
体何をチェンジさせるのでしょうか。
 よく考えてみると、米国をここまで凋落させたのは、一部の強
欲なウォール街のファンド・マネージャーや金融機関の経営陣だ
けではなく、多くの一般の国民にもその責任はあるのです。
 というのは、貯金をせず、計画的に頭金を準備することなく、
欲しいものがあればローンで何でも手に入れるライフスタイル、
欲しいものはすぐに手に入れたい、そうでなければ満足できない
という消費行動が多くの国民の間で定着していたことは確かなの
です。それが家電製品ぐらいであればまだよかったのですが、や
がて車や住宅までそのような計画性のない消費行動で手に入れる
ようになっていたのです。
 オバマ氏がチェンジさせたかったのは、米国社会に定着してい
るこういう消費行動だったのではないでしょうか。しかし、そう
いう国民のライフスタイルをチェンジさせるのは容易なことでは
ないのです。多くの米国民は、オバマ大統領をあたかも救世主の
ように考えていて、現時点でも多くの期待を抱いています。
 これについて、既出の浜田氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 一般国民は勝手といえば勝手である。勝手につくりあげた夢に
 酔いしれ、厳しい現実を見ようとはしない。そうした夢がいつ
 までもつのか?ハネムーン期間と呼ばれている就任後「最初の
 100日間」は過ぎたが、まだオバマ大統領への期待感は残っ
 ている。しかし、多くのアメリカ人の不満や失望感が爆発する
 恐れは、日増しに高まりつつある。
     ――浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
                −―[オバマの正体/06]


≪画像および関連情報≫
 ●オバマ米大統領就任演説より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  政府はやれること、やらなければならないことをやるが、詰
  まるところ、わが国がよって立つのは国民の信念と決意であ
  る。堤防が決壊した時、見知らぬ人をも助ける親切心であり
  暗黒の時に友人が職を失うのを傍観するより、自らの労働時
  間を削る無私の心である。我々の運命を最終的に決めるのは
  煙に覆われた階段を突進する消防士の勇気であり、子どもを
  育てる親の意思である。(一部略)いま我々に求められてい
  るのは、新しい責任の時代に入ることだ。米国民一人ひとり
  が自分自身と自国、世界に義務を負うことを認識し、その義
  務をいやいや引き受けるのではなく喜んで機会をとらえるこ
  とだ。困難な任務に我々のすべてを与えることこそ、心を満
  たし、我々の個性を示すのだ。    ――オバマ米大統領
  ―――――――――――――――――――――――――――

オバマ米大統領就任演説.jpg
オバマ米大統領就任演説
posted by 平野 浩 at 04:13| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月22日

●「ヘッジファンド業界とオバマ大統領」(EJ第2617号)

 1933年に米国では、「グラス・スティーガル法」が制定さ
れています。この法律は金融機関が一般家庭の投資熱を煽った反
省から生まれたもので、証券業務と銀行業務を分離しています。
ところが、この法律は1994年に廃止されているのです。
 この法案を廃案に追い込んだ立役者とされているのが、フィル
・ダレアム前上院議員であり、昨年の大統領選の共和党のマケイ
ン候補の経済顧問をしていた人物です。
 そして、1999年に「グラム・リーチ・ブライリー法」が制
定され、金融機関同士の垣根が撤廃されたのです。これによって
銀行と証券の区別がなくなり、金融機関同士の競合が激化するこ
とになったのです。この法律の制定によって、金融投資テクノロ
ジーが発達し、デリバティブが激増したのです。
 ここで、この法案の成立を推進したのは、クリントン政権で財
務長官をしていたロバート・ルービン氏とローレンス・サマーズ
氏であったという事実を覚えておくべきです。
 1993年から2001年までのクリントン政権は、ITや不
動産バブルを政策的にもたらし、この法律を活用し、米経済を活
性化させているのです。
 しかし、この「グラム・リーチ・ブライリー法」こそが、今回
の金融危機をもたらした元凶なのです。もし、この法律がなけれ
ば、保険会社のAIGが大量のCDSを抱え込むことも、投資銀
行(証券会社)が少ない資本でレバレッジを最大限に利かせて投
資に奔走することもなかったし、リーマン・ブラザーズも破綻す
ることはなかったのです。
 オバマ氏は、大統領選にあたって、この「グラム・リーチ・ブ
ライリー法」を徹底して批判し、タックスヘイブンの濫用を防止
する法案を強力に推し進めていたのです。
 タックスヘイブンとは、和訳すると「租税回避地」という意味
であり、外国資本や外貨獲得を目的として、意図的に税金を優遇
(無税または極めて低い税率)して、企業や富裕層の資産を誘致
している国や地域のことをいい、ヘッジファンドの顧客である富
裕層が税金逃れのために利用しているのです。オバマ氏はこれに
規制をかけようとしたのです。
 このことは一般の国民から見ると、オバマ氏の主張は正当性が
あり、支持できるのに対し、ヘッジファンド業界やウォール街に
とってオバマ氏は脅威です。ヘッジファンド業界やウォール街と
しては、最良の選択は共和党のマケイン氏であり、次善の策はヒ
ラリー・クリントン氏なのです。
 しかし、彼らの選挙分析によると、共和党のマケイン氏は形勢
が不利であり、クリントンも勝てそうもないと判断したのです。
ヘッジファンドは商売がら調査分析はお手のものなのですが、ど
のように考えても大統領はオバマ氏になると予測したのです。
 ヘッジファンドの調査では、2008年4月の時点で、クリン
トン、オバマ両候補の献金総額は次のようになっていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    クリントン候補 ・・・・・  860万ドル
      オバマ候補 ・・・・・ 4250万ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 この調査結果を見て、ヘッジファンド業界はオバマ勝利間違い
なしと踏んで、オバマ候補に対する献金を加速させたのです。勝
ち馬に乗るのは彼らの常道だからです。
 ヘッジファンド業界がマケイン候補に乗らなかったのは、支援
しても大きなリターンが見込めなかったからです。というのは、
マケイン氏の妻のシンディーさんは、ヘンズレー一族の出身であ
り、米国最大のビール販売会社であるヘンズレー株式会社の社長
であり、米国でも有数の資産家であって、選挙資金にはぜんぜん
困らなかったからです。
 したがって、2008年9月のウォール街の崩壊は、富裕層に
属するマケイン候補には不利に働き、オバマ大統領の実現を後押
ししたのです。ヘッジファンド業界やウォール街の予測は、見事
に的中したのです。
 注目されるのは、金融危機の元凶ともいうべきヘッジファンド
業界やウォール街から多額の献金を受けて大統領に当選したオバ
マ氏のスタンスです。選挙戦が終わった時点でヘッジファンドや
ウォール街は金融危機を引き起こした極悪業界とされてしまって
いたからです。
 オバマ新政権が発足すると、オバマ大統領とティモシー・ガイ
トナー財務長官は、ウォール街の強欲資本主義者たちの仲間の中
にヘッジファンドを加えて、その情報開示や預かり資産の運用に
ついての透明性を求める動きを強化する方針を打ち出しているの
です。これは投資家の機密保持を何よりも身上とするヘッジファ
ンドにとって好ましい動きではなかったのです。
 オバマ大統領とガイトナー財務長官によるこの公式な発言によ
って、オバマ新政権とヘッジファンド業界とは対立しているよう
に見えたのです。
 しかし、不可解なことに、オバマ陣営は大統領の就任式の費用
をヘッジファンド業界に出してもらっているのです。このときの
費用は1億5000万ドル(150億ドル)もかかっています。
 オバマ大統領は、国家財政が逼迫しているときであり、連邦政
府の予算は使わないことを宣言し、ロビー団体や特定の業界から
の資金も受け取らない方針を明らかにしていたのです。オバマ本
人の意向としては、ネットを通じて集める国民からの少額の寄付
をあてにしていたのですが、すでに多くの寄付を選挙資金として
集めていたので、期待したほどのお金は集まらなかったのです。
 そこで最終的にオバマ陣営は、ヘッドファンド業界に募金の要
請を行い、ジョージ・ソロス氏をはじめとするヘッジファンド業
界の立役者たちはこぞってオバマ陣営の要請に応じたのです。
 かくして、オバマ政権とヘッジファンド業界はこうした献金を
通じて切っても切れない関係になっているのです。これから規制
しようという業界とです。    −―[オバマの正体/07]


≪画像および関連情報≫
 ●「グラム・リーチ・ブライリー法」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1999年に米国の金融近代化法ができました。法案審議を
  主導した各委員長名前を取って、「グラム・リーチ・ブライ
  リー法」と呼ばれています。この法律で、グラス・スティー
  ガル法によって銀行、保険、証券という金融業務を分離して
  いた垣根が撤廃。金融に関するあらゆる業務が、金融持株会
  社を創設することで、一つの母体で運営されることが可能に
  なりました。米国の金融制度の大転換であり、金融制度は一
  挙に世界恐慌以前のなんでもありの体制に戻されました。
  http://www.kokuminrengo.net/2008/200811-economymotoyama.htm
 ●EJ第2489号/「グラム・リーチ・ブライリー法」
  http://electronic-journal.seesaa.net/archives/20090114-1.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

オバマ大統領とガイトナー財務長官.jpg
オバマ大統領とガイトナー財務長官
posted by 平野 浩 at 04:16| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月23日

●「金融危機の戦犯とオバマ政権」(EJ第2618号)

 大統領就任式にかかる費用は、いかに国家財政が逼迫している
からといえども連邦政府の予算から出すべきです。その代わりに
質素に行うべきです。もし、それができないなら、幅広く企業や
団体から資金を集めるべきです。いかに経済が疲弊しているとは
いっても米国には世界に冠たる企業がたくさんあり、就任式の費
用ぐらいはすぐ集まるはずです。
 問題は、オバマ大統領自身が連邦政府の予算を使わないことと
特定の業界からの資金は受け取らないと公式に宣言しながら、そ
の裏で結果としてヘッジファンド業界という特定の業界から資金
援助を受けて大統領就任式を行ったということは好ましいことで
はないと思います。
 そのようなことをすれば、どうしても大統領はヘッジファンド
業界に対して断固たる態度がとれなくなるはずです。現実にオバ
マ大統領は、次のようにヘッジファンド業界を擁護するような発
言を行っているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私はヘッジファンドそのものが悪いとは思っていない。数ある
 金融ツールの1つにすぎない。その意味ではヘッジファンドは
 極めて有益な存在といってもいいだろう。ただ一部のウォール
 ストリートのプライベート・エクイティ・ファンドやヘッジフ
 ァンドのマネージャーたちが高額の利益や収入を得ていながら
 適正な税金を納めていないのは問題だ。
     ――浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はオバマ政権はヘッジファンド業界とズブズブの関係なので
す。昨日のEJで「グラム・リーチ・ブライリー法」の成立を推
進したのはクリントン政権で財務長官を務めたたロバート・ルー
ビン氏とローレンス・サマーズ氏の2人であると書きました。こ
の法律こそ今回の金融危機を引き起こした元凶である――こうい
っても過言ではないと思います。
 まず、ローレンス・サマーズ氏は、現在ホワイトハウスの経済
諮問会議議長に就任しています。今さらいうまでもなく、ローレ
ンス・サマーズ氏はヘッジファンド業界の完全なる擁護者です。
そういう人をオバマ大統領は重用しているのです。
 もうひとつ、ロバート・ルービン氏はどうでしょうか。
 そのルービン氏の愛弟子であるティモシー・ガイトナー氏が財
務長官に就任しているのです。ガイトナー財務長官は、クリント
ン政権で国際金融担当の財務次官を務めているのです。そのとき
の財務長官はロバート・ルービン氏なのです。したがって、ガイ
トナー財務長官は、ルービン氏の子飼いであり、その基本体質は
変わらないと考えられます。
 このローレンス・サマーズ氏はどういう人物なのでしょうか。
 ローレンス・サマーズ氏についての日本人の一般的イメージは
ハーバード大学学長という米国のアカデミックを代表する学者と
いう印象です。そこから見えてこないのは、サマーズ氏の飽くな
き金権体質なのです。
 このサマーズ氏はハーバード大学で大きな不祥事を起こして大
学を追われています。その事件について浜田和幸氏は著書で次の
ように紹介しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 前代未聞の投資スキャンダルも起こしている。それは、ハーバ
 ード大学がアメリカ政府の国際援助庁(USAID)から委託
 を受けたロシアの株式市場育成プロジェクトに関し、サマーズ
 学長の子飼いとされる経済学の教授が、インサイダー取引にか
 かわっていたことが判明した事件である。結局、ハーバード大
 学は政府に対して、2700万ドルもの賠償金を支払う羽目に
 なった。――浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ハーバード大学を追われたサマーズ氏を受け入れたのは、ヘッ
ジ・ファンドのD.E.ショーだったのです。紹介したのは、ルー
ビン元財務長官です。
 D.E.ショーにおける勤務は、週に1回出社するだけで520
万ドル(5億2000万円)の給与を得ていたのです。そのかた
わら、ウォールストリートの金融機関で講演を行っていますが、
年間270万ドル、1回の講演料が約2000万円〜3000万
円あったというのですから驚きです。
 ロバート・ルービン氏は、クリントン政権入りする前はゴール
ドマン・サックスのCEOであり、クリントン政権を離れてから
は、今度はシティグループの経営執行委員会会長を務めているの
です。前財務長官のポールソン氏もゴールドマン・サックスのC
EO出身であり、このように政府と金融機関を行き来する人が多
いのです。浜田氏によると、これを「リボルビング・ドア」とい
うのだそうです。
 ルービン氏やサマーズ氏、そしてポールソン前財務長官――彼
らのように民間から政府の閣僚級のポストに就任すると、税金を
免除される特典が与えられるのです。具体的にいうと、そういう
人は「米国のノンレジデント/非居住者」になれるのです。
 ポールソン前財務長官を例にとります。彼は財務長官になる前
はゴールドマン・サックスのCEOをしているので、辞任した現
在、非居住者になれます。非居住者とは、海外に出ると、大使な
どのように治外法権の扱いになるので、当然税金はかからないの
です。したがって、民間時代に蓄えた株券や債券を海外に行って
売却すると、税金はかからないのです。
 『フォーチューン』誌によると、ポールソン前財務長官はこれ
を利用して、保有していたゴールドマン・サックスの株を売り、
5億ドル(500億円)をノータックスで懐に入れたとされてい
るのです。こういう特典が得られるので、彼らは「リボルビング
・ドア」を繰り返して、自分の蓄財を増やしているのです。オバ
マ政権はこういう人物と深くつながっていることになります。こ
れでいいのでしょうか。     −―[オバマの正体/08]


≪画像および関連情報≫
 ●「リボルビング・ドア」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「リボルビング・ドア」という言葉を聞いたことがあるでし
  ょうか。回転扉のことなのですが、アメリカでは政府機関の
  要職を指すことがあります。○○省長官、副長官、長官補な
  どを務め、そこで箔をつけて民間セクターで魅力的なポスト
  を見つけて去っていく姿を回転扉に例えたわけです。副長官
  補以下のポストを経験し、一旦民間セクターに戻った後、再
  び副長官や長官になる場合もあります。彼らは、ポリティカ
  ル・アポインティ(政治任用)ですから、共和党系、民主党
  系と色分けができ、共和党大会、民主党大会に出席し、コネ
  クションを広げ、政治活動や献金をしながら猟官運動をしま
  す。公職時代の報酬は決して高くないのですが、仕事の中身
  が魅力的なのと、その後の「アメリカ版天下り」まで考える
  と政府の要職を求めることは十分割に合うようです。
        http://dndi.jp/00-ishiguro/ishiguro_55.php
  ―――――――――――――――――――――――――――

サマーズ&ルービン.jpg
サマーズ&ルービン
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月24日

●「ダーティな政治家/オバマ上院議員」(EJ第2619号)

 ここまで米オバマ政権には、今回の世界レベルの金融危機を引
き起こしたA級戦犯ともいうべきヘッジファンドに近い人物が要
職を占めているという事実を明らかにしてきています。
 オバマ大統領自ら彼らを強欲資本主義と口では糾弾しながら、
裏ではヘッジファンド業界と深い関わりを持ち、多くの献金も受
けているのです。こういう政治姿勢を持つバラク・オバマという
人物は、どういう政治家なのでしょうか。
 ワシントンに本拠を持つ「ジュディシャル・ウオッチ」という
議員の監視団体があります。この団体は、毎年「ダーティーな政
治家ワースト10」を発表しているのですが、オバマ上院議員は
そのリストに必ず名前が載る常連だったのです。既出の浜田氏は
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は、オバマ氏は上院議員時代から、金に汚い政治家として、
 悪名が轟いていた。不動産業者や金融機関からは、違法すれす
 れの政治献金を取り放題であった。(一部略)オバマ氏の地元
 のシカゴは、その土地柄のせいか、政治と金の腐敗は当たり前
 という風潮がある。そのシカゴでのし上がったのだから、彼は
 はなから金権体質を持っていたのである。
     ――浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ氏といえば、ネット上の小口献金で史上最高額を集めた
ことで有名ですが、一人平均25ドルであったといいます。しか
し、それにしても選挙資金があまりにも潤沢に集まり過ぎていた
のです。それは、そういう小口献金に加えて、ヘッジファンド業
界などから膨大な大口献金があったからなのです。
 大口献金の中では、ヘッジファンド以外で突出しているのは、
ゴールドマン・サックスであり、その他、USBアメリカ、リー
マン・ブラザーズ、JPモルガン・チェース、シテイグループ、
モルガン・スタンレーなど、ウォール街の名だたる金融機関が軒
並みリストに載っているのです。ちなみに、大口献金組織の社員
名義の献金は、一人平均2300ドルであったのです。
 なぜ、ヘッジファンドをはじめこれほどの金融機関がこぞって
献金するのでしょうか。
 それはおいしい汁を吸えるからです。現在「サマーズ・ガイト
ナー計画」が実行されています。金融機関の不良債権の買い取り
プランですが、不良債権の価格は金融機関が決めるルールになっ
ています。もちろん価格は低いラインに設定されます。
 しかし、この買い取りには買取者が絶対に損をしない仕組みに
なっているのです。もし、将来、その不良債権が値上がりすれば
儲かりますが、値下がりした場合、その差額は国民の税金で穴埋
めされることになっているのです。いわゆる瑕疵(かし)担保と
同じです。「サマーズ・ガイトナー計画」とはそういうプランな
のです。この仕組みなら、買取者は絶対に損をしないので、多く
の企業が買取者になろうとしますが、そういう場合、政権内部に
ルートがあれば確実に買取者になれるのです。
 なかでもおかしいのは、AIGという保険会社です。AIGは
1800億ドル(18兆円)もの公的資金の注入を受けているに
もかかわらず、社員に対して4億5400万ドル(454億円)
ものボーナスを支払っているのです。
 オバマ大統領はこれに対してテレビカメラの前で怒ってみせま
したが、どうも下手な芝居のように思えてならないのです。その
証拠に、その後もAIGをかばい続けており、国民の怒りに背中
を向けています。株価は急落し、時価総額も2140億ドルもの
減損が生じているにもかかわらずです。
 AIGにはこれからも巨額の公的資金を投入しないと存続でき
ないのです。それがわかっていながら、オバマ政権はAIGをか
ばい続けているのです。よほど潰すと困る事情があるようであり
これについては改めてレポートする予定です。
 さて、オバマ政権にはもう一人気になる人物がいるのです。そ
れは、ラーム・エマニュエル大統領主席補佐官です。主席補佐官
というのは、政権の内部も内部、一番大統領に近いところにいる
人物であり、つねに大統領と行動をともにするのです。そして、
ホワイトハウスを実質的に運営する役割を担います。
 政権の閣僚、たとえヒラリー国務長官でも大統領に会うときは
アポが必要なのですが、主席補佐官はアポなしで会えるのです。
エマニュエル主席補佐官は、オバマ大統領がたっての希望で実現
したといわれますが、彼はどのような人物なのでしょうか。
 エマニュエル氏は、イスラエル出身のユダヤ人であり、クリン
トン政権では、大統領の政治顧問を務めています。しかし、この
人物は、ヘッジファンドとも関係が深く、浜田氏によると、政権
入りする前は、ヘッジファンドで2000万ドル(20億円)近
い収入を得ていたといわれています。
 エマニュエル主席補佐官については、山口増海さんのブログに
詳しいのでご紹介します。どうやらいわくつきの人物です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 大統領首席補佐官はラーム・エマニュエル氏です。エマニュエ
 ルと聞くと、悩ましいエマニュエル夫人を思い出す人もいるで
 しょうが、この男のエマニュエルは、どっこい優しい相手では
 ありません。かれは仲たがいした友人に死んだ魚を送りつけた
 といわれるほどいやな人間です。ただ、生きた魚を送るのも、
 飛び跳ねたりして困ったものだと思うのですが、アメリカでは
 狷介な人間と見られています。また、食事中に政敵を呪いなが
 ら、ナイフをテーブルに突き刺したという伝説も伝わっていま
 す。短気で攻撃的です。現在は、民主党下院議員の会長も務め
 ています。テレビ人気ドラマ「ザ・ホワイトハウス」の登場人
 物のモデルにもなっています。
http://yamaguchi-masumi.blogspot.com/2008/11/blog-post_12.html
―――――――――――――――――――――――――――――
                −―[オバマの正体/09]


≪画像および関連情報≫
 ●エマニュエル主席補佐官についてのブログより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  読売新聞は、「剛腕」などと書いているが、ようするにやく
  ざのような人物だ、ということだろう。口が汚い、というこ
  とでも有名で、また「投資会社」経営者で、大金持ち、とい
  う人物でもある。ちなみにエマニュエル氏はつい最近までフ
  レディマックの理事をしていた人物でもある。このように、
  オバマ新政権は、まっしぐらにユダヤ系の富豪たちのために
  働くようになりそうで、結局、キリスト教国家としてのアメ
  リカが、いよいよユダヤ系富豪らに乗っ取られた格好になり
  つつあると言えよう。これは、アメリカというキリスト教国
  家が、ユダヤ系富豪らに利用され、使役させられ、衰退して
  いく、ということになると思っていいだろう。金融恐慌との
  絡みから、これから、アメリカは大変な時期に突入すること
  になる。   http://rockway.blog.shinobi.jp/Entry/38/
  ―――――――――――――――――――――――――――

エマニュエル主席補佐官.jpg
エマニュエル主席補佐官
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2009年07月27日

●「ウォール街の守護神/ガイトナー」(EJ第2620号)

 2007年5月のことです。当時ニューヨーク連邦準備銀行総
裁であったティモシー・ガイトナー氏は、アトランタにおける講
演で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカの上位金融機関は極めて健全な財務体質であり、デリ
 バティブ取引に関しても革新的な手法を駆使し、リスク管理は
 以前に比べはるかに改善されており、まったく問題がない。大
 手金融機関は自己資本においてもリスク管理においてもかつて
 ないほど健全な状況におかれている。
     ――浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ガイトナー氏は、2003年11月からニューヨーク連銀総裁
の職についており、2009年1月に財務長官に就任するため辞
任するまで、5年以上その職にあったのです。そのことを記憶に
とどめておいていただきたいと思います。
 ガイトナー総裁の上記の講演ですが、2007年5月といえば
それまで上昇を続けてきた住宅価格の伸びが急速にダウンし、い
わゆるサブプライムローン危機が顕在化しはじめた時期に当たる
のです。そのように考えたとき、ニューヨーク連銀の総裁という
責任ある地位にある人物がこういう発言をするとは考えられない
ことです。
 彼ほどのマーケットのプロが状況を読めていないはずはなく、
おそらく投資家や市場を安心させる方便としての発言と考えられ
ますが、いずれにしても無責任のきわみです。
 ガイトナー氏は38歳のときに財務省の国際担当財務次官に昇
進していますが、そのときの財務長官がロバート・ルービン氏で
あり、続くルービン財務長官の後任であるローレンス・サマーズ
財務長官のもとで、2001年まで仕事をしているのです。
 ブッシュ政権の誕生とともにガイトナー氏は、財務省を離れて
外交問題評議会(CFR)に籍を置いています。この外交問題評
議会は米国の有名なシンクタンクのひとつですが、あのデイヴィ
ッド・ロックフェラー氏が名誉会長を務めるいわくつきのシンク
タンクであり、これについては改めて述べます。
 そして、2003年11月にガイトナー氏は、ニューヨーク連
邦準備銀行総裁に就任するのですが、それから5年間というもの
彼はウォール街の中心で、業界のトップたちと精力的に会って人
間関係を築いたのです。歴代のニューヨーク連邦準備銀行総裁の
中でも彼ほど銀行家やヘッジファンドのマネージャーたちと頻繁
に食事をしたり、パーティーに付き合ったりした総裁はいないだ
ろうといわれているのです。
 2004年のことです。ニューヨーク連銀は、シティグループ
の融資方法に問題があるとし、7000万ドルの罰金をかけたの
です。そして、その翌年、シティグループが、企業買収に伴って
使った手法に問題があるとして、企業買収の業務停止命令を出し
ているのです。
 この措置について、世間はガイトナー総裁はなかなか厳しいこ
とをやるという印象を持ったはずです。しかし、それから2年後
の2006年、ニューヨーク連銀はシティグループに対して科し
ていた規制をすべて解除してしまうのです。その理由としてシテ
ィグループは大幅な業務改善を行い、2年前の問題の再発防止に
全力を尽くしたとしているのです。
 規制を解かれたシティグループは、待っていましたとばかり住
宅ローンの証券化にさらに深入りして、とんでもない負債を背負
い込むことになったのです。2007年の春から夏にかけてサブ
プライムローンの焦げ付きが顕在化するに伴い、シティグループ
の抱える問題も表に出る可能性が出てきたのです。
 こうした状況をニューヨーク連銀が掴んでいないはずがないの
です。そこで、ガイトナー総裁は、シティグループの経営陣と何
回も会合を重ね、この問題が表面化するのを抑えたと考えられる
のです。それはガイトナー総裁が冒頭のアトランタにおける講演
の内容を見れば明らかでしょう。明らかに事実を隠蔽しようとし
ているのです。
 ガイトナー氏とシティグループは、1999年にルービン氏が
シティグループの経営執行委員会会長になってからはとくに親密
な関係にあります。シティグループのサンフォード・ウェイル会
長は、ガイトナー氏に対していずれ自分の後任として、シティグ
ループのCEOに就任してもらいたいという意向を持っていると
いわれます。それほど信頼が厚いのです。
 もともとシティグループは、ルービン氏とサマーズ氏のもとで
「グラム・リーチ・ブライリー法」によって、あらゆる規制を外
し、政府を監視の外に置くことによって、積極的にデリバティブ
を展開し、やりたい放題をして巨額の資金を手にしたのです。こ
れが結果として米国の住宅バブルを煽ることになったのです。こ
れはまさにマネーゲームそのものといえます。
 本来であれば、ガイトナー氏率いるニューヨーク連銀がそうい
うウォール街に対して警告を発し、流れを変える努力をすべきで
あったのですが、彼は何もしていないのです。それどころか「そ
のような危機はまったく存在しない」というレポートを出したり
冒頭のような講演で危機感を払拭するなど、金融機関と一緒に米
国の住宅バブルを加速させたのです。
 そして、金融危機が顕在化した2008年10月3日、時のポ
ールソン財務長官は「市場が驚くほど大きな金額でなければなら
ない」と主張して要求したTARP――7000億ドルの前半部
分3500億ドルが議会で承認されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 不良資産救済プログラム/ Troubled Asser Relief Program
―――――――――――――――――――――――――――――
 この3500億ドルは、100日以内に急速に使われ、すべて
使い切ってしまったのです。一体何に使われたのでしょうか。そ
れがはっきりしないのです。   −―[オバマの正体/10]


≪画像および関連情報≫
 ●TARPは世界不況を招く/2009.3.19
  ―――――――――――――――――――――――――――
  著名投資家のジム・ロジャース氏はこのほど、米政府が進め
  る不良資産救済プログラム(TARP)について、「健全な
  企業の資本をむしばみ、世界を同時不況に陥れるものだ」と
  述べた。同プログラムの支援対象となったアメリカン・イン
  ターナショナル・グループ(AIG)は08年第4四半期、
  米国史上最大となる赤字を計上した。ロジャース氏は「米政
  府は能力のある者から資産を吸い取り、無能な者にその資産
  を投入している。AIGを破たんさせるべきだった」と米政
  府を強く批判した。また、「米政府は1990年代のバブル
  崩壊時に日本が犯した過ちと同じ道をたどっている」と指摘
  し、本来は破たんすべき金融機関に資金をつぎ込むも、再建
  は失敗。こうした金融機関が「吸血銀行」へと化していると
  形容した。(編集担当:服部薫)
  ―――――――――――――――――――――――――――

ガイトナー財務長官とTARP.jpg
ガイトナー財務長官とTARP
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月28日

●「目的以外に使用されているTARP」(EJ第2621号)

 TARP――不良資産救済プログラムの前半部分3500億ド
ルは何に使われたのでしょうか。
 このことを考える前に、そもそもTARPの7000億ドルは
何のために使う資金として用意されたのかということを知ってお
く必要があります。
 住宅ローンは、米国の金融システムにおいて大きな割合を占め
ていますが、そのほとんどは証券化され、金融機関をはじめとす
る投資家が保有しているのです。住宅ローンを返済できなくなる
人が多くなり、住宅の差し押さえが実行されると、住宅市場が悪
化し、金融機関に大きな損失が発生することになります。
 そこで政府が不良債権化したそれらの住宅ローン関連証券を買
い取り、住宅ローンの条件を緩和して住宅市場のさらなる悪化を
食い止めるというのがTARPの狙いであったのです。
 しかし、TARPが承認され、住宅ローン関連証券を買い取る
前に、次々と大規模な金融危機が襲ってきたのです。金融システ
ムが麻痺してしまうと大変なので、TARPの資金を使って急遽
金融機関へ資本注入をせざるを得なかったのです。
 そのため本来の目的である住宅ローン関連証券の買い取りは行
われておらず、住宅ローンの債務不履行や差し押さえを食い止め
ることはできていないのです。そこで、一時は住宅ローンの不履
行による差し押さえを凍結していた政府系住宅金融機関も現在で
は差し押さえを進めているのです。
 しかし、公的資金を注入された金融機関がその資金を住宅市場
の安定化や新規の貸し出しに使っているならまだ良いのですが、
大手金融機関に注入された公的資金は国債購入に回されるという
結果に終わっているのです。もともと米国にお金があるわけでは
なく、国債を発行して資金を用意しているので、どうしてもこう
いうことになってしまうのです。このように、TARPの資金は
本来の目的とは違う目的に使われているのです。
 このTARPの資金は、100億ドルがゴールドマン・サック
スに流れています。ゴールドマン・サックスはこの100億ドル
を市場金利より低い条件で受け入れています。しかし、そのとき
この資金は幹部の給料やボーナスに使ってはならないという条件
が一応付けられているのですが・・・。
 時の財務長官はゴールドマン・サックスのCEO出身のポール
ソン氏であり、その財務長官が自分の出身母体の企業に100億
ドルを有利な条件で融資する――きわめて不健全です。しかも、
その資金の使い道について、FRBも当の財務省も一切公開して
いないのです。
 どうしてゴールドマン・サックスが優遇されるのかというと、
ゴールドマン・サックスがAIGの最大の債権者であることが影
響していると思われます。このAIGという保険会社は、シティ
グループと同様に米国が絶対に潰せない金融機関であるといわれ
ているのです。
 そして、現在TARPの権限は、ガイトナー財務長官が一手に
握り、現在公的資金を銀行救済という名目で注入し続けているの
です。彼は歴史上最大の規模とスピードで、公的資金を使ってい
ます。しかし、その注入先は浜田和幸氏にいわせると、「仲間」
「内輪」「友達」に限られているというのです。これについて、
浜田氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、市場の競争原理をまったく無視しており、アメリカの
 自由競争社会の在り方を根底から覆してしまったと言ってもい
 い。ちなみに、ガイトナー財務長官の首席補佐官はゴールドマ
 ン・サックスのロビイストでならしたマーク・パターソン氏で
 ある。もはや、アメリカにおいては、資本主義は死んだと言っ
 ても過言ではないだろう。
     ――浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように現在、TARPを通して資本注入を受けている金融
機関は、米国消費者教育財団のレポートによると、この10年間
に50億ドル(5000億円)を超える資金が金融機関からワシ
ントンの有力政治家に対して政治献金として投入されているとい
う事実がレポートされているのです。
 目的は、金融機関にとって有利な法案作りや運用を加速させる
ためであり、そのためにウォール街から実に3000人を超える
ロビイストが送り込まれているというのです。
 ロビイストというのは、ロビー(政治家の控室という意味)で
活躍する者という意味であり、政治的圧力団体の代理人として政
党や議員や官僚、さらにはマスコミや世論に働きかけて、その団
体に有利な政治的決定を行わせようとする人たちのことです。
 あの「グラス・スティーガル法」を廃案にしてしまったのも金
融機関によるロビー活動の成果なのです。多くの証券会社が献金
を積み重ね、5億ドルを超える資金を政治家に提供してきたとさ
れています。現在、ワシントンには、4万人を超えるロビイスト
たちが暗躍しているといわれています。
 とくに政治家に対してこれまで巨額な献金をしてきたのは、ゴ
ールドマン・サックス、シティグループ、そしてメリルリンチで
あり、これら3社は献金御三家と呼ばれています。
 これらの政治献金は、55%が共和党の政治家に、残りの45
%は民主党の政治家に流れていたのですが、2008年に関して
は、オバマ効果によってその大半が民主党に流れているというこ
とがいえます。このように巨額のウォール街の資金が、長年にわ
たってワシントンに注ぎ込まれているのです。そのため、財務長
官のポストは、ほぼ例外なくウォール街の金融機関のCEOの指
定席になっているのです。
 オバマ大統領は、選挙中の公約として、「自らの政権からロビ
イストを一掃する」といっていたのです。しかし、彼が大統領に
なってもロビイストの数が減ったという話は一向に聞こえてこな
いのです。           −― [オバマの正体/11]


≪画像および関連情報≫
 ●町田徹の“眼”/2009年7月17日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  7月に入って、米市場がもたついている。異例の速さでめど
  がついたゼネラル・モーターズ(GM)の再建、過去最高益
  を記録したゴールドマン・サックスの四半期決算公表といっ
  た予想外の好材料が続いても、ニューヨーク株式市場はそれ
  らの好材料にほとんど反応せず、ダウ平均(工業株30種)
  は15日の終値が8616ドル21セントと6月の高値(8
  799ドル26セント、12日)すら追い抜けない状態に陥
  っているのだ。
         http://diamond.jp/series/machida/10084/
  ―――――――――――――――――――――――――――
浜田和幸氏.jpg
浜田和幸氏
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2009年07月29日

●「ストレステストで何がわかったか」(EJ第2622号)

 2009年5月7日のことです。オバマ政権は、金融機関19
社を対象に実施した「ストレステスト/健全性審査」の結果を発
表しています。これら19社は、資産が1000億ドルを超える
大手銀行持株会社です。この19行で米国の銀行の総資産の3分
の2、総融資の半分以上を占めているのです。
 ストレステストというのは、金融市場での不測の事態が生じた
場合に備えて、ポートフォリオ(ポジション)の損失の程度や損
失の回避策をあらかじめシミュレーションしておくリスク管理手
法のことをいうのです。
 本来のストレステストでは、一般に発生確率が低いと考えられ
るリスクシナリオをいくつか用意すると共に、ヒストリカルデー
タから異常な環境下のものを抽出し、その発生確率や変動パター
ンを当該シナリオに当てはめて、現在のポジションが抱える潜在
的なリスク量を計測し、不測の事態に備える狙いがあります。
 このストレステストは、TALPの残金が1000億ドル程度
になったときに行われていることをアタマに置いておく必要があ
ります。ストレステストの結果は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ≪資本増強が必要ない銀行≫ ・・・・・・・・・・ 9行
   ・JPモルガン・チェース
   ・ゴールドマン・サックス
   ・USバンコープ
   ・バンク・オブ・ニューヨーク・メロン
   ・ステート・ストリート
   ・キャピタル・ワン・フィナンシャル
   ・BB&T
   ・アメリカン・エクスプレス
   ・メットライフ
  ≪資本増強が必要な銀行と必要額≫ ・・・・・・ 10行
   ・バンク・オブ・アメリカ        339億ドル
   ・ウェルズファーゴ           137億ドル
   ・GMAC               115億ドル
   ・シテイグループ             55億ドル
   ・リージョンズ・ファイナンシャル     25億ドル
   ・サン・トラスト             22億ドル
   ・キー・コープ              18億ドル
   ・モルガン・スタンレー          18億ドル
   ・フィフス・サード・バンコープ      11億ドル
   ・PNGフィナンシャル           6億ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 資本増強が必要な銀行10行の必要資本額の総計は746億ド
ルであり、TARPの残額といわれる1000億ドルの範囲内に
入っています。しかし、これはかなり苦しい数字であり、また作
為的な数字であるという専門的な見方があります。いずれにせよ
これにより当面議会の反対の強い資金枠の増加はやらないでも済
むというメッセージを発したかたちになっています。
 FRBのバーナンキ議長は、ストレステストの結果公表に先立
つ講演で次のように楽観的見通しを示しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 対象の19行は、いずれも債務超過のリスクはない。ストレス
 テストの審査結果は、銀行の貸し出し能力に関する信頼感を市
 場にもちらすであろう。     ――バーナンキFRB議長
―――――――――――――――――――――――――――――
 ゴールデン・ウィーク明けに米国のダウは8000ドル台に乗
り、日経平均も9000円台まで戻しましたが、これはストレス
テストの結果を反映したものと見ることができます。しかし、こ
れは作られた相場そのものといえます。
 ところで、ゴールドマン・サックスはストレステストでは「資
本増強が必要ない銀行」に入っています。また、1〜3月期の当
社の決算も黒字になっていますが、これは既に述べたTALPの
特別融資のおかげなのです。
 また、1〜3月期の決算ではシティグループも黒字になってい
ますが、ゴールドマン・サックスにしても、シティグループにし
ても、これは「時価会計基準の緩和」を利用した結果であると考
えられるのです。
 不良債権を多く抱え込んだ場合、時価で資産を査定すると不良
債権に対する引当金を多く積まなければなりませんが、時価で評
価しなくてもよいとなると、資産査定はラクになり、引当金の額
は大幅に減少するのです。それも、資産については時価評価を行
わず逆に負債については時価評価を行い、負債評価益を計上する
などかなりいい加減な会計処理を行っているのです。これでは、
「粉飾決算」といわれても仕方がないでしょう。
 浜田和幸氏によると、このストレステストがはじまる前の時点
で19行のうち16行は破綻同然の状態であるというのです。そ
のため米当局と銀行の間で激しいやりとりがあり、資本不足額の
再算定が行われたものと思われます。要するに数字合わせです。
何しろ、破綻同然の16行のうち、2行が現実に破綻するだけで
政府の保証枠はすべてなくなるといわれています。浜田氏は19
行の現状について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、こうした見方が正しいなら、オバマ政権とウォール街の
 仲間たちは最終的な破綻を先送りしているだけである。ストレ
 ステストも厳格に行われたのか疑わしく、ともかく時間を稼い
 でドルを刷り増ししているのが、いまのアメリカのリアルな姿
 なのではないか。最終的にアメリカの銀行は5つに絞られるの
 ではないかと、大方の関係者はみている。しかし、それとて、
 現在のシナリオがうまくいっての話である。
     ――浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
                −―[オバマの正体/12]


≪画像および関連情報≫
 ●事前リークの多いオバマ政権
  ―――――――――――――――――――――――――――
  今朝方、発表された米ストレステスト。事前観測と若干のブ
  レはありながらも、既に周知されていた内容がマーケットに
  公開されたという政府主演の茶番劇。事前リークによって市
  場、株価、投資家の反応を見た上で、金融機関側と当局者側
  による微妙な味付けで施された内容といえよう。シティの資
  本不足を巡っては、最悪の場合、数百億ドルの資本不足にな
  るのではないかとの事前情報も入手していたが、発表された
  結果は優先株を普通株に発行する”予定”までも認められた
  のだから、今さらこの結果を議論する必要もないだろう。
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2009&d=0508&f=business_0508_120.shtml
  ―――――――――――――――――――――――――――

ガイトナー財務長官とバーナンキ議長.jpg
ガイトナー財務長官とバーナンキ議長
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2009年07月30日

●「政商ヘッジファンドはなぜ儲かるのか」(EJ第2623号)

 「政商」という言葉があります。政商とは、政治家や政府高官
との結びつきを利用して経済活動上の特権的利益を得たり、政策
を自己の利益に有利な方向へ誘導しようとする事業家、企業を意
味しています。こういう人たちのことを米国ではロビイストとい
うのでしょうか。
 日本においても金融機関の不良債権処理や郵政民営化などでは
そういう政商の姿が見え隠れすることがありますが、あくまで陰
に隠れてこっそりやるというイメージです。しかし、米国では政
府高官と企業が密接に結びついており、なにか堂々とやっている
という感じです。
 現在、オバマ政権においてガイトナー財務長官が中心となって
やっているTARP――不良資産救済プログラムは、国民の税金
である公的資金を使って金融機関の不良債権を一括処理するプロ
グラムです。しかし、これはある意味においてマネーゲームその
ものなのです。
 以下、そのマネーゲームのからくりを例をあげて説明します。
図は添付ファイルをごらんいただきたいと思います。
 住宅価格が下落して、金融機関が住宅ローンの担保にとってい
た不動産はピーク時の2分の1か3分の1まで下落しています。
しかし、このまま塩漬けにしておくと、金融機関が身動きが取れ
なくなるので、救済スキームを作ったのです。
 ある不良債権を買い取るとき、その14分の1ずつを政府と民
間が出し、残りの7分の6を預金保険公社が融資する仕組みなの
です。この場合、民間というのはヘッジファンドのことです。
 額面100億円の不良債権があったとします。これを42億円
で売却するとして、民間、政府、預金保険公社は次の割合で資金
を負担します。
―――――――――――――――――――――――――――――
  政府     (1/14) ・・・・・  3億円
  ヘッジファンド(1/14) ・・・・・  3億円
  預金保険公社(12/14) ・・・・・ 36億円
―――――――――――――――――――――――――――――
 ひとつの可能性について考えてみます。もし、経済が回復して
債権の価値が100億円に戻ったとします。この場合、預金保険
公社から受けた融資額36億円を返済すると、残るのは64億円
――この金額は政府とヘッジファンドで山分けをするのです。3
億円出して32億円戻るので、29億円の儲けになります。
 もうひとつの可能性です。不良債権の価値がさらに下がってゼ
ロになったとします。この場合、預金保険公社からの36億円の
融資は公的資金なので、返済する必要はないのです。したがって
政府とヘッジファンドはそれぞれ3億円の損失ということになり
ます。実際にはゼロになる可能性は少ないし、42億円もの債権
を運用して損失はわずか3億円で済むのですから、ヘッジファン
ドにとっては、ローリスク・ハイリターンでボロ儲けができる仕
掛けになっているのです。
 このマネーゲームに参加させるヘッジファンドを指名する権限
はガイトナー財務長官が握っているのです。ガイトナー財務長官
は、次のトップ10に入ったヘッジファンドの中からマネーゲー
ムに参加させるヘッジファンドを選ぶはずです。もちろんオバマ
政権に実績の高いヘッジファンドが選ばれることになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪2008年度ヘッジファンド・マネージャートップ10≫
    マネージャー名          2008年の収入
  1.ジェームズ・シモンズ ・・・・・・  2500億円
  2.ジョン・ポールソン ・・・・・・・  2000億円
  3.ジョン・アーノルド ・・・・・・・  1500億円
  4.ジョージ・ソロス ・・・・・・・・  1100億円
  5.レイモンド・ダリオ ・・・・・・・   780億円
  6.ブルース・コブナー ・・・・・・・   640億円
  7.デイビッド・ショー ・・・・・・・   275億円
  8.スタンリー・ドラッケンミラー ・・   260億円
  9.デイビッド・ハーディング ・・・・   250億円
  9.アラン・ハワード ・・・・・・・・   250億円
  9.ジョン・テイラー・ジュニア ・・・   250億円
             出典/「アルファー・マガジン」誌
     ――浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ヘッジファンド・マネージャーについて少しご紹介しておくこ
とにします。ヘッジファンドといえば、世界的な金融危機を引き
起こした戦犯企業のひとつですが、この危機によって姿を消した
ヘッジファンドは1000社に上るのです。2008年のはじめ
には1万社のヘッジファンドが存在したのです。
 生き残ったヘッジファンドの全体の3分の2は、平均して18
%の損失を計上しているのですが、そういう不利な状況をものと
もせず、利益を上げたヘッジファンドが、上記の10ヘッジファ
ンドです。2008年の第1位は、ルネッサンス・テクノロジー
ズのジェームズ・シモンズ氏です。シモンズ氏は、元数学教授で
あり、高等数学を駆使した精緻な市場分析で、25億ドルの利益
を上げてトップに輝いたのです。
 第2位は、ポールソン・アンド・カンパニーのジョン・ポール
ソン氏です。不動産価格の急落を前提として、空売りを繰り返し
て20億ドルの利益を手にしています。
 第3位は、元エンロンのトレーダーで、天然ガスのデリバティ
ブ取引を得意とするケンタウルス・エナジーのジョン・アーノル
ド氏で、15億ドルの利益を上げています。
 そして、あの有名なジョージ・ソロス氏――金融危機の到来を
先回りして得意の空売り戦略を展開して、11億ドルの利益をあ
げて、第4位につけています。ソロス氏は一時は息子に事業を継
がせて引退したのですが、2007年から復活して2008年に
は上位に食い込んでいます。   −―[オバマの正体/13]


≪画像および関連情報≫
 ●年収世界一/ジェームズ・シモンズ氏について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ルネサンス・テクノロジーズを率いる第1位のジェームズ・
  シモンズ氏の08年の報酬は2500億円だった。既に71
  歳になるが、現役として活躍。過去にも06年に1位となっ
  ており、昨年も3位とランキング上位の常連でもある。19
  82年に創業されたルネサンス社は、これまでの創業以来の
  年平均リターンは38%とも言われる。
    http://ameblo.jp/kouryu1093/entry-10246910670.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図・写真の出典/「SAPIO」/8/5号より

ヘッジファンドを代表する3人.jpg
ヘッジファンドを代表する3人
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2009年07月31日

●「米政権の経済のかじ取りは評価すべきか」(EJ第2624)

 オバマ政権の米経済のかじ取りをどのように評価すべきでしょ
うか。100年に一度の経済危機ということで、オバマ大統領が
就任する前から、なりふりかまわない景気刺激策と金融救済策に
巨額の資金を注ぎ込んできたのですが、それは本当に米国未来経
済の落ち込みを回避させることに成功したのでしょうか。
 確かにもっと下がるのではと思われてきたダウ平均株価は、7
月28日現在、9042ドルまで戻しており、それを好感して、
日経平均も1万円台を回復しています。
 バーナンキFRB議長は、今年の1月の議会証言では、次のよ
うに発言していたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2007年12月に生じた米景気後退が今年度中に終焉を迎え
 2010年には回復に向かうと判断する十分な根拠がある。
                 ――バーナンキFRB議長
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かにバーナンキFRB議長のいうように、ダウ平均株価につ
いては、上記のように戻してきているように見えます。さらに、
バーナンキFRB議長は、7月21日の議会証言で、米経済につ
いて次のコメントを出しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米経済は2008年の第4四半期から09年の第1四半期にか
 けて大幅に収縮した。より最近では、下降ペースは著しく緩や
 かになったようにみえる。
       ――2009年7月22日付/日本経済新聞朝刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはどういうことを意味しているのでしょうか。
 これについては、経営コンサルタントの小宮一慶氏の分析をご
紹介することにします。米国のGDP成長率を見ていただきたい
と思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ≪米国のGDP成長率/実質 年率%≫
         2700年 ・・・・・  2.0
         2008年 ・・・・・  1.1
   2008年 7〜 9月 ・・・・・ ▲0.5
   2008年10〜12月 ・・・・・ ▲6.3
   2009年 1〜 3月 ・・・・・ ▲5.5
              ――米国務省データより
―――――――――――――――――――――――――――――
 2008年の第4四半期というのは10〜12月ですが、これ
は実質でマイナス6.3 %、しかし、2009年1〜3月がマイ
ナス5.5 %ですから、「大幅に収縮」といっているのです。
 そこで注目されるのは、2009年4〜6月期の数字です。そ
の数字は本日、すなわち、7月31日に発表されるのです。バー
ナンキ議長は、おそらく1〜3月期よりも下落幅は小さくなると
予測しているのだと思います。
 その一方でバーナンキFRB議長は、雇用について次のように
懸念を表明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 最終需要と生産では一応の安定化のサインがみえているが、雇
 用は引き続き弱い。       ――バーナンキFRB議長
       ――2009年7月22日付/日本経済新聞朝刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 2008年は、雇用が307.8 万人減少しています。しかし
2009年に入ってからは、この6月までで既に338.2 万人
も減っているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          失業率(%) 非農業部門(増減数万人)
 2009年 1月  7.6 %       ▲74.1 万人
 2009年 2月  8.1 %       ▲68.1 万人
 2009年 3月  8.5 %       ▲65.2 万人
 2009年 4月  8.9 %       ▲51.9 万人
 2009年 5月  9.4 %       ▲32.2 万人
 2009年 6月  9.5 %       ▲46.7 万人
                   ――米総務省のデータ
―――――――――――――――――――――――――――――
 一番最新のデータで米国の失業率は9.5 %――もはや10%
を超えるのは確実とみられています。そうなると、オバマ政権の
支持率は大幅に下がると思います。確かに5月は失業者が若干減
り、このまま減少するのではないかと考えられたのですが、6月
にはさらに失業者が増えてしまっています。
 バーナンキFRB議長は、さらにいろいろ述べており、小宮氏
の分析はまだ続くのですが、米経済の分析は新しいデータが出た
時点で改めて述べることにします。
 バーナンキFRB議長は、「金融は著しく改善している」と強
調したうえで、次のように議会証言を締めくくっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 雇用は引き続き失われ、失業率は上昇している。失業と住宅価
 格の下落などにより、個人消費の伸びにも制限があるだろう。
 最近の住宅価格の安定が一時的なものである場合、今後の景気
 見通しが悪化する恐れがある。
       ――2009年7月22日付/日本経済新聞朝刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 一番心配なのは、米経済は本当に持つのかということですが、
それは長期金利が今後どのように推移するのかにかかっていると
思います。上記の7月22日付の日本経済新聞の記事でも次の見
出しが出ていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         長期金利の抑制を重視
―――――――――――――――――――――――――――――
 長期金利については来週考えます。―[オバマの正体/14]


≪画像および関連情報≫
 ●金融市場議論百出
  ―――――――――――――――――――――――――――
  オバマ米大統領は、2009年6月23日に「ベン・バーナ
  ンキについては新しいニュースをつくろうとは思わない。非
  常に困難な環境下で彼がすばらしい仕事を行なってきたと私
  は思っているが」と語った。来年1月に4年の任期が終わる
  バーナンキ議長を大統領が再任するか否かにマスコミや市場
  の関心が集まってきている。それに対する答えが上記の発言
  である。昨年9月のリーマンショック以降、バーナンキ率い
  るFRBは、崩壊しかかった金融市場を支えるために、FR
  Bのバランスシートをリスクにさらしながら、救済策を次々
  と発動してきた。
       http://diamond.jp/series/money_market/10086/
  ―――――――――――――――――――――――――――

バーナンキ議長議会証言.jpg
バーナンキ議長議会証言
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2009年08月03日

●「GDP比13%の財政赤字の巨額さ」(EJ第2625)

 誰もが関心があって、誰もが心配していることがあります。そ
れは米国の経済は本当に大丈夫なのかということです。米国のこ
とより日本経済の方が心配だという声もありますが、日本経済は
米国経済の動向によって大きく左右されるので、米国経済がどう
なるのかについては重要な関心があります。
 オバマ大統領は、2010年度予算教書で、次の見通しを示し
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済成長率は、09年後半にはプラスに転じ、年末までには、
 3.5 %成長まで回復し、10年には年間を通してこの成長が
 続く。             ――2010年度予算教書
―――――――――――――――――――――――――――――
 今までの米国では、不況期になると、かなり積極的な金融緩和
政策――金利を下げて、買いオペレーションで市場にお金を豊富
に供給する――こういう金融政策によって、住宅投資や個人消費
を刺激して、需要を急速に回復させ、生産を急増させる手法で高
成長(V字型回復)を実現してきたのです。
 しかし、今回は従来とは少し様相が異なるのです。住宅バブル
が崩壊したことと、過剰消費の見直しで、住宅と個人消費が景気
回復の牽引役になれないのです。したがって、年内に景気が底入
れしたとしても、V字回復は無理であると思われるのです。
 ガイトナー財務長官も景気のV字回復は困難であることを認め
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国経済への信頼感は改善しているが、経済回復には長い道の
 りが必要である。         ――ガイトナー財務長官
―――――――――――――――――――――――――――――
 心配なのは銀行なのです。有力アナリストであるメレディス・
ホイットニー氏は米銀について次のようにかなり悲観的な見通し
を示しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 銀行の本来事業からの中核的収益力はごくわずかで、今年1〜
 3月期に黒字を計上している米銀も赤字に逆戻りする公算が大
 である。         ――メレディス・ホイットニー氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 バフルが崩壊した後の日本政府のやったことを思い出していた
だきたいのです。銀行のリストラや不良債権の処理を後回しにし
て、減税や公共投資を繰り返すという失敗を重ねて、金融正常化
を終えるまでに15年――失われた15年を要しています。
 ところが、日本の轍は踏まないと豪語したガイトナー財務長官
は銀行リストラや不良債権処理を先送りして財政を拡大させてい
るのです。これはEUも同様なのです。
 銀行の不良債権をそのままにしておくと、それが融資の減少の
原因になって、企業倒産が増加して、さらに不良債権が膨らむと
いう悪循環で景気の足をひっぱるのです。
 『週刊エコノミスト』7月14日特大号の「グローバル・マネ
ー」コラムでは、欧米の経済政策を次のように批判しているので
す。
―――――――――――――――――――――――――――――
 欧米当局は今もなお、かつての日本と同じように、金融システ
 ムの病気を軟膏、絆創膏、包帯で治そうと躍起になっている。
 銀行のリストラや不良債権処理を先送りする米国、EUは90
 年代の日本と同じ失われた15年という地獄への道をまっしぐ
 らに歩んでいる。――『週刊エコノミスト』7月14日特大号
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ政権は、巨額の資金を使って景気対策に取り組んでいる
のです。TARPについては既に述べましたが、これはブッシュ
政権が決めた不良資産救済プログラム/7000億ドルのことで
す。それに加えて、オバマ政権発足後に決めた総額7800億ド
ルを景気対策資金として使っているのです。
 この巨額の資金を使って、AIGやシティグループなどの大手
金融機関に資金を投入し、さらに経営破綻したGM/ゼネラル・
モーターズを事実上国有化し、政府丸抱えで再建に取り組んでい
るのです。その他、減税や住宅ローンの借り換えなどの個人向け
の支援策もこの資金をベースとして行っているのです。
 問題は、この資金はどこから持ってきたかなのです。そんなお
金が米国にあるはずがないのです。当然のことですが、その原資
は国債なのです。米国はもともと巨額の財政赤字を抱えており、
いくら100年に一度の危機といっても、このような大盤振る舞
いをすると、後で大きな問題が生じてくることは必至です。
―――――――――――――――――――――――――――――
      2008  2009  2010  2011
 財政収支 ▲450 ▲1841 ▲1258  ▲930
 対GDP ▲ 3.2 ▲ 12.9 ▲  8.5  ▲ 3.4
        ――財政収支単位/10億ドル 対GDP%
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記は米政府の財政見通しです。2008年度は対GDP約3
%であった財政赤字は、2009年会計年度(2008年10月
〜2009年9月)には1.8 兆ドル――実にGDP比13%、
これは戦後最大の財政赤字なのです。
 しかもこの財政赤字は2010年度1.3 兆ドル、2011年
度も0.9 兆ドル、2012年度0.6 兆ドルと高水準で続く見
通しです。その結果、2012年度の政府債務残高は16兆56
60億ドルに達する見通しなのです。
 こうした巨額の国債発行によって、心配されるのは国債価格下
落――長期金利の上昇なのです。それまで2%台前半にまで下落
していた長期金利は、5月以降3%半ばになり、6月10日には
一時4%を超えているのです。長期金利はどのように推移するの
でしょうか。米国債と長期金利の動きについて、明日から考えて
いきます。           −― [オバマの正体/15]


≪画像および関連情報≫
 ●景気対策法案/7800億ドル
  ―――――――――――――――――――――――――――
  [ワシントン 6日 ロイター] 米上院民主党は6日、景
  気対策法案について、規模を7800億ドルに縮小すること
  で穏健派共和党議員らと合意に達した。両党の穏健派議員ら
  が法案を作成して、来週初めまでに採決される見通しとなっ
  た。上院のリード民主党院内総務は法案可決に自信を示し、
  「現在の景気後退が恐慌に向かって進むことを望まない」と
  述べた。オバマ大統領は、米経済の危機的状況を踏まえ、2
  月16日までに法案に署名したい意向を表明している。当初
  9370億ドル規模に膨らんでいた上院の景気対策法案だが
  5日間の審議で、共和党議員を中心に効果が疑わしい財政支
  出を削るべきとの声が強まり、7800億ドルに縮小するこ
  とで合意に達した。
  http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK837711320090207
  ―――――――――――――――――――――――――――
危機脱出を模索するオバマ大統領.jpg
危機脱出を模索するオバマ大統領
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2009年08月04日

●「米国債のサブプライムローン化の進行」(EJ第2626号)

 かつて米国債は、経済成長のための重要な原資だったのです。
米国債は、ドル資産という基軸通貨国の特権を武器に世界中に売
りさばかれ、高い流動性を有していたのです。この国債による資
金が過剰消費に伴う米国の巨額の経常赤字を補い、米国は高い経
済成長を成し遂げてきたのです。
 ところが、サブプライム問題が発生した2008年の秋からは
状況が一変したのです。国債による資金は、サブプライム問題で
大きな損失を蒙り、自力で立ち行かなくなってしまった大手金融
機関や大企業、そして過剰債務を抱えて破産状態に陥った個人を
救済する資金に化けてしまったのです。
 この現象について三菱UFJ証券の水野和夫チーフエコノミス
トは、これは投資の失敗によるキャピタルロスの穴埋めという視
点から「米国債のサブプライムローン化のはじまりである」と指
摘しています。
 成長のための投資からキャピタルロスの穴埋め――この変化は
必然的に米国債の減価につながるのです。いうまでもないことで
すが、国債は税収で償還されるものです。しかし、その税収自体
が減っているのです。
 現在の米国は、国民の30%が生活資金を借金に頼っている状
況なのです。したがって、増税はおろか、税金の徴収ですら困難
な状況であり、国債の償還が厳しくなっています。
 そして、米国債のキャピタル・ロスは、ドルの減価で調整せざ
るを得なくなります。つまり、米国債下落分をドル安という為替
調整で穴埋めすることになるのです。ここにドル安不安が生まれ
ることになります。
 こういう米国債の不安リスクは国債の売れ行きにはっきりとあ
らわれているのです。それは、投資家が長期国債よりも短期国債
にシフトしているところにあらわれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      08年4月までの1年間 09年4月までの1年間
  短期国債    1106億ドル     4535億ドル
  長期国債    3092億ドル     2689億ドル
                  ――米財務省の資料より
―――――――――――――――――――――――――――――
 2008年4月までの一年間では、短期国債1106億ドルに
対して長期国債は3092億ドルで、長期国債が短期国債の3倍
であり、長期国債にシフトしていたのです。
 しかし、2009年4月までの一年間で、短期国債4535億
ドルに対して、長期国債は2689億ドルと1.7 倍に逆転して
しまっているのです。
 その首謀者は、このほど日本を抜いて米国債の保有高で首位に
なった中国なのです。中国は欧米向けの製品輸出が増えて、この
3月末の時点の外貨準備は、世界最大の1兆9537億ドル積み
上がっているのです。このように、米国債保有高は4月末時点で
7635億ドルとトップに立ったのです。
 中国は日本と違ってはっきりとものをいう国であり、米国債の
保有によって、戦略的にも中国は有利なポジションを占めるよう
になっているのです。米国の手綱は中国に握られてしまっている
のです。
 そのためオバマ政権は、ガイトナー財務長官に中国を訪問させ
米国債の購入に協力を求めていますが、中国はそんなに甘い国で
はないのです。現にガイトナー財務長官と面談した中国人民銀行
元政策委員である余永定氏は次のようにガイトナー財務長官にク
ギを刺しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  中国は米国債を当然のように購入し続けるわけではない
           ――余永定中国人民銀行元政策委員
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに、7月27日と28日の2日間にわたって、ワシントン
で行われた初の米中戦略・経済対話における米国の低姿勢ぶりは
世界の超大国としてのかつての矜持はなかったと考えます。
 この経済対話の米側の出席者は、ガイトナー財務長官、バーナ
ンキFRB議長、サマーズ国家経済会議(NEC)議長と、経済
のキーパーソンのフルメンバーが出席しているのです。
 7月29日の日本経済新聞では、戦略・経済対話について次の
ように報じています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米中戦略・経済対話(SED)では、従来と「攻守」が逆転し
 ている。中国が、米国の財政再建を強く求める一方、米国の人
 民元切り下げ要求は弱まっている。中国が世界一の米国債保有
 国となり、発言力が増大したためだ。(中略)悪化する財政を
 抱える米国が「守勢」に回る今回の構図は、06年以来続いて
 いるこれまでのSEDと比べ、様変わりしている。
         ――2009年7月29日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 その中国は、明らかに米国債下落リスクに対してはっきりと手
を打っています。長期国債を減らし、短期国債を増やすとともに
これまで毎月のように米国債保有額を増加させてきたのに、この
4月については、前月比44億ドルを減少させているのです。
 さらに、6月5日には、中国が外貨準備で「IMF債」を最大
で500億ドル購入することを明らかにしています。ドルに偏重
した外貨準備の運用を何とか多様化させようとしていることは確
かなことです。
 この中国の動きには、BRICsのロシアとブラジルが呼応し
たのです。ロシアは、保有する米国債を売却してドル資産での運
用を低下させ、IMF債を100億ドル引き受けると表明し、ブ
ラジルも同様に100億ドルのIMF債の引き受けを表明してい
ます。インドも近くこれに追随する予定であり、BRICs全体
で、総額700億ドルを超えるIMF債を購入することになると
思われます。          −―[オバマの正体/16]


≪画像および関連情報≫
 ●IMF債とは何か/2009.7.2付、産経ニュース
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【ワシントン=渡辺浩生】国際通貨基金(IMF)は7月1
  日の理事会で、設立以来初めてとなる債券発行を正式決定し
  た。日本や米国など主要加盟国からの融資に依存していた資
  金調達手段が多様化し、金融危機に陥った国への支援にIM
  Fの財源を拡充する。中国やブラジル、ロシアが最大700
  億ドル(約6兆7000億円)分を購入する意向を表明。新
  興国のIMFへの発言力拡大に道を開く契機にもなる可能性
  がある。             ――産経ニュースより
http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/090702/fnc0907022329026
  ―――――――――――――――――――――――――――

米中戦略・経済対話.jpg
米中戦略・経済対話
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2009年08月05日

●「長期金利の上昇にどう対処するか」(EJ第2627号)

 オバマ政権が一番問われているのは経済運営ですが、一般的評
価では、ガイトナー財務長官もバーナンキFRB議長もよくやっ
ているといわれています。
 オバマ政権の経済運営を一言でいうと、積極財政による景気刺
激と低金利政策による住宅市場の回復ですが、このところ長期金
利が急上昇しているのです。
 米長期金利は、ほぼ定位置であった2%台前半の位置から5月
以降3%台半ばまで上がり、6月10日には一時4%を超えたの
です。長期金利への上昇圧力には、次の2つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.景気回復期待
          2.財政悪化懸念
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回の長期金利の上昇は、後者、すなわち、2009年会計年
度の1.8 兆ドルという米国の史上最大の財政赤字をどうファイ
ナンスするかが問われているものと考えられます。
 長期金利はどのレベルまで上がっても大丈夫なのでしょうか。
 経済学的にはいろいろ理論がありますが、どこまでなら大丈夫
なのかという観点に立つと、経済の基礎的要件――ファンダメン
タルズの範囲内ということになります。
 それでは、米国の場合、ファンダメンタルズに見合う長期金利
水準はどのくらいになるのでしょうか。
 これについて、明治安田生命チーフエコノミストの小玉祐一氏
は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 物価変動を除いた実質長期金利は基本的に潜在成長力に見合っ
 た水準に決まる。長期自然利子率という概念だ。米国の潜在成
 長率は、足元では2.5 %前後まで下がっているとの見方がコ
 ンセンサスである。米連邦準備制度理事会(FRB)は、適切
 な金融政策のもとで、長期的に実現するインフレ率を1.7 〜
 2.0 %(中央値)と置いている。これが市場の長期インフレ
 期待に一致すると考えると、名目長期金利は2.5 %+2.0
 %=4.5 %くらいであれば、ファンダメンタルズで説明でき
 るということになる。           ――小玉祐一氏
         ――『週刊エコノミスト』7月14日特大号
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、米国のファンダメンタルズを中心に考えると、長期
金利は4.5 %までは説明がつくし、大丈夫であるといえます。
小玉氏によると、もし、長期金利が5%を超えるようなことがあ
ると、FRBが動き、力づくでも抑え込みにかかるだろうが、お
そらくそのようなFRBの出番はないといっています。
 しかし、長期金利が上がると、住宅ローンの金利が上がるので
す。なぜなら、長期の住宅ローンの金利は、国債の金利を基準と
して決められているからです。
 実際に米国の長期金利の上昇を受けて、住宅ローンの申請者は
急減しています。景気回復が定まらないなかでの金利上昇は、底
入れの兆しがあらわれている住宅市場の足を引っ張る結果になる
恐れがあるので、FRBは相当慎重に長期金利の動きを見守って
いるものと思われます。当面はこういうプロセスが自律的に長期
金利の上昇を抑えるように働くと考えられます。
 米国の長期金利の上昇について、朝日ライフアセットマネジメ
ント常務執行役員である高尾義一氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 4%まで上昇する過程で、米国債のクレジット・リスクが意識
 されたことは、まず問違いない。5月13日付の英『フィナン
 シャル・タイムズ』に、「米国債のトリプルAが危ういのでは
 ないか」という記事があった。米ムーディーズ・インベスター
 ズ・サービスが、2年前に医療や年金など社会保障費増大に伴
 う財政悪化を警告したが、現状はその警告よりもはるかに悪化
 していると指摘。「1917年以来、維持している米国債のト
 リプルAがいつまで続くか」と、疑問を呈している。
         ――『週刊エコノミスト』7月14日特大号
―――――――――――――――――――――――――――――
 一方、7月31日に発表された2009年4月〜6月の実質成
長率は、GDP対比マイナス1.0 %と、マイナス幅が大きく縮
小しており、景気の悪化ペースに歯止めがかかりつつあります。
 これを受けて、オバマ米大統領は7月31日、ホワイトハウス
で演説し、「経済が正しい方向に向かって進んでいる重要なしる
し」であり、「方向性にやや楽観的になっている」と述べて、景
気は悪化に歯止めがかかり、回復途上に戻りつつあるとの認識を
示しています。
 むしろ心配なのは、不良債権問題なのです。既に述べているよ
うに、米大手銀行の決算が問題なく収まっているのは、会計基準
の緩和によるものなのです。それに、はじめから落としどころが
決まっていたと思われるストレステスト(資産査定)の結果でも
あります。既出の小玉氏は、ストレステストは「偽りの安心感」
を市場に与えた可能性があると懸念を表明しています。
 なぜなら、現在の米国の失業率は9.4 %であり、ストレステ
ストが悲観シナリオとして設定している失業率8.9 %を大きく
オーバーしているからです。そのため、米国家計の過剰債務問題
は、むしろ今後一層深刻化する恐れがあるのです。
 ところで、FRBは大丈夫なのでしょうか。
 なぜなら、FRBにはリーマン・ショック以降、不健全な資産
が急速に拡大しているからです。未曾有の金融危機に対応するた
め、FRBは従来の短期金融市場での金融調節の枠組みを大きく
超えて、あらゆる手段を使って、民間セクターに資金を供給して
いるので、不健全な資産を多く抱え込んでいるのです。
 もし、そういう不健全な資産は将来FRBに大きな損失を計上
させ、財務内容を棄損させる懸念が大きいのです。もし、そうな
ると、中央銀行の信頼は地に落ちます。[オバマの正体/17]


≪画像および関連情報≫
 ●長期金利について/日本銀行のウェブサイトから
  ―――――――――――――――――――――――――――
  長期金利は、その時点の金融政策の影響も受けはしますが、
  それとは別の次元で、長期資金の需要・供給の市場メカニズ
  ムの中で決まるという色合いが強く、その際、将来の物価変
  動(インフレ、デフレ)や将来の短期金利の推移(やこれに
  大きな影響を及ぼす将来の金融政策)などについての予想が
  大切な役割を演ずる、という特徴があります。なお、新聞等
  で長期金利の動きが報じられる時は、債券、とくに長期国債
  (満期までの期間が10年弱のもの)の値動きがしばしば取
  上げられます。これは、債券を売る(供給する)ということ
  は、長期資金を調達(需要)する、債券を買う(需要する)
  ということは運用(供給)するということなので、債券「相
  場」の動きが、長期金利の動きをそのまま表すからです。債
  券「相場」が値上がりすれば長期金利は低下、値下がりすれ
  ば、長期金利も「相場」として動くということです。
   http://www.boj.or.jp/type/exp/seisaku/expchokinri.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

ホワイトハウスでのオバマ演説.jpg
ホワイトハウスでのオバマ演説
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2009年08月06日

●「なぜ、FRBの出口戦略が問題なのか」(EJ第2628号)

 政権発足当時からここまでのオバマ大統領のやり方を見ている
と、そこにオバマ流のスタイルが見えてきます。例えば、政権の
重要課題のひとつである医療保険制度改革――オバマ大統領は、
ゴールデンタイムにテレビに出演し、巧みな話術で国民にその必
要性を喚起すると、あとは基本方針を示して議会に丸投げしてし
まう――そういうスタイルなのです。議会下院は与党が安定多数
を持っているので、最高司令官として自分は大枠を決めれば、あ
とはプロ集団のやることだと決めているようです。
 オバマ大統領は経済の問題についてもこのスタイルを踏襲して
います。しかし、経済の問題はより緊急の対応が必要なので、こ
ちらは人事を決めて完全に丸投げのようです。
 7月21日の議会証言で、バーナンキFRB議長は次のように
FRBの出口戦略について強調したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融危機や景気後退に対応した異例の政策手段は、必要に応じ
 て適時に撤回できることを国民や市場に理解してもらうことが
 重要だと信じている。米連邦公開市場委員会(FOMC)は出
 口戦略に関連した課題についてかなり注意を払っている。
        ――2009.7.22付/日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでいう「出口戦略」とは、金融政策運営を危機モードから
平時に戻すことをいうのです。実はバーナンキ議長やFRBの幹
部は、ここ半年ほど、このことを何回も市場に訴えてきているの
です。しかし、FRBが出口戦略に着手するのが近いというわけ
ではないのです。それにもかかわらず、そのことを強調するの
は、次の心配があるからです。
 それは、FRBは出口戦略に失敗し、制御不能なインフレや新
しいバブルを発生させるという声が市場にあるからです。何しろ
FRBは2兆ドル規模の資金供給を行っており、財政赤字を背景
に将来のインフレを懸念する声が出てもおかしくはないのです。
これに景気の早期回復期待が重なると、長期金利が過度に上昇し
て、景気底入れを潰してしまう恐れがあるとバーナンキ議長は考
えたわけです。
 それに、FRBはいま非常に危険な状況にあります。現在、F
RBの保有する総資産のうち、回収リスクをほとんど考えなくて
もよい資産は全体の40%であり、これを除くと、FRBは実質
的に約1.2 兆ドルのリスク資産を抱えているのです。
 しかも、FRBの自己資本はほとんど増えておらず、473億
ドルしかないのです。したがって、リスク資産の4%程度が回収
不能になるだけで、FRBは債務超過に陥ってしまうのです。
 このようにバーナンキ議長が何よりも恐れているのは、長期金
利の上昇なのです。現在、米国では、今回の経済危機対応策につ
いて、2人のアカデミズムの大家による経済論争が話題を集めて
いるそうです。その2人の大家とは次の人物です。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.ニーアル・ファーガソン・ハーバード大学教授
   2.ポール・クルーグマン・プリンストン大学教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 ニーアル・ファーガソン教授は、40歳代の若さを誇る有能な
歴史学者です。これまでの歴史学にはなかった彼自身のユニーク
な歴史観による英国史、米国史および20世紀史などの大著で有
名です。
 ファーガソン教授は、今回の経済危機は、70年代後半から米
国をはじめとする各国で始まり、公的・民間セクターで債務残高
を上昇させてきた「レバレッジの時代」の終焉を象徴するもので
あるとして、次のように主張するのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この経済危機に対し、財政赤字拡大という旧来の政策レジーム
 を用い、なおかつ短期的な対症療法で乗り切ろうとしても、長
 い「歴史の流れ」に抗することはできない。こうした虚しい試
 みを行うのであれば、近い将来において米国の「アルゼンチン
 化」をもたらしかねない。      ――ファーガソン教授
           ――『週刊エコノミスト』7月28日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 ファーガソン教授の議論の最終的な帰結は、長期金利の急上昇
とそれによるさらなる経済崩壊にほかならないというものです。
 これに対して、クルーグマン教授の認識はこれと大きく異なる
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済危機の局面では、家計の負債の減少などの民問部門の動き
 を考慮すると、米国全体で債務が飛躍的に拡大したとはいえな
 い。また、家計や企業は膨大な供給過剰のなかにあり、新規投
 資には消極的である。このため、米国は貯蓄超過にあり、マネ
 ーはその運用先に飢えている「カネ余り」の状況にある。しか
 も、これは米国だけの現象ではないうえ、余剰貯蓄は米国債に
 向かわざるを得ない。つまり、世界は大量発行される米国債を
 購入する投資家であふれており、中国が米国債を購入するか否
 かは重要ではない。         ――クルーグマン教授
           ――『週刊エコノミスト』7月28日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 この論争は、中央銀行による量的緩和政策の効果が国債発行増
額による財政拡張政策によって相殺されてしまうかどうかという
点が焦点となっていいるのです。
 ファーガソン教授は、財政拡張が長期金利を上昇させ、金融緩
和の効果を阻害する――クラウディングアウト効果――を懸念し
ているのに対し、クルーグマン教授は、余剰貯蓄の存在が、長期
金利を低位安定させるので、財政拡張政策と金融政策は補完的で
あることを強調しているのです。
 この2人の学者の論争は、オバマ政権の経済政策をめぐって火
花を散らしているのです。    ――[オバマの正体/18]


≪画像および関連情報≫
 ●「財政代理人」を演ずるFRB
  ―――――――――――――――――――――――――――
  昨年12月の定例会合で、米連邦準備制度理事会(FRB)
  は政策金利を「0から0.25 %のレンジ」まで引き下げ、
  今後はバランスシート拡大を通じて未知なる金融政策を追求
  すると宣言した。一連の金融危機が深刻化する以前、FRB
  のバランスシートは9000億ドル台前半だったのに、リー
  マン・ブラザーズ破綻以降は2倍に膨れ上がり、事実上の量
  的緩和に突入している。日銀が2001年に導入した量的緩
  和との違いを指摘して、FRBのバランスシート拡大政策を
  「クレジット緩和」と呼ぶ向きもある。実際、日銀の白川方
  明総裁は、FRBの政策は古典的な意味での「量的緩和」で
  はないとの解釈を示す。FRBも量的緩和という言葉は使っ
  ていない。  http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/642
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●写真出所/『週刊エコノミスト』7月28日号

クルーグマンとファーガソン.jpg
クルーグマンとファーガソン
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2009年08月07日

●「IMF債とBRICsの狙い」(EJ第2629号)

 最近経済新聞や雑誌によく出てくる用語で、よく似ていてその
違いがわかりにくいものがたくさんあります。次の3つの言葉の
意味がわかるでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.TARP
           2.TALF
           3.TBTF
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の「TARP」とは何でしょうか。
 これは、EJの今回のテーマに何回も出てきますが、「不良資
産救済プログラム」のことです。前ブッシュ政権自体に創設され
7000億ドルの資金が用意されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   不良資産救済プログラム
   Troubled Asset Relief Program
―――――――――――――――――――――――――――――
 第2の「TALF」とは何でしょうか。
 これは、EJでははじめて登場する言葉です。「TALF」は
資産担保証券(ABS)市場の機能不全を解消するため、学生ロ
ーン、自動車ローン、クレジットカードローン、中小企業向けロ
ーンを裏付けとするトリプルA格のABSの購入者に資金を融通
する制度なのです。消費者向けローンの約40%はABSとして
証券化されていますが、金融危機の影響でABS市場が機能不全
に陥り、ローンの実行も減っています。消費者や中小企業のデフ
ォルトが増大すれば投資家がABSに高い利回りを要求し、融資
金利が上昇する恐れがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ターム物資産担保証券貸出制度
   Term Asset-Backed Securities Loan Facility
―――――――――――――――――――――――――――――
 第3の「TBTF」とは何でしょうか。
 これは、今までに何回も登場しています。ファニーメイ(連邦
住宅抵当公庫)、AIG、シティグループなどの大手金融機関は
TBTF組織であるといわれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   巨大過ぎて潰れない
   To Big To Fail
―――――――――――――――――――――――――――――
 あるFRB幹部は、TBTFを瓶から抜け出て巨大になった魔
人に例え、今さら瓶には戻せないといっていますが、非常にうま
い表現であると思います。
 さて、EJ第2626号で、BRICs各国が米国債を売って
IMF債を引き受ける動きについてご紹介しましたが、これにつ
いてもう少し詳しく述べることにします。
 まず、米国の財政赤字の数字を押さえておきます。2009年
度(2008年10月〜2009年9月)の米国の財政赤字は、
1.8 兆ドルに達するのです。名目GDP比で13%――金額・
比率ともに過去最大です。
 それでは、財政赤字の累積である政府総債務残高は、2010
年度には名目GDP比で100%近くに迫ることは確実であると
いわれているのです。そういう年である2009年にFRBは戦
後なかった領域に足を踏み入れようとしています。それは、3月
18日に連邦公開市場委員会(FOMC)が長期国債を3000
億ドルまで、買い入れることを発表したことです。
 FRBは日本の日銀に当たる中央銀行です。そういう中央銀行
が国債の買い入れをするのは基本的にはタブーなのです。なぜな
ら、それをやると、財政支出の歯止めが利かなくなり、インフレ
圧力を高めることになるからです。
 米国内には、デフレになるくらいならインフレの方がマシ――
こういう意見もあり、FRBが国債を買い入れることによってイ
ンフレ圧力を高めるなら良いじゃないかという受け止め方もある
ようです。しかし、これはセオリーに反するのです。3月以降、
米長期金利は上昇し、米ドルは売られるようになっていったから
です。専門家は、これは「悪い長期金利の上昇」であり、「悪い
米ドル売り」であるといっています。
 昨年の秋以降の米金融危機に端を発した中東欧などの金融危機
によって、IMF(国際通貨基金)への融資の要請が相次いだの
です。しかし、IMFにはお金がなかったのです。
 そこで米国を含むG20諸国は、4月にロンドンで開催された
第2回金融サミットで、IMFの融資枠を従来の2500億ドル
から7500億ドルに急増させることで合意したのです。そのた
めIMFは創設以来はじめて「IMF債」で資金集めをすること
になったのです。
 IMF債は、ドル、ユーロ、ポンド、円の4通貨から構成され
るSDR――IMFの特別引き出し権――建てになるものと思わ
れています。
 ここでわかりにくいのは、SDRです。IMFの特別引き出し
権とは何でしょうか。
 これをまともに説明すると、かなりわかりにくい話になるので
簡単にいうと、SDRは合成通貨と考えればよいのです。この通
貨は一種のバスケット――ドル、ユーロ、ポンド、円のバスケッ
トなのです。日経平均みたいなものです。
 つまり、SDRを実在する通貨と同様に使えるようにしようと
いうものです。これに真っ先に賛成したのが、ロシアであり、中
国です。なぜでしょうか。
 それは、SDR建てのIMF債を購入することで、IMFの帳
簿上にバッファーを作り、外貨準備機構へと切り替えようとして
いるのです。これによって、ドルの基軸通貨制を切り崩すことを
狙っているのです。しかも、中国はSDRに自国通貨の元を追加
させようとしているのです。       [オバマ正体/19]


≪画像および関連情報≫
 ●SDRとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  IMF加盟国はIMFに対し、借入れを行うことができるが
  1970年以降、IMFを経由して他の加盟国からの資金調
  達が可能となった。SDRは1960年代初頭に発生した国
  際通貨危機の教訓をもって1968にIMFの総務会決議に
  よって創設され、翌1969に発効された。創設当初は当時
  の1ドルと同じ基準を採用したが、1973年の変動相場制
  を受け、標準バスケット方式と呼ばれる方式を採用している
  のである。これは世界貿易において1%以上のシェアを持つ
  通貨を元にSDR価格を評価する方式で、個別の通貨と比肩
  した場合により安定性が増すという利点があった。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●写真出所/『週刊エコノミスト』7月14日特大号

第1回BRICsサミット.jpg
第1回BRICsサミット
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2009年08月10日

●「北朝鮮政策を持たないオバマ大統領」(EJ第2630号)

 クリントン元大統領の北朝鮮電撃訪問――どういう交渉をした
かは一切不明ですが、とにかく米国は北朝鮮に拘束されていた米
国人女性記者2名を連れ戻すことに成功しています。
 オバマ大統領は「核とは無関係」といっていますが、あの北朝
鮮が何の見返りも求めず、刑の確定した米国人女性記者2名を恩
赦で釈放するはずがないことぐらい、世界中誰でもわかっている
ことです。ですから、米国側は詳細を一切発表しないという方針
をとっています。何をいっても無駄でしょう。かならず重大な約
束をしているに決まっています。
 ところでこの光景で何かを思い出さないでしょうか。
 そうです。1994年のカーター元大統領の訪朝です。このと
きの米朝核枠組み合意の失敗が現在の北朝鮮の核問題につながっ
ているのです。北朝鮮に手もなく騙されたのは、クリントン元大
統領その人であったはずです。
 こんな話があるのです。2009年4月5日午前11時30分
青森県の北端の高い丘の上にある米陸軍の特殊レーダーが、北朝
鮮のミサイル基地から打ち上げられたテポドンを発射と同時に察
知したのです。このレーダーは、北朝鮮のミサイルを監視するた
めに米陸軍が全技術を結集してつくり上げたものなのです。
 この情報は直ちにハワイ・オアフ島にある米空軍基地の太平洋
防空宇宙センターに伝えられたのです。この防空宇宙センターを
統括するのは米第13空軍の司令官、オシャニシー大佐ですが、
オシャニシー司令官はこの情報を受け取ると、「戦争状態」を発
令したのです。
 こうしているうちに、日本海や太平洋に展開している米第7艦
隊のイージス艦からもテポドンの発射の情報が入ってきたので、
オシャニシー司令官は情報を分析し、1分もたたないあいだにす
べての情報とミサイルの動きをコロラド州にある北米航空宇宙防
衛司令部に送り込んだのです。
 この情報は、ネブラスカ州のオマハにある、米国戦略空軍司令
部へと送られ、30秒ほどの分析のあと、ワシントン郊外のペン
タゴンの地下にあるNMCC、全米軍事司令部に届けられると同
時に、ホワイトハウスにあるシチュエーションルームに送られた
のです。このシチュエーションルームは、ホワイトハウスの大統
領執務室の真下にあり、米国防衛のためのあらゆる軍事行動を統
括しているのです。
 このときオバマ大統領は、チェコの首都プラハで、核兵器廃絶
の演説をしたあと、ホテルで休んでいたのです。現地時間は午前
4時――衛星による同時中継で、ペンタゴンとシチュエーション
ルーム、オバマ大統領が直結し、米国の即時即応体制がたちまち
でき上ったのです。この間わずか数分しか要していないのです。
北朝鮮のテポドンがハワイを攻撃するのに要する時間は約20分
ですから、米軍は余裕を持ってテポドンを撃ち落とすことができ
るのです。
 米軍首脳は、このさいテポドンを撃ち落すことを望んでいたと
いわれます。2008年12月5日に米陸軍は、バンデンバーグ
基地からミサイルを打ち上げ、敵のミサイルを撃ち落とす実験に
成功していたので、撃ち落とす自信は十分あったし、貴重な訓練
になると考えていたのです。それに何よりも北朝鮮を牽制できる
からです。そこで米軍首脳は大統領の指示を待ったのです。しか
し、オバマ大統領は次のように命令したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    北朝鮮のミサイルを撃ち落としてはならない    
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう話を聞くと、これまで映像で伝えられているオバマ大
統領のイメージから、彼は核兵器廃絶を訴えていることからも、
きっと平和主義者であり、だからテポドンの迎撃を許さなかった
のだろうと考える人が多いと思います。
 しかし、それは違うようです。米ハドソン研究所主席研究員で
ある日高義樹氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ大統領が今度の北朝鮮のテポドンを撃ち落とさなかった
 のは、オバマ大統領が北朝鮮に対する基本的な政策、外交政策
 をまったく持っていないからである。オバマ大統領の決定は、
 現在のアメリカ政権が「北朝鮮をどうするか」という問題につ
 いて何も考えていないことをはっきりと示している。オバマ大
 統領とオバマ政権が対北朝鮮政策を持っていないという事実は
 テポドンを撃ち落とさなかったことだけに現れているのではな
 い。北朝鮮担当者すら決められないことにもよく現れている。
 オバマ大統領は北朝鮮が大陸間弾道弾をアメリカに向けて発射
 したら、そのミサイルを撃ち落とすべきかどうかなど、考えて
 もいなかったのである。そもそもオバマ大統領は北朝鮮問題に
 関心がない。 ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ政権では、北朝鮮の担当者として、ボスワース氏を任命
しています。しかし、この人事は深く考えられたものではなく、
ボスワース氏が元韓国駐留大使を務めたことがあるというだけの
ことのようなのです。韓国に駐在した外交官を北朝鮮問題の責任
者にすること自体異例であるといわれています。
 ボスワース氏は、ボストン郊外にあるタフツ大学の国際学の専
門家であり、タフツ大学の国際研究機関とフレッチ研究所の所長
の両方を担当していてきわめて多忙なのです。
 つまり、ボスワース氏は大学運営の仕事のかたわら、パートタ
イマーとして、これから難しい交渉が必要な北朝鮮担当をするこ
とになるのです。
 オバマ大統領の北朝鮮問題の関心はそんな程度なのです。いや
北朝鮮はおろか、日本を含めてアジア問題にもあまり関心がある
とはいえないのです。明日からオバマ大統領の外交政策について
考えます。        ―――――[オバマの正体/20]


≪画像および関連情報≫
 ●クリントン元大統領/北朝鮮電撃訪問
  ―――――――――――――――――――――――――――
  北朝鮮を訪問していたビル・クリントン元米大統領は8月5
  日午前、5か月間近く拘束されていた米国人女性記者2人と
  ともに帰国の途についた。同氏のスポークスマンが明らかに
  した。ロサンゼルスに現地時間の8月5日未明(日本時間同
  日夜)にも到着する。米朝間の懸案だった米国人記者拘束問
  題は、15年ぶりの元米大統領の訪朝で解決し、今後、本格
  的な米朝協議が再開されるかが焦点となる。
                    ――読売オンライン
  ―――――――――――――――――――――――――――

クリントン元大統領電撃北朝鮮訪問.jpg
クリントン元大統領電撃北朝鮮訪問
posted by 平野 浩 at 04:20| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月11日

●「6ヶ国協議はなぜうまく行かないのか」(EJ第2631号)

 クリントン元大統領の訪朝による米国人女性記者解放は、どう
やら北朝鮮の仕掛けであったようです。北朝鮮としては、訪朝す
る米側の交渉役は、どうしてもクリントン元大統領でなければな
らなかったのです。
 米側としては、ゴア元副大統領やリチャードソン・ニューメキ
シコ州知事を派遣したかったのですが、北朝鮮側からクリントン
氏を逆指名してきたのです。
 なぜなら、クリントン氏は現政権と同じ民主党の元大統領であ
り、現職国務長官の夫なのです。北朝鮮側としては、米側がいく
ら「私的」と強調しても、現政権にストレートにメッセージを伝
えることができると踏んだのです。北朝鮮側としては、あくまで
米国との二国間協議を望んでいるのです。
 ところで、オバマ大統領は、6ヶ国協議をどのように考えてい
るのでしょうか。
 既出の日高義樹氏は、オバマ大統領は6ヶ国協議について次の
ように考えているといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ大統領は、ブッシュ前大統領が始めた6ヶ国協議には、
 どんなことがあっても戻りたくないと思っている。
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそも6ヶ国協議は、ブッシュ前大統領が、かつてのクリン
トン元大統領の北朝鮮との二国間協議が失敗したことを受けて始
めたものです。
 二国間協議をやって北朝鮮が約束を守らないと、米国の外交政
策の失敗になってしまうので、米、日、中、韓、露が加わって協
議し、北朝鮮に約束させると、今度は約束を破れなくなると考え
たわけです。一応合理的な考え方であると思います。しかし、こ
の6ヶ国協議――ほとんど機能していないのです。北朝鮮がとこ
とん非協力であることが最大の原因ですが・・・。
 とくにブッシュ政権の末期に6ヶ国協議は有名無実になり、米
朝は事実上二国間協議をして、北朝鮮をテロ指定国家から解除し
てしまったのです。これには理由があるので、後から述べること
にします。
 ところで、オバマ大統領はなぜ6ヶ国協議をやろうとしないの
でしょうか。
 日高義樹氏によると、それをブッシュ前大統領がはじめたから
なのです。オバマ氏は「チェンジ」を標榜してホワイトハウス入
りを果たしましたが、それはブッシュ前大統領のはじめたことを
すべてチェンジしようと思っているからです。
 6ヶ国協議の枠組みに中国はもともと反対です。というのは、
この枠組みで協議が進展すると、下手をすると、6ヶ国による朝
鮮半島支配の体制が確立する恐れがあるからです。6ヶ国の中で
中国と利害が一致するのは北朝鮮だけであり、米国、日本、ロシ
ア、韓国は地政学的にみてすべて中国の敵なのです。しかし、当
時の中国には弱みがあり、米国が経済問題もからめて圧力をかけ
てきたので、しぶしぶ引き受けたのです。
 このような考え方では6ヶ国協議はうまく行くはずがないので
す。それに、ブッシュ前大統領の大きな誤算もあったのです。そ
れは、6ヶ国協議の米国の代表であるクリストファー・ヒル国務
次官補が大統領に造反したことです。
 国務省の国務次官補が大統領に造反する――ちょっと考えられ
ないことですが、日本でも霞ヶ関の役人が大臣や首相を裏切るの
は当たり前になっていることでもあり、米国でも十分ありうるこ
となのです。
 日高義樹氏は、6ヶ国協議の代表に任命された直後のクリスト
ファー・ヒル氏と会って、インタビューしたことがあるというこ
とです。そのとき彼は、日高氏に対しはっきりと次のようにいっ
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカの基本政策は6ヶ国協議です。私は北朝鮮と2国間協
 議をおこなうつもりはまったくありません。
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ヒル米代表はたちまち壁に突き当たったのです。6ヶ
国協議が始まった当時の韓国は、金大中や盧泰愚が大統領ですが
彼らは親北朝鮮/反米なのです。そのため、米、日、韓の連携が
うまくいかなかったのです。
 中国は内心は反対で米に対する面従腹背、ロシアは中国が6ヶ
国協議の主催国として成功すると、隣の大国として政治的威信に
傷がつくと考えています。したがって、中国を成功させないよう
にときどき足を引っ張るのです。北朝鮮はもともと協力的ではな
いし、後ろで中国とつながっているので、勝手気ままに振る舞う
――これで協議が進展するはずがないのです。
 クリストファー・ヒル代表は、6ヶ国協議が成功すると、自分
に出世のチャンスが回ってくると考えたのです。しかし、協議が
行き詰ってしまうと、自分の出世の芽も摘まれてしまう――これ
だけは避けなければならない。そのためには、意味がなくてもい
いから協議を継続させる必要があると考えたのです。
 それに北朝鮮は米国と二国間協議を求めている――これに乗る
そぶりを見せれば6ヶ国協議は続くと考えたのです。
 実は、当時のライス国務長官からヒル代表は次のように厳しく
いわれていたのですが、彼はこれも無視したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 北朝鮮とは個別協議をしてはならない。北朝鮮の代表と二人だ
 けで会ってはいけない。必ず中国代表を同行しなさい。
―――――――――――――――――――――――――――――
               ―――[オバマの正体/21]


≪画像および関連情報≫
 ●クリストファー・ヒル氏とは何者か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  クリストファー・ロバート・ヒルは、アメリカ合衆国の外交
  官である。東アジア・太平洋担当国務次官補。北朝鮮核問題
  の6者会合のアメリカ首席代表を務める。ボードイン・カレ
  ッジで経済学士。1994年に米国海軍軍事学校で修士号を
  取得。既婚で3人の子供あり。対北朝鮮外交の穏健派であり
  批判者からはキム・ジョンヒルと呼ばれている。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

クリストファー・ヒル氏.jpg
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2009年08月12日

●「北朝鮮に同情的な米国務省」(EJ第2632号)

 米国の対北朝鮮政策を考えるうえで米国務省という役所の体質
を知っておく必要があります。米国務省の官僚は、概して理想主
義的な考えを持ち、成績優秀な学生であった人が多いのです。き
わめて進歩的であり、人道主義的であり、リベラルな人たちなの
です。この点国防総省やCIAなど、他の省庁の官僚と大きく異
なるのです。こういうタイプの人は民主党議員に多いのです。
 こうした人たちがアジアの歴史を調べると、野蛮な侵略者はあ
くまで日本人であり、その哀れな被害者は朝鮮半島の人たちや中
国人――こういう図式でとらえてしまう傾向があるのです。した
がって、国務省の官僚のほとんどは北朝鮮に同情的であり、日本
に批判的な傾向があります。したがって、どんなに日本が拉致問
題を米国に訴えても彼らには通じないのです。
 もうひとつ大事なことは、1994年のカーター訪朝によって
締結された米朝核枠組み合意が結果として大失敗であったことを
国務省自体は失敗と考えていないことです。いや、官僚のみなら
ず、民主党系の議員の多くも同じ考え方であるということです。
 その証拠があります。2007年に米シークレットサービスと
財務省は、マカオのデルタ銀行に隠されていた金正日の麻薬資金
を押収したことを覚えておられるでしょう。このニュースを聞い
て多くの日本人は、米国はなかなかやるじゃないかと考えて、拉
致問題の解決に期待感を示したものです。
 しかし、これに猛然と反対した民主党の大物上院議員がいるの
です。それは誰あろう現国務長官のヒラリー・クリントン上院議
員なのです。このとき、ヒラリーと米国務省は、いったん凍結さ
れたその麻薬資金を金正日に返すことに賛成したのです。
 国務省自体がこういう考え方ですから、クリストファー・ヒル
氏がブッシュ前大統領の指示にしたがわず、二国間交渉をしても
民主党議員は非難するどころか、賞賛したのです。
 そして、オバマ政権になるやオバマ大統領は、共和党の反対に
もかかわらずヒル氏をイラク駐在の米国大使に栄転させているの
です。元国連大使で、対北朝鮮強硬派のジョン・ボルトン氏は、
次のように嘆いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (米国の)北朝鮮政策は、国務省のリベラルにのっとられてし
 まった。         ――ジョン・ボルトン元国連大使
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、米国は北朝鮮をどのように見ているのでしょうか。口で
は「核の脅威」を唱えているものの、なぜか今ひとつ真剣さはな
いようにみえます。
 かつて米国は、北朝鮮の戦車や歩兵部隊が、38度線をこえて
韓国に侵入してくる事態を懸念していたのです。そのため、米国
は冷戦後、それまで西ドイツ各地に集めていた米軍の戦闘部隊を
戦車をはじめとし、上陸用舟艇や車両、大砲などの兵器を莫大な
費用をかけて、朝鮮半島に持ち込み、世界最強の地上部隊を朝鮮
半島に展開していたのです。
 しかし、現在米国では、朝鮮半島の軍事力を大幅に削減させて
います。それは現在の北朝鮮が経済的には破綻状態にあり、新し
い兵器を購入する力がないので、その膨大な軍事力を維持できな
くなってきつつあるからです。
 1995年に北朝鮮は大飢饉に見舞われ、300万人が餓死す
るという悲惨な事態が起こったのです。そういう状況にもかかわ
らず、異常と思えるほど軍事力を増やし、経済を一層破綻の淵に
追い込んだのです。
 そして今や北朝鮮の国内総生産は年間262億ドルになってし
まったのです。これは韓国の30分の1であり、国民一人当たり
の収入は、日本円にして年間1800円に過ぎず、国民の数も韓
国の半分以下であり、しかも栄養状態が悪いので、平均寿命も世
界でも最も短いグループに属しているのです。
 そんな弱小国である北朝鮮を世界一の軍事力を持つ米国が韓国
に駐留までして守る必要などないのです。今や韓国の兵力が北朝
鮮を圧倒しているからです。このように強大化しつつある韓国の
兵力について、日高義樹氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そのうえ韓国の地上部隊は、逆に北朝鮮に攻めこむ軍事能力を
 持ちはじめている。これまで比較的おくれているといわれた空
 軍も、日本の自衛隊よりも先に新しいF15E戦闘爆撃機を装
 備するなど、兵力の増強がめだっている。北朝鮮は、膨大な数
 の歩兵と古い戦車や大砲を持っているが、コンピュータの時代
 になって、韓国の近代兵器には対抗できなくなっているうえ、
 アメリカ軍はイラク戦争で十分使いこなした最新鋭兵器をいつ
 でも使う体制をつくりあげてしまった。
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 それほど韓国軍が強大になっているのなら、米軍は引き揚げれ
ばよいではないかと誰でも考えますが、むしろそれを一番恐れて
いるのは当の米国自身なのです。
 米国が恐れているのは、韓国が北朝鮮を破り、北朝鮮を韓国が
合併すること、それに北朝鮮という国が経済的に瓦解してしまう
ことなのです。なぜなら、そういう事態になると、在韓米軍が駐
留する理由がなくなってしまうからです。そうすると、アジア大
陸から米軍がいなくなることになってしまうからです。
 この事態は絶対に避けたいと米国は考えています。そのために
北朝鮮という国は米国にとって必要であり、「北朝鮮の脅威」は
残しておく必要があります。したがって、金正日が少しぐらい勝
手なことをやっても適当にあしらっておく――これが米国のやり
方なのです。それに中国にとっても北朝鮮はなくなっては困る国
なのです。          ―――[オバマの正体/22]


≪画像および関連情報≫
 ●日高義樹氏について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1935年名古屋市生まれ。東京大学英文科卒。59年NH
  K入局、外信部を経てニューヨーク支局長、ワシントン支局
  長を歴任。その後NHKエンタープライズ・アメリカ代表を
  経て、理事待遇アメリカ総局長。審議委員を最後に92年退
  職。ハーバード大学客員教授などを務めた後、現在はハドソ
  ン研究所首席研究員として日米関係の将来に関する調査・研
  究の責任者。全米商工会議所会長顧問。
  ―――――――――――――――――――――――――――

日高義樹氏と近刊書.jpg
 
日高義樹氏と近刊書
posted by 平野 浩 at 10:05| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月13日

●「北朝鮮の第2回核実験は偽造か」(EJ第2633号)

 2009年5月25日、オバマ米大統領が世界的に核廃絶を訴
えるなか、まるでそれに逆らうように北朝鮮は地下核実験を強行
したのです。そして北朝鮮は、次のようなメッセージを世界に配
信したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 自衛的核抑止力を強化するための措置の一環として、25日に
 地下核実験を成功裏に実施した。  ――北朝鮮ニュース速報
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この核実験は偽装だったのではないかという情報があ
るのです。その情報は『週刊ポスト』/2009年8月14日号
の「池上彰の鳥の目/虫の目」第158回に出ていたのです。ご
覧になっていない方も多いと思われるので、ご紹介します。
 どうして北朝鮮の2回目の核実験が偽装であると疑われるので
しょうか。
 それは、核実験をやると必ず大気中に放出されるはずの放射性
核物質のクリプトンやキセノンが実施から3ヶ月も経つのに検出
されていないからです。
 北朝鮮が、2006年10月に第1回の核実験をやったときは
北朝鮮から遠く離れたカナダのイエローナイフ観測所がキセノン
を検出し、米軍の偵察機も日本海上空で同物質を採取しているの
です。したがって、このときは北朝鮮は間違いなく核実験を実施
しているのです。
 したがって、今回も北朝鮮の核実験実施の発表直後から、韓国
原子力安全技術院は、韓国空軍と海軍の協力を得て、韓国と日本
海の上空で大気のサンプル採取を実施し、日本では航空自衛隊が
同様のサンプル採取を行っています。米軍もWC135特殊偵察
機を飛ばしてサンプル採取をしているのですが、問題の放射性物
質は発見されていないのです。
 それでは、核爆発は本当にあったのでしょうか。
 5月25日に地下で大爆発があったことは確かなのです。これ
は、地震波の分析から間違いがないことなのです。日本では、気
象庁や東京大学地震研究所などの地震計が大きな揺れを記録して
いるのです。本物の地震の場合、P波とS波という伝達速度の異
なる2種類の地震波が発生するのですが、S波が不明瞭であり、
典型的な人工地震であることは間違いないのです。
 そこで、池上彰氏は次の3つの可能性を考えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.核実験で発生した放射性物質が地下に完全に閉じ込められ
   大気中に放出されなかった可能性
 2.大気中には放出されたものの、風によって拡散され、どこ
   の機関も検知できなかった可能性
 3.北朝鮮が大量のダイナマイト(TNT火薬)を爆発させる
   ことで核実験偽装を企てた可能性
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の可能性について検討してみます。
 結論から先にいうと、この可能性はきわめて低い、というより
あり得ないと言ってもいいのです。
 地下で核実験をやると、核爆発で発生した通常の放射能が漏れ
出すということはないのです。しかし、希ガスと呼ばれるクリプ
トンやキセノンは、地中を通って必ず地上に出てくるのです。何
らかの事情でそれが地上に出てこないということは、絶対にあり
得ないといってよいのです。
 第2の可能性について検討します。
 この可能性は絶対にないとはいえませんが、世界各地に120
の観測所があり、今回の核実験のときはその70%が稼働してい
るのです。そのどこからもクリプトンやキセノンが採取できない
ということはやはりあり得ないのです。
 第3の可能性について検討してみます。
 第1の可能性、第2の可能性ともにその可能性が低い以上、第
3の可能性の信憑性が高くなります。核実験を行うには、相当量
のプルトニウムが必要になります。
 2008年に6ヶ国協議の議長国である中国に申告した核計画
によると、これまでにプルトニウム26キロを抽出している事実
が明らかになっています。そのうちの2キロは、2006年の第
1回核実験で使っているので、残りは24キロです。
 さらに使用済み核燃料棒にまだ8キロのプルトニウムが残って
おり、これを抽出したとすると、核兵器に使えるプルトニウムは
32キロになります。
 このようにプルトニウムの量が使える核兵器の数を決めてしま
うのです。それほどプルトニウムは貴重なのです。それに第2回
の核実験は、国連安保理決議に対するいわば北朝鮮の意地を見せ
るためのものに過ぎず、貴重なプルトニウムをそのような核実験
のために果たして使うかどうか疑問なのです。
 そうであるとすると、北朝鮮は核実験を偽装した可能性がある
のです。何しろ北朝鮮という国は、明らかに失敗しているミサイ
ルの発射を人工衛星の軌道打ち上げに成功し、「光明星」という
衛星が地球の周回軌道を回っているという明白なるウソを堂々と
主張する国なのです。したがって、核実験の偽装や捏造などは平
気でやると思われます。
 おそらく米国は、北朝鮮の核実験のウソをとっくの昔に知って
いると思われます。しかし、既に述べているように、米国にとっ
て「北朝鮮の脅威」は存在していないと困るのです。したがって
よくわかったうえで、北朝鮮を追い詰めない方針なのです。
 そういう方針であれば、日本の拉致問題などはまず解決するこ
とは困難でしょう。なぜなら、拉致被害者は、短期間拘束されて
いた米国人記者とは異なり、北朝鮮の秘密の部分を多く握ってい
るからです。日本や韓国の拉致被害者を返すことによって、そう
いう北朝鮮の秘密の部分が明らかになるということは、北朝鮮と
しては絶対に困るのです。
               ―――[オバマの正体/23]


≪画像および関連情報≫
 ●【希ガス】とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンおよび
  ラドンの6つの元素の総称です。これらの6元素は大気中の
  存在量が非常に少ないので希ガスと呼ばれます。また、非常
  に安定しており、他の元素と容易に化合せずに単独で気体と
  して存在する性質を持ち、不活性ガスともいわれます。原子
  炉内では核分裂生成物として放射性のクリプトン、キセノン
  アルゴンなどが生成されます。
  http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/gat/puru-QA_yougo.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

池上 彰氏.jpg
池上 彰氏
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2009年08月14日

●「オバマ米大統領の日本観」(EJ第2634号)

 確認した人がいるわけではないが、ホワイトハウスのどこかの
部屋に「ある絵」が飾ってあるそうです。その絵とは、第2次世
界大戦当時の新鋭爆撃機B25の絵なのです。これはオバマ大統
領が海軍の画家に命じて描かせたものといわれています。
 第2次世界大戦さなかの1942年4月18日、東京、名古屋
北九州が大空襲を受けたのです。これは「ドゥリトル空襲」と呼
ばれています。
 「ドゥリトル」とは、米陸軍航空隊のドゥリトル少佐のことで
あり、日本空襲の指揮官です。ドゥリトル少佐は、東京近くまで
ひそかに侵入した米空母「ホーネット」から新鋭爆撃機B25を
発艦させ、日本各地を空襲したのです。
 空母の艦載機による空襲は、当然のことながら帰艦することを
前提とする出撃であり、空襲の範囲が大きく制約されますが、空
母からB25を発艦させる場合は、帰艦することは前提ではない
ので、広範囲に空襲できます。実際にドゥリトル少佐は、空襲の
あとそのまま飛び続けて中国国内に不時着しているのです。
 この突然の空襲に日本軍は驚き、報復のために山本五十六連合
艦隊司令長官は、米空母機動艦隊にミッドウェー沖で決戦を挑み
敗北しています。この海戦によって、事実上日本の負けは決まっ
たといっても過言ではないのです。
 空母から重爆撃機を発艦させる――この発想は当時としては考
えられなかったのです。空母は滑走距離が短いので海面すれすれ
の発艦となり、失敗する危険が多く、しかも帰艦できないからで
す。しかし、そういうことを敢然として行い、成功させたことを
高く評価してオバマ大統領は画家に命じて絵を描かせたというの
です。彼はこのように「考えられないことをする」のが好きなの
です。それが彼の標榜する「チェンジ」なのかもしれません。
 日本を空襲したドゥリトル少佐のB25をわざわざ描かせてホ
ワイトハウスの部屋に飾る――この行為ひとつとっても、彼が日
本をどのように考えているか見える気がします。
 確かにオバマ大統領は世界に対して「核廃絶」を訴えており、
それは歴代米大統領としては「考えられないことをする」ことに
入るかもしれません。
 しかし、オバマ大統領が本気でそう考えているならば、プラハ
などではなく、ちょうど良い時期であるので、唯一の被爆国であ
る日本の広島に来てそういうべきではなかったかと思います。も
し、彼がそれをやったら、多くの日本人は彼を心から称賛し、受
け入れたと思うのですが、オバマ大統領自身は、そういう発言を
していないし、今後そうする予定もないようです。
 「考えられないことをする」ことで一番懸念されるのは、オバ
マ政権が北朝鮮を正式に認めてしまうことです。現実問題として
クリントン元大統領の突然の訪朝もあり、これから事態が動く可
能性も出てきています。
 オバマ大統領の北朝鮮に対する姿勢は、ブッシュ前大統領やラ
イス前国務長官を裏切って北朝鮮と二国間交渉を行ったクリスト
ファー・ヒル氏を称賛し、イラク大使に抜擢したことにもよくあ
らわれているのです。
 日高義樹氏は、米国の北朝鮮問題について次のように述べて、
日本人に警告を発しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここにいたって、われわれがあらためて考えなければいけない
 のは、アメリカの歴代大統領が誰も北朝鮮問題を真剣に考えて
 いなかったことだ。アメリカにとって北朝鮮問題は外交上の小
 さな問題である。ノドにかかった小骨ほどの痛みは伴わない。
 だが日米安保条約にもとづいて国の安全を維持している日本に
 とっては、アメリカの北朝鮮政策は死活にかかわる問題だ。イ
 ソップの物語にあるではないか。子供がカエルを相手に石をぶ
 つけてふざけているのに対し、カエルがこういった。「あなた
 にとって単なる遊びかもしれないが、わたしにとっては、命に
 かかわる問題だ」。日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ大統領が本当に日米関係を重視するなら、日本駐在米大
使をなぜもっと早く決められなかったのでしょうか。当初予定し
ていた人物が就任を拒否したなどの情報が流れるなか、やっと決
まったのが、ジョン・ルース氏という人物です。
 オバマ大統領は記者会見で、ルース氏の起用について「日米関
係は、両国の安全保障と経済的繁栄のための要石の一つだ。私が
駐日大使にルース氏を指名した理由は、優れた判断力、卓越した
知性、私の近しい友人で相談相手である点などがふさわしいと判
断したからである」と述べていますが、こんな話が出てきている
のです。オバマ大統領が各国の大使に任命した人物は、いずれも
大統領選でオバマ氏に大口献金をした人物が多いというのです。
 これについて、7月6日付/産経新聞は、次のような驚くべき
報道をしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウォールストリート・ジャーナルは「献金者たちはオバマの大
 使職に居をみいだす」という見出しの記事でオバマ大統領がこ
 れまでに任命した新大使候補55人のうち60%にあたる33
 人が外交経験のない政治任命で、そのなかでも駐日大使に任命
 されたジョン・ルース氏やイギリス、フランス、ベルギー、ス
 イスの大使任命者などオバマ陣営への選挙資金の大口献金者が
 歴代政権よりずっと多い、と報じた。
               ――〔ワシントン=古森義久〕
―――――――――――――――――――――――――――――
 ルース氏はビジネスマン弁護士で、日本との接点はなく、知日
家でもないのです。それに外交経験もなく、どうやら献金額の大
きさで日本大使に選ばれたと考えられます。しょせんオバマ大統
領の日本への関心はその程度なのです。こんなことで日米関係は
うまく行くのでしょうか。   ―――[オバマの正体/24]


≪画像および関連情報≫
 ●「ドーリットル空襲」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  真珠湾攻撃以降一方的な敗退を続け、さらに開戦後の194
  2年2月24日には、日本海軍の伊17乙型大型潜水艦によ
  るアメリカ本土のカルフォルニア州サンタバーバラのエルウ
  ッド石油製油所への砲撃を受け、大きな衝撃を受けたアメリ
  カ軍は、士気を高める方策として帝都・東京を爆撃する計画
  を立てた。アメリカ陸軍は長距離爆撃機を保有していたもの
  の、その行動半径内に日本を攻める基地は無く、ソ連の領土
  は日ソ中立条約のため、爆撃のための基地使用は行えなかっ
  た。また、アメリカ海軍の空母艦載機は航続距離が短く、爆
  撃のためには空母を日本近海に接近させる必要があり、これ
  は太平洋上で唯一動ける空母機動部隊が危険に晒されること
  を意味した。そんななか、アメリカ海軍の潜水艦乗組員が、
  「航続距離の長い陸軍の爆撃機を空母から発艦させてはどう
  だろうか」とルーズベルト大統領に進言。B−25爆撃機を
  急遽、空母の短い飛行甲板から発進出来るように軽量化を図
  った。陸軍爆撃機の空母からの発艦は実戦では初であり、こ
  の作戦はトップシークレットとされた。また、空母に着艦す
  るのではなく、日本列島を横断して当時、日本軍と戦争中で
  あった中華民国東部に中華民国軍の誘導信号の下で着陸する
  予定となった。B−25を搭載する空母はホーネットとされ
  エンタープライズが護衛に付くこととなった。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

空母から発艦するB25爆撃機.jpg
空母から発艦するB25爆撃機
posted by 平野 浩 at 04:14| Comment(1) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月17日

●「在日米軍基地が無力化しつつある」(EJ第2635)

 2008年の大統領選挙が行われる少し前のことです。米国太
平洋空軍(PACAF)のチャンドラー司令官は、その指揮下に
ある全航空機を投入して大がかりの訓練を行ったのです。これは
米空軍の戦闘能力をチェックする訓練なのです。
 この訓練では、実際の航空機を使って、米国側のブルー・フォ
ースと中国側のレッド・フォースに分かれ、実戦さながらの戦闘
訓練が行われたのです。実際にどのような訓練が行われたのかに
ついては不明であるが、中国の新しい軍事力の脅威に対して米国
がどこまで防御できるかを見極め、これからの米国の空の太平洋
戦略を決める重要な訓練であったのです。
 この訓練の主力となる戦闘機は、グアム島を基地とする米国第
13空軍であり、参加した航空機は、F22戦闘爆撃機、B1戦
略爆撃機、B52爆撃機と最新鋭のB2なのです。これらの米軍
最前線の飛行部隊は、グアム島を飛び立ち、空中給油を受けなが
ら、長時間にわたって戦闘訓練を行ったのです。また、沖縄の嘉
手納基地からF15、米国本土アラスカの基地からも地上迎撃用
F16戦闘機が参加したのです。
 このなかでF−22は、米国のはじめてのレーダーに映らない
戦闘爆撃機で、高い能力を持っています。その能力は「3S」と
いわれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    第1のS ・・・・・ ステルス性が高度である
    第2のS ・・・・・ スーパークルーズが可能
    第3のS ・・・・・ STOL/短距離離着陸
―――――――――――――――――――――――――――――
 F22の最大の特色は「ステルス性」ですが、その精度はきわ
めて高いのです。第2のSの「スーパークルーズ」とは、超音速
巡航のことですが、F22はそれをアフターバーナーを使用しな
いでやることができるのです。
 アフターバーナーというのは、ジェットエンジンの排気にもう
一度燃料(ケロシン)を吹きつけて燃焼させ、高推力を得ること
をいうのです。今までのスーパークルーズの達成には、このアフ
ターバーナーが不可欠だったのですが、F22はアフターバーナ
ーを使わないで、スーパークルーズを達成できるのです。
 第3のSのSTOLは、ほとんどヘリコプターなみの離着陸が
可能になっているのです。実際にこの訓練のシミュレーションで
は、F22が1機で40機から50機のレッド・フォースの新鋭
戦闘機を撃ち落としているのです。
 この大がかりな訓練の結果は、チャンドラー大将のもとでまと
められ、「パシフィック・ビジョン」というタイトルが付けられ
て、キーティング太平洋軍司令官に送られ、統合参謀本部を経由
して、ゲーツ国防長官のもとに届けられたのです。
 その「パシフィック・ビジョン」の詳細な内容は知る由もない
が、中国の新しいミサイル戦略はかなり強力であり、これに対抗
するため、米国は太平洋における空軍とそれを支援する基地体系
や通信体制の革新が不可欠であるという結論になった模様です。
日高義樹氏は、米太平洋軍の関係者の言葉として次のように伝え
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 あらゆる日本列島のアメリカ軍の基地は中国のミサイルに簡単
 に攻撃され、軍事行動が始まれば、あっというまに壊滅する。
 台湾の対岸に配備された中国の最新ミサイルは、半数以上が移
 動型の車両から発射されるモービル・ランチャー型で、アメリ
 カ側が場所を前もって探知し攻撃することは難しい。中国側が
 配備している中距離ミサイルは、中国本土から台湾を簡単に攻
 撃できるだけでなく、沖縄の基地や、九州をはじめとする日本
 本土のアメリカ軍基地を簡単に攻撃できる。
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、この訓練で明らかになったことは、在日米軍基地が中
国の新しい膨大なサイルの脅威に対して、まったくの無防備であ
ることなのです。かつては在日米軍基地は強力そのものであり、
日本列島に対する軍事行動などあり得なかったのです。
 冷戦時代には、ソ連軍が北海道に侵攻することを想定しての日
米の守りがありましたが、中国や北朝鮮が日本を攻撃してくるこ
となど考えられなかったのです。そのため、在日米軍基地では、
いまだに弾薬庫や燃料を陸上の格納庫に入れたままになっている
のです。したがって、それを目掛けてミサイルが攻撃してきたら
大変な被害が出ることになります。
 しかし、ソ連が崩壊して冷戦が終結し、長い年月を経て中国と
いう強大な軍事大国に対する備えを米国としては十分とってこな
かったといえるのです。
 とくに日本は平和ボケして、米国がついているから大丈夫であ
るとタカをくくっていたため、米軍ともきちんとした交渉をして
こなかったのです。米軍としてはそういう危険な状態にある在日
米軍基地の防衛について、日本側と何度も交渉をしようとしてき
ているのですが、意見がかみ合わないようなのです。
 日本人のほとんどの人は、中国が既に優れた技術を持ち、日本
の基地を攻撃すれば木っ端みじんにできることは認めても、現在
の国際情勢のもとで、中国が日本を攻撃するはずがないと楽観し
ているのです。防衛関係者にしてこういう感覚なのです。日本人
がこういう感覚を持っている限り、米軍は日本人と防衛問題を話
し合っても無駄だと思ってしまうでしょう。
 弾薬や燃料を地下に格納して在日米軍基地を強化すべきである
という米側の要求に対して、在日米軍基地を守ったとしても、そ
の周辺の民間住宅や公共の建物は少しも安全ではないと日本側は
反論するのです。これでは、いつまで経っても日米の溝は埋まら
ないことになります。この考え方は世界の軍事常識とほど遠いか
らです。           ―――[オバマの正体/25]


≪画像および関連情報≫
 ●F22戦闘機とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  アメリカ空軍(USAF)のF−15C/D制空戦闘機の後
  継機として、ロッキード・マーティン社が先進戦術戦闘計画
  に基づいて開発した第5世代ジェット戦闘機に分類される世
  界初のステルス戦闘機である。冷戦下に開発が行われ、19
  96年からの調達で最終的には750機の配備を予定してい
  た。しかし、冷戦の終結に伴って開発が遅れ、正式な配備は
  2005年に始まった。ミサイルや爆弾を胴体内に搭載する
  ことや、アフターバナーなしでの音速巡航(スーパークルー
  ズ)能力を持つことを特徴とする。  ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

F22戦闘爆撃機.jpg
F22戦闘爆撃機
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月18日

●「冷戦期に日本は何をやってきたのか」(EJ第2636号)

 なぜ、日本の政治家や防衛関係者と在日米空軍は意見が合わな
いのでしょうか。それは、日本の防衛関係者の考え方が世界の軍
事常識からかけ離れているからです。
 それでは、世界の軍事常識とは何でしょうか。
 「現在の国際情勢のもとで、中国が日本を攻撃してくるはずが
ない」――多くの日本人はそう考えています。こういう考え方が
世界の軍事常識からかけ離れているというのです。
 昔の常識からすると、ある国を仮想敵国として想定し、政治的
決定を行ったあと、その攻撃能力を高めるために相当の時間を要
したものです。しかし、これは昔の話であって、現在の軍事常識
は大きく異なるのです。
 現代の軍事を動かすキーワードは「ハイテクの一般技術」なの
です。PCや携帯電話やスマートフォン、ロボット技術やゲーム
マシン、それに各種ソフトウェアや通信技術など――これらがハ
イテクの一般技術ですが、これらの技術は簡単に軍事用に転用す
ることができるのです。したがって、敵を攻撃しようと思えば昔
のように長い時間はかからないのです。きわめて短い時間で攻撃
体制を構築することができるからです。
 こういう時代には、仮想敵国の意図は問題ではなく、その国が
そういうハイテク技術力を持っているかどうか――すなわち、能
力を持っていることが重要なのです。つまり、その国がそういう
能力を持った時点で国防の意識を持つ必要があるのです。
 現在の国際情勢から見て攻めてくるはずがないというのは、こ
ちら側の楽観的観測に過ぎない考え方であり、そういう思い込み
は国家防衛上とても危険です。国家指導者の意図に関係なく、相
手国に相応のハイテク技術力があれば、いつでも仮想敵国になり
得るのです。なぜなら、仮想敵国の指導者の意図が変われば、た
ちまち国家の危機が生ずるからです。
 今まで日本は、42年間も続いた冷戦期(1947年〜198
9年)の間、日本の国益と独立を守るために何をやってきたので
しょうか。それは、きわめて単純にして安易な次の2つの依存主
義にしがみついてきただけなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.護憲左翼 ・・・ 憲法九条があれば日本は安全
   2.親米保守 ・・・ 米国に依存していれば大丈夫
―――――――――――――――――――――――――――――
 国際政治アナリストの伊藤貫氏は、日本の左翼と保守派には、
国際構造の多極化・流動化を論理的に分析し、長期的な視野を持
つグランド・ストラテジーを構築する能力が欠けているとして、
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかも悪いことに日本の官僚・政治家・言論人の大部分は「日
 本には独立国としてのグランド・ストラテジーが必要だ」とい
 うことさえ認識していない。仏露中印諸国の外務官僚と国際政
 治学者は、独自のグランド・ストラテジーを認識する知性と戦
 略感覚をもっている。しかし、日本の官僚と学者にはそれがな
 い。キッシンジャーが「日本人は国際政治に関して驚くほど鈍
 感だ」と述べているが、まったくそのとおりである。
      ――「Voice/9月号」の伊藤貫氏の論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 米政府の国家情報会議・報告書「グローバル・トレンド202
5」というものがあります。2008年11月に公開された報告
書です。これは現在から2025年までの世界潮流の予測レポー
トで、米政府の16の情報機関の上級分析官を集めて作成された
ものなのです。
 その報告書には、2025年までの15年間の日本外交に関し
て4つのシナリオが予測されているのですが、そのシナリオの2
つは、日本の運命を次のように予測しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカに見捨てられた日本は、中国勢力圏に吸収されてしま
 だろう。    ――「グローバル・トレンド2025」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の航空兵力は、1600機以上の戦闘機と600機以上の
爆撃機部隊が実戦配備されています。また、中国は航空母艦の建
造も進めています。日本海から東シナ海、そして南シナ海での軍
事活動を強化するためです。
 しかし、米軍の首脳はこのことに関する限りまったく気にして
いないのです。何しろ昨日のEJでも述べたように、F221機
で中国機50機を撃墜する能力があるからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の空母の建造や戦闘機の数が多いことに関しては特別の対
 応策をとることはない。
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 米軍が一番気にしているのは、中国のミサイル兵力なのです。
中国はとくに移動型の車両に積み込んで発射するモービル型の近
中距離ミサイルの増強に力を入れているのです。
 その射程距離は2000キロを超えており、台湾有事のさい、
沖縄に駐留する米軍を狙い撃ちすることが可能なのです。そのた
め、これまで米太平洋軍の主力になってきた在日米空軍の基地が
安全ではなくなってしまったのです。
 そこで米軍は、在日米軍基地の米空軍をグアムやハワイに南下
させており、日本を離れているのです。なぜなら、中国のミサイ
ル兵力強化によって、在日米空軍は急速にその存在理由を失い
つつあるからです。在日米空軍、すなわち第5空軍は、カラッポ
のアパートの管理人みたいなものだという声すらあるのです。
 しかし、日本人は、相変わらず能天気に「護憲」「核反対」に
凝り固まっており、自分の国の防衛を米国にまかせ切って今日ま
できているのです。      ―――[オバマの正体/26]


≪画像および関連情報≫
 ●国際政治アナリスト/伊藤貫氏について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1953年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業、コ
  ーネル大学で米国政治史・国際関係論を学ぶ。その後、ワシ
  ントンのビジネス・コンサルティング会社で、国際政治・米
  国金融アナリストとして勤務。CNN、CBS、NBC、米
  国公共放送、ITN、BBC等の政治番組で、外交政策と金
  融問題を解説。米国在住。著書に『中国の「核」が世界を制
  す』(PHP研究所)がある。
  ―――――――――――――――――――――――――――

国際政治アナリスト/伊藤貫氏.jpg
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2009年08月19日

●「米空軍と海兵隊が日本を離れる!」(EJ第2637号)

 米国太平洋空軍のチャンドラー司令官は、まだ40代の若さで
あるそうです。彼がまとめた「パシフィック・ビジョン」はどう
いう内容なのでしょうか。
 「パシフィック・ビジョン」の全貌はもちろん明らかになって
いないのですが、その骨子は日高義樹氏の本に書いてあるので、
その概要をご紹介することにします。
 この新構想は、米空軍を日本本土から南に下げ、グアム島とハ
ワイ、アラスカの3つを拠点にするというものです。これについ
てチャンドラー司令官は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカ空軍の太平洋における拠点はハワイ・オワフ島のヒッ
 カムにある太平洋防空宇宙センターである。アメリカ空軍の戦
 闘部隊は、グアム島とハワイ、そしてアラスカの三つの地域に
 分散して展開される。
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 グアムとハワイとアラスカ――ハワイを頂点とし、グアムとア
ラスカを底辺とする三角形の戦略(トライアングル戦略)であり
その他の地域は米国にとっては補助的な基地になるわけです。つ
まり、日本に展開する米空軍の三大基地――青森の三沢、東京郊
外の横田、沖縄の那覇は米空軍にとって単なる前線基地ないし補
給基地に過ぎなくなります。
 なかでも横田基地は、これまで極東アジアにおける軍事的中心
とされてきたのですが、このトライアングル戦略によって、横田
の戦略指揮所の戦略的重要性はきわめて小さくなります。
 これらの事態はこれからそうなるのではなく、既にそうなって
いるのです。先の北朝鮮のテポドンミサイルの打ち上げ情報もハ
ワイやホワイトハウスに送られた後で横田に届いているのです。
そのときテポドンは日本上空を通過中だったのです。
 それは米国の軍事戦略の変更に過ぎないという人がいるかもし
れません。むしろ米軍が引き上げることによって、基地のトラブ
ルが解消するから良いと考える人もいるでしょう。
 しかし、これほど日本の国益と独立に大きくマイナスなことは
ないのです。日本の国益を害する恐れのある国といえば、中国と
北朝鮮ですが、それらの両国が核兵器とミサイルを持ち、新しい
脅威になろうとしている、まさにそのときに米軍はその航空兵力
を日本から引き上げようとしているからです。
 米空軍兵力だけでなく、米海兵隊もグアムに移転しようとして
います。これは米国のアジア極東戦略が変更された結果そうなっ
たのです。米軍が一番危機感を持っているのは、中国が台湾の対
岸に配備している3000発のミサイルなのです。そのうちの半
分は移動型車両から発射されるミサイルであるといわれます。
 これらのミサイルは、台湾有事のさいには、沖縄の嘉手納基地
の空軍部隊や補給基地、そして海兵隊基地に撃ち込まれる危険が
あるのです。もし、それによって数千人もの負傷者が出ると、オ
バマ大統領の政治責任が問われることになります。そういうわけ
で海兵隊をグアムに移そうとしているのです。
 アジア極東における唯一の地上部隊である米海兵隊がグアムに
移り、在日航空兵力である米空軍がハワイ、グアム、アラスカに
拠点を移す――そういうことになれば、日本周辺の軍事地図は大
きく塗り替えられることになります。
 こういう事態に対し、日本政府の対応はきわめて楽天的であり
能天気です。日本国民にしても、今まで長期にわたり、日本の防
衛を米国に大きく依存してきたので、「米国がついているから大
丈夫」ということで、国防意識が希薄になっているのではないか
と思われます。そのため、こうした米空軍や海兵隊の移動に関し
ほとんど無関心です。むしろ、米軍が日本本土からいなくなれば
基地をめぐるトラブルがなくなって良いことであるという声さえ
あるのです。
 ところで、「海兵隊」についてどれほどご存知ですか。陸軍と
どこが違うのでしょうか。
 米海兵隊は、米国の法律の規定に基づき、海外での武力行使を
前提として、米国の権益を維持・確保するための緊急展開部隊と
して行動するのです。また、必要に応じて水陸両用作戦――上陸
戦を始めとする軍事作戦を遂行することを目的とするので、「海
兵隊――マリーン・コーア」と呼ばれています。米国本土防衛が
任務に含まれない外征専門部隊であることから「殴り込み部隊」
ともいわれているのです。陸軍とは違うのです。
 もうひとつ韓国に駐留している米軍と在日米軍との違いについ
ても理解しておく必要があります。
 在韓米軍はかつては国連軍であり、国連軍として朝鮮戦争に参
加し、在日米軍と違って韓国を占領したかたちで、そのまま韓国
に駐留を続けているのです。朝鮮戦争はまだ終結しておらず、休
戦しているだけなのです。
 現在はその仕組みが少し変わりましたが、韓国軍は国連軍の一
部であり、実質的には国連の指揮下にあったのです。国連軍の司
令官は米軍の司令官であるので、結局のところ、韓国軍、韓国政
府、韓国国民は米軍の支配下にいることになります。
 そのため、在韓米軍の司令部は、ソウルの中心にあるかつての
帝国陸軍駐屯地をそのまま占領しているのです。当然のことなが
ら韓国民、とくに若者やリベラルな人々、それから労働組合は米
軍に対して強い不満を持っているのです。同じ不満でも在日米軍
とは根本的に異なるのです。
 在韓米軍は陸軍です。冷戦が終わって、米陸軍のほとんどは韓
国に移っており、ここからイラクやアフガニスタンに移動してい
るのです。問題は、肝心のオバマ大統領がアジア戦略をどのよう
に考えているかです。いずれにせよ、米軍はかなりの規模で日本
からどんどん離れているのです。日本はもっと主体的に自国の防
衛を考えるべきです。     ―――[オバマの正体/27]


≪画像および関連情報≫
 ●アメリカ海兵隊とは何か/超左翼おじさんの挑戦プログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  沖縄の少女暴行事件が大きな問題になっている。米軍は世界
  各地に駐留しており、事件・事故はどこでも起こるわけだが
  日本ほど事件が頻発する国はない。米兵が起こす事件の凶悪
  さという点においても、日本は特別の存在である。なぜそん
  なことになるか、その根本の問題は別に論じるが、きょうか
  ら数回は、海兵隊とは何かということをとりあげたい。海兵
  隊の大規模な部隊が駐留するのは、世界広しといえども日本
  だけである。その海兵隊が「殴り込み部隊」と言われるよう
  な性格を持っていることが、こうした事件を起こすような体
  質を生みだしている。前回の少女暴行事件に触発され、10
  年ほど前に公表したものだが、現在にも通じると思われるの
  で、紹介しておきたい。
    http://matutake-n.blogspot.com/2008/02/1_2794.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

硫黄島と米海兵隊.jpg
硫黄島と米海兵隊
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2009年08月20日

●「意外に好戦的なオバマ大統領」(EJ第2638号)

 軍拡一辺倒に走る中国によって、日本をめぐる軍事情勢は一変
しつつあります。米国は中国と接近する一方で、中国を仮想敵国
として備えを厳重にしているのです。
 こういう状況下において重要な鍵を握るのは、オバマ大統領の
国際政治に関する考え方です。バラク・オバマ氏は、どういう大
統領なのでしょうか。
 オバマ大統領は、前任者のブッシュ大統領と比べると、平和主
義者に見えるときがあります。「核廃絶」なども唱えています。
しかし、よく調べてみると、オバマ氏にかなり好戦的な一面があ
ることがわかってきたのです。
 ウェブスター・グリフィン・タープレイという米調査ジャーナ
リストの手になる『オバマの危険な正体』という本には、あるテ
レビ討論におけるオバマ発言について、次のエピソードが書かれ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 多くの人が驚くだろうが、テレビ討論の発言から読み取れたの
 は、オバマが民主党きっての主戦論者であることだ。2007
 年7月にシカゴで行われた討論会では、「テロリストの拠点を
 攻撃する目的であれば、パキスタン政府の意向を確認せずに同
 国を爆撃するつもりだ」と宣言している。これは非常に挑発的
 で危険な発言であり、ヒラリー・クリントンは無責任な発言だ
 と激しく批判した。ジョン・マケインは「いかにも経験不足で
 あることを露呈している」と指摘した。究極の軍事的冒険主義
 者と長年目されてきたブッシュでさえ、「ムシャラフ大統領の
 協力をあおぐことなく、パキスタンを攻撃することは絶対にな
 い」と強調している。この発言によって、オバマが民主党候補
 者のなかでもっとも好戦的な人物だと露見してしまった。
       ――ウェブスター・G・タープレイ著/太田龍訳
          『オバマの危険な正体』より/成甲書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 もうひとつ、オバマ政権の姿勢をあらわしている、ソマリアの
海賊問題に対する米国の対応があります。
 ソマリア沖の海賊問題とは、アデン湾とインド洋のソマリア周
辺海域で発生し、国際海運の障害となっている海賊問題のことで
す。1990年代初期にソマリア内戦が始まった頃から目立つよ
うになり、近年に活動が活発化して、スエズ運河・紅海を経由し
地中海とインド洋を往来する年間約2万隻の商船にとって大きな
脅威となっているのです。
 なお、一口にソマリア沖といいますが、事件の多くはアデン湾
で発生し、2008年にいたっては、そのほとんどがアラビア半
島のイエメン沿岸というべき海域で起こっているのです。
 このソマリア沖の海賊はソマリアからやってくるのではないの
です。近くのイエメンでアルカイダと一緒に行動しているテロリ
ストたちなのです。彼らはヨーロッパ社会に対して嫌がらせをし
て海賊行為をやっているのです。
 このように海賊がテロリストであることがわかっていながら、
オバマ政権は海賊騒ぎが起こっても、米海軍を現地に派遣しよう
とはしなかったのです。ちなみにソマリア沖の海域は米第5艦隊
の担当地域です。
 オバマ大統領は、世界の国々からソマリア沖に第5艦隊の主力
を派遣して欲しいと強く要望されたにもかかわらず、なかなか支
援をしようとせず、小型艦艇をたった一隻しか派遣しなかったの
です。それでもさすが米国で、その艦艇は大活躍したのです。
 ところが米国人の艦長が海賊に拉致されるという事件が発生す
ると、突然オバマ大統領の態度が一変したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ大統領が真剣になって海賊問題にとりくみ始めたのは、
 海賊がアメリカ人艦長を拉致したからである。オバマ大統領は
 アメリカ第五艦隊の司令官に直接、命令を発しただけでなく、
 第五艦隊の艦艇に乗り組んでいる海軍特殊部隊シールズの射撃
 手に対して、「遠慮なく海賊を撃ち殺せ」と命令した。アメリ
 カ第五艦隊の駆逐艦は4月12日、まっくらな海上に海賊船を
 みつけた。赤外線の特殊眼鏡をかけたシールズの隊員が30メ
 ートル先から狙撃銃で海賊船の舳先から頭を出した二人の海賊
 を射殺した。二人の隊員が二発を発射、つまり一発で仕留めた
 のである。おどろいた三人目の海賊は水中に飛び込み、アメリ
 カ人の船長は無事に救助された。
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、その後も海賊問題は続いていますが、オバマ大統領は
米国の船と乗務員に対する攻撃以外の行動は口はともかくとして
消極的であり、今までの米大統領とは明らかに異なっています。
 2009年3月末に米国の調査会社が行った世論調査では、米
国の国民の37%が米国は強い国である必要はなく、世界のこと
に責任を持つ必要もないと答えていることがわかったのです。要
するに、米国人が世界のために犠牲を払うことは反対であり、自
分たちのことだけに力を使うべきである――このように答えてい
る人が37%を占めたのです。
 おそらくこの37%の人たちがオバマ氏に投票したと思われま
す。これに対して共和党のマケイン候補に投票した人たちはこれ
まで通り、強いアメリカを望んでおり、国際的な責任はもちろん
とるべきであると考えているのです。
 37%といえば国民全体の3分の1以上であり、それらの人た
ちが「強いアメリカ」を望んでいないとすると、米国は大きく変
わりつつあるといえます。つまり、これらの人たちは、今までと
はぜんぜん異なる大統領をホワイトハウスに送り込んだことにな
るのです。日高義樹氏は、米国の指導者と話していて感ずるのは
日本の防衛について低い関心しかもっていないということです
               ―――[オバマの正体/28]


≪画像および関連情報≫
 ●イスラム勢力と組んだソマリア海賊/吉田鈴香氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ソマリアはアフリカ大陸で最も東に張り出した土地であり、
  真北にイラン、真西にスーダン、ナイジェリア、コートジボ
  ワール(象牙海岸)、リベリア、シエラレオネなど、近年内
  戦の火が絶えなかった地が並ぶ。内戦中の国々は大量の小型
  武器を要する。さらに近年は戦車など、重量のものも使われ
  ている。ソマリア内で使用されるもの、ソマリアを通過して
  西へと運ばれるもの。どちらであれ、これらの武器、兵器は
  どのルートをたどってソマリアに入ってきたか、調べねばな
  らない。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20090427/193130/
  ―――――――――――――――――――――――――――

海賊退治に出動した米イージス艦.jpg
海賊退治に出動した米イージス艦
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2009年08月21日

●「変質する恐れのある日米安保条約」(EJ第2639号)

 米国の2010年度国防予算を見ると、オバマ大統領は、景気
回復のために膨大な資金を注ぎ込む一方において、軍事費を何と
か減らそうと苦慮したあとが窺えます。経済が混乱している中で
米国は中東で泥沼の戦争を継続しており、そのなかで国防予算を
減らすことはきわめて困難です。それに、本当に大幅に減らして
しまうと、米国は世界の主導的な大国として軍事的優位を維持で
きなくなってしまうのです。
 基礎になる通常の兵器の購入や兵員などの給料など合わせると
2010年度の国防予算は5340億ドル――これはブッシュ前
政権が組んだ2009年度の国防予算よりも120億2000万
ドル増えただけです。
 これに加えて、中東での戦闘経費を計上しなければならないの
です。2009年度は1300億ドルであるので、同程度の予算
は必要です。これでは「チェンジ」を標榜しながらホワイトハウ
ス入りしたオバマ大統領としては、国防予算の金額としては、あ
まり変わり映えしないものになっています。
 しかし、国防予算の中身を見ると、ブッシュ政権とはかなりの
違いがあるのです。まず、オバマ大統領は52隻の新しい艦艇の
建造を中止しています。原子力空母は12隻体制は維持するもの
の、新規の発注を延期しています。さらに、F22戦闘爆撃機の
生産台数を大幅に減らし、その代わりに、レーダーに映らない機
能は持ちながら、より多目的なF35の開発に力を入れる計画に
なっています。
 これに加えて、チャンドラー司令官の提案である「パシフィッ
ク・ビジョン」を早急に取り入れるとなると、さらに国防予算は
膨らむことになります。中でもお金がかかるのは、通信衛星の防
衛経費です。
 米太平洋軍は、一部の特殊レーダー通信や偵察用を除いて、一
般の衛星を使用しています。この状態のまま仮に中国と戦争がは
じまると、中国側によって通信衛星破壊が行われ、米軍は戦争開
始と同時に、口もきけない、耳も聞こえない状態になってしまう
のです。したがって、何としても通信衛星を防衛して米国の通信
体制を防衛する必要があるのですが、これには莫大な経費がかか
ってしまうのです。
 問題はこれによって何が起きるかです。それは当然のことなが
ら地域防衛――地域安全のための行動や兵器が制限されるのは避
けられなくなります。そうなると、日本をはじめアジア極東の安
全にも費用をかけられなくなるはずです。つまり、米国はこれま
でのようなかたちで、日米安保条約を維持することは困難になっ
てきているのです。
 この動きは、オバマ政権の予算編成の過程で、はっきりしてき
ています。それは沖縄の海兵隊のグアム移転のための費用です。
事前の話し合いでは、移転の費用は折半ということになっている
のです。日本の負担は、3億6000万ドルになっており、米国
は2010年度の国防予算に9億3450万ドルを計上したので
す。しかし、米下院はこの6月にこの予算を承認したのですが、
予算から2億1110万ドルを削減しているのです。
 この削減額は、海兵隊のグアム移転費用のうち米国負担分に該
当するのです。どうして削減されたのかというと、オバマ大統領
が議員たちを説得できなかったからです。
 どうして説得できなかったのでしょうか。それはオバマ大統領
が明確な極東アジア政策をもっていないからです。とくに対日政
策をもっていない。オバマ氏は、海兵隊のグアム移転の目的とし
て、沖縄の基地周辺住民への配慮という建前だけを述べて、中国
からのミサイル攻撃の危険について説得力のある説明をしていな
いのです。あの演説がうまいオバマ大統領にしてこの説得力のな
さは、彼自身がこの問題について熱心ではないからです。
 日高義樹氏は、「オバマ大統領は日本にあまり好意を持ってい
ない」といっています。それは、オバマ氏が民主党の政治家であ
ることと無関係ではないのです。それは、オバマ大統領が進歩勢
力の民主党の大統領であり、日本を保守勢力とみているので、日
本に対して冷たさがあるのです。かつてのクリントン政権も同様
であったといえます。
 オバマ大統領がなぜ日本に冷淡なのかについて、日高義樹氏は
次のように分析しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカでは共和党はあくまでも基本的にはビジネスマンの党
 である。第二次大戦後、アメリカの共和党はビジネスのうえか
 ら日本を重要な同盟国と考えてきた。共和党の首脳は日本の経
 済力やドルに対する協力的な姿勢を高く評価し、日本を大切に
 思ってきた。軍事力を持たないと決意した日本をアメリカが全
 力を挙げて守り、日本の安全保障に責任を持つことになんの疑
 問も感じなかった。しかしながら、民主党のオバマ大統領はそ
 うしたビジネスマンの共和党を敵だと考えている。(一部略)
 共和党と日本が強く結びついていることはオバマ大統領にとっ
 て好ましくない。敵の味方は敵、つまり共和党の味方は敵、日
 本は敵ということになる。進歩派のオバマ大統領は労働組合勢
 力を政治の基盤としているため、日本の保守勢力である自民党
 には好意を持っていない。この結果当然のことながら、日本の
 安全について冷淡になり、北朝鮮や中国寄りになる。
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国国民の3分の1以上が「国際的に責任をとる必要はない」
と考えているということは、米国にとって日本の安全を維持する
ことが必ずしも米国の国益に直接つながるとは考えていないこと
を意味します。今後さまざまな情勢を分析しないと何ともいえま
せんが、今までの日米関係とは相当違ってくると考えられます。
日本はもっと自主的に国土の防衛ということを真剣に考えるとき
にきていると思います。    ―――[オバマの正体/29]


≪画像および関連情報≫
 ●米国防予算可決/2009.7.30
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【ワシントン共同】米下院は30日、政権が生産中止を表明
  した最新鋭ステルス戦闘機F22の追加調達条項を削除した
  2010会計年度(09年10月〜10年9月)の国防歳出
  法案(国防予算案)を可決、同機の米軍向け生産中止が確定
  した。法案はF22の輸出禁止も規定、日本が次期主力戦闘
  機として導入するのは絶望的となった。F22をめぐる議会
  との対立はオバマ政権側に軍配が上がった形。だが法案には
  大統領が拒否権行使をちらつかせて反対する次世代戦闘機F
  35の代替エンジン開発や大統領専用ヘリコプターへの資金
  拠出が含まれており、上院を舞台にした駆け引きは今後も続
  く見通し。
http://kumanichi.com/news/kyodo/international/200907/20090731004.shtml
  ―――――――――――――――――――――――――――

ロバート・ゲイツ国防長官.jpg
ロバート・ゲイツ国防長官
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2009年08月24日

●「伊藤貫氏による日本核武装論」(EJ第2640号)

 終戦記念日の8月15日、NHK総合テレビの午後7時30分
から放映された『日本の、これから「核」』という番組をご覧に
なったでしょうか。
 米国のオバマ大統領がプラハで「核兵器のない世界を目指す」
と宣言し、核兵器削減に向けて動き出そうとしていることに対し
唯一の被爆国日本では核兵器廃絶の方針を歓迎する声があがって
います。しかし、日本の外務省は、11月初旬に初来日が予定さ
れているオバマ大統領に対し、広島・長崎の被爆地訪問を要請し
ないことを米国に伝えたそうです。
 その一方で、北朝鮮はミサイル発射と核実験を強行し、「核の
闇ルート」を経て、核がテロリストへわたる危険性が指摘されて
います。日本の安全保障は明らかに脅かされているのです。
 これまで日本は「核廃絶」を訴えながら、自らは日米安保条約
によって米国の核の傘の下に入り、安全を保障されてきていると
いう一見矛盾したスタンスでここまでやってきたのです。
 15日のNHKテレビの『日本の、これから』という番組は、
核をめぐる緊張感が高まるなかで日本人は、隣国の脅威にどう対
峙していけばよいのかというテーマを真正面から取り上げ、時間
をかけて討論が行われたのです。
 討論の中では、多少表現はぼかしながらも、「日本は核を持つ
べきか否か」というテーマも討論され、意外に多くのパネラーか
ら、このテーマに対して肯定的な発言――日本も専守防衛という
目的で核を持つべきである――に近い発言があったことに正直驚
いております。今までこの問題を討議することはタブーであり、
テレビ、とくにNHKの番組で取上げることなど、とうてい考え
られなかったからです。
 既にここまで述べてきたように、オバマ政権になって、肝心の
日米安保条約が変質しようとしています。そして、この流れはも
はや止められないような気がします。
 既出の国際政治アナリストの伊藤貫氏――ワシントン在住――
は、『Voice/2009年9月号』で、次の衝撃的なテーマ
で、日本の核武装論を展開しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 核武装なくして日本は滅ぶ/あえてタブーに踏み込んだ8つの
 理由                    ――伊藤貫氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 伊藤貫氏は、東京大学経済学部を卒業し、米コーネル大学で国
際政治学・安全保障政策を学んた後、ワシントンのビジネス・コ
ンサルティング会社に国際政治・金融政策アナリストとして勤務
しています。ワシントンに在住し、BBC、CBS、CNNなど
の政治番組で、外交政策と金融政策を解説するなど幅広い活躍を
しています。伊藤氏によると、核は平和の兵器であり、日本が核
を持つことによって東アジアの平和は安定する――けっして過激
ではない、まっとうな日本核武装論を展開する人です。
 そういうわけで、テーマと関係があるので、今日から5回にわ
たって伊藤貫氏の論文をご紹介することにします。
 伊藤氏は、上記の論文において、「あえてタブーに踏み込んだ
8つの理由」を上げていますが、私なりに整理してその理由を示
すと、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.国際政治の勢力均衡構造が日本に不利な方向に変化
  2.今後、米国の軍事力・政治力が、東アジアから撤退
  3.米政府が提供する「核の傘」では、日本を守れない
  4.MDシステムでは、中朝露からの核攻撃を防げない
  5.オバマ大統領がいう「核兵器の廃絶」は絶対不可能
  6.米国自身がNPT違反の核政策を長く実行している
  7.「米の核持ち込み」では真の核抑止力とはならない
  8.日本のミニマム・ディテランス構築で、問題は解決
   ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                   伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の理由「国際政治の勢力均衡構造が日本に不利な方向に変
化」から考えていくことにします。
 過去500年間の国際政治は、バランス・オブ・パワー(勢力
均衡)の論理で動いてきたと伊藤氏はいいます。ある国が世界制
覇を企てて行動すると、必ずその動きを阻止し、牽制しようとす
る勢力が現れ、その企ては阻止されています。
 16世紀のスペイン、17世紀後半と19世紀初頭のフランス
20世紀前半のドイツ――これらはすべて世界制覇の試みを他の
諸国の連携プレーによって阻止されているのです。
 そして、1947年から42年間に及ぶソ連と米国の二極時代
――いわゆる冷戦時代が続くのですが、その間日本は、対米依存
・対米協調の外交主義をとってきており、これは判断としては正
しかったといえます。
 しかし、1991年にソ連が崩壊して米国の一極構造になった
あとも日本外交は依然として対米依存・対米協調の外交政策を継
続したのです。こうした日本の外交姿勢に対して、米国の優秀な
リアリスト派の国際政治学者――ケナン、ウォルツ(コロンビア
大学)、キッシンジャー、ミアンシャイマー(シカゴ大学)、ハ
ンティントン(ハーバード大学)たちは、次のように警告してい
ますが、日本の親米保守派は聞く耳をもたなかったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカによる一極支配は不可能である。21世紀の世界は必
 ず多極化する。      ――リアリスト派の国際政治学者
―――――――――――――――――――――――――――――
 2009年の現在、国際構造が多極化しているのは、誰の目に
も明らかです。こういう国際構造の多極化が今後も進んで、米国
の支配力が相対的に衰退していくことは避けられないことです。
 こういう時代に日本政府は、対米依存・対米協調の外交政策を
とり続けるのでしょうか。   ―――[オバマの正体/30]


≪画像および関連情報≫
 ●サミュエル・フィリップス・ハンティントン氏とは
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ハンティントンはリアリズムを基調とした保守的な思想で知
  られる国際政治学の世界的権威である。彼はもともと近代化
  とそれに伴う社会変動や民主化の理論で政治理論家としての
  名声を築いた。しかしその名を一躍世界に広めたのは「フォ
  ーリン・アフェアーズ」誌に投稿した論文をもとにした著書
  『文明の衝突』である。ハンティントンは、冷戦以後の世界
  を文明にアイデンティティを求める諸国家の対立として描い
  た。コソボ紛争やトルコのEU加盟などさまざまな国際的な
  事例を引きつつ、文明同士のブロック化が進む世界を分析し
  た。この主張は世界各国で反響を呼び、彼の名を世界的なも
  のにした。             ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ハンティントン氏.jpg
ハンティントン氏
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2009年08月25日

●「2016年以降に米経済は破綻!?」(EJ第2641号)

 伊藤貫氏の論文の続きです。第2の理由「今後、米国の軍事力
・政治力が、東アジアから撤退」について考えます。
 既にここまでの検討において、少なくとも在日米軍基地からは
米空軍と海兵隊がグアムやハワイに撤退することについては指摘
しています。中国のミサイル攻撃に対処するための措置というの
がその表向きの理由です。しかし、世界最強の第七艦隊は神奈川
県の横須賀海軍基地に健在であるし、韓国には米陸軍を主力とす
る在韓米軍がいます。
 ここで、第七艦隊について述べておく必要があります。かつて
民主党の小沢代表代行が「米海兵隊はいらない。第七艦隊だけで
十分」といって物議を醸しましたが、どれほどの日本人が第七艦
隊について知っているでしょうか。とにかく日本人は軍事につい
て疎いと思います。しかし、小沢氏にいわれるまでもなく、米国
は海兵隊のグアム移転を決めているのです。
 さて、第七艦隊というのは、東経160度線以東の東太平洋を
担当海域とする第三艦隊とともに米太平洋艦隊を構成しているの
です。旗艦――司令部は、横須賀海軍基地を母校とする「ブルー
・リッジ」上にあります。旗艦には、海軍中将が座乗することに
なっています。現在の司令官は、ジョン・ミラー・バード海軍中
将です。横須賀を中心として、長崎県佐世保市、沖縄県、韓国の
釜山、浦項、鎮海、シンガポールなどに基地を展開しています。
 航空母艦――原子力空母は「ジョージ・ワシントン」を主力艦
とし、50〜60の艦船、350機の航空機を擁しており、水兵
は平時2万人、戦時には6万人が動員されます。
 なお、日本に関係のある米軍についての知識を得るのに、一番
手っとり早いのは次の番組です。2週間に1回ぐらいですが、か
なり内容のあるレポートを提供してくれます。日高義樹氏が直接
米軍の司令官や米国の要人に質問したり、実際に日高氏が原子力
潜水艦に乗ってリポートしたりします。確か6月だったと思いま
すが、第七艦隊の旗艦「ブルー・リッジ」に乗船してのリポート
もあったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    日高義樹のワシントン・リポート/テレビ東京
    日曜/16時00分〜17時15分
―――――――――――――――――――――――――――――
 これだけの米兵力が東アジアに展開していることの重みは大変
なものであり、これでは中国や北朝鮮はちょっと手が出せないの
です。しかし、北朝鮮が実戦で使用可能な核兵器を持つことにな
ると、朝鮮半島に緊急事態が生じたときは、第七艦隊は北朝鮮の
ミサイル攻撃を避けて、はるか洋上に避難する体制をとるという
のです。このように、日米安保条約は完全に空洞化してしまって
いるといえます。
 伊藤貫氏の論文ではもっと重要なことが指摘されています。米
軍がこのように自国の防衛のためではなく、その国益のために世
界中に軍隊を展開するには当然のことですが、膨大なお金がかか
ります。米経済がしっかりしているときはいいのですが、現在米
経済は大ピンチなのです。
 今年の米国の財政赤字はGDP比13%程度なのです。米経済
の見通しについては楽観論と悲観論がありますが、楽観論であっ
ても毎年GDP比5%以上の財政赤字が続くといわれています。
 米国で最も優秀な投資家であるウォレン・パフェット氏は、米
経済について、次のように予測しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2016年以降のある時点で、深刻な財政危機と通貨危機が米
 国内に政治的動乱を惹き起こすだろう。
                 ――ウォレン・パフェット
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに不安なことがあります。中国の軍事予算の実質規模なの
ですが、2010年代後半にも米国を凌ぐようになるといわれて
います。それと同時期に、購買力平価で測定した中国の実質経済
規模も世界一になると考えられます。
 もっとわかりやすくいうと、為替レートで測定した名目GDP
の値に関係なく、中国人が実際に消費する財・サービスの総量が
世界一になるということです。
 2010年代の後半期に中国が実質的規模において米国を抜き
ちょうどその時期に米国が深刻な財政危機と通貨危機に陥る――
パフェット氏はその時期を2016年と予測しているのです。
 現在は既に2009年後半です。したがって、あと7年後とい
うことになるのです。そうすると、何が起きるでしょうか。
 きっとそのとき米統領は、次の決断を下すことが予想されるの
です。オバマ氏が再選されていれば、オバマ政権の任期中に起き
ると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカの勢力圏を縮小させる。東アジア地域の覇権を中国に
 譲渡して、米軍を国内に引き揚げる。     ――伊藤貫氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 伊藤貫氏は、米経済が深刻な状態に陥る予測の裏に次の事実が
あることを指摘しています。
 1つは、戦後生まれのベビーブーマーが大量に引退する時期で
あるという点です。彼らの86%は、平均貯蓄率の高い白人なの
です。しかし、2000年から2007年までの人口増加統計に
よると、白人の比率は約30%――人口増加の過半数を占めるの
は、貯蓄率の低いヒスパニックと黒人なのです。
 2つは、米国の医療費の増加です。現在はGDPの17%です
が、2010年代末には24%に達すると予測されています。現
在、オバマ政権の進めている医療保険拡大策は医療費の増額をも
たらす政策なのです。
 過少貯蓄体質の悪化と医療費国家負担の増加によって、米経済
は2010代後半期に深刻な財政危機に陥るというのです。これ
が第2の理由です。      ―――[オバマの正体/31]


≪画像および関連情報≫
 ●ヒスパニックとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本においてヒスパニックとは、メキシコやプエルトリコ、
  キューバなど中南米のスペイン語圏諸国からアメリカ合衆国
  に渡ってきた移民とその子孫をいう。ヒスパニックは人種概
  念ではなく、自分あるいは先祖がスペイン語圏のラテンアメ
  リカ地域出身であるかどうかという出自の意識、換言すれば
  自分をヒスパニックと思うかどうかというアイデンティティ
  の概念である。           ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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第七艦隊の旗艦と空母
posted by 平野 浩 at 06:41| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月26日

●「『核の傘』は役に立つのか」(EJ第2642号)

 伊藤貫氏の論文の続きです。第3の理由は「米政府が提供する
『核の傘』では、日本を守れない」です。
 「核の傘」とは一体何でしょうか。
 日本は米国の「核の傘」に守られている――日本人の多くはそ
う考えています。「核の傘」とは、ある核保有国が日本に対して
核恫喝をしたり、実際に核攻撃をしてきたとします。そういうと
きに日米安保条約にしたがって米軍は、その相手国に対し、日本
に代わって報復の核攻撃をする――だから核保有国は日本を核攻
撃をしてこないという理屈です。
 この理屈は「ある条件のもとではあり得る」でしょうが、それ
以外ではフィクションに過ぎないのです。具体的にいうと、中国
かロシアが実際に日本に核攻撃をしてきたとします。そういうと
き米国は中国やロシアと核戦争をするでしょうか。これについて
伊藤貫氏は次のようにいうのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米軍高官には、「アメリカが中露と核ミサイルの撃ち合いをや
 れば、アメリカの核戦力は中露の核戦力を圧倒できる。だから
 『核の傘』は機能している」と主張する者がいる。このような
 考え方を「カウンターフォース戦略」とか「エスカレーション
 ・ドミナンス戦略」とかいう。しかし、米軍幹部が何といおう
 とアメリカ大統領は「数百〜数千基の核ミサイルを撃ち合って
 どちらが優勢になるかを決める」などという核戦争は、絶対に
 実行しないだろう。そんなことをやれば、一億人以上の米国民
 が死んでしまう。「カウンターフォース戦略」とは、絵に描い
 た餅なのである。
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 どう考えても、日本が核攻撃されたからといって、中国やロシ
アと米国が報復の核戦争をやるはずはないのです。これが核でな
いミサイル攻撃なら別ですが、核戦争をやれば米国自体、いや地
球全体が滅んでしまいかねないからです。それに米国にとっては
自国が攻撃されたわけではなく、日米安保条約があるとはいえ、
しょせんは他の国の話なのです。そのため、自国を崩壊させるリ
スクを冒すとは思えないのです。
 もし、核攻撃をする国が、絶対に核報復を受けないところまで
読んで、核攻撃をしてきたらどうなるかです。この場合、自らは
核兵器を持たず、どこかの国の「核の傘」に入っていると思って
いる国――そういう国が最も危ないという理屈になります。
 ここで、冒頭で述べた「ある条件のもとではあり得る」を思い
出していただきたいのです。ここでいう「ある条件」とは、その
国が核兵器を持っているということなのです。
 もし、核保有国が攻撃されたとすると、核による報復攻撃は十
分あり得るのです。どこかの国の「核の傘」に入っている国とは
違うのです。自ら報復攻撃ができる能力がある国が、他の国から
核攻撃をされたらそれはやり返すでしょう。だから、核保有国に
は核攻撃、いや通常兵器による攻撃も控えるでしょう。すなわち
「戦争しない」ということです。これが核抑止です。
 8月15日に放映されたNHKの『日本の、これから「核」』
には、核保有国のインドとパキスタンの民間人も出席していたの
です。彼らがいうのは、あれほど血みどろの戦いをしていた両国
が、お互いに核を持った瞬間にあらゆる戦闘行為をやめてしまっ
たのです。つまり、皮肉なことに、「核」が「平和」をもたらし
たことになるのです。
 続いて第4の理由「MDシステムでは、中朝露からの核攻撃を
防げない」について考えます。
 現在の米軍のMD――ミサイル防衛システムでは、中国やロシ
アや北朝鮮からのミサイル攻撃を防ぐことは困難であると伊藤貫
氏はいいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 多数の弾道核ミサイルを同時に発射する、米軍の軍事衛星をミ
 サイルやレーザー兵器で破壊もしくは麻痔させる、一基のミサ
 イルに数十のデコイ(おとり)弾頭を載せて迎撃ミサイルを混
 乱させる、等々の方法によってMDシステムを無効化できる。
 北朝鮮は自衛隊のMDシステムの上空で核ミサイルを爆発させ
 ることにより強烈な電磁波を発生させ、MDシステムのレーダ
 ー、センサー、通信機器、コンピューター網を麻痺させること
 ができる。また北朝鮮は米軍衛星の近くで核爆発を起こさせる
 ことにより、多数の衛星を同時に破壊もしくは無能化すること
 ができる。
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 米第七艦隊はすべてを衛星に頼っているのです。通信衛星が機
能しなくなれば、旗艦「ブルー・リッジ」と空母機動部隊、駆逐
艦隊との通信ができなくなるのです。そこを中朝露は衝いてくる
ことは確実であり、これらの3国は既にそういう技術を持ってい
るのです。
 MDシステムは構築に巨額の費用がかかります。しかし、それ
を防御するシステムを作るのには、あまりコストがかからないの
です。例えば、巡航核ミサイルがあります。これは小型の漁船、
貨物船、商業飛行機からも発射できる核ミサイルなのです。低空
を自由に航路を変更しながら、飛行するため、MDシステムで捕
捉することがほとんど不可能です。これではMDシステムは割に
合わないシステムであるということができます。
 「核の傘」も「MDシステム」もダメということになると、日
本はどのようにして自分の国を守ったら良いのでしょうか。結局
自分の国は自分の国の力で守る――それしかないことははじめか
ら明らかなことなのです。これはどこの国でも常識であるはずで
すが、日本は違うようです。  ―――[オバマの正体/32]


≪画像および関連情報≫
 ●NHK『日本の、これから「核」』に関するブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ・「核は恐い」は個人の感情だ。しかし、責任ある政治はそ
   の恐怖と向き合い、現実の外交を戦っていかなければなら
   ない。「戦争反対」の声に押されたチェンバレン英首相が
   ヒトラーの台頭を抑えきれなかったことを想起しつつ、現
   在の日本は北朝鮮や中国との外交を真剣に考えていく必要
   があると感じた。
  ・冷戦期の反核運動は、コミンテルン――スターリンの指示
   によって始まった。言われてみれば、確かにスターリン当
   時の東西の軍事バランスは、核戦力は西側優勢、通常戦力
   は東側優勢だった。そういう中で世界が反核に動けばソビ
   エトにとって有利となる構造だったわけだ。原爆忌の広島
   で北朝鮮や中核を擁護するデモ隊が行進するというのもこ
   れを裏付けている。
      http://taro-iseki.blog.so-net.ne.jp/2009-08-16
  ―――――――――――――――――――――――――――

『日本の、これから「核」』.jpg
『日本の、これから「核」』
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2009年08月27日

●「NPT条約を守らない核保有国」(EJ第2643号)

 伊藤貫氏の論文の続きです。第5の理由は「オバマ大統領がい
う『核兵器の廃絶』」は絶対不可能」ということについて考えて
みることにします。
 2009年7月6日、オバマ米大統領とメドベージェフ露大統
領はモスクワで会見し、米国とロシアが実戦配備している核弾頭
の数を2000発から1675発に減らすことで合意に達してい
ます。こういう動きを日本のマスコミは、すぐ安易に歓迎して次
のように報道するのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米露両国が実戦配備している核軍縮へ向かって踏み出した。オ
 バマ大統領が「核兵器廃絶」のため努力している。
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この米国とロシアの合意は「核兵器廃絶」の努力と呼
べるようなものではぜんぜんないのです。なぜなら、これによっ
て両国の核兵器の数は一発も減らないからです。
 実戦配備している戦略爆撃機やミサイルには、即座に使えるよ
う核弾頭が搭載されています。今回の合意はその核弾頭を325
発外して格納庫にしまうだけのことなのです。それらの核弾頭は
必要になれば数時間以内に装備して使うことができるのです。
 核兵器は一度作ってしまうと簡単には廃棄できないことは理解
できますが、それなら、せめて新しい核弾頭を作らないという合
意をすべきです。それなら、核兵器は減らないまでも増えないこ
とになるので、核廃絶に向けての第一歩になるという評価が得ら
れるのですが、これは絶対にやらないでしょう。
 なぜなら、米露両国は、新しい核弾頭を生産するための技術研
究所や生産施設を増設しているからです。核兵器の生産をやめる
気などさらさらないのです。この状況を放置して、いくら「核廃
絶」を訴えてもパフォーマンスそのものです。現にオバマ大統領
は自分が生きているうちには実現しないだろうといっているので
す。まだ若い大統領ですから、本当に核を廃絶する気が少しでも
あるなら、せめて自分が生きているうちに核廃絶の実現に努力す
るぐらいの宣言をするべきです。
 もうひとつ、クリントン、ブッシュ両政権の核政策によると、
「アメリカは非核保有国に対して、先制核攻撃をかける権利を保
有する」と宣言しているのですが、オバマ政権もこの核政策を変
えていないことがあります。つまり、オバマ大統領は、いってい
ることとやっていることは、まるで違うのです。
 しかし、この米国の核政策はきわめておかしな話です。核保有
国に対してそのように宣言するならともかく、核を持っていない
国に核の先制攻撃を仕掛けるというのですから、これはまるで核
恫喝そのものです。既に核を保有する国には何もせず、核を持た
ない国には恫喝によって核の拡散を防ごうとしているのです。伊
藤貫氏はこれについて次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「非核国に対して先制核攻撃をかける権利と能力を維持する」
 と明言する国が「核兵器廃絶」へ向けてのグローバル・リーダ
 ーシップを執っても、そんな「反核外交」を本気にするのは、
 ナイーヴな日本人だけである。外務省とオバマ大統領が主張し
 ている「核兵器の廃絶」は、実現性ゼロなのである。
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 続いて、第6の理由「米国自身がNPT違反の核政策を長く実
行している」について考えることにします。
 NPT(核不拡散条約)が締結されたのは、1968年のこと
です。NPTの実現に尽力したのは、今年の7月6日に亡くなっ
たマクナマラ元米国防長官ですが、現在のNPTは、核保有国、
とくに米露が条約違反を繰り返している現状にあります。
 NPTは、非核保有国の核武装を禁止する代わりに、その第6
条において、核保有国が「核兵器の廃絶」を約束する内容になっ
ているのです。
 しかし、核保有国――とくに米露は、大規模な核兵器増産を続
け、最初からこの第6条を無視してきたのです。これについて、
マクナマラ元米国防長官は次のように慨嘆したといわれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカのNPTに対する態度は、たんに条約違反であるだけ
 でなく、不道徳なものだ。   ――マクナマラ元米国防長官
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、武器を持っている者が武器を持っていない者に呼びか
けて協定を結び武器を持たせないようにする――しかし、そうし
ておいて武器保有者はどんどん武器を増産して、ますます武力を
強化するという構図であり、不公平もいいところです。
 米国は、中国・ロシア・北朝鮮が日本をターゲットとする核ミ
サイルを増産することを許しておきながら、日本に対しては核を
持たせないよう今まで日本に圧力をかけてきたのです。
 伊藤貫氏の言を借りると、もし、日本が核を持つなら、日米同
盟を解消し、日本をNPT違反国として世界中に宣伝し、国際社
会でを孤立させるといって脅してきたのです。これは「日本を永
遠に劣等な立場に置いておくためのシステム」そのものであると
伊藤貫氏はいうのです。
 冷戦の最中に米国は、非核3原則のある日本に核兵器を持ち込
むためにいろいろな手を講じたことが最近わかってきています。
この米国の意図からも明らかなように、本当に東アジアの安全保
障を確立しようと思うなら、日本自体が核を持つこともひとつの
選択肢として考えるべきところにきている、と伊藤貫氏は主張し
ているのです。        ―――[オバマの正体/33]


≪画像および関連情報≫
 ●伊藤貫氏による主張/偽善と欺瞞のNTP体制
  ―――――――――――――――――――――――――――
  公的には、日本とアメリカは「価値観を共有する、信頼感に
  満ちた頼もしい同盟関係」ということになっている。しかし
  不思議なことにアメリカ政府は、「価値観を共有しない」一
  党独裁国・中朝露3国の核ミサイル増産を容認(黙認)し、
  「価値観を共有」しているはずの日本は、「永遠に劣等な立
  場」に置いておきたいのである。このような偽善と欺瞞に満
  ちたNPT体制によって、金縛りに遭っている日本人は、ピ
  エロである。
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
  ―――――――――――――――――――――――――――

ケネディ大統領とマクナマラ長官.jpg
ケネディ大統領とマクナマラ長官
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2009年08月28日

●「日本はミニマム・ディテランスを構築せよ」(EJ第2644号)

 伊藤貫氏の論文の紹介は今回で終了です。第7の理由は「『米
の核持ち込み』では真の核抑止力とはならない」ということにつ
いて考えてみます。
 「核の傘」というものを確実なものにするために、米国の同盟
国が自国に米国の核を持ち込めばよいと主張する人がいます。か
つて西ドイツは、1980年代に米軍のパーシングU核ミサイル
を国内に持ち込むことを許しています。
 しかし、日本には「非核3原則」があるので、建前では米軍の
核は持ち込めないことになっています。しかし、仮に日本が西ド
イツと同じようにそうしたとしても、有事になると、本当に「核
の傘」は機能しないと思います。
 それは、EJ第2642号で述べた理由によって「核の傘」は
機能しないのです。優秀な国際政治学者であるハンティントン教
授らも次のようにいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国本土が直接、攻撃されない限り、アメリカの大統領はけっ
 して核戦争を実行したりしない。
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 また、米軍と日本の自衛隊が共同で核を運用する「ニュークリ
ア・シェアリング」という構想もありますが、これも現実的な案
ではないのです。たとえどこかの国から日本が核攻撃を受けたと
しても、米大統領は自衛隊に自国の核ミサイルの使用を許可する
はずがないからです。
 日本が実際に核攻撃されるという事態になってみないと米国が
本当に守ってくれるかどうかわからないのですが、何となく今ま
で「核の傘」で安心を得てきたのです。しかし、それは大いなる
虚構に過ぎないのです。これについて伊藤貫氏は次のようにいっ
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカ人は非常に打算的な国民である。彼らは、自分たちを
 犠牲にしてまで「核の傘」の保障行為を実行するようなお人好
 しではない。『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 最後の第8の理由「日本のミニマム・ディテランス構築で、問
題は解決」について考えます。これが伊藤氏の結論です。
 結局、「核の傘」というのは虚構であり、日本の真の安全保障
にはならないというのが、今までの7つの理由で明らかになって
きています。
 残る道はひとつしかないのです。日本は専守防衛のために最小
必要限の核を持って、ミニマム・ディテランスを構築すべきであ
る――これが伊藤貫氏の結論なのです。
 日本が核を持つということはタブーになっています。持つべき
か持たざるべきかという検討すらしてはならない――日本国内で
はそういわれています。しかし、核保有国がどんどん増えるなか
在日米軍が日本から撤退しようとしているのです。それは中国の
核ミサイルの脅威が現実のものになっているからです。
 しかし、日本列島は移動できないのです。日本人は自分の力で
自分の国を守らなければならないのです。そのために日本は何を
するべきでしょうか。伊藤氏は、次のようなミニマム・ディテラ
ンスを構築すべきであるというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本に必要なミニマム・ディテランス(必要最小限の自主的核
 抑止力)とは、潜水艦に搭載しておく約200基の巡航核ミサ
 イルだけである。現在16隻ある海上自衛隊の潜水艦の数を倍
 にし、それらの潜水艦にそれぞれ5〜10基程度の巡航核ミサ
 イルを搭載しておくだけで、十分な日本の核抑止力となる。
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ひとくちに「核兵器」といっても、次の3種類があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.地 上から発射する核ミサイル
      2.戦略爆撃機から発射する核弾頭
      3.潜水艦から発射する核ミサイル
―――――――――――――――――――――――――――――
 1と2は、専守防衛の日本には不要です。とくに1があると、
かえって攻撃を受けやすいことになって危険です。そこで残るの
は、3ということになります。
 潜水艦を30隻以上にし、それらの潜水艦に5〜10基程度の
巡航核ミサイルを搭載するだけです。この程度であれば、日本は
GDPの0.2 %程度の予算で十分です。戦争をするための軍備
ではないので、米露中のように核ミサイルの増産競争をする必要
はないのです。伊藤貫氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 仮に中国が日本に1万発の核弾頭を撃ち込んだ場合にも、日本
 はそれに対する報復核攻撃として、100以上の中国の最重要
 都市を核消滅させる能力を維持するからである。中国の指導者
 にとって、そのような戦争はワリに合う戦争だろうか。100
 以上の最重要都市を核消滅された中国政府は「われわれは核戦
 争に勝った!」と叫ぶだろうか。日本に対して核戦争を実行す
 れば、実行国も敗者となる。日本が約200基の巡航核ミサイ
 ルをもてば、抑止力として十分機能するのである。「核兵器は
 戦争を抑止するためにもつ兵器であり、実際の戦争で使うため
 の兵器ではないからである。
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
―――――――――――――――――――――――――――――
               ―――[オバマの正体/34]


≪画像および関連情報≫
 ●伊藤貫氏の「日本核武装論」の補足
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本は戦争を放棄している国であるのに通常兵器は数多く保
  有している。しかし、それは戦争をするための兵器ではなく
  専守防衛のために必要な兵器であるという。そういう理屈が
  通るならば、専守防衛のために核を持っても良いということ
  にならないだろうか。まして、通常兵器は使われる可能性は
  低くないが、核が使われることはあり得ない。核を使えば自
  らも滅ぶからである。日本は唯一の核の被爆国であるから核
  を持つべきではないという理屈は、核を持っているとそれを
  使って戦争をする可能性があるからであろう。しかし、核は
  結局は使えないのであるる。持っているだけで他の国は戦争
  をすることを躊躇うからである。それに専守防衛のためであ
  れば、核は最もコストの安い防衛兵器なのである。
  ―――――――――――――――――――――――――――

潜水艦から発射される核ミサイル.jpg
潜水艦から発射される核ミサイル
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2009年08月31日

●「オバマ政権が中国に依存する理由」(EJ第2645号)

 オバマ政権は、世界レベルの未曾有の金融混乱によって深く傷
ついた米国の経済の現況について強い危機感を持っており、その
解決の方向を中国に求めようとしています。
 もともと米クリントン政権は、日本よりも中国に目をつけ、中
国を国際社会に受け入れることで、米国経済と世界経済を拡大し
ようと考えて日本の頭越しに中国との関係を深めたのです。
 その結果、どうなったかというと、クリントン、ブッシュ両政
権は、米国本土に本店を置き、中国を米国の下請け工場に位置づ
けて製造工場を中国各地に展開したのです。そして、IT技術に
よってグローバル化した経済活動の中で利益だけを米国に吸い上
げ、巨大な金融バブルと不動産バブルを作り上げたのです。そし
て、その狂乱が今回の未曾有の金融混乱の原因になったのです。
 オバマ政権の経済スタッフが、中国に頼る理由について講演で
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国経済はいまの世界経済のなかで例外的な力を持っている。
 アメリカの金融が混乱しても、耐えられるだけの力を持ってい
 る。     ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中国経済の強さについて、その経済スタッフは次の2つの
理由をあげています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.中国経済は国営企業が中心であり、外国からの資本に左右
   されることはない。しかも、国営企業といっても独占企業
   ではなく、国営企業間で競争が行われている。
 2.中国は基本的には農業国家であるということである。貿易
   を増やしてはいるが、GDPにおける貿易の割合は10%
   にも満たない。農業への投資は拡大している。
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界銀行の統計によると、1990年代の中国はGDPの80
%は上海の沿岸地域が作り出したものであり、農村は20%にす
ぎなかったのです。それが2005年には、沿岸地域40%、農
村地域は60%に逆転しているのです。
 これに加えて、中国人の貯蓄率が高く、住宅を購入する場合で
もあまり借金をしないのです。それに住宅価格自体も安いことが
中国経済の強さの理由になっています。
 従来の米国のアジア政策は、対日政策と対中政策の間に「ゼロ
サム的関係」ができていたのです。米国が中国に接近すれば、日
本とはその分、やや遠くなるのです。逆に日本との同盟のきずな
を強化すれば、中国との関係はその度合いに応じて冷却する――
これがゼロサム的関係です。しかし、オバマ政権の政策をこのま
ま推し進めると、米中は接近せざるを得ず、どうしても日米の関
係は冷却の方向に向かうことになります。
 オバマ政権は、こういうわけで崩壊寸前の米国の金融界を救う
には、どうしても中国に頼らざるを得ないと考えているのです。
そのため、ガイトナー財務長官やヒラリー・クリントン国務長官
は相次いで中国を訪問し、国債の購入を求めています。
 これに気を強くしたのか中国は、温家宝首相が米国政府に対し
通貨制度や金融体制について批判をはじめていますが、それでも
米国債を購入しています。それは、米国が中国に対して本来いわ
なければなないことをいっていないからです。
 日高義樹氏は、こうしたオバマ政権の弱腰の外交姿勢に対し、
政権の首脳が国際的な交渉や駆け引きに慣れていないことから生
じているとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ政権のスタッフの中心は国内問題専門の政治家や黒人の
 ビジネスマンが多く、政策構築の中心は官僚である。ブッシュ
 前政権の首脳たちにはビジネスマンが多く、国際的なビジネス
 のやりかたに慣れていたが、オバマ政権はアメリカではめずら
 しく内向きな政権といえる。その結果、中国に国債を買ってほ
 しいと思うあまり、その駆け引きとして人権問題や中国国内の
 民主化の問題をとりあげるという外交交渉の原則すら忘れてし
 まったのである。オバマ政権のこうしたやり方は、アメリカの
 国家利益からみて好ましくないことは歴史が示している。
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 今までの米国の中国に対する外交姿勢は、1972年のニクソ
ン大統領以来、歴代の大統領が難しい国際問題を中国と話し合っ
てきたのですが、そういうときには必ず中国政府による反政府主
義者の弾圧や周辺諸国に対する侵略的な姿勢を問題として取り上
げ、その改善を要望してきたのです。
 つまり、中国政府が嫌がることをあえて問題として取り上げ、
それを中国に突き付けることによって、国際交渉で優位な地位を
確保する――そのうえで中国に対して政治的な要求をするという
のが米国の外交テクニックでもあったのです。
 しかし、オバマ政権はそうした米外交の基本ともいうべきやり
方を一切やめてしまったのです。今まで「人民元が安すぎる」と
批判してきた議会は口を閉ざし、オバマ大統領の代理として中国
を訪問したヒラリー・クリントン国務長官は、オバマ大統領の指
示にしたがって、チベット問題もミャンマーの問題も北朝鮮の問
題も会談では話題に取り上げず、ひたすら米国債の購入を嘆願し
たというのです。これは米外交政策の大転換です。
 さすがに温家宝首相が米国政府に対し説教めいたことを述べた
ときは、米マスコミは、米国の国家主権の行使である通貨の問題
まで中国が口をはさむのは行きすぎであるとして批判し、オバマ
政権に怒りをぶつけたのですが、オバマ大統領はそうした弱腰外
交を改めようとしていないのです。これでは、必然的に日本との
間に距離ができることになります。――[オバマの正体/35]


≪画像および関連情報≫
 ●EJの記事に関するライブドアのアンケート調査について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  先週のEJの記事について、ライブドアのリサーチ・ニュー
  スで『「日本は「最小限の自主的核抑止力」を持つべき?』
  の調査が行われています。その結果は「持つべきだと思う」
  が実に64%となっています。
         http://research.news.livedoor.com/r/32500
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●ヒラリー国務長官中国を訪問/2009.2
  ―――――――――――――――――――――――――――
  胡主席は「中米は共に世界に重要な影響力を持つ国だ。両国
  は世界の平和と発展に関わる重大な問題において、幅広い利
  益を共有し、共に重要な責任を担っている。中米関係は21
  世紀の世界において最も重要な2国間関係の1つだ。世界金
  融危機が拡大を続け、グローバルな試練が日増しに先鋭化す
  る中、中米関係を一層深め、発展させることは、過去のどの
  時期にも増して重要になっている」と述べた。
                  ――人民網日本語版より
      http://j.peopledaily.com.cn/94474/6598616.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

クリントン国務長官中国訪問.jpg
クリントン国務長官中国訪問
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2009年09月01日

●「大幅な工事遅延の上海万博米国館」(EJ第2646号)

 2010年5月1日〜10月31日――これは何が行われる日
かご存知でしょうか。
 上海万博の開催日とその期間なのです。中国政府は、北京オリ
ンピックを上回る450億ドルの予算を投入して、目下準備を進
めているのです。残されている期間はあと9ヶ月――300日を
切っているのです。
 ところが万博敷地内のアメリカ館は、少なくとも7月時点では
着工すらされていないというのです。当初年内完成を目指してい
たのですが、それはとても無理であり、開催日までに間に合うの
かさえ心配されているのです。
 米国は「日本館」と並んで、最大規模の約6000平方メート
ルの敷地に出展する意向を表明していたのです。既に日本は、官
民合同の日本館について、2009年2月4日に福田康夫前首相
などが出席して、起工式を行っています。
 しかし、「米国館」については、3月の時点でスポンサー契約
に同意したのは3M(スリーエム)1社のみだったのです。こう
した米国の状況を見かねた中国サイドは米国の国会議員に働きか
けてクリントン国務長官に書簡を送り、一年以内の着工を促した
のですが、それでも着工にいたらなかったのです。
 この事態において、上海万博への参加を表明している190ヶ
国以上の中で、中国と国交がありながら出展が最終確定していな
いのは、米国と欧州のアンドラだけになっているのです。こんな
ことは、今まででは考えられないことです。
 上海紙、新聞晨報などの報道では、米国政府は7月5日までに
「米国館」総代表にテキサス州在住の弁護士、ホセ・ビジャレア
ル氏を任命し、万博参加への強い意欲を表明したことを伝えてい
ます。また、清涼飲料大手の米ペプシコが、スポンサーとして、
500万ドルの拠出を決め、清涼飲料やスナック菓子を独占的に
提供することを表明したといいます。
 しかし、こうした進展はあるものの、米国館の建設費用や運営
費として見込まれる6100万ドルのうち、スポンサーが確保で
きたのは約3分の1の2000万ドル分に過ぎず、協賛企業はペ
プシコを含め8社にとどまっているのです。
 なぜ、政府が出さないのかというと、米国は法律で万博への政
府支出を禁じていて、民間の寄付だけが頼りなのです。しかし、
金融危機にあえぐ米企業は「万博どころではない」というのが実
情なのです。それだけ米国経済が傷んでいるということです。
 この事態に、上海万博事務局では「来年5月1日の開幕までに
完成しないパビリオンがあると、全体の運営に大きな影響を与え
る」として、7月末までの米国館着工を求めていたのですが、そ
れが果たされていないのです。
 ここまでくると、場合によっては米国の不参加もあり得るとし
て、中国サイドは次のように牽制したというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし不参加なら、米国は世界最大の舞台でアピールする機会を
 失うことになる。米国政府と米国民にとって最も残念なことで
 あると考える。            ――上海万博事務局
―――――――――――――――――――――――――――――
 ちなみに、日本館のテーマは、「こころの和・わざの和」であ
り、最新の環境技術を導入したドーム型の建物を予定しており、
今年中にも完成の予定です。運営費を含めた総事業費は130億
円――政府が半分を拠出し、残りはスポンサー企業20社以上か
らの協賛金を当てることになっています。
 まさか、米国が不参加ということにはならないでしょうが、こ
ういう事態をみると、米国経済がいかに疲弊しているか理解でき
ると思います。
 さて、米国が中国に大きく依存しなければならない理由につい
ては昨日のEJで述べたとおりですが、オバマ大統領がいかに中
国におもねっているかを示す「ある人事」をめぐる騒動をご紹介
したいと思います。
 米国に国家情報会議(NIC)という機関があります。NIC
とは、中央情報局(CIA)など16の情報機関で構成する情報
共同体であり、各種の情報に基づき、米大統領のために、中・長
期的予測を行う諮問機関です。15〜20年間に渡る世界の政治
情勢の予測のほか、同機関は、国家情報評価(NIE)と称され
る短期的な評価を大統領のために作成しているのです。
 このNICは、2003年11月のことですが、次のような驚
くべき報告をまとめているのです。韓国の新聞である東亜日報が
次のように伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本が2020年をめどに自衛隊の役割を強化する改憲を終え
 て核兵器を保有する可能性があると、米中央情報局(CIA)
 が属している国家情報会議(NIC)が展望した。米国の公的
 機関が日本の改憲と核武装の可能性を取り上げたのは異例なこ
 とである。  ――2003年11月31日付、東亜日報より
―――――――――――――――――――――――――――――
 話を戻しますが、オバマ大統領はこの国家情報会議の委員長に
チャス・フリーマンなる人物を任命しようとして、大騒ぎになっ
たのです。
 このチャス・フリーマンという人は、元サウジアラビア駐在大
使なのですが、彼は中国の手先であるとしてもの凄い反対が巻き
起こったのです。NICの委員長といえば、米政府の諜報機関の
最高責任者であり、そんなポストに親中国系の人物を任命すると
は何事かという反対です。
 なぜ、彼が中国の手先であるといわれるのかというと、彼がワ
シントンで講演したり、論文を書いたりするさいに必ず天安門事
件に言及し、「この事件は中国政府にとって必要かつ大切なこと
であった」と、中国を弁護していたからです。こういう人物を安
易に諜報機関のトップにする人事にワシントン中の保守グループ
が驚愕したのです。      ―――[オバマの正体/36]


≪画像および関連情報≫
 ●上海万国博覧会について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2010年5月1日〜10月31日に開催される中国初の万
  国博覧。会場予定地(黄浦江周辺)の総面積は528ヘクター
  ル、投資総額も約30億ドルと万博史上最大規模である。入
  場者も7000万人を見込んでおり、達成されれば過去最多
  だった「大阪万博(1970年)」の6422万人を上回る。
  中国にとっては、北京オリンピック(2008年)に続く国家
  的プロジェクトだが、近年の国際イベントの主流である「環
  境」に配慮した都市づくりを主眼に、「より良い都市、より
  良い生活」をテーマに掲げている。
  http://kotobank.jp/word/%E4%B8%8A%E6%B5%B7%E4%B8%87%E5%8D%9A
  ―――――――――――――――――――――――――――

上海万博/日本館完成予定図.jpg
上海万博/日本館完成予定図
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2009年09月02日

●「オバマ大統領は中国におもねっている?」(EJ第2647号)

 天安門事件に対して米国政府は一貫して厳しい姿勢をとってき
ています。この事件について、中国政府は全貌を明らかにしてお
らず、実際に何が起きたか真相は闇の中です。しかし、中国政府
が若者を中心とするクーデターを強く弾圧したことはほぼ間違い
がないといわれています。
 とくに米民主党は人権問題にはとりわけ厳しい政党であり、本
来であれば、中国政府に対し、チベット問題やミャンマー問題の
解決を前ブッシュ政権以上に強く要請すると思われたのですが、
中国政府に米国債の購入を依存しなければならないという事情か
らか、中国政府の人権問題への批判を封印しているのです。
 そんな状況において、当のオバマ大統領が天安門事件の正当性
を主張するチャス・フリーマン元大使を国家情報会議(NIC)
委員長に任命する人事を発表したので、米議会で保守グループを
中心に反対の大合唱が巻き起こったのです。
 どうやら、チャス・フリーマン元大使周辺には「中国とサウジ
アラビアがカネを支払っている」とか「中国とサウジアラビアの
手先」という非難が一気に飛び交ったようです。とくに米下院議
長のナンシー・ペロシ氏あたりがその先頭に立って反対したとい
われています。
 ナンシー・ペロシ議長は、中国政府の人権抑圧政策にきわめて
厳しい態度をとっており、天安門事件やチベット動乱における中
国政府の行為を強く批判しているため、民主党内では最も中国に
厳しい議員の一人といわれています。ペロシ議長は、1991年
の中国訪問では天安門広場において、「中国の民主化のために犠
牲になった人たちへ捧ぐ」と中国語と英語で書かれた幕を掲げ、
天安門事件の弾圧に抗議の姿勢を明らかにしたほど、この問題に
関しては厳しい姿勢を持つ議員なのです。
 遂にこの問題はテレビでも取り上げられ、あるテレビのキャス
ターは、次のようにオバマ大統領を批判し、だんだん騒ぎが大き
くなっていったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ大統領がいったい何を考えているのか想像もつかない。
 諜報活動だけでなく、国家そのものも、あまり重要だと思って
 いないのだろう。―日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このようにあまりにも批判の声が大きかったので、オバマ大統
領はこの人事を取りやめ、代わりにデニス・ブレア海軍大将を任
命したのです。
 この国家情報会議議長の人事をめぐる騒ぎをみると、オバマ大
統領がどのような意図でこの人事を考えたのかがみえてきます。
これについて、日高義樹氏は次のようにオバマ大統領の姿勢を批
判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NIC委員長の最初の人選がチャス・フリーマンであったこと
 は、オバマ大統領が基本的には中国の機嫌をとろうとしたから
 だと言わざるをえない。チャス・フリーマンは最近のワシント
 ンの集まりでこう述べている。「中国の指導者は、天安門事件
 の中心になった趙紫陽のまちがいを繰り返すまいと決意してい
 る。趙紫陽は中国の反政府主義者をあまりにも甘やかした。彼
 は大きなまちがいを犯してしまった」。こうしたチャス・フリ
 ーマンの考え方に同調しているとすれば、オバマ大統領はあま
 りにも現在の中国の指導者に肩入れしすぎているとしか言いよ
 うがない。こうした考え方がオバマ大統領とアメリカの政府の
 考え方であるとすれば、アメリカ政府は現在の中国の軍事力の
 増強や対北朝鮮政策、ミャンマーに対する政策、さらには、チ
 ベットに対する政策をも全面的に受け入れていることになる。
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ大統領が中国におもねっていることを示すもうひとつの
人事があります。それは、ワシントン州のゲイリー・ロック知事
を商務長官に任命したことです。
 商務長官というポストはきわめて政治的なポストなのです。し
たがって、歴代の大統領は自分の友人や腹心を商務長官に任命し
てきたのです。クリントン大統領は民主党の大物であるシカゴの
デイリー市長の息子を商務長官に任命したし、ブッシュ大統領は
長年の石油業界の友人であるドン・エバンズ氏を商務長官に任命
しているのです。
 オバマ大統領も最初は政治的な友人であるニューメキシコ州知
事を商務長官に任命しようとしたのです。もともと米国西部から
中西部というと、共和党が強いのですが、ニューメキシコ州だけ
は、唯一の民主党の牙城であり、それをまとめているのがリチャ
ードソン知事なのです。
 ところが、米国のマスコミがリチャードソン知事が税金を納め
ていないことを暴き立てたため、オバマ大統領はリチャードソン
知事の商務長官起用をあきらめざるを得なかったのです。
 そこでオバマ大統領は、共和党ではあるが、経済政策上共通な
考えを持っているという理由から、ニューハンプシャー選出のグ
レッグ上院議員を商務長官に任命しようとしたのです。しかし、
商務省から国勢調査権の権限を取り上げて、ホワイトハウスに移
すという条件をつけたのです。
 この国勢調査権は大変大きな権限なのです。なぜなら、米国で
は、国勢調査に基づいて下院議員の定数が決められるので、この
大事な調査をホワイトハウスに移すと、データを有利に使うこと
ができるのです。そのため、この調査権限は共和党には渡せない
という大統領の意思が働いたのです。
 しかし、これに反発したグレッグ上院議員は、商務長官就任を
断ったのです。そこでオバマ大統領が選んだのがワシントン州の
ゲイリー・ロック知事なのです。―――[オバマの正体/37]


≪画像および関連情報≫
 ●ナンシー・ペローシ下院議長について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  メリーランド州出身。カルフォルニア州サンフランシスコな
  どを選挙区とし下院議員として11回当選を果した民主党の
  ベテラン議員。父親もメリーランド州の下院議員、同州ボル
  チモア市長を務めた。夫は投資家で資産家。5人の子供を育
  て、1987年下院に立候補し、初当選。2003年には、
  リチャード・ゲッパートの引退に伴い民主党下院院内総務と
  なる。2006年の中間選挙で民主党が下院で過半数を獲得
  したことにより、2007年1月、ペローシは女性としては
  じめて初の第60代下院議長に就任した。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ナンシー・ペロシ下院議長.jpg
ナンシー・ペロシ下院議長
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2009年09月03日

●「台湾有事に米国は台湾を守るのか」(EJ第2648号)

 ゲイリー・ロック氏は、中国系3世の政治家なのです。彼は、
中国系アメリカ人の史上はじめて州知事に就任した人物として知
られています。当然のことながら、彼は米国でもっとも有名な中
国系の政治家です。北京オリンピックの聖火が、ワシントン州に
やってきたとき、ロック知事は聖火を持って走っているのです。
 ロック氏はワシントン州知事になってからは、胡錦濤首席と何
回も会い、中国からの移民や輸入製品をほとんど無条件で受け入
れてきたのです。そういう意味でロック氏は中国にとって米国と
コンタクトをつけるための強力なカードということになります。
 そのゲイリー・ロック知事をオバマ大統領は、商務長官にして
いるのです。最初からロック氏を商務長官に任命したら、反対が
あったと思われますが、人事が二転三転したために議会の承認が
下りたのです。この人事について、日高義樹氏は、次のように懸
念を表明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 商務長官はダンピングの問題をはじめ米中間の経済問題につい
 て大きな力を持つ。その商務長官が中国のオリンピックの聖火
 を掲げて走った中国系の人物に決まったのである。オバマ大統
 領は中国政府に、ワシントンに自由に出入りできる大きな金の
 鍵をわたしたようなものである。
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ大統領のこういう中国寄りの姿勢は、日本にとってきわ
めて警戒すべき事態であるといえます。それは、次の命題に対し
て、オバマ政権がどのような対応をするかを考えてみるとよくわ
かります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    オバマ政権は台湾有事のさい、台湾を守るのか
―――――――――――――――――――――――――――――
 2008年10月の大統領選の直前のことです。米国と中国の
間でちょっとした対立があったのです。それは、ブッシュ政権が
台湾に対して総額65億ドルの新しい兵器を売ったことに対して
中国が強く反発したのです。
 台湾に売却した兵器の中には、ミサイル防衛の中核になるパト
リオットミサイル、アパッチヘリコプター、ジャベリン対戦車ミ
サイル、それにF16戦闘機の部品が含まれていたのです。
 米国政府は、台湾問題について中国と次のように3回の話し合
いをしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ニクソン政権 ・・・・・ 1972年
     カーター政権 ・・・・・ 1979年
     レーガン政権 ・・・・・ 1982年
―――――――――――――――――――――――――――――
 この3回の話し合いのいずれも次の2つのことが確認されてい
るのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.中国は1つであり、台湾は別の国ではない
    2.台湾に対する中国の主権はこれを認めない
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、台湾はきわめて中途半端なポジションに置かれている
のです。しかし、これら2つの取り決めのウラには、米国の次の
強い意思が働いているのです。つまり、米国は台湾と次の約束を
しているのです。これは米国の台湾に対する基本政策です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、中国が台湾に対して武力行使をすれば、米国は軍事力
 をもって台湾を防衛する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国はこの約束を守るために台湾に武器を売っているのです。
台湾の自衛力を高めるためです。しかし、ここに難しい問題があ
るのです。
 それは、中国が台湾を併合することは規定路線であり、それを
法律で決めていることです。しかし、それは許されないとして、
米国は、あらゆる軍事力を使ってそれを阻止する構えであるとい
うことです。
 しかし、ここにきて次の3つの情勢変化があり、米国が断固と
して今までの台湾に対する姿勢を貫けるかどうか、微妙になって
きていることです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.中国の軍事力が増強されてきていること
   2.台湾内部で独立勢力が弱体化しつつある
   3.米国が中国に対して弱腰になりつつある
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国が通常兵力で台湾を占領し、軍事的に制圧できるかどうか
というと、これは現在でも非常に困難であるといえます。台湾に
は高レベルのレーダーや通信網があります。中国はそれを破壊す
るためのミサイル攻撃を行う必要があります。しかし、占領する
には、船や飛行機で戦闘部隊を台湾に送り込む必要がありますが
これが難しいのです。なぜなら、中国は台湾海峡を越えて多数の
地上戦闘部隊を台湾に送り込むだけの輸送能力を持っていないか
らです。ラムズフェルド前防衛長官は、これについて次のように
いっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 あらゆる漁船や小型船舶を利用したとしても、中国が海を越え
 て地上軍を送り込み、台湾を軍事的に占領することは不可能で
 ある。    ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 台湾は優秀な地上部隊と戦車、多数の航空機を持っており、制
圧に多大な時間を要するのです。 ――[オバマの正体/38]


≪画像および関連情報≫
 ●台湾有事と日本の対応について
  ――――――――――――――――――――――――――――
  防衛省の高見沢将林防衛政策局長は2008年3月13日の自
  民党安全保障調査会で、台湾海峡有事について「中国から『周
  辺事態(認定)はどうするのか』と聞かれれば、『日本は当然
  する』(と答える)。日米安保ではなく、これは日本自身の安
  全保障の問題だ」と述べ周辺事態法適用の可能性に言及した。
  これまで政府は台湾有事が同法の適用対象となるか明確にして
  こなかった。発言は台湾の武力統一も視野に急激な軍備増強を
  進める中国への防衛当局の強い警戒感を示したものといえる。
            http://sakura4987.exblog.jp/7542439/
  ――――――――――――――――――――――――――――

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ゲイリー・ロック商務長官
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2009年09月04日

●「日本は『臆病な巨人』である」(EJ第2649号)

 中国軍が通常兵力で海を越えて台湾に地上軍を送り込み、台湾
全土を軍事的に占領する――これはどのように考えても困難なこ
とであり、現実的な戦略としてはあり得ないのです。
 そういう事態に備えて訓練している第七艦隊をはじめとする空
母と海上艦艇による米機動艦隊が出動し、それに台湾の航空機も
加わって海上の中国艦艇を徹底的に攻撃するので、中国軍は壊滅
的打撃を受けるはずです。
 そんなことは中国も当然予想しており、台湾海峡をへだてて台
湾の対岸に既に3000発のミサイルを配備しているのです。し
かも、そのうち半分以上のミサイルは、移動用の車両に乗せられ
ており、どこからでも発射できて、しかも射程距離が長く、日本
やグアムなどの太平洋の米軍基地を攻撃できるのです。
 そうなってくると、中国軍のミサイルによって米機動艦隊にも
被害が出る可能性は出てきます。しかし、米軍はF22やB2と
いうレーダーに映らないステルス戦闘爆撃機を実戦配備しており
米軍が本気で戦えば、中国の台湾武力制圧という、あってはなら
ない野望を粉砕することは十分可能です。米国がこれまでのよう
に台湾に対する基本政策を守れば・・・の話です。
 ブッシュ前大統領は米軍に多少被害が出てもやるという姿勢で
したが、オバマ大統領にそうした覚悟あるかどうかです。それど
ころか、オバマ大統領はアジア向けの艦艇を予算から大幅に削っ
ており、ハナから中国と戦う意思はないようです。
 一番心配な事態は、中国軍が大量のミサイルで台湾に圧力をか
け、米機動艦隊の動きを牽制しているうちに、台湾が戦意を喪失
し、白旗を上げるケースです。実はその可能性は高いのです。な
ぜなら、台湾には総統をはじめとし、中国寄りの政治家が増えて
いるので、米軍が乗り出してくる前に白旗を上げる可能性は十分
あるのです。
 こういう台湾有事の事態に関し、日高義樹氏は、その起こりう
ることについて、次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国が現在の調子で軍事力を増強し、アメリカの機動艦隊や空
 軍を押さえこむことができると考えた場合、台湾海峡で悲劇が
 起きる可能性はきわめて強くなる。オバマ政権がブッシュ政権
 とは違い、軍事的な緊迫状態になつても先制攻撃をおこなわな
 いことは明白である。中国が圧力を強化することによって台湾
 を併合してしまう危険は十分にありうる。オバマ大統領は、戦
 うことを拒否した平和主義者・カーター大統領の轍を踏むこと
 になるだろう。強大な軍事力を持つアメリカの指導者が平和主
 義にかたまれば、アメリカの威信は地に堕ち、世界が混乱に陥
 ることは必至である。
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで、中国という国は、世界、とりわけ米国でどのようにみ
られているのかについて知っておく必要があります。米国人は日
本人よりも中国人に好感を覚えるというのです。古森義久氏――
産経新聞ワシントン駐在・論説委員は、その理由として次の3つ
を上げているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.中国は米国から遠く離れたいアジアの大国であり、一種の
   エキゾティズムを感じている
 2.中国は巨大な国であり、世界の中心は自分と考えていて世
   界の歴史に役割を果している
 3.かつて米国と一緒に「日本の帝国主義」と戦った国であり
   チャイナに戦友意識を感ずる
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国といえば、3000年、4000年といった長い歴史があ
る国です。古代文明を生んだ黄河、長江といった遠大な川――米
国にはない長大な歴史を有するミステリアスな国というイメージ
を米国人は抱くのです。
 世界の中心を標榜する中国の中華思想――これに対して若き大
国として20世紀を駆け抜けてきたアメリカ・・・明らかに共通
点があるのです。人でも国でも似ているものには惹かれるところ
があるものです。
 日本は中国とも米国とも戦っています。彼らから見ると日本は
かつての敵国なのです。しかも、太平洋戦争では、中国と米国は
一緒に日本と戦っているのです。そういう意味において、古い世
代の米国人が「チャイナ」と聞くと、どこかに戦友意識のような
心情を感ずるのは当然です。これは、日本人には気がつかない感
情であるといえます。
 正確にいうと、中国で日本軍と戦ったのは、現在の中華人民共
和国ではなく、蒋介石率いる国民党政権だったのです。米軍はそ
の国民党と戦時に連帯したのです。
 しかし、かつて敵国であった日本ですが、米国の発展には少な
からざる貢献をしてきています。そのことをよくわかっている米
国人も多いのです。しかし、現オバマ政権はどちらかというと、
親中国派が多く、日本にとっては冷たい政権のイメージです。
 石原東京都知事は、「週刊ポスト」9月4日号で「日本は臆病
な巨人」になっていると、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は、アメリカにとっては日本が一番怖い国なんです。湾岸戦
 争の時も、米国の資料には「我々はこの戦争で、日本の先端技
 術のおかげを被った。これは8万人の兵士を送り、ともに血を
 流したイギリスの貢献よりも数10倍評価すべきだ」と記され
 ている。現在もアメリカはF22というステルス戦闘機を日本
 に売らないというが、あの外装の素材は日本の技術だ。それな
 ら、こっちも出さないといえばいい。   ――石原慎太郎氏
―――――――――――――――――――――――――――――
                ――[オバマの正体/39]


≪画像および関連情報≫
 ●石原慎太郎の日本人論より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ・日本人は昔からファッショに弱い。大きな波、大きな風が
   吹いてくると、簡単に流されてしまう。戦時中は「一億玉
   砕」、戦争が終わると「一億総懺悔」になった。
  ・日本の対米外交は、いっそのこと北朝鮮のやり方に学んだ
   らどうか。あんなちゃちな国でさえ、核を前面に出すこと
   で、世界中を振り回している。一方の我が国では、この間
   中川昭一氏が「日本でも核保有の議論があっていい」とい
   っただけでライス国務長官(当時)が飛んで釆た。アメ
   リカが守りますから余計なことはいわないでくれ≠ニ。
             ――「週刊ポスト」9月4日号より
  ―――――――――――――――――――――――――――

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石原慎太郎氏
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2009年09月07日

●「ミサイル防衛計画の見直しもあり得る」(EJ第2650号)

 オバマ大統領が何となく不安視されるのは、彼が米大統領とし
ては珍しく内向きな政治家であるということです。それは国際的
な経験がまったくないことからきています。
 それでは国内政治はどうかというと、イリノイ州議会議員を経
て上院議員になったのですが、実績は何もないのです。米上院外
交委員会に属してNATO小委員会の委員長に就任したのですが
一回も公聴会を開いていないのです。
 そういう国際経験がないところから、オバマ大統領の外交にお
ける発言はきわめて曖昧なところがあり、そのため弱腰の外交姿
勢といわれるのです。その例を東ヨーロッパのミサイル防衛計画
に見ることができます。
 日高義樹氏の本に、東ヨーロッパのミサイル防衛計画について
次の記述があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ大統領の弱腰の外交政策は、東ヨーロッパに展開したミ
 サイル防衛システムを壊してしまったことに象徴されている。
 ブッシュ前大統領はイギリスなどの要請もあり、チェコとポー
 ランドの国境にミサイル防衛ミサイルのためのレーダー基地と
 ミサイルサイトを建設したが、オバマ大統領はロシアから強い
 抗議を受けて、施設をとり壊してしまったのである。
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 東ヨーロッパのミサイル防衛計画とは何でしょうか。
 冷戦が終わると、ポーランドやチェコはソビエトから離脱して
NATOに加盟したのです。この動きは東ヨーロッパの国々に波
及して、NATOは拡大に向かっています。
 これに危機感をつのらせたロシアは、場合によっては軍事力を
使ってでもその動きを止めようと考えたのです。それは具体的に
はミサイル網を作り、その脅威で東欧の国々をおさえようとした
のです。ブッシュ前大統領はそういうロシアの軍事力を封じ込め
るために、チェコとポーランドの国境地帯にミサイル網を設置す
るべく工事を開始したのです。これによってロシアは態度を硬化
させ、ブッシュ前大統領とプーチン大統領の仲は、決定的に悪く
なったのです。
 ところがオバマ政権になると、この問題がかなり曖昧になって
きたのです。この問題に関するオバマ大統領の発言がフラフラし
はじめたからです。
 日高義樹氏は「オバマ大統領はロシアから強い抗議を受けて、
施設をとり壊してしまった」と書いていますが、私の調べた限り
では、日高氏の本の出版日の6月30日時点ではそこまでは進ん
でいないはずです。日高氏の所属するハドソン研究所が独自の情
報によってそう判断した可能性があります。
 オバマ大統領は、2009年4月5日のプラハでの演説におい
て、東ヨーロッパのミサイル防衛計画(MD)に言及し、「イラ
ンからの脅威が続く限り」という条件付きでMDを進めると述べ
ています。しかし、「イランの脅威が消えたならば」その必要は
ないともいっているのです。曖昧な表現です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これははっきりさせておきます。イランの核と弾道ミサイルの
 (開発)行為は米国だけでなく、イランの隣国やわれわれの同
 盟国に対して真の脅威をもたらしています。チェコ共和国とポ
 ーランドはこうしたミサイルの防衛(システム)を迎え入れる
 合意をし、勇敢でありました。イランからの脅威が続く限り、
 私たちは費用対効果があり、(能力も)証明されたミサイル防
 衛システムを進めます。(拍手)イランの脅威が消えたならば
 安全保障のより強い基礎ができ、欧州でミサイル防衛を築く理
 由はなくなります。(拍手)
            ――オバマ米大統領のプラハ演説より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところが、2009年8月28日付の「アサヒ・コム」の国際
ニュースは、「米国がMD計画を断念?ポーランド紙が報道」と
いうタイトルで次のように報じているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 【モスクワ=副島英樹】ワルシャワ発のイタル・タス通信によ
 ると、ポーランドのトリブナ紙は27日、米国のオバマ政権は
 すでに、ポーランドに迎撃ミサイル、チェコにレーダーを配備
 する東欧ミサイル防衛(MD)計画の可能性を考えていない、
 と報じた。同紙はオバマ大統領はブッシュ前政権が進めたMD
 計画には熱心でないと指摘。システムの有効性への疑問や、金
 融危機対策を迫られる中での膨大な配備費用、ロシアの反発な
 どによって、オバマ大統領がMD計画への疑念を深めていると
 している。ロンドン発のタス通信は同日、MD配備は東欧では
 なく、イスラエルやトルコ、バルカンに拠点を移す可能性のほ
 か、陸上配備から海上配備に変える選択肢もある、と伝えてい
 る。一方、米国務省のクローリー次官補は27日の記者会見で
 ポーランド紙の報道について「不正確だ。ミサイル防衛戦略の
 見直し作業は進行中でまだ完了していない」とコメントした。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この報道にもあるように、オバマ政権が「ミサイル防衛戦略の
見直し作業」をしていることは事実なのです。これと同じ論法で
米国側が「中国が懸念を示すからアジア太平洋地域でミサイル防
衛はやめる」と言い出す可能性も十分あり得るのです。
 このように、米国に安全保障をすべて委ねていることには不安
は大きいのです。オバマ大統領は米国が犠牲になって世界の国々
のために働くのは米国の国益に反すると思っているのです。
 日高氏は「オバマ大統領とその政権の下では米国の行動はきわ
めて不透明である」といっています。まして親中国の政権であり
米国は中国に依存せざるを得なくなっている――そのことを日本
人は十分認識すべきです。    ――[オバマの正体/40]


≪画像および関連情報≫
 ●オバマ大統領誕生の日にロシアは駆け引きを開始
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ロシアのメドベージェフ大統領は、新ミサイル「イスカンデ
  ル」を配備すると表明。アメリカにバラク・オバマ新大統領
  が誕生した歴史的な日にロシア政府が挑発的な動きに出た。
  ロシアのメドベージェフ大統領は、東ヨーロッパにおけるア
  メリカのミサイル防衛計画に対抗するため、新型ミサイルを
  配備すると表明した。アメリカの新たな門出となった日、ロ
  シアでは、メドベージェフ大統領が年次教書演説で「必要と
  あれば、MDシステム無力化のため、カリーニングラードに
  ミサイルシステム『イスカンデル』を配備する」と述べた。
  メドベージェフ大統領は、アメリカとの関係悪化を象徴する
  かのように、新たなミサイルの配備を発表した。
   http://blog.livedoor.jp/jr6jzz/archives/51296804.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

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オバマ大統領のプラハ演説
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2009年09月08日

●「支持が急落しているオバマ大統領」(EJ第2651号)

 オバマ大統領は今までの米大統領と異なり、世界という視点に
立って考えると、かなり内向きの大統領であることはここまで指
摘してきています。ところが、その肝心な米国民のオバマ大統領
の支持が、大統領就任から7カ月しか経っていないのに、大幅に
下落してきているのです。以下、古森義久氏の「時評コラム」を
ベースにして支持率の現況をご紹介することにします。
 ラスムセン社の8月23日発表の全米世論調査によると、オバ
マ大統領の支持、不支持は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       支 持 ・・・・・・・ 48%
       不支持 ・・・・・・・ 51%
―――――――――――――――――――――――――――――
 また、オバマ大統領の職務執行ぶりに対する評価について聞い
た結果は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       強い支 持 ・・・・・ 27%
       強い不支持 ・・・・・ 41%
―――――――――――――――――――――――――――――
 大統領就任時から春ごろまでは70%の支持率を誇っていたに
もかかわらず、支持率が22%もダウンし、不支持が支持を上回
るという厳しい結果になっています。また、オバマ大統領の仕事
ぶりについても、「強い不支持」が「強い支持」を14%も上回
るという結果になっているのです。
 どうして、こんなにオバマ政権の支持率が下がったのでしょう
か。その原因を探ってみます。
 第1にオバマ政権の「経済政策」があります。
 ギャロップ社の世論調査によると、57%の米国民がオバマ政
権の7870億ドルに及ぶ経済刺激策が、実際の経済には影響が
あるどころか経済を悪化させていると答えています。60%がオ
バマ大統領の経済刺激策は数年後をみても米国経済を改善すると
は思わない」と回答しているのです。これは、国民の半分以上の
人が、オバマ政権の経済政策に対して不信任表明をしたことを意
味しています。
 第2に「アフガニスタンでの対テロ戦争」があります。
 ワシントンポスト紙の世論調査によると、アフガニスタンでの
対テロ戦争に対して次の評価をしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      価値がある ・・・・・ 47%
      価値がない ・・・・・ 51%
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、巨大な経済対策は未曽有の金融恐慌に対するものであ
り、ブッシュ前大統領から引き継いだものともいえるのです。ア
フガニスタンの戦争にしても前政権の残した負の遺産ともいえる
のです。必ずしもオバマ大統領だけが責められるべきものではな
いはずです。
 それでは、どうしてこれほど支持率が下がったのかというと、
もうひとつ大きなものがあるのです。それが次のポイントです。
 第3に「医療保険改革」があるのです。
 オバマ大統領に対して、激しい非難や反対の声が目立つように
なったのは、オバマ政権が今年5月ごろから議会を主舞台に本格
的にスタートさせた包括的な医療保険改革の立法措置にその原因
があります。
 米民主党にとって医療保険改革はもっとも成立させたい政策な
のです。同じ民主党のビル・クリントン政権が、発足当時の19
93年、大統領夫人であったヒラリー・クリントン女史が必死に
なって、推進しようとした政治目標が医療保険改革なのです。し
かし、それは失敗に終わっているのです。
 国民皆保険制度のある日本人からすると、米国民は医療保険改
革になぜ反対なのかは理解しにくい面があると思います。しかし
医療保険制度は巨額の政府資金を投入することが前提となる改革
です。つまり、大きな政府の究極ともいえる制度作りが必要にな
るのです。そこに多くの米国民は反対なのです。
 オバマ政権は、医療保険改革への一般の支持を広げるために全
米各地で「町の討論会」――日本でいう草の根集会、車座集会を
全米各地で開催したのですが、その集会でも激しい反対の声が出
るようになったのです。
 8月18日に発表されたNBCテレビの世論調査では、医療改
革について国民の支持が次のようになったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    医療保険改革に賛成する ・・・ 41%
    医療保険改革に反対する ・・・ 47%
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、米国では政府が国民の医療や健康保持に巨額の公
的資金を投入して全面介入することについては、伝統的に根強い
抵抗があるのです。
 これは、別に医療問題に限らないのです。今年1月のビュー調
査センターの世論調査では、深刻な経済危機に対する政府支出に
対しても、次の結果が出ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   政府は国民の経済を傷つける ・・・・・ 50%
   政府は国民の経済を救済する ・・・・・ 39%
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはオバマ政権がGMやAIGという大企業を事実上国営化
してしまったことに対して怒りを覚えているのです。つまり、米
国民は自分たちの政府が民間企業の救済に巨額の公的資金を注ぎ
込むことには反対なのです。しかも、それによって必ずしも経済
はよくなっていない――そう考えているのです。
 そういう状況のときに、さらに巨額の公的資金を入れることに
なる国民皆医療保険には「大きな政府」になり過ぎるとして反対
なのです。           ――[オバマの正体/41]


≪画像および関連情報≫
 ●米医療保険改革法案
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ワシントンD.C.発―支持率が低下するなか、オバマ米大
  統領は自身が掲げる医療保険改革について説明するため、7
  月22日夜、ゴールデンタイムに記者会見を開く。米国の医
  療保険制度を今すぐ見直す必要があると国民に納得させるだ
  けでも、オバマ大統領は十分に苦心している。さらに、国民
  に加え、議会をも説得しなければならない。米上院は未だに
  医療保険改革の財源を確保できずにおり、医療保険改革法案
  が8月の議会休会入り前に可決するのは厳しい状況となって
  いる。上院で法案が可決されるまで、下院が先週可決した評
  判の芳しくない法案がオバマ大統領の医療保険改革法案とな
  る。                  ――BPネット
  http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090731/171399/
  ―――――――――――――――――――――――――――

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支持率が急落したオバマ大統領
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2009年09月09日

●「オバマ大統領のアフガン戦略」(EJ第2652号)

 オバマ大統領は、2009年中にイラクから兵を引き上げ、ア
フガニスタンの米軍を6万人規模に増強して、アフガニスタンに
おけるテロとの戦いを本格化しようと明言しています。どうして
オバマ大統領は、アフガニスタンでの戦争にそこまでこだわって
いるのでしょうか。
 昨日のEJでもご紹介したように、アフガニスタンにおけるテ
ロ戦争に対しては、米国民の半分以上が「価値がない」と考えて
いるのです。米国民としては、イラク戦争でさんざんな目になっ
ているのに、なぜアフガニスタンで新しい戦争をはじめようとし
ているのか理解できないと考えているのです。
 オバマ大統領は、アフガニスタンでの戦争をはじめるにあたっ
て、次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 われわれはテロリストだけを相手にする。アフガニスタンで戦
 う相手はテロリストだ。アフガニスタンの国民はわれわれの敵
 ではない。  ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 一見まともな言葉のようにみえます。しかし、この言葉は50
年前の1961年にホワイトハウス入りしたときのケネディ大統
領の次の言葉にそっくりなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 われわれはベトコンだけを敵とする。ベトナムの人々と戦うつ
 もりはまったくない。
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 どこの国でもそうですが、アフガニスタンはとくに外国の軍隊
に占領されることを嫌っています。それは、アフガニスタンの歴
史を調べてみるとわかることです。
 紀元前四世紀のことです。アレキサンダー大王は、当時の精鋭
部隊10万人を率いてアフガニスタンに攻め込み、インド国境の
カイバル峠までを占領したのです。ここには、現在パキスタンの
北西辺境州に位置しており、そこには「パシュトゥン族」と呼ば
れる民族が多く住んでいたのです。
 このパシュトゥン族は、推定1500万人以上とされています
が、アフガニスタンでは全人口の43%(国連2002年推計)
を占める最強の民族なのです。
 アレキサンダー大王がアフガニスタン全土を占領したとたん、
最強のパシュトゥン族を中心とするアフガニスタンの住民全部が
テロリストになって襲いかかってきたのです。アレキサンダー大
王はカイバル峠で孤立し、退却を余儀なくされ、10万人を超え
る精鋭部隊は、ほとんど全滅してしまったのです。
 続いてアフガニスタンに侵攻したのは英国なのです。1839
年から1842年までの第一次アフガニスタン戦争では、英国軍
が勝利し、首都カブールを占領したのです。その当時のアフガニ
スタンの国王はドスト・モハメッド・カーン氏だったのですが、
ロシアの援助を受けていたのです。英国は国王を退位させ、英国
寄りのシュジャー・シャー氏を国王の地位につけたのです。
 ところが1841年になると、またしても首都カブールを守っ
ていた英国軍とインド軍は、最強のパシュトゥン族の襲撃を受け
るようになり、両軍は、首都カブールからの撤退を余儀なくされ
るのです。撤退する英国軍は、パシュトゥン族を中心とするゲリ
ラの襲撃を受け、ほとんど全滅してしまったのです。まさに「歴
史は繰り返す」といえると思います。
 20世紀に入った1979年12月24日、今度はソビエト軍
がアフガニスタンに侵攻したのです。なぜ、ソビエトはアフガニ
スタンに侵攻したのかについてはウラがあり、これについては改
めて明らかにする予定です。
 この戦争でソビエトは新型のヘリコプターや戦車を動員し、首
都カブールを簡単に占領してしまいます。しかし、間もなくアフ
ガニスタン全土でソビエト軍に対する反乱が相次いで起こり、ソ
ビエト軍はナパーム弾や高性能爆撃を行い、100万人を超すア
フガニスタン人を殺したのですが、反乱は激しくなるばかりだっ
たのです。やはりパシュトゥン族を中心とするゲリラは執拗その
もので、ソビエト軍を苦しめたのです。
 被害のあまりの大きさに動揺したソビエト・ゴルバチョフ大統
領は、1988年4月14日、12万人を超す遠征部隊の総引き
上げを決断するのです。しかし、ソビエト軍は、この戦争で1万
5000人が戦死し、数万人が負傷する結果となったのです。
 アフガニスタン側も、100万人を超す戦死者と数百万人が家
を失うなど大きな被害を受けたのですが、この難敵を追い返す勝
利を掴んだのです。
 ソビエトがアフガニスタンとの戦闘を終えたのは、1989年
2月15日だったのです。つまり、ソビエト軍は実に10年間に
わたってアフガニスタンとの戦争を続け、結局は敗退してしまっ
たのです。そしてこれがソビエトの国力を弱め、ソビエト連邦の
崩壊につながったのです。
 そして、2001年9月11日、米国において発生したテロリ
ストによる攻撃を契機として、米国はアフガニスタンに軍隊を派
遣して、同盟国と共に現在もテロ掃討の戦争が続いています。し
かし、現在アフガニスタンの状況はタリバンの優勢が伝えられ、
厳しい情勢になっているのです。
 オバマ大統領は、アフガニスタンのパシュトゥン族と提携し、
タリバンと戦っていく方針ですが、パシュトゥン族との話し合い
はあまりうまくいっていないのです。外国人の占領を嫌うパシュ
トゥン族が米軍が今後兵力を増強すればするほど敵対心を持つ可
能性があり、予断を許さない状況になっています。もし、パシュ
トゥン族が敵に回ると、またしても歴史の示す通りの結果になる
可能性は大きいのです。     ――[オバマの正体/42]


≪画像および関連情報≫
 ●パシュトゥン族について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  イスラーム教への信仰心が強く、民族の名誉などを重視する
  傾向が強い。パシュトゥン族は、伝統的に《パシュトゥーン
  ワリ》という、部族の社会規範(慣習法)で機能、《ズィル
  ガ》と呼ばれる部族会議で、重要事項を決定している。非常
  に保守的であり、パシュトゥン族の男性は、下記の3箇条を
  重視する。   《バダル》=復讐。
          《メールマスティア》=客人接待
          《ナナワティ》=逃亡者の庇護
  http://gotenyama2.web.infoseek.co.jp/Hito/hito_PK_pashu_otoko.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

パシュトゥン族.jpg
パシュトゥン族
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2009年09月10日

●「アフガンはオバマのベトナムになる」(EJ第2653号)

 アフガニスタンでの戦争の目的は何でしょうか。それはテロ組
織のアルカーイダの脅威を取り除くことであり、その首謀者であ
るウサーマ・ビンラーディンを捕えることです。当然のことなが
ら、アフガニスタンの国民が敵ではないのです。
 アルカーイダというのは、サウジアラビア出身のアラブ人、ウ
サーマ・ビンラーディンを指導者とするスンニ派ムスリム(イス
ラム教徒)による国際武装テロリストのネットワークといわれて
います。しかし、こうしたテロリストはアフガニスタン国民の中
に潜んでおり、きわめて特定しにくいのです。
 かつて、キューバのゲリラ指導者であるチェ・ゲバラは、ゲリ
ラについて次のようにいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (ゲリラは)ちょうど魚が水の中に潜んでいるようなもので
 ある。                ――チェ・ゲバラ
―――――――――――――――――――――――――――――
 このようにテロリストを特定するのは困難なのであり、本来テ
ロ行為に対しては、軍隊ではなく警察力で臨むべきでなのです。
ブッシュ米政権のように無謀な戦争をすれば、それは武器を大量
に消費するだけで、テロリストを根絶させることはできないので
す。それどころか、テロリストを増やしてしまったのです。
 オバマ大統領は何かというと「イスラムとの対話」ということ
を強調し、イラクに対しては冷静に対応しています。この点に関
しては、前ブッシュ政権よりはよい印象を世界に与えています。
しかし、その同じ人物が、アフガニスタンでは「テロとの戦い」
をより強行に行うといっているのです。
 ブッシュ前政権時のアフガニスタンに駐留する米軍は約3万人
程度なのです。ところがアフガニスタンの人口は約2800万人
もおり、その程度の人数で国民の中に潜んでいるテロリストをつ
かまえるのははじめから困難です。
 そのための米軍の増派なのでしょうが、果たしてそれを倍の6
万人にしてみたところで解決できるのかどうか疑問です。おそら
く米軍はさらに増えて10万人を超えることも考えられます。問
題は、米軍が増えてくると、アフガニスタンの国民がそれを米軍
による占領としてとらえることです。
 2009年4月のはじめに、オバマ大統領の命令を受けてアフ
ガニスタンの現地司令官はパシュトゥン族の指導者や長老を20
数人を集めて会談を開いたのです。米軍に協力してアルカ−イダ
と戦って欲しいという要請をしたのです。莫大な贈り物を用意し
武器も十分与えることも約束しています。
 ここでパシュトゥン族とタリバーン、それにアルカーイダの関
係について知っておく必要があります。
 タリバーンは、パキスタンとアフガニスタンで活動するイスラ
ム主義運動のことなのです。1996年から2001年11月頃
までアフガニスタンの大部分を実効支配し、一部の国家を除いて
国家として承認されなかったものの、アフガニスタン・イスラム
首長国(ターリバーン政権)を樹立しています。
 タリバーンはパシュトゥン人の部族掟「パシュトゥンワーリ」
に従うなど、最初はパシュトゥン人に近い存在だったのですが、
戒律が異常に厳しい(すべての音楽を禁止)など、仲はけっして
よくなかったのです。
 その後タリバーンは、アルカーイダに接近し、その過激原理主
義の影響を受け、パシュトゥーンワーリからも逸脱したのです。
そして、偏狭頑迷なイスラーム解釈をアフガニスタン国民に押し
付けるようになったため、アフガニスタン国民からの支持も大き
く低下したのです。そのパシュトゥン人とタリバーンの仲の悪さ
に目をつけて米軍はパシュトゥン族を取り込もうとしたのです。
 しかし、米軍とパシュトゥン族の指導者や長老との会談はどう
やら失敗に終わっています。パシュトゥン族の長老たちは、固い
表情を崩さず、ほとんど口をきかないまま、何も約束しないで引
き上げているのです。
 パシュトゥン族の約1500万人はアフガニスタン国内に住ん
でいますが、隣のパキスタンには2500万人のパシュトゥン族
がいるのです。それは、1893年に英国がこの地域を勝手にパ
キスタンとアフガニスタンに分割したからです。
 これは、実に深刻な事態なのです。パキスタンは、基本的には
米国寄りであり、軍事援助を受けています。しかし、パキスタン
には核兵器があり、それがきわめて危険な状態なのです。
 なぜかというと、アフガニスタンのパシュトゥン族と米軍が敵
対するようなことになると、米軍はパシュトゥン族を追ってパキ
スタンに攻め込む事態は十分あり得るのです。そうすると、米軍
はアフガニスタンのパシュトゥン族だけでなく、パキスタンのパ
シュトゥン族とも争うことになるからです。
 こうした事態に米国は過去に陥ったことがあります。それはベ
トナム戦争のときのことです。かつてケネディ大統領は、南ベト
ナムのゲリラであったベトコンだけでなく、最後には北ベトナム
の正規軍と戦うことになってしまったのです。米軍は神出鬼没の
ゲリラに手を焼いているうちに、北ベトナム正規軍の激しい攻撃
に晒され、米国の民主党政権は崩壊してしまったのです。
 もうひとつ心配なことがあるのです。それは、アフガニスタン
のパシュトゥン族はタリバーンと仲がよくないのですが、パキス
タンのパシュトゥン族はタリバーンと近い関係なのです。タリバ
ーンは、アルカーイダを援助しているのです。しかも、パキスタ
ンが核兵器を管理している場所は、パキスタン国内のアルカイー
ダの支配下にあるのです。
 パキスタン軍の現在の首脳は、タリバーンやアルカーイダに近
く、核兵器を保有しているパキスタン情報局戦略本部の幹部たち
もタリバーンやアルカーイダと親密だといわれています。パキス
タンの核兵器は世界で最も危険な状態におかれているのです。そ
れだけに、米国のアフガニスタン介入はこのような大きな危険を
はらんでいるのです。      ――[オバマの正体/43]


≪画像および関連情報≫
 ●アフガニスタンの現況について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米国とNATOが増派を決めたアフガニスタンでは逆にタリ
  バンが復活している。いや、以前より資金も潤沢で、武装の
  中味も格段に良くなった。武器はパキスタンばかりか、タジ
  キスタン、ウズベキスタン国境からも入る。資金源は麻薬。
  カルザイ政権はカブールを治めるのみで、アフガニスタン政
  府の統治が及ばない場所が殆ど、そこで麻薬が栽培され、世
  界へ輸出され、ジハードの戦士を補充し、軍事訓練を施し、
  爆弾をかかえて突撃する戦士が量産される。
       http://tamezou6.iza.ne.jp/blog/entry/1061533/
  ―――――――――――――――――――――――――――

アフガニスタンの地図.jpg
アフガニスタンの地図
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2009年09月11日

●「パキスタンの核兵器が危険にさらされている」(EJ第2654号)

 パキスタンは核保有国です。その核兵器の数は20発とも60
発ともいわれています。ところで、どうしてパキスタンは核兵器
を持つようになったのでしょうか。
 それは、1971年にインドとの戦争に敗れたからです。パキ
スタンは東隣りの大国インドと、北東部のカシミール地方の所属
を巡って激しく争っていたのです。
 パキスタンはインドと1948年以来3度にわたる全面戦争を
行い、特に1971年の第3次印パ戦争では大敗したのです。そ
の結果、独立運動に呼応したインド軍の侵攻を受けた東パキスタ
ンをバングラデシュとして失うことになったのです。
 インドは国も大きく、英国の統治時代から教育が行き届いてお
り、戦争は実に強いのです。第3次印パ戦争では、インド軍の落
下傘部隊が東パキスタンに奇襲攻撃をかけ、あっという間にパキ
スタン軍を圧倒し、占領してしまったのです。
 パキスタンが核を持つことを考えたのは、この戦争に負けてか
らです。核兵器開発の中心になったのは、アブドゥル・カディー
ル・カーン博士です。カーン氏は1936年にインドで生まれ、
17歳のときにパキスタンに移住したのです。
 なぜ、カーン氏は核兵器を開発できたのでしょうか。
 カーン博士はオランダで原子物理学の博士号をとったあと、英
国とソビエトの諜報機関で働き、世界各国の核兵器の秘密を知る
ことができたのです。つまり、カーン博士はその秘密を盗んだこ
とになります。
 カーン氏は、世界各国の核兵器に自らの技術を加えて核兵器を
作り、1998年には核実験を成功させています。そのため「パ
キスタンの核開発の父」と呼ばれます。しかし、カーン氏は自国
の核兵器の開発行うだけでなく、イラン、リビア、北朝鮮などに
核兵器製造の技術を密売し、核拡散を行った張本人です。核開発
技術を指導する見返りとして、現金やミサイルを手に入れ、パキ
スタンの軍事力向上に貢献したとされていますが、パキスタン政
府は関与を否定しています。カーン氏は身柄を一時拘束されまし
たが、現在は恩赦され、解放されています。
 問題は、パキスタンの核兵器の管理は万全なのかどうかです。
結論からいうと、それはきわめて危険な状態にあるのです。情報
によると、核兵器はアフガニスタンに近いパキスタンの山岳地帯
にあるといわれています。ここにパキスタンの諜報機関の秘密基
地があるのです。しかし、そこの警備はそれほど厳重なものでは
なく、精鋭部隊を送り込めば核兵器を奪うことはそれほど困難で
はないと専門家はいっています。
 現在、パキスタンのアシフ・アリ・ザルダリ大統領は米国寄り
ですが、パキスタン軍の首脳はタリバーンやアルカーイダに近く
核兵器を保有している情報局戦略本部の幹部たちもタリバーンや
アルカーイダと親密だといわれています。
 既に述べたように、アフガニスタンとパキスタンは2つの国な
のですが、両国に住む人たちは部族単位で行動しており、彼らに
とってはあくまで一つの国なのです。地域のことは、各部族の長
老が決定し、地域ごとに長老が司法、立法、行政の三種の長を兼
ねているのです。
 したがって、彼らにとって国境線は関係なく往来が行われてい
るのです。アフガニスタンでタリバーンを攻撃すると、彼らはパ
キスタンの部族地域に逃げ込んでしまうのです。そうすると米軍
は手を出せなくなります。
 ブッシュ前大統領は、スペシャルフォースを送り込んで、パキ
スタンの核兵器を米国が管理しようとしたことがあります。この
考え方はいささか乱暴ですが、核兵器がテロの手に渡ったときの
危険性を考えると理解できなくもありません。
 しかし、オバマ大統領は、その核兵器のすぐ近くで戦争をはじ
めているのです。オバマ政権になってから、タリバーン掃討が進
んでいないのに業を煮やした米軍は、パキスタン政府に対して次
のように圧力をかけたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    部族地域を制圧してタリバーンを掃討せよ!
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対してザルダリ大統領はやる気はないのですが、米国に
は逆らえないので、軍を部族地域に派遣し、形ばかりの「掃討作
戦」を展開したのです。2009年4月のことです。
 これに対して部族地域の武装勢力――パキスタン・タリバーン
と呼ばれる――が反撃し、パキスタン国内で激しい戦闘が巻き起
こったのです。その結果、部族地域から多数の難民がパキスタン
各地に流れ出したのです。
 パキスタンの人口は1億6000万人といわれますが、国内で
200万人の難民が発生するのは異常事態です。そういうわけで
現在パキスタン国内は混乱に陥っているのです。
 現在、パキスタン国内にパキスタン・タリバーンが増加してい
るのです。もともとアフガニスタンのタリバーンは、アフガニス
タンからの難民に対し、パキスタンのイスラム原理主義者たちが
過激な思想で洗脳し、ISI(パキスタン軍情報部)が武器を与
えてアフガニスタン国内に送り返したことによってできたものな
のです。
 どうしてこんなことをしたのかというと、アフガニスタンに自
国寄りの政権を樹立させようとしたのです。この工作は成功し、
タリバーンは2001年に米軍が攻撃をするまで、アフガニスタ
ンの大部分を統治していたのです。
 しかし、アフガニスタンに米軍が介入し、攻勢を強めると、タ
リバーンはパキスタンに逆流し、パキスタン・タリバーンとして
勢力を強めるようになったのです。
 パキスタン軍とパキスタン・タリバーンとの戦闘は現在も続い
ており、パキスタンの核兵器は非常に危険な状況になっているの
ですが、米軍はパキスタン政府に圧力をかけるしか、手がない状
況なのです。          ――[オバマの正体/44]


≪画像および関連情報≫
 ●「ミスター10%」が統治するパキスタン
  ―――――――――――――――――――――――――――
  現在国際社会は、パキスタン政府支援に乗り出している。世
  界31ヶ国が支援策を検討し、合計で50億ドル(4750
  億円)もの巨額援助を決めている。しかし、この巨額資金が
  果たして本当にタリバーン対策に使われるか、その保証はな
  い状況である。現在のザルダリ大統領は、かつて閣僚時代、
  あらゆる国の契約に口を出し、1割の金額を要求して「ミス
  ター10%」と呼ばれた人物。日本を含めた国際社会は、タ
  リバーンや核の行方と共に、援助資金の行方にも気を配らな
  ければならないのである。――「週刊ポスト」9月11日号
  ―――――――――――――――――――――――――――

A・Q・カーン博士.jpg
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2009年09月14日

●「ブレジンスキーとは何者か」(EJ第2655号)

 ここまで44回にわたって、第44代米大統領、バラク・フセ
イン・オバマという政治家を分析してきたのですが、今回から彼
を背後から支えている人物というか勢力について述べていきたい
と思います。オバマ大統領を背後から支えていると思われるのは
次の人物です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ズビグネフ・ブレジンスキー(1928年3月28日〜)
―――――――――――――――――――――――――――――
 ブレジンスキー氏といえば、一般的にはコロンビア大学教授と
して知られています。彼がコロンビア大学教授をしていたのは、
1960年から1989年までです。さらにブレジンスキー氏は
カーター政権当時の国家安全保障担当大統領補佐官を務めたこと
でも知られています。
 注目すべきことは、ブレジンスキー氏が2008年の米大統領
選挙において、オバマ陣営の外交問題顧問を務めており、現オバ
マ政権にも隠然たる影響力を与えていると考えられることです。
 それでは、オバマ氏は、どこでブレジンスキー氏と知り合った
のでしょうか。
 考えられることは、オバマ氏は1981年から83年の間にコ
ロンビア大学でブレジンスキー氏に見い出されたのではないかと
いうことです。
 これについて、『オバマ危険な正体』の著者、ウェブスター・
タープレイ氏は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 奇妙なことに、オバマはコロンビア大学時代についてほとんど
 語ろうとしない。コカインやマリファナといった違法ドラッグ
 を使用していた事実は率直に認めているのに、なぜかコロンビ
 ア大学で過ごした日々については驚くほど口が堅い。ニューヨ
 ーク・タイムズ紙の取材で大学時代に受けた講義、教授、活動
 友人に関する質問を受けても、一切答えていないのだ。一体オ
 バマは何を隠しているのか。大学時代の逸話よりもはるかにイ
 メージの低下を招きそうな事実でさえ非常にオープンに明かす
 のになぜこの一点だけに異常とも思える秘密主義を貫くのか。
      ――ウェブスター・G・タープレイ著/太田龍監訳
           『オバマ危険な正体』より/成甲書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この本の著者であるタープレイ氏は、オバマ大統領が話さない
ので、推論するしかないがと断って、「オバマは1981年から
83年の間に直接ブレジンスキーを通じて、あるいはその息のか
かった教授によって、ブレジンスキー勢力に取り込まれている」
と述べているのです。
 このズビグネフ・ブレジンスキー氏という人物は一体何者なの
でしょうか。
 これについて述べる前に1977年1月20日に米大統領に就
任したジミー・カーター氏に言及する必要があります。なぜなら
カーター政権と現オバマ政権は多くの類似点があるからです。
 ジミー・カーター氏はきわめて知名度の低いジョージア州の知
事だったのです。そのカーター氏が、1975年から76年にか
けて行われた米大統領選挙に彗星の如く現れて、フォード大統領
に勝利したのです。そのとき、彼が選挙中に掲げたスローガンは
次のようなものであったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   私は決して国民に嘘はつかない/ジミー・カーター
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう耳触りの良いスローガンは、オバマ大統領の「チェン
ジ」や「イエス・ウイ・キャン」に通じるものがあります。そし
てオバマ氏もまったくの無名の候補者であったのです。
 当時米国民は、ウォーターゲート事件による醜聞に辟易として
おり、今までの政権とは違うものを求めていたのです。そういう
ときに米国民の期待に応えるように、庶民派のイメージを最大限
に打ち出したジミー・カーター氏が登場したのです。
 カーター大統領は、就任式当日、防弾ガラスで完全武装された
大型リムジンには乗らず、シークレットサービスの反対を振り切
り、ロザリン夫人と小さな娘エイミーと一緒に議事堂からホワイ
トハウスまで歩いて登場したのです。そっくり同じではありませ
んが、オバマ氏も同じようなことをやっています。
また、マーティーン・ルーサー・キング牧師の片腕だった黒人の
アンドリュー・ヤング氏を閣僚級の国連大使に就けるなど、異例
の人事をやってのけ、国民を熱狂させたのです。少なくとも就任
当初は国民の絶大なる支持を得ていたのです。
 しかし、米国の大統領ほどの地位に就くには、強いバックが必
要なのです。カーター氏はジョージア州の知事になるため、同州
を含む南部全域に大きな影響力を持つエリート集団「アトランタ
・エスタブリッシュ」の人たちとのコネクションを求め、知事に
なってからもそのエリート集団との関係を一層密にしていったの
です。これが彼にチャンスをもたらしたのです。
 ある日、カーター知事に大きなチャンスが訪れるのです。19
71年11月のことです。カーター氏はある有力者の昼食会に招
かれたのです。その有力者とは、ディヴィッド・ロックフェラー
氏――チェース・マンハッタン銀行の頭取でロックフェラー・グ
ループの総帥です。
 そのときの昼食会には、カーター氏のほか、当時『タイム』誌
の編集長だったヘドリ−・ドノバン氏も招かれ、一緒に会談して
いるのです。カーター氏は、この昼食会がきっかけになって、米
大統領の道が開けてきたのです。
 その経緯を語るには、米国の有名なシンクタンク「外交関係評
議会」(CFR)と「日米欧三極委員会」(TC)について知る
必要があるのです。ロックフェラー氏は、このCFRとTCの創
立に深くかかわっているからです。これについては、明日のEJ
でお話します。         ――[オバマの正体/45]


≪画像および関連情報≫
 ●ジミー・カーターについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
   1977年、米国民はワシントンと関係のない外部の人間
  がいい、と考えはじめ、それにピッタリの男が現れた。ジミ
  ー・カーターである。彼はメリーランド州アナポリスの海軍
  士官学校を820人中59番の成績で卒業した頭脳明晰な男
  だった。その後、海軍の伝統ある潜水艦課程で訓練を積む一
  方で、原子物理学の学習にも精を出した。彼は生涯を海軍で
  過ごしたいと考えていたが、結果的にジョージア州プレーン
  ズのカーター家の広大なピーナッツ農場を引き継ぐことにな
  り、これが彼をやがて金持ちにしていった。
        ――コルマック・オブライエン著/平尾圭吾訳
  『大統領たちの通信簿』より/集英社インターナショナル刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

ウェブスター・タープレイの本.jpg
ウェブスター・タープレイの本
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2009年09月15日

●「CFRとTCの背後にいる勢力」(EJ第2656号)

 CFR――外交関係評議会とは何でしょうか。
 CFRのルーツは、1919年の「パリ講和会議」にまで遡る
のです。パリ講和会議は、第一次世界大戦の戦後処理を目的とし
て開催された会議です。
 この会議に出席したウッドロー・ウィルソン米大統領に対し、
戦後構想のいくつかの提案をするべく著名な学者23名による調
査グループが結成されたのです。彼らはウィルソン大統領に随行
してパリ会議に参加したのですが、調査グループの提案は受け入
れてもらえず、パリ会議によって締結されたベルサイユ条約は調
査グループの目指す方向とは正反対のものになり、彼らを落胆さ
せたのです。
 彼らは、国際問題の研究所を作る必要性を痛感し、同じ考え方
を持つ英国代表団のメンバーと一緒になって、国際問題に関する
恒久的な英米研究所を設立し、ロンドンとニューヨークに支部を
置いたのです。1919年5月31日のことです。
 この研究所ができるちょうど一年前の時点で、ノーベル平和賞
の受賞者、エリヒュー・ルート氏が中心となって、外交問題の討
議やその情報交換を目的とするインフォーマルなグループができ
ていたのです。そのグループの名前は「外交関係評議会――CF
R」と名付けられたのです。ちなみにエリヒュー・ルート氏は、
セオドア・ルーズベルト政権で国務長官を務めており、多くの人
脈を保有する人物です。
 一方、英米研究所は、何の成果もないまま2年が経過した頃、
CFRのことを知り、CFRのエリヒュー・ルート氏に対し、両
研究所の合併を持ちかけたのです。そうしたところ、ルート氏は
この提案に合意し合併が実現したのです。このようにして、19
21年7月29日に新生CFRはスタートしたのです。
 ところがこのCFRは、米国にある多くのシンクタンクの中で
も「世界を操る秘密結社」「陰の政府」「巨大な陰謀組織」など
のさまざまな陰謀組織の巣窟とされていますが、その理由につい
て、米国のシンクタンクの事情に詳しい国際ジャーナリストであ
る菅原出氏は、自著で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党員、共和党員を問わず超党派で構成され、当時は多くの
 エリートクラブがユダヤ人の入会に制限を加えていたのに対し
 CFRは、発足当時から著名なユダヤ人をメンバーに加えてい
 た。さらに「会議の内容を一切公表しない」という原則があっ
 たため、その秘密性が後に、数々の憶測を生む原因となった。
  ――菅原出著『日本人が知らない/ホワイトハウスの内戦』
                       ビジネス社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はディヴィッド・ロックフェラー氏は、1949年から70
年の長きにわたり、このCFRの理事を務めていたのです。とく
に、1970年代のはじめにはこの組織の会長職にあり、米国だ
けでなく、世界の政財界に幅広いネットワークを持つ米国経済界
のドンになっていたのです。
 CFRの会長を務めるディヴィッド・ロックフェラー氏は、こ
のCFRに限界を感じており、西側資本主義の利益を守るため、
北米、西欧、日本のエリート間のパートナーシップを強化する必
要があると考えていたのです。
 こうして誕生したのが、「日米欧三極委員会――TC」なので
す。1973年のことです。半年に一度会合を開き、新興国から
の挑戦をどのように受け止め、国際的な秩序を保ち、国際ビジネ
スにとって安定した環境をどのようにして築き上げるかが討論さ
れたのです。
 ディヴィッド・ロックフェラー氏は、TCの目指す目標を共有
し、その意向を反映した政策を実行する米大統領が欲しかったの
です。そして、その白羽の矢が当時のカーター知事に当たったの
です。このTC――三極委員会の初代会長を務めたのが、ズビグ
ネフ・ブレジンスキー氏なのです。
 そしてカーター政権が誕生すると、ブレジンスキー氏は、当然
のように国際安全保障問題大統領補佐官に就任するのです。そし
て、そのブレジンスキー氏は80歳になる現在も元気であり、現
オバマ政権においてほぼ同じ役割を担っているのです。
 既出のウェブスター・タープレイ氏は、ブレジンスキー氏につ
いて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ブレジンスキーはデイヴイッド・ロックフェラーとともに三極
 委員会(TC)を創設した人物である。三極委員会とは、ヨー
 ロッパ、アメリカ、日本の国際銀行家たちが、チエース・マン
 ハッタン銀行(当時)の総帥デイヴイッド・ロックフェラーの
 下に集ってつくり上げた排他的集団だ。そしてブレジンスキー
 は1950年代以降、極端な反ソ連、反ロシアのタカ派として
 知られてきた人物である。ブレジンスキーはカーター政権で国
 家安全保障担当補佐官となり、イラン国王の失脚とホメイニ独
 裁政権の樹立を実現させた。現代のイスラム原理主義を生み出
 したのも彼だと言っていいだろう。
      ――ウェブスター・G・タープレイ著/太田龍監訳
           『オバマ危険な正体』より/成甲書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 もう一人カーター政権で重要な役割を果たした人に、ポール・
ボルカー氏がいます。カーター大統領は、ボルカー氏を連邦準備
制度理事会(FRB)議長に任命しています。
 ところがです。このボルカー氏は既に80歳を超えていますが
現オバマ政権の大統領経済回復諮問委員会委員長のポストに就い
ているのです。ブレジンスキー氏といい、ボルカー氏といい、オ
バマ大統領の意思で選ばれているというよりも、何らかの巨大な
背後の力によって、オバマ氏の側近が形成されているといっても
過言ではないと思います。オバマ政権は、何もかもカーター政権
そっくりであるといえます。   ――[オバマの正体/46]


≪画像および関連情報≫
 ●日米欧三極委員会についてのカーター氏の述懐
  ―――――――――――――――――――――――――――
  複雑で重要な外交課題に関して、洞察力のある分析をタイム
  リーにしかも継続的に提供する桟会を与えてくれる組織に、
  日米欧三極委員会と呼ばれる団体があった。三つの民主的で
  先進的な地域のリーダーが集まるこのグループは、半年ごと
  に会合を開き、日本や北米や西欧の関心事に対する議論を深
  める。この委員会のメンバーになれたことは、私に素晴らし
  い学習の機会を与え、多くのメンバーたちが私の外交問題に
  関する勉強を助けてくれた。
  ――菅原出著『日本人が知らない/ホワイトハウスの内戦』
                       ビジネス社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

ディヴィッド・ロックフェラー回顧録.jpg
ディヴィッド・ロックフェラー回顧録
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2009年09月16日

●「ブレジンスキーの戦略地政学」(EJ第2657号)

 ズビグネフ・ブレジンスキー氏は、徹底的なロシア嫌いで知ら
れています。正確にいうと、彼は独裁主義者と共産主義者が大嫌
いなのです。それは彼の生い立ちと深い関係があるといえます。
 ズビグネフ・ブレジンスキー氏は1928年3月28日にポー
ランドで生まれています。
 ブレジンスキー氏は、旧ポーランド領(現在はウクライナ領)
の名家ブジェジンスキ家の出身なのです。外交官であったタデウ
シュ・ブレジンスキー氏は1931年〜35年までドイツのベル
リンに赴任したので、ズビグネフ少年も父と共にドイツで過ごし
ナチ党の台頭を目の当たりにしたのです。
 その後、タデウシュ一家は、ソビエト連邦の首都モスクワに赴
任したのです。当時ソ連は、スターリンによる大粛清の嵐が吹き
荒れており、ズビグネフ少年は図らずも、ナチ党の横暴に続いて
ソ連の恐怖政治を目撃してしまったのです。
 1938年にタデウシュ一家は、カナダに赴任したのです。し
かし、1939年にはナチス・ドイツがポーランドに侵攻したた
め、一家はポーランドに帰国できなくなってしまったのです。そ
れに、第二次世界大戦が終わってもソビエトの共産主義者によっ
て、祖国ポーランドが支配されてしまったので、またしても帰国
が実現できなくなったのです。
 ズビグネフ少年にしてみれば、ナチスは、第二次世界大戦が終
わって消滅してしまったものの、ソビエト連邦はその後も残り、
現在もロシアとして存在しています。そういうわけで、ズビグネ
フ・ブレジンスキー氏の怒りの対象がソ連やロシアになったのは
そういうわけなのです。
 ソ連が崩壊した原因はいろいろありますが、その原因のひとつ
として、ソ連のアフガニスタン侵攻があることは確かです。9月
9日のEJ第2652号で、ソビエト軍のアフガニスタン侵攻に
ついてはウラがあると書きましたが、以下、これについて書くこ
とにします。
 米国という国は、敵国を倒す方法として、いろいろな仕掛けを
行い、その敵国と他の国(仮にB国とする)とを戦争させるよう
に追い込むのです。そして、B国に対して密かに資金や武器など
の支援を行い、敵国の経済を疲弊させて力を弱めるという高等戦
略をとってきたのです。
 そういう例をカーター政権において多く見ることができます。
ブレジンスキー氏は、当時ソ連(ロシア)を米国にとって最大の
敵とみなしてこの戦略を展開しているのです。この戦略のことを
ブレジンスキー氏は「戦略地政学」と呼んでいます。
 そのひとつの例は、カーター政権がカンボジアのポル・ポト政
権を支持したことです。ポル・ポト政権は大量虐殺政権といわれ
その評判は最悪だったにもかかわらずです。
 しかし、ポル・ポト政権は当時中国の支援を受けており、北京
とモスクワを何とか対決させようと画策してきたブレジンスキー
氏にとって、中国は大切なカードだったのです。既出のタープレ
イ氏はこれについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ポル・ポト政権はハノイ政府に倒されたあとも、国連に議席を
 持ちつづけた。これは、ブレジンスキーが支配するカーター政
 権の強い後押しがあったからだ。ブレジンキーがこのような措
 置をとったのは冷戦対策としてであり、中国カードを温存する
 ためにも中国とソ連を接近させないためだった。しかしこの頃
 には、ポル・ポトが大量虐殺を行っていた事実は明らかになっ
 ていた。 ――ウェブスター・G・タープレイ著/太田龍監訳
           『オバマ危険な正体』より/成甲書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 アフガニスタンにソ連軍が侵入したのは1979年12月24
日のことです。この状況を作り出したのはカーター政権時の米国
の策略――すなわち、ブレジンスキー氏の仕掛けなのです。19
98年1月15日〜21日におけるブレジンスキーとヌーヴェル
・オブセルヴァトゥール紙の記者とのやり取りの一部です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ブレジンスキー:歴史の公式記録によればCIAがイスラム聖
 戦士を支援しはじめたのは1980年だ。すなわち、旧ソ連軍
 がアフガニスタンに侵攻した1979年12月24日以降だ。
 実は今日まで秘密にされてきたが、事実はまったく違う。実際
 には、カブールの親ソ政権に抵抗する反対勢力に秘密支援を行
 うようにカーター大統領が最初の指令を出したのは、1979
 年7月3日だ。私は当日、この秘密支援はソ連の軍事介入を引
 き起こすだろうと説明した覚書を大統領に送っている。
 記者:あなたは危険性を認識しつつも、この秘密作戦に賛同し
 た。しかしあなた自身、旧ソ連が戦争を起こすことを望み、そ
 れを誘発しようとしたのではないか?
 ブレジンスキー:それは少し違う。我々は、旧ソ連に軍事介入
 を強制したのではない。旧ソ連が介入する可能性があると知り
 つつ、その可能性を広げただけだ。
      ――ウェブスター・G・タープレイ著/太田龍監訳
           『オバマ危険な正体』より/成甲書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 同じようなことが、日露戦争でも起こっているのです。当時の
セオドア・ルーズベルト大統領は、日露両国が戦争で国力を十分
消耗したと判断した時点で戦争終結の調停者として動き、両国に
講和条約を締結させたのです。
 セオドア・ルーズベルト大統領は、米国からも国際社会からも
賞賛され、この功績によってノーベル平和賞まで受賞しているの
です。国家の争いとはこういうものです。
 希代の戦略家であるズビグネフ・ブレジンスキー氏は、現在も
オバマ政権内で健在なのです。ロシアの指導者たちはブレジンス
キー氏をつねにマークしており、警戒心を怠っていないといわれ
ています。           ――[オバマの正体/47]


≪画像および関連情報≫
 ●ズビグネフ・ブレジンスキーの警告/ねこまたぎ通信より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ブレジンスキーが示唆する最も明らかで不穏なものは、ブッ
  シュ政権がイランへの軍事攻撃を正当化する言い訳となるこ
  とを捏造するかもしれないということであった。ブレジンス
  キーが「イランとの軍事衝突のためのまことしやかなシナリ
  オ」と呼んでいるのだが、彼は次のような一連の事柄を採り
  上げた。「イラクでの失敗がその基点となる。続いてそれを
  イランのせいにして非難し、次に何らかの挑発行為をイラク
  で行うかまたは米国内で起こるテロ活動をイランのせいにす
  る。そしてついには、言うところの『防衛的な』米国のイラ
  ンに対する軍事行動を起こすことになる・・・。」
  こうしてブレジンスキーは米軍によるイラン攻撃が、あたか
  もイランの挑発とされるものへの防衛的な反応であるかのよ
  うに紹介されながら、極めて攻撃的な行動となるであろうと
  いう見解を述べた。そして、さほど明白な言い方ではなかっ
  たのだが、ホワイトハウスは戦争への口実を与える米国内で
  のテロ攻撃を捏造する、あるいはわざとやらせる能力がある
  ことを指し示しながら言葉を結んだ。
        http://d.hatena.ne.jp/takapapa/20070208/p1
  ―――――――――――――――――――――――――――

ズビグネフ・ブレジンスキー氏.jpg
ズビグネフ・ブレジンスキー氏
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2009年09月17日

●「家族ぐるみの諜報ネットワーク」(EJ第2658号)

 ズビグネフ・ブレジンスキー氏は単なる有力な政治家ではなく
無数の情報機関を傘下に持つ、広大な諜報ネットワークに君臨す
る長老なのです。その影響力は絶大なものがあります。
 2007年の夏、ブレジンスキー氏がヒラリー・クリントン候
補を断固として拒絶し、それまでほとんど無名のオバマ氏の支持
を打ち出したことで、信じられないほどの規模で、オバマ旋風が
吹き荒れ、大統領選の流れが大きく変わったのです。
 ブレジンスキー氏の政治活動は、家族ぐるみで行われており、
次の4人の家族が活躍しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       長男: マーク・ブレジンスキー
       次男: イアン・ブレジンスキー
       長女:  ミカ・ブレジンスキー
―――――――――――――――――――――――――――――
 長男のマーク・ブレジンスキーは諜報員であり、クリントン政
権において国家安全保障担当補佐官を務めたことがあるのです。
また、スビグネフとマークの父子は、2004年から12月にか
けて、ウクライナで起きた「オレンジ革命」を指揮しているので
す。「オレンジ革命」については2009年2月6日発行のEJ
第2506号で取り上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
●2009.2.6/EJ第2506号
 「ロシアが嫌うNATOの東方拡大」
http://electronic-journal.seesaa.net/article/113746140.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 マーク・ブレジンスキー氏は、2007年10月26日付けの
「ワシントン・タイムス」紙において、次のようにオバマ氏を絶
賛しています。そして現在、マーク・ブレジンスキー氏はオバマ
大統領の主要アドバイザーを務めているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ氏が早い時期からイラク戦争に反対していたのは周知の
 事実だ。しかし、彼のイラクでの戦争に対する反対は、より全
 体的な視野にもとづいている。アメリカが、世界的な影響力を
 失っている事実を危倶しているのだ。オバマ氏が大統領選に名
 乗りをあげたことで、アメリカは世界との関係を見直すことが
 できる。なぜなら、彼は現在我々が直面する問題に従来の方法
 で対処するのではなくグローバルなアプローチをするからだ。
 幼少期に外国で暮らし、異国の言葉を覚え、外国人の親、ある
 いは異国で暮らす親に育てられた人間だからこそ、このような
 考え方ができるのだ。    ――2007年10月26日付
               「ワシントン・タイムス」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ブレジンスキー氏のもう一人の息子、イアン・ブレジンスキー
氏は現在ヨーロッパ・NATO問題担当国防次官補の任に就いて
います。彼はウクライナおよびグルジアへのNATO拡張路線を
支持しているのです。
 ブレジンスキーの娘、ミカ・ブレジンスキー氏は、ケーブルテ
レビ局MSNBCの朝のニュース番組で、元共和党下院議員ジョ
ー・スカーポロ氏のアシスタントを務めています。
 このMSNBCとNBCは、ニューハンプシャーでの予備選を
オバマ有利にしようと工作したことで有名なテレビ局なのです。
既出のタープレイ氏は、ミカ・ブレジンスキー氏について次のよ
うに書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ミカの母親はベネシュ家の出身であり、チェコスロバキア解体
 のきっかけとなった1938年のミュンヘン協定締結時の同国
 大統領エドヴァルド・ベネシュの親戚である。エドヴァルド・
 ベネシュは後に、イギリスが支援するチェコ亡命政府の大統領
 に就任している。彼らのような反ロシア、反オーストリア・ハ
 ンガリー、反ドイツ主義者の東欧政治家は1848年から18
 70年にかけて存在した、イタリアの革命家マッツィーニを中
 心とする親テロネットワークの末裔だ。イギリスが絡む転覆活
 動は当時も今も健在で、現在はブレジンスキー一族に引き継が
 れている。――ウェブスター・G・タープレイ著/太田龍監訳
           『オバマ危険な正体』より/成甲書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 昨年のニューハンプシャーでの米大統領予備選で何が起こった
かについて、大半の日本人はもうすっかり忘れてしまっていると
思います。なぜなら、日本における選挙で大きな不正というか、
企みや陰謀が存在することなどあり得ないからです。
 しかし、米国の選挙においてはそういうものはないとはいい切
れないのです。
 昨年のニューハンプシャーでの民主党の予備選の結果は次のよ
うになったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 11月の米大統領選に向けた各党候補者選びで前半戦のヤマ場
 となるニューハンプシャー州の予備選が8日行われ、民主党は
 アイオワ州の党員集会で3位に甘んじたクリントン上院議員が
 事前の世論調査に反して僅差でオバマ上院議員を破り、大きな
 勝利を獲得した。事前の一連の世論調査では、クリントン氏が
 オバマ氏に大きく水をあけられていたが、今回の勝利により、
 一進一退のクリントン氏の選挙キャンペーンに大きな弾みがつ
 くことになる。             ――新聞報道より
―――――――――――――――――――――――――――――
 選挙前は、アイオワ州で惨敗しているヒラリー・クリントン候
補が涙を見せるなど、話題になりましたが、辛うじてクリントン
候補が勝利したのです。しかし、その舞台裏では2つの情報機関
による秘密工作合戦があったのです。ブレジンスキー一家が、こ
れに深くからんでいるという秘密情報もあるのです。明日のEJ
でお話します。         ――[オバマの正体/48]


≪画像および関連情報≫
 ●ニューハンプシャーの示したもの/冷泉彰彦氏のブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  オハイオで大差の惨敗を喫したヒラリー候補のニューハンプ
  シャーでの逆転勝利を呼び込んだのは「涙」だった、そう報
  道されているのですが、それは本当なのでしょうか?本当に
  6日の日曜日、投票の2日前にニューハンプシャー州内のカ
  フェテリアで女性支持者と懇談している際に感情的になって
  一瞬見せた「涙」が勝因だったのでしょうか。
    http://minnie111.blog40.fc2.com/blog-entry-734.html
 ●米予備選挙では、アイオワ州に引き続き同州でも成功を収め
  られなかった候補者は、事実上レースから「脱落する」とみ
  られており、同州での予備選挙が大きな注目を集めるのであ
  る。ヒラリーにとっては背水の陣だったのである。
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●写真出典:
  ウェブスター・G・タープレイ著/太田龍監訳/『オバマ危
  険な正体』より/成甲書房刊

ブレジンスキー一家.jpg
ブレジンスキー一家
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2009年09月18日

●「カラー革命的手法によるオバマ旋風」(EJ第2659号)

 「カラー革命」とは何でしょうか。
 腐敗が蔓延している独裁政権に対して、非暴力で民主主義を求
めるさいに、その非暴力行動の象徴として、色や花をあてはめた
のです。具体的な例を示すと、2003年のグルジアの「バラ革
命」、2004年のウクライナの「オレンジ革命」、それに多く
の暴力が使われましたが、2005年のキルギスの「チューリッ
プ革命」などがあります。
 ウェブスター・タープレイ氏によると、ブレジンスキー父子は
ウクライナでの「オレンジ革命」を主導したというのです。この
「カラー革命」については、米国が西側の利益を確保するために
革命のウラ側で支援しているという事実を指摘する人もおり、タ
ープレイ氏のいうことが必ずしも荒唐無稽とはいえないのです。
そこで使われている手法は、大衆クーデターそのものであり、こ
の手法が米国の大統領選に持ち込まれていて、2008年の大統
領選で存分に使われているというのです。
 ところで、「暴力革命」と「非暴力革命」――どちらが革命を
成就させるのに有効だと思いますか。
 アルバート・アインシュタイン研究所の主宰者であるジーン・
シャープという人物の次の本を読むと、「非暴力革命」がいかに
凄い力を持っているかがわかります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   Gene Sharp,
   The Politics of Nonviolent Action Part One:
   Power and Struggle MA:Porter Sargent,1973
―――――――――――――――――――――――――――――
 アルバート・アインシュタイン研究所というのは、民衆の「非
暴力革命」のための調査研究など学問的な貢献をしている団体で
すが、これは「大衆クーデターを画策する諸機関」であるとター
プレイ氏はいっています。
 ジーン・シャープ氏によると、「カラー革命」――すなわち、
大衆クーデターを起こすには、次の5つのことが必要であるとい
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.マスコミ
         2.レンタル暴徒
         3.シンボルとスローガン
         4.ニセの世論
         5.適切な扇動家
      ――ウェブスター・G・タープレイ著/太田龍監訳
           『オバマ危険な正体』より/成甲書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず、主要テレビネットワークのうち、少なくともひとつは絶
対に支配下に置く必要があります。続いて、レンタル暴徒――変
な表現ですが、この言葉はブレジンスキー氏が画策したとされる
1978年のイラン国王失脚、アヤトラ・ホメイニ政権樹立のと
きからいわれるようになったのです。集会やデモなどへの参加、
金銭で集められた大勢の人間――要するにサクラのことですが、
これをレンタル暴徒というのです。
 それから、人々を動員するための効果的なシンボル――色やシ
ンボルに加えて大衆受けするスローガンが使われます。ベオグラ
ードの「やつ(ミロシェビッチ)は終わりだ」や「もうたくさん
だ」、オバマ氏の使った「チェンジ!」などが該当します。
 ウクライナでは、親ロ候補であるヤヌコビッチの当選が公式に
発表されると、レンタル暴徒が「不正投票だ」と叫びながら街中
を闊歩していますが、これがニセの世論づくりです。
 タープレイ氏によると、ウクライナの場合、ヴィクトル・ユシ
シェンコは自ら毒物によって顔を異常に変貌させ、これは「ロシ
アの陰謀だ」と流布させているというのです。これを適切な煽情
家といっているのです。
 選挙になると、世論調査がさかんに行われますが、この世論調
査が実は曲者なのです。世論調査などはやり方によってそれぞれ
違ってくるからです。
 今回の日本の衆院選ですが、8月29日、池袋での最後の演説
を終えた麻生前首相は、自信満々に側近に対して次のようにいっ
たそうです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 明日、新聞が書いていることと実際の結果がどれぐらい違って
 出るか楽しみだ。             ――麻生前首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 その発言のウラには、細田幹事長から示されたある世論調査の
結果があり、悪くても150人は確保できると伝えられていたか
らです。ほとんどの新聞が「民主党300議席超えの圧勝」を伝
える報道のウラで「自民150議席」を予想する調査結果があっ
たことは確かなことなのです。
 ニューハンプシャーでの民主党の予備選においては、あらゆる
調査結果がオバマ候補優勢を伝え、投票日の出口調査においても
オバマ圧勝であったにもかかわらず、ヒラリー・クリントン候補
がわずかの差で制するという意外な結果に終わっています。
 ヒラリー候補は、民主党にかろうじて残っている勢力を代表す
る候補としてニューハンプシャーに乗り込んでいます。ジーン・
シャーヒン州知事、労働組合、ワシントンのロビイストたちなど
ウォール街の大部分を代表する勢力を味方につけたのです。
 これに対して、オバマ陣営は、ブレジンスキー一派とジョージ
・ソロス勢力が組み、カラー革命的手法――大衆クーデター的手
法で選挙戦を戦ったのです。
 明らかにヒラリー陣営は劣勢だったのです。その証拠にその後
カラー革命的手法のオバマ陣営は、いわゆる「オバマ旋風」を巻
き起こして、ヒラリー候補を下しているのです。タープレイ氏に
よると、ヒラリー陣営の勝利には「電子投票機疑惑」があるとい
うのです。           ――[オバマの正体/49]


≪画像および関連情報≫
 ●ヒラリーの「電子投票機」疑惑
  ―――――――――――――――――――――――――――
  重要な役割を果たしたのが、ニューハンプシャーの有権者の
  80%が利用したディーボルド社の電子投票機だ。ディーボ
  ルド社製の機械は、3%の割合でヒラリー優位の結果を出し
  た。記名式投票が行われた残りの20%では、同じ割合でオ
  バマに有利な結果を出している。したがって、ニューハンプ
  シャーでの投票結果は民意の表れではなく、2つの対立する
  秘密作戦による結果だったといえる。
      ――ウェブスター・G・タープレイ著/太田龍監訳
           『オバマ危険な正体』より/成甲書房刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジーン・シャープの本.jpg
ジーン・シャープの本
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2009年09月24日

●「米国民が医療保険改革に反対する理由」(EJ第2660号)

 9月17日のロイター通信によると、オバマ米大統領は東欧の
MDの中止を正式に発表しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 [ワシントン/17日ロイター]オバマ米大統領は17日、東
 欧でのミサイル防衛(MD)配備計画を取りやめ、イランの脅
 威に対抗するために、より強力で迅速な防衛システムを構築す
 る方針を発表した。大統領はポーランドに迎撃ミサイルを配備
 し、チェコにレーダー設備を建設する計画を破棄する考えを表
 明した。これによりロシアとの緊張が緩和する可能性があるが
 ロシアを脅威とする近隣諸国の懸念が高まる可能性もある。
             ――ヤフー!ニュース「海外」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この問題は、9月7日のEJ第2650号で取り上げており、
オバマ大統領はきっと東欧のMD廃止に踏み切るであろうと予測
したのですが、その通りになったといえます。
 これに対して、米共和党のマケイン上院議員は、次のように懸
念を表明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (防衛手段の)一方的破棄は深刻な誤りだったと確信する。イ
 ランの脅威が増大するなか、今は米国と同盟国の防衛を強化す
 る時だ。 ――2009.9.18付、日本経済新聞夕刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このオバマ大統領の決定は、日本の新聞では大きく取り上げら
れていませんが、日本にとっても深刻なことなのです。なぜなら
オバマ大統領は、中国が懸念するから、アジア太平洋地域でのミ
サイル防衛計画を変更するといい出しかねないからです。
 このように、オバマ大統領の外交政策や国内政策には種々の不
安が付きまとっており、現在、大統領が積極的に推進しようとし
ている医療保険制度改革についても大きな反対運動が巻き起こっ
ています。
 一般的な日本人の感覚からすれば、医療保険制度改革について
なぜ、米国民があれほどまでに反対するのか理解に苦しむ人も少
なくないと思います。そこで、この問題について考えてみます。
 2009年9月9日のことです。オバマ大統領は上下両院合同
会議で演説を行い、次のように訴えています。この時期に大統領
が議会で演説するのは異例のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 口げんかや、賛成派と反対派で応酬する時間は終わった。今こ
 そ行動する時だ。民主党と共和党が団結して最良のアイデアを
 示し、国民に我々の役割を示す時だ。医療保険制度改革を実現
 する時だ。        ――オバマ米大統領議会演説より
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国の医療保険制度は、日本のように国民皆保険ではなく、民
間の医療保険の比重が大きいのです。米国は国民医療保険制度の
ない唯一の先進国なのです。そのため、保険料が高額で払えない
ために約4600万人が医療保険に入っていない無保険の状態な
のです。そこで米民主党は、医療保険制度改革を行い、無保険の
人をなくすことなどを大きな政策の柱としてきたのです。
 しかし、共和党などの保守層を中心に政府が医療保険に関与す
ることに反対が根強く、改革をめぐっては国を二分する大論争に
発展しているのです。
 といっても、公的保険がまったくないわけではないのです。貧
困者と高齢者に対しては次の公的保険があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.メデイケイド ・・・・・ 貧困層向けの公的保険
  2.メデイケ ア ・・・・・ 高齢層向けの公的保険
―――――――――――――――――――――――――――――
 社会派ドキュメンタリー映画監督のマイケル・ムーア監督は、
2007年8月に映画『シッコ』を発表し、米国の医療保険制度
を痛烈に批判しています。
 といってもこの映画で中心に取り上げられているのは、無保険
者の話ではなく、ちゃんと普通に収入を得て医療保険に入ってい
る人たちの悲劇なのです。そこでは、いかに米国の保険会社がと
にかく考えつく限りの理由をつけて医療費を支払わないかをとこ
とん訴えているのです。
 映画では、冒頭、交通事故を起こして意識不明のまま救急車で
運ばれたことのある女性が登場します。そして彼女は次のように
話すのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 事前に救急車を使うことを申告してなかったから、救急車の搬
 送費は保険でおりなかったの    ――映画『シッコ』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国では意識がなかろうが死にかけていようが、救急車を呼ぶ
前にまず保険会社に電話しなくてはいけない――そういう話がこ
れでもかこれでもかと出てくるのです。
 医療保険制度改革には、まず、製薬会社、病院、医療保険業界
と癒着している政治家、保険会社が絶対反対の立場を取ります。
それから、共和党を中心とする政治家が反対します。彼らは、オ
バマ大統領の主張する医療保険制度改革は「社会主義」と決めつ
け、小さくて効率的な政府を目指す共和党のポリシーと矛盾する
として反対するのです。
 一見すると、オバマ大統領の目指す医療保険制度改革は良い政
策のように感じます。しかし、オバマ大統領への反発ははげしく
なるばかりなのです。9月12日には、医療改革に対する大規模
抗議デモがワシントンで行われたのです。ホワイトハウスから連
邦議会へと数万人のデモ行進が行われたといわれます。
 しかし、デモに参加した人数はこんなものではないのです。あ
まりにも人数が多いので、新聞社は大幅に数を抑えて報道したと
いわれています。どうして、米国民はこのように医療保険改革に
反対するのでしょうか。     ――[オバマの正体/50]


≪画像および関連情報≫
 ●映画『シッコ』の感想/琥珀色の戯言より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  国民健康保険のような国民皆保険制度がないアメリカでは、
  06年の統計で、就業していない成人の58%近くが、就業
  している成人でも23%近くが、健康保険を持っていないと
  いう結果が出ている。一方、親子3人で月額800ドルの健
  康保険料を支払っている我が家族(カリフォルニア在住)に
  しても、救急車に10分間乗っただけで1000ドルとられ
  たことがある。こんなケースはザラにあるから、「シッコ」
  の中でムーアが紹介するアメリカの医療現場での悲劇やホラ
  ー・ストーリーは、アメリカ人観客の多くにとって他人事で
  はないに違いない。
          http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20070826
  ―――――――――――――――――――――――――――

映画『シッコ』.jpg
映画『シッコ』
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2009年09月25日

●「オバマケア/政権最大の政治危機」(EJ第2661号)

 オバマ大統領による医療保険改革――オバマケアの話を続けま
す。話に入る前に少し英語の勉強をしましょう。9月9日夜、オ
バマ大統領は、上下両院合同会議で演説し、国民に改革の意義を
訴えましたが、そのとき大統領は冒頭にこういったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 Well,the time for bickering is over. The time for games
 has passed .Now is the season for action.
―――――――――――――――――――――――――――――
 大統領はこういったのです。「言い争うときは終わった。駆け
引きの時間は過ぎた。今こそ行動するときだ」と。演説上手な大
統領だけのことはあります。英語表現の勉強になります。
 オバマ大統領は、医療保険改革について選挙期間中から現在ま
で次のようにいってきたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 無保険者を減らす一方で、医療費の膨張を抑制し、未来の世代
 に財政赤字のツケを残さず、医療の質を高める。
                     ――オバマ大統領
―――――――――――――――――――――――――――――
 いいことばかりです。これを見事な演説で訴えたら、誰でもオ
バマ・ファンになってしまうでしょう。まさに人気取りのための
美辞麗句といってよい。しかし、これを「政治的な幻想」という
人も多いのです。
 問題は、本当にそれを実現できるかどうかなのです。お金の面
から検証してみましょう。
 オバマ政権が考えていることは、現在のメディケイド――低所
得者医療保険制度の対象枠を広げて、民間保険会社への補助金を
増やすことで、無保険者を2007年の4700万人から、10
年後の2019年には1700万人に減らすという計画です。問
題はその財源をどうするかです。
 コストは10年で1兆ドルに達するのです。財政赤字は、23
90億ドルも増えるといいます。しかも、2009会計年度(2
008年10月〜09年9月)の財政赤字は、史上最悪の約1兆
8450億ドル(約177兆円)と、前年度の4倍になるとの見
通しなのです。赤字の国内総生産(GDP)比は13.1 %と、
前年度の3.2 %から跳ね上がっています。こんな財政の状況で
医療保険改革が果たしてできるのでしょうか。
 それでもオバマ大統領は、「医療保険改革であなたとあなたの
家族の負担は減る」と断言しているのです。だからこそ、議会演
説のときに、共和党議員から「うそつき!」といわれてしまうの
です。オバマ大統領はこうもいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 一番高価な医療ではなく、一番質の高い医療を提供するよう医
 師たちを奨励する。           ――オバマ大統領
―――――――――――――――――――――――――――――
 「一番高価な医療」ではなく「一番質の高い医療」と言葉を換
えていますが、表現が極めて抽象的です。一番質の高い医療を目
指すと、一番高価な医療になってしまうのが現実なのではないで
しょうか。
 オバマ大統領は「皆保険」の第一歩として、加入者を拡大させ
ようとしています。しかし、保険加入者が増えると、医療費が増
大するのです。
 医療費が増大すると、給与から引かれる保険料が上昇し、連邦
政府や州・地方自治体の提供するその他の公共サービスの予算が
圧迫されることになります。そのため、税金が上がり、財政赤字
が拡大することになります。
 オバマ大統領は、コストの問題にも言及はするものの、それに
懸命に取り組む気配はないようです。単に口先だけで、「コスト
抑制を口にしつつ、福祉を増大する」と相矛盾する実現困難なこ
とを強調するだけです。
 オバマ大統領は、医者や病院、製薬会社、医療機器メーカーな
ど主要な医療関係団体のトップをホワイトハウスに招き、コスト
の上昇曲線を抑えることで全員の意見の一致をみたといいます。
しかし、これは完全にパフォーマンスであるといえます。米国医
師会(AMA)や米病院協会が、全米80万人の医者や5700
の病院を制御できるはずがないからです。
 この医療保険改革については、デマも相当飛んでいるのです。
その代表的なものに「デス・パネル(死の審査会)」というもの
があります。この言葉を作ったのは、米大統領選で共和党マケイ
ン候補の副大統領候補になったサラ・ペイリン氏なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマケア(オバマの公的保険制度)で、私の年老いた両親や
 ダウン症である私の子どもはデス・パネルにかけられるでしょ
 う。デス・パネルとは、その患者を生かすか殺すかを審議する
 委員会のこと。役人どもが、患者の社会における生産性によっ
 て医療費を出すべきかどうかを決めるです。こんなシステムは
 まったく邪悪です。     ――サラ・ペイリン氏のブログ
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、デス・パネルとは、「その患者を生かすか殺すかを審
議する委員会」のことなのです。
 しかし、これは完全にデマです。オバマ大統領の医療保険改革
案にはデス・パネルなど一切存在しないからです。むしろ、現行
の保険制度にそういう委員会的なものが存在するのであって、オ
バマ政権ではそれを改善しようとしているのです。
 こういうものを含めて米国の医療保険改革には前途に暗雲が立
ち込めています。反対者はますます増加し、オバマ政権の支持率
が大きく下がってきているのです。オバマ大統領はこういってい
ます。「歴史は明らかだ。改革が可決に近づくと、特別利益団体
があらゆる手段を使って抵抗してくる」と。いずれにせよ、オバ
マ政権は目下最大の政治危機を迎えています。
                ――[オバマの正体/51]


≪画像および関連情報≫
 ●米医療保険改革で打撃を受ける者は誰か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米下院が医療保険改革の財源を確保するために提案している
  増税によって、誰がどのような影響を受けるだろうか。ワシ
  ントンD.C.発―支持率が低下するなか、オバマ米大統領は
  自身が掲げる医療保険改革について説明するため、7月22
  日夜、ゴールデンタイムに記者会見を開く。米国の医療保険
  制度を今すぐ見直す必要があると国民に納得させるだけでも
  オバマ大統領は十分に苦心している。さらに、国民に加え、
  議会をも説得しなければならない。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090731/171399/
  ―――――――――――――――――――――――――――

オバマ大統領の医療保険改革の議会演説.jpg
オバマ大統領の医療保険改革の議会演説
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2009年09月28日

●「3人の米大統領の通信簿」(EJ第2662号)

 ここまで51回にわたって述べてきたように、現オバマ政権は
未曽有の政治的危機に瀕しているといえます。オバマ政権の政権
運営に大きな影響力を担うズビグネフ・ブレジンスキー氏は、オ
バマ以前の3人の大統領――ジョージ・H・W・ブッシュ、ビル
・クリントン、ジョージ・W・ブッシュのリーダーシップに大き
な問題あったことを指摘しています。
 ブレジンスキー氏の近著に『セカンド・チャンス』という本が
あります。この本は『ブッシュが壊したアメリカ』――徳間書店
刊の書名で日本語訳が出ていますが、多極化するこれからの世界
について、きちんとした方向性が示されていて、非常に興味深い
本です。この本でブレジンスキー氏は、これら3人の米大統領を
「グローバル・リーダー」と呼んでいますが、本の書き出しの部
分を引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカ合衆国大統領が初代グローバル・リーダー″という
 冠を、自らの手で自らの頭に戴いた瞬間は、何年何月何日と特
 定こそされていないものの、地球人類にとっては歴史的なでき
 ごとであった。この自己戴冠≠ェ行なわれたとき、すでにソ
 ビエト連邦は崩壊し、冷戦には終止符が打たれていた。だから
 アメリカ大統領は正式な国際的承認をいっさい受けていないに
 もかかわらず、グローバル・リーダー、すなわち世界の指導者
 としてふるまい始めることができたわけだ。アメリカのマスコ
 ミは戴冠の事実をこぞって喧伝した。世界各国はアメリカ大統
 領の意向を尊重し、外国の首脳にとってホワイトハウス訪問は
 (キャンプデービッド訪問はいうにおよばず)、政治活動にお
 ける一世一代の見せ場となった。
       ――ズビグネフ・ブレジンスキー著/峯村利哉訳
         『ブッシュが壊したアメリカ』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ブレジンスキー氏は、これらの3人のグローバル・リーダーで
ある3人の大統領を次のように定義しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ジョージ・H・W・ブッシュ ・・・     警察官
  ビル・クリントン ・・・・・・・・ 社会福祉活動家
  ジョージ・W・ブッシュ ・・・・・    自警団員
―――――――――――――――――――――――――――――
 先代ブッシュは、昔ながらの安定を維持するべく、権力と正当
性を頼みとした「警察官」であり、ビル・クリントンは、進歩を
創出すべく、グローバリゼーションに期待を寄せた「社会福祉活
動家」、そして、ジョージ・W・ブッシュは、自ら宣言した悪と
の戦いを完遂すべく、恐怖におびえる国民の力を結集させた「自
警団員」であるというのです。
 ブレジンスキー氏は、8つの項目ごとに採点をして、3人のグ
ローバル・リーダーの通信簿を次のように発表しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
          ブッシュ父  クリントン  ブッシュ子
 大西洋同盟       A      A      D 
 旧ソ連圏        B      B−     B−
 極東          C+     B      C+
 中東          B−     D      F
 核拡散         B      D      D
 平和維持      評価せず     B+     D
 環境          C      B−     F
 世界貿易/貧困     B−     A−     C−
 ――――――――――――――――――――――――――――
 総合評価     堅実なB    むらなC   落第のF
       ――ズビグネフ・ブレジンスキー著/峯村利哉訳
         『ブッシュが壊したアメリカ』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ジョージ・H・W・ブッシュ、すなわち先代ブッシュ大統領は
ソ連の崩壊に直面して、適切な配慮と巧みな手腕で危険なプロセ
スをうまく乗り切っています。しかしながら、世界システム全体
が米国の指導力を素直に受け入れているにもかかわらず、その絶
好のチャンスをつかまえられなかったことは、先代ブッシュの原
罪である――このようにブレジンスキー氏はいっています。
 2人目のクリントンは、グローバリゼーションを都合よく解釈
し、歴史的必然性を主張することによって、戦略策定と遂行の義
務から自らを解放したのです。クリントンが相続した米国には、
全地球規模で競合するライバルはいなかったのです。
 しかし、彼はこのまたとないチャンスをみすみす取り逃がし、
中東和平の道を開くことができなかったのです。また、核拡散問
題についても生半可な態度でのぞみ、これについてきちんとした
手を打てなかったのです。北朝鮮の核の枠組み合意などの失敗は
その典型であるといえます。
 3人目のグローバル・リーダーであるジョージ・W・ブッシュ
について、ブレジンスキー氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 前ブッシュ政権が誕生してからの6ヵ月間、アメリカの外交は
 ほぼ休眠状態にあった。9・11の同時多発テロで目がさめる
 までは・・・。世界の国々はアメリカのまわりに結集し、アメ
 リカ政府は世界共闘を形成する絶好の機会を得た。しかし、悲
 しいかな、ブッシュが打ち出してきた政策は「あなたが我々の
 味方でないなら、あなたは我々の敵である」という一国主義以
 外の何物でもなかった。アメリカ政府は恐怖で国民をあおり、
 あおられた国民の恐怖につけ込み、アメリカは戦時国家だ″
 のスローガンを政治に利用した。   ――ブレジンスキー著
         『ブッシュが壊したアメリカ』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このテーマもそろそろ終了します。次回からしめくくりに入り
ます。             ――[オバマの正体/52]


≪画像および関連情報≫
 ●『ブッシュが壊したアメリカ』の書評について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  それはさておき、本書は「アメリカの単独の覇権が確立して
  てから現在にいたるまでの15年間」にグローバル・リーダ
  ーとなったアメリカの3人の大統領、ジョージ・H・W・ブ
  ッシュ、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュについ
  てのリーダーシップについての批判的考察であり、今後(次
  期大統領以降に)訪れる第2のチャンスを生かさない限り第
  3のチャンスは永久にめぐってこないとして、これからのア
  メリカがグローバル・リーダとしてとるべき行動指針を提示
  したものである。
         http://tonegawa.net/asin/Book/4198624100/
  ―――――――――――――――――――――――――――

ブレジンスキーの近著/「ブッシュが壊したアメリカ」.jpg
ブレジンスキーの近著「ブッシュが壊したアメリカ」
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2009年09月29日

●「米国経済は再生できるのか」(EJ第2663号)

 9月1日のEJ第2646号において、2010年5月に上海
で開催される上海万博の米国のパビリオン建設がはじまっていな
いことを伝えました。その後どうなったのでしょうか。
 2009年7月17日に、ロック商務長官などが出席して、一
応起工式は行われたようです。パビリオンは米国の2030年の
未来都市をテーマにして建設する予定ですが、建設資金はなお、
2000万ドル不足しているということです。
 米国は現在、とにかくお金がないのです。お金が回っていない
ことを示しています。米国の経済の状況については楽観論から悲
観論にいたるまで、さまざまな意見があります。
 新聞などでは悲観論は抑えられ、楽観論が若干セーブして報道
されています。上海万博の米パビリオンが着工していないという
ようなニュースは報道されないのです。
 今までFRBは何をしてきたのでしょうか。
 バーナンキFRB議長は、これまで金融を安定させようとして
いろいろな手――バラマキを行ってきていますが、これらの巨額
の資金は、ほとんどは不良債権の闇に吸い込まれてしまっている
というのです。
 IMFの試算によると、米国の不良債権の額は金融危機突入時
から次のように増え続けているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ≪米国の不良債権≫       IMF試算
    2008年10月 ・・・・・ 1.4 兆ドル
    2009年 1月 ・・・・・ 2.2 兆ドル
    2009年 4月 ・・・・・ 3.1 兆ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 具体的には何をやっているのかというと、財務省が印刷した財
務省証券/米国債をFRBが買い取ってドル紙幣を米政府に渡し
政府はそのドルを金融機関や企業の救済に回すということの繰り
返しなのです。
 ここで、添付ファイルのグラフを見ていただきたいのです。こ
れは、米連邦財政の推移を示したグラフで、議会予算局が作成し
たものです。これを見ると、悲惨な状況になっているのです。
 米国の財政赤字は、2009年1月に発表した時点で1兆18
00億ドル/GDP比で8.3 %という見通しだったのです。推
定値では1兆3000億ドルですから、かなり下回ると思われて
いたのです。
 しかし、その後景気対策法に減税と財政支出が盛り込まれた関
係で、2兆ドル――200兆円に達することは間違いないと思わ
れます。この1年間に2兆ドルという数字――グラフを見てもわ
かるように、とんでもない数字なのです。
 1年間に2兆ドルは、1日ごとに55億ドル、1時間ごとに2
億2800万ドル、1分ごとに381万ドル、1秒ごとに6万ド
ルの赤字が増えていっていることを意味するのです。
 別な数字もあります。これは、米国の民間調査機関が調べたも
のですが、驚くべきデータです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ★戦前から戦後にかけて米国が諸政策に支出した総金額
   のインフレ換算
    ・・・・・・・・・・・・・・・ 3925億ドル
  ★サププライム・ショック以降の「公的救済」を目的と
   する政府支出額(2008年11月現在)
    ・・・・・・・・・・・・・・・ 4616億ドル
               ――原田武夫著/講談社刊
          『計画破算国家/アメリカの罠』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 昨年の11月現在、サブプライム・ショックに対応して米政府
が支出した4616億ドル(2008年11月現在)という金額
は、戦前から戦後にかけて米国が繰り広げてきたさまざまな政策
に支出した総金額をインフレ換算した金額3925億ドルより多
いということを示しているのです。
 戦前から戦後にかけての米政府の諸施策とは、マーシャルプラ
ン、ニューディール政策、ルイジアナ購入、アポロ月計画、S&
L危機、朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラク戦争などを含む総額に
当たるのです。
 なにしろ米国という国は、1940年以来の69年間で、12
年間を除く57年間赤字を続けてきたのです。その赤字の総額た
るや、11兆1000億ドル――1110兆円という天文学的数
値になるのです。さらに、連邦政府だけではなく、全米50州の
うちのほとんどの州が赤字なのです。
 こういう米経済の実態に対して反論する人は実は少なくないの
です。2009年4月以降ダウは8000ドル台を回復し、9月
に入っても9800ドル台にあり、「立ち直る兆しが出ている」
という専門家もいるほどです。
 米国債10年物も安定して取引されており、ドルも世界の他の
通貨に比べて安定している――これをもって米経済は底固いとい
う人もいます。
 しかし、浜田和幸氏は、少なくとも財政面から見る限り、米国
が今回の金融危機、世界同時不況から立ち直るのは困難であり、
米経済の現況について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、ドルも米国債も依然として強いのだろうか?それは、歴
 史的に見て、覇権国が覇権を失う最後の段階の一時的な現象と
 見るべきだろう。世界の誰もがアメリカ崩壊を望まないので、
 ドルも米国債も買い支えているのが、いまの状態と見るべきな
 のである。しかし、必ず「2番底」は到来し、アメリカの凋落
 が避けられないときが迫っている。
     ――浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
                ――[オバマの正体/53]


≪画像および関連情報≫
 ●2010年米国経済は再生するのか/ブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  今週の月曜日、米FRB議長のバーナンキはCBSの録画イ
  ンタビューで、米のリセッション(景気後退)は09年後半
  まで続き10年から景気回復に向かうと答えておりました。
  本当にそうなのだろうか?????疑問符がいくつもついて
  にわかには信じられないというのが、私の思うところです。
  いずれ米経済は再生するときがくると思いますが、それは1
  年2年ではないと、私は思っています。もとより私自身は、
  経済の専門家でもなければ、アナリストでもありません。経
  済問題は素人同然のレベルしか持ち合わせておりませんが、
  その素人の目から見て、経済界をリードする米金融界の経営
  者たちのレベルを思うとき、とても1年2年というレベルで
  立ち直れるはずがないと思うからです。
    http://tarumae.at.webry.info/200903/article_88.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典
  浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊より

米連邦財政の推移/議会予算局.jpg
米連邦財政の推移/議会予算局
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2009年09月30日

●「レバレッチ金融崩壊の深刻さ」(EJ第2664号)

 オバマ大統領は、2009年8月25日にバーナンキFRB議
長を再任する方針を正式に発表しています。FRB議長の任免は
市場に大きな影響を与えるので、大統領は慎重に行うものですが
任期切れまでまだ5ヵ月もある時点で再任を発表するのは異常な
ことなのです。バーナンキ議長の2期目の任期は2010年1月
から2014年1月までになります。
 なぜ、オバマ大統領は、この時期にバーナンキ議長の再任を発
表したのでしょうか。
 それは政権の支持率の問題があるからです。オバマ大統領の支
持率は6月末までは、ほぼ60%を超えていたのですが、雇用の
悪化につれ、じりじりと低下したのです。8月に入って、さらに
政権が最大の目玉としている医療制度改革のゴタゴタで支持率は
さらに下がり、辛うじて50%を保っている状態なのです。
 そこで状況を打開するため、6月以降株価が回復してきている
ことに着眼して、政権が巨額の景気対策を打ち出してきた経済面
での成果を強調する方針を打ち出したものと思われます。
 そこでオバマ大統領は、バーナンキFRB議長の発言をなぞる
ように、「景気後退の終わりの始まりを目撃しているのかもしれ
ない」とか「景気対策が人々に減税をもたらし、雇用を生み出し
ている」と発言するようになったのです。
 オバマ政権がバーナンキ議長を中心として金融危機にいかに正
しく対応してきたかをアピールするなかで、バーナンキ議長の再
任を早々と打ち出して見せたというわけです。
 しかし、景気は本当に底打ちしたのでしょうか。6月以降の景
気回復のように見える状況は、巨額の財政出動によるカンフル剤
が一時的に効いたに過ぎないという見方があります。雇用が回復
していないので、実体経済がさらに傷めば、失速して2番底に向
かい、再び金融に問題が跳ね返る恐れもあるのです。
 日本のバブルは1991年に崩壊し、1999年になってやっ
と整理回収機構ができ、さらに5年ほどを要して不良債権の処理
を終了しています。したがって、全部で15年かかっていること
から「失われた15年」といわれるのです。
 そのとき、「日本の処理は遅い」として米国から批判されたも
のです。その批判者のひとりが他ならぬバーナンキ氏だったので
す。とくに彼は日銀のゼロ金利政策について批判したのです。
 しかし、バーナンキFRB議長は、金融危機が起きると、20
08年12月に自らが批判した事実上のゼロ金利政策を躊躇なく
導入しています。そしてマヒした金融市場に直接手を突っ込み、
民間債券など焦げ付きの恐れのある資産を買い入れる異例の「信
用緩和策」を実行したのです。
 さらに、長期国債の買い切りで市場に資金供給するなど金融緩
和を徹底しています。各国の中央銀行とも協調し、世界的な市場
の混乱を押さえ込み、景気を下支えする手を打ってきたのです。
 このようにバーナンキFRB議長の処理は水際立って早いよう
にみえますが、そうかといって、数年で米国経済が立ち直るとは
とても考えられないことです。
 なぜかというと、日本のバブル崩壊と今回のバブル崩壊とはそ
の原因が本質的に異なるからです。浜田和幸氏は、今回のバブル
の原因は「レバレッジ金融」の崩壊であるといっています。
 「レバレッチ金融」を理解するために、「レバレッチ」という
ものを正確に理解する必要があります。レバレッチを定義すると
次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 レバレッジとは、経済活動において他人資本を使うことによっ
 て、自己資本に対する利益率を高めることをいう
―――――――――――――――――――――――――――――
 例えば、100円の自己資本だけを持っている場合、総資産は
100円になります。総資産10円が10円の売上げと1円の利
益をもたらすと仮定すると、総資産100円の場合は、100円
の売上げと10円の利益がもたらされます。この場合、100円
の自己資本に対する利益率は10%ということになります。
 さて、ここからが大切です。ここで400円の他人資本(借り
入れ)を入れて、自己資本と合わせて総資産を500円にしたと
します。この場合、総資産500円からは500円の売上げと、
50円の利益(営業利益)がもたらされますが、400円の借り
入れに対する利払いを5%と仮定すると、利息は20円、すなわ
ち、利益(経常利益)は30円になります。そうすると、自己資
本に対する利益率は30%になるのです。
 このようにして、他人資本を導入することで同額の自己資本で
も、より高い利益率が上げられることを「レバレッジ効果」とい
うのです。
 ここで、添付ファイルの図を見ていただきたいと思います。こ
れは「信用危機スタート時の世界の流動性」をあらわしている図
です。ここで流動性とは、貨幣と同じ意味であると考えていただ
きたいと思います。
 この図で注目すべきは、デリバティブです。今回のバブル崩壊
によって、デリバティブの残高は、世界のGDPの384%、世
界全体の流動性の41%を占めているのです。
 なぜ、こんなことになったのかというと、ヘッジファンドや投
資銀行は、レバレッチを使って自己資本の80倍から100倍の
投資をしていたからです。
 これに対して、現金は全体の流動性のわずか2%に過ぎず、世
界のGDPの7%しか占めていなかったのです。現金なしの信用
取引の割合があまりも多かったからです。これではバブルが崩壊
すると、現金はたちまちなくなってしまうことになります。
 これに対して日本は今回のバブルの崩壊によってツケはきっち
り支払わさせられていますが、日本は今回の金融危機の原因であ
るレバレッチ金融にほとんどかかわっていないのです。どうして
かというと、それは日本の金融技術が欧米に比して遅れていたか
らに他ならないのです。     ――[オバマの正体/54]


≪画像および関連情報≫
 ●キーワードとしてのレバレッジ/世に倦む日日より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  テレビ朝日の報道ステーションがこの経済問題の関心に比較
  的よく適合した姿勢で米国経済の取材と報道を続けている。
  見ていると、間もなく米国で金融のクラッシュが起きる予感
  を取材スタッフが持っていることが伝わってくる。この一連
  のテレビ情報を追いかけるだけでも、何も見ないよりは問題
  の整理と把握に近づくことができるはずだ。
             http://critic5.exblog.jp/9079094/
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典
  浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊より

信用危機スタート時の世界の流動性.jpg
信用危機スタート時の世界の流動性
posted by 平野 浩 at 04:18| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月01日

●「米国は「計画破産国家」である」(EJ第2665号)

 国際戦略情報研究所代表の原田武夫氏は、2008年にサブプ
ライム危機が起こって以来の米国の対応について自著においてき
わめて興味深いことを述べています。
 原田氏は、米国はあるシナリオにそってとんでもない計画を進
めているといっています。そのシナリオの予告編として次のよう
なシーンを描いてみせます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 少年たちが公園で立ちすくんでいる。彼らは調子に乗って砂場
 に大きな穴を掘ってしまったのだ。どうしたらいいんだろう?
 少年たちは困り果てている。しかし、そうこうしている間にも
 どんどんと崩れて落ち、もはや穴そのものを埋められなくなっ
 てしまったのだ。そこで母親を恐れるこの子供の一人、率先し
 て穴を掘ったガキ大将が真っ先に考えるのはまず、仮に母親が
 怒るとしてもパッと見てその穴があたかも小さいかのように見
 せかけることができるならば、母親の怒りも最小限に抑えられ
 るに違いないということだった。(一部略)ガキ大将は隣にた
 たずむ賢そうな少年に相談する。少年は仕方なさそうに、こう
 呟く。「ともかく第一には開けてしまった穴をいかにして小さ
 く見せるかだし、第二には、小さくした穴を埋める共犯として
 誰を仕立て上げるか、それしかやりようはないよ」。ガキ大将
 はうなずく。               ――原田武夫著
        『計画破産三国家/アメリカの罠』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 原田氏は、このなかのガキ大将はブッシュ前大統領、賢そうな
少年はポールソン前財務長官であるというのです。まず、空いて
しまった大きな穴をいかに小さく見せるか――これについては、
絶対に真実をいわないことによって達成できます。そんなことは
可能なのでしょうか。
 サブプライム危機によってウォール街の金融マーケット――具
体的には問題ある債券を売り捌いた金融機関(ファンドや投資銀
行など)を指すが、原田氏はこれを「越境する投資主体」と呼ん
でいる――が背負い込んだ巨大な損失をすべて公表すれば、つま
り、空いてしまった穴をありのままに見せれば、世界に大きな衝
撃を与えることになりますが、対応策も取れるので、早く解決で
きるのです。
 しかし、米国の立てたシナリオは、それを米国の財務会計基準
(US・GAAP)を利用して隠すことだったのです。どうして
そんなことができるのでしょうか。
 原田氏のいう「越境する投資主体」は、自らが集めた資金を多
くの小型の投資主体にまるで小遣いを渡すようにして配り、運用
されるのです。これらの子分のような会社を「特別目的会社」と
いうのです。
 これらの特別目的会社のすべてが運用に成功するわけではなく
当然失敗するところも出てきます。しかし、米国の財務会計基準
では、それらの特別目的会社の損失を連結決算では公表しなくて
もいいことになっているのです。原田氏によると、あのゴールド
マン・サックスは、決算を公表するプレスリリースに次の断りを
入れているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 管理下にある資産とは当社が管理する諸ファンドに対する投資
 を含んでいません。            ――原田武夫著
        『計画破産三国家/アメリカの罠』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これがあるから、あれほどの巨大損失でありながら、「減収・
減益、それでも黒字決算」という不可解なことになり、実態はま
るでわからないままなのです。これが「空いてしまった穴を小さ
く見せる」仕掛けなのです。
 その一方で、ポールソン前財務長官は、「米国に必要なのは監
督と規制だ」と述べているのです。そういうウラでポールソン前
財務長官は、2008年10月9日に金融株に対する空売り規制
を解除しているのです。いわゆる「越境する投資主体」が株価が
暴落している市場から儲けることができるよう手を打っているの
です。これは、日本が10月27日にその(空売り規制の)強化
を決定しているのとは正反対の措置であるといえます。
 ところで、株価下落局面でなぜ「越境する投資主体」は儲ける
ことができるのでしょうか。
 その手法のひとつが株の空売りなのです。空売りとはあらかじ
め入れておいた担保金と引き換えに、証券会社から株を借りて売
却し、その株が値下がりした時点で買い戻すことで利益を得る投
資方法をいいます。
 例を上げて説明します。現在、10万円のA社の株を借り、そ
の場で売却して10万円を手にします。その後、A社の株が9万
円に下がった時点で買い戻し、証券会社に返すと、差し引き1万
円の利益を手にすることができます。この場合、投資家は1円も
現金を使わないで1万円儲けることができるのです。もちろん、
この場合、株を貸し出した証券会社には手数料が入ることになっ
ており、1万円が丸ごと儲けになるわけではありません。
 株の空売りは、株価が下り続けるという状況下で利益を上げる
投資手法ですが、下がらないときは、徹底的に売って売りまくる
のです。そうすると、株価下落局面になるのです。ウォール街の
金融セクターはこうして儲かる状況を作り出すのです。
 しかし、これが可能なのは、マーケットに空売り規制がかけら
れていないという条件が必要です。そこで、米国では規制を撤廃
して投資主体が儲けられるよう手を打ったのです。
 財政的な面から見るなら、米国の復活・再生はきわめて困難と
いわざるを得ないといえます。累積財政赤字総額は、実に11兆
1000億ドル(1110兆円)という天文学的数字なのです。
この数字を見る限り、米国は既に財政破綻をしているといっても
過言ではないでしょう。しかし、原田氏は、米国は「計画破産」
を企てているというのです。   ――[オバマの正体/55]


≪画像および関連情報≫
 ●「空売り」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  空売りとは、株券を借りて売ってしまう取引のこと。空売り
  の場合は、買戻しをして決済したところで一連の売買が完結
  する。空売りした水準よりも株価が下落して、安い水準で買
  い戻しできれば利益が得られるし、逆に、空売りした水準よ
  りも株価が上昇してしまい、高い水準で買い戻しすることに
  なれば、その分損失になってしまう。空売りは信用取引の一
  種であり、元手の約3倍程度の金額まで売り建てすることが
  可能である。ただし、最悪の場合には、株価がどこまでも上
  昇していく可能性があり、損失額が青天井になってしまうこ
  ともある。     ――オール・アバウトマネー辞典より
  ―――――――――――――――――――――――――――

原田武夫氏の本.jpg
原田武夫氏の本
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2009年10月02日

●「米国金融資本の2つの勢力」(EJ第2666号)

 米国の金融資本には、対照的な2つの勢力がある――原田武夫
氏はこう指摘しています。これら2つの勢力は、全く違う価値観
を持ち、対立してきた歴史を持つのです。
 これらは、「リベラル」と「保守」に分けることもできますが
厳密には次の2つのグループになるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.中世キリスト教にも通じる「地域主義」「共同体主義」を
   信奉する、真面目で熱心なキリスト教信者 ・・・ 銀
 2.プロテスタン的な宗教観を持ち、国外に打って出る帝国主
   義的でプロフェッショナルな経営管理論者 ・・・ 金
―――――――――――――――――――――――――――――
 1のグループは、いわゆるキリスト教原理主義者であり、富を
自己増殖させるマシーンである「銀行」を快く思っておらず、反
銀行論の立場を取るのです。
 米国は建国初期において、地域的金融機関が隣国・メキシコで
豊富に採掘される「銀」を地域通貨として使ってきた歴史がある
ので、このグループは「銀」と呼ばれるのです。
 2のグループは、1のグループとは対照的な考え方を持ってい
ます。このグループは、ジャン・カルヴァンに由来する教義――
神から与えられた職業を営むなかで利殖を行うのは信仰心の現れ
であるとして、よりプロフェッショナルな経営を行い、米国全体
が経済を拡大し、富を蓄積すべきであると考えるのです。
 このグループは、地域通貨としての「銀」ではなく、国際通貨
としての「金」に高い価値を見出すところから、「金」のグルー
プと呼ばれるのです。
 これに関して、米国を世界最強の金融王国に押し上げた原動力
について原田氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いうなればアメリカは、銀を地域通貨として「国内」に基盤を
 持つ地域銀行の勢力(利殖をよしとせず反銀行論的な立場)と
 国際通貨である金本位制を促進して、「国外」へと打って出た
 「越境する投資主体」の勢力(プロフェッショナル経営管理論
 を駆使して、できるだけ権益を広げ、富を蓄積する立場)とい
 う、まったく相反する価値観が常にぶつかり合い、激しい闘争
 を繰り広げてきた国なのである。それがアメリカを世界最強の
 金融立国へと押し上げてきた原動力でもあったのだ。
                      ――原田武夫著
        『計画破産三国家/アメリカの罠』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 「越境する投資主体」、すなわち、金融マフィアが世界各地に
進出し、米国の権益を拡大して巨額の富を収奪する――しかし、
ときとして致命的な失敗をします。そうすると、排他的で国内に
基盤を持つ地域銀行が台頭し、内向きの外交方針――モンロー主
義に転換するのです。「金」から「銀」への転換です。
 今回のサブプライム・ショックは、まさにこの転換に該当する
といえます。共和党から民主党への政権交代もこの転換と無関係
ではないのです。米国はこのように価値観の異なる2つのグルー
プは、何かというとつねにぶつかり合い、激しい闘争を繰り広げ
その結果として米国を世界最強の金融王国に押し上げる原動力に
なったのです。
 さて米国の「計画破産」のシナリオの第一幕の出演者は、ブッ
シュ前大統領と元ゴールドマン・サックスのCEOであったポー
ルソン前財務長官です。原田氏によると、ブッシュ前大統領の役
回りは、「目の前にある危機にあえて緩慢に対処することで、よ
り深刻化させることあった」としています。確かにブッシュ前大
統領の動きは緩慢であったし、事態は深刻化しています。
 これに対してポールソン前財務長官は、古巣であるゴールドマ
ン・サックスをはじめとする「越境する投資主体」が株価の下落
局面でしっかりと稼げるよう金融株に対する空売り規制を解除す
るとともに、一方で「金融セクターに対する監督・規制の強化」
を打ち出しているのです。
 もともとポールソン前財務長官は、自由主義的な金融政策を推
進する人物ですが、そのブレーキになるような「監督・規制の強
化」を打ち出したのです。もし、本当に金融セクターへの監督・
規制を強化すると、「越境する投資主体」の手足を縛ることにも
なるのです。どうして、こんな方針を打ち出したのでしょうか。
 原田氏は、監督・規制の強化は、確かに「越境する投資主体」
の手足を縛るが、それ以上にこれから台頭するであろう地域銀行
を抑えることにつながるとして、ポールソン前財務長官の動きを
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ポールソン前財務長官の行動は、一方で「反銀行論」の首が草
 の根の民主主義の伝統と共にもたげるのを未然に防ぎながら、
 他方でニューヨークを牛耳るアメリカ系国際金融資本からして
 依然、厄介な存在である地域的金融機関の淘汰を一気に進める
 という実利があつたのだ。そして20世紀初頭における展開と
 のアナロジーでいえば、そこには明らかにアメリカ系「越境す
 る投資主体」たちがこれまでのビジネス・モデルを食い散らか
 し、次のモデル、別のターゲットヘと移りつつあることを示し
 ているに違いないのである。        ――原田武夫著
        『計画破産三国家/アメリカの罠』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かにこのシナリオの第一幕の出演者であるブッシュとポール
ソン――とても水際立った処置とはいえなかっのです。金融機関
が抱える不良債権を買い取るために用意されたTARPの資金を
「ビックスリー」に使うなど、かなり場当たり的な対応だったこ
とは確かです。さらにポールソン前財務長官にいたっては、昨年
末の時点で「米政府は金融危機に対応する手段を十分持ち合わせ
ていない」などと発言して顰蹙を買ったのです。要するに緩慢に
対応したのです。        ――[オバマの正体/56]


≪画像および関連情報≫
 ●モンロー主義とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  モンロー主義は、米国ががヨーロッパ諸国に対して、アメリ
  カ大陸とヨーロッパ大陸間の相互不干渉を提唱したことを指
  す。第5代米国大統領ジェームス・モンローが、1823年
  に議会への7番目の年次教書演説で発表した。モンロー宣言
  と訳されることもあるが、実際に何らかの宣言があったわけ
  ではないので、モンロー教書と表記されることも多い。この
  教書で示された外交姿勢がその後のアメリカ外交の基本方針
  となった。原案は国務長官・ジョン・クィンシー・アダムズ
  が起草した。            ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジャン・カルヴァン.jpg
ジャン・カルヴァン
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2009年10月05日

●「NAFTAとNACをめぐる動き」(EJ第2667号)

 NAFTA(ナフタ)と呼ばれる協定があります。ナフタは次
の協定のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  北米自由貿易協定/North American Free Trade Agreement
―――――――――――――――――――――――――――――
 どういう協定なのでしょうか。これはアメリカ合衆国、カナダ
メキシコの3国で結ばれた自由貿易協定です。1992年12月
に署名し、1994年から発効しています。NAFTAは域内G
DP約11.9 兆米ドル、人口約4.3 億人となっており、EU
を凌ぐ大規模経済圏になるのです。
 なぜ、いきなりNAFTAなのかと疑問を持つ人も多いと思い
ます。それは、現オバマ政権が今後とっていく政策に深く関係し
てくるからです。
 実は、昨年の米大統領選挙において民主党が統一候補を決める
さい、最も重要になったのは、米国、カナダ、メキシコとの関係
なのです。それは、NAFTAの改定問題という形で噴出してき
たのです。
 選挙戦では、ヒラリー・クリントン候補が夫であるビル・クリ
ントン元大統領が尽力したNAFTAを支持したのです。これに
対してオバマ候補はそれを次のように批判したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NAFTAのおかげで、オハイオ州だけでも約5万人の雇用
 が失われている             ――オバマ候補
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、これをめぐって大スキャンダルが発覚し、オバマ陣営
は火消しに追われることになったのです。そのスキンダルとは、
オバマ候補の懐刀といわれる、オースタン・グールズビー経済顧
問がシカゴでカナダ政府関係者に対し、オバマ候補のNAFTA
批判は政治的なジェスチャーであるという秘密メモを渡していた
ことが発覚してしまったのです。
 結果はどうなったかというと、結局この問題はうやむやのまま
沙汰やみとなっているのです。このオースタン・グールズビー氏
は、現在、オバマ政権における大統領経済諮問委員会(CEA)
のスタッフに就任しているのです。
 既出のウェブスター・G・タープレイ氏は、オースタン・グー
ルズビー氏について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 グールズピーは現在シカゴ大学教授であり、自由市場主義をか
 かげるシカゴ学派の主要な提唱者でもある。シカゴ学派の創設
 者はミルトン・フリードマンだが、彼の経済理論によって開発
 途上国ではほとんど大量虐殺に近い事態が生じている。バリー
 ・ゴールドウオーター、リチャード・ニクソン、ロナルド・レ
 ーガンといった共和党保守政治家はフリードマンと緊密に連携
 して動いていた。フリードマンの理論にひたすら従い、アメリ
 カ国民の経済的な権利を少しずつ奪い取っていったのだ。これ
 らの権利は、アメリカ国民がニューディール時代の労働運動に
 よって勝ち取ったものだった。
      ――ウェブスター・G・タープレイ著/太田龍監訳
           『オバマ危険な正体』より/成甲書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 結局うやむやのまま終わった大スキャンダルですが、オバマ大
統領は、NAFTAの積極推進派ヒラリー・クリントン氏を国務
長官に任命することによってNAFTAを守り、カナダとメキシ
コの顔を立てた形になったのです。これは明らかに手打ち人事で
あるといえます。なぜなら、それはいろいろ取り沙汰されている
北米新通貨「アメロ」に深く関係してくるからです。
 実はこの件に関しては、米国を代表するシンクタンク「外交評
議会/CFR」の政策提言が2005年5月に出ているのです。
それは、アメリカ、メキシコ、カナダの3国の首脳――米・ブッ
シュ大統領、メキシコ・フォックス大統領、カナダ・マーティン
大統領が初めての会議を開催し、NAFTAとは別にSPP「北
米の安全と繁栄のパートナーシップ」という枠組みを立ち上げた
2005年3月の直後の5月に発表されており、きわめて現実的
なものであるといえます。
 NAFTAは関税の撤廃が最終ゴールだったのですが、SPP
は北米版の欧州連合(EU)を目指していて、経済的な連携強化
だけでなく、安全保障やエネルギー資源での共有を掲げている点
が重要であるといえます。
 原田武夫氏は、このCFRの政策提言について、次のように述
べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このCFRの政策提言は、北米共同体(NAC)の創設を求め
 圧倒的に障壁のない自由貿易ゾーンの創設、あるいは「緊急対
 応」に際しての協力強化、さらには教育や投資についての域内
 協力などについて細かく議論しつつも、域内共通通貨といった
 ものについての言及は確かにまったくない。しかし、この報告
 書には「我々の経済面であてるべき焦点は、この地域における
 すべての人々にとって経済的機会を拡大させるような、モノ・
 カネ・ヒトが自由に移動するような共通経済圏の創設に絞られ
 るべきである」(同報告書第6ページ)とくつきりと記されて
 いるのだ。この目標が最も達成されるためには、もはや通貨を
 一つにしたほうが良いことは明らかである以上、暗黙の内にそ
 の前提となっていると考えるべきなのだ。  ――原田武夫著
         『計画破産国家/アメリカの罠』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 なお、この政策提言では「北米共同体(NAC)の創設を20
10年までに求める」と明言しています。なぜ、2010年なの
かという理由はわかりませんが、これによって、地域内共通通貨
「アメロ」がかなり現実なものになりつつあるような気がしてき
ます。             ――[オバマの正体/57]


≪画像および関連情報≫
 ●堀田佳男――ジャーナリストのエンジン/ブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  数ヶ月前、北米3国(アメリカ、カナダ、メキシコ)の新し
  い動きを知った。主要メディアではなくインターネットでの
  情報だった。私の勉強不足かもしれないが、少なくとも大手
  メディアでは大きな扱いをしていない内容である。3国が新
  しい同盟関係を築くというニュースだった。北米3国の同盟
  といえば、すぐに北米自由貿易協定(NAFTA) が思い浮
  かぶが、それとは別に「北米の安全と繁栄のパートナーシッ
  プ(SPP)」という枠組みを立ち上げたという。
             http://www.yoshiohotta.com/?p=17
  ―――――――――――――――――――――――――――

オースタン・グーズビー氏.jpg
オースタン・グーズビー氏
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2009年10月06日

●「米国、カナダ、メキシコ地域統合」(EJ第2668号)

 米国、メキシコ、カナダ――これらの3国が地域統合すると何
が起こるのでしょうか。原田武夫氏によると、米国は、欧州にお
ける共通通貨「ユーロ」をめぐり、ドイツがとった戦略をビジネ
スモデルとして考えているのではないかといっています。
 ユーロが導入されたのは1999年1月のことです。それまで
欧州では当然のことながらそれぞれの国がそれぞれの通貨を持っ
ていたのです。ドイツならマルク、フランスならフラン、オラン
ダならギルダーというようにです。
 1990年10月3日のこと、ドイツは悲願のドイツ統一を成
し遂げています。しかし、これはドイツという国にとってきわめ
てリスキーな試みであったといえます。どうしてかというと、当
時安定性のある輝かしい業績を誇る経済力を持つ先進国旧西ドイ
ツ、かたや比べものにならないほど経済的に荒廃した旧東ドイツ
――その西ドイツが東ドイツを抱え込むということは、西ドイツ
経済をも荒廃させる恐れがあったからです。
 事実、1990年に約50億ドルの黒字であったドイツの経常
収支は翌年には約26億ドルの赤字に転落しています。そしてド
イツの経常収支が再び黒字に戻るのは、10年後の2000年に
なってからのことなのです。
 西ドイツは、ドイツの国外にいる者に積極的にマルク建て国債
を売ると同時に金融引き締めを行うことで長期金利を上昇させる
――そういう政策をとったのです。これに関して原田武夫氏は、
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで注意して見ておきたいことが一つある。それは、言い方
 は悪いが、ドイツ統一とは後から振り返ってみると結局のとこ
 ろ、先進国であった旧西ドイツがさらなる繁栄をとげるべく、
 旧東ドイツを経済的な植民地、しかも無関税・障壁なしで利用
 できるエマージング・マーケットとして使い倒したという側面
 が否めないということである。       ――原田武夫著
         『計画破産国家/アメリカの罠』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで重要なのは、西ドイツが「旧東ドイツを経済的な植民地
しかも無関税・障壁なしで利用できるエマージング・マーケット
として使い倒したという側面」という部分です。エマージング・
マーケットとは何でしょうか。
 エマージングマーケットとは近年急速に成長し、貿易や投資の
対象として有望な国の市場――マーケットのことです。エマージ
ングというのは英語の「emerging」からきています。「emerge」
という動詞には、「浮かび上がる」、「台頭する」という意味が
あります。エマージング・マーケットは、新興諸国の市場という
意味になります。エマージング・アジアというと、アジアの新興
諸国という意味になりますし、エマージング・カントリーという
と、世界中の新興諸国を指すのです。
 先進国がある程度経済成長を遂げると、それ以上大きく経済成
長させることが困難になります。そういう場合、先進国はエマー
ジング・マーケットになる地域を見つけて、これを統合していく
過程で積極的にビジネスを展開し、富を集めて、それに対する評
価として自らの国の通貨の価値を上げるというやり方をとるので
す。西ドイツは東ドイツを無関税・障壁なしで利用できるエマー
ジング・マーケットとしてとらえ、10年以上かかったものの、
見事に経済成長を成し遂げたのです。
 ドイツはその後、EUという大きな舞台において、同じ手法を
使って経済発展を遂げています。EUは2004年に第5次拡大
を行っていますが、そのさいに新規加盟をした10ヶ国――チェ
コ、ハンガリー、ポーランド、バルト3国、スロヴァキア、スロ
ヴェニア、マルタ、キプロス――これらの大半は、ドイツの近隣
の国であり、ドイツにとってはエマージング・マーケットそのも
のにあたり、ドイツは大いに稼いだのです。
 米国は、このドイツの成功を参考にして、地域統合を行おうと
していると考えられるのです。実は、ドイツの成功がだんだんわ
かってきたのが、1990年代の半ばなのですが、ちょうどその
1994年からNAFTAが発効しているのです。
 さて、米国、メキシコ、カナダ3国の特徴を一口でいうと、次
のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    アメリカ ・・・・・ 世界有数の技術大国
    メキシコ ・・・・・ 低廉な労働力抱える
    カ ナ ダ ・・・・・ 世界有数の資源大国
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国は、カナダおよびメキシコ間の国境が事実上撤廃されるこ
とになるので、そこに米国流資本主義を全面展開することが可能
になります。
 通貨の面からいうと、米国は、米国と比べて明らかに国力の劣
るカナダとメキシコを抱え込むことになるので、仮に新通貨「ア
メロ」を発行したとしても、他の主要通貨――日本円、人民元、
ユーロなど――との関係では大幅に低くなることは確かです。し
かし、これによって、3ヶ国から域外、とりわけ中国に対して輸
出するさい、きわめて条件が有利になるのです。これについての
原田氏のコメントです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 最終的には域外への輸出ドライブによって成長が確約されたの
 も同然な北米3ヶ国の共通通貨「アメロ」を支える根拠は何か
 といえば、従来のような金(ゴールド)だけではなく、域内で
 とくに産出される商品(コモディティー)、具体的に「金(ゴ
 ールド/カナダ)」、「銀(メキシコ)」、「各種穀物(アメ
 リカ)」などを一定の割合で組み合わせたバスケットとなる可
 能性が高い。               ――原田武夫著
         『計画破産国家/アメリカの罠』/講談社刊
―――――――――――――   ――[オバマの正体/58]


≪画像および関連情報≫
 ●英国は統一を望まず/INTEROGUE
  ―――――――――――――――――――――――――――
  9月10日と11付英タイムズ紙は、1989年のベルリン
  の壁開放直前の英ソ首脳(サッチャーとゴルバチョフ)の非
  公式のやり取りを伝える旧ソ連秘密資料について、マイケル
  ・ビニオン記者などによる一連の記事を掲載した。それによ
  ると、当時の英米仏首脳は一致して壁(ドイツ分断)の維持
  を望みソ連の軍事介入さえ容認(というより期待)して、ゴ
  ルバチョフ書記長が慎重に行動するよう説得を試みていた。
  20年目にして伝えられる真実だ。国際関係専門家にとって
  は、さして驚きではないのかもしれないが、公式には絶対に
  聞けない率直な発言が、冷戦終結へのサッチャーの懸念、ゴ
  ルバチョフの楽観を示しておもしろい。歴史というものを考
  えるのによい教材となるだろう。
http://www.intelogue.com/2009/09/12/thatcher-berlin-wall/
  ―――――――――――――――――――――――――――

ベルリンの壁.jpg
ベルリンの壁
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2009年10月07日

●「NAFTA/SPP/NAUとは何か」(EJ第2669号)

 米国、カナダ、メキシコの3国は、どんどんその連携を強めて
いるのです。こういう情報は当然新聞などで大きく取り上げるべ
き大ニュースのはずですが、なぜか日本の新聞ではほとんど報道
されていないのです。
 年代別に時系列に整理して並べてみると、既に2つの協議体が
できており、2010年にはもうひとつできることが計画されて
いるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ●1994年
  北米自由貿易協定/NAFTA
  North American Free Trade Agreement
 ●2005年
  安全と繁栄のためのパートナーシップ/SPP
  Security and Prosperity Partnership of North America
 ●2010年(予定)
  北米経済圏/NAU
  North American Union
―――――――――――――――――――――――――――――
 驚くべきことですが、これらの協議体は、その目的はそれぞれ
異なるものの、いずれも米国、カナダ、メキシコ3国による協定
なのです。どうしてこんなにいくつも必要なのでしょうか。
 これは、米国がもはや単独ではドルの信用を回復できる状態に
ないと判断し、国境を接するカナダとメキシコの両国と経済を一
体化させ、新たな経済圏を生み出して、その力を利用して通貨の
信用力を高めようとする戦略なのです。
 この戦略を主導しているのは、シンクタンクの外交問題評議会
――CFRであり、クリントン政権、ブッシュ政権、オバマ政権
を通じて、着々と計画を進めているように見えるのです。
 2007年のことですが、CFRの発行している機関誌「フォ
ーリン・アフェアーズ」/5月号・6月号」において、CFRの
国際経済部長のベン・スティル氏は「国家通貨の終り」と題して
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 各国が自国通貨の価値を維持しょうとするあまり、金融ナショ
 ナリズムが巻き起こる危険性が高い。そのようなリスクを克服
 するためには地域的な共同通貨を経て、将来的には世界の統一
 通貨を目指すべきだ。
     ――浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに呼応するように、ノーベル経済学賞の受賞者のロバート
・マンデル教授とカザフスタンのナザルバエフ大統領は共同で、
世界の共通通貨を提案しています。そのうえで、その世界通貨の
名前は「アクメタル」と命名しています。そして、このアクメタ
ル構想は、今年の4月にロンドンで開催されたG20でも話題に
上がったといわれます。
 しかし、当の米国はいわゆる「アメロ構想」については、否定
しています。原田武夫氏は、これについてSPPのホームページ
における「SPPをめぐる神話対事実」という記事を紹介してい
ますが、これを次のように整理してご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「神話」・・SPPはアメリカ、メキシコそしてカナダを北
       米連合へと融合させ、共通通貨を創設するため
       の活動を展開している
 「事実」・・SPPはEUのような構造、あるいは共通通貨
       の創出を検討するために結成され、あるいは形
       成されたものではない
                     ――原田武夫著
        『計画破産国家/アメリカの罠』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見る限り、SPPの活動が3ヶ国の主権をいかなる意味
でも変更させるものではないことを強調し、共通通貨「アメロ」
などあり得ないし、それは「陰謀論」の領域に属する問題である
としています。
 しかし、共通通貨「アメロ」という通貨は、そのデザインされ
たものが既にウェブ上には存在するし、関連する記事もウェブ上
にはたくさん出ているのです。したがって、それがないといわれ
てもにわかに信ずることはできないのも事実です。そこには相当
周到な計画の存在があることは間違いないといえます。
 そもそも共通通貨「アメロ」論に火を点けた原田武夫氏は自著
において次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私の外交官としてのインサイダー経験からいっても、表媒体で
 「そんなことは絶対にやっていません」とくどくどしく説明さ
 れているからといって、本当に政府が一切動いていないという
 ことの証明になるのかといえば、まったくそんなことはないの
 である。政府はどの国であれ、「国益の増進」、つまり国民の
 生命と財産を守るためとのお題目が立つ限り、事後承認は当た
 り前の存在である。ナイーヴに政府の言うことだけを聞いてい
 ると、あとで馬鹿を見ることは目に見えている。
                      ――原田武夫著
         『計画破産国家/アメリカの罠』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 北米共通通貨「アメロ」はけっして荒唐無稽なものではないの
です。かつてEUが結成され、1999年に「ユーロ」が登場し
たとき、現在の状況を誰が想像したでしょうか。
 先の国連総会で鳩山首相が提唱した「東アジア共同体構想」も
同じ考え方に基づくものであるといえます。もはや一国だけでは
繁栄していくことが難しい時代になっているのです。そういう意
味でも北米共通通貨「アメロ」は現実のものになる可能性が高い
といえます。          ――[オバマの正体/59]


≪画像および関連情報≫
 ●北米共通通貨「アメロ」の誕生!?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  この「アメロ」がウソかホントかはともかく、EUがユーロ
  という共通通貨をつくって拡大してきたことから、いまや通
  貨統合の動きは世界のあちこちでも起きている。たとえば、
  東アフリカ共同体(EAC)は2015年に通貨統合する予
  定で、通貨の名称も「東アフリカ・シリング」に決まってい
  る。ペルシャ湾岸6カ国で構成される湾岸協力会議――GC
  Cも2010年の通貨統合を目指していて、通貨の名称は、
  「カリージ」。近い将来、このカリージがドルに代わって原
  油の決済通貨となるかもしれないわけだ。
  http://r25.jp/b/honshi/a/ranking_review_details/id/110000006073
  ―――――――――――――――――――――――――――

北米共通通貨「アメロ」.jpg
北米共通通貨「アメロ」
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2009年10月08日

●「チメリカという言葉を知っているか」(EJ第2670号)

 7月13日から本日まで、60回にわたって続けてきた今回の
テーマは13日で終了します。今後米国は一体どうなっていくの
でしょうか。
 原田武夫氏によると、米国のシナリオは次のようになると予測
しています。
 第1幕の主役は、ブッシュ前大統領とポールソン前財務長官で
す。彼らは空いてしまった大きな穴をいかに小さく見せるかに腐
心し、緩慢に対処して事態を深刻化させます。これについては既
に述べた通りです。
 第2幕の主役はオバマ大統領です。彼は大統領選では敵として
戦ったはずのヒラリー・クリントン氏を国務長官という要職に就
けるのです。ここがポイントです。クリントン国務長官の役割は
米国、カナダ、メキシコの北米共同体を作り上げることです。
 このクリントン国務長官の役割について原田氏は次のように述
べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカはこれまでの国家運営という「ビジネス・モデル」に
 ついて明らかな行き詰まりを見せている。(中略)そうである
 時、アメリカ勢が資本主義の大原則に則ってできることはただ
 一つ。「国外」という過去100年近くにわたって築き上げて
 きたビジネス・モデルが展開されたグラウンドを壊し、捨て去
 る一方で、一度打ち捨てたはずの「国内」という古くて新しい
 グラウンドで展開すべき新たなビジネス・モデルへと回帰する
 ことなのだ。               ――原田武夫著
         『計画破産国家/アメリカの罠』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 それではオバマ大統領の役割は何でしょうか。それはデフォル
ト宣言をすることである――オバマ大統領の仕事はまさにこれで
あると原田氏はいうのです。
 「デフォルト宣言」といってもストレートに宣言するのではな
いのです。そんなことをしたら、世界中がパニックに陥ってしま
うでしょう。新ドル紙幣――部分兌換紙幣を発行すると同時に金
本位制に復帰し、巧妙かつ精緻にデフォルトを実施するのです。
 どのように「デフォルト宣言」が行われるかについては、前々
回のテーマ「大恐慌後の世界はどのようになっていくか」で既に
述べているので、次のURLを参照してください。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ●2009年03月30日/EJ第2540号
 http://electronic-journal.seesaa.net/article/116423009.html
 ●2009年03月31日/EJ第2541号
 http://electronic-journal.seesaa.net/article/116472819.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、そのさい大損害を被る大国として中国と日本がありま
すが、米国は中国には事前に手を打っておくでしょう。中国の損
害分は全額負担する、と。しかし、おそらく日本は一顧だにされ
ないはずです。どうしてそうなるのでしょうか。
 もし、中国に手を打たないでデフォルトなどをやったら戦争が
避けられなくなりますが、日本とはそういうことには絶対になら
ないからです。日本は何でもいうことを聞くからです。
 既出の国際ジャーナリストの浜田和幸氏は、今回の金融危機も
米国の出来レースではないかと疑問を投げかけており、米国が従
来のドルに代わる新通貨を投入するさいは中国以外の国には一切
の配慮を払わないであろうと述べています。原田武夫氏の主張と
ほとんど同じであることは注目に値します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカという国は状況次第でどんなことでもやりかねない。
 ニクソン大統領の声明だけで、昨日までできたドルと金の交換
 をチャラにしてしまったことを思えば、この「アメロ」も単な
 る構想ではすまないのである。すでに見てきたように、アメリ
 カの国家財政は破綻している。だから、今回の金融パニックも
 新しい体制に向けての「起死回生の出来レース」という側面も
 否定できない。将来の復活を賭けて、自滅を演出したのかもし
 れない。この事態を重く見たロシアは「アメリカ財務省が新通
 貨アメロを最大のドル保有国の中国だけには事前に搬送した」
 という情報を明らかにしている。保有額第2位の日本や第3位
 のロシアには一言の断りもない。このロシア情報が正しければ
 アメリカと中国は21世紀の新たな通貨ゲームを勝ち抜くため
 水面下で手を結んだということになる。   ――浜田和幸著
  『大恐慌以後の世界/多極化かアメリカ復活か』/光文社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 鳩山首相が初デビューした2009年9月のG20――鳩山首
相は「G20だけでなく、G8も必要だ」と主張したのですが、
受け入れられなかったのです。
 重要なのは、G8の場合、日本はアジアの代表になりますが、
G20になると、日本はアジアの一国でしかないのです。もっと
も、世界第2位の経済大国の地位を保つことができれば、G20
でも、日本はアジアの代表になりえますが、その座も中国に奪わ
れるとなると、G20では中国が事実上のアジアの代表――軍事
力でも経済力でも文字通りダントツの代表になるのです。
 ところで、「チメリカ」という言葉をご存知ですか。
 かつて未来学者のトフラー氏は、日本と米国の関係を「ジャメ
リカ」と呼んだことがあるのです。いうまでもなく、ジャメリカ
とは「世界で最も重要な2国間関係」という意味です。
 しかし、現在では「チメリカ」――すなわち、G2、中国と米
国のことであり、米国では中国との2国間関係を「世界で最も重
要な2国間関係」と呼ぶようになっているのです。日本の新聞な
どは一切伝えないので、知らないのは日本人だけです。
 世界は多極化して米国の影響力は落ちる――このように予測す
る人は多いですが、米国は想像を絶する逆転劇を演ずる可能性が
あるのです。          ――[オバマの正体/60]


≪画像および関連情報≫
 ●新型インフルエンザとアメロ構想/浜田和幸氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  最近、アメロ構想が絵空事ではないと思わせるある出来事が
  あった。2009年、メキシコで発生した「豚インフルエン
  ザ」(新型インフルエンザ)の影響で、アメリカとメキシコ
  の国境を封鎖し、検疫体制を強化すべきとの意見が出た。し
  かし、オバマ大統領は「その必要はない。馬が逃げ出した後
  で、馬小屋に柵をしても意味がない」と、それこそ意味不明
  の表現で反対した。NAFTAには国境がいらないというこ
  となのだろうか?いずれにせよアメリカは、中国の力を利用
  することで、米中2国による新たな世界秩序の構築を目指し
  ていると言えるだろう。         ――浜田和幸著
             『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

チメリカの関係.jpg
チメリカの関係
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2009年10月09日

●「覇権を維持する4つの方法」(EJ第2671号)

 原田武夫氏の本から、計画破産国家アメリカの復活のためのシ
ナリオの第2幕の部分を書き出しておくことにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1幕ではサブプライム・ショックに対して何ら有効な手だて
 をせず、危機を助長させたブッシュ前大統領と、うろたえたふ
 りをしながら規制強化に乗り出したポールソン前財務長官が登
 場した。彼らは「道化師」たるオバマ大統領を担ぎ出す下準備
 をした。そして第2幕は、ヒーローを演じる道化師=オバマに
 よる「デフォルト」宣言。その混乱による「国土安全保障ビジ
 ネス」の展開と、怒り狂うアメリカ国民をなだめすかすための
 「スケープゴート」探し。         ――原田武夫著
         『計画破産国家/アメリカの罠』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ大統領は、まだ「デフォルト宣言」を行っていませんが
仮に新ドル紙幣を発行しても米国民に対しては旧ドル紙幣との交
換を行うので、直接的な損害はないはずです。しかし、経済の悪
化によって、職を失ったり、家を失ったりする人が増えている状
況では、当然のことながら「どうしてこんなことになったんだ」
という非難や批判が、最高責任者であるオバマ大統領自身に向け
られるのは必至です。
 そういう怒り狂う米国民に対してオバマ大統領としては、歴代
政権のやってきたことに問題があるとしてその悪行を白日のもと
に晒すための「情報公開のための法案づくり」に全力を上げるは
ずであると原田氏は予測します。いわゆる、犯人探し、スケープ
ゴート探しです。ガス抜きといってもいいでしょう。
 さて、第3幕はどうなるのでしょうか。これについて原田氏の
本から書き出します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 その間に北米自由協定「NAFTA」推進派のヒラリー・クリ
 ントン国務長官が北米大陸共通通貨「アメロ」を導入する第3
 幕。その結果、アメリカは、あえて自らをエマージング・マー
 ケットヘと落とし込むことで搾取すべきマーケットを「国外」
 ではなく、「国内」、それもメキシコ、カナダと拡大した北米
 大陸という「国内」に移していく。その時になって、第1幕で
 打ったポールソン前財務長官の布石が活きてくる。排他的なア
 メリカ内の地域勢力から牙を抜いておくという意味で。このシ
 ナリオを描き、スポンサーでもあるのはあくまでもアメリカ系
 「越境する投資主体」なのだ。       ――原田武夫著
         『計画破産国家/アメリカの罠』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この第3幕については既に述べているので、最後の第4幕につ
いて原田氏の主張をご紹介することにします。第4幕のヒロイン
はヒラリー・クリントン国務長官です。これは、原田氏によると
これらのシナリオはすべて予め計画されていたことなのです。
 ここで「覇権」の維持――すなわち、他者に対して圧倒的な力
を用いることで、世界を支配下に置く方法のことですが、これに
は次の4つがあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.「武力」による覇権
         2.「通貨」による覇権
         3.「知財」による覇権
         4.「資源」による覇権
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は『「武力」による覇権』です。
 これは言うことを聞かないと、力でねじ伏せるという圧倒的な
武力によって覇権を維持する方法です。これによる覇権の典型は
米国であり、中国がそれに続いています。やはり覇権を維持しよ
うとするには、この「武力」による覇権を確保しておくことが、
残念ながら不可欠のようです。
 第2は『「通貨」による覇権』です。
 これは出回っているカネの大元を握って、いざとなればそれで
いうことを聞かせるという通貨による覇権の維持です。これと1
の「武力」による覇権が一緒になると、大きな力を発揮すること
になります。米国は現在までこれらの2つで覇権を維持してきて
いるのです。
 第3は『「知財」による覇権』です。
 ここで「知財」とは、知的財産権のことです。例えば、ある収
益を上げる方法を開発したとします。その仕組みを守るには法律
によって権利化することが必要になります。このような有形・無
形の「儲けの仕組み」を権利化したものが知的財産権です。
 米国は技術の国であり、多くの先端技術の知的財産権を持って
います。これを有効に使うと、それは覇権に結び付くのです。米
国は今後もこれを使い、覇権の維持に結びつけるでしょう。
 第4は『「資源」による覇権』です。
 覇権国の条件のひとつに「資源を多く保有する」ことは不可欠
な条件です。しかし、原田氏がここでいう資源とは「原子力」の
ことなのです。なぜ、原子力なのかについては少し説明がいるの
で、最終回のEJ第2672号で説明します。
 原田氏によると、ヒラリー・クリントン国務長官の役割は、こ
れらの覇権の4つの条件のうち「知財」による覇権と「資源」に
よる覇権――原子力の2つをフルに使って覇権の維持を目指すこ
とであるというのです。原田氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そのカギを握るのはヒラリー・クリントンだ。彼女の真の役割
 は「アメロ」導入だけではない。むしろ、新たなアメリカ覇権
 の道筋をつけることにある。だからこそ彼女は、このシナリオ
 における「ヒロイン」となったのだ。新たなるアメリカ覇権へ
 の足掛りは2つ。第1は「知的財産権」、第2に「原子力」で
 ある。              ――原田氏の前掲書より
―――――――――       ――[オバマの正体/61]


≪画像および関連情報≫
 ●「知財」――知的財産権について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  知的財産権は、有体物に対して個別に認められる財産権とは
  異なり、無形のもの、特に思索による成果・業績を認め、そ
  の表現や技術などの功績と権益を保証するために与えられる
  財産権のことである。知的所有権とも呼ばれる。知的財産と
  は、知的財産権を含むより広い概念であり、その性質から、
  「知的創作物(産業上の創作・文化的な創作・生物資源にお
  ける創作)」と「営業上の標識(商標・商号等の識別情報・
  イメージ等を含む商品形態)」および、「それ以外の営業上
  ・技術上のノウハウなど有用な情報」の三つに大別される。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

クリントン国務長官.jpg
クリントン国務長官
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2009年10月13日

●「カギ握る知財権と濃縮ウランビジネス」(2672号)

 「知財」――いわゆる知的財産権の保護に関して米国はいろい
ろなことをやってきているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪カーター政権≫
  ◎1982年/特許高等裁判所(CAFC)の創設
 ≪クリントン政権≫
  ◎1988年/スペシャル301条の成立
  ◎1994年/TRIPS協定のGATTにおける成立
  ◎1995年/中国の偽造CDの生産拠点の閉鎖
―――――――――――――――――――――――――――――
 個々について詳しく述べる紙面はありませんが、はっきりして
いることは、米政府、とくに民主党政権が知的財産権の保護に熱
心であることです。
 なぜ、米国はこれほど知的財産権の保護を声高に主張するので
しょうか。実は米国がものづくり国家であったときは、この知的
財産権の保護にそれほど熱心ではなかったのです。
 しかし、米国がものづくり国家としての限界を感じ始めたとき
から、米国企業は選択と集中――すなわち、産業界が強い技術を
持つ分野に特化しようとしたとき、知的財産権の保護の重要性に
目覚めたというわけです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この技術、権利として未だ認められていないのでないか。ずる
 がしこい日本やアジアにコピーされたらひとたまりもない。
                      ――原田武夫著
         『計画破産国家/アメリカの罠』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう米国の政策の最初のターゲットになったのは日本なの
です。今後は中国をはじめとするアジアになると思われます。こ
ういう考え方がクリントン政権時代における「日米包括協議」、
前ブッシュ政権における「対日年次改革要望書」などのかたちに
なって、日本を苦しめたのです。
 この役割を担うのがヒラリー・クリントン国務長官であると原
田氏は述べていますが、それはなぜでしょうか。
 当時のクリントン候補が2008年の大統領選で、インディア
ナ州の予備選を前に同州の民主党員たちに配布したプレスリリー
スには次のように書いてあるのです。このように、夫のビル・ク
リントン政権以来の民主党政権において、知的財産権問題は彼女
の一貫して強い関心事であったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 侵害行為を止めさせるために知的財産権執行ネットワークを創
 ります。(中略)我が国の自動車産業だけで毎年120億ドル
 もの損失――この損害は25万人分の雇用に相当――を偽造に
 よって被っており、しかもその75パーセントについて中国が
 責めを負うべきなのです。クリントン上院議員はこれが一朝一
 夕で解決される問題ではないと分かっています。(中略)大統
 領になった暁には、クリントン上院議員は新しい知的財産権執
 行ネットワークを創設し、その保護を強化するための包括的か
 つ国家的な努力を向上させ実施していきたいと考えています。
                      ――原田武夫著
         『計画破産国家/アメリカの罠』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国による巧妙な見えない覇権に向けた企てはもうひとつある
のです。それは「原子力」です。これは、何を意味しているので
しょうか。
 ビル・クリントン政権は、1998年7月28日においてウラ
ン濃縮を専門に行う公営企業体をニューヨーク株式市場に上場さ
せているのです。その企業体の名前は「アメリカウラン濃縮社」
というのです。ウェブサイトを示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      http://www.usec.com/quickfacts.htm
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、濃縮ウランとは何でしょうか。
 天然ウランは、数億年の長い年月の間にウラン235とウラン
238の含有比率が一定になり、その比率は前者が0.7 %、後
者が99.3 %として鉱山から産出されます。しかし、軽水炉で
はウラン235が0.7 %では薄過ぎて燃やせないのです。核分
裂をしないからです。天然ウランを燃えるように3〜4%に濃く
したものを濃縮ウランといいます。そして、20%以上にしたも
のを高濃縮ウランといいます。
 米国は古くなった核弾頭を解体し、そこから高濃縮ウランを創
り出すノウハウを持っているのです。そのため旧ソ連崩壊後、ロ
シアが処理に困っていた2万発の核弾頭を処理した実績があるの
です。高濃縮ウランは、原子力発電所をはじめとして多くの分野
に活用できますが、アメリカウラン濃縮社はそれを世界中に売り
捌こうとしているのです。
 しかし、アメリカウラン濃縮社のビジネスが成功するには、次
の2つの前提条件が必要なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.世界中の国が納得して濃縮ウランを買うようになる
  2.濃縮ウラン・ビジネスを計画している国を排除する
―――――――――――――――――――――――――――――
 最大の競争相手はロシアということになります。そこで前ブッ
シュ政権は、2008年4月6日に「米ロ戦略枠組み合意」を結
んでいますが、これは米ロで濃縮ウラン・ビジネスの棲み分けを
狙ったものなのです。低濃縮ウランはロシア、高濃縮ウランは米
国という分担です。
 折からの環境社会において原子力は貴重なエネルギー源になり
ますが、米国はこれを先取りしたのです。デフォルト宣言をして
借金をチャラにし、知財と原子力で国家の復活を狙う――これが
オバマ政権の戦略なのです。―[オバマの正体/最終回/62]


≪画像および関連情報≫
 ●バラク・オバマ/ヒラリー・クリントンの謎!?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  やがて世界は一斉にアメリカ産核燃料(濃縮ウラン)を買い
  付け始めるであろう。その時、今度は「スーパー・セールス
  ウーマン」として世界中を飛び回り、大活躍するのがヒラリ
  ー・クリントン国務長官、その人なのである。米朝国交正常
  化がなぜか再びスムーズに進展しはじめ、イランが「普通の
  国」となつていく中、飛び回るヒラリー・クリントン国務長
  官の姿を目の当たりにし、私たち日本人は必ずや思うことだ
  ろう。――「あの大統領選挙は一体何だつたのか」、そして
  「バラク・オバマ、ヒラリー・クリントンとはいったい何者
  なのか」と。              ――原田武夫著
         『計画破産国家/アメリカの罠』/講談社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

ヒラリー&オバマ.jpg
ヒラリー&オバマ
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