要」を高めるべきかによって経済学が違ってきます。「セイの法
則」は、「供給」を高めれば、それに見合う「需要」は自然に生
み出されるというのですから、供給重視派、サプライサイド経済
学ということになります。新古典派経済学の基本的な考え方は供
給重視の経済学です。
これに対して、ケインズ経済学は、国の経済力を高めるには、
「需要」の増大が必要であるという考え方に立ちます。需要の増
大には、人々の購買力を高める必要があります。問題は、購買力
を高めるには、どうすべきかです。そのために、政府は仕事を作
り出して、人々に与えなさいというのが、ケインズ経済学の考え
方です。具体的には、政府の公共投資(財政政策)によって仕事
を作り出せというわけです。
しかし、政府の公共投資によって景気が上昇すれば、今度は政
府支出を減らして、経済にブレーキをかけることが必要です。イ
ンフレを抑制すること、すなわち、バブルを防止するためです。
ところが、日本は、これと真逆のことをやって、バブルが発生
し、その後の政府の対応がまずかったために、デフレに突入して
しまったのです。日本政府は、デフレ期においても、3回も消費
税増税を行うなど、真逆のことを行い、現在もデフレから脱却で
きないでいます。
この間の事情については、中島剛志氏と記者の問答がわかりや
すいので、読んでください。
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中野:ケインズ経済学は、簡単に言うと、景気がよいときには政
府支出を減らすことでインフレを抑制(バブルを防止)し、景
気が悪いときには、政府支出を増やすことでデフレを回避する
というものです。ところが、この30年間、日本はケインズ経
済学と正反対のことをやり続けてきたんです。
1980年代後半から90年まではバブルでした。景気がい
いから民間はどんどん借金をして、土地や株式に投資しまくっ
た。そして、バブルが崩壊して、1998年からデフレが始ま
ると、民間負債はどんどん減っていったわけです。
――バブル期に過剰に信用創造がされ、デフレになって信用創造
が行われなくなったということですね?
中野:そういうことです。では、この間、政府は何をやっていた
か?ケインズ経済学では、景気がよいときには公共投資を減ら
すとされているのに、1985年から政府は金利を低めに維持
し、かつ公共投資をがんがん増やしたのです。だから、バブル
になったのです。なぜ、こんなことをやったのか?アメリカの
要求なんです。アメリカの対日貿易赤字が膨らんでいたので、
日本の内需を拡大して、アメリカ製品の輸入を増やすように要
求したのです。その政治的圧力に屈する形で低金利を維持し、
かつ公共投資を増やしたために、バブルを引き起こしてしまっ
たわけです。
――そうだったんですね・・・。
中野:ええ。そして、1991年にバブルが崩壊して、今度はデ
フレの危機になった。それに対応して、当初、政府は公共投資
を増やしたことで、デフレ化するのを食い止めていたんですが
1996年に橋本内閣が成立して以降、財政再建を優先するた
めに、公共投資を減らしたうえに、消費税増税をやってしまっ
た。その結果、1998年からデフレに突入したわけです。だ
から、ケインズ経済学に意味がなかったのではなく、その逆で
日本はケインズ経済学とは正反対のことをやったから失敗した
んです。それも2度も。こんなことをやれば、どんな国だって
「20年」くらい簡単に失われますよ。
https://bit.ly/3jIOnwx
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ここで考えてみることがあります。日本のバブルはなぜ発生し
なぜ崩壊したのかということです。ハイマン・ミンスキーという
米国シカゴ出身の経済学者がいます。この人は、金融不安定説を
唱えた経済学者ですが、この主張は、「市場メカニズムが経済を
安定化させる」という主流派経済学に反逆するものでしたから、
生前のミンスキーは、経済学界で異端視され、経済学者としては
認められていませんでした。
そのため、ミンスキーの著作はさっぱり売れず、絶版になって
しまったのですが、2007年〜2008年の金融危機が起きる
と、突然注目され、広く受け入れられるようになったのです。な
ぜなら、ミンスキーの理論が金融危機がなぜ起きたのかについて
最も妥当な説明を提供しているからです。
なぜなら、既に述べているように、リーマンショックについて
は、経済学者は誰も予測ができなかったからです。
そのミンスキーの著作は次の通りです。日本語版は、1989
年に多賀出版から『金融不安定性の経済学』のタイトルで出版さ
れています。
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ハイマン・ミンスキー著
『不安定な経済を安定化させる』
Stabilizing an Unstable Economy
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この本に書かれていることは、資本主義という経済システムは
本質的に不安定であり、必ずバブルとその崩壊を引き起こすとい
うものです。この本について、前FRB議長で、現米財務長官の
ジャネット・イエレン氏や、イングランド銀行のマーヴィン・キ
ング氏を含む上級中央銀行家たちは、ミンスキーの洞察を引用し
始めています。
ノーベル賞を受賞したエコノミストのポール・クルーグマン氏
は、この金融危機で注目を集めた講演のタイトルを「皆がミンス
キーを読み直した夜」としています。
──[新しい資本主義/069]
≪画像および関連情報≫
●復活したケインズの不確実性
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9395円──本紙恒例の年初特集で経営者に聞いた20
11年の日経平均株価予想の安値平均である。回答者20人
の中で9000円を割ると予想したのは2人、最安値予想で
も8500円だった。対ドル円相場の高値予想は平均で82
〜83円。80円を突破する円高を予想した経営者は一人も
いなかった。
予想が外れたことを責めるつもりはない。本来、未来は不
確実だからだ。しかも、その不確実性は保険でカバーできる
ようなリスクではない。予想が外れたら保険にまで破綻が飛
び火するようなリスクかもしれないからだ。
経済史家のスキデルスキーによれば、こうした計算できな
いリスクに多くの市場参加者は直面していると考えたのがケ
インズである。これに対し新古典派の経済学者は、市場参加
者が将来の変化や動きの確率分布に関して完全な知識を持ち
計測可能なリスクだけに直面するとみていたという。
どちらの見方が的を射ていたかは3年前の金融危機を想起
すれば明らかだ。その意味で危機後に復活したケインズとは
実体経済が落ち込んだときに財政政策の有効性を唱えたケイ
ンズよりも、むしろ将来の価格や利益を予想して投資が行わ
れる資本主義経済では常に不確実性が伴うことを洞察したケ
インズだった。 https://s.nikkei.com/3rqsHtA
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ハイマン・ミンスキー