米大手証券会社ベア・スターンズが実質的に破綻し、金融大手の
JPモルガン・チェースによる買収が発表されました。これは、
FRBが動いているので、米政府による実質的救済なのです。
ベア・スターンズといえば、創業100年近い歴史のある全米
第5位の名門証券会社であり、これまでずっと黒字経営を続けて
きた健全な証券会社なのです。社員は1万4000人です。
しかし、2007年の第4四半期に創業以来はじめての赤字決
算を出しており、一応の危険信号は出ていたのですが、こんなに
早く破綻するとは誰も考えていなかったのです。
世界を驚かせたのは、その当初の買収価格の低さです。総額で
約2憶4000万ドル――1株当たりわずか2ドルの評価であっ
たことです。3月14日は金曜日だったのですが、その日のベア
スターンズの株価は30ドルだったからです。
しかも、前日の15日まで証券会社アナリスト15人のうち、
ペアの買い推奨をしていたのが5人、保有継続推奨をしていたの
が10人であって、売り推奨をしていた人はなんとゼロだったの
です。専門家もまったく予想外のことだったのです。
ちなみにその後しばらくして買収価格は改められ、1株当たり
10ドルになったのですが、ベア・スターンズによると、14日
の朝には80憶ドルの資金が間違いなくあったのですが、その日
のうちに60億ドルが流出し、夜にはたったの20憶ドルになっ
てしまったというのです。一体この名門証券会社に何があったの
でしょうか。
このベア・スターンズの救済劇のあと、米国内にはサブプライ
ム問題を発端とする経済危機は峠を越えたという観測が市場に広
がっているのですが、これは米当局の「時間稼ぎ」ではないかと
いう警戒感が消えていないのです。
今後米経済はどうなっていくのでしょうか。サブプライム問題
は今後最悪期を過ぎて終焉に向かうのでしょうか。そして、それ
は日本経済にどのように影響してくるのでしょうか。今日から次
のタイトルでこのテーマに取り組んでいくことにします。
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米サブプライム不況は日本経済にどのような影響を与えるか
―― リチャード・クーの理論を使って分析する ――
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サブプライム問題については、さまざまな本が出ていますが、
少し切り口を変えて分析してみたいと思います。そのために格好
の本が発刊されています。リチャード・クー氏の新刊書です。
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リチャード・クー著
『日本経済を襲う二つの波/サブプライム危機とグローバリ
ゼーションの行方』 2008.6.30/徳間書店刊
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EJではこれまでにリチャード・クー氏の理論を2回にわたっ
て取り上げています。EJのバックナンバーは、次のブログでご
覧になることができます。
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第1回/「バランスシート不況」
2003年11月17日/EJ第1233号〜
2003年12月12日/EJ第1251号
『デフレとバランスシート不況の経済学』を参照
http://www.intecjapan.com/blog/cat1/
第2回/「日本経済回復の謎」
2007年 6月 1日/EJ第2092号〜
2007年 8月 3日/EJ第2136号
『「陰」と「陽」の経済学』を参照
http://electronic-journal.seesaa.net/category/3283151-1.html
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現在、世界中が注目している米国の住宅バブルに始まる欧米の
サブプライム危機ですが、これについては人によって危機感の度
合いが違うようです。
クリントン政権の財務長官であるロバート・ルービン氏や投資
家のジョージ・ソロス氏は、サブプライム危機を次のように表現
しています。
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サブプライム危機は戦後最悪の金融危機である
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日本への影響はどうなのでしょうか。サブプライム危機から日
本は比較的遠いところにあると一応いわれています。確かにそう
いう面もあるのです。
それは、現在まともに機能している金融市場は世界で東京だけ
である――そういう事実があるからです。ということは、他の金
融市場はまともには機能していないということになります。
ところで、「金融市場が機能していない」とはどういうことな
のでしょうか。
それは、結論からいうなら、「インターバンク市場――コール
市場が機能していない」ということになります。インターバンク
市場とは、資金がダブついている銀行から資金不足の銀行へお金
を供給する役割をする市場です。
お金の出入りに関して銀行は完全に受け身です。非常に多くの
資金が出ていくときもあるし、多くの資金が入ってくるときもあ
ります。そのさい、資金が多くある銀行が資金不足の銀行に対し
て一時的に資金を融通し合うのが、インターバンク市場の仕組み
なのです。
ところが昨今の欧米では、そのインターバンク市場が機能不全
に陥っており、そのため、決済がうまくいかない可能性が出てき
ているのです。突然のベア・スターンズ破綻のような事件が起き
ると、銀行同士お互いを信頼できなくなってしまうからです。
――[サブプライム不況と日本経済/01]
≪画像および関連情報≫
●インターバンク市場とは何か
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市場と名がついているが、取引所のようなものはなく、電話
とネットワークによって構成される市場である。日中の国内
決済などを行なう中で、銀行間に資金の過不足が生まれる。
このため、資金余剰の銀行から資金不足の銀行へ資金の融通
が行なわれる。銀行間市場は参加者が限定されている上に信
用力も高いため、ほとんど無担保で取引される。無担保コー
ル翌日物金利(日本)あるいはFFレート(アメリカ)と呼
ばれる金利が取引における短期金利指標である。
――ウィキペディア
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