2006年01月24日

日本の国家破綻などあり得ない(EJ1759号)

 今日からしばらく経済の話をしようと思います。題して「日本
は本当に破綻危機なのか」です。といっても難しい話をするつも
りはありません。最近の小泉政権の経済政策に関して、日頃すっ
きりしない問題を提起し、解明してみたいのです。
 最近の日本には「悲観論」が溢れているように感じます。書店
に行くと経済本のコーナーに「国家破綻」について書かれた本が
たくさん並んでいます。国家破綻というのは、国の財政が破綻す
ることであり、「国家的財政破綻」ともいいます。これに関連し
て、まことしやかに預金封鎖説まで喧伝される始末です。
 また、テレビでは、かなり高名な経済評論家――とくに財務省
出身者――までが、国家危機的な発言を平気で繰り返しているの
をよく見聞きします。
 これに加えて少子高齢化傾向、年金破綻、大増税問題、中国脅
威論と日本のアジアでの孤立、世界に冠たる日本の技術の空洞化
など、目一杯の悲観論で溢れています。まるで日本は現在、空前
絶後、未曾有の危機にあるかのようです。
 確かに財務省は、2005年6月末の政府債務を795兆円と
発表しています。これはとんでもない巨額の借金であり、このま
ま行くと日本という国家は破綻する――したがって、なるべく国
債を発行しないで、緊縮財政を行い、消費税の引き上げを含む大
増税を実施して財政再建に取り組むというのです。
 しかし、本当に日本の国家破綻はあり得るのでしょうか。
 最初に結論をいっておきましょう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  そんなことは絶対にあり得ない。しかし、現政権のよう
  な政策が続くと、破綻はあり得る・・・・・・と
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 経済の専門家である増田悦佐氏によると、破綻本、破綻説が乱
立する現象は、日本経済の危機ではなく、「日本型知識人の知的
能力崩壊の危機」であり、「破綻本は根拠のない危機への対策と
して非常に危険な方針を取らせようとしている」と警告を発して
います。病状よりも治療法の方がよほど危険なのです。
 多くの人が巧妙なレトリックに引っかかっているように思いま
す。これから、増田悦佐氏をはじめとするいろいろな説をご紹介
しながら、そのレトリックを解いてみたいと思います。
 テレビの経済番組で次のような話をよく聞きます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日本の税収は40兆円しかない。しかし、使っているのは80
 兆円。40兆円の赤字である。月収40万円しかない家庭が、
 月に80万円の生活をしている。足りない部分はサラ金から借
 りているのだ。これなら、やがて、家計は借金の山となり、破
 綻する。日本の現状はこれと同じであり、やがて破綻する。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 一見正しいように思えるかも知れませんが、このロジックは完
全に間違っています。それは、次の2つ事実をベースにして考え
てみるとすぐわかることです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.国は一銭も稼いでいない。稼いでいるのは国民である。
 2.税金で取るのも国債で金を集めるのも同じことである。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 月収が40万円しかないサラリーマンが、さらに40万円をサ
ラ金から借りて月に生活費を80万円使っているケース――この
ケースは間違いなく破綻します。破綻させないようにするにはど
うしたらよいでしょうか。
 それには何よりもサラ金からの借金することをやめさせること
です。そして極力収入に見合う生活をするよう無駄な出費を切り
詰めること――サラ金会社のCMでうるさくいっている「収支の
バランス」をはかることです。どうしても月に40万円では生活
できないのであれば、別の収入の道を探るしかないでしょう。
 財務省はこのロジックで、この借金サラリーマンのケースを日
本という国家にあてはめて、赤字生活を脱出させることを政策に
掲げています。うっかりすると、ひっかかってしまいますが、こ
の例はとてもおかしい。国家と家庭とは違うのです。
 まず、考えるべきことは、「国は一銭も稼いでいないし、これ
からも稼ぐつもりはない」ということです。稼いでいるのは国民
なのです。40兆円という収入は国民から取り立てた税金です。
 国はその40兆円を使って、国防とか警察・消防、社会保障な
ど、国民の暮らしに不可欠なサービスを提供しているのです。し
かし、現在はそれが大幅に不足している。だから、その分国債を
発行して穴うめをしているわけです。
 国債というのは、国が国民に対して借用書を書いてお金を借り
ることです。したがって、国から見ると、税金も国債も、どちら
も国民から取り立てるものという点は同じです。
 ただ、国民から見ると、税金は「取り立てられる」という感じ
であるのに対して、国債は「購入する」ものであり、購入するし
ないは自由であって、しかも多少なりとも利息がつくので抵抗が
ないのです。
 このように国債は国が国民から借りる借金です。これが積もり
積もって795兆円になったのです。借金には違いないので、国
はいずれは税金を多くとって返すか、債務不履行して破綻するか
の選択肢しかないことになります。
 返さないよりも返すことはよいことであり、計画を立ててやっ
ていけば必ず返せるはずです。決して無理をすることはない。着
実に返していけばよいことです。なぜなら、国は超・超長期ロー
ンが組めるからです。
 ここが大事なことです。先ほどの例のサラリーマンの場合であ
ればローンはせいぜい20年か30年ですが、国は40年、50
年、場合によっては100年ローンだって可能なのです。ですか
ら、国が返すという意思さえあれば、必ず財政再建はできること
なのです。あわてることはないのです。・・・[日本経済01]


≪画像および関連情報≫
 ・増田悦佐著、『国家破綻はありえない』、PHP研究所刊
  ―――――――――――――――――――――――――――
  まず最初に、ほとんどの危機本、破綻本が政府が貧乏になっ
  たことと国民が貧乏になったことの区別さえついていない。
  今どんどん貧乏になっているのは日本国政府であって、日本
  国民じゃない。この区別さえ分からないような人間が書いて
  いる本は、ゴミのようなもので真剣に検討する価値はない。
                      ――上掲本より
  ―――――――――――――――――――――――――――

1759号.jpg
   『国家破綻はありえない』
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2006年01月25日

なぜ粗債務だけで財政をみるのか(EJ1760号)

 はっきりしていることがあります。日本は財政危機ではなく、
政策危機であるということです。1997年の橋本政権の大増税
の失敗に何も反省することなく、2001年からまるで親の仇の
ように緊縮財政を6年も継続し、その結果、税収が激減して政府
債務が増えてしまったのです。
 そうすると、これを逆手に取って今度は「このままでは国が破
綻する」として、2006年には国を破綻させないようにと再び
大増税をはじめています。失政を何も反省しないのです。
 この路線を継続していくと、日本の経済は一段と低迷化し、国
家が破綻してしまいます。そういう意味では、日本の国家破綻説
は間違っていないことになります。現在のままの政策を続けてい
くと本当に国家が破綻してしまうからです。
 財務省が2005年6月末に発表した政府債務は795兆円で
すが、その内訳は次のようになっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      国債・・・・・・・・・・ 510兆円
      財投債 ・・・・・・・・ 124兆円
      政府短期証券 ・・・・・  97兆円
      政府保証債務 ・・・・・  64兆円
      ――――――――――――――――――
                   795兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 一般に国債というのは2つの種類を含んでてます。政府が税収
不足を補うために発行した国債と財政投融資の原資として発行す
る国債の2つです。この2つの国債で634兆円になります。
 政府短期証券というのは、主として円高回避のために政府が外
国為替市場で円売り・ドル買いを行うために発行した短期の国債
のことです。政府保証債務とは、金融機関に公的資金を注入する
ために預金保険機構が発行した債券の保証のための資金ですが、
実損はきわめて少ないのです。
 これらの債務の合計は「粗債務」といいます。財務省は日本の
財政を粗債務だけで把握しようとし、負債に見合う金融資産を完
全に無視するのです。
 これはおかしな話です。どこの国でも粗債務から金融資産を控
除したネットの債務――純債務で把握するのが常識なのです。粗
債務だけで財政危機を煽っているのは日本だけです。
 まして日本は世界一の金持ち国家であって、多額の金融資産が
あるのです。なぜ、これを無視して借金の大きさだけを強調する
のでしょうか。危機をあおって大増税を正当化する財務省の策略
に国民は乗せられているのです。
 困ったことにこうした財務省の策略に政府が簡単に乗せられて
しまっていることです。かつての橋本政権しかり、小泉政権しか
りです。わかっていて乗せられたフリをしているのか、本当に乗
せられているのでしょうか。
 橋本政権の例を上げましょう。1997年度に橋本首相は、財
政改革と称して、消費税の引き上げを行い、社会保険の個人負担
の増加などで、9兆円の国民負担を負わせたのです。このときの
橋本首相の判断は、次の事実を重く見たからです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1996年の日本の政府債務のGDP比率は、86.5%で
 あり、主要国のなかで最悪の数字である。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、この86.5%という数字は粗債務だけでみた数字な
のです。このときの純債務はわずか21.6%に過ぎず、何ら問
題がなかったのです。これらの明らかに正しくない数字に基づい
て緊縮財政と大増税は実施され、日本経済は金融恐慌に巻き込ま
れることになったのです。
 どうして金融恐慌になったかですが、GDPデフレータがマイ
ナスで、明らかにデフレ傾向にあるときに、緊縮財政と大増税を
やったからなのです。自他ともに経済が強いことをトレードマー
クにしていた橋本首相のことです。まさか知らなかったことはな
いと思いますが、その後の橋本氏の言動――自らの経済運営に関
して謝罪するなどを見ていると、単に財務省(当時大蔵省)のい
いなりになったとしか考えられないのです。
 税収が激減する――これは明らかに時の政権の経済政策・経済
運営が間違っていた結果であるといえます。それなのに小泉政権
は自らの経済政策に何ら反省することなく、大増税政策の路線を
引いています。DGPデフレータは依然マイナスのままなのにで
す。その小泉政権に国民は多くの信任を与えているのです。
 ところで、日本の財政規模は、OECDの主要国のなかで最低
です。予算規模を80兆円とすると、名目GDPの16%でしか
ありません。OECDの主要国の平均でみると、中央政府の予算
規模は名目GDPの20%です。少なすぎるのです。
 文京学院大学教授である菊池英博氏はその著書のなかで、次の
ようにいっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  日本の予算規模(名目国内総生産、GDP)に比べて小さすぎ
 る。本当は、財政規模が「小さすぎる政府」なのだ。GDPと
 の対比でみると、日本の現在の財政規模(財政支出額)は主要
 国のなかで最低であり、主要国平均でみれば、日本の予算規模
 は100兆円程度の水準が妥当である。
       ――菊池英博著、『増税が日本を破壊する』より
                     ダイヤモンド社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 2005年度の税収は44兆円――これは20年前の1986
年並みの規模です。これは予算規模が小さ過ぎることが原因であ
ると考えられます。「小さい政府」を目指すのと、予算規模を小
さくするのとは必ずしも同じことではないはずです。
 純債務で財政をみる――これが正しいことは素人でもわかりま
すが、日本では実は少数派なのです。 ・・・[日本経済02]


≪画像および関連情報≫
 ・OECDとは何か
  Organization for Economic Cooperation and Development
  OECD(経済協力開発機構)はヨーロッパ諸国を中心に日
  ・米を含め30ヶ国の先進国が加盟する国際機関である。本
  部はフランスのパリに置かれている。

1760号.jpg
  『増税が日本を破壊する』
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2006年01月26日

なぜ、債務をかさ上げするのか(EJ1761号)

 日本の粗債務が795兆円であることは、昨日のEJで述べた
通りです。しかし、政府は多額の金融資産を持っているのです。
財務省は金融資産の方は隠して、粗債務の795兆円だけを強調
し、危機をあおっているのです。
 それでは、政府の金融資産はどのくらいあるのでしょうか。金
融資産については、毎年末に内閣府が「国民経済計算」として発
表しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     社会保障基金 ・・・・・ 254兆円
     内外投融資 ・・・・・・ 136兆円
     外貨準備 ・・・・・・・  90兆円
     ――――――――――――――――――
                  480兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ここで内外投融資とは、政府の国内外への投資と融資のことで
あり、外貨準備とは、急に外貨が必要になることに備えて政府が
保有している外国通貨のことです。
 そうすると、純債務は次の式で明らかになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 粗債務795兆円−金融資産480兆円=純債務315兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 粗債務から金融資産を引くと315兆円――これが純債務なの
です。それにしても、480兆円といえば、日本のGDP(5O
O兆円)に匹敵する額であり、これほどの金融資産を保有する国
は日本しかないのです。したがって、日本の財政を主要他国と比
較するときは純債務で見るべきなのです。これでも日本は財政危
機といえるのでしょうか。
 それに日本は世界一の債権国――世界一の海外債権を持つ国な
のです。最新のデータは2003年末のものですが、132兆円
が海外に投資されているのです。
 どこからこれほどのお金が出てくるのかというと、このベース
になるものは、1400兆円を超す個人金融資産なのです。それ
では、この1400兆円の個人金融資産がどのように使われてい
るのでしょうか。
 菊池英博文京女子大学教授の著書にその詳細が掲載されている
ので、以下にわかりやすく示します。2003年末の「国民経済
計算年報」データ(「国民経済計算年報」)を使っています。
 2003年末の個人金融資産は1452兆円、そこから金融機
関などで3兆円使われ、残りが1449兆円――これが次の4つ
の部門で使われているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  ≪金融資産/1449兆円≫
  家計   380兆円 ・・ 住宅ローン/消費者ローン
  企業   558兆円 ・・ 企業活動で必要な投資融資
  政府   379兆円 ・・ 国の純債務分に投入
  海外   132兆円 ・・ 海外に投入
  ――――――――――――――――――――――――――
      1449兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このように実際に数値を当たってみると、日本の財政は別に問
題はないように見えます。2000年1月に経済企画庁(現内閣
府)は、1998年度末の国の貸借対照表を次のように発表して
います。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           資 産         負 債
    金融資産 363兆円  国債など 403兆円
    固定資産 326兆円  その他  155兆円
    土  地 162兆円  正味資産 293兆円
    ――――――――――――――――――――――
         851兆円       851兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これによると、国は363兆円の金融資産を持ち、固定資産を
326兆円、土地を162兆円保有しており、合計で851兆円
の資産を持っているのです。
 これに対して負債の方は国債その他で558兆円あるものの、
資産と相殺すると、正味資産293兆円を有する堂々たる資産国
家ということになります。
 ところが不思議なことが起こったのです。2000年10月に
大蔵省(現財務省)は次のように発表したからです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1998年度末で日本国は最大776兆円の債務超過である
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 経済企画庁が正味資産293兆円であると発表した1998年
度末のデータがなぜ776兆円もの赤字になるのでしょうか――
にわかには理解できないものがあります。
 大蔵省の説明によると、次の追加債務があって、それを差し引
くと、776兆円の債務超過になるというのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          公的年金債務
          公務員給与/退職金
          郵便貯金
          保険準備金
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これらの総額は、「正味資産293兆円+776兆円」により
1069兆円と巨額になります。しかし、これらの債務はすべて
見合いの資産があるのです。郵便貯金にしても簡易保険にしても
運用資産というものがあります。公的年金には保険料徴収権、公
務員給与や退職金には徴税権があります。大蔵省はそういう資産
を無視して債務のかさあげをはかっている――菊地氏はそう訴え
ています。             ・・・[日本経済03]


≪画像および関連情報≫
 ・2005年/森田実政治日誌[477]
  大増税反対の精密な理論書が出版された。これで大増税は阻
  止できる!菊池英博(文京学院教授)著『増税が日本を破壊
  する』(ダイヤモンド社発行)を読み、小泉内閣が宣伝する
  借金795兆円のカラクリを知ろう――本当は「財政危機で
  はない」理由を知れば、日本国民は自信を回復することがで
  きる。

1761号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月27日

債務を大きく見せようとする財務省(EJ1762号)

 2000年10月に大蔵省は「日本国は最大776兆円の債務
超過である」と発表したあとの話を続けます。
 続いて、2003年9月に財務省は「日本国は最大844兆円
の債務超過である」と額を増加させています。このように、見合
いの資産をすべて無視して債務だけを過大に評価すれば、世界中
の国はすべて債務超過になるはずです。
 しかし、2004年9月には、急にトーンダウンさせ、「日本
国は最大252兆円の債務超過である」と額を大幅に下げていま
す。一体どうなっているのでしょうか。
 2003年度末の日本国の資産と負債の状況は次のようになっ
ています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           資 産         負 債
    金融資産 441兆円  国債など 593兆円
    固定資産 331兆円  その他  227兆円
    土  地 128兆円  正味資産  80兆円
    ――――――――――――――――――――――
         900兆円       900兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 小泉政権になってからの経済不振を反映して正味資産は大幅に
減っています。それでも負債を差し引いて80兆円の正味試算が
あるのです。なぜ、これが債務超過になるのかというと、財務省
は、追加債務として次の332兆円を加えているからです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      郵便貯金 ――I
      保険準備金  I―――332兆円
      その他  ――I
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この332兆円を負債の820兆円に加えると負債総額は11
52兆円になり、252兆円の債務超過になるのです。しかし、
わからないのは、なぜ公的年金債務と公務員給与/退職金を債務
額に加算するのをやめたのでしょうか。こんな財務省の数字を信
用できるでしょうか。
 さて、日本の新聞やテレビで国の債務を報道する場合、次の式
を使っています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          粗債務 ÷ 名目GDP
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これによると、1995年には80.4%であった数字は20
01年には142.3%、2004年には157.6%に達して
います。この数字だけを見ると、日本はすぐにもアルゼンチンの
ように国家破綻してしまうように思ってしまいます。
 しかし、OECDの統計では純債務を使って次のように計算し
ているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          純債務 ÷ 名目GDP
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 純債務のGDP率で日本の債務を計算した結果を次に示してお
きます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     ≪純債務のGDP率≫
     1995年 ・・・・・ 16.9%
     1997年 ・・・・・ 27.9%
     2000年 ・・・・・ 50.4%
     2001年 ・・・・・ 65.1%
     2004年 ・・・・・ 78.4%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1997年といえば、橋本首相が財政改革をやった年です。し
かし、純債務のGDP率はわずかに27.9%――これに対して
当時のゴア副大統領は次のようにいっているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 純債務でみれば日本は健全財政であるのに、どうして増税と緊
 縮財政をするのか。           ――ゴア副大統領
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、2001年から急に比率が増加しています。これは財
務省のやった債務のかさ上げの結果なのです。財務省はどうして
も大増税と緊縮財政をやりたいため、国民に債務を大きく見せる
必要があったのです。そして、このたくらみは見事に成功してい
ます。なぜなら、国民の多くは増税やむなしと考えるようになっ
たからです。
 しかし、菊池教授は、このかさ上げ分を調整すると日本の純債
務のGDP比率は60%程度――これはユーロ地域やドイツ並み
の数字であり、日本だけが突出しているわけではないといってい
ます。財政再建はすべきですが、財政危機ではないのです。
 重要なことは、政府債務のGDP比率に影響を与えるのは債務
残高などではなく、名目GDPの成長率であるということです。
GDP成長率を1995年を100として2004年の数値をみ
ると、英国の161.3%に対して日本は101.5であって、
この10年間日本の名目GDP成長率は増えていないのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      イギリス ・・・・・ 161.3
      アメリカ ・・・・・ 155.5
      ド イ ツ ・・・・・ 123.6
      日  本 ・・・・・ 101.5
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 とくに小泉政権になってからは、名目成長率は増えるどころか
マイナスなのです。それはデフレを無視してひたすら緊縮財政を
続けた結果なのです。問題なのは、ここにいたってもなおかつ財
政再建の名の下にさらなにる緊縮財政と大増税を実施しようとし
ていることです。          ・・・[日本経済04]


≪画像および関連情報≫
 ・コロンビア大学デビット・ワインシュタイン教授の分析
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2002年度末の日本政府の粗債務(中央・地方政府)は国
  内総生産(GDP)の161%にのぼる。しかし政府の持つ
  金融資産を単純に引いて純債務を計算するとGDPの64%
  にすぎない。この数字はOECD諸国と比べても、とくに悪
  いわけではない。純債務でみるなら日本の財政事情はOEC
  D諸国並みであって、破綻とは程遠く十分維持可能である。
  菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
  はないこれだけの理由』より。ダイヤモンド社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

1762号.jpg
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2006年01月30日

なぜ、日本国債は格下げされたか(EJ1763号)

 2002年4月から5月にかけて、米国の有力格付け会社は日
本国債の格付けを次のように下げています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 スタンダード・アンド・プアーズ ・・・・・・ Aa3
 ムーデテーズ・インベスターズ・サービス ・・  A2
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 S&Pの「Aa3」というランクは、G7の主要7ヶ国中最低
の水準であり、MDの「A2」は、ギリシャ、イスラエル、ポー
ランド、南アフリカ共和国並みの水準であって、アフリカのボツ
ワナ共和国よりも低くランクされたのです。ボツワナ共和国は日
本の最大の援助国であり、この国の国債と同格にされたのですか
ら、屈辱的な格下げです。
 問題はこのときの新聞論調は、一貫して次のようなものだった
ことです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 政府の債務残高が高く、財政赤字が増加し、GDPに対する比
 率が上昇していることが原因である。したがって、日本はもっ
 と債務残高を圧縮する必要がある。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 実はこれはきわめて見当違いの主張なのです。興味深いのは、
格付け会社に対する財務省の対応の内容です。国債格下げの発表
が行われると、財務省は次のように抗議を行っています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日本は世界最大の貯蓄超過国であり、国債はほとんどが国内で
 極めて低い金利で安定的に消化されている。また、世界最大の
 経常収支黒字国であり、外貨準備も世界最高である。
 ――菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機
     ではない」これだけの理由』より。ダイヤモンド社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この財務省の主張は正しいし、抗議は当然なのですが、注目す
べきは、ここで財務省が主張していることは国内向けとは異なり
純債務論を展開していることです。明らかに財務省は国内と海外
でことばを使い分けているのです。
 S&PにしてもMDにしてもそんなことは、わかっているので
す。それならば、なぜ、国債を格下げしたのかというと、小泉政
権の経済政策に懸念を持ったからです。
 1998年に首相に就任した小渕恵三は、国民からの人気は低
かったものの、適切な積極財政の展開によって、橋本政権の経済
失政による景気低迷を復活させ、3年連続で50兆円を切ってい
た税収を50兆円台に復活させているのです。
 小渕政権がなぜ税収を増やすことができたかというと、財政再
建問題を凍結させ、金融システムの安定化、景気回復と経済の安
定成長を目指して、積極的な財政政策を駆使した景気振興策をと
ったからです。
 しかし、2000年4月に小渕は急病に倒れ、森喜朗政権が発
足するのです。そして、森政権による2001年度の当初予算は
6年ぶりの緊縮型だったのです。この流れは2001年に発足し
た小泉政権に受け継がれ、続いていくことになるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    2001年予算総額 ・・・・・ 82.7兆円
    2002年予算総額 ・・・・・ 81.2兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 財務省は少し景気が回復基調に乗ると、財政を引き締め、予算
を緊縮型にして何回も失敗しているのです。橋本政権が失敗した
ことを懲りもせず、繰り返すのです。
 2001年は財政面の引き締めに加えて、2002年4月から
定期預金のペイオフ実施を宣言しています。そのため、定期預金
の資金が普通預金と当座預金に移動したのです。
 銀行にとっては、安定性のある定期預金が少なくなると、貸し
出しを増加させにくくなるものです。そのため企業間に信用収縮
が起こり、銀行貸し出しは急速に冷え込み、これが景気を押し下
げる要因となったのです。
 そして、2001年度の税収は再び50兆円の大台を割ってし
まい、47.9兆円に減少したのです。しかし、このときは現在
よりも8兆円も税収は多かったのです。亡き小渕首相の経済政策
の名残りがあったからです。
 しかし、小泉政権による2002年度予算は、前年比マイナス
1.7%の81.2兆円とさらに減少します。これは2年連続の
緊縮予算であり、実に47年ぶりのことだったのです。典型的な
デフレ予算であるといえます。1998年からデフレが進行して
いるのにこういう経済政策をとったために、この時期からデフレ
が一段と深刻化してしまったのです。
 デフレでは投資が不足するのです。こういうときに財政再建を
やろうとし、公共投資と財政投融資を減額しているのですから、
デフレが加速するのは当然のことです。
 S&PとMDはこういう小泉政権の経済政策を懸念して、日本
の国債を格下げしたのです。S&Pは日本の財政を純債務でとら
えて評価するのに対し、MDは粗債務でとらえるという評価方法
の違いはありますが、ともに日本の名目成長率が低迷し、その回
復が困難であることを見抜いて国債の格下げをしたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 デフレ政策の継続が名目成長率を低迷させているために、国民
 の債務負担度合い(各名目GDPに対する政府債務の比率)が
 上昇していくのが問題だ。    ――格付け会社のコメント
                ――菊池英博著、前掲書より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 小泉政権が緊縮財政の継続と大増税を実施すれば、さらなる国
債の格下げは不可避でしょう。そうなると、日本経済は文字通り
緊急事態になってしまうはずです。しかし、ここまで説明した通
り、日本は財政危機ではないのです。 ・・・[日本経済05]


≪画像および関連情報≫
 ・小渕恵三という人物の知られざる一面
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ピアニストの中村紘子も小渕を高く評価する一人である。小
  渕は十年ほど前から中村の家で開かれるピアノパーティーの
  常連客になっている。クラシック音楽の鑑賞をはじめとする
  小渕の芸術好きは有名で、休みがとれると好きな絵の展覧会
  やコンサートにせっせと足を運んでいる。小渕は、政治家な
  ら必ず付きものの宴席にはほとんど顔を出さない。出したと
  しても、すぐに帰ってしまう。小渕は某夜ひそかに料亭に集
  まって陰謀をこらすといった政治家にありがちなビヘイビア
  とは、およそ無縁な男である。
       ――佐野眞一著、『凡宰伝』より。文藝春秋社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

1763号.jpg
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2006年01月31日

国家財政に関する国会議員の認識度(EJ1764号)

 国の財政は粗債務ではなく純債務で見る――このことを国会議
員は知っているのでしょうか。
 菊池教授は、国会議事録から純債務について発言している議員
の記録を著書で発表しているので、このいくつかを取上げてご紹
介しましょう。
 2005年3月14日の衆議院予算委員会で自由民主党の秋元
司議員は、谷垣禎一財務大臣に対して次の質問をしています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 秋元議員:財務省は債務ばかりを公表して、政府が保有してい
      る多額の金融資産を公表していない。今後、債務を
      公表するときは、金融資産も発表して欲しい。
      (中略)財務省は単に債務残高を強調するが、格付
      け会社が日本国債を 相次ぎ格下げした2002年
      には、豊富な外貨準備などを考慮していないと反論
      しているではないか。
 谷垣大臣:年金積立金や外貨準備は使い道が決まっていて、簡
      単に取り崩せない。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 相殺できるできないは問題ではないのです。しかし、そういう
資産があるのですから、一国の債務はそれを引いて純債務残高で
みるのが世界の常識なのです。谷垣財務大臣の発言は完全な言い
逃れであるといってよいと思います。一般会計と特別会計のとき
も同じ論法で逃げています。
 1997年〜1998年にマレーシアで通貨危機が起こったと
きの話です。マレーシア政府は直ちに年金基金を担保にして中央
銀行が国債を発行し、景気振興策を取って経済を復興させ、危機
を脱出しています。日本もこういう政策をとるべきなのですが、
まったく逆のことをやっているのです。
 年金積立金は国が国民から徴収したものであって、国民の資産
であり、こういう使い方ができるのです。谷垣氏の発言や答弁を
聞いていると、いかにも財務省の官僚のいうがままに答弁してい
るようにみえます。
 菊池教授は、日本では、財政を純債務でみるという国際常識を
とる学者や国会議員はまだ少ないといいます。しかし、過去にそ
ういうことを発言している国会議員はいるのです。不思議なこと
にいずれも自由民主党の議員ばかりであり、野党の議員は少ない
のです。
 2002年11月25日の参議院予算委員会の「経済政策に関
する集中審議」の中で、自由民主党の木村仁議員は小泉首相に対
して次の質問をしています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 木村議員:700兆円という概念が国民全体に染み付いて、大
      変国民が閉塞感を感じていることも事実であります
      から、よく考えてみれば、700兆債務は持ってお
      りますけれども、日本政府は430兆の金融資産を
      持っているのです。年金基金、外貨準備その他あり
      ます。使えないカネですけど、財産には違いない。
      それを差し引くと純債務で比較すれば、ちょうど、
      GDPの50%、これはアメリカ、イギリス、EU
      の同じベースで比べたのと同じであります。
                     ――参議院議事録
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これに対して、小泉首相はまともに回答していないのです。わ
かっているのかいないのか、困ったことです。
 2001年1月23日、経済財政担当相に就任した麻生太郎氏
(現外務大臣)も、その就任記者会見において、次のように述べ
ています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日本は世界最大の債権国だし、国・地方の長期債務から国有財
 産などを差し引いた純債務のGDP比率は欧州諸国の平均程度
 である。国が明日から破産するような状況にはない。
         ――2001年1月24日付、日本経済新聞
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 自由民主党の日出英輔議員も、2002年7月10日の参議院
予算委員会で同趣旨の質問をしているのですが、これについては
省略します。しかし、なぜ、与党議員ばかりなのでしょうか。
 外国の経済学者も同じことをいっています。元FRB副議長で
現プリンストン大学のアラン・ブラインダー教授は、次のように
いっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 小泉首相はフーバーの轍を踏むべきではない。財政逼迫といわ
 れているが、日本政府の純債務は、債務総額が示すほど悪くな
 い。重要なのは、財政支出の縮小か拡大かではなく、財政刺激
 を維持しながら、その形式をいかに変えてゆくかだ。
   ――『週刊東洋経済』2001年8月11〜18日号より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 もうひとつおかしいのは、マスコミの論調なのです。菊池教授
は、既出の秋元司議員の国会での発言に関して次のように述べて
問題視しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 粗債務でも純債務でも、いずれのデータを使っても日本の財政
 状況が先進国のなかで相当悪いことに変わりはない。にもかか
 わらず、健全化をゆっくり進め国民負担増や歳出カットを小幅
 にしたい立場から見ると、純債務ベースの方が都合がよい。
         ――2005年3月15日付、日本経済新聞
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 断っておくが、日本の財政は純債務ベースで主要各国と比較す
ると別にわるくはないのです。これでは、純債務論者は財政危機
を先送りしようとしていることになります。新聞は政府の提灯持
ちなのでしょうか。         ・・・[日本経済06]


≪画像および関連情報≫
 ・秋元司議員発言に関する菊池教授の意見
  ―――――――――――――――――――――――――――
  秋元議員の指摘は、「日本の財政を国際的レベルで正しく把
  握しよう」とするものである。そうすれば、増税しか手段を
  見出せない政府に、新たな対応策が出てくることを指摘して
  いるのである。この秋元司議員の質問を契機として、自民党
  内には、純債務を重視する見方が増えてきたと報じられてい
  る。これは財政改革を遅らせるためでなく、日本の財政事情
  にあった財政政策をとるべきであるとの認識が出てきた結果
  といえよう。
  菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
      はない」これだけの理由』より。ダイヤモンド社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

1764号.jpg
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2006年02月01日

日本は財政危機ではなく政策危機である(EJ1765号)

 ここで今までのところを整理しておきたいと思います。現在の
日本の財政の現状は、対外債権国であること、それに豊富な金融
資産を有していることなどにより、純債務でみる限り財政危機で
はない――そのようにいってよいと思います。
 しかし、反論する向きも多いでしょう。純債務でみても200
4年の純債務のGDP率は78.4%――かなり多いではないか
と。確かにその通りですが、これについてはEJ第1762号で
述べたように、財務省の債務のかさ上げ(2001年以降)工作
の結果なのです。これを補正してみると、60%ぐらいになるの
です。これなら、何も問題はないはずです。
 問題は財政赤字がなぜ増えたかです。それは税収が激減してい
ることが原因です。税収が減少している状況において増税をすれ
ば、税収はさらに減少します。小泉政権が発足した2001年の
税収は47.9兆円でした。
 その前年の2000年度は、小渕政権が積極財政を展開して、
橋本政権のとき3年連続で50兆円を切っていた税収を50兆円
台に回復させ、国債新規発行額を4.5兆円減額させることがで
きていたのです。
 それなのに、2001年度がなぜ50兆円を大幅に割ったのか
というと、小渕政権を引き継いだ森政権が緊縮財政をひき、定期
預金のペイオフ解禁などを強行したためであることは既に述べた
通りです。さらにその森政権を引き継いだ小泉政権が構造改革と
称して2年連続してさらに緊縮財政を続けたので、2003年度
に税収は遂に41.8兆円まで減少したのです。
 2004年度は主として大企業のリストラ努力と若干の景気の
回復基調によって45.5兆円に戻しています。デフレが進行し
ているときでも景気は循環しており、落ち込みがきついときは一
時的に景気は浮上しますが、長続きしないのです。
 小泉政権はこれを「構造改革の成果である」と自画自賛してい
ますが、けっしてそうではなく、その証拠に2005年度は44
兆円と再び落ち込んでいます。ちなみにこの税収44兆円は19
86年度並みの数字なのです。構造改革によって日本経済は大き
く陥没し、実に20年前の税収しか上がらない経済に落ち込ませ
てしまったのです。
 その結果として、政府長期債務、すなわち、長期国債発行残高
は、2004年度末で490兆円――2000年度末が350兆
円ですから、140兆円も増加してしまっているのです。一体何
のための構造改革だったのでしょうか。この状態では税収が50
兆円台に戻ることはありえないのです。
 追って構造改革がいかに日本経済を破壊したかについて検証し
ますが、小泉政権の経済政策は明らかに失政だったのです。それ
は税収が落ち込んで、2000年度の50兆円台に回復しない事
実を見れば明らかなことです。
 現政府は、2001年度から2004年度までに1.6兆円の
公共事業費を圧縮したことを成果として強調しています。しかし
同じ3年間の税収の累計額は23兆円にも達するのです。
 2000年度の税収の50.7兆円から、2001年度〜20
04年度のそれぞれの税収を引いた額を合計した数字です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   2001年度 50.7−47.9= 2.8兆円
   2002年度 50.7−44.1= 6.6兆円
   2003年度 50.7−41.8= 8.9兆円
   2004年度 50.7−45.5= 5.2兆円
   ―――――――――――――――――――――――
                    23.5兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これによると、公共事業を1.6兆円削減しても、その結果と
して税収を23兆円も失ったのです。この場合、政府は1.6兆
円の削減成果のみを強調し、税収の大幅減少についてはふれてい
ませんが、あまりにも一面的な見方といえます。
 デフレが進行しているときは、投資関連の財政支出は減らして
はいけないのです。少なくとも前年同額か増加させるのが常識な
のです。削減してしまうと、その削減額をはるかに上回る税収の
減少につながるからです。
 しかし、政府はその失敗を反省するどころか、逆に改革の成果
を強調して、失敗の埋め合わせに大増税をやろうとしている――
理不尽な話です。しかし、それを大多数の国民は仕方がないと受
け入れようとしているのです。何と寛容な国民なのでしょうか。
 つまり、こういうことになります。
 純債務という観点から日本の財政をみると、そのGDP比率は
欧州諸国並みであって、現状は財政危機ではないといえます。し
かし、財政赤字は増え、政府債務は増えている――その原因は、
国の経済政策が間違っているからです。
 しかし、国が間違いを反省せず、このままの政策を継続しよう
とすると、大増税しかないことになります。そうなると、日本の
財政そのものが破綻してしまうことになります。したがって、こ
れは「財政危機」ではなく、「政策危機」である――菊池英博教
授はこういうのです。
 菊池英博教授は、銀行マンの出身であり、国内のみならず、米
国やヨーロッパ、オーストラリアなどの営業店で、長年にわたる
銀行経営の豊富な体験を持つ実務派の学者です。その主張は理論
的であると同時に実践的であり、きわめて説得力があります。
 1995年から、文京女子大学(現文京学院大学)の教授をさ
れていますが、そのかたわら衆参両院で開かれる公聴会などで、
公述人を務めるなど、国の経済政策に関して多くの提言をされ活
躍している気鋭の学者です。
 その菊池教授が現政権の経済政策は完全に間違っており、現在
の経済政策を続けると、本当に財政は破綻するといっているので
す。しかし、その提言が素直には受け入れられない不可解な基盤
のようなものがあるのです。     ・・・[日本経済07]


≪画像および関連情報≫
 ・公共投資はGDPの増加に寄与する――菊地教授意見
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ・「公共投資はGDPの増加に寄与していない」――この言
   葉は、当初から小泉純一郎氏と竹中平蔵氏がよく宣伝し、
   マスコミも使っている。しかし、事実に反する発言であり
   大間違いである。
  ・1998年度と1999年度の公共投資が2000年度の
   GDPを押し上げ、税収は50.7兆円に達している。
  ・しかし、2001年度に小泉構造改革が出てきたため、効
   果が吹き飛んでいる。これは、橋本政権に次ぐ2度目の失
   敗といえる。
  ・公共投資のGDP成長への寄与度合いを減殺させているの
   は、効果が出るか出ないうちに、すぐに緊縮財政に転じて
   しまうからである。
  菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
      はない」これだけの理由』より。ダイヤモンド社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

1765号.jpg
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2006年02月02日

名目成長率と実質成長率(EJ1766号)

 現在、政府は政府の債務残高、すなわち、国債の残高を何とか
して減らさなければと考えているわけです。そのためには、何を
するべきでしょうか。
 80兆円必要なのに40兆円しか税収がない。だから、国債を
40兆円発行して穴埋めをせざるを得ない。したがって、国債発
行残高はどんどん増える。しかし、このままいくと国家が破綻す
るので、大増税をしてなるべく国債を発行しないようにする――
これが財務省が現在考えているロジックです。
 国の立場になって考えてみると、国債を発行してお金を集める
のも、税金として取り立てるのも最終的には同じことなのです。
そして、いずれもそれを負担させられるのは国民なのです。
 しかし、国債の場合は国の借金として明らかにされるし、借金
の残高があまりにも増えると国際的に信用を落とすことになりま
す。それに金利も支払う必要がある――だから、国としては税金
で取り立てる方がずっとありがたいと考えているのです。
 しかし、この場合、税収が増加すれば増税をしなくても問題は
解決するのです。そうであるとしたら、どうしたら、税収を上げ
るかに智恵を絞るべきではないでしょうか。
 財政理論のなかに「ドーマーの定理」というのがあります。そ
れは次のようなものです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 名目GDPの成長率が国債のコストより高ければ、国債残高は
 自然に減少していく。         ――ドーマーの定理
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これを逆にいうと、GDPの名目成長率が国債のコストよりも
低ければ、国債残高は増えていくということになります。
 日本のケースに当てはめてみます。日本政府の国債発行のコス
トは平均2%ですが、GDPの名目成長率はゼロないしマイナス
です。つまり、GDPの名目成長率は国債のコストよりも低いの
で、国債残高は増えていくことになります。
 この状態から脱出するにはGDPの名目成長率を上げればよい
ことになります。しかし、日本はデフレ下にあり、その状況で名
目成長率を安定してあげることはきわめて困難なことなのです。
したがって、日本にとって何よりも急務なのはデフレを解消する
こと――これに尽きるのです。
 ところで、経済の話には「名目」と「実質」という言葉がよく
出てきます。これがわかっていないと、何かと不便なのでここで
説明しておくことにします。
 ごく簡単にいうと、名目と実質には次の違いがあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     名目 ・・・・・ 貨幣価値で換算したもの
     実質 ・・・・・ モノの単位で測ったもの
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 金利を例にとって説明します。ある企業が銀行から100万円
を1年間借りたとします。利息は年5%とします。そうすると、
1年後には105万円返済する必要があります。この場合は、貨
幣価値で測っているので、「名目金利」というのです。
 ところで、100万円借りた企業が商品を作ってそれを売り、
その売り上げで借金を返済したいと考えたとします。その商品の
売価を1個100円とすると、モノで測ると1万個分の借金をし
たということになります。
 物価上昇率がゼロのとき、借金を返すには商品の価格は変わら
ないので、1年かけて1万5百個の商品を売る必要がある。この
場合は、モノで測った金利、「実質金利」も5%で変わらない。
 しかし、物価上昇率が5%のとき、商品は1個105円になる
ので、借金を返すには商品を1万個売ればよいことになります。
この場合、金利は商品で測るとゼロになります。このように、物
価の変動を考えると、お金で測った金利とモノで測った金利は、
違ってくるのです。
 GDPの成長率でも「名目成長率」と「実質成長率」がありま
す。しかし、注意しなければならないのは、デフレの状況の下で
は、名目成長率で見るべきだということです。
 少し難しい話になって恐縮ですが、デフレ状況をあらわす指標
として「GDPデフレーター」というものがあるのです。これは
総合物価指数といわれるものであり、経済全体の物価動向を示す
指標として使われています。
 このGDPデフレーターは、1998年から現在にいたるまで
ずっとマイナスになっています。これがマイナスであるというこ
とは、デフレであるということなのです。
 ところで、GDPの実質成長率は次の計算をして、算出された
数値とほぼ一致するのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    実質成長率=名目成長率−GDPデフレーター
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 デフレの状況の下では、GDPデフレーターはマイナスになり
ます。例えば、名目成長率がマイナス2%とし、GDPデフレー
ターがマイナス4%とすると、実質成長率はプラス2%というこ
とになるのです。
 そうすると、新聞は「日本経済は順調に成長」などと書き、名
目成長率の数値を省いて報道することがあるのです。理屈は物価
が4%下がるということは、一年前に100円だった商品は96
円で買えることになり、実質的にはプラス成長であるということ
なのです。
 しかし、名目成長率はマイナス2%なのですから、現在がデフ
レ下にあるということを考慮しないと実態を間違って認識してし
まうことになります。
 財務省の役人などは、このあたりを巧みに使い分けて実態をよ
く見せようとする場合があるので、注意が肝要です。デフレの場
合は名目値が悪くなるので、国民の目を実質ベースに向けさせよ
うとするのです。          ・・・[日本経済08]


≪画像および関連情報≫
 ・経済成長率
  GDP(国内総生産)の成長率のことで、4半期(3ヵ月)
  あるいは1年でどれだけ増えたかをパーセントで表したもの
  である。前期の経済成長率=(前期のGDP−前々期のGD
  P)÷前期のGDP×100で計算する。
  経済成長率には、名目成長率と実質成長率がある。名目成長
  率は、時価で示した名目国内総生産の増加率である。名目国
  内総生産には物価上昇(インフレ)も含まれるため、物価上
  昇が高いと、金額的には大きくなる。この名目成長率から物
  価上昇分を調整し、実質的な生産量を計算したのが、実質成
  長率である。
  http://www.nikkei4946.com/today/basic/95.html

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2006年02月03日

国策に影響を与える御用学者(EJ1767号)

 ここまで菊池英博教授の考え方を中心に「日本は財政危機では
ない」という主張を展開してきました。しかし、この主張は現政
権の経済政策とは明らかに違うのです。それに政府を取り巻く数
多くの学者のなかで、菊池教授の意見は少数派なのです。
 小渕政権以後の傾向ですが、大学の教授から大臣になるケース
が出てきています。その典型的なケースに竹中大臣(現総務相)
の異例なる出世があります。とくに小泉政権では、政治家として
の経験年数とは無関係に、首相のめがねにかなえば重要閣僚にな
れる可能性さえも出てきているのです。
 こうなると、大学教授や識者の中には、意識してそれを狙う人
が出てきても不思議はないのです。そういう人たちは、当然のこ
とですが、時の政権の考え方には絶対反対はしないものです。た
とえそれが自分の考え方とはぜんぜん違っていてもです。
 こういう人たちは政府の失政を正当化して擁護し、再度失政を
推進させようとさえするのです。それにしても財務省出身の経済
評論家の多いこと――彼らはテレビの政治番組に頻繁に出演して
顔を売り、財務省の政策を援護する論陣を張っています。
 菊池教授は、こういう識者(大学教授を含む)は、一日も早く
退任するか、誤りを認めるべきであるといっています。そして菊
池教授は、そういう識者の一人として、池尾和人慶應義塾大学教
授を槍玉に上げています。菊池教授の指摘した池尾和人教授の主
張をいくつか上げておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ・日本の対外純資産残高が世界一だとか、国内貯蓄は十分に存
  在し、国債はほとんど国内で消化されている、という類の議
  論はほとんど意味のないものである。
 ・景気が回復すれば、税収が増えて財政赤字がなくなるといっ
  た自然治癒のシナリオなどまったく成り立つものではない。
  ――以上、池尾和人著、『銀行はなぜ変われないか』(中央
  公論社/2003年)
 ・資金の流れを官から民へ変えるためには、財政資金需要の圧
  縮こそ不可欠である。そのためには、歳出の削減と増税を図
  る以外にない。
    ――2005年8月6日号、『週刊ダイヤモンド』より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 菊池教授の本を読むと、池尾教授の考え方は間違っているよう
に思えますが、財政赤字をどのように解決するかについては、諸
説があって明快にこうだといい切れない問題なのです。
 池尾教授は数あるエコノミストの中でもその主張が首尾一貫し
ていることで定評のある学者であり、ジャーナリストの東谷暁氏
が池尾教授を著名エコノミストの第一位にランクしていることを
EJ(2001年7月2日付、EJ第649号)で伝えたことが
あるのです。
 ところで、私が財政について勉強をしたとき、大変参考になっ
た本があります。東京大学大学院経済学研究科教授の井堀利宏氏
の本です。その本の中で井堀教授は、財政赤字をめぐる論争につ
いて、次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 財政赤字がどのような経済的な意味を持っているのかは、理論
 的にも実証的にも経済分析の大きな対象である。とくにアメリ
 カでは、ケインズ的な立場と新古典派の立場に立つ経済学者の
 間で、財政赤字の効果や公債の負担について、さまざまな論争
 が行われてきた。研究結果はさまざまであり、必ずしも論争が
 決着がついたとはいえない。財政赤字をめぐる論争に終りは見
 えない。――井堀利宏著、『財政赤字の正しい考え方/政府の
       借金はなぜ問題なのか』より。東洋経済新報社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 財政赤字について分析するとき、主としてマクロ・モデルを使
うのですが、どのようなマクロ・モデルを使うのかについて、ア
カデミックな世界でも、エコノミストの世界でも共通の枠組みが
存在しないのです。
 そのため同じ現象に対する政策的提言についても、異なる理屈
で議論するので、まとまらないのです。菊池教授と池尾教授のケ
ースはまさにこれに該当すると思います。ただ、はっきりしてい
ることは政府の政策には間違いがあるということです。
 菊池教授は、経済財政諮問会議委員の2名の大学教授の一人で
ある大阪大学教授の本間正明氏を政府の間違った政策の推進を助
ける学者として批判しています。本間教授は、『週刊ダイヤモン
ド』/2003年8月30日号の編集長インタピューで次のよう
に述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  ケインズ幻想はいまや日本だけ、世界の経済理論は転換
  している。        ――本間正明大阪大学教授
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 本間教授は、ケインズ的考え方をする菊池教授たちを批判して
このようにいっているのです。ところで教授委員のもう一人は東
京大学教授の吉川洋氏です。吉川教授は、その著書である『転換
期の日本経済』(岩波書店/1999年)の中で「日本経済低迷
の原因は需要不足である」と明言しています。
 そのため吉川教授が経済財政諮問会議の委員に選ばれたとき、
彼を歓迎する声が聞かれたのです。しかし、菊池教授はその期待
は裏切られたといっています。構造改革が典型的な需要抑制政策
であるにもかかわらず、吉川教授はこれに反対せず、最近は次の
ようにいっているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  構造改革とは経済の発展を阻害する要因を取り除くことで
  ある。      ――2004年5月/経団連での講演
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 現政権にはかかる学者が政策の推進を支えており、国を間違っ
た方向に導いていると菊池氏はいうのです。 [日本経済09]


≪画像および関連情報≫
 ・経済財政諮問会議
  経済財政政策に関し、有識者の意見を十分に反映させつつ、
  内閣総理大臣のリーダーシップを十全に発揮することを目的
  として、内閣府に設置される合議制機関

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2006年02月06日

橋本失政の経緯と小渕政権の努力(EJ1768号)

 現在の日本経済はデフレ下にあり、経済の流れそれ自体がデフ
レによって下降しています。2000年を100とすると、GD
Pデフレーター(総合物価指数)は次のように下落しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      2000 ・・・・・ 100.0
      2001 ・・・・・  98.5
      2002 ・・・・・  97.3
      2003 ・・・・・  94.4
      2004 ・・・・・  92.4
      2005 ・・・・・  91.2
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 かかるデフレ下にあって、財政再建を目指して緊縮財政を行い
大増税を実施したらどうなるか――その結果は橋本政権の経済失
政をみれば明らかです。2001年4月の自民党総裁選挙で橋本
元首相は次のように謝罪しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 私の財政改革は間違っていた。これで国民に多大の迷惑をおか
 けした。国民に深くお詫びしたい。     ――橋本龍太郎
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 一国の総理大臣が自らが実施した政策の間違いを認めるという
ことは大変なことです。橋本氏は、もし、自分が再び総理になれ
たら、その失敗を生かし、正しい財政改革をやりたいと考えて謝
罪したものと思われます。しかし、橋本氏は総裁選に敗れ、小泉
政権が誕生したのです。
 そこで、橋本政権の経済政策を分析することによって、何が悪
かったか、今後どのような手を打ったらよいかについて考えるこ
とにします。
 1996年6月25日、1997年度の増税計画が閣議で決定
されています。株価の下落はこの直後から始まったのです。とく
に外資を中心とする売り圧力が強まり、1997年、1998年
と株価は下落の一途を辿ったのです。外資が、緊縮財政と増税を
嫌ったのが原因と思われます。
 そのとき日本経済は、努力を積み重ねて、バブル崩壊後の復活
路線をゆっくりと進んできていたのです。しかし、橋本政権の政
策はこの努力を一瞬にして打ち砕いてしまったのです。
 橋本政権が緊縮財政と増税を実施しようとしていた1997年
3月にゴア大統領が来日し、「なぜ、日本は財政危機でもないの
に内需抑制策をとるのか、内需を拡大して経済を活性化させるべ
きである」と橋本首相に進言したのですが、既に路線は決まって
いるとして、首相は聞く耳を持たなかったという話は既にお話し
しました。
 一番打撃を受けたのは金融機関です。中でも大手銀行は多額の
株式を保有し、その含み益を資本に組み入れていたので、株価が
下落すると自己資本が減るという事態に直面したのです。含み益
というのは、株価が上がったとき、その時点で売れば利益が出る
場合の想定利益のことであり、実際にそこに現金があるわけでは
ないのです。
 それに1992年から自己資本比率規制(BIS規制)が実施
されており、海外で業務を営む国際銀行は保有資産の8%以上の
自己資本を持つことが義務づけられていたのです。日本の大手銀
行はすべて海外で業務をする国際銀行であったので、株価が下が
るとこの規制が重くのしかかってきたのです。
 各大手銀行は自己資本8%以上をクリアするために、かなりの
貸し付けを回収せざるをえなくなったのです。当時大手19行の
資本の合計は40兆円――含み益はその10%、すなわち4兆円
を占めていたのです。
 しかし、株価の暴落でこの4兆円はゼロになると、見合いの資
産である50兆円の貸し付けを回収しなければならなくなったの
です。この50兆円の根拠は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       4兆円 × 12.5 =50兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 貸し付けを回収するとなると、それはさらに経済に大打撃を与
えることになります。そのため、菊池教授は、自己資本の減少分
に公的資金を注入し、銀行の貸し付けの回収をやめさせるべきで
あるとの提言を行ったのですが、橋本政権はこれを無視し、何の
手も講じなかったのです。
 そのため1997年から銀行は貸し付けの回収をはじめ、これ
によって企業間信用が急速に縮小し、1999年末には、GDP
の10%に当る46兆円の資金が吸い上げられたのです。
 そして、1997年11月、三洋証券、山一証券、北海道拓殖
銀行が相次いで破綻したのです。これは金融恐慌そのものであっ
たのですが、政府はそれを認めようとはしなかったのです。
 しかし、1998年7月の参議院選挙で自民党は惨敗、橋本首
相は退陣し、小渕政権が発足します。小渕首相は蔵相にベテラン
の宮沢喜一氏を迎え、直ちに金融再生に取り組んだのです。まず
財政再建を凍結し、1998年8月に「金融安定60兆円」の法
案を国会で可決させています。
 さらに同じ年の10月に「金融機能早期健全化法案」が可決さ
れ、公的資金枠60兆円のうち、銀行への注入枠25兆円が割り
付けられたのです。この銀行への注入枠の計算は、かねてから銀
行への公的資金注入の必要性を提言していた菊池英博教授の計算
によって決定されたのです。
 そして、同じ10月には日本長期信用銀行、12月には日本債
券信用銀行が破綻しましたが、小渕首相は経済対策23.9兆円
を発表し、やっと金融恐慌は終息し、金融は安定化に向ったので
す。翌1999年2月、日本銀行は与党の要請に応じて、ゼロ金
利政策を採択し、ようやく日本経済は危機を脱したのです。
 しかし、その後の森政権/小泉政権は、またまた緊縮財政、増
税路線で経済を疲弊させつつあります。・・・[日本経済10]


≪画像および関連情報≫
 ・BIS規制について
  自己資本比率は、返済が焦げ付いて貸し倒れとなる可能性が
  ある債権(信用リスク)や、短期取引による保有株などの損
  失(市場リスク)などの総額を分母とし、資本金など銀行の
  資産(自己資本)を分子にして算出する。例えば、10億円
  の自己資本を持ち、貸し出しなどが100億円ある銀行の自
  己資本比率は10%となる。比率が高い銀行ほど貸し倒れや
  株価下落への備えがあることになる。
  http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/47/naruhodo150.htm

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2006年02月07日

債務の過小評価は亡国論という反論(EJ1769号)

 『週刊/エコノミスト』2006年1月31日号は、第2特集
として『「巨額の財政赤字」は本当か』という今回のEJのテー
マと同趣旨の特集を組んでいます。
 この特集の冒頭に文京学院大学の菊池英博教授の論文が掲載さ
れています。内容はここまでご紹介してきたことが要領よくまと
められています。興味があるのはこの菊池論文に対する反論が掲
載されていることです。その一部をご紹介します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 グロスの債務(粗債務)とネットの債務(純債務)は、どう理
 解すればよいか。それは、政府債務の返済財源を何に求めるか
 に依存する。もし政府債務を将来の租税などの収入によって賄
 い、政府が保有する金融資産の売却収入を用いない方針ならば
 グロス債務で把握するのが妥当だ。この状況では、ネット残高
 は無意味である。――土居丈朗/慶応義塾大学経済学部助教授
     『週刊/エコノミスト』2006年1月31日号より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 土居助教授の考え方は、財務省の考え方と同じです。既に述べ
たように、谷垣財務相は昨年の衆議院予算委員会で与党議員によ
る「なぜ、純債務でみないのか」という質問に対し、土居助教授
と同趣旨の答弁をしています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 年金積立金や外貨準備は使い道が決まっていて、簡単に取り崩
 せない。                 ――谷垣財務相
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この主張は正しいでしょうか。
 国の金融資産――例えば年金積立金は将来の年金給付に当てる
ものであり、確かに国債の返済財源ではありません。外貨準備も
急に外貨が必要なときのために備えて持っている外国通貨です。
しかし、国の財産であることにはかわりがないのです。
 国債の発行は、これらの国の財産のことを十分考慮して行うべ
きであり、国債(国の国民に対する借金)の見合いの財産と考え
て何ら差し支えないはずです。日本国はこういう見合いの財産を
たくさん保有しているのです。
 国の金融資産にはそれぞれ使途が決められていますが、国家存
亡のとき――国が滅んでしまうかどうかの瀬戸際のときには、そ
れらの財産を使うことがあります。
 1997年のマレーシアの通貨危機のとき、マレーシア政府は
躊躇なく年金基金を担保にして国債を発行し、危機を乗り切って
います。国が危ないときでも、年金基金は将来の年金給付の資金
であるからといって使わず、みすみす国が滅ぶのを見ているので
しょうか。
 子供の学費のために300万円の定期預金をしている家庭があ
るとします。この300万円は使途が明確な資金です。しかし、
この家庭は友人の借金の連帯保証をしたために家庭は火の車にな
り、どうしても緊急に200万円が必要になったとします。
 そういうとき、300万円の定期預金はあくまで使途が決まっ
ているからと、家計崩壊をみすみす座視するでしょうか。財務省
の考え方はまさにこれと同じです。
 常識的には、そうしないと思うのです。定期預金を担保にして
200万円を銀行から融資を受け、とりあえず危機を乗り切ると
思います。そして、借金となった200万円の返済については危
機を乗り越えたあと、対策を講ずればよいのです。
 それにしても諸外国が政府債務を純債務でみているのに、なぜ
日本だけが粗債務にこだわらなければならないのでしょうか。理
解に苦しみます。
 前記の土居助教授は、菊池教授の所論に反論して、菊池氏に代
表される所論――政府債務を純債務でみることは亡国論であると
しています。財務省としては大賛成でしょう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日本の政府債務を過小に評価し、あたかも厳しい財政再建が必
 要ないかのように悲観的に論ずることこそ、財政破綻に導く亡
 国論である。
   ――『週刊/エコノミスト』2006年1月31日号より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 要するに財務省は、国債の償還財源は税金以外にはないと考え
ているのです。確かに税金を使わないと返済できないかも知れま
せんが、その場合は経済を活性化して少しでも税収を増やし、経
済の足を引っ張るような重い税にしない経済面での努力が必要で
す。そして、何よりも大切なことは、適切な時期を選び、急ぎ過
ぎないことです。
 デフレのもとでの緊縮財政と構造改革によって、サラリーマン
の給与が過去7年連続で減少しているこの時期に、小渕政権のと
きに恒久的減税と銘打ってはじめた定率減税を廃止し、それに加
えて消費税アップを含む大増税をあわててやる必要などないので
す。なぜなら、日本は財政危機ではないからです。
 財務省はデフレをどのように認識しているのでしょうか。
 デフレの下で緊縮財政をとれば、物価は下がり、名目GDPは
減額します。増えるのは財政赤字と政府債務だけです。それに伴
い税収が減るので、その分さらに財政支出を削減すると景気は悪
化し、名目GDPが減ってまた税収が減る――これはデフレスパ
イラルです。
 かつて米国のクリントン大統領は、1993年から5年間で財
政を黒字にすることに成功しています。クリントン大統領は財政
支出のうち消費的支出を抑制し、投資支出――公共投資、地域開
発、教育費、職業訓練費など――に予算を集中させ、民間投資奨
励策を財政に組み入れた積極財政政策を展開して財政の黒字化を
実現したのです。
 日本は、投資支出を削減するというまったく逆の政策をとって
増税を強行しようとしているのです。だから、政策危機といわれ
るのです。            ・・・ [日本経済11]


≪画像および関連情報≫
 ・土居丈朗慶応義塾大学経済学部助教授の主張
  ―――――――――――――――――――――――――――
  政府債務は、政府が保有する金融資産が見合いであるわけで
  はなく、将来の税収によって返済することを大前提としてい
  る。日本の政府債務残高は、ネットの残高よりグロスの残高
  に限りなく近い水準として把握するが、政策スタンスと整合
  性で、妥当である。
   ――『週刊/エコノミスト』2006年1月31日号より
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2006年02月08日

財政赤字を解決する3つの方法(EJ1770号)

 粗債務にせよ、純債務にせよ、日本には巨額な財政赤字がある
ことは事実です。この巨額の赤字を後世に先送りするべきでない
ということは確かです。何とか解決する必要がある――そのため
にはどのような方法があるのでしょうか。
 財政赤字を解決する方法には次の3つがあるのですが、実際に
は、3つを組み合わせてやることになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          1.財政支出削減
          2.大増税の実施
          3.経済成長政策
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1の手段は「財政支出削減」です。
 具体的には、徹底的な緊縮財政をひき、財政支出を抑制するこ
とです。家計の経済でいうなら、家計の赤字を解消するには無駄
な支出をしないようにし、現在の収入にプラスして別の収入が得
られるよう工夫して、少しでも赤字を埋める努力をする――とい
うことになると思います。
 しかし、国の場合は家計のそれとは違うのです。デフレの下で
緊縮財政を行うと、物価は下がり、名目GDPは減額し、その結
果税収が減るので、国債を発行せざるを得なくなって、かえって
財政赤字を増やしてしまうことになります。
 小泉政権は発足以来緊縮財政をとっています。国民経済が縮小
しようと、企業倒産と失業がいくら増えようと、デフレ不況がど
んなに深刻化しようと、ただひとすら緊縮財政を続けてきたので
す。その結果、10兆円税収を減らしてしまったのです。
 第2の手段は「大増税の実施」です。
 税収を増やすには国民から徴収する税額を多くする――きわめ
て単純なというか直接的な方法です。しかし、増税だけで巨額の
赤字を解消できるものではありません。狙いは、何はともあれ、
基礎的財政収支の均衡化か黒字化です。
 財政の基礎的財政収支――プライマリーバランス(PB)とい
うのは、ネットの歳入――国債による収入を除いた収入とネット
の歳出――国債の元利払いを除いた支出のことをいいます。
 現政府の財政目標は、「2O12年度にPBを黒字化する」と
いうものです。PBは2001年度から赤字が拡大し、2005
年には赤字は2O兆円を超えてしまっているのです。
 しかし、税収は減る一方であり、このPBの財政赤字を解消す
るために、2012年までに20兆円を超す赤字を解消するには
大増税を実施するしかないという結論に達しているのです。
 第3の手段は「経済成長政策」です。
 財政の基本は、国の予算としての必要な支出を的確に計算して
それに見合う収入を確保することにあります。「量出制入――支
出を量って入りを制す」です。このさい一番重要なことは「いか
にして税収を伸ばすか」なのです。税収を増やすには、経済を活
性化させ、名目GDP成長率を上げることです。
 日本の予算規模は、その経済規模――名目GDPに比べて小さ
すぎるのです。経済規模にぜんぜん見合っていないのです。19
97年を基点として財政支出の伸び率をみると、日本は米国、英
国、ドイツと比較して圧倒的に少ないのです。日本の予算規模は
100兆円程度が適当な規模であるのに、80兆円規模にとどま
っているのです。しかし、この経済成長政策論はケインズ政策論
として否定する経済学者が少なくないのです。
 財政赤字を解消する財政再建を目指して小泉政権は、政財政構
造改革に取り組み、5年間連続で上記1の手段の緊縮財政――主
として投資関連支出の削減を展開してきたのです。その結果、財
政赤字は拡大し、この間、名目GDP成長率はマイナス――20
00年度の名目GDP513兆円、2004年度は503兆円と
なって、税収が激減しています。一体何のための政財政構造改革
だったのでしょうか。
 基礎的財政収支/PBを2012年度に均衡させる計画は、税
収は限られており、今後大きく伸びることはないということを前
提として、現在の税収をベースとして余計なものと政府が考えて
いる支出をすべてカットするという発想なのです。
 税収は今後大きくは伸びないという発想は経済を生き物として
扱っておらず、問題があります。経済は生き物であり、適切な手
を打てば、成長発展させることができるのです。
 経済を活性化させる適切なる財政政策によって経済を発展させ
企業収益を増大させるのです。そして、そこから税をとるという
発想になぜ立てないのでしょうか。
 菊池英博教授は、1997年度の橋本財政改革において、一時
的にPBが回復した例を上げて、これは危険な発想であると述べ
ています。
 1995年度のPBはマイナス9.2兆円だったのですが、橋
本財政改革によって1997年度にはマイナス2.2兆円まで縮
小しています。デフレの下で緊縮財政と大増税を行ったのですか
ら、PBが一時的に縮小するのは当然のことであり、これは成果
でも何でもないのです。
 しかし、その結果として金融恐慌が起こり、経済を破綻させて
しまったのです。そして、1999年度のPBは実に18.3兆
円にまでに拡大したのです。これでは、何をやっているのか、わ
からないではありませんか。
 森田実氏という政治評論家がいます。彼は小泉政権の政策に批
判的であるせいか、最近ほとんどテレビで姿を見ることがなくな
っています。しかし、ホリエモン事件を契機に森田実氏が最近注
目を浴びるようになっています。
 森田氏は『小泉政治全面批判』(日本評論社刊)という著書を
表わし、小泉政権を徹底的に批判しています。森田氏は『公共事
業必要論』(日本評論社刊)も出しておられ、納得性のある所説
を展開しています。彼はいわゆるケインジアンであり、古い政策
論者であると誤解されています。   ・・・[日本経済12]


≪画像および関連情報≫
 ・『小泉政治全面批判』(日本評論社刊)について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  この5年間、私は終始一貫、小泉政治はペテンだと批判して
  きた。それを一冊にまとめたのですが、ブッシュ米国と創価
  学会、それに広告代理店・大マスコミ連合に支えられてきた
  小泉政権は5年間も続いてしまった。でも、ライブドア事件
  で完全に化けの皮がはがれました。小泉政権の終わりの始ま
  りです。                  ――森田実
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2006年02月09日

名目成長率は金利を上回ることが可能か(EJ1771号)

 2012年までに基礎的財政収支(PB)を均衡させる――こ
の目標を達成するには、GDP名目成長率が長期金利を上回って
いることが条件となります。つまり、長期金利を上回る経済成長
が不可欠だということです。
 あまり多くの国債を発行すると、国債の価格が暴落(長期金利
が上昇)して、日本経済が大混乱に陥る危険性があるのです。そ
ういう事態を防ぐためにも、PBはなるべく早く均衡させておく
――これは正論です。
 そうすると、何としても長期金利をこのまま低く押さえ込み、
名目成長率をそれよりも上げる必要があるのですが、その見通し
はたっているのでしょうか。
 この見通しをめぐって、現在、経済財政諮問会議において与謝
野経済財政相と竹中総務相がもめているのです。新聞の報道によ
ると、ほとんどケンカのようなやりとりだというのです。
 竹中総務相は、当面は名目成長率が長期金利を上回るという前
提に立って、徹底した歳出削減を行えば、税収増によるPBの黒
字化は達成できるとしているのに対し、与謝野経済財政相はそん
なのは「楽観論」であるとして、激しく対立しているのです。
 一般論としては、名目成長率が高いほど税収は増えますし、長
期金利が低いほど国の国債の利払いは少なくて済むのです。した
がって、何としても名目成長率が長期金利を上回る状態を維持し
て、それを長期間続けることによって税収の増加を図る――そう
しない限り、たとえPBを均衡化させたとしても、それを黒字化
することはできないことになるのです。PBを黒字化させない限
り、国債残高のGDP比率は下がらず、国の借金は減らないこと
になります。
 しかし、本当にそのようなことが実現するのでしょうか。三菱
総合研究所による日、米、独、仏、英5ヶ国についての調査では
次の事実が明らかになっているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.1955年から2005年までの50年平均では、ドイツ
   を除く4ヶ国で名目成長率が長期金利を上回っている。
 2.1985年から2005年までの20年平均では、対象の
   5ヶ国全部で、名目成長率は長期金利を下回っている。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このような事実を踏まえて、長期金利が名目成長率を下回って
推移すると考えて大丈夫なのか――これが与謝野経済財務相の考
え方なのです。もちろん与謝野氏の考え方のバックには、消費税
引き上げがあります。
 経済財政諮問会議のメンバーの一人である東京大学大学院教授
の吉川洋氏は長期金利と名目成長率との関係について次のように
述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 名目成長率が金利よりも高いのは、一時的なボーナスと見るべ
 きである。         ――吉川洋東京大学大学院教授
         ――2006年1月14日付、朝日新聞より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 つまり、吉川教授は、長期金利が名目成長率を日常的に下回る
ことはないといっているのです。ここに次の2つの意見が対立す
ることになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ≪竹 中氏の考え方≫
  名目成長率が金利よりも高い状況を作り出すことは、金融政
  策によって可能である。
 ≪与謝野氏の考え方≫
  長期金利は名目成長率よりも高くなるのが自然であって、そ
  の逆は前提にできない。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 さて、2005年度当初予算のPBの赤字は、15兆9000
億円になっています。これを2012年までの7年間で解消する
には年間どのくらい削減すべきでしょうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   15兆9000億円 ÷ 7 =2兆3000億円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 年間2兆3000億円ずつ削減していけばよいわけです。しか
し、2004年度当初予算のPBの赤字は、19兆であり、かな
り大幅に削減してきているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 19兆円 − 15兆9000億円 = 3兆1000億円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 さいわい景気が回復基調にあり、本来なら2006年度はデフ
レから抜け出すチャンスであり、そのことを十分に配慮した予算
規模にするべきだったのです。そうすれば、増税なしで、PBの
黒字化は可能なはずなのです。
 しかし、2006年度予算案は、新規国債発行枠を30兆以下
にするという小泉首相のこだわりによって、必要以上の緊縮予算
になっています。
 この2006年度予算案について、経済アナリストの森永卓郎
氏は次のようにいっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 06年度予算案では、基礎的財政収支を4兆7000億円も削
 減している。つまり、本来の2倍のスピードで財政赤字を削減
 しているのだ。財政再建を急ぎすぎれば、せっかく回復の兆し
 がみえてきた景気を再び失速させてしまう可能性がある。これ
 だけ厳しい予算を組んだのは、財政再建目標をより厳しいもの
 に切り替えようとしている政府の思惑が透けてみえる。
         ――週刊「エコノミスト」1/31日号より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このままいくと日本は、橋本政権のときと同じ、いやもっと大
きな過ちを冒すことになるはずです。 ・・・[日本経済13]


≪画像および関連情報≫
 ・森永氏のいう「2倍のスピード」の意味
  2012年にPBの均衡を達成するには、年間2兆3000
  億円ずつ、削減していけばよい。4兆7000億円はその約
  2倍である。
  ―――――――――――――――――――――――――――
    2兆3000億円 × 2 =4兆6000億円
  ―――――――――――――――――――――――――――

1771号.jpg
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2006年02月10日

なぜ、財務省は財政再建を急ぐのか(EJ1772号)

 明らかに財務省は基礎的財政収支(PB)の黒字化計画を20
12年よりも前倒ししようと考えています。まるで少しでも急い
でやらないと大変なことになるかのような性急さです。
 昨年12月26日に開催された経済財政諮問会議において、政
府はPB黒字化を1年前倒しする暫定試算を提出しています。政
府というのはもちろん財務省のことです。
 財務省はさらに、2006年1月26日に2006年度予算案
を踏まえた財政の中期試算を衆議院予算委員会に提出しているの
です。この試算によると、このままではPBは2007年度から
再び赤字幅が拡大して、2007年度予算では、2006年度に
30兆円を下回った国債の新規発行額は再び30兆円以上に膨ら
むという内容になっています。
 ちなみに、この計算では経済成長率と想定金利を次のように設
定しいるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       名目成長率 ・・・・・ 2%
       長期 金利 ・・・・・ 2%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 そのうえで、金利が1%上がると国債費はいくら、5%上がる
といくらというように、財政赤字がかくも大変であるということ
を煽った内容なのです。
 財務省はなぜかくも財政再建を急ぐのでしょうか。
 本当のところ、これは小泉首相がやっているわけでも、竹中大
臣が主導しているわけでもないのです。財務省の官僚が主導して
いるのです。谷垣財務相ですら彼らに乗せられているように見え
ます。誰も流れには逆らえないのです。2005年度までの状況
を見ると、増税なき財政再建は十分可能なのに、彼らは経済の失
速させてでも財政再建を急ごうとしています。
 経済アナリストの森永卓郎氏は次のようにいっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 実際、経済財政諮問会議が今年6月にまとめる歳出・歳入一体
 改革の工程表に、債務残高のGDP比率を低下させる目標を盛
 り込む方向で政府は調整に入ったという。そうした一層厳しい
 財政再建目標が定められれば、消費税増税等の大衆増税は避け
 られなくなる。増税なき財政再建が可能なのに、財務省の「借
 金減らしたい病」に付き合って、国民生活が破壊されてしまう
 のでは国民はたまらない。          ――森永卓郎
         ――週刊「エコノミスト」1/31日号より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 財務省がなぜこの問題にしゃかりきになるのかというと、それ
は日本の財務省が持っている予算査定のさいにそれを覆す権限を
持っていることに深く関連するのです。
 エコノミストのリチャード・クー氏は、日本の財務省の持つ特
別な地位について、次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日本の財務省は世界中のどんな政府機関も持てないような権力
 と威光を享受しており、実際に、民間は言うにおよばず、総理
 大臣を含めた政治家も、その他の省庁のすべての官僚も、みな
 財務省をひどく丁重に扱うのである。しかも彼らはいくら政策
 や経済見通しを間違えても、政治家のように責任を問われ選挙
 で落選して職を失うといった心配もない。つまり、ここは世に
 も恐ろしいアカウンタビリティーゼロの世界があるのである。
 その点で、日本の財務官僚は全人類のなかでも最も神に近い扱
 いを受けているとさえ言える。
      ――リチャード・クー著、楡井浩一訳、『デフレと
       バランスシート不況の経済学』より。徳間書店刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 米国の財務省には政治家の立案した予算案に対して「ノー」と
いう権限などないのです。だからこそ、高度な専門性を必要とす
る金融政策の運用を政治家たちの気まぐれから隔離するために、
中央銀行は政府から独立した機関になっているのです。日本もか
たちの上ではそうなっていますが、実際問題として日本の場合は
財務省(とくに旧大蔵省)の権限は強大なのです。
 日本のこういう独特のしきたりは、選挙で選ばれる政治家より
も教育と規律の行き届いた官僚の方が、予算の優先順位をうまく
さばけるであろうという趣旨の下に、何十年も前に決められ、現
在まで続いてきたのです。「官僚は優秀で悪いことはしない」と
いう官僚性善説の大前提がそこにあったのです。
 しかし、現在日本の官僚は、国益よりも省益を優先する傾向が
強く、今日の日本において諸悪の根源となりつつあります。とく
に財務省の強大過ぎる権限は、日本の民主主義の発展に大きなダ
メージを与えてきたといえます。力のない政治家は財務省に色目
を使い、「財務省に予算をせびる」という構図が出来上がってし
まったからです。
 その財務省が一番やって欲しくないことは、いわゆる「財政出
動」なのです。そのために「財政赤字」を必要以上に煽ることに
よってそれを押さえ込む――こういうことを何回もやってきてい
るのです。
 とくに1990年代の相次ぐ不祥事とお粗末きわまる経済運営
によって旧大蔵省の信頼は地に落ちていることに加え、1997
年の橋本内閣による財政改革の失敗で、5期連続のマイナス成長
によって、1998年に大蔵省は現在の財務省と金融庁に分かる
羽目になったのです。
 現在、財務省は小泉政権の構造改革に便乗して、かつての権威
と地位を取り戻したいと画策しているのです。それが、6年連続
の緊縮財政であり、財政再建の加速なのです。そして、日本経済
を失速させかねない大増税を企んでいるのです。
 何しろ官僚は国民に選ばれているわけでなく、たとえ失敗して
も責任を取らないのです。こういう官僚たちに日本は占拠されて
しまっています。          ・・・[日本経済14]


≪画像および関連情報≫
 ・財政赤字解消への米国のやり方
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1980年代の米国で財政赤字が問題になったとき、前FR
  B議長グリーンスパンは、財政赤字の削減は絶対に増税では
  なく、歳出カットでやるべきと言い続けてきたといわれる。
  レーガンやサッチャーに代表される欧米の構造改革は、すべ
  て、減税や歳出カット、規制緩和などを柱にした、小さな政
  府に向けての改革だったのである。
      ――リチャード・クー著、楡井浩一訳、『デフレと
       バランスシート不況の経済学』より。徳間書店刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

1772号.jpg
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2006年02月13日

大増税にすべてをかける財務省(EJ1773号)

 2012年までに基礎的財政収支(PB)を黒字化する――こ
れは2005年1月20日に経済財政諮問会議が発表した財政健
全化計画なのです。
 経済財政諮問会議が発表したというと、当時会議を事実上仕切
っていた竹中大臣主導で決められたように考えますが、こと財政
の問題については、実際は財務省がイニシアチブをとって決めて
いるのです。
 というのも2004年11月に政府税調調査会(石弘光会長)
が2005年度の税制改正の答申で、所得税や法人税の見直しな
どの構造改革路線から、国民に直接税負担を求める増税路線への
転換を提案しているからです。これは財務省の意向以外のなにも
のでもないのです。
 石会長は、記者会見で次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 税負担増が税制改革の軸になる。減税や公共投資で景気を回復
 させ、税収の増加を通じて財政を再建するという従来の考え方
 から決別する必要がある。         ――石弘光会長
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 今まで増税をするときは、別の減税を組み込んで税負担を軽減
する措置をとったものですが、今回はそういう配慮は一切しない
純増税を提唱しています。それだけではなく、消費税の2桁引き
上げや住宅ローン減税を廃止することまで石会長は実施すべきだ
といっているのです。
 石会長の考え方は、財政の持つ経済効果を完全に否定し、小泉
構造改革によって大幅に落ち込んだ税収の回復には大増税によっ
て帳尻あわせをしようとする財務省の財政的均衡主義そのもので
あるといえます。
 財政制度審議会(貝塚啓明会長)という審議会があります。財
政の制度改革を手がける審議会です。この審議会は2004年2
月に財政支出の大幅削減を打ち出しています。義務教育・生活保
護の補助金の削減や廃止をはじめ、国債費を除く一般会計歳出を
3割程度縮減することを提案しています。これも財務省の強い依
頼を受けての提言なのです。
 PBの黒字化を達成するために、国の将来を考えない義務教育
費の削減や母子家庭の援助まで打ち切る情け容赦のない提案は、
目的のためには手段を選ばない暴挙そのものです。そんなにまで
して、PBの黒字化を急ぐ必要などまるでないのです。
 デフレ経済の下で大増税を行えば、歴史の示す通り大恐慌が起
こりかねないのです。現在の日本経済は、小泉構造改革という供
給重視・需要軽視政策によって需給ギャップが拡大し、需要不足
になっています。そんなときに大増税を実施すれば、一層深刻な
需要不足が起こります。
 そもそもPBを黒字化するという発想は、経済を縮小・停滞化
させ、財政不況を発生させる恐れがあるのです。日本の場合はこ
のような縮小均衡策ではなく、もっと新規国債を発行して拡大均
衡策をとるべきなのです。
 しかし、現在の日本では「もっと新規国債を発行して・・」な
どというと、一斉に非難のまなざしを浴びるという雰囲気になっ
ているのです。それほど、財務省の巧妙きわまるレトリックに国
民は乗せられているのです。われわれは財務省のレトリックに乗
せられないために、財政――とくに国債についてもっと詳しく知
る必要があります。
 国債の発行は、財政法の第4条第1項によって次のように規定
され、原則禁止されているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    国の歳出は、原則として歳入の範囲内で賄うこと
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、第4条には但し書きがあり、次のように定められてい
ます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 公共事業費、出資金、および貸付金の財源については、国会の
 議決を経た範囲内で、公債を発行できる。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このようにして、発行される公債が「建設国債」です。しかし
税収が少なくてその穴埋めに発行する人件費などの経常経費を賄
う公債は財政法では禁止されているのです。
 なぜ、建設国債は許されているのでしょうか。
 それは、建設国債によって道路などの社会的インフラを建設し
た場合は、国債に見合う資産があり、将来の世代に便益をもたら
すので、有用と考えられているからです。
 それなら、税収の穴埋めに発行される国債――赤字国債という
――はどのようにして発行されることになるのでしょうか。
 それはそのつど特別立法を必要とするのです。なぜ、そのよう
な面倒なことをするのかというと、なるべく発行を抑えたいとい
う配慮がそこにあるからです。
 1990年から2004年までの15年間の新規の国債発行額
は360兆円ですが、その内訳は次のようになっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  建設国債 ・・・・・ 161兆円  発行総額45%
  赤字国債 ・・・・・ 199兆円  発行総額55%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1991年から1993年までの新規国債発行はすべて建設国
債であり、1994年から赤字国債の発行が増えてきたのです。
そのため、1997年に橋本首相は財政改革を実施したのですが
失敗したというわけです。
 しかし、2001年から2004年まで、小泉政権になってか
らの4年間で赤字国債は171兆円――うち、128兆円(75
%)は赤字国債なのです。年間32兆円――国債発行枠30兆円
は達成されていないのです。何のことはない。その失政のツケを
大増税で払わされようとしているのです。・・[日本経済15]


≪画像および関連情報≫
 ・財政法/第4条
  第4条 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、そ
      の財源としなければならない。但し、公共事業費、
      出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を
      経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をな
      すことができる。
    2 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をな
      す場合においては、その償還の計画を国会に提出し
      なければならない。
    3 第1項に規定する公共事業費の範囲については、毎
      会計年度、国会の議決を経なければならない。

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2006年02月14日

小泉構造改革は供給サイドの改革(EJ1774号)

 「私は経済のことはわからない」――かつて小泉首相は、こう
いったことがあります。となると、小泉政権の経済の考え方は、
長く経済と財政を担当してきた竹中大臣の経済理論をベースにし
ていると考えてよいと思います。
 小泉首相が構造改革をはじめるに当たって、つねに口にしてい
た次の2つの言葉があります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        構造改革なくして経済成長なし
        構造改革なくして景気回復なし
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ここで具体的には、「経済成長」とはGDP(国内総生産)の
トレンドを良くすることであり、「景気回復」とはGDPのサイ
クルを上昇させる――お金の回りを良くすることを意味します。
 小泉構造改革が経済にどのような影響を与えるのかを見るため
には、少し経済学を勉強してみる必要があります。
 GDPには、生産、分配、支出という3つの側面があります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「生産」 ・・・ 生産要素を買い、モノ・サービスを作る
 「分配」 ・・・ 作った成果を生産要素に報酬として支払
 「支出」 ・・・ 受け取った報酬でモノ・サービスを買う
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 実はこれら3つの側面は事後的にはすべて等しくなるのです。
これを「GDP三面等価の原則」といいます。例えば、日本経済
を分析する場合、これら3つのどの側面から入っても経済を一巡
することができるのです。
 大別すると経済学には次の2つの考え方があるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.供給がそれ自身の需要を生み出す ・・ セイの販路法則
 2.需要がそれ自身の供給を生み出す ・・ 有効需要の原理
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1は、ジャン・バティスト・セイの『政治経済学概論』という
著書に書かれている経済学の原理で、古典派経済学の基本原理に
なっています。
 セイは、あらゆる経済活動は物々交換にすぎないと考え、需要
と供給が一致しないときは価格調整が行われるということを前提
に、供給が増えて供給超過になっても、それに応じて必ず価格が
下がるので、結果として、需要が増えて需要と供給は一致すると
考えたのです。したがって、需要を増やすには、供給を増やせば
よいということになります。つまり、古典派経済学では、供給サ
イド重視の考え方に立つのです。
 これに対して2は、ケインズが主張したもので、ケインズ経済
学の基本原理なのです。「有効需要」とは「総需要」のことであ
り、「有効」とは購買力に基づいていることを示しています。
 価格や賃金が調整されないほどの短期においては、需要と供給
の不一致が生じます。これを解消するためには、財の数量を調整
することしかできないという考えに基づいているのです。つまり
有効需要が発生した後で、供給が調整されて需給が一致するとい
うこと考え方なのです。
 竹中大臣は、自らの経済の考え方をまとめた著書『あしたの経
済学/改革は必ず日本を再生させる』(幻冬舎刊)において、次
のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 経済とは、労働者一人ひとりが『生産』をすることによって価
 値を生み出し、その価値が、所得という形で個人や企業に『分
 配』され、さらに人々が所得からお金を『支出』する、といっ
 た形で成り立っています。つまり、『価値を生み出す』生産が
 重要であって、価値を生み出す力がなければ経済は長期的に発
 展しないのです。
    ――竹中平蔵著、『あしたの経済学/改革は必ず日本を
                再生させる』より。幻冬舎刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この主張を読むと、竹中大臣は「供給(生産)サイド重視」に
立っていることは明らかであり、古典派経済学に立脚していると
いってよいと思います。これに対してケインズ経済学(ケインジ
アン)では、「需要(支出)サイド重視」なのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   古典派経済学 ・・・ 「供給(生産)サイド重視」
   ケインジアン ・・・ 「需要(支出)サイド重視」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ここで重要なことは、古典派経済学では中・長期の成長を問題
にするのに対して、ケインジアンは短期、すなわち景気に重点を
置くということです。はっきりしていることは、小泉構造改革は
供給(生産)サイド重視の考え方に立っているということです。
 「構造改革なくして経済成長なし」――これは構造改革をしな
い限り、中・長期的課題である経済成長はありえないという意味
なのです。この場合の成長率とは「潜在成長率」のことであり、
モノを作る力の伸びを意味します。最近竹中大臣は、経済財政諮
問会議で次のようにいっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 構造改革の成果による潜在的成長力の向上などで、2010年
 初頭にかけて名目成長率は4%程度まで回復するが、長期金利
 はしばらく名目成長率を下回って推移する。 ――竹中総務相
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、構造改革は中・長期、すなわち明日の日本経済には寄
与することができても、今日の日本経済には寄与しないのです。
現実に現在の日本経済は需要不足という病気にかかっており、早
期治療が必要なのです。「構造改革なくして景気回復なし」とい
くらいっても景気は回復しないのです。現在日本の景気は上向き
になりつつありますが、これは小泉構造改革の成果などではない
のです。              ・・・[日本経済16]


≪画像および関連情報≫
 ・ケインズ関連のサイトから
  ケインズの天才は、それまでの経済学者がミクロばかりに注
  目していたところに、マクロな経済現象というものが存在す
  ることを見出したところにある。たとえば大学受験を例に考
  えると、志望者数が70万人いて、大学の定員が60万人し
  かないなら、全員が鬼のように努力しても10万人は大学に
  入れない。自明の理である。ケインズは、経済活動における
  この大学の定員のようなものを有効需要と定義し、国が有効
  需要を制御しなければ失業率は下がらないとしたわけだ。
               ――PICSY BLOGより
        http://blog.picsy.org/archives/000232.html

1774号.jpg
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2006年02月15日

ケインズ政策をどこまで理解しているか(EJ1775号)

 今回のテーマをスタートさせてから17回目になります。そろ
そろ今回あたりから、「それじゃ、どうすれば良いのか」という
解決策の検討に入っていきたいと思います。
 デフレ下のこの時期に増税が駄目なら、どういう手が残されて
いるのかというと、米国のように減税をして個人消費を刺激する
とともに財政を出動させて公共投資を実施する――日本でこのよ
うにいおうものなら、きっとブーイングを浴びるでしょう。
 そんなことは今まで何回もやって失敗しているではないか、だ
いいち財政赤字が膨れ上がっているときにさらに赤字国債を発行
しろというのかという一斉砲火を浴びること確実です。
 日本では、このような積極財政を主張する人――政治家や学者
それに評論家を含めて「ケインジアン」と呼び、まるで間違った
政策をとる人の代名詞のようにいう風潮というか雰囲気が出来あ
がりつつあります。最近テレビによく登場する学者や評論家を見
ると、ケインジアン的政策を述べる人はほとんど姿を消していま
す。これも巧妙きわまる財務省の世論形成工作の陰謀によるもの
と考えられるのです。
 しかし、ケインズ政策を批判する人は、ケインズ理論をどのく
らい正確に理解しているのでしょうか。私は一度「ケインズ」を
EJのテーマに取上げようとしたことがあるので、彼の『雇用、
利子および貨幣の一般理論』を勉強してみたのですが、一般に考
えられていることとは相当違うのです。
 確かに日本はバブル崩壊後において、総額140兆円にのぼる
財政政策をとってきていますが、これらをケインズ政策と呼ぶの
はかなり乱暴な話なのです。小泉首相はこれを逆手にとって、次
のように主張し続けてきています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 財政出動、減税、ゼロ金利をしてきたのに、なぜ効かなかった
 のか。それは構造に問題があるからだ。
           ――衆議院予算委員会での小泉首相答弁
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 神戸大学経済学部教授滝川好夫氏は、小泉政権の経済に対する
考え方――すなわち、竹中経済学とケインズ政策とを比較して、
小泉政権の経済政策を批判する次の本を出しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     滝川好夫著/税務経理協会
     『ケインズなら日本経済をどう再生する』
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この滝川教授の本を下敷きにして、ケインズ経済学の基礎を少
し勉強しましょう。
 ケインズは、お金を貸す個人や銀行を「貸手」、そのお金を借
りて投資する企業を「借手」として、次の2つの状態について説
明しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    借手/確信の状態 ・・・ モノの世界の確信
    貸手/信用の状態 ・・・ カネの世界の確信
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 借手の企業が実物投資を行ったとき、これは絶対にうまくいく
という確信が持てるときとそうでないときがあります。成功の確
信が持てるときの状態を「確信の状態」といい、これを「モノの
世界の確信」と呼ぶことにします。
 これに対して、貸手の個人や銀行が貸し出しを行ったときに絶
対に回収できるという確信が持てる状態を「信用の状態」といい
これを「カネの世界の確信」と呼びます。
 このことを頭に置いて、ケインズの『雇用、利子および貨幣の
一般理論』の次の部分を読んでみてください。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 資本の限界効率に悲惨な影響を及ぼした株式価格の暴落は、投
 機的な確信あるいは信用の状態のいずれかが弱まったことによ
 るものであったといえよう。しかし、暴落を引き起こすには、
 そのいずれかが弱まることで十分であるのに、回復するには両
 者がともに復活することが必要である。
        ――『雇用、利子および貨幣の一般理論』より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「資本の限界効率」というのは、新規投資の予想利潤率のこと
です。株価の暴落は、かつての日経平均株価8000円割れと考
えてみるとわかりやすいと思います。また、「投機的な確信」は
モノの世界の確信であり、「信用の状態」はカネの世界の確信の
ことです。
 つまり、株価の暴落を引き起こすには、モノの世界の確信かカ
ネの世界の確信のいずれかが弱まることで起こってしまうが、こ
れを回復させるには、両方の確信を復活させる必要がある――ケ
インズはこういっているのです。
 それでは、2つの確信を回復させるにはどのようにしたらよい
でしょうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     モノの世界の確信 ・・・ 景気対策強化
     カネの世界の確信 ・・・ 金融の安定化
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 大切なことは、どちらか1つをやるのではなく、両方を同時に
行うことです。具体的にいうと、日本を経済の長期低迷から復活
させるには、景気対策と金融システムの安定化対策の両方を同時
に行う必要があるのです。
 今から考えると、1991年から2001年までの10年は日
本にとって最悪の10年だったと思います。その間に首相は8人
交代しているのです。宮沢、細川、羽田、村山、橋本、小渕、森
小泉の8人です。
 小渕政権を除く7内閣のやってきたことを見ると、景気対策か
金融の安定化のいずれか1つを実施したに過ぎないことがわかり
ます。ケインズ政策は行われていないのです。[日本経済17]


≪画像および関連情報≫
 ・ジョン・メイナード・ケインズ関連のサイトより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ケインズの一生は、投資や投機と格闘し続ける一生でもあり
  ましたが、そのことがケインズ理論を実践色の強い理論にす
  ることに役立っているのではないかと思われます。
  ケインズの投資記録は1919年/36歳の時から残されて
  いますが、この時に16000ポンド程度だった投資資金が
  1946年に亡くなった時には、400000ポンド以上に
  なっていました。当時の日本円で5億円に相当し、50年以
  上も前としては、大変な資産です。ちなみに、現在の価値で
  いうと、約60億円になります。
             http://rich-navi.com/keynes.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

1775号.jpg
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2006年02月16日

8内閣の経済政策を検証する(EJ1776号)

 小泉政権になってから、「不良債権処理か景気対策か」という
二者択一論議が行われ、結局、景気対策は行われず、不良債権処
理だけが強行されています。これはケインズ政策からみると、完
全に間違っていることになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     不良債権処理 ・・・ カネの世界の確信
     景気対策強化 ・・・ モノの世界の確信
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ケインズ理論によると、これら2つは両方一緒にやらなければ
成果は出ないとされています。1991年から現在までの8つの
政権において行われた経済運営では、小渕政権を除いてはケイン
ズ政策はとられていないのです。いや、ケインズ理論を理解して
いないために、間違った政策が展開されたといえます。
 宮沢、細川、羽田の3つの政権では、不良債権処理のための公
的資金投入を断念し、ソフトランディングと称して財政刺激策の
みを行っています。モノの世界の確信を高めるための景気対策の
みを実施したのですが、景気は回復しなかったのです。
 次の村山政権では、住専の処理で公的資金投入を決めたものの
やり方に配慮を欠いたことにより国民世論の反発を買い、以後の
公的資金投入をやりにくくしています。この内閣もカネの世界の
確信を高めるための金融再生をおっかなびっくりにやっただけで
あって、財政政策が行われていないのです。これもケインズ政策
とはいえないのです。
 しかし、これらの内閣のやったことは、次の橋本政権のやった
ことに比べれば、まだ許されるのです。いずれも中途半端な政策
であったために、景気回復という成果は出ていませんが、経済を
決定的に壊したわけではないからです。
 橋本政権は景気対策はもとより、金融の安定化にも手をつけず
財務省の路線である増税プラス緊縮財政という最悪の政策を強行
したのです。そのためデフレは深刻化し、経済は破壊され、おま
けに金融危機まで起こってしまったのです。橋本首相は何も見え
ていなかったし、何もわかっていなかったのです。注意すべきこ
とは、これは橋本首相の政策というよりも財務省の筋書きに首相
が乗っただけであったということです。問題は小泉政権以後の内
閣にこれと同じ路線が引き継がれようとしていることです。
 深刻な金融危機に陥った日本経済の舵取りを担ったのは小渕政
権です。小渕政権では、積極財政によってモノの世界の確信、ゼ
ロ金利政策、銀行への公的資金注入によるカネの世界の確信の両
方を同時に行い、その結果、金融危機を乗り切り、株価は大幅に
向上したのです。この小渕政権の経済運営は、まさしくケインズ
政策そのものといってよいでしょう。
 ところが、森・小泉政権では、カネの世界の確信を高めるため
金融再生は進められたものの、モノの世界の確信は急速に低下し
需給ギャップは大きく拡大してしまったのです。それは小泉政権
の進める構造改革が、今日の経済を犠牲にした中・長期の供給面
の改革であったからです。
 当の竹中平蔵大臣は構造改革の本質について、次のようにはっ
きりといっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 構造改革の本質は、供給側を強化することです。しかし、だか
 らといって「需要側はどうでもいい」ということではありませ
 ん。供給側をよくすることを基本として、その範囲で需要につ
 いても必要な配慮を行っていくことはもちろん重要です。そこ
 に経済運営の基本原則があるといってよいと思います。
                       ――竹中大臣
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このように竹中大臣の発想はつねに「供給サイドを強化する」
ということなのですが、それは問題のある供給サイドを削減する
ことを意味しているのです。彼は「創造的破壊」と称してこれを
断行したのです。問題のある企業を削減すれば強い企業が残り、
それらの企業が供給サイドを強くすると考えていたのです。つま
り、彼は「問題は供給過剰にある」と考えていたわけです。
 しかし、2001年までにすでに企業では人員整理や過剰在庫
の削減、低稼働資産の売却などを終えており、その効率化は相当
程度進んでいたのです。したがって、これ以上の供給削減など必
要なかったのです。問題は「供給過剰」ではなく、「需要不足」
だったからです。
 したがって、小渕政権の政策によって少しずつ伸びつつあった
需要を拡大し、需給のバランスを取ることがその時期もっとも求
められていたのです。
 しかし、小泉政権は、緊縮財政をとって需要を抑制し、供給サ
イド削減を強行したのです。どのようにやったのかというと、金
融庁に銀行検査を厳格化させ、不良債権――債務の返済状況に問
題のある企業を次々と増加させたのです。
 それまで銀行は業績不振に陥っている企業が多少返済が滞って
も、業績回復軌道に乗せるためいろいろ面倒を見てきたのですが
銀行検査の厳格化によってそれができなくなったのです。そして
収益が出て税金を払っている前途のある企業まで潰していったの
です。これが小泉政権の実施した「供給サイドの強化」の内容な
のです。
 最近、少し景気が上向いたせいもあって、ここまで小泉政権の
やってきた政策が正しかったと考える風潮が生まれつつあるよう
に感じます。こういう風潮を作った責任は明らかにマスコミにあ
ると思います。
 テレビ局は意識して、小泉政策に反対の主張をする学者や評論
家の出演を外しているように思います。かつての植草一秀氏、金
子勝氏、佐高信氏、森田実氏などなど。いずれも反小泉政策の論
陣をはる人たちですが、最近はあまりテレビ上で見られなくなっ
たように感ずるのは私だけでしょうか。もし、反対者外しが意図
的なものだったら問題です。     ・・・[日本経済18]


≪画像および関連情報≫
 ・小泉政権の経済政策について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  (需要軽視経済政策は)不況と衰退のスローガンであり、行
  政的活力の衰微による小心と支障と愚行にほかならない。
             ――ジョン・メイナード・ケインズ
                 滝川好夫著/税務経理協会
          『ケインズなら日本経済をどう再生する』
  ―――――――――――――――――――――――――――
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2006年02月17日

首相は内閣府の分析を見ているのか(EJ1777号)

 最近日銀の福井俊彦総裁は、CPI(消費者物価指数)が上昇
していることを受けて、2001年以来続けてきた量的緩和政策
を解除する趣旨の発言をしています。しかし、これをもって日本
はデフレを脱却したということではないのです。この問題は改め
て取り上げます。
 デフレ下において、緊縮財政と増税を実施したらどうなるのか
――これについては内閣府が2005年4月にシミュレーション
モデルを発表しています。これがなかなか興味深いのです。
 この「経済財政モデル」は、次の2つに分けて、緊縮財政と増
税が日本経済に与える影響について分析しているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      名目GDPの1%相当の所得税増税
      名目GDPの1%相当公共投資削減
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 最初に「名目GDPの1%相当の所得税増税」の場合の影響を
みると、次のようになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  「名目GDPの1%相当の所得税増税」のケース
  失業率 ・・・・・・・・・・・・・ 0.15%増加
  デフレ ・・・・・・・・・・・・・ 0.44%悪化
  可処分所得 ・・・・・・・・・・・ 2.47%減少
  金利 ・・・・・・・・・・・・・・ 0.09%低下
  名目GDP ・・・・・・・・・・・ 7.1兆円減少
  税収 ・・・・・・・・・・・・・・  +3.4兆円
  債務の国民負担 ・・ 63.0%→63.2%へ悪化
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 名目GDPを500兆円として、その1%、つまり5兆円の所
得税を増税するとします。見てわかるように、失業率は増加し、
デフレは悪化、国民の可処分所得は2.47%減少し、名目GD
Pは7.1兆円減少するのです。
 問題は税収です。5兆円の増税をしたわけですから、5兆円増
えるはずなのに、なぜ、3.4兆円なのでしょうか。これは名目
GDPが7.1兆円減少すると所得税は1.6兆円減ってしまう
からです。したがって、次式から3.4兆円の税収になります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    5兆円 − 1.6兆円 = 3.4兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 それでは増税によって財政は改善されるのでしょうか。
 これは「債務の国民負担」をみればわかります。国民負担率が
下がっていれば改善、上がっている場合は悪化です。国民負担率
は次のように計算します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  名目GDP ・・・ 500兆円
  政府純債務 ・・・ 315兆円
  (政府債務÷名目GDP) × 100 =国民負担率
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 計算すると、政府債務の国民負担率は63.2%になり、財政
は悪化するのです。
 続いて「名目GDPの1%相当公共投資削減」の場合の影響を
みることにします。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  「名目GDPの1%相当公共投資削減」のケース
  失業率 ・・・・・・・・・・・・・ 0.19%増加
  デフレ ・・・・・・・・・・・・・ 0.54%悪化
  可処分所得 ・・・・・・・・・・・ 0.99%減少
  金利 ・・・・・・・・・・・・・・ 0.11%低下
  名目GDP ・・・・・・・・・・・   9兆円減少
  税収 ・・・・・・・・・・・・・・  +2.7兆円
  債務の国民負担 ・・ 63.0%→63.6%へ悪化
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 名目GDPを500兆円として、その1%、つまり5兆円の公
共投資を削減したとします。その結果、失業率は悪化し、デフレ
は加速し、可処分所得は減少、そして名目GDPは9兆円も減額
するのです。これによる税収の減少は2.3兆円ですから、5兆
円財政支出を削減しても、収支トータルでは2.7兆円しか節約
できないのです。
 そのうえ、政府債務が2.7兆円減少しても名目GDPが9兆
円も減っているので、国民負担率は63.6%に増大し、財政は
悪化するという結果になるのです。
 このようにどちらを計算しても財政は悪化するということを政
府機関である内閣府が予測しているのです。小泉首相はこのシミ
ュレーション結果をご存知なのでしょうか。
 小泉政権の次の政権になるのでしょうが、この所得税増税と公
共投資削減、すなわち緊縮財政の両方を実施しようとしているの
です。しかも、そのときは小泉首相は総理をやめており、責任は
とらないという姿勢です。
 もっとも小泉政権は、公共投資に関しては2001年以来、毎
年対前年比で3%の削減を実施しており、これに増税をプラスす
ると、実態経済は緊縮財政と増税のダブルパンチを受けることに
なります。緊縮財政はすでに手をつけているのです。
 菊池英博教授は、これをそのまま実施すると、戦前の米国の大
恐慌のときに、1929年から1932年にかけて、フーバー大
統領がとった超緊縮財政の再現になると指摘しています。日本の
場合は、この政策によって日本経済がめちゃくちゃになったとき
は当の小泉首相はとっくの昔にやめて、責任を問われない安全圏
にいるということになるのです。
 おそらく財務省は、そこまで計算して大増税をたくらんでいる
と思います。それにしてもなぜ日本は歴史に学ばないのでしょう
か。橋本政権の財政改革の失敗を財務省は懲りもせず、もう一度
やろうとしているのです。      ・・・ [日本経済19]


≪画像および関連情報≫
 ・内閣府について
  2001年1月6日、中央省庁再編に伴い、内閣主導により
  行われる政府内の政策の企画立案・総合調整を補助するとい
  う目的で新設された。内閣に設置されていること、いわゆる
  「内閣補助事務」と呼ばれる一連の所掌事務を有しているこ
  とが他省庁との最大の相違点。一方で、他省庁と横並びの分
  担管理事務(同条第3項)も所掌している。旧総理府本府長
  期経済計画の策定や経済に関する基本政策の総合的な調整内
  外の経済動向や国民所得等に関する調査・分析を行っていた
  経済企画庁、沖縄の経済振興や開発に関する事務を行った沖
  縄開発庁の業務を中心としているが、旧総務庁、旧科学技術
  庁、旧国土庁の業務も引き継いでいる。法律上は各省庁より
  も高い位置づけを与えられており、優秀な人材を自前の職員
  としてはもとより、官民双方から登用することが目指されて
  いる。なお、人事面での内閣官房、首相官邸との結びつきが
  強い。               ――ウィキペディア

1777号.jpg
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2006年02月20日

今回の景気回復の原因は何か(EJ1778号)

 景気が確実に回復しつつあるといわれています。デフレ経済脱
却の時も近いとか――大変結構なことだと思います。しかし、今
回の景気回復が小泉構造改革の成果であるということに関しては
大きな疑問があります。
 景気は回復したといっても、さっぱり実感が湧かないというの
が本当のところです。サラリーマンはもちろんのこと、商店主な
どの中小企業の社長に聞いても必ずしも景気は良いとは感じない
といっています。
しかし、あらゆるデータは景気回復を示しているのです。いや
それどころか、実は景気は2002年から回復していて、それが
今年の10月まで続くと、回復期間は57ヶ月に達し、戦後最長
の「いざなぎ景気」(1965〜1970)と並ぶといわれてい
るのです。ですから、景気回復には違いないのです。
 今回の景気回復に関して雑誌『世界』3月号(岩波書店刊)で
特集を組んでいます。「格差拡大の中で/景気の上昇をどう見る
か」というタイトルの特集です。
 その中で山家悠紀夫氏(暮らしと経済研究室主宰)が景気の原
因を分析しています。以下、この論文を中心にして、どうして景
気が回復したのか考えてみることにします。
 山家氏は、今回の景気回復の特徴として、次の3つを上げてい
るのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.輸出主導による景気回復である
      2.休み休みによる景気回復である
      3.低名目成長率の景気回復である
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1の特徴は「輸出主導による景気回復である」です。
 実質成長率をみると、2001年はマイナスになっているので
すが、2002年にプラスに回復すると、2003年以降は2%
を少し超える程度のプラス成長が確かに続いています。
 内閣府の「国民経済計算」の数値によると、2002年1〜3
月期と2005年7〜9月期とを比較すると、この間に実質成長
率は8.2%も増加しているのです。
 問題は、この景気回復が何によってもたらされたかということ
です。そこで、その原因を探ってみることにします。
 小泉政権はかつてのような景気対策を行わず、むしろ逆に政府
が公共投資を抑制する政策を取ったのですが、その中で景気回復
が起こっているのです。したがって、政権内部では、構造改革の
成果であると胸をはるのです。2004年度版『経済白書』にも
そう書いてあります。
 需要を次の2つに分けて考えてみます。公共投資と輸出とを合
算した額を「外生需要」、それ以外の需要を「内生需要」とする
のです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       外生需要 ・・・ 公共投資+輸出
       内生需要 ・・・  その他の需要
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 比較する期間は今回――2002年1〜3月期と2005年7
〜9月期と前々回――1993年10〜12月が景気の谷/19
97年4〜6月期が山−−とします。なぜ、前回ではなくて前々
回なのかというと、前回は景気回復期間が短くて比較の対象にな
らないと判断したためです。結果は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           外生需要増加率  内生需要増加率
   今 回回復期    16.1%     8.7%
   前々回回復期    16.4%     7.7%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 一見してわかるように、外生需要――公共投資が抑えられてい
るのですから、輸出の貢献度は大きいのです。つまり、公共投資
の削減を補うだけの輸出があったということです。ちなみにGD
Pへの貢献度はともに2.7%であり、今回の景気回復は前々回
とほとんど変わっていないということができます。
 これによって今回の景気回復は、構造改革とは関わりの薄い理
由によって起こったものであることがわかります。要するに、輸
出の伸びによって救われ景気回復といえます。
 第2の特徴は「休み休みによる景気回復である」です。
 実質成長率をみると、2002年は1%を少し超える成長率で
したが、続く2003年は2%を超えたのです。しかし、200
4年には少し失速して1%台に戻り、2005年度に再び2%を
大きく超える――確かに休み休みといえます。
 つまり、景気回復に加速度がつかないのです。したがって、ど
んどんよくなっているという実感がつかめない。しかし、休み休
みですから、長続きしているといえます。
 景気の現状について、山家悠紀夫氏は次のように論評している
ので、ご紹介します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ちなみに、設備稼働率を見ると、現状はバブル景気時を10%
 下回っている。失業者数は150万人多い。経済社会の構造変
 化などを考慮に入れても現状はなお十分に余裕のある状況であ
 る。外部環境の大きな変化やよほどの失政のない限り、景気回
 復が持続する状況にあるということである。
     ――山家悠紀夫氏『世界』3月号、山家悠紀夫氏論文
 「『実感なき 景気回復』を読み解く」より。(岩波書店刊)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 なぜ、休み休みになったかというと、ちょうどその時期に対米
や対中国への輸出が鈍化しているのです。これを見ても今回の景
気回復がいかに輸出主導であったかがわかります。
 つまり、日本の景気はそうした海外環境に少しでも変調が生じ
ればたちまちへこんでしまうほど脆弱なものなのです。ましても
や、構造改革の成果などではないのです。・・[日本経済20]


≪画像および関連情報≫
 ・名目成長率と実質成長率
  経済成長率には、名目成長率と実質成長率があります。名目
  成長率は、時価で示した名目国内総生産の増加率です。名目
  国内総生産には物価上昇(インフレ)も含まれるため、物価
  上昇が高いと、金額的には大きくなります。この名目成長率
  から物価上昇分を調整し、実質的な生産量を計算したのが、
  実質成長率です。
 ・添付ファイル解説
  図2の棒グラフは、景気の谷(2002年1月〜3月期)を
  100とする最近時(2005年7月〜9月期)の水準をあ
  らわしたものである。

1778号.jpg
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2006年02月21日

名目成長率が実質を下回る景気回復(EJ1779号)

 昨日の続きです。
 暮らしと経済研究室主宰/山家悠紀夫氏は、今回の景気回復に
は次の3つの特徴があるといっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.輸出主導による景気回復である
      2.休み休みによる景気回復である
      3.低名目成長率の景気回復である
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このうち、1と2についてはEJ第1778号で解説しており
ます。そこで、第3の特徴である「低名目成長率の景気回復であ
る」について説明します。
 2002年から2005年までの名目成長率を示すと、次のよ
うになるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      2002年  ・・・・・ −0.7
      2003年  ・・・・・ +1.0
      2004年  ・・・・・ +0.5
      2005年  ・・・・・ +2.5
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 要するに、実質成長率は伸びているのだが、名目成長率がきわ
めて低く、いずれも名目成長率は各年とも実質成長率を下回って
いるということです。これは何を意味するのでしょうか。
 ところで、名目成長率と実質成長率はどのように違うのでしょ
うか。それとGDPデフレータ−の関係はどうなのでしょうか。
これらの関係を正しく理解しておくと、経済が良くわかるように
なります。
 きわめて簡単なモデルを使って説明しましょう。
 1年間で製品Aを10円で10個、製品Bを20円で5個作っ
ている経済があるとします。この年の名目GDPと実質GDPは
次のようになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    製品A ・・・ 10円×10個=100円
    製品B ・・・ 20円× 5個=100円
    ――――――――――――――――――――
              名目GDP 200円
  この年を基準とすると  実質GDP 200円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ここからが大事なのです。製品Aの価格が上昇して12円にな
り、生産も増大して11個になったとするのです。製品Bについ
ては価格、生産ともに変化はないとします。そうすると、名目G
DPは次のようになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    製品A ・・・ 12円×11個=132円
    製品B ・・・ 20円× 5個=100円
    ――――――――――――――――――――
              名目GDP 232円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この場合、実質GDPは基準年価格で計測すると、210円に
なります。実質GDPは物価上昇分をカットするため、10円×
11=110円、これに製品Bの100円を加えて210円にな
ります。経済成長率は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      名目成長率 ・・・・・ 16%
      実質成長率 ・・・・・  5%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ここで、名目GDPを実質GDPで割ってみると、次の数値が
求められます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      232÷210=1.1047
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この1.1047という数値を「GDPデフレーター」という
のです。この数値が1以上あると物価上昇があることを意味する
のです。物価上昇率は10.47%になります。
 以上の関係から、実質成長率と物価上昇率が与えられると、名
目成長率が算出できます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 5%+10.47%=15.47%→16% → 名目成長率
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ここまでの基礎知識をアタマに置いて、現実の経済の数値に戻
って考えてみます。
 近年の名目成長率――2005年7〜9月期についてその推移
を見ると、実質GDPの増加率5.7%に比べて名目GDPの増
加率は2.6%にとどまっており、かなり低いのです。これは、
それ以前の景気回復とは比べようもないほど低く、これが景気回
復に実感が伴わない原因であると考えられます。
 山家悠紀夫氏は、これに関して次のように論評しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 名目GDP成長率が実質成長率を下回り続けたということは、
 この間のGDPデフレーター(一国全体としての物価上昇率)
 がマイナスであり続けたということであり、需給バランスが圧
 倒的に供給力超過=需要不足の状態にあり続けたことの反映で
 あると見ていい。
     ――山家悠紀夫氏『世界』3月号、山家悠紀夫氏論文
 「『実感なき 景気回復』を読み解く」より。(岩波書店刊)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 2005年度版『経済財政白書』によると、需要不足は、20
01年の後半に大幅に拡大し、5%近くまで行っているのです。
しかも、2005年初期でもなお、1%近くあるのです。つまり
この間の景気回復はデフレ下で実現しており、通常の景気回復と
は違うのです。           ・・・[日本経済21]


≪画像および関連情報≫
 ・GDPデフレーターとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  国内総生産には名目国内総生産(名目GDP)と実質国内総生
  産(実質GDP)がある。実質GDPは、名目GDPから物価
  変動の影響を除いたものである。また、名目国内総生産を実
  質国内総生産で割ったものをGDPデフレーターと呼ぶ。こ
  のGDPデフレーターの変動が物価変動となる。GDPデフ
  レーターの変化率がプラスであればインフレーション、マイ
  ナスであればデフレーションとなる。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

1779号.jpg
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2006年02月22日

4年間で何が改革されたか(EJ1780号)

 ここまでの検討で、小泉構造改革がいかに供給力超過=需要不
足の状態を作り出してきたかが明確になったと思います。やはり
小泉政権は供給サイドの改革に力を入れてきたのです。そのため
景気は2002年から回復していたにもかかわらず、それを十分
に生かすことに失敗しているといえます。
 ここで、小泉政権発足前の2000年度と小泉政権4年目にあ
たる2004年度を比較して、小泉構造改革の成果を検証してみ
ることにします。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          2000年度 2004年度    増減
 国民所得      372兆円  361兆円 ▲11兆円
 ――――――――――――――――――――――――――――
 雇用者報酬     271兆円  255兆円 ▲16兆円
 民間法人企業所得   44兆円   50兆円   6兆円
   個人企業所得   19兆円   18兆円 ▲ 1兆円
     ――山家悠紀夫氏『世界』3月号、山家悠紀夫氏論文
  「『実感なき景気回復』を読み解く」より。(岩波書店刊)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 まず、国民所得について見ると、小泉政権の4年間に11兆円
減少しています。問題は、そのツケをすべて家計部門――雇用者
と個人企業に押し付けたことです。
 雇用者報酬を見ると、この4年間に16兆円も減少しているの
です。しかし、雇用者報酬の減少に関しては、すでに1998年
からはじまっており、構造改革だけが原因ではないという反論が
ありますが、けっしてそうとはいえないのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   景気悪化の年 ・・・ 2001年度 3兆円の減少
  景気回復1年目 ・・・ 2002年度 7兆円の減少
  景気回復2年目 ・・・ 2003年度 5兆円の減少
  景気回復3年目 ・・・ 2004年度 1兆円の減少
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1998年度から2000年度までの3年間の雇用報酬の減少
は3兆円に過ぎないのですが、小泉政権になってからは、上に示
すようにそれが加速されています。2002年には景気は回復し
ていたにもかかわらず、構造改革はそれを生かすどころか、潰し
てしまっています。
 それでは、なぜ、雇用者報酬が減少したのでしょうか。それに
は、次の3つの理由があります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.雇用者数自体が減少したこと
      2.正社員が非正社員化したこと
      3.正社員の給与が減少したこと
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1の理由は「雇用者数自体が減少したこと」です。
 金融機関の不良債権処理を加速したことにより、資金の貸し剥
がしが起こり、多くの企業が破綻し、企業のリストラが加速した
のです。その結果、雇用者数はこの4年間で実に76万人も減っ
ているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         2000年度 2004年度     増減
 雇用者数    4999万人 4923万人 ▲ 76万人
 ――――――――――――――――――――――――――――
 うち正社員   3640万人 3333万人 ▲307万人
 うち非正社員  1359万人 1590万人  231万人
 正社員平均年収  461万円  439万円   22万円
                   山家悠紀夫氏論文より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第2の理由は「正社員が非正社員化したこと」です。
 構造改革による規制緩和政策が推し進められ、労働基準法、労
働者派遣法が改正されたことにより、企業の正社員が賃金の安い
非正社員――パート、アルバイト、派遣者などに置き換えられた
のです。そうしないと、企業も競争には勝てない時代になってし
まったのです。
 第3の理由は「正社員の給与が減少したこと」です。
 その結果として、正社員自体の給与が、4年間で22万円も下
がっているのです。正社員の給与の減少は1998年からはじま
っていますが、2000年までの3年間では6万円程度であった
のに、小泉政権になってからこれが加速され、実に22万円の減
少に達しているのです。
 このような構造改革によって、企業の立場は非常に強くなり、
働く者の立場は相対的に弱くなったのです。その結果、法人企業
――とくに大企業の所得は飛躍的に増大したのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          2000年度 2004年度    増減
 法人企業経常収益   36兆円   45兆円   9兆円
 ――――――――――――――――――――――――――――
    うち大企業  25兆円    33兆円   8兆円
   うち中小企業  11兆円    12兆円   1兆円
                   山家悠紀夫氏論文より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 上記の法人企業統計の経常利益で見ると、4年間で企業利益は
9兆円増加していますが、そのうち8兆円は大企業で占めている
のです。なお、2004年度の経常利益45兆円は、バブル最盛
期である1985年の39兆円を大幅に上回っており、史上最高
を記録しているのです。
 この数値を見れば、今回の景気回復が家計部門――雇用者と個
人企業にとって、何ら実感のないことは当然のことといえます。
企業の現在の繁栄が家計部門の犠牲によってもたらされているの
に、小泉政権はその家計部門に照準を絞って大増税の追い討ちを
かけようとしているのです。     ・・・[日本経済22]


≪画像および関連情報≫
 ・国会のやりとりから/2005年3月10日
  ●大門実紀史君 日本共産党の大門実紀史でございます。こ
   の間竹中大臣は、現状の判断として、要するに所得が下げ
   止まり横ばいになっていると、これから上向くと、だから
   定率減税の縮小、廃止をしても家計や景気は持ちこたえる
   というふうにおっしゃってまいりました。ただしかし、こ
   の所得は下げ止まってこれから上向くというような話は、
   ちょうど去年の今ごろもされていたんではないですか。
  ●国務大臣(竹中平蔵君) 景気回復の過程で企業部門にま
   ず、キャッシュフローが増えて、それが家計部門に至って
   いかなければいけない、そのプロセスが従来に比べて非常
   に遅いということは、私たちも大変注意深く見ているとこ
   ろでございます。ここは、いつどのように向かっていくか
   かということはこれからも注意深く見てまいりますが、直
   近の雇用者報酬につきましてそういう動きが出てきており
   ますので、何とかそういったことを伸ばしていきたいと思
   っております。

1780号.jpg
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2006年02月23日

大企業の利害を反映する諮問会議(EJ1781号)

 小泉構造改革は日本経済の供給サイド、すなわち「生産」面を
強化するためのものであることは明らかです。実際問題として、
EJ第1780号で分析したように、2001年から2004年
までの4年間で、家計部門から法人企業部門へ約6兆円もの所得
移転が行われているのです。したがって、現在大きな需給ギャッ
プが生じているわけです。
 雑誌『世界』の特集では、作家高杉良氏と評論家佐高信氏の対
談が掲載されていますが、その中に次のやりとりがあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 佐高:裾野がどんどん枯れてきていますね。
 高杉:裾野というのが、いちばん大事なんですよ。というのは
    日本は中小企業が圧倒的に多い。数でいったら9対1、
    サラリーマンの数でいっても7対3ぐらいの割合ですか
    ら、その日本経済を下支えする裾野のところが、痛んで
    きているわけだから、いいはずはないんです。
    ――『世界』3月号対談/「偽りの改革とメディアの責
     任を問う/小泉・竹中政治からライブドア事件まで」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 小泉首相は今年の1月18日に、社長以下従業員6人の岡野工
業を視察して、中小企業にも力を入れているというパフォーマン
スをしていますが、小泉政権のこれまでの政策は明らかに大企業
に重点を置いており、優秀な技術を持つ多くの中小企業が倒産や
廃業に追い込まれているのです。
 それを端的に示す事実があります。それは、経済財政諮問会議
の民間メンバー構成です。この会議は今まで竹中大臣が仕切って
きたのですが、民間委員は次のようになっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ≪経済財政諮問会議民間メンバー≫
  1.日本経済団体連合会会長 ・・・・ 奥田 碩氏
  2.元経済同友会代表幹事 ・・・・・ 牛尾治朗氏
  3.大阪大学大学院経済学科教授 ・・ 本間正明氏
  4.東京大学大学院経済学科教授 ・・ 吉川 洋氏
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 問題なのは、このメンバーの中に中小企業を代表する日本商工
会議所会頭が入っていないことです。日本経済団体連合会(経団
連)というのは、主として上場企業を代表する組織であり、経済
同友会は、大企業を中心とする優良企業の代表者が個人の資格で
参加する組織に過ぎないのです。したがって、現在の経済財政諮
問会議は大企業の利害しか反映していないことになります。
 商工会議所は法律で組成された公の組織で、しかも民間企業の
99%、従業員の98%を占める中小企業中心の組織なのです。
もし、本心から中小企業を大事にしようと思うなら、商工会議所
会頭を経済財政諮問会議のメンバーにするべきでしょう。
 構造改革、財政再建、大増税――現在、これらが複雑なパズル
のように組み合わさっています。これらのすべてを小泉政権がま
さに一枚岩でやっているのかというと、必ずしもそうではないの
です。そういう意味で「同床異夢」という言葉がぴったりです。
 はっきりしているのは、財務省とそのスタッフ(元大蔵族議員
や財務省出身の評論家などを含む)は、構造改革で大幅に減少し
た税収をなんとか大増税路線で解決させようというシナリオを描
いて、その実現に向けて着々と画策しているということです。
 この点をきちんと押さえておかないと、なにがなんだかさっぱ
りわからなくなってしまいます。政府税制調査会長が大増税路線
を打ち出し、谷垣財務相が消費税引き上げ時期に言及すると、中
川政調会長と竹中総務相がこれに激しく反対する――一体どうな
っているのかと思うばかりです。
 月刊『現代』2月号で、ジャーナリストの桜井慶二氏が、興味
ある内幕レポートを書いています。そのレポートに次の一節があ
ります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  当時、財務省は「心地よい充足感」に包まれていた。谷垣財
 務相が留任したうえ、経済財政諮問会議をとりしきる経済財政
 担当相には与謝野が自民党政調会長から横滑りした。さらに党
 税務調査会長に柳沢伯夫が就任した。みんな「財政再建派」で
 ある。「財務省にとって、これ以上は望めないベストメンバー
 がそろった。あの竹中さんが総務相に回り、経済財政諮問会議
 の進行役を外された。これは大きい。諮問会議をこっちの手に
 取り戻せる」。ある財務官僚は笑みを浮かべて「竹中外し」を
 歓迎していた。――月刊『現代』2月号/「新聞が書かない巨
 大与党の危険な現実/加速する『小泉・竹中革命』」より。
                  ジャーナリスト桜井慶二
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 なぜ、竹中大臣が経済財政諮問会議の進行役を外されたことが
財務省にとってかくもうれしいのでしょうか。
 それは、小泉政権における経済財政諮問会議が単なる調査審議
機関ではなく、最重要の政策決定会議に変貌してしまっているか
らです。「このまま行くと予算編成権を官邸に取られる!」――
そういう危機感が財務省の幹部にあったのです。
 従来予算は財務省が毎年夏に各省庁から概算要求を受けて、そ
れを財務省主導で審議するというかたちになっていたのです。予
算を仕切るということは政策を仕切ることを意味しており、すで
に述べたように、この権限は世界に類を見ない日本の財務省の持
つ最大・最高の権限なのです。
 この権限が小泉政権になってから、国の重要政策が経済財政諮
問会議主導で決められるようになり、不安定になっています。財
務省幹部としてはそれを非常に危機的に感じていたのです。
 こういうわけで、財務省としては、竹中大臣が諮問会議の進行
役を外されたことを歓迎したわけです。しかし、竹中なる人物は
そう甘い男ではないようです。彼は学者よりも政治家にはるかに
向いている人なのです。       ・・・[日本経済23]


≪画像および関連情報≫
 ・MSNニュースより
  小泉純一郎首相は18日、世界で初めて「痛くない」極細の
  注射針を開発した東京都墨田区の金属加工会社「岡野工業」
  (岡野雅行社長)を視察した。同社の注射針を左腕に刺して
  みた首相は「本当に全然痛くない。すごい。改革も痛みがな
  くなればいいんだけど」と感激していた。注射針の直径を通
  常の0.7ミリから0.2ミリと世界で最も細くすることで
  痛みを感じなくした。また、穴を円すい形にすることで細い
  針でも薬液を強く押し出せるよう工夫している。同社の社員
  は6人。首相は「(元気なのは)大企業だけじゃないな」と
  感心しきりだった。【大場伸也】

1781号.jpg
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2006年02月24日

竹中・中川と谷垣・与謝野の対決(EJ1782号)

 第三次小泉改造内閣になって、経済財政諮問会議の主導権はか
たちの上では、与謝野経済財政相率いる財務省主導に移ったかの
ように見えます。少なくとも財務省はそう考えたわけです。
 しかし、竹中総務相は、すでに自らが駆使してきた経済財政諮
問会議を早くも捨て、政策決定の新しいシステムを構築し、動か
していたのです。それは、昨年の11月に行われた政府系金融機
関の統廃合問題――国際協力銀行(JBIC)を残すか、解体す
るかの問題で明らかになっているのです。
 11月22日の経済財政諮問会議で、組織の温存を図る財務省
勢力を代表する谷垣財務相と与謝野経財相、1つに統合すべきで
あるとする竹中総務相が正面から対立したのです。しかし、小泉
首相が谷垣、与謝野両大臣を「官僚の言いなりになるな!」と激
しく叱責する一幕があったのです。
 同じ日の自民党金融改革合同部会は、出席議員の大半がJBI
C解体反対の大合唱だったのです。財務省のスタッフが議員を訪
ねて懸命に説得したからです。しかし、合同部会は28日に政策
金融は1つの機関で実施することを決めています。
 29日には諮問会議が開かれて一機関統合案を受け入れたもの
の、細部で意見がまとまらず、同じ日の自民党金融改革合同部会
で正式に決まったのです。明らかに政策決定権が諮問会議から自
民党に移行しているのです。竹中と与謝野の役者の違いを見る思
いがします。竹中は橋本、小渕、森、小泉という4人の宰相に密
着し、そのブレーンとして働くことによって、その間に驚くべき
政治力を身につけてしまったのです。
 ジャーナリスト桜井慶二氏は、月刊『現代』の内幕レポートで
次のように書いています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 政策決定の重力構造が劇的に変わった。竹中平蔵総務相と中川
 秀直自民党政調会長の2人が、小泉首相の絶対的な権力を背景
 に、党の機関を拠点として政策決定の「実権」を掌握しつつあ
 るのだ。その裏側では、逆にこれまで改革の推進役を担った政
 府の経済財政諮問会議が急速に空洞化しつつある。
 ――月刊『現代』2月号/「新聞が書かない巨大与党の危険な
     現実/加速する『小泉・竹中革命』」より。講談社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 なぜ、自民党内の政策決定の現状について述べたかというと、
それが今後の日本経済に大きな影響を及ぼすからです。ところで
ここにきて、中川政調会長の発言がにわかに重みを増してきてい
ることに気がつかれた人も多いと思います。それは竹中総務相と
息の合った連携を見せているからです。
 諮問会議を捨てた竹中総務相の政調会長との連携は徹底してい
るのです。自分の秘書であった真柄昭宏氏をわざわざ自民党に転
職させ、政調会長の特別秘書に据えています。
 また、自民党金融改革合同部会の事務局に自分に近い官僚を送
り込んでいます。事務局を押さえるというのが竹中の基本的な戦
略なのです。さすがの財務省も手を焼いています。
 現在、竹中総務相の補佐官は高橋洋一という比較的著名な学者
――早稲田大学で講義――なのです。かつてEJで不良債権問題
を取り上げたとき、高橋氏の論文をいくつも読みましたが、なか
なか内容は優れていて、説得力があります。
 竹中総務相は、この高橋洋一補佐官――正確には総務省大臣官
房参事官を使って、中川政調会長に金融政策をレクチャーさせて
いるのです。中川政調会長の発言が急に重みを増したのはこの影
響が大きいと思うのです。
 このように書いていくと、竹中平蔵という人は大変な政治家で
あることがわかると思います。彼はむしろ学者よりも政治家に向
いているのです。学者としては、発言していることが一貫性を欠
いている面があり、そのときどきの情勢に合わせて発言を微妙に
変化させているところがあります。
 そのせいか、小泉構造改革の旗振り役をし、銀行の不良債権処
理をやっていたときの竹中氏と最近の竹中氏とでは、その発言に
おいて、かなり温度差があると感じないでしょうか。
 最近の竹中氏は中川政調会長と一体になって、デフレ克服、増
税反対の主張をして、谷垣財務相を代表とする増税推進派と対立
しています。桜井慶二氏は、そのことについて次のように解説し
ています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 なぜ、竹中・中川ラインは谷垣の増税発言に反発するのか。中
 川は野球の打順になぞらえて、一番バッターはデフレ克服、二
 番が国の資産売却、三番が特別会計や特定財源、公務員など制
 度改革、四番が歳出削減、五番がようやく増税という。
 ――月刊『現代』2月号/「新聞が書かない巨大与党の危険な
     現実/加速する『小泉・竹中革命』」より。講談社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 現在小泉政権が推し進める「小さな政府」という方針は、政府
すなわち「官僚機構のスリム化」なのです。こんなものを推進さ
れたのでは官僚としてはたまらないので、官僚の総本山といわれ
る財務省との戦争がはじまっているのです。このこと自体は、国
民にとっては歓迎すべきことです。
 竹中・中川ラインは、デフレ克服を一番の目標に掲げています
が、その実現手段として次の政策を取ろうとしています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      名目成長率を目標に掲げる金融政策
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この実現のために中川政調会長は、党金融調査会に山本幸三衆
議院議員をヘッドにする金融政策小委員会を発足させています。
最近日銀の福井総裁は「量的緩和解除」に向けての発言を繰り返
しています。これは日本経済にとって大きな問題なのです。山本
委員会はそうした日銀の動きをチェックする狙いのある対応と考
えられます。            ・・・[日本経済24]


≪画像および関連情報≫
 ・福井日銀総裁の発言/2006.2.9
  ―――――――――――――――――――――――――――
   福井日銀総裁は9日、金融政策決定会合終了後の記者会見
  で、「量的緩和の枠組み修正後、必ずしもゼロ金利でなくて
  も、かなり緩和的な環境で持続的な景気回復のパスをより固
  めていく時間は、ある程度の距離がある」と述べた。
   そのうえで、総裁は「物価はプラス基調を強めていくと思
  うが、日本の物価固有の粘着性、そして経済環境全体から見
  て物価が上がりにくい環境が当面続く可能性が高い」との見
  通しを示し、「展望リポートで示した通り金利のレベルを修
  復していくプロセスは、なお、余裕を持って進められる可能
  性が強い」と語った。     [東京 9日 ロイター]
  ―――――――――――――――――――――――――――

1782号.jpg
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2006年02月27日

量的緩和解除に反対する理由(EJ1783号)

 昨年の12月8日のことです。自・党は金融調査会の下に金融
政策小委員会を発足させています。委員長は、自・党衆議院議員
山本幸三氏です。10月頃からの日銀の量的緩和政策解除姿勢に
対抗するための措置と考えられます。
 中川政調会長は、山本幸三議員に対して次のように要請したと
いわれます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 デフレを脱却しなければ、小泉改革は成功しない。それを確か
 なものとするための党としての政策を打ち出して欲しい。
                   ――中川遜直政調会長
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日銀の量的緩和政策解除姿勢は、昨年11月にCPI――生鮮
食品を除く消費者物価指数が前年比0臓1%とプラス浮上したの
を受けてのものです。確かに日銀としては、量的緩和実施時にお
いて解除の条件を次のように定めていたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 生鮮食品を除く消費者物価指数――CPIが前年比で基調的に
 ゼロ%以上で推移する。     ――量的緩和政策解除条件
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、日銀としてもこれをもって「デフレの脱却」とは考え
ていないことははっきりしているのです。しかし、それならなぜ
量的緩和政策解除を急ぐのでしょうか。
 日銀のこの姿勢について、竹中平蔵総務相は昨年の暮れに次の
ようにいっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 中央銀行がまるで政策目標を決める独立性まで持っているかの
 ような論議が行われている。        ――竹中総務相
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この竹中総務相の発言に重ねて中川政調会長は、もし、日銀が
解除を強行するようなことがあれば、「日銀法改正を視野に入れ
る」という爆弾発言を行っています。
 なぜそこまでいうのかというと、日銀が2000年8月のゼロ
金利解除に失敗しているからです。そのときに日銀の速水総裁は
政府与党の反対を無視し、ゼロ金利解除の決定をしたのですが、
その結果、潰さなくてもよい企業を潰し、出さなくてもよい失業
者を出しているからです。
 その失敗は二度と許さないと竹中総務相や中川政調会長はいっ
ているのですが、もうひとつ大きな狙いがあったのです。財政再
建についての考え方です。それは、EJ第1771号でご紹介し
た「長期金利を上回る名目成長率を持続する財政再建」が量的緩
和政策に不可欠であるからです。竹中総務相は、次のようにいっ
ています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 長期金利を上回る4%の名目成長率が続けられれば、消費税を
 上げなくても財政はバランスする。     ――竹中総務相
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これをめぐって、財務省寄りの与謝野経財相と鋭く対立してい
ることはすでに述べていますが、実はこの竹中・中川政策は、イ
ンフレ・ターゲッティングなのです。
 すでに説明しているように、名目成長率というのは、次の式で
説明することができます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     名目成長率臓実質成長率×物価上昇率
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 つまり、竹中・中川政策は、インフレを起こすことで税収を上
げようとしているのです。しかし、「インフレ」というと、アレ
ルギーが強いので、「名目成長率の上昇」という言葉を使ってい
るのですが、基本的にはインフレ政策のことです。それに山本幸
三という人物は自・党では有名なインフレ政策論者なのです。
 山本幸三委員長は、量的緩和解除については、次のようにいっ
ているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 量的緩和の効果としてよく効いているのは、中小企業の資金繰
 りだ。ここが大丈夫だと確認できるまでは量的緩和は継続すべ
 きだ。CPIでいえば、2年後に2%を挟んでプラスマイナス
 1%程度の上昇目標が達成できる状態を日銀が確約できるとい
 うなら、やってほしい。ただし、達成できない場合は、責任を
 とっていただく。それがはっきり見通せる状況にないなかで解
 除する意味がどこにあるのか。     ――山本幸三委員長
            週刊『エコノミスト』2月7日号より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これに対して日銀は、株価が上昇し、景気が過熱気味になるま
で量的緩和を継続すると、解除後に金利が急に跳ね上がる危険が
あるとして、解除には前向きの姿勢で臨むといっています。福井
総裁も「100%日銀政策委員会の責任でやる」として、解除の
姿勢を崩していないのです。
 ところで、経済同友会は、昨年の11月に量的緩和解除を提言
しています。日本経済は正常化の状態に近づいており、解除は早
い方がよいという判断です。しかし、経済同友会経済政策委員会
委員長高橋温氏の次の発言には注目すべきです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 誤解されて困るのは、量的緩和解除を提言したが、ゼロ金利の
 解除を提言しているのではないという点である。
            週刊『エコノミスト』2月7日号より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 高橋委員長は、量的緩和はしてもゼロ金利解除まですると「金
融引き締め」と受け取られる恐れがあり、慎重に行うべきで、ゼ
ロ金利は、GDPデフレーターがプラスになるまでは継続すべき
であるといっているのです。さて、量的緩和政策とは一体何なの
でしょうか。明日、詳しく解説します。・・・[日本経済25]


≪画像および関連情報≫
 ・量的緩和とは何か
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  金融緩和にさいし、量的指標を操作目標とすることである。
  2001(平成13)年3月19日に日銀が導入を決めた。
  公開市場操作(オペ)で金融市場への資金供給を増やし、日
  銀当座預金(準備預金等)残高を必要額4兆円程度に対して
  5兆円程度にすることを目標とした(リザーブ・ターゲティ
  ング reserve targeting)。
  http://learning.xrea.jp/%CE%CC%C5%AA%B4%CB%CF%C2.html
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

1783号.jpg
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2006年02月28日

量的緩和とは一体何なのか(EJ1784号)

 昨日のEJで、経済同友会の高橋温氏の次の発言をご紹介しま
したが、注目に値する発言であると思います。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 量的緩和解除を提言したが、ゼロ金利の解除を提言している
 のではない。               ――高橋温氏
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この発言によると、「量的緩和」と「ゼロ金利」とは別のもの
ということになります。日銀の金融政策について少し勉強する必
要があります。EJで前に「ゼロ金利政策」を取り上げたときに
もすでに説明していますが、繰り返し解説することにします。
 まず、「コール市場」について知る必要があります。コール市
場とは、金融機関の間で資金を融通し合う市場のことです。「コ
ール」とは「呼ぶ」という意味であり、「呼べば直ちに戻ってく
る資金」として、ごく短期の資金を指しているのです。
 コール市場における資金の貸し借りにはいろいろな形態があり
ますが、一番代表的な取引形態は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     無担保コール翌日物――オーバーナイト物
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これは無担保で借りて、借りた日の翌営業日には返済する短期
資金です。コール市場で取引される資金を「コール資金」といい
その貸借レートを「コール・レート」といいます。ゼロ金利とい
うときの金利はこの金利を指すのです。
 もうひとつ知っておくべきことがあります。それは、銀行が日
本銀行に当座預金口座――日銀当座預金を持っているということ
をです。銀行間の資金のやり取りはすべてこの口座を通じて行わ
れることになります。
 B銀行がA銀行から資金を借り入れるとします。この場合、A
銀行の日銀当座預金がB銀行の日銀当座預金に振り替えられるの
です。このときB銀行がA銀行に支払う金利がコール・レートで
あり、オーバーナイト・レートはそのひとつです。
 もう少し詳しくいうと、このケースのA銀行とB銀行を結びつ
ける役割をする会社があるのです。資金の余っているA銀行と資
金を必要とするB銀行の仲介役であり、そのさいには仲介料を取
ります。この仲介者を短資会社といいます。
 短資会社――聞き慣れない会社ですが、具体的にどういう会社
なのでしょうか。
 短資会社はかつては6社あったのですが、現在は次の3社にな
っています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         1.上田八木短資
         2.東京短資
         3.セントラル短資
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 銀行は預金の量に応じて一定比率の日銀当座預金を保有してい
なければならないという決まりがあります。この一定比率を「所
要準備率」といいます。所要準備率は日銀の金融政策上の決定事
項のひとつとなっています。
 100億円の預金を保有している銀行があるとします。仮に所
要準備率を1%とすると、銀行はその1%に当たる1億円を日銀
当座預金に保有していなければならないのです。
 この銀行がある企業に1億円を融資することを決定したとしま
しょう。この場合、銀行はその企業に預金口座を作らせ、その口
座に1億円を入金することによって融資を実行します。このよう
に、銀行が融資を実行すると、預金が増加するのです。したがっ
て、1億円の1%に当たる100万円分の日銀当座預金を増やす
必要があります。この当座預金を増やす手段のひとつが、コール
市場で資金を調達することなのです。このような制度のことを準
備預金制度といいます。
 以上のことを基礎知識として、量的緩和政策について考えてみ
たいと思います。
 「量的緩和」とは量を増やすことを意味していますが、その増
やすべき「量」とは何を指すのでしょうか。その「量」には厳密
には次の2つあるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          1.マネタリーベース
          2.マネー・サプライ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 もともと「量的緩和」という言葉は、1999年2月12日の
日銀の金融政策決定会合においてはじめて登場したのです。この
とき委員の中原伸之氏が、次のような言葉で量的緩和を表現して
います。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   通常では行われないような思い切った金融緩和
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 中原委員が主張する「量」とは「マネタリーベースの量」のこ
とであり、量的緩和とはマネタリーベースの拡大を意味すること
になります。それでは、マネタリーベースとは何でしょうか。
 マネタリーベースとは、日銀がその量を直接コントロールでき
るお金のことです。マネタリーベースは、ベース・マネーとか、
ハイ・パワード・マネーとも呼ばれます。これに対して「マネー
・サプライ」とは、われわれが決済に使えるお金のことです。
 マネタリーベースは次のようなお金のことです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     日銀当座預金  ・・・・・  6%
     銀行手元現金  ・・・・・ 14%
     非銀行保有現金 ・・・・・ 80%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                  ・・・[日本経済26]


≪画像および関連情報≫
 ・1999年2月12日の日銀の金融政策決定会合
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  この会議で中原委員から「量的緩和論」が出たのですが、意
  見がまとまらず、「オーバーナイト金利に少しでも引き下げ
  る余地が残っている以上、まずはそれによって経済活動をサ
  ポートし、金融市場に対して潤沢な資金供給を行って、マネ
  ー・サプライの拡大を促していくことが重要である」という
  考え方が支配的となって、中原委員の提案は否決されている
  のです。しかし、この決定会合によって、事実上のゼロ金利
  政策がスタートしたのです。
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

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2006年03月01日

どのようにして金利をゼロにするのか(EJ1785号)

 1999年2月12日の日銀の金融政策決定会合では、次のこ
とが決まっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 オーバーナイト・レートは当初0.15%前後を目指し、その
 後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。
              ――1999.2.12決定会合
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これがゼロ金利政策のはじまりです。それでは、日銀はどのよ
うにしてオーバーナイト・レートを0.15%に、誘導するので
しょうか。
 日銀は銀行と取引して銀行に資金を供給したり、銀行から資金
を吸い上げたりするのですが、これを「金融調節――公開市場操
作」といっています。日銀の金融政策とは、この金融調節を通じ
て行われることになります。
 日銀が金融調節を行う場合、原則的には次の操作を行うことに
なります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      資金を供給する ・・・ 買いオペ
      資金を吸収する ・・・ 売りオペ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 オーバーナイト・レートをゼロに誘導するとき、日銀が行った
金融調節は「短期国債の現先買いオペ」です。短期国債とは、政
府が発行する満期の短い(3ヶ月、6ヶ月、1年)国債のことで
あり、この国債を一定期間後に一定価格による売り戻し条件をつ
けて取引先金融機関から買い入れて、資金を供給することを「短
期国債の現先買いオペ」というのです。
 このようにして銀行に大量の資金を供給すると、資金が不足し
がちな都銀などが、コール市場で資金を借りる必要性はそれだけ
低下することになります。そうすると、コール資金の供給が需要
を上回ることになるので、オーバーナイト・レートをはじめとす
るコール・レートは低下します。日銀はこの手法を使ってオーバ
ーナイト・レートをゼロまで誘導したのです。これがゼロ金利政
策なのです。
 ちなみに、こまかな話ですが、オーバーナイト・レートをゼロ
にするといっても、短資会社の仲介料は支払わなければならない
のです。したがって、正確にいうならば、ゼロ金利政策とは、オ
ーバーナイト・レートから短資会社の仲介手数料を控除した残り
をゼロにする政策ということができます。
 しかし、オーバーナイト物というのは、取引日の翌日には返済
するというきわめて短い期間の資金なのです。その金利をゼロに
したところで、どれほどの効果があるのでしょうか。
 確かに、もしオーバーナイト・レートだけがゼロになるだけで
あれば、その影響力は微々たるものであり、金融政策としてはほ
とんど無意味です。しかし、そうはならないのです。
 オーバーナイト・レートがゼロになると、他の期日物にその影
響が及ぶからです。都銀をはじめとするコール市場で資金を調達
している銀行のなかには、期日物(1〜3週間物)で資金を調達
しているところも多くあります。
 しかし、オーバーナイト・レートがゼロになると、期日物を減
らしてオーバーナイト物で資金を調達しようとします。その方が
資金調達コストが安くなるからです。そういう銀行が多くなると
1〜3週間物の取引における需給が緩むため、1〜3週間物の金
利は低下します。
 同様の理由で、1〜3週物の金利が下がると、1〜11週物で
資金を調達していた銀行はその取引を減らして、1〜3週物で資
金を調達しようとするはずです。このようにして、1年未満の期
日物の金利低下が次々と起こることになります。
 このようにコール市場で資金を調達している銀行がより低い金
利の取引に移行することによって、取引期間が異なるコール資金
の金利体系が調整されることを「金利裁定」というのです。
 それでは、オーバーナイト・レートをほぼゼロに維持すること
によって、期日物の金利がどこまで低下するでしょうか。
 それは、市場に参加する者がゼロ金利政策がいつまで続くと予
想するかにかかっているといえます。ゼロ金利政策がまだまだ長
く続くと予想する人が多ければ、満期の長い期日物の金利も低下
しますが、市場参加者がゼロ金利政策はいずれ解除されると予想
すると、満期の長い期日物の金利は低下しないで、上昇すること
も考えられるのです。
 ゼロ金利政策をとったとき、日銀はそれをいつまで継続するか
について、次のコミットメントを出しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 デフレ懸念の払拭が展望できるようになるまで、ゼロ金利政策
 を継続する。                ――日銀総裁
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 こういうコミットメントは、市場参加者にゼロ金利政策がいつ
まで続くかを予想しやすくすることによって、満期の長い期日物
の金利低下を促すという効果があるのです。
 コミットメントは、できるだけ具体的な尺度で示す方がよいの
です。しかし、速水総裁のこのコミットメントは、「デフレ懸念
の払拭が展望できるようになるまで」という抽象的な表現であっ
た点が問題であるといえます。
 そのため、速水総裁は、2001年3月に量的緩和政策に踏み
切ったとき、ゼロ金利解除の目安をCPI(消費者物価指数)と
いう客観的基準に置き換えています。
 このアイデアは、ゼロ金利政策解除の誤った思惑によって、長
期金利が上昇することを防ぐ効果をもったのです。また、財政の
金利負担軽減にも大きく貢献したといえます。これについては、
明日、もう少し詳しく解説します。  ・・・[日本経済27]


≪画像および関連情報≫
 ・「金利裁定」とは何か
  金利の低いところから、金利の高いところに資金が流れるこ
  と。2国間に金利差がある場合、先渡し及び先物には、直物
  で金利の高い通貨を売る動きが現れ、これらの相場は、限り
  なく通貨間の金利差を埋める水準まで下がる。このような為
  替市場の動きのことを金融裁定という。
  http://www.all-navi.jp/sec/words/archives/2005/06/post_113.html

1785号.jpg
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2006年03月02日

速水前総裁が採用した新機軸(EJ1786号)

 1999年2月、2000年8月、2001年3月――これら
3つの年月は、速水日銀前総裁が重要な決断をした時期として、
記憶に残しておいて損はないと思います。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    1999年2月 ・・・・・ ゼロ金利を始動
    2000年8月 ・・・・・ ゼロ金利を解除
    2001年3月 ・・・・・ 量的緩和を開始
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1999年2月12日の日銀金融政策決定会合――このとき中
原伸之委員が次の提案をしたのですが、全委員に反対され、速水
総裁はゼロ金利を採択した経緯はすでに述べた通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 金利がゼロ近くまで低下している状況では、この際マネタリー
 ベースに目標を置いた量的緩和を明示すべきである。
                  ――中原伸之委員(当時)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ややこしい話ですが、現在の日銀政策委員会のメンバーのなか
にも中原という審議委員がいるのです。もちろん、中原伸之氏で
はなく、現在、三菱東京UFJ銀行副頭取をされている中原真氏
です。興味深いことに、この中原真委員も量的緩和論者であると
同時に、インフレ・ターゲッティング論者であるといってよいと
思います。
 日銀の審議委員は総裁を含めて9人いますが、中原委員は量的
緩和解除に対して反対のスタンスを取っているのです。量的緩和
解除に関して中原委員は次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 物価動向に加え、海外経済や雇用者の賃金動向などを含めた総
 合的な判断が必要だ。中国の市場参加などもあってグローバル
 な供給圧力が依然として高く、相対的にはインフレよりデフレ
 のリスクに注意を払うべき状況にある。(量的緩和策の解除に
 は)遅すぎるリスクより早すぎるリスクに注意すべきだ。
                ――産経新聞社ニュースより
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日銀審議委員の任期は5年となっており、中原氏の任期は今年
の6月16日までです。したがって、量的緩和解除に反対する与
党の金融政策小委員会にとって、中原氏の存在は重要です。
 中原真氏と正反対のスタンスを取る審議委員がいます。学習院
大学経済学部教授の須田美矢子氏です。彼女は量的緩和解除に賛
成であり、インフレ・ターゲッティングには反対なのです。しか
し、須田審議委員の任期は3月末であり、微妙な時期に当るので
す。そこでいろいろな政治的な思惑のもとに須田氏を審議委員に
残そうという動きがあり、再任が決定したという一部報道も流れ
ていますが、日銀からは正式な発表はありません。
 さて、話を本題に戻します。ゼロ金利政策を始めた速水総裁は
大方の反対を押し切って、2000年8月11日にゼロ金利を解
除し、無担保コールレート翌日物金利を、0.25%まで引き上
げたのです。この0.25%というのは短期金利の誘導目標とし
て使われます。しかし、代表的な政策金利である公定歩合につい
ては据え置いたのです。
 経済に関心のある方であれば、ここまでの経緯はよくご存知で
あると思います。しかし、そのあとどうなったのか――これにつ
いてはよくわからないという人が多いと思います。
 『週刊/東洋経済』2/25号では「『金利復活』後の世界」
という特集を組み、この問題についてかなり詳しい検証を行って
おり、とても参考になります。
 これによると、無担保コールレート翌日物金利が0.25%に
引き上げられると同時に、銀行の預金金利がいち早く反応し、正
常の状態に戻っているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     定期預金 ・・・ 0.08 → 0.14
     普通預金 ・・・ 0.05 → 0.10
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 結果として、このタイミングでのゼロ金利解除は、完全な失敗
だったのです。なぜなら、せっかく少し上向きかけていた景気を
失速させてしまったからです。当時、例の山本幸三議員は、自分
のウェブサイトに次のように書いて、日銀を批判しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 今回、日銀が金利を上げたので、政府は補正予算の編成を余儀
 なくされました。日銀と政府の政策の方向が真反対を向いてお
 り、本末転倒です。しかも、今回のように、一国の総理大臣が
 これほど馬鹿にされた政策決定はなかったと思います。こんな
 経済政策の運営はあってはなりません。    ――山本幸三
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 そういうわけで、ゼロ金利解除後6ヶ月で速水総裁は、中原伸
之氏のいっていた「通常では行われないような思い切った金融緩
和」策に踏み切ることになったのです。これが2001年3月の
量的緩和策です。
 そのさいに速水総裁は、他の中央銀行ではやったことのない2
つの新機軸を打ち出したのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.金融政策の操作目標を従来のコールレートから日銀当座預
   金残高に変更し、所要準備預金を引き上げていること
 2.この政策をCPI(生鮮食品を除く)の前年比上昇率が安
   定的にゼロ%以上になるまで継続すると約束したこと
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この政策によって日本の金融は世界でも例を見ない未踏の領域
に迷い込むことになったのです。これら2つの新機軸については
明日のEJで論評しますが、現在までこの政策は維持されてきて
いるのです。そして、再び、量的緩和解除が福井日銀総裁によっ
て行われようとしているのです。   ・・・[日本経済28]


≪画像および関連情報≫
 ・量的緩和策解除後の金融政策運営の「道しるべ」について
  の中原真日銀審議委員の意見
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「道しるべ」について中原氏は、量的緩和の誘導目標である
  日銀当座預金残高(現行30兆円から35兆円程度)を縮小
  させる過程と、その後の中立的な金利水準に至る経路という
  二つの局面に対応させる必要があると指摘。そのうえで「望
  ましい物価上昇率を示すことは透明性向上と解除後の市場の
  期待の安定化に効果的だ。それは中長期的に目指すべき物価
  上昇率を数値化する『参照値』で、一定の期限に目標達成が
  求められるインフレ目標と異なる」と強調した。
           ――2006.2.21/産経新聞より
  ―――――――――――――――――――――――――――

1786号.jpg
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2006年03月03日

量的緩和政策は役に立ったか(EJ1787号)

 このところ日銀の問題を取り上げています。日銀総裁が量的緩
和解除の姿勢を見せているからです。今回のEJは、財務省が目
論んでいる財政再建を目的とする大増税は本当に不可避なものな
のかについて追求していますが、そのさい日銀の判断は大きな鍵
を握っています。
 2000年8月に実施したゼロ金利解除に失敗した速水前総裁
は、2001年3月に量的緩和を打ち出しています。そのさい、
金融政策の操作目標を従来のコールレートから日銀当座預金残高
に変更したのです。
 つまり、目標残高として5兆円を設定したのです。当時、所要
準備は4兆円であったので、1兆円の余裕を作ったのです。こう
することによって、コールレートは当然ゼロ金利に貼り付くこと
になります。
 日銀はその後長期国債の買いオペを増やすことによって、20
04年1月までの間に目標残高を実に9回にわたって引き上げて
現在は30兆円〜35兆円の巨額に達しているのです。これが量
的緩和なのです。
 2003年3月20日に速水総裁は退任し、福井総裁に代わっ
たのですが、日銀当座預金残高の引き上げはその後4回行われ、
現在の水準に至っているのです。
 既に述べたように、量的緩和の「量」はマネタリ−ベースの量
のことです。マネタリーベースとは、日銀がその量を調節できる
お金のことであり、これを増大させようというのです。なお、マ
ネタリーベースは、ベースマネーともいわれます。
 日銀の量的緩和によって、ベースマネーの平均残高は次のよう
に飛躍的に増加しているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    ●ベースマネー平均残高の前年比増加率
     2001年 ・・・・・  7.4%
     2002年 ・・・・・ 25.7%
     2003年 ・・・・・ 16.4%
     2004年 ・・・・・  7.1%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、この世界に類を見ない量的緩和策は効果があったので
しょうか。
 金融機関は預金などで集めたお金を企業や個人に貸し出したり
債券や株式など有価証券に投資して、預金に対して支払う利息以
上のお金を生み出すことにより、収益を上げています。日銀当座
預金も金融機関にとっては、貸し出しや有価証券などと同じ資産
となるのです。しかし、日銀当座預金の場合、一切利子は生まな
いのです。
 量的緩和というのは、そういう利子を生まない資金が通常必要
とされる以上に積み上がっている状態ですから、資金をそのまま
に放置すると、巨額の資金を寝かすことになり、資産の利回りは
悪化してしまうことになります。
 そうすれば、金融機関はそれを取り崩して、貸し出しなどリス
クを取った運用を増やそうとするはずである。そうでなければ、
資産の利回りは悪化する――そういう狙いが日銀にはあったので
す。このように、貸し出しなどで市場に出回る資金のことを「マ
ネー・サプライ」というのです。
 このマネー・サプライについてもう少し正確に述べましょう。
マネー・サプライは通常次のように定義されます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     マネー・サプライ = M2+CD
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 M2(エム・ツー)は、普通銀行の「定期性預金」のことであ
り、CDは「譲渡性預金」のことです。ちなみに、M1は「当座
預金/普通預金」、M3は「郵便貯金」を意味します。譲渡性預
金は、途中で売買できる預金証書のことです。
 この「M2+CD」をマネー・サプライといい、日銀が金融政
策の運用上で一番注目しているデータの一つなのです。2001
年〜2004年間についてマネー・サプライの平均残高の前年比
の伸びを見てみることにします。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 2001〜2004(量的緩和あり)  1.7〜3.3%
 1997〜2000(量的緩和あり)  2.1〜4.0%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これによると、マネー・サプライ(M2+CD)は、量的緩和
を実施した4年間と量的緩和のない先の4年間に比べても明らか
に増えていないのです。
 どうしてマネー・サプライが増えなかったのかというと、銀行
としては、国からの性急なる不良債権処理、自己資本比率維持、
収益改善の三重苦の押し付けによって、古い貸し出しの回収と新
規貸し出しに慎重姿勢を取らざるをえなかったのです。
 マネー・サプライが増えないだけではないのです。デフレから
も脱却していないのです。消費者物価指数(CPI/生鮮品をの
ぞく)は一貫してマイナスになっているのです。
 量的緩和の効果があったとされることがひとつあります。それ
は、長期金利の上昇を抑えたことです。それは日銀が量的緩和の
継続条件として、CPIの前年比上昇率が安定的にゼロ以上にな
るまでという客観的条件を表明したことです。
 このように客観的指標を示したことにより、市場は量的緩和の
継続期間が予測しやすくなり、間違った思惑(リスク)によって
長期金利が上昇することを未然に防いだのです。
 鈴木政経フォーラム代表/鈴木淑夫氏は、「現在の長期金利は
将来の予想短期金利の加重平均にリスクプレミアムを加えたもの
である」といっています。したがって、リスクプレミアムを小さ
くすることによって長期金利は安定化するのです。これは財政の
金利負荷軽減に大いに貢献したのです。しかし、量的緩和には大
きなデメリットもあるのです。   ・・・ [日本経済29]


≪画像および関連情報≫
 ・鈴木政経フォーラム代表/鈴木淑夫氏のコメント
  ―――――――――――――――――――――――――――
  (速水総裁の打ち出した)新機軸の最大の副作用は、金融機
  関経営の自主性喪失と市場の歪みである。金融機関経営とは
  将来の金利、資金のアベイラビリティ、顧客の信用などにつ
  いて、自主的に判断してリスクをとり、ポートフォリオを調
  整していくものだ。しかし、量的緩和政策の下で、日本銀行
  が巨額の長期資金を安定した金利で供給し続けた結果、金融
  機関は市場との自主的な対話で将来の金利や資金事情を予想
  し、リスクを取る必要がなくなった。
    ――『週刊/東洋経済』7/30/鈴木淑夫氏論文より
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ・添付ファイルの図
  http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/47/naruhodo204.htm

1787号.jpg
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2006年03月06日

日銀金融政策3つの選択肢(EJ1788号)

 どうやら日銀による量的緩和政策は、3月中か遅くも4月には
解除される見通しが強くなってきています。3日発表のCPIが
明確なプラスになり、政府内部も解除容認のムードになってきて
いるからです。福井日銀総裁としては、次の2つの理由から、少
しでも早く量的緩和解除を実現したいのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.「異例の政策」を一日も早く終わらせて正常に戻したい。
   解除条件であるCPIのプラス化をクリアしつつある。
 2.このところ「買いオペ札割れ」による日銀当座預金の目標
   残高割れが何回も起こっており、限界に達しつつある。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 確かに金融機関が必要とする以上の大量の資金を日銀が供給す
る量的緩和政策は異例の政策といえると思います。日銀総裁とし
ては一日も早く日銀当座預金の目標残高「30兆〜35兆円」を
本来の6兆円まで引き下げ、政策手段を金利に戻したいと考える
のは至極当然のことです。
 まして、最近は「買いオペ札割れ」が何回も起こっており、日
銀当座預金残高の目標「30兆〜35兆円」を下回ることが何回
も起きているのです。これは量的緩和政策が限界に達しつつある
ことを示すサインと考えることができます。
 日銀が金融調節をするさい、手形や国債を買い入れる予定額を
事前に金融機関に伝え、金融機関がこれに応札するかたちで行わ
れるのです。これに対する代金の支払いというかたちで日銀は各
金融機関の日銀当座預金口座に資金を振り込んで、残高を増加さ
せるわけです。
 しかし、応札額が日銀の予定する額を下回ることがあります。
これが「買いオペ札割れ」です。このところ短期国債では札割れ
が頻繁に起こっているのです。
 短期国債だけでなく、中期国債でも札割れが起きています。こ
の2月22日、中長期国債オペは、入札予定額3000億円に対
し、応札額が2302億円にとどまったのです。中期国債の需要
が一時的に高まり、日銀に中期国債を売る金融機関が少なかった
ためとみられています。これは中長期国債の買い入れオペでは9
年5ヶ月ぶりのことなのです。
 なぜ、札割れが起きているのでしょうか。
 それは、景気が回復し、金融機関は必要以上の手元資金を不測
の事態に備えておく必要がなくなったと考えられます。つまり、
札割れの頻発は景気回復のシグナルであるといえます。
 しかし、不用意に量的緩和政策を解除すると、長期金利が上昇
する危険があります。それは量的緩和の解除を金融引き締めのサ
インであるととられる恐れがあるからです。
 なぜなら、日銀は日銀当座預金の残高を引き上げるときに「追
加緩和」といってきたからです。したがって、残高を引き下げる
と「金融引き締め」と受け取る恐れがあるのです。
 こういう憶測が広がると、長期金利が上昇(債券が下落)し、
金融機関が抱える大量の国債に含み損が発生する恐れがあるので
す。そうなると、企業収益が悪化し、景気を腰折れさせる恐れが
出てくるのです。
 しかし、景気回復が確実なものになった現在では、札割れが起
こるということは、量的緩和がその役割を終えており、後は粛々
と目標残高を下げていけばよいという意見が支配的です。これに
対してRIETIのファカルティ・フェローである伊藤隆敏氏は
それは正しくないといっています。
 やはり不用意に量的緩和解除を行うと、日銀は金融引き締めに
転換したと受け取られるというのです。そのため、日銀による現
在の金融政策としては、次の3つの選択肢がありうると伊藤氏は
提言しているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    第一の選択肢:30兆〜35兆円を死守する
    第二の選択肢:日銀当座預金に利息をつける
    第三の選択肢:物価水準目標を明示的に導入
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 伊藤氏は、日銀の量的緩和政策は景気回復に大きく貢献してい
ると評価し、継続すべきであるという立場に立って、上記3つの
選択肢を示しています。
 札割れに対する対策としては、第一の選択肢として長期国債と
その他の債券――具体的には社債や不動産投資信託(REIT)
株価指数連動型上場投資信託(ETF)などのリスクを伴う債券
の購入を検討すべきであるといっています。これによって長期金
利を低く保つことができるからです。
 第二の選択肢である「当座預金に利息を付ける」の発想はなか
なかユニークです。これは、金融機関が余剰資金を日銀に預ける
インセンティブとなり、日銀は30兆〜35兆円を維持すること
が可能になります。
 第三の選択肢は、デフレ脱却のためのシグナルを「量的緩和」
から「物価水準数値目標」にシフトし、デフレ脱却に向けてのコ
ミットメントを強める――日銀が具体的な数値を上げて物価安定
を定義し、その目標達成期限を示すことを伊藤氏は求めているの
です。そうしておくことによって日銀当座預金残高を減額させて
も、金融引き締めと市場は受け取らないからです。竹中総務相も
同じようなことをテレビ朝日「サンデー・プロジェクト」でいっ
ていました。
 コミットメント――約束することですが、これは市場に対して
強いシグナルを送るのです。とくに日銀総裁の発言は市場に強い
メッセージとして伝わるのです。
 福井総裁は解除に向けて前のめりの姿勢で訴えているので、政
府内には容認のムードが出てきたものと思われます。問題は出口
ですが、その姿勢として、「ゼロ金利は続ける」とし、その上限
を0.1%とするという踏み込んだ発言もしています。問題は長
期金利がどうなるかです。      ・・・[日本経済30]


≪画像および関連情報≫
 ・「買いオペ札割れ」について
  オペの札割れとは、日本銀行が金融調節のためのオペレーシ
  ョンをオファーしたときに、金融機関から申し込まれた金額
  が、入札予定額に達しないことを言います。資金供給オペレ
  ーションで札割れが起こっているということは、金融機関に
  十分な資金が既に行き渡っているため、金融機関がオペレー
  ションに全額は応じようとしなくなるほど、日本銀行が豊富
  に資金供給を行っていることを意味します。
 ・伊藤隆敏氏のレポートのサイト
  「ファカルティ・フェロー」とは、省庁や大学に籍を置く非
  常勤のフェローのことである。
  http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/ito/01.html

1788号.jpg
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2006年03月07日

名目成長率を上げる方法とは(EJ1789号)

 先日、竹中総務相がテレビの番組に出演し、日銀の量的緩和解
除に関連して次のような趣旨の発言をしたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 実質成長率は確かに上がってきたが、名目成長率は低いままで
 ある。量的緩和解除の指標はCPIだけではなく、エネルギー
 を除いたGDPデフレーターもある。名目成長率が上がってく
 ることが重要である。           ――竹中総務相
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 竹中氏は、日本経済はまだデフレを脱却しておらず、間接的に
「量的緩和解除はまだ早い」といいたいのでしょう。量的緩和が
解除されると、それは長期金利の上昇を招き、名目成長率を上回
ってしまうからです。そこで、竹中・中川ラインは、しきりに日
銀に対し、「目標を示せ」と迫っています。
 その目標とは何でしょうか。
 それは「物価水準数値目標を示せ」ということであると思いま
す。例えばインフレ率を1〜3%とし、その達成期限を明示せよ
ということです。名目成長率は、実質成長率に物価上昇率を加え
たものですから、要するに「名目成長率を上げよ」というのはイ
ンフレ・ターゲッティング政策と同じ意味になるのです。
 しかし、竹中氏といえば、日本経済の問題点は供給サイドにあ
るとして、供給サイド――すなわち、企業を金融機関の不良債権
処理を加速させて削減しています。弱いところ、問題のあるとこ
ろを削減すれば、強いところが残るという論理なのです。
 しかし、問題なのは、その一方で緊縮財政を5年間も継続させ
需要を徹底して抑制したことです。その結果として、デフレは一
層深化し、大幅な税収の落ち込みを招いてしまったのです。
 竹中・中川ラインは、現在は財務省の目論む大増税路線に反対
し、正義の味方のように振舞っているものの、大幅に税収を落ち
込ませ増税の言質を財務省に与えたのは、これまでの経済運営の
結果なのです。ここに竹中政策の矛盾点があるのです。
 それでは名目成長率を増やすにはどうしたらよいでしょうか。
 大方の批判を覚悟していえば、「緊縮財政を解いて、公共投資
を増やすこと」です。このようにいうと、政府債務が795兆円
もあるのに、そのうえ無駄な公共投資を増やせというのかという
批判を浴びてしまうでしょう。現在の世の中は、そういうムード
になってしまっているからです。
 『増税が日本を破壊する』(ダイヤモンド社刊)の著者である
菊池英博教授は、これについて次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  @「公共投資はGDPの増加に寄与していない」
 この言葉は、当初から小泉純一郎氏と竹中平蔵氏がよく宣伝し
 マスコミも便乗して使っている。しかし、事実に反する発言で
 あり、大間違いである。1990年代の前半から今日までのG
 DP成長と税収の関係をみると、積極財政の効果は税収を増加
 させている。問題は、効果が出始めると、すぐ緊縮財政に切り
 換える政策をとっていることだ。
  菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
       はないこれだけの理由』より。ダイヤモンド社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 現在、日本では「公共事業=悪役」という構図ができ上ってい
ます。しかし、本当にそうなのでしょうか。これに関して、『中
央公論』1903年12月号に出ている国土交通省技監の大石久
和氏の「本当に公共事業は悪役なのですか」という論文が参考に
なります。
 大石氏は、公共事業に関する批判を次の4つに分けています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     1.公共事業の大きさに 係わるもの
     2.公共事業の対象に  係わるもの
     3.公共事業の経済効果に係わるもの
     4.公共事業の手続きに 係わるもの
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1は公共事業費の金額の大きさに関する批判です。大石氏は
2003年度の国債発行額36.4兆円を例に上げて説明してい
ます。確かに大きい金額ですが、36.4兆円のうち30兆円は
赤字国債――税収不足を埋める国債であり、公共事業に使われる
建設国債は6.4兆円(18%)に過ぎないのです。そこまで調
べたうえで公共事業費が大きいといってはいないはずです。
 第2は公共事業の対象に関する批判です。つまり、内容や質の
問題です。人の通らない道路建設とか不要なハコものの建設など
がそうです。クリントン前大統領は、地上交通網の建設や地域開
発、教育振興、学校建設など十分に質を考えて投資しています。
日本でも必要な対象がたくさんあるはずです。
 第3は公共事業の経済効果です。財政出動の経済効果は経験則
でしかいえませんが、辛抱強く継続したケースではちゃんと効果
が上がっているのです。日本の場合は、少し効果が出てくると、
すぐ緊縮財政に切り換えてしまうことの繰り返しであり、これで
は効果をうんぬんできないのです。
 第4の手続きに関するものとして一番批判があるのは談合、そ
れによる高コスト体質のことです。
 大石氏は額の大きさに関し論文中で次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 国債発行額の増加は赤字国債の急激な拡大に起因しており、公
 共事業に使われる建設国債発行額は逆に減少。公共事業の規模
 も、同様に年々縮小しているというのが、この数年間の構造な
 のである。この構造を見れば、財政悪化の主因が公共事業のた
 めの国債発行にあるとする主張『財政破綻主因論』は、およそ
 説得力に欠けるものと言わざるを得ない。  ――大石久和氏
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 毎年大量の赤字国債を発行しなければならない主原因は、緊縮
財政による税収減少なのです。    ・・・ [日本経済31]


≪画像および関連情報≫
 ・大石久和氏の主張より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  政府予算における公共事業費は、削減され続けてきた。平成
  15年度当初予算における一般公共事業関係費(国費)は前
  年度比3.8%減の約8兆円であり、これは景気対策として
  大規模な補正予算が組まれた平成10年度の約6割にすぎな
  い。事業規模が縮小したことそれ自体を慨嘆する必要はない
  が、その結果として、日本の国際競争力が必要な水準に維持
  されているか否か、日本が目指すべき国土利用に向けて直実
  に進んでいるのか否か、を懸念するのである。
  『中央公論』/2003年12月号――大石久和著、『本当
  に公共事業は悪役なのですか』―――森田実著、『公共事業
                必要論』より。日本評論社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2006年03月08日

クリントン前大統領の米財政改革(EJ1790号)

 財政改革で日本が一番参考にしなければならないのは、米クリ
ントン前大統領の財政改革です。クリントンが大統領に就任する
前の米国経済の状況は次の通りです。ちなみにクリントン氏が大
統領に就任したのは、1993年1月のことです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  1991年 ・・・・・ GDP実質成長率がマイナス
  失業率   ・・・・・ 7.5%
  財政赤字  ・・・・・ 2904億ドル(過去最高)
         (1991年10月〜1992年9月)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 クリントン政権は2期行われていますが、その期間は次のよう
になります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     第1期 1993年 〜 1996年
     第2期 1997年 〜 2000年
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 クリントン大統領は、1993年2月17日に議会で演説し、
経済戦略を次のように打ち出しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     1.支出を消費から投資に向ける
     2.家族と勤労をとくに尊重する
     3.保守的な見積りの予算の編成
     4.政府支出削減と公平税制導入
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 まず、クリントン大統領は、雇用を増やすための手を打ってい
ます。限られた政府予算から消費を削減して、投資項目に重点支
出することを表明したのです。
 続いて予算方針を打ち出したのですが、それには次の3つの特
徴があったのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  1.予算は積極財政、物価の上昇率を上回る3.3%
  2.消費項目を抑えて投資項目に予算を重点的に投入
  3.政府職員を3万人削減、物価上昇でも支出は不変
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 重要なことは、第1期、第2期とも予算は積極財政であるとい
うことです。支出項目別年平均の伸び率で見ると、第1期は歳出
規模で3.3%、第2期でも3.0%の伸びになっています。そ
して、第1期は軍事費を3.6%削って、投資項目にプラスして
いるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
             第1期     第2期
  歳出規模      3.3%    3.0%
  【裁量的経費】
    全 体     0.1%    2.5%
    国防費    △3.6%    1.2%
    その他     公共投資    公共投資
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 公共投資としては、第1期、第2期とも地上交通開発費、地域
社会開発、職業訓練、雇用増進費、教育費を大幅に増額している
のです。つまり、景気振興策を財政に組み込んだわけです。日本
は、なぜこういう投資ができないのでしょうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
             第1期     第2期
 地上交通開発費   37億ドル   70億ドル
 地域開発その他   28億ドル  115億ドル
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第2期に入ると、財政赤字は大幅に縮小してきましたが、日本
のように緊縮財政を組むことなく、積極財政を続けたのです。そ
のため1998年には黒字となり、財政再建に成功しています。
公共投資は第1期よりも第2期の方が多いことが日本とは大きく
違うところといえます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
             第1期     第2期
  歳出規模      5.6%    4.6%
  【義務的経費】
    社会保障    5.4%    3.7%
   メディケア   10.9%   11.9%
     その他   △0.1%    7.2%
     利払い    4.4%   △1.6%
     その他   △0.1%    7.2%
     利払い    4.4%   △1.6%
  菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
       はないこれだけの理由』より。ダイヤモンド社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1990年代後半になって、長短ともに金利が低下してきたの
です。そこでクリントン政権は長期国債の書き換えを短期国債で
行い、国債コストの削減を行っています。
 このように、クリントン大統領は消費項目を抑えて投資項目に
予算を重点的に投入し、景気振興策をとっているのですが、クリ
ントン政権は、2003年から景気が回復基調にあることを鋭く
見抜いていたため、こういう手を打ったのです。
 巨額な財政赤字を解消するには、景気回復の力を借りて、思い
切ったメリハリのある手を打つべきです。日本の場合も小泉政権
の発足した1年後は景気回復基調にあったのです。
 しかし、小泉政権は経済がデフレであるにもかかわらず、緊縮
財政をひいて需要を抑え込み、供給サイドを強くすると称して、
金融機関の不良債権処理を強行して企業をつぶしたのです。それ
が税収の大幅減少を招き、赤字国債の発行額を増やすという財政
再建とは逆のことをやったのです。それが改革なくして景気回復
なしの正体です。          ・・・[日本経済32]


≪画像および関連情報≫
 ・2001年度大統領の予算教書より
  財政赤字が減少し始めたのは1993年度からである。これ
  は米国の景気が回復し始めた時期であり、その後1995年
  にかけて景気が回復し、税収が増加した。この間の財政赤字
  減少の約7割は、景気回復によるものであり、税率の変更な
  どの構造要因は約3割にすぎない。ついで1995年度から
  1998年にかけては、税収が増加し、財政は黒字に転換し
  た。この間の税収増加要因の約7割が、税率の引き上げなど
  の構造要因である。  ――2001年度大統領の予算教書

1790号.jpg
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2006年03月09日

名目成長率がかぎを握っている(EJ1791号)

 名目成長率が上がること――これはプライマリーバランス黒字
化の達成要件のひとつであることは確かです。竹中総務相のいう
ように、実質成長率がいかに上ってもデフレ下では、それは本物
の景気回復とはいえないのです。名目とか実質とわかりにくい話
で恐縮ですが、できるだけわかりやすく説明します。
 菊池英博教授は、デフレのもとでは「実質」成長は幻想に過ぎ
ないといい、次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 構造改革が始まった2001年から今日まで、マクロ経済指標
 (経済全体からみた指標)は悪化し、それが税収の激減、財政
 赤字の拡大、政府債務の増加になっている。デフレのもとで数
 字が「よくなった」といっても「実質」の数字であり、ここに
 デフレのマジック(数字上のごまかし幻想)がある。「名目」
 での統計数字が改善しない限り、税収は増加しないのである。
  菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
       はないこれだけの理由』より。ダイヤモンド社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 名目成長率の数字だけが改善すれば良いというわけではありま
せん。名目成長率ともうひとつ別のファクターの両方を見て、判
断する必要があります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   1.名目成長率 VS 純債務増加率
   2.名目成長率 VS 国債残高の加重平均利回り
   3.名目成長率 VS 長期金利
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ひとつずつ検証していくことにします。
 第1は「名目成長率VS純債務増加率」です。
 結論からいうと、名目成長率が純債務増加率を上回ればよいの
です。1997年から2003年までの6年間について、米国、
英国の2国と日本を比較してみます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1997年〜2003年の6年間             
          純債務増加率        名目成長率
 米国  8.5%(年率1.4%) 34.0%(年率1.4%)
 英国 11.7%(年率2.0%) 37.8%(年率6.3%)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 米国はこの6年間で純債務は8503億ドルから9229億ド
ルに増加しているのですが、名目成長率が34%増加しているの
で、政府債務の国民負担率は53.1%から42.8%に低下して
いるのです。
 英国も同様で、純債務は3420億ポンドから3820億ポン
ドと11.7%増加しているのですが、名目成長率が37.8%増
加しているので、政府債務の国民負担率は46.6%から34.7
%に低下しています。
 これに対して、日本とドイツは名目成長率が低く、純債務増加
率の方が高いので、政府債務の国民負担率は増加しています。と
くに日本はこの6年間で、名目成長率はマイナス6.6% である
ので、純債務は35.2%から76.2%と、2倍以上に増えてし
まっています。これは金融政策の失敗以外のなにものでもないと
いえます。
 米国が双子の巨額の赤字を抱えている債務国であるのに、大幅
な減税をしたり、積極的な投資をしているのは、債務を上回る名
目成長率を上げれば、債務負担度合いが減ることを十分に心得て
いるからです。
 米国に比べれば、日本は債権国であり、国債残高も純債務でみ
れば正常であるにもかかわらず、大増税をしようとし、同じ財政
政策の失敗を何回も繰り返して国民を苦しめているのです。その
ためには、国民は現在EJが取り上げているような生きた経済学
の知識を身につけて、政府や財務省のウソに騙されないようにす
る必要があると思います。
 第2は「名目成長率VS国債残高の加重平均利回り」です。
 国債残高が減少するための必要な条件は、名目成長率が国債残
高の加重平均利回りを上回ればよいのです。ここ15年ほど名目
成長率は、国債残高の加重平均利回りを下回っているのです。
「国債残高の加重平均利回り」とは、長期国債だけではなくすべ
ての国債残高の利回りであり、国の資金調達コストを意味してい
ます。関連知識としては巻末の解説を読んでください。
 要するに、国の資金調達コストを上回る名目成長率――税収と
いってもよい――を上げなければ、いつまで経っても元本である
国債残高は減らないというわけです。
 現在、国債残高の加重平均利回りは、1.5% 程度と考えられ
ています。2005年度の名目成長率は政府実績見込みの 1.6
%を達成できれば、15年ぶりに成長率が加重平均利回りを上回
るのです。問題は、日銀がおそらく実施すると思われる量的緩和
解除が金利にどういう影響を与えるかです。
 ここで強調しておきたいことは、名目成長率を上げる一番よい
方法が公共投資を増やすことであるということです。しかし、日
本は財務省のPRが効き過ぎて、そのようなことを一切いえない
雰囲気になっています。日銀が量的緩和を解除する時期にそのよ
うなことをすれば、国債価格は暴落し、長期金利は跳ね上がり、
国債の元利払いが急増するという批判を浴びます。財務省の思う
つぼなのです。
 国債残高を600兆円として、長期金利が1%上がると、6兆
円も財政負担が増えます。もし、5%になると30兆円――現在
税収が40兆円しかないので、税収のほとんどが国債の元利払い
に消える――この論法に多くの人が騙されています。
 この論法は財務省とそれを看板にする評論家が繰り返しいって
いることですが、金利が上がると国の金融資産も上がるのです。
ここからの税収増を計算に入れず、利払いのことだけをいってい
るのです。3については明日述べます。・・・[日本経済33]


≪画像および関連情報≫
 ・加重平均利回りについて
  A社とB社がともに10円ずつの配当金を出したとしましょ
  う。A社の時価総額は10億円、B社の時価総額は50億円
  だとします。この場合、同じ10円の配当金額でも、時価総
  額ではA社のほうが少なく、したがって10円の配当金の重
  みが違ってきます。つまり、A社のほうが、配当政策に対し
  て積極的であると判断できるのです。単純な平均利回りでは
  このような点はいっさい加味されていません。加重平均利回
  りは、企業の規模に応じてより妥当性を追及したかたちでの
  利回りを示すわけです。
 ・添付ファイルのグラフ
  <出所/みずほ証券>『週刊/エコノミスト』2/7日号
  「金利の復活」特集より

1791号.jpg
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2006年03月10日

名目成長率VS長期金利論争(EJ1792号)

 名目成長率ともうひとつ別のファクターの組み合わせによる分
析の続きです。
 第3は「名目成長率VS長期金利」です。
 名目成長率と長期金利の関係については、竹中総務相と与謝野
経財相との議論で有名になっています。
 この議論について、『週刊/東洋経済』2/25日号に高橋洋
一氏の次の論文が掲載されています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     与謝野・竹中論争が意味するもの
     「政府部内で高まる成長率・金利論争を斬る」
            ――早稲田大学講師 高橋洋一
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 論文自体は少し難しいですが、大変内容のある興味深いもので
あり、一読の価値はあると思います。しかし、この高橋洋一氏と
いうのは、既に述べたように、総務省参事官で、竹中総務相の懐
刀といわれる人物であり、当然のことながら竹中説の正しいこと
を強調する内容になっています。
 この論文で述べられているのですが、「ドーマーの定理」とい
うのがあるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 名目GDPの成長率が国債のコストよりも高ければ、国債残高
 は自然に減少していく。        ――ドーマーの定理
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「国債のコスト」を長期金利と考えると、名目成長率と長期金
利の関係になってくるのです。現在の長期金利は1.4〜1.5
%で低水準です。問題は、この長期金利が量的緩和解除によって
どのくらいまで上がるかです。
 3月3日の日本経済新聞によると、量的緩和が解除された場合
6月と12月の長期金利について、4人のエコノミストたちの予
測値が次のように出ています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
               6月     12月
     佐野和彦氏  1.75%   1.75%
     吉野昌雄氏  1.70%   1.90%
     三浦哲也氏  1.80%   2.00%
     小林益久氏  2.10%   2.20%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 財務省は2006年度予算を長期金利を2%と想定して組んで
います。したがって、最も高い場合でも長期金利は2%と考えて
間違いないと思います。
 添付ファイルのグラフは、OECD諸国の中で、ドーマー条件
を満たす国の多寡を示しています。ドーマー条件を満たす国の数
から満たしていない国の数を引いて棒グラフにしたものです。条
件を満たしている国がそうでない国より多いときはプラスになり
逆のときはマイナスになります。
 これを見ると傾向は明らかです。1960〜70年代は条件を
満たしている国が多く、1980〜90年代はマイナスになって
います。すなわち、1960〜70年代は名目成長率は金利を上
回っていたが、1980〜90年代になると、名目成長率は金利
を下回っているのです。しかし、2000年代になると、条件を
満たしている国とそうでない国が拮抗しています。
 高橋洋一氏は、G7の主要先進国について1960年から20
04年までの平均で成長率と金利を比較しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          名目成長率     長期金利
    アメリカ   7.3%     7.1% ◎
    イギリス   9.1%     8.9% ◎
    フランス   8.7%     7.9% ◎
    カ ナ ダ   8.2%     8.1% ◎
    イタリア  11.7%     9.8% ◎
    ド イ ツ   6.3%     6.8% ▲
    日  本   7.4%     5.4% ◎
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 竹中総務相は名目成長率4%程度は堅実な前提とし、成長率は
長期金利を上回ると予測しています。この考え方に立てば、税収
は増えるので、増税をしないか、しても小規模の増税でプライマ
リーバランスの黒字化は可能という考え方です。
 しかし、与謝野経財相は成長率4%は楽観的過ぎるとし、金利
は名目成長率を上回るのが常識的であるといって、竹中氏と真っ
向から対立しています。彼は財務省派で増税賛成なのです。
 高橋氏は、この論争は物価上昇率がどうなるかによって決まる
といっています。現在、実質成長率は竹中氏も与謝野氏もともに
2%と予測しており、名目成長率は次の式で決まるからです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      名目成長率=実質成長率+物価上昇率
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 最近政府筋が日銀に対し、物価目標の設定を要求しているのは
こういう背景があるからです。日銀はどうなのでしょうか。名目
成長率と金利の関係について日銀の福井総裁は、2月の時点では
次のようにいっているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 80年代以降、金融の自由化やグローバル化が進んだ後の各国
 の例を見ると、長期金利は名目GDP成長率を幾分上回って推
 移することが多い。           ――福井日銀総裁
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 どうも竹中説は旗色がよくないようです。学者や日銀総裁まで
含めて増税の大合唱――谷垣財務相は土・日曜はテレビ各局にハ
シゴ出演し、財務省出身の評論家も経済番組に頻繁に出演して、
「増税不可避論」をひたすら説いています。菊池教授などはお呼
びがかからないようです。      ・・・[日本経済34]


≪画像および関連情報≫
 ・与謝野大臣と竹中大臣の違い
  ―――――――――――――――――――――――――――
  与謝野経済財政担当相は現状の日銀の金融政策で十分とし、
  インフレ目標政策には否定的である。一方、竹中総務相は、
  現在政府と日銀が政策目標を共有しているとは言いがたい状
  況に対して、インフレ目標政策の導入によって政府と日銀が
  政策目標を共有し、そこまでは政府が金融政策への期待を表
  明するが、ひとたび目標を掲げた後は日銀のオペレーション
  は日銀に任せて、中央銀行の独立性を確保するという、世界
  で標準的な金融政策を求めている。
  『週刊/東洋経済』2/25日号所載/高橋洋一氏論文より
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ・添付ファイルグラフ
  『週刊/東洋経済』2/25日号所載/高橋洋一氏論文より

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2006年03月13日

100兆円が使える日本政府(EJ1793号)

 ここまでの分析ではっきりしてきたことは、要するに日本の財
政の問題点は税収が減少を続けているという点にあります。税収
を上げるには、名目GDPの成長率を毎年4〜5%程度まで上げ
る必要があります。
 菊池教授によると、それを実現するには政府は次の2つのこと
を実施すればよいというのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   1.政府が緊縮財政をやめ積極財政に切り換える
   2.財政支出の重点を投資項目に集中させること
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 そのためには国債を増発させる必要があります。しかし、もし
政府がそれをやろうとすると、きっと、反対の嵐が巻き起こるで
しょう。「ただでさえ、国の借金が多いのに、その借金をさらに
増そうというのか」という非難です。
 これは、完全にわれわれが財務省のレトリックに騙されている
からなのです。ここまで、菊池教授の本を中心にいろいろ財務省
のレトリックを暴いてきていますが、もうひとつわかりやすい例
を上げることにします。
 小泉首相がしきりと牽制していたにもかかわらず、福井日銀総
裁は3月9日に量的緩和の解除を決定しています。そうすると、
長期金利が上り、国債費の利払いが急増する――大量の借金を抱
えている日本の財政は、税収のほとんどが国債費の利払いに消え
てしまうことになると多くの人が考えています。
 仮に日本の国債の残高が600兆円としましょう。長期金利が
1%でも6兆円の財政負担となります。もし、金利が5%になっ
たら30兆円の財政負担――日本の税収は現在40兆円ですから
税収の75%が国債費の利払いで消えてしまう計算です。これで
は財政が破綻する――大増税やむなしとなるわけです。
 しかし、このロジックは、金利が上ることのマイナスの面しか
いっていないのです。政府は金融資産を480兆円も保有してい
るのです。それに個人金融資産が1400兆円もあります。もし
金利が5%になったら、こういう金融資産も当然金利を生むこと
になります。
 もし、5%になると、個人金融資産は70兆円の金利を生むこ
とになります。その約20%の14兆円は源泉徴収で税金として
国庫に入るのです。この源泉徴収分を引いた56兆円は大きな経
済効果を生みます。日本のGDPは約500兆円――それに56
兆円規模の消費が加わったらどうなるでしょう。大変な消費税が
国庫に入ってくることでしょう。
 ですから、仮に国債費が30兆円になったとしても、差し引き
プラスの面が多いのです。財務省はマイナス面だけを強調して増
税を煽り、プラスの面は口をつぐんでいるのです。
 しかし、現状で国債を増発してもとくに問題はないのです。そ
れによって国債価格が暴落し、長期金利が上昇する可能性は非常
に低いと考えられるのです。
 既に述べたように、政府の金融資産は次のように480兆円も
あるのです。データを再現しておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     社会保障基金 ・・・・・ 254兆円
     内外投融資 ・・・・・・ 136兆円
     外貨準備 ・・・・・・・  90兆円
     ――――――――――――――――――
                  480兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 注目していただきたいのは、外貨準備の90兆円です。こんな
に多額の外貨準備を持っている国は日本以外にないのです。この
お金は、国が外貨危機に陥ったときや、急に多額の外貨が必要に
なったときに使うために保有している資金です。
 この外貨準備――その大部分を米国の国債で運用しているので
すが、問題はこのお金をどこから調達しているかです。国家のた
めに外貨を買うのですから、当然中央銀行の資金で賄うのが常識
であり、他国ではすべて中央銀行の資金で賄っているのです。
 しかし、日本の場合は違うのです。正確にいえば、1999年
9月までは日銀の資金で調達されていたのですが、それ以降現在
までは違うのです。
 財務省は円高を防ぐために為替市場で円売りドル買いをします
が、その資金はどうするのかというと、財務省は政府短期証券を
発行し、それを日銀が引き受けるというかたちで調達していたの
です。これは正常なかたちであるといえます。
 この場合、日本は大量のドルを手にすることになりますが、政
府はそのほとんどを米国国債に投資しているのです。ところが、
1999年10月から政府は外貨買い取りのための円資金調達の
手段である政府短期証券を市場に売り出すことにしたのです。当
時金融機関は莫大な資金を有しながら投資先がない状況にあり、
それをカバーする目的があったと考えられます。
 そうなると、政府短期証券は銀行などの一般金融機関が購入す
ることになるのです。これは、われわれ国民の預金が政府短期証
券の購入に使われることを意味します。そうすると、国民の預金
が海外に出てしまうことになります。
 外貨準備は国家のために外貨を買うのですから、日銀の資金で
調達するのがすじというものであり、本来の姿に戻すべきである
といえます。それをしても何も問題は起こらないのです。
 もし、これが実現されると、金融機関には100兆円という巨
額な金額が浮いてくることになります。この100兆円を日本は
自分のために使えばよい――菊池英博教授はこのように提案して
いるのです。この100兆円は、そのまますぐ国債発行のために
使うことは可能なのです。
 何もあわてふためいて多くの国民が難渋する増税をやる必要は
ないのです。世の中にはいろいろなからくりがあり、われわれが
知っていることはごく一部なのです。・・・ [日本経済35]


≪画像および関連情報≫
 ・政府短期証券とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  財務省が支出に必要な資金を一時的に調達するために発行す
  る債券で、国の借金(債務)とみなされる。税金が入るまで
  のつなぎ資金を調達する財務省債券、為替介入の円資金を調
  達する外国為替資金証券、備蓄石油を買う石油証券などがあ
  る。2004年9月末時点の残高は86兆7875億円。
                  ――「マネー経済」より
  http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yougo/000438.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ・添付ファイルの図
  菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
  はないこれだけの理由』より。ダイヤモンド社刊

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2006年03月14日

投資減税を継続実施せよ(EJ1794号)

 外貨準備のための政府短期証券を金融機関ではなく、1999
年までやっていたように日銀が引き受けるという正常なかたちに
戻すと、100兆円の資金が浮いてくる――問題はこれを何に使
うかです。
 まず、実施すべきは投資減税です。
 ここに経済産業省の作成した「IT投資促進税制の投資減税モ
デル」というものがあります。投資をするからには、こういうシ
ミュレーション・モデルを作って分析してから実施するのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 IT投資促進税制 ・・・・・・ 3年間合計 1.2兆円
 IT投資の増加 ・・・・・・・ 3年間合計 2.2兆円
 実質GDP押上効果 ・・・・・ 3年間合計 2.7兆円
 ――――――――――――――――――――――――――
 国・地方への税収の影響 ・・・ 6年間合計
                   国 税1.54兆円
                   地方税1.02兆円
 投資増加波及効果に伴う雇用増 3年間投資 18.5万人
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 IT投資を促すため減税を3年間で1.2兆円を行うと、それ
によって投資は2.02兆円増加し、それによる実質成長率の押
し上げ効果は2.7兆円になると計算されています。
 問題は税収への影響ですが、減税実施後6年間で国税は1.5
4兆円(加えて地方税1.02兆円)となっています。これによ
り、3年間で1.2兆円減税しても減税実施から6年間で税収の
増加分が1.54兆円ですから、0.34兆円プラスになったこ
とになります。
 IT投資増加による直接的な雇用増加効果は18.5万人です
が、中長期的には、実質GDP押し上げ効果によって64万人の
雇用を増やせると推計しているのです。
 この投資減税は2003年度に投資減税枠2兆円が組み込まれ
実施されているのです。2004年度の税収が当初予算42兆円
から45.5兆円に増えているのは、この投資減税効果であると
推定されているのです。
 政府は法人税の減税によって投資を促進させようとしているの
ですが、法人税の減税は法人税を納めている企業しか恩典がない
のです。また、企業が減税分を投資に回すとは限らないのです。
したがって、投資した企業だけが恩恵に浴することができる投資
減税が有効なのです。
 しかし、政府はこのIT投資税制を廃止し、別のかたちで実施
するとしており、事実上廃止を決めています。どうしても税金で
とりたいたいという財務省のハラが透けて見えます。
 菊池教授の本には、日本再興投資資金枠による税収倍増・赤字
国債解消の具体的にして、十分実行可能な詳細なプランが提案さ
れています。
 詳細は本に譲るとして、それが2006年度から実施された場
合の10年後のかたちを示しておくことにします。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.名目成長率 ・・・・・・・・・・・ 毎年4〜5%増加
 2.名目GDP ・・・・・・・・ 740兆円〜800兆円
 3.普通国債の名目GDP比率 ・・ 104% → 80%
 4.長期金利 ・・・・・・・・・・・・・・ 1〜2%前後
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 現在の日本の現状からは夢のような数字が並んでいますが、上
記経済産業省の投資減税モデルなどの分析を参考にして精密に予
測が行われており、けっして荒唐無稽な計算でないことを申し添
えておきます。
 現在、政府(財務省)は、こういう何とか増税をさせないプラ
ンを封殺しています。マスコミもこれに協力しているように見え
ます。一番不愉快なのはあの借金時計――1秒間にXX円ずつ国
の借金が増えていることを示すあの時計です。日曜日には政治番
組が花盛りであり、増税是か非かの論議が行われていますが、こ
ういう席に菊池英博教授のような方が呼ばれることはまずないで
しょう。したがって、多くの国民は、増税やむなしの方向に誘導
されてしまうのです。
 繰り返しますが、国が国民から取り立てる資金は、税金か国債
しかないわけであり、国からみるとどちらも同じことなのです。
しかし、税金というかたちで取ると、それは財政上の黒字になり
国債を売るというかたちを取ると、赤字として計上されてしまう
のです。あなたが国――いや財務省の立場だったら、どちらの立
場を取りたいですか。
 明らかに「税金で取りたい」に決まっています。だから、何が
何でも税金というかたちで取りたがるのです。また、国債という
かたちで国民に対して行った借金は、最終的には税金を取り立て
て帳尻を合わせるしかないということなのです。
 谷垣財務相は、「こんなときに増税しないでも・・」と迫られ
ると、必ず次の言葉を返しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  そうしないと、ツケを次の世代に先送りすることになる
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このことばは一応正しいといえます。国としては、税で取り立
てるのも、国債を売るのも同じことですが、世代会計という立場
で考えると、税でとるか国債を売るかは大違いなのです。
 なぜなら、国債には償還期限があるということです。国債は償
還期限までは国債保有者にとって金利を生む金融資産ですが、国
がその国債を償還するときは、国債保有者に元本を返済する資金
を税金で取り立てることで帳尻合わせをするのです。そうすると
償還する時期に税金を支払う立場の人は税金の分だけ自分の使え
るお金が少なくなります。まして、国債を持たず税金だけは払わ
なければならない人もおり、先送りすると世代間の会計ををゆが
めることになるのです。      ・・・ [日本経済36]


≪画像および関連情報≫
 ・IT投資促進税制とは何か
  2000年11月に成立した「IT基本法」では、5年以内
  に「世界最先端のIT国家」を目指すと宣言しています。こ
  れを一層推進するため翌年に政府は『イー・ジャパン戦略』
  と名付けた政策プログラムを打ち出しています。政府は、こ
  の政策方針の下にIT投資促進税制を創設しました。政府は
  ITの基盤整備に積極的に取り組みながら民間企業にもIT
  活用による経営基盤の強化を促しています。IT投資促進税
  制は、民間企業に対するIT投資促進策といえます。
  http://dynabook.com/pc/business/it_info/index_j.htm
 ・日本の借金時計
  http://www.takarabe-hrj.co.jp/takarabe/clock/

1794号.jpg
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2006年03月15日

シュンペーター的財政赤字の日本(EJ1795号)

 ここまで日本の財政危機に関して、何が何でも大増税を実施し
ようとしている財務省などの動きに関し、菊池英博教授の本を中
心に本当に日本は財政危機なのか、増税する前にまだやることが
あるのではないかといろいろ探ってきました。
 しかし、世の中の動きは政府内で多少の反対の動きはあるもの
の、大増税に向って真っ直ぐ進んでおり、残念ながら、いまさら
何をいおうと大増税の路線は変わらないように思います。
 どうしてなのでしょうか。どうも何かが隠されているように思
えてなりません。財務省はそのすべてを知っており、何が何でも
ここで大増税をしないと大変なことになることを知っているので
はないでしょうか。
 神野正彦東京大学・大学院教授は、日本の財政赤字の実態を次
のことばで表現しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  小さすぎる政府が大きすぎる借金を抱えた弱すぎる財政
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このように表現されると、日本は確か「小さい政府」を目指し
ているはずだけれど、既に「小さすぎる政府」であるとはどうい
うことかと考える人が多いと思います。
 なぜ、「小さすぎる政府」なのかというと、神野教授によると
日本は米国とともに経常収入が先進国中非常に小さいので、小さ
すぎる政府だというのです。
 それでは「経常収入」とは何でしょうか。
 経常収入とは、国税と地方税の租税負担と社会保障負担の合計
――すなわち、国の国民負担率のことです。この金額のGDP比
をとると、次のようになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
            1999年     2000年
     日  本   31.1%     32.2%
     米  国   31.0%     31.6%
     カ ナ ダ   40.9%     40.3%
     英  国   40.4%     40.3%
     フランス   50.4%     49.8%
     ド イ ツ   44.5%     44.4%
     イタリア  46.4%      46.6%
   神野正彦著、『二兎を得る経済学/景気回復と財政再建』
                 講談社+α新書79−1C
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この数字を見ると、日本と米国は他の国に比べると、GDP比
が非常に低いことがわかると思います。したがって、日本は小さ
すぎる政府であるというのです。
 なぜ、日本がこのような小さすぎる政府になったのかというこ
とについて、神野教授は次のようにいっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  不況のもとで少なくとも実施しておくべき税制改革は、景気
 が回復した時に自然増収が期待できるようなメカニズムをイン
 プットしておくことである。不況になれば、所得が減少し、個
 人所得税は低い累進税率が適用されるようになり、企業は赤字
 に陥り、法人税の租税負担を免れ、自動的に減税になる。
  逆に景気が回復すれば所得が増加するため、所得税には高い
 累進税率が適用されたり、法人税を納税しなければならなくな
 り、自動的に増税となる。そのため景気が回復すると、所得税
 や法人税では自然増収が期待できる。
   神野正彦著、『二兎を得る経済学/景気回復と財政再建』
                 講談社+α新書79−1C
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、日本は今までに景気回復を狙って所得税や法人税を大
幅に減税してしまっているのです。そのため、景気が回復しても
自然増収が期待できない税制になっているのです。つまり、日本
の税制は計画的に考え抜かれていないということです。
 日本の場合、消費税がかなり遅れて導入されたのですが、ある
程度の高率の消費税が定着している国では、不況のさいには、消
費税を減税し、それによって消費需要を増加させ、間違っても所
得税や法人税の減税はしないという手が打てるのです。
 よく減税論議が出るときに政府側は、減税分が消費に回らず貯
蓄されてしまうということを反対の理由として使いますが、消費
税の減税であれば、ものを購入する人だけに減税が適用されるの
で、確実に消費が増えるのです。消費税の税率が20%の国で、
もし、10%の減税が実施されれば、その時を狙って多くの人は
家を建てたり、車を購入したりするはずです。
 神野正彦教授は、現在の日本の財政赤字は「シュンペーター的
財政赤字」であるといっています。ところで、「シュンペーター
的財政赤字」とは何でしょうか。
 シュンペーターは、オーストリアの経済学者であり、財政社会
学の始祖といわれている学者です。彼は古い時代と新しい時代の
転換期には、財政が必ず危機に陥ることを指摘したのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 現存の制度が崩壊をし始め、新たな制度が生まれ始めていると
 きには、いつも財政が危機に陥ることになる。そのため、社会
 が転換期にあるときには財政分析が最も効果的である。
               ――ヨーゼフ・シュンペーター
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 神野教授は、こうした歴史の峠を越えるような総体としての社
会の大転換期に生ずる財政危機を「シュンペーター的財政赤字」
と名付けることを提案し、日本の財政赤字はまさにそれであると
指摘しているのです。
 マーガレット・サッチャーは、英国がこのシュンペーター理論
通りにならないように、政権運営を進めたという話は有名ですが
日本の財政赤字は、神野教授によると、シュンペーター理論通り
になりつつあるようです。     ・・・ [日本経済37]


≪画像および関連情報≫
 ・ヨーゼフ・シュンペーター
  ―――――――――――――――――――――――――――
  シュンペーターは、経済活動における新陳代謝を創造的破壊
  という言葉で表し、資本主義経済の発展は企業家の行う不断
  のイノベーション(革新、新結合)によってであるとした。
  また、資本主義は、成功ゆえに巨大企業を生み出し、それが
  官僚的になって活力を失い、社会主義へ移行していく、とい
  う有名な理論を提示した。      ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

1795号.jpg
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2006年03月16日

ネバダ・レポートというものがある(EJ1796号)

 日本は「小さい政府」を目指しているということが何回もいわ
れています。要するに政府が大きくなりすぎたというわけです。
しかし、昨日のEJでも見たように、日本は経常収入面で見る限
り、小さすぎる政府なのです。
 それならば何をもって大きな政府といっているのでしょうか。
それは歳出面に着目したものと考えられます。歳出面(総支出)
をチェックしてみましょう。%は対GDP比です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           1999年     2000年
     ――――――――――――――――――――
     日  本  38.1%     38.2%
     ――――――――――――――――――――
     米  国  30.0%     29.3%
     カ ナ ダ  38.8%     37.8%
     英  国  39.1%     38.4%
     フランス  52.1%     51.1%
     ド イ ツ  45.9%     43.0%
     イタリア  48.3%     46.7%
   神野正彦著、『二兎を得る経済学/景気回復と財政再建』
                 講談社+α新書79−1C
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、歳出面を見ても国際的にはとくに大きな政府というわ
けではないのです。しかもその大きさは、国債費によって押し上
げられており、別に公共サービスの供給が多くて豊かである――
そういうわけではぜんぜんないのです。日本の公共サービスの質
はけっして高くないからです。
 国債というものは、将来の税収を担保にして政府が財政赤字を
ファイナンスするために発行する債券です。したがって、その償
還に当っては税金を当てるしかないのです。したがって、国債を
発行するということは、将来増税になるということを国として宣
言しているのと同じなのです。
 国債が適正に発行され、国民がそれによって満足できるだけの
公共サービスを受けているのであれば、政府から適切な説明があ
れば、国民は国債の償還に当たって増税に応じるはずです。
 しかし、それが大幅な赤字になっているということは、国民が
利益を享受しない不必要だと考えている支出に財源を充当した結
果であると考えるべきです。
 日本国家破綻説が溢れるなかにおいて、何とか再生の道を求め
てここまで分析してきたのてすが、本当の実態はかなり深刻であ
ることは事実のようです。巧妙に重要なことが隠されてきている
からです。それに日本の財政のメカニズムはきわめて複雑であり
素人の理解を超えています。あえて、複雑にして分かりにくくし
た形跡があり、表面上は問題がないように見えるのです。
 国家破綻論について論じた書籍は現在書店に溢れていますが、
そのほとんどは事実誤認か、間違った前提と乱暴な結論か、針小
棒大かのいずれかですが、なかには真実に肉薄していると見られ
るものもあります。
 そのひとつをご紹介します。2006年2月23日に発刊され
た次の書籍です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     森本亮著
     『日本国破産への最終警告』 PHP研究所刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 森本亮氏は、三菱信託銀行出身の経済評論家で、現在、経済工
学研究所を主宰されている金融分野のエキスパートです。同書の
内容は、客観的事実に基づく合理的な推論が積み上げられ、この
手の本につきものの誇張が一切ないのに、きわめて説得力があり
ます。しかも、新聞、雑誌などでは入手できない最新の情報に基
づいて記述されています。
 EJの今回のテーマとしては、そろそろ終りに近づいています
が、その最後の局面において森本氏の主張をご紹介し、その主張
に関連のある事実について記述してみたいと思います。
 「ネバダ・レポート」というのをご存知でしょうか。
 実は、日本の財政の破産的状況は国外でも注目されており、I
MF(国際通貨基金)ではそのときに備えてどうすべきかとの処
方箋を用意しているのです。その具体的な案のひとつが「ネバダ
・レポート」といわれるものです。
 けっしてデマではないのです。このネバダ・レポートの存在を
竹中平蔵金融担当大臣(当時)が衆議院予算委員会で認めている
からです。
 森本氏の本から、その項目をご紹介しておきます。実に戦慄す
べき内容になっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.公務員の総数および給料の30%カット、ボーナスはすべ
   てカット
 2.公務員の退職金は100%カット
 3.年金は一律30%カット
 4.国債の利払いは5年から10年間停止
 5.消費税を15%引き上げて20%へ
 6.課税最低限度を年収100万円まで引き下げ
 7.資産税を導入して、不動産に対しては公示価格の5%を課
   税。債券・社債に対しては5〜15%課税。株式は取得価
   格の1%を課税
 8.預金は一律ペイオフを実施するとともに、第二段階として
   預金額の30%〜40%カットする
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 どうでしょうか。こんなことが現実のものになっては困ります
が、そうなる可能性を十分にあると思います。国はあまりにも多
くのことを隠しており、一般にはその実体が見えないよう擬装さ
れているのです。          ・・・[日本経済38]


≪画像および関連情報≫
 ・ネバダ・レポートに関する衆議院予算委員会質問より
  ●五十嵐委員 私のところに一つレポートがございます。ネ
  バダ・レポートというものです。これは、アメリカのIMF
  に近い筋の専門家がまとめているものなんですけれども、こ
  の中にどういうことが書いてあるか。ネバダ・レポートの中
  でも、昨年の九月七日に配信されたものなんですけれども、
  IMF審査の受け入れの前に、小泉総理の、日本の税収は、
  五十兆円ほどしかない、今の八十五兆円を超える予算は異常
  なんですという発言があります。これを大変重視して、当然
  だと言っているんです。同時に、九月上旬、ワシントンで、
  私、柳澤大臣と行き会いましたけれども、そのときに、柳澤
  大臣が記者会見をワシントンでされていまして、IMFプロ
  グラムを受け入れるという発言をされていますね。これは御
  確認をさせていただきたいんですが、そのとおりですか。
         ――2002.2.14/衆議院予算委員会

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『日本国破産への最終警告』
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2006年03月17日

借換債というものを知っていますか(EJ1797号)

 昨日のEJでご紹介した森本亮氏によると、日本は既に2回の
国家破産を経験しているといいます。国家破産は国家破滅とは違
い、国がなくなるわけではないのです。財政が破綻し、正常な状
態に戻らないことをいうのです。過去2回の国家破産の期間を示
しておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   第1回/1904年〜1916年 ・・・ 12年間
       明治37年〜大正 5年
   第2回/1931年〜1945年 ・・・ 14年間
       昭和 6年〜昭和20年
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1回は、日露戦争勃発から第1次世界大戦の半ばまでの12
年間であり、第2回は満州事変勃発から太平洋戦争の終わった年
までの14年間です。
 いずれも戦争が原因の国家破産だったのですが、その間、国民
は大増税とインフレに襲われて、悲惨にして過酷な生活を強いら
れたのです。
 それでは、何をもって国家破産というのでしょうか。
 もちろん、個人や企業の破産と違って法的に明確な定義がある
わけではないのです。森本氏によると、国債爆発指数が一定の数
を超えると、国家破産の状態であるというのです。2005年度
の政府予算のケースで計算してみましょう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 (利子9.3兆円+借換債103.8兆円)÷税収47兆円
 =2.406 →    2.406×100=240.6
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 森本氏は、この数値が300になると、日本の財政的な国家破
産が誰の目にも明らかになるといっています。森本氏の予測によ
ると、2008年度は次のように数値は294になり、その数値
に限りなく近づくと予測しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 (利子22兆円+借換債119兆円)÷税収48兆円×100
 =294
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ここで「利子9.3兆円」は、国債残高に長期金利を乗じたも
のであり、2005年の9.3兆円は長期金利1.5%で計算し
てあります。しかし、2008年の利子が22兆円になっている
のは、量的緩和解除などの影響で長期金利が3%になったという
前提の金額であり、実際に長期金利がそこまで上昇するかどうか
については疑問です。
 問題は「借換債/かりかえさい」です。「借換債」とは一体何
でしょうか。
 借換債とは、満期を迎えた国債の償還に対して、その償還財源
に当てるために、新たに発行される国債のことです。法的根拠は
国債整理基金特別会計法第5条です。要するに、国債の償還を国
債を発行して行うということです。借金の返済を別な借金で行う
ということと同じです。
 借換債については次のような理屈がついています。
 国債には、建設国債と赤字国債がありますが、建設国債――道
路や橋などの社会資本を建設する目的で発行される国債について
説明します。
 国債は国民に対する国の借金です。借金はいずれ返さなければ
なりません。国債も同じことであり、償還期限というものが定め
られています。しかし、例えば、10年国債を国が10年後に償
還するわけではないのです。建設国債は60年償還ということが
決められているからです。
 つまり、道路や橋などの耐用期間を60年とみなし、その建設
資金を調達するため、国債は60年かけて償還すると決められて
いるのです。しかし、60年満期の国債では市中では消化されに
くいため、満期5年や10年などの国債で調達して償還するので
すが、そのとき償還分に見合う新たな国債を発行できるのです。
これを借換債といいます。
 しかも、借換債を発行しても、既存の借金を継続するためのも
のなので、政府の新たな借金にはならないというわけです。それ
にこの借換債は一般会計――われわれが通常財政や予算と呼んで
いるものの中には計上されないので、国民の目にふれることはな
いのです。
 もうひとつ、このように借換債が発行されると、当然国債の利
払い費(国債費)は膨らむことになりますが、国債費も1980
年代に一般会計から特別会計に移されているのです。したがって
国債費が膨らんでも一般歳出とはならないため、その分赤字国債
を発行しないで済むことになります。巧妙な仕掛けです。
 建設国債というのは、それによって社会資本が次の世代に受け
継がれるので、長期償還が認められるというのは、一応の理屈で
あると思います。しかし、森本氏の指摘によると、これは官僚が
国債の償還を少しでも遅らせるために作り上げたトリックである
というのです。
 なぜなら、国が定めた社会資本の平均耐用年数は32年、道路
の耐用年数は45年なのです。いくつかの社会資本の耐用年数を
上げておきますが、60年などというのは皆無です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  道 路 ・・・ 45年   下水道 ・・・ 34年
  港 湾 ・・・ 50年   国有林 ・・・ 34年
  水 道 ・・・ 32年   治 水 ・・・ 49年
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 道路の耐用年数が45年なのに、その建設資金の償還は60年
は少しおかしいと思います。日本の地方債の多くは20年償還で
すし、諸外国の例でも20年〜40年というところであり、60
年というのは驚くべき長期です。昭和20年頃に建設した道路の
償還が今年くるのですから。     ・・・[日本経済39]


≪画像および関連情報≫
 ・国家破産とは何か
  日本の場合「国家破産」という出来事がある日突然起こるこ
  とはない。国が借金を返せる見通しが立たなくなり、返済を
  諦め、債権者に救済を求めること。ただ日本の借金には「国
  外からの借金」がないので、過去にアルゼンチンがやったよ
  うな対国外への債務不履行(デフォルト)のような「国家破
  産を実感できるわかりやすい事件」は起こらない。
  http://homepage1.nifty.com/silabel/kyoyo/kokka_hasan.html
 ・森本亮氏の写真
  森本亮著『日本国破産への最終警告』より。PHP研究所刊

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2006年03月20日

建設国債と赤字国債の差がなくなっている(EJ1798号)

 建設国債が60年償還であることは、期間が長過ぎるとは思う
ものの、単なる借金ではなく社会資本が残るので、一応納得でき
ます。しかし、赤字国債となると話は違ってきます。
 既に述べたように赤字国債は、国の経常的経費に当てられる国
債であって、財政法では原則として発行できないようになってい
るのです。そのため、歳入欠陥が生じたときは、毎年度特例法を
制定して発行しているのです。
 したがって、本来であれば赤字国債は年度内に償還されるべき
ものです。といっても、さすがに年度内償還は無理であり、通常
10年間で償還していたのです。事実1984年度までは、10
年間の償還期間を守って全額返還されていたのです。それに赤字
国債には借換債は認められていなかったのです。
 しかし、1985年の特例法から、赤字国債も建設国債と同じ
60年償還になったのです。この犯罪的ともいうべき決定をした
のは時の中曽根首相であり、竹下蔵相です。赤字国債に借換債を
認め、60年償還ルールを適用するなどということは他国に例を
見ないのです。
 60年間といえば、財務省などの国の機関で働く官僚が定年に
なるまでの間には――たとえ新入社員であっても、償還期限は到
来しないのです。したがって、どうしても無責任になります。つ
まり、借金の60年先送りです。どうせ償還は先の話であり、そ
のときオレは役所にいない。あとは野となれ山となれだ・・とい
うことになります。
 そもそも戦後日本が赤字国債を発行したのは、1965年度の
補正予算からです。この年はいわゆる「40年不況」で、税収が
大幅に減ったのです。そして、翌年の1966年度からは建設国
債を発行するようになり、国債発行政策をはじめたのです。
 なぜ、国債発行政策をとったかというと、GDP成長率が鈍化
して税収が伸び悩み、その一方において公共投資の必要性があっ
たからです。
 しかし、赤字国債についてはその後1974年度までは発行し
ていないのです。さすがに赤字国債は一時的なものとすべきであ
るというまともな考え方が当時はあったからといえます。
 ところが1985年からは、建設国債と赤字国債は、償還期限
が同じになったので、その根拠法と発行対象の違いはあるものの
区別する必要性はなくなってしまったといえます。
 森本亮氏は、この借換債について、次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この財務省の2つの「亡国の技巧」(建設国債の60年償還ル
 ールと赤字国債にも同じルールを適用したこと/平野注)の結
 果、「借換債」というとんでもない代物を生んでしまった。こ
 んな国債は世界に類例がない。日本の財務官僚や政治家の会計
 音痴ぶりが世界の笑いものになっているが、その自覚すらない
 のである。借換債は現在100兆円の大台に乗っているが、こ
 れが財務省の「奥の手」だと自慢しているようでは、言語道断
 だ。財務官僚の罪は万死に値し、具体的には「公務員職権乱用
 罪」にあたるのではなかろうか。
 ――森本亮著『日本国破産に最終警告』より PHP研究所刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 3月16日の朝日新聞によると、財務省は「増税せずに歳出削
減だけで財政を健全化しようとしたら・・」という試算を財政制
度等審議会(財務相の諮問機関)で報告しています。
 国立大学の授業料は4倍近くなり、災害時でも設備が足りない
自衛隊が出動できず、取り締まりが手薄になって不法滞在外国人
が増えるなど国民生活に大きな影響が出るという、増税の地なら
しをしたい同省の意向が強くにじむ内容になっています。
 しかし、日本の財政を今のような状況にしたのは財務省自身で
す。しかるに、そういう反省がほとんど感じられず、国民に対す
る一種の脅しのようになっているのは残念なことです。国民は何
もわるくないからです。
 借換債は2005年に100兆円の大台に乗っており、これか
ら毎年じりどりと増える一方です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  2005年  104兆円  2012年  112兆円
  2006年  113兆円  2013年  116兆円
  2007年  117兆円  2014年  123兆円
  2008年  119兆円  2015年  123兆円
  2009年  115兆円  2016年  128兆円
  2010年  113兆円  2017年  133兆円
  2011年  111兆円
                 ――森本亮氏前掲書より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 こういう借換債は、国の予算である一般会計には計上されない
のです。借換債は、国債整理基金特別会計で発行されるのです。
この特別会計で処理されるものについては外からは見えないので
国民の目につきにくいのです。
 一般的に財政とか予算というのは一般会計のことです。一般会
計は税金などを財源とし、政府活動のなかの基本的な経費を賄っ
ているのです。しかし、特別会計は、特定の事業を含む場合や、
特定の資金を保有して運用を行う場合、その他特定の歳入によっ
て特定の支出に充当し、一般の歳入歳出と区別して経理する必要
のあるものに限って設けられている会計です。
 例えば、市場に出る国債には、一般会計で発行される新規分と
特別会計で発行される借換債の両方があるのですが、市場参加者
にはその区別はつきません。このように、国債の新規発行と借換
発行が会計によって区別されているのは日本だけなのです。
 この他、特別会計で発行されるものとしては、「蔵券」と呼ば
れる財務省証券、「糧券」と呼ばれる食糧証券、「為券」と呼ば
れる外国為替資金証券などがあります。このように会計が2つあ
ると会計が不透明になってしまうのです。・・[日本経済40]


≪画像および関連情報≫
 ・特別会計とは何か
  国の予算には、教育費や防衛費など政策経費を扱う一般会計
  のほかに、厚生保険特別会計や道路整備特別会計など全部で
  31の特別会計(特会)がある。特会は、国民の「受益と負
  担」との関係を分かりやすくし、弾力的かつ効率的に予算執
  行するのが本来の趣旨だ。しかし、実際には、31特会の予
  算規模はあわせて387兆円、特会同士の重複部分などを除
  いても207兆円にのぼり、例外のはずの特会が、一般会計
  の5倍近い規模に膨らんでいる。さらに、特会の収入のうち
  の47兆円は、一般会計からの繰り入れでまかなわれ、一般
  会計歳出の6割近くを使っている。―2005年度予算数値
  http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/47/naruhodo151.htm

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2006年03月22日

日銀と政府の不適切な関係(EJ1799号)

 日本の一般会計予算で特徴的なことといえば、歳入と歳出が同
じであることです。いや、同じであるといういい方は正しくない
――同じにしているというべきでしょう。
 人に聞いた話ですが、米国の予算においては歳入と歳出は違う
のが普通なのだそうです。そして歳入の不足分があるときは「財
政赤字」と明記されているそうです。これを埋めるのは国債であ
り、こういう会計のやり方であれば、「国債は借金である」こと
が誰の目にも明らかであって、大変わかり易いのです。
 しかし、日本では「歳入の部」に「税収」と並んで「国債」の
項目があるのです。これはおかしな話です。国債は借金であるの
に歳入の部――すなわち、収入の部に計上されているからです。
赤字が収入の部に計上されている――これは基本的におかしなこ
とですが、これが当たり前なこととして通っているところに日本
財政の借金体質を見る思いがします。当然のように毎年借金をし
ているという感じなのです。
 国債を償還するための借換債が100兆円ある――この事実を
認識している国民は少ないと思います。国民の感覚では毎年30
兆円前後の赤字国債を発行せざるを得ないことはわかっていても
その他に国債の償還のためにさらに100兆円以上の国債発行を
しているとは思っていないでしょう。国債償還費が特別会計で処
理されているため、国民には見えにくいのです。
 日本は今後毎年100兆円以上の借換債に加えて30兆円前後
の赤字国債を発行し続けなくてはならないのです。それに道路建
設などのための建設国債もそれに加わるのです。こうなってくる
と、いかに日本は金融資産を持っているといっても安心はできな
いといえます。長期金利の上昇が心配だからです。
 森本亮氏は、長期金利の上昇による債券クラッシュが起きる前
に、カルロス・ゴーン氏のような人が現われて、大なたを振るっ
てくれることが大事であるとして、国債の両刃の剣の怖さを知り
抜いている福井日銀総裁に次のように期待をかけています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 福井総裁はかつて自分の立場を「両手を縛られてボクシングを
 するようなものだ」と語ったことがある。福井総裁は大学時代
 には、ハンドボール部の主将をつとめた方だけに、スポーツを
 見る目、万事に通ずるということか。とにかく、最後のデフレ
 ファイターである福井総裁が「両手を縛られたボクサー」から
 抜け出す道は、「忍耐と寛容」から脱皮して、国債は今や「世
 紀の愚策」であり、「両刃の剣」であることを堂々と口にする
 ことではなかろうか。
 ――森本亮著『日本国破産に最終警告』より PHP研究所刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 その福井日銀総裁は、3月9日にコップ一杯の水でいい患者に
バケツ一杯の水を与えるに等しい量的緩和の解除を宣言して、既
に縛られた縄を解いています。しかし、最近の日銀のやっている
ことには、いささか懸念すべきことが多いのです。
 そのひとつは、日銀が2003年度から会計ルールを変更した
ことがあげられます。ところで日銀、すなわち日本銀行は、れっ
きとした株式会社なのです。1960年に店頭登録されており、
1株の額面は100円、発行総額は1億円です。しかし、日銀株
の55%は財務大臣が保有していて、株主には議決権がなく、出
資総会(一般の株主総会)にも議決権はないのです。
 2003年まで日銀は保有国債の評価法について「低価法」と
いう会計ルールを持っていたのです。低価法とは、取得原価と期
末時点での時価(時価とは期末時点での取得に通常要する価額で
す)とを比較して、いずれか低い方の価額で債券を評価する方法
です。つまり、低価法をとると、毎期評価損益を計上する必要が
あるのです。
 これに対して「原価法――償却原価法」とは、期末時点で保有
する債券を取得原価で評価する方法をいうのです。この場合、期
末時点で保有する債券について、取得時から値下がりしていたと
しても、その値下がりについて損失を計上しなくていいのです。
 日銀としては、原価法を採用したことによって、市中銀行が保
有している国債や株式――本来やってはならないことを引き受け
易くしたことは確かであり、そのための会計ルールの変更である
といわれても反論はできないと思うのです。
 2005年12月現在、日銀の株価は14万6000円です。
日銀株価の最高値は、1988年12月の75万5000円でし
たので、実に約80%ダウンしたことになります。それに日銀の
現在の自己資本比率は7.33%であり、8%を割り込んでいる
のです。どうして、こうなったのでしょうか。
 それは、日銀が財政法第5条で禁じられている「日銀による国
債引き受け」をやっているからです。次の2004年12月2日
付、日本経済新聞の記事を読んでください。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 政府・日銀は来年度以降の国債の大量償還に備えた協力体制を
 強化する。現在はオペなどで日銀が市中購入した国債が満期を
 迎えた際、政府が1年に限って短期国債を発行。日銀に引き受
 けてもらって現金償還を先延ばししているが、政府・日銀はこ
 の期間をもう1年延長する方向だ。過去に積み上がった国債の
 償還を段階的に進める狙い。ただ、例外的に認められる「日銀
 の国債引き受け」が拡大する懸念がある。
       ――2004年12月2日付、日本経済新聞より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日銀が保有する長期国債は、償還期が来たら現金で償還される
のがルールです。ところが日銀はそれをしないで、1年間の短期
国債で借り換え、現金償還を1年延期したのです。これは事実上
の日銀による国債引き受けになります。上記の日経の記事はこの
方法が常態化することを懸念しているのです。なぜなら、そうな
ると、国債の相場が急落するからです。それに2008年には長
期国債の償還が激増するのです。   ・・・[日本経済41]


≪画像および関連情報≫
 ・財政法第5条
  「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受
  けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを
  借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合におい
  ては、国会の議決を経た金額の範囲内ではこの限りでない」
 ・財政法では、このように日銀国債の引き受けは禁じている。
  しかし、日銀の「乗り換え短期国債」の引き受けは例外規定
  に基づき、国会の議決を経て引き受け可能となっている。

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2006年03月23日

プライマリー・バランス論の抜け道(EJ1800号)

 日本は諸外国に比べて文化的に名詞がたくさんある国です。そ
のため、ひとつのものをたくさんの固有名詞で表現することがで
きます。かつて中曽根康弘氏が首相のとき、選挙公約で「大型間
接税」はやらないと訴えたのに、あとで「消費税」をやろうとし
それを批判されると、「消費税をやらないとは、一言もいってな
い」といって物議をかもしたことがあります。
 政治家や官僚は、このようなレトリックを頻繁に使うので、注
意が肝要です。日本の財政を調べていくと、随所に言葉のいい換
えやレトリックによって、本当のことが巧みに隠されているよう
なところがたくさんあります。
 1965年――この年の国会で赤字国債の発行が決まったので
すが、そのとき、当時社会党の木村禧八郎議員が徹底的に政府を
追及しているのです。今の野党の国会質問とは雲泥の差があると
いってよいと思います。はじめての赤字国債を発行するのですか
ら、野党から厳しい追求のあるのは当然のことです。
 既に何度も述べているように、赤字国債の発行は法律上は認め
られていないのです。そこで、毎年「特例国債法」という法律を
制定して、赤字国債を発行しているのです。
 しかし、最近政治家や官僚は赤字国債を「特例公債」とか「特
例国債」といい換えているのです。この姿勢がいけないのです。
あえて赤字国債といい続けるべきなのです。なぜなら、「赤字」
という言葉がそれが借金であることを忘れないようにする最後の
歯止めになるからです。
 この歯止めを失ってしまうと、そのうち財政法を改正して赤字
国債を法的に発行できるようにする可能性すらあるのです。これ
では、国債発行の最後の歯止めが外れてしまうことになります。
したがって、財政法は絶対に改正するべきではないのです。
 結局、財政に関して現在やらなければならないことは、やはり
プライマリー・バランスの一日も早い均衡を実現することです。
これについては既に政府は計画を推進しており、2011年度に
は、国・地方を合わせて黒字化するといっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   2003年度   −19兆6469億円
   2004年度   −19兆0214億円
   2005年度   −15兆9478億円(見通し)
   2006年度   −11兆2000億円(見通し)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 計画はここまでは一応順調に推移しているので、十分達成可能
ですが、このプライマリー・バランスを均衡させる政策にはいく
つかの抜け道があるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     1.国債費が膨張する恐れがあること
     2.無駄な公共事業に歯止めかからず
     3.特別会計の隠れ借金を増やすこと
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1は、「国債費が膨張する恐れがあること」です。
 心配なのは長期金利が上昇し、金利が高止まりすることです。
量的緩和政策は解除され、やがてゼロ金利も解除されることは確
実です。そうなると、長期金利は上昇し、高止まりすると、国債
費が膨張する恐れが出てきます。この場合、名目GDP成長率が
金利を上回るペースで伸びればいいのですが、そうでないと、債
務残高の増加に歯止めがかからなくなります。
 第2は、「無駄な公共事業に歯止めかからず」です。
 プライマリー・バランスでは、国債費が外される一方で建設国
債が対象外になっています。つまり、プライマリー・バランスを
悪化させないで、建築事業を継続できるのです。そのため無駄な
公共事業にメスが入らず、建設国債の発行に歯止めがかからなく
なる恐れがあるのです。これでは、プライマリー・バランスが改
善する一方で国債残高は増えていくことになります。
 第3は、「特別会計の隠れ借金を増やすこと」です。
 もともとプライマリー・バランス均衡の考え方は、財政構造改
革法から出てきているのですが、財政赤字削減目標のつじつまを
合わせるために、一般会計のプライマリー・バランスの均衡に目
を向けさせ、特別会計において「隠れ借金」を増やしていくこと
を黙認していたのです。あるいは当初予算だけがコントロールの
対象となり、補正予算という抜け道も許されているのです。
 3月16日の経済財政諮問会議では、長期金利と名目GDP成
長率のいつもの大議論が行われ、結局意見を集約することができ
なかったのです。次にまとめておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           長期金利   名目GDP成長率
   民間委員の意見   4%       3%前後
   竹中総務相意見 4%以下         4%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 はっきりしていることは、どちらの意見を基本ケースにするか
で増税の幅が違ってくるのです。結局複数のケースで検討するこ
とになったのです。要するに結論が出なかったということです。
 いずれにしても増税は避けられそうはありませんが、日本の税
制にはいろいろな問題があるのです。増税をするのであれば、税
制の問題点を是正してから行うべきです。
 プライマリー・バランスの黒字化には、、歳入増と歳出減の裏
付けが必要です。森本亮氏は次のようにいっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 私にいわせると、これから大切なことは官業の不良債権処理と
 官のリストラ問題だ。アレシナ米ハーバード大学教授らの研究
 によると、先進国の財政再建は歳出削減七、増税三と指摘して
 いる。歳出削減をおろそかにして大増税の税金地獄では失敗に
 終わる例が多いのである。
 ――森本亮著『日本国破産に最終警告』より PHP研究所刊
 −−−−−−−−−−−−−−−−−・・・[日本経済42]


≪画像および関連情報≫
 ・プライマリー・バランスとは
  ―――――――――――――――――――――――――――
  国などの財政状況を示す。国債などの借金を除いた歳入と、
  過去の借金の元利払いを除く歳出を比較する。歳出の方が多
  ければ赤字となり、将来の借金負担が経済規模に比べ増大す
  ることになる。黒字になれば、新たな借金は過去の借金返済
  に充てられるため、財政が健全であることを示す。政府は歳
  出削減などで、2010年代初頭の黒字を目指している。
     http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yougo/000338.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

1800号.jpg
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2006年03月24日

日本経済の潜在成長率は2%程度(EJ1801号)

 森本亮氏の本を含む多くの国家破綻本に共通していることがひ
とつあります。それは、日本の国家破綻の時期が2008年であ
ると予測している点です。このことは「2008年問題」として
巷でもいわれていることでもあります。その根拠とされているこ
とは、次の3つです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.団塊の世代がちょうど定年を迎え、年金負担が急増する
 2.ビルやマンションが供給過剰になり資産デフレが起きる
 3.小渕政権時代に発行した長期国債の償還時期に該当する
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 2005年の衆議院総選挙で自民党が圧勝した9月13日のこ
とですが、谷垣財務大臣が定率減税の廃止と消費税増税について
発言し、大方のひんしゅくを買っています。選挙中自民党と公明
党は「いわゆるサラリーマン増税はしない」と訴えていただけに
財務大臣が国民の反発がくるのを承知しながら、なぜこの時期に
あえて増税発言をしたか――おそらく財務相の頭に2008年問
題があったからと考えるのが自然であると思います。
 この谷垣財務相を抵抗勢力として竹中総務相と中川自民党政調
会長が批判しています。中川政調会長は、増税の前に歳出削減が
先であるとして、公務員宿舎などの国有財産の実態を記者団を連
れて視察するというパフォーマンスを行っています。竹中総務相
も同様の発言を繰り返しています。
 また、竹中総務相は、経済財政諮問会議において、財務省寄り
の与謝野経財相や民間議員に対して、名目GDP成長率は長期金
利を上回る4%は見込めると強硬に発言し、いかにも増税反対の
旗手のように振る舞っています。
 しかし、これらの行動を冷静に見ると、事前に練り上げられた
シナリオがあって、それに沿ってそれぞれの役割を演じているよ
うに思えるのです。最終的に大増税と消費税率引き上げは同時に
行われることになっていて、中川・竹中両氏の言動は、国民の不
満が爆発しないように押さえ込む一種のガス抜きであると考えて
よいと思うのです。
 森本亮氏の分析によると、日本は必然的に重税国家になると予
測しています。その根拠は、日本の潜在成長率が2%程度まで落
ち込んでいることを上げています。
 この潜在成長率とは何でしょうか。
 潜在成長率とは、国全体の労働力、資本設備など生産活動に必
要な要素をすべて使った場合に達成可能な成長率のことです。実
質成長率、名目成長率、それに潜在成長率と実にややこしい話で
すが、潜在成長率は実質成長率や名目成長率を生み出す基盤と考
えてよいと思います。
 竹中大臣の口グセですが、日本経済は低く見積もっても2%後
半から3%程度の実質成長率を達成できる潜在的可能性を持って
いるが、その潜在成長率を高めるのが構造改革である――この考
え方は違っていないのですが、その構造改革自体が、現状何らう
まくいっていないから問題なのです。
 第一生命経済研究所の門倉貴史氏のレポートによると、ニート
の増加が、直接的には投入される労働量を減少させることによっ
て、潜在成長率の下押し要因になること。さらに、労働投入量が
減ると、資本の投入量も影響を受け、ニートの増加は間接的に資
本の投入量を押し下げることを指摘しています。
 門倉貴史氏は、日本の潜在成長率は、ニートの影響を考慮しな
い場合でも、労働不足などにより中長期的に低下するとして、以
下の予測をしています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    2000〜2005 ・・・ 1.72%
    2006〜2010 ・・・ 1.48%
    2011〜2015 ・・・ 1.26%
    2016〜2020 ・・・ 1.06%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 かつて高度成長期には、日本の潜在成長率は10%を超えてい
たのです。それが今やダウンする一方です。それが石油危機のあ
とは5%になり、現在では2%――門倉レポートでは2%以下に
なっている――そのくらいしかないのです。
 そうであるからこそ、竹中氏は名目成長率こだわるのです。な
ぜなら、名目成長率は物価上昇率を加えているからです。それに
名目成長率は所得税や法人税と相関が高く、税収に密接に関係し
ているのです。実質GDPが増加しなくても名目GDPが増加す
れば税収は増加することになります。わかりやすくいうと、イン
フレが起これば実質的に税収は増加するのです。
 しかし、世界規模で見ると、世界的にデフレ基調であり、景気
が好調な中国、インド、米国でもインフレ率は高くなっておらず
こんななかにおいて、日本だけインフレを起こすことは現実的な
ことではないのです。
 森本氏は上記の理由により、日本の名目成長率は高く見積もっ
ても2%程度と予測しています。森本氏はここで「税収の予測弾
性値」という考え方を持ってきます。税収の予測弾性値というの
は、GDPが1%増加するとき、税収は何%増加するかをあらわ
す数値です。森本氏はこれを「1」と想定しています。
 これによると、GDPが2%伸びたときの税収の増加率は「2
%×1.0=2%」となります。日本の税収はGDPの約10%
ですから、GDPが2%増加したときの税収増は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  500兆円×10%=50兆円 GDPが2%増えると
  50兆円×2%=1兆円 → 税収増加分
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 どうでしょう。現在の税制のもとでは、自然増収は今後好況が
続いても、せいぜい1兆円しか見込めないのです。これではプラ
イマリー・バランスを黒字化の実現とその継続などできるはずが
ないのです。            ・・・[日本経済43]


≪画像および関連情報≫
 ・潜在成長率とは何か
  潜在成長率とは、国内総生産(GDP)を生み出すのに必要
  な供給能力を毎年どれだけ増やせるかを示す指標。労働力、
  資本設備など生産活動に必要な要素をすべて使った場合に達
  成可能な成長率。GDPは、個人消費や設備投資といった需
  要項目から捉えるのが一般的だが、これは需要サイドからみ
  たGDPであり、それに対して労働力や資本ストック(これ
  らを生産要素という)から、一国の供給能力を測ったものが
  潜在GDPである。
  http://kw.allabout.co.jp/glossary/g_politics/w007661.htm

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posted by 平野 浩 at 06:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月27日

サラリーマンはなぜ怒らないのか(EJ1802号)

 ブログEJの読者から次のコメントをいただいたので、ご紹介
し、そのことに関連して述べることにします。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 いつも勉強させてもらっています。
 色々読ませていただきまして、少し疑問に思うことがございま
 したのでコメントさせていただきます。今までの正社員サラリ
 ーマン層が派遣社員、パートなどに置き換わってきているのが
 今の日本だと思うのですが、なぜ政府はこれからの日本を引っ
 張っていくこれらの層に対して、増税を行っていくのでしょう
 か?そしてなぜ、それらの層と反対側にいる恵まれた層には減
 税を行うのでしょうか?私には理解できませんので、ぜひ、見
 解をお聞かせ願いたいのですが。
      ――  Posted by てつを at 2006年03月21日 10:02
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日本の税制が不公平税制であるとよくいわれます。不公平税制
を一言でいうと、徴税しにくい層から徴税する努力をしないで、
徴税しやすい層から取ろうとする点です。
 現在、所得のある就業人口は約6400万人といわれます。そ
の内訳は次のようになっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
              就業人口  税金未払い者
   サラリーマン   4500万人   700万人
   農業従事者     300万人   250万人
   個人事業主    1300万人   300万人
   フリーターなど   300万人   300万人
   ―――――――――――――――――――――――
            6400万人  1550万人
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 驚くなかれ、就業人口の24%が税金を払っていないのです。
確かに制度上税金を払わなくてもよい層もあります。しかし、支
払わなければいけないのに支払わないケースも多いのです。そう
いういわば取りにくい層から税金を徴収するのは税務署の仕事の
はずですが、ほとんど徴収できていない現状があります。
 フリーターの中にはかなりの高額所得者もいるのです。しかし
多くの場合、彼らには国民の義務として税金を収めようという精
神に欠けており、税金を払っていないのです。国民年金保険料の
払わないケースと同じです。
 つまり、こういうことになります。税を徴収する立場から見る
と、全就業人口の70%以上を占めるサラリーマン層が最も所得
を捕捉しやすく、徴税しやすいのです。
 したがって、所得を捕捉しにくい層や、納税義務のあるのに支
払わない層はそのままにしておいて、取り易いサラリーマンから
取れるだけ取る――こういう不合理な徴税方式になってしまうわ
けです。
 もう既に死語になっていますが、むかし税金に関して、「クロ
ヨン/9・6・4」という言葉があったのです。この9・6・4
は次のように対応するのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  9 → 所得の90%を税務署に捕捉 ・・ 給与所得者
  6 → 所得の60%を税務署に捕捉 ・・  自営業者
  4 → 所得の40%を税務署に捕捉 ・・ 農業従事者
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 もうひとつ「トーゴーサンピン/10・5・3・1」という言
葉もあります。10はサラリーマン、5は自営業者、3は農業従
事者です。それでは1は何かといえば政治家なのです。
 これに関して、国家破綻説の元祖といわれる副島隆彦氏は著書
で次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 実は、この「クロヨン」とか「トーゴーサンピン」という税金
 の不平、不平等を言いつのるコトバを世の中に流行らせている
 のは、国税庁自身である。サラリーマンたちの不満を、自営業
 者や経営者にぶつけて、妬み、嫉妬の感情を煽り立てて、税金
 を取りやすくするための国税庁の策略である。
          ――副島隆彦著、『重税国家日本の奈落/
        金融ファシズムが国民を襲う』より。祥伝社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 サラリーマンは源泉徴収されてしまうので、所得はほぼ100
%捕捉されることになります。したがって、他の所得者との不公
平を是正するために、サラリーマンには「給与所得控除」が認め
られてきたのです。これにより、所得から約30%が控除されて
いるのです。ところが今回の政府税調の「論点整理」には次のよ
うなことが書いてあるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 給与所得者であることを理由に、所得の計算に特別な斟酌を行
 う必要性は乏しくなって来ている。
                ――政府税調の「論点整理」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これに基づき、給与所得控除の見直し論が打ち出されているの
です。つまりこれは、今までサラリーマンにはお上のお情けで3
割控除を認めてやってきたが、今は国家財政の非常事態であり、
そんな特別待遇をする理由も必要もない――こういっているのと
同じです。
 日本の国家財政をここまで貶めたのは、財務省を中心とする官
僚機構です。自分たちの失敗を棚に上げて、そもそも不公平税制
を是正するために設けられている給与所得控除を見直すとはとん
でもない暴論です。
 給与所得控除を廃止するなら、財務省はサラリーマンに対する
源泉徴収制度を廃止し、確定申告制にすべきです。これが実施さ
れたら一番困るのは財務省です。4500万人が全員申告制にな
ると、税務署がパンクするからです。 ・・・[日本経済44]


≪画像および関連情報≫
 ・サラリーマンは全員確定申告すべし
  ―――――――――――――――――――――――――――
  約4500万人のサラリーマン全員が確定申告したらどうな
  るだろう。各人が経費として認められる「特定支出控除」の
  対象項目を拡充して申告したら、税務署はパンクしてしまう
  はずだ。   ――森本亮著『日本国破産に最終警告』より
                      PHP研究所刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

1802号.jpg
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2006年03月28日

大増税の仕掛け人は誰か(EJ1803号)

 財務省がどのように考えているか――副島隆彦氏の本を参考に
して、財務省の狙いをまとめておきます。2004年度の一般会
計の数値を例にとります。
 2004年度の国の歳入は84兆円ですが、税収は45兆円し
かないので、新規の国債発行は39兆円です。この39兆円の内
訳は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    国債費 ・・・・・・・・・・・・ 19兆円
    プライマリーバランスの赤字 ・・ 20兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 プライマリーバランスを均衡させるには、20兆円を何とか集
める必要があります。財務省はそれを増税によって埋めるつもり
でいるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    消費税率引き上げ ・・・・・ プラス10兆円
    サラリーマン増税 ・・・・・ プラス10兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 そうすると、赤字20兆円はなくなり、プライマリーバランス
は均衡することになります。このために、消費税は10%以上に
せざるを得ないと財務省は主張するのです。しかし、この計算は
歳出の削減を考慮に入れず、増税だけでプライマリーバランスを
均衡化させる計画です。
 それにしても、この増税計画は常軌を逸しています。政府税調
のいうように計算すると、年収700万円のサラリーマンは、次
のように41万円の増税になります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    所得税 ・・・・・・・・・ 21万3000円
    住民税 ・・・・・・・・・ 19万7000円
    ――――――――――――――――――――――
                  41万0000円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この計算は、給与所得控除と特定扶養控除は半減、配偶者控除
はゼロにして算出しているのですが、石会長のいうように、基礎
控除や扶養控除も削減されると税額はもっと大きくなります。こ
れに消費税が10%以上になり、もしかすると同時に実施される
恐れがあるのです。
 1997年の橋本政権下における消費税の税率引き上げのさい
の国民負担額は9兆円――このときの名目GDP521兆円との
対比で見ると1.7%、当時の雇用者報酬は280兆円であった
ので、9兆円はその3.2%に相当したのです。この負担はきわ
めて重く、市場の株売りを招き、株価の暴落と金融恐慌を引き起
こしているのです。
 これと2004年度と比較してみると、名目GDPは521兆
円から501兆円に減少、雇用者報酬も280兆円から265兆
円へと、ともに約20兆円減少しているのです。しかし、増税額
は9兆円から11.3兆円に増加し、国民負担は増加する傾向に
あるのです。つまり、所得が減っているのに、国民は1997年
以上の大増税に追い込まれようとしているのです。
 新聞記者が、石会長の「論点整理」に関して、あまりにもサラ
リーマンいじめではないか、サラリーマンに対して会長はどう説
明するのかと問い正したところ、石会長は次のように答えている
のです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これから国民が全体としてこの国をどう支えるかという議論か
 らいいますと、サラリーマンが核にならなかったら絶対にでき
 ないですよ。サラリーマンというのは、就業者の8割を占めて
 います。・・・誰にやってもらうかと言ったら、サラリーマン
 の方々にみんなで頑張ってもらうほかないんじゃないですか。
 というメッセージを送りたいと思いますけれども。
      ――2005.6.21の政府税調石会長談話より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 勝手な言い分であると思います。しかし、石会長のこの発言は
与党の間でもさすがにマズイと考えた人が多かったようです。自
民党はその後必死に石発言の火消しをしたのですが、7月3日の
都議選では民主党に敗退しています。
 自民党税調でも政府税調の石発言については次のように反対を
表明しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 政府税調は、『所得税に増税の余地がある』という前提だが、
 まったく賛成できない。所得税課税を増税するかのような議論
 は党税調として受け入れることはできない。
    ――2005.7.1/津島雄二・自民党税制調査会長
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、日本は確かに財政赤字は抱えていますが、巨額の貿易
黒字を持つ国であり、対外債権国なのです。それなのにどうして
ここまで追い詰められてしまったのでしょうか。
 副島隆彦氏は、「サラリーマン大増税」について、次のように
述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「サラリーマン大増税」の大本営発表は、日本の財務省にして
 みても、国民いじめの大悪政であることはわかっている。今で
 も重税にあえいでいるサラリーマン層から、さらに税金を年額
 で40万円も搾り取ろうというのである。しかも消費税を最低
 15%とかに引き上げることも同時にやろうとしている。こん
 なめちゃくちゃな大増税を国民に押しつけることは、まともな
 神経をしていたら、為政者としてできることではない。
          ――副島隆彦著、『重税国家日本の奈落/
        金融ファシズムが国民を襲う』より。祥伝社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 バックに何かがいるのです。    ・・・[日本経済45]


≪画像および関連情報≫
 ・『重税国家日本の奈落』について
  この本では、「誰も竹中平蔵大臣には逆らえない。なぜなら
  彼のバックには、アメリカのロックフェラーがついているか
  ら」という実態が明らかにされています。既に日本長期信用
  銀行(現・新生銀行)に8兆円もの税金をつぎ込んだあげく
  わずか10億円で外資に売り渡した“実績”を持つ竹中大臣
  です。そこにはアメリカの強力な「支持」と「指示」があっ
  たことは明白です。
  http://www.h2.dion.ne.jp/~apo.2012/bookstand-juzeikokka.html

1803号.jpg
  『重税国家日本の奈落』
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2006年03月29日

日本政府を支配する米国政府(EJ1804号)

 日本のバックに何がいるのかといったら、米国しかいないので
す。日本国内の政治・経済などの分析をするとき、確かに日米関
係を抜きにしては論ずることはできないと思います。
 政治評論家の森田実氏は、戦後日本の歴史は次の4期に分ける
ことができるといっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  第1期 占領時代 ・・・・・・ 1945〜1952
  第2期 半自立時代 ・・・・・ 1953〜1982
  第3期 半自立崩壊時代 ・・・ 1983〜1995
  第4期 従属時代 ・・・・・・ 1996〜2005
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1の占領時代――米国としてはもっと長くする計画であった
のですが、朝鮮戦争が起こって方針が変更されたのです。日本に
再軍備させ、米国の尖兵として使おうと考えたのです。しかし、
吉田首相はこれに反対し、再軍備は実現できなかったのです。日
本は平和主義を国是として新憲法のもとで独立国として生きる方
向に一歩を踏み出したのです。
 第2期の半自立時代――この時代は、2つの路線の対立があっ
たのです。1つの路線は、米国との軍事的従属関係を緩和して自
立を目指す路線です。代表的な内閣は、池田隼人、田中角栄の両
内閣です。もう1つの路線は、従米路線をとった岸内閣です。
 これら2つの路線の争いは岸内閣が勝利し、中曽根内閣がその
路線を引き継いだのです。いや、中曽根内閣を仕掛けたのは当時
のレーガン政権だったといわれます。これによって、日本国の自
立路線は崩れたのです。
 第3期の半自立崩壊時代――第3期は中曽根内閣登場から村山
内閣退陣まで続くのですが、この時期日本は、米国の世界戦略と
対日戦略に乗せられて米国の利益のために働くようになったので
す。しかし、唯一の例外は細川内閣です。この内閣は国の自立を
目指したため、米国政府から嫌われ、追われたのです。
 第4期の従属時代――橋本内閣から現在の小泉内閣までです。
森田氏は、この間に日本は米国の好みの方向に「改造」させられ
たといっています。橋本・小渕・森内閣については「穏健な」従
米主義だったのですが、小泉内閣になって「過激な」従米主義に
なってしまっています。
 ここに一冊の本があります。森田氏が日本人ならぜひ読むよう
推奨している本です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 関岡英之著/文春新書
 『拒否できない日本――アメリカの日本改造が進んでいる』
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この本は「米国政府の日本政府に対する年次改革要望書」とい
うものがあることを教えてくれます。この年次改革要望書は表面
上は「要望」のかたちをとっていますが、実際は米国政府の日本
政府に対する「指令」なのです。とくに1994年から今日に至
る日本の経済政策である構造改革は、この指令書に沿って行われ
てきたことを明かしています。
 こういう文書の存在は、日本の政治、外交、安全保障、経済政
策、社会政策のすべてが米国政府のコントロール下に置かれてい
ることの証明である――このように森田氏は述べているのです。
 この年次改革要望書について政府に質問した国会議員は与党・
野党を含めてかなりたくさんいます。森田氏が多くの国会議員に
この本を読むことを勧めたからです。
 しかし、これに対して小泉首相はのらりくらりとまともに答え
ようとはしなかったのです。しかし、これらの質問は無視された
わけではなかったのです。それは、2005年9月11日の衆議
院総選挙のあと、とくにこの問題に熱心だった前衆議院議員から
森田氏に次のような電話があったことで明らかです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 森田さん、国会で年次改革要望書を総理に質問した衆議院議員
 は、ほとんど落選しました。年次改革要望書を取り上げた議員
 が狙い打ちにされたような気が私はするのです。「年次改革要
 望書隠し」が徹底的に行われたような気がするのです。
   ――森田実著、『小泉政治全面批判』より。日本評論社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 それだけではないのです。年次改革要望書問題を取り上げた学
者、ジャーナリスト、評論家などにもテレビ出演のお呼びがかか
らなくなったというのです。そして、現在では、テレビの政治番
組では、この問題を取り上げるところは皆無になってしまってい
るのです。
 副島隆彦氏も年次改革要望書については具体的に取り上げてい
ます。この年次改革要望書が出現したのは1994年のことであ
り、それから今日まで、「規制緩和」の名の下で次のような法律
が改正され、制度の大幅な手直しが行われたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  1.持株会社の解禁 ・・・・・・・・・ 1997年
  2.NTTの分離・分割 ・・・・・・・ 1997年
  3.金融監督庁の設置 ・・・・・・・・ 1997年
  4.企業における時価会計の導入 ・・・ 2000年
  5.大規模小売店舗法の廃止 ・・・・・ 2000年
  6.確定拠出年金制度の導入 ・・・・・ 2001年
  7.法科大学院の設置 ・・・・・・・・ 2004年
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ちなみに2004年10月発表の年次改革要望書に「郵政民営
化」もはっきりと盛り込まれているのです。日本政府はこれらの
要望をきちんとこなしてきていることになります。
 今回の大増税についてもそのにバックには米国の意思が存在す
るといわれています。「日本は米国の51番目の州である」とは
よくいわれることばです。われわれは、今後のことを含めて日米
関係について正確に認識すべきです。 ・・・[日本経済46]


≪画像および関連情報≫
 ・落選した城内実前自民党衆議院議員のブログより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  みなさんは、前に紹介した月刊文藝春秋12月号の関岡英之
  氏の論文「警告リポート奪われる日本」をお読みになったで
  しょうか。この論文は、郵政民営化の背後に米国保険業界の
  意向を受けた米国政府からの圧力があることを指摘したもの
  で、なかなか内容の濃い読み応えのある話題の論文です。そ
  の関岡氏ですが、同じ月刊文藝春秋1月号に再び寄稿されま
  した。「TVで暴言を吐いた竹中大臣へ」というタイトルの
  ものです。時間がありましたら、是非読んでいただきたいと
  思います。
  http://www.kiuchiminoru.com/blog/2005/12/post_3.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

1804号.jpg
『拒否できない日本』
posted by 平野 浩 at 06:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月30日

日本は金持ちなのか貧乏なのか(EJ1805号)

 1月24日から46回にわたって続けてきた「日本は破綻危機
なのか」は今回で終了します。
 3月25日の朝刊のトップに、2005年末の国の債務残高が
800兆円を超えたという記事が出ていました。勘違いしないで
いただきたいのは、国債の残高が800兆円を超えたのではない
ことです。しかし、見出しだけを見ると、国債の残高が800兆
円を超えたと勘違いしてしまう人も出てくると思います。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   未償還の国債残高 ・・・ 663兆7743億円
   借入金 ・・・・・・・・  59兆3494億円
   政府短期証券 ・・・・・  90兆0593億円
   ―――――――――――――――――――――――
                813兆1830億円
                   ――財務省発表
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 実は同じ25日には、2005年末の個人金融資産残高が15
00兆円を突破したという明るいニュースがあるのです。ところ
が国の借金が増えたニュースは第1面で大きく扱い、個人金融資
産増加のニュースは他の面で扱うか、ニュースそのものを載せて
いない新聞もあったのです。
 借金を大きく見せて、資産を小さく扱う――新聞まで財務省に
協力しているのでしょうか。ちなみに国の債務残高のニュースは
財務省の速報、個人金融資産のそれは日本銀行の速報です。
 日本の個人金融資産といえば1400兆円台ということで相場
が決まっていたのですが、それが前年末よりも5.6%増えて、
1509兆円になったのですから大きなニュースであり、このこ
とは日本経済にとっては明るいニュースといえます。
 景気回復で所得が増えたことに加え、株価や投資信託の価格上
昇が残高を押し上げた結果なのです。このまま景気上昇が続くと
個人金融資産は今後大きく伸びていくことが期待されます。
 個人の金融資産は、1990年度に1000兆円を突破し、そ
の後順調に伸びたのですが、2001年末に株価低迷などで前年
末比で減少に転じ、2003年末から景気回復に伴って再び上昇
に転じていたのです。
 個人金融資産が1500兆円であるということは、主要先進国
で米国に次ぐ第2位であり、大変なことなのです。しかし、その
中身を見ると、「貯蓄から投資へ」という流れが顕著であり、こ
の傾向は今後ますます強まると考えられます。
 これは一面において危険な兆候でもあるのです。貯蓄離れが進
み、投資へのシフトが加速すると、国債の中心的な引き受け手が
いなくなるからです。これによる国債価格の暴落(長期金利の上
昇)もあり得るからです。
 さて、この個人金融資産1500兆円――およそ実感の持てな
い数字だとは思いませんか。
 それは、「個人金融資産」の日銀の定義が問題なのです。まず
誰でも資産と考える不動産などの実物資産は入らないのです。逆
に資産とは考えないものが含まれます。最も金額が多いのは年金
準備金――これが150兆円以上あります。また、企業年金の運
用資産相当額も含まれるのです。
 このほか、個人事業者の事業用資産が含まれています。法人で
なければ預貯金などの名義はすべて個人となるからです。また、
未収・未払い金――まだもらっていない預金利息なども個人金融
資産に含まれているのです。
 しかし、富裕層向けの営業に力を入れる金融機関の関係者によ
ると、1500兆円の個人金融資産には実感があるといっている
のです。メリルリンチ日本証券は、日本の個人金融資産について
次のように推計しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日本の個人金融資産は人口上位1%の126万人が全体の30
 %の440兆円を保有している。1人平均では3億5000万
 円。上場企業のオーナー経営者の自社株保有額は上位500人
 で計7兆円(1人平均140億円)に上がるという。
        http://be.asahi.com/20041016/W13/0044.html
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 また、米系のハートフォード生命保険の関係者によると、現役
を引退した高齢者の持つ金融資産だけで、ゆうに600兆円近く
あり、それが使われずに眠っているといっているのです。ハート
フォード生命保険は、2000年に日本で営業を開始して、3年
半で変額個人年金保険の預かり資産が1兆円を超えたというので
す。顧客は10万〜12万人、契約1件当りの平均保険料は、約
800万円――すべて現金一括払いであるというのです。
 このように見ていくと、日本には一部に途方もない大金持ちが
存在し、それらの資金が有効に使われていない実態が見えてくる
のです。何しろ実態に近いといわれる家計調査との差が500兆
円もあるというのですから驚きです。
 47回にわたって財政を中心に日本経済を調べてきたのですが
何かすっきりしないものが残ります。なぜなら、米国に次ぐ世界
第2位の経済大国である日本の台所事情が火の車に近いというの
はどういうわけなのでしょうか。何かわれわれの知らないウラに
途方もないカラクリが隠されているのではないでしょうか。
 森本亮氏の本に次のようなことが書いてあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日本の外貨準備90兆円のうち73兆円の米国国債はニューヨ
 ーク連銀金庫に保管され、事実上の資産凍結となっている。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日本は米国の意のままに米国国債を引き受けており、莫大な米
国国債を抱え込んでいる――ブッシュ政権はその資金で減税をし
ているのです。しかも、その国債のほとんどはニューヨーク連銀
の金庫に保管され、日本は意のままに使えないのです。日本と米
国はそういう関係なのです。     ・・・[日本経済47]


≪画像および関連情報≫
 ・読売新聞/YOMIURI ONLINE
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本銀行が24日発表した資金循環統計で、昨年12月末の
  個人金融資産が1500兆円の大台を突破した。景気回復を
  背景に、家計が貯蓄を株などへの投資に振り向け始めた。企
  業の負債(借金)は1997年に調査を始めて以来、初めて
  増加に転じた。負債を減らし続けてきた企業も、借金をして
  設備投資をする攻めの経営に転じ、デフレ経済で停滞してい
  たお金が前向きに動き出している。(五十棲 忠史)
  http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20060327mh06.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

1805号.jpg
posted by 平野 浩 at 06:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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