2008年11月04日

●「『円高・ドル安』はなぜ不況になるのか」(EJ第2443号)

 2008年8月14日から10月31日まで54回にわたって
リチャード・クー理論をベースにして「サブプライム不況と日本
経済」について書きましたが、非常に多くの方に読んでいただき
感謝申し上げます。
 連載をスタートした8月14日(木)のEJプログの正味訪問
者数は464人、ページビューは1631回でしたが、この連載
の最終回の31日には、正味訪問者数は778人、ページビュー
は5283回に達しております。ちなみに、ページビューが、1
日5000回を超えたことははじめてのことです。ご参考までに
10月27日〜31日の訪問者数とページビューを公開します。
―――――――――――――――――――――――――――――
            正味訪問者数  ページビュー
   10月27日(月)  856人   4754回
   10月28日(火)  894人   4751回
   10月29日(水)  817人   4812回
   10月30日(木)  772人   4990回
   10月31日(金)  778人   5283回
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、米国発の金融危機によって、日本では急速な円高が進み
サブプライム問題の被害が一番少ないはずの日本の株価が1万円
を大きく割り込み、その後乱高下を繰り返しています。
 日本経済は今後どうなるのでしょうか。また、日本経済と密接
につながっている米国経済はどうなっていくのでしょうか。
 今回は次のタイトルで、引き続き経済のテーマを考えていきた
いと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
   日本経済は米国依存から脱却することができるか
   ― 日本は円高・内需拡大政策は成功するか −
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本ではあまり経済のことに詳しくない人でも、日本にとって
は「円安・ドル高」が良いのであって、「円高・ドル安」になる
と、景気が悪くなることを知っています。どうして、「円高・ド
ル安」になると景気が悪くなるのでしょうか。
 これについて、高橋洋一東洋大学教授の主張を例にとって考え
てみることにします。高橋洋一氏は、変動相場制の下では、財政
政策は景気対策としては効かないといっています。それは、ノー
ベル経済学賞を受賞した国際経済学者、ロバート・マンデル氏ら
による「マンデル・フレミング理論」によって証明されていると
いうのです。
 これが正しいかどうかはともかくとして、なぜ財政政策をとる
と、景気対策に効かないのかについて、高橋洋一氏の主張をご紹
介しましょう。それには「円高」がからんでくるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財政政策をやるときには、国債を発行して民間から資金を集め
 公共投資をするのが一般的だ。国債発行、つまり国債を売ると
 いうことは、日銀の政策でいえば金融の引き締めと同じ。市中
 のマネーが減り、金利が上がる。金利が上昇すれば、為替は円
 高になる。円高になれば、輸出が減る。そのさい公共投資で内
 需が拡大しても、一方で円高による輸出減が進み、効果が相殺
 されてしまうのだ。効果はないが、国債残高だけは増える。変
 動相場制のもとでは、景気回復には金融政策のほうがはるかに
 効果がある。金融政策では、金利を下げて需要を増やす。金利
 が下がると企業の設備投資が活発になる一方で、円安が進み、
 輸出増になる。この相乗効果によって景気が良くなるのだ。
  ――高橋洋一著、『日本は財政危機ではない!』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 国債を発行して公共投資を行うと、雇用も内需も拡大します。
しかし、国債を発行すると、とくに日本の場合は日本国民がそれ
をほとんど買うので、民間から資金を集めることになります。そ
の結果、それだけ市中マネーが減る――それは日銀の政策でいう
と、金融引き締め政策に当たるというのです。
 その結果、円高になって輸出が減り、公共投資で拡大した雇用
や内需の拡大は相殺されてしまう――そういう論法です。ここま
では理屈としては一応理解できます。
 しかし、金融政策で金利を下げると、企業の設備投資が活発に
なり、円安が進んで輸出増になって、景気が回復する――この論
法には大いに疑問があります。金利をゼロにまで下げても企業は
銀行から設備投資のための資金を借りようとしないということを
説明できないからです。高橋洋一氏は、リチャード・クー氏のい
う「バランスシート不況」を認めないのでしょう。財政政策重視
派のクー氏とは意見が違うのだと思います。
 高橋洋一氏の本を二冊とも読みましたが、その考え方は大部分
は納得できるものの、理解できない部分が多くあります。それは
高橋氏が自民党の上げ潮派の理論的バックボーンになっているこ
とと無関係ではないと思います。無理に合わせているという感じ
なのです。
 上げ潮派は、名目成長率4〜5%を目指し、増税をしないで、
経済成長と財政再建の両方を達成しようとしているのです。これ
に関して高橋氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 名目成長率が上昇すれば、景気が良くなり、企業もそこで働く
 人々も経済的に潤う。多額の利益を出せば、企業が支払う税額
 も比例して大きくなる。個人も収入増により、その範囲で多く
 の税金を払う。これが経済主義の王道というものだろう。
       ――高橋洋一著、『日本は財政危機ではない!』
                         講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、問題はどうやって経済成長させるかです。そのために
何よりもデフレを克服することが肝心であるといっていますが、
これは同感です。      ――[円高・内需拡大策/01]


≪画像および関連情報≫
 ●上げ潮派の考え方について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  上げ潮派は、無駄な支出を減らすことで歳出削減を図れば、
  増税を見送ってもプライマリーバランスの黒字化は達成でき
  ると主張している。しかし、信州大学経済学部教授の真壁昭
  夫は、「無駄使いをなくすことが出来れば、若干の財源を捻
  出することは可能」だが「それだけでは焼け石に水で、わが
  国の財政状況を根本的に改善することにはならない」と指摘
  している。その理由として、財政悪化の最大要因は社会保障
  費の増大であり、無駄な支出を減らしたとしても、少子高齢
  化の進展による支出の増加が大幅に上回るため、結果的に財
  政状況は悪化の一途を辿るとしている。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

中川秀直氏.jpg
中川秀直氏
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2008年11月05日

●「植草一秀氏が斬る『上げ潮派』」(EJ第2444号)

 10月30日に政府・与党は「追加経済対策」を発表しました
が、これを巡ってメディアではいろいろな意見が出ています。麻
生首相は、当初は「日本経済は全治3年」といいながら、今回の
金融危機を「100年に一度の暴風雨」と表現したりと、経済の
現状をどのようにとらえているのかがはっきりしないのです。そ
ういう現状を踏まえながら、今後日本の進むべき方向を考えてい
きたいと思います。
 高橋洋一氏は、2008年9月5日付、日本経済新聞の「経済
教室」において、自民党内部を次のように分類しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.オールド・ケインジアン ・・・ 麻生太郎氏
  2.財政重視主義者 ・・・・・・・ 与謝野馨氏
  3.上げ潮派 ・・・・・・・・・・ 中川秀直氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 麻生太郎氏がどうして「オールド・ケインジアン」になるのか
ですが、それは多分リチャード・クー氏との関係を報じられたこ
とに原因があると思います。「オールド・ケインジアン」とは、
財務省系の人間が古い経済学の考え方を重視する人に対する蔑称
であり、あまり趣味の良い表現ではないと思います。
 これに対して、あの植草一秀氏は、高橋氏の分類について次の
ように反論しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「オールド・ケインジアン」の呼称は「財政政策重視主義者」
 に訂正されるべきで、この「財政政策重視主義者」と「財政重
 視主義者=増税派」の違いは明確だが、「上げ潮派」の主張は
 不明確だ。     ――植草一秀の「知られざる真実」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように植草一秀氏は、上げ潮派を名乗るグループの正体に
疑問を呈し、その主張はきわめて中途半端なものであるとして、
次のようにバッサリと斬り捨てています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済状況を無視してひたすら財政収支均衡化を追求した小泉政
 権が、逆に財政赤字を急増させた歴史的事実を踏まえずに、財
 政政策を論じる姿勢が、誤りを繰り返す原因になる。そもそも
 「上げ潮派」に属する人々は2001年から2003年にかけ
 て「近視眼的財政収支均衡至上主義」を唱えて、実際に実行し
 た人々だ。その政策失敗の教訓を経て「成長重視政策」重視主
 義者に「転向」したのだ。「上げ潮派」の人々は、過去の政策
 失敗を隠ぺいしている。―植草一秀の「知られざる真実」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 麻生首相も一見「財政政策重視主義者」であるように見えるも
のの、赤字国債を発行することに非難が集中することを恐れ、財
源として埋蔵金を使うなどといっています。
 植草一秀氏は、政府・与党の取ろうとしている「埋蔵金による
財政政策」について、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「上げ潮派」は埋蔵金を活用しての財政政策を主張するが、経
 済学的に見ればまったくナンセンスだ。政府資産売却・流用に
 よる財源調達と、国債発行による財源調達との間に、政府純債
 務に与える影響の差は生じない。2001年度に小泉政権が見
 かけの国債発行金額を実態の33兆円から30兆円に粉飾した
 が、「上げ潮派」の主張は「粉飾」の勧めにすぎない。
           ――植草一秀の「知られざる真実」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府には借金もあるが、資産もあるのです。したがって、本来
の債務――純債務は、債務の総額から資産を引いたものであるは
ずです。ここでいう資産にはいわゆる埋蔵金も含まれるので、赤
字国債を出そうと、埋蔵金を使おうと、そこに何も変わりはない
のです。したがって、麻生首相が「赤字国債は出さない」と胸を
はるのはきわめておかしなことです。
 重要なことは、そのような腰の引けた景気対策では短期の景気
浮揚効果は得られないということです。植草一秀氏はこれについ
て次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財政赤字拡大=財政バランス悪化を伴わなければ、短期的な成
 長率浮揚効果は得られない。「財政赤字を拡大させずに景気拡
 大策を発動する」などの「詐欺的」手法を経済政策に用いるこ
 とは極めて不健全である。
           ――植草一秀の「知られざる真実」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、ここで植草一秀氏を取り上げるのかについて不思議に思
う人もいると思います。それは、植草氏の主張は正論であり、き
わめて納得性があるからです。
 現在の政府・与党は迷走しています。このままずるずると解散
総選挙が先送りされると、本当に自民党を中心とする政権は崩壊
してしまいます。これをもっとも恐れているのは財務省を頂点と
する官僚体制側です。彼らはありとあらゆる手段を駆使して自民
党崩壊を防ごうとしてしています。
 それは小沢一郎氏が民主党党首になったときから、何回も仕掛
けられ、現在も続いています。一時は仕掛けが成功して、小沢氏
が党首を辞任すると発表するところまで、追い詰められる事態に
なったのは記憶に新しいことです。しかし、小沢氏に対する仕掛
けはことごとく失敗しています。きっと植草氏もその犠牲者の一
人と考えられます。このことに関心のある方は、植草一秀氏の次
のブログを読んでいただきたいと思います。そうすれば、小泉政
権がどういう政権であったか明確にわかると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/post_65f1.html
―――――――――――――――――――――――――――――
             ―― [円高・内需拡大策/02]


≪画像および関連情報≫
 ●批判の張本人植草一秀氏を講師として招いた橋本元首相
  ―――――――――――――――――――――――――――
  橋本政権が実行した1997年度大増税を最も強く批判した
  のは私だった。私は1996年年初から、反対論を唱え続け
  た。橋本元首相は首相を辞されたのち平成研究会(橋本派)
  研究会に私を講師として招き、私の考えを傾聴してくれた。
  橋本元首相は2001年の自民党総裁選に際して、1997
  年度大増税政策が誤りであったことを公式に認められた。政
  治家としての出処進退、責任の明確化において、正義感の強
  い行動を取られたと思う。         ――植草一秀
  ―――――――――――――――――――――――――――

与謝野馨氏.jpg
与謝野馨氏
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2008年11月06日

●「巨額の外貨準備が投機取引を煽る」(EJ第2445号)

 10月29日付の日本経済新聞に「日本のドル買い介入/米に
歓迎論」という次の囲み記事が出ていました。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国の金融関係者の間で、日本の通貨当局がドル買い介入に出
 れば「歓迎する」という議論が登場している。円の急騰が国際
 金融不安を増幅させかねないとの危機感からだ。介入マネーを
 米国債の受け皿として期待する声もある。
      ――2008年10月29日付、日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本はこれまで少しでも円高が進むとドル買い介入を行い、こ
れを是正してきています。しかし、最近ではこの日本によるドル
買い介入は米国では歓迎されていなかったのです。
 前回のテーマでも述べた通り、とくに日本が激しく為替介入を
行ったのには、2003年から2004年にかけてであり、総額
で33兆円に及ぶ介入を行っているのです。しかし、今回の円高
においては、米に歓迎論が出ているというのです。
 「円キャリー取引」というものがあります。日本は低金利が長
く続いているので、円で資金を借りて外貨で運用する取引を米国
のヘッジファンドなどがさかんにやっていたのです。
 しかし、ある程度長期的に見ると、日本の低金利は円高が進行
することによって調整され、海外の高い金利で運用しても、円に
戻すときに為替差損を被るのです。したがって、日本国内で運用
したのと同じことになるのです。
 つまり、海外との間で金利差のある状態での長期間にわたる円
安進行は本来あり得ないのです。しかし、日本は頻繁に為替介入
をやるので、円安が進行することになります。
 ヘッジファンドは、日本の場合は低金利を利用して外貨で運用
してもある程度の円高になると、介入してくれるので、安心して
投機的取引ができるのです。こうして投機が正当化される結果と
なるのです。
 そして、こういう取引が頻繁に行われると、円安を加速させ、
やがて円安バブルを生むことになるのです。もし、為替レートそ
のものがバブルであれば、それによって支えられてきた日本企業
の収益もバブルだったということになりかねないのです。
 これに関連して、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授で
ある野口悠紀雄氏は、円キャリー取引とサブプライムローン問題
とは関係があるとして、自著で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 実際、アメリカが04年6月に利上げに転じ、以後6回も利上
 げを続けたにもかかわらず、長期金利は上昇しなかった。これ
 は、アラン・グリーンスパンが議会証言で「謎」と呼んだもの
 だが、円キャリーによって巨額の資金がアメリカに流入したか
 らだと考えれば、つじつまが合う。実際、サブプライムローン
 が顕著に増加したのは04年から06年にかけてであり、円キ
 ャリーの拡大とほぼ同時期だ。つまり、日本の金融緩和がアメ
 リカの住宅バブルをあおったと言えるのである。
 ――野口悠紀雄著、『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』
                     ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 どうやら、これらの為替介入に関しては日米でいろいろな密約
があるのではないかということがさかんにいわれています。その
一端は、前号の植草一秀氏のレポートを読んでいただければわか
ると思うのです。
 そのような密約があるのではないかと思われることは、日本の
外貨準備高を見ると、そこに何かが見えてきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  2001年04月 ・・・・・・   3626憶ドル
  2002年09月 ・・・・・・   4009憶ドル
  2004年03且 ・・・・・・   8266億ドル
  2008年07月 ・・・・・・ 1兆0047億ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 外貨準備というのは、中央銀行の外国為替市場での介入によっ
て蓄積されるのです。過去のドル買い介入の累計が外貨準備にな
るのです。外貨準備の大半は米国国債で、その金利収入も外貨準
備に蓄積されていきます。
 これによると、2004年3月末では、外貨準備は2002年
9月末時点から倍増しているのです。この間に何があったのかに
ついて、植草一秀氏は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2002年9月末の内閣改造で竹中平蔵氏がそれまでの経財相
 に加えて金融相を兼務することになった。ここから株価暴落誘
 導とその後の「りそな銀行」救済が実行される。日本の資産価
 格を暴落させて日本人資産所有者による優良資産投げ売りを誘
 導したことになるが、投げ売りされた優良資産を買い占めたの
 は外国資本だ。「大銀行が大きすぎるから破たんさせない政策
 をとらない」と明言していた政策が全面転換された。小泉政権
 は「りそな銀行」を2兆円の公的資金投入により救済した。こ
 れを契機に株価は急転上昇に転じた。外国資本は労せずに莫大
 な利得を得た。外国資本は2003年から2005年にかけて
 日本の優良実物資産を強烈な勢いで買い漁った。
           ――植草一秀の「知られざる真実」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はこの「りそな銀行」処理には大きな疑問があるのです。こ
れについては改めて詳しく取り上げます。そこには底知れぬ深い
闇があるような気がします。
 このように、円の価値はかなり円安に誘導されており、本当の
価値はどのレベルかはっきりしないのです。それは少なくとも1
ドル=100円以下ではあり得ないと思います。米国の力が誰の
目にも明らかに落ちてきている現在、日本は円の本当の価値を受
け入れるべきです。     ――[円高・内需拡大策/03]


≪画像および関連情報≫
 ●円キャリー取引とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  円キャリー取引は、金利の低い「円」を借りて、金利の高い
  国に投資し、その金利差によって利益を得るものです。円キ
  ャリー取引の中でも、かなり一般的になっているのが「FX
  (外国為替証拠金取引)」でしょう。これは一定額の「保証
  金」を元手に他国の通貨を買い、為替レートの変動を利用し
  て利益を得るもので、円キャリー取引としては、個人投資家
  には参入しやすいものと言えます。このFXは、近年の法整
  備や「くりっく365」の登場によって、より安全で透明な
  取引となりました。
      http://www.greent.to/fxweb/2007/01/post_17.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

野口悠紀雄氏の本.jpg


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2008年11月07日

●「円の本当の価値は『1ドル=79円』」(EJ第2446号)

 小泉政権の2003年頃からは少しずつ、2005年からは明
確に統計的には景気は回復に向かっています。実感はないものの
数字的にこれははっきりとあらわれています。
 これによって「構造改革の成果が実って、日本は長い不況のト
ンネルを抜け出し、新しい成長をはじめた」といわゆる構造改革
派(上げ潮派)は胸をはったものです。また、日本の企業は厳し
いリストラ努力と必要な改革を行って、生産性を向上して強くな
ったともいわれたのです。
 しかし、これは本当でしょうか。
 なぜなら、景気回復といっても一般生活者にとってその実感は
ゼロに等しいし、企業の力が強くなったといっても、それは一部
の輸出関連企業に限定されているのです。野口悠紀雄氏はこれに
ついて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、本当に日本企業の体質が強くなったのであれば、特に
 他社製品との差別化により付加価値を高める「非価格競争力」
 を獲得していたのであれば、日本企業には直接かかわりのない
 サブプライムローン問題で日本の株価が簡単に崩壊してしまう
 のは、おかしいのではないか?      ――野口悠紀雄著
          『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』
                     ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 野口氏は、添付ファイルの2つのグラフによって、日本経済の
実態は旧態依然のままであり、日本の金融当局が行う異常な金融
緩和策と円安誘導に助けられて輸出関連企業の収益が増加しただ
けであることを示しています。
 添付ファイルの「図1」を見てください。これは実効為替レー
トによって、円レートを見たものです。「実効為替レート」につ
いては後で説明するとして、まずはグラフ自体を見ていただきた
いと思います。
 このグラフは、1973年3月を100として、実効為替レー
トで円レートの推移を見たものです。グラフが上昇すると、「円
高」であり、下降すると「円安」になります。
 1985年はプラザ合意の年であり、そこから円レートは急速
に上昇し、上下するものの、1995年には一番高くなります。
あの歴史的ともいえる1995年4月19日の「1ドル=79円
75銭」を示しているのです。
 しかし、その後円レートは下降し、2005年には1985年
のプラザ合意のレベルまで、円レートは円安になっています。こ
れは長年にわたる金融緩和と低金利政策による円安誘導の賜物と
いってよいと思います。別に構造改革によって日本経済の実態が
変化したわけでも何でもないのです。
 この円安の成果は、株価にはっきりと反映されています。「図
2」を見てください。これは、1991年以降の日米平均株価の
推移をあらわしています。小泉政権が発足する前後から急速に下
降していた株価が2003年ごろから上昇に転じ、米国平均株価
を上回り、2007年には頂点に達しています。
 自民党の構造改革派(上げ潮派)の人は、これをもって「構造
改革による景気回復」であるといっていますが、これは遮二無二
円安誘導を行った結果に過ぎないのです。そこに何となく釈然と
しないものがただよっているのです。
 ここで、「実効為替レート」について説明しましょう。
 「実効為替レート」は、特定の2通貨間の為替レートを見てい
るだけでは分からない為替レート面での対外競争力を、単一の指
標で総合的に把握しようとするものです。
 例えば、単に「円高」といっても、円が米ドルに対してのみ上
昇している場合と、多くの他通貨に対して上昇している場合――
「円の独歩高」という――とでは、円と米ドルの2通貨間の為替
レートが同一でも、日本の価格競争力、ひいては貿易収支などに
与える影響が異なってきます。
 こういうときに使うのが、「実効為替レート」です。したがっ
て、このグラフで「円安」であれば輸出は好調になり、関連企業
の株価は高くなるのです。
 それでは、現在の円の本当の価値は現在どのくらいなのでしょ
うか。考えてみることにします。
 一番わかりやすい説明法は「ビッグマック指数」を使う方法で
す。ビックマックを知らない人はいないでしょうが、一応説明し
ておくと、ビッグマックは、ファーストフードチェーンのマクド
ナルドが販売している大型のハンバーガーの商品名です。
 このビックマックを使う指数は、英国の経済誌である「エコノ
ミスト」が考え出したものなのです。ビックマックは同じ商品が
全世界で販売されているので、使いやすいのです。
 東京都内で販売されているビッグマックの現在の価格は、税込
みで290円、課税前価格では276.19 円です。他方、ニュ
ーヨークのマンハッタンでは、課税前価格で3.49 ドル――そ
こで、課税前価格が日米で同一になるような為替レートを求める
と、1ドル=79.14 円となるのです。
 野口悠紀雄氏によると、経済学ではビックマック指数のような
考え方に基づいて算出される為替レートを「購買力平価」と呼ん
でいるのです。しかし、その算出には、ビッグマックのような単
一商品ではなく、物価指数を用いることになっています。
 「1ドル=79円」――これが本当の円の価値であるのかもし
れません。それを今まで長年にわたって、相当の無理を重ねて介
入などによって、円の価値を下げる円安誘導をしてきたのです。
 2008年3月以降、円が100円を超えることが多くなって
おり、この記事を書いている11月3日時点でも、円が100円
を超える状態が続いています。
 そろそろ日本は「円高」を当然のこととして受け止め、それを
ベースとする経済成長を本気で考える時代になっているのではな
いでしょうか。       ――[円高・内需拡大策/04]


≪画像および関連情報≫
 ●「ビッグマック指数」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ビッグマック指数は、各国の経済力を測るための指数。マク
  ドナルドで販売されているビックマック1個の価格を比較す
  る。イギリスのの経済専門誌『エコノミスト』によって考案
  された。ビッグマックはほぼ全世界で同一品質のものが販売
  され、原材料費や店舗の光熱費、店員の労働賃金など、さま
  ざまな要因を元に単価が決定されるため、総合的な購買力の
  比較に使いやすかった。これが基準となった主な理由とされ
  る。                ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●「図1」「図2」の出典
  ――野口悠紀雄著『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』
                     ダイヤモンド社刊

実効為替レート.jpg
実効為替レート


日米平均株価の推移.jpg
日米平均株価の推移


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2008年11月10日

●「巨額の外貨準備は円高拒否のサイン」(EJ第2447号)

 「上場企業今期26%減益」――2008年11月8日の日本
経済新聞のトップ記事の見出しです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 上場企業の業績が一段と悪化する。2009年3月期の連結経
 常利益は前期比26%減と、8月時点の予想(8.6 %減)に
 比べ減益幅が大幅に拡大する見通しだ。失速が目立つのは前期
 まで6期連続増益をけん引した製造業。世界的な景気減速や急
 激な円高で下期は減収になる可能性が出ており、企業収益は転
 機を迎えている。
     ――2008年11月8日付、「日本経済新聞」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この記事を見ると、急速な「円高」が製造業を中心に企業業績
をむしばみ始めていることがわかります。このような記事を読む
と、「円高」という言葉に不吉なものを感じてしまいます。
 しかし、円高のどこが悪いのでしょうか。「円安」ならどうい
う点が良いのでしょうか。
 税の問題を無視して、例のビックマックの例でもう一度考えて
みましょう。
 非現実的な話ですが、東京で276円で購入したビックマック
をニューヨークに持って行って売るとします。ニューヨークでは
ビックマックは3.49 ドル、「1ドル=100円」のレートで
日本円に直すと349円――73円儲かることになります。
 もっともビックマックは食品であり、ニューヨークまで持って
行くと品質が劣化して実際には売れませんが、製造業の製品であ
れば、こういう取引はできることになります。
 仮に製品やサービスの価格の比率が日米で同じあるとして、自
動車はビックマック1万個分と決まっているとします。そうする
と、日本で276万円の車が米国では3万4900ドルになり、
「1ドル=100円」のレートで349万円、73万円の利益が
出ることになります。よい商売です。このようにして日本の自動
車産業の利益は増加し、それによって株価は上昇することになり
ます。サブプライムローン問題が起きるまで、トヨタ自動車をは
じめとする日本の自動車産業の収益が大きく向上したのは、こう
いう「円安」のメカニズムが働いたからです。
 このように輸出関連企業のトップは円高は困るので、政府のプ
ロジェクトなどに積極的に参加し、政府寄りのポジションを築こ
うとします。実際に政府は、今までは少しでも「円高」になると
巨額の資金を使って市場に介入し、円安に誘導をして、輸出関連
産業を守ってきたのです。
 しかし、円安になるということは、日本人が貧しくなることを
意味しているのです。1995年前後のことですが、円高のおか
げで、今までは大金持ちしか泊まれなかった海外の高級ホテルに
泊まることができたし、外国からの輸入品も安く買うことが可能
であったのです。つまり、それだけ豊かになったわけです。
 しかし、サブプライムローン問題が起きる前までは海外旅行を
するとホテル代や食事代を非常に高く感じていたのです。これは
円安であったからです。つまり、円安は日本国民を貧乏にし、逆
に円高は豊かにするのです。
 しかし、円安による貧しさというものは、日常生活では実感が
湧かないのです。これまでの日本のマクロ経済政策は、一貫して
円安方向にシフトしていたのですが、日本人はそれが正しい方向
だと思ってしまったのです。
 日本はこれまで10年以上にわたって円安を続けているのです
が、日本国民でそれを批判する人は少なかったのです。輸出関連
企業に限ってのことですが、円安による企業業績の拡大を歓迎し
て株価が上昇して、何となく安心していられるからです。実際に
2007年夏までは株価は高値を続けていたのです。
 そして、今回のように円高になって株価が下落すると、心配に
なる人が増えて、円安を望むようになります。円高・株安は人々
の不安要因になり、景気は一層冷え込むことになります。
 しかし、よく考えてみると、これは少しおかしな話なのです。
というのは、円安のコストは日本国民が払っているからです。そ
れでいて、国民はそれに気がついていないのです。国民の犠牲に
よって輸出関連企業が栄えているといってもよいからです。
 2000年は「1ユーロ=約89円」――これは最安値だった
のですが、昨年まではこれが2倍以上になっていたのです。そう
すると、ヨーロッパ旅行をすると、ホテルや食事代が非常に高い
し、国内でもヨーロッパのブランド品や自動車、ワインなどはと
ても高くなっています。ちなみに、11月8日現在は「1ユーロ
=124円67銭」となっています。
 ところで、EJ第2445号でも述べましたが、日本の外貨準
備高は、今年の7月時点で1兆ドルを超えています。約100兆
円ということになります。これはあまりにも巨額です。
 本来変動相場制の下では、外貨準備は不要なのです。なぜなら
国際収支の不均衡が発生すれば、為替レートが変化して調整をす
るからです。しかし、巨額の外貨準備を持つことは、為替レート
の自動調整機能を拒否していることになります。ちなみに米国の
外貨準備高は日本の10分の1以下程度です。
 したがって、巨額な外貨準備を持つということは、海外に向け
て次のメッセージを出していることになるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        日本政府は円高を望んでいない
―――――――――――――――――――――――――――――
 このメッセージは、日本国内も含む全世界の投資家に対して、
円から外貨に転換して運用しても、為替差損をかぶる恐れはあり
ませんよという意味になるのです。これは、世界中に投機取引を
煽っていることと同じです。
 したがって、今回のサブプライムローン問題と日本の外貨準備
高は無関係ではないのです。円キャリー取引で、欧米の住宅バブ
ルに一役買っているのです。 ――[円高・内需拡大策/05]


≪画像および関連情報≫
 ●外貨準備高とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  金融当局は、対外債務の返済、輸入代金の決済のほか、自国
  通貨の為替レートの急変動を防ぎ、貿易等の国際取引を円滑
  にするために、外貨準備を行なう。完全な変動相場制の場合
  基本的には中央銀行が為替市場へ介入しないため、国際収支
  は0となり外貨準備は変動しない。しかし、急激な為替変動
  などに際して為替収入する場合には外貨準備が変動する。例
  えば、急速に円高が進展する場合に、それを緩和しようとし
  て円売りドル買い介入(円安介入)を行なうと、結果的にド
  ルの保有額が増え外貨準備が増大することになる。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ビックマック.jpg
ビックマック
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2008年11月11日

●「なぜ円高が進んでいるのか」(EJ第2448号)

 日経平均株価がなかなか上昇に転じないでいます。日経平均株
価は、2007年夏以来下落しているのです。事実をはっきりと
確認することにします。
 添付ファイルの「図1」を見てください。これは2008年の
初めの値を1として、日米の株価を比較したものです。これを見
ると、ダウ平均は1%上昇しているのに対し、日経平均は約4%
落ち込んでいます。
 サブプライムローン問題の影響は日本については軽微だといわ
れていますが、株価が沈没しかかっているのは米国ではなく、日
本なのです。これはどうしたことでしょうか。
 期間を少し長く取って観察します。「図2」を見てください。
このグラフは、2007年4月下旬を1として日米の株価を比較
したものです。
 これによると、2008年4月下旬の日経平均は、前年同期と
比較すると、20%以上下落しているのに対し、ダウ平均はほと
んど回復していることがわかります。どうしてこういう結果にな
るのでしょうか。
 この日経平均株価の下落について、日本の金融当局やエコノミ
スト、評論家が次のようなことをいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.米景気後退による輸出減少が原因である
    2.改革の後退による日本売りが原因である
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の「米景気後退による輸出減少が原因である」について考
えてみます。
 誰でも考えるのは、米国の景気後退で日本の輸出が減少して株
価が下がるという考え方です。サブプライムローンの破綻で、米
国の住宅建設や個人消費が大きく落ち込み、それが景気後退をも
たらし日本からの輸出を減少させ、株価の下落につながるという
ものです。
 しかし、米国に対する輸出は、輸出総額の約23%程度に過ぎ
ないのです。GDPに対する比率ではわずか3%です。したがっ
て、これが多少減少しても株価にそれほど大きな影響が出るとは
考えられないのです。
 第2の「改革の後退による日本売りが原因である」について考
えてみます。
 小泉・竹中改革派の流れを汲む人たち――上げ潮派というべき
でしょうか――そういう人たちがよくいう次の分析があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の株価下落の原因は、改革機運の後退に失望した外国人
 投資家が日本株を売却している
―――――――――――――――――――――――――――――
 一見すると、もっともらしく聞こえます。しかし、これについ
て野口悠紀雄氏は、もし外人投資家の日本売りが原因なら、円が
売られるので、円安が進行するはずである。しかし、2007年
夏以降は激しい円高なっている。したがって、改革の遅れによる
外人投資家の失望売りというのは考えられないというのです。
 それに「改革後退に失望して」といいますが、小泉・竹中改革
とは、せっかく戦後の日本が創り上げた貴重なものを破壊して、
格差社会にしただけの改悪であり、外人投資家が後退を失望する
ような優れた改革ではないのです。言葉だけのスローガンです。
 上記の1でも2でもないとすると、日本の株価が下がったのは
何が原因でしょうか。
 野口悠紀雄氏は、それは日本の異常な円安のせいであるとして
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2007年夏以降の株価下落は、サブプライムローン問題が引
 き金になって、国際的な投機資金の流れが変わり、これまでの
 異常な円安が正常なレベルに戻りつつあることによって引き起
 こされた。つまり、株価下落の主要な原因は、「無理のある円
 安をこれまで続けてきた」という日本側の事情なのである。だ
 からこそ、日本株のほうが下落が激しいのだ。過去数年間、長
 期的には継続しえない円安バブルに支えられて、日本はなんと
 か景気回復を実現できた。しかし、そのバブルは崩れた。現在
 起こつているのは、バブルがなければ実現していたであろう状
 態への回帰にすぎない。遅かれ早かれそうなっただろう状態が
 サブプライムローン問題をきっかけにして現実化しているにす
 ぎないのだ。これを「アメリカの影響だ」というのは、「問題
 は日本の経済政策ではない」とする責任転嫁である。
  ――野口悠紀雄著『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』
                     ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 2007年夏以降の日経平均の動きを見ていると、株価と為替
レートは完全にリンクしているのです。したがって、日本の株価
の下落は、異常な円安が正常なかたちに戻りつつあるためのもの
であって、日本サイドの事情によるものなのです。
 円高が起きている理由は、サブプライムローン関連投資で損失
が生じ、それに加えて米国が利下げを行ったために日本との金利
差が縮小し、欧米諸国の投資ファンドは投資資金の回収をはじめ
たからです。これは「円キャリー取引の巻き戻し」といわれる現
象です。
 日本銀行のレポートによると、2007年前半までは、円キャ
リー取引が円安の原因になっていたが、後半になると、それが逆
転をはじめたのです。円が増価する一方で、ニュージランド・ド
ルや豪ドルが減価したのです。これは「円キャリー取引の巻き戻
し」の結果なのです。
 今まで円安の原因になっていた日本の投資家による投資信託を
通じての対外証券投資は続いているものの増加率は大幅に低下し
FX取引も減少し、円高に貢献しています。現在の円高は円安バ
ブル崩壊の結果なのです。  ――[円高・内需拡大策/06]


≪画像および関連情報≫
 ●為替と株価の関係
  ―――――――――――――――――――――――――――
  為替相場の動向には、多くの銘柄の株価が強い相関をもって
  います。例えば、電気・電子関連,ハイテク株,自動車株な
  どの輸出関連株であれば、円高が株価にマイナス要因として
  働くことが多いでしょうし、電力株やガス株などの内需関連
  株は、コスト減から株価にプラス要因の連想を呼ぶことが多
  いようです。
  http://puffett.web.infoseek.co.jp/column/news/n02.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●「図1」「図2」の出典
  ――野口悠紀雄著『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』
                    ダイヤモンド社刊

2008年の日米株価の推移.jpg
2008年の日米株価の推移


日米株価の1年間の推移比較.jpg
日米株価の1年間の推移比較
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2008年11月12日

●「米国民は「変化」を求めている」(EJ第2449号)

 2008年11月4日――米大統領選で「CHANGE」を求
めた民主党候補のオバマ上院議員が、共和党のマケイン候補を大
差で破り、第44代米大統領に決定しました。これはひとつの米
国の終りであり、これによって世界経済は大きな時代の転換点を
迎えることになります。まさしく「CHANGE」です。
 今までひたすら円安を求め、輸出立国を目指してきた日本もま
た大きな転換点に立っているといえます。これまでのように日本
は米国の後ろについて行くという姿勢では駄目なのです。
 かつて「円安」は海外からは非難の対象だったのです。米国の
自動車業界は「日本の自動車が米国の自動車産業の雇用を奪って
いる」として、激しいジャパン・バッシングが巻き起こったもの
です。1985年の「プラザ合意」も自動車業界の圧力によって
行われたといわれているのです。
 プラザ合意は、「円安/ドル高」を「円高/ドル安」に誘導し
ようとするものであったといえます。このプラザ合意によって、
円高になり、日本は不況に苦しむことになります。
 しかし、その後20年にわたる円安誘導によって、2007年
にはいつの間にかプラザ合意直前のレベルの円安になっていたの
ですが、これに対する海外からの批判は一切なかったのです。こ
れには、次の2つの理由があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
1.日本はもはや製造業の輸出国として注目されていないこと
2.先進国の経済構造が製造業中心から脱却してしまっている
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の理由は「日本はもはや製造業の輸出国として注目されて
いないこと」です。
 現在世界が製造業の輸出国として注目しているのは、日本では
なく、中国なのです。したがって、円安で日本の輸出が伸びても
世界にとってはもはや大した問題ではなくなっているのです。
 第2の理由は「先進国の経済構造が製造業中心から脱却してし
まっている」です。
 米国には自動車産業は残っていますが、もはや衰退産業になっ
ているのです。現在の米国はIT産業における若い、革新的な企
業の成長によって支えられているといってよいのです。
 そのIT産業もモノ作りの部門からソフトウェアの部門へ重点
が移っているのです。その象徴的な出来事が、IBMがPC事業
を中国企業レノボ――聯想に売却した出来事です。もはやハード
ウェアで勝負する時代ではなく、付加価値の高いソフトウェア部
門に重点が移っているのです。
 欧米主要国の経済全体に占める製造業の比率は日本では20%
程度ですが、米国、英国では半分の10%程度です。英国は製造
業が弱体化したのですが、金融業が成長して経済全体を活性化し
て、国を支えているのです。
 1970年代から80年代にかけて米国は、エレクトロニクス
自動車、半導体などが経済の牽引車になって輸出産業という形で
発展して行ったのです。しかし、そのときには既に次の時代の担
い手が育ちつつあったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1970年代の終わりから80年代にかけてアメリカの優秀な
 人材の養成校であるMIT(マサチューセッツ工科大学)やス
 タンフォード大学の工学部、さらにスタンフォード大学やハー
 バード大学などのビジネススクール(経営学大学院)を卒業し
 た学生の就職先が大きく変化しました。彼らはソフトウェア、
 通信技術、バイオテクノロジーという3つの新しい業種にこぞ
 って就職しました。そして反対に自動車や鉄鋼といった既存の
 主要産業には人材か集まらないという現象が起きたのです。
    ――原 丈人著、『21世紀の国富論』より/平凡社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、企業家も先を読む資本家も上記3つの分野――ソ
フトウェア、 通信技術、バイオテクノロジー、すなわち、より
付加価値の高い分野に飛び込み、成果を上げていったのです。し
かし、2000年にそのITバブルも崩壊し、米国経済は大きな
壁にぶつかってしまいます。
 ネットバブルの崩壊後、2001年には全米売り上げ第7位の
エンロンが不正会計の発覚によって破綻し、さらに2002年に
は、米国の大手通信会社のワールドコムの粉飾決算が発覚し、米
国史上最大の経営破綻が起こります。
 このあたりから米国は少しずつおかしくなっていくのです。こ
の時点で既に米国では、出資した企業の株を株主が長期的に保持
し、その成長を見守るという前提が崩れ、株式市場の大部分は、
日々の投機によって動くようになっていったのです。株主の多く
は短期的に株価を吊り上げて高値で売り抜けるという一種のマネ
ーゲームと化していったのです。明らかに資本主義が暴走をはじ
めたといえます。
 株式市場は次世代を牽引する産業が何であるかを特定できない
まま、大幅な金融緩和を背景として、特殊な金融技術を駆使する
見せかけの繁栄を追い求めているようにみえます。そして、その
当然の帰結として、詐欺的手法同然のサブプライムローン問題が
起こり、住宅バブルが崩壊して現在の深刻な金融危機を発生させ
たのです。
 こういう状況において、米国民は新しい時代のリーダーとして
オバマ上院議員を次の大統領に選んだのです。米国の「変化」を
求めてオバマ上院議員を選んだのです。そういう意味において米
国民は、ブッシュ政権時代の小さい政府を前提とする「市場原理
主義=新自由主義」のチェンジを求めていると思われます。
 日本にも「変化」が求められています。問題は何をどう変える
べきかということです。小泉・竹中政権によって何が破壊され、
現状はどうなっているのかについて分析する必要があります。
 日本は現在、どういうポジションにあるのでしょうか。次回か
ら考えていきます。     ――[円高・内需拡大策/07]


≪画像および関連情報≫
 ●プラザ合意とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  プラザ合意とは、1985年9月22日、NYのプラザホテ
  ルに集まった会合で決定した外国為替市場での協調介入を行
  うことの合意。アメリカの呼びかけで、当時の先進5ヵ国、
  (日・米・英・独・仏=G5)の大蔵大臣・財務長官と中央
  銀行総裁が参加。具体的には各国がドル安に向けて協調行動
  つまりドルに対して参加各国の通貨を一定の幅で切り上げる
  こと、その方法として参加各国が外国為替市場で協調介入を
  行うという内容。         ――政治・経済用語集
 http://kw.allabout.co.jp/glossary/g_politics/w007624.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

原丈人著『国富論』.jpg

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2008年11月13日

●「超資本主義の行き着く先」(EJ第2450号)

 現在、われわれの国である日本は、どういうポジションに立っ
ているのでしょうか。このことを理解しないで、今後の日本の進
むべき道を明確にすることはできないと思います。
 米国ではまもなく共和党のブッシュ政権(ジョージ・W・ブッ
シュ)は終わろうとしています。ブッシュ政権の8年間において
世界の超大国米国という国はなんとなくボロボロになってしまっ
たような気がします。世界に冠たる強力な軍事力と経済力を持つ
米国――しかし、軍事力はアフガンとイラク戦争で疲弊し、経済
力――ドルの覇権も今回の金融危機で失速寸前です。
 その米国に何をいわれてもひたすらついていった日本も、ブッ
シュ政権の8年間で、最大の売りであったはずの世界第2位の経
済大国のいろいろな面に歪みがあらわれてきています。ちょっと
考えても、年金・介護・医療、そして雇用――社会生活の重要な
局面に大きな問題が露呈してきています。
 ブッシュ政権の8年間のうちの5年間――日本では小泉政権が
まるで肩を並べるように続いていたのです。残りの3年間は、安
倍政権、福田政権、麻生政権と実に3政権が続いていますが、い
ずれも影が薄く、基本的に小泉政権の延長と考えても間違いでは
ないでしょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ブッシュ政権
   2001年1月26日〜2009年1月20日
   小泉政権
   2001年4月26日〜2005年9月26日
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国のブッシュ政権と日本の小泉政権――これら日米2つの政
権は何を目指してここまでやってきたのでしょうか。
 米国民は、ブッシュ政権に「NO」を突きつけ、オバマという
若いリーダーを選択したのです。人種と政党の2つのかべを乗り
越えてです。これに対して日本は今後どうするのでしょうか。そ
れを論ずるには、小泉政権――小泉・竹中構造改革が何であった
のかという総括をすることが不可欠であり、まず、このあたりか
ら明らかにしていきたいと思います。
 ロバート・B・ライシュという人がいます。この人は、クリン
トン政権のときの労働長官をしていたのですが、現在はカルフォ
ルニア大学バークレー校で教授をしています。このライシュ教授
が、2008年6月に次の本を上梓して話題になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ロバート・B・ライシュ著/雨宮寛・今井章子訳
   『暴走する超資本主義』/東洋経済新報社
―――――――――――――――――――――――――――――
 ライシュ氏は、次期大統領であるオバマ氏の政策顧問でもあり
オバマ政権がどのような政策を実施するかを予測する意味で貴重
な本であるともいえます。
 ライシュ氏は、1970年以前の資本主義――資本主義と民主
主義が共存共栄していた時代と区別して、1970年代の石油危
機後に起こった自由市場資本主義のことを「超資本主義――スー
パー・キャピタリズム」と呼んだのです。
 ライシュ氏は、1970年以降、世界は米国を中心とする超資
本主義に巻き込まれ、民主主義は変質して現代に至っている――
現下の金融危機はまさにその帰結であると主張しているのです。
 「超資本主義」についてはいずれ詳しく述べますが、ライシュ
氏は、上記著書の冒頭で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 先に私の論旨を述べてしまうと、問題が過度に単純化される恐
 れがあるが、ここで私の基本的な考え方を示しておきたい。そ
 れは、過去数10年の間、資本主義は私たちから市民としての
 力を奪い、もっぱら消費者や投資家としての力を強化すること
 に向けられてきたということである。
      ――ロバート・B・ライシュ著/雨宮寛・今井章訳
          『暴走する超資本主義』/東洋経済新報社
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中で「市民としての力を奪い、もっぱら消費者や投資家と
しての力を強化する」とはどういうことでしょうか。
 ここでは、「消費者」「投資家」「市民」という3者の言葉の
使い分けがなされています。すなわち、「消費者」は価値あるも
の――お買い得品を低価格で求める存在であり、「投資家」はい
うまでもなくひたすら利益を求める存在、そして「市民」は公共
の利益を求める存在としてとらえられ、民主主義を代表する言葉
として使われています。
 かつての古き良き時代――資本主義と民主主義が共存共栄して
いた時代においては、独占やトラストによって企業の利益は安定
し、CEO(企業経営者)は労働組合との交渉によって労働コス
トの上昇を価格に転嫁することが容易であったのです。
 また、この時代には、企業経営者は公共性の高い「ステーツマ
ン(政治家)」であり、自社の利益にならないような場合であっ
ても、国家的利益の向上のため、社会制度の実現に積極的に関与
する――1970年以前はそういうことができたのです。
 しかし、1970年以降になると、この状況は一変してしまい
ます。それは、消費者や投資家が企業を直接コントロールするよ
うになったからです。人々は投資家として経営者にリストラを求
めると同時に消費者としてウォールマートの低価格を選ぶという
行動をとります。
 一方、市民としては企業に「社会的責任」を求め、地元の商店
街がさびれるのを嘆いたりする――彼らは消費者や投資家と、地
域の市民に分裂しているのです。しかし、市民――民主主義の力
は相対的に弱くなってきているのです。
 民主主義が弱まりつつある資本主義――これがどれほど危険で
あるかについてライシュ氏は警鐘を鳴らしているのです。日本も
その危機に中にあるのです。 ――[円高・内需拡大策/08]


≪画像および関連情報≫
● ロバート・B・ライシュ氏について
―――――――――――――――――――――――――――
  1946年米国ペンシルベニア生れ。ダートマス大学卒。オ
  ックスフォード大学大学院経済学修士課程修了。ハーバード
  大学ケネディ行政大学院教授、クリントン政権で労働長官を
  務める。『ザ・ワーク・オブ・ネーションズ』では、経済の
  グローバル化にともない、国家を代表するような中核的大企
  業は実質的にもはや存在せず、「グローバル・ウェブ(地球
  大のクモの巣状の柔軟な企業組織網)」が存在する。これを
  動かし、高付加価値を創造するのは、大企業経営者でなく、
  情報、文化、言語、音楽、映像などを操作する「シンボリッ
  ク・アナリスト」だという。二十一世紀を考える指導者は、
  「シンボリック・アナリスト」を育てるシステムをつくるべ
  きだと主張する。        ――PHPインフェース
  ―――――――――――――――――――――――――――

ライシュ氏の本.jpg
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2008年11月14日

●「大きな政府復帰か/本格的変化」(EJ第2451号)

 米国のサブプライムローン問題に端を発する今回の世界を巻き
込む金融危機に対してブッシュ大統領は次のような声明を出して
います。2008年9月19日のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国経済は前例のない困難に直面しており、われわれは前例の
 ない手段で対応する。 ――2008.9.20付、朝日新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで問題となるのは、「前例のない手段で対応する」という
表現の意味なのです。これは、今まで行ってきた経済運営の仕組
みを根本から変えるということなのでしょうか。それとも、あく
まで非常時の対応なのでしょうか。
 海外メディアによると、米国政府のこの声明は1970年以降
米国が推進してきた「小さな政府」を前提する経済システム――
経済システムを自由市場資本主義化する革命からの体制変換を意
味しているといいます。
 米国が総合金融安定化法を実行するというのは、市場経済を抑
制し、規制を強化する「大きな政府」の政策を行うことを意味し
ているので、明らかに体制変化であるといえます。
 いや、あるいは米政府はその時点では、経済システムの体制変
化ではなく、あくまで非常時の対応であると考えていたかもしれ
ません。しかし、大統領選の結果、次期大統領がオバマ上院議員
に決定したことによって、体制変化は不可避のものになったと考
えられます。まさにCHANGEです。
 まして現にオバマ氏の政策顧問を務めるロバート・ライシュ氏
は、昨日のEJで述べたように、超資本主義――民主主義が弱ま
りつつある資本主義の弊害に対して警鐘を鳴らしている人物なの
です。オバマ氏は、今までのやり方を一気に変えてこの危機を乗
り切るはずです。こういう世界経済大混乱のときに日本の麻生政
権は何をしているのでしょうか。
 1970年以降、ライシュ氏のいう超資本主義はどのように世
界に拡大していったのかについて述べます。
 1970年代末に英国ではサッチャー政権が誕生し、それに続
いて、1980年代はじめに米国ではレーガン政権が登場し、と
もに新自由主義革命――経済システムを自由市場資本主義化する
革命を米英で強力に推進したのです。
 レーガン政権発足と歩調を合わせて、日本では中曽根政権が、
日本としての確たる考えもなく、米英の自由市場資本主義の道を
歩み始めたのです。当時のレーガンと中曽根は「ロン・ヤス」関
係を演出したものの、この時点で日本は従米国家として米国の世
界戦略の中に組み込まれたといえます。
 1980年代になると自由市場資本主義は欧州に拡大したので
すが、それは1990年代の初めにソ連が崩壊すると、一段と急
ピッチで世界中に広がったのです。資本主義対共産主義の戦いで
資本主義が勝利を収めたからです。
 その結果、ソ連とかつてソ連の支配下にあった東欧諸国も米国
の自由市場資本主義を受け入れ、さらに米国主導のグローバル資
本主義に共産主義の中国も参入することになったのです。
 そして2001年に登場したブッシュ政権は、911の同時多
発テロを契機に米国民の圧倒的な支持を獲得し、世界中の政治・
経済・軍事の主導権を握ったのです。かくしてブッシュ政権は、
「テロとの戦い」を掲げてアフガニスタンとイラクで軍事行動を
起こし、その一方で経済面では自由市場資本主義のグローバル化
を推進したのです。
 ライシュ氏は米国が中心となって世界中に拡大する自由市場資
本主義のグローバル化の現象を「暴走する資本主義」と呼んだの
です。そして、サブプライムローン問題が起こり、米国経済は未
曾有の衰退局面に入りつつあります。
 こうなると、米国経済は自由主義市場経済を修正せざるを得な
いところに追い込まれたのです。減税、公的資金投入など、従来
の小さい政府の路線から大きい政府の路線への転換は誰の目にも
明らかになりつつあります。
 2008年11月11日の日本経済新聞によると、IMFのス
トロスカーン専務理事は、14日から行われる金融サミットに先
立って、各国首脳に追加景気対策を要請する異例の書簡を送った
ことを伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界的に需要の急激な減少に見舞われており、追加の金融対策
 と財政政策をとるべきだ。――ストロスカーンIMF専務理事
        ――008年11月11日の日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 IMFといえば、伝統的に財政規律の厳しいところであるのに
ストロスカーン専務理事は、今回の金融危機に対しては早い段階
から「世界各国で一斉に財政出動をすべきである」と主張してい
たのです。IMFは、2009年度における日米欧の成長率は戦
後初めてそろってマイナスになるという見通しを示しており、そ
れほど危機が深刻であると訴えています。
 それなのに麻生政権は、選挙に不利になるからと依然として財
政出動をためらい、埋蔵金で対応するなどといって世界の失笑を
買っている有様です。
 フリー国際情勢解説者の田中宇(さかい)氏は、最近の日本に
ついて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国の衰退は、軍産複合体の衰退である。今の日本は、米国内
 の一部の勢力だけに賭け、全体像が見えていない。日本は非常
 に危険な状態にある。国家や国民の姿勢としても、米国という
 強者(いじめっ子ジャイアン)の後ろについていけば安泰だと
 いう姿勢は不健全である。しかも、その強者が崩壊しかかって
 いるのに気づかずゴマすりばかりやっているとなれば、なおさ
 ら不健全で格好悪い。            ――田中宇氏
――――――――――――  ――[円高・内需拡大策/09]


≪画像および関連情報≫
 ●「小さな政府」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「小さな政府」とは、経済に占める政府の規模を可能な限り
  小さくしようとする思想または政策である。アダム・スミス
  以来の伝統的な自由主義に立しており、政府の市場への介入
  を最小限にし、個人の自己責任を重視する。それを徹底した
  ものを夜警国家あるいは最小国家という。基本的に、より少
  ない歳出と低い課税を志向する。主に、保守派またはリバタ
  リアンによって主張される。     ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

当時の米英日3首脳.jpg
当時の米英日3首脳
posted by 平野 浩 at 04:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月17日

●「なぜ、反対意見を封じるのか」(EJ第2452号)

 森田実氏という政治評論家がいます。硬派の政治評論家の一人
です。私はこの森田氏の存在をテレビ朝日の「サンデープロジェ
クト」で知りました。この当時森田氏はテレビ朝日だけではなく
他局の政治番組の常連だったのです。
 この「サンデープロジェクト」という番組は1989年4月か
らはじまったのですが、そのときから一回も欠かさず見ることに
しているのです。もっとも最近のこの番組の運営にはいささか疑
問なこともありますが、私自身にとって非常に役に立っている番
組のひとつになっています。
 森田実氏ははっきりとものをいう辛口の政治評論家で、サンプ
ロの番組中でも出演している自民党の政治家とも激しい論戦を繰
り広げることが多くあったように思います。とくに小泉政権に関
しては相当シビアな見方をしており、小泉・竹中政権を強く批判
していたのです。
 その森田氏がテレビから完全に消える原因となったのは、20
05年8月9日のフジテレビの「めざましテレビ」なのです。ち
なみに、その前日の8月8日に小泉首相が郵政民営化のために衆
議院を解散しています。この番組で森田氏は、小泉の郵政解散に
ついて次のように批判しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本という国は議会制民主主義の国であり、議会が法律の決定
 権を持っている。憲法第41条は、国会は国権の最高機関であ
 って、唯一の立法機関であると規定しています。その国会が郵
 政民営化法を否決したのに内閣総理大臣が納得できないといっ
 て、国民投票に代わる衆議院選挙で決着をつけようとしたのは
 内閣総理大臣が従わなければならない国会の決定を踏みにじっ
 て、首相を国会の上に置いたことであって、これは明らかな憲
 法違反であると私は言ったのです。小泉首相は重大な憲法違反
 をしたので、直ちに責任を取るべきだという発言をしました。
                       ――森田実著
                  『崩壊前夜日本の危機/
    アメリカ発世界恐慌で岐路に立つ日本』/日本文芸社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このあと8月16日にTBSのお昼の芸能番組から出演依頼が
あったそうです。テーマは静岡7区の選挙に関わることであった
そうですが、芸能番組でもあり、森田氏としては比較的おとなし
い解説をして帰ってきたそうです。ところがその日の夕方、TB
Sのアシスタントディレクターから森田氏に電話があったそうで
す。森田氏は前掲書で次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「実は森田さんが出演された直後に、TBSの官邸記者クラブ
 の政治部記者2人が飛んできました。それで急きょ会議が開か
 れました。このあと番組のディレクターから今後は森田には依
 頼するなと言われました」と。TBSの政治部記者が官邸から
 飛んできたというのは、その記者が官邸から何かを言われたの
 だと思います。これが東京のテレビ出演の最後になりました。
 私に限らず小泉を批判し郵政民営化を批判した人はほとんどテ
 レビから一掃されました。ある意味、政界に起こつた小泉批判
 者パージがマスコミにおいても起こつたのです。1950年の
 レッドパージのようなことが起こったのだと思います。その後
 は、東京のテレビ局、東京の大新聞社は私との連絡を断ちまし
 た。              ――森田実氏の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 まるで戦前の軍国主義の時代と同じです。言論が封殺されてい
るのです。最近の政治番組を見ていると、出演している政治評論
家は、政府与党を批判する場合も慎重に言葉を選んでいるように
感じます。正面切って批判する人は少ないです。もし、批判すれ
ば報復されると考えているとしたら、世も末です。
 そういう意味で森田実氏は、はっきりと自分の意見をいう本物
の政治評論家であると思います。同様に、小泉・竹中政権を痛烈
に批判していた人に経済学者の植草一秀氏がいます。植草一秀氏
に関しても不可解なことがたくさんあるのです。現在、ネット上
では植草氏の記事でもちきりです。読んでみると、マスコミの報
道とはかなり違うことが多くあることがわかります。興味があれ
ば、次のURLをクリックしてください。
―――――――――――――――――――――――――――――
   http://news.livedoor.com/article/detail/3233768/
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉・竹中政権以来、世界ではいったい何が進行しているので
しょうか。
 われわれは「共産主義」という言葉を聞くと、漠然と警戒心を
持ちます。しかし、「資本主義」とか「民主主義」とか「自由主
義」という言葉にはそういう警戒心を感じません。それどころか
何となく安心感すら感じます。
 しかし、怖い「資本主義」や「自由主義」もあるのです。それ
が「超資本主義」です。それは既に驚くべきほど全世界に浸透し
ており、日本の新聞の論調によくあらわれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 危機を収束させるべく、世紀に一度のスケールで市場への政府
 介入が始まろうとしている。富を最大限化するには市場の力に
 委ねるのが最良であり、政府は極力手出しを控えるべきだ、と
 する米経済社会の信条を根本から覆すものだ。(中略)資本主
 義の大きな転換点としてけ歴史に残ることになるだろう。(中
 略)リスクを取って失敗した責任は自己で負う、との原則はも
 はや過去のものになった。
       ――2008年9月21日付、毎日新聞社説より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この社説を読むと、「米経済社会の信条」というものをいかに
妄信しているかわかるはずです。完全に洗脳されているといって
もよいでしょう。      ――[円高・内需拡大策/10]


≪画像および関連情報≫
 ●TVから消えた「ご意見番」森田実氏について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  テレビ東京の夜の生番組「ワールドビジネスサテライト」で
  竹中平蔵経済産業相(当時)と森田氏が討論するという予定
  で招かれたときでさえ、竹中氏は森田氏との討論を拒んだ、
  と番組のスタッフが控え室で待っていた森田氏に告げた。テ
  レビ東京・広報部は5年前の番組に関して覚えている人はい
  ないと回答し、森田氏が言う出来事は起きたように思えない
  と彼は言った。「当方のスタッフの伝え方が悪いことが原因
  となって、森田さんに誤解を与えてしまった可能性が高いよ
  うに思います・・・政権に対して批判的であるか好意的であ
  るかは人選の判断基準には含まれません」とテレビ東京広報
  部は回答した。
       http://www.asyura2.com/07/hihyo6/msg/592.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

森田実氏の本.jpg
森田実氏の本

posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(3) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月18日

●「災害資本主義というものがある」(EJ第2453号)

 ナオミ・クラインというカナダ人の女性ジャーナリストがいま
す。1970年生まれなので現在38歳という若さですが、20
00年に次の本を刊行して、世界的に名前を知られる存在になっ
たのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        ――ナオミ・クライン著/松島聖子訳
   『ブランドなんか、いらない/搾取で巨大化する
            大企業の非情』/はまの出版
―――――――――――――――――――――――――――――
 彼女はこの本で、標的としてナイキ、シェル、ギャップ、スタ
ーバックスなどの有名企業を選んで、まず、そのマーケティング
としてのブランド拡大戦略に対して、次に企業の進める合併戦略
によって消費者が選択肢を奪われたことに対して、最後に外部委
託、パート労働などの雇用形態にシフトする企業に仕事が奪われ
たことに対して、痛烈な攻撃を加えているのです。その結果、彼
女はグローバリゼーション反対運動の旗手として高い評価を受け
ることになります。彼女の批判があまりにも辛辣であったため、
ナイキ社では正式なコメントまで出す騒ぎになったほどです。
 そのナオミ・クラインが、2007年に上梓した本が今大きな
話題を呼んでいるのです。なぜなら、この本で彼女が標的として
選んでいるのがノーベル賞経済学者であるミルトン・フリードマ
ンであったからです。なお、この本の日本語訳は本日現在、まだ
確認されていないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 『ザ・ショック・ドクトリン/災害資本主義の勃興』
 The Shock Doctrine:The Rise of Disaster of Capitalism
―――――――――――――――――――――――――――――
 注目すべきは、この本の表題にある「災害資本主義」という言
葉です。最近兵庫県の井戸知事の「関東大震災が起きたらチャン
ス」の発言と不思議に似ているのですが、ナオミ・クラインによ
ると、何かの大災害が起こったとき――場合によってはわざと災
害を起こしたとき――そのチャンスを逃さず、一挙にラジカルな
改革を推し進めることを「災害資本主義」というのです。
 災害が起きて国民が平常心を欠いているときに、平時では実現
困難な改革――たとえば、公共の財産を民間資本に売り飛ばし、
気が付いたときは後戻りできないように恒久化してしまう――こ
のかなり乱暴なやり方をナオミ・クラインは「災害資本主義」と
名付けたのです。
 その格好の事例があります。2005年にニューオーリンズを
襲ったハリケーンによって学校が破壊されたとき、フリードマン
はブッシュ政権に対し次の提言をしたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この災害を教育制度を改革する好機としてとらえ、このさい公
 共の学校の復興をやめて、私立の教育機関をつくるべきである
                ――ミルトン・フリードマン
―――――――――――――――――――――――――――――
 この主張をどこかで聞いたことはありませんか。そう、「官か
ら民へ」の発想そのものです。ブッシュ政権はフリードマンの政
策提言にどのように対応したのでしょうか。
 ブッシュ政権は、フリードマンの提言を直ちに受け入れ、公立
学校を私立学校にするための資金を数千万ドル投入して実行した
のです。ブッシュ政権というのはこういう政権だったのです。
 その結果、123校あった公立学校はたったの4校に減らされ
それとは逆に私立学校は7校から31校になり、4700人の教
師が解雇されたのです。これがフリードマン主義です。
 ミルトン・フリードマンとはどういう学者なのでしょうか。
 ミルトン・フリードマンは、「シカゴ学派」と呼ばれる経済学
を広めたことによって知られる経済学者です。フリードマンは、
最も急進的な自由市場主義者であるフリードリッヒ・ハイエクに
師事して、経済学を学びます。
 当時50年代は、ハーバード大学、イェール大学などの名門校
では、ケインズ経済学が主流であったのです。その中にあってシ
カゴ大学はきわめて異色の存在だったといえます。
 ジョン・ケネス・ガルブレイズ教授は、大恐慌の後に経済学に
ついて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  市場の凶暴性を和らげるのが、経済学の調整力である
―――――――――――――――――――――――――――――
 このガルブレイズの考え方がベースとなって、ニューディール
政策や福祉国家が出てきたのです。健康保険や失業保険などの福
祉制度がこれによって充実したのです。第2次世界大戦後におい
て、米国経済を中心に世界経済は復興し、米国は世界一の繁栄を
謳歌することになるのです。しかし、中産階級の爆発的成長は富
裕層の富を侵食するという事態も起こったのです。
 そのときシカゴ大学の経済学部は非ケインズ主義の独自の理論
を持っていたのですが、もっぱら株式投資家の道具として機能し
たのです。富裕層の牙城であるウォール街は彼らに近づき、多額
の資金供与を受けたり、多くの銀行家との付き合いもはじまった
のです。かくして、シカゴ大学は、ケインズ主義に対抗する反革
命の拠点となったのです。
 しかし、50〜60年代はシカゴ学派は権力には近づくことは
できなかったのです。しかし、やがて彼らにもチャンスは巡って
きたのです。フリードマンとかねてから親しいニクソンが大統領
になったからです。
 ニクソンはフリードマンの経済政策はよく知っていましたが、
選挙には向かないと考えたのです。ここに自由市場政策と民社主
義や平和との矛盾がはっきり出ていたのです。
 しかし、ニクソン政権はフリードマンをはじめシカゴ学派を政
権に迎え入れました。フリードマンはチャンス到来と思い、政策
を実現しようとします。   ――[円高・内需拡大策/11]


≪画像および関連情報≫
 ●フリードリヒ・ハイエクとは何者か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  フリードリヒ・アウグスト・フォン・ハイエクは、オースト
  リア生まれの経済学者、哲学者。オーストリア学派の代表的
  学者の一人であり、経済学、政治哲学、法哲学、さらに心理
  学にまで渡る多岐な業績を残したのです。20世紀を代表す
  るリバタリアリズム思想家。ノーベル経済学賞受賞。その思
  想は、後の英国のサッチャーや米国のレーガン、による新保
  守主義、新自由主義の精神的支柱となった。
                    ――ウィキペディア
 ――――――――――――――――――――――――――――

ナオミ・クライン.jpg
ナオミ・クライン
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2008年11月19日

●「フリードマンとチリのピノチェト政権」(EJ第2454号)

 昨日の続きです。ミルトン・フリードマンをはじめとする多く
のシカゴ学派を取り込んだニクソン政権――フリードマンとして
はチャンス到来と考えたに違いないのです。
 しかし、ニクソンはフリードマンの政策を実施することは問題
があると考えて、賃金と物価を抑制する政策を実行したのです。
これはケインズ政策そのものであり、シカゴ学派にとって最悪の
政策なのです。しかも、それを実行したのはシカゴ学派に近い次
の大物2人なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        ドナルド・ラムズフェルド
           ジョージ・シュルツ
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドナルド・ラムズフェルドは、ブッシュ政権の国防長官を務め
た人物です。彼はフリードマンの講義を聴講して感激し、彼を天
才学者と尊敬していたのです。ジョージ・シュルツは、レーガン
政権の国務長官を務め、ニクソン政権では労働長官と財務長官を
務めた大物政治家です。
 しかし、ラムズフェルドとシュルツが実行した賃金と物価を抑
制する政策は大成功し、ニクソン大統領は2期目の選挙に圧勝す
るのです。こういう状況を見て、フリードマンは自分の政策は民
主主義国では実施できないかもしれないと考えはじめるのです。
 ところで、フリードマンの政策とは何でしょうか。フリードマ
ンの死後に発売された本から引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 フリードマンにとっての理想は、規制のない自由主義経済であ
 り、従って詐欺や欺瞞に対する取り締まりを別にすればあらゆ
 る市場への規制は排除されるべきと考えた(自由放任主義)。
 そのため、新自由主義――ネオ・リベラリズムの代表的存在と
 される。「新」が付くのは、ダーウィン主義に影響を受けた自
 由放任論からの脱却として現れた、ニューリベラリズムに基づ
 くケインズ経済学を再び古典的な自由主義の側から批判する理
 論だからである。―ラニー・エーベンシュタイン著/大野一訳
  『最強の経済学者/ミルトン・フリードマン』/日経BP社
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、フリードマンは、基本的には「政府は警察と軍隊を
持っていれば十分」という「小さな政府」の考え方に立っていた
けです。そういう考え方から、教育の分野では公的教育を否定し
教育の無料化は、政府による市場に対する過剰な介入であると主
張したのです。
 実はニクソンは、フリードマンの政策の実験は他の国でやろう
と考えていたのです。そして、その標的に選んだのは中南米のチ
リだったのです。ちょうどチリでは、1970年に大統領選が行
われ、民主社会主義者のアジェンデ政権が誕生していたのです。
 ニクソンは、経済を締め上げてアジェンデ政権を倒そうとしま
す。さらに禁輸措置もとって、反政府勢力を公然と支援したので
す。そして、1973年9月11日、クーデターでピノチェト将
軍がアジェンデ政権を倒して政権を握ります。
 実はこのピノチェト政権誕生の裏には、フリードマンが主導す
る周到なある計画があったのです。それは、アジェンデ政権時代
に経済学を専攻する優秀な学生を複数選抜し、米国政府の奨学金
でシカゴ大学に留学させていたのです。
 そして彼らに米国では主流となっていない特殊な経済学をシカ
ゴ大学で指導し、アジェンデ政権によって左に傾いていたチリを
右に戻す思想教育をやったのです。そして、彼らにある指令を与
えて本国に送り返していたのです。彼らはのちに「シカゴ組」と
呼ばれるようになりますが、ナオミ・クラインは彼らを「イデオ
ロギー戦士」と命名しています。
 このイデオロギー戦士たちは、早速国内で新しい経済学に基づ
く政策の提言をはじめたのですが、国内ではまったく受け入れら
れなかったのです。その間にもピノチェト将軍によるクーデター
計画は米国の支援を受けて、着々と進んでいたのです。そして、
クーデターの日がやってきます。
 ナオミ・クラインは、その日、クーデターの裏側で進行したあ
る計画について次のように語っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 クーデターの日に集まった彼らは夜通しかけて、文書を作りま
 した。これが「ブリック」と呼ばれるピノチェト政権の経済政
 策です。ブッシュの2000年の選挙公約に驚くほど似ていて
 所有者社会、社会保障の民営化、チャーター・スクール一律課
 税など、フリードマンの筋書き通りです。クーデターの翌日、
 出勤した軍人たちの机上にはこの文書がありました。
                   ――ナオミ・クライン
―――――――――――――――――――――――――――――
 このようにして、フリードマンはチリにおいて、自らの政策を
実施することができたのです。その後、フリードマンの政策は、
英国のサッチャー政権と米国のレーガン政権に大きな影響を与え
て現在にいたるのです。しかし、こういう流れを見ると、いかに
もピノチェト政権下でのフリードマンの政策が成功を収めたよう
に思えますが、実はぜんぜん違うのです。
 なお、前回と今回にかけて、フリードマンについての秘められ
た話は、ナオミ・クラインが自著『ザ・ショック・ドクトリン/
災害資本主義の勃興』の内容について話している動画に基づいて
います。その動画は次のURLをクリックすれば見ることができ
ますので、興味があればご覧ください。時間は8分53秒かかり
ますが、十分最後まで見られる内容です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 http://video.aol.com/video-detail/-part2of4/588229698
―――――――――――――――――――――――――――――
 チリで行われたフリードマンの政策は現在は日本を含む世界に
浸透しつつあるのです。   ――[円高・内需拡大策/12]


≪画像および関連情報≫
 ●ナオミ・クライン氏について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1970年、モントリオールのユダヤ人活動家の家に生まれ
  る。ジャーナリストとしての活動は、トロント大学在学中に
  学生新聞の編集長を務めたところから始まる。2000年に
  『ブランドなんか、いらない』を発表し、グローバリゼーシ
  ョン反対運動におけるマニフェストとしての評価を受け、ク
  ラインの名は一躍、世界にとどろく。続いて2002年には
  『貧困と不正を生む資本主義を潰せ』を刊行。名声を確立し
  た。雑誌・新聞への寄稿も数多い。さらに、結婚相手のカナ
  ダ人テレビジャーナリストのアヴィ・ルイスとは、共同でド
  キュメンタリー映画を作成している。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ショック・ドクトリン.jpg
ショック・ドクトリン
posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(0) | TrackBack(1) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月20日

●「ピノチェト政権下の経済はどうなったか」(EJ第2455号)

 ナオミ・クラインのミルトン・フリードマン論を読むと、フリ
ードマンの考え方の負の側面を鋭く衝いているような印象を受け
ます。しかし、一方において、熱烈なるフリードマン支持者もい
るのです。それは、2006年にフリードマンが亡くなると、彼
の負の側面は隠され、絶賛論者が多くなったような気がします。
 フリードマンといえば、反ケインジアンの宋主として、フリー
ドマン反革を実行した優れた経済学者であり、彼が推進する新自
由主義革命は、米国のレーガノミックス――レーガン政権や英国
のサッチャー政権の理論的支柱となり、それはクリントン政権や
現ブッシュ政権にも受け継がれて、世界の経済学の主流となって
いるのです。
 その結果、世界中に亜流政権ができて、新自由主義革命が行わ
れたのです。日本における小泉・竹中政権――聖域なき構造改革
はそれに当たり、日本社会を破壊し、混乱に陥れているのです。
 したがって、ついこの間まではケインジアンとはいわないもの
の、財政政策を重視する経済学者やエコノミストや経済評論家は
ボロクソにいわれ、マスコミから遠ざけられるなどの迫害を受け
てきたのです。しかし、ここにきて少し情勢が変わってきている
と思うのです。そういう意味でナオミ・クラインの主張は興味深
いものがあります。
 昨日のEJでフリードマンとピノチェト政権の関わりについて
ナオミ・クラインの主張をお伝えしましたが、これに似ているの
が米国のアフガニスタンとイラク侵攻です。これも911を利用
したショック・ドクトリンといえると思います。とくにイラクに
ついてはそっくりであるとナオミ・クラインは述べています。
 ところで、フリードマン主導の経済政策を押しつけられたピノ
チェト政権下のチリの経済はどうなったでしょうか。これについ
て、興味深い情報が次の本に載っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    グレック・パラスト著 /貝塚泉・永峯涼訳
    『金で買えるアメリカ民主主義』/角川書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 チリでクーデターが起こったのは1973年のことです。ピノ
チェト将軍は、アジェンデ大統領をはじめ7000人以上を虐殺
しています。
 ジャーナリストのパラスト氏によると、フリードマンの弟子た
ち(シカゴ組)が起こした市場原理主義改革は、米国の投資家た
ちのパラダイスを生み出したものの、1973年〜1983年に
かけて、貧困層は20%から40%に増加し、失業者は4.3 %
から22%に上昇したのです。
 ピノチェト大統領はフリードマンのいわれるように、国営銀行
をはじめとして、ありとあらゆるものを民営化し、市場はハゲタ
カが乱舞するマネーゲームの楽園の様相を呈したのです。結果は
実に無残な結果に終わったわけです。
 ピノチェト大統領はこの有様を見て悟ったのです。このままで
は国が潰れる――ピノチェトは「シカゴ組」を追い出して、経済
再建に取りかかったのです。そのとき多用したのが、ケインズ政
策だったのです。まず、短期的投機資金の流入を規制する法律を
作り、ハゲタカに備えたのです。そして、アジェンデ大統領の残
した遺産を活用してチリの経済を復興させたのです。
 これについて、関良基氏のプログには次のように述べられてい
ます。詳しくはこのブログをご覧ください。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ピノチェトは賢明にも、アジェンデが国有化した銅山だけは国
 有のまま死守したのです。当時のチリの輸出収入の30〜70
 %は銅からもたらされていました。基幹産業である銅資源を国
 有状態に留めている国を、はたしてフリードマンの教説通りの
 「小さな政府・自由放任市場主義」の国と呼ぶことは可能でし
 ょうか?国営の銅産業の発展によって経済が回復したとして、
 その功績をフリードマンの市場原理主義に帰することが可能で
 しょうか?アジェンデが行なった農地改革の遺産もクーデター
 を経ても多くは引き継がれたそうです。アジェンデの農地改革
 の結果、活力ある自作農階級が誕生し、チリ農業はピノチェト
 時代に大いに発展したというのです。
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/8ba0508402aab786d447c2b201aad581
―――――――――――――――――――――――――――――
 2006年のミルトン・フリードマンの死に対して、ブッシュ
大統領は、その追悼声明では、アメリカ政府の「構造改革」に対
するフリードマンの貢献として、次の3つを上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
            1.学校選択制
            2.減税
            3.志願兵制度
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中の「学校選択制」については、あの安倍元首相が「教育
再生」の目玉政策にあげている中心政策であり、安倍元首相は、
「アメリカでは、私立学校の学費を公費で補助する政策をスクー
ル・バウチャーと呼ぶ」と自著の『美しい国へ』(文春新書)の
中で述べているのです。米国をお手本にしているのです。
 しかし、当の米国では、公教育から、体育や美術や音楽の時間
が消えつつあるのです。なぜかというと、公教育の予算不足でそ
の授業のための教師が雇えず、道具も買えないからです。これは
公教育に国が支援するのは、国による過剰なる市場への介入であ
り、やめるべきであるというフリードマンの考え方を米国政府が
支持しているからです。
 そういう米国のやり方に盲従的に真似をしようとする日本の政
治姿勢には大きな問題を感じます。このように米国の学校は私立
中心になりつつあり、親の所得の格差が教育の格差に反映され、
格差の悪循環が世代を超えて拡大・固定化していきつつある状態
になっています。      ――[円高・内需拡大策/13]


≪画像および関連情報≫
 ●グレッグ・パラストの本の紹介
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「あの男をホワイトハウスからつまみ出せ!!」ブッシュの
  金と石油まみれの嘘を徹底糾弾!!全米・全英大ベストセラ
  ー緊急文庫化マイケル・ムーア――「アホでマヌケなアメリ
  カ白人」著者推薦!現在ホワイトハウスが最も怖れていいる
  調査報道記者、グレッグ・パラスト。フロリダ州が大統領選
  でブッシュを勝たせた汚い手口や9・11テロ以前にビンラ
  ディン家へ向けられていたFBIの捜査をブッシュが潰した
  やり等々、彼のスクープは数知れない。そのパラストが、腰
  の引けた大メディアには報道できない衝撃の真実をここに一
  挙公開。民主主義は金で買うことはできないと信じる者の必
  読書!!
  ―――――――――――――――――――――――――――

金で買えるアメリカ民主主義
金で買えるアメリカ民主主義

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2008年11月21日

●「教育バウチャー制度の真の狙い」(EJ第2456号)

 教育バウチャー制度というものがあります。安倍内閣が導入を
目指した教育制度です。この教育制度の発案者は、ミルトン・フ
リードマンなのです。
 教育バウチャー制度とは、行政が子ども1人にかかる公的教育
費を計算し、それを証票・利用券(バウチャー)として親に交付
することによって、親は子供が通う学校を自由に選択できるよう
にする制度です。親は、公立校・私立校を問わず行きたい学校を
選び、そこに利用券を提出します。学校側は集まった利用券の枚
数に応じて運営予算を国から受け取ることになるのです。
 この教育制度は、ちょっと考えると、家庭の経済力を気にしな
いで、行きたい学校を自由に選べる理想的な制度のように感じま
す。しかし、この教育制度は公教育に市場原理を導入しようとす
るフリードマンならではのアイデアなのです。要するにこの制度
の目的は「公教育のスリム化」の実現なのです。
 まず、いえることは、この制度は必然的に公立校の財源を圧迫
することになります。なぜなら、これは、私立校にも公的財源を
与えることになるので、本来公立校に向けられるべき教育費がそ
の分だけ少なくなるということを意味するからです。
 そうなると、公立校は私立校に比べて財政的に不利になり、教
師も不足し、それは教育設備や教育環境を悪化させることにつな
がってきます。このことは本来なら居住地の公立校に通うべき子
供がバウチャーを使って私立校に行ってしまうことも考えられる
ので公立校は苦しくなります。
 続いて、この教育制度は当然のことながら学校間の競争を激化
させることになります。親たちが自分の子供をよりよい学校に入
れようとすればするほど競争は激しくなります。その結果、教育
環境が劣化する公立校が淘汰される可能性が出てきます。
 しかし、居住地から遠く離れた学校に通わせようとすると、バ
ウチャーでは賄えない費用――交通費や転居費用などがかかるこ
とになり、いくら学校選択の自由があっても、それだけの収入の
ある家庭の子供しかそれを実現できないことになります。結局の
ところ、低所得者家庭の子供の選択肢は、居住地の劣化した公立
校以外に事実上残されていないことになります。
 しかも、米国では学校選択の条件として保護者に重い宿題指導
負担などを課し、時間的余裕のない低所得者層を排除するケース
が報告されているそうです。
 この背景には学校間の生き残り競争があるのです。学校として
は、目に見える成果をあげるために、学力の伸長が容易な生徒を
優先して入学させようとし、その可能性のうすい生徒は切り捨て
る――そういう競争が起きつつあるのです。これは必然的に深刻
な教育格差を生む温床になります。
 本来国は、選択の自由の名の下に教育の機会均等を保障する公
的責任があります。しかし、この教育制度は国に公的責任を放棄
させ、公教育を縮小して、結果としてその浮いた資金をエリート
育成に回すことになりかねないのです。
 昨日のEJで米国では公教育から体育や音楽や美術が消えつつ
あると述べましたが、これは公認会計士で経済評論家の勝間和代
氏が、既出のロバート・B・ライシュ氏の新刊書『暴走する資本
主義』の解説で述べていることをご紹介したものです。
 勝間和代氏の米国人の友人が日本の公教育の現場を見学したと
き、こんなに良質な教師と潤沢な設備があるのに、なぜ、日本人
は教育の後退を憂いているのか、びっくりしたというのです。日
本の教育の後退はひどいものですが、それでも今のところ米国よ
りもマシのようです。
 勝間和代氏は、米国の公教育の現状について次のように述べて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 例えば、アメリカでは公教育から、体育の時間や美術・音楽の
 時間が消えつつある。体育がなくなっているのは、公教育の予
 算不足から体育の道具、例えば跳び箱やサッカー用ゴールネッ
 ト、ドッジボールなどの用具が買えない。また、教師を雇う予
 算がないためだ。その上、マクドナルドのようなファストフー
 ドが給食のシステムとして入り込んでいる。結果、中流以下の
 地域の学校に通う子どもたちの間では肥満が増えている。一方
 このような状態を憂えるアメリカの親にとっての選択肢は、子
 どもたちを学費の高い私立学校に通わせるか、あるいは、学校
 への寄付が潤沢にある高級住宅地に移住するしか方法はない。
 そして、高級住宅地に住むため、年収の7〜10倍もの無理な
 ローンを組んで移住した結果、住宅ローンが払いきれなくなる
 ということはアメリカで当たり前に起こつている。
      ――ロバート・B・ライシュ著/雨宮寛・今井章訳
          『暴走する超資本主義』/東洋経済新報社
―――――――――――――――――――――――――――――
 こうした米国の教育の現状はけっして対岸の火事ではなく、一
定のタイムラグでこれから日本でも起こる現象なのです。いわゆ
る小泉・竹中政権とそれに続く政権によって進められた規制緩和
・構造改革が確実に日本社会を壊しつつあるのです。
 国民新党の亀井久興幹事長は、2008年の通常国会における
予算委員会で、当時の福田首相に対して「なぜ、自民党は長期政
権を保ち続けることができたのか。総理はどうお考えですか」と
質問したところ、福田首相から明確な返事がなかったので、次の
ように述べたといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 それは市場経済の資本主義国では本来困難な総中流社会をつく
 ることに成功したからです。これが一番の原因です。
  ――森田実著、『崩壊前夜日本の危機』より/日本文芸社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉・竹中政権は、この「総中流社会」を破壊したことが最大
の罪であると亀井久興幹事長は述べています。日本社会は少しず
つ劣化しているのです。   ――[円高・内需拡大策/14]


≪画像および関連情報≫
 ●教育バウチャー制度について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米国最初の公的な私立学校バウチャー政策は1990年にウ
  ィスコンシン州ミルウォーキーで実施された。対象は公立小
  学校に通っている(あるいは通う予定の)低所得家庭の子ど
  もである。バウチャーを受け取る資格のある私立学校は、宗
  教系ではなく、市が定める最低限の基準を満たし、学費は無
  料で、生徒の選抜を抽選で行う必要がある。この政策は研究
  者の間で評価が大きく分かれている。 ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

亀井久興幹事長.jpg
亀井久興幹事長
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2008年11月25日

●「なぜ、柳澤大臣は解任されたのか」(EJ第2457号)

 『文藝春秋』の2008年12月号に「世界同時不況」という
特集が出ています。この特集では、未曾有の経済危機の核心につ
いて7人の経済のエキスパートが宮崎哲弥氏の司会で、討論を繰
り広げているのです。
 その中の「株安・円高地獄の脱出策」のテーマの討論で、竹森
俊平慶応義塾大学教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉・竹中改革は近ごろ評判悪いですが、2002年から金融
 担当大臣となった竹中さんが不良債権の処理を大胆に進めてい
 なかったら、今ごろ日本経済は目も当てられない惨状を呈して
 いたでしょう。不良債権がないことだけが今の日本経済の救い
 なのです。竹中さんは日本経済にとって恩人だと思いますよ。
  ――竹森俊平氏の発言/『文藝春秋』12月号/2008年
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに不良債権の処理ということに関しては、もしあのとき処
理をしなかったら、日本経済はおかしくなっていたことは事実で
すが、それをもって竹中平蔵氏の功績と断するのはいささか疑問
があるのです。
 というのは、そういう不良債権がある計画性をもって意図的に
増加させられており、当時の竹中経財相がそれにかかわっていた
のではないか思われている情報があるのです。
 そのことを指摘している本を最初にご紹介しておきます。この
本は既にEJでご紹介しております。
―――――――――――――――――――――――――――――
                      菊池英博著
  『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠/このままでは
   日本の経済システムが崩壊する』/ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 菊池英博氏は、現在日本金融財政研究所所長の職にある国際金
融論のスペシャリストで、都市銀行(東京銀行)の勤務経験もあ
るのです。衆参両院の予算公聴会の公述人にもなったことがあり
ますが、政府の方針に反する意見が多いためか、テレビに出演す
ることはほとんどない識者のひとりです。菊池英博氏は、ずばり
次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2002年10月に始まった金融改革プログラムは理念も手法
 も根本的に誤りであり、意図的に大手銀行を潰し、金融システ
 ムを寡占化、硬直化、弱体化させてしまった。世界の金融史上
 に残る一大失政である。まさにこの間の出来事は「金融庁が偽
 装した経済恐慌」であり、ここでは「金融庁による偽装恐慌」
 と呼ぶことにする。   ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 この菊池英博氏の主張をベースとして以下、少し詳しくお伝え
します。日本経済が今後どの方向に進むべきかということと重要
な関連があるからです。
 2000年度の主要行の不良債権比率は5%まで下がっていた
のです。これは健全といわれる比率です。このことをまず、踏ま
えておく必要があります。しかし、当時の日本経済はデフレであ
り、不況だったのです。
 不良債権というのは、銀行などの金融機関において、貸付先企
業の経営悪化や倒産などの理由から、回収困難になる可能性が高
い貸付金のことです。
 しかし、2001年4月に小泉内閣が発足すると、デフレで不
況であるにも関わらず、緊縮デフレ政策を採ったので、そのため
2001年度の主要銀行の不良債権比率は8.4 %に上昇したの
です。政府として景気振興策を打っていれば、不良債権はこれほ
ど増えることはなかったのです。
 その時点の金融担当大臣は柳澤伯夫氏だったのです。IMFは
「公的資金を投入して不良債権を処理すべし」という要求を日本
政府に突き付けてきたので、金融庁としては、次のように不良債
権処理方針を発表しています。2001年8月のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 不良債権を7年間で半減する。当初3年間で残高増ゼロ、その
 後2007年度までに不良債権を半減させる。この間、不良債
 権の償却は大手行の収益に任せる。――柳澤伯夫金融担当大臣
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに柳澤大臣としては、「公的資金を投入する必要はなく
自然治癒に任せる」ことを表明したのです。柳澤氏は自らワシン
トンのIMFまで出かけていって説明し、IMFの対日勧告を撤
回せよと迫ったのです。
 2002年9月12日に小泉首相は国連総会に出席し、米ブッ
シュ米大統領と会談を行います。そして次の約束をするのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      不良債権処理を一段と加速させる
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは大変奇怪なことなのです。不良債権問題は日本の内政問
題です。それを外国の首脳との会談で約束するのはきわめて異例
なことであったからです。
 そのとき、日本の国内ではデフレではあったが、不良債権が金
融不安を引き起こしていたわけではなかったのです。そもそもそ
の時点で増加していた不良債権は、小泉政権が自らが緊縮財政を
行った結果であり、原因ははっきりとしていたのです。
 そうすると小泉首相は、自ら増加させた不良債権を米国へ行っ
て、処理を約束したことになるのです。これはきわめておかしな
話です。
 小泉首相はニューヨークから帰国すると、主要行への公的資金
投入は不要と主張する柳澤伯夫金融担当大臣を解任し、竹中平蔵
氏をその後任に任命するのです。まるで最初から予定していたよ
うです。          ――[円高・内需拡大策/15]


≪画像および関連情報≫
 ●不良債権処理法について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  不良債権の処理方法には、大きく分けて間接償却と最終処理
  の2つがある。間接償却とは、バランスシート上の処理をす
  ることで、貸倒引当金を引き当をすることである。そして、
  最終処理とは、直接償却や不良債権の売却などである。直接
  償却は、清算、会社更生法、民事再生法などの法的整理によ
  って不良債権を切り離すことや、債権放棄などの私的整理が
  ある。       ――オール・アバウト/マネー用語集
  ―――――――――――――――――――――――――――

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柳澤伯夫元金融担当大臣
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2008年11月26日

●「米国が不良債権処理を迫った理由」(EJ第2458号)

 よく「日本は米国の属国である」といわれますが、本当に米国
が日本に対して「あれをやれ!これをやれ!」と命令してくると
はまさか思っていないでしょう。あくまで日本は独立国であり、
それに米国の同盟国でもあるので、米国も日本に対してそれなり
の敬意を払ってくれるはず・・・と一応考えているからです。
 しかし、実際はそんなに甘いものではなかったのです。米国と
いう国は自国の国益のためならば、どんなことでもやる国であり
とくにブッシュ政権はそれをごり押ししてきたのです。
 2002年9月の日米首脳会談では、本当に何が取り決められ
たのでしょうか。
 この会談に先立って、ブッシュ大統領から小泉首相宛ての親書
があったといわれているのです。それは、上坂都氏(ジャパンエ
コノミックパルス副社長)が、『金融ビジネス』(2003年1
月号、東洋経済新報社)に寄稿した論文の中で、「複数の日米有
力金融筋から」の情報として、プッシュ米大統領の小泉首相宛て
の「親書」の存在があったことを示唆しているのです。
 その親書は、日米首脳会談に先立って行われたグレン・ハバー
ドCEA(大統領経済諮問委員会)委員長と竹中経財相の会談の
さい、竹中経財相に手渡されたといわれます。それは、次の書き
出しではじまる親書なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 再三再四の要請にもかかわらず、不良債権処理を怠り、またし
 ても9月危機を招いてしまっている。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これには少し説明が必要です。それは、2001年3月19日
に行われた森・ブッシュ会談に遡るのです。このとき当時の森首
相は、ブッシュ大統領に対し、「不良債権処理を急ぐ」と約束し
ているのです。それは具体的には「不良債権のオフバランス化」
――直接償却の要請に応えるというものです。
 しかし、小泉政権になってから、不良債権処理問題は目立った
動きを見せなかったのです。その米国の苛立ちをぶつけてきたの
が、ブッシュ大統領の親書だったのです。2002年9月の日米
首脳会談について、上坂都氏は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 『日米首脳会談では二つの重要な議題が議論された。一つは不
 良債権処理の出口論、もう一つは日本の金融機関が保有する米
 国債の売却自粛であった』。ある有力政界筋は9月3日の日米
 首脳会談の舞台裏をこう語る。不良債権の出口論とは、銀行か
 ら不良債権を切り離し、市場に売却せよということ。それは問
 題企業を破綻に追い込み、それを米国資本の金融ビジネスに結
 び付けよう、というものだ。もう一つの国債売却自粛は、銀行
 不安が顕在化すると外債売却リスクが高まり、病み上がりの米
 国経済を長期金利上昇が襲う。経営危機に陥る前に国有化、も
 しくは公的資金注入によってこうした事態を回避してほしいと
 の要請である。     ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 どうして米国はこれほど執拗に日本に不良債権処理の加速を求
めてきたのでしょうか。
 それは米国金融資本――その中核は投資銀行、証券会社、投資
ファンド/今回のサブプライム問題でこれが壊滅的打撃を受けて
いる――による日本の「不良債権ビジネス」への欲求であり、期
待であり、それがブッシュ政権の背中を押しているのです。
 もともと米国は、1500兆円に及ぶ日本の個人金融資産の取
り込みを図って、1996年の「金融ビックバン」以来、日本に
揺さぶりをかけてきたのですが、それまで効果を上げてこなかっ
たのです。
 金融ビッバンでは、投資信託や生命保険の銀行窓販、銀行と証
券の相互参入などの規制緩和に関しては進展があったものの、不
況の長期化に伴って株式市場への国民の不信などにより、個人金
融資産の証券市場への流入や年金などの機関投資家の運用の変化
についてはほとんど進展がなかったのです。
 それは、メルリリンチ証券が山一証券から引き継いだ28店舗
中20店舗を閉鎖して撤退を余儀なくされたことを見ても明らか
なことです。
 そこで、米国としてはブッシュ政権になると、対日政策を「不
良債権ビジネス」に切り替えて、再度要請を強めてきたのです。
それが2002年9月の日米首脳会談を契機に大きく進展をはじ
めたのです。
 日本共産党参議院議員の大門実紀史氏は、これに関して自身の
ウェブサイトで次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (2002年9月の)会談を境にして、今までの不満を一気に
 爆発させるかのように、ハバード大統領経済諮問委員会(CE
 A)委員長をはじめ米国政府高官が、あからさまに不良債権処
 理「加速」に口を出してくる。この際に米国が求めてきたのは
 今までのように大銀行の存続を前提に不良債権をオフバランス
 化するというものではない。銀行そのものの「追い込み策」で
 ある。従来より格段に厳しい検査と自己資本の査定で銀行を追
 い込み、存続可能な銀行と破たんさせる銀行を選別する。存続
 が可能なら公的資金を投入し「国有化」する。同時に不良債権
 (破たん企業、担保の不動産など)の市場(外資)への早期売
 却である。               ――大門実紀史氏
   http://www.daimon-mikishi.jp/ronbun/data/0302760.htm
―――――――――――――――――――――――――――――
 柳澤氏にかわって金融担当大臣に就任した竹中平蔵氏は、20
02年10月に「金融再生プログラム」を発表するのです。しか
し、このプログラムは上記の米国の要求そのものをプログラム化
したものとしか思えないほどそっくりなのです。彼らは、日本を
売ったのです。       ――[円高・内需拡大策/16]


≪画像および関連情報≫
 ●オフバランスとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  貸借対照表――バランスシートに計上されない企業の資産・
  負債。例えば、銀行が貸し倒れに備えて引当金を積む不良債
  権処理の方法があるが、これでは貸し出し債権が帳簿上に残
  り、担保価値が下がると、追加の引き当てが要る。この場合
  銀行は貸出金の債権売却や償却をして帳簿から除外(オフバ
  ランス化)、総資産利益率などの財務指標を改善させる。
 ●直接償却と間接償却/不良債権のオフバランス
  http://electronic-journal.seesaa.net/article/13476968.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

グレン・ハバード氏.jpg
グレン・ハバード氏
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2008年11月27日

●「なぜ、竹中大臣にことは託されたのか」(EJ第2459号)

 昨日のEJで述べたように、米国の日本に対する要求はきわめ
て性急で激しいものであったのです。それにこの問題は前任の森
政権からの引き継ぎ事項でもあったわけです。「これはやるしか
ない。そうすれば念願の郵政民営化は実現できる」――小泉氏は
そう考えたと思うのです。
 そのためには、閣内の意見をまとめる必要がある。というのは
「銀行に対する公的資金投入の是非」をめぐる小泉政権内の閣僚
たちの意見は一枚岩ではなかったからです。なかでも柳澤伯夫金
融担当大臣は旧大蔵省の出身であり、公的資金投入に絶対反対の
立場をとっていたのです。
 それに小泉氏は米大統領筋から「竹中が使える」と示唆されて
いたフシがあります。この竹中平蔵という人物、小渕政権時代か
ら重用されている不思議な人物なのです。
 小渕政権では、経済戦略会議の委員になり、小渕首相に対し、
「10兆円を上回る規模の追加的財政出動」を提言しています。
続く森政権ではIT戦略会議の委員になり、「イー・ジャパン構
想」についてさまざまな提言を行っている「できる学者」という
イメージの人物なのです。もちろん、テレビ東京のWBSをはじ
め、テレビでも活躍していることはいうまでもありません。
 そして、小泉政権において、経済財政政策担当大臣に就任する
のです。この竹中平蔵氏について、既出の大門実紀史氏は次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中大臣については、元々アメリカの評価は高いわけですけれ
 ども、この経過の中でかなり高くなってきていますね。(20
 08年)10月30日、竹中大臣が(金融担当相)就任される
 とすぐ、ワシントン・ポストのインタビューでハバードさんが
 「彼は優秀だ。これで不良債権処理が進む。歓迎」というふう
 なことを答えております。その後も、(ハバードさんは)竹中
 方針支持、いくら自民党の皆さんや銀行から反発が出ても異例
 の支持表明をする。「竹中案でやらないと日本は大変なことに
 なる」という警告までやる。ちょっと異常なかかわり方だと思
 います。                ――大門実紀史氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 このグレン・ハバードという人物は、ブッシュ政権第一期目に
おいて大統領経済諮問委員会の委員長を務めていた人物であり、
現在はコロンビア大学ビジネススクールの校長を務めています。
 この大統領経済諮問委員会の委員長は、現バーナンキFRB議
長が務めていたことがあり、グリーンスパンの後任を争った人物
の一人です。いずれにしても、グレン・ハバードという人物は、
ブッシュ政権に非常に近い存在なのです。
 副島隆彦氏はグレン・ハバード氏について、自著の中で次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中平蔵はグレン・ハバードの手下なのである。(一部省略)
 このハバードが司令官になって、「日本の不良債権の処理速度
 は遅すぎる。もっと加速せよ」と露骨に日本政府に圧力を加え
 て、日本の金融業界を混乱に陥れたのだ。ハバードの親分はポ
 ール・ヴォルカー元FRB議長であり、その上は“世界皇帝”
 デイヴィッド・ロックフェラー(90歳)である。
     ――副島隆彦著『重税国家/日本の奈落』 祥伝社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう経緯があって、2002年9月の日米首脳会談のあと
小泉首相は帰国すると、直ちに内閣改造を行い、竹中平蔵経財相
に金融担当相を兼務させ、公的資金投入の地ならしをやったので
す。この時点において不良債権処理の問題はすべて竹中大臣に託
されたことになります。
 しかし、当時は長期デフレで不況ではあったけれども、銀行の
不良債権比率は健全レベルだったのです。少なくとも公的資金を
投入するレベルではなかったということです。米国の要望に応え
るには、緊縮財政政策を行うことによって不良債権比率を上げる
必要があったのです。
 デフレ下で緊縮財政政策を行うと、デフレ不況は一層深刻さを
増し、不良債権比率は上昇します。実際に不良債権比率は5%か
ら8.4 %に上昇していることは既に述べた通りです。しかし、
これが本当であるとすると、小泉政権は意図的に作り出した不良
債権を自らその加速処理を強行させることになります。マッチポ
ンプもいいところです。
 竹中金融担当大臣(当時)が作成した「金融再生プログラム」
について考えてみます。このプログラムの正体は何でしょうか。
 この金融再生プログラムには次の2つの骨子があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.資産査定の厳格化によって、不良債権を加速処理させる
 2.米国並みに厳しい基準で自己資本を査定して計上させる
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中平蔵氏は、今回の米国発の金融危機に対してテレビの番組
で次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 公的資金の投入に当たってやらなければならないことは、資産
 の査定を厳格にやる必要があるのです。これは忘れてはならな
 いことですよ。              ――竹中平蔵氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでいう「資産査定の厳格化」とは具体的に何を指している
のでしょうか。
 竹中経財相・金融担当相は、その資産査定の厳格化のために次
の2つを持ち出してくるのです。第1は「DCF方式の導入」で
あり、第2は「減損会計の導入」です。この2つの導入によって
日本の企業と銀行は大きなダメージを受け、不良債権は激増し、
公的資金導入の環境は整うことになるのです。
             ――[円高・内需拡大策/17]


≪画像および関連情報≫
 ●大統領経済諮問委員会――CEAとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  大統領経済諮問委員会――CEAは、米国大統領に助言する
  ことを目的とした経済学者の集まりである。米大統領府――
  ホワイトハウスの一部門で、多くの経済政策を提示する。委
  員会は委員長と2人の委員で構成される。委員長と委員は大
  統領によって指名され、上院の承認によって任命される。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

竹中平蔵氏/大門実紀史氏.jpg
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2008年11月28日

●「意図的に積み上げられた不良債権」(EJ第2460号)

 昨日のEJで述べた「金融再生プログラム」の2つの骨子を再
現しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.資産査定の厳格化によって、不良債権を加速処理させる
 2.米国並みに厳しい基準で自己資本を査定して計上させる
―――――――――――――――――――――――――――――
 資産査定の厳格化を実現するため、竹中大臣は、「DCF方式
の導入」を決断します。DCF方式とは何でしょうか。
 DCFとは、ディスカウント・キャッシュ・フローの略で、日
本語では「割引現在価値」と呼んでいます。DCF方式とは、融
資先の将来の収益を正確に推計し、それをもとに回収不能になる
リスクなどを差し引いて現在の債権価値を導き出す方式であり、
米国で主流の資産評価法になっています。そして、そのようにし
て算出した債権価値が債権元本の帳簿価格を下回るときは、その
下回る分を銀行に引当金として計上させるのです。
 このDCF方式は、1995年頃から銀行の資産査定の方法と
して使われはじめたのです。1995年というと、ニューヨーク
の株式市場で株価が上がり始め、物価が年率2〜3%で上昇し、
景気がはっきりと回復してきた頃に当たります。
 このように物価――物価の総合指数GDPデフレーターが上昇
していれば、数年先の収入は、仮に販売数量は一定でも10%〜
15%は増加するのです。DCF方式では、4〜5年先の収益を
予測して債権元本の帳簿価格と比較するので、景気が良く、物価
が上昇しているときは現在の債権価値は高くなります。
 したがって、DCF方式は景気の良いときは資産評価法として
よく機能するのです。しかし、竹中大臣はこれをデフレ、それも
長期デフレで物価が毎年2〜3%以上下がっている日本であえて
実施したのです。
 デフレの日本でDCF方式による資産査定を行うと、4〜5年
先は販売数量が不変でも5〜10%の減益になるのです。そうす
ると販売数量をデフレ率以上にアップしないと、収入は増えない
ことになります。したがって、回収不能額が増加し、不良債権は
どんどん増えることになるのです。
 続いて、竹中大臣は、「減損会計の導入」を実施したのです。
要するに不動産の時価会計です。企業が保有している不動産をそ
の時点の市場価格(時価)で売却したと想定し、購入したときの
帳簿上の価格より想定売却価格の方が低い場合、損失が発生する
のです。この損失を計上させるのが「減損会計」です。つまり、
減損会計というのは、不動産の含み損をを表面化させるための手
段であるといえます。
 仮に期間収益が1億円上がっている貸出企業があるとします。
ところが保有している不動産が値下がりしているので、減損会計
上は1億5000万円の評価損が出たとします。当時そういう企
業は多くあったのです。
 そうすると、金融庁の査定では、5000万円の赤字――すな
わち、不良債権と認定され、銀行はその貸出企業に貸倒引当金を
積まなければならないことになります。
 金融庁は、これらDCF方式と減損会計の両方を使って貸出企
業を不良債権化し、銀行への公的資金投入の状況づくり行ったの
です。そのターゲットにされたのは、債務の多い企業だったので
す。金融庁は「整理回収機構」――RCCを作り、債務の多い企
業への貸付金を不良債権としてRCCに買い取らせ、回収を行わ
せるという血も涙もない方法をとったのです。
 RCCに貸付金を買い取られてしまうと、貸付金をきちんと返
していても次の融資は出ないわけであり、それらの企業の多くは
破綻してしまったのです。こういうやり方はまさに「金融ファッ
ショ」以外のなにものでもないといえます。
 以上が「金融再生プログラム」の1「資産査定の厳格化によっ
て、不良債権を加速処理させる」についての説明です。竹中大臣
のいう「資産査定の厳格化」というのはこういうことをいってい
るのです。彼のやったことはわざわざ不良債権を増やすことだっ
たのです。そういう査定法の元祖である米国は、今回の金融危機
に際して時価会計方式を凍結しています。自分たちにとって都合
が悪くなるとやめたり、ルールを変更する――あまりにも身勝手
であると思いませんか。
 続いて、「米国並みに厳しい基準で自己資本を査定して計上さ
せる」について述べます。1については、銀行に資金を借りてい
る企業が対象だったのですが、2はそういう企業に資金を提供し
ている銀行の問題です。
 2のテーマに入る前に、その前提知識をおさらいしておく必要
があります。銀行には「自己資本比率規制」というものがありま
す。銀行には、海外に営業拠点を持つ銀行(国際基準行)と国内
だけに営業拠点を持つ銀行(国内基準行)があります。
 これら国際基準行と国内基準行には、次のように資産に対して
の自己資本比率の規制があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  国際基準行 ・・・ 資産に対して8%以上の自己資本
  国内基準行 ・・・ 資産に対して4%以上の自己資本
―――――――――――――――――――――――――――――
 この国際基準行への規制は「BIS規制」といって、国際的に
(といっても米国が主導して)定められたものですが、国内基準
行への4%の規制は日本が決めた規制なのです。
 貸出債権の不良債権化が進むと、それに応じて貸倒引当金を積
まなければならないので、その分利益が減ることになります。も
し、大量の不良債権が出ると、決められている自己資本比率を守
れなくなり、公的資金が投入されないと、銀行は破綻に追い込ま
れることになります。
 竹中大臣の率いる金融庁は、そこに着眼し、銀行の自己資本の
毀損に狙いを定めたのです。彼らが何をやったのかについては、
来週お話しします。     ――[円高・内需拡大策/18]


≪画像および関連情報≫
 ●BIS規制とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  BIS規制とは、国際業務を行う銀行の自己資本比率に関す
  る国際統一基準のことで、バーゼル合意ともいいます。BI
  S規制では、G10諸国を対象に、自己資本比率の算出方法
  (融資などの信用リスクのみを対象とする)や最低基準(8
  %以上)などが定められました。自己資本比率8%を達成で
  きない銀行は、国際業務から事実上の撤退を余儀なくされま
  す。BIS規制は、国際間における金融システムの安定化や
  銀行間競争の不平等を是正することなどを目的として、19
  88(昭和63)年7月にバーゼル銀行監督委員会により発
  表され、1992(平成4)年12月末(日本では1993
  年3月末)から適用が開始されました。また、日本の金融機
  関が自己資本比率を計算する場合には、自己資本に有価証券
  の含み益の45%を参入することが認められました。
            http://www.findai.com/yogo/0024.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

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菊池英博氏の本
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2008年12月01日

●「金融再生プログラムの矛盾」(EJ第2461号)

 不良債権を加速処理をすると、何が起こるのでしょうか。竹中
大臣率いる金融庁は、DFC方式と減損会計による資産査定を行
い、不良債権を意図的に増加させたのです。
 不良債権が増えるということは、それだけ破綻企業が増えるこ
とを意味します。それを整理回収機構/RCCに引き取らせ、お
いしいところはバゲタカ・ファンドの外資が買い占めたのです。
 これに飽き足らず、既に述べたように、ハバード大統領経済諮
問委員会(CEA)は、日本の銀行にまで手を伸ばそうとしてい
たのです。この指令を受けた竹中大臣は、銀行の自己資本の毀損
に狙いを定めたのです。
 銀行の立場に立って考えてみましょう。厳しいというか無茶苦
茶な資産査定によって不良債権が増えると、銀行はそれに応じた
貸倒引当金を利益を取り崩して積まなければならないのです。し
かし、日本では貸倒引当金には税金がかかるのです。
 ここで「繰り延べ税金資産」というわかりにくい面倒なことを
説明する必要があります。菊池英博氏の本を参考にして、具体的
な例で説明することにします。
 A銀行がX社という企業に20億円を融資しているとします。
ところがX社は欠陥商品を出して売上げ不振に陥ります。そして
借入金20億円のうち10億円が返済できなくなります。
 しかし、X社は他の事業が好調であり、企業として十分再生可
能であると判断されたとします。この場合、銀行はX社が返済で
きなくなった10億円相当分を貸倒引当金として、利益から落と
して計上しなければならないのです。
 法人税を50%と仮定すれば、A銀行は引当金を積まないで利
益のままであった場合の10億円に相当する法人税5億円を支払
わなければならないわけです。このとき支払った税金の5億円は
「有税引当金」と呼ばれるのです。
 その後、X社の業績が回復して貸倒引当金が不要になった場合
か、X社が倒産した場合、有税引当金として支払った法人税5億
円は税務署からA銀行に還付されるのです。したがって、銀行に
とっては有税引当金はいずれ戻ってくる財産ということになるの
で、「繰り延べ税金資産」といわれるのです。そして、それは資
産の中に計上され、その資産は「税効果資本」として、資本金の
一部に組み入れられるのです。
 竹中大臣は、この「税効果資本」に目をつけたのです。これを
圧縮することによって、銀行の自己資本を毀損させようとして、
金融再生プログラムに次のように盛り込んだのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「自己資本の充実」の名の下に、資本勘定に組み込まれている
 「繰り延べ税金資産」(税効果資本)を圧縮し、アメリカ並み
 に「自己資本の10%以内か、一年分の税効果資本の増加分の
 うち、どちらか小さいほう」を計上させること。
             ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融再生プログラムには上記のように書いてありますが、その
内容は米国の税法と同じです。しかし、この「税効果資本」を圧
縮させようとしたことは、竹中平蔵氏としては大変な失敗であっ
たと思います。というのは、竹中氏は米国の税法をよく調べてい
なかったからです。これについては、2003年12月11日付
日本経済新聞で、あのリチャード・クーが指摘しているのです。
彼はどうやら、米国の場合は無税引当であることを知らなかった
ようなのです。
 ここまで検討したことによって、金融再生プログラムの2つの
骨子は、「不良債権の加速処理」と「税効果資本の圧縮」を意味
することはわかると思います。しかし、これら2つは明らかに矛
盾するのです。
 不良債権を加速処理をすると、破綻の危険のある企業が増加し
ます。そうすると銀行は貸倒引当金を多く積むことになります。
これは同時に「税効果資本の増大」を意味するのです。ところが
その税効果資本を圧縮して自己資本の毀損を狙うというのですか
ら、明らかに矛盾しています。
 当然のことながら、大手銀行の首脳は竹中大臣と対立したので
す。当時の銀行協会会長であった寺西正司氏(UFJ銀行頭取)
は次のようにいって金融庁を批判したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今までサッカーのルールでやっていたものを、急にラグビーに
 変えるといわれてもできない。       ――寺西正司氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 結局、「税効果資本の圧縮」は棚上げされることになったので
す。このように、金融庁は本来なら不良債権にならない企業まで
含めて強引に不良債権処理を行ったので、銀行は莫大な貸倒引当
金を積むことになったのです。
 しかし、もともと不良債権でない企業まで不良債権化した結果
後になって銀行には莫大な額の税金の戻りがあり、主力銀行は現
在に至るまで、莫大な利益を出しているのに、税金を支払わない
で済んでいるのです。これだけ見てもあのときの金融再生プログ
ラムがいかに問題があったかわかると思います。
 ちなみに日本の税制で問題なのは、有税引当金として支払った
税金が税務署から還付される際に現金で返済されるのではなく、
次の決算で利益が出れば、その法人税から控除されるに過ぎない
という点です。
 したがって、銀行の利益が減ったり、赤字決算をして還付の元
になる利益を計上できない場合は、支払済みの税金は一切還付さ
れない仕組みになっているのです。
 これに対して米国では、企業が赤字決算をすると、10年前ま
で遡って、支払い済みの税金が現金で還付されるのです。日本と
比べると、大きな違いです。「不良債権処理の竹中」といわれま
すが、これが真相なのです。 ――[円高・内需拡大策/19]


≪画像および関連情報≫
 ●税効果会計とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  税効果会計とは、法人税等の額を適切に期間配分することに
  より、税引前当期純利益と税金費用――法人税等に関する費
  用を合理的に対応させることを目的とする会計上の手続きで
  ある。企業会計上の損益認識時期――どの会計期間に計上さ
  れるかと税法上の損益認識(認容)時期は必ずしも一致しな
  い。この結果、企業会計上の税引前当期純利益に対して一定
  税率で課税されるはずの法人税等は必ずしも税引後当期純利
  益(最終利益)とは対応しない。   ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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菊池英博氏
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2008年12月02日

●「竹中大臣が目をつけた監査法人」(EJ第2462号)

 竹中大臣――金融担当相の行動を見て、大手銀行の首脳は強い
危機感を抱いたのです。「下手をすると国有化される」――この
ように判断した大手銀行の首脳は、自衛策を講ずる必要があると
考えて早速行動に移したのです。それというのも竹中金融担当相
は、大臣就任直後から次のようにいっていたからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ツウ・ビック・ツウ・フェイルということにはならない!
―――――――――――――――――――――――――――――
 大手銀行の首脳のやったことは、なりふり構わない増資だった
のです。とくに額の大きさで目立ったのは、みずほホールディン
グス(HD)だったのです。みずほHD社長の前田晃伸氏は、竹
中大臣と一番激しく対立した人であったからです。
 みずほHDは2003年3月期には約2兆円の赤字決算になっ
ていたのです。そこで自己資本比率9%台を維持するために、国
内最大規模の優先株による1兆円の増資に踏み切ったのです。と
てつもない規模であるので、最初は実現不能といわれたのですが
取引先3500社が積極的に増資を引き受けて1兆円の増資は達
成されたのです。他の主要銀行も同様に増資を行い、竹中改革に
対して自衛手段を講じたのです。
 竹中金融担当相は、主要行のこうした動きに対して、『エコノ
ミスト』誌に次のようにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「金融システムの強化を目指し、昨年10月に『金融再生プロ
 グラム』を作った。そのなかに『資産査定の厳格化』『自己資
 本の充実』『コーポレートガバナンスの強化』を規定しており
 その枠組みのなかで、3月末決算に向け、目に見える形で銀行
 側がとった最初の行動が一連の資本増強策だ。それまでには考
 えられなかったことで、銀行が新たな努力を始めたという点で
 は、新しい変化として評価している。ただ、最初のアクション
 で終わるわけではなく、さらに銀行システム全体が健全な方向
 に進んで行くために、増資だけでなく、資産の厳格な査定、収
 益力のアップなどが必要になる」。
     ――『週刊エコノミスト』/2003年3月18日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 大手銀行の首脳が国有化を恐れるのは、経営者の当然持つべき
企業防衛本能からだけではなく、銀行の事実上の倒産で不正会計
が発覚したりすると、経営者は刑事訴追され、収監される可能性
があることを長銀のケースで学習していたからです。それに株主
代表訴訟のこともあったのです。
 大手銀行の首脳の猛烈な反対で事実上棚上げになった税効果資
本の圧縮について竹中金融担当相は、次なる手として監査法人に
目をつけたのです。驚くべき執念です。監査法人は銀行が破綻し
た場合に多額の国家賠償を請求される立場であり、重要な利害関
係者ということになります。
 竹中氏は、奥山章雄・日本公認会計士協会会長に対し、「繰り
延べ税金資産の査定の厳格化」を要請したのです。ちなみに奥山
章雄氏は、金融再生プログラム(竹中プラン)を作成した金融庁
の「金融分野緊急対応戦略プロジェクトチーム」のメンバーのひ
とりなのです。
 奥山氏は、早速竹中氏の要請に基づいて、日本公認会計士協会
として、2003年2月25日、「主要行の監査に対する監査人
の厳正な対応について」という「会長通牒」を出したのです。そ
こには、次のように書かれていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 『金融再生プログラムー主要行の不良債権問題解決を通じた経
 済再生−』(平成14年10月30日金融庁)では、繰延税金
 資産の合理性の確認のため、また、資産査定や引当・償却の正
 確性、さらに継続企業の前提に関する評価については、外部監
 査人が重大な責任をもって厳正に監査を行うことを求めており
 ます。このため、日本公認会計士協会では、金融庁からの要請
 に基づき、『主要行の監査に対する監査人の厳正な対応につい
 て』を会長通牒として取りまとめ、主要行の監査人に通知いた
 しました。                ――山口淳雄著
     『りそなの会計士はなぜ死んだのか』/毎日新聞社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この「会長通牒」が2003年3月決算以降の監査法人の判断
を事実上拘束したことになるのです。そして、ターゲットは、り
そな銀行に絞られたのです。
 小泉政権における経済運営は、次の2つの柱を軸に展開された
のです。第1の柱は「国債は30兆円以上は発行しない」という
ことばに代表される超緊縮財政政策運営であり、第2の柱は「退
出すべき企業は市場から退出させる」ということばに代表される
企業の破綻処理推進なのです。
 小泉政権のこの政策について、最初から疑問視し、警鐘を鳴ら
していたのは、あの植草一秀氏です。彼は自分のブログに次のよ
うに書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は小泉政権の発足時点から、「小泉政権の政策が実行されて
 ゆけば、日本経済が最悪の状況に向かうことは間違いない。金
 融恐慌も現実の問題になるだろう」と発言し続けた。権力迎合
 の殆どの付和雷同のエコノミストは、「改革推進で株価は上昇
 するし、経済もも明るい方向に向かう」と大合唱していた。
           ――UEKUSAレポート第10回より
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに、小泉首相が国会で所信表明演説で政策方針を発表した
2001年5月7日から、日経平均株価はどんどん下がっていき
2003年4月28日には遂に7607円になってしまっていた
のです。これは1989年12月29日の史上最高値の5分の1
にまで下がったのです。これは明らかな政策の失敗といえると思
います。          ――[円高・内需拡大策/20]


≪画像および関連情報≫
 ●監査法人とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  監査法人とは、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監
  査又は証明を組織的に行うことを目的として、公認会計士法
  34条の2の2第1項によって、公認会計士が共同して設立
  した法人をいう。また、2008年4月1日以降、一定の財
  務要件や情報公開義務等を満たしている場合に監査法人の損
  害賠償責任額をその出資の額を上限とすることが認められた
  のである。これらの法人は有限責任監査法人を名称として用
  いなければならない(34条の3)。 ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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奥山章雄氏
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2008年12月03日

●「なぜ、りそなショックというのか」(EJ第2463号)

 本日より「りそな銀行の国有化」について書いていくことにし
ます。2003年に起こった「りそな銀行国有化」については、
知らない人はいないでしょうが、その裏側に何があったのかにつ
いては、新聞や週刊誌では絶対にわからない隠された真実があり
それをできるだけていねいに書いていくつもりです。
 実は、このりそな銀行ですが、設立の経緯はきわめて複雑なの
です。しかし、りそな銀行の設立の経緯について書くことが今回
のレポートの目的ではないので、ウィキペディアの記述を以下に
ご紹介してそれに替えることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2003年3月、あさひ銀行の埼玉県内の営業拠点と資産を埼
 玉りそな銀行に会社分割し、残ったあさひ銀行は大和銀行と合
 併する形で「りそな銀行」が誕生した。りそな銀行と埼玉りそ
 な銀行は、世界的に見ても例の少ない合併分割による経営統合
 を行った。これは、主に近畿圏を営業基盤とする大和銀行に、
 規模的に2倍近いあさひ銀行が吸収されることにより、埼玉県
 内において圧倒的な規模を誇るあさひ銀行の収益基盤が縮小す
 ることによる、地域経済への影響を考慮したものであるといわ
 れる。                ――ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 「りそなショック」ということばがあります。なぜ、「ショッ
ク」と呼ばれるのかについてはそれなりの理由があるのです。上
記でわかるように、りそな銀行が誕生したのは、2003年3月
のことなのです。そのさい、1200億円の増資をしています。
増資というのは、自己資本を充実させるために行うものであり、
りそな銀行は国内行ですから、自己資本比率は4%以上あればよ
いのです。
 ところが2003年3月期の決算で、自己資本比率は2.07
%、持ち株会社のりそなHDも自己資本比率が3.78 %に低下
していたのです。なぜ、こんなことになったのでしょうか。
 ここに「監査法人」というものが登場するのです。つまり、り
そな銀行が自己資本比率4%割れを起こしたのは、監査法人の判
断によるものなのです。つまり、監査法人が銀行破綻の引き金を
引いたことになります。これがショックといわれるゆえんである
といえます。
 2003年5月17日の夕方のことです。日銀記者クラブは週
末を返上してごったがえしていたのです。勝田泰久・りそなホー
ルディングス社長をはじめとするりそな首脳陣による記者会見が
あるということで、記者が集まってきていたのです。
 記者会見における勝田社長の説明によると、りそなHDは臨時
取締役会を開き、経営危機のため、政府に公的資金の注入申請を
決定したと発表したのです。これには記者団は驚いたのです。な
ぜなら、りそな銀行はこの3月に誕生したばかりであり、それが
なぜ経営危機に陥るのか不思議に思ったのです。
 記者団は当然その理由を聞いたのです。そうすると、勝田社長
は、次のように説明したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 りそな側の説明によればこうである。3月期決算において、り
 そな側は「繰り延べ税金資産」5年分の約7000億円を主張
 したのに対して、監査を担当した新日本監査法人は3年分の約
 4300億円しか認めなかった。5年分が認められていれば、
 りそなHDの自己資本比率は6%で、4%の基準を楽々上回っ
 ていた。しかし、監査法人が3年しか認めなかったため、4%
 を下回る3.78 %となった。       ――山口淳雄著
     『りそなの会計士はなぜ死んだのか』/毎日新聞社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 そして、勝田社長は悔しさをにじませながら、次のような発言
をしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ゴールデンウィーク明けの5月7日になって、新日本監査法人
 の態度が一変した。背信だ。         ――勝田社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はもうひとつ不思議なことがあるのです。それは勝田社長の
話の中には新日本監査法人の名前しか出てこないことです。当時
その記者会見の席にいた「エコノミスト」誌記者、山口淳雄氏は
勝田社長にそのことを質問したところ、勝田社長は次のように答
えているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 監査法人は3月以降は新日本監査法人だけです。――勝田社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 新生りそな銀行がスタートしたのは3月のことであり、そのと
きからは、新日本監査法人だけであるということなのでしょうが
これは少しおかしいのです。
 実は、2003年4月の段階まで、新日本監査法人とともに朝
日監査法人(現あずさ監査法人)が共同で監査業務にかかわって
いたのです。しかし、4月30日に朝日監査法人は監査辞退をし
ているのです。その直前の4月24日に同監査法人所属の会計士
がりそなの監査を苦にして自殺しているのです。
 このことは、勝田社長が知らないはずはなく、なぜそれに触れ
ないのか山口氏は不思議に思ったのです。これについては、改め
て取り上げますが、りそな銀行の監査には謎が多いのです。
 いずれにせよ、りそな銀行は自己資本比率の4%割れによって
国有化されることになったのです。なぜ、そうなったのか――こ
れには、深い闇の部分があります。それにしてもりそなHDの公
的資金申請を受けた後の処理の素早いこと――それはあらかじめ
準備していたかのようにことは進められたのです。
 このときこの処理を取り仕切ったのは、ほかならぬ竹中金融担
当相なのです。これによって、システミックリスクは表面化せず
に済んだという評価が与えられています。これにより誰がトクを
したのでしょうか。     ――[円高・内需拡大策/21]


≪画像および関連情報≫
 ●りそな国有化について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  りそな国有化は、本来預金保険法が想定していない金融機関
  側の要請によって資本注入を行ったために、従来の公的資金
  注入とは異なり、予防的公的資金注入と呼ばれる。予防的公
  的資金注入は金融機関が過小資本に陥り、経営破綻を回避す
  るために行うもので、当時の預金保険法は金融機関による申
  請や、その適用要件に関して明確な基準が存在しなかった。
  そのため、申請当時には適用に関して一部から違法性が指摘
  され、また金融機関が自主的に公的資金の注入を、予防的か
  つ自主的に申請できる必要性が認識されたために、後に預金
  保険法改正の要因となった。     ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

山口淳雄氏の本.jpg
山口淳雄氏の本


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2008年12月04日

●「りそな救済で儲けたのは誰か」(EJ第2464号)

 りそなホールディングスからの公的資金の注入申請を受けて政
府は、りそなを潰さないよう税金を投入し、「実質国有化」して
りそなを救う措置をとったのです。
 「りそな国有化」というニュースを聞いた一般国民の印象は、
「やっぱり国有化されたか」というものであったと思います。と
いうのは、竹中金融担当相が大手銀行首脳に対して、「大きくて
も国有化を辞さず」という強気の発言をしていることからして、
どこかの銀行がそのうち国有化されるに違いないと予測していた
からです。
 ところで、「銀行の国有化」というと、長銀や日債銀のケース
を考えますが、このケースは「一時国有化」というのです。実質
国有化と一時国有化――これには明確な違いがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 一時国有化 → その時点で債務超過の状態 → 経営破綻
 実質国有化 → 債務超過には陥っていない → 経営危機
―――――――――――――――――――――――――――――
 長銀や日債銀の場合は、政府は負債の総額が資産のそれを上回
る債務超過に陥ったと判断しているのに対して、りそなの場合は
自己資本比率が国内行の基準である4%は下回っているものの債
務超過ではないと判断したので、実質国有化になったのです。
 一時国有化の場合は、政府が全株式を強制取得し、一時国有化
したのです。そして長銀や日債銀の場合は、全役員は退陣し、株
式は紙くず同然となったのです。こちらは大変厳しいのです。
 しかし、実質国有化のりそなの場合は、社長は退陣させられた
ものの、それ以外の役員は全員留任し、後継社長は内部登用され
ています。国の関与は比較的緩やかであり、経営の独立性はある
程度保てるので、一時国有化の場合とは大違いです。
 2003年5月17日、午後5時30分からのりそな首脳陣の
会見のあったほぼ一時間後の午後6時30分、当時の小泉首相は
預金保険法102条に基づく金融危機対応会議を招集し、りそな
HD傘下のりそな銀行に公的資金の投入を決めたのです。その額
は2兆円。かくしてりそなは2002年10月の金融再生プログ
ラムに基づく初の「特別支援行」となったのです。
 このような公的資金の注入のやり方は「予防的公的資金注入」
というのです。当時の竹中・金融庁のとったりそなに対する措置
は、素早い処理によってシステミックリスクを防いだと、なかな
か評価が高いのです。
 しかし、これはおかしな話なのです。2003年5月の時点に
おいて、りそな銀行が危ないという情報はほとんど伝わっていな
かったのです。ただ、4月に朝日監査法人(現あずさ監査法人)
所属の公認会計士が自殺したというニュースが流れたあと、週刊
誌や夕刊紙のコラムなどに次のような記事が載ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 某大銀行は今決算で自己資本比率が4%を割りそうだが、金融
 庁がそれを阻止しようと監査法人に圧力をかけている。
                      ――山口淳雄著
     『りそなの会計士はなぜ死んだのか』/毎日新聞社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この時点でマスコミは、ここでいう某大銀行がりそなであるこ
とは掴んでいたのです。そして、りそなが国有化されると大変な
ことになる――誰もがそう思っていたのです。
 しかし、政府がりそなにとった処置は、一時国有化ではなく、
実質国有化であったのです。これはかなり大甘な処置であったと
いえます。これを受けて、低迷を続けていた株価は大幅に上昇す
ることになったのです。
 このりそな処置について、植草一秀氏は、次のように述べてい
るのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉政権の「大銀行破綻も辞さず」の政策方針が株価を暴落さ
 せた最大の背景である。ところが、最後の最後で小泉政権は、
 りそな銀行を「破綻処理」せずに「救済」したのである。「救
 済」の根拠法規は預金保険法102条である。この措置が人為
 的に選択されたことは間違いない。「破綻処理も辞さぬ」と言
 いながら結局は「破綻処理ではない救済」が選択されたのだ。
 この時点でりそな銀行を破綻処理していたなら、日本は間違い
 なく「金融恐慌」に突入したはずである。この懸念があったか
 らこそ、株価は暴落していたのだった。逆に、最後の最後で、
 政府が銀行破綻を回避するために「銀行救済」を選択するのな
 ら、株価は当然猛反発する。「金融恐慌のリスク」が株価を下
 落させていたわけで、その「リスクプレミアム」が消失する分
 だけ株価は上昇するはずである。政府が「銀行救済」の方針を
 貫くことがはっきりするにつれて、株価は大幅反発した。日経
 平均株価は、2003年8月18日に1万円の大台を回復した
 のである。                ――植草一秀氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 この場合、政府がまったく公正な立場に立ち、りそなが自主的
に出してきた公的年金の注入申請を受けて、実質国有化したので
あれば、それが厳しい処置であっても甘い処置であっても納得で
きます。もちろん建前上はそういうかたちになっていますが、裏
側の事情は大きく異なるようです。これについては、これから詳
しく述べていきます。
 「たとえ大銀行でも潰せないことはない」と豪語し、銀行に対
して厳しい処置をとることを印象付けながら、実際にとった処置
は大甘な処置であった場合、それが株価に影響を及ぼすことは必
至であるし、金融の専門家であれば誰でもわかることです。
 実際にこの株価暴騰で一番儲けたのは、外資系のヘッジファン
ドだったといわれます。7千円台の株価が1万円になったのです
から大儲けです。かねてから小泉政権は米系の外国資本と結んで
いるとの噂があり、植草氏は、これはインサイダー取引そのもの
であると述べているのです。 ――[円高・内需拡大策/22]


≪画像および関連情報≫
 ●預金保険法102条について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  金融危機の恐れがある場合、首相が金融危機対応会議を招集
  し、公的資金を使った三種類の特別な措置を発動できるとし
  た規定。一号措置は過小資本行への資本注入、二号措置は預
  金を全額保護し金融整理管財人を派遣した上での破たん処理
  三号措置は一時国有化で株式をゼロ円で国が強制取得する。
          http://www.houko.com/00/01/S46/034.HTM
  ―――――――――――――――――――――――――――

金融庁.jpg
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2008年12月05日

●「りそな処理をめぐる陰謀」(EJ第2465号)

 一番の疑問は、なぜりそな銀行が「特別支援行」のターゲット
にされたかです。当時りそなと同程度の財務内容の銀行はたくさ
んあったのです。別にりそなでなくても構わなかったのです。
 りそな銀行がターゲットにされた理由について、植草一秀氏は
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 りそな銀行と同程度の財務状況の銀行は複数存在していた。り
 そながあのような対応を受けるなら同じ対応を受けるべき銀行
 はいくつも存在していた。ところが現実には、不自然にもりそ
 な銀行のみが俎上に乗せられたのである。その最大の理由は、
 りそな銀行の当時の頭取が、かなり明確に小泉政権の経済政策
 を批判していたことにあったと考えられる。りそな銀行では頭
 取が交代し、新頭取が手腕を発揮し、経営に活力が広がり始め
 ていた局面だった。決して状況は悪くなかったはずである。政
 治的にりそな銀行は狙い撃ちされたのだと私は確信している。
               ――UEKUSAレポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでお断りしておきたいことがあります。植草一秀氏という
と、例の事件の影響で何かと色眼鏡で見られがちであり、彼が主
張していることを積極的に取り上げるのはいかがなものかと考え
る人もいると思います。
 しかし、植草氏は、かねてから小泉・竹中政権の政策に異を唱
えており、とくにこの「りそな事件」は売国奴的行為であるとし
て、マスコミを通じて本気で訴えようとしたので、国策捜査にか
らめとられたといわれているのです。何しろ、例の事件の前は、
植草氏はテレビの常連エコノミストの一人であり、その影響力は
きわめて大きなものがあったからです。
 現在、ネットでは、植草一秀氏は冤罪であるとして、その擁護
の論陣が張られており、その数は続々と増えています。植草事件
の単行本も出版されているようです。
 その中のサイトの一つをご紹介するので、参考にしていただき
たいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
  http://slicer93.real-sound.net/0-ip-space-7514.html
  http://slicer93.real-sound.net/0-ip-space-7515.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 りそな銀行に焦点を絞った竹中プロジェクトチーム――金融分
野緊急対応戦略PT――このPTが何をやったのかについて述べ
て行くことにします。
 当時りそな銀行には2つの監査法人が共同監査をしていたので
す。既に述べたように、2つの監査法人とは、新日本監査法人と
朝日監査法人(当時)です。
 監査法人がりそな側に繰延税金資産の扱いで自己資本不足にな
ることを伝えたのは2003年4月に入ってからのことです。り
そなとしては今まで通り5年分認められると思っていたのです。
しかし、この段階で自己資本不足が伝えらても銀行側は対応のす
べがないのです。3月時点であれば、いろいろな対応のやり方が
あったのです。このあたりに何か意図的なものを感じます。
 竹中大臣に近い木村剛氏――上記竹中PTのメンバー――は、
5月14日付で、自分のインターネットコラムに次のタイトルの
コラムを発表しているのです。当時、木村剛氏はかなりの有名人
であり、そのサイトには多くのアクセスがあったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       破綻する監査法人はどこか!?
―――――――――――――――――――――――――――――
 タイトルだけでは意味はわかりませんが、暗にりそな銀行の監
査を担当する監査法人を指しているのです。このコラムの中で木
村氏は、銀行名こそ伏せているものの、はっきりとりそな銀行を
指していることがわかる文面で、「りそな銀行の繰延税金資産の
計上は、0年か1年しかあり得ない」と述べ、さらに、もし、監
査法人が2年以上の繰延税金資産の計上を認めるならば、その監
査法人こそ破綻させるべきであると主張しているのです。
 もし、0年か1年の繰延税金資産の計上ということになると、
りそな銀行は債務超過になってしまうのです。したがって、この
コラムを読んだ人は「りそなが危ない」と感じ、株主は株を売却
するはずです。もし、一時国有化になってしまうと、株は紙くず
になってしまうからです。長銀、日債銀と同じです。
 それに竹中大臣が大手銀行首脳にあれほど強く公的資金投入を
迫ったのですから、りそな銀行の運命は風前の灯であると誰でも
感じたはずです。
 ところがです。監査法人は3年分認めたのです。これによって
株価は激しく反発したのです。なぜでしょうか。
 もし、債務超過の場合は、預金保険法102条第3号措置が取
られ、銀行は一時国有化――破綻処理になります。長銀、日債銀
と同じです。しかし、繰延税金資産が3年分入ると、自己資本比
率は4%を割るものの、債務超過にはならず、預金保険法102
条第1号措置――植草氏は「抜け穴規定」と呼んでいる――が取
られ、公的資金を投入できるのです。これについて、植草氏は次
のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉政権は「金融危機」なる「風説」を流布し、株式を「売り
 あおり」、最終局面で預金保険法102条の「抜け穴規定」を
 活用して「銀行救済」を実行し、株価の猛烈な上昇を誘導した
 と言っても過言ではないような行動をとったと判断することが
 できる。国家ぐるみの「株価操縦」、「風説の流布」的行為の
 疑いは濃厚である。そしてこの方針を事前に入手した投資家が
 株式売買に動いたのなら、実質的な「インサイダー取引」が行
 われたことになるのだ。   ――UEKUSAレポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
              ――[円高・内需拡大策/23]


≪画像および関連情報≫
 ●銀行国有化、業界強制再編へ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  竹中平蔵経済財政・金融担当相による不良債権処理の特別チ
  ーム(金融分野緊急対応戦略プロジェクトチーム)の編成が
  佳境を迎えていた10月2日午後、金融庁の複数の幹部が首
  相官邸と永田町をあわただしく駆け回っていた。通信社電が
  速報で、木村剛KPMGフィナンシャル代表の特別チーム入
  りを伝えた前後のことである。
    http://www.nikkeibp.co.jp/archives/211/211337.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

木村剛氏.jpg
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2008年12月08日

●「繰延税金資産の査定をめぐるからくり」(EJ第2466号)

 竹中元金融担当相という人はなかなかしたたかな人物です。そ
の一面は、繰延税金資産が安易に自己資本にカウントされている
実態に目をつけたところに見ることができます。
 既に述べたように、繰延税金資産は、将来の収益の中からその
分、非課税の利益になるという実態のないものを自己資本にカウ
ントするものであるからです。その実態は、「見せかけの自己資
本」といっても過言ではないのです。
 それまで繰延税金資産は5年分が認められており、りそな側は
繰延税金資産5年分――約7000億円を自己資本にカウントす
る方針であり、そうすればりそなの自己資本比率は6%になる計
算だったのです。そして、それは当然監査法人も認めてくれるは
ずと思っていたのです。
 そういう見せかけの自己資本ではなく、もっと中身のある充実
した自己資本を持つべきであるという竹中氏の主張は一応正論で
あるといえます。実際に大手銀行の首脳は竹中大臣との一連のバ
トルを通じて自力で自己資本の増強を図る対応をしています。国
有化されることに危機感を感じたからです。しかし、メガバンク
以外の国内行の首脳の意識はそこまで行っていなかったのす。
 竹中氏は、監査法人は独立機関であり、政府といえども監査法
人の下した結論には逆らえないと明言していたのです。しかし、
竹中氏が監査法人に国有化の引き金を引かそうとし、巧妙に圧力
をかけていたことは間違いないようです。なぜなら、当時の公認
会計士協会の奥山章雄会長は、竹中PT――金融分野緊急対応戦
略PTのメンバーだったからです。これについて、植草一秀氏は
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 当時の公認会計士協会会長は奥山章雄氏だが、奥山氏は竹中金
 融相の下に置かれた「金融問題タスクフォース」のメンバーも
 務めた人物で竹中氏との関係は非常に深い。公認会計士協会と
 金融庁当局が連携してりそな銀行処理が決められたと考えるの
 が妥当である。         ――UESUSAレポート
―――――――――――――――――――――――――――――
 とにかくりそな銀行実質国有化では、竹中PTのメンバーであ
る木村剛氏と奥山章雄氏が深く絡んでいることは確かです。
 まず、2003年2月25日の時点で、日本公認会計士協会は
奥山章雄会長による「会長通牒」を出しています。これは既に述
べた通りです。奥山章雄氏も竹中PTのメンバーであるので、竹
中金融担当相の要請を受けてそれが行われたものと考えるのが自
然であると思われます。それは銀行の監査に関しては厳正に対応
すべきであるという内容であったのです。
 続いて、5月14日に木村剛氏は自分のサイトにりそな銀行の
繰延税金資産は認めるべきではないし、認めても1年にすべきで
あるであると主張するコラムを書いています。
 木村氏はあくまで個人意見であり、竹中PTに関係はないとい
うでしょうが、そういう政府の公式PTのメンバーである以上、
内容が銀行の監査に関してであり、個人意見であっても、好まし
いことではないといえます。
 奥山氏にせよ、木村氏にせよ、繰延税金資産は厳しく査定すべ
きであるという意見です。しかし、新日本監査法人は3年を認め
たのです。つまり、甘く査定したのです。この監査法人の査定に
対して、奥山氏はともかくとして、木村氏は批判してしかるべき
です。なにしろ、繰延税金資産を認めないか、認めても1年であ
り、もし、それ以上多く認めた監査法人は破綻させるべきである
という主張をしていたからです。
 しかし、木村剛氏は、りそな処理が終わると、一貫してその処
理を批判していないのです。これに関して植草一秀氏は次のよう
に述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 りそな処理で見落とせないのは、木村剛氏が、5月17日のり
 そな銀行実質国有化案が提示されて以降、一度も政府決定を批
 判していないことである。私は木村氏とテレビで何度も、りそ
 な処理をめぐって論争した。私は、「自己責任原則貫徹の大原
 則」が完全に踏みにじられたことを訴え続けたが、木村氏は全
 面にわたって政府決定の擁護に回ったのである。5月14日に
 記述した内容とは正反対の主張を繰り返したのである。
               ――UEKUSAレポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は植草氏と木村剛氏のこのりそな問題でのテレビの討論を実
際に視聴したのですが、植草氏のいう通り、一貫して政府措置の
擁護に回っていたのです。
 銀行の繰延税金資産の査定は厳しく対処すると公言し、二重三
重の論陣を張っておいて、一転甘く査定して実質国有化する――
もし、これがそういうシナリオになっており、そのシナリオが外
資系ファンドに漏れていたらどうなるのでしょうか。これは完全
なインサイダー取引になる――植草氏はこう指摘するのです。
 このりそな処理によって、7000円台を低迷していた株価は
大きく反発し、10000円台を回復しています。その後は折か
らの景気回復の波によって経済は改善していったのです。これに
ついて植草氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉政権の政策評価に際してもっとも重要であるのが、りそな
 処理なのである。このりそな処理についての厳密かつ客観的評
 価なくして、小泉政権の政策評価は不可能である。2003年
 から2006年までの株価反発、経済改善をもって小泉政権の
 「改革」政策を高く評価するような軽薄な論評にはまったく存
 在価値がないことをしっかりと見抜かなければならない。その
 ような評価に共通する背景は「権力迎合」の精神構造である。
               ――UEKUSAレポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
              ――[円高・内需拡大策/24]


≪画像および関連情報≫
 ●植草氏と小泉元首相にレクチャーしている
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「直言:失われた5年 ー 小泉政権・負の総決算」によれば
  植草一秀氏は、小泉内閣発足の一年前に、小泉純一郎と中川
  秀直に対してレクチャーをしている。植草氏は財政収支改善
  を中期的に取り組む必要を説き始めたとき、小泉はその発言
  をさえぎって、「緊縮財政運営こそがすべてに優先されるべ
  き」であるという持論を得々と開陳したそうである。植草氏
  は、当時、日本経済の根っこには、巨大な不良債権問題が沈
  潜しており、これを無視して財政緊縮路線を遂行すれば、経
  済悪化、金融不安増大、財政赤字拡大等の深刻なマイナス要
  因が発生し、「魔の悪循環」のスパイラルに呑みこまれるこ
  とが目に見えていた。
    http://slicer93.real-sound.net/0-ip-space-7514.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

竹中平蔵元金融担当相.jpg
竹中平蔵元金融担当相
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2008年12月09日

●「不可解なUFJ銀行潰し」(EJ第2467号)

 今回のテーマも早いもので今回で25回目になります。このと
ころ「りそな処理問題」を取り上げていますが、12月4日に植
草一秀氏の次のサイトに紹介されてから、非常に多くの方がEJ
のブログにアクセスしてきています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「植草一秀の『知られざる真実』/マスコミの伝えない政治・
 社会・株式の真実・真相・深層を植草一秀が斬る」
 http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-8be2.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで思い出していただきたいのですが、今回のテーマは次の
通りです。再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
   日本経済は米国依存から脱却することができるか
   ― 日本は円高・内需拡大政策は成功するか −
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、日本の政治・経済の状況は、それこそ100年に一度の
危機的状況にあります。これからの日本は、いやでも円高・内需
拡大政策をとっていかなければなりませんが、そのためにはいか
に米国依存から脱却するかが大切なのです。
 その日本の米国依存の実態を知っていただく一環として、小泉
政権の数々の負の遺産のひとつとして、「りそな問題」を取り上
げてご紹介したのです。
 実はこの「りそな問題」――EJでは、会計士の死という切り
口で、その核心部分を次のように2003年に7回にわたって取
り上げているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    2003年11月05日/EJ1225号〜
    2003年11月14日/EJ1232号
―――――――――――――――――――――――――――――
 この部分の記事は、EJブログではない次の提携サイトに掲載
していますので、次のURLをクリックしてください。
―――――――――――――――――――――――――――――
  http://www.intecjapan.com/blog/2007/12/post_403.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 公的資金注入後にりそな銀行はどうなったのでしょうか。
 りそな銀行には、公的資金注入前の2003年3月末に35兆
円の預金があったのです。それが公的資金注入後の同年6月には
33兆円になっていたのです。実に2兆円も減っているのです。
 なぜ、りそな銀行に公的資金を注入したのか――表面的な理由
は「予防注入」になっています。それは風邪がひどくならないよ
うに薬を飲むのと同様の予防的な措置です。
 公的資金注入が決まったのは、2003年5月17日であり、
その額は約2兆円です。それなのに、その直後に預金残高が2兆
円も減っているのです。これは取り付け――静かなる取り付けが
発生していたことを意味しています。何のためのりそな銀行への
公的資金注入であったかきわめて不透明です。少なくとも、この
預金引き上げは、預金者、取引先、市場がこの公的資金注入を歓
迎していなかったことを示しているのです。
 もうひとつ前代未聞なことが2004年に起こっています。そ
れは金融庁による「UFJ銀行潰し」です。どうして、UFJ銀
行は潰されなければならなかったのでしょうか。
 2004年3月期の決算において、日本の4つのメガバンクの
業務純益は次のようになっています。業務純益というのは、銀行
の営業収入から経費を控除した経費のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.三井住友銀行 ・・・・・ 10000億円
   2.みずほ銀行  ・・・・・  9541億円
   3.UFJ銀行  ・・・・・  7946億円
   4.東京三菱銀行 ・・・・・  6548億円
―――――――――――――――――――――――――――――
 これで見ると、UFJ銀行は業務純益においては、東京三菱銀
行を上回っています。ところが、金融庁はUFJ銀行に対して次
の指示をしたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 多額の不良債権があるから、1兆2000億円を貸倒引当金と
 して積め。       ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 その結果はどうだったのでしょうか。
 金融庁は、DCFと減損会計の手法を駆使し、資産を評価した
結果、UFJ銀行の最終利益は、マイナス4000億円になって
しまったのです。UFJ銀行は不動産関連融資が多いために狙い
撃ちされた感があります。
 なお、DCFと減損会計の手法については既に説明しています
が、説明が必要な人は次のURLをクリックしてください。
―――――――――――――――――――――――――――――
http://electronic-journal.seesaa.net/article/110324780.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 理解に苦しむのは、なぜ、UFJ銀行をここまでして潰す必要
があったのかです。当時UFJ銀行は預金も減っていないし、株
式市場で同行の株が売られていたわけではないのです。まして金
融市場には金融危機などなかったのです。それなのに、突然の経
営赤字、UFJ銀行としてはどうしようもなかったと思います。
 あったのは「行政リスク」という言葉です。この言葉の意味を
既出の菊池英博教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 行政リスクとは行政府が市場や預金者から不安視されていない
 銀行を意図的に潰しにかかめることをいう。 ――菊池英博氏
―――――――――――――――――――――――――――――
              ――[円高・内需拡大策/25]


≪画像および関連情報≫
 ●4大監査法人とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  現在は以下の4つの大手監査法人を指して「4大監査法人」
  と呼ぶことが多い。なお、かつて4大監査法人の一角を占め
  ていた中央青山監査法人は、2006年に金融庁より業務停
  止処分を受けた。これを受け、一部のメンバーがあらた監査
  法人を設立し、中央青山監査法人はみすず監査法人に改称し
  た。その後、2007年2月に監査業務の継続を断念したみ
  すず監査法人は、顧客企業や会計士を他の三大法人などへ移
  管し、2007年7月31日に解散した。
   1.新日本有限責任監査法人
   2.監査法人トーマツ
   3.あずさ監査法人
   4.あらた監査法人
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

新日本有限責任監査法人のサイト.jpg
新日本有限責任監査法人のサイト
posted by 平野 浩 at 04:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月10日

●「寡占化の進む日本の金融システム」(EJ第2468号)

のUFJ銀行に対して、金融庁はどのように考えていたの
でしょうか。菊池英博氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 当時の金融庁は、次のようなシナリオを強行しようとしていた
 と伝えられている。すなわち、UFJ銀行を潰すために、大口
 の不動産関連融資の処理を急がせ、貸倒引当金を追加して積み
 増しさせる。そして赤字に追い込み、自己資本を毀損(減額)
 させ、自己資本比率が国際基準行として要求されている最低水
 準8%を割らせる。そこで公的資金を注入する。こうして事実
 上破綻させ、一時国有化する。その後、外資や国内銀行に譲渡
 する。つまり、政府は金融不安を起こしていない大手銀行を強
 制的に破綻させ、分割して売りさばこうとしていたのである。
             ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融庁は、UFJ銀行を検察庁に告発したのです。理由は「検
査忌避」です。UFJ銀行は金融庁の検査に当たり、不良債権に
関する資料を隠蔽し、検査を忌避したというのです。
 一般論であるが、主力銀行が貸出先の資産査定をするときは、
いくつかのケースを想定して複数の資料を作成し、貸付先の業態
を検査し、メインバンクとしての対応を決めることになっている
のです。
 UFJ銀行もそういう作業プロセスを経て資産査定をしており
採用にならなかった資料が残っていたのです。その資料の存在を
見つけたUFJ銀行内部の人間が「隠蔽資料がある」と内部告発
したのです。
 その内部告発に基づいてUFJ銀行に乗り込んだ検査官と担当
者の間でその隠蔽されているとされる資料をめぐって言い争いに
なったのです。その結果、金融庁は検査忌避と判断し、UFJ銀
行を検察庁に告発したのです。かなり乱暴な措置です。
 しかし、告発されたUFJ銀行首脳は資料の隠蔽を認め、罪を
認めたのです。裁判の長期化による信用の失墜を恐れたのです。
かくして、UFJ銀行は、2004年7月14日に東京三菱銀行
に合併を申し入れ、2005年10月に現在の三菱東京UFJフ
ィナンシャル・グループが誕生したのです。
 両行の合併は2006年1月に行われたのですが、これで日本
はメガバンク3行による世界一の寡占化の進んだ体制になったの
です。この体制がいかに問題があるかは改めて検証します。一体
金融庁は何を狙ってUFJ銀行を潰したのでしょうか。
 既に述べたように、2004年3月期においては、業務純益の
最も少なかった東京三菱銀行が、それより多い業務純益を持つU
FJ銀行を吸収合併したのです。合併後の2006年3月期の決
算によると、三菱UFJフィナンシャル・グループの税引き後利
益は、3大メガバンクの中で最高の1.1 兆円となったのです。
これは、バブル期を上回る収益といわれたものです。
 ところがです。その中身が問題なのです。その税引き後利益で
ある1兆1000億円のうち、7000億円は2年前にUFJ銀
行が金融庁命令によって、貸倒引当金として積み増しさせられた
1兆2000億円の戻りなのです。
 強制的に積み増しされた貸倒引当金の60%が2年後に戻ると
いうことは、それが不良債権から一転正常債権に復帰したことを
意味しています。普通このようなことはあり得ないことです。そ
れは、2004年3月期の検査時の金融庁の貸出金の査定がいか
に不適切であったことを示しているのです。
 もっと重要なことがあります。もし、戻り額である7000億
円の積み増しをしないで済んだと仮定すると、2004年3月期
のUFJ銀行の貸倒引当金の積み増しは5000億円ほどである
ので、経常利益が3000億円は出ていたはずなのです。UFJ
銀行は健全行だったのです。それをなぜ、潰したのでしょうか。
 菊池英博氏は、これについて「金融庁はどう責任を取るのか」
として、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 当時の金融庁担当大臣、検査責任者には重大な責任がある。検
 査の不適正ばかりではない。すでに述べたように、UFJ銀行
 を合併に追い込み、超メガバンクをつくることで、金融システ
 ムを寡占化し、硬直化し、弱体化させたのである。こうした点
 から見ても、金融庁の重大な失政であり、行政の責任は重大で
 ある。         ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在の日本には、国際基準行は次の5つありますが、メガバン
ク3行のシェアは圧倒的であり、実質的に3行体制です。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.みずほフィナンシャル・グループ
     2.三井住友フィナンシャル・グループ
     3.三菱FUJフィナンシャル・グループ
     4.中央三井信託銀行
     5.住友信託銀行
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界第2の経済大国で、国際基準行が3行というのはあまりに
も少ないのです。日本の国内市場で、メガバンク3行が預金と貸
出金でどのくらいのシェアを占めているか知っておく必要があり
ます。2006年3月末のデータでいうと、奇しくもともに41
%なのです。添付ファイルの表をごらんください。
 3大メガバンク3行で預金も貸出金も4割を占有しているとい
うことは、金利、手数料といった料率を3大メガバンクが独占的
に決定できるポジションを占めているということです。
 それに預金総額でいうと、こういう独占状態は、米国では承認
されないのです。このような金融システムはきわめて不安定であ
るといえます。       ――[円高・内需拡大策/26]


≪画像および関連情報≫
 ●日本経済を破壊する巨艦メガバンク
  ―――――――――――――――――――――――――――
  たった2年前の春のことだ。バブル崩壊後の不良債権問題が
  片付いたメガバンクは、2006年3月期決算において、そ
  れぞれ約1兆2066億〜5200億円の最終利益を計上、
  大手銀行合算の最終利益は、バブル景気前を含めて過去最高
  を記録した。これを受けて大手マスコミは、「バブル崩壊後
  の痛手からメガバンクが立ち直った」と喧伝、東京・日本橋
  本石町の日銀本店内にある金融記者クラブに姿を見せた各メ
  ガバンクのトップは、「これからは攻めの経営に転じる」と
  一様に笑顔を見せた。       ――「日刊サイゾー」
  http://www.excite.co.jp/News/society/20080612/Cyzo_200806_post_624.html
 ●グラフ出典/寡占化が進む日本の金融システム
   。         ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
  ―――――――――――――――――――――――――――

寡占化が進む金融システム.jpg
寡占化が進む金融システム
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2008年12月11日

●「異常に少ない日本のメガバンク」(EJ第2469号)

 海外進出の国内大手銀行は3つではあまりにも少ない――この
ようにいった人は多くいるのです。これに対し、竹中金融担当相
(当時)は、米国、ドイツも3つであるし、英国も4つであると
答えています。次のデータをご覧ください。
―――――――――――――――――――――――――――――
     海外進出大手銀行数   銀行総数  GDP比較
  日 本       3行  1414行    100
  米 国       3行  8000行    260
  ドイツ       3行  3500行     50
  英 国       4行  1700行     40
  カナダ       6行   150行     18
                 ★2006年3月末現在
          GDPは日本を100とした数字である
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中氏という人は頭がよくて頭の回転が早い人です。それにな
かなか弁が立ちますので、一気にまくしたてられると、かなり金
融に詳しい人でもちょっと反論できないのです。しかし、いって
いることには大きな問題があるのです。
 まず、日本の3行はGDPとの比較でいうと、明らかに少な過
ぎるのです。しかし、日本の倍以上のGDPのある米国も3行で
はないかといわれると、米国の金融の事情を知らない人は何もい
えなくなってしまうと思います。
 まず、米国の場合、確かに世界各地に海外進出している国際銀
行は3行ですが、各州の大手銀行が海外取引をしているので、本
当に巨大な国際銀行は3行で十分であるといえます。
 もうひとつ、米国には銀行同士の合併に対して、預金保険機構
の2つのルールがあり、合併による大銀行は作りにくいのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.預金保険機構10%ルールによる合併制限
   2.隣接州預金保険機構30%による合併制限
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の「預金保険機構10%ルールによる合併制限」というの
はどういう制限なのでしょうか。
 これは、全国規模で営業拠点を持つひとつの銀行グループに対
する預金保護額は、預金保険機構の全保護額の10%を限度とす
るというルールです。
 日本の3大メガバンクにこれを置き換えると、各行の預金額が
国内銀行の預金総額に対してどのくらいのシェアを占めているか
を見ればよいのです。昨日のEJの添付ファイルを見ればわかり
ますが、それぞれのシェアは10%を超えているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
            国内預金総額に対するシェア
    みずほFG             12%
    三井住友FG            12%
    三菱UFJFG           17%
              ★2006年3月末現在
―――――――――――――――――――――――――――――
 したがって、米国では、東京三菱銀行とUFJ銀行の合併のよ
うなケースは認められないのです。
 続いて、第2の「隣接州預金保険機構30%による合併制限」
の説明です。
 これは、隣接する州に営業拠点を持つひとつの銀行グループに
対する預金保険機構の預金保護額は、その地域における預金保護
額全体の30%を限度とするというルールです。
 これを日本の3大メガバンクに置き換えて、各行の預金総額が
3大メガバンク全体の預金総額に対してどのくらいのシェアを占
めているかを調べてみましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
              3大銀行に占めるシェア
    みずほFG             29%
    三井住友FG            29%
    三菱UFJFG           42%
              ★2006年3月末現在
               3大銀行合計=100
―――――――――――――――――――――――――――――
 これによると、みずほと三井住友は30%以下ですが、三菱東
京UFJ銀行は42%であり、これに貸出金を加えると、3行中
45%前後まで跳ね上がるのです。米国でいう30%ルールに明
らかに違反しているのです。このような無理で強引な銀行の合併
を金融庁はなぜやったのでしょうか。
 日本の銀行は総数からいっても、その経済規模に比して明らか
に少ないのです。先述しているように、米国の場合は各州の大手
銀行が海外の銀行と直接取引しており、国際銀行としての役割を
果たしているのです。
 これに対して日本の場合は、海外の銀行と取引しているのは、
たったの3行なのです。地方銀行が国際取引をするときはメガバ
ンクを通さないとできないのです。それをわざわざ健全行である
UFJ銀行を難くせをつけて潰し、3行にしてしまったのはその
ウラに米国の影が見えるのです。なぜ、日本は政府もメディアも
国民もこのことに関して無関心なのでしょうか。これらがいずれ
も小泉政権のときに進められたことに留意すべきです。
 ドイツの銀行は日本の2.4 倍の銀行を持っています。ドイツ
は名目GDPは日本の半分ですから、それに引き直すと、ドイツ
の銀行の数は実質的に日本の5倍になるのです。
 日本は、その経済規模から見て、少なくとも6行〜7行の海外
進出銀行が必要なのです。竹中金融担当相は、つねづね「日本は
オーバーバンキングである。だから、バブルが起こった」といっ
ていました。これはどういう意味でしょうか。「オーバーバンキ
ング」は銀行の数のことをいっているのではないのですが、明日
のEJで説明します。    ――[円高・内需拡大策/27]


≪画像および関連情報≫
 ●「預金保険機構」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  預金保険機構は、日本の預金保険方に基づき1971年7月
  1日、アメリカ合衆国における連邦預金保険公社――FDI
  Cをモデルに設立された認可法人。預金者等の保護と信用秩
  序の維持を主な目的とする。補償額もほぼ同様の預金者一人
  当たり1000万円――FDICは10万米ドル。 日本の
  金融機関で預金保険が使用される枠組は、資金援助方式と、
  直接預金保険機構が預金者に保険金を支払う保険金支払方式
  ――ペイオフの2つがある。     ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

三菱東京UFJ銀行本店.jpg
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2008年12月12日

●「メリットの少ないメガバンク統合」(EJ第2470号)

 「日本はオーバーバンキング――銀行過剰である」――これは
竹中元金融担当相が口ぐせのようにいっていたのです。ここでい
うオーバーバンキングというのは、銀行の数が多いということで
はなく、銀行に資金が集まり過ぎて、銀行の資金供給量が多過ぎ
る――すなわち、資金の供給量が需要よりも大きいという意味な
のです。
 しかし、この議論は少しおかしいのではないでしょうか。19
85年から1990年にかけてのバブルのときのことですが、証
券投資がさかんに行われたのです。つまり、銀行の預金が下ろさ
れて証券投資に向かったのですが、そういうときでも銀行の預金
量は増えているのです。
 これは日本人に貯蓄志向のタイプの人が多いことを示しており
オーバーバンキングはそこからきているのです。しかし、そうで
あれば、銀行の数が少ないのは問題です。なぜなら、銀行の数が
少なくなると、ますます銀行に資金が集中し、オーバーバンキン
グの状態になるからです。
 さらに、現在はペイオフが完全に実施されており、銀行の数が
減ると、預金者にとっては資金を分散させることが困難になりま
す。なぜなら、預金保護限度額は一つの銀行が単位となって設定
されているからです。ペイオフでは、銀行が大きいか小さいかは
問題ではないからです。そういうときに、健全行であったはずの
メガバンクを減らす必要がどこにあったのか、非常に疑問に感じ
るのです。
 心配なのは、これからも銀行の統合は進むと考えられます。現
在、地方銀行が大変厳しい状況ですが、もしそういう地方銀行の
いくつかが経営不振に陥ると、銀行の持ち株会社の下でそれらの
銀行が経営統合され、一年後にはひとつの銀行になるというよう
に、銀行の数はますます減って行くと考えられるからです。
 預金者の預金先が減るということは、金融システムの不安要因
につながるのです。したがって、地域銀行を育成強化する政策が
必要なのですが、小泉政権はその地方を徹底的に斬り捨てたので
す。地方銀行を育成・強化し、地方の経済発展の基盤を作る――
そのためには地方分権を一層促進する必要があるのです。このよ
うに考えると、小泉政権のいわゆる「改革」とはいったい何のた
めの改革だったのでしょうか。
 銀行の統合によって何が得られるのでしょうか。それは、次の
2つの利益が得られるとされています。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.「規模」の利益
         2.「範囲」の利益
―――――――――――――――――――――――――――――
 銀行の合併の場合、これら2つの利益により、銀行の収益が増
加し、不良債権処理が可能になって、銀行経営が安定化するとい
われます。本当でしょうか。
 規模の利益とは、合併によって業容が拡大すると、必要経費が
売り上げ増加に比して少なくてすむので、合併前よりも収益は増
加するというのです。また、範囲の利益とは、合併前にはなかっ
た新分野が拓けて、利益が増加する――こういう理屈なのです。
 しかし、実際にそうなっているのかというと、必ずしもそうで
はないのです。
 菊池英博氏は、銀行の合併がうまくいっていない事例として、
現在の三菱東京UFJ銀行のケースを取り上げて、次のように述
べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1996年4月に合併した東京銀行と三菱銀行、その後にグル
 ープ入りした三菱信託銀行の例を見ると、合併直前の1996
 年3月期の業務純益(銀行の広義の営業純益)では、東京銀行
 が2322億円、三菱銀行が4128億円、三菱信託銀行が2
 043億円で、合計8493億円であった。しかし、2004
 年3月期の業務純益は合計6548億円に過ぎず、8年間で約
 2000億円も減少している。
             ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、UFJ銀行が存続していれば、どうなったでしょうか。
 2004年3月末で、預金額53兆円、貸出は42兆円、預金
と貸出ともに全銀行のシェアは10%、4大メガバンクのシェア
では21%――きわめて安定しており、潰す必要などまったくな
かったのです。対米約束で、どうしてもメガバンクを一行潰した
かったのでしょう。情けない話ではあります。
 つい先日のことです。あのイラクで米軍との間で地位協定が結
ばれたのですが、イラクは米軍に相当厳しい条件を飲ませたとい
うのです。あのイラクでさえそうなのです。
 それに比べて日本はどうでしょう。50年もやっていて、米軍
に必要以上の貢献をしている日本であるのに、依然として屈辱的
な協定内容に甘んじている――政府も情けないが、国民の無関心
もひどいものだと思います。
 大手銀行首脳への揺さぶり、りそな処理、UFJ潰し――この
間に一貫してそれを指揮する最高の権限を有していたのが竹中平
蔵氏なのです。念のため、竹中氏の大臣履歴を示します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪特命大臣として経済財政政策担当相≫
  2002年 9月30日〜2003年 9月22日
 ≪内閣府特命担当大臣(金融担当)を兼務≫
  2003年 9月22日〜2003年11月19日
  2003年11月19日〜2004年 9月27日
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように竹中氏は、問題の期間の最高権力者の地位にいたの
です。そして、最後の仕事は「ダイエー潰し」だったのです。
              ――[円高・内需拡大策/28]


≪画像および関連情報≫
 ●特命担当大臣とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  特命担当大臣とは、中央省庁再編に伴う内閣府設置法の施行
  により、2001年1月6日に法制化された職位であり、国
  務大臣をもって充てられる。内閣府にのみ置かれるため辞令
  (官報への掲載)での正式表記は「内閣府特命担当大臣」で
  あり、実際には「内閣府特命担当大臣(金融担当)」のよう
  に括弧付きで担当事務が付される。定数については特に定め
  られていないが、「沖縄及び北方対策担当」と「金融担当」
  は必置とされている。        ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

「UFJ消滅」.jpg
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2008年12月15日

●「ダイエーはどうして潰されたか」(EJ第2471号)

 今から考えると、何もかも最初から計画されていたのではない
かと思われるのです。金融再生プログラムには次の目標があった
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2005年3月の大手銀行の「不良債権比率4.2 %以下」
 にする。         ――金融再生プログラムの目標
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融再生プログラムの発表は2002年10月のことです。竹
中平蔵氏は、2002年9月に大臣になると、早くもこの計画を
発表し、「改革」の名の下に物凄いスピードで不良債権の処理に
乗り出したのです。
 「不良債権比率4.2 %以下」の目標は、2001年度の大手
行の不良債権比率8.4 %の半減なのです。ちなみにこの不良債
権比率8.4 %自体が意図的に作り出されたものであることにつ
いては既に述べた通りです。
 この意図的な不良債権比率のかさ上げの道具に使ったのが、D
CF方式と減損会計なのです。それから小泉政権はもう一つの仕
掛けを用意したのです。それは、2003年4月に不良債権処理
機能と企業の再生を目的とする「産業再生機構」の設立です。
 そして、2003年5月にりそな銀行を実質国有化し、同じ年
の11月には足利銀行を一時国有化しています。足利銀行の場合
は、監査法人は「税効果資本はゼロである」と通告したことが破
綻の原因です。しかし、足利銀行は破綻の6ヶ月前に自己資本は
8.5 %あったのです。しかし、監査法人が税効果資本は認めな
いという判断ひとつで破綻してしまったのです。これはまさに、
「会計恐慌」そのものです。
 そして、2004年のUFJ銀行潰しがあったのですが、いず
れも金融庁はDCF方式と減損会計という道具を使い、その不良
債権を産業債機構に肩代わりさせて、不良債権比率を下げてきた
のです。ひたすら、目標の4.2 %以下を狙ったわけです。
 2004年後半の時点で、実は目標の4.2 %以下は達成が困
難だったのです。もっと大きなところを潰す必要がある――そし
て、目をつけられたのがダイエーなのです。
 ダイエーは、新店舗展開のために大量の土地を買い、バブル後
の景気低迷と小売業の競争激化によって収益が伸び悩んでいたの
です。それに加えて有利子負債が非常に多く、経営を圧迫してい
たのです。
 しかし、2002年から2003年にかけて、ダイエーは、当
時の高木邦夫社長が指揮して、一年ちょっとで一兆円を超す有利
子負債を減らしており、経営そのものは順調に推移していたので
す。ダイエーに資金を貸し出しをしている銀行としては、そうい
うダイエーの努力を多として不良債権にしていなかったところも
あるほど経営努力は評価されていたのです。
 しかし、金融庁は血も涙もなかったのです。各行のダイエーに
対する貸出金を強制的に産業再生機構に移すよう強力に働きかけ
たのです。これをやると、ダイエーに対する不良債権となってい
る貸出金を公的資金で肩代わりすることができ、銀行の不良債権
が減るのです。
 その結果、金融再生プログラムに掲げた「不良債権比率4.2
%以下」の目標を達成することができたのです。ダイエーはその
ために潰されたといっても過言ではないのです。
 産業再生機構についてもう少し詳しく述べます。この機構は特
別法によって設立された株式会社です。民間が出資して設立され
たのですが、不良債権を買い取るための借入資金枠は10兆円で
これには政府保証がついているのです。
 不良債権を抱える銀行は金融庁の指示――形式的には銀行から
の申請――によって、不良債権の一部を債務放棄して残りを産業
再生機構に買い取ってもらうのです。同機構としては、その企業
の再生の道を模索し、企業再生の目途のついた企業は、それを健
全債権として買取希望企業に売り渡すのです。
 しかし、いったん産業再生機構に送られて再生できる企業は少
ないのです。しかし、ダイエーは、2006年9月に大手商社丸
紅がダイエーに対する貸出債権を買い取り、現在もダイエーは再
建を進めているのです。
 しかも、丸紅はダイエーが産業再生機構で処理される前から、
ダイエーと再建を協議しており、同機構に送る必要などなかった
のです。しかし、政府は自らが立てた不良債権比率削減の目標を
達成し、小泉政権の改革の成果として強調したいとの野心で、潰
す必要のないダイエーを潰したのです。
 こうした竹中・小泉政権について、既出の菊池英博氏は次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融庁は、小泉デフレ政策であえぐ企業が必死に債務を削減し
 てきたのを無視して、官製の産業再生機構へ貸出債権を売却す
 ることを指示したのである。竹中平蔵氏は市場型行政を盛んに
 唱えながら、実際には「市場原理に反する手法」(金融庁によ
 る偽装恐慌)によってダイエーを潰した。一真性を欠く行政で
 あった。ダイエーはダイエー自身の再生方針に任せておくべき
 であった。ダイエーが金融不安を引き起こしているという状況
 はまったくなかったのだから、再生機構が介入する理由は存在
 しなかった。任せておいたほうが、はるかによい結果になった
 であろう。       ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう一連の竹中・小泉政権のやり方を見ていると、入念に
仕組まれた計画と考えられます。当局としては、UFJにしても
ダヘイエーにしても外資に買い取らせたかったのでしょうが、そ
れと察した日本企業が必死で引き取ったものと思われます。
 竹中・小泉政権の唱えた「改革」なるものとは、一体何だった
のでしょうか。       ――[円高・内需拡大策/29]


≪画像および関連情報≫
 ●産業再生機構とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  産業再生機構とは、返済が遅延して「要管理先」などに分類
  された金融機関の不良債権のうち、再建できそうな企業の債
  権を買い取りメインバンクと協力してその企業を再生させる
  ことを目的とした株式会社である。企業が複数の銀行から融
  資を受けていると、銀行間で自行の返済を優先させたい思惑
  がからんで再建計画がスムーズにまとまらない傾向があるが
  政府の主導する、多額の資金とタイムリミットを設定した組
  織なら再建しやすくなるというのが設立の狙いである。再生
  機構は7人の委員からなる再生委員会を設置し、再建可能な
  企業かどうかを判定する。
    http://www.wombat.zaq.ne.jp/matsumuro/LEC16-11.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

ダイエー.jpg

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2008年12月16日

● ● ●「郵政民営化の見直しは必要である」(EJ第2472号)

 2008年12月9日のことです。郵政民営化の推進を求める
会合が小泉元首相が出席して開かれたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉元首相らが9日、自民党の議員連盟「郵政民営化を堅持し
 推進する集い」を発足させた。麻生内閣で郵政民営化反対組が
 次々と政権中枢に入り、民営化見直しの機運が出てきたことへ
 の危機感からだ。麻生首相の出方次第では、同議連の動向が政
 局に連動する可能性もある。     ――アサヒ・コムより
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉首相が狂気のように取り組んだ郵政民営化とは何だったの
でしょうか。
 現況を確認しておくことにします。元郵政公社は日本郵政株式
会社に衣替えしています。その傘下に100%出資会社として次
の4つの会社があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.郵便事業株式会社
   2. 郵便局株式会社
   3.  郵便貯金銀行 ・・・ ゆうちょ銀行
   4.  郵便保険会社 ・・・  かんぽ生命
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに大きな問題があるのです。それは、2017年10月ま
でに「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」の株式を市場で100%
売却することになっていることです。これは当時の小泉首相の指
示で決まっているのです。
 ちなみに、「郵便事業株式会社」と「郵便局株式会社」は20
17年10月の時点でも日本郵政株式会社の子会社として存続し
政府は日本郵政株式会社の株式の3分の1強を保有し続けること
になっているのです。
 そもそも郵政民営化の目的は何なのでしょうか。
 当時小泉政権の中心幹部たちは、次のことを繰り返しいってい
たのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 郵政民営化によって、公的部門に流れていたお金を民間部門に
 流せば経済は活性化する       ――郵政民営化の目的
―――――――――――――――――――――――――――――
 これがいかに現実に合っていないかは、リチャード・クー氏の
理論によって明らかでしょう。今回の金融危機の前までは民間部
門にはお金が余っており、金融機関の融資額よりも返済額の方が
大きい状態が続いていたのです。むしろ、政府部門がお金を必要
としてきているのです。
 こういうときに民間銀行と郵政公社は、預貯金の取り入れでは
競合関係にないので、相互に補完しあえるのです。このような金
融危機のときは、郵政公社が国債を引き受けてくれれば、民間銀
行は民間貸し出しを優先できるので、郵政公社を民営化する必要
など、どこにもないのです。
 それでは何のための民営化だったのかというと、それは米国か
らの強い要望だったのです。具体的には、米国政府から毎年送ら
れてくる「年次改革要望書」なるものです。
 この「年次改革要望書」は、1993年に開催された日米首脳
会談――宮澤首相・クリントン大統領――その翌年から毎年日本
に届けられることになったのです。その内容は米国では公開され
ているのですが、日本では政府もマスコミも公表しないのです。
 米国が執拗に迫ってきたのは、「簡易保険の民営化」の要求な
のです。この要求は、1995年から毎年年次改革要望書に載せ
られていたのです。要求の具体的内容は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ・簡易保険の民営化
 ・簡易保険が扱う商品を民間と同じ条件で競争させること
―――――――――――――――――――――――――――――
 驚くべきことは、2005年の「郵政公社民営化法案」の作成
に当たっては、国会審議の過程で、郵政民営化準備室が米国の生
命保険協会と実に17回にわたって協議をしているのです。一体
どこの国の法案を作っているのでしょうか。
 なお、この内容についても米国ではすべて公開されているのに
日本では非公開になっています。なぜ、隠すのでしょうか。この
状況を見ても、郵政民営化をいかに米国が望んでいたかを知るこ
とができます。米国の狙いは何なのでしょうか。
 この問題について、植草一秀氏は、「植草一秀の『知られざる
真実』」において、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 郵政民営化は、日本郵政が保有する巨大な優良資産を米国資本
 が収奪するために実行されている疑いが極めて強い。米国の金
 融資本は350兆円の郵政資金をターゲットにしているだけで
 なく、日本郵政が保有する巨大な不動産資産をも標的にしてい
 ると考えられる。麻生首相が郵政株式の売却凍結を口にした途
 端、激しい麻生首相バッシングが噴出している。テレビ朝日は
 小泉元首相、中川秀直元自民党幹事長、飯島勲元秘書、小泉チ
 ルドレンを画面に登場させ、郵政民営化見直し論議を封じ込め
 ようとしているように見える。
 http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-285e.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 郵政民営化については国民は、あの郵政選挙によって必要以上
の票を小泉政権に投じているので、民営化の進展についてやや寛
大なところがあります。
 今回の麻生首相の株式売却の凍結発言についても、改革派と称
する議員が直ちに集まって「改革後退反対」を唱える動きに賛同
する人は少なくないのです。
 しかし、それは間違っています。仮にかんぽ生命が外資に買収
されたら、どうなるのでしょうか。国民はそのことをもっと真剣
に考えるべきです。     ――[円高・内需拡大策/30]


≪画像および関連情報≫
 ●年次改革要望書とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  年次改革要望書は日本政府と米国政府が両国の経済発展のた
  めに改善が必要と考える相手国の規制や制度の問題点につい
  てまとめた文書で、毎年日米両政府間で交換される。「成長
  のための日米経済パートナーシップ」の一環としてなされる
  「日米規制改革および競争政策イニシアティブ」に基づきま
  とめられる書類であり、正式には「日米規制改革および競争
  政策イニシアティブに基づく要望書」と称する。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

小泉元首相登場!.jpg
小泉元首相登場!
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2008年12月17日

●「郵政完全民営化は日本に何をもたらすか」(EJ第2473号)

 米国は、日本の郵政民営化に対して何を期待して強い要求を出
してきたのでしょうか。
 そのひとつの答えがここにあります。添付ファイルを見てくだ
さい。これは米国の国債保有状況をあらわしたグラフです。20
06年3月末現在の数字です。
 2006年3月末の国債発行額は、8.4 兆ドル(約920兆
円)であって、このうち25%は外国人が所有しています。その
外国人所有の40%は日本が持っています。米国としては日本は
信頼できるものの、残りの60%――1.3 兆ドルが不安のもと
になっています。
 そこで、米国としては日本以外の60%を安定した投資家に所
有してもらいたいが、できれば日本の持ち分をもっと増やしても
らえれば安心である――そこで、郵政公社を民営化させ、その保
有資金の120兆円で米国の国債を買ってもらう。そうすれば、
米国の国債調達構造が安定化するという虫のいいことを考えたの
ではないかと思われるのです。
 現在、日本にとって心配なのは、日本郵政株式会社が所有して
いる国債、財投債、預託金の合計266兆円が今後どうなるかな
のです。これが日本に残るのか、海外に流出するのかによって、
日本の金融市場と金融システムへの影響は大きく変わってくるこ
とになります。
 既に述べたように、2017年までにゆうちょ銀行とかんぽ生
命の株は100%市場で売却されることになっています。そうす
れば、必然的に外資が入ってくることは防ぎようがないのです。
 もっとも良くないシナリオを考えた場合、日本は世界一の債権
国でありながら国内は資金不足になり、新規国債の発行もままな
らない事態になり兼ねないのです。国内資金が国内で投資されず
海外に流出してしまうからです。
 どうしてそのような事態が起きるのかについて、ひとつずつ考
えていきましょう。
 完全民営化のさいにかんぽ生命は、ほとんど外資に買収される
可能性が高いといえます。それでは、仮にかんぽ生命が外資に買
収されたら、いったい何が起こるのでしょうか。
 日本国債中心の運用をしているかんぽ生命の債券投資85兆円
は、金利が低いので、外資中心に投資される可能性が高くなりま
す。そうすると、国債の国内での書き換えができなくなり、国債
が消化できなくなるので、国際価格は暴落して長期金利が急騰し
ます。資金は「官から民へ」ではなく、「官から外へ」という大
変な事態になってしまうのです。
 ゆうちょ銀行でも同じことが起こります。ゆうちょ銀行の総資
産は248兆円もあり、負債である郵貯残高は200兆円です。
メガバンクの筆頭である三菱東京UFJ銀行の資金量は約100
兆円ですから、ゆうちょ銀行は2倍の資産と預貯金を持っている
ことになります。メガバンク3行全部の資金量245兆円とほぼ
同じ資金量を持つ巨大な銀行になるのです。
 このような巨大な資金量を誇るゆうちょ銀行にも外資が入って
きます。そうすると、当然保有資産は金利の高い海外の投資証券
に振り向けられ、日本国債の書き換えや新規引受けは減少するこ
とになります。そうすると、やはり国債の市場価格は下がり、長
期金利は上昇することになります。
 さらにこれほどの超メガバンクが登場すると、地域銀行が苦し
くなり、収益が減少します。それに完全民営化されると、外資も
入っていることでもあり、ゆうちょ銀行は住宅ローンや中小企業
貸し出しも積極的にやるようになるなど、資金量にものをいわせ
るダンピング的商法も行うはずです。それによって地域銀行の収
益は確実に圧迫されるのです。
 それに加えて、金融庁の過度な管理行政が行われれば、自己資
本比率規制、早期是正措置、ペイオフによってますます地域銀行
は萎縮し、姿を消していくことになると思われます。そうすると
銀行の数は少なくなり、預金はますますメガバンクへとシフトす
るのです。
 その結果、その資金の多くの部分は海外に出ていき、国内は資
金不足になってしまう恐れがあります。それに伴い、新規国債の
発行は制約され、短期金利も上昇することになります。これによ
り、世界一の債権国でありながら、国内では長期金利も短期金利
も上がり、たちの悪い不況――スタグフレーションが定着するこ
とになるのです。
 このような郵政民営化の進展が、これからの日本経済にどのよ
うな影響を与えてくるのかについて、既出の菊池英博氏は次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2006年3月現在で「郵便貯金198兆円とその他」は、国
 債124兆円と預託金80兆円に運用されており、少なくとも
 この半分(100兆円)は外債に向かうであろう。また、「簡
 易保険」の「保険契約準備金116兆円」は、ほとんど海外に
 投資されるであろう。こうして約200兆円(郵政公社保有の
 資金合計350兆円の約60%)が国内から海外への投資に回
 されると推測されよう。現状のままで対策を講じなければ、こ
 うした現象は、今後10年間で必ず発生するであろう。もはや
 地方ばかりでなく、日本の金融市場全体に大きな激震が起こり
 金融システムが破壊されることは問違いない。金融市場には潜
 在的な不安定要素が広がり、ある時点で突発的に金融危機や金
 融恐慌に発展するであろう。この点は、今からはっきりと予言
 しておきたい。     ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、完全民営化後のゆうちょ銀行やかんぽ生命では、資本
の利益が最優先されて、日本の国益など二の次三の次にされてし
まうでしょう。このまま何の対策も講じなければ、日本の金融は
危機を迎えるでしょう。   ――[円高・内需拡大策/31]


≪画像および関連情報≫
 ●長期金利とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  長期金利とは、償還期間の長い債券や満期までの期間が長い
  金融資産や負債の金利。期間が1年未満が短期とされ、1年
  以上が長期とされることが多い。残存期間が10年に最も近
  い国債の金利が日本では代表的な長期金利である。長期金利
  は、長い償還期間という理由からいくつか特徴がある。
   1.     物価変動の予測に左右される
   2.住宅ローンなど、長期融資の金利の基準
                    ――ウィキペディア
 ●図表の出典
――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
  ―――――――――――――――――――――――――――

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米国の国債保有者内訳
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2008年12月18日

●「小泉政権は何をやったのか」(EJ第2474号)

 ここで小泉・竹中政権が、いわゆる「構造改革」と称して、強
行したことは、次の4つです。これらがいかに日本を駄目にした
か、計り知れないものがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.財政面では、緊縮財政政策の実施によって、財政赤字削減
   を実現しようとしたこと
 2.金融面では、不良債権の加速処理で、「銀行等」の貸し出
   しを増やそうとしたこと
 3.国家のビジョンを明確にしないで、安易に「規制緩和」や
   「民営化」を行ったこと
 4.道路公団と郵政公社を民営化し、いかにも「改革」である
   ように宣伝していること
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレが進行しているときに緊縮財政を取る――そうすればデ
フレは一層深刻化し、財政赤字の拡大と政府債務の増加を引き起
こすことは、歴史的にも明らかなことです。
 1930年代においてフーバー米大統領は、デフレの下で緊縮
財政政策を取って大恐慌を引き起こしていますが、そのフーバー
大統領と小泉元首相は何も変わらないと思います。米国では、フ
ーバー大統領のことを「ザ・ワースト・プレジデント」と呼んで
いますが、小泉氏も後世同じように呼ばれるものと思われます。
次の歴史の名言がありまいす。
―――――――――――――――――――――――――――――
    愚者は「経験」に学び、賢者は「歴史」に学ぶ
―――――――――――――――――――――――――――――
「歴史」から学べない人――つまり、他人の経験から学べない人
は「愚者」なのです。よく歴史を引き合いに出す小泉元首相も肝
心のことはわかっていなかったということになります。
 小泉元首相は、慶応義塾大学の経済学部に学びながら、「自分
は経済のことはわからない」という人です。まさにその通り、国
の財政赤字の巨大さにのみ目を奪われ、経済の状況を考慮するこ
となく、緊縮財政政策を取ったものと思われます。おそらくこれ
は小泉氏自身の考え方であり、周りのイエスマンはそれに逆らわ
なかったものと思われます。
 このデフレ下の緊縮財政政策の強行が、金融機関の不良債権を
増加させ、「不良債権の処理」をしなければならない状況がつく
りあげられたということができます。不良債権の処理の矛盾つい
ては、既に述べた通りです。
 それから規制緩和――これは「規制を緩和すればすべて良くな
る」という考え方のもとで、小泉政権下で行われてきているよう
に思われます。「規制は悪で規制緩和は善」という考え方です。
 しかし、そもそも「規制緩和」とは何でしょうか。
 そもそもさまざまな社会活動に規制をかけるのは、平均的な事
象というかレベルからの逸脱を防ぐという点にあるのです。もし
規制をかけないと物事が乱れるというのであれば、そういう規制
は必要であり、緩和すべきではないのです。
 しかし、平均レベルよりも大きく伸びようとするときにブレー
キになるような規制は、緩和するか撤廃すべき規制ということに
なります。あること――産業や技術などを大きく伸長させるとい
う国家計画があれば、当然それに関わる規制は抜本的に緩和する
か廃止すべきです。
 規制緩和はそういう国家ビジョンというか国家計画に基づいて
政府が個別に判断して行うべきですが、小泉政権ではそういう明
確な国家ビジョンなしに、個別の考慮もなく規制緩和が行われて
いるのです。その結果が、現在の社会的風潮を生んだのです。
 小泉政権の規制緩和に象徴されるのは、ライブドア事件や村上
ファンドのような詐欺的犯罪行為です。そういうものを正当化す
る社会的風潮ができてしまったからです。
 雇用情勢の不安定化から食品偽装や振り込め詐欺まで、まさに
現在の日本はモラルが崩壊してしまっています。こういう社会的
風潮を形成した原因の一端がビジョンなき規制緩和にもあると思
うのです。
 「鳥有亭日乗」というサイトでは、「規制緩和の功罪」につい
て的確な意見が述べられています。規制には「抑圧」と「支持」
の2つの側面があるとし、規制緩和を善とするためには次のこと
が必要であるとしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 規制緩和を社会的善とするためには、成長に対して抑圧となる
 規制は撤廃し、頽落に対して支持となる規制は維持または強化
 することによって方向付けをすることが重要となる。この方向
 付けこそが将来に対する賭であり、大きな政治的選択である。
 奨励する必要がなくなることにより軽減される負担と規制緩和
 によって得られる成果の総和が、規制がなくなることにより節
 減できる費用と発生する損失の総和を上回る未来を手にするこ
 とができなければ、結果として将来は暗澹たるものになるであ
 ろう。          ――「鳥有亭日乗」のサイトより
―――――――――――――――――――――――――――――
 規制緩和を主張する人は、それによるバラ色の未来を語るが、
バラ色の未来だけでなく、それがもたらす可能性のある悪につい
ても述べる必要があるのです。それを「改革」という名の大義名
分のもとに強行し、現在の状況になっているのです。
 そして、何よりも重要なのは「郵政公社の民営化」です。小泉
元首相はすべてをかけたといってよい郵政民営化――その前途は
きわめて不透明です。昨日のEJで、このまま郵政の民営化に対
して何の手だても講じなければ、日本は世界最大の債権国である
のに、国内では長期金利も短期金利も上昇し、たちの悪い不況が
定着する――このように述べましたが、とくに長期金利が上がる
というのはとても気がかりなことです。この点についてはこの後
検討していきたいと考えています。
              ――[円高・内需拡大策/32]


≪画像および関連情報≫
 ●「規制緩和」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  規制緩和とは、経済学や公共政策などの文脈で、ある産業や
  事業に対する政府の規制を縮小することを指す。市場主導型
  の産業のあり方が望ましいと考えられる際にとられる基本的
  な政策手段のひとつで、市場競争を促進し経済活性化を果た
  すために採用されるが、導入による弊害の解決のため、セー
  フティーネットなどの構築が必要とされている。近年では単
  なる規制の撤廃・縮小だけではなく、全体的な制度改革を実
  行するとの意味合いから規制改革とも呼ばれる。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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小泉政権
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2008年12月19日

●「日本郵政は米国に出資せよ/竹中発言」(EJ第2475号)

 小泉・竹中政権がなぜあれほど「郵政民営化」にこだわったの
でしょうか。小泉元首相の昔からの政治目標であったとよくいわ
れていますが、本当にそうでしょうか。
 最近になって、その理由が少しずつ見えてきた感があります。
それは、2008年4月21日に、竹中平蔵氏の、あるテレビ番
組での発言がキッカケとなったのです。ただ、その番組がBS朝
日の番組だったので、一般にはあまり伝わっておらず、もっぱら
ネットの世界で話題騒然になったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   − BS朝日/経済誌ダイヤモンド(電子版)−
   『民営化された日本郵政はアメリカに出資せよ』
                 ――竹中平蔵氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 単行本では、副島隆彦氏がこの発言を取り上げています。少し
長いですが、副島氏の本から引用します。竹中氏は、米国はサプ
プライム問題で今回打撃を受けたが、米国経済は長期的には強い
成長力を持っている。リセッションになるかも知れないが、あま
り心配していないといって次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は実は、日本のほうを心配しています。サブプライムの影響
 そのものは大きくない(引用者/副島氏註・どこが大きくない
 のだ)が、円高を通して輸出産業が影響を受ける。一方で改革
 が進まず内需が弱い。日本をよくすることは、サブプライムと
 は別に考えていく必要があります。そこで今回、「民営化され
 た日本郵政はアメリカに出資せよ」とぜひ申し上げたい。さき
 ほどキャピタル・クランチの話をしましたが、アメリカではこ
 こ半年くらい、俄然一つの問題が浮かび上がっているんです。
 アメリカの金融機関が資本を受け入れるときに、誰が出するか
 ということです。そこで、最近のキーワード、ソブリン・ウエ
 ルス・ファンド(SWF)があります。政府系ファンド、つま
 り、国が持っている基金です。アメリカの金融機関がSWFか
 らお金を受け入れるケースが増えていますが、一方で、他国政
 府から資金を受け入れてもよいのかという問題がある。ある国
 が政治的な意図をもってアメリカの金融機関を乗っ取ってしま
 ったら、アメリカ経済が影響を受けるのではという懸念も出て
 きています。翻って考えると、日本にはかつてとんでもなく巨
 大なSWFがありました。それが今の日本郵政なんです。資金
 量でいうと300兆円。他のSWFとは比べ物にならないほど
 のSWFがあったんです。民営化したので、今はSWFではな
 い。だからアメリカから見ると安心して受け入れられる、民間
 の資金なんです。アメリカに対しても貢献できるし、同時に日
 本郵政から見てもアメリカの金融機関に出資することで、いろ
 いろなノウハウを蓄積し、新たなビジネスへの基礎もできる。
                ――ダイヤモンドオンライン
 ――副島隆彦著『恐慌前夜/アメリカと心中する日本経済む』
                         祥伝社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中氏は、この番組でタレントの上田晋也と対談をしているの
ですが、サブプライム問題は次の3つの段階を経て、拡大をして
きているといっています。これはよく整理された説明であると思
うので、ご紹介しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.不動産市場の中の問題
    2.クレジット・クランチ――信用不安
    3.キャピタル・クランチ――資本不安
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の段階は、2007年2月頃のことで、住宅ローンが危な
いという話が出て、住宅ローンが簡単には付けられなくなったの
です。そうすると、不動産投資ができなくなる――したがって、
この段階は不動産市場の問題なのです。
 第2の段階は、2007年の夏頃のことですが、住宅ローンだ
けでなく、いろいろな金融商品に不安が広がって、金融機関が資
金不足に陥ったのです。これは「クレジット・クランチ」であっ
て、いろいろな措置が取られたのですが、十分ではなかったとい
えると思います。
 第2の段階は、現在の段階です。金融機関が不良債権を抱えて
損を出し、資本金が足りなくなります。つまり、自己資本が毀損
するわけです。これは「キャピタル・クランチ」です。現在、米
国は、キャピタル・クランチを起こさないよういろいな手を模索
しているのです。
 しかし、米国にはもはやお金がないのです。中東の産油国、中
国もお金を持っていますが、200兆円近いお金をポンと貸せる
ほど力はないのです。
 しかし、日本郵政がある――と竹中氏はいうのです。郵政公社
のときは、米国にお金は貸せませんが、民営化された日本郵政な
らば、貸すことはできるというのです。
 これに対して、副島隆彦氏は、次のように怒りを表明している
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 盗人たけだけしい、とはこのことだろう。竹中平蔵は大臣の権
 力を使って金融庁を手下に時価会計基準を振り回して日本の銀
 行や大企業(りそな、UFJ、ダイエー、ミサワホームなど)
 を叩き潰したり外資に乗っ取らせた張本人だ。(中略)竹中元
 大臣はアメリカの後ろ盾があるものだから、公職を離れたあと
 も未だにこんなにも居丈高である。郵貯・簡保の資金300兆
 円を、この期におよんでまだアメリカに貢げ、と言っている。
 盗人に追い銭を与えよというのだ。     ――副島隆彦著
                  『恐慌前夜』/祥伝社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
              ――[円高・内需拡大策/33]


≪画像および関連情報≫
 ●SWFとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ソブリン・ウエルス・ファンドは政府が出資する投資ファン
  ド、政府系ファンドともいう。石油や天然ガスによる収入、
  外貨準備高を原資とすることが多い。近年、世界的な資源価
  格急騰により資源供給国の割合が増えつつある。各国のSW
  Fは資源による収入が多く、資源を持たない国の場合は外貨
  準備や年金を運用しており、日本の場合後者にあたる。いわ
  ば元手は借金で運用に伴うリスクは国民にあるという構図が
  成り立つので、日本の財務省は基本的に反対の立場をとって
  いる。               ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

上田晋也/竹中平蔵.jpg

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2008年12月22日

●「世界はゼロ金利ラッシュである」(EJ第2476号)

 世界同時不況が一段と深刻の度を増しています。米国がゼロ金
利を即断し、量的緩和にも乗り出すことを表明しています。バー
ナンキFRB議長といえば、かつてゼロ金利をとっている日銀を
馬鹿にして、次のようにいっていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ・日銀の審議員のなかで耳を傾けるのに値するのはたった一人
  だけで、他はひどいものだ。
 ・日銀はトマトケチャップでも買え!――そうすれば、景気は
  良くなる。          ――バーナンキFRB議長
―――――――――――――――――――――――――――――
 そのバーナンキFRB議長がゼロ金利と量的緩和に踏み切った
のですから、米国の現況がいかに厳しいものであるかが理解でき
ると思います。バーナンキ議長は、米連邦公開市場委員会――F
OMCにおいて、「全手段を動員する」と明言したのです。
 ゼロ金利政策と量的緩和政策は、既に日本が2001年から5
年間にわたって行っているので、日本が経験を持っていますが、
その効果については賛否両論があります。
 当時の速水優日銀総裁は、1999年2月からゼロ金利政策を
行い、2000年8月に解除しています。しかし、米国のITバ
ブルが崩壊し、国内景気が悪化したことによって、2001年3
月から、世界に前例のない量的緩和政策を導入したのです。
 この当時の日銀が実施した量的緩和政策について、2008年
12月18日付の日本経済新聞は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (日銀の実施した量的緩和政策の)最大の特徴は、金融政策の
 運営目標を従来の金利から「資金量」に転換した点にある。民
 間銀行が決済のため日銀に開設している「当座預金口座」につ
 いて残高目標を設け、目標額に達するまでお金を大量供給し続
 ける。お金は、銀行がもつ国債などを日銀が買い取る形で供給
 した。量的緩和の開始時に5兆円だった残高目標は段階的に引
 き上げられ、最大35兆円となった。当座預金口座には金利が
 付かないので、銀行は利益を生まない大量の資金を手にしたこ
 とになる。――2008年12月18日付、日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀の当座預金というのは、民間金融機関が日銀内に開設して
いる預金口座のことです。この口座は、日銀と民間金融機関の取
引で使われるのです。
 もちろん日銀は無担保では民間銀行に資金を供給できないので
銀行の持つ国債などを買い取って、当座預金残高を積み上げたの
です。この資金には利息は付かないので、銀行はそのジャブジャ
ブある資金を企業に貸し出すはずという狙いがあったのです。
 しかし、企業の貸し出しは一向に増えなかったのです。なぜで
しょうか。
 それは日本がバランスシート不況に陥っていたからである――
そのため企業からの資金需要はなかったのです。このように、リ
チャード・クー氏がその原因を解明していることは既に述べた通
りですが、このリチャード・クー氏の理論を積極的に受け入れる
経済の専門家は少ないようです。
 それでは、民間銀行はどうしたのでしょうか。民間銀行はその
お金でわずかでも利息の付く国債を中心に運用したのです。もと
もと銀行の保有する国債を日銀が買い上げて、積み上げられた資
金で再び国債を買う――実に変な話です。
 バーナンキFRB議長は日本のケースもよく調べており、今回
の量的緩和政策については、銀行経由ではなく、直接市場へ資金
を供給することを表明しています。具体的には、企業が発行する
コマーシャル・ペーパー(CP)をFRBが買い切ることです。
正確にはこれを「CPの買い切り」というのですが、その意味に
ついては24日のEJで説明します。
 ところで、CPとは何でしょうか。
 CPとは、ある程度の信用力を有する大企業がオープン市場か
ら短期資金を調達するために発行する無担保の割引約束手形のこ
とです。確かにこれをやれば、資金繰り難に陥っている優良企業
には、FRBが直接資金を供給することができます。
 さらにFRBでは、CPだけでなく、FRBが市場から買い取
れる資産の対象を拡大し、量についても増やすといっているので
す。なにしろバーナンキ議長は「全手段を動員する」と明言して
いるので、やれることは何でもやると思います。
 しかし、この「CPの買い切り」について、欧州中央銀行――
ECBは、定款上問題があるとして難色を示しています。それで
は、公的資金による銀行の不良債権の買い取りはどうかというと
財布を握る各国間で調整がつかない状態です。それでは最後の手
段としての財政出動についてはドイツが反対を表明していて、何
もできない状態であるといわれています。
 それでは、その間日本は何をしていたのでしょうか。
 金融関係者がその必要性を説く「CPの買い切り」について日
銀関係者は、次のようにいっていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    米欧に比べると、日本の銀行は健全である
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、信用逼迫の波は大きく日本を襲ってきたのです。そし
て、ゼロ金利や量的緩和に回帰すべきかどうか、あれこれ検討し
ているうちにスイスやFRBに先行されてしまったのです。
 12月11日にスイス国立銀行は、「世界経済は激しく悪化し
ている。スイスも来年はマイナス成長になる」として事実上のゼ
ロ金利で先陣を切っています。これに追随したのは米FRB――
16日のことです。
 そして19日、日銀は0.3 %の金利を0.1 %に下げ、CP
の買い切りについても実施すると発表しています。これは日本に
とって異例の措置といえます。しかし、米国の動きをみて追随し
たと考えざるを得ないのです。――[円高・内需拡大策/34]


≪画像および関連情報≫
 ●CPとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  コマーシャルペーパー/CPとは、企業が資金調達を行うた
  めに発行される短期の約束手形。コマーシャルペーパーは、
  「CP」という略称で呼ばれることが多い。無担保の割引方
  式(金利分を額面から割り引いて販売する形)で発行される
  短期の約束手形であり、発行体は優良企業に限られる。また
  金融機関、証券会社などが発行を引き受け、販売先は機関投
  資家に限定される。   ――オール・アバウト「マネー」
  ―――――――――――――――――――――――――――

白川日銀総裁.jpg
白川日銀総裁
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2008年12月24日

●「CP買い切りの背景を探る」(EJ第2477号)

 「CPの買い切り」について白川日銀総裁は、次のように述べ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 異例中の異例。経済、金融が厳しいがゆえの措置だ。財務の健
 全性や通貨の信認を確保するために十分配慮しなければならな
 いが、今の経済にどう貢献できるか真剣に考えた結果である。
                     ――白川日銀総裁
―――――――――――――――――――――――――――――
 今まで日銀がCPを買い入れるときは、金融機関を通じて「売
り戻し条件付き」で買い入れていたのです。しかし、このような
CPの買い入れ方式では、もし、CPを買い入れた企業が倒産し
てしまうと、金融機関は損をかぶってしまうので、CPを引き受
けなくなるのです。事実、金融危機で市場ではCPの買い手が減
り、十分発行できない状況が続いているのです。
 しかし、今回、白川日銀総裁は「日銀は売り戻し条件を付けず
に買い切る」と言明したのです。日銀が売り戻し条件を付けずに
買い切れば、金融機関は回収不能を心配せずにCPを購入でき、
企業に資金が行き渡ることが期待されるのです。そしてその分だ
け銀行は資金を中小企業向けの融資に回せる――このように日銀
は考えたものと思われます。これは結果として日銀が企業に対し
てダイレクトに資金を供給したことと同じ効果になるのです。こ
れが「CPの買い切り」です。
 CPの買い切りについては、米FRBのバーナンキ議長が先に
表明しており、何となく日銀の発表は米国の後追いのような感じ
が否めないのですが、実際はどうなのでしょうか。
 日銀の政策は、政策委員会・金融政策決定会合が担っており、
政府などの干渉を一切受けない独自のもののはずです。しかし、
今回の日銀の決定の裏側を探ってみると、そこに与謝野経済財政
担当相の影が見え隠れするのです。毎日. JPの次の記事を見て
いただきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中川昭一財務・金融担当相は16日の閣議後会見で「日銀の独
 立性は承知している」としつつも「(景気悪化を)回避するの
 も日銀の重要な責務」と強調。「経済状況や流動性の問題で、
 あるべき結論を出していただけると期待している」と、日銀の
 一段の金融面での対応を促した。与謝野馨経済財政担当相も同
 日の会見で、麻生太郎首相が12日の「生活防衛のための緊急
 対策」の発表時に日銀の流動性供給策強化への期待感を示した
 ことをあげて、「政府が節度を保ちながら、中央銀行に一定の
 メッセージを送ったもの」と指摘。企業が短期の資金調達のた
 めに発行するコマーシャルペーパー(CP)を買い取る措置な
 ど日銀が一段の景気安定化策に踏み切ることに期待を示した。
              ――毎日. JP(毎日新聞)より
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府は、与謝野経財相が中心となり、CPについては、日本政
策投資銀行による買い取り策を打ち出しており、日銀に同調を促
していたのです。そのさい、FRBも同様のことをやるとの情報
が入っていると日銀に伝えているのです。
 しかし、日銀内部では、CP買い切りには企業の破綻リスクを
負うことになるので、頑強な反対意見があったようですが、百年
に一度の危機であること、それにFRBが先行したことによって
日銀は苦渋の決断をしたものと思われます。
 心配なのは、企業倒産が相次ぎ日銀が損失を被ることです。な
ぜなら、国内で唯一紙幣を印刷できる日銀の財務内容が悪くなれ
ば、紙幣の信用を損なう恐れがあるからです。
 歴史を振り返っても、主要国の中央銀行で民間企業の信用リス
クを抱え込んだのは、2003年に企業の資産担保コマーシャル
ペーパー(ABCP)などの買い切りに踏み切った日銀と、今回
の金融危機で大量の民間資産の買い取りをはじめた米FRBの2
つだけなのです。まさに、これは中央銀行の禁じ手なのです。
 12月21日の「サンデープロジェクト」に与謝野経財相が出
演して、今回の日銀の利下げと量的緩和策について面白いことを
いっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀はかつては貴公子だったけれど、これらは野武士のように
 やって行くということのあらわれである。 ――与謝野経財相
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、現在時点の主要国の「政策金利」は次のようになってい
ます。「政策金利」というのは、中央銀行がコントロールできる
唯一の金利で、市場の金利を実体経済に合った水準に誘導するた
めに決める基準金利のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     日本 ・・・・・・・    0.1 %
     米国 ・・・・・・・ 0〜0.25 %
     ユーロ圏 ・・・・・    2.5 %
     英国 ・・・・・・・    2.0 %
     スイス ・・・・・・  0〜1.0 %
     オーストラリア ・・   4.25 %
―――――――――――――――――――――――――――――
 0.1 %の政策金利では、追加利下げの余地はもうほとんどな
いのです。それにゼロ金利だけでは景気刺激効果としてはほとん
どないことを当の白川日銀総裁も認めているのです。
 そうなると、残るのは量的緩和策のみですが、それも今までや
ったようなやり方では機能しないので、今回発表しているような
リスクの多いCPの買い切りのようなことを思い切ってやる必要
が出てきているのです。
 FRBは、CPの買い切りのほか長期国債、住宅ローン債権な
どの買い切りも行い、資産取引を通じて流動性供給を行う手段が
あるとしています。日銀もFRBと同じ道を歩まざるを得ないで
しょう。          ――[円高・内需拡大策/35]


≪画像および関連情報≫
 ●「公定歩合」と「政策金利」の違い/日本銀行HPより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本銀行が金融機関に直接資金を貸し出す時の基準金利のこ
  とを「公定歩合」と言います。「公定歩合」は、規制金利時
  代には、預金金利などの各種の金利が「公定歩合」に直接的
  に連動していたため、金融政策の基本的なスタンスを示す代
  表的な政策金利でした。しかし、1994年に金利自由化が
  完了し、「公定歩合」と預金金利との直接的な連動性はなく
  なりました。現在は、こうした連動関係に代わって各種の金
  利は金融市場における裁定行動によって決まっており、「公
  定歩合」は、2001年に導入された補完貸付制度の適用金
  利として、日本銀行の金融市場調節における操作目標である
  無担保コールレート(オーバーナイト物)の上限を画する役
  割を担うようになっています。現在の日本銀行の政策金利は
  無担保コールレート(オーバーナイト物)であり、「公定歩
  合」には政策金利としての意味合いはありません。
  −――――――――――――――――――――――――――

与謝野と白川の連携.jpg
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2008年12月25日

●「投資銀行消滅が米国民にもたらすもの」(EJ第2478号)

 夕刊「フジ」に「風雲永田町」というコラムがあります。政治
評論家鈴木棟一氏の人気コラムです。2008年12月23日付
(22日の夕刊)に「ゼロ金利、日米で正反対」というテーマの
コラムが掲載されたのです。内容が今回のテーマとも関係がある
ので、ご紹介することにします。
 今回の金融危機に対応して米FRBはゼロ金利政策をはじめま
したが、日本人の多くは、むかし日本がやったことをFRBでも
やっている――そういう反応です。しかし、これは日米で事情が
ぜんぜん違うというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 クレジット・カードの機能が全く違う。10万円の服を買った
 ら、日本では翌月か翌々月に口座から自動引き落としされる。
 しかし米国では自動引き落としが圧倒的にない。預金者が銀行
 を信用しないから自動引き落としを認めない。支払いは自分で
 確認して、自らの個人小切手を送る。
    ――12月23日付「夕刊フジ」/「風雲永田町」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、こういうことです。クレジットカード会社の信用でも
のを買い、個人小切手で支払うという構図です。銀行では仕事さ
えもっていれば、クレジットカードを発行してくれるし、各種ロ
ーン――住宅ローンも含めて――も受けられるのです。
 米国では、高校生からほとんど例外なく全員が小切手帳を持っ
ているそうです。小切手で決済するのは米国における普通の決済
方法なのです。
 しかし、自動引き落としではなく、小切手で決済してもいいで
はないかと考えますが、買い物金額の全額を支払うのではなく、
ミニマムしか支払わないことが慣例化しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 10万円の買い物なら支払いは5000円ぐらいでいい。これ
 が慣例化している。米国人は常にこの種の借金がある。(一部
 略)年収の3倍は借金がある感覚だ。それが米国の消費を支え
 てきた。      ――「夕刊フジ」/「風雲永田町」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 そうであるとすると、FRBがゼロ金利政策をとったことの意
味は日米で大きく異なってきます。問題は、ゼロ金利で誰がトク
をし、誰がソンをするかです。
 米国ではクレジットカードを持っている米国民が助かる――し
たがって、これは徳政令なのです。つまり、FRBは何とかして
米国民の消費マインドを冷やさないようにして国民の負担軽減を
狙ったのです。といっても無理であると思いますが・・・。
 しかし、日本の場合はどうでしょうか。
 日本には国民の金融資産が1500兆円もある貯金国家です。
したがって、ゼロ金利政策をやられると、預金金利はゼロに近く
なり、国民は多大の損失を受けるのです。一方でトクするのは銀
行であり、それは銀行に対する徳政令となるのです。これはまさ
に暴挙そのもの――そのように鈴木棟一氏はいうのです。
 もし、日本のような状況のもとでゼロ金利政策をやったら、米
国では間違いなく暴動が起こるでしょう。しかし、日本ではそう
いうことはまず起こらない。それはコトの本質がよくわかってい
ないからです。鈴木棟一氏はコラムの最後を次の言葉で結んでい
ます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    民主国家と大企業国家の差がはっきり見える
      ――「夕刊フジ」/「風雲永田町」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、巨額の経常赤字を出しながらも、消費を落とすことなく
やってこれたのは、実は米国が投資銀行王国であったからなので
す。しかし、2008年9月の時点で事実上、米国のすべての投
資銀行(5行)が消滅してしまっています。
 そうなると、それは米国へのマネーの流入を止め、家計は逼迫
し、米国民は今までのような生活をすることは困難になる可能性
があるのです。このように主張しているのは三菱UFJ証券チー
フエコノミストの水野和夫氏です。
 2007年6月までは、米投資銀行は、外国人(出資者)から
毎月910億ドルの資金を集め、そのうち月間経費として615
億ドルを――米経常赤字額に相当――消費していたのです。この
金額は、3億人の米国人が高い生活水準を享受するために、日本
をはじめとする諸外国から、自動車や石油などの購入額――輸出
控除後のネットの輸入額――これに相当するのが経常赤字という
ことになるのです。
 米投資銀行帝国(米国)は、外国人の出資額である910億ド
ルから経費である615億ドルを差し引いた295億ドルを対外
投資し、それから莫大な配当・利息収入をあげていたのです。
 この対外投資から受け取る配当・利息から対外支払利息・配当
を差し引いたものが「投資収益収支」です。1998年以後、対
外純債務の増大テンポが加速していったにもかかわらず、投資収
益収支の黒字幅は拡大したのです。
 1973年〜1998年までの投資収益収支は、年平均219
億ドルの黒字であったものが、それ以後急増し、2008年1月
〜6月(年率換算)では1211億ドルに達していたのです。つ
まり、対外負債コストの増加を相殺して余りある、対外投資から
得られる配当・利息の増大があったのです。
 1999年以降、米国の対外純債務が対GDP比で悪化してい
くなかで、投資収益収支を黒字にさせる機能を担ったのが、5つ
の投資銀行だったのです。しかし、米国にとってこの貴重な投資
銀行がサププライムショックによって破綻してしまったのです。
 投資銀行の破綻は、必然的に米家計に過剰債務の調整を迫るこ
とになります。外国から潤沢なマネーが流入してこなければ、月
間615億ドルもの経常赤字をを出すことなど、とても不可能で
あるからです。       ――[円高・内需拡大策/36]


≪画像および関連情報≫
 ●「経常収支」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  国際,つまり国境を越える外から内への受取の流れと,内か
  ら外への支払いの流れの対照。国際収支を一定期間について
  記録したものが国際収支表である。商品とサービスの輸出入
  を経常取引といい,その経常勘定に記入する。経常収支は,
  貿易収支,貿易外収支,移動収支の3つから成る。資本の取
  引を資本取引といい,資本勘定に記録される。資本収支は短
  期資本収支と長期資本収支とに分れる。経常収支と資本収支
  の合計が総合収支で,この総合収支のギャップを均衡させる
  役割を果すものとして金融勘定がある。
 ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/「週刊エコノミスト」2008.12.2日号

米投資収益収支と対外純資産の対GD比.jpg

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2008年12月26日

●「巨額のドル買い介入の真の目的」(EJ第2479号)

 「あまりにも脆い!」――日本企業で“最強”を誇るトヨタ自
動車が戦後初の営業赤字に転落するというニュースを聞いたとき
の率直な感想です。
 「円高が1円進むとトヨタ自動車の営業利益は年350億円減
少する」とよくいわれます。トヨタ自動車の2007年3月期の
営業利益は連結ベースで次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     トヨタの営業利益/2兆2386億円
―――――――――――――――――――――――――――――
 2007年7月に比べると、2008年3月までには実に22
円の円高が進んでいるのです。そうすると、1円で350億円で
あるから、22円なら7700億円――2兆2386億円の営業
利益の34%減少したことになります。
 ところで、同じ時期のトヨタ自動車の株価はどうかというと、
7780円から5200円まで下落しています。その下落率33
%、奇しくも営業利益の減少と同じ率であることがわかります。
これによって、次のことがいえるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         為替レートが株価を決める
―――――――――――――――――――――――――――――
 添付ファイルは、「2006年1月=1」として、為替レート
と株価の連動を見たものですが、株価上昇は明らかに為替レート
と相関していることがわかります。
 それは、欧米諸国がこの10月初めに緊急利下げを行い、日本
との金利差が縮小、もしくは逆転したことが原因です。当面イン
フレ懸念が遠のいているので、近い将来利下げはなく、今後円安
方向に動く可能性は少ないと考えられます。
 既に述べたように、日本の金利が海外に比べて低いことが原因
となって、投機が投機を生むような円キャリー取引が流行するこ
とになったのです。それは長期にわたって日本がゼロ金利と量的
緩和を続けたことにあります。
 これについては、日本の政策当局も認めており、日本銀行は、
2008年1月に発表した「金融市場レポート――2007年後
半の動き」において、次の趣旨のことを書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本と海外の短期金利差と円レートの変化率とのあいだには、
 07年前半には正の相関があった。これは、円キャリーが円安
 の原因になっていたことを示唆する。しかし、07年後半には
 相関がマイナスに転じた。これは、巻き戻しが生じたことを示
 す。このため、円が増価する一方で、ニュージーランド・ドル
 や豪ドルが減価した。11〜12月には、円とスイスフランが
 増価する一方で、豪ドル、英ポンド、加ドルが減価した。日本
 の個人投資家による投資信託を通じる対外証券投資は続いてい
 るが、増加率は大きく低下した。FX取引も8月以降半減し、
 円高に寄与した。            ――野口悠紀雄著
 『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』/ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この原稿を書いている12月23日の円相場は、対ドル89円
83銭〜86銭になっています。これをもって私たちは、異常な
「円高」が続いていると考えますが、もともと100円〜110
円というのは「円安バブル」であり、それがサブプライムショッ
クを契機に、それまで歪んでいた為替レートが正常な水準に戻り
つつあるプロセス――円安バブルのはじまりと考えるべきである
と野口悠紀雄氏はいうのです。
 少し歴史を振り返ってみましょう。1971年のニクソンショ
ック、さらに1985年のプラザ合意――それ以降何かというと
大きく円高に振れてきており、1990年代の後半までは、日本
人の投資家は円高に過敏に反応したのです。
 しかし、2000年代に入ると、円高に対してあまり騒がなく
なります。なぜかというと、円高になると、必ずといってよいほ
ど、当局が市場に介入して円安に戻すようになったからです。と
くに、2003年〜2004年にかけては、大量のドル買い介入
を行い、強引に円安を維持したのです。
 なかでも2003年1月〜3月は、実に17営業日にわたり介
入を続け、その総額は2兆4000億円のドルを買い上げている
のです。さらに、同年4月〜6月の介入額は、再び巨額のドル買
い介入を行い、その総額は1月〜3月の倍に当たる4兆6000
億円を超えたのです。この2003年4月は、大手銀行の破綻を
示唆した竹中発言によって、日経平均株価が8000円を下回っ
たあの時期に当たるのです。ちょうどそのとき、こういう異常な
ドル買い介入が行われていたのです。
 当時米国はITバブルの崩壊と、9.11 のテロ以降、デフレ
の兆しが出ており、海外からの資本の流入が激減している苦しい
時期だったのです。ところで、当局は2003年5月8日、円相
場が1ドル120円〜115円に向かうところで大量の介入をし
ているのですが、これにはわけがあるのです。
 この5月8日は、米財務省が四半期に一度ずつ実施している米
国債の定例入札の当日だったのです。これについて、榊原英資氏
は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 入札の直後からドル安が進み、債券が投げ売りされるようなこ
 とになれば、米国の長期金利は急上昇しかねない。デフレを懸
 念するFRBが短期金利を低めに誘導しても、長期金利が上昇
 したのでは逆効果である。海外からの資本流入に頼る米国のア
 キレス腱はここにあった。その矛盾を埋めたのが日本による介
 入資金だったのだ。円売り・ドル買い介入の役目は円高の防止
 にだけあるのではない。介入の結果、積み上がった日本の外貨
 準備は、米政府証券の購入に充てられていたのである。
  ――榊原英資著、『強い円は日本の国益』/東洋経済新報社
――――――――――――――――[円高・内需拡大策/37]


≪画像および関連情報≫
 ●トヨタ自動車はなぜ営業赤字に転落したか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  トヨタが初の営業赤字に転落した最大の要因は、金融危機に
  伴う世界市場の急激な冷え込みにある。欧米や日本のみなら
  ず、好調だった中国など新興国でも販売台数の伸びは減速に
  転じ「すべての国、地域で日を追って変わっていて底が見え
  ない」(渡辺社長)状態。「トヨタ・ショック」と呼ばれた
  11月6日の販売見通し下方修正から1カ月半で、昨年1年
  間の富士重工業の販売台数を上回る70万台が消えた計算に
  なる。
  http://mainichi.jp/select/biz/news/20081223ddm003020073000c.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/「為替レートと株価の連動」
  野口悠紀雄著/『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』/
  ダイヤモンド社刊
為替レートと株価の連動.jpg
為替レートと株価の連動
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2008年12月29日

●「テイラー財務次官と溝口財務官の連携」(EJ第2480号)

 2003年〜2004年にかけての日本による円高阻止のため
の大量介入――円を売ってドルを買うのですが、そうして取得し
たドルで米国債を購入するのです。当時の米国はドル安になって
いたので、米国にとっては二重のメリットがあったのです。
 この介入は、2003年5月から始まり、2004年3月17
日まで続くのです。その介入総額は実に35兆円にも達したので
す。1995年に1ドル80円を突破した円高のとき、当時の榊
原英資財務官が介入を行いましたが、1995年の一年間で6兆
円を下回る程度であることを知ると、約11ヶ月で35兆円とい
う介入額がいかに異常であったかがわかると思います。
 この異常な円高介入を行ったときの日米の財務官は、次の2人
であったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  溝口善兵衛財務官 VS ジョン・テイラー財務次官
―――――――――――――――――――――――――――――
 同じ財務官でも榊原英資氏といえば「ミスターエン」として有
名ですが、溝口善兵衛氏が「ミスタードル」といわれていること
を知る人は少ないでしょう。しかし、彼は史上例を見ないほど巨
額の円高介入をやった財務官なのです。
 溝口財務官のカウンターパートがジョン・テイラー米財務次官
です。溝口財務官とテイラー財務次官――2人の間にはいろいろ
なやりとりがあったのです。
 このテイラー財務次官――ただの官僚ではなく、「テイラー・
ルール」なる理論で知られる実務のわかる経済学者なのです。彼
は、生粋のマネタリストです。マネタリストというのは、経済活
動において貨幣の重要性を強調する経済学者のことです。
 マネタリストの集団を「マネタリズム」というのですが、マネ
タリズムは、アメリカの経済学者であるM・フリードマンを統帥
者として現在では多くの支持者を得つつあることはこれまでに述
べた通りです。
 テイラー財務次官は、日本の「失われた10年」のデフレ脱却
策に対する日銀のやり方に疑問を持っていて、いろいろなアドバ
イスをしているのです。
 この模様は、テイラー氏の回顧録に非常に詳しく書かれていま
す。この回顧録は2007年に日本版が発刊されていますので、
ご紹介しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
            ジョン・B・テイラー著/中谷和男訳
 『テロマネーを封鎖せよ/米国の国際金融戦略の内幕を描く』
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この本の原題は「グローバル金融の戦士たち」といい、本の内
容はこちらの方が合っていると思います。テイラー氏はこの本の
中で、日本のデフレ脱却策として日銀にアドバイスし、次の2つ
の政策が行われたことを明らかにしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.量的緩和政策実施
          2.大規模な為替介入
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融政策というのは、ほとんどは金利――短期金利を目標にし
て行われるのです。中央銀行が短期金利を上げたり、下げたりし
て金融政策を行うのです。したがって、この金利のことを政策金
利といっています。
 しかし、ときにはマネーサプライを目標して行われることがあ
るのです。例えば、1970年の終わりから1980年のはじめ
にかけて、FRBが行ったインフレ撲滅策がそれです。
 インフレを撲滅させるには、マネーサプライの伸びを抑制して
金利を上げるのです。そうすればインフレ率は低下します。デフ
レの場合は理論上はその逆になります。マネーサプライの伸びを
促進し、金利を下げるのです。これが量的緩和政策です。
 しかし、インフレ撲滅策としての実施例はあるのですが、デフ
レのケースはそれまで行われたことはないのです。それにインフ
レ抑制の場合と違い、金利がゼロ以下にならない制約があるため
効果発揮への期待が疑問視されていたのです。
 そういうこともあって、テイラー財務次官としては日銀にそれ
を実施させ、日本のデフレを何とか克服させたかったものと思わ
れるのです。しかし、日銀内部には量的緩和政策に反対する者も
多くいて、その実施が中途半端になってしまったのです。
 それに対して、テイラー財務次官の打ち出したもうひとつの政
策である「大規模な為替介入」については、ほぼテイラー氏の考
えた通りに実施されたのです。それは溝口財務官がテイラー次官
と綿密な打ち合わせのもとに為替の介入を行ったからです。何し
ろ、溝口財務官は、介入の規模やタイミング、出口政策にいたる
まで、テイラー次官のアドバイスを受けており、溝口財務官の方
も電子メールを使って細かな報告をテイラー次官に上げていたと
いうのです。そういう意味では、まさに主権在米経済そのもので
あったといえます。
 テイラーのアドバイスのもとに溝口財務官の行ったドル買い円
売り介入は、「非不胎化介入」といわれるものなのです。普通は
為替介入が行われて円が市場に放出されると、その都度日銀は同
額の売りオペを行って円資金を市場から吸収してしまうのです。
これを「不胎化介入」というのです。
 「非不胎化介入」の狙いは、市場に放出した金をそのままにし
ておくことによって、マネーサプライが増加し、デフレ脱却に効
果をもたらす金融政策なのです。
 しかし、このような巨大な為替介入をいつまでも続けることは
できず、2004年に入ると日米ともに出口戦略を模索しはじめ
るのです。そして、3月5日に日本は112億ドルの巨額介入を
行って以来現在まで、日本の為替介入はまったく行われていない
のです。     ―――――――[円高・内需拡大策/38]


≪画像および関連情報≫
 ●「売りオペ」と「買いオペ」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日銀が保有する公債その他の証券や手形類を一般市場で売却
  して市中の通貨の回収を図る操作。金利上昇の効果を持つ中
  央銀行が保有する公債その他証券や手形類を一般市場(市中
  銀行)で売却して通貨の回収を図る操作。金利上昇の効果を
  もつことから、金融を引き締めるときに行う。これに対して
  日銀が市中銀行から債券を買い入れて資金を放出し、金融緩
  和などの通貨調整をすることを買いオペという。
  ―――――――――――――――――――――――――――

溝口善兵衛氏.jpg
溝口善兵衛氏
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2008年12月30日

●「2007年夏まで円安であった理由」(EJ第2481号)

 テイラー対溝口の連携による巨額の為替介入――それでも日本
はデフレから脱却できていないのです。それはおそらく日銀によ
る量的緩和政策が中途半端なものに終わったことが原因ではない
かと思います。何事もそうですが、迷いながらやったことは結果
が良くないのです。
 というのは、日銀派エコノミストといわれる小宮隆太郎氏など
が、次の理由でテイラーの理論を疑問視していたからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本のデフレは構造的なものであって金融的なものではなく、
 したがって、金融政策でカタのつく代物ではない
                  ――日銀派エコノミスト
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、こういう日銀派の主張は、間違っていたのではないか
と思われます。それは、テイラーの回顧録を読めば日本の「失わ
れた10年」が金融的なものであることがわかるからです。
 かつての昭和恐慌期において、高橋是清蔵相は金本位制離脱後
に超金融緩和政策をとって、日本を長期不況から脱却させている
のです。日銀は歴史に学ばないのでしょうか。
 ここで考えてみるべきことがあります。2004年3月16日
から現在まで、日本は為替介入をやっていないのです。しかし、
それにもかかわらず、2007年夏まで円安だったのです。その
謎を解明する必要があります。
 円高になったとき、円を売ってドルを買い入れれば、円は安く
なります。しかし、一定の期間を経過すると、当然レートの反転
が起こります。溝口財務官はこの反転を恐れ、巨額の介入を行う
ことによって、日本の介入警戒感を持続させて反転を防ごうとし
たのですが、短期的にはともかく、あまり効果を上げていないの
です。しかし、米国としては助かったはずです。米国は、日本に
もっと感謝すべきです。
 ゼロ金利の継続と介入警戒感の組み合わせは、本来の目的とは
異なり、民間の外債投資に火をつけたのです。それは、数字でみ
るとはっきりしています。2004年の外債買越額高の17兆円
が、2005年には22兆円になっているからです。
 日本はゼロ金利が継続されており、日本の債権の金利は非常に
低く、日本で資金を調達し、高利の外債に投資することはきわめ
て魅力的な投資なのです。しかし、円安で資金を調達して高利の
外債で資金を運用しても、それを円に戻すときレートが反転する
と元の木阿弥になります。
 ところが、溝口財務官の巨額介入の印象は強く、日本はもし急
速な円高になると、必ず介入をして円安に誘導してくれることを
期待したからこそ、外債投資――円キャリートレードが活性化し
たといえるのです。
 しかし、2006年にゼロ金利が解除されると、さすがに生保
会社や銀行は外債の売り越しに転じたのです。ちょうどそのとき
FRBが政策金利の引き上げに向かっていたのですが、こういう
場合、為替ヘッジのコストが上昇してしまうのです。
 為替ヘッジというのは、為替の動きが本来の値段に影響を与え
ないようにする手段のことです。為替ヘッジをするには、相当の
コストがかかりますが、これをヘッジコストといいます。仮に、
ヘッジコストを5%とすると、ドル建てで商品が20%値上がり
すると、その間の為替の動きにかかわらず「20−5=15%」
の利益になる計算となります。値動きがなかった場合はヘッジコ
スト分5%がファンドの価額の値下がりになります。
 為替ヘッジがないと、いうまでもないことですが、為替変動の
影響を受けることになります。ドル建てで商品が20%値上がり
しても、その間に30%の円高になれば、円換算ではマイナスに
なってしまいます。逆に30%のドル高に動けば円換算で50%
以上のプラスになるのです。
 こういう状況を救ったのが個人投資家だったのです。毎月分配
型の投資信託が大きく伸びており、個人投資家が外債投資に傾斜
して行った様子が読み取れます。個人投資家の場合、円を外債に
転換して、ヘッジなしで外債を買うケースがほとんどなのです。
 為替ヘッジをする金融機関と個人投資家の違いについて、榊原
英資氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 銀行や生保は、外債を買う場合、外で資金を調達したり、為替
 をヘッジしたりすることが多いので、外債を大きく買い越した
 時もあまり大きな円安要因にはなりません。また、逆に売り越
 した時もレートを円高に強く振ることもないのです。しかし、
 個人投資家の場合、円を外貨に転換して、しかも、ヘッジなし
 で外債を写っケースがほとんどなので、外債買い越しは円安に
 直結します。
  ――榊原英資著、『強い円は日本の国益』/東洋経済新報社
―――――――――――――――――――――――――――――
 2006年に日本全体の外債買い越し額が前年の22兆円から
7兆3000億円に急減しているにもかかわらず、為替レートが
円安に振れたのは、個人投資家のマネーの流出が加速していたか
らなのです。また、個人投資家は外債投資の主役になっただけで
はなく、外国株の取得も活発に行ったのです。個人投資家の外国
株買い越し額は、2005年に2兆1000億円、2006年は
3兆5000億円にまで拡大しています。
 この状況は、2007年の夏まで続いたのです。2007年7
月時点の円・ドルレートは「1ドル=120円」だったのです。
しかし、8月に入ると、サブプライム問題が表面化し、円・ドル
レートは円高に向かっていったのです。
 円・ドルレートが「1ドル=100円」を切る現在でも、個人
投資家の外国証券への投資意欲は高く、個人のドル買いは大量に
入っているのです。現時点で円高はどこまで進むのか予測が困難
ですが、実質実効為替レートで見ると、まだまだ円安であるので
さらに進むと考えられます。―――[円高・内需拡大策/39]


≪画像および関連情報≫
 ●「実質実効為替レート」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本の主要な貿易相手国の通貨に対する円の総合的価値を示
  す指標である。為替が変動相場制に移行した後の73年3月
  を100とし、数値が大きくなれば「円高」を、数値が小さ
  くなれば、「円安」を示す。米ドルやユーロ、中国・人民元
  など主要15通貨に対する為替レートを貿易額に応じて加重
  平均し、物価上昇率も加味して算出されるため、円・ドルな
  ど単純な2国間通貨の相場よりも円の実力を正確に反映して
  いるとされる。特に日本の輸出割合が対米国で下がる一方、
  対中国などで大きく上昇した03年以降は、円の実勢価値を
  表す指標として注目されている。
     ――   毎日新聞 2008年3月5日 東京朝刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジョン・テイラー回顧録.jpg
ジョン・テイラー回顧録
posted by 平野 浩 at 04:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月31日

●「間違ったデフレ政策による円安バブル」(EJ第2482号)

 今日は2008年の大晦日です。今まで大晦日までEJを書い
たことはありません。しかし、今年はやります。これで、EJの
お休みは土日祝日のほか正月の3日間のみとなります。新聞には
休刊日がありますが、EJには休みはないのです。
 今から考えると、間違いのすべては、2002年の秋からはじ
まっているのです。2002年の秋とは何でしょうか。繰り返し
になりますが、2002年9月から小泉政権で竹中平蔵氏が経済
財政政策担当に任命されていることです。日本はこのときから、
日本らしさというものが失われていくことになります。
 その当時日本経済はデフレの状態にあったのです。竹中経財相
はデフレ脱却のために日銀の協力を強く求めます。そして竹中経
財相を擁する小泉政権は「デフレ脱却」を目指して強引な円安誘
導政策を実施したのです。それは、日本のためではなく、米国の
要望に沿ったとしか思えないのです。そして、この政策が円安バ
ブルを生み出したのです。2002年の秋に当時の小泉首相と竹
中経財相は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 首相の小泉純一郎は2002年10月18日、臨時国会の所信
 表明演説で『デフレ克服に向け、政府・日本銀行は一体となっ
 て総合的に取り組みます』と述べた。その少し前の同年10月
 11日、経済財政諮問会議では金融・経済財政担当相をつとめ
 る竹中平蔵がこう話している。『デフレ克服に向け、政府・日
 銀は一体となって、強力かつ総合的な取り組みを実施しなけれ
 ばならない』。
  ――榊原英資著、『強い円は日本の国益』/東洋経済新報社
―――――――――――――――――――――――――――――
 2002年10月というと、マクロ面ではありますが、日本経
済は景気回復の局面に入っていたのです。その証拠に2003年
の実質GDP成長率は1.4 %、2004年には2.7 %にまで
達しているのです。
 そういう戦後最長の景気が続く中で、日銀は政府の圧力に負け
て2006年までゼロ金利を続けたのですが、これは今考えると
信じ難いことであるといえます。
 榊原氏によると、この時点でのデフレは、必ずしも需要が過少
だったために起こったものではなく、供給側の要望によって起こ
されたものであり、過剰な対策は不要だというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いいデフレ、悪いデフレという言い方は必ずしも適切ではない
 かもしれませんが、この時期のデフレはどちらかというといい
 デフレで、「デフレ脱却」「デフレ脱却」と騒ぐようなもので
 はなかったのです。ただ、このデフレに対するネガティブな認
 識は、小泉・竹中だけではなくかなり多くのエコノミストやジ
 ャーナリスト達に共通していました。(中略)しかし、21世
 紀初頭に起こったデフレは明らかに今までとは異なったもので
 した。このデフレはいわば構造的デフレとも言うべきもので、
 中国、インドあるいはベトナム等が世界経済に統合されること
 によって生産プロセスが変わり、ハイテク製品等の価格が下落
 することによって起こつたものです。
  ――榊原英資著、『強い円は日本の国益』/東洋経済新報社
―――――――――――――――――――――――――――――
 それなら、なぜ物価は下落したのでしょうか。
 価格が下がったのは、榊原氏の指摘の通り、インドあるいはベ
トナムなどが世界経済に統合されることによって国内市場におい
て、ハイテク製品――とくにテレビや携帯電話などの価格が大幅
に下がり、これが物価下落に拍車をかけたのです。
 それからもうひとつ、この年末にきて大きな社会問題になって
いる雇用構造の変化が原因で、平均賃金が物価拡大にもかかわら
ず下落を続けたのです。雇用構造の変化とは、いうまでもないこ
とながら正規雇用の減少と非正規雇用の拡大のことです。景気拡
大でも賃金が下落したので、企業のコスト増による物価上昇圧力
がかからなかったのです。
 よく誤解されることですが、「デフレ=不況」という認識を持
つ人がいます。三菱UFJ証券・チーフエコノミストである水野
和夫氏は、「デフレ=不況」の考え方は誤りであり、デフレは好
不況に関係がないといっています。そして、榊原氏のいう「構造
デフレ」について、次のように述べています。
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 しかし、デフレと好不況は直接関係ない。市場統合によって生
 ずるデフレは『構造』であり、好不況はあくまで4年ごとに繰
 り返す『循環』である。デフレから脱却すれば景気が持続的に
 回復するとか、景気を回復させれば、デフレから脱却できると
 いった考え方は、構造と循環を混同した議論である。
  ――榊原英資著、『強い円は日本の国益』/東洋経済新報社
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 長過ぎたゼロ金利の維持が日本からの資本の流出を加速し、円
キャリートレードを生み、さらにそれに平行して数次にわたる巨
額の円高介入をやった結果、円安バブルをつくり出したのです。
 その円安バブルが今回のサブプライム問題に端を発する未曽有
の金融危機によってはじけて円高になったのです。しかし、これ
は円高というよりも、本来あるべき円の価値に戻ったというべき
です。したがって、この円高はこのまま進行すると、70円台に
なる可能性もあるといわれます。円高は日本にとって悪いことで
はありませんが、輸出立国を目指してきた日本にとっては痛手で
す。これからどうするべきでしょうか。
 円高・内需拡大策をテーマとして、40回にわたって書いてき
ました。しかし、テーマが大きいので、まだすべてを書き切れて
おりません。そこで、ここまでを前編とし、新年より後編(テー
マは変わりますが)を書いていきたいと思います。ここまでのご
愛読を感謝します。読者の皆様、良いお年をお迎えください。新
年は5日からはじめます。 ―――[円高・内需拡大策/40]


≪画像および関連情報≫
 ●構造デフレの世紀/榊原英資
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  日本は「失われた10年」と言われる難しい時期を経験して
  きた。少なくとも、結果的には財政・金融政策を全開にし、
  財政赤字はG7諸国で最も高いレベルまで累増し、金利はゼ
  ロにまで引き下げられた。しかし、相も変わらず議論はさら
  なる財政赤字の拡大、金融の追加的量的緩和をめぐって戦わ
  されるだけで、この10余年の経験、状況の変化を勘案した
  ものになっているとはとても思えないのである。「失われた
  10年」の最大の失敗はデフレが構造的であり、政策によっ
  て逆転できないという冷厳な現実を認識できなかったところ
  にあるのではないだろうか。
       http://www.utobrain.co.jp/review/2003/081801/
  ―――――――――――――――――――――――――――

榊原氏と水野氏.jpg

posted by 平野 浩 at 04:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする