2009年01月05日

●「オバマがデフォルト宣言をする日」(EJ第2483号)

 本号は2009年の最初のEJです。読者の皆様、今年もよろ
しくお願いいたします。
 2009年がスタートして、誰もが気になるのは米国はどうな
るのか、ドルはどうなるのか、そして日本は大丈夫なのかという
ことです。つまり、大恐慌の後の世界はどうなっていくのかとい
うことです。
 根拠は不確かですが、昨年の暮れからとんでもない情報がネッ
トを駆け巡っているのです。それは、昨年の12月2日付の「日
刊ゲンダイ」の「原田武夫/国際政治ナナメ読み」に掲載された
次のタイトルの情報です。
―――――――――――――――――――――――――――――
      「オバマがデフォルト宣言をする日」
―――――――――――――――――――――――――――――
 いくら「CHANGE/変革」を掲げても、先立つものがなけ
れば何もできないのです。何しろ米政府の財政赤字は昨年の夏以
前で、邦貨換算で6000兆円――それに加えて、金融機関、自
動車、不動産を救済する資金を積み上げていくと、もうどうにも
ならない状況になっているのです。そこで、オバマ次期大統領が
最初にやることは「国家債務デフォルト(不履行)宣言」ではな
いかといわれているのです。
 そんな馬鹿なことがあるか――という人は多いでしょう。しか
し、市場では少なくとも今年の夏頃までにデフォルト宣言が行わ
れるとの観測が既に出ているのです。もちろん、テレビや新聞で
は一切伝えませんが、ネットの世界ではこのニュースはそれほど
大きなサプライズではないのです。
 それでは、このニュースを流した原田武夫氏とはどういう人物
なのでしょうか。原田武夫氏のブログから、原田氏のプロフィー
ルを紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1971年香川県・高松市生まれ。キャリアの外交官として、
 12年間勤務し、対北朝鮮外交の最前線に携わった後、自主退
 職。独立系シンクタンク「原田武夫国際戦略情報研究所」の代
 表として、活躍中。    http://blog.goo.ne.jp/shiome/
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、米国がデフォルト宣言をするとどうなるでしょうか。原
田武夫氏は、これについて次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 その時、当然のことながら米国的なるもの、米国債、そして、
 「無担保・無金利の米国債」である米ドルは大暴落する。その
 結果、強烈なるドル安・円高という時代がついにやってくる。
 その時、世界中で「覇権国・米国の終わり」などと喧伝される
 ことだろう。               ――原田武夫氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 話はこれだけではないのです。原田氏は、これが米国の仕掛け
た罠であるといっているのです。それは次のような驚くべき戦略
なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    米国・メキシコ・カナダによる地域統合
―――――――――――――――――――――――――――――
 どういうことかというと、ドルをデフォルト宣言すると同時に
欧州の「ユーロ」に対抗して米国・メキシコ・カナダによる新通
貨「アメロ」を発行するというのです。メキシコを抱え込んでい
るので、「アメロ」は米ドルよりもはるかに安いものになるはず
です。そうすると、恒久的に円高が続くことになるのです。
 どのような状況でオバマは「デフォルト宣言」を行うのかにつ
いても既に予想している人がいます。ある日突然ニクソンショッ
クのようなわけにはいかないでしょう。
 まず、意図的に株価を暴落させて国内を不安定させる。そして
インドのムンバイ・テロのようなことを発生させ、武力を使って
テロを強引に制圧する。数人を残してあとは全滅というシナリオ
もあり得る。そこで、経済的にも政治的にも大変な事態に陥って
いることを世界に表明したうえで、やむなく「デフォルト宣言」
をする――こういう筋書きです。
 そんなことが簡単に起こっては困りますが、米国債の価値が暴
落して壊滅的な影響を受けるのが、中国と日本です。中でも心配
なのが日本のメガバンクと生保業界です。
 なぜなら、メガバンクと生保業界はそれぞれ最大で10兆円規
模の米国債を所有していると推測できるからです。実際にどの程
度の米国債を持っているかは不明ですが、おおよその見当で10
兆円は持っていると思われます。これに対して損保業界はせいぜ
い3兆円〜4兆円程度であり、生保業界の半分以下です。
 もし米国債が紙くずになると、当然生保業界は大ダメージを受
けることになる一方、損保業界のダメージは生保のそれよりは軽
くて済むはずであり、このギャップが損保会社による生保業界の
再編もありうると、前出の原田氏は予測するのです。「損保が生
保を食う」というこれまでの想定外の事態も起こる可能性がある
というのです。
 このように、2009年の世界は今まで通りというわけにはい
かないようです。そこで本日より、次のテーマでEJの記事を書
いていこうと考えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    大恐慌後の世界はどのようになっていくか
     − 日本はそれにどう対応すべきか −
―――――――――――――――――――――――――――――
 ネットの世界やマーケットでは、米ドルのデフォルト宣言は既
定のものになっていて、それがいつ、どのようなかたちで行われ
るかに関心が移っているといわれます。
 何が起こるか予測のつかない2009年――最新の情報を分析
し、確度の高い情報を明日からお届けしたいと考えています。
              ―――[大恐慌後の世界/01]


≪画像および関連情報≫
 ●南米エクアドルのデフォルト宣言について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  エクアドルは、原油相場の急落で石油収入が減少し、資金繰
  りが悪化。先月15日には3060万ドルの返済を延期し、
  今月15日に支払期限が迫っていた。今回、デフォルトを宣
  言したことで、金融市場での資金調達や、国際機関からの新
  規借り入れは極めて困難になった。資金繰り難から財政支出
  の削減を迫られ、政情不安に発展する可能性も出てきた。
    http://ameblo.jp/dol-souraku/entry-10177505973.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

原田武夫氏.jpg


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2009年01月06日

●「福田首相が辞任した本当の理由」(EJ第2484号)

 「あなたとは違うんです」――この迷セリフを残して唐突に辞
めた福田前首相の辞任理由について、国際未来科学研究所代表の
浜田和幸氏が自著で意外な事実を明かしています。
 2008年9月といえば、世界各地で株価が、まるでジェット
コースターのように上下していた頃です。1日に株価が1000
円も上がったり下がったりする――尋常ではない状況だったので
す。その2008年9月1日に福田首相が突然辞任してしまった
のです。いったい何があったのでしょうか。
 この福田首相の突然の辞任について浜田氏は次のように述べて
いるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 思い出されるのが、2008年9月1日の、福田康夫首相の突
 然の辞任である。「あなたたちとは違うんです」との名(迷)
 セリフを残して記者会見場を後にした「のび太総理」だが、じ
 つは、アメリカ政府から、しつこく「ドルを融通してくれ」と
 の圧力を受けていたようなのだ。しかも、それは半端な金額で
 はなかった。じつに、日本が保有する全外貨準備高にあたる1
 兆ドル(約100兆円)の提供を求められたという。これは、
 アメリカ政府が今回の金融パニックを封じ込める目的で投入を
 決めた7000億ドルを上回る金額である。要は、自分たちの
 失敗の尻拭いを日本に押し付けようとした、アメリカのムシの
 よすぎる話に福田前首相はキレてしまったというのである。
                 ――浜田和幸著/光文社刊
    『「大恐慌」以後の世界/多極化かアメリカの復活か』
―――――――――――――――――――――――――――――
 既に述べたが、日本の外貨準備高は約100兆円あります。こ
のお金は、小泉政権の時代に異常に高く積み上げられ、ドルが下
落したとき、円売りドル買い介入を行う資金として使い、その買
ったドルで米国債を買うという、まるで米国に尽くす下僕のよう
なことを日本は今までやってきたのです。したがって、この外貨
準備高は本来は、非常事態において日本を救うための資金である
のに米国を救うための資金の様相を呈してきたのです。
 米ブッシュ政権は、2007年の夏の時点で現在のような状況
になることを察知し、ポールソン財務長官やチェイニー副大統領
が対応策を練り始めていたのです。
 そのとき、ドルを十分貯め込んでいる中国と日本から資金協力
を強制するという方針が決められ、福田首相に対して何回も何回
も1兆ドル(100兆円)の提供を要請していたのです。
 一方中国はどうかというと、日本と違ってきわめて外交に長け
ているので、外貨を利用して米国の投資銀行や住宅公社に資本注
入を積極的に行い、差し押さえられた不動産物件のかなりの債券
は中国が保有しているのです。
 同じ米国に協力する場合でも、中国の場合は自らイニシアティ
ブをとって積極的に先手を打って動いたのに対し、日本は完全に
受身であり、度重なるブッシュ政権の圧力に屈した金融庁の金融
市場戦略チームは、対米支援の目玉としての「100兆円提供」
を決定する寸前まで行ったのです。
 福田前首相はこれを止めたのです。浜田和幸氏はこの間の事情
を次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いくら同盟国とはいえ、あまりに無茶な要求。いくらお人よし
 の日本とはいえ、そんな理不尽な要求は飲めない」。そこは頑
 固な福田氏。あの手この手で迫ってくるブッシュの手先に対し
 て「ノー」を言い続けた。そしてついに堪忍袋の緒が切れ、ア
 メリカに対して「そんなにしつこく言うなら、辞める」となっ
 たのが、ことの顛末だという。「総理の職を投げ出した」と批
 判が沸き起こったが、いっさい言い訳をしなかった福田前総理
 は、じつは意外なサムライだったのかもしれない。
                ――浜田和幸著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは麻生首相はどうするのでしょうか。もし、このことが
本当なら、福田氏は麻生氏にこのことを言い含めたはずです。ま
さか麻生首相が100兆円を提供するようなことはないと思うが
国民としてはそれを慎重に監視する必要があります。
 ここで、昨日のEJで言及した米国のデフォルト宣言のタイミ
ングの問題について述べることにします。デフォルト宣言なんて
あっては困りますが、既出の原田武夫氏は、オバマ次期大統領に
とって、最も「傷」が浅くて済むタイミングは、1月20日の大
統領就任直後であり、最悪のタイミングは財政赤字をそのままに
して、景気浮揚政策をとる場合であるといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜならば、そうすることでオバマ新政権はそれまでの財政赤
 字の累積に対してはいわば免罪符を得るなか、「CHANGE
 (変革)」の標語にふさわしい刷新策を続々と打ち出すことが
 可能になるからである。これに対し、最悪のパターンとなるの
 が、財政赤字の問題にはいったん目をつむり、とりあえずは景
 気浮揚策を打ち出すものの、結果的には財政負担の重圧に耐え
 られず、遅くとも6月までに「デフォルト宣言」を行うという
 もの。この場合、オバマ新政権に対する期待が一気に失望へと
 変わるため、市場では米国債、そして米ドルが投げ売りになる
 との観測がある。「その場合、1ドル=50円台も目指す可能
 性がある」(国内投資家筋)との現実主義的な見方も聞かれる
 ようになっている。            ――原田武夫氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 EJ第2475号で述べたように、竹中平蔵氏は、2008年
4月に「日本郵政はアメリカに出資せよ」といっています。時期
的にも米国が福田首相に圧力をかけた同じ時期にこういうことを
いっているのは、明らかに米国筋の要請に沿ったものと考えられ
るのです。一民間人の竹中氏がこういう発言をすること自体が異
常であるといえます。    ―――[大恐慌後の世界/02]


≪画像および関連情報≫
 ●関連情報/福田首相の辞任と100兆円
  ―――――――――――――――――――――――――――
  福田首相は辞任の直前まで続投する気だった。辞任を決めた
  のは、金融庁が渡辺案「米政府が必要とすれば日本の外貨準
  備を公社救済のために米国に提供する」との報告書をまとめ
  上げ、提出する直前だった。もし、福田首相が9月1日に辞
  任しなければ、9月14日に破綻したリーマンブラザースの
  救済に日本の1兆ドルの外貨準備金が使われていたかも知れ
  ない。
 http://4ki4.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-edd8.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

福田首相辞任会見.jpg

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2009年01月07日

●「今回の経済危機の2つの側面」(EJ第2485号)

 2008年10月1日のことです。米国において今回の金融危
機がいかに深刻であるかを示す出来事があったのです。それは、
米政府が陸軍の実働部隊を米国全土に駐留させ始めたことです。
 日本人にとっては、自国の軍隊を自国に駐留させることが何で
問題なのかと思うでしょうが、これは米国にとって南北戦争以来
の出来事であり、次の法律で禁じられていることなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          Posse Comitatus Act
―――――――――――――――――――――――――――――
 この法律は、軍(州兵以外の連邦政府軍)の実働部隊を米国本土
に配備することを禁ずるものです。それを今回「テロ対策」とい
う名目で、法律の例外事項にしたのです。しかし、それは表面上
の理由であり、本当の目的は国民による暴動を阻止するためだっ
たのです。
 実は米国では、何度も暴動が起きているのです。1929年の
世界大恐慌時にも大きな暴動が起こっています。それより規模は
小さいですが、最近では2005年にハリケーン「カトリーナ」
がニューオーリンズ市を直撃したときにも起きています。
 このときは、市内で略奪や暴動が起きていることが報道された
ので、ホワイトハウスは「有事」と認定し、州知事の権限を剥奪
して軍を派遣しているのです。そのさい、派遣された軍と貧民層
の市民が衝突して、多くの市民の怒りを買っています。
 今回、全米に陸軍の実働部隊を配置したのは、もし、大恐慌に
よって暴動が起きるとすれば、それは全国規模に拡大すると米政
府が考えたからです。しかし、世界一の経済大国である米国が国
民の暴動を恐れて軍隊を配備する――事態はここまで深刻化して
いるのです。
 100年に一度の経済危機といいますが、今回の危機には次の
2つの側面があることを知っておく必要があります。これは、金
融政策論の世界的権威であるアラン・ブラインダープリンストン
大学教授がいっていることです。ブラインダー教授は、元FRB
副議長の経験があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.金融的側面
          2.経済的側面
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の側面は「金融的側面」です。
 今回起こっている金融混乱は、今まで例をみないものであり、
したがって、これを解決する本当のノウハウが誰もわからない状
況にある――これが深刻な点なのです。そのため、FRBは堤防
のあちこちに穴があくたびにそれを塞ぐ方法を模索していろいろ
な方策を打ち出しているが、確信をもって政策を打ち出している
わけではない――このように金融的側面に対する対応策は依然と
して霧の中にあるとブラインダー教授はいうのです。
 第2の側面は「経済的側面」です。
 ここで「経済的」とは実体経済のことです。米国は、2007
年12月以来、深刻なリセッション(景気後退)に陥っているが
2008年9月までは弱々しい景気が持続していたものの、9月
以降急激な収縮が始ったとしています。
 しかし、このリセッションに対応する処方は既にわかっている
ことであり、政府はまず金融緩和策を講じ、早急にやるべき対策
がとられています。続いて、オバマ政権によって減税、さらに財
政出動という手が適切に打たれることになる――ブラインダー教
授はこういっています。
 ブラインダー教授は、バーナンキFRB議長のこれまでの仕事
ぶりについて、次のように評価しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 バーナンキFRB議長はよい仕事をしてきたと思う。ただ、関
 係の薄かったポールソン財務長官と組むというハンディを負っ
 てきた。TARP(7000億ドルの不良資産買い取り計画)
 はうまくいっていない。バーナンキ議長は、まさに海図のない
 水域を航海しているようなものだ。もちろん、彼は非常に積極
 的かつ創造的に問題に対処していることは高く評価したい。彼
 は外面的な冷静さを失わない。――アラン・ブラインダー教授
            「週刊東洋経済」新春合併特大号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ブラインダー教授のいう今回の危機の「金融的」側面――金融
危機には次の3つのフェーズがあります。現在は、どのフェーズ
にあるのでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.流動性の危機
          2.資 本の危機
          3.本格的な恐慌
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、米国は第1のフェーズにあります。危機はまだ入口なの
です。クレジット・クランチ(信用収縮)によって金融機関同士
が疑心暗鬼になっており、インターバンク市場が機能不全になっ
ているのです。金融機関は、いわゆる「カウンターパーティリス
ク」に陥っているのです。なお、カウンターパーティーリスクの
詳細については、既に説明しております。次のURLをクリック
してください。
―――――――――――――――――――――――――――――
http://electronic-journal.seesaa.net/article/104763449.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 「流動性の危機」に関しては、1997年秋の日本の金融危機
によく似ています。バーナンキ議長は、もちろん日本のケースに
ついてよく調べています。彼は恐慌の研究家なのです。
 しかも、今回は米国だけでなく、世界中で金融危機が進行して
いるのです。したがって、本当の解決策は米国一国レベルでは解
決できないのです。      ――[大恐慌後の世界/03]


≪画像および関連情報≫
 ●アラン・ブラインダーについてのプログより/本石町日記
  ―――――――――――――――――――――――――――
  アラン・ブラインダーが警告した「自分の尾を追う犬」とな
  った中央銀行の対話の危険性は、基本的には中央銀行が市場
  を尊重しすぎてその近視眼性を取り込んだ場合を指している
  と思われる。日銀の場合、自ら予断を与え、予断を与えられ
  た市場との間で「尾を追う犬」化しているように見受けられ
  ることで、これは何というか、ブラインダーの想像を超えた
  市場との対話の失敗であるような気がする。願わくば、解除
  ができ、景気が良くなり、物価も上がり、預金金利がタンス
  預金を引きつけるほど上昇するような利上げが実現して欲し
  い(リスクマネーとして株や不動産、外貨などに流れてもO
  K)。そうでないと、振り返ってみた場合に、要らぬ予断を
  与えたに過ぎなくなるからだ。
            http://hongokucho.exblog.jp/3657444
  ―――――――――――――――――――――――――――

アラン・ブラインダー教授.jpg
アラン・ブラインダー教授
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2009年01月08日

●「米国の個人消費がダウンする恐怖」(EJ第2486号)

 現在、米国の金融危機は、第1フェーズの「流動性の危機」の
段階にあります。これは1997年秋の日本の金融危機によく似
ているのです。少し日本のケースを振り返ってみます。
 日本の場合、バフル崩壊から7年を経て、本格的な金融危機に
陥っています。なぜ、7年後に金融危機に陥ったかというと、バ
ブル時代に安易な審査で競って貸し込んだ銀行の不動産関連融資
の焦げ付きの処理が7年経っても終わっていなかったからです。
 1997年11月3日に三洋証券が会社更生法を申請したのを
皮切りに、17日には北海道拓殖銀行が当時の大蔵省から業務停
止命令を受け、24日には四大証券の一角である山一証券が自主
廃業を申請するなど、一ヵ月の間に大手金融機関が次々に破綻し
深刻な金融危機に陥ったのです。
 しかし、米国の場合、日本の前例もあったので、当時の日本よ
りも明らかにすばやく対応しているのです。それにもかかわらず
信用収縮は今後も相当長く続くと予想されていますが、どうして
でそうなるのでしょうか。
 その理由は、米国の場合、危機の根底に住宅価格の値下がりが
あり、それが現在も続いているからです。これまで米国の経済を
支えてきたのは、旺盛な個人消費なのです。米国経済の規模は世
界のGDPの約50兆ドルの約25%を占めているのです。
 50兆ドルといえば、約5000兆円ですが、米国のGDPは
その4分の1を占めるのです。その米国のGDPに占める個人消
費の割合は実に70%に達し、住宅関連消費はその約半分を占め
るのです。とにかくとてつもない数なのです。
 その住宅価格が値下がりしているので、実体経済とかけ離れて
つくられた金融資産とデリバティブの総額との差がをますます広
がっているのです。バブルを終わらせるには、この差の調整が必
要なのですが、住宅価格が依然として下がっているので、危機は
ますます拡大してしまうことになります。
 一般論ですが、バブルというのは、実体経済の経済成長以上に
資産価格が膨らむことによって発生するのです。かつて日本も土
地や株の異常な値上がりが実体経済と乖離して値上がりしてバブ
ルが膨らんだのです。
 そして、この資産価格の実体経済との乖離は、最終的に何らか
の調整によって解消され、バブルは消滅するのです。しかし、米
国の住宅バブルは、日本を含むこれまでのバブルとはケタ違いに
巨大であり、資本主義体制をも吹き飛ばすほどの破壊力を秘めて
いるのです。
 このあたりのことをもう少し詳しく述べると、米国の住宅バブ
ルの深刻さがわかると思います。
 2008年9月7日――米政府は、政府系住宅金融会社、ファ
ニイメイとフレディ・マックの2社を政府の管理下に置く処置を
とっています。事実上の国有化です。この発表に当たって、ポー
ルソン財務長官は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国の経済や市場は、住宅市場の調整が終わるまで回復させる
 ことはできない。ファニーメイとフレディマックは住宅市場を
 回復させる上で重要な役割を担っている。
                  ――ポールソン財務長官
―――――――――――――――――――――――――――――
 ファニーメイとフレディマックの2社の持つ住宅ローンは約5
兆ドルであり、その規模は日本のGDPに匹敵するのです。米国
全体の住宅ローンの規模は約10兆ドルであるので、この2社で
その半分を引き受けていることになります。
 断っておきますが、これら住宅金融2社の扱う住宅ローンはサ
ブプライム・ローンではなく、プライムローンなのです。両社は
これを小口の債券にして世界中に売っていたのです。
 これら住宅金融2社の債券は住宅価格が上昇しているときは、
米国債並みの優良債券として大いに売れたのです。とくに中国や
ロシアがこの債券の大口保有者となっているのです。
 しかし、住宅価格が下がって、いわゆるサブプライム問題が起
きると、この債券にデフォルトの可能性が出てきたのです。そう
すると、米国政府は、慌ててこれら2社を実質国有化してしまっ
たのです。何しろ、これら2社の大口所有者者が中国とロシアで
あり、債券を投げ売りされることを何よりも恐れたからです。
 しかし、国有化することによって住宅ローンの貸し手がいなく
なってしまったのです。なぜなら、ファニーメイとフレディマッ
クの2社は、住宅ローンの有力な買い取り手であったからです。
 というのは、銀行は個人などに住宅ローンを貸し付けると、そ
れをファニーメイとフレディマックの2社に持ち込んで、現金化
していたからです。したがって、これら2社が国有化されると、
住宅ローンの引き受け手がいなくなり、銀行は個人に住宅ローン
を貸し付けることができなくなります。そうすると住宅はますま
す売れなくなり、住宅価格は下落することになるのです。
 それでは政府の管理下に置かれると、ファニーメイとフレディ
マックの2社は、なぜ本来の業務であるはずの住宅ローンの引き
受けができなくなってしまうのでしょうか。
 それは、抱え込んだ住宅ローンを処理することに業務の重点が
置かれるからです。5兆ドル――500兆円を処理する作業に何
年かかるか、相当長期間になることは避けられないでしょう。そ
の間は本来業務である住宅ローンの引き受けはほとんどできなく
なると考えるのが現実的といえます。
 米国の経済――というよりも世界経済を支えていたのは、米国
の個人消費だったのです。しかし、それは、借金に借金を積み重
ねる消費だったのです。たとえば、5000万円でローンを組ん
で購入した住宅が7000万円に値上がりすると、その差額であ
る2000万円分を担保とした借り入れ――リファイナンスが可
能になるのです。まさに借金に借金を積み重ねているわけです。
こんなことが長く続くはずもなく、それがいま、突然崩壊してし
まったのです。        ――[大恐慌後の世界/04]


≪画像および関連情報≫
 ●「流動性」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  流動性とは、取引高が少なくて、必要な時に思うような価格
  で売れないリスク。債券でも株でも、売買がほとんどされな
  い銘柄、つまり、流動性の低い銘柄は、必要な時に思うよう
  に売れないことがある。どうしても売りたい場合には、時価
  よりも大幅に安い値段を提示しなければならないことになり
  かねない。債券の場合には満期まで持てば元本が償還される
  が、株の場合には償還もないので、流動性リスクの高い銘柄
  は、その分安い価格で取引されることが多い。この価格差を
  流動性プレミアムという。
            ――オール・アバウトマネー用語辞典
  ―――――――――――――――――――――――――――

値下げしても売れない住宅.jpg
値下げしても売れない住宅
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2009年01月09日

●「CDS/金融版大量破壊兵器」(EJ第2487号)

 ここで、今後の予測を確かなものにするためにも、CDSとい
うものについて知る必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
         CDS/Credit Default Swap
      クレジット・デフォルト・スワップ
―――――――――――――――――――――――――――――
 CDSは、リスクを回避するために開発された金融派生商品の
一種ですが、企業の債務不履行を対象にしています。どちらかと
いうと、日本の保証人制度に似ているのです。
 お金の貸し手(A)と借り手(B)がいるとします。Bから融
資を申し込まれたAは、貸し倒れを心配して貸そうかどうか迷っ
ています。ここで、AでもBでもない信用のある第三者の(C)
がAから一定の金額(プレミアム)をとって、CDSを提供した
とします。これによってAはBに融資を決断します。
 この場合、もし、Bが支払い不能になると、CはAに対して損
金を補填するのです。
 要するに貸し倒れ補償というか、信用保証というか、一種の保
険システムと同じです。サブプライムローンの証券化商品には、
このCDSがつけられていたのです。インチキ福袋に保証がつい
ていたようなものです。これなら売れて当たり前です。
 それでは、どういうところがCに当たるのかというと、最も大
量に保有していたのがあのAIGであり、ベア・スターンズなの
です。これほどの大どころが保証してくれれば、お金のある人は
誰でも手を出すと思われます。
 もうひとつ不可解なのは、CDSの提供側がどのようにリスク
を計算しているのか、どういう根拠があるのかが、ほとんど不明
な点です。それもプライムローンについて出すならともかくサブ
プライムローンにも出しているのですから、ほとんど無制限に出
していたといわれても仕方がないでしょう。
 したがって、CDSというかたちで保証したローンの総額は驚
くべき巨額な金額になるのです。だからこそ、リーマンブラザー
ズを助けなかった米政府もベア・スターンズとAIGについては
素早く支援を決めています。リーマンブラザーズは、あまりCD
Sを出していなかったといわれます。
 世界一著名な投資家であるウォーレン・パフェット氏はCDS
について、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    CDSは金融版の大量破壊兵器である
―――――――――――――――――――――――――――――
 この言葉の意味は、CDSは貸付債券の本来持っているリスク
を隠してしまう商品であり、その取引が企業対企業の相対取引で
行われるため、市場が存在しないことをいっているのです。相対
取引ですから政府の規制はないし、取引報告の義務もないので、
ひとたび信用収縮が起きると、疑心暗鬼が起き、収拾のつかない
事態に陥ってしまうのです。それでは、このCDSの世界取引残
高はどのくらいになるのでしょうか。
 2008年6月の時点でそれは54兆ドルに上るのです。この
額がいかに巨額であるかは、世界全体のGDP50兆ドルを超え
る金額であるといえばわかると思います。さらにもうひとつこの
CDSの取引残高とほぼ一致するのは、53兆ドルに及ぶ米国の
累積財政赤字の額なのです。なんとも不思議な話です。
 CDSの世界取引残高と米国の累積財政赤字が一致するのは、
必ずしも偶然の一致ではないのです。つまり、米国のような借金
大国はCDSのような高配当の金融商品を作り出さないと、借金
をファイナンスできず、ドルが世界を循環しないのです。
 グリーンスパン前FRB議長は10年間在任していましたが、
米国の累積財政赤字は4倍に拡大しているのです。彼は何度もサ
ブプライム問題やヘッジファンドの行き過ぎについて警告は発し
たものの、基本的には何もしないで放置したのです。
 グリーンスパン氏は、米国の金融の現状を十分理解している人
物なのです。すべてのからくりを理解していて、そうしなければ
米国がもたないことをよくわかっていたのです。
 そういうグリーンスパン氏の苦悩を副島隆彦氏は自著で次のよ
うに書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 遡ること3年前の2005年の5月に既に「大暴落の連鎖の始
 まり」の一連の動きが起きていた。このときアラン・グリーン
 スパンFRB議長(当時)は「イラショナル・エグズジュビラ
 ンス」という言葉を使った。いつもの早朝の風呂に入っている
 ときに見つけ出し思いついていた。早くも1996年には「私
 たち(アメリカ人)は今はもう「根拠なき熱狂」に酔い痴れて
 いるのです」と、アメリカ連邦議会で報告したのである。実際
 には、国民向けの演説のような、教訓話のような感じである。
 だが、アメリカ国民の方は、迫り来る好景気の絶頂で浮かれて
 騒いでいて、「グリーンスパン議長が、また謎(エニグマ)に
 満ちたことを言って、自分たちに説教を垂れている」としか思
 わなかった。2005年5月に彼は再度厳しく「もう危険だ」
 と警告した。               ――副島隆彦著
            『連鎖する大暴落』より/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、グリーンスパン前議長は、2005年の時点でそれが
住宅バブルであることがわかっていたのです。そして、それが間
もなくはじけることを・・・です。そして、警告を発していたの
です。しかし、グリーンスパン氏の警告を誰もまともには取り上
げなかったのです。そして、2006年1月にグリーンスパン氏
はFRBを去ったのです。
 そして、グリーンスパン氏の警告通りに住宅バブルがはじけて
米国は現状のようになっているのです。オバマ次期大統領は本当
にこれを乗り切れるのでしょうか。ドルが世界を循環しないと米
国はもたないのです。     ――[大恐慌後の世界/05]


≪画像および関連情報≫
 ●グリーンスパンの「私の履歴書」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「過去10年に日本で起きたように、根拠なき熱狂が過度に
  資産価格を押し上げ、その後予期せぬ長期の収縮を招きやす
  い状況に陥ったということを、どうすれば知ることができる
  のでしょうか。そうした判定をどう金融政策に反映させれば
  いいのでしょうか」。テーブルに戻って、「今の話でどこが
  ニュースになると思うか」と周りの人に問いてみたが、だれ
  も答えられなかった。だが「根拠なき熱狂」はその夜のうち
  に話題になり、東京市場で株価が下がった。だが、反応は半
  日ほどで、株価は再び上昇していった。
  ――アラン・グリーンスパンの「私の履歴書」/2008年
                   1月23日本経済新聞
  ―――――――――――――――――――――――――――

アラン・グリーンスパン氏.jpg
アラン・グリーンスパン氏
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2009年01月13日

●「ファルドCEOの栄光と挫折」(EJ第2488号)

 前号のポイントを繰り返します。2008年6月時点でCDS
の世界取引残高はおよそ54兆ドル――これは世界全体のGDP
50兆ドルを超えています。そして、この額は米国の累計財政赤
字の53兆ドルにほぼ匹敵するのです。
 この額の大きさは尋常ならざるものです。よくここに至るまで
米国は放置していたものです。もし、この54兆ドルがはじけた
ら、世界経済に壊滅的な打撃を与えることが確実だからです。
 どうしてこんなことになったのか。米国では今になって犯人探
しをやっているようですが、世界経済が今後どうなっていくのか
を探るために、EJでもことの顛末を振り返ってみます。
 今回の金融危機が一段と恐慌の様相を示しはじめたのは、リー
マン・ブラザーズの破綻からです。このリーマン・ブラザーズの
CEOを務めていたリチャード・ファルドという人物に注目して
みましょう。彼はどういう考え方をする人物なのでしょうか。
 ファルド氏は、コロラド大学を卒業して、ニューヨーク大学の
ビジネススクールの夜間コースでMBAの取得を目指しながら、
1969年からリーマン・ブラザーズでサラリーマンとして働き
始めたのです。彼は大変愛社心が強い人物だったのですが、何事
も会社一筋という性格で、世間のことなどまるで考えず、会社の
利益拡大に突っ走ったといいます。
 ところが、リーマン・ブラザーズは1984年に破綻してしま
うのです。その間のいきさつについては、ケン・オーレッタの次
の本に詳しく書かれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      ケン・オーレッタ著/永田永寿訳/日本経済新聞社
 『ウォール街の欲望と栄光――リーマン・ブラザーズの崩壊』
―――――――――――――――――――――――――――――
 リーマン・ブラザーズはこれによってアメリカン・エキスプレ
スに売却されてしまうのですが、これによって激しい内部抗争が
起こり、ファルド氏はその抗争に勝ち抜いて、その結果分離独立
したリーマン・ブラザーズのCEOになるのです。
 大方の予想では、リーマンがいくらがんばってもゴールドマン
・サックスなどのウォール街の企業には勝てないと思われていた
のですが、リーマン・ブラザーズはその予想を裏切って1990
年代を通して大躍進を続けたのです。
 そして、ファルドCEOは『ビジネスウィーク』誌の「CEO
オブザイヤー」の「米国で最も尊敬されているカリスマCEO」
に選ばれるまでになったのです。ここまではファルドCEOの手
腕は高く評価されていたのです。
 しかし、このあたりからファルド氏は、絵にかいたようなワン
マン経営者となり、2004年に自分のお気に入りの部下である
ジョー・グレゴリー氏を後継者との触れ込みでCOO――最高執
行責任者に任命すると、あとは文字通り「リーマンの帝王」とし
て社内外に君臨するようになります。
 「裸の王様」ということがよくいわれますが、ファルド氏はま
さにその通りであり、2008年3月にベア・スターンズの経営
危機が表面化しても平然としていたといいます。しかし、このと
き既にリーマンの経営も深刻化しつつあり、そういう報告もファ
ルド氏に上がっていたのですが、彼はリーマンの危機を絶対に受
け入れなかったというのです。
 当然リーマンの株価は下がり続け、他の金融機関からの資本注
入を受け入れるか、会社の売却まで視野に入れる状況になってい
たのですが、それでもファルド氏は会社の帳簿価格を安くするよ
うな資本注入は絶対に受け入れなかったのです。実際に韓国産業
銀行からの資本注入の話があったのですが、ファルド氏は強く拒
否したのです。彼は会社の衰退を認めたくなかったのでしょう。
 そして2008年9月15日――リーマン・ブラザーズは、日
本の民事再生法に当たる連邦倒産法第11章の適用を連邦裁判所
に提出して事実上破綻したのです。
 しかし、会社が破綻してもファルド氏の日常は変わらず、会社
の高級スポーツジムに姿を現し、黙々とストレッチをやっている
というのです。そういうファルド氏に怒りを隠さない幹部社員は
ファルド氏に顔面パンチを食わせるという事件もあったのです。
 こういうファルド氏の行動について、『フィナンシャル・タイ
ムス』誌は次のように論評しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 あまりにも自分のすべてを、自分の人生と自分自身そのものを
 この銀行に注ぎ込んできたせいで、その衰退を受け入れられな
 かったのだ。もっと早くに売りに出ていたら、リーマンは生き
 残ったかもしれない。 ――『フィナンシャル・タイムス』誌
―――――――――――――――――――――――――――――
 リチャード・ファルド氏に限らず、ウォール街の企業の経営者
にはこういう人が多いのです。彼らの論法はこうです。今回の金
融危機は百年に一度のものであり、誰もそれを予測することは困
難である――このように当事者でありながらまるで自分が被害者
であるような発言をしているのです。
 現にファルド氏は、議会の公聴会において、その莫大な報酬を
指摘されると、それはほとんど自社株として受け取っていると逃
げ、会社の破綻が予測のつかないものであった証拠に、会社が破
綻した現在でも、自社株を1000万株以上持っていると強調す
るのです。そして、自分こそ最大の被害者であると主張するので
す。さすがにこの発言には議場から罵声が飛んだそうです。
 はっきりいって、ファルド氏は自己中心で、責任感というもの
が完全に欠落しています。だから、そういう無責任な発言を平気
でするのです。
 しかし、こういうウォール街の経営者にそういう詐欺まがいの
商品を売ることを可能にした米政府にはもっと大きな責任がある
と思うのです。米国にとって、規制を撤廃して野放しにしたこと
の責任はあまりにも大きいと思います。これについては、明日の
EJで述べます。       ――[大恐慌後の世界/06]


≪画像および関連情報≫
 ●『フィナンシャル・タイムス』誌の全文
  ――――――――――――――――――――――――――
  リーマン・ブラザーズが前回、1984年にいったん破綻
  したときの顛末を、ケン・オーレッタの著書「ウォール街
  の欲望と栄光――リーマン・ブラザーズの崩壊」で書いて
  いる。この中で同銀のリチャード・ファルド氏は激しく、
  誇り高く内向的な、債券取引のトップとして登場する。内
  部抗争のせいで同社が身動きとれなくなっても、ファルド
  氏は売却の必要性を受け入れなかった。
  http://news.goo.ne.jp/article/ft/world/ft-20080915-01.html
  ――――――――――――――――――――――――――

リチャード・ファルド氏.jpg
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2009年01月14日

●「投資銀行の暴走を可能にした法律」(EJ第2489号)

 リチャード・ファルド氏に関連して、ヘンリー・ポールソン財
務長官についても知っておく必要があります。ヘンリー・ポール
ソン――1946年生れの62歳、誰もが知るユダヤ資本を代表
するゴールドマン・サックスCEO出身の米財務長官です。あと
わずかではありますが、現時点では現役の財務長官です。
 日本では考えられないことですが、ウォール街の企業のトップ
が財務長官になり、任が終わると再び元の企業に戻る――こうい
う「民」と「官」を行き来するのは米国では普通なのです。
 ポールソンは、ダートマス大学を卒業し、1970年にハーバ
ード大学のビジネス・スクールで経営学を学び、MBAを取得し
て国防総省に入ります。最初は、国務次官補のアシスタントを務
め、その後ニクソン大統領の内政担当補佐官であるアーリックマ
ンの下で仕事を仕込まれたのです。
 アーリックマンは、ニクソン大統領の最も親しいアドバイザー
のひとりであり、ウォーターゲート事件の陰の主役といわれる人
物です。ニクソン大統領の懐に深く入り込み、あらゆるところか
ら情報を集め、敵対する当時の民主党議員や共和党の有力者の追
い落としをはかったのです。その手段として使ったのが、非合法
の盗聴だったのです。
 ポールソンは、1974年にゴールドマン・サックスに入社し
ますが、アーリックマンから教わった情報収集や追い落としのテ
クニックを縦横に使い、ライバルを蹴落として、1999年に同
社のCEOに就任します。ポールソンは目的のためには手段を選
ばないところがあるのです。そして、2005年にポールソンは
財務長官に就任するのです。
 今回の金融危機が起こり、2008年10月3日に金融救済法
が下院で可決されてからというもの、ポールソン財務長官はブッ
シュ大統領よりも大きな権限を持っているといっても過言ではな
い――このように浜田和幸氏はいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、ポールソン氏は実質的にアメリカの大統領と言っても過
 言ではない。彼の采配によって、ウォール街の大手金融機関は
 生殺与奪権を握られているといってもいいだろう。彼が目指す
 金融再編のシナリオは、自らの親しい仲間が経営陣に連なる古
 巣のゴールドマン・サックスとシティーグループ、そしてJP
 モルガン・チエースの3社による支配体制である。7000億
 ドルの公的資金を税金から注入するという荒業を成し遂げたポ
 ールソン氏。今や彼がヨーロッパやアジアの金融機関も支配下
 に置こうと目論んでいることば、想像に難くない。
                 ――浜田和幸著/光文社刊
    『「大恐慌」以後の世界/多極化かアメリカの復活か』
―――――――――――――――――――――――――――――
 どうして米国がこういう深刻な事態になったのか考えると、そ
れはレーガン政権にまで遡ることができます。いわゆるレーガノ
ミックスです。しかし、レーガノミックスは、旧ソ連を崩壊させ
1990年代に米国に空前の繁栄をもたらしており、一概にそれ
を批判することはできないと思います。
 しかし、1990年代のクリントン政権は、1999年に次の
法律を制定しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    グラム・リーチ・ブライリー法/1999年
              金融サービス近代化法
―――――――――――――――――――――――――――――
 この法律の狙いは、金融機関同士の垣根を取り払うことにある
といえます。これによって、銀行と証券の区別がなくなり、金融
機関同士の競争が激化したのです。
 保険会社であるAIGがCDSを多く抱え込むことができるよ
うになったのも、投資銀行が少ない資本でで大きなレバレッチを
利かせることができるようになったのも、すべてこの法律によっ
て可能になったことなのです。
 もともと米国では、次の法律によって証券と銀行は完全に切り
離されてきたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     グラス・スティーガル法/1933年
―――――――――――――――――――――――――――――
 この法律は一般家庭の投資熱を煽ったとの反省から生まれたも
のであり、商業銀行による株式や社債の引き受け禁止、投資銀行
による預金受け入れ禁止、商業銀行と投資銀行との提携禁止など
を規定したものであり、この法律によって、商業銀行と投資銀行
は完全に分離されてきたのです。この法律の成立には、カーター
・グラス上院議員の功績があり、そのためこの名があります。
 しかし、この法律は1994年に廃止されるのです。この法律
の廃止に動いたのは、フィル・グレアム氏であり、この人は今回
の共和党の大統領候補マケイン氏の経済顧問なのです。この法律
の廃止は次にくる「グラム・リーチ・ブライリー法」の成立への
布石であり、グラム・リーチ・ブライリー法はオバマ陣営のマケ
イン氏への攻めどころであったのです。オバマ氏は、この法律は
3億ドルをロビー活動に投じた金融機関の合併を容易にしただけ
であるとして、この法律の制定を批判しています。
 しかし、この法律の推進者は、クリントン政権で財務長官を務
めたロバート・ルービン氏やローレンズ・サマー氏であり、2人
ともオバマ陣営の経済顧問をしているので、どっちもどっちとい
うところなのです。
 結局、グラム・リーチ・ブライリー法の制定に対して体を張っ
て止めに動いた政治家はおらず、この法律の制定については米国
全体に責任があると考えてよいと思います。
 米国という国は、政治家も経済界も、いずれも水面下ではつな
がっているのです。したがって、ウォール街が勝手に暴走したわ
けでなく、米国人が求めたものを可能にするようなかたちで法律
ができたのです。       ――[大恐慌後の世界/07]


≪画像および関連情報≫
 ●「グラス・スティーガル法」について
  ――――――――――――――――――――――――――
  1933年に成立した米国銀行法。大不況期の混乱へ対処
  するために制定された同法全体をさす場合と、同法のうち
  銀行・証券の分離規定だけをさす場合がある。1980年
  代以降、当局の行政命令によって分離は緩和された。また
  分離規定そのものも改廃する法案も連邦議会で何回も審議
  されてきたが、成立にはいたっていない。
  ――――――――――――――――――――――――――

アーリックマン&ポールソン.jpg
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2009年01月15日

●「ポールソン財務長官の企業再編戦略」(EJ第2490号)

 ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、メリルリン
チ、リーマン・ブラザーズ、ベア・スターンズ――これだけあっ
た米国の投資銀行が今回の金融危機ですべて姿を消しています。
 ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーは商業銀行に
看板を書き換え、メリルリンチはバンク・オブ・アメリカに買収
リーマン・ブラザーズとベア・スターンズは破綻――この中で商
業銀行にはなったものの、一番が傷が浅いという印象なのがゴー
ルドマン・サックスです。
 それは生殺与奪の権限を持っている財務長官が、ゴールドマン
・サックスのCEO出身ということと無関係ではない――誰でも
そう思っていると思います。もちろん、ポールソンが財務長官で
なければ、ゴールドマン・サックスがどうなったかわかりません
が、そうかといって、ポールソンがあからさまにゴールドマン・
サックスに身びいきをしたわけではないのです。
 そのことは少し置き、モルスタ――モルガン・スタンレーにつ
いて少し触れておきます。もともとJPモルガンという金融機関
があったのです。昨日、グラス・スティーガル法について解説し
ましたが、この法律は1933年に成立しています。この法律の
趣旨は「証銀分離」にあります。
 そのためJPモルガンは、銀行部分は、JPモルガン・チェー
ス、投資銀行部分はモルガン・スタンレーとして分離独立したの
です。1935年のことです。それが今回の金融危機で投資銀行
の看板を外し、商業銀行――正確には金融持株会社に業務変更を
いることになったのです。モルガン・スタンレーは、三菱東京U
FJフィナンシャル・グループと資本提携をしています。
 さて、ヘンリー・ポールソン財務長官に話題を戻すことにしま
す。ウォール街の再編は、ポールソンの手に委ねられたといって
過言ではないのですが、そのシナリオはかなり前から練られてい
たフシがあります。
 国民の税金を使う以上、投資銀行のどこかに責任をとってもら
う必要がある――その生贄的役割を負わされたのがリーマン・ブ
ラザーズなのです。その生贄になる投資銀行はCDSなどのこと
も十分配慮して決められたのです。
 そしてゴールドマンとモルスタは、最初から商業銀行に移行さ
せるシナリオがあったのですが、とくにゴールドマンについては
財務の健全性をアピールする必要があったのです。
 そこで、ポールソン財務長官が目をつけたのは、世界一の大富
豪といわれるウォーレン・パフェット氏なのです。ポールソン氏
は必死にパフェット氏を口説き、50億ドルの投資を引き出すこ
とに成功したのです。これは、知られざるポールソンの最大の功
績ということができます。
 当時ゴールドマン・サックスに対しては、オイルマネーをバッ
クにしたSWF(政府系国富ファンド)のクウェート投資庁やア
ブダビ投資庁が買収に乗り出していたのです。しかし、ゴールド
マン・サックスがそれらのSWFに買収される事態は、ブッシュ
政権としても避けたかったのです。
 果せるかな、パフェット氏がゴールドマンに50億ドルの投資
を行うことを知ったSWFは一斉に矛を収めたのです。驚きべき
パフェット氏の実力です。投資した50億ドルの金額もさること
ながら、世界で最も市場の先読みができるとされるパフェット氏
が乗り出したことで、ゴールドマン・サックスの健全性は証明さ
れることになったのです。
 ウォーレン・パフェット氏とはどういう人物なのでしょうか。
 ウォーレン・パフェット氏は、世界最大の投資会社「バークシ
ャー・ハザウェイ」の最高経営者であり、2007年には世界ナ
ンバーワンの大富豪となった人物で、その個人資産は620億ド
ル――6兆2000億ドルにも及ぶといわれます。
 パフェット氏の個人投資家としてのスタートは11歳のときで
あり、それ以来彼の買うのは株ではなくて会社という哲学を貫い
て、今日の地位を築いたのです。
 しかし、個人生活は非常に質素であり、1958年に3万15
00ドルで購入したオマハの郊外の住宅に現在でも住んでいるの
です。そのため、彼は「オマハの賢人」ともいわれています。そ
して、生活費は、バークシャー・ハザウェイから毎年に受け取る
10万ドルでまかなっているといわれます。
 パフェット氏の投資方法は、成長性のある企業に長期投資をす
ることであり、実にシンプルです。パフェット氏が現在でも投資
を続けている企業の一部を上げると次ような企業になります。誰
でも知っている有名な企業であり、その企業の業績が多少落ち込
んでも絶対に手放さないことが特色です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ・コカ・コーラ(コカ・コーラの会社)
  ・ジレット(ひげ剃りの会社)
  ・ウォルト・ディズニー(ディズニーの会社)
  ・アメリカンエクスプレス(クレジットカード会社)
  ・ブラウン(電気カミソリの会社)
  ・ワシントンポスト(新聞の会社)
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見ると、パフェット氏は髭剃りの会社が好きなのかなと
思ってしまいますが、これらは安定した優良企業ばかりです。そ
れでいて、パフェット氏の投資目的の第1条は、あくまで「儲け
る」ことであり、第2条は「第1条を忘れない」ことなのです。
 彼にとって今回の金融危機は投資の最大のチャンスなのです。
そのため、彼はゴールドマン以外の企業にも次々と巨額投資を行
っています。ゴールドマンに続き、ゼネラル・エレクトリックに
30億ドル、コンストレーション・エナジーに10億ドルという
ようにです。1年前に比べると、4分の1の値段で傘下に収める
ことができるからです。
 そして、ゴールドマンに投資したことで、政府の進める企業再
編に深く関わっています。   ――[大恐慌後の世界/08]


≪画像および関連情報≫
 ●ウォーレン・パフェット氏の名言
  ―――――――――――――――――――――――――――
  『投資のルールはシンプルで、他の人が欲張っているときに
  は恐れを抱き、他の人が恐怖にさいなまれている時に強欲に
  なることだ』、『多くの健全な企業の長期的な成長に不安を
  抱くことはナンセンス。5年や10年、20年先には利益の
  記録を塗り替えているはずだ』    ・・・パフェット氏
            http://rich-ojisan.com/Buffett.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ウォーレン・バフェット氏1.jpg
ウォーレン・バフェット氏
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2009年01月16日

●「ムーア監督のウォール街救済プラン」(EJ第2491号)

 昨年の10月のことですが、何かと話題の多いマイケル・ムー
ア監督が「ウォール街救済プラン」なるものを発表し、注目を集
めています。それは、今回の米国発の金融危機で、多額の税金が
ウォール街を救済するために使われることに対する米国民の怒り
を代弁していると思うのでご紹介します。
 マイケル・ムーア監督といえば、2002年に「ボウリング・
フォー・コロンバイン」という作品で銃社会の真実をアピールし
2004年の「華氏911」では、ブッシュ現政権に切り込み、
2007年には「シッコ」で医療問題を取り上げ、大きな話題を
提供する名物監督として知られています。
 今回、マイケル・ムーア監督は、金融危機に関して次の一文を
ネット上に公開しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       How to Fix the Wall Street Mess
       「ウォール街の混乱のおさめ方」
―――――――――――――――――――――――――――――
 このレポートの冒頭に次の一文を置いています。「なぜ、彼ら
はブッシュ政権の時代に手に入れた7000億ドルを自らの救済
のために使わないのか」という趣旨の一文です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 400人のアメリカの最裕福層、そう、「たったの400人」
 が底辺の1億5千万人を全部合わせた以上の財産を持っていま
 す。最裕福400人が全国の資産の半分以上を隠匿しているの
 です。総資産は正味1兆6千億ドルになります。ブッシュ政権
 の8年間に彼らの富は「7千億ドル近く」膨らみました。7千
 億ドルはちょうど救済資金として我々に支払いを要求している
 のと同額です。披らはなぜブッシュの下でこしらえた金で自ら
 救済しないのでしょうか。      ――マイケル・ムーア
―――――――――――――――――――――――――――――
 ムーア氏は次のようにもいっています。「ブッシュ政権はクリ
ントン政権から1270億ドルの黒字を引き継ぎながら、9兆5
千億ドルの負債を国民に押し付けて退陣しようとしている。どう
してこんな盗人貴族に追い銭を与えねばならないのか」と。
 このあと、マイケル・ムーア氏は、次の10ヶ条の「ウォール
街救済プラン」を提示しています。読みやすくするため、本文そ
のままではなく、私なりに手を加えて文章を直しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.ウォール街で、承知のうえで今回の危機到来に加担した
    者を犯罪者として起訴するため特別検察官を任命せよ。
  2.ウォール街救済のためのコストについては、富裕層が自
    ら次の4つの方法によって負担すべきであると考える。
  3.緊急に救済すべきは住居を失う人々である。8つ目の住
    宅を建築しようと企む連中ではないことは確かである。
  4.あんた達の銀行や会社がわれわれからの「救済金」を少
    しでも受け取れば、われわれはあんた達の主人である。
  5.規制はすべて元に戻すべきである。規制を撤廃した元凶
    であるレーガン革命は既に死んで終焉したからである。
  6.「大き過ぎて潰せない」という事態にならないよう、失
    敗が許されないような巨大なものは存在も許されない。
  7.いかなる会社重役も従業員の平均賃金の40倍を超える
    報酬を受け取ってはならず、「落下傘」も不可である。
  8.連邦預金保険公社をもっと強化して、国民の預貯金にと
    どまらず、年金と住宅の保護モデルとするべきである。
  9.深呼吸し、落ち着いて、恐怖に日々を支配させないこと
    が米国民の誰にも必要であり、報道メディアは心せよ。
 10.国策としての救済策で政府系住宅金融会社やAIGを国
    有化したのだから、それを生かして国民銀行を作ろう。
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記のうち、2に関しては具体的には次の4つのことをムーア
氏は提案しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.年収100万ドル以上のすべての夫婦と年収50万ドル
    以上の独身者は、5年間10%の追加所得税を支払う。
  2.ほとんどの民主国家のようにすべての株取引に0. 25
    %を課税する。これで、毎年2千億ドル以上ができる。
  3.愛国米国人の株主に期待して、四半期の間配当の受領を
    辞退し、その分を財務省による救済資金の足しにする。
  4.企業からの連邦税収は現在GDPの1. 7%であるが、
    1950年代の5%に戻すと、約5千億ドルができる。
―――――――――――――――――――――――――――――
 かなり、乱暴と思える提案もありますが、その怒りや気持ちは
よくわかります。米国の格差はこんなに広がっているのです。金
融救済法案に対する「われわれの税金を使うな」という市民の怒
りをよく代弁していると思います。なお、「落下傘」とは倒産寸
前の企業から逃げ出すときに受け取る退職金のことです。
 ところで、このマイケル・ムーア監督は一度も日本にきたこと
はないのです。なぜ、日本に来ないのかについて本人を直撃した
とき、彼は次のように答えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いつか、日本に行けることを楽しみにしています。私は、今ま
 で日本に一度も行ったことはなく、日本には素晴らしいヘルス
 ケアのシステムがあるのを知ってます。映画『華氏911』の
 日本での興行収入は、アメリカを除いた世界の興行収入の中で
 ナンバーワンでした。正直、あの映画が、これほど日本で受け
 るとは思いもしませんでした。だってイギリス、フランス、ド
 イツより多かったわけですから・・・。なぜ日本で撮影しなか
 ったかと言うと、行くまでの時間が長過ぎるからです。要する
 に、アメリカ人の典型的な怠け癖で、日本人みたいなワ−ク・
 エシック(労働観)を持ち合わせていないのです(笑)」。
 ――――――――――――――――[大恐慌後の世界/09]


≪画像および関連情報≫
 ●ムーアはオバマ支持か/大統領選中の発言
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ムーア監督は、「善行や福祉に人生を捧げてきた人間が、今
  や愚かな考えを焚きつける偏狭な人間になりさがっている」
  とクリントン候補を断罪。「アメリカには、黒人には絶対に
  投票してやるものかという白人がいる。ヒラリーはそのこと
  を理解していてあえてそれを利用する戦術を展開している」
  と痛烈に批判した。一方、オバマ候補に関しては、「現在、
  我々が目撃しているのは、単なる候補者ではなく、変革への
  深遠な市民運動だ。私はオバマ候補よりも、むしろムーブメ
  ントとしてのオバマを支持する」と述べている。
              http://eiga.com/buzz/20080425/7
  ―――――――――――――――――――――――――――

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マイケル・ムーア監督
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2009年01月19日

●「原油価格高騰のからくりを探る」(EJ第2492号)

 2008年7月には147.27 ドルの最高値をつけた原油価
格がこのところ急速に下落しています。1月16日の「ヤフー!
ニュース」は次のように伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 15日のニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油先物相
 場は、石油輸出国機構(OPEC)が世界の原油需要見通しを
 下方修正したことを受け続落、米国産標準油種WTIの中心限
 月2月物は一時1バレル=33.20 ドルと約4週間ぶりの安
 値をつけた。終値は前日比1.88 ドル安の35.40 ドル。
       ――2009.1.16/「ヤフー!ニュース」
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは一体どういうことなのでしょうか。急速に下がった理由
について考えてみたいと思います。
 基本的なことを考えてみましょう。世界における原油の需要は
どのくらいだと思いますか。日量8700万バレルです。しかし
先物取引においては、その500倍以上の原油の売買が繰り返さ
れているのです。その額は、2003年には130億ドルに過ぎ
なかったのですが、2008年のピーク時では、2600億ドル
になっていたのです。
 これは使うために原油を買うのではなく、金儲けのために原油
を弄んでいるグループがいることを示しています。こういう連中
がのさばる原因を作っているのが、原油先物市場のからくり――
レバレッジなのです。
 レバレッジとは何でしょうか。
 原油先物市場では、買い注文を入れるとき、手付金は6%支払
えばよいのです。具体的な例でいうと、1バレル128ドルの先
物を買うとき、その6%――7.68 ドル、つまり、手付金であ
る見せ金は8ドル以下でよいのです。
 約8ドルで、バレル128ドルの先物が買えるので、「128
=8×16」ですから、16倍のレバレッジがかかっていること
になります。
 このレバレッジ――「テコの理論」というのですが、これを利
用して投機集団――ヘッジファンドは天井知らずの価格でも平気
で買い注文が出せるのです。
 実はこのヘッジファンドは、サブプライム危機が発生し、損失
が出始めたかなり初期の頃――2007年夏の頃からその損失を
取り戻そうとして、いっせいに原油先物市場になだれ込み、巧妙
な方法で原油価格を釣り上げていったのです。
 その先頭に立って動いたのは、ゴールドマン・サックスなので
す。これにモルスタやリーマン・ブラザーズがヘッジファンドと
組んで原油先物市場に加わったのです。
 原油先物取引で儲けるにはどうしたらよいでしょうか。
 需要供給の関係から見れば、原油は60ドル〜70ドルが適正
価格なのです。しかし、これではヘッジファンドは儲からない。
それではどうすればよいかです。
 それは「原油の供給不安」の状態を作り出すことです。そのた
め、ヘッジファンドは日々の取引終了のタイミングを計って、原
油の供給不安を煽る風説を流し続けたのです。原油の供給が不安
になると、当然原油価格は上がります。風説にはいろいろありま
すが、一番多く流されたのは次の内容です。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ブッシュ大統領はイランと戦争するかもしれない
―――――――――――――――――――――――――――――
 もともとブッシュ政権が率いる米国は、これまでイランやイラ
クに対する政策を通じて意図的に原油供給の不安感を煽る政策を
強引に進めてきていたのです。
 どうしてかというと、イランとイラクの石油の埋蔵量は世界で
群を抜いており、なかでもイランは、原油と天然ガスに関しては
世界最大規模の埋蔵量を有しているといわれるのです。
 もし、イランとイラクが安定して世界に原油を供給したとする
と、当然価格は安定してしまいます。そうなってしまうと、価格
を釣り上げようとしているヘッジファンドとしては困るのです。
しかし、いくらヘッジファンドでもイラクやイランをどうこうす
ることなどできません。いったいヘッジファンドの裏で糸を引い
ているのは誰なのでしょうか。これについて、既出の浜田和幸氏
は、述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 それは、ヘッジファンドを中心とする投機筋の向こう側に隠れ
 ている集団である。となるとまず指摘しなければならないのが
 ブッシュー族とチェイニー副大統領を筆頭とするその取り巻き
 連中にほかならない。      ――浜田和幸著/光文社刊
    『「大恐慌」以後の世界/多極化かアメリカの復活か』
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、ブッシュ政権にとってイランとイラクが平時で原油を
生産されると原油価格は安定して原油で儲けることはできないの
です。そこで、イラクについては戦争を仕掛けて現在の状況に追
い込み、原油供給を不安定にしているのです。
 イラクは世界最大級の埋蔵量を誇る油田を有しているのです。
しかし、1999年に発動された国連の経済制裁によって原油生
産量は日産260万バレル、その後のイラク戦争によってさらに
減産し、日産190万バレルになってしまっています。供給を不
安定化しようとするブッシュ政権の目的は達成されています。
 イランに対しては、核問題で揺さぶり、イランは自力で油田開
発ができない状況に追い込まれています。経済制裁も受けている
ので、日本をはじめヨーロッパの他の国も米国の反発を恐れて手
を出せないでいます。
 そのため、イラン革命の起こった1979年当時の産油量であ
る日産600万バレルに遠く及ばない430万バレルにダウンし
ています。この土壌の上にヘッジファンドは風説を仕掛けて、供
給不安を増幅させたのです。――――[大恐慌後の世界/10]


≪画像および関連情報≫
 ●ヘッジファンドとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ヘッジファンドの正確な定義は難しいが、公募によって一般
  から広く小口の資金を集めて大規模なファンドを形成するこ
  とを目指す通常の投資信託と異なり、通常は私募によって機
  関投資家や富裕層等から私的に大規模な資金を集め、金融派
  生商品等を活用した様々な手法で運用するファンドのことを
  指す。代替投資の一つ。       ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

チェイニー副大統領.jpg
チェイニー副大統領
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2009年01月20日

●「『第四権力』が暴走する米国の危機」(EJ第2493号)

 原油の供給を不安定にする――こういう状況はブッシュ政権に
よって既に出来上がっていたのです。その状況において風説や情
報は乱れ飛んだのです。
 こうして、有力な米国のヘッジファンドは、巨大な投資銀行の
資金供給を受けながら原油価格を釣り上げていったのです。風説
の内容も原油価格を釣り上げる意図のものばかりではなく、価格
を下落させる情報もときどき流して下がった価格で買い注文を入
れ、さらに価格を上げるというようにして、結果として原油価格
を空前の高さにまで高騰させたのです。
 これは、ブッシュ政権にとってきわめて都合が良い状態といえ
るのです。それに、米国はレーガン政権以来、原油先物市場に新
規参入を認めていないのです。そういう意味で米国における石油
ビジネスというものは、米国歴代政権の息のかかったきわめて限
定された企業と投機筋にのみ法外な利益を提供してきたのです。
 原油価格の高騰を仕掛けている複数のヘッジファンドは、仕掛
けている間は途中で下りることはできないのです。しかし、20
08年夏になると、少しずつ綻びが出始めたのです。オランダの
ある投機筋が原油価格操作の疑いで摘発されると、それがきっか
けになって、原油先物市場にかかわるヘッジファンドに対して世
界中の批判の目が厳しくなってきたのです。
 当時原油価格は十分に釣り上がっており、「バレル200ドル
もあり得る」という状況になっていました。しかし、そうなる前
にウォール街が崩壊してしまったのです。株価は世界中で大暴落
し、それによって投資銀行からのヘッジファンドへのマネーの供
給は止まり、原油価格も大暴落したのです。そして、2008年
10月末の時点で、1バレル60ドル台に落ち着いたのです。
 これが原油価格が高騰し、その後未曾有の金融危機が表面化し
あっという間に暴落したいきさつなのです。しかし、その裏側で
こっそりと大儲けしていたのは、ブッシュ政権中枢の人間なので
す。そして、現在米国は国運をかけて、史上空前の公的資金を注
ぎ込もうとしているのです。
 こういう米国の現況に関して、大前研一氏は次のように述べて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2008年9月以降のアメリカは、私たちが知っているアメリ
 カではなくなった。まず、三権分立ではなく、“四件分立”に
 なってしまった。「第四権力」は、ヘンリー・ポールソン財務
 長官だ。彼は金融危機対策という大義名分のもと、国家権力の
 上を行くようなことを唯我独尊でやっている。
     ――大前研一氏/『週刊ポスト』1・16/23より
―――――――――――――――――――――――――――――
 大前氏がおかしいと首を傾げるのは、金融大手のシテイグルー
プをめぐる救済策です。日本の麻生首相も定額給付金など政策を
めぐる“ブレ”が激しいですが、ブッシュ政権による金融安定化
法運用のポールソン財務長官への丸投げもきわめて異常なことで
あるといえます。ポールソン財務長官はこれによって金融業界に
対する生殺与奪の権を持つ第四権力という大前氏の表現はその通
りであると思います。実際に彼は超法規的なことを独断で次々と
やっているのですが、議会もそれに手を出せないという空恐ろし
い事態になっているからです。
 シテイには、「レベル3」の資産が4000億ドルあり、それ
を2〜3年かげて売却していく方針だったのです。「レベル3」
というのは、「流動性がほとんどない」という意味であり、売ろ
うと思ってもなかなか売れない資産のことです。
 資産の売却については、4000億ドルのうち1000億ドル
については大きな損失を出さないで売れたのですが、3000億
ドル分は売れないで残っているという状況になったのです。
 これに対してポールソン財務長官は、次のようなおかしな決定
をしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米政府は、2008年11月23日、シテイが抱えている30
 60億ドル分の不良資産を一定期間保証し、損失は290億ド
 ルまではシテイが、それ以上の50億ドルまでは財務省が、次
 の100億ドルをFDIC――連邦預金保険公社がそれぞれ負
 担する。保証の手数料としてシテイは70億ドルの優先株を発
 行して8%の配当を支払う、という救済策を発表した。
     ――大前研一氏/『週刊ポスト』1・16/23より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは要するに3060億ドルのシテイは10%だけを処理し
あとの90%は政府が面倒を見るという大甘の救済策なのです。
不良資産は売ってみなければわからないものであり、売却前から
金額を保証するというのはリスクの多い話です。
 どうして、ポールソン財務長官は、これほどシテイに甘いので
しょうか。これについても大前研一氏はその事情を次のように明
らかにしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカは本来、こんな無節操な国ではなかったはずだ。もし
 かするとブッシュ大統領がイタチの最後っ庇でファイヤー・セ
 ールをやっているのかもしれないが、今回のシティの救済策は
 もっと臭いものがある。というのも、シティの前会長はロバー
 ト・ルービン元財務長官であり、バラク・オバマ次期大統領が
 財務長官に起用するニューヨーク連銀のティモシー・ガイスナ
 ー総裁と国家経済会議(NEC)委員長に起用するラリー・サ
 マーズ元財務長官は、ともにルービン元財務長官の愛弟子
 だからである。つまり、シティが潰れたらルービン元財務長官
 が責任を取らねばならなくなるので、弟子の2人がシテイを救
 ったのではないか、と疑われているのだ。
     ――大前研一氏/『週刊ポスト』1・16/23より
―――――――――――――――――――――――――――――
             ――――[大恐慌後の世界/11]


≪画像および関連情報≫
 ●米シテイ・会社を二分割
  ―――――――――――――――――――――――――――
  (ニューヨーク=丸石伸一、鈴木暁子)米金融大手シティグ
  ループは16日、82億9400万ドル(約7500億円)
  の純損失となった08年10〜12月期決算とともに、会社
  を事実上2分割する抜本的な事業再編計画を発表した。中核
  事業とそれ以外の事業に分ける。非中核事業には日興コーデ
  ィアル証券など日本での証券事業も含まれ、他社への売却な
  ども検討する。          ――アサヒ・コムより
  http://www.asahi.com/business/update/0116/TKY200901160272.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

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大前研一氏
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2009年01月21日

●「オバマ政権はイラク撤退を実現できるか」(EJ第2494号)

 昨日の20日、米国ではオバマ新政権が発足しました。まさに
米国の命運を担っての新政権の発足です。しかし、これほどの困
難を背負って発足する政権は珍しいでしょう。
 昨日の話を続けます。2009年1月17日の朝刊に、米大手
銀シテイグループが金融総合化路線を撤回し、生き残りをかけて
事業の解体に乗り出す記事が掲載されています。
 このシテイに対して米政府は、昨年10月3日に金融安定化法
が成立すると、同月29日に250億ドル、さらに11月23日
にも200億ドルの資本注入を発表しています。途方もない巨額
の資金が湯水のように使われているのです。
 米国は基本的には「小さな政府」の国なのです。その国が今回
の金融危機対策で投入すると約束したお金は第2次世界大戦に次
ぐ出費になるといわれます。
 大前研一氏は、米国が出すと約束している巨額な資金に関連し
て次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 言い換えれば、それほど未曽有の出費をポールソン財務長官ら
 国家の数人が議会の承認を得ることなく、超法規で勝手に決め
 るという国家管理の国になってしまったのである。今やアメリ
 カは、根本的に変質して私たちが知っているアメリカではなく
 なり、「リーダーの資格」も「風格」も全くない国に成り下が
 った、といっても過言ではないだろう。
     ――大前研一氏/『週刊ポスト』1・16/23より
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ新大統領は本当に米国をチェンジできるのでしょうか。
 大統領が取り組む課題はいろいろありますが、大きなポイント
は、新大統領がイラクから米軍を撤退できるかどうかです。オバ
マ氏は、大統領選の間に次のようにいっていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 イラク戦争を終わらせるだけではなく、そもそもアメリカをイ
 ラクに侵略させた考え方そのものに挑戦する。   オバマ氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ氏が人気を集めたのはこの主張であったと思います。米
国民の多くはイラク戦争には辟易しています。何とかこれから脱
却したいと思っているのです。
 そういうときにオバマ候補者が上記の主張をしたのです。「オ
バマはイラク戦争を終わらせようとしている」として支持者が大
幅に増えたのです。
 国際政治学者の浜田和幸氏は、オバマ大統領になっても米国は
イラク戦争から撤退できないであろうというのです。米国がイラ
ク戦争から撤退することは、イラクでの石油利権を半ば放棄する
ことを意味するのです。そんなことができるでしょうか。
 もし、これが実現すると、原油価格は少なくともブッシュ政権
時代よりは安定化するはずです。しかし、オバマ政権でもイラク
撤退はできないと浜田和幸氏はいうのです。その理由として、副
大統領のジョー・バイデン氏の存在を上げます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 バイデン氏は、ブッシュ大統領が登場する前(9・11)テロ
 以前)から、アメリカがイラクを攻撃するよう主張してきた人
 物だからだ。外交の専門家と言われるが、「サダム・フセイン
 は間違いなく大量破壊兵器を持っている」と、バイデン氏は長
 年にわたって主張してきたのである。しかも、2002年にお
 ける「武力行使容認決議案」には、真っ先に賛成していた。バ
 イデン氏は、副大統領候補になって、イラク戦争を容認した決
 議案に賛成したことを「後悔している」と語った。そうして、
 ブッシュ政権のイラク政策批判に転じたので、オバマ新大統領
 と政策的な齟齬は起きないと見る向きがある。しかし、彼の存
 在をブッシュ政権におけるチェイニー副大統領のように捉える
 と、先のことはわからないとも言えるだろう。
                 ――浜田和幸著/光文社刊
    『「大恐慌」以後の世界/多極化かアメリカの復活か』
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党の代表を決めるオバマ対ヒラリーの対決で、ヒラリーは
オバマ候補の外交の未経験さを強く非難したのです。それに対し
て最終的にオバマ候補が副大統領に指名したのは、ジョー・バイ
デン氏だったのです。
 このバイデン氏は、日本ではジョセフ・バイデンとして紹介さ
れていますが、どうやらジョー・バイデンというのが正しいよう
です。バイデン副大統領については、「白人、カトリック、民主
党中道派、外交経験豊富、労働者階級出身という経歴が評価され
た」と紹介されていますが、彼が副大統領に決まったとき、「オ
バマは裏切った」という声が聞かれたことは事実なのです。実際
問題として考えても、イラクからの撤兵がそれほどスムースに行
くとはとても考えにくいことです。
 大前研一氏がいうリーダーの資格も風格もなくしている米国を
オバマ新政権はチェンジできるのでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 残念ながら、私の見方ほ悲観的だ。なぜなら、市民運動家出身
 のオバマ次期大統領は、基本的に「富の創出」ではなく「富の
 分配」にカを入れると思うからだ。実際、オバマ氏や彼を支え
 ている人たちの頭の中は富の分配の議論だけで、富の創出の議
 論は片鱗もない。
     ――大前研一氏/『週刊ポスト』1・16/23より
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在の米国にとって深刻なのは、消費の減速であり、それによ
る経済の縮小です。これを解決するには、「富の創出」が不可欠
です。しかし、オバマ大統領の率いる米国は「富の創出」ができ
るのでしょうか。それどころか、米国人自身が低金利になったド
ルを見限って、米国からの巨大な資本逃避という事態が起きる可
能性もあるのです。    ――――[大恐慌後の世界/12]


≪画像および関連情報≫
 ●イラク戦争に関するバイデン氏の発言
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2003年から始まったイラク戦争においては、ブッシュ政
  権が武力行使を表明した際には、これを容認する姿勢を示し
  「イラクに対する武力行使容認決議」にも賛成票を投じてい
  る。しかしながら、ブッシュ政権が目指したサダム・フセイ
  ン独裁体制の排除には反対を表明していた。また、ブッシュ
  政権の一国主義的な行動や、「自衛のための先制攻撃」を許
  容するブッシュ・ドクトリンについても批判している。この
  ように、ブッシュ政権を批判しつつも、当初はイラク開戦に
  肯定的だったバイデンだが、その後イラク国内の情勢が泥沼
  化の様相を呈してくると、一転して反対に転じ、2007年
  初めに政府が提案したイラクへの米軍増派法案についても反
  対した。              ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジョー・バイデン副大統領.jpg
ジョー・バイデン副大統領
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2009年01月22日

●「今回の金融危機で中国経済はどうなる!?」(EJ第2495号)

 サブプライム問題によって米国の金融経済が破綻しつつある現
在、中国経済が今後どうなるかについては今後の世界経済を展望
するうえにおいて重要なテーマになりつつあります。そこで、中
国について考えてみることにします。
 「デカップリング論」というのをご存知でしょうか。
 デカップリング論とは、中国をはじめとするBRICs諸国の
経済は欧米先進国経済と非連動である――こういう考え方をいう
のです。
 デカップリングとは、何かと何かを離す、あるいは分離するこ
とを意味しています。つまり、欧米先進国経済が一時的にダメー
ジを受けてだめになっても、それと非連動で新興国経済が高い成
長率で世界経済を牽引するだろう――こういう考え方です。
 デカップリング論は、サブプライム問題が起きると盛んにいわ
れるようになりましたが、現状を見る限り非連動ではないようで
す。そのためか、最近ではデカップリング論に言及する人はいな
くなっています。
 実は、北京オリンピックがはじまる前から、オリンピックが終
わったら、中国経済は急速に減速すると盛んにいわれていたので
す。とにかく北京オリンピックにかける中国政府の意気込みは尋
常ならざるものがあったのです。
 15日間の北京オリンピックのために中国政府が用意した公的
資金は、実に430億ドル(4兆3000億円)なのです。最近
は巨額な数字がよく登場するので、430億ドルといってもビン
ときませんが、この金額は過去5回のオリンピックに主催都市が
費やした金額の合計をはるかに上回るといったら、その巨額さが
わかると思います。
 1日当たり29億ドルの資金が使われ、競技ごとにとらえると
1億4000万ドルずつかかる計算になるのです。しかも、これ
は、オリンピック競技に直接関連する資金であり、それ以外の地
下鉄網の整備であるとか、新空港の建設であるとか、北京とオリ
ンピックの共催都市天津を結ぶ高速鉄道――京津城際鉄路までい
れると、途方もない資金を投入したことになります。
 深刻なのは株式の下落です。上海総合指数(SSEC)の終値
は、一時は6000ポイントあったものが、2008年10月に
は2000ポイントを割り込み、中国株は3分の1に落ち込んで
しまっているのです。
 2008年10月11日に急遽ワシントンDCで開かれた「G
20」で、IMFのストロスカーン専務理事は中国について次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国は世界の金融危機の影響から逃れられないが、全体の経済
 成長率は引き続き高水準を維持するだろう。
            ――IMFのストロスカーン専務理事
                 ――浜田和幸著/光文社刊
    『「大恐慌」以後の世界/多極化かアメリカの復活か』
―――――――――――――――――――――――――――――
 このストロスカーン氏の発言は、中国に関する単なる予測を述
べたものというよりも、中国経済に対する願望であるという見方
があります。そうならないと、世界はもたないといっているのだ
というのです。
 一般的にオリンピックが終了した後は、その反動によって、経
済は低迷するといわれています。東京オリンピックの後も「昭和
40年不況」という経済の落ち込みがみられたのです。しかし、
北京オリンピックの場合、開催前からそういう兆候がたくさん出
ていたのです。
 繊維産業の輸出が大幅に減少し、全般的に輸出が頭打ちになり
不動産価格も下落しつつあったのです。上海の株式については、
2007年2月の上海発の世界同時株安を起こしたときから、下
落に下落を重ねていたのです。
 中国に関しては、ゴールドマン・サックスが深く関与しており
中国経済の事情に精通しているといわれますが、同社の中国経済
専門家のホン・リアン氏によると、中国経済は今後景気後退が一
層深刻化すると予測しているのです。
 当面2009年の中国の経済成長率に関しては、多くのエコノ
ミストは次のように予測しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2009年には中国の経済成長率はこれまでの2桁から9%に
 低下する。         ――多くのエコノミストの予測
―――――――――――――――――――――――――――――
 9%の経済成長率――大方の国々から見ると、この成長率は驚
異であり、うらやましい限りですが、中国にとっては2桁から1
桁への下落の影響は深刻なのです。
 中国の場合、経済成長率が1桁台に落ちると、数百万から数千
万人単位で雇用の機会が失われることが予測されます。とくに貧
しい地方から都会に職を求めて出稼ぎにくる数億人の貧しい労働
者にとって、そのダメージは計り知れないものがあります。
 中国政府が何よりも恐れるのは、これらの貧しい労働者たちに
よる不満の噴出なのです。ひとたびこれらの労働者による暴動が
起こると、政府としては抑え切れないからです。
 これまで、胡錦濤国家主席は、伸び続けるインフレで、過熱気
味の経済を抑制するためこの5年間引締め政策に主眼を置いてき
たのです。なぜなら、政府の定めたインフレ目標が4.8 %であ
るのに2008年6月の時点で7.1 %になっていたからです。
 しかし、オリンピック後に起こった米国発の金融危機に対処す
るため、経済政策を大幅に見直さざるを得なくなってきているの
です。しかし、下手にやるとインフレを発生させるし、バブルを
はじけさせてしまうことにもなります。
 そういう意味で現在中国経済はそのコントロールが非常に難し
くなっています。そして、この中国の変化に対して一番影響を受
けるのは日本なのです。  ――――[大恐慌後の世界/13]


≪画像および関連情報≫
 ●「上海総合指数」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  上海総合指数は中国の上海証券取引所が公表しているA株と
  B株の日中価格パフォーマンスを表すインデックスをいう。
  1990年12月19日を基準日とし、その日の時価総額を
  100として時価総額加重平均で算出される。本指数は、上
  海証券取引所の上場銘柄の値動きを示す代表的なインデック
  スである。              ――金融用語辞典
  ―――――――――――――――――――――――――――

胡錦濤国家主席.jpg
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2009年01月23日

●「中国は9%成長を維持できるか」(EJ第2496号)

 これまでの中国経済にとって輸出産業はいわば生命線ともいえ
るものです。GDPに占める輸出関連の比率は40%を超えてい
たのです。これは主要国ではドイツと並ぶ大きな比率です。
 日本だって同じではないかという人がいるでしょう。しかし、
日本はGDPに占める輸出額の割合――輸出依存度は16.3 %
(2007年度)であって、そんなに高くないのです。それに主
要7ヶ国の輸出依存度の平均は22%ですから、日本の輸出依存
度はむしろ低いといえます。
 それなら日本は大丈夫なのかというとけっしてそうではないの
です。なぜなら、その根拠は、中国がわが国の最大の貿易相手国
であるからです。したがって、もし、中国経済が崩壊すると、そ
の影響は今回のウォール街の崩壊の比ではないからです。
 中国が日本の最大の貿易相手国になったのは2004年からで
す。それまで日本の企業は続々と生産拠点を中国に移し、食料品
なども大量に購入するようになったのです。そして今や日本の食
のかなり多くの部分を中国製品が占めるまでになったのです。
 その間の中国の経済発展はすさまじく、バブル崩壊後の「失わ
れた15年」の只中にあった日本は低成長ながらも、中国経済の
急成長に助けられて不況を脱出し、戦後最長とされた好景気を続
けてきたのです。
 したがって、もし中国経済が減速すると、米国と中国の経済に
大きく依存している日本は他の国とは比較にならないほどのダブ
ルパンチを受けることになるのです。
 最新のデータによって中国経済の現況を分析してみることにし
ましょう。中国は「世界の工場」といわれていますが、中国経済
の要ともいうべき工業生産が大きく落ち込んでいるのです。
 昨年の12月15日に発表された中国の11月の工業生産は、
前年同月比で5.4 %増となっています。これは統計開始以来の
もっとも低い伸び率になったのです。
 ちなみに、2007年12月は17.3 %増であったのです。
中国の工業生産の伸び率というと、かつては実質GDP成長率を
5〜6%上回るのは当たり前であったのですが、11月は実質ゼ
ロかマイナス成長だったのではないかといわれているのです。昨
年の上半期の工業生産の伸び率が10.4 %であったことを考え
ると、相当の急ブレーキがかかっているといえます。
 この11月の工業生産統計で、とくに落ち込み幅が目立ってい
るのは、次の3つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.粗 鋼 ・・・ 12.4 %
      2.自動車 ・・・ 15.9 %
      3.電 力 ・・・  9.6 %
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中で、注目すべきは粗鋼生産の落ち込み幅です。粗鋼とい
うのは、圧延、鍛造、鋳造という加工法でさまざまな形の鋼材と
なる鋼の総称ですが、国や企業、製鉄所単位の鉄鋼生産を示す代
表値となっています。そして、粗鋼生産の数値は、景気の変化を
典型的に反映しているのです。
 1995年頃まで粗鋼生産では日本が第1位だったのですが、
それ以降は中国に抜かれ、とくに2000年以降はグラフで示す
と、ほとんど直線で天井知らずで伸びていたのです。これについ
ては添付ファイルのグラフを参照してください。
 その粗鋼生産で中国は、2008年6月に過去最高の4694
万トンを記録して以来続落しているのです。これでわかるのは、
中国の不動産市場の停滞です。11月までの住宅販売累計は、次
の通りマイナスになっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ≪住宅販売累計≫
   面積ベース ・・・・・ 18.3 %のマイナス
   金額ベース ・・・・・ 19.8 %のマイナス
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の昨年上半期までの粗鋼生産の急速な伸びは、ビルの建設
ラッシュやマンションブームが背景にあったからですが、政府当
局による数次にわたるデベロッパー規制やインフレを抑え込むた
めの金融引き締め政策によってマンションブームなどは終焉を迎
え不動産市場は冷え込んできているのです。
 このように内需の急減に動揺した中国の製鉄会社は、余剰生産
力を輸出に振り向け、8月の鋼材輸出は過去最高の807万トン
を記録したものの、その後の世界的な需要減退を受けて、11月
には、295万トンに減少してしまうのです。
 輸出依存度の高い中国としては、輸出の落ち込みは深刻であり
それを打開するには13億人を超える国内市場を活性化し、内需
拡大をはかるしかないのです。そのため、胡錦濤体制はこれまで
採ってきた経済抑制路線を変更し、大規模な景気刺激策を導入す
ることにしたのです。
 それが中国政府が昨年11月に打ち出した総額4兆元(約57
兆円)の景気刺激策なのです。その4兆元の内訳は、次のように
なっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.交通インフラ、都市農村送電線 ・・ 1兆8000億元
 2.震災復興建設 ・・・・・・・・・・ 1兆0000億元
 3.農村での民生、インフラ ・・・・・   3700億元
 4.生態環境 ・・・・・・・・・・・・   3500億元
 5.低所得者向け住宅 ・・・・・・・・   2800億元
 6.自主イノベーション構造調整 ・・・   1600億元
 7.医療衛生、文化教育 ・・・・・・・    400億元
 ――――――――――――――――――――――――――――
                     4兆0000億元
                  ――国家発展改革委員会
―――――――――――――――――――――――――――――
             ――――[大恐慌後の世界/14]


≪画像および関連情報≫
 ●中国経済ジャーナリスト/柏木理佳のレポート
  ―――――――――――――――――――――――――――
  上海総合指数の下落はまだ始まったばかり」。現地の証券会
  社のアナリストたちは、中国株の今後の株価を、そう予想し
  ている。そもそも上海総合指数は2006年まで1000ポ
  イント台を推移していた。ところが2005年に、会社法、
  証券法などが改正されてからはいっきに6000ポイントま
  で上昇。銘柄によっては1年で4倍以上に資産が膨らんだ。
  株式市場を活性化させるための会社法、証券法政策は成功し
  たといえる。
        http://diamond.jp/series/china_rika/10007/
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典
  http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5500.html

粗鋼生産量の長期推移.jpg


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2009年01月26日

●「オバマ政権とヒラリー疑惑」(EJ第2497号)

 1月23日の新聞に、中国の国内総生産(GDP)の実質成長
率が、2008年10〜12月に前年同期比6.8 %まで落ち込
んだというニュースが伝えられています。
 中国は4兆元を超える内需拡大策を実施して、2009年度通
年で8〜9%を目指す計画ですが、果たしてその目標は達成でき
るのか、いきなり出鼻をくじかれたかたちになっています。なに
しろ、成長率1%で約100万人の新規雇用創出が可能と考えて
おり、毎年1000万人を超える新規労働力が生まれる中国だけ
に、年間8〜9%の経済成長は不可欠なのです。
 ところで、米国ではオバマ政権が誕生し、ヒラリー・クリント
ン氏が国務長官に就任しています。これによって、今後の日米同
盟がどうなるのか、かねてからいわれているように、米中が一層
接近する可能性は高いのかどうか日本にとっては気がかりです。
 毎年10月に北京では共産党大会が開かれることはよく知られ
ていますが、その直前に欧米の企業が20社ほど集まって、中国
各地の治安責任者約500名を招いて懇親パーティーを開いてい
ることは知られていないと思います。その欧米の企業のほとんど
はヘッジファンドであるといわれていますが、そのパーティーは
大変豪華で派手なものであるそうです。浜田和幸氏の本にそのパ
ーティーに出席した中国人の感想が出ていますので、ご紹介する
ことにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中央でも地方でも権限を持つ役人を接待する欧米のヘッジファ
 ンドが主催するイベントは毎年派手になる一方だ。毎回、豪華
 な料理に酒や踊りがつきもの。まるで身内の結婚式のような感
 じだ。一度味わうと病みつきになる。―浜田和幸著/光文社刊
    『「大恐慌」以後の世界/多極化かアメリカの復活か』
―――――――――――――――――――――――――――――
 もともと米民主党と中国の関係は深いのです。とくにヒラリー
・クリントン国務長官と中国の関係は一層深く、このことから米
国が中国寄りになるのは避けられないと思います。
 いま米国を中心に話題になっているのは、ヒラリー・クリント
ン氏が昨年の大統領選の最中に中国(政府?)から献金を受けて
いたのではないかという疑惑なのです。
 これについては『正論』の2008年1月号に掲載された古森
義久氏のレポートをご覧ください。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそもチャイナタウンの住民の平均所得は2000年の国勢
 調査では年間2万1千ドルだった。いまの通貨レートでも、約
 230万円という低所得である。その住民全体の45%が「貧
 困層」とみなされた。政治家に寄付をするゆとりはほとんどな
 いはずなのだ。その状況を証明するように、2004年の大統
 領選挙では、全期間を通じて、ニューヨークのチャイナタウン
 の住民たちから民主党候補のジョン・ケリー上院議員に寄付さ
 れた資金は総額2万4千ドルにすぎなかった。ところが今回の
 大統領選では今年4月に同じチャイナタウンの一住民が一括し
 て集めた募金だけでも、ヒラリー女史あてになんと38万ドル
 の献金がなされた。チャイナタウンの住民はそもそも中国から
 アメリカにきたばかりで、アメリカ国籍も永住権もない人たち
 が大多数である。どの角度からみても、いまこの中華街からヒ
 ラリー女史に集中して多額の献金が流れ込むという状況は奇々
 怪々、不可思議なのである。        ――古森義久氏
 http://www.sankei.co.jp/seiron/wnews/0712/ronbun3-1.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 次のような事実があります。チャイナタウン関連の中国系献金
者150人中50人以上が届け出た住所などの記載が間違ってい
るか、虚偽であり、大多数は選挙権がなかったのです。
 また、チャイナタウン内部に居住する中国系献金者74人に対
して連絡を取ろうとしたが、とれたのは24人だけであったとい
うことです。そのほとんどは福建省出身であり、同省出身者の協
会組織からの指示で献金したといっているのです。
 ちなみに、米国の選挙法では、大統領選などの連邦レベルの選
挙では、個人が一候補に献金できる上限は2300ドル、献金で
きる資格は、米国の国籍、あるいは永住権の保持となっており、
他人の名前を使っての献金は違法なのです。
 それだけではないのです。中国系ビジネスマンであるノーマン
・シュー(徐)という人物が、ヒラリー・クリントン女史を筆頭
として多くの民主党の政治家たちに多額の献金をしている事実が
発覚したのです。その数は、実に40人に達するのです。その中
には、今回副大統領に就任したジョー・バイデン氏の名前も入っ
ているのです。
 もちろんこうした献金者のバックに中国政府がいるという確証
は何もないのです。しかし、これはどう考えても異常であり、き
わめて疑惑につつまれています。ヒラリー・クリントン氏に大統
領になってもらうと、米国国内の中国系住民の立場が有利になる
ということなのでしょうか、それとも、中国にとって、ヒラリー
氏が大統領になると、好ましい状況が生まれるのでしょうか。
 古森氏は、これがいかに異常なことであるのかについて、次の
たとえを使って説明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本での場合を想定してみれば、その異常さがわかる。日本に
 滞在する中国人たちが違法滞在者まで含めて多数が一丸となっ
 て、たとえば民主党の小沢一郎代表に政治献金を贈る。献金し
 た人の届け出住所を調べたら、そんな人間は住んでいない。住
 所さえも架空だった。しかもその献金は個人の資金ではなく、
 中国系の大きな組織から出されていた−−。こんな状態を想像
 すればよいのだ。いかに奇怪な現象がいまのアメリカの選挙に
 起きているかがわかるだろう。       ――古森義久氏
―――――――――――――――――――――――――――――
             ――――[大恐慌後の世界/15]


≪画像および関連情報≫
 ●古森義久氏によるオバマ新政権レポート
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米国の第44代大統領に1月20日、バラク・フセイン・オ
  バマ氏が就任する。米国の長い歴史でも初めての黒人大統領
  である。そのオバマ新大統領が当面まず最大の精力を傾けて
  対処にあたらねばならない主要課題の一つは米国の金融危機
  から発した経済大不況である。昨年9月に一気に爆発した金
  融危機は米国の金融システムや世界経済の根本のあり方にま
  で疑問を突きつけ、オバマ新政権にとっても資本主義や市場
  経済の根幹をも再考する作業までをも迫る形となってきた。
  オバマ新政権とともに新たな活動を始める米国連邦議会にと
  っても、この作業は切迫した課題である。
        http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/92/
  ―――――――――――――――――――――――――――

ヒラリー・クリントン氏.jpg
ヒラリー・クリントン氏
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2009年01月27日

●「赤いハゲタカ中国CICの戦略」(EJ第2498号)

 2007年5月のことです。中国は中国投資有限責任公司――
CICを設立したのです。シンガポールの政府系ファンド「テマ
セック・ホールディングス」がモデルであるといわれています。
 テマセック・ホールディングスは、1974年に設立されたシ
ンガポール政府傘下の運用会社です。元々は、電力・通信・航空
などの政府系企業の管理会社として、全額政府出資で設立された
会社なのです。その後、シンガポール航空などを国際的な企業に
育て、傘下企業の上場で得た株式の売却益などを元手に、現在で
は高いリターンを戦略的に追求する投資活動を国内外で展開して
おります。
 CICは、中国政府が溜めこんだ膨大な外貨を元手にして、海
外の石油や食料資源などのコモディティへ投資することが目的で
設立されたのです。
 しかし、中国のファンド・マネージャーは経験が不足しており
中国政府としては、米国のヘッジファンドや金融機関に資金を提
供し、利益を確保するとともに、あわせて投資のノウハウを学ぶ
という計画であったのです。
 そして、CICが最初に行った大型投資は、米国の最大手投資
ファンドであるブラック・ストーンへの30億ドルの投資です。
続いてCICは、2007年12月にあのモルガン・スタンレー
へ50億ドルの出資をするのです。
 ちょうどその一か月前の2007年11月に世界最大の金融機
関シティグループに対して、アブダビ投資庁が75億ドルの資金
注入をしているので、「米国は買占められている」という声が出
たのも当然だったのです。その頃から世界の金融市場に新規参入
する中国の国富ファンドCICは「赤いハゲタカ」と呼ばれるよ
うになったのです。
 このような国富ファンドのことを「SWF――ソブリン・ウエ
ルス・ファンド」というのですが、現在世界に40ほどのSWF
が設立されているのです。SWFは次の言葉の省略形です。
―――――――――――――――――――――――――――――
      SWF=Sovereigh Wealth Fund
―――――――――――――――――――――――――――――
 SWFの目的は国によってさまざまであり、とくに中国のCI
Cは特殊な目的を持っていると、稀代の投資家ジョージ・ソロス
氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 各国のSWFはみな独自の戦略を持っている。中東のファンド
 と中国ではまったく違う。シンガポールもロシアも政府系ファ
 ンドは見事に別物だ。同じ生き物と捉えると判断を誤る。たと
 えば、中国は西側の先端技術を取り込むことに主眼を置いてい
 る。ロシアの場合は自国のエネルギーを売りさばくインフラ整
 備に力点を置く。        ――浜田和幸著/光文社刊
    『「大恐慌」以後の世界/多極化かアメリカの復活か』
―――――――――――――――――――――――――――――
 CICは、米国の金融機関に次々と投資したのですが、ウォー
ル街の崩壊で大きな評価損を出すことになってしまっています。
ブラック・ストーンの時価総額は、2008年3月時点で50%
目減りしているし、モルガン・スタンレーについては投資銀行の
看板を下ろしており、CICの初期の投資としてはことごとく失
敗しているといえます。
 このようにCICが米国の金融機関への投資に失敗した場合は
中国マネーを吸い上げた金融機関を国有化してしまえば、それは
米国の戦略的勝利になるという声もあります。
 しかし、米国としては「赤いハゲタカ」と呼んで中国のCIC
に強い警戒心を持っており、米議会の圧力を受けて、ポールソン
財務長官はたびたび「人民元の切り上げ」を中国に対して要求し
ているのです。
 また、G7の経済・金融関係の会合では、中国をはじめとする
世界各国のSWFに対して、「透明性」を求める議論や提案が続
出しており、IMFに対してSWFを規制する圧力をかけること
を要求する動きが急になっています。
 しかし、中国政府は、この世界からの圧力に対して相当強く抵
抗しており、次のような声明を発しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これ以上の人民元切り上げ要求は承服しがたい。アメリカがそ
 のような要求を撤回しないのであれば、われわれは手持ちのド
 ルや国債を1兆ドル分放出する用意がある。  ――中国政府
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国に次ぐ外貨準備としてのドルを保有しながら、米国に何ひ
とついえない日本に比べて、中国の主張は堂々と国益に立って対
決姿勢を鮮明にしています。中国は戦わずして米国に勝つための
さまざまな戦略を用意しているといわれています。
 中国には「超限戦」というものがあるそうです。超限戦とは、
従来の軍事的な手段だけでなく、あらゆる手段を組み合わせた戦
争の形態のことをいうのです。もともと超限戦は、1999年に
中国空軍大佐の喬良/王湘穂の共著『超限戦』において提唱され
た戦争の形態についての概念なのです。
 これは米国に対する「金融ゲリラ戦略」というべきものであり
米国のドルの価値を意図的に下落させ、戦わずして米国を内部か
ら崩壊させるという戦略です。中国はドルを世界一保有しており
やろうと思えばできる戦略であるだけに、米国としても警戒を強
めているのです。
 そういうこともあって、FRBは世界中に出まわっているドル
の総量であるM3を発表しないことを2006年3月に宣言して
いるのです。したがって、中国としては、CICに「透明化」を
求める前にFRBこそ透明化を行うべしといっているのです。中
国の主張にも一理はあります。
 それでは、米国はなぜM3を発表しないのでしょうか。明日の
EJで述べます。     ――――[大恐慌後の世界/16]


≪画像および関連情報≫
 ●アリコからクリコなのか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国資本がAIGグループの核である「アリコ」に出資する
  との記事が日経に出ている。日経の記事では、交渉中との段
  階で最大出資は過半数に満たない49%となるようだ。AI
  Gのアリコは、当初から一括売却を前提に買収先探しをして
  いたが、そんなに規模のでかい投資をできるのは新興国のS
  WFだけだったとみえる。日本のセイホは、AIGスター生
  命やAIGエジソン生命の国内資本への「奪還」をめざすの
  だろう。
             http://amesei.exblog.jp/8953128/
  ―――――――――――――――――――――――――――

浜田和幸氏の本.jpg
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2009年01月28日

●「なぜFRBはM3の公表をやめたか」(EJ第2499号)

 米オバマ政権と中国とのバトルが早速起こっています。ガイト
ナー次期米財務長官の次の発言に対して、中国が激しく反発をし
ているというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  オバマ大統領は、中国が自国通貨を操作していると信じ
  ている         ――ガイトナー次期財務長官
        ――2008.1.25付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 かつてのクリントン政権のときは、日本が米国債を一番多く保
有していた関係から、日本が米国の直接のカウンターパートであ
るため米国から激しく叩かれたものですが、現在では米国債の最
大保有国は中国であり、早速中国とのバトルがはじまったという
わけです。
 もちろんこれに中国は「こうした発言は事実に合わない」とし
て激しく反発し、中国国内では今回の金融危機対応で米国債の値
下がりリスクは高まっているとして、その保有額を減らすべきで
あるという声が高まっているといわれます。
 しかし、ガイトナー次期財務長官――といってもこのEJが配
信される28日時点ではガイトナー氏は米上院本会議で財務長官
になっているはずですが、中国経済のさらなる減速は世界経済に
大きな影響を及ぼすとして、米中は協調して内需拡大に取り組む
必要があるとも述べているのです。
 もともとの中国の不満は、FRBが2006年3月からマネー
サプライの指標の一つである「M3」の発表をやめたことにある
のです。この間の事情についてお話しすることにします。
 マネーサプライとは何でしょうか。
 簡単にいうと、マネーサプライとは世の中に出回っているお金
の流通量のことです。その指標として、M1、M2、M3がある
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  M1 ・・・ 現金+要求払い預金(普通預金など)
  M2 ・・・ M1+10万ドル未満の定期預金+個人所有
         の投資信託など
  M3 ・・・ M2+10万ドル未満の定期預金+機関投資
         家の保有する投資信託など
―――――――――――――――――――――――――――――
 この分類によると、M1とM2は、米国国内に暮らす普通の米
国人の持っているお金の量をあらわしており、M3は金融資本家
を筆頭にした投機的マネーを含めてカウントしており、投資する
機関にとっては絶対に開示してもらうべき数値なのです。
 ところが、FRBのバーナンキ議長は就任直後の2006年3
月に次のように述べてM3の発表を中止してしまったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 理事会では、M3の集計を中止しても、FRBの金融政策立案
 にとって有益な情報が奪われることにはならないとの判断を下
 した。             ――バーナンキFRB議長
―――――――――――――――――――――――――――――
 この措置は、2001年以降に激しく増え続けているドルの供
給量を隠したいという意図が感じられるのです。もし、それが表
沙汰にされると、ドルの価値が急落することを恐れているものと
思われます。
 フリージャーナリストのベンジャミン・フルフォード氏は、こ
のことに関して次のように自著で述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそも連邦準備制度とFRBという仕組みによって、金融資
 本家の都合次第で、いくらでも紙幣の流通量を調整できる。ブ
 ラックマンデーや通貨危機、ITバブルの崩壊、サブプライム
 ローン問題き、金融資本家が儲けに走りすぎ、市場の信用その
 ものが崩れかけた時、連邦準備制度とFRBはドルの大量供給
 で彼らの失敗の尻拭いをしてきた。しかし、それは世界経済を
 支える意味で正当だと思われるギリギリの線を越えてはいなか
った。          ――ベンジャミン・フルフォード著
   『アメリカが隠し続ける金融危機の真実』/青春出版社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 北京オリンピックが終わると、中国の実体経済は急速に減速し
ています。しかし、それ以後も中国の投資意欲はとどまるところ
を知らない様相を呈しているのです。まさに中国は、世界中の金
融機関に投資しているのです。
 2008年9月には、中国銀行はフランスで投資銀行ロスチャ
イルド・グループ傘下のエドモンド・ロスチャイルド銀行の株式
の20%を2億3630万ユーロで買収する契約を結び、さらに
モルガン・スタンレーが株式の49%をCICに売却するという
情報が出ているのです。
 また、中国工商銀行は、南アフリカのスタンダード銀行に56
億ドルを投資し、インドネシア、香港、マカオでも相次いで銀行
を買収しているのです。
 どうやら中国は、今回の金融危機を人民元の国際化のチャンス
ととらえているフシがあり、オリンピック以降も、こうした一見
すると無謀に見える投資事業を続けています。何とかして、この
機会に米国を追い抜いて、金融において世界覇権を狙っているよ
うなところがあるのです。
 しかし、中国の現状は、そんなことができる状況ではなくなり
つつあるのです。ついこの間でまで、「世界の工場」と称された
工場が激減しているからです。広東省では、2007年に200
0あった工場が2008年になると1000以下に減少しており
労働集約型産業の生産性は大幅にダウンしているのです。
 労働賃金はアップして輸出は減少し、中国の韓国企業や台湾企
業も逃げ出しつつあり、日本企業も生産拠点を中国からベトナム
やカンボジアに移しつつあります。これは中国にとって大ダメー
ジになります。      ――――[大恐慌後の世界/17]


≪画像および関連情報≫
 ●マネーサプライについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  マネーサプライは物価や名目GDPあるいは実質GDPなど
  の経済活動に関係があり、マネーサプライが多いとインフレ
  が進行しやすい。このため、中央銀行はマネーサプライを金
  融政策を実施する際の指標として利用している。日本銀行は
  マネーサプライを金融政策の目標や金融調節の操作対象とし
  ていないが、マクロの金融情勢を表わす代表的な指標の一つ
  として金融政策の判断材料に利用している。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ティモシー・ガイトナー財務長官.jpg
ティモシー・ガイトナー財務長官
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2009年01月29日

●「金融危機に動じないインドの強さ」(EJ第2500号)

 今回の金融危機は、BRICsの一つであるインドにはどのよ
うな影響を与えているのでしょうか。中国に続いて、インドにつ
いて考えてみることにします。
 インドはこの4年ほどそのGDPの成長率は9%近くを記録し
てきています。これは中国に次ぐ高い成長率です。インドの強み
は何かというと、次の3つにあると考えられます。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.高い投資率
          2.高い貯蓄率
          3.人口の構造
―――――――――――――――――――――――――――――
 インド企業の利益の源泉は「内需」なのです。その中心は国内
インフラに対する投資意欲で、それはGDPの実に37%にも達
しています。それを支えているのは、GDPの35%に及ぶ貯蓄
率なのです。これが上記の1と2です。
 もうひとつインドの強みとして上げられるのは、人口の構造が
将来有望であることです。なぜなら、人口の65%が25歳以下
であることです。驚くべき若さであり、この若い世代が将来高度
な教育を受けて国を支えるとともに、消費者としても将来有望な
のです。既に現時点でも、高度成長期の日本のように「三種の神
器」をはじめとする製品が好調に売れています。したがって、イ
ンドの将来はきわめて明るいといえます。
 金融面はどうでしょうか。インドの銀行は、次の2つの数値が
示すように健全なのです。ナラナヤン・バグールICICI銀行
会長はこの数値を踏まえて「インドの銀行は一行も破綻しない」
と胸をはっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.高い自己資本率
          2.低い不良債権率
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回の金融危機において、インドのIT業界は、ウォール街か
らのアウトソーシング先として発展を遂げてきたので、インドに
とっては米国発の金融危機は、計り知れないほど大きなダメージ
を受けたことは確かです。
 それに加えて、インド国内の賃金の上昇率や通貨ルピーが米ド
ルに対し、一年間で11%も切り上げられたことはインドにとっ
て逆風となっており、インドの国際競争力が現在厳しい局面を迎
えているのです。
 しかし、インド経済は今回の金融危機でも全体としては大きな
ダメージを受けていないのです。それは、インドの人は単にIT
に強いだけでなく、それを使って冷静に「鋭い先読み」ができる
国民だからです。
 インドの銀行はアジア通貨危機を経験しており、それを何とか
乗り越えた経験から、証券化商品をはじめとする複雑な金融商品
にはほとんど投資していないのです。数年前のことですが、不動
産価格が異常なほど高騰しているのを見たインド準備銀行は、国
内の銀行にこれらの商品を手仕舞いするよう勧告しており、なか
なか慎重なのです。
 不良債権比率は現在1%〜2%程度であり、問題はなく、外貨
準備高は対外債務の100%以上を維持しているので、心配な状
況にはないのです。
 また、インドの企業経営者もどうやら米国発の金融危機をかな
り早い段階で察知し、必要な対策を講じてきているフシがありま
す。なぜ、それがわかったかというと、インドのIT企業はウォ
ール街のシステムのかなり大きな部分を担っており、インド当局
はそれらに携わるインド人技術者からの情報を分析し、少しずつ
「ウォール街離れ」を行ってきたのです。
 しかし、インド人技術者の給与は米国人技術者の6分の1であ
り、人材の供給源としてきわめて魅力に溢れ、しかも高い技術力
があって、ウォール街のシステム全般を熟知しているのです。し
たがって、経営環境が厳しさを増すウォール街といえども、生き
残りのためにはインド人技術者に今後も頼らざるを得ないのが現
況なのです。
 そういう事情もあって、インドのソフトウェア会社の収益見通
しは、2008年度においても20%以上を確保するという状況
なのです。このようにIT部門は依然としてインドが比較優位を
保っているのです。
 このようにインドが比較優位を保つ企業はIT企業だけではな
いのです。アルセロール・ミッタルというインド企業をご存知で
しょうか。
 アルセロール・ミッタルは、世界最大の鉄鋼メーカーです。6
大陸に27の製鉄所を有し、従業員31万人、年間売上高は10
50億ドルというインド最大の企業です。
 それにインドを代表する財閥系のタタ・グループがあります。
傘下にタタ自動車を持ち、急成長をしています。タタ自動車は、
2008年3月に英国の老舗ブランド「ジャガー」と「ランドロ
ーバー」を買収し、フランスのルノーからスピンアウトした圧搾
空気で動く自動車「エアカー」のメーカーであるMIDIに資本
参加するなど積極的な経営を展開しており、現在東京証券取引所
の上場をもくろんでいます。
 米国発の金融危機で世界中が揺れているなか、2008年10
月22日、インドは月面探査ロケット「チャンドラヤーン1号」
の打ち上げに成功するなど、世界の経済的動揺を尻目に科学技術
の面でもその存在感を増しつつあるのです。
 そういうインドに対しては世界中から熱い視線が注がれていま
すが、日本もしかるべき手を打っています。現在インドは中国に
代わり、日本のODAの受け入れ国のナンバー・ワンになってい
ます。それにインドの弱点は農業であり、日本のきめ細かな農業
技術支援が役に立つはずです。世界が多極化に向かう中で、イン
ドの動向は注目です。   ――――[大恐慌後の世界/18]


≪画像および関連情報≫
 ●タタ自動車について/インド
  ―――――――――――――――――――――――――――
  タタ・モーターズ・リミテッドはインドの自動車製造企業。
  インドの財閥「タタ・グループ」のグループ企業の一つであ
  る。1945年に設立され、ムンバイに本社を置く。200
  4年にはニューヨーク証券取引所へADRを上場した。20
  06年の単体売上高は2060億2千万ルピー――約6千億
  円、2007年の単体売上高は72億ドル――約8千億円。
  2007年の時価総額は約9千億円。インド国内では商用車
  のシェアの60%を持っている乗用車分野への進出は後発な
  がらインド国内第2位のシェアを確保している。2004年
  には韓国で2番目に大きな大宇のトラック部門を買収してタ
  タタ大宇商用車を設立している。   ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ナノ/タタ自動車.jpg
ナノ/タタ自動車
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2009年01月30日

●「金融危機がロシアに与える影響」(EJ第2501号)

 昨日のインドに続き、やはりBRICsの一国であるロシアに
金融危機はどのような影響を与えているのでしょうか。
 昨年の暮れの12月24日のことです。メドベージェフ大統領
はテレビの生放送に出演し、2008年の総括を行ったのです。
この放送について、「IBTimes /インターナショナルビジネスタ
イムズ」は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 大統領は、ご多聞に漏れず、金融危機の原因として、アメリカ
 経済、並びに、グローバリゼーションを槍玉にあげた。また、
 インフレの抑制や経済の多様化という点では、政府の対策が及
 ばなかったことを認めた。しかし、メドベージェフ大統領は、
 ロシア経済にとって、金融危機の影響は、それほど深刻なもの
 にはならないとの見解を示した。
  http://jp.ibtimes.com/article/biznews/090108/26625.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、本当のところはどうなのでしょうか。
 ロシアは今回の金融危機でダブルショックを受けていると考え
られます。2つのショックというのは、いずれも米国発の金融危
機が原因で起こったものです。
 その一つは原油価格の下落です。これは金融危機が原因で原油
価格暴騰のひとつの要因になっていたヘッジファンドの手仕舞い
によって、起こったものです。そしてもう一つは米国発のリーマ
ン・ショックによる株式市場の下落です。とくに株式市場は、世
界のどこの市場よりも急激に下落し、一週間で50%もの資産が
吹っ飛んだのです。
 これは、欧米の投資家が金融危機によっていっせいに資金を引
き上げたのが原因であり、いかに資源に恵まれているロシア経済
であっても、欧米の経済・資本に強く依存しているということが
証明されたのです。
 メドベージェフ大統領は、金融危機の影響はそれほど深刻なも
のにはならないと平静を装っていますが、それはあくまで表向き
のことであり、その内情は厳しいものがあると考えられます。北
大名誉教授の木村汎氏は、現在のロシアの事情については次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシアは、世界規模の金融危機によって最大の被害国のひとつ
 となるかもしれない。その危機の原因は、他のどの国に比べて
 もより一層深刻だからである。   ――木村汎北大名誉教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油価格は、プーチン氏が大統領に就任した2000年には1
バレル/27ドルであったのですが、メドベージェフ氏が大統領
になった2008年には1バレル/147ドルになっていたので
す。プーチン政権下の8年間は、いわゆるプーチン戦略によって
原油価格は一貫して上がり続けたのです。
 とくに2007年以降の原油高騰では、なにしろ当時は原油が
1バレル当たり1ドル上昇するたびにロシアは17億ドル〜20
億ドルの余剰収入が入るほど潤ったのです。
 この原油価格暴騰によって、ロシアのGDPは世界第10位に
躍進し、国民一人当たりGDPは第52位、外貨準備高について
は、中国、日本に次いで5970億ドルの世界第3位にまで躍進
したのです。
 プーチン政権の時代から財務相を務め、エネルギー資源の供給
国の地位に甘んじている限り、ロシアは世界の一流工業国の仲間
入りはできないとの正論をプーチン前大統領に訴え続けているク
ドリン財務相は、2006年12月末の『プレーミヤ・ノーボス
チェイ』紙上で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 過去数年間、原油価格の上昇によってユーフォリア(陶酔感)
 が生まれた。しかし、このユーフォリアはロシアが8年前に苦
 しんだ恐ろしい危機「1998年の金融危機」に比べてさえ、
 より一層危険な現象なのである。       ――木村汎著
          『プーチンのエネルギー戦略』/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 まさしく2008年までのロシアは、クドリン財務相のいうと
ころの「ユーフォリア」――つまり、バブルに浸っていたといえ
るのです。そしてその状態が当たり前になり、それがいつまでも
続くと錯覚をしてしまっていたのです。
 このことは、ロシアの2008年度の国家予算が、1バレル/
70ドルの想定価格で組み立てられていることを見ても、ロシア
の現状がユーフォリアであることを忘れていると思います。昨年
はそれが1バレル/40ドル以下に急落しているからです。最悪
の予想では、1バレル/30ドルが想定されています。こうなる
と、国家予算は赤字に転落します。
 ナビウッリナ経済発展相は、プーチン政権の8年間で平均7%
で推移したGDP成長率は2.4 %まで下落し、インフレ率11
%、失業率は10%となると予測しています。
 クドリン財務相は、2009年度のロシアについて、次のよう
警告しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2009年は、世界同様にロシアにとっても、戦後最も困難か
 つ最悪の年になる。          ――クドリン財務相
―――――――――――――――――――――――――――――
 国有資源会社ガスプロムの株価は、2008年5月の最高値の
360ルーブルから10月には90ルーブルに下落しています。
加えて、ここ5年問右肩上がりだったルーブルも急落しているの
です。2009年1月上旬では「1ドル=32ルーブル」にまで
暴落していますが、これは1998年のデノミ実施以降の最安値
なのです。
 このように数値を見る限りロシア経済はけっして楽観できる状
況にはないのです。    ――――[大恐慌後の世界/19]


≪画像および関連情報≫
 ●クドリン副首相兼財務相について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  アレクセイ・レオニードヴィチ・クドリンは、ロシアの政治
  家。副首相兼財務大臣。プーチン政権では、彼の出身地であ
  るサンクトペテルブルクで共に働いた急進改革派の経済専門
  家が多数登用されているが、クドリンもその一人である。但
  し、プーチンよりもアナトリー・チュバイスの直系であると
  見なされる。2008年5月からのプーチン内閣でも副首相
  兼財務相に留任した。        ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

アレクセイ・クドリン財務相.jpg
アレクセイ・クドリン財務相
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2009年02月02日

●「ロシアとウクライナの経済事情」(EJ第2502号)

 このところ日本はロシアに振り回されている感があります。メ
ドベージェフ大統領から麻生太郎首相に首脳会談の誘いがあった
かと思うと、27日には境港市のカニかご船「第38吉丸」がロ
シア当局に拿捕され、それに続いて北方四島への人道支援のため
に国後島に上陸しようとした外務省職員らにロシア当局が「出入
国カード」の提出を要求したので日本側は引き返すなど、ロシア
が何を考えているのかわからなくなっているというのです。
 これはロシアの常套手段なのです。何か日本から協力を引き出
したいとき、普通であれば日本側への対応を緩和させるなど日本
の機嫌をとって交渉を有利に進めるものですが、ロシアはそれと
は逆のことをするのです。
 境港市のカニかご船の拿捕にみられるように、今まで見過ごし
てきたことを厳格に適用したり、急に原則論に戻って今までの対
応を変化させたりして、外交交渉を有利に進める――いわゆる力
の外交を展開するのです。これは今までロシアがとってきた外交
のやり方であり、それほど珍しいことではないのです。
 それでは、ロシアが日本に求めているものとは何でしょうか。
 それはたくさんあります。ロシアは産業多角化を進めようとし
ているのですが、そのために最も必要とする情報技術(IT)、
液化天然ガス(LNG)、高速鉄道、原発建設、省エネ、自動車
などの技術――すべて日本の協力が必要なのです。
 ロシアが日本に接近する背景として、ゲオルギー・クナーゼ元
外務次官は、2007年10月24日付の『コメルサント』紙に
対する談話で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシア指導部は、エネルギー超大国ではなく潜在的な製造業立
 国、科学技術情報の輸出国となることを目指している。が、対
 中輸出の3分の2は資源であり、対中輸出に占める機械・設備
 の割合は過去10年で25%から1%に減った。中国は、ロシ
 アの資源にしか関心がない。現在のロシアにとって、日本から
 得られるものの方が多い。―木村汎・名越健郎・布施裕之共著
 『「新冷戦」の序曲か――メドベージェフ・プーチン双頭政権
                の軍事戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、昨年暮れのことですが、ロシアはウクライナとの価
格交渉が決裂し、前にもやったように1月1日からパイプライン
への天然ガスの供給をストップさせたのです。
 実はロシアはウクライナに対し、2006年の1月1日に同じ
ように天然ガスの供給を止めているのです。これは、2008年
3月のEJのテーマ「石油危機を読む」でも取り上げています。
ロシアとウクライナの問題は、第2314号〜2316号の3回
にわたって解説しています。URLを示しておきますので、興味
があればご参照ください。
―――――――――――――――――――――――――――――
http://electronic-journal.seesaa.net/article/94610131.html
http://electronic-journal.seesaa.net/article/94936247.html
http://electronic-journal.seesaa.net/article/95148624.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、天然ガスの供給をめぐるロシアとウクライナの紛争
は、2006年1月から続いているのです。しかし、今回は原油
価格が暴落したことによって、今までとは少し事情が異なるので
す。それは経済にからむ問題です。政治的問題とは別に、ロシア
とウクライナ両国の台所事情が苦しいということです。
 まず、ウクライナは、ロシアに対し、多額の債務を抱えている
という事情があります。ウクライナは、21億1800万ドルも
ガス代を滞納しているのです。そのため、ロシアは2008年の
暮れにその滞納を一掃しない限り、天然ガス供給の新契約の締結
には応じないとウクライナに通告したのです。
 ロシアは、1999年からの10年間は年平均7%の経済成長
を遂げてきたのです。そして、サブプライム問題が顕在化した後
も経済の好調さを維持してきたのです。しかし、それは歴史的と
もいうべき原油高に支えられた経済の好調さであったのです。
 ところが、2008年7月には「1バレル=147ドル」を付
けた原価価格が12月末には4分の1以下の32ドルまで大暴落
してしまったのです。これが、GDPの40%、輸出の60%を
石油・ガスで稼ぐロシア経済に大打撃を与えたのです。
 これに慌てたロシア中央銀行は、株とルーブルを買い支えるた
めに、9月〜12月期に575億ドルを投入したのです。加えて
金融機関救済には140億ドルを注入しています。
 しかし、ロシアの外貨準備は、8月の6000億ドルから1月
には4754億ドルに減少したのです。ロシア首脳は、原油価格
引き上げのためにメッセージを次のように連発しますが、原油価
格は一向に反応しなかったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  「OPECと協調し、原油の減産に踏み切る用意がある」
     ――2008.12.11/メドベージェフ大統領
  「安いガスの時代は終わった」  /ガス輸出フォーラム
         ――2008.12.23/プーチン首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 12月21日に「外車の輸入関税引き上げ反対」を口実にして
はじまった連邦政府への抗議デモは、極東から東西シベリア、そ
してモスクワにまで拡大したのです。
 ウクライナはもっと悲惨なのです。金融危機でウクライナの工
業生産は急速に落ち込んでいます。通貨グリブナの価値は、20
08年9月から現在までで半減し、IMFは170億ドルの緊急
支援を決めたのです。この事態はウクライナの経済が既に破綻し
ていることを示しています。
 借金を回収したいロシアと返すカネのないウクライナ――ウク
ライナがガス代を滞納したのは、こういう事情に基づくものなの
です。          ――――[大恐慌後の世界/20]


≪画像および関連情報≫
 ●ウクライナの政治事情について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  (ウクライナの)ユーシェンコ大統領は今月20日、ティモ
  シェンコ首相がロシアのプーチン首相との交渉でまとめたガ
  ス合意(19日)について、ウクライナ向けガス価格が値上
  げされる一方、自国に支払われるパイプライン使用料が据え
  置かれた点を取り上げ「ウクライナの敗北」と批判した。ま
  た大統領側は、外国企業の参加が禁止されているパイプライ
  ン事業にティモシェンコ首相がロシア企業の参入を「密約」
  したと指摘。30日に安保防衛会議を開き、合意内容の見直
  しを求める方針だ。            ――毎日JP
  http://mainichi.jp/select/world/news/20090129ddm007030022000c.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/「週刊ダイヤモンド」2009年1月/31号

原油価格暴落とガスプロムの株価.jpg
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2009年02月03日

●「新冷戦か/ロシアのグルジア侵攻」(EJ第2503号)

 最近書店では、「第3次世界大戦」という物騒なタイトルをつ
けている新刊書が目につきます。一体世界では何が起こっている
のでしょうか。
 われわれは現在金融危機に目を奪われていますが、これとほぼ
並行してもうひとつの大きな危機が進行中なのです。その危機と
は、ロシアの軍拡による世界の安全保障問題です。
 今回の金融危機が表面化する前から「新冷戦」という言葉がさ
かんにいわれるようになってきています。これは、資源国として
のロシアが「強いロシアの復活」というかたちで、米国の一極支
配への挑戦をはじめたことを意味しています。
 「新冷戦」が、はっきりと具体的なかたちを見せたのが、ロシ
ア軍のグルジア侵攻です。この戦争は単なる地域紛争ではなく、
情勢次第では今後深刻な事態に発展する恐れがあるといわれてい
るのです。そこには複雑な裏事情が存在します。
 戦争のきっかけは、2008年8月7日夜、グルジアの軍隊が
自国領ではあるものの半独立状態で中央政府に敵対してきた南オ
セチア州の州都ツヒンバリに侵攻し、ロケット攻撃などで市街を
破壊したことがそれです。
 ところが、その南オセチアには、OSCE(欧州安全保障協力
機構)の協定に基づき、ロシア軍が「平和維持軍」として駐屯し
ていたのです。グルジア軍はこのロシア軍にも攻撃し、15人の
ロシア兵が戦死しているのです。
 南オセチア州は、埼玉県ほどの広さであり、人口は約7万人、
人口の3分の2はオセチア人、4分の1はグルジア人です。南オ
セチアはロシアと国境を接しており、ロシア側には北オセチア共
和国があるのです。南オセチアの人々はかねがね北オセチアとの
統合を希望し、ソ連崩壊直後にグルジアからの独立戦争を起こし
たのです。しかし、成功せず、決着がつかないまま、長期紛争と
なって現在にいたっています。南オセチアがグルジア国内にあり
ながら半独立状態にあるのはこうしたいきさつからです。
 問題は、グルジア側が南オセチア侵攻の日として選定した20
08年8月7日というタイミングです。単なる偶然であるとは思
えないのです。この日は北京オリンピックの前日に当たり、プー
チン首相は北京に行っており、メドベージェフ大統領はボルガの
川下りの船中で夏季休暇中であって、ロシアの2人の権力者がク
レムリンにいなかった日なのです。グルジア側にすれば、そうい
う時期に侵攻すれば、ロシア軍の対応判断が遅れると予測したも
のと思われます。
 しかし、グルジア軍が南オセチアに侵攻するや、まるでそれを
待っていたかのようにロシア軍が越境進軍して、グルジア軍を退
散させたのです。これについて、副島隆彦氏は、佐藤優氏との対
談で、次のように興味あることを述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 副島:私は8月8日(日本時間)のグルジア軍の南オセチアヘ
 の軍事侵攻を知り、そしてすぐあとに、怒涛のごとく北から山
 を越え進軍してきたロシアの戦車軍団によって、グルジア軍が
 撃退されたことをニューズで知りました。インターネットの画
 像にロシアの戦車隊の姿がすぐに現われました。この日の朝は
 北京オリンピックの開会式でした。私はニューズ番組で、チラ
 リと北京の例のスタジアム(鳥の巣)の貴賓席で、ブッシュ大
 統領に向かってプーチン首相が激しい剣幕で、いかにも「オレ
 は許さないからな」と言っているような口論のシーンを見まし
 た。これは、グルジア軍による南オセチアへの進攻に対して、
 ロシアが即座に反応したことを表わしていた。
 ――副島隆彦×佐藤 優著『暴走する国家/恐慌化する世界』
                       日本文芸社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシア軍のグルジアへの越境進軍の指示を誰が出したのかにつ
いては予測するしかないのですが、プーチン首相が北京からロシ
ア軍に反攻の指示を出したと考えられます。
 北京の鳥の巣での米ブッシュ大統領とプーチン首相の話してい
るシーンは私もテレビで見ましたが、実際にそのときそのことを
話したかどうかは別にして、プーチン首相としては米国がどう出
るかをいろいろ探ったことは間違いないと思いまいす。しかし、
退任間近のブッシュ大統領の消極姿勢を見抜いたプーチン首相は
自信を持って進軍指令を軍に出し、直ちに北京を離れて、前線の
南オセチアに飛んで、軍の指揮をとったものと思われます。
 それでは、どうしてこのグルジアの戦いが、ロシアと米国の戦
いになるのかです。これについてはいろいろな事情があるので、
少していねいに説明することにします。
 国際ジャーナリストの田中宇(さかい)氏によると、グルジア
が侵攻したタイミングは米大統領選に関係があるというのです。
2008年8月7日が選ばれたのは、翌日から米大統領選挙戦で
優勢な民主党オバマ候補(当時)が、夏期休暇で故郷のハワイに
戻って選挙運動を一週間休んだ時期に当たるのです。
 そこでブッシュ政権が、その間に共和党マケイン候補を挽回さ
せるため、グルジアのサーカシビリ大統領を焚きつけて、南オセ
チアを侵攻させたという推測なのです。そうすると、必ずロシア
が出てきて戦争になることは必至であったからです。
 グルジアのサーカシビリ政権と米国のネオコンとは関係が深い
のです。米国はグルジアに130人の米軍顧問団を置いており、
武器も支援してきています。
 また、マケイン候補(当時)の首席外交顧問のランディ・シュ
ーネマンは、2008年3月に問題視されるまでの4年間、グル
ジア政府から合計90万ドルの資金をもらい、米政界でグルジア
のNATO加盟への根回しなどのロビー活動をしていたのです。
 したがって、ロシア側としてもグルジアの背後には米国が介在
していることは百も承知でグルジアに越境進軍しているのです。
しかし、ロシアの進軍の目的はあくまで「同胞救援」なのですが
事実上の米国との戦争なのです。――[大恐慌後の世界/21]


≪画像および関連情報≫
 ●ロシアがグルジア空爆/産経ニュースより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【モスクワ=遠藤良介】世界各国の首脳が集い北京五輪が開
  幕した8日、旧ソ連を構成したロシアとグルジアが、同国か
  ら独立しロシアへの編入を目指す南オセチア自治州をめぐり
  交戦状態に突入した。旧ソ連の崩壊後、両国が本格的な戦争
  状態に陥ったのは初めて。グルジアは8日未明、独立状態に
  ある南オセチアの再統合を目指し侵攻、激しい戦闘となり、
  双方に多数の死傷者が出た。これに対し、同自治州の後ろ盾
  となってきたロシアが報復攻撃を敢行。ロシア軍が、グルジ
  アの首都トビリシ近郊の軍基地を空爆したほか、戦車などか
  らなる地上増援部隊を同自治州に派遣し、双方の間で戦闘が
  行われた。両国による全面戦争への拡大が懸念される。
  ―――――――――――――――――――――――――――

南オセチアの地図.jpg
南オセチアの地図
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2009年02月04日

●「なぜロシアはグルジアに侵攻したか」(EJ第2504号)

 グルジア軍が南オセチアに攻め込んだとたん、あっという間に
ロシア軍が越境進軍して南オセチア州だけではなく、グルジアの
首都近くまで攻め込まれたことに対して、グルジアのサーカシビ
リ大統領は、ロシアはあらかじめ北オセチアに軍を集結させてお
き、進軍の機会を窺っていたといっています。
 これは本当のことなのでしょうか。
 これについて、米のジョージ・ソロス系のシンクタンクは、次
のように指摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシアは開戦4ヶ月前の4月から戦争を準備し、7月中旬には
 北オセチアなどで軍事訓練を行い、侵攻準備を整えてサーカシ
 ビリが陽動に引っかかって侵攻してくるのを待ち構えていた。
 だから、悪いのはロシアだ。         ――田中宇著
      『メディアが出さないほんとうの話』/PHP出版
―――――――――――――――――――――――――――――
 グルジア領内の南オセチア州がどのような立場に置かれていた
かということをよく知らない人にとっては、グルジア軍が南オセ
チアに攻撃を加えたのは「内政問題」であり、それを理由として
ロシア軍がグルジア領内に侵攻したのは明らかな「内政干渉」で
あると考えてしまいます。
 しかし、既に述べているように、南オセチアはグルジアからの
独立を求めて戦っている特殊な地域であり、そこには、グルジア
とロシアも参加して定めていた「停戦・平和維持協定」があった
のです。グルジア軍は、この協定を破って侵攻したことになり、
これはロシアではなくグルジアに非があるといえます。
 それでは、現在ロシア軍は何をしているのでしょうか。
 その前に、グルジアについてもうひとつ知っておくべきことが
あります。それは、グルジアには南オセチアのほかにもうひとつ
独立を求めて戦っている地域があることをです。それは、ロシア
と国境を接するアブハジア州なのです。
 南オセチアに侵攻したロシア軍は、南オセチアの州境に近いグ
ルジア本土側の都市ゴリ――スターリンの生まれ故郷――にも侵
攻し、ゴリ周辺のグルジア軍の設備を破壊するとともに、ロシア
に国境を接するアブハジア州にも進軍しているのです。
 このアブハジア州も南オセチアと同様に、「停戦・平和維持協
定」が制定されており、ロシア側は今回のアブハジア侵攻はその
協定に基づく処置であると主張しているのです。
 そして、現在ロシア軍は、南オセチアとグルジア本土、アブハ
ジアとグルジア本土に緩衝地帯を作る作業を行っているのです。
米欧はこの行為に対して批判を繰り返していますが、ロシア側は
あくまで停戦協定に従った行為であると反論しています。
 しかし、米国の批判は口だけであり、実際に軍事行動を起こし
たロシアは、事実上南オセチアとアブハジアを親ロシアとして取
り込むことに成功したといえます。
 今回のグルジア紛争で苦しい立場に追い込まれている国があり
ます。それは、イスラエルです。グルジアは、8〜9世紀にユダ
ヤ教のハザール国の影響圏であったことから、ユダヤ人が多い国
なのです。
 サーカシビリ政権の閣僚のうち、国防相と国家再統一相はユダ
ヤ人なのです。サーカシビリ大統領が米ネオコンと通じて米政界
に食い込んだこともあり、グルジアはイスラエルとの関係の深い
国であるといえます。
 イスラエルは直接的ではないもののグルジアに対し、グルジア
軍の特殊部隊の訓練を行ったり、無人偵察機などの諜報機器もグ
ルジアに売ってきたのです。したがって、何かことが起こったと
き――有事のときは、米国と一緒にイスラエルが軍事支援をして
くれると考えていたと思います。
 しかし、実際にグルジアが有事に陥っても、米軍もイスラエル
軍もグルジアを助けなかったのです。なかでもひどかったのは、
米国の対応です。なぜなら、実質的にロシア軍が越境進軍してく
る原因を作ったのはほかならぬ米国であるからです。
 2008年7月、ロシア軍がグルジア国境の近くで軍事訓練を
行ったとき、グルジアに駐留していた米軍顧問団はそれに対抗し
てグルジア軍と一緒に軍事訓練をやるなど、ことあるごとにロシ
アを挑発しているのです。
 それでいて、戦争が起こると、米軍もイスラエル軍も知らん顔
であり、サーカシビリ大統領が少し気の毒なような気がします。
米国にベッタリの日本にとってもこの戦争の顛末は他人事ではな
い気がします。
 ところで、グルジアに駐留し、グルジア軍に影響を与えていた
米軍顧問団の正体とは何でしょうか。
 既出の田中宇氏によると、この米軍顧問団は米海兵隊の特殊部
隊であるというのです。その軍顧問団はグルジア軍の南オセチア
侵攻については知らなかったと主張しているようですが、これは
とうてい考えられないことです。
 なぜなら、諜報や情勢分析に優れた能力を持っている米海兵隊
がそれを知らないはずはないのです。米国は、いずれロシアが越
境進軍してきて、グルジアとロシアは戦争し、そしてグルジアが
負けることも十分知っていたはずです。それでいて、米国はグル
ジアを救えなかったのです。やったことは、被災者への人道支援
だけだったのです。
 イスラエルがグルジアを助けなかったのは、ユダヤ人――とく
に金持ちユダヤ人の多くは親ロシアが多く、そういうユダヤ人の
支援で当選してきている多くのイスラエルの国会議員は、グルジ
ア支援に動けなかったのです。
 現在、多くのイスラエルの国会議員のグルジア戦争に対する意
見は「地政学的な紛争には首を突っ込むべきではない」というも
のです。しかし、グルジア紛争において米、イスラエルがとった
対応は、とくに欧州の親米の各国にとてつもない衝撃をもたらし
たのです。          ――[大恐慌後の世界/22]


≪画像および関連情報≫
 ●グルジア/アブハジアについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  アブハジアは、カフカースの一地域で、アブハジア自治共和
  国としてグルジアに属するが、事実上、独立状態にある。そ
  の独立は国際的には認知されていなかったが、2008年8
  月26日にロシア連邦が承認を発表した。それに続きヘラル
  ーシが支持、ニカラグアが承認を発表した。自治共和国の首
  都はスフミである。アブハジアはグルジアの最西端に位置し
  黒海北岸に面する。北のカフカス山脈をロシア連邦との国境
  とする。山がちな地域であり、居住地は黒海沿岸やいくつか
  の峡谷に限られている。気候は温暖で、ロシア帝国・ソビエ
  ト連邦時代にはガグラなどのリゾート都市が国内屈指の保養
  地として知られた。茶やタバコ、ワイン、果実などを産す。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

サーカシビリ大統領.jpg
サーカシビリ大統領
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2009年02月05日

●「逆キューバ危機の緊張が高まっている」(EJ第2505号)

 ロシアが米国に対して明確に敵対意識を持つ原因になったこと
の一つは、米国によるミサイル防衛計画(MD)網の欧州配備計
画です。これは、イランのミサイル攻撃を想定し、ポーランドと
チェコにその関連施設を建設するというものです。
 ポーランドとチェコの両首脳は基本的に受け入れを表明してい
ますが、ポーランドはロシアのグルジア侵攻までは最終決断を下
していなかったのです。ポーランドはEU内で最も反ロシア的な
国です。ちなみにチェコは既に2008年4月の時点で、米国と
合意に達していたのです。
 しかし、グルジアが無残にも米国に見捨てられたのを見て、急
遽ミサイル防衛協定を決断し、両国の交渉担当者が合意文書に署
名したのです。2008年8月14日のことです。
 今回ポーランドが基本合意したのは、米国が東ヨーロッパに展
開を模索しているMD計画の一環であり、チェコに統括レーダー
を設置、2012年までにはポーランドのバルト海沿岸に10基
の弾道弾迎撃ミサイルを配備し、ヨーロッパ全域と米国本土を、
イランなど西欧諸国に敵対しうる国の弾道ミサイルから防衛する
役割を果たす目的を持っています。
 これに対して当然のことながら、ロシアは猛反発したのです。
ロシアのメドベージェフ大統領は「このMD構想がロシアをも目
的としている」として反発の意を示し、また、ロシア軍のノゴビ
ツィン参謀次長も「許されざる事態」と警告を発したのです。
 プーチン首相は対抗措置として欧州通常戦力条約の凍結を表明
し、ロシア軍首脳も冷戦終結の象徴である中距離核廃棄条約から
の離脱の可能性を示唆したのです。暗に「核を使うぞ」と脅した
です。そして、ポーランド、チェコに対し、両国がロシアのミサ
イル標的になり得るとも警告しています。
 これは、逆の立場ですが、ケネディ政権のときの「キューバ危
機」によく似ていると思います。キューバにロシア製の防空ミサ
イルを配備して、キューバが何らかの攻撃を受けたときにはロシ
アが守るという条約を結んだのと同じことを意味しているからで
す。ロシアが危機感を抱くのも当然です。それだけ緊張が高まっ
ており、いつ何が起こっても不思議はないのです。
 しかし、ミサイル防衛――MDとはどれほどのものなのでしょ
うか。少し、ミサイルについて研究してみましょう。
 核を搭載したミサイルが発射されたとします。ミサイルは垂直
に上昇し、なるべく早く大気圏を離脱しようとします。なぜかと
いうと、重いものを運んでいるのですから、できるだけ空気抵抗
を避けて燃料を節約しようとするからです。
 大気圏外に出たミサイルは、重力ターンを行い、目標に対する
軌道修正をして、目標に向かって飛行をはじめます。ここから先
は大きな放物線を描いて目標に達するのです。
 重力ターンというのは、宇宙船などが惑星の引力(重力)を利
用して加速したり、方向転換する方法であり、惑星の引力による
物体の放物線運動を利用するのです。
 それでは、MD側はどうするのでしょうか。
 MD側は、ミサイルが重力ターンをした後で、レーダーで観測
して、軌道を計算します。どこに飛んでくるかわからないと、迎
撃しようがないからです。
 軌道を計算した未来位置に向けて、イージス艦からSM−3と
いう迎撃ミサイルを発射します。SM−3は、高度90キロメー
トルで弾頭のキルビークを切り離しますが、そこまではレーダー
で誘導されるのです。そして、キルビークがミサイルにぶつかり
迎撃は成功する――こういうことになるのですが、これが成功す
るのは、SM−3が発射された後もミサイルが軌道を変化させな
い場合だけです。
 SM−3が発射された後で、目標のミサイルが変則的な動きを
すると、レーダーでは追尾できなくなります。弾道計算が狂って
しまうからです。
 ロシアの最新型のミサイルに「トーポリM」というのがありま
す。これは発射されると、大気圏を出たり、入ったりして最終段
階には急激に軌道を変化させることができるのです。こうなると
MD側は軌道計算ができなくなってお手上げです。
 ロシアにはこのほかに、10個程度の核弾頭を積める重ICB
Mと呼ばれるミサイルがあります。これが意味していることは、
ロシアのミサイルは推力に十分余裕があるということです。
 推力に余裕があると、高度90キロメートル以下の低い弾道を
飛ばせて、超スピードで目標に達することができます。高度90
キロメートル以下を飛ばれると、MDは無力です。また、これを
発展させたものがロシアが自慢する超音速巡航ミサイルですが、
これにはMDはまったく歯が立たないのです。
 まだあります。核ミサイル側はきわめて少ないコストで、MD
を無力化できます。それは囮(おとり)――デコイ弾頭を使う方
法です。デコイはアルミ箔でできた風船のようなものです。大気
圏には空気も重力もないので、鳥の羽毛もアルミ箔も核弾頭と同
じ動きをします。しかも、レーダーは鳥の羽毛もアルミ箔も弾頭
と同じように見えます。
 そういうものをばら撒かれると、それに対していちいちSM−
3を何個も打ち上げなければならないのです。そんなことができ
るわけはありません。このように攻める側はいくらでも手がある
のですが、防御する側はお金がかかる割りに効率の良くない迎撃
しかできないことになります。
 このように考えると、MDで完全に核ミサイルを防ぐことは不
可能に近いことです。しかし、いくらロシアといえども核保有国
には核ミサイルを撃ち込めないでしょう。なぜなら、確実に核の
報復攻撃を受けるからです。
 日本は非武装で核を持たない――この精神は立派であり、守る
べきですが、万一日本が攻撃されたとき、米国は、本当に日本を
守ってくれるのでしょうか。グルジア戦争のときの米国を知ると
不安になります。       ――[大恐慌後の世界/23]


≪画像および関連情報≫
 ●SM/スタンダード・ミサイルについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  スタンダードミサイルは米国海軍が開発した艦隊防空用の艦
  対空である。開発には複数の企業が関わったが、現在の主契
  約社はレイセオン。スタンダード艦対空ミサイルは大きくS
  M−1、SM−2、SM−3の3つに分けられる。派生型と
  して対レーダーミサイルのスタンダードARMが存在する。
  また、空対空のシークバットや、艦対地ミサイルのSM−4
  なども開発されていたが、これらは開発中止されている。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

SM−3.jpg
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2009年02月06日

●「ロシアが嫌うNATOの東方拡大」(EJ第2506号)

 昨日述べたように、ロシアはMD網の欧州配備計画に反対して
いますが、本当のところロシアはそれに対してそんなに深刻には
考えていないと思います。ロシアの軍事能力から見てMDはそれ
ほど脅威ではないと思えるからです。
 それよりもロシアが気にしているのは、NATO――北太平洋
条約機構の拡大の方なのです。もともとNATOは、旧ソ連を盟
主とする東側陣営に対する西側陣営の集団防衛組織です。結成さ
れたのは1949年であり、次の西欧12ヶ国を原加盟国として
発足したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.アメリカ合衆国    7.ルクセンブルグ
    2.カナダ        8.アイスランド
    3.イギリス       9.ノルウェー
    4.フランス      10.デンマーク
    5.オランダ      11.イタリア
    6.ベルギー      12.ポルトガル
―――――――――――――――――――――――――――――
 1949年といえば、いわゆる米ソ冷戦が激化していたときで
す。前年にはソ連が西ベルリン(米国・英国・フランスの管理地
区)を封鎖し、西ベルリンを獲得しようとして米国とソ連が一触
即発の事態に陥る「ベルリン封鎖」が起こっています。
 このNATOに対抗してソ連も、1955年にワルシャワ条約
機構を作り、ヨーロッパで2つの防衛機構が対峙することになっ
たのです。
 冷戦が終了してワルシャワ条約機構は消滅したのです。という
より、消滅せざるを得なくなったのです。これに対してNATO
の方は、今日に至るまで存続しています。それどころかNATO
は加盟国を増やし、全ヨーロッパ的な集団防衛機構として発展し
てきています。
 ロシアが強く反発しているのは、NATOの拡大、とくに東方
への拡大なのです。これについて、北大名誉教授の木村汎氏は近
著で、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ソ連邦の事実上の後継国であるロシア連邦は、このようなNA
 TOの拡大、とりわけ東方への拡張傾向にたいして強く反発し
 ている。まず、ワルシャワ条約機構が解散したにもかかわらず
 NATOが解体しないのはフェアではない。また、NATOの
 ような軍事・安保組織が存在しつづけるのは、仮想敵の存在を
 前提しているにちがいない。そのような仮想または潜在的な敵
 の有力候補は、おそらくロシアだろう。さらに、NATOがか
 つてソ連の同盟国であった中・東欧、バルト3国、独立国家共
 同体(CIS)諸国に参加を「呼びかけ」、彼らを取り込もう
 としているのは、ソ連/現ロシアとこれらの諸国との歴史的な
 結びつきをないがしろにする挑戦行為にほかならない。
            ――木村汎・名越健郎・布施裕之共著
 『「新冷戦」の序曲か――メドベージェフ・プーチン双頭政権
                の軍事戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに冷戦終結以降かつての旧ソ連の勢力圏の国々がなだれを
打って、NATOに加盟しているのです。1999年の第1次拡
大から2008年の第3次拡大までにNATOに加盟した国を上
げると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   第1次東方拡大/1999年
    ・ポーランド、ハンガリー、チェコ
   第2次東方拡大/2004年
    ・スロバキア、ブルガリア、ルーマニア、スロベニア
   ・エストニア、ラトビア、リトアニア
   第3次東方拡大/2008年
    ・クロアチア、アルバニア
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに、ウクライナとグルジアもNATOに加盟を求めていま
すが、2008年4月の初めに開催されたブカレストでの首脳会
議では、加盟決定問題を先送りしています。
 グルジアについては、ロシアが軍事侵攻し、ロシアと国境を接
する南オセチアとアブハジアについては、親ロロシア独立に動く
ものと思われますが、ウクライナはどうなるのでしょうか。
 言語で分けると、ウクライナは西部にウクライナ語住民、東部
にロシア語住民が多く住んでいるいわば二重国家なのです。20
04年にそのウクライナ語住民が米国の支援を受けて行った「民
主化運動」によって、反ロシア的なユーシェンコ政権ができたの
です。この民主化運動のことを「オレンジ革命」というのです。
 なぜ、オレンジなのかというと、これには少しいきさつがある
のです。実は選挙結果は2回にわたって、ヤヌコヴィッチ氏が勝
利したのですが、後で不正が行われたことが判明したのです。
 そこで、ユーシェンコ陣営は大規模なデモを行い、やり直し選
挙となったのです。このやり直し選挙において、ユーシェンコ陣
営のシンボルがオレンジのリボンだったのです。そして、世界各
国からの1万2千人の選挙監視員の下で行われた第3回目の出直
し選挙で、ユーシェンコ氏が勝利を収めたのです。
 このオレンジ革命のちょうど一年前の2003年にグルジアで
は「バラ革命」が起こっているのです。やはり、選挙結果に不正
があるとして、当時のシュワルナゼ政権に対して野党が抗議行動
を起こしたのです。そして、11月22日、この日、正統ではな
いとみなされていた新議会が開会されたのですが、サーカシビリ
氏率いる野党支持者は手にバラを持って議会ビルを占拠し、シェ
ワルナゼ政権を倒して、サーカシビリ氏が大統領になるのです。
この経緯からこの事件は「バラ革命」と呼ばれるようになるので
すが、次の年にウクライナで「オレンジ革命」が起こって、ユー
シェンコ政権が誕生したのです。――[大恐慌後の世界/24]


≪画像および関連情報≫
 ●「色の革命」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  色の革命では、腐敗が蔓延し、あるいは独裁的である政権に
  立ち向かったさい、または民主主義や民族自決を求めたさい
  に、そのほとんどで非暴力的活動が行われ、これらの動きに
  おいてはその象徴として色や花が当てはめられた。色の革命
  では、非暴力抵抗を実行するという点において非政府組織や
  とくに学生運動が重要な役割を果たしたことが特筆される。
  これらの動きとして挙げられるのは、ユーゴスラヴィア、と
  くに2000年のセルビアにおけるブルドーザー革命や、2
  003年グルジアのバラ革命、2004年ウクライナのオレ
  ンジ、そして暴力が多く用いられたが、2005年キルギス
  のチューリップ革命がある。いずれも問題とされていた選挙
  の結果を受けて大群衆が街頭で抗議行動を実施し、反体制派
  から独裁者とされていたそれぞれの国の指導者の辞任や打倒
  につながった。           ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ビクトル・ユーシェンコ大統領.jpg
ビクトル・ユーシェンコ大統領

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2009年02月09日

●「ロシアの権力のトライアングル」(EJ第2507号)

 経済急縮――現在は米国発の金融危機によって、世界中の経済
がこういう状況になりつつありますが、ロシアについてはそれが
顕著なのです。
 2000年からの8年間、プーチン大統領は強気の国家運営を
進めてきたのです。まさにプーチン王国です。それができたのは
ロシアには過去8年間で、1兆3000億ドルの資源輸出の収入
があったからです。
 そして2008年以降は、メドベージェフ大統領プラスプーチ
ン首相の新体制で、ロシアは世界の勢力圏を塗り替えようとして
本格的に動き出しています。
 その矛先はグルジアだけではなく、ウクライナ、タジキスタン
キルギスタン、ウズベキスタン、モルドバ、アルメニア、ベラル
ーシなど、旧ソ連邦の国々に対し、経済援助や軍事力をバックに
した恫喝外交を展開しつつあったのです。
 旧ソ連邦の国々だけでなく、日本に対してもその矛先を向けつ
つあるのです。米国の力が衰え、日本の首相が相次いで職務を投
げ出していることにつけ込むように、1975年以来初めて、ロ
シアは、伊豆半島上空の領空侵犯や原子力潜水艦による領海侵犯
を繰り返すようになってきているのです。
 しかし、2008年10月から始まった原油の暴落によって、
ロシアには急激な経済急縮が起こったのです。原油暴騰を仕掛け
ていたヘッジファンド筋が株価急落による手元資金ショートのた
めに、いきなり原油市場から資金を引き揚げたことが原因です。
 それに追い打ちをかけたのが、ロシアによるグルジア侵攻なの
です。というのは、その直後から、欧米投資家がロシア投資を引
き揚げたからです。そのため、ごく短期間のうちに400億ドル
がモスクワ市場から消えたのです。その後襲ってきたのが、ウォ
ール街よりも激しい株価の暴落なのです。
 10月13日にRTS(モスクワ株式指標)は1日で19%も
下落し、15日にはさらに11%下落し、往時の3分の1となっ
てしまったのです。ロシア市場は一週間閉鎖したにもかかわらず
再開するとまたもや株式は急落したのです。このように、株式は
絶頂から80%前後の急落を繰り返したのです。
 しかし、ロシアは経済の急縮にもかかわらずこれまでの方針や
計画を変えるつもりはないようです。それどころか、海底地下資
源への思惑があるためか、アイスランドの銀行破綻に緊急資金援
助を発動し、54億ドルを支出するなど、経済的に見れば無謀で
あるが、政治的には西側の経済同盟の一角にクサビを打ち込むな
ど強気の姿勢を崩していないのです。
 ロシアは何を考えているのでしょうか。
 ロシア問題に詳しい佐藤優氏は、ロシアは2020年までに帝
国主義大国を目指すとして、プーチン首相の構想を次のように述
べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 専門家の間では常識とされているのですが、2007年の秋く
 らいまでウラジミール・プーチンは後継大統領に政治的に弱い
 人物を任命して、その人物に一期だけ大統領を務めてもらうこ
 とを考えていました。その後、2012年の大統領選挙にはプ
 ーチンが再出馬して、2期連続、即ち2020年まで大統領職
 に就くことを考えていました。プーチンが大統領に就任したの
 は2000年ですから「20年王朝」の構築を考えたのです。
 そして、プーチンは2020年にドミトリー・メドページェフ
 を後継大統領に据えることを考えていたのです。もっとも20
 07年12月の国家院(下院)選挙で、プーチン与党が圧勝し
 たので、メドページェフを大統捕順に据えることを前倒しした
 のです。             ――副島隆彦×佐藤優著
      『暴走する国家/恐慌化する世界』/日本文芸社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシアには「権力のトライアングル」といわれるものがありま
す。それは、ロシアの次の3つの役職です。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.    大統領職
          2.     首相職
          3.ガスプロム会長職
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウラジミール・プーチン氏が大統領のときは、ビクトル・ズブ
コフ氏は首相、ドミトリー・メドベージェフ氏はガスプロム会長
であったのです。プーチン氏は任期満了で大統領を降りると、メ
ドベージェフ氏が大統領、ズブコフ氏はガスプロム会長、そして
プーチン氏は首相になっています。これが現体制です。この権力
のトライアングルをぐるぐると回しているのです。
 ところで、ビクトル・ズブコフ氏というのは何者なのでしょう
か。ズブコフ氏は、プーチン政権内部で長年政権を支えてきた人
物ですが、その人物名はロシア国内でほとんど知られてこなかっ
たのです。そのため、情報は少ないのですが、ズブコフ氏を知る
関係者からは、同氏は誠実で勤勉な金融関係の専門家であると賞
賛されているそうです。
 佐藤優氏のいう「後継大統領に政治的に弱い人物」というのが
ズブコフ氏を指しているのは確かのようです。そうであるとする
と、ロシアは「プーチン・メドベージェフの二重王朝」といって
もいいと思います。あれほどの大国が、たったの2人の権力者に
よって動かされているというのは恐ろしいことです。
 今回のグルジア問題で誰の目にも明らかになったのは、米国の
衰えとEUの腰砕けです。グルジアのSOSに対して、ドイツも
フランスもイギリスもイタリアも、そして肝心の米国までも何も
できず、リップサービスでロシアに軍の撤退を呼び掛けただけな
のです。ロシアの圧倒的な軍事力とその決断の速さに恐れおのの
いたのです。EUは2008年9月1日の緊急理事会で「ロシア
への経済制裁は行わない」と宣言し、グルジア国民を大いに失望
させたのです。      ――――[大恐慌後の世界/25]


≪画像および関連情報≫
 ●ロシアはなぜアイスランドを支援するのか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ロシアは、現時点では、信じられないほどの低い金利で巨額
  の安定的貸出しを供与することで、小さな島国国家のアイス
  ランドに金融支援を行なうことに同意した。これはなんであ
  ろうか?無思慮な寛容なのか、あるいは、慧眼の政治的ステ
  ップなのであろうか?そして、40億ユーロ、これは資金と
  して巨額なのか少額なのか。
  http://jp.rian.ru/analytics/economics/20081014/117713800.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

プーチンとズブコフ.jpg
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2009年02月10日

●「ロシアがグルジアにこだわる理由」(EJ第2508号)

 グルジアの南オセチアとアブハジア、それにウクライナ――こ
れらの地域にロシアは非常にこだわりをみせています。どうして
なのでしょうか。ロシアの今後の動きを予測するために、これら
の地域について考えてみます。
 2008年4月にブカレストで開催されたNATO首脳会議で
ウクライナとグルジアのNATO加盟問題が協議されたのですが
結果は先送りとなっています。そのときの会議では、2008年
12月のNATO外相会談の席上で結論を出すべく米ブッシュ政
権としては、グルジアとウクライナの加盟を承認する線で動いて
いたのです。
 しかし、グルジア紛争が起こり、昨今の情勢や欧州各国の慎重
姿勢を反映して、12月のNATO外相会談でも両国の加盟国入
りをさらに先送りすることに決まったのです。
 これで、事実上グルジアとウクライナのNATO加盟は困難に
なったといえます。なぜなら、ロシアにとってグルジアとウクラ
イナは地政学的な重要性のある地域であるからです。
 グルジアから考えてみます。佐藤優氏によると、ロシアが何か
行動を起こしたとき、その意図を知る機関紙があるそうです。そ
の機関紙は「赤い星」というのです。
 グルジア戦争が勃発した2008年8月8日にクレムリンにお
いて開催された「緊急安全保障会議」の報告が8月9日の「赤い
星」に出ているのです。そこで、メドベージェフ大統領は次のよ
うにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 コーカサスにおける我が同胞の死に対して、我が国が懲罰なし
 に済ませると思ったら大きな間違いである。
                 ――メドベージェフ大統領
                  ――副島隆彦×佐藤優著
      『暴走する国家/恐慌化する世界』/日本文芸社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで注目すべきは「コーカサス」という言葉です。「コーカ
サス」は英語読みであり、ロシア語では「カフカース」というの
です。カフカースは、黒海とカスピ海に挟まれたカフカース山脈
と、それを取り囲む低地からなる面積約44万平方メートルの地
域のことをいうのです。
 カフカース山脈を南北の境界として、北カフカースと南カフカ
ース(ザカフカースという)に分かれ、北カフカースはロシア連
邦領の北カフカースに属す諸共和国、ザカフカースは旧ソ連から
独立した3共和国――アゼルバイジャン、アルメニア、グルジア
をさしているのです。
 したがって、メドベージェフ大統領のいう「コーカサスの我が
同胞」というのは、この地域全体をさしています。グルジアは当
然として、アゼルバイジャンやアルメニアについてもロシアの勢
力圏であるといっているのです。
 なぜ、ロシアはここでいうところのコーカサス――とくにグル
ジアにこだわるのでしょうか。
 それには、カスピ海から天然ガスを運ぶパイプラインについて
理解する必要があります。カスピ海は中央アジアにある陸地に囲
まれた塩湖です。かつては裏海とも呼ばれ、中国語では現在もそ
う呼ばれています。カスピ海には海への出口はないのです。
 ソ連邦が解体されるまでは、カスピ海はソ連とイランの2ヶ国
が接していたので、その権益は2国で話し合いをすればよかった
のです。とくに大きな問題はなかったのです。
 しかし、ソ連邦が崩壊してしまうと、カスピ海に接している国
は次の5ヶ国になるのです。添付ファイルには、沿岸5ヶ国によ
るカスピ海の分割図があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.ロシア
         2.アゼルバイジャン
         3.イラン
         4.カザフスタン
         5.トルクメニスタン
―――――――――――――――――――――――――――――
 カスピ海には海への出口がないので、カスピ海の石油や天然ガ
スを黒海まで運び、黒海のボスポラス海峡を通ってヨーロッパや
世界市場に運び出すしかないのです。
 そうなると、パイプラインをどの国を通って敷設するのかが問
題になります。ロシアとしては、カスピ海からグローズヌイ――
ロシア連邦のチェチェン共和国の首都――を経て黒海沿岸地域の
ノボロシースク港に至るパイプラインを有しているので、ロシア
産の原油だけでなく、カスピ海でとれるすべての原油がこのルー
トで運ばれるようカスピ海沿岸国に働きかけています。このパイ
プラインを「北ルート」というのです。
 これに対してアゼルバイジャンは、なるべくロシア領内の通過
を避けようとして、アゼルバイジャンのバクーから黒海沿岸地域
のグルジア領のスプサ港へ向かうパイプラインを敷設しているの
です。これを「西ルート」と呼ばんでいます。
 この「西ルート」は1999年に完成したのですが、ロシアを
除くカスピ海沿岸国はほとんどこのルートを使い、「北ルート」
は使われなくなってしまったのです。
 さて、このカスピ海を「海」とみるか、「湖」とみるかが重要
なのです。これについては、カスピ海沿岸5ヶ国で長く法的論争
を続けているのですが、いまだに結論が出ていないのです。
 ロシア、カザフスタン、アゼルバイジャン、トルクメニスタン
の4ヶ国はカスピ海を「海」とみなしており、海底資源が各国の
海岸線の長さにしたがって分配されるべきであると主張している
のです。これに対して海岸線の少ないイランだけは、カスピ海を
「湖」であるとみなし、地下資源は5ヶ国で均等に分割すべきで
あると主張しています。そして、この問題とパイプラインのルー
トが大問題なのです。   ――――[大恐慌後の世界/26]


≪画像および関連情報≫
 ●カスピ海は「海」か「湖」か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  カスピ海周辺国家間で10年に及ぶ領海確定協議が続いてい
  る。カスピ海を海ととらえるか湖ととらえるかで、主に3点
  が問題となる。つまり鉱物資源(石油・天然ガス)、漁業そ
  して国際水域としてのアクセス。とくに黒海やバルト海へ抜
  けるヴォルガ川とのリンクは内陸国であるアゼルバイジャン
  トルクメニスタン、カザフスタンにとって重要である。カス
  ピ海が海であれば外国船の通過を許す国際条約が有効となり
  湖であればその義務がなくなる。これには環境問題も関係す
  る。なお、カスピ海では旧ソ連時代の艦艇を引き継いだロシ
  アの軍事プレゼンスが最も高い。   ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/木村汎著『プーチンのエネルギー戦略』北星社刊

カスピ海と黒海を結ぶパイプライン.jpg
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2009年02月12日

●「BTCパイプライン建設の経緯と影響」(EJ第2509号)

 カスピ海からの原油は、北ルートにせよ、西ルートにせよ、い
ずれも黒海に達するのです。その後運ばれてきた原油はタンカー
で黒海を渡って、トルコのボスポラス海峡を通過して地中海に抜
けるのです。それよりほかに方法はないからです。
 ボスポラス海峡は、トルコのアジア部分とヨーロッパ部分を隔
てる海峡であり、黒海と地中海を結ぶ海上交流の要衝なのです。
しかし、この海峡には問題があるのです。狭いし、浅いのです。
そのため、トルコ当局は、事故防止という名目で交通を制限し、
1日当たり1タンカーの通行しか認めないのです。
 そのため、足止めを食うタンカーが続出しています。2004
年には30日間も待機させられたタンカーもあったそうです。そ
の場合、その分の費用が原油価格に上乗せされるので、原油価格
が高くなるというマイナスがあるのです。
 このボスポラス海峡のネックを解消するため、アゼルバイジャ
ンと欧米諸国がこの海峡を通らないプランを考え出したのです。
それは、アゼルバイジャンのバクー(B)からグルジアのトリビ
シ(T)を経て、トルコのジェイハン(C)に達するパイプライ
ンのことです。ジェイハンとは、トルコの地中海沿岸の港であり
トルコ語の頭文字は「C」なのです。
 このパイプライン――BTCパイプラインというのですが、こ
の構想は1992年に既に構想されていたのですが、敷設しても
採算が取れるかどうかが危惧されのです。るのです。なぜなら、
そのパイプラインの全長は1768キロメートルにおよび世界最
長になり、建設費が膨大になるからです。
 しかし、1999年に、アゼルバイジャン、グルジア、トルコ
そして米国はこのパイプラインの建設を決断し、2005年秋に
完成したのです。費用は最終的に39億ドルかかったのですが、
英国のブリティッシュ・ペトロリアム(BP)が主要事業主体と
なって、企業連合を形成して資金を調達したのです。日本も伊藤
忠商事が参加しています。
 当然のことながら、ロシアはこのBTCパイプラインには不快
感を示しています。米ブッシュ大統領、グルジアのサーカシビリ
大統領とロシア下院外交委員長のコメントをご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪米ブッシュ大統領≫
  パイプラインはカスピ海の発展に新時代を拓く。
 ≪グルジアのサーカシビリ大統領≫
  (BTCパイプラインは)アゼルバイジャンとその同盟国に
  とっての地政学的な勝利である。
 ≪コンスタンチン・コサチョフ・ロシア下院外交委員長≫
  この(BTC)プロジェクトが経済的ではなく、むしろ政治
  的な理由によって生まれたことは、火をみるよりも明らか。
  すなわち、カスピ海のエネルギー資源をロシアとイランのよ
  うな国を迂回して西側へ輸送する、安定した代替肢をつくる
  という目的である。            ――木村汎著
           『プーチンのエネルギー戦略』北星社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 実質的にBTCパイプラインは動き出したのです。2006年
5月に最初の原油がジェイハンに到着しており、2009年には
日量100万バレル、年間5000万トンに達する予定です。
 そうすると、その量はロシアの石油輸出量の4分の1、カスピ
海全体の2分の1に相当するのです。これだけの能力を備えては
いるのですが、果たしてそれだけの原油がBTCラインで輸送さ
れるかどうかは、カザフスタンの出方にかかっていると、北海道
大学名誉教授の木村汎氏は述べています。カザフスタンしだいで
BTCパイプラインは採算がとれなくなるというのです。
 このカザフスタンの問題について、木村教授の話を以下にまと
めておきます。詳しくは、前掲の『プーチンのエネルギー戦略』
(北星社刊)を読んでいただきたいと思います。
 カザフスタンにはもともと「テンギス油田」という大きな油田
があるのです。さらに2000年にはカスピ海沖にカシャガン油
田という巨大油田が発見されているのです。それは、推定ながら
380億ドルの原油埋蔵量を持っていて、2019年には、日量
150万バレルの生産が期待できるというのです。
 これだけの生産が可能であり、それをBTCパイプラインで運
ぶことが実現すれば、BTCパイプラインは確実にペイすること
になります。しかし、そのためには、カザフスタンのアウタウか
らアゼルバイジャンのバクーを結ぶルートが必要になります。
 実際に米国とアゼルバイジャンは、カザフスタンの原油をBT
Cパイプラインで運ぶための「カスピ海横断石油・ガス・パイプ
ライン」のフィージビリティ・スタディ(FS)を始めることを
決めています。
 しかし、カザフスタンはロシアの意向に強くは逆らえない弱み
があるのです。カザフスタンという国は、ロシアと長い国境線を
持っているからです。
 さらに国内には多くのロシア系住民を抱えているのです。それ
は、全人口の30%にもおよび、それは中央アジア5ヶ国の中で
最も高い比率なのです。
 そうすると、カザフスタンとしては、ロシアとアゼルバイジャ
ンおよび欧米諸国を両てんびんにかける二股外交をせざるを得な
いということになります。どちらかひとつに絞ることは非常に困
難なことなのです。
 こういう状況をロシアが腕をこまねいて見ているわけではない
のです。BTCパイプラインの対抗策として現在進めているのは
「沿バルカン石油パイプライン」です。これは、カスピ海のロシ
ア原油をグローズヌイを経由してノボロシースク港に運び、そこ
からタンカーでブルガリアのブルガス港に運ぶのです。
 ブルガスからはギリシャのアレクサンドロポリスまで石油パイ
プラインを建設するという計画です。これは2008年から工事
が始められる計画です。  ――――[大恐慌後の世界/27]


≪画像および関連情報≫
 ●フィージビリティ・スタディ(FS)とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  FSとは、費用対効果調査、費用便益調査のことである。具
  体的には新製品や新サービス、新制度に関する実行可能性や
  実現可能性を検証する作業のこと。業務面、システム面、資
  金面、投資採算など、複数の視点から分析を行い、その実現
  可能性を検証する。  ――ウイズダム/ビジネス用語辞典
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/木村汎著『プーチンのエネルギー戦略』北星社刊

BTCパイプライン.jpg
BTCパイプライン
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2009年02月13日

●「BTCに対抗するロシアのパイプライン」(EJ第2510号)

 ロシアがBTCパイプラインに対抗して打ち出した「沿バルカ
ン石油パイプライン」――このパイプラインは、1990年代半
ばから構想されていたのですが、採算がとれるかどうかが疑問視
され、実現できなかったのです。
 しかし、BTCパイプラインが2005年に完成すると、プー
チン政権はこれを「ロシア外し」と判断し、自らも大きな政治的
決断をしたのです。プーチン大統領(当時)は、2007年3月
15日にアテネに行き、ブルガリア、ギリシャの首脳とともに合
意文書にサインをしたのです。「沿バルカン石油パイプライン」
は、このようにしてスタートしたのです。
 事業主体は、ロシア、ブルガリア、ギリシャの3国から成る企
業連合であり、ロシアが過半数の51%を引き受ける株主になる
というかたちをとり、残りをブルガリアとギリシャが折半すると
いう株主構成です。
 このパイプラインの売りは、カスピ海からの原油はBTCパイ
プラインを使うとコストが高くなること、また、黒海経由の場合
もボスポラス海峡を使わず、沿バルカン石油パイプラインを使う
と、速く、安全に運べる――つまり、「速い・安い・安全」の3
拍子がそろっていることを売りとしたのです。2011年に完成
ということで進んでいますが、折からの金融危機で果たして予定
通り完成に漕ぎつけられるかどうかが懸念されています。
 ここまで述べてくると、カスピ海からの原油・天然ガスを運ぶ
さいにグルジアという国がいかに重要な存在であるかがわかると
思います。まさにグルジアは地政学上の要衝の地であるといえる
のです。ここを西側の欧米が押さえるのか、ロシアが押さえるの
かによって情勢は一変します。
 今回のグルジア紛争によって、ロシアは事実上南オセチアとア
ブハジアについては、完全にロシア側に取り込むことに成功して
います。しかも、ロシアは軍をグルジアの首都であるトリビシ近
くまで進め、ゴリという町の鉄道線路を爆破し、黒海に面したポ
チの町の石油関連施設を接収しているのです。
 これは何を意味するかというと、ヨーロッパへの石油輸送鉄道
路線がロシア軍によって制圧されたということを意味しているの
です。これによって、それまでロシアへの経済制裁で動いていた
フランスのサルゴジ大統領の口調は重くなり、結局経済制裁は見
送りとなったのです。
 もちろん、現在ロシア軍はグルジア国内からは完全に撤退して
いますが、ロシアとしては何かコトがあればいつでも進軍できる
ということを欧米諸国に示威したのです。メドベージェフ大統領
は次のように警告しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシアに対する経済制裁や軍事介入は、ロシアに対する宣戦布
 告と受け止める。われわれは新冷戦を恐れていない
                 ――メドベージェフ大統領
―――――――――――――――――――――――――――――
 このロシアの圧勝に終わったグルジア紛争によって、サーカシ
ビリ政権は苦しい状況に追い込まれています。なぜなら、サーカ
シビリ大統領は、次の2つを公約して大統領になっているのに対
し、それらの公約の達成はきわめて困難であるからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.グルジアの完全統合を達成する
      2.グルジアのNATO加盟を実現
―――――――――――――――――――――――――――――
 このうち「グルジアの完全統合」は、南オセチア、アブハジア
の独立を断念させてグルジアに統合するという意味なのですが、
これは現段階では無理であるといえます。2の「グルジアのNA
TO加盟の実現」は、1と連動しており、1が実現不能であるな
ら2も不可能になります。サーカシビリ大統領の今後について、
国際ジャーナリストの田中宇氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 グルジア人の多くは「米と太いつながりを持つサーカシビリに
 任せればNATOに入れるし、欧米の軍事的後ろ楯を使って分
 離独立派の二州をおさえられる」と期待していた。その期待が
 消えた今、グルジアの野党は反サーカシビリ色を強めている。
 サーカシビリは、反対派に言いがかりをつけて次々と投獄する
 独裁者なので、野党は慎重だが、すでにサーカシビリが辞めさ
 せられるのは時間の問題だという見方が欧米で出ている。
                       ――田中宇著
      『メディアが出さないほんとうの話』/PHP出版
―――――――――――――――――――――――――――――
 グルジア紛争に対して関連諸国の態度は完全におよび腰です。
米国は口先だけの非難に終始し、旧ヨーロッパ諸国――ドイツ、
フランス、イタリアなどはロシアの反発をひたすら恐れ、プーチ
ン式外交の虜になってしまっています。もともと旧ヨーロッパ諸
国は、グルジアとウクライナのNATO加盟についても熱心では
なかったのです。
 唯一、新ヨーロッパ諸国といわれるバルト三国――エストニア
ラドビア、リトアニアとポーランド、ウクライナの首脳は、紛争
後直ちにグルジアの首都のトリビシに集合し、ロシアを強く非難
していますが、これとてロシア軍の介入を恐れて、その団結ぶり
を強調したに過ぎないと木村汎教授はいっています。
 このようにグルジア紛争に関して世界の関連国が、おのれの利
害を最優先させる態度を示していることは、エネルギーを巧みに
武器として使うロシアの強気の外交を恐れているからです。
 かかる現象は、ヘンリー・キッシンジャー氏の次の言葉によっ
て、よくいいあらわされています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  列強諸国はおのれの同盟国のために自殺することはない
―――――――――――――――――――――――――――――
日本は肝に銘ずべきです。  ―――[大恐慌後の世界/28]


≪画像および関連情報≫
 ●グルジア情勢とNATOの今後/あるブログより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  グルジアでの紛争が再燃し、大きな国際問題となっている。
  最新の報道ではロシアが武力行使を停止したとされており、
  小康状態にはなったというところだろうか。この問題はあま
  りに複雑な要因が絡んでいるが、国内報道への違和感もある
  ので多少言及しておこうかと思う。
   http://kawa-kingfisher.sblo.jp/category/70381-1.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/木村汎著『プーチンのエネルギー戦略』北星社刊

沿バルカン石油パイプライン.jpg
沿バルカン石油パイプライン
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2009年02月16日

●「ウクライナの強みと弱みとは何か」(EJ第2511号)

 2月10日のEJ第2508号からグルジア問題について考え
てきましたが、ロシア問題のしめくくりとして、ウクライナ問題
について述べることにします。
 佐藤優氏は、ウクライナをどのように見ているのでしょうか。
佐藤優氏は、副島隆彦氏との対談で、ウクライナに関して次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 副島:ポーランドとウクライナについてはどのようにお考えで
    すか。
 佐藤:ロシアは一応、ポーランドを西側の勢力圏であると認め
    ています。他方、ウクライナは基本的にロシアの勢力圏
    だと考えています。エネルギーに関しては、ロシアはい
    つでもこの2つの国の寝首をかくことができると考えて
    います。副島さんが先ほど説明なさったように、ロシア
    が天然ガスのパイプラインの元栓を締めると、途端にこ
    の2つの国は困り果てます。このことを裏返して考える
    と、石油と天然ガスをヨーロッパ側が買ってくれなけれ
    ば、ロシアは外貨がまったく入ってこないので困るので
    す。天然ガスにしても買い手がいなければ、油田で空に
    放出することになります。  ――副島隆彦×佐藤優著
      『暴走する国家/恐慌化する世界』/日本文芸社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ポイントは「エネルギーに関してはロシアはいつでもこの2つ
の国の寝首をかくことができる」という点にあります。つまり、
ウクライナにはロシアに対して大きな弱みがあるということにな
ります。
 それはウクライナが自国内で消費する必要な天然ガスのわずか
26%しか生産できないという点です。したがって、残りの74
%をロシアとトルクメニスタンに大きく依存しているのです。必
要な74%のうち、ロシアに依存しているのは21%です。
 トルクメニスタンには52%依存しているわけですが、この国
はロシアのいいなりなのです。トルクメニスタンは南隣のイラン
を恐れており、いざというときロシアの助けが必要であると考え
ているのです。こういう事情ですから、ウクライナがロシア抜き
にトルクメニスタンと話をつけることは不可能なのです。
 もうひとつウクライナには深刻な弱みがあるのです。これにつ
いて、木村汎北大名誉教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウクライナの努力不足のゆえに、ウクライナ経済は国際的競争
 に伍していくに足る実力をまだ身につけていない。世界を見渡
 すと、ウクライナ一国だけが資源に恵まれないわけではない。
 資源に恵まれない国は、「比較優位」の原則にしたがい資源以
 外の分野で奮闘努力に努める必要があろう。たとえば日本は、
 ウクライナ同様に資源小国であるとはいえ、たとえ原油価格が
 1バレル90ドル以上となってもサバイバルできる強大な経済
 力を身につけるにいたっている。そのような観点からみると、
 ウクライナには自助努力が著しく欠けていると評さざるをえな
 い。  ――木村汎著『プーチンのエネルギー戦略』北星社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ウクライナにはロシアに対して地理的な優位性がある
のです。それは、地図を見るとわかるように、ウクライナはロシ
アとヨーロッパの中間点に位置しており、しかも黒海にも面する
絶好のポジションを占めている点です。まさに、流通や運送の重
要地点に位置しているのです。
 ウクライナの首都はキエフです。ムソルグスキーの名作『展覧
会の絵』の第16曲に「キエフの大門」――現在実際にこの門は
なく、かつて存在したという――という曲がありますが、キエフ
といえばロシアそのものです。
 かつてのソ連の時代において、まさかウクライナが親欧米・反
ロシアの外国になるなどということを考えた人はいなかったと思
われます。そのため、1954年にあのニキタ・フルシチョフ第
一書記が、クリミア半島をウクライナ共和国に割譲することを冗
談としてほのめかしたことが、後になって問題化し、結果として
クリミア半島はウクライナに帰属することになったのです。
 資本主義経済学においては、「生産」「消費」「流通」は3大
重要活動ですが、マルクス主義経済学では、「生産」が物理的価
値を生み出す源泉であるとして、どちらかというと、「流通」を
軽視する傾向があったとされるのです。このことがウクライナを
重要な流通拠点として意識することが希薄であったのではないか
と木村汎教授は述べておられます。
 重要なポイントになるのは、天然ガスの輸送なのです。天然ガ
スは石油と違って運搬する場合、液化天然ガス(LNG)にして
タンカーで運搬する場合を除くと、パイプラインで運ぶしかない
のです。
 しかし、パイプラインは多くの場合、複数の国を通過すること
になり、生産国としては通過国の事情に配慮する必要が出てくる
のです。パイプラインの通過国としてのウクライナの場合、ロシ
アのパイプライン輸出量の70%を占めているのです。まさにウ
クライナは「エネルギー通過大国」といえます。
 現在、ロシアは何とかウクライナを経由しないパイプラインの
ルートを必死になって模索しています。そのひとつに、「ノード
・ストリーム」という海底パイプラインがあります。
 ノード・ストリームは、サンクトペテルブルグの北に位置する
都市ヴィボルグとロシアにとって欧州最大の顧客であるドイツを
直接結ぶ海底パイプラインです。
 現在ドイツには、ウクライナやポーランドなどの親米の国を経
由しています。しかし、ノード・ストリームにも問題点があるの
です。それは、スウェーデンの経済水域を通るため、現在スウェ
ーデンと協議を重ねており、完成は2010年以降になるとされ
ています。         ―――[大恐慌後の世界/29]


≪画像および関連情報≫
 ●ウクライナは「小ロシア」の意味
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ウクライナは、以前は「小ルーシ/小ロシア」と称されてお
  り、この名称は現在でも一部で使用されることがある。しか
  し、この「小」という名称は「大ロシア」であるロシアに比
  べ侮蔑されているような印象が感ぜられることから、ウクラ
  イナ人には好まれていない。ところが、本来は「小」とは文
  化の中心であるアテネからの距離が「小さい」ということを
  表しているのであり、むしろ「大ロシア」の方が「大田舎の
  ロシア」を意味しているのである。  ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

エネルギー通過大国ウクライナ.jpg
エネルギー通過大国ウクライナ
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2009年02月17日

●「ロシアの頭痛の種は黒海軍港問題」(EJ第2512号)

 グルジア紛争のさい、黒海の状況を伝えるメディアが少なく、
遠く離れた日本では、その緊張感がさっぱり伝わってこないので
すが、実はそのとき黒海は大変なことになっていたのです。
 ウクライナはロシアに対してもうひとつ強みを持っているので
す。その強みとはクリミア半島です。クリミア半島はソ連崩壊後
にウクライナ領になっているのですが、その半島にあるセバスト
ポリという軍港は黒海のちょうど中央に位置し、かつてのソ連邦
の黒海艦隊の基地だったのです。
 現在はどうなっているのかというと、現在もロシアの黒海艦隊
はセバストポリ軍港を基地として使用しているのです。ソ連邦解
体後の1997年に、ロシア・ウクライナ間で締結された協定に
よって、2017年まで租借することになっているからです。ウ
クライナが受け取る租借料は年間9800万ドルといわれます。
 ロシア海軍は、次の4つの艦隊から構成されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.   北洋艦隊
          2.バルチック艦隊
          3.   黒海艦隊
          4.  太平洋艦隊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このうち黒海艦隊は、現在は80艦艇、1万5000名の水夫
を擁しているのですが、セバストポリ軍港はロシアにとって唯一
の不凍港であり、きわめて貴重な軍港なのです。しかし、それは
ウクライナ領であり、2017年にはウクライナに返還しなけれ
ばならないことになっているのです。
 クリミア半島をウクライナに割譲することを決めたのは、エリ
ツィン元大統領です。どうして、ロシアにとってきわめて重要な
クリミア半島をウクライナに割譲したのか、本当の理由はわかっ
ていませんが、おそらくそれまでの歴史的経緯や欧米諸国に傾斜
しようとするウクライナをロシア側に引き留める代償として与え
たものと思われます。
 2005年以降、プーチン政権はウクライナに対して天然ガス
の価格の値上げを要求するようになっていますが、それに対抗し
てウクライナは、ロシアに対してセバストポリ軍港の利用契約の
見直しを要求して牽制するようになっています。それはおそらく
ロシアに対抗する最も強力な対抗手段になっているのです。
 実際に2006年元旦にロシアがガスの元栓を閉じたとき、ウ
クライナのアナトーリー・フルツェンコ国防相は、セバストポリ
軍港の利用料を約5倍の4億ドルに引き上げるとロシア側に通告
しているのです。
 既に述べたように、2009年元旦にもロシアはガスの元栓を
閉じていますが、その都度ウクライナ側は、セバストポリ軍港の
利用のハードルを上げており、最近では2017年までにロシア
側にセバストポリ軍港からの全面撤退を求めているのです。
 しかし、セバストポリ軍港の租借料はウクライナがロシアへ払
うガス料金未納分を考慮して決められており、延長しない場合に
は、利息を含め約8億ドルを支払う必要が生じます。
 ロシア側としては、もしセバストポリ軍港が使えなくなると、
黒海に面したロシア領のノボロシースク港に黒海艦隊を移さざる
を得なくなるのです。しかし、軍港としては、ノボロシースク港
はセバストポリ港に及ぶべくもないのです。それは地図を見ても
明らかにいえることです。
 ロシアとしては、この軍港問題の決着をどのようにつけるつも
りなのでしょうか。2017年といえばそんなに先のことではな
いのです。最近のロシアとウクライナの政治対立から、セバスト
ポリのロシア領土編入を求める運動が同地に住むロシア人住民に
よって起きており、新たな両国の対立の火種となっています。そ
れは2017年に向けて次第に熱気をはらんできているのです。
 さて、グルジア紛争のとき、黒海ではどのような事態が起こっ
ていたのでしょうか。
 グルジア紛争でロシア軍がグルジアの国境を超えて進軍するよ
りも早く、ロシアの黒海艦隊はセバストポリ軍港を出てソチ港に
入っています。ソチは黒海に面したロシアの土地で、グルジアと
アブハジアとの国境に近い都市です。ロシア軍のグルジア侵攻を
海上から援護するための布石です。ちなみにソチは、2014年
の冬季オリンピックの開催都市になっています。
 米海軍は、人道支援物資輸送の名目で、揚陸指揮艦「マウント
・ホイットニー」(1万8400トン)、イージス駆逐艦「マク
フォール」(8000トン)、巡視艦「ダラス」の3隻が、ボス
ポラス海峡を経由して黒海に入っているのです。
 そのほか、ボーランド、スペイン、ドイツのフリゲート艦も黒
海に入っており、さらにイタリア、ギリシャ、ルーマニア、ブル
ガリアがそれに加わったので黒海は軍艦だらけになったのです。
もし、これにトルコが加わるとNATOの黒海艦隊はすべて揃っ
たことになるのです。まさに一触即発、大戦争に発展しても不思
議ではない状態だったのです。
 これだけNATO黒海艦隊が揃うと、ロシアは思うように戦争
を展開できないのです。なぜなら、ロシアの黒海艦隊はNATO
艦隊と比べると、その能力の面において著しく劣るからです。
 たとえば、米イージス艦「マクフォール」に対しては、ロシア
黒海艦隊の指揮艦「モスクワ」が辛うじて対抗できるできる程度
であり、6隻保有するミサイル駆逐艦は艦齢も古く、イージス・
システムにはとても対抗できないのです。
 しかも、ウクライナは、セバストポリ軍港に停泊中のロシアか
艦船の出航に制限をかけているので、ロシア黒海艦隊の動きはさ
らに封じられてしまうことになります。
 このように考えると、ウクライナはロシアにとって、単にパイ
プラインの通過大国としてだけではなく、軍事的にもきわめて要
衝の地であるといえます。したがって、戦争の火種はここにくす
ぶっているのです。     ―――[大恐慌後の世界/30]


≪画像および関連情報≫
 ●ロシア黒海艦隊の歴史
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ロシア人が初めて7隻の小型艦をアゾフ海に浮かべたのは、
  第1次露土戦争中の1771年である。この戦争でロシアは
  黒海北岸を獲得している。黒海におけるロシア海軍の行動は
  アゾフ海の艦艇がアフティアル村(1784年にセヴァスト
  ポリに改名)に寄航した1783年に遡ることができる。そ
  の後のこの地域に対するロシアの関心は18世紀末から19
  世紀の間繰り返されたトルコとの戦いで高まっていった。ま
  た、この時代黒海沿岸、特に海に近いユジニィブグ川の河口
  にあるニコライエフでは、造船産業が盛んになった。20世
  紀初頭黒海艦隊の多くの水兵は、バルチック艦隊の水兵と同
  じく、革命熱に沸いていた。結局は失敗に終わった1905
  年の反乱において、戦艦ポチョムキンの艦内で、有名な水兵
  の反乱が起こった。
  http://www.eurus.dti.ne.jp/~freedom3/bla-fleet-killu-axx.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

黒海周辺の地図.jpg
黒海周辺の地図
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2009年02月18日

●「ロシアに天然ガスを依存させる戦略」(EJ第2513号)

 2006年元旦にウクライナに対してガスの元栓を締めるとい
う行為をロシアが行ったとき、その行為に対して世界各国からさ
まざまな意見が巻き起こったのです。
 これらの意見の多数説について、既出の木村汎教授は次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  欧米世界にたいする外交上の影響という観点からみるかぎり
 クレムリンが06年正月におこなったガス停止決定は、失策で
 あった。おそらくこのように判断すればこそ、クレムリン当局
 は早々と幕引きすることにしたのだろう。
     ――木村汎著『プーチンのエネルギー戦略』北星社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、ロシアのガスの元栓締めは失策であったとするのが
多数説であるというのですが、木村教授はそれを補強する情報と
して、そのときロシアを訪問していたアンゲラ・メルケル独首相
に対するプーチン大統領の次の発言を紹介しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もちろん、ヨーロッパの顧客たちが驚いたわけではない。だが
 とくに普通の人々は、ガス分野におけるロシアーウクライナ間
 の議論について多くの疑問をいだいた。このおりのわれわれの
 誤りは、この事件の本質を直ちに十分はっきりと正確に説明し
 なかったことだった。     ――プーチン大統領(当時)
     ――木村汎著『プーチンのエネルギー戦略』北星社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでプーチン大統領は「われわれの誤り」と述べ、ガスの元
栓を締めたことが間違いであったことを認めているのです。そし
てこの事件に対する多数説は、ロシアがつねづねCIS諸国や欧
米諸国に対して公言してきている次の「3つの柱」をその行為に
よって壊してしまったとしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.ロシアはウクライナを含むCIS諸国の友邦である
  2.ロシアは欧州諸国への安定的なエネルギーの供給源
  3.ロシアはG8加盟国の相応しいメンバーであること
―――――――――――――――――――――――――――――
 CIS諸国とは、バルト3国を除く旧ソビエト連邦の12ヶ国
で形成される緩やかな国家連合体――CIS:独立国家共同体の
ことであり、ベラルーシの首都ミンスクにその本部が置かれてい
るのです。ロシアにとって、CIS諸国は外交の最優先地域とさ
れる地域で、軍事同盟をはじめ、各国の思惑がからみあう複雑な
利害関係を有する地域でもあるのです。CIS12ヶ国を次に示
しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.ロシア        7.ベラルーシ
  2.カザフスタン     8.モルドバ
  3.タジキスタン     9.アルメニア
  4.ウズベキスタン   10.アゼルバイジャン
  5.キルギス      11.グルジア
  6.ウクライナ     12.トルクメニスタン
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかも、2006年という年はロシアにとって重要な年であっ
たはずです。なぜなら、2006年1月1日からロシアは主要国
(G−8)首脳会議の議長国に就任したからです。その年の冒頭
でロシアはガスの元栓を締めたのです。
 このロシアの行為に対して、コンドリーサ・ライス米国務長官
(当時)は次のようにロシアを批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシアの行為は、「明らかな政治的な動機」にもとずいてなさ
 れた。それは、G−8の責任あるメンバーに期待された行動様
 式とは異なる。ロシアが国際経済の一員となりたいのならば国
 際的ルールにしたがってプレイすべきである、と。
     ――木村汎著『プーチンのエネルギー戦略』北星社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、その後の行動をみると、ロシアは何ら反省などしてい
ないと思われます。なぜなら、プーチン政権は2007年の元旦
に今度はベラルーシに対してほとんど同じことをやっているし、
2009年元旦には、また同じウクライナに対し、ガスの元栓を
締める行為を繰り返しているからです。こうなると、この手法は
ロシアの今後のエネルギー戦略そのものになっているのです。
 とくにロシアは、2008年からメドベージェフ大統領になっ
てからは、そういうロシア的エネルギー戦略に拍車がかかったよ
うに思えるのです。それが、2008年7月25日のトルクメニ
スタンとのガス交渉――ロシアがトルクメニスタンの天然ガスを
買い上げる契約でみることができます。
 トルクメニスタンに対しては、それまで天然ガスの購入価格は
1000立方メートル当たり140ドルだったのですが、それを
225ドルに引き上げたのです。この価格はガスプロムが欧州諸
国に売る平均価格なのです。したがって、この価格ではガスプロ
ムは利益が出ないことを意味しています。
 つまり、ガスプロムは、トルクメニスタンのガスでは儲けない
代わりに、今後20年間にわたってトルクメニスタンのガスを全
量ロシア経由で運び出すことをトルクメニスタン政府に約束させ
ているのです。
 この契約では、ガスプロムはビジネスとしては儲からないです
が、政治的には画期的な契約といえるのです。なぜなら、この契
約によってロシアを迂回するBTCパイプラインをほとんど無価
値化できるからです。
 現在、欧州諸国が消費する天然ガスの30%近くはガスプロム
が提供しているのです。もし、BTCパイプラインの利用を制限
することに成功すれば、欧州のガスプロムへの依存度を上げるこ
とができるという戦略です。 ―――[大恐慌後の世界/31]


≪画像および関連情報≫
 ●トルクメニスタンという国
  ―――――――――――――――――――――――――――
  トルクメニスタンは砂漠の国。旧ソ連の中央アジア諸国の中
  では、カザフスタンに次いで2番目に人口密度が低い国だ。
  何世紀にもわたって遊牧が行われてきたこの国は、19世紀
  後半にロシアに征服され1991年に独立を果たした。19
  50年代に、運河としては世界有数の長さを誇るカラクム運
  河が開通し、アム・ダリヤ川からトルクメニスタン南部へ水
  を供給しているが、現在は老朽化し、土壌の塩化が砂漠化を
  進行させている。また、アム・ダリヤ川から水をくみ上げて
  いるため、アラル海が干上がる原因ともなっている。
            ――ナショナル・ジェオグラフィック
  ―――――――――――――――――――――――――――

イスラム建築の秘宝/トルクメニスタン.jpg
イスラム建築の秘宝/トルクメニスタン
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2009年02月19日

●「ベネズエラが石油を売る未来型方式」(EJ第2514号)

 現在ロシアはイランと組んで、他の天然ガス産出国を巻き込み
長期的なガス国際価格の釣り上げを狙う「ガスOPEC」を作ろ
うとして動いています。「ガスOPEC」は正式には「ガス輸出
国フォーラム/GECF」というのです。
 2006年10月、プーチン政権が天然ガス生産国による国際
同盟の創設を提唱したのが発端であり、参加国にはアルジェリア
イラン、リビアのほか中央アジアのカザフスタンやトルクメニス
タンなどが上げられ、これら諸国の天然ガス埋蔵量は世界の73
%を占めるといわれています。
 この構想は、生産量で2位の米国や3位のカナダ、4位の英国
を排除して形成されており、ロシアがその盟主となることが想定
されているので、欧米諸国から強い懸念を持たれています。
 しかし、今回の国際金融危機と世界不況によって、当初予定し
ていた計画が相当遅れるとみられています。なぜなら、昨年10
月と11月に開催する予定になっていたガスOPECの設立会議
が相次いで延期されているからです。
 原油価格の下落でロシアの経済状況が相当深刻な状況になって
いるのは確かですが、ロシアの経済状況を正しく把握するために
は、次の田中宇氏の意見を参考にするべきです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシアの経済難の理由の一つは地政学的なものである。ロシア
 は石油ガスの輸出力を武器に、欧州や中国、インドなどが反ロ
 シア的行動を採ることを抑制し、石油ガス収入をテコにルーブ
 ルを国際基軸通貨の一つに押し上げ、米英の世界支配を崩した
 いと考えている。これに対して米英の軍産複合体などは、金融
 投機の技能を駆使してロシアの株式市場を暴落させたり、最近
 では原油価格の下落に拍車をかけている。また軍産英複合体は
 世界のマスコミ論調を引率する米英マスコミの論調を、有事機
 能を使って操作している。米英や日本のマスコミはプロパガン
 ダ戦争の道具であり、ロシアをことさら悪く描く傾向がある。
 だから石油ガス価格の下落で今にもロシア経済が破綻しそうだ
 という記事を読む際は、まず眉に唾をつけた方が良いのだが、
 それでも最近のロシア経済をめぐる状況は、かなり悪化してい
 るのは確かなようだ。      ――原油安に窮するロシア
          http://tanakanews.com/081231russia.htm
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、相対的にみると、経済的に米英両国の力が落ちてきて
いる現在、ロシアをはじめとする反米的な国々が石油や天然ガス
を売る新しい方式が少しずつ登場しはじめていることを知る必要
があります。
 ガスOPECに加盟を予定している国で、反米的なベネズエラ
のチャベス政権が、ロシアと組んで実施している方式についてご
紹介します。
 2008年7月のことです。ベネズエラのチャベス大統領は、
スペインに石油を「1バレル=100ドル」という低価格で売る
代わりに、販売代金をマドリッドのベネズエラ政府名義の銀行口
座に置き、ベネズエラ政府がスペインから医療機器、食糧、風力
発電関連施設などの戦略物資を購入するさいの代金に当たる新方
式を実験的に実施すると発表したのです。
 この方式は、石油価格自体はドル建てですが、販売代金はドル
ではなく、購入する側の国の通貨、すなわち、スペインの場合は
ユーロ建てで、購入する側の銀行口座に置かれるのです。この方
式では、まったくドルが使われないのです。
 この方式を応用してロシアが中国に石油や天然ガスを売ること
を考えてみます。ロシアの通貨ルーブルと中国の通貨人民元を加
重平均したバスケット通貨建てで石油や天然ガスの価格を決定し
中国の銀行口座に人民元建てで代金を備蓄するのです。そして、
ロシアが中国から工業製品などを購入するときにその金が使われ
るという仕組みです。この方式の場合、中国は人民元で決済しな
がら、人民元を海外に流出させずに済むメリットがあります。
 こういう試みが現在少しずつ世界ではじまっているのです。こ
の方式が普及すると、ドルを決済に使わないので、世界はドルの
信用不安によって起きつつある世界的なインフレの心配はなくな
りますが、米国は深刻な事態に陥ります。国際的なドル離れが起
こり、経済覇権からの米国の離脱は必至になるからです。
 ところで、このロシアという国、われわれ日本人のイメージで
は大国と考えています。それはおそらく領土の広さからくる印象
であると考えます。
 しかし、なぜロシアが、BRICsのなかでG−8のメンバー
になれたのでしょうか。
 ロシアは民主主義国でもなければ、経済大国でもないのです。
そのGDPは、2006年のデータによると、世界4位の中国や
第10位ブラジルよりも低く、インドよりも少し上の第11位で
あるし、一人あたりのGDPとなると、さらに小さく、リビア、
レバノンに次いで世界第60位なのです。
 それでは、なぜ、G−8のメンバーになれたかというと、木村
汎教授は次の3つの要因を上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.米国に次ぐ核の保有国である
       2.地政学的な位置を占めている
       3.超エネルギー大国であること
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで2については、国際的な反テロ闘争などで西側が協力を
求めなければならない存在ということを意味しています。しかし
このなかで一番大きな要因は3なのです。
 要するにロシアはそのまま「放置しておけない国」なのです。
西側としては、こちら側に取り込んでおかないと、心配な国であ
ると同時に、いろいろな意味で協力を得なければならない存在が
ロシアという国なのです。そういう国をG−8として処遇するメ
リットがあるのです。    ―――[大恐慌後の世界/32]


≪画像および関連情報≫
 ●プーチンはイワン雷帝に似てきた?/宮崎正弘氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  プーチンは、2007年2月1日の年頭記者会見で内外から
  1232名もの記者をクレムリン宮殿に集め、ひとりで熱弁
  を振るうこと3時間半(新記録)に及び、しかも69の質問
  に理路整然と答えた。
   とくに西側ジャーナリズムを前にしての「ソフトな顔」の
  演技ぶりを見ていると、この大統領なかなかの役者である。
  EUならびに欧米諸国の記者から飛び出した質問は、
  (1)来年の大統領選での後継者選定問題と
  (2)ガスOPECの結成、ありやなしや、
  という問題に集中した。
      http://www.melma.com/backnumber_45206_3535275/
  ―――――――――――――――――――――――――――

ベネズエラ/チャベス大統領.jpg
ベネズエラ/チャベス大統領

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2009年02月20日

●「米社会は『怒りの舞踏』の現代版」(EJ第2515号)

 1月30日からロシア問題を14回にわたって取り上げてきて
います。今回のテーマは「大恐慌後の世界はどのようになってい
くか」ですが、ロシアに重点を置いたのはそれだけロシアが重要
な存在であるからです。
 なぜなら、ロシアは、これからの国際政治体制を欧米中心の既
存の体制から、多極化の体制に切り換えることを狙っているから
なのです。多極化を推進するさい、エネルギーの問題はその重要
な核になるのですが、そういう意味でロシアのようなエネルギー
大国はその多極化のかぎを握っているのです。
 実際にメドベージェフ大統領は、2008年7月に、EUとの
協議会の席上、欧米間の安保体制であるNATOとロシアを合体
させ、欧米露による新たな集団安保体制を作ることを提案してい
るのです。NATOは米主導でロシアを敵視する軍事組織なので
すが、ロシアはこれを無力化しようとしているのです。
 現在のところ米欧諸国は、こういうロシアの画策について「メ
ドベージェフのたわごと」といって相手にしていませんが、ロシ
アは、天然ガスなどのエネルギーを武器にして着実に手を打って
いるのです。
 メドベージェフ大統領は、国際金融体制についても次のように
主張しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米は金融危機を悪化させるばかりなのに、米だけが国際金融体
 制を切り盛りする現体制は欠陥がある。ロシアは今後、ルーブ
 ルを国際基軸通貨の一つにして、国際金融危機を解決する方向
 に持っていく。モスクワは国際金融センターの一つになる。
                       ――田中宇著
      『メディアが出さないほんとうの話』/PHP出版
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、ロシアのやっていることは、徹底的な「米国外し」な
のですが、肝心の米国はこれに対してどういう戦略を持っている
のでしょうか。ここから米国について考えていきます。
 現在の米国はどのような社会になっているのでしょうか。はっ
きりといえることは、とんでもない格差社会になっているという
ことです。それは、今回の金融危機によって、一層明確なかたち
をとっています。
 米国の作家ジョン・スタインペックの有名な小説に『怒りの葡
萄』という作品があります。この小説によって、スタインペック
は、1940年にピューリッツァー賞、1962年にノーベル文
学賞を受賞しています。なぜ、この小説はこのように高い評価を
受けたのででしょうか。
 この小説の初版は1939年、あの世界大恐慌の後の時代なの
です。小説の舞台はカルフォルニア――しかし、カルフォルニア
も、折からの大恐慌の影響や農業の機械化・大規模資本主義農業
の進展によって土地を失った農民は働くところがなく、大土地資
本家の経営する農場で日雇い作業をするしかないという時代を背
景に物語が進んで行くのです。当時大恐慌下において、土地を奪
われ、仕事も誇りも失った農民が続出し、大きな社会問題となっ
たのですが、スタインペックはそれを見事に描き出しています。
 それではなぜこの作品に『怒りの葡萄』というタイトルが付い
たのでしょうか。
 それは、スタインペッグ自身が原作の第25章で、カリフォル
ニアに大量の果実や穀物が実っているのに、そして一方には飢え
た人々が多くいるのに、それらの果実や穀物が収穫されず、むざ
むざと腐れ果てていく様子を描いています。
 なぜ、こういうことが起こるのかというと、大農園・大資本に
よる果実の価格操作と農業労働者に対する賃金操作の結果なので
す。そして、富めるものは一層豊かになって土地と資本を増やし
ていくが、貧しいものは一層貧しくなり、わずかに持っていた農
地までも失ってしまい、放浪者となってしまうのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 人びとの目の中には、失敗の色がうかび、飢えた人びとの目の
 中にはしだいにわきあがる激怒の色がある。人びとの魂の中に
 は、怒りの葡萄が、しだいに満ちておびただしく実っていく。
 収穫のときをめざして、しだいにおびただしく実っていくので
 ある。              ――『怒りの葡萄』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在の米カルフォルニアの郊外には、鉄道線路と飛行場の間に
ある荒地にテント村ができているのです。このテント村は、住宅
ローン危機で自宅を失った人々が集まっているというのです。現
在、200張りを超えるテントの数になっているのです。その後
も自家用車の中で生活する者もあらわれて、そういうホームレス
が増えているそうです。日本の「年越し派遣村」と同じです。ま
さに『怒りの葡萄』の21世紀版といえると思います。
 現在、米国経済は「五重苦」をかかえているといわれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.米経済の不況
       2.米政府の財政赤字の急増
       3.世界的なインフレ
       4.ドルの信用不安
       5.金融危機
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本や中国の経済成長は、製造業が作り出した製品を主として
米国に輸出して得たものですが、米国の場合は、米国民の消費で
成り立っているのです。
 米国の場合、製造業は1980年代以降不振をきわめており、
中心の自動車産業では新時代の技術に大きく遅れているのです。
そこで、日本や中国などの世界から輸入した商品を消費する過程
で生ずるサービス業や金融ビジネスなどの経済活動で経済成長を
支えてきたのです。しかし、米国民は、今回の金融危機で消費の
資金源を失ったのです。   ―――[大恐慌後の世界/33]


≪画像および関連情報≫
 ●『怒りの葡萄』について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1939年のジョン・スタインベックの名作「怒りの葡萄」
  を名匠ジョン・フォード監督が映画化。1962年にスタイ
  ンベックがノーベル文学賞をとれたのはこの作品による功績
  だとも言われている。ヘンリー・フォンダはこの作品を読み
  ひどく感銘を受けた。20世紀FOXにかけあって映画化実
  現に向けての働きかけをしたが、社長のダリル・ザナックは
  映画化の交換条件としてヘンリー・フォンダに7年契約をす
  るように迫ったという。止む無くフォンダは7年契約にサイ
  ンをする。
  http://amerisoreiyu.blog27.fc2.com/blog-entry-1882.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

映画「怒りの葡萄」.jpg
映画「怒りの葡萄」
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2009年02月23日

●「借金して消費してきた米国」(EJ第2516号)

 現在、米国はどのようになってしまっているのでしょうか。
 2月18日に配信された田中宇氏のレポート「揺らぐアメリカ
の連邦制」は、次のような衝撃的ニュースを伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2月1日、米国カリフォルニア州政府が、財政破綻(支払い不
 能)を宣言した。加州政府の会計責任者はこの日、州政府の手
 持ち資金が底をつき、同日に支払われるはずだった州民に対す
 る福祉手当、奨学金、税の還付金など総額37億ドルが支払え
 ないと発表した。支払いを受けるべき人々に対して借用書(I
 OU)を発行し、いずれ支払い可能になったら払うことになり
 州職員の人件費を浮かすため、平日に2日間、役所を閉めるこ
 とにした。     ――「田中宇の国際ニュース解説」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 米カルフォルニア州といえば、国家に例えると、世界第8位の
経済規模を持つ国なのです。もっともシュワルツネッガー知事の
率いるカルフォルニア州は、金遣いの荒いことで有名であり、い
ずれこうなることを予測する向きは多かったのです。
 しかし、カルフォルニア州以外にも財政破綻しそうな州はたく
さんあるのです。昨年の12月の段階で41州、1月末の時点で
46州が大幅な財政赤字状態に陥っているのです。全米50州中
46州がそういう状態なのです。
 現在の米国では、貧富の差が拡大しつつあります。それも半端
なものではなく、極端なものになっているのです。ニューヨーク
タイムスによると、2003年から2005年にかけての米国の
上位1%の高額所得者の所得増加分の総額――5248億ドルは
2005年の米国の下位20%の低所得者の所得総額――383
4億ドルよりも多いという異常事態なのです。
 さらに深刻な事態は、国家発展の要であった中産階級では、ク
レジットカードの破産が増えているのです。2007年度の1年
間で、カード債務を30日以上遅延している人は26%も増えて
いるのです。クレジットカードは米中産階級を象徴する生活のツ
ールであり、これを失うと中産階級は貧困層に転落してしまうこ
とになります。
 前回述べたように、現在米国は五重苦を負っています。その第
1は「米経済の不況」ですが、米経済は今まで旺盛な経済成長に
支えられてきたのです。米国の経済成長の要因の70%は米国民
の「消費」で成り立っていたのです。その米国の「消費」に赤信
号が灯っているのです。
 希代の投資家であるジョージ・ソロス氏は、米国がこうなるか
なり前から今回の金融危機を「世界的な超バフルの崩壊」として
次の本で警告を発していたのですが、リーマン・ブラザーズやメ
リルリンチなどの米金融機関は警告を聞き入れなかったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ジョージ・ソロス著/徳川家広・訳/松藤民輔・解説
   『ソロスは警告する/超バブル=悪夢のシナリオ』
                      講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ソロス氏は、この本の冒頭で、超バブルの世界的爆発の元凶に
ついて、次のように分析しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私の分析では、この超バブルには他のすべてのバブルと同じく
 人々が誤った投資行動を続ける原因になった「支配的なトレン
 ド」と「支配的な誤謬」とが存在した。「支配的なトレンド」
 とは信用膨張、つまり、信用マネーのあくなき肥大化であり、
 「支配的な誤謬」とは、19世紀には自由放任と呼ばれていた
 市場にはいっさい規制を加えるべきではないという考え方――
 すなわち市場原理主義である。過去25年間に発生した金融危
 機の数々が、それなりにうまく克服されてきたおかげで、信用
 膨張のトレンドも市場原理主義という誤謬も、かえって強化さ
 れてしまった。そのために、われわれは超バブルがここまで大
 きく育つことを許してしまったのである。だが、これ以上の信
 用膨張がもはや不可能となり、しかも市場原理主義の誤りが余
 すところなく暴露されてしまった今回の危機は、歴史の大きな
 転換点とならざるをえないだろう。
            ――ジョージ・ソロス氏の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ソロス氏のいう「支配的なトレンド」は「信用膨張」のことと
されていますが、これは個人の預金もないのに高級車を買うよう
な行為を大勢の人がやっていることをいうのです。
 何しろ米国では、無職・無収入の人に対しても所得があるよう
に書類を偽装して住宅ローンを組んだりすることはごく普通に行
われていたのです。こういう行為全般を「信用膨張」といってい
るのです。サブプライム問題の根本原因としてこの信用膨張があ
るのです。
 米国では、収入のある人に対しては、その多寡にかかわらず、
比較的緩い審査でクレジットカードが発行されるのです。現在、
米国では民間雇用が収縮しており、インフレもひどいので、米国
民の実質収入が減っているのです。
 そのため人々は食糧やガソリンなどの生活必需品をカードで購
入し、カードローンの限度がいっぱいになるまで使い、やがて支
払えなくなって、カード破綻する人が増えているのです。
 今や全米の総世帯数(約1億1000万人)の約7%に当たる
800万世帯が、既に債務超過になっているといわれます。それ
に加えて多くの人が職を失い、失業率が上昇しています。
 米国民の多くの人々は、職と住宅を奪われ、クレジットカード
も取り上げられる――これによって中産階級が貧困層に没落し、
米国の消費は大きく落ち込みつつあります。これを回復させるの
は容易なことではないのです。オバマ政権は米国のこの状況を改
善できるのでしょうか。経済成長の要である消費を回復させるこ
とはできるのでしょうか。  ―――[大恐慌後の世界/34]


≪画像および関連情報≫
 ●予言/米国は内乱で6つに分裂する
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2008年末、以前から米国の崩壊予測を言い続けてきたロ
  シアの著名な学者(Igor Panarin)が「1010年6−7月
  に、米国は内乱で6つに分裂する。東部諸州はEUに加盟し
  中西部はカナダと合併し、南部はメキシコが、加州は中国が
  とり、ハワイは日本か中国のものになり、アラスカはロシア
  領に戻る」という予測を述べて話題になった。
           ――「田中宇の国際ニュース解説」より
  ―――――――――――――――――――――――――――

「ソロスは警告する」.jpg
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2009年02月24日

●「『虚構の繁栄』の米国経済」(EJ第2517号)

 米経済は「五重苦」に陥っているといわれます。そのうちの2
番目は「米政府の財政赤字の急増」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.米経済の不況
    →  2.米政府の財政赤字の急増
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済評論家の高橋乗宣氏によると、米国経済は今日まで30年
間にわたって「虚構の繁栄」を続けたといっています。米国は基
軸通貨国としての特権をフルに活用し、「虚構の繁栄」を作り出
すことによって、経済の実力とは大きくかけ離れた「強いドル」
と「強い米国」を今まで維持してきたのです。
 米国の「虚構の繁栄」は、次の3つの基本的な経済政策によっ
て30年間維持されたということができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.2つの思想に裏打ちされたレーガノミックス
   2.永遠の成長が続行するニューエコノミー神話
   3.最先端金融技術/証券化を使った金融バブル
―――――――――――――――――――――――――――――
 「虚構の繁栄」を作る基礎となったのは「2つの思想に裏打ち
されたレーガノミックス」です。1981年から1988年まで
のロナルド・レーガン大統領政権下で推進された政策です。
 2つの思想とは「新自由主義」と「小さな政府」の2つです。
これはケインズ主義とは対極に位置する経済政策であり、供給側
――サプライサイドを強化する政策手法なのです。
 企業や家計の大幅減税、規制緩和、そして歳出削減のための金
融引き締めを実施するというのがその主な柱です。企業の減税を
すれば、企業は設備投資や生産増加などの経済活動を積極的に行
うはずであるという読みがあり、あわせて、家計部門の税負担を
下げることによって消費が活性化し、企業の業績は向上し、税収
が増えると考えていたのです。
 しかし、消費は拡大したものの、税収は伸び悩み、財政を悪化
させる結果となり、歳出削減にも失敗したので、財政赤字はさら
に拡大したのです。
 しかし、大幅減税とインフレ退治のための金融引き締めを同時
に行ったところ、金利上昇とドル高を招く結果となり、その結果
ドル高は米国の製造業を壊滅状態に陥れ、多くの企業が倒産する
ことになったのです。
 このレーガノミックスがいかに失敗であったかについて高橋乗
宣氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1980年に1万1000件余りだった企業倒産件数は、82
 年には2万5000件近くまで急増した。特に鉄鋼や自動車な
 ど主要な製造業の業績悪化は著しく、多くの企業で工場閉鎖や
 労働者の解雇が行われた。そして1983年の失業者数は10
 71万人と、戦後初めて1000万人の大台を突破したのであ
 る。          ――高橋乗宣著/東洋経済新報社刊
 『世界恐慌の襲来/日本経済は「最悪の10年」に突入する』
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、このサプライサイド経済学は明らかに失敗といえ
るのですが、その後日本の小泉政権が「改革」と称して家計の減
税抜きでこの経済政策を導入し、これによって日本経済にさまざ
まな問題を残す結果となったのです。
 続いて、「虚構の繁栄」を継続させる結果となったのは「永遠
の成長が続行するニューエコノミー神話」なのです。1990年
から2000年代初頭にかけての経済繁栄期です。
 そもそも経済というものは、景気の上昇と後退を繰り返しなが
ら成長していくものなのです。しかし、このような景気循環は過
去のもので、景気は後退しないまま成長が続くというのがニュー
エコノミー論なのです。
 米国の場合、前の時代からの規制緩和や経済のグローバル化、
労働市場の流動化などがニューエコノミーを支える要因になり、
米国は空前の好景気を謳歌したのです。
 しかし、これはバブルだったのです。ニューエコノミー景気を
あのグリーンスパン元FRB議長は次の言葉で表現したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      根拠なき熱狂/irrational exuberance
―――――――――――――――――――――――――――――
 高橋乗宣氏は、ニューエコノミーの評価として次のように述べ
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国は2000年まで長期的な経済成長ができたのは、新たな
 経済理論が発明されたからでは決してなく、積極的な個人消費
 や海外からの資金流入によって、内需が拡大したためにすぎな
 かった。国内純投資の対GDP比率が急上昇したが、表裏一体
 の関係として経常収支の赤字は拡大していくばかりであった。
             ――高橋乗宣著/東洋経済新報社刊
 『世界恐慌の襲来/日本経済は「最悪の10年」に突入する』
―――――――――――――――――――――――――――――
 続いて米国では、空前の住宅・不動産投資ブームがサブプライ
ム問題が顕在化するまで続くのです。そしてこの時代の経済を支
えたのは「最先端金融技術/証券化を使った金融バブル」であっ
たのです。
 最先端の金融技術を使った証券化の手法は「ハイリスク・ハイ
リターン」ならぬ「ローリスク・ハイリターン」を可能にする夢
の金融商品を実現させたかに思われたのですが、そのようなうま
い話が長続きするはずはなく、リーマン・ショックによって証券
化商品自体の信頼性が失われると、売りが売りを呼ぶパニックと
なり、金融危機へと突入してしまったのです。
 米国経済は、以上の3つの経済政策によって30年の「虚構の
繁栄」を築いたのです。   ―――[大恐慌後の世界/35]


≪画像および関連情報≫
 ●レーガノミックス/再生する米国経済
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1998年8月のロシア金融危機と引き続く金融市場の混乱
  は順風満帆の米国経済に冷水を浴びせる事件であった。ロシ
  アで金融危機が勃発するや米系ヘッジファンドの中にはかな
  り大きなダメージを被るところも出てきた。特にマートンシ
  ョールズという二人のノーベル経済学者を有するロングター
  ム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が九月に破たん
  の危機に瀕した際は、ニューヨーク連銀が音頭を取ってLT
  CMの清算を回避するなど極度に緊迫した場面も見られた。
    http://homepage2.nifty.com/tanimurasakaei/re-ga.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

高橋乗宣氏.jpg
高橋乗宣氏
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2009年02月25日

●「米国はどのくらい予算を使っているか」(EJ第2518号)

 ここにきて世界中が心配していることがあります。それは、米
国債がAAAランクを失い、引き受け手がいなくなることです。
 一体米国はどのくらい予算を使っている国なのでしょうか。中
国に次いで米国債を多く持っている日本としては、米国の予算に
ついても関心を持つ必要があります。
 2009年度――2008年10月〜2009年9月まで――
の米連邦政府予算は、総額で3兆ドルを突破しており、史上最大
の規模になっています。
 この予算には、不況に備えるための減税策を盛り込んだので巨
額になりましたが、これによって財政赤字額は4100億ドルに
膨らんでいます。
 しかし、国際政治ジャーナリストの田中宇氏によると、この赤
字額はインチキであるというのです。というのは、2009年度
予算には、イラクとアフガニスタンの戦費が700億ドルしか計
上されていないからであるというのです。
 確かに2008年度予算では、イラクとアフガニスタンの戦費
は、1890億ドルが計上されており、700億ドルではその半
分にも満たないからです。オバマ政権になって米軍がアフガンに
増強されることを考えると、少なくとも2009年度は1500
億ドル〜2000億ドルを超える戦費がかかるのは確実であるか
らです。
 米国のイラクとアフガニスタンの戦費に関しては、ノーベル賞
経済学者ジョセフ・スティグリッツ氏の精力的な研究が次の本に
なって出ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ジョセフ・E・スティグリッツ/リンダ・ビルムズ著
 『世界を不幸にするアメリカの戦争経済/イラク戦費3兆ドル
             の衝撃』/楡井浩一訳  徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この本はかなり難解であり、読み切るのはかなりきつ
いと思います。そこでこの本については、私が関連している企業
のサイトにその内容を6回にまとめてあるので、興味のある方は
参照していただきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 http://www.intecjapan.com/forum/2008/09/post_121.html
 http://www.intecjapan.com/forum/2008/09/post_122.html
 http://www.intecjapan.com/forum/2008/10/post_123.html
 http://www.intecjapan.com/forum/2008/10/post_125.html
 http://www.intecjapan.com/forum/2008/10/post_126.html
 http://www.intecjapan.com/forum/2008/10/post_127.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国において心配なことはまだあります。政府健康保険と公務
員年金が破綻しそうなのです。一番危険なのはメディケアなので
す。2007年度から処方箋薬への保険適用が拡大されたことに
よって赤字が急増したのです。そして少なくとも2018年度ま
でにメディケアは破綻し、米政府に巨額の財政出動を強いると予
想されているのです。
 2008年1月の時点で、債券格付け機関であるムーディーズ
は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米政府が(メディケア)健康保険や社会保障費への財政支出を
 削減する思い切った政策が採れなかった場合、米国債は10年
 以内に最優良格(AAA)を失うかもしれない。
                   ――田中宇著/光文社
     『世界がドルを棄てた日/歴史的大転換が始まった』
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは大変なことです。米国債がAAAを失ったら一体どうな
るでしょうか。
 米国債の売れ行きは一挙に悪化し、利回りが急騰して米政府は
巨額の利払いを余儀なくされます。これが続くと、政府は国債の
利払いがやがてできなくなり、国家的な債務不履行に陥ってしま
う可能性があります。
 前掲の2009年度米予算は、実質成長率が2.2 %を前提と
しているのです。しかし、未曽有の経済危機で景気は一段と悪化
しており、赤字幅は一段と拡大することは必至です。何しろ累計
の公的債務は10兆ドルを突破しており、いまなお拡大しつつあ
るのです。
 しかも、米国の場合、対外債務残高が対外純資産残高を大きく
上回る世界最大の対外純債務国になっていることです。対外純債
務国になったのは、1986年のことです。
 米国債の海外の保有残高は増加を続けており、現在は40%を
超えているのです。そのうち、日本は中国に次いで約6000億
ドルを保有しているのです。つまり、米国は海外からのファイナ
ンスによって、国家財政を成り立たせているのです。
 日本も財政赤字は年間1000兆円もあって、財務省や財務省
寄りの政治家は大変だと騒ぐのですが、米国の場合とは抱える借
金の質がまるで違うのです。
 なぜなら、日本は世界最大の純債権国であり、日本国債のほと
んどは国内で保有されているからです。米国のように、純債務国
であって、海外の国債保有額が40%を超えている国とは違うの
です。日本の財務省は、格付け会社が日本国債の格付けを下げよ
うとするときはこの理屈で反論し、国民には1000兆円の借金
の大きさを訴えて増税の根拠にしようとしているのです。
 既に述べたように、FRBはドルの通貨供給量を示す「M3」
を公表していませんが、実際の通貨供給量の伸びは年間15%あ
前後と分析されています。望ましいM3の伸びは5%以下なので
り、これだけドルが増刷されると、ドルが基軸通貨としての世界
経済はひどいインフレになるのは当然のことです。
 五重苦のうちの第2の苦である「米政府の財政赤字の急増」は
以上の通りです。      ―――[大恐慌後の世界/36]


≪画像および関連情報≫
 ●『戦争経済』/スティグリッツの書評から
  ―――――――――――――――――――――――――――
  イラク戦争にかかった費用は3兆ドル。この膨大な経費は、
  アメリカ経済、そして世界経済にいかなる衝撃を与えている
  のか?ブッシュ政権によるコスト隠蔽操作を暴き、戦争とい
  う巨大ビジネスが引き起こす負の連鎖を看破する。本書はサ
  ブタイトルに「イラク戦費3兆ドルの衝撃」とありますが、
  政府は市民が戦争の巨大なマイナス面に気づかないようにし
  その情報伝達の周到な虚偽を、徹底的に暴いていきます。
  http://plaza.rakuten.co.jp/wakubuku/diary/200902140000/
  ―――――――――――――――――――――――――――

戦争経済/スティグリッツ.jpg
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2009年02月26日

●「世界的なインフレは起こるのか」(EJ第2519号)

 米経済の五重苦の第3番目は「世界的なインフレ」です。今日
はこのテーマについて考えることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.米経済の不況
       2.米政府の財政赤字の急増
    →  3.世界的なインフレ
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在日本は深刻なデフレ状況にあります。したがって、世界的
なインフレといわれても日本人にはピンとこない人がほとんどで
あると思います。
 インフレの火種は、FRBが2000年に短期金利を1%程度
の水準まで下げたことです。それまでの景気減速を受けての措置
としての利下げです。
 しかし、2005年からは一転利上げに転じたのです。これは
原油高騰に起因するインフレの悪化を懸念しての利上げなのです
が、これが住宅ローンの金利の上昇を招き、2007年の金融危
機を誘発したのです。
 ところが、金融危機と住宅バブルが崩壊して、米経済が減速し
不況に近づいたので、またもやFRBは2007年から利下げを
したのです。これはFRBとしてはやむを得ざる措置です。しか
し、これによってせっかく抑え込まれていたインフレが悪化する
のです。
 この利下げには、FRB内部では景気を懸念する意見とインフ
レを懸念する意見が対立したのですが、バーナンキ議長は景気を
懸念して利下げを選んだのです。そのため、これによって世界的
なインフレに拍車がかかることになったのですが、幸いなことに
2008年の夏以降は、原油価格が下落に転じたので、インフレ
懸念は若干緩和されたのです。
 しかし、今回の金融危機への米政府の対応で米国の財政赤字が
急拡大しており、ドルに対する潜在的な信用不安が起きているの
です。この事態を放置すると、いずれドルの価値下落が原油の再
高騰になって跳ね返り、世界的なインフレが再び出現する恐れが
あるのです。
 世界的なインフレについてはいろいろな意見があるのです。日
刊ゲンダイの「国際政治ナナメ読み」の原田竹夫氏は、この世界
的インフレは米国がつくり出そうとしているとして、次のように
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国におけるマネタリー・ベース、すなわち「どれだけの量の
 米ドルが出回っているのか」を示す指数を見ると、昨年9月頃
 と比べて現在は実に2倍以上なのだ。つまり、世界は文字通り
 「米ドル漬け」なのであって、インフレどころか、ハイパー・
 インフレがいつ起きてもおかしくないのだ。しかも、バーナン
 キ議長は「インフレ万歳」をモットーとする学者である。
 ――「国際政治ナナメ読み」/2009.2.24/23発行
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに原田氏は、最近にわかに巻き起こった「政府紙幣・無
利子国債の発行」は、米国の仕掛けではないかといっているので
す。その提唱者は高橋洋一氏であり、もともと小泉・竹中陣営の
人物なのです。それに現在の米国の金融の舵取りは、インフレ・
ターゲット論者であるバーナンキ議長が担っており、もはや世界
的なインフレは避けようがないと原田氏はいうのです。
 そういうときに、日本円だけ例外であるのは困るのです。なぜ
なら、米ドルが暴落すると、行き場所を求めるマネーは一斉に円
へと殺到することは明らかであるからです。米国から見れば、こ
れほど面白くない話はないので、日本もインフレに巻き込んでし
まえというわけです。
 この原田意見はにわかには信じられないですが、このことと、
米プリンストン大学のポール・クルーグマン教授が2008年に
ノーベル賞を受賞したことが不思議にリンクしてくるのは面白い
と思います。
 ある米国通のエコノミストは、クルーグマンの受賞について次
のようにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 疑似の大恐慌に陥って、先進各国政府が公的資金の注入を決め
 た。その理論的裏付けにタイミングがちょうど良かった。番狂
 わせのダークホースが受賞となったわけで、まことにクルーグ
 マンの強運です。   ――宮崎正弘著/WAC BUNKO
     『やはり、ドルは暴落する!日本と世界はこうなる』
―――――――――――――――――――――――――――――
 宮崎正弘氏によると、クルーグマンという学者は、基本的には
リベラルであるが、米国の保守陣営からは蛇蝎のごとく嫌われて
おり、ウォール街は見向きもしなかったというのです。彼は目立
ちたがり屋であり、クリントン政権下では、大統領経済諮問委員
長のポストを狙って、猟官運動をして顧問に滑り込んだという経
緯があります。
 宮崎氏は、ある経済事情通の言葉としてクルーグマンを次のよ
うに表現しています。クルーグマン教授は日本で人気があります
が、かなりイメージが変わると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 かつてはレーガンべったり、クリントンのときは猟官運動で主
 旨がえの論文を平気で書いた。まわりが冷たくなるやさらりと
 ブッシュ批判に転じ、学問的理論はめちゃくちゃだ。
            ――宮崎正弘著/WAC BUNKO
     『やはり、ドルは暴落する!日本と世界はこうなる』
――――――――−――――――――――――――――――――
 クルーグマンは学問的業績というよりもニューヨーク・タイム
ス紙のコラムニストとしてブッシュ批判を繰り返した人です。学
問的にはジクザクが激しく、ときおり学会から強いバッシングが
起きるのです。       ―――[大恐慌後の世界/37]


≪画像および関連情報≫
 ●ポール・クルーグマンについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  クルーグマンが活躍を始めた頃の世界経済上の大事件は、ブ
  レトン=ウッズ体制崩壊に伴う変動為替相場の採用だった。
  為替自由化は、固定相場につきものの投機攻撃をなくし、為
  替の安定化をもたらすはずだったのに、実際には過去に例を
  見ない大変動を繰り返していた。クルーグマンは、市場の統
  合の不完全性と様子を見ることのオプション価値が為替変動
  を煽る結果となることを、これまた単純なモデルで説明して
  いる。同時に外国為替市場での投資家の動きが、短期的にも
  長期的にも合理的(経済学的な意味で)じゃないことを指摘
  し、各種の通貨危機の自己成就的な発生メカニズムをモデル
  化した。
    http://cruel.org/econthought/profiles/krugman.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ポール・クルーグマン教授.jpg
ポール・クルーグマン教授
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2009年02月27日

●「米国は本当に強いドルを推進するのか」(EJ第2520号)

 2月24日に行われた日米首脳会談では何が話し合われたので
しょうか。それにしても米国は、一週間前にいきなり米国まで一
国の首相を呼びつけておいて、昼食も出さないというのは少し失
礼なのではないかと思います。
 これについて、当の米政府元当局者は次のようにいって、オバ
マ政権の対応を批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 支持率が低いとはいえ、急に首相を招待した割にはそっけない
               ――MSN/産経ニュースより
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回の日米会談で米国側は、何を日本に期待したかについて、
26日付けの日本経済新聞は次のように伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 先のアジア訪問で最後に中国を訪れたヒラリー・クリントン国
 務長官は滞在中各所で「保有米国債の維持」への期待を隠さな
 かった。「基軸通貨であるドルの信頼の維持が一番大事だ」。
 米国の狙いを読み取るかのように麻生首相は会談後、記者団に
 繰り返した。  ――2009年2月26日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 麻生首相の会談後の記者会見での発言から推測すると、オバマ
大統領は「ドルの信頼の維持」が重要であり、両国が協調して基
軸通貨を守っていこうという趣旨の発言をしたことは確かである
と思われます。
 これを聞いて「ミスター円」こと榊原英資氏は、記者の問いか
けに対して次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドルは現在そんなに悪くない。それなのに、「ドルの信頼の維
 持」を会談で持ち出したことは、米国債をさらに多く買って欲
 しいというメッセージではないか。      ―榊原英資氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国の抱える五重苦の4番目は、まさにオバマ大統領が心配す
る「ドルの信用不安」なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.米経済の不況
       2.米政府の財政赤字の急増
       3.世界的なインフレ
     → 4.ドルの信用不安
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここ数年にわたって米国の経常収支の赤字が増えていますが、
増加分の約半分が原油を輸入するときの代金が原油高騰で増加し
た分なのです。幸いにして原油価格は2008年後半に下落した
ので最悪の事態に陥らないで済んでいますが、もし経常収支の赤
字がこれ以上増え続けると、世界の投資家に「米国債などの米国
の金融資産に継続して投資し続けても大丈夫なのか」という懸念
を抱かせることになります。これがドルの信用不安を引き起こす
ことになります。
 ブッシュ政権の8年間に米政府は、ドル紙幣を刷りまくって財
政赤字を急増させています。しかし、為替相場では、ユーロ高や
円高はほとんど進んでいないのです。どうしてこのようなことが
起こったのでしょうか。
 それは、EUや日本が自国の輸出産業を守るため、ユーロ高や
円高になるのを防いだからです。たとえば、利上げを見送って低
金利を続けたり、通貨供給を増大させて、ドルが信用不安を起こ
して弱くなると、自国の通貨もそれに連動させて意図的に弱くす
る政策――弱いふり政策――をとって、自国通貨が上がるのを必
死になって防いだのです。
 ところで、レーガン政権以降現在まで、米当局からさかんに聞
かされた次の言葉があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
        強いドルが米国の利益になる
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、既出の田中宇氏によると、「強いドル」は日欧の「弱
いふり政策」によって、結果としてそうなったのであって、米当
局としては「ドル安」政策に傾斜しているというのです。
 確かに調べてみると、米政権が本気になって「強いドル」戦略
を実行したのは、ひとつの例外を除いて、80年代初めのレーガ
ン政権の1期目と、ニューヨーク・ウォール街の要請に応じて世
界の余剰資金をひきつけようとしたクリントン政権の一時期に過
ぎないのです。
 2004年にドル安ユーロ高が進んだとき、当時のスノー財務
長官は、次のように述べて、ドル安になっても「市場介入はしな
い」と明らかにドル安を煽っているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (当局の介入など)市場原理以外の作用で為替を動かそうとす
 る努力は、歴史的にみてうまくいかないことが分かっている。
               ――米スノー財務長官(当時)
―――――――――――――――――――――――――――――
 ひとつの例外というのは、ブッシュ政権の対円政策なのです。
ブッシュ大統領は小泉首相(当時)の改革路線を後押しする目的
で、2003年から翌年2月にかけての日本財務省による大規模
な円売り・ドル買い介入を黙認したのです。
 円安傾向を受けて日本からは巨額の超低金利資金が米金融市場
になだれ込み、住宅ローンなどの債務をまかなったのです。これ
によって、ドルはユーロや英ポンドなど欧州通貨に対しては下落
しましたが、証券化商品の開発で欧州の余剰資金を引き寄せるこ
とに成功したのですが、これがあの忌まわしいサブプライム問題
を引き起こす原因となったのです。
 したがって、日本はサブプライム問題に決して無関係ではなく
むしろそれを可能にする巨額の超低金利資金を米金融市場に提供
する役割を担ったのです。  ―――[大恐慌後の世界/38]


≪画像および関連情報≫
 ●米国の国際収支と双子の赤字/2005.2.11
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2004年のアメリカの経常収支の赤字は6千億ドルで、財
  政赤字は4千億ドルである。アメリカは政府部門が4千億ド
  ルもの財政赤字を出し続けているにもかかわらず、国民の慢
  性的な過剰消費体質のため貯蓄が不足しており、政府の財政
  赤字を自国内で賄う事ができない。それどころか、民間部門
  が貿易赤字を出して、官民一体となった赤字地獄に陥ってい
  るのであり、これをアメリカの双子の赤字問題という。
         http://www.kjps.net/user/khy/intro1.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

スノー元財務長官.jpg
スノー元財務長官
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2009年03月02日

●「ドル安は米国にとってプラスか」(EJ第2521号)

 米国はつねに「強いドル」を標榜しながら、その裏では「ドル
安」政策を仕掛けるという、いささかわかりにくいことをやって
いるようです。現政権のガイトナー財務長官も、オバマ政権経済
チームでは「強いドル」を推進し、通貨調整での「総合戦略」を
検討中であることを明らかにしています。
 とくに中国に対してオバマ大統領は、「中国政府は人民元を不
当に安く操作している」と認定し、「オバマ大統領は中国の為替
慣行を変えるためにあらゆる外交手段を動員する」と強調してい
るのです。
 対中国・人民元に関して米国は、ブッシュ政権時代から連邦議
会で、中国政府が人民元の対ドル為替を切り上げない限り、中国
から米国へ輸入品に対抗的な高関税をかけるという内容の法案を
脅し文句のように審議し続けているのです。
 実際にブッシュ政権になってからのドルの下落率は、13.2
%であり、これは歴代大統領の中で最大の「ドル安」であるとい
われます。それまでの米政権――とくに共和党政権は、外面上は
ドル高といいながら、ウラではバランスをとりながらもドル安を
推進してきたことは事実のようです。
 なぜ、ドル安は、米国にとってプラスなのでしょうか。これに
ついて、既出の田中宇氏は、自著で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米政府がドル安を望むのは、ドルの価値が下がるとその分実質
 的な経常赤字と財政赤字の規模を減らせるからであるとか、米
 国の輸出産業の振興のためであるとか、産業的なライバルであ
 る欧州や日本、中国などの輸出産業に打撃を与えるためである
 とか、いろいろ推測されている。   ――田中宇著/光文社
     『世界がドルを棄てた日/歴史的大転換が始まった』
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに「ドル安」は、米国の産業的ライバルである日本や中国
にとって、それをやられると困るわけであり、米国にとって通貨
調整は重要な戦略であるといえます。一方ドル安は、米国にとっ
て実質的なメリットもあるという意見もあります。いささかレト
リック的ではありますが、ご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 07年末での米国の対外債権総額は17兆6400億ドルに上
 る。単純に計算して、ドル相場平均で10%下落すると、米国
 は1兆7640億ドルの為替差益を得ることになる。これはオ
 バマ政権による財政支出拡大に伴う財政赤字見込額を優に上回
 る。30%のドル安で5兆2920億ドルに上り、金融危機の
 元凶になった証券化商品10兆8400億ドルの価値が半分に
 減っても十分補填(ほてん)できる。
      ――【円ドル人民元】「強いドル」という欺瞞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、為替差益(損)というものは、それを自国通貨にした
らという仮定の数字です。たとえば、トヨタが円高によって莫大
な損失といっても、帳簿上日本円に換算した場合であって、ドル
のままで保有すればドルとしての価値を持つのです。
 さて、今回の世界的な経済危機によって米国は危機的な状況に
陥っています。果たして米国はこの危機的状況から脱却できるの
でしょうか。
 これに関しては、人によって意見が異なります。楽観的な意見
としては、米国という国は、新たな仕組みや産業を勃興させる創
造力を持っており、それが強い回復力の源泉となっているので、
必ず蘇り、再び世界的な経済大国の座に復帰する――こういう予
測です。しかし、これは少数派に属するのです。
 田中宇氏は、米国の持つ「回復力の強さ」に対して疑問の目を
向けており、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米経済は以前は回復力は強かったが、今では弱くなっている。
 経済の中心を担ってきた中産階級が疲弊し、貧富格差の拡大の
 中で、中産階級が貧困層に転落する傾向を強めている。
                   ――田中宇著/光文社
     『世界がドルを棄てた日/歴史的大転換が始まった』
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、米国の中産階級が疲弊しているかについて、以下、田中
氏の意見をご紹介します。
 米国の大金持ちの収入が、米国民の総収入のうち何%を占めて
いるかという比率の変化についての研究結果があります。ピケッ
ティとサエズという2人の経済学者による2006年発表の研究
成果です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国民のなかで最も収入が多い0.1 %の層(大金持ち層)が
 得ている年収が、米国民の年収総額の中に占める割合は、19
 30年代には6%前後だったが、1940年代の戦時体制下で
 「(収入分布の)大庄縮」と呼ばれる現象の中で急減し、19
 50年代から70年代までは2%台の低位で安定していた。こ
 の時期の米国は、お金持ちに入る富が比較的少ない分、中産階
 級に入る収入が多かったことになる。その後、1980年代か
 ら2000年代には、再び大金持ち層の収入比率は8.5 %ま
 で上昇している。        ――田中宇氏の上掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 1940年代に大金持ちの収入が減った「大圧縮」の現象は、
英国、フランス、日本、カナダで起きており、世界の先進国に共
通していたのです。そして、1970年代まではこの傾向は続い
ており、大金持ちの収入は全国民の2%前後で安定していたので
すが、1980年代に入ると、米国、英国、カナダというアング
ロサクソン諸国では大金持ちの収入比率は向上したのです。
 中でも米国は、それまでの中産階級優遇策を廃止し、明確に金
持ち優遇策に切り替えています。この変化に米国の中産階級はど
う対応したのでしょうか。  ―――[大恐慌後の世界/39]


≪画像および関連情報≫
 ●ピケッティとサエズによる研究/2006年
  ―――――――――――――――――――――――――――
  06年5月、アメリカ経済学会の機関誌にピケッティとサエ
  ズがアメリカの格差の実態を明らかにした論文を発表した。
  民主党のブレーンである経済学者がこの論文を使って、中間
  選挙前に新聞紙上でブッシュ大統領の経済政策を厳しく批判
  した。先進資本主義国で上位0.1 %の高所得者層が国全体
  の所得の何パーセントを占めるかというデータである。
             http://kusuyama.jugem.jp/?eid=63
  ―――――――――――――――――――――――――――

世界がドルを棄てた日/田中宇著.jpg
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2009年03月03日

●「崩壊しつつある米国の中産階級」(EJ第2522号)

 米政府の定めた貧困ラインの年収の半分以下の極貧層――両親
と子供2人の世帯で年収9903ドル以下――は、2005年度
の統計で1600万人で、それまでの5年間で26%も増えてい
ます。これに2007年度から住宅市況の悪化によるローン破綻
者がこの層に加わってくることになります。
 2006年〜2007年になると、貧富の格差は一層ひどくな
り、ティファニーの売り上げは2割増になったものの、中産階級
や貧困層が日々購入するスーパーなどの小売業の売り上げが減少
しているのです。
 これは米国にとって深刻な事態なのです。なぜなら、貧富の拡
大と中産階級の衰退は、米国の国力の衰退を意味するからです。
米経済を支えているのは70%を超える消費ですが、その消費を
支えているのが、中産階級であるからです。
 その中産階級は、1970年代までは政府の優遇策――所得税
の累進制や高い相続税率など――を受けて育てられてきたのです
が、1980年代からはそれらが弱められることによって、中産
階級の収入は頭打ちになっていったのです。
 これに対応して米国の中産階級の人々は生活レベルの維持・向
上を図るため、次の方法で対処したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.共稼ぎ――女性の職場進出
       2.休まず労働時間を増加する
       3.クレジットカード利用借金
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の方法は、「共稼ぎ――女性の職場進出」です。
 給与の頭打ちを打破するため、妻も働きに出ることによって給
与自体を2人分にしたのです。米国の家庭で夫婦共稼ぎの家庭は
1970年には38%であったのに対し、最近では70%を超え
ているのです。
 第2の方法は、「休まず労働時間を増加する」です。
 収入を増やすもうひとつの方法は、休まないで多く働くという
ことです。最近の米国人は実によく働くのです。米国人の労働時
間は、この30年間に15日長くなっているのです。ヨーロッパ
の人々よりも労働時間が350時間も多くなり、日本人の労働時
間を抜いています。
 第3の方法は、「クレジットカード利用借金」です。
 しかし、それだけ働いても、よりレベルの高い生活をしていく
には、収入は足りなかったのです。そこで住宅ローンやクレジッ
トカードを利用するようになってきたのです。
 米国の住宅価格は、1990年以降上昇が続き、2002年か
ら2006年はとくに急上昇したのです。それに合わせて、住宅
ローンの借り入れも全米で増加したのです。
 これに伴い、米国の個人消費の額は1995年以来毎年4%ず
つ伸びており、これは世界の伸びの2倍に当たるのです。その一
方で、クレジットカードの債務不履行率は史上最高の5%前後に
達したのです。
 田中宇氏は、給与が増えなかった30年間の米国の中産階級の
生活について、次のようにまとめています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国の中産階級は、給料単価が増えなかったこの30年間、こ
 れらの方法(上記の3つの方法)によって収入を増やし、共稼
 ぎと長時間労働で疲労困憊しながらも、旺盛な消費を続け、米
 経済を成長させ続けた。多くの人々にとって、つらいが充実し
 た30年間だった。しかし、2007年からの住宅バブルの崩
 壊は、何とか回ってきていた中産階級の生活を破壊することに
 なつた。              ――田中宇著/光文社
     『世界がドルを棄てた日/歴史的大転換が始まった』
―――――――――――――――――――――――――――――
 1960年代までは、製造業の社員の生活は「米国の豊かさ」
の象徴だったのです。いま振り返ってみると、この時代が米国民
にとって最良の時代であったといえます。当時、米国は国内で消
費する商品の96%を自国内で作っていたのです。
 しかし、1980年代以降米国では、市場原理が重視されて、
国内の産業はあまり保護されなかったため、米企業――とくに自
動車産業などの製造業は国際競争にさらされ、人件費の安いアジ
アなどの企業に勝てず、いくつもの業種が衰退して市場から脱落
していったのです。
 ところが最近では、米国は商品の多くを輸入に頼っているので
す。米国の製造業ではテレビも冷蔵庫も自国では作っておらず、
ほとんどの部品を日本や韓国に頼っているのです。
 とくに自動車産業では新しいテクノロジーの導入を怠り、燃費
の良い車の生産が遅れ、日本や韓国の後塵を拝したのです。今こ
こにきて、オバマ政権がビックスリーを救済するかどうか検討し
ていますが、実際問題としてこれからの立て直しは容易なことで
はないと思われます
 21世紀の車はハイテク車そのものであり、しかも、環境にや
さしく、燃費に優れていないと消費者には受け入れてもらえない
のです。米国は、ハイテク技術の優れた国といわれますが、工業
用ロボットや半導体製造技術などの製造業全般のハイテク技術の
ほとんどは日本が持っており、米国が持っている産業技術は、防
衛や薬品などのごく限られた分野のものに過ぎないのです。
 1980年代からの米国では何が変わったのでしょうか。
 製造業はもう古いので、経済をサービス業中心に転換すべきで
ある――この考え方によって、米国では金融業が伸びたのですが
そこに大きな落とし穴があったと思われるのです。
 日本においてもこの20年ほどの間にサービス業は伸びていま
すが、製造業も伸びているのです。それは、日本がいろいろな非
関税障壁を設けて、国内製造業を保護してきたからなのです。米
国は気前の良い市場開放によって、虎の子の製造業を破滅に追い
込んだといえます。     ―――[大恐慌後の世界/40]


≪画像および関連情報≫
 ●米国の製造業は死滅しつつある
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米国の雇用全体に占める製造業の割合は、60年代には30
  %以上だつたが、最近では10%以下で、2000年からの
  5年間で18%も雇用が縮小した。米国の製造業はまさに死
  滅しつつあり、それは貿易赤字の増加につながっている。米
  国の貿易赤字の大半は、工業製品の輸入によって生み出され
  ており、製造業が衰退しているので貿易赤字はドル安になっ
  ても減りにくい。         ――田中宇著/光文社
     『世界がドルを棄てた日/歴史的大転換が始まった』
  ―――――――――――――――――――――――――――

GMとクライスラーのトップ.jpg
GMとクライスラーのトップ
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2009年03月04日

●「米国はなぜ気前よく市場開放するのか」(EJ第2523号)

 昨日のEJで「米国の気前の良い市場開放」について少し言及
しました。米国は戦後一貫して国内製造業を保護しないで、自国
の消費市場を外国企業に開放してきています。
 この恩恵を一番受けたのは、世界の民主主義国家であり、中で
も日本はもっとも恩恵を受けた国であると思います。古くは、ソ
ニーのラジオからはじまって、パナソニックのテレビ、トヨタの
自動車などなど。もし、米国の市場開放なかりせば戦後の日本の
発展はなかったはずです。
 日本だけではありません。西ドイツも、韓国も、台湾も、東南
アジア諸国も、そして中国も、米国が商品やサービスを受け入れ
てくれなかったら、現在の繁栄はあり得なかったでしょう。
 しかし、その結果、米国の貿易赤字は拡大し、製造業は危機に
瀕しているのです。どうして米国はかくも寛大なのでしょうか。
 これについて、歴代米政権の国際主義に反対し続けている米の
言論人パット・ブキャナン氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 昔の愛国的な共和党政治家は、必要なら輸入品に高関税をかけ
 ても、米国の労働者に世界一の豊かな生活をさせることを最重
 視した。今や、こうした経済愛国主義は死滅し、自由貿易体制
 こそが正しいと信じ込んだ連中が多数派となり、世界経済が重
 視され、米経済は軽視されている。その結果、米国の製造業は
 死滅し、米政府は大赤字になっている。
                   ――田中宇著/光文社
     『世界がドルを棄てた日/歴史的大転換が始まった』
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国のこのような「気前の良い市場開放」の秘密は何でしょう
か。これはまさに謎なのですが、これについて考えるとき、次の
2つの視点に立ってみる必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.米国経済を優先に考える
      2.世界経済を優先に考える
―――――――――――――――――――――――――――――
 普通は1の視点に立って考えます。つまり、国の利益という視
点に立って考えると、米国の気前の良い市場開放は米国にとって
あまりにもマイナスです。ブキャナンも「世界経済が重視され、
米経済は軽視されている」と嘆いています。
 しかし、2の視点に立って考えると、米国の市場開放はきわめ
て合理的なのです。つまり、われわれの住む世界には、国という
レベルで物事を考えて遂行している人たちだけでなく、そのひと
つ上の視点、世界というレベルでも物事を考えて決めている人た
ちがいるという考え方です。
 世界というレベルで物事を考えて決めている人――こういう人
たちというか、グループの存在をアカデミックの人たちは、一切
認めようとはしませんが、世界中で起きているさまざまな事件の
根っこの部分をていねいに調べていくと、そういう存在を否定で
きなくなってくるのです。そういう存在についてEJでは何回も
取り上げています。
 国際ジャーナリストの田中宇氏は、そういう存在を認めている
一人と思われますが、田中氏は自著やメールマガジン、ご自身の
ウェブサイトにおいて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国の最上層部にいる人々が自国より世界を重視するのは、彼
 らが「資本家」だからであり、1970年代以来、発展が鈍化
 して投資の利回りが下がった米国よりも、これから発展しそう
 なアジアなど利回りの高い海外に投資することを好んだ結果、
 米国には海外の製品を積極的に輸入する市場としての役割を担
 わせる政策を30年間続けてきたのではないか、というのが私
 の分析である。           ――田中宇著/光文社
     『世界がドルを棄てた日/歴史的大転換が始まった』
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、五重苦の米経済としてひとつずつ検討してきていますが
五重苦の最後は「金融危機」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.米経済の不況
       2.米政府の財政赤字の急増
       3.世界的なインフレ
       4.ドルの信用不安
    →  5.金融危機
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回の「金融危機」は、日を追うにつれて深刻さの度合いを深
めています。果たして日本や米国はこの金融危機を乗り切ること
ができるのでしょうか。
 4000兆円――この数字は、2007年10月のピーク時を
起点とした場合、株式を含む世界全体の金融商品の下落で失われ
た富なのです。これは、世界のGDP(国内総生産)の一年分が
消滅した計算になるのです。
 欧米の金融機関の抱えるクレジット商品――貸出債権、社債、
証券化商品の合計――の含み損は約5.8 兆ドル、約522兆円
に達し、最終的には1000兆円に膨らむ可能性があると予測さ
れています。
 欧米の主要金融機関だけでも潜在損失額は約300兆円、うち
未処理額はまだ約200兆円あるので、基礎収益力から判断して
不良債権処理には少なくとも14年はかかると思われるのです。
 これに対して世界各国の政府が460兆円の財政出動に乗り出
しています。まさに史上最大規模の財政出動なのですが、金融機
関の損失だけで1000兆円もあるのです。それに対して460
兆円の財政出動では「焼け石に水」ではないかという意見も出て
いることは事実です。
 本当に世界各国の金融当局は現在の施策でこの危機を乗り切る
ことができるのでしょうか。 ―――[大恐慌後の世界/41]


≪画像および関連情報≫
 ●パット・ブキャナンの復活/宮崎正弘の国際ニュース
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ブキャナン派の孤立主義的思想は、とりわけ経済政策に顕著
  だ。自由貿易に反対し、たとえば「鉄鋼ダンピング(不当廉
  売)問題で解雇された鉄鋼労働者はグローバル経済の犠牲者
  だ」とする。米国産業の保護や孤立主義的な外交方針を表明
  した。また同時に共和党が公言できないような「妊娠中絶禁
  止、保護貿易、孤立主義」を堂々と掲げるため、地方では人
  気が高く、共和党のキリスト教原理主義派の票を浚うのであ
  る。ブキャナンの歴史観は、大胆且つ率直で、「第二次世界
  大戦での米国の対ドイツ・対日戦開始は戦略的な誤り」とす
  る。ただこれは正しくとも、アメリカ人の平均的意識からか
  け離れている。そのため広い支持がブキャナンには集まりに
  くいのも事実である。
      http://www.melma.com/backnumber_45206_1459177/
  ―――――――――――――――――――――――――――

パット・ブキャナン.jpg
パット・ブキャナン
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2009年03月05日

●「米国は日本の轍を踏んでいる」(EJ第2524号)

 景気対策、景気対策を連呼する麻生首相の掛け声だけで何も進
んでいない日本の100年に一度の危機への対応。これに比べる
と、米国のオバマ政権の経済チームはスピーディーにコトを進め
ているように見えますが、本当のところはどうなのでしょうか。
 しかし、大前研一氏によると、米国は「初期動作」を間違えて
いるというのです。どのように間違えたのかについて考えてみる
ことにします。
 大前研一氏は、金融危機には次の3つのフェーズがあるといっ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  フェーズT 流動性危機
  フェーズU 不良債権処理に伴う債務超過の危機
  フェーズV 金融機関の貸し渋りによる事業会社の危機
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本はバブル崩壊後15年以上経っていますが、いまだにフェ
ーズVを完全に脱却していないのです。これに対して現在米国で
起きている現象は、フェーズTの「流動性危機」ですが、米当局
がこれに対する対応を間違えたために、フェーズUとフェーズV
の現象が同時に起こっている――大前氏はこのように分析してい
るのです。
 ここでいう米当局とは、金融危機の最初の段階――昨年の秋以
降、これに対処した人物は次の3人です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ・ヘンリー・ポールソン  ・・・ 財務長官
 ・ベン・バーナンキ    ・・・ FRB議長
 ・ティモシー・ガイトナー ・・・ ニューヨーク連銀総裁
―――――――――――――――――――――――――――――
 大前研一氏によると、この3人は米国の経済の専門家の間では
「経済失政三銃士」と呼ばれているのだそうです。そもそも彼ら
は、最初の処理を誤ったのです。以下は、大前氏による「経済失
政三銃士」の評価です。
 ベン・バーナンキFRB議長は、マクロ経済学者であって、実
体経済のことはよくわからないのです。バーナンキ議長は政策金
利を下げましたが、効き目はなく、それはマクロ経済学者の手に
余るものだったのです。そのため、実務家のポールソン氏に丸投
げしてしまったのです。
 バーナンキ議長に下駄を預けられたポールソン前財務長官は、
ゴールドマン・サックスのトップ出身の実務家であるといっても
営業担当であり、そもそも今回の危機を招いた張本人の一人でも
あって、そのような人物に解決できる問題ではないのです。
 リーマン・ブラザーズの倒産は、ポールソン氏の責任であると
もいわれています。リーマンを倒産させることによって、世界経
済に何が起こるか明確に見えていたとはとても思えないのです。
大前氏にいわせると、「何をしていいかわからず、手当たりしだ
いに何かをやっていた印象」と酷評しています。
 それでは、今回オバマ政権の財務長官に就任したティモシー・
ガイトナー長官はどうでしょうか。
 ガイトナー財務長官は優秀な人物ですが、官僚であり、実体経
済の実務に通じているわけではないのです。彼の口癖は「日本の
轍(てつ)は踏まない」――しかし、基本的には日本と同じこと
をやっています。当時日本の対応は「ツウ・レイト・ツウ・リト
ル」とさんざん批判されましたが、現在米国も同じことをやって
いるのです。まるでデジャヴ(既視感)です。
 ガイトナー氏は日本の危機の対応を現地で見てきたようなこと
をいっていますが、彼が在日アメリカ大使館の金融アタッシュと
して日本にいたのは1988年であり、バブルの最中であって、
それが崩壊したときやその後の失われた10年について現地で体
験しているわけではないのです。
 大前氏によると、日本がはまり込んだ「轍」とは、ボーリング
でいうところのガターに入り込んだボールであり、米国の対応も
それと同じであるというのです。
 米政府は、昨年最大7000億ドルの不良債権買取りを柱とす
る金融安定化法を議会に認めさせています。これはかなり腰の引
けた対応であり、この程度の資金ではまったく足りないし、そも
そも実施する順番を間違えています。
 最初にやるべきだったのは、フェーズTの「流動性危機」への
対応でなければならないのに、不良債権買取り制度を作って、フ
ェーズUの「不良債権処理に伴う債務超過の危機」に対応してし
まったのです。
 しかも、7000億ドルを不良債権買取りに使うといって議会
を通しておきながら、ポールソン前財務長官は、これを資本注入
に用いたり、ビック3のつなぎ融資に使っている――これは完全
に脱法行為そのものです。
 急ぐべきだったのは、流動性危機に対する対応であり、不良債
権買取りをやるのはその後でよかったのです。それではどうすれ
ばよかったのか――大前研一氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私の考えでは、本来、アメリカ政府は、まず世界中から約5兆
 〜10兆ドル規模の資金をかき集めて金融機関の「ER――エ
 マージェンシー・ルーム=緊急救命室」を設置し、金融危機の
 フェーズTである「流動性危機」を止めることに全力投球すべ
 きだった。                ――大前研一著
           『さらばアメリカ』/株式会社小学館刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済失政三銃士が100年に一度の金融危機への対応を間違え
たことによって何が起こったのでしょうか。
 それは、普通なら金融危機のフェーズVで起きる「事業会社の
危機」が早々と起こってしまったことです。その典型的なものが
GMの破綻なのです。酔っ払い運転をしている日本は論外ですが
米国もひどいのです。    ―――[大恐慌後の世界/42]


≪画像および関連情報≫
 ●デジャヴ(既視感)とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  一般的な既視感は、その体験を「よく知っている」という感
  覚だけでなく、「確かに見た覚えがあるが、いつどこでのこ
  とか思い出せない」というような違和感を伴う場合が多い。
  「過去の体験」は夢に属するものであると考えられるが、多
  くの場合、既視感は「過去に実際に体験した」という確固た
  る感覚があり、夢や単なる物忘れとは異なる。過去に同じ体
  験を夢で見たという記憶そのものを、体験と同時に作り上げ
  る例も多く、その場合も確固たる感覚として夢を見たと感じ
  るため、たびたび予知夢と混同される事もあるが、実際には
  そうした夢すら見ていない場合が多く、別の内容である場合
  も多い。              ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

経済失政三銃士.jpg
経済失政三銃士
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2009年03月06日

●「金融危機に臨む米経済チーム」(EJ第2525号)

 オバマ政権の経済チームは、どのような体制になっているので
しょうか。
 まず、経済失政三銃士のうちで抜けたのは、ポールソン前財務
長官なのです。その後任はガイトナー財務長官、バーナンキFR
B議長は留任です。
 これに加えて「国家経済会議」というものがあって、ホワイト
ハウスに置かれています。この会議の委員長にオバマ政権では、
ローレンス・サマーズという人物が就任しているのです。
 ところで、国家経済会議とはどういう組織なのでしょうか。
 この会議ができたのは、1993年のクリントン政権時代のこ
とです。つまり、民主党政権のときなのです。クリントン政権で
は、「軍事的安全保障」と並んで「経済的安全保障」という考え
方に立って、国家安全保障会議と同じ機能を果たすことが期待さ
れて、大統領令によってホワイトハウスに設立されたのです。
 したがって、国家経済会議委員長はホワイトハウスの中にいつ
もいるわけであり、大統領にいつでも進言できる立場にあるので
す。会議の目的は、ホワイトハウスにおいて経済政策の一貫性を
維持することにあり、また、各経済官庁の調整を図って政策立案
を行なうことです。
 したがって、国家経済会議委員長は経済のベテランであるとと
もに、相当の大物である必要があります。そういう意味から、財
務長官の経験者が多いのです。
 クリントン政権において最初の国家経済会議委員長になったの
は、ロバート・ルービン元財務長官です。ルービンは、1993
年から1995年まで委員長を務めたのです。
 オバマ政権のサマーズ国家経済会議委員長もクリントン政権の
後半期の財務長官の経験者です。ところで、このサマーズ委員長
只者ではないのです。
 サマーズ氏は、財務長官退官後はハーバード大学の学長を務め
ていたのですが、女性蔑視発言が問題となり、退任しています。
彼は何でもずばずばと発言するので、たびたび物議をかもすこと
が少なくないのです。財務長官時代のエピソードとして、「サマ
ーズに謙遜さを求めるのは、マドンナに貞操を期待するようなも
の」と評されたように傲岸さを批判されているのです。
 現在サマーズ委員長は自動車産業救済などで、「大きな政府」
路線を突っ走っているのですが、10年前のクリントン政権の財
務長官時代には、「市場の自由」の錦の御旗を振っており、完全
な宗旨替えをしているのです。
 この宗旨替えについて、ニューズウィーク誌の記者がサマーズ
委員長に聞いてみると、次の言葉が返ってきたといいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 一貫性のなさを批判されたときケインズは言ったものだ。有名
 な言葉だ。「状況が変われば私は意見を変える。さて、君なら
 どうするかね。自分が規制緩和の旗手だったとは思わない。き
 ちんと先を見通せていたとは言わないが。
                 ――ローレンス・サマーズ
          ――ニューズウィーク日本版/3月4日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、サマーズ氏なのかというと、オバマ大統領が惚れ込んだ
からです。オバマ氏は大統領候補だったときに、サマーズ氏から
経済政策のレクチャーを受けたのですが、それがあまりにも素晴
らしかったからだといわれています。そのため、大統領に当選す
るやオバマ氏はサマーズ氏を経済顧問に迎えたのです。
 2月27日――米財務省は、経営再建中の米大手銀行シティグ
ループへの追加支援策を発表しましたが、これでシティーは実質
国有化されたことになります。
 この銀行救済策は、オバマ政権の経済チームの顔ぶれを見ると
最初から予想されていたのです。これについて大前研一氏は怒り
を隠せないで次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回のシティの救済策は、もっと臭いものがある。というのも
 シティの前会長はロバート・ルービン元財務長官であり、ティ
 モシー・ガイトナー財務長官とラリー・サマーズ国家経済会議
 委員長は、共にルービンの「愛弟子」だからである。つまり、
 シティが潰れたらルービンが責任を取らねばならなくなるので
 弟子の2人がシティを救ったのではないか、と疑われているの
 である。                 ――大前研一著
           『さらばアメリカ』/株式会社小学館刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 もっとも最近のサマーズ氏は歳をとったせいか、人間関係に気
を遣うようになったといわれます。しかし、新任の財務長官のガ
イトナー氏は、サマーズ氏には頭が上がらないだろうことは容易
に予想できます。サマーズ氏はホワイトハウスにいるので、毎日
オバマ大統領と話す機会があり、大所高所から経済状況を分析し
説明する能力はガイトナー財務長官よりも高いので、サマーズ氏
の意見が米国の金融危機への対応に少なからず影響を与える可能
性があるといえます。そのためオバマ大統領は、サマーズ氏の
暴走止めとして、ポール・ボルカー氏を議長に据えたのです。
 シティの政府管理下入りについて一番問題なのは、シティには
莫大な簿外資産があるということです。シティは本当に悪い部分
は簿外に移しているのです。その額は11330億ドルに達する
といわれます。その内訳は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   住宅ローン証券化商品 ・・・・・ 5780億ドル
  消費者ローン商品化商品 ・・・・・ 1220億ドル
     その他商品化商品 ・・・・・ 4330億ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 この簿外資産がどのくらいあるかが見えないので、各銀行は相
互に強い不安感を持っており、金融市場――インターバンク市場
が機能しなくなっているのです。――[大恐慌後の世界/43]


≪画像および関連情報≫
 ●ローレンス・サマーズについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  このサマーズ、煮ても焼いても食えない男として有名。そう
  いう点では性格が似ているので相通ずるのか、当時、太平洋
  を跨いで鎬を削った日本の国際金融局長、榊原英資(現在、
  慶応大教授)と親しい。サマーズはただ今大ピンチ。学長の
  立場にありながら、講演で、「生まれつきの性差」が原因で
  優秀な科学者に女性が少ないといったり、数学や科学のテス
  トで高得点を取る女子学生数は男子学生より少ないと口走っ
  たのが理由で、キャンパス内外から猛反発を受けた。
  http://blog.livedoor.jp/mediaterrace/archives/16620887.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

サマーズとボルカー.jpg
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2009年03月09日

●「批判が多いオバマ政権の景気政策」(EJ第2526号)

 オバマ大統領の就任前のことですが、米国のマスコミや政治家
たちは、オバマ大統領が著名な政治家や学者など、選り抜きの優
秀な人材をスタッフとして発表することに対して「ベスト・アン
ド・ブライテスト」という言葉を何回も使っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       The Best and the Brightest.
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見た日本のマスコミも、これも「称賛」の意味で使った
のです。しかし、米国のマスコミはこの言葉を必ずしも「称賛」
の意味で使ったのではなかったのです。
 「ベスト・アンド・ブライテスト」というのは、1972年に
米国のジャーナリストであるデビッド・ハルバースタムの手にな
る本の題名なのです。この本は、米民主党ケネディ政権のベトナ
ム戦略を分析しています。
 ケネディ政権といえば、今回のオバマ政権と同様にハーバード
などの優秀な大学を出た人材を政権スタッフに集めたのですが、
彼らは自分たちの能力を過信し、ベトナム戦争に関する国務省や
国防総省などの現場からの意見を軽視して取り上げず、現実にそ
ぐわない戦略を展開して戦争を泥沼化させたのです。
 ハルバースタムはこの事実を最大限の皮肉をこめて、本の題名
に「ベスト・アンド・ブライテスト」とつけたのです。優秀な人
ばかり集めても、チームとしてよい仕事は必ずしもできないとい
うぐらいの意味でしょう。
 これについて、既出の田中宇氏はなかなか印象的なことを書い
ています。久しぶりの民主党政権であるオバマ政権が、かつての
ケネディ政権と同じように優秀な人ばかりを集めようとしている
傾向――まさに「歴史は繰り返す」です。
 「歴史は繰り返す」は哲学者ヘーゲルの言葉ですが、この言葉
にあのマルクスは次の言葉を付け加えたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    歴史は繰り返す――
    一度目は悲劇として、二度目は茶番劇として
―――――――――――――――――――――――――――――
 このマルクスの付け足し部分を巧みに使って、田中宇氏は全米
の期待を担って発足したオバマ政権は「二度目は茶番劇」を演じ
ることになるとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ハルバースタムも指摘しているとおり、実はこの言葉は賛辞で
 はなく、この言葉を使ってオバマを賛美した気になつているの
 は明らかな誤用である。そして、誤用であるばかりでなく「二
 度目の茶番劇」であると私が感じるのは、オバマ政権は非常に
 高い確率で失敗すると予測されるからだ。オバマが就任する前
 のブッシュ政権時代に、米国を破綻させるようないくつもの仕
 掛けがセットされているため、オバマの大統領就任後1〜2年
 間で、経済、軍事、政治という国家戦略の全分野で、次々と崩
 壊が起きるだろう。最優秀の人々を集めても、それを防ぐこと
 は、ほとんど無理である。オバマ政権は、就任する前から失敗
 を運命づけられている。それなのに「最優秀の人材を集めたか
 ら、きっとうまくいく」と喧伝されるのは、まさに「二度目の
 茶番劇」である。          ――田中宇著/光文社
     『世界がドルを棄てた日/歴史的大転換が始まった』
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在米国では、ニューディール論争が盛んです。公共事業を柱
とするオバマ政権の景気刺激策に対して強い批判が出ているわけ
です。とくにネット上では論争がさかんです。
 保守派のシンクタンクにケートー研究所というのがあります。
2009年1月9日、ケートー研究所は、オバマ政権の景気政策
を批判する新聞広告を出したのです。そこには、220人の著名
な経済学者が署名しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私たちは政府支出が経済情勢を改善する方法とは信じない。フ
 ーバーとルーズベルトの政府支出増大は、米国経済を大恐慌か
 ら救い出すことはできなかった。    ――ケートー研究所
―――――――――――――――――――――――――――――
 米コラムニストのアミティ・シュラーズ氏は、次のようにニュ
ーディール政策を批判し、ニューディル政策は効果よりも副作用
の方が多いと主張しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国は信頼できない場所になった。ルーズベルト政権下では、
 最もよかったときでも失業率は9%以上あった。この数字は、
 人々に希望を与えるものではなかった。
            ――「週刊エコノミスト」2/17号
―――――――――――――――――――――――――――――
 こうしたニューディール政策批判に対して真っ向から反論して
いるのは、昨年のノーベル経済学賞受賞者、ポール・クルーグマ
ン・プリンストン大学教授です。クルーグマン教授は、ニューデ
ィール政策が思ったほど効果を上げていない理由について次のよ
うに主張しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ルーズベルト大統領はモルゲンソー財務長官が均衡財政にとら
 われ、思い切った支出をしなかったからだ。
            ――「週刊エコノミスト」2/17号
―――――――――――――――――――――――――――――
 クルーグマン教授は――これはサマーズ国家経済会議委員長も
同じ意見ですが――需要不足下での財政政策の有効性を説いてお
り、オバマ政権の景気対策は減税よりも公共事業を増やすべきで
あると提言しています。
 しかし、公共事業の場合、何をやるのかを決めるのに時間がか
かる点が問題です。何しろコトは急を要するからです。のんぴり
やっているときではないのです。――[大恐慌後の世界/44]


≪画像および関連情報≫
 ●デビッド・ハルバースタムとニュージャーナリズム
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ベトナム戦争を知る世代にとって『ベスト&ブライテスト』
  (1972年)は忘れられない作品だ。当時最高の知性と見
  識を持っていたはずの、米国政財官のスーパーエリートたち
  が自分たちの傲慢さに気付かないまま、大勢の米国の若い兵
  士を戦地に駆り立て、死を強いる。その愚かしくも空虚な政
  策決定プロセスを、500回にも及ぶ関係者へのインタビュー
  を積み上げて暴いたのが、ジャーナリストで作家のデビッド
  ・ハルバースタム氏だった。
  http://waga.nikkei.co.jp/enjoy/book.aspx?i=MMWAe1034011062007
  ―――――――――――――――――――――――――――

「ベスト&ブライテスト」.jpg
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2009年03月10日

●「オバマ政権で米国は復活するか」(EJ第2527号)

 米国では「オバマ政権で米国は復活する」という祈りにも似た
楽観論が広がっていますが、本当に復活できるのでしょうか。
 このテーマも本日で45回になり、そろそろしめくくりをする
ところに来ていますが、ここまでの情報を分析する限りでは、そ
れは非常に困難なことと思われます。
 そもそも今回の事態は、何によって引き起こされたのかについ
てよく認識しておく必要があります。米国では、今回のサブプラ
イム問題に端を発する世界的な金融・経済危機を引き起こした元
凶は、アラン・グリーンスパン前FRB議長であるといわれてい
ますが、グリーンスパンだけが元凶ではないのです。
 グリーンスパンも元凶の一人には違いないものの、正確にいう
ならば、ロバート・ルービン元財務長官、ローレンス・サマーズ
国家経済会議委員長たちによって、1993年のクリントン政権
以降15年間にわたって継続された自由放任主義(レッセフェー
ル)が原因で引き起こされたものというべきである――そのよう
に考えるべきです。
 一体彼らは何をやったのでしょうか。もう既に周知されている
ことですが、問題を整理しておきます。
 米国は金融を解放し、世界中のお金を取り込み、それを自由に
加工してさまざまな金融商品を作って売りさばいたのです。その
なかのひとつがサブプライムローンを小口債券化して組み込んだ
金融商品なのです。なぜ、そのようなインチキ商品を売りさばく
ことができたのでしょうか。それらの商品の販売にあたっては、
ほとんど規制が行われなかったのです。
 それを支えた法律が、1999年の「金融制度改革法/グラム
・リーチ・ブライリー法」です。これによって、銀行業務と証券
業務の垣根が取り払われたのです。
 米国は、1929年の大恐慌の教訓から、銀行業務と証券業務
を完全分離する銀行法――グラス・スティーガル法を1933年
に制定したのですが、それを改正したのが「金融制度改革法」な
のです。これによって、規制がなくなったのです。
 銀行業務と証券業務の垣根をなくすことによって、銀行は巨大
な資金を使って証券会社のように証券化商品を作り、大量販売で
きるようになったのです。
 それらの金融商品の販売過程において、次の2つの業種が誕生
したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.格付け会社 ・・・ 商品のランク付けを行う会社
  2.モノライン ・・・ 金融保証業務専門の保険会社
―――――――――――――――――――――――――――――
 Bランクの商品でも「AAA」の格付けを与えれば、ブランド
商品になるので、いくらでも売れます。行き場のない世界マネー
がこれに飛びついたのは当然です。しかも、モノライン保険会社
は証券の発行主体から保証料をとって債務不履行時には保証して
くれるというのですから、いうことはありません。
 後になって、格付け会社はモノライン保険会社が保証してくれ
るから「AAA」を付けても大丈夫だといい、保険会社は保険会
社で、「AAA」と格付けされていたので保証したというような
勝手なことをいっているのです。
 ことを大きくしたのは、金融市場がグローバル化されていたこ
とです。そのため、サブプライムローンという毒を含んだ商品は
世界中に販売されてしまったのです。
 問題は、このようにして、経済・金融危機を引き起こす原因を
作ったローレンス・サマーズ国家経済会議委員長と、サマーズ氏
が財務長官をしていたときの部下であるガイトナー現財務長官が
組んで経済・金融危機解決に当たるという構図にあります。まし
て、サマーズ委員長もガイトナー財務長官も、もともとはロバー
ト・ルービン元財務長官の弟子なのです。
 問題を引き起こした張本人がその問題の解決に当たる――普通
では考えられないことですが、現在の米経済のかじ取りは、サマ
ーズ委員長、ガイトナー財務長官、バーナンキ議長が行っている
のです。このコンビで本当にうまく行くのでしょうか。
 ガイトナー財務長官は、ブッシュ政権のときは、ニューヨーク
連銀の総裁を務めていたのですが、そのとき彼がやったことは、
金融危機を悪化させ、一部の金融機関を助けるというチグハグな
処理をやっています。そのうえで金融機関同士の共食いを黙認し
ているのです。
 百歩譲って、そのときの処置は、ガイトナー氏の上司であるバ
ーナンキ議長やポールソン前財務長官がやったことであり、ガイ
トナー氏の責任ではないとしても、彼の財務長官就任後の政策の
切れ味は必ずしも鋭くないのです。
 ところで、オバマ大統領は、2月17日、米国史上最大の78
72億ドル(約76兆円)の景気対策法案に署名しています。確
かに金額としては大きいのですが、金額の大きさに驚いていては
本質を見失います。
 米国金融界の規模20兆ドルが半分ぐらいに急縮小している現
在、7872億ドル程度の公共事業をやっても効果は少ないと思
われます。明らかに「ツウ・リトル」なのです。
 米国の景気が急減速している背景には、次の「2重の負のスパ
イラル」があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.信用収縮スパイラル
          2.雇用減少スパイラル
―――――――――――――――――――――――――――――
 「信用収縮スパイラル」に対しては、ガイトナー財務長官が2
月10日に発表した「新金融安定化対策/ガイトナー・プラン」
があり、「雇用減少スパイラル」に対しては、2月17日にオバ
マ大統領がサインした総額7872億ドルの資金が使えますが、
米国史上最大規模とはいえ、規模・内容の両面において不十分な
のです。           ――[大恐慌後の世界/45]


≪画像および関連情報≫
 ●信用不安の元凶はCDS/深尾光洋氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  昨年夏のサブプライム問題の深刻化から始まった米国の金融
  不安は、欧州諸国を巻き込んだ世界規模の金融危機に拡大し
  た。特に9月15日のリーマン・ブラザーズの破綻以後、米
  国最大級の保険会社であるAIG(アメリカン・インターナ
  ショナル・グループ)の急速な経営悪化、一部MMF(マネ
  ー・マーケット・ファンド)の元本割れ、モルガン・スタン
  レーなどに対する預かり資産の大量引き出しなどが重なり、
  世界のドル短期金融市場は閉塞状態に陥っている。こうした
  危機は1929年の大恐慌以来のことといえよう。本稿では
  当初は米国の住宅金融市場に限られていた金融不安が、世界
  的に拡大した背景を探った上で、日本の金融システムへの影
  響を分析する。
  http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/fukao_m/08.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●写真「2番底」/「週刊エコノミスト」2009.3/10

ガイトナー財務長官.jpg
ガイトナー財務長官
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2009年03月11日

●「米経済の2重の負のスパイラル」(EJ第2528号)

 史上最大級の7872億ドルにおよぶ米国の景気・金融対策は
「焼け石に水」といわれています。これに関して、昨日のEJで
述べた「2重の負のスパイラル」について、もう少し詳しく述べ
ることにします。「2重の負のスパイラル」を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.信用収縮スパイラル
        2.雇用減少スパイラル
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国の経済の背景には、これら2つの負のスパイラルがあって
景気の急減速の原因となっています。
 第1は「信用収縮スパイラル」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中古住宅価格の下落 → 不良債権の損失増大 → 住宅ロー
 ンの「貸し渋り」深刻化 → 中古住宅価格下落
           ――「週刊エコノミスト」3/10より
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、住宅価格の急落が信用収縮に結びつくのかということで
すが、それは米国の住宅ローンの特殊性にあります。その特殊性
とは、米国の住宅ローンが「ノンリコース型」であることです。
 住宅ローンが支払えなくなって家を手放したとき、日本では家
を売ってもローン債務を返済できない場合、ローン残額は本人の
責任になりますが、米国の場合は家さえ手放せば、残高の多少に
かかわらず、住宅ローン債務から逃れることができるのです。こ
れが「ノンリコース型」(非遡及方式)です。
 もともと米国がノンリコース型を採用したのは、大恐慌時に多
くの人々が住宅ローンの返済に苦しんだことが採用の理由になっ
ています。しかし、今回はそれがマイナスに働いています。
 ノンリコース型では、住宅の含み損はすべて金融機関が抱え込
むことになります。2008年の住宅差し押さえ件数が前年比で
81%増の233万件に急増した理由の一つはここにあります。
 住宅価格が下落を続けると、当然のことながら、住宅価格は住
宅ローンの残債務を下回ってきます。こういう状態を「ネガティ
ブ・エクイティ」というのです。
 ネガティブ・エクイティになっている世帯は、コロンビア・ビ
ジネス・スクールの推計によれば、2008年8月の時点で10
50万世帯、ネガティブ・エクイティの総額(含み損)は、84
60億ドル(約82兆円)に達しているのです。住宅価格の下落
は続いているので、最終的にはネガティブ・エクイティ世帯は倍
増することは確実です。これによって金融機関は一層の住宅の含
み損を抱え込むことになります。
 2007年末の時点で、サブプライム関連損失は1000億ド
ルであったのですが、2009年1月末にはそれが8000億ド
ル(約77兆円)に膨張しているのです。住宅価格が急落し、住
宅ローン破綻が急増したためです。この8000億ドルの損失の
なかで、米金融機関の損失は4750億ドル(約46兆円)に達
しているのです。
 第2は「雇用減少スパイラル」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 住宅・自動車需要減少 → 生産・雇用減少 → 所得減少 
 → 個人消費縮小
           ――「週刊エコノミスト」3/10より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このスパイラルの「住宅・自動車需要減少」は、第1の負のス
パイラルである信用収縮スパイラルによって起こった個人向けロ
ーンの貸し渋りの結果です。これから金融機関が窮地に追い込ま
れるとこの傾向は加速する恐れがあります。
 今回の負の連鎖は、今までの不況期に比べると、雇用減少の連
鎖のスピードが非常に速いことが特色です。どうしてこんなにス
ピードが速いのでしょうか。
 今回のEJは、伊藤忠商事調査情報部チーフエコノミスト北井
義久氏の論文を参照させていただいていますが、北井氏によると
それはSCM――サプライ・チェーン・マネジメント技術の進歩
が影響していることを指摘しています。
 SCMとは何でしょうか。
 IT技術の進歩とマネジメントスタイルの改革によって、受注
から生産までをリアルタイムで効率的にコントロールするシステ
ムがSCMなのです。要するに需要に対して生産を効率的にコン
トロールできるシステムであり、1990年代以降世界中のメー
カーや流通企業に取り入れられています。
 しかし、SCMが導入されていると、今回のように、急速に住
宅投資・自動車販売の減少が生じると、その影響が末端の下請け
業者まで瞬時に伝わってしまうのです。好況のときは販売のチャ
ンス逃さぬよう機能するのですが、不況のときも超スピーとで波
及してしまうことになります。
 これら2つの負のスパイラルに対する米国政府の対応はどうな
のでしょうか。
 金融機関の損失については、政府からの資本注入2000億ド
ルを含めた資本増強――4200億ドルで一応埋め合わされては
いますが、住宅価格の下落が今後も続くことは確実であり、当然
資金は不足することになります。
 ガイトナー財務長官によるガイトナープランでは、不良債権の
買い取りを目指していますが、不況深刻化により企業倒産が相次
ぐなかで、不良債権の買い取り価格を確定することは困難であり
すべての関係者を納得させる不良債権買い取りのスキームがまだ
構築できていない状況です。
 雇用減少連鎖を止める対策としては、総額7872億ドルの資
金が使えますが、即効性が期待できるのは2883億ドルの減税
のみであり、他の対策にはその実施までに時間がかかるため、所
期の目的は果たせそうもない状況です。いずれにしてもこれでは
資金は不足しているのです。  ――[大恐慌後の世界/46]


≪画像および関連情報≫
 ●SCMとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  主に製造業や流通業において、原材料や部品の調達から製造
  流通、販売という、生産から最終需要(消費)にいたる商品
  供給の流れを「供給の鎖」――サプライチェーン)ととらえ
  それに参加する部門・企業の間で情報を相互に共有・管理す
  ることで、ビジネスプロセスの全体最適を目指す戦略的な経
  営手法、もしくはそのための情報システムをいう。
       http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/scm.html
 ●北井義久氏の論文『2番底/米国に複合不況をもたらす「信
  用」「雇用」の「負の連鎖」』/「週刊エコノミスト」20
  09.3/10より
  ―――――――――――――――――――――――――――

「2重の負の連鎖」の複合不況.jpg
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2009年03月12日

●「ドルをどのくらい知っているか」(EJ第2529号)

 LEAP/E2020――これはフランスのシンクタンクの名
前ですが、ご存知でしょうか。このシンクタンクの世界情勢に関
する予測の今までの的中率は80%以上といわれています。
 そのLEAP/E2020は、米ワシントンDCでのG20金
融サミットが終わった2日後の2008年11月17日に次の予
測を出しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドルを基軸とした今の国際通貨制度(ブレトンウッズ体制)は
 根本的な改革がなされない限り、2009年夏までに制度崩壊
 する。この体制の中心にいる米英が急速に弱体化し、米財政は
 破綻して、世界は非常に不安定になり、戟争や暴動が起きる。
 世界がドルを見放したら、通貨制度改革の交渉もできなくなり
 手遅れになる。世界の指導者は、3ヶ月以内に現状を把握し、
 6ヶ月以内に対策を決定する必要がある。―田中宇著/光文社
     『世界がドルを棄てた日/歴史的大転換が始まった』
―――――――――――――――――――――――――――――
 このシンクタンクは、2008年12月16日にも気になる次
の予測を出しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2008年9月のリーマン・ブラザーズ倒産に匹敵するような
 世界システムを大転換させる出来事が、次は2009年3月に
 起きる。              ――田中宇著/光文社
     『世界がドルを棄てた日/歴史的大転換が始まった』
―――――――――――――――――――――――――――――
 この予測で気になるのは、その出来事が起きるのが今月である
という点です。本当に起きるのでしょうか。
 ドルは本当に大丈夫なのでしょうか。ドルが今後どうなるのか
については、いろいろな予測が出されていますが、その前に少し
ドルについて知っておく必要があります。
 「ドルとは何か」といわれたらどのように答えますか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドルは世界の基軸通貨であり、アメリカ合衆国の通貨である
―――――――――――――――――――――――――――――
 多くの人はこのように答えると思います。この回答は間違いで
はないものの、完全に正しいとはいえないのです。
 世界の基軸通貨は米ドルですが、ドルは米ドルの他にもいろい
ろあるのです。カナダ・ドル、香港ドル、ニュージーランド・ド
ル、オーストラリア・ドルなど20以上の種類があるのです。
 それに「ドル」という言葉は、米国で誕生したものではないの
です。ドルの語源はドイツであり、16世紀末から18世紀初頭
まで、神聖ローマ帝国で流通していた「ターラー銀貨」に由来し
ているのです。
 神聖ローマ帝国では、帝国を構成する各領邦が発行する通貨を
比較する基準としてターラー銀貨を使い、「ライヒスターラー」
という名前で呼んでいたのです。「ドル」という言葉は、英語読
みで「ダラー」といいますが、それは「ターラー」からきている
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       ターラー → ダラー/dollar
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドルは、アメリカの中央銀行であるFRBが発行する「アメリ
カ合衆国ドル(米ドル)」であり、世界の基軸通貨である――ド
ルについての定義はこのようになります。
 ドルは当然ですが、「ハードカレンシー」でもあります。ハー
ドカレンシーというのは、国際為替市場で他国通貨と自由に交換
できる通貨のことです。もちろん「円」もハードカレンシーです
が、ハードカレンシーは世界で10種類しかないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.米ドル        6.カナダ・ドル
  2.ユーロ        7.デンマーク・クローネ
  3.英国ポンド      8.スウェーデン・クローナ
  4.スイス・フラン    9.ノルウェー・クローナ
  5.日本円       10.オートラリア・ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本人は、案外日本という国がいかに大国であるかということ
を実感していないところがあります。自国の通貨がハードカレン
シーでない国にとって、国として持っているドルがいかに大切で
あるか、まさに死命を決するほど重要な通貨なのです。というの
は、世界の国々は輸出品の代金として、弱小国の通貨を受け取っ
てくれるほど、優しくはないのです。
 自国の通貨がドルと交換不可能なほど価値が暴落した場合、
輸入がストップしてしまう恐れがあるのです。いきどき自給自
足で生きられる国などないので、輸入できないということは、
そのまま国が崩壊してしまうことにつながるのです。
 貿易において、どの通貨が使われるのか――「日本から世界
への輸出」と「世界から日本へ輸入」について、その割合を示
すと次のようになります。日本円も、少しずつ世界の中で存在
感を示しているのです。
――――――――――――――――――――――――――――
 ≪日本から世界へ輸出≫
  米ドル ・・ 49.3 %  ユーロ ・・  8.4 %
  日本円 ・・ 38.7 %  その他 ・・  3.6 %
 ≪世界から日本へ輸入≫
  米ドル ・・ 73.5 %  ユーロ ・・  4.0 %
  日本円 ・・ 20.5 %  その他 ・・  1.6 %
             ――三橋貴明著/監修・渡邊哲也
    『ドル崩壊!/今、世界に何が起こっているのか?』
                        彩図社刊
――――――――――――――――――――――――――――
              ――[大恐慌後の世界/47]


≪画像および関連情報≫
 ●「ターラー」について
  ――――――――――――――――――――――――――
  ターラーは16世紀以来数100年にわたりヨーロッパ中
  で使われていた大型の銀貨。その名残は、現在もアメリカ
  をはじめとするドルや、2007年までスロベニアで使わ
  れていたトラールなどの通貨名に残る。ターラー(ターレ
  ル)の語源は「ヨアヒムスターラー」という銀貨の名が短
  縮されたものである。ヨアヒムスターラーは、16世紀初
  めに大きな銀山が発見され、1518年以来この種の銀貨
  が鋳造されてきたボヘミア(現在のチェコ)の町、ザンク
  ト・ヨアヒムスタール(現在のヤーヒモフ)に由来する。
                   ――ウィキペディア
  ――――――――――――――――――――――――――

ターラー銀貨.jpg
ターラー銀貨
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2009年03月13日

●「米ドルは今後どうなるのか」(EJ第2530号)

 100年に一度の米国発の金融・経済危機によって、ドル安が
進み、今年の為替相場はドル安一色になる――経済の素人はどう
してもこのように考えてしまいます。
 金融・経済危機が起きてからというもの急激なドル安が進んで
いるようにみえます。しかし、それは円からドルを見ているから
であり、2003年初を100とした実質実効レート(添付ファ
イル・グラフ参照)で見ると、ドルは2008年春から夏にかけ
て底固めをした後、年末にかけて20%程度急上昇しているので
す。このように、この半年ほどについていうなら、ドルは決して
弱い通貨になっていないのです。
 この事実から、2008年秋から年末にかけての急速な「ドル
安・円高」は、ドル安ではなく、円高によって生じていることに
なります。具体的にいうと、このドル安は、米国経済の見通し悪
化やドルの信認低下ではなく、もっぱら円が急激に上昇したこと
によるものであって、これを「円独歩高」というのです。
 どうしてこのような事態が生じたのでしょうか。
 今後の為替相場の方向については専門家によって意見が異なり
ますが、そのひとつの見方を代表するドイツ証券シニア為替スト
ラテジストである深谷幸司氏の分析をご紹介することにします。
 深谷氏は、今回の金融・経済危機が起きる前の状況――株高・
円安の状況を支える条件を次の3つに整理しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.日銀による超低金利政策の継続
     2.預金から投信/投資信託ブーム
     3.外国為替証拠金取引FXブーム
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は「日銀による超低金利政策の継続」です。
 マクロ的な背景として、リストラが一巡し、雇用不安が解消し
たことと、日銀による超低金利政策が継続されたことによって、
企業や個人が投資に積極的になる環境が整ったことがあります。
折から世界景気は持続的高成長局面入りしていたのです。
 第2は「預金から投信/投資信託ブーム」です。
 政府による「貯蓄から投資へ」という掛け声を受けて、銀行は
預金から投信へと顧客からの預かり金をシフトさせています。銀
行にとっては、預金採算は赤字であって、投信増強策としての投
信手数料は魅力的だったと思われます。
 第3は「外国為替証拠金取引FXブーム」です。
 日銀による超低金利政策をベースとして、FXブーム――外国
為替証拠金取引が業界健全化・規制整備によって信用力が増し、
日本版キャリートレードがブームとなったのです。とくに、FX
は個人を巻き込んで大きくブーム化したのです。
 深谷幸司氏は、この時期の状況について、次のようにコメント
しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 こうした動きにより、日経平均株価とドル・円相場の関係も、
 2003年以前と以降では逆転。日本の投資家のリスクテーク
 が活発化、海外勢の円リスクヘッジによって、株高・円高から
 株高・円安へと相関関係は変化した。また、この間の日本経済
 は、ある意味でバラ色の時期だったともいえる。新興国の成長
 も相まって輸出が増加する一方、資本動向によって円安が進ん
 だ。輸出企業は最高益を更新。結果として、企業・個人のリス
 クテーク、海外直接投資や外貨証券投資が助長されることとな
 った。  ――深谷幸司ドイツ証券シニア為替ストラテジスト
        「週刊エコノミスト」2008.3/3特大号
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、サブプライム問題が顕在化した後は、こうした流れが
反転・逆転するのです。米国発の金融市場混乱を主な要因として
リスクの高い取引からの撤退が一斉に起こったのです。それは2
段階にわたって起こっています。
 第1段階は、円キャリートレードの解消による円高です。もと
もと円安であって、低コストで資金が調達できるので利用されて
いた円キャリの巻き戻しが起こったのです。
 ある取引の中で使われていた円が巻き戻され、それが他の取引
の中の円の巻き戻しを誘発し、円安バブルはスパイラルのように
崩壊したのです。これによって円高が進行して円の独歩高となり
米国はひとり負けの状態になってドルが売られたのです。
 第2段階は、リーマン・ショック以降、グローバルな金融危機
世界経済全体の悪化・後退へと混乱が拡大することによって、ド
ルについてもリスク回避の巻き戻しが起こったのです。米ドルは
世界のあらゆる取引に使われているので、いわゆるドルキャリー
トレードの解消によって、各所でドルの資金不足が起こり、これ
がドル上昇に結びついたのです。
 以上が2008年秋から現在にかけての円高、ドル高について
の説明です。この後、とくに2009年の後半にかけての米ドル
の動向に関しては、専門家によって意見が分かれるのです。
 このように、世界中でバブルが崩壊していく中で、米ドルは今
のところ何とか持ちこたえているといえます。実は現在の米ドル
を支えているのは次の2つの要因です。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.GCCがドルペッグ制を維持していること
    2.AAAの米国財務省証券(米国債)の存在
―――――――――――――――――――――――――――――
 GCC――中東湾岸協力会議が現在のところクウェートを除き
ドルペッグ制を維持していることです。GCCの加盟国は、サウ
ジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、クウェート、オマー
ン、バーレーンの6ヶ国です。
 しかし、GCCは現在、ドルペッグ制とドル安を主因とするイ
ンフレの猛威にさらされており、これに耐え切れず、クウェート
はドルペッグ制から離脱したのです。それは2007年5月のこ
とです。           ――[大恐慌後の世界/48]


≪画像および関連情報≫
 ●佐々木融氏のコメント(必読)
  ―――――――――――――――――――――――――――
  為替相場の予想は難しくて、よく分からない」。マーケット
  関係の仕事をしている人でさえもよく口にする言葉である。
  以前、米連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン前議
  長が同様の発言をしたことも影響していると思われる。株式
  相場、債券相場の予想も同じくらい難しいと思われるのに、
  なぜ為替相場の予想が特に難しいとの印象を与え、よく分か
  らないと思われてしまうのだろうか。
  http://metaboxx.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/post-b590.html
 ●グラフ/主要通貨の実効相場の推移/
  「週刊エコノミスト」2009.3/3/深谷幸司氏の論文より
  ―――――――――――――――――――――――――――

主要通貨の実効相場の推移.jpg
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2009年03月16日

●「オバマは午前3時の電話になる?」(EJ第2531号)

 EJ第2530号で、現在米ドルが何とか持ちこたえているの
は、次の2つの要因によるものということを指摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.GCCがドルペッグ制を維持していること
    2.AAAの米国財務省証券(米国債)の存在
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の要因については既に述べているので、第2の要因につい
て考えます。
 米国債――これは現在においても世界で最も流動性が高く、安
全な金融商品としての地位を失っていないのです。しかし、それ
は世界が、というより貿易黒字国である日本と中国が大量に買い
続けているからなのです。この状態が続く限り、米ドルは安定し
続けることができます。
 米国は、双子の赤字を抱えており、その赤字の補填を外国の資
金に依存しているのです。かつてはこの役割を担ってきたのは日
本なのですが、今では圧倒的に中国が米国債を買っています。こ
れまで、中国は米国の市場に依存してきたのですが、現在、米国
は中国の資金に依存するようになっているのです。
 中国が保有する米国債は、2008年9月に日本を上回り、初
めて米国の最大の債権国となっています。昨年の11月末現在、
中国の米国債保有額は6819億ドルまで増加し、外国保有額の
22.1 %を占めるに至っています。
 日本はというと、実はこのところ外国保有額のシェアが減少し
ているのです。昨年の11月末現在で18.7 %なのですが、こ
の減少ぶりはどうやら意図的にシェアを落としているようにも感
じられます。不思議なことにこのことはメディアでは報道されて
いないのです。
 大前研一氏によると、福井俊彦前日銀総裁は、米国の逆鱗にふ
れないように慎重に少しずつ外貨準備をユーロにシフトさせてい
たということです。これこそ通貨の番人である日銀総裁の仕事で
あり、福井前日銀総裁は良い仕事をしているといえるでしょう。
 米国は景気対策を実施するため、国債をさらに増発せざるを得
ない状況にあります。そこで頼るのは中国と日本なのですが、中
国は金融危機後も積極的に米国債を買い増しており、昨年末には
中国が保有する外貨準備の36.2 %を米国債が占めるにいたっ
ているのです。中国はさらに買い増す余力を持っています。
 明らかに中国はこの米国債を戦略的に使おうとしています。米
国債を日本が大量に保有するのと、中国が保有するのとでは意味
が大きく違うのです。
 日本は安全保障を米国に依存しており、米国に相当無理なこと
をいわれても断り切れない弱さがありますが、中国は安全保障面
では自立しており、膨大な米国債保有を戦略的に使える立場にあ
るからです。つまり、中国はいつでも「米国債を売るぞ!」とも
いえるし、「米国債は買わない!」ともいえるのです。
 現に、昨年12月に開かれた第5回米中経済戦略対話では、米
国が要求している人民元高要請を切り出せず、逆に中国に在米資
産の安全確保という要請を突き付けられてしまう始末です。
 ところで、日高義樹氏という人をご存知でしょうか。
 元NHKのワシントン支局長で、現在ハドソン研究所首席研究
員をされています。私は、毎月1回放送されるテレビ東京系の番
組「日高義樹のワシントンレポート」を欠かさず見ています。米
国の現状を追い、共和党政権を支える論客メンバーを招き、毎月
のテーマに沿って、対談方式で放送されています。
 日高氏の著書によると、キッシンジャー博士は、今回の金融危
機についての中国の考え方について、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国はアメリカが政治的にとんでもないことをすることは知っ
 ていたが、金融体制については信用してきた。だから、アメリ
 カの金融危機には大きな衝撃を受けた。中国政府はこれまでの
 やり方を考え直す必要があると思っている。
                  ――日高義樹著/PHP
 『不幸を選択したアメリカ/オバマ大統領で世界はどうなる』
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国も今回の金融危機では大きな打撃を受けています。そのた
め、中国としては輸出一辺倒の政策を変更し、国内投資を増やし
て内需拡大をしようとしています。そうしないと、輸出に頼る中
国経済はやっていけないのです。
 この政策が取られると、中国政府は国内企業を保護し、輸入を
制限するようになります。これを米国サイドから見ると、中国か
らの資本が減少するとともに、中国への輸出も困難になることを
意味します。
 こういう状況下において、オバマ大統領率いる米国は、減税を
行い、デトロイトの自動車産業を助け、不良債権を肩代わりしよ
うとしています。しかし、この政策を進めるためには莫大な資金
がいりますが、それは現在米ドルを支えている2つの要因に変化
がないことが条件になります。とくに中国の出方が大きなかぎを
握るのです。
 オバマ大統領の力量についてはまだ未知数です。日高義樹氏は
オバマ大統領については厳しい意見を持っており、「午前3時の
電話」になる恐れがあるといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 夜中に電話が鳴る。電話をとったヒラリーは頭にカーラーを巻
 き、顔はべたべた美容マスクで覆われている。ひとしきり相手
 のいうことを聞いたあと、ヒラリーが言う。「落ち着きなさい
 よ、バラク。私が何とかするから。 ――日高義樹著/PHP
 『不幸を選択したアメリカ/オバマ大統領で世界はどうなる』
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、ヒラリーが国務長官に任命された直後に作られたお笑
いのコントです。未経験の大統領に対する最大の皮肉をこめたも
のです。           ――[大恐慌後の世界/49]


≪画像および関連情報≫
 ●米民主党・ヒラリー陣営の選挙CМ/午前3時の電話
  ―――――――――――――――――――――――――――
  スーパーチューズデー以降11連敗を喫し、追い込まれたヒ
  ラリー陣営は、あらゆる手段を用いて相手を攻撃するという
  意味の「キッチン・シンク」作戦に出た。その一環として2
  月29日、予備選を4日後に控えたテキサスで、CM「午前
  3時の電話」を流し始めた。寝室ですやすや眠る子供たち。
  そこに鳴り響く電話。不安げに子供部屋を覗く母親──。低
  い男の声が語る。
      http://08race.blog37.fc2.com/blog-entry-8.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

日高義樹氏.jpg
日高義樹氏
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2009年03月17日

●「オバマ政権の支持率が下がっている」(EJ第2532号)

 米ギャラップ社が2009年2月24日に発表した世論調査に
よると、就任直後に69%あったオバマ大統領の支持率がわずか
1ヵ月で10ポイントダウンして59%となっています。同時に
13%だった不支持率も25%に上昇しているのです。
 これは何を意味するのでしょうか。
 日本では、麻生政権がモタモタやっているせいもあって、オバ
マ大統領はよくやっているというのが大方の評価ですが、米国民
は厳しく現実に目を向け始めたのです。そこではっきりし出した
のは、オバマ大統領の変節ぶりです。支持率ダウンはこれに反応
したものと思われます。
 そもそもオバマ氏はなぜ米大統領になれたのでしょうか。
 オバマ氏勝利のかぎになったのは、選挙直前の2008年9月
15日にリーマン・ブラザーズが倒産したことです。これは、世
界中に大きなショックをもたらしましたが、米国民にとってはわ
れわれの想像以上の大ショックだったのです。
 それは、共和党系の世論調査機関ワースリング・ワールドワイ
ドによる大統領選の出口調査で、84%の人が「経済問題を考え
て投票した」と答えているのを見ても明らかです。
 リーマン・ショック以後、オバマ氏は「アメリカ経済に危機が
来る」とさかんに訴え始めたのですが、米国人はこのオバマ陣営
の宣伝に敏感に反応したのです。
 銀行――といってもリーマン・ブラザーズは投資銀行ですが、
米国人と銀行との関わりは、日本人とはかなり異なるのです。こ
れについて40年近く米国に住み、生活をしている既出の日高義
樹氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカの人々は、まず資金を貯めて商売をするという意識が
 ない。銀行から借金するのが当然だと考える。アメリカの人々
 にとって貯金をするのは無駄なことで、商売をするために資金
 を借り、金利を払ったとしても、それ以上に稼げばよいと考え
 ている。私の友人がこう言ったことがある。「アメリカでは、
 その日の朝に1ドルもなくても商売をしている者が大勢いる。
 毎朝銀行に電話し、資金を借りて商売する。――日高義樹著
 『不幸を選択したアメリカ/オバマ大統領で世界はどうなる』
                          PHP
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう米国人にとって、2008年の金融混乱はまさに大事
件だったのです。そういう風潮を巧みに利用したのがオバマ陣営
であったといえます。
 それでは、どうしてオバマ大統領の支持率が下がっているので
しょうか。
 オバマ政権は、米国民が経済問題の解決を託した政権といえま
すが、それに十分応えていないということです。それは、ワシン
トンDC在住で、マーケティング・マネージャーを務める35歳
のラテン系黒人女性の次の声にあらわれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 彼のメッセージを信じようとしているわ。でも政府を国民に開
 こうという兆しが一向に見えないの。相変わらず、企業に喜ん
 でもらおうというスタイルだわ。CEOに最も近いところにい
 るアドバイザー以外の声を問いていないんじゃないの。
               ――SAPIO/3/25より
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ政権は、総額2兆ドルを超える金融対策、7872億ド
ルの景気対策、750億ドルの住宅ローン対策を矢継ぎ早に打ち
出しているのですが、同時にアフガニスタンに1万7000人の
兵を送り込むことを発表しています。
 結局、景気対策よりも軍事費優先であり、右旋回の政策に黒人
リベラル派が「チェンジしたのは公約の方ではないか」とブーイ
ングをしているのです。
 黒人解放のために尽力して暗殺されたマルコムXという急進的
黒人指導者がいます。彼が設立した政治グループ「アフリカ系ア
メリカ人統一機構」に所属するジェームズ・スモール氏はオバマ
政権を次のように批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今日の状況は、マルコム]が生きていた時代よりもはるかに悪
 い。黒人の高校中退率は50%で、黒人の失業率はこの国の歴
 史が始まって以来の高さだ。状況はますます悪くなつている。
 華々しく登場した大統領には重い責務がある。だが、彼は黒人
 のための大統領ではないのだ。彼はたまたま黒人であった大統
 領なのだ。言い換えれば、アメリカの黒人が抱えている問題を
 解決しようとする内在的動機が欠けているのだ。(中略)大統
 領は入れ替わる一方で軍やCIAは成長し続ける。そして軍産
 複合体はマルコムが生きていた時と何ら変わらず、この国に深
 く根を張っているのだ。   ――SAPIO/3/25より
―――――――――――――――――――――――――――――
 100億ドルの公的資金を注入されてバンカメに救済合併され
たメリルリンチは、昨年12月に36億ドルものボーナスを幹部
に支払っていることが発覚しています。
 ボーナスは一月に支給されるのですが、それを前倒しして私腹
を肥やしたわけです。さすがにオバマ大統領は、就任早々、これ
に対して怒って見せましたが、それはあくまでポーズのようにし
か見えなかったのです。
 オバマ大統領は、そういうサブプライム問題に端を発するウォ
ール街の金融体制を追及するために、親友のホールダー司法長官
を任命しましたが、本当にウォール街の不正を追求できるのでし
ょうか。もし、できないと、オバマならやってくれると期待して
ホワイトハウスに送り込んでくれた保守穏健派の怒りを買うこと
になるでしょう。しかし、本当にとことんやると、米国の陰の勢
力と激突することは必至であり、オバマ大統領はケネディと同じ
轍を踏むことになります。   ――[大恐慌後の世界/50]


≪画像および関連情報≫
 ●マルコムXとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1960年代アメリカの代表的な黒人運動の指導者としてキ
  ング牧師とマルコム=X の名が挙げられる。 前者が白人と
  黒人とが手を取り合うこと(人種統合)を目指したのに対し
  後者は黒人が白人社会と訣別し独立すること(人種分離)を
  訴えた。マルコムは「白人は悪魔だ」と説き、黒人は白人と
  一緒にいるかぎり平和に暮らすことはできないと主張した。
  自分はアメリカ人である前に黒人であるという意識が強かっ
  たマルコムは、黒人に決して関心を持とうとしないアメリカ
  という国に興味はなかった。
           http://www.k3.dion.ne.jp/~chah/x.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

マルコムX.jpg
マルコムX
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2009年03月18日

●「バラク・オバマの正体を探る」(EJ第2533号)

 オバマ大統領は、本当に多くの米国民が熟慮のすえに選び出し
た大統領なのでしょうか。
 日高義樹氏は、自著において米国民は、バラク・オバマなる政
治家の実像を正確に把握しないままホワイトハウスに送り込んで
しまったと述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 人々が見たのは、スリムで長身の若々しい政治家、説得力があ
 りユーモアのセンスも具えた魅力的な政治家である。ひっきり
 なしにインターネットやテレビの画面に現れては「アメリカは
 変わらなければならない」と熱心に呼びかける政治家だった。
 (中略)そのイメージの背後にあるオバマという人物について
 アメリカの人々は実際に知る機会も時間も与えられなかった。
 それを知らせることが仕事であるはずのアメリカのマスコミが
 オバマの宣伝に全面的に協力したからである。オバマはアメリ
 カの人々に自分が何者か、何を考えているかを知らせることな
 く、巧みな宣伝によってホワイトハウスヘ入ってしまったので
 ある。              ――日高義樹著/PHP
 『不幸を選択したアメリカ/オバマ大統領で世界はどうなる』
―――――――――――――――――――――――――――――
 バラク・オバマとは一体何者なのでしょうか。日本ではもっぱ
ら彼の演説に関心が集まっているようですが、彼は今まで政治家
としてどういう仕事をしてきたのでしょうか。
 オバマ氏は、日本の県会議員に当たるイリノイ州の州議会議員
を7年務め、その後アメリカ上院議員を3年間務めています。問
題は上院議員としての実績です。
 アメリカの上院では、外交委員になり、NATO小委員長を務
めているのですが、NATO軍がアフガニスタンに参加するとい
う情勢のなかにあって、小委員会を一度も開いていないのです。
これは上院議員としては何もしていないことを示しています。
 日高義樹氏は、バラク・オバマなる政治家の交遊関係に注目し
て、彼が反米的、反社会的である疑いが濃厚であると指摘してい
ます。どういう交遊関係があるのでしょうか。
 最も有名なのが、1960年代の過激派グループ「ウェザーマ
ン」の首謀者ウイリアム・アイヤーズとの親密関係です。この男
は警察を爆破して人を殺しているのです。
 続いて、シカゴのロビイストの中でも最も反社会的であるとい
われるトニー・レゾコとの親しいことです。このレゾコの尽力で
オバマ夫妻はシカゴ市内の一等地――シカゴ大学に隣接した邸宅
を手に入れているのです。そのさいの住宅購入資金もレゾコが融
資したといわれています。
 また、オバマ氏はサダム・フセインの武器密輸業者を自宅に招
いて、トニー・レゾコと一緒にパーティーを開いていることも判
明しています。
 オバマ氏がどうしてこういういかがわしい人たちと交遊がある
のかというと、それは社会の底辺から上流社会によじ登ってきた
ということと無関係ではないのです。オバマ夫妻の行動を見てい
ると、何とか上流社会の一員になりたいという必死の思いがそこ
から透けて見えるのです。
 オバマ夫妻はその後ワシントンに住居を移すのですが、そのさ
い2人の子供をエリート校である私立のシッドウェル・フレンズ
に入学させています。米国では上流家庭では公立学校には入れず
私立の有名校に入学させるのが普通です。
 これと対照的なのはカーター元大統領です。彼は友人から娘の
エミリーをシッドウェル・フレンズに入れてはどうかというアド
バイスを断り、ワシントンの公立校に通わせたのです。
 また、共和党系の新聞が伝えるところによると、ケニアに住む
オバマの兄弟が1ヵ月1ドルという極貧の暮らしをしているのに
オバマは1セントも援助したことがないというのです。
 昨日のEJ第2532号で紹介した「アフリカ系アメリカ人統
一機構」のジェームズ・スモール氏が指摘する「(オバマ大統領
は)アメリカの黒人が抱えている問題を解決しようとする内在的
動機が欠けているのだ」という指摘はこういうところからきてい
るものと思われます。
 しかし、オバマ大統領は自分が黒人であることを意識している
せいか、任命するホワイトハウスのスタッフであるとか、自分の
周辺の環境づくりには相当気を使っているようです。日高義樹氏
は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ大統領は政治的に極めてうまく立ち回り、里人であるこ
 とを印象づけないやり方を続けている。選挙中も、「私は、白
 人でも黒人でもない。アメリカ人だ」という台詞を繰り返して
 いた。オバマ大統領のスタッフはほとんどが白人で、人種的に
 見て、これまでのホワイトハウスに入った大統領たちとあまり
 変わらない構成になっている。またユダヤ人やイタリア系、ア
 ングロサクソン、ロシア系といった人々をうまく組み合わせて
 いる。テレビに映るときには、黒人が一カ所に固まらないよう
 に配慮している。         ――日高義樹著/PHP
 『不幸を選択したアメリカ/オバマ大統領で世界はどうなる』
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ大統領は、教育長官にアーン・ダンカン氏を任命してい
ます。このアーン・ダンカンなる人物はシカゴの教育組織のトッ
プにいた人物で、チャータースクールをどんどん作って、米国の
公立学校の質を落とした非難されている政治家なのです。
 チャータースクールは政府からの補助金を得て運営される新し
いタイプの公立学校なのですが、その実態は民間学校なのです。
クリントン政権のときに全米に広がり、最近では民営化の流れの
中で、公教育としての最低限の質が保たれていないとされている
のです。その推進者であるアーン・ダンカン氏を教育長官に任命
したことで、教育問題に関心を持つ白人の間で失望感が広がって
いるといわれます。      ――[大恐慌後の世界/51]


≪画像および関連情報≫
 ●チャータースクールとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  チャータースクールは新しいタイプの公立校という説明の仕
  方がされることもあるが、正しくは公募型研究開発校という
  方が分かりやすい。保護者、地域住民、教師、市民活動家な
  どが、その地域で新しいタイプの学校の設立を希望し、その
  運営のための教員やスタッフを集め、その学校の特徴や設立
  数年後の到達目標を定めて設立の申請を行う。認可された場
  合、公的な資金の援助を受けて学校が設立される。運営は設
  立申請を行った民間のグループが担当する。その意味では、
  公設民間運営校である。ただし、所定の年限の内に目標の達
  成や就学児童が集まらない事態に陥った時には学校は閉校に
  なり、その場合の負債は運営者たちが負うことになる。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

アーン・ダンカン教育長官.jpg
アーン・ダンカン教育長官
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2009年03月19日

●「軍事を通して世界を見る目が必要」(EJ第2534号)

 米国が自国発の金融危機を引き起こしたことによって、米国の
時代が終わったという人がいます。しかし、一概にそうはいい切
れないと思うのです。それは日高義樹氏の本を読むととくにそう
感じます。
 日高氏は、ハドソン研究所の首席研究員として、日米関係の将
来に関する調査・研究に携わっている人ですが、軍事という面か
ら世界を見ることのできる数少ない日本人の一人です。
 ハドソン研究所というのは、米国の保守派のシンクタンクとし
て知られ、ブッシュ政権の政策ブレーンなのです。したがって、
日高氏の著書を読むときは一応そのことを頭に置く必要があると
思います。
 われわれ日本人は、ブッシュ前米政権によるイラク戦争は、無
謀にして粗野な戦争で、米国にとってベトナム戦争と同様に、大
きな失敗であったと考えています。そして、ブッシュ政権はイラ
クの治安を十分に解決しない状態で、オバマ政権に引き継いだと
いわれています。
 しかし、日高氏が自著の第3章で次のタイトルを付けて論じて
いる部分を読むと、米国によるイラク戦争は正当性があったとは
いえないものの、完全に失敗であったともいい切れないのです。
もちろん、戦争展開の過程において、ブッシュ政権による大きな
ミスはたくさんあり、米国人兵士とイラク兵士だけでなく、大勢
のイラクの一般人も死んでいるので、決して褒められたことでは
ありませんが、ブッシュの戦争のすべてが無駄で、無謀で失敗で
あったとはいえない――このように日高氏はいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  第3部 ブッシュがイラクで勝ったことをみんな忘れた
                  ――日高義樹著/PHP
 『不幸を選択したアメリカ/オバマ大統領で世界はどうなる』
―――――――――――――――――――――――――――――
 イラク戦争は、最初は実に素晴らしかったのです。最新鋭のタ
ンク、ヘリコプター、空軍力を駆使して、あっという間にサダム
・フセインを追い詰め、バクダットを占領し、数ヶ月後にはサダ
ム・フセインを捕え、死刑にしてしまったのです。
 問題は、イラク軍が消滅してしまうと、米国の主力部隊は米国
本土に引き上げ、代わりにやってきたのは、基本訓練を終えたば
かりの新兵だったのです。これは米軍の油断としかいいようがな
いミスだったのです。テロリストたちは、その脆弱な米駐留軍に
付け込んだのです。
 とくにイラクの北西部では、イランから侵入したテロリストた
ちが反政府軍と合流して、強固な拠点を作り、そこからバクダッ
ト市内にテロリストたちを送り込み、毎日のように大規模なテロ
攻撃を仕掛けたのです。
 ここまでは、世界中の誰もが知っています。そして、このまま
ではイラクはベトナム戦争の二の舞になると世界中の人が考えた
と思います。当のオバマ氏も大統領選を通して、イラク戦争を徹
底的に非難し、最後に米軍はイラクから出ていかざるを得なくな
るだろうとまでいったのです。
 しかし、ブッシュ大統領は自らが始めたイラク戦争がベトナム
戦争と同じ泥沼化するのを潔しとしなかったのです。そして、イ
ラク駐留米軍の増強を主張し、それを実行に移したのです。それ
を「ビッグ・サージ」というのです。それによって、ブッシュ政
権は多くの非難を浴びたのです。「ビッグ・サージ」は必ず失敗
する、と。その非難の先頭にたったのはオバマ候補であり、ブッ
シュ大統領を支持したのはマケイン候補だったのです。
 ブッシュ大統領は、現地司令官にペトレアス陸軍大将、米軍の
最高司令官にミューレン海軍大将を任命し、短期間に米国の精鋭
部隊16個旅団をイラクに送り込んだのです。まるで本格戦争の
構えです。
 米国陸軍の精鋭第82空挺師団や海兵第4師団が中心になって
イラク人の住宅を一軒ずつくまなく捜索し、しらみ潰しに敵を探
す作戦を敢行したのです。そのうえで、精鋭部隊による完全なる
占領体制を取り、テロリストたちをイラク国外に追い払い、戻っ
てこれないようにしたのです。
 米軍はペトレアス司令官の巧妙なテロリスト対策や住民工作に
よって、イラク国内をなんとか安定させたのです。「ビッグ・サ
ージ」は見事に成功したのです。2008年夏までには戦闘は下
火になり、テロの数も大きく減り、失敗すると公言したオバマ候
補の予測は外れたのです。そして、マスコミもブッシュ政権を非
難しなくなったのです。その結果、「ビッグ・サージ」を早くか
ら支持していたマケイン候補の支持率が向上したのです。
 日本では「自衛隊のいるところは非戦闘地域である」という迷
言を吐く元首相がいる国であり、イラクでの本格戦争のニュース
などはほとんど報道されることはないのです。
 確かにイラクの米軍を増強する話は聞いていますが、「ビッグ
・サージ」などという言葉は聞いたことはないと思います。日高
氏によると、ビッグ・サージの成功は世界の軍事史の中でも稀有
のことであるそうです。
 米国の保守系の人々は、これでマケイン氏の勝利は間違いない
と確信したといわれます。ところが、です。2008年9月15
日にリーマン・ブラザーズが倒産し、すべてが一変してしまった
のです。そして、米国民はオバマ候補を選択するという大きな賭
けに出たのです。日高義樹氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカの人々は「ビッグ・サージ」を忘れ、オバマ大統領が
 「ビッグ・サージは失敗する」と発言したことも忘れてしまっ
 た。そして軍事問題にはまったく関心を払わず、金融の混乱を
 「未曾有の危機である」と叫ぶオバマ上院議員を選んだのであ
 る。               ――日高義樹著/PHP
 『不幸を選択したアメリカ/オバマ大統領で世界はどうなる』
―――――――――――    ――[大恐慌後の世界/52]


≪画像および関連情報≫
 ●旅団と師団はどう違うのでしょうか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  軍隊における部隊の単位です。人数や、規模は国や時代でま
  ちまちですが、1師団が大体2〜4個連隊ぐらいで1万人ぐ
  らいの集団です。旅団は師団より少ない単位で、だいたい1
  2個連隊ぐらいで5千人ぐらいの集団です。上記の数はだい
  たいの目安でしかなく、実際にはかなりの幅があるので、感
  覚的に理解しておくのが良いと思います。なお軍の単位はだ
  いたい、総軍>軍団(方面隊など)>師団>旅団>連隊>大
  隊>中隊>小隊>分隊>班となります。
                   ――ヤフー知恵袋より
  ―――――――――――――――――――――――――――

ペトレアス陸軍大将.jpg
ペトレアス陸軍大将
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2009年03月23日

●「小沢事務所への特捜捜査の謎」(EJ第2535号)

 巨額の公的資金投入を受けたAIGの、その実質破綻の原因を
つくった金融子会社の幹部に対する高額賞与支給の発覚で、米オ
バマ政権が揺れています。そのことを事前にバーナンキFRB議
長とガイトナー財務長官が知っていたというのです。
 とくにガイトナー財務長官は、長官就任前、AIGを直接監視
する立場のニューヨーク連銀の総裁だったので、今後オバマ政権
にとってガイトナー財務長官の存在が相当重荷になるという見方
が出ています。
 2008年の大統領選では別に若者や黒人が黒人大統領を選ん
だわけではないのです。共和党の伝統的な支持者が支持したから
オバマ氏はホワイトハウスに入ることができたのです。どうして
彼らはオバマ氏を支持したのでしょうか。
 彼らは、不正を働いたウォール街に対して大変な怒りを持って
いるのです。そのため、「マケインに任せていたのでは、不正の
追及はできない」として、オバマ氏にそれを託したのです。
 このことに対して日高義樹氏が面白いことをいっています。日
高氏に対して、米国の日本通の政治評論家が、米国民がオバマ氏
を大統領に選んだ理由を次のようにいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マケインを選ぶのでは、日本でアソウを替えてオザワにするよ
 うなものだ。徹底的な追及や粛清は難しい。社民党党首のフク
 シマを選べば、責任追及が行われる。アメリカ人はそう考えた
 のである。            ――日高義樹著/PHP
 『不幸を選択したアメリカ/オバマ大統領で世界はどうなる』
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、現在日本では、そのオザワ――民主党の小沢代表の公設
第一秘書である大久保氏の逮捕劇で政局は大揺れです。ところで
ここまで53回にわたって書いてきた今回のテーマについて、今
年の1月5日に私は次のタイトルを付けたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    大恐慌後の世界はどのようになっていくか
     − 日本はそれにどう対応すべきか −
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ここまで日本の対応については、まったく触れており
ません。それは、今回の未曽有の経済危機に対して、現在の日本
政府のあまりにも稚拙な対応に対して内心呆れているからです。
 それにしても、この突然の大久保第一秘書の逮捕については大
きな疑問があります。新聞や週刊誌でいろいろ書かれていますが
明日24日に大久保秘書が起訴されるかどうかが決まるというこ
となので、EJでもその問題について少し言及してみたいと思い
ます。マスコミがあまり触れていない点に焦点を当てて書くこと
にします。
 最初に明確にしておきたいのは、現在の政治資金規正法という
法律は、企業献金を禁止するという目的から見た場合、完全なザ
ル法であるということです。なぜなら、企業から政治家への直接
的な献金は禁止しているものの、政治団体からの献金は政治資金
収支報告書に記載している限り認められるからです。
 この場合、マスコミの報道ではほとんど触れられていない――
意図的に触れていない疑いもある――ことは、この法律では寄付
の資金を誰が出したか――つまり、本当の出資者については報告
書に記載する必要はないということです。つまり、法律はそこま
で求めていないということです。
 小沢代表の場合、西松建設のOBが設立した2つの政治団体が
寄付者として政治資金収支報告書に記載されており、このこと自
体は別に違反ではないのです。新聞やテレビに登場する弁護士や
コメンテータでこの点を強調している人は、元検事で、現在桐蔭
横浜大学法科大学院教授の郷原信郎弁護士だけなのです。郷原氏
は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢氏の秘書が、西松建設が出したお金だと知っていながら政
 治団体の寄附と記載したとしても、それだけでは違反とは言え
 ない。報道では、小沢氏の秘書が西松建設に請求書を送り、献
 金額まで指示していたとされていますが、それでもただちに違
 反とはならないのです。        ――郷原信郎弁護士
            ――『週刊朝日』3月/20日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 郷原氏が指摘している小沢事務所が西松建設に出したとされる
請求書の存在――検察側のリークと思われる情報によって、新聞
やテレビが一斉に報道しているのですが、これは後で2つの政治
団体宛ての請求書であったことが明らかになっています。
 しかし、一般の国民としては、西松建設宛ての請求書であると
誰でも思ってしまいます。こんなことは家宅捜査で書類を押収し
た検察でなければ知り得ないことであり、明らかに検察側の虚偽
のリークとしてか考えられません。
 もうひとつ引っかかるのは、テレビに登場する元検事の解説者
は、ほとんど検察寄りの主張をしており、今回の検察捜査に批判
的な郷原氏は、テレビ朝日/サンデー・プロジェクトのみしか出
てこないことです。明らかにそこには、検察とメディアによる世
論操作の疑いが濃厚であると思います。
 それに今回の逮捕容疑が「政治資金収支報告書の虚偽記載罪」
であることです。この罪でいきなり逮捕はあまりにも乱暴です。
しかも、衆議院が迫っている極めて重大な政治的影響が生ずる時
期においてです。
 マスコミ報道は、小沢事務所が西松建設と共謀して、2つのダ
ミーの政治団体を作り、そこを通して献金させたという書き方に
なっています。しかし、これら2つの政治団体には政治団体とし
ての実態があり、その団体ができたときには逮捕された大久保氏
は秘書ではなかったのです。そういうこともマスコミは書かず、
何とか小沢潰しをやろうとしています。それでも検察は明日大久
保氏を起訴すると思います。  ――[大恐慌後の世界/53]


≪画像および関連情報≫
 ●小沢代表の第一公設秘書逮捕についての佐藤優氏の意見
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「検察ファッショではないか」という田原総一朗氏に対して
  佐藤優氏は次のように疑義を呈したという。
  「検察ファシズムだとすると、事前に新聞やテレビなどのメ
  ディアに小沢の陸山会はかくもいかがわしい団体で、いかに
  謎が多いかといったことをリークし、一定の世論形成をして
  から逮捕を敢行する。さらにバランスを取るために自民党の
  何人かの政治家の捜査をほぼ同時に行うはずだ」。
            ――『週刊朝日』3月/20日号より
  ―――――――――――――――――――――――――――

郷原信郎氏.jpg
郷原信郎氏
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2009年03月24日

●「国策捜査ではなく官僚組織の牽制」(EJ第2536号)

 現在の検察のトップは、樋渡利秋検事総長です。この人はどう
いう人物なのでしょうか。
 検事任官は1970年、大分地検などの地方を回り、法務省刑
事局長、法務事務次官、東京高検検事長と着実なステップでトッ
プへ上り詰めています。重要なポイントは、樋渡氏が今年5月か
ら開始される裁判員制度の強力な推進者であるということです。
 樋渡利秋氏がどういう考え方の持ち主であるかについて、次の
ブログ「池内昭夫のヤフーブログ」を読んでみてください。
―――――――――――――――――――――――――――――
   裁判員制度:樋渡検事総長の訳の分らぬ訴え
   http://blogs.yahoo.co.jp/akio_i1960/37162206.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回の小沢事務所の強制捜査を民主党筋は「国策捜査」といっ
ていますが、現在の麻生政権は国策捜査をやれる力など持ってい
ないと考えます。検察が主体的に動いて政権がそれを黙認したと
いう構図ではないかと考えます。それでは、今回の強制捜査はど
のような意図の下に行われたものでしょうか。
 これはオール官僚組織による政権交代に対する牽制ではないか
と考えます。検察に関していうと、裁判員制度について民主党は
政権を取ったら見直すと言明しているし、その他の野党は全面反
対の姿勢です。そういう野党が政権を取ったらどうなるか――こ
ういう危機感を検察トップが持つことはありうると考えます。
 『週刊新潮』3月26日号では、司法記者による次のコメント
を紹介しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 検察の当初のシナリオでは、小沢代表のケースと同じ政治資金
 規正法違反で二階経産相の秘書を検挙し、与野党のバランスを
 取る予定でした。ところが、急遽、小沢代表の疑惑をもっと捜
 査する方針に切り替わった。 ――『週刊新潮』3月26日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、検察は全国の地検から検事の応援を求め、東北地方の捜
査を進めています。その原因は、西岡武夫・参議院議運委員長に
よる「検事総長を証人喚問すべし」という発言に検察側が激怒し
「小沢集中捜査」がはじまったというのです。
 これに関して、既出の郷原信郎氏は、裁判員制度スタートの準
備に忙殺されている地検に無理やり検事の応援を求める検察の異
常な事態について次のように説明しています。こういう記事は新
聞には掲載されないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 それは、強制捜査に着手したところ、民主党サイドの猛反発、
 強烈な検察批判などによって、予想外に大きな政治的・社会的
 影響が生じてしまったことに驚愕し、批判をかわすため、泥縄
 式に捜査の戦線を拡大しているということではないか。当初か
 ら、他地検への応援要請が必要と考えていたのであれば、強制
 捜査着手を別の時期に設定していたはずだ。民主党サイドだけ
 への偏頗な捜査と言われないように自民党議員にも捜査対象を
 拡大させる一方、小沢氏側に対しても、何かもっと大きな容疑
 事実をあぶり出すか、秘書の逮捕事実が特に悪質であることを
 根拠づけることが不可欠となり、その捜査のために膨大な人員
 を投入しているというのが実情だろうと思われる。
                    ――郷原信郎弁護士
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記の記事は、2009年3月17日付の次の「日経ビジネス
オンライン」に掲載されたものです。内容の濃い記事であり、一
読の価値があると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ガダルカナル」化する特捜捜査/「大本営発表」に惑わさ
 れてはならない/郷原信郎氏
 http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090315/189047/
―――――――――――――――――――――――――――――
 郷原氏は、検察のリークを「大本営発表」になぞらえています
が、この手法が明らかにおかしいと思ったのは、小沢事務所の元
秘書であった石川知裕・民主党代議士の参考人としての事情聴取
のリークです。
 検察が参考人としての事情聴取をやるのは検察の仕事ですから
問題はありませんが、容疑者ではないのですから、極秘に行うべ
きであり、メディアに対してリークするなどもってのほかです。
まして石川知裕氏の選挙区は北海道第11区で、酔っ払い会見で
辞任した中川昭一・自民党代議士と同じ選挙区なのです。政治広
報センターの宮川隆義氏の予測によると、石川氏の方が△で優勢
なのです。こういう事情から考えると、検察のこのやり方は民主
党から見ると、選挙妨害以外の何物でもないでしょう。しかし、
この不条理さを指摘するメディアはほとんどないのです。
 別に民主党を応援するのではありませんが、現在の日本の状況
を考えると、政権交代をさせることによって、ほとんど50年以
上も続いている自民党政権を一度終わらせるのが一番良いと考え
るからです。
 今回の小沢ショックが響いて、仮に次の衆議院選で自民党が勝
利を収めたとしてもギリギリで過半数を占めることは間違いない
でしょう。もう3分の2は使えないのです。そうなると、いかに
直近の民意であると自民党が主張しても政局は安定せず、重要法
案は何も通らないでしょう。政治状況は今よりも一層ヒドクなる
だけです。
 宮川隆義氏の予測によると、小沢続投の場合、民主党は47議
席を失い、逆に自民は42議席、公明は6議席回復するが、自公
政権維持に必要な241議席には26議席不足する――つまり、
それでも政権維持は困難であるというのです。
 なお、そういうことはまずないと思いますが、自公が一番恐れ
ているのは岡田でも菅でもなく、長妻昭を代表に立ててくる場合
であるといわれています。   ――[大恐慌後の世界/54]


≪画像および関連情報≫
 ●検察リークについて/池田信夫・ブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  西松建設事件をめぐって、「検察のリークが政治的だ」とい
  う批判が民主党から出ているようだが、これは検察報道の実
  態を知らないのではないか。私もそういう仕事につきあった
  けど、検察も警察もそんな簡単にリークなんかしてくれない
  よ。捜査によって知りえた情報を漏らすことは守秘義務違反
  だから、よほど信頼関係を構築した記者が、自分で調べたネ
  タをもってきて、夜回りで検事に「こういうことでいいです
  よね?」と当てて、それに検事が目で答える、といった微妙
  なものだ。最終的な責任は、あくまでも報道するメディアに
  ある。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/0bce4d02eec626a945145fc13698fa91
  ―――――――――――――――――――――――――――

樋渡検事総長.jpg
樋渡検事総長
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2009年03月25日

●「AIGはなぜボーナスを払ったか」(EJ第2537号)

 話を日本から再び米国に戻します。米国発のグローバルな金融
危機の根本原因を解決すべき米オバマ政権の金融の責任者、ガイ
トナー財務長官とバーナンキFRB議長がAIG問題での責任が
問われています。
 3月18日に米議会の公聴会に呼ばれたAIGのリディ会長兼
最高経営責任者(CEO)は、ボーナス支給はAIGを破綻寸前
に陥れた住宅ローン担保証券に絡むデリバティブ取引を処理する
人材の流出を防ぐためやむを得なかったと釈明しています。
 どういうことかというと、住宅ローン担保証券という時限爆弾
の信管を外す技術を持っている者は、その爆弾を開発した技術者
しかいない――そのため約束しているボーナスを支払って、彼ら
を引き止めるしかなかったというのです。
 現代の最先端の金融技術の知識のない人にとっては、リディC
EOの釈明は言い訳に聞こえるかもしれませんが、これは本当の
ことなのです。これについて、リチャード・クー氏は自著で次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これらの金融商品(住宅ローン担保証券など)のリスク特性は
 これらの商品を実際に組成した人たちにしか把握できないとい
 う点である。極めて高度な数学を駆使してつくられたこれらの
 商品は、外部の人たちがそのリスク特性を知ろうとしたら、そ
 の証券の構成部分である個々の金融商品の過去のデフォルト率
 などを一つ一つ調べ、それをもう一回組み合わせて全体のリス
 ク特性を計測しなければならない。その作業にはクウォンツと
 呼ばれる高度な数学の知識を持っているチームが必要であり、
 またその作業には一つの証券につき数週間の時間が必要だと言
 われている。           ――リチャード・クー著
  『日本経済を襲う二つの波/サブプライム危機とグローバリ
              ゼーションの行方』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 米金融サービス委員会は24日(本日)に、ガイトナー長官と
バーナンキFRB議長を証人として呼び、AIGボーナス問題の
審議を続ける方針のようですが、こんなことをしていると、「大
統領の金融安定化の試みの障害となり、指導力への信頼に傷がつ
く恐れがある」(米紙ウォールストリート・ジャーナル)という
指摘も出始めているのです。
 しかし、米国人は楽観的なところがあり、簡単には落ち込まな
い強さを持っていると指摘する人もいます。これに同調するのは
既出の日高義樹氏です。日高氏によると、国際政治のうえから見
て、大国としての要件として次の5つを上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.広く大きな国土を有している
      2.多くの国民を有していること
      3.資源をふんだんに有している
      4.優れた技術を有していること
      5.教育レベルが高く優秀である
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1に、大国は「広く大きな国土を有している」という特性が
あります。
 広い国土は、戦いをするに当たって、敵の攻撃を吸収する被害
吸収能力を持つことを意味しており、大国の要件です。
 第2に、大国は「多くの国民を有していること」という特性が
あります。
 人口が少なければ、世界の政治にもビジネスにも手を広げられ
ず、他国に大きな影響を与えることは不可能なのです。
 第3に、大国は「資源をふんだんに有している」という特性が
あります。
 ふんだんな資源がなければ戦うこともできないし、自分の利益
を守ることも困難です。資源が豊富なら輸出できます。
 第4に、大国は「優れた技術を有していること」という特性が
あります。
 進んだ技術に基づくモノづくり技術を持っていなければ、政治
力を発揮できず、世界に君臨することは難しいのです。
 第5に、大国は「教育レベルが高く優秀である」という特性が
あります。
 優れた国というのは、教育レベルの高い優秀な国民を多く有し
ているので、世界の国に対して影響力を持てるのです。
 どうでしょうか。これら5つの要件をすべて満たす国は、世界
でひとつ、アメリカしかないのです。したがって、米国はこれか
らも大国であり続けると日高義樹氏はいいます。
 米国の力が衰えて、ドルが基軸通貨の地位を維持できなくなる
という人が増えています。確かにドルに問題が多いことは確かで
す。しかし、ドルに取って替わる通貨はあるのでしょうか。
 ユーロがある――こういう人がいます。ユーロがつくられてか
ら10年が経過し、国際的には重要な通貨になっています。しか
し、それだけでは、基軸通貨にはなれないのです。それはEUの
経済圏が小さいことです。
 ユーロを通貨とする国々の国民総生産は全部合わせても、米国
の13兆ドルに及ばないのです。それにユーロは世界通貨として
つくられておらず、独自の利益を主張する地域通貨なのです。や
はりドルしかない――日高氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドルを世界の基軸通貨として通用させているのは、その背後に
 あるアメリカの軍事力と政治力、そしてアメリカの金融機関の
 システムなのである。この金融機関のシステムが混乱し、アメ
 リカの人々が政治力に対する自信を失ってしまったことから問
 題が生じてきた。         ――日高義樹著/PHP
 『不幸を選択したアメリカ/オバマ大統領で世界はどうなる』
―――――――――――――――――――――――――――――
軍事力も基軸通貨には必要なのです。[大恐慌後の世界/55]


≪画像および関連情報≫
 ●苦境に立つガイトナー財務長官
  ―――――――――――――――――――――――――――
  リディ会長の証言で、米連邦準備制度理事会(FRB)は3
  か月前から、ガイトナー長官は2週間前からボーナスの存在
  を知らされていたことが明らかにされ、公聴会の面々が驚い
  た。「AIGが経営危機に陥った時、ガイトナー氏はどこに
  いたのか?」共和党議員が最近、議会で財務長官を攻撃する
  常とう句だ。ガイトナー長官は、ニューヨーク連邦準備銀行
  総裁だった08年9月、リーマン・ブラザーズ破綻の余波で
  破綻の瀬戸際に立たされたAIGへの政府支援策をまとめた
  張本人だ。“暴挙”と言われる巨額ボーナス支給を見過ごし
  支援を重ねた監督責任を問う声が高まっている。オバマ大統
  領は18日、「これほど忙しい財務長官はいない。すべての
  責任は私にある」と長官をかばったものの、財務長官の進退
  問題に発展すれば政権に大きな打撃となるのは確実だ。
                ――ニューヨーク 山本正実
  ―――――――――――――――――――――――――――

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AIGリディ会長兼CEO
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2009年03月26日

●「新しい有事経済理論が必要である」(EJ第2538号)

 オバマ政権が苦悩しています。どうも金融・経済問題について
オバマ大統領自身が前面に出過ぎるように感じます。それは、金
融・経済問題に取り組む政権の責任者の力が弱いということを意
味しています。だから、大統領自身が前面に出なければならない
わけです。なぜ、うまくいかないのでしょうか。
 うまくいかない理由について大前研一氏は、次のように味のあ
ることをいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 100年に一度の危機に100年前の経済理論で対応しようと
 いうところに、そもそも無理がある。    ――大前研一氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 大前研一氏によると、ケインズ経済学以降のマクロ経済学は、
すべて「平時の経済理論」であって、有事のさいには役立たない
というのです。現在、世界各国はこの未曽有の金融危機を克服す
るために、財政出動を強化しようとしていますが、まさに100
年に一度の危機に100年前のケインズ経済学で対処しようとし
ているのです。だから、うまくいかないのであると。
 これはなかなか面白い考え方であると思います。そうであると
「有事の経済理論」というものが必要になるわけです。現在の経
済危機において、G7とかG20で各国の金融担当者が集まって
議論していますが、本当のところはどうしていいかわからないと
いうのが本当のところです。酔っ払いでも務まるぐらいだから、
大した議論になっていない――このように大前氏はいうのです。
 この有事の経済理論について、大前氏は、「SAPIO」3/
25号に次のタイトルの論文を書いておられるので、ご紹介した
いと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
                   大前研一/小学館刊
  誰も金融パニック渦中の「心理経済学」をわかっていない
―――――――――――――――――――――――――――――
 有事の経済理論には、次の3つの原則があります。まず、これ
を押さえておく必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   有事の経済理論/第1原則
    金をばらまいても経済波及効果はあまりない
   有事の経済理論/第2原則
    金融機関から市場性や社会性が失われること
   有事の経済理論/第3原則
    パニックのときは平時と反対の現象が起きる
―――――――――――――――――――――――――――――
 「有事の経済理論/第1原則・金をばらまいても経済波及効果
はあまりない」について考えます。
 いわゆる「バラまき」については、米国では減税、日本では定
額給付金を配っていますが、パニックで消費マインドが凍てつい
ているときは、経済効果は大きく減殺されてしまうのです。
 消費が浮ついているときは、1人1万円ずつ配ると7500円
使うが、消費が凍てついているときは3500円しか使わず、残
りの6500円は貯蓄に回ってしまうことが分かっています。あ
の米国でさえ、現在貯蓄性向が異常なほど上昇しているのです。
 大前氏は定額給付金に対して次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の全国民に一律1万2000円を配る麻生政権の定額給付
 金も、そのまま消費には向かわないだろう。しかも、事業費1
 兆9570億円に対して事務費が825億円もかかる。それで
 消費に向かう割合が仮に35%とすれば、7000億円弱の経
 済効果しかないというバカげた政策だ。
          ――「SAPIO/3/20」/小学館刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 「有事の経済理論」/第2原則・金融機関から市場性や社会性
が失われること」について考えます。
 金融機関から市場性や社会性が失われるということは、どうい
うことかというと、金融機関は国――金融庁だけを見るようにな
り、貸出先企業や預金者を見なくなるということです。
 建前上は、国は貸し剥がしや貸し渋りを禁止していますが、一
向に改善されていないのです。与謝野大臣が金融庁を兼務するよ
うになってから、銀行が企業に貸し出しを断る場合は、その理由
書を提出するようになったそうです。愚かな対策です。
 もっと大事なことがあります。それは、貸し渋りをするなと指
導する部署(監督局)と検査する部署(検査局)が違うので、何
も進まないのです。いくら貸し出しを増やせと監督局にいわれて
も不良債権を増やすなと検査局にいわれたら、銀行は検査マニュ
アルを守って貸し出しをしようとしないのです。これは、手足を
縛っておいて、さあ走れというようなものです。
 「有事の経済理論」/第3原則・パニックのときは平時と反対
の現象が起きる」について考えます。
 ケインズ経済学では、金利を下げたら、皆がお金を借りて在庫
を増したり、物を買ったりするということになっているのですが
現在は技術の進歩で、必要なときに必要なものを生産するジャス
ト・イン・タイム方式になっているのです。
 昔は金利が下がると、納期に時間のかかる「足の長い」資材な
どを借金で買って在庫を積み増し、需要が上昇して市況が上がっ
てきたら一挙に出荷するということが一般的だったのです。しか
し、現在ではジャスト・イン・タイムが広く普及し、トヨタ自動
車やデル・コンピュータのように、注文を受け当てから生産して
納品するというように変わってきているのです。
 現在米国では住宅ローンの固定金利は3.5 %に大幅に下がっ
たのですが、住宅需要は下げどまらないのです。つまり、平時の
経済理論の常識は、有事には通用しないのです。こういうことを
踏まえて、有事の経済理論を作り出す必要があると大前研一氏は
いうのです。         ――[大恐慌後の世界/56]


≪画像および関連情報≫
 ●ジャスト・イン・タイム方式とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  製造業における部材調達・製品生産に関する思想で、「必要
  なものを、必要なときに、必要な数量だけ」調達・生産する
  という考え方。トヨタ生産方式を構成する2本柱の1つ。生
  産の工程において部材の不足・欠品は作業の停滞を意味し、
  計画どおりの生産が行えないのはもちろん、待ち時間の間は
  設備や工員が遊休化するというムダが生じる。逆に余剰に仕
  掛品を持つと保管コストが掛かるうえに、在庫資産を眠らせ
  ておくことになり投資効率の面でムダが生じる。そこで、生
  産の各工程が作業を行うタイミングに合わせて、必要なもの
  だけが到着するようにして使い切ってしまえば、最も効率的
  だ。こうした考え方がジャスト・イン・タイムである。
               ――情報マネジメント用語辞典
  ―――――――――――――――――――――――――――

有事経済理論の必要性を説く大前研一氏.jpg
有事経済理論の必要性を説く大前研一氏
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2009年03月27日

●「有事経済理論による景気対策」(EJ第2539号)

 昨日の有事の経済理論の続きです。有事のときには、速効性が
ある景気対策を行う必要があります。現在、日本、米国をはじめ
とする各国がやっている景気対策は、どう考えても速効性がある
とはいえないでしょう。
 「有事の経済理論」に基づく景気対策として、大前研一氏は次
の具体策を提案しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 個人に対して、バランスシートと減価償却の概念を導入する
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本のGDPの60%は個人消費なのです。公共投資や企業の
設備投資などよりもずっと大きいのです。したがって、そういう
個人が消費したくなるようなインセンティブを考え出せばよいの
です。そういうアイデアはいくつもあるはずです。
 住宅を新築・増改築したとします。この場合、その建築にかか
る費用を10年間で減価償却できるようにするのです。つまり、
建築費用を10年間に分割して、その年の損失とみなして、所得
から控除するのです。
 これをやると、相当の高額所得者でない限り、10年間は所得
税がゼロになります。そのため、住宅購入や増改築をしようとす
る人は増えるはずです。もちろん、この場合、それができる資金
を持つ人だけしか対象にはなりませんが、国全体としてみた場合
住宅の新築・増改築の動きがさかんになることは確実なので、景
気対策としては有効であるといえます。
 これに関連して大前氏は「書斎減税」を提案しています。サラ
リーマンが勉強するために書斎(定義は必要であろうが)を持っ
た場合、その改築費用に加えて、PCやソフトウェア、机、椅子
本棚などの購入代金をすべて必要経費として認め、税金から還付
するというものです。
 この書斎減税のアイデアを大前氏が以前から提案していたこと
を私は知っています。エリートや学者の提案だという批判はあり
ますが、これは大前氏自身が若くとして米国に留学し、米国の大
学の奨学金をもらったうえで授業料免除、それに加えて生活費ま
で支給されるというかつての米国の最も寛大なる部分を体験して
いる人であるからこそ出てくる提案であると思います。
 他の国の人間に対して、優秀であればこれほどの援助をしてい
るのです。まして自国民であれば、学生でもサラリーマンでも書
斎を作ったり、学校に通って自己投資をする人には経費を還付す
るべきであると大前氏は主張するのです。これに関連して大前氏
は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 努力すれば報われる社会のほうが悪平等社会よりもずっと国民
 の「格差感」は少ないはずだ。政府が無理して創り出す偽物の
 雇用ではなく、世界との競争に勝てる人材が増えることで結果
 的に達成される雇用こそ重要だと認識すべきである。
          ――「SAPIO/3/25」/小学館刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに企業に対しては、減価償却の期間を短くする対策を打ち
出すべきであると大前氏は主張します。これについては、良い前
例があるのです。
 かつてロボットの減価償却を2年にしたところ、企業は先を争
って導入したことがあります。また、PCの減価償却期間を6年
から1年にしたときも企業へのPC導入が一挙に進んだのです。
このように減価償却期間を短くすると、景気の調整弁として有効
に機能することは実証済みです。
 こうした対策は、定額給付金などより、すぐに実施できる対策
であるのに日本政府はなぜやらないのでしょうか。現在の政府は
財務省そのものであって、増税には熱心ですが、減税に関しては
とにかく頑なであり、アタマが固いのです。そういうアイデアが
出されると、その実現性を検討するより前に、いかにしてそれを
潰すかを先に考えるのです。
 それでは、雇用についてはどうでしょうか。
 雇用に関しては、速効的な解決策はないとして、大前氏は次の
ようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は、雇用問題の有効な解決策はない。これは政治家が最も言
 いたがらないことだが、この問題にエブリワン・ハッピーの答
 えはないのである。答えがないなら政府は何もしないほうがよ
 い。人々は政府に期待することをやめ、ヒナ鳥のようにエサを
 座して待つのではなく、自己研鋳して何とか職に就こうと努力
 するだろう。   ――「SAPIO/3/25」/小学館刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 大前氏は、短期の雇用対策は実を結ばないといいます。フリー
ターや派遣切りの対策をいくらやっても少なくとも経済は上昇し
ない。派遣切りをいくら法的に縛っても、企業は海外に生産拠点
を移すだけである――大前氏はこのようにいうのです。
 以上が大前研一氏の有事経済理論による景気刺激対策です。何
しろ100年に一度の金融危機であり、どのような奇抜な案でも
真摯にその有効性を検討すべきです。
 東京大学経済学部長の伊藤元重氏も、逆転の発想を提案してい
ます。それは「3年後から消費税を10%まで引き上げる」こと
を条件に、2年分の増収分として見込まれる25兆円を前倒しし
て、景気対策に使うというものです。
 伊藤氏の考える使い方は、将来の日本を良くするための投資と
して温暖化ガス抑制のための投資を上げていますが、とても国民
の理解は得られないと考えられます。ただでさえ不況で苦しい
のにそのうえ増税をされることの反発はすさまじいものになるは
ずです。むしろ国民の反発を抑えるため、それこそ定額給付金と
して配布するのも一案であると思います。25兆円の原資があれ
ば、相当多額の給付金を配布できます。そのぐらいのことをする
時期にきているのです。    ――[大恐慌後の世界/57]


≪画像および関連情報≫
 ●減価償却について知る/固定資産と減価償却
  ―――――――――――――――――――――――――――
  普通は、パソコンや自動車などは一年で駄目になるのではな
  く数年間は使えます。ですから、これらに対する支出は一年
  間の収入に対応するのではなく、数年間の収入に対応すると
  考えられます。そこで、いったん固定資産という勘定科目に
  プールしておき、減価償却という名目で少しずつ費用として
  処理するのです。
        http://www.h4.dion.ne.jp/~zero1341/g/24.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

SAPIO/3/25.jpg
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2009年03月30日

●「部分兌換紙幣という手がある」(EJ第2540号)

 今回のテーマ「大恐慌後の世界はどのようになっていくか」に
ついて58回にわたって書いてきましたが、今回と明日で一応終
了します。
 ここまで見てきたように、米国の傷み方は想像以上に激しく、
先行きが懸念されますが、米国は実にしたたかな国であり、その
逆襲が考えられます。
 今回のテーマの冒頭(EJ第2483号)で「オバマがデフォ
ルト宣言をする日」と書いたのですが、それに近いことを本気で
米国は仕掛けてくる可能性があるのです。
 2003年に米国は、新しい「新20ドル札」を発行している
のですが、ご存知でしょうか。
 米国の造幣局の発表によると、その目的は「偽造防止」である
そうです。近年のデジタル技術の発達により、偽ドル札は本物と
ほとんど見分けがつかなくなっているのです。確かに北朝鮮など
は偽ドル札を製造しており、「偽造防止」は一応納得のいく目的
のように見えます。
 1995年の時点で米国において発見された偽造紙幣のうちデ
ジタル技術を使ったものは1%以下だったのですが、2002年
までにはその比率は40%以上に向上しているのです。
 さて、「新20ドル札」ですが、これには3つの最新技術が使
われているのです。
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      第1の技術:精巧な透かし模様の挿入
      第2の技術:特殊な偽造防止線の採用
      第3の技術:カラーシフティング利用
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の技術は「精巧な透かし模様の挿入」です。
 お札を光にかざすと、肖像画に似た透かし模様が両面から見え
るようになっているのです。
 第2の技術は「特殊な偽造防止線の採用」です。
 お札を光にかざすと、お札に埋め込まれた縦に走るプラスチッ
クの線が見えるのです。しかも、その線の中に次の文字と小さな
旗が描かれているのが見えます。
―――――――――――――――――――――――――――――
            USA TWENTY
―――――――――――――――――――――――――――――
 第3の技術は「カラーシフティング利用」です。
 紙幣の印刷にはカラーシフティング・インクを利用しているの
です。このインクは見る角度によって色が変化するのです。「新
20ドル札」の場合、紙幣の右下の「20」の数字は、紙幣の角
度を変えると赤褐色から緑色に変化するのです。
 しかし、造幣局の発表と裏腹にデジタル技術の進歩に反比例し
て偽造紙幣は減っているのです。北朝鮮は別として、2000年
前後に世界市場に出回っていた偽札はドル紙幣全体の0.01 〜
0.02 %に過ぎないことがわかったのです。それでは、米国が
「新20ドル札」を作った本当の目的とは何でしょうか。
 国際政治経済学者の浜田和幸氏によると、ドルの兌換通貨のた
めの布石ではないかというのです。実は「米国が金本位制に戻る
のではないか」といううわさはここ数年来ずっと出続けているの
です。そのため、昨年6月から8月にかけて、EJでは「金」の
問題を次のように取上げて47回にわたって書いたのです。興味
があったら参照してください。
―――――――――――――――――――――――――――――
  「金」をコントロールする米国の長期金融戦略を探る
   ―― このままでは日本は3度の敗戦になる ――
http://electronic-journal.seesaa.net/category/5295267-1.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、新ドル札を金の兌換紙幣にした場合、旧ドル札とどの
ように交換するのだろうか――まともにやると損をしてしまうこ
とになります。実はそこに凄いトリックを仕掛けているのです。
以下、浜田和幸氏の説をご紹介します。
 米国が新ドル札を作ったとします。仮にその新札は、額面の5
分の1を「金」と交換できると発表します。この場合、別に5分
の1でなくても、10分の1でもいいのです。10分の1とする
と、100ドル紙幣の場合、10ドル分は「金」と交換できるこ
とになります。そうすれば通貨の価値は確実に増します。
 ここでオバマ米大統領は、かつてニクソン大統領がやったよう
に次のように宣言します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今までの旧ドル札は米国民であれば、いつでも無制限に新ドル
 札に交換します。ですから、旧ドル札はそのまま持っていてく
 ださい。ただし、国外の旧ドル札については、新札ドル札には
 交換できません。
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、この宣言の直後から米国内外のドルは切り離されるこ
とになります。外国――例えば日本や中国のドルは「金」との交
換ができないただの紙切れになり、部分兌換紙幣(新ドル札)と
の間に為替レートができます。
 そうすると、当然外国のドル紙幣の価格は下がり、1ドルが1
ドルではなくなってしまいます。どうでしょう。当然国際的な非
難は浴びるでしょうが、この手を使うと、米国の対外債務はほと
んどをチャラにできるのです。
 米国は、今回の米国発の金融・経済危機について、一切謝罪し
ていないのです。そのことを考えると、このような手を米国が使
わないとは断言できないのです。国が潰れるよりマシであるとし
てやりかねないのです。考えてみれば、ニクソン・ショックもこ
れと同じことなのです。
 これが、本テーマの冒頭で述べた「オバマがデフォルト宣言を
する日」の本当の意味なのでしょうか。日本はそういうことも視
野に入れるべきです。     ――[大恐慌後の世界/58]


≪画像および関連情報≫
 ●新20ドル札/流通開始/2003.10.9/共同通信
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【ワシントン9日共同】偽造防止に工夫を凝らした米国の新
  20ドル紙幣の流通が9日始まり、ニューヨークのタイムズ
  スクエアでイベントが開かれた。20ドル札は最も流通枚数
  が多い。新紙幣は初めて黒と緑以外の色を背景に用いたのが
  特徴で薄い桃色や青などの配色。プラスチックの垂直線が埋
  め込まれているほか、透かしや傾けると色が変わって見える
  数字で偽造防止を図った。ジャクソン第7代大統領の肖像や
  紙幣の大きさは変わらない。米国では2004年以降、新デ
  ザインの50、100ドル札が登場する予定で5、10ドル
  札の変更も検討されている。        ――共同通信
  ―――――――――――――――――――――――――――

新20ドル紙幣.jpg
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2009年03月31日

●「米国の陰謀/AMERO導入」(EJ第2541号)

 新ドル札発行による内外のドル分離効果は、当然のことながら
米国債にも及ぶのです。現在米国債は2兆ドル分以上も水増し発
行されているといわれているので、依然として最高ランクAAA
は保っているものの、今回の金融危機によって信用力は落ちて、
なかなか買い手がつかない状態が続いています。
 ところが、内外ドル分離後に発行される米国債については、当
然のことですが、価値が高くなります。そうすると、旧国債は下
落することになります。
 もちろん国債ですから償還されますが、旧ドル札時代の国債で
すから、償還も旧ドル札でしか行われない――そうなる可能性が
十分あります。そんなことになったら、日本や中国が保有してい
る米国債は紙くず同然になりかねないのです。
 浜田和幸氏はさらに米国はこの内外ドル分離策に「デノミネー
ション」を組み合わせてくる可能性を指摘しています。そうする
と、過去に例をみない通貨再生オペレーションが可能になると浜
田氏はいうのです。
 米国政府が一日だけの金融機関の「バンクホリデイ」(支払停
止)を実施したとします。平時でこんなことをやったら大変です
が、これほどの金融恐慌のときですから、いつでもやることはで
きるはずです。
 このときに新ドル札と旧ドル札との交換比率を「1対2」とす
るデノミを宣言したとします。そうすると、旧ドル札は、この日
を境に半分の価値になってしまうことになります。
 しかし、米国民については、旧ドル札2枚で買っていた品物は
新ドル札1枚で買えるので、給与も預金も旧ドル札2枚が新ドル
札1枚に読み替えられるだけであって、実質的被害は何もないの
です。しかし、日本や中国などのように米国債を購入してきた外
国のドル資産は半分になってしまうのです。
 これは、明らかに「金融テロ」というべき行為であり、よほど
うまくやらないと、米国はロシアや中国と戦争になり兼ねない事
態になります。もっとも、現時点において米国に戦争を仕掛ける
実力のある国など地球上にないはずですが、狡猾な米国のことで
すから、戦争を起こさない秘策もちゃんと考えているのです。
 現在、マイクロソフトでは、ITを活用することで自分たちの
仕事の生産性を上げる「デジタルワークスタイル」を強力に推進
していますが、その延長線上として、次の目標を立てているとい
われています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   2020年までに現金取引を10%まで削減する
―――――――――――――――――――――――――――――
 この目的は、お札やコインは多くの人が手で触れるものであり
病原菌を撒き散らす原因になるので、それらをすべてコンピュー
タ上のバーチャル・マネーに置き換えようというのです。
 しかし、それにいたる前提として、信用の失墜がさらに進むと
みられるドルを廃止することが考えられているといわれます。ド
ルを廃止する大義名分です。そして通貨制度の変更に乗じて借金
の帳消しを図ろうと考えているわけです。
 その新しい通貨制度として、目下検討が進められているとみら
れるのが、「AMERO/アメロ」です。米国単独ではドルの信
用を回復させるのは無理であるとして、カナダとメキシコを巻き
込んで巨大な経済圏を形成し、それをバックにして通貨の信用を
高めようという狙いです。その経済圏で使う通貨が「AMERO
/アメロ」というわけです。
 このアメロを導入する場合も、新通貨への移行期に借金を消滅
させる目的で、内外で新通貨の交換比率を変えるなどいろいろ仕
掛けてくることは間違いないと思われます。
 もし、米国がこれをやった場合、大損害を蒙るのは、約2兆ド
ルもの外貨を有する中国と約1兆ドルのドルを持つ日本、それか
ら約4000億ドルのロシアということになります。
 米国は、日本は論外とみています。一番怖いのは中国です。そ
こで、密かに中国と密約を結び、損失の全額補填を約束し、ロシ
アを切り捨てるという手を打つと予測されるのです。現実に、ロ
シア外交筋によると、米政府は既に中国当局者を呼んでアメロ発
行に関して何らかの話し合いをしているといわれているのです。
要するに、米中2国による新たな世界支配体制を考えている――
浜田和幸氏はこのように分析しています。
 オバマ大統領は、選挙中に米国民に約束したことと、かなり違
うことを就任後しようとしています。選挙中は金融業界の不正に
メスを入れ、徹底的に改革するといっていたのに、1月の就任演
説では、金融業界の粛清には一言も触れていないのです。
 もうひとつ不思議なことはオバマ陣営の集めた選挙資金です。
ネットで史上最高の6億ドルを集めたとされていますが、実はウ
ラがありそうです。いくらなんでもネットで6億ドルは無理とい
う疑惑です。浜田和幸氏は、これについて次のような重大事実を
明かしているのでご紹介します。
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 昨年夏にイスラエルを訪問した際に「ユダヤの国を守る」と宣
 言したことにより、ウォール街から莫大な額の献金を受けとっ
 たのだ。ジョセフ・バイデン副大統領にしても同様だ。彼の長
 男、ビュー・バイデン氏はアメリカのタックスヘイブン″とい
 われるデラウェア州の司法長官を務めているが、ヘッジファン
 ドなどからの収賄を告発されたにもかかわらず、どういうわけ
 か不問に付されている。大統領も副大統領もすでに毒まんじ
 ゅう″を食べてしまったわけで、ウォール街の粛正などできる
 わけがない。   ――「SAPIO/3/25」/小学館刊
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 こんな事態が起ころうとしているのに日本は何をしているので
しょうか。「おかしなことをすると米国債を売るぞ!」という牽
制ぐらいすべきです。本テーマは本日で終了します。長期間のご
愛読を深謝します。  ――[大恐慌後の世界/59/最終回]


≪画像および関連情報≫
 ●原田武夫/国際政治経済塾より
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  金融メルトダウンの真っ只中に行われた2008年米国大統
  領選挙。それを制したのは民主党のオバマ候補であった。忘
  れてはならないのは、そこに至るまでに見られた民主党内で
  のオバマ対ヒラリーの激戦である。だがオバマ大統領はかつ
  ての敵、ヒラリー元大統領候補を次期国務長官に任命し、各
  国メディアを沸かせている。そうなった今だからこそ、大統
  領選当時に2人の間で行われた議論は今一度振り返っておく
  べきなのだ。
http://money.mag2.com/invest/kokusai/2008/12/post_91.html
  ≪関連動画≫
  http://www.youtube.com/watch?v=15yzzw1ym74
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アメロ硬貨 - コピー.jpg
アメロ硬貨
posted by 平野 浩 at 04:33| Comment(0) | TrackBack(2) | 大恐慌後の世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする