2021年08月03日

●「CXについてもう一度考えてみる」(第5543号)

 ここにきて、カスタマーエクスペリエンスとか、カスタマージ
ャーニーとか、カスタマーに関する言葉が多く出てきます。今日
のEJは、この問題について考えます。
 いつの頃からか、金融機関においても「顧客第一主義」という
ことが強くいわれるようになってきています。それは、2008
年9月のリーマンショックに端を発しているのではないかと思い
ます。なぜなら、リーマンショック以前の米国の金融機関のビジ
ネスモデルは、一言でいうと「投資家に金融商品を販売するため
に金融資産を創造する戦略」(Originate to Distribute 戦略)
に尽きるといえるからです。
 金融商品をオリジネート(創造)し、その組成された株式や債
券やローンを投資家にディストリビュート、すなわち販売し、そ
して、自社の資金で株や債券を売り買いするトレーディング──
このオリジネーション、ディストリビューション、トレーディン
グの3つは、米国金融機関の3大業務といわれていたのです
 『アマゾン銀行が誕生する日』の著者、田中道昭氏は、この当
時の米国の金融機関について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 「オリジネート・トウー・デイストリビュート戦略」は、残念
ながら、投資家の利益に大きく傾いていました。同時に、どこま
でいっても「銀行の論理」に貫かれていました。それは自身の財
務諸表を潤し、経営指標を改善し、株主を満足させるための戦略
であって、預金者や融資先の企業といったそのほかのステークホ
ルダーをなんら潤すものではなかったのです。
 そこには顧客志向という視点が決定的に不足していました。お
そらく当時の金融機関にはその自覚すらなかったことでしょう。
私自身も錯覚していたと反省しています。本来果たすべき金融の
役割を軽んじ、金儲けに走るばかりの金融機関に対して、批判の
声は高まり続けました。           ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
─────────────────────────────
 つまり、当時の金融機関には「顧客主義」という視点が決定的
に不足しており、金儲けばかりに走っていたといえます。しかし
このリーマンショックをひとつの契機として、いわゆる顧客主義
というものが強く前面に出てきたのです。そして、金融機関にそ
のヒントを与えてくれたのは、GAFA、なかでもアマゾンのビ
ジネスモデルです。
 ジェフベソス氏は、ネット市場において、どうすればものが売
れるか、そのカギを握るのはセレクション(品揃え)にあると見
抜いたのです。アマゾン市場には何でも商品があり、しかも品質
がよく、安いということになると、顧客満足度が上がり、それに
伴い、カスタマー・エクスペリエンスが向上します。これによっ
て多くの顧客がアマゾン市場を訪れるようになり、トラフィック
が増加し、当然その結果として売り上げが向上します。そうする
と、アマゾン市場に出品したいという業者が増加し、さらに品揃
えが豊富になるというサイクルです。ここで重要な意味を持つの
が「カスタマー・エクスペリエンス」です。
 改めて「カスタマー・エクスペリエンス」とは何でしょうか。
カスタマー・エクスペリエンス(Customer Experience) 、CX
とは、「顧客体験」あるいは「顧客体験価値」と定義されていま
す。それでは、CXと顧客満足度とは、どこが違うのかというと
言葉で明確に説明するのは困難ですが、顧客満足度は、顧客の製
品・サービスへの満足度に限定されるのに対してCXは製品やサ
ービスの合理的満足度だけでなく、製品やサービスを「知人や周
囲へ推薦したいか否か」といった支持レベルの感情的満足度を目
標としている点が違うとしています。
 カスタマー・エクスペリエンスについていくつもの記事を読ん
でみましたが、いまひとつはっきりしません。言葉で説明するに
は困難というか限界があるのです。UX(ユーザーエクスペリエ
ンス)という言葉もありますし、言葉で説明しようとすると、訳
が分からなくなってしまうのです。
 現在、CXは多くの企業で採用されていますが、その身近な企
業の一つとして「ソニー損保」があります。緊急事態宣言の巣ご
もりで家にいると、テレビをよく見る機会が多くなっていますが
そのとき、よく「ソニー損保」のCMを見るのです。
 ソニー損保では、顧客と直接コミュニケーションが図れるダイ
レクト保険会社です。ネット損保であり、顧客と保険会社の間に
代理店などが入らないので、代理店などにかかる中間コストを圧
縮することで、普通であればできない「濃いサービス」を実現す
ることができるのです。
 そこで、ソニー損保では、直接お客とコミュニケーションを図
るため次の3つの顧客接点を設けています。
─────────────────────────────
        1.  カスタマーセンター
        2.     お客様相談室
        3.   サービスセンター
        4.ロードサービス・デスク
─────────────────────────────
 何よりも驚くべきことは、この4つの顧客接点は、2を除いて
すべて「365日24時間対応」であることです。自動車事故は
いつ発生するかわからないし、多くの場合、顧客が初体験である
ことが多く、緊急的に対応がとれないと困るからです。
 つまり、自動車事故に遭うさいの顧客の不安はなにかというこ
とを徹底的に考えて、ソニー損保は対応しているのです。緊急事
故時には、無料のロードサービスにも対応しており、状況によっ
ては、セコムが現場に駆け付けるシステムにもなってします。そ
ういう同社の事故対応体験を一回でも受けると、カスタマー・エ
クスペリエンスが確実に向上することはよくわかります。
             ──[デジタル社会論U/070]

≪画像および関連情報≫
 ●カスタマー・エクスペリエンス(CX)とは?
  ───────────────────────────
   UI(ユーザーインターフェイス)は、ボタンやメニュー
  など、ユーザーとの接点です。スムーズかつ快適に目的達成
  できるよう、ユーザーが目にするもの・操作するものに工夫
  をするのがUIデザインです。迷わず、安心して利用できる
  環境を整えるために、どのようなボタンをどこに設置すべき
  か、どんな手順を設計すべきかといった点に頭をひねるわけ
  ですね。
   UIの良し悪しの指標として、ユーザービリティ・アクセ
  シビリティといった言葉が使われることもあります。ユーザ
  ービリティは「使いやすさ」の指標、アクセシビリティは何
  らかの障がいを持つ人や高齢者など、幅広い層が「使えるか
  どうか」を表す指標です。
   一方、UX(ユーザーエクスペリエンス)は、サイトやサ
  ービスを使うことによってユーザーが得る感情や経験のすべ
  てを示します。UIと似ていますが、異なるものです。たと
  えば「サービスは使いにくいけどユーザーが多くて楽しい」
  「サイトはわかりやすいが、コンテンツが少なく特に魅力を
  感じない」というように感じたことはありませんか。UIと
  UXは一体ではないため、UIはいいがUXは良くない(ま
  たはその逆)といった状態になることもあります。
   UIがわかりやすくUXも最高!というように両者が連動
  するケースも当然ありますが、UIとUXは別のものである
  ということを意識し、それぞれを明確に区別することが、問
  題点や改善手段の発見につながります。
                  https://bit.ly/3lhKAsc
  ───────────────────────────
ソニー損保のCM.jpg
ソニー損保のCM
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2021年08月04日

●「ソニー損保の顧客対応の凄さ探る」(第5544号)

 カスタマーエクスペリエンスに関連して、ソニー損保の話を続
けます。ソニーの金融関連企業には、生保、損保、銀行などがあ
りますが、いずれも既存企業よりも後発であるので、いわゆる過
去の業界の慣例にとらわれることなく、いずれも新機軸を打ち出
して成功を収めています。
 ソニー損保は、1999年に営業を開始し、2004年にソニ
ーフィナンシャルホールディングス株式会社が設立され、現在は
その傘下に入っています。そのソニー損保は、1999年のスタ
ートと同時に、「保険料は走る分だけ」の自動車保険を発売して
います。
 この保険は業界としては画期的ですが、「毎日運転する人と、
たまに運転する人の保険料が同じなのは不公平である」というユ
ーザーの声に応えたところに大きな意義があります。まさに顧客
視点に基づいてそれに応えた自動車保険といえます。
 しかし、他の損保会社は、個々の人の走行距離に関係なく一律
に保険料を集める方が営業効率が良いので、とくに大手の損保会
社はなかなか追随しようとしなかったのです。
 しかし、乗用車を仕事に使う人は別として、ほとんどの車のド
ライバーは、休日にしか乗らない人々です。したがって、この保
険は、そういう人がトクをする保険であり、ソニー損保としては
そういう保険があることが該当ユーザーに分かれば、必ず売れる
と確信したのです。
 「保険料は走る分だけ」──ソニー損保はCMやネットで徹底
的にこのメッセージを流し、ソニー損保といえばこのメッセージ
が頭に浮かぶほど浸透を図ったのです。その効果もあって、ソニ
ー損保の自動車保険は売れ始めたのです。しかし、大手損保はし
ばらく静観していたものの、2013年になって、東京海上保険
日動の子会社であるイーデザイン損保は、「保険料は走った分だ
け」の保険を発売しています。
 現在は、走行距離に応じて保険料の決まる自動車保険は数社が
発売していますが、その多くは「過去1年間の走行距離」に基づ
いて、保険料が決まります。しかし、ソニー損保の場合は予想年
間走行距離に応じて保険料を算出しているのです。ソニー損保は
「走った分だけ」ではなく、「走る分だけ」です。ここにソニー
損保のこだわりがあります。
 ソニー損保は、つねに顧客の声を聴くことに徹しています。そ
の一端が、ソニー損保のウェブサイト「お客様とソニー損保のコ
ミュニケーションサイト」に見ることできます。
─────────────────────────────
  ◎「お客様とソニー損保のコミュニケーションサイト」
    @コエキク改善レポート
    A   コエキク質問箱
    B   みんなの満足度
    C 保険なるほど知恵袋
                  https://bit.ly/2WAXF5y
─────────────────────────────
 Aの「コエキク質問箱」は、顧客からの質問や意見を受け付け
ています。「あなたの声を投稿する」という赤いボタンをクリッ
クすると、質問や意見を自由に投稿できます。
 それらの質問や意見に対するソニー損保としての対応として際
立っていることは、担当者が顔写真付きで答えていることです。
これは、顧客の質問や意見に対する企業として責任のある対応を
とっていることを示しており、評価できます。
 このように寄せられた顧客の質問と意見に対して、@の「コエ
キク改善レポート」において、ソニー損保としての改善への取り
組みや改善度を「@改善しました!」「A検討します!」「B申
訳ございません」の3つに分けて、それぞれに担当者が顔写真付
きで答えています。サイト上でここまでやっている企業は少ない
と思います。
 Bの「みんなの満足度」は、ソニー損保が実施する顧客満足度
アンケート調査の結果を公開しています。なかでもソニー損保の
「ロードサービス」は極めて充実しており、次の範囲に及んでい
ます。代理店を介さないダイレクト保険会社の特性です。
─────────────────────────────
     @事故車を修理工場に運ぶレッカーサポート
     A事故現場から帰宅までの費用の負担
     B修理後の車の自宅配送
     Cレンタカーの費用の負担
     Dその他
─────────────────────────────
 ソニー損保の自動車保険では、@〜Cの費用を無料でやってく
れるのです。事故が起きたとき、24時間対応でソニー損保と連
絡ができ、しかも、相手との全交渉を含め、事故車を修理工場に
運ぶレッカー費用の負担、しかも修理車を自宅まで無料で配送し
てくれるなど、至れり尽くせりです。ソニー損保の自動車保険の
契約者は、事故を起こしてないときも安心して運転ができるので
まさにカスタマーエクスペリエンスを体験できます。
 ソニー損保のロードサービスの満足度は次の通りです。
─────────────────────────────
      とても満足 ・・・・・ 88・3%
         満足 ・・・・・  9・9%
       やや満足 ・・・・・  0・5%
         不満 ・・・・・  0・9%
      とても不満 ・・・・・  0・4%
                  https://bit.ly/3fkFW9g
─────────────────────────────
 顧客にカスタマーエクスペリエンスを体験させる──これは、
ソニー損保のレベルの顧客対応をしなければ、なかなか難しいと
いうことがよくわかると思います。
             ──[デジタル社会論U/071]

≪画像および関連情報≫
 ●ソニー損保の自動車保険に優良ドライバーが年々溜まって
  いく仕組み/テレマティス保険
  ───────────────────────────
   テレマティクス保険は説明が難しい保険なので、ソニー損
  保ではウェブ専用とし、消費者からのプルを中心とすること
  に決めた。コールセンターは、あくまでも販売のサポートと
  位置づけた。ウェブでは動画を使って、当保険の契約から、
  キャッシュバックまでの流れを説明し、それを理解してくれ
  た消費者が契約まで進んでくれる。
   通常の自動車保険に割高感を感じる若年の優良ドライバー
  をターゲットとして発売したが、実際の加入者は若者も獲得
  できているものの、通常の自動車保険と同様、ボリュームゾ
  ーンの中年層が多数となっている。
   やさしい運転キャッシュバックのリピートに関しては、点
  数が高くキャッシュバックを受けた人のリピート率が高く、
  それに比べてキャッシュバックがなかった人のリピート率は
  低い傾向がある。すなわち年を経るに連れ、ソニー損保には
  優良ドライバーだけが溜まっていく仕組みと言える。
   テレマティクス保険の宿命としては、市場規模には限界が
  あり、全自動車保険の中でシェアを限りなく大きくすること
  はできない。それは、全ドライバーに占める優良ドライバー
  比率は大体決まっており、シェア10%程度なら優良ドライ
  バーだけが加入することはあり得るが、シェア30%となる
  と優良でないドライバーまでも獲得しなくてはならないから
  だ。彼らは保険料が割高になり、この保険にはもともと加入
  しないため、それは現実的ではない。
                  https://bit.ly/3xjjvr9
  ───────────────────────────
ソニー損保のCM2.jpg
ソニー損保のCM2
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2021年08月05日

●「CXが不可欠になった背景を探る」(第5545号)

 CX(カスタマーエクスペリエンス)が不可欠になった背景に
は次の3つがあります。
─────────────────────────────
      1.タッチポイントの増加・多様化
      2.カスタマーの価値観の大幅変化
      3.購買サイクルの長期化・複雑化
─────────────────────────────
 第1は「タッチポイントの増加・多様化」です。
 かつて企業と顧客のタッチポイントというと、対面か電話に限
られていたといえます。それがインターネットの出現・普及によ
り、ウェブサイトやメール、SNSなど、一挙に増加・多様化す
るようになっています。
 とくにスマホによるSNSの普及は、顧客自身が簡単に情報発
信する側に立てるようになり、企業と顧客の双方向の情報交換、
コミュニケーションがとれるようになってきています。これによ
り、顧客はモノを購入するとき、デジタルとリアルの店舗を回遊
して、意思決定をするようになっています。これを「カスタマー
ジャーニー」と呼ぶことがあります。これをもう少し、正確にい
うと、カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを知り
購入・利用意向をもって実際に購入・利用するまで、また利用後
に廃棄するまでに、顧客が辿る一連の体験を「旅」に例えてその
ように呼ぶのです。
 第2は「カスタマーの価値観の大幅変化」です。
 「モノ消費」から「コト消費」という、顧客の価値観の変化で
す。商品の所有に価値を見出す消費傾向を「モノ消費」、商品や
サービスを購入したことで得られる体験に価値を見出す消費傾向
を「コト消費」といいます。
 もうひとつ「商品のコモディティ化」ということがよくいわれ
ます。コモディティ化というのは、競合の結果として製品やサー
ビスについてあまり差がなくなり、顧客からみて「どの会社の製
品やサービスも似たようなもの」に映る状況をいいます。
 例えば、ソニー損保のようなサービスが普及し、どこの損保も
それが当たり前になる状況が「コモディティ化」です。そうする
と、顧客は製品やサービスを機能的な価値だけで判断することが
難しくなり、その他の価値観を比較・検討することが重要になっ
てきます。それがカスタマーエクスペリエンスが重視されるよう
になった背景になっています。
 第3は「購買サイクルの長期化・複雑化」です。
 企業は、製品やサービスを提供することだけを目指すのではな
く、購入前の認知、比較検討段階、購入後のサポートまでの長期
にわたる顧客の全体プロセスにおいて、顧客の維持、紹介の獲得
のため、それぞれのタッチポイントにおける戦略に気を配る必要
が必要になってきています。
 最近では、新たなテクノロジーを使った製品やサービス導入が
増加してきており、製品の購入には、製品・サービスの理解や、
導入後の実益や導入プロセスなどを検討する必要があるなど、従
来の購買サイクルよりも複雑化・長期化しています。
 なぜ、CX(カスタマーエクスペリエンス)がいま必要になっ
てきているのかについて、書いてきています。しかし、わかりに
くい、書きにくいテーマであることも確かです。しかし、CXを
実践している企業は多いのです。
 そこで、もうひとつわかりやすい例を上げることにします。米
大手コーヒーチェーン、スターバックスについて書かれた文章を
ご紹介することにします。
─────────────────────────────
 コーヒーチェーンの大手スターバックスは、店舗に訪れた顧客
へ「こんにちは」とあいさつしている。顧客一人ひとりの心を豊
かにし、一つのコミュニティーとして活動することを指標にして
いるのだ。
 心地のよい接客スタイル、店内の雰囲気やBGMにも顧客満足
度へのこだわりが見られる。デザイン性が高く評価されている商
品パッケージや季節限定商品なども、スターバックスならではで
あり、他店舗と差別化したサービスだ。顧客がそのサービスに感
動・共感し、「また訪れたい」とリピーターになることで、常に
店舗が盛況なのである。       https://bit.ly/3frdS3P
─────────────────────────────
 コーヒー店でおいしいコーヒーを出すのは当たり前です。そう
いう店はたくさんあります。しかし、人がコーヒー店に行くのは
単にコーヒーを飲むためだけではなく、そこでゆったりとした時
間を過ごしたいからです。スターバックスでは、何よりもリピー
ターを大切にし、顧客に次の体験を味わってもらうためのCXを
提供しています。
─────────────────────────────
 ◎スターバックスのミッション
 スターバックスの店舗をコーヒーをテイクアウトする場所か
 ら一日中快適に過ごせる場所にする。
─────────────────────────────
 そのための施策として、2002年にスターバックスは、無料
WiFiサービスを開始しています。まして昨今では、コロナ禍
のために在宅ワークが増えており、在宅ワークのためにも、店舗
でゆったりとした時間が過ごせることが条件になります。そのた
めに、コーヒー店としてはCXが不可欠なのです。
 私は、よく行く池袋の「伯爵」というレトロな喫茶店によく行
きます。場所が丸善ジュンク堂に近いこともあり、全体としてス
ペースにゆとりがあり、ゆったりとして過ごせます。簡単な食事
もできますし、味はレストラン並みです。しかも、コーヒーは2
杯目からは半額であり、ゆっくりと過ごしてもらおうという店の
配慮が感じられます。明らかにこの店がCXを意識していると思
われます。そういうカスタマーエクスペリエンスが今求められて
いるのです。       ──[デジタル社会論U/072]

≪画像および関連情報≫
 ●スタバの販促ゲーム/緑色のエプロン
  ───────────────────────────
   スタバがいろいろ仕掛けてきます。日本でも消費者の心を
  くすぐるような仕立てが、いろいろあるかと思いますが、こ
  ちら北米では今「スターバックス・フォア・ライフ」と称し
  まして、ビンゴゲーム仕立ての販促をしています。
   ローカルネタで申し訳ないのですが、見てやって下さいま
  し。それはよくあるお店のポイントを集めて何かが貰えると
  か、お買い上げに応じて×××とかって言うようなゲーム感
  覚のもので、こんな表になってウェブ上(私のアカウント)
  に現れてきます。
   一回のオーダーにつき、一つのコマが開きます。各列3つ
  揃えばビンゴ。賞品は、上から、スタバの一生分の珈琲チケ
  ット、1年分、1ヶ月分、1週間分、そして、ボーナススタ
  ーは単なるポイントです。
   このゲーム販促(販売促進)、確か冬にもあったんですけれ
  ど、なかなか揃いませんでした。最初は良いのですが、その
  うち同じ駒ばかり開いて重なるんですよ。いつも違うのが来
  るとは限らないんです。あと、ちょっと。あと一つ。
   だから今日ももう一杯。と、消費者を煽るんですね〜。今
  回も、まさにそのパターン。だって、あと一つで一生涯スタ
  バが無料なんて、嬉しいですから。と買いに行って、もう数
  回は同じ駒でした。それに実際、私の周りで当たった人って
  聞いたことはありません。    https://bit.ly/37eiOVg
  ───────────────────────────
スターバックス.jpg
スターバックス
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2021年08月06日

●「バーゼル委員会5つの近未来予測」(第5546号)

 バーゼル銀行監督委員会(BCBS)という機関があります。
この機関は、金融機関を対象とした国際的なルールを協議・決定
し、継続的な協力を行うためにG10(主要10カ国)諸国の中
央銀行総裁会議での合意によって創設された銀行を監督する最高
機関です。
 2017年10月31日のことですが、このバーゼル銀行監督
委員会が次のレポートを発行したのです。URLをクリックする
と、英文ですが、原文が読めます。
─────────────────────────────
  ◎健全な慣行とは何か:
  フィンテックの発展が銀行と銀行監督者にもたらす意味
                バーゼル銀行監督委員会
          https://www.bis.org/bcbs/publ/d415.pdf
─────────────────────────────
 このレポートでは、近未来の銀行について、5つのシナリオが
提示されています。以下、ひとつずつ説明します。
─────────────────────────────
        1.Better Bank
        2.New Bank
        3.Distributed Bank
        4.Relegated Bank
        5.Disintermediated Bank
─────────────────────────────
 第1は「Better Bank」です。
 これは、既存の銀行がデジタル化やフィンテック化に取り組み
より高度な金融サービスを低廉なコストで提供していく姿を想定
しています。そして、既存の銀行が依然として業界内において覇
権を握り続けるというシナリオです。現在、日本の各銀行はこの
シナリオの実現を目指して努力を続けています。しかし、どうし
てもレガシーなものが残るシナリオといえます。
 第2は「New Bank」です。
 これは、フィンテック企業が自ら銀行を設立し、フィンテック
の強みを生かして、既存の銀行に代わって、フルラインで高度な
金融サービスを提供するシナリオです。既存の店舗はデジタル店
舗に置き替えられ、その戦いのなかでレガシーの銀行は、新しい
銀行に敗れ去るというシナリオです。
 第3は「Distributed Bank」です。
 これは、第1のシナリオのベター・バンクと、第2のシナリオ
のニュー・バンクの中間的な位置づけになります。既存銀行とフ
ィンテック企業が相互に分業するシナリオです。
 このシナリオでは、APIの連携などにより、金融サービスの
提供や顧客チャネルの設置や運営を既存の銀行とフィンテック企
業が手分けして担っていくスタイルとなります。その結果、顧客
は、これまでのように、限定された銀行を繰り返し使うという慣
行から複数の金融機関を利用するようになります。
 第4は「Relegated Bank」です。
 このシナリオは、いわゆるビッグテックに代表されるプラット
フォーマーが顧客チャネルを掌握し、既存の銀行やその他のフィ
ンテック企業がその配下に組み込まれるというシナリオです。既
存の銀行にとって、最も避けたいシナリオであるといえます。
 自動車産業に譬えると、完成車組立メーカーとしての自らの地
位をブラットフォーマーに明け渡し、顧客チャネルから分断され
るかたちで、その配下に組み込まれた部品サプライヤーとしてモ
ジュール化された金融サービスを提供する姿が想定されます。
 ちなみに「Relegated 」とは、「左遷される」とか「格下げさ
れる」とか「退けられる」という意味です。
 第5は「Disintermediated Bank」です。
 5つのシナリオのなかで最も過激なシナリオといえます。既存
銀行は退けられ、フィンテック企業とメガテック企業に取って代
わられるシナリオです。いわゆる「銀行が破壊されるシナリオ」
であるといえます。ちなみに、「Disintermediated」とは「中抜
きされる」というような意味です。
 これらのバーゼル銀行監督委員会の分析のポイントは、顧客に
商品・サービスを提供するブレーヤーを次の2つに分類して分析
していることです。これは、添付ファイルの図を参照していただ
きたいと思います。とくに顧客接点は重要です。
─────────────────────────────
          @サービス提供者
          A   顧客接点
─────────────────────────────
 『アマゾン銀行が誕生する日』の著者の田中道昭氏は、バーゼ
ル銀行監督委員会の分析をふまえて、日本の金融機関に対して次
の3つの提言を行っています。
─────────────────────────────
@デジタル化がさらに進捗していくことが確実であるため、デジ
 タル化への対応を早期に実現すべき分野と、レガシーとして残
 ると判断される分野とを明確に峻別すること
Aデジタル化への対応を早期に実現すると意思決定した分野につ
 いては、重要な経営戦略として取り組むこと
Bレガシーとして残ると判断した分野については、人がやるべき
 ことをさらに先鋭化させ、専門性や信頼性をさらに高める努力
 が必要                  ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
─────────────────────────────
 2021年は、一貫して「デジタル社会論」について書いてい
ます。デジタル元年の今年は、今後もこのテーマを続けていきま
すが、「デジタル社会論/U」は、本日で終了します。10日か
らは、日本のデジタル化について「デジタル社会論/V」をお届
けします。    ──[デジタル社会論U/073/最終回]

≪画像および関連情報≫
 ●金融のデジタル化から考える、デジタルトランスフォーメー
  ション
  ───────────────────────────
   デジタルテクノロジーは凄まじい勢いで進化を続け、社会
  ・経済を大きく変えようとしている。私たちは、今、どうい
  った変化の潮目にいるのか。その中でデジタルテクノロジー
  とどう向き合うべきなのか。あらゆる産業に大きな影響を及
  ぼす金融のデジタル化をテーマに、世界の先進的な取り組み
  を考察するとともに、顕在化しだしたデータ活用の影の側面
  を整理し、デジタル社会の「信用の構築」に向けて留意すべ
  きポイントを考えていく。    https://bit.ly/3jl4rUL
 ●図の出典:田中道昭著/日経BPの前掲書より
  ───────────────────────────
銀行5つの近未来シナリオ.jpg
銀行5つの近未来シナリオ
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