2020年01月06日

●「日本は成長の大切さを忘れている」(EJ第5160号)

このEJは、令和2年最初のEJです。本年もEJをよろしくお
願いします。
 日本が長年にわたってデフレから脱却できず、まるで経済成長
できない理由は、消費税の導入と、3回にわたる税率引き上げが
基本的な原因である──これが10月7日から12月27日まで
の57回のレポートの一応の結論です。
 しかし、消費税を導入しているのは日本だけでなく、2017
年4月現在、世界152ヶ国で導入されています。しかし、どの
国も不況に陥っているわけでなく、デフレになって抜け出せない
でいるのは日本だけです。
 しかも、日本よりも税率の高い国が多い。世界一消費税率が高
い国はハンガリーで27%、以下、スウェーデン、ノルウェー、
デンマークは25%、イタリアが22%、ベルギー、オランダが
21%、イギリス、フランスが20%というように、税率に関し
ては、日本の10%よりはるかに高い国が多いのです。だから、
財務省系の増税主義者は、10%に上げたとたん、次は15%だ
20%だといい出しています。
 既に指摘していることですが、大事な事実があります。日本の
消費税の税率は他国に比して、本当に低いのかということです。
国税収入に占める消費税の割合を見ると、日本は消費税率が5%
の段階で24・4%、10%になると、国税収入全体に占める比
率は37%になり、これを他国と比較すると、日本はダントツの
世界一です。ちなみにこの資料は財務省の資料です。
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       ◎国税収入に占める消費税の割合
         イギリス ・・ 21.1%
          ドイツ ・・ 35.6%
         イタリア ・・ 28.3%
       スウェーデン ・・ 18.5%
           日本 ・・ 37.0%
             ──財務省・財務総合政策研究所編
          「財政金融統計月報」/2010年4月他
─────────────────────────────
 これは、日本の財政収入は、世界で最も消費税に依存している
割合が高いことを意味しています。消費税率が25%のスウェー
デンすら18・5%に過ぎないからです。
 なぜ、こんなことになっているのかについて、菊地英博日本金
融財政研究所所長は、次のように述べています。
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 なぜこうなっているのかというと、消費税が法人税の減税の原
資になっているからだ。消費税が最初導入された1989年から
2014年までの消費税収入は累計で282兆円になる。一方で
この間、法人税が255兆円減税されました。つまり、消費増税
で増えた282兆円の税収のうち、9割が「法人税減税の原資」
になったのです。これほど不公平税制はない。このままでは格差
はどんどん拡大していきます。
 ──『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 最近の日本は、韓国の問題をはじめとして、外国から軽視され
ることが多いように感じます。今年の新年の最大のニュースとい
えば、カルロス・ゴーン被告の国外脱走です。ゴーン被告の自宅
には監視カメラが設置されているため、ゴーン被告は、夕食会の
音楽演奏に訪れた楽団の楽器の箱に隠れて自宅を脱出し、警備の
うすい地方空港から国外に出国し、トルコを経由してプライベー
トジェットを利用してレバノンに入国しています。
 レバノン政府は「カルロス・ゴーン氏はフランスのパスポート
で合法的に入国した」と発表していますが、ゴーン被告のフラン
スのパスポートは弘中弁護士事務所が管理しており、それは使わ
れていない。合法的というが、明らかにどこかで不正が行われて
います。しかもゴーン本人は「有罪が予想される日本の偏った司
法制度の下でのとらわれの身ではなくなった」と勝利宣言までし
ています。さらに欧米のメディアはゴーン氏に同情的です。私は
日本は完全にバカにされているように感じます。
 なぜ、バカにされるのか。それは長い間にわたり、日本はまる
で「経済成長していない」からです。これについて、京都大学大
学院教授の藤井聡氏は、悲憤慷慨しています。
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 日本は成長というものが、どれだけ大事なのかということにつ
いて分からな過ぎる。過去20年の間に、諸外国の経済は、もう
2・4倍に成長しているのに、日本だけは80%まで縮小してい
る。このままで行けば、世界経済のなかの日本のシェアはおおよ
そ「1割程度」まで凋落する。もしそうなったら諸外国はもう日
本なんか相手にしようとしないし、貧困と格差がもっと拡がって
日本の科学技術力も防災力も国防力も皆、ダメになる。挙句に財
政だって悪くなる。      ──藤井聡京都大学大学院教授
 ──『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 本当に日本は、もはや成長できないのでしょうか。深刻な少子
高齢化の問題もありますが、政治家は有効な手を打てずに諦めて
いるように感じます。しかし少子高齢化はこれからどこの国でも
起きる問題であり、解決できないはずはありません。それを乗り
越えてきた国もあります。何よりも早く、諸悪の根源である消費
税を廃止することです。そのために政治が動くべきです。そこで
明日からEJのテーマを次のように設定して考えていきます。
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    どうしたら日本経済を成長させることができるか
    ── 消費税を廃止することは可能である ──
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           ──[消費税は廃止できるか/001]

≪画像および関連情報≫
 ●日本はなぜ成長しないのか?
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   シンガポールが1人あたりGDPで日本を抜き日本がアジ
  アナンバー1の座から落ちたことは私にとっては衝撃だった
  のですが、大前研一さんの『アジアで最も豊かな国から転落
  した日本』というコラムによると、日本ではあまりニュース
  にならなかったそうで、コラムにはこう書かれてました。
   本当ならシンガポールに抜かれたことで、日本全体にショ
  ックを受けてほしいところだ。しかし「あれ、抜かれちゃっ
  てた」という感じで、ケロっとしている。これでは日本の未
  来が危ういというものではないか」
   私がシンガポールに来て以来、聞かれて一番答えに悩む質
  問というのが「日本はなぜ成長しないのか?」という質問。
  この質問が仕事のミーティングの合間に場をつなぐために気
  軽に発せられた質問ならば(相手も鋭い分析など求めていな
  い)、適当に答えようもあるのですが、これが真剣に内部者
  の見解を聞きたいと思っている親しい友達からの質問だった
  りすると、答えに困る。自分にも解がないから。なので、い
  つものごとく本を読みあさっています。
   まず最初に読んだのが勝間さんが薦めていた『人間を幸福
  にしない日本というシステム』。私は基本的に母国は好きな
  ので、『ひ弱な男の国とフワフワした女の国日本』のような
  センセーショナルに煽っただけのようなタイトルの本は読ま
  ないのですが、この本は私が知らなかったことも多く(官僚
  主義の根深さ、など)、納得できる箇所も多かった。でも、
  具体的な解決策まで示せていないと思います。
                  https://bit.ly/2MKrhpq
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菊池英博氏.jpg
菊池英博氏

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2020年01月07日

●「クリントンの経済再生計画に学べ」(EJ第5161号)

 最近よくモーニングショーなどに解説者として登場する加谷珪
一氏という経済評論家がいます。元日経BP社の記者で、野村證
券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務
を担当して独立し、経済評論家として活躍されています。
 その加谷珪一氏の最近刊書の冒頭に、次のようなことが書いて
あります。
─────────────────────────────
 日本の経済力の著しい低下を示すデータは、いくらでもありま
す。世界競争力ランキングの順位は63ヶ国中もはや30位と、
1997年以降では最低の結果となっていますし(IMD調べ)
平均賃金はOECD加盟35ヶ国中19位でしかありません。相
対的貧困率は39ヶ国中29位、教育に対する公的支出のGDP
比率は43ヶ国中40位、年金の所得代替率は49ヶ国中40位
障害者への公的支出のGDP費は36カ国中31位、失業に対す
る公的支出のGDP比は34ヶ国中32位(いずれもOECD調
べ)など、これでもかというくらいひどい有様です。
 日本が貧しくなった原因は様々ですが、もっとも大きいのは、
日本の労働生産性が相対的に低い水準のまま伸び悩んでいること
です。経済学的にいうと、労働生産性と賃金には密接な関係があ
りますから、生産性が低いままでは、賃金はなかなか上昇しませ
ん。賃金が低いと家計に余裕がなくなりますから、消費が低迷し
これが企業の設備投資を弱体化させます。   ──加谷珪一著
        『日本はもはや「後進国」』/秀和システム刊
─────────────────────────────
 多くの日本人は、日本は経済では、世界第3位の経済大国だと
思っています。G7にも属しているし、貧しい国へODA(政府
開発援助)もしているし、堂々たる先進国のひとつであると自負
しています。しかし、上記指摘の平均賃金はOECD加盟35ヶ
国中19位、相対的貧困率は39ヶ国中29位、教育に対する公
的支出のGDP比率は43ヶ国中40位と指摘されて見ると、少
なくとも現在の日本は、こと経済に関しては、かつての豊かな先
進国とはほど遠い存在に変貌しつつあるといえます。つまり、日
本の貧乏化が急速に進んでいることは確かです。
 原因は、長期的に続くデフレにあります。原因ははっきりして
いるのです。しかし、日本はなかなかそれから抜け出せないでい
ます。デフレの起点を3%の消費税を5%に上げた1997年と
するなら、それからの23年間、日本はデフレから脱出できない
どころか、デフレを深化させています。明らかに、経済の舵取り
を間違えています。他の国も等しく経済不振に陥り、デフレの危
機に何度も瀕したことがあるはずですが、いずれも乗り切ってい
ます。つまり、この問題を解決できないのは日本だけということ
になります。その証拠に、この20年を超える長い期間にわたっ
て、経済を成長がマイナスなのは日本だけです。
 その責任は、その間の政権を担った10人の総理大臣にありま
す。10人の総理とは、橋本、小渕、森、小泉、安倍、福田、麻
生、鳩山、菅、野田の10人です。これら10人の総理は、いず
れも経済のことはよくわかっておらず、赤子の手をひねるように
財務省にコントロールされています。諸悪の根源は財務省にあり
ますが、彼らは何の責任をとる立場にはないのです。
 それなら、日本としては、どうすればよかったのでしょうか。
この問題を考えて行きます。初代ドイツ帝国宰相のオットー・フ
ォン・ビスマルクに次の有名な言葉があります。
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    愚者は『経験』に学び、賢者は『歴史』に学ぶ
         ──オットー・フォン・ビスマルク
─────────────────────────────
 格好な歴史の事例があります。大幅な財政赤字を6年かけて黒
字に転換させた米国の大統領がいます。1993年〜2001年
を担当したクリントン第42代米国大統領です。クリントン大統
領というと、不名誉な事件で史上2人目の弾劾訴追を受けた米国
の大統領という印象が強いですが、見事な財政運営において米国
財政の黒字化を達成させ、米国の危機を救っています。
 1993年1月に大統領に就任したクリントン大統領は、「ア
メリカ変革のビジョン」を掲げて、米国の変革に取り組んだので
す。当時米国経済はデフレ傾向にあり、経済の立て直しに重点が
置かれたのです。
 クリントン大統領は、湾岸戦争に勝利した父ブッシュ大統領の
再選を阻んで大統領になった人ですが、最初から就任から2期目
も自分がやるという前提で、8年計画で歳出額を年平均で3・3
%増加させる政策を実施します。このさい、物価上昇率見込みは
プラス1%から2%としています。
 それではその歳出を何に使ったのかというと、政府投資を増や
し、輸送関係、地域開発、教育訓練の支出に対して、財政支出を
辛抱強く集中させています。実際にこの8年間に財政支出は、大
統領就任前の1992年に比べて33%増加し、政府投資は55
%増加しています。
 これに加えて、クリントン政権は、不公平税制の是正を図って
います。実施までに若干時間を要したものの、法人税の最高税率
を34%から35%に、高額所得者への所得税を31%から39
・5%へ引き上げ、クリントン大統領が、大統領に就任した19
93年1月に遡って税金を徴収しています。
 この結果、通算8年間で、名目GDP成長率は年平均5・7%
(1・5倍)、実質GDPは年平均2・8%(GDPデフレータ
ーはプラス2・9%)となり、財政赤字は6年間で解消している
のです。しかも、財政規律の指標も、1993年の55%から、
2000年には36%に改善しています。
 このようにクリントン政権は、官民共同の積極的な投資活動と
法人税の引き上げが、税収を劇的に増加させたのです。このよう
なことが、なぜ、日本の政権にはできないのでしょうか。
           ──[消費税は廃止できるか/002]

≪画像および関連情報≫
 ●米国を救ったクリントン「経済再生計画」
  ───────────────────────────
   クリントンが大統領に就任した93年当時、アメリカ政府
  は、巨額の財政赤字、日本とのあいだに生じた貿易赤字に苦
  しんでいた。また、89年には5・3%だった失業率は92
  年には7・5%に上昇、89年12月に6・5%だった経済
  成長率は91年12月に4・25%に低下していた。
   「変革」を掲げて大統領に当選したクリントンは、何より
  もまずアメリカ経済の再生を最優先課題として着手する方針
  であった。93年2月17日、クリントンは、「経済再生計
  画」を議会で演説し、独自の経済再生案を公表する。
   クリントンは、共和党政権の経済政策は「中間層・低所得
  者層を犠牲にして富裕層を優遇するトリクル・ダウン経済」
  だと批判し、その上で、@増税と歳出抑制によって94年度
  から5年間で財政赤字を4720億ドル削減する財政再建策
  A長期公共投資による国民と企業の生産性の促進策、B2年
  間で320億ドルの短期的景気刺激策を実施して景気回復の
  呼び水とする策という3つの柱からなる経済再生案を提示し
  た。93年補正歳出予算法案に、Bにあたる短期的景気刺激
  策の実施に必要な大型公共投資支出などを緊急支出として盛
  り込んだことを共和党は強く批判していた。上院審議では、
  民主党の重鎮ロバート・バード上院歳出委員長が強硬な姿勢
  で法案可決を狙ったため、共和党の執拗な議事妨害にあい、
  同法案の審議は予想以上に難航する。
                  https://bit.ly/2sEfyls
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過去25年間の米国財政支出の推移.jpg
過去25年間の米国財政支出の推移
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2020年01月08日

●「PBではなく純債務のGDP比率」(EJ第5162号)

 ビル・クリントン大統領の経済再生計画──米国につきものの
財政と貿易の「双子の赤字」を1998年から2001年までと
はいえ、彼の任期中に解決した政策です。しかし、これが日本で
は、あまり重視されているようには思えないのです。これは、為
政者としてのクリントン大統領の特筆すべき業績であり、改めて
詳しく取り上げますが、重要なことを少し書きます。
 この業績を可能にしたのは、クリントン大統領には、その側近
に、次のような、きわめて優秀なスタッフが揃っていたからであ
るということができます。それに加えて、FRB議長が、アラン
・グリーンスパン氏であったことも幸いしています。
─────────────────────────────
            ベンツェン財務長官
         ルービン国家経済会議議長
         パネッタ行政管理予算局長
        リブリン行政管理予算副局長
─────────────────────────────
 菊池英博日本金融財政研究所所長は、1929年〜1933年
の米国の経済状況を、日本はよく研究すべきであるといっていま
す。1929年というと、世界恐慌を引き起こしたハーバート・
フーバー(共和党)大統領の時代です。フーバー大統領というと
経済政策を誤って、世界恐慌を引き起こした大統領として知られ
ていますが、大統領就任前の商務長官のときは、人道派で人気の
ある政治家だったのです。
 それは、多くの共和党議員の反対にもかかわらず、1921年
にロシア革命後の混乱によって飢饉で苦しんでいたソ連や、大戦
後のドイツの人々に食糧支援を実施したからです。評論家は、共
産主義のソ連を助けるのかと非難すると、フーバー商務長官は、
次のように反論したといいます。
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 2千万人の人が飢えている。彼らの政治が何であっても、彼ら
を食べさせるべきである。     ──ハーバート・フーバー
                    ──ウィキペディア
─────────────────────────────
 この人道的行為により、「ニューヨークタイムズ」は、「10
人の最も重要な生きているアメリカ人」にフーバーを選んでいま
す。しかし、大統領になってからの経済政策では、フーバーは、
大きなミスを冒してしまいます。1929年に株価が暴落してデ
フレに陥ったときに、減り続ける税収を補填しようとして、19
30年に物品税を新設したのです。デフレ不況時での増税です。
とくに石油税は、通勤通学や生活必需品の運搬などの交通手段と
流通経路に多大の影響を及ぼし、経済が失速し、金融恐慌に発展
してしまったのです。菊池日本金融財政研究所所長は、この状況
は、現在の日本とそっくりの状況であり、研究すべきであるとい
うのです。
 この米国の苦境を救ったのは1933年3月に就任した民主党
のルーズベルト大統領であり、実施した政策が「新規まき直し」
を意味する「ニューディール政策」です。この政策の理論的裏付
けとなっているのが、英国の経済学者、ケインズが唱えた理論で
す。ケインズは、国家が市場を統制して人々を保護し、また公共
事業を積極的に推進して雇用を創出すれば、消費が促進されて恐
慌を回避できると考えたのです。
 しかし、このニューディール政策自体の検証が終わる前に米国
が第2次世界大戦に参戦したので、政策自体の検証が難しくなっ
ています。なぜなら、戦争に突入したことによるアメリカ合衆国
史上最大の増大率となる軍需歳出の増大により、アメリカ合衆国
の経済と雇用は恐慌から完全に立ち直ったからです。
 したがって、デフレ状態の経済を立ち直らせる最良のモデルと
して一番ふさわしいのは、クリントン大統領による「経済再生計
画」であるとして、菊池英博氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 1993年に就任したクリントン大統領も、ルーズベルト大統
領と同じような対策を行った。彼はまず、財政出動を大幅に行い
歳出総額を毎年3・2〜3・3%%ずつ8年間、コンスタントに
増加させていった。
 特に、増やしたのが道路や橋の更新と新設、学校の校舎の新設
です。この分野が年平均で7・7%増加した。このように公共事
業をこの8年間で1・46倍にした。それから地域開発などで、
9・8%ずつ、教育関連で5・5%ずつ支出を拡大していったの
です。この時、クリントンは「財政規律」の基準として、日本が
使っている「プライマリーバランス(PB)」でなく、「純債務
のGDP比率」を使った。この比率はGDPが成長すれば改善す
る。だからこれはPBと違って、成長を促すことができる規律で
す。実際、1993年のクリントンが最初就任した時は、この指
標は55%だったが、公共投資を中心として財政支出を拡大し、
成長を促していった結果、この比率を徐々に改善させていった。
最終的には6年目に財政収支が「黒字」になり、政府投資、公共
投資を拡大することで、財政収支を改善させたわけです。
 ──『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 この菊池氏の言葉で注目すべきは、クリントン政権が財政規律
の基準としてプラマリーバランス(PB)ではなく、「純債務の
GDP比率」を使っていることです。ところで、「純債務」とは
何でしょうか。
 正確には「純債務」とは、正確には「純債務残高」ですが、政
府の総債務残高から政府が保有する金融資産(国民の保険料から
なる年金積立金など)を差し引いたものであり、財務省が絶対に
使わない基準です。財務省は、国民に対して政府の負債の大きさ
を強調しようとしているからです。
           ──[消費税は廃止できるか/003]

≪画像および関連情報≫
 ●ニューディール政策の教訓を生かせ/秋元英一千葉大教授
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   世界大恐慌からの脱却を目指し、ニューディール政策をは
  じめとする様々な政策をうったルーズベルト大統領。中でも
  全国産業復興法(NIRA)は、今の安倍政権が掲げる理念
  と重なるようにみえる。大恐慌時の米国経済に詳しい秋元英
  一千葉大名誉教授に話を聞いた。
  ――ルーズベルト大統領が打ち出したNIRAはどんな特徴
  がありますか。
   「一言でいうと政府主導の不況カルテルだ。過当競争を排
  除して価格を引き上げ、各企業の投資インセンティブを高め
  利潤を確保して景気回復をめざす。その利潤で労働者の給与
  を引き上げるのが基本的な仕組みだ。具体的には今の日本で
  言う自動車工業会とか鉄鋼連盟のような事業者団体ごとに、
  政府との間で約束事である『コード』を結び、製品価格や賃
  金を非競争的に横並びにさせた。そのうえで同意した企業は
  反独占法の適用除外とした。初期ニューディールの統制経済
  を代表する性格をもった政策だ」
  ――ただNIRAは2年後に米最高裁から違憲判決を受けて
  廃止されます。
  「多くの大企業と組織労働者は、最後までNIRAを支持し
  た。だが中小企業はコード作成に影響力を行使できないばか
  りか、顧客とのあいだの取引慣行を大事にして商売してきた
  からコード反対の声がしだいに強まった。最高裁は、もとも
  と州を越える通商しか規制できないはずの連邦政府が、州内
  の取引にまで干渉した点を違憲と判断した」
               https://s.nikkei.com/36gtbWu
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ビル・クリントン元米大統領.jpg
ビル・クリントン元米大統領

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2020年01月09日

●「なぜ10%消費増税を決断したか」(EJ第5163号)

 安倍首相は、もともと消費増税に賛成ではなかったはずです。
しかし、首相になった時点で、自民党と民主党の増税派の大連合
によって法律として成立した「社会保障と税の一体改革」があり
増税時期まで決まっていたのです。
 安倍首相は内閣発足と同時に、アベノミクスと称して、「3本
の矢」の政策を始動させています。
─────────────────────────────
     第1の矢:      大胆な金融政策
     第2の矢:     機動的な財政政策
     第3の矢:民間投資を喚起する成長戦略
─────────────────────────────
 第1の矢による日銀の金融緩和と第2の矢による10兆円規模
の財政出動は非常にうまくいったのです。株価は上昇し、目に見
えて雇用も改善しています。安倍政権の支持率は向上し、しだい
に盤石なものになって行きます。
 しかし、アベノミクスに最初に水を差したのは、2014年4
月の5%から8%への消費増税です。海外も含む多くの経済学者
や識者、財界などから人を集め、意見を聴取したものの、結局法
律の定め通り、増税を実施したのです。しかし、駆け込み需要の
反動減は予想以上で、安倍首相は「影響は限定的」と主張してい
た財務省への強い不信感を強めることになります。
 ノーベル経済学賞受賞の経済学者、ポール・クルーグマン教授
は、安倍政権が消費税を8%に上げた時点で、これを次のように
批判しています。教授は首相に増税中止を進言していたのです。
─────────────────────────────
 アベノミクスにおける消費税の増税は、たとえば、飛行機が成
層圏に到達する前に逆噴射するに等しく、これによってデフレか
らの脱却は困難になってしまっている。
                ──ポール・クルーグマン氏
─────────────────────────────
 しかも、安倍首相の身近には、内閣官房参与として、浜田宏一
米イエール大学名誉教授や、藤井聡京都大学大学院教授などの増
税反対派の学者が付いており、少なくとも8%から10%への増
税阻止のため、全力を尽くされていたはずです。しかし、それに
もかかわらず、安倍首相は昨年10月、10%の増税を決断し、
実施に踏み切っています。結局、「社会保障と税の一体改革」の
消費増税は2回にわたって延期されたものの、結局は実現してし
まっています。なぜ、こうなってしまうのでしょうか。
 実際に10%への増税が行われてしまったのですが、それ以前
に、三橋貴明氏と藤井聡氏は、10%への増税が行われると、ど
うなるかについて、次のように議論しています。この予測はけっ
してオーバーなものではないといえます。
─────────────────────────────
三橋:2014年の消費増税の時は、実質の消費が7・5兆円も
 減った。ちなみに10月の消費増税のインパクトも仮にそれと
 同じくらいに収まったとしても、その上、残業規制で8兆円な
 んていう所得の縮小があったら、合計で15兆円くらいの需要
 縮小になっちゃう。
藤井:しかも外需がそこから冷え込む可能性がある。その冷え込
 みがリーマンショックの仮に3分の1でも、9兆円程度冷え込
 むことになる。そうすると、2020年の経済は、前年に比べ
 て、25兆円前後も冷え込んで、成長率がマイナス5%前後っ
 ていう恐ろしい状況になる。さらに恐ろしいのは、この簡単な
 試算は何も悲観的なものじゃないっていう点。心理学的効果を
 考えるなら、消費縮小は7・5兆円以上になるかもしれないし
 オリンピック特需終焉がさらに数兆円のマイナス効果をもたら
 すかもしれないし、外需がもっと冷え込むかもしれない。
 ──『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 藤井聡教授は内閣官房参与を務めていました。内閣官房参与は
安倍首相に直接進言できる立場です。安部首相は藤井教授が増税
に反対している立場の経済学者であることを十分知ったうえで、
内閣官房参与に任命しているはずです。
 したがって、昨年10月の消費増税の決断は、そういう意見を
すべて聞いたうえでのもの、ということになります。なぜ、安倍
首相は、「消費税を凍結させる」という思い切った決断ができな
かったのでしょうか。
 それはやはり「財務省」の存在です。もう少しはっきりいうと
財務省と財界(経団連など)とマスメディア──これらが一体に
なっていることです。このような財務省に対しては、首相といえ
ども反対を押し通すことはできないようです。それでも、安倍首
相はよく頑張った方なのです。財務省は、何回も増税を延期する
安倍首相に業を煮やし、ひそかに、倒閣を仕掛けた疑いすらある
のです。これについては、改めて取り上げます。
 上記、「別冊クライテリオン」増刊号の座談会の司会を務めた
日本文化チャンネル桜代表の水島総氏は、財務省に関して次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 日本には謀略機関や工作機関がないといわれているけれども、
唯一、財務省というものがあるのではないか。カネは集まってく
る。情報集めと洗脳もやるし、脅しもやる。それから予算編成権
もあって、また政治家を脅かすこともできると。「お前のところ
には金を配らないぞ」という。こういうかなり強大な「ナンバー
ワン」の財務省という官庁に、カネ集めと情報収集と予算編成と
いうものが集まっている。これは、ある程度分けていかないとい
けないのではないか。    ──前掲『消費増税を凍結せよ』
            /「別冊クライテリオン」増刊号より
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/004]

≪画像および関連情報≫
 ●このタイミングで消費増税は「危険な賭け」だ/飯田泰之氏
  ───────────────────────────
   まずお断りしておくと、私は「財政再建は必要であり、社
  会保障改革も必要である」という立場です。が、それゆえに
  こそ、消費増税には慎重であるべきだと考えています。
   第2次安倍内閣が掲げた経済政策アベノミクスの「三本の
  矢」の中に「機動的な財政政策」があったことから、多くの
  人が「安倍政権は財政再建を軽視している」と誤解している
  ようですが、実際はその逆で、財政の健全性を示すプライマ
  リーバランス(PB)の対GDP比は大きく改善しました。
   安倍政権は民主党政権下での決定を受けて、2014年4
  月に消費税の税率を5%から8%へ引き上げました。一般に
  は、これがPB改善の主要因であるという誤解があるようで
  す。実情は異なります。税収増の内訳を見ると、一般会計税
  収が43・9兆円であった12年度と比べ、18年度の税収
  は、59・1兆円と15兆円以上増えていますが、この税収
  増に占める消費税税収の増加分は7・2兆円であり、消費増
  税による税収増よりも、実は景気回復による自然増のほうが
  8兆円超と大きいことがわかります。消費増税による経済の
  腰折れがなければ、税収の自然増はさらに大きくなっていた
  はず。財政再建の主因は、消費増税ではなく、景気回復だっ
  たのです。           https://bit.ly/2ZNGviG
  ───────────────────────────

kuru-gumankyouju「zouzeichuushi」teian.jpg
クルーグマン教授「増税中止」提案
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2020年01月10日

●「『国』と『政府』は同じではない」(EJ第5164号)

 「毎年60兆円の税収しかないのに、毎年100兆円を超える
予算を使っている。これでは財政は破綻する。あくまで税収の範
囲内での政府支出を目指すべきである」──これが財務省の「財
政均衡論」です。
 この財務省の主張に関しては、まったく反論の余地はありませ
ん。こんなことをしていたら、確かに国家財政は破綻します。一
般家計に置き換えてみると、「30万円の月収しかないのに、毎
月60万円の支出をしている」ようなものであり、破綻必至であ
ることは誰でもわかります。
 しかし、問題はその分かり易さにあります。財務省は、このよ
うな素人でもわかる理屈を使って、国(本当は政府)の借金の深
刻さを訴えて、消費増税をしやすい環境を作っています。
 令和2年度(2020年)の予算案について、実際の数字で確
かめてみることにします。「歳入」は次のようになっています。
─────────────────────────────
         税収 ・・ 63兆5130億円
     その他の収入 ・・  6兆5888億円
        公債金 ・・ 32兆5562億円
     ―――――――――――――――――――
              102兆6580億円
                  https://bit.ly/2QRhwH0 ─────────────────────────────
 これによると、公債金は、32兆5562億円であり、そのう
ち特例公債(赤字国債)は、25兆4462億円、建設国債は、
7兆1100億円です。公債全体の金額は、2014年には41
兆円でしたが、年々減らしてきており、2020年度は32兆円
です。安倍政権もそれなりの努力をしているのです。
 財務省は、国債の残高を平然と「国の借金」といいます。財務
省が2019年2月8日に発表した最新の数字では、国の借金は
2018年12月末で1100兆5266億円になっています。
この数字には、国債のほか、借入金、政府保証債務現在高(政府
短期証券)が入っています。2019年末の数字も今年の2月に
財務省から発表されることになっています。年々凄い勢いで、国
の借金が増えていることを国民に知らせるためです。
 しかし、正確にいうと、これは「国の借金」ではなく、「政府
の借金」です。財務省は意図してそういうようにいいます。その
方が彼らにとって都合がよいからです。だが、「国」と「政府」
は明らかに異なります。「国=政府」ではないのです。国という
ときは「民間」も入ります。財務省は、慎重にそこから「民間」
をわざと外しているのです。なぜなら、「民間」を入れると、困
ることが起きてしまうからです。
 ここで借金を国債に絞って考えます。国債は政府の借金です。
その国債の残高が1000兆円あって、それが、国民一人当たり
800万円に該当するとします。個人にとっては、過大な借金と
いえます。1000兆円といってもピンとこない人が多いので、
赤ん坊も含む日本人一人当たりの借金がそれぞれ800万円にな
る──こういえば、危機感を感じてくれるということで、財務省
はこういうアッピールをするのです。
 しかし、これはおかしいです。日本の場合、国債の90%以上
は、民間が持っています。具体的には、日本の金融機関、すなわ
ち、銀行、生命保険会社、損害保険会社、年金運用基金などが保
有しています。もちろん個人で国債を保有している人もたくさん
います。したがって、政府からみると借金ですが、民間の立場か
らみると、国債は「資産」になります。国民一人当たり800万
円の借金ではなく、それだけの資産を保有しているのです。
 まさにパラドックスです。だから財務省は、「民間」を隠して
「国の借金」と表現するのです。つまり、国債の90%は貸し手
も借り手も日本であり、これは国内の貸し借りであって、国の借
金ではないのです。しかも、そのうち、約400兆円を政府の子
会社である日銀が保有しており、今や「政府の借金」ですら、な
くなっているといえます。
 なお、既に述べているように、政府は、借金も多いですが、た
くさんの資産を保有しています。しかも、政府のバランスシート
上の資産を見ると、金融資産が大半を占めています。その資産の
総額は672・7兆円もあるのです。本来は負債から、これらの
資産を引くべきですが、財務省はそうしていないのです。借金を
多く見せようとしているからです。
 これに加えて、「対外純資産」があります。日本が海外に保有
している資産から負債を除いたものをいいます。具体的な形態は
資産としては外貨準備,銀行の対外融資残高,企業の直接投資残
高などがあり,負債としては海外からの証券投資,借入金などが
あります。日本はこの対外純資産で世界一です。2017年現在
約328兆円で世界一、それも27年連続の世界一です。日本は
世界一の債権国家です。
─────────────────────────────
 ◎主要国の対外純資産    2017年末現在
      日本 ・・  328兆4470億円
     ドイツ ・・  261兆1848億円
      中国 ・・  204兆8135億円
      香港 ・・  157兆3962億円
   ノルウェー ・・  100兆3818億円
     カナダ ・・   35兆9305億円
     ロシア ・・   30兆2309億円
    イタリア ・・  ▲15兆5271億円
      英国 ・・  ▲39兆6540億円
    フランス ・・  ▲62兆4874億円
    アメリカ ・・ ▲885兆7919億円
          ──財務省資料/https://bit.ly/36thfRq
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/005]

≪画像および関連情報≫
 ●「円」はなぜ安全資産と呼ばれるのか
  ───────────────────────────
   金融市場にさほど興味を持たない読者でも、「リスク回避
  ムードが高まった結果、比較的安全とされる資産の円が買わ
  れ・・・」というフレーズを1度は見聞きしたことがあるの
  ではないか。その際、同時に「なぜ円が安全なのか」という
  疑問を抱いた経験もあるだろう。
   実際、100年に1度の大地震が起きても、大津波に襲わ
  れても、原子力発電所が事故に遭い、「東京壊滅か」という
  仰々しい懸念に煽られても円はその都度、買われてきた。最
  近では自国に向けてミサイルが発射されても円買いが進んだ
  ことも記憶に新しい。これらの動きに関しては直感的に納得
  のいかない向きもあるだろう。為替市場分析を生業としてい
  る中で「なぜ円が安全なのか」という論点は頻繁に照会を受
  ける論点の1つだが、最も模範的かつ、異論が少ない解答が
  「日本は世界最大の対外債権国だから」というものになる。
  これは「日本は世界で一番外貨建ての資産を保有している国
  だから」とも言い換えられる。この点に関する数字は毎年5
  月末財務省が前年分について公表する『本邦対外資産負債残
  高の状況』が大いに参考になる。 https://bit.ly/2sF0kg9
  ───────────────────────────

主要国対外純資産/2017年末現在.jpg
主要国対外純資産/2017年末現在
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2020年01月14日

●「日本人が知らない巨額海外純資産」(EJ第5165号)

 新年になってはじめて書店(池袋/ジュンク堂)に行き、次の
本を見つけて購入しました。総選挙が近いせいか、れいわ新撰組
関係の本が多く出版されていますが、この本もれいわ新撰組に関
係があります。少し変わった本です。
─────────────────────────────
                       大西つねき著
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
                         白順社刊
─────────────────────────────
 著者の履歴を拝見すると、大西つねき氏は銀行員で、1986
年にJ・Pモルガン銀行に入行し、為替資金部/為替ディーラー
として活躍し、1991年にはバンカーズ・トラスト銀行に移り
為替、債権、株式先物トレーディングを担当している金融のプロ
です。2017年の衆院選、2019年の参院選(比例区)にも
出馬しています。れいわ新撰組の山本太郎代表が本のオビで、こ
の本を「推薦」しています。
 大西つねき氏の本には、他の金融の本ではあまり取り上げない
ことが多く出ており、それについて分かり易い解説があります。
EJの今回のテーマとも関係が深いので、これから参考にしたい
と考えています。
 既出の経済評論家の加谷珪一氏は、日本が国際比較において、
労働生産性が低く、伸び悩んでいることを指摘していますが、こ
れについて大西つねき氏は、日本が27年連続の世界最大の債権
国であることに関連して、次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本が世界一のお金持ち国になった本質的な理由は、日本が世
界一の生産性を誇るからです。よく日本のホワイトカラーの生産
性が低いと言われますが、それは大きな間違いです。そのときに
引き合いに出されるホワイトカラーの生産性とは、単にホワイト
カラーの給与を為替換算して国際比較したもので、今の為替レー
トも日本人の給与も、政治的に著しく歪められています。要する
に無意味な比較だということです。(一部略)
 日本は世界一のお金持ち国です。その累計額が世界一だから、
世界一の純資産国になっているのです。戦後ずっと、自分たちが
消費(輸入)する額よりも、遥かに多くの額を生産(輸出)し続
けたから、そしてそれを可能にするだけの付加価値を生産し続け
たから、その対価として世界一の黒字が貯まっている。しかも日
本は、戦後の賠償やドル借款などのマイナス状態からここまでに
なっているのです。これこそが日本の生産性の高さの証明であり
それが世界一であることは、世界最大の純資産を見れば明らかで
す。              ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
─────────────────────────────
 生産性の概念の捉え方の違いということもあるでしょうが、日
本が世界一の純資産国であることとの関連で生産性を捉えている
ことは面白いと思います。
 日本に対外純資産が328兆円あることをほとんどの日本人は
知らないでいます。純資産国の国際順位については、新聞では毎
年報道はあるものの、これについて詳しく解説する評論家はおら
ず、日本政府もこれについてあまり触れることはありません。と
くに財務省としては、こんな話をしたら、「世界一の借金大国」
というプロパガンダがバレてしまうので、事実のみは伝えますが
詳しい説明は絶対にしないのです。
 対外純資産の数字は、財務省のウェブサイトに公表されていま
す。財務省のサイトにはいろいろなデータが掲載されているので
慣れないと、どこを見ていいかわからないと思います。そういう
ときは、サイト内のグーグル「カスタム検索」にキーワード(例
えば「対外純資産」)を入れると一発で出ます。次は、同じキー
ワードを入れたときの最新のデータです。これによると、日本の
対外純資産は、341兆円に増加しています。
─────────────────────────────
 ◎平成30年末現在本邦対外資産負債残高の概要
   1. 対外資産残高 ・・1018兆0380億円
   2. 対外負債残高 ・・ 676兆4820億円
   3.対外純資産残高 ・・ 341兆5560億円
               https://bit.ly/2QMd7X2
─────────────────────────────
 ところで、そもそもなぜこれほど巨額の資産がストックされた
のでしょうか。
 「対外純資産」とは、国が外国に貸したり、投資したりしてい
る金額から、海外から借りたり、投資されている金額を差し引い
た金額のことです。日本が海外に貸している金額から、借りてい
る金額を差し引いたもの──このようにいった方がわかりやすい
かもしれません。
 ここで投資というのは、具体的には、政府債券や社債、株式、
土地などの資産を現地通貨で保有することです。もちろん、日本
も海外から投資を受けていますが、海外への投資から、投資され
ている額を差し引きすると、多額の余剰金が出ます。これが対外
純資産であり、その金額が世界一なのです。
 問題は、なぜ、これほど多額の対外純資産がストックされたの
でしょうか。それは、上記の大西つねき氏の次の言葉のなかにあ
ります。専門用語でいうと、日本は長年にわたって、経常収支の
黒字を続けてきたからです。
─────────────────────────────
 戦後ずっと、自分たちが消費(輸入)する額よりも、遥かに多
くの額を生産(輸出)し続けたから、そしてそれを可能にするだ
けの付加価値を生産し続けたから、その対価として世界一の黒字
が貯まっている。       ──大西つねき著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/006]

≪画像および関連情報≫
 ●国土が小さい日本が世界最大の債権国だなんて!/中国
  ───────────────────────────
   財務省によれば、日本の2016年末における対外純資産
  残高は前年より9兆8950億円増えて349兆1120億
  円に達した。日本の対外純資産残高は26年連続で世界一と
  なっており、これは日本が世界最大の債権国であることを示
  している。
   中国メディアの快資訊はこのほど、日本は国土が非常に小
  さいのに、なぜ世界最大の債権国でいられるのかと疑問を投
  げかけ「とても信じられないことだ」と驚きを示している。
   記事は、日本は国土こそ小さいが「匠の精神」を発揮し、
  製造業で確固たる地位を築いたと指摘。自動車や半導体とい
  った工業製品のほか、中国でも高く評価されている果物など
  の存在を挙げ、何事にも徹底的にこだわる姿勢が日本に成功
  をもたらすことになったと主張、そしてこうした成功が日本
  の対外純資産残高の積み上げに繋がったと強調した。
   続けて、日本が海外に持つ莫大な資産は日本に巨大な利益
  をもたらしていると伝えたほか、どのような資産であっても
  日本で地震が発生したり、戦争に巻き込まれたりなどの国家
  の非常時には売却することで資金を得ることができると指摘
  し、「日本には先見の明がある」と伝えた。
                  https://bit.ly/2NiC4aN
  ───────────────────────────

海外純資産.jpg
海外純資産
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2020年01月15日

●「日本の対外純資産/経常黒字原因」(EJ第5166号)

 日本の対外純資産──2019年度末で約342兆円、これは
日本が長年にわたって経常収支の黒字を積み重ねてきたから、ス
トックされたものと昨日のEJで述べましたが、「経常収支」と
は何でしょうか。これには、深い意味があるので、少しその本質
を探ってみることにします。難しい説明はしません。
 「経常収支」とは、国の国際収支を評価する基準のひとつで、
次の4つから構成されます。
─────────────────────────────
          1.  貿易収支
          2.サービス収支
          3.  所得収支
          4.経常移転収支
─────────────────────────────
 第1は「貿易収支」と「サービス収支」です。
 「貿易収支」と「サービス収支」は、「貿易・サービス収支」
と呼ばれます。貿易収支とは、財の輸出から輸入を引いたもので
す。同様に、サービス収支とは、サービスの輸出から輸入を引い
たものです。財の輸出入はわかると思いますが、サービスの輸出
入はちょっとピンとこないと思います。
 日本人が海外旅行に行って、外国人のシェフの作った料理を食
べて代金を支払ったとします。これは「サービスの輸入」です。
これと逆に、外国人観光客が日本に来て、日本料理を外国人が楽
しみ、その対価を受け取った場合、それは「サービスの輸出」と
いうことになります。
 サービスの輸出は、サラリーマンの給料と似たところがありま
す。サラリーマンは、他人のために働いて、給料という対価を受
け取るので、サービスの輸出と同じです。一方、家計での消費は
他人が働いて作ったものを使わせてもらうことになるので、サー
ビスの輸入と同じです。
 輸出が輸入を上回る状況を貿易黒字といい、輸入が輸出を上回
れば貿易赤字です。この場合、一般的には貿易黒字は「貿易収支
が好調」、貿易赤字は「収支バランスが悪い」とされています。
 しかし、貿易黒字が増えると、その分相手の国から受け取る外
貨が増え、それを日本円に交換するため、外貨を売って円を買う
ことになるので、円高へとつながります。
 第2は「所得収支」です。
 所得収支は、日本人が海外から受け取った利子や配当です。こ
の場合、海外に支払った利子や配当は差し引きます。その結果が
プラスであれば黒字、マイナスになると赤字です。企業が海外の
工場建設などや海外証券投資で得た収益から、日本国内で外国企
業などが得た利益や報酬などを引いたものが所得収支です。所得
収支は、対外金融債権・債務から生じる利子配当金などの収支状
況であり、これが黒字であることは良い傾向であるといえます。
 第3は「経常移転収支」です。
 これは、政府による開発途上国への経済援助や国際機関への拠
出金などの収支です。所得収支を「第1次所得収支」と「第2次
所得収支」に分け、前者はここでいう「所得収支」、後者を「経
常移転収支」とする分類法もあります。つまり、所得収支は、日
本企業が海外で稼いだお金の配当金です。
 2019年度末で約342兆円の対外純資産がある──こんな
ことをいわれてもピンとくる日本人はいないと思います。この数
字は、日本が世界一の金持ちの国であることちを示していますが
「日本は世界一の借金大国である」とさんざんいわれてきている
だけに、にわかに信じられるものではありません。
 これについて既出の大西つねき氏は、次のように疑問を解いて
くれています。
─────────────────────────────
 実は、これには明確な理由があります。それは、皆さんがその
お金をほとんど使えていないからです。まず、世界一の対外資産
がいかにして積み上がったかと言うと、毎年経常収支が黒字だっ
たからです。(一部略)
 しかし、ここに大きな問題があります。黒字は外貨で貯まるの
です。なぜなら、国際決済は基本的に外貨、主にドルで行われて
きたからです。輸入の代金をドルで払い、輸出の代金をドルで受
け取れば、黒字も差し引きドルです。だから、財務省の資料には
確かに349兆円とありますが、実際は約3兆ドルの外貨です。
つまりどういうことか?ドルは日本では使えません。投資する場
所もない。だから海外に投資せざるを得ないのです。
              ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
─────────────────────────────
 大西つねき氏は、これを家庭に例えて、「どの家よりも稼いで
いる家庭なのに、そのお金は全く使わずに誰かに貸しっぱなし」
の状態といっています。まさに「貧乏ひまなし」です。これがま
さに現在の日本の状況です。世界一の金持ちの国なのに、日本の
貧乏化が急速に進んでいます。
 世界で何かコトが起きると、円が買われて円高になります。米
国がイランのソレイマニ司令官を殺害し、米国とイランの間で一
触即発の戦争危機になったとき、円が買われています。それは、
世界中の投資家が日本が世界一の債権国家であることを熟知して
いるからです。知らないのは日本人だけです。
 海外にそんなカネがあるなら、その外貨を売って円に替え、日
本に持ち込めば、いいじゃないか──これは、多くの日本人の本
音であると思います。しかし、3兆ドルを円に替えるのは、ほと
んど不可能な話です。それだけの円を一体誰が、持っているので
しょうか。当たり前の話ですが、円は日本でしか発行されないか
らです。日本人しか持っていないのです。
 方法はないわけではありません。しかし、これは国家でしかで
きないことです。日本政府は何かを大きく間違えています。
           ──[消費税は廃止できるか/007]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ日本円は「安全資産」と言われるのか/中国メディア
  ───────────────────────────
   日本円は「安全資産」と呼ばれることが多く、世界で金融
  不安が台頭すると円が買われ、円高となる傾向が強い。日本
  円は確かに世界で使える通貨の1つだが、なぜ日本円は安全
  資産と呼ばれるのだろうか。中国メディアの今日頭条はこの
  ほど、日本円が安全資産としての地位を確立できた理由につ
  いて考察する記事を掲載した。
   毎年5月末に財務省が発表する「本邦対外資産負債残高の
  状況」によると、日本の企業や政府、個人が海外に持つ資産
  から負債を差し引いた「対外純資産残高」は2018年末時
  点で341兆5560億円になった。
   記事は「日本円が安全資産である理由は、この対外純資産
  残高と関係がある」と強調し、日本企業が中国や米国への投
  資を活発に行ったことで、日本の18年末における対外純資
  産残高は前年比3.7%増となったことを紹介し、28年連
  続で日本が世界最大の債権国になったと論じた。
   続けて、日本は、第2次世界大戦後に急速に復興し、19
  70年代には欧米の先進国に経済力で追いついたと指摘し、
  世界第3位の経済大国である日本円の世界における地位はこ
  の時に築かれたと指摘。日本はその後、バブルが崩壊し、経
  済成長が低迷し続けているが、「日本には世界中に多くの資
  産を保有しており、しかも外貨準備高も潤沢であることから
  日本が信用不安に陥るリスクは小さい」と強調。また、日本
  円を空売りして売り崩すのも難しいため、日本円は金融不安
  時の逃避先として最適なのだと論じた。
                  https://bit.ly/2TmFdKa
  ───────────────────────────

経常黒字は4年連続で増加.jpg
経常黒字は4年連続で増加
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2020年01月16日

●「324兆円の対外純資産への貢献」(EJ第5167号)

 本日は木曜日、ひとつ予告があります。私はウィークデイに家
にいるときは、テレビ朝日の「羽鳥愼一モーニングショー」を視
ています。とくに木曜日は玉川徹氏の『そもそも総研』があるの
で、長年の習慣で、継続して視聴しています。なかなか中身のあ
るコーナーであると思っています。
 本日の『そもそも総研』は、「消費税ゼロ」の特集が予定され
ています。藤井聡京都大学大学院教授が出席されることは確かで
山本太郎氏が出席される可能性もあります。本当は、先週の予定
だったのですが、米国とイランの戦争危機によって、1週間延期
されたのです。現在発売中の『文藝春秋』でも、山本太郎氏によ
る「『消費税ゼロ』で日本は甦る」という論文が掲載されており
目下大きな話題になっています。EJの今回のテーマと同じであ
り、視聴されることをお勧めします。
 約342兆円の対外純資産は、どのようにして積み上げられた
のでしょうか。それは、はっきりしています。貿易黒字を稼ぎ続
けたからです。貿易というものは、そのほとんどが外貨、主とし
てドルで決済が行われます。日本は資源のない国なので、燃料や
原材料を手に入れるにも外貨が必要です。
 手持ちのドルがない場合、円を売ってドルを手に入れます。そ
のとき、為替レートが問題になります。「1ドル=100円」と
すれば、100円を売って、1ドルを手に入れます。このように
して、原材料を輸入し、製品を作り、それを2ドルで売ったとし
ましょう。この場合、「1ドル=100円」のままであるとする
と、そのうち原材料分の1ドルを売って、円に替えたとしても、
1ドルの黒字分がドルで残ります。
 日本は十分外貨準備を持っているので、そのドルで原材料を仕
入れ、製品の代金もドルで受け取り、多くの場合、ドルのままス
トックされる。日本は、このようにして、ドルを稼ぎ続け、それ
が長年にわたって黒字として積み上がっていったのです。つまり
原材料を外貨で仕入れ、売上代金も外貨で受け取り、それが外貨
そのままストックされ、積み上がって行ったのです。それが驚く
なかれ、約342兆円の対外純資産として積み上がったのです。
ドルに換算すると「3兆ドル」になります。これについて、既出
の大西つねき氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 その3兆ドル分の外貨は、それを日本人がお金(円)で買った
からではなく、モノやサービスという実体価値を売った対価とし
て貯まったもので、円の流出なしに外貨だけが貯まっているので
す。ですから、その分の円は、海外には存在しません。
                ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
─────────────────────────────
 それにしても、約342兆円の対外純資産は、驚きを禁じ得な
い。だから、日本人には実感がないのです。本当の原因は何であ
るか、考えてみる必要があります。
 昨年来、トヨタ自動車など、一流企業のトップが相次いで発言
した気になる言葉があります。その言葉とは「もはや日本型経営
はできなくなりつつある」です。それが現実のものとしてあらわ
れたのは、1月13日付の日本経済新聞のトップ記事です。同紙
は一面トップで、次のことを伝えています。
─────────────────────────────
             「黒字リストラ」拡大
       /昨年9100人デジタル化に先手
       ──2020年1月13日付、日本経済新聞朝刊
─────────────────────────────
 「黒字リストラ」とは、黒字の好業績でも人員削減策を打ち出
すことをいいます。実際に、2019年に早期・希望退職を実施
した上場企業35社中、最終損益が黒字だった企業は60%を占
めています。具体的にいうと、これらの企業は、来るべき総デジ
タル化時代に備えて、比較的給与は高いのにICTに弱い中高年
齢層に退職・転職を勧奨し、ICTに強い若手の人材確保に着手
しているのです。これが「黒字リストラ」です。
 そもそも日本企業の従業員給与は低過ぎるのです。中国の通信
機器メーカー華為技術(ファーウェイ)が日本の就職情報誌に提
示した新卒の初任給が40万円、修士修了者は43万円でした。
日本の一流企業の初任給の倍額です。
 しかし、日本の企業から見ると、約2倍ですが、ファーウェイ
が特別高いわけではないのです。欧米企業の技術系社員の初任給
が50万円台のところはザラだからです。古い話ですが、私が大
手生保会社に入社したときの給与は約1万1千円。そのとき、日
本アイ・ビー・エム社の大卒初任給が2万円だったことを今でも
鮮明に覚えています。日本企業の従業員給与は、一貫して不当に
低いといえます。これについて大西つねき氏は、いささか怒りを
交えながら、次のように述べています。
─────────────────────────────
 (企業の)コストカットは決してお金のカットだけでは終わり
ません。報酬だけ減らし、同じかそれ以上の価値を要求するのが
コストカットです。つまり、生産性向上の強要に他なりません。
そして、日本の労働者は身を削りながらも世界一の生産性でそれ
に応え続けて来ました。にもかかわらず、日本のホワイトカラー
の生産性は低いとまで揶揄される。なぜか?それはあろうことか
その生産性に見合うだけの、本来受け取るべき報酬を受け取れて
いないからです。こんな不当なことがあるでしょうか?
               ──大西つねき著の前掲書より
─────────────────────────────
 約342兆円の対外純資産は、低い給与で働き続けた日本人の
タダ働きの積み上げられた結果であると大西氏はいうのです。す
べてについて大西氏の言説に同意するわけではありませんが、確
かに本質を衝いた鋭い意見であると思います。
           ──[消費税は廃止できるか/008]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ/新卒年収3200万円実名入り社内文書流出
  ───────────────────────────
   中国IT大手ファーウェイ(華為技術)の任正非CEOの
  名前で、2019年卒新入社員の年俸について記載された社
  内メールが流出し、中国で大きな話題となっている。ファー
  ウェイは元々高年収で知られるが、今回のメールでは最も優
  秀な8人のために、最高額で201万元(約3200万円)
  の年棒が用意されていることが明らかになったからだ。ファ
  ーウェイやリストに掲載された学生たちは否定するコメント
  は出しておらず、中国メディアは本物だと結論付けている。
   流出したメールには、「8人の突出した新入社員」の名前
  と年俸プランが記載されている。学歴はいずれも博士で最高
  額は201万元、最低は、89・6万元(約1400万円)
  だった。メールには年俸とともに実名が記載されていたこと
  から彼らの情報もあっという間に調べられ、拡散している。
   最高年棒の1人である鐘氏は、華中科技大学(学部)を卒
  業。ハイテク総合研究と自然科学の最高研究機関である中国
  科学院で博士号を取得した。専門はパターン認識とスマート
  システム。もう1人の秦氏は浙江大学(学部)を卒業。香港
  科技大学のロボット研究所で博士号を取り、国際的な学会で
  多数の論文を発表している。ファーウェイは、理系学生の就
  職先として極めて人気が高い。ある調査によると2018年
  中国のトップ大学である清華大学からは167人(学部生2
  人、修士134人、博士31人)が入社した。
                  https://bit.ly/2RoyE7F
  ───────────────────────────

ファーウェイ本社.jpg
ファーウェイ本社
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2020年01月17日

●「国家の財政を家計に例える間違い」(EJ第5168号)

 多くの日本人は、日本の現況、主として経済的な現況をどう考
えているでしょうか。
 現在、日本の現況は、世界一の金持ち国であるのに急速に貧乏
化が進行し、かなり悲惨な状況になっています。れいわ新撰組の
山本太郎代表は、『文藝春秋』新春特別号に寄せた政策論文の冒
頭で次のように訴えています。
─────────────────────────────
 みんな本当に苦しんでいる。子どもの7人に1人、高齢者の5
人に1人、1人暮らしの女性の3人に1人が、貧困状態にありま
す。日本は今、生きていくのに、全く希望が持てない社会なので
す。結果、毎年2万人以上が自殺し、50万人以上が自殺未遂を
している。そんな地獄のような世の中はもう終わりにしたい。
 この数字を見て下さい。厚労省の国民生活基礎調査によれば、
「生活が苦しい」と感じている人の割合は、全世帯の57・7%
(2018年)、母子家庭に限れば、82・7%(16年大規模
調査)に及びます。日本銀行の家計の金融行動に関する世論調査
(17年度)によれば、1人暮らしの貯蓄ゼロ世帯は、20代で
61%、30代で40%、40代で45%にも上る。
           ──山本太郎れいわ新撰組代表政策論文
  『「消費税ゼロ」で日本は甦る』/『文藝春秋』新春特別号
─────────────────────────────
 別に誇張があるとは思えません。事実を指摘しています。これ
は長年にわたる自民党一党独裁の政治の失敗の結果であるといえ
ます。この日本の現況を変えるには何をどうすべきでしょうか。
 それを今回のテーマでは探っています。それを示すには、知る
べきことがたくさんあります。また、これまでとは、認識を変え
る必要もあります。
 日本人は、一般的に「借金=悪」というイメージを持っていま
す。その何よりもの証拠として、このキャッシュレス時代におい
ても、現金の決済が主流であることが上げられます。2015年
における世界銀行の調査によると、世界におけるキャッシュレス
(クレジットカード)の普及率のベスト5は次の通りです。
─────────────────────────────
     第1位:    韓国 ・・・ 89.1%
     第2位:    中国 ・・・ 60.0%
     第3位:   カナダ ・・・ 55.4%
     第4位:  イギリス ・・・ 54.9%
     第5位:オーストリア ・・・ 51.0%
                  https://bit.ly/2tVp8AD
─────────────────────────────
 このときの日本の普及率は、わずか18・4%であったといわ
れます。日本では、クレジットカードを利用することは、借金を
することと同じであり、日本人は「後払い」ということに基本的
に抵抗があります。そういう日本人に対して、「1100兆円を
超える日本(政府の)借金」は、日本人の金銭感覚から考えて、
相当の大きなショックであったわけです。
 日本の財務省は、そういう日本人の特性を利用して、国の財政
を家計のそれに例えて説明しています。増税を受け入れ易い環境
を築くためです。財務省のウェブサイトの動画では、次のように
説明されています。
─────────────────────────────
 ◎平成27年度一般会計予算/日本の財政
  税収+税外収入   一般会計歳出  公債金収入等=借金
   59・5兆円 − 96・3兆円 =   36・8兆円
                 ↓
       公債残高  840兆円
 ◎家計に例えると
    1世帯月収  ひと月の生活費     不足分=借金
     50万円 −   80万円 =     30万円
                 ↓
    ローン残高   8400万円
                  https://bit.ly/2RezDqL
─────────────────────────────
 経済学では、経済活動の単位を「家計」「企業」「政府」に分
けますが、「家計」は貯蓄主体、「企業」は借り入れ主体が基本
形で、「家計」の借り入れは、「企業」ほど多くないので、「政
府」は「家計」よりも「企業」に似ています。しかし、財務省は
あえて「家計」と「政府」と比較しています。その方が国民が勘
違いし易いからではないかと考えられます。
 国(政府)の借金を家計のそれと比較するのは間違いです。政
府の借金は、基本的には返さなければなりませんが、超長期間で
返すことが可能です。100年かけて返したっていい。しかし、
家計の借金はそういうわけにはいかないのです。それも政府の場
合は、イザとなると、お金を刷って返すこともができますが、家
計ではそんなことはできない。そういうわけで、政府の借金は家
計のそれとは異なり、そもそも比較するのは間違っています。そ
れなのに、財務省はわざわざ動画まで作成して、ユーチューブに
アップし、大宣伝をしています。だから、プロパガンダといわれ
るのです。ちなみに、財務省はユーチューブに公式チャンネルを
持っています。
 もうひとつ大事な観点があります。政府の借金を国債に限定す
ると、政府の借金は民間にとって資産になるということです。し
かも政府の国債の90%以上は日本の銀行、生命保険会社、損害
保険会社、年金運用基金などが保有しています。つまり、貸し手
も借り手も日本であり、国のなかでの貸し借りであって、国の借
金ではないのです。
 このように、11OO兆円の借金といいますが、「政府+民間
=国」の立場から見ると、11OO兆円の借金は、そんな深刻な
問題ではないことが明らかです。財務省はこの理屈をはぐらかし
ています。      ──[消費税は廃止できるか/009]

≪画像および関連情報≫
 ●「紙幣や国債は返済する必要がない」は本当か/斎藤誠氏
  ───────────────────────────
   「財布に入っている1万円札が日本銀行の借用証書であり
  お札の持ち主が日銀に1万円を貸している」と考えている人
  はほとんどいないのかもしれない。しかし「実はそうなので
  ある」ということをここであらためて考えたい。
   最初から注意を促しておきたいのであるが、1万円札は、
  「日銀がいつまでも返済する必要のない借金」などではなく
  て、「日銀がいつでも返済することを期待されている借金」
  なのである。
   紙幣が「返済される」からこそ日々無数の経済取引が紙幣
  を介して滞りなく取り結ばれている。当たり前であるが、こ
  の大切なことを、一部の人は忘れているようである。まずは
  日銀のような中央銀行がまだ存在せず紙幣が発行されていな
  かった時代のことを考えてみよう。
   たとえば商人が農家から大量のコメを買うとする。コメ商
  人はコメ農家に対して支払期日と支払金額を定めた手形を振
  り出す。通常、手形の額面金額はコメの支払代金を上回るが
  この差額部分が期日までの利息に相当する。いずれにしても
  「手形が期日に返済される」という前提があるからこそ、コ
  メ農家は支払代金としてコメ商人が振り出した手形を受け取
  るのである。「手形が期日に返済される」という前提が満た
  されていると、その手形はコメ商人とコメ農家の関係を超え
  て市中に出回る可能性が出てくる。https://bit.ly/2tYJYPu
  ───────────────────────────

れいわ新撰組/山本太郎代表.jpg
れいわ新撰組/山本太郎代表

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2020年01月20日

●「お金の仕組みについて考えるとき」(EJ第5169号)

 1月10日のEJ第5164号で示したように、米国の対外純
資産は、2017年現在、マイナス885兆7919億円です。
約マイナス8兆ドルです。これは、何を意味しているかというと
世界中がそれだけのお金を米国に貸していることを意味します。
世界中が米国のドルに投資しているのです。
 この天文学的な数字の借金を抱えていても、世界は米国に依然
として投資をしています。普通の国ならとっくの昔に破綻し、I
MFの管理下に置かれていると思われるのに、そうならないのは
米国が基軸通貨国であるからです。それでは、基軸通貨国とは何
でしょうか。基軸通貨とは、国際為替相場での取引が多い通貨の
ことで、一般にメジャー・カレンシーと呼んでいます。基軸通貨
の条件には次の3つがあります。
─────────────────────────────
   第1の条件:通貨価値が安定している国の通貨である
   第2の条件:政治、経済、軍事の強い国の通貨である
   第3の条件:国際金融市場が整備・確立していること
─────────────────────────────
 19世紀半ばから100年間は当時の覇権国家であった英国の
ポンドが基軸通貨でしたが、IMF体制が確立した20世紀半ば
以降は唯一の超大国である米国のドルがその地位にあります。
 既出の大西つねき氏は、日本のホワイトカラーの生産性が低い
ことに強い疑問を抱いており、これをドルが基軸通貨であること
と関連して次のように述べています。
─────────────────────────────
 アメリカドルが国際取引の決済通貨、特に原油の決済通貨であ
り続けたこと、そしてその国際決済通貨であるドルを、世界で唯
一勝手に発行できるということ、そして、その間題を覆い隠す力
による外交、特に日本のような従属的な国との関係、為替レート
の恣意的なな操作など、恐らく見えていないことも含めれば、そ
の間の深さは想像を絶します。その根本を問うこともなく、単に
ホワイトカラーの給料を今の為替レートで換算して国際比較した
ところで、何の意味もないどころか、日本人に対する侮辱です。
アメリカのホワイトカラーが高い給料を取れるのは、そのお金を
外国(特に日本)から借りているからに過ぎません。そして、そ
の換算の元となる為替レートは、外国が否応なしにアメリカに貸
し続けている(ドルに投資し続けている)から、何とか今の水準
を保っているに過ぎません。   ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
─────────────────────────────
 日本には1000兆円を超える政府の借金があり、しかも増え
つつある──これは後払いの税金のようなものであり、なるべく
早く解決すべきであると多くの日本人は考えています。マスメデ
ィアがそのように報道するからです。
 この問題を解決するために、お金の発行の仕組みについて理解
する必要があります。それは、お金の本質について考えることに
つながるからです。
 現在、お金に関係のあることについて、次の2つのことが話題
になっています。
─────────────────────────────
          1.    リブラ
          2.デジタル人民元
─────────────────────────────
 「リブラ」とは、フェイスブックが提案する仮想通貨であり、
現在、話題を呼んでいます。リブラは、ビットコインのような通
常の仮想通貨とは違い、価格変動が起こりにくい設計を取り入れ
世界共通のお金というものを実現させようとしています。
 もうひとつ金融関係者を動揺させているのが、2の「デジタル
人民元」です。デジタル人民元の詳細はわかっていませんが、今
年発行されるという情報はあります。中国中央銀行は、これにつ
いての調査チームを2014年の段階で立ち上げています。そし
て、その発行が1月25日の旧正月に合わせるという情報すらあ
るのです。2019年の末のことですが、人民銀行幹部が次のよ
うな謎の発言をしています。
─────────────────────────────
        デジタル人民元はDCEPである
 DCEP=Digital Curency/Electronuc Payment ─────────────────────────────
 欧州中央銀行のラガルド総裁は、このデジタル人民元の後追い
と思われますが、「デジタルユーロ」の発行を検討していると発
言しています。これらの仮想通貨についてEJとしては、現在の
テーマの範囲を超えるので、今年の別テーマとして取り上げる予
定ですが、2020年は、お金の本質について真剣に考えざるを
得ない年になる可能性があります。
 現在、金融のデジタライゼーションは、地球規模で加速してい
ますが、デジタル人民元は、中国の通貨そのものをデジタル化す
ることを意味しています。これによって、中国国内では、中央銀
行による通貨の紙幣、硬貨の発行が停止され、中国国民は、すべ
てスマホアプリか、新規に発行される電子決済用IDカードで支
払いを行い、財布は持ち歩かなくなります。通貨はその性格上必
ずデジタル化される運命にあるといえます。
 さて、ここで問題です。「紙幣=お金」ではありませんが、日
本中の紙幣を集めると、その総額はいくらになると思いますか。
次の3つのなかから正しいものはどでしょうか。
─────────────────────────────
          1. 500兆円
          2. 100兆円
          3.1300兆円
─────────────────────────────
 この3択の問題の正解については、明日のEJでお知らせする
ことにします。    ──[消費税は廃止できるか/010]

≪画像および関連情報≫
 ●リブラに対抗するデジタル人民元発行が近づく
  ───────────────────────────
  デジタル人民元とも呼ばれる中国の中銀デジタル通貨の発行
  が、いよいよ近づいてきたようだ。政府系シンクタンクであ
  る中国国際経済交流センターの黄奇帆副理事長は10月28
  日の講演で、中国人民銀行(中央銀行)が「世界で初めてデ
  ジタル通貨を発行する中央銀行になる可能性がある」と述べ
  た。一方、27日に新華社が報じたところでは、全国人民代
  表大会(全人代)は暗号資産(仮想通貨)の発行に向けた準
  備となる、暗号資産(仮想通貨)に関する新法を可決した。
  新法は、「暗号資産ビジネスの発展を支え、サイバー空間と
  情報の安全性を確保する」のが狙いとされ、その発行は1月
  1日となる。この新法の制定に、デジタル人民元発行の環境
  を整える狙いがあるのだとすれば、デジタル人民元が来年年
  初から発行される可能性もある。
   デジタル人民元の詳細については依然として明らかではな
  いが、黄副理事長は、その発行技術にはブロックチェーン技
  術を利用する考えを初めて示した。今まではブロックチェー
  ン技術は幾つかの選択肢の一つとされていた。習近平国家主
  席は24日、中国が産業上の優位を目指す上で今後もブロッ
  クチェーン技術の「最前線に立ち続ける」よう求めた。その
  発言の背景には、デジタル人民元の発行技術には、ブロック
  チェーン技術を利用するという決定があったと見られる。
                  https://bit.ly/2NwqVTx
  ───────────────────────────

中国人民銀行.jpg
中国人民銀行
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2020年01月21日

●「お金は元来デジタルな存在である」(EJ第5170号)

 「紙幣=お金」ではありませんが、日本中の紙幣を集めると、
その総額はいくらになると思いますか。次の3つのなかから正し
いものはどれでしょうか。
          1. 500兆円
          2. 100兆円
          3.1300兆円
─────────────────────────────
 昨日のEJの最後に出したクイズです。これは、日銀のウェブ
サイトを見れば確認できます。「資産、負債及び純資産の状況」
の「負債の部」のところに、平成28年度(2016年)末と、
平成29年度末の「発行銀行券」は次のようになっています。し
たがって、正解は2の「100兆円」ということになります。
─────────────────────────────
                    発行銀行券
   2016年度末 ・・・  99兆8001億枚
   2017年度末 ・・・ 104兆0004億枚
                  https://bit.ly/2RsQ5DQ ─────────────────────────────
 これに対して、日本中に流通している現金、預貯金などを全部
合わせると、どのくらいの金額になるでしょうか。
 これも日銀のウェブサイトの通貨関連統計を開き、「マネース
トック速報」(2019年12月)の「M3」の一番下を見ると
わかります。
─────────────────────────────
     ◎「マネーストック速報」(2019年12月)
      M2 ・・・ 1041兆6千億円
      M3 ・・・ 1377兆5千億円
                  https://bit.ly/3ajWwSe ─────────────────────────────
 マネーストックM3というのは、日本中の現金・預貯金を郵便
貯金や農協に預けた分も分も含めたものをいい、マネーストック
M2は、M3から郵便貯金や農協に預けた分を引いた数値です。
そうすると、こういうことになります。
─────────────────────────────
 お金は、日本中に1377兆5千億円流通しているのに、発
 行銀行券は、たったの100兆円に過ぎない。
─────────────────────────────
 よく「日銀はお札を刷る」といいますが、それは日銀の役割で
はなく、独立行政法人国立印刷局の仕事です。毎年財務省の計画
にしたがって必要な分を印刷しています。ここで必要な分とは、
古くなったり、破損したりした紙幣を交換する分と、「お金の総
量が増えるにしたがって増やす分」の印刷です。この紙幣の印刷
硬貨の鋳造と流通・保管・維持コストに、年間2兆円以上の予算
が必要とされています。
 さて、上記の「お金の総量が増えるにしたがって増やす分」と
は何でしょうか。
 これは、素直には理解できないはずです。お金の印刷イコール
お金の総量を増やすと考えている人にはです。そうではない。し
たがって、「お金=紙幣」ではないということです。
 既出の大西つねき氏は、「紙幣はUSBメモリのようなもの」
といっています。
─────────────────────────────
 実はほとんどのお金は紙幣という実体を持たずに存在していま
す。確かに紙幣はお金として通用しますが、それはお金の本質で
はありません。大部分のお金は単なる預金情報として電子的に存
在するだけです。もし、皆さんが銀行に100万円を預ければ、
通帳にはその預金情報が記載されます。そして、その情報の一部
を現実世界に持ち出す時に、紙幣はその情報の入れ物として機能
します。つまり、1万円札は、銀行に預けた100万円のうちの
1万円分の情報を、分離して運ぶための記憶媒体でしかありませ
ん。記憶媒体ですから、例えて言うならUSBメモリのようなも
のです。(中略)1300兆円のうちのほとんどは銀行間で電子
送金され、現金のやり取りはごく一部です。ですから、1300
兆円のお金があっても、紙幣は100兆円で足りるのです。
                ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
─────────────────────────────
 それにしても「紙幣=USBメモリ」とは奇抜な表現です。つ
まり、もともとお金は「預金情報」として、デジタル的に存在し
ているものであり、それを現実世界に持ち出すさい、紙幣はその
情報の入れ物として機能するというのです。したがって、PCか
ら必要なデータを取り出し、保存するUSBメモリのようなもの
であるといっているのです。
 お金は本来デジタル的な存在である──これは重要な指摘とい
えます。紙幣や硬貨は、お金を現実世界で使うさいの情報の入れ
物であるとすると、現代は世の中のほとんどの人がスマホのよう
な情報機器を持ち歩いています。したがって、お金のすべてをデ
ジタル的存在に戻し、その情報の入れ物をスマホにしたらどうか
──こういう考え方が出てきても不思議ではないのです。このよ
うなことを背景として、ビットコインやリブラ、そして中央銀行
が扱うデジタル人民元のようなものが出てこようとしています。
 しかし、紙幣の良いところもたくさんあります。それは「転々
流通」しやすいことです。スイカやパスモなどのデジタル通貨で
は、これができないのです。それがビットコインにおいて、ブロ
ックチェーンの技術によって、やっと実現したのです。しかし、
国の中央銀行が信用を保証するデジタル人民元のような通貨にな
ると、あらゆる通貨決済データを国に握られることになります。
デジタル人民元はだから脅威なのです。
           ──[消費税は廃止できるか/011]

≪画像および関連情報≫
 ●「デジタル人民元」に対抗するには「デジタル円」しかない
  ───────────────────────────
   中国で中央銀行が仮想通貨を発行する可能性がある。実現
  すると、その影響は全世界的なものとなる。日本で使われる
  可能性も否定できない。そうなると、通貨主権が奪われ、取
  引情報を中国に握られる危険がある。これを防ぐには、日銀
  が仮想通貨を発行するしかない。
   中国の中央銀行である人民銀行が、仮想通貨である「デジ
  タル人民元」を発行するとの報道がなされている。早ければ
  2020年の上半期に、中国国内のいずれかの地域を選んで
  そこでの利用実験が始まる可能性がある。
   フェイスブックが仮想通貨「リブラ」の発行計画を発表し
  たことによって危機感を抱いた中国の通貨当局が、開発を加
  速化したのだろう。リブラが実現すると、中国からの資本流
  出の手段に使われる危険がある。これを防ぐために、独自の
  仮想通貨を発行する必要があるのだ。
   デジタル人民元が発行されれば、その影響は甚大だ。まず
  中国国内では、すべての取引がこれによって行なわれること
  になる。中国では、すでに電子マネーによってキャッシュレ
  ス化が進展しているが、それが一段と進んで、完全なキャッ
  シュレス社会になる。ただ、仮想通貨と電子マネーは、本質
  的に違うものだ。違いの1つは、仮想通貨の場合には、その
  影響が中国国内にとどまらず、広く全世界に及ぶことだ。電
  子マネーは国境を越えて利用することが難しい。しかし、仮
  想通貨であれば、ビットコインに見られるように、国籍はそ
  もそも存在しない。原理的には、世界のどこでも使える。
                  https://bit.ly/2uSOQWS
  ───────────────────────────

デジタル人民元.jpg
デジタル人民元
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2020年01月22日

●「38年間のデータが示す日本の姿」(EJ第5171号)

 添付ファイルのグラフは、1980年〜2018年までの38
年間の次の4つのファクターの推移を示したものです。既出の大
西つねき氏の本に出ていたものです。グラフの作成者は、大西つ
ねき氏自身です。
─────────────────────────────
         1.マネーストックM2
         2.      GDP
         3. 国内銀行貸出残高
         4.     国債残高
─────────────────────────────
 既に説明しているように、「マネーストックM2」は、日本中
の現金・預貯金のうち、郵便貯金(ゆうちょ銀行)や農協に預け
た分を差し引いた金額のことをいいます。本当は、マネーストッ
クM3と比較すべきですが、38年間となると、データの継続性
の関係上、M2を使うことになります。
 添付ファイルを見てください。バブル崩壊によって、1991
年から1993年まで信用収縮が起きています。1のM2は一貫
して右肩上がりで上昇しています。これは、お金の量がどんどん
増えていることを示しています。しかし、信用収縮時期には一時
的に上昇はストップしています。
 信用収縮によって、民間銀行の貸出が、500兆円から400
兆円ラインまで、100兆円下がっています。3がそうです。つ
まり、銀行がお金を貸さなくなったというわけです。
 その理由は、4のGDPの横ばいにあります。経済が信用収縮
以降、成長せず、約25年間ずって横ばいだからです。経済成長
がないと、銀行は貸し出しを増やすことはできないのです。
 このように、銀行が貸し出しを増やせないとなると、誰かが借
金を増やす必要が出てきます。それを示しているのが2の国債残
高の増加です。つまり、政府が借金を増やし、お金を発行しつづ
けたのです。これが1のマネーストックM2を増加させているこ
とがグラフから読み取れます。これは、現在のお金の発行の仕組
みがそうさせているのです。
 このロジックが正しいとすると、これを解決するカギは経済が
成長すること、すなわち、GDPが伸びることです。GDPが成
長すると、銀行は貸し出しを増やし、それによってお金が増えて
も、それに見合う実体価値が生産され、消費されるので、借り手
は問題なくお金を返済できるので、銀行はさらに資金を貸し出せ
る好循環を生むことになります。かつての高度成長期はこの循環
うまく行われ、日本は米国に次ぐ世界第2位の経済大国になった
のです。
 しかし、バブル崩壊による信用収縮によって経済成長が止まり
それが長期化すると、事態は一変します。これについて、大西つ
ねき氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本の場合、バブルの発生と崩壊を契機に経済成長が止まりま
した。バブル崩壊後に最初に起きたことは信用収縮です。信用収
縮とは信用創造の逆、つまり、信用(クレジット)が破綻して借
金が減り、同時にお金が減ることを言います。
 例えば、不良債権を処理したり、貸し剥がしという形で債権を
回収したり、貸し渋ったりしてお金を貸さなくなれば、借金が減
り、お金も減ることになります。したがって、このバブルの発生
と崩壊をきっかけに、順調にお金と借金を増やし続けた時代は終
わりを告げました。(中略)
 まず、銀行がお金を貸さなくなりました。バブル時期のピーク
で、500兆円ぐらいだった民間銀行の貸出残高は、バブル崩壊
後に急速に減り、一時は約400兆円までほぼ100兆円も減り
ました。つまり、その分のお金が減ったということです。
 ただしこれは一時的にはあり得る話です。銀行が膨らませすぎ
たお金と借金を縮小する。日銀も例えば、金利を上げるなどして
それを促すことがあります。バフルの時は正に、総量規制という
形で、その総額を抑えようとして、それがバブル崩壊のきっかけ
になりました。しかし、絶対にあり得ないのは、それがずっと続
くことです。          ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
─────────────────────────────
 このように、添付ファイルのグラフが意味していることは重大
です。そして、大西つねき氏は次のようにいうのです。
─────────────────────────────
 お金の発行は、誰かの借金として行われる。すなわち、「お金
の発行=借金の発行」である。       ──大西つねき氏
─────────────────────────────
 「お金の発行=借金の発行」の意味を理解するには、信用収縮
の逆の「信用創造」を理解する必要があります。「信用創造」に
ついては、前回のテーマで既に説明していますが、明日のEJで
は、さらに具体的なかたちで日本の現況について説明します。
 ここまでの検討で、この仕組みがうまくいくには、経済が順調
に成長する必要があります。しかし、日本の場合、バブル崩壊に
よるデフレ経済で、経済成長が実に27年もの間、止まったまま
です。これをどうするのかについて、その元凶のひとつとされる
消費税の廃止が果して可能かどうかを今回のテーマで追及しよう
としています。消費税の廃止によって、経済成長が目下回復しつ
つあるマレーシアのケースもあるからです。
 しかし、大西つねき氏は、現在の「お金の発行=借金の発行」
であるとする仕組みそのものに問題があると指摘し、その具体的
な解決プランを提案しています。そのプランは、なかなか興味深
いものですが、それを理解するには、いくつかの前提知識が必要
になるので、このところ大西氏の所説をご紹介しているのです。
大西氏は金融のプロであるだけあって、精緻にしてユニークな財
政論を展開しています。検討する価値はあると思います。
           ──[消費税は廃止できるか/012]

≪画像および関連情報≫
 ●「バブルの発生と崩壊の仕組み/信用創造と信用収縮」
  ───────────────────────────
   バブルとは、その名の通り『泡』です。その泡は、信用創
  造と信用収縮を繰り返しながら、10年から20年のサイク
  ルで世界中に起こっては消えていきます。そこで今回は、信
  用創造と信用収縮で起こるバブルの発生と崩壊の仕組みを考
  えていきます。
   金融リスク(危機)の原因は銀行にある?銀行がお金を稼
  ぐ仕組みでもお伝えした通り、銀行は私達から預金としてお
  金を集め、その預金の一部を日本銀行(中央銀行)に預けれ
  ば、残りの資金を貸し付けに充てることができます。銀行は
  ビジネスを成り立たせるために、リスクが低ければ融資を繰
  り返し続け、その融資したお金から新たに預金が生まれます
  ので、銀行の預金残高はどんどん増えていきます。
   これが、信用創造と呼ばれる現象で、社会全体の中でお金
  の量を増やし、経済を発展させていきます。例えば、家を買
  うのに銀行からお金を借りた場合、現資産は住宅ローンの頭
  金だけで、残りは信用を担保にお金が膨れ上がります。そし
  て、その住宅ローン債権が市場で売買され、「住宅ローン債
  権担保証券」という金融商品として現資産から膨れ上がった
  実体のないお金がどんどん生まれていくのです。住宅ローン
  による信用創造の典型的な例は、民間金融機関と住宅金融支
  援機講が提携して販売している、長期固定金利ローン『フラ
  ット35』なのです。      https://bit.ly/360q9os
  ───────────────────────────
 ●グラフ出典/──大西つねき著の前掲書より

マネーストックとGDP、借金の推移.jpg
マネーストックとGDP、借金の推移
 
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2020年01月23日

●「お金は誰かの借金として作られる」(EJ第5172号)

 「日銀がお札を刷って世の中に流通するお金の量を増やす」と
よくいいます。この表現は多くの誤解があります。日銀はお札を
刷っていないし、世の中にばら撒いてもいません。それに、この
ようにとらえてしまうと、金融の仕組みを間違って理解してしま
う恐れがあります。
 大西つねき氏がいうように、世の中のお金は「誰かの借金とし
て発行」されます。もっと正確にいうと、世の中のお金の増減は
借金の増減であるといえます。中央銀行の役割は、それをコント
ロールすることです。その目的は「物価の安定」です。
 世の中のお金の量を増やすには、世の中の借金の量を増やせば
よいのです。それを実施するのは民間銀行です。そのため日銀は
民間銀行への貸出金利を上下させてコントロールします。金利を
下げれば、お金を借りようとする企業や人が増えますし、上げれ
ばその逆のことが起きます。
 しかし、日本の場合、デフレが深化・長期化して、金利がほぼ
ゼロになっており、その上下の調節が効かなくなっています。金
利をゼロ以下にはできないからです。そこで日銀は銀行が貸し出
しを増やしたくなる政策を実行するのです。それが「量的緩和」
という政策です。デフレになると、銀行は企業や個人にお金を貸
さなくなります。返済不能になって焦げ付きを出し、経営状況を
悪化させたくないからです。そして、国債を大量に購入して、国
債で金利を稼ごうとします。
 そこで日銀は、銀行が大量に保有する国債を強制的に買い上げ
その代金を、銀行が日銀に開設している当座預金口座に振り込み
ます。中央銀行は「銀行の銀行」であり、民間銀行に対して、そ
ういう強大な権限を持っているのです。
 日銀が、銀行の保有する国債を買い上げ、その代金をその銀行
の日銀当座預金口座に振り込むと、何が起きるでしょうか。当座
預金には、基本的には金利は付かないので、金利の付く国債を日
銀に強制的に買い取られ、その代金を金利の付かない当座預金に
入金されることを意味します。つまり、日銀としては、銀行は
金利の分だけ稼ぎが減るので、民間への貸し出しを増やすだろう
という期待しているのです。
 しかし、それでも大きな効果が見られないので、日銀は、20
16年2月16日から、各銀行の当座預金残高のごく一部に「マ
イナス0・1%」の金利を付けるマイナス金利政策をはじめたの
です。それまでは、当座預金にお金を寝かしておいても金利が付
かない状態だったものが、マイナス金利政策になると、マイナス
金利の該当部分は、0・1%損をすることになります。そうすれ
ば、当然銀行は民間への貸し出しを増やすに違いないとする金融
政策です。この政策は現在も続けられていますが、その効果は今
ひとつという状況です。
 この日銀のマイナス金利政策について、日本のエコノミストで
日本銀行政策委員会審議委員、元野村證券金融経済研究所経済調
査部長の木内登英氏は、自身のコラムにおいて、次のように論評
しています。
─────────────────────────────
 この異例の(マイナス)政策が、日本銀行の2%の物価目標達
成の助けとはならなかったのは、今や誰の目にも明らかであるが
それだけでなく、経済にプラスの効果をもたらした証拠も見いだ
せない。導入直後には住宅ローンを増加させた銀行も見られたが
これは貸出金利引き下げを通じた他行からの肩代わりによるとこ
ろが大きく、金利低下で新規借入れ需要が高まった訳ではない。
 むしろ、マイナス金利政策の導入は、金融機関の間で金利引下
げ競争を煽るきっかけとなり、その収益環境を著しく悪化させて
しまった。それは、金融機関の金融仲介機能を低下させ、適切な
資源配分を妨げるなどして、長い目で見て経済活動に深刻な悪影
響を与える可能性がある。この点から、マイナス金利政策が経済
活動に与えるマイナス面は明らかだ。 https://bit.ly/38qjghL ─────────────────────────────
 これほどまでに日銀が政策を展開しても、銀行の民間への貸出
は増加していません。銀行に大量の資金は眠ったままです。これ
は既に述べたように、GDPが成長しないからです。これは、日
銀の責任ではなく、政府の経済の舵取りに問題があることの証拠
です。かぎを握るのは、あくまで経済の成長なのです。
 以上でわかるように、日銀はお金を作って(印刷して)、世の
中にばら撒いているのではなく、金利を調節したり、民間銀行の
保有する国債を買い取ったり、その一部の金利をマイナスにした
りしています。通貨の発行権を握っているのは日銀ではなく、政
府です。日銀は政府の子会社であり、銀行の国債の買い取りも、
かたちのうえでは政府が日銀に指示してやらせているのです。実
際は、日銀の判断で実施しているのですが、あくまでかたちのう
えでのことです。
 ここで、「通貨はどのようにして増やせるのか」の話に戻りま
す。実際にお金を増やしているのは銀行です。銀行が企業や個人
に貸し付けを行うと、「信用創造」というシステムによって、世
の中に流通するお金の量が増加するのです。この「信用構造」に
ついては、前回テーマの12月3日のEJ第5141号で解説し
ていますので、参照してください。  https://bit.ly/2TGWNZG
 この「誰かが100万円を銀行に預ける」からはじまる話です
が、分かりやすそうで、意外によくわからないものです。それは
理屈としてはその通りなのですが、あまり現実的な話ではないか
らです。よく難しい話をするときに、何かに例えて話をする人が
多いですが、このやり方では、一応わかった気になるものの、本
当の意味で理解しているとはいえないからです。
 かえって少し面倒でも、ある特定年度の実際の予算案の数字を
使って、お金の動きをていねいに追った方が、理解しやすいもの
です。そこで明日のEJで、現実にすこぶる近い政府支出とお金
の動きについて詳しく説明をすることにします。
           ──[消費税は廃止できるか/013]

≪画像および関連情報≫
 ●国が持つ絶対的な権力「通貨発行権」vs「仮想通貨」
  ───────────────────────────
   国家は様々な権力を保有しています。例えば、国家運営の
  財源確保のために国民から税金を徴収する課税権、治安を守
  るために犯罪を取り締まる警察権など様々な権力が存在しま
  すが、その中でも近代国家において特に重要な権力が通貨発
  行権です。通貨発行権とは、名前の通り通貨を発行する権利
  の事で、円やドル、ユーロなどの貨幣を発行して市場に供給
  する事ができる権利の事を指します。
   現代の経済において、通貨発行権はとても重要で、信用が
  無い国が過度に通過を発行してしまえばその通貨の相対的な
  価値は下がりますし、欲しいという人が多いのに通貨の量を
  国が過度に制限していればその通貨の価値は上がります。こ
  の通貨の価値が経済に与える影響は大きく、日本でも円安に
  よって輸出業産業の競争力が高まって景気が良くなったり、
  円高によって輸入製品の値段が安くなったりと私たちの生活
  に国によって発行された通貨の量は密接に関連しています。
   このように、通貨の発行によってその価値をコントロール
  するのは、その国の専属的な権利でしたが一方で最近誕生し
  た仮想通貨は各国が通貨発行権によってコントロールできな
  いお金です。すなわち、皆がビットコインで取引をすれば通
  貨の供給をコントロールする事によって景気をコントロール
  する事ができなくなるのです。  https://bit.ly/37eLkV0
  ───────────────────────────

「マイナス金利とは何か」.jpg
 
>「マイナス金利とは何か」>
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2020年01月24日

●「誰かが借金しないとお金は増えぬ」(EJ第5173号)

 大西つねき氏のいう「お金の発行=借金の発行」という意味を
具体的に考えてみることにします。少しややこしい話になります
が、添付ファイルの図を見ながら、読んでください。この図は、
大西氏の本に出ていたものです。図は、平成29年度予算の執行
と、国債残高、マネーストックの関係をあらわしています。
 図の中央をご覧ください。平成29年度(2017年)の予算
案の数字です。政府の収入は、税収が58兆円、その他の収入は
5兆円、合計は63兆円です。これに対して政府支出が74兆円
ですから、基礎収支は11兆円のマイナスになります。この11
兆円に加えて、国債の利息が9兆円、国債の償還にも23兆円の
公債費がかかるので、合計34兆円の赤字になります。
 ない袖は振れないので、この34兆円は借金、すなわち国債で
賄うことになります。図の右側をご覧ください。国債の残高は、
平成28年度(2016年)末の時点で、845兆円になってい
ます。不足分の34兆円のうち、国債償還には14兆円必要です
が、これは借り換えて支払うので、プラスマイナスゼロで、残高
は変わりません。その結果、国債残高は20兆円増加し、865
兆円、当初の845兆円より20兆円増加します。
─────────────────────────────
     865兆円 − 845兆円 = 20兆円
─────────────────────────────
 この20兆円の政府の借金が、お金の発行ということになりま
す。「政府の借金=お金の発行」です。このことを、図の左側を
使って証明します。
 図の左側は、マネーストック、平成30年(2018年)1月
のM2の速報値です。M2というのは、ゆうちょ銀行や農協に預
けた分を除く預貯金と現金の総額です。それが990兆円です。
つまり、民間のお金です。この990兆円は、政府が予算を執行
することによって増減します。ひとつずつ見ていきます。
 税収の58兆円とその他収入の5兆円、計63兆円はM2から
減ることになります。その他収入は、国有地の売却益や賃貸収入
などであり、M2から支払われます。この時点で、M2は、次の
ように927兆円に減ります。
─────────────────────────────
  990兆円 − 58兆円 − 5兆円 = 927兆円
─────────────────────────────
 これに対して政府支出の74兆円は、政府が民間に支払う性格
のものです。政府事業の事業費や公務員の給料、それから社会保
障費も民間に還流します。それから9兆円の国債の利息は民間に
属するものであり、差し引きすると、次のように、1010兆円
になります。
─────────────────────────────
  (990兆円−58兆円−5兆円+74兆円)+9兆円
                    =1010兆円
─────────────────────────────
 ここで重要なことは、マネーストックは990兆円だったもの
が、1010兆円に20兆円増えていることです。これは、政府
の借金の純増分である20兆円と一致します。
─────────────────────────────
    1010兆円 − 990兆円 = 20兆円
─────────────────────────────
 実はこれは「信用創造」と同じです。これについて、大西つね
き氏は、次のようにり述べています。
─────────────────────────────
 政府が借金をして税収より多くお金を使うことにより、その赤
字分が民間の預金(マネーストック)を増やすということです。
つまり、政府が借金でお金を発行し、それを政府支出を通じて世
の中に回しているから、政府の借金とお金は同時に同額増える。
だから「政府の借金=お金の発行」になるのです。
 実はこれは、銀行が民間に対してやっている信用創造と本質的
に同じです。借り手が民間から政府に変わっただけです。銀行が
誰かにお金を貸しても皆さんの預金が減らないように、銀行が政
府の国債を買っても皆さんの預金は減りません。が、政府はその
分のお金を手にし、それを使って世の中に回せば、その分、民間
の預金が増えることになります。こうして、政府の借金とお金が
同時進行で増えてきた。だから皆さんが貸した覚えがなくても、
国民が政府に900兆円近くも貸したことになっているのです。
国民のお金を貸したのではなく、政府の借金が国民のお金になっ
ているからです。        ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
─────────────────────────────
 「借金」というのはとくに日本では負のイメージがあります。
借金をすることは仕方がないとしても、返済できなくなることを
何よりもの屈辱と感ずる国民性があります。日本銀行券(五千円
券)の肖像にもなった教育者・新渡戸稲造は、著書「武士道」に
おいて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 「恩借の金子(きんす)御返済相怠り候節は衆人の前にてお笑
いなされ候とも不苦候(くるしからず)」   ──新渡戸稲造
─────────────────────────────
 そういう日本人が、税収の倍の予算を組んだり、「1000兆
円を超える国の借金」という話を聞くと、非常にショックを受け
る人が多いのです。「借金を減らすべきだ」ち考える人が多いの
です。財務省はそういう日本人の特性を利用して、税金を上げる
ことを容認するムードを作ろうとしています。
 しかし、世の中に流通するお金の量を増やすには、誰かが借金
をしないとお金が作れない仕組みになっているのです。もし、多
くの国民が借金の返済を急ぐようになると、お金の量が減って、
世の中の景気は一層景気が悪くなってしまうのです。
           ──[消費税は廃止できるか/014]

≪画像および関連情報≫
 ●麻生太郎氏による「日本の借金」の解説
  ───────────────────────────
   マスコミが世の中へ流し、多くの人が信じている間違った
  話が一つあると思います。それは日本という国が破産するっ
  て話。これは簿記っていうものの基本がわかってない人が、
  しゃべって、わかってない人が書いて、わかってない人が読
  んでいるから、いよいよ話がわからなくなっているんだと思
  います。今からわかりやすく例を説明するから、よーく聞い
  といてくださいね。
   帳簿っていうのを見れば、まず借り方と貸し方と、二つが
  あるでしょ、簡単なこと言えば。今お金を借りているのは、
  みなさんじゃありませんからね。お金を借りているのは、政
  府です。お金を100借りていれば、必ず、100貸してい
  る人がいないとおかしい。帳簿って言うのは左と右が必ず揃
  うことになってますから。
   100借りてる政府がいれば、100貸している誰かがい
  る。誰が貸しているんです?そうです、国民が貸しているん
  だね。ところが新聞を見てごらん、「子どもや孫に至るまで
  一人700万円の借金」・・・違うでしょう。700万円の
  貸付金が起きているんですよ、あれは。貸しているのはみな
  さん。「いや俺、国債なんか買ってないよ」と言われるかも
  しれませんが、みなさんはお金を銀行に預けておられる。銀
  行にとって預金は借金ですから、帳簿の上では借金ですから
  ね。だからその借金を誰かに貸して、その"さや"を稼がない
  と金貸しという商売は成り立ちません。
                  https://bit.ly/2sMAaIe
  ───────────────────────────

図の出典/大西つねき著の前掲書より

政府支出とマネーストック.jpg
 
政府支出とマネーストック
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2020年01月27日

●「バランスシート不況と関係がある」(EJ第5174号)

 景気を良くするには、世の中に大量のお金を流通させることが
必要です。それには、基本的には、銀行が資金の貸し出しを積極
化させるしかないのです。なぜなら、お金は誰かの借金として発
行されるからです。日銀は資金を貸すよう銀行に促すことはでき
ますが、銀行が動かないと世の中にお金は流通しないのです。
 現在、日銀の行っている量的緩和というのは、銀行の保有する
国債を強制的に買い取って、その代金を銀行が日銀に対して持つ
日銀当座預金に積み上げることをいいます。当座預金には基本的
には利息は付きません。
 この場合、銀行としては国債で持っていれば、わずかでも利息
が付きますが、当座預金に積み上げられてしまうと、日銀は現在
マイナス金利政策を実行しているので、利息は付かないし、金利
がマイナスになってしまうこともあります。そうすれば、銀行は
貸し出しを増やすだろうと考えたわけです。
 しかし、それでも銀行は、企業への貸し出しを増やそうとはし
ないし、銀行として資金を貸し出すことが可能な企業、つまり、
銀行として一番借りて欲しい企業は、バランスシートの修復に専
念し、銀行から資金を借りようとはしないのです。銀行が貸し出
しを増やさないのは、デフレによって、GDPの成長が停滞して
いるからです。
 実は、この状況が景気には最悪なのです。銀行が貸し出しを増
やさず、企業がバランスシートを良くするため、銀行から資金を
借りて積極的に投資せず、返済に専心すると、世の中のお金はど
んどん銀行に戻り、消えていきます。そうすると、世の中のお金
は減る一方になって、流通するお金の量は減っていきます。経済
のこの状況を、著名な経済アナリストで、人気エコノミストのリ
チャード・クー氏は「バランスシート不況」と呼んだのです。
 添付ファイルのグラフをご覧ください。これは日本経済を「家
計」「企業」「政府」「海外」の4つの主要部門に分け、それら
の部門のお金の動きを見たものです。
 このグラフで注目すべきは、太い実線の非金融法人企業(普通
の企業)です。これらの企業は、1990年には、年間GDP比
マイナス10%、今の金額で約50兆円にあたるお金を銀行から
借りて、さまざまな分野の事業に投資し、景気を支えてきていた
のです。それだけ資金需要があったわけです。
 しかし、消費税が5%に引き上げられた1998年以降、企業
の行動はゼロよりも上のプラスに位置しています。これは、企業
が資金を銀行に返済していることを意味します。すなわち、企業
は、資本市場や金融機関に対し、資金の純供給者になってしまっ
ているのです。
 数値で見ると、1990年から2001年までの間に、彼らは
GDP比のマイナス10%からプラス4%への資金の純借入者か
ら純返済者へ変換したのです。これは、10年前に比べてGDP
比で14%、約70兆円の需要が失われたことを意味します。こ
れだけの需要が失われれば、どのような経済でも不況に陥るのは
当たり前のことです。リチャード・クー氏は、このバランスシー
ト不況について、次のように述べています。まさに大西つねき氏
の指摘と同じです。
─────────────────────────────
 一国の経済というのは、家計部門が貯蓄した資金を企業部門が
借りて使うことで回っている。ところが企業部門がバランスシー
トの修復のため借り入れをやめ、借金返済に回ると、家計部門が
貯蓄した資金は借りて使う人がいなくなり、そのまま銀行に滞留
してしまう。しかも企業部門も全体で見て借金返済の方が借り入
れより大きいとなると、この純借金返済額も誰も借りる人がいな
いことになり、銀行に滞留してしまう。ということは、現状では
家計の貯蓄総額と企業の借金返済の合計が「使われぬカネ」とな
り、経済全体のデフレギャップとなってしまうのである。この状
況を放置しておくと、毎年毎年、家計の貯蓄と企業の借金返済分
だけ総需要が失われ、経済は縮んでいくことになる。
           ──リチャード・クー著/楡井浩一=訳
   『 デフレとバランスシート不況の経済学』/徳間書店刊
─────────────────────────────
 問題は、どうして企業は、そういう行動をとったのかというこ
とです。それは、1990年のバブルの崩壊と資産価値の暴落が
原因です。株価はピーク時の数分の1になり、絶対に下がらない
と信じられていた土地の価格が、6大都市の商業地で86%もダ
ウンしたのです。
 70年〜80年代というと、日本企業は莫大な資金を借り入れ
さまざまな事業に投資して、借金がまだたくさん残っているのに
その借金に見合うはずの資産の価値が突然暴落してしまい、バラ
ンスシートが傷んでしまったのです。まさに企業は債務超過の危
機に瀕したのです。しかし、多くの場合、それらの企業は本業は
健在で、キャッシュフローはそこそこあったのです。
 こういう企業がやるべき最優先事項は、できるかぎり早急に借
金を返済し、一日も早く、企業を健全な財政基盤上に戻すことに
あります。このような企業は、本業の経営において、極力コスト
削減に努め、その浮いた資金を借金返済に充てる──こういう行
動を繰り返すはずです。これを多くの企業が一斉に、同時並行し
て、やったことになります。その結果、何が起こったのでしょう
か。リチャード・クー氏は、次のようないっています。
─────────────────────────────
 個々の企業は正しく責任ある行動をとっているにもかかわらず
みなが同時に債務の最小化を目指すことで、景気が悪循環に陥り
どんどん悪くなっていくという事態は十分に起こりうる。このよ
うな状況を、経済学では「合成の誤謬」と言うが、これがまさに
今の日本で起こっていることなのである。
     ──リチャード・クー著/楡井浩一=訳の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/015]

≪画像および関連情報≫
 ●バランスシート不況からの 脱却と量的緩和の罠
  ───────────────────────────
   日本では過去24年間、欧米では過去6年間、経済学の教
  科書には書かれていない世界をわれわれは生きてきました。
  私はこの世界を、「バランスシート不況」と呼んでいます。
  教科書と現実はどう違ったのでしょうか。教科書的な世界で
  はマネタリーベース(中央銀行が供給する通貨供給量)とマ
  ネーサプライ(民間が保有する通貨残高)、さらに民間向け
  信用(民間の借入金)の3つの金融指標は、通常は同じよう
  に動くはずです。仮に中央銀行が流動性を新たに10%供給
  すれば、最終的にマネーサプライと民間向け信用も10%ず
  つ増えるというのが、教科書的な常識です。事実、リーマン
  ショック以前は、3つの指標の関係はそうしたものでした。
   ところが、リーマンショック後にはその関係に変化が見受
  けられます。アメリカを例にとると2008年に量的緩和が
  始まり、QE1、QE2、QE3と続きました。リーマンシ
  ョック時点のマネタリーベースを100とすると今は450
  と、4・5倍まで流動性の供給が行われたわけです。
   ところがこの間、マネーサプライは、100から149に
  増えたにすぎません。さらに重要なのは、民間向け信用の数
  値ですが、これは107への増加にとどまっています。つま
  り、この6年間に民間向け信用は、わずか7%しか増えてい
  ないということになります。年率1%強は、ほとんど増えて
  いないのと同義です。      https://bit.ly/37sR1yL
  ───────────────────────────

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「1990年代以降の企業行動の激変」
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2020年01月28日

●「政府の借金を税金を返すことの愚」(EJ第5175号)

 バランスシート不況に話が及んだので、もう少しこの話を続け
ることにします。バランスシート不況というのは、多くの銀行が
守りの姿勢に入って、貸し出しをせず、ひたすらバランスシート
の修復に力を入れることです。これによって何が起きるでしょう
か。消費(支出)という観点から考えていきます。
 1000円の所得のある人がいます。通常このうち900円を
自分で使い、100円を貯蓄していたとします。そうすると、消
費した900円は誰かの所得になり、残りの100円は銀行をは
じめとする金融機関によって貸し出され、そのお金を借りた人に
よって消費されます。この貸し出しがスムーズに進むことは、借
金をする人が増えることを意味します。
 そうすると、900円プラス100円の支出が行われたことに
なるので、経済は順調に回っていきます。もし金融機関が100
円すべてを貸せない場合は、金利を下げると、通常、借り手は必
ずあらわれるものです。
 ところがバランスシート不況下では、1000円の所得のうち
900円は消費されても、銀行に貯蓄した100円は、借り手が
見つからず、ストックされてしまうのです。企業が借金の返済に
力を入れているからです。もちろん金利は下げて、ゼロ金利に達
しているのですが、それでも借り手はあらわれないのです。
 そうすると、経済全体としては、900円しか需要は発生しな
かったことになります。ある人の支出は別の人の所得ですから、
この場合、経済全体としては、規模が、当初の1000円から、
900円に縮小してしまうことになります。
 そうすると、家計は900円の所得のうち、10%の90円を
貯蓄して、810円を使うことになります。経済全体が縮小する
と、資産価値も当然下落します。そうすると、銀行はますます貸
せなくなり、バランシートの修復を必死にはじめることになりま
す。これが行き着くところまで行くと、どうなるかについて、リ
チャード・クー氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 1000円の所得が500円まで落ちてしまったとしよう。そ
こまで所得が落ちると、所得が1000円あるという前提で取り
決めていた家賃や生活費だけで人々は精一杯で、全く貯蓄ができ
なくなる。つまり、この人は生活のためだけに500円の所得を
全額使うことになるが、その結果、次の人の所得も同じく500
円となる。この500円を受けた次の人も全額使わないと生活を
維持できないとすればその次の人の所得も再び500円となる。
つまり、民間部門(家計と企業)が一銭も貯蓄できないほど貧乏
になったところで、経済は新しい均衡に達することになる。つま
り、貯蓄されてはいるが投資されないという「所得の漏れ」が全
くなくなると、経済は安定を取り戻す。そしてこの500円の世
界が、世に言われる「大恐慌」なのである。
           ──リチャード・クー著/楡井浩一=訳
   『 デフレとバランスシート不況の経済学』/徳間書店刊
─────────────────────────────
 どうしてこんなことが起きるのでしょうか。繰り返し述べてい
るように、銀行が貸し出しを増やせないのは、根本的には経済が
成長していないことが原因であると思います。
 2020年に入っていますが、この年に安倍首相はアベノミク
スの総決算として、「名目GDPを600兆円にする」といって
いたのですが、安倍首相は通常国会の演説ではまったく触れてい
ません。どうなっているのでしょうか。この首相は、うまくいっ
たときは大々的に宣伝しますが、自分にとって都合の悪いことは
同じ答弁を繰り返して逃げるのが得意です。これによって多くの
ことがうやむやにされています。許し難いことです。
 財務省の最大の間違いは金科玉条としている財政均衡論です。
そして、政府の借金を税金で返そうとしていることです。これに
ついて、大西つねき氏の所論をご紹介します。添付ファイルを見
てください。これは、1月26日のEJ第5173号の添付ファ
イル「政府支出とマネーストック」をベースとしています。
 中央に注目してください。政府の借金を返すために、税金を上
げて税収をほぼ倍増の100兆円集める一方で、政府支出を24
兆円削って、50兆円にしたとします。超緊縮予算です。そうす
ると、マネーストックに何が起きるでしょうか。
 マネーストック(M2)は、税金を徴収した時点で100兆円
減り、その他収入の5兆円も徴収するので、計105兆円減りま
す。そこから政府支出の50兆円が戻り、利息の9兆円も戻りま
すが、差し引きで、マネーストックは46兆円も減少します。
 しかし、財政は、基礎収支が、税収・その他55兆円、基礎支
出が55兆円で黒字化し、国債残高は次のように46兆円削減っ
て、799兆円になります。
─────────────────────────────
     845兆円 − 46兆円 = 799兆円
─────────────────────────────
 財務省は、自分の庭先をきれいにして気持ちがいいかしれませ
んが、マネーストックが45兆円も減ると、経済は大変なことに
なります。そもそも政府の借金を税金で返すなどということが無
謀なのです。これを可能にするには、消えてしまう46兆円以上
を銀行が民間への貸し出しを増やすことですが、これが不可能な
ことは、ここまで述べてきたことで明らかです。大西つねき氏は
この問題の解決策について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 この問題を解決する方法はたった一つだけ。それは、の問題の
本当の原因である、誰かが借金しないとお金が発行されない、全
く間違ったお金の発行の仕組みを根本的に変えることなのです。
                ──大西つねき著/白順社刊
 『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/016]

≪画像および関連情報≫
 ●政府が“本当に”借金を返すとどうなるか
  ───────────────────────────
   政府が借金を返す方法は、税金を徴収して返すか借り換え
  るかのどちらかです。この他に、政府が政府紙幣や一兆円硬
  貨などを発行して返すことも可能ではありますが、政治的に
  実現は難しそうです。
   借り換えについては、返済を先延ばしにしているのと同じ
  ことであり、借金を“本当に”返していることにはなりませ
  んよね。結局、政府が“本当に”借金を返すには、税金を徴
  収して返すしかないわけです。
   今回の記事では、政府が税金を徴収して“本当に”借金を
  返すと何が起きるのかを、グリーンマネーのモデルで考えて
  みることにします。国債を持っているのは公衆(企業や家計
  など)、銀行、日銀のいずれかですから、この3つに分けて
  考えましょう。
   公衆が持っている国債を、政府が税金を徴収して償還(返
  済)すると何が起きるでしょうか。公衆が持っているグリー
  ンマネーが徴税によって政府に移動し、それが再び公衆の手
  元に戻り、国債は公衆から政府に移動して消えます。グリー
  ンマネーは生まれたり消えたりしていませんから、マネース
  ティックは増減しません。そして、公衆が保有する金融資産
  としての国債が減ります。あまりいいことは無いように見え
  ますね。            https://bit.ly/3aKmnTC
  ───────────────────────────
 ●グラフの出典/──大西つねき著/白順社の前掲書より

もし政府の借金を税金で返そうとすると.jpg
もし政府の借金を税金で返そうとすると

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2020年01月29日

●「増税をめぐる官邸と財務省の攻防」(EJ第5176号)

 日本の財務省が金科玉条にしているのは財政均衡論です。これ
は要するに「政府の借金を税金で返す」という考え方であり、間
違っています。安倍内閣は、増税を懸念して2回実施を延期した
ものの、財務省に対する抵抗はそこまでで、結局、自分の任期中
に、日本経済がデフレから脱却していないにもかかわらず、2回
にわたって消費税の税率を5%倍増し、日本の貧乏化に貢献した
総理大臣として歴史に名を残すことになりそうです。
 その安倍首相の後を狙う岸田文雄政調会長の経済政策はどうな
るのでしょうか。岸田文雄氏は、2018年4月18日開催の派
閥のパーティーで、「K−WISH」なる政策骨子を発表してい
ます。「K−WISH」とは、次のことを意味しています。
─────────────────────────────
          Kind   な政治
          Warm   な経済
          Inclusive な社会
          Sustainable 土台
          Humane  な外交
─────────────────────────────
 岸田文雄政調会長の「K−WISH」について、森永卓郎氏は
次のように述べています。
─────────────────────────────
 岸田氏の政策の方向性は、一言でいうと、アベノミクスの否定
だ。政策の柱として打ち出したのが、財政再建とボトムアップ型
の政治だ。安倍政権が採ってきた積極的な金融緩和・財政出動を
基本とする経済政策を否定する。また、官邸に官僚の人事権を集
中する安倍流トップダウン政治を否定して、ボトムアップ型の政
治に戻すことを打ち出したのだ。(中略)
 岸田文雄氏の政策は、しばしば「リベラル」と言われるが、経
済面からみれば、増税路線かつ官僚支配、つまり財務省支配の完
全復活に直結する政策なのだ。これでは、到底国民の支持は得ら
れないだろう。それでも、政界が「消費税増税」の掛け声だらけ
になってしまうのは、財務省を敵に回すことが、とてつもなく恐
ろしいからなのだ。             ──森永卓郎著
   『なぜ日本だけが成長できないのか』/角川新書K241
─────────────────────────────
 私は長い間にわたって、自民党の政治家をテレビや本を通じて
ウオッチングしてきていますが、首相として財務省に対し、当初
からかなり強い姿勢で臨んでいたのは安倍首相だけです。
 安部首相は、2014年4月に消費税を5%から8%に引き上
げるさい、海外を含む大勢の学者や専門家を呼んで意見を聞き、
財務省の「影響は軽微である」とする意見を信じて、予定通り税
率を引き上げたのです。
 しかし、非常に強い反動減が起こり、好調に滑り出していたア
ベノミクスに強いブレーキをかける結果になったのです。そして
この反動減の回復には実に3年以上を要しています。情報による
と、安倍首相は「財務省に騙された」と激怒し、10%への増税
の計画は2回にわたって延期されることになります。
 2016年末になって、ある動きが起こります。これは、前回
のテーマのときにも少しふれていますが、再現します。きっかけ
は、『文藝春秋』2017年新年特別号に掲載された浜田宏一イ
エール大学名誉教授のインタビュー記事「『アベノミクス』私は
考え直した」です。
 浜田宏一教授は、内閣官房参与であり、アベノミクスの発案者
とされていますが、浜田教授は8%の増税に最後まで抵抗し続け
た人です。浜田教授は、プリンストン大学のクリストファー・シ
ムズ教授の論文を読んで、啓発されたというのです。浜田教授は
このインタビューの最後のしめくくりとして、次のように述べて
います。
─────────────────────────────
 ここまでうまく働いた金融政策(アベノミクスのこと)の手綱
を緩めることなく、減税も含めた財政政策で刺激を加えれば、ア
ベノミクスの将来は実に明るいのです。
             ──浜田宏一イエール大学名誉教授
─────────────────────────────
 そして、浜田教授は行動を起こします。安倍首相もそれに呼応
した動きをはじめます。これについて、森永卓郎氏は次のように
紹介しています。
─────────────────────────────
 浜田氏が、内閣官房参与という政府の一員でありながら、消費
税率8%への引き上げに最後まで抵抗し続けたことを考えれば、
浜田氏の言う「減税」が何を意味するかは明らかだ。そして実際
に、浜田氏は行動に出た。プリンストン大学のクリストファー・
シムズ教授を日本に呼んで、各地でシンポジウムを開いた。減税
の大合唱となったシンポジウムは、大盛況となった。そして、安
倍首相も動く気配をみせた。イギリスの金融サービス機構前長官
のアデア・ターナー氏を官邸に招き、会談を行った。ターナー氏
はヘリコプターマネーの提唱者として有名だが、日本のデフレか
らの脱却策として、減税を主張している。その人の意見に安倍首
相が耳を傾けたのだ。      ──森永卓郎著の前掲書より
─────────────────────────────
 ここで浜田教授のいう「減税」とは、「8%を5%に戻す」こ
とだったのです。なお、シムズ教授とアデア・ターナー氏につい
ては、前テーマのEJでも取り上げています。
─────────────────────────────
 ◎クリストファ・シムズ教授/https://bit.ly/2RZgqcS
  EJ第5137号「デフレ脱却のシムズ理論とは何か」
 ◎アデア・ターナー氏   /https://bit.ly/2RZgqcS
  EJ第5139号「民間銀行の信用創造こそ規制せよ」
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/017]

≪画像および関連情報≫
 ●浜田宏一内閣官房参与に「金融政策の誤り」を認めさせたが
  る困った人たち/田中秀臣氏
  ───────────────────────────
   イエール大学名誉教授で内閣官房参与の浜田宏一氏は、国
  際的にその業績を認められた偉大な研究者であり、また今日
  の日本経済の「導師」とでもいうべき地位にある人物だ。筆
  者もまた学生時代からいままでうけた学恩は計り知れない。
   ところで最近、浜田参与のインタビューを日本経済新聞が
  掲載した。この記事が予想外の反応を引き起こした。それは
  浜田参与が、従来の主張である金融緩和によるデフレ脱却を
  否定したという解釈である。これはあまりにもバカバカしい
  見方である。
   浜田参与のインタビューを素直に読めば、金融緩和でアベ
  ノミクス当初1、2年は成功していたが、その後、消費増税
  や国際情勢の不安定化で、金融緩和だけでは不十分であり、
  減税を中心とした財政政策が求められているとするものであ
  る。どこにも金融緩和の効果がないとか、いままでの日本銀
  行の政策が間違いだったなどとは微塵も言及はない。
   そもそもこのインタビューを最後まで読めば、浜田参与は
  日銀が「買うものがなければ」という条件つきで外債購入を
  すすめている。これは、金融緩和がデフレ脱却に効果が「な
  い」という人の発言ではない。効果が"ある"から外債購入も
  選択肢に入るのだ。ところが一部の論者やメディアの中では
  先ほど指摘したように、浜田参与があたかも量的緩和などの
  金融政策がデフレ脱却に失敗し、その考えを改めるという趣
  旨としてこのインタビューを解釈している。
                  https://bit.ly/311fZ6g
  ───────────────────────────

浜田宏一イエール大学名誉教授.jpg
浜田宏一イエール大学名誉教授
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2020年01月30日

●「森友学園事件は安倍内閣倒閣運動」(EJ第5177号)

 西田昌司氏という自民党の参議院議員がいます。京都選挙区の
税理士で、安倍首相の出身派閥である細田派に所属し、安倍首相
の経済指南役の一人です。西田氏は、2019年の参院選の再選
組ですが、選挙前に次の一文を毎日新聞のデジタルコラム「政治
プレミア」に寄稿しています。内容は、与党議員らしからぬ内容
で、安倍首相が3度目の消費増税の延期をしやすいようにメッセ
ージを出したのではないかといわれたものです。
─────────────────────────────
 2019年1〜3月期の国内総生産の速報値は、年率換算で、
2・1%増となった。しかしこれで「景気が良くなった」という
のは全くの解釈違いだ。「本当にバカか」と私は言いたい。数字
の中身をみると内需の最大の項目である個人消費は減っている。
民間の設備投資も減っている。輸出も減っている。実質賃金がこ
の20年間下がり、労働分配率もアベノミクスの下で減り続けて
いる。GDP速報値は、日本がデフレ下にあることを証明してい
る。ならば消費増税は凍結するしかない。消費増税を強行すれば
間違いなく経済は悪くなる。     https://bit.ly/2U0A9vp
─────────────────────────────
 このとき、安倍首相は、「すでにデフレではない」「好景気が
続いている」「賃金は増えている」と主張していたのですが、西
田昌司氏は、それらをことごとく否定しています。西田氏の指摘
はすべて真実なのです。しかし、安倍首相は、「10月1日から
消費税を10%に引き上げる」ことを公約に掲げて、参院選を勝
利しています。
 さて、昨日のEJの続きです。財務省は、浜田宏一内閣官房参
与の発言とクリストファ・シムズ教授による各地でのシンポジウ
ムの開催に神経を尖らしたのです。なぜなら、シンポジウムは、
どこでも、減税の大合唱になり、大盛況だったからです。財務省
としては、このままでは、「8%の消費税を5%に戻される」と
危機感を強めたものと思われます。そのとき財務省に飛び込んで
きたのは、安倍昭恵夫人が親密にしている大阪の幼稚園経営者が
小学校を作るため、国有地を格安で払い下げて欲しいと申し入れ
てきたという情報です。2017年春のことです。
 財務省は「この情報は使える」と考えたのではないかと森永卓
郎氏はいいます。滅多にない安倍首相と昭恵夫人のからむスキャ
ンダルであり、財務省の出方によっては、安倍政権を揺さぶるこ
とができると、財務省は考えたのです。まさか森友学園問題が財
務省による安部政権の倒閣運動であるとは、驚くべき指摘ですが
森永卓郎氏は、これについて次のように述べています。
─────────────────────────────
 普通に考えれば、財務省に国有財産を安値で叩き売る動機はな
い。しかし、森友学園の籠池前理事長の長男である佳茂氏は、メ
ディアの取材に対して、「政権にダメージを与えようと、一芝居
打った可能性」を指摘した。その見立ては、メディアからは無視
されたが、私はその可能性が高いと考えている。
 財務省の最大の関心事は消費税率の継続的引き上げだ。しかし
安倍首相は二度も消費税率の引き上げを先送りした「戦犯」だ。
しかも、安倍首相は2019年10月に予定される消費税率引き
上げも凍結する気配をみせている。財務省にとって、絶対に許せ
ない行動だったのだ。
 もちろん、財務省が政権転覆のために動いたことを立証するの
は、不可能に近い。しかし、事態は、財務省の望む方向に動いて
いった。森友学園問題の追及が強まるなかで、内閣支持率が急落
したのだ。2017年7月の毎日新聞の世論調査では、内閣支持
率は26%に急落し、「自民党総裁交代を」と答える国民が62
%に達した。                ──森永卓郎著
   『なぜ日本だけが成長できないのか』/角川新書K241
─────────────────────────────
 しかし、安倍首相は運の強い人です。内閣支持率が最低を記録
した直後、北朝鮮がミサイルを撃ちはじめたのです。これによっ
て事態は一変します。機を見るに敏な安倍首相は、2017年9
月28日の臨時国会の冒頭に「国難突破解散」と銘打ち、衆議院
を解散したのです。10月10日公示、10月22日投票の衆院
選は、与党が3分の2以上の議席を獲得する圧勝だったのです。
 しかし、財務省にとって問題は解決していないのです。財務省
は、思わぬ蒸し返しをして、政権を揺さぶってきたのです。20
18年3月2日、財務省が森友学園への固有地払い下げ契約に関
する決裁文書を書き換えた疑いがあるというスクープを朝日新聞
が報道したのです。森永卓郎氏は、これは財務省の朝日新聞への
リークではないかとしています。いずれにせよ、これだけのこと
を行いながら、財務省の逮捕者なしはあり得ないことであると、
森永氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 この事件について財務省は、本省からの指示で、近畿財務局が
行ったことだと認めている。虚偽公文書作成の自白は得られてい
るのだ。また、改竄前と改竄後の決裁文書も、大阪地検特捜部が
押さえている。物証も完璧だ。これだけ完全な証拠が揃っていな
がら、最高刑懲役10年の重大犯罪である虚偽公文書作成事件は
立件されず、財務省から1人の逮捕者も出なかった。
 虚偽公文書作成罪は作成権限を持つ者が行った場合、文書の趣
旨を大幅に変えることが必要だからだと大阪地検特捜部は、不起
訴の理由を明らかにした。国有地8億円の値引きによる背任容疑
も、違法性があったとはいえないと特捜部と判断した。そんなバ
カげた話はないと一般常識では思うのだが、法律ではそうなって
いるらしい。ただ、こうなることを、財務官僚は予測していたの
かもしれない。つまり、自分たちが罪に問われないことを知って
いて、安倍政権を揺さぶるために、あえて決裁文書の改竄を行っ
たのではないだろうか。   ────森永卓郎著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/018]

≪画像および関連情報≫
 ●財務省に隠蔽の恩返しか?安倍首相が消費増税を延期できな
  い理由/MAG2NEWS
  ───────────────────────────
   思い出してみたい。安倍首相がどれだけ財務省の隠ぺい工
  作に救われたかを。もちろん森友学園問題である。佐川元理
  財局長は、安倍首相夫妻と森友学園の小学校設立計画に関連
  する一切の文書を隠ぺい、改ざんし、国会で不誠実な答弁を
  繰り返して世間の顰蹙を買った。佐川氏個人の行動というよ
  り、財務省の総意として安倍首相を守ったといえる。
   佐川氏は論功行賞でいったん国税庁長官のポストを授かっ
  たが、ついには決裁文書の改ざんなどの責任を問われて更迭
  された。文書改ざんを押しつけられ苦悩した近畿財務局の職
  員は自殺した。その一連の財務省の不祥事と悲劇は、もとを
  ただせば、安倍首相夫妻が、教育勅語を幼稚園児に暗誦させ
  る森友学園の教育方針にほれ込み、“小学校バージョン”の
  新設に協力しようとしたことに起因する。
   その痛いところを国会で突かれた安倍首相が「私や妻がか
  かわっていたのであれば総理大臣をやめる」と言い放ったこ
  とから財務省の忖度によるウソの答弁がはじまり、文書改ざ
  んや情報の隠滅につながっていった。安倍首相が森友問題で
  麻生財務大臣を切れなかった理由は、衆参で57人の議員を
  かかえる麻生派の力を頼むところが大きいこともあるが、財
  務省内における安倍首相への反発を麻生大臣が抑え込んだこ
  とへの恩義もあったに違いない。 https://bit.ly/38LWqBn
  ───────────────────────────

西田昌司参院議員/10%への消費増税を批判.jpg
西田昌司参院議員/10%への消費増税を批判
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2020年01月31日

●「財政健全化は財政均衡化と同意義」(EJ第5178号)

 財務省は、なぜ内閣を動かしてまで、消費税の増税をしようと
するのでしょうか。それは、繰り返し述べているように、彼らは
「財政均衡論」という考え方に立っているからです。
 経済や財政の問題は、科学のように絶対的な「正解」というも
のがない分野です。したがって、財政均衡論というのは、たくさ
んある経済や財政の考え方のひとつに過ぎないといえます。むし
ろ、財政均衡論というより、「財政均衡主義」か「財政均衡化」
というべきものです。そういう考え方もあるという意味です。
 ところが、いつの頃からか、彼らは「財政均衡化」を「財政健
全化」という言葉に言い換えています。非常に巧妙です。一般国
民にとって「健全」という言葉はプラスのイメージでとらえられ
るので、財政健全化といえば良いことだと思い、この言葉を繰り
返し聞かされていると、そうしなければならないと思い込んでし
まうものです。それが、世論調査で消費税の10%引き上げにつ
いて、賛成が反対を上回るという驚くべき結果となってあらわれ
ています。国民は、完全に謀られています。
 この点を指摘したのは、京都大学レジリエンス実践ユニット特
任教授の青木泰樹氏であり、次のように述べています。
─────────────────────────────
 健全なる肉体は健康体、健全なる経済は成長を続け、国民の暮
らし向きが少しずつ良くなる状態。それでは、財政均衡がなぜ健
全なのか。現実には、デフレ継続のような不健全な経済状態が存
在するのである。その状況下では財政均衡化のための緊縮財政を
すれば、民間経済はますます不健全化してしまう。第一に目指す
すべきは国民経済の健全化ではないか。経済学の世界と異なり、
現実世界は自動的に最適な状態に至らないのである。緊縮財政派
の政策順序は完全に誤りである。個人と政府を同一視させる嘘を
ついた後に、収支の一致を健全と称する嘘を重ねる。経済学者の
罪は深い。      ──京都大学レジリエンス実践ユニット
                   特任教授の青木泰樹氏
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 財務省は、「近年の日本において、財政状況が先進国最悪であ
り、消費増税は避けられない」という前提に立って、世論形成を
してきています。とくにメディアに対しては、長年にわたって、
硬軟さまざまな圧力が加えられ、昨年の10月に実施した10%
への消費増税に関して主要メディアは次の社説を掲げています。
─────────────────────────────
 ◎2018年10月1日付、朝日新聞社説
  ・政治的な理由で、三度目の延期をすることがあってはな
   らない。
 ◎2018年9月22日付、読売新聞社説
  ・来年10月の消費増税を着実に実施し、給付の抑制と負
   担増の制度改正にも取り組まなければならない。
─────────────────────────────
 東京理科大学の田中晧介助教をはじめとする調査チームは、全
国5紙(読売、朝日、毎日、日経、産経)の論調の、定量分析を
行っていますが、その結果について、東京理科大の田中晧介氏は
次のように述べています。
─────────────────────────────
 その研究結果によれば、5紙ともに、緊縮財政を主張する画一
的な論調であったことが学術的に明らかとなった。それはつまり
いずれの新聞社も、消費増税を肯定するとともに、政府の財政支
出拡大を否定する論調に偏っており、少なくとも全国紙において
は、意見の多様性が見られなかったことを意味する。もちろん、
現代社会においては、インターネットの台頭で新聞の役割が分散
化したとはいえ、人々にとって、依然として主要な情報源である
新聞社の論調の偏りは、人々の認識に偏りを生じ、客観的な事実
に基づく適切な判断を歪めかねない。
               ──東京理科大学田中晧介助教
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 大手メディアが財務省に完全に取り込まれています。ある新聞
社の論説委員が増税反対の論陣を張っていたところ、国税庁に狙
い撃ちされ、飲食費などの伝票に虚偽の記載がないか徹底的に調
べられたそうです。完全な嫌がらせです。
 新聞記者も少しでも増税批判の記事を書くと、財務省の役人が
複数やってきて、「君の記事は間違っている」とクレームを付け
るのです。そのとき、少しでも反論すると、その後、あらゆる情
報から遮断されてしまったのです。まして、テレビなんかに出演
して、増税反対論でも話そうものになら大変なことになります。
財務省からテレビ局の上層部に圧力がかかり、確実に次の出演の
オファーはなくなります。
 現在、長期にわたってテレビのコメンテーターをやっている人
は、絶対に財務省に楯突かないと、財務省から認められている人
たちばかりです。そうなってくると、どうしても保身のために、
「長いものには巻かれろ」ということになってしまうものです。
その結果、国民から正しい情報を遮断し、国民を間違った方向へ
導いてしまうことになります。
 財務省が狙っているのは、消費税の税率を上げて、その税収増
で政府の負債の返済を行い、歳入と歳出のバランス──プライマ
リーバランスをゼロにしようとしています。いわゆる財政均衡論
であり、緊縮財政路線です。
 そんなことをすれば、デフレがますます深化して、とくに低所
得者を苦しめ、日本を亡国に追いやることになりますが、彼らは
そういうことは一切考慮に入れない血も涙もない連中なのです。
財政均衡論の問題点については、来週もとことん検討しようと考
えています。     ──[消費税は廃止できるか/019]

≪画像および関連情報≫
 ●【青木泰樹】財政均衡主義の正体
  ───────────────────────────
   財政健全化に向けてとるべきは、「先憂後楽」。
   財政制度等審議会(吉川洋会長)は、半年ごとに財務大臣
  に建議をしていますが、直近の建議の中で、財政健全化の基
  本的考え方としてこの故事を使っています。元来の意味から
  若干離れますが、「先に苦労・苦難を体験すれば、後で楽に
  なれる」と言いたいのでしょう。
   もちろん、その含意は「少しでも早く増税および歳出削減
  を断行し、財政健全化を図れば将来不安は払しょくされる」
  ということです。恒例行事のように、毎回毎回、2020年
  度までの基礎的収支(PB)バランスの達成、すなわちプラ
  イマリー赤字の解消を唱え続けています。
   さらに今回はハードルを上げて、PBに利払い費も加えた
  財政収支のバランスを目標にすべしとの提言も加えておりま
  す。まさに財務省の意を忖度した建議と言えましょう。財制
  審を主導するのは著名な経済学者たちですが、彼らはなぜこ
  れほどまでに財政均衡にこだわるのでしょうか。
   今回は、財政均衡の経済学的論拠について考えます。結論
  から言えば、彼らは主流派経済学の論理に縛られ、現実が見
  えなくなっているということです。もしくは意図的に見よう
  としないのかもしれません。経済学者は「経済学の見地から
  すれば・・」という前置きをよく使いますが、この常套句を
  聞いたときは「現実には当てはまらないが・・」と、彼らが
  言っていると解釈するのが適切です。
                  https://bit.ly/38M4KBa
  ───────────────────────────

青木泰樹氏.jpg
青木泰樹氏

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2020年02月03日

●「日本がデフレから脱却できぬ理由」(EJ第5179号)

 日本の長期デフレの起点を1998年とすると、今年で22年
になります。「22年デフレ」です。長過ぎます。先進国でそん
な国はありません。しかも、その間、2回にわたって、消費税を
10%まで引き上げています。もっと上げようとしています。こ
れでは、デフレから脱却できるはずがありません。
 日本経済研究センターが、1月15日に発表した1月の民間エ
コノミストによる調査によると、2019年10月〜12月の実
質GDPは、前期比年率で「マイナス3・55%」ということで
成長どころか、マイナス成長です。これは、昨年10月1日の消
費増税10%引き上げの影響であることは明らかです。財界人な
どは「今回の増税の影響は軽微」などと寝言をいっている人がい
ますが、とんでもない間違いです。
 内訳をみると、そのひどさにゾッとします。まず、輸出がマイ
ナス0・12%と前回プラスだったものがマイナスに転じ、輸入
は、マイナス1・27%とマイナス幅を拡大し、企業の設備投資
はマイナス1・12%と下振れしています。個人消費はマイナス
1・73%とボロボロです。完全なデフレそのものです。どうし
て、こうなってしまうのでしょうか。なぜ、デフレのさなかに消
費税の税率を上げるのでしょうか。
 消費税を上げると、GDPの6割を占める個人消費がダメージ
を受けます。これが日本経済の成長にブレーキをかけているので
す。なぜ、過去に学ぼうとしないのでしょうか。いまやるべきこ
とは増税ではなく、減税です。日本人は、大企業は別として「減
税」という方法があることを忘れてしまっています。米国に学べ
といいたい。何しろ自民党は「大企業には減税/庶民には増税」
の政策を長い間ずっと続けてきたからです。
 それをさせているのが、財務省の財政均衡主義という考え方で
あり、それは財政法にも書いてあり、ほとんどイデオロギーに近
いものです。財政とは政府の経済行動のことですが、財政の「入
り」と「出」を均衡させることが「財政の健全化」になると勝手
に決めています。この財務省の考え方を支えているのは、テレビ
によく出演する著名な経済学者たちです。現在日本のメディアは
財務省にコントロールされているので、テレビに常時出られる経
済学者たちは、財務省の息のかかった学者ばかりです。
 これらの経済学者たちについて、既出の青木泰樹氏は、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 この世の中で「現実経済」と「経済学の世界」を混同する経済
学者ほど罪深い存在はない。経済理論は前提条件を離れては成立
しない。現在の主流派経済学である新古典派理論の後継の諸学説
は、国土、国家、国民、歴史、文化等を一切捨象した抽象的な前
提の上に成り立っている。もちろん現実経済はそうした前提と相
容れるものではない。その場合、経済論理に忠実な主流派学者の
言説は国民を惑わすばかりか、国民経済に災厄をもたらす。前世
紀末から続いた「失われた二十年」と称される日本経済の長期停
滞は、まさしく非現実的な経済論理に基づく政策が延々と実施さ
れてきた結果であり、その責はもっぱら経済学者に帰されよう。
    ──青木泰樹教授論文/「増税論に潜む経済学者の嘘/
         『家計と財政の同一視』に騙されるな」より
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 財政均衡主義の財大の問題点は、ある意味において、それがと
ても分かり易いという点にあります。国の財政を個人の家計と同
一視するからです。個人の場合、所得を超える消費を続けていれ
ば、いずれ家計が破綻することは目に見えています。この一般人
の経験則を利用し、国であっても税収を超える歳出を続けていれ
ば、いずれ破綻すると説かれると、そうかなと思ってしまうもの
です。これはレトリックであり、財務省のプロパガンダです。
 この点については、1月17日のEJ第5168号でも述べて
います。財務省は、ウェブサイトで国の財政を個人の家計に例え
て説明する動画をユーチューブで公開しています。
 その点、青木泰樹氏は、上記論文において、この点を取り上げ
鋭く批判しているので、以下にご紹介します。
─────────────────────────────
 家計と財政は同じではない。個人の寿命はたかだか百年程度で
あるが、政府の存続期間は無限と想定されるからである。新古典
派モデルは形式的に個人の生涯と政府の存続期間を同一と想定し
ているため、両者を同一視する誤りが発生するのである。政府は
永続する存在であるから、政府債務の返済方法も、個人とは異な
る。個人は所得から返済せざるを得ないが、政府は増税、借換え
日銀引き受けという三つの返済方法を適宜使えるのである。実際
政府は三つを併用している。また個人は通貨を発行できないが、
中央銀行を傘下に収める政府は通貨を自由に発行できる。それゆ
え自国通貨建て国債が償還不能になることは理論上あり得ない。
財政破綻の危険を唱える学者は、個人の破産と政府の財政破綻を
同一視するという愚を犯している。   ──青木泰樹教授論文
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 この財政均衡主義と相反するのは、ケインズ主義による財政論
です。ケインズは、国と家計とは異なるという観点に立って、短
期的な財政赤字の必要性を説いています。青木泰樹氏によると、
ケインズ主義に立脚しながらも、長期的な財政論を構築したのは
アバ・ラーナーという経済学者です。ロシア生まれですが、米国
に移住して活躍した経済学者で、生涯を通してケインズ主義経済
学を信奉し、機能的財政論を構築したことで知られています。い
わゆるリフレ派の元祖としても有名です。アバ・ラーナーは今で
いうMMTに近い考え方であるといわれます。
           ──[消費税は廃止できるか/020]

≪画像および関連情報≫
 ●財務省は国の赤字を家計の赤字にたとえるな!
  ───────────────────────────
   財務省は財政の危機的状況を訴えていますが、久留米大学
  商学部の塚崎公義教授は、財政赤字を家計の赤字にたとえる
  ことに反対しています。緊縮財政を急ぎたいと考える財務省
  は、国民に危機感を持たせたいのでしょうが、国の財政を家
  計の赤字にたとえた説明をして、国民をミスリードするのは
  問題です。
   財務省は、「我が国の一般会計を手取り月収30万円の家
  計にたとえると、毎月給料収入を上回る38万円の生活費を
  支出し、過去の借金の利息支払い分を含めて毎月18万円の
  新しい借金をしている状況です。家計の根本的な見直しをし
  なければ、子供に莫大な借金を残し、いつかは破産してしま
  うほど危険な状況です」としています(日本の財政関係資料
  平成29年4月)。
   しかし、家計の赤字と国(日本国という意味ではなく、地
  方公共団体と区別するために中央政府を国と呼んでいる)の
  赤字は全く違うものですから、両者を同一視することはでき
  ません。我が家が家計を改善するため、旅行計画を中止した
  とします。我が家の家計は改善する一方で、旅行会社の利益
  は減り、旅行会社の社員の給料は減るでしょうが、そんな赤
  の他人のことは知ったことではありません。我が家の家計が
  黒字になることが重要なのです。 http://exci.to/3b2Wfn1
  ───────────────────────────

・ジョン・メイナードケインズ.jpg
ジョン・メイナードケインズ
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2020年02月04日

●「強力な影響力を持つ高名学者の嘘」(EJ第5180号)

 昨日のEJで取り上げた、ケインズ系の経済学者、アバ・ラー
ナーの機能的財政論(functional finance)について、既出の青
木泰樹氏は次のように解説しています。
─────────────────────────────
 一言で言えば、「財政の役割は民間経済のためにある」という
民間経済を支える財政論である。そこにあるのは、民間経済の状
態が第一に重要であって、財政状態は副次的な問題にすぎないと
いう認識である。デフレによって経済停滞が続いている場合、政
府は積極的に財政を拡張して民間経済を支えるべしとの主張であ
る。ただしそれは歯止めなき財政拡張を示唆しているわけではな
い。財政拡大の限界はインフレ率が決める。インフレが高進する
ようならそれ以上の財政拡張は民間経済のために実施してはなら
ないのである。一般にインフレ率は2%程度が望ましいと言われ
ているので、そこまでは拡張可能となる。
    ──青木泰樹教授論文/「増税論に潜む経済学者の嘘/
         『家計と財政の同一視』に騙されるな」より
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 つまり、アバ・ラーナーは、政府の経済政策は、完全雇用の産
出と物価安定を実現するよう設計されるべきで、それが公的債務
を増やすか減らすかについては、気にするべきでないと主張して
いるのです。アベノミクスでは、第1の矢である大規模な金融緩
和政策を行いながら、物価目標2%を目指していたのですが、な
かなか目標の2%には到達しないでいます。アバ・ラーナーの考
え方によれば、それは、第2の矢である機動的な財政出動が足り
なかったことが原因であると思われます。それが公的債務を増や
すことになるとの躊躇いが少しでもあると、どうしても中途半端
になってしまうからです。
 昨日のEJで「22年デフレ」について言及しましたが、19
98年に生まれた子供は、現在22歳の社会人になっています。
彼らは生まれたときから繁栄を知らず、日本という国が多くの借
金を抱えた貧乏国であるとしか認識できないでいます。それに、
これまで3回にわたって消費税を引き上げて10%にしても、税
収は増えるどころか、減っているのです。
 さて、不思議な現象ですが、現在の日本では、消費増税に関し
ての国民の反発は縮小していると、藤井聡京都大学大学院教授は
慨嘆しています。それは、多額の税金を投入した財務省の執拗き
わまるプロパガンダと、昨日のEJで述べたように、それを支援
するわが国の一部のエコノミストや経済学者などの消費税につい
ての「ウソ」や「デマ」がメディア、とくにテレビでまき散らさ
れた結果です。
 2013年のことですが、安倍政権では、2014年に予定さ
れている消費税8%への増税前に、首相官邸は「消費増税・集中
点検会合」が開催されています。日本国内の消費税の増税につい
て、専門的な知識、見識を持つ60名の専門家たちを集めて会合
が行われたのです。
 このときの意見集約の結果は、条件付き賛成を含めて、実に約
86%が賛成を表明しています。その共通した意見は、次のよう
なものだったのです。
─────────────────────────────
     今回の消費税の増税の影響は軽微である。
─────────────────────────────
 しかし、結果は「軽微」どころか、景気は激しく冷え込み、ア
ベノミクスによって、上昇しつつあった景気は「腰折れ」になり
デフレは、さらに悪化したのです。京都大学大学院教授で、当時
内閣官房参与の藤井聡氏が、とくに問題があるとした3人の経済
学者の発言が以下にあります。
─────────────────────────────
◎慶応義塾大学経済学部・土居丈朗教授
 消費税率を上げても大きく景気が悪くなるということはない。
◎東京大学大学院経済学研究科・伊藤隆敏教授
 引き上げても景気の腰折れやデフレ脱却の失敗につながること
 はない。
◎東京大学大学院経済学研究科・吉川洋教授
 私は、消費税率は予定通り引き上げるべきだという意見を述べ
 た。・・・日本経済の現状は基本的には順調。昨日色々な経済
 指標も出たが、日本経済の成長プロセスはかなり底堅いとみて
 いるとの意見を述べた。
     ──藤井聡教授論文/「学者のウソが日本を滅ぼす」
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 これら3人の経済学者のなかで、東京大学大学院経済学研究科
・吉川洋教授は、日本の経済学会の重鎮(元経済学会会長)とい
われる人物ですが、安倍総理に具申した意見とは、まったく異な
る結果が生じています。とても専門家とは思えない消費増税のイ
ンパクトの読み違いですが、吉川教授らは何ら反省せず、安倍首
相が10%のへの消費増税の延期を公表した政府に対して、次の
見解を公表しています。鉄面皮とはまさにこのことです。
─────────────────────────────
 消費税引き上げは国民の安全・安心の基礎となる社会保障制度
を持続可能なものにし、財政再建の一歩となるものだった。日本
経済にとっての大きなリスクを取り除き、民需主導の持続的な経
済成長を生み出すはずだった。        ──吉川洋教授
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 彼らは反省のかけらもなく、平然と首相に対して、大ウソを述
べたのです。     ──[消費税は廃止できるか/021]

≪画像および関連情報≫
 ●【青木泰樹】100回の嘘と101回の正論
  ───────────────────────────
   いよいよ五月になりました。今後の日本経済の浮沈を左右
  する本年最大のイベント、安倍総理の消費税再増税に関する
  決断の時期が近づいてまいりました。予定通り実施か、延期
  か、凍結か(最も望ましい5%への減税は無理でしょうが)
   5月18日には、増税可否の判断材料の一つとされている
  2016年1〜3月期のGDP速報値が公表されます。あま
  り良い数字は出ないと予想されていますが、実際はどうなる
  でしょう。直近の2015年10〜12月期の実質GDPが
  前期比▲0.3%でしたから、ここでマイナスにでもなれば
  定義上はリセッション(景気後退)となります。3〜4月に
  官邸が主催した「国際金融経済分析会合」にて世界的に著名
  なクルーグマン教授やスティグリッツ教授が増税延期と財政
  出動の必要性を総理に説いたと報じられていますし、伊勢志
  摩サミットでも財政出動が主要テーマになるとのことですか
  ら、延期の可能性が高まっていると予想する向きが多いと思
  われます。
   しかし、なにぶん政治の世界ですので予断を許しません。
  政財官の増税推進派が、圧力を強めてくることも懸念されま
  す。大方の予想を覆すように「予定通り増税を実施します」
  と総理が決断すればショックは倍加するでしょうから、一気
  にデフレスパイラル突入という事態にもなりかねません(シ
  ョックに備え、そうした事態を想定しておくことも、必要で
  しょう。杞憂に終わればそれに越したことはありません)。
                  https://bit.ly/2vAUv4g
  ───────────────────────────

藤井聡教授/吉川洋教授.jpg
藤井聡教授/吉川洋教授
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2020年02月05日

●「藤井教授VS片山さつき参院議員」(EJ第5181号)

 1月16日のEJ第5167号の冒頭で、私は、本日のテレビ
朝日「羽鳥慎一モーニングショー」の玉川徹氏による『そもそも
総研』をぜひ視ていただきたいという予告を出しました。「消費
税ゼロ」の特集が予定されていたからです。その放映は1週間前
の9日に予定されていたのですが、当日は、イランが米軍基地に
ミサイルを撃ち込んだニュースによって『そもそも総研』が放映
できなくなり、次週に行うことがアナウンスされたからです。
 そのさい、玉川氏は、消費税ゼロの問題は、藤井聡京都大学大
学院教授で元内閣官房参与に直接スタジオに来ていただき、説明
してもらうことを約束したのです。そのため、私が16日のEJ
の冒頭で予告したわけです。
 しかし、当日の『そもそも総研』では、何の断りもなく、別の
企画が放映されています。しかし、次週の23日、『そもそも総
研』において、藤井聡教授と片山さつき自民党税制調査会幹事が
消費税の問題で直接対決したのです。片山さつき氏は、元財務省
主計局主計官であり、税の専門家です。そのやり取りの概要につ
いて、以下に紹介します。
 当日、藤井聡教授が使ったフリップを添付ファイルにしてある
ので、添付ファイルをご覧ください。グラフは「A」と「B」が
あります。最初にグラフ「A」を見てください。
 グラフ「A」は、「小売販売額の推移」を示しています。これ
について、藤井教授は、消費、小売りが大幅に冷え込んでおり、
その冷え込みは、2014年4月の8%増税のときよりも激しい
ことを指摘しています。しかし、これに関して、片山自民党税制
調査会幹事は、この景気の冷え込みは、「台風」が大きな影響を
与えていると反論しました。
 しかし、2019年9月のグラフの急上昇は、明らかに巨大な
駆け込み需要があったことを示しており、10月の落ち込みは、
その反動減であることは素人でもわかります。それを台風のせい
にするのは、税の専門家の反論としては論外です。これは、どう
みても、藤井教授に軍配が上がります。
 続いて、グラフ「B」を見てください。これは、1995年か
ら日本の実質消費の伸びをグラフで示しています。日本の個人消
費はGDPの約6割(57%)を占めており、その増減はGDP
の伸びに重要な影響を与えます。
 1997年に消費税を3%から5%に上げる前の日本の実質消
費の平均伸び率は2・61%だったのです。しかし、消費税を3
%から5%に2%上げたとたんに実質消費は2%ダウンし、そこ
から実質消費の平均伸び率は半分以下の1・14%になっていま
す。グラフの傾きが緩やかになり、上がり方がゆっくりになって
います。これは、日本の成長の実力が消費増税によって下がった
ことを意味します。
 それから、2014年の消費増税までには、2008年のリー
マンショック、2011年の東日本大震災などがありましたが、
それぞれ直後は大きくダウンしたものの、それ以降は、ほぼ同じ
傾きで、実質平均消費は伸びてきています。
 しかし、2014年に消費税を5%から8%に引き上げると、
その増加分の3%は直後にダウンし、そしてそれ以降の実質消費
の平均伸び率は0・41%まで下がっています。グラフの傾きは
さらに下がり、ほぼ横ばいになってしまっています。そして、藤
井聡教授は、次のように力説します。
─────────────────────────────
 ちなみに、消費税を8%から3%上げた直後に、実質消費は3
%下がって、以後0・41%しか伸びないのですから、2014
年3月(8%に上げる前月)の状況に戻るのに8年かかるという
計算になります。日本の経済が成長するには、消費増税のせいで
8年間足踏みを続けることになるのです。
 問題は、これからどうなるかですが、これらの関係から、数学
的に推計すると、消費税を10%にすると、直後に2%ダウンし
実質消費の平均伸び率は0・21%にダウンします。そうすると
2019年9月(10%に上げる前月)の状態に戻るのは、10
年を要することになります。このことから、安倍内閣は、アベノ
ミクスを始めた状況に戻るには、実に18年を要することになり
ます。これはとてつもない経済の冷え込みであり、この18年の
間に中国も、アメリカも、ヨーロッパもすべて成長するのです。
これをどうするかは、私の学者としての心からの心配というか、
憂慮であります。       ──藤井聡京都大学大学院教授
  ──2020年1月23日、「羽鳥愼一モーニングショー」
                   『そもそも総研』より
─────────────────────────────
 これに対して、片山さつき参院議員は、「超少子高齢化」が実
質消費の落ち込みを起こしたものであり、消費増税がなくても起
きうる現象であるとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 いままさにこの流れのなかで、安倍政権は戦ってきたのです。
超少子高齢化社会で、人口が減る社会でも、国民に不安を与えな
い財源を作ってやってきています。超少子高齢化の社会では、ど
この国でも個人消費の総額は落ちてくる。まさに藤井教授のいわ
れるような現象は、消費増税がななくても起きています。
 個人消費の総額では、確かに藤井教授のいわれるように0・3
〜0・15と減っていますが、一人当たりで見ると、0・28〜
0・21とあまり差がないです。
            ──片山さつき自民党税制調査会幹事
─────────────────────────────
 片山議員は、藤井教授の突き付けた問題に正面から向き合おう
とせず、逃げています。明らかに説得力に欠けています。人口が
減って行くのだから、一人当たりの消費を増やさなければならな
いのに、消費から罰金を取る消費税を増税すれば、経済は奈落の
底に落ちるという藤井教授の主張には強い説得力があります。
           ──[消費税は廃止できるか/022]

≪画像および関連情報≫
 ●藤井教授の勝ち/TOGETTER
  ───────────────────────────
  ◎普通に聞いていれば藤井教授の勝ち。片山は日本が駄目な
   理由は滔々と述べらるが、日本を良くする為の事は何にも
   言えてない。藤井教授は、明確に消費税を下げれば、消費
   が増えて、景気も財政も上向くと述べている。この差は大
   きい!
  ◎そもそも総研・消費税どうする。片山議員「成長するには
   全世代型社会保障で70歳まで就労可能とし支え手側に回
   ることで乗り切る」藤井教授、キッパリ「政府の考え方は
   完全な誤り、京大教授として確信している。消費税を5%
   に軽減すれば消費は回復、成長を実現し税収も大幅に増え
   る」藤井教授の勝ち。
  ◎自民党の片山は、庶民(お前たち愚民)が70歳まで働い
   て、税金徴収されて、年金を差し送りしろ!どうすれば景
   気(政府や企業のみ)は景気が良くなる。藤井教授は自民
   党の考えは完全にキチガイ。そんなことより一回消費税を
   5%に戻してみー。一気に景気(みんな全国民)が回復し
   潤う! 藤井教授の勝ち。   https://bit.ly/2OsUpSV
  ───────────────────────────

藤井聡京都大学大学院教授のフリップ.jpg
藤井聡京都大学大学院教授のフリップ
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2020年02月06日

●「企画が変更になったのではないか」(EJ第5182号)

 「羽鳥慎一モーニングショー」の『そもそも総研』において、
消費税が取り上げられたことは、1月23日の議論の以前にも2
回あります。最初はれいわ新撰組の山本太郎氏の出演です。正確
な日は忘れましたが、2019年の後半であることは確かです。
実際にモーニングショーに主演しての話でしたが、そのときの時
間は非常に短かったと思います。しかし、消費税のことはしっか
り話しています。
 2回目は、ビデオ取材での藤井聡京都大学大学院教授の出演で
す。いずれも消費税のテーマであり、玉川徹氏が藤井聡教授に質
問して応えてもらうインタピュー形式です。『そもそも総研』は
いつもこのスタイルです。
 3回目が1月23日ですが、当初は藤井聡教授に実際に番組に
出演していただいて話を聞くという企画だったと思います。最初
から、消費増税反対派と賛成派の対決の企画ではなかったはずで
す。これは推測ですが、それがイランの米軍基地への攻撃の関係
で中止になり、先送りになったところで、少し事情が変わったの
ではないかと思います。例えば、自民党税制調査会などから、要
請があったのではないでしょうか。増税反対派だけから話を聞く
のでなく、増税賛成派からも意見を聞かなければ、不公平ではな
いかという申し入れです。消費税を10%に上げた時点で、テレ
ビの人気番組で、一方的に増税反対のキャンペーンを繰り返され
たらたまらないという考え方です。
 本当のところはよくわかりませんが、消費増税は確実に次の衆
院選のテーマになることは確実であり、政府与党としてもその反
対を伝えるテレビ番組に神経を尖らせていたものと思います。そ
ういう事情で企画の変更があって「藤井教授VS片山議員」の対
決が生まれたのではないでしょうか。
 1月23日の『そもそも総研』の最後の部分をご紹介すること
にします。片山議員は、消費税について語るとき、「私は消費税
を作ったモーリス・オーレさんと直接話したことのある唯一の国
会議員」と話しています。確かに消費税は1952年にフランス
財務省の官僚であるモーリス・オーレ氏が開発したものですが、
そのオーレさんの考え方をいうのであればわかりますが、そうで
はなく、自分はそんなに偉いんだぞと、自分を持ち上げるために
その話をするのは鼻につきます。こういうところが嫌われている
ことをこの年になってもまだ気がついていない人物です。藤井教
授にしてみれば「それがどうした」ということになるでしょう。
勝負はその時点で片山議員の負けです。
 添付ファイルの上のグラフをご覧ください。これは、消費税が
10%のままの場合と、10%に増税せず、8%のままの場合と
税率を5%に減税した場合の総税収の推移を示しています。藤井
教授は次のようにいいます。
─────────────────────────────
 経済成長のメインエンジンは「消費」です。その消費の罰金と
して機能するのが消費税です。したがって、消費税を軽減すると
罰金が減って消費は確実に拡大していきます。これは過去のデー
タからして当然ですが、どのくらい伸びるかを計量経済分析に基
づいて分析すると、大体1・4兆円から1・7兆円伸びて行く。
税率を軽減すれば、直後は税収は落ちますが、その後、どんどん
伸びて行って、2021年には逆転します。10%を5%に軽減
すると、15年後には税収は30兆円増える計算になります。
               ──藤井聡京都大学大学院教授
  ──2020年1月23日、「羽鳥愼一モーニングショー」
                   『そもそも総研』より
─────────────────────────────
 これに対して、片山議員は次のように反論しています。このと
き、片山議員は「モーリス・オーレさんと会ったことがある」と
話しています。
─────────────────────────────
 現在の日本の税収能力は72兆円あり、税収は減っていない。
したがって増えていないというのはウソです。消費税が乗り越え
なければならないカベは、消費税を上げると物価が上がる。上が
れば主婦としては、消費者としては、それを罰金と感ずるのは、
わかります。しかし、それは半年から1年半の間に平準化してい
くのです。藤井さんのグラフのように、一律右肩上がりになんて
ならない。               ──片山さつき議員
  ──2020年1月23日、「羽鳥愼一モーニングショー」
                   『そもそも総研』より
─────────────────────────────
 片山さつき議員は、藤井教授のいう「消費税は消費の罰金であ
る」という主張を認めています。確かに、消費増税が行われて、
一年か一年半ほど過ぎると、慣れるというか、平準化というか実
質消費は上がってきますが、消費の平均伸び率が増税前よりも大
幅に減っています。つまり、伸びの傾きが増税前よりも緩やかに
なってしまっているのです。
 その結果が1995年〜2015年までの20年間──その間
日本は1996年に5%、2014年に8%と2回の消費増税を
やっていますが、その20年間に、日本だけ名目GDP成長率が
「マイナス20%」なのです。世界平均はプラス135%であり
日本は成長するどころか、マイナス成長なのです。消費増税だけ
が原因とはいいませんが、デフレであるのに消費増税を行い、成
長しない国にしてしまっています。
 添付ファイルの下のグラフをご覧ください。これは、2018
年4月に消費税を廃止したマレーシアの消費の推移を示している
グラフです。消費税の税率は6%だったのですが、それをゼロに
したとたん、消費は跳ね上がっています。しかし、2018年9
月に一部の贅沢品に税金をかける、かつての日本の物品税に当る
「売上税」を導入すると、一転消費は減少したものの、消費税当
時よりも高い消費水準を維持しています。
           ──[消費税は廃止できるか/023]

≪画像および関連情報≫
 ●生激論で炎上した片山さつき/昔もヤバかったと話題に
  ───────────────────────────
   1月23日に放送された羽鳥慎一モーニングショーのそも
  そも総研で、「そもそも消費税”減税”是か非か」について
  片山さつき議員と藤井聡教授の生激論が行われました。番組
  を見ていた人達が、片山議員の態度や発言に対して批判のコ
  メントをSNS上にアップし炎上する事態となったのです。
  そんな片山議員ですが、実は昔もヤバかったと話題となって
  いるのです。
   消費税について、片山議員と藤井教授が生激論したモーニ
  ングショーのそもそも総研。消費税”増税”して何が起きて
  いるのかについて議論していましたが、この時の片山議員の
  発言に対しネットが炎上する事態となったのです。
   「片山さつきの言っていることが理解不能」「人の話を聞
  く態度が酷くてムカついた」「経済的に3人育てられないか
  ら、子供は1人でイイヤになっちゃうんだよ」とネット上に
  コメントが寄せられています。この放送を見て、片山議員の
  発言がヤバいと感じた視聴者も多かった様ですが、実は昔も
  ヤバかったというのです。どのようにヤバかったのかという
  と・・・            https://bit.ly/36ZEnX8
  ───────────────────────────

藤井総京都大学大学院教授のフリップ/2.jpg
藤井総京都大学大学院教授のフリップ/2
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2020年02月07日

●「消費税廃止のマレーシアへの視察」(EJ第5183号)

 「藤井聡教授VS片山さつき議員」の消費税をめぐる激論の最
後の部分で、マレーシアの消費税廃止の話が出てきました。マレ
ーシアは2018年6月に消費税(GST)を廃止しています。
日本はそのほぼ1年後に消費税の税率を8%〜10%に引き上げ
ることが予定されているのに、マレーシアの状況についての情報
はほとんどないし、政治家も積極的に調べようとしていなかった
と思われます。
 当然安倍政権が知らないはずはないし、「消費税凍結」を求め
る野党の立憲民主党、国民民主党も知っていたはずです。メディ
アも安倍政権に気を使ってか、この情報をほとんど報道しておら
ず、多くの日本人はマレーシアが消費税を廃止したことを知らな
かったと思われます。
 増税をしようとしている与党の自公政権は当然のこととして、
野党の立憲民主党、国民民主党も、「社会保障と税の一体改革」
として、自民党と共に消費増税に賛成しているので、増税に反対
できる立場ではなく、本来であれば、消費税凍結も口にする資格
はないのです。
 しかし、れいわ新撰組の山本太郎代表と立憲民主党の若手議員
ら8名は、2019年8月26日から28日にかけて、消費税廃
止後のマレーシアを視察しています。このことをメディアは完全
に無視して、報道していません。
 ところが、このマレーシア視察について、立憲民主党の枝野代
表は、なぜか批判しています。2019年9月3日の「日刊ゲン
ダイデジタル」は、次のように報道しています。
─────────────────────────────
 野党第1党の立憲民主の枝野幸男代表に批判が殺到している。
先月30日(2019年8月)の会見で枝野氏は、立憲の若手が
「消費税廃止」を訴える「れいわ新選組」の山本太郎代表と共に
昨年6月に消費税を廃止したマレーシアを視察したことを問われ
トンデモ回答。若手を通じた「れいわ」との共闘の可能性を質問
されたが、枝野氏は「(マレーシアは)消費税を廃止したけど、
失敗した国ですよね」と、冷たい笑みを浮かべながら切り捨てた
のだ。冷笑する枝野氏に対し、「枝野さん、なんで笑うの??」
「これ見て支持やめた!」などのツイートが噴出。山本氏と立憲
若手のマレーシア視察は、消費税減税で、野党結集を進める狙い
があったはず。国民民主党の玉木雄一郎代表も、消費税減税に言
及しており「共闘」をアピールする絶好の機会だ。なぜ枝野氏は
不遜な態度を取ったのか。
    ──2019年9月3日付、「日刊ゲンダイデジタル」
─────────────────────────────
 この枝野発言には疑問があります。その発言とは「マレーシア
は消費税を廃止したけど、失敗した国ですよね」のことです。マ
レーシアは、2018年6月に消費税を廃止し、1年しか経って
おらず、まだ成功か失敗かを論ずる時期ではないからです。それ
に、「消費税5%」で野党で足並みを揃えようとしているときに
この発言はないと思います。自分の党の若手がマレーシア視察に
参加しているのにです。それに「冷笑」を浮かべたのは、非常に
まずかったと思います。
 この枝野氏の「冷笑」について、厳しい質問をすることで知ら
れるジャーナリストの横田一氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 今回の枝野代表の「冷笑」は、希望の党立ち上げの際、笑みを
浮かべながら「(リベラル派を)排除します」と発言した小池百
合子都知事に通じるものを感じました。批判を招くのも仕方あり
ません。せっかく有望な若手が山本代表と視察に行ったわけです
から、「消費税については若手の報告を待って今後検討する」な
どと、前向きな発言をすればよかったのではないか。野党共闘が
進んでいることをにおわせれば、与党にもプレッシャーになるは
ずです。──2019年9月3日付、「日刊ゲンダイデジタル」
                  https://bit.ly/2GUWzGT ─────────────────────────────
 マレーシアでは、2018年5月に総選挙があったのです。こ
の総選挙では、「消費税(GST)廃止」を公約として掲げた、
マハティール元首相率いる野党連合「希望連盟」(PH)が勝利
し、ナジブ政権を倒して政権交代を成し遂げたのです。当時、マ
ハティール氏は92歳であり、公選された世界最高齢の国家首脳
となったのです。かつての自分の弟子であるナジブ首相の悪政を
覆すため、マハティール氏としては、やむにやまれぬ出馬であっ
たといわれます。
 首相に復帰したマハティール氏は、公約通り、2018年6月
1日より6%の消費税(GST)を廃止したのです。公約実現で
す。しかし、それでは財源が減ってしまうので、2018年9月
に、売上サービス税(SST)が再導入されています。これも公
約通りです。GSTとSSTは、次の言葉の略です。
─────────────────────────────
     GST ・・・ Goods and Services tax
     SST ・・・ Sales and Services tax
─────────────────────────────
 マレーシアの消費税については、来週のEJで詳しく述べます
が、「GST」というのは日本でいう消費税ですが、「SST」
は、かつて日本にもあった物品税に当ります。そのため、SST
には非課税品目が非常に多いので、GSTからSSTへの移行で
税収は、220億リンギ(約5500億円)減少したといわれて
おり、マレーシアは、さまざまな方法でこれを埋めるべく、努力
しているといわれます。
 2018年6月にGSTを廃止し、同年9月にSSTを再導入
することは公約通りですが、これを「消費税の再導入」と報道す
るメディアもあり、枝野代表は、そのことを十分理解しておらず
「消費税の廃止に失敗した」と勘違いしたのではないかと考えら
れます。       ──[消費税は廃止できるか/024]

≪画像および関連情報≫
 ●マレーシアで政権交代
  マハティール元首相の野党連合が総選挙勝利
  ───────────────────────────
   首相を22年にわたり務めた後、政界を引退していたマハ
  ティール氏は、かつて弟子のような存在だったナジブ・ラザ
  ク首相(64)の対抗馬として出馬していた。ナジブ首相は
  汚職と縁故主義の批判にさらされていた。
   2018年5月10日未明の選挙管理委員会発表によると
  連邦下院(定数222)でマハティール氏率いるPHは過半
  数超えの115議席を獲得した。ラザク氏率いる与党連合・
  国民戦線(BN)の議席は今のところ、79議席に留まって
  いる。マレーシアでは下院過半数の政党が与党となり、政権
  を樹立する。マハティール氏は報道陣に、「我々は報復を求
  めているのではない。法の支配を復活させたいのだ」と話し
  た。元首相は、10日中にも、宣誓就任式を開きたいと述べ
  た。公選された世界最高齢の国家首脳となる。選管発表の後
  政府報道官は10日と11日を国全体の祝日にすると発表し
  た。情勢が次第に明らかになると、野党支持者が次々と通り
  に繰り出し、歴史的勝利を祝った。
   BNと主要政党の、統一マレー国民組織(UMNO)は、
  1957年に英国から独立して以来、マレーシア政界で圧倒
  的な影響力を誇ってきたが、近年では支持率にかげりが出て
  いる。             https://bbc.in/383AIc3
  ───────────────────────────

マレーシア視察団/山本太郎氏.jpg
マレーシア視察団/山本太郎氏
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2020年02月10日

●「マレーシアの消費税廃止の影響度」(EJ第5184号)

 マレーシアでの「GST」と「SST」再導入の経緯を簡単に
振り返ります。GSTはいわゆる消費税であり、SSTは一部の
贅沢品にかかる物品税であると考えてよいと思います。しかし、
マレーシアでは売上税と呼ばれています。
 なお、私が今回のマレーシアの記述の参照にしているのは、次
の論文です。以下、内容をEJ風にまとめます。
─────────────────────────────
   熊谷聡アジア経済研究所開発研究センターグループ長著
       『消費税を廃止した国、マレーシア』は本当か
                   IDE―JETRO
                 https://bit.ly/2GXWHFB
─────────────────────────────
 マレーシアは当初消費にかかる税金としては、SSTが導入さ
れていたのですが、2015年4月1日からSSTが廃止され、
GSTが導入されたのです。しかし、その導入のタイミングが問
題だったといえます。ナジブ政権の時代です。
 近年マレーシアでは、生活費が上昇しており、政治的にも大き
な問題になっていました。とくに2014年の夏以降は、米ドル
に対するリンギ安の影響で、輸入物価が高騰し、生活費は上がる
一方だったのです。そういう時期にSSTに代って、GSTが導
入されので、国民の不満が高まっていたのです。
 ちなみに、SSTの税率は、財とサービスによって異なります
が、財に対しては10%が基本で一部品目は5%、生活必需品の
5443品目は非課税です。サービスに関しては、ホテルの宿泊
料や外食などを中心に6%の税率です。
 これに対してGSTの税率は6%で、食品などの545品目に
ついては非課税になっています。これでわかるように、日本では
食料品などには軽減税率を適用していると鬼の首を取ったように
いいますが、8%もの高い税率をかけています。とくに食料品に
対して8%が軽減税率の国は日本だけです。多くの国で食料品は
0%です。しかもインボイスを導入せずに消費税を導入している
ので、きわめて不公平な税制になっています。
 さて、2018年5月の総選挙に、なぜ、92歳のマハティー
ル元首相が出馬したかですが、これには複雑な事情があるようで
す。この事情に踏み込むと、それだけでEJの1テーマになって
しまうので、これについては省略します。興味がある方には、次
の論文を参照ください。
─────────────────────────────
                   美樹慶樹著
  「マレーシア「初の政権交代」の複雑すぎる事情」
             https://bit.ly/2GZcaFi
─────────────────────────────
 基本的には、ナジブ首相の巨額の汚職問題によって、政治が混
乱していたからだと思われます。しかし、GSTによる不満も相
当大きくなっていたことは確かです。そのため、マハティール氏
は、選挙に勝つと、GSTの廃止については、速やかに実施して
います。選挙からわずか2日後の5月16日に、財務省は「6月
1日から当面の間、消費税率を0%にする」と発表しています。
ここに消費税を実施していた国が一定期間とはいえ、消費税を0
%にするというきわめて珍しいケースが実現したのです。
 れいわ新撰組の山本代表はこれに目をつけたのです。彼は次の
衆院選の公約として「消費税廃止」を取り上げることに決めてお
り、これほど絶好な事例はありえないからです。そのため、自ら
マレーシアに調査に赴いたのです。
 消費税0%の期間は6月1日〜8月31日までの3ヶ月であっ
たものの、民間消費を刺激する効果が顕著に表れています。1月
23日の「羽鳥慎一モーニングショー」の「そもそも総研」にお
いて、藤井聡教授が提示したフリップの数字によると、次のよう
に劇的な消費増加率を示しています。確かに9月のSSTの再導
入によって、消費増加率は少し下がったものの、それでも消費は
大きく上昇しています。
─────────────────────────────
   ◎消費税廃止&売上高再導入後の消費増加率の推移
    ★GSTの時期
     2018年 1〜 3月 ・・ 6・6%
    ★GSTの廃止
     2018年 4〜 6月 ・・ 7・9%
     2018年 7〜 9月 ・・ 9・0%
    ★SST再導入
     2018年10〜12月 ・・ 8・4%
     2019年 1〜 3月 ・・ 7・6%
     2019年 4〜 6月 ・・ 7・8%
  ──2020年1月23日、「羽鳥愼一モーニングショー」
              『そもそも総研』のフリップより
─────────────────────────────
 添付ファイルのグラフは、マレーシアの自動車の販売台数を月
次で示したものです。自動車は税制改正の影響を受け易いもので
すが、これについてはSST再導入後も伸びています。これにつ
いて、熊谷聡氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 税制変更の影響を受けやすい自動車の販売台数を月次で示した
ものである。自動車に対する消費税率が0%となった3ヶ月間に
ついては、6月が28%増、7月が41%増、8月が23%増と
いずれも前年同月の販売台数を大幅に上回った。SSTが再導入
された9月以降も自動車の販売台数は落ち込んでいないが、これ
は、マレーシア国内で組み立てられた自動車を中心に、SST再
導入後にわずかながら価格が下がったためである。
           ──熊谷聡氏 https://bit.ly/2vYZ6h1 ─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/025]

≪画像および関連情報≫
 ●マレーシア/消費税を実質廃止       全国商工新聞
  ───────────────────────────
  ◎元静岡大学教授税理士 湖東 京至さんに聞く
   消費税(GST・商品サービス税)の是非が最大の争点に
  なったマレーシアの国政選挙(5月9日投票)で、消費税廃
  止を掲げたマハティール元首相が率いる野党連合が勝利し、
  歴史的な政権交代が行われました。マハティール新政権は公
  約どおり、6月1日から消費税の税率を6%から0%にしま
  した。マレーシアでどんな選挙がたたかわれたのか、日本で
  消費税を廃止させることは可能か。湖東京至・元静岡大学教
  授(税理士)に聞きました。
  ──どんな選挙がたたかわれたのですか。
   野党を率いたマハティール氏はかつて22年間、マレーシ
  アで最も長く首相を務めた人物です。92歳で首相に返り咲
  けば、世界で最も高齢の首相となります。解散時の議席数は
  与党連合・国民戦線が130議席、野党連合・希望連盟が、
  72議席でした。選挙結果は与党・国民戦線が79議席、野
  党・希望連盟が過半数を超える121議席を獲得しました。
  与党連合が51議席減らしたのに対し、野党連合は47議席
  増やしました。予測では、与党連合がやや優勢と見られてい
  ましたが、終盤になってマハティール氏の個人的人気と消費
  税廃止を公約の中心に据えた野党連合が逆転勝利しました。
                  https://bit.ly/3bjmLJa
  ───────────────────────────

mare-shianotukibetuzidoushahanbaidaisuu.jpg
マレーシアの月別自動車販売台数

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2020年02月12日

●「消費税廃止は本当に成功だったか」(EJ第5185号)

 マレーシアの消費税廃止については、賛否両論があることは事
実です。「早くも復活論」という記事もネット上にはあります。
しかし、マレーシアが消費税を廃止したのは、2018年6月の
ことであり、まだ1年7ヶ月ちょっとしか経過していないので、
もう少し様子を見る必要があります。それに、国にはそれぞれ事
情があり、一概に増税廃止の賛否を問うことは困難であると思い
ます。マレーシアと日本は事情が異なります。
 添付ファイルに、マレーシアが、消費税を導入する以前の20
13年と、導入後の2016年を比較できるマレーシア中央政府
の歳入の内訳のグラフを付けています。ちなみに、マレーシアが
消費税を導入したのは2015年のことです。添付ファイルのグ
ラフをご覧ください。このグラフは、既出の熊谷聡氏がマレーシ
ア財務省のデータから作成したものです。
 グラフを見ると、マレーシアという国は、石油関連収入と法人
税の高い国であることがわかります。マレーシアには、ペトロナ
スという国有石油会社があり、消費税導入前の2013年の石油
関連収入は27%と3割に近く、マレーシアが石油関連収入に大
きく依存していたことがわかります。当時原油価格は安定してお
らず、これに過度に依存することにはリスクがあったのです。
 奇しくも消費税を導入した2015年は、原油価格は大幅に下
落し、石油関連収入は15%減少して12%になったのですが、
2016年のグラフを見ると、消費税が歳入の15%を占め、石
油関連収入の減少分をカバーしています。つまり、マレーシアは
その分、財政赤字を増やさずに済んでいます。そういう意味で、
消費税導入はなかなかの英断であったともいえるのです。
 マレーシアが日本と違う点は人口の平均年齢の若さです。20
19年の時点でそれは28・9歳であり、日本の47歳と比較に
ならない若さです。マレーシアの依存人口(15歳未満+65歳
以上)は6・7%に過ぎず、生産人口(15歳〜64歳)はその
2倍以上です。これを「人口ボーナス期」といいますが、これか
らますます経済が発展する可能性を秘めています。
 つまり、マレーシアは日本と違って、消費税を導入しても、経
済成長ができる国です。なぜなら、マレーシアは目下「人口ボー
ナス期」を謳歌しており、民間消費支出は堅調であり、消費税が
消費支出に強い影響を与えているわけではないからです。それな
ら、なぜ、野党連合・希望連盟(PH)は、なぜ、消費税廃止を
行ったのでしょうか。
 強いていえば、「生活費の上昇を抑える」ことです。これにつ
いて、熊谷聡氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 物価指数全体で見ると、2018年6月の消費者物価指数は前
年同期比でプラス0・8%となり、前月のプラス1・8%から、
1・0%ポイント下落した。また、SSTが再導入された9月の
消費者物価指数の伸びはプラス0・3%と低く、その後も消費者
物価指数の変動はプラス1%以下、(2019年1、2月につい
てはマイナス)で推移している。消費税の廃止は、SSTの再導
入を含めても、消費者物価の上昇を沈静化させる効果があったと
言える。              https://bit.ly/2tLEdoF
─────────────────────────────
 このように、消費税廃止は、消費者物価の上昇を沈静化させる
効果はあったわけです。しかし、幅広く課税できるGST(消費
税)を一部にしか課税できないSST(物品税)に替えたことに
よって、マレーシア政府の税収は220億リンギ(歳入の8・4
分に相当)の減収になっています。当然のことです。
 マハティール首相は、これへの対応策として、次の2つのこと
を実施しています。
─────────────────────────────
    1.輸入サービスと不動産売却への課税を強化
    2.国有石油会社ペトロナスの特別配当を充当
─────────────────────────────
 しかし、「1」については理解できるとしても、「2」につい
ては、特別配当300億リンギを拠出したものの、毎年できるも
のではなく、安定財源が必要になります。
 マレーシアは1997年のアジア通貨危機と2009年の世界
金融危機で財政赤字が拡大し、2013年時点では、政府債務残
高はGDP54・7%にまで達しています。この数字は、マレー
シアの財政規律である「GDP比55%」ギリギリです。消費税
を廃止して、この問題をマハティール政権がどのように解決しよ
うとしているのかは、まだ見えていない状況です。
 ただひとついえることがあります。これは、マレーシアに限ら
ないのですが、消費税を導入している国と日本との比較では、ど
うしても税率だけを見てしまうのですが、食料品などの生活必需
品などについては非課税の国が多いし、その対象も広いのです。
 マレーシアのケースでいうと、食品・飲料など545品目は消
費税の対象外です。日本の場合、そういう生活必需品などについ
ても、軽減税率と称し、8%の税率をかけています。こういう国
は先進国では日本だけです。
 日本では、その軽減税率の導入でも、十分過ぎる時間があった
にもかかわらず、財務省は最初からやる気はなく、真剣に取り組
んでいるとはいえません。軽減税率対象を決めるのが技術的に難
しいとか、何とかいって、ていねいな対応を怠っています。しか
も税率は8%に据え置きしたままで、非課税はもとより、税率を
下げるという検討すら、一切やっていません。
 そしてその導入のタイミングは、結果論ではありますが、わざ
わざ最悪のときを選んでやっています。その結果、日本は20年
以上もの間、デフレから脱却できず、日本経済はまるで冷え込ん
だままです。「5%まで税率を下げる」議論もありますが、その
前段階として、「生活必需品を8%から0%にする」だけでも、
国民の生活はずっと楽になると思います。
           ──[消費税は廃止できるか/026]

≪画像および関連情報≫
 ●日本と逆に消費税を廃止したマレーシア、早くも復活論
  ───────────────────────────
   10月1日から10%に上がった消費税。税収が増えれば
  福祉や行政サービスが充実するという考え方もあるが、家計
  を圧迫するのは間違いない。日本が増税した一方、昨年、消
  費税の廃止に踏み切ったのがマレーシアだ。この廃止につい
  て、日本の一部にも「英断」と評価する声もある。だが、別
  の財源を探し出すことは容易ではなく、政府は対応に苦慮。
  既に「消費税復活論」が浮上する。
   「GST(消費税)は、すべての国民から支払われる。赤
  ちゃんにさえ課税される」
   2017年11月、在野の立場にあったマレーシア元首相
  のマハティール氏(現首相)はブログにこんな投稿をした。
  当時のナジブ政権が15年に導入したGSTを痛烈に批判す
  るものだ。投稿の約半年後に行われた総選挙で、マハティー
  ル氏は野党連合「希望連盟」の首相候補として出馬。ナジブ
  政権の腐敗を追及すると同時に、GST廃止を公約に掲げ、
  勝利を収めた。
   マハティール氏は18年5月に首相に就任すると、さっそ
  くGSTの廃止を決定した。15年まで導入されていた売上
  ・サービス税(SST)を修正し、9月から新税として復活
  させた。新しいSSTは、製品の出荷時に製造者に課される
  売上税(5〜10%)と、消費者が無形のサービスを利用し
  た際に課されるサービス税(6%)を柱とする。GSTが消
  費活動すべてに適用されたのとは大きな違いだ。
                  https://bit.ly/2Se1l8S
  ───────────────────────────

マレーシア中央政府歳入の内訳.jpg
マレーシア中央政府歳入の内訳
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2020年02月13日

●「財務省は公然とウソをついている」(EJ第5186号)

 マレーシアの消費税廃止の話から、今回のテーマの本筋に戻る
ことにします。経済の仕組みをごく簡単にいうと、世の中に回る
お金の量が増えると景気が良くなり、逆にお金の量が減ると、景
気は悪くなります。
 企業を中心に考えます。企業が銀行から積極的にお金を借りて
企業活動に使えば使うほど、世の中に流通するお金の量が増加し
景気が良くなります。逆に企業が借金を銀行に返せば返すほど、
世の中からお金の量が減って景気が悪くなります。世の中のお金
の量を増やすには、お金を発行すればよいのですが、お金の発行
は、誰かの借金として発行されます。次の図式です。
─────────────────────────────
        お金の発行 = 借金の発行
─────────────────────────────
 ところが現在日本は長期デフレで経済成長が止まり、企業は銀
行からお金を借りなくなっています。この場合、企業は銀行から
お金を借りず、銀行からの借金の返済を行うので、世の中からど
んどんお金の量が減っていきます。これが、行き着くところまで
行った状態がデフレなのです。
 デフレになると、当然税収が減り、政府は国債を発行してその
足りない部分を埋めることになります。これを毎年繰り返すと、
政府の借金はどんどん雪だるまのように大きくなり、とんでもな
い額になります。このようにしてできたのが、現在の日本政府の
GDPの2倍を超える巨額の借金です。
 財務省はこの政府の借金を消費税を増税し、税金によって返そ
うとしています。これが大きな間違いであることは、既出の大西
つねき氏の理論に基づき、ここまで詳しく説明してきましたが、
この話をさらに前進させます。
 2019年10月1日から、消費税は8%から10%に引き上
げられました。一部の学者たちや勢力は10%への税率引き上げ
に猛反対していましたが、政府与党(自公政権)は「消費税8%
を10%に引き上げる」ことを公約に掲げ、参院選に勝利してい
るし、世論調査でも10%への増税に賛成する人が、反対する人
を上回っています。これは、財務省のプロパガンダが相当効いて
いることをあらわしています。しかし、もしかすると財務省に騙
されている可能性があります。
 ここである事実を指摘します。8%から10%への消費税の税
率の引き上げに関する財務省のウェブサイトを見ると、次の記述
があります。URLをクリックしてください。
─────────────────────────────
 ◎全世代型の社会保障制度へ
   消費税率を引き上げることによる増収分は、すべて社会保
  障に充て、待機児童の解消や幼児教育・保育の無償化など子
  育て世代のためにも充当し、「全世代型」の社会保障に転換
  します。
    消費税率引上げによる増収分は全額を社会保障に充当
    し、「全世代型」の社会保障制度に転換
                  https://bit.ly/38lARry ─────────────────────────────
 税率を8%から10%に上げると、国の税収は5・6兆円増え
ます。当初の予定では、その増税分の4分の3を借金(国債)の
返済に充当し、残りの4分の1を、社会保障の充実に使うことに
なっていたのですが、借金の返済に回す分を増税分の2分の1に
減らし、残りの税収については、1.7兆円を教育・子育てを充
実させることにしたのです。添付ファイルの図はそれをあらわし
ています。
 しかし、財務省のウェブサイトでは「消費税率を引き上げるこ
とによる増収分は、すべて社会保障に充て」と書いてあります。
この表現であれば、8%から10%への増収分5・6兆円はすべ
て教育・子育てや、社会保障に充てられることになります。しか
し、実際には、5・6兆円の約半分の2・8兆円は、赤字国債の
発行抑制に当てられるのです。つまり、借金の返済です。それな
ら、どうしてこの表現になるのか理解できないでいます。財務省
がウソをついてといるのでしょうか。
 5%を8%に引き上げるときは、その増収分の80%は借金の
返済に充てられています。「社会保障と税の一体改革」のメイン
は、政府の借金を減らすための政策だからです。これはかつての
与党の民主党が、野党の自民党、公明党と一緒になって作成した
政策であり、彼らは基本的に「増税に反対できない」のです。
 財務省は、政府の借金を増税して税金で返しています。これに
ついは、その考え方がいかに間違っているか、1月28日のEJ
第5175号で述べています。消費増税は「消費の罰金」であり
増税すると、GDPの約6割を占める個人消費が落ち込み、それ
に加えて増収分で借金を返済すると、世の中のお金の量が減り、
景気は確実に悪くなるダブルパンチを食います。今まで何度もそ
ういう失敗を繰り返しているのに財務省は徹頭徹尾「緊縮政策」
を続けて、デフレを長引かせようとしています。
 現在の日本の社会では、消費税の廃止・減税、積極財政などと
いう言葉は、政治的に、まともにいえない雰囲気になりつつあり
ます。「ポリティカル・コレクトレス」という言葉があります。
略して「ポリコレ」といいますが、ポリコレは「政治的に望まし
い言説」のことであり、それが暗黙裏に社会で人々に共有され、
それに反する言説が、いいにくくなる社会現象というか、雰囲気
を生み出しているといえます。
 トランプ米大統領は、ポリコレを嫌い、本音でものをいう政治
家です。「米国第一主義」というような言葉は、心のなかではそ
う思っていてもなかなかいえないものです。
 現在は、緊縮財政、消費増税、グローバリズムはポリコレOK
で正しく、積極財政、消費税の廃止・減税、保護主義はポリコレ
アウトであり、これらを主張するのは、「不道徳」ということに
なります。      ──[消費税は廃止できるか/027]

≪画像および関連情報≫
 ●元国税が暴露。「消費税は社会保障のため不可欠」が大ウソ
  な理由/大村大次郎氏
  ───────────────────────────
   消費税というのは、まずその存在意義そのものについて大
  きな疑問というか嘘があります。消費税が創設されるとき、
  国は「少子高齢化のために、社会保障費が増大する。そのた
  め、消費税が不可欠」と喧伝しました。でも、実際消費税は
  社会保障費などにはほとんど使われていないのです。
   では、何に使われたのかというと、大企業や高額所得者の
  減税の穴埋めに使われたのです。それは、消費税導入前と現
  在の各税目を比較すれば一目瞭然です。これは別に私が特別
  な資料をつかんで発見した事実などではありません。国が公
  表している、誰もが確認することのできるデータから、それ
  が明確にわかるのです。
   消費税が導入されたのは1989年のことです。その直後
  に法人税と所得税があいついで下げられました。また消費税
  が3%から5%に引き上げられたのは、1997年のことで
  す。そして、その直後にも法人税と所得税はあいついで下げ
  られました。そして法人税のこの減税の対象となったのは大
  企業であり、また所得税のこの減税の対象となったのは、高
  額所得者でした。所得税の税収は、1991年には26・7
  兆円以上ありました。しかし、2018年には、19兆円に
  なっています。法人税は、1989年には19兆円ありまし
  た。しかし、2018年には12兆円になっています。
                  https://bit.ly/2tOFlYF
  ───────────────────────────

image.png
増収分の使いみち







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2020年02月14日

●「政府の借金は返さなくてもいいか」(EJ第5187号)

 政府の借金──財務省やメディアは「国の借金」と称していま
すが、「政府の借金」というべきです。メディアの表記は、明ら
かに財務省が指導しています。「国の借金」というときは、民間
(企業・個人)が入るので、意味が違ってきます。それでも、財
務省はあえて「国の借金」と表現します。増税したいからです。
これに関して、次の基本的な疑問があります。
─────────────────────────────
      政府の借金は返済しなければならないか
─────────────────────────────
 民間(企業・個人)の借金は、もちろん返済する必要がありま
す。そんなことは常識です。財務省は、そういう民間の常識を巧
みに政府の借金に利用しようとしていますが、民間の借金と政府
の借金は明らかに違うものです。
 政府の借金に関する興味ある話があるのでご紹介します。以下
EJ風にまとめますが、オリジナルサイトは、巻末の≪画像およ
び関連情報≫に掲載しておきますので、EJを読んだ後に、興味
があれば、そちらの方も読んでください。
 100人の村人のいる村があります。この村にはときどき盗賊
団が攻め込んでくるので、監視カメラ付きの高い壁を作る必要性
に迫られていたのです。どこかの大国の大統領も同じようなこと
をいっていましたね。それはともかく、その費用には、1000
万円ほどかかるのですが、村にはそんなお金はありません。
 そこで村長は、村人からお金を借りることにしたのです。1人
10万円の拠出になります。この拠出金によって、監視カメラ付
きの高い壁ができて、村人の生活は以前よりも安全になったので
すが、村には1000万円の借金ができたことになります。
 問題はその借金をどのようにして村人に返すのかということで
す。税金として集める方法があります。村人全員が壁のお蔭で助
かっているので、「壁利用税」を徴収する方法があります。村人
全員から毎年1万円の壁利用税を徴収する方法です。村から1万
円の拠出金が返済され、10年で10万円が完済されるというわ
けです。その後も壁利用税を続けるとしたら、それは村に資金と
してストックされ、その後の壁や監視カメラの修復用に使えるな
ど、役に立つと思います。
 しかし、毎年1万円の壁利用税を払って、毎年その1万円が戻
されるというのは、村人の立場に立つと、プラスマイナスゼロに
なるので、借金が返ってこないのと同じことになります。この場
合は、村人全体で、壁の建設費用を負担したということになり、
これ自体は何の問題も生じないことになります。つまり、村の借
金は返済しなくても問題はないということです。
 この村には、裕福の程度に応じて、次の3段階があると仮定す
ることにします。お金持の人20人、普通の人30人、貧乏な人
50人です。壁の建設は急ぐので、お金持ちの20人に50万円
ずつ負担してもらい、1000万円の資金を作り、壁を建設した
とします。この場合、お金持ちの20人は村として必要な支出を
「仮の負担」をしたことになります。
 壁の建設費用は村人全員で負担するのですが、その資金はお金
持ち20人がいったん立て替えたことになります。つまり、「実
際の負担」の前に「仮の負担」をしたのです。実際の負担とは税
金というかたちで集めることになります。
─────────────────────────────
      お金持ち20人 ・・・・ 20万円
      普通の人30人 ・・・・ 10万円
      貧乏な人50人 ・・・・  6万円
─────────────────────────────
 以上のように、村人全員がお金を税金として村に収めて、その
集めたお金を仮に負担してくれた人(お金持ち)に返すのです。
これは、政府が国債を発行して資金を集め、必要なことに使って
国債を償還することに匹敵します。
 つまり、こういうことになります。政府にお金を貸すというこ
とは、政府が国民のために使うお金を仮に負担することであり、
政府に税金を納めるということは、そのお金を実際に負担すると
いうことになります。
 これが正しいとすると、政府の借金返済問題は、仮の負担を実
際の負担にどのように再分配するかの問題に過ぎないということ
になります。まして、日本の場合、国債のほとんどが国内で消化
されているので、つまり、国民が政府に貸している場合、政府の
借金問題は、国民との間での再分配をどうするかという話でしか
なくなるのです。
 もうひとつ大事なことがあります。壁を建設するのに支払った
1000万円がどこに行くかの問題です。もし、村の建築業者に
壁の建設を頼んだとすると、その1000万円は村に落ちること
になります。
 話を簡単にするため、村にはお金持ち20人の持つ1000万
円しかなかったと仮定します。村長はその1000万円を借りて
壁を建設し、壁を作る仕事をした人に総額1000万円支払った
とします。そうすると、村人の手元の資金は1000円と変わり
ませんが、1000万円を調達したお金持ち20人は、村に対し
て、貸付債権1000万円を保有することになります。貸付債権
とは、「村債」、国でいえば「国債」です。
 そうすると、村人の持つ金融資産としては、1000万円の現
金と、村債1000万円で、合計2000万円を持っていること
になります。つまり、政府がお金を借りて使うと、その分だけ国
民の財産が増えるということになるのです。
 わかったようでわからない話かもしれませんが、この話によっ
て、政府の借金は民間の借金とは根本的に性格の異なるものであ
ることは理解していただけると思います。財務省は、増税をしや
すくするため、政府の借金と民間の借金を一緒にして説明してい
るのです。その方が彼らにとって都合がよいからです。
           ──[消費税は廃止できるか/028]

≪画像および関連情報≫
 ●「経済学を疑え!」/政府の借金は返す必要がない
  ───────────────────────────
  「今日は、政府が国民に借りた借金は返す必要が無いという
  話をしよう」
  「えっ、借金は返すのが当たり前でしょう」
  「まあ、話を聞いてよ。例によって、100人の村人がいる
  村の話だ」
  「聞いてあげるわ」
  「この村の周辺で賊が出るようになって、襲撃に備えるため
  村の周囲を壁で囲おうということになったんだ」
  「ほう」
  「壁を作る工事には1000万円かかる。そのための財源が
  無かったので、村民から借りることにする」
  「ふーん。村人は100人いるから、一人あたり10万円っ
  てこと?」
  「そうなるね。村人は一人10万円ずつ村長にお金を貸して
  計1000万円で壁が作られた」
  「良かった良かった。これで安心ね」
  「そうだね。さて、問題は借金の返済だ。村長は村人に10
  万円ずつ返さなきゃいけない」
  「どうやって返すの?」
  「税金で集めるしかないね。村長は、壁使用税という名目で
  一人あたり年間1万円の税金を集めることにした」
  「えー!村長が働いて稼いで返すんじゃないの?」
  「村長がそんなことをする義理はないよ。壁を作ったのは誰
  のためだった?」        https://bit.ly/2UIOdKn
  ───────────────────────────

100人の村.jpg
100人の村
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2020年02月17日

●「国債は政府の借金だが国民の資産」(EJ第5188号)

 政府の借金は、経済に深刻な打撃を与える消費増税までして、
返さなければならないものなのでしょうか。財務省は2014年
の5%〜8%への引き上げのときは、増収分の80%を返済に充
てているし、8%〜10%への引き上げでも50%を返済するこ
とになっています。財務省はまるで「悪代官」そのものです。そ
もそも毎年借金が増えるのは政府の財政運営の失敗が原因です。
その政府の失敗のツケをなぜ庶民の収入から取り立てるのでしょ
うか。だから、悪代官です。
 ネットのなかで、この問題に関する高校生と先生の次のやり取
りを見つけたので、ご紹介します。
─────────────────────────────
高校生:でも、日本に1000兆円も借金があるのは本当なんで
 すよね。それってやっぱり大変なことですよね。
先 生:もし、借金をゼロにする必要があるなら、そうかもしれ
 ないね。
高校生:え、借金はなくさないといけないんじゃないんですか?
 それに一人当たりに置き換えると863万円の借金って・・。
 やっぱりすごくやばそうな気がするんですけど・・・。
先 生:確かに、個人であったら借金はないほうがいいし、なる
 べく早く返したほうがいい。しかし、政府の借金はそうではな
 い。むしろ政府の借金は「あったほうがいい」といっても過言
 ではないんだ。
高校生:えっ、借金なのに、あったほうがいい?どういうことで
 すか!?              https://bit.ly/37q4pmr
─────────────────────────────
 「政府の借金はあったほうがよい」──この言葉から、何がわ
かるでしょうか。
 この言葉から財務省の狡猾さが透けて見えます。もともと政府
の活動を何かに例えるとしたら「個人」ではなく、「企業」では
ないでしょうか。上記の先生と高校生のやり取りの答えは、「企
業」です。企業は借金があった方がよいのです。そのため、政府
の財政をあえて個人の借金にすり替えたのです。つまり、政府の
借金を本来比較すべきものではない家計と比較しているのです。
先生と高校生のやり取りをもう少し続けることにします。
─────────────────────────────
先生:「政府」を「企業」に置き換えて考えてみると分かりやす
 いかもしれないね。あくまでも、たとえるのは「個人」ではな
 く「企業」だ。企業というのは、大体自己資金だけで起業など
 できないので、銀行などからお金を借りる。そして起業した後
 も、ずっとお金を借り続けるのが普通なんだよ。そのお金で、
 新しい機械を入れたり、多くの人を雇ったり、自社ビルを建て
 たりして、商売を広げていくためだ。こうやって、いろんな企
 業が銀行からお金を借りて商売を広げることで、お金が多くや
 りとりされ、経済が活性化するんだよ。つまり、多くの企業が
 銀行からたくさん融資を受けて、活発に設備投資をしているわ
 けで、もしも一切借金をしなくなったら、ただただ経済が縮小
 していくことになるんだよ。    https://bit.ly/37q4pmr
─────────────────────────────
 そのやり取りの後、先生は、日本全体の一般家庭の家計と企業
の財務状況の数字を高校生に次のように示します。2018年3
月末時点の数字です。
─────────────────────────────
           家計部門    企業部門
      資産 1829兆円  1178兆円
      負債  318兆円  1732兆円
           資産超過    負債超過
                  https://bit.ly/37q4pmr
─────────────────────────────
 これを見ると、家計部門は借金が少なく、企業部門は借金が多
いですが、これは当たり前のことなのです。それからもうひとつ
考えるべきことがあります。
 政府の借金の中心は国債です。日本の場合、国債の引き受け手
の90%は日本国民です。したがって、国債は、政府から見ると
国民からの借金です。これがとんどん増えているということは、
銀行から積極的にお金を借りて事業を発展させている企業が伸び
ているように、政府も積極的に政策を進めていることをあらわし
ています。そうすれば、経済は発展・成長し、国が豊かになって
行くわけです。日本の場合、政府の借金の大きさが問題ではなく
経済が成長しないことの方が、はるかに大問題です。
 一方、国民から見ると、国債は「資産」になります。つまり、
政府の借金(国債)が大きければ大きいほど、国民がたくさんの
資産を持っていることになるのです。これは、「プラスのサイク
ル」です。しかし、現在、日本は逆のことをしています。国民か
らあまねくお金を収奪する消費税を増税してお金を集め、そのほ
とんどを政府の借金の返済に充てています。税金が高くなると、
国民の収入は減り、国債が減るということは、国民の持つ資産が
減ることを意味しています。
 消費増税をすると、「消費税は消費の罰金」ですから個人消費
が直撃され、GDPの成長にブレーキがかかり、景気が悪化しま
す。その結果、税収が減少し、政府はその穴埋めに赤字国債を発
行し、借金を増やします。同じように借金が増えるのですが、こ
れは「マイナスのサイクル」です。これがひどくなったのが、デ
フレです。日本の場合、それが20年以上続いています。
 現在のように、何回も消費増税をして、政府の借金を返済する
ことを続けていくと、経済は勢いを失い、国民は貧乏になるので
ますますマイナスのサイクルにはまってしまい、なかなか抜け出
せなくなります。これをプラスのサイクルに戻すには、相当の荒
療治が必要になります。どうしても政府の借金が気になるのであ
れば、それをやるしかないことになります。
           ──[消費税は廃止できるか/029]

≪画像および関連情報≫
 ●国の借金は返す必要があるか(十字路)
  ───────────────────────────
   1000兆円にも及ぶ国の借金(国債)は果たして返せる
  のかという問いに対し、私は強い確信を持って答えられる。
  絶対に返せないと。借金は借り換えると増えも減りもしない
  が、借り増すと増え、返済したときにようやく減少する。当
  然のことだ。手元にある1985年以降30年間ほどのデー
  タを見ると、我が国の国債残高は一貫して増え続けてきた。
  ほとんど増えなかったごく短い期間はあるものの、減ったこ
  とは一度もない。つまり実質的には我々はこの間、期限を迎
  えた借金をひたすら借り換え、さらに借り増しをする一方で
  返済したことは一度もないということだ。だから国債発行残
  高が増え続けてきた。
   残念だがこの図式は今後も変わらない。今年度の一般会計
  を見ると、税収等の歳入が63兆円ある一方、政策経費の歳
  出が74兆円だから、差し引き11兆円の赤字だ。そこに既
  存の国債の利払い費が9兆円加わって、合計20兆円の借り
  増しが発生する。借金を減らすには、収支を年間20兆円以
  上改善させて黒字にしないといけない。少子高齢化が今後さ
  らに進行する我が国で、それが可能とは到底思えない。
   しかし実は借金はあってもよい。増えてもよいのだ。大事
  なのは体力とのバランス。企業でいえば収益力との見合い、
  国でいえば債務残高を名目国内総生産(GDP)と比べた比
  率だ。この数値を着実に低下させていけるのであれば、借金
  は増え続けても問題ないと言える。
               https://s.nikkei.com/2uMpYR4
  ───────────────────────────

「悪代官」の財務省.jpg
「悪代官」の財務省
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2020年02月18日

●「政府紙幣の発行という手段がある」(EJ第5189号)

 家計の借金と政府の借金は異なります。したがって、慌ててゼ
ロになるまで返済を急ぐ必要はありませんが、そうかといって借
金が年々増加するのを放置するのは好ましくありません。この場
合、重要なことは、経済を冷やさないことです。なぜなら、経済
が活性化し、税収が増えれば借金は少しずつでも減少していくは
ずです。個人と違って国家は永遠の存在ですから、超長期間にわ
たって少しずつでも返済していけばよいのです。
 ところが、現在政府や財務省がやっていることは、消費税を増
税してその増収分のほとんどを借金の返済に回すという「増税し
て借金を返す」最悪の手段です。これでは、いつまでもデフレか
ら脱却できず、逆に借金が増えてしまいます。
 それでは、どうすればよいでしょうか。
 その1つの手段として、「政府紙幣を発行する」という方法が
あります。この話は、2008年9月のリーマンショックの影響
で、深刻な不況が広がるなか、2009年の時点で、一時話題に
なったことがあります。この政府紙幣発行を取り上げ、導入を提
言したのは、あの高橋洋一嘉悦大学教授(当時/東洋大学教授)
です。高橋洋一氏は、2009年2月13日付の産経新聞「単刀
直言」で政府紙幣について次のように述べています。
─────────────────────────────
 10年や20年に1度の不況ならば、政府紙幣の発行は必要な
いが、「100年に1度」の大不況となれば別だ。「100年に
1度の対応」が当然必要となる。そこで、私が提案しているのが
政府紙幣25兆円を発行し、日銀の量的緩和で25兆円を供給、
さらに「埋蔵金」25兆円を活用し、計75兆円の資金を市中に
供給するプランだ。2、3年で集中的に行い、さまざまな政策を
組み合わせれば、多方面に効果が出るはずだ。
 大デフレ時のインフレは良薬だ。デフレは、例えて言えば氷風
呂。政府紙幣は熱湯。普段のお湯ならやけどをするが、氷風呂な
ら熱湯を入れない方が凍え死ぬ。金融政策は本来日銀の仕事だが
日銀が何もしないのならば政府がやるしかないのでないか。イン
フレ懸念の観点から歯止めが必要、というのならば、「インフレ
率3%になれば発行を止める」など物価安定目標をさだめればよ
い。これは同時に財政規律の確保にもつながる。
   ──2009年2月13日付の産経新聞「単刀直言」より
─────────────────────────────
 政府紙幣とは何でしょうか。
 政府紙幣とは、「通貨発行権」を持つ政府が直接発行する紙幣
のことで、「国家紙幣」とも呼ばれます。政府紙幣などというと
禁断の方法のようにいわれますが、シンガポールの通貨「シンガ
ポールドル」は政府紙幣です。これは、シンガポール金融管理局
が紙幣の発行と管理を行っているので、中央銀行の業務を政府が
自ら行っていることになります。
 まだあります。「香港ドル」がそうです。中国の香港特別行政
区の法定通貨「香港ドル」は、香港金融管理局で民営銀行3行が
紙幣を発行していますが、そのうち、10ドル香港紙幣は、香港
特別行政区政府の発行する政府紙幣です。
 歴史的に見ると、日本、とくに明治維新後の明治政府は、政府
紙幣を何回も発行しています。戊辰戦争のときの「太政官札」、
西南戦争時の「明治通宝」などがそうです。
 明治維新の新政府は、税制などの歳入システムが未整備のまま
で発足したので、当時の政府支出の大部分は、太政官札などの政
府紙幣で行われていたのです。このような政府紙幣を発行すると
ハイパーインフレが懸念されますが、当時は経済がデフレ状態に
あったので、物価も上昇せず、経済も順調に拡大しています。現
在の日本もデフレ状態にあるので、この事実は重要な参考ポイン
トになります。
 しかし、明治15年(1877年)6月にそれら政府紙幣の整
理の目的もあって、日本銀行条例が制定され、同年10月10日
に日本銀行が業務を開始しています。その後太平洋戦争下の19
38年、金属を優先的に軍需に回すため、当時補助貨幣(硬貨)
だった50銭が政府紙幣化されていますが、その後、政府紙幣の
話が浮上することはなかったのです。
 リーマンショックにより深刻化した景気後退期において、自民
党のある政治家が、当時の麻生太郎首相に対して、政府紙幣発行
の政策提言書を提出しています。その政治家は、第1次安倍改造
内閣で金融担当大臣を務めた渡辺喜美氏です。その政策提言書の
最後には、次のような文言が書かれていたのです。
─────────────────────────────
 政府紙幣発行などの提言が速やか、かつ真摯に検討、審議され
ない場合、政治家としての義命により、自民党を離党する。
                       ──渡辺喜美
─────────────────────────────
 麻生内閣は、この政策提言を無視したので、渡辺喜美氏は自民
党を離党しています。当時、麻生内閣は、不況対策を含むあらゆ
る面で、小沢一郎代表の指揮する民主党に追い詰められており、
不況も深刻化していたので、もし総選挙を行えば、ほぼ確実に政
権を失う危機にあったのです。麻生政権は、野党から解散総選挙
を要求されていたのです。
 この時期の政府紙幣発行の提言は、従来とは、次の2つの面で
背景が異なっていたのです。
─────────────────────────────
 1.財政上の目的である。国債の発行残高が膨れ上がってい
   る状況下で、国債を増やさずに、政府の財源をつくるこ
   とである。
 2.金融政策上の目的である。政府紙幣発行によってマネー
   サプライを増やし、デフレからの脱却を図ろうというわ
   けである。
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/030]

≪画像および関連情報≫
 ●「お札を刷って国の借金帳消し」ははたして可能か
            ──「高橋洋一の俗論を撃つ!」より
  ───────────────────────────
   ある人から、お札を刷って国の借金を帳消しにできないか
  と聞かれた。これは、後で詳しく述べるが、ある程度はでき
  る。また、これと大いに関係があるが、かつて筆者が政府紙
  幣の発行を主張したこともあり、しばしばそのメリットとデ
  メリットを聞かれる。
   実は、政府紙幣の発行と日銀の量的緩和は、経済効果とい
  う観点から見れば、両者はほぼ同じである。日本の経済学者
  は、財政学と金融論(金融政策)が縦割りになっており、政
  府紙幣はそれらの狭間に入るのでキワモノ扱いである。この
  ため、日銀の量的緩和でも理解不足の人が多いのは残念であ
  る。まず政府紙幣はそれほど突飛なものではなく、ほぼ現行
  制度の中の話である。かつて政府紙幣を生理的に嫌った与謝
  野馨氏は、経済財政相時代にとんでもない発言をした。
   テレビ番組で与謝野氏は、政府紙幣について「『円』って
  いうのは使えないんですよ。だから、『両』とかにね、しな
  いと。信用あります?流通しないですよ」と言った。
   これは、政府紙幣が現行制度で構成できることを知らずに
  言ったことで、ある意味法律違反の発言だ。通貨の単位及び
  貨幣の発行等に関する法律(以下「通貨法」)第二条第一項
  には「通貨の額面価格の単位は円とし、その額面価格は一円
  の整数倍とする」とある。政府紙幣は法定通貨であり、その
  通貨単位を「両」なんて勝手に言ってはいけない。それも、
  現職経済担当閣僚がテレビで公言するのだから、困ったもの
  だった。            https://bit.ly/2OYDU17
  ───────────────────────────

渡辺喜美氏.jpg
渡辺喜美氏
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2020年02月19日

●「スティグリッツ教授の提案の賛否」(EJ第5190号)

 2003年4月14日のことです。ノーベル経済学賞受賞のジ
ョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授が来日し、東京都
内で講演とシンポジウムを開いています。4月15日付、日本経
済新聞は、次のように報道しています。
─────────────────────────────
 日本経済新聞社と日本経済研究センターは14日、ノーベル経
済学賞受賞者のスティグリッツ米コロンビア大教授を招き、「日
本経済再生の処方を探る」と題したシンポジウムを東京都内で開
いた。スティグリッツ氏は基調講演で、デフレ克服のため「通貨
切り下げはプラス効果を持つ」と述べ、円安誘導が有効との見方
を示した。
 シンポジウムはスティグリッツ氏の来日を記念して開催。講演
後の討論会に榊原英資慶大教授、白川方明日銀理事、八代尚宏日
本経済研究センター理事長が参加した。スティグリッツ氏はデフ
レという難題を克服するには思考の転換が必要と指摘。「紙幣を
増刷する対策もある」と大胆な提言をした。日銀に代わって政府
が「政府紙幣」を発行する案だ。これに対し、日銀の白川理事は
日銀券が政府の紙幣に置き換わるだけだとし「問題を解決する方
策とは思えない」と反論した。  ──2003年4月15日付
                     日本経済新聞朝刊
─────────────────────────────
 スティグリッツ教授といえば、消費増税の実施判断のさいにも
安倍首相は日本に招いて意見を聞いています。しかし、日本政府
は話は聞くものの、彼らの意見を絶対に採用しません。聞き置く
だけです。「高名な学者からも意見も聞いている」というポーズ
を見せているだけです。それに財務省は、スティグリッツ教授の
意見には絶対反対であり、安倍首相が教授の意見を採用しないよ
うに神経を尖らせています。
 2003年4月の来日のときは、上記の日本経済新聞の報道に
もあるように、講演後の討論会に、榊原英資慶大教授、白川方明
日銀理事、八代尚宏日本経済研究センター理事長が参加しました
が、榊原英資慶大教授は教授の意見を前向きにとらえていたもの
の、2008年に日銀総裁になる白川方明日銀理事は、スティグ
リッツ教授による政府紙幣の提案に聞く耳を持たず、反対してい
ます。「それなら、日本のデフレを何とかしろよ!」といいたく
なりますが、だから、日本の経済学者たちは、いつまで経っても
ノーベル経済学賞が取れないのです。
 驚くべきは、白川方明理事が、スティグリッツ教授の提案する
政府紙幣の発行に関して次のように反対したことです。
─────────────────────────────
 (政府紙幣は)日銀券が政府の紙幣に置き換わるだけである
                  ──白川方明日銀理事
─────────────────────────────
 本当にそういったとすると、5年後に日銀総裁になる白川氏と
しては、考えられない発言です。これについて、伝統ある『経済
コラムマガジン』は次のように論評し、白川発言に疑問を呈して
います。
─────────────────────────────
 大きな誤解は、政府紙幣が発行されても、日銀券が政府紙幣に
置き換わるだけであり、経済に何の影響を与えないという意見で
ある。たしかに公務員の給料支払いを日銀券ではなく、政府紙幣
で行ったり、国債の買いオペを政府紙幣で行えば、そのようなこ
とになる。もっともその分だけ国の借金は増えないが。しかしそ
のようなばかげたことを主張するため、わざわざスティグリッツ
教授が来日し、政府紙幣に関した発言を行うはずがない。
                  https://bit.ly/38vO7tD ─────────────────────────────
 ネット上で、そのときのスティグリッツ教授の提案を論評した
記事を探したのですが、よいものがなく、その中では『経済コラ
ムマガジン』の論評が光っています。スティグリッツ教授は、デ
フレギャップの大きい日本だからこそ、政府紙幣の発行の提案を
したと思われます。
─────────────────────────────
 スティグリッツ教授は、デフレに陥っている日本経済に処方箋
をいくつか提案している。「円安誘導」、「銀行システムの立直
し」と言ったありきたりの政策に加え、なんと「プリンティング
マネー(政府紙幣)の発行」をスティグリッツ教授は提案した。
これは各方面に衝撃を与えており、波紋がひろがりつつある。こ
れはまさに筆者達が以前から主張していた政策である。(中略)
 この政府紙幣発行に対して色々の反論や解説がなされている。
しかしそれらのほとんどが間違っているか、的外れである。この
ような反論を行っている人物達が、日銀の理事だったり、リチャ
ード・クー氏なのだから、こちらも驚く。それほど日本において
は政府貨幣(紙幣)に対する知識や情報が乏しいのである。
 日銀券と政府紙幣の違いは、日銀券が日銀の債務に計上される
のに対して、政府紙幣は国の借金にならないことである。今日の
コインにもいえることであるが、額面からコインの製造経費を差
引いた額が国の収入になる。
 スティグリッツ教授の主張は「この政府貨幣(紙幣)の発行を
もっと大規模に行え」ということである。さらに重要なことはこ
の貨幣鋳造益や紙幣造幣益を『財政政策』に使えと提案している
のである。今日、国債の発行が巨額になり、政府は、「30兆円
枠」に見られるように、財政支出を削ろうと四苦八苦している。
しかしこれによってさらに日本のデフレは深刻になっている。そ
こで教授は、国の借金を増やさなくとも良い政府紙幣を発行し、
その紙幣造幣益を使って、減税や公共投資を行えば良いと提案し
ているのである。         ──2003年5月5日付
 『経済コラムマガジン』第295号 https://bit.ly/38vO7tD ─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/031]

≪画像および関連情報≫
 ●風の行方とハードボイルドワンダーランド
  ───────────────────────────
   さて、2003年にノーベル経済学賞のスティグリッツ氏
  が来日し、財務省幹部の前で「政府紙幣」の発行について講
  演した。紙幣は日銀が発行し、貨幣は政府(造幣局)が日銀
  と独立して発行している。国債を日銀が購入することは、財
  政法で禁じられているので、政府が高額硬貨である政府紙幣
  を発行すれば、財政赤字問題は解決するというもの。国会議
  員の何人かも興味を示していたが、やがて話はなくなった。
  多分、実務レベルから見ると、明らかな財政ファイナンスと
  して日本の信認が失われ、円暴落等のリスクを勘案すれば非
  現実的だったのだろう。日銀の白川総裁の記者会見における
  政府紙幣に対する回答がある。「政府紙幣が市中から日銀に
  還流して来たとき、仮に政府がこれを回収せず、日銀に保有
  され続けるという形で政府紙幣が発行されるケースを考える
  と、政府は回収のための財源を必要としないことになるが、
  この仕組みは日銀に無利息で償還期間のない政府の債務を保
  有させるという点で、無利息の永久国債を日銀に引き受けさ
  せることに等しく、大きな弊害が生じる」。当時は国債を日
  銀が買い取るなどということ自体考えられなかったのだ。
                  https://bit.ly/2Sx32hR
  ───────────────────────────

「政府紙幣」の採用を説くスティグリッツ教授.jpg
「政府紙幣」の採用を説くスティグリッツ教授




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2020年02月20日

●「政府紙幣を発行するとどうなるか」(EJ第5191号)

 「政府紙幣」を具体的に考えてみます。政府紙幣については、
賛否両論がありますが、日本の国内では否定的であり、「怪しい
もの」という見方がほとんどです。ビットコインのときとよく似
ています。しかし、本当のところは、政府紙幣がどういうものか
わかっている人が、きわめて少ないのです。
 当時、与謝野馨経済財政相(故人)が、テレビ番組(テレビ朝
日『サンデープロジェクト』)に出演して、司会の田原聡一郎氏
から政府紙幣についてコメントを求められたとき、与謝野氏が政
府紙幣を日銀紙幣と別物にして、「『円』は使えないよ。『両』
にでもするのか」とバカにしたように話したとき、私はテレビを
視ていたので、印象に残っています。経済財政大臣ですら、ほと
んどわかっていないのです。
 そこで、既出の大西つねき氏の所説に戻って、政府紙幣につい
て具体的に検討します。政府には、通貨発行権があり、その気に
なれば、政府紙幣を発行できます。しかも、やり方はそんなに難
しくありません。必要なのは首相の決断だけです。
 100兆円の政府紙幣を導入することにします。この場合、1
兆円の政府紙幣を100枚印刷します。これで100兆円。そし
て、その政府紙幣を全額日銀に預けます。日銀は、それを金庫に
収納し、政府預金口座に100兆円と書き込みます。これで終わ
りです。したがって、流通するのは、日銀券であり、政府紙幣と
いう名のお札が流通するわけではないのです。与謝野大臣は、そ
のことが理解できていなかったのです。
 しかし、政府がこれをやるには、法改正が必要になります。当
然国会で審議されます。政府はその目的をきちんと国民に説明し
十分な国会審議を経て、法改正を行い、そのうえではじめて実施
可能になります。
 1月24日のEJ第5173号では、平成29年度(2017
年度)予算案の数字を使って分析をしましたが、これと同じモデ
ルを使って100兆円の政府紙幣を導入するとどうなるかについ
て分析を行うことにします。添付ファイルの図をご覧ください。
この図は大西つねき氏の本に出ているものです。
 図の中央の「平成29年度予算案」の部分を見てください。税
収は58兆円、その他の収入は5兆円で、合計63兆円の歳入で
す。この歳入に対して、国債費以外の政府支出が74兆円であり
基礎収支(63−74)は、マイナス11兆円になります。
 これに国債費は、次の通り、23兆円になりますが、償還分の
14兆円は借り換え分であるので、正味の不足金額は20兆円と
いうことになります。この20兆円を、従来は毎年赤字国債でカ
バーしていたのです。
─────────────────────────────
    基礎収支11兆円 + 利息9兆円 =20兆円
─────────────────────────────
 こういう前提に立って、政府紙幣100兆円を導入してみるこ
とにします。100兆円あれば、赤字分の20兆円を賄っても、
80兆円残るので、この分に対応する政府の借金を削減すること
ができます。図の右部分の「国債残高」を見てください。国債残
高は、平成28年度末で845兆円ですが、そこから、80兆円
を差し引くと、残高は765兆円になります。
─────────────────────────────
     845兆円 − 80兆円 = 765兆円
─────────────────────────────
 続いて、図の左部分、「マネーストック」のところを見てくだ
さい。市中にどのくらいのお金が回るかを見ることができます。
58兆円と5兆円の63兆円は、税金などとして政府に吸い上げ
られますが、政府支出の74兆円、基礎収支の差額11兆円、利
息の9兆円は支払われるので、民間に流通する通貨量に変化はあ
りません。その結果、政府紙幣でカバーした20兆円が増加して
次のように1010兆円になります。
─────────────────────────────
    990兆円 + 20兆円 = 1010兆円
─────────────────────────────
 ここで重要なことは、100兆円の政府紙幣を導入することに
よって、市中に流通するお金は20兆円増加しながら、政府の借
金は80兆円減少することです。あくまで計算上ですが、これを
10年間続けると、政府の借金はほぼなくなり、市中に回るお金
は毎年20兆円ずつ増えて、約1200兆円になります。
 しかも政府紙幣として発行するお金は政府の借金にはならない
のです。法改正は必要であるものの、ここまで述べてきているよ
うに、比較的簡単に発行できます。それにも関わらず、なぜ政府
はやらないのでしょうか。
 日本の場合、政府の借金がある程度巨額になっても、それに対
応する資産が十分あり、財政破綻を起こすことはありません。し
かし、借金が年々増加し、増えて行くことは決して好ましいこと
ではありません。それは利息がバカにならないからです。
 国債の利息の9兆円ですが、元本である約900兆円からする
と、0・1%に過ぎません。しかし、この利息水準でも10年経
つと約100兆円になるのです。まして、金利が上がると、大変
なことになります。既に利息分だけで、この35年で累計300
兆円になっています。しかしそれを政府紙幣で返した場合、向こ
う10年の利息はおそらく半減し、50兆円ぐらいになるでしょ
う。この50兆円でいろいろなことができます。教育予算を充実
化させたり、少子化対策にも役立てることができます。
 このように金利の重しを取り除くだけでも、経済は間違いなく
活性化します。だからこそ、スティグリッツ教授は、日本政府に
政府紙幣の導入を勧めたのです。日本は現在深刻なデフレ下にあ
り、相当量の政府紙幣を発行してもインフレにはならないからで
す。日本にはそれをやれる条件が整っているのです。このまま経
済に弱い財務省の役人にまかせておくと、日本の財政はも確実に
破綻します。     ──[消費税は廃止できるか/032]

≪画像および関連情報≫
 ●借金でお金を発行する時代は必ず終わる/大西つねき氏
  ───────────────────────────
   今の金融経済を俯瞰で見てみましょう。お金というのは、
  信用創造の仕組みで説明した通り、誰かの借金として発行さ
  れます。つまり、常にほぼ同じ額の借金が表裏一体で存在す
  るということです。これは政府の借金がお金を増やす仕組み
  で述べたように、政府の借金を返せば皆さんのお金がなくな
  る、ということからもわかります。相殺すればゼロというこ
  とです。私たちの金融経済というのは、最も単純化して言う
  と、相殺すればゼロのお金と借金を、奪い合い、押しつけ合
  っているだけです。もちろん奪い合うのはお金で、押し付け
  合うのは借金です。借金を押しつけるというのは実感が湧か
  ないかもしれませんが、この日本に生まれただけで政府の借
  金(=後払いの税金)が押しつけられるのです。そして、そ
  こから脱却するために奪い合うのです。奪い合うという言葉
  にも抵抗があるかもしれませんが、全て相殺すればゼロ、つ
  まりお金の部分だけ見ればゼロサムの世界ですから、みんな
  がプラスということはありません。奪わなければ負けるので
  す。つまり、金融の世界というのは、みんなで仲良く分け合
  えない世界なのです。必ず、マイナスの人がいるわけですか
  ら。しかも、金利という仕組みがプラスもマイナスも加速度
  的に大きくし、その差を広げます。 https://bit.ly/3bGNC1X
  ───────────────────────────
 ●図の出典/大西つねき著『私が総理大臣ならこうする/日本
  と世界の新世紀ビジョン』/白順社刊

政府通貨で政府の借金を返すと?.jpg
政府通貨で政府の借金を返すと?

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2020年02月21日

●「政府紙幣政策には賛否両論がある」(EJ第5192号)

 自民党内には、「政府紙幣」に対して反対者が多いです。その
中心は、元財務大臣経験者です。財務省は予算を握っている関係
上、他の省庁とは違い、大臣として大過なく過ごすためには、官
僚の協力がとくに不可欠な部署といえます。そうすると、どうし
ても財務省に洗脳されてしまうのです。
 統一見解があるわけではありませんが、財務省の政府紙幣に関
する一般的な考え方は次のようなものです。
─────────────────────────────
 日本銀行券に加えてさらに政府紙幣を大量発行すれば、大幅な
供給過剰に陥って円の信用が著しく低下し、収束不能の高インフ
レーション、過度な円安に向かう危険性がある。
 ある程度の円高是正であれば景気対策として有効性もあるが、
それを超えて大幅な円安が進行すれば、輸出には有利な反面、原
料の輸入価格の著しい上昇も招くため、結果的に高インフレ発生
を意味する。              ──ウィキペディア
─────────────────────────────
 このように、「収束不能の高インフレ」、すなわちハイパーイ
ンフレを恐れているようですが、とくに日本の場合、政府紙幣を
発行したからといって、インフレになる可能性は低く、ましてハ
イパーインフレにはなりません。
 安倍政権の発足以来、黒田総裁が率いる日銀は、異次元金融緩
和と称して、大規模な金融緩和をスタートさせてから8年になろ
うとしていますが、設定した2%のインフレ目標にまだ到達して
いない状況です。インフレにしようと努力してもなかなかインフ
レにはならないのです。まして現在の日本が、政府の借金を政府
紙幣に置き換えたとしても、ハイパーインフレになることはあり
得ないことであり、政府紙幣導入の反論になっていないと思いま
す。政府紙幣に対して反対論を唱える一部の自民党議員の発言を
以下にまとめます。
─────────────────────────────
◎中川昭一元財務相
 日銀券を2つ作るようなもので、中央銀行があるなかでは、世
界中にこういうものを使っているところはないと聞いている。あ
まりに次元の違う問題を喚起する可能性がある。
◎伊吹文明元財務相
 政府紙幣はマリファナである。有権者に吸わせて、いい気分に
して票を取ろうという意図でやってはいけない。
◎高村正彦元外相
 中央銀行が一元管理することが大切だということは、歴史上人
類が学んできた知恵。安易に例外を認めるべきではない。
─────────────────────────────
 このように、政府紙幣はいわば奇策のひとつとされ、あまり人
前では口にできない政策であったといえます。しかし、口には出
さないが、この政策に賛同している政治家、経済学者(とくにケ
インジアン)は多くいます。
 その一人に元大蔵官僚の榊原英資青山学院大学教授がいます。
榊原氏は、『中央公論』/2002年7月号に次の論文を執筆し
ています。しかし、榊原氏は、政府紙幣をあくまで緊急避難的な
政策として位置付けています。
─────────────────────────────
 「日本が構造的デフレを乗り切るために/政府紙幣の発行で
 過剰債務を一掃せよ」──『中央公論』/2002年7月号
─────────────────────────────
 また、元大蔵官僚で、嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、2004
年に日本政府内で政府紙幣の発行を提案し、その準備の文書「政
府紙幣発行の財政金融上の位置づけ」を作成しています。この高
橋論文では、日銀券とは別に財務省が政府紙幣を発行し、国民に
配るという政策を提言しています。
 それでは、現日銀総裁の黒田東彦氏は、政府紙幣に関してどの
ように考えていたのでしょうか。これについては既にご紹介済み
の『経済コラムマガジン』に、内閣官房参与(前財務省財務官)
時代の黒田東彦氏の意見が紹介されています。
─────────────────────────────
 筆者は、スティグリッツ教授の提案に対して、経済の専門家か
らこのような初歩的で的外れの疑念や批難が続くこと自体を危惧
する。このような状況では、いきなり政府紙幣発行はちょっと無
理かもしれない。
 このように混乱している議論に対して、黒田東彦内閣官房参与
(前財務省財務官)が「日銀がもっと大量に国債を購入すること
が現実的」と発言している。これは穏当な意見であり、筆者もこ
れに同感せざるを得ない。ちなみに黒田前財務省財務官は、以前
からリフレ(穏やかなインフレ)政策を主張している。
 政府紙幣の発行も日銀による国債購入も実質的に国の借金にな
らない。そこで政府紙幣への理解が進まないようなら、まず日銀
の国債購入によって積極財政政策のための資金を賄う他はない。
ただ日銀による国債購入には難点がある。日銀は国債購入の限度
を日銀券の発行額と一応定めているのである。これがネックとな
る可能性がある。したがって日銀がどうしても限度額にたいして
柔軟な姿勢を示せないなら、最後の手段として政府貨幣(紙幣)
のオプションは取って置くべきである。 2003年5月5日付
 『経済コラムマガジン』第295号 https://bit.ly/38vO7tD ─────────────────────────────
 かりそめにも経済学者として世界的な権威であるスティグリッ
ツ教授が勧めている提案です。単に政府紙幣を発行せよといって
いるのではなく、現在の日本には、大きなデフレギャップが存在
するので、相当額の政府紙幣が発行できるし、やってみる価値が
あるといっているだけです。この政策によって物価上昇率が限度
額を超えるようであれば、政府紙幣の発行をセーブすればよいの
であって、目くじら立てて反対するような話ではないのです。
           ──[消費税は廃止できるか/033]

≪画像および関連情報≫
 ●新紙幣を「政府の電子マネー」として発行したら
  ───────────────────────────
   政府が2024年から新紙幣を発行すると発表したが、キ
  ャッシュレス化を進めているとき、時代錯誤な話だ。むしろ
  脱税の温床になっている1万円札は廃止すべきだ、というの
  がロゴフの提案である。そこで電子マネーの時代にふさわし
  い新通貨を考えてみた。これは日本銀行の発行する紙幣では
  なく、政府(財務省)の発行する電子マネーである。日銀が
  1882年に設立される前は、政府紙幣が発行されていた。
  今でも政府が紙幣を発行することは(立法すれば)可能であ
  る。2003年にもスティグリッツが提言したことがある。
  その論理は明快だ。
   政府紙幣の発行により債務のファイナンスを行います。日
  銀と財務省の適切な政策についての私の観察では、たとえ政
  府紙幣の発行を始めたとしても印刷機のスピードをただ速め
  るようなことはしないと確信しています。政府紙幣の発行ス
  ピードは非常に緩やかなものとなるでしょう。真の問題は、
  政府紙幣を増発しすぎるということではなく、むしろ政府紙
  幣の増発が不十分な量で終わるということです。したがって
  不連続性については例証は存在せず、緩やかに増発すればハ
  イパーインフレを引き起こすことはありません。経済理論に
  よれば、適正なインフレ率が存在し、この水準となるように
  供給量を調節することができるのです。
                  https://bit.ly/2P3hs7j
  ───────────────────────────

榊原英資氏と黒田東彦氏.jpg
榊原英資氏と黒田東彦氏.
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2020年02月25日

●「実質GDP▲6・3%は実に深刻」(EJ第5193号)

 2020年2月17日のことです。消費増税後の10月〜12
月期の国内総生産(GDP)の数値が発表されたのです。
─────────────────────────────
  ◎GDP/2019年10月〜12月期(前期比)速報値
    ─────────────────────
    実質GDP   ▲1・6%(年率6・3%)
    ─────────────────────
     個人消費   ▲2・9%
     住宅投資   ▲2・7%
     設備投資   ▲3・7%
     公共投資    1・1%
    内需寄与度   ▲2・1%
       輸出   ▲0・1%
       輸入   ▲2・6%
    外需寄与度    0・5%
    名目GDP   ▲1・2%(年率4・9%)
─────────────────────────────
 10月に消費増税をしているので、実質GDPが前期比で相当
程度落ち込むのは十分予測されたのですが、市場予想の平均値は
年率「▲3・9%」、かなり厳しい予測でも「▲4・5%」程度
であったのです。それが「▲6・3%」ですから、明らかにネガ
ティブ・サプライズであるといえます。
 この前期比6・3%という数字はきわめて深刻です。これは、
個人消費の急減を主因とするマイナス成長であり、消費増税によ
る悪影響が、当初予定されたよりもはるかに大きかったことを示
しているからです。前回の5%から8%への3%の消費増税は、
直前の1〜3月期の駆け込みと直後の4月〜6月期の反動が次の
ように明確であったのに対し、今回は、増税前の盛り上がりがな
かったのに、増税後の落ち込みが大きいのです。
─────────────────────────────
              直前3ヶ月  直後3ヶ月
   前回(2014年)  +4・1%  ▲7・4%
   今回(2019年)  +0・5%  ▲6・3%
─────────────────────────────
 これに関して、第一生命経済研究所経済調査部の主席エコノミ
ストの新家義貴氏は、次のように分析しています。
─────────────────────────────
 今回の消費増税では、そもそもの税率引き上げ幅が2%と14
年の3%引き上げと比べて小さいことに加え、軽減税率やキャッ
シュレスポイントの導入、幼児教育無償化等、多くの対策が実施
されたことから、
 @需要平準化策の効果で駆け込み需要や反動減は相当程度抑
  制される、
 A負担増が限定的であるため、実質購買力減少に伴う消費の
  減少は小さななものにとどまる、
との見方が当初は多かった。だが実際には、駆け込み需要も反動
減も意外に大きく、負担増による下押しも予想以上に大きかった
印象だ。今回の落ち込みについては、「前回の増税時よりも個人
消費の落ち込みは小さかった」と評価するよりも、「引き上げ幅
が前回よりも小さい上、これだけの対策を実施したにもかかわら
ず、想定以上の落ち込みとなった」と見る方が妥当と考える。
                  https://bit.ly/32j58oE ─────────────────────────────
 これに対して安倍首相は、実質GDPが「▲6・3%」になっ
たことについて、2月17日の衆院予算委員会において、次のよ
うなノーテンキな答弁しています。
─────────────────────────────
 おもに個人消費が消費税率引き上げにともなう一定程度の反動
減に加え、台風や暖冬の影響を受けたことから、前期比マイナス
に転じました。良好な雇用、所得環境に加えて、今後、経済対策
の効果が発生していくことを踏まえれば、我が国、経済は基調と
しては今後とも内需主導の緩やかな回復が継続していくものと考
えております。──2020年2月17日/衆院予算委員会での
                      安倍首相の答弁
─────────────────────────────
 要するに安倍首相がいいたいことは、軽減税率やキャッシュレ
スポイント還元などの効果により、駆け込み需要が0・5%と小
さかったのだが、台風や暖冬の影響を受けて、前期比マイナスに
なったものと、消費増税の影響を台風や暖冬のそれにすり替えて
いるのです。
 これに対し、既出のエコノミストの新家義貴氏は、新型肺炎に
よる悪影響もあって、1〜3月期もマイナス成長になるとして、
次のように述べています。
─────────────────────────────
 元々筆者は、@増税に伴う家計負担増の影響が残存することに
加え、そもそもの所得の伸びが弱いことから、個人消費の戻りは
鈍いものにとどまること、A輸入の反動増や在庫削減の動きが成
長率を押し下げること、等から1〜3月期の反発は、10〜12
月期の落ち込みの大きさの割に小幅なものにとどまると予想して
いた。そこにさらに追い打ちをかけるのが新型肺炎による悪影響
である。中国人観光客の急減に伴ってサービス輸出が落ち込むこ
とに加え、中国経済の悪化により財輸出も下押しされる可能性が
高い。工場の操業停止によって中国における生産活動は大幅に落
ち込んだとみられることに加え、サプライチェーンを通じた悪影
響も懸念されており、日本からの輸出にも少なくとも短期的には
大きな悪影響が及ぶとみられる。こうした下押しを考えると、1
〜3月期についてもマイナス成長が続く可能性がある。
                  https://bit.ly/32j58oE ─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/034]

≪画像および関連情報≫
 ●10〜12月GDP大幅減で露呈「日本の脆弱性
  ───────────────────────────
   今回のGDP(国内総生産)下落が、いかにインパクトが
  大きいのかについては、2019年における各四半期の数字
  を見れば一目瞭然である。2019年1〜3月の実質成長率
  (四半期ベース)はプラス0・6%、4〜6月は、プラス0
  ・5%、7〜9月期はプラス0・1%と徐々に低下していた
  が、10〜12月期では一気にマイナス1・6%となった。
  これを年率換算すると、6・3%にもなる。
   10〜12月期の数字が悪いことは当初から分かっていた
  ことであり、場合によってはマイナス成長に転じる可能性に
  ついても指摘されていたが、ここまで数字が悪いとは思って
  いなかった人も多かったと考えられる。項目別では何かが大
  きく足を引っ張ったのではなく、景気とは無関係に決まる政
  府支出を除き、ほぼすべての項目が大幅マイナスとなった。
   GDPの約6割を占める個人消費はマイナス2・9%(以
  下すべて四半期ベース)、住宅はマイナス2・7%、企業の
  設備投資に至っては3・7%ものマイナスである。10月の
  増税で個人が消費を絞り、住宅購入にもブレーキがかかった
  と見られるが、設備投資が大幅なマイナスということは企業
  心理も著しく悪化したことを示している。もともと企業は、
  国内市場に悲観的で設備投資を抑制してきたが、消費増税を
  きっかけにさらに将来への投資を削減した格好だ。
                  https://bit.ly/39SC3CY
  ───────────────────────────


実質GDP成長率/10〜12月期.jpg
実質GDP成長率/10〜12月期
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2020年02月26日

●「MMTという現代貨幣理論がある」(EJ第5194号)

 いま日本では、1年間で集まる税金が約50兆円あります。こ
れだけあれば何でもできるだろうと思うよね。ところが、国が使
うお金は1年間で約97兆円。つまり47兆円も足りない、とい
うことです。税金を倍にしたら足りるかもしれないけど、みんな
大反対するに決まっているよね。そこで日本は、足りないぶんを
借金してまかなっています。(・・・)
 日本は毎年のようにお金を借りて、いまでは全部で1000兆
円までふくらんでいます。こんなにたくさんの借金をしている国
は世界で日本だけ。だから「日本はこのままでは借金を返せなく
なり、つぶれてしまいますよ」と心配している人もいます。
                       ──池上彰著
        『池上彰のはじめてのお金の教科書』/幻冬舎
─────────────────────────────
 これは池上彰氏の子供向けの絵本に出ている説明です。池上彰
氏は、テレビの番組で、日本や世界で起きているさまざまな出来
事を取り上げ、ていねいにわかり易く解説をする人物としては第
一人者です。しかし、政治的に微妙な問題については、慎重な表
現を巧みに使って解説を施しています。
 上記の日本政府の借金についても「『日本はこのままでは借金
を返せなくなり、つぶれてしまいますよ』と心配している人もい
ます」という微妙な表現を使っています。けっして政府の方針に
逆らってはいないのです。政府の方針とは、2025年までにプ
ライマリーバランスを黒字化するというものです。池上氏の解説
は、基本的にはこれに沿って説明しています。そうしないと、池
上氏といえども、長期間にわたってテレビに出演し続けることは
できないでしょう。財務省の目が光っているからです。
 日本という国は、首がまわらないぐらい膨大な借金を抱えてい
て、このままでは破綻する──今やこれは、子供も含めて、日本
人の共通認識になりつつあります。それだけ財務省のプロパガン
ダが効いてきています。
 しかし、日本政府は、それほどの借金を抱えながらも、国連を
はじめとする国際機関の出資金は米国に次いでつねに上位を占め
ODAを含め、貧困国に積極的に資金を援助しています。安倍首
相も世界各国を飛び回ってお金をばら撒いています。とても借金
大国らしくありません。どうしてそのようなことが、できるので
しょうか。そんなお金はどこにあるのでしょうか。
 この政府の借金の捉え方について画期的な解釈を施し、現在話
題になっている経済の運営に関わる理論があります。MMT──
Modan Monetary Theory がそれです。その定義は次のようになっ
ています。
─────────────────────────────
 MMTとは、自分の国のお金(通貨)で債券を発行できる国は
デフォルトに陥ることはなく、政府は財政の悪化をそれほど気に
せず、積極的に国債を発行して、景気刺激策を進めることができ
るという財政の運営に関する理論です。
 MMTの条件には次の3つがあります。
  @経営黒字である
  A自国通貨建ての国債が発行できる
  Bインフレが起きていない        ──真壁昭夫著
             『MMT(現代貨幣理論)の教科書
        /日本は借金し放題?暴論か正論か見極める』
                   ビジネス教育出版社刊
─────────────────────────────
 MMTに対する日本のメディアの反応をひろってみると、次の
ようになります。
─────────────────────────────
◎産経新聞/2019年4月23日
 「財政赤字を容認する現代貨幣理論(MMT)」
◎日本経済新聞/2019年3月15日
 「『財政赤字は問題ない』とする異端の経済政策論」
◎朝日新聞/2019年4月26日
 「財政赤字なんか膨らんでもへっちゃらで、中央銀行に紙幣を
 刷らせれば財源はいくらでもある、というかなりの『トンデモ
 理論』である」           ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 このように日本においてMMTは、「異端」「トンデモ理論」
として捉えられており、米国でも、グリーン・スパン元FRB議
長やサマーズ元米財務長官などの主流派の学者はみなこの理論を
否定していますが、米国ではある若い下院議員がMMTを主張し
たことで大きな話題になったのです。
─────────────────────────────
 実際、MMTが話題になったのは、アメリカの下院議員選挙で
最年少議員として当選した20代のアレキサンドリア・オカシオ
=コルテスが、MMTの重要性を主張し、政府による積極的な財
政拡大を通してアメリカ経済を活性化していくことが必要だ、財
政赤字を気にしてそれをしなければ、アメリカ経済は疲弊してし
まうのではないかと、主張したことがきっかけだった。オカシオ
=コルテス議員は今、ツイッターで300万人のフォロワーを抱
え、彼女の動画再生回数は4000万を超え、オンラインメディ
ア、ナウ・ジスの動画で、過去最高を記録するほどの「フィーバ
ー」状態になっている。  ──藤井聡著/晶文社の前掲書より
─────────────────────────────
 MMTは、EJがここまで述べてきたことと重要な関係がある
と思います。財務省系の日本の経済学者は、ろくに調べもしない
で、MMTを「トンデモ理論」とコキ下ろしていますが、それは
自分たちにとって都合の悪い理論だからです。明日から、MMT
にメスを入れていきたいと考えています。
           ──[消費税は廃止できるか/035]

≪画像および関連情報≫
 ●「MMT」がトンデモ経済理論と言えないこれだけの理由
                      /安達誠司氏
  ───────────────────────────
   最近、「MMT(現代貨幣理論)」という新しい経済理論
  が内外で話題になっている。MMTとは、簡単にいえば「自
  国通貨建てで政府債務を拡大させれば物理的な生産力の上限
  まで経済を拡大させることができる」という考え方である。
  つまり、MMTは「自国通貨建てで財政赤字を拡大させれば
  政府は簡単に経済の長期停滞から脱出できる」と主張して世
  間の注目を集めているのである。
   当然のように、主流の経済学者のほとんどがMMTを強く
  批判している。特に、ブランシャール、クルーグマン、ロゴ
  フ、サマーズといった主流派経済学の重鎮たちは、執拗にM
  MT批判を展開している。
   ところで、彼らの批判は大きく分けて2つである。1つは
  財政支出の拡大によって金利が急騰し、民間投資が阻害され
  てしまう懸念(クラウディングアウト)である。そして2つ
  めは、財政支出を無限に拡大させることによる(ハイパー)
  インフレ懸念である。このような批判に対し、MMTを主張
  する人たち(「MMTer」といわれているらしい)は、以
  下のように反論している。1つめのクラウディングアウト懸
  念に対しては、「中央銀行が固定(ゼロ)金利政策を採用し
  財政赤字をそのままファイナンスすれば、財政赤字の増加分
  そのまま資金供給が増加するので、民間投資が押し出される
  ことはない(また、中央銀行がゼロ金利政策を長期間維持す
  ることが予想できれば、将来の政策金利の予想で決まる長期
  金利も低位安定するはずである)。https://bit.ly/3a3pJQF
  ───────────────────────────

オカシオ・コルテス下院議員.jpg
オカシオ・コルテス下院議員
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2020年02月27日

●「財務省は財政をどう考えているか」(EJ第5195号)

 日本政府の財政が深刻な状況にあることはほとんど常識化され
ています。しかし、その根拠は、政府債務の対GDP比が200
%を超えているということに過ぎないのです。
 しかし、日本の場合、他の国では当然のようにやっている金融
資産を債務から差し引かず、債務だけを発表しています。それは
政府の借金を多く見せようとする財務省の策略です。借金が大き
い方が増税しやすいからです。
 本当のところは、どうなのでしょうか。少し長いですが、次の
文章を読んでください。これは、米国の格付会社が日本国債の格
付けを下げたときに、財務省がその格付会社に突き付けた抗議文
書と質問状の全文です。
─────────────────────────────
◎外国格付け会社宛意見書要旨
1.貴社による日本国債の格付けについては、当方としては日本
 経済の強固なファンダメンタルズを考えると既に低過ぎ、更な
 る格下げは根拠を欠くと考えている。貴社の格付け判定は、従
 来より定性的な説明が大宗である一方、客観的な基準を欠き、
 これは、格付けの信頼性にも関わる大きな問題と考えている。
  従って、以下の諸点に閲し、貴社の考え方を具体的・定量的
 に明らかにされたい。
 @日米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられ
  ない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。
 A格付けは財政状態のみならず、広い経済全体の文脈、特に経
  済のファンダメンタルズを考慮し、総合的に判断されるべき
  である。
  例えば、以下の要素をどのように評価しているのか。
  ・マクロ的に見れば、日本は世界最大の貯蓄超過国
  ・その結果、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に
   消化されている
  ・日本は世界最大の経常黒字国、債権国であり、外貨準備も
   世界最高
 B各国間の格付けの整合性に疑問。次のような例はどのように
  説明されるのか。
  ・1人当たりのGDPが日本の3分の1で、かつ大きな経常
   赤字国でも、日本より格付けが高い国がある。
  ・1976年のポンド危機とIMF借入れの僅か2年後(1
   978年)に発行された英国の外債や双子の赤字の持続性
   が疑問視された1980年代半ばの米国債はAAA格を維
   持した。
  ・日本国債がシングルAに格下げされれば、日本より経済の
   ファンダメンタルズではるかに格差のある新興市場国と同
   格付けとなる。
2.以上の疑問の提示は、日本政府が改革について真剣ではない
 ということでは全くない。政府は実際、財政構造改革をはじめ
 とする各般の構造改革を真撃に遂行している。同時に、格付け
 について、市場はより客観性・透明性の高い方法論や基準を必
 要としている。       ──上念司著/講談社+α新書
      『財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済』
─────────────────────────────
 どうでしょうか。米国の格付会社は、この質問状にまともには
答えられないはずです。すべてが、真実で固められているからで
す。そのため、主張には強い説得力があります。財務省は、日本
国民に対しては、借金で首がまわらないから増税しかないといっ
ておきながら、外に対しては、このようにまるで違うことをいっ
ているのです。
 さて、財務省は主張のなかで「日米など先進国の自国通貨建て
国債のデフォルトは考えられない」と明言しています。これはま
さにMMTそのものです。財務省の役人は、ちゃんとわかってい
るのです。しかし、国民よりも、自分たちの利益を優先させてお
り、借金の多額さをよいことに、増税を実現させようとしている
のです。これでは公務員として失格です。
 安倍首相もMMTを知らないはずはないと思います。それなら
安倍首相は、なぜ借金など気にしないで、消費増税を凍結し、積
極的に財政出動して、日本経済をデフレから脱却させないでいる
のでしょうか。なぜ2014年に5%〜8%、2019年に8%
〜10%の大増税を実施し、デフレ脱却を不可能にしてしまった
のでしょうか。自分のやったことがわかっているのでしょうか。
 それは、安倍首相には一国のリーダーにとって不可欠な「大胆
な決断力」が欠如しているからです。消費増税も2回延期しまし
たが、結局は実施して、その結果、10月〜12月のGDP成長
率を年率6・3%というとんでもないマイナス成長にしてしまっ
ています。安倍首相のやっていることは「やってる感」は感じさ
せるものの、結局何も実現しないで終っています。
 それは、新型肺炎コロナウイルスの政府としての対応にもよく
あらわれています。この国家的危機に対して、国民の安全と財産
を守らなければならない安倍首相は、リーダーシップをとってい
ません。あるサイトでは、この問題の政府の対応について、次の
ように批判しています。「やってる感」じゃだめなのです。
─────────────────────────────
 新型肺炎の対策で日本は初動を誤った。検査体制に万全を尽く
し、早期発見に努め、市中感染が広がる前に封じ込めをしなくて
はいけなかったのに、検査をせず、感染者を探し出すことをせず
3週間も市中で感染が連鎖するのを閑却した。政府発表の見かけ
の数字は少ないが、市中では3次4次の感染が広がっている。W
HOの進藤奈邦子は、「今一番、世界中が心配しているのが日本
だ」「他の国では全部の感染者が(誰から感染したのか経路が)
追える。日本だけ様相が違う」と言い、日本のルーズな対応に警
鐘を鳴らした。           http://exci.to/37QVqLq
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/036]

≪画像および関連情報≫
 ●永田町大混乱!「新型コロナVS安倍VS菅」
  最後に勝つのは誰だ!/「プレジデント」3月6日号
  ───────────────────────────
   世界中で感染拡大している新型コロナウイルスをめぐり、
  安倍晋三政権の後手後手な対応が批判を浴びている。現在は
  国・湖北省に滞在した外国人の入国を拒否するようになった
  が、当初は「震源地」である武漢市からチャーター機で帰国
  した日本人全員を検査することができず、感染症法に基づく
  「指定感染症」の政令施行日や搭乗者負担としていたチャー
  ター機費用も土壇場で方針転換するなど不手際ぶりが浮き彫
  りになっている。「危機管理」の強さを売りにしてきたはず
  の安倍政権に今、何が起きているのか。
   野党が繰り返し追及してきた森友・加計問題や財務省の文
  書改ざん問題など、「普通ならば内閣が吹っ飛ぶ」(閣僚経
  験者)とされたテーマでも乗り切り、史上最長政権となった
  安倍内閣だが、新型コロナウイルスをめぐる対応はあまりに
  遅く、お粗末さが目立つ。
   中国・湖北省では2019年12月以降、新型コロナウイ
  ルス関連肺炎の発生が確認されていたが、日本政府が関係閣
  僚会議で対応方針を決定したのは20年1月21日。その方
  針も感染リスクが高い地域からの帰国者・入国者に対する健
  康状態の確認や情報収集・情報提供など4項目で、この時点
  で安倍首相は「持続的なヒトからヒトへの感染が確認されて
  いる状況ではないが、一層の警戒が必要となる。感染症の発
  生状況など情報収集の徹底に万全を期してほしい」との認識
  だった。            https://bit.ly/2PmiFqu
  ───────────────────────────

WHO/進藤奈邦子氏.jpg
WHO/進藤奈邦子氏
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2020年02月28日

●「財政を実態より悪くみせる財務省」(EJ第5196号)

 今日は金曜日です。金曜日のEJは、次のEJまで土曜と日曜
の2日間が空くので、どうしてもつながりが悪くなります。した
がって、今日はMMTの周辺の話をします。MMTの本格的な話
は3月2日からになります。さて、消費増税に関して、次のこと
がよくいわれます。聞いたことがあると思います。
─────────────────────────────
 消費税の税率を1%アップすると、2・5兆円税収が増える
─────────────────────────────
 このことをあまり疑う人はいないと思います。税率を上げるの
ですから、その分が増加して、2・5兆円になるのだろうと誰で
も考えます。しかし、よく考えてみると、必ずしもその金額が増
えるとは限らないのではないでしょうか。もし、本当に1%につ
き2・5兆円増えるのであれば、次のように税収が増えたことに
なります。
─────────────────────────────
  ◎第1回/1989年 0%〜 3%  7・5兆円増
  ◎第2回/1997年 3%〜 5%  5・0兆円増
  ◎第3回/2014年 5%〜 8%  7・5兆円増
  ◎第4回/2019年 8%〜10%  5・0兆円増
─────────────────────────────
 実際はどうだったのでしょうか。私の知るかぎり、その結果は
新聞などでは、公表されていないはずです。しかし、経済評論家
の上念司氏の本にその結果が出ています。それによると、第4回
の増税はやったばかりなのでまだ結果が出ていませんが、3回ま
での増税では、いずれも「1%=2・5兆円」は未達成の結果に
終っています。
─────────────────────────────
  ◎第1回/1989年 0%〜 3%
   54・9兆円 → 60・1兆円  +5・2兆円
  ◎第2回/1997年 3%〜 5%
   53・9兆円 → 49・5兆円  −4・5兆円
  ◎第3回/2014年 5%〜 8%
   54・0兆円 → 56・4兆円  +2・4兆円
               ──上念司著/講談社+α新書
      『財務省と題新聞が隠す本当は世界一の日本経済』
─────────────────────────────
 3回とも未達成というのも驚きですが、なかでも悲惨な結果に
終ったのは、第2回の3%〜5%への増税です。増税しているの
に税収が4・5兆円もマイナスになってしまっているからです。
これでは、何のための増税かわからなくなります。
 どうしてこういう結果になるのかについて、上念氏は次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
■税収=名目GDP×税率
 税率を上げても名目GDPに変化がなければ、確かに税収は増
えるでしょう。しかし税率を上げると、人々は支出を抑制し、モ
ノを買わなくなります。そうすると景気が悪くなって、名目GD
Pの伸びが鈍化したり、場合によってはマイナスになる。そして
その落ち込みが税率の上げ幅より大きければ当然、税収も減って
しまうことになるわけです。
 具体的にいえば、消費税の増税によって、消費税だけの税収は
確かに増えるかもしれません。しかし、景気が悪くなることで企
業の収益が悪化し、消費税以外の所得税や法人税が大幅な減収と
なります。1997年のケースは、消費税の増収分よりも所得税
や法人税の減収の幅のほうがはるかに大きかったために、全体と
しての税収が減ってしまったのです。
         ──上念司著/講談社+α新書の前掲書より
─────────────────────────────
 つまり、税収を増やすには名目GDPを上げればよいのです。
名目GDPと税収の間の相関係数は「0・82」であり、相関係
数が「0・7」以上あると、強い相関があるといえます。上念司
氏によると、「GDPが1%増えると、税収は3%以上増える」
そうです。ところが、名目GDPが1%増えたら、税収がどのく
らい増えるかについて、財務省は、公式見解として、次のように
述べています。税収弾性値とは、名目GDPが1%増えると、税
収がどのくらい増えるかを表す数値です。
─────────────────────────────
     名目GDPの税収弾性値はほぼ「1」である
─────────────────────────────
 この数値は明らかに低いのです。財務省から聞き出したとされ
る下記の2005年から2012年度までの税収弾性値を見ると
かなり、高い値であり、平均値は「7・5」になるそうです。こ
の数字はさすがに高いとしても、「3」ぐらいになっても不思議
はありません。それを財務省は「1」としています。長期的には
そうなるというのです。これも日本の財政を実態よりも悪く見せ
たい財務省の思惑なのでしょうか。財務省は何が何でも増税を積
み重ねたいようです。
─────────────────────────────
 ◎平成17年度から24年度の税収弾性値
    平成17(2005)年度 ・・・ 15・6
    平成18(2006)年度 ・・・  6・3
    平成19(2007)年度 ・・・  0・0
    平成20(2008)年度 ・・・  2・6
    平成21(2009)年度 ・・・  4・0
    平成22(2010)年度 ・・・  6・2
    平成23(2011)年度 ・・・ 弾性値マイナス
    平成24(2012)年度 ・・・ 27・0
         ──上念司著/講談社+α新書の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/037]

≪画像および関連情報≫
 ●税収弾性値の議論で抜け落ちる「重要な視点」とは
  ───────────────────────────
   税収の伸び率が名目GDP成長率の何倍になるのかという
  弾性値の議論が活発だ。現在(2015年)の景気回復局面
  では、弾性値(10年ローリング)は3・5倍程度となって
  いるが、数十年のかなり長期的な平均では1倍程度と言われ
  る。6月中に政府がまとめる財政健全化計画の議論では、こ
  の弾性値の前提を控えめな1倍程度とするのか、それより大
  きい数字とするのか、意見が割れているようだ。
   倍数が大きくなれば、名目GDP成長率の伸びに対して税
  収の見積もり(伸び率)も大きくなり、政府の目標である、
  2020年度のプライマリーバランスの黒字化達成のための
  歳出削減幅は、小さくてもすむことになる。
   この議論で疑問なのは、税収の伸び率と名目GDP成長率
  というフローの比較だけが行われていることだ。税収と名目
  GDPの水準比較の議論がほとんど行われておらず、抜け落
  ちている視点であると言える。バブル期の1990年度の税
  収(除く消費税)の名目GDPに対する割合は12%程度で
  あった。しかし、その後に急落が続き、デフレに陥った19
  90た年代後半からは、割合は7%程度となっている。現在
  税収の弾性値が1倍を大きく上回ってきているため、割合は
  上昇傾向にある。日本がデフレを完全に脱却していけば、こ
  の割合は1990年度までとは言わないが、今後もしっかり
  とした上昇が続くはずである。このような税収水準の上方へ
  の調整を考えると、税収の弾性値が2020年度という短い
  期間で1倍程度にとどまるというのは非現実的である。
                  https://bit.ly/37VtuGp
  ──────────────────────────

上念司氏.jpg
上念司氏

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2020年03月02日

●「ウォーレン・モスラーによる物語」(EJ第5197号)

 MMT(現代貨幣理論)の主唱者の一人である、ニューヨーク
州立大のステファニー・ケルトン教授が来日し、2019年7月
16日、都内で講演を行っています。その講演会の冒頭において
ケルトン教授は「ある物語」を語っています。MMTを理解する
前提の話なので、これについて、『週刊現代』記者である小川匡
則氏の次のレポートに基づいて、要約してご紹介します。詳細に
ついては、小川匡則氏のレポートを読んでください。
─────────────────────────────
 MMT(現代貨幣理論)が日本経済を「大復活」させるかも
 しれない。         ──週刊現代記者/小川匡則
                 https://bit.ly/2wft54c
─────────────────────────────
 なお、ケルトン教授は、最初に「この物語は、ウォーレン・モ
スラーから聞いた話である」と断っています。ウォーレン・モス
ラーとは何者でしょうか。
 ウォーレン・モスラーは、金融の実務家です。ファンドマネー
ジャーをやっており、MMTをリードする理論家の一人です。モ
スラーについては、改めて取り上げます。
─────────────────────────────
 ウォーレンには2人の子供がいました。ウォーレンは子供たち
に対して家事を手伝うよう求め、その家事の内容に応じて、自分
の名刺を渡すことを告げたのです。皿洗いなら3枚、芝刈りをし
たら20枚というようにです。
 しかし、子供たちは全然家事を手伝おうとはしませんでした。
ウォーレンがその理由を子供たちに聞くと、「パパの名刺なんか
もらっても意味がない」といったのです。そこで、ウォーレンは
一計を案じ、「この美しい庭園のある家にこれからも住み続けた
いのであれば、月末に30枚の名刺を提出しなさい」と子供たち
に宣言したのです。
 そうしたら、急に子供たちは積極的に家事を手伝い、必死に名
刺を集めるようになったのです。──小川匡則氏のレポート要旨
─────────────────────────────
 「月末に30枚の名刺を出せ」と、子供たちに名刺での支払い
を義務化すると、突然名刺が価値を持つようになったのです。子
供たちは、名刺を集めて父親に支払わないと、家を追い出されて
しまうことを知ったからです。そして、ケルトン教授は、次のよ
うに物語を続けます。
─────────────────────────────
 子供たちが家事を手伝い始めたのは、名刺を集めないと自分た
ちが生きていけないことを認識したからです。そこでウォーレン
は気づきました。「近代的な貨幣制度ってこういうことなんだ」
と。つまり、もし彼が子供に国家における税金と同じものを強要
できるのであれば、この何の価値もない名刺に価値をもたらすこ
とができる。そうすると、彼らはその名刺を稼ごうと努力するよ
うになる、と。
 もちろん、ウォーレンは名刺を好きなだけ印刷することができ
る。しかし、子供たちに来月も手伝わせるために、名刺を回収す
ること(=提出を義務づけること)が必要だったのです。
               ──小川匡則氏のレポート要旨
─────────────────────────────
 ここで「名刺」とは貨幣であり、その「一定の数の名刺の提出
を義務づけること」は「税金の徴収」に当ります。そして、その
税金の徴収によって貨幣に価値を生じさせ、信用を担保すること
になるのです。そして、この物語から得られる教訓として、ケル
トン教授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 ウォーレンは名刺を回収する(課税する)前に、まず名刺(お
金)を使わなくてはならない。つまり、課税の前に支出が先にこ
なくてはならないのです。
 そのことを政府に置き換えると、次のようになります。政府は
税収のために税を課し、それで財政支出をするのではなく、政府
が支出することが先です。その支出されるお金を発行できるのが
政府です。政府は好きなだけお金を発行でき、財政的に縛られる
ことはありません。もちろん、無制限にお金を発行してもいいと
いうわけではなく、その制約となるのは「インフレ」です。
               ──小川匡則氏のレポート要旨
─────────────────────────────
 ここでケルトン教授は、非常にわかりにくいことをいっていま
す。政府支出をする財源は、税収ではなく、国債の発行で得られ
た資金であるという点です。そして、国民が税金を支払うのは、
「納税の義務がある」からであり、「インフレの調整機能を果す
ため」であるといいます。
 常識的には政府支出は税収によって行われ、本来できる限り税
収の範囲内で行われるべきものだが、それが不可能であるときは
手続きを踏んで赤字国債を発行し、それで政府支出を賄うことに
なります。日本の場合、これが長く続いているので、財政赤字が
拡大し、そのGDP対比が200%を超えてしまったわけです。
 ところが、ケルトン教授がいうのは、財政赤字を何ら気にする
ことなく、政府支出は国債の発行によって政府支出を行うべきで
あるとしています。もちろん無制限にそれができるわけではなく
歯止めになるのはインフレであるというのです。ケルトン教授は
次のように力説しています。
─────────────────────────────
 政府にとって財政が制約になるわけではない。何が制約になる
かというと「インフレ」です。インフレは最も注目すべきリスク
です。貨幣量は使えるリソースによって供給量が決まります。も
し、支出が需要を上回ればインフレになる。それはまさに気にす
るべき正当な制約なのです。  ──小川匡則氏のレポート要旨
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/038]

≪画像および関連情報≫
 ●MMT提唱の米教授講演 「消費増税 適切でない」「財政
  赤字脅威ではない」/ステファニー・ケルトン教授
  ───────────────────────────
   自国通貨建てで借金する国は赤字が増えても破綻しないと
  主張する「MMT(現代貨幣理論)」の代表的な論者の一人
  であるニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授が
  2019年7月16日、国会内で講演し、「政府の財政赤字
  は悪でも脅威でもない」と話した。(生島章弘)
   ケルトン氏は民間団体の招きで来日した。MMTの考え方
  では、自国通貨を持つ国では政府は紙幣をいくらでも刷るこ
  とができるため、財政破綻しないとされる。主流派の経済学
  者らからは異端視されている。ケルトン氏は国債発行によっ
  て生じる政府の財政赤字に関して「公的債務の大きさに惑わ
  されるべきではない。(社会保障や公共事業などで)財政支
  出を増やすことで雇用や所得は上昇する」と強調した。
   ただ、安倍政権の経済政策「アベノミクス」については、
  「あまりにも中央銀行に依存することは支持しない。民間に
  お金を借りる意欲がなければ金利引き下げは役に立たない」
  と述べ、金融政策より財政政策の比重を高めるべきだという
  考えを示した。また、日本政府が10月に予定する消費税率
  10%への引き上げについても「適切な政策ではない」と批
  判した。ケルトン氏は講演後の記者会見でも消費税増税に否
  定的な見解を重ねて表明。その上で「家計の支出こそ、経済
  のけん引力として最も重要だ」として、個人の所得を高める
  財政政策の重要性を訴えた。   https://bit.ly/2uDwgSU
  ───────────────────────────

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ステファニー・ケルトン教授

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2020年03月03日

●「ケルトン教授/財政均衡論を否定」(EJ第5198号)

 2019年7月16日のステファニー・ケルトン教授の講演の
続きです。引き続き、『週刊現代』記者である、小川匡則氏のレ
ポートに基づいて、要約してご紹介します。
 ケルトン教授は、「インフレをどうやって防ぐか」というのは
同時に「デフレをどう防ぐか」を考えることでもある、といいま
す。つまり、経済とは、「インフレもデフレも過度にならない、
ちょうどいい状態を維持させるための調整を行うことである──
それがMMTの柱であるといいます。
 ここで、ケルトン教授は、2つの洗面台の図を示して、講演を
続けます。その図を添付ファイルにしてあります。上のシンクを
見てください。
─────────────────────────────
 シンクに水が溢れているのは、インフレの状態です。税金は、
その水を減らすためのものなのです。税金の目的は所得を誰かか
ら奪うことです。なぜ、支出能力を減らすのか。それはインフレ
を規制したいからです。つまり、徴税というのは政府支出の財源
を見つけるためではなく、経済から支出能力を取り除くためのも
のです。           ──小川匡則氏のレポート要旨
                  https://bit.ly/3ciIX6D ─────────────────────────────
 また、ケルトン教授は、インフレを抑制する手段として「規制
緩和」も上げています。かつて石油ショックで石油価格が暴騰し
たとき、規制を緩和して天然ガスも使えるようにしてインフレを
防いだことがあるからです。政府は、インフレが過度になりそう
なときは、増税や規制緩和などの政策を駆使して抑えるべきであ
るというのです。
 続いて下のシンクを見てください。下のシンクは水が少なく、
景気が悪い状態をあらわしており、まさに今の日本であるとケル
トン教授はいいます。問題は、どのようにして水を貯めるかが問
われています。それは、政府が国債を発行して、政府支出を増や
し、水をたくさん出し、それに加えて減税をすることによって、
出て行く水を減らし、水を貯めるのです。現在の日本にはそれが
求められています。
 しかし、現在の日本は、景気の良くないデフレ下にあるのに、
短い間に消費税の税率を2回も引き上げ、「プライマリー・バラ
ンス黒字化」と「財政均衡」と「財政再建」をやろうとして、真
逆の政策を取っています。ケルトン教授は、「現在インフレの問
題を抱えていない日本のような国が、消費増税をするということ
は経済的な意味をなしていない。それによって予算の財源を得よ
うとしても適切な政策目的になり得ない」といい、次のように主
張しています。
─────────────────────────────
 経済のバランスをとることです。予算を均衡することではなく
支出と税金を調整することによって、「シンクの水が完全雇用に
なっても溢れ出ない」、「インフレをきたさない」という状況に
コントロールすることです。MMTは、特定の予算支出を目標と
することはないし、政府赤字を何%にするといった目標設定もし
ない。適切な政策目標は「健全な経済を維持する」ということで
す。あくまで経済のバランスをとることが重要です。つまり、予
算の均衡ではなく、経済の均衡です。
               ──小川匡則氏のレポート要旨
                  https://bit.ly/3cloUnY ─────────────────────────────
 ケルトン教授の主張は、日本の財務省の財政に対する考え方と
は完全に真逆です。経済学の主流を自任する経済学者もこぞって
反対しています。なぜなら、もし、この考え方を認めると、自ら
の学説が壊れてしまうからです。
 MMTに対する反論は、掃いて捨てるほどたくさんありますが
「いかがわしい」とか、「そんなうまい話があるわけはない」と
かいう、非論理的なものばかりです。
 このレポートの最後で、レポートの制作者である小川匡則氏は
次のように述べています。
─────────────────────────────
 MMTの話題になると、必ず「ハイパーインフレになるリスク
がある」といったステレオタイプな批判が出るが、むしろそのイ
ンフレ率の調整にこそ注力するのがMMTなのである。だからこ
そ、いま日本人が考えるべきは、経済状況や社会状況を踏まえた
上で「インフレの要因」を分析することだろう。
 例えば、国債を財源として教育無償化を実現するとしよう。そ
れで果たしてインフレ要因になるだろうか。タダで教育を受けら
れ、教員をはじめとしてそこで働く人たちに仕事を与えることが
できる。それでいて何かの価格高騰を招くのだろうか。
 一方、公共工事を一気に極端に増やした場合には人手不足、資
材不足などで工事費が大幅に上がり、一時的にインフレ圧力を招
くかもしれない。では、どの程度の投資であれば適切なインフレ
率に収まるのか。大切なことはそうした分析をして、適切な政府
支出額を決めていくことである。       ──小川匡則氏
                  https://bit.ly/3abP7nl ─────────────────────────────
 このMMTについて、麻生財務大臣は次のように、反論になら
ない反論をしています。この人はビットコインのときもそうでし
たが、新しい発想や概念に対して、いつもトンチンカンなコメン
トをして失笑を買っています。
─────────────────────────────
 MMTなんてナンセンス。日本はMMTの実験場になる気は
 さらさらない。           ──麻生太郎財務相
─────────────────────────────
 それにしてもこのようなレベルの人が財務大臣を何年やってい
るのでしょうか。これでは、日本は貧しくなるばかりです。
           ──[消費税は廃止できるか/039]

≪画像および関連情報≫
 ●MMTに強い違和感を感じざるをえない2つの理由
               ──エコノミスト/村上尚己氏
  ───────────────────────────
   アメリカで経済論争を巻き起こしているMMT(現代貨幣
  理論)の提唱者の1人、ステファニー・ケルトン教授(NY
  州立大学教授)が来日した。MMTは「異端の経済理論」と
  紹介されるとともに、これについてさまざまな見解が伝えら
  れている。筆者は、東京都内で行われたケルトン教授の講演
  会に参加する機会に恵まれたので、今回のコラムではこれを
  紹介したい。
   MMTの理論は幅広い分野に及んでいるため、筆者は、M
  MTについて全てを十分理解しているわけでない。ただ投資
  家の視点からは、ある程度理解を深めることができたと考え
  ている。まず、MMTが異端の経済理論とされる特徴の一つ
  は、財政赤字や公的債務の規模にとらわれずに、財政赤字を
  大きく増やすことが可能、と主張する点である。
                  https://bit.ly/388h6my
  ───────────────────────────

ケルトン教授提示のイラスト.jpg
ケルトン教授提示のイラスト
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2020年03月04日

●「政府と個人は分離して考えること」(EJ第5199号)

MMTを考えるとき、既に述べてきていることですが、次の2
つを分けて考える必要があります。
─────────────────────────────
 1.「国」と「政府」は分けて考えること。国という場合は、
   政府の他に「民間(企業と個人)」が入る。
 2.「政府」と「個人」は分けて考えること。個人の世界での
   常識は政府の世界では必ずしも通用しない。
─────────────────────────────
 「1」に関しては、ここまでのEJの記述では、峻別してきて
います。財務省は、1100兆円を超える借金を「日本の借金」
と表現し、国民一人当たり876万円の借金になるとその大きさ
を国民にアッピールしています。増税をやり易い環境を作るため
の財務省のプロパガンダです。
 これは正しくないのです。1100兆円を超える借金は、国で
はなく政府の借金です。政府の借金を例えるのであれば、個人で
はなく、企業のはずです。政府と企業は個人よりも似ていること
が多いからです。しかし、財務省は、巧みに政府の借金を企業で
はなく、個人にすり替えています。
 「2」に関してはMMTを正しく捉えるために必要になる考え
方です。個人の世界の常識や慣習は、必ずしも政府レベルでは通
用しないことが多いからです。具体的には、政府が借金をするこ
とは、個人が借金をすることとは違うということです。
 個人の世界では、借金はなるべくしない方がいいし、返済能力
レベルを超える借金はすべきではありません。必要に迫られて借
金をした場合は、返済計画に基づいて、なるべく早く返済するの
は世間の常識です。
 しかし、政府の借金については、いわゆる世間の常識になって
いる借金に対する常識や慣行は通用せず、政府と個人はあくまで
分けて考えるべきです。とくにMMTを正しく理解するためには
そうすべきです。
 政府の借金は国債を発行することで行われますが、日本の場合
ほとんどが国内で消化されているので、それを保有する人にとっ
ては資産となります。つまり、政府の借金は、国民の資産になっ
ているのです。
 MMTについて、法政大学大学院政策創造研究科教授の真壁昭
夫教授は、MMTに関する自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 もし皆さんが、「皆さんは働いて、お金を稼ぐ力を持っていま
す。その力を裏付けに、自由にお金を借りることができます。返
済の問題を気にする必要はないから、どんどんお金を借りて、食
事でも旅行でも、好きなことを思う存分楽しんでください」とい
われたとしましょう。
 皆さんがそれを信じると仮定すると、多くの人がお金を借り、
消費や投資を行います。その結果、モノやサービスを提供した人
は収入を手にします。企業の儲けも増えるでしょう。これは、借
金が資産を生むことを意味します。
 これと同じようなことを、MMTの専門家たちは、国単位で実
施しようと考えています。「国は徴税力を裏付けに、自分の国の
通貨で自由に債務を発行できる。通貨の発行は思うがままにコン
トロールでき、借金を返済できなくなることは心配する必要はな
い」と主張しています。その上で彼らは、借金が経済の活動を活
発化させ、国民の資産(富)を増加させ、望ましい経済環境を達
成できると考えます。            ──真壁昭夫著
 『MMT(現代貨幣理論)の教科書/日本は借金し放題?暴論
         か正論かを見極める』/ビジネス教育出版社
─────────────────────────────
 個人の借金と政府の借金で同じことがひとつあります。お金を
借りると、そのレンタル料として、金利を貸し手に支払わなけれ
ばなりません。金利がかかることは、政府の借金も個人の借金も
同じです。しかし、現在日本では、金利が非常に低い水準で推移
しています。2020年2月時点の長期金利(10年物国債の金
利)は、マイナス0・105%です。
 もうひとつ、これに加えて日本の場合、物価もほとんど上昇し
ていない。しかも経常収支は黒字であり、海外から多くのお金を
受け取っており、企業は多くの資金を保有しています。こんな状
況下において、日本は短期間の間に財政再建と称して消費税の5
%を10%に倍増させています。わざわざ個人消費を冷やし、景
気を悪化させ、デフレを長期化させようとしています。
 MMTの主唱者は、物価に関して、どのように考えているので
しょうか。
─────────────────────────────
 MMTを支持する専門家らは、「物価の上昇を怖がるな」と説
いています。インフレのリスクを怖がると、政府の財政政策が慎
重になってしまい、結果的に、景気の回復が思うように進まなく
なってしまうからです。MMTでは、政府には物価をコントロー
ルする能力があると考えます。
 例えば、政府が大規模に債券を発行して、インフラ投資などの
公共事業を進めたとしましょう。公共事業が始まり、多くの人が
建設現場などで働けるようになりました。コンクリートやアスフ
ァルト、橋などの建設に使われる鋼材など、多くのモノが必要と
されます。モノが必要とされることを「需要」といいます。より
多くのモノが必要とされる場合、景気が回復する中で、需要が高
まり、モノの価格が持続的に上昇する。これが、インフレです。
                ──真壁昭夫著の前掲書より
─────────────────────────────
 MMTにとって、物価は財政支出を続けるかどうかの重要な尺
度になっています。MMTでは、政府が望ましい物価の水準を定
め、その水準が達成されるまで、財政支出を進めればよいと考え
ます。現在、アベノミクスで日銀が2%の物価目標を追っている
のとよく似ています。 ──[消費税は廃止できるか/040]

≪画像および関連情報≫
 ●MMTという妖怪が徘徊している/三輪晴治氏
  ───────────────────────────
   MMTが徘徊し始めてから,世界の多くの経済学者や政府
  の役人が躍起になって,それは魔物だ,でたらめな理屈だと
  騒ぎ立てている。かつて天動説の時代に,地動説が唱えられ
  始めたときのようである。
   MMTという妖怪の正体は次のようなものであるらしい。
  「為替が変動相場制をとる国で,その国の自国通貨建てでの
  国債は,いくら発行しても財政破綻になることはない」とい
  うものである。そしてこの妖怪には尻尾がついている。それ
  は「供給能力、つまりインフレ率という国債発行の上限はあ
  る」ということ。
   そして「デフレ,イノベーション力の衰退,富の格差など
  によりその国の経済のバランスが崩れているとき,その崩れ
  を是正し,経済の活力をつけるために必要な資金であれば,
  それがいかに大きなものであっても政府がそれを供給しても
  問題はない」。MMTの基本の考え方は「国の債務は国民の
  資産である」という「信用創造」の理論と事実である。
   世界の経済学者,政府,政治家は,この妖怪についていろ
  いろの欠陥をあげつらい,批判している。最も多い批判は,
  MMTではハイパーインフレーションになるというものであ
  る。MMTはインフレになれば金の供給をストップし,増税
  をすればよいというが,それを実際にコントロールすること
  は不可能だと言う。       https://bit.ly/2wZzjWl
  ───────────────────────────

真壁昭夫教授.jpg
真壁昭夫教授
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2020年03月05日

●「政府はお金をいくらでもつくれる」(EJ第5200号)

 MMT(現代貨幣理論)について多くの人は、最近急に出てき
たいかがわしい理論と捉えているようです。まず、この誤解から
解く必要があります。MMTについて、藤井聡京都大学大学院教
授は、自著で次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 その源流は、19世紀後半から20世紀初頭に活躍したドイツ
歴史学派の学者、G・F・クナップが展開した貨幣論にある。そ
して経済学全体に巨大な影響を及ぼしたJ・A・シュンペーター
や、J・M・ケインズ等の経済理論やA・ラーナーが提唱した財
政論に影響を受けつつ経済政策論を展開した(ポストケインズ主
義の代表的論客であった)H・ミンスキーの薫陶を受けたL・R
・レイらによって体系化されたものだ。実際レイは、彼の著書、
『MMT現代貨幣理論入門』の中で、MMTを「巨人たちの偉業
の上に成り立っている」ものと的確に表現している。
 だからそれは、MMTについて聞きかじった程度の知識しかな
い日本の記者達が「トンデモ理論」だの「異端」だのと批判でき
るようなレベルの代物ではない、正統な経済理論なのである。し
たがって、その中身を知れば知るほどに、誰もが納得してしまわ
ざるを得ない、極めて理性的な理論なのである。
                   ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 いわゆるお金、マネー (money)は、「貨幣」とも「通貨」と
も呼ばれます。この違いをはっきりさせておく必要があります。
「貨幣」は「紙幣」に対応するものであり、狭義としては「鋳造
貨幣」、すなわち、政府の発行する「硬貨」(500円ニッケル
黄銅貨幣、100円白銅貨幣、50円白銅貨幣、10円青銅貨幣
5円黄銅貨幣、1円アルミニウム貨幣の6種類)を意味します。
これに対して「紙幣」とは、日本銀行が発行する「日本銀行券」
を指しています。
 これに加えて「通貨」という言葉を使って整理すると、通貨に
は「現金通貨」と「預金通貨」があります。現金通貨には、流通
している紙幣と硬貨、それに銀行に預金されている預金通貨があ
ります。この預金通貨のほとんどは、紙幣や硬貨という具体的な
お金の数ではなく、デジタルな預金情報として存在しているだけ
です。これはこれまでも何回も述べています。
 MMTを理解するには、現代社会におけるお金とは、国家が作
り出すものであることを理解する必要があります。よく「日銀は
お金(紙幣)を刷る」といいますが、実際にお金を刷っているの
は、日銀ではなく国立印刷局です。それも、日銀の指示によって
印刷しているのではなく、財務省の計画にしたがって、必要な分
だけ印刷しているのです。
 これは、今回のテーマの冒頭でも述べましたが、ここで必要な
分とは、古くなったり、破損した紙幣を交換する分と、お金の総
量が増えるにしたがって増やす分の2つです。この後者の「お金
の総量が増えるにしたがって増やす分」とは、何を意味している
のでしょうか。
 世の中に流通しているお金の総量と、紙幣(日本銀行券)の総
量は、同一ではないのです。紙幣の総量は約100兆円、世の中
に流通しているお金の総量は約1300兆円(M3)です。流通
しているお金のほとんどは預金情報としてデジタルなかたちで存
在しており、紙幣というお金としての具体的な形が必要な分しか
印刷しないのです。
 もうひとつはっきりさせておくべきことがあります。一般的に
は、政府は国債の発行をすることはできるものの、お金を作り出
すのは中央銀行である日銀の仕事であるという考え方です。日銀
には政策の独立性が認められており、あくまでお金を作り出すの
は、日銀であるというです。これについて、藤井聡教授は、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 実際、私達が普段使っている千円札や一万円札には「日本銀行
券」と書かれている。つまりそれは、「日本銀行」という日本の
中央銀行が作り出したものだ。そして、その日本銀行の株主は、
55%が日本国政府であり、日本政府の事実上の「子会社」であ
る。もちろん、日本銀行には経営の自主性が認められているが、
日本銀行法第四条に「日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節
が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の
経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡
を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」とも明記さ
れており、政府から完全に独立な振る舞いをすることは法律的に
も禁じられている。だから、政府というものを中央銀行と一体的
なものとして捉えるのなら、政府は貨幣を作り出すことができる
のである。        ──藤井聡著/晶文社の前掲書より
─────────────────────────────
 政府と日銀を一体のものと捉え、政府と日銀のバランスシート
を合体させることを「統合政府」といいますが、この考え方に立
つとMMTはスンナリ理解できるのです。統合政府の場合、国債
は政府の債務であるが、日銀にとっては資産であり、この資産と
負債は相殺できることになります。
 統合政府はともかくとして、「政府は貨幣を作り出すことがで
きる」のは確かです。そうであるなら、次のことが成立します。
─────────────────────────────
 政府は、自国通貨建ての国債で破綻することは、事実上あり
 得ない。            ──MMTの基本的前提
─────────────────────────────
 要するに、日本政府が日本円の借金を返せなくなってしまうこ
とはあり得ないということです。なぜなら、日本円を作っている
のが日本政府であれば、自身が「作ることのできる円」を返せな
くなることはあり得ないからです。
           ──[消費税は廃止できるか/041]

≪画像および関連情報≫
 ●「天下の暴論」MMTから学ぶこと
  ───────────────────────────
   「国はどんなに借金をしても、その重荷で破綻することは
  ない」と言い切って、積極的な財政出動をよびかけるアメリ
  カ発の異端の経済理論=MMTが話題になっています。
   最初に聞いた時、わたしは「天下の暴論」と思いました。
  長年、国の財政を取材し、借金が膨らみ続ける状況に警鐘を
  ならす原稿を書き、解説してきた身にとって、借金を減らす
  努力を「全否定」するかのような経済理論は、「元も子もな
  い」と思ったからです。日本の政府、中央銀行の関係者も含
  めて、そう思う人が多いでしょう。
   ただ、暴論として片づけずに、世界一の経済大国アメリカ
  で議論になっているわけを知りたいと、取材することにしま
  した。(アメリカ総局記者 野口修司)
   MMTは、「Modern Monetary Theory」という学説。その
  要点は、「自国の通貨を持つ国家は、債務返済に充てるお金
  を際限なく発行できるため、政府債務や財政赤字で破綻する
  ことはない」というもの。景気を上向かせ、雇用を生み出し
  ていくためにも、「政府は借金を気にせず、積極的に財政出
  動すべきだ」と説いています。私が取材に向かったのは、ニ
  ューヨークから車で北に2時間あまり。バード・カレッジの
  ランダル・レイ教授。MMTを四半世紀にわたって研究して
  いる経済学者です。       https://bit.ly/38jdwWL
  ───────────────────────────
MMTを体系化したL・R・レイ教授.jpg
MMTを体系化したL・R・レイ教授
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2020年03月06日

●「日本は緊縮病により貧乏化が進行」(EJ第5201号)

 日本の経済学者でエコノミスト、日本銀行政策委員会審議委員
の原田泰氏は、MMTについて次のように批判しています。
─────────────────────────────
 (MMTをやれば)必ずインフレが起きる。(提唱者は)イン
フレになれば、増税や政府支出を減らしてコントロールできると
言っているが、現実問題としてできるかというと非常に怪しい。
         ──2019年5月22日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 政府の借金をどんどん増やすと、必ずインフレになる。インフ
レになったら、コントロールできない──これがMMTに反対す
るほとんどの経済学者の意見です。
 安倍首相率いる日本政府は、アベノミクスを行いながら、20
25年には借金をゼロにする(プライマリーバランスゼロ)とい
う目標を立て、消費増税を繰り返し、毎年の予算を可能な限り抑
制しようとしています。つまり、MMTとは真逆の政策を展開し
ていることになります。
 考えてみると、アベノミクスが好調だったのは、日銀による異
次元の金融緩和と機動的な財政出動を同時にやっていた最初の時
期に限られていたことがよくわかります。日経平均株価は急上昇
し、やがて株価は倍以上になり、雇用が劇的に改善しています。
 そのアベノミクスを完全に壊したのは、2014年4月の3%
の第1回目の消費増税と、息の根を止めたというか、止めるであ
ろうと思われる、2019年10月の2%の消費増税です。現在
ではアベノミクスという言葉すら使われなくなっています。それ
に、予期していなかった新型コロナウイルスの蔓延による深刻な
経済へのダメージが加わって、個人消費は大幅にダウンし、日本
のデフレはさらに深化してしまうことは確実です。このさい思い
切って、消費税の税率を5%に戻すべきです。もし、やらなけれ
ば、次の選挙で、現在の与党(自民党プラス公明党)は確実に敗
北することは必至です。
 メディアが伝えないので、ほとんどの日本人は認識していませ
んが、2015年までの20年間で、日本のGDPは、ドル建て
換算で20%も縮小しています。このマイナス20%という数字
はもちろん世界最下位です。なぜ、マイナス成長になるのかとい
うと、日本は「緊縮病」という病気にかかっているからです。主
導しているのは財務省です。同じように、緊縮病にかかっている
国にドイツがあり、ドイツは世界のなかで、日本に次いで成長率
の低い国家になっています。
 財務省は、政府の借金があまりにも膨大になると、財政破綻が
起こり、日本が破綻してしまうと国民に説いています。これは完
全な間違いですが、そのことを一般家庭の借金に置き換えて説明
するので、多くの国民は納得してしまいます。
 そこで、これを防ぐために、消費税を増税して、少しずつでも
借金を返し、基本的には入ってくる税収ですべてを賄うようにす
べきであるとして、2014年からわずか5年間で、消費税の税
率を5%から10%に倍増させたのです。
 それでいて、海外の格付会社が、日本国債の格付けを下げよう
とすると、財務省は「自国通貨建ての国債が破綻することなどあ
り得ない」とMMTの主張と同じ理屈で反論します。この財務省
の「外国格付け会社宛意見要旨」については、2月27日のEJ
第5195号で紹介しています。   https://bit.ly/39ozYz7
 いつも国民に訴えていることと、海外の格付会社にいっている
ことが真逆なのです。もし、格付会社にいっていることが正しい
のであれば、財務省は国民を騙していることになります。
 ここで考えてみるべき国があります。それは中国です。中国の
債務の対GDP比は、あまり大き過ぎて公表されていませんが、
それは日本の比ではないはずです。そのため「そのうち中国経済
は破綻する」と期待している向きもありますが、一向に財政的に
潰れそうもありません。中国は巨額の財政出動で得た潤沢な資金
をあらゆる分野に投入し、経済の面でも、軍事面でも、科学技術
の面でも、米国に着々と迫りつつあります。
 この中国について、藤井聡京都大学大学院教授は、「中国は緊
縮病にかかっていない」として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 そんな緊縮病という不安神経症を全く患っていないが故に、こ
こ20年ほど超絶なるスピードで経済成長を果たした国がある。
中国だ。彼らは、リーマンショックなどの不況になれば、借金が
増えることなどお構いなしに、50兆円を上回る凄まじい財政出
動を果たし、たちどころにショックから立ち直った。そのおかげ
で凄まじく経済は成長し、税収も拡大、今度はその資金を使って
ユーラシア全土でインフラ投資を展開する「一帯一路構想」をぶ
ち上げ、政府支出を拡大し続けている。そしてその結果、税収も
格段に上昇させ、中央政府においては、財政赤字の問題など何も
なかったように成長し続けている。   ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 考えてみると、戦後の日本も緊縮病などにかかっておらず、積
極的な政府支出を行い、それを拡大させています。それだけでは
足りず、世界銀行から多額の借金をして、東名高速道路などの大
型のインフラ投資を繰り返し、積極的な政府支出を大きく積み上
げていったのです。その結果、日本は超高度成長を成し遂げ、世
界第2位の経済大国になっています。
 それが一転して、現在の日本は、過剰なほどの緊縮を行うよう
になり、それが国家の衰退と国民の貧困化を招いています。それ
でいて、政府は一向に緊縮化をやめようせず、借金を減らすこと
しか考えておらず、財政規律の重圧に押しつぶされるようになっ
ています。MMTはその真逆の考え方です。このMMTの考え方
に基づいて、大胆な減税、思い切った財政出動などの政府支出を
行い、何よりもデフレからの脱却を成し遂げる必要があると思い
ます。        ──[消費税は廃止できるか/042]

≪画像および関連情報≫
 ●MMTも主流派経済学もどっちもどっちな理由
  ───────────────────────────
   財政赤字の積極的な拡大を推奨する「現代金融理論/MM
  T」をめぐり、米国では経済学者たちがメディアを巻き込み
  論争を展開している。その論争の内容は、われわれ日本人に
  とっては失笑を禁じえないところがある。また、ある種のデ
  ジャビュを感じるものでもある。
   MMTを主張する経済学者たちは、経済学コミュニティに
  おいては少数派だ。批判する経済学者のほうが数も多いうえ
  地位や名声もはるかに高い。この数カ月間で、ポール・クル
  ーグマン、ラリー・サマーズ、ケネス・ロゴフといったそう
  そうたる面々がMMTを批判する議論を展開しており、ジェ
  ローム・パウエルFRB(米国連邦準備制度理事会)議長や
  黒田東彦日本銀行総裁をはじめ、現役の中央銀行幹部も批判
  の弁を述べている。メディアはこの論争を「主流派経済学V
  S非主流派経済学」という描き方で盛り上げている。
   印象から言えば「非主流派」がずいぶんと威勢よく攻勢を
  かけているのに対し、「主流派」の反論は何やら昔ながらの
  教科書を紐解くような内容で、今ひとつ歯切れが悪い。経済
  学コミュニティの外野からは、小勢ながら果敢に攻める「非
  主流派」に「ヤンヤ」の声が掛かる状況だ。MMTは現状打
  破のための最終兵器であるかのように喧伝されており、米国
  では特にポピュリスト政治家やトランプ政権を政治的に攻め
  あぐねている野党民主党の政治家の中にこの理論の信奉者が
  少なからずいる。        https://bit.ly/2vwMdLk
  ───────────────────────────

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原田泰日銀政策委員会審議委員

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2020年03月09日

●「経済学者ゴドリーのSFCモデル」(EJ第5202号)

 MMTの主唱者の一人であるステファニー・ケルトン教授が来
日講演のさい、示したグラフを今日のEJの添付ファイルにして
います。ケルトン教授は、「財政再建」の旗印のもとで、いつも
目の敵にされている「財政赤字」について、添付ファイルのグラ
フを示し、次のように述べています。
─────────────────────────────
 財政赤字は政府側からの見方でしかありません。我々民間の側
からバランスシートを見ましょう。すると、政府の赤字と同じだ
けが民間の黒字となります。政府の赤字は悪でも脅威でもなく、
財務のミスマネジメントの証拠となるものでもない。そういう見
方ではなく、政府の赤字は単なる手段なのです
                  https://bit.ly/2TGp3tQ ─────────────────────────────
 確かにグラフを見ると、「民間の黒字=政府の赤字」になって
います。このことをMMTの「理論的な想定」とする向きがあり
ますが、そうではなく、これは「定義上の事実」なのです。狐に
つままれるようだという人もいますが、そんなことはなく、ごく
当たり前の事実をいっているのです。
 これについて、駒澤大学経済学部准教授の井上智洋氏は、自著
で、次のように解説しています。とてもわかりやすい解説である
と思います。
─────────────────────────────
 「MMTはただの会計学的な事実なので否定しようがない」と
か、「経済学者よりも、経理係や税理士のような実務家のはうが
MMTを理解しやすい」といったことが、しばしばMMTの支持
者によってつぶやかれて(文字どおりツイートされて)いますが
ゴドリーのSFCモデルのことを指して言っているのでしょう。
 借り手がいれば必ず貸し手がいるわけで、考えてみれば当然の
ことです。民間部門の中でも、誰かの「債務」は誰かの「債権」
を意味しています。債務というのは金品を支払う義務ということ
で、債権というのは金品を要求する権利のことです。
 私が友達にお金を貸せば、私は債権者で友達は債務者です。銀
行が政府にお金を貸せば、銀行が債権をもち政府は債務を負いま
す。そして、債権は土地やお金などとともに資産に含まれます。
 したがって、政府が借金をすればするほど、民間部門の金融資
産が増大するのです。こうしたこともまた、当たり前の事実で重
要であるにもかかわらず、主流派経済学者によって見過ごされが
ちでした。 ──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
                     講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 井上智洋准教授の説明にわからないことがひとつあります。そ
れは「ゴドリーのSFCモデル」です。これは、何を意味してい
るのでしょうか。
 実は、来日講演会のさい、ケルトン教授は、MMTに関連して
アバ・ラーナー、ハイマン・ミンスキー、ウェイン・ゴドリーの
3人の名前を上げて、会場に次のように問いかけています。
─────────────────────────────
   ウェイン・ゴドリーを知っている人、手を上げて?
           ──ステファニー・ケルトン教授
─────────────────────────────
 これに対して挙手したのは、60人いる参加者のうちのたった
の3人だったといいます。しかし、ゴドリーのMMTへの貢献度
は、ラーナー、ミンスキーに何ら劣ることはないのです。それは
何といっても、「ストック・フロー・一貫モデル」にあります。
SFCとは、次の頭文字をとっています。ゴドリーは、「政府部
門の赤字」は、「民間部門の黒字」という当たり前の会計的事実
を、このSFCモデルとして定式化し、MMTに取り込んだので
す。SFCモデルの定義も書いておきます。
─────────────────────────────
        ストック・フロー・一貫モデル
        Stock-flow Consistent Model
 厳密な会計のフレームワークに基づくことにより、経済のすべ
てのフローとストックを正しく包括的に統合することが保証され
たマクロ経済モデルの一群のことである。
─────────────────────────────
 ゴドリーは、少し変わった英国の経済学者で、オックスフォー
ド大学を卒業したあと、なぜか、パリ音楽院で音楽を学び、BB
Cウェールズ管弦楽団の首席オーボエ奏者を務めていたことがわ
かっています。
 政府の借金の限度は、民間の金融資産が天井になる──このよ
うなことがよくいわれますが、これはSFCモデルを踏まえると
ナンセンスなのです。なぜなら、政府が借金した分だけ、民間金
融資産が増えているからです。財務省は、民間金融資産が政府へ
の貸し出しに回されているといっていますが、これは完全に順序
が逆です。なぜなら、政府が借金をすればするほど、民間部門の
金融資産が増大するからです。
 井上智洋准教授は、次のような興味ある事実を自著のなかで指
摘しています。
─────────────────────────────
 政府の借金がゼロということは、民間金融純資産がゼロである
ことを意味します。果してそれは望ましいことなのでしょうか。
そして政府部門の黒字は、民間部門の赤字を意味します。アメリ
カのクリントン大統領の時代に政府黒字が達成され、多くの経済
学者がそれを肯定的に見ている一方で、ゴドリーやランダル・レ
イ氏は警告を発しました。    ──井上智洋著の前掲書より
─────────────────────────────
 政府部門の黒字は、民間部門の赤字を意味するのです。だから
ゴドリーは警告をしたのですが、そのとき誰もこの警告を一顧だ
にしませんでした。それが政府部門の赤字が巨大化して、MMT
が注目されています。 ──[消費税は廃止できるか/043]

≪画像および関連情報≫
 ●ウェイン・ゴドリー/危機をモデル化した経済学者
  ───────────────────────────
   ボストン─2008年の金融危機と大停滞は、依然として
  生々しく痛みを伴う記憶だが、多くの経済学者は、1930
  年代の大恐慌時代とその後に起こった考え方に根本的な変更
  が必要かどうかを自問している。国際通貨基金(IMF)の
  チーフエコノミスト、オリビエ・ブランチャードは2011
  年の会議で「我々は新世界に入っている」と述べた。「経済
  危機は私たち多くの信念を疑わせるものであった。私たちは
  この知的挑戦を受け入れる必要がある。」
   危機を予測することができなかった主流モデルの改革に経
  済学者たちが挑戦するならば、差し迫っていた危機に気づい
  ていた数少ない経済学者の一人である、レヴィ経済研究所の
  ウェイン・ゴドリーを参考にしなければならないだろう。残
  念ながらゴドリー氏は、2010年に83歳で亡くなった。
  しかし、彼の影響は広がり始めている。フィナンシャル・タ
  イムスの著名コラムニスト、マーチン・ウルフや、ゴールド
  マン・サックスのグローバル投資研究のチーフエコノミスト
  ジャン・ハッジアスが、ゴドリーのアプローチを拝借してい
  る。北米と欧州のいくつかの経済学者グループ(危機後に金
  融と慈善家ジョージ・ソロスによって設立された新経済思考
  研究所が支援しているグループも含まれる)も彼のモデルを
  使い始めている。        https://bit.ly/2PVAnRH
  ───────────────────────────

kerutonkyoujuga2019nen7gatunonihonkouendeshiyoushitagurahu.jpg
ケルトン教授が2019年7月の日本講演で使用したグラフ
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2020年03月10日

●「ケルトンはサンダースの政策顧問」(EJ第5203号)

 新しい理論というか、考え方というか、新しい見解というか、
そういうものが公開されると、その内容がユニークであればある
ほど、必ず反対意見が出てきます。まして、それが自分のつねに
主張していることに矛盾する場合は、猛然と反論します。
 MMT(現代貨幣理論)に関しては、著名な経済学者のほとん
どが反対の立場をとっていますし、日本の経済学者、経済評論家
ジャーナリストなどの多くは賛成ではないようです。しかし、消
費増税に反対の立場をとる藤井聡京都大学大学院教授は、MMT
の解説書を上梓して、賛成の立場をとっておられます。
 しかし、まだ立場をはっきりさせていない専門家もたくさんい
ます。きちんと勉強していないのでしょう。政治家では、自民党
参議院議員の西田昌司氏が、MMTに賛成の立場を明確にしてお
り、とても目立っています。
 それでいて、ステファニー・ケルトン教授が2019年7月に
来日し講演をしたとき、受講希望者が殺到、抽選で2回の講演会
の参加者を決めたといわれます。そのとき、1回の受講者は60
人に制限されていたようです。おそらく出席者は経済の専門家が
多かったはずです。トンデモ理論といわれながらも、どのような
理論か、本家の学者の話を直接聴きたかったに違いありません。
 そもそも米国でMMTの議論が巻き起こったのは、2019年
1月のことです。それは、史上最年少の女性下院議員であるアレ
キサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員の掲げる「グリーン
・ニューディール政策」についての議論が原因です。この政策は
太陽光や風力などの再生可能エネルギーを100%にしようとす
るもので、当然のことながら、巨額の資金が必要になりますが、
その財源として赤字国債を上げています。これに関してオカシオ
・コルテス下院議員は、次のように主張しています。
─────────────────────────────
 グリーンニューディールを成功させる方法に関しては、富裕層
課税など、いくつもの財源創出方法があります。政府の赤字支出
は良いことです。そしてグリーンニューディールを実現させるた
めには、財政黒字こそが、経済にダメージを与えるとするMMT
の考えを、”絶対に”私たちの主要議論にする必要があります。
              ──オカシオ・コルテス下院議員
                  https://bit.ly/39ArTY9 ─────────────────────────────
 実は、ナンシー・ペロシ下院議長は、オカシオ・コルテス議員
だけでなく、民主党の大統領候補、さらに70人の民主党議員が
GND(グリーン・ニューディール政策)に賛同していると言明
しており、コルテス下院議員については、その実現を目指させる
ため、気候変動委・予算編成委の部署へ異動させています。
 もちろん、米民主党のすべてがMMTに賛成しているわけでは
ありませんが、その予算化の案の一つとして、MMTの検討を始
めているのは事実です。
 民主党大統領予備選挙の候補であるバーニー・サンダーズ上院
議員と、エリザベス・ウォーレン上院議員(大統領候補から撤退
表明)は、GNDの財源について、次のように述べています。
─────────────────────────────
◎バーニー・サンダーズ上院議員
 ・雇用、格差是正、インフラ整備、貿易、退職保障および教育
 に対して(国債発行して)赤字支出をしなければならない。例
 えば、インフラに5年で1兆ドル以上の投資をすれば1300
 万の高給の雇用を創出できるでしょう。
◎エリザベス・ウォーレン上院議員
 ・政府預金(税収)で支出増加を賄うとする議会の現在のやり
 方は全く意味をなしません。教育やインフラ、人々や国内企業
 への投資など、時間の経過とともに本当の価値を生み出す投資
 があります。そういったことを我々の政府会計では考慮すべき
 です。              https://bit.ly/39ArTY9
─────────────────────────────
 サンダース上院議員にしても、ウォーレン上院議員にしても、
MMTとはっきり口にしていませんが、明らかにMMT的考え方
を述べています。なぜ、MMTなのでしょうか。彼らとMMTは
どういう関係があるのでしょうか。
 それは、ステファニー・ケルトン教授が、バーニー・サンダー
ズ上院議員の政策顧問を務めているからです。ちなみに、ケルト
ン教授は、オカシオ・コルテス下院議員の経済アドバイザーも務
めています。したがって、もし、サンダース上院議員が大統領に
になったら、MMTが米国の経済政策に大きな影響を与えること
になる可能性があります。
 これに対して、米国の主流派の経済学者の3人は、それぞれ次
のようなバカにしたような言葉を連ねて反対しています。
─────────────────────────────
  ◎ポール・クルーグマン氏(ノーベル経済学賞受賞者)
   ・「理解不能」
  ◎ケネス・ロゴス氏(経済学者/ハーバード大学教授)
   ・「ナンセンス」
  ◎ローレンス・サマーズ氏(経済学者で、元財務長官)
   ・「ブードゥー経済学」(いかがわしい経済学)
      ──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
                     講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 経済学の世界で主流を占めているのは、「ニュー・ケインジア
ン」と呼ばれる人たちです。経済学の教本を出していて著名なグ
レゴリー・マンキューやクルーグマンは、このグループに属しま
す。これに対して、「ポスト・ケインジアン」と呼ばれる一派が
あり、MMT系の経済学者はこれに属します。同じケインジアン
ですが、右寄りのニューケインジアン、左寄りのポストケインジ
アンの考え方は大きく異なります。
           ──[消費税は廃止できるか/044]

≪画像および関連情報≫
 ●ケルトン教授が、顧問のバーニー・サンダース氏を大統領に
                 ──2019年5月の記事
  ───────────────────────────
   MMT(現代貨幣理論)の提唱者の1人、ニューヨーク州
  立大学のステファニー・ケルトン教授が6月に訪日するそう
  です。自民党議員でMMTを支持する安藤ひろし氏と西田昌
  司氏と会うことを楽しみにしています。いいですねえ。政治
  のダイナミズム。アメリカが日本が変わろうとしています。
   ケルトン教授は2016年の米国大統領選でバーニー・サ
  ンダース上院議員の顧問を務めており、2020年の大統領
  選でも同氏の顧問を務めることになりました。MMTが注目
  されている今、最高のタイミングで、最高の人が大統領候補
  として名乗りを上げ、最高の人が顧問を務めることにわくわ
  くしています。
   ところが今、民主党の大統領候補を選ぶ予備選ではジョー
  ・バイデン議員が大きくリードしています。サンダース氏は
  2位につけており、実質、両候補の戦いになりそうです。ど
  ちらも70代の半ばと高齢ですが、エネルギッシュに、選挙
  キャンペーンを繰り広げており、かっこいいと思います。し
  かし、やはり勝って欲しいのはサンダース氏。サンダース氏
  が勝てば、文字通りアメリカが変わります。当然日本も、世
  界も変わることになります。   https://bit.ly/2TxL6E8
  ───────────────────────────

西田昌司自民党参院議員.jpg
西田昌司自民党参院議員
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2020年03月11日

●「記者とケルトン教授との一問一答」(EJ第5204号)

 MMTにスポットライトを当てた一人である、元ウエイトレス
の29歳のオカシオ・コルテス下院議員ですが、彼女の掲げる政
策は、次の3つです。
─────────────────────────────
   1.GND ・・・ グリーン・ニュー・ディール
   2.JGP ・・・       国民総雇用保証
   3.MFA ・・・         国民皆保険
─────────────────────────────
 オカシオ・コルテス下院議員の政策の達成には、莫大な資金が
かかります。彼女は、その財源の調達にMMTの考え方を使おう
と考えています。そのためには、民主党のバーニー・サンダーズ
上院議員が大統領になることがベストです。ステファニー・ケル
トン教授は、サンダーズ上院議員の政策顧問にして、オカシオ・
コルテス下院議員の経済アドバイザーを務めています。
 ここに、記者(Q)とケルトン教授(A)とのMMTに関する
一問一答があります。MMTの理解につながると思われるので、
何回かに分けてご紹介し、解説を加えることにします。
─────────────────────────────
Q:グリーンニューディールの財源は、ちゃんと確保できるので
  しょうか?
A:はい、連邦政府は、自国通貨で売りに出されているものは何
  でも購入することができます。
Q:あなたは、政府は新規の支出のために、ただ「カネを刷れば
  いい」というのですか?
A: 逆に他になにか方法があるんですか?
Q:他の方法ですって?税率を上げられるじゃないですか!
A:そういうものではないのです。政府が国民経済に注いだお金
  の一部を、税は吸収してしまいます。支出と税収を同額にす
  ることもできるかもしれません。でも政府はふつう、税収よ
  り多くのお金を支出していますし、それによって市場にはよ
  り沢山のお金が出回りますよね。 https://bit.ly/2Q4sGJc ─────────────────────────────
 MMTでは、税金は財源とは考えないのです。これは、とても
わかりにくい考え方です。主流派経済学では、税金が税収として
得られ、政府はそれを財源として支出を行うと考えています。当
たり前なことであると誰しも考えます。
 しかしMMTでは、逆に政府支出がまずあって、国民はそれに
よって得たお金で納税できると考えます。これを「スペンディン
グ・ファースト」といいます。税金についてケルトン教授は重要
なことをいっています。「税金は、政府が国民経済に注いだお金
の一部を税は吸収する」と。
 3月2日のEJで述べた「ウォーレン・モスラーの話」を思い
出してください。モスラーは、子供たちのお手伝いに応じて、名
刺(お金)を与えています。スペンディング・ファーストです。
子供たちはそうして集めた名刺、すなわちお金で納税を行ってい
ます。このように、徴税は、貨幣に価値を与え、市中に流通する
貨幣の量を調節する役割をもっています。すなわち、徴税は、市
中から貨幣を吸収する行為として位置付けられています。
─────────────────────────────
Q:いやいや、それは(国債発行による)赤字支出じゃないです
  か?あなた、まーた、政府債務を積み上げるんですね?
A:いいえ、国債を買うためのドルは、赤字支出からくるもので
  はありません!それは、そもそも「借り入れ」ではありませ
  ん。人々がドルと国債を交換したときには、政府が発行した
  おカネを別の形で持ちかえたというだけのことです。
Q:でも、結局、我々は負債を返済する必要がありますよね?
A:政府は常に国債を償還しています。簡単ですよ。国債の売り
  手(多くは銀行)の口座の証券の項目を引き算して、中央銀
  行預け金の項目を足し算するだけです。これをNY連邦準備
  銀行はキーボードを叩くだけで終わらせるんです。
Q:しかし、利子の支払いはどうなるんですか?利払いによって
  使用可能なお金は少なくなりますよね?
A:それは間違いです。政府が利子を支払う方法も、あらゆる支
  払いと同じです。いつだって何にでも支払いが増やせます。
  その上限を決めるのが物価上昇率なのです。
                  https://bit.ly/2Q4sGJc ─────────────────────────────
 ここでは、MMTの本質を論じています。「国債とは何か」が
論じられています。これについては、残りの紙面で述べることは
困難であるので、明日のEJで述べることになります。
 前のブロックで、記者は「政府は新規の支出のためにただ『カ
ネ』を刷ればいい」といっていますが、これは日本的な表現であ
り、日本の読者向けにそう訳したものと思われます。MMTでは
次の2つの表現を使っています。
─────────────────────────────
       @     「万年筆マネー」
       A「キーストローク・マネー」
─────────────────────────────
 ここまで何度も述べてきた銀行の信用創造の仕組みによれば、
無一文の銀行でも、お金を貸す能力があるといえます。銀行は預
金者から預かったお金を貸しているのではないからです。もちろ
ん、法的な規制があって、無一文の銀行ではお金は貸せませんが
その規制がなければ貸すことができるのです。それは、きわめて
簡単なことです。貸付を希望する人の口座に「○○万円」と書き
込むことによって、貸したことになるからです。
 この「書き込む」という言葉によって、「万年筆マネー」とい
う表現が生まれたのですが、実際には、キーボードのキーをスト
ロークすることによって貸し付けが可能になるので、「キースト
ローク・マネー」という表現に変わってきているのです。
           ──[消費税は廃止できるか/045]

≪画像および関連情報≫
 ●異端の経済理論「MMT」を恐れてはいけない理由
  ───────────────────────────
   現代貨幣理論は、その名のとおり、「貨幣」論を起点とす
  る経済理論であるが、この現代貨幣理論と主流派経済学とで
  は、貨幣の理解からして、180度違うのである。
   まさに、地動説と天動説の相違と比肩できるほど、異なっ
  ているのだ。では、ここで、現代貨幣理論が立脚する貨幣論
  について、ごく簡単に解説しよう。
   今日、「通貨」と呼ばれるものには「現金通貨(お札とコ
  イン)」と「預金通貨(銀行預金)」がある。「銀行預金」
  が「通貨」に含まれるのは、我々が給料の支払いや納税など
  のために銀行預金を利用するなど、日常生活において、事実
  上「通貨」として使っているからである。ちなみに「通貨」
  のうち、そのほとんどを預金通貨が占めており、現金通貨が
  占める割合は、ごくわずかである。ここまでは、主流派経済
  学でも異論はないであろう。
   問題は、通貨のほとんどを占める「銀行預金」と貸し出し
  との関係である。通俗的な見方によれば、銀行は、預金を集
  めて、それを貸し出しているものと思われている。しかし、
  これは銀行実務の実態とは異なる。
   実際には、銀行の預金が貸し出されるのではなく、その反
  対に、銀行が貸し出しを行うことによって預金が生まれてい
  るのである(これを「信用創造」という)。驚かれたかもし
  れないが、これは事実である。      ──中野剛志氏
                  https://bit.ly/2TA7NHP
  ───────────────────────────

sanda-zu/korutesuryougiin.jpg
サンダーズ/コルテス両議員 
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2020年03月12日

●「お金も国債も統合政府の債務証書」(EJ第5205号)

 MMTは、天動説に対する地動説のようなものであると、よく
いわれます。世の中の一般の人が、常識的に認識しているお金に
関する考え方が「天動説」であるとすると、MMTにおけるそれ
は「地動説」であるというのです。天動説を信じていた人が、な
かなか地動説を受け入れられなかったと同じように、MMTの考
え方を理解できない人が多いのです。
 昨日のEJの続きです。「国債とは何か」について考えます。
そのためにはもう一度「お金(マネー)とは何か」について検討
する必要があります。しかし、「お金」の定義をうんぬんすると
話が面倒になるので、単に「お金」として話を進めることにしま
す。いろいろな本を読んだのですが、井上智洋駒澤大学准教授の
説明が一番わかりやすいと思うので、以下に要約して説明するこ
とにします。
 いわゆるお金は、紙幣も硬貨もありますが、そのほとんどは銀
行に預けている預金のように、データであり、記録のかたちで存
在しています。ところでそれは、何の記録でしょうか。
 それは債務の記録です。MMTでは、「お金は『債務証書』で
ある」というのです。つまり、借金の証拠となる書類を意味して
います。MMTでは、この債務証書のことを「IOU」と呼んで
います。「IOU」は、次の頭文字をとっています。
─────────────────────────────
   ◎IOU/ I owe you. 「私は君に借りがある」
─────────────────────────────
 お金が債務証書であるとすると、預金は民間銀行の債務証書で
すし、現金と預金準備は中央銀行(日銀)の債務証書ということ
になります。預金準備というのは、民間銀行が中央銀行に対して
持つ当座預金に貯まっているお金のことです。
 国債といえば、政府の国民に対する債務(借金)であり、まさ
に債務証書そのものですが、MMTでは、お金(貨幣)も同様に
国民に対する債務であるというのです。
 ここで「政府」とは、主流派経済学では慣例上、政府と中央銀
行をまとめた「統合政府」のことですが、MMTでも政府という
場合は統合政府を意味しています。しかし、お金が統合政府の債
務証書であることに、MMTでは哲学的な含蓄を込めています。
MMTの有力な主唱者のランダル・レイ教授は、これについて次
のように述べています。
─────────────────────────────
 国王は、支払いにおいて割り符や硬貨を発行する。それが、国
王を罪深い債務者の立場に置く。国王は、自らの債務証書を受け
戻して、負債から解放される。
      ──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
                     講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 上記のランダル・レイ教授の言葉で、「国王」を総合政府、割
り符や硬貨を現金や預金準備に置き換えると、罪深い債務者の統
合政府は、自らの債務証書を受け戻して負債から解放され、租税
義務を負っている国民は、債務証書たるお金で税金を納めること
によって、この義務から解き放たれるのです。つまり、租税は、
統合政府と国民の双方を債務から解放させるのです。
 つまり、お金も国債も、いずれも統合政府の債務証書であり、
ほとんど同じものであるといえます。それについて井上智洋准教
授は、最近イタリアで起きた次の出来事を通して、このことを説
明しています。
─────────────────────────────
 2019年9月まで、イタリアの連立政権の第一党は「五つ星
運動」で、連立相手は「同盟」という政党でした。2019年5
月にその「同盟」が、「ミニBOT」という、国債(短期財務証
券)を発行する計画を発表しています。これは無利子永久債、つ
まり利子が付かないし満期もない国債です。
 満期がないというのは、国債を償還しなくてよい、つまり国債
と引き換えに政府がお金を返さなくてよいということです。利子
がもらえないし元本すら返してもらえないような国債を持ってい
て何の得があるのかと誰しも疑問を抱くでしょう。
 ミニBOTは代わりに、納税や決済(買い物)に使うことがで
きます。要するにこれは貨幣であり、実際にユーロとは別の「第
2の通貨」などと言われています。ユーロ圏の国が貨幣を勝手に
発行したら、ユーロの意味がなくなってしまうので、EUの本部
からは「またイタリアか、いい加減にしろ!」などと怒られてい
ます。結局のところ、この計画は実行には移されないようですが
イタリアらしくてやんちゃな、そして微笑ましいエピソードと言
えるでしょう。         ──井上智洋著の前掲書より
─────────────────────────────
 イタリアの連立政権は、なぜ「ミニBOT」なる通貨まがいの
国債を発行しようとしたのかというと、ユーロ圏の国々は、自国
の通貨発行権を放棄しているからです。そのため、自国の通貨量
をコントロールできないのです。そうかといって脱退することは
イギリスの例を見ればわかるようにほぼ困難です。これがEUと
いうシステムの最大の問題点であるといえます。
 これによってわかることは、国債というものをほんの少し変形
するだけでお金、すなわち貨幣になり得ることです。したがって
整理すると、次のようになります。
─────────────────────────────
      お金=決済と納税が可能な無利子永久債
      国債=決済と納税には使えぬ有利子貨幣
─────────────────────────────
 問題は、お金(貨幣)にせよ、国債にせよ、いわゆる統合政府
の債務証書、すなわち借金であるとすると、それは本当に返済す
べきものなのかどうかにあります。MMTでは、それは租税を通
じて統合政府に戻ってくるべきであると考えています。
           ──[消費税は廃止できるか/046]

≪画像および関連情報≫
 ●第11話・通貨と国債の関係について
  ───────────────────────────
   ある国の経済成長を促すために、インフレを積極的に利用
  しようというやり方がある。この手法を用いる場合、「市中
  に通貨を供給してやる」必要がある。ではどうやって通貨の
  供給量を増やすか?
   中央銀行が紙幣を作って、勝手に空からバラ撒いてもお金
  は増える。これで確実にインフレにはなる。しかしインフレ
  が行き過ぎて、逆にお金を回収する必要に迫られた場合、は
  たして市民が空から降ってきた紙幣をシュレッダーにかけて
  くれるかは甚だ微妙だ。必要以上の圧倒的な量のお金が市中
  に流通したままでは、コントロールできない悪性のインフレ
  のタネとなる。
   また外国人がそういう国と商取引をする場合、当該国の紙
  幣に価値を見出すことも出来ない。ヘリでカネをばらまく国
  の通貨を後生大事に保有していても、ある時突然カネが増え
  ていて、結果、通貨の価値が下落していた・・・では、所有
  する気にはならない。
   しかもこれは外国人も自国民も同じ。なのでその国は誰か
  らも信頼もされないだろう。無責任なお金ということでは、
  お菓子のおまけについてくる「こども銀行券」と同じだし、
  利子もお菓子もついてない。   https://bit.ly/3cL2Fbn
  ───────────────────────────

ランダル・レイ授.教jpg
ランダル・レイ授.教
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2020年03月13日

●「MMTは赤字フクロウ派に属する」(EJ第5206号)

 井上智洋駒澤大学准教授によると、MMTの支持者は、世界的
には左派の人が多いそうですが、日本の場合は、左派の支持者は
少なく、どちらかというと、右派の支持者が多いそうです。なぜ
左派の支持者が少ないかというと、国家が強権的に国民に納税義
務を課すことによって、マネー、すなわち貨幣が流通するという
租税貨幣論の考え方に、国家の暴力性が感じ取れるという点にあ
るようです。
 左派を自任する経済学者の松尾匡立命館大学教授は、これにつ
いて次のように述べています。
─────────────────────────────
 MMTは、政府が出す通貨も債務とみなす。政府が公衆に対し
て持つ徴税債権を相殺・消滅させるものという意味で、政府の公
衆に対する債務だと言うのである。この論理が成り立つには、国
民は皆もともと納税債務を国家に負っているという前提がなけれ
ばならない。これは私にはなかなか心情的に受け入れがたい前提
である。             ──松尾匡立命館大学教授
      ──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
                     講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 このところ、MMTについて、「貨幣も国債も統合政府の債務
証書であり、国民に対する債務である」ということについて論じ
ていますが、きわめてわかりにくい話になっています。国債が政
府の国民に対する借金ということはよく理解できるとしても、貨
幣も同じであるというのは、理解しにくいと思います。ちなみに
「統合政府」とは、政府と中央銀行を一緒にした表現です。
 これについては、国家と国民の間の「貸し借り」関係というも
のが、その前提としてあります。藤井聡京都大学大学院教授は、
これについて、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 そもそも国家は国民に対して、あらゆる安全を保証してやり、
インフラや基礎教育を提供してやり、衛生や治安や芸術や文化を
提供してやっている。つまり、地政学的、防災的、社会秩序的、
経済的、文化的なあらゆる意味で、「国家は国民を守っている・
庇護している」わけであり、だから国民が国民でい続ける限り、
国家に対して巨大な「借り」、あるいは巨大な「負債」「恩」が
ある状況にある。したがって、国民は、国民として生き続ける限
り、国家に対してその借り=負債=恩を、返し続けなければなら
ない。                ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 具体的に考えてみます。あるとき、統合政府は100兆円のお
金を創出し、それを使ったとします。スペンディング・ファース
トです。その一方で、ほぼ時を同じくして、60兆円の税収を得
たとすると、国民の手元には40兆円のお金、貨幣が残ります。
 ここで大事なことは、納税して国家に返済するということは、
そのお金が市場から消滅することを意味します。上のケースでい
うと、税金として納められた60兆円は市場から消滅してしまう
ことになります。
 現在、日本政府は、増税して国債の発行に頼らずに、その年の
国民生活に必要な支出がまかなえるようにするプライマリー・バ
ランスを目指しています。財政均衡主義です。民間という立場か
ら見ると、それは当然のことですし、そうすべきです。しかし、
国家という立場に立つと、それでは世のなかに流通するお金を消
滅させ、国を貧乏にする政策ということになるのです。
 さて、国民の手元に残った40兆円について、藤井聡京都大学
大学院教授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 この40兆円の貨幣は、確かに、国民の国家に対する「貸し」
であり、国家の国民に対する「借り」(負債)だ。しかし、その
40兆円の貨幣には、どこにも返済期日など書かれていない。仮
にそれらが現金通貨だと考えたとすれば、その一枚一枚は確かに
国家の負債であったとしても、いつまでに政府は、その負債を解
消しなければならないとは書いていないのだ。ここが、一般的な
「借金」という概念と全く違う点なのだ。(中略)
 つまりそれは、いわゆる「借金」とは到底言えない代物なので
ある。では、それが「借金」でないとするなら、一体何と呼べば
よいのかと言えば──それこそ「貨幣」なのである!その40兆
円の政府の負債は「40兆円の貨幣」「40兆円のオカネ」と呼
ぶ他にない代物なのである!──藤井聡著/晶文社の前掲書より
─────────────────────────────
 アバ・ラーナーというロシアの経済学者がいます。ケンブリッ
ジ大学でケインズに会って、ケインズ主義者になった人です。彼
は、政府が財政出動をするときは、雇用や物価の安定のため、ど
のくらい支出すべきかを考えるべきであって、そのさい、財政が
健全かどうかを考慮する必要は何もないと主張する「機能的財政
論」を展開した人です。
 ステファニー・ケルトン教授は、財政政策のスタンスを次の3
つに分類しています。
─────────────────────────────
      @赤字タカ派=短期的均衡財政主義
      A赤字ハト派=長期的均衡財政主義
      B赤字フクロウ派=反均衡財政主義
                ──井上智洋著の前掲書より
─────────────────────────────
 これについては改めて述べますが、日本の財務省は、基本的に
は「赤字タカ派」ですが、実際には「赤字ハト派」にならざるを
得ない状況になっています。主流経済学者のほとんどは@かAの
立場です。これに対してMMTは、Bの「赤字フクロウ派」の立
場をとります。ケルトン教授自身はBの立場を表明しています。
           ──[消費税は廃止できるか/047]

≪画像および関連情報≫
 ●私が意義を見いだす理由/MMTは新次元の政策・均衡財政
  主義の再考を=岡本英男氏
  ───────────────────────────
   福祉国家とその財政を研究テーマとしている筆者が、MM
  Tの理論を本格的に研究し始めたのは2008年のリーマン
  ・ショック後である。福祉国家実現には、完全雇用こそが、
  もっとも有効な手段である。第一次・第二次世界大戦の元凶
  も、職がないことへの庶民の不満の高まりであった。職のな
  い者を給付や税控除で救済するのも一手段ではある。しかし
  国家による雇用保障は、国民に「自分が社会で必要とされて
  いる」という自尊心を醸成もできる。
   1940年代から、主権国家は雇用を保障する制度整備に
  努めた。しかし、80年代に、米国レーガン政権、英国サッ
  チャー政権が緊縮財政や国営企業の民営化など新自由主義的
  な政策を採った。日本でも中曽根政権が国鉄などの民営化を
  進めた。一連の流れは、雇用の拡大政策を民間投資刺激型に
  転換することであった。この結果、問われるのは、政府の雇
  用保障政策ではなく、個々人が雇用される能力を持つかどう
  かになった。
   米バードカレッジのランダル・レイ教授が彼の理論支柱と
  なる『Understanding Modern Money』を世に問うた98年と
  いう時代は、民間投資刺激型の雇用拡大策が機能しないこと
  が徐々に明らかになりつつあるころだった。
                  https://bit.ly/2vYepXz
  ───────────────────────────


講演するケルトン教授.jpg
講演するケルトン教授
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2020年03月16日

●「バーニー・サンダーズは勝てるか」(EJ第5207号)

 今日のEJは、11月の米大統領選に向けた民主党候補指名争
いの現況について述べることにします。MMTを支持していると
されるバーニー・サンダーズ上院議員が善戦しているからです。
既に述べているように、MMTの主唱者の一人のステファニー・
ケルトン教授はサンダーズ氏の政策顧問を務めています。ケルト
ン教授は、前回の民主党候補指名争いでも、サンダーズの政策顧
問をして、ヒラリー・クリントン氏と戦っています。
 勝敗を決めるとされる14州の予備選が集中した「スーパー・
チューズデイ」では、ジョー・バイデン前副大統領が10州を制
し、優位に立っています。
 緒戦に優位だったビート・ブティジェッジ前インデアナ州サウ
スベンド市長、マイケル・ブルームバーク前ニューヨーク市長、
エリザベス・ウォーレン上院議員は撤退を表明し、ブティジェッ
ジ氏とブルームバーク氏は、バイデン氏支持を表明、現在、バイ
デン氏が優位に立っています。
 現在の状況について、大前研一氏は、夕刊フジのコラム「ニュ
ース時評」で次のように書いています。アメリカの事情に詳しい
大前研一氏のこのコラムは、興味ある情報が満載で、私はいつも
愛読しています。
─────────────────────────────
 私がサンダーズのアドバイザーだったら、この状況を打開する
ために、副大統領候補にエリザベス・ウォーレン上院議員の指名
を勧めるだろう。ウォーレン氏は、候補者争いから降りた後、だ
れを支持するか明らかにしていない。
 このウォーレンという女性は、男をやり込めることにかけては
天才的といってよい。民主党の候補者が集まったテレビ討論会で
も、ブルームバーク氏を昔のパワハラ、セクハラ問題でコテンパ
ンにやっつけた。ブルームバーク氏はマイク・タイソンに殴られ
たようにボコボコにされた。
 さらにサンダースとも、取っ組み合いのケンカをする勢いだっ
た。このパワー、女性問題の黒い過去を持つドナルド・トランプ
大統領相手にも通用するのではないか。
       ──2020年3月13日発行「夕刊フジ」より
          「サンダーズ氏逆転へ“最強タッグ”を」
─────────────────────────────
 エリザベス・ウォーレン上院議員は、破産法などを専門とする
大学教授を経て、上院議員に就任。大統領選に向けて富裕層への
増税案など数多くの政策を発表しています。選挙集会の後、聴衆
との写真撮影に長時間応じることでも話題となりました。支持率
でトップに立った時期もありましたが、予備選が集中した「スー
パーチューズデー」では、地元の東部マサチューセッツ州でも3
位と低迷し、撤退を表明しています。
 記者団に「大統領選からは撤退するが、理不尽な状況に置かれ
た勤勉な人々のために戦うことはやめない」と語り、今後誰を支
持するかについては「時間が必要」と明言を避けています。
 サンダース氏は、自らを社会主義者といっていますが、大前研
一氏によると、サンダース氏は真面目な人で、かなり長い間、バ
ーモント州リッチモンド市の市長を務めており、素晴らしい業績
を残しているのです。貧困層の住宅問題を解決したり、再生エネ
ルギーを利用して環境問題にも前向きで取り組むなど、単なる左
派ではない。しかし、この実績が全米に知られていないことが、
ネックになっています。
 MMTを取り入れると、現在米国の若者が苦しんでいる、学生
ローンも解決できるし、教育の無償化も実現します。それに、日
本では考えられないことですが、米国では、どんなに大金持ちや
富裕層でも、親が学費を出すことはないのです。ですから借入を
するのですが、これがかなりの負担になっていて、私立大学の平
均授業料が年間で3万6900ドル、約400万円あまりになっ
ています。このように、学生ローンを抱えている人は4500万
人もいるのです。
 それにサンダーズ氏は、ニューヨークのウォール街のことを気
にしない政策が出来る大統領候補であるといえます。富裕層から
カネをとって、貧困層に回す政策は米国の若者に受け入れられて
おり、大変人気があるのです。
 これに対して、ジョー・バイデン氏は、オバマ政権の副大統領
として知名度は高いし、黒人に人気があるといわれており、それ
に社会主義者のサンダーズ氏ではトランプ大統領に勝てないと思
われているので、このままでは、民主党の大統領候補の指名を受
けるといわれています。しかし、大前研一氏は、バイデン氏につ
いて、次のように厳しく論評しています。
─────────────────────────────
 現在、穏健派で、黒人票を持っているといわれるバイデン氏が
圧倒的に有利だとみられている。しかし、黒人票に強いというの
は本当なのか。私は疑問を持っている。
 バラク・オバマ前大統領の下で副大統領を8年やっていたとい
うことが根拠になっているだけ。オバマ氏の背後霊を使いながら
戦っているに過ぎない感じがする。だいたい、バイデン氏は、8
年の間に何か実績があるのか。息子をウクライナや中国に送り込
んで儲けさせていただけだ。
       ──2020年3月13日発行「夕刊フジ」より
─────────────────────────────
 民主党の大統領候補が決まっていない時点でのAIの予測では
トランプ大統領の再選はないという予測になっているそうです。
どれほどの精度かは不明ですが、トランプ大統領も万全の状態で
ないことは確かです。それに突如巻き起こった新型コロナの対策
の是非も再選に影響してくると思います。
 AIは、民主党の大統領候補をバイデン氏であると推定し、ト
ランプ敗北を予測したものと思われますが、サンダーズ氏であっ
たら、MMTも絡んで、もっと面白いことになると思います。
           ──[消費税は廃止できるか/048]

≪画像および関連情報≫
 ●2020年の注目ートランプの再選はありか、なしか。
  世界はどう見る?
  ───────────────────────────
   これはおそらく、今年最大の問題ではないにしても、大き
  な問題の一つに数えられるでしょう。ドナルド・トランプ氏
  は11月に米大統領に再選されるでしょうか。
   トランプ大統領が貿易協定の再交渉や軍事同盟を推進し、
  反移民政策や入国禁止まで実施し国際的緊張を高めているこ
  とから、アメリカと他国の関係性がトランプ政権の前面に出
  ています。
   しかし、米国での選挙が近づいている今、世界が彼をどう
  思うかが、問題なのでしょうか。最近のグローバルアドバイ
  ザー調査では、トランプ氏が米大統領に再選されるかどうか
  を世界33か国の22500人以上の調査対象者に尋ねまし
  た。その結果は、人々が考えているほど明確ではなく、独自
  のナショナリストや移民排斥主義者の波により、国々の間で
  二極化が見られます。
   全体では、調査対象者の44%がトランプ氏が大統領に再
  選される可能性は低いと回答しましたが、35%は再選はあ
  り得ると考えています。
   トルコ(57%)、韓国(56%)、フィリピン(55%)、イ
  タリアとベルギー(53%)の人々は、トランプ氏が「再選さ
  れない」と回答する傾向が強く、香港(54%)、イスラエル
  (53%)、インド(48%)、米国(46%)、英国(42%)で
  は再選すると回答する傾向が強く出ていました。
                  https://bit.ly/38KfdN2
  ───────────────────────────

サンダーズVSバイデン.jpg
サンダーズVSバイデン
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2020年03月17日

●「MMTと主流派/どこが違うのか」(EJ第5208号)

 経済学には右派と左派があります。図で描くと添付ファイルの
ようになります。この図は、井上智洋駒澤大学准教授の本に出て
いたものです。添付ファイルを見てください。
 現代の経済学の中軸は「ケインズ主義」、すなわち、ケインズ
経済学です。これには、次の2つがあります。
─────────────────────────────
   1.ニュー・ケインジアン ・・  主流派経済学
   2.ポスト・ケインジアン ・・ 非主流派経済学
─────────────────────────────
 経済学を明確に分類することは容易なことではありませんが、
MMTの位置づけを明確にするするため、井上准教授の本を参考
にして、大ざっぱに述べることにします。
 軸の右に「新古典派経済学」があり、それは小さな政府を目指
す市場経済をベースにする経済学です。市場はその調整メカニズ
ムにまかせていれば、基本的には円滑に機能するばずであり、政
府が介入する必要はないと考える傾向の強い経済学です。これに
対して、軸の左には「マルクス経済学」があり、それは大きな政
府を目指す計画経済をベースとしています。
 「ニュー・ケインジアン」は、やや右寄りのポジションに位置
しており、資本主義にも肯定的であり、そのため、「ケインズ右
派」といわれます。現在、主流派経済学といわれている経済学は
これを指しています。
 これに対して「ポスト・ケインジアン」は、マルクス経済学も
部分的に取り入れており、資本主義にもそれほど肯定的ではなく
「ケインズ左派」と位置づけられます。これは、マルクス経済学
も含め、非主流派経済学といわれます。MMTは、こちらに属し
ています。
 しかし、経済学は、基本的には科学のようにどれが正しいとは
いうことができず、その違いは、考え方、捉え方の差であるとい
うことができます。これについて、井上准教授は、こういう学問
分野での部族争いについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 このように、経済学者は派閥に分かれてたがいに争い合う傾向
が高い人たちです。他の学問分野では類を見ないほど派閥争いが
盛んで、私はそれを「部族ごっこ」と呼んでいます。経済学者に
は原始的な本能を宿した人が多いのか、すぐに部族ごっこが勃発
してしまうのです。それが経済学の面白いところではあるのです
が、党派性にこだわるというのは、学者としてのあるべき姿では
ありません。学者たるもの、仲間意識や敵愾心に惑わされずに、
何が真実であるのかを徹底して考え抜くべきでしょう。(中略)
 MMTが提起する議論は、それが正しいにせよ、間違っている
にせよ、日本の経済学者にとって、いまもっとも重要なテーマと
言えます。なにしろ、政府は借金を増やすべきか、減らすべきな
のかといった大問題に関わってくるからです。
      ──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
                     講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 どのような経済学にせよ、ひとつでパーフェクトなものはない
はずです。それなら、互いに良いところを取り入れ、パーフェク
ト化を図るべきですが、どうしても、イデオロギー論争のように
なってしまうのです。
 そのため、現在のように、MMTがマスコミに取り上げられ、
脚光を浴びると、主流派のポスト・ケインジアンたちは、ろくに
MMTを十分調べようとせず、生半可な知識でMMTを「ブード
ゥー経済学」などと侮辱し、全力で叩き潰そうとします。ネット
上にはそういう論説で溢れています。
 MMTが主流派経済学と異なる論点として、井上准教授は次の
3つを上げています。
─────────────────────────────
       1.   財政的な予算制約はない
       2.   金融政策は有効ではない
       3.雇用保障プログラムを導入せよ
─────────────────────────────
 上記の3点について、ほとんどの主流派経済学者はすべて反対
の立場をとります。しかし、井上准教授は、3点について自身の
立場を次のように明らかにしています。
─────────────────────────────
 私自身は、@「財政的な予算制約はない」については賛成であ
り、A「金融政策は有効ではない」と、B「雇用保障プログラム
を導入せよ」については、頭ごなしに否定するわけではないけど
かなりの違和感や疑問があるという立場です。つまり、私もMM
Tに全面賛成ではありません。それでも、すでに述べたとおり、
現在の日本経済という文脈では、@「財政的な予算制約はない」
はとても重要な論点だと捉えており、本書のような書籍を執筆し
ているわけです。        ──井上智洋著の前掲書より
─────────────────────────────
 @に関しては、MMTは自国通貨建て国債のみを発行している
国の政府にとって、財政的な予算制約はないという意味です。し
かし、すべての経済は、生産と需要については一定の限界という
ものがあり、その限界とは「インフレ率」のことです。つまり、
過度のインフレにならない程度の上限があるというのです。
 インフレ率は、「総需要(=名目GDP)」と「供給能力(=
潜在GDP)」のバランスで決定されますが、主流派経済学では
インフレ率は、「おカネの発行量」により決まることになってい
ます。しかし、図らずもそれが正しくないことを証明したのが日
本であるといえます。すなわち、安倍政権のアベノミクスによっ
て、MMTは脚光を浴びることになったのです。
 それは、何を意味しているのでしょうか。これについては、明
日のEJ以降で、検討して行くことにします。
           ──[消費税は廃止できるか/049]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ財政赤字でも政府支出できる?経済学者・松尾匡氏が語
  るMMT理論に対する誤解と疑問点
  ───────────────────────────
   金利を下げても設備投資が増えない、というのはよくある
  主張ですが、景気が過熱した時に金利を上げることでインフ
  レを抑える効果自体も否定する点は非常に特異です。多くの
  人がこれは違うんじゃないかと思うところで、極端な話50
  %の金利にしたらデフレ不況に叩き落されるでしょう、と。
  ──これについて、MMT側の反論としてはどのような議論
  がありますか?
   MMTの主張としては、設備投資するかどうかは金利以外
  の様々な要因によって決まるとしています。特に将来どれく
  らい儲かるかによって決まり、金利はそれに比べれば影響を
  与えない、と。その説明としては、一つにはインフレを抑え
  るために金利を上げようとすると、金利も生産コストですか
  ら、企業は売値を決める時にコストに上乗せする。そのこと
  で、かえって物価が上がるよ、という考え方をしています。
  あるいは、金利を上げると利子収入が増え、そうした人たち
  が支出を増やすことでますます景気が過熱する、という言い
  方もします。そういった可能性もあると、言っているわけで
  す。ただ、私は設備投資が金利にどれくらい反応するかは、
  最終的には実証で決める問題だと思っていて、数字を出さず
  に今の段階であれこれ言っても仕方がない。だから、私は現
  時点では「金利をいくら上げてもインフレは抑えられない」
  というのは信じられません、と言うしかないです。
                  https://bit.ly/2QdRazt
  ───────────────────────────

経済学における右派と左派.jpg
経済学における右派と左派





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2020年03月18日

●「インフレは十分制御が可能である」(EJ第5209号)

 なぜ、安倍政権によるアベノミクスが、MMTに脚光を浴びさ
せることになったのでしょうか。これについて、経済評論家で作
家の三橋貴明氏が、ネット上の何本ものレポートで、分析してお
られるので、要約してご紹介することにします。
 MMTに反対する日本の経済学者たちは、はじめのうち、次の
ように主張していたのです。
─────────────────────────────
 MMTで財政赤字を増やすと、国債金利が急騰し、日本は財
 政破綻、デフォルト(債務不履行)する!
─────────────────────────────
 添付ファイルには、2つのグラフを付けていますが、上のグラ
フを見てください。このグラフを見ると、日本政府の長期債務残
高(左軸/兆円)は、右肩上がりで増加していますが、10年物
国債の長期金利(右軸/%)は減る一方です。
 さすがにこれを突き付けられると、MMTに反対する日本の経
済学者たちは、こそこそと論理をすり替えて、次のようにいい出
したのです。三橋貴明氏によると、日銀審議委員の原田泰氏をは
じめとするリフレ派までもがこれに同調しています。
─────────────────────────────
 MMTで財政赤字を増やすと、インフレ率上昇を制御できな
 くなる!
─────────────────────────────
 MMTでは、自国通貨建ての国債のみを発行している政府が財
政的な予算制約に直面することはないとします。しかし、経済は
生産と需要について実物的あるいは環境的な限界というものがあ
ります。それがインフレ率です。
 インフレ率は、総需要と供給能力のバランスで決まりますが、
これまでの経済学では、インフレ率は「おカネの発行量」で決ま
るとされています。しかし、2012年末に安倍政権が発足し、
2013年に黒田東彦元財務官が日銀総裁に就任すると、異次元
金融緩和政策(金融政策)が展開され、「マネタリーベース」を
約360兆円に増やしたものの、インフレ率はコアコアCPIで
ほぼゼロに終っています。
 コアコアCPIというのは、物価変動を把握しやすいように、
価格変動の大きい食料、エネルギーを除いた物価指数を意味して
います。ちなみに、エネルギーに含まれる品目は、電気代や都市
ガス代、プロパンガス、灯油、ガソリンなどです。
 「マネタリーベース」とは、預金準備と現金をまとめたもので
あり、これは中央銀行が直接発行できるお金です。預金準備とは
民間銀行が日銀に対して持つ当座預金口座にストックされている
お金のことです。これに対して実際に、世の中に出回っているお
金(現金+預金)を「マネーストック」といいますが、お金の量
を増やしてインフレ率に影響を与えるには、マネーストックを、
もっと増やす必要があるのです。
 マネタリーベースに対するマネーストックの割合を、「信用乗
数」というのですが、主流派のマクロ経済学の教科書には、「信
用乗数は一定である」と書いてあります。そうであれば、中央銀
行がマネタリーベースを増やすと、世の中に出回るお金の総量で
あるマネーストックも同じ割合で増えるはずです。しかし、実際
はそうなっていないのです。
 MMT反対派は、MMTによって財政出動した場合、いったん
インフレ率が上がり始めると、MMT賛成派は増税をするなどコ
ントロールできるというが、インフレは制御できなくなるといっ
て反論します。そこで、添付ファイルの下のグラフを見てくださ
い。ここに1990年12月から2019年9月までの日本のイ
ンフレ率が赤い折れ線グラフで示されています。青い折れ線につ
いては、ここでの話には関係がないので、無視してください。
 これを見ると、1994年以降、多くの期間でインフレ率がマ
イナスになるデフレに陥っていますが、2014年に急騰してい
ます。これは、もちろん消費税の5%〜8%への増税によるもの
です。これについて三橋貴明氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 図のインフレ率を見れば分かるが、我が国のコアコアCPIは
2014年4月に急増し、15年4月に急落した。理由はもちろ
ん、消費税増税である。消費税増税は強制的な物価の引き上げで
あるため、確かに一時的にインフレ率は高まる。とはいえ、実際
に需要が増えたわけではないため、1年後に増税による上乗せ分
が消えると、インフレ率は急落するわけだ。
 さらに重要なのは、消費税増税という財政政策による需要縮小
が、15年4月以降のインフレ率も抑制してしまったという点で
ある。コアコアCPIは、17年にマイナスに突入し、その後も
ゼロ近辺で低迷し続けている。
 つまりは、金融政策ではなく財政政策による需要の強制的な縮
小(消費税増税)がインフレ率を抑制したという「事実」が、過
去5年間の日本の「実績」により証明されたわけである。
 分かりやすく書くと、例えば、財政拡大によりインフレ率が高
まり、政府が緊縮路線に転じたとしても、インフレ率上昇が止ま
らないならば、それこそ、「消費税増税」をすればいいという話
だ。消費税は消費に対する罰金である。罰金を増やされた国民は
消費縮小に転じるため、総需要は間違いなく抑制される。結果、
インフレ率は落ち着く。       http://exci.to/2Wgmz8h
─────────────────────────────
 これではっきりしたことがあります。それは、金融政策による
インフレ率のコントロールには限界があるということです。なぜ
なら、360兆円ものマネタリーベースの拡大にもかかわらず、
日本のインフレ率を引き上げ、デフレからの脱却を実現できない
からです。デフレというのは、総需要が不足する経済現象です。
政府が財政を拡大し、需要を創出しない限り、デフレ脱却は永遠
に実現しないまま、日本はどんどん貧しくなっていきます。
           ──[消費税は廃止できるか/050]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜデフレ脱却ができなかったのか:黒田日銀の5年を振り
  返る/渡辺務氏(2018年2月6日)
  ───────────────────────────
   黒田東彦日本銀行総裁は2%の物価上昇を政策目標に掲げ
  てきたが、日本経済は、依然として達成にほど遠い状態にあ
  る。筆者は、値上げに慎重な企業行動がデフレ脱却の障害に
  なっていると指摘する。
   日銀の黒田総裁による異次元金融緩和の開始から間もなく
  5年になる。日銀は2%の消費者物価上昇を目標として掲げ
  大規模な量的緩和やマイナス金利政策を実施してきたが、現
  状、消費者物価上昇率(除く生鮮食品、エネルギー)は前年
  比0・3%(2017年12月)であり、デフレからの脱却
  を果たせていない。しかし5年間の緩和を通じ、デフレ発生
  の仕組みについて新たに見えてきたことは少なくなく、デフ
  レ脱却に向けて今後何をすべきかも明らかになった。以下で
  は企業の価格設定行動の視点から物価の現状を整理する。
                  https://bit.ly/3d227y5
  ───────────────────────────

日本政府の長期債務残高と長期金利/日本のインフレ率.jpg
日本政府の長期債務残高と長期金利/日本のインフレ率

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2020年03月19日

●「このさい消費税を0%に減税せよ」(EJ第5210号)

 新型コロナの蔓延で経済が深刻な打撃を受けつつあり、消費税
減税の話が出ています。EJの今回のテーマは、昨年来のテーマ
である「消費税」の続編としてはじまっているので、今日はこの
問題を取り上げることにします。夕刊フジの田村秀男氏のコラム
『独話回覧』などを参考にさせていただいています。
 消費増税直後の昨年10〜12月期の国内総生産(GDP)は
前期比年率換算で「マイナス7・1%」という誰もが驚く下落率
でした。これは、東日本大震災直後を上回る景気の急落です。明
らかなる増税の大失敗であるといえます。
 それに加えて、今年1〜3月期は、突然降って湧いた新型コロ
ナショックでマイナス成長が加速し、2008年9月のリーマン
・ショック後の10〜12月期の「マイナス2・4%」を確実に
下回るといわれています。2期連続のマイナス成長です。
 これに対して、消費税増税を仕組んだ内閣府の財務官僚と経産
官僚たちは、昨年10〜12月期の景気の落ち込みの主因は消費
増税ではなく、台風と温冬による農作物や道路などのインフラが
ダメージを受けた結果であるといっています。問題をすり替えて
真の原因を隠蔽する──彼らの手口ですが、またしてもこんな卑
劣な対応をやっているのです。
 こうした官僚たちや、財務省からの指令で安倍政権の提灯持ち
を務める御用経済学者たちに対して、田村秀男氏は、次のように
怒りをにじませながら、痛烈に批判しています。
─────────────────────────────
 台風被害は、東日本に集中しているのに、台風の影響を受けな
かった西日本の消費の落ち込みが激しかった。暖冬というなら、
衣料品需要への影響に集中するはずだが、小売りの売り上げ減は
全品目に及んでいる。見え見えの嘘を貫き通す閣僚、官僚やエコ
ノミストには良心のかけらもないようだ。
 コロナ恐慌不安に対し、日銀の黒田東彦総裁は小出しの追加緩
和で応じようとし、麻生太郎財務相は、財務官僚の振り付け通り
財政出動を否定する。家計消費意欲が増税によって致命的なまで
に委縮した惨状を、日銀、財務省とも無視する。財務官僚OBの
黒田氏や東大などの財務省御用経済学者たちは安倍首相に、金融
緩和によって、需要減をカバーできると弁じたが、とっくに露見
した嘘っぱちを恥じ入ることはない。
         ──2020年3月16日発行『夕刊フジ』
                「田村秀男/独話回覧」より
─────────────────────────────
 財務省は、消費増税によって個人消費がどのように落ち込もう
とも、国民がどのように反対しようとも、消費税の税率を何とか
20%台まで引き上げたいと考えています。なぜなら、財務省に
とって消費税はそれほどおいしい税金だからです。まして苦労に
苦労を重ねて引き上げた税率を「下げる」などということには絶
対に反対します。
 しかし、新型コロナウイルスの蔓延により、麻生財務相じゃな
いが、経済が未曾有の危機に陥りつつあります。そうなると、自
民党の内部からも消費税減税の声が上がっています。国民は、消
費増税をするとき、安倍首相や菅官房長官が、何度も何度も繰り
返した次の言葉を忘れていないからです。
─────────────────────────────
 リーマン級の経済危機でも起きない限り、消費増税を予定通
 り実施する                ──安倍首相
─────────────────────────────
 増税実施後のことではあるものの、そのリーマン級の経済危機
が日本のみならず、世界中で起きようとしているのです。増税の
引き下げをいまやらずしていつやるのでしょうか。
 この消費税の減税について、現在出ているのは、次の3つのプ
ランです。
─────────────────────────────
        @消費税を当分0%に下げる
        A消費税を当分5%に下げる
        B現金給付によって対応する
─────────────────────────────
 現在、自民党内部から出ているプランは、@かAですが、首相
周辺、つまり内閣府は、減税を否定し、Bを主張しています。こ
れまで減税が取り沙汰されると、必ず出てくるのはBです。しか
し、Bをやっても、その恩恵が受けられる対象は一部に限られ、
大きな効果が出ないし、すべて貯蓄に回ってしまい、消費の底上
げにはならないのです。消費税は、消費に対する罰金であり、そ
の罰金がなくなるとなれば、消費する人が増えるはずです。
 どうしても減税せざるを得ない事態に対処し、財務省は既に手
を打っているようです。財務省寄りのコメントを発信するテレビ
のコメンテーターの一部は、上記@〜Bのほかのもうひとつの提
案をしています。
─────────────────────────────
        C軽減税率を全てに拡大する
─────────────────────────────
 現在、食料品などには軽減税率として8%の税率がかかってい
ます。この軽減税率8%を全商品に拡大する案です。つまり、2
%の引き下げです。これが最も手続き的には簡単な案であるとい
われます。財務省としては、消費税の減税をどうしても行わなけ
ればならない場合、何とかCで食い止めようとしているのです。
つまり最後の砦です。
 しかし、この程度の減税ではインパクトが弱いのです。もとも
と、食料品に対する税率の8%は高過ぎます。消費税を採用して
いる国では、食料品などの生活必需品の税率はすべて0%です。
 そして、減税反対派が必ずいう言葉があります。それは「下げ
るのはいいが、元に戻すときは大変である」です。さらに「下げ
た分の財源はどうするのか」です。
           ──[消費税は廃止できるか/051]

≪画像および関連情報≫
 ●【藤井聡】最大のコロナショック対策は、「消費税凍結」で
  ある。〜「非常時には消費減税は効果が無い」を打ち払え〜
  ───────────────────────────
   驚きました。コロナ大不況で、緊急経済対策が必要なのは
  今、誰の目にも明らか。そして、そんな対策の中でも、消費
  のすさまじい冷え込みを緩和するための消費税減税、さらに
  は廃止がとりわけ効果的なのは論を待ちません。そう思って
  いると、こんなニュースが飛び込んできました。
   「非常時はみんな買い物をしないから、減税しても効果が
  ない」一体誰がこんなこと言ってるのかとよく見てみますと
  立憲民主党の枝野代表でした。  https://bit.ly/2x1JdHb
  曰く、「背景には「責任政党としての自負」(立民関係者)
  に加え、れいわ新選組の山本太郎代表が、「消費税率5%」
  を次期衆院選での野党共闘の条件にしていることがある。立
  民は国民などとの合流が頓挫したばかりで、野党が減税でま
  とまり、れいわに主導権を奪われることを警戒している」
   この報道が正しいのだとすれば、国民の暮らしよりも、自
  らの政治的利益を追求しているということですから、政権の
  持続を第一目標に掲げる現政権と何も変わらないということ
  になってしまいます。誠に情けないことこの上ない話ですが
  ・・・「今、消費減税をしても仕方ない」という意見は、与
  党の中でもよく聞きますし、そして、テレビでもコメンテー
  ター達が何度も発言しています。彼らは一様に「所得補償」
  や「融資」は賛同するのですが、消費減税、消費税凍結には
  賛同しない・・・というのは、はっきり言って、物事を何も
  分かっていないからに他なりません。
                  https://bit.ly/3b2B83I
  ───────────────────────────

koronahukyoutaisakunoshouhizeigenzeinihantaisuruedanodaihyou.jpg
コロナ不況対策の消費税減税に反対する枝野代表

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2020年03月23日

●「財政出動が足りないアベノミクス」(EJ第5211号)

 3月17日のEJ第5208号で取り上げたMMTが主流派経
済学と異なる3つの論点を再現します。
─────────────────────────────
       1.   財政的な予算制約はない
       2.   金融政策は有効ではない
       3.雇用保障プログラムを導入せよ
─────────────────────────────
 「1」について若干補足します。自民党の安倍政権が2013
年からはじめた、いわゆるアベノミクスで、世の中に流通するお
金の量や、それによる名目GDPがどうなったかについて、デー
タを整理してみます。まず、マネタリーベースの変化です。
─────────────────────────────
     ◎マネタリーベースの変化
      2013年3月 ・・・ 135兆円
      2018年4月 ・・・ 492兆円
                   3.64倍
─────────────────────────────
 マネタリーベースとは、市中に出回る現金と預金準備(民間金
融機関が日銀に設けている日銀当座預金にストックされているお
金)の合計です。マネタリーベースは、日銀が直接コントロール
できるお金です。日銀は金融機関が保有する国債などの資産を買
い取り、当座預金口座にその対価を入金します。日銀は異次元金
融緩和政策をとっており、この金額が増えているのは当然です。
 これに対してマネーストックとは、金融機関から経済全体に供
給されているお金の総量です。つまり、現金と預金の合計が、マ
ネーストックです。この量が増えると、景気が良くなります。
─────────────────────────────
     ◎マネーストックの変化
      2013年3月 ・・・ 844兆円
      2018年4月 ・・ 1003兆円
                   1.19倍
─────────────────────────────
 市中に流通する現金、すなわち、マネーストックを増やすには
民間銀行がマネタリーベースを企業や政府に積極的に貸し出せば
よいのです。そして、その増えたお金によって、財やサービスの
購入が行われると、それに応じて名目GDPが増えます。
─────────────────────────────
     ◎名目GDPの変化
      2013年 ・・・ 503兆円
      2018年 ・・・ 556兆円
                 1.11倍
─────────────────────────────
 このように数字を並べてみると、日銀は異次元金融緩和を継続
し、マネーストックを3・64倍と、大幅に増やしているものの
マネーストックの増加率は今ひとつです。これは、民間(企業・
個人)がもっと借り入れを増やし、マネーストックを増加させな
いと、景気を良くすることはできないのです。
 つまり、金融政策には限界があり、金融政策と財政政策を一緒
にやる必要があります。安倍政権は金融政策に頼り過ぎており、
そのためマネーストックの伸びは今一つとなっています。
 それにしても、政府は、デフレにもかかわらず、なぜ財政出動
をためらうのでしょうか。いまは、増税をやっているときではな
いのです。安倍政権がアベノミクスにおいて財政出動をしたのは
最初の一年間だけであり、その後2回にわたり、消費税の税率を
5%引き上げています。超緊縮政策です。安倍首相は、自分が何
をしているかわかっていないようです。日銀の異次元緩和と合わ
せてせっかく調子よくスタートできたのに、2回の増税でその成
果を潰し、ふって湧いた新型コロナウイルスの蔓延で日経平均株
価は下落し、安倍政権発足時の水準に戻りつつあります。
 新型コロナウイルスの蔓延で、多くの国は鎖国状態になり、人
の動きが制限され、経済がパニックに陥りつつあります。こうい
うときは、一刻も早く現金を支給する必要があります。
 このとき、トランプ米政権は素早く1兆ドル(約107兆円)
規模の経済対策を打ち出していますが、これは正解です。この金
額は米国にとって過去最大の大きさです。ちなみに、リーマンシ
ョック時の米国の経済対策は次の通りです
─────────────────────────────
      ◎2008年金融危機/ブッシュ政権
                7000億ドル
      ◎2009年金融危機/ オバマ政権
                7800億ドル
─────────────────────────────
 安倍政権でも、所得制限なしに、国民一人1万円とか2万円と
かの現金給付を考えているようであるが、この程度の金額では、
まったく意味をなさないのです。スケールが小さすぎるといって
よいでしょう。
 現在のこのような事態を受けて、3月13日、経済学の教科書
でも有名な米国の経済学者、グレゴリー・マンキュー・ハーバー
ド大学教授は、ブログで次の提言をしています。マンキュー教授
は共和党寄りの経済学者です。
─────────────────────────────
 手始めにすべての米国人に1000ドル(約11万円)の小
 切手を可能な限り早急に送るべきだ。 ──マンキュー教授
─────────────────────────────
 トランプ大統領は、マンキュー教授からの提言を受けて、2週
間以内に、国民1人当り、1000ドル以上の支給を含む最大1
兆2000億ドル規模の経済対策を打ち出すとアナウンスしてい
ます。トランプ大統領としては、この時点で経済が失速すると、
大統領選挙に影響してくるので必死です。
           ──[消費税は廃止できるか/052]

≪画像および関連情報≫
 ●米、新型コロナで1兆ドルの経済対策 現金給付盛る
  ───────────────────────────
   【ワシントン=河浪武史】トランプ米政権は17日、新型
  コロナウイルスによる経済不安を抑えるため、総額1兆ドル
  (約107兆円)の景気刺激策の検討に入った。ムニューシ
  ン財務長官は「極めて大きな経済対策となる。米国民に小切
  手を直接送る施策を検討している」と述べ、現金給付を盛り
  込む考えを明らかにした。ボーイングなど米航空関連企業へ
  の支援策などと合わせ、17日中に詳細を固めたい考えだ。
   ムニューシン財務長官は17日、与野党の議会指導部と相
  次いで会談し、大型の景気刺激策の詰めの協議に入った。同
  長官は「1兆ドルの経済対策を提案した。極めて大きな景気
  刺激策となる」と記者団に述べた。トランプ大統領は労使が
  負担する給与税の免除を提案。新型コロナで売上高が急減す
  る航空会社や宿泊業などの資金支援も盛り込む。
   今回の経済対策が1兆ドル規模となれば、連邦政府の年間
  歳出(4・7兆ドル)の2割を超える異例の大型景気対策と
  なり、2008年のリーマン・ショック直後の緊急対策を上
  回る規模となる。08年時は銀行への公的資金注入や自動車
  メーカーへの資金支援などを目的に、ブッシュ政権(当時)
  が7000億ドルの緊急予算を用意。翌09年にオバマ政権
  がインフラ投資や失業保険の拡充などを目的に、7800億
  ドル規模の景気対策を成立させた経緯がある。
               https://s.nikkei.com/2U1vxVA
  ───────────────────────────

マンキューハーバード大学教授.jpg
マンキューハーバード大学教授
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2020年03月24日

●「金融政策は有効ではない/MMT」(EJ第5212号)

 MMTが主流派経済学と異なる3つの論点をさらに再現するこ
とにします。
─────────────────────────────
       1.   財政的な予算制約はない
     → 2.   金融政策は有効ではない
       3.雇用保障プログラムを導入せよ
─────────────────────────────
 このうち、「1」については説明が終わっているので、「2」
の「金融政策は有効ではない」について考えます。
 MMTの経済学者であるポスト・ケインジアンは、主流派経済
学派のニュー・ケインジアンが信奉する金融政策の有効性につい
ては否定的です。厳密にいうと、よって立つ貨幣供給理論が異な
るのです。
─────────────────────────────
   ニュー・ケインジアン ・・ 外生的貨幣供給理論
   ポスト・ケインジアン ・・ 内生的貨幣供給理論
      ──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
                     講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 難しい経済学の理論はやめてごく簡単にいうと、上記の2つの
貨幣供給理論の違いは、中央銀行の金融政策によって世の中に流
通するお金の量(貨幣量)をコントロールできるかどうかにあり
ます。コントロールできるという主流派のニュー・ケインジアン
に対して、コントロールできないとするポスト・ケインジアン、
すなわち、MMTが対立しているわけです。
 そもそも金融政策とは、物価の安定を通して日々の暮らし、す
なわち経済が、健全に発展するよう金融を調整することであり、
中央銀行がその役割を担っています。日本の場合は、日本銀行、
ユーロ圏は欧州中央銀行(ECB)、米国は連邦準備理事会(F
RB)が中央銀行です。
 日銀とECBはの場合、その目的は、物価の安定を図ることと
金融システムの安定を確立することですが、FRBの場合、物価
と金融システムの安定に加えて、完全雇用の達成も政策の目的に
加えています。ここで「完全雇用」というのは、失業者がゼロに
なる状態ではなく、働く意欲と能力のある人が、その時の賃金水
準ですべて雇われている状態のことです。
 ところで「景気が良い」というのは、どういう状態をいうので
しょうか。これについて、法政大学大学院政策創造研究科教授の
真壁昭夫氏は、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 世界の主要な中央銀行は、1年間で2%の物価の上昇率が物価
を安定させつつ経済が持続的な成長を実現するために適している
と考えています。日銀も、2%の物価目標の実現を目指していま
す。この2%(消費者物価指数の前年同月比で見た変化率)とい
う数字の根拠に関しては、様々な議論があります。
 まず、物価上昇率が年間プラス2%ということは、物価が上昇
しているということです。物価が上昇しているということは、需
要(人々がモノをほしいと思う気持ち)が高まっているというこ
とです。これは、経済の成長に欠かせません。多くの国の中央銀
行が2%の物価上昇率を目指すことは、グローバルスタンダード
だとしています。経験則として、1%の物価上昇率よりも2%の
物価上昇率を目指したほうが、長い目線で経済の安定を目指し、
景気が減速した際の対応も進めやすいとの見方が多いです。各国
の中央銀行は、人々が安定した経済環境の中で、お金の価値に不
安を感じることなく、成長を享受していくためには2%の物価上
昇率が適していると考えています。      ──真壁昭夫著
   『MMT(現代貨幣理論)の教科書/日本は借金し放題?
       暴論か正論かを見極める』/ビジネス教育出版社
─────────────────────────────
 日本は、安倍政権の2013年4月から、日銀が「2年間で2
%の物価上昇を実現する」ことを強くコミットして、異次元金融
緩和政策(量的質的金融緩和)を展開していますが、7年にもな
る現在も、目標を達成できていません。何かが間違っているので
す。その反動として、現在、クローズアップしてきているのがM
MTです。
 添付ファイルとして、「わが国の消費者物価指数の推移」のグ
ラフを付けていますが、これは真壁昭夫教授の本に出ていたもの
です。同じようなグラフを3月18日のEJ第5209号でもつ
けています。今回のグラフは、生鮮食品を除いたコアCPIと、
それに加えてエネルギーを除いたコアコアCPIの両方が出てい
るのでわかりやすいと思います。これについて、真壁昭夫教授は
次のように解説しています。
─────────────────────────────
 エネルギーや生鮮食品の価格は、天候や原油価格の動向に左右
されます。それを含んだCPI総合は、上下に振れを伴いつつも
前年同月比でみた場合に安定的に2%程度の水準を維持できてい
ません。なお、2014年のCPIの上振れは、消費税率の引き
上げの影響によるものです。また、コアCPI、コアコアCPI
は、前年同月比1%の上昇率を維持することも難しいのが、実情
です。             ──真壁昭夫著の前掲書より
─────────────────────────────
 これでわかったことがあります。金融政策には限界があるとい
うことです。7年やっても目標が達成できないということは、や
り方が間違っているのです。そういう意味でアベノミクスは、日
銀の金融政策に頼り過ぎであり、その一方で2回にわたって増税
をして、経済成長の足を引っ張っています。
 物価上昇率が2%ということは、経済が成長している──需要
が高まっていることを意味します。つまり、MMTでは、そのた
めにこそ、積極的な財政出動が必要であると説いているのです。
           ──[消費税は廃止できるか/053]

≪画像および関連情報≫
 ●骨太解説「日本の金融政策」がかくも無力なワケ
  ───────────────────────────
   現在、日本はじめ世界の先進諸国は一様に異常な経済状況
  に直面している。ゼロないしマイナスの金利、天文学的とも
  言うべき金融の量的緩和にもかかわらず、多くの経済はいま
  だ力強い回復を取り戻せていない。
   なぜバブル崩壊後の経済が長期不況に苦しまなければなら
  ないのか。なぜ伝統的な金融政策はそうした不況に対して総
  じて無力なのか。なぜ財政赤字が拡大しているのに長期金利
  が低下するのか。
   こうした疑問に答える書として、リチャード・クー氏の新
  刊『「追われる国」の経済学』が高い評価を受けている。経
  済学の重鎮である藪下史郎氏が、クー氏が展開している経済
  理論の本質について読み解く。
   『「追われる国」の経済学』(以下、本書)で展開される
  議論の基礎となるクー氏の日本経済の捉え方は、以下のよう
  にまとめることができるだろう。
   資金の主たる借り手は民間企業であるが、高度成長期にお
  いては設備投資のための資金需要が旺盛であり、とくにアメ
  リカなどの先進国の後を追う形で投資を拡大するため資金需
  要も増加した。そのときには物価・賃金も上昇してきた。こ
  の期間のことを黄金時代と呼んでいるが、日本は成熟経済で
  あった。しかし、物価・賃金の上昇と新興国による追い上げ
  によって、日本経済の国際競争力が低下し、市場が奪われる
  ことになる。          https://bit.ly/3a9h2ob
  ───────────────────────────
 ●グラフの出典/──真壁昭夫著の前掲書より


わが国の消費者物価指数の推移.jpg
わが国の消費者物価指数の推移




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2020年03月25日

●「なぜマネーストックと改称したか」(EJ第5213号)

 どうしたら、景気を良くすることができるでしょうか。
 素人判断ですが、ここにひとつの答えがあります。それは、世
の中に流通するお金の量を増やせば、景気が良くなるというもの
です。これをめぐる経済学の論争は数多くあります。印象に残っ
ている例として、当時上智大学教授であった岩田規久男氏と日本
銀行金融研究所の翁邦雄氏との論争です。
─────────────────────────────
 ◎岩田規久男氏
  マネタリーベースを増やせば、マネーストックも増大する
  はずであり、日銀は不況解消のための役割を果たしている
  といえない。
 ◎  翁邦雄氏
  日銀は資金需要に応じてマネーストックが増大し、それに
  順応するように日銀はマネタリーベースを増大させている
  だけである。
      ──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
                     講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 ここで翁邦雄氏がいいたいことは、「マネーストックもマネタ
リーベースも内生的に決定されるので、日銀はマネーストックを
コントロールできない」ということです。これは、「日銀理論」
といわれ、これまで日銀がずっと死守してきた考え方です。
 日本のデフレ不況が深刻化した1998年時の速水優総裁以来
2003年の福井俊彦総裁、リーマンショック直後の2008年
の白川方明総裁──とくに白川総裁に関しては、「なぜ、引き締
めばかりやっているのか」と、率直にいって、私自身、日銀の対
応に不満を抱いたことはたくさんありますが、すべてこの日銀理
論に原因があったようです。
 日銀理論に深く関連しているのは「マネーストック」という言
葉です。これは、世の中に流通している「預金+現金」のことで
国際的には「マネーサプライ」と呼ばれているものです。日本で
も同じマネーサプライという言葉を使ってきたのですが、白川方
明総裁時の2008年に「マネーストック」に変更しています。
「マネーをサプライできない」という意味で、名称を変更したも
のと思われます。日銀にとって、日銀理論はそれほど重要な考え
方なのです。
 日銀理論を信奉する白川前日銀総裁について、白川氏の師匠で
ある浜田宏一イエール大学名誉教授は、ブログにおいて、「白川
総裁には何度も失望させられた」とし、日銀理論とは何かについ
ては、畏友の若田部昌澄教授が2008年に書いた原稿から、次
のように引用しています。
─────────────────────────────
 私のみるところ、それ(日銀理論)は「一連の限定句」、平た
くいうと「できない集」である。つまり、原則として日銀は民間
の資金需要に対して資金を供給しているので、物価の決定につい
ても限定的であり、とりうる政策手段も限定的であり、政府との
協調関係も限定的であるべきというものである。たとえば、長期
国債の購入によって貨幣供給量を増やすということは、それが財
政政策の領分に入るので禁じ手であるとされる。
──「PHPビジネスオンライン衆知」https://bit.ly/3acgZrF
─────────────────────────────
 しかし、2013年に黒田東彦総裁になると、日銀理論の反対
者である岩田規久男氏が副総裁に就任したことによって日銀は一
変し、積極性を見せています。現在、岩田副総裁は退任しました
が、若田部昌澄氏が副総裁になっています。
 しかし、黒田総裁によって、これまでの日銀では考えられない
異次元金融緩和が行われていますが、7年経過した現在でも、目
標であるインフレ率の2%は依然として達成できていません。や
はり、何かが間違っているのだと思います。
 以上のように、MMT派は「金融政策は不安定であり、あてに
できない」としています。金融政策というのは、中央銀行が行う
政策で、お金の量や利子率を操作して、インフレ率や失業率を調
整することを目的としています。
 それでは、何を持ってインフレ率や失業率を調整するかという
と、「雇用保障プログラム」というものをMMTでは用意してい
るのです。
 ここで、MMTが主流派経済学と異なる3つの論点の再現をす
ると、3つ目に「雇用保障プログラム」が出てきます。
─────────────────────────────
       1.   財政的な予算制約はない
       2.   金融政策は有効ではない
    →  3.雇用保障プログラムを導入せよ
─────────────────────────────
 「雇用保障プログラム」は、Job Guarantee Program のことで
JGPと略して呼ばれます。これは、職を求める失業者を政府が
すべて雇い入れ、仕事をさせるプログラムです。どうして、これ
によって金融政策のようなことができるかについて、井上智洋駒
澤大学准教授は次のように説明しています。
─────────────────────────────
 景気が悪いときに、経済はデフレ気味になります。その際、J
GPが導入されていれば、失業者をたくさん雇い入れるために政
府支出が増えて、それによって景気が刺激され、物価の下落が抑
えられます。逆に、景気が良いときに、経済はインフレ気味にな
ります。そうすると、民間の雇用が増え賃金も上昇するので、政
府に雇われていた人はもっと給料の高い仕事を求めて民間企業に
務めるようになるので、政府の支出が減ることにより景気が抑制
され、インフレ率は低下します。   ──井上智洋著『MMT
        /現代貨幣理論とは何か』/講談社選書メチエ
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/054]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀が「意味不明ガイダンス」を出した理由/小幡績氏
  ───────────────────────────
   私の予想は外れた。前回(9月18〜19日開催)の金融
  政策決定会合後、黒田東彦日銀総裁は次の10月末の金融政
  策決定会合では必ず何かをする、というメッセージを打ち出
  したから、何かをせざるを得ず、しかし、実際には何をやっ
  てもマイナスだから、マイナスが最低限と思われるマイナス
  金利の拡大をする、と私は前回のコラム「日銀は必ず動くは
  ずだが、一体何ができるのか」で予想した。これは見事に外
  れた訳だが、なぜ外れたのだろうか。私しか関心がないかも
  しれないが、将棋では、対局後の感想戦が強くなる最短コー
  スと言われる。次の予想へ向けて反省会をしてみよう。
   まず、アメリカが追加利下げをしたというのは予想通り。
  日銀の金融政策決定会合の一日目と二日目の間に公表され、
  パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見が
  行われた後に、日銀の決定、黒田総裁会見だから、なぜアメ
  リカは3回連続利下げ、欧州は量的緩和再開、というフルサ
  ービスなのに、日銀だけなぜ何も金融市場にサービスしてく
  れないのか、円高が進んでもいいのか、という批判がくるは
  ずだった。しかし、欧米の動きは予想通りだったにもかかわ
  らず、日銀が利下げしなくとも、批判はこなかった。批判が
  こないならあえて悪い政策である利下げをすることほど愚か
  しいことはない。だから利下げしなかったのは合理的だが、
  問題はなぜ批判されなかったのか、ということだ。
                  https://bit.ly/2QBtmWO
  ───────────────────────────

iwatanitiginhukusousaitokurodanitiginsousai.jpg
岩田日銀副総裁と黒田日銀総裁
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2020年03月26日

●「『雇用保障プログラム』とは何か」(EJ第5214号)

 MMTが、経済政策の中軸に据えている「雇用保障プログラム
(JGP)」とは、具体的に何でしょうか。
 すべての経済政策の目的は、「国民の幸福の確保と拡大」にあ
ります。重要なのは、それを左右するのが「失業率の低減」であ
ることです。多くの不幸の原因は「貧困」にありますが、その多
くは、「失業」によってもたらされるからです。
 添付ファイルをご覧ください。2つのグラフがありますが、上
のグラフを見てください。これは1978年から2018年まで
の「自殺者数の推移」をあらわしています。
 グラフのスタート時点の自殺者は、年間約2万人です。総数の
推移を目で追っていくと、バブルが崩壊した1990年頃から自
殺者はゆるやかに増加していることがわかります。
 1997年には自殺者は約2万4千人になり、デフレに突入し
た1998年には3万2千人に跳ね上がっています。それ以来約
10年間、3万2千人のレベルに高止まりしています。これが下
落をはじめるのが2010年以降です。この頃から雇用状況は少
しずつ改善をはじめ、安倍政権になってから、失業者は大きく減
少すると、2018年頃には、1978年当時の2万人のレベル
までまで減少しています。不況は自殺者を増やすのです。
 続いて下のグラフを見てください。これは賃金の推移をあらわ
しています。2015年を100として設定しています。バブル
崩壊後の1990年以降も賃金は伸びていますが、デフレのはじ
まる1998年以降、一貫して低下しています。
 「名目賃金」とは、給料などの額面をあらわし、「実質賃金」
は、名目賃金の物価に対する割合をあらわしています。平成のは
じまりは1989年ですが、以来30年間、実質賃金は一貫して
下落しています。実質賃金の低下は、給料で購入できるものの量
が減ったことをあらわしており、それだけ貧乏化が進んだことを
意味します。主要国でこんな異常事態になった国は日本のみ。日
本は経済政策を完全に間違っているのです。それを端的にあらわ
しているのは次の事実です。
─────────────────────────────
      ◎一人当たり名目GDP
       2000年 ・・・・・  2位
       2017年 ・・・・・ 25位
─────────────────────────────
 それでは、JGPとは、どのようなプログラムでしょうか。藤
井聡京都大学大学院教授は、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 失業者が一定以上存在するような状況において、公務員を増や
したり公共投資などを行って雇用を生み出し、失業者がいない完
全雇用を目指すと同時に、政府が設定した最低賃金を実現させる
ことを目指す政策である。したがって、JGPはこれまで雇用保
障プログラムや、就労保障プログラム等と呼ばれてきたが、ここ
では、そのJGPが賃金水準の確保も明確に視野に収めたもので
あることから「就労・賃金保証」プログラムと呼称する。
                   ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 この「就労・賃金保証」プログラムは、1929年の世界大恐
慌のさい、米国は「ニューディール政策」として行っています。
このニューディールという言葉は、「新規まき直し」という意味
の思い切った経済政策のことをいいます。
 このプログラムは、政府が「最後の雇い手」としての役割を担
い、民間では雇ってくれない人々を対象とし、政府が直接的な雇
い手となり、完全雇用を目指します。世界ではじめて、ジョン・
メイナード・ケインズの理論を取り入れた経済政策ともいわれて
います。この「最後の雇い手」という言葉ですが、資金不足に陥
った銀行が、他の銀行からお金を借りることができなくなったと
きに、中央銀行が「最後の貸し手」としての役割を果たすという
ことになぞらえています。
─────────────────────────────
  ◎最後の貸し手  Lender of Last Resort  ELR
  ◎最後の雇い手 Employer of Last Resort  LLR
─────────────────────────────
 大恐慌のさいは、大規模な治水事業や道路事業を展開し、全国
で1300万人もの人々を雇用しています。このさい、政府が作
り出す就労機会の賃金はどのように設定されるのかというと、政
府が想定する「最低賃金」になります。最低賃金のレベルは、普
通に生活をしていける最小必要限のレベルに固定されます。そう
することによって、それ以下の賃金で働いている、ブラック企業
の労働者に転職を促し、吸収できます。そうなると、そういうブ
ラック企業では働き手が奪われていき、労働賃金を上げることに
よって、脱ブラック化が進むことになります。
 もし、景気が回復すると、当然のことながら、より高い賃金を
保証する民間企業が増えるので、労働者はそのような企業に転職
して行くことになります。これについて、井上智洋教授は次のよ
うに説明をしています。
─────────────────────────────
 政府がJGPで雇用する労働者の賃金は、「基本的公共部門賃
金」と言われています。ここでは、たんに「基本賃金」と呼ぶこ
とにします。仮に、JGPの賃金を時給1500円と決定したと
しましょう。そうすると、民間企業では、1500円以上の時給
に設定しないと、労働者を雇用することはできません。コンビニ
でのバイトの時給が1200円だったら、労働者はそのバイトを
辞めてJGPのほうに参加することでしょう。したがって、基本
賃金は、事実上最低賃金になるのです。    ──井上智洋著
    『MMT/現代貨幣理論とは何か』/講談社選書メチエ
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/055]

≪画像および関連情報≫
 ●MMTの雇用保障プログラムが目指すものとその限界
  ───────────────────────────
   ネット界隈では非主流派経済学の一つMMTは、しばらく
  話題になりそうだ。毎日新聞のコラムで取り上げられている
  し、日経新聞でも紹介された。しかしメディアではまだMM
  Tの柱の一つ、雇用保証プログラム(JGP)について注目
  されていない。MMT教祖たちの長い議論でもはっきり言及
  されているので、これを無視してMMTは理解はできない。
   このように書くと、なにやら壮大な仕掛けな気がするが、
  JGPの概要の説明は難しくない。政府や地方自治体が最低
  賃金で雇用を用意し、望む全員に提供するというものだ。M
  MT教祖は、総需要管理政策で雇用を増やすのではなく、J
  GPによってルーズな完全雇用をインフレなしで実現すると
  している。           https://bit.ly/2vKQtXF
  ───────────────────────────
 ●グラフの出典/──井上智洋著の前掲書より

自殺者数の推移と名目賃金指数・実質賃金指数の推移.jpg
 自殺者数の推移と名目賃金指数・実質賃金指数の推移
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2020年03月27日

●「政府はエリートでなければならぬ」(EJ第5215号)

 「ハーヴェイ・ロードの前提」という言葉があります。ジョン
・メイナード・ケインズが、英国のケンブリッジのハーヴェイ・
ロード6番地に住んでいたことから、そう呼ばれます。一国を治
める者は「ハーヴェイ・ロードの前提」を満たす必要があるとい
うように使われます。これは、次のことを意味する言葉です。
─────────────────────────────
 「ハーヴェイ・ロードの前提」とは、政府は民間経済主体より
も優れた政策判断を下すことができる。     ──ケインズ
─────────────────────────────
 これに似た言葉にプラトンの「哲人政治」があります。これは
古代ギリシアの哲学者プラトンが、その著書『ポリテイア』にお
いてあらわした政治理念であり、次のことを意味しています。
─────────────────────────────
 政治とは「正義」を実現することであり、善のイデアによって
国民を導くことであるから,哲人が王となるか、あるいは、王が
哲人とならなければ,実現されない。      ──プラトン
─────────────────────────────
 要するに、これらは「高度に学問を修めた賢いエリートが国を
治めなければならない」ということをいっているのですが、単な
る理想論に過ぎません。なぜなら、民主的に選挙で選ばれたリー
ダーというものは、どうしても大衆受けを狙った愚かな選択をし
てしまうものだからです。
 ジェームズ・M・ブキャナンという米国の財政経済学者がいま
す。彼は次の本のなかで、「ハーヴェイ・ロードの前提」、すな
わち、ケインズ主義的財政政策を批判しています。
─────────────────────────────
 ケインズは、少人数の知識エリートによる政策運営を理想とし
ていただけでなく、現実の政治も基本的には、そのように動いて
いると想定していたのである。──ジェームス・M・ブキャナン
      &リチャード・E・ワグナー共著/大野一(翻訳)
         『赤字の民主主義/ケインズが残したもの』
                   日経BPクラシックス
─────────────────────────────
 要するにブキャナンは、選挙で選ばれた政治家の下でケインズ
政策が行われている限り、財政赤字が巨額化することは避けられ
ないというのです。むしろ、選挙で選ばれたわけではない中央銀
行のエリート官僚の手で行われる金融政策の方が、「ハーヴェイ
・ロードの前提」を満たすともいっています。
 伝統的なケインズ政策において、景気が悪いとき政府は、道路
や橋を建設するなどの公共事業を行い、雇用を確保するとともに
景気を刺激し、逆に景気が良いときは、インフレにならないよう
に、政府支出をコントロールする──これらは、政治家の裁量に
よって行われます。
 このような裁量的なコントロールではなく、状況に応じて的確
に正しい措置が自動的に行われる装置のことを経済学では、次の
ようにいいます。
─────────────────────────────
   ビルト・イン・スタビライザー(自動安定化装置)
                 built-in stabilizer
─────────────────────────────
 藤井聡京都大学大学院教授は、所得税と法人税には、一種のビ
ルト・イン・スタビライザー機能が、備わっていると述べていま
す。これについて説明します。
 所得税には「累進性」があります。所得が高ければ高いほど、
所得税率が高くなっていく仕組みです。もし、所得が150万円
であれば税率は5%ですが、所得が500万円になると、20%
もし1000万円なら33%、4000万円以上であれば45%
になります。
 デフレになると、多くの人の所得が下がり、税率が下がれば下
がるほど、自動的に減税されることになります。そのため、所得
税による所得の下落を緩和し、それを通して家計の消費の拡大が
もたらされ、貨幣循環量が拡大されます。これに対して、インフ
レになると、税率が上がり、それを通して貨幣循環量の拡大が抑
止されることになります。
 法人税の場合はどうでしょうか。法人税は「売り上げ」にかか
るのではなく、「利益」にかかります。景気が良くて黒字経営に
なれば法人税は支払わなければなりませんが、景気が悪く赤字経
営になると、法人税の支払いは免除されます。所得税と同様に、
法人税も、日本の場合は景気の動向によって20%から0%へと
自動的に減税されます。これによって、デフレ圧力は自動的に軽
減されることになります。
 これに対して、所得税、法人税にみられるビルト・イン・スタ
ビライザー機能が付いていないのが消費税です。しかし、藤井教
授は、消費税に一種のビルト・イン・スタビライザー的機能をつ
けることは、不可能ではないといいます。消費税は、市場におけ
るマネーの循環そのものに対する徴税であり、貨幣循環量を直接
的、かつ、効果的に調整するものとして機能します。消費税の税
率を「インフレ率」に連動させるのです。藤井教授はこれについ
て、カナダの例を上げています。
─────────────────────────────
 カナダでは、1990年までは「付加価値税」(日本で言う消
費税)が導入されていなかったが、80年代後半はインフレ率は
4%を超えていた。こうした状況の中、1991年に付加価値税
を7%で導入したところ、90年代のインフレ率はおおよそ2%
を下回る水準に抑制された。一方で、景気後退局面に入った20
06年7月に、月に5%へと引き下げられた。
                   ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/056]

≪画像および関連情報≫
 ●ハーヴェイロードの賢者はいずこ
  ───────────────────────────
   今の日本社会は、ひどく混乱をしているようにみえます。
  国民の気持ちや願いが、政治に反映されているようにはみえ
  ません。経済や金が重要課題として、政策がつくられていま
  す。一方で、拝金的な行為を蔑み、幸福や満足度などを重視
  している多くの個人がいます。社会的弱者や若者を守り育て
  る社会であるべきだとわかっていながら、しわ寄せがいく仕
  組みが、日本では徐々につくりあげられています。
   テレビや紙面ではコメンテータや評論家が、好き勝手な意
  見を述べますが、だれもその発言に責任は負いません。責任
  を問われるようなジャーナリズムは、横並びの報道や意見、
  あるいは社の方針に基づいた考えしか述べていません。発言
  に責任を持つべき政治家も、言葉尻やささやかな不祥事は追
  求され、ポストを追われます。しかし、政治生命を立たれる
  ことなく、発言力を持っています。国を危険に陥れるような
  もっと大きな政策の誤りに対しては、だれも責任を取りませ
  ん。みんなが、このような間違いに気づいているはずです。
  かつての世界には、賢者と偉大なる指導者がいました。偉大
  なる指導者が、賢者の判断に基いて、混乱した世の中を治め
  ていたことがありました。日本でも、偉大な武将にはよい軍
  師が革命の英雄には賢者の思想がありました。そのような賢
  者が存在したのは、明治維新から明治ころまででしょうか。
                  https://bit.ly/3drVvcr
  ───────────────────────────

ジェームズ・M・ブキャナン.jpg
ジェムズ・M・ブキャナン
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2020年03月30日

●「日本のウイルス封じ込めの考え方」(EJ第5216号)

 新型コロナウイルスの蔓延が止まらず、行動を制限されるなか
うっとうしい毎日が続いてます。各企業では、ちょうど新年度を
迎えるこの時期に感染のピークが来つつあるので、入社式、新入
社員研修などの年度始の恒例行事に重大な影響が出ています。
 新型コロナウイルス蔓延の問題は、経済全般に深刻な影響を及
ぼし、一部野党の掲げる消費税減税の実現の可能性も出ているの
で、関連話題として取り上げ検討します。膨大な赤字国債も発行
せざるを得ないので、MMTが嫌でも関心のマトになります。
 ウイルス蔓延の問題は、連日ワイドショーで取り上げられ、い
つも見ていますが、一番内容が濃かったのは、22日(日)放映
の『NHKスペシャル/パンデミックとの闘い』です。ネット上
で映像を見つけたので、ご覧になっていない方は、ぜひ視ていた
だきたいと思います。ただし、4月3日/17時で映像は見られ
なくなります。
─────────────────────────────
   ◎2020年3月22日放映
    『NHKスペシャル/パンデミックとの闘い〜
          感染拡大は封じ込められるか〜』
                      65分
              https://bit.ly/2QQmjcK
─────────────────────────────
 この番組には、ワイドショーには一回も出演していない厚労省
クラスター対策班のメンバーの一人、押谷仁東北大学大学院医学
系研究科微生物学分野教授が出演していますが、この専門家の発
言がとくに注目されます。
 まず、3月27日正午の時点での感染者数の多い各国の数値を
押さえておきます。
─────────────────────────────
            感染者数    死亡者数
     米国    85505    1288
     中国    81340    3292
     イタリア  80589    8165
     スペイン  56188    4089
     ドイツ   43938     267
     イラン   29406    2234
     フランス  29155    1696
     英国    11658     578
     スイス   10714     161
     韓国     9332     139
     日本     1387      46
                  https://bit.ly/3arCncy ─────────────────────────────
 こうして見ると、日本の感染者数と死亡数の少なさは群を抜い
ています。しかも、日本は中国と距離的にも近く、相互交流も多
いのに、この数字は明らかに少な過ぎます。そのため、日本はオ
リンピックが迫っている関係上、あえて検査数を絞って、感染者
の数を少なくしているのではないかと、海外から疑いの目が向け
られています。日本人のなかにも、そう思っている人は少なくな
いと思います。
 しかし、上記の『NHKスペシャル』で、押谷仁教授は少し違
う意見を述べています。その部分をご紹介します。
─────────────────────────────
アナ:日本は、検査数が少ないので、見逃している感染者が多数
 いるのではないかという指摘もあるんですが。
押谷:本当に多数の感染者を見逃しているのであれば、日本でも
 既にオーバーシュートが起きているはずです。しかし、現実に
 オーバーシュートは起きていない。日本のPCR検査は、クラ
 スターを見つけるために十分な検査がなされていて、そのため
 に日本では、オーバーシュートは起きていない。
  実は、このウイルスは、80%の人はだれにも感染させてい
 ないのです。つまり、このウイルスは、全ての感染者を見つけ
 ないといけないウイルスではないのです。クラスターさえ、見
 つけられていればある程度制御できる。むしろ全ての人に、P
 CR検査を受けさせるということになると、医療機関に多くの
 人が殺到して、医療機関で感染が拡がってしまう危険があって
 むしろPCR検査を抑えているのです。その結果において、日
 本はこの状態で踏みとどまっているのです。──押谷仁教授/
      『NHKスペシャル/パンデミックとの戦い』より
─────────────────────────────
 押谷教授がいう「このウイルスは、全ての感染者を見つけない
といけないウイルスではない」という部分が重要です。このウイ
ルスは感染しても、とくに若い人の場合、そのまま治ってしまう
ケースが多いのです。しかし、そういう人が密閉空間にいると、
大勢の人が感染するリスクが高くなります。だから、密閉空間の
集会など、国民の行動を規制せざるをえないのです。
 しかし、片っ端から検査すれば、そういう軽い感染者も含めて
大勢の感染者が見つかり、隔離しなければならなくなります。そ
うなると、隔離場所の確保が困難になり、病院でも院内感染とい
うクラスターが発生し、重症者を受け入れることができず、医療
崩壊が起こりかねなくなります。院内感染が恐いのは、医師も感
染してしまうことです。
 そうであるなら、有限の受け入れ可能な病床数を念頭に置いて
そこに重症者のみを受け入れ、治療する方がベターであるという
のが日本の考え方のようです。しかし、多くのクラスターが発生
し、それが結合すると、まさにオーバーシュートが起きてしまい
イタリアのように重症者でも治療できない悲惨な医療崩壊が起き
てしまいます。心配なのは、押谷先生が映像を見る限り、とても
お疲れのように見えることです。日本の医療の優秀性は、死者の
少ないことで証明されています。医療崩壊だけは絶対に起こして
はならないのです。  ──[消費税は廃止できるか/057]

≪画像および関連情報≫
 ●日本は本当に「持ちこたえている」のか?
  ───────────────────────────
   ニューヨークタイムズ(NYT)紙は、これまで何度かP
  CR検査の実態を記事にし、検査数を増やせと訴えてきた。
  その結果、ニューヨーク州は全米の州のなかで確認された感
  染者数(confirmed cases) がいちばん多い州になり、いま
  や連日1000人以上の新型コロナウイルスの感染者が確認
  されるようになった。
   それに比べ日本はどうだろうか?確認された感染者の数は
  1日平均30〜50人ほどだ。ニューヨーク州の人口は、約
  2000万人。日本の人口の約6分の1である。そこで、連
  日1000人以上の確認された感染者が出ていることを思う
  と、日本のあまりの少なさに疑問を持たれる人も多いのでは
  なかろうか?
   確認された感染者数の少なさをもって、政府も専門家委員
  会も「(日本は)持ちこたえている」としている。が、はた
  してこれは本当なのか?そもそも検査数を絞りに絞って、症
  状がひどくならないと検査していないのだから、なんの根拠
  もないのではなかろうか?
   ということで、ではアメリカではどのようにPCR検査が
  行われているのか?NYT紙の記事から見てみたい。特筆す
  べきは、なんと記者がやっとのことで検査を受け、陽性にな
  った体験手記が掲載されたことだ。https://bit.ly/2ygi9ob
  ───────────────────────────

NHKスペシャル『パンデミックとの闘い』のシーンより.jpg
NHKスペシャル『パンデミックとの闘い』のシーンより
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2020年03月31日

●「バラマキのためらいの正体は何か」(EJ第5217号)

 2020年3月28日付、日本経済新聞の1面のトップに次の
記事が出ています。
─────────────────────────────
【現金給付所得減世帯に/経済対策50兆円超GDPの1割】
 政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急経済対策
で、5月にも所得が大幅に減少した世帯に現金を給付する検討に
入った。条件が当てはまる1世帯に20万円〜30万円程度とす
る案がある。売り上げの急減が予想される飲食業や観光業は割引
券や商品券を発行して支える。経済対策の事業規模は名目国内総
生産(GDP)の1割にあたる56兆円超をめざす。
       ──2020年3月28日付、日本経済新聞朝刊
─────────────────────────────
 同じことを米国のトランプ政権は、もっとシンプルに、もっと
素早くやろうとしています。新型コロナウイルス対策として2兆
ドル(約220兆円)規模の経済刺激策を既にを与野党で既に合
意しており、4月に実施することを決めています。とくに、大人
1人当り最大1200ドル(約13万円)の現金給付は、4月中
に配付するとしています。こういう現金給付は何よりもスピード
が勝負です。
 それにしても、日本は、なぜ、現金給付に1ヶ月もの時間を要
するのでしょうか。それは「所得が大幅に減少した世帯」という
条件をつけているからです。しかし、そういう条件に当てはまる
世帯を、どのような基準で選ぶのでしょうか。仮にどのように公
平に選んだとしても、絶対に不公平になるし、時間もかかるので
す。しかも一律10万円の現金給付というニュースが拡がると、
政府は慌ててメディアに「一律ではない」と否定させています。
期待されては困るという考え方でしょう。
 そもそも今回の新型コロナウイルスの蔓延で、何も被害を受け
ていない人など一人もいません。マスク不足や、トイレットペー
パーやティッシュの不足、移動や行動の制限、集会の禁止、会食
の禁止、ただ見るだけの花見まで禁止と、禁止のオンパレードで
す。国民はうっとうしい毎日を過ごしているのです。ところが安
倍首相の奥方は、この時期にレストランの庭とはいえ、花見を楽
しんでいるではありませんか。こんなことは許されることではあ
りません。国民は怒っています。しかも、そのことを野党議員が
国会で質問すると、首相は「それではレストランに行ってはいけ
ないのか」と反論し、しまいには「そんな大声でツバキを飛ばす
な」と逆ギレする始末。なぜ「このような時期に不適切だった。
妻に代ってお詫びする」と潔く謝罪できないのでしょうか。
 このさいは、野党の要求しているように、条件なしの一律10
万円を4月早々に配付すべきです。国会議員にも配ることになり
ますが、条件に当てはまる世帯を探している時間なんかない。こ
んな問題で、時間をかけるのは愚かなことです。この案なら誰か
らも批判はこないと思います。
 新型コロナウイルス蔓延による今回の緊急経済対策は、いわゆ
る「バラマキ」と呼ばれます。なかでも、国民に一律に現金を配
るなどは「バラマキ」の典型です。そのため、緊急経済対策とい
う大義名分があっても、実施側としては何となく躊躇するもので
す。これはどこからくるものでしょうか。
 かつて民主党が天下を取ったとき、公約の子育て支援の「子ど
も手当」を実施に移そうとしたとき、財務省は一切協力せず、財
源がなくて、実現しなかったことがあります。そのとき、野党に
なった自民党は「子ども手当」を「バラマキ」と呼んだのです。
相手の民主党が政権運営に慣れないことを逆手にとって、財務省
を抱き込んで、「子ども手当」の阻止したのです。それでいて、
自民党は政権を奪還すると、幼児教育費の無償化を含む「子ども
手当」をもっと拡大したものを消費増税を財源として実施に移し
ています。「子ども手当」の提案は正しかったのです。
 ところで、「バラマキ」といえば、ケインズ経済学に基づく不
況対策として行われる公共事業も「バラマキ」であり、財政赤字
が膨らむ原因になるからと、避けるべきとの風潮があります。赤
字国債を発行するなど政権党としては、それが必要であっても何
となく実施を躊躇うのです。今回のような未曾有の新型コロナウ
イルス禍でもない限り、赤字国債を発行してやれないのです。そ
れは一体どこから来るのでしょうか。
 それは、3月27日のEJ第5215号で取り上げた米国の財
政学者、ジェームズ・M・ブキャナンの財政思想から来るもので
あり、日本の財務省系の財政学者のほとんどは、この財政思想に
染まっています。ブキャナンは財政均衡主義の元祖です。
 ジェームズ・ブキャナンとして検索すると、同名の米国第15
代大統領の名前が出てきますが別人です。財政学者として検索し
ないと出てこないのです。ジェームズ・M・ブキャナンについて
真壁昭夫教授は次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 1986年にノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者ジェ
ームズ・ブキヤナンは、財政の規律に強くこだわった経済学者で
した。彼は、民主主義の下で財政支出は増加し続けるため、均衡
財政(財政の歳出と歳入のバランスをとる)の考えに基づき、税
収の範囲内で予算を組む必要があると主張しました。この考えは
景気が悪化した際に、政府(官僚)は必要に応じて財政支出を拡
大させ、経済成長率を高める能力を持つというケインズの考えと
異なります。ブキャナンの考え方に基づくと、財政黒字の黒字を
実現する(財政赤字をなくす)ためには、国民の負担が欠かせま
せん。例えば、増税や歳出のカットが考えられます。いずれも、
わたしたちが避けたいと思う政策です。増税はわたしたちが自由
に使うことのできるお金を減少させます。   ──真壁昭夫著
   『MMT(現代貨幣理論)の教科書/日本は借金し放題?
       暴論か正論かを見極める』/ビジネス教育出版社
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/058]

≪画像および関連情報≫
 ●逆噴射の財政政策/経済コラムマガジン
  ───────────────────────────
   ブキャナン経済学の真髄は「民主主義的意思決定過程の中
  では、景気が過熱しているときでも、人々が好まない緊縮的
  政策をとることができない」という主張である。つまり民主
  国家では、どうしても財政支出が増え続け、どんどんインフ
  レが進行するメカニズムを持っているというのである。これ
  はまさに一種のケインズ政策批判である。ブキャナンはこの
  分析を政治学者であるワグナーとの共同研究で行っている。
  そしてこのような考えは「ブキャナン・ワグナーの定理」と
  呼ばれている。この定理は84年両者の共著「赤字財政の政
  治経済学」の中で展開されている。
   しかしこの種の定理が、今日の日本でも有効なのかどうか
  が大問題である。これを考えるにはまず当時の米国経済を簡
  単に見ておく必要がある。第二次世界大戦時から、米国の財
  政は危機管理下に入った。膨大な戦費の負担と社会主義国の
  ソ連の登場に対抗するための大幅な福祉予算の増額があった
  からである。歳出を大幅に増やしたが、これを税収ではとて
  も賄えない。米国の連銀は42年から51年まで青空天井で
  政府の財務省証券を購入した。10年物の財務省証券の利回
  りが2・5%以上に上昇しないように、連銀は証券を買い続
  けたのである。         https://bit.ly/2wLe4I1
  ───────────────────────────


立憲民主党杉尾議員/昭恵夫人のお花見追及.jpg
立憲民主党杉尾議員/昭恵夫人のお花見追及
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2020年04月01日

●「ブキャナン思想に染まる経済学者」(EJ第5218号)

 米国の財政学者、ジェームズ・M・ブキャナンの著書に『財政
赤字の政治経済学』という本があります。ブキャナンは、この本
に書かれている理論で、1986年にノーベル経済学賞を受賞し
ています。どのような理論でしょうか。
 政治家は選挙で選ばれるので、人気取りのため、公共事業など
の「バラマキ」に走りがちになって、その結果、財政赤字が拡大
してしまう──要するに、ケインズ経済学の欠点を指摘する理論
といえます。「借金はよくないもの」というのは世界共通の「常
識」、国の財政には財政規律を守ることが必要であり、それなり
の説得力があったので、次のようなことが先進国のエリートたち
の「常識」になっているのです。
─────────────────────────────
 民衆の主張や要求を一切無視して「財政規律」を守ることが、
国全体を守る上で、とても大切な「道徳的に正しい行為である」
                   ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 そして今や、このブキャナン思想が、先進国の政府、OECD
やIMFなどの国際機関の基本的な運営方針になっています。と
くに日本では、政治家、官僚、学者といったインテリ層が、この
ブキャナン思想に汚染されています。藤井聡教授にいわせると、
「住民達は皆バカで、そんな住民が好きな財政拡大は不道徳なも
のだ」とまでいっています。
 なお、ブキャナンは財政均衡論者であり、日本は財政法第4条
で原則として国債発行を禁止し、均衡財政を法律の条文に書いて
います。完全に日本はブキャナン思想に染まっています。加えて
日本では、田中角栄の「金権政治」やロッキード事件などが起こ
り、ますますブキャナン思想が根付いてしまったのです。
 これに関して、昨日のEJの関連情報でご紹介した「経済コラ
ムマガジン」には次のような興味あることが書いてあります。
─────────────────────────────
 橋本・小泉首相の話に戻る。両者は決して経済が強いと定評の
ある政治家ではない。党内では両者はともに厚生族として活動し
ており、両者は厚生大臣の経験者である。特に小泉氏は厚生大臣
しか閣僚経験がない。また、橋本内閣の財政改革路線も、橋本首
相自身ではなく、梶山静六官房長官(この政治家も経済に弱かっ
た)が強引に進めていたのが実状である。
 しかし、筆者が考える橋本・小泉首相の最も重要な共通点は、
両者がともに「慶応大学」の出身者という点である。「何をばか
なことを」と思われる方が随分いると想われるが、これが結構大
事なことである。慶応大学は割りとはっきり特定の経済理論に傾
倒している。大学全体にJ・M・ブキャナンの影響を強く受けて
いるのである。ブキャナンは公共経済学者で、86年にノーベル
経済学賞を受賞したえらい学者である。そして日本のブキャナン
の研究の第一人者が、以前慶応大学経済学部長で、現在千葉商科
大学長の加藤寛氏(故人)である。
 橋本元首相はどれだけ加藤寛氏の影響があったかはっきりしな
いが、行政改革委員会や政府税調の要職にあった加藤寛氏と相当
の接触があったものと想像される。一方、小泉氏は、はっきりと
学生時代は加藤寛氏の授業を熱心に聴講していたとテレビで発言
していた。             https://bit.ly/33X1npY
─────────────────────────────
 「経済コラムマガジン」の著者が指摘するように、最悪の時期
に消費税の3%〜5%の増税をして、日本のデフレを深刻化させ
たのは橋本龍太郎首相率いる橋本政権です。増税の翌年から、日
本は長期デフレに突入しています。
 2001年からの小泉純一郎首相率いる小泉政権は、国債発行
に30兆円枠を設け、国債をその枠以下に絞るなど歳出を抑制し
たものの、そのため、景気対策が疎かになり、デフレを一層深化
させた内閣であるといえます。「民間が出来ることは民間にまか
せる」という旗印の下で、小さい政府を目指し、郵政民営化を中
心に民営化を推進した内閣です。
 ちなみに、ブキャナンの著した『財政赤字の政治経済学』は、
政治学者であるリチャード・E・ワグナーとの共著になっていま
す。ブキャナンは、必然的に財政赤字が膨らむケインズ経済学を
政治的側面から分析するために、ワグナーと共同研究を行ったの
です。そのため、この本で述べられている考え方は、「ブキャナ
ン・ワグナーの定理」とも呼ばれています。
 しかし、このブキャナン・ワグナーの定理が主張された頃の米
国は、第2次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争と続く戦争によ
るによる財政赤字の積み重ねで経済は疲弊し、貿易赤字と財政赤
字が増え続けていた時代であり、インフレが続いていたのです。
それでもなお、政治家は選挙に勝つために歳出を抑えることがで
きず、歳出を増やす政策を、取り続けざるをえなかったといえま
す。また、金利も高くなり、民間と政府が資金を奪いあうクラウ
ディングアウトの状態にあったのです。クラウディングアウトと
は、大量の国債発行で市中金利が上がり、それによって民間の資
金需要が抑えられることをいいます。
 こういう状況になれば、だれでもケインズ経済学に疑問を抱き
否定したくなるはずです。そういう状況で、ブキャナン・ワグナ
ーの定理が出てきているのです。しかし、1979年版の『財政
赤字の政治経済学』では、次の指摘が加えられます。
─────────────────────────────
 需要不足の経済状態から脱出するための理想的な経済政策は、
政府貨幣発行を財源とする赤字予算を組むことである。
─────────────────────────────
 驚くべきことですが、ブキャナンは、政府貨幣発行に言及して
います。ブキャナンを信奉するのであれば、もっとブキャナン思
想について勉強すべきであると思います。
           ──[消費税は廃止できるか/059]

≪画像および関連情報≫
 ●現代貨幣理論批判の分類と反論をわかりやすく解説する
  ───────────────────────────
   もっともポピュラーな現代貨幣理論(MMT)批判です。
  現代貨幣理論(MMT)を実施すると、ハイパーインフレに
  なる!というものです。
   この批判には、重要な要素があります。ジェームズ・M・
  ブキャナンの「赤字の民主主義ケインズが遺したもの」を、
  批判理論の根底にしています。赤字の民主主義とはなにか?
  ───────────────────────────
  【赤字の民主主義】
   民主主義で一度、財政赤字を認めると永続して拡大する。
  なぜなら、民主主義において「与えられるなら、与えてもら
  いたい」という国民の動機が、原動力となる。一度財政政策
  をすると、延々と財政政策が求められるようになる。
  ───────────────────────────
   ブキャナンが提唱したのは、上記のような理論です。が、
  この理論。大きな見落としがあります。「民主主義ではない
  資本主義国家も、赤字を拡大し続ける」という事実です。じ
  つは民主主義は関係ありません。「資本主義それ自体が永続
  的に、負債を拡大し続ける」経済形態なのです。実際にアメ
  リカや日本、自国通貨建ての世界の先進国で、国債発行額が
  増え続けていない国家は存在しません。
                  https://bit.ly/3dyvQPo
  ───────────────────────────

慶応義塾大学出身の2人の首相.jpg
慶応義塾大学出身の2人の首相

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2020年04月02日

●「巧妙に緊縮政策をとった小泉政権」(EJ第5219号)

 ブキャナンの思想というのは、エリート意識をくすぐるところ
があります。政治家というものは、選挙で選ばれる存在であり、
どうしても国民に痛みを強いる政策は実施を躊躇ってしまうもの
です。その点、ある意味において、それを比較的上手にやったの
は、小泉政権であると思います。小泉首相は、国民に対して、国
民が一番気にしていた増税をしないことを約束しています。
─────────────────────────────
 自民党の総裁任期は3年あるが、その間に消費税の税率を上
 げる環境にはない。 ──2003年9月22日/小泉首相
─────────────────────────────
 やや微妙な表現ですが、国民にとっては「自分の任期中は消費
増税はしない」と約束したのと同じであり、国民にとって好感を
もって受け止められています。
 そのうえで、国債の発行と公共事業について、次のことを宣言
しています。これは、明らかに、緊縮経済政策をとることを国民
に宣言したのと同じです。
─────────────────────────────
  国債発行額30兆円以下とし、公共事業は10%削減する
                      ──小泉首相
─────────────────────────────
 「バラマキはやらず、国債発行を制限する」──このように赤
字国債の発行を少しでも制限するという宣言は、かっこよいし、
増税と違って国債発行の制限は、国民にとって直接的な痛みにつ
ながるわけではないので、受け入れ易いのです。もちろん、国債
発行が制限されると、それだけ政府支出が制限されることになる
ので、国民にとっても大いに関係のあることですが、直接的では
ないので許容できるのです。
 このようにして、小泉政権は結局のところ、国債発行に一定の
ブレーキをかけ、任期中、緊縮財政を押し通したのですが、国民
の人気は上々の内閣だったといえます。そして、自らの政治目標
である郵政の民営化を成し遂げると、意外に早く身を引いたので
す。引き際も実に見事なものでした。
 ある政治目標を達成する場合、その財源を国債を発行して求め
るのと、増税に求めるのとでは、大きな違いがあります。例えば
「予算が100兆円を突破し、国の債務残高が増えている」とい
われても一般の国民にはピンときませんが、その一方で、増税を
するといわれると、それは直接的な痛みになるので、多くの人は
強硬に反対します。消費税が反対されるのは、人々が自由にお金
を使う余地を小さくするからです。このように目的は同じである
にもかかわらず、財源を調達する方法が異なることによって人々
の反応は異なってきます。
 ブキャナンは、このことを「財政錯覚」と呼んだのです。この
言葉は、民主主義国家の財政が、赤字続きの状態に陥り易く、財
政規律が緩みがちになるという関連性を考えるさいに、よく使わ
れる言葉です。
 確かに「バラマキ」をやるよりも、緊縮政策をとる方が外向き
には見栄えがよいので、ブキャナン思想の信奉者が多いのです。
赤字国債を発行するとか、財政出動をせよとかいうと、何か不道
徳のようなことをいっているような気がして、気がひけます。
 その点、日本の財政は危機的状況にあり、国の借金を減らすた
めに、何とか手を打たなければならないというように、緊縮を唱
えている方が、まともな人物に見えるものです。
 ですから、いくら財政を拡大しても大丈夫だと堂々と主張する
MMTなどは、きわめて不道徳なものとみなされてしまうわけで
す。この現象について、藤井聡京都大学大学院教授は、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 ブキャナン理論は、インテリ達の「選民思想」をくすぐるとい
う特徴がある。つまり、ブキャナン理論を信じておきさえすれば
「他の人々は皆概して愚かだけど、俺の言う通り緊縮をやれば、
それで国が救われるんだ」と考えることができ、自らを選民の地
位に位置付けることが可能となるのである。
 だから、MMT的財政拡大論を耳にした途端、彼らが即座にM
MTを否定したくなるのは、自分自身の虚栄心を満足させるため
でもあったのだ。つまり彼らは、自分がインテリであると思われ
るために、さらに言うなら、他者からインテリであることを疑わ
れないようにするためだけに、単なるポーズで国債発行を不道徳
呼ばわりしているのである。      ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 この問題は、日本がなぜ25年もの間、デフレから脱却できな
いでいることにも関係があります。日本では、ある政権が、勇断
をもって巨額の財政出動をしても、必ずといってもよいほど、そ
の後、増税などの緊縮政策を行い、せっかくの財政拡大の効果を
潰しています。
 2012年暮れに政権を民主党から奪還した自民党政権は20
13年から、アベノミクス第1の矢として「異次元な金融緩和」
と第2の矢としての「機動的な財政出動」を実施して、何とか景
気を少し上向きにさせたものの、2014年4月に5%〜8%へ
の消費増税でそれを潰し、そのダメージが癒えていない2019
年10月に重ねて8%〜10%への消費増税によって、GDPを
大幅に押し下げる大ダメージを与えています。これは、それほど
日本の政府の中枢や経済学者に、ブキャナン思想の持ち主が多い
ということを意味しています。
 そこに予期していなかった新型コロナウイルスの蔓延による経
済のダメージが重なって、経済は想定を超える深刻な事態に陥っ
ています。今こそ緊急にして大幅な財政措置が必要なときですが
こんなときでも、財政出動には反対のブレーキは効いていて、政
府は真に思い切った措置がとれないでいるようです。
           ──[消費税は廃止できるか/060]

≪画像および関連情報≫
 ●三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』
  ───────────────────────────
   MMTという黒船襲来を受け、いわゆるリフレ派の論客が
  口を揃えたように、「MMTなど採用したら、インフレ率を
  制御できなくなる」と、ヒステリックに叫んでいる光景は滑
  稽極まりない。そもそも、いわゆるリフレ派は「デフレ脱却
  =インフレ」を目指したのではなかったのか。
   もっとも、いわゆるリフレ派が主流派経済学の傍流である
  ことを理解すれば、彼らの奇妙な行動の理由が分かる。主流
  派経済学は、とにかく「財政政策」が嫌いなのである。
   というわけで、いわゆるリフレ派を含む主流派経済学者た
  ちは、日本国内で「MMTで財政を拡大し、日本がインフレ
  になると、インフレ率上昇を制御できなくなる」と、財政民
  主主義を全否定する発言を繰り返す。政府の財政の決定権は
  我々日本国民が保持している。我々が主権者として財政政策
  を定める権利は、憲法で保障されているのだ。インフレ率が
  健全な範囲を超えて上昇していく局面になったならば、国民
  が主権に基づき政府の財政規模を縮小すれば済む話である。
  「そんなことができるはずがない! 有権者は我がままだ」
  と、ブキャナンさながらに主張する非・民主主義者は、早々
  に日本国から立ち去って欲しい。何しろ、彼らは自分たちが
  憲法違反丸出しの発言を繰り返していることを自覚できない
  ほどの愚者なのである。     http://exci.to/2WUAQrI
  ───────────────────────────

小泉純一郎元首相.jpg
小泉純一郎元首相
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2020年04月03日

●「明示的財政ファイナンスとは何か」(EJ第5220号)

 MMTについて書いているあるサイトによると、MMTは現代
貨幣理論などというような大袈裟な理論ではなく、見たままの、
当たり前のことをいっているだけではないかと主張しています。
 リンゴが木から地面に落ちるのを見て、「リンゴが落ちた」と
いい、地球は平らで端の部分は瀧になっているというのに対して
地球を一周したが、そんな瀧なんてなかったという事実をいって
いるだけというのです。
 錯覚している人が多いのです。例を上げると、多くの人は、民
間銀行は預金というかたちで資金を集め、銀行はその預金をベー
スにして企業や個人に貸し出しをすると考えています。そんなこ
とは、常識じゃないかというわけです。
 これについて、井上智洋駒澤大学准教授は、次のように述べて
います。
─────────────────────────────
 主流派経済学者は、まず家計が民間銀行に預金し、その預金を
基に企業に貸し出しを行うと考えがちです。これを「又貸し説」
と言います。その後企業は、賃金や配当といった形で家計にお金
を供給します。しかし、この順番だとそもそも家計は最初に預金
すべきお金をどこから得たのか謎が残ります。
 それに対し、MMTはまず貸し出しの際の預金通貨の創造があ
り、そのお金を企業は投資や賃金の支払いに使います。賃金を得
た家計はそのお金の一部を預金します。要するに、MMTが主張
しているのは、又貸し説は間違いであって、万年筆マネー論が正
しいということです。貸し出しの際に預金通貨が創造されるとい
うことは、貸し出しを行う度に、世の中に出回るお金「マネース
トック」(現金十預金)が増えていくことを意味します。
                      ──井上智洋著
    『MMT/現代貨幣理論とは何か』/講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 最初に、家計が預金するのではないのです。銀行が貸し出しの
さいに預金通貨という万年筆マネーを創造し、そのお金を企業は
投資や賃金の支払いに使うので、そうして得たお金を家計は、そ
の一部を銀行に預金するのです。預金が先にあって、そこからお
金を貸すのではないのです。これをMMTでは「スペンディング
・ファースト」といっています。
 「約50兆円しか税収がないのに、毎年100兆円を超える予
算を使っている。これじゃ借金が累積して日本は破綻する」とい
われますが、MMTでは「税は政府支出の財源ではない」という
のです。「何をバカなことを!」というなかれ、よく考えてみる
と、そもそも歳入(税収)を歳出(政府支出)に使うのは、不可
能なのです。
 これについて、経済評論家の三橋貴明氏は、なぜ不可能なのか
について、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 確定申告は、例えば2019年であれば「2019年1月1日
から12月31日」までの課税期間の収入・支出、控除等を税務
署に申告し、納付すべき税額を確定する。確定申告の時期は「2
020年2月16日から3月15日までの1ヶ月間」である。繰
り返すが、2019年の経済的な行為について、我々は翌20年
2月及び3月に申告しているのだ。つまりは、2020年3月以
降、確定申告後の税金支払いまで、政府は最終的な税収を得られ
ないことになる。
 ところが、政府は2020年の予算については普通に執行して
いる。おカネを支出しているのだ。政府は税収や国債発行(民間
金融機関からの借入)なしでも、予算を支出できる。というより
も実際にしている。支出が先、つまりは、スペンディング・ファ
ーストである。           https://bit.ly/3dU52tc
─────────────────────────────
 具体的に、どのようにして政府支出をするのかというと、それ
はきわめて簡単なのです。財務省が「財務省証券」を発行し、そ
れを日銀に持ち込み、その金額を日銀の政府当座預金口座に電子
的に記入してもらうだけです。政府は、このようにして、徴税や
国債発行なしでも、ごく簡単にお金を発行できるのです。
 これは、これは、政府の一時的な借金のように見えますが、日
銀は政府の子会社であり、事実上政府がお金を発行しているのと
同じなのです。これは、「明示的財政ファイナンス(OMF)」
と呼ばれています。OMFは、次の言葉の略です。
─────────────────────────────
      ◎明示的財政ファイナンス(OMF)
           Overt Monetary Financing
─────────────────────────────
 この明示的財政ファイナンスについて、井上智洋准教授は、次
のように解説しています。
─────────────────────────────
 (明示的)財政ファイナンスというのは、政府が貨幣発行を財
源に支出を行うことです。これは、実際に行われていることで、
MMTの文脈では、中央銀行がキーストロークによって作り出し
たお金を、政府が支出に充てることを意味します。
 ただし、実際には政府支出の財源が租税や国債であるかのよう
に偽装されています。支出と同額の税金を徴収したり国債を発行
したりすることによって、あたかも財政ファイナンスを行ってい
ないかのような装飾が施されているというわけです。OMFは、
その装飾をはぎとって、あからさまに、財政ファイナンスを実施
しようということです。     ──井上智洋著の前掲書より
─────────────────────────────
 この説明で印象的なのは、「政府支出の財源が租税や国債であ
るかのよう偽装されている」という部分です。つまり、これは、
表向きは政府支出は税収や国債であるように国民には思わせる必
要があるということを意味しています。
           ──[消費税は廃止できるか/061]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ今、現代財政理論なのか/鷲尾香一氏
  ───────────────────────────
   2019年初めから、現代貨幣理論(MMT)という新た
  な経済理論がメディアなどの盛んに取り上げられた。MMT
  の最大の特徴は、「財政赤字に問題はなく、政府が財政再建
  を行わなくとも、財政が破たんすることはない」という考え
  方で、その成功例として、政府債務がGDP(国内総生産)
  の240%にも達しながらインフレにも陥らず、財政破たん
  もしていない「日本」が取り上げられているためだ。
   国内では数年前から「政府総債務残高が家計純金融資産残
  高を上回なければ、国債消化に困難が生じることはなく、財
  政危機が起きることはない」という考え方「現代財政理論」
  が、一部の学者やエコノミストのあいだで唱えられている。
  MMTでは財政について、不況期には、政府が借金をしても
  (財政赤字でも)、政府支出を増加させることで資金が民間
  に回り、景気が回復すると考える。
   不況時の財政黒字は、民間に資金が回っていないことを意
  味し、不況時に財政支出を行わないと、不況は一段と深刻化
  するという考え方だ。そして、「政府債務がどれだけ膨らん
  で、財政赤字となろうとも、財政再建を行わなくとも、債務
  不履行に陥ることはない」と理論付けている。
                  https://bit.ly/39vNW1m
  ───────────────────────────

経済評論家/三橋貴明氏.jpg
経済評論家/三橋貴明氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月06日

●「MMTの主張はパラドッスである」(EJ第5221号)

 MMTの主張は一見すると「パラドックス」です。ところで、
パラドックスとは何でしょうか。ウィキペディアなどでは意外に
難しい解説が出ていますが、「パラドックス」をわかりやすく説
明すると、次のようになります。
─────────────────────────────
 「パラドックス」は、英語の「paradox」 のことで、「逆説」
「ジレンマ」「背反」「矛盾」などを意味する言葉です。世間一
般的には正しいと認識されているものごとに対し「反対の主張、
反対である状況や事態、また反対の概念」、つまり「定説にさか
らうもの」を指す言葉でもあります。
 細かく言えば「矛盾」よりは意味の幅が広く「見かけの上で判
断する真偽が、実際の真偽と反対であること」となりますが、地
球上にはあらゆる分野で数多くの「パラドックス」が存在してい
ることに多くの人が驚くことでしょう。https://bit.ly/2UHGVX5
─────────────────────────────
 MMTでは、税金の捉え方が常識とは違うのです。政府は徴税
権を持っています。政府はそれを使って税金を集め、それによる
税収で政府支出をしていると、誰でも考えています。したがって
これは上記の、「世間一般的には正しいと認識されているものご
と」に当ります。
 しかし、MMTでは、4月3日(金)のEJ(EJ第5220
号)でも述べたように、「そうではない」と否定します。つまり
「税は政府支出の財源ではない」というのがその理由です。これ
は、まさにパラドックスということになります。
 EJ第5220号では、駒澤大学経済学部准教授の井上智洋氏
の次の記述に注目しています。
─────────────────────────────
 政府支出の財源が、租税や国債であるかのように偽装されて
 いる。               ──井上智祥准教授
─────────────────────────────
 井上氏は、サラッと表現していますが、これは大変なことを述
べています。政府支出の財源は、税収と国債であると誰でもそう
考えていますが、井上氏は、もちろんMMTの考え方として、そ
れを明確に否定しているからです。
 しかし、主流派経済学では、まず租税があって、それを財源に
して政府支出を行うと考えています。これに対して、MMTでは
まず、政府支出があって、国民はそれによって得たお金で税金を
支払います。スペンディング・ファーストです。井上准教授は、
租税の目的について次のように述べています。
─────────────────────────────
 租税の目的は財源の確保にあると誰しも思うでしょうし、ほと
んどの経済学者もそう考えています。ところが、MMTでは、租
税の目的が財源の確保であることを明確に否定しています。
 政府は国民に対し、納税義務を課します。貨幣は納税義務を果
たすためのチケットであり、国民はこのチケットを手に入れなけ
ればなりません。それゆえに、このチケットつまり貨幣は価値を
もつのです。租税はそのためにこそあって財源ではないので、貨
幣を市中から回収してしまったら用済みです。 ──井上智洋著
    『MMT/現代貨幣理論とは何か』/講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 「貨幣は納税義務を果たすためのチケットである」というのは
少しわかりにくいかもしれないので、ていねいに考えてみます。
 国民には納税義務があります。なぜなら、国民は、その国に住
むことにより、政府(国)に対して恩があり、借りがあるという
ことになります。
 お金は、いわゆる万年筆マネーとして作り出される単なる数字
に過ぎませんが、それを「現金」と交換できると誰もが信じてい
るので、価値があります。
 その一方で、その現金の裏づけは、それが納税に使えるという
事実によって、裏づけられています。つまり、現金は「納税クー
ポン券」であるということです。なぜなら、その納税クーポン券
が価値を持っているのは、国家の徴税権が実体的な強制力として
存在しているからです。国家が税金を支払うことを国民に義務付
け、もし、納税しないと、「脱税」の罪で、国家権力で刑事罰を
加えることができるからです。
 これについて、藤井聡京都大学大学院教授は、「お金というも
のは『負債』の記録である」といい、次のように述べています。
─────────────────────────────
 1万円札は、「国家が国民に対して(税金にして)1万円分の
借りがある、という記録」として世間に流通しているのである。
だから、あなたがその1万円を資産として財布に持っているなら
それによってあなたは「国家に対する1万円分の貸しがある」状
態になれるのである。だからあなたほそれを通して、政府があな
たに課する納税義務を、1万円分帳消しにすることができるので
ある。                ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 新型コロナウイルス蔓延による経済対策として、「現金給付」
が話題になっています。何か異様ことのように受け止める向きも
多いと思いますが、これこそ、スペンディング・ファーストその
ものなのです。
 スペンディング・ファーストというのは、現金を初めに支出し
たのは政府であるという歴史的事実ではなく、毎年政府がそれに
よって政府支出を行っていることを指しています。税収を使って
いる訳ではないのです。しかし、表面上は、税収+国債の範囲内
を意識して、あたかもそこから支出しているように「偽装」して
いるのです。これについては、明日のEJで、もっと詳しく説明
します。       ──[消費税は廃止できるか/062]

≪画像および関連情報≫
 ●消費税廃止は本当に可能なのか?/3/Cargo
  ───────────────────────────
   前回コラムで、「需要の減少」が起こる悪循環をどう断ち
  切れば良いのかという課題に対して、反緊縮派は一つに「消
  費税廃止」を提案していることをお伝えした。加えて、二つ
  目の有効策がこの「財政出動」になる。これは消費税廃止で
  無くなった消費税収に替わる財源を得るため、また国民経済
  を後押しするための政策となる。減税と財政出動、上述した
  中学校の教科書通りの財政政策だ。
   「財政出動すると財源が減ってしまうのではないか」と思
  われる方もいるかもしれない。それも当然だろう。普通の人
  は、政府が、何か税金などを貯めている金庫のようなものを
  持っていて、そこからお金を支出していると考えている。し
  かしその考えは誤りである。政府が支出すると、実体経済市
  場に通貨が創造されるので、支出することそれすなわち財源
  となることを意味する。政府が誰かに支払いをすると、新し
  い通貨がこの世に「無から生まれる」のだ。
   このことをMMTは「万年筆マネー」や「スペンディング
  ・ファースト」という概念をもって説明するが、少し複雑な
  仕組みなので我慢して以下を読み進めてもらいたい。
   信用創造(通貨を創造すること)には経路が2つある。一
  つは、金融機関によって保有される既発国債と交換する形で
  中央銀行が創造した貨幣(実体経済市場では使用不可能な準
  備預金)を元手にして、金融機関が一般企業や個人に貸し出
  すときに起こる。中央銀行が国債を買い入れることを「買い
  オペ」と言い、国債と交換する形で貨幣を増やすことを「量
  的金融緩和」と言うが、基本的には同じことを指している。
  何を言っているのかわからないという方は下記の「教えて!
  にちぎん」と「ニチギンマン」の説明も見てもらいたい。
                  https://bit.ly/3bQYWrD
  ───────────────────────────

井上智洋駒澤大学准教授.jpg
井上智洋駒澤大学准教授
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2020年04月07日

●「モスラーの物語が訴えていること」(EJ第5222号)

 ここでもう一度「ウォーレン・モスラーの物語」を復習する必
要があります。ステファニー・ケルトン教授が来日講演のさい、
冒頭でしたという話です。3月2日のEJ第5197号において
ご紹介しています。子供とパパの名刺の話です。話をもっとリア
ルに修正し、再度ご紹介します。
 子供が3人いるモスラー家は、家を新築し、引っ越したのです
が、モスラー氏は子供たちがまったく家の手伝いをしないことに
不満を持っていました。そこで、「もし家の手伝いをすれば、何
を手伝ったかに応じてパパの名刺をあげるよ」と子供たちに提案
したのです。自分の部屋の片づけは1枚、皿洗いは3枚、庭の掃
除なら5枚というようにです。
 しかし、子供たちは一向に手伝いをしようとしません。そこで
モスラー氏はどうして手伝わないのか子供たちに聞いたのです。
そうしたら、「パパの名刺なんて欲しくないから」という返事が
返ってきたのです。確かに子供たちにとっては、パパの名刺なん
か何の価値もなかったからです。
 そこで、モスラー氏は子供たちに宣言しました。「毎月、月末
までに30枚の名刺を提出しないと、この家から出て行ってもら
い、親戚の家の子にするよ」と。親戚の家には子供がおらず、引
き取ってもいいといっていたし、そのことを子供たちも知ってい
たからです。
 父親のこの厳しい宣言に、子供たちは慌てて家の手伝いをする
ようになります。しかし、月末までに名刺を30枚集めるのは大
変で、定例的な仕事を手伝った後、「ほかにやることはないの」
と親に聞くようになったのです。このようにして、名刺は急に価
値を持つようになったのです。
 この「ウォーレン・モスラーの物語」について、井上智洋駒澤
大学准教授は、この小話からMMTの基本である次の3つのこと
が導けるとしています。
─────────────────────────────
 1つ目は、納税より先に政府支出があるということです。モズ
ラー氏は手伝いをした子供たちに名刺を渡しました。これは公共
事業を行った業者に政府がお金を支払うことに類似しています。
子供たちがパパに名刺を渡すという納税相当の行為を行うのは、
その後です。
 2つ目は、納税によって貨幣は価値をもつようになるというこ
とです。名刺はただの紙切れなので、パパへ上納すべきチケット
でもないかぎり、子供たちはそれを欲しがりません。同様に、紙
幣はただの紙切れなので、納税すべきチケットでもないかぎり、
誰もそれに価値があるなどと思わないというわけです。
 3つ目は、租税は財源ではないということです。モズラー氏が
名刺を欲しがらないのと同様に、政府も貨幣が欲しいわけではあ
りません。名刺にせよ、紙幣にせよ、印刷すれば済む詣です。租
税を徴収しなかったとしても、政府は紙幣を印刷することで(キ
ーボードを叩くだけで)、いくらでも財源を作り出すことができ
ます。                   ──井上智洋著
    『MMT/現代貨幣理論とは何か』/講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 井上准教授の指摘する1つ目は、スペンディング・ファースト
です。政府は、最初にお金を作り出して支出しているということ
です。税金として納められたお金(税収)から支出しているわけ
ではないのです。
 2つ目の指摘は、モスラー家のルールとして、月30枚の名刺
の提出を強制化したとたん、名刺が突然価値をもったように、政
府が作り出したお金に対しても、国家として強制力をかけること
によって、価値を持たせているという点です。
 これによって、租税、すなわち税収が政府支出の財源ではない
ことがよくわかります。3つ目の指摘です。政府はその都度お金
を作り出し、政府支出として使っているということです。ただし
国民には、できるだけ税収や国債の範囲内でそれを使っているよ
うに偽装しています。本当は、税収の額に関係なく、いくらでも
お金を作り出せるのです。
 この考え方に立つと、日本のように、税収を超える予算を毎年
組んで使っても問題はないということになります。昨日のEJの
関連情報でも述べているように、ほとんどの人は、「政府が何か
税金などを貯めている金庫のようなものを持っていて、そこから
お金を支出している」と考えていますが、それは違うことがよく
わかると思います。
 そうであるとすると、国民が納めた税金はどうなるのでしよう
か。これについて、藤井聡京都大学大学院教授は、次のように解
説しています。
─────────────────────────────
 納税したオカネがどうなるのかと言えば──それは「消える」
のである。そもそも「貨幣」とは、「国家の負債」、つまり「国
家が国民に対して借りがあるという記録」であった。「納税」と
いうものは、国民にしてみれば、「国家の借りを、国家に返して
やる」ことと引き換えに「納税義務を果たしたことにする」こと
をいう。つまり、(納税という)国民の借りと、(貨幣という)
国家の借りとを突き合わせ、両者の借りを消滅させるのである。
だから、納税すれば、国民の納税義務が(その分)消滅すると同
時に、国家の負債である貨幣もまた、消滅するのである。
                   ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
 これは、ウォーレン・モスラーの話で考えるとすぐわかること
です。子供たちは税金のかたちで名刺を返してきますが、名刺は
ボロボロになっていて、再利用できません。モスラー氏は、おそ
らくシュレッダーにかけて廃棄しているはずです。名刺は低コス
トで印刷できるからです。貨幣もまったく同じです。
           ──[消費税は廃止できるか/063]

≪画像および関連情報≫
 ●MMTは平成の誤りを検証するツールである/西田昌司氏
  ───────────────────────────
   MMTとは、貨幣の正体を貴金属などのモノでは無く、国
  家や銀行の債務であるという事実を元に、経済現象を再定義
  した理論です。貨幣の正体が債務であることは、日銀も財務
  省も認めていることです。問題は、現在主流となっている経
  済学が、その理論の前提として、貨幣を債務ではなくモノと
  して扱っていることなのです。そのため、理論と現実が整合
  しなくなっているのです。このことに彼らは気がついていま
  せん。その結果、主流派経済学は現実に起こっている経済現
  象を説明できなくなっています。「国債残高が、これ以上大
  きくなればハイパーインフレが起きる」と彼らは20年以上
  前から訴えてきました。しかし、実際には、日本はハイパー
  インフレどころか、デフレで苦しんでいます。この事実も彼
  らは認めようとしていません。「今はいいが、財政再建を諦
  めれば、通貨の信認は崩れ、いつか必ず破綻する」という妄
  言を未だに言い続けています。
   自分達の学んだ理論にしがみつき、現実を直視しない彼等
  の態度では、知識人としての資格はありません。自分達の前
  提とする条件でしか通用しない理屈を現実の世界に当てはめ
  現実がそれと違う結果になっていても、その事実を直視しな
  い様では、最早科学ではなく、宗教です。
                  https://bit.ly/2X7t6ma
  ───────────────────────────

講演するステファニー・ケルトン教授.jpg
講演するステファニー・ケルトン教授
 
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2020年04月08日

●「なぜ、貨幣を名刺に見立てたのか」(EJ第5223号)

 ウォーレン・モスラーの物語の続きです。この話にはいささか
不自然なことが2つあります。
─────────────────────────────
 1.子供たちにとって最も関心の薄い名刺を貨幣に見立てて
   いること。
 2.名刺に擬せられた貨幣の目的が専ら納税の手段になって
   いること。
─────────────────────────────
 「1」について考えます。
 なぜ、名刺なのでしょうか。おそらく名刺は子供たちにとって
最も興味のないものであると思われるます。井上智洋駒澤大学経
済学部准教授は、自著の最終章「MMTの余白に」で、名刺では
なく、ポケモンカードだったら、きっと子供たちの反応は大きく
違ったのではないかと述べています。確かにポケモンカードだっ
たら、子供たちは目の色を変えて手伝いをしたと思われます。大
人はともかく、ポケモンカードは子供たちにとって、金貨や銀貨
のような素材価値のある貨幣に相当するものだからです。
 しかし、モスラー氏の狙いは、最も素材として価値のない名刺
を使い、それが価値を生む過程を説明したいので、あえてそうし
たのではないかとも考えられます。それに、子供たちとしては、
月末にパパに30枚の名刺を上納することに慣れてくると、子供
たちの間で、名刺を使っておもちゃを買ったり、お菓子を買った
り、名刺の貸し借りをしたりできるようになると考えられます。
 実際に現実の貨幣は、納税の手段だけではなく、交換の媒介と
して機能しています。お金を使っての買い物です。長く使ってい
ると、自然にそのようになっていくのです。
 しかし、MMTでは、貨幣の目的はあくまで納税の手段である
とし、交換の手段として使われることを「ババ抜き貨幣論」であ
るとして、批判しています。なぜ、「ババ抜き貨幣論」というの
でしょうか。
 「ババ抜き」というトランプ遊びは、始めに同数のカードを人
数分配り、1枚ずつ他者から抜き取り、同じ札があれば捨て、最
後にババ(ジョーカー)を持っている人が負けるというゲームで
す。この場合、自分の持つババに価値があるのは、他の人がそれ
を引く可能性があるからです。ここから、自分の持つお金に価値
があるのは、他の人がそれを受け取ってくれるからであると考え
るのです。人生の最後の瞬間にお金を持っていても、個人として
は、それはムダ金になります。このような貨幣についての考え方
が「ババ抜き貨幣論」ですが、日本で、これをもう少し行儀のよ
い貨幣論にまとめた人が岩井克人氏という経済学者です。「貨幣
の自己循環論法」といいます。岩井克人氏は、あるインタビュー
で、自身の貨幣論について、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 お金がお金となるのは、他の人も受け取ってくれると予想する
から、だれもが受け取る、という自己循環論法です。他人が受け
取ってくれれば、お金はお金として通用する。それを疑い始めた
ら、お金として通用しなくなる。日常的にはほとんど意識してい
ないが、根底では、他の人がお金として受け取ってくれると信じ
ていて、その他の人も他の人が受け取ってくれると信じている。
深いところで信じ合っている仕組みに支えられているのです。
 金や銀などの金属、もっと昔は貝などの、多くの人が欲しい商
品が貨幣に変わったという「貨幣商品説」や、共同体の長老や王
様、政府といった権威が、「これを貨幣とする」と決めたという
「貨幣法制説」、他にも貸し借りから始まったという説がありま
す。もしかしたら歴史をさかのぼって、「貨幣が生まれた」とい
う瞬間があるかもしれないが、理論的には決定できない。ただ、
私が「貝がお金だ」と宣言しても、お金としては使えない。他の
人がお金として受け取ってくれるからお金になる、1人や2人で
はなく世の中の大多数の人が、貝をお金として受け取ってくれな
いといけない。   ──岩井克人氏 https://bit.ly/2ytUArV
─────────────────────────────
 「2」について考えます。
 貨幣の目的は、いろいろあるのに、なぜ納税の手段だけが強調
されるのでしょうか。確かに貨幣は納税に使っていますが、貨幣
はそれを受け取ってくれる人がいる限りにおいて、いろいろなも
のの交換手段として使われます。
 それに現在では、貨幣には地域通貨や仮想通貨などいろいろあ
り、それを受け取る人がいる限り、流通しています。しかし、人
が貨幣を欲しがる理由の根幹にあるのが納税の手段として使える
ことです。藤井聡京都大学大学院教授は、これについて、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 よくよく考えてみれば、この「政府に対する税金の支払い」以
上に、万人が避けられない支払い行為というものはない。買い物
にせよ、外食にせよ、特定の商品やレストランを使わねばならな
い理由などない。気に入らなければ、別の店やレストランを使え
ば良いのである。
 しかし、税金だけは、「別の政府」等ないのだから、逃れられ
ないのである。その逃れられない支払いにおいて、「政府への税
は円で支払え」と定められてしまえば、その徴税対象とされてい
る個人や法人の「全て」に、円の入手が義務付けられることにな
る。そうなれば、電力会社も鉄道会社も外食産業も電機メーカー
も皆、「円」を使って商売を始めるようになり、労働者への支払
いもまた「円」を使うようになるのだ。(中略)
 どのような通貨であっても、特定の政府が、「徴税」と結びつ
ける政治決定を下せば、その通貨の流通は一気に拡大し、支配的
なものとなっていくのである。     ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/064]

≪画像および関連情報≫
 ●アメリカで大論争の「現代貨幣理論」とは何か/中野剛志氏
  ───────────────────────────
   黒田日銀総裁が記者会見(2019年3月15日)におい
  て現代貨幣理論について問われると、「必ずしも整合的に体
  系化された理論ではない」という認識を示したうえで、「財
  政赤字や債務残高を考慮しないという考え方は、極端な主張
  だ」と答えている。
   しかし、現代貨幣理論は、クナップ、ケインズ、シュンペ
  ーター、ラーナー、ミンスキーといった偉大な先駆者の業績
  の上に成立した「整合的に体系化された理論」なのである。
  にもかかわらず、黒田総裁が「必ずしも整合的に体系化され
  た理論ではない」と感じるのは、それが主流派経済学とはパ
  ラダイムが違うからにほかならない。
   ここで、「現代貨幣理論」のポイントの一部をごく簡単に
  説明しよう。まず、政府は、「通貨」の単位(例えば、円、
  ドル、ポンドなど)を決めることができる。そして、政府と
  中央銀行は、その決められた単位の通貨を発行する権限を持
  つ。次に、政府は国民に対して、その通貨によって納税する
  義務を課す。すると、その通貨は、納税手段としての価値を
  持つので、取引や貯蓄の手段としても使われるようになる。
  紙切れにすぎないお札が、お金としての価値を持って使われ
  るのは、そのためである。    https://bit.ly/2ULzjCY
  ───────────────────────────


岩井克人教授.jpg
岩井克人教授
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2020年04月09日

●「なぜ全員一律に現金給付しないか」(EJ第5224号)

 新型コロナウイルスの蔓延による政府の緊急経済対策の一つで
ある「一世帯30万円の現金給付」が、本稿執筆時点の7日朝の
時点で、自民党と公明党がまだモメています。公明党は、かなり
早い段階で自民党に対し、「国民一律10万円の現金給付」を申
し入れており、それを全国の組織に流してしまっているのです。
ところが、それが厳しい条件付きになったので、全国の組織から
突き上げを食って、困惑しているといわれます。
 「国民全員に現金を配付する」というのは、MMTとも深く関
係するので、今回、取り上げることにします。結論からいうと、
今回の現金給付案は、財務省に牛耳られている自民党首脳部の非
常にケチくさい政策案であり、これはおそらく経済的にも、政治
的にも与党にとってマイナスでしかない政策になると思います。
以下、詳しく見ていくことにします。
 一番問題なのは、条件が厳し過ぎることです。そもそもどうい
う世帯に30万円が給付されるのかというと、その支給対象は、
次のようになっています。
─────────────────────────────
◎一世帯30万円の支給対象
 今回の新型コロナウイルス蔓延の影響で、収入が5割程度下が
るなど急減した世帯で、それによって年収が、個人住民税(均等
割)非課税の水準になるか、個人住民税非課税水準の2倍以下に
なる世帯が条件。これに該当する世帯は、それを証明する書類を
もって、自治体に自己申告することが必要になる。
─────────────────────────────
 これは非常に厳しい条件です。まず、収入が5割程度減ったこ
とをどのように証明するのかです。自分が対象になるかどうか、
わからないので、おそらく市区町村の受付窓口には、その問い合
わせのため、人が殺到し、そこに「3密/密閉・密集・密接」空
間ができてしまう可能性が十分あります。
 要するに、今回の新型コロナウイルスの影響で所得が半減して
も、それによって住民税非課税水準にならないと支給されないと
いうことになります。給与所得者の場合、個人住民税非課税水準
の2倍以下になる世帯ならOKという一定の救済措置はあるもの
の、きわめて複雑な条件ということになります。
 この厳しい条件に該当する世帯は、全5800万円世帯のうち
約1000万世帯になりますが、1000万世帯に30万円を配
付しても、たったの3兆円です。あまりにもケチくさい政策であ
ると思います。今回の経済対策をまとめた岸田文雄政調会長は、
財務省寄りの増税派で、強いリーダーシップもないので、どうし
てもこういうぬるい政策になってしまうのです。この人が経済政
策をまとめるトップである限り、消費税の減税など、とても実現
できそうもありません。
 上武大教授で、経済学者の田中秀臣氏は、今回の条件付き現金
給付案について、次のように問題点を指摘しています。
─────────────────────────────
 フリーランスや自営業者などの場合、ここ2ヶ月で所得が減少
したと書類で証明することも難しい。市区町村の窓口で、自己申
告するにも、審査の段階での混乱も予想される。このままでは、
日本経済は大きく減速したままになる。    ──田中秀臣氏
             2020年4月4日発行、夕刊フジ
─────────────────────────────
 テレビ朝日の羽鳥慎一モーニングショーで、コメンテーターを
務める玉川徹氏は、現金給付には、スピードが何よりも大事であ
るとして、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 日本以外の国では、誰彼を問わないで(現金を)全員に配ると
いうようにやっているところがある。なぜそういうことをやって
いるかって言ったら、それがいちばん早いからなんですよね。
 また、ここで優先順位ですけど、この現金給付で優先順位でい
ちばん高いのは、スピードです。とにかく早く出すってことが重
要なんです。足りなかったらまた出せばいいだけの話ですから、
スピードがいちばん大事なんですね。
 そこで所得制限してみたり、それに対する申請を、どういうよ
うにするかとか考えてる前に、配っちゃえばいいんですよ、まず
足りなかったらまた配ればいいだけで・・・。だから、ここでも
また優先順位を取り違えている。        ──玉川徹氏
                  https://bit.ly/39Lu6z1 ─────────────────────────────
 このように主張する玉川徹氏に対し、4月7日の羽鳥愼一モー
ニングショーにおいて、ジャーナリストの田崎史郎氏は、玉川氏
に対し、全国民一律に現金を配付するにはかなりの時間がかかる
と反論しています。この田崎史郎なる人物は、かねてから、政府
の意向を代弁することで批判されていましたが、最近テレビ局で
は、逆に政府側のスタンスを聞くために、田崎氏の出演を求める
ようになっています。本人もそのつもりで出演しています。
 「全世帯にマスクが届くのであれば、現金も届けられるのでは
ないか」という玉川氏に対し、国民の住所を把握しているのは自
治体であり、マスクと違って現金を届けるには、どうしても時間
がかかると反論したのです。
 2008年のリーマン・ショックのときは、麻生政権でしたが
全国民に1万2000円(18歳以下2万円)を届けています。
しかし、このときも配付に相当時間を要し、しかもその大半が貯
蓄に回されたという批判があったといいます。田崎史郎氏による
と、今回自己申告制にしたのは、このやり方が一番早く現金を必
要とする人に届けられるからであると主張しています。
 いずれにしても全員給付でない限り、もらえない世帯からは、
不公平であるとの反発が出るのは必至であり、まして所得制限の
複雑さによって、本来支給されるべき人にも現金が届かなかった
ら、政府の措置としては最悪になります。
           ──[消費税は廃止できるか/065]

≪画像および関連情報≫
 ●新型コロナ経済対策、総額108兆円/7日閣議決定
  ───────────────────────────
   安倍晋三首相は6日、新型コロナウイルスの感染拡大を受
  け、総額108兆円規模の緊急経済対策を実施すると発表し
  た。国内総生産(GDP)の2割に相当し、事業規模は過去
  最大。首相は「経済に与える甚大な影響を踏まえ、過去にな
  い、強大な規模となる対策を実施する」と述べた。7日に対
  策に必要な経費を盛り込んだ2020年度補正予算案を閣議
  決定し、大型連休前の成立を目指す。
   政府はリーマン・ショック後の09年4月に策定した事業
  規模56兆8000億円を大幅に上回る対策を実施し、経済
  の悪化を最小限に食い止めたい考えだ。
   108兆円のうち、収入が大幅に減少し、住民税が非課税
  となる水準まで落ち込んだ低所得者世帯や、中小・個人事業
  者らへの現金給付は6兆円超を予定。対象世帯には30万円
  売り上げが急減した中堅・中小企業には200万円、フリー
  ランスなど個人事業者には100万円を支給する。税金や社
  会保険の納付猶予は26兆円規模を想定。20年度補正予算
  案で、新型コロナウイルス感染症対策として、新たに1兆円
  以上の予備費も計上する。児童手当は子ども1人当たり1万
  円を上乗せする。
   民間企業の資金繰り支援策として、中小企業が民間金融機
  関から「実質無利子・無担保」で融資を受けられる制度を創
  設。中堅・大企業向けは、日本政策投資銀行などの融資を活
  用する。            https://bit.ly/2Vc18Dv
  ────────────────────────

玉川徹氏.jpg
玉川徹氏
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2020年04月10日

●「事業規模にこだわる緊急経済対策」(EJ第5225号)

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府は、4月7日に
緊急事態宣言を出すとともに、過去最大となる事業規模108兆
円の緊急経済対策を決定し、発表しました。緊急事態宣言の対象
地域は、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、
福岡県の7都府県です。
 事業規模108兆円といえば、GDPの約2割に相当する今ま
でにない規模です。この緊急経済対策を実行するため、政府は追
加の歳出が総額で16兆8057億円に上がる今年度の補正予算
案を固めています。年度の当初に補正予算案を編成することは異
例なことです。財源はどうするのでしょうか。
 必要な財源は、全額、追加の国債で賄う方針で、内訳は次のよ
うになっています。当初予算と合わせた2020年度の国債発行
額は49兆3619億円になります。
─────────────────────────────
    ◎補正予算公債金
     赤字国債 ・・・・ 14兆4767億円
     建設国債 ・・・・  2兆3290億円
              ──────────
               16兆8057億円
    ◎当初予算公債金
     赤字国債 ・・・・ 25兆4462億円
     建設国債 ・・・・  7兆1100億円
              ──────────
               32兆5562億円
    ◎公債金合計     49兆3619億円
─────────────────────────────
 今回の経済対策は一見すると超大判振る舞いに見えます。確か
に、リーマンショック後の2009年4月に麻生内閣が実施した
経済対策の事業規模56・8兆円の約2倍ですし、GDPの2割
相当というのはとんでもない巨額な金額であることは確かです。
 しかし、この「最大級」はいささか疑問です。安倍首相はかな
り早い段階からこのGDP2割にこだわっていたといいます。そ
れは、首相がドイツの経済対策を意識していたからです。ドイツ
は、7500億ユーロ(約90兆円)規模の経済対策を既に実施
していますが、これがGDP比で約2割に該当するのです。
 そのため、今回の経済対策の事業規模には、あれもこれも何で
もかんでも注ぎ込んで、意識的にGDPの2割にしたフシがあり
ます。2019年末に決めた経済対策での未執行分や、既に発表
済みの感染対策でまだ実施されていなもの、後から返済を求める
融資などの金額も上乗せし、それに納税や社会保険料支払いの猶
予分の26兆円まで加えて、やっとGDPの2割にしているので
す。安倍首相にとっては、経済政策の中身や使い勝手ではなく、
「2割」という規模にこだわったようです。「やってる感内閣」
の面目躍如といったところです。
 それでいて、事実上閉店を強制されているレストランなどの飲
食店や、バー、クラブなどの店舗の休業補償については、頑なに
応じようとしないのです。その点、ドイツでフリーランスの仕事
をしているある日本人が、ルールにしたがってメールで休業補償
の申請をしたところ、3日で現金が振り込まれたといいます。と
にかくドイツは、金額も巨額であるし、スピードも非常に早いの
です。それに対して日本は、金額についてはこだわったものの、
スピードに関しては知らん顔です。
 政府のドタバタぶりもひどいものです。なかでも「減収世帯へ
の30万円支給」については、あまりの評判の悪さに自民党の総
務会で、早くも「一率で現金を配るべきだった」と反省の声が出
ていますが、安倍首相は「全世帯一率現金給付」は、配付に3ヶ
月以上時間がかかり、実効性がないの1点張りで、まったく聞く
耳を持たないという姿勢です。
 いずれにせよ、公債金の総額が約50兆円になろうとも、80
兆円になろうとも、100兆円になろうとも、MMTの考え方に
立てば、財政出動は何も問題はないのです。それでは、ただでさ
え巨額になっている政府の借金が激増してしまうということが心
配であれば、こういうときこそ、政府紙幣を発行することを検討
すべきです。
 政府紙幣については、2月20日のEJ第5191号で述べて
いますが、これ以上政府の借金を増やしたくないというのであれ
ば、こういう方法も使えます。法律の改正が必要になりますが、
国会で堂々と議論して発行すべきです。https://bit.ly/2wobEz5
 新型コロナウイルス蔓延関連の経済対策として、神奈川県の黒
岩知事は、4月7日に、次の趣旨の発言をしています。
─────────────────────────────
 神奈川県の黒岩祐治知事は7日、新型コロナウイルスの感染拡
大の影響で内定を取り消された人や、職を失った人らを、任期付
き職員として臨時雇用する規模について、100人程度とする方
針を明らかにした。
 県人事課によると、2021年3月末までを任期とした非常勤
の雇用を想定している。任期中に新しい職を探してもらう狙いと
いう。公務員試験を受ける必要はなく、面接試験を中心に実施す
る見込みだ。黒岩知事は「優秀な方はそのまま県庁職員に登用す
る道もつくりたい」と述べた。
          ──2020年4月7日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 これは、MMTの「雇用保障プログラム」(JGP)の考え方
に似ています。今回の新型コロナウイルスの感染拡大によって内
定を取り消された人が大勢いるそうですが、そういう人を自治体
が任期付きで臨時雇用し、任期中に職探しをしてもらうというも
のです。大変良いことであるし、これによって救われる人は多い
と思います。これを国家レベルでやるのがJGPですが、実施す
れば、経済回復に大きく貢献するはずです。
           ──[消費税は廃止できるか/066]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ感染拡大の収束後の話ばかりが充実しているのか
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急経済対策につ
  いて、政府は4月6日に開かれた自民・公明両党の会議で、
  所得が減少した世帯への現金30万円の給付や、児童手当の
  上乗せなどを行う案を示しました。しかし、この緊急経済対
  策案は、いくぶん理解しがたい部分があります。
   4月6日に開かれた自民党と公明党との会議で、政府は新
  型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急経済対策の案を提
  示しました。治療薬として効果が期待される「アビガン」を
  年度内に200万人分の備蓄を目指すことなどを盛り込んだ
  「感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発」
  や、1世帯あたり30万円の現金給付などの「雇用の維持と
  事業の継続」についての対策が明らかにされました。
   しかし、この案には明確な金額など規模が示されておらず
  中小および小規模事業者などを対象にした給付金についても
  明示されていませんでした。「緊急」対策と言う割に、具体
  的な記述が少ないのです。
   この緊急経済対策案を通して読んでみると、曖昧な部分と
  明示されている部分の差が大きく、バランスの悪いものにな
  っているように感じられました。これを読んだある地方自治
  体の経済担当職員は、「非常に細かく書き込まれている部分
  と、粗々で内容がほとんどない部分の差が激しい。
                  https://bit.ly/3bYwFPW
  ───────────────────────────

「緊急経済対策」を発表する安倍首相.jpg
「緊急経済対策」を発表する安倍首相
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2020年04月13日

●「なぜ、デフレから脱却できないか」(EJ第5226号)

 EJの今回のテーマも今回で67回になり、そろそろしめくく
る時期になりつつあります。ところで今回のテーマは、2020
年1月6日から、次のテーマで、スターとしています。
─────────────────────────────
    どうしたら日本経済を成長させることができるか
    ── 消費税を廃止することは可能である ──
─────────────────────────────
 テーマの狙いは、「消費税を減税できるか/廃止できるか」を
論点にしたかったのです。次の衆院選は、来年、2021年9月
までに必ずありますが、そのときは、消費税の是非がメインテー
マになると判断したからです。
 安倍政権の経済政策、アベノミクスは、完全な失敗に終わって
います。どうしてでしょうか。それは、ズバリ、政権発足以来7
年を超える長期政権であるのに、安倍政権の重要な目的であるは
ずの「日本経済のデフレからの脱却」が実現できていないからで
す。それどころか、性懲りもなく、反省のかけらもなく、2回に
わたる消費増税を重ねて、デフレを一層深刻化させてしまってい
ます。おまけに、今年の2月頃から深刻化した新型コロナウイル
スの世界的感染の拡大によって、世界経済はドロ沼に落ち込もう
としています。もはや経済どころではなく、どうやって自分の命
を守るかがメインテーマになりつつあります。
 MMT(現代貨幣理論)のような経済理論を調べていると、経
済や財政に関する考え方が変わってきます。MMTの観点に立つ
と、これまで主流派といわれている経済学の考え方が、完全に間
違っているように見えてきます。物理学などの自然科学と違って
経済学は、経済に関する捉え方によって、経済政策のあり方が変
わってくるのです。
 井上智洋駒澤大学経済学部准教授は、MMTに関する自著の冒
頭で、次のように述べています。
─────────────────────────────
 平成の30年間は、失われた30年で終わりました。この時代
に私たちは、多くのものを失ってきました。デフレ不況とそれに
伴う政府支出の出し惜しみによって、少なからぬ国民が生活の安
定や人生そのものを失いました。
 企業はイノベーションカを、大学は科学技術カを、家計は消費
意欲を、若者はチャレンジ精神をそれぞれ失いました。我が国の
国力衰退は、目を覆わんばかりです。
 この国を再興するには、デフレ不況からの完全な脱却を果たす
以外にありません。そのためには、「拡張的財政政策」を大々的
に実施する必要があります。「拡張的財政政策」というのは、税
金を減らして財政支出を増やすことです。そうすると政府の借金
は増大します。ですが、財政の拡大なくして、デフレ不況からの
脱却はありません。
 それを怠ったために失われた10年は、20年となり、30年
近くにまで延長されました。それにもかかわらず2019年10
月に消費税が増税され、政府支出の出し惜しみも続いています。
デフレ不況という長く暗いトンネルの出口には、まだたどり着け
そうもありません。             ──井上智洋著
    『MMT/現代貨幣理論とは何か』/講談社選書メチエ
─────────────────────────────
 井上准教授の指摘は核心を衝いています。解決策は実にシンプ
ルです。デフレ不況から脱却するには、コロナウイルスの感染拡
大を奇貨として、経済的な手当として、10%まで引き上げた消
費税の税率を元に戻し、財政支出を増やすしかないのです。増税
ではなく、減税をすべきだったのです。それでいて法人税の減税
はやっており、大企業に媚を売っています。やり方が、完全に間
違っています。財政の拡大なくしてデフレからの脱却はないし、
これを達成せずして、日本経済を復活させることは不可能です。
 しかし、問題は、これほどの失敗を重ねても、安倍政権は、自
らの失敗を認めようとはしていないことです。安倍政権は、経済
運営の失敗をすべてコロナウイルスの感染拡大のせいにしようと
していますが、これはとんでもないことです。
 2020年4月8日、安倍首相は、非常事態宣言は発出し、記
者会見を行っています。法律上は、非常事態宣言の発出後、実施
権限は自治体の長に移っています。担当する自治体の長は、担当
の自治体の状況に応じて、政策を実施できるのです。
 しかし、どの範囲まで休業要請の幅を広げるのかについて、政
府と東京都との間に見解の相違があり、最終決定までにゴタゴタ
したのです。2週間ほど様子を見て、拡大の幅を確定すべきとす
る西村経済再生担当相に対して、小池東京都知事は、「危機管理
の要諦として、はじめにドカーンと厳しい施策を打ち出し、経過
を見て少しずつ緩めていくべき」と主張し、対立したのです。そ
れに加えて、休業補償に後ろ向きの政府に対して、東京都は独自
の休業実施への協力金を支払うと宣言し、ここでも意見の違いを
見せたのです。休業補償について、安倍首相は次のようにいって
います。
─────────────────────────────
    個別の損失を直接補償するのは現実的ではない
                   ──安倍首相
─────────────────────────────
 この政府と東京都知事との意見衝突は話し合いがついたものの
このやり取りは、全面的に小池都知事の方が正しいし、さすがに
防衛相の経験者だけのことはあると感心したしだいです。太平洋
戦争の失敗にみられるように、戦力の小出しの逐次投入は、最悪
の結果を招くだけです。本当に首相が望むように外出制限の80
%の達成を期するのであれば、国としてきちんと休業補償をつけ
て、その確実性を狙うべきです。なぜ、その程度の財源を渋って
いるのでしょうか。事態がもっと深刻化すればやらざるを得なく
なると思いますが、それではもはや手遅れなのです。
           ──[消費税は廃止できるか/067]

≪画像および関連情報≫
 ●【休業補償】国は公平な仕組み検討を/高知新聞社説
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるため、緊急事
  態宣言にどう実効性を持たせるか。感染の終息後に回復でき
  るだけの力を国民経済にどう与えるか。政府は整理し直すべ
  きではないか。感染が急拡大する東京都が新型コロナ特措法
  の緊急事態宣言を受けた休業要請に踏み切った。対象業種・
  施設は大学や学習塾、劇場や映画館、美術館、ナイトクラブ
  バー、パチンコ店など幅広い。
   要請に応じた中小事業所には「感染拡大防止協力金」とし
  て単独店舗事業者は50万円、複数店舗を持つ事業者には、
  100万円を支給する。国内で最も状況が悪化している首都
  の封じ込め策が奏功するかどうかは、他の自治体にも影響し
  よう。特措法には休業要請に伴う補償の規定はないが、これ
  までの外出自粛要請でも既に大きな打撃を受けている事業主
  は多い。休業要請があっても、やむにやまれず営業を続けて
  は感染抑止の効果は薄くなる。
   法的裏付けがある休業要請をしておきながら、損失は自己
  責任というのは事業主に酷に過ぎる。東京の50万〜100
  万円が十分な額かどうかは不明にしても、行政による損失補
  償は当然である。疑問が残るのは政府と都の調整が難航し、
  宣言から3日を要したことだ。休業要請に前向きな都に対し
  政府は当初、外出自粛要請の効果を見極めるべきだとして、
  2週間程度見送るよう求めた。  https://bit.ly/3aYOIFG
  ──────────────────────────

西村経済再生担当相/小池東京都知事.jpg
西村経済再生担当相/小池東京都知事

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2020年04月14日

●「財務省は政権の支配を進めている」(EJ第5227号)

 新型コロナウイルスの感染被害は拡大するばかりです。12日
には、「報道ステーション」の富川悠太MCの感染も報道され、
テレビ界に衝撃が走っています。こういう有名人が感染すること
がわかると、その人が実際には自分とは離れた場所にいる人であ
るにもかかわらず、いつもテレビで視ているだけに身近かな人が
感染したと錯覚するのです。富川悠太氏もニュースに携わる仕事
をしているので、本人が強く事実の公表を求め、公表されたとい
います。国民は本気で、外出を自粛すべきときです。
 安倍政権の新型コロナウイルス感染拡大対応の108兆円の緊
急経済対策が、実は中身がスカスカであることは、4月10日の
EJ第5225号で指摘しています。さらに、いわゆる真水とさ
れる財政支出は20兆円といわれています。30万円の現金支給
についても実際に受け取れる世帯は20%程度とされています。
休業要請に対する休業補償についても、曖昧な表現ではなく、明
確に「出さない」と発言しています。こうキッパリいってしまう
と、事情が変わって、後から出すことはできなくなります。消費
税の減税などは最初から否定しています。
 このところ小池東京都知事の評価が上がっています。小池氏の
方が、安倍首相よりも、防衛相をやったたけあって、危機管理の
要諦を心得ており、毅然としているからです。休業補償について
も、何回も安倍首相に国として支給するよう求めたのですが、聞
き入れられず、東京都独自の休業協力金を発表しています。連日
テレビにも出ており、選挙運動などしなくても、小池氏の都知事
再選は動かぬところと思われます。
 なぜ、緊急経済対策が、このようなケチくさい内容になってし
まったウラには、やはり財務省の存在があります。今回、財務省
は、さらにその存在感を増しているのです。
 安倍首相は、当初は増税のスケジュールを強引に延期させるな
ど、何かにつけて財務省と戦ってきたはずです。これまでにそう
いう宰相はいなかったので、私は、安倍首相のそういうところを
評価していたのですが、今回のような未曾有の危機に対して、首
相は、財務省に何もいえないのは、事情が変わったものといわざ
るを得ません。おそらく首相が、森友問題などで財務省に大きな
借りを作っており、そのために財務省のいうことを拒否できない
のではないかと考えられます。
 財務省の怖いところは、テレビ局を事実上支配しており、よく
テレビに登場するMCや、コメンテーターは、財務省の方針に逆
らわない人物を厳選しています。財務省の考え方に関して、批判
的なことをいうコメンテーターについては、少し時間をかけて目
立たないように担当を外し、2度とテレビには出られないように
しています。そのようにして、テレビを去ったコメンテーターは
数多くいます。
 財務省は、日本財政破綻論者を経済学者や経済人に多く作って
います。彼らに「そんなことをすると財政が破綻する」と、こと
あるごとに発言させるのです。それも心にもないことをいってい
るのではなく、本人自身がそう信じているわけです。
 「ライジングサン/ダイアリー」というサイトがあります。経
済に関して鋭い分析をし、歯に衣を着せない主張をしているので
よく読んでいます。
 このサイトに、読売テレビの辛坊治郎キャスターの本からの引
用が出ています。辛坊治郎氏も日本の財政破綻論者の一人として
このサイトでは位置づけています。
─────────────────────────────
 あなたがローンに頼って、収入を超える消費生活を続けている
とします。返済期間が来るたびに、元本と利息と生活費の不足を
賄うお金を借り換えなければなりません。借金は増え続けますが
お金を借り続ける事が出来る限り、生活は破綻しません。いつか
破綻するとの不安を抱えたまま、ローンの返済が行き詰る瞬間ま
で、平穏な生活が続きます。
 健全な生活をしている周囲の人から、お金は大丈夫?と聞かれ
ることはあっても、あなたの生活態度にそれ以上干渉するひとは
少ないでしょう。ところが、もうお金は貸せない、今まで貸した
分も返してほしいと言われた瞬間、あなたの生活は急変します。
毎月の生活費の不足が一気に表面化し、借金取りが押し寄せて家
計は破綻です。
 様々な人があなたの生活態度に注文をつけ始めます。今回のギ
リシャがそうでした。ハンガリーの危機も突然浮上しました。家
計でも企業でも、そして政府でも、借金の借り換えが難しくなっ
たその時、危機は突然やってきます。
 国債を持っている銀行や投資家の不安心理に何かのきっかけで
火がつけば、皆が一斉に国債を売りださないとは限りません。売
らないまでも新たに買おうとはしないでしょう。毎年大量の国債
が発行されている日本でそんなことが起これば大変です。
 人の心理は微妙です。常識で考えて「何かおかしい」と思うよ
うな状況が強まれば強まるほど、そのリスクは高まります。うっ
かりすると、その不安心理に付け込んで稼ごうとする投機家が出
てこないともかぎりません。1997年のアジア通貨危機は、そ
うして始まったのです。       https://bit.ly/3c8r9KD
─────────────────────────────
 辛坊氏は、国の財政を家計に喩える典型的な財務省のロジック
を展開しています。日本は高齢化が進んでおり、高齢者が貯蓄を
取り崩し、個人金融資産が減少してきています。個人金融資産が
減少しているのに、これ以上どんどん国債を発行していけば、い
ずれ国の借金が個人金融資産を上回って、債務超過に陥り、財政
破綻を迎えるのは時間の問題です。だから増税をして財政規律を
守らなければいけないというのが、財政破綻論者の主張です。
 辛坊キャスターのような有名人が、テレビからこのロジックを
訴えれば、信ずる人は多くなります。ちなみに、ギリシャの話が
で来るので、これは2011年頃出版された本からの引用である
と思われます。    ──[消費税は廃止できるか/068]

≪画像および関連情報≫
 ●「財政破綻論者」の不可解な行動 = 「節約してお金をため
  る」という矛盾/窪園博俊氏
  ───────────────────────────
   「財政破綻論者」とは私の父だ。週刊誌か、あるいはテレ
  ビのワイドショーに感化されたのか、かなり前から「財政は
  破綻する」が口癖となった。確かに日本の財政事情は悪いが
  それでも低成長・低インフレの持続が見込まれ、当分は国債
  も順調な消化が見込まれる。そう説明したこともあるが、破
  綻論に取りつかれた父には馬の耳に念仏。終戦前後の苦しい
  時代がやってくる、とのイメージにとらわれている。
   「財政破綻」が起きると、お金の価値は失われる。節約し
  て貯蓄する行為は無意味となる。本当に破綻が心配なら、手
  持ち資金の価値が失われる前に国際競争力のある企業の株を
  買う、またはドルなど外貨資産に切り替えた方がいい。ある
  いは、お金に価値があるうちに散財する、というのも手だ。
  実際には、父がやっていることは冒頭にも紹介したように節
  約である。
   政府・日銀の調査などを見ると、破綻かそれに近い状況を
  心配しながらも節約に励む父のような存在は珍しくない。以
  前も紹介した日銀が事務局を務める「金融中央広報委員会」
  の『家計の金融行動に関する世論調査』(二人以上の世帯)
  によると、老後を心配する世帯は83・4%に達し、そのう
  ち25・2%は「生活の見通しが立たないほど物価が上昇す
  る」ことを懸念している。    https://bit.ly/2xe6arb
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辛坊治郎氏.jpg
辛坊治郎氏

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2020年04月15日

●「政府の借金は家計のそれは異なる」(EJ第5228号)

 昨日のEJでご紹介した辛坊治郎氏の日本財政破綻論は、一読
すると、何となく腑に落ちてしまうところがあります。ある意味
とても分り易いからです。実際に日本の財政について、辛坊氏の
主張のように考えている日本人がきわめて多いのは事実です。
 辛坊氏は、日本政府をして「ローンに頼って、収入を超える消
費生活を続けている家計」と同一視しています。これは、毎年、
税収を超える予算を組んでいれば、いつかは財政が破綻するとい
うきわめて分かり易いロジックであり、財務省もそういう理屈を
増税の根拠に使っています。
 ただ、財務省の場合は、本当のことはわかっているものの、日
本の財政を悪く見せたい思惑があって、日本財政破綻論を展開し
ているのに対して、辛坊氏をはじめとする多くの日本財政破綻論
者は、それをまともに信じているように見えます。
 財務省は、政府の借金については新聞などのメディアを通して
積極的に伝えますが、政府の資産については、わざわざ2年遅れ
で、財務省のウェブサイトにひっそりと公開しています。だから
ほとんどの人はそれに気がつかず、政府の借金の大きさだけが印
象に残ってしまうのです。それでいて、もし、格付け会社が日本
国債の格付けを下げようとすると、数々の証拠を突き付けて、日
本財政の健全性を主張しています。だから、財務省はわかってい
てやっているのです。
 プロの財務省にこれほど徹底的にプロパガンダを展開されると
多くの国民は「そうかな」と思ってしまうものです。とくに辛坊
氏のようなテレビのMC(メインキャスター)が、日本財政破綻
論を唱えると、その影響力は大きく、多くの国民はそれが本当で
あると信じてしまうものです。
 しかし、冷静になって考えてみると、確かに日本はGDPの2
倍以上の借金があるとはいえ、その一方で、日本の円は「安全資
産の円」という評価があり、今回の新型コロナウイルスの感染拡
大のようなことがあると、必ず円が買われるのを、どう説明する
のでしょうか。本当に日本が借金大国で、財政破綻必至であるな
ら、有事のさいに円など買うでしょうか。そういうとき円が買わ
れるのは、投資家が日本の財政破綻などあり得ないと考えている
からにほかならないからです。
 もっとも今回のコロナ禍では、米国がパニックになった関係上
これまでとは少し違う展開になっています。それは、新型コロナ
ウイルス問題を受けて、先行きへの強い不安が拡がり、世界中で
人々は、トイレットペーパーなど生活必需品を求めて買い急ぎ、
深刻な品不足を生じさせましたが、まさにこれと同じことが金融
の世界でも起きたのです。それは深刻なドル不足の問題です。米
国では、不測の事態に備えて、銀行預金が大量に引き出され、一
部の支店で現金が不足する事態になっています。何が起きるかわ
からないので、現金を手元に置きたいとする個人の行動が原因で
す。これについて、4月10日付の『大機小機』は、次のように
書いています。
─────────────────────────────
 危機が極度に強まる局面では通常なら安全資産とされる金融商
品でも、それ以上に安全な資産を手に入れるために売却される。
為替市場で安全通貨のはずの円が売られ、ドルが買われる動き、
日本でドルを調達するために日本国債が売られる動き、米国で現
金、中央銀行の当座預金を確保するために米国債が売られる動き
などがそうした異常な事態を裏付ける。
         ──2020年4月10日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 そもそも家計の借金と政府の借金を同一視することが間違って
いるのです。これについて、井上智洋駒澤大学経済学部准教授の
主張は説得力があります。
─────────────────────────────
 仮に、私に1000万円の借金があって、あと20年生きると
いうことが分かっているならば、元本だけを見ても年に50万円
のペースで返していかなければ、完済できないことになります。
 貯蓄をしないならば、給料などの「収入」から食費や利払いな
どの「支出」を引いた額を、借金返済に充てていくことになりま
す。「収入−支出」を「個人の財政余剰」とするのであれば、個
人の財政余剰が、年に50万円必要ということになります。そう
すると、
 ───────────────────────────
   現在の借金
   =(死ぬまでの20年間の)個人の財政余剰の合計
 ───────────────────────────
という式が成り立つことになります。
 政府の場合も1000兆円の借金があって、20年後にこの国
家が消滅するというのであれば、年に50兆円のペースで返して
いかなければ、完済できません。政府の収入から支出を引いたも
のを「財政余剰」と言います。この支出には、利払いも含まれま
す。そうすると、家計と同様に、
 ───────────────────────────
   現在の借金
   =(国家最後の年までの20年間の)財政余剰の合計
 ───────────────────────────
が成り立ちます。つまり、借金した分だけ財政黒字を作って返済
することになっており、長期的な均衡財政が図られていることに
なります。ところが、実際の国家は個人と違って寿命が限られて
いるわけではなく、永続するものと見なされています。そしてい
まの資本主義経済は、永続的な経済主体は、必ずしも借金を完済
する必要がないという前提で成り立っています。
                      ──井上智洋著
    『MMT/現代貨幣理論とは何か』/講談社選書メチエ
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/069]

≪画像および関連情報≫
 ●コロナ禍もたらす円高リスク/長期化なら1ドル=100円
  割れとの声も
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルス感染の収束が見えない中、ドル・円相
  場は当面、円高リスクの高い状況が見込まれている。米金融
  当局による流動性供給でドル需給ひっ迫が和らぎ、米金利低
  下がドル安圧力となる。加えて、新年度入り後の対外投資は
  コロナによる先行き不透明感が強い中で盛り上がりは期待で
  きない。秋までコロナの影響が続けば、1ドル=100円割
  れが視野に入るとの見方も出てきた。
   シティグループ証券は4−6月のドル・円の下限を100
  円程度と想定。高島修チーフFXストラテジストは、世界的
  なドル不足など、3月にドルを支えた需給要因がはく落し、
  「米金利低下などに象徴されるファンダメンタルズ水準」へ
  回帰すると予想する。FRB(米連邦準備制度理事会)とト
  ランプ政権の「マネタイゼーション的な政策」がドル安・円
  高圧力になるとみる。円安要因となり得る対外証券投資だが
  コロナ巡る不透明感が強い中では、国内投資家がリスク量を
  増やさないよう保守的な運用に動きやすい。野村証券の後藤
  祐二朗チーフ為替ストラテジストは、「少なくともゴールデ
  ンウィークぐらいまでは大きく出ることはない」と予想。シ
  ティG証の高島氏は、米金利水準がこれだけ下がると「直観
  では100円以上で生保が手放しでドルを買って米債に行け
  るとは考えられない」とみている。https://bit.ly/3a702OD
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「国家は永続」と説く井上准教授
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2020年04月16日

●「政府はなぜ休業補償をしないのか」(EJ第5229号)

 新型コロナウイルスの世界的感染拡大により世界経済は、深刻
な事態に陥っています。国際通貨基金(IMF)が14日に発表
した最新の世界経済見通しによると、2020年の世界全体の成
長率は「マイナス3%」と予測しています。これは、1929年
〜32年の大恐慌のさいの「マイナス10%」に次ぐものです。
世界恐慌以来、最悪の不況になるという予測です。主要国の20
20年の予測は次のようになっています。
─────────────────────────────
        2019年  2020年(予想)
     中国  6・1%      +1・2%
     ───────────────────
     世界  2・9%      −3・0%
     ───────────────────
     米国  2・3%      −5・9%
     日本  0・7%      −5・2%
   イタリア  0・3%      −9・1%
           ──2020年4月15日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 世界経済のマイナス成長は、2009年のリーマン・ショック
直後の「マイナス0・1%」だけですが、「マイナス3・1%」
は深刻な数字です。しかし、この予測には前提があるのです。そ
れは、新型コロナウイルスの蔓延が2020年前半で峠を越すと
いう前提です。しかし、現在の情勢では、この前提はクリアでき
そうもないと考えられます。
 この未曾有の感染症危機、経済危機に対する安倍政権の対応は
はっきりいって支離滅裂です。緊急事態宣言の発出も遅いし、し
かも休業補償などは一切なしの非常にインパクトの弱いものでし
かありません。事業規模108兆円の緊急経済対策も、総額に異
常にこだわり、中身は「張り子の虎」でスカスカです。おまけに
最大の売りであるはずの「30万円の現金給付」も、対象者を徹
底的に絞り込み、使い勝手は最悪です。手続きが面倒で、税理士
に頼んだり、あきらめる人まで出てくると思われます。そのため
党内からも批判を浴び、30万円給付の対象者を少し広げる修正
を行ったり、それとは別に「所得制限なしに一律10万円支給」
の実施を公明党から求められる始末です。
 リーダーの真の力量は、今回のような国家的危機に瀕したとき
の危機対応能力によって判定されるものです。その点、小池東京
都知事は、何回も安倍首相に会って、国として何らかの休業補償
と一緒に緊急事態宣言を出して欲しいと要請したものの、首相が
聞き入れてくれないことがわかると、国が休業補償なしの緊急事
態宣言を発出すると同時に、東京都としての休業自粛要請に協力
してくれた事業者に対し、50万円〜100万円の「感染拡大防
止協力金」を給付することを発表しています。
 これについて、緊急事態宣言の対象地域に指定された自治体は
「東京都はカネを持っているからできる」とブツブツいっていた
ものの、結局は、何らかの「感染拡大防止協力金」の支給を発表
しています。そういう意味において、小池都知事のリーダーシッ
プは安倍首相を上回っていると思います。
 ところで、国は、なぜ休業補償に踏み切らないのでしょうか。
4月13日に行われた自民党役員会において、安倍首相は、休業
要請について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 さまざまな支援を用意したが、補正予算案の成立を急ぐことで
準備を加速させたい。休業に対して補償を行っている国は世界に
例がなく、わが国の支援は世界で最も手厚い。  ──安倍首相
─────────────────────────────
 驚くなかれ「休業に対して補償を行っている国は世界に例がな
く、わが国の支援は世界で最も手厚い」といったのです。これは
おかしな話です。英国では、ジョンソン首相のテレビ演説によっ
て国民に呼びかけた外出禁止「ステイ・ホーム」によって、業種
を問わず、追い込まれた労働者、自営業者の所得の8割、上限約
33万円を当面3ヶ月補償しています。フランスでは、商店や零
細企業で「一時帰休」になった従業員に対し、給与の手取り分で
84%を補償しています。
 西村コロナ担当大臣は、4月12日のNHKの「日曜討論」に
おいて、休業補償について次のように発言しています。
─────────────────────────────
 事業者に対する損失補填とか、休業補償の枠組みは、諸外国、
我々もすべて当たりましたけども、そういう仕組みを取っている
ところは見当たりません。       ──西村コロナ担当相
─────────────────────────────
 政府はどこを調べているのでしょうすか。ドイツでは、5人以
下の事業所で約180万円を一括支給しているし、前述の英国の
給与補償の対象者のなかには個人事業主も含まれ、所得の8割を
補償しています。
 休業補償について、安倍政権の代弁役を務める田崎史郎氏は、
4月14日のTBSの『ひるおび』に出演し、安倍政権の考え方
について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 休業補償をやっていくと際限がなくなる。それがわかっている
から、世界各国どこも休業補償っていうのはやっていない。
                      ──田崎史郎氏
─────────────────────────────
 どうなっているのでしょうか。安倍首相のロジックは、「休業
補償なんかどこの国もやっていない。だから、日本もやらない」
というのですが、それでは、英国、フランス、ドイツが、現実に
やっている補償制度について、どう説明するのでしょうか。野党
には、その点をぜひ内閣に問いただして欲しいものです。安倍政
権は、何を勘違いしているのでしょうか。
           ──[消費税は廃止できるか/070]

≪画像および関連情報≫
 ●【コロナ禍】政府はなぜ休業補償に消極的なのか/「働かざ
  る者食うべからず」の歴史的背景
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   4月7日、「新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措
  法)」に基づき、東京を始めとする7都府県を対象に5月6
  日までを期限とする緊急事態宣言が発令された。
   欧米のメディアは一様に「感染拡大を抑制するには不十分
  な措置である」と厳しい評価を下しているが、緊急事態宣言
  を発令したことの成否は「どこまで人の動きを抑えられる」
  にかかっている。
   緊急事態宣言発令により、地方自治体は外出自粛要請と休
  業要請が行えるようになる。このうち休業要請については、
  罰則はないが要請に従わない企業名を公表することにより実
  質的な強制力を発揮できることから、「人と人の接触を8割
  減らす」という目標達成の切り札である。
   だがその休業要請について、休業補償の是非を巡って国と
  地方自治体が対立している。財政に比較的余裕がある東京都
  を除く6つの府県知事は「休業要請と休業補償はセットであ
  る」との態度を明確にし、これが認められなければ休業要請
  を行わない構えであるのに対し、国は「休業補償は現実的で
  はない」として応じる姿勢を示していない。自民党の有力若
  手衆議院議員によれば、政務調査会の場で「休業補償を実施
  すべきだ」と主張したところ「働かざるもの食うべからず」
  という自己責任論を振りかざす議員が圧倒的多数を占め、賛
  同者はほとんどいなかったという。国は「欧米でも休業補償
  制度は存在しない」と説明しているが、英国やフランス、ド
  イツでは実質的に休業補償が行われていると言っても過言で
  はないだろう。欧州と日本の間の休業補償についての温度差
  はどこにあるのだろうか。筆者は社会福祉に関する歴史的変
  遷の違いがその背景にあると考えている。
                  https://bit.ly/2Vbh9ug
  ───────────────────────────

田崎史郎氏.jpg
田崎史郎氏
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