2021年08月10日

●「デジタル庁創設の真の目的は何か」(第5547号)

 2020年6月26日の記者会見で、麻生財務相は次の発言を
しています。
─────────────────────────────
  一番ひでぇのが首相官邸だな。しょっちゅう音が切れる
                  ──麻生太郎財務相
─────────────────────────────
 何の話かというと、テレビ会議の話です。中央官庁ではテレビ
会議のできるように必要な設備は一応整っています。しかし、そ
れがすぐ「音が切れたり、つながりにくくなる」というのです。
いつの話をしているのかというと、2020年の各省庁がそうい
う状態だといっているのです。どうしてこんな状態に、なってし
まっているのでしょうか。
 これについて、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は、近著にお
いて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中央省庁は、オンライン会議システムについて、各省庁が個別
に日鉄ソリューションズ、NTTコミュニケーションズ、富士通
などと契約して通信網を構築した。そしてマイクロソフトの「ス
カイプ・フォー・ビジネス」やシスコの「ウェブエックス」など
をバラバラに採用してきた。
 同じ省庁内のオンライン会議は専用LAN(構内情報通信網)
を使うため支障はないが、他省庁や外部との会議では、システム
に接続ができず、わざわざ他省庁に出向いたり、会議に参加でき
なかったりする職員が出た。こうした記事を読んでいると、さら
に疑問が膨らむ。同じ省庁内でテレビ会議ができても、あまり意
味がない。せいぜい在宅勤務に使えるくらいだろう。実際には、
在宅勤務にも使えなかった。2020年5月には、テレワークの
申請を断られる職員が相次いだそうだ。容量の制限で回線に限り
があるからだ。     ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
            『良いデジタル化/悪いデジタル化/
         生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
─────────────────────────────
 何のことはない。各省庁でIT予算をバラバラに取得し、大手
ITベンダーに丸投げして、それぞれ勝手なシステムを構築して
いたことになります。タテ割の弊害がモロで出ているということ
になります。
 要するに、2021年9月1日発足のデジタル庁の真の目的は
「IT調達予算の一元化」にあるのです。対象となる政府IT予
算は毎年およそ7000億円ですが、これまで各省庁が個別に要
求していたものを内閣官房に一本化することで、各省庁で同じよ
うなシステムをつくる無駄を省き、真に必要なデジタル投資を増
やすことに目的があるのです。
 しかし、デジタル庁を創設することで、それが本当にできるか
ということになると、これまでの日本のIT化の経緯を振り返る
と大きな疑問が生じます。これまでも同じようなことを繰り返し
てきているからです。
 日本は、2001年に「IT基本法」を制定しています。この
法律の正式名称は次の通りです。
─────────────────────────────
     高度情報通信ネットワーク社会形成基本法
    2000年11月制定/2001年1月施行
─────────────────────────────
 この法律は、インターネットの利便性を享受できる環境整備を
整え、同時に打ち出した「イー・ジャパン戦略」によってその実
現を図ろうとしたのです。「イー・ジャパン戦略」の政府文書に
は、次の記述があります。
─────────────────────────────
 我が国のIT革命への取り組みは大きな遅れをとっている。変
化の速度が極めて速い中で、現在の遅れが将来取り返しのつかな
い競争力格差を生み出すことにつながることを我々は認識する必
要がある。       ──政府「イー・ジャパン戦略」より
─────────────────────────────
 2001年というと、平成13年、森喜朗内閣のときです。森
首相はITを「イット」と呼んで話題となり、顰蹙を買ったもの
の、今から考えると、ITに関するいろいろな施策を展開して内
閣でもあったのです。森内閣は、企業へのPC導入を加速させる
ため、税制優遇措置を設けたり、全国レベルで無料のPC教室を
開いてITリテラシーをマスターさせるなどの施策が展開されて
いるのです。これは正しい対応といえます。
 さて、「イー・ジャパン戦略」では、必要なインフラ整備やそ
の用途である行政デジタル化目標を掲げていましたが、インフラ
整備の方は早急に達成できたものの、行政のデジタル化──電子
行政「国の全行政手続きのオンライン化」の方は、20年が経過
した2021年の現在でも完全に未達になっています。
 2006年の安部第1次内閣でも「IT新改革戦略」を掲げて
「世界一便利で効率的な電子行政」という目標を掲げているもの
の進んでいるとはいえないのです。しかし、全行政手続きをオン
ライン化する目標では、2018年には86%まで達成したもの
の、その利用件数は46%にとどまっており、2006年目標の
50%に届いていないのです。
 ここまでEJは、「デジタル社会論T」「デジタル社会論U」
として、主としてデジタル社会への変貌が金融機関にどのような
影響を与えるかの視点に立って書いてきましたが、今度は日本の
デジタル化の問題を中心に、次のタイトルにしたがって、書いて
いくことにします。
─────────────────────────────
  デジタル庁の創設で日本のデジタル化は本当に進むのか
   ── 日本のデジタル化政策の問題点を探る ──
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/001]

≪画像および関連情報≫
 ●デジタル庁を創設するという政府が、コロナ対策でデジタル
  を活用できないわけ
  ───────────────────────────
   政府は新型コロナに関する様々なデータを持っているはず
  です。それなのに、何故それらを公表しないのでしょうか。
   ・感染が拡大時および減少時に、人々の行動はどうだった
    のか。
   ・どのような行動を取れば、感染する可能性が高まるのか
    低くなるのか。
   ・旅行が原因の感染者は何人で行ったのか、何泊したのか
    移動手段は何だったのか。
   ・飲食が原因の感染者は何人で行ったのか、時間帯はいつ
    か、お酒を飲んだのか。
   政府がこれらのデータを具体的な数字で示せば、国民全体
  で避けなければならない行動を認識・共有することができま
  す。しかしそれができないのは、これらのデータを公表する
  と、これまでの政府が意固地になって続けてきた経済振興策
  「GоTо」事業や感染抑止の指針がおおよそ誤りだったと
  ばれてしまうからなのかもしれません。
   政府筋によれば、たとえば会食の参加者が4人や3人の場
  合でも感染者が増えているといいます。政府のいう「会食は
  4人以下で」という基準が、実は感染を拡大させていたとい
  うわけです。中世のヨーロッパで大流行したペストにしても
  第1次大戦中に世界中に拡大したスペイン風邪にしても、過
  去の歴史が私たちに教えてくれるのは、人々の移動の増加が
  感染症拡大の主たる原因になっているということです。
                  https://bit.ly/3jCNJ3i
  ───────────────────────────
政府のIT戦略会議での森総理(当時).jpg
政府のIT戦略会議での森総理(当時)
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2021年08月11日

●「日本のデジタル改革目標は全未達」(第5548号)

 1990年代前期から2000年代初期にかけて、米国で「イ
ンターネット・バブル」という現象が起きています。具体的にい
うと、バブルは、ウインドウズ95が発売された1995年頃か
ら異常に膨らみはじめていたのです。投資家による新興のインタ
ーネット企業に対する実需投資や株式投資が、実態を伴わない異
常な高値になっていたからです。
 2000年を超えると、バブルが崩壊し、米国を中心にIT不
況に突入します。異常な熱狂を見せていた市場は急激に冷え込み
株価が暴落します。2000年4月だけで1割下落し、その後3
年間にわたって株価は下落を続けたのです。これにより、米国で
のIT関連失業者は56万人を超える規模に達しています。
 日本でも、光通信やソフトバンク、ヤフーといった著名IT関
連企業の株も大暴落しています。そして、2001年9月には、
米国で同時多発テロが発生し、米国はさらに深刻な不況に突入し
ていくことになったのです。
 実は日本では、1990年代後半にはネットビジネスが盛んに
なっていたのです。1999年にはECモールとして楽天(起業
当時は株式会社エム・ディー・エム)が起業していますし、JA
Lが世界に先駆けて、航空券のチケットレス販売をはじめるなど
ITの風が日本でも吹き始めていたといえます。
 日本の「イー・ジャパン戦略」はそのタイミングで発表された
のですが、米国発のITバブル崩壊による不況で、すべてが暗転
してしまいます。これによって日本政府のITに対する考え方が
一変したといえます。このときの状況を日経コンピュータ編集委
員の木村岳史氏は、「日経クロステック」誌(日経XTECH)
上で、次のように記述しています。
─────────────────────────────
 今思い出しても涙、涙である。楽天など一部は生き残ったが、
多くの新興IT企業がバタバタと倒れた。既存企業の間でも「ネ
ットビジネスは所詮虚業だ」などと言って、EC(電子商取引)
などから手を引く既存企業が続出した。ちなみに日本政府の取り
組みはどうだったか。イー・ジャパン戦略では「2003年まで
に、国が提供する実質的にすべての行政手続きをインターネット
経由で可能とする」とあるから、こちらもやはり笑うしかない。
                  https://bit.ly/3lHwVuM
─────────────────────────────
 しかし、このIT不況を乗り越えた米国企業があります。それ
がGAFAです。アマゾンやグーグルは、クラウドサービスを生
み出し、アップルはアイフォーンを世に送り出し、携帯電話のイ
メージを変貌させています。そして、フェイスブックは、SNS
を世界中に普及させています。さらに、このGAFAに続く新興
IT企業が続々と米国で誕生しています。
 そして現在、この大きく成長したGAFAが仕掛けるデジタル
ディスラプション(デジタルによる破壊)が日本において猛威を
振るうようになり、日本の脅威になりつつあります。日本は、自
ら掲げた「イー・ジャパン戦略」の目標が未達のまま、ずるずる
と現在まできてしまった大きなツケをこれから払わざるを得なく
なるといえます。
 この「イー・ジャパン戦略」の未達による日本の「デジタル敗
戦」について、平井卓也デジタル改革相は、インタビューで、次
のように述べています。
─────────────────────────────
 政府は2001年にIT基本法を施行しました。2001年の
「イー・ジャパン戦略」や2013年の「世界最先端IT国家創
造宣言」などのIT戦略も打ち出しました。どの公約も全く実現
できていません。しかも誰も責められていません。国民の期待も
あまり大きくなかったからでしょう。だからデジタル政策は他の
政策より優先順位が低かった。
 光ファイバー網や携帯電話のカバレッジといった通信インフラ
だけ見たら、日本はどの国にも負けていません。せっかく良質な
インフラがあるのに、新型コロナという事態でうまく使い切れな
かった。日本ほどの通信インフラを持たない国がITで成果を上
げたのに、日本は過去のインフラ投資やIT戦略が全く役に立た
なかった。「敗戦」以外の何物でもありません。
 結局、供給側が発想したデジタル化であり、国民起点でデジタ
ル化を考えていなかった。今進めている「縦割り打破」はまだ管
理者の発想です。国民からすれば受けたい行政サービスをどの省
庁が提供しているかは関係ない。「何省だ」と意識することこそ
が行政サービスのUI(ユーザーインターフェース)やUX(利
用者体験)を悪くしているのです。今までスマートシティにしろ
デジタル・ガバメントにしろ、上(中央政府)から下(国民)に
下ろす構造になつていました。反省すべき点です。
            ──日経コンピュータ編/日経BP刊
          『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか』
─────────────────────────────
 なぜ、「イー・ジャパン戦略」や「世界最先端IT国家創造宣
言」の公約を日本が達成できなかったかについては、国民の期待
もそんなに大きくなかったとする平井デジタル改革相の意見はわ
かるような気がします。結局のところ日本人には、ITのなんた
るかがわかっていないと思うのです。
 IT革命、デジタル化、DX(デジタルトランスフォーメーシ
ョン)と、まるでバズワードのようにいろいろいわれますが、こ
れらはすべてデジタル化そのものです。これまで本気でこのデジ
タル化に取り組んでこなかったことが、昨今のコロナ禍を契機に
白日の下に露呈してしまったといえます。
 つまり、日本の行政がデジタル化できていない現実を国民にま
ざまざと見せつけてしまったのです。それでは、何をどのように
進めていけばよいのか、デジタル化に伴う日本社会のさまざまな
問題について考えていくことにします。
             ──[デジタル社会論V/002]

≪画像および関連情報≫
 ●日本のデジタル敗戦の挽回に必要な3つの視点
  ───────────────────────────
   「デジタル庁は、強力な司令塔機能を有し、官民を問わず
  能力の高い人材が集まり、社会全体のデジタル化をリードす
  る強力な組織とする必要があります」
   菅首相は2020年9月23日のデジタル改革関連閣僚会
  議でこう語った。今まさに政府のデジタル庁準備室で法整備
  が進んでおり、アイデアボックスで国民の意見を募るなど今
  までにない試みも行われている。しかし、デジタル庁が成功
  するかどうかは、この「強力な司令塔機能」を発揮できるか
  否かに尽きる。そのためにはどうしたらいいか。私見ながら
  以下の3点を指摘・提案したい。
   @司令塔機能の目的を日本社会全体のDXとする
   Aデジタル庁を各省より高い位置づけにする
   B最先端グローバル人材を確保するためデジタル庁を公務
    員の特区にする
   第1に、国家サイバー・パワーの中核を担うデジタル庁の
  創設目的は、日本社会全体のデジタル・トランスフォーメー
  ション(DX)を果たすのが望ましく、決して、省庁の行政
  システムの調達の一元化だけにとどまってはならないという
  点だ。先進国各国においてデジタル庁同様の組織は多くある
  が、その目的や権限はさまざまだ。https://bit.ly/3iyw79o
  ───────────────────────────
平井卓也デジタル改革相.jpg
平井卓也デジタル改革相
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2021年08月12日

●「オンラインよりも郵送の方が早い」(第5549号)

 日本のデジタルシステムがいかに不十分なものであるかを示す
格好の事例があります。コロナ禍の政府支援のひとつ、定額給付
金申請に使われたマイナンバーカードです。
 このときの安部首相の記者会見を毎日新聞の報道で以下に示し
ておきます。
─────────────────────────────
 安倍晋三首相は2020年4月17日、首相官邸で記者会見し
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、改正新型インフルエンザ
等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」の対象地域を全国に
拡大したことを踏まえ、全国民に1人当たり10万円を一律給付
すると正式に表明した。現金給付の総額は、事業者向けも含め、
当初予定した6兆円から14兆円を上回る規模に拡大するとの見
通しを示した。(一部略)
 給付方法に関しては、郵送やオンライン申請を活用する考えを
示した。リーマン・ショック後の2009年に実施した「定額給
付金」では申請の確認などに時間を要し、予算成立から給付まで
3カ月かかったと指摘し「申請手続きの簡素化など工夫をしてで
きる限り早く国民にお渡しできるようにしたい」と述べた。だが
具体的な時期には触れず、「もっと判断を早くしておけば良かっ
た」と重ねて謝罪した。       https://bit.ly/3jIjibY
─────────────────────────────
 「給付方法に関しては郵送や『オンライン申請を活用する』」
──安倍首相がこういったのは、ここでマイナンバーカードを使
い、少しでも給付の速度を上げ、2009年の「定額給付金」の
給付の遅れと差をつけたかったことは確かです。それに加えて、
これを機にマイナンバーカードを一挙に普及させようと考えたの
です。しかし、それは無残な結果に終わっています。
 大きな問題点は2つあったのです。2つとも信じられないほど
あってはならない問題です。
─────────────────────────────
   @多くの市区町村が「マイナポータル」に未接続状態
   Aオンライン申請は市区町村の住民基本台帳と未連携
─────────────────────────────
 第1の問題点は、「多くの市区町村が「マイナポータル」に未
接続状態」だったことです。
 マイナポータルとは、政府が運営するオンラインサービスであ
り、子育てや介護をはじめとする行政手続がワンストップででき
たり、行政機関からのお知らせを確認できたりします。マイナン
バーカードの専用サイトになっています。
 このマイナポータルの行政サービスを市区町村が受けるには、
この内閣府のマイナポータルと市区町村がセキュリティレベルの
高い「LGWAN」というネットワークとつながっていることが
条件になります。
 しかし、安倍首相が1人当たり10万円の定額給付金を配ると
宣言した時点では、全国1741市区町村の半数近い806市町
村がマイナポータルと未接続の状態にあったのです。しかし、突
貫工事で、そのうち、679市区町村が5月1日のオンライン申
請開始に間に合ったといいます。
 第2の問題点は、「オンライン申請は市区町村の住民基本台帳
と未連携」であったことです。
 そもそも「LGWAN」に接続していないのは論外としても、
現金を配る以上、二重振り込みは絶対に防ぐ必要があり、そのた
めの本人確認は不可欠です。ところがオンライン申請のシステム
は、市区町村の住民基本台帳と連携していなかったのです。
 そのため自治体の職員には、オンラインで申請を受け付けた後
面倒くさくて、間違えやすく、しかも膨大な事務作業が待ってい
たのです。自治体の職員はオンライン申請された情報をダウンロ
ードすると、世帯員の住民票コードを手入力し、住民基本台帳と
照合し、申請者の氏名や生年月日などに誤りがないかを目で確認
しなければなりません。
 そして、振込口座情報と添付書類の画像とを照合し、銀行名が
旧名であったり、文字間のスペースがなかったりすることが多い
ので、一つひとつを確認して修正します。したがって、処理でき
るのは、週に1000件程度です。
 これに加えて、マイナンバーは、住所変更があったり、パスワ
ードを忘れた場合、カードは失効するので、再発行手続きが必要
になるのです。そのためのカード更新を求める住民も多く、これ
に対応するにもマンパワーが必要なので、現場は大混乱に陥って
しまったのです。
 東京の杉並区では、給付金以外の目的も含め、マイナンバー関
連の窓口に1日あたり約300人が押しかけ、4時間待ちになる
こともあったといいます。その結果、多くの自治体は「オンライ
ンよりも郵送の方が早く処理できる」と判断して、オンライン申
請の受付を停止し、郵送に切り替えています。「オンラインより
郵送の方が早い」とはまるでブラックジョークそのもの、ありえ
ない話です。同じようなことがワクチン接種の予約でも起きてい
ることは、記憶に新しいところです。
 これが特別給付金のさいにおきた騒ぎですが、これについて、
野口悠紀雄氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 私が不思議に思うのは、こうした実情にありながら、なぜ「ス
ピードを重視してオンラインにする」と、見栄を切ったのかであ
る。日本政府のトップは、マイナンバーカードの実情をまったく
知らなかったとしか考えようがない。自分の実力を知らずに見栄
を切るとは、随分乱暴なことをしたものだ。
            ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
            『良いデジタル化/悪いデジタル化/
         生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/003]

≪画像および関連情報≫
 ●混乱する世帯単位給付金、マイナンバーが向かない理由
  ───────────────────────────
   国民1人当たりに10万円を支給する「特別定額給付金」
  のオンライン申請をめぐり、申請の受付や支払いを担う市区
  町村の現場が混乱している。誤入力や重複申請などの不備が
  相次ぎ、照合作業や確認に追われる職員からは、悲鳴が上が
  る。オンライン申請の受け付けを中止し、郵送申請に絞る自
  治体も現れた。
   オンライン申請中止の皮切りとなったのは、高松市。5月
  25日に取りやめ、郵送申請に一本化する。高知市や東京都
  八王子市なども追随している。当初はオンライン申請に必要
  なマイナンバーカードの普及が進んでいないことが、速やか
  な給付の妨げになるとも予想されたが、蓋を開けてみれば、
  カードがむしろ足かせになるような事態になっている。どう
  してこんなことになったのか。
   「そもそも今回の給付金に、マイナンバーカードがそぐわ
  ない」――。こう指摘するのはある県庁所在市の担当者だ。
  これまでに約6000件のオンライン申請が寄せられている
  が、振込先の口座番号の欄に氏名が記入されていたり、金融
  機関名が空欄だったりといった不備が、2割近くで見つかっ
  た。また、二重申請どころか15回も重複申請しているケー
  スもあるという。今回のオンライン申請は原則として、世帯
  主が家族分も申請する仕組みだ。しかし、マイナンバーカー
  ドには世帯主の情報しか記録されていない。そのため、世帯
  から抜けた子どもの氏名が誤って記入されているといったミ
  スが多発。役所側で住民基本台帳と突き合わせる必要が生じ
  作業が大幅に遅れている。 https://s.nikkei.com/3jJ3CVU
  ───────────────────────────
マイポータルと地方公共団体との関係.jpg
マイポータルと地方公共団体との関係
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2021年08月13日

●「テレワークも満足にできぬ官公庁」(第5550号)

 今回のテーマの第1回で、中央官庁のテレビ会議が機能してい
ないことを述べましたが、それを裏づける日本経済新聞の記事を
見つけたので、次に示しておきます。
─────────────────────────────
◎ちぐはぐ通信網、テレビ会議さえできず
 役所のデジタル化の遅れは著しい。2020年4月に緊急事態
宣言が出ると綻びは隠せなくなった。ある官庁では企業からコロ
ナ禍の影響を聞くテレビ会議の途中で音声が切れた。コロナ対策
の打ち合わせなど重要な会議は結局、対面での開催が続いた。国
土交通省では、5月、テレワークの申請を断られる職員が相次い
だ。容量の制約で回線に限りがあり、早い者勝ちだった。
 政府は、2020年度補正予算で霞が関の計700課に米シス
コシステムズのテレビ会議システム「Webex」 のIDを配ってい
る。WiFiルーターも配り、急場しのぎで私用端末と外部回線
によるテレビ会議を開けるようにした。サイバー攻撃への対処な
ど、セキュリティーの不安は拭えない。
 そもそも今の中央省庁のLANは動画などの大容量データのや
りとりに向かない仕様になっている。隣の官庁との間でも安全基
準の違いなどからテレビ会議をつなげないことがある。2つの省
庁を兼務する官僚は双方のLANで業務をするため2台のパソコ
ンを使うケースもある。ちぐはぐなシステムが無駄を生む。
      ──2020年6月23日付、日本経済新聞電子版
               https://s.nikkei.com/37Aoitz
─────────────────────────────
 ここで述べられていることは、第1回の緊急事態宣言が発出さ
れた時期に起きています。このときは、新型コロナウイルスとい
う得体のしれないウイルスに対して、国民は強い警戒感を持って
いましたし、あのシブチン政府が全国民に10万円もの大金を配
るという非日常的なことも起きていたからこそ、国民は、外出自
粛も本気で守ったし、中央官庁においても通常では絶対にやらな
いことを許可しています。
 1つは、ZOOMなどと同様に、ごく一般的な米シスコシステ
ムズのテレビ会議システム 「Webex」を導入し、私用端末(スマ
ホ)の使用を認めています。つねに専用回線にこだわる官庁とし
ては珍しいことです。
 「BYOD(ビーワイオーディー)」という言葉があります。
これは、従業員が個人保有の携帯用機器を職場に持ち込み、それ
を業務に使用することをいいます。BYODは、次の言葉を省略
したものです。
─────────────────────────────
       BYOD/Bring Your Own Device
─────────────────────────────
 民間であまねく使われるテレビ会議システムを採用し、BYO
Dまで認めるというのは、官庁としては画期的なことですが、こ
れはあくまで緊急対応であり、次があるといいます。2020年
度予算の第2次補正予算に数億円を計上し、各省庁のLANを統
合する通信網を作り、各省庁の業務端末によるテレビ会議システ
ムを目下進めているというのです。
 確かに官庁の場合、セキュリティの問題がありますが、なぜ、
巨額のお金をかけて、屋上屋にシステムを積み重ねる愚を犯すの
か理解に苦しみます。警察や防衛関係などの特殊な部局は別とし
て、世間に一般に幅広く使われている会議システムを採用し、そ
の分セキュリティは厳重にすればよいと思います。
 なお、コロナ禍によって、テレワークの普及が強く求められて
いますが、日本の場合、否定的な意見が少なくないのです。「テ
レワークの最新動向と総務省の政策展開」によると、テレワーク
しない理由について、次のようになっています。
─────────────────────────────
 テレワークに適した仕事がない ・・・・・・・ 74・2%
 情報漏洩が心配なため ・・・・・・・・・・・ 22・6%
 導入するメリットがよくわからない ・・・・・ 18・4%
 社内のコミュニケーションに支障があるため ・ 11・3%
 社員の評価が難しいため ・・・・・・・・・・  8・8%
 ──「テレワークの最新動向と総務省の政策展開」/2019
─────────────────────────────
 この調査で示されている回答は、テレワークをやってみて無理
であると判断したというよりも、やってみないでできないと決め
ている感じがします。確かに営業など、テレワークが困難な業務
は多くありますが、営業であっても、テレワークを利用してコン
タクトレス営業の展開を試みるなど、業務の内容を考え直すこと
によって、テレワークができる余地は大きいのです。
 なぜ、いまテレワークが必要なのかというと、労働生産性を高
める必要があるからです。なぜなら、日本の労働生産性は他国に
比べて低いのです。2018年のデータによると、日本は米国の
58・5%でしかなく、韓国、トルコ、スロヴェニアなどに抜か
れてしまっています。ちなみに世界トップはアイルランドですが
日本はそのわずか40%しかないのです。野口悠紀雄氏は、労働
生産性について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 「テレワークの最新動向と総務省の政策展開」は、テレワーク
を導入していない企業の労働生産性は599万円であり、テレワ
ークを導入している企業の労働生産性957万円の1・6分の1
でしかないことを指摘しています。
   テレワークを導入していない企業の生産性=
     (営業利益+人件費+減価償却費)÷従業員数
            ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
            『良いデジタル化/悪いデジタル化/
         生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/004]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の「1人当たり労働生産性」は世界37位
  1位はどこ?
  ───────────────────────────
   世界の「今」と「未来」が数字でわかる。印象に騙されな
  いための「データと視点」人口問題、SDGs、資源戦争、
  貧困、教育――。膨大な統計データから「経済の真実」に迫
  る!データを解きほぐし、「なぜ?」を突き詰め、世界のあ
  り方を理解する。
   著者は、「東大地理」を教える代ゼミのカリスマ講師、宮
  路秀作氏。日本地理学会の企画専門委員としても活動してい
  る。『経済学は統計から学べ』を出版し(6月30日刊行)
  「人口・資源・貿易・工業・農林水産業・環境」という6つ
  の視点から、世界の「今」と「未来」をつかむ「土台として
  の統計データ」をわかりやすく解説している。
   日本の労働生産性は低いと言われています。本当でしょう
  か。数字で詳しく見ていきましょう。
   「1人当たり労働生産性」という指標があります。これは
  実質GDP総額を総就業者数で割って算出した値で、ILO
  (国際労働機関)による統計です。「労働の成果」を「労働
  の量」で割ったものであり、労働者1人が生み出す労働の成
  果を指します。日本でも「働き方改革」と称して、長時間労
  働の是正、業務の効率化による労働生産性の向上などの意識
  が高まっています。実際に、「日本は労働生産性が低い」と
  いわれることが多く、解決は急務です。
                  https://bit.ly/3jK6BgX
  ───────────────────────────
テレワーク.jpg
テレワーク
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2021年08月16日

●「コロナは自宅療養に向いていない」(第5551号)

 緊急事態宣言が発令されているのに、新型コロナウイルスの感
染拡大に歯止めがかからない状態が続いています。13日の新規
感染者数は、2万366人で、東京都は5773人で過去最多を
更新しています。重傷者は8月14日正午現在、1521人で、
これも過去最多の更新です。まさに現在日本は、本物の「緊急事
態」に陥っています。
 コロナの問題とデジタル化の問題は密接に関係しており、今朝
はこの問題について書きます。現在、「自宅療養者」と称する入
院待機者は、計3万人を超えています。
 この時期に政府は、突然「コロナによる入院は重症者に限る」
という方針を出しています。目的は、感染者が急拡大し、軽症者
を自宅に戻し、重症者のために、ベットを空けざるを得なくなっ
たことにあります。これは、医療体制の崩壊そのものですが、こ
のことを発表するさいの菅首相や田村厚労相の話しぶりをみると
深刻ぶりはなく、平然と話しているように見えたのです。
 しかも既にそのときに入院を待機している自宅療養者が約1万
7000人(本稿執筆時の8月14日現在、約3万人)もいたの
です。これらの自宅にいる感染者は全員が軽症者ではなく、入院
が必要であるのにベットが空かないので、やむを得ず自宅にいる
患者の数です。政府はこれらの患者の存在を知っているのに入院
制限をアナウンスしたのです。
 政府の入院制限に対しては、野党はもちろんのこと、与党のな
かからも強い批判が出て、政府は修正を余儀なくされたのです。
どのように修正したかというと、中等症を次の2つに分け、中等
症Uに関しては「入院が必要」と認めたのです。
─────────────────────────────
 中等症T ・・・ 酸素の吸入は必要がない → 自宅療養
 中等症U ・・・ 酸素の吸入が必要である → 入院必要
─────────────────────────────
 しかし、その時点で自宅で入院を待機している感染者のなかに
は中等症Uの患者が多くおり、これらの人が入院できるわけでは
ないのです。現在、この入院待機者が約3万人に膨れ上がってい
ます。今回の入院基準の修正によっても、これらの待機者が減る
状況にはなく、積み上がる一方です。
 コロナ感染症は、重度の肺炎を引き起こす恐ろしい病気です。
しかも軽症から重症化するスピードが早い。しかし、多くの日本
人に肺炎は主として高齢者がなる病気のひとつとして認知されて
いますが、世界では若年者がかかりやすい病気として知られてお
り、とらえ方が異なります。
 「肺炎」の専門サイトによると、肺炎の死亡率について、次の
ように説明しています。
─────────────────────────────
 厚生労働省によると、肺炎にかかって亡くなる人の割合は、主
な死亡原因で亡くなる方全体の9・4%を占め、悪性新生物(が
ん)の28・7%、心疾患の15・2%の次に、多くなっていま
す。肺炎は世界的に見ても、死亡率の高い病気なのです。
 驚くべきことに、海外の肺炎で亡くなる年代はおもに児童や乳
幼児と若年者に多く、2015年には肺炎が5歳未満の子供の死
因理由として15%を占めています。また、世界中で見ても92
万人の子供が肺炎で死亡しているのです。
                  https://bit.ly/3xLztdy
─────────────────────────────
 政府は、自宅療養者に対して、保健所ないし医師から、電話や
LINEなどによって、病状を聞き、それによって適切に対応し
ているとしていますが、実際には保健所のマンパワーが絶対的に
不足しており、当時1万人以上もいる自宅療養者のすべてに、適
切な対応がとれるはずがないのです。
 ところで、医師が、肺炎という病気をどのようにして診断する
かご存知でしょうか。
 医師は、患者に対して息を吸ったり吐いたりさせ、その呼吸音
を聴診器で聞き取ります。続いて、パルスオキシメーターを指に
挟んで、血中の酸素濃度の数値を調べます。その数値が96%以
上あれば、肺炎ではないと診断できます。
 呼吸音の異常や、パルスオキシメーターの数値が低いなど、肺
炎が疑わしい場合は、CTを撮って、肺炎の有無を確認するので
す。CTを撮ってはじめて肺炎が確認できます。医師は「息苦し
くないですか」とよく聞きますが、息苦しさは本人は意外に気が
付かないものです。実際問題として、本人が、気づくようになっ
たときは遅いのです。
 自宅療養者に対しては、保健所からパルスオキシメーターが貸
与される決まりになっていますが、これも自宅療養者が激増して
いるので、行き届いていないようです。既に述べているように、
自宅への聞き取り連絡もほとんどできない状況です。このことか
ら医師によるオンライン診療の実施も検討されているようです。
 しかし、肺炎の場合、医師による聴診器による呼吸音の聞き取
りも、CT撮影もオンライン診療では不可能です。息苦しいかど
うかの聞き取りも本人に強い自覚症状がないので、十分ではあり
ません。やれるのは、パルスオキシメーターの数値のみです。そ
ういう意味において、肺炎は遠隔診療に最も不向きで、困難な病
気であるといえます。
 8月13日、菅首相は「酸素ステーションを作る」といってい
ますが、そのようなものがすぐに作れるのでしょうか。肺炎とい
う病気の性格がわかっていれば、十分時間があったのですから、
なぜもっと早く作ることはできなかったのでしょうか。すべてが
後手に回っています。
 もうひとつ問題なのは、野党が首相出席による国会の閉会中審
査を求めているのに、菅首相は一度も出てこないことです。これ
は怠慢といわれても仕方がないと思います。首相に聞いたらきっ
と「それは国会がお決めになることです」と答えるでしょう。
             ──[デジタル社会論V/005]

≪画像および関連情報≫
 ●菅首相、感染激増で「再選どころではない」窮地に
  ───────────────────────────
   (入院制限に対する)こうした政府の迷走に、8月4日の
  閉会中審査で公明党の高木美智代氏が「撤回を含め、検討し
  直してほしい」と要求。立憲民主党の長妻昭副代表(元厚労
  相)は「人災だ」と口を極めて批判した。これを受けて立憲
  民主、共産、国民民主の主要野党3党の国対委員長は同日の
  会談で、政府に方針撤回と臨時国会の早期召集を求めること
  で一致した。菅首相や政府への批判が渦巻く中、自民党の二
  階幹事長が3日、菅首相の任期満了(9月30日)に伴う自
  民総裁選について、「再選が当たり前」と発言したことも批
  判を増幅させた。二階氏は「現職が再選される可能性が極め
  て高い。菅首相に「続投してほしい」との声が国民の間にも
  強い」と菅首相続投支持を明言した。
   二階氏はさらに、「総裁選は総裁たりうる人が手を挙げる
  そういう人が複数あった場合に選挙になる。今のところ複数
  の候補になる見通しはない」として、現状では菅首相の無投
  票再選が当然との見方を示した。
   この二階氏発言もネット上で大炎上。「二階氏はボケてい
  る」「真夏の怪談で失笑の嵐」「(菅首相と)2人でどこか
  違う国へ行って永遠にやっていれば良い」などと過激で辛辣
  なコメントがあふれた。緊急事態宣言発令以降も東京を中心
  に新規感染者は増え続け、一向にピークもみえてこない。
                  https://bit.ly/3jS2RtY
  ───────────────────────────
入院基準について話す菅首相.jpg
入院基準について話す菅首相
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2021年08月17日

●「厚労省による屋上屋システム構築」(第5552号)

 2020年6月頃の話ですが、病院ではマスクや防護服などの
必須の医療部品が不足してコロナ医療に支障をきたすという事態
が発生したのです。
 厚労省は、こういうときに備えて「EMIS」というシステム
を用意し、2006年から運用を開始しています。阪神淡路大震
災が発生したさいに医療機関同士で情報をうまく共有することが
できず、特定の病院に患者が集中するなど効率的な災害対応がで
きなかったことを教訓として構築されたシステムです。EMIS
は、次の言葉の省略したものです。
─────────────────────────────
    ◎EMIS
     Emergency Medical Information System
─────────────────────────────
 したがって、もしEMISがちゃんと機能していれば、必要な
医療物資が病院で不足するはずがなかったはずなのです。ところ
が、肝心な医療物資の項目は「医薬品・衛生資器材」とあるだけ
で、必要な物質ごとの必要数を入力できなかったのです。愕然と
した厚労省は、EMISの開発やメンテナンスを担当していたN
TTデータに対応を指示しましたが、担当者から戻ってきた返答
は、次のようなものだったのです。
─────────────────────────────
 もし、システムを改修するとなると、大改修になり、関係者の
同意や改良後の動作検証などが必要となるので、月単位の時間が
かかる。
 ──NTTデータ三嶋大二郎救急医療ソリューション担当部長
        2020年6月25日付、日本経済新聞電子版
               https://s.nikkei.com/3CQD0eo
─────────────────────────────
 「月単位」と聞いて厚労省は、このシステムの改修をあきらめ
急遽臨時のシステムを作って対応したと思われます。明らかな二
重投資です。厚労省の地域医療計画課は、「EMISは自然災害
に特化していたため」と釈明していますが、2018年春の救急
・災害医療提供体制に関する有識者会議で、専門官は「感染症流
行時でも使える」と明言しているのです。
 それでは、EMISは自然災害時には本当に役に立っていたの
でしょうか。実は2018年と2019年の地震時にEMISは
接続不良に陥っています。このとき、さすがの厚労省も肝心の有
事に使えないシステムに見切りをつけ、神奈川県で使っているク
ラウド型医療情報システム(サイボウズのサービスを利用)を採
用し、乗り切っています。EMISがなぜ肝心なときに、役に立
たないのかについて、日本経済新聞は次のように書いています。
─────────────────────────────
 厚労省はシステム所有者のNTTデータに任せっきりだった。
古い技術に機能が次々と加わり、肥大化。国と自治体が支払う年
間利用料は計3億円以上となり、国の負担は10年前の2倍を超
えた。厚労省は技術に疎く、NTTデータは維持管理で稼ぐこと
に執着する。自前の専用サーバーを持たずにネット上で設計を柔
軟に変えられるクラウド技術を敬遠してきた。
        2020年6月25日付、日本経済新聞電子版
               https://s.nikkei.com/3CQD0eo
─────────────────────────────
 いざというためのシステムが、いざというとき役に立たない。
まるでマンガです。システムがあまりにも複雑で、硬直的であり
後からの追加や修正に時間や手間がかかり、使い勝手がよくない
システムになっていたのです。
 それでは、クラウド型医療情報システムを導入したのだから、
EMISは廃止するのかというと、残すというのです。医師派遣
や搬送患者の情報登録など、新システムにない機能があるからだ
というのが理由です。これでは、システムが屋上屋になり、コス
トも何倍もかかることになります。
 厚労省ひとつとっても、ロコナ禍のような非常時になると、大
金を使って、いくつものシステムを屋上屋に開発し、積み上げて
しまうのです。それらが全体としてどのように関連しているのか
全体層が不明確になっています。新型コロナウイルス関連に絞っ
ても、以下のようにたくさんのシステムがあるのです。
─────────────────────────────
▼ワクチン関係
 V−SYS:ワクチン接種円滑化システム
 VRS:ワクチン接種記録システム
▼災害時医療情報共有
 EMIS:広域災害緊急医療情報システム
 GMIS:
 新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム
▼感染症の発生状況の把握
 HER−SYS:
 新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム
 MESID:感染症発症動向調査
 COCOA:新型コロナウイルス接触確認アプリ
▼検疫
 空港検疫業務システム
 統合型入国者健康情報等管理システム
▼人材配置
 Key−Net:医師・看護師・医療人材の求人情報サイト
─────────────────────────────
 一番問題なのは、システムの発注側である厚労省の担当者が、
システムのことをまるでわかっていないことです。したがって、
システムの開発目的、何ができて何ができないか、既存システム
との関連性や機能、使い勝手にいたるまで、システムベンダーに
すべて設計を丸投げしてしまうのです。
             ──[デジタル社会論V/006]

≪画像および関連情報≫
 ●『倉持仁院長 菅首相に「僭越ながら申し上げます」酸素
  ステーションについて』へのユーザーの意見まとめ
  ───────────────────────────
   菅義偉首相 宇都宮市「インターパーク倉持呼吸器内科」
  の倉持仁院長が14日までにツイッターに投稿し、菅義偉首
  相が新型コロナウイルス対策として「酸素ステーションを」
  と述べたことに、「今どこかわからない国から空爆を受けて
  いるような日本。血だらけで手当が必要な人がたくさんいる
  のに酸素ステーションってなんだよ」と疑問を呈した。
   倉持院長は、菅首相が「酸素ステーション」について13
  日に発言したことを報じる記事を引用し、「こういった指示
  はオリンピック中に出しておくべき事。僭越ながら申し上げ
  ますが、酸素投与しなくて済むように投薬が必要です。コロ
  ナに対する酸素投与はあくまでも対症療法です。数もそんな
  にありません。ワクチンワクチンいうのはワクチンがきてか
  らお願いします!」と投稿した。
   さらに別の投稿で倉持院長は「コロナを見る医療体制を整
  えるには診療報酬制度で明確に決めなければ無理。医師会が
  勝手に病床作れっていってやったら罰せられます。きちんと
  国会で法整備し政治判断で早急に行うべき事。エビデンスな
  いね。これできないよねーって、安易に素人関係閣僚で票を
  考え、現状でできる事で対応が無能無責任」とも記した。
   倉持院長はまた、「今どこかわからない国から空爆を受け
  ているような日本。血だらけで手当が必要な人がたくさんい
  るのに酸素ステーションってなんだよ。空爆を止めさせるの
  が国の仕事!今すぐこんばんはガースーです、空爆をやめて
  くださいっていってください」と皮肉をまじえて要請した。
                  https://bit.ly/3jYXcSI
  ───────────────────────────
新型コロナに関係する情報システムの全体像.jpg
新型コロナに関係する情報システムの全体像
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2021年08月18日

●「日本の世界政府/第14位の評価」(第5553号)

 「電子政府」という概念があります。国民にICTが利用でき
る環境を提供し、各省庁間の事務および対国民との各種手続にI
CTを用いることにより、費用および人員削減、効率化、国民の
利便性の向上および満足度を高めることを目ざすものです。
 「電子政府世界ランキング」というものがあります。国連の経
済社会局(UNDESA)が発表しているもので、その2018
年度と2020年度の順位を以下に示します。日本は、2018
年度は10位ですが、2020年は14位に転落しています。
─────────────────────────────
          ◎2018         ◎2020
  @デンマーク    0.9150 @デンマーク    0.9758
  Aオーストラリア  0.9053 A韓国       0.9560
  B韓国       0.9010 Bエストニア    0.9473
  C英国       0.8999 Cフィンランド   0.9452
  Dスウェーデン   0.8882 Dオーストラリア  0.9432
  Eフィンランド   0.8815 Eスウェーデン   0.9365
  Fシンガポール   0.8812 F英国       0.9358
  Gニュージーランド 0.8806 Gニュージーランド 0.9339
  Hフランス     0.8790 H米国       0.9297
  I日本       0.8783 Iオランダ     0.9228
  Jドイツ      0.8765 Jシンガポール   0.9150
  Kオランダ     0.8757 Kアイスランド   0.9101
  Lノルウェー    0.8557 Lノルウェー    0.9064
  Mスイス      0.8520 M日本       0.8989
                  https://bit.ly/3jUByiB
─────────────────────────────
 順位を決めている数値は、EGDIといいますが、2020年
の日本の数値は「0.8989」、この数値を2018年にあて
はめると、2018年なら第5位になります。デジタル化の競争
は厳しいのです。
 「EGDI」とは何でしょうか。簡単に説明できる数値ではあ
りませんが、何によってEGDIが決まっているかについて、少
し詳しく説明することにします。
 EGDIは「電子政府発展度指標」といい、国連の経済社会局
が各国のデジタル進捗効果をまとめたものです。なおEGDIは
次の言葉を省略したものです。
─────────────────────────────
    ◎「電子政府発展度指標」
    EGDI/e-government development index
─────────────────────────────
 EGDIは、OSI、HCI、TIIという3つの指標の平均
に基づいて算出されます。これらの3つの指標について、次にま
とめます。
─────────────────────────────
    ◎OSI:オンラインサービス指標
     Online Services Index
    ◎HCI:人材指標
     Human Capital Index
    ◎TII:通信基盤指標
     Telecommunications Infrastructure Index
─────────────────────────────
 第1の指標は「OSI/オンラインサービス指標」です。
 婚姻届、出生届といった、さまざまな申請や手続きのオンライ
ン化など、行政サービスのオンラインカバレージによって算出さ
れます。サービスだけでなく、ウェブによる国の情報公開や、情
報に対してのアクセスの容易性なども、評価の対象になっていま
す。データソースは、国連事務局の独自調査と、各国に対するオ
ンラインサーベイの回答です。
 第2の指標は「HCI/人材指標」です。
 成人(15歳以上)の識字率、初等・中等および中等教育に在
籍する就学率、一定の年齢に達した児童が、将来受けることが期
待できる学校教育の年数、その国の成人人口(25歳以上)が就
学した平均教育年数の4つから出される総合指標。UNESCO
(国際連合教育科学文化機関)がデータソースになっています。
 第3の指標は「TII/通信基盤指標」です。
 100人当たりのインターネットユーザー数、100人当たり
のモバイルユーザー数(電話のみを含む)、アクティブなモバイ
ルブロードバンドユーザー数、100人当たりの固定ブロードバ
ンドユーザー数という4指標の平均に基づく複合指標。WB(世
界銀行)とITU(国際電気通信連合)がデータソースです。
 指標の範囲は、0.0〜1.0で、2020年の世界全体の平
均値は0.60です。平均値は、2016年の0.49、201
8年の0.55から堅調に伸びています。
 このEGDI指標で、0.75を超えればトップグループとい
われますが、そのトップグループは、2016年は29か国、2
018年は40か国、2020年は57か国であり、着実に伸び
ています。
 この基準で2020年の日本のEGDI指標、0.8989は
決して悪い方ではありませんが、それでも世界14位。3つの指
標のそれぞれは次のようになっています。
─────────────────────────────
 ◎2020年世界14位/日本
  OSI:オンラインサービス指標/世界11位
  HCI:人材指標世界/世界14位
  TII:通信基盤指標/世界 6位
─────────────────────────────
 日本の世界14位に大きく貢献しているのは、通信インフラの
高度化にあります。インフラは優れているのに、その利用に関し
ては日本は世界に大きく後れをとっています。
             ──[デジタル社会論V/007]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の電子政府が「評価外」? “デジタル化先進国”デン
  マークや韓国、英国との違いとは
  ───────────────────────────
   ハンコ廃止やデジタル庁の発足を契機に、政府のデジタル
  化への取り組みが加速している。しかし、国連が発表してい
  る電子政府ランキングでは、デンマークや韓国、エストニア
  などの先進国に大きく水をあけられているのが実態だ。そも
  そも、日本政府がデジタル化に取り組んだのは、これが初め
  てではない。にもかかわらず、なぜこれほど差が付いたのは
  なぜか。先進国との違いを分析し、日本の課題と取り組むべ
  き対策を整理する。
   新型コロナウイルスの感染が拡大する中、河野行政改革相
  による押印廃止、デジタル庁の発足など、行政のデジタル化
  への取り組みに注目が集まっている。
   一方で、日本政府のデジタル化の取り組みに対する世界的
  な評価は低い。国連が2020年7月に発表したデジタル政
  府の開発状況を示したEGDIで、日本は14位と2018
  年の前回調査(10位)から順位を4つも落としている。
   20年以上も前から、日本はデジタル構想を打ち出してい
  るものの、その取り組みは一向に進まない。その原因を特定
  し、問題を解決しないまま菅政権が行政デジタル化を進めれ
  ば、その莫大な投資がムダになる可能性も否定できない。
                  https://bit.ly/37LmePF
  ───────────────────────────
電子政府への期待と課題.jpg
電子政府への期待と課題
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2021年08月19日

●「IMD世界競争力順位日本34位」(第5554号)

 スイスのビジネススクールであるIMDの世界競争力センター
によると、2020年6月に発表した「IMD世界競争力ランキ
ング/2020」でのベスト20は、次のようになっています。
ちなみに、IMDとは次の言葉の省略です。
─────────────────────────────
       ◎IMD
        World Competitiveness Centre
─────────────────────────────
 2020年の20位までを示します。残念ながら、日本はその
なかに入っておらず、34位です。
─────────────────────────────
   @シンガポール         J台湾
   Aデンマーク          Kアイルランド
   Bスイス            Lフィンランド
   Cオランダ           Mカタール
   D香港             Nルクセンブルグ
   Eスウェーデン         Oオーストリア
   Fノルウェー         ★Pドイツ
  ★Gカナダ            Qオーストラリア
   Hアラブ首長国連邦/UAE  ★R英国
  ★I米国             S中国
              ★G7 https://bit.ly/3m8lHQ5
─────────────────────────────
 このランキングは、255の指標を使って算出しています。こ
れらの指標の64%は雇用統計や貿易統計といった公式定量デー
タを使っており、残りの34%は「マネジメント慣行」「ビジネ
ス規制」「ビジネス規制」「労働規制」「姿勢・価値観」などに
加えて、IMDが実施する「経営幹部意見調査」の結果も参考に
して順位を算出しています。
 今回のIMDの調査で34位の日本について、今回のIMDの
ランキングを掲載しているサイトの株式会社ニューラルサステナ
ビリティ研究所は、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 日本の項目別ランキングは、政府効率とビジネス効率が大きく
足を引っ張っている。ビジネス効率ではマネジメント慣行が63
カ国中62位と下から2番目。生産性&効率も55位と下から9
番目でかなり深刻な状況。政府系金融61位と物価59位も極め
て低い。企業の競争力にとって非常に需要な「姿勢&価値感」で
も56位で非常に悪かった。日本の凋落が止まらない。
                  https://bit.ly/3m8lHQ5
─────────────────────────────
 この調査は、ICTの進捗をランキングしたものではありませ
んが、それらは「政府効率」や「ビジネス効率」に深くかかわっ
ています。事実上デジタル技術をあらわす「ビジネス効率」では
日本は63の国と地域中実に62位です。ビリから2番目の低さ
です。あまりにも無残なので、日本では、このIMDの調査結果
をあまり報道していないようです。
 日本政府は、2001年の「イー・ジャパン戦略」で、「5年
以内に日本を世界最先端のIT国家にする」と宣言しているので
す。5年以内といえば2006年ですが、20年経過した日本は
世界最先端どころか、ビリから2番目です。
 これに関連する日本の統計データにも大きな問題があります。
とくに厚労省がひどいのです。年金のデータからはじまって、つ
い最近でもこの役所では不正集計が明らかになっています。野口
悠紀雄名誉教授は、政府の統計データの整備に関して、次のよう
に不満を述べています。
─────────────────────────────
 日本は統計データがよく整備されている国だと言われてきた。
確かに、昔はそうだった。しかし、いまでは、大分怪しくなって
いる。2018年の12月から19年の1月にかけて、厚生労働
省が作成する毎月勤労統計の不正集計が問題となった。その結果
データの連続性が失われた。一部には修正がなされたのだが、長
期時系列データの1952〜2012年分は修正ができず、いま
だに空欄だ。
 だから、日本では、過去の賃金・就業データを用いて分析する
ことができない。厚生労働省は基礎的データの提供義務を果たし
ていない状態なのだ。こんな状態が許されていいものだろうか?
毎月勤労統計問題はわずか2年少し前のことなのに、もう忘れら
れてしまって、いまや誰も問題にしない。(中略)
 日本の生産性は、OECD諸国の中で最下位のグループだ。こ
の原因がどこにあるのか、はっきりわかった。日本ではデータが
利用できないのだ。「データの時代」に信じられないようなこと
だ。          ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
            『良いデジタル化/悪いデジタル化/
         生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
─────────────────────────────
 このようなデジタルをめぐる日本の惨状を明らかにしたのは、
今回のコロナ禍です。これに対応するため政府、とくに厚労省は
感染者情報管理システム「HER−SYS」、接触確認アプリの
「COCOA」、雇用調整助成金オンライン申請システム、医療
機関と行政の情報共有システム「G−MIS」など、次々と開発
しましたが、そのいずれも多くの問題が発生し、トラブルの原因
になっています。
 もともと厚労省関連のシステムは多いのです。2017年度の
政府IT予算の省庁別シェアによると、厚労省は37・6%を占
め、他省庁を圧倒しています。そもそも日本の省庁の役人は、I
CTに弱いですが、とくに厚労省の役人は、ICTがほとんどわ
かっていないといわれています。それは、コロナのためのシステ
ムが次々とトラブルを起こしているのを見ればよくわかります。
             ──[デジタル社会論V/008]

≪画像および関連情報≫
 ●世界競争力、「日本34位」の衝撃と真因/高津 尚志氏
  ───────────────────────────
   2019年5月末、「日本の競争力は世界30位、199
  7年以降で最低」という見出しが各種メディアで踊った。ニ
  ュースに触れた日本人の多くが衝撃的に受け止め、ブログや
  SNSを通じて様々なコメントが飛び出した。麻生太郎副総
  理兼財務大臣が「日本の競争力が低いと考えたことはない」
  と反論する場面も報道された。
   ことき耳目を集めたのは、スイスに本拠を構える世界トッ
  プクラスのビジネススクールIMDが発表した「IMD世界
  競争力ランキング2019」である。IMDは研究部門「世
  界競争力センター」が中心となって1989年から毎年、ラ
  ンキングを発表している。
   日本は開始当初の1989年から1992年まで1位を堅
  持したが、その後、徐々に降下。ついに2019年、調査対
  象63か国中30位となった。そして、2020年は34位
  である。
   しかし反応は、個人的な意見・感想・持論に終始した、あ
  るいは感情的なものが目立っていた。「競争力とは何か」、
  「なぜ低下したのか」「日本の課題と機会は何か」といった
  冷静で事実に基づく議論は極めて少なかった。同ランキング
  を発表するIMDの一員として、また、ひとりの日本人とし
  て、この状況はもったいないと感じた。世界63か国・地域
  を対象に、合理的手法を設計し、比較可能な指標を設定し、
  信頼性の高いデータを集めることで算出されるこのランキン
  グは、内容を丹念に精査すれば様々な示唆を与えてくれる。
  それを活用せず、素通りするほどの余裕は、日本にない。
                  https://bit.ly/3AKruPW
  ───────────────────────────
IMD/スイス.jpg
IMD/スイス
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2021年08月20日

●「省庁デジタル化が成功しない理由」(第5555号)

 「デジタルファースト法」という法律があります。行政手続き
をデジタル化し、電子行政を進めるための法律であり、安倍政権
で、2019年5月24日に参議院本会議で可決・成立していま
す。この法律に基づいて2024年度中に、行政手続きの90%
を電子化するための工程表「デジタルカバメント実行計画」が決
められています。
 このとき、一元化を主張したのは、当時の平井卓也IT担当相
(現デジタル改革相)であり、菅官房長官(当時)は平井IT担
当相に具体案の作成を命じた経緯があります。
 これを受けて内閣官房は、2020年度からIT調達の一元化
をやっとスタートさせ、2021年度予算では、約3000億円
を一括計上しています。これが来月のデジタル庁創設につながる
のです。
 しかし、日本政府はこれまで大金を投じて何回もデジタル化に
取り組み失敗を繰り返しています。ここまで述べてきたように、
日本政府は、20年以上かけて、「イー・ジャパン戦略」を含む
「電子政府」に比較的早い時期から取り組んでいるにもかかわら
ず、2020年度の電子政府世界ランキングにおいて14位とい
う振るわない結果に終わっていることは既に述べた通りです。
 どうしてうまくいかないのでしょうか。その原因を探るために
壮大な失敗に終わった2004年の「特許庁の基幹システム刷新
プロジェクト」の失敗の顛末を振り返ってみることにします。
 作り直す特許庁の基幹システムというレガシーシステムについ
て、「日経コンピュータ」は次のように説明しています。
─────────────────────────────
 特許庁の基幹系システムは、特許、実用新案、意匠、商標の知
財四権について、出願の受付、審査、登録といった基本業務を支
える。アプリケーションの開発規模は二千数百万ステップ。メガ
バンクの勘定系システム並みだ。当時のシステムは、NTTデー
タが開発したもの。特許庁はNTTデータと「データ通信サービ
ス契約」を交わし、1990年12月から利用してきた。データ
通信サービス契約とは、顧客向け業務システムを開発したITベ
ンダーがソフト/ハードの資産を所有し、機能だけを顧客に提供
する契約形態のこと。初期コストを抑えられる一方、開発・運用
コストの透明性を確保しにくい課題がある。
 特許庁がシステム刷新に踏み切ったきっかけは、政府が200
3年に発表した電子政府構築計画が示した、レガシーシステム刷
新の指針である。メインフレーム中心のシステムの開発や運用保
守を、特定のベンダーに長年にわたって任せてきたことがコスト
の高止まりにつながっているとし、システムのオープン化を求め
た。NTTデータとデータ通信サービス契約を結んでいた特許庁
も例外ではなかった。  ──日経コンピュータ編/日経BP刊
          『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか』
─────────────────────────────
 特許庁は、現行システム刷新の効果について、IBMビジネス
コンサルティングサービスに委託し、刷新の費用対効果は高いと
のコンサルティング評価を得ます。そんなことも実際にシステム
を使う立場の特許庁ができないのです。
 そのうえで、特許庁は、2004年4月にデータ通信サービス
契約の未払い分約250億円をNTTデータに支払っています。
そして、2006年1月にNTTデータとの契約を解除し、特許
庁は刷新準備を整えています。
 続いて調達仕様書を作成する必要があります。そのため、シス
テムに詳しい情報システム部門のAという職員とIBMビジネス
コンサルティングサービスに、調達仕様書の作成を委託したので
す。Aは開発要員ではなく、あくまで調達仕様書作成のスタッフ
としてIBMビジネスコンサルティングと組ませたのです。肝心
の特許庁のスタッフは、システムのことはわからないとしてこの
仕様書作りには参加していないのです。
 Aは従来の業務プロセスを全面的に見直し、通常2年かかる特
許審査の期間を1年に短縮することを目標にして、システム全体
に大幅な改定を行っています。システム設計としては当然のこと
です。しかし、すべての情報をXMLで管理するなど、技術的難
度の高い試みをあえて行っています。XMLは、文章の見た目や
構造を記述するためのマークアップ言語の一種で、主にデータの
やりとりや管理を簡単にする目的で使われ、記述形式がわかりや
すいという特徴があります。
 このようにして仕様書の骨子が固まると、Aは異動でプロジェ
クトを離れます。特許庁は、この調達仕様書に基づいて2006
年7月に入札を実施し、基本設計から詳細設計までを落札したの
は東芝ソリューション(現東芝デジタルソリューション)だった
のです。技術点としてはよくなかったが、入札価格が予定価格の
6割以下の99億2500万円であったので、それが決め手とな
ったのです。プロジェクトマネジメントの支援を請け負ったのは
総合コンサルティング会社アクセンチュアです。
 さて、システム刷新プロジェクトは、2006年12月から開
始されたのですが、最初からカベにぶつかったのです。刷新シス
テムは、従来の業務プロセスを全面的に見直すという前提になっ
ているのに対し、特許庁のスタッフは、それでは使いにくいとし
現行業務をそのまま踏襲するかたちで、新しいシステムを作って
欲しいという要求を出したのです。
 AとIBMビジネスコンサルティングの役割は、あくまで調達
仕様書の作成であり、会計課を通すものと考えており、実際のシ
ステムはわれわれ(特許庁)の意見を聞いてもらうという考え方
です。システムを構築する前から、実に無駄なことを積み重ねて
きているわけです。
 そのため、東芝ソリューションは、現行の業務フローを文書化
するため、2007年5月までに、スタッフを450人体制に増
強し、作業を行うことになったのです。その後の話は来週のEJ
で述べることにします。  ──[デジタル社会論V/009]

≪画像および関連情報≫
 ●政府の情報システム、全く使われず廃止/開発費18億円
  ───────────────────────────
   サイバー攻撃などによる情報流出を防ぐため、2017年
  度に運用開始された政府の情報システムが、使い勝手が悪い
  ため実際の業務に全く使われていなかったことが会計検査院
  の調べでわかった。今年3月に廃止され、システム開発費な
  ど計約18億円が無駄になったという。
   関係者によると、システムは「セキュアゾーン」と呼ばれ
  省庁が持つ企業情報などを管理する目的で、総務省が開発し
  た。インターネットから遮断された環境で情報を管理するの
  が特徴で、職員による情報の改ざんや外部への持ち出しも防
  ぐため、各省庁は専用回線からそれぞれの情報を閲覧する仕
  組みだった。
   開発のきっかけは15年、日本年金機構がサイバー攻撃を
  受け、約125万件の個人情報が流出した問題だ。公的機関
  へのサイバー攻撃の対策強化が急務となり、総務省は同年度
  システム開発費などを補正予算で計上。開発段階では厚生労
  働省や農林水産省が利用を希望していた。
   しかし、16年度に開発したシステムはセキュリティーを
  重視するあまり、データの閲覧はできるがダウンロードがで
  きない仕様だった。このため、実際の業務で資料作成などを
  する際は、職員がシステムのデータを再入力する必要があっ
  た。他の情報システムと連携できないなどの問題もあり、厚
  労、農水両省は導入を断念。17年度に運用開始された後、
  一度も実際の業務に使われず、検査院の指摘を受け、総務省
  が18年度末に廃止した。    https://bit.ly/3yUfhaJ
  ───────────────────────────
特許庁.jpg
特許庁
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2021年08月23日

●「特許庁基幹システム刷新の大失敗」(第5556号)

 「特許庁の基幹システム刷新プロジェクト」の失敗の顛末の続
きです。官庁の情報システムを刷新する場合、開発業者が入札し
た場合、その入札価格などについて、会計検査院の審査を通す必
要があります。
 そのため、特許庁はまずIBMビジネスコンサルティング(現
日本IBM)に委託して、基幹システムを刷新することが妥当で
あり、費用対効果が高いかどうかチェックさせ、調達仕様書づく
りに着手したのです。
 調達仕様書の作成についても特許庁は、システムに詳しくない
として、情報状システム部門のシステム設計に詳しいAという職
員を担当者として、これもIBMビジネスコンサルティングに委
託して、基本設計から詳細設計までを作成させています。そして
入札を実施し、東芝ソリューションが落札、会計検査院の審査を
クリアしています。なお、システム設計に関わったA職員は調達
仕様書が終了した時点で人事異動になっています。ここまでが先
週までのEJで述べたことです。
 プロジェクトは、2006年12月からスタートしましたが、
最初からつまずいたのです。システム設計に関わったAは、2年
かかっている特許審査を1年で完了させることを目標にして、業
務プロセスを大幅に変更する設計をしたのですが、特許庁のプロ
ジェクト関係者はこれを嫌い、現行業務の延長でシステムを開発
してほしいという要求を出してきたのです。設計とまるで異なる
特許庁からの要請です。
 東芝ソリューションとしては、まず現行業務の把握からはじめ
ることになり、大幅な人員増強を図ったのです。これについて、
日経コンピュータは次のように書いています。
─────────────────────────────
 東芝ソリューションは、遅れを取り戻すため、2008年には
1100〜1300人体制にまで増員した。人材派遣会社や協力
会社を通じて、大量の人材を集めたという。これが、さらなる混
乱をもたらした。「東芝ソリューションには、協力会社を含め多
数の開発要員を統率する経験がなかった」(関係者)。
 設計チームが入居していたビルは一気に手狭になり、机の1人
当たりのスペースは「ノートPCが1台置けるくらい」(同)に
縮小した。あるチームは現行の業務フローを反映した文書をひた
すら作成した。あるチームは特許に関わる法律をひも解き、業務
やデータベースの項目を洗い出した。成果物の基礎となる規約も
なく、成果物の質に大きなばらっきが生じるのは必然だった。工
数をかけずに低品質の文書を量産し、労せず利益を得る協力会社
もいた。「1日でフェラーリ1台に相当するカネが無駄に飛んで
いる」。プロジェクトに参加していた技術者の間ではこんな皮肉
が交わされていたという。
            ──日経コンピュータ編/日経BP刊
          『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか』
─────────────────────────────
 こういう状況が2年以上続いた2009年4月のことですが、
一向に進まないシステム開発の作業に対して特許庁はある決断を
します。調達仕様書を作成したA職員をプロジェクトに復帰させ
当初の設計に基づいて東芝ソリューションとシステムの開発をは
じめたのです。「現行業務の延長でシステムを開発せよ」という
ゴリ押しのために2年以上をムダにしましたが、これで、やっと
プロジェクトが回りはじめたと誰もが思ったのです。
 ただ元のシステムを構築し、そのシステムを熟知しているNT
Tデータをプロジェクトに加える必要が出てきたのです。そこで
アプリケーション開発をNTTデータに担当させることにすれば
問題を解決できると見込んだのです。
 ところが、2010年6月のことですが、とんでもないことが
起こったのです。2010年6月22日付、日本経済新聞の記事
を次に掲げます。
─────────────────────────────
◎特許庁技官を逮捕/NTTデータ部長から収賄容疑
 特許庁の業務システム計画を巡る内部情報を提供する見返りに
NTTデータ(東京・江東)部長から二百数十万円分のタクシー
運賃の支払いを受けたとして、警視庁捜査2課は22日、同庁技
官で先任審判官の志摩兆一郎容疑者(45)を収賄容疑で逮捕し
た。また、同社第1システム統括部統括部長兼営業担当部長、沖
良太郎容疑者(45)を贈賄容疑で逮捕した。
 同課によると、志摩審判官は「間違いない」と容疑を認め、沖
部長は「弁護士と相談して話す」と供述しているという。志摩審
判官の逮捕容疑は2005年8月〜09年11月、特許庁が導入
するコンピューターシステムに関する情報を漏らす見返りに、謝
礼として約70回にわたり沖部長からタクシーチケット約二百数
十万円相当を受け取った疑い。志摩審判官は沖部長側から飲食接
待を繰り返し受け、タクシーチケットは帰宅時に沖部長から受け
取り使用していた。──2010年6月22日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 ちょうどNTTデータをプロジェクトに参加させるかどうかの
検討をしていたときであり、そのことと関係があるかもしれない
事件です。なお、プロジェクトに戻されたA職員も入札前の情報
を東芝ソリューションに提供していた事実があったとして、プロ
ジェクトから再び外されたのです。
 そのため、プロジェクトは開店休業になり、先に進むことは困
難になったのです。2010年6月に発足した調査委員会の調査
を受けて、技術検証委員会は2012年1月に「開発終了時期が
見通せない」とする報告書を公開し、枝野幸男経済産業大臣(当
時)がプロジェクトの中止を表明しています。
 プロジェクト開始から5年が経過し、会計検査院は、54億5
100万円の資金を無駄な支出である「不当事項」と認定し、特
許庁の基幹システム刷新は大失敗に終わったのです。
             ──[デジタル社会論V/010]

≪画像および関連情報≫
 ●NTTデータ、贈賄社員の逮捕について社内調査結果を公表
  ───────────────────────────
   NTTデータは2010年9月6日、特許庁の職員に対す
  る贈賄の疑いにより社員が逮捕・起訴を受けた事案について
  社内調査した結果を公表した。
   6月22日に同社社員が逮捕されたことで、翌6月23日
  に社長を委員長とする「社内調査委員会」を設置し、社内調
  査を実施したとのこと。調査結果の公表とともに、この調査
  の妥当性等について「社外有識者検証委員会」が第三者の立
  場から検証を行った検証結果についても、合わせて公表され
  た。社内調査委員会では、本件事案に関する事実関係の社内
  調査および確認を行うとともに、他プロジェクトを含めた法
  令・企業倫理、社内規程・実施要領の遵守状況、内部牽制の
  有効性の検証、および再発防止策の策定が行われた。文書は
  18ページからなり、「概要および経緯」「調査体制」「事
  実」「原因および問題点」「類似事案の有無」「再発防止」
  の6項目で構成されている。これによると、特許庁職員は、
  2005年8月10日ころから2009年11月27日ころ
  まで、66回にわたり、タクシー乗車の利益(約256万円
  相当)の供与を受けていた。NTTデータ社員(元第一シス
  テム統括部長兼営業担当部長)は、2007年8月29日こ
  ろから2009年11月27日ころまで、37回にわたり、
  (うち10回は別社員と共謀して)、タクシー乗車の利益、
  約148万円相当)を供与していた。
                  https://bit.ly/2XEdiKa
  ───────────────────────────
特許庁基幹システム刷新開発プロセス.jpg
特許庁基幹システム刷新開発プロセス
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2021年08月24日

●「システムを業者に丸投げする仕組」(第5557号)

 8月21日のことです。朝日新聞の第1面に次のタイトルの記
事が掲載されたのです。
─────────────────────────────
      ◎五輪アブリ
      内閣官房調査/職員、見積もり漏らす
           ──2021年8月21日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 ちょうどEJは、テーマとして日本政府のデジタル化の問題を
取り上げています。特許庁の基幹システム計画については、5年
という年月と54億5100万円という巨額の資金を無駄にして
結局開発中止に追い込まれています。しかも、特許庁技官の3名
が収賄容疑で逮捕されるという深刻なおまけ付きです。
 この五輪アプリの事件について検討する前に、前提条件として
知っておくべきことから述べることにします。
 日本がデジタル化に遅れていることは、誰でも知っていること
ですが、1970年代から80年代にかけては、日本はデジタル
化において世界のトップにいたのです。このようにいうと、ウソ
だと思う人もいると思いますが、本当のことです。日本が世界を
リードしていたデジタルイノベーションの例を以下に上げてみる
ことにします。年代はおおよそです。
─────────────────────────────
     @液晶ディスプレイ     1968年
     Aリチウムイオン電池    1979年
     Bスーパーコンピュータ   1970年
     C光媒体          1972年
     DQRコード        1992年
     Eデジタルカメラ      1970年
     FDVD          1990年
     G非接触ICカード技術   1995年
     H太陽電池セル       1955年
     I多機能携帯電話      1996年
                  https://bit.ly/3D2NmYO
─────────────────────────────
 1900年代は、これほど日本初のデジタル技術があるのに、
なぜ日本のデジタル化(情報技術)は遅れているのでしょうか。
 情報技術は、1980年代を境に大きく変貌したのです。それ
以前のデジタルシステムは、メインフレームコンピュータを中心
とするシステムのことです。メインフレームコンピュータとは、
大組織の基幹業務用などに使用される、いわゆる大型コンピュー
タのことです。
 ところが1990年代以降に米国を中心にIT革命が進展し、
コンピュータの仕組みが大きく変化することになります。PCが
導入され、オープンな仕組みが採用されることになったのです。
オープンな仕組みとは、公開(オープン)されている仕様に準拠
したソフトウェアやハードウェアを利用することで、異なるベン
ダーを組合せて構築されたシステムのことです。
 ちなみに、ベンダーとは「売り手」を指す言葉です。売り手で
あるベンダーがソフトウェアなどを作っている場合は製造者(メ
ーカー)ともいいます。一方で、自分で製造せず、どこか別のと
ころから仕入れている場合もありますが、これもベンダーと呼ば
れるのです。
 メインフレームの場合は、1社のみのハードウェアおよびソフ
トウェアで構成されることが多かったのですが、オープンシステ
ムになると、マルチベンダーになることが多くなります。
 このようなオープンシステムを組織化する役割を担う業者のこ
とを「SIer/エスアイヤー」と呼んでいます。日本の有力な
SIerとしては、富士通、日立製作所、NTTデーター、NT
Tコミュニケーションズ、NEC、IBM、日鉄ソリューション
ズなどがあります。
 SIerの「SI」とは、システムインテグレーションの略で
あり、コンピュータやソフトウェア、ネットワークなどを組み合
わせて利便性の高いシステムを作ることです。顧客のシステムイ
ンテグレーションを一括で受託する専門事業者をシステムインテ
グレーターと呼びます。
 しかし、日本の場合の問題点として、野口悠紀雄名誉教授は次
のように述べています。
─────────────────────────────
 問題は、日本の場合には組織とSIerが固定的な関係になっ
てしまうことだ。こうなる大きな理由は、組織のトップにITの
知識を持った人が少なく、SIerに丸投げしてしまう場合が多
いことだ。SIerとしては、より効率的な仕組みを作るよりは
従来の仕組みを維持し、それを更新し続けることによって利益を
得ることに関心が向く。このようにして、組織別のバラバラな仕
組みが温存され、全体としての最適化が達成されない事態が生じ
たのである。      ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
            『良いデジタル化/悪いデジタル化/
         生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
─────────────────────────────
 最大の問題は、省庁やユーザー企業の情報部門にITエンジニ
アが少なく、どうしてもSIerに丸投げしてしまうことです。
諸外国の場合は、ユーザー企業に多くのITエンジニアを抱えて
おり、開発を主導しているので、社内へのノウハウの伝播が容易
であり、社内にノウハウが蓄積されるのです。
 これに対して日本の場合は、ITエンジニアがSIerやベン
ダーに所属しているので、開発に当たってはどうしてもSIer
やベンダー主導になってしまう。もちろんユーザー企業では、I
Tエンジニアは育たないし、システム開発のノウハウもユーザー
企業に残らないのです。こういうやり方なので、ユーザー企業と
SIerが癒着してしまうのです。
             ──[デジタル社会論V/011]

≪画像および関連情報≫
 ●「日本のシステム業界は丸投げ文化である」
  ───────────────────────────
   開発の実態として丸投げが横行していることは多くの関係
  者が認めるところである。それにもかかわらず、本当の当事
  者はそれを認めたがらないため、状況は改善されない。
   ユーザ企業側で、丸投げにより恩恵にあずかれるのは発注
  担当者だけである。実質的に何も仕事をしなくてもSIベン
  ダからお殿様扱いされ、システムができあがっているのだか
  ら、こんな楽なことはない。
   仕事の流れは単純だ。ユーザ企業の発注担当者は発注権限
  に基づき発注を行うが、要件定義書ひとつ作成するわけでは
  ない。せいぜい、数枚程度のメモ書きのようなものがあるだ
  けである。お抱えの元請けベンダの営業マンも慣れたもので
  ある。仕様もあいまいなままに「なんとかしましょう、お任
  せください」を通用させてプロジェクトをスタートさせてい
  く。スタートのいいかげんさが後に尾を引くことは誰もが経
  験していることであろう。度重なる仕様の追加要求を「ご無
  理、ごもっとも」とばかりに受け入れ、際限なくプロジェク
  トのスコープは膨張していく。それでも、なんとか、とにも
  かくにも納品までこぎ着け、営業マンは次の仕事を頂戴しに
  行くわけである。
   その結果、割を食うことになるのは、SIベンダの技術者
  とシステムのエンドユーザ、そしてユーザ企業の経営者であ
  る。開発メンバには無理が、ユーザ企業にはさまざまな意味
  で損害が襲いかかってくる。   https://bit.ly/2XQhw1v
  ───────────────────────────
野口悠紀雄名誉教授.jpg
野口悠紀雄名誉教授
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2021年08月25日

●「五輪アプリはどのようなアプリか」(第5558号)

 「五輪アプリ/内閣官房調査」/職員、見積もり漏らす」につ
いて書くことにします。情報については、ネット上から入念に集
めたものです。2021年2月21日付の京都新聞が、はじめて
次の記事を掲載しています。
─────────────────────────────
 衆議院の集中審議で気になる質疑があった。「政府は東京五輪
・パラリンピックの観客向けにアプリを開発しているというが、
費用はいくらなのか」
 立憲民主党議員の質問に対する政府の答えは、「約73億円」
だった。内閣官房審議官の説明では、外国からの観客の健康管理
が目的で、訪日前から出国後まで持たせるという。国内向けの接
触確認アプリCOCOAの開発費は約3億9千万円だった。
 なぜこんなにかかるのか。菅義偉首相の答弁は「正確な数字は
知らなかった」。まるで人ごとだ。
           ──2021年2月21日付の京都新聞
                  https://bit.ly/3mop6KW
─────────────────────────────
 この「五輪アプリ」の発注元は内閣官房IT総合戦略室です。
一体どのようなアプリを作ろうとしていたのかについて、以下に
まとめることにします。
 五輪アプリの目的は、海外からの五輪観戦の健康管理です。入
国希望者は、ビザ申請時に同アプリをインストールしてもらい、
来日前の14日間、アプリ上で体温を記録します。ビザ申請時に
記入したパスポートナンバーや滞在中の移動計画、名前、住所、
国籍などもアプリにひも付けます。
 日本に入国後、日々の体温を入力してもらい、高熱が続いた場
合は、アプリ側で警告するとともに、関係機関への連絡とPCR
検査を促します。この検査で陽性反応が出た場合は、厚生労働省
の「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム」
(HER−SYS/ハーシス)にアプリの情報を引き継ぎます。
 ユーザーの位置情報はGPSを使ってスマホ内部にストックし
ておき、これはPCR検査が陽性になったときの調査に使われる
ことになっています。
 五輪アプリは、出入国管理や五輪の競技会場への入退場などに
も活用されます。具体的には、外務省のビザ発給システムと連携
し、アプリ内からビザの申請を受け付けるようにします。また、
空港の検疫や税関、入国管理で本人情報をQRコードを使って表
示する機能や、競技会場の入退場に活用する顔認証システムと連
携させ、現地スタッフがユーザーの健康確認を「○」「×」など
で分かりやすく表示する機能も付いています。
 ユーザーの多くが海外からの訪日外国人であると想定されるこ
とから、多言語サポートも充実させます。英語、中国語、韓国語
フランス語、スペイン語への対応を必須としています。五輪アプ
リの機能の概要は以上の通りです。
 五輪アプリの予算が73億円という巨額になったことについて
平井卓也デジタル改革担当相は、2月24日の会見において、次
のように答えています。なお、この時点では、海外からの観戦客
の受け入れ断念の決定は出されていないのです。
─────────────────────────────
 高いか安いかは簡単に申し上げられないが、必要な経費を合計
した金額だ。サポートセンターの構築などの多言語対応、GDP
R(EU一般データ保護規則)への対応に費用がかかるため、C
OCOAとは比較できない。 ──平井卓也デジタル改革担当相
─────────────────────────────
 それでは、どこが受注したのかです。一般競争入札を経て、内
閣官房IT総合戦略室は、2021年1月14日に契約を締結し
ています。受注社は次の通りです。この契約締結の仕方が後で問
題になります。
─────────────────────────────
NTTコミュニケーションズと数社で構成するコンソーシアム
─────────────────────────────
 しかし、3月20日になって、海外からの観戦客の受け入れが
断念されます。これについて、国民民主党の伊藤孝恵参院議員は
五輪アプリの今後の運用について、質問主意書を提出。これにつ
いて政府は、次のようにゼロ回答を出しています。開発をやめる
気はないようです。
─────────────────────────────
 現在、運用方針などの見直しを検討中であり、現時点でお答え
することは困難である。          ──政府の答弁書
─────────────────────────────
 この五輪アプリの入札は、競争入札といっていますが、応札し
たのは1社です。問題になったのは、入札の公示が12月28日
で、技術提案書の締め切りは1月8日だったことです。これにつ
いて、立件民主党の川内博史衆院議員が、3月31日の衆院内閣
委員会でそのことを正すと、平井卓也デジタル改革担当相は、次
のように答弁しています。
─────────────────────────────
 スケジュール的には、異例中の異例で、確かにタイトでありま
すが、関係法令に基づいたという意味では適法です。
              ──平井卓也デジタル改革担当相
─────────────────────────────
 五輪アプリの受注事業体は「NTTコミュニケーションズと数
社で構成するコンソーシアム」となっていますが、このなかにN
ECも入っているのです。これが、後で出てくる平井デジタル改
革担当相のNECへの恫喝発言につながってくるのです。
 なお、これらの元受の共同事業体から37社への再委託が行わ
れており、依然として、ここまで述べてきた通りの政府システム
構築手法がとられていることには注目すべきです。案の定この入
札方式が後で大いに問題になってくるのです。
             ──[デジタル社会論V/012]

≪画像および関連情報≫
 ●オリパラアプリ73億円!?
  ───────────────────────────
   1月に発注してすでにほぼ開発は終了しているそうですが
  ということは2月から開発開始したとすると4ヶ月程度の期
  間で出来たことになり、月あたり約18億円、1日あたり約
  9000万円の計算になります。アプリ開発は大半が人件費
  のはずですが、仮に100人で開発したとしても単純計算で
  一人あたり日給90万円になります。
   最近はめっきり話題にもならないあのCOCOAは開発費
  4億円弱だったそうですが、それでもべらぼーに高いと思っ
  ていました。73億円という金額について政府担当者は高く
  ないと言っているようですが、私の個人的な予想ではオリン
  ピック開催間際にリリースしても「ぶっつけ本番」のような
  もので、運用後に発生した不具合を対策しているうちにオリ
  ンピックは終了しているような気がします。いったい国民の
  税金を何だと思っているのでしょうか。
                  https://bit.ly/3B3mPbW
  ───────────────────────────
五輪アプリの全体図.jpg
五輪アプリの全体図
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2021年08月26日

●「IT総合戦略室民間メンバー疑惑」(第5559号)

 オードリー・タン氏といえば、台湾のIT担当大臣(デジタル
担当政務委員)です。1981年生まれの40歳という若さ。大
臣に就任したのは5年前なので、35歳で大臣になったことにな
ります。IQ180以上の天才プログラマーとして知られ、米シ
リコンバレーでの起業経験もあるITの申し子です。若いけれど
も、ITのプロフェッショナルです。
 これに対して、日本のIT担当相はどうでしょうか。
 現在の担当は、平井卓也デジタル改革担当相ですが、初代は、
サイバーセキュリティ担当大臣として桜田義孝氏が70歳で初入
閣しています。国務大臣として「東京オリパラ競技大会担当」な
どとの兼務としてです。ITは全くの素人で、PCを使ったこと
がない人物です。
 続いて竹本直一氏がIT政策担当相として就任しています。こ
の人は79歳で、ITはズブの素人。それにしても、日本政府は
どうして、ITに詳しくない、明らかにITに向いていない人ば
かりをIT担当大臣に任命するのでしょうか。
 それは、IT担当相というポストは、長年議員をやっていても
大臣になれない議員に対して就任させるポストの1つだったから
です。つまり、それほど、IT担当相というポストが軽いポスト
だったことを意味しています。この経緯を見ても、日本にとって
ICTというものが、現在はともかくとして、いかに低い位置づ
けであったかがわかります。
 これに比べると、現在のデジタル改革担当相の平井卓也氏は電
通出身ですが、ITの世界に通じている人物です。そのため、自
民党内ではITにもっとも詳しく、2009年には自民党広報戦
略局長・IT戦略特命委員長に就任しています。
 2018年10月にIT担当相に就任しましたが、国の行政手
続きを原則電子化する「デジタルファースト法」と、この法律に
基づき、2024年中に9割を電子化する工程表「デジタル・ガ
バメント実行計画」が2019年5月に成立したとき、その前提
になるIT調達予算の一元化を主張した平井氏に対し、当時の菅
官房長官はその具体策の策定を命令した経緯があります。そして
菅内閣発足時に、平井卓也氏はデジタル改革改革相として入閣し
ています。デジタル庁の創設が前提の人事です。
 しかし、いわゆる担当大臣というのは、大きな仕事をやるには
やりにくいポストであるといえます。平井氏のポストの正式名称
は「内閣府特命担当大臣」であり、その担当名が「情報通信技術
(IT)政策担当」なのです。厚労相や総務相のように直接的な
手足(組織)があるわけではなく、内閣官房IT総合戦略室(以
下、IT総合戦略室)という組織を使って仕事をすることになり
ます。直接の部下ではないものの、担当職務に関して、責任は大
臣にあります。
 しかし、五輪アプリの発注が問題になったとき、平井デジタル
改革担当相は、その詳細を聞かされていなかったようです。この
ことについて、ネットの情報誌「デイリー新潮」は、次のように
書いています。
─────────────────────────────
 平井さんは担当大臣なのに、実は質問されるまで発注の事実を
まったく知らなかったんです。首相補佐官の和泉洋人さんがIT
室の一部のメンバーと、業者選定や金額の割り振りまで決めてい
ました。しかも、観戦客を含めて海外から来る120万人が使用
するという触れ込みだったのに、海外からの観戦客はゼロになり
ましたから、アプリは無用の長物と化していたのです。
       ──「デイリー新潮」 https://bit.ly/3gr7jyH
─────────────────────────────
 どうしてこのようなことが起きるのでしょうか。官邸には新任
大臣なんかよりもはるかに力を持った役人が勝手なことをやって
いるのです。ましてIT担当相がITがよくわかっていない場合
は、事実上、IT総合戦略室がすべてをやらざるを得なくなるの
です。だが今回の五輪アプリの発注、入札のやり方などに疑惑が
出てきたのです。一体何があったのでしょうか。2021年6月
23日付の「デイリー新潮」の記事を参照にして要約します。
 IT総合戦略室に室長代理を務める神成淳司慶應義塾大学教授
がいます。神成教授は、7年前にIT総合戦略室に入り、今では
幹部のなかでは、唯一の民間メンバーです。五輪アプリについて
は、全体を管理する担当者です。
 2021年1月末のことです。五輪アプリについて、事業者選
定のプロセスについて、国会で、野党による追及が行われたので
す。事業自体が73億円と高額であることと、入札公示から提案
書提出期限まで実質10日ほどしかなかったことから、「出来レ
ースではないか」と突っ込まれたのです。
 これを受けて、平井デジタル改革担当相サイドが内々に調査を
行ったところ、今回落札した事業体(NTTコミュニケーション
ズと数社で構成するコンソーシアム)に、神成教授と密接な関係
の業者が含まれていたことがわかったのです。
 密接な関係の業者の1社はNECです。神成教授は、NECの
子会社であるNECソリューションイノベータ社と研究を共にし
共同で特許技術を開発する関係にあったのです。そして、もう1
社がアプリの連携基盤サービスを担当するJBS(日本ビジネス
システムズ株式会社)です。このJBSと神成教授との関係につ
いて「デイリー新潮」は次のように書いています。
─────────────────────────────
 JBSは、実務を「ネクストスケープ」なる会社に委託。この
ネクスト社は神成教授が代表を務める別の事業におけるビジネス
パートナーに当たり、教授と同社の社長はメディアで対談まです
る仲なのだ。つまり、このプロジェクトの指揮を執った神成教授
と非常に親しい業者が複数、事業体に含まれていることになる。
                  https://bit.ly/3j8RBdw
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/013]

≪画像および関連情報≫
 ●海外客断念なのに73億円「五輪アプリ」の見直し迷走中
  ───────────────────────────
   東京五輪・パラリンピックの新型コロナウイルス対策とし
  て、訪日観戦客の健康管理を行うアプリの開発が迷走してい
  る。3月に海外からの観戦受け入れを断念した後、政府が利
  用の仕方を決めかねているためだ。この「オリパラアプリ」
  は、開発する民間企業への委託費約73億円に対して当初か
  ら「高額だ」との批判が上がっていたが、政府は現時点で事
  業の凍結に向かわず継続する方針だ。(坂田奈央)
   3月20日に海外からの観戦受け入れ断念が正式決定した
  のを受け、国民民主党の伊藤孝恵参院議員はオリパラアプリ
  の今後の運用について質問主意書を提出した。これに対し政
  府が今月2日に閣議決定した答弁書は「運用方針などの見直
  しを検討中で、現時点でお答えすることは困難だ」と実質ゼ
  ロ回答だった。
   新たなアプリの利用方法が定まらないのに、政府は事業を
  継続する方針を崩していない。平井卓也デジタル改革担当相
  は「大枠については変更ない」と強調している。
   当初想定していたアプリは、訪日観戦客の健康状態の管理
  や記録のほか、感染が疑われる場合は警告するなどの機能が
  備わっていた。利用者は海外からの観戦客約80万人、大会
  関係者約40万人の計120万人を想定していたが、海外か
  らの受け入れ断念で計画は頓挫している。
                  https://bit.ly/3kmIuoK
  ───────────────────────────
オードリー・タン氏(台湾).jpg
オードリー・タン氏(台湾)
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2021年08月27日

●「平井大臣がNECを恫喝した理由」(第5560号)

 昨日のEJの内容を少しまとめます。五輪アプリ(オリパラア
プリ)の発注元は、内閣官房IT総合戦略室(以下、IT総合戦
略室)ですが、この組織の室長代理を務める民間出身の慶應義塾
大学教授の親密企業が、受注事業体のなかに入っていたことが問
題になっています。この情報を伝えたのが『週刊新潮』2021
年7月1日号です。
 教授の氏名は、神成淳司氏です。今回落札した事業体は(NT
Tコミュニケーションズと数社で構成するコンソーシアム)です
が、神成教授は、受注事業体のNECの子会社であるNECソリ
ューションイノベータ社と研究を共にし、共同で特許技術を開発
する関係にあり、もう1社のアプリの連携基盤サービスを担当す
るJBSの委託先のネクスト社は、神成教授が代表を務める別の
事業におけるビジネスパートナーであることもわかっています。
 まだ、疑惑があります。上記の『週刊新潮』は、次のように書
いています。
─────────────────────────────
 更には、アプリ事業で2億円が支払われる見積もりが出されて
いたライセンスの一つが、教授が関わったものであることも、わ
かった。これでは落札過程に疑念を抱かれても仕方ありませんし
万が一、受注したことで何らかの利益が教授に入ることになれば
利益相反すら疑われてしまう。
          ──『週刊新潮』/2021年7月1日号
─────────────────────────────
 このような疑惑が公表されたことにより、IT総合戦略室は、
平井デジタル改革相の指示により、弁護士4人を交えた調査チー
ムを7月に設置し、調査をしてきたのです。そして、8月20日
に五輪アプリに関する調査結果を公表しています。
 これによると、2021年8月21日付の朝日新聞は、次の記
事を配信しています。
─────────────────────────────
 ◎報告書「国民の疑念を招く
  五輪アプリ「不適切」再発防止求める
 東京五輪・パラリンピック向けアプリ(通称オリパラアプリ)
の発注プロセスを検証した報告書が8月20日に公表された。内
閣官房IT総合戦略室幹部らが、公正な入札を装うような対応を
していた。デジタル庁の9月発足に向け、検証と再発防止が重い
課題となる。     ──2021年8月21日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 契約は3社による競争入札になっているのですが、実は発注先
はあらかじめ決めておき、かたちだけ競争入札のかたちをとった
ことが、この報告書で明らかになっています。IT総合戦略室は
3社と連絡をとり、おおよその金額も示して見積書を送るよう要
請しています。そのさい既に提出されている他社の見積書をLI
NEで送付し、3社分の見積書を揃えて、3社の競争入札のかた
ちを整えています。の間の事情について朝日新聞は、次のように
報道しています。
─────────────────────────────
 「この見積もり項目そのままで大丈夫です。これぐらいの荒さ
です。税込み70にまとめていただけると助かります」。報告書
によると、IT室の担当者は、別の会社の参考見積書をLINE
で送り、他社に70億円での見積書の提出を依頼していた。(一
部略)IT室の担当者は、見積もりの提出を拒んだ企業に「押印
もいらないし、担当者の名前もいらない」などと、しつこく頼ん
でいた。報告書は、「入札方式による調達手続きに関わる者とし
ての意識を欠いたものといわざるを得ない」と批判した。
           ──2021年8月21日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 ここで考えるべきことがあります。それは、この五輪アプリの
開発と、6月11日付の朝日新聞朝刊がスクープして話題となっ
ている平井卓也デジタル改革担当大臣の会議でのNECに対する
恫喝発言との関連です。
─────────────────────────────
 デジタル庁はNECには死んでも発注しないんで。場合によっ
ちゃ出入り禁止にしなきゃな。このオリンピック(アプリ)であ
まりぐちぐち言ったら完全干すからね。一発遠藤のおっちゃんあ
たりを脅しておいた方がいいよ。どっかさ、象徴的に干すところ
を作らないとなめられちゃうからね。運が悪かったってことにな
るね。やるよ本気で、やる時は。払わないよNECには基本的に
は。         ──2021年6月11日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 この恫喝発言は、平井デジタル改革担当相がIT総合戦略室の
メンバーとのオンライン会議で飛び出したものです。ここでいう
「遠藤のおっちゃん」とは、遠藤信博NEC会長のことです。
 平井大臣は、なぜNECに怒っているのでしょうか。
 そもそもこの契約のメインは、NETコミュニケーションズで
あって、NECはわき役に過ぎません。「デイリー新潮」による
と、73億円中、NTTコミュニケーションズの取り分は45億
7600万円で、NECの取り分はわずか4億9500万円でし
かないのです。
 それが海外の観戦客受け入れが中止になって、NECのAIに
よる顔認証システムが不要になり、全体の予算が38億円に減額
され、NECの取り分がさらに減り、NECとIT総合戦略室の
間で何らかのトラブルがあったものと考えられます。平井大臣の
恫喝発言は、それに原因しているのではないかと考えられます。
 しかし、平井大臣は、IT総合戦略室の幹部とともに、NTT
の接待を受けており、NTTに相当肩入れしていることが考えら
れます。それにしても「デジタル庁は死んでもNECに発注しな
いし、完全に干してやる」という発言は、国務大臣の発言として
はきわめて不適切であると考えます。
             ──[デジタル社会論V/014]

≪画像および関連情報≫
 ●平井デジタル相の「恫喝」発言を、このまま個人の問題で
  終わらせてはいけない
  ───────────────────────────
   平井卓也デジタル改革担当相が、東京五輪向けのアプリ発
  注に関して、受注企業への恫喝を示唆する発言を行ったこと
  が問題視されている。平井氏への批判が高まっているが、少
  し視点を変えるとさまざまなことが分かってくる。
   発言は4月に行われた内閣官房IT総合戦略室における幹
  部会議のもので、本来は非公開だが音声が外部に流出した。
  平井氏は、「NECには死んでも発注しない」「象徴的に干
  すところを作らないとなめられる」「脅しておいたほうがい
  い」などと発言しており、相手を恫喝するよう職員に指示し
  たとも受け取れる。
   直接、事業者を脅したわけではないが、大臣として不適切
  であることは言うまでもない。だが、この発言を少し角度を
  変えて眺めてみると、さまざまな解釈ができる。「事業者か
  らなめられる」「脅しておいたほうがよい」といった言葉は
  裏を返せば、官庁側がIT事業者をうまくコントロールでき
  ていない現状をうかがわせる。実際、官庁側がIT事業者を
  制御できず、一部で法外な支出を強いられているというのは
  長年、問題視されてきたことである。2001年には公正取
  引委員会が「1円入札」問題について調査し「注意」を行っ
  たこともある。「注意」は独占禁止法に基づく公式な処罰で
  はないが、それに準じる重みを持つ。
                  https://bit.ly/3koFGaU
  ───────────────────────────
朝日新聞/週刊新潮.jpg
朝日新聞/週刊新潮
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2021年08月30日

●「平井大臣へのNTT接待のねらい」(第5561号)

 今年の3月のことですが、衆院予算委員会にNTTと東北新社
の経営トップが参考人招致され、集中審議が行われたことを覚え
ている人は多いと思います。メインは東北新社の外資規則違反問
題です。この問題を総務省が意図的に見逃したのではないかとの
疑惑が膨らんだからです。この事案には、東北新社に菅首相の長
男が勤務しており、接待の関係者であったことから、大きな話題
になったのです。この接待問題がNTTによる平井卓也デジタル
担当相に対する接待問題に飛び火します。これに関し2021年
6月25日付の朝日新聞デジタルは次のように報道しています。
─────────────────────────────
 平井卓也デジタル改革担当相は25日の閣議会見で、NTT幹
部と8回の会食をしたと明らかにした。このうち2回は昨年9月
の大臣就任後だったが、会費は割り勘で支払ったとし、「大臣規
範にのっとった対応をしており、国民から疑念を招くようなこと
をしていない」と主張した。
 24日発売の週刊文春は、平井氏がNTT会長の篠原弘道氏や
社長の澤田純氏から高額な接待を受けていたと報じた。平井氏は
会見で、会食した事実は事実を認めたうえで、「私と出席した事
務方の分は(費用を)きっちり払っている」と述べた。会食の理
由は「最先端の技術と今後のデジタル改革の方向性についての意
見交換」と説明した。双方の参加者名は明らかにしなかった。
 国家公務員倫理規程は、利害関係者からの接待を禁じ、割り勘
でも1回1万円超の会食は事前に届ける必要がある。文春が同席
した可能性があると報じた官僚について、内閣官房IT総合戦略
室は「担当者が不在」として、取材に応じていない。
       ──2021年6月25日付、朝日新聞デジタル
                  https://bit.ly/3mEzVZv
─────────────────────────────
 先週のEJでも述べたように、五輪アプリの構築についてのN
ECとNTTコミュニケーションのいわゆる”取り分”は、NE
Cが4億9500億円であるのに対して、NTTコミュニケーシ
ョンは45億7600億円と大きな差があります。
 「デジタル新潮」によると、内閣官房IT総合戦略室の関係者
の言として、次のように伝えています。
─────────────────────────────
 むしろNTTコム(NTTコミュニケーション)の方が問題で
す。再委託先に仕事の大半を投げていて、その金額は13億円あ
まり。そのほか、プロジェクトの管理だけで、別途10億円の予
算をつけています。「管理」とは名ばかりで、幹部連中が集まっ
て、進行状況を会議で話しているだけなのですが・・・。それで
満足したのか、NTTコムの方が減額要求にはすぐに応じたと聞
いています。  ──2021年6月15日付「デイリー新潮」
─────────────────────────────
 平井卓也デジタル改革相がNECに怒りをぶつけている理由と
思われるのは、厚労省がNECに発注したワクチン接種円滑化シ
ステム(V−SYS)の不具合にあるのではないかといわれてい
ます。平井デジタル改革相がNECへ「恫喝発言」を行ったのは
今年の4月上旬のことであり、ワクチン配付がV−SYSのトラ
ブルで停止した時期とほぼ一致しているからです。ちなみにこの
システムは随意契約で20億5876億円です。
 ところで、平井デジタル改革担当相がNTTに接待を受けたこ
とについて、「私と出席した事務方の分は、(費用を)きっちり
払っている」といっていますが、ここで平井氏が、「事務方」と
いっている人物について情報があります。これは、「週刊文春」
が入手したNTTの内部資料によって判明したものです。
 それは、内閣官房IT総合戦略室の向井治紀室長代理です。な
ぜ、この情報が重要なのは、2020年10月から平井大臣と一
緒に3か月連続で接待を受けているからです。2020年10月
といえば、菅内閣発足直後です。既にこのとき、菅首相はデジタ
ル庁の創設を決め、平井デジタル改革担当相に準備を指示してい
ます。NTTからの接待はこの時期に行われており、そのとき平
井大臣と同行した人物は、実質的に国のデジタル政策を策定する
キーマンであるといえるからです。
 向井治紀氏は、東京大学法学部卒業後、旧大蔵省に1981年
に入省し、太田充前財務次官はその2年後輩に当たります。内閣
府関係者は、向井治紀氏について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 向井氏は理財局次長などを経て、2010年から内閣官房でマ
イナンバー制度の立ち上げなどに携わってきました。霞が関では
「ミスター・マイナンバー」の異名を持つ人物です。現在は今年
9月に発足予定のデジタル庁の設置準備を担う内閣官房IT総合
戦略室の室長代理と、内閣府番号制度担当室長を兼務している。
マイナンバーはデジタル庁に一元化されることもあり、平井卓也
デジタル相は向井氏を側近として重用しています。
      ──2021年6月30日付、「文春オンライン」
─────────────────────────────
 朝日新聞の伊藤裕香子朝日新聞社編集委員は、2020年11
月4日に開催された向井治紀氏の「デジタル庁とマイナンバー」
と題する講演について次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 デジタル庁は「これまでと全く違う、現場第一主義の社会に実
装する謙虚な組織」とし、マイナンバーは、セキュリティー、利
便性、コスト安の3つを同時に進めると話す。使命は、コストの
かからない社会をつくること。新組織の形態や、マイナンバーカ
ードで広がるサービス内容など、具体的な制度設計への言及も、
盛りだくさんにあった。便利はリスクと裏表の関係にあり、暮ら
しに身近な話題だけに、多くの質問が寄せられた。
                  https://bit.ly/3kozShG
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/015]

≪画像および関連情報≫
 ●デジタル庁で、日本の「デジタルの未来」は本当に良い
  方向へ変わるのか?
  ───────────────────────────
   さて、デジタル庁について考える前に、この6月に噴出し
  た平井卓也デジタル改革担当相の醜聞について触れないわけ
  にはいきません。ごく簡単にまとめさせていただきます。
   まず、NEC恫喝(どうかつ)問題です。オリパラ向けに
  政府が発注したアプリの事業費削減をめぐる内閣官房IT総
  合戦略室の会議で、平井大臣が「NECには死んでも発注し
  ない」「どこか象徴的に干すところをつくらないとなめられ
  る」と発言し、さらに幹部職員にNECを「脅しておいて」
  と求めたことを示す平井大臣の音声が流出しました。
   背景としては、オリパラに向けて海外から来る120万人
  が使用する予定だったアプリの開発費73億円が、海外から
  の観戦客がゼロになったことで急きょ、IT事業費の削減に
  ついて話し合われたもようで、恫喝があったのかどうかはう
  やむやですが、結果として政府はその後38億円に費用を減
  額したと発表しています。
   このニュースを見ると、発注した費用を後から値切る、象
  徴的に干す相手を作って他社の価格も抑えるというのがデジ
  タル大臣の手法に見え、不安を感じます。続いて平井大臣と
  内閣官房IT総合戦略室の幹部がNTTから何度も接待を受
  けていたことが判明し、巨額の発注も行われていたことが報
  道されます。さらには平井大臣が親密なITベンチャー企業
  をごり押しする音声が判明し、のちに大臣規範に抵触する形
  でそのITベンチャーの株を平井大臣が購入していたことま
  で表に出ます。         https://bit.ly/3BdJPVN
  ───────────────────────────
向井治紀氏.jpg
向井治紀氏
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2021年08月31日

●「デジタル庁創設をめぐるゴタゴタ」(第5562号)

 8月28日付、朝日新聞に内閣官房IT総合戦略室幹部の処分
の記事が出ているので、ご紹介します。この記事は他紙にも出て
いると思いますが、日本経済新聞は完全スルーです。9月1日の
デジタル庁創設の直前であり、重要ニュースのはずですが、無視
です。この新聞は、政権に都合の悪いことは重用ニュースであっ
ても書かない方針のようです。
─────────────────────────────
◎IT室幹部ら6人処分/五輪アプリ不適切入札で
 東京五輪・パラリンピック向けアプリ(通称オリパラアプリ)
の発注を巡る問題で、内閣官房IT総合戦略室は27日、発注に
関わった幹部職員らの処分を明らかにした。調達の公平性に、国
民の疑念を生じさせかねないとして、訓告などの処分にした。
         ──2021年8月28日付、朝日新聞朝刊
─────────────────────────────
 「3社からの競争入札」のかたちを整えるために、事前に金額
を指示し、他社の見積書も参考に送付するなど、きわめて不適切
な発注をしておきながら「訓告」というきわめて軽い処分にとど
めています。
 公務員の処分というと、国家公務員法82条が定めている4段
階の「懲戒処分」があります。重い順に並べると次の通りです。
─────────────────────────────
         1.免職   3.減給
         2.停職   4.戒告
─────────────────────────────
 このなかに「訓告」はなく、「訓告」は法律上の処罰にならな
い比較的軽い実務上の処分の1つに過ぎないのです。訓告は、業
務違反の際に口頭又は文書で注意をする処分であり、給与や昇格
に影響はないきわめて軽い処分です。
 発注チーム管理者は、神成淳司室長代理ですが、この人には重
要な疑惑があります。そのことについて、朝日新聞は次のように
書いています。これだけのことをして訓告です。大甘な処分とい
われても仕方がないでしょう。
─────────────────────────────
 守秘義務を負わない民間企業の社長が仕様書作成に深く関与し
その企業が再受託者となった。社長と神成氏が共同開発者のシス
テムが、アプリに採用された。神成氏は利益を得る予定だったが
週刊誌による報道後に権利を放棄した。神成氏は、2017年〜
18年、社長から頻繁に高額な飲食接待を受けていたという。
         ──2021年8月28日付、朝日新聞朝刊
─────────────────────────────
 この神成淳司慶應義塾大学環境情報学部教授を高く評価してい
たのが和泉用人首相補佐官です。このことについて、8月26日
付の「デイリー新潮」は次のように書いています。
─────────────────────────────
 デジタル庁の母体になるIT室をこれまで事実上仕切ってきた
和泉洋人首相補佐官が、神成氏をデジタル監に推したというので
す。しかも和泉補佐官が根回ししたのか、官僚トップの杉田和博
・官房副長官も賛成に回ったそうです。
 一方、デジタル政策を担当する内閣官房参与である村井純・慶
應大学教授は反対したと言われています。結局、神成氏自身がデ
ジタル監のポストを辞退したのですが、和泉補佐官はまだ、8人
置くことになっている業務の最高責任者のどこかに神成氏を使う
つもりでいるようです。       https://bit.ly/3ypvALU
       ──2021年8月26日付、「デイリー新潮」
─────────────────────────────
 ところで「デジタル監」とは何でしょうか。
 このポストは民間人から登用することが決まっています。組織
のトップではありませんが、担当大臣の補佐から組織や実務の監
督まで幅広い業務を受け持ちます。政府全体でみても、民間登用
としては、省庁の事務次官を超える最上級の権限を持つポストと
いわれています。その専門能力を生かせるかどうかがデジタル改
革の成否にも影響します。
 2021年2月9日に閣議決定された「デジタル庁設置法案」
によると、デジタル庁のトップは首相が務め、首相を補佐するか
たちで、デジタル庁担当の「デジタル大臣」(仮称)を置くこと
になっています。このデジタル大臣を、民間で培った専門性を生
かして補佐するポストがデジタル監です。
 これでわかったことがあります。菅内閣が発足したとき、菅首
相が多くの民間人と会ったのですが、そのなかに、村井純慶応義
塾大学名誉教授がいたのです。このときは、なぜ、村井氏と会っ
たのかわからなかったのですが、デジタル庁についていろいろと
アドバイスを受けるためだったものと思われます。
 和泉補佐官は、このデジタル監について、神成敦司教授を推薦
しましたが、これには、村井内閣官房参与が反対したといわれて
います。村井教授が推薦したのが伊藤穣一氏です。伊藤穣一氏は
投資家やIT実業家などとして知られ、2011年にデジタル技
術の研究所であるメディアラボの所長に就任しましたが、少女ら
への性的虐待などの罪で起訴された米国の富豪ジェフリー・エプ
スタイン元被告(勾留中に死亡)から、資金援助を受けていたこ
とが明らかになり、19年に辞任した経緯があります。
 確かに、伊藤穣一氏は、インターネットおよびテクノロジー企
業に焦点を当てた起業家としての役割が評価され、PSIネット
ジャパン、デジタルガレージ、インフォシークなどを設立してい
ますし、ソニー株式会社の戦略アドバイザーも務めており、デジ
タル監としては適任者です。
 そして、8月28日現在、政府は、そのデジタル監に一橋大学
名誉教授の石倉洋子氏を起用する方向で調整していますが、これ
は決まりと考えられます。しかし、石倉洋子氏は経営学者として
は超一流ですが、デジタル監が勤まるかどうかは疑問です。
             ──[デジタル社会論V/016]

≪画像および関連情報≫
 ●伊藤穰一氏起用を検討したデジタル庁トップ人事で露わに
  なったもの
  ───────────────────────────
   結果的に撤回されたものの、8月初旬に「政府は、9月に
  発足するデジタル庁の事務方トップとなるデジタル監にマサ
  チューセッツ工科大学(MIT)メディア・ラボの所長を務
  めた伊藤穰一氏を起用する方向で最終調整」というニュース
  を見た時には目を疑った。伊藤氏といえば、「エプスタイン
  ・スキャンダル」で、MITメディア・ラボの所長職辞任に
  追い込まれた人物だ。
   エプスタイン・スキャンダルとは、過去に未成年の売春斡
  旋で有罪となり、2019年にも性的虐待、人身売買などの
  容疑で再度起訴されたアメリカの実業家・ジェフリー・エプ
  スタインから、多くの名門大学や研究者が資金提供を受けて
  いたという事件だ。伊藤氏は問題ある人物だと知りつつも資
  金提供を受けていたと報じられたことで、MITの職だけで
  なく、その他の役職も辞任することになった。
   エプスタインの人脈が著名政治家、財界人、学者、テクノ
  ロジー業界の有力者、ハリウッド、英国王室にまで広がって
  いたこと、彼が獄中死したという展開もあって、この事件は
  アメリカ社会を大きく揺るがせた。2020年にはネットフ
  リックスが、彼の被害者たちにインタビューしたドキュメン
  タリーも制作している。伊藤氏の起用が検討されていた「デ
  ジタル監」は事務次官級の特別職で、平井卓也デジタル改革
  担当相は民間からの起用を明らかにしていた。伊藤氏は長年
  テクノロジー企業の経営や投資に携わり、MITの名門機関
  を率いた経験もあるので、名前が浮上したところまでは分か
  らなくもない。実際、力量や実績、国際的人脈に関しては、
  彼のように条件の揃った人は稀有だろう。
                  https://bit.ly/3gF2lys
  ───────────────────────────
伊藤穣一氏.jpg
伊藤穣一氏
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2021年09月01日

●「デジタル監は石倉洋子氏で調整中」(第5563号)

 本日デジタル庁が発足します。しかし、これによって日本のデ
ジタル化は進むのでしょうか。いろいろな問題があります。ただ
本稿を執筆しているのは29日、デジタル庁の詳細はわかってい
ないという前提で、以下記述することにします。
 デジタル庁の組織について述べることにします。組織図は20
21年6月4日時点のものです。
 デジタル庁のトップは菅総理大臣です。デジタル庁は、スポー
ツ庁、文化庁、金融庁のように長官を置かず、デジタル大臣がナ
ンバー2として所管します。平井卓也デジタル改革相がこのポス
トに就くものと思われます。当然、副大臣、大臣政務官がスタッ
フとして、デジタル大臣をサポートします。
 問題は、デジタル大臣の下には、ラインとして、事務方のトッ
プとして、デジタル監が配置されています。デジタル庁が手掛け
る仕事の指揮命令は、このデジタル監が行うのです。デジタル監
には、スタッフとして、専門職の以下の8人のデジタル審議官が
置かれます。
─────────────────────────────
   CA    Chief Architest
   CAIO  Chief AI Officer
   CDO   Chief Design Officer
   CIO   Chief Innovation Officer
   CISO  Chief Information Security Officer
   CPO   Chief Product Officer
   CTO   Chief Technology Offiecer
   CTrO  Chief Transformarion Officer
─────────────────────────────
 そして、デジタル監の下に、ラインとして、4つのグループが
配置されます。
─────────────────────────────
       @戦略・組織グループ
       Aデジタル社会共通機能グループ
       B国民向けサービスグループ
       C省庁業務サービスグループ
─────────────────────────────
 この組織から考えると、デジタル庁におけるデジタル監の仕事
は重要です。専門家である8人の審議官の意見を聞きながら、全
体の仕事をまとめ上げる必要があります。このデジタル監は、か
つての「政府CIO」(最高情報責任者)の後継のポストとして
設置されたものです。
 「政府CIO」は、2013年に設置されましたが、政府が民
間登用したIT人材の実質的なトップであり、これまでは、民間
企業のCIOの経験者を任命してきたのです。そういう意味では
伊藤穣一氏はまさに適任だったといえます。
 ところが伊藤穣一氏が急遽だめになって、一橋大学名誉教授の
石倉洋子氏が候補に上がっています。現在調整中ということです
が、少なくとも、本稿執筆時点の29日現在、決まったという情
報はありません。ところで、石倉洋子氏とはどういう人物なので
しょうか。経歴は、次のように絢爛豪華です。
─────────────────────────────
 専門は、経営戦略、競争力、グローバル人材育成。
 米バージニア大学大学院経営学修士(MBA)、ハーバード大
学大学院経営学博士(DBA)。マッキンゼー・アンド・カンパ
ニーを経て青山学院大学国際政治経済学部教授。一橋大学大学院
国際企業戦略研究科教授。慶應義塾大学大学院メディアデザイン
研究科教授。積水化学工業株式会社、株式会社資生堂において社
外取締役。ダボス会議を主催する世界経済フォーラムのメンバー
・オブ・エキスパート・ネットワーク。
 主な著書に、「戦略シフト」(東洋経済新報社)、「日本の産
業クラスター戦略」(共著、有斐閣)、「戦略経営論」(訳、東洋
経済新報社)、「グローバルキャリア」(東洋経済新報社)「世
界級キャリアのつくり方」(共著、東洋経済新報社)、「世界で
活躍する人が大切にしている小さな心がけ」(日経BP社)など
多数。               https://bit.ly/3DtJwrO
─────────────────────────────
 しかし、経歴のどこを探しても、情報科学、情報システム、I
CT技術、システム設計・開発・管理、セキュリティなど、デジ
タル関連のキャリアはなく、専門は経営であり、発信力の強い人
ではあるものの、一般論としては、大変失礼ながら、政府のデジ
タル庁のデジタル監としての適任者とはいえないと思います。し
かも、1949年3月生まれの72歳の高齢です。
 もちろん、デジタル監があらゆる技術に通じている必要はない
と思います。仕上げるべき目標を策定し、それを能力のある大勢
の人を使って仕上げる経営能力があればいいのです。石倉氏はそ
ういうマネジメント力には長けている人物であると思います。
 なぜか、メディアは、石倉洋子氏のデジタル監就任予定をたん
とんと報道していますが、ネット上には、石倉洋子氏のデジタル
監就任について疑問の意見が多いようです。
─────────────────────────────
 なぜ、72歳の専門分野が経営学博士をデジタル庁トップに使
うのか、わからない。菅総理と同い年、政府のいう事を聞きそう
な人物を見つけてきたのだろうが、担当するのはデジタル技術の
管理なのだ。経歴は凄いが畑違いの人物、最新のデジタル機器・
技術やハッカーなどからの情報流出防止などが理解出来るのか?
 台湾のオードリー・タン氏など40歳の若さで国のデジタル化
を直接牽引している。少しゲームをかじった程度の平井卓也大臣
ともども、もっと適任者がいるはずだ。若くてコンピュータ技術
に長けている人物を任用しないと、日本は益々世界から遅れてし
まう。               https://bit.ly/3kwXdxI
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/017]

≪画像および関連情報≫
 ●イノベーションを起こす「人材」と「組織」について考える
  /石倉洋子氏の講演会から
   世界は今、非常にバランスがもろい状況にあると石倉氏は
  語る。イラク問題、ウクライナ情勢、エボラ熱問題だけでな
  く、どこでどんな危機が起こってもおかしくない。このとこ
  ろ、新興国が担って来た経済成長が減速していることや、そ
  の影響が中国に顕著に現れていることも周知の通りである。
   「そんな危機的状況で、政府や政治の力がとても弱くなっ
  ています。例えば、アメリカでは、中間選挙で共和党が上下
  両院の過半数を占めたこともあり、世界に対するアメリカの
  リーダーシップが停滞しています。先日は『今、信頼してい
  る組織や機関は何か』とたずねた調査で、『社会的な組織』
  という回答が多かったとレポートされていました。一方、政
  府や宗教団体に対しては、信頼が非常に低くなっています。
   BBC(英国放送協会)や、UNDP(国連開発計画)の
  方々とお会いした時も、これほどの危機的な状況が世界中に
  起こっていることはかつてないと話していました」
   極端な気候変動が各地で起こっており、農産物や食品の生
  産量と価格に及ぼす影響が懸念されている。資源枯渇も問題
  だが、その権利を巡って起こる争いも見逃せない。では、こ
  のような事象はなぜ起こっているのか。そして、それらはな
  ぜ加速化しているのか。「これらの原動力となっているのは
  おそらくテクノロジーです。テクノロジーの力が世界をつな
  げたため、どこかで起こった事象が瞬時に世界中に伝わり、
  大きな動きへと変貌していくという流れがあるからです。一
  度進歩したテクノロジーを後退させることはあり得ません。
                  https://bit.ly/2WAfJg3
  ───────────────────────────
石倉洋子一橋大学名誉教授.jpg
石倉洋子一橋大学名誉教授
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2021年09月02日

●「真の経営者は専門的な職業である」(第5564号)

 かつて大型コンピュータが大企業を中心に導入されたときには
コンピュータの扱いは、あくまで専門家の仕事であって、専門外
の文系の人間は、経営者も含めて、コンピュータのことがわから
なくても、恥ずかしくないという考え方があったのです。そのと
き、次のことがよくいわれたものです。
─────────────────────────────
 コンピュータのことがわからなくても心配はいらない。コン
 ピュータは専門家の仕事であり、コンピュータを扱える専門
 家を使って仕事ができる能力があればそれでよい。
─────────────────────────────
 これは、文系の人が、自分たちを理系の人たちよりも一段と上
に置き、上から目線で、システムの「専門家」を見ている身勝手
な考え方です。
 1969年(昭和44年)のことです。当時、私は大手生保会
社の企画部に在籍していました。ちょうどその年から、NHK教
育テレビ(現・Eテレ)で、「NHKコンピュータ講座」が開始
されたのです。
 週1回毎週日曜日に放送があり、半期26回が基本です。プロ
グラミングの基礎、コンピュータの原理、フローチャートの書き
方などが紹介され、毎回宿題が出され、その宿題を仕上げて次の
日曜日の講座を受けるという方式だったと思います。そのとき、
使われたプログラミング言語はフォートランです。
 コンピュータ講座が始まるのを知って、私は企画部長に、これ
を企画部全員で受講すべきであると進言したところ、きっとわか
らないことが多く出てくると思うので、システム部長に会って、
協力の確約をとってこいといわれたのです。
 そのときのシステム部長は、非常に気難しい人として知られて
いる人物でしたが、私は、部長の指示通り、システム部長と会い
企画部の講座受講の協力を依頼したのです。そのとき、システム
部長から、次のようにいわれたのです。
─────────────────────────────
 協力はさせていただきますが、ぜひ企画部長に伝えてくださ
 い。生兵法はケガのもとです、と。   ──システム部長
─────────────────────────────
 結局、企画部全体で講座を受講するアイデアはボツになりまし
たが、私は全26回の講座をすべて受講し、コンピュータという
ものがおおよそ理解できたような気がします。この講座は、当時
非常に新鮮だったと思います。
 今になって考えると、もし、このコンピュータ講座を受講して
いなかったら、後に仕事で、システム部から貸与されたポケット
コンピュータ(シャープ製PC−1500)のプログラム(BA
SIC)をとてもマスターできなかったと思います。フォートラ
ンのプログラミングの基礎がモノをいったのです。
 その後、50歳を超えてから、情報システムに籍を置くことに
なり、定年後の現在でもITの仕事に携わっていますが、それま
での経験でわかったことは、冒頭に示したシステムに関する考え
方──コンピュータがわからなくても、わかっている人を使えれ
ばよいというのは、間違っているということです。私の考え方と
しては、最低プログラミングの知識は必要であると思います。日
本の政府システムがいずれもうまくいっていないのは、冒頭の考
え方がまだ生きているのではないかと考えます。
 米国のCIO(最高情報責任者)は、常日頃から、ベンダー企
業を客観的に的確に評価できることが自分の重要な責務であると
考えており、役に立つベンダーはどこかについて、つねに情報を
集めています。とくに世の中に知られていないが、使えば新たな
価値を提供できるベンダーをいつも発掘しています。
 日本の場合は、有名なベンダーを使い、後はそのベンダーに仕
事を丸投げしてしまっています。的確なベンダーを選ぶスタッフ
がいないし、育てていないのです。それは、自分たちの仕事であ
ると考えていないのです。これに関して、野口悠紀雄教授は次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 アメリカでは経営者は専門的な職業であると考えている。した
がって、経営者が組織間を移動することは頻繁に行われている。
危機に陥ったIBMを救うために、ルイス・ガースナーがまった
く畑違いの企業であるナビスコからIBMのCEO(最高経営責
任者)に招かれて、IBMを再建したことはよく知られている。
 ところが日本の場合には、経営者は経営を行う専門家ではなく
その組織の中で出世の階段を最後まで上ってきた人なのだ。した
がって、組織の形態そのものを大きく変えることには手をつけな
い。デジタル化について理解がある経営者は少ないと述べた。本
来であれば、デジタル化に関する知識は、専門家としての経営者
にとって必須の知識のはずだ。しかし、日本では、必ずしも必要
なこととは考えられていない。
            ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
            『良いデジタル化/悪いデジタル化/
         生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
─────────────────────────────
 野口教授のいうように、「真の経営者は専門的な職業である」
とするならば、システムの経験のない石倉洋子氏についても、ご
自身が経営のプロフェッショナルであるので、ナビスコのルイス
・ガースナーのように、デジタル庁の「デジタル監」は務まると
いう考え方はあります。
 しかし、その場合は、石倉洋子氏がデジタル庁の事実上のトッ
プ、デジタル改革担当相(デジタル庁長官)であればわかります
が、デジタル監の仕事はあまりにも専門的であり、いかに能力の
ある人であっても、困難ではないかと考えられます。いずれにし
ても、デジタル庁では、日本政府がこれまで積み重ねてきた失敗
を絶対に繰り返してはならないと考えます。
             ──[デジタル社会論V/018]

≪画像および関連情報≫
 ●プロ経営者が明かしたIBMの再建の鍵は「変化」
  /ルイス・ガースナー氏が答える
  ───────────────────────────
  問:IBMが1990年代初めの経営難を乗り越えてここま
   で復活できた最大の要因は何でしょうか。
  答:非常に複雑で、一言で答えるのは難しいですが、IBM
   が抱えていた問題は、リーダーシップと企業文化の危機に
   あったということでしょう。IBMは長年大きな成功を収
   めてきたために、変化に抵抗しました。成功した企業が必
   ずかかる病です。ですが、根本的な問題によって競争力が
   失われていたわけではなかったのです。経営危機の間も、
  ずっと、IBMは優れた知的財産を生み出していました。I
  BMは過去30年間、国籍を問わずあらゆる国から優れた人
  材を採用してきた、私が来た当時も、それらの人たちがまだ
  会社に残っていました。だから復活できたのだと思います。
  問: 企業文化の変革は難しいと思いますが、最高経営責任
   者(CEO)に就任された当初、何から手をつけたのです
   か。
  答:第1にやったことは会社を安定させ、社員や顧客に「I
   BMは復活できるし、IBMには将来があるのだ」と信じ
   てもらうことでした。当時、財務状況は急速に悪化してお
   り、顧客どころか社員からの信頼も失っていたからです。
   最初の2年間は、まず土台の再構築に費やしました。損失
   に歯止めをかけるべく、市場でのシェアを上げ、高収益体
   質に変えるようにしました。その間、新たな戦略の策定を
   進めてはいましたが、当時はまだそれを打ち出す時期では
   ありませんでした。社員が、「新しい戦略が会社を救って
   くれる」と安易な考えに陥らないようにするためです。
                  https://bit.ly/3DnHHgd
  ───────────────────────────
NHKコンピュータ講座テキスト.jpg
NHKコンピュータ講座テキスト
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2021年09月03日

●「村井純氏こそデジタル監の適任者」(第5565号)

 デジタル庁発足に当たって、東洋大学教授、竹中平蔵氏が次の
コメントを寄せています。
─────────────────────────────
◎デジタル格差を生み出すな
 2000年に慶応義塾大学の村井純教授と一緒に当時の森喜朗
首相にインターネットに関する国家戦略を提言した。その時の目
標は、日本のインターネットインフラを世界最高のものにすると
いうものだった。
 これは達成できたが、その利活用が進まなかった。その結果と
して新型コロナ対策では、遠隔教育や遠隔診療が進まないなどと
して、顕在化している。
 利活用が最も遅れている部門が政府だ。そこを変えていく象徴
として、デジタル庁はまずは国民にとって分かりやすいところか
ら着手してはどうか。例えば引っ越し時に、住民票や運転免許証
銀行、水道などに関わる変更を全て一括でできるようにする。こ
うした縦割りの行政組織に横串を通すのが、実はデジタル化の本
質だ。デジタル庁の重要な役割はまずマイナンバー制度をきっち
り整備することだ。「国が個人を管理する」と言われるが、そう
ではなくて、マイナンバーはデジタル社会における重要な個人認
証制度で、最も重要なインフラだからだ。
            ──日経コンピュータ編/日経BP刊
          『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか』
─────────────────────────────
 竹中平蔵氏というと、毀誉褒貶相半ばする人物ですが、こと日
本のインターネットインフラの構築とITの普及に関しては、功
績のある人物です。竹中平蔵氏は、森喜朗内閣のときに設置され
たIT戦略会議の委員を務め、続く小泉純一郎内閣でも内閣府担
当大臣として、経済財政政策担当大臣とIT担当大臣を務め、日
本のIT普及に貢献しています。
 企業のPCをはじめとするIT機器導入についての優遇税制や
全国レベルでの無料のPC講座の展展開などいろいろあります。
 ところで、竹中氏のいう「日本のインターネットインフラを世
界最高のものにする」という目標については、実際に実現してい
ます。これについては意外に多くの人が知らないでいます。IT
関連のフリージャーナリストである佐々木俊尚氏は、2009年
に次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本のITはアメリカと比べて遅れているのか、それとも進ん
でいるのか。これはIT業界では以前からホットな議論となって
いて、意見はさまざまに分かれている。進んでいる部分は、明確
だ。まず第1に、ブロードバンドの普及率。国内のブロードバン
ド回線契約数は、平成19年末で2830万に達し、このうち、
FTTHの割合は40%を越えている。これは他のOECD諸国
と比べても圧倒的で、インフラ面ではまさにブロードバンド大国
の名にふさわしい。
 携帯電話経由でのインターネット利用も同様だ。日本で販売さ
れている携帯電話機の大半はインターネットのデータ通信が可能
で、データ通信の定額料金制度も普及している。アメリカでは、
アイフォーンのようなスマートフォンが出てくるまでは携帯電話
によるネット利用はあまり一般的ではなく、ビジネスパースンの
間にブラックベリー端末が普及していた程度だった。多くの携帯
電話機でのデータ通信といえばSMSが主流で、ウェブサイトを
携帯電話で見るという文化自体がこれまではあまり普及していな
かったのである。          https://bit.ly/3yu4L9h
─────────────────────────────
 当時のネットインフラを世界一にする目標の達成に、竹中平蔵
氏に協力したのが、慶應義塾大学名誉教授の村井純氏です。村井
教授は、現在菅内閣の内閣官房参与を務めています。
 インターネットの利用者は、2000年にはわずか4708万
人(人口普及率37・1%)だったものが、その15年後の20
15年には1億46万人(同83・0%)へと驚異的な伸びを示
しています。
 どうして、ネット普及率がこれだけの伸びを示したのかという
と、村井純氏が1980年代から日本国内におけるインターネッ
トの先駆けとなった大学間ネットワーク「JUNET」設立を主
導するなど、インターネットの技術基盤づくりに携わったことに
あるといえます。これに竹中平蔵氏も関わっているのです。この
インターネットに関する貢献度から、「日本のインターネットの
父」といわれるのです。
 私自身もインターネットのことを知るのに、一番役に立った本
は、村井純氏の著作です。とくに2014年に上梓された次の本
は、他の人では書けない興味ある内容を含んでいます。そもそも
のいきさつをすべて知っているからこそ書ける内容です。
─────────────────────────────
                 村井純著/角川学芸出版
 『インターネットの基礎/情報革命を支えるインフラストラ
 クチャー』         2014年10月25日初版
─────────────────────────────
 これほどの人物が、内閣官房参与のポストにいるのに、なぜ、
村井純氏をデジタル庁の「デジタル監」に任命しないのでしょう
か。村井純氏が断ったのであろうか。
 関係者によると、デジタル監は「お飾り的ポスト」という人も
います。それは、発足時には「空席でもかまわない」という意見
もあったといわれるからです。また、当初は、デジタル監に提言
する非常勤職として石倉洋子氏を位置づけていたのですが、急遽
デジタル監にスライドさせた経緯もあるのです。
 しかし、今までも重要職務をそういうお飾り的ポストにして失
敗してきたことを考えると、デジタル監には実務に詳しい専門家
が必要であり、それはおそらく村井純氏しかいないのではないで
しょうか。        ──[デジタル社会論V/019]

≪画像および関連情報≫
 ●「インターネット文明」の夜明けに向けて/村井純氏
  ───────────────────────────
  ――2018年、WIDEプロジェクトを始められて30年
  という節目を迎えられました。この節目となる年にあたって
  どのような感想をお持ちですか?
   研究者としての私の活動が約40年ですから、そのほとん
  どをささげてきたわけなんですが、いま振り返れば、あっと
  いう間に過ぎ去った30年でしたね。
  ――これだけの長い期間にわたる研究プロジェクトというの
  は、他に類をみないほど珍しいのではないでしょうか。
   「プロジェクト」をこれだけ長く続けられることはまずな
  いでしょうね。たいていのプロジェクトは、あらかじめ短い
  期間が設定されるものなんです。なぜかというと、一般的な
  「研究プロジェクト」というのは、政府などの公的資金援助
  をいただいて進めるのですが、そうすると予算というのは1
  年間からせいぜい長くて3年間まで、まれに5年間という期
  限が定められているんです。私の知る限り、最も長いもので
  3年目と5年目でのチェックを受けたうえで、最長10年間
  というのがあります。それと比較しても、こうして20年、
  30年と続けられることはありえないでしょうね。なぜ、こ
  れだけ長く続けられたのかというと、WIDEプロジェクト
  はすべて民間の資金でやってきたからなんです。
                  https://bit.ly/3sY8z1u
   WIDEプロジェクトとは、広域にわたる大規模な分散コ
  ンピューティング環境を構築する技術の確立を目指す、オペ
  レーティングシステム技術と通信技術を基盤とした研究プロ
  ジェクトの名称である。村井純氏(現・慶應義塾大学教授)
  らが1988年に創設した。全国の大学や研究機関、企業な
  ど、100を超える団体が参加している。
  ───────────────────────────
村井慶應義塾大学教授.jpg
村井慶應義塾大学教授
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2021年09月06日

●「私が運転免許証を返納しない理由」(第5566号)

 8月20日のことですが、運転免許証の更新手続の第1段階を
行いました。高齢者の場合、運転免許証の更新には、3段階の手
続きがあります。その第1段階の手続きである「認知機能検査」
をクリアしたというわけです。
 私は既に車の運転をやめており、車も持っていません。それな
ら、なぜ免許証の更新をするのか、なぜ、免許証を返納しないの
かと考える人がいるかもしれませんが、実は運転免許証は、持っ
ていると、いろいろなことに役立つのです。多少手間がかかって
も更新するメリットは2つあります。
 第1に、運転免許証は本人確認の証明にとても便利なものであ
るからです。
 本人確認なら、マイナンバーカードがあるじゃないかという人
もいます。しかし、私はマイナンバーカードは持っていませんし
こちらも作成手続きが面倒であるし、パスワードの更新なども必
要であるので、運転免許証の方がはるかに便利です。
 第2に、近い将来、高齢者にとって、便利な乗り物が登場する
可能性です。
 現在、電動キックボードが流行っていますが、これは高齢者に
は向きませんが、近い将来、もっと便利なものが出てくると思う
のです。それらには、電動キックボードがそうであるように、運
転免許証が必要になるものも多いはずです。
 なぜ、運転免許証の更新の話をしているのかというと、その手
続きの一部が3年前より、デジタル化されて便利になっているか
らです。高齢者への運転免許証の更新は、3つの段階からなって
います。
 第1段階は「認知機能検査」ですが、これは黄色いハガキが届
き、日時と場所(警察署)が指定されています。ここまでは、3
年前のときと同じです。ただ、認知機能検査ができる警察署は限
られているらしく、私の場合、同じ県内の比較的遠い警察署が指
定されていました。
 第2段階は「高齢者講習(運転実技検査を含む)」ですが、こ
れもハガキで通知されます。3年前までは日時と場所の指定はな
く、ハガキに印刷されている多くの自動車教習所のなかから自分
で選んで、講習の予約を取ります。これが大変なのです。なかな
か予約がとれないで、電話をかけまくったことを覚えています。
 そのため、本当は自宅の近くの自動車教習所を予約したいのだ
けれど、とれないので、遠くの自動車教習所で講習を受けるハメ
になってしまったのです。
 しかし、今回は青いハガキが来て、そこには高齢者講習の日時
と場所が指定されています。場所は自宅に近い自動車教習所が指
定されています。もちろん受講日に用事がある場合は、指定の教
習所に電話して受講日を変更することができます。
 これをデジタル対応というと、大袈裟ですが、運転免許証更新
者の住所も、自動車教習所の住所も公安委員会にはわかっている
のですから、それらをマッチングさせれば、住所の近い教習所を
自動的に指定できるはずです。
 今回、公安委員会はそういう措置をとってくれたのです。これ
は高齢者にとって本当にありがたいことです。デジタル庁ができ
ると、こういうことがもっと増えると思うし、そうでなければな
らないと思います。
 この高齢者講習が終わると、誕生日の前に、赤いハガキが来て
市内の警察署で、運転免許証の更新手続き(目の検査/写真撮影
など)の指示があり、それが終わると、即日新しい運転免許証が
受け取れるのです。
 これができるのですから、ワクチンの予約もスマホでシステム
にアクセスし、予約受付番号と接種希望日を指定すると、接種日
時と場所をAIが選択し、第1候補〜第3候補までを表示するシ
ステムをなぜ作れないのでしょうか。
 デジタル庁設立の大きな目的の一つは、マイナンバー制度の整
備です。マイナンバーカードは、デジタル社会における個人認証
制度になるからです。デジタル庁を担う平井卓也デジタル改革担
当相は、マイナンバーについて次のようにいっています。
─────────────────────────────
 マイナンバーカードは、デジタル社会の健全な発展のためには
不可欠にな要素です。デジタル化を進めれば進めるほど、本人確
認が何よりも重要な基盤になり、遠隔でも確実な本人確認ができ
るという意味で、現時点で確かなのはやはりマイナンバーカード
だと思っています。10月から始まるマイナンバーカードを健康
保険証として利用できる制度が分かりやすい例ですが、これから
民間との連携で色々なものが便利になるはずです。
              ──平井卓也デジタル改革担当相
            2021年9月3日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 デジタル庁の最初の仕事がマイナンバーカードの復活であるこ
とはわかりますが、マイナンバーカードは昨年の特別給付金の支
給のさい、うまく対応できなかったこともあり、あまりイメージ
がよくない。まさに肝心なときに役に立たなかったのです。これ
では、マイナンバーカードから人心が離れてしまいます。システ
ムが万全ではないのです。グループウェアで有名なサイボーズの
社長である青野慶久氏は、このマイナカードについて、かなり大
胆に次のように述べています。
─────────────────────────────
 (デジタル庁)が最初にすべきことは、マイナンバーカードを
やめることだ。毎年多額の予算をつぎ込んでも普及率は2割程度
にとどまる。うまくいってないのに、やめるという選択肢をもっ
ていないのはおかしい。           ──青野慶久氏
            ──日経コンピュータ編/日経BP刊
          『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか』
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/020]

≪画像および関連情報≫
 ●マイナ・・で混乱気味!?マイナンバーカードが普及しない
  理由
  ───────────────────────────
   2021年3月4日、各新聞では「マイナンバーカード健
  康保険証としても利用可能に」との見出しが躍りました。一
  部の医療機関で検証が始まり、マイナンバーカードが健康保
  険証としても利用できるようになったからです。これまでな
  かなか普及しておらず、交付率が26%程度と言われていた
  マイナンバーカードですが、この一年、DXとともにじわじ
  わと注目されています。
   昨秋に「デジタル庁」発足が話題となるとともに、健康保
  険証や、今後は運転免許証とも一体化させ、スマートフォン
  へマイナンバーカードの機能を搭載していく方向性が矢継ぎ
  早に打ち出されました。これはDXの加速よりも「もっと早
  くからしておけばよかった」という社会的な後悔や反動があ
  ると思っています。
   もちろん、その背景には新型コロナウィルスの流行があり
  昨年の「特別定額給付金」の手続きにおける全国的な混乱で
  「マイナンバーと銀行口座が結びついてさえいればこんなこ
  とにはならなかったのではないか」という議論を目にした方
  もいらっしゃるかと思います。加えて、昨年夏の東京都知事
  選時は、効果的なワクチンや薬ができるには二年や三年かか
  るであろうという予測のもとに、だからこそ政治が防疫とし
  てできることを全てしなければならないとの観点で政策を打
  ち出す候補者が私をはじめとして多かったと思います。それ
  が半年という短い期間でmRNAワクチンが輸入されること
  になりました。         https://bit.ly/3n1iUZx
  ───────────────────────────
マイナンバーカード.jpg
マイナンバーカード
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2021年09月07日

●「強力な後ろ盾を失ったデジタル庁」(第5567号)

 9月3日、菅義偉首相による突然の総裁選不出馬宣言──こう
いう退陣声明も珍しいですが、菅首相の退陣によって、創設され
たばかりのデジタル庁はどうなるのでしょうか。
 デジタル庁は菅首相の「肝いり」の政策です。菅義偉氏が昨年
9月の総裁選で目玉として掲げ、その推進を訴えていましたが、
行政の「縦割り打破」が前提の政策です。これまで各省庁がバラ
バラに進めてきた国のIT施策を予算を含めてデジタル庁に一元
化しようというものです。その実現には、国のトップの強力なリ
ーダーシップが不可欠です。
 2021年9月1日、デジタル庁の発足式において、菅首相は
次のように挨拶を行っています。
─────────────────────────────
 新型コロナ感染への対応の中、行政サービスや民間におけるデ
ジタル化の遅れが浮き彫りになった。思い切ってデジタルを進め
なければ、日本を変えることはできない。それを強力にリードす
る司令塔が必要である。こうした思いで、デジタル庁の創設を決
断した。行政サービスの電子化の遅れ、バラバラな国と自治体の
システム、マイナンバーカードの利便性の問題など、長年手がつ
けられず先送りされてきた課題がたくさんある。
 デジタル庁には、政府関係者に加え、民間でさまざまな経験を
された方が数多くいる。立場を超えた自由な発想で、スピード感
を持ちながら、行政のみならず我が国全体を作り変えるくらいの
気持ちで、精を尽くしていただきたいと思う。誰もがデジタル化
の恩恵を受けることができる、世界に遜色ないデジタル社会を実
現する。こうした決意を新たに、私からのあいさつとさせていた
だく。みなさんどうぞよろしくお願い申し上げます。
          ──菅義偉首相/https://bit.ly/3BHR6NO
─────────────────────────────
 「行政のみならず我が国全体を作り変えるくらいの気持ちで、
知恵を絞っていただきたい」──菅首相はこのように述べました
が、そのわずか2日後、退陣表明です。デジタル庁は、強力な後
ろ盾を失ったことになります。菅首相は、あのように見えて、実
はITに関しては関心が深いのです。
 第3次小泉改造内閣(2005年)で、竹中平蔵氏は総務大臣
に就任しましたが、そのさい、副大臣を務めたのが菅義偉氏だっ
たのです。小泉政権では、竹中平蔵氏を中心に数々のIT政策を
行っており、菅氏はそれを支えていたのです。総務省はIT政策
の担当省庁でもあるので、ITのことはある程度わかります。そ
ういう縁もあって、菅内閣において、竹中平蔵氏は一番先に内閣
官房参与になっているのです。
 しかし、デジタル庁の創設は時間がないこともあって、ドタバ
タ続きで、大変だったといえます。デジタル改革関連法案は、突
貫工事で作られており、今年の通常国会成立後にいくつものミス
が発見され、修正に追われています。また、事務方トップのデジ
タル監の人事も伊藤穣一氏が突然辞退しなければならなくなるな
ど、直前まで決まらず、9月1日直前に石倉洋子氏に決定したと
いういきさつがあります。
 実は、9月4日に、竹中平蔵氏は、自身のツイッターを更新し
次のように投稿しています。
─────────────────────────────
 この1年菅内閣が成し遂げたことは極めて多い。この成果が十
分評価されず辞任に至ったのは、単なる説明不足を超えて、大き
な理由がある。               ──竹中平蔵氏
─────────────────────────────
 その理由とは何でしょうか。
 9月4日付、デイリーは「その理由」について、次のように書
いています。竹中平蔵元総務相、小泉純一郎元首相、菅義偉首相
そして小泉進次郎環境相──不思議な縁です。
─────────────────────────────
 竹中氏は「脱炭素宣言、デジタル庁、携帯料金引き下げ、ワク
チン加速。この成果が十分評価されず辞任に至ったのは、単なる
説明不足を超えて大きな理由がある」と菅政権の功績を称えた上
で、辞任に至った理由を分析。
 「医療に関する鉄の三角形(厚生ムラ)を崩せなかったこと。
新総裁は、これを解体し日本版CDCを作れ!」と、日本でも疾
病対策予防センターを作るべきだと提言した。竹中氏は、小泉政
権時に郵政民営化担当大臣などを歴任。8月22日にも「コロナ
問題最大の課題は、病床不足で医療逼迫すること。病床を増やせ
というと、医療関係者は「出来ない」理由を並べたてる。小泉元
首相は官僚に対し、「出来ない理由を言うのではなく、専門家な
らどうしたら出来るか案を持ってこい」と常に述べた。「医療ム
ラ」を解体しないと日本は良くならない」とツイートしている。
                  https://bit.ly/3jIGEzD
─────────────────────────────
 菅首相は、なぜ総裁選不出馬を表明したのでしょうか。
 こういう情報があります。最大の謎は、なぜ、菅首相が4日間
連続して、孫のような小泉環境相とサシで面談を繰り返したかと
いうことです。
 実は、水面下では、猛烈な「菅降ろし」が起きていたのです。
司令塔は、どうやら安倍前総理と麻生財務相。それは地方の自民
党県連にまで及んでいたといいます。事実、菅首相の地元である
自民党神奈川県連幹部は「総裁選が行われる中で党員の声をしっ
かりと受け止めたい。県連としてはとくに菅さんを頼むという応
援をするつもりは一切ない」と明言しています。
 菅首相は、そういう党内の情勢を小泉環境相からつぶさに聞か
され、「もはやこれまで」と決断したというのです。小泉環境相
は多くの若手を束ねており、そういう情報が入るのです。政治に
はそういう裏側もあります。ただ、小泉環境相は総裁選前の解散
には色をなして反対したそうです。
             ──[デジタル社会論V/021]

≪画像および関連情報≫
 ●菅首相退陣へ/総裁選レース本格化/河野氏、石破氏
  立候補は・・・
  ───────────────────────────
   菅首相は3日、自民党の総裁選挙に立候補しない意向を表
  明した。一方、河野規制改革担当相が立候補の意向を固める
  など、動きが激しくなっている。菅首相「自民党役員会にお
  いて、私自身、新型コロナ対策に専念したいという思いで自
  民党総裁選挙には出馬しないということを申し上げた」
   菅首相は自民党の臨時役員会で、総裁選に立候補しない意
  向を表明した。新総裁誕生を受け、退陣となる。小泉環境相
  「総裁選に突っ込んで、ボロボロになってしまったら、やっ
  てきた良いことすら正当な評価が得られない環境に総理を置
  いてしまうんじゃないか」
   前日まで4日続けて菅首相と会談していた小泉環境相は、
  「引くという選択肢まで含めて話をした」と明らかにした。
  河野規制改革相「私自身どうするか、先輩や仲間の議員と、
  じっくり相談し、決めてまいりたい」
   関係者によると、河野規制改革相は、派閥のトップの麻生
  財務相に総裁選立候補の意向を伝えたという。自民党・石破
  元幹事長「(出馬の考えは?)白紙です。よく整理をして、
  自分なりにどういう判断するにせよ、納得ができた時に決断
  するということだ」石破元幹事長は、立候補を模索していく
  姿勢をにじませた。岸田前政調会長「どなたが出てきたとし
  ても、私自身は従来通り、国民、党員の皆さんにしっかり向
  き合って発信し続けることが大事だ」
                  https://bit.ly/3jIypDs
  ───────────────────────────
総裁選不出馬を宣言する菅首相.jpg
総裁選不出馬を宣言する菅首相
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2021年09月08日

●「住基ネットの失敗を知っているか」(第5568号)

 9月1日のデジタル庁発足式のインタービューで、事務方トッ
プに就任した石倉和子氏のコメントが入ってきています。デジタ
ル庁を実際に動かすトップの発言であるので、少し長いですが、
その発言をいくつかひろってみることにします。
─────────────────────────────
──今回のデジタル監の話を受けた時にどんな感想を抱いたか。
行政組織で働いた経験がないが、どのように官僚機構と向き合っ
ていくのか。
石倉デジタル監:私は基本的には新しい機会をもらったらみんな
 するというスタンス。機会は一度逃したら二度と帰ってこない
 ことが結構ある。あの時、ああすればよかったという後悔は絶
 対にしたくない。やった上での後悔のほうが全然いい。
  行政組織での経験に関しては、大学にはいたが、プロフェッ
 ショナルな組織にいた時間が長い。デジタル監になるまで、学
 生にはこれからは個人で勝負する時代と言っていた。でも、自
 分がやらないと申し訳ないなと思い、じゃ、やろうかと。行政
 組織にフルタイムで参画した経験がないので、何とかしようと
 思っている。
──平井大臣はデジタル監の資質に「デジタルへの深い理解」と
いうことを挙げていた。これまでデジタルと、どう向き合ってき
たのか。
石倉デジタル監:私はデジタルの専門家でも、エンジニアでもな
 い。そういう意味ではデジタルの知識がある人間ではない。新
 しいことは一応やってみたいスタイルなので、初めてのプログ
 ラミングというオンライン講座の受講や、ワードプレスもやっ
 た。パイソンにもチャレンジしたが、今のところ挫折している
 状況。やってみると、ここが難しい、凄いなということが分か
 る。プログラミングを学んだ時に、8週間から12週間学んだ
 が、死にそうだった。全然課題が終わらなかったが、学んだこ
 ともある。
  日本企業は全部完璧にしてから、やるスタイルが多いが、プ
 ログラミングの世界ではそれでは全然だめだと分かった。プロ
 トタイピングを作ってしまって、どこが間違っているかを探す
 のは至難の業だからだ。作る度に少しずつ試して、動いたら次
 に行くことが重要と分かった。こういうことをやりたいができ
 るかと(デジタル庁の周囲の人に)聞くと、テクノロジーの力
 でほとんどできてしまう。自分ではできないが、やりたいこと
 はたくさんあるので、どうやればできるかを教えてほしい。そ
 の辺がデジタルの重要な原則かなと思っている。
                  https://bit.ly/3kSENaJ
─────────────────────────────
 石倉デジタル監のインタビューを見て、いろいろわかったこと
があります。それは、石倉氏が、現在挫折状態にあるとはしなが
らも、ワードプレス(サイトやブログソフトウェア)やパイソン
(プログラミング言語)にチャレンジしている姿勢です。これは
評価できると思います。なぜなら、システム技術を理解するには
プログラミングをマスターするのが一番早いからです。しかし、
これは高齢になると、なかなかできないことです。
 また、上記インタビューの後半では、専門用語は使っていない
ものの、明らかに「アジャイル開発」の重要性について話してお
り、デジタル監候補に上がってからの短い期間において、よくこ
こまで、システム開発についても、よく勉強されていると感じて
います。
 「アジャイル開発」とは、システムやソフトウェア開発におけ
るプロジェクト開発手法のひとつで、大きな単位でシステムを区
切ることなく、小単位で実装とテストを繰り返して開発を進めて
いく開発手法です。従来の開発手法に比べて開発期間が短縮され
るため、アジャイル(素早い)と呼ばれているのです。現在、ス
タートアップがよく使う開発手法です。これに対して、従来の手
法は、「ウォーターフォール」と呼ばれています。
 さて、デジタル庁においては、何よりも先にマイナンバーカー
ドの整備に着手すると思われますが、マイナンバーカードの何が
問題であるかについて考えていくことにします。
 マイナンバーカードについて考える前に、「住基ネット」の失
敗について検証する必要があります。住基ネットとは、住民基本
台帳ネットワークのことです。住基ネットについては、次の説明
があります。
─────────────────────────────
 従来から各市区町村が住民情報を記録し、管理していた住民基
本台帳を結んだネットワークを、「住民基本台帳ネットワークシ
ステム(住基ネット)」と呼んでいます。
 住基ネットによって、住民票の写しがいらなくなったり、イン
ターネット申請が可能になります。電子政府・電子自治体の基盤
になるのです。住基ネットは、行政機関がパスポートの申請など
の書類を受け付けるときに、書類の記載事項が間違っていないか
を確認したり、年金の支給機関が年金受給者の異動がないかを確
認するために使います。このような利用方法は法律で具体的に決
まっていますし、1人1人の情報が間違いがないかを確認するこ
としかできないシステムになっています。
                  https://bit.ly/3jKsaPL
─────────────────────────────
 この住基ネットには、2002年から毎年130億円が使われ
13年間で2100億円、自治体の初期費用・メンテナンス費用
を合わせると、1兆円近い税金が使われています。
 これだけの費用をかけたにもかかわらず、住基カードは普及せ
ず、カードの交付枚数はたったの710万枚(2015年3月)
その普及率は5・5%の惨敗に終わっています。
 そして、2015年末に更新手続きが終了し、住基ネットは無
残な失敗に終わっています。しかし、これほどの大失敗にもかか
わらず、反省なしです。  ──[デジタル社会論V/022]

≪画像および関連情報≫
 ●デジタル庁の創設をムダに終わらせないための
  3つの「ない」/経済評論家・加谷珪一氏
  ───────────────────────────
   菅政権の打ち出したデジタル庁の創設が大きな注目を集め
  ている。日本の労働生産性は主要先進国中、最下位という状
  況だが、産業のIT化で出遅れたことが原因の1つになって
  いる。政府が率先してIT化を進めることは民間への波及効
  果も大きく、本格的なデジタル化に成功すれば日本経済には
  プラスとなるだろう。
   だが、ハードウエアを中心とした従来型技術とソフトウェ
  アを中心としたデジタル技術には文化的に大きな違いがあり
  この壁を乗り越えなければデジタル化はうまくいかない。本
  稿では、本当の意味でデジタル化を成功させるために必要と
  なる3つの「ない」について解説したい。
   デジタル庁はこれまで各省でバラバラに構築・運用されて
  いた情報システムを一元管理する組織である。菅政権の目玉
  政策の1つとなっており、年内に具体策をまとめ、来年度の
  創設を目指すとしている。
   今回のコロナ危機では、政府のシステムがうまく機能せず
  給付金の支払いが滞るといった事態が頻発した。世界の電子
  政府ランキングで日本は14位にとどまっており、政府のデ
  ジタル対応力の低さが混乱に拍車をかけたのは間違いない。
   デジタル庁の創設はあくまで行政の効率化を目指すための
  ものだが、政府が率先してデジタル化に対応することは民間
  への波及効果も大きい。電子政府の成功例としてよく引き合
  いに出されるのはエストニアだが、同国は先ほどの電子政府
  ランキングでは3位となっている。 https://bit.ly/3zPAUti
  ───────────────────────────
デジタル庁オフィス.jpg
デジタル庁オフィス
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2021年09月09日

●「住基ネットの狙いはどこにあるか」(第5569号)

 住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)は、なぜ失敗したの
でしょうか。
 住基ネットは、2002年8月5日に第1次稼働し、2003
年8月25日から本格稼働がスタートしています。住基ネットは
住民基本台帳の情報をデーターベース化し、全国各市町村のデー
タをネットワークでつないだシステムです。
 住民基本台帳に載っている情報は、氏名、生年月日、性別、住
所の4情報に加えて、個人番号、住民票コード及びこれらの変更
情報である本人確認情報で、これは法律で定められています。な
お、住基カードには、電子証明書が格納されています。個人情報
保護のため、高度なセキュリティ機能を備えたICカードが採用
されているのです。
 ところで、住基カードは国民にとってどういうメリットがある
のでしょうか。
 この住基カードがあると、住民票が必要な手続き──例えば、
パスポートの申請などでは住民票の写しは必要ないということで
す。しかし、戸籍謄本・抄本などの書類は必要なので、結局、役
所の窓口に行く必要があります。
 引っ越しの場合はどうでしょうか。この場合、それまで住んで
いた市町村の役所で転出届の手続きをし、転出証明書の交付を受
けたうえで、引っ越し先の市町村の役所で転入届を行う必要があ
ります。この場合、住基カードの交付を受けていると、わざわざ
転出届の手続きのためにそれまで住んでいた市町村の役所まで行
かなくても、引っ越し先の市町村の役所で転入届の手続きをする
ことができます。これは確かに便利です。
 しかし、パスポートの申請や住民票の写しの取得は、頻繁に利
用するサービスではなく、引っ越しにしても一生の間に数回とい
うレベルであると思います。そのようなことのために、わざわざ
住基カードを持つ必要があるかどうかは疑問です。まして、その
程度のサービスのために、1兆円もの莫大な費用をかけてやるメ
リットは、どこにあるのでしょうか。
 実はここが問題なのです。「導入メリットがあまりないのに国
が大金を投じてこのシステムを導入する意図はどこにあるのか。
何かそこに裏があるのではないか」と、国民に疑問を持たれてし
まうからです。これは住基カードの後継であるマイナンバーカー
ドについてもいえます。
 実際に住基ネットについては、国民監視やプライバシー侵害、
情報流出の危険性などにより、「監視・徴税強化社会は反対」の
スローガンの下で、各地で違憲訴訟が相次いだのです。しかし、
これについては、2008年3月6日に最高裁は、「住基ネット
は合憲である」という次の判決を出しています。
─────────────────────────────
 行政機関が住民基本台帳ネットワークシステムにより住民の本
人確認情報を収集,管理又は利用する行為は,憲法13条の保障
する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない
自由を侵害するものではない。        ──最高裁判決
─────────────────────────────
 何が問題なのでしょうか。なぜ、これほどまで住基ネットは嫌
われてしまったのでしょうか。しかも、住基ネット挫折の後に、
大いなる反省に基づいて開発されたはずの、現在のマイナンバー
カードも同じようにうまくいっていないのです。それは、電子署
名のあり方と関係があります。
 この電子署名について、野口悠紀雄氏は次のようにその問題点
を指摘しています。
─────────────────────────────
 住基ネットやマイナンバーカードが疑いの目で見られる大きな
理由は、それが中央集権型の仕組みだからだ。現在の電子署名は
背後に「認証局」と呼ばれる中央集権的な組織が控えている。こ
こが、電子署名の正当性を証明する。
 電子署名が普及しない大きな原因は、認証局から電子証明を貰
うのが簡単ではないことだ。このため「クラウド署名」のような
便宜的方法が使われる。「住民基本台帳カード」の場合には「地
方自治情報センター」と呼ばれる組織が認証局となっていた。マ
イナンパーカードの場合にも認証局がある。それは、「地方公共
団体情報システム機構(J−LIS)」と呼ばれる組織だ。これ
は、実は、「地方自治情報センター」が名称を変えたものだ。な
お、2016年1月18日から19日にかけて、地方公共団体情
報システム機構で障害が起こり、一部の自治体でカード交付がで
きなくなつたことがある。──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
            『良いデジタル化/悪いデジタル化/
         生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
─────────────────────────────
 ここで電子署名について知る必要があります。これについては
明日のEJで詳しく述べますが、非常に複雑です。野口教授がい
う「クラウド署名」とは、簡単にいうと、書面をPDFでネット
に上げて、弁護士などが立ち会って、契約者と被契約者の双方が
その書面が正当なものであると合意する疑似的な電子署名です。
これは「クラウドサイン」と呼ばれており、弁護士ドットコムが
やっています。クラウドサインについては、次のように説明され
ています。
─────────────────────────────
 クラウドサインは、事前に内容についてお互いの合意が済んで
いる契約書・発注書などの書類をアップロードし、相手方が同意
することにより、相互同意がなされたことを示す電子署名が施さ
れるサービスである。        https://bit.ly/3jNW2e1
─────────────────────────────
 しかし、この電子署名は正規のものではなく、あくまで便宜的
なものであって、法的な有効性が確立しているわけでもないので
す。安全性にも問題があるといえます。
             ──[デジタル社会論V/023]

≪画像および関連情報≫
 ●血税1兆円をドブに捨てた「住基ネット」〜元祖マイナン
  バー、あれはいったい何だったのか?
  ───────────────────────────
   「住基ネットは10年以上前に作られたシステムなので、
  関連機器は基本的に開発し直したり、改修する必要がありま
  す。しかも今後は、マイナンバーカードに機能が追加される
  たびに、システムを更新しなくてはなりません。およそ30
  00億円と言われるマイナンバー導入のための費用は、毎年
  数百億円単位で膨らんでゆくでしょう」(前出・佃氏)
   決して政府と官僚は認めないが、住基ネットもマイナンバ
  ーも「利便性」は建前にすぎず、実際には「税金の取りっぱ
  ぐれをなくすこと」をめざした制度である。国民の税金をム
  ダ使いした上に、さらに強力な徴税システムを作ろうとして
  いるのだから、笑うに笑えない。
   過去数十年、官僚たちは同じ野望に挑んでは失敗を繰り返
  してきた。その過程で、住基ネットという巨大なガラクタを
  生んだ。何度でも言うが、財源は血税なのだ。そしてこのま
  までは間違いなく、マイナンバーも住基ネットの轍を踏むこ
  とになるだろう。ある内閣府官僚がこんなことを口にした。
   「にわかには信じがたいかもしれませんが、実は近い将来
  マイナンバーカードは廃止になる可能性が濃厚です。国民の
  ほぼ全員が携帯電話を持つようになった今、携帯のSIMカ
  ードに必要な情報を入れた方が、ICカードに情報を書き込
  むより安全で手軽ですから」。  https://bit.ly/3l0oV62
  ───────────────────────────
住民基本台帳カード.jpg
住民基本台帳カード
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2021年09月10日

●「ディフィー=ヘルマン鍵共有とは」(第5570号)

 「電子署名」の話に入る前に、「パスワード」を特定の人に伝
える方法について考えてみることにします。AがBに対して、重
要なメッセージの入ったファイルをメールに添付し、パスワード
がないと開けないようにしておきます。
 問題は、パスワードをどのようにしてBに伝えるかです。電話
で伝える方法はありますが、盗聴されるリスクがあります。どう
すればよいかです。この難問を解くアイデアが1976年に示さ
れています。「ディフィー=ヘルマン鍵共有」(DH法)といい
ます。少しややこしいですが、内容はきわめてシンプルです。少
しの間、お付き合いください。
 AとBが共通のパスワードを決めることにします。3つの段階
があります。
─────────────────────────────
◎第1段階
 Nとnという2つの整数を決める。これを電話かメールでAと
Bが共有する。
◎第2段階
 A、B各自が、秘密の数である「a」を決め、次の計算をして
答え「b」を求める。「nをa乗し、Nで割り、余りを求める」
◎第3段階
 各自が、相手の答えである「b」と、自分の秘密の数「a」を
使って「bをa乗し、Nで割り、余りを求める」と、結果は両方
とも同じ数になる。
             ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社
     『仮想通貨革命/ビットコインは始まりに過ぎない』
─────────────────────────────
 実際の数値で検証することにします。第1段階において、Aと
Bが共有する2つの数であるNとnという整数をそれぞれ、N=
11、n=5とします。
 第2段階において、Aは秘密の数「a」を「3」と決めて、計
算「nをa乗し、Nで割り、余りを求める」を実施します。5を
3乗し、11で割ると、余りは「4」になります。この数をBに
伝えます。
 Bも同じ計算をします。Bは秘密の数「a」を「6」と決めて
計算をします。5を6乗し、11で割ると、余りは「5」になる
ので、この数をAに伝えます。
 第3段階において、AはBから伝えられた5を3乗し、11で
割った余りを求めると、余りは「4」になります。
 一方、BはAから伝えられた4を6乗し、11で割ります。余
りは「4」でAの答えと一致します。したがって「4」をパスワ
ードにすればよいのです。
 この場合、A、Bが共有しているNとn、相手の答えであるb
が他人に知られたとしても、A、Bの秘密の数である「a」が知
られない限り、この方法は安全です。なぜ、安全であるかという
と、たとえば「5をa乗し、11で割った余りが4になる」のは
誰でもできる簡単な計算ですが、その逆の計算は大変であるから
です。すなわち、「5をa乗し、11で割った余りは4になるが
それでは、aはいくらか」の答えを得るアルゴリズムは発見され
ていないからです。
 なお、ここでは計算を簡単にするため、パスワードを1桁にし
ていますが、当然ですが、パスワードを1桁にすることはあり得
ず、複数桁にする必要があります。
 もし1桁であれば、「a」について数字を次々と当てはめてい
くと、たちまち「a=3」になったところで、11で割った余り
は4になるので、「a」が3であることはわかってしまいます。
こういうパスワード解読法を「総当たり攻撃」といいます。
 この「ディフィー=ヘルマン鍵共有」(DH法)に刺激を受け
て、MITの3人のエンジニアが「公開鍵暗号」と呼ばれる暗号
方式を開発しています。暗号名は、彼ら3人の頭文字をとって、
「RSA暗号」と呼んでいます。
─────────────────────────────
       R:   ロナルド・リベスト
       S:   アディア・シャミア
       A:レオナルド・エーデルマン
─────────────────────────────
 「RSA暗号」の基本的な発想は、「公開鍵」とそれに対応す
る「秘密鍵」という2つの鍵を作り、公開鍵は公開するが、秘密
鍵は、まさにその名の通り、自分だけで秘匿します。公開鍵から
秘密鍵を計算するアルゴリズムはないという前提に立ちます。大
まかなイメージは次の通りです。
─────────────────────────────
    @Aが秘密鍵から公開鍵を作成し、Bに渡す
    ABはその公開鍵を使って通信内容を暗号化
    B公開鍵で暗号化された文書をAが受領する
    CAは秘密鍵により文書を復号し内容を確認
─────────────────────────────
 野口悠紀雄名誉教授は「RSA暗号は革命的である」として、
次のように述べています。
─────────────────────────────
 「誰に知られても構わない公開鍵を用いて暗号化する」という
のは、まったく直観に反する。公開鍵暗号は、暗号技術上の革命
的な発明だ。現在では、インターネットの通信に広く用いられて
いる。RSA暗号がなかったとすれば、Eコマースが現在のよう
に広く行なわれることはなかったろう。
 なお、RSA暗号の計算量は膨大なので、文書など長いメッセ
ージを暗号化するには適当でない。パスワードのような短いデー
タを共有化するために用いられることが多い。
       ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社の前掲書より
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/024]

≪画像および関連情報≫
 ●公開鍵と秘密鍵
  ───────────────────────────
   公開鍵とそれに関連した秘密鍵は、数値的に互いに関連し
  ています。ですから、鍵値の一方を使用して暗号化されたデ
  ータは、他方の鍵値を使用してのみ、復号することができま
  す。ネットワーク・プロトコルでは、以下の方法でこの点を
  利用しています。
   一方の側から他方の側へ送信する際に、データは、送信側
  が受信側の公開鍵を知っているなら安全に送信することがで
  きます。送信側は、公開鍵でデータを暗号化してから送信し
  ます。受信側は、それを受信したなら、秘密鍵で復号するこ
  とによりデータを元の状態に戻します。意図された受信側は
  秘密鍵を所有している相手だけなので、意図された受信側の
  みがデータを元の状態に戻すことができます。
   一方の側は、独自の秘密鍵を使用してデータのコピーを暗
  号化することにより、デジタル署名を行うことができます。
  署名者の公開鍵を知っているなら、署名者の公開鍵を使用し
  て署名済みデータを復号することにより、その署名を検査す
  ることができます。元の状態に戻されたデータが予想通りの
  値(オリジナル・データ)であれば、それは元の側が署名し
  たデータであり、他者によって偽造されたものではありませ
  ん。対応する秘密鍵を持っているのは、元の側だけだからで
  す。              https://ibm.co/38NpPNK
  ───────────────────────────
ディフィー氏とヘルマン氏.jpg
ディフィー氏とヘルマン氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年09月13日

●「ハッシュ関数使う暗号方式を知る」(第5571号)

 終焉することになった菅政権の河野行革担当相は「脱ハンコ」
を打ち出し、各省庁で実施しています。しかし、これは認印の廃
止であり、本格的な意味での「脱ハンコ」ではない。そのために
は「電子署名」が必要であるからです。住基カードもマイナンバ
ーカードも基本的には電子署名のためのものですが、いずれもう
まくいっていません。それには、「認証局」という中央集権的組
織がかかわるからです。これについては後で述べます。
 とてもシンプルな例で考えてみることにします。野口悠紀雄名
誉教授の本に出ていたものです。
 太郎から花子にパスワード「4987」という数字をメールで
伝えることにします。しかし、メールでは途中で改ざんされてし
まう恐れがあります。そこで次の工夫をします。
─────────────────────────────
       4+9+8+7=28 ・・・・ 8
                   49878
─────────────────────────────
 パスワードの数字を合計し、答えの下1桁の数字「8」がキー
であることをあらかじめ花子に伝えておきます。これを「シンプ
ルチェックサム」といいます。そして「チェックサムは最後に付
ける」ことをあらかじめ花子に知らせておき、「49878」を
花子にメールで送ります。
 この数字「49878」を受け取った花子は自分で計算し、答
えが「8」になれば、太郎から送られたパスワードが正しいこと
を知ることになります。
 実は、このような演算を「ハッシュ関数」といい、得られた数
字を「ハッシュ値」といいます。ただし、ハッシュ関数には次の
要件が求められます。
─────────────────────────────
    @同じデータからは同じハッシュ値が得られる
    A違うデータからは違うハッシュ値が得られる
    Bデータを要約して固定長のデータに変換する
    Cハッシュ値から元のデータを求めること困難
─────────────────────────────
 「シンプルチェックサム」は@を満たしています。Bも満たし
ています。4桁のデータを1桁の固定長データにしているからで
す。Cも多くの場合、満たしているといえますが、Aは明らかに
満たしていないのです。上記の例のチェックサム「8」は、49
87だけではなく、4897からも得られてしまうからです。し
たがって、シンプルチェックサムは、ハッシュ関数ではあるもの
の、欠陥があります。
 このハッシュ関数と、RSA暗号を基にして1980年頃に開
発された「公開鍵暗号」を合体して上記と同じ例をやってみるこ
とにします。以下、添付ファイルをベースに解説します。
 太郎が「4987」という内容の文書を花子にメールで送るこ
とにします。「4987」という数字ではなく、今回は文書であ
ることに注意してください。
 花子としては、太郎が後になって「そんなメールは出していな
い」といわれたら困るので、そのための対策が必要になります。
 前提的知識として、公開鍵暗号というのは、次の2つのキーを
使います。
─────────────────────────────
            1.公開鍵
            2.秘密鍵
─────────────────────────────
 この2つの鍵のうち「公開鍵」は人に知られてもかまいません
が、「秘密鍵」は絶対に誰にも知られないよう秘匿する必要があ
ります。
 第1段階として太郎は、「4987」という文書のハッシュ値
を求めます。仮にその数字を「8」とします。実際のハッシュ値
はそんな短い数値にはなりませんが、あくまで説明をやさしくす
るための便宜的なものです。ハッシュ関数の種類は多く、最近最
もよく使われる「MD5」というハッシュ関数のハッシュ値は、
128ビットになっています。ただ、128ビットでは長いので
それを16進数で表すことになっています。
 第2段階として、太郎は文書のハッシュ値を自分の「秘密鍵」
で暗号化します。仮にその結果を「2」とします。これを「電子
署名」というのです。これを文書と一緒に花子に送ります。花子
には別途太郎の「公開鍵」が伝えられていて、これを使えば「複
号」することができます。つまり、「4987」文書のハッシュ
値「8」が復号されます。
 第3段階として花子は、太郎から送られてきた「4987」文
書のハッシュ値を求めます。そうすると、このケースでは「8」
となり、太郎の「公開鍵」で復号した「8」と一致します。これ
で太郎の送ってきた文書は、間違いなく正規のものであることが
わかります。
 なお、ここで大事なことは、ハッシュ値はPCがあれば、誰で
も簡単に算出できます。ハッシュ関数に入れるデータは数字だけ
ではなく、契約文書などの重要書類や、本一冊のテキストデータ
など、何でも16進数で算出できます。1文字でも違うところが
あれば、ハッシュ値は別の数字になります。
 何らかの重要文書を誰かにメールで送るとき、文書全体にハッ
シュ関数をかけ、ハッシュ値を算出し、そのハッシュ値を文書と
共に送れば、受信側は同様に送付されてきた文書のハッシュ値を
求め、それが文書と一緒に送られてきたハッシュ値と一致すれば
その文書は正しいことになります。このように、この方法はメー
ルでの重要文書の送受信に使えるのです。実際のやり方について
は、近いうちにご紹介する予定です。
 しかし、これに認証局がかかわると、非常に複雑なことになり
ます。SSL認証というものです。
             ──[デジタル社会論V/025]

≪画像および関連情報≫
 ●ハンコは本当に無駄なのか 「コロナ」「押印廃止騒動」で
  揺れたハンコ職人の本音/橋本愛喜氏
  ───────────────────────────
   日本には、世界からも認められる繊細で歴史深い文化や伝
  統技術が数多く存在する。日本人自身にもこうした自文化に
  誇りを持つ人が多く、ゆえに古くから伝わる技術を国内向け
  に紹介するテレビ番組も頻繁に放送されている。
   そんな中、昨今急速に進む機械化やデジタル化によって存
  続が危ぶまれているのが、「手作業」という究極のアナログ
  方法でモノをつくり出す「職人」たちだ。
   コロナ禍の中、菅内閣で行政改革担当大臣に就任した河野
  太郎氏の言動で矢面に立たされた「ハンコ」にも、古い文化
  を静かに紡いできた職人たちがいる。騒動後に訪れた日本随
  一の「ハンコの里」、山梨県「六郷」。
   この小さな町で触れたのは、誇りあるはずの自文化に対し
  簡単に見切りを付けてしまう世間への「違和感」と、伝統文
  化存続に対する「本音」だった。ハンコの歴史は非常に古く
  文字が誕生するよりも前の紀元前メソポタミア文明には既に
  存在していたといわれている。
   当時のハンコは、現在のような丸い印面に文字を刻むので
  はなく、円筒形の側面に絵や幾何学模様を彫り、粘土板に転
  がしながら押し付けて刻み込むものだった。その後、シルク
  ロードを渡り世界中に広まったハンコは、欧米で廃れる中、
  アジアに根付いた。諸説あるが、その大きな要因が「漢字」
  の存在だ。簡単に書けるアルファベットなどの文字と比べ、
  画数の多い漢字での署名は時間が掛かるため、漢字圏の国で
  広まるようになったとされている。https://bit.ly/3A664Nf
  ───────────────────────────
電子署名.jpg
電子署名
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年09月14日

●「公開鍵はどのように公開されるか」(第5572号)

 昨日のEJで、公開鍵暗号方式は「公開鍵」と「秘密鍵」の2
つがあるという話をしましたが、「公開鍵」はどこに公開されて
いるのでしょうか。
 仮想通貨に詳しい野口悠紀雄名誉教授は、電子署名について、
次のように述べています。
─────────────────────────────
 電子署名は公開鍵暗号技術の応用の1つだ。個人Aは、ペアに
なった公開鍵と秘密鍵を持つ。公開鍵は公開し、誰でも使える。
Bが、A名義の暗号メッセージをAの公開鍵で解読できれば、そ
れはAの秘密鍵で暗号化されたものであることが分かる。Aの秘
密鍵はAだけが保管しているので、Aが送ったメッセージだと確
認できる。なお、電子署名は、仮想通貨においても、基礎的な技
術として用いられている。
 残された問題は、「Aの公開鍵」とされているものの所有者が
本当にAかどうかの証明だ。このため、Aが自分の公開鍵を信頼
できる機関に預け、その機関がAの公開鍵に間違いないという証
明(電子認証)を与える。これは、「電子の印鑑登録証明書」と
も言われるものだ。これを発行する「信頼できる機関」を「認証
機関(認証局)」という。ただし、これは使いにくい仕組みだ。
            ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
            『良いデジタル化/悪いデジタル化/
         生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
─────────────────────────────
 ところで、「公開鍵」というものは、その名の通り公開されて
いるはずですが、どこに公開されているのでしょうか。これにつ
いて考えてみます。
 ウェブサイトのアドレスを見ると、次の2つがあることがわか
ります。
─────────────────────────────
        http://      https://        
─────────────────────────────
 「https://」の前には「鍵のマーク」が付いています。これは
このサイトが「公開鍵証明」のシステムに対応していることを示
しています。このシステムは、公開鍵暗号の技術を用いたもので
あり、「SSL」と呼ばれています。「SSL」は、次の言葉を
省略したものです。
─────────────────────────────
             SSL
             Secure Sockets Layer
─────────────────────────────
 なお、SSLは「SSL/TLS」ともいわれます。実はSS
Lは古い規格であり、2014年に脆弱性が発見されたため、使
用が禁止され、現在ではより安全な「TLS」という暗号化規格
が使われています。しかし、SSLが長く定着してしまっている
ので、前の名称をそのまま使うか、「SSL/TLS」と表記す
るようになっています。SSLが保証しているのは、次の2つの
ことです。
─────────────────────────────
 @そのサイトへの通信は暗号化され、途中で盗み見されるこ
  とはないこと
 A情報の受け取り先は、なりすましではなく、確かに意図し
  た相手である
─────────────────────────────
 それでは、実際に「公開鍵」がどのように公開されているかを
実際に確認してみることにします。
 セキュリティの話であるので、省庁のウェブサイトを例にとる
ことにします。厚生労働省のサイトを例にとります。添付ファイ
ルを参考にしていただきたいと思います。
 厚生労働省のウェブサイトを表示します。アドレスのところを
見ると、鍵のマークが付いています。この鍵のマークをクリック
します。添付ファイルのAです。
 鍵をクリックすると「この接続は保護されています」という表
示が出て、そこに「証明書(有効)」という項目があります。添
付ファイルのBです。その「証明書」をクリックします。
 そうすると、「証明書の情報」が表示されます。添付ファイル
のCです。続いて、「詳細」をクリックします。そうすると「フ
ィールド」のところにいろいろなものが表示されます。発行者の
ところを見ると「SECOM」であることがわかります。つまり
公的機関ではなく、民間なのです。
 これを下の方へ少しスクロールすると、「公開キー」が出てき
ます。添付ファイルのDです。「公開キー」は「RSA2048
ビット」と表示されています。この「公開キー」をクリックする
と、実際に公開キーの中身が表示されます。
 ここで「認証局」について、簡単に述べておきます。認証局と
はデジタル証明書を発行する機関で「CA」と呼ばれています。
CAは次の言葉の省略です。
─────────────────────────────
         ◎CA
          Certification Authority
─────────────────────────────
 CAは、電子証明書の登録、発行、失効をおこなう第三者機関
です。認証局には種類があり、ルート認証局と、中間認証局があ
ります。ルート認証局は自分の正当性を自身で証明し、他の認証
局へ証明書を発行する最上位の認証局になります。信頼の連鎖の
頂点に位置するのがルート認証局です。
 ルート認証局というのは、最上位の認証局ですから、自分で自
分を証明するしかないのです。このため、ルート認証局は、厳し
い監査を受け、監査に通過したものだけが、ルート認証局として
認められることになります。
             ──[デジタル社会論V/026]

≪画像および関連情報≫
 ●電子証明書ない「電子署名」も有効政府見解
  ───────────────────────────
   政府は電子署名に関する見解を公表し、電子的な印鑑証明
  にあたる電子証明書のない電子署名も、法的に有効だと認め
  た。すでに主にクラウド技術を活用した企業間の契約で一般
  的に使われている。電子署名法の解釈上認められているかが
  曖昧で、企業の間で利用拡大に向けて懸念があった。
   電子証明書はその電子署名が本人名義であることを証明す
  るもの。事前の登録が必要で発行に数週間かかるため、迅速
  な手続きに不向きだった。
   2001年施行の電子署名法は利用者本人が自らの名義で
  署名する形式を想定しており、電子証明書の発行を求める電
  子署名事業者が多かった。現在は当事者同士の合意が成立し
  たことを、当事者ではなく第三者が電子署名をして証明する
  サービスが進む。「立会人型」と呼ばれる形式でクラウドと
  の親和性が高く、企業間で主流の手続きとなりつつある。
               https://s.nikkei.com/3k34fuO
  ───────────────────────────
証明書/公開キー.jpg
証明書/公開キー
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年09月15日

●「20年前から電子署名は存在する」(第5573号)

 菅政権になって、脱ハンコが政策として取り上げられるように
なりましたが、「電子署名」が20年も前から日本に存在してい
ることを知っている人は少ないと思います。電子署名には、「電
子署名及び認証業務に関する法律」(電子署名法)が、ちゃんと
法律として存在しています。2001年4月1日に施行され、電
子署名なるものが、手書きの署名や押印と同じように通用する法
的基盤が整備されているのです。
 「電子署名法」第3条には、次のように定められています。
─────────────────────────────
◎電子署名法第3条
 電磁的記録であって情報を表すために作成されたものは、当該
電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名が行わ
れているときは、真正に成立したものと推定する。
─────────────────────────────
 2001年といえば、日本では、やっと家庭にもPCが導入さ
れ、少しずつ利用が広がっていた時期に当たります。そういう意
味において、この頃に既に電子署名法が成立していたということ
は、政府が的確な対応をしていたことを意味します。
 しかし、この電子署名のシステムはその手続きが複雑で、非常
に使いにくく、定着しにくいという問題点があります。「紙の方
がラクだし、ずっと早い」と大変評判が良くないのです。
 何はともあれ、どのようにして、デジタル証明書を申請し、そ
れを受け取るかについて、段階別に解説します。添付ファイルの
図も参照にしていただきたいと思います。
─────────────────────────────
 第1段階は2つの「鍵」の作成です。
 ウェブサーバー側で「公開鍵」と「秘密鍵」を作成します。こ
のうち「公開鍵」を認証局(CA)に申請します。
 第2段階は認証局への申請手続きです。
 公開鍵と各種証明書をCSR(証明書請求要求)として認証局
に送付し、デジタル証明書の発行を申請します。
 第3段階はデジタル証明書の発行です。
 認証局は、厳正に審査の結果、認証局の秘密鍵で暗号化(デジ
タル署名)し、デジタル証明書を発行します。デジタル証明書を
受け取ったウェブサーバーは、これをインストールします。これ
で、デジタル証明書の申請と、認証局からのデジタル証明書の発
行は終了です。
 第4段階はクライアントPCからの接続要求です。
 クライアントPCがウェブサーバーに対して、接続要求(ウェ
ブアクセス)を出します。
 第5段階はPCへのデジタル証明書の送信です。
 ウェブサーバーは、デジタル証明書をクライアントPCに送信
します。これは当然暗号化されています。
 第6段階はデジタル証明書の確認です。
 クライアントPCは、送付されたデジタル証明書が間違いなく
認証局から発行されたものか確認します。認証局にアクセスし、
認証局の公開鍵を入手します。その公開鍵でデジタル証明書を復
号し、間違いないことを確認します。
─────────────────────────────
 このシステムのどこが使いにくいのでしょうか。
 電子証明には有効期限があります。しかし、手続きが複雑で時
間がかかるので、契約が複数年にまたがっている場合などは、途
中で有効期限が切れる可能性があります。この有効期限を延ばす
手続きが大変なのです。
 手続きもまた面倒で処理が遅いのは、電子署名の政府のシステ
ムである「e−Gоv電子申請システム」がきわめて使いにくく
そのできがよくないことにあります。
 これ以外にも多くの問題点があります。野口悠紀雄名誉教授は
使い勝手の悪さの原因として次のことを上げています。
─────────────────────────────
・どのPCでも利用できるわけではない。Macでは使えない。
・個別機関の申請用ソフトでは電子申請できない。個別ソフトで
 作成した申請ファイルをCSV形式でいったん保存し、別にe
 −Gоvを立ち上げて、添付ファイルとしてe−Gоvで電子
 申請する必要がある。
・何度使っても手順が複雑で分かりにくい。エラーが多発し、な
 ぜエラーになるのかが分かりにくい。エラーになると返戻され
 て、また同じことを繰り返す必要があるので、時間がかかる。
・逆に、様式変更時における様式違いがあっても、アラートが出
 ることもなく申請ができてしまったりする。また、電子署名す
 べきものとしなくてもよいものの区別が分かりづらい。
 このような状態で申請そのものは完了したとしても、数日経過
 した後に返戻通知が届いたりする。このため、提出期限に間に
 合わなかったりする。
・コールセンターが混み合っているので、問い合わせの電話が、
 相談員にスムーズにつながらない。
            ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
            『良いデジタル化/悪いデジタル化/
         生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
─────────────────────────────
 電子署名システムのこうした使いにくさのため、正規の電子署
名手続きを避けて、9日のEJでご紹介した「クラウドサイン」
が頻繁に行われています。署名と署名に必要な鍵をサーバーに保
管し、すべての手続きをクラウド上で行うのです。
 本人確認については、メールアドレスや2段階認証を活用して
代用します。電子契約利用企業の約80%がこのクラウドサイン
を利用しています。しかし、クラウドサインのような電子署名が
法的に有効なのかどうかについては、きわめて曖昧な状態になっ
ています。この電子署名システムをどう変えるか、デジタル庁の
手腕が試されます。    ──[デジタル社会論V/027]

≪画像および関連情報≫
 ●クラウドサインで指摘されている問題点とは
  ───────────────────────────
  ・クラウドサインで契約書の証拠力を担保する仕組み
   クラウドサインは、合意済みの契約書類へ運営会社である
  「弁護士ドットコム」名義の電子署名を付与することで、書
  類の証拠力を担保しています。平たく言えば、契約が成立し
  ていることを弁護士ドットコムという第三者が法的に証明し
  てくれると考えればイメージが湧きやすいでしょう。
   クラウドサインで指摘されている問題点・デメリットは、
  この証拠力担保の仕組みにあります。なぜクラウドサインで
  問題点が指摘されているのか、その理由を解説します。
  ・付与される電子署名が自社のものではない問題点
   クラウドサインの第一の問題点・デメリットとして、付与
  される電子署名が契約者本人のものではない点が挙げられま
  す。政府公認の第三者機関(認証局)での厳重な本人確認を
  得て使えるようになる電子署名は、電磁的に記録された情報
  の本人性を証明するためのものです。
                  https://bit.ly/3k4oKax
  ───────────────────────────
デジタル署名の仕組み.jpg
デジタル署名の仕組み
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年09月16日

●「デジタル署名について再整理する」(第5574号)

 このところ、ややこしい話が続いていますが、デジタル署名は
マイナンバーカードにも関係するので、もう一度整理しておくこ
とにします。
 文書を送る場合を例として、電子署名、すなわち、デジタル署
名の話をしていますが、これはあくまで便宜上です。送るものは
静止画でも動画でも音声でもかまわないのです。要するに、デジ
タルデータであれば、何でもデジタル署名を付けることができま
す。しかし、文書を送ることは、誰でもやることであり、イメー
ジしやすいので、この後もこの例を使う予定です。
 また、ここまで、「電子署名」と「デジタル署名」とを同じ意
味で使ってきていますが、ここからは、デジタル署名に統一する
ことにします。その方が実態に即していると思えるからです。
 それから、言葉をひとつ覚えていただきたいのです。「平文」
です。「ひらぶん」と読みます。暗号文の反対です。平文とは、
暗号化されていないデータのことであり、「プレーンテキスト」
とも呼ばれますが、文章だけを指す言葉ではありません。
 話を整理することにします。平文にデジタル署名を付ける場合
について考えます。
─────────────────────────────
   @平文にハッシュ関数をかけてハッシュ値を求める
   Aそのハッシュ値を、送信者の秘密鍵で暗号化する
─────────────────────────────
 この場合、Aの結果得られた暗号文がデジタル署名です。送る
側は、平文とデジタル署名(暗号文)の両方を送付します。送る
側の仕事はこれで終わりです。
 受信側は、受け取った平文とデジタル署名について、次の操作
を行います。
─────────────────────────────
   @平文にハッシュ関数をかけてハッシュ値を求める
   Aデジタル署名を送信者の公開鍵で復号を実施する
─────────────────────────────
 上記@の平文のハッシュ値と、Aの複号の結果得られる数値が
一致すれば、平文に改ざんのないことが証明できます。
 もし、平文もデジタル署名のハッシュ値も偽物である場合につ
いて考えてみます。いわゆる「なりすまし」の場合です。データ
の受信者は、平文のハッシュ値は求められるものの、デジタル署
名は復号できないか、できても正しい数値を出すことはできませ
ん。なぜなら、暗号文は、送信者の秘密鍵で暗号化されており、
その秘密鍵は本人以外は知ることはできないので、正しく復号で
きるはずがないからです。
 送信者の公開鍵で復号できるのは、送信者の秘密鍵で暗号化し
たものだけであり、それ以外では正しく復号できないのです。こ
れによって、公開鍵暗号のデジタル署名は、なりすましにも有効
であることがわかります。
 このように考えていくと、公開鍵暗号は、本人認証のためには
なかなか優れた仕組みであると考えてしまいます。しかし、欠点
もあります。最初から標的を決めて、その人になりすまし、秘密
鍵と公開鍵を作り、いろいろな情報を送りつけてきたとします。
 この場合、当然のことですが、契約書などの文書は、ハッシュ
値が一致するので、真正なものに見えてしまうことになります。
デジタル署名を日本のハンコに置き替えると、「認印」を押して
書類を作るようなものです。認印は200円程度で買えます。
 この問題に対処するために、認証局(CA)が用意されている
のです。日本の場合、重要な契約締結に当たっては、単なる認印
ではなく、実印を決めたうえで、役所に印鑑登録を済ませ、その
証明書によって、本人に間違いないことを証明します。デジタル
署名も認証局にデジタル証明書を発行してもらい、間違いなく本
人であることを証明するのです。なお、認証局の「CA」は、次
の言葉の省略です。
─────────────────────────────
          ◎認証局(CA)
           Certificate Authority
─────────────────────────────
 認証局に発行してもらうデジタル証明書は、いわば送信者の公
開鍵ということになります。これには、認証局のデジタル署名が
施されています。つまり、これは、認証局の秘密鍵で暗号化され
ているので、認証局の公開鍵を入手し、復号しなければならない
ことになります。なお、このデジタル証明書には、次の5つのも
のが含まれます。
─────────────────────────────
   @デジタル証明書の発行者
   Aデジタル証明書の有効期間
   B証明する対象は誰か(主体者)
   C主体者の公開鍵
   Dデジタル証明書に対する認証局のデジタル署名
           ──岡嶋裕史著/『ブロックチェーン/
          相互不信が実現する新しいセキュリティ』
                  ブルーバックス/講談社
─────────────────────────────
 普通の証明書には、当然その証明書が作成された年月日が記載
されています。デジタル証明書にも、ある時刻にその電子データ
が存在していたことと、それ以降改ざんされていないことを証明
する必要があります。これに対応する機関が存在します。
─────────────────────────────
      @TSA Time Stamping Authority
      ATAA Time Assessment Authority
─────────────────────────────
 TSAは、タイムスタンプを押してくれる機関であり、いわば
時刻認証局、TAAは正確な時刻の配信を行う機関のことです。
             ──[デジタル社会論V/028]

≪画像および関連情報≫
 ●社説/ワクチンパスポート発行 デジタル化や国内活用も
  検討を/日刊工業新聞
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルス感染症対策と経済活動の両立を図るた
  めに、ワクチンパスポートの国内活用策を検討すべきだ。政
  府は新型コロナウイルスワクチンの接種証明書(ワクチンパ
  スポート)の発行手続きについて、7月中下旬にも申請の受
  け付けを始める方針。当面は海外渡航者を対象にする。発行
  手続きはワクチンの接種記録を管理する市区町村が行うが、
  現場での混乱も予想される。
   政府が自治体に示した方針では、申請の受け付けは、窓口
  または郵送で受理し、電子申請は行わない。申請書類とワク
  チン接種記録システム(VRS)を照合し、証明書を窓口ま
  たは郵送で交付する仕組み。申請から発行までを即日で行う
  のが理想だが、申請者数によっては対応できない場合もあり
  そう。さらに7月中に64歳以下でワクチンの2回接種を終
  えているのは、企業による職域接種を受けた人が多いと見ら
  れる。VRSへの接種情報の入力が完了していなければ、発
  行が遅れる可能性もある。
   対応する自治体側には事務作業の負担が増すことになる。
  混乱を招かないように、当面は証明書が入国やその後の活動
  において不可欠な国への渡航者を優先するなど、むやみな申
  請を制限する措置も必要だろう。菅義偉首相は11月までに
  希望するすべての国民への接種を終えたいと表明した。国民
  が集団免疫を獲得するには6〜7割の接種が必要と見られる
  が、先行する国でも比率を上げるのに苦労をする例は多い。
                  https://bit.ly/3hrq8lS
  ───────────────────────────
電子認証の仕組み.jpg
デジタル署名の仕組み
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2021年09月17日

●「マイナンバーカードとe−TaX」(第5575号)

 『良いデジタル化悪いデジタル化』(日本経済新聞出版)の著
者である野口悠紀雄教授ご自身が、この本のなかでマイナンバー
カードについて次の体験を紹介しています。
 ある日、マイナンバーカードの有効期限が気になったので、カ
ードを調べてみたところ、「2025年の誕生日まで有効」と記
載されていたので、ひとまず安心したといいます。しかし、電子
証明書の有効期限は2020年までであると知って、慌てたとい
います。2020年はじめの話です。
 マイナンバーカードの有効期限は10年間ですが、署名用電子
証明書及び利用者証明書の有効期限は5年間です。カードと証明
書の有効期限が異なるのです。これは不便です。これではカード
の有効期限が10年であっても、電子証明書の有効期限が5年で
あれば、マイナンバーカードの有効期限は実質的に5年というこ
とになります。また、20歳未満の人のマイナンバーカードの有
効期間については、容姿の変動が大きいことから、顔写真を考慮
して5回目の誕生日ということになっています。
 マイナンバーカードの申請時に市役所の窓口で、「e−TaX
を使わないのであれば電子署名は必要ないでしょう」といわれた
人もいるといわれます。そういわれれば、手続きに時間もかかる
ので、多くの人は手続きをしない選択をするでしょう。なお、マ
イナンバーカードとe−TaXの関係については後述します。
 しかし、そのとき電子証明書の手続きをしなかった人は、マイ
ナンバーカードによる昨年の特別定額給付金のオンライン申請は
できなかったのです。電子証明書の手続きをしなくてもいいとア
ドバイスした市役所に聞くと、「そのような事態(特別定額給付
金申請)は想定できなかった」と述べています。
 野口教授によると、その後しばらくして、マイナンバーカード
電子証明更新手続きの通知が届いたといいます。手続きのために
来庁せよというのです。これについて、野口教授は、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 そもそも、電子証明書は、窓口に行かずに済ませるための道具
だ。その手続きをするために、コロナ感染の危険を冒して役所に
出頭しなければならないというのでは、話が逆ではないか?
 それだけではない。そもそも、電子証明書に5年という有効期
限を設けているのも、おかしい。電子署名を頻繁に使う場合には
何度も同じ秘密鍵を使っていると、それを外部者に推測されてし
まう危険がある。だから、電子証明書に一定の期限を設けること
にしている。
 ところが、マイナンパーカードの電子署名を頻繁に使う人など
まずいない。事実、私はこの5年間に一度も使ったことがない。
これは多くの人に共通することだろう。もし頻繁に利用している
人がいるのなら、その場合には任意で更新申請をすることとすれ
ばよい。一度も使っておらず、したがって、秘密鍵が知られた可
能性など絶対にあり得ないにもかかわらず、「5年たったから無
効」とするのは、役所の形式主義以外の何物でもない。さんざん
迷ったあげく、有効期限の1週間前に、私はおとなしく窓口に出
頭して、電子証明書の更新をした。     ──野口悠紀雄著
      『良いデジタル化/悪いデジタル化/生産性を上げ
       プライバシーを守る改革を』/日本経済新聞出版
─────────────────────────────
 ところで、「e−TaX」とは何でしょうか。
 「e−TaX」とは、「国税電子申告・納税システム」であり
2004年6月から導入されています。これは、行政手続きのオ
ンライン化で成功した唯一の例であるといわれます。
 2021年6月25日付の朝日新聞デジタルは、大阪国税局に
おける、2020年分所得税の確定申告状況における「e−Ta
X」の利用状況について、次のように報道しています。
─────────────────────────────
 大阪国税局は6月25日、2020年分所得税の確定申告状況
を発表した。申告した個人は、356万5千人(前年比2・9%
増)で、うち190万人(同12・5%増)がスマホやパソコン
でできる国税電子申告・納税システム「e−TaX(イータック
ス)」を利用。e−TaXで申告した人の割合が、初めて半数を
超えた。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、利用が広がった
とみられる。
 同局によると、管内の近畿2府4県で、申告会場に行かずにe
−TaXを使ったのは132万7千人。前年より26万9千人増
えた。自宅などでスマホを使って申告した人も、前年の倍の20
万5千人だった。          https://bit.ly/3zn3YaR
─────────────────────────────
 今回は、コロナ禍であったことが、e−TaXの利用を押し上
げている面はありますが、2017年度の法人税申告においては
e−TaXの普及率は79・3%と80%近くになっています。
そのため、2020年からは、大企業へのe−TaX義務化が行
われています。
 e−TaXを利用する場合は、「利用者識別番号」という16
桁の番号の取得と暗証番号の登録が必要になります。これらは、
e−TaXにログインするさい、本人認証のために必要になる手
続きです。しかし、マイナンバーカードを利用すると、e−Ta
Xの利用者識別番号と、暗証番号の手続きや入力が不要になりま
す。e−TaXでは、インターネットを利用してやりとりするデ
ータについて、データの作成者は誰であるか、送信されたデータ
は改ざんされていないかを確認する必要があります。
 ところがマイナンバーカードを使えば、e−TaXの事前準備
として必要であった電子証明書の登録が不要になるのです。それ
に加えて、e−TaXの利用によって、企業の経理そのものが合
理化されるメリットもあります。紙ベースで作成するよりは、は
るかに経理業務の効率化と改善につながるからです。
             ──[デジタル社会論V/029]

≪画像および関連情報≫
 ●マイナンバーカードを作るべきか?
  ───────────────────────────
   10万円の特別定額給付金がマイナンバーカードで申請で
  きるということをきっかけにして、マイナバーカードがここ
  にきて、俄然注目を浴びています。
   これまでの普及率は4割弱(2021年8月末現在)、ま
  だ10人中6人が持ってない。これまで絶対持っておかない
  とっていうメリットがほとんどありませんでした。あえて、
  これまでのメリットを挙げるとすると
   @マイナポイントで買い物のポイント還元
   A住民票などの各種証明書をコンビニのコピー機で取得で
    きる
   Bネット(e−TaX)での確定申告が可能
   C顔写真付き身分証明書として利用できる
   Dマイナポータル(情報提供等記録開示システム)を利用
    できる
   1のマイナポイントは、マイナンバーカードとキャッシュ
  レス決済の普及に向けた取り組みの1つで、「キャッシュレ
  ス・消費者還元事業」と同じように、キャッシュレス決済に
  対して国からポイントが還元される制度。
   「キャッシュレス・消費者還元事業」は2020年6月ま
  でで終了し、2020年9月から導入されました。期間限定
  で、25%のマイナポイントが還元されます(ポイント上限
  5000円まで)。
  ───────────────────────────
マイナンバーカードとe−TaX.jpg
マイナンバーカードとe−TaX
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2021年09月21日

●「16進数について知っておくこと」(第5576号)

 「ハッシュ値」は普通のPCでも算出できます。誰でも簡単に
計算できます。しかし、ハッシュ値を理解するには、16進数の
知識が必要です。少しややこしい話をしますが、別に難しくあり
ません。知っておくとトクな話です。ところで、その16進数に
ついて、こんな話があります。意味がわかるでしょうか。
─────────────────────────────
 9+1=10、19+1=20、なら、99+1=100です
よね。それでは、F+1=10、1F+1=20となる。では、
FF+1はいくつか。
─────────────────────────────
 ふつうはこれを聞いたら「キョトン」としてしまう人が多いと
思います。残念ながら、その人は16進数はわかっていません。
答えを先にいうと、「FF+1」は「100」です。どうしてそ
うなるかについて説明します。
─────────────────────────────
    10進数              16進数
   0   8   O   8   10   18
   1   9   1   9   11   19
   2  10   2   A   12   1A
   3  11   3   B   13   1B
   4  12   4   C   14   1C
   5  13   5   D   15   1D
   6  14   6   E   16   1E
   7  15   7   F   17   1F
─────────────────────────────
 数字というのは、0から9までの10個しかありません。後は
組み合わせです。最初に10進数の場合を考えます。10で桁上
がりするので、われわれは、11(じゅういち)、12(じゅう
に)、13(じゅうさん)・・・と数えますね。そうしないで、
左側の数字はすべて1、右側の数字は、0、1、2、3、4、5
6、7、8、9と考えるのです。
 16進数は、16で桁上がりするのですが、数字は0〜9しか
ないので、A、B、C、D、E、Fまでの6個のアルファベット
を数値として扱います。ここまでは誰でも知っていることです。
 問題は、10進数で16以降がどうなるかです。左側の数字と
右側の数字を分けて考えます。左側は、すべて1です。右側は、
0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、A、B、C、D、E
Fとなります。
 それでは、次の桁上りがどうなるかです。これは簡単です。左
側の数字は、すべて2です。右側は、O〜Fとなります。ここま
で理解できれば、冒頭の問題は解けますね。
 「F+1=10」のFは10進数なら「15」、プラス1で桁
が上がるので、左の数字は「1」、右の数字は「0」です。10
進数の「10」と考えるとわからなくなります。
 「1F+1=20」の1Fは2つ目の桁上りになるので、左側
の数字は「2」、右の数字は「0」です。したがって、「20」
になります。
 最後の「FF+1」は何でしょうか。
 FFというのはF=16ですから、16×16=256、10
進数の256、2進数の「11111111」になります。「F
F+1」は桁上りを意味しますから、「100」になります。そ
れ以降は、どうなるかについては次のようになります。
─────────────────────────────
100、101、102・・109、10A、10B・・10F
110、111、112・・119、11A、11B・・11F
120、・・・・・
 ・・・
 ・・・
190、191、192・・199、19A、19B・・19F
1A0、1A1・・・・
─────────────────────────────
 小学校の算数でやったはずです。鉛筆の本数を数えるのに、1
本ずつ、10本の束、100本の束と考えて、例えば「123」
は100本の束1つと、10本の束2つ、1本ずつが3つとやっ
たはずです。
 16進数では、16本の束、256本(16×16)の束を使
って数えます。例えば、「A0」は、16本の束10束と1本ず
つは0ということになります。
 ITの技術を理解するには、高等数学は不要です。しかし、算
数の知識は不可欠です。ところが、最近の大学生は、理工系も含
めて、算数に弱い人が多い傾向があります。なかには、割り算も
満足にできない人もいるので深刻です。どうしても計算にはスマ
ホの電卓を使ってしまうので、計算が弱くなっているのです。
 それでは16進数は何のために存在しているのでしょうか。
 16進数は、15までを1桁で表すことができるので、人から
見ると、長い2進数を短く表現することができます。これは、人
間にとって大きなメリットです。しかし、欠点もあります。人間
にとってわかりにくいからです。
 それに加えて、2進数の4桁を1桁で表すなど、コンピュータ
から見ると、2進数に変換しやすい特性を持っています。だから
プログラミングでもよく使われます。つまり、10進数よりも、
16進数の方がコンピュータにとって相性が良いのです。つまり
16進数は、人間とコンピュータの両方にとって、わかりやすい
表記法であるといえます。
 16進数のメカニズムというか構造──冒頭のような問題がす
ばやく解ける人は、IT技術を早く修得できる人であるといえま
す。逆にいうと、IT技術を修得するには、16進数を理解する
ことが大切です。そんなに難しいことは書いていないので、この
機会に知識に加えてください。きっと役に立ちます。
             ──[デジタル社会論V/030]

≪画像および関連情報≫
 ●コンピュータの世界は2進数と16進数で成り立ってます
  ───────────────────────────
  こんにちわ。
   あたりまですが、コンピュータはデジタル機器です。なの
  で、コンピューターの世界では数字は2進数や16進数で表
  現されることが多いです。今回はそんな2進数や16進数の
  話です。
   2進数(二進法)ですが、英語では binary といいます。
  カタカナで書くと「バイナリー」ですね。よく、コンピュー
  ターの世界では「バイナリーデータ」という言葉が出てきま
  す。コンピューターが理解できるデジタルなデータ群のこと
  を「バイナリーデータ」と言います。
   2進数の世界ではオンとオフしかないので、使われる記号
  も1と0しかありません。信号があるかないのか。。。って
  ことです。単純な表現方法なんですが、複雑なデータを表そ
  うと思うと大量の数字の羅列になってしまいます。人間がそ
  れを理解しようと思うと大変なことになりますが、もともと
  コンピュータは単純な情報を高速に処理するために生まれて
  きた技術ですし、あいまいな情報を処理するのは逆に苦手。
  なので、2進数のような何かを表そうとすると大量のデータ
  になるけれど、基本が単純なものの方がコンピュータは扱い
  やすいんですよね。なので、10〜15までの記号としてア
  ルファベットの「A,B,C,D,E,F」を割り当てて1
  ケタで表すことができるようにしたのが16進数です。
                  https://bit.ly/3CuuuAG
  ───────────────────────────
10進数と16進数.jpg
10進数と16進数
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2021年09月22日

●「だれでもハッシュ値を計算できる」(第5577号)

 「ハッシュ値」は普通のウインドウズPCを使って算出するこ
とができます。今日のEJはその方法について、できる限り、や
さしくご紹介することにします。参考にした書籍をご紹介してお
きます。
─────────────────────────────
                        岡嶋裕史著
『ブロックチェーン/相互不信が実現する新しいセキュリティ』
                 ブルーバックス/講談社刊
─────────────────────────────
 ウインドウズで使える「ハッシュ関数」には、次の2種類があ
ります。「ハッシュ長」とは算出されるハッシュ値の長さです。
─────────────────────────────
                 ハッシュ長
       MD5 ・・・・ 128ビット
       SH1 ・・・・ 160ビット
─────────────────────────────
 ここでの実験では「MD5」を使うことにします。短い方が何
かと便利だからです。ウインドウズが出荷状態で持っているハッ
シュ値を計算するコマンドは「CertUtil」といいますが、このコ
マンドを実行するための情報(バラメータ)が必要になります。
それは、次のようになります。
─────────────────────────────
    CertUtil -hashfile C:\Users\PSC test.txt MD5
─────────────────────────────
 上記の「-hashfile」というのは、CertUtil が持つ機能のなか
で「ハッシュ値を表示する機能を使う」という指定をPCに伝え
るためのものです。
 次の「C:\Users\PSC test.txt」 は、この実験に使うデータを
保存するファイルの指定です。このファイルは、ウインドウズに
標準的に付属している「メモ帳」を使って作成します。ドライブ
指定やファイル名については、自由に行います。ここでは、講義
の実験用に作ったものなので、「PSC test.txt」という名前をつ
けています。実験のさいは、このファイルにデータを格納してお
き、コマンドでファイルを指定してハッシュ値を算出します。
 早速やってみることにします。「PSC test.txt」に「a」とい
う文字を格納し、次のように、コマンドプロンプトで実行するこ
とにします。つまり、「a」という文字のハッシュ値をMD5で
算出するのです。そうすると、結果は次のようになります。
─────────────────────────────
C:\Users\PSC> CertUtil -hashfile C:\Users\PSC test.txt MD5
              ↓
C:\Users\PSC> CertUtil -hashfile C:\Users\PSC test.txt MD5
MD5 ハッシュ (対象 C:\Users\PSC\Desktop\test.txt):
0cc175b9c0f1b6a831c399e269772661
CertUtil: -hashfile コマンドは正常に完了しました。
─────────────────────────────
 「a」のハッシュ値は「0cc175b9c0f1b6a831c399e269772661」
のようになります。算出結果は、128ビットを16進数で表示
しているので、32ビットで表示されています。
 続いて、今度は「PSC test.txt」に「b」という文字を格納し
次のようにコマンドプロンプトで実行します。今度は、「b」の
ハッシュ値を求めます。結果は次のようになります。
─────────────────────────────
C:\Users\PSC> CertUtil -hashfile C:\Users\PSC test.txt MD5
              ↓
C:\Users\PSC> CertUtil -hashfile C:\Users\PSC test.txt MD5
MD5 ハッシュ (対象 C:\Users\PSC\Desktop\test.txt):
92eb5ffee6ae2fec3ad71c777531578f
CertUtil: -hashfile コマンドは正常に完了しました。
─────────────────────────────
 「b」のハッシュ値は「92eb5ffee6ae2fec3ad71c777531578f」
のようになります。「a」の結果と、まったく違うハッシュ値に
なっていることを確認してください。
 ここで大事なことがあります。ファイルに格納するデータは、
この実験のようにたった1文字でも、契約書のようにある程度ま
とまったデータでも、かなりの量の研究論文全文でも、本一冊分
の量のデータでも、ハッシュ関数「MD5」では、32ビットの
16進数の固定長として表示されるということです。
 仮にそのデータの1文字でも改ざんが行われると、違ったハッ
シュ値を表示します。しかも、ハッシュ値は、出力結果から元の
データに戻すことは不可能なのです。
 ハッシュ値のこの性質を利用すると、次のようなことが誰でも
行うことができます。AからBへ、ある重要文書を添付ファイル
にして、メールで送るとします。そのさい、Aは、送信前に送付
すべき文書のハッシュ値を算出し、その結果をメール本文にコピ
ーして、メールを送信します。Bのもとには、重要文書のファイ
ルとそのハッシュ値が届いたことになります。
 Aからのメールを受信したBは、添付ファイルとして届いた文
書のハッシュ値を算出し、それをAから送られてきたその文書の
ハッシュ値と照合します。もし、ハッシュ値が一致すれば、添付
文書には、改ざんがないことが証明されますし、もし、一致しな
ければ、文書には改ざんがあることになります。
 このように、ハッシュ値は普通のPCで簡単に算出することが
できる身近なものです。同じことを「SH1」でも行うことがで
きます。しかし、やり方はまったく同じですが、「SH1」によ
るハッシュ値は160ビットであり、それを16進数の40ビッ
トで表示されます。違いはそれだけです。
 ハッシュ値の算出法を覚えておくと、これ以外の様々なことに
活用できる余地があることがわかります。
             ──[デジタル社会論V/031]

≪画像および関連情報≫
 ●ハッシュ化とは?暗号化との違いや利用シーンを
  詳しく解説!
  ───────────────────────────
   ハッシュ化とは、ハッシュ関数と呼ばれる特殊な計算方法
  によって、一見ランダムに見える別の値(ハッシュ値)にデ
  ータを変換する方法です。ハッシュ値は復号できないため、
  パスワードを保管する際などに活用されています。同じデー
  タから得られるハッシュ値は常に同じです。この特徴から、
  ハッシュ値を比較すれば元のデータが同一か否かを判断でき
  ます。
   例えば、正しいログインパスワードのハッシュ値と、入力
  されたパスワードのハッシュ値が同一であれば、入力パスワ
  ードが正しいものと判断可能。その結果、元のID情報を直
  接やり取りすることがない、秘匿性の高いログイン処理が実
  現します。
   ソルト処理とは、元のデータにランダムな文字列を付加し
  てからハッシュ化することです。付加する文字列をソルトと
  呼びます。ソルト処理により、ハッシュ値から元のデータを
  推測されるリスクを軽減できます。
   ハッシュ値から元のデータを直接復号することは不可能で
  す。しかし、あるハッシュ値の元データが何であるか、第三
  者が知っている可能性があります。ログイン認証を例にすれ
  ば、同じハッシュ値を持つ者同士は、お互いに使っているパ
  スワードが同一であると分かってしまうでしょう。この問題
  を解決するために行われるのがソルト処理です。
                  https://bit.ly/3zzXoxP
  ─────────────────────────── 
特定の値を導く「ハッシュ値」.jpg
特定の値を導く「ハッシュ値」
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2021年09月24日

●「共通鍵方式という暗号方式がある」(第5578号)

 インターネットを簡単にいうと、個々の自律ネットワークをつ
ないだネットワークです。それらの自律ネットワークは、IPと
いう最低限の通信ルールには従うものの、それぞれ異なる管理ポ
リシーを持っているので、流れてくる情報に悪さをする組織や管
理者がいる可能性があります。
 「インターネットはバケツリレー」といわれますが、例えば、
メールのデータなどは、そういう得体のしれないゾーンをリレー
されながら、届けられているのです。このように、何もセキュリ
ティ対策を施さないで大事な情報をメールで送受信することは非
常にリスクがあります。
 9月22日のEJで、メールに重要文書を添付し、その文書の
ハッシュ値を付けて相手に送ることを紹介しました。この場合、
メールの受信者が添付の重要文書のハッシュ値を算出し、送られ
てきたハッシュ値と一致すれば、文書の改ざんがないことの証明
になります。
 しかし、これはわかりやすく説明するためにそのように書いた
もので、万全の対策ではないのです。なぜなら、何者かが、ハッ
シュ値そのものを改ざんしてしまえば、その目的が果たせなくな
るからです。少なくとも、文書とハッシュ値は同じメールで送る
べきではなく、別なメールで送るべきであります。
 『ブロックチェーン』(講談社/ブルーバックス)の著者の岡
嶋裕史氏によると、メールのメッセージに対して、何か悪さをし
てやろうとするパターンには3つあるとしています。メールとそ
のメールのハッシュ値は別便で送ることを前提にしています。
 第1のパターンは、「本文のメールだけを首尾良く捕まえ、改
ざんし、本物の送信者に成りすまして再送信できた場合」はどう
なるかです。
 このケースでは、本文のメール(添付ファイルを含む)に改ざ
んが行われた場合ですが、メールのハッシュ値は別便で到着して
いるので、到着したメールのハッシュ値を求め、別便のハッシュ
値と照合すれば、メールの改ざんは明らかになります。もちろん
ハッシュ値の方が改ざんされている可能性もあります。
 第2のパターンは、「メールのハッシュ値だけを首尾よく捕ま
え、改ざんし、本物の送信者に成りすまして再送信できた場合」
はどうなるかです。
 これは、第1のパターンの裏返しです。ハッシュ値も改ざんで
きます。改ざんが行われてもメールの本文はちゃんと届いていま
す。この場合はメールの本文のハッシュ値を求め、送られてきた
ハッシュ値と照合すれば、メールの本文かハッシュ値のいずれか
が改ざんされていることになります。
 第3のパターンは、「悪意の第三者が、本文のメールも、ハッ
シュ値のメールも取得し、本物の送信者に成りすまして再送信で
きた場合」はどうなるかです。
 これはやっかいです。これは「中間者攻撃」といって、すべて
を改ざんすることができ、しかも、送信者も受信者も改ざんに気
が付かないからです。
 これについては、メールのやり取りについての詳しい知識が必
要です。正規のメールのやり取りは、送信者のメールサーバーか
ら、受信者のメールサーバーへと送信されるのですが、その中間
に悪意ある第三者が割り込むことに成功すれば、メールの送受信
を中継することによって、何でもやりたい放題ができることにな
ります。これが「中間者攻撃」です。
 どのようにして、メールが相手に届くのかについては、いずれ
EJで取り上げて説明します。この「中間者攻撃」について、岡
嶋裕史氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 これは正規の送信者にとっても、正規の受信者にとっても悪夢
である。そんな都合のいいことができるのかと思うかもしれない
が、たとえば単純な手法として中間者攻撃がある。(中略)
 この場合、メールの中継をしている悪意の第三者は、メールの
本文もそこから導かれるハッシュ値も、自分で作ることができる
ため、メールの改ざんが事実上、可能になる。
 メールの本文を自分の都合のよいように書き換え、そこから作
った(矛盾しない)ハッシュ値を、本文とともに耳をそろえて受
信者に送ることができるので、受信者が本文からハッシュ値を計
算して、改ざんが行われていないかチェックしようとしても、中
継者である悪意の第三者の改ざんを見破ることができない。
                        岡嶋裕史著
『ブロックチェーン/相互不信が実現する新しいセキュリティ』
                 ブルーバックス/講談社刊
─────────────────────────────
 これを防ぐ方法がひとつあります。メールの送信者と受信者の
間で2人しか知らない共通鍵を決めておきます。これを「123
456」とします。「明日10時ね」というメールを送信するさ
い、別便で「123456明日10時ね」のハッシュ値を算出し
て、それを送ります。
 一方、受信者は、届いたメールの本文に改ざんがないか調べる
ときに、本文の頭に共通の鍵付けて、「123456明日10時
ね」でハッシュ値を算出し、別便で送られてきたハッシュ値と照
合します。この場合、一致するとメールの本文には改ざんがない
ことになります。
 中間攻撃者は、この共通鍵の存在を知らないので、仮にメール
の本文を「来年10時ね」と書き換えて、それを本文として本人
に成りすまして送信します。そして、メールで本文である「来年
10時ね」のハッシュ値を算出して、それを別便で送ります。こ
の場合、受信者はメールの本文とハッシュ値のいずれも一致しな
いので、改ざんを見破ることができます。
 問題はその共通鍵を送信者と受信者がどのようにして持つかに
ついては非常に難しい問題になります。
             ──[デジタル社会論V/032]

≪画像および関連情報≫
 ●共通鍵暗号方式/「日経XTECH」
  ───────────────────────────
   暗号化されていないデータのことを平文と言います。そし
  て平文に対して,鍵と暗号化のためのアルゴリズムを適用し
  て、データを変換したものが暗号文になります。暗号文に鍵
  と復号のためのアルゴリズムを適用して変換すると,また元
  の平文に戻ります。
   ここで,暗号化する時と復号する時に同じ鍵を利用するの
  が共通鍵暗号方式です。対称鍵暗号方式と呼ばれる場合もあ
  ります。また,それぞれの鍵を秘密に管理する必要があるた
  め,秘密鍵暗号方式と呼ばれる場合もあります。
   例えば添付ファイルの図で「ABC」という文字列が本来
  伝えたいデータ(平文)、これをアルファベットの並び順に
  3文字ずらしたもの「DEF」を伝送経路に送信し,受け取
  った側で3文字戻して元のデータ「ABC」を読み取るとし
  ます。この場合,「3文字」の部分が鍵に相当します。暗号
  化のアルゴリズムは「ずらす」,復号のアルゴリズムは「戻
  す」です。送信者が本来伝えたい文字列は「ABC」ですが
  アルファベットの並び順に3文字ずらした状態「DEF」が
  暗号化された状態になります。万が一,悪意のある第三者が
  盗聴に成功したとしても,入手できる文字列は「DEF」で
  あり,正しい文字列「ABC」を得ることができません。し
  かし受信した側では,あらかじめ入手しておいた鍵(「3文
  字」という情報)を用いて3文字戻すことによって元の文字
  列「ABC」を得ることができます。
                  https://bit.ly/3EE4kO3
  ───────────────────────────
共通鍵暗号方式.jpg
共通鍵暗号方式
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年09月27日

●「マイナカードと健保証合体の利点」(第5579号)

 2021年9月24日のことです。産経新聞が、発足したばか
りのデジタル庁の不祥事について、次のように報道しています。
─────────────────────────────
◎デジタル庁次官級の接待、平井大臣も一部同席
 デジタル庁の事務方ナンバー2で事務次官級の赤石浩一デジタ
ル審議官(58)が事業者から接待を受けたとして24日、減給
10分の1(1カ月)懲戒処分を受けた問題で、接待の一部には
平井卓也デジタル相が同席したことがわかった。赤石氏は事業者
から3回にわたって計約12万円の接待を受けたとして処分を受
けた。平井氏は24日の記者会見で、赤石氏の辞職を否定。「有
能な人材であることは間違いない。引き続きデジタル審議官とし
て、職責を果たしてもらいたいと考えている」と述べた。接待の
一部には、同庁参与の向井治紀氏も同席していた。デジタル庁は
向井氏が官僚OBのため懲戒処分の対象にしないとしているが、
月給10分の2相当を自主返納する意向という。
                  https://bit.ly/3o5pcrr
─────────────────────────────
 平井大臣をはじめ、内閣官房IT総合戦略室(デジタル庁に統
合)幹部は、デジタル庁発足前から業者(とくにNTT)から接
待を何回も受けており、EJもこの接待問題について、8月27
日〜30日で取り上げています。向井治紀参与なる人物について
は、30日のEJで写真付きで紹介しています。
 発足して1か月も経たないうちに、またしても業者の接待を受
けるデジタル庁の幹部──これでは、最初からデジタル庁は特定
業者の色に染まっているように見えます。こんなことでは、日本
のデジタル化の前途は暗い。給与の返納ぐらいで済む問題ではな
いと私は思います。
 デジタル庁の最初の仕事は、マイナンバーカードの普及です。
デジタル庁発足前の今年の3月、政府はマイナンバーカードを健
康保険証として利用できるよう計画を進めるといってきましたが
本当に実現するのでしょうか。スタートは、2021年(令和3
年)10月からといっていましたが、9月は今週で終わるという
のに何の音沙汰もありません。どうなったのでしょうか。
 マイナンバーカードと運転免許証を一体化するという話もあり
ましたが、これはどうなったのでしょうか。こちらは、2024
年度末ということになっていますが、菅首相は、2020年12
月11日の記者会見で、2024年末に前倒しすると発表してい
ます。同日付の「インプレス・ウオッチ」は、この件を次のよう
に報道しています。
─────────────────────────────
 政府は、マイナンバーカードと運転免許証の一体化の目標を前
倒しした。当初2026年中の開始としていたが、2024年度
末の一体化実現を目標とする。菅総理が2020年12月11日
「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキ
ンググループ」において、「マイナンバーカードを持つメリット
を高めるために、運転免許証とマイナンバーカードの一体化は、
できるだけ前倒し、令和6年度末(2024年度末)までに実現す
る」と表明した。マイナンバーカードと運転免許証の一体化によ
り、住所変更時に市区町村窓口でマイナンバーカードの住所を変
更すれば、警察署への届け出が不要となる。また、郵送で行なわ
れてきた県外対応の迅速化も目指す。 https://bit.ly/3i1LgQ0
─────────────────────────────
 しかし、運転免許証をマイナンバーカードと一体化するメリッ
トはどこにあるのでしょうか。まして運転免許証は、高齢者の更
新に当たっては、認知症テストがあったり、実技テストもあるの
で、複雑になっています。
 高齢者の運転免許証については、9月6日のEJで書いたよう
に、デジタルではありませんが、とても合理的に改善されていま
す。公安委員会からの指示にしたがっていれば、すべては完了す
るのです。黄色のはがき、青色のはがき、赤色のはがきの3つが
あって、はがきが来たら指示にしたがって指定の場所に行ければ
よいのです。私の場合は、既に黄色と青色のはがきの指示はクリ
アし、赤色のハガキを待っています。赤色のはがきが来たら、近
くの警察署に行けば、目の検査と写真撮影があり、その日に更新
免許証を受け取ることができます。マイナンバーカードなんかと
一緒にされたら、迷惑そのものです。
 マイナンバーカードと健康保険証の一体化について考えます。
問題なのは、当然といえば当然ですが、これによって紙の健康保
険証を廃止するというのです。健康保険証はないと困るものであ
り、これをやられると、嫌でもマイナンバーカードを申請しなけ
ればならなくなります。これについて、野口悠紀雄教授は次のよ
うに反対しています。
─────────────────────────────
 保険証の発行停止ということになると、マイナンパーカードの
電子証明なしでは、病院で診療を受けられなくなる。これは面倒
なことだ。健康保険証は自動的に送ってくれるが、カードは役所
まで取りに行かなければならない。
 健康保険証を頻繁に使っている人(病気にかかっている人、身
体障碍者、高齢者など)は自分では取りに行けない場合も多い。
代理人でも可能な場合があるが、それでも役所に出頭しなければ
ならないことに変わりはない。健康保険証とマイナンパーカード
一体化は、健康保険証に頼らざるを得ない人に不合理な負担を強
いることになる。保険証を停止するのは、それによって地方公共
団体の事務負担が減るからだという。役所の負担が減るのはよい
ことだ。しかしその負担が国民に転嫁されるのでは、やりきれな
い。                   ──野口悠紀雄著
      『良いデジタル化/悪いデジタル化/生産性を上げ
       プライバシーを守る改革を』/日本経済新聞出版
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/033]

≪画像および関連情報≫
 ●マイナンバーカードと保険証が合体
  /高齢者にとっての利便性は?
  ───────────────────────────
   菅政権が発足して数カ月が経ちました。政権による新型コ
  ロナウイルス関連の政策が連日注目されるのは当然のことな
  がら、この他にも目玉として位置づけられている政策があり
  ます。それは、社会全体のデジタル化推進です。
   その一環として、2022年度以内にすべての国民が取得
  することを目指し、政府はマイナンバーカードの普及促進を
  強化しようとしています。このための施策として計画されて
  いるのが、健康保険証や運転免許証とマイナンバーカードの
  一本化です。
   厚生労働省では、マイナンバーカードが健康保険証として
  の使用を2021年3月にスタートさせ、2026年末まで
  には運転免許証と一本化することを発表していますが、これ
  がデジタル化とどう関係するのかピンとこない人もいるかも
  しれません。また、マイナンバーカードと健康保険証がひと
  つになることで、高齢者にとっても何が便利になるのでしょ
  うか?さらに、マイナンバーが漏洩しないのかも気になりま
  す。マイナンバーカードと健康保険証の一本化によって、何
  がどう変わるのか見ていきましょう。マイナンバーカードと
  保険証の一本化は、生活のいろんな場面における手続きのデ
  ジタル化の推進につながります。 https://bit.ly/3o3PDhp
  ───────────────────────────
マイナカードと免許証合体の前倒しを発表する菅首相.jpg
マイナカードと免許証合体の前倒しを発表する菅首相
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2021年09月28日

●「デジタル化が進化するエストニア」(第5580号)

 マイナンバーカードと健康保険証の一体化が遅れている理由で
すが、先行して運用が開始された一部の医療機関で保険資格の情
報が登録されていないところが続出したり、健康保険証に記載さ
れた情報が一致しなかったなどのトラブルが頻発したからといわ
れています。これは初歩的ミスもいいところです。システムが根
本的におかしいのです。
 とにかくマイナンバーカードはトラブル続きです。定額給付金
申請でも使えず、健康保険証との一体化でも使えず、これではワ
クチン接種の管理にも使えないでしょう。これまで使えているの
は「イー・タックス」だけです。
 それぞれ使えない理由は明白になっているはずです。それなら
なぜ、その問題点を解決しようとしないのでしょうか。マイナン
バー制度の主務官庁は総務省ですが、総務省は一体何をやってい
るのでしょうか。
 マイナンバーカードについての現況について、野口悠紀雄教授
は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 このような状況を、なぜその後改善しなかったのか?ワクチン
接種がいつか行われることは、2020年の早い段階で分かって
いた。だから、もしマイナンバーを用いるなら、それに向けて準
備すべきだった。1年間あれば、準備ができたのではないだろう
か?土壇場になって導入しょうとしても、できないことは明らか
だ。この1年間に、マイナンバーカードについて実際になされた
ことと言えば、マイナポイントでポイント還元することだった。
マイナンバーカードを使えるためのインフラストラクチャーを準
備せず、普及だけを目的にしてきた。
 マイナンバーカードがそうだというわけではないのだが、膨大
な広告宣伝費をかけて粗悪品を売り捌こうとする悪徳商法を連想
してしまう。               ──野口悠紀雄著
      『良いデジタル化/悪いデジタル化/生産性を上げ
       プライバシーを守る改革を』/日本経済新聞出版
─────────────────────────────
 現在日本の医療の現場では、医療情報の一元化がまだできてい
ません。それぞれカルテは病院ごとに電子化されていますが、病
院間でデータを共有して利用できる体制になっていないのです。
これは、患者にとって、非常に不便なことです。ある病院でやっ
た検査の結果が、自分の医療情報でありながら、病院間で共有で
きていないために、病院が変わると、同じ検査をその病院でやら
なければならない。これは無駄なことです。そのため、私は、若
い頃から、ある特定病院でのみ診察を受けています。
 このことをとらえて、だから健康保険証をマイナンバーカード
と一体化し、医療情報を一元化すべきだと説く人がいます。政府
はそのように考えています。確かに医療情報は一元化すべきです
が、マイナンバーのような中央集権的な仕組みで一元化すべきで
はないといえます。
 病歴というのは、非常にセンシティブな個人情報です。もし、
これが悪用されると、大変なことになります。また、管理システ
ムのセキュリティが甘く、医療情報の外部流失の恐れもあるし、
カードの紛失やパスワードの盗難、認証局へのサイバー攻撃も十
分考えられることです。
 理想的には、医療情報はあくまで個人が管理し、攻撃不能な堅
固なセキュリティに守られ、必要に応じて情報を開示するような
システムが必要です。
 そんなことができるのでしょうか。
 ブロックチェーンを使えばそれは可能です。野口教授の本には
エストニアの例が出ているので、以下、要約してご紹介します。
 エストニア共和国は、北ヨーロッパの共和制国家であり、首都
はタリンです。バルト三国では最も北に位置し、南は同じバルト
三国であるラトビアと、東はロシア連邦と国境を接しています。
北はフィンランド湾を挟んでフィンランドと、西はバルト海を挟
んでスウェーデンと向き合っています。人口はわずか130万人
程度の小国です。しかし、このような電子政府が人口が小さいか
らできたというわけではないのです。
 エストニアでは、国民背番号制度があり、国民一人ひとりが、
「国民ID」という番号を持ちます。電子認証(本人確認)とサ
インをデジタルで行うために、ICチップを埋め込んだ「eID
カード」を全員が持っています。このカードを専用のカードリー
ダーに差し込んで、暗証番号を入力すると、無料で電子署名を行
うことができます。このエストニアのシステムは、2002年に
提供がはじまっています。
 エストニア政府は、「eIDカード」によって、国民の名前や
住所などの基本情報のほか、どの分野の教育を受けているのかな
どの情報を把握することが可能になります。このカードを持って
いると、エストニア政府が提供する様々なオンライン行政サービ
スを受けることが出来ます。データは、ブロックチェーンでデー
タベース化されているので、改ざんの恐れはないのです。
 エストニアでは、行政申請の99%がオンライン化されており
「eIDカード」と連携したサービスは2700を超えます。確
定申告の95%、法人設立手続きの98%、薬の処方の99%は
オンラインで行われています。
 その他、住民登録、年金や各種手当の申請、自動車の登録手続
き、国民健康保険の手続き、運転免許証の申請と更新、出生届提
出や保育園・学校への入学申請、学校の成績表へのアクセス、も
ちろん、銀行口座、病院の診断履歴へのアクセスも可能です。
 これらのエストニアのIT立国を支える基盤技術が、ブロック
チェーンです。エストニアでは、2008年にブロックチェーン
をテスト導入し、今日では、医療データの記録・管理にブロック
チェーン技術を活用していくための、試験運用が行われており、
今後も活用を広げていくことになっています。
             ──[デジタル社会論V/034]

≪画像および関連情報≫
 ●デジタル変革で電子政府化を実現したエストニア、隠された
  苦難の歴史と希望の未来
  ───────────────────────────
   人口約130万人の小国エストニアが注目を集めている。
  1991年に旧ソ連から独立を回復後、行政システムの電子
  化へ一気に舵を切り、今では行政手続きの99%が電子化さ
  れた国だ。電子政府やIT先進国というイメージの確立に成
  功し、海外の優秀なデジタル人材を引きつけ、新しい国のあ
  り方を提示している。エストニアは、なぜ電子政府を実現で
  きたのだろうか。日本の10年先を進むとも言われるエスト
  ニアのデジタル変革と彼らが向かう新しい世界について、そ
  の歴史や文化的背景を踏まえて述べる。
   今年3月、欧州のエストニアで開かれた国会議員選挙にお
  いて、元大関の把瑠都(本名、カイド・ホーヴェルソン)さ
  んが当選した。エストニア出身の大相撲力士による国会議員
  の就任は日本でも話題になった。だが、この選挙は世界的に
  はより違う意味で受け止められた。投票数のうち43・8%
  が電子投票だったからだ。
   エストニアでは国民一人ひとりに与えられたデジタルID
  を用いれば、インターネットを通じて投票ができる。電子投
  票の受付期間中であれば、世界中いつでもどこからでも選挙
  に参加できる。2005年の地方選挙で世界に先駆けてイン
  ターネット投票を実現して以来、電子投票の比率は年を経る
  ごとに上がった。今回初めて4割を超え、電子投票の得票数
  が国政の結果を左右するほどになった。
                  https://ibm.co/2Y2yAS5
  ───────────────────────────
エストニアの風景.jpg
エストニアの風景
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2021年09月29日

●「PISAにおけるエストニア順位」(第5581号)

 昨日のEJで、エストニアの話をしましたが、この国、最近に
なって急に注目を集めてきているのです。「PISA」というも
のをご存知でしょうか。
 PISAとは、世界中の10代の若者たちの学習到達度を測る
テストのことで、PISAは次の略称です。OECD加盟国を中
心として、3年ごとに実施される15歳を対象とする国際的な学
習到達度テストのことです。
─────────────────────────────
  ◎PISA
   Programme for International Student Assessment
─────────────────────────────
 PISAのテストは、「読解力」「数学的リテラシー」「科学
的リテラシー」の3分野に分かれていて、実施年ごとに3つのな
かから、中心分野が設定され、その分野が、とくに重点的に調査
されることになっています。
 このPISAにおいて、日本の15歳が活躍しているのです。
しかし、「読解力」においては他国に少し劣っているようです。
2015年度と2019年度の2年度のPISAのベスト10を
次に示します。OECD加盟国37カ国の順位です。
─────────────────────────────
 ◎読解力
  ★2018度        ★2015年度
   1位:エストニア      1位:カナダ
   2位:カナダ        2位:フィンランド
   3位:フィンランド     3位:アイルランド
   4位:アイルランド     4位:エストニア
   5位:韓国         5位:韓国
   6位:ポーランド      6位:日本
   7位:スウェーデン     7位:ノルウェー
   8位:ニュージーランド   8位:ニュージーランド
   9位:アメリカ       9位:ドイツ
  10位:イギリス      10位:ポーランド
 ◎数学的リテラシー
  ★2018度        ★2015年度
   1位:日本         1位:日本
   2位:韓国         2位:韓国
   3位:エストニア      3位:スイス
   4位:オランダ       4位:エストニア
   5位:ポーランド      5位:カナダ
   6位:スイス        6位:オランダ
   7位:カナダ        7位:デンマーク
   8位:デンマーク      8位:フィンランド
   9位:スロベニア      9位:スロベニア
  10位:ベルギー      10位:ベルギー
 ◎科学的リテラシー
  ★2018度        ★2015年度
   1位:エストニア      1位:日本
   2位:日本         2位:エストニア
   3位:フィンランド     3位:フィンランド
   4位:韓国         4位:カナダ
   5位:カナダ        5位:韓国
   6位:ポーランド      6位:ニュージーランド
   7位:ニュージーランド   7位:ドイツ
   8位:スロベニア      8位:ポーランド
   9位:イギリス       9位:スロベニア
  10位:オランダ      10位:オランダ
     https://bit.ly/3o9Ic8u  https://bit.ly/3zBPbZS
─────────────────────────────
 エストニアに注目してください。「読解力」においては、エス
トニアは、2015年は第4位ですが、2018年には第1位に
なっています。「数学的リテラシー」では、2015年は4位で
したが、2018年は3位に昇格。「科学的リテラシー」につい
ては、2015年は2位でしたが、2018年はトップになって
います。これは凄いことです。
 日本はどうでしょうか。「読解力」においては、2015年は
第6位だったものの、2018年は、イギリスと同率ながら、ベ
スト10から脱落しています。日本は「読解力」には問題がある
ようです。
 「数学的リテラシー」においては日本は強いのです。2015
年も2018年も第1位を占めています。韓国もピタリと第2位
につけています。「科学的リテラシー」については、2015年
は日本は第1位でしたが、2018年には日本はエストニアに抜
かれて第2位になっています。それでも日本の15歳は(現在は
21歳〜18歳)はなかなか頑張っているといえます。
 ところで、日本は「読解力」の順位は低いですが、何か問題が
あるのでしょうか。
 実は2000年は8位だったのですが、2003年には第14
位に転落し、その後大幅な改善がみられないでいます。日本の順
位の低い原因は、自由記述問題への無回答率が高いこととされて
います。このような結果を受けて日本は、2005年12月から
読解力向上プログラムがはじまり、2015年には第6位にまで
順位は向上していますが、直近調査の2018年には、またして
もベスト10から脱落しています。単に、書かれたテキストを読
むだけではなく、理解・利用・塾考する能力の育成が目標とされ
ているのですが、うまくいっていないようです。
 このように、日本は「読解力」には問題はあるものの、「数学
的リテラシー」と「科学的リテラシー」では、上位を占めていま
す。しかし、IT技術の向上に関しては、エストニアに大きく遅
れているのです。これは、政府の問題です。
             ──[デジタル社会論V/035]

≪画像および関連情報≫
 ●エストニアが行っているプログラミング教育とは?
  /世界のプログラミング教育事情
  ───────────────────────────
   日本では世界最高基準のIT社会の実現に向けて、202
  0年から小学校でプログラミング教育が必修化します。必修
  化により、情報に関する技術を理解し、活用する能力を養い
  論理的思考能力の育成を目的としています。
   必修化の背景として、プログラミング教育において、日本
  は欧米やアジア諸国から遅れをとっています。そこで、海外
  では、どういった国でどのようにプログラミング教育が行わ
  れているのでしょうか?
   今回は、プログラミング教育において、先進的な取り組み
  を行っており、高い実績を誇るエストニアのプログラミング
  教育事情をご紹介します。
   エストニアは、北欧に位置しており、バルト三国(エスト
  ニア、ラトビア、リトアニア)の一つです。首都はタリン、
  人口は日本の約1/100の132万人、面積は、日本の約
  1/8の45230平方メートルの日本より比較的小さな国
  です。エストニアは、ITの分野で世界から注目されており
  コミュニケーションツールで有名なスカイプもエストニアで
  創業された企業なのです。1991年にソ連から独立後、政
  府はITに資本を投ずることを決定し、これにエストニア国
  民も支持しました。独立当初、インターネットの利用環境の
  整備に注力し、IT強化へまい進しました。
                  https://bit.ly/3zG5wN5
  ───────────────────────────
PISA.jpg
PISA
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(4) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年09月30日

●「中国系を入れるとPISAは変化」(第5582号)

 少し補足しておきたいことがあります。昨日のEJで、世界中
の10代の若者たちの学習到達度を測るテスト「PISA」のベ
スト10をご紹介しました。しかし、そこには、中国や中国に近
い国は入っていません。
 そもそもOECDは「先進国クラブ」といい、欧州諸国、米国
日本などを含む38カ国で構成されています。2020年4月に
コロンビア、2021年5月にコスタリカが加盟していますが、
昨日のEJのデータは37カ国のデータに基づいています。なお
加盟国は毎年少しずつ増えています。
 どうして中国はOECDに入っていないのでしょうか。中国の
GDPが日本を抜いたのは2010年であり、今は日本の3倍近
い規模です。建国当初と比べると、経済規模は実に膨大になって
います。国民の可処分所得は建国時の実に567倍になり、1億
元(約15億円)以上の資産を持つ世帯がおよそ11万に上がり
ます。このように経済は巨大ですが、中国は発展途上国です。先
進国クラブといわれる経済協力開発機構(OECD)の分類では
先進国の一歩手前である「上位中所得国」で、政府開発援助(O
DA)を受け取れます。14億人の人口で割ると1人あたりの経
済規模は1万ドル弱と、日本の4分の1程度だからです。
 それに中国は、OECD、すなわち、先進国になろうとしてい
ないのです。中国共産党政権は「先進国入りを目指す」とは絶対
にいわないのです。むしろ「世界最大の発展途上国」だと強調し
ています。
 しかし、教育の面では、中国をはじめとするOECD未加盟国
も含めて調べないと、本当のところは見えてきません。そこで国
の範囲を拡大させ、79カ国の地域にまで拡大して、昨日のPI
SAのベスト10を出してみました。「北京・上海など」とある
のは「北京・上海・江蘇・浙江」です。
 79カ国まで広げてみると、「北京・上海・江蘇・浙江」、シ
ンガポール、香港などの中国勢が上位を独占してしまい、昨日の
ベスト10とは大きく違ってきています。そのなかにあって、2
018年の調査では、日本は「読解力」では劣るものの、「数学
的リテラシー」では6位、「科学的リテラシー」では5位と健闘
していますが、アジアの先進国としてこの順位は満足すべきもの
とはいえないのです。その証拠に、社会のデジタル化においては
大きく遅れているからです。
─────────────────────────────
 ◎読解力
  ★2018度        ★2015年度
   1位:北京・上海など    1位:シンガポール
   2位:シンガポール     2位:香港
   3位:マカオ        3位:カナダ
   4位:香港         4位:フィンランド
   5位:エストニア      5位:アイルランド
   6位:カナダ        6位:エストニア
   7位:フィンランド     7位:韓国
   8位:アイルランド     8位:日本
   9位:韓国         9位:ノルウェー
  10位:ポーランド     10位:ニュージーランド
 ◎数学的リテラシー
  ★2018度        ★2015年度
   1位:北京・上海など    1位:シンガポール
   2位:シンガポール     2位:香港
   3位:マカオ        3位:マカオ
   4位:香港         4位:台湾
   5位:台湾         5位:日本
   6位:日本         6位:北京・上海など
   7位:韓国         7位:韓国
   8位:エストニア      8位:スイス
   9位:オランダ       9位:エストニア
  10位:ポーランド     10位:カナダ
 ◎科学的リテラシー
  ★2018度        ★2015年度
   1位:北京・上海など    1位:シンガポール
   2位:シンガポール     2位:日本
   3位:マカオ        3位:エストニア
   4位:エストニア      4位:台湾
   5位:日本         5位:フィンランド
   6位:フィンランド     6位:マカオ
   7位:韓国         7位:カナダ
   8位:カナダ        8位:ベトナム
   9位:香港         9位:香港
  10位:台湾        10位:北京・上海など
     https://bit.ly/3o9Ic8u  https://bit.ly/3zBPbZS
─────────────────────────────
 電子政府を機能させているエストニアについても見る必要があ
ります。2018年の調査では、「読解力」ではエストニアは第
5位、「数学的リテラシー」では第8位、「科学的リテラシー」
では第4位としっかりとした地位を占めています。改めて注目す
べき国であるといえます。
 2020年3月12日、エストニアは、新型コロナウイルスの
感染拡大を阻止するため、非常事態宣言を発出して、国境を閉鎖
し、エストニアは完全なロックダウン体制に入っています。しか
し、エストニアの場合、ロックダウンをしている間も、政府サー
ビスの99%がオンラインで提供されています。もちろん、給付
金も難なく、素早く支給されています。日本と大きく違っていま
す。つまり、エストニアでは、「デジタル」は、まさに救世主に
なっています。エストニアは、ロシアの侵攻を想定し、そういう
ときでも政府が機能するよう備えていたのです。その敵がコロナ
になっただけです。    ──[デジタル社会論V/036]

≪画像および関連情報≫
 ●エストニアは本当に「電子国家」なのか--現地に移住した
  日本の若者がみた実情
  ───────────────────────────
   近年、デジタル化政策を次々と推し進め、世界の中でも最
  前線を行く「電子国家」として日本でも有名になっている、
  人口わずか130万人の小国がある。それがエストニアであ
  る。「e-government」と呼ばれる国民データベースにより、
  国民はICチップ付きIDカードによって全ての行政サービ
  スを受けることができる。また国民の96%がインターネッ
  ト上で所得税申告を行うなど、行政インフラのIT化が進ん
  でいる。現在では「eResidency」という制度によって世界中
  の人々に「バーチャル国籍」を発行するというユニークな政
  策も行なっている国である。まるで国全体がスタートアップ
  組織のようだ。
   しかし、国が打ち出す電子国家としてのイメージとは裏腹
  に、実際には多くの人がいまだに現金を使っていたり、ネッ
  ト投票を利用していなかったりと、後進的な部分もまだまだ
  残っている。だからこそ、この先エストニアという小国がど
  のような世界を見せてくれるのか期待できるのである。
   4年前から同国に移住し、現地のタリン工科大学を卒業し
  た筆者(26歳)が日々の暮らしの中で感じた、エストニア
  という国の実情をご紹介する。ただし、あくまでも筆者の実
  体験に基づく内容であり、すべての国民には当てはまらない
  ことをご理解いただきたい。エストニアの電子サービスとし
  て紹介されることが多いのは、「e-Residency」 という電子
  国民IDやインターネット投票、電子裁判などである。電子
  国家と呼ばれているが、国民が未来的な生活をしているわけ
  ではなく、行政サービスが非常に整った国ということだ。
                  https://bit.ly/3ASyOcM
  ───────────────────────────
エストニアの国民IDカード.jpg
エストニアの国民IDカード
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月01日

●「エストニア電子国民になれる資格」(第5583号)

 斎藤大樹さんという人がいます。現在、エストニアの首都タリ
ンに在住しており、2016年にタリン工科大学物理学科に入学
し、在学中にはエストニア小型人工衛星開発や修士研究に従事し
つつ、コンサルティング会社を設立しています。2018年夏に
タリン大学を卒業し、エストニアでビジネスをしたい人のサポー
トの仕事を行っています。
 この斎藤大樹氏がエストニアについて貴重なレポートをネット
にアップロードしています。野口悠紀雄教授の意見に加えて、こ
のレポートを通して、エストニアの電子政府について書くことに
します。このレポートについては、28日のEJの関連情報で一
部をご紹介しています。
 エストニアは、「イー・ガバメント」と呼ばれる国民データー
ベースにより、国民はICチップ付きカード(国民ID)によっ
て、全ての行政サービスを受けることができます。実際に国民の
96%がインターネット上で所得税申告を行うなど、行政インフ
ラのIT化が進んでいるのです。
 この国民IDカードは、パスポート、公的身分証明書、運転免
許証、健康保険証などとして機能し、本人確認に使われているの
です。完全に日本のデジタル庁がこれからやろうとしていること
を先取りしています。この国民IDの利用回数は、一日平均数回
以上といわれています。なぜかというと、銀行口座アクセスなど
民間サービスの本人確認に使われているからです。
 面白いのは、エストニアでは、「イー・レジデンシィ」という
制度によって、世界中の人々に「バーチャル国籍」を発行し、電
子国民になることができます。安倍前首相も、2018年1月に
この制度によって、エストニアの「バーチャル国籍」をプレゼン
トされています。これについて、エストニア公共放送が安倍首相
の顔写真付きで次の記事を報道しています。
─────────────────────────────
 ◎Japanese Prime Minister becomes Estonian e-resident
                 https://bit.ly/39R1vL6
─────────────────────────────
 ところで、エストニアの「バーチャル国籍」を取得することに
よって、何ができるのでしょうか。もちろん本来の国籍が変わる
わけではありませんが、大きなメリットとして、日本にいながら
簡単にエストニアで会社を設立することができます。
 この制度の専用ページによると、2021年5月18日現在、
約150の国から約3万3千人が「電子国民」を申請していて、
約5000の企業が立ち上げられています。電子国民の申請費用
は、100ユーロ(約1万3000円)です。
 エストニアというと、元大相撲力士の把瑠都(バルト)氏が記
憶に残っていますが、一時タレントとして活躍していたといわれ
ますが、2019年にはエストニアの国会議員になっています。
 このエストニアについて、斎藤大樹氏は、エストニアの印象に
ついて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 まるで国全体がスタートアップ組織のようだ。しかし、国が打
ち出す電子国家としてのイメージとは裏腹に、実際には多くの人
がいまだに現金を使っていたり、ネット投票を利用していなかっ
たりと、後進的な部分もまだまだ残っている。だからこそ、この
先エストニアという小国がどのような世界を見せてくれるのか期
待できるのである。             ──斎藤大樹氏
                  https://bit.ly/3zUsdNE
─────────────────────────────
 日本の場合は、マイナンバーを銀行口座と紐づけようとしてい
ます。これが実現できると、特別給付金などが迅速に行えると政
府は宣伝しますが、とくに日本の場合、特別給付金などを国が簡
単に支給するはずはないし、そもそもマイナンバーのような制度
を中央集権的な仕組みでやることに無理があるのです。
 実は、エストニアも、現在の仕組みになる前の2007年に、
システムが大規模なアタックを受けて情報漏洩事故が発生し、制
度の見直しを迫られたのです。その結果、取り入れたのが「エッ
クス・ロード(X-Road)」です。
 「エックス・ロード」とは何でしょうか。
 「エックス・ロード」について、斎藤大樹氏は次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 X-Road は、エストニアのバックボーンになっている。目には
見えるものではないが、エストニアの電子国家実現に極めて重要
な役割を果たしており、国のさまざまな公共および民間セクター
の電子サービス情報システムを調和して機能させることが可能で
ある。エストニアの「イー・ソリューション」環境には、一般向
けに幅広くサービスが含まれているが、各サービスにはもちろん
独自の情報システムが存在する。X-Road はそれらの分散された
データベースを安全に連携させるプラットフォームであり、転送
を確保したり、すべての送信データをデジタル署名などで暗号化
したりすることで記録できる。
 言い換えれば、複数の行政システムへの書き込み、大規模なデ
ータセットの送信、情報システムでの検索を同時に実行できるツ
ール、それが X-Road である。また、さらなる拡張を念頭に置い
て設計されているため、新しいイー・サービスやプラットフォー
ムができれば、それを統合して、規模を拡大することも可能であ
る。       ──斎藤大樹氏  https://bit.ly/3kLkWeJ
─────────────────────────────
 野口悠紀雄氏は、エストニアはブロックチェーンを活用した仕
組みを作っているといっていますが、斎藤氏のいう「エックス・
ロード」は、果たしてブロックチェーンなのでしょうか。これに
ついては、大事なポイントであるので、来週のEJではこの点を
検証していくつもりでおります。
             ──[デジタル社会論V/037]

≪画像および関連情報≫
 ●イー・デジデンシィ徹底解説
  ───────────────────────────
   2014年12月にローンチされたイー・レジデンシィ。
  2019年時点で世界の登録者は50000人を超え、日本
  からも約2500人のイー・レジデント(電子国民)が誕生
  しています。安倍首相もイー・レジデントの1人として登録
  を受けていることは有名です。
   一方で日本人の多くが、まだまだイー・レジデンシィのメ
  リットやデメリットを本当の意味で理解せず、とりあえず取
  得している方が多いかと思います。
   今回、現地エストニア在住者の視点から、2019年最新
  版のイー・デジデンシィ事情を大解説し、取得のメリット・
  デメリットや、どんな人がイー・レジデンシィを取得するべ
  きなのか、解説していきたいと思います。
   イー・レジデンシィは、エストニア政府の電子プラットフ
  ォームを自国民のみならず、外国人向けに開放したプログラ
  ムです。意外に思われるかもしれませんが、エストニア政府
  自身は、e-Residency のために何か新しい技術を開発した訳
  ではありません。
   自国に元々存在していた技術を、そのまま外国人に開放し
  ただけのことなのです。ただし、この大胆な政策を取れるの
  もエストニア共和国の強みだと思っています。では、イー・
  デジレンシィを取得し、イー・レジデントになると、どんな
  恩恵を受けることができるのでしょうか?解説していきたい
  と思います。          https://bit.ly/3EZ3XOf
  ───────────────────────────
エストニア/電子国民をプレゼントされた安倍前首相.jpg
エストニア/電子国民をプレゼントされた安倍前首相
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月04日

●「『X-Road』の正体とは何か」(第5584号)

 エストニアのブロックチェーンといわれる「X-Road」の正体に
迫ってみることにします。
 野口悠紀雄教授は、エストニアのシステムについて、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 (エストニアでは)国民1人ひとりが、「国民ID」という番
号を持つ。電子認証(本人確認)とサインをデジタルで行うため
に必要なのはICチップを埋め込んだ「eIDカード}だ。専用
のカードリーダーに差し込み、暗証番号を入力すると、完全に無
料で電子署名を行うことができる。ブロックチェーン上に契約締
結日などのタイムスタンプを記録することによって、故意防止を
実現できる。また、電子署名を半永久的に記録することが可能と
なり、有効期限問題も解消している。
 このため、インターネット接続環境とPC、カードリーダーさ
えあれば、あらゆる行政手続きを自宅やオフィスから行える。ほ
ぼ100%の国民に普及している。そして、日常で署名するほと
んどのケースにおいて電子署名が活用されている。
                     ──野口悠紀雄著
      『良いデジタル化/悪いデジタル化/生産性を上げ
       プライバシーを守る改革を』/日本経済新聞出版
─────────────────────────────
 しかし、野口教授がここで述べているのは、ほとんどの国民が
持っている「eIDカード}による電子署名のことだけであり、
全体のシステムがどうなっているのかは不明です。そこで、ネッ
トを探索して、次の論文を入手しました。
─────────────────────────────
                  松本茂樹/武田惇共著
  スタートタウンを実現するデータ交換基盤”PlanetCross”
                 https://bit.ly/3omAQyt
─────────────────────────────
 論文執筆者の松本茂樹/武田惇両氏は、日本ユニシス株式会社
の社員で、同社は、ビジネスソリューションを提供するITサー
ビス企業です。同社は、スマートタウンを実現するため、エスト
ニアのデータ交換基盤である「X-Road」に着眼し、その技術を民
間企業向けにカスタマイズして提供する製品を制作しているプラ
ネットウェイ・コーポレーションと協業し、スマートタウンを実
現しようとしています。それが「PlanetCross」です。
 エストニアの電子政府は、次の3つのポリシーの実現を図るこ
とを前提に構築されています。
─────────────────────────────
       @デジタルファースト
       Aワンスオンリー
       Bコネクテッド・ワンストップ
─────────────────────────────
 第1の「デジタルファースト」は、手続き、サービスが一貫し
て、デジタルで完結することです。第2の「ワンスオンリー」は
一度提示した情報は、再度提出することがないようにするという
ことです。第3の「コネクテッド・ワンストップ」は、複数のサ
ービスが連携し、すべてワンストップサービスとして提供するこ
とです。このポリシーを実現したものが、エストニアの電子政府
システムです。
 以上によって、結婚、離婚、不動産取引(これらは紙ベースで
の処理が残る)以外の行政サービスの99%が電子化され、24
時間、365日オンラインで利用できます。
 「eIDカード}により、定期券、健康保険証、運転免許証、
電子カルテ、電子処方箋、オンラインバンキングが利用できるよ
うになっています。日本が目指している方向と同じです。
 それでは「X-Road」とは何でしょうか。
 添付ファイルに「X-Road」の概念図を添付しています。図中網
のかかっている部分が「X-Road」です。情報は、それぞれの企業
や機関の独自の情報システムで管理されていますが、接続された
システム間で、それが持つ情報を共有しあうことで、一度入力し
た氏名や住所などの情報の再入力の手間を省き、効率的なサービ
スが実現できるようになっているのです。
 また、データアクセスの透明性も確保されており、住民は自分
の情報に関して、誰が、何を、いつ見たかをすべて確認できるよ
うになっています。つまり、「X-Road」とは、分散管理されたデ
ータに対して、インターネットを介して、セキュアにアクセスす
るための基盤なのです。
 エストニアでは、2001年から「X-Road」を電子政府を支え
る基盤技術として使ってきていますが、この技術の輸出にも前向
きであり、すでにフィンランドやアゼルバイジャンなどでも、電
子政府サービスの基盤として導入しています。なお、論文には、
次の記述があります。
─────────────────────────────
 「X-Road」の技術はエストニアで開発されてきたが、2018
年からは、フィンランド政府とエストニア政府が共同で設立した
Nordic Institue for Interoperability Solutions(以下、NI
IS)にコア機能の開発と、ソースコードの管理が引き継がれ、
ソフトウェアはMITライセンスのオープンソースソフトウェア
として、公開されている。      https://bit.ly/3omAQyt
─────────────────────────────
 「X-Road」のコア機能は、オープンソースソフトウェアとして
公開されており、それをベースに各国の法制度に合わせたローカ
ライズやカスタマイズをすれば、すぐにも利用できるようになっ
ているのです。
 そうであるなら、できたばかりの日本のデジタル庁でも、早速
研究に取りかかるべきです。しかし、NTTのエライ人と酒を飲
みながらでは理解できる話ではないと思います。「X-Road」の話
はまだ続きます。     ──[デジタル社会論V/038]

≪画像および関連情報≫
 ●いまEstonia X-Road がアツい
  ───────────────────────────
   「X-Road」とは、エストニア国内で使われているデジタル
  データ連携基盤なんだけどこれが驚くほど優秀。「X-Road」
  には各サービスの個人データがセキュアに連携され、そこに
  は様々な機関がアクセスできる。誰がいつアクセスしてきた
  かなど利用履歴が常に記録され確認できます。どの組織の誰
  が閲覧したかなどIDレベルで、個人まで特定できるようで
  す。例えば、個人間の連携なんかもできるようで、車の名義
  変更なんかも数分でできるようだ。選挙もデジタルID認証
  でその場で行える(3割はオンライン投票)。引っ越しした
  場合などは、この「X-Road」のデータを書き換えれるだけで
  住所変更申請は終わってしまう。もうフェイスブックのプロ
  フィールを書き換える程度の手軽さ。。。確定申告はオンラ
  インで3分。          https://bit.ly/3iqaesA
  ───────────────────────────
「X-Road」の概念図.jpg
「X-Road」の概念図
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月05日

●「XMSが使われる/X-Road」(第5585号)

 「X-Road」の正体を追って行くと、技術的にはかなり難解であ
り、データーベースの専門知識も必要なので、あまり深入りはし
ないことにします。しかし、理解が必要な部分は、デジタル庁に
よる日本のシステムの開発のこともあるので、重要なポイントに
ついては、多少難解でもわかるよう説明します。
 エストニアでは、システム開発に当たっては、次の2つのこと
が、ルールとして共有されています。
─────────────────────────────
          1.重複を避ける
          2.ノーレガシー
─────────────────────────────
 第1のルールは「重複を避ける」です。
 日本の場合、縦割り組織の弊害として、各省庁で似たような目
的のシステムをバラバラに構築し、結局、使われなくて、無駄に
なっています。エストニアの電子政府システムでは、重複開発を
避けることを目的として、データベースの複製を許さず、多数の
システムをどうしたら連携させることができるかに知恵を絞り、
「X-Road」を開発したのです。つまり、「重複を避ける」ことを
システムアーキテクチャに落とし込んでいるわけです。
 第2のルールは「ノーレガシー」です。
 エストニアでは、13年以上古いシステムは使わないことが、
ルールになっています。なぜかというと、新旧のシステムが混在
してしまうと、新しい情報システムの構築や改修の難易度を高め
てしまうからです。
 日本の場合、みずほ銀行のシステムトラブルの惨状がまさにレ
ガシーシステムこだわった結果といえます。システムの開発者が
企業を去っており、何度も改訂を施しているので、現状がどうい
うシステムになっているのか誰もわからなくなっているのです。
 昨日のEJの添付ファイルにつけた「X-Road」の概念図を見る
と、公共セクターや民間セクターなどのそれぞれの自律的なシス
テムの共通基盤として「X-Road」が機能するというかたちになっ
ています。この「X-Road」に関して、日経BP社で2006年ま
で科学記者を務めたITジャーナリストの星暁雄氏は、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 エストニア電子政府では徹底して分散型のシステムによるリア
ルタイムな情報連携を重視しているのです。同国のウェブサイト
によれば、この「X-Road」は2000種以上のサービスが利用し
ており、900以上の組織が日常的に使っていて、2013年の
1年間で2億8700万クエリを処理したそうです。
 各種政府機関はそれぞれ「独立に最適な技術を利用」しつつ、
他のシステムと連携できます。「X-Road」のプロトコル仕様書に
よれば、内部的には「SOAP1.1」、「WSDL1.1」など、XMLウェ
ブサービスの技術を用いています。汎用性の高いXMLベースの
プロトコルを使い、政府機関が抱える多数のデータベースを連携
しているのです。
 「X-Road」は、2001年に導入されたということですが、S
OAP、WSDLは当時登場したばかりの技術でした。新技術の
取り入れについても、エストニア政府はチャレンジャーと言える
でしょう。     ──星暁雄氏  https://bit.ly/3Fbc36A
─────────────────────────────
 技術的な内容ですが、注目されることは「X-Road」にはXML
ベースのプロトコルが使われていることです。これは重要なこと
です。ところで、「XML」とは何でしょうか。
 XMLは、SGMLという言語から派生したマークアップ言語
のひとつです。マークアップ言語とは、文章を構造化するための
言語です。文章を構造化するとは、「ここはタイトル部分です」
「ここから本文が始まります」「ここは非常に重要な部分です」
など、人間であれば直感的に理解できる事柄を、タグや記号で表
示し、コンピューターに認識させることをいうのです。
 SGMLは、異種のコンピュータ間で文書の互換を行うための
もので、文書のもつ「章見出し」「節見出し」「本文」などの論
理構造を「タグ」と呼ばれるもので記述することができます。つ
まり、文書の構造を重視している言語です。
 HTMLという言語があります。これもマークアップ言語で、
HTMLもSGMLからの派生言語のひとつです。ウェブサイト
を構築する言語として知られていますが、現在では、ウェブサイ
トの構築には、XMLが使われることが多いのです。なぜかとい
うと、かつては、ウェブサイトを見るのは、PCに決まっていま
したが、現在ではPCだけではなく、スマホやタブレットなどの
デバイスでも見るからです。
 それでは、HTMLとXMLはどう違うのでしょうか。
 簡単にいうと、HTMLは指定されたタグを使うことになって
おり、タグによって表示されるデザインが決まっているので、H
TMLには一部デザイン情報を含んでいます。そのため、人間に
とっては見た目はきれいでもマシン側ではわかりにくいのです。
 しかし、XMLは、タグは自分で作ることができ、あくまでデ
ータを記述する言語なので、文書中のデータをわかりやすくした
り、データを交換したりできます。マシンに情報をわかりやすく
効率よく伝えるための言語といってよいといえます。アプリから
みてもXMLは使いやすいのです。だから「X-Road」にはXML
が使われているのです。
 XMLは、インターネットを経由して複数のアプリケーション
間でデータをやり取りするのに適した構造を持っています。この
ため、膨大なコンテンツの中から一定のルールに基づいて情報を
抽出したり、複数のウェブサービスを組み合わせたアプリを制作
したりするさいには非常に便利であり、多くのデータベース間の
連携をとる必要のある「X-Road」には、XMLは、便利なマーク
アップ言語であるといえます。
             ──[デジタル社会論V/039]

≪画像および関連情報≫
 ●【初心者入門】XMLとは何?HTMLとの違いは?
  徹底解説!
  ───────────────────────────
   XMLとHTMLは、同じマークアップ言語です。マーク
  アップ言語とはタグとデータ(値)という形式で作られ文章
  を構造化する言語のことを言い、XMLとHTMLで基本的
  な文章の作り方は変わりません。
   ただしHTMLはブラウザに向けて作られており、ブラウ
  ザが読み込むためのタグで構築する必要があります。一方X
  MLはタグをユーザーが独自に決定できるなど自由度が高く
  ブラウザで表示させるため以外の使い方もできる言語です。
   HTMLはブラウザに表示するための言語で、XMLは、
  データの構造がカスタマイズできるためさまざまなアプリケ
  ーションでも使われる言語という点が、大きく異なっていま
  す。先にも述べたように、XMLは自由にタグを設定できる
  言語です。自由にタグを設定でき、入れ子構造も可能なので
  カスタマイズ性の高いデータファイルを作成することができ
  ます。データを蓄えられるファイルとしてCSVもよく使わ
  れていますが、CSVはデータの関連付けをする機能がない
  ので何列目の情報はAであるといった情報を一緒にサーバサ
  イドなどに渡してあげる必要があります。文字コードの情報
  も同様で、どの文字コードで読み込むかといった情報がない
  場合は正しく読み取れない可能性もあるのがCSVファイル
  です。それに対してXMLであればデータはどのようなデー
  タかの関連付けもされていますし、冒頭のタグで文字コード
  を指定することも可能です。   https://bit.ly/3F5vVYy
  ───────────────────────────
データ記述言語/XML.jpg
データ記述言語/XML
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月06日

●「既に8回のみずほのシステム障害」(第5586号)

 2021年9月30日のことです。みずほ銀行が、またしても
システム障害を起こしたのです。今年に入って8度目です。10
月1日付の日本経済新聞は次のように報じています。
─────────────────────────────
◎みずほ銀、今年8度目障害/外為取引387件に遅れ
 改善命令から1週間で
 みずほ銀行で30日午後、システムの不具合により、387件
の外国為替取引に遅れが出た。主に法人顧客の送金が滞ったが、
大半は同日付で処理ができるめどがついたというが、一部は翌月
に持ち越す可能性がある。詳細な原因は特定できていない。みず
ほで顧客に影響の出るシステムの障害が明らかになるのは今年に
入って8件目。9月22日に金融庁がみずほのシステムを実質管
理する業務改善命令を出したばかりだった。
         ──2021年10月3日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 昨日のEJで、エストニアでは、システム開発に当たっては、
「ノーレガシー」というポリシーを掲げ、13年以上古いシステ
ムは使わないことにしている事実を指摘しています。
 そのとき、みずほグループのシステム障害の惨状についてふれ
ましたが、今日のEJではその問題について考えます。なぜなら
日本では、政府や大企業、とくに金融関係企業のシステム開発は
みずほだけでなく、いずれも似たようなところがあり、障害がい
つ起きても不思議ではないからです。
 今年に入ってからのみずほのシステム障害は、まさに惨状その
ものです。2月28日にATMが通帳を吸い込み、出てこない障
害が発生すると、3月には3回の障害が起きています。3日、7
日、12日です。
 そして、8月23日には全店の窓口取引を中止し、そして23
日にはATM130台が一時停止しています。9月に入っても、
8日に、機器の不具合でATM100台が一時停止し、30日に
外国為替取引に遅れが生じています。実に8回にわたるシステム
障害です。したがって、惨状のレベルを超えています。
 みずほフィナンシャルグループは、旧第一勧業銀行、旧富士銀
行に旧日本興業銀行が加わって、誕生したメガバンクです。19
99年のことです。大物同士の統合なので、発足前から母体3銀
行の主導権争いが激化していたのです。
 発足当時、3行はそれぞれ、次の大型コンピュータシステムを
保有していました。
─────────────────────────────
   第一勧業銀行 ・・   STEPS/  富士通
   日本興業銀行 ・・  C−base/   日立
    旧富士銀行 ・・     TOP/日本IBM
─────────────────────────────
 この3つの巨大なシステムをどのようにして統合化するかです
が、普通は顧客や預金などの情報をどれかひとつのシステムに全
て移行する「片寄せ」という方法を採用します。
 しかし、当初みずほグループは、旧3行が使っている異なるシ
ステムをそのままに生き残らせ、「ゲートウェイ・システム」と
称する方法をとったのです。つまり、キャッシュカードは旧行の
ものをそのまま使い、それをATMに入れると、中継プログラム
によって旧行のシステムにつながり、処理ができるというもので
す。つまり、3行のシステムはそのままです。
 続いて、旧第一勧銀の富士通のシステムと富士銀行のTOPを
並立させ、別のコンピュータでつなぐことが決まったのですが、
これはあえなく失敗し、システム障害を発生させてしまったので
す。これが発足後最初のシステム障害です。
 その原因は、旧第一勧銀のステムの一部に、1971年に第一
銀行と日本勧業銀行が合併したときに作られたとみられるプログ
ラムにあったのです。そのプログラムは「COBOL」で書かれ
ていたのです。COBOLは80年代にはさかんに使われていた
言語ですが、2000年には、それを使いこなすエンジニアは激
減していたのです。
 これを機に旧興業銀行は、旧第一勧銀の富士通のシステムと富
士銀行のTOPを並立させる方式に反対し、自社システムのベン
ダーである日立製作所にも声をかけて、新システム「MINOR
I」を開発することになったのです。
 「MINORI」は、日立、富士通、日本IBMにNTTデー
タまで加わった4社の体制で開発されています。全面稼働したの
は、2019年7月16日朝、「MINORI」は全面稼働した
のです。そのときの模様について、日経XTECHは、次のよう
に書いています。
─────────────────────────────
 みずほフィナンシャルグループ(FG)が20年越しで悲願を
達成した。2019年7月16日朝、新しい勘定系システム「M
INORI」が全面稼働した。1999年8月に第一勧業、富士
日本興業の旧3行が統合を発表しておよそ20年。2度の大規模
なシステム障害を経て、情報システム面でようやく「ONE M
IZUHO」を推進する体制が整った。
 みずほFGは2019年7月13日午前0時から同7月16日
午前8時にかけて、MINORIへの移行に向けた最後の作業に
臨んだ。移行期間中はATMやインターネットバンキングなどを
停止していた。7月16日午前11時時点で、オンラインサービ
スに目立ったトラブルは起こっていない。MINORIへの万全
を期すため、みずほFGは2018年6月から始めた口座データ
などの移行を、全9回に分けて進めていた。今回はその最終回で
対象はみずほ信託銀行の勘定系システム「BEST」で管理して
いたデータだった。みずほ信託銀行のデータ移行が無事完了し、
MINORIは全面稼働した。    https://bit.ly/3a1IyG0
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/040]

≪画像および関連情報≫
 ●これから「みずほ銀行」に起こる、ヤバすぎる現実・・・シ
  ステムの「爆弾」を誰も処理できない
  ───────────────────────────
   これら2度の致命的な障害に懲りて、みずほは前述した新
  システム「MINORI」の開発に着手したというわけだ。
  いや、金融庁の叱責と業務改善命令に押される形で、着手せ
  ざるを得なかったというほうが正しいだろう。2011年6
  月のことだ。
   MINORIは、約4000億円の費用をかけて8年後の
  19年7月に完成した。業界では、「史上初めて、銀行が自
  社の勘定系システムを全面再構築した」と話題になった。だ
  が、どうやら実態は異なる。一から作り直した「新築」では
  なく、既存の「塔」をさらに建て増しした「改築」だったと
  考えなければ、説明がつかない謎があるのだ。先に触れたC
  OBOLがいまだに使われているのである。
   「ITベンダーの間では、かねて『なぜみずほは、わざわ
  ざ高齢のエンジニアを雇ってまでCOBOLを使い続けるの
  か』が疑問視されていました。MINORI導入時にCOB
  OLを使った部分をなくして、別のプログラム言語で書き換
  えてもよかったはずなのに、それもしなかった。それはつま
  り、なくさなかったのではなく『なくせなかった』のではな
  いか。勧銀時代から抱える古い重要プログラムやデータが、
  いまだにMINORIの内部で生きているからではないか。
  そうとしか考えられないのです」(前出・佃氏)
                  https://bit.ly/3FnYVLs
  ───────────────────────────
「MINORI」全面稼働.jpg
「MINORI」全面稼働
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2021年10月07日

●「MINORIの障害コボルが原因」(第5587号)

 「MINORI」は、総費用約4000億円かけて、8年間の
年月を費やし、2019年7月に完成しています。金融業界では
「史上はじめて銀行が自社の勘定系システムを全面再構築した」
と話題になったものです。
 「MINORI」は、2020年11月までは何とか動いてい
たのです。しかし、2020年11月30日にシステム障害を起
こしています。そのときの様子を日経XTECXは、次のように
報道しています。
─────────────────────────────
 みずほ銀行は2020年11月30日、同日午前9時過ぎから
法人向けのオンラインバンキングサービスで障害が発生している
ことを明らかにした。原因は調査中で、復旧のめどは立っていな
い。みずほ銀行の「みずほe−ビジネスサイト」に一部の利用者
がログインできない状態が続いている。同行は、ログインできた
場合も、手続きに進めないといった声が出ていることについても
認めた。11月30日午前11時50分時点でツイッターなどの
SNS(交流サイト)では「月末なのに手続きできない」「どう
したらいいのか」といった困惑の声が多数書き込まれている。
                  https://bit.ly/3AbE3mT
─────────────────────────────
 このシステム障害を経て、MINORIは2021年2月28
日に大規模なシステム障害を起こすのです。このときは、ピーク
時にはATMの7割に相当する4318台が稼働を一時停止した
のです。これに伴い、ATMが通帳やキャッシュカードを取り込
むトラブルが合計5244件起きています。ATMやインターネ
ットバンキング「みずほダイレクト」の一部取引もできなくなっ
ています。以来、MINORIは、昨日のEJで述べたように、
10月1日まで計9回のシステム障害を連発しています。
 どうして、完成したばかりのMINORIが、ここまで頻繁に
システム障害を起こすのでしょうか。
 その原因は、旧態依然たるプログラミング言語「COBOL」
にあります。以前のシステムがCOBOLが原因で起きており、
新システムでは、当然別のプログラミング言語で書き換えるべき
であったのに、どうしてCOBOLをMINORIでも使い続け
たのでしょうか。おそらく、COBOLを残さざるを得なかった
事情があったのではないかと考えられます。これについて「週刊
現代」は、次のように書いています。
─────────────────────────────
 事実、全面改修を経たはずのMINORIのシステム構成は、
不自然なほど複雑怪奇だ。普通預金を司る機器は日本IBMが作
るが、その上で走るソフトは富士通が作る。他行との接続を司る
システムは、機器を日立と富士通が作ってソフトをNTTデータ
が作る。各業務のシステムをベンダーが分割して作り、さながら
怪物「キメラ」のようになっている。
 これが意味するのは、おそらく2011年に金融庁から業務改
善命令を受けた時点で、みずほのシステムは根本的な再構築がも
はやできない状態だった可能性だ。古い部分と新しい部分が幾重
にも折り重なり、さらに開発元も複数のベンダーにまたがってい
た。しかも、この時すでにみずほは延べ3000億円近くをシス
テム改修に投入していた。20年以上も、二人三脚を続けてきた
ベンダーを切り捨て、一から作り直すわけには、いかなかったの
だ。いまや、システムの全容を知る者は、みずほにも、ベンダー
にもいない。  ──「週刊現代」  https://bit.ly/2WGOyAR
─────────────────────────────
 この原因を作ったのは、秋草直之氏という人物です。秋草氏は
ソフトウェアエンジニア出身で、90年代に富士通の社長を務め
辣腕で鳴らした人物です。この秋草氏が勧銀に「STEPS」を
売り込んだのです。秋草氏は、勧銀に勘定系システムの開発とメ
ンテナンスを請け負うことによって、勧銀から安定的に巨額のカ
ネを引き出す仕組みを作っています。年々コストが膨らむ仕組み
であり、勧銀内部ではそれを懸念する声もあったのですが、この
ときの富士通は、経産省の後押しがあり、勧銀としては受け入れ
ざるを得ない状況にあったのです。
 みずほのシステムは、富士通の「STEPS」が中心となって
おり、統合当初は、勧銀がSTEPSに一本化しようとして、興
銀と富士銀の反対に遭い、MINORIを開発することになった
経緯は既に述べています。それにしても、2019年に新規に開
発したはずのMINORIが、システム障害を多発するのは異常
な状態であるといえます。これに対して、金融庁は、どのような
検査をしてきたのでしょうか。
 金融庁は、システム障害が起きるたびに検査強化を打ち出して
きています。6月15日に公表された、第三者によるシステム障
害特別委員会の報告書によると、「勘定系システムMINORI
の設計などに欠陥はなかった」としています。しかし、現実にシ
ステム障害は異常なほどの高頻度で起きています。
 これに関して、金融庁はどのように対応するのでしょうか。雑
誌『選択』はこの問題について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 「金融庁がみずほに業務改善命令」。主要メディアが一斉に報
じたのは9月22日だ。そのなかでは、みずほのシステムを金融
庁の管理下に置くという、システムの公的管理にも触れていた。
 しかし、いま、生じている実情からすれば、「システムの公的
管理」に深い意味はない。「監督官庁がシステムを管理しても、
障害は阻止できない」(大手銀行システム部門担当者)からだ。
 むしろ、現状、深刻化しているのはみずほFGという企業の信
用力の失墜である。このまま、システム障害の原因究明ができな
い状態が続くと、みずほFGにはいかなる事態が待ち構えている
のか。          ──『選択』/2021年10月号
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/041]

≪画像および関連情報≫
 ●3メガバンクの「みずほ」だけシステム障害が頻発する理由
  ───────────────────────────
   日本の3大メガバンクの一つであるみずほフィナンシャル
  グループ(FG)傘下のみずほ銀行とみずほ信託銀行は20
  21年8月20日、システム障害により一時全国の店舗窓口
  で振り込みや入出金ができない状態に陥ったと発表した。み
  ずほ銀行では2021年2月末から短期間に4回のシステム
  障害が発生し、6月に「第3者委員会」が再発防止策を発表
  したばかりである。
   8月25日付け読売新聞は、次のように報じている。「今
  年に入ってみずほ銀行で相次ぐシステム障害について、金融
  庁は、いずれも2019年に稼働した新たな中枢システムに
  起因するとの見方を強めている」「障害が起きにくい最新鋭
  のシステムとされたが、逆に構造が複雑になり、トラブルの
  温床になる皮肉な結果となった。旧3銀行の『縄張り意識』
  も、いまだに影を落としている」
   さて、バブル崩壊後、国際競争力を得るためには規模の拡
  大が必要不可欠であることから都市銀行の再編が行われた。
  その結果、2001年には、旧三井銀行の流れをくむさくら
  銀行と住友銀行とが合併し、三井住友銀行が発足した。20
  02年には、第一勧業銀行、日本興業銀行、富士銀行が合併
  し、みずほ銀行が発足した。2006年には、東京三菱銀行
  とUFJ銀行とが合併し、三菱東京UFJ銀行(2018年
  に三菱UFJ銀行へ商号変更)が発足した。
                  https://bit.ly/3uE9ntf
  ───────────────────────────
みずほ/2月28日のシステム障害.jpg
みずほ/2月28日のシステム障害
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2021年10月08日

●「みずほグループは今後どうなるか」(第5588号)

 みずほ銀行は、MINORIの底なし沼から脱却することはで
きるのでしょうか。
 一番心配なのは、みずほFGという企業の信用力が低下するこ
とです。みずほFGのようなメガバンクの信用力が低下すると、
次のようなことが懸念されると、ある有力外資銀行の幹部は指摘
しています。
─────────────────────────────
 メガバンクの信用力が懸念される事態になると、国際金融市場
からみずほは外される恐れがある。    ──某外資銀行幹部
─────────────────────────────
 具体的には何が起きるのでしょうか。
 それは、ドル資金の調達難です。銀行の信用力が低下すると、
ドルの調達コストが跳ね上がって高くなり、事実上ドルの調達が
できなくなります。これを防ぐためには、信用を補完して支える
しかないのです。具体的には、みずほ銀行の国による公的管理で
す。日銀による信用補完という手もあります。公的なバックボー
ンがあれば、ドル資金の調達問題は緩和されるからです。しかし
そこまでいくと、経営陣は当然の代償として、経営責任を追及さ
れ、引責で総退陣を迫られるのは必至です。
 このようなさなかに、みずほFGの前社長で、現在、取締役会
長を務める佐藤康博氏(旧日本興銀出身)の言動に批判が集まっ
ています。危機感が欠如しているのです。『選択』10月号はこ
れについて、次のように書いています。
─────────────────────────────
 会長就任後、念願の経団連副会長になり、「見るからに有頂天
だった」(財界関係者)。後任の坂井辰史社長については悪口、
批判を言い放題だったが、みずほFGがシステム障害を繰り返し
深刻な経営問題を抱え込んでからは一変。
 「坂井はよくやっているという擁護論を唱え始めた」(全国紙
記者)同記者は「システム障害で坂井氏が引責辞任となれば、開
発時から社長を務めた自分も責任を問われるという計算を働かせ
て、態度を変えた」とみる。仮に会長辞任となれば経団連副会長
も辞職しなければならなくなるからだという。
 8月のシステム障害発生から間もない休日に、佐藤氏が経団連
御用達といわれる神奈川県のスリーハンドレッドクラブで経営者
仲間とゴルフに興じていたことも、財界関係者の間で不評だ。佐
藤氏は名誉職ではなくみずほFGのれっきとした取締役会長だ。
財界関係者も「こんな時にねえ」と緩んだ行動に鼻白んでいる。
   ──『選択』/2021年10月号/経済/情報カプセル
─────────────────────────────
 企業には「オペレーショナルリスク」というものがあり、それ
ぞれの企業は、それに備える対策を公表しています。みずほFG
は、オペレーショナルリスクについて、ウェブサイトで次のよう
に書いています。
─────────────────────────────
 当グループでは、オペレーショナルリスクを「内部プロセス・
人・システムが不適切であること、もしくは機能しないこと、ま
たは外生的事象が生起することから当グループに生じる損失に係
るリスク」と定義しています。
 当グループのオペレーショナルリスク管理は、当社が統括して
います。具体的には、オペレーショナルリスクについて、システ
ムリスク、事務リスク、法務リスク、人的リスク、有形資産リス
ク、規制・制度変更リスク、レピュテーショナルリスクの各リス
クを含む幅広いリスクと考え、これらのリスクに関する当グルー
プの基本的な方針を定め、主要グループ会社の管理を行い、合わ
せて、当グループ全体のオペレーショナルリスクの状況をモニタ
リングし管理する態勢となっています。
                  https://bit.ly/3FkpdOq
─────────────────────────────
 みずほFGの定義によると、オペレーショナル・リスクとは、
「システムが不適切であること、もしくは機能しないこと」と明
確にしており、現在、みずほFGで起きていることは、オペレー
ショナルリスクそのものということになります。
 もし、オペレーショナルリスクの可能性が高まると、銀行は自
己資本の算定方式が厳しくなり、自己資本比率が大幅に下がるこ
とになります。そうすると、引当金などの大幅な積み増しが必要
になり、銀行は深刻なリスクに見舞われることになります。
 エストニアのシステム構築のポリシー「ノーレガシー」の反対
を行く極端な例として、みずほグループのシステム障害について
書いてきましたが、みずほのトラブルは、現在でも、一向に収ま
る気配を見せていません。何しろ業務改善命令直後の9月30日
にシステム障害を起こしているからです。まさにMINORIの
泥沼地獄そのものです。このみずほグループのシステムの惨状に
ついて、野口悠紀雄教授は次のように述べています。
─────────────────────────────
 みずほの場合、レガシーシステムの一般的な問題に加え、縦割
り組織と経営者の無理解という2つの要因が問題を悪化させた。
 みずほの元のシステムである旧第一勧業銀行のシステムは19
88年に稼働を始めたものだ。当時は、ATMの24時間稼働も
インターネットバンキングも、携帯電話による振り込みサービス
も存在しなかった。その後、これらのサービスを追加していった
が、20年以上にわたって一度も見直さなかった設定があり、こ
れが問題を引き起こした。そして、システム担当者も、こうした
問題があることに気付いていなかった。さらに、障害が起きたと
きに適切に対応できなかった。つまり、巨大なシステムはブラッ
クボックス化していたわけだ。       ──野口悠紀雄著
      『良いデジタル化/悪いデジタル化/生産性を上げ
       プライバシーを守る改革を』/日本経済新聞出版
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/042]

≪画像および関連情報≫
 ●「緊急メール」に誰ひとり動かず みずほ銀障害、顧客軽視
  の風土浮き彫り
  ───────────────────────────
   「ATMのエラー発生が多発しています」。報告書による
  と、2月28日午前10時15分、業務委託先の管理センタ
  ーからみずほ銀行の6つ以上の部署へ430件のエラーを検
  知したとの緊急メールが送られたが、対応に動く担当者はい
  なかった。通帳やキャッシュカードがATMに取り込まれる
  トラブルは最終的に5244件発生したが、それを想定でき
  なかった。
   複数の部署の担当者は午前11時12分にはATM前で顧
  客が立ち往生していることをSNS上の情報で把握。休日対
  応で人員の限られた問い合わせ電話はパンクし、顧客は動く
  に動けない状況で7時間以上待たされたと申告した顧客もい
  た。みずほ銀がホームページに「後日銀行から連絡するので
  立ち去って構わない」旨のメッセージを掲示したのは発生か
  ら約6時間後の午後3時58分。問題を把握した後も掲載文
  を誰が書くか決まらず、書いた文案への各部署からの反応も
  ないなど作業は停滞した。
   みずほ銀はリスクを過小評価していた。同行の障害対応は
  5段階あり、不特定多数の顧客に重大な迷惑が及ぶ例は頭取
  に報告が上がる最重要ケース「S」だ。だが、午後1時前に
  ようやくシステム部門が社内に送った報告メールは、特定の
  顧客に軽微な迷惑をかけたとする「A2」。藤原弘治頭取が
  障害を知ったのは午後1時半、インターネットニュースを通
  じてだった。          https://bit.ly/3acU7tK
  ───────────────────────────
佐藤康博みずほ取締役会長.jpg
佐藤康博みずほ取締役会長
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2021年10月11日

●「デジタル庁/着手前にトップ交代」(第5589号)

 岸田政権が誕生して、あの接待漬けのデジタル相、平井卓也氏
は、デジタル相を外れることになり、新しく牧島かれん衆院議員
が平井氏の後を継いで、デジタル相に着任しています。しかも、
デジタルだけではなく、「デジタル/規制改革/行革」の3つを
担当するのです。
 ところで牧島かれん氏とはどのような人物なのでしょうか。
 牧島かれん氏は、3人大臣に採用されている「魔の三回生」の
一人で、河野太郎氏の父、河野洋平氏の「神奈川17区」を引き
継いで2012年に初当選しています。牧島氏の父の牧島功氏は
神奈川県議で、神奈川県連の重鎮です。
 したがって、牧島氏は、れっきとした河野派であり、今回の総
裁選では河野太郎総裁実現のために熱心に汗をかいています。そ
れでいて大臣になれた稀有の存在です。それはそれとして、牧島
氏のデジタルの経験はどうなのでしょうか。
 実は、牧島氏はデジタル政策に通じた若手議員として知られて
いたのです。平井前デジタル相が主宰する自民党デジタル社会推
進特別委員会の事務局長として、2020年6月11日にはDX
推進などを盛り込んだ政策提言も取りまとめています。なかなか
のデジタル通のようです。当然デジタル関連の業者は、将来デジ
タル業務に関わる人物をリサーチしています。
 実は、この牧島かれん大臣もNTTから接待を受けているので
す。『週刊文春』/10月14日号は、その事実をスッパ抜いて
います。もちろん大臣になる前であり、それが問題になるという
わけではありませんが。まして、平井氏と一緒にやっていたので
あれば、業者の目にとまらないはずはありません。
─────────────────────────────
 実はNTTの内部資料によれば、牧島氏も、19年6月13日
と昨年6月9日の2回、NTTの秘書室長からKNOXで接待を
受けている。牧島氏が苦手の食材も明記され、料金は1人5万円
「最も高いコース」(NTT関係者)だという。
 折しも、牧島氏は党デジタル社会推進特別委員会の事務局長と
して、2回目の接待直後に当たる昨年6月11日、DX推進など
を盛り込んだ政策提言を取りまとめている。デジタル関係に精通
した若手議員として、業界で知られていたのだ。
 牧島氏の回答。「会食を伴う意見交換を行ったのは事実です。
(飲食費を)支払った記憶はございません。政治家として様々な
方と意見交換を行うことは重要であり、問題ないといと考えてい
ます」         ──『週刊文春』/10月14号より
─────────────────────────────
 それにしても平井氏とNTTと仲は親密であるようです。しか
し、NECは嫌いであるようです。KNOX(ノックス)という
のは、NTTグループが経営する接待用の会員制レストラン(東
京・港区)のことです。
 ここで、NTT、NECの2社の名前を出しましたが、これら
は前にも述べたように、「エスアイヤー/SIer」と呼ばれる
業者です。SIerは、コンピュータの仕組みがメインフレーム
からオープンシステムに移行したことによって登場した業者のこ
とです。このSIerについて、野口悠紀雄教授は次のように述
べています。
─────────────────────────────
 メインフレームの場合には、1社のみのハードウエアおよびソ
フトウエアで構成されることが多かった。それに対してオープン
システムでは、マルチベンダーとなる場合が多い。「ITベンダ
ー」とは、企業が必要とする情報機器やソフトウエア、システム
サービスなどを販売する企業のことだ。
 このようなオープンシステムを組織化する役割を担ったのが、
SIer(システムインテグレイションを行う業者)である。さ
まざまなべンダーのソフトウエアやハードウエアを統合する。
 有力なSIerとして、富士通、日立製作所、NTTデータ、
NTTコミュニケーションズ、NEC、IBM、日鉄ソリューシ
ョンズなどがある。
 なお、ITベンダー、SIベンダー、SIerなどという名称
の違いについて、明確な定義はない。経済産業省の「DXレポー
ト」は、「ベンダー企業」という名称を用いている。
                     ──野口悠紀雄著
      『良いデジタル化/悪いデジタル化/生産性を上げ
       プライバシーを守る改革を』/日本経済新聞出版
─────────────────────────────
 デジタル庁は、いくつもの巨大な国家プロジェクトが仕事とし
て出てくる可能性のある組織です。したがって、SIerとして
は、そのトップや幹部はもとより、将来そういう仕事に就くと思
われる若手についても、あの手この手で接近を図り、接待しよう
とします。ITに詳しく、自民党デジタル社会推進特別委員会の
事務局長を務める牧島議員などが早くからSIerの目にとまっ
ていたのは当然のことです。
 問題は、日本の場合、組織とSIerの関係が固定的になって
しまうことです。なぜそうなるかというと、組織のトップがIT
の知識が乏しく、契約になると、そのSIerに丸投げしてしま
うことが多いのです。みずほの「MINORI」には、SIer
として、日本IBM、富士通、日立、NTTデータなどが加わり
それでいて、どの社も、MINORIの真の全容を把握できてい
ないという驚くべきものです。本当のことを知る者は誰もいない
というブラックホールのような恐ろしさです。したがって、何が
起きても不思議はないのです。
 税金が使われる国会議員の場合、業者との食事会、宴会、懇談
会などは、飲食が伴う場合、ワリカンでもやめるべきです。SI
erと情報交換したいのであれば、あくまで会議で行うべきであ
ると考えます。どうしても飲食したいのであれば、それは役所の
費用で行うべきです。そうすれば、何も問題は起きないのです。
             ──[デジタル社会論V/043]

≪画像および関連情報≫
 ●SIerはなくなる?!
  ───────────────────────────
   ネットでは良くない話が多いSIerですが、これからI
  Tエンジニアを目指す方にとっては、有力な就職先の候補で
  す。「将来、SIerが無くなる」と言われれば、気になる
  のは当然でしょう。
   しかし、SIerは、多くの企業にとって大事なパートナ
  ーです。そう簡単には無くなりませんが、今のままのSIe
  rでは、将来性はないかも、、、
   そこで今回は、将来性のあるSIerとは、どのようなS
  Ierなのか、ITエンジニアを目指す方に、SIerの将
  来性について解説します。
   最近のネットでは、SIerに関する良くない話題が多く
  取り上げられています。そのような記事を目にして、SIe
  rの将来性に疑問を持たれ方が多いのでは、、?
   しかし、SIerは、企業の情報システムを支える重要な
  必要な存在です。また、SIerが持っている情報システム
  開発する知識やスキルは、簡単には代えられません。
   まずは、このようなSIerの概要について解説します。
  SIerとは、
   システムインテグレーターを意味する「SI」に「〜する
  人」という接尾辞「er」を付けた和製英語。SIerは、
  「エスアイヤー」と読みます。SIerとは、企業や官庁な
  どで使われている情報システムの企画、構築、運用を請け負
  うIT企業を指す言葉。日本では、情報システムを運用して
  いる会社はたくさんありますが、自社で企画や構築をできる
  会社は多くありません。ほとんどの会社が、専門のIT企業
  であるSIerに発注しています。
                  https://bit.ly/3v972XD
  ───────────────────────────
牧島かれんデジタル担当相.jpg
牧島かれんデジタル担当相
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2021年10月12日

●「X-Roadはブロックチェーンではない」(第5590号)

 話をエストニアの「X-Road」に戻したいと思います。エストニ
アの電子政府では「X-Road」が国民の生活に浸透しており、国民
に貢献しています。
 日本では、病院に行って診察を受けると、医師が処方箋を病院
のコンピュータを使って患者の目の前で作成し、プリントアウト
して紙で渡されます。患者はその紙の処方箋を調剤薬局に持って
行き、そこで薬を調剤してもらいます。当然調剤には時間がかか
るので、そこでかなり待たされることになります。したがって、
病院に行く日は完全に一日仕事です。
 われわれは、そういう診察から薬を調剤薬局でもらうまでの長
いプロセスに慣れてしまっているところがあります。そもそも処
方箋自体がコンピュータで作成されるのであれば、それを印刷す
ること自体が無駄なことです。
 病院の医師が、コンピュータで、ある特定個人の処方箋を作成
すると、その内容を公認のすべての調剤薬局に作成とほぼ同時に
届けることができます。患者は、どこでも都合の良い調剤薬局に
行けば、そこで薬を受け取れるのです。ただし、全国民がセキュ
リティの厳しい本人確認ができるカードを保有していることが条
件になります。
 しかし、エストニアでは、斎藤大将氏によると、この医療問題
については、次のようになっているのです。
─────────────────────────────
 「X-Road」開発の貢献はエストニアにとって大きい。病院、診
療所、薬局などのシステムやデータベースが連携することで、処
方箋情報が即座に薬局で確認できたり、異なる病院・診療所での
治療・検診において、患者のこれまでのデータを参照することが
可能となった。これは患者のデータが国民IDに紐づけられてい
ることも関係している。
 また、裁判所、警察、検察、刑務所、弁護士などのシステムと
データベースも連携され、裁判プロセスの効率化も実現され始め
ている。このことが、844年分の労働時間を節約すると言われ
る理由であろう。          https://bit.ly/3aDHF6R
─────────────────────────────
 ここで明らかにしなければならないのは、「X-Road」とブロッ
クチェーンとの関係です。「X-Road」は果たしてブロックチェー
ンなのかということです。
 ブロックチェーンを簡単にいうと、非中央化された分散データ
ベースで、合意プロトコルを通じて更新されます。ネットワーク
上の全てのノードは平等であり、データベースの完全なコピーを
所持しています。データベースに格納されたブロックは暗号学的
ハッシュ機能でリンクされます。
 これに対して「X-Road」は、オープンソースのデータ連携レイ
ヤーで、組織がインターネット上でデータ連携することを可能に
します。つまり、「X-Road」は中央管理された情報システム間の
分散統合レイヤーで、安全に標準化されたサービスの提供と消費
の方法を提供するのです。「X-Road」はデータ連携をする双方の
匿名性、整合性、互換性を保証します。
 こまかなことは難しくなるので比較は避けるとして、ブロック
チェーンと「X-Road」の共通している点は、データをリンクする
暗号化ハッシュ機能だけです。それ以外は、あまり共通点はない
といえます。自転車も自動車も車輪がありますね。しかし、自転
車が自動車の前にあったからといって、自動車は自転車を元にし
ているといわないように、「X-Road」はブロックチェーンを基盤
として使っているわけではないのです。つまり、ブロックチェー
ンと「X-Road」はそういう関係です。
 「X-Road」はブロックチェーンを基盤として使っていない──
エストニアに在住する斎藤大将氏もこれと同じ考え方です。斎藤
氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 ブロックチェーンと「X-Road」の共通要素は、どちらもデータ
のリンクに暗号化ハッシュ関数を使用するところにある。逆に言
えば、これ以外での共通点はあまりない。元来のブロックチェー
ンと「X-Road」では、使用目的が異なる。
 暗号化ハッシュ機能はブロックチェーンが生まれる以前から存
在している。つまり、暗号化ハッシュタグを「X-Road」で使って
いるからといって、「X-Road」がブロックチェーンを基盤として
いることにはならない。
 「X-Road」はエストニア政府が開発した情報連携プラットフォ
ームだが、MITライセンスのもとにオープンソースとして公開
されている。「X-Road」とブロックチェーンを混同している人が
日本でも多く見られるが、「X-Road」の根底のシステムがブロッ
クチェーンというのは間違った認識と言える。
                  https://bit.ly/3al3xnj
─────────────────────────────
 エストニア政府では、システム開発に当たって、「システムの
『重複を避ける』」というポリシーがあります。このポリシーを
守るために、データベースの複製を許さず、多数のシステムを共
通のシステム間連携基盤「X-Road」で連携した分散型システムを
構築したのです。つまり、「X-Road」は「重複開発を避ける」と
いうルールをシステムアーキテクチャに落とし込んだ結果といえ
ます。このような取組は、政府横断的なITガバナンスが効いて
いなければ実現できない方法といえます。
 また、エストニア電子政府では徹底して分散型システムによる
リアルタイムな情報連携を重視し、各政府機関はそれぞれ「独立
に最適な技術を利用」しつつ、他のシステムと連携が可能になっ
ています。
 エストニア政府は、「X-Road」の売り出しにも熱心であり、そ
れを仲介するプラネットウェイ・コーポレーションという企業も
あります。日本政府は「X-Road」を参考にすべきです。
             ──[デジタル社会論V/044]

≪画像および関連情報≫
 ●日本初!X-Roadとブロックチェーンを商用実装した、 コー
  ルセンター向けワンストップサービスを開発・運用開始!
  ───────────────────────────
   ニチガスはIT先進国エストニアの技術である“X-Road”
  と、仮想通貨などでの応用例が多いブロックチェーンを活用
  したコールセンター向けワンストップサービスの自社開発に
  成功し、実運用を開始いたしました。本サービスは、X-Road
  とブロックチェーンを、商用に実装した日本初の取り組みで
  す。将来的には、本サービスおよびシステムの販売、そして
  本サービスを起点にあらゆるサービスのワンストップ化とス
  トレスフリーな世界の実現を目指します。
   本サービスは、システム内で複数に分散しているデータベ
  ースをプラネットウェイ社のX-Road 技術である「プラネッ
  トクロス」によって高度に安全を担保しながら統合し、当社
  提携のコールセンターにおいて、お客さま情報の検索と受付
  業務の一元的な運用を可能にしました。一般的に、分散する
  データベースの統合には膨大なコストと時間がかかりますが
  「プラネットクロス」を活用することで、コストと時間をか
  けずにデータ統合およびデータ交換基盤の構築を実現させ、
  かつ複数システム間で相互に安全なアクセス方法を確立する
  ことができます。また、ブロックチェーン技術によって、各
  データベースへのアクセス権の管理だけでなく、アクセスロ
  グを改ざん不可能な状態にすることで、部外者の情報アクセ
  スを遮断することができます。  https://bit.ly/3amIgcL
  ───────────────────────────
斎藤大将氏/エストニア在住.jpg
斎藤大将氏/エストニア在住
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2021年10月13日

●「ビットコインは誰が発明したのか」(第5591号)

 ハッシュ値、ブロックチェーン、X-Road──難しい話が続いて
います。一言でいうと、わかったような、わからないような話の
オンパレードです。しかし、今後のデジタル技術のことを考えて
ブロックチェーンについては、理解しておくべきです。
 EJでは、2014年9月1日から、53回にわたってビット
コインを取り上げました。その同じ年の2月、ビットコイン取引
所のひとつ、マウントゴックスが破綻したのです。多くの人は、
「ビットコインは終わった」と考えたと思います。
 しかし、これは大間違いであり、ビットコインは、今でも生き
残っています。2021年10月11日現在の1ビットコインの
価格は次の通りです。
─────────────────────────────
      1ビットコイン=623万6310万円
         ──2021年10月11日現在
─────────────────────────────
 マウントゴックスが破綻したとき、時の財務大臣麻生太郎氏が
いった次の言葉は有名です。
─────────────────────────────
 いつかは破綻すると思っていた。あんなものが長続きするか
 と考えていたが、意外と早かった。──麻生財務相(当時)
─────────────────────────────
 よく考えると、麻生氏は2012年から財務大臣を務め、その
後7年間もずぅーっと財務大臣の席を独占したのです。その間、
日本経済は、株価は上がったものの、経済は低迷し、現在も依然
としてデフレのままです。財務大臣の責任重大ですが、本人はま
るで責任を自覚していません。
 しかし、一概に麻生氏だけを批判できないのです。欧米の経済
の専門家でも、当初はビットコインについて、次のように見当外
れのとらえ方をしていたからです。
─────────────────────────────
◎「ビットコインは通貨ではなく、オランダで17世紀にバブル
 を引き起こしたチューリップのようなもの」  ──欧州中央
       銀行(ECB)ヴィトル・コンスタシオ元副総裁
◎「ビットコインは極めて投機的な資産である」
           ──ジャネット・イエレン元FRB議長
◎「ビットコインは詐欺的で、最終的には破滅する」
  ──JPモルガン・チェース/ジェイミー・ダイモンCEO
─────────────────────────────
 上記のJPモルガン・チェースのダイモンCEOだけは、ビッ
トコインの本当のことがわかったとき、「『ビットコインは詐欺
的』といったことは後悔している」と反省の弁を述べています。
 これほどの金融の大物でさえ間違えるビットコインには、比較
的古い技術といわれるブロックチェーンという技術が使われてお
り、この技術がわかりにくいのです。何しろ、ブロックチェーン
は、「特定の管理者が存在しないのに、非中央集権システムを構
築できる」という凄い特色を持っているのです。
 ブロックチェーンは、誰が開発したのでしょうか。
 ネットで調べてみると「ナカモトサトシ」なる名前が出てきま
す。しかし、「ナカモトサトシ」は、ビットコインの開発者であ
り、彼はブロックチェーン技術を使って、ビットコインを開発し
たのです。2008年のことです。なお、ナカモトサトシの正体
は今もってわかっていません。日本人であるか、ないかも含めて
正体は不明です。そして、ナカモトサトシは、ブロックチェーン
の開発者ではありません。なぜなら、彼は、そのとき既に存在し
ていたブロックチェーン技術を使ってビットコインを開発したか
らです。
 そうすると、ブロックチェーンの開発者は誰なのでしょうか。
 ネットで探してみたのですが、見つかりませんでした。ただ、
次の記事を発見したので、参考までにお知らせします。
─────────────────────────────
 ブロックチェーンテクノロジーの元となったアイデアは、19
91年という早い時期に、Stuart HaberとW. Scott Stornetta
がデジタルドキュメントにタイムスタンプを付けることによって
日付が遡ったり、改竄されたりを防ぐという、計算上の実用的な
ソリューションとして紹介されました。
 このシステムでは、暗号化され、鎖のように繋がったブロック
を使用してタイムスタンプの付いた文書を保存し、1992年に
はマークルツリーが設計に組み込まれ、複数の文書を、1つのブ
ロックにまとめることが実現し、より効率的になりました。しか
しながら、このテクノロジーは使われず、ビットコインが誕生す
る4年前である2004年には特許も切れました。
                  https://bit.ly/3Dt5Lxf
─────────────────────────────
 ブロックチェーンの本質は、データベースです。データベース
とは、データを保存し、改ざんや消失がないように保管し、必要
なときに読み出したり、消去したりするシステムのことです。
 ブロックチェーンは、P2P(ピア・ツー・ピア)ネットワー
クを用いて管理する「分散台帳」を採用しています。これはきわ
めて特徴的です。ビットコインの取引は、過去から現在まですべ
てを記録して、公開されています。データをチェーンのようにつ
なげて、誰も公開・閲覧できる状態にしておき、お互いに監視さ
せるしくみを取っているのです。
 このブロックチェーンの特徴について、岡嶋裕史氏は、その特
徴を次の3つにまとめています。
─────────────────────────────
        @分散型データベースである
        A   非中央集権型である
        B書き込み専用・改ざん困難
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/045]

≪画像および関連情報≫
 ●ますます進化するブロックチェーン技術!今後の動向は?
  ───────────────────────────
   ブロックチェーンはビットコインを端緒に、仮想通貨の基
  盤技術としてまたたく間に、その名を社会に知られるように
  なりました。しかし企業経営者の方も含め、ブロックチェー
  ンはIT社会のごく一部で用いられている特異な技術と思わ
  れている節もまだあるようです。
   ブロックチェーンは今や、仮想通貨のみならず、医療、芸
  術、ビジネスシーンなどさまざまな分野で変革を成し遂げる
  ものとして、さらなる研究開発が進められています。本稿で
  は、ブロックチェーンの基本的な仕組みから、今後の技術革
  新の動向について解説します。
   ブロックチェーンはビットコインに代表される仮想通貨に
  よって一気に知名度が広まりましたが、その歴史は意外にも
  古く、1990年に暗号学の学会でその源流を垣間見ること
  ができます。ビットコインが台頭する以前から、ブロックチ
  ェーンの考え方はアカデミズムやビジネスなど広い分野で流
  通している技術であったといえるのです。
   2016年の経済産業省の調査によると、ブロックチェー
  ン関連技術の潜在的な市場規模は67兆円と試算されていま
  す。これは国内医療・福祉業界の約68兆円に並ぶほどの大
  きな市場規模です。このようにブロックチェーンは政府が採
  用するほど信頼性が厚く、さらなる研究開発が期待されてい
  る技術なのです。        https://bit.ly/2YvGgfD
  ───────────────────────────
JPモルガン・チェース/ダイモンCEO.jpg
JPモルガン・チェース/ダイモンCEO
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2021年10月14日

●「ビザンチン将軍問題とは一体何か」(第5592号)

 ブロックチェーンについては、非常に多くの本が出版されてい
ます。そのなかで、野口悠紀雄教授の本は、わかりやすさで群を
抜いていると思います。その一冊である『ブロックチェーン革命
/分散自律型社会の出現』(日本経済新聞出版社)は、次のよう
な興味ある文章で始まります。
─────────────────────────────
 人が新しい技術に出会ったときの反応は、それがどんなもので
あれ、つぎの3つの段階を経る。
 第1段階。こんなものはまやかしだ。こんな凄いことができる
のなら、世界はひっくり返ってしまう。だから、これはインチキ
でペテンだ。悪質な詐欺かもしれない。誰かが、ひと儲けを企ん
でいるのだろう。引っかかったら、後で大変な目にあう。クワバ
ラ、クワバラ。賢い人は、こんなものには手を出さない。
 第2段階。ひょつとすると、何か大変なことが起きているのか
もしれない。うまく対応しないと、後れをとる。気の早い連中は
すでに走り出しているから、私もじっとしてはいられない。しか
し、この得体の知れないものは、一体何なのだ?
 第3段階。このすばらしい技術は世界を変えた。私が最初から
考えていたとおりだ。 ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版社
      『ブロックチェーン革命/分散自律型社会の出現』
─────────────────────────────
 革新技術で野口教授のいう3段階を踏んだものはたくさんあり
ます。代表的なものは、飛行機、インターネット、ビットコイン
(ブロックチェーン)などでしょう。
 飛行機の初飛行を成功させたライト兄弟──ウィルバー・ライ
トとオーヴィル・ライトの兄弟が動力飛行機の初飛行に成功した
のは、1903年のことです。しかし、そのわずか2年前の19
01年、ウィルバーが、キティホークからデイトンに帰る列車の
なかで、弟のオーヴィルに次のようにいっているのです。
─────────────────────────────
 これから1000年たっても、人類が空を飛ぶことはできな
 いだろう。           ──ウィルバー・ライト
─────────────────────────────
 これは、まさに上記の第1段階です。空を飛ぶために様々なこ
とを試したライト兄弟ですら、その2年前には空を飛ぶことを絶
望していたのです。
 それどころか、飛行機については、ライト兄弟が初飛行に成功
した後でも、多くの人がこの大ニュースを信じなかったのです。
大学教授をはじめとして、多くの科学者が「機械が空を飛ぶこと
はあり得ない」という内容のコメントや論文を発表していたので
それがわかります。それほど画期的なことだったのです。
 インターネットについても同様です。「地球のどこにでも無料
でメールが送れるというが、そんなことが本当にできれば、世界
はひっくり返ってしまう」といって信じない人が多かったといわ
れます。
 ブロックチェーンやビットコインについても同様のことが起き
ています。ある科学者は、冷静に、次のようにいって、反論して
います。
─────────────────────────────
 互いに信頼できない人々が形成するコンピュータ・ネットワー
クが機能しえないことは「ビザンチン将軍問題」として知られて
いる。この問題を解決する方法は存在しない。したがって、ビッ
トコインの仕組みは成立し得ない。
   ────野口悠紀雄著/日本経済新聞出版社の前掲書より
─────────────────────────────
 「ビザンチン将軍問題」とは何でしょうか。ビットコインをテ
ーマにして書いたときにEJで取り上げていますが、ここでもう
一度取り上げることにします。
 レスリー・B・ランボート博士という、分散システムの先駆的
研究で知られる米国の計算機科学者(数学者)がいます。ランボ
ート博士は、2014年にチューリング賞を受賞しています。こ
のランボート博士が「ビザンチン将軍問題」について論文を書い
ているので、以下にご紹介することにします。
 ビザンチンの将軍3人が、それぞれ兵を率いて、敵軍を包囲し
ています。各部隊はそれぞれ離れた場所に陣取っていて、情報の
やり取りは、伝令を相互に送るしか連絡できないとします。戦況
は敵がなかなか強くて、3人の将軍が率いる軍隊が一緒に攻めれ
ば勝利できるものの、1つ部隊でも攻撃をやめて撤退すると、敵
軍に負けてしまうとします。つまり、攻撃か撤退かを3人の将軍
が一致して同意しないと勝てないわけです。
 しかし、将軍のなかには裏切り者がいて、敵に寝返っているか
もしれないのです。裏切り者の将軍は、他の将軍が「攻撃」の提
案を受けると、それを「撤退」の提案にすり替えて別な将軍に伝
達するかもしれないのです。そうなると、一部の将軍は、攻撃命
令と撤退命令を両方を受け取ることも考えられます。そうすると
全員攻撃だと思っていたら、攻撃すると、攻撃には一部の部隊し
か参加せず、敵に負けてしまうかもしれないのです。
 添付ファイルの図は、裏切り者1名を含む3人のビザンチン将
軍のケースをあらわしています。「A」に関しては、将軍2が裏
切り者である場合で、この場合、将軍1は将軍2と将軍3に「攻
撃」を提案しますが、裏切り者の将軍2は、将軍3に「撤退」を
伝えます。メッセージを改ざんしたのです。将軍3は「攻撃」と
「撤退」の伝令を受け、混乱します。
 「B」に関しては、将軍1が裏切り者のケースです。将軍1は
将軍2には「攻撃」、将軍3には「撤退」を提案します。将軍2
と将軍3も伝令を交換しますが、提案が一致せず、将軍2と将軍
3は混乱してしまいます。これでは戦争は負けということになり
ます。それでは、どういう条件が整ったとき、一斉攻撃ができる
のでしょうか。引き続き、明日のEJで考えます。
             ──[デジタル社会論V/046]

≪画像および関連情報≫
 ●ビザンチン将軍問題
  ───────────────────────────
   ビザンチン将軍問題は、東ローマ帝国(ビザンティン帝国
  ビザンチン帝国)の将軍たちがそれぞれ軍団を率いて、ひと
  つの都市を包囲している状況で発生する。将軍たちは、都市
  攻撃計画について合意したいと考えている。最も単純な形で
  は、将軍たちは攻撃するか撤退するかだけを合意決定する。
  一部の将軍たちは攻撃したいと言うだろうし、他は撤退を望
  むかもしれない。重要な点は、将軍たちはひとつの結論で合
  意しなければならないということである。つまり、一部の将
  軍だけで攻撃を仕掛けても敗北することは明らかで、全員一
  致で攻撃か撤退かを決めなければならないのである。また、
  将軍たちは、それぞれ離れた場所に各軍団を配置しており、
  メッセンジャーを相互に送ることで合意を目指す。
   問題を複雑にさせているのは、一部の将軍たちが反逆者で
  あって、時折最適でない戦略に票を投じたりして混乱させる
  ことである。例えば、9人の将軍が投票するとして、その内
  の4人が攻撃に投票し、別の4人は撤退に投票した場合、9
  9人目の(反逆者でもある)将軍は、撤退に投票した将軍た
  ちには撤退票を送り、攻撃に投票した将軍たちには攻撃票を
  送ることができる。         ──ウィキペディア
                  https://bit.ly/2YI4aFj
  ●図の出展/https://bit.ly/3avF8eI
  ───────────────────────────
3人の将軍のケース.jpg
3人の将軍のケース
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2021年10月15日

●「ビザンチン将軍問題の解決の原則」(第5593号)

 ビザンチン将軍問題の続きです。将軍が4人のケースについて
考えてみます。添付ファイルをご覧ください。
 将軍1が3人の将軍に「攻撃」を提案します。この3人の将軍
のうち、将軍2が裏切り者です。将軍2は、将軍1の提案である
「攻撃」の反対の「撤退」を将軍3と将軍4に伝えるとします。
この場合、将軍2、将軍3、将軍4には、どういう情報が伝えら
れかについて以下に示します。
─────────────────────────────
        将軍1  将軍2  将軍3  将軍4
    将軍2  攻撃   −−   撤退   撤退
    将軍3  攻撃   撤退   −−   攻撃
    将軍4  攻撃   撤退   攻撃   −−
                註:将軍2が裏切り者
─────────────────────────────
 少しわかりにくい表ですが、裏切り者の将軍2は別として、伝
えられた情報を将軍3と将軍4について見ると、将軍3、将軍4
ともに、「攻撃」が2、「撤退」が1の情報が入っています。い
ずれも「攻撃」の方が多いのです。したがって、この場合は「撤
退」を伝えた将軍2が怪しいとして、「攻撃」を選択することに
なると思います。ランボード博士らの研究によると、次の原則が
成立するのです。
─────────────────────────────
 裏切り者の将軍がN人のとき、誠実な将軍が「2N+1人」
 以上の場合、誠実な将軍同士の判断が一致できる。
─────────────────────────────
 このケースの場合、裏切り者のNは1人であり、誠実な将軍は
3人(2+1)ですから、誠実な将軍同士の判断が一致できるの
です。
 なぜ、このビザンチン将軍問題が重要なのかについて、佐藤一
郎こ国立情報学研究所アーキテクチャー科学研究系教授は、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 ランポート博士は、このビザンチン将軍問題を耐故障性のある
分散システムにおける同意問題として考えた。ここで言う分散シ
ステムは、複数のコンピュータが協調することで1台のコンピュ
ータではできないような処理を実現するものとする。いま話題の
クラウドコンピューティングも、分散システムの一形態にすぎな
い。また、同意とは複数のコンピュータで同じ値を持つことであ
る。同意したい値を通信で他のコンピュータへ送ればいいと思う
かもしれないが、コンピュータは壊れることがあるし、複数のコ
ンピュータがあればそれだけ壊れるコンピュータも増える。故障
しても、そのまま止まれば対処のしようがあるが、動き続け、し
かも、間違った通信や処理を始めると非常にやっかいな問題とな
る。つまり、ビザンチン将軍問題では、故障しても止まらずに、
間違った動作を行うコンピュータを裏切りの者の将軍に見立て、
他の正常なコンピュータを誠実な将軍に見立てることで、複数の
正常コンピュータが同じ値を持つ方法やその条件を扱ったという
わけだ。              https://bit.ly/3vegM2z
─────────────────────────────
 このビザンチン将軍問題とブロックチェーンの関係について、
ブルーバックスの『ブロックチェーン』の著者である岡嶋裕史氏
は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 二人の将軍問題(ビザンチン将軍問題のこと)とは、要塞を攻
撃する二つの軍が、同時攻撃を行えば勝利、攻撃タイミングがず
れれば敗北という状況で、どう攻撃開始時間を合意するかという
問題である。
 どちらの将軍に決定権があるのか、決定したとして、相手にど
う伝えるのか、伝わらなかったらどうするのか、伝わったか伝わ
らなかったか不明な場合はどうか、敵軍による諜報活動により嘘
の攻撃時間が伝えられたのではないかなど、考えなければならな
いことは無数にある。
 ビザンチン将軍問題は、これを二者間の問題ではなく多数の参
加者間の問題に拡張したもので、コンピュータに限らず分散シス
テムで合意形成を行うときに必ず考慮しなければならない問題で
ある。ブロックチェーンでは、ブロックの追加が合意の証であり
ブロックの追加が繰り返され、チェーンが伸びるほどに、過去の
ブロックに対する合意が覆される可能性は、限りなくゼロに近づ
く。すなわち将軍の数が増えるほど、攻撃の合意が形成されやす
くなるのだ。        ──岡嶋裕史著/ブルーバックス
『ブロックチェーン/相互不信が実現する新しいセキュリティ』
─────────────────────────────
 ビザンチンの将軍問題を解決したのはブロックチェーンといわ
れています。ビットコインの開発者であるとされる「ナカモトサ
トシ」なる人物は、ビットコインを開発するためにブロックチェ
ーンの仕組みを取り入れたことは間違いないと思われます。
 ナカモトサトシの正体は不明ですが、私は日本人に間違いない
と思います。なぜなら、もし、外国人であるなら、「サトシ」と
いうような難しい名前を使うはずがないからです。
 もうひとつ、私がナカモトサトシが日本人だと確信するのは、
ビットコインは、ピア・ツウ・ピア・ネットワーク(P2P)を
使いますが、これは2002年頃に日本に登場したファイル交換
ソフト「ウィニー」に非常によく似ており、ナカモトサトシはそ
の原理に注目したのではないかと考えます。
 それに加えて、ブロックチェーンの特許が2004年に切れて
いるのです。P2Pネットワーク、ブロックチェーンの特許──
使える技術のすべてが、ビットコインが発表された2008年前
後にすべて揃っています。ナカモトサトシがこれに関心をもった
ことは、まず間違いないと思います。
             ──[デジタル社会論V/047]

≪画像および関連情報≫
 ●ビザンチン将軍問題とは?その意味やブロックチェーンとの
  関係をわかりやすく解説
  ───────────────────────────
   暗号資産(仮想通貨)について調べていると、「ビザンチン
  将軍問題」という単語をしばしば見かけるかもしれません。
  ビザンチン将軍問題とだけ聞くと暗号資産(仮想通貨)とはな
  んの関係もなさそうですが、実はブロックチェーンとビザン
  チン将軍問題には深い関わりがあるのです。誤解を恐れずに
  簡単に言うと、ビザンチン将軍問題とは「複数人で合意形成
  を図る際、その一部の不正や不具合が生じ得る時に、全体で
  の正しい合意形成ができなくなる可能性がある」という問題
  です。
   ビザンチン障害(またはビザンチン故障)とは、ビザンチ
  ン将軍問題が原因となって起きた不具合のことを言います。
  分散型のネットワークにおいて合意形成を図るためには、こ
  のビザンチン障害が起きないようにする必要があります。
   ビザンチン・フォールトトレラント性とカタカナにすると
  わかりにくいが、これは「Byzantine Fault Tolerance」 を
  を訳したもので、「ビザンチン・フォールトトレラント性が
  ある」とは「ビザンチン将軍問題が生じたとしても、全体と
  しての合意を形成できる」ことを意味します。
   では、もう少し具体的に見ていきましょう。
   かつてヨーロッパにビザンツ帝国(ビザンチン帝国)とい
  う帝国がありました。
   ある時、ビザンツ帝国の将軍9人がある都市を包囲して攻
  め落とそうとしていましたが、どうやら9人の将軍がそれぞ
  れ持つ部隊9つが全て協力して攻めないとこの都市は落とせ
  そうにありません。1部隊でも欠けると攻撃は失敗してしま
  い痛手を負うことになってしまいます。
                  https://bit.ly/3oXqPYV
  ───────────────────────────
ビザンチン将軍問題4人のケース.jpg
ビザンチン将軍問題4人のケース
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2021年10月18日

●「ウイニー開発者金子勇/不幸な死」( 第5594号)

 2000年前後の話です。いわゆるパソコンは、多くの家庭に
普及し、多くの人がインターネットを使い始めていた時代です。
マイクロソフトのOSのバージョンでいうと、ウインドウズ98
の時代です。
 当時「ウインMX」というファイル交換ソフトが日本で流行し
ていたのです。これは、「ナップスター」という音楽共有ソフト
の互換プロトコルを使い、中央サーバー型のファイル交換機能を
備えたファイル交換ソフトです。「ナップスター」は、1999
年に公開された「ナップスター」というファイル共有ソフトの名
称であり、そのソフトを開発した企業の名称でもあります。イン
ターネットを通じて個人間で音声ファイルの交換を行うことがで
きるファイル共有ソフトです。
 中央にサーバーがあります。そこにアクセスすると、どういう
ファイルが交換できるかわかります。ファイルには所有者が明記
されています。Cさんは、Aさんの持っているファイルが欲しい
とします。この場合、ファイルの交換自体はAさんとCさんの間
で行います。つまり、ファイルを共有するのではなく、お互いに
所有するファイルを交換するのがウインMXの特色です。
 ウインMXでは、サーバーに、誰がどのようなファイルを持っ
ており、いつ、どのようなファイルを交換したかという記録が残
るので、違法な行為をすれば発見されやすいといえます。
 「ナップスター」にしても、「ウインMX」にしても、目指し
ていたのは、中央サーバーを使わないピア・ツウ・ピア・ネット
ワーク(P2P)でのファイル交換ソフトの実現です。しかし、
それが、なかなかうまくいかなかったようです。それを開発した
のが「ウイニー」です。
 「ウイニー」では、中央サーバーがなく、ファイルの交換は、
「ウイニー」によって形成されたP2Pネットワークのなかのコ
ンピュータ同士で行われます。ファイルは、暗号化された状態で
交換されるので、誰がどのファイルを持っているのか、自分の所
有するファイルを誰がダウンロードしたのか、わからないように
なっています。これは「障害に強く、匿名性が高い」をクリアす
るよう配慮されていると見られます。
 「ウイニー」の仕組みは実際のところ、かなり複雑です。どの
ようにしてファイルを検索し、入手するのかに関心のある人は、
日経XTECHの次の記事を読んでください。
─────────────────────────────
          高橋健太郎氏/日経ネットワーク
    「ウイニーの仕組み/匿名を強化したソフト」
              https://bit.ly/3APaU1a
─────────────────────────────
 「ウイニー」の開発者は、2ちゃんねるで「47氏」という名
称で有名になった人物です。本名は金子勇氏といい、不幸なこと
に2013年の夏に亡くなっています。「WIRED」は、「日
本が失った天才、金子勇の光と影」というタイトルで、冒頭次の
ように紹介しています。
─────────────────────────────
 とあるソフトウェアエンジニアが42歳という若さでこの世を
去り、8年が経とうとしている。31歳でブロックチェーンの先
駆けたるP2P技術を実現し、34歳で京都府警に逮捕された。
無罪を勝ち取るまでに7年かかり、カムバック後、心臓の病で、
あっという間に天国へ。もしも生前の彼が、いかんなく能力を発
揮していたら?あるいは彼がいまも生きていたら・・・。仮想通
貨に一喜一憂する日本のIT業界に、ぽっかり空いた「金子勇」
という穴。その大きさを語り告ぐために、若きフォロワーが奮闘
している。             https://bit.ly/30vif9x
─────────────────────────────
 金子勇氏は、茨城大学工学部情報工学科を卒業し、博士研究員
として日本原子力研究所に勤務。地球シミュレータ向け、ソフト
ウェアの研究開発に従事しています。2000年から2001年
にかけて、情報処理推進機構(IPA)の未踏ソフトウェア創造
事業の一つ「双方向型ネットワーク対応仮想空間共同構築システ
ム」に参加しています。
 2002年1月、東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報
学専攻情報処理工学研究室(数理情報第七研究室)特任助手(戦
略ソフトウェア創造人材養成プログラム)に任用されます。その
同年5月にピュアP2P型の通信方式を持たせたファイル共有ソ
フト、ウイニーの最初のベータ版を電子掲示板サイト「2ちゃん
ねる」のダウンロードソフト板で公開したのです。
 その後の顛末について、「WIRED」は、次のように記述し
ています。
─────────────────────────────
 2002年に発表されるや否や爆発的に普及したファイル共有
ソフト「ウイニー1/Winny1」は、データ転送における優れたア
ルゴリズムに加え、高い「匿名性」を実現していた。それゆえ、
一部のユーザーが違法に入手した映画や音楽などの商用データ、
果てはコンピューターウイルスまで、ウイニーにアップロードし
世界中に拡散するという事件が頻発。その結果、ウィニー1の開
発者である金子までが(厳密にはウイニー2を開発したかどで)
「著作権法違反幇助」の嫌疑をかけられ、2004年に逮捕、起
訴される。             https://bit.ly/3p2bZAb
─────────────────────────────
 金子勇氏の逮捕は非常におかしいです。ユーチューブに著作権
法違反の動画がアップされるたびに、ユーチューブの開発者が逮
捕されることと同じだからです。
 いずれにせよ、この金子勇氏は、日本人には珍しい大変な天才
プログラマであり、ナカモトサトシと関係があるのではないか、
いや、ナカモトサトシ本人ではないかともいわれているのです。
そのあたりのことをさらに追及していきます。
             ──[デジタル社会論V/048]

≪画像および関連情報≫
 ●池田信夫氏/エコノMIX異論正論
  ───────────────────────────
   2013年7月6日、ファイル共有ソフトウイニーの作者
  金子勇氏が急性心筋梗塞で死去した。享年42歳。あまりに
  も早い死だった。警察が彼を逮捕し、ウイニーを葬り去った
  ことによって日本が失ったものは限りなく大きく、もう取り
  戻すことはできない。
   ウイニーは、2002年に開発されたP2Pソフトウェア
  である。P2Pというのは、インターネットでサーバを介さ
  ずにパソコン同士で直接ファイルをコピーするシステムで、
  1999年にアメリカで開発されたナップスターが最初であ
  る。これは著作権法違反として禁止されたが、その後も世界
  各国でP2Pソフトが開発された。
   ウイニーもその一つだが、著作権法違反に問われるおそれ
  があるため、金子氏(当時は東大助手)は2ちゃんねるに、
  「47」という匿名でプログラムを投稿した。これは大量の
  データをコピーするために、多くの中継点に部分的なキャッ
  シュ(一時コピー)を残し、次にコピーするときはそのキャ
  ッシュを集めて速度を上げるなど、当時としても先進的な技
  術を使っていた。
   しかし、ウイニーを使って映画をまるごとコピーするなど
  の事件が頻発し、一時はネット上の通信量の半分以上をウイ
  ニーが占めた。ウイルスができてパソコンのデータを流出さ
  せる事件も起こり、京都府警のパソコンもウイニーのウイル
  スに感染して容疑者の名前などのデータが流出した。
                  https://bit.ly/3j4vyUC
  ───────────────────────────
金子勇氏.jpg
金子勇氏
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2021年10月19日

●「ビットコインは先端技術集結作品」(第5595号)

 ビットコインが発明されたのは2008年、使用が開始された
のは、2009年からです。これは私の推測ですが、ビットコイ
ンは、ナカモトサトシというある日本人が、その当時話題になっ
ていた新技術を巧みに組み合わせて作り上げた「先端技術の芸術
作品」ではないかと考えています。
 当時話題になっていた新技術とは、公開鍵暗号方式による電子
署名、金子勇氏の開発したP2Pネットワークに基づく中央サー
バーのない「ウイニー」、そして元になる基本技術の特許が切れ
たブロックチェーン技術です。
 なぜそう思うのかというと、開発された時期や、利用を可能に
する法律が施行されたり、基本技術の特許の切れた時期が、不思
議に2001年から2004年に集中しているからです。あくま
で私の推測に過ぎないものではありますが・・・。
─────────────────────────────
   ◎2001年4月
    電子署名及び認証業務に関する法律が施行される
   ◎2002年5月
    「ウィニー」のベーター版2ちゃんねるに初公開
   ◎2004年
    ブロックチェーンの基になる理論の特許が切れる
─────────────────────────────
 ついでに、そんなに重要ではありませんが、面白い話を追加す
ることにします。「ウイニー/Winny」 ──EJは、全角と半角
を混ぜたくないので、カタカナで書いていますが、金子勇氏はウ
イニーを当初、次の左のように書いていたのです。後に右の表記
に改めています。なぜ、そのようなことをしたのでしょうか。
─────────────────────────────
          WinNY ── Winny
─────────────────────────────
 「WinNY」の表記は、明らかにウイニーに先行した「WinMX」を
意識しています。「WinMX」 とは、中央サーバーのあるファイル
交換ソフトのことであり、ウイニーが登場する前、日本で大流行
していたのです。金子勇氏は、この新しいファイル交換ソフトウ
ェアの名称を「WinNY」 とすることで、「WinMX」 の後継である
ことを示し、「M」を「N」、「X」を「Y」と、アルファベッ
トを1つずつ進めることで、「WinNY」 は「WinMX」 を少し超え
るものであると意思表示したのです。
 「WinMX」 と「WinNY」 の大きな違いは、同じP2Pネットワ
ークを使いながら、前者は中央サーバーを使い、後者はそれを必
要としないことです。「WinNY」 は、サーバーを使わない、いわ
ゆる「ピュアP2P」であり、当時のネットワークに関心のある
エンジニアは、こぞってそれを目指していたのです。金子勇氏は
その競争に勝利したといえます。これは技術的大勝利です。
 しかし、金子勇氏は、「WinNY」 は「WinMX」 を一歩前進させ
たに過ぎないといっているのです。謙虚です。しかもそれを口に
出さず、名称を「WinNY」 とし、上記の「NY」の謎をかけてい
ます。しかし、この謎が解ける人が何人いるでしょうか。
 しかし、2004年5月10日、金子勇氏は、著作権法違反幇
助の疑いにより京都府警察に逮捕され、5月31日に起訴されま
す。当時、「WinMX」 を利用した公衆送信権(送信可能化権)の
侵害が横行し、著作権法違反で逮捕者も続出していたなかで、匿
名性が強化されたウイニーへの移行者が後を絶たなかったので、
京都府警は、その開発者を逮捕したのです。裁判所での事件名は
「著作権法違反幇助被告事件」です。
 金子勇氏は、ウイニーを使って何かをしていたわけではないの
です。作っただけです。しかし、そのウイニーを悪用して、音楽
CDや映画のコピーなどの著作権法違反を犯す者が増えたので、
そのネットワークを制作した者を逮捕したのです。
 しかし、金子勇氏を救おうと、弁護士の壇俊光氏らによる「ウ
ィニー弁護団」が結成され、2ちゃんねるやサイトなどのネット
上で呼びかけをすることで、裁判費用を有志で募ったのです。今
どきの言葉でいえば、クラウドファンディングです。これによっ
て、わずか3週間で1600万円を集めることに成功します。
 裁判は検察側、被告側がこぞって上告、最高裁まで争われまし
たが、2011年12月20日、最高裁第三小法廷(岡部喜代子
裁判長)は検察側の上告を棄却。無罪が確定したのです。結局裁
判で無罪を勝ち取るために7年間を要し、金子勇氏は裁判に疲れ
たのか、2013年7月6日、急性心筋梗塞で死去したのです。
 それにしても日本は惜しい人を失ったものです。金子勇氏の優
れた理論構築と実装力を認め、ウイニー裁判でも、またそれ以降
も積極的にバックアップし、尽力してきた東京大学情報理工学系
研究科創造情報学専攻の平木敬教授は、ウイニー裁判について、
次のように語っています。
─────────────────────────────
 これは基本的には“ソフトウェアの開発”というものをどう捉
えるかという話しである、と捉えていました。ですから、裁判に
関しても、その点を争点にする必要があるというので、私だけで
は力が足りませんので、例えば(慶應大学の)村井先生ですとか
様々な方のご協力を頂いて、実際の裁判でもそれを主張していき
ました。それから、研究科の中でも、我々が開発するものは、良
いものであればあるほど、世の中に対するインパクトがあるわけ
で、その世の中に対するインパクトをどうやって捉えていくのか
というのを考えていく必要があり、そういった動きは以後強まっ
ていきましたね。私が一番残念だったのは、これだけのソフトウ
ェアであれば、仕事として書いてくれれば、我々が守ることがで
きた。仕事じゃない所で匿名で書いたので、残念ながら東大が組
織として守ることはできなかった。それが非常に残念でした。
                  https://bit.ly/3jbhskF
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/049]

≪画像および関連情報≫
 ●2人のインターネット先駆者が遺したもの
  ───────────────────────────
   我々の生活を大きく変えたインターネット。一方で、負の
  側面も強調されるようになった。そのひとつに、社会問題に
  もなったソフトがある。ファイル共有ソフト、ウィニー。開
  発者は当時31歳で、東京大学情報処理工学研究室の助手を
  務めていた金子勇だ。
   ウィニーは、純粋なP2P(ピーツーピー)を実現するソ
  フトである。P2Pとは対等な関係を意味する「ピア・ツー
  ・ピア」で、中央サーバーを通さず個人と個人が情報を自由
  にやりとりし、その情報さえも個人で管理するネットワーク
  だ。現在のインターネットは、巨大IT企業などの中央サー
  バーが大量の情報を管理。そのサーバーを通さないと、ユー
  ザーは情報をやりとりできない。そのため最近では、ある人
  気グループの音楽を聴くことができなくなるユーザーが続出
  した。アップルやアマゾンが配信を停止したからだ。
   ウィニーは、ユーザー同士を結んだネットワークで、情報
  やコンテンツが維持されるため、こうした管理や統制は受け
  ない。金子は、現在のインターネットの対抗軸となるネット
  ワークを、今から20年近く前に世界で初めて実現させてい
  たのだ。金子は2002年にウィニーの試作版を匿名掲示板
  「2ちゃんねる」に公開する。当時、「2ちゃんねる」は罵
  詈雑言が多く書き込まれ、批判の対象になっていた。しかし
  金子はその匿名の影に才能が埋もれていると考え、ネットワ
  ークを根本から変えうるウィニーの将来を大企業ではなく、
  「2ちゃんねる」のユーザーに託したのである。
                  https://bit.ly/2YSN0Ev
  ───────────────────────────
「ウイニー」P2Pネットワーク.jpg
「ウイニー」P2Pネットワーク
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2021年10月20日

●「ブロックチェーンはPоCである」(第5596号)

 ブロックチェーンについて書かれた本のなかで、少し変わった
本があります。ブロックチェーンを技術というよりも思想ととら
えているのです。この本の冒頭には次の記述があります。
─────────────────────────────
 ブロックチェーンの本質は、技術にはありません。その思想に
あります。今まで多くの方がブロックチェーンの技術を語ってき
ました。システム会社が最新のテクノロジーだと宣伝し、新しも
の好きの人々はバズワードとしてのブロックチェーンを追いかけ
ました。仮想通貨を入口に、金融システムの技術として注目する
人が増え、一時はマスコミも競うように技術名ばかりを伝えまし
た。でも、なかなか本質的な議論は聞こえてきません。この技術
が結果的にもたらす、社会思想についての議論です。
 結論を申し上げます。ブロックチェーンは人類に、管理者のい
ない社会をもたらします。それは、私たちがまだ見たことのない
世界です。これまでのような、特定のボスを中心とした中央集権
型の組織が崩れ、個々の人間は自律した存在となります。
 このうねりはブロックチェーンの登場と同時に始まりました。
もう止まることはありません。        ──坪井大輔著
     『WHY BLOCK CHAIN/なぜ、ブロックチェーンなのか』
                      翔泳社/SE刊
─────────────────────────────
 ブロックチェーンについて書かれた本のほとんどは、野口悠紀
雄教授の本も含めて、ブロックチェーンの技術について解説し、
それは多くのことに応用できると説いています。しかし、具体的
な応用事例はビットコインだけです。
 それでもその実用化に向けて、金融機関をはじめとする実証実
験が行われているという反論がありますが、それは「PоC」に
過ぎないという意見があります。「PоC」とは何かについては
次の説明があります。
─────────────────────────────
 PоCとは、「Proof of Concept」の略語であり、日本語では
「概念実証」「コンセプト実証」と訳されるのが一般的です。ま
たより広く「実証実験」と呼ばれることもあります。その役割は
新たなアイディアや企画、構想(コンセプト)に対し、それが実
現可能なのか、目的とする効果や効能が得られるのか、市場に受
け入れられそうなのか、といったことを、本格的にプロジェクト
を開始する前に検証することです。
 ここで重要なのは、単に「机上で検討を重ねる」のではなく、
検証のための「ものを作り上げ」「実際に使ってもらう」という
実験的なアプローチを行う点にあります。
                  https://bit.ly/3aPJLQV
─────────────────────────────
 この説明では、いまいちはっきりしませんが、本来「PоC」
は、医薬品業界における新薬の開発において使われる言葉です。
新薬の開発は、まず基礎研究を行って新たな候補物質を見つけ出
し、その有効性や安全性を動物実験で確認した後、人に対する有
効性と安全性を確認する臨床試験を行います。この臨床試験の一
部が「PоC」と呼ばれており、有効性や安全性を確認できたこ
とを「PоCを取得した」というのです。
 つまり、ブロックチェーンの実証実験というのは、そのレベル
なのです。つまり、使えるかどうかわからないが、実験して試し
てみようというレベルだと坪井大輔氏はいうのです。
 医薬品業界以外のケースを上げると、映画業界のケースが上げ
られます。たとえば、長編映画を製作する場合、同様のコンセプ
トの短編映画を作る場合があります。この短編映画を関係者に見
せることで、映画化権の取得や出資者へのアピール、役者の説得
などを行うのです。いわばテストマーケティング的なことを「P
оC」といいます。
 テストマーケティングといえば、ターゲットとなる顧客層に試
用品を配布し、そのフィードバックをもらうことで、技術面や使
用上の問題点を明らかにしつつ、その後の販売戦略の立案などに
活かすことも一種の「PоC」です。
 しかし、坪井大輔氏がブロックチェーンの応用として掲げてい
るケースは、きわめて具体的であり、なるほどと納得できるもの
が多いので、この坪井流ブロックチェーン論についてご紹介して
行きたいと思います。
 坪井大輔氏は、ブロックチェーンについて、重要な発言をして
います。
─────────────────────────────
     ブロックチェーンはビジネスになっていない
─────────────────────────────
 「PоC」の段階では、まだ本格的なビジネスになっていない
のです。確かに仕事は増えており、エンジニアも集まってきてい
ますが、テストマーケティングをしている段階では、ビジネスと
して定着していないのです。
 つまり、注目を集めながらも、みんながわっと飛びつく段階に
はいたっていないといえます。こうしたブロックチェーンの現況
について、坪井大輔氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 一体どうしてでしょう。ブロックチェーンはどうして、本格的
なじ晋及のステージに進んでいないのか。私は日々、IT業界だ
けでなくいろいろな産業の方々とお話をさせてもらっていますが
その中で、ブロックチェーンに関してみなさんが感じている壁が
あるように思います。それは、「なぜ今ブロックチェーンを導入
する必要があるのか」「なぜ既存技術ではダメでブロックチェー
ンならいいのか」という疑問です。すなわち、「Whyブロック
チェーン?」という問いにうまく答えられていない、ということ
です。         ──坪井大輔著/翔泳社の前掲書より
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/050]

≪画像および関連情報≫
 ●ブロックチェーンの市場規模
  ───────────────────────────
   ブロックチェーンは、「AI」「IоT」と並んで、DX
  (デジタルトランスフォーメーション)分野で期待される有
  望技術の一つです。
   DXとは、「情報テクノロジーの力を用いて既存産業の仕
  組みや構造を変革すること、あるいはその手段」のことで、
  大きくは産業全体のバリューチェーンやサプライチェーンに
  おけるイノベーション、小さくは開発企業におけるエンジニ
  アの就労環境改善や社内コミュニケーションツールの変更と
  いった自社の変革など、仕事だけでなく、私たちの生活全体
  を大きく変える可能性として期待されています。
   その中でも特に、ブロックチェーンは、既存技術では解決
  できなかった課題を乗り越える新しい手段として、ビジネス
  のみならず、官公庁の取り組みにおいても広く注目を集めて
  います。
   その背景として、もともとは Fintech(フィンテック、金
  融領域におけるDX)の一分野である仮想通貨(または暗号
  通貨)の実現を可能にした一要素技術、つまりビットコイン
  を支えるだけの存在に過ぎなかったブロックチェーンが、近
  年、金融領域にとどまらず、あらゆる既存産業・ビジネスで
  応用できる可能性を秘めた技術であることが明らかになって
  きました。           https://bit.ly/3FZj5vt
  ───────────────────────────
坪井大輔氏.jpg
坪井大輔氏
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2021年10月21日

●「米SECビットコインETF承認」(第5597号)

 本稿執筆時の2021年10月20日、ビットコインに関する
凄いニュースが飛び込んできました。日本経済新聞電子版は次の
ニュースを伝えています。
─────────────────────────────
【ニューヨーク=大島有美子】米国で暗号資産(仮想通貨)のビ
ットコイン先物に連動した上場投資信託(ETF)の取引が電子
取引を手がける米NYSEアーカ取引所で始まった。米ETF大
手のプロシェアーズが運用する商品で、米証券取引委員会(SE
C)の承認を得た。ビットコインそのものの利用拡大を期待した
投資マネーも流れ込み、ビットコイン価格も上昇した。
 米で仮想通貨先物に連動したETFが上場するのは初めて。プ
ロシェアーズのマイケル・サピア最高経営責任者(CEO)は、
「証券会社に口座を持ち、株式やETFの購入に慣れている多く
の投資家にビットコインへの投資機会を提供するものだ」と上場
の意義を強調した。現物の仮想通貨のように投資するためのウォ
レット(電子財布)を持たなくても仮想通貨の価格に連動した運
用ができる。         https://s.nikkei.com/3n9Tasj
─────────────────────────────
 現在、ビットコインに関しては、世間的には「怪しいもの」と
いう印象がまだ消えていません。10月13日のEJの冒頭でも
当日の1ビットコインの価格を公表しましたが、その後も価格は
上がっているのです。20日現在1ビットコインの価格は731
万円で100万円以上値上がりしています。史上最高値です。
─────────────────────────────
     10月11日 ・・ 623万6310円
     10月20日 ・・ 731万3873円
─────────────────────────────
 なぜ、こんなに値上がりしたかです。それは、10月15日に
ビットコイン先物ETFが承認されるという情報がブルームバー
グによって報じられたからです。今回、ビットコイン先物に連動
したETFは、米ETF大手のプロシェアーズが運用する商品で
正式名称は、次の通りです。初日の取引で、すでに4・85%値
上がりしています。
─────────────────────────────
   プロシュアーズ・ビットコイン・ストラテジ−ETF
─────────────────────────────
 ETFというのは何でしょうか。
 ETFというのは、日本でいうと、日経平均株価や東証株価指
数(TOPIX)などの動きに連動する運用成果をめざし、東京
証券取引所などの金融商品取引所に上場している投資信託のこと
です。ETFは次の英語の頭文字を並べたものです。
─────────────────────────────
         ETF
         Exchange Traded Funds
─────────────────────────────
 日本では、日銀が日経平均株価を支えるため、ETFを購入し
ていることは有名ですが、2021年に入ってから、買い入れが
変化しています。
 2020年度の日銀の決算で、上場投資信託(ETF)がどの
くらい増えているかについて、朝日新聞デジタルは、次のように
報道しています。
─────────────────────────────
 日本銀行が27日発表した2020年度決算で、総資産(21
年3月末時点)が前年比18・2%増の714兆5566億円と
過去最高になった。コロナ禍で打撃を受けた経済を支えるため、
金融機関への貸出金などが増えたため。上場投資信託(ETF)
の保有額も過去最高で、日本最大の株式保有者になったとみられ
る。資産の7割超を占めるのは国債。政府が経済対策で出した国
債の買い入れなどで、前年より9・5%(46兆2471億円)
増の532兆1652億円。企業への融資を金融機関に促すため
貸出金も前年の2・3倍の125兆8402億円と膨らんだ。E
TFは、同20・7%増の35兆8796億円。株価上昇の含み
益で、時価ベースだと51兆5093億円だった。
       ──2021年5月27日付、朝日新聞デジタル
                  https://bit.ly/3pgj3cL
─────────────────────────────
 ビットコインそのものを買うには抵抗がある人も、ビットコイ
ンに連動したETFであれば、購入してみようと思う人は多いは
ずです。そもそもこれまでビットコインETFが認められている
国は、カナダとバミューダ(2021年2月)、そして今回の米
国です。これで信用が一気に高まることは確かです。
 どうしてかというと、ETFにすることで、ビットコインの扱
いが、より便利になるという点です。また、それは、手軽に分散
投資できたり、取引所でリアルタイムに売買を行えるという、メ
リットです。ただ、ETFの審査は非常に厳しく、米国の証券取
引委員会は、ビットコインなどの仮想通貨に対しては、これまで
は何度もETFの申請を却下してきたのです。
 ちなみに日本では、ビットコインETFを扱っている取引所は
ありません。しかし、米国が承認したとなると、国内でビットコ
インETFを扱う可能性が大きくなります。したがって、取り扱
い開始後、素早く入手し取引するためには、今のうちに取引所の
口座を開設しておく必要があります。
 それよりも、投資するために、もっと重要なことがあります。
それは、ビットコインが何であるか、よく理解することが重要で
す。そのためには、ブロックチェーンが理解できていなければな
りません。ビットコインETFの情報は、20日現在では情報は
あまりありません。これについては、さらに情報が集まりしだい
再び取り上げる予定です。明日からは、ビットコインを理解する
ためのブロックチェーン技術の核心に迫ります。
             ──[デジタル社会論V/051]

≪画像および関連情報≫
 ●焦点:ビットコインETF、「規制当局の壁」越えられるか
  ───────────────────────────
   ビットコイン価格は昨年1500%急騰しており、過熱す
  る同資産の関連商品に対する、投資家の旺盛な需要をかき立
  てている。多くの企業が、ビットコインを広くリテール市場
  へと開放することになるETFをわれ先に立ち上げようと躍
  起になっている。
   だが規制当局は厳しい問題提起を行っており、投資ファン
  ド5社は今週に入り、ビットコイン先物に連動するETFの
  設定計画を延期し、理由として米証券取引委員会(SEC)
  の懸念表明を挙げた。
   「ビットコイン取引に関わる企業に対する監視を、SEC
  が一段と強めるとみている」と、コンプライアンス管理会社
  インテリジャイズのディレクターである、マーク・バトラー
  氏は語る。「投資家は用心すべきだ。うますぎる話は、おそ
  らく本当に眉唾ものだ」申請書類によれば、SECは少なく
  とも14件の異なるビットコインETFまたは関連商品につ
  いての申請を保留している。
   いくつかのファンドはすでに申請を却下された。SECは
  3月、ビットコイン取引所「ジェミニ」を運営するキャメロ
  ンとタイラーのウィンクルボス兄弟によるETF上場申請を
  却下した。同兄弟の投資ファンドは直接ビットコインに投資
  することを目指している。一方、他のファンドは、米取引所
  に最近上場したビットコイン先物に期待を寄せていた。
                  https://bit.ly/3vrPq9n
  ───────────────────────────
ビットコイン先物ETF.jpg
ビットコイン先物ETF
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2021年10月22日

●「ブロックチェーン支える4つ技術」(第5598号)

 改めてブロックチェーンとは何でしょうか。一般的にいうと、
ブロックチェーンは次のように捉えられています。
─────────────────────────────
     ビットコイン=ブロックチェーン=暗号資産
─────────────────────────────
 はっきりしていることがあります。ブロックチェーンとは技術
であり、それは、暗号資産、ましてビットコインに限った技術で
はないことです。
 坪井大輔氏は、ブロックチェーンを次の4つの技術を組み合わ
せたものであるとしてとらえています。
─────────────────────────────
       @暗号化技術
       Aコンセンサスアルゴリズム
       Bピア・トウ・ピア(P2P)
       CDLT(分散型台帳技術)
─────────────────────────────
 第1の技術は「暗号化技術」です。
 暗号というと、ひと頃は特殊の世界の話だったはずですが、イ
ンターネットが普及した現在では、ビジネスのために、生活のた
めに、暗号化は不可欠な技術になっています。普段やり取りして
いるメールにも暗号化が行われています。暗号技術とは、データ
の内容を第三者にわからない形式に変換すること、またその変換
したデータを元に戻すための技術です。
 坪井氏は、暗号化技術とは、一対一のトランザクション、一回
のやり取りごとにその取引の記録が暗号化されることを意味して
いる技術であり、「1回の取引ごと」、1トランザクションのセ
キュリティ対策に不可欠なのが暗号化技術であることを強調して
います。
 暗号化技術に関連して、必ず理解しておく必要があるのが「ブ
ロック管理」といわれる手法です。このブロック管理を坪井氏は
次のようにたとえています。
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 たとえば引っ越しの際の食器を運ぶことを考えてみましょう。
食器が割れたり、傷むことに対し十分に注意するには食器を1点
ずつ紙などで包んでそれぞれ同サイズをビニール袋に入れます。
そしてビニール袋入りの食器類を数点まとめてダンボール箱に詰
めて、その後、そのダンボール箱をガムテープで止めて、中身は
「皿」「グラス」などと書いて保管する。そんなイメージです。
それぞれ安全に梱包した一つひとつのものを集めて一個の箱にま
とめて、箱にまた封をする、というのがブロック管理です。
              ──坪井大輔著/翔泳社/SE刊
     『WHY BLOCK CHAIN/なぜ、ブロックチェーンなのか』
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 ビットコインの場合、このブロックのなかに約4200件の取
引データが入ります。取引が行われたら、その取引記録を暗号化
します。これらの暗号化されたデータが約4200件貯まったら
封をします。それを確定させるまで約10分かかります。世界中
で発生するビットコインの売買や送金などの取引データをストッ
クし、ブロックを閉じます。これを時系列に繰り返すのです。
 そして、このブロックを順番にチェーンのように、つないでい
くのです。これがブロック管理というものです。
 第2の技術は「コンセンサスアルゴリズム」です。
 コンセンサスアルゴリズムとは「合意形成」ということです。
合意形成といってもいろいろあります。企業などでは、トップが
OKならそれで終わりというケースもありますし、民主主義国の
議会では、多数決で合意が形成されます。
 ブロックチェーンのコンセンサスアルゴリズムの場合、そのブ
ロックチェーン参加者に「PоW」(プルーム・オブ・ワーク)
という計算作業(ワーク)をさせ、そのブロックの中のデータが
改ざんのない、正しいものであるという承認(プルーフ)を取る
のです。誰が計算作業を行うのかというと、そのブロックチェー
ンに参加しているコンピュータが行うのです。ビットコインの場
合、正解に一番早く達したコンピュータには、あらかじめ決めら
れている量のビットコインが与えられるので、大変な競争になり
ます。一体どのような数を求めるのかについて、野口悠紀雄教授
は次のように書いています。
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 その計算は、ブロック内の取引と直前のブロックの取引に関連
したある数(ナンス)を見出すものだ。その正解を見出すための
効率的なアルゴリズム(計算手順)は存在しない(であろうと信
じられている)。総当たり式に可能な数を一つ一つ確かめていく
しかないのだ。したがって、いつか解は見つかるが、それまでに
大変な量の計算を強いられる。このように、大変な労力をかけな
ければならない作業を課すことを「プルーム・オブ・ワーク」と
いう。ただし、正解が見つかれば、それが正しいことは簡単に確
かめられる。      ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     『仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない』
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 このPоWに参加するコンピュータを「マイナー/発掘者」と
呼んでいます。おそらくビットコインにおいて、いちばんわけの
わからないのはこのPоWであると思います。しかし、このあた
りのことを逃げないで調べないと、ブロックチェーンを理解する
ことは難しいと思われます。
 実は、マイナーの大半は中国の事業家であり、中国の独占状態
になっていたのです。しかし、中国が仮想通貨ビジネスを全面禁
止にしたことで、現在はビットコイン・マイニングにおける中国
のシェアはゼロであり、現在では米国がトップになってきていま
す。今後、ビットコインは米国中心に発展していくものと考えら
れます。ブロックチェーンの4つの技術のうち、BとCは来週の
EJで述べることにします。──[デジタル社会論V/052]

≪画像および関連情報≫
 ●プルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work)とは?
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   プルーフ・オブ・ワークとは、ビットコインを初めとした
  暗号資産(仮想通貨)の取引や送金データを正しくブロック
  チェーン(block chain) につなぐための仕組みです。一般
  的な金融商品と異なり、ビットコインなど暗号資産(仮想通
  貨)の多くを支えるシステムは中央に管理機関を持っている
  わけではありません。そのため、間違いなく売買や送金を成
  立させるためには、中央の監視者がいなくても容易に改ざん
  できないような仕組みが必要となります。プルーフ・オブ・
  ワークでは、必要な「計算」を成功させた人が、そのデータ
  を「承認」して正しくブロックチェーンにつなぎこむ役割を
  担う仕組みとなっています。
   ある取引や送金が発生したとき、そのデータは、他の人に
  よって承認されることで初めてブロックチェーンにつながれ
  ます。この承認作業とは、ブロックチェーンにデータをつな
  ぐのに適したパラメータの値を計算する作業です。まず、い
  くつかの取引や送金のデータがブロックとしてまとめられま
  す。ブロックをブロックチェーンにセットするためには、ナ
  ンス(Nonce) と呼ばれる答えの値を計算で発見する必要が
  あります。いち早くナンスを求められた人は、他の計算者に
  答えを発表して正しいかどうか判断してもらいます。計算結
  果が正しいと認められれば、計算を行った人がブロックチェ
  ーンへのつなぎこみの権利を得て、報酬として暗号資産(仮
  想通貨)を手に入れるのです。  https://bit.ly/2XxccA5
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あるマイナーのコンピュータ群.jpg
あるマイナーのコンピュータ群
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする