2019年05月13日

●「中国国有企業の負債は108兆元」(EJ第5002号)

 2019年5月10日(日本時間11日午後1時1分)、米ト
ランプ政権は、予告通り対中関税を10%から25%に引き上げ
たのです。5月9日、閣僚級会談に現れた中国の劉鶴副首相は、
穏やかな表情に笑顔を浮かべて、ライトハイザー米通商代表と握
手していました。会議の冒頭、劉鶴副首相は、次のように発言し
たそうです。
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 本日、私は習近平国家主席の特使の立場ではなく、本会議に出
席しています。もう私にできることは、何もありません。解決で
きるのは、習主席とトランプ大統領だけです。
                    ──劉鶴中国副首相
─────────────────────────────
 しかし、会談終了後、劉鶴副首相はメディアを集め、厳しい表
情で、次のことを強く訴えています。通商代表がメディアに発言
することは、とても珍しいことです。
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 中国は、重大な原則問題では絶対に譲歩できない。とくに米国
が法改正まで求めていることには、いかなる国家にも尊厳という
ものがある。                ──劉鶴副首相
           ──2019年5月12日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 これは明らかに「米国の要求は主権侵害である」ことを批判し
ているのです。その一方において劉鶴副首相は経済について「中
国経済は安定しており、問題ない」と強調していますが、これは
国内向けの発言と思われます。
 しかし、問題ないどころか、中国にとっては大問題です。この
米中貿易戦争の激化で、世界の株式市場は、先週、約2700億
ドル(約250兆円)の時価総額が失われているのです。このダ
メージは米中ともに受けていますが、中国のダメージの方が圧倒
的に大きいのです。
─────────────────────────────
    アメリカ ・・ 2・1%(6800億ドル)
    中  国 ・・ 5・2%(3300億ドル)
         ──2019年5月12日付、日本経済新聞
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 トランプ氏はさらに次なる関税を予告しています。これを懸念
して、中国のテクノロジー株が10%以上下げています。
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 歌爾声学(ゴーテック)        ・・ 15・3%
 浙江大華技術(ダーフ・テクノロジー) ・・ 11・4%
 広東温氏食品             ・・ 10・5%
 中国国際航空             ・・ 10・1%
 雲南白薬               ・・  9・6%
         ──2019年5月12日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 歌爾声学(ゴーテック)という企業は、アップルのワイヤレス
イヤホン「エアーポッズ」、「耳からうどん」が垂れるように見
えるあのイヤホンのメーカーです。浙江大華技術(ダーフ・テク
ノロジー)は、監視カメラで世界2位の企業です。もちろん、世
界1位の海康威視(ハイクビジョン)も9%程度のダウン、軍や
警察に無線機器を納入している海能達通信(ハイテラ)も9%程
度下げています。
 これらの企業は、「2019年度米国防権限法」で、米政府と
の取引が禁止されています。もちろん米国のインテルも1O・7
%のダウン、半導体のエヌビディア、アップル、ネットフリック
スも7・8%〜6・2%のダウンです。トランプ米大統領が仕掛
ける米中貿易戦争は、米中双方にダメージがあるだけでなく、ア
ジアに拡がるサプライチェーンの混乱を招くことは必至です。そ
れは、世界経済に波及されることになります。
 中国という国は、「経済というものはコントロールできる」と
考えています。確かに「中国は間もなく破綻する」とずい分前か
らいわれていたのに、ちゃんと持ちこたえてきています。しかし
これは本当でしょうか。中国の現況をていねいに観察すると、深
刻な状況が見えてきているのです。
 そこで、本日からのEJのテーマを次のように設定し、事実上
前回テーマの続編としたいと考えています。
─────────────────────────────
    中国経済は持続可能か。本当のところどうなのか
    ─ 多くの情報から、中国経済の真実を探る ─
─────────────────────────────
 中国国内の消費が落ち込んでいます。中国というと日本人には
「爆買い」のイメージがあるだけに信じられない思いですが、事
実です。2018年のスマホの出荷台数は、前年比で10%ダウ
ンしています。車の販売台数は、2018年は前年比でマイナス
2・8%の減少、19年に入ると、1月は前年同月比で15・7
%の減少、2月は13・8%減少です。これは驚きの減少幅であ
り、リーマンショックのとき以上の落ち込みなのです。
 さらにひどいのは配分の問題。アリババなどに代表される民間
企業が中国の成長の6割を支えているのに、銀行融資の8割は国
有企業に向けられています。最も効率の悪い、生産性の低い国有
企業に融資のほとんどが注ぎ込まれている。これでは、民間企業
は切り捨てられる運命にあります。これについては、前回のテー
マで既に指摘しています。
 2018年6月のことです。中国の国有企業の負債は「108
兆元」にのぼると、中央政府が公表しています。108兆元とい
われてもピンときませんが、日本円にすると、約1800兆円。
日本のGDPの3年分以上に相当する借金です。これを中国はど
のように処理しようとしているのでしょうか。しかも、頼みの米
国とは貿易戦争に突入しているのです。
              ──[中国経済の真実/001]

≪画像および関連情報≫
 ●【瀕死の習中国】中国国有企業の「負債はケタ違い」
  ───────────────────────────
   香港を拠点にするアジアタイムズによると、国有企業の負
  債総額は、GDP(国内総生産)の159%に達した(20
  17年末速報)。すでに約2100社の倒産が伝えられた。
   ゾンビ企業の名前の通り、生き残りは難しいが死んでもお
  化けとなる。OECD(経済協力開発機構)報告に従うと、
  中国における国有企業は約5万1000社、29兆2000
  億ドル(約3263兆1000億円)の売り上げを誇り、従
  業員は2000万人以上と見積もられている。
   マッキンゼー報告はもっと衝撃的だった。2007年から
  14年までの間に、中国の国有企業の負債は、3・4兆ドル
  (約379兆9500億円)から12兆5000億ドル(約
  1396兆8750億円)に急膨張していた。
   「中国の負債総額のうちの60%が、国有企業のものであ
  る」(ディニー・マクマホン著『中国負債の万里の長城』/
  本邦未訳、ヒュートン・ミフィリン社、ロンドン)。中国当
  局がいま打ち出している対策と手口は債務を株式化し、貸借
  対照表の帳面上を粉飾することだ。負債を資産に移し替える
  と帳面上、負債が資産になるという手品の一種だ。ただし、
  中央銀行は「この手口をゾンビ企業には適用しない」として
  いる。             https://bit.ly/2VZghKC
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劉鶴中国副首相
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2019年05月14日

●「中国18年度成長率は1・67%」(EJ第5003号)

 2018年12月16日のことです。中国に向松祚(コウ・シ
ョウソ)というマクロ経済学者がいます。人民大学国際通貨研究
所理事兼副所長です。この日、向副所長は、人民大学で行われた
「改革開放40周年経済フォーラム」で演説し、次の衝撃的な発
言を行ったのです。米国の華僑によって設立されたメディアであ
る「大紀元」は、これについて次のように伝えています。「大紀
元」は、中国共産党とは対立するメディアです。
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 向氏は、国内総生産(GDP)の成長率6・5%という政府発
表のデータに異議を唱えた。同氏が入手した重要研究機関の内部
研究調査では、「今年の中国GDP成長率はわずか1・67%と
示された。また、別の試算方法では、今年のGDPがマイナス成
長である」ことが分かった。
 向氏は「中国経済は明らかに下振れリスクに見舞われている」
と指摘した。景気の鈍化を招いた最大の要因は「米中通商摩擦」
「中国民営企業の大幅な投資減少」と「民営企業家の悲観的心理
拡大」にあると分析した。      https://bit.ly/2WEjBYy
─────────────────────────────
 中国人評論家の石平氏によると、向松祚氏は、かつては国有銀
行である中国農業銀行の首席経済学者であったので、彼の立場は
中国でいえば、「体制内知識人」であり、政府に近い経済学者で
あるといえます。
 向松祚氏は、中国対内、対外の課題について、体内6つ、対外
3つの課題を指摘しています。
─────────────────────────────
 ◎対内の6つの課題
     1.       経済成長の急激な減速
     2.       システミック金融危機
     3.         貧富の格差の拡大
     4.          政府の債務危機
     5.     企業家や投資家の心理改善
     6.主要ハイテク技術の研究開発での突破
 ◎対外の3つの課題
     1.        米中通商摩擦の解決
     2.             市場開放
     3.国際収支改善・人民元為替相場安定化
                  https://bit.ly/2WEjBYy ─────────────────────────────
 まさに内憂外患そのもの、現在中国は深刻な課題を内外に抱え
込んでいます。中国の不動産に目を向けてみると、地域差はあり
ますが、住宅価格が凄いことになっています。深せんでは年収の
28倍、上海・北京では24〜25倍までバブルが膨れ上がって
います。1980年後半の日本のバブル全盛期の東京が18倍程
度といわれているので、日本の1・5倍から、2倍近くの価格に
なっているのです。
 この状態でバブルが弾けるとどうなるでしょうか。中国に詳し
い作家の渡邊哲也氏によると、「半値八掛二割引」になり、約4
分の1、そこからさらに2割程度は落ち込むので、おそらく買い
値の5分の1ぐらいまでクラッシュしてしまう可能性があるので
す。そうなると、大量の信用不良者が顕在化し、銀行がおかしく
なり、貸し渋り、貸し剥がしが常態化し、実態経済にお金が回ら
なくなります。そうすると、企業倒産が連鎖して起きる。そんな
ことになったら大変だとばかり、中国政府はバブルを崩壊させな
いよう、必死で支えており、、何事もなかったように誤魔化して
体制は継続されているのです。
 現在の中国共産党政権は、つねにこの体制が一番よいのである
ということを国民に示す必要があります。そのキーとなるのが、
経済成長なのです。もし、経済成長が止まると、国内の失業は増
大し、社会不安が高まり、暴動が多発する──中国共産党は常に
これに怯えているのです。
 それではどうするか、これについて評論家の石平氏は、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 それでは常に高い成長率を維持するにはどうすればいいのか。
知ってのとおり、中国経済の決定的な弱点は消費が決定的に不足
していることです。国内消費が冴えないなかで経済を成長させる
ためには、輸出の拡大が必要です。しかし、これまでの輸出拡大
政策が現在の米中貿易戦争を引き起こしてしまった。
 輸出拡大が望めないとなると、今度は投資の拡大で何とか経済
成長を支えるしかありません。投資の柱となるのは公共事業と不
動産です。実はこの四半世紀にわたり中国経済を支えてきたのは
不動産業でした。    ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
     日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
─────────────────────────────
 すべての原因は、2008年のリーマンショックのさい、中国
は、約60兆円もの公共投資を行っています。その60%〜70
%が不動産投資に向っています。その不動産が値上がりして、中
国経済が拡大します。それが中国の世界的な権限の拡大に、つな
がっていったのです。世界が中国に注目しはじめたのは、このと
きからです。
 しかし、しだいに経済成長していくなか、不動産価格の伸びと
国内経済の伸びが一致しなくなっていきます。不動産価格だけが
突出して、内需を呼び込むというひずみが生じ、巨大なバブルを
つくり上げてしまったのです。
 その結果、国内の不動産利回りが、借入金利よりも低くなって
しまったのです。例えば、金利7%で融資を受けて不動産投資を
しても、購入した物件の家賃の利回りが5%しかないという現象
つまり、逆ザヤになってしまったのです。
              ──[中国経済の真実/002]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の企業債務と株式市場/向松祚氏講演
  ───────────────────────────
   向松祚氏によると、今年1〜9月までで企業の債務不履行
  (デフォルト)規模は1000億元(約1兆6000億円)
  を超えた。中国当局の試算では、今年1年間の企業のデフォ
  ルトは1200億元(約1兆9200億円)以上になる。
   現在、国有企業や民間企業が相次いで倒産している。米フ
  ォーチュン誌に世界500強企業の1つと評価された中国国
  有天津渤海鋼鉄集団は、すでに経営破綻した。向氏は、同社
  の実際の負債規模は、1920億元(約3兆720億円)で
  はなく、2800億元(4兆4800億円)だと主張した。
   いっぽう、2018年の中国株式市場について、向氏は、
  株価の下落によって株式市場の時価総額、7兆元を失ったと
  発言。「各銘柄を見ると、これまでの最高値と比べて、83
  の銘柄が9割も暴落した。1018の銘柄が8割、2125
  の銘柄が7割、3150銘柄が5割とそれぞれ急落した」、
  「この急落ぶりは1929年のウォール街の大暴落に匹敵す
  る」株式市場の低迷の主因は、中国上場企業の収益の悪さに
  あるという。向松祚氏は、中国の経済減速の根本原因は、以
  前から続いた拡張的経済成長モデルによる「脱実向虚(実体
  経済から脱し、非実体経済に多くの資金が流れ込む)」にあ
  るとの見方を示した。「上場企業の経営者らは本業ではなく
  不動産、金融商品の投資に熱心だった」
                  https://bit.ly/2WEjBYy
  ───────────────────────────

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向松祚氏
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2019年05月15日

●「中国のGDP数字の明らかなウソ」(EJ第5004号)

 向松祚氏は、2019年1月20日に上海で行われたある経済
フォーラムで演説を行い、次の発言をしています。
─────────────────────────────
  2019年はミンスキー・モーメントの到来に警戒せよ
                     ──向松祚氏
─────────────────────────────
 ミンスキー・モーメント──既に述べているように、中国の金
融官僚はよくこの言葉を使うそうです。ミンスキーモーメントと
は、すべての資産価値が急落する時を意味します。つまり、いつ
バブルが弾けてもおかしくないということでしょうか。
 このときの向松祚氏の講演について、石平氏は、渡邊哲也氏と
の共著で、次のように述べています。
─────────────────────────────
 講演のなかで彼はまず、2018年における中国経済減速の原
因について論じ、3つの国内要因と1つの国外要因を取り上げて
います。3つの国内要因とは、@政府の金融引き締め策による企
業の資金難。A企業負債の膨張。B「私有制消滅」などの国内の
「雑音」である。そして国外の要因はやはり米中貿易戦争である
と示しました。
 向氏はA「企業負債の膨張」について単刀直入に語りました。
これまでの経済成長の過程で、中国国内企業が主に行ってきたの
は、生産性を高めることで利益の増大を図るといった正当な経営
手法ではなかった。もっぱら銀行から借金、あるいは債券を発行
してむやみに規模拡大を図る経営を続けてきた結果、「債務の膨
張」を招いてしまったのだと。
            ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
     日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
─────────────────────────────
 向松祚氏の演説の内容はそれは恐ろしいことを述べています。
ここでは企業の債務の拡張について述べていますが、中国では、
企業だけでなく、政府も個人も膨大な負債を抱えており、中国全
体の負債の総額は、実に「600兆元」に達しているといわれて
います。600兆元は、日本円に直すと、約9900兆円という
膨大な数字になるのです。
 ちなみに2018年度の中国のGDPは90兆元(約1485
兆円)であるので、600兆元はGDPの6倍以上ということに
なります。本当であるとしたら、これは世界経済史上、まさに前
代未聞のことです。日本はその債務総額がGDPの2倍以上であ
ることで「借金大国である」といわれますが、中国のそれは、日
本などまるで比較にはならないほど巨額な債務です。これを渡邊
哲也氏は次の言葉で表現しています。
─────────────────────────────
 中国の経済成長は、「債務膨張」という砂上に立つ楼閣その
 ものである。              ──渡邊哲也氏
            ──石平×渡邊哲也著の前掲書より
─────────────────────────────
 向松祚氏は、この講演で、中国経済の今後の見通しについて、
次の2つの点から、かなり悲観的な見方をしています。
─────────────────────────────
  1.中国の上場企業の大半が多くの利益を上げていない
  2.中国国内の不動産バブルが極まっている状態である
─────────────────────────────
 「1」について・・・
 2019年の株価について、対米貿易戦争の拡大によって、中
国経済全体が低迷し、株価は落ちることはあっても上昇に転ずる
可能性は薄いとしています。上海総合指数が2000ポイントを
切る可能性もあります。この指数は、株価の上昇時には5000
ポイントを超えていたのです。
 「2」について・・・
 不動産バブルが凄いことになっています。中国国内の不動産時
価総額は、既に65兆ドルに達しています。日本円で示すと、約
7310兆円──それは、米国、日本、EUを合わせた不動産時
価総額60兆ドル(約6750兆円)を超えており、まさにバブ
ルは極まっていて、これが弾けると大変なことになると、向松祚
氏は、警告を発しているのです。
 中国のGDPの公表数字が大きく偽装されていることは世界中
が知っている事実ですが、これらの公表数字は国による自発的な
公表である以上、他国がその真偽をうんぬんできないのです。そ
れを向松祚氏はスッパ抜いたのです。なぜ、そんなことができた
のかについては明日のEJで取り上げます。
 中国のGDPデータの誤魔化しについては、中国に詳しい評論
家の宮崎正弘氏も近著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 地方政府のGDP報告は、平均で、30%水増しされていた。
「日本の3倍」と豪語している中国の実態は、GDPはせいぜい
1000兆円程度、日本のGDPの1・8倍前後だろう。「息切
れ」はとうに確認されており、過去数年は数字を大胆に誤魔化し
国有企業の救援策を優先し、税法上の挺子入れをなし、在庫と失
業処理のため「一帯一路」で海外にゴミを輸出してきた。その数
字、データの誤魔化しも限界に達し、実態が透けて見えるように
なった。国有企業の資金繰りができなくなり、大量の失業者が街
に溢れ、物価は上昇し、政府への不満は高まる。そのうえ不動産
が暴落気配、株暴落、人民元安が追い打ちをかける。上海に住む
日本人の情報ではとうとう上海の高級住宅地のマンションが値崩
れを起こし、30%引きでも買い手がない状態だという。
                 宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機が始まる』
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/003]

≪画像および関連情報≫
 ●中国、成長率を年平均1.7ポイント水増しか
  ───────────────────────────
   香港中文大学と米シカゴ大学の研究者は、中国が2008
  年から16年まで9年間の経済成長率を平均で年1・7ポイ
  ント過大に発表していたとの研究報告をまとめた。
   米ブルッキングス研究所が公表した論文草稿で執筆者らは
  成長と投資の目標を達成すれば高い評価を得られる地方政府
  による報告が成長率の水増しにつながったと分析。中国国家
  統計局はそうした統計操作を認識し、地方からの数値を調整
  しているが、2008年以降はそれほど十分に調整していな
  かったとしている。
   論文は「08年の後、地方の統計は数値をますます不正確
  に伝えるようになったが、国家統計局の調整ではこれに応じ
  た変更がなかった」と説明。その代わりに税収や電力消費、
  鉄道貨物動向、輸出入などごまかしにくい数字を基に中国全
  体の年間国内総生産(GDP)を予測するようになったとい
  う。研究者らは、見直した後の数値は「08年以降の中国成
  長鈍化が公式統計が示唆するよりも深刻だったことを示して
  いる」と指摘している。国家統計局にコメントを求めたが、
  今のところ返答はない。ブルームバーグ・エコノミクスのチ
  ーフエコノミストで中国経済指標に関する著書もあるトム・
  オーリック氏は、この論文の結論について「慎重」な見方を
  している。           https://bit.ly/2Hh96p4
  ───────────────────────────

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向松祚氏/2019年1月20日の講演
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2019年05月16日

●「『私有制廃止』を目指す動きあり」(EJ第5005号)

 向松祚氏は、今年の1月20日の講演において、2018年の
中国経済減速の原因を指摘しています。これについては、昨日の
EJでご紹介していますが、再現します。
─────────────────────────────
  ≪1018年中国経済減速の原因≫
   ◎3つの国内要因
    @政府の金融引き締め策による企業の資金難
    A企業負債の膨張
  ⇒ B「私有制消滅」などの国内の「雑音」
   ◎1つの国外要因
    @米中貿易戦争
─────────────────────────────
 このなかで、注目すべきは、3つの国内要因のB、「私有制消
滅」などの国内の「雑音」です。これは、2019年1月16日
に中国共産党理論誌『求是』が掲載した周新城なる人物による次
のタイトルの論文です。向松祚氏はこの論文を「雑音」といって
いるのです。
─────────────────────────────
 共産党人は自分の理論を一言で概括できる:私有制度を消滅
 せよ        ──周新城人民大学マルクス学院教授
─────────────────────────────
 『求是』という雑誌は、普通の雑誌ではなく、中国共産党の機
関誌であり、そこに掲載される論文は、党中央の考え方を代弁し
ています。そういう機関誌に「私有制度消滅」論が掲載されたの
は驚きです。こういう論文を書く周新城とは何者でしょうか。
 周新城氏は、1932年生まれで、旧ソ連東欧問題の権威であ
り、かつては、人民大学研究生院院長、ソ連東欧研究所長、マル
クス主義学院教授を務めたコテコテのマルキストです。
 そういう人物が、今年に入ってすぐ「私有制度消滅」論を『求
是』に掲載したのですから、中国国内では、ちょっとした騒ぎに
なっています。この論文に関して、中国に詳しいジャーナリスト
の福島香織氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 周新城は、中国はただちに私有制度を消滅させよ、それは社会
発展の客観的な必然の趨勢である、と指摘。“私有経済礼賛の新
自由主義”主張を行う経済学者、張五常や呉敬lを「赤裸々に反
党反社会主義を唱える」、「人格卑劣で極めて悪辣」とこきおろ
した。さらに「私有制度を消滅させ公有制を確立させることこそ
共産党人が忘れてはならない初心であり使命である」「私有・公
有がともに発展するのは社会主義初級段階の特殊現象であり、固
定された永遠のものではない」と主張した。
 さすがに、この主張は、世界第2位のGDPを誇る中国国内で
も騒然とした。過去の遺物のような老教授のたわごとと、皆が無
視できなかったのは、習近平政権2期目が明らかに、周新城の主
張する方向に動いているような気がしたからだ。
          ──福島香織氏 https://bit.ly/2Q5X1Wl ─────────────────────────────
 福島香織氏によると、この周新城氏の論文は、習近平政権の意
思を示しており、「いずれ私有制度を消滅させる」というサイン
であり、そのための一種の観測気球──このメッセージに人民が
どういう反応示すかを観察したかったのだと思うのです。そして
こういうメッセージに対して、必ず反論してくるであろう2人の
経済学者、張五常や呉敬l両氏を名指しで批判させたのではない
かと思います。
 福島香織のレポートでは、周新城氏に名指しで批判された張五
常氏の反論の一部が掲載されています。
─────────────────────────────
 周教授の私に関する批判には少なからぬ疑問符がつく。そもそ
も、彼は私の論文を読んだことがあるのか?聞きかじったことを
もとに、暴言を吐かないでほしい。(中略)
 経済学とは経済における定理を求める学問である。・・・その
定理の一つは、物価が下降すれば需要が増える。この場合、限定
条件は価格である。その変化が需要を決め、結果として個人の最
大利益が決まる。私はこれを“利己定理”と呼びたい。この定理
は“利己”という言葉を使わずに需要供給の定理ということもで
きる。だが、限定的条件下で利益の最大化を追求すること自体が
“利己”であるとすれば、これを利己定理と言える。需給定理を
経済学を学んだことのない人に説明するなら、利己定理というの
がわかりやすい。
 少ない資源の下、大勢の人間が存在すれば必ず競争が生まれ、
勝者と敗者が生まれる。その競争のルールを決めるものは市場価
格である。しかし、所有権の定義がなければ市場価格は生まれな
い。市場価格が競争のルールとして勝敗を決定しないのであれば
その他のルール、例えば人間関係や年功序列や武力などがルール
となれば、ある程度の賃貸消失を引き起こさざるをえない。不幸
なことは、この所有権の定義こそ、周教授の反対する私有財産な
のである。     ──福島香織氏 https://bit.ly/2Q5X1Wl
─────────────────────────────
 何のことはない。張五常氏は、周新城氏に対し、まるで中学生
に経済の基礎を説明するように、市場経済と財産所有権がフェア
な経済競争のルールの前提であり、それは共産党体制と両立でき
ると説いているのです。ちなみに、「私有財産権の不可侵」は、
2004年から中国の憲法に明記されています。
 これでわかることは、習近平主席が、私有財産権の不可侵に何
らかの疑問を抱いていることは確かであり、これを撤廃させるこ
とも視野に入れているのではないかと思われます。
 確かに私有財産権の不可侵を突き詰めて行くと、中国共産党体
制は変質せざるを得なくなるのです。ちょうど米中貿易戦争が一
時的休戦になった2019年1月に中国ではこのような理論闘争
が行われているのです。   ──[中国経済の真実/004]

≪画像および関連情報≫
 ●ルソーが提起した私有財産制の大問題/坂本達哉氏
  ───────────────────────────
   今日は「民主主義か資本主義か」という、やや大げさなタ
  イトルですが、私が最も言いたいことは、この問題はすでに
  少なくとも200年以上前から、ヨーロッパにおいてはもう
  散々論じられてきた問題なのだということです。つまり、ス
  ミス、ルソーから、最近、『21世紀の資本』で話題を集め
  たピケティまで、実は繰り返し論じられてきているのです。
   この本に書かれていることというのは、私の見るところ、
  実は、もうスミスやルソーの時代から散々論じられてきてい
  ることだというようにしか、私には読めません。彼はもとも
  と数理経済学者で、数学が天才的にできる人だそうです。こ
  の格差問題や民主主義と資本主義などというテーマが、数理
  経済学の分野では比較的珍しいというか、新しいというよう
  な側面があるようです。私は数理経済学は素人ですが、社会
  思想の歴史をやっている立場からすると、「ピケティさん、
  あなたのやっていることはもう200年前からみんなが論じ
  ていることなんですよ」と言いたいわけです。
   ピケティという人は、例えばマルクスの『資本論』という
  のをほとんどまったく読んだことがないとインタビューに答
  えています。だから私はそれは逆に信頼できると思っている
  んですね。つまりマルクスとは関係ないところで、こういう
  問題を独自に展開しているということですね。しかし、やっ
  ぱり私から見れば、マルクスも含めて、さらにさかのぼって
  250年前、300年前の思想家の知恵を借りない手はない
  だろうと、こういう問題を考えていくときに思っているんで
  す。              https://bit.ly/2EbDG1c
  ───────────────────────────

中国に詳しいジャーナリスト/福島香織氏.jpg
中国に詳しいジャーナリスト/福島香織氏
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2019年05月17日

●「習近平批判が中国国内で拡大傾向」(EJ第5006号)

 「私有制を廃止する」──この議論が2019年1月から起き
ています。これは、習近平主席の意思なのでしょうか。これにつ
いて、石平氏は、習主席は明言こそ避けているものの、自らの意
思である可能性は高いとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 習近平自身も、2018年5月、人民大会堂にて「マルクス生
誕200年記念大会」を盛大に開催して、自らが「重要講話」を
行っています。講和のなかで彼は、中国共産党はマルクス主義で
理論武装した政党であること、マルクス思想の一般原理は、現在
も完全に正しいことを強調しています。この発言が、「私有制消
滅」は習近平政権の意図ではないのかとの疑念を一層深めたのは
言うまでもありません。というのは、「私有制消滅」こそがマル
クス主義の基本理念の一つであり、習近平国家主席が言うように
「マルクス思想の一般原理は現在も完全に正しい」のであれば、
「私有制消滅」も正しいことになるからです。   ──石平氏
            ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
     日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
─────────────────────────────
 習近平主席は、まっしぐらに毛沢東路線への回帰を進めていま
す。したがって、そこに私有制消滅論が出てきてもおかしくはな
いのです。ところが既出の向松祚氏は、これを批判しています。
したがって、これは習近平政権への政治批判になります。
 それだけではないのです。向松祚氏は、中国のGDP成長率が
政府公表の6%台ではなく、1・6%でしかないことを、多くの
人が集まるフォーラムで話しています。中国の国家統計数字が信
用できないことはよく知られてはいるものの、マクロ経済学者が
きちんと数字を示して政府発表の数字とは違うと述べているので
すから、習政権にとっては、大きなダメージになるはずです。し
たがって、明らかに習政権への批判になります。
 まして、習主席や習政権について批判的な内容を記述した書籍
を出版した書店主でさえ、拘束されてしまう国なのです。しかし
向松祚氏は、今のところ何の咎めも受けていないし、逮捕などの
政治的迫害なども受けていないのです。これはどういうことなの
でしょうか。
 これは、誰でも抱く疑問ですが、石平氏にしても渡邊哲也氏に
しても、それに対する明確な答えは持っていないようです。ただ
渡邊哲也氏は、推測であると断って次のように述べています。
─────────────────────────────
 おそらく向松祚氏は単なる一個人として上述のような批判を展
開しているわけでないと思う。彼の背後には大きな政治勢力が連
なっているはずです。この政治勢力の正体は不明とはいえ、党と
政府内、そして学界において隠然たる力を備えていることは確実
でしょう。
 もちろん、この勢力は、いまの習近平政権の政治・政策に対し
て大きな不満を持ち、批判的な態度をとっていることは明らかで
す。さらに言えば、中国としては米中貿易協議を行っている最中
に、向氏に手荒な真似はできないでしょう。人権問題で波風を立
てられないという事情がありますから。    ──渡邊哲也氏
             ──石平×渡邊哲也著の前掲書より
─────────────────────────────
 「向松祚氏のバックには大きな政治勢力が連なっている」──
渡邊哲也氏は、このように述べています。どうやら、これは事実
のようです。実は、中国国内でも、習近平批判は多く出ているの
です。とくに中国共産党大幹部の息子や秘書たちが、国内知識人
の不満を代弁しているのです。
 ネットなどの情報で明らかになっているのは、ケ小平氏の長男
のケ僕方氏(中国身障者連合会主席)は、2018年に年次大会
で演説し、「中国は身のほどを知るべきである」と、暗に習主席
を批判。2018年2月に亡くなった毛沢東の秘書の李鋭氏は、
習近平の能力を「小学校のレベルである」とストレートにこきお
ろしています。
 そして、2019年の1月中旬には、胡燿邦氏の息子の胡徳平
氏が、北京で開催された経済セミナーで次のように習近平体制に
ついて批判しています。
─────────────────────────────
 このまま政治改革を怠り、民間の経済活動の活性化を促す政策
に転じなければ、中国はいずれソ連がたどった死の道を選ぶこと
になるだろう。         ──2019年1月18日付
          「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」
               ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機 が始まる』
─────────────────────────────
 習近平体制が確立され、急速に習近平崇拝の動きが強まってい
ますが、その一方で中国内部での習近平批判も目立ってきている
のです。したがって、向松祚氏は、ある強力なバックを後ろ盾と
して、習近平政権の批判ともとれる発言をしていることは、十分
考えられることです。
 このように考えると、磐石に見える習近平体制も決して安泰で
はないことがわかります。昨日の5月15日「BSフジ/プライ
ムニュース」で、出演者の中国に詳しい津上俊哉氏(日本国際問
題研究所客員研究員)は、トランプ大統領は最大でもあと6年し
かないが、習近平主席はもっと長くやれるのではないかとの反町
MCの質問に対して、次のように答えています。
─────────────────────────────
 そんなことはない。習近平主席は永久政権どころか、案外2
 期での退陣もあり得ると考えている。習近平体制はそんなに
 盤石ではない。             ──津上俊哉氏
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/005]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の名門大学で習近平体制批判続発
  ───────────────────────────
   中国・北京の名門大学で、習近平国家主席の母校でもある
  清華大学法学部の教授が習氏を独裁体制だと批判する論文を
  発表したことで、停職処分となり、中国当局の取り調べを受
  けていることが明らかになった。
   また、清華大と並ぶ名門の北京大学の名誉教授が今年1月
  習氏に暗に即時引退を促す論文をネット上で発表した。さら
  には、北京大では昨年、習氏批判の壁新聞が公になるなど、
  中国の学術界を中心に習氏批判が後を絶たないという異常事
  態となっている。米CNNなどが報じた。
   処分を受けたのは清華大の許章潤教授で、同大学の中国共
  産党委員会がこのほど、許氏を停職処分にして、当局の捜査
  が終わるまで全ての教職や研究職から外すことを発表したと
  いう。党委員会は具体的な停職処分の内容については明らか
  にしなかったが、同大関係者は「主に、許氏が2018年7
  月に発表した論文に関係している」と述べている。
   論文は「差し迫った恐怖、目前の希望」というタイトルで
  習近平指導部が昨年3月の全国人民代表大会(全人代=国会
  に相当)で、憲法から削除した国家主席の任期を元通りにす
  るよう要求した。さらに、「突如として、どこからともなく
  制約のない権限をもつ『最高指導者』が現れた」と皮肉るな
  ど、習氏の独裁体制強化の動きに反対していた。
                  https://bit.ly/2w0IySi
  ──────────────────────────

胡徳平氏.jpg
胡徳平氏
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2019年05月20日

●「民主主義運営限度は3億人である」(EJ第5007号)

 中国の人口は、2017年現在、13億8600万人です。こ
の国がどういう国であるかについて、渡邊哲也氏がわかりやすい
説明をしています。中国の人口は次の3つの人たちによって構成
されているというのです。
─────────────────────────────
     1.  都市戸籍を持つ人 ・・ 3億人
     2.上記1の奴隷/農民工 ・・ 3億人
     3. 昔ながらの貧農の人 ・・ 7億人
─────────────────────────────
 1の3億人は、これまでの中国の経済発展の結果、日本人の生
活水準に近くなった層です。この層の人たちの一部が日本をはじ
め世界中に出掛けて行って、「爆買い」をやっていたわけです。
しかし、中国において、この比較的豊かな3億人が生まれただけ
で、資源の「爆食」が起き、世界中がおかしくなってしまったの
です。まして、残りの10億人を豊かにさせるには、絶対的に資
源が不足します。3の7億人は、毛沢東時代と同じ生活を現在も
営んでいるのです。
 人口が増えるということは、一定のレベルまでは経済にとって
よいことですが、あるレベル以上増えると、経済にとってマイナ
スになります。それを次のように呼んでいます。
─────────────────────────────
          1.人口ボーナス
          2.人口オーナス
─────────────────────────────
 1の「人口ボーナス」とは、人口構成の変化が経済にとってプ
ラスに作用する状態のことをいいます。しかし、これとは逆に人
口構成の変化がマイナスに作用する状態のことを2の「人口オー
ナス」というのです。オーナスとは英語の「onus」のことで「重
荷」とか「負担」という意味です。少子高齢化の進む日本では、
人口に占める働く人の割合が低下しており、経済政策などを考え
ていくうえで、人口オーナスが重要なキーワードになります。
 まして中国は、一人っ子政策を35年間続けてきたので、日本
の3倍の速度で、少子高齢化が進み、人口オーナスに陥っている
のです。中国には、比較的豊かな3億人以外に10億人の人口を
かかえています。もしこれらの人たちを豊かにするには、地球が
3つ必要になるといわれています。
 渡邊哲也氏は、「3億人」という数は、「民主主義の限界であ
る」として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 国家が安定して民主主義を運営できるリミットは3億人と言わ
れで久しい。それ以上になると分裂したり、解体されていくわけ
です。EUも例外ではありません。3億人で始めたときはうまく
いったが、3億人を超えるとさまざまな意見が出てきて、どうに
もまとまらなくなってしまった。アメリカもいまリミットの人口
3億人です。だからトランプ大統領は移民を排斥しようと動いて
いるわけです。               ──渡邊哲也氏
            ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
     日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
─────────────────────────────
 学者たちが心配するミンスキーモーメントによる不動産のバブ
ル崩壊が起きると、現在、比較的豊かな生活をしている3億人の
3分の2の人たちは、「社会信用スコア」で低スコアしかとれな
くなり、信用不良者として地方に下放されることになります。そ
の結果、最上位の1の層で生き残れるのは、せいぜい8000万
人から1億人ぐらいになるといいます。この規模は、中国共産党
の幹部と中国共産党員が9000万人ですから、奇しくも一致す
るのです。計算してやっているとしたら、凄いことです。
 毛沢東時代と現在(2017年)の経済規模を比較すると、次
のようになります。毛沢東時代の経済規模は、現在の「250分
の1」といわれます。ちなみに、毛沢東は1976年9月9日に
亡くなっています。
─────────────────────────────
         1978年       2017年
   GDP  3700億元   82兆7000億元
    貿易  200億ドル   4兆1000億ドル
  外貨準備    2億ドル   3兆1400億ドル
  平均年収    170元     2万6000元
             ──石平×渡邊哲也著の前掲書より
─────────────────────────────
 はっきりしていることは、現在の13億人の人口を持つ中国が
このまま人口が増加し、成長発展し、やがて米国を抜き、世界一
の国家として君臨することはあり得ないということです。必ず、
どこかの時点でバブルが崩壊することは確実です。しかし、それ
でも、1億人規模の中国共産党の幹部と党員を残すことは不可能
ではないと、渡邊哲也氏はいいます。
─────────────────────────────
 まずは西側諸国との通信の遮断を完璧に行うわけです。かねて
より中国は通信工作隊を使って、中国政府の悪口を言う人間をす
べてチェックしているので、そう難しいことではない。中国全土
に2億台のAI搭載の顔認識用監視カメラが設置され、中国反政
府デモの参加者は瞬時に特定され、即摘発されるまでになっでい
ます。だから、人権活動家や民主弁護士などはまったく動きがと
れない。もちろん、中国のビッグデータはSNS上のつぶやきも
見逃しません。習主席の悪口を言った市民がたちどころに拘束さ
れたようにね。当局に拘束、逮捕されれば、即信用不良者に認定
され、携帯電話を持てなくなる。そうなれば社会から疎外されて
いく。          ──石平×渡邊哲也著の前掲書より
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/006]

≪画像および関連情報≫
 ●2億台に迫る監視カメラ−中国ハイテク監視社会
  ───────────────────────────
   中国政府の支援を得て天津市で監視カメラメーカーを築き
  上げた戴林氏はビリオネアになった。戴氏が天地偉業技術を
  始めた1994年当時、中国では屋外カメラは珍しかった。
  今は監視カメラだらけだ。人口世界一の中国がプライバシー
  や人権を巡る懸念を招くほどのハイテク監視国家になったこ
  とで戴氏のような起業家が大富豪入りしたわけだが、関連企
  業に資金を投じる世界中の投資家には難しい問題を突き付け
  ている。
   ブルームバーグ・ビリオネア指数によれば、中国政府が主
  要な顧客か投資家となっている監視関連企業で富を得た戴氏
  ら少なくとも4人の資産は総額で120億ドル(約1兆33
  00億円)を突破している。彼らの繁栄が浮き彫りにするの
  は、中国国民14億人の監視を後押しする習近平国家主席に
  よる取り組みの規模だ。IHSマークイットによれば、中国
  では2016年時点で街角や建造物、公共スペースに約1億
  7600万台のビデオ監視カメラが設置されている。米国は
  5000万台と比較にならない。習政権は17年、国内の治
  安関連に推計1840億ドルを投じた。20年までに中国全
  土を網羅するカメラネットワークを導入し、交通違反からビ
  デオゲームの好みに至るあらゆる個人情報を追跡する「社会
  信用システム」も整備する。つまり天津であれ別の都市であ
  れ、中国本土内で監視されずに移動することは難しくなる状
  況が迫っているということだ。  https://bit.ly/2H8F6w3
  ───────────────────────────

2億台の監視カメラで人民を監視.jpg
2億台の監視カメラで人民を監視/span>
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2019年05月21日

●「八方塞がりになっている中国経済」(EJ第5008号)

 米中貿易戦争が本格的に始まったのは、2018年7月からで
すが、トランプ大統領が貿易戦争の宣言をしたのは同年3月のこ
とです。しかし、これだけのことで、中国の内部は大変なことに
なっていたのです。
 米国への中国人留学生、客員学者、交換教授ら約400名が中
国に帰国しているのです。彼らは「海亀派(ハイグイ)」といわ
れ、必ず帰ってくるのですが、それにしても、まとまってドカッ
と帰ってきています。少し帰ってくるのが早いのです。
 海亀派は、中国において、海外での留学・研究や就業を経て中
国に帰国する人々のことです。海亀が、成長して、産卵のため古
巣に帰ってくることからそう呼ばれるのです。
 なぜ、帰って来たのかというと、米国当局は、彼らを米国のハ
イテク技術を盗取するために派遣されてきているとみなし、ビザ
審査などを厳しくしたので、今までなら認められた滞在延長が認
められなかったり、スパイ容疑で取り調べを受けたり、逮捕され
る恐れも出てきたので、早めに帰国したと考えられます。
 トランプ大統領は、単に中国との貿易戦争を宣言するだけでな
く、いろいろな手を同時に打っているのです。もっと深刻なこと
は彼ら海亀派には、当然受け入れる企業や団体はあるはずですが
今回はそれがなく、金の卵といわれた彼らでさえ就職に難儀して
いるのです。中国メディアは一切伝えませんが、現在、中国では
未曾有の就職難に陥っているのです。
 それは、外国企業の中国への投資が激減しているからです。天
津を例にとってみると、外国企業の天津への投資は、2017年
には106億ドルあったものの、2018年にはたったの48億
ドルに激減し、どの工場もレイオフを発表しています。加えて、
あの韓国経済の華といわれるサムスンも、アップルの売り上げ激
減が原因で半導体工場を閉鎖したのです。これでは、深刻な就職
難が起きても不思議はないといえます。
 中国中でこういうことが起きた結果、2019年1月の貿易統
計では、対中輸出、つまり中国の対日輸入が次のように減少オン
パレードになっています。この統計は、日本の財務省をはじめ各
官庁が定期的に発表する信頼できる貿易統計です。
─────────────────────────────
   対中輸出          ・・ 17・4%減
   化学繊維、プラスチック   ・・ 27・5%減
   鉄鋼            ・・ 21・0%減
   非鉄金属          ・・ 21・0%減
   一般機械、機械全般     ・・ 26・6%減
   電算機類、コンピューター  ・・ 33・0%減
   金属加工機器        ・・ 52・0%減
   音響映像装置、記録再生装置 ・・ 49・0%減
   電気回路等の機械      ・・ 38・5%減
   通信機           ・・ 48・2%減
            ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
     日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
─────────────────────────────
 この統計を見るうえで知っておくべきことがあります。既出の
渡邊哲也氏によると、民主党政権当時の円高に苦しめられた経験
から日本のメーカーは、一般消費者向けの製品の生産(BtoC)
から、キーパーツの生産や設備投資のためのマシンの生産(Bto
B)にシフトしているのです。これは、きわめて賢明な判断であ
るといえます。
 その設備投資のマシンの対中輸出が、30〜40%落ち込んで
いるということは、中国国内の新規の設備投資がほとんど起きて
いないことを示しています。もちろんこれは日本だけで起きてい
る現象ではなく、他国でも同じような現象が起きています。
 こういう経済の急速な落ち込みの結果、前述のように、現在、
中国では深刻な就職難が起きているのです。この中国の就職難に
ついて、中国に詳しい評論家の宮崎正弘氏は、近著で次のように
述べています。
─────────────────────────────
 深刻な状況は若人の失業である。大学新卒は834万人(当初
860万人の大学新卒が見込まれていたが、26万人が中退した
ことになる。学生ローン不払いなどが原因だ)。苦労して大学を
卒業しても、まともな就労先がない。薔薇色の人生設計が暗転す
る。そこでまた中国政府は無理矢理なプロジェクトを謳い、巨額
を予算化する。一帯一路プロジュクトが世界各地で挫折、頓挫し
始めたので、国内で大型プロジェクトを拡大しょうとするのだ。
赤字構わず新幹線をさらに延長する工事が、あちこちで開始され
た。それこそ人の行き来より熊の数が多いような過疎地にも。
               ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機 が始まる』
─────────────────────────────
 これと並行するように、中国人民銀行(中央銀行)によると、
中国の民間企業の債券発行が、通常の3倍から4倍に増加してい
るのです。設備投資が起きていないのに債券が大幅に発行される
ということは、実質的には資金調達のための融通手形を発行して
いるのと同じです。
 しかも債券デフォルトラッシュの状況です。2018年の民間
企業の社債デフォルトは、42社、118件、総額1200億元
(約1兆9800億円)にも及んでいます。もともと中国の経済
の状況がよくなかったところに、米中の貿易戦争が起きて、それ
を契機に経済がクラッシュしたと考えられます。
 しかし、当時のメディアが報じる海外の政治の話題は、11月
6日の米中間選挙一色であり、中国の経済の惨状についてまった
く取り上げていないのです。それに関連して中国の政界で極めて
異例の事態が起きていたことを報道する日本のメディアは皆無で
あったのです。       ──[中国経済の真実/007]

≪画像および関連情報≫
 ●40年前の日本とそっくりの中国経済/加谷珪一氏
  ───────────────────────────
   中国国家統計局は2019年1月21日、2018年の国
  内総生産(GDP)を発表した。物価の変動を除いた実質成
  長率はプラス6・6%となり、2017年の成長率(6・8
  %)を0・2%ポイント下回った。中国の成長率は2000
  年以降、8%を超える成長が続き、一時は10%を突破して
  いたが、このところ成長鈍化が鮮明になっている。
   2018年については、米国と貿易戦争が勃発したことで
  輸出が低迷したほか、政府が進める債務削減策によって公共
  事業が大幅に縮小し、これにともなって全体の成長率も低下
  した。
   中国のGDP統計は、日本や米国と異なり、生産面からの
  推計が中心となっている。支出面からの比較が難しく、業界
  ごとの成長率で間接的に状況を把握するしかない。
   製造業による生産は、プラス6・2%となっており、20
  17年を下回った。建設は以前から4%台の成長にとどまっ
  ており、全体より低く推移している。製造業の多くは輸出に
  依存している可能性が高いので、成長減速の主な原因は米中
  貿易戦争である可能性が高い。貿易統計もそれを裏付けてい
  る。中国の2018年12月における、ドルベースの輸出額
  (ドルベース)は2213億ドル(24兆1200億円)と
  前年同月比で4・4%のマイナスとなった。米国向け輸出が
  大きく減ったことで輸出全体が低迷した。月別の動きを見る
  と、輸出の低迷は年後半から顕著となっており、米国が課し
  た高関税が影響したと考えられる。https://bit.ly/2V8C8uP
  ───────────────────────────

宮崎正弘氏/中国評論家.jpg
宮崎正弘氏/中国評論家
 
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2019年05月22日

●「なぜ、四中全会は開催されないか」(EJ第5009号)

 昨日のEJの最後のところで、「中国の政界で極めて異例の事
態が起きている」と書きました。一体何のことでしょうか。今回
はその説明からはじめることにします。その“政治的事件”を理
解するためには、前提になる中国共産党の意思決定のやり方や運
営の決まりについて知ることが必要になります。
 習近平氏が中国共産党第5代中央委員会総書記に就任したのは
2012年11月15日のことです。このポストは、この国、中
華人民共和国の最高位です。国のトップ、国家主席よりも総書記
の方が上のポストです。習近平氏が第7代国家主席になったのは
2013年3月14日のことです。
 中国共産党の重要な方針の決定は、党大会、正確には、中国共
産党全国代表大会で行われます。中国の政治は、中国共産党がす
べてを指導することになっているので、党大会は中国共産党の最
高意思決定機関です。党大会は、5年に1回、1週間程度の日程
で開催されることになっています。
 しかし、5年に1回では間が空き過ぎるので、5年ごとの党大
会を1つの「期」ととらえ、その期のうちに「中全会(中国共産
党中央委員会全会)」という会議を7回実施することになってい
るのです。
─────────────────────────────
 第一中全会 ・・・ 中央委員の紹介と党執行役員人事決定
 第二中全会 ・・・ 国務院(政府)の人事/首相/副首相
 第三中全会 ・・・ 新指導部による国家運営の方向性伝達
 ―――――――――――――――――――――――――――
 第四中全会 ・・・ 方針の微調整や法改正/経済政策変更
 第五中全会 ・・・ 方針の微調整や法改正/経済政策変更
 第六中全会 ・・・ 方針の微調整や法改正/経済政策変更
 第七中全会 ・・・ 方針の微調整や法改正/経済政策変更
─────────────────────────────
 「第一中全会」は、党大会の直後に開催されます。そこでは、
主として新しい中央委員の紹介や、党の執行役員の人事を決める
ことになるので、党大会の直後に開催されることが恒例となって
いるのです。
 続いて、「第二中全会」は、国務院──最高国家行政機関で日
本の内閣に該当──の役員人事を決定します。2期目の習近平政
権は2018年1月18日〜19日の2日間行われています。
 「第三中全会」は、2期目の習近平政権が、国家をどのように
運営していくのかについて、その基本的な方向を伝達するために
行われます。習近平政権の第三中全会は、2018年2月26日
〜28日に行われています。
 ここまではほぼ予定通りに行われたのですが、ちょうど第三中
全会が終了した後、トランプ米大統領が対中貿易戦争を宣言した
のです。ここからがおかしいくなったのです。本来であれば、秋
には第四中全会が開催されなければならないのですが、それが現
在も行われていないのです。
 2018年11月14日の日付で、ネット上に掲載されている
福島香織氏のレポートには、四中全会開催のアナウンスがないこ
とについて次のように書かれています。
─────────────────────────────
 11月中旬にもなって、中国共産党の秋の重要な政治会議であ
る四中全会のアナウンスがない。10月20日、安倍晋三首相訪
中直前に開かれるという情報もあったが、習近平は強引に香港マ
カオ珠海大橋開通式出席を含めた南方視察の予定を入れて、これ
を11月頭に延期とした。だが11月初旬、習近平は上海で開催
された輸出博覧会の開幕式出席という予定を入れて、さらに、延
期。では米国の中間選挙の結果をみてから開くのだろうかと思わ
れていたが、中間選挙が終わってからもう一週間だ。14、17
日にはAPEC年度総会などの日程が入っており、11月中旬も
時間がありそうもない。
 改革開放以来、秋の中央委員会総会がこんなに遅くなったこと
はない。共産党内部で何か揉めていて総会を開くどころではない
のだ、と噂が立っている。      https://bit.ly/2LWclqn
─────────────────────────────
 四中全会からは、国の運営方針などを変更する場合や法改正を
する場合、その情報を伝える会議になります。したがって、この
ときの四中全会は重要であり、例年よりも開くニーズがあるので
すが、なぜか習政権はいまだに開催していないのです。
 本テーマを書くとき、主として参考にさせていただいている2
冊の本──石平/渡邊哲也両氏、宮崎正弘氏の本では、この四中
全会が開催されないことに関して次のように記述されています。
─────────────────────────────
◎渡邊哲也氏
 18年の秋に開かれるはずだった「四中全会」が開かれません
でした。そのため今回は、党の承認がない形での政策公表(全人
代)になっています。これには複数の理由があり、米中貿易戦争
が激化し、バブルの崩壊が危惧されるなか習近平国家主席への辞
任圧力が強まっており、四中全会でクーデターを起こされるのを
恐れたのではないかと言われています。一党独裁であっても、中
全会では、党が政策承認する会議であるため、承認の決を採るわ
けです。        ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき』
◎宮崎正弘氏
 トランプ大統領の対中政策の基軸転換に周章狼狽した中国の習
近平国家主席は米中貿易戦争の不手際の責任を回避するため、定
例の四中全会を開催せず、付け刃の対応に追われた。中央委員会
全体会議を開催せずに全人代になだれこむという異常事態となっ
たのだ。           ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機 が始まる』
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/008]

≪画像および関連情報≫
 ●批判恐れ? 重要会議が開かれない理由/福島香織氏
  ───────────────────────────
   では、なぜ四中全会がこんなにも遅れているのか。強引に
  憲法を変え、集団指導体制の根本を揺るがし、個人独裁体制
  を打ち立てようとしている習近平政権二期目のやり方は、党
  内部でもいろいろ物議をかもしている。よほど内部で揉めて
  いるようだ。具体的に何を揉めているのだろう。
   一説によると、今四中全会を開くと、習近平の大バッシン
  グ大会になってしまい、その権力の座が危ない、と習近平自
  身が恐れているから開けないのではないか、という。ラジオ
  ・フリー・アジアの取材に清華大学政治学部元講師の呉強が
  こうコメントしていた。
  「習近平は南方視察の間、一度も大した演説をしなかった。
  改革開放についても何も語らなかった。四中全会の日程も、
  いまだアナウンスされていない。その理由について、北京の
  権力闘争が膠着状態に陥っているのではないかと思われる」
  「わかっているのは習近平にしろ中国共産党にしろ、誰も未
  来に対する長期的な改革開放についての明確な計画を持って
  いないということ。これに加えて年初以来の憲法改正が引き
  起こした権力の真空と密接に関係していると思われる。大衆
  にしても、党幹部にしても目下一切の責任は習近平一個人に
  すべてあると考えている。党の幹部は現在二つの選択に直面
  している。党に忠誠を誓うべきか、あるいは習近平個人に忠
  誠を誓うべきか」        https://bit.ly/2HFdsFl
  ───────────────────────────

四中全会での習近平国家主席/2015.jpg
四中全会での習近平国家主席/2015
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2019年05月23日

●「外貨準備がギリギリの状況の中国」(EJ第5010号)

 2019年3月5日〜3月15日の10日間、中国は北京で全
人代を開いています。全人代とは「全国人民代表大会」、中国の
一院制議会のことです。しかし、今年の全人代は、秋の「四中全
会」を開催せずに行われたのです。これは、異例中の異例なこと
であり、絶対といわれる習近平総書記の権力基盤が必ずしも盤石
ではないことを物語っています。
 四中全会が開催できなかった原因は、もちろん米国のトランプ
政権による貿易戦争にあります。これによって、中国経済は大ダ
メージを受けており、3月の全人代では、かなり強力な景気対策
を打ち出しています。
─────────────────────────────
   @増値税(付加価値税)引き下げ/16%→13%
   A             中小企業向けの減税
   B   年金など社会保障費の企業負担の引き下げ
   C     家電販売に8%〜25%の補助金支給
            ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき』
─────────────────────────────
 日本の消費税にあたる増値税を3%引き下げています。国内の
個人消費が冷え込んでいるからです。増値税を3%下げて、家電
販売には8%〜25%の補助金を出すというのですから、家電は
買い得です。かなり大判振る舞いです。おそらく効果はある程度
出ると思います。
 日本では、景気が悪化しているのに、消費税を8%から2%税
率を引き上げようとしていますが、これはとんでもない大間違い
です。引き上げたら、景気はさらに悪化し、安倍政権のレームダ
ック化は一段と促進します。増税ではなく、8%から5%に引き
下げるという手もあるのです。そうすれば、個人消費は間違いな
く急回復します。国民が「減税」という言葉を忘れるほど、日本
では増税ばかりしています。
 「ドーマーの定理」というものがあります。これは、長期的な
財税維持のために必要とされる条件です。この定理のもともとの
概念は次の通りです。
─────────────────────────────
 ドーマーの定理とは──
 経済成長率が、国債金利よりも高いという条件を満たすとき
 財政維持は可能である。
─────────────────────────────
 1940年代にロシア系アメリカ人の経済学者エブセイ・ドー
マーによってこの定理は提唱されたのです。2019年の全人代
では、中国の経済成長率は「+6・0〜6・5%」と発表されて
いますが、これは事実ではないと思われます。
 向松祚教授によると、本当は「1・67%」であるといわれて
いますが、中国の10年物国債の金利は3・2%であるので、経
済成長率1・67%は長期金利を大きく下回っています。つまり
財政破綻状態ということになるのです。
 普通であれば、金利を経済成長率以下に下げればいいのですが
中国の場合はそれができないのです。なぜなら、ここまでバブル
づけになっている経済なので、金利調整で利下げをすると、確実
にハイパーインフレになってしまうからです。本当は、2018
年度から、緩やかに金融を引き締めつつあったのですが、米国に
貿易戦争を起こされて、意に反して経済を再拡大しなければなら
なくなり、中国は危ない橋を渡っているのです。
 現在の中国にとって一番怖いのは通貨危機です。中国国内のこ
とであれば、人民元を刷れば解決しますが、外国との関係になる
と、この手は使えないのです。外貨、とくにドルが必要になりま
す。そのため、どの国でも相応の外貨準備を備蓄しています。そ
うしないと、必要なものを輸入できなくなるし、対外債務(外貨
建ての借金)が払えなくなると、国が破綻してしまいます。
 この中国の外貨準備について、米中貿易戦争によって相当苦し
くなっており、普通の国では考えられない方法で、外貨を獲得し
ていると渡邊哲也氏がいっています。
─────────────────────────────
 たしかにいま中国の外貨準備はギリギリの状況になっている可
能性が高いです。ところが、一党独裁国家の中国は他の国ではあ
り得ない“特殊”な外貨準備があります。このところ中国政府は
中国の企業が海外で買った不動産や事業をすべて売却せよと命じ
ていますよね。その売却金が見えない外貨準備になってくるわけ
です。すでに破綻状態にある海航(集団)、安邦(保険集団)、
エンタテインメント事業の万達(ワンダ)あたりは過去に買収し
た海外企業の株式を売って現金化して、外貨準備に組み込み、通
貨防衛に使っています。あるいは、中国人富裕層が持つ海外資産
を強制的に売却させて現金化し、それを海外への支払いに充てて
います。         ──石平×渡邊哲也著の前掲書より
─────────────────────────────
 要するに、国が外貨準備として持っている外貨が不足している
わけです。しかし、中国共産党の幹部も含めて、中国という国は
本当のところ危ないと感じており、密かに海外資産を持つ中国人
は多くなっているのです。中国政府は、中国の企業や個人が海外
に持つ資産も外貨準備と考えています。
 范冰冰(ファンビンビン)という中国人の美人女優失踪事件と
いうのがありました。彼女は海外に多くの資産を持っており、中
国当局のターゲットになっていたのです。中国では、中国人が海
外に資産を移すことをさまざまな法律で規制しています。
 范冰冰氏は、中国当局に脱税容疑で拘留され、146億円もの
巨額の罰金が科せられたのですが、当局はそういう方法で、中国
人の持つ海外資産を没収し、外貨準備に組み入れているのです。
問題は、中国の企業や個人の持つ海外資産をどのようにして把握
するかですが、これには、ちゃんとした方法があるのです。
              ──[中国経済の真実/009]

≪画像および関連情報≫
 ●女優・范冰冰に脱税疑惑?
  ───────────────────────────
   中国で最も美しいといわれる人気女優・范冰冰(ファン・
  ビンビン)の脱税疑惑が思わぬ方向に広がるかもしれない。
  単なる美人女優のスキャンダルでなく、これも権力闘争、し
  かも軍部がらみとなると気になるではないか。今回は芸能ゴ
  シップを深読みしてみたい。
   范冰冰は山東省出身、1981年生まれで、女優、歌手と
  多方面で活躍している。日本では日中合作映画「墨攻」に出
  演したことで知られ、サントリー・ウーロン茶のCMでも親
  しまれるようになった。最近では主演を務めた映画「わたし
  は潘金蓮じゃない」(馮小剛監督、2016)で、サン・セ
  バスチャン国際映画祭の最優秀女優賞を受賞。カンヌ国際映
  画祭のレッドカーペットの常連でもあり、昨年はコンペティ
  ション部門の審査委員に選ばれて話題になった。
   范の婚約者の李晨は、知名度はかなり劣るが、人気の中国
  人俳優で、昨年の彼女の36回目の誕生日に正式にプロポー
  ズ。このとき、李晨が愛の証に贈った范冰冰そっくりの人形
  が、マリーナ・ビチコバという世界的に有名な人形師に特注
  したものでお値段30万ドル、というのも話題となった。そ
  んな大人気女優の范冰冰だが、黒い噂が一つあった。元国家
  副主席で2017年までは中央規律検査委員会書記として反
  腐敗キャンペーンの陣頭指揮をとっていた王岐山の愛人であ
  ったという噂だ。この噂の出元は、米国に逃亡した巨額汚職
  容疑で国際指名手配中の実業家・郭文貴だ。ただ、郭文貴が
  インターネットを通じて流すこうした情報の多くが共産党指
  導者たちの動揺や疑心暗鬼を狙ったガセ情報という見方も強
  いし、私もあまり信じていない。 https://bit.ly/2wbpfWQ
  ───────────────────────────

范冰冰(ファン・ビンビン).jpg
范冰冰(ファン・ビンビン)

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2019年05月24日

●「人民元の防衛と中国の外貨準備高」(EJ第5011号)

 中国の外貨準備は他国と比べると、とても特殊です。そもそも
外貨準備とは次のようなものをいいます。
─────────────────────────────
 ◎外貨準備とは・・・
 各国の通貨当局(中央銀行/中央政府などの金融当局)の管理
下にある直ちに利用可能な対外資産のことである。通貨当局が急
激な為替相場の変動を抑制するとき(為替介入)や、他国に対す
る外貨建債務の返済が困難になったときなどに用いられる。
                  https://bit.ly/2wcTgFK
─────────────────────────────
 ところが、中国では、上記の外貨準備の他に、国有銀行が有す
る企業の外貨も外貨準備のなかに含めているのです。ここでいう
「企業の外貨」とは、企業のドル決済預かり金や企業のドル預金
も外貨準備として報告しているのです。これは明らかなルール違
反ですが、中国政府はまったく意に介さないのです。
 中国という国は、すべてを自国中心に考えるのです。本来自由
貿易をするからには、国際法はもちろんのこと、国際的な約束事
というか規則、決まりを遵守することが必要ですが、中国は、国
際法でも自国独自の勝手な解釈で運用しようとします。南シナ海
における人工島も勝手な歴史認識で強行し、国際司法裁判所の判
決も、絶対に受け入れません。したがって、中国の経済に関する
公表数字も信頼のおけるものではないのです。
 最近では、国(国有銀行)が保有しているものだけでなく、中
国企業や個人の保有する外貨(国内であれ、海外であれ)も、す
べて含めて外貨準備と考えているのです。「そんなバカな!」と
いうなかれ、中国は大真面目で、そう考えています。
 それに加えて、2017年から、中国にとっては都合のよい制
度ができたのです。その制度は、CRS(共通報告基準)と呼ば
れ、OECDが策定したものです。
─────────────────────────────
 ◎CRSとは/Common Reporting Standard
 外国の金融機関に保有する口座を利用した国際的な租税回避を
防止するために、経済協力開発機構(OECD)が策定した金融
口座情報を自動交換する制度である。報告された情報は、各国の
税務当局間で相互に共有される。
─────────────────────────────
 CRSを簡単にいうと、日本で暮らす外国人と、外国に住む日
本人の税務情報や資産情報を当局同士で交換する制度です。なぜ
この制度が中国にとって都合がよいかというと、中国人が海外に
密かに資産を移したり、入手したりしても、CRSによりすべて
把握できるからです。
 仮にある中国人が米国に資産を持っていたとします。それはド
ル資産になりますが、そのドル資産も中国の外貨準備に含まれて
いるのです。もし、中国の外貨が足りなくなったときは、そのド
ル資産を売却させ、それに見合う人民元と引き換えます。人民元
であれば、いくらでも刷れますが、まさかドルを刷るわけにはい
かないからです。
 そこまで無理をしている中国の外貨準備の現況について、渡邊
哲也氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 2014年には、3・6兆ドルあった中国の外貨準備は、いま
2・8兆ドルに落ち込んだとされています。この2・8兆ドルの
うち米国債は1・1兆ドル程度しかなくて、あとは何を持ってい
るかは非公表という状況です。
 中国の銀行が海外の銀行から借りている金額が1・6兆ドルで
そのうち3ヶ月以内に満期が来る短期債務が1・15兆ドル。つ
まり、保有する米国債の額と短期債務の額がイコールになってし
まっている。かつてJ・Pモルガンが、中国の外貨準備がどの程
度になったら危機的水準かという試算を行った。それが2・6兆
ドルでしたから、危機的水準に非常に近いところまで落ちてきた
ことになります。ちなみに日本は、同じく1・1兆ドルの米国債
を保有していますが、そのほぼすべてを政府が使えます。
            ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき』
─────────────────────────────
 参考までに、2017年末の外貨準備の額のベスト5をご紹介
することにします。
─────────────────────────────
    1位:     中国  3兆2353億ドル
    2位:     日本  1兆2640億ドル
    3位:    スイス    8108億ドル
    4位:   ユーロ圏    8007億ドル
    5位:サウジアラビア    5008億ドル
                  https://bit.ly/2EPM88h
─────────────────────────────
 これを見ると、中国の3兆2353億ドルは、日本の約3倍で
あり、文句なしに世界一です。中国の外貨準備の定義の違いもあ
るが、それを考慮しても圧倒的です。しかし、金融の専門家であ
る小宮一慶氏の分析によると、3・2兆ドルという数字から中国
の人民銀行の人民元防衛のための「介入」の凄さが見えるという
のです。かつて中国の外貨準備高は4兆ドル近くあり、2017
年の時点で1兆ドルも減っている──これは、中国人民銀行によ
る強烈な「人民元買い支えオペレーション」の結果であると小宮
氏はいいます。
 しかも2017年の3・2兆ドルは、現在では、渡邊哲也氏に
よると、さらに1兆ドル減少し、2・8兆ドルになっています。
J・Pモルガンによる危機的水準が2・6兆ドルであり、現在が
2・8兆ドルですから、まさに中国は、ギリギリのところまで追
い詰められているということがいえます。
              ──[中国経済の真実/010]

≪画像および関連情報≫
 ●中国、外貨準備に見る手詰まり感/梅澤利文氏
  ───────────────────────────
   中国外貨準備の減少は、人民元が重要な節目である対ドル
  レートで1ドル7人民元に近づく中で、中国当局がこれ以上
  の人民元安を放置できない姿勢が示唆されたと見られます。
  中国景気に減速傾向が見られる中、中国当局は景気刺激策が
  求められる中での為替介入に、政策的なジレンマもうかがえ
  ます。これが日本ならば、通貨安(円安)は極端でない限り
  歓迎されるところでしょう。しかし、中国では事情が異なり
  ます。
   まず、中国は米中貿易戦争の当事国であり、対米貿易黒字
  の拡大は通商交渉を困難にする恐れがあります。米財務省は
  2018年10月17日に半期に一度の外国為替報告書を発
  表しました。今回、米国は中国を為替操作国に認定するのは
  見送りました。しかし、前回(4月)の報告書に比べ、中国
  への姿勢は厳しさを増しています。ムニューシン米財務長官
  は中国の為替の透明性欠如と最近の元安が懸念材料と強い調
  子で指摘しています。
  仮に中国を為替操作国と認定すれば、米国は必要に応じて関
  税を課す可能性もあり、米国に新たな関税という武器を手渡
  すこととなる恐れもあります。
   次に人民元安を放置した場合、資本逃避も懸念されます。
  中国の資本逃避の目安として、国際収支統計の資本勘定で、
  ネットの金融収支を見てみると、足元でマイナスに転じてい
  ます。             https://bit.ly/2VH034u
  ───────────────────────────

中国の外貨準備高.jpg
中国の外貨準備高
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2019年05月27日

●「世界中でファーウェイ離れが加速」(EJ第5012号)

 米中貿易戦争は、日を追って激しさを増す一方です。5月19
日、米ロイターが、「グーグルはファーウェイ向けのソフトウェ
アの出荷を停止し、今後ファーウェイ製品では、グーグルプレイ
やGメールを利用できなくなる見込み」と報道すると、世界中で
ファーウェイ離れが起きて、拡大しつつあります。
 とくに、携帯電話のOSとして広いシェアを持つ「アンドロイ
ド」のサービス──OSの最新版への更新や、Gメールをはじめ
グーグルマップ、ユーチューブなどのいわゆるグーグルアプリが
利用できなくなるとの不安が広がると、携帯大手などに続き、消
費者に身近なネット通販や小売の店頭においても、ファーウェイ
離れは一段と加速したのです。
 アマゾンもファーウェイ販売のページにおいて、次の表示を行
い、ファーウェイ製品の事実上の販売停止を行っています。
─────────────────────────────
 本製品は、OS(オペレーションシステム)などについて懸念
が発生しています。  ──アマゾンのファーウェイ製品ページ
─────────────────────────────
 「アンドロイドOS」を使う機器は世界で25億台以上あり、
グーグルのソフトウェアの利用が制限されている中国国内向けを
のぞき、ファーウェイのスマホも基本的にすべて使っています。
ちなみに、ファーウェイは、2018年にサムスン電子、アップ
ルに次ぐ世界3位の2億600万台のスマホを出荷し、2019
年第1四半期にアップルを抜いて、世界2位に進出しています。
 このアンドロイドが使えなくなるかもしれない事態を受けて、
日本のKDDI(au)とソフトバンク系のワイモバイルなどが
ファーウェイの新規機種「P30」の販売延期を決め、予約を中
止しています。改めてICTの世界におけるグーグルの影響力の
大きさを知る思いがあります。
 ところで、ファーウェイの最新機種「P30」は、なかなか魅
力的な製品なのです。3つのカメラが搭載されており、高画質に
加えて、超広角・望遠機能を備えています。しかし、ハードウェ
アとしての機能がいかに優れていても、世界中で使われているグ
ーグルのソフトウェアが使えなくなる可能性があると知ると、世
界中で買い控えが起きてしまうのです。
 このような事態になっても、ファーウェイの任正非CEOは、
傘下に半導体子会社「ハイシリコン」を有しているとして、半導
体に関しては世界レベルを超えるチップを自前で生産できるし、
OSをはじめとするソフトウェアに関しても、表向きは、独自制
作が可能であると、強気の姿勢を崩していないのです。
 しかし、そのハイシリコンは、英国のARM(アーム)という
半導体設計情報を提供する企業から、多くの設計情報の提供を受
けています。アームは、自社では半導体の製造を行わず、開発や
設計に特化し、半導体メーカーからの技術使用料などを収益源と
する企業です。
 そのアームが英国BBCの報道によると「ファーウェイとの取
引を中止する」と宣言したのです。これはファーウェイにとって
致命的な打撃といえます。高度な技術を持つハイシリコンといえ
ども、アームの協力なくしては、世界に通用する半導体チップの
生産ができないからです。とくにアームは、スマホ向け半導体の
設計では、90%の圧倒的なシェアを持っているからです。実は
このアームを英国のEU離脱騒ぎでポンドが急落したのを受けて
2016年にソフトバンクが買収しているのです。
 アームについて、「日経ビジネス」の広岡延隆上海支局長は、
次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 ARMは、省電力半導体設計に強みを持ち、現在のスマートフ
ォン向け半導体チップの大半は、同社技術を採用している。米ク
アルコムや米アップル、韓国サムスン電子、台湾メディアテック
など、半導体チップメーカーはARMの設計情報のライセンスを
受けずには、事実上ビジネスを継続できない。そしてファーウェ
イの半導体開発を担う中核子会社、海思半導体(ハイシリコン)
もARMの技術に頼っていた一社だった。
 英国はファーウェイにとって、西側諸国における「砦」のよう
な存在だった。ファーウェイは英国政府と比較的緊密な関係を保
ち、技術情報の提供を欠かさなかった。英国が、米国の意向に反
してファーウェイを「5G」から排除しなかったのは、こうした
取り組みがあったからだ。      https://bit.ly/2Mn1Sob
─────────────────────────────
 そうすると、ファーウェイの命運を握っているのは、ソフトバ
ンクの孫正義CEOであるといえます。孫正義氏にとっては、悲
願である傘下の米携帯電話4位のスプリントと3位のTモバイル
との合併計画があり、トランプ政権とトラブルを起こせない立場
にいます。この合併に関しては、オバマ政権では実現できなかっ
たものの、トランプ政権になって米連邦通信委員会(FCC)の
承認を勝ち取っています。しかし、米司法省がまだ反対しており
孫氏としては、トランプ政権との関係は良くしておきたいという
思惑があり、ファーウェイとの取引を停止せざるを得ない状況に
あります。
 トランプ大統領は、5月23日、このファーウェイ問題を米中
通商協議で、取引に使う考えを次のように示しています。
─────────────────────────────
 G20で習近平国家主席と会談するが、そのさい、ファーウェ
イも何らかの形で、取引に含まれる。ただし、安全保障や軍事的
な観点から、ファーウェイのやってきたことは、非常に危険なこ
とである。               ──トランプ大統領
           ──2019年5月25日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 実際問題として、米中貿易戦争は、単なる通商協議ではなく、
安全保障の面における米国の基本戦略になりつつあります。
              ──[中国経済の真実/011]

≪画像および関連情報≫
 ●グーグルよりも深刻? 英ARMがファーウェイと取引停止
  ───────────────────────────
   ソフトバンクグループは2016年、3・3兆円をかけて
  英半導体設計大手のARMを買収した。スマートフォン向け
  CPUなどで豊富な実績を持つARMだが、ソフトバンクグ
  ループはなぜ、それだけ巨額の資金を投じてARMを買収し
  たのか。またARMの買収によって、ソフトバンクグループ
  は、何を目指そうとしているのだろうか。
   これまで、英ボーダフォンの日本法人や米スプリントなど
  大規模な企業買収を繰り返して大きな驚きを与えてきたソフ
  トバンクグループ。だがそうした中でも最も大きな規模の買
  収となったのが、2016年買収した英ARMである。
   ARMは、CPUなどの設計を手掛ける企業で、その設計
  をCPUなどを開発・製造するメーカーにライセンス提供し
  ロイヤリティを得るというビジネスを展開している。それゆ
  え同社の設計を採用する企業にはスマートフォン向けのチッ
  プセット「Snapdragon」シリーズで知られる米クアルコムな
  ど、非常に多くの企業が名を連ねている。
   ARMの設計を採用したチップセットは多種多様な機器に
  搭載されているが、中でもよく知られているのは、やはり、
  スマートフォンやタブレット向けのチップセットであろう。
  今やスマートフォンの9割以上は、ARMの設計を採用した
  チップセットを採用していると言われており、スマートフォ
  ン開発になくてはならない存在となっているのだ。だが、A
  RMの買収と、これまでソフトバンクが巨額で買収した企業
  とを比べると、ある大きな違いが見られる。それは、ARM
  が経営不振に陥っているわけではないということだ。
                  https://bit.ly/2Mn1Sob
  ───────────────────────────

ソフトバンクARMを買収.jpg
 
ソフトバンクARMを買収
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2019年05月28日

●「さらば米国よ、われに欧州ありき」(EJ第5013号)

 世界中でファーウェイ離れが起きているなか、遠藤誉氏が次の
タイトルで夕刊紙にコメントを寄せています。
─────────────────────────────
 ◎ファーウェイは「へこたれない/世界は2極化へ」
 米国は、これ(=中国の通信大手の締め出し)を対中圧力の切
り札にしたいという希望を持っているようだが、切り札にはなら
ない。ファーウェイはへこたれない。「米国市場を引き揚げても
欧州がある」と思っている。
 具体的には。ファーウェイの創業者で、最高経営責任者(CE
O)の任正非氏が中国メディアに語った。
 「米国から撤退する。米国には感謝する。ここまでわが社を有
名にしてくれた。それだけ技術が高いと、世界が知るようになっ
た」と。余裕を感じさせる。
           ──「鈴木棟一の風雲永田町」6064
           2019年5月21日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 いま起きている世界中からのファーウェイ離れにも関わらず、
任正非CEOは米国に対して皮肉をいう余裕があると、遠藤氏は
いっています。それは任正非CEOの「米国市場を引き揚げても
欧州がある」というところにあるといえます。これは重要な発言
です。確かに、欧州(EU)と米国は、現在ギクシャクしていま
すが、本当にEUは米国の警告に従わないつもりでしょうか。
 これに関して遠藤氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 欧州諸国は、米国が「証拠を出さない」ことを理由に「ファー
ウェイを排除しない」方向に動いている。ファーウェイは欧州で
強い。米国のやり方は、1990年代の対日圧力と似ている。
           ──「鈴木棟一の風雲永田町」6064
─────────────────────────────
 ファーウェイが本当に情報を盗んでいたのかということに関し
ては遠藤氏は重要な情報を掴んでいるので、これについては改め
て取り上げることにします。
 EJの掴んだ情報によると、中国は「ファイブアイズ」の分断
を仕掛けており、これによってEU諸国のなかには「ファーウェ
イを排除しない」決断をしている国が出てきています。ところで
「ファイブアイズ」とは何でしょうか。
 ファイブアイズとは、諜報活動に関する「ある協定」を締結し
ている5ヶ国──米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュー
ジーランド──の諜報機関の間の協定のことです。
 ここでいうある協定とは、「UKUSA(ウクサ)」といい、
UKUSAとは英国と米国の協定を意味しています。「UK」は
ユナイテッド・キングダム、英国を意味し、「US」は、ユナイ
テッド・ステート、米国のこと、「A」は「Agreement」、 協定
を意味します。つまり、ファイブアイズは、英国と米国を中心と
して、それに英語圏の3ヶ国を加えた5ヶ国の諜報機関間の協定
のことです。参考までに、これら5ヶ国の諜報機関を次に示して
おきます。
─────────────────────────────
     イギリス → GCHQ      政府通信本部
     アメリカ →  NSA アメリカ国家安全保障局
      カナダ → CSEC    カナダ通信保安局
  オートスラリア →  DSD   参謀本部国防通信局
 ニュージーランド → GCSB     政府通信保安局
                 https://bit.ly/2insxgt
─────────────────────────────
 それでは、「UKUSA協定」では具体的に何を利用できるの
でしょうか。
 もともと秘密協定であり、明確には分からないのですが、加盟
国間で傍受した盗聴内容や情報を共同利用していることは確かで
す。問題はその手段です。それは、通信、電磁波、信号などの主
として傍受を利用した諜報活動のことです。これら5ヶ国は、世
界中に張り巡らした諜報網を使って情報を集め、それらを相互利
用、共同利用しているのです。しかし、互いを盗聴することは禁
じられています。これらの設備というか、システムのことを「シ
ギント」と呼んでいます。
 なお、「UKUSA協定」のネットワークは「エシュロン」と
呼ばれています。この名前を聞いたことがある人は多いと思いま
す。このように、ファイブアイズには、通信ネットワーク機器に
重要な関連があり、それにファーウェイが絡んでいるのは当然と
いえます。
 中国は、ファイブアイズの中心国、英国に的を絞って何年もか
けて、関係構築を築いてきています。その英国は、現在EU離脱
問題で大揺れであり、EUを離脱した場合、それも合意なき離脱
の場合、中国は重要な貿易相手国になります。したがって、米国
の要請にしたがって、ファーウェイ排除に積極的に動けないので
す。このことは、やはり中国が重要な貿易相手国であるニュージ
ーランドも同じ立場です。中国は、ニュージーランドに対して強
いプレッシャーをかけています。EU全体も今後この動きに同調
する可能性もあり、それを見越して、任正非CEOは「欧州があ
る」といったのです。こういう動きも含めて、遠藤誉氏は、コメ
ントの最後に次のように「2つの可能性」を示唆しています。
─────────────────────────────
 2つの可能性がある。1つは世界の資本や企業が中国から引き
揚げて、中国経済が干上がる。2つには、中国が対米貿易を無視
することによって、世界が「米国か、非米国か」の2極に分かれ
る。後者の場合、グローバル経済を中国が回すことになる。この
2つの進路の鍵を握るのは、案外日本かもしれない。
           ──「鈴木棟一の風雲永田町」6064
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/012]

≪画像および関連情報≫
 ●英国はファーウェイを5Gサプライヤーにすることに難色
  ───────────────────────────
   中国の通信機器ベンダーの関与が国のセキュリティにリス
  クをもたらすとの懸念にもかかわらず、イギリスの政府は、
  同国の5Gネットワークの一部の中核的でない部分に関して
  ファーウェイをサプライヤーとして認めることになった。し
  かし政府の記者発表によれば、ネットワークの中核的な部分
  からは除外される。
   米国時間4月23日の国家安全保障会議の会合における英
  国メイ首相の決定を今朝のテレグラフ紙が報じた。同紙によ
  ると、複数の閣僚が彼女のアプローチに懸念を表明した。そ
  れらは、内務大臣と外務大臣、防衛大臣、通商大臣、国際開
  発大臣である。FT(フィナンシャル・タイムズ)は、英国
  5Gネットワークへのファーウェイの関与に厳しい制約を課
  すのは、閣僚たちが提起した懸念のレベルが高いことを反映
  している、と報じている。
   5Gによる次世代ネットワークの構築にファーウェイの部
  分的関与を許すというメイ首相の黄信号的決定の1か月前に
  は、英国監督機関が、この中国企業のセキュリティへのアプ
  ローチを評価して厳しい報告書を提出したばかりだ。ファー
  ウェイ・サイバーセキュリティ評価センター監督委員会の第
  5次年次報告書は、同社のソフトウェアエンジニアリングと
  サイバーセキュリティの能力には「深刻かつ意図的な欠陥が
  ある」と酷評している。     https://tcrn.ch/2HALtrI
  ───────────────────────────

「米国よ、さらば」/任正非CEO.jpg
「米国よ、さらば」/任正非CEO
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2019年05月29日

●「ファーウェイがスパイである証拠」(EJ第5014号)

 昨日のEJの「画像および関連情報」でもお知らせしています
が、4月23日に開催された英国の国家安全保障会議において、
米国とともにファイブアイズの中心国、英国のメイ首相は、英国
としては、ファーウェイの製品を5Gの中核部分からは外すもの
の、他の部分では残すことを宣言しています。
 メイ首相の発表の約1ヶ月前に、英国の監督機関がファーウェ
イのセキュリティを精査して、厳しい内容の報告書を提出したに
もかかわらずです。この報告書では、ファーウェイについて次の
ように論評しています。
─────────────────────────────
 ファーウェイ社のソフトウェアエンジニアリングとサイバーセ
キュリティの能力には、深刻かつ意図的な欠陥がある。しかし、
英国の重要なネットワークへのファーウェイの関与が国のセキュ
リティにもたらす、すべてのリスクは、長期的には十分に軽減で
きる、という限定的な確証しか提供できない。
        報告書(英文) → https://tcrn.ch/2YuHIdA ─────────────────────────────
 英国の監督機関は、一方で「深刻かつ意図的な欠陥がある」と
いいながらも、他方「それがもたらすリスクは長期的には十分軽
減できる」という曖昧な表現にとどめています。ここにメイ政権
の中国への配慮が感じられるのです。
 しかし、このメイ首相の決定には、英国の内務大臣と外務大臣
防衛大臣、通商大臣、国際開発大臣らが懸念を示したことが伝え
られています。メイ首相としては、EU離脱となると、中国は重
要な貿易相手国になるので、そういう観点から、サイバーセキュ
リティの面で甘さが出てしまったのではないかと考えられます。
もともと英国は、米国が「ファーウェイのここが問題である」と
いう証拠を示さないことに不満を持っていたといわれます。
 この「なぜファーウェイは問題があるのか」について、米国が
きちんとした証拠を示していないことをEU各国が不安を持って
いることは確かです。これについて、遠藤誉氏は、5月23日の
米CNBCのテレビ記者、アンドリュー・ロス・ソーキン氏によ
るポンペオ国務長官へのインタビューを取り上げ、分析している
ので、以下にご紹介します。
─────────────────────────────
ソーキン:国務長官、教えていただきたいのですが、ハーウェイ
 がハードウェアを利用して、スパイソフトや何かスパイ行為を
 行うことを明確に示唆する証拠を今日は提供できますか。
ポンペオ:うーん、そうだね。それは間違った質問だよ、アンド
 リュー。もしあなたが自分の情報を、つまり、自分の情報をだ
 ね。中国共産党に渡すのは、あなたにとって実際上、凄まじい
 リスクを伴う行為になるわけだよ。中国共産党は、今日は利用
 しないかもしれない。明日も利用しないかもしれない。
ソーキン:私はリスクを減らすことに興味はありません。私が質
 問しているのは、ファーウェイのCEOが「ほら、私たちは他
 者と情報を共有していません。私たちは中国政府と協力してい
 ないのです」と主張しているからです。だから、何か明確な証
 拠を示してください。
ポンペオ:それはまさに嘘だよ。それはまさに嘘だ。中国政府と
 協力していないというのは、嘘の声明だ。
                  https://bit.ly/2K90XVp ─────────────────────────────
 ここに示した日本語訳は遠藤誉氏による翻訳です。遠藤氏は、
ポンペオ国務長官の受け応えは明らかにシドロモドロである──
そういうのです。それは英語の原文で読むと、一層明らかである
といっています。
 以下の英文は、アンドリュー記者に対するポンペオ国務長官の
返事ですが、明らかに間違っているところがあります。遠藤氏は
それを根拠にシドロモドロといっているのです。
─────────────────────────────
  That's the wrong question, Andrew. If you put your
  information, your information, in the hands of the
  Chinese Communist Party, it's de facto a real risk
  to you.They may not use it today. They may not use
  it tomorrow.
─────────────────────────────
 それは最後の部分「They may not use it tomorrow」です。こ
れは「今日」と「明日」が関連を持っています。「(情報を入手
しても)今日は使わないかもしれないが、明日は使うかもしれな
い」という意味の「They may use it tomorrow」ならわかります
が、ポンペオ国務長官は、「They may not use it tomorrow」と
いっています。これだと意味がわからなくなります。「not」 は
不要なのです。米国人、しかも国務長官ともあろう人が、母国語
で、こんな間違えをするはずがないので、遠藤氏はシドロモドロ
になっていたんじゃないかといっているのです。
 しかし、仮にファーウェイがスパイをしているという確たる証
拠があったとして、それを国務長官という地位にある人がメディ
アに話せるでしょうか。そんなことはできるはずはないのです。
ポンペオ国務長官は、そういう質問をはぐらかす会話の技術が上
手でないだけだと思います。
 しかし、遠藤誉氏は、これほどまでして、なぜ、ファーウェイ
をかばうような発言をするのでしょうか。ファーウェイをあまり
追いつめるとロクなことにならないとまで発言しています。遠藤
氏の本を読むと、ファーウェイの創業者である任正非氏は確かに
人民解放軍に在籍していたものの、それは「軍民転換」といって
そういう人はたくさんおり、だからといって、軍のために何かを
することはないし、ましてスパイなどではないといいます。
 しかし、自由主義陣営は、「ファーウェイ排除」でまとまりそ
うな情勢です。とくにグーグルのソフトウェア制限は、ファーウ
ェイにとって深刻です。   ──[中国経済の真実/013]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ排除の内幕、激化する米中5G戦争
  ───────────────────────────
   [キャンベラ/21日/ロイター]2018年初頭、オー
  ストラリア首都キャンベラにある低層ビル群の内部では、政
  府のハッカーたちが、破壊的なデジタル戦争ゲームを遂行し
  ていた。
   オーストラリア通信電子局(ASD)のエージェントであ
  る彼らに与えられた課題は、あらゆる種類のサイバー攻撃ツ
  ールを使って、対象国の次世代通信規格「5G」通信網の内
  部機器にアクセスできた場合、どのような損害を与えること
  ができるか、というものだ。
   このチームが発見した事実は、豪州の安全保障当局者や政
  治指導者を青ざめさせた、と現旧政府当局者は明かす。5G
  の攻撃ポテンシャルはあまりにも大きく、オーストラリアが
  攻撃対象となった場合、非常に無防備な状態になる。5Gが
  スパイ行為や重要インフラに対する妨害工作に悪用されるリ
  スクについて理解されたことが、豪州にとってすべてを一変
  させた、と関係者は話す。
  電力から水の供給、下水に至るすべての必須インフラの中枢
  にある情報通信にとって5Gは必要不可欠な要素になる──
  マイク・バージェスASD長官は3月、5G技術の安全性が
  いかに重要かについて、シドニーの研究機関で行ったスピー
  チでこのように説明した。「世界的な影響力拡大を目指す中
  国政府の支柱の1つとなった創立30年の通信機器大手、華
  為技術(ファーウェイ)に対する世界的な締め付けを主導し
  たのは、米政府だと広く考えられている。
                  https://bit.ly/2YSDhIT
  ───────────────────────────

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誤魔化し方が上手ではないポンペオ国務長官

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2019年05月30日

●「国家情報法と任正非CEOの反論」(EJ第5015号)

 ポンペオ国務長官にインタビューを仕掛けた米CNBCテレビ
のアンドリュー・ロス・ソーキンス記者が、ファーウェイトップ
の任正非CEOへの次の発言を再現することにします。
─────────────────────────────
ソーキン:私はリスクを減らすことに興味はありません。私が質
 問しているのは、ファーウェイのCEOが「ほら、私たちは他
 者と情報を共有していません。私たちは中国政府と協力してい
 ないのです」と主張しているからです。
─────────────────────────────
 遠藤誉氏は、任正非CEOが、この「私たちは中国政府と協力
していない」という発言を、いつ、どのような場面での発言かに
ついて調査しています。その結果、それは、今年の1月15日に
AP通信やCNBCを含めた英語圏の海外記者による集団インタ
ビューのなかでの発言であることがわかったのです。
 そこでは、記者たちから、中国の「国家情報法」との関連での
ファーウェイの対応をとことん聞いているのです。そのときの任
正非CEOの回答を要約して再現します。
─────────────────────────────
記者団:あなたは、中国政府の要求があっても、絶対に従わない
 と言っていますが、しかし、あなたは共産党員ですよね。それ
 でも中国政府の要求を拒否できるというのですか?どうやって
 中国政府に抵抗できるのですか?どうやって顧客を安心させる
 ことができるのですか?
任正非:私の会社はビジネスの会社だ。ビジネス企業の価値観は
 顧客が中心だ。私個人の政治的信仰とビジネス行動は必ずしも
 一致しない。私は、絶対に中国政府に服従して顧客を裏切るよ
 うなことはしない。今日のインタビューが報道された後の将来
 20年から30年、もし私がまだ生きていたとしたら、私がい
 ま言った言葉を覚えておいてほしい。そして私が行動を以て、
 この言葉を証明することを見届けてほしい。
記者団:アップルはアメリカ政府の要求に従わず、政府を訴えて
 司法に持ち込んだ。中国にはファーウェイに、このような行動
 を可能ならしめる法律制度はあるか?
任正非:私は絶対に中国政府の要求を実行しない。となると中国
 政府が私を訴えるのであって、私が政府を訴えることにならな
 い。もっとも私は中国政府が私を訴えるか否かは分からない。
                  https://bit.ly/2Wtht9g
─────────────────────────────
 この記者団と任正非CEOのやり取りを聞いて、ファーウェイ
のCEOのいっていることに納得できるでしょうか。CEOは、
「私としては絶対に政府に屈服しない」と強調するだけで、それ
をもって信用してくれといわれても、素直に受け入れられないと
思います。何しろ、中国は、これまで、共産党の命令に従わない
者に対し、情け容赦ない弾圧をやってきているからです。
 これに対して遠藤誉氏は、国家情報法における「情報」とは、
中国には民主化を求めて国家転覆を図ろうとする者がたくさんお
り、そういう個人や組織の所在を知っている者が政府に密告する
ことを合法化したものであるといいます。つまり、「反政府分子
を匿ってはならない」という趣旨の法律であるというのです。
 しかし、国家情報法第7条は、「いかなる組織及び国民も、法
に基づき国家情報活動に対する支持、援助及び協力を行い、知り
得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない」と、
いくらでも情報の拡大解釈ができる条文になっており、恣意的運
用が行われる可能性は十分あると思います。
 しかし、遠藤氏は、「もし、任正非CEOが国家情報法に基づ
き、知り得た情報を中国政府に提供したら、どうなるか」という
観点で次のようにも述べていますが、こちらは納得できます。
─────────────────────────────
 これが「国家情報法」の基本ではあるが、仮に、海外の感覚で
「国家情報法」を解釈し、ファーウェイが中国政府に屈服したと
しよう。そのとき、何が起きるか――?
 まずファーウェイ社員の燃えるような使命感は、その瞬間に消
失する。新しい半導体チップを命を賭けて設計していくぞという
ような意欲は無くなり、普通の国有企業の従業員のように、やる
気が無くなり、真に意欲を持つ者は、ファーウェイから去って、
もっと小さな民間企業に移るだろう。つまり、この時点で中国は
5Gにおいて世界の最先端から脱落し、ハイテク国家戦略「中国
製造2025」の完成も絵に描いた餅になってしまうということ
である。この構図が面白いのだ!
 習近平国家主席は、このことに激しく苦悩しているだろう。こ
こにこそ「中国の特色ある社会主義国家」の限界があることに気
が付かなければならない。           ──遠藤誉氏
                  https://bit.ly/2HFihQa
─────────────────────────────
 遠藤氏は、日本人に対しても怒りをぶつけています。「一部の
日本人は、(私が)少しでもファーウェイと中国政府の関係に関
する真相を書くと、『アイツは中国の工作員だ』と誹謗すること
しかしない」と。そして、日本のメディアの対応に関しても次の
ように疑問を呈しています。
─────────────────────────────
 ファーウェイに関して「証拠を出せ」とアメリカ政府に迫って
いないのは、日本国、一国であることを認識したいものである。
アメリカのメディアでさえ、「証拠を出せ」と迫っていることが
このCNBC報道で分かったはずだ。しかし共同通信は、その部
分は無視して、「嘘つきだ」という部分だけを切り取って日本人
に知らせた。これは、国益に適っているのだろうか?私たちには
「真実を知る権利」がある。          ──遠藤誉氏
                  https://bit.ly/2Wsemyt
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/014]

≪画像および関連情報≫
 ●日本もファーウェイ排除の方針。その懸念の真偽と被る影響
  ───────────────────────────
   貿易問題や通信分野の覇権争いで対立する米中。米国政府
  はファーウェイやZTEを名指しで政府調達から排除した。
  さらに、同盟国に中国通信大手の排除を要請した模様だ。そ
  して、日本政府は「IT調達に係る国の物品等又は役務の調
  達方針及び調達手続に関する申合せ、(以下、IT調達申合
  わせ)」を公表した。
   そもそも、日本政府はサイバーセキュリティにまったく無
  頓着なわけではなく、従来から中国製品を警戒していた。そ
  れでも敢えてIT調達申合せを公表したのは、米国政府の要
  請に呼応して同調姿勢を明確化する狙いなのだろう。
   ただ、日中関係が改善傾向にある中で、日本政府としては
  中国政府を過度に刺激したくないはずだ。日本政府はIT調
  達申合せについて「防護すべき情報システム、機器、役務な
  どの調達に関する方針や手続きを定め、特定の企業や機器の
  排除が目的ではない」と説明し、名指しは避けて中国政府に
  配慮した格好だ。
   IT調達申合せの公表前には複数の報道機関が日本政府に
  よる中国通信大手の排除を報じ、それに中国政府は強い表現
  で反発した。しかし、IT調達申合せの内容を公表後は不快
  感こそ示したが、発言は抑制的な表現にとどめた。名指しで
  排除されない限り、中国政府としては強い表現での反発は難
  しく、この点は日本政府の狙い通りだ。
                  https://bit.ly/2ECV6UU
  ───────────────────────────

遠藤誉筑波大学名誉教授/理学博士.jpg
遠藤誉筑波大学名誉教授/理学博士
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2019年05月31日

●「最強の未公開企業/ファーウェイ」(EJ第5016号)

 遠藤誉氏は、ファーウェイという企業が、どのような企業であ
るかについて、レポートの最後に「追記」として書いていますの
で、今回はこれを要約してお伝えします。
 中国共産党の一党独裁国家、中国という国にとって重要なのは
あくまで国有企業であり、民営企業ではないのです。とくに習近
平政権では国有企業優先です。しかし、皮肉なことに、現在の中
国は、民営企業、それも世界中でビジネスを展開するグローバル
企業によって躍進し輝いているといえます。
 ファーウェイも中国政府から潰されかけたことがあるのです。
つねに中国政府から嫌がらせを受けてきたので、イノベーション
を起こして、最先端の半導体チップの製造技術で生き残りを賭け
たのです。そのため、任正非CEOは、政府によって潰されない
ように次の2つの手を打ったのです。
─────────────────────────────
      1.海外に多くの支店を保有すること
      2.従業員持ち株制度を導入したこと
─────────────────────────────
 ひとつは、海外支店網の拡充です。確かに海外に幅広く支店網
を持っていると、潰しにくくなります。そういう思惑もあって、
現在ファーウェイは、海外に170の支店網を有しています。
 もうひとつは、従業員持ち株制度を導入したことです。最先端
技術で生き残るには、従業員のモチベーションを高め、高度な技
術力を保有する必要があります。そのための従業員持ち株制度で
すが、これについて遠藤誉氏は自著で次のように書います。
─────────────────────────────
 2つ目の「従業員持ち株制」というのも、従業員の働く意欲を
強化する意味で、すばらしいアイディアだ。ホァーウェイ総裁の
任正非自身の持ち株は1・3%で、残りの98・7%の株主は、
すべて従業員なのである。だから従業員の働くモチベーションを
高め、優秀で若い人材を惹きつけていく。会社の収益が増えれば
給料以外に株の収益が従業員のポケットに入るのだから、なんと
しても会社全体を成長させ発展させていこうと思うだろう。こう
して働くモチベーションをこの上なく高めてくれる。だから任総
裁はホァーウェイを上場させないのだという。おまけに会長は3
人いて輪番制で、半年に1回ごとに代わる。だから、我欲による
腐敗が起きない。           ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 任正非CEOは、何よりも社員のモチベーション向上が重要と
考えたのです。なぜかというと、半導体の技術レベルを世界最高
レベルの米国クアルコムと同レベルの半導体を作るためです。そ
れには、企業一丸となって、並はずれた努力が必要になります。
その結果、従業員が98・7%の株を握るという特異な未公開企
業が誕生したのです。それがファーウェイという企業なのです。
 そこまで技術レベルを高めておけば、もし中国政府が潰しにか
かってきても、米国企業に売れるからです。ところが現在、ファ
ーウェイは、半導体チップの製作において、クアルコムに肩を並
べるどころか、クアルコムを抜く技術力を蓄えつつあります。任
正非CEOは、そうなると今度は米国が圧力をかけてくるに違い
ないと考えたのです。事実その通りになりつつありますが、任正
非CEOは、そのことを予測して本を書いています。そのタイト
ルは、『次に倒れるのは華為(Huawei)だ』であり、この本を基
にして、邦訳された本が次の本です。
─────────────────────────────
  田濤(著/原著)/呉春波(著/原著)/内村和雄/訳
 『最強の未公開企業ファーウェイ/冬は必ずやってくる』
                   東洋経済新報社刊
─────────────────────────────
 この本は、まだ読んでいませんが、読む必要がありそうです。
というのは、米国によるファーウェイ排除の原因がこの本から読
み取れる可能性が高いからです。アマゾンは、この本を推薦する
一文のなかで、次のように書いています。
─────────────────────────────
 ファーウェイは急成長するにつれて、かつて教えを請い、信頼
を寄せた米企業から訴えられたり、人民解放軍と密接なつながり
を持ち、保護を受け、通信情報を軍に流しているのではないかと
ウワサされ、ロビイストの暗躍する米議会に問題視されて、いわ
ばアメリカそのものを敵に回したこともありました。任の経営哲
学は時に秘密主義とも呼ばれ、株式公開をしないこともあり、実
態がなかなかうかがい知れず、厚いベールに包まれてきたことも
そうした憶測を助長しました。    https://amzn.to/2Wc7o13
─────────────────────────────
 こうした米国の疑心暗鬼が、現在のファーウェイ排除の原因に
なっているのではないかと考えます。何か確たる証拠があるので
はない。何となく怪しいというレベルではないかと遠藤氏はいう
のです。しかし、遠藤氏にいわせると、それは任正非CEO自身
が事前に予測していたことだといいます。ファーウェイの技術レ
ベルが上がってくると、どうしてもそういう疑心暗鬼が生まれて
くる──遠藤氏はそう考えているようです。
 このレポートの結びのところで、遠藤誉氏は次のようにいって
います。この文章を読んで少しホッとした感じです。
─────────────────────────────
 「中国政府の支援がない状態で、ここまで巨大化できるはずが
ないだろう」と疑うのは中国政治の真相を知らない者の邪推だ。
筆者は、「言論弾圧をする国に世界を制覇させてはならない」と
いう警鐘を鳴らすために執筆活動を続けている。この信念は揺る
がない。       ──遠藤誉氏 https://bit.ly/2Wsemyt
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/015]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイのスマホは“危険”なのか
  ───────────────────────────
   米紙ウォールストリート・ジャーナルは先日、米国が中国
  の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の製品を使わ
  ないよう友好国に要請していると報じた。日本でもこのニュ
  ースは大きく取り上げられた。
   実はこの問題、欧米の情報機関関係者やサイバーセキュリ
  ティ関係者の間で、以前から取り沙汰されてきた。筆者もこ
  のニュースについては注視しており、これまでもさまざまな
  媒体で何度も記事を書いてきた経緯がある。
   国内外の知人らと話していると、ファーウェイの商品が、
  「安価でハイスペックな機器である」と評価する人たちも多
  い。先日仕事で訪れた、中国と複雑な関係にある台湾でも、
  IT関係者は「賛否あるが、コストパフォーマンスの良さは
  否定できない」と言っていたのが印象的だった。日本でも、
  最近ファーウェイのタブレットを購入したという日本人のテ
  レビ関係者から、「品質は申し分ない」と聞いていた。事実
  日本の「価格.com(カカクドットコム)」でスマートフォン
  ランキングを見ると、ファーウェイのスマホが1位、タブレ
  ットでも3位につけている(11月27日時点)。
   とはいえ、このテレビ関係者はニュースを見ていて不安に
  なるという。仕事柄、いろいろな情報を扱うこの関係者は、
  中国政府系ハッカーなどによるサイバー攻撃でスパイ行為に
  さらされる危険性があるのではないか、と心配していた。こ
  こまでとは言わないでも、同じように気になっている人も少
  なくないだろう。        https://bit.ly/2WWesvo
  ───────────────────────────

先端技術の米中の対決.jpg
先端技術の米中の対決
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2019年06月03日

●「米中貿易戦争はいつまで続くのか」(第5017号)

 米国と中国の通信を巡る貿易戦争は、米中協議が事実上破綻し
たことにより、激しさを増す一方です。6月28日〜29日に大
阪で開催されるG20サミットでのトランプ大統領と習近平国家
主席の米中会談で打開が図られる可能性はほとんどないといわれ
ています。実は、G20での米中会談が本当に開かれるかどうか
すら微妙になっているからです。
 こうした米中の衝突は、起きるべくして起きています。それは
単なる貿易問題ではなく、その本質は、米国をはじめとする資本
主義自由経済と中国の共産主義計画経済の対立であるからです。
このまま続ければ、おそらく中国共産党が倒れるまで続くことに
なります。この点について、既出の渡邊哲也氏の解説です。
─────────────────────────────
 本来、共産主義計画経済と資本主義自由経済は対立する概念で
す。政府資本と政府の統制による価格決定を基本とする共産主義
と民間資本と市場での価格決定を基本とする資本主義。「この2
つの概念のいいとこ取りをしたのが中国であり、政府主導による
資本の増大と、一部共産党資本家の投資により伸びてきたのが中
国経済です」(「」はEJ)
 そして、資産バブルにより拡張した「消費」が中国を支えてき
た半面、大きな矛盾を抱えたがために、他国との摩擦を生んでし
まったのはご承知のとおりです。資本主義のリーダーである米国
がこれを認めないとしたことで、歪(ゆがみ)が露見、中国の社
会構造を揺るがしているわけです。中国のこれ以上の経済拡張は
中国の軍事力の拡大を招き、同時に米国の覇権を脅かします。
 また、それは自由主義という価値観の敗北を意味します。この
本質があっての経済戦争であることから、米国は追撃の手を緩め
ないでしょう。        ──渡邊哲也著/ビジネス社刊
        『GAFAvs中国/世界支配は「石油」から
              「ビッグデータ」に大転換した』
─────────────────────────────
 この解説のなかで重要なのは「」の部分です。中国が体制を転
換していないのに米国は資本主義自由経済に引き入れ、それを最
大限に支援したのは、他ならぬ世界1位と2位の経済大国、米国
と日本であるといえます。そうすれば、中国が自ら体制変換をす
ると甘く考えたからです。
 かたちの上から見ると、中国にも民営企業があり、民主主義国
と同様の経営をやっているように見えます。実はそうではないの
です。何しろ中国は、国家主席、すなわち国のトップが共産党の
総書記に頭の上がらない国なのです。もちろん中国共産党総書記
と中国の国家主席では同一人(兼務)ですが、組織上どちらが偉
いかといったら、共産党の総書記の方が上なのです。
 同様に、民間企業といっても民間企業の取締役会の上に中国共
産党の支部があって、民営企業を含めたすべての企業が共産党の
支配下に置かれているのです。だから、外貨準備が不足した場合
政府の命令ひとつで、民間企業が海外に保有している資産を売却
してドルを獲得することが可能なのです。
 したがって、中国政府が国家情報法に基づいて、ファーウェイ
に情報提供を迫った場合、「それは拒否できる」といくらファー
ウェイの任正非CEOが断言しても、信用できるものではないの
です。ファーウェイのCEOも共産党員であるからです。
 共産主義と資本主義──本来、価値観の違う国同士が、経済運
営をうまくやっていけるはずがないのです。それぞれの文明社会
のなかで、別々にやっていくしかないのです。それなら、米国は
なぜ、体制変換のないまま、中国をWTO(世界貿易機関)に加
入させ、価値観の違う国との経済運営を許したのでしょうか。こ
れについて、石平氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 アメリカの中国に対する考え方は蒋介石時代、毛沢東時代から
不変で、中国が経済的な繁栄をものにすれば、西側の価値観を受
け入れるようになるという自分勝手≠ネ妄想でした。アメリカ
はずっと妄想を抱きながら、中国の近代化を支援し、アメリカの
市場を中国のために開放しできた。中国製品を目一杯購入し、無
制限に中国人留学生を受け入れてきました。アメリカに留学した
中国人がアメリカの価値観を母国に持ち帰る。そういう人たちが
中国の政治の主導権を握ったら中国は変わるだろうと。しかし、
実際にはすべて裏切られてしまった。       ──石平氏
            ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
     日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
─────────────────────────────
 米国が「中国はきっと民主主義国になる」という“妄想”を抱
くようになった原因は、日本での成功体験にあるという意見もあ
ります。敗戦国の日本は、米国の価値観を素直に受け入れ、米国
からの経済支援を受けて、世界第2の経済大国にまで経済発展を
遂げています。米国人から見ると、同じ東洋人であり、見た目も
よく似ているので、中国人も日本人も同じように見えたのだと思
います。
 米国の日本における統治がうまくいったのは、日本はアジアで
ありながら海洋国家であり、基本的な価値観は、英国に非常に近
いのです。したがって、大陸国家である中国とは基本的価値観が
異なるのです。これについて、石平氏は次のように「アメリカは
価値観の押し売りはやめるべきである」といいます。
─────────────────────────────
 中国にしてみれば、アメリカは自分たちの価値観を押し付けて
中国の体制を転覆しようと企んでいる。そう受け止めていた。そ
れで逆に中国はアメリカに対抗心を持つようになった。だから、
アメリカは、価値観の押し付け、押し売りはやめるべきです。
             ──石平×渡邊哲也著の前掲書より
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/016]

≪画像および関連情報≫
 ●米中貿易摩擦激化で広がる中国メディアの「忖度」
  ───────────────────────────
   トランプ大統領がツイッターでのつぶやきで予告した通り
  米国政府は5月10日、2000億ドル分の中国製品につい
  て関税をこれまでの10%から25%に引き上げた。米国に
  よる中国製品の関税引き上げは中国経済にどのような影響を
  もたらすのか。普段から付き合いのある中国国内の証券会社
  のアナリストに取材を申し込んだところ、返ってきたのは、
  「今回は応じられません」との答えだった。
   理由を問うと「みんなが答えていない中で、自分だけが話
  すのはちょっと・・・」。いつもの明快な口調が消え失せ、
  口ごもる様子には、はっきりと言えないが察してくれという
  空気がにじんでいた。
   米国政府は、10日の関税引き上げに続き、13日には、
  スマートフォンなど消費財を多く含む約3000億ドル分を
  制裁関税の対象とする「第4弾」の措置も発表した。それで
  も中国政府は外務省の耿爽副報道局長が「貿易戦争を恐れて
  はいない。最後まで付き合う」と述べるなど、強気の姿勢を
  崩さない。共同通信は、米中貿易交渉の緊張が一気に高まる
  キッカケとなった5日の米トランプ大統領のツイートの後、
  現地メディアに報道規制がかけられたと指摘している。指摘
  通り、主要紙やネットメディアではツイートを分析する記事
  を見ることはできなかった。その後、中国国内のメディアに
  よる報道は、基本的には中国政府の公式見解を繰り返すにと
  どまっている。         https://bit.ly/2YDFLLm
  ───────────────────────────

評論家/石平氏.jpg
評論家/石平氏
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2019年06月04日

●「中国国務院/長文白書で米国牽制」(EJ第5018号)

 6月2日のことです。中国国務院は、米国との貿易摩擦問題に
おける中国の立場を詳細に記述した白書を発表しています。
─────────────────────────────
【北京=西見由章】中国国務院(政府)新聞弁公室は2日、米中
貿易摩擦をめぐる中国の立場を詳述した白書を発表し、中国の核
心的利益に関わる「重大な原則的問題」については決して譲歩し
ない立場を改めて強調した。また貿易協議において米側が「中国
の主権に関わる強制的な要求を合意に盛り込むよう固執し、双方
の溝が埋まらなくなった」と非難した。
 白書は貿易協議に曲折を生じさせている原因を「米国の言行不
一致」と主張。中国側が既に約束した合意から後退したとのトラ
ンプ米政権の批判については「米側も要求を何度も変更した」と
反論した。さらに「対話のドアは開かれているが、戦いは徹底的
に受けて立つ」と言及。中国の内需は巨大で、「経済の見通しは
非常に楽観できる」とし、持久戦にも自信をみせた。
 中国当局は米物流大手フェデックスが中国の通信機器大手、華
為技術(ファーウェイ)の書類を無断で米国に転送したとされる
問題をめぐり、フェデックスの調査・立件を決定。また中国企業
に差別的措置をとった外国企業を「信頼できない組織」としてブ
ラックリスト化する方針も公表し、米企業を狙い撃ちにする姿勢
を強めている。           https://bit.ly/2KksW4t
─────────────────────────────
 この白書は、今後の米中関係について、きわめて重要なことを
訴えています。こういう白書が休日に発表されることはきわめて
珍しく、それだけ重要さを意味しています。中国のいわんとして
いることをまとめると、次の4つのポイントになります。
─────────────────────────────
 1.中国の体制変換に関わる重要な原則的問題については中
   国は絶対に譲らない。
 2.交渉決裂の原因は、要求を何度も変更し、エスカレート
   させた米国側にある。
 3.中国としては対話の窓口をつねに開けているが、戦うと
   いうなら受けて立つ。
 4.持久戦になっても、中国の内需は巨大で、経済の見通し
   は非常に楽観できる。
─────────────────────────────
 これによって大阪でのG20のさいの米中首脳会談の実現性は
きわめて困難になったといえます。首脳会談が実現できるかどう
かのボールはこれまで中国側にあったのですが、この白書の発表
で、ボールは米国側に戻されています。米国が首脳会談を求める
場合、白書の原則を認めることになり、会談が行われるかどうか
不透明な情勢です。
 しかし、2018年9月末にも中国は似たような白書を出して
おり、「関税のこん棒で脅されながらの交渉はできない」と王受
文商務次官は、エラソーに発言していましたが、その後中国経済
が悪化すると、11月には習近平国家主席がトランプ大統領に直
接電話を入れ、12月1日にブエノスアイレスで米中首脳会談が
行われたのです。10月に上海株が急落し、多くの中国企業が倒
産したからです。
 昨年末の会談の結果、数ヶ月の時間稼ぎができた中国は、増値
税(日本の消費税)を下げるなどの景気対策によって、一応経済
の減速が止まると、またしても白書によって自国の体面を保つ宣
言を行ったのです。しかし、4月の経済指標は軒並み悪化し、5
月の製造業の量況感は3ヶ月ぶりに50ラインを割っています。
とてもじゃないが、「経済の見通しは非常に楽観できる」という
状況ではないといえます。
 しかし、これとは別の見方があります。今回の白書はあくまで
国内向けであり、表向きの強気の姿勢のウラで、水面下で米国と
話し合い、米国寄りにかじを切る「プランB」を模索するという
ものです。何しろ相手は予測不能の行動を取るトランプ大統領で
あり、このまま抵抗を続けると、とことん最後まで追い詰められ
る恐怖を感じているからと思われます。
 中国は、最初は単なる貿易問題であると思っていたのです。そ
こで、習近平国家主席はトランプ大統領を国賓として中国に招待
し──どこかの国と似ていますが──米国から巨額の買い物をす
れば問題は解決できると簡単に考えたのです。
 しかし、そのこととは別ルートで、米国はファーウェイとの間
でいろいろトラブルになっていたのです。それがたまたまである
か、あえてであるかは不明ですが、18年12月1日の米中首脳
会談と同じ日に、ファーウェイ副会長の孟晩舟氏が、カナダで逮
捕されたのです。米国の要請のもとでの逮捕です。この時点で、
米中の貿易摩擦問題とファーウェイの問題が一緒になり、問題が
大きくなって、現在に至っています。ところで、ファーウェイの
孟晩舟容疑者は、何の容疑で逮捕されたのでしょうか。
 米国司法省は、孟晩舟副会長が、ファーウェイの秘密の子会社
「スカイコム」に米国が制裁措置を課しているイランとの取引を
実行させ、制裁逃れのために、米国の金融機関に虚偽の事実を告
げたとされる容疑です。現在も孟容疑者の身柄は、カナダにあり
ますが、米国に移送されると、30年の実刑をいい渡される可能
性があります。米国家経済会議のクドロー委員長は、これについ
て、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 対イラン経済制裁に関連してわれわれはファーウェイに、いく
ども警告してきた。アメリカはイランに経済制裁を課している。
イランはわれわれわの政策に反した行動を行っている。アメリカ
が制裁を課するのは当然だ。ただし、この(逮捕)がトランプ大
統領が決定した90日間の(対中制裁の)延期に影響を及ぼすと
は思わない。            https://tcrn.ch/2YWFC5Q
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/017]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ副会長、カナダで逮捕 米当局が要請
  ───────────────────────────
   カナダ司法省によると、孟容疑者は2018年12月1日
  にヴァンクーヴァーで逮捕された。米当局が孟容疑者の身柄
  引き渡しを求めているという。ファーウェイは、容疑に関す
  る情報はほとんどなく、「孟氏のいかなる不正も把握してい
  ない」と述べた。
   孟容疑者は、ファーウェイを創業した任正非氏の娘。同社
  によると、孟容疑者は航空便の乗り継ぎ中に拘束された。カ
  ナダ司法省の報道官は、7日に孟容疑者の保釈聴問会を開く
  としている。ただ同報道官は、孟容疑者からの要請を受けて
  裁判所が報道禁止を命じているとし、詳細については発言し
  なかった。
   米メディアは、米国のイラン制裁に違反した疑いでファー
  ウェイが捜査を受けていると伝えている。また、ファーウェ
  イの技術はスパイ目的で中国政府に利用される可能性があり
  米国の国家安全保障の脅威になるとして、米議員らも同社を
  繰り返し非難してきた。
   ファーウェイは声明で、「事業展開している地域の輸出規
  制や制裁に関する法律、さらに国連(UN)や米国、欧州連
  合(EU)の法規を含む、あらゆる関連法を」同社は順守し
  ていると述べた。「当社は、カナダおよび米国の法制度が最
  終的に公正な結論に至ると信じている」
                  https://bbc.in/2XmFH26
  ───────────────────────────

中国国務院/米中貿易摩擦問題のスタンス表明.jpg
中国国務院/米中貿易摩擦問題のスタンス表明

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2019年06月05日

●「孟晩舟氏はスパイの元締めである」(EJ第5019号)

 6月3日の「BSフジ/プライムニュース」では、後編で米中
問題が取り上げられました。そのテーマと出席者、要約ビデオを
ご紹介します。
―────────────────────────────
  「中期化か米中新冷戦」/6月3日/プライムニュース」
  出演者:小森義久/ 産経新聞ワシントン駐在客員特派員
      安井明彦/   みずほ総合研究所欧米調査部長
      朱 建栄/         東洋学園大学教授
      冨坂 聡/    拓殖大学海外事情研究所教授
                要約ビデオ:22分30秒
                 https://bit.ly/2WCAztT
─────────────────────────────
 この出演メンバーを見ると、小森義久氏は米国の視点から中国
問題を論ずる第一人者であり、、安井明彦氏は米国、中国のどち
ら寄りでもない中間派です。これに対して、朱建栄氏は中国人の
評論家であり、当然のことながら中国の立場の代弁者です。かな
りあくが強く、強引な発言をする人物です。
 冨坂聡氏は中国問題の専門家であり、中国に関する多くの著作
があり、私は何冊も富坂氏の本を読んでいます。しかし、中国の
評論家はほとんどそうですが、中国に対する発言のトーンは抑え
気味です。あまり、中国にとってきつい発言をすると、おそらく
情報の入手に影響が出るものと考えられます。
 ところで、要約ビデオではカットされていますが、ファーウェ
イの問題を巡って、小森氏と冨坂氏が激しく対立したシーンがあ
ります。それは、小森氏の「冨坂さんの情報は古い」という発言
に対して、冨坂氏が激しく反論したのです。
 小森氏によると、ファーウェイによる情報窃盗やスパイ行為な
どのトラブルは、目に余るものであり、米国議会では10年以上
にわたって問題視され、議論されてきた問題なのです。したがっ
て、米国はこの問題に関しては絶対に譲れないし、極端なことを
いうと、米中の安全保障をめぐる議論は、中国共産党が倒れるま
でつづくといっても過言ではないといいます。ちなみにこの問題
について与野党(共和党/民主党)の意見は一致しており、米国
の総意であることを小森氏は強調しています。
 朱建栄氏は、ファーウェイに関する複数の裁判がいずれも有罪
に認定されていないと主張し、5月30日のEJ第5015号で
も取り上げた米CNBC記者によるポンペオ国務長官への「証拠
を示せ」との質問にポンペオ長官が答えられない事実を指摘して
います。そして、中国に5G技術で先を越されて米国は焦ってお
り、同盟国にファーウェイ排除を呼びかけているに過ぎないと発
言しています。
 この朱建栄氏の発言には問題があります。国際法を順守し、同
じルールでの競争で、5G技術において中国が米国を上回ったの
であれば、米国はその技術を中国から積極的に受け入れ、活用す
るはずです。
 そうではないのです。ペンス副大統領の演説でも述べられてい
るように、南シナ海における人工島の建設のように、国際的なル
ールを守らず、自国の論理だけでものごとを強引に押し進め、あ
まつさえサイバー技術を駆使して、情報を窃取しようとする──
これでは、たとえ5Gのパーツにそういう細工がしていなかった
としても、中国政府にきわめて近い企業であるファーウェイの製
品を使うのを躊躇う国が多く出てくるはずです。要するに信用で
きないのです。
 カナダで逮捕された孟晩舟副会長についても、多くの謎があり
ます。新聞報道にもあったように、孟晩舟氏には離婚歴があり、
7つのパスポートを所有していたとされています。しかも、彼女
には4人の子供がいるのです。
 中国は一人っ子政策を執っているのに、なぜ4人の子供を持つ
ことができたのでしょうか。しかも、それらの子供たちは、世界
各国に分散して住んでいます。そのことひとつとっても、中国の
トップクラスでないと不可能なことです。これだけでも、ファー
ウェイという企業が普通の民営企業でなく、中国政府に近い特権
階級であることがわかります。
 7つのパスポートは、中国、香港、カナダとあと4つは、中国
のパスポートで別名だそうです。これは、国家安全部との関連で
しか発行されないので、これだけで孟晩舟氏がスパイの元締めで
ある可能性が濃くなります。これは、ファーウェイに関する重要
事実といえます。
 中国の専門家を自称するなら、こういう事実こそ明かして欲し
いものです。この事実を指摘したのは、中国ウオッチャーとして
知られる宮崎正弘氏です。宮崎正弘は、「ファーウェイという企
業は、謎だらけである」として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 バンクーバーに孟晩舟は3軒の豪邸を持ち、不動産業界で「大
豪邸」のカテゴリーに分類されるほどの物件ばかり。広い庭付き
数台のガレージ、3階建ての英国風。ただし、夫名義で登記され
ている。孟女史はカナダ永住権を持ち、保険証を保持し、カナダ
で税金も納めていたとされる。また4人の子供たちは香港、探せ
ん、バンクーバー、マサチューセッツ州にばらばらに住んでいて
前夫との間にできた長男だけがバンクーバーにいるようだが、孟
晩舟とは別の住まいである。
 さて、孟晩舟の父親でもあり、ファーウェイの創業者の任正非
(74歳)、実は2日遅れて、バンクーバー経由でアルゼンチン
に向かう予定だった。娘の拘束を開いて任正非は海外出張を取り
やめた。つまり米国の狙いは娘ではなくファーウェイ最高経営責
任者(CEO)の任正非その人だったのである。──宮崎正弘著
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融機器が始まる』
                       ビジネス社刊
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/018]

≪画像および関連情報≫
 ●8つのパスポートを持つ孟晩舟を「スパイじゃない」と中国
  ───────────────────────────
   米国の要請を受けてカナダ当局に拘束された中国通信機器
  大手・ファーウェイの孟晩舟(モウ・バンシュウ)最高財務責
  任者(CFO)は、中国や香港のパスポートを計8通以上所持
  していたとされ、中国当局による「特別扱い」に、注目が集
  まっている。
   カナダ政府の訴追資料によると、孟CFOは過去11年間
  に、中国の旅券を4通、香港の旅券を3通、計7通発給され
  ていた。さらに、香港紙『明報』は、孟CFOが7通とは別
  に中国の「公務普通旅券」を所持していたと報道している。
   計8通のうち、香港旅券の2通は異なる名前とされる。孟
  CFOが海外での信用が低い中国のパスポートを使うことで
  その活動を捕捉されることを懸念し、中国政府の指示で複数
  の旅券を使い分けていた可能性がある。つまり孟CFOは、
  中国の諜報員(スパイ)であることを複数のパスポート所持で
  証明してしまっているわけだ。
   「中国外務省の陸慷(リク・コウ)報道局長は、12月10
  日の定例記者会見で、『孟氏が中国国民であることは明らか
  だ。(旅券は)この事件の核心でも根本の問題でもない』とし
  て、旅券の発給記録など事実関係の確認には応じませんでし
  た。要は旅券の複数保持を否定していないわけで、スパイと
  いう問題を不当逮捕=人権問題に置き替えようとしているわ
  けです」(国際ジャーナリスト)  https://bit.ly/2EQjVNk
  ───────────────────────────

6月3日/BSフジ「プライムニュース」.jpg
6月3日/BSフジ「プライムニュース」
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2019年06月06日

●「ファーウェイ排除と新COCOM」(EJ第5020号)

 「ファーウェイがスパイ工作をしているという証拠を示せ」と
いう問いに対して、米国は一切応じていません。先の「プライム
ニュース」で、朱建栄東洋学園大学教授は、米国がその問いに応
えていないという事実をもって、「ファーウェイはスパイではな
い」と主張していましたが、これはおかしな論理です。
 米国にいわせれば、ファーウェイが怪しいという事例は、過去
にいくつもあるからです。国際ジャーナリスト、山田敏弘氏のレ
ポートによると、2017年には、エチオピアに拠点を持つアフ
リカ連合(AU)の本部コンピュータシステムから、過去5年間
にわたって、毎晩、真夜中の0時から午前2時の間に、機密情報
が上海に送信されていることが判明しています。このシステムは
中国政府がファーウェイ製の機器やケーブルなどを使って、設置
したものといわれています。
 また、2014年には、オーストラリアの大手企業が、会社の
ネットワークから、ファーウェイ製品を介して不正にデータが中
国に送られていることを発見したといわれています。それ以降、
オーストラリア政府は、政府関係機関や大手企業などで、ファー
ウェイ機器を使わないよう通達を出しています。同じような事例
は、オランダでも、イタリアでも見られるのです。
 それでは、米国はなぜ証拠を示さないのかについて、国際ジャ
ーナリストの山田敏弘氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 そもそも必要とあれば、国民の代表である議会議員らが連邦議
会の委員会できちんとした捜査を行うことになる。現状、米国内
では、その必要性すら議論されていない。過去にファーウェイが
米国のメーカーなどから機密情報を盗んできた証拠もあるし、そ
れはファーウェイ側も否定しないはずだ。そんな背景からも、米
国側に言わせれば、今のところスパイ工作や中国政府とのつなが
りを証明するまでもない。
 さらに付け加えれば、ある元情報関係者は、こんな「可能性」
を筆者に話していた。「もし米国が新たにファーウェイによるス
パイ工作などのハードエビデンス(動かぬ証拠)を持っていたと
しても、それが米国側から中国に対するサイバー攻撃やハッキン
グなどで得たものならば、公表はできるはずがないですね。それ
自体が、機密作戦だからです」    https://bit.ly/2wBbWPp
─────────────────────────────
 米国は何といってもIT大国です。中国のサイバー攻撃を鋭く
批判しますが、米国もやっているのです。情報が盗まれたとなれ
ば、あらゆる方法を使って、それを確かめるために、サイバー技
術やハッキングを駆使することもあるはずです。仮にサイバー技
術によって、中国の不正を発見したとしても、それを証拠として
示すことはあり得ないのです。中国側もそれがわかっているので
あえて「証拠を出せ」といっている可能性があります。そうなる
と、裁判の結果もはっきりとしないものになります。
 既出の山田敏弘氏は、ファーウェイは相手に「証拠を示せ」と
いうのではなく、自身がさまざまな情報を開示して、同社の製品
には何の問題もないということを示すべきではないかといってい
ます。そして、それをきちんとやったケースとして、サムスンの
「ギャラクシーノート7」発火事件の後処理のケースを上げて、
次のように述べています。
─────────────────────────────
 2016年に韓国サムスン電子製スマホである「ギャラクシー
ノート7」が火を噴いた事件を覚えているだろうか。当時サムス
ンは、その大打撃から挽回するために、客観的に調査を行う外部
の専門家を雇い、徹底した内部調査を開始。その結果を広く公表
することで、自社製品の安全性を訴えた。さらに、欧米などのさ
まざまなメディアをバッテリー工場に招き、取材もさせた。そう
することで、安全性と再発防止に向けた意思を対外的にアピール
した。ファーウェイも本部で開催する記者会見にメディアを呼ぶ
だけでなく、きちんと情報を開示するなどして「後ろめたいこと
はない」ということをアピールすべきではないだろうか。
                  https://bit.ly/2Z47cy7
─────────────────────────────
 このようなトランプ米政権によるファーウェイ排除の政策は、
かつてのソ連に対するココム(COCOM)の復活ではないかと
いう見方もあります。米ソ冷戦時代、ソ連が米国に追いすがらん
とするのを技術面で蹴落とすため、米国は共産圏諸国への先端技
術の輸出を規制しています。
 COCOMとは「対共産圏輸出統制委員会」のことで、100
品目以上の軍事技術関連物質で、特定の性能を超えるもののソ連
を中心とする共産圏への輸出を禁止したのです。これは先進国間
の紳士協定で、各国は制限品目をその性能とともに、自国の法律
に明記し、これを越えるものを企業が輸出する場合には、各国政
府の許可取得を義務付けたのです。
 1982年のことです。東芝機械は、制限を越える性能の工作
機械をソ連に輸出したことにより、東芝機械は、全米から袋叩き
にあったのです。なぜなら、東芝機械の工作機械の輸出によって
ソ連の潜水艦のスクリュー研磨精度が顕著に向上し、雑音が生じ
なくなったことで潜水艦の探索が難しくなったからです。
 このココムという仕組みは、結果として、ソ連経済の足を大き
く引っ張り、ソ連を崩壊に導いたのです。実は、ココムは、「チ
ンコム(CHINCOM)」というかたちで中国にも適用されて
いたのですが、米国や日本はソ連ほど厳しく適用していなかった
のです。なぜなら、当時の中国は、スポーツ・シューズを作るの
がせいいっぱいの技術レベルであり、安全保障的な脅威をぜんぜ
ん感じていなかったからです。この西側先進国の大いなる油断が
現在の化け物のような中国をつくってしまったのです。今の中国
を作ったのは、世界第一の経済大国の米国と当時2位の経済大国
の日本であるといっても過言ではないのです。
              ──[中国経済の真実/019]

≪画像および関連情報≫
 ●「徹底してエビデンスを出して排除すべき!」
  ───────────────────────────
   報道プライムサンデーのご意見番、落合陽一氏(ピクシー
  ダストテクノロジーCEO)がこう表現するのは、中国の通
  信機器大手、ファーウェイ(華為技術)の孟晩舟副会長逮捕
  を巡る問題だ。
   ファーウェイは現在、スマホの販売台数シェアでアップル
  社を抜き世界第2位のグローバル企業。1987年、中国人
  民解放軍出身の任正非氏が創業した。今回逮捕された容疑者
  は、任氏の娘で次期CEOの有力候補とみられる人物だ。落
  合氏は次のように語る。
   「これは国際的な貿易の対立なのか、経済的な対立なのか
  もしくは安全保障上のものなのか、三つ巴の関係になってい
  て、どうしようもない」
   今回の事件の背景に、いったい何があるのか?2018年
  12月16日放送の報道プライムサンデーでは、ファーウェ
  イの成長の軌跡から、問題の真相と今後に迫った。
   佐藤雅俊氏が入手した情報によれば、日本の、ある法人向
  けのファーウェイ製スマホを分析したところ、スパイウェア
  が発見されたという。これはユーザーが知らない間に、遠隔
  操作でネットの閲覧履歴情報などを盗んだり、マイクのスイ
  ッチを入れてユーザーの会話を盗み聞きしたりすることがで
  きるソフトで、スパイの様な動きをする“悪質”なものであ
  るという。佐藤氏は「ファーウェイが(情報を)取っている
  のではなく、中国政府が取っていると思われる。防衛関係の
  技術や日本の最先端の技術を搾取して中国の繁栄にいかそう
  と」と続ける。         https://bit.ly/2HUH7M0
  ───────────────────────────

山田敏弘氏/国際ジャーナリスト.jpg
山田敏弘氏/国際ジャーナリスト
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2019年06月07日

●「米議会は中国に怒りを溜めている」(EJ第5021号)

 ロシアと中国──米国は、これら2つの大国と事実上の「軍事
対立」を行っています。もちろん直接戦火を交えたわけではあり
ませんが、軍事的に対立をしていることは確かです。
 ロシアとは、2014年のソチのオリンピック直後に行われた
クリミア紛争において対立を深め、中国とは、中国が領有権を主
張する南シナ海で、2012年から航行の自由作戦を頻繁に行い
中国と対立しています。これらは、いずれも「軍事対立」であり
安全保障を全てのことに優先させる米国は、今後「冷戦」という
名の「平和」を求めて行くことになります。こうなった以上、米
国が新ココム的措置をとることは必然であるといえます。
 この新ココム的措置について、既出の宮崎正弘氏は次のように
述べています。
─────────────────────────────
 米国の新ココム的な措置は、米議会が、2018年に可決した
「2019年度国防権限法/NDAA2019」が基本にある。
規制されるのはAI(人工知能)、バイオ、測位テクノロジー、
マイクロプロセッサー、次世代コンピュータ、データ分析技術、
ロボット、先端的材料など。その多くは日本企業に関連が深く、
ましてIC(集積回路)などは米国の基本特許であるケースやク
ロス・ライセンス契約による技術が目立つため、実際には米国が
国防権限法の運用を強めれば強めるだけ、日本企業の対中輸出も
自動的に縮小する。韓国、台湾も同様な影響を受ける。
               ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融機器が始まる』
─────────────────────────────
 ホワイトハウスのなかには次の組織が誕生しています。共和、
民主を問わず、超党派の議員が要請して誕生したのです。
─────────────────────────────
           枢要技術安全室
─────────────────────────────
 「枢要技術安全室」とは何でしょうか。
 これは、共和、民主を問わず、超党派の議員──米上院情報特
別委員会のウォーナー副委員長(民主党)と同委に所属するルビ
オ上院議員(共和党)などが中心になって提出した法案です。別
にトランプ大統領が指示したわけではないのです。枢要技術安全
室は、中国などによる先端技術のスパイ行為や米国から中国への
技術移転など、米国の安全保障を脅かす行為に対抗するための関
係省庁の取り組みを統括する組織です。
 日本のメディアでは、一般的にトランプ大統領を、やることが
ハタメチャで、何をするかわからない予測不能な大統領と捉えて
います。中国に対する一連の厳しい姿勢も、そういう性格から出
てきているものと中国も考えています。したがって、次の大統領
選挙で民主党に政権交代したら、中国に対する姿勢も大きく変化
するだろうと甘く考えています。米国との貿易摩擦について中国
が、トランプの次の大統領を念頭に、持久戦に持ち込む戦略をと
ろうとしているのは、そのためです。
 しかし、これは間違っています。こと中国に関しては、トラン
プ大統領よりも議会の方がはるかに厳しいのです。その例として
トランプ政権が中国の通信機器メーカーであるZTEの制裁を解
除したことへの議会の強い反発があります。ZTEをめぐるいき
さつについて既出の山田敏弘氏は次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 米政府は18年4月、対イラン・対北朝鮮の制裁に関連する合
意にZTEが違反したとして、米国企業にZTEとの取引禁止措
置をとった。これによって、半導体など基幹部品を調達できなく
なったZTEは、スマホなどの生産ができなくなってしまった。
追い詰められたZTEは、習近平国家主席に泣きつき、トランプ
への口利きを要請。結局、ZTEはトランプに屈して、10億ド
ルの罰金を支払った上で、今後10年間、米国の内部監視チーム
を入れることにも合意した。     https://bit.ly/2Wtz4Pp
─────────────────────────────
 トランプ大統領は、ZTEとビジネスをしたのです。しかし、
議会は「それは許さない」と怒っています。トランプ大統領は、
ファーウェイに関しても、ZTEのスタイルでビジネス的な解決
を考えているようですが、米議会ではそれに対し、強く警戒して
いるといわれます。これに関連して、渡邊哲也氏は、小森義久産
経新聞ワシントン駐在客員特派員のレポートを取り上げ、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 小森義久氏によると、ワシントンではこのところ中国に関して
「統一戦線」という用語が頻繁に語られているといいます。統一
戦線とは、「統一戦線工作部」という中国共産党内の内部組織を
指しますが、これは共産党が他国を侵略するために、その国のあ
らゆる組織に入り込み党の意図する方針へ誘導することが目的で
す。つまり、米国内における各界から中国による工作が行なわれ
ていることを指摘する声が高まっているわけです。たとえば、半
官半民のシンクタンク「ウィルソン・センター」によると、「米
国の主要大学は長年、中国政府工作員によって中国に関する教育
や研究の自由を侵害され、学問の独立への深刻な脅威を受けてき
た」といいます。(中略)もはや中国の脅威が抜本的に取り除か
れるまでは、この路線は継続されると中長期的に見たほうがいい
でしょう。少なくとも、トランプ大統領だけの問題ではないこと
が明らかにされたのです。   ──渡邊哲也著/ビジネス社刊
        『GAFAvs中国/世界支配は「石油」から
              「ビッグデータ」に大転換した』
─────────────────────────────
 小森氏がこのレポートで訴えているのは、米国の主要大学にお
いて、中国政府工作員による中国に関する教育や研究の自由が侵
害されていることへの危機感です。それは、極めて深刻な事態に
なっているのです。     ──[中国経済の真実/020]

≪画像および関連情報≫
 ●海外に魔の手を伸ばす中国の「統一戦線工作」
  ───────────────────────────
   「統一戦線を組もう」とは、仲間内の日常会話でも使われ
  る表現である。しかし、国際政治の場において、外交戦、情
  報・世論戦、謀略戦、懐柔策などを複雑に絡めて展開される
  「統一戦線工作」は、奇々怪々として、国家に深刻な問題を
  投げかける。というのも中国が習近平政権になって、海外に
  おける「統一戦線工作」を一段と強化しているからである。
   先日、中国の「『統一戦線工作』が浮き彫りに」という米
  国からの記事(「古森義久のあめりかノート」、産経新聞、
  平成30年9月23日付)が掲載された。
   詳細は、この後に譲るとして、米国では、統一戦線方式と
  呼ばれる中国の対米工作に関する調査報告書が発表されたこ
  とをきっかけに、習近平政権が「統一戦線工作」によって米
  国の対中態度を変えようとしていることが明らかになった。
  そして、米国全体の対中姿勢が激変し、官と民、保守とリベ
  ラルを問わず、「中国との対決」が、米国のコンセンサスに
  なってきたというものである。「統一戦線工作」とは、本来
  革命政党である共産党が主敵を倒すために、第3の勢力に意
  図や正体を隠しながら接近・浸透し、丸め込んで巧みに操り
  その目的を達成しようとする工作である。
                  https://bit.ly/2HZCWPm
  ───────────────────────────


小森義久氏.jpg
小森義久氏


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2019年06月10日

●「孔子学院が次々と閉鎖されている」(EJ第5022号)

 2019年6月8日の朝日新聞は、第1面と第2面で、「孔子
学院」を次のような見出しをつけて取り上げています。
─────────────────────────────
 ◎第1面/米中争覇
  「孔子学院」米安保の脅威?/中国を警戒次々閉鎖
 ◎第2面/米中争覇
  FBI長官「スパイ活動懸念」
  孔子学院への圧力超党派に/米教授会「閉鎖は非合理的」
          ──2019年6月8日付、朝日新聞朝刊
─────────────────────────────
 「孔子学院」排除は、新COCOMと関係があります。孔子学
院とは何でしょうか。ウィキペディアによると、孔子学院は次の
ように説明されています。
─────────────────────────────
 孔子学院(こうしがくいん)とは、中華人民共和国が海外の大
学などの教育機関と提携し、中国語や中国文化の教育及び宣伝、
中国との友好関係醸成を目的に設立した公的機関である。教育部
が管轄する国家漢語国際推進領導小組弁公室が管轄し、北京市に
本部を設置し、国外の学院はその下部機構となる。孔子の名を冠
しているが、あくまでも中国語語学教育機関であって、儒学教育
機関ではない。 ──ウィキペディア https://bit.ly/2Itf31p ─────────────────────────────
 孔子学院といっても儒教を教えるわけではなく、中国語や中国
文化を教える教育機関です。中国が海外の大学などと提携を結び
2004年から国家プロジェクトとして、スタートさせたもので
す。孔子学院が大学にとって魅力的なのは、米国のケースですが
孔子学園開設時に学校に10万ドル〜20万ドルを提供し、教室
の建設や講師の費用は中国が負担するという点です。つまり、中
国丸がかえの教育機関であり、中国語の授業を増やしたいが、資
金難で対応できない大学にとって、まさに渡りに船のおいしい話
なのです。2018年12月末の時点で、147ヶ国・地域に計
548校が開設されています。なかでも米国は、最多の105校
もあり、日本にも15校あります。
 ちなみに、孔子学院と似たような組織は、中国以外にもありま
す。ゲーテ・インスティテュート、ブリティッシュ・カウンシル
なども、それぞれの政府の運営するものです。他に、「フランス
学院」というのもあるといわれています。しかし、中国の孔子学
院は、他国のものといささか異なるのです。
 これらの孔子学院は、中国教育省傘下の国家漢語国際推進領導
グループ弁室(漢弁)の傘下の機関として、位置づけられていま
す。つまり、海外のすべての孔子学院は、中国政府によって、完
全にコントロールされているのです。こういう状況なので、教え
るカリキュラムやテキストなどはすべて中国主導で決められてお
り、大学に対しても一切開示されていないのです。
 中国から派遣される講師は、漢弁との間で「中国の国益を害す
る行為に関与すれば契約を打ち切る」とする誓約書にサインさせ
られているので、台湾独立問題や天安門事件などは、絶対に取り
上げることはないのです。要するに、孔子学院は中国政府による
政治宣伝のプロパガンダ機関なのです。
 中国共産党政治局常務委員の劉雲山氏は、孔子学院について次
のようにいっています。
─────────────────────────────
 孔子学院は、中国の文化戦争の戦場であり、かならず中国が使
用している教材を使用し、中国的社会主義を世界に拡大する目的
がある。             ──劉雲山政治局常務委員
                  https://bit.ly/2Itf31p ─────────────────────────────
 米中貿易戦争が始まる前にも、各国で孔子学院の閉鎖は起こっ
ています。これについては、2014年7月4日発行の「宮崎正
弘の国際ニュース・早読み」で宮崎氏が、カナダのケースを取り
上げ、次のように述べています。
─────────────────────────────
 カナダのトロントにある「孔子学院」の前でPTAがプラカー
ドを掲げて、反対運動を展開している。カリキュラムの偏向を問
題視しているのだ。
 そもそも「孔子学院とは孔子に名を借りて中国共産党の宣伝を
している。教育目的を逸脱し、子供らの教育に向上に役に立たな
い」とするカナダ市民、とくに中国系住民の抗議が教育委員会に
集中していた。カナダへ移住した中国人は共産党をきらって国を
捨てた人々が多い。トロント教育委員会は、「孔子学院の9月再
開」を暫定的に中止させる動機を圧倒的多数で可決させた(14
年6月25日、EPOCH TIMES)。決議案は、付帯条件
として「もし再開させるのであれば、教材の公開を義務付ける」
とした。
 トロントの孔子学院は2011年に37名の教職員が中国に招
待され、五星ホテルと豪華レストランで連日もてなされてきた。
そのあげくにカナダに孔子学院が開設された経緯がある。まるで
中国政府の出資による文化戦争の先兵として、利用されていると
批判が渦巻いていたのだ。      https://bit.ly/1qsFuWp
─────────────────────────────
 孔子学院をスパイ機関として決めつける見方もありますが、そ
うではないと思います。それは諜報機関の仕事であって、孔子学
院の仕事ではないのです。むしろ、中国の「中華思想」を指導す
ることによって、その国のなかに「中国の親派」をつくり、将来
のスパイ要員として育てようとしているのではないかと考えられ
るのです。
 しかし、米中の貿易戦争が起きると、いわゆる「統一戦線」の
一環として孔子学院がとらえられ、各大学での孔子学院の閉鎖が
次々と起きる事態となっているのです。
              ──[中国経済の真実/021]

≪画像および関連情報≫
 ●中国語学習の孔子学院、米で閉鎖続く 対立で排除の動き
  ───────────────────────────
   中国政府が米国内の大学と提携して設置した中国語学習の
  教育機関「孔子学院」の閉鎖が、相次いでいる。2018年
  12月10日には、ミシガン大が来年の閉鎖を表明。今年に
  入り、閉鎖決定は6校目となった。米政界では「中国共産党
  の宣伝機関」「学問の自由が脅かされる」などと、批判が強
  まっており、中国のソフトパワーを排除する動きが広がって
  いる。ミシガン大の担当者は朝日新聞の取材に対し、同大学
  は2019年に期限を迎える孔子学院との契約を更新しない
  ことを明らかにした。すでに中国側には大学の方針を伝えた
  という。
   全米学者協会(NAS)によると、米国内の孔子学院の設
  置は05年3月にメリーランド大を皮切りに始まり、12月
  現在、100の総合・単科大学に設置されている。米メディ
  アによると、孔子学院が米国の大学で増え始めたのは景気後
  退の時期と重なる。中国政府が資金提供をするため、大学側
  にとっては自己負担を抑えて中国語授業を提供できるとして
  重宝されてきた経緯があるという。
   しかし、14年になって風向きが変わり始める。米国大学
  教授協会(AAUP)は同年6月、孔子学院は、中国政府の
  政治的主張と強く結びついているとして問題視し、「孔子学
  院は中国政府の一機関であり、『学問の自由』を無視してい
  る」と批判。孔子学院をめぐって大学側と中国側が交わす契
  約の中で、中国側が「学問の自由」を認め、契約の透明性の
  向上に応じなければ孔子学院の契約を打ち切るよう求めた。
                  https://bit.ly/31gvWoH
  ───────────────────────────

孔子学院の開設.jpg
孔子学院の開設

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2019年06月11日

●「米議会のパンダハガーは殆ど消滅」(EJ第5023号)

 現在のFBI長官は、クリストファ・レイ氏です。そのレイ長
官は、ちょうど1年前に次の発言をしていたのです。
─────────────────────────────
 我々は孔子学院を注視している。いくつかの事例は捜査段階
 にある。              ──レイFBI長官
─────────────────────────────
 レイ長官のところには、孔子学院に関する不穏な情報が入って
いたので、このような発言をしたのです。それから1年が経った
4月下旬、レイ長官は、1年前よりもっと具体的に、次のような
警告発言をしています。
─────────────────────────────
 中国のスパイ活動ほど深刻な脅威はない。彼らは情報機関や
 国営企業、民間企業を始め、大学院生や研究者ら様々な人々
 を使って情報を盗んでいる。我々は、孔子学院を懸念してい
 る。         ──クリストファ・レイFBI長官
            2019年6月8日付、朝日新聞朝刊
─────────────────────────────
 「パンダハガー」という言葉があります。「パンダを抱く人」
という意味です。「パンダ=中国」と考えると、中国の外交工作
の手中に嵌って親中に傾倒している国、外交官、国会議員、すな
わち、親中派のことを指す言葉です。
 孔子学院は、感受性の強い世界中の若者に、中国を否定せず、
中国にシンパシイを感ずる人になってもらいたい──そういう親
中派を世界中に作るのが孔子学院の狙いなのです。
 世界中の国に拡がるパンダハガー、とくに米国の現状について
渡邊哲也氏は次のように述べています
─────────────────────────────
 アメリカはトランプ大統領の対中政策に対して共和党で95%
民主党では3分の2が「まだ生ぬるい」と考えて、ファーウェイ
やZTEへの規制強化を求めているのが現状です。さらに昨年の
中間選挙後は親中国派というか、パンダハガーが壊滅的に減り、
全議員中で微々たるものになっています。
            ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
     日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
─────────────────────────────
 トランプ大統領の支持率は、就任当時は30%台、しかし就任
直後の2月には46%に上昇しています。これはご祝儀相場とい
われています。案の定その後は大きく下がっています。
 その後は37%〜40%で推移していましたが、2019年に
入ると上昇をはじめ、米調査会社ギャラップが4月17日〜30
日に実施した調査で過去最高の46%になったのです。これには
ロシアとの共謀がシロだったことや、経済指標の改善などが原因
に上げられますが、中国に対する関税を使った強気の貿易交渉と
けっして無関係ではないのです。
 昨年11月の中間選挙において、キリスト教福音派のペンス副
大統領の活躍により、いわゆる「パンダハガー」の議員は、ほと
んど排除され、現状は微々たる状態になっています。ペンス副大
統領は、ガチガチの反中国派であり、それは、中間選挙前の10
月4日に行われた「ペンス演説」によっても明らかです。
 一見強硬にみえるトランプ大統領のやり方は、共和党、民主党
ともに生ぬるいと考えており、こと対中国に関しては、超党派な
のです。このように、中国にとっては、現在、誠に厳しい状況に
なっています。
 スパイ拠点といわれている孔子学院の排除に関して渡邊哲也氏
は、次のように述べています。米国の安全保障に基づき、関連す
る中国人の排除がはじまっています。
─────────────────────────────
 米国の留学生ビザはこれまで5年だったものが、1年の更新に
変わりました。特に米国の国防に関する技術や先端技術にかかわ
る部分に関しては、いっそうの中国排除が始まっています。米国
の国防技術を扱うすべての企業に対して、中国人の採用を制限す
るよう要請しています。また関係各国にも米国の「国防権限法」
に基づき、同様のことを要請し始めています。安全保障や軍事分
野から中国人がどんどん追い出されていることになります。これ
はもう完全に次のCOCOM前哨戦と言えるでしょう。
               ──渡邊哲也著/ビジネス社刊
        『GAFAvs中国/世界支配は「石油」から
              「ビッグデータ」に大転換した』
─────────────────────────────
 ここまでの米中貿易戦争によって、中国経済は今後どういう状
況になっていくでしょうか。
 物価高と株安、通貨安が起きています。通貨安については、中
国人民銀行(中央銀行)は、利下げを含めて大々的な金融緩和に
踏み切らざるを得ない状況にあり、しかも外貨準備は激減してい
るので、通貨の大量供給は必然的に人民元安へと導くことになり
ます。中国としては、資本規制、とくにドル送金やドルの持ち出
しが極度に規制されることになります。宮崎正弘氏も、次のよう
に述べ、中国発の金融恐慌が起こりかねない状況と懸念を示して
います。少なくとも市場はこのように判断しています。
─────────────────────────────
 中国人民銀行(中央銀行)は、ドルの裏付けのない人民元をじ
ゃかすかと印刷しているが、産経新聞の田村秀男氏の試算によれ
ば「外貨資産の64%しかドルの裏付けがない」という寒々しい
状態、暴落前夜の様相になってきた。つまり残りの36%は通貨
の垂れ流しをしていることになり、この意味するところは人民元
の大暴落である。       ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融機器が始まる』
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/022]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプはなぜ中国を貿易で追い込もうとするのか?
  ───────────────────────────
   日本の10連休が続いている間にアメリカの株価は上がり
  続けていました。どうもアメリカ経済は底堅いということで
  特に政府が3日に発表した前月4月の雇用統計は、驚異的な
  数字でした。農業部門を除く新規の雇用者数が26万人強の
  増加となり、予想を8万人近く上回ったのです。この結果、
  失業率は3・6%まで下がりました。
   リーマンショック後の株安に沈んだ2009年の秋には、
  10%の大台に乗っていたこともあることを思うと隔世の感
  があります。この3・6%というのは、1969年以来とい
  うのですから恐れ入ります。
   トランプ政権は、ここへ来て「弾劾訴追」を受けることは
  なかったものの、独立機関として設置された特別検察官のレ
  ポートが公表される中で苦境に立っていました。ロシアとの
  「共謀ほどではないが協調」をして、ヒラリーを陥れようと
  したこと、「司法妨害」として立件できるほどではないが、
  「FBIや司法省に圧力」を掛け続けたことを暴かれて、支
  持率が下がっていました。そんな中で、これだけ素晴らしい
  雇用を実現し、そうした実体経済の好調を受けて株価も好調
  というのはラッキーとしか言いようがありません。大統領は
  自分の政策の成果だと自画自賛していますが、本当に政策の
  成果なのかどうかはともかく、経済が結果オーライであれば
  2020年の大統領選での再選は視野に入ってきます。
                  https://bit.ly/2ZgV24Z
  ───────────────────────────

クリストファ・レイFBI長官.jpg

クリストファ・レイFBI長官
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2019年06月12日

●「G20で米中首脳会談はできるか」(EJ第5024号)

 米国の「中国排除」はかなり本気です。米中通商協議でも、知
的財産権などの構造協議への確実な対応を中国に求めており、そ
の実効性が担保されない限り、中国とは合意しないと、ライトハ
イザー米通商代表部代表は、3月12日に、上院財政委員会で証
言していることから、その本気度が読み取れます。
 それは、中国側も十分理解しており、当初はそれに対応するた
め、「外商投資法」を自主的に成立させるなど、米国側に大幅に
譲歩する姿勢を見せていたのです。
 しかし、米国はそれだけでは満足しないのです。中国と合意し
た場合でも、中国がそれをきちんと履行しない場合、いつでも中
国に制裁関税がかけられるようにし、それについても合意文書に
明記することを求めたのです。つまり、ルールの実効性の担保を
厳しく中国に求めたわけです。
 中国はこれに反発したのです。これは、メンツを重んずる中国
にとって屈辱的であり、つねに米国の監視下で行動しなければな
らなくなるとして、閣僚級協議の合意を蹴ったのです。この状況
では、G20での米中首脳会談の開催は難しいと思われます。
 米国の本気度は、国防権限法に合わせるかたちで、次の2つの
法律を成立させていることでもわかります。
─────────────────────────────
   1.外国投資リスク審査現代化法/FIRRMA
   2.    米国輸出管理改革法/  ECRA
─────────────────────────────
 これらの法律についての詳しい説明は避けますが、「1」は、
外国人による投資審査を実施する対米外国投資委員会の権限と範
囲を拡大するものです。
 具体的には、「外国人」の定義を変更し、外国人の範囲を経営
に影響を与える取締役会への参加などまで拡大し、安全保障の定
義に、先端技術や不動産を加えています。これによって、中国企
業や中国人による先端技術や安全保障に関わる企業買収や不動産
投資は不可能になります。
 「2」は、事実上のココム(対共産圏輸出規制)に匹敵するも
のです。これによって、米国の武器輸出禁止国──ロシア、中国
ベネズエラ、イラクやテロ規制対象──などへ米国の「最先端お
よび基盤技術」を輸出することを禁じています。これに該当する
分野は14ありますが、日本企業をはじめとする他国が、これら
を今後中国に輸出するさいには、この法律によって、米国の許可
が必要になります。
 ところで、このような状況で、6月28日〜29日のG20大
阪において、米中首脳会談が行われるでしょうか。
 今のところ、その気配はいっさい感じられないのです。もし、
首脳会談が実施されるとしたら、現在、水面下で事務方が交渉を
重ねているはずですが、そういう情報はないのです。6月2日に
中国側は、中国国務院として、米中貿易協議における中国の立場
を示す白書を発表し、米国の言行不一致によって、協議は曲折し
ていることを非難しています。
 6月2日発表の白書では、「米国への全輸出品目に高率関税が
かけられたとしても経済に問題なし」という強気の発表が行われ
ていますが、本当にそんなことになったら、中国の経済は大変な
ことになります。そこで、米国の要求を受け入れるとしても、米
国の要求する「ルールの実効性の担保」だけは外させ、その代わ
り「すべての追加関税の撤廃」だけは、中国としては習近平国家
主席のメンツを守るために勝ち取る必要があります。しかし、こ
れは、非常に難しい問題です。
 これに関して、渡邊哲也氏と石平氏の対談では、次のやり取り
が行われています。
─────────────────────────────
渡邊:アメリカ側が「すべての追加関税撤廃」という中国側の条
 件を呑むのはちょっと考えられない。合意に達したとしでも追
 加関税を部分的に保留して中国側に圧力をかけ続けることは、
 かねてよりアメリカ側の戦略であるからです。
石平:だから中国が望むような結果になる唯一の可能性は、要す
 るにトランプ大統領が習主席とサシで会ったうえで、トップダ
 ウン的に決断する以外にはない。
渡邊:しかし習主席がいつまでもトランプ大統領との会談を躊躇
 うならば何も始まらないでしょう。たとえ米中首脳会談が行わ
 れたとしでも、トランプ大統領が、「全追加関税撤廃」という
 中国側の要求を退けで席を立ってしまう可能性がある。いや、
 そちらのほうが濃厚ですよ。
            ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
     日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
─────────────────────────────
 トランプ大統領は、ツイッターで「習主席と会談したい」と会
談に意欲を示していますが、実現は困難であると思われます。中
国側も、中国人民銀行(中央銀行)の戴相竜元総裁は、5月31
日、6月末に大阪で開催されるG20において、米中首脳会談が
行われたとしても、進展が困難であるとして、次のように発言し
早くも煙幕を張っています。
─────────────────────────────
 いじめで「アメリカ・ファースト」だ。これらを調整するのは
困難だ。日本で6月に開かれる首脳会合で大きな進展を得るのは
難しいだろうと私は予想している。     ──戴相竜元総裁
                  https://bit.ly/2Z9UM7U ─────────────────────────────
 閣僚級の協議で決着がつかなかったら、トップ同士がサシで話
し合って解決する──これは常識です。トランプ大統領は「やろ
う」といっているのに、習主席の返事はありません。彼は、サシ
ではどういしても話し合えない事情があるからです。
              ──[中国経済の真実/023]

≪画像および関連情報≫
 ●対中関税めぐる決定は「G20後」/トランプ米大統領
  ───────────────────────────
  [シャノン(アイルランド)/北京/カーン(フランス)6
  日/ロイター]トランプ米大統領は6日、対中関税を「少な
  くとも」さらに3000億ドル分上乗せする可能性があるが
  中国もメキシコも米国との貿易交渉で合意を望んでいるとの
  認識を示し、対中関税措置については、28─29日に大阪
  で開催されるG20(20カ国・地域)首脳会議後に決定す
  ると述べた。
   トランプ氏はG20首脳会議期間中に中国の習近平国家主
  席との会談を予定。具体的な日程はまだ決まっていないが、
  実現すれば、2018年末にアルゼンチンのブエノスアイレ
  スで行われた米中首脳会談以来となる。
   トランプ大統領は、3000億ドルの中国製品に対する関
  税措置の発動を巡る決定は習主席との会談後になると表明。
  「決定はG20首脳会議後2週間以内に行う。習主席と会談
  するが、どうなるか見てみよう」と述べた。大統領は中国と
  の協議は続いていると述べたが、直接の交渉は5月10日以
  降行われていない。これに先立ちトランプ氏は、アイルラン
  ドのシャノン空港で大統領専用機に搭乗する前に記者団に対
  し、「中国との協議については多くの興味深いことが起きて
  いる。次に何が起きるか。少なくとも3000億ドルを上乗
  せする可能性がある。適切な時期に行う」と発言。
                  https://bit.ly/2WmPJPC
  ───────────────────────────

G20/大阪での米中首脳会談見送りか.jpg
G20/大阪での米中首脳会談見送りか
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2019年06月13日

●「『李鴻章』になりたくない習近平」(EJ第5025号)

 6月9日のことです。中国共産党機関紙の「人民日報」の伝え
るところによると、中国政府は「国家技術安全管理リスト」とい
う仕組みを設けるということです。新制度の詳細は明らかにされ
ていませんが、世界で競争力を持つ中国国内の技術をリストアッ
プし、研究開発を後押しするほか、国外への輸出を管理、制限す
る目的があるとみられます。
 具体的な対象技術について、人民日報は、次のように述べてい
るので、ご紹介します。
─────────────────────────────
 人民日報は、中国が航空宇宙や高速鉄道、モバイル決裁、次世
代通信規格「5G」でイノベーションを起こしたと強調し、こう
した分野が規制対象と示唆した。特に5G分野では、中国は必須
となる特許出願数で3割強を占めているとされており、ハイテク
分野で中国の存在感が急速に高まっていることは確かだ。
 ハイテク分野では、すでに米国は中国通信機器最大手、為華技
術(ファーウェイ)の排除に動いている。中国側が輸出を制限す
るだけでは、有効な交渉カードとならないとの見方もある。
         ──2019年6月11日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 米国には既に「エンティティー・リスト(EL)」というもの
があります。安全保障上の懸念のある外国企業を記載し、輸出を
規制するものです。既にELには、多くの中国企業が記載されて
います。中国も中国企業に不当に損害を与えた外国企業を列挙す
る「中国版EL」を創設する考えですが、いずれも米国の後追い
であり、米国に大きなダメージを与えるものではないのです。
 「目には目を」ではないが、いくら技術輸出を制限しても、中
国の技術が世界を上回っているものは限られており、この分野で
の制裁合戦では米国の方に利があります。中国としては何らかの
かたちで、米国と話をつける必要がありますが、中国はなぜ話し
合いをしょうとしないのでしょうか。
 石平氏は、「習近平主席は現代の『李鴻章』になりたくない」
ので、トランプ大統領とのサシの会談を本音では、避けようとし
ているといいます。李鴻章について石平氏は、次のように説明し
ています。
─────────────────────────────
 李鴻章というのは、清王朝晩期の重臣で約20年間、清国の外
交をつかさどった人物だ。日清戦争で清国が日本に完敗したのち
李鴻章は、下関で日本側との交渉に当たり「下関条約」に署名し
た。この条約によって遼東半島と台湾が日本に割譲されたため、
当事者の李鴻章は、「喪権辱国」(国権を喪失させ国を辱めるこ
と)の張本人にされて、現在に至っても、罵声を浴び続ける存在
である。              https://bit.ly/2KFc9tf
─────────────────────────────
 本来「現代の李鴻章」という責めを受けるのは、日中交渉を任
された劉鶴氏の方です。何かと口が悪いということで評判の良く
ない北京大の孔教授にいたっては、劉鶴氏を「李鴻章以下」と罵
倒しています。
 こういう状況の下で、習主席がトランプ大統領と直接会談を行
うことは、大きなリスクを負うことになります。それは、現在の
中国が習近平独裁体制であるからです。現在の中国共産党政権内
では、習主席が、政治、軍事、外交、経済などのすべてにおいて
決定権をもっています。したがって、国として決断するすべての
ことにおける責任は習主席にあります。「喪権辱国」──国権を
喪失させ、国を辱めることの意味ですが、これについても責任も
すべて習主席が追うことになるのです。
 ケ小平は、もし独裁制をとれば、こうなることがわかっていて
集団指導体制を敷いたのです。それを習近平主席がすべて壊して
独裁体制を弾いたため、全責任が自分にかかってきてしまう状況
に陥っているのです。
 それでは、かつての毛沢東の独裁体制では、なぜ、そうならな
かったのでしょうか。毛沢東独裁体制と習近平独裁体制の違いに
ついて、石平氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 かつての毛沢東独裁時代と比べると、習主席の独裁にはもう一
つ大きな欠陥があります。毛沢東は絶対的なカリスマとして共産
党と国家の上に君臨し、個人独裁体制を築き上げたが、その一方
で毛沢東には周恩来という非凡な能力を持つ首相がいて、毛沢東
体制を内部から支えていました。毛沢東体制下の周恩来首相は、
毛沢東の権威に絶対的に服従しながら、首相として経済・外交な
どの実務を一手に引き受けていたのです。
 周知のように、1972年の田中角栄訪中の際、田中首相との
難しい交渉も喧嘩もすべて周恩来が担当、それらが、すべてまと
まった後に、毛沢東が出てきて角栄と会談、「大所高所」の諸に
興じたのです。その際、もし日中交渉が不首尾に終われば、当然
周恩来一人がその全責任を負うこととなったでしょう。
 周恩来のような非凡な才能を備えて誠心誠意に仕えてくれる偉
大なる忠臣がいるからこそ、毛沢東独裁は彼が死ぬまでの27年
も続いたわけです。
 残念ながら、いまの習政権には周恩来のような有能な忠臣はい
ません。共産党政治局と政府中枢には、習近平氏の幼なじみや地
方勤務時代の元部下からなる側近グループはいることはいるけれ
ど、ほぼ全員が無能なイエスマンであって、周恩来のような傑物
は一人もいない。    ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
     日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
─────────────────────────────
 中国の皇帝は、自身のことを「孤家」または「寡人」と呼んだ
そうですが、現在の中国の“皇帝”である習近平主席は文字通り
そうなりつつあります。果して習近平主席はどう動くかが注目さ
れます。          ──[中国経済の真実/024]

≪画像および関連情報≫
 ●米中貿易協議、習主席の苦境/石平のチャイナ・ウォッチ
  ───────────────────────────
   北京大の孔教授が劉鶴氏のことを「李鴻章以下」と罵倒し
  たことは、要するに、米中貿易協議における中国側の譲歩を
  「喪権辱国」だと批判したことである。それは、孔教授だけ
  の意見ではなく、国内一部勢力の声を代弁しているのであろ
  う。このような状況下で、トランプ大統領との首脳会談で貿
  易協議に決着をつけることは、習主席にとって大変難しいこ
  とであろう。劉鶴氏が当事者として米国側との合意に達した
  場合、国内で罵声を浴びるのは劉氏の方だが、習主席自身が
  米国へ出向いてトランプ大統領と「城下の盟」を結んだ場合
  「李鴻章」同様の汚名を背負って批判されるのは習主席自身
  である。
   「民族の偉大なる復興」を政治看板とする習主席はまさに
  「看板倒れ」となって、指導者としての威信に大きな傷がつ
  く。国内の反対勢力はそれを理由に巻き返しを図ってくる可
  能性もある。だから、トランプ大統領との屈辱的な首脳会談
  へ行きたくないのは習主席の本音であろう。
   しかし彼自身が行かなければ、貿易戦争に収拾をつけるこ
  とは不可能となり、中国経済は今まで以上の深刻な打撃を受
  けることとなろう。それでは習主席の政権基盤が大きく揺ら
  いでしまう。習主席にとって今の状況は、まさに進むも地獄
  退くも地獄なのである。それでも習主席は多大なリスクを覚
  悟して米中首脳会談に応じる以外に道はないだろうが、米中
  貿易戦争が、それで終息する保証があるわけでもない。彼に
  とっていばらの道はさらに続くであろう。
                  https://bit.ly/2MDdMu4
  ───────────────────────────

会談するのかしないのか/米中首脳.jpg
会談するのかしないのか/米中首脳
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2019年06月14日

●「人民元安に誘導し関税を相殺する」(EJ第5026号)

 6月10日、トランプ米大統領は、米CNBCテレビのインタ
ピューで、G20大阪での習近平主席との会談はあると思うし、
話し合えば一定の合意に到達することは可能であるとしたものの
会談が実現しない場合について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 もし月内の米中首脳会談が実現しなければ、中国からの全輸入
品に関税を課す「第4弾」を直ちに実施する。これが行われると
中国には一大事だが、米国は他国から製品を買えるので、問題で
はない。   ──2019年6月11日付、日本経済新聞夕刊
─────────────────────────────
 トランプ大統領のこの発言は、6月10日時点で、首脳会談に
ついて中国から何のメッセージもないことを示していて、少しイ
ライラしており、会談開催を中国側に呼び掛け、催促したものと
思われます。しかし、本日、14日になっても、中国は首脳会談
について何も米側にいってきていないのです。C20大阪まで、
あと2週間しかないにもかかわらずです。
 習近平主席は、そもそもこの米中貿易摩擦について、どのよう
な戦略を考えていたのでしょうか。この習近平主席のハラのなか
について、石平氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 いま習主席が考えているのは戦略ではない。今回の貿易戦争を
何とか軟着陸させないと、アメリカの関税の引き上げを止めない
と、自分の目の前で中国経済が潰れる。潰れたら自分は終わり。
だから、いまの習主席は延命策しか考えていません。
 危機から逃れるために、できるだけアメリカの関税の引き上げ
実施時期を延ばす。あるいは終わらせる。そのためには、アメリ
カが突き付けてくる要求をとりあえず呑んでいく。だが、呑んで
いくとしても、すべて実行するつもりなど毛頭ない。これが中国
の一貫したやり方、常套手段です。
            ──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
       『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
     日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
─────────────────────────────
 習近平主席は、この考え方で、昨年12月1日の首脳会談を受
け入れ、「第3弾」の関税引き上げを5月10日まで5ヶ月間延
期させたのです。なぜ、会談が決裂したかというと、米国は、中
国が約束ごとを履行しない場合のさまざまな懲罰的措置を合意文
書に盛り込ませようとしたからです。
 現在、トランプ大統領は、「第3弾」の関税引き上げを実施し
た上で、「第4弾」の実施を振りかざして、6月末のG20大阪
での米中首脳会談の実施を迫っているのですが、今のところ中国
に動きはありません。
 現在、中国は米国からの輸入品の約70%に報復関税をかけて
おり、実際に中国が今やれることは、次の2つぐらいしかないと
いわれています。
─────────────────────────────
     1.希土類(レアアース)の輸出管理規制
     2.   為替相場を人民元安に誘導する
─────────────────────────────
 「1」についてはまだ行われていませんが、「2」については
既にはじまっています。中国が米国に輸出する場合、輸出品のド
ル建ての販売価格は関税分跳ね上がりますが、この場合、人民元
が安くなれば、それだけ販売価格を下げる余地が生まれ、関税引
き上げ効果が緩和されます。中国はこれを狙っているのです。
 2019年6月12日付の日本経済新聞は、次の見出しをつけ
て、関連記事を掲載しています。
─────────────────────────────
 ◎中国危うい「元安カード」/G20にらみ米と神経戦
                1ドル7元試す展開に
 【上海=張勇祥】中国が人民元安を対米カードに再び使い始め
た。中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁による元安容認発言を
を受けて、元の対ドル相場は1ドル=7元を試す展開となってい
る。米政権の制裁関税拡大をけん制する狙いがあるが、元安は資
本流出にもつながりかねない。6月末の20ヶ国・地域首脳会議
(G20大阪サミット)に向けて米中の神経戦が続きそうだ。
         ──2019年6月12日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 4月の終わりまでは「1ドル=6・7元」で推移していたので
す。このラインよりも人民元が上がると「元安」になります。そ
して、5月5日に、トランプ大統領が「制裁関税」を引き上げる
といった時点から「6・8元」という元安水準になり、5月19
日に、人民銀行潘副総裁が「人民元は合理的な水準で安定してい
る」と発言すると、元はさらに安くなり、「6・9元」の水準を
突破しています。そして、6月7日の人民銀行易総裁の「具体的
な為替の数字がより重要と思っていない」という元安容認発言が
飛び出したのです。
 こういう状況を分析してゴールドマン・サックスは、今後3ヶ
月で「1ドル=7・05元」までの元安進行を予想しており、こ
れを見る限り、中国は為替を操作することによって、米国との対
立長期化に備えていると思われます。
 この人民銀行易総裁とムニューシン米財務長官は、G20中央
銀行総裁会議のため訪れている福岡市で9日に会談を行い、「お
互いに関心のあるテーマについて率直に意見交換をした」とだけ
述べていますが、会談内容については不明です。
 理屈のうえでは、10%の関税引き上げは、10%の通貨安で
相殺できるのです。中国があからさまにこれをやると、米国は中
国を「為替操作国」に指定することは確実です。これは、きわめ
て危険なチキンゲームであり、これによって中国経済が破綻し、
金融危機が起きる可能性もありうるのです。
              ──[中国経済の真実/025]

≪画像および関連情報≫
 ●くすぶる「資本流出→人民元安」のリスク/唐鎌大輔氏
  ───────────────────────────
   あまり話題にはなっていないが、国際通貨基金(IMF)
  は、2019年4月に発表した春季世界経済見通しの中で、
  中国の経常収支が2022年には66億ドルの赤字になると
  予想している。金融危機発生から10年あまりで、一時は世
  界最大だった黒字が完全になくなってしまうという変化の大
  きさには驚きを覚える。
   同期間に一貫して高水準の黒字を維持し、世界最大の経常
  黒字国としての地位を確立したドイツとは対照的である。ア
  メリカのトランプ政権は通商政策上、中国を目の敵にしてい
  るが、これは貿易黒字(正確には対米黒字)の大きさを捉え
  たものである。しかし、貿易収支を含むより幅広な概念であ
  る中国の経常収支は黒字が激減しており、今や赤字化を展望
  するに至っているというのが現状なのである。
   中国の経常黒字がはっきりと減少し始めたのは2016年
  後半以降だ。背景には、貿易収支の黒字が頭打ちになる一方
  サービス収支の赤字が着実に増えてきたという構図がある。
   こうした流れの中、2018年は1〜3月期の経常収支が
  341億ドルの赤字となり、2001年4〜6月期以来の赤
  字を記録したことが話題となった。2011年以降、サービ
  ス収支赤字がじわじわ増えている一方、例年1〜3月期は春
  節(旧正月。中国の企業は一斉に長い休みに入る)の影響で
  貿易黒字が縮小するため、遂に、前者が後者を超える規模に
  至ったのである。        https://bit.ly/2WxerNj
  ───────────────────────────

中国人民銀行易綱総裁.jpg
中国人民銀行易綱総裁
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2019年06月17日

●「19年の香港デモは前回と異なる」(EJ第5027号)

 この原稿は、6月15日に書いていますが、本日以降どうなる
かわからない中国に関する重要な問題を取り上げます。それは、
香港における「逃亡犯条例」を巡る大規模なデモです。なぜ、こ
れが問題なのかについて分析します。
 香港は「一国二制度」が条件で、1997年に英国から中国に
返還されたのです。この制度は、香港では50年間守られること
になっているので、資本主義など中国本土とは異なる経済・政治
制度が維持されることが約束され、外交と国防をのぞく「高度な
自治」が認められています。
 香港の憲法にあたる香港基本法には、中国本土では制約される
言論・報道・出版の自由、集会やデモの自由、信仰の自由などが
明記され、それが2047年まで守られることになっています。
現在、香港に進出している日本をはじめとする世界各国の企業は
この一国二制度を前提として進出しています。
 この香港基本法は、「必要であれば、2007年以降に修正で
きる」と定められています。香港の民主派は、この年にある制度
変更を行うことを決めていたのです。それは、香港のトップであ
る行政長官を民意で選びたいということです。つまり、香港市民
一人ひとりが投票する「普通選挙」によって決めることです。
 このことはよく誤解があるのですが、実は政府の代表を民意で
選ぶ普通選挙は、英国統治時代からなかったのです。つまり、香
港は、英国統治時代から「法治主義」や「資本主義」はあっても
「民主主義」は最初からなかったのです。中国は、そういう香港
を英国から返還されたのであって、民主主義の香港を引き継いだ
わけではなかったのです。
 もっとも中国としては、50年間、当時の香港の制度を引き継
ぐつもりでなく、時間をかけて、少しずつ、骨抜きにして、なる
べく早く中国本土並みにし、スムーズに中国の一部に編入したい
と計算していたものと思われます。
 しかし、民主派は、制度変更が可能になる2007年に普通選
挙を要求してきたのです。そのとき、中国本部は香港行政長官に
指令を出して、「2007年に変更可能ではなく、2007年以
降に変更可能である」として、このさいは先延ばしすべきである
と時間稼ぎをしたのです。
 そして、さらに7年経った2014年、中国政府は次の新制度
を提案したのです。
─────────────────────────────
 1.一人一票の投票権を付与する
 2.行政長官候補は指名委員会の過半数の支持が必要である
 3.候補者は2〜3人に限定する
─────────────────────────────
 これは普通選挙とは程遠い内容です。香港の民主化団体の「学
民思想」などの団体は、指名委員会の多数は親中派で占められる
ため、中央政府の意に沿わない人物の立候補を事実上排除する方
針として、学生を動員して授業のボイコットを開始したのです。
これを契機として、「雨傘運動」は、このような経過で始まった
のです。なぜ、学生たちは雨傘を持っていたかというと、それは
催涙弾を防ぐのが目的であったといわれます。
 しかし、国際金融センター香港の中心部で、9月末に始まり、
79日間にわたって道路を占拠するという不法行為から、香港市
民の支持も失い、デモは失速してしまったのです。その結果、形
式だけの普通選挙すら行われず、1200人の指名委員による間
接選挙により、行政長官が選出されるようになったのです。
 しかし、雨傘運動の本当の原因は、何だったのかというと、日
経電子版開発長の池田信太朗氏は「それはすぐれて経済の闘争で
もあった」ことを指摘しています。
─────────────────────────────
 香港デモ(雨傘運動)とは何だったのか。もちろんそれは、民
主主義を手にしたいと願う香港市民の政治運動だった。あるいは
英国が、香港を返還した折に約束された「一国二制度」が失われ
つつあることに危機感を覚えた香港市民たちの抵抗だった。
 だが、「政治」の闘争であると同時に、すぐれて「経済」の闘
争でもあったと思う。デモ期間中、私は何度もデモ隊を訪れて話
を聞いた。なぜこの場にいるのか。何を勝ち取ろうとして闘争す
るのか。彼らはもちろん「民主主義」や「普通選挙」を答えに挙
げる。だが重ねて「なぜ民主主義が必要なのか」「なぜ普通選挙
を実現したいのか」と問うと、その答えはいつも経済問題に帰す
る。       ──池田信太朗氏 https://bit.ly/2Zs1Z34
─────────────────────────────
 この池田信太朗氏のレポートは、雨傘運動の本質をよく捉えて
おり、参考になるので、ご紹介しておきます。なお、タイトル中
の「香港デモ」は、雨傘運動のことです。
─────────────────────────────
                  池田信太朗著
    『不夜城の陥落、力を失いつつある香港デモ』
              https://bit.ly/2XeHmdf
─────────────────────────────
 そして、それから5年後の2019年、再び香港において大規
模なデモが起きたのです。池田信太朗氏は、雨傘運動と今回のデ
モの違いを次のように述べています。
─────────────────────────────
 「いまないものを求めた」のが雨傘革命だった。これに対して
今回のデモは「いまあるものが失われようとしていることを食い
止める」という闘争だ。          ──池田信太朗氏
─────────────────────────────
 今回の香港デモ「逃亡犯条例」は、もしこれが通ると、香港が
香港でなくなるとの危機感が香港市民には強いのです。それにこ
の条例は、香港市民だけに影響のある条例ではなく、香港に進出
している外国企業や香港への旅行者にも影響する可能性のある条
例といえます。       ──[中国経済の真実/026]

≪画像および関連情報≫
 ●香港デモで懸念される"天安門事件"の再来
  ───────────────────────────
   1989年6月4日の「天安門事件」から30年の節目を
  迎えた。事件後、中国は国民に対する監視の目を強化して言
  論の自由を奪い、共産党による一党独裁体制を貫いた。その
  体制の下で、経済発展を遂げ、世界第2位の経済大国になっ
  た。中国政府は国民に豊かさというアメをなめさせた。その
  結果、国民は監視というムチの痛みに鈍感になった。生活の
  水準の向上を喜び、いまの一党独裁体制を賛美する中国人も
  多い。日本や欧米は経済的に豊かになれば、中国は一党独裁
  体制を改めるとの見通しを立てていた。だが、中国は経済発
  展を遂げても政治改革には乗り出さず、一党独裁体制を堅持
  した。日米欧の見通しは間違っていたのだろうか。沙鴎一歩
  はその見通しが誤っていたのではなく、政治改革を経ていな
  い中国の経済発展がニセモノであると考える。
   中国の市場経済は閉ざされたまま解放されていない。中国
  政府は鉄道、エネルギー、通信、軍事という国の重要な基幹
  産業を握り、巨額の利益を上げる。地方政府も毛細血管のよ
  うに張り巡らされたネットワークで民間部門から富を吸い上
  げている。中国国民が味わっているのは、真の豊かさではな
  い。中国の経済発展には大きなほころびが生じ、中国経済は
  いつ何時、そのバブルがはじけてもおかしくない。
                  https://bit.ly/2RlFlH8
  ───────────────────────────

香港における「雨傘運動」.jpg
香港における「雨傘運動」
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2019年06月18日

●「一国二制度の深い闇の部分を探る」(EJ第5028号)

 予想したように、6月16日のメディアは、林鄭月娥香港行政
長官が「『逃亡犯条例』の審議を延期する」と発表したニュース
を一斉に伝えています。
─────────────────────────────
◎香港長官/強硬姿勢を転換/親中派・経済界の異論受け
 /逃亡犯条例改正「先送り」
 香港社会を揺るがした「逃亡犯条例」改正案について、香港政
府は15日、「先送り」を表明した。強気を貫いてきた林鄭月娥
行政長官だが、身内からもいさめる声が出て、方針転換に追い込
まれた。国際社会の注目が集まるなか、中国政府も危機感を強め
た。       ──2019年6月16日付、朝日新聞朝刊
─────────────────────────────
 一国二制度──本来この制度は、香港返還から50年間、20
47年まで守られることになっています。しかし、中国はそのよ
うなことを守るつもりは一切ないのです。そこで、香港基本法で
は、2007年以降に必要であれば改正できることになっている
ので、2014年に香港の行政長官を中国共産党が恣意的に選べ
る仕組みにしようとしたのです。これによって香港では「雨傘運
動」が起きましたが、中国政府の後押しによって、これを制し、
その仕組みの導入に成功しています。
 この仕組みによって行政長官に選出されたのが、現在の林鄭月
娥行政長官です。その後、香港の一国二制度を骨抜きにするスケ
ジュールは、中国政府から林鄭月娥行政長官に指示が出されてい
るはずです。この長官は中国政府の傀儡だからです。
 行政長官選挙の仕組み導入に続いて中国政府が行政長官に指示
していたのが、今回の「逃亡犯条例」です。実は正確にいうと、
「逃亡犯条例」改正案なのです。香港基本法23条には、次の記
述があります。
─────────────────────────────
【香港基本法第23条】
 香港特別行政区は、国家分裂や反逆、国家機密を盗み取るなど
の行為を禁じる法律を自ら作る。
─────────────────────────────
 香港政府は、この条文に基づいた条例を2003年にも導入を
試みたのですが、香港市民の猛反対に遭い、撤回を余儀なくされ
ています。日経ビジネスの池田信太朗氏によると、「2003年
当時といまとでは、中国の力、香港の国際的な地位ともに大きく
異なる。中国政府と、その意向を受けた香港政府が今回は強行す
るという可能性は小さくない」と述べています。
 習近平政権は、政権を批判する言説、とくに習近平氏に関わる
スキャンダルの報道をとくに嫌い、香港の書店を最初から警戒し
ていたのです。香港の書店では、中国政府を批判する書籍を多く
扱っていたからです。2015年には、そういう書店関係者が突
然失踪する事件が起きています。
 これについては、中国事情に詳しい福島香織氏による、次のレ
ポートがあるので、どのような事件であったのか、冒頭の書き出
し部分をご紹介することにします。
─────────────────────────────
 年明け(2016年)早々の私にとって一番衝撃的なニュース
は、銅鑼湾書店の関係者が次々と失踪したことだ。香港の出版界
にひしひしと圧力が迫っていることは承知していたが、まさか香
港内に住んでいる人間、しかも外国パスポートを持っている人間
が突然消えるほど、香港が物騒なことになっているとは。
 銅鑼湾書店関係者の失踪は5人。まず昨年10月17日に店筆
頭株主・桂民海の行方が分からなくなり、10月24日に同書店
の創始人で店長の林栄基が消え、10月26日に株主の呂波、書
店経理の張志平、そして最後に12月30日に店主の李波がいな
くなった。いったい何が起きたのか。     ──福島香織著
 『香港銅鑼湾書店「失踪事件」の暗澹』/香港の一国二制度を
  見殺しにするな』        https://bit.ly/2MOrTgd
─────────────────────────────
 これらの失踪者たちは、やがて全員戻ったものの、何があった
かについては口を閉ざしています。このように、言論の自由が守
られているはずの香港でも、一国二制度の壁を乗り越えて、法的
手続きを経ずに、中国当局は当事者を中国に連行し、取り調べを
やっているのです。
 当時、銅鑼湾書店の店主である桂民海氏には「双規」に対する
批判本を出版する計画があり、それが中国共産党の逆鱗に触れて
事実上の“拘束”をして取り調べられたものと思われるのです。
 「双規」とは何でしょうか。
 「双規」とは、中国共産党による強制捜査、逮捕、無期限拘束
自白強要、特定外の拷問、処罰のことで、司法とは別なのです。
福島氏は、次のような恐ろしい事実を指摘しています。
─────────────────────────────
 双規は、共産党中央規律委員会による党員の取り調べ制度、司
法制度外の党規に基づく制度で、逮捕状も拘留期限も決められて
おらず、拷問による死者まで出す前近代的制度と知識人の間で非
難されている。人権派弁護士・浦志強が、微博などのつぶやきを
もって「民族の仇恨を扇動した罪」というわけの分からない容疑
で逮捕、起訴され執行猶予付き判決が出たことは記憶に新しいが
浦志強が本当に冤罪逮捕された原因は、彼が双規の違憲性を世論
に問おうとしたことではないか、と見られている。
                  https://bit.ly/2XgGTay ─────────────────────────────
 この福島氏の指摘は実に恐ろしい。司法で取り調べをするので
はなく、共産党中央規律委員会による党員の取り調べ制度を使っ
ているのです。これなら、共産党当局としては何でもできます。
そういうことを、もっとやり易くさせるため、今回の「逃亡犯条
例」改正案を香港当局は成立させようとしたのです。
              ──[中国経済の真実/027]

≪画像および関連情報≫
 ●逃亡犯条例の改正延期/香港政府トップが記者会見
  ───────────────────────────
   中国本土への容疑者引渡しを可能にする「逃亡犯条例」の
  改正をめぐって、多数のけが人が出る大規模なデモが続いて
  いた香港。香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官
  6月15日に記者会見し、改正案の審議を一時中断すること
  を発表した。会見を詳報する。
   現地メディア「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」
  は、会見をテキスト記事としてタイムラインで速報した。現
  地時間の午後3時10分すぎに始まった会見は約1時間半に
  及んだ。林鄭長官は改正案について、「もとは香港への愛情
  と香港人への配慮から進めたものだった」と釈明。「私たち
  が至らなかったせいで、香港で大きな対立を引き起こしてし
  まった。私たちは多くの人を失望させ、悲しませた。私もま
  た、悲しみ、後悔しました。私たちは誠意をこめて、そして
  謙虚に批判を受け入れます」と語った。
   問題となっている改正案のきっかけは、2018年に台湾
  で発生した殺人事件。香港人の男が犯行後に香港へ逃げ帰っ
  てしまったため、台湾当局による拘束を免れたのが問題視さ
  れた。今回の改正案は、香港が犯罪容疑者にとって「拘束さ
  れない地域」として逃げ場にならないように提案された側面
  もあった。林鄭長官は、「私たちは法の抜け穴を塞ぐ必要が
  あります。したがって、現段階では法案を撤回することはで
  きない」と述べた。       https://bit.ly/2XR3sQf
  ───────────────────────────

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「逃亡犯条例」審議延期を表明/林行政長官

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2019年06月19日

●「香港大規模デモについての3疑問」(EJ第5029号)

 「逃亡犯条例」改正案について、林鄭月娥香港行政長官は「先
送り」を表明しましたが、これについて、日経ビジネスの池田信
太朗氏は、次の「3つの疑問」を上げ、解説を行っているので、
EJスタイルでご紹介します。
─────────────────────────────
   第1の疑問:審議延期ということは「再開」するのか
   第2の疑問:今回の延期判断は中国政府の意向なのか
   第3の疑問:今後デモはどうなるのか、継続するのか
         ──池田信太朗氏 https://bit.ly/2KkW6kS ─────────────────────────────
 第1の疑問「審議延期ということは『再開』するのか」につい
て考えます。
 林鄭月娥長官は、この改正案は、北京政府から指示されたもの
ではなく、あくまで香港政府としての判断であることを強調して
います。そのためか、長官は撤回はせず、「期限を定めず、延期
する」と発表。混乱を招いたのは「説明不足」としており、この
文脈から考えると、再現の可能性は十分あります。
 しかし、池田氏は、2003年の「香港基本法第23条」条例
(EJ第5028号で解説)の頓挫に言及しています。2003
年のときも「撤回」ではなく、「延期」だったのですが、その後
この条例案は審議されていないことを指摘し、「延期」という言
葉で香港政府のメンツを保ち、現時点では、事実上の「廃案」に
なっています。
 第2の疑問「今回の延期判断は中国政府の意向なのか」につい
て考えます。
 林鄭月娥長官は、「香港政府の判断を北京政府は尊重してくれ
た」といっていますが、これを額面通りに受け取る人は少ないと
思います。なぜなら、今回の改正案は一国二制度の根幹にかかわ
る改正だからです。もしこれが成立すると、香港は中国本土と変
わらなくなる、つまり、香港が香港でなくなるぐらい重要な条例
になります。「逃亡犯条例」は、政治犯を対象にしていないと香
港政府はいっていますが、そんなことは、銅鑼湾書店の関係者の
失踪事件をはじめ、中国政府の強面(こわもて)を知る香港市民
は、香港政府のバックには中国共産党がいることを信じて疑う人
は誰もいないのです。
 池田信太朗氏によると、今回の延期の決定の前に、林鄭月娥長
官は深センに飛び、そこに滞在する共産党最高指導部で香港政策
を担当する韓正副首相と会談しているとの情報があり、複数の現
地紙がその事実を報道しています。会見では、記者から「韓正副
首相と会談したのか」と質問されていますが、長官は否定せず、
回答を拒否しています。そして、林鄭月娥長官は、「これは中国
にいわれてやっているのではない。香港政府の考え方である」と
の主張を繰り返したのです。
 それでは、中国政府は、なぜ、延期を容認したのでしょうか。
 それは、あまりにも時期が悪過ぎるからです。現在、中国は、
米国と貿易戦争の真っ最中であり、しかも6月末には、習近平主
席も出席するG20大阪サミットがあります。もしデモで死傷者
が多数出る事態になったら、中国は国際社会から非難を浴びてし
まいます。そこで事態の収拾を図ったものとおもわれます。
 今回の問題を受けて米国はさらに中国に圧力を加えようとして
います。米国は現在、「香港政策法」に基づいて、関税や投資で
香港を優遇していますが、上下両院の超党派議員は、同法の見直
しを視野に、香港の「高度な自治」に関する検証を毎年、米国務
省に義務づける法案を提出しています。
 第3の疑問「今後デモはどうなるのか、継続するのか」につい
て考えます。
 この原稿は、6月16日の夜に書いていますが、既に香港では
黒が基調の服を着た大勢の若者たちが大規模なデモを始めていま
す。今回のデモは、前回のデモの103万人を大幅に超えそうな
勢いです。デモは、香港政府が、「延期」ではなく、法案の「撤
回」を宣言するまで続くはずです。それにこの事態を招き、大勢
の負傷者を出した林鄭月娥長官の辞任も要求しています。デモは
200万人を超える、とんでもない規模になりつつあります。
 デモの様子を伝える毎日新聞の動画をご紹介します。デモは、
16日午後9時現在(日本時間)、まだ続いています。
─────────────────────────────
 ◎香港で再び大規模デモ 政府に「逃亡犯条例」改正の撤回
  要求(毎日新聞動画)     https://bit.ly/2WKRx50
─────────────────────────────
 これら3つの疑問の総括として、日経ビジネスの池田信太朗氏
は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 今回のデモが異例の規模に発展したのは、64集会(天安門事
件への反対集会)などと異なり、政治的に強い「反中」意識を持
っている人たちだけでなく、香港が当たり前に享受してきた安全
と自由が脅かされることに危機感を持った市井の人たちも参加し
たからだ。今後も政府に対して強硬な要求を続ける勢力はデモを
継続する可能性が高いが、そうでない人たちの参加は減っていく
と思われる。
 今後の争点は、デモの主宰者に対する「処分」だ。雨傘革命の
首謀者たちは逮捕、起訴され、一部が入獄した。ただし、雨傘革
命については政府は強硬な姿勢を崩さず、デモの要求は退けられ
た。今回は会見で、行政長官が遺憾の意を表明し、改正案の審議
を延期するというアクションを取った。政府が誤りを認めたから
デモ活動は不問に付すのか、それとも道路占拠や破壊などの不法
行為について粛々と処罰するのか。どこまで強面(こわもて)の
処分を下すかに、中国政府の怒りの強さが表れてくるだろう。
           池田信太朗氏/https://bit.ly/2KkW6kS
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/028]

≪画像および関連情報≫
 ●【解説】 なぜ香港でデモが? 知っておくべき背景
  ───────────────────────────
   香港で市民が立法会(議会)や主要道路をふさぎ、抗議デ
  モを行っている。警察はこれに催涙ガスやゴム弾で対応して
  いる。この抗議活動は表面上、犯罪容疑者の中国本土への引
  き渡しを認める「逃亡犯条例」の改正案に反対するものだ。
  だが、そこには改正案以上の理由がある。何が起きているの
  かを知るには、数々の重要な、中には数十年前から始まって
  いる文脈を見ていく必要がある。
   思い出して欲しいのは、香港が他の中国の都市と大きく違
  う場所だということだ。これを理解するには、歴史を振り返
  る必要がある。香港はかつて、150年以上にわたってイギ
  リスの植民地だった。香港島は1842年のアヘン戦争後に
  イギリス領となり、その後、イギリスは当時の清朝政府から
  「新界」と呼ばれる残りの地域を99年間租借した。
   それからの香港は活気ある貿易港となり、1950年代に
  は製造業のハブとして経済成長を遂げた。また、中国本土の
  政局不安や貧困、迫害などを逃れた人たちが香港に移り住む
  ようになった。
   99年の返還期限が迫った1980年代前半、イギリスと
  中国政府は香港の将来について協議を始める。中国の共産党
  政府は返還後の香港は中国の法律に従うべきだと主張した。
  両国は1984年に、「一国二制度」の下に香港が1997
  年に中国に返還されることで合意した。香港は中国の一部に
  なるものの、返還から50年は「外交と国防問題以外では高
  い自治性を維持する」ことになった。
                  https://bit.ly/31Agynf
  ───────────────────────────

2019年6月16日の香港デモ.jpg
2019年6月16日の香港デモ

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2019年06月20日

●「林長官の事実上の『廃案』の宣言」(EJ第5030号)

 6月18日、「逃亡犯条例」改正案反対を訴えるデモは200
万人という空前の規模に達し、林鄭月娥香港行政長官は再び会見
を開き、謝罪しましたが、あくまで「無期限延期」を主張し、最
後まで「撤回」を口にしませんでした。林長官としては、自分の
意思で、撤回も辞任もできないのです。なぜなら、この改正案を
プッシュしたのは、中国政府であるからです。
 しかし、これ以上、改正案をゴリ押しすることは、中国政府は
今のところ考えていないと思われます。それは、林行政長官と記
者とのやりとりによくあらわれています。
─────────────────────────────
 記者:なぜ、「撤回」ではなく、「無期限の延期」なのか。
 長官:改正案の審理はもはや困難であり、事実上の「廃案」
    と同じである。
 記者:そこまでいうなら、なぜ「撤回」と明言できないか。
 長官:言葉の問題はもう繰り返したくない。どうか理解して
    ほしい。
─────────────────────────────
 改正案に対する抗議の声は経済界を巻き込み、デモの規模は中
国側の予想をはるかに超えるものだったからです。それに加えて
6月末には習主席も出席するG20大阪サミットがあり、中国政
府としては、香港騒動が争点化するのを避けるため、早期に幕引
きを急ぐ必要があったのです。したがってこの改正案は「事実上
の廃案」です。林行政長官は、中国政府のパペット(操り人形)
であり、これ以上の発言に踏みこむことはできないのです。
 それにしても、なぜこの時期に香港政府は、「逃亡犯条例」改
正案をゴリ押ししようとしたのでしょうか。
 中国政府に政策提言をする研究機関の研究員は、この改正案に
ついて次のように述べています。
─────────────────────────────
 中央政府は、香港が反体制派の基地になることを警戒し、国家
国家安全上の「穴」をふさごうとした。
           ──2019年6月19日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 この林鄭月娥という人物は、第1次習近平政権で香港を主管す
る中国政府の最高機関である「中央香港マカオ工作協調小組」の
当時トップの張徳江氏が推して、2017年3月に任命し、7月
に就任させたのです。張徳江氏は、当時中国共産党序列第3位の
大物です。
 もともと香港マカオ工作は、江沢民元国家主席派の曾慶江元国
家副主席が担ってきたのですが、習近平政権になって、張徳江氏
が引き継ぎ、現在の第2次習近平政権では、韓正筆頭副首相(序
列7位)がその地位にあります。林長官の「事実上の廃案」宣言
は、韓正副首相が出させたものと考えられます。
 しかし、習近平氏は、もともと江沢民派に属していたのですが
習近平氏は権力を握ると、態度を豹変させます。いわゆる「トラ
もハエも」の掛け声とともに、腐敗防止運動と称して、江沢民一
派の利権や資産を根こそぎ奪取し、江沢民派の幹部らを汚職で逮
捕・摘発してきているだけに、香港とマカオは習近平政権にとっ
て「危険地帯」になっているのです。
 したがって、今や権力絶大の習近平国家主席でも、最大限の警
戒レベルをひかないと、香港入りできないのです。習近平主席は
2017年6月に香港入りしていますが、保安当局や警察当局は
安全保障レベルでは最高級の「反テロ厳戒態勢」をとり、加えて
中国本土からも事前に人民解放軍や武装警察が大量投入されて警
戒にあたったのです。習主席は暗殺に怯えているのです。
 香港がこういう状況であるため、外国人も含む反習近平政権勢
力が、中国本土で反政府行為を行い、香港に逃げ込むケースが多
くなっており、香港マカオが反政権の基地になりつつあります。
そこで、それらの逃亡犯を逮捕し、中国政府に引き渡せるように
する「逃亡犯条例」の改正案を、何としても早期に成立させよう
としたのです。
 「逃亡犯条例」が成立すると、別に逃亡犯でなくても香港で逮
捕・起訴された犯罪人についても、何らかの理由をでっち上げて
中国政府に引き渡し、中国の裁判にかけることができることにな
ります。これは「一国二制度」であるのに、事実上香港も中国と
同じになってしまうのです。つまり、今回の改正案は「香港を香
港でなくする」ものといえます。
 それにしても上述のように今回の香港デモの規模は、中国政府
の予想をはるかに超えるものです。200万人というと、香港市
民の4分の1が参加したことになり、習近平政権にとって大きな
衝撃です。改正案の無期限延期は、事実上これに屈してしまった
ことを意味し、政権にとっては大打撃といえます。しかもデモは
まだ収まっていないのです。中国政府は、これをどのようにして
収めるつもりなのでしょうか。
 中国政府は、水面下で香港の経済界などへ説得工作を行い、デ
モの収束を図ると思われますが、それでデモが収まる保障は何も
ありません。彼らは、林行政長官の辞任も求めているので、デモ
を収めるのは容易なことではないといえます。
 この香港デモの収拾に失敗すると、同じ一国二制度を提案して
いる台湾問題に大きな影響を与えることになり、今年の秋に行わ
れる台湾総統選挙にも大きな影響を与えることになります。習近
平政権にとってアタマの痛い問題です。
 6月18日、トランプ米大統領は、28日〜29日に行われる
G20大阪サミットで、米中首脳会談を行うことになったことを
ツイートしています。ポンペオ米国務長官は、この国際会議の場
で香港問題を正式議題として取り上げると宣言していましたが、
首脳会談が行われることで、それはなくなると思われます。取り
引きをしたのでしょう。いずれにせよ、今回の香港デモは、習近
平政権の足元を揺さぶる大問題になっています。
              ──[中国経済の真実/029]

≪画像および関連情報≫
 ●米中首脳、G20で会談へ 電話協議で合意
  ───────────────────────────
   【ワシントン=鳳山太成、北京=原田逸策】トランプ米大統
  領は18日、中国の習近平国家主席と電話協議をし、28〜
  29日に大阪で開く20ヶ国・地域首脳会議(G20サミッ
  ト)に合わせて会談することで合意したと明らかにした。米
  中両政府の代表者で事前協議を始めるとも述べた。5月以降
  の対立激化で途絶えていた米中交渉が再開する見通しだが、
  妥協点を見いだせるかは不透明だ。
   トランプ氏はツイッターで「広範囲な会合を開く」と指摘
  し、貿易問題だけでなく、対北朝鮮外交を含む幅広い議題を
  扱う方針を示唆した。中国国営中央テレビも18日、米中が
  首脳会談の開催で合意したと伝えた。習氏は電話協議で「米
  中は対等に対話し、問題を解決すべきだ」と中国の主権への
  配慮を求めた。「米国が中国企業を公平に扱うことを望む」
  とも語り、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)へ
  の米制裁解除も暗に要請した。
   トランプ米政権は制裁関税の対象をほぼすべての中国製品
  に広げる「第4弾」の準備を進めている。トランプ氏は米中
  首脳会談の結果を踏まえて、発動の是非を判断する構えだ。
  中国の産業補助金の扱いなどを巡る意見の隔たりは大きく、
  貿易戦争に歯止めがかかるかは予断を許さない。トランプ氏
  と習氏は2018年12月の首脳会談で貿易問題の打開策を
  探る方針で一致した。   https://s.nikkei.com/2FfDrmf
  ───────────────────────────
G20大阪サミットで米中首脳会談開催で合意.jpg
G20大阪サミットで米中首脳会談開催で合意

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2019年06月21日

●「2019年は『逢九必乱』に該当」(EJ第5031号)

 習近平国家主席は、6月末の大阪サミットにおいて、トランプ
米大統領と首脳会談を行うことで合意しています。しかし、これ
までの交渉経緯をみる限り、合意できることはきわめて限られて
います。米国としても中国からのほぼすべての輸入品に高関税を
かける「第4弾」は、米国にとってもダメージが大きく、本心で
はやりたくないのです。
 それに、トランプ大統領は、18日に次期大統領選への出馬を
表明しており、なるべく国内にダメージを与えることはやりたく
ないし、米中交渉が決裂した場合、交渉をうまく取り運べなかっ
た大統領の責任も問われることになります。ところが、中国側か
らの首脳会談の諾否の連絡はなかなか来なかったのです。
 米中貿易交渉の難しさについて、20日付の日本経済新聞は次
のように報道しています。難問山積です。
─────────────────────────────
 米中貿易交渉の行方は世界経済の先行きも大きく左右するが、
主要論点を巡る双方の主張は隔たったままだ。特に産業補助金の
巡る溝は深い。米国が地方政府も含む全国規模での補助金全廃を
求めているのに対し、中国は「経済体制の根幹」にかかわるとし
て撤廃には慎重だ。発動済みの追加関税についても、中国は合意
時全廃するよう求め、一部を残したい米国との歩み寄りは見られ
ない。      ──2019年6月20日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 ところが、中国側は、G20の10日前になって、首脳会談に
応ずると返事をしてきたのです。習主席はなぜ、会談に応じたの
でしょうか。
 中国が米中首脳会談の実施に慎重だったのは、交渉が決裂した
ときに習近平国家主席が受けるダメージの大きさです。それは計
り知れないものがあります。そのため、中国側としては、何か米
中が合意できるカードを持つ必要があります。
 習主席は、トランプ大統領との電話会談のさい、貿易問題にと
どまらず、米中関係の根本的な問題で意見を交わす、拡大会合を
やりたいということで、両国は合意したといいます。そして、中
国側が切って来たのが、北朝鮮カードです。北朝鮮問題は、現在
の中国が対米交渉で主導権がとれる数少ないカードだからです。
本稿執筆時の20日、習主席は北朝鮮を訪問しています。
 中国としては、米中首脳会談にはアタマを痛めていたのです。
会談を行わなければ、「中国は逃げた」といわれるし、実施して
決裂すれば、習政権へのダメージが増幅します。しかし、このよ
うな拡大会合であれば、中国側は貿易問題で一切譲らなくても、
他の問題での合意ができれば、会談自体が決裂という結果にはな
らないわけです。
 なぜ、中国が慎重なのかというと、中国には「逢九必乱」とい
う言葉があり、末尾が「9」の年は、中国という国全体を揺るが
しかねない「必乱の年」になりかねないからです。福島香織氏の
最近著の冒頭に説明があったので、ご紹介することにします。
─────────────────────────────
     1919年 ・・・ 五四運動
     1949年 ・・・ 中国建国
     1959年 ・・・ チベット動乱ピーク
     1969年 ・・・ 珍宝島事件
     1979年 ・・・ 中越戦争
     1989年 ・・・ 天安門事件
     1999年 ・・・ 法輪功弾圧
     2009年 ・・・ ウィグル騒乱
               ──福島香織著/ワニブックス
          『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』
─────────────────────────────
 1919年の「五四運動」というのは、第一次世界大戦が終り
1919年のパリ講和会議で、西欧列強が山東半島の権益につい
て、日本の主張を擁護する側にまわったことに憤激し、同年5月
4日、北京大学の学生デモを皮切りに、反日運動が中国全土に拡
大したことをいいます。
 この五四運動がきっかけになって、1021年に中国共産党が
誕生することになります。そして、1949年に中華人民共和国
が建国されます。国共内戦が激化し、国民党政府は台湾に追い出
され、翌年から血みどろの反革命鎮圧、土地改革が行われ、多く
の国民党関係者や地主が殺害されたといわれます。
 1959年にはチベット動乱が起きています。中国共産党政府
によるチベット統治・支配に対し、民主改革や社会主義改造の強
要などをきっかけに1956年に動乱が起き、1959年に頂点
に達します。これがチベット動乱です。この動乱によって、ダラ
イ・ラマ14世はインドに亡命することになったのです。
 1969年に中ソ国境紛争が起きます。中国とソ連の国境にな
っているウスリー川上の珍宝島の領有をめぐって中ソ国境警備隊
同士が衝突したのです。これが珍宝島事件です。あわや中ソ全面
戦争に発展するかという危機に直面したのです。
 1979年には中越戦争が起きています。ケ小平は、文化大革
命でガタガタになった軍隊を立て直すため、米国との戦争で疲弊
しているベトナムに攻め込みます。相手がベトナムなら絶対に負
けないと考えたからです。
 ところが人民解放軍の弱いこと、60万人の1割の死傷者を出
す惨敗を喫したのです。ケ小平は、「無駄な兵士がだぶついてい
る」として、人民解放軍の100万人削減を断行します。もちろ
ん、国内的には「ベトナムに勝利」ということで、敗戦を隠して
いることは、この国ではいうまでもないことです。
 そして、1989年は天安門事件が起きています。中国人民に
よる民主化を求めるはじめての本格的デモです。そう、天安門事
件も末尾が「9」の年に起きているのです。ここまで一致すると
偶然とは思えなくなります。天安門事件以降については、来週取
り上げます。        ──[中国経済の真実/030]

≪画像および関連情報≫
 ●中国「逢八必災、逢九必乱」の法則/澁谷司氏
  ───────────────────────────
   中国では、「末尾が8の年」には必ず災害が起き、「末尾
  が9の年」には必ず動乱が起きるという言い伝えがある。こ
  れが本当かどうか、順番が逆だが、まず、後者(「末尾が9
  の年」)から検証してみよう。
   1949年には、中国共産党が国民党を大陸から追い出し
  政権を樹立した。1959年にはチベットで動乱が起きた。
  そして、ダライ・ラマ14世がインドへ亡命している。19
  69年には、「中ソ国境紛争」が勃発した。1979年には
  ケ小平がカンボジアに政治介入したベトナムを“懲罰”する
  として、「中越戦争」を起こしている。
   1989年には、中国共産党は「民主化」運動を弾圧し、
  「六・四天安門事件」が起きた。その後、中国の「民主化」
  は後退している。
   1999年には、法輪功修練者が、天安門広場で静座して
  中国共産党に抗議を行った。そこで、江沢民政権は「610
  弁公室」を立ち上げ、法輪功を邪教として弾圧を開始してい
  る。2009年には、新疆・ウイグルで「7・5事件」が起
  きた。確かに、1959年以降、これらの事件は全て中国共
  産党政権を揺るがす大事件だったと言えるだろう。今年(2
  019年)は、その年に当たる。おそらく、習近平政権は、
  ピリピリしているに違いない。  https://bit.ly/2WUEiPw
  ───────────────────────────

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習近平国家主席の訪朝を伝える労働新聞/北朝鮮
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2019年06月24日

●「共産党を守るため国民を監視する」(EJ第5032号)

 今回のテーマは、主として経済の面から、現在の中国が持続可
能であるかどうかを検証しようとしています。しかし、経済以外
の面でも、中国の国家体制の維持を脅かすファクターは数多くあ
ります。政変やクーデターが起きたり、中国各地では農民の反乱
や動乱の兆しも漂っています。なかでも深刻なのは、宗教による
対立であり、下手をすると、これが原因で中国は、分裂国家にな
る可能性すらあります。
 「逢九必乱」の続きですが、1999年に「法輪功弾圧」とい
うのがあったのです。「法輪功」というのは、もともと宗教では
なく、気功学習を目的とするクラブ活動のようなもので、共産党
員も多く参加していたのですが、だんだん共産党中央の規制が強
化されるようになります。
 これに対して、法輪功学習者は、1万人が天安門広場に集まり
時の首相である朱容基氏に対し、不当な弾圧をやめるよう平和的
な抗議行動を起こします。朱容基首相は、法輪功学習者の訴えに
一定の理解を示し、当初は、今後の法輪功の活動も認める方針で
あったといいます。
 しかし、当時法輪功の学習者は、中国全土で共産党員を上回る
7000万人といわれ、その数の大きさに怯えた江沢民国家主席
は、法輪功を強引に「邪教」と位置付け、徹底的に弾圧せよと命
令を出したのです。とにかく中国は「数」を恐れるのです。共産
党政権にとって脅威であれば、何でも取り締まるし、それには手
段を選ばないのです。これが1999年です。
 そして、2009年にウイグル騒乱が起こります。広東省で起
きた中国人によるウイグル人の襲撃・殺害事件の真相を求めて、
ウイグル人がウルムチ市でデモを起こしたのです。このデモに対
し、中国の治安部隊が発砲したことから騒乱に発展します。この
とき、国営通信社である新華社も、2000人近い死傷者が出た
と発表しているので、実際にはもっと多くの死傷者が出ているも
のと思われます。天安門事件と同じです。実はこの騒乱も宗教深
く関係するのです。
 そして、今年、2019年です。既に、年の前半だけで、米中
貿易戦争が過熱化し、香港では「逃亡犯条例」を巡り、香港市民
の4分の1が反対を表明するデモが起きています。G20大阪サ
ミットでも米中貿易摩擦が解決するとは思えません。あと6ヶ月
あるので、このあと何が起きても不思議ではないのです。
 中国におけるICTの発達、とくに通信ネットワーク技術の向
上は、中国共産党体制を中国人民から守る目的で発達したもので
あり、動機がおかしいです。なぜ、自国人民を中国政府は警戒す
るのでしょうか。
 自国人民だけではありません。中国を仕事をしている外国人や
観光客にいたるまで、中国の監視システムは働いているのです。
福島香織氏は、記者として中国で仕事をしていたことがあります
が、次のような異常な体験を語っています。
─────────────────────────────
 中国で記者として取材していた時代は、いろいろと不自由なこ
とがありました。たとえば、軍事管制区に近づくと、見知らぬ人
から携帯に電話がかかってきて、「お前は今どこにいるんだ?」
と詰問されたり、人権派弁護士と喫茶店で待ち合わせていると、
斜め後ろにどこかで見たことある顔の、でもどこの誰かははっき
りしないカップルが座っていて聞き耳を立てていたり。
 あるいは友人と普通に電話していて、「南京大虐殺記念館の展
示物はみんな出鱈目だよ」なんて話をしていると、突然電話回線
がジャックされて「嘘を言うな!」と怒鳴られて、一方的に電話
を切断されたこともありました。──福島香織著/ワニブックス
          『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』
─────────────────────────────
 なにしろ、地球規模のレベルで膨大な情報が飛び交うこのネッ
トワークの時代に、中国は、中国共産党にとって都合の悪い情報
をすべて中国の人民から遮断する、いわば「情報の鎖国」を行っ
ていますが、それには、とてつもない膨大な人員と、当方もない
コストがかかっています。それは、中国を訪れる外国人にまで及
んでいます。
 問題は、それが生産性のない、経済にとって何のプラスにもな
らない、膨大な労力であることです。そんなことをしても、テク
ノロジーはどんどん進化し、やがて情報の遮断が不可能になるこ
とは目に見えています。なにしろ中国には、約14億人の人民が
いるのですから。
 既に述べているように、中国の人口は3億人の都市戸籍を持つ
人たちと、3億人の農民工の人たち、それに8億人の昔ながらの
貧農の人たちで成り立っています。全部で14億人です。
 都市戸籍を持つ3億人の人たちは中国共産党員やその親派であ
り、生活も豊かであるので海外にも出られますし、本当の情報が
把握できますが、反政府的な行動を起こさない人たちです。した
がって、中国政府にとって一番怖いのは、農民工と昔ながらの貧
農の8億人が組んで反政府行動を起こすことです。
 そのため、これらの8億人に対してとくに厳重に情報の遮断を
行っています。これに加えて中国の監視体制は徹底しており、街
中に設置されている監視カメラは、顔認証カメラも含めて、その
台数は、2022年までには、27億6000万台に達するとい
われています。つまり、中国人1人につき、2台の監視カメラが
設置される計算になります。途方もない監視社会です。
 そこまでして、中国政府は中国共産党を守ろうとしています。
現在、中国政府が一番警戒しているのは宗教です。なぜなら、宗
教のグループの結束力は非常に強く、どのような弾圧も跳ね返す
からです。とくに習近平主席の宗教政策は、歴代の中国共産党指
導者のなかでも最悪といわれており、その異常性は習近平主席の
数ある政策のなかでも突出しているといわれています。そのキー
ワードは「宗教の中国化」です。
              ──[中国経済の真実/031]

≪画像および関連情報≫
 ●「監視社会」として先進国の先を行く中国
  ───────────────────────────
   頻発するテロ事件や犯罪、災害、事故などを未然に防いだ
  り、被害を小さくしたりするために、ITなどの技術を使っ
  て、都市の安全性や効率性を高める動きが世界で広がってい
  る。こうしたパブリックセーフティー(公共安全)の向上を
  一気に推し進めようしている国の一つが中国だ。
   北京や上海といった大都市は、地方からの人口流入で渋滞
  や大気汚染などが慢性化し、都市機能は、限界に近づいてい
  る。中国政府は内陸部の小都市などの発展を促して大都市の
  問題解決を図るとともに、農村と都市の住民の間にある格差
  を解消しようとしている。テクノロジーを活用した公共安全
  の向上は、大都市の問題解決と小都市のレベルアップの双方
  に役立つ。さらに、インフラへの投資によって経済の活性化
  につなげる狙いだ。
   広東省深せん市や江蘇省南京市、山東省済南市などでは、
  顔認証技術を使い、信号を無視して交差点を渡る歩行者を撮
  影し、大型のディスプレーに映し出す仕組みが登場した。中
  国政府は公共安全の技術を使って、国民のマナー向上にまで
  つなげようと考えているようだ。ここまで来ると監視社会を
  感じさせるが、こうしたことができるのは社会主義国の中国
  だからこそだろうか。中国の信号無視対策はやりすぎだとし
  ても、テロなどの脅威が以前にも増して高まっている以上、
  より安全な都市を作りたいという要望が高まるのは自然な流
  れで、日本を含む民主主義国であっても同様だろう。
                  https://bit.ly/2FrkFJ3
  ───────────────────────────


国民を監視する中国の監視カメラ.jpg
国民を監視する中国の監視カメラ
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2019年06月25日

●「習近平/宗教の中国化をはじめる」(EJ第5033号)

 習近平主席の宗教政策について、中国に詳しいジャーナリスト
福島香織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 習近平の宗教政策は、おそらく歴代中国共産党指導者のなかで
最悪であり、その異常性は習近平の数ある政策のなかでも突出し
ていると思います。             ──福島香織氏
               ──福島香織著/ワニブックス
          『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』
─────────────────────────────
 習近平主席の宗教政策は、2018年4月発行の宗教白書「中
国の宗教信仰の自由を保障する政策と実践白書」にあらわれてい
ます。そこで示されるキーワードは「宗教の中国化」です。
 「宗教の中国化」とは何でしょうか。
 この白書によると、中国には、次の5大宗教があり、その人口
は2億人を超えています。
─────────────────────────────
           1.   仏教
           2.キリスト教
           3.イスラム教
           4. ユダヤ教
           5.ヒンドゥ教
─────────────────────────────
 この「2億」という数字は、中国共産党が認める宗教者数のこ
とです。2億まではコントロールできると考えているのです。中
国には、中国共産党が認める宗教と未公認の宗教がありますが、
未公認の宗教は「邪教」とされ、排除・迫害の対象となっていま
す。「法輪功」は、江沢民主席の命令で「邪教」に指定され、迫
害を受けています。宗教人口の実際の数は不詳ですが、実数はこ
の2倍以上いるといわれています。キリスト教だけでも1億人以
上、仏教は3億人以上いるといわれます。
 中国は、宗教による結束を危険なものと考えています。これが
一定の数を超えると、なかなか解体させるのが困難になります。
そこで、これらの宗教は「国家宗教事務局」が管理してきました
が、2018年4月からこの事務局は、党中央統一戦線部という
組織の傘下に組み入れられています。これは、党中央が直接、宗
教を指導・管理できるようにしたことを意味します。
 これについて、元国家宗教事務局副局長の陳宗栄氏は次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 我が国の宗教の中国化方向を堅持し、統一戦線と宗教資源のパ
ワーを統率して宗教と社会主義社会が相互に適応するように積極
的に指導することを党の宗教基本工作方針として、全面的に貫徹
する。        ──元国家宗教事務局副局長の陳宗栄氏
                ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 党中央統一戦線部とは、正式には「中国共産党中央統一戦線工
作部」といい、中国共産党中央委員会に直属し、中国共産党と党
外各民主党派(中国共産党に協力する衛星政党)との連携を担当
する機構です。チベットや台湾に対する反党勢力への工作を行い
祖国統一を実現することを目的とする部署です。
 この党中央統一戦線部の傘下に国家宗教事務局が入るというこ
とは、祖国統一の工作と、宗教を一体化することを意味していま
す。具体的にいうと、台湾統一問題とカトリック教、チベット問
題とチベット仏教、ウィグル問題とイスラム教をそれぞれ一体で
考えるという発想です。
 つまり、宗教へのコントロールを強化して、それぞれの信者た
ちの思想のパワーを祖国統一へのパワーに結びつける。これこそ
が、中国共産党の任務であるというのです。これが「宗教の中国
化」の考え方です。この宗教の中国化について、福島香織氏は次
のように述べています。
─────────────────────────────
 “宗教の中国化≠ニは、”宗教の中国共産党化″あるいは宗教
の社会主義化″といえるかもしれません。ですが、宗教の社会
主義化など、本来ありえません。宗教を否定しているのがマルク
ス・レーニン主義なのだから。中国共産党規約によれば、中国共
産党員は信仰を持ってはいけないはずです。宗教が社会主義化す
るということは、つまり宗教が宗教でなくなる、ということなの
です。そもそもキリスト教の人道主義と、中国の一党独裁体制の
実情は相反しています。     ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 この「宗教の中国化」の政策のもと、習近平政権下で、激しい
宗教弾圧が始まっています。なかでも異常なほど厳しいのが、イ
スラム教を信仰するウイグル人への弾圧です。その弾圧は、他の
宗教に比べても異常なほど厳しく、残酷なものです。それは、習
近平政権になって強化されています。
 ウイグル人は、中国北西部の新疆ウイグル自治区に住んでいま
す。中国に5つある自治区の1つです。新疆ウイグル自治区は、
カザフスタンなどと国境を接し、希少金属など鉱物資源が豊富と
されています。もと新疆省であり、古来、シルクロードが通じる
交通の要衝であり、もと新疆省、古来、シルクロードが通じる東
西交通の要路、区都はウルムチ、別名、東トルキスタンとも呼ば
れています。新疆とは「新しい土地」という意味です。
 中国は「宗教の中国化」政策の遂行に当って、国際社会からク
レームがこないように、次のメッセージを出しています。
─────────────────────────────
 中国の宗教団体と宗教事務は外国勢力の支配を受けないし、い
かなる方法でも絶対干渉は受けない。中国の宗教は自立し、自主
的原則を堅持するものである。  ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/032]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平、宗教の「中国化」を標榜/上野景文氏
  ───────────────────────────
   欧州ではカトリック教徒数の減少に歯止めがかからない。
  かかる悩みを抱えるローマ・バチカンにとり、人口13億人
  を抱える中国は、信徒数拡大と言う観点から高い魅力を有す
  る。このため、ローマは、中国との関係改善「外交関係復活
  教会関連懸案改善」を目し、かねてより、北京との協議を続
  けて来ている。特に、フランシスコ法王就任後、熱意と協議
  の頻度は高まっている。
   ところが、最近、中国で、法王に「冷水」を浴びせるよう
  な展開があった。すなわち、昨年10月の第19次共産党大
  会における活動報告の中で、習近平総書記は、国政全般にわ
  たり統制色を強める中で、宗教についても、「宗教が社会主
  義社会に適応するよう導く」、「宗教の『中国化』の方向を
  堅持する」と明言――つまり党による宗教への「締めつけ」
  を強めると共に、外国の影響を抑えるということ――して、
  内外宗教関係者を憂欝にさせた。
   以下本稿では、中国カトリック教会に焦点を絞り、同教会
  の「中国化」にこだわる北京と、ローマと中国の教会の間を
  繋ぐ絲を守りたいローマとの間の「せめぎ合い」が、習政権
  下どう展開するか、占う。
   先ず、教会の現状につきおさらいしておこう。中国のカト
  リック教会には、北京政府系の中国カトリック愛国会(CC
  PA)に属し、その管理に服する「公認教会」と、CCPA
  に属さず、あくまでローマ法王に従うことを旨とする「非公
  認教会(地下教会)」の二つの「異質な教会」が併存する。
                  https://bit.ly/2Xvrsvi
  ───────────────────────────

新疆ウイグル自治区.jpg
新疆ウイグル自治区
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2019年06月26日

●「ウイグルを徹底的に弾圧する理由」(EJ第5034号)

 中国は、共産党一党独裁という国家体制を敷いている特殊な国
家です。国内には、多くの不満分子もいることから、国のトップ
である総書記/国家主席は、つねに命の危険にさらされていると
いえます。
 実際に中国の指導者はよく暗殺未遂に遭っています。ケ小平は
7回、胡錦濤元主席は3回遭っていますが、習近平氏は、総書記
になる前に2回、1期目の任期の5年間で10回、2期目に入っ
てからも2回遭っています。合計14回という多さです。
 習近平主席は、とくにウイグル人については、かなりひどいこ
とをやっています。福島香織氏の本によると、ごく最近のことで
すが、次のようなことがあったのです。
─────────────────────────────
 2019年2月5日。中国でいうところの春節″の日、中国
新彊ウイグル自治区グルジャ市(伊寧市)で一つの悲劇が起きて
いました。漢族役人たちが、春節祝いをもって、「貧困少数民族
救済」という建前で、ウイグル家庭に新年のあいさつにきたので
す。その春節のお祝いの品とは、ムスリムにとって禁忌の豚肉と
酒でした。役人たちはあたかも善意を装って、ウイグルの人たち
に豚肉を食べろと強要し、彼らが嫌がるそぶりを見せると、20
17年4月に制定された「脱過激化条例」に違反した、と言って
再教育施設に強制収用するつもりなのです。RFA(ラジオ・フ
リージア)という米国政府系資金が入ったメディアが報じていま
した。            ──福島香織著/ワニブックス
          『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』
─────────────────────────────
 「再教育施設」というのは、正式には、「再教育職業訓練セン
ター」といい、習近平政権2年目の2014年に、新疆地区を中
心に造り始めています。その実態は、職業訓練などではない、思
想の再教育をする強制収容所です。
 問題は、なぜ、新疆地区を中心に造ったのかというと、明確な
理由は分からないものの習近平主席自身が、2014年4月30
日に、ウルムチ南駅での爆破テロに遭っているからです。これに
ついて中国共産党は、ウイグル人全体が、祖国である東トルキス
タンを侵略されたと恨みに思っているせいであるとしています。
そのためウイグル人が持つ民族の思想、伝統、文化を丸ごと破壊
し、再教育をして、中国共産党に忠実な愛国者にしなければなら
ないと考えています。無茶苦茶なことです。
 この再教育職業訓練センターに収容され、奇跡的に生還したオ
ムル・ベカリ氏という人がいます。この人は、新疆ウイグル自治
区の地方都市トルファンで生まれ、民族的にはカザフとウイグル
の混血で、成人後はカザフスタンで国籍を取得したカザフスタン
人です。彼は、ビジネスマンとしてウルムチに出張し、たまたま
両親の住むトルファンに立ち寄ったところ、いきなり武装警察に
よって連行され、再教育職業訓練センターに収容されたのです。
 カザフスタンにいるオムル氏の妻が国連人権委員会に手紙を書
いて救いを求め、カザフスタン大使館からカザフスタン政府にも
訴えたのです。これに人権NGOやメディアも動き、2017年
11月4日にオムル氏はやっと釈放されています。カザフスタン
国籍であったからこそ、釈放されたといえます。
 オムル氏は、現在のウイグルの現状について、ある講演会で次
のように話しています。
─────────────────────────────
 ウイグル問題は、見方によってはシリアの内戦などよりも残酷
です。戦争が起きていれば、世界中の誰もが同情する。でも東ト
ルキスタンは新彊ウイグル自治区として、観光客が普通に訪れる
ことができる一見すると平穏な地域なんです。でも、ウイグル人
は厳しい監視下に置かれ、家族がある日忽然と消えても、収容先
で急死しても、何事もなかったかのような幸せなふりで”日常
を営まねば、今度は自分が収容されかねないという恐怖を抱えて
いるのです。          ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 ウイグル人弾圧は、習近平主席の3大悪代官の筆頭とされる陳
全国氏が、新疆ウイグル自治区の党委員会書記の地位に就いてか
ら一層ひどくなったのです。2016年8月のことです。この陳
全国は、泣いている子供に「陳全国が来るよ」というと、泣きや
むといわれるぐらい悪辣なことを平気でやる人物のようです。
 陳全国書記は、新疆地域を徹底的な監視社会化し、ウイグル人
が何をしているかを管理しています。おびただしい数の監視カメ
ラを設置するだけで満足せず、住民のスマホに追尾機能が付いて
いる「監視アプリ」を強制的にダウンロードさせ、その行動の監
視を始めたのです。それに加えて、12歳〜65歳の全ウイグル
人に対して、DNAや虹彩などの生体情報を含むあらゆる個人情
報を提出させ、スマホのGPSとAI付き監視カメラをリンクさ
せ、個人の行動、言論、人間関係などのすべてを監視することが
出来るようにしたのです。
 したがって、ウイグル人が、日常生活と少しでも違った行動を
すると、すぐに公安が訊問に訪れるといいます。これが、オムル
氏のいう「家族がある日忽然と消えても、収容先で急死しても、
何事もなかったかのような幸せなふりで”日常≠営まねば、今
度は自分が収容されかねない」という言葉の真の意味です。
 陳全国氏の悪辣さはこれに止まらないのです。2016年から
17年にかけて、警察官3万人、警察協力者9万人の大増員を行
い、とんでもないことをはじめたのです。それが、監視のための
「ホームスティー制度」です。
 ホームスティー制度とは、警察協力者が定期的にウイグル家庭
に泊まり込み、行動を監視する制度です。このように、家庭のな
かまで入り込んで、ウイグル人の全行動を把握しているのです。
つまり、ウイグル人のあらゆる「自由」を奪い、国家の監視下に
置いています。こんなことが許されていいのでしょうか。
              ──[中国経済の真実/033]

≪画像および関連情報≫
 ●日本で「ウイグル問題を報じづらい」3つの深刻な理由
  ───────────────────────────
   最近、中国が新疆ウイグル自治区でおこなっている少数民
  族ウイグル人への弾圧問題が、世界でのホットなトピックに
  なっている。国連人種差別撤廃委員会は2018年8月末、
  最大100万人のウイグル人が強制収容所に入れられている
  との指摘を報告。米中両国の政治的対立もあり、最近は米国
  系のメディアを中心に関連報道が続いている。
   トルコ系のウイグル人が多く住む新疆は、チベット・内モ
  ンゴルなどと並び、20世紀なかば以降にやっと中国政府に
  よる直接支配が確立した地域なので、少数民族の間では独立
  や自治獲得を望む意向が強い。
   だが、中国では1989年の六四天安門事件後、国家の引
  き締めのために漢民族中心主義的なナショナリズムが強化さ
  れ、また経済自由化のなかで辺境地帯の資源・都市開発や漢
  民族による移民が進んだ。結果、2010年前後からは追い
  詰められた少数民族による大規模な騒乱が増えた。少数民族
  のなかでも、イスラム教を信仰するウイグル人は、中国共産
  党にとっては「党以外の存在」に忠誠を誓っているように見
  える。彼らは人種や文化習慣の面でも漢民族との隔たりが大
  きく、中央アジアや中東との結びつきも強いことから、他の
  少数民族以上に強い警戒を持たれている。
                  https://bit.ly/2LhwViG
  ───────────────────────────

陳全国新疆ウイグル自治区党委員会書記.jpg
陳全国新疆ウイグル自治区党委員会書記
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2019年06月27日

●「今年はチベット動乱60年である」(EJ第5035号)

 習近平政権になって、強力に推進されている「宗教の中国化」
は、その実態を調べてみると、あるわ、あるわ、5大宗教すべて
において、深刻な問題がたくさんあります。これを一つずつ、て
いねいに書くと、これだけでひとつのテーマになってしまうので
福島香織氏の本にしたがって、チベット(チベット仏教)の現状
についてのみ、述べるにとどめることにします。
 今年、2019年は、1956年から始まった、いわゆる「チ
ベット動乱」がピークに達した1959年3月10日の「ラサ蜂
起」から60年目に当ります。「ラサ蜂起」については次の【A
FP=時事】の記事をご覧ください。
─────────────────────────────
 中国の支配に対して武装蜂起し、ラサのポタラ宮前に集まった
チベット民衆。この日、ダライ・ラマ14世が中国側に拉致され
ると疑ったラサ市民数万人が解放軍と全面対決するに至った。ダ
ライ・ラマ14世はチベットを3月17日脱出した。中国当局は
動乱制圧後、「民主改革」(社会主義化)を推進。65年に自治
区を設立した(チベット・ラサ=当時)
        ──1959年3月10日/【AFP=時事】
                  https://bit.ly/2LbVOfX ─────────────────────────────
 ダライ・ラマ14世は、1935年生まれで、4歳のときに活
仏の転生者として認定されましたが、1959年のチベット動乱
のさい、身の危険を感じて、数万人の民とともにインドに亡命し
ています。おそらく彼は「世界一有名な難民」でしょう。
 チベット動乱では、正確な数字は出ていないものの、解放軍の
鎮圧による犠牲者は、120万人を超えるといわれます。これは
チベット人口の5分の1に該当します。
 習近平政権は、今年がチベット動乱から60年目であることを
警戒し、この3月から4月は、外国人のチベット地域への立ち入
りを制限しました。とくにダライ・ラマ14世の生まれ故郷のタ
クツェル村には、大勢の武装警察が出動し、厳重警戒をしていた
といわれます。
 それに加えて、中国当局は、今年の3月、「チベット民主改革
60周年白書」を発表しました。その内容はこうです。1959
年のチベット動乱は、中国共産党がチベットの人々を農奴制から
解放し、チベット地域の統治権確立を宣言して60年になるが、
中国共産党による「民主改革」は大きな成果を上げている。
 これに関連して、ダライ・ラマ14世は自身の政治的特権を守
るために、チベットの発展を阻害してきた害悪である。しかし、
中国共産党のおかげで、この60年の間に、チベットのGDPは
191倍になっている──こういう内容です。
 これは、中国共産党の立場に立ったときの意見ですが、チベッ
ト動乱以後のチベットについて、福島香織氏は、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 このチベット騒乱の鎮圧以降、ダライ・ラマ14世の中道路線
を求める希望もあり、チベットには大きな抵抗運動は起きていま
せんが、代わりに絶望したチベット仏教の僧侶や尼僧、信者らの
焼身自殺が相次ぎました。
 2018年暮れまでに150人以上が自らを燃やし、中国共産
党によるチベット弾圧の悲劇を世界に訴え続けてきました。です
が、世界的にはチベット問題に対する関心は依然と低く、チベッ
トの状況はますます厳しくなりました。    ──福島香織著
   /『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』ワニブックス
─────────────────────────────
 チベット人は、ウイグル人と違って、政権サイドへの対応はお
となしいように見えますが、これは、ダライ・ラマ14世が説く
「中道路線と非暴力」によるものです。チベット人は、忠実にそ
の教えを守っています。だから、おとなしいのです。
 既にダライ・ラマ14世は、2011年に政治から引退を表明
していますが、現在でも、彼はチベット人の精神的な支えになっ
ているのです。
 しかし、ダライ・ラマ14世は現在84歳、今年に入ってから
も、持病の肺感染症で入院するなど、健康がいまひとつ思わしく
ない。問題はダライ・ラマ14世が亡くなったときが大変です。
チベット人に何が起きるか。これについて、福島香織氏は次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 もし、ダライ・ラマ14世が入寂されたら、残されたチベット
人たちはどうなるのでしょう。私は、ダライ・ラマ14世の入寂
がきっかけで、チベット人たちの忍耐が切れるのではないか、あ
るいはそれを懸念しすぎる習近平政権が、先に今以上に徹底的な
チベット弾圧を展開するのではないか、と心配でなりません。ダ
ライ・ラマ14世は転生しないと宣言していますが、中国はダラ
イ・ラマ15世を自らの手で探し出し、あるいはでっち上げて育
て、チベット仏教そのものを中国化しようと試みるでしょう。
 そのような宗教への冒涜が行われたとき、これまで、おとなし
かったチベット人も立ちあがるかもしれません。チベット人は、
700万人程度と決しておおきな人口ではありませんが、ウイグ
ル人やモンゴル人ら、やはり自治と独立を望む人々が一斉に連動
して蜂起し始めたら、制度疲労を起こしかけている中国共産党体
制の屋台骨が揺らぐかもしれません。
                ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 同じようなことがキリスト教にも仏教にもあります。習近平政
権は、2018年9月にバチカンと司教任命権をめぐる対立に対
して、暫定合意をし、国交回復に動き出す構えを見せていますが
これも「宗教の中国化」の話です。もし、これに失敗すると、中
国分裂も十分起こり得ることになります。
              ──[中国経済の真実/034]

≪画像および関連情報≫
 ●チベット暴動/中国はダライ・ラマ派との「人民戦争」宣言
  ───────────────────────────
  [北京/2008年3月16日/ロイター]中国チベット自
  治区ラサで発生したチベット仏教僧らによる大規模な暴動を
  受け、中国の当局者らは、チベット仏教の最高指導者ダライ
  ・ラマ14世の支持者らとの「人民戦争」を戦うとの姿勢を
  強調した。同暴動をめぐっては、数十人の死者が出ていると
  の情報もある。
   ラサでは14日、けさをまとった者や独立を求めるスロー
  ガンを叫ぶ者が商店を破壊したり、銀行や政府関連の建物を
  攻撃、警官に石や刃物を振りかざしたりして、大規模な暴動
  に発展した。
   16日付のチベット・デーリー紙によると、中国政府当局
  者は15日の会合で「今回の乱闘や破壊、略奪、放火の憂慮
  すべき出来事は、国内外の反動的な分離派勢力が慎重に計画
  したもので、最終目的はチベットの独立だ」と指摘。「分離
  主義に反対し安定を守るため、人民戦争を戦う。こうした勢
  力の悪意ある行為を暴き出し、ダライ派の醜い面を明るみに
  さらけ出す」としている。
   住民らによると、ラサでは16日現在、鎮圧部隊が道路を
  管制した上で住宅を厳重に監視している。今回の暴動につい
  て、中国は少なくとも10人の「罪の無い市民」が、主にデ
  モ参加者の放火による火事で死亡したと発表した。これに対
  し、ラサとつながりの強い外部関係筋は、ロイターに対し、
  犠牲者はそれよりもはるかに多いと指摘。暴動とその後の鎮
  圧行為での被害者の遺体を実際に目の当たりにしたという人
  物の話として、「ある遺体安置所だけでも67体あったそう
  だ」と語った。         https://bit.ly/2IJftC0
  ───────────────────────────

ダライ・ラマ14世.jpg
ダライ・ラマ14世
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2019年06月28日

●「習近平主席とはどのような人物か」(EJ第5036号)

 今後中国はどうなるのでしょうか。現在の中国は、内外に深刻
な“火種”を抱えており、危機的状態にあります。この危機を乗
り越えられるかどうかは、トップである習近平という人物の手腕
にかかっています。それでは、習近平とはどのような人物なので
しょうか。
 中国に詳しいジャーナリストの福島香織氏は、習近平氏につい
て、次のように表現しています。これは、福島氏の著書の小見出
しに出ている表現です。
─────────────────────────────
 高いプライドと強いコンプレックス。小学生レベルの傲岸不
 遜。それが習近平である。        ──福島香織氏
─────────────────────────────
 一国の、それも約14億人のトップに対する評価としては、か
なりひどいものです。トランプ米大統領も似たような評価をされ
たことがありますが、それでもトランプ氏の場合は、実業家とし
て一応成功を収めており、現在の大統領職でも、それが生きてい
る面があります。しかし、習近平氏にはそれがないのです。
 学歴は、精華大学大学院法学課程、法学博士号取得──立派な
学歴であるといえます。しかし、福島氏によると、習近平が入学
した1975年は、中国は文化大革命の最中であり、まともな大
学入試がなかったといいます。カネがあって、毛沢東のコネがあ
れば、誰でも入学でき、法学博士号論文も、代筆であったといわ
れています。
 習近平氏の父親の習仲勲氏は、建国八大元老の一人であるとい
うそれなりの政治家です。福島香織氏は、現在の習近平氏につい
て、次のように述べています。
─────────────────────────────
 「習近平は無能だ、頭が悪い」と言っている人は実はすごく多
いのです。改革派、開明派と呼ばれる知識人や官僚はもちろん、
保守派、左派の重鎮たちからも、私の知るかぎり、どちらからも
能力的な評価は低くみられています。彼を誉めちぎるのは、ヒラ
メ官僚(自分の出世と保身だけに気を使っている習近平の限られ
た取り巻き連中)だけという印象です。    ──福島香織著
   『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』/ワニブックス
─────────────────────────────
 中国の指導者としては、まず、毛沢東が上げられますが、この
人は、大変優れた軍事戦略家です。日中戦争後の国共内戦では、
蒋介石率いる中華民国を台湾に追放し、中国大陸に現在の中国で
ある中華人民共和国の建国を成し遂げた人物です。
 しかし、毛沢東は経済のことはまるでわかっていないのです。
嫉妬深く、権力欲が強いので、彼の生涯は権力闘争に明け暮れた
といっても過言ではありません。しかし、死去するまで同国の最
高指導者の地位にあった人物です。
 この毛沢東とは少しタイプが違いますが、ケ小平も稀代の天才
政治家です。この人は、権力闘争に3度も敗れますが、3度とも
復活するという不屈の精神の持ち主です。この人は経済のことが
よくわかっていて、社会主義国家であるのに、経済特区を設けて
自由主義経済体制を取り入れるという奇想天外な改革開放路線を
推し進めたのです。
 主として米国と日本を訪れ、視察を重ねた結果、中国が科学技
術の面において大きく遅れていることを知り、両国の力を借りて
改革開放に取り組んだのです。この外資導入による輸出志向型工
業化政策は、その後、きわめて大きな成果を収め、やがて現在の
ような中国になるのです。しかし、改革開放といっても、政治体
制だけはそのままのかたちで温存したのです。
 ケ小平のプラグマティズム(功利主義哲学)は、次の2つの言
葉によくあらわれています。
─────────────────────────────
   ◎白猫であれ黒猫であれ、鼠を捕るのが良い猫である
   ◎窓を開けば、新鮮な空気とともにハエも入ってくる
                      ──ケ小平
─────────────────────────────
 そのケ小平にも危機が訪れます。1989年6月4日の天安門
事件です。天安門事件は、中国共産党体制転覆の危機といっても
よいほどの大事件だったのです。ケ小平は、時の優れた政治家で
ある胡燿邦、趙紫陽と一緒に、中国を立て直そうとしたのですが
失敗し、天安門事件が起きてしまいます。これについて、福島香
織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 天安門事件については、学生たちの民主化運動の側面は広く理
解されていますが、実は、ケ小平、胡燿邦、趙紫陽の権力闘争が
背後にあります。最初はこの優秀な三人の政治家がトロイカ(三
頭立て馬車)のように仕事を分担して、国を立て直そうとしてい
たのですが、胡耀邦の人気が非常に高いので、ケ小平と趙紫陽は
嫉妬し、胡を失脚させました。すると今度はケ小平と趙紫陽が対
立することになりました。趙紫陽は学生運動を利用しようとし、
部小平は学生運動を鎮圧したのです。
                ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 ここでケ小平は、文革経験と天安門事件の経験から、中国を治
めるのは、1人に政権を託すのではなく、何人かの集団指導体制
を築く必要があると考えます。そして、才能がとくに優れている
わけではないが、江沢民氏に総書記、国家主席、中央軍事委員会
のトップの権限を与え、「5年2期/10年」という任期を定め
たのです。そして、江沢民政権の後で、後継者争いが起きないよ
う、次の指導者は胡錦濤氏であるとの指名を行っています。
 この流れのなかにおいて、胡錦濤政権の次に、習近平氏にトッ
プの座がまわって来たわけです。しかし、習近平氏は、現在、こ
のケ小平ルールを壊そうとしています。
              ──[中国経済の真実/035]

≪画像および関連情報≫
 ●李登輝が語る「天安門事件」が台湾の民主化に与えた影響
  ───────────────────────────
   天安門事件から30年を迎え、台湾や香港では大規模な追
  悼集会が開かれた。特に台湾は、言論の自由が保障されてい
  ることもあり、台北市内中心部の中正紀念堂で、戦車の前に
  立ちはだかった学生を模したモニュメントが展示されたほど
  である。
   奇しくも天安門事件の発生から9ヶ月後の1990年3月
  台湾でもまた自由や民主化を求める学生運動が起きていた。
  当時の総統は李登輝。これまで何度も書いてきたが、88年
  に蒋経国が急逝して総統職を継いだものの、すぐに権力をふ
  るうことなど不可能な環境だったといえる。周囲は李登輝を
  つかの間の代打と捉えるか、あるいは形ばかりの「ロボット
  総統」に仕立てて背後からコントロールすればよいと考える
  者ばかりだったそうだ。
   また、李登輝自身も「急進的な民主化」は望んでいなかっ
  た。もちろん頭のなかには「人々が枕を高くして安心して寝
  られる社会を実現したい」という青写真があったものの、と
  にもかくにも最優先させたのが、「社会の安定」だったとい
  う。それまでの台湾は戦後40年あまり、良くも悪くも国民
  党による強権統治の支配下にあった。蒋介石から息子の蒋経
  国へとバトンタッチされ、いちおうは国民党が一枚岩となっ
  てこの台湾を統治してきたのである。
                  https://bit.ly/2IQzPcD
  ───────────────────────────

胡燿邦氏と趙紫陽氏.jpg
胡燿邦氏と趙紫陽氏
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2019年07月01日

●「中国に最も貢献した人物とは誰か」(EJ第5037号)

 この原稿は29日の朝書いています。29日は、G20大阪サ
ミットの最終日であり、午前11時頃から、注目の米中首脳会談
が行われます。これに関するコメントは、明日のEJですること
にします。
 6月29日付、朝日新聞の「天声人語」は、中国をテーマにし
て、次のように書き出しています。
─────────────────────────────
 中国は、ひそかに、世界一の座をかけたマラソンに挑み、建国
100年の節目になる2049年までに米国を追い抜こうとして
いる。数年前から折々に聞く「100年マラソン」論である。提
唱したのは米政府の中国専門家マイケル・ピルズビリー氏。4年
前に著した『チャイナ2049』で、野心を巧みに隠しつつ、米
国の弱点を射抜こうとする中国を描いた。米国は油断し、迫る影
にも気づいていないと指摘した。
    ──2019年6月29日付、「天声人語」/朝日新聞
─────────────────────────────
 まさにその通りのことが、いま起きています。米国が、「中国
の迫る影に気が付いた」からこそ、現在米中の衝突が起きている
のです。「100年マラソン」でいえば、今年はちょうど「30
キロの壁」。急な疲れに襲われて米中が衝突し、世界中に緊張が
走っている状態といえます。
 現在の中国を理解するうえで、絶対に抜きにしては語れない人
物がいます。それは次の2人です。
─────────────────────────────
        毛沢東(1893〜1976)
        ケ小平(1904〜1997)
─────────────────────────────
 といっても、ここで中国論をやるつもりはないです。EJが追
及するのは、あくまで現在の中国がこの先どうなるかです。しか
し、それを探るにあたって、この2人について、基本的なことを
知る必要があるのです。
 中国の近代化は、日本と異なり、次の3つの経過をたどってい
るという社会学者の橋爪大三郎氏の指摘です。
─────────────────────────────
     1.スタートまでに多くの時間を要している
     2.すべてを中国共産党が主導していること
     3.欧米の近代化とは異なる独自の道である
─────────────────────────────
 橋爪大三郎氏によると、中国の近代化のスタートが非常に遅れ
た原因は「儒教」にあるというのです。儒教とは、約2500年
前に、中国に生まれた思想家である孔子の思想を基礎にした考え
方です。橋爪大三郎氏は、儒教と中国の関係について、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 中国を解くカギは儒教にある。儒教は、中国の社会構造を規定
し、中国を生きる人びとの意識を規定している。何千年もの時間
をかけて、中国文明の深いところまで儒教は根を下ろした。ゆえ
に、西欧文明のほうがよさそうだと思っても、日本人のようにす
ぐ飛びつくことはできなかった。
 儒教を解体して、中国を近代化のレールに乗せる。その大転換
を果たしたのが、毛沢東である。毛沢東は、中国革命を象徴する
人物だ。中国共産党を率い、旧体制を攻撃し、抗日戦争を戦い、
国民党を打ち倒し、共産党の幹部にも繰り返し牙をむいた。彼の
「革命的ロマン主義」は、しばしば現実から遊離し、中国にとっ
て危険でさえあった。
 儒教を解体するためには、それに代わる思想が、外から来る必
要があった。それがマルクス主義である。マルクス主義は革命の
ための、普遍思想である。毛沢東はそれを、中国化した。毛沢東
は中ソ論争を通じて、マルクス主義の解釈権を握った。中国共産
党は、普遍思想の担い手から、ナショナリズムの担い手に変わっ
た。だから中国共産党は、ソ連の脅威を前に、アメリカと手を結
ぶことができた。          https://bit.ly/2Nm66ga
─────────────────────────────
 ここで大事なのは、毛沢東が、ソ連とのマルクス主義について
の論争を通じてそれを中国化していることです。このマルクス主
義の中国化によって、中国共産党は、ナショナリズムの担い手に
なっています。中国は何かというと「核心的利益」といいますが
これはそこからきていると思います。
 少し脱線しますが、中国人に「死は恐いものではない」という
ことを納得させたのも儒教です。人間を「精神」と「肉体」に分
けると、精神の主宰者は「魂」、肉体の主宰者は「魄(はく)」
になります。「生きている」というのは、「魂」と「「魄」が一
致して融合している状態です。死ぬと、魂と魄が分離して天上と
地下に行く──確かに、この考え方は日本にもあります。儒教は
中国、朝鮮、日本という東アジアに強い影響力を持っているので
す。ただ、それが一番弱いのが日本といえるかもしれません。
 さて、毛沢東の死後、権力の空白を埋めて、外国との良好な関
係を築き、中国を経済超大国に導いたのが、ケ小平です。このケ
小平について、米国の社会学者で、中国と日本を筆頭に東アジア
の研究に従事したのはエズラ・F・ヴォーゲル教授です。ヴォー
ゲル教授は、ケ小平について次のように語っています。
─────────────────────────────
 後世の歴史家が、20世紀半ばからの新中国の歩みをふり返り
もっとも大きな貢献をした人物を一人選ぶとしたら、それは毛沢
東ではなく、ケ小平である。 ──エズラ・F・ヴォーゲル教授
─────────────────────────────
 毛沢東だけだったら、中国は崩壊し、分裂していたと思われま
すが、ケ小平がいたから、現在の経済大国の中国になったのは確
かです。しかし、習近平主席は、いま、そのケ小平イズムを壊そ
うとしています。      ──[中国経済の真実/036]

≪画像および関連情報≫
 ●「疑いのない歴史事実」だけを書いた禁欲的な本
  ───────────────────────────
   1999年から翌年にかけて私(橋爪大次郎氏)は客員研
  究員としてハーバード大学で過ごし、エズラ・ヴォーゲル教
  授の知遇をえた。ヴォーゲル教授はちょうど70歳で退職の
  年にあたり、これからケ小平についての本を書くつもりだ、
  と楽しそうに話していた。
   それは楽しみですね。ヴォーゲル先生しか書けないと思い
  ますよ。そして10年あまり、待ちに待った大作が書店に並
  ぶと、たちまちこの分野では異例のベストセラーとなった。
  中国語にも翻訳されて、大陸、香港、台湾の版を合わせると
  100万部を越えている。
   ヴォーゲル教授の仕事が画期的な点は、いくつもある。第
  一に、信頼できるデータにもとづいた、包括的な研究である
  こと。ケ小平のような近過去の指導者は、公開されない情報
  も多い。ヴォーゲル教授は、公開された文献情報をしらみつ
  ぶしにするのはもちろん、それを補うべく、可能な限り多く
  の関係者(家族や元部下、共産党の幹部、外国の政府首脳な
  ど、ケ小平を直接に知る人びと)をインタヴューして、裏付
  けをとった。特に中国の人びととは通訳なしに、中国語で話
  しあっている。
   第二に、膨大なデータをまとめるのに、社会学の理論を下
  敷きにしていること。ヴォーゲル先生の分析は、パーソンズ
  (著名な社会学者で、ヴォーゲル教授の指導教員だった)を
  思わせますね、と私がコメントすると、わかりますか、彼の
  理論は役に立つんです、と種明かしをしてくれた。
                  https://bit.ly/31WH22p
  ───────────────────────────

毛沢東とケ小平.jpg

毛沢東とケ小平
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2019年07月02日

●「小粒な秀才の集団指導体制の確立」(EJ第5038号)

 6月29日にG20大阪サミットで開催された米中首脳会談は
本質的な議論を何もしないまま、関税第4弾は先送りになり、協
議は再開されることに決まったようです。さらに、5月に輸出を
禁止する「ELリスト」に加えた華為技術(ファーウェイ)との
取引を容認することも伝えられていますが、これも協議を通じて
決めることのようです。決まったのは、米国側の都合で関税第4
弾が一時的に先送りになったというだけのことです。
 毛沢東という人は、経済のことがまるでわかっていない人とい
われています。毛沢東は建国後の1949年、「大躍進」と呼ば
れる計画経済を人民公社を軸に推進します。しかし、この政策は
経済合理性を欠いていたため、数千万人の餓死者を出して、大失
敗に終わります。人民公社というのは、農村における農業の共同
経営を行う経済的主体であると同時に、「村」とか「鎮」などの
地方行政組織でもあったのです。
 1960年代になり、時の劉少奇国家主席とその配下のケ小平
は、人民公社方式を改め、農業などに個人経営の要素を取り入れ
経済の発展を図っています。毛沢東は、大躍進政策の失敗の責任
を取って、国家主席の地位を劉少奇に譲っていたのです。これに
よって、中国経済は少しずつ成長をはじめます。
 これに激怒したのがあくまでも思想にこだわる毛沢東です。毛
沢東は、劉少奇やケ小平らのやっていることを「資本主義の道を
歩むもの」として糾弾し、追放します。そして、以後10年に及
ぶ「文化大革命」が始まったのです。これによって、せっかく少
し持ち直した中国の経済はまた低迷に逆戻りします。
 1970年代に入ると、時の周恩来首相が、失脚して地方に追
いやられていたケ小平を北京に呼び戻し、文革路線の修正をはじ
めたのですが、毛沢東が生存している限り、やれることはどうし
ても限られていたのです。そのとき打ち出したのが、次の「4つ
の近代化」です。
─────────────────────────────
        1.  工業の近代化
        2.  農業の近代化
        3.  国防の近代化
        4.科学技術の近代化
─────────────────────────────
 しかし、1976年にケ小平にとって絶好のチャンスが訪れた
のです。その年の1月に周恩来が、9月に毛沢東が死去したので
す。そこでケ小平は、依然として毛沢東路線を主張する勢力と戦
い、勝利して権力を掌握します。
 そして、1978年からはじめたのが改革開放政策です。これ
によって、中国経済は急速に回復し、中国の4つの近代化が、ス
タートしたのです。しかし、1989年に天安門事件が発生し、
改革開放は一時中断されることになります。天安門事件は、学生
たちによる民主化の高まりという側面がある一方で、その背後に
は権力闘争があることは、既に述べた通りです。
 そこで、ケ小平は考えたのです。それまでの中国の歴史は権力
闘争の歴史であるといえます。それは、きちんとしたルールがな
いことが原因です。そこで作ったのが「ケ小平ルール」です。目
指したのは、「小粒な秀才による集団指導体制」です。
 なぜ、小粒な秀才なのでしょうか。
 これについて、中国に詳しいジャーナリスト、福島香織氏は次
のように解説しています。
─────────────────────────────
 小粒な人間は、一人ですべての責任を負うような決断はできま
せん。ケ小平は、そこで集団指導体制という、小粒ながら、そこ
そこ優秀な人間が7〜11人ぐらいで役割分担して、責任を分け
て国家運営を行うシステムを作り上げました。これを「集団指導
体制」と呼び、その最高指導部が政治局常務委員会です。
 政治局常務委員会に入れば、「刑不上常委」という暗黙の不逮
捕特権が与えられました。これは政治局常務委員の最高指導部内
でお互いを失脚させるような権力闘争を防ぐ狙いがあります。権
力闘争は相手に罪(反革命罪だとか汚職だとか)をかぶせて失脚
させるのが常套手段でした。
 かといってそれで権力闘争が完全になくなるわけではありませ
ん。5年ごとの党大会のときに政治局常務委員会(最高指導部)
メンバーを入れ替えます。このメンバーに誰を入れるか、序列を
どうつけるか、という派閥闘争のような権力闘争は行われてきま
した。ですが政治局常務委員会に入れば、みんなで権力と責任を
分担し合って協力し合うという暗黙の了解ができました。
                      ──福島香織著
   『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』/ワニブックス
─────────────────────────────
 このようなルールに適合する人材がケ小平の周りには2人いた
のです。江沢民氏と胡錦濤氏の2人です。江沢民氏は実の父親が
汪兆銘政府のスパイであり、育ての親が中国共産党革命烈士とい
う複雑な血統を持つ「凡才児(福島氏の表現)」です。ちなみに
汪兆銘政府は、1940年〜45年に存在した中華民国の国民政
府のことです。これに対して、胡錦濤氏は、茶葉の行商売りの息
子で、「勉強ができるだけが取り柄の真面目な秀才(福島氏の表
現)」といわれています。
 いずれも、一人で中国を担えるほどの人物ではないが、集団指
導体制で政治を行えば、十分やっていけるとケ小平は考えたので
す。しかも、政治局常務委員ですから、事実上の不逮捕特権を有
しており、これによって、誰かの足を引っ張ることができにくい
システムになっています。これがケ小平ルールです。
 しかし、それでも長くやると、どうしても腐敗するとして、任
期は「1期5年/2期10年」と制限します。そして、ケ小平は
新制度の最初の10年は江沢民政権、その次の10年は胡錦濤政
権と決めています。ケ小平が決めたのはここまでです。
              ──[中国経済の真実/037]

≪画像および関連情報≫
 ●いずれにしても共産党の一党支配は揺るがない
  ───────────────────────────
   もちろん2人(毛沢東とケ小平)には共通点もある。最も
  重要なことは、中国共産党一党支配を大前提として考え、そ
  れを脅かすものへの強硬な対応である。毛沢東時代はもっぱ
  ら党内権力闘争が中心だった。しかし、ケ小平時代にはさま
  ざまな形で西側の思想や文化が入り込み、民主化を求める動
  きが繰り返し出てきた。1989年の天安門事件が代表例だ
  が、ケ小平は民主化の動きに対しては妥協を許さない対応を
  した。「中国の特色ある社会主義」という言葉はケ小平が提
  起したものだが、この意味するところは、経済分野は改革開
  放路線で西側同様の市場経済を取り入れるが、政治システム
  はあくまでも共産党一党支配を維持し、民主主義的制度は排
  除するという考えだ。
   またケ小平は集団指導体制を取り入れたにもかかわらず、
  表の役職からはずれた後も実質的に最高実力者として権力を
  握り、意思決定の中枢に君臨した。胡耀邦や趙紫陽ら総書記
  を失脚させるなど、人事権も手放さなかった。その点も結果
  的には毛沢東と同じだった。
   では、習近平はどうだろうか。「報告」から浮かび上がる
  のは、ケ小平路線の終焉、あるいは否定という側面と、ある
  種の毛沢東路線への回帰だ。習近平は「党、政、軍、民、学
  の各方面、東・西・南・北・中の全国各地で、党はすべての
  活動を指導する」として、政治、経済、文化と中国社会のあ
  りとあらゆる分野への中国共産党の関与、指導を鮮明に打ち
  出した。専門家の間には「まるで文革時代を思い出させるよ
  うな言い回しだ」という人もいる。https://bit.ly/2Xfi0wY
  ───────────────────────────

トップ交代のルールを決めたケ小平.jpg
トップ交代のルールを決めたケ小平
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2019年07月03日

●「ケ小平ルールを守った江・胡政権」(EJ第5039号)

 中国は今後どうなるか。それは、中国のトップである習近平中
国共産党総書記/国家主席の手に委ねられていると思います。習
近平というのはどういう人物であるのか、福島香織氏の本を中心
に探っていくことにします。
 ケ小平による中国のトップの「お墨付き」を得たのは、江沢民
氏と胡錦濤氏の2人です。江沢民氏は、上海市長を務めたことも
ある上海市の実力者で、いわゆる上海閥の代表者です。一方、胡
錦濤氏は、胡燿邦が作った共青団(共産主義青年団)出身の政治
家です。共青団というのは、中国共産党に優秀な若手政治家を補
充するための育成機関です。
 胡燿邦に近く、温厚な性格の秀才であり、トップに就任してか
らは、江沢民前総書記(当時)の外交政策の修正を行い、世界の
さまざまな国との関係を強化することに尽力しています。しかし
一般的には、「これといって目立つ特徴がないのが胡錦濤の最大
の特徴」といわれる人物ですが、やめるときは、すべての役職か
ら退いており、さわやかな印象を与えています。
 江沢民派と胡錦濤派としては、次のトップ(中国共産党総書記
・中国国家主席)を誰にするかについて、当然しのぎを削ること
になります。とくに胡錦濤氏は、共青団としては、北京大学出身
の秀才、李克強氏を次のトップにしたかったのです。しかし、こ
の争いでは、八代元老の習仲勲の息子という血統ブランドを持つ
習近平氏に決まったのです。これについて、福島香織氏は、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 習近平が総書記や国家主席になれたのは、胡綿濤と江沢民の激
しい権力闘争の攻めぎ合いのなかでの双方の妥協の産物でした。
胡錦濤は自分が共産主義青年団という官僚養成組織の出身なので
後輩で極めて優秀な李克強を総書記にしたかったのですが、江沢
民は、それを妨害して自分の派閥(上海閥)の人間を入れたかっ
たのです。ところが激しい権力闘争の結果、上海閥の一番のエー
スは胡錦涛によって失脚させられ、李克強も足を引っ張られて総
書記になれなかった。結果的に、さほど優秀ではないけれど、八
大元老の習仲勲の息子という血統ブランドを持つ、凡庸で小心者
の習近平が生き残ったわけです。
 習近平は江沢民や曾慶紅の長老政治に都合のよい人物として選
ばれ、胡錦濤から見れば、開明派の習仲勲の息子だから、話が通
じるかもしれない、ということでしょう。いずれにしても、双方
が、習近平は政治家としては自分たちより小物であり、どうにで
もコントロールできると思ったのだと思います。──福島香織著
   『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』/ワニブックス
─────────────────────────────
 江沢民氏にしても胡錦濤氏にしても、さほど優秀ではない習近
平氏であれば、たとえトップになっても、十分院政がひけると、
甘く考えていたことは確かです。
 習近平氏がトップに就任する前の話ですが、彼は、時の総書記
であり、国家主席である胡錦濤氏のことを、次のようにいってい
たといわれています。
─────────────────────────────
 茶葉売りの息子が中国共産党の最高指導者になるのは、おかし
なことである。革命によって国を作った中国のトップは、革命家
の子孫から出すべきである。          ──習近平氏
─────────────────────────────
 中国の革命家の子孫は、「紅二代」と呼ばれる、いわば特権階
級です。ちょうど貴族か王族のような存在であり、「太子党(プ
リンス党)」とも呼ばれることもあります。だから、江沢民派と
しては、習近平氏の後見人になるなどして、習近平氏をトップの
座へと押し上げたのです。
 この習近平氏について福島香織氏は、その基本的な性格を次の
ように紹介しています。こういう人物がトップとなって権力を握
ると、それを奪われまいと、独裁者になる可能性が高いのです。
─────────────────────────────
 習近平は、自信がなく、コンプレックスが強く、凡庸で能力も
低い、いじめられっ子体質です。その一方で親の七光りで出世も
早く、周りにちやほやする人も多かったので、自己評価が妙に高
い自信過剰家で、苦言を呈したり、厳しいアドバイスを言ったり
する人に対しては反発し、倣岸不遜な態度をとりがち。コンプレ
ックスが強いのにプライドが高い、しかもマザコンでシスコン、
妻にも尻にしかれて周りの女たちの意見を政治に持ち込んでしま
すという非常に残念″なキャラクターになります。
                ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 ケ小平の考え方に立脚する中国の外交政策は、多くの国との関
係を強化する「多極外交」です。それも、あくまで「外国から学
ぶ姿勢」や「国際スタンダードに寄り添う姿勢」が重要であると
いうのです。江沢民元主席、胡錦濤前主席ともにそういう多極外
交を展開してきています。
 しかし、習近平氏がトップになると、一転して「中華思想」を
持ち出してきたのです。「中華思想」とは何でしょうか。ウィキ
ペディアには、次の解説があります。
─────────────────────────────
 中華思想は、中華の天子が天下(世界)の中心であり、その文
化・思想が神聖なものであると自負する考え方で、漢民族が古く
から持った自民族中心主義の思想。自らを夏、華夏、中国と美称
し、王朝の庇護下とは異なる周辺の辺境の異民族を文化程度の低
い夷狄(蛮族)であるとして卑しむことから華夷思想とも称す。
        ──ウィキペディア https://bit.ly/1LDsSHW ─────────────────────────────
 中国は世界の中心の国──だから、中国というのです。だから
中国の秩序に世界の国は合わせるべきであるというとんでもない
思想なのです。       ──[中国経済の真実/038]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平とは何者なのか(1)/「ニーズウィーク日本語版」
  ───────────────────────────
   「ニューズウィーク日本語版」本誌1月19日号にも書い
  たが、ウィキリークスが年末に公表したアメリカ国務省の外
  交公電に、中国次期トップ習近平の知られざる素顔を暴く証
  言が含まれていた。「無骨な田舎者」「ビジネス感覚に長け
  たリーダー」「外国を敵視する危ない人物」――人となりを
  示す情報やエピソードが少なすぎるせいで、これまで習の素
  顔をめぐっては、チャイナウォッチャーの間でさまざまな憶
  測が飛び交っていたが、この証言は論争に終止符を打つかも
  しれない。それぐらい重要な中身が含まれている。
   公電は駐北京アメリカ大使館から09年11月に発信され
  た。情報源は、アメリカ在住の中国人学者だ。在米中国人の
  情報が北京を経由し、地球を半周して国務省に戻った理由は
  定かでないが、そういった不可解さを差し引いても、この学
  者が語る内容は具体的で生き生きとした習近平のエピソード
  にあふれている。
   公電によれば、学者は習と同じ1953年に生まれた。習
  近平と同じく、父親は新中国の建国に貢献した革命第1世代
  で、毛沢東の出身地である湖南省の別の村で生まれ、初期か
  ら中国革命に参加した。学者の説明によれば、父親は「同時
  に日本と香港でも生活。労働運動のリーダーとして次第に頭
  角を現し、49年に、中国に戻ったあと、初代労働部長(大
  臣)に就任した」のだという。  https://bit.ly/2XjtVtG
  ───────────────────────────

胡錦濤前主席/江沢民元主席.jpg
胡錦濤前主席/江沢民元主席
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2019年07月04日

●「米中貿易戦争は価値観の衝突なり」(EJ第5040号)

 中国人民大学の向松祚教授は、米中貿易戦争について、次のよ
うにいっています。
─────────────────────────────
 米中貿易戦争は、貿易戦争でも経済戦争でもない。価値観の
 衝突である。              ──向松祚教授
─────────────────────────────
 価値観とは何でしょうか。
 ここでいう価値観とは、民主や法治、自由、人権など、全ての
先進国が共有している価値観であり、「普遍的価値観」のことで
す。しかし、普遍的価値観は、産業革命以降世界制覇を行った西
欧・米国の価値観であり、そのため、かならずしも「普遍的」で
はなく、世界には多様な価値観があります。
 しかし、中国がWTOに加盟し、自由主義貿易を展開する以上
国際的なルールにしたがう必要があります。WTOに加盟すると
いうことは、それらのルールを守ることが前提だからです。確か
に、はじめのうちこそ中国は、ルールにしたがっていたのです。
それがケ小平の「韜光養晦」の教えです。
 「韜光養晦」(とうこうようかい)は、中華人民共和国の国際
社会に対する態度を示す言葉であり、ケ小平の演説が根拠となっ
ているといわれます。これは、中国のなかでも聞き慣れない言葉
であり、中国人でも説明されないと、その意味を理解できない難
しい言葉です。
 「韜光」の本来の意味は、名声や才覚を覆い隠すことであり、
「養晦」の本来の意味は隠居することを意味します。この2つを
あわせると、爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術という
ことになります。
 習近平氏が政権を引き継いだとき、中国はまだ「韜光養晦」の
考え方を守っていたのです。しかし、習近平主席は現在では「韜
光養晦」の衣をかなぐり捨てています。それが明らかになったの
は、習政権が「中国製造2025」を発表したときです。
 普遍的価値観について、習近平主席は、就任直後の2013年
に「七不講」(チ−ブザン)という通達を大学や地方政府に出し
て、言論統制を行っています。「七不講」とは、口にしてはいけ
ない7つの言葉という意味であり、具体的には次の言葉です。
─────────────────────────────
        1.人類の普遍的価値
        2.報道の自由
        3.公民社会
        4.公民の権利
        5.党の歴史的錯誤
        6.権貴(特権)資産階級
        7.司法の独立
       ──2013年5月18日付、「産経ニュース」
─────────────────────────────
 まず、言葉から封じて行くというのが中国のやり方です。要す
るに、この「七不講」は、西側メディアのいう普遍的価値につい
て、語ってはならないというものです。そのうえで、中華思想を
徹底させようとしているのです。
 「中華」というのは、世界の中心にあって、花が咲き誇ってい
る国という意味です。その周辺には異民族がいますが、中華は中
央にあって、それに優越するものと考えています。そして、周辺
の異民族のことを次のように表現します。
─────────────────────────────
    東夷   (とうい) 中国では日本人も東夷
    南蛮  (なんばん) 日本ではポルトガル人
    西戒 (せいじゅう) 槍を使うのがうまい人
    北夷  (ほくてき) 北方異民族を意味する
─────────────────────────────
 よく考えてみると、「一帯一路」も「米中貿易戦争」も、いま
起きているのは、中国のイデオロギー、中華思想(華夷思想)と
西側の既存のスタンダード、主に米国の思想・価値観とのせめぎ
合い、ヘゲモニーの争いであるといえます。つまり、価値観の衝
突、文明の衝突といってもいいと思います。これについて、福島
香織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 習近平は2018年の秋ぐらいから何かと言うと、「100年
なかった末曽有の大変局に世界が直面している」と、ものすごく
重要なフレーズを繰り返し言っている。つまり、これから世界の
支配者が代わりつつあるところで、その変わっていく新しい秩序
・ルールをつくるのが中国でなければならない。しかもその中国
がつくろうとしているこのルールは、西側の三権分立でも司法独
立でもない。中国共産党の秩序、中国共産党が支配するルールな
んだ、ということを暗に言っているわけです。
                 ──渡邊哲也/福島香織著
     『中国大自滅/世界から排除される「ウソと略奪」の
                中華帝国の末路』/徳間書店
─────────────────────────────
 習近平主席は、世界の支配者が代りつつある現在、その変わっ
ていく世界において、覇権、ヘゲモニーを握るのは中国であり、
そのさい新しい秩序やルールを作るのは、当然中国でなければな
らない──こういっているのです。まさに中華思想です。
 中国がハーグの仲裁裁判所での裁定や、国際法を無視する横暴
極まる振る舞いは、それが過去の時代において、米国を中心とす
る西側諸国が作り上げたルールであって、中国は、そのようなも
のにしたがう必要はないという考え方です。きわめて自分本位の
身勝手な考え方ですが、来るべき新時代において、そのようなル
ールや秩序を作るのは、世界の覇権を握るであろう中国、いや、
中国共産党であって、世界はそれにしたがわなければならなくな
ると恐るべきこといっているのです。
              ──[中国経済の真実/039]

≪画像および関連情報≫
 ●中国人の尊大さ
  ───────────────────────────
  ◎古来、中国人は自らを「華人」と称してきた。「華人」と
   は「文明人」という意味である。「中華」とは世界唯一の
   文明という宣明である。こんな言葉を国名にした国がいっ
   たいどこにあろうか。(谷沢栄一)
  ◎「みなさん、下に見えるのが、偉大なる祖国の首都北京で
   す」。中国の旅客機が北京に近づくと、こんな放送が流れ
   てくる。(上村幸治)
  ◎古来、支那人の中華思想は世界に類例を見ないほど尊大で
   あった。フランスの中華思想は単に欧州の中心という意識
   にとどまるのだが、支那人は昔から支那の統率者とは考え
   ず、宇宙の支配者であると位置づけた。即ち、漢人の文化
   は世界最高の域に達した究極の文明なのである。故に漢の
   文物を生んだ中原の地を取り巻く周辺を僻陬の地と貶価し
   て「南蛮北狄東夷西戎」と呼ぶ。
    「蛮」=蛇の種族、「狄」=犬の種族「夷」=礼儀知ら
   ず「戎」=野蛮人異民族…これらに属する人物の名前を正
   史に記す場合、意識的に汚れを示す文字を当てる。(谷沢
   栄一)
  ◎過去を振り返ってみても、中国という国は、対等のパート
   ナーを持ったことなどありはしない。せいぜい上下関係、
   あるいは他国を併合してしまうことばかりだ。このことを
   我々は肝に銘ずべきだ。(石原慎太郎)
  ◎「中国人は外交の天才だ」と思っているが、それは大きな
   誤解である。実際、中国の外交はだいたい失敗の連続であ
   る。そもそも中国人が外交上手なら、19世紀末から20
   世紀にかけてあれだけ欧米から好き勝手に領土をむしり取
   られたりするわけがない。(日下公人)
                  https://bit.ly/2xsBEGg
  ───────────────────────────

chuukashisounozukai.jpg
中華思想の図解
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2019年07月05日

●「高級黒、低級紅全てダメの習政権」(EJ第5041号)

 一国の指導者に対して失礼な話ですが、中国に関するどの本を
見ても、表現はそれぞれ違うものの、習近平氏は無能であること
を指摘しています。つまり、中国のような大国を率いる指導者と
しては適していないという意味です。
 問題はそういう人がトップになった場合、何が起きるかです。
何よりも自分の地位を奪われることを心配します。とくに優秀な
人間を毛嫌いし、周りには自分に逆らわないイエスマンばかりを
集めるようになります。そして言論を統制します。猜疑心が強く
なり、内部にいる敵を排除しようとします。企業にもこういう上
司は存在しますが、一国のトップということになると、国の浮沈
に関わってきます。
 今から考えると、習近平以前の政権では、言論統制はそんなに
厳しいものではなく、食事などで仲間が集まれば、平気で共産党
の悪口をいっていたものです。しかし、習近平政権では、そうい
うことは絶対に許されなくなったのです。
 ケ小平は、政治体制、官僚組織、軍に関しては、共産党がしっ
かりと指導するが、それ以外のこと、とくに金儲けに関して、一
般市民の蓄財やビジネスに関しては、自由を解放したのです。つ
まり、そんなに息苦しくはなかったのです。しかし習近平政権に
なると事態は一変します。「改毛超ケ」を打ち出したからです。
これについて福島香織氏は次のように解説しています。
─────────────────────────────
 習近平は政権の座に就くと、アンチケ小平路線を打ち出した。
それはいわば「毛沢東のやり方を改造して、ケ小平を超える(改
毛超ケ)」というものでした。要するに、共産党員はみんな規律
正しく、素晴らしい行動をしなくてはならないと、共産党員に対
する言動・行動・思想、その他、日々の生活すべてを党中央がよ
り厳しく統制するようになりました。
 さらに民営企業も国営企業も外資企業も、共産党がきちんと指
導しなくてはならない。株式市場も為替も共産党がコントロール
する。一般庶民の日々生活・娯楽・思想・世論も、すべてきちん
と共産党が指導、コントロールする、となったわけです。
                 ──渡邊哲也/福島香織著
     『中国大自滅/世界から排除される「ウソと略奪」の
                中華帝国の末路』/徳間書店
─────────────────────────────
 言論封殺──これは国家として、絶対にやってはならないこと
です。かつてのソ連、中国、北朝鮮などの共産党国家では、これ
が平然と行われています。習近平政権の場合はそれが極端に徹底
して行われています。「庶民が何か行動を起こすのではないか」
と日々怯えているのです。
 2019年1月に、習近平政権は、次のような通達を出してい
ますが、どういう意味かわかるでしょうか。
─────────────────────────────
 いかなる方式の低級紅や高級黒もやってはならず、党中央に面
従腹背の人間を決して許さず、どちらにもいい顔をする両面派も
許さず、偽忠誠を決して許さない。 ──2019年1月の通達
           ──渡邊哲也/福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 ちんぷんかんぷんです。「低級紅」「高級黒」とは一体何のこ
とでしょうか。
 これは、最近の中国の流行語です。習近平政権のあまりの言論
統制の結果、庶民の批判というか、反発がこめられた言葉である
といえます。正確に書くと、次のようになります。
─────────────────────────────
         高級黒  ガオジーヘイ
         低級紅 ディージーホン
─────────────────────────────
 露骨に政権を褒めて、逆に風刺・皮肉を込めてこき下ろすのが
「高級黒」であり、低級の褒め称え方、いわゆる、ゴマスリのこ
とを「低級紅」といいます。そのどちらもやってはいかんという
のが1月の通達の内容です。これは、異常そのものです。こんな
細かいことまで、中国共産党は「指導」しているのです。
 あまりにも厳しいルールを定められると、それに不満であって
も、一応表面上はしたがう、いわゆる「面従腹背」を人間はとき
としてするものです。、習政権下ではそれもやってはいけない、
さらにあからさまなゴマスリもダメというのです。そんな人間の
行為にまで国家が統制を加えようとしているのです。
 かつての中国は、トップが交代すると、その後すさまじい権力
闘争が起きたのです。ケ小平は、それを身をもって体験してきて
いるので、政権交代のルールを定めたのです。そのルールの最初
の総書記/国家主席は、江択民氏であり、任期の2期10年で、
ルール通りに胡錦濤氏に政権交代が行われています。そこに大き
な権力闘争は起きていないので、ケ小平ルールは、一応成功して
いるといえます。
 このような権力抗争なき政権交代には、もうひとつ良い面があ
ります。それは、総書記/国家主席を務めた長老政治家が一定の
力を保って生き残るという点です。これには良い面と悪い面があ
りますが、現政権が間違った方向に進もうとしたとき、長老たち
のパワーで、コントロールが効くということです。しかし、現政
権が大きな改革をやろうとすると、長老たちの存在は、かえって
邪魔になります。
 習近平氏にとって、長老たちの存在は、邪魔以外の何ものでも
なかったのです。そこで、習近平氏は、かつてのトップには手を
つけないが、トップの手足を削ぐ必要があると考えたのです。そ
こで、就任直後からやったのが「腐敗撲滅運動」です。これを徹
底的に強力に行うことで、習近平氏は、総書記、国家主席に加え
て「核心」の地位まで手に入れることができたのです。権力とし
ては磐石そのものになったのです。
              ──[中国経済の真実/040]

≪画像および関連情報≫
 ●左右両方の言論統制強化〜「天安門」30年控え緊張高まる
  ───────────────────────────
   中国で民主化を志向する右派とマルクス主義に忠実な左派
  の両方の言論に対する統制が強化されている。習近平政権は
  国内経済の落ち込みなどの影響で、社会が動揺する事態を懸
  念。民主化運動が武力弾圧された天安門事件からちょうど、
  30年(6月4日)になるのを前に、政治的緊張が一段と高
  まっているようだ。
   香港メディアなどは3月下旬、中国トップレベルの名門校
  として知られる清華大学(北京)法学院の許章潤教授が停職
  処分となったと報じた。言論規制が厳しい同国でも、主要大
  学教員の処分は異例だ。許教授は昨年夏以降に発表した幾つ
  かの論文で、習近平国家主席の個人崇拝を批判したり、「反
  革命」の暴動鎮圧とされた天安門事件の評価見直しを要求し
  たりした。
   習氏は自分の最高指導者としての権力基盤を固めるため、
  昨年3月の全国人民代表大会(全人代=国会)で憲法を改正
  し、2期10年までとされていた国家主席の任期制限を撤廃
  した。許氏はこれに公然と反対し、改革・開放路線を守り、
  事実上の終身制だった毛沢東の極左路線で、全国が大混乱に
  陥った文化大革命(文革)の再現を防ぐため、国家主席の任
  期制を復活させるべきだと主張していた。また、その後、重
  慶師範大でも文学院副教授だった唐雲氏が「国の名誉を傷つ
  ける言論」を理由に教員資格を剥奪された。授業中に共産党
  もしくは党指導者に批判的な発言があったとみられる。学生
  が当局に密告したという説もある。https://bit.ly/32ijiWS
  ───────────────────────────

中国ジャーナリスト/福島香織氏.jpg
中国ジャーナリスト/福島香織氏
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2019年07月08日

●「韓国への輸出規制は報復ではない」(EJ第5042号)

 少し話の流れからは外れますが、G20大阪サミット以後、米
朝、日韓の間で、重要な動きがあり、それらは、いずれも中国に
関係する出来事であるので、それについてしばらく書くことにし
ます。この事実を知ると、現在、テレビに出て、これらの問題に
ついて語るキャスターやコメンテーターのレベルが、いかにひど
いかわかると思います。
 日本と韓国との関係はいまや最悪の状態です。レーダー照射問
題に始って、徴用工に関する最高裁判決の問題、慰安婦財団の解
散など、常識的にはありえないことばかりを韓国は、このところ
ずっとやっています。レーダー照射問題などは、最初は認めてい
たにもかかわらず後で否定し、自衛隊機の異常接近への非難に切
り換えたリ、理解できないことばかりです。
 メディアは報道しませんが、これには明白な理由があります。
文在寅政権になってからの韓国には、実は重大な疑惑があるので
す。疑惑とは何か。それは、ズバリ、北朝鮮に対して、さまざま
な物資を支援していることです。これは明白な国連安全保障理事
会制裁決議違反です。韓国は、いわゆる「瀬取り」を熱心に行っ
ています。その品目は、石炭の輸入や食糧支援だけではなく、日
米などから輸入する戦略物資も含まれていると考えられます。
 現在、「瀬取り」の監視チームは、日本、米国、オーストラリ
ア、ニュージーランド、カナダ、英国、フランスの7ヶ国ですが
どういうわけか、一番力を入れなければならないはずの韓国は参
加していないのです。
 韓国の軍艦からのレーダー照射は、瀬取りの現場を自衛隊機に
発見され、緊急措置として、慌ててやったものです。そうだとす
れば、その後の韓国の支離滅裂な言い訳は理解できます。表沙汰
になったら、韓国にとって大きなダメージになるからです。そう
いう事情は、すべて米国はわかっています。もはや米国は韓国を
一切信用していないはずです。
 このような前提事実に立って、今回の3品目の戦略物資の韓国
への輸出に関する手続きの見直しについて、世耕経産相の発言を
読んでいただきたいのです。
─────────────────────────────
 まず、半導体関連について申し上げたいと思いますが、今回の
見直しは、安全保障を目的に輸出管理を適切に実施するという観
点から、運用を見直すというものであります。一部報道、あるい
は韓国側の反応にあるような、いわゆる対抗措置といったもので
は全くありません。
 輸出管理制度というのは、国際的な信頼関係を土台として構築
されているものであります。韓国との信頼関係の下に輸出管理に
取り組むことが困難になっていることに加えて、韓国に関連する
輸出管理をめぐって不適切な事案が発生したこともありまして、
厳格な制度の運用を行って、万全を期することにいたしました。
見直し内容の詳細については、昨日のプレスリリース及び事務方
から御説明をさせていただいたとおりであります。引き続き、適
切な輸出管理制度の運用を行うため、必要な見直しを行ってまい
りたいというふうに思います。
         ──2019年7月2日、世耕経済産業大臣
                  https://bit.ly/309fGEG
─────────────────────────────
 今回の韓国をホワイト国から外すという日本政府の措置につい
て多くのメディアは、韓国によるレーザー照射や徴用工をめぐる
最高裁判決などへの日本政府の報復措置として報道しています。
それは明らかに違います。今回日本政府が韓国に対して、輸出規
制を強化した戦略物質は、次の3品目です。
─────────────────────────────
 1.   フッカ水素 ・・・    半導体の洗浄に使う
 2.フッ化ポリイミド ・・・    スマホの画面に使う
 3.    レジスト ・・・ 半導体の基板に塗る感光材
─────────────────────────────
 これらの物質はいずれも兵器に転用させることが可能です。だ
から、戦略物資といわれるのです。たとえば、フッカ水素はエッ
チングガス(高純度フッカ水素)といわれ、毒ガスや化学兵器な
どに転用できます。
 7月5日のことですが、この件について、萩生田光一幹事長代
行は、ある放送番組に出演し、次のように述べています。
─────────────────────────────
 今回の対韓国輸出規制措置の背景について、特定の化学物質の
行き先がわからない事案が発見されている。特定の時期にエッチ
ングガスに関連した物品の大量発注が急増した後、その韓国企業
の行方がわからなくなっている。これに関して韓国に問い正して
も、明確な回答が得られない。このような状況に対してわが国と
して措置をとるのは当然である。  ──萩生田光一幹事長代行
                  https://bit.ly/2RWTj2p
─────────────────────────────
 この萩生田幹事長代行の発言が、世耕大臣のいう「韓国に関連
する輸出管理をめぐっての不適切な事案の発生」という抽象的な
言葉の意味を解き明かしてくれます。徴用工問題に対する報復策
ではなく、もっと深刻な問題なのです。要するに、毒ガスなどを
含む兵器に転用できる戦略物質を、韓国は北朝鮮へ流しているの
ではないかという恐るべき疑惑があるのです。
 実は、米国は当然この事実を掴んでおり、今回の日本政府の措
置も米国からの要請があったのではないかといわれています。そ
もそも自衛隊機に慌てて火器管制レーダーを照射したのも、重要
物質の瀬取りの現場を写真に撮られ、動かぬ証拠にされないよう
にするための苦肉の策であったとすると、それ以後の韓国の行動
は十分納得に値するものです。
 韓国としては、あくまで徴用工問題への日本の報復というよう
にしないと、大変なことなってしまうことになります。
              ──[中国経済の真実/041]

≪画像および関連情報≫
 ●韓国への輸出規制の強化措置の狙い
  ───────────────────────────
  A:半導体製造に使われるフッ化ポリイミド、レジスト、エ
   ッチングガス(高純度フッ化水素)の3品目の軍事転用を
   防ぐためで、経産省幹部は詳細は明らかにしないが、「刑
   事告訴するレベルではないが、最近、韓国側に3品目の輸
   出管理をめぐる不適切な事案があった」と説明している。
  A:軍事転用される恐れのある部材については、部材の進化
   や国際情勢のめまぐるしさから国同士で2年に1度は最低
   でも取り扱い方法などを協議する必要がある。だが、20
   16年以降に協議は1度だけで、文在寅政権になってから
   はゼロ。徴用工訴訟や慰安婦問題、自衛隊機への火器管制
   レーダー照射など、文政権が執拗に繰り返す反日的な行動
   に対し、信頼関係が損なわれ、今後も協議ができないと判
   断した。
  A:これまで韓国に輸出する企業に日本政府への個別の輸出
   許可申請を免除する優遇措置を取っていた。原則3年間は
   個別の輸出ごとの申請が不要だったが、4日からは外国為
   替および外国貿易法(外為法)に基づいて、優遇措置をな
   くすことにした。これから個別の出荷ごとに政府への申請
   が必要になる。審査の標準的な期間は90日程度だが、企
   業や品目で違いが出る見込み。禁輸措置ではない。
                  https://bit.ly/2XRK2hn
  ───────────────────────────

世耕経済産業大臣.jpg
世耕経済産業大臣
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2019年07月09日

●「韓国は戦略物資を横流ししている」(EJ第5043号)

 重要なポイントなので、昨日のEJでご紹介した萩生田幹事長
代行の発言を繰り返します。ある時期、韓国の企業から、フッ素
関連の物品(高純度フッ化水素、エッチングガス)に大量発注が
急遽入って、その後、その企業の行方が分からなくなった。事実
関係を韓国側に問い合わせたが、答えが返ってこない──こうい
う内容であります。
 フッ素関連の物質は、毒ガスとか化学兵器の生産に使えるので
行き先は“北”ではないかという疑いです。ホワイト国であるか
らといって、何でもフリーパスというわけではなく、疑問がある
ときは情報を求めたり、話し合いをするのですが、文在寅政権に
なってからは、この話し合いは一回も行われていないのです。
 何しろ兵器にも転用可能な戦略物質なので、その行方は重要で
あり、管理に韓国側は重大な責任があるのに、行方不明というだ
けで、まともに答えてくれない。これではホワイト国として失格
であり、以後も続いて、特典を与えるわけにはいかないというの
が日本政府の見解です。話のスジは通っています。
 ところで、今回の日本政府による韓国のホワイト国取り消し問
題について、参考になるビデオがあります。それは、7月5日の
「BSフジ/プライムニュース」の要約版ですが、視聴する価値
は十分あります。前編と後編がありますが、前編はとくに興味深
いので、必ずご覧になることをお勧めします。
─────────────────────────────
    ●BSフジ/「プライムニュース」
     2019年7月5日/午後8時から10時
    ◎タイトル
     『日本の“対韓輸出規制”に揺れる韓国/文在寅政
     権と朝鮮半島情勢の今後は?』
    ◎出演者
     前防衛相/自民党安全保障調査室長/小野寺五典氏
             愛知淑徳大学教授/ 真田幸光氏
          元日本経済新聞編集委員/鈴置 高史氏
     前篇/21分33秒   https://bit.ly/2xAksig
     後編/22分07秒   https://bit.ly/2L3KPWz
─────────────────────────────
 このビデオのなかで出演者が語っていることは、韓国がホワイ
ト国という地位を利用して、兵器にも転用できる、日本から輸入
した戦略物質を第3国経由で、北朝鮮やイランに流していること
に米国が気付き、日本に相応の措置をとってくれと依頼してきた
ことの結果であるというものです。こういう論調は、表向きのメ
ディアには出てこないものです。
 表向きのテレビの論調は、韓国による徴用工最高裁判決や火器
管制レーダー照射などに対する韓国への報復措置として捉えてい
て、コメンテーターはそういう発言を繰り返しています。そうい
うコメントをさんざん聞かされてきた後で視聴したのが、7月5
日のBSフジ/プライムニュースです。とくに、真田幸光淑徳大
学教授と元日本経済新聞編集委員の鈴置高史氏の主張は実に明解
そのもの、ズバリと核心を衝いています。
 もうひとつの問題は、板門店での米朝首脳会談のウラ事情につ
いてです。この会談は、トランプ大統領がツイートで金正恩委員
長に呼びかけ、金委員長がそれに応じて実現したという簡単なも
のではないのです。
 まず、金正恩党委員長が、トランプ大統領に親書を送っていま
す。2019年6月11日、トランプ大統領は親書を受け取った
ことを認め、「美しい内容だった」と述べています。トランプ大
統領の誕生日は6月14日なので、誕生日祝いの親書だったこと
は明らかです。しかし、そこには、当然ではあるが、3度目の米
朝首脳会談の早期実現が要請されていたのです。
 これに対して、トランプ大統領は、今度は金委員長に返信の親
書を送っています。6月23日に北朝鮮国営中央通信社が親書を
受け取ったことを報道しています。内容は、明らかになっていま
せんが、「素晴らしい内容の書簡が盛り込まれていた」という金
委員長のコメントが報じられています。
 問題は、この親書の内容ですが、「6月末日に近くに行くので
会えないか」という誘いをしたことは確かですが、もうひとつ大
事な提案をしていると思われるのです。これについて、述べる前
に、金正恩という国家指導者の資質について、知っておくべきこ
とがあります。
 北朝鮮と韓国、北朝鮮とアメリカ、それぞれの国の規模につい
て、覚えておくと、便利な数値があります。
─────────────────────────────
          北朝鮮    韓国
            1    50
          北朝鮮    米国
            1  1100
─────────────────────────────
 国として比較すると、北朝鮮を1とすると、韓国は50であり
米国は1100になります。北朝鮮にとっては、韓国といえども
50倍の大国であり、米国については何と1100倍。しかし、
金正恩委員長は、若いにもかかわらず、このところ、この2つの
大国を完全に手玉に取っています。その指導者としての能力、力
量、政治的センスは、非常に優れていると考えるべきです。米国
は、金正恩委員長との2回の会談を通じて、それを十分見抜いて
います。「この男とは交渉できるかもしれない」と。
 金委員長は、韓国の文大統領が過去の日韓条約を否定して、元
徴用工問題を持ち出したことについて、不快感を持っているとい
われます。それは、北朝鮮が、いずれやらなければならない日朝
交渉において、日韓条約に基づいて支払われた金額をベースに日
本にカネを要求しようと思っているのに、韓国はそれを否定して
いるからです。彼はよく勉強しており、国際感覚が優れているこ
とがよくわかります。    ──[中国経済の真実/042]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ大統領から金氏への親書/飯田浩司氏
  ───────────────────────────
   北朝鮮の国営朝鮮中央通信は6月23日、トランプ大統領
  が、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に親書を送ったと報じ
  た。金委員長はすばらしい内容だとして満足感を示し、トラ
  ンプ氏の並外れた勇気を評価したとしている。
  飯田:内容については報じられていないなか、その反応だけ
   が報じられています。もともと、去年(2018年)6月
   12日のシンガポールでの首脳会談があり、その1周年で
   まずは、北朝鮮側から、アメリカ側に親書が送られていま
   した。
  須田:それを受けての返書ということだと思います。確かに
   ベトナム、ハノイでの米朝首脳会談はある意味で失敗に終
   わったけれども、だからと言ってトランプ大統領と金委員
   長の個人的な人間関係が悪くなったわけではない。両者の
   関係は、まだ良好な状況を保っていると受け取ってもいい
   のではないでしょうか。「トランプ大統領との個人的な人
   間関係までおかしくなったわけではない」という、北朝鮮
   からのメッセージだと受け止めるべきだと思います。それ
   を前提に考えてみると、イランへの対応を含めて、トラン
   プ外交のやり方がだんだん見えて来た。交渉相手に対して
   限界まで圧力を強め、その上で首脳同士で顔を合わせて話
   し合い、妥協点を探る、あるいはアメリカの要求を飲ませ
   る。力による外交かなと私は思います。
                  https://bit.ly/2XRoHEO
  ───────────────────────────

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7月5日/プライムニュース/鈴置高史氏
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2019年07月10日

●「北朝鮮が求める『体制保証』とは」(EJ第5044号)

 北朝鮮の金委員長が盛んにミサイルを飛ばし、複数の核実験を
行っていたとき、まだ大統領になっていないトランプ氏は「私が
大統領になれたら、彼と会う用意がある」といっていたのを覚え
ています。これについて、副島隆彦氏は自著で、次のように書い
ています。
─────────────────────────────
 米大統領選で、共和党候補指名を確実にしたドナルド・トラン
プ氏は、5月17日(2016年)、ロイターとのインタビュー
に応じた。トランプ氏は、北朝鮮の核開発を阻止するため金正恩
朝鮮労働党委員長と会談することに前向きな姿勢を示した。(中
略)トランプ氏は北朝鮮対策については詳細には触れなかった。
だが、金氏と会談すれば、米国の北朝政策が大きく転換すること
になると強調。
 「私は、彼(金正恩氏)と話をするだろう。彼と話すことに何
の異存もない」と述べた。その上で、「同時に中国に強い圧力を
かける。米国は経済的に、中国に対して大きな影響力を持ってい
るのだから」と語った。           ──副島隆彦著
     『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社刊
─────────────────────────────
 トランプ大統領は、この約束をきちんと果しています。しかも
既に3回会って、首脳会談を行っています。4回目に会うときは
何かが決まる可能性があります。トランプ氏は、根っからのビジ
ネスパースンであり、会って話すことによって、その人物につい
て深く知ることができると考えています。
 「この男はバカか利口か。話し合う価値があるか。決断できる
男かどうか」は、会って話せばわかるとトランプ氏はいいます。
長年にわたって大勢の人を雇い、使ってきたトランプ氏らしいポ
リシーです。人は会って話してみないとわからない。これはいつ
も「戦略的忍耐」を口にして、金委員長と会おうとせず、結局何
もしなかった、いやできなかった、オバマ前大統領と大きな違い
です。その点、トランプ大統領は有言実行しています。
 トランプ大統領は、金正恩委員長とシンガポールとハノイで会
談し、金正恩を“できる男”と判断したものと考えます。そして
トランプ大統領は、事態を打開するために、米国として、何らか
の提案を金委員長にしたと思われます。それが、トランプ大統領
から金正恩委員長への親書に書かれていたと思います。
 そして、その親書を読んだ金委員長は、「大変興味深い提案で
ある」とコメントし、わざわざ親書を読む金委員長の写真まで付
けて、北朝鮮の労働新聞は伝えています。親書の内容が、単に板
門店で会いたいというものだけでなかったことは確かです。
 北朝鮮のミサイル技術と核開発は、軍事国家になろうとして開
発されたものはではないはずです。なぜなら、この程度のレベル
なら、仮に北朝鮮が一発でも核ミサイルを他国に向けて発射した
ら、あっという間にレベルの違う量の核攻撃を受けて、北朝鮮は
消滅してしまうからです。そんなことは、賢明な金正恩委員長は
十分わかっているはずです。
 したがって、北朝鮮の核ミサイル技術は、それがどんなに優れ
ていたものであっても、あくまで交渉のためのカードに過ぎない
のです。実際にそういう技術を持っていたからこそ、敵方である
米国の大統領が3回も会ってくれたのです。そういう意味で核開
発は北朝鮮にとって無駄ではなかったのです。
 金正恩委員長が非核化の条件として譲れないのは、自国の「体
制保証」です。この体制保証について、具体的に何を望んでいる
のか、北朝鮮は明らかにしていませんが、考えられることは、次
のようなものです。
─────────────────────────────
    1.          米韓軍事演習の中止
    2.        休戦中の朝鮮戦争の終結
    3.米国による北朝鮮への敵視政策を中止する
    4.上記により米国と北朝鮮との平和条約締結
    5.                その他
─────────────────────────────
 このうち、「1」については、トランプ大統領の決断により、
既に実現しています。2〜4についても、本当に「非核化」が実
現され、米朝双方がそれを望めば実現されるはずです。しかし、
問題は、それが北朝鮮の体制保証になるかといえば、そうではな
いと思います。確かに米国からの脅威はなくなるでしょうが、周
辺には、米国と並ぶ核大国である中国もロシアも存在します。
 「核を持つ」というのは、他国から攻められる脅威をなくすた
めです。日本も米国の核の傘に守られています。
 この問題については、昨日のEJでご紹介した7月5日の「プ
ライムニュース」のビデオのうち、後編の鈴置高史氏の発言が参
考になるので、視聴していただきたいと思います。
 トランプ大統領も、金委員長も、「非核化」という場合、「朝
鮮半島の非核化」という言葉を使っています。北朝鮮の立場から
考えて、もし本当に非核化してしまうと、北朝鮮はどこかの核の
傘に入らないと、国防が危なくなります。現在、韓国は米国の同
盟国であるので、米国の傘に入っています。
 北朝鮮が中国の核の傘に入るという選択肢もありますが、北朝
鮮は、本音のところでは関係性がよくなく、この選択肢をとらな
いでしょう。それは、北朝鮮としては、中国をとるか、米国をと
るかの選択であり、どちらをとってもリスクがあります。
 朝鮮は、古く、中国の同盟国だったのです。日清戦争の下関条
約(1895年)で、朝鮮は、はじめて中国から独立することが
できたのです。政治評論家の鈴木棟一氏は、日本に対して「恨み
百年」なら、中国に対しては「恨み千年」である──こういって
います。北朝鮮は、果して米国を選ぶのか、中国を選ぶのか、こ
のあたりのことも分析する必要があります。今回ばかりは、ウソ
をいって米国を騙すことは困難であろうと考えます。
              ──[中国経済の真実/043]

≪画像および関連情報≫
 ●金正恩が米朝会談後に「中国属国化」の道を選んだ理由
  ───────────────────────────
   世界が注目した米朝首脳会談(シンガポール)から半月が
  たった。この間、金正恩はまたもや習近平を訪問した。今年
  3度目である。北朝鮮は本当に非核化に向かっているのか?
  この疑問を検証する前に、少し復習しておこう。
   6月12日にシンガポールで行われた米朝首脳会談。共同
  声明の最重要ポイントは、「トランプ大統領は北朝鮮に安全
  の保証を与えることを約束し、金委員長は朝鮮半島の完全非
  核化への確固で揺るぎのない約束を再確認した」という部分
  だ。もっと簡潔に言うと、「米国は北朝鮮の体制を保証し、
  北朝鮮は完全非核化すると約束した」。これが、ディールの
  核心である。
   この米朝首脳会談、日本でも世界でも「大失敗だ」という
  意見が大半を占めている。しかし筆者は、「大成功だった」
  と考えている。「会談は失敗だった」と主張する人は、「共
  同声明文にCVID──完全かつ検証可能で不可逆的な核廃
  棄の文字がないではないか」と憤る。「完全な非核化」とい
  う表現だけでは、不十分であり、金正恩の思うツボだという
  のだ。そもそも、なぜ「CVID」という言葉が出てきたの
  だろうか?米国は、北朝鮮がウソをつくこと、すなわち「非
  核化の約束だけをして制裁を解除させ、経済支援を受け、体
  制も保証させ、しかし核兵器は保有し続ける」という状況に
  なるのを恐れたのだ。      https://bit.ly/2S23nal
  ───────────────────────────


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トランプ大統領からの親書を読む金正恩党委員長
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2019年07月11日

●「北朝鮮が米国と組む可能性を分析」(EJ第5045号)

 北朝鮮は、どこと組もうとしているのでしょうか。中国か、ロ
シアか、それとも米国なのでしょうか。
 金正恩委員長のハラは、おそらく米国と組みたいと考えている
と思います。金王朝は、3代にわたって、米国寄りです。初代の
金日成(キム・イルソン)は、在韓米軍を否定しなかったといわ
れます。
 北朝鮮から見た場合、中国とロシアはいつでも口実を作って、
北朝鮮に兵を入れることができる危険な隣国です。北朝鮮は長く
中国の植民地であったし、ロシアと北朝鮮の関係についても、真
田幸光愛知淑徳大学教授は次のように述べています。、
─────────────────────────────
 ソ連、ロシアには北朝鮮は領土の一部との意識が根強い。日本
の敗戦と同時に、ソ連軍の傘下にあった金日成を送り込んで北朝
鮮という国を作らせたのですから。
 というのにソ連崩壊後、後身のロシアは国力を落とし、北朝鮮
へのカネや食料を与える余裕を急速に失った。そこに中国が入り
込んで、北朝鮮は中国が仕切る国と見なされるに至った。しかし
北朝鮮はロシアの前身たるソ連の勢力圏にあったのです。
                  https://bit.ly/2LdaLzg ─────────────────────────────
 現在の金正恩委員長の率いる北朝鮮にとって、一番の脅威は中
国です。中国が考えているベストシナリオは、北朝鮮内部で何ら
かの反乱が起こり、北朝鮮が混乱に陥るケースです。そういう事
態になれば、中国は、治安維持を名目にして、人民解放軍を進駐
させることができます。そういう北朝鮮国内の反乱を中国が仕掛
けて起こす可能性もあるのです。
 また、真田教授はこういいます。中国には、200万人の朝鮮
族がおり、国籍は中国人です。「北朝鮮で圧政に苦しむ中国の同
胞を救いに行く」と大義名分を立て、進駐することも可能です。
このように、金正恩委員長にとって中国は危険な隣国です。だか
ら、権力掌握後もなかなか中国には行かなかったのです。そうい
う状況下で、叔父の張成沢(チャン・ソンテク)が、中国をバッ
クに権力を握ろうとしたので、粛清したのです。張成沢は、金正
男を擁して中国と図り、クーデターを起こそうとしたとも伝えら
れています。それほど、金正恩委員長は、中国を警戒しているの
です。中国に心を許すとは考えられません。
 こういう情報があります。2019年7月4日発行の夕刊フジ
『鈴木棟一の風雲永田町』の一節です。
─────────────────────────────
 米国のCIA(中央情報局)は、北朝鮮を中国から守るためと
して、「北朝鮮内に米国の基地を置く」ことを提案した、との情
報がある。習氏の北朝鮮訪問は、習氏の方から言い出したもので
米国に傾く正恩氏を引き戻そうという動きだ。
               ──『鈴木棟一の風雲永田町』
           /2019年7月4日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 「北朝鮮内に米国の基地を置く」とは驚くべき情報です。あり
えないという人も多いと思います。実際に、情報のウラが取れて
いるわけではありませんが、体制保証を取り付けようとする北朝
鮮に米国は、それに近い情報を北朝鮮に提供している可能性はあ
ります。中国は、いち早くこの情報を掴み、習近平主席が慌てて
G20サミットの前に、米国にシフトしかねない北朝鮮を急遽訪
問した可能性があります。
 事実上「決裂」という結果に終わったハノイでの米朝首脳会談
後の2019年3月15日、崔善姫(チェソンヒ)外務次官は重
要な発言を行っています。その要旨は次の通りです。
─────────────────────────────
・北朝鮮はハノイ会談での米国の要求に屈するつもりも、そのよ
 うな交渉を持つつもりもない。
・(ポンペイオ米国務長官とボルトン米大統領補佐官を名指し)
 敵意と不信感の雰囲気を作り出し、米朝の最高指導者間の建設
 的な交渉努力を阻んだ。米国のギャングのような姿勢は、いず
 れこの状況を危機に陥れる。
・(しかしながら)両最高指導者間の個人的な関係は依然として
 良好で、相性は不思議なことに素晴らしい。 ──菅沼光弘著
             『金正恩が朝鮮半島を統一する日/
       日本にとって恐怖のシナリオ』/秀和システム刊
─────────────────────────────
 崔善姫外務次官のこの発言のあと、北朝鮮国内では、国内政治
上、大きな動きがあったのです。4月9日、朝鮮労働党の拡大政
治局会議が開かれ、10日には第4回中央委員会総会、11日に
は、北朝鮮の国会に当る最高人民会議が開かれています。そこで
次の人事が決まっています。
─────────────────────────────
    ・金永南最高人民会議常務委員長  → 退任
    ・崔龍海(チョリンヘ)党副委員長 → 後任
    ・崔善姫外務次官 →  第1外務次官に昇格
             国務委員会メンバーに選出
─────────────────────────────
 最高人民会議常務委員長といえば、対外的な国家元首の役割を
果すポジションであり、長きにわたって、金永南氏が務めてきて
います。しかし、既に年齢は91才であり、このさい、退任させ
て、まだ69歳の崔龍海氏を昇格させたのです。
 合わせて、米国の事情に詳しく、米国に多くの知己を持つ崔善
姫外務次官を第1外務次官に昇格させたことは、今後のトランプ
政権とのディールに備えた布陣と考えられます。これによって、
崔善姫第1外務次官は、米朝協議においては、金正恩委員長の首
席報道官的役割を担うことになると思われます。この金委員長の
意欲が、板門店での第3回米朝首脳会談を実現させることにつな
がったのです。       ──[中国経済の真実/044]

≪画像および関連情報≫
 ●「親米国家」北朝鮮の誕生で日本の安全保障はこう変わる
  ───────────────────────────
   今後の東アジアの安全保障と国際関係を大きく左右する米
  朝首脳会談がいよいよ始まる。トランプ米大統領と金正恩朝
  鮮労働党委員長との「世紀の対決」の注目ポイントは何か、
  考えてみたい。
   今回の米朝首脳会談の結果次第では、北朝鮮とアメリカと
  いう「不倶戴天の敵」が「友好国」に一変する可能性を秘め
  ている。実際、おそらく米朝首脳会談が始まる段階で「北朝
  鮮の非核化」とその見返りとなる「体制保証」という大きな
  「取引」の枠組みは決まっていると推測される。
   ただ、枠組みをより具体的にさせ、友好国同士になるため
  には「敵」である米朝のどちらも相手に大きく譲歩する必要
  性がある。もし、譲歩が十分でなければ、米国側の経済制裁
  や軍事的圧力、北朝鮮の核・ミサイル開発の再開という昨年
  までの流れに戻ってしまうだろう。では、実際に何を米朝が
  譲ることになるのか。
   米国側の「誘い水」ともいえる妥協のポイントは、すでに
  少しずつ明らかになっている。中でも、トランプ氏が日米首
  脳会談直後の記者会見で伝えたように「朝鮮戦争終結宣言」
  は米国の考えるスタートラインのようである。北朝鮮に対す
  る「敵視政策」を止めるという意思表示であり、あくまでも
  「協定」とかではなく、「宣言」ならしやすいという見方で
  あろう。            https://bit.ly/2JCOTtC
  ───────────────────────────

昇格の崔龍海氏と崔善姫両氏.jpg
昇格の崔龍海氏と崔善姫両氏
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2019年07月12日

●「なぜ韓国はレーダーを照射したか」(EJ第5046号)

 日本による輸出規制の強化で韓国の文在寅大統領の対応がドタ
バタしています。7月10日、文大統領は、大手財閥のトップを
緊急招集し、「官民緊急体制」を構築しようとしています。この
文在寅大統領は、何事でもそうですが、本質と向き合おうとはせ
ず、姑息な対応に終始する人です。
 この会合に、サムスン電子の李在鎔(イ・ジョヨン)副会長と
ロッテの辛東彬(シン・ドンゴン)会長は日本出張のため、欠席
しています。サムスン電子の李在鎔副会長は今週はじめから日本
に滞在し、銀行をはじめ、日本で関係者と協議を重ねています。
大統領と話しても解決する問題ではないからです。この会議への
出席者の本音も次の通りです。
─────────────────────────────
 政府が話し合うべきは、われわれではなくて、日本政府では
 ないのか。             ──大手財閥トップ
─────────────────────────────
 韓国の文在寅政権と北朝鮮の金正恩政権はおかしい──このよ
うに考える人が多くなっています。文大統領は、2018年9月
に金正恩委員長の招きで訪朝し、首脳会談のあと、マスゲームに
招待されて、大歓迎され、完全に舞い上がってしまったのです。
もともと、この大統領は、着任当初から北朝鮮に融和姿勢をとっ
てきた人ですが、この訪朝で、完全に金委員長に取り込まれてし
まったといえます。
 実は、このことと、昨年末からの数々の韓国の日本に対する不
可解な対応とは重要な関係があるのです。先日、朝鮮問題に関す
る次の新刊書を購入し、現在読んでいます。
─────────────────────────────
       元公安調査庁調査第2部長/菅沼光弘著
         『金正恩が朝鮮半島を統一する日/
    日本にとって恐怖のシナリオ』/秀和システム
─────────────────────────────
 著者の菅沼光弘氏は、1959年に公安調査庁に入庁し、35
年間にわたって、ソ連、北朝鮮、中国の情報収集の仕事に従事し
た諜報関係のプロです。この本のなかに、韓国海軍のレーダー照
射事件のことが書かれています。
 その真相は、一般にいわれているものとは、まるで違うもので
す。それは、北朝鮮の内部事情がわかっていないと絶対に書けな
い内容であるので、EJのスタイルでご紹介することにします。
 期日は2018年12月20日、午後3時頃、場所は能登半島
沖の日本の排他的経済水域内に、韓国警備救難艦「サンボンギョ
5001」と北朝鮮の漁船2隻、それに加えて少し離れたところ
に、韓国海軍駆逐艦「クアンゲト・デワン(広開土大王)」がい
たのです。このとき、海上自衛隊P・1哨戒機が、能登半島沖の
海上で警戒監視中だったのです。
 この状況において、P・1哨戒機は、異様な船舶が集結してい
るので、監視しようとしたのです。そのとき、いきなり、韓国海
軍駆逐艦から、火器管制レーダーの照射を受けたのです。ここか
らすべてが始まっています。
 この火器管制レーダーの照射は、ミサイルや砲弾を命中させる
ために、目標にレーダー波を継続的に照射して、その位置や速度
などを正確に把握するために行うものです。したがって、レーダ
ー照射を受けた航空機は、急遽退避行動を取ります。
 そもそも、なぜ、日本の排他的経済水域に、2隻の北朝鮮の漁
船、韓国の警備救難艇、それに韓国の駆逐艦がいるのかです。韓
国側の説明によると、北朝鮮籍の漁船が遭難したので、それを救
助に来たというのです。しかし、当日の天候は悪くなく、遭難す
るような状況ではないのです。それに救難にしては、あまりにも
大袈裟です。2隻の小さな漁船に対して、5000トン級の警備
救難艇、さらに駆逐艦まで現場に駆けつけているからです。
 後でわかったことですが、漁船からはSOS信号は発信されて
いないのです。もし、無線でSOS信号が出ていれば、当然日本
も気が付くはずです。海上保安庁は無線をキャッチしていないの
です。それなら韓国は、どのようにして、漁船の遭難を知ったの
でしょうか。
 もうひとつ、表に出ていない情報があります。漁船は2隻で、
漁船に乗っていたのはたったの4人であるということです。それ
を助けるために、警備救難艇と軍艦が駆け付ける──きわめて異
常な状況です。
 推測ですが、それは、韓国から北朝鮮への「瀬取り」の現場で
あったとするものです。しかし、この説には難点があります。そ
れは、なぜ、日本の排他的経済水域というリスクの多い場所をわ
ざわざ選んだのかということです。もっと安全な場所がいくらで
もあるはずです。まして人数が4人ということになると、瀬取り
は考えられません。
 これに関して、菅沼光弘氏の推理はさすがです。これは、現在
の韓国と北朝鮮の親密度をよくあらわしています。
─────────────────────────────
 ここからは、私の推測ですが、どうも北朝鮮から韓国政府に対
して、ひそかに依頼があったのではないだろうか。
 北朝鮮から外に出ることになると、北にとって大変不都合な人
がその船に乗っていたのではないか。軍艦を派遣するというのは
武装している可能性があったからではないか。普通の巡視艇では
撃沈されるかもしれない。それでは、誰がその漁船″に乗って
いたのか。結果論から言うと不明です。韓国は、誰が乗っていた
かも、漁民であったかどうかも、一切発表していません。救出し
た人たちをただちに北朝鮮に送り返してしまった。
                ──菅沼光弘著の前掲書より
─────────────────────────────
 場所から考えて、4人は、漁船を使って日本に逃げ込もうとし
たと思われます。どういうことが考えられるかについては、来週
のEJでお話しします。   ──[中国経済の真実/045]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ韓国艦はレーダー照射したのか/長谷川幸洋氏
  ───────────────────────────
   韓国海軍の駆逐艦が、海上自衛隊P1哨戒機に対して火器
  管制用レーダーを照射した問題が長引いている。問題そのも
  のは、あまりに韓国が子供じみていて、まともに論じる気に
  もならないが、この際、「韓国とどう付き合うべきか」は考
  え直してみる必要がある。
   私は「もはや韓国は友好国ではない」という前提で対応す
  べきだと思う。韓国人に対する「90日間のビザなし入国措
  置」も見直すべきだ。簡単に問題を振り返ると、韓国駆逐艦
  は昨年12月20日午後、日本の排他的経済水域(EEZ)
  である能登半島沖で、海自哨戒機に対し、複数回、数分間に
  わたって火器管制用レーダーを照射した。当初、韓国海軍は
  レーダー照射を認めていたが、24日になって照射の事実を
  否定した。
   これに対し、防衛省は哨戒機が撮影した当時の映像を公開
  したが、韓国側は「威嚇的な低空飛行をした」として日本に
  謝罪を求めた。火器管制用レーダーを照射すれば特有の電波
  が記録されるので、日本側は証拠を握っている。防衛省が公
  開した動画でも、「間違いなく向こうのFC系(火器管制レ
  ーダー)です」「記録がとれているかどうか確認してくださ
  い」「データはとれています」という機長とクルーの冷静な
  やりとりが公開されている。   https://bit.ly/2LhBdra
  ───────────────────────────

韓国海軍の駆逐艦「広開土大王」.jpg
韓国海軍の駆逐艦「広開土大王」
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2019年07月16日

●「北朝鮮要人は漁船で日本に亡命か」(EJ第5047号)

 2018年12月20日、能登半島沖の日本の排他的経済水域
──そこに2隻の北朝鮮の漁船がいたのですが、この船にはたっ
た4人しか乗っていなかったのです。この4人とは、果して何者
でしょうか。この4人がどういう人物かについて、菅沼光弘氏の
本から要約します。
 金正恩氏の父、金正日氏が亡くなったのは、2011年12月
17日のことです。金正日氏がとっていた政治は「先軍政治」で
あり、軍が経済を含めてすべての国家権力を握る政治体制です。
このときは、当然のことながら、軍隊や軍人が優遇されていたの
です。なかでも、権力を持っていたのは、金ファミリーを護衛す
る任務を持つ護衛総局という部署で、李乙雪(リ・ウルソル)と
いう人物が司令官を務めていたのです。朝鮮人民軍元帥には、当
然金正恩氏が就任していますが、李乙雪も元帥の称号を持ってい
たのです。
 李乙雪は、金日成に仕え、あのパルチザン戦争にも参加した勇
者で、金正恩氏が2012年4月に軍事パレードを観閲したとき
はまだ健在であり、金委員長の隣に元帥の服を着て立っていまし
た。彼は贅沢三昧を尽くし、金ファミリーよりも、豪奢な生活を
していたといわれています。
 しかし、金正恩委員長は、父親の「先軍政治」とは異なる政治
体制を目指そうとしたのです。彼は、真の強国とは「経済に強い
国」であると考えていたからです。念頭にあったのは、中国では
なく米国です。それに当時の軍は腐敗にまみれており、根こそぎ
の改革が急務でした。中国と同じです。そして打ち出したのが、
「並進政治」です。並進政治とは、軍事建設もやるが、経済にも
重点を置き、軍事と経済を並進させるという意味です。
─────────────────────────────
        金正日 ・・・・ 先軍政治
        金正恩 ・・・・ 並進政治
─────────────────────────────
 金正恩委員長は、軍人よりも科学者、とくに核やミサイル技術
やIT技術に優れた科学者を優遇したり、何とか経済を活性化さ
せようと力を入れたのですが、それをやればやるほど、経済制裁
がきつくなっていったのです。それに軍の改革は、李乙雪元帥が
健在のうちは、さすがに手をつけられなかったのです。
 その李乙雪元帥は、2015年11月7日に死亡し、軍事改革
を進めるのに、障害はなくなったのです。それ以後のことについ
て、菅沼光弘氏は次のように書いています。
─────────────────────────────
 李乙雪が死んで、軍人の粛正が進めやすくなった。金正恩は、
次々と軍人を粛清してきましたが、最後に残ったのが護衛総局で
す。金正恩はこれに手を着け、かなりの人を逮捕した2018年
12月に「遭難した漁船」には、護衛総局の幹部の何人かが逃亡
するために乗っていたのではないか。金正恩が彼(ら)を捕まえ
てくれ、と文在寅に頼んだというのが、事の次第ではないかと私
は考えています。もし、そうだとすれば、日本も北朝鮮に協力し
たことになるのですね。海上自衛隊のP・1哨戒機は、すべてを
知っていたと考えるのが常識です。      ──菅沼光弘著
             『金正恩が朝鮮半島を統一する日/
        日本にとって恐怖のシナリオ』/秀和システム
─────────────────────────────
 この菅沼光弘氏の説は、なかなか説得力があります。人民軍の
幹部が次々と逮捕され、処刑されるのを見て、幹部級の大物が漁
船で日本を目指し逃亡を図る──十分考えられることです。なぜ
漁船なのかというと、北朝鮮の場合、航空機を使うことが困難で
あり、漁船を使うのが一番手っとり早いからです。目指すのは日
本。日本は沿岸警備が甘く、上陸しやすいのです。実際に、多く
の北朝鮮の漁船が沿岸で発見されています。
 推測ですが、当局が逮捕を予定していた元護衛総局の大物幹部
数人が漁船に乗って逃亡を図った。わかったのは、出航してかな
り経ってからです。報告を受けた金正恩委員長は、韓国の文在寅
大統領に電話して、「捕まえてくれ」と依頼したのではないか。
そのとき、武装していることも伝えています。
 文在寅大統領は、この要請を受けて、直ちに警備艇と攻撃され
ることにも備えて、駆逐艦を派遣したのです。もしかすると、日
本の哨戒機に発見されたとき、火器管制レーダーを発射して追い
払うことも最初から考えていたのではないでしょうか。文在寅大
統領としては、ここで金正恩委員長を助けておけば、あとあと韓
国にプラスになると計算したと思われます。
 韓国には「事大主義」という考え方があります。これは「弱い
者が強い者の言いなりになって仕えること」という意味です。直
近の「事大」として、菅沼光弘氏は、韓国におけるTHHADミ
サイル設置をめぐる一連の対中姿勢にあると指摘しています。し
かし、日本に対してはヒステリックに文句をつけてくるのです。
─────────────────────────────
 韓国はTHHADミサイルを2017年9月に慶尚北道星州に
配備したと発表しました。国内の反対運動が盛んで場所をどこに
するか、大もめにもめたのですが、結局ロッテ財閥が開発したゴ
ルフ場に設置されました。
 韓国の言い分では北朝鮮のミサイルに備えるという口実で配備
したのですが、設置場所から見ても、中国のミサイルがアメリカ
に飛んでいく前に迎撃するためだ、というのが明々白々でした。
当然、中国が韓国に対して猛烈なクレームを付けてきます。中国
は、中国国内にあるロッテグループの工場や店舗を全部閉鎖して
しまいました。それだけの報復を受けたわけですが、文在寅政権
はなんの抗議もしなかった。唯々諾々とそれを受け入れた。これ
を「事大主義」と言わずして何を事大主義と言うか。
                ──菅沼光弘著の前掲書より
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/046]

≪画像および関連情報≫
 ●半島国家の悲しき世界観/宮家邦彦氏
  ───────────────────────────
   日本の嫌韓派の人々が韓国を批判する際によく使う言葉が
  「事大主義」の弊害なるものだ。事大主義といっても若い読
  者はあまりピンと来ないだろうが、北東ユーラシアの地政学
  を理解するうえで、「事大主義」は、「華夷思想」「冊封体
  制」「朝貢関係」などとともに、必須の概念だといえよう。
   事大主義とは、「小」が「大」に事える、つまり、強い勢
  力には付き従うという行動様式であり、語源は、『孟子』の
  「以小事大」である。国語辞典によれば、「はっきりした自
  分の主義、定見がなく、ただ勢力の強いものにつき従ってい
  く」という意味で、たとえば次のように使われる。
   事大主義とは朝鮮の伝統的外交政策だ。大に事えるから事
  大。この大というのはむろん中国のことなのだが。つまり中
  国は韓国の上位にある国だったから、そこから侵略されても
  ある程度仕方がないとあきらめる。しかし、日本は韓国より
  下位の国だ、だから侵略されると腹が立つ。上司になぐられ
  ても我慢できるが、家来になぐられると腹が立つ、という心
  理だ。(2013年12月16日付、『NEWSポストセブ
  ン』)朝鮮は、中国に貢ぎ物をささげる朝貢国として、存続
  してきた。大国に事える事大主義の伝統が抜きがたくある。
  日本が近代化に懸命に汗を流しているころも、官僚らは惰眠
  をむさぼり、経済も軍事力も衰亡していた。その朝鮮を国家
  として独立させ、西洋の進出に備えようというのが日本の姿
  勢だった。(2014年7月19日付、『産経新聞』WEB
  版)              https://bit.ly/30qElVo
  ───────────────────────────

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李乙雪元帥と金正恩委員長
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2019年07月17日

●「羅先にTHAADを設置する提案」(EJ第5048号)

 2019年7月11日のEJ第5045号で、「北朝鮮に米軍
基地を置く」という情報をお伝えしましたが、多くの人は「そん
な馬鹿な!そんなことはあり得ない」と考えたと思います。情報
の出所は4日発行の「夕刊フジ」の連載コラム、鈴木棟一氏のコ
ラム『風雲永田町』です。
 ところが7月4日発行の「夕刊フジ」で、今度はジャーナリス
トの有本香氏が、自身のコラム『有本香の以読制毒/読を以て毒
を制す』において、この情報について次のように述べています。
─────────────────────────────
 ◎北朝鮮に米軍基地計画情報/金正恩が懇願か
  筆者が最初にこの話を耳にしたのは、ベトナムの首都ハノ
 イで行われた米朝首脳会談の少し後。与太話の類と思って聞
 き流した。だが、最近、複数の朝鮮ウォッチャーが口にし、
 政府関係者からも「関心を寄せざるを得ない話題」との言を
 得、無視できないと思い直した。
        ──2019年7月11日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 有本香氏は、この情報に関連して、北朝鮮の北東部、日本海に
面する羅先(ラソン)という港町のことを取り上げています。こ
の羅先という町は、北朝鮮の経済特区になっており、主として中
国とロシアの資本が入っています。
 カジノが完備しているエンペラーホテルは、香港資本のホテル
であるし、羅津港は中国とロシアが整備しています。中国は羅津
港の一部埠頭の50年間の租借権を持っていますが、この契約を
率先してやったのが、叔父の張成沢であり、現在のところこの租
借権は宙に浮いています。
 ロシアは、ロ朝国境のハサン駅から羅津港まで約50キロメー
トルをロシアの車両が台車交換なしで直接乗り入れることができ
る工事を2013年秋に完成させています。
 このように、北朝鮮が他のアジア諸国の中国による港湾整備案
件と違うことは、中国だけでなく、ロシアやモンゴルなどにも利
用を呼びかけて、「3すくみ」の状態を作り、どこか一国、例え
ば中国に勝手をさせないようにすることです。この「3すくみ」
の状況について有本香氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 周囲の大国を次々と自らの問題に引き込み、時々に優勢な国に
付いて利を得る。この事大主義的外交術は、古来、朝鮮で行われ
てきた「伝統芸」だ。といっても現在のところ、中露をすくませ
るに十分な「第3の力」を得るに至っていない。
 そこで考えた「ウルトラC」の新ターゲットが、ドナルド・ト
ランプ大統領の米国ということのようだ。金正恩朝鮮労働党委員
長自身が「羅先」に言及し、トランプ氏やマイク・ポンペオ国務
長官に、「韓国が配備を嫌がっている米軍の最新鋭迎撃システム
『THAAD/高高度防衛ミサイル』をうちへ」といったとの仰
天話も聞かれる。 ──2019年7月11日発行「夕刊フジ」
          『有本香の以読制毒/読を以て毒を制す』
─────────────────────────────
 驚くべきことであるが、真偽のほどはわからないものの、金正
恩委員長は、「『THAAD』を羅先に設置してはどうか」と提
案しているというのです。それは、米軍基地を羅先に置くことを
意味しています。そうすると、羅先に申し分ない「米中露の3す
くみ」の状態ができることを意味し、金正恩委員長の狙いである
体制保証は実を結ぶことになります。
 実際にこういう提案が行われたかどうかは不明ですが、トラン
プ大統領としては、金正恩委員長を年齢は若いが、なかなかでき
る男と評価しているはずです。「この男、他にやることはないの
か」とか、「リトルロケットマン」とこき下ろしていたときと比
べると、大変な変化です。
 対照的に評価を大きく落としているのは、韓国の文在寅大統領
です。せっかく米朝の仲介役を買って出たのですが、以後は完全
にお役御免です。今回の板門店での歴史的米朝首脳会談にも、文
在寅政権は関与していないのです。
 そもそもG20大阪サミット直後の韓国訪問も、何度も米国に
懇願してやっと実現したものですが、トランプ大統領はその場を
利用して、韓国抜きで親書とツイートで確かめ合い、劇的に板門
店で会談を開いたのです。これについて、国際舞台で活躍する国
際交渉人の島田久仁彦氏は次のように解説しています。
─────────────────────────────
 今回のサプライズに際し、一つ確実に言えることがあるとした
ら、残念ながら「韓国そして文大統領は全く関与していない」と
いうことでしょう。29日のG20会合中に、トランプ大統領か
ら、「私のツイート見たか?」と尋ねられ、「はい」と答えたと
伝えられていますが、それまで何も知らされておらず、この“工
作”に全く関与できていないことが浮き彫りになりました。
 そして、面白いことに、頼みに頼み込んで大阪の後、ソウルに
立ち寄ってもらい、米韓首脳会談を!と狙っての招待だったにも
拘らず、実質的に米韓で話し合われた内容は、正直何もなく、こ
の訪問自体、うまくアメリカに“利用”されてしまいました。
 それでも意地からでしょうか。トランプ大統領に付き添って板
門店に赴きましたが、米朝の間に入ることはできず、38度線を
挟んでトランプ大統領と金正恩氏が握手するという歴史的な瞬間
にも立ち会うことが許されませんでした。
 皆さんも生中継の映像を観られたかもしれませんが、トランプ
大統領が韓国側の建物からドアを開けて出た際、後ろに文大統領
が控えていましたが、歩き出して自分も2人の首脳に加わろうと
思った矢先、目の前でドアを閉じられてしまいました。まるでト
ランプ大統領から「お前は用なしだ!」とでも言われたかのよう
な瞬間でした。           https://bit.ly/2xX9T9j
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/047]

≪画像および関連情報≫
 ●サプライズ米朝会談実現でも「文在寅はずし」は終わらない
  ───────────────────────────
   6月30日、トランプ米大統領の「ツイッター提案」から
  始まった板門店(パンムンジョム)でのサプライズ米朝首脳
  会談の推移を、韓国メディアは固唾を飲んで見守った。
   韓国メディアが関心を寄せたのは、会談そのものの成否だ
  けではない。それに劣らず、文在寅大統領の「立ち位置」が
  注目の的となったのだ。というのも、北朝鮮メディアはこの
  前日まで、「思考と精神がマヒしている」などと言葉を極め
  て文在寅大統領を罵倒していたからだ。
   文在寅政権はこの間、北朝鮮に対してたいへんな気の使い
  ようだった。特に、金正恩党委員長が最も批判されることを
  嫌う、北朝鮮国内における残忍な人権侵害からは露骨に目を
  背けてきた。
   それにもかかわらず、北朝鮮は最近になって、文在寅氏に
  対する個人攻撃を開始していた。日米との不協和音に加え、
  北朝鮮からもハシゴを外される危機に直面していたのだ。北
  朝鮮が腹を立てているのは、韓国が米国との協調を優先し、
  南北首脳会談で合意したはずの経済協力に、文在寅政権がな
  かなか踏み出そうとしないからだ。もっとも韓国としても、
  北朝鮮の非核化が進展していない以上、おいそれと経済協力
  に踏み出すことなどできない。そこで文在寅政権は、米朝対
  話の「仲介者」を自任して当事者としての立場を守ろうとし
  てきたわけだが、北朝鮮は「(韓国の)仲介など不要だ」と
  明言している。これを受けて韓国メディアは、北朝鮮が板門
  店での米朝首脳の対面の場から、文在寅氏を締め出すのでは
  ないかと心配したわけだ。    https://bit.ly/2xKdreN
  ───────────────────────────

劇的で歴史的な米朝首脳会談/板門店.jpg
劇的で歴史的な米朝首脳会談/板門店
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2019年07月18日

●「映画『新聞記者』の狙いとは何か」(EJ第5049号)

 この連載は、米中貿易戦争下の中国経済がどうなるかがメイン
テーマです。しかし、7月8日のEJから、この問題に関係する
米国と北朝鮮の問題を取り上げて書いています。今週は、日本で
は、参院選最終ウィークであり、今日と明日は、脱線しついでに
選挙に絡む問題についても書くことにします。そして、22日か
ら話を中国の問題に戻します。
 7月12日のことですが、折からの降りしきる雨のなか、澁谷
まで足を運んで、話題の映画『新聞記者』を観に行きました。ど
うしても観たかったし、12日が上映の最終日だったからです。
 どこでこの映画を上映しているのか。新聞にはまったく出てお
らず、ネットに頼って、上映館を見つけました。澁谷の「ユーロ
スペース」という聞いたことのない映画館です。やっと映画館を
見つけて、驚きました。すべて座席指定の入れ替え制なのです。
しかも満員。やっと入場券を手に入れましたが、もう少し、遅く
行ったら、この回は観られないところでした。
 観客は、中高年とシニアばかりと思っていましたが、かなり若
い人も多く、ほとんど宣伝もしていないのにもかかわらず、すぐ
満員になりました。この映画がいかに話題になっているかがよく
分かります。それにしても、ほとんど新聞を読まない現代の若者
が『新聞記者』という映画を観るとは!、ちょっと驚きでした。
 映画の興行収入は、公開6日目に1億円を突破し、初週末3日
間の数字を2週目週末が上回り、動員対比102・9%、興収対
比104・1%の高稼働を記録しています。そして、公開11日
目の8日(月)、動員数は、実に17万2127人、興行収入は
2億1055万5640円と、遂に2億円を突破しています。
 よく知られているように、この映画は、東京新聞社会部記者の
望月衣塑子氏の著書『新聞記者』(角川書店)を原案としていま
すが、本の内容は、望月衣塑子氏のいわば自伝のノン・フィクシ
ョンです。これを基にして、フィクションに仕上げたのは、河村
光庸プロデューサーと藤井道人監督の仕事です。
 まずはともあれ、この映画の「予告編」がありますので、ご覧
ください。時間は1分8秒です。
─────────────────────────────
       映画『新聞記者』/予告編(動画)
            https://bit.ly/2Y3HRqZ
             配給会社スターサンズ
 韓国の若手女優シム・ウンギョン演じる新聞記者・吉岡エリカ
が働く新聞社に、「医療系大学の新設」に関する秘密文書がファ
クスで届く。吉岡が内閣府のキーパーソンである神崎にたどり着
こうとした矢先、神崎が自殺する。
 一方、松坂桃李ふんする内閣情報調査室の若手官僚、杉原拓海
は外務省時代の神崎の後輩。慕っていた上司の死をきっかけに官
邸の闇を知り、吉岡と出会う。そこから2人は人生をかけた選択
を迫られていく・・・・。
─────────────────────────────
 この映画『新聞記者』は、通常の映画と異なることが、実にた
くさん起きたのです。いくつか上げてみます。
─────────────────────────────
     1.主役がなかなか決まらなかったこと
     2.全テレビ局がプロモーションを拒否
     3.映画関連サイトのサーバーがダウン
     4.ネットでの異常な批判的な書き込み
─────────────────────────────
 なぜ、このようなことが起きたのでしょうか。
 それは、この映画が安倍政権下で起こった数々の不正を描いて
いるからです。しかも、映画が公開される期間が参院選の期間と
重なっているからです。
 安倍政権下の数々の不正とは、さまざまな国会の論戦でも、政
府側の問題のはぐらかし、逃げの答弁、ごはん論法などによって
国民の多くが今でも釈然としないと感じていることばかりです。
 株式会社ロストニュースが編集制作し、株式会社サイゾーが配
付展開する日本のニュースサイト「リテラ」では、次のように表
現しています。
─────────────────────────────
 映画『新聞記者』には、安倍政権下で実際に起こった様々な不
正を想起させるエピソードがてんこ盛りになっている。たとえば
物語の核でもある大学新設計画をめぐる不正は明らかに加計学園
問題を意識させるし、ほかにも、前川喜平・元文科事務次官への
謀略報道をモチーフにしているとしか思えない文科省官僚に対す
るスキャンダル攻撃、伊藤詩織さんの告発を彷彿とさせる“総理
ベッタリ記者”による性暴力事件もみ消し、森友公文書改ざん問
題を示唆する官僚の自殺などのエピソードも出てくる。
 さらに、こうした政権の謀略を担う機関として、内閣情報調査
室がクローズアップされ、映画で描かれた数々の謀略工作のほと
んどに関与しているという設定になっていた。
                  https://bit.ly/2NRBAuC
─────────────────────────────
 東京新聞社会部の望月衣塑子記者といえば、菅官房長官に対し
て、大きな声で鋭い質問をすることで、知られており、官邸から
さまざまな嫌がらせを受けているといわれます。その望月記者の
本を原案とする映画ができることで慌てた官邸は、映画の内容を
を公開前に手に入れ、激怒したといわれます。テレビ局への締め
付けは、当然官邸の指示によるものと思われます。
 「この国は形だけの民主主義でいいのだ」──これは内調の若
手官僚杉原(松坂桃季)の上司の言葉ですが、その言葉通りのこ
とを官邸はやっています。テレビでの映画のプロモーションを妨
害し、唯一のネットの公式サイトでのプロモーションも、複数の
特定IPアドレスからの集中攻撃によってサーバーがダウンさせ
られ、思うにまかせなかったのですが、それでも映画は満員の盛
況なのです。        ──[中国経済の真実/048]

≪画像および関連情報≫
 ●批評家が絶賛、映画「新聞記者」が暴いた安倍政権の暗部
  ───────────────────────────
   老後資金2000万円不足問題や、ずさんなイージス・ア
  ショア候補地調査など、参院選を前に国民の怒りをかきたて
  る不祥事が続く安倍政権だが、28日から公開される、映画
  「新聞記者」のキョーレツな内容は、さらに彼らを悩ませる
  ことになりそうだ。
   東京新聞記者・望月衣塑子氏(44)のノンフィクション
  を原案に、「デイアンドナイト」など本格的な人間ドラマで
  定評ある藤井道人監督が、映画オリジナルの脚本を練り上げ
  て実写化したポリティカルドラマ。これが今、試写を見た業
  界関係者の間で大変な話題になっているのだ。その内容を、
  映画批評家の前田有一氏が驚きを隠せぬ様子で語る。
   「タイトルこそ著書に合わせていますが、映画版はもはや
  “安倍政権の闇”とでも題したくなるほど現政権の疑惑を網
  羅した内容です。最近ハリウッドでは、チェイニー副大統領
  を描いた『バイス』など政治批判の映画が話題ですが、しょ
  せんは過去の話。本作は現政権の、現在進行中の未解決事件
  を映画化した点で前代未聞です。ハリウッドでさえ、こんな
  ことをしようという無謀な映画人はいない。社会派映画史に
  刻まれるべき偉業です」
   映画は女記者(シム・ウンギョン)が、加計学園がモデル
  とおぼしき特区の新設大学にまつわる内部告発を受け取材を
  始めたところ、あらゆる手段で政権を守ろうとする内閣情報
  調査室から激しい妨害にあう様子を、重厚な演出で描く。
                  http://exci.to/2JIUDlF
  ───────────────────────────

東京新聞社会部望月衣塑子記者.jpg
東京新聞社会部望月衣塑子記者

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2019年07月19日

●「主役が敬遠した映画『新聞記者』」(EJ第5050号)

 映画『新聞記者』が、結果として、安倍政権を批判する内容に
なったのは、東京新聞社会部記者、望月衣塑子氏の本(『新聞記
者』/角川書店)を原案としているからです。望月記者といえば
菅官房長官の会見の席で、よく通る大きな声で、鋭い質問をする
ことで有名であり、それがきっかけになって、有名になった新聞
記者です。
 官房長官の会見では、菅官房長官の番記者の質問が中心で、な
かなか番記者以外の記者に質問は回ってこないのです。しかし、
望月記者は、そこは巧みに、かなり強引に質問を行います。した
がって、番記者からさまざまな妨害を受けますが、望月記者はい
つも敢然と官房長官に鋭い質問を浴びせます。官房長官としては
もっとも質問して欲しくない問題を臆せず取り上げて質問するの
で、菅官房長官からは露骨に嫌われています。
 望月記者は、2017年3月、森友学園、加計学園の取材チー
ムに参加し、前川喜平文部科学省前事務次官へのインタビュー記
事などを手がけたことや、元TBS記者からの準強姦の被害を訴
えた女性ジャーナリスト伊藤詩織氏へのインタビュー、取材をし
たことで、「告発している2人の勇気を見ているだけでいいのだ
ろうか」と思いたち、2017年6月から、菅官房長官の記者会
見に出席するようになったのです。
 安倍政権の最大の問題点は、メディアを規制して、国民の知る
権利を制限する傾向があることです。官邸はテレビ番組をウオッ
チングし、政府批判をするコメンテーターを慎重に排除したり、
番組そのものを潰したり、政権にとって不利な言説を封じようと
します。基本的には、中国のやっていることと、程度の差こそあ
れ、あまり変わらないひどさです。
 そのため、森友学園にしても、加計学園にしても、それに関連
する文書改ざん事件にしても、真相が明らかにならないまま幕引
きをされ、国民の間には何となくすっきりしない、もやもや感が
残っていることは確かです。映画では、安倍政権で起きたそれら
の問題の裏側で何が行われているのか、新聞記者の立場から迫る
内容になっています。
 映画『新聞記者』では、松坂桃季演じる内閣情報調査室の官僚
杉原と、韓国人女優シム・ウンギョン演じる東都新聞記者吉岡が
ダブル主演を務めています。なぜ、この映画の主演が韓国人なの
かという点については、吉岡のキャスティングが難航したからで
す。当初は、宮崎あおいや満島ひかりを予定して交渉したのです
が、いずれも断られています。なぜなら、この映画に出演すると
内容が内容だけに、「反政府」のイメージがついてしまうことを
恐れたからです。その結果、吉岡エリカ役には、韓国人女優のシ
ム・ウンギョンが抜擢されることになったのです。役柄としては
日本人の父と韓国人の母の間に生まれ、米国育ちという設定に、
なっています。
 それだけ、安倍政権下では、一度政権に睨まれると、ろくなこ
とがないのです。俳優といえども、その後の仕事について、何ら
かの不利益なことが起きる可能性があるからです。いや、実際に
起きているのです。これが現安倍政権の最大の問題点であると、
私は考えています。こんなことがあっては絶対にいけないし、政
権としてやってはならないことです。
 そういう意味において、人気俳優の松坂桃季が、この映画に主
演した意義は大きいとして、ある映画ライターは、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 人気俳優の松坂がこの映画の出演をよく承諾したと映画関係者
の間では話題になっています。映画の中でも正義と職務の間で葛
藤する官僚の役柄をみごとに演じている。役者としても一皮むけ
たと思います。            ──ある映画ライター
                  http://exci.to/2XGLsMq
─────────────────────────────
 この映画の監督は藤井道人です。河村プロデューサーは、藤井
監督が、「人間の善悪」をテーマに撮った前作「デイアンドナイ
ト」を見て、「若い感覚でこの映画を撮ったら、きっと受けると
直観的に思ったと」といいます。
 しかし、当の藤井監督は、河村プロデューサーから、この映画
の監督の依頼を受けたとき、すぐに断っています。政治的な問題
ではなく、自分に合わないと考えたからです。藤井監督は次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 政治も勉強したことがないし、自分で新聞も取ったことが、な
かった。親は新聞を取っていたけど、大学に入って一人暮らしを
始めたときに月4000円も払えないし。自分が「参加していな
い」ってことも自覚はしていた。断るには十分な理由があったん
ですよね。                ──藤井道人監督
                  https://bit.ly/2YdGbM0
─────────────────────────────
 そこからが、河村プロデューサーと藤井監督との話し合いがは
じまったのです。「政治に興味がない」といったとき、河村プロ
デューサーの次の言葉が印象に残ったといいます。
─────────────────────────────
 政治に興味がない、政治から逃げるっていうのは、民主主義を
放棄しているってことだと俺は思う。 ──河村プロデューサー
─────────────────────────────
 この言葉は心に響いたと藤井監督はいっています。新聞を読ん
でいない監督が描く新聞記者の世界──望遠レンズを使って撮る
など、若い監督らしい工夫が満載の作品です。よくぞ制作したと
いう感じです。ジャーナリストの田原総一朗氏は、この映画を次
のように絶賛しています。
 「面白い!!非常にドラマチックかつサスペンスフル!新聞記
者と上層部の関係、官僚機関の構造がよくわかった。ジャーナリ
スト/田原総一朗」     ──[中国経済の真実/049]

≪画像および関連情報≫
 ●内閣調査室が望月記者を調べ始めているという証言あり
  ───────────────────────────
   もうひとつ興味深かったのは、この座談会で東京新聞の望
  月記者も自分が内調に狙われていたことを明かしたことだ。
  「私自身の記憶で言うと、やはり非常にバトルを官房長官と
  やっていたときに、ある内調(の人物)が、非常に仲が良い
  と、私はその議員が誰だか知らないんですけど、その国会議
  員に、内調が『望月さんってどんな人?』という調べる電話
  をかけてきた。この国会議員が非常に仲が良い、あるジャー
  ナリストの人に『望月さんのこと内調が調べ始めたよ』とい
  う話をするんですね。この人から私に『望月、調べられてい
  るから気を付けておけ』っていう」「彼(内調)が知ってい
  る政治家とかジャーナリストを使って、あなたを見ているん
  ですよと、ウォッチングしているんですよ、ということを、
  やっぱり政権を批判的に言ったり厳しめにつっこんでいる私
  とかに対して、間接的な圧力になるように、そういうことを
  やると」
   官房長官会見で質問をおこなうことは、記者として当然の
  行為であり、それに答えるのが官房長官の務めだ。しかし、
  その当然のことをするだけの望月記者に質問妨害をおこなっ
  たり、官邸記者クラブに恫喝文書を叩きつけている官邸。だ
  が、それだけではなく、内調を使ってこんな脅しまで実行し
  ているのだ。いや、内調と官邸による情報操作、マスコミ工
  作は映画で描かれているもの以外でもいくらでもある。
                  https://bit.ly/32qDK7P
  ───────────────────────────

映画『新聞記者』の一シーン.jpg
映画『新聞記者』の一シーン
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2019年07月22日

●「信用できない中国実質経済成長率」(EJ第5051号)

 7月15日のことです。中国の2019年4月〜6月期の実質
経済成長率が発表されました。それは、1月〜3月期よりもさら
に0・2ポイント減速しています。
─────────────────────────────
  2019年4月〜6月期    2019年1月〜3月期
         6・2%           6・4%
─────────────────────────────
 「6・2%」という数字は、統計を開始した1992年以降で
最低であり、リーマンショック直後の2009年の6・4%も下
回っています。しかし、各国の経済統計担当者は、この中国の数
字が大ウソであることはわかっています。昭和初期生まれの人が
ピンとくる表現を使えば「大本営発表」そのものです。6%台の
実質経済成長率は、通常の感覚でいえば「凄い成長率」であるか
らです。それがなぜ深刻なのでしょうか。
 経済成長率に限らず、こういう国家統計は申告制です。何を経
済成長率に含めるか含めないか、どのように計算するかなど、す
べては申告制ですから、国のさじ加減でどのようにでもなるので
す。中国の経済統計が信用できないことは、李克強首相ですら認
めているのですから、世界中が知っています。
 これは「債務(借金)」についても同じことがいえます。日本
は「GDP対比200%以上の債務を抱えている」──これは、
さんざんいわれています。日本は超借金大国であると。これは、
財務省が資産を無視して、借金だけを申告しているからです。な
ぜ、そんなことをするのか。増税をしやすくするためとしか考え
られません。つまり、日本の場合、経済の状況を実態よりも悪く
申告しているのです。中国とは逆です。
 ここで留意すべきは、この負債は「国の債務」と考えている人
が多いですが、「政府の債務」です。このあたりがわざとぼかさ
れています。この政府の債務には、中央政府と地方政府の両方が
含まれています。これを一緒にして、国の借金として考えている
人が多いです。この場合、地方政府の債務については中国と違い
日本では、ほとんど破綻を心配する必要はないのです。
 この地方政府の借金の安全性について、植草一秀氏は2011
年発行の自著において、次のように述べています。
─────────────────────────────
 地方政府の借金は、それぞれの地方の金融機関などが資金の出
し手となっており、どの経済主体がいくら地方自治体に資金を供
給するかについて綿密な計画がたてられ、その計画に基づいて地
方債が発行されている。
 また、地方債を発行できる事業も限定されており、基本的には
借金返済の裏付けが確かでないものには、地方債発行が認められ
ないような仕組みが取られている。したがって、この200兆円
の地方債の残高については、基本的に大きな懸念が生じる恐れが
ないと言っても過言でない。例外的に地方政府の財政危機が表面
化するケースがあるが、巨大な地方債残高を抱えたまま地方政府
が破綻するといった事態は想定されないのである。
               ──植草一秀著『日本の再生/
    機能不全に陥った対米隷属経済からの脱却』/青志社刊
                   2011年11月発刊
─────────────────────────────
 ここで植草一秀氏のいう「200兆円」とは、2011年度末
の借金残高合計が、894兆円になるという予測に基づいていま
す。これは日本のGDPの185%に相当しますが、894兆円
の内訳は次の通りです。地方政府の借金は外して申告しても一向
に問題がないということをいいたいわけです。
─────────────────────────────
      中央政府 ・・・・・・ 693兆円
      地方政府 ・・・・・・ 201兆円
─────────────────────────────
 日本に比べると、中国はきわめて深刻です。中国の経済データ
は、各地に配置されている中国共産党幹部が、その所管する地方
のGDPを北京に報告しますが、目標値をクリアしないとその幹
部の失点になるので、報告数値を水増しすることが慣例です。
 そこで、中国の本当の数字を探る試みがいろいろ行われていま
す。その一つが「李克強指数」です。鉄道貨物輸送量や融資、電
力消費のデータですが、最近では、それらの数値も信用できるも
のではなくなってきています。
 そこで産経新聞特別記者・田村秀男氏は、自動車とセメント生
産の前年比増減率をベースにして、「タムラ・フジ産経指数」を
作り、それによって分析する方法を考えたのです。自動車生産台
数は、外資との合弁が多いため、誤魔化しが効かず、セメント生
産は、政治的裁量とは無関係なので、わざわざウソをつく必要が
ないからです。
 添付ファイルのグラフは、自動車、セメント生産の前年比増減
率に実質GDPの伸び率を組み合わせたものです。これについて
田村秀男氏は、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 成長率の水準を抜きにすれば趨勢はきれいに連動し、いずれも
右肩下がり曲線である。自動車は工業生産の要で、セメントは不
動産開発が柱となるハコモノ投資(総固定資産投資)を100%
反映する。総固定資産投資のGDP構成比は40〜50%に上り
昨年は8%前後の伸び率になっている。
 ところがセメント生産は、前年比マイナスで、いかにも不自然
だ。固定資産投資は土地の所有権を売買する権限を持つ地方政府
の裁量次第だから、ウワモノの投資をしたように偽装できる。セ
メントと自動車生産動向からすれば、実際の中国経済は実質マイ
ナス成長に陥っている。そして4〜6月期はさらに下落に加速が
かかっていると推計できるのだ。   https://bit.ly/2XWrWf6
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/050]

≪画像および関連情報≫
 ●中国のGDPは嘘であり水増しされている
  ───────────────────────────
   中国が毛沢東による1949年の建国当初から手本として
  きたのは、一早く共産主義を確立していた大国ソビエト連邦
  でした。ソ連から一万人の顧問が中国を訪れて産業育成の方
  法を始めとして統計システムまで持ち込まれました。しかし
  そもそもソ連の統計が大嘘であったということがソ連崩壊と
  同時に明らかになったのです。
   実はソ連は崩壊するまでは世界第2位のGDPということ
  になってたのですが、崩壊後に明らかになったGDPは発表
  の半分の規模でしかなかったのです。また、1928年から
  1985年の国民所得の伸びは実際には6・5倍にしかなっ
  ていなかったにも関わらず、90倍に拡大していると誇大に
  も程がある統計を出していたのです。
   しかし、非常に巧妙につくられていたみたいでノーベル経
  済学賞を受賞したサミュエルソンでするソ連の統計をみて、
  『ソ連は成長している』と結論付けてしまっていました。結
  局、ソ連にしても中国にしても一党独裁で国家を収めている
  国では、共産党のおかげで国が成長していると国民を騙さな
  いといけないのです。騙さないと、不満が爆発して革命が起
  き一党独裁政権が瓦解してしまいますからね。ただ、嘘の統
  計をねつ造し続けても国家は瓦解します。
                  https://bit.ly/2GmsCiV
  ───────────────────────────

中国の自動車、セメント生産と実質GDPの前年比増減率.jpg
中国の自動車、セメント生産と実質GDPの前年比増減率
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2019年07月23日

●「借金地獄を止められない鉄道建設」(EJ第5052号)

 中国は、米中貿易摩擦では、米国と正面から向き合うというよ
りも、「持久戦」の構えに入っているように見えます。最近では
ニュースにもならない状況です。しかし、現在中国は、さまざま
な問題で、苦境に陥っています。
 何よりも国有企業の資金繰りができなくなり、失業者が街に溢
れ、物価は上昇し、中央政府への不満が高まりつつあります。こ
れは、中国にとって危険な状況です。何よりも国内の不況対策に
早急に力を入れざるを得ない状況にあります。それには、大きな
問題を抱える公共事業を続行せざるを得ないのです。
 それには、中国の新幹線の延長工事を2019年も拡大させる
ことにし、日本円で13兆円を投入することになっています。こ
の13兆円という金額は、日本の公共事業の総額の2倍に当りま
すが、この巨額の資金を、新幹線の延長工事だけに投入すること
になるのです。途方もない話です。
 中国がはじめて新幹線を走らせたのは、2006年の「北京〜
天津」間です。それから13年間でその営業距離は2万5000
キロを超えています。これに対し日本は、半世紀もの年月をかけ
て、たったの3000キロです。中国はそれをさらに延長しよう
としているのです。
 しかも、日本のJR東海も、JR東日本も、黒字の経営をして
いるのに対し、中国の新幹線の赤字は天文学的になっています。
中国の新幹線の毎年の収入は約9兆円、そこから維持費、人件費
保全費、電力などのコストを差し引くと、天文学的な赤字になっ
てしまうのです。
 どうしてそうなるのかというと、中国新幹線の黒字区間は次の
2区間だけで、あとはすべて赤字だからです。
─────────────────────────────
          「北京〜上海」区間
          「北京〜広州」区間
─────────────────────────────
 費用対効果で見ると、最も黒字区間は「北京〜上海」区間で、
その乗客はキロ当たり4800万人、最も赤字区間は、万里の長
城の最西端から新疆ウイグルをつなぐ「蘭州〜ウルムチ」で、キ
ロ当たり230万人です。これに対して、日本の新幹線は平均で
キロ当り3400万人となっています。
 その結果、中国新幹線の累積赤字額について、2019年1月
29日、北京交通大学都市化研究センターは、次のように発表し
ています。
─────────────────────────────
 中国新幹線(高速鉄道)は、借金も「高速増殖」で、その累積
債務は707億ドル(約78兆円)に達している。
            ──北京交通大学都市化研究センター
─────────────────────────────
 78兆円といえば、日本の旧国鉄の累積赤字24兆円の約3倍
強になりますが、これがさらに積み重なると、恐ろしい近未来が
見えてきます。なぜ、このような赤字体質をさらに肥大化させる
愚劣なプロジェクトを中国は続けようとするのでしょうか。これ
について、中国に詳しい評論家の宮崎正弘氏は、次の3つの理由
を上げています。
─────────────────────────────
 1.国有企業の救済のため、景気浮揚のためのプロジェクトの
   継続という至上命令がある。
 2.海外の新幹線工事受注が必ずしもうまくいっていないので
   内需でしのぐしかないこと。
 3.国有企業の宿痾ともいうべき余剰生産と失業対策であり、
   事業の継続が不可避である。
               ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機が始まる』
─────────────────────────────
 まず、「1」について考えます。
 中国新幹線の工事を担う産業構造はピラミッド型になっていて
インフラ建設だけでも十数社があります。そのすべてが国有企業
です。これらの国有企業に従事する労働者、設計技師、エンジニ
ア、電気工事、運搬、発電事業など、中国経済の中枢を担ってい
ます。彼らに仕事を与えるためには、たとえコストパフォーマン
スが悪くても、仕事を与える必要があるのです。
 続いて「2」について考えます。
 そのためには、どうしても海外で新幹線受注を獲得する必要が
あります。しかし、海外で新幹線受注を競り落としても、親中派
の政権が変わると、事業が途中で頓挫してしまうこと多くなって
います。これについては改めて述べますが、いくつか取り上げる
と、ベネズエラは正式に中止、マレーシアは20%で中断、イン
ドネシアは用地買収ができず着工不能、タイは青写真のままであ
り、ベトナムはそっぽを向いてしまう、というように、トラブル
のオンパレードなのです。
 最後は「3」について考えます。
 これについては、宮崎正弘氏の著書から引用します。
─────────────────────────────
 中国の鉄道は、もともと軍の利権であり、守旧派が堅持する部
局でもあり、鉄道建設、下請け系列と傍系、さらには付随する研
究所や大学、高専など運転手予備軍を育ててきた。レール、電力
設備、砂利、セメント、ジャッキそのほか、あらゆる産業の裾野
が拡がる産業でもあり、プロジェクトをやめると、大量の失業者
が出るからだ。
 それにしても赤字を肥大化させる一方の事業を継続しなければ
ならないという、小学生が考えても分かるような明らかな矛盾を
全体主義国家では誰も咎めないのである。
                ──宮崎正弘著の前掲書より
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/051]

≪画像および関連情報≫
 ●中国が突き進む「一帯一路」とユーラシア鉄道網の思惑
  ───────────────────────────
   海外の鉄道ニュース記事をチェックすると「一帯一路」と
  いうキーワードをよく見かける。これは中国が進める広域経
  済圏構想で、中国国内にとどまる話ではなく、ユーラシア大
  陸全体に及ぶ構想だ。そのなかで、鉄道貨物輸送「中欧班列
  (チャイナ・レールウェイ・エクスプレス)」が交通インフ
  ラとして存在感を高めている。
   数年前まで、中国の鉄道の話題といえば高速鉄道網の延伸
  だった。日本の新幹線技術も取り入れた中国版新幹線は20
  08年に北京と天津を結ぶ京津城路として開業した。路線距
  離は約117キロ、最高速度は時速350キロだ。その後、
  既存路線の高速化や新路線の建設を着々と進めた。
   中国高速鉄道といえば、11年に起きた温州市の脱線衝突
  事故の記憶が残る。しかし、その後大きな事故は報じられて
  いない。安全対策と信頼の回復が適切に行われたようだ。結
  果、航空機より低価格で市民に支持された。中国高速鉄道は
  中国国土の東半分に網の目のような路線網を形成し、10年
  間で2万9000キロに達した。全てが同じ設計速度ではな
  く、時速200キロ、250キロ、300キロ、350キロ
  の4区分となっている。これとは別格の存在として上海リニ
  アモーターカーがあり、最高速度は時速430キロだ。ただ
  し、ドイツのトランスラピッド方式を採用したリニアモータ
  ーカー路線は、運行費用とドイツからの技術移転の交渉がま
  とまらず、中国大陸の高速鉄道の主流にはなれなかった。
                  https://bit.ly/2W663E5
  ───────────────────────────

中国の高速鉄道車両.jpg
中国の高速鉄道車両
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2019年07月24日

●「なぜ一帯一路計画に加盟したのか」(EJ第5053号)

 2019年3月のことです。21日から23日までの3日間の
日程で、習近平国家主席はイタリアを訪問し、コンテ首相と首脳
会談を行っています。そこで、イタリアは、中国の推進する「一
帯一路」計画に関する覚書に署名しています。これで一帯一路の
署名国は、124ヶ国に達しましたが、G7の署名国はイタリア
がはじめてです。
 イタリアは、ユーロ圏3位の経済大国であるものの、2018
年末から景気後退に苦しんでいるのです。イタリアは、リーマン
ショック後に起きたPIIGS危機で、もっとも大きなダメージ
を受けた国であるといえます。銀行の破綻が相次ぎ、経済が回復
していない。ちなみにPIIGSとは、ポルトガル、イタリア、
アイルランド、ギリシャ、スペインのことで、いずれも財政悪化
が懸念されていたのです。
 実は、EUには、経済の運営上、大きな問題があります。それ
は、EU各国には中央銀行はあるものの、統一通貨ユーロの金融
政策は、欧州中央銀行(ECB)だけが行い、EU参加各国では
独自の金融政策を行うことができないことです。
 景気が悪くなったとき、普通の国では中央銀行が金利を下げて
市中の通貨供給量を増加させると同時に、政府が適宜財政出動を
行うことによって、景気回復の処置が取れるのですが、EUの各
国は、統一通貨ユーロを勝手に刷ることはできないので、なかな
か景気を回復させることができないでいます。
 EUのなかで最も経済がしっかりしているのはドイツですが、
ECBがドイツ主導のEU全体の景気状況に合わせて金利を引き
上げたりすると、景気の悪い国は、さらに景気が後退してしまう
ことになります。イタリアは、まさにそういう状況に陥っている
といえます。したがって、現在、イタリアにとって海外の資金は
どうしても欲しいのです。
 中国は、そういう状況を見抜いたうえで、援助の手を差し伸べ
るのです。その目的は、事実上「港」を取得することです。やは
りPIIGS危機で破綻したギリシャに対して、EU側とIMF
(国際通貨基金)が支援の条件として国有資産の売却を求めたこ
とがあります。それを受けてギリシャ政府は、ピレウス港を運営
する国営会社の67%の株式を中国のコスコ・グループ(中国遠
洋運輸集団)に売却したのです。これは、中国の戦略──「海の
一帯一路計画」のはじまりです。
 これには、IMFが重要な役割を果たすのです。そこで中国は
IMFトップの専務理事に、クリスティーヌ・ラガルド氏を送り
込んだのです。なぜラガルド氏は中国寄りなのかについて、EJ
は、2017年に取り上げたテーマ『米中戦争の可能性』で書い
ているので、ご紹介しておきます。
─────────────────────────────
                2017年06月01日
  EJ第4532号『ラガルド理事はなぜ親中国なのか』
                https://bit.ly/2rlME4q
─────────────────────────────
 クリスティーヌ・ラガルド氏は、9月12日付でIMF専務理
事を退任し、さらに出世して、11月に欧州中央銀行(ECB)
総裁(現マリオ・ドラギ総裁)に就任することになっています。
そうなると、今後、ますます中国寄りの裁定が行われる可能性が
あります。
 そもそも一帯一路は、大航海時代の英国がとった戦略を意識し
ており、各地域の重要港をひとつずつ押さえていく戦略です。し
たがって、中国がイタリアを一帯一路に参加させた狙いは、アド
リア海に面した重要港であるトリエステ港とイタリア最大のジェ
ノバ港を取得する狙いがあると考えられます。
 実際問題として、トリエステ港もジェノバ港も、設備がボロボ
ロになっており、修復が必要なのですが、財政難でそれができな
いのです。2018年8月のことですが、ジェノバで高速道路の
高架橋が崩落して、走行中の車や人や、橋の下の住民を含め43
人の犠牲者を出すという大惨事が起きています。この事故につい
てロイターは次のように伝えています。
─────────────────────────────
 [ジェノバ14日/ロイター]イタリア北部ジェノバで14日
高速道路の高架橋が約80メートルにわたって崩落し、ANSA
通信によると、少なくとも35人が死亡した。現場は激しい雨に
見舞われていたという。崩落した高架橋は高さ約50メートルで
自動車35台が巻き込まれた。がれきは工場や他の建造物の上や
川に落下し、ソーシャルメディアには、がれきの下敷きになった
トラックの写真が投稿された。
 サルビーニ内相は「このような惨事は受け入れがたい」とした
上で、責任の所在を明らかにするつもりだと述べた。高架橋は、
1960年代後半に建設。トニネッリ運輸相は保守点検が行われ
ていなかった可能性があるとした。  https://bit.ly/2GpsKOF ─────────────────────────────
 こうした中国の「港」をひとつずつ押さえて行く戦略に関連し
て、「債務の罠」とか「債務トラップ」という言葉がよく聞かれ
ます。相手の弱みにつけこんで、借金のカタに港の99年間の租
借契約を結ばせるやり方です。「借金の罠」というと、私などは
シェイクスピアの喜劇「ベニスの商人」のシャイロックという高
利貸しを連想します。「中国=シャイロック」という印象を持っ
てしまいます。
 ちなみに、「ベニスの商人」の商人は、シャイロックを指すの
ではなく、アントーニオという商人のことです。いずれにしても
一帯一路の札ビラ外交はあまり良いイメージではなく、中国全体
のイメージダウンにつながってしまいます。それでも習主席は、
米国との貿易戦争さなかの3月にイタリアに行き、一帯一路の覚
書に調印しているのです。一体中国は、何を目的として、この一
帯一路計画を進めているのでしょうか。
              ──[中国経済の真実/052]

≪画像および関連情報≫
 ●イタリアの「一帯一路」参加/のっぴきならないその背景
  ───────────────────────────
   イタリアが中国の一帯一路のプロジェクトに参加すること
  になった。このことについて、欧州連合(EU)そして米国
  は、中国がこれを契機にヨーロッパを支配するようになるの
  ではないかと警戒感を表明している。
   しかし、イタリアにして見れば事情もあるようだ。 例え
  ば、イランとの核問題を発端に米国がロシアに制裁を科し、
  それに協力してEUもロシアに制裁を科した件だ。イタリア
  はそれまで積極的にロシアと貿易取引を伸展させていたのだ
  が、この制裁によって、ご破算になってしまったのだ。また
  EUに対する反感も育ちつつある。ユーロの導入によって、
  イタリアのリラは弱い通貨となり、しかもイタリア政府が輸
  出奨励金を支給していたことなどがユーロの導入で廃止せざ
  るを得なくなってイタリアはそれまで半世紀以上イタリア経
  済を支えて来た輸出立国から後退してしまった。現在長期に
  亘って景気が低迷している事態を前にポピュリズム政府は、
  財政赤字を幾分か増やしても景気回復に政府は公共投資を進
  めて行きたいと望んでいる。ところが、それに対してもEU
  は、財政緊縮策の適用を連立政権のイタリア政府に要求して
  いる。現状のイタリアは失業率10・5%、国の負債はGD
  Pの132%にまで及んでおり、非常に厳しい経済環境にあ
  る。それ故、外国からの投資は是が非でも必要とされている
  のである。           https://bit.ly/2YjZFOU
  ───────────────────────────

イタリア/ジェノバでの高速道路崩落.jpg
イタリア/ジェノバでの高速道路崩落

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2019年07月25日

●「イタリア一帯一路加盟とEU分断」(EJ第5054号)

 「一帯一路」とは、かつてのシルクロードの復活であるといわ
れます。ところで、「シルクロード」とは何でしょうか。一般的
には、シルクロードとは、ユーラシア大陸を通る東西の交通路の
総称です。しかし、この概念は漠然としています。具体的には、
次の3つに分けて考えるべきです。
─────────────────────────────
   1.北方の草原地帯のルート ・・   草原の道
   2.中央の乾燥地帯のルート ・・ オアシスの道
   3.インド南端を通る海の道 ・・    海の道
─────────────────────────────
 このうち、もっとも古くから利用されていたのが「オアシスの
道」です。中国からローマへは絹、アルタイ山脈から中国へは金
が重要な交易品となっていたことから、「シルクロード」といわ
れるようになったのです。
 このような前提に立って、福島香織氏は、「一帯一路」構想に
ついて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国は一時期、海洋覇権を取らなければ世界制覇できない、自
分たちの野望は達成できないという考え方でしたが、おそらくい
ろいろな研究者からのアドバイスなどがあり、長期的なスパンの
中で、海洋国家文明と大陸国家文明の入れ替えが起こるだろうと
考えるようになった。また、宇宙時代がくると、もう海洋覇権の
時代ではないと思い至り、もう一度、陸路の軍事輸送網というも
のを見直すべきだという意見から、「一帯一路」の構想が始まっ
たという話を聞いたことがあります。
 もう一度大陸国家を再編成するとなると、そこで重要になって
くるのは、ロシアはもちろんですが、ヨーロッパです。だから中
国はヨーロッパと組もうとしている。そうなると、海洋国家であ
るイギリス、アメリカ、日本あたりと対立することになるという
イメージで世界を2分割して、新たな世界秩序の支配者となる。
そんなイメージでつくつたのが「一帯一路」構想なのです。
                 ──渡邊哲也/福島香織著
     『中国大自滅/世界から排除される「ウソと略奪」の
                中華帝国の末路』/徳間書店
─────────────────────────────
 中国には古くから「天命思想」といわれるものがあります。有
徳の天子が天帝から命ぜられて天下を治めるというものです。そ
の天子のいるところが「中華」であり、すなわち、中国であると
いうものです。
 その外側には野蛮な「夷狄(いてき)」の世界があるのですが
それらの野蛮人も中華の徳にふれると、やがては人間になれる、
だから、中華の恩恵を施してやる、というのが、中華思想であり
冊封(さくほう)体制なのです。中国にとっては、日本も米国も
すべて夷狄なのです。
 「一帯一路」というのは、経済政策というよりも、かつてのシ
ルクロードを復活させ、ヨーロッパも含めて新しい冊封体制によ
る世界を作ろうとしているのです。
 それでは、冊封体制とは何でしょうか。
 冊封体制というのは、中国の歴代王朝が、東アジアの国際秩序
を維持するために用いた対外政策のことです。冊封体制について
は、中国史の専門家である西嶋定生氏の解説を引用します。
─────────────────────────────
 中国の皇帝が周辺諸国の首長を冊封して、これに王・侯の爵位
を授け、その国を外藩国として統属させる体制を私は冊封体制と
呼んでいる。冊封という形式は、本来は国内の王・侯に対する爵
位授与を意味するものであるが、その形式が周辺諸国に対する中
国王朝の統属形式に用いられたのである。そしてこの冊封体制を
基軸として、周辺諸国と中国との政治的・文化的関係が形成され
そこに東アジア世界が出現すると考えるのである。
        ──「世界史の窓」 https://bit.ly/2GnPKO4
─────────────────────────────
 かつてのシルクロードは、唐の都の長安からローマまで続く道
のりであり、今回、イタリアを一帯一路に加盟させたということ
は、ローマを落としたということで、中国にとって格別な意義が
あります。既に中国は、2017年に打ち出され、現在進行中の
高速鉄道網や高速道路は、ハンガリー、セルビア、そして、ギリ
シャのピレウス港を結ぶかたちで、バルカン半島を押さえつつあ
ります。これにイタリア半島も手に入れると、地中海の玄関を中
国は押さえたことになります。このように、中国は目下ヨーロッ
パを攻めているのです。
 ギリシャ、ハンガリー、セルビアは既に中国の「債務の罠」に
嵌っており、抜け出せなくなっています。それに加えてイタリア
も深入りしそうな情勢です。イタリアのマッタレッラ大統領やコ
ンテ首相は、一帯一路の参加についてかなり前のめりになってい
る感じです。中国としては、イタリアを取り込むことで、G7の
分断を仕掛けているのです。
 もちろん米国は、イタリアに警告を発していますが、イタリア
は、既に聞く耳を持っていないようです。香港英字紙サウスチャ
イナ・モーニング・ポスト(電子版)の伝えるところによると、
「イタリアのジュセッペ・コンテ首相が米国の警告を無視し、中
国が提唱する巨大経済圏構想『一帯一路』との緊密な協力を推進
している。消息筋によると、米国が近隣諸国の間でのイタリアの
声望を損なうと警告する中、コンテ政権は、中国企業にトリエス
テ港へのアクセスを拡大し、両国の大手電力会社間の協力を一層
強化することを計画している。そして、コンテ首相は、『一帯一
路』参加は、イタリアにとってチャンスとなる」と大きな期待を
寄せているのです。
 これでは、イタリアもいずれ「債務の罠」に嵌る危険性が増大
すると思われます。これは、事実上のヨーロッパの分断にもつな
がることになります。    ──[中国経済の真実/053]

≪画像および関連情報≫
 ●EUと中国 〜「新たな冷戦」での立ち位置を模索
  ───────────────────────────
   イタリア北東部のトリエステと聞いて、かつての東西冷戦
  において一つの象徴となった都市だった、と思い浮かべる方
  は、かなりの歴史通だと言えるでしょう。トリエステは、冷
  戦時代に西側陣営と東側陣営とを分断した「鉄のカーテン」
  の南端でした。もっとも、ベルリンの壁と違って、「鉄のカ
  ーテン」は実際に壁のような建造物が敷設されたわけではあ
  りません。1946年にイギリスの首相チャーチルが演説で
  用いた比喩です。いわく、「北はバルト海のシュテッティン
  から南はアドリア海のトリエステまで、鉄のカーテンが大陸
  に降ろされている」とし、その「カーテン」の東側にあるヨ
  ーロッパ諸国はソビエトの影響下にあると説明しました。冷
  戦の到来を予言した演説でした。
   それから長い年月が過ぎ、冷戦も終わりました。しかし、
  今、再びトリエステが注目を集め始めています。アメリカと
  中国の対立が、「新たな冷戦」の様相を呈する中、トリエス
  テが中国の「一帯一路」構想における「海のシルクロード」
  のヨーロッパでの到達地となったためです。従来からのパー
  トナーであるアメリカとの関係を維持しつつ、急速にヨーロ
  ッパにも進出する中国と、どう向き合うのか。EUはその立
  ち位置を模索しています。
         ──国際報道2019キャスター/池畑修平
                  https://bit.ly/2Z9dLjk
  ───────────────────────────

習近平主席とイタリア・コンテ首相.jpg
習近平主席とイタリア・コンテ首相
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2019年07月26日

●「スリランカとモルディブのケース」(EJ第5055号)

 「一帯一路」構想は、イタリアの加盟で、一見すると、中国の
思うように進んでいるように見えますが、必ずしもそういうこと
ではないのです。「一帯一路」に加盟して、その関連プロジェク
トの進行──高速鉄道や高速道路などの工事の進捗は、けっして
芳しいものではないからです。
 中国は、日本のように十分な調査に基づいて工事全体の設計を
していないので、その結果、工事が難航して遅延し、未完成の状
態で政権交代が起きると、前政権と中国の癒着が、必ずといって
よいほど発覚するのです。マレーシアのナジブ政権しかり、モル
ディブのヤミーン政権しかり、スリランカのラジャパクサ政権し
かり、パキスタンのシャリフ政権しかりです。これらはほんの一
部に過ぎず、まだたくさんあります。
 それにしても、モルディブとスリランカといえば、インドに近
い海の要衝です。まだあります。パキスタン、ヤンマーもそうで
す。もし、これらの国がすべて中国化すると、インドは安全保障
上深刻な事態になります。中国は、そういう場所をピンポイント
で選んで、「一帯一路」を仕掛けているわけです。
 スリランカは、ラジャパクサ大統領時代に「一帯一路」に参加
したものの、資金不足になって「債務の罠」に落ち、ハンバント
タ港を中国に99年間租借せざるを得なくなっています。これに
ついて、宮崎正弘氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 スリランカの対外債務は、531億ドル(2018年9月末時
点)。翌19年に償還期限が来る負債額は49億ドル。さらに、
2020年までにあと150億ドル。パキスタンと同様に、スリ
ランカがIMF管理になるのは時間の問題かもしれない。99年
の租借を飲まされ、ハンバントタ港を中国に明け渡す無惨な結果
を招いたのは、ラジャバクサ前大統領の強気の読みと中国との親
密なコネクションからだったが、結局は返済できず「借金の罠」
に落ちた。番狂わせで彼は落選し、無名のシリセナがスリランカ
大統領となった。
 コロンボからスリランカの名勝地キャンディに至るハイウエー
は、途中悪路、崖や河沿いを縫うように車で4時間近くかかる。
鉄道もあるが、1日2本程度で、しかも外国人観光客でほぼ満員
だ。この区間にハイウェーを通すのはスリランカの政治家なら誰
もが魅力と思うだろう。ましてや票に繋がる美味しいプロジェク
トと考えられた。ところが資金不足に陥り、現場労働者の日当が
支払えず、あちこちで工事が中断した状況になっていた。
               ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機が始まる』
─────────────────────────────
 モルディブでも、スリランカと同じようなことが起きているの
です。当事者はヤミーン前大統領です。2019年2月18日、
ヤミーン氏に対して、マネーロンダリング容疑で正式起訴するた
めの予審が開かれ、検察側はヤミーン氏が証人の証言を妨害しよ
うとしたと主張。結局、証人に賄賂を渡して偽証するよう要請し
た容疑で逮捕されています。
 モルディブに中国はどのようにかかわっているのかについて、
宮崎正弘氏の本から引用します。
─────────────────────────────
 モルディブ政府は現在、ヤミーン前政権が、中国からいったい
幾ら借りたのか、借金は全体で幾らあるのかを精査している。こ
の財務精査の過程で、ヤミーン時代の面妖な取引、その送金ルー
トの明細や不明瞭な使途などが明るみに出た。あたかもマレーシ
アの1MBDファンドから大金を横領していたナジブ前首相の経
済犯罪と似ているが、少額の汚職なので、世界の金融界は喋って
いるだけである。中国は空港と首都マーレを繋いだ海上橋梁を請
け負い、2018年9月の大統領選挙直前の8月31日に完成さ
せた。空港の拡張工事も中国が請け負っていた。インドはあたか
も下腹にナイフを突きつけられたような要衝にあるモルディブの
動向に神経を尖らせ、軍港に転用される可能性を監視してきた。
また新政権発足と同時にモルディブ重視に傾き、当面の金融シス
テムの安定、信用回復のために14億ドルの信用枠を供与した。
                ──宮崎正弘著の前掲書より
─────────────────────────────
 添付ファイルに、インドとモルディブ、スリランカの位置関係
を示す地図をつけています。宮崎氏の「インドはあたかも下腹に
ナイフを突きつけられたような要衝」と表現していますが、これ
ら2つの国は、まさにそういう位置にあります。中国は明らかに
場所を選んで「一帯一路」に引き入れ、「債務の罠」を仕掛けて
重要港を事実上手に入れようとしています。
 「一帯一路」によるインフラ建設は、中国は人も資材もすべて
中国から持ってくるのです。中国にとって「一帯一路」は、国有
企業に仕事を与える手段なので、現地では、まったく雇用を生ま
ないのです。これも「一帯一路」加盟国にとって、大きな不満に
なっています。
 そのため、現地では、中国語と英語の看板のみで、現地の言語
は全く使われていないのです。売り出しマンションの価格も人民
元で表示されています。これでは、現地が中国に占領されている
のと同じです。スリランカでは、シンハリ語とタミール語の表示
がないのは、ローカルランゲージ法に違反するとして、中国に改
善を求めたといいます。
 それに加えて、環境破壊がひどいのです。そのため、現地では
嫌中意識がすこぶる高まっており、中国人襲撃事件も多発してい
ます。これでは世界中に嫌中主義が拡大する一方ですが、中国人
はまったく歯牙にもかけないのです。あくまで中国の利益優先で
すから、「一帯一路」計画は、「新植民地主義」といわれていま
す。そういうことをある程度理解した上でのイタリアの「一帯一
路」加盟には、世界中が懸念を表明しています。
              ──[中国経済の真実/054]

≪画像および関連情報≫
 ●自爆テロのスリランカはインド洋に浮かぶ真珠
  ───────────────────────────
   「分割して統治せよ」。英仏が採用した植民地支配の原則
  だ。この政策では、植民地の多数派が排除され、少数派が優
  遇される。支配者にとって都合がいいからだ。
   少し脇道に入るが、イラク(イギリスが領土を決めて19
  22年にイラク王国を建国)では、人口の60%を占めるア
  ラブ人シーア派が権力から排除され、人口の20%を占める
  少数派のアラブ人スンニ派がサダム政権を経て、2003年
  のイラク戦争まで支配権を握る。またシリア(フランスが植
  民地にした)では、人口の12%のアラウィー派が軍隊で重
  用され、バアス党革命で権力を握り、苛烈なシリア内戦を経
  て、現在もアサド政権が続く。
   スリランカの場合、イギリスがシンハリ人よりも重用した
  のが、少数派のタミル人だ。タミル人は英語を積極的に受け
  入れる。多くのタミル人が植民地時代に官僚や法律家という
  公職に就いた。だが、スリランカ独立後は、多数派であるシ
  ンハリ人と仏教の巻き返しの時代に入る。
   シンハラ語のみを公用語とし、仏教に対し国教に準じた地
  位を与えたシンハリ人政権の政策によって、タミル人との対
  立は決定的になる。1983年に始まり、2009年にタミ
  ル人の敗北宣言で終わる内戦では、死者10万人で難民30
  万人という惨禍を招く。タミル人は、「タミール・イーラム
  解放のトラ」(LTTE)という武装組織を立ち上げ、政府
  に応戦したものの、大勢を覆せなかった。
                  https://bit.ly/2JNYyyN
  ───────────────────────────

スリランカとモルディブの位置関係.jpg
スリランカとモルディブの位置関係
















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2019年07月29日

●「オーストラリアはなぜ変貌したか」(EJ第5056号)

 「一帯一路」のことを「BRI」とか「OBOR」と呼ぶこと
があります。「一帯一路」の英語表記を示しておきます。
─────────────────────────────
   ◎「一帯一路」・・・
     BRI  The Belt and Road Initiative
    OBOR One Belt, One Road Initiative
─────────────────────────────
 さて、2018年11月のことです。18日と19日の2日間
にわたって、パプアニューギニアにおいて、APEC首脳会議が
開かれたのです。そのAPECについて、日本経済新聞は次のよ
うに伝えています。
─────────────────────────────
【ポートモレスビー=辻隆史】日米中など21ヶ国・地域が参加
して、パプアニューギニアで開かれたアジア太平洋経済協力会議
(APEC)首脳会議が、18日、2日間の協議を終えて閉幕し
た。米国と中国が互いの通商政策をめぐり対立。議長国のパプア
が首脳宣言の採択を断念する異例の事態となった。首脳宣言を断
念するのは1993年の第1回会議以来、初めて。
               https://s.nikkei.com/2YoEUlb ─────────────────────────────
 この会議で米国と中国は激突したのです。宣言の原案の「保護
主義と対抗する」という表現に米国が猛反発し、中国はトランプ
政権を念頭に「一国主義と対抗する」との文言を盛るよう求め、
米国が削除を強く要求するという具合です。
 加えて米国は中国を念頭に不公正な貿易慣行の撤廃を求める表
現を盛り込むよう主張し、中国が反発するというように、米国と
中国の主張が激突し、結局、首脳宣言の採択を断念せざるを得な
くなったのです。
 その背景には、中国が南太平洋を「一帯一路」の投資対象国に
算入したことにあります。これによって、中国は、米、英、仏、
豪、ニュージーランド(NZ)の利害と直接対峙することになっ
たのです。実際にこの地域における中国の投資は、オーストラリ
アを抜き去っています。2018年10月現在、南太平洋全域で
中国が推進中のプロジェクトは218件、金額は17億8120
万ドルに達しています。金額が大きい順に並べると、次のように
なります。
─────────────────────────────
  ◎南太平洋における中国の投資状況
   パプアニューギニア ・・・ 6億3250万ドル
   フィジー      ・・・ 3億5900万ドル
   バヌアツ      ・・・ 2億4250万ドル
   東ティモール    ・・・   5216万ドル
   クック諸島(NZ) ・・・   4986万ドル
   サモア       ・・・   2301万ドル
   トンガ       ・・・   1720万ドル
   ニウエ島(NZ)  ・・・     70万ドル
              ──2018年10月現在
               ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機が始まる』
─────────────────────────────
 これを見ると、飛び抜けて中国からの投資が大きいのが、昨年
APECの会場になったポート・モレスビーを首都に持つパプア
ニューギニアであることがわかります。ちなみに、この地域は、
太平洋戦争中、日本の多くの艦船が沈没し、多くの犠牲者を出し
た場所であり、なかでも激戦地といわれたラバウルとガダルカナ
ルもこの海域に含まれます。
 これらの国がもし中国による「債務の罠」に嵌ったら、大変な
ことになります。こういう状況を許したのは、かつての親中国国
家オーストラリアです。評論家の宮崎正弘氏は、オーストラリア
の中国傾斜ぶりについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 従来は中国の投資歓迎、シドニーは50万人もの中国人が住み
巨大なチャイナタウンが拡がって華僑の大活躍がなされてきた。
シドニーだけで、発行されている華字紙は5種、いずれもカラー
印刷で100ページ近く、求人や弁護士事務所、留学方法の広告
で埋め尽くされている。怪しげなマッサージパーラーの広告もあ
る。チャイナタウンのコミユニティ紙である。筆者もシドニーで
全部の華字紙を購入したが、日本で言えば全国紙5紙の正月特大
版を持つほどの重み。ずしりとその重量を感じたものだった。
 オーストラリアは鉄鉱石、石炭などに恵まれた資源王国だから
資源鉱区には次々とチャイナマネーが入り、鉄鉱石も石炭も中国
が買うので、資源関連企業はウハウハだった。そのうち軍港ダー
ウィンの埠頭を、オーストラリアは99年の貸与を中国企業に認
めたほど、親中路線だったのだ。 ──宮崎正弘著の前掲書より
─────────────────────────────
 このように、オーストラリアは親中政権だったのです。なぜ、
過去形なのかというと、現在は中国に対して要警戒に変貌を遂げ
ているからです。これについて理解するには、2015年以降の
オーストラリアの政権について知る必要があります。
 現在のオーストラリアの首相は、スコット・モリソン氏ですが
その前任者はマルコム・ターンブル氏です。2人とも、保守系の
オーストラリア自由党の議員ですが、このターンブル氏こそ「中
国はオーストラリアと抗日で戦った最も長い同盟国」であるとし
最大の貿易相手国である中国を最重視する政権だったのです。そ
して、中国によるダーウィン港の99年租借を認めたのも、ター
ンブル前首相なのです。
 そのターンブル氏の後任者が現在のスコット・モリソン首相で
す。この首相になってはじめて中国の危険性に気付くのです。し
かし、今年の5月の選挙において、モリソン首相は政権維持が危
なかったのです。      ──[中国経済の真実/055]

≪画像および関連情報≫
 ●「一帯一路」で南シナ海から中東で影響力行使
  ───────────────────────────
   中国は、空母打撃群の展開を通じて、南シナ海からインド
  洋、中東沖など広範囲の沿岸諸国への影響力行使を狙ってい
  る。また現段階で中国初の国産空母が米軍の直接的な脅威と
  なる可能性は低いが、長期的には、太平洋で米軍を排除する
  「接近阻止・領域拒否」戦略の実現に向けた足がかりとする
  構えだ。中国が掲げる現代版シルクロード経済圏構想「一帯
  一路」で、中東はその要衝にあたる。
   ただ、地域大国のサウジアラビアは米国の同盟国であり、
  イランはロシアが影響力を保持。中国が現在、アフリカ東部
  ジブチで中国海軍の「補給施設」を建設しているのは、海外
  基地として中東への軍事プレゼンスを高める狙いもある。
   一帯一路のうち「海上シルクロード」と呼ばれる東南アジ
  アから南アジア、中東沖につながるルートで空母を展開させ
  ることで、「沿岸諸国に影響力を行使できるプレーヤーとし
  て、米露に中国が加わる可能性」(東京財団の小原凡司研究
  員)も指摘されている。
   また、今後いずれかの国産空母が南シナ海を管轄する南海
  艦隊に配属される見通しで、領有権争いを抱える沿岸国への
  軍事的圧力も高まりそうだ。一方、中国にとっては太平洋で
  制海権を握ることも長期的な野望だ。中国初の空母「遼寧」
  は昨年12月、九州や沖縄、台湾などを結ぶ「第1列島線」
  を初めて越え西太平洋に進出した。https://bit.ly/2Mi5XrZ
  ───────────────────────────

オーストラリアのターンブル前首相.jpg
オーストラリアのターンブル前首相

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2019年07月30日

●「オーストラリア政権について知る」(EJ第5057号)

 私がオーストラリアの首相に関心を持ったのは、ターンブル首
相がはじめてです。なぜかというと、オーストラリアにほぼ導入
が決まっていた日本の「そうりゅう型」潜水艦導入をターンブル
首相が突如取りやめたからです。
 調べてみると、このマルコム・ターンブルなる人物は、親中派
の元実業家であり、それなら導入中止は当然と思ったし、日本の
潜水艦導入中止を「日本の技術が中国に渡らなくてよかった」と
いう趣旨のツイートを発信したので記憶に残っていたのです。
 ところで、安倍首相は、オーストラリアの首相と仲が良かった
はずです。だから、潜水艦の導入の話になったはずですが、安倍
首相と仲が良かったのは、ターンブル首相の前のトニー・アボッ
ト首相です。そのアボット首相は党内の政治クーデターで、政権
交代を余儀なくされたのです。直近のオーストラリア3代のデー
タを以下にまとめます。
─────────────────────────────
 ◎トニー・アボット
  2013年 9月18日〜2015年 9月15日
 ◎マルコム・ターンブル(首相就任前の役職:通信相)
  第1次政権
  2015年 9月15日〜2016年 7月19日
  第2次政権
  2016年 7月19日〜2018年 8月24日
 ◎スコット・モリソン (首相就任前の役職:財務相)
  2018年 8月24日〜在任中
                  https://bit.ly/2YnB1wZ ─────────────────────────────
 ごく大ざっぱにいってしまうと、アボット氏からターンブル氏
への交代と同じようなことが、ターンブル氏からモリソン氏への
交代において起きているのです。いずれもオーストラリア与党の
自由党のなかの政権闘争です。与党の自由党の政権運営がうまく
いかず、支持率が低迷した挙句の政権交代です。
 ちなみに就任直後のトランプ大統領がオーストラリアの首相と
の電話会談で、移民問題で意見が衝突し、トランプ大統領が途中
で電話をガチャ切りした相手はこのターンブル首相です。
 関心があるのは、あれほど親中派だったターンブル政権がなぜ
中国とうまくいかなくなったかです。これについて、ロイターは
2018年6月19日に「焦点:火花散らすオーストラリアと中
国、なぜ関係悪化したか」というレポートを出していますが、そ
の中心部分を以下に示します。
─────────────────────────────
 輸出ブームを駆り立てた画期的な自由貿易協定(FTA)を中
国と結んでからようやく2年がたとうとしている中、ターンブル
首相は、外国の影響を制限するのを目的とした新たな法案を提出
する理由として、中国による「干渉」を挙げた。
 ターンブル首相は昨年(2016年)、議会において、中国共
産党がオーストラリアのメディアや大学、政治に干渉していると
の報告に懸念を示した。その中には、野党議員が中国の利害関係
者と密接な関係を持ち、献金を受けていたとの報告も含まれ、後
にこの議員は辞職に追い込まれた。ターンブル首相率いる中道右
派政権は、外国からの政治献金を禁止したり、外国のために働く
ロビイストに登録を義務付けたりする法案を準備している。また
諜報の定義変更も提案されており、犯罪の対象となる活動が拡大
することになる。(中略)中国によるオーストラリアへの干渉問
題は同年、中国軍と近い関係にあるとされる中国企業に北部ダー
ウィン港を貸与する契約が浮上し、一段と批判されるようになっ
た。同契約を巡っては、米海軍兵士1500人超が駐留する基地
が近いことから、米国も懸念を示したとされる。
                  https://bit.ly/2ME522O ─────────────────────────────
 実は、2019年5月18日にオーストラリアでは総選挙があ
り、選挙前の予想では、野党の労働党が圧倒的に優勢だったので
す。中国が選挙資金などを含めて積極的に支援したフシがありま
す。しかし、結果は予想に反して、与党のモリソン政権が勝利し
たのです。大逆転勝利です。
 この勝利を世界のメディアは「奇跡」と報道し、それをトラン
プ氏の米国大統領の当選と英国のブレグジットと同様に予測する
のが困難な出来事に例えたほどです。これは、オーストラリアの
国民が、親中路線の労働党を嫌ったからであり、明確に中国に対
して「NO!」を突き付けたことになります。
 南太平洋を中国から守るには、何といっても重鎮のオーストラ
リアを親中派にさせないことであり、今回の総選挙は、それを実
現した選挙結果であるといえます。それに「ファイブ・アイズ」
という5つの国の諜報連携を機能させるためにも、オーストラリ
アが親中国では困るのです。ファイブ・アイズの5つの諜報機関
とは次の通りです。
─────────────────────────────
    ◎ファイブ・アイズ
     1.アメリカ
       アメリカ国家安全保障局/NSA
     2.イギリス
       政府通信本部/GCHQ
     3.カナダ
       カナダ通信保安局/CSEC
     4.オーストラリア
       参謀本部国防通信局/DSD
     5.ニュージーランド
       政府通信保安局/GCSB
                  https://bit.ly/2insxgt ─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/056]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ氏、豪首相との電話会談を「最悪」と打ち切り
  ───────────────────────────
   米紙ワシントン・ポストは2017年2月1日、ドナルド
  ・トランプ米大統領が先月28日にオーストラリアのマルコ
  ム・ターンブル首相と電話で会談した際、豪国内の難民を米
  国が受け入れるという両国の合意を批判し、予定時間を切り
  上げ会談を一方的に終わらせたと報じた。
   同紙によると、28日に、各国首脳と電話会談を相次いで
  行ったトランプ氏は、ターンブル首相との会談を「今までで
  最悪」と呼んだという。トランプ大統領は、会談後にツイッ
  ターで、難民の再定住計画について「この馬鹿な取り引きの
  中身を調べる」とコメントした。
   オバマ前政権時にまとめられた合意では、オーストラリア
  で難民申請した1250人を米国が受け入れることになって
  いた。オーストラリア政府に対しては、難民申請した人々を
  自国で受け入れずナウルとパプアニューギニアの施設に収容
  したことで、非難の声が上がっていた。
   トランプ氏は先月27日に、イスラム教徒が多数を占める
  特定7ヶ国の入国を一時的に禁止する大統領令に署名。ター
  ンブル豪首相は、難民の米国再定住の合意が実行されるのか
  説明を求めていた。28日にはターンブル首相のほか、ロシ
  アのウラジーミル・プーチン大統領など4人の首脳がトラン
  プ大統領と電話で会談した。ワシントン・ポスト紙は、電話
  会談について報告を受けた複数の米高官の話として、会談は
  1時間の予定だったものの、25分たったところでトランプ
  氏がいきなり打ち切ったと報じた。https://bbc.in/2JYz7KZ
  ───────────────────────────

トランプ米大統領とターンブル豪首相電話会談.jpg
トランプ米大統領とターンブル豪首相電話会談
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2019年07月31日

●「オーストラリアと華為技術の関係」(EJ第5058号)

 「ファイブ・アイズ」とは、米国、英国、オーストラリア、カ
ナダ、ニュージーランド(NZ)で機密情報を共有する5ヶ国の
枠組みのことです。安倍政権は、日本政府として、このファイブ
・アイズとの関係を深めつつあります。
 ファイブアイズについて知るには、「シギント」というものを
理解する必要があります。これは、普通の人にとって、全く知る
必要のない特殊なインテリジェントの用語です。
─────────────────────────────
 ◎シギント/SIGINT、signals intelligence
  シギントとは、通信、電磁波、信号などの主として傍受を
  利用した諜報・諜報活動のことである。
                  https://bit.ly/2RPoFv4 ─────────────────────────────
 要するに、シギントとは通信傍受手段です。あの元NSAの局
員であるエドワード・スノーデン氏によると、NSAは「世界最
強のシギント」であるといわれています。
 諜報活動における情報入手は、シギントを含めて、次の4つが
あります。ファイブ・アイズは、このうち、シギントを中心とし
て、5ヶ国が情報を共有するというものです。
─────────────────────────────
     1.イミント
      ・偵察衛星や偵察機による写真偵察
     2.シギント
      ・電波や電子信号傍受による情報収集
     3.ヒューミント
      ・人間による情報収集
     4.カウンターインテリジェンス
      ・防諜、外国の諜報活動への対抗策
─────────────────────────────
 ファイブ・アイズというのは、世界中に張り巡らしたシギント
の設備や盗聴情報を、相互利用・共同利用するために結んだ協定
のことです。このグループのコンピュータ・ネットワークは「エ
シュロン」と呼ばれています。もともと秘密協定なのですが、こ
のエシュロンの言葉とともに、その一部が知られるようになって
きています。
 2018年7月17日のことです。カナダのノバスコシア州の
どこかで、ファイブ・アイズは秘密会合を開いています。この会
合には、カナダのトルドー首相、オーストラリアのターンブル首
相、それに5ヶ国の情報機関のトップ全員が出席しています。
 この会議において、2001年9月のアメリカ中枢同時テロ以
降、テロ対策に力を入れる陰で、スパイ活動が疎かになっている
ことが指摘され、その間に中国がシギントを中心とするスパイ技
術を盗み、自国でウイグル族などの宗教弾圧にその技術を利用し
ているとの報告が行われています。
 もともとこのときの会合は、ロシアを敵として戦略を練る秘密
会議だったようです。というのは、この会合に出席した英国秘密
情報部のヤンガー長官が、英国南部でロシアの元情報機関員らが
神経剤で襲撃された事件について、ファイブ・アイズがまとまっ
て対応したことが大きな成果であることを報告したのですが、同
会議に出席していたジーナ・ハスペル米CIA長官は、現在、一
番危険なのは中国共産党の台頭であり、その中国共産党のスパイ
技術の中心になっているのは、ファーウェイとZTEであるとし
て、その会合で、ファーウェイとZTEを、5G──5世代移動
通信システムから排除するを提案し、了承されています。
 このとき、トランプ米大統領は、なぜ参加していなかったのか
というと、中間選挙の前であり、動けなかったのではないかと思
います。しかし、中国のリスクは最大であるということは、ハス
ペルCIA長官を通じてファイブ・アイズのメンバーには伝わっ
ています。この会合において、ファイブ・アイズの情報共有に、
日本とドイツも参加させることが決まったようです。
 注目すべきは、この会議に出席していたオーストラリアのター
ンブル首相です。彼は、トランプ大統領との電話会談で、トラン
プ大統領から電話をガチャ切りされた中国寄りの首相ですが、タ
ーンブル首相は、すぐにトランプ大統領に電話をかけ、オースト
ラリアは、5GからファーウェイとZTEを外すことをわざわざ
伝えています。イメージを変えたかったものと思われます。
 しかし、ファーウェイは親中のターンブル政権のときに、オー
ストラリアには深く食い込んでいたのです。宮崎正弘氏の本には
ファーウェイがターンブル政権に深く食い込んでいたことを示す
ことが書かれています。
─────────────────────────────
 豪政府高官だった3人をファーウェイは、「取締役」に雇用し
高給を支払って事実上の代理人を務めさせ、オーストラリア市場
の拡大に協力させてきた。豪政府は労働党のジラード政権から、
ターンブル保守政権まで、国家安全保障部門は、ファーウェイヘ
の警戒を怠らなかった。
 「ファーウェイ(豪)」は現地法人を装いながらも、事実上の
スパイ機関として、機密情報を入手していた。2011年から、
ファーウェイ豪社取締役になっていた3人の高官とは、ジョン・
ブルンピー元ヴィクトリア州副首相、ダウナー外相、そしてジョ
ン・ロード元海軍中将で、いずれもが「ファーウェイのスパイ行
為という陰謀論には証拠がない」と中国を擁護してきた。
 豪メディアは3人に疑惑の目を向けてきた。それというのも、
孟晩舟が2005年10月から、11年8月まで、中国と豪の間
を行き来していたからだ。   ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機が始まる』
─────────────────────────────
 この秘密会合の直後にオーストラリアには政変があり、ターン
ブル首相は、現在のスコット・モリソン氏に代わっています。
              ──[中国経済の真実/057]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ排除の内幕、激化する米中5G戦争
  ───────────────────────────
   オーストラリア通信電子局(ASD)のエージェントであ
  る彼らに与えられた課題は、あらゆる種類のサイバー攻撃ツ
  ールを使って、対象国の次世代通信規格「5G」通信網の内
  部機器にアクセスできた場合、どのような損害を与えること
  ができるか、というものだ。
   このチームが発見した事実は、豪州の安全保障当局者や政
  治指導者を青ざめさせた、と現旧政府当局者は明かす。5G
  の攻撃ポテンシャルはあまりにも大きく、オーストラリアが
  攻撃対象となった場合、非常に無防備な状態になる。5Gが
  スパイ行為や重要インフラに対する妨害工作に悪用されるリ
  スクについて理解されたことが、豪州にとってすべてを一変
  させた、と関係者は話す。
   電力から水の供給、下水に至るすべての必須インフラの中
  枢にある情報通信にとって5Gは必要不可欠な要素になる。
  マイク・バージェスASD長官は3月、5G技術の安全性が
  いかに重要かについて、シドニーの研究機関で行ったスピー
  チでこのように説明した。
   世界的な影響力拡大を目指す中国政府の支柱の1つとなっ
  た創立30年の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に
  対する世界的な締め付けを主導したのは、米政府だと広く考
  えられている。しかし、5Gを巡って実際に行動を促したの
  はオーストラリアであり、米国の反応は当初鈍く、英国など
  欧州諸国は、安全保障上の懸念とファーウェイの誇る低価格
  競争力の板挟みになっていたことが、ロイターの20人を超
  える現旧西側当局者への取材で明らかになった。
                  https://bit.ly/2YSDhIT
  ───────────────────────────

スコット・モリソン首相.jpg
スコット・モリソン首相

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2019年08月01日

●「包商銀行国有化は金融危機の前兆」(EJ第5059号)

 「一帯一路」の話から、中国の経済の話に戻します。大きな事
件が起きるときは必ず前兆というものがあります。これに関して
「ベア・スターンズ」という米国の大手投資銀行(証券会社)の
名前を覚えているでしょうか。
 べア・スターンズは、ゴールドマン・サックス、モルガン・ス
タンレー、メリルリンチ、リーマン・ブラザーズに次ぐ米国第5
位の大手投資銀行のひとつです。このべア・スターンズが、20
07年2月に倒産の危機に瀕したのです。サブプライムローンが
原因でした。
 このベア・スターンズを米国政府は救済したのです。なぜか。
時のポールソン米財務長官の判断だったといわれます。これがモ
ラルハザードの始りで、市場に一気に楽観論が広まります。それ
から1年後に、リーマンブラザーズが同じ原因で危機に陥ります
が、こちらは救済されなかったのです。そして、いわゆるリーマ
ン・ショックが起きることになります。
 なぜ、ベア・スターンズは救済されたのに、リーマンブラザー
ズは救済されなかったのでしょうか。これについて私は、過去に
EJで書いています。興味があったら、読んでください。
─────────────────────────────
    2008年9月26日付、EJ第2418号
    「救済されたベアとされなかったリーマン」
     テーマ:「サブプライム不況と日本経済」
                  https://bit.ly/2YwaaPj ─────────────────────────────
 一転して、2019年5月24日、「包商銀行」という中国の
地方銀行が倒産の危機に瀕します。内蒙古省を拠点とする地方銀
行ですが、この銀行を、中国銀行保険監督管理委員会(CBIR
C)が、89%の株式を取得して、公的に管理し、元本の30%
削減という措置をとります。つまり、国有化したわけですが、こ
れらの措置を中国当局は電光石火やったのです。こんなことは過
去20年間なかったことで、不安が広がります。
 中国当局は、なぜこのような地方銀行を電光石火救済したので
しょうか。包商銀行は、608億元の資産と270億元の預金が
あり、不良債権率は1・48%と報告されています。なぜ、それ
が経営危機に陥ったのか、はっきりしていないのです。
 米国のベア・スターンズの例にならって、これを中国の金融危
機の前兆とみる専門家もいます。何が何でも隠したかったことが
あると思われます。包商銀行の国家管理について、中国人民銀行
(中央銀行)は、わざわざ次のコメントを出しています。金融不
安の打ち消しを図ったものと思われます。
─────────────────────────────
 包商銀行の国家管理は、単独の案件であり、金融不安は何も
 ない。          ──中国人民銀行(中央銀行)
─────────────────────────────
 中国に詳しい評論家の宮崎正弘氏の最近刊書によると、包商銀
行は、明天証券グループの隠れ蓑の役割を果たしていた銀行であ
るとする次の記述があります。
─────────────────────────────
 じつは同行(包商銀行)は、肖建華が主導した投機集団、明夫
証券グループの隠れ蓑であった。インサイダー取引の前衛部隊役
を担い、217億元を投下してシャドーバンキング(影の銀行)
機能をやらされていたうえ、肖建華のATMとして駆使され、投
機資金に回されていたことが判明した。この包商銀行の国家管理
事件によって、中国の金融危機が表面化した。上海、北京を避け
て内蒙古省の銀行を活用したのも、中央政界とは無縁のバンカー
だったから、利用価値があったのだろう。   ──宮崎正弘著
           『世界から追い出され壊れ始めた中国/
     各国で見てきたチャイナパワーの終わり』/徳間書店
─────────────────────────────
 肖建華とは何者でしょうか。
 郭文貴という人がいます。この人の名前は中国の証券業界で知
られています。郭文貴氏は、江沢民時代から証券界の黒幕として
香港を根城に、一部の中国共産党幹部と組んで、インサイダー取
引を大々的に展開したのです。江沢民派閥に属する人物です。
 ところが、習近平政権になると、江沢民派閥の不正蓄財にメス
が入り、次々と江沢民派閥の有力者が逮捕されるに及んで、身の
危険を感じて、郭文貴氏は米国に逃げ込んだのです。しかし、米
国にこっそり隠れているわけではなく、ニューヨークの豪邸に住
み、テレビやネットの媒体を駆使して、習近平一派の不正蓄財や
不正経済行為を暴露し続けているのです。あのトランプ米大統領
の盟友といわれるスティーブン・バノン氏とも交流があるといわ
れています。
 肖建華氏は、この郭文貴氏の番頭格の存在であり、江沢民人脈
の金庫番といわれていた人物です。肖建華氏は香港のフォーシー
ズンズという一流ホテルに長期滞在し、4人のボディガードに囲
まれていたといいます。
 しかし、彼はこのホテルから、白昼堂々と中国当局に拉致され
当局の取り調べを受け、その後行方不明です。香港では、現在も
「逃亡犯条例」反対のデモが終息していませんが、そんな条例は
なくても中国当局はこのように大物を中国に拉致できるのです。
 彼は、包商銀行を隠れ蓑にして、明天証券グループという投機
集団を駆使してインサイダー取引や、シャドーバンキング、投機
資金など、数々の不正行為をやっていたものと考えられます。
 したがって、包商銀行をオープンに潰してしまうと、銀行を通
じた数々の悪行が明るみに出てしまうことになります。これは、
他行への波及効果で、金融危機にそままま結びつくので、素早く
国家管理にしたものと思われます。中国には4000行の銀行、
地方銀行、信用組合がありますが、そのうち420行が問題を抱
えているといわれます。いつ破綻しても不思議はないのです。
              ──[中国経済の真実/058]

≪画像および関連情報≫
 ●中国、包商銀行の破綻回避は吉とでるか
  ───────────────────────────
   包商銀行の件は、同行の派手な来歴ゆえに関心を集めてい
  る。筆頭株主にして主要な借り手である金融グループ、トゥ
  モロ─・ホールディングスを経営していた富豪の肖建華氏は
  2017年に香港のホテルから失踪。同グループの資産は今
  小分けにして売却中だ。
   中国には破綻寸前の地銀がいくらでもあるが、包商銀は経
  営が特に危ない。UBSのジェーソン・ベッドフォード氏は
  昨年公表した報告書で、ティア1資本比率が8%を切って、
  国内最悪水準となっている3行の1つに同行を挙げた。今年
  第1・四半期の中国の銀行資産に占める都市銀行の割合は、
  13%、地方銀行は7%にとどまるものの、抱える金融リス
  クという点では地銀の比率がとびきり大きい。国有大手銀行
  が政府保証のついた最優良顧客を確保している以上「雑魚」
  は残り物で我慢せざるを得ないからだ。
   損失隠しのための工作が施されるのは、珍しいことではな
  い。2018年、上海浦東発展銀行は、不良債権を隠すため
  に1493社ものペーパーカンパニーを使ったとして罰金を
  科された。大連銀行は幾度も救済を受けている。中国政府は
  15年に預金保護制度を導入した。これにより、理論上は銀
  行が破綻しても一般預金者に被害が及ばなくなったはずだ。
  しかし制度の整備はまだ道半ば。昨年9月時点で預金保険の
  資金はわずか120億ドル、今年3月時点でもまだ、制度の
  執行にあたる当局の設立が話し合われている状態だった。
                  https://bit.ly/2GCPOtu
  ───────────────────────────

中国人民銀行.jpg
中国人民銀行
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2019年08月02日

●「中国は1ドル=7人民元守れるか」(EJ第5060号)

 国際金融市場では、米中貿易戦争の激化によって、最悪の場合
起きるであろう金融危機の可能性について、深刻な懸念が拡大し
ています。ヨーロッパのバンカーや金融アナリストたちは関係国
のGDP、輸出統計、外貨準備などを精密に分析し、デフォルト
の可能性のある国を慎重に探っています。宮崎正弘氏によると、
次の8ヶ国がデフォルトの可能性が高いといわれています。
─────────────────────────────
       モンゴル     キルギス
       モンテネグロ   モルディブ
       パキスタン    ジブチ
       ラオス      タジキスタン
   ──宮崎正弘著/『世界から追い出され壊れ始めた中国/
     各国で見てきたチャイナパワーの終わり』/徳間書店
─────────────────────────────
 これら8つの国は、いずれも中国が最大の債権国であり、もし
ひとつでもデフォルトが宣言されると、中国に甚大な被害が及ぶ
ことになります。これに加えて、既にIMFに支援を求めている
か、求める可能性の高い国として、ベネズエラ、ニカラグア、コ
ンゴ共和国、ジンバブエの4ヶ国が上げられていますが、本当に
IMF管理になると、これらも資金の貸し手はダントツに中国で
あるので、最も被害を受けます。IMFは資金の貸し手に対し、
80%前後の債権放棄を迫るからです。
 もうひとつ中国にとって頭の痛い問題は人民元安の進行です。
中国にとって為替の死守すべきラインとは次の通りです。
─────────────────────────────
        ◎中国にとって為替の死守線
           1ドル = 7人民元
─────────────────────────────
 中国は、為替のデットラインを「1ドル=7元」に設定してい
ます。これ以上元安が進むと、輸出には有利な環境にはなるもの
の、資本が大量に流出してしまう恐れがあり、どうしても7元で
食い止める必要があるからです。
 米中貿易戦争が5月10日の第3幕(3000億ドル分に25
%の関税追加)に入ったとき、ドル高/元安がじりじり進行し、
6月10日には、「1ドル=6・9625元」という7%ライン
ぎりぎりのドル高/元安水準になっています。
 それが、6月29日のG20サミット大阪での米中首脳会談に
より、米中通商協議が再開されることが決まると、為替は「1ド
ル=6・8168元」と、5月10日以来、8週間ぶりのドル安
/元高の水準に戻っています。
 今後の人民元の情勢について、植野大作三菱UFJモルガン・
スタンレー証券/チーフ為替ストラテジストは、次のようにコメ
ントしています。
─────────────────────────────
 このまま人民元がしっかりと下げ止まるかどうかは未知数だ。
米国と中国が不毛な輸入増税合戦を停止して話し合いのテーブル
に戻ることになったのは朗報だが、さめた目線で評価すれば、協
議自体は「中断する前の状態」に戻ったに過ぎない。これまで米
中の間で繰り広げられた通商交渉は、単なる貿易摩擦の範疇を超
え、知的財産権の保護や国家安全保障の問題なども複雑に絡んだ
次世代技術の制空権争いの様相を呈している。
 双方とも「譲れぬ一線」があるとみられ、たとえ協議が再開さ
れても早期決着のハッピーエンドは期待しにくい。2020年の
米大統領選挙で再選を狙うトランプ大統領が、景気悪化のリスク
を冒してまで泥沼の関税合戦を再開するとは思えないが、これま
で貫いてきた対中強硬姿勢には国内世論の一定の支持がある。交
渉の長期化は避けられないだろう。      ──植野大作氏
                  https://bit.ly/2Zi1UPY ─────────────────────────────
 現在、中国は異常な外貨持ち出し制限をかけています。宮崎正
弘氏によると、元中国人民銀行の幹部だった人が、海外留学中の
子供に送金しようとして銀行に行くと、1回の送金限度は、3千
ドルまでと断られたという。かつて海外留学生ヘの送金は、1回
3万ドルまで可能だったはずだが、現在は3千ドルに制限されて
いるというのです。今年の6月の話です。
 北京駐在の日本人のビジネスパーソンの話ですが、帰国するこ
とになって、銀行に行くと、外国人については「1人当たり1年
間で5万ドルまで」といわれたといいます。このビジネスパーソ
ンは、仕方がないので、1年後わざわざ預金を下ろしに北京まで
行ったというのです。
 中国は外貨流出に神経をとがらせています。しかし、公的に外
貨準備は世界一位の「3兆ドル」といっている中国です。なぜそ
んなに外貨流出に慎重になるのでしょうか。
 実は、現在の中国の外貨準備はまだ世界1位ですが、「3兆ド
ル」ではありません。大幅に減っています。諸説があるのですが
宮崎正弘氏によると、最新の数字は次の通りです。
─────────────────────────────
     ◎米国債保有額/2019年5月12日現在
        中国 ・・・・ 1兆1230億ドル
        日本 ・・・・ 1兆0420億ドル
                ──宮崎正弘著の前掲書より
─────────────────────────────
 中国は、フェースブックが提唱した新暗号資産「リブラ」を警
戒しています。ビットコインのときも多くの中国人が使い、中国
政府は規制を強化しましたが、今回も警戒しています。新暗号資
産「リブラ」については、EJのテーマとして取り上げるつもり
ですが、これが果して定着するかどうかは疑問です。要するに、
中国人は、自国の通貨「人民元」を信用していないのです。だか
ら他の通貨を持とうとして必死になるのです。
              ──[中国経済の真実/059]

≪画像および関連情報≫
 ●動かないドル円相場の行方と人民元の関係/田渕直也氏
  ───────────────────────────
   たびたぞ触れてきたが、昨年来、ドル円為替相場の変動率
  は記録的な低水準となっている。昨年末以降、米国金利が急
  低下しているにもかかわらず、やはりドル円レートはほとん
  ど動かない。為替相場は、少なくとも短期的には2ヶ国間の
  金利差に連動するのが普通であり、ドル円相場の最近の動向
  はこのセオリーに反する異常事態と言ってもよい。まずは、
  この背景について改めて整理してみよう。
   昨年2018年は、米国金利が大きく上昇し、セオリーに
  従えばドル高円安になるべき一年だった。ところが、ドル円
  レートは狭いレンジで上下するだけで、大きくは動かなかっ
  た。今、ドル金利が低下しているのに円高が進まないのは、
  その反動とも受け取れる。
   では、昨年米国金利が上昇したときにドル買いが強まらな
  かったのはなぜか。金利の上昇が米国資産市場の価格変動リ
  スクを高め、その結果、日本から米国への投資の流れが勢い
  をなくしたことが大きな要因になったと考えられる。一方、
  今の金利低下局面では、それと逆に、米国資産市場が安定を
  取り戻し、それにつれて日本から米国資産への投資の流れが
  再開しているとみられるのである。
   こうした見方は、ドル円レートと、米国株式市場の変動率
  (VIX指数)との連動性が高まっていることからもうかが
  える。VIX指数が上昇すると円が買われ(リスクオフの円
  買い)、VIX指数が落ち着くと緩やかなドル高が再開する
  というパターンが続いているのだ。その結果、VIX低下時
  の緩やかなドル高とVIX上昇時の短期的円高が交互し、結
  果として比較的狭いレンジ内の取引に終始しているというわ
  けだ。             https://bit.ly/2YztNll
  ───────────────────────────

米ドル/人民元/2012年〜2019年.jpg
米ドル/人民元/2012年〜2019年

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2019年08月05日

●「3つの出来事は全て関係している」(EJ第5061号)

 2019年8月2日、日本政府は韓国向け輸出管理の厳格化を
閣議決定しています。いわゆる韓国をホワイト国から外す安倍政
権の決断です。これによって8月28日以降は、韓国向け輸出の
さいには、ほぼすべての品目で経産省は個別審査を求める可能性
があります。
 これに先立つ1日、トランプ米政権は、米国が輸入する3千億
ドル分の中国製品に、9月1日から追加関税10%を上乗せする
と表明しています。これによって、米国が中国から輸入するほぼ
すべての中国製品に高率の関税がかかることになります。なお、
この10%の関税は25%になる可能性もあるといっています。
 一方、北朝鮮は2日、短距離弾道ミサイルとみられる飛翔体を
発射しています。この一週間で3回を数えていますが、トランプ
大統領は「小さいヤツはいい」と問題視していません。メディア
は、北朝鮮の短距離ミサイル発射は、5日〜20日にかけて予定
されている米韓合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダムガーデ
ィアン」への反発であると伝えています。今回、規模については
従来より縮小されています。
 一見すると、これら3つの出来事は、バラバラであり、何の関
係もないように見えます。しかし、ていねいに分析すると、3つ
は密接に関係しているのです。米国をはじめとする先進国が一番
恐れているのは、世界中に核が拡散されることです。それを一番
やりそうな国は北朝鮮です。
 北朝鮮は、核兵器を作る技術もそれを搭載してミサイルを飛ば
す技術も保有しつつある非常に危険な国です。この北朝鮮とイラ
ンは深いつながりがあります。イランは、1985年頃から北朝
鮮にミサイル開発の技術支援を受け、中距離弾道ミサイル「シャ
ハブ3」を開発しています。これは、北朝鮮の準中距離弾道ミサ
イル「ノドン」がモデルになっているといわれています。
 北朝鮮とイランは、2015年には技術者交換を行い、北朝鮮
が2013年2月に行った3度目の核実験には、イランの技術者
も立ち合い、視察を行っています。北朝鮮とイランはそういう仲
なのです。彼らが目指しているのは、イランの「シャハブ3」の
先端部分を核爆弾搭載に適した形状に改良すべく技術を交換しよ
うとしています。イランは、北朝鮮からバルブなど、ミサイル関
連部品を輸入し、その見返りに北朝鮮がのどから手が出るほど欲
しい原油を供給しています。
 トランプ政権が発足した2017年はじめの時点では、米国は
北朝鮮の金正恩委員長にも、イランの最高指導者ハメネイ師にも
会えない状態でいたのです。この「会えない」状態というのは、
最もリスクがある──とトランプ氏は考えています。ある人物に
ついて、どのように豊富な客観的情報があっても、実際に「会っ
て話す」ぐらい、重要な情報はないと、ビジネスの世界で百戦練
磨のトランプ氏はいうのです。
 だから、金正恩委員長には、トランプ氏は周囲の人が驚くほど
積極的に会ったし、その後、合計3回も会っています。トランプ
氏としては、会って話した結果、金正恩委員長がどういう人物か
よくわかり、彼なら何とかコントロールできると考えたものと思
われます。
 しかし、ハメネイ師には、トランプ大統領は、どうしても会う
ことができないのです。そこで会うことができるとする盟友の安
倍首相に、会ってくれと頼んだわけです。ハメネイ師との会談に
ついて安倍首相は、電話で詳しく伝えています。このように、何
かコトを進めようとするとき、その中心人物に会うことにトラン
プ氏は強い意欲を燃やしているのです。
 これについて、元外務省主任分析官の佐藤優氏と思想史研究者
の片山杜秀氏は、『平成史』と『現代に生きるファシズム』とい
う2冊の対談書籍を立て続けに出版していますが、このなかで、
次の興味あるやり取りがあります。
─────────────────────────────
片山:イランは神権政治の国です。大統領は、日本と同じレベル
 の民主的な選挙で選びますが、大統領は軍事でも、立法でも、
 司法でも、行政でも最終的な権限を持っていません。すべてを
 司るのがハメネイ師だということですね。
佐藤:その通りです。ハメネイ師が出てきたことは、アメリカか
 らしてもびっくりだった。ハメネイ師が何を考えているかを、
 彼らは一番知りたいんです。それで、結果はどうだったのか。
 イラン公式の宣伝サイト「Pars Today」が安倍―ハメネイ会談
 の数時間後に伝えた内容によれば、ハメネイ師は、トランプは
 交渉に値しない、メッセージは返すつもりはない、という厳し
 い姿勢だったそうです。一方で、同サイトは、ハメネイ師は、
 オバマも含めてアメリカの指導者で信頼できる人間などほとん
 どいないとも語ったと報じています。オバマも信用できない。
 それと同じレベルでトランプも信用できない。ということは、
 オバマとトランプは同じレベルです。オバマと取引ができたの
 なら、トランプとも取引できるという意味になるんです。
                  http://exci.to/2YHGMFL ─────────────────────────────
 6月13日、奇しくも安倍首相がハメネイ師に会った日、ホル
ムズ海峡付近で、日本のタンカーなど2隻が攻撃され、6月20
日には、イラン革命防衛隊が、やはりホルムズ海峡付近で、米軍
無人機を撃墜しています。このとき、トランプ大統領は、イラン
に対する報復攻撃を命令し、作戦実施10分前に中止を命令して
います。重要なことは、米国はまだ核を持っていないイランに対
しては、ことによっては攻撃する可能性があるということです。
 その場合、米国は「二正面作戦」を避けるため、G20での習
近平主席との会談では貿易戦争は一時休戦とし、6月末の訪韓時
に電撃的に金委員長とも板門店で会って、イランへの攻撃のため
の布石を打ったのです。トランプ氏としては、一時的にでも北朝
鮮とイランとの関係を遮断したかったものと思われます。
              ──[中国経済の真実/060]

≪画像および関連情報≫
 ●日本のタンカーへの攻撃の犯人は誰か
  ───────────────────────────
  佐藤:起きている事態はとても深刻なものです。ホルムズ海
   峡の国際航路帯は、イランの領海内には設けられていませ
   ん。アラブ首長国連邦とオマーンの領海にあります。オマ
   ーンは、日本ではよく知られていない国ですがもともとは
   船乗り、シンドバッドの国です。その海洋国オマーンの領
   海で、今回の事件は起きました。領海内で、軍事活動を行
   うということは、宣戦布告を意味します。もしどこかの国
   がやったとしたら、事実上、戦争に限りなく近いことを意
   味します。ここでもし、イランが戦争する意思があるとア
   メリカが見做していたら、もうトランプは攻撃していたは
   ずです。そうなっていないのはなぜか。ハメネイ師が安倍
   首相に発したメッセージが歯止めになったからでしょう。
  片山:どうもイランがやろうとしていると思えない、とトラ
   ンプは思ったということですね。安倍―ハメネイ会談は、
   とても重要な意味を持っていたわけですね。
  佐藤:その通りです。今回の「犯人」には4つの可能性があ
   ります。1つ目は、イランのハメネイ師が命じたというも
   の。2つ目は、ハメネイ師は関知していないけど、ハメネ
   イ師配下の軍隊=イスラム革命防衛隊が暴発したというも
   の。3つ目は、アメリカ謀略説です。それぞれの立場から
   もっともらしく語られていますが、どれも露見した際のリ
   スクが高すぎます。そうなると蓋然性が高いのが4つ目。
   内戦下のイエメンの、フーシ派がやったというシナリオで
   す。             http://exci.to/2yzrggz
  ───────────────────────────

安倍首相VSハメネイ師.jpg
安倍首相VSハメネイ師
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2019年08月06日

●「イランはなぜウラン濃縮が可能か」(EJ第5062号)

 日本の韓国への輸出規制強化の問題、米国による中国への貿易
戦争の継続、そして非核化をめぐる米朝の問題──これら一見バ
ラバラに見える出来事が、すべてがつながっているということに
ついて書いています。そういう位置付けのなかで、中国の問題を
考える必要があるからです。
 トランプ大統領の率いる米国は、現在はイラン問題に関して頭
がいっぱいの状態です。実は上記の3つの出来事は、すべてイラ
ン問題につながっているのです。米国は、まだ核兵器を保有して
いないイランについては、必要と判断すれば、躊躇なく戦争を仕
掛ける可能性は十分あります。既にトランプ大統領は、ホルムズ
海峡で米海軍の無人偵察機が撃墜されたことを受けて攻撃を命令
し、攻撃開始直前に思い止まっています。やる気十分です。
 さて、そもそもイランの核合意とは何でしょうか。
 2002年にイランでウラン濃縮施設が見つかったことを契機
に、イランが核兵器を持てないようにすることを目的として、米
英仏独中ロ6ヶ国とEU連合が2015年に締結した合意協定で
す。その見返りとしてイランには、経済制裁を段階的に解除して
いく約束をしています。
 しかし、トランプ氏は大統領になると、大統領選挙のときの公
約であるとして、このイラン核合意から離脱したのです。当然の
ことながらイランは反発し、2019年7月8日に、イラン核合
意で制限された範囲を超えるウラン濃縮活動を再開することを表
明します。この時期が、日本が韓国への輸出規制を強化させた時
期と一致するのです。
 もう少し詳しく説明すると、この核合意では、「濃縮3・67
%」が濃縮の上限とされていたのですが、イラン政府は、濃縮は
「4・5%」に達したとし、さらに濃縮のレベルを上げて、やが
て20%まで引き上げると宣言しています。さて、この宣言は何
を意味しているのでしょうか。これについて、作家で経済評論家
の渡邊哲也氏の最近刊書から引用します。
─────────────────────────────
 原爆製造に使えるウラン濃度は90%。20%までの濃縮は時
間がかかり難しいが、20%から90%までは比較的短期間で達
成できるとされており、イランが濃縮度を20%まで引き上げた
場合、核製造に王手がかかることになる。
 また、2〜5%までは発電用、20%までは医療用という言い
訳ができるが、20%を超えた場合、核爆弾製造以外の用途はな
く、これまでのような民生用という言い訳ができなくなる。これ
を受けて、アメリカはイランに警告を発し、中止しなければ攻撃
も視野に入るとしている。     ──渡邊哲也著/徳間書店
       『「中国大崩壊」入門/何が起きているのか?/
        これからどうなるか?/どう対応すべきか?』
─────────────────────────────
 ウランの濃縮技術は、20%までが非常に難しく、時間がかか
るのですが、これを超えるとあとは一気に進むそうです。そこで
「3・67%」を上限とし、20%を超えさせないようにすると
いうのがイラン核合意のポイントなのです。
 そしてここが重要なのですが、このウランの濃縮に不可欠なの
が「フッ化水素」と「遠心分離機」です。どちらもイランへの禁
輸品目であり、ワッセナーアレンジメントの規制製品になってい
ます。ワッセナーアレンジメントとは、通常兵器の輸出管理に関
する国際的な申し合わせであり、42ヶ国が協定を結んでおり、
通称「新ココム」と呼ばれています。ワッセナーというのは、オ
ランダのハーグ近郊の場所の名称です。
 イランは、「フッ化水素」と「遠心分離機」をどこから手に入
れたのでしょうか。
 このうち、「フッ化水素」については、日本が韓国に対して輸
出管理を厳格化させた「エッチングガス」のことであり、ホワイ
ト国であった韓国の関与が疑われるのです。もちろん直接ではな
いものの、たとえば、「韓国→北朝鮮→イラン」というルートで
第三国を通じて、フッ化水素が大量にイランに渡った可能性は高
いといえます。
 遠心分離機については、中国の関与が考えられます。また、イ
ランに通信システムを提供したのはファーウェイであり、中国と
イランはサイバー分野でも協力関係を構築しているといわれてい
ます。米国はこれに強く反発しており、そもそもファーウェイの
孟晩舟CFOがカナダで逮捕されたのは、この容疑なのです。
 2018年9月のことですが、イランの国防相は、中国の国防
相と会談し、中国・イラン両軍の協力を積極的に進めることで合
意しています。このようにファーウェイは、イランにも不可分に
結びついているのです。
 日本の韓国への輸出規制強化は、日米が事前に話し合った結果
行われたものであると考えます。トランプ大統領が、韓国文在寅
大統領から仲裁を電話で頼まれて「両国が望むなら」と条件をつ
けたり、ポンペオ国務長官が仲裁と称して、下手な芝居をしてい
ますが、あくまでポーズであり、日本は事前に話し合われたこと
を粛々とやっているだけです。
 ここで、輸出規制強化とホワイト国外しを一体として説明して
きていますが、この2つは分けて考えるべきです。まず、7月1
日に公示し、即日実施されたのは、フッ化ポリイミド、レジスト
そしてフッ化水素の3品目の輸出規制です。これについては、こ
の時点で韓国向け通関が停止しています。
 これに続いて、パブリックコメントを募集したうえで、韓国を
「ホワイト国」から除外する手続きが行われています。これにつ
いては、既に2日に閣議決定が行われ、7日に公布し、28日か
ら施行することになっています。
 ちなみに、最初の一週間で集まったパブリックコメントは、約
6300件、賛成は6200件以上で98%以上。反対はわずか
60件のみであったといわれています。
              ──[中国経済の真実/061]

≪画像および関連情報≫
 ●輸出規制の真相、日米韓の安保連携から逸脱する韓国
  ───────────────────────────
   輸出管理強化をめぐり、日韓関係が一段と緊張している。
  日本政府は今週にも、貿易上の優遇措置を適用する「ホワイ
  ト国」から韓国を除外する政令改正を閣議決定する予定だ。
  日本側の措置に関しては、ぜひともご理解いただきたい点が
  ある。批判を覚悟で申し上げれば、この問題は、2国間関係
  だけでなく、より大局的な視点から判断すべきだということ
  だ。確かに、WTO(世界貿易機関)と安全保障輸出管理の
  世界から見れば、今回の措置は周到に準備された、韓国の急
  所を突く極めて効果的な一撃である。決して一般的な貿易制
  限ではない。あくまで、韓国に対し従来認めてきた特例をや
  めて、一般のメンバー国と同様の待遇に戻すにすぎないから
  だ。この点は今後の「ホワイト国」リストからの除外につい
  ても同様だろう。
   今回の輸出管理強化措置自体は極めて合理的かつ正当なも
  のだ。日本は長く忍耐を続ける中で、今回やむにやまれぬ理
  由で実施した。国際法上整合性があり、一般日本国民の支持
  も得ている。しかし、問題の本質は輸出管理強化の是非では
  ない。日韓関係のより本質的な問題は、過去数年間に韓国外
  交が冷戦時代の韓米日同盟志向から大きくかじを切り始めた
  ことである。韓国側は日本側の対応を「徴用」を巡る問題へ
  の経済的報復と批判。日本側は今回の措置があくまで安全保
  障貿易管理の適切な実施に関わる問題で批判は当たらないと
  反論する。だが、これらはいずれも問題の原因ではなく結果
  であり、2国間関係と多国間安全保障を混同する韓国の不毛
  な議論には出口がない。ではこの問題をいかに理解すべきな
  のか。             https://bit.ly/2MGfd9p
  ───────────────────────────

核施設を視察するロウハニ大統領.jpg

核施設を視察するロウハニ大統領

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2019年08月07日

●「ホワイト国外しは日米が事前協議」(EJ第5063号)

 韓国政府が逆上しています。文在寅大統領が日本を名指しして
「盗人猛々しい」と暴言を吐いています。韓国のトップが日本を
「盗人」と表現しているのです。この国の国会議長、文喜相(ム
ンヒサン)氏も同じ言葉を使って日本を批判しています。そこで
もう少し韓国について書くことにします。
 今回の問題は、半導体生産に欠かせない3品目の部品に関して
指定の韓国企業から需要に見合わない注文があり、その30%程
度が行方不明になっているということから始まっています。これ
に関して日本から再三調査するよう韓国に求めていますが、韓国
側が応じないため、実現していないのです。これらの部品は北朝
鮮に流れているのではないかといわれています。
 こういうケースは文在寅政権になって急増しており、このため
の会議は、韓国側は一度も応じていないのです。少なくともこれ
らの部品の一部がイランに流れていることは確かであり、それは
北朝鮮を経由している疑いがあります。
 これに関して韓国政府は「証拠を示せ」といって来ましたが、
2019年5月17日付、「朝鮮日報」が、韓国国会議員の調査
の結果として、これらの禁輸物資が大量に海外に流れていた事実
を報道すると、韓国政府は「4年間で156件の不正輸出があっ
た」ことを認めたのです。しかし、韓国政府は156件も摘発し
ているのは、韓国がきちんと管理している証拠であると、わけの
わからないことをいっています。一般的に不法輸出はあっても年
に数件であり、156件は明らかに異常な件数で、日本側はこれ
に関して詳細な情報を持っているといわれています。
 実は、今般の韓国への輸出規制強化やホワイト国外しについて
日本は米国と事前に協議していたと思われることがあります。そ
れは、2018年に米国が新設し、既にファーウェイなどに対し
て適用している次の2つの法律です。これについては、6月12
日付、EJ第5024号で紹介していますが、その要点とコメン
トを抜粋しておきます。
─────────────────────────────
   1.FIRRMA/外国投資リスク審査現代化法
   2.  ECRA/  アメリカ輸出管理改革法
 「1」は、外国人による投資審査を実施する対米外国投資委員
会の権限と範囲を拡大するものです。
 具体的には、「外国人」の定義を変更し、外国人の範囲を経営
に影響を与える取締役会への参加などまで拡大し、安全保障の定
義に、先端技術や不動産を加えています。これによって、中国企
業や中国人による先端技術や安全保障に関わる企業買収や不動産
投資は不可能になります。
 「2」は、事実上のココム(対共産圏輸出規制)に匹敵するも
のです。これによって、米国の武器輸出禁止国──ロシア、中国
ベネズエラ、イラクやテロ規制対象──などへ米国の「最先端お
よび基盤技術」を輸出することを禁じています。これに該当する
分野は14ありますが、日本企業をはじめとする他国が、これら
を今後中国に輸出するさいには、この法律によって、米国の許可
が必要になります。         https://bit.ly/2WDJPi3
─────────────────────────────
 日本では、2017年において「外国為替及び外国貿易法の一
部を改正する法律」をつくっていたのですが、5月27日のトラ
ンプ大統領来日に合わせて、官報で次の告示を行い、この8月1
日から、FIRRMAと重なる部分については、外国からの投資
審査を一気に厳格化させています。
─────────────────────────────
 対内直接投資等に係る事前届け出対象業種の追加等を行いま
 す。         ──2019年5月27日付、官報
                 https://bit.ly/2M1N3pM
─────────────────────────────
 これらの事実は、ネットには出ているものの、新聞などでは、
ほとんど報じられておらず、知っている人は少ないのですが、安
全保障に関しては甘い日本も、海外からの投資に関して、厳格な
審査をしなければならない事態になっているのです。これによっ
て日本が韓国に輸出を厳格化した例の3品を生産する企業に海外
から投資をすることは事実上不可能になったのです。
 もう少し、具体的な例を上げることにします。東芝は、米国産
液化天然ガス(LNG)事業を保有しており、赤字解消のために
中国企業に売却しようとしていたのですが、2019年4月にそ
の計画は破綻しています。FIRRMAによって、インフラ関連
企業を中国に売ることなど、不可能になったからです。
 ニューヨークのトランプタワーのすぐ近くに、このビルの警備
会社が入っているビルがあります。このビルを中国の海航集団と
いう企業が買収し、買収はほぼ成立していたのです。しかし20
18年8月、FIRRMAの成立に前後して、対米外国投資委員
会(CFIUS)は、海航集団に対して、売買契約無効と売却命
令を言い渡し、同ビルを強制的に売却させています。この法律は
こういうことができるのです。
 もうひとつの法律であるECRAは、「新COCOM」といわ
れ、既存の輸出規制ではカバーしきれない新しい基盤技術のうち
米国の安全保障にとって必要な技術を省庁間で特定し、輸出規制
の対象とすることを定めたものです。COCOMというのは、冷
戦時代の1949年11月、先進資本主義国による共産圏向け輸
出統制のための機関として発足した委員会の名称です。
 ECRAについては、明日のEJで詳しく述べますが、これが
構築されると、ハイテクや主要インフラ分野に対する規制が一段
と強化されることになりますが、そういう枠組みから韓国が外さ
れる可能性があります。現在の文在寅政権は、どう考えても北朝
鮮とさまざまな連携をとっていると考えられ、そういう意味から
も、今般の韓国に対する日本の輸出規制やホワイト国外しは、米
国と連携をとっているものと考えられます。
              ──[中国経済の真実/062]

≪画像および関連情報≫
 ●韓国では「単なる報復ではなく、韓国潰し」と戦々恐々
  ───────────────────────────
   2019年7月4日、日本政府は韓国に対する輸出規制の
  強化策を発動した。「報復はけしからん」と息巻く韓国人が
  多い中で「そんな生易しいことでは終わらない。日本は我が
  国を潰すつもりだ」と見切る韓国メディアが出てきた。(鈴
  置高史/韓国観察者)
   7月4日のウォン相場は前日比2・70ウォン高の1ドル
  =1168・60ウォンで引けた。1日から3日まで、韓国
  向けIT製品の素材の輸出規制強化――いわゆる「日本の対
  韓報復」を嫌気し売られていたウォンが、少し持ち直した。
   今年第1四半期のGDPが、マイナス成長と判明した4月
  25日以降、ウォンは売られ、一時は1200ウォンに迫っ
  た。ただ、ドルの利上げ観測から、6月24日以降は、11
  50ウォン台に落ちついていた。しかし日本が「大韓民国向
  け輸出管理の運用の見直しについて」を発表した7月1日以
  降、再びウォンは売られた。7月1日は、前日比、4・10
  ウォン安の1158・80ウォン、2日は7・20ウォン安
  の1166ウォン、そして3日は・30ウォン安の1171
  ・30ウォンと下げ続けた。IT製品の素材が円滑に日本か
  ら入らなくなると、半導体など主力産業がマヒすると韓国は
  焦っている。だが、その心配の前に、韓国経済の持病たる資
  本逃避を懸念せざるを得なくなった。
                  https://bit.ly/2T61dXy
  ───────────────────────────

文剤寅韓国大統領.jpg
文剤寅韓国大統領
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2019年08月08日

●「メディアの伝え方にも問題がある」(EJ第5064号)

 8月5日のBSフジ「プライムニュース」は、日韓関係を取り
上げています。番組のタイトルと出演者、要約動画をご紹介して
おきます。
─────────────────────────────
    ●BSフジ/「プライムニュース」
     2019年8月5日/午後8時から10時
    ◎タイトル
     『“ホワイト国除外”日韓関係の行き着く先』
    ◎出演者
     元駐韓特命全権大使/武藤正敏氏
     産経新聞ソウル駐在特別論説委員/黒田勝弘氏
     世相研究所日本研究センター長/陳昌洙氏
     前編/20分38秒  https://bit.ly/2KvjA4v
     後編/10分43秒  https://bit.ly/31ouboO
─────────────────────────────
 動画の後編で、韓国の陳昌洙氏が、次のようにいうシーンがあ
ります。「安倍さんのやり方はひどい。最高裁判決による強制執
行によって日本企業に実害が出た場合、それなりの処置(報復)
を取る」といっていたのに、その前に報復措置をとった。もし、
言葉通りだったら、こんな騒ぎにはならなかった」と。
 陳昌洙氏はこの番組の常連で、私は何回も意見を聞いたことが
あります。とても穏やかに話をする人ですが、ネット上には次の
ようにいう人がいます。
─────────────────────────────
 陳昌洙氏は、学者肌の「韓国人らしくない」穏やかな話しぶり
ですが、話してる内容は、いつものギャアギャアとヒステリック
にわめく韓国人と変わりません。   ──あるネット上の意見
─────────────────────────────
 まったくその通りで、今回の問題でこの人は、韓国の非は絶対
に認めないのです。そういう点は北朝鮮と同じです。それよりも
問題なのは、陳昌洙氏が今回の3品目の輸出規制とホワイト国外
しを、徴用工問題などについての日本の報復であると受け止めて
いることです。これは、メディアの当初の伝え方にも問題があり
ますが、完全な間違いです。
 問題は、米国の核合意からの離脱を受けて、イランが対抗処置
として、核合意の上限である「濃縮3・67%」を短期間で「濃
縮4・5%」まで引き上げたことです。これには大量のフッ化水
素が必要ですが、この物品は厳しく管理され、禁輸されているの
で、イランが大量に持っているはずがないものです。
 推測ですが、これについて日米で話し合いがもたれ、とりあえ
ず、日本は重要3品目の輸出を止めたのです。そのさい「韓国に
問題がある」ことを日米双方が認識しています。そして、7月1
日に公示、4日に韓国向け通関を停止しています。緊急を要する
からです。そして今後は、個別の契約ごとに審査し、許可を出す
方式にしたのです。このさい、許可の審査は、各地方局ではなく
経済産業省本省が行うことにしています。
 この時点では、韓国は依然としてホワイト国です。しかし、こ
れら3品目に加えて、兵器に転用される可能性のある物質につい
ても規制することにしたのです。そこで行ったのが韓国の「ホワ
イト国外し」です。これによる規制される品目は1000種類を
超えるといわれています。したがって、これらの措置は、徴用工
問題とは何も関係はないのです。もし、今後日本企業に本当に実
害が出ると、日本政府は躊躇なく報復を行うはずです。それを韓
国の日本研究の専門家がわかっていないことになります。
 もうひとつ、ホワイト国でなくても90日経てば、出荷される
ということをいうテレビのコメンテーターは多いですが、そんな
ことはありません。上記のように輸出品の個別審査は、経済産業
省扱いの本省検査になっており、より厳しいのです。そのため、
90日かかったうえで、「NO!」になることもあります。これ
について、渡邊哲也氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 この日本から韓国への輸出規制強化については、前提条件に国
家間の信頼の低下があるが、あくまでも「韓国の不適切かつ不適
正な輸出管理」が原因であり、この状況が改善されないかぎり、
輸出許可が下りない可能性がある。
 また、一部報道では、90日で許可が下りるかのように報じら
れているが、あくまでも90日以内に許可、不許可、継続審査を
通達しなくてはならないだけで、これは目安でも何でもない。カ
ーボンなどの場合、継続審査で1年程度かかったケースもあり、
認められないケース(自発的に取り下げる)も多数ある。
                 ──渡邊哲也著/徳間書店
       『「中国大崩壊」入門/何が起きているのか?/
        これからどうなるか?/どう対応すべきか?』
─────────────────────────────
 韓国と北朝鮮が異常に接近していることには、米国は不快感を
もっています。それは国連安保理決議により禁止されている北朝
鮮籍船舶の「瀬取り」を含む違法な海上活動の監視に、肝心の韓
国は入ろうとしないからです。
 現在、この監視活動に関しては、日本、米国、オーストラリア
カナダ、ニュージーランド、フランス、英国の7ヶ国が行ってお
り、韓国は入っていません。韓国は汗をかいていないのです。そ
れどころか、韓国が北朝鮮の瀬取りを助けている疑いすらありま
す。そういう国に、核兵器に転用可能な重要物資をホワイト国と
して、フリーに輸出できるでしょうか。
 トランプ大統領は、文在寅大統領からの日本との仲裁要請につ
いて、「両国がそれを望むなら・・・」という条件をつけていま
す。日本がそれを望まないことを知っているからです。もともと
日米で緊密に相談としてやった措置だからです。説明予定のEC
RAについては、明日のEJで説明します。
              ──[中国経済の真実/063]

≪画像および関連情報≫
 ●「ホワイト国」の条件は「信用できる国」
  ───────────────────────────
   予想通りと言うべきか、意外と言うべきか、政府は韓国に
  対して「ホワイト国」から除外することを正式に閣議決定し
  た。奇しくも米中貿易戦争が再燃した日に、日韓においても
  一種の貿易戦争の火蓋が切って落とされた格好となった。
   「ホワイト国」というのは、子どもでも解るように一言で
  直訳すると「信用できる国」ということになるだろうか。
   企業における「ホワイト企業」や「ブラック企業」のよう
  なもので、両者を分ける条件は「約束が守れる」かどうか。
   現在の韓国政府は、まともな法律や常識が通用せず両国間
  の約束を守らないという意味で、到底「ホワイト国」とは呼
  べそうにない。北朝鮮などのテロ支援国家を「ブラック国」
  と呼ぶなら、さしずめ、韓国は白黒がはっきりしない「グレ
  ー国」といったところだろうか。
   「ホワイト国」は世界に27カ国あり、アメリカ、カナダ
  オーストラリア、ニュージーランド、EU加盟国などの先進
  国ばかりが名を連ねており、アジアでは唯一、韓国のみが先
  進国として「ホワイト国」扱いされてきた。
   アジア、東南アジア、アフリカ、中東の国々は「ホワイト
  国」とは認定されていないが、近日中には、韓国もその中に
  入ってしまうことになる。韓国は、情報技術的には先進国で
  あっても、外交上、「約束を破る」などの先進国とは思えな
  い大人げない言動が目立ち、精神的には大人に成り切れてい
  ない国というイメージがある。(特に日本に対しては)
                  https://bit.ly/2ZCdQw1
  ───────────────────────────

世相研究所日本研究センター長/陳昌洙氏.jpg
世相研究所日本研究センター長/陳昌洙氏
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2019年08月09日

●「ECRAは2層構造になっている」(EJ第5065号)

 8月5日(米国時間)のことです。トランプ政権は中国を25
年ぶりに「為替操作国」に指定しました。米中の戦いは、貿易摩
擦、ハイテク覇権に加えて、遂に為替金融の問題まで、拡大する
ことになったのです。このニュースは、4日の正午頃、外出中の
私のスマホに速報として飛び込んできました。中国が「1ドル=
7人民元」突破を容認したとトランプ政権は判断したのです。
 さて、かつてのCOCOM──共産圏への軍事技術や戦略物資
の輸出を禁止した委員会は、東西冷戦の終結に伴い、有名無実化
したのですが、通常兵器や関連技術の第三国への過度な売却やテ
ロリストに渡ることを防ぐ一種の紳士協定としてのみ残ることに
なったのです。それが「ワッセナーアレンジメント」です。
 これまで米国では、軍事転用が可能な品目の輸出に関しては、
商務省産業安全保障局(BIS)がEAR(輸出管理規則)とい
うルールにしたがって管理していたのです。これをかつてのCO
COMのように管理を厳しくしたのが、エクラ/ECRA(米国
輸出管理改革法)です。2018年8月13日に、2019年会
計年度の国防授権法に盛り込まれるかたちで成立しています。こ
れはまさに新COCOMです。この法律の内容を見ると、トラン
プ政権の本気度がわかります。
 ECRAは、次の2層構造になっています。
─────────────────────────────
  ◎ECRA(米国輸出管理改革法)
  1層目:先端技術やインフラ、ハイテクなどの14分野
  2層目:武器輸出禁止国に対する輸出管理を徹底させる
─────────────────────────────
 1層目の先端技術、インフラ、ハイテクなどの14分野は、中
国の「中国製造2025」にほぼ重なるのです。参考までにこの
14分野を以下に示します。これを見ると、現在の先端技術が具
体的に何であるかがわかります。
─────────────────────────────
     @バイオテクノロジー
     AAI・機械学習
     B測位技術
     Cマイクロプロセッサ
     D先進コンピューティング
     Eデータ分析
     F量子情報・量子センシング技術
     G輸送関連技術
     H付加製造技術(3Dプリンタなど)
     Iロボティクス
     Jプレインコンピュータインターフェース
     K極超音速
     L先端材料
     M先進セキュリティ技術
                 ──渡邊哲也著/徳間書店
       『「中国大崩壊」入門/何が起きているのか?/
        これからどうなるか?/どう対応すべきか?』
─────────────────────────────
 このECRAでは、270日以内に武器輸出禁止国に対する許
可条件を見直さなければならない決まりになっています。武器輸
出禁止国とは中国やイランですが、具体的には中国を指していま
す。そして、先端技術はどんどん進化するので、270日ごとに
その見直しを行うことになっているのです。
 ECRAが成立したのが2018年8月、施行されたのが10
月ですから、それから270日というと、今年の5月16日にな
りますが、トランプ大統領は、国家非常事態宣言を行い、「情報
通信技術とサービスのサプライチェーン(供給網)の保護に係る
大統領令」に署名しています。
 ここで知っておくべき米国のもうひとつの法律があります。そ
れは「国際緊急経済権限法/IEEPA」です。これは、国家非
常事態宣言を受けて発動されます。これについて、渡邊哲也氏は
次のように解説しています。
─────────────────────────────
 IEEPAは安全保障・外交政策・経済に対する異例かつ重大
な脅威に対し、非常事態宣言後、金融制裁にて、その脅威に対処
するものだ。具体的には、攻撃をたくらむ外国の組織もしくは外
国人の資産没収(米国の司法権の対象となる資産)、外国為替取
引・通貨および有価証券の輸出入の規制・禁止ができるものであ
り、安全保障の“伝家の宝刀”ともいえるものである。
                ──渡邊哲也著の前掲書より
─────────────────────────────
 現在、IEEPAが適用されているのは、イラン、シリア、北
朝鮮の3ヶ国に、ウクライナ問題によってロシアもIEEPAを
適用しています。実は、これは、きわめて強力にして、される方
としては、きわめてシビアな法律といえます。
 これによって米国商務省は、ファーウェイおよびその関連会社
69社を禁輸措置対象の「エンティティ・リスト/EL」に入れ
米国の技術および製品の輸出を禁止したのです。米国企業がEL
に入っている企業に技術や製品を輸出する場合、BIS、商務省
産業安全保障局(BIS)の許可が必要になりますが、実際に許
可が出ることはないのです。
 この場合、ある製品の部品や技術において、米国製の割合が、
25%以上の場合、輸出禁止商品になります。つまり、日本製の
製品であっても、米国製部品が25%を超える製品をELリスト
に記載されている中国企業に輸出すると、その日本企業は、この
米国商務省のDPL(取引禁止顧客リスト)に掲載され、米国企
業との取引や他国からの米国原産技術を含む商品の取引が停止さ
れることになります。なお、テロリストなどに関しては25%で
はなく、10%でDPLに掲載されます。
              ──[中国経済の真実/064]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイへの米制裁に要警戒/渡邊哲也氏
  ───────────────────────────
   米半導体大手のクアルコムは技術社員に対して、華為の社
  員と接触するのを禁じた。また、第三者を通じて技術や製品
  が渡ることを防止する規定があるため、最終利用者に注意を
  払う必要がある(エンドユース=用途確認)。
   万が一、違反した場合、取引禁止顧客リスト(DPL)に
  掲載され、包括的輸出許可を失い、取引先や銀行などから取
  引停止を宣告される可能性もある。企業は、存続の危機に陥
  る。米グーグルをはじめ世界中の華為取引先企業が、関係の
  見直しと情報遮断を始めたのはこのためだ。
   当然、日本企業もこの対象になる。日本独自の技術や製品
  は対象にならないが、米国の技術や製品が含まれていた場合
  日本企業も制裁を受ける可能性がある。
   一部のメディアでは、これがトランプ大統領の一存で行わ
  れているように報じられているが、これは米議会が昨年成立
  させた2019年の国防権限法(NDAA)と輸出管理改革
  法(ECRA)によるもので、トランプ大統領は議会の指示
  に従っているにすぎない。
   現在のところ、商務省による輸出規制だけであるが、今後
  財務省外国資産管理室(OFAC)が金融制裁の対象を公示
  する「SDNリスト」に掲載する可能性もある。既に中国軍
  装備発展部が掲載されている。  https://bit.ly/2ZHU2HA
  ───────────────────────────

ワシントンDCの商務省の建物.jpg
ワシントンDCの商務省の建物
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2019年08月13日

●「華為技術/SDNリスト入り直前」(EJ第5066号)

 今のところ、米中貿易協議は、9月初旬に行われることになっ
ています。しかし、9日、トランプ大統領は「中国と合意する準
備ができていない」として、その開催に消極的な姿勢を示してい
ます。人民元安を容認しているとして中国を為替操作国に指定し
たばかりであり、いまやっても、来年の大統領選挙に有利な成果
は得られないと考えているのです。
 これによって窮地に陥るのはファーウェイです。トランプ大統
領は9月の会談では、安全保障に関わりのない部分では、ファー
ウェイへの制裁を一部緩和するといっていたからです。そのため
中国政府は、9月の会談において、ファーウェイについての何ら
かの妥協点を探ろうとしていたのです。
 現在、ファーウェイは、企業として非常に危ない状況にあると
いえます。なぜかというと、IEEPA(国際緊急経済権限法)
が発動され、ファーウェイは、関連会社69社ごと、EL(エン
ティティ・リスト)に入れられているからです。ELに入れられ
ると、米国企業がそれらの企業に対して、技術や製品を輸出する
さい、BIS(商務省安全保障局)の許可が必要になりますが、
許可になることはまずないのです。事実上禁止です。
 ところで、IEEPAは、米国の安全保障・外交政策・経済に
対する異例かつ重大な脅威が起きたときに、非常事態宣言が行わ
れて発動されるものです。トランプ大統領は、表向きは、メキシ
コの壁の予算に絡んで、国家非常事態宣言を出しています。20
19年5月16日のことです。これは、実はメキシコの壁の件で
はなく、中国をさらに絞め上げるためのものと考えられます。
 IEEPAは、商務省だけでなく、財務省と国家安全保障局の
3つにまたがる法律です。現在、米国政府はタイミングを図って
いますが、やがて財務省が動くはずです。財務省の外国資産管理
室(OFAC)が、ファーウェイとその関連会社を金融制裁の対
象として、「SDNリスト」に掲載する可能性があります。
 もし、SDNリストに掲載されると、ファーウェイは、米国の
銀行との取引が一切禁止されます。具体的にいうと、このリスト
に掲載されると、ドル建ての国際送金ができなくなり、ドルでの
決済もできなくなります。ファーウェイのような世界中でビジネ
スを展開するグローバル企業にとってこれは致命的です。また、
国際的なマネーロンダリングにもこれで対応します。テロ組織を
撲滅するためのものです。
 このSDNリストには、2011年7月に、日本の「YAKU
ZA」の名称で、「山口組」が入れられています。これについて
経済評論家の渡邊哲也氏は、ネットで次のように書いています。
このような話は、ニュースでは取り上げないので、ほとんどの人
は聞いたことはないはずです。
─────────────────────────────
 (2011年以降)米国政府は、徐々にその対象を拡大してい
った。2012年、六代目山口組と組長である篠田建市(通称司
忍)など幹部2名をSDNリストにいれ、2013年にこれを拡
大、そして、2015年4月21日、米国は六代目山口組組長の
出身母体である山口組弘道会と竹内照明会長をSDNリストに入
れた。つまり、六代目山口組とその幹部はテロ組織とテロリスト
扱いになったわけである。ちなみに「住吉会」と「稲川会」もこ
のリストに掲載されている。つまり、この段階で六代目山口組は
国際的にはテロ組織であり、幹部は、テロの主導者と同じ扱いに
なったわけである。これを受けて、日本政府としては早急な対応
を行うことが急務になった。米国のSDNリスト掲載にされるこ
とは国際テロリストの指定と同義であり、これを国内で放置して
おけば、国際的批難を浴びるからである。
                  https://bit.ly/2KqrUUc ─────────────────────────────
 1925年頃のことですが、米国の暗黒街の顔役といわれるア
ル・カポネという人物がいたのです。米国の捜査当局は、何とか
してアル・カポネを捕まえようとしますが、どうしてもそれはで
きなかったのです。
 なぜなら、関係者が誰もアル・カポネが犯罪人であることを証
言しなかったからです。下手に証言すると、確実に命にかかわる
からです。しかし、結果として、アル・カポネを追い詰めたのは
FBIでも警察でもなく、税務当局だったのです。米国の、とく
に安全保障に関する法律は、とても複雑になっていますが、こう
いうことから学んでいるのです。
 ところで、SDNリストの「SDN」とは何でしょうか。SD
Nの意味を明らかにしておきます。
─────────────────────────────
  ◎SDNとは・・・
  Specially Designated Nationals and blocked Persons ─────────────────────────────
 中国の特別行政区であるマカオにバンコ・デルタ・アジア(B
DA)という中規模銀行があります。北朝鮮の米ドル札偽造疑惑
を追及してきた米財務省は、2005年9月、BDAをマネー・
ロンダリング(資金洗浄)の疑いのある金融機関としてSDNリ
ストに入れ、2007年に米国政府は、米国金融機関と同銀行の
取引を禁止したのです。これによって、BDAは、ドル決済がで
きなくなり、破綻危機に追い込まれています。
 つまり、IEEPA法のメインは金融制裁なのです。現時点で
ファーウェイは、エンティティリスト(EL)には入っているも
のの、SDNリストには入っていません。もし、SDNリストに
入れられると、ファーウェイと取引している米国企業に、資金が
入ってこなくなり、連鎖倒産が起きる恐れがあります。そのため
時間稼ぎをしているフシがあります。つまり、同盟国に対し、警
告のメッセージを送っているのです。「ファーウェイを使うな」
「ファーウェイから逃げろ」というサインです。9月の米中会談
がない場合、ファーウェイのSDNリスト入りは確実の情勢にあ
ります。          ──[中国経済の真実/065]

≪画像および関連情報≫
 ●米中、対北朝鮮の金融封鎖で足並み/日本経済新聞
  ───────────────────────────
  【ニューヨーク=永沢毅、北京=原田逸策】トランプ米政権は
  2017年9月21日、金融制裁を軸にした北朝鮮への独自
  の追加制裁に踏み切った。国連を超えた制裁に慎重だった中
  国も事実上、金融制裁に動き出した。米中は原油や石油製品
  の制限に加え、ドルや人民元の金融システムからも北朝鮮を
  排除して圧力をかける。
   「犯罪的な『ならず者国家』を、他国が金融支援するのは
  受け入れがたい」。トランプ大統領は21日、追加制裁の大
  統領令に署名しこう語った。「中国人民銀行(中央銀行)が
  中国の銀行に北朝鮮取引の即時停止を命じた」とも述べた。
  従来は北朝鮮の大量破壊兵器の開発につながると疑われる企
  業や個人が制裁対象だった。今回は幅広い分野で北朝鮮と取
  引する企業に網を広げた。金融制裁も北朝鮮との取引がある
  だけで対象となり、条件は厳しい。
   ペンシルベニア州立大教授で元米国務省アドバイザーのジ
  ョセフ・デトマス氏は「制裁の選択肢の中で最終段階にきて
  おり、軍事挑発の前兆になる」と指摘する。北朝鮮と関係の
  ある第三国の銀行などを対象とした制裁は「セカンダリー・
  サンクション(二次的制裁)」と呼ばれる。米国はブッシュ
  政権の2005年、マカオの銀行、バンコ・デルタ・アジア
  を資金洗浄の懸念先に指定。米国内の金融機関にBDAとの
  取引も禁じた。BDAは北朝鮮関連の口座を凍結し、主要国
  の金融機関も北朝鮮との取引に慎重になった。
               https://s.nikkei.com/2MVMcqf
  ───────────────────────────

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アル・カポネ/暗黒街の顔役
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2019年08月14日

●「大統領が非常事態宣言をした理由」(EJ第5067号)

 トランプ政権が発足して以来、トランプ大統領が何でもやりた
い放題やっていると感じている人が多いと思います。なかでも中
国に対するトランプ大統領の怒りはすさまじく、中国としては当
初、トランプ大統領の訪中のさいの雰囲気からすると、態度一変
というように感じたといわれます。
 実は、トランプ大統領は、自説も展開しますが、基本的には、
議会の意向に沿って、法律に従い、実施しているだけなのです。
やりたい放題に見えるのは、彼が毎日のように発信するツイート
の内容が、全世界に公開され、世界中の人がそれを読んでいるの
で、そう見えるのです。
 もっともトランプ大統領は、歴代の米国の大統領とは、その外
交姿勢において、本質的な違いがあります。これまでの米国の大
統領は、トルーマンからオバマ大統領まで、自由、民主、人権と
という米国の理念を世界に拡大させる「理念外交」であったのに
対し、トランプ大統領のそれは、短期的な損得を追及する「実利
外交」です。つまり、トランプ大統領は、「外交」というものを
「商談」の延長と捉えているのです。
 しかし、こと中国に関しては、トランプ氏よりも、議会の方が
強硬姿勢です。これは、共和党だけでなく、民主党もほぼ同じ考
え方であるといえます。これについて、渡邊哲也氏は次のように
述べています。
─────────────────────────────
 むしろ(トランプ大統領よりも)議会のほうがかなり強硬なの
だ。とくに、上院国防委員会などは、マルコ・ルビオなど、タカ
派が引っ張っており、トランプの対応が甘いと批判しているくら
いだ。下院も上院も、共和党に関しては90%以上が中国制裁を
評価している。民主党も3分の2以上の議員が中国制裁の強化を
支持している。議会全体として8割強が中国制裁に賛成している
ため、トランプがもしも大統領を辞任するようなことがあっても
中国制裁の流れが大きく変わることはないだろう。
                 ──渡邊哲也著/徳間書店
       『「中国大崩壊」入門/何が起きているのか?/
        これからどうなるか?/どう対応すべきか?』
─────────────────────────────
 2019年5月15日(日本時間16日)、トランプ大統領は
国家非常事態宣言を行っています。「国家非常事態法」という法
律に基づく大統領の宣言であり、非常事態というと、おおごとで
すが、米国大統領はよくこの宣言を行います。トランプ大統領は
これまで3回宣言しており、直近では、2018年11月、政権
が反政府デモを武力で弾圧した中米ニカラグアの混乱を、トラン
プ大統領は、米国の安全保障への脅威とみなし、治安や民主主義
を損なう人物の資産を凍結しています。
 ややこしいのは、今年5月の国家非常事態宣言には2つの意味
があることです。米国の大統領にとってこの非常事態宣言は、平
時では制限されている権力、たとえば、使途の決まっていない議
会の予算を使えるメリットなどがあります。5月に行われた非常
事態宣言には、次の2つの目的があったのです。
─────────────────────────────
    1.メキシコとの壁建設の予算を獲得すること
    2.IEEPA法発動の必要条件を満たすこと
─────────────────────────────
 目的の「1」は、議会が民主党を中心として反対しているメキ
シコの壁建設の資金を議会の承認なしに、国防費から転用するた
めのものです。これについては、裁判になり、一審、二審とも否
決されていましたが、米連邦最高裁は7月26日、議会の承認な
しに国防費を転用する政権の計画を認める判断を下しています。
トランプ大統領は大喜びです。このように、最高裁まで行けば、
勝てる裁判官の布陣になっているのです。
 問題は目的の「2」です。これは、IEEPA法(国際金融経
済権限法)を発動させるためです。これは、おそらくペンス副大
統領をはじめとする大統領のスタッフが、大統領に進言し、次の
大統領令にサインさせたものと思われます。
─────────────────────────────
  情報通信技術とサービスのサプライチェーンの保護に係る
  大統領令
─────────────────────────────
 おそらくトランプ大統領は、この大統領令が何を意味するか、
よくわかっていなかったはずです。しかし、スタッフがいうので
サインしたのでしょう。ただ、それが、ファーウェイを絞め上げ
るものであることは知っていたと思われます。
 トランプ大統領にとって、メキシコの壁建設は、公約であり、
何としても実現させる強い意思を持ってしましたが、ファーウェ
イについては、スタッフとはかなり温度差があったようです。
 これについて、面白い見方をする人がいます。中国研究家であ
る近藤大介氏の意見です。トランプ大統領が、非常事態宣言の直
後の5月18日から令和最初の国賓として来日したとき、安倍首
相にこう漏らしていたといわれます。
─────────────────────────────
 アメリカにとって中国とは、叩き潰す相手ではなくて、儲ける
“道具”だ。これまで、歴史的にそうだったし、これからもそう
だ。だから極端にいじめる必要なんかない。だが強硬な部下たち
が言うことを聞かなかった。       ──トランプ大統領
                      ──近藤大介著
      『ファーウェイと米中5G戦争』/講談社+α新書
─────────────────────────────
 6月のG20大阪のさいの米中会談で、トランプ大統領がファ
ーウェイに関しては、取り引きしだいだと緩和を匂わせたのは、
この考え方に基づいているようです。しかし、交渉自体が行われ
るかどうか、怪しくなってきているので、部下たちに説得された
ものと思われます。     ──[中国経済の真実/066]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ氏のメキシコ関税、大統領権限は正当か
  ───────────────────────────
  [6月31日 ロイター]不法移民への対応不足を理由にメ
  キシコからの輸入品にすべてに関税を課すというトランプ米
  大統領の提案は、司法の場で争われる可能性が高い。そこで
  は、緊急事態に大統領が権限を行使できる範囲が問われるこ
  とになるだろう。
   トランプ氏は、中米諸国での暴力から逃れようとする人々
  など、亡命希望者の波を食い止めるために、6月10日以降
  メキシコからの輸入品に課税し、移民の流入が止まるまで関
  税率を段階的に引き上げると表明した。
   金融市場は動揺し、米国とメキシコ双方の企業経営者らも
  不意を突かれた。大統領が過去に1度も関税導入のために適
  用されたことのない法律を使うことを阻止すべく、法的手段
  に訴えようという議論も生じている。
   通商法が専門のジョージタウン大学ロースクールのジェニ
  ファー・ヒルマン教授は、トランプ氏が30日の発表で「国
  際経済緊急権限法(IEEPA)」を根拠としたことに疑問
  を呈した。世界貿易機関(WTO)で判事を務めたヒルマン
  教授は、「IEEPAの条文を読めば分かるが、大統領は金
  融取引を停止するために国家緊急事態を宣言することができ
  る、というのが同法の趣旨だ」と語る。IEEPAはイラン
  やスーダンなどの国に制裁を科すために歴代大統領が用いて
  きたが、司法専門家によれば、トランプ大統領が提案してい
  る新たな用途は、これまでに裁判所において議論されたこと
  がないという。         https://bit.ly/2H1SjG5
  ───────────────────────────

大統領令に署名するトランプ大統領.jpg
大統領令に署名するトランプ大統領
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2019年08月15日

●「大統領と米議会は一枚岩ではない」(EJ第5068号)

 ドナルド・トランプ──いうまでもなく、現職の米国の大統領
です。この大統領は、これまでの米国大統領よりも、どういう人
物であるかについて、イメージが掴み易いと思います。なぜかと
いうと、この大統領はツイッターを駆使するからです。ツイート
を発信することは、彼にとって記者会見の代りであり、世界中の
人々が毎日彼のメッセージを聞いていることになります。
 ところで、トランプ大統領は支離滅裂なことをする大統領とい
うイメージがありますが、最近の彼に対するイメージは変化して
きているのです。「支離滅裂のようでいて、意外によく計算して
手を打っており、なかなか的確である」という評価です。なかな
かやるじゃないか、というわけです。
 それは、トランプ大統領がやることと、米国議会がやることを
一緒にして、トランプ大統領の采配と見ていることの錯覚です。
米議会は、この特異な大統領を逆に利用して、今までやろうとし
てもできなかったことをやろうとしているのです。その例を昨年
12月1日の米中首脳会談に見ることができます。これについて
考えてみることにします。
 米中貿易戦争でトランプ政権は、2018年7月に第1弾の関
税を引き上げ、8月に第2弾、9月に第3弾と矢継ぎ早の攻撃を
しています。もちろん、中国も報復関税で応酬しましたが、相対
的に経済が疲弊したのは中国の方です。ここまでは、トランプ大
統領の采配で攻めています。とくに、第3弾の追加関税をあえて
10%にとどめ、会談の結果次第では25%に上げることを宣告
しています。いかにもトランプ大統領らしいディールです。彼は
第4弾においても同じ手法を使っています。これは、トランプ大
統領の判断で行っていると考えられます。
 そして、ブエノスアイレスでの12月1日の米中首脳会談にお
いて、習近平主席は、今後は米国製品や農産品などを、さらに一
層購入することを約束して、いわば刑の執行を3月1日まで猶予
してもらったのです。米中会談のこの結果を見て、世界では、米
中の激突は土壇場で一応回避されたとして、好感ムードが漂った
のです。しかし、今にして考えると、これは春節(2月5日/中
国人の最も大切な祝日)などを睨んだ中国の、時間稼ぎでしかな
かったと思われます。中国は最初から米国には譲る気はなかった
といえます。ところが、中国が何よりも衝撃を受けたのは、この
米中首脳会談が終了すると同時に流れた次のニュースです。
─────────────────────────────
  12月1日、ファーウェイ創業者の娘でもある孟晩舟副会
  長は、米国の要請に基づき、カナダ西部ヴァンクーヴァー
  の空港で逮捕。          ──BBCニュース
─────────────────────────────
 多くの人は、このとき、トランプ大統領は、なかなかやるじゃ
ないかと考えたと思います。私もそうです。しかし、実は、トラ
ンプ大統領はこの逮捕劇を知らなかったのです。これは、ボルト
ン安保担当大統領補佐官らが仕組んだことであったからです。こ
れについて、中国に詳しい近藤大介氏は、最近刊書において、そ
のことを次のように明かしています。
─────────────────────────────
 一方、トランプ大統領のほうも、あろうことか、米中首脳会談
が終わるまで、この逮捕劇を知らされていなかった。中国との首
脳会談に影響を与えたり、逮捕予定を変更させられることを恐れ
たジョン・ボルトン大統領安保担当補佐官が、故意に報告を怠っ
ていたのだ。この事実は、後にボルトン補佐官自身が、米メディ
アの取材で漏らしたが、図らずもファーウェイ問題に関して、ホ
ワイトハウスが一枚岩でないことを露呈させたのだった。
                      ──近藤大介著
      『ファーウェイと米中5G戦争』/講談社+α新書
─────────────────────────────
 このように、われわれは、米国のやることをトランプ大統領に
重ね合わせて見ていますが、とくに中国問題に関しては、トラン
プ大統領、ホワイトハウス、米議会は一枚岩ではないようです。
しかし、こと中国制裁に関しては、トランプ大統領よりも、米議
会─上院も下院も─の方が厳しく、大統領の対応が甘いという批
判さえあります。
 逮捕前後のことについて、近藤大介氏の本をベースにご紹介す
ると、ファーウェイの任正非CEOは、世界の指導者たちが、G
20でブエノスアイレスを訪れる2018年11月下旬が、5G
ビジネスの決戦の場になると判断し、ファーウェイ最高幹部をブ
エノスアイレスに結集させ、米国をのぞく各国の首脳たちに5G
システムの売り込みを行わせたのです。そのなかには、もちろん
孟晩舟副会長もいたのです。
 2018年11月下旬、孟晩舟副会長はアルゼンチンへ出張の
途中、APECが行われていたパプアニューギニアに立ち寄って
います。同国の5G整備が、ファーウェイを中心とする中国に決
まったからです。そして、アルゼンチンのブエノスアイレス入り
しているのです。
 12月1日昼のランチミーティングで、G20サミットは終了
しましたが、孟晩舟副会長は、この日の明け方、ブエノスアイレ
スのエセイサ空港を出発して、バンクーバーに向ったのです。約
18時間のフライトで、バンクーバー空港に夕刻に到着していま
す。ちょうど、ブエノスアイレスでの米中首脳会談終了後の晩餐
会が終了した直後のことです。
 孟副会長は、バンクーバーにも自宅をもっていますが、この日
は、バンクーバーでトランジットして、香港経由で、ファーウェ
イの本社のある中国の深せんに戻る予定だったのです。
 しかし、バンクーバー空港に降りたったところで、空港警察に
取り囲まれ、別室に押し込まれて、約3時間の訊問が行われた後
逮捕されています。逮捕容疑は、米国の対イラン経済制裁に違反
した詐欺罪ということになっています。
              ──[中国経済の真実/067]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ副会長の逮捕とアメリカと中国の対立
  ───────────────────────────
   今回のテーマは、今激しくなっている米中IT戦争の行方
  についてです。実際に、アメリカと中国の対立が激化してお
  り、決着点が見えない状況になりつつあります。
   12月上旬に開催したG20首脳会議で、米中首脳会談が
  行われました。この会談で中国は輸入拡大に取り組むとの発
  表をし、当面は米中の対立が回避されるとの見通しが出てき
  ました。
   これに対応しトランプ政権も、中国製品への追加関税の適
  用を延期し、9協議を行うと発表しました。この期間にアメ
  リカが求める知的財産権の保護や中国の推し進める国家プロ
  ジェクト「中国製造2025」の断念などが発表されると、
  米中IT戦争は回避されるなどと報道されています。
   しかし、このような比較的に楽観的な状況の中で、中国の
  企業ファーウェイ創業者の娘でもある孟晩舟副会長がアメリ
  カの要請を受けたカナダ当局によって逮捕されました。容疑
  は「アメリカの対イラン制裁違反の疑い」です。
   ファーウェイは、中国のIT技術のけん引する中心的な企
  業であり、中国政府が推進する中国製造2025を担う中核
  企業でもあります。米中首脳会談と同じタイミングでファー
  ウェイがアメリカの捜査の対象になったことは、中国に最大
  限の妥協を迫るトランプ政権の脅しの可能性があります。
                  https://bit.ly/33wqAH9
  ───────────────────────────

孟晩舟ファーウェイ副会長.jpg
孟晩舟ファーウェイ副会長
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2019年08月16日

●「トランプ政権内の2つのグループ」(EJ第5069号)

 トランプ大統領が孟晩舟ファーウェイ副会長の逮捕を直前まで
知らなかったという事実は、トランプ政権内には、考え方の異な
る2つのグループがあることを意味します。既出の近藤大介氏は
トランプ政権を次の2つに分けています。
─────────────────────────────
          1.「通商」強硬派
          2.「軍事」強硬派
─────────────────────────────
 1の「通商」強硬派とはどういうグループでしょうか。
 貿易不均衡や雇用を是正することが重要であると考える一派で
す。スティーブン・ムニューシン財務長官やジャレット・クシュ
ナー大統領上級顧問らがこのグループに属しています。彼らは、
中国を敵ではなく、ビジネスの対象として捉えようとします。ト
ランプ大統領は、このグループを代表しています。
 2の「軍事」強硬派とはどういうグループでしょうか。
 市場主義経済のなかで台頭する中国という社会主義国自体を敵
と捉える一派です。かつての米国がそうであったように、自由、
民主、人権という「理念外交」を世界に推進すべきであるとする
グループです。
 マイク・ペンス副大統領がその代表格であり、マイク・ポンペ
オ国務長官、ボルトン大統領安保担当補佐官、ピーター・ナヴァ
ロ国家通商会議議長などがこのグループに属しています。それに
辞任したものの、ジェームズ・マティス前国防長官、スティーブ
ン・バノン元大統領首席戦略官兼上級顧問も、この一派に属して
います。トランプ大統領は、今でも困ったことがあると、バノン
氏に電話して意見を聞くといわれています。
 トランプ大統領は、「通商」強硬派の代表ですが、「軍事」強
硬派の意見も聞かざるを得ないのです。なぜなら、米議会は、共
和党はもちろんのこと、民主党もそのかなりの議員が、こと中国
に対しては、「軍事」強硬派が圧倒的に多いからです。かつて、
民主党は、クリントン夫妻をはじめとして、いわゆる「パンダハ
ガー」(親中派)と呼ばれる人が多かったのですが、現在はほん
の一握りになってしまっているといわれます。
 もっとも次の大統領選に出馬する意欲を見せているバイデン前
副大統領はパンダハガーで、リベラルメディアのCNNは、トラ
ンプ氏を叩いて、バイデン氏を持ち上げる記事を書いています。
CNNは、「チャイニーズ・ニュース・ネットワーク」といわれ
るぐらい、中国寄りです。しかし、現在の情勢ではバイデン氏は
民主党代表候補になれそうもありません。問題は、中国は何らか
の手を使って、バイデン氏をサポートする可能性があります。
 それでは、米中貿易交渉を推し進める、ロバート・ライトハイ
ザーUSTR代表はどちらのグループに属するのでしょうか。ラ
イトハイザー氏は、両派の中間に属する存在であり、両派からの
支持を取り付けている貴重な存在です。
 ところで、「軍事」強硬派は中国の何を警戒しているのでしょ
うか。近藤大介氏は、これについて次のように述べています。
─────────────────────────────
 社会主義国は国家ぐるみで、自国の先端企業に多額の補助金を
出すなどして、育成を図っている。中国が2015年5月に発布
した『中国製造2025』は、2025年の国家目標を明確に定
めていた。これらは、既存のWTO(世界貿易機関)の秩序から
完全に逸脱しているというのが、「軍事強硬派」の主張だった。
2018年3月に、中国が全国人民代表大会で国家主席の任期を
撤廃する憲法改正を行うと、彼らは「習近平は長期独裁政権を目
指している」と非難した。
 第2次世界大戦後の冷戦、すなわち「アメリカ式資本主義」と
「ソ連式社会主義」の角逐は、周知のように20世紀末にソ連が
崩壊して、アメリカ側が勝利した。だが21世紀に入ると、今度
は「中国式社会主義」が台頭してきた。ソ連式社会主義のシステ
ムは、社会主義計画経済だったが、中国式社会主義のシステムは
社会主義市場経済である。政治的には旧ソ連式の共産党一党支配
を維持するが、経済的にはアメリカ式の市場経済を実践していく
という、旧ソ連式とアメリカ式のいいとこ取り″だ。中国では
これを「習近平新時代の中国の特色ある社会主義」もしくは「中
国模式」(チャイニーズ・スタンダード)などと呼んでいる。
                      ──近藤大介著
      『ファーウェイと米中5G戦争』/講談社+α新書
─────────────────────────────
 近藤大介氏が、本の中で書いていますが、彼はトランプ氏のツ
イッターのフォロワーになって、その内容をつねに分析している
そうです。5月15日(米国時間)にトランプ大統領は非常事態
宣言をし、「情報通信技術とサービスのサプライチェーンの保護
に係る大統領令」に署名していますが、近藤氏は、これについて
トランプ氏がどのようにツイートしているか調べてみたところ、
意外にも何もつぶやいていなかったことが判明。これによると、
彼がファーウェイの問題に対しては、さほど強い関心を持ってい
ないことがわかります。それは極めて戦略的にして技術的なこと
であり、大統領が十分理解できていないフシもあります。
 もちろんトランプ大統領は、口では「ファーウェイを使うな」
といっていますが、それは、ペンス副大統領やポンペオ国務長官
やボルトン大統領補佐官らの軍事強硬派にいわれていっているの
です。だから、中国が農産品を多く買ってくれるのなら、ファー
ウェイへの制約を一部解除してもいいといったりするのです。こ
れは通商強硬派たるトランプ大統領の本音です。軍事強硬派とは
考え方が異なります。
 しかし、米国によるファーウェイの封じ込めは、本当に成功す
るのでしょうか。それにしても、なぜ、米国は、ファーウェイを
これほどまでに恐れるのでしょうか。こういうことについても、
真実をしっかり検証する必要があります。
              ──[中国経済の真実/068]

≪画像および関連情報≫
 ●米国激怒! 習近平が突然「喧嘩腰」になったワケ
  ───────────────────────────
   米中貿易戦争はやはり激化せざるをえない、ということが
  今さらながらに分かった。双方とも合意を求めるつもりはな
  いのかもしれない。
   劉鶴副首相率いる中国側の交渉チームは5月にワシントン
  に赴いたが、物別れに終わり、米国は追加関税、そして中国
  も報復関税を発表。協議後の記者会見で劉鶴は異様に語気強
  く中国の立場を主張した。だが、交渉は継続するという。
   4月ごろまでは、5月の11回目のハイレベル協議で米中
  間の貿易問題は一応の妥結に至り、6月の米中首脳会談で合
  意文書を発表、とりあえず米中貿易戦争はいったん収束とい
  うシナリオが流れていた。それが5月にはいって「ちゃぶ台
  返し」になったのは、サウスチャイナ・モーニング・ポスト
  の報道が正しければ、習近平の決断らしい。習近平はこの決
  断のすべての「責任」を引き受ける覚悟という。
   では習近平はなぜそこまで覚悟を決めて、態度を急に反転
  させたのだろうか。第11回目の米中通商協議ハイレベル協
  議に劉鶴が出発する直前の5月5日、トランプはツイッター
  で「米国は2000億ドル分の中国製輸入品に対して今週金
  曜(10日)から、関税を現行の10%から25%に引き上
  げる」と宣言。さらに「現在無関税の3250億ドル分の輸
  入品についても間もなく、25%の関税をかける」と発信し
  た。この発言に、一時、予定されていた劉鶴チームの訪米が
  キャンセルされるのではないか、という憶測も流れた。
                  https://bit.ly/33weGwL
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ボルトン安全保障担当大統領補佐官
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2019年08月19日

●「なぜ、ファーウェイが問題なのか」(EJ第5070号)

 8月16日、ファーウェイは「5G」対応のスマホを中国国内
で発売をはじめています。既に1000万台を超える予約が入っ
ており、出足はきわめて好調とのことです。しかし、5G用の通
信網の普及はまだ十分ではなく、中国の主要都市でも2019年
いっぱいかかる予定です。日本では、5Gの普及はさらに遅れ、
2020年以降になる見通しです。
 ところで、ファーウェイは今後どうなるのでしょうか。
 2018年8月13日、トランプ大統領は、788ページに及
ぶ次の法律文書に署名しています。この月に81歳で亡くなった
ジョン・マケイン上院議員の名が冠せられています。
─────────────────────────────
 ◎国防権限法
  H.R.5515 John S.McCain National Defence Authorization
  Act for Fiscal Year 2019
─────────────────────────────
 この法律の第889条に「特定の電気通信及びビデオ監視サー
ビスもしくは機器に関する禁止」というタイトルの付いている部
分があります。この部分の近藤大介氏の要約を次に示します。
─────────────────────────────
 @2019年8月13日以降、「中国の指定5社」をアメリ
  カ公的機関の調達から排除する。
 A2020年8月13日以降、「中国の指定5社」と取引が
  あるアメリカ及び世界の企業も、アメリカの公的機関の調
  達から排除する。            ──近藤大介著
      『ファーウェイと米中5G戦争』/講談社+α新書
─────────────────────────────
 これはとてつもない厳しい条文です。中国の指定5社を米国の
公的機関の調達から排除することはわかりますが、その1年後に
は、その中国の指定5社と取引のある米国及び世界の企業も米国
の公的機関の調達から排除するといっているからです。
 ここでいう「中国の指定5社」とは、次のメーカーです。
─────────────────────────────
   @ファーウェイ(華為技術)
    ・世界最大の通信機器メーカー
   AZTE(中興通訊)
    ・世界4位(中国2位)の通信機器メーカー
   Bハイテラ(海能達)
    ・世界最大の無線メーカー
   Cハイクビジョン(杭州海康威視数字技術)
    ・世界最大の防犯カメラメーカー
   Dダーファ(浙江大華技術)
    ・世界2位の防犯カメラメーカー
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 この「中国の指定5社」のなかで、米国が最も危険であるとし
ているのがファーウェイです。これに対して、中国は「坊主憎け
りゃ袈裟まで憎い」ということわざと一緒で、罪のない中国の一
企業に米国は不当な弾圧を加えているとして猛反発です。
 しかし、ファーウェイに関しては、オバマ政権時代から米国の
CIAが執念深く追跡しており、今般の孟晩舟氏の逮捕は、米政
府としては十分な自信を持って行っています。しかし、そういう
米国の危機感は、とくに日本では、十分理解されているとは思え
ないのです。「米国がファーウェイを使うなというから、使わな
いことにする」というレベルなのです。先にご紹介した中国の体
制内で大胆な発言をすることで知られる人民大学の向松祚教授は
米中の貿易戦争の本質をずばり衝いています。
─────────────────────────────
 これは貿易戦争でも経済戦争でもなくて、米中の価値観の深
 刻な衝突である。      ──人民大学教授の向松祚氏
─────────────────────────────
 このことをもっと分かりやすく、具体的に述べているのは、あ
の投資家、ショージ・ソロス氏です。ソロス氏といえば、中国企
業に多くの出資をして中国市場で大儲けし、その経済を後押しし
てきたような人物ですが、それでも西側民主主義の良心の部分で
は、中国は許せないといっています。中国に詳しい福島香織氏は
ソロス氏の言葉を次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 中国は世界唯一の独裁国家ではないが、最も豊かで、最強の最
先端技術をもつ政権であり、中国の人工知能や機械学習などは監
督管理ツールに使われている。習近平の指導下で、中国は顔認識
技術を含む世界最先端のシステムを確立し、国民の識別にこれを
利用し、政権に多大な脅威を与えると思われる個人をはじき出し
一党独裁国家の中国において、至高無上の統治権威を打ち建てる
というのが習近平の野望だ。中国は先進的な監視監督科学技術を
用いることで、習近平は開放社会の最も危険な敵となった。
                  https://bit.ly/31HaNU7 ─────────────────────────────
 中国は、一帯一路計画を通じて、中華的価値観に基づいた中華
秩序圏を中国の外側に広げようとしていますが、その中華秩序圏
の拡大、確立の鍵を握るのがファーウェイなどに代表されるテク
ノロジーの力です。本来、人類の未来の幸福のために使われるべ
き科学技術を、こともあろうに、人権弾圧、民族弾圧のために使
うことは、ペンス副大統領などに代表される西側社会のエリート
や知識階級を自任する人たちにとっては看過することができない
ことであり、そのもの凄い怒りが、ファーウェイという中国の企
業に向っているのです。
 まして、ファーウェイの持つ高度な技術が、自らが努力して開
発したものというよりも、その大半が不正な手段で盗み取ったも
のであることを知るとき、それは到底許せるものでないことはよ
く理解できると思います。  ──[中国経済の真実/069]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ幹部 今後どうなる? 板挟みのカナダ
  ───────────────────────────
  【ニューヨーク=上塚真由】カナダは、通信機器大手、華為
  技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(C
  FO)=保釈中=の身柄引き渡しをめぐり、米中の間で難し
  いかじ取りを迫られている。引き渡しの可否をめぐる審理は
  長期化するとみられ、カナダに対し「報復措置」を取り圧力
  を強める中国との関係改善も見通せない。
   ロイター通信によると、孟被告は1月29日に保釈条件の
  変更を協議するため、西部ブリティッシュコロンビア州の裁
  判所に出廷するという。裁判所は、2月6日にも孟被告に出
  廷を求めている。
   米国からの正式要請を受け、カナダの法相は30日以内に
  手続きを進めるか否かを判断。認められれば裁判所で審理が
  始まり、数週間から数カ月続くとみられる。裁判所が引き渡
  しを認める決定を下した場合、再度、法相が可否を判断し、
  承認されれば孟被告は米国に引き渡される。ただ、孟被告は
  裁判所や法相の判断に異議を唱えることが可能で「結論が出
  るには数年かかる」(カナダメディア)との観測もある。
   米中の板挟みにあるカナダは対応に苦慮。トルドー首相は
  23日の会見で「法的な手続きに従って決める」と述べ政治
  的な関与を否定したが、米国とは機密情報を共有する5カ国
  の協定を結んでおり、孟被告の引き渡しを認めなければ、安
  全保障施策の障害になりかねない。26日には、身柄引き渡
  しをめぐり中国寄りの発言をしたマッカラム駐中国大使の更
  迭を発表した。         https://bit.ly/2NdBlrR
  ───────────────────────────

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どうなる!ファーウェイ孟晩舟CFO
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2019年08月20日

●「ZTE叩きはなぜ早期解決したか」(EJ第5071号)

 ファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)という企業につい
ては、人によって見方が分かれています。多くのレッテルが貼ら
れているからです。近藤大介氏の近刊書の冒頭に、日本の取引先
3社の人の意見が出ています。
─────────────────────────────
 ファーウェイの製品は、いまや日本製品よりも品質はいいし、
価格は安いし、おまけにアフターサービスにも優れている。ただ
中国の企業なんですよね・・・。       ──近藤大介著
      『ファーウェイと米中5G戦争』/講談社+α新書
─────────────────────────────
 ファーウェイは確かに優れたいい企業ですが、しょせんは中国
企業であり、信用できないという意味です。2012年のことで
すが、米国3大移動通信キャリア、Tモバイルを狙い撃ちにした
機密窃盗事件というものがあったのです。
 Tモバイルは、2012年当時、独自の優れた携帯電話専用自
動計測ロボット「Tappy/タッピィ」 を開発していたのです。そ
れと見られる写真を添付ファイルにしてありますが、このマシン
は、人間の指を真似て、さまざまな画面上のタッチ操作やアプリ
のチェックなどができます。
 Tモバイルでは、このマシンを高度に機密が保たれた実験室に
設置・保管し、数名のエンジニアしか入室できないようにしてい
たのです。ただ、そのなかには、大口の取引先であるファーウェ
イのエンジニアも含まれていました。結果としてそのファーウェ
イのエンジニアが写真を撮るなどして、その技術を盗み出し、自
社用として再開発したのです。
 Tモバイルは、この事件を機にファーウェイとの提携を解消し
2014年、シアトル連邦地裁にファーウェイを相手取って、こ
の窃盗事件を提訴し、民事訴訟では勝訴しています。こういう、
れっきとした事実があります。今回米政府は、これを刑事犯罪と
して裁こうとしています。
 そして、2019年1月28日、ファーウェイ、ファーウェイ
米国法人、スカイ・コムテック(星通技術)および、孟晩舟副会
長兼CFOをアメリカ連邦大陪審が起訴しています。
 ところで、よくわからないのは、米国の捜査当局が、なぜ、孟
晩舟容疑者に焦点を絞って逮捕し、起訴したかということです。
これは、2018年の米国商務省によるZTE叩きと関係がある
といわれています。
 2018年4月16日のことです。米商務省は、世界4位で、
中国では、ファーウェイに次ぐ第2位の通信機器メーカーである
ZTE(中興通訊)に対し、米国の法律に反し、イランや北朝鮮
に対して製品を輸出しているとして、全米企業に対して、ZTE
との取引を禁じたのです。
 ZTEにとってこれは青天の霹靂です。なぜなら、ZTEは、
部品の30%を米国に依存しており、米国企業と取引を禁止され
ると、製品が作れなくなってしまうからです。中国にとってもこ
れは大問題です。ZTEは、深せん市政府が経営する国有企業で
あり、2017年度売上高は、1088億元(約1兆7千億円)
従業員約9万人を超える大企業だからです。そのため翌日17日
には、新聞紙上に「ZTE倒産説」が出るほど、ビックなニュー
スになったのです。
 しかし、これは、意外なほどあっさりと決着してしまいます。
ロス商務長官は、2018年6月7日、次の発表を行い、13日
にZTEへの制裁を解除したからです。
─────────────────────────────
   ZTEに過去最高の罰金を科して、制裁を解除する
                 ──ロス米商務長官
─────────────────────────────
 もちろん条件付きです。罰金は10億ドル、預託金4億ドル、
経営陣の刷新、10年間の監視対象などです。しかし、これにつ
いては、比較的監視はゆるやかで、資金については直ちに中国の
国家開発銀行と中国銀行からの緊急融資を受けて、ZTEは倒産
を免れたのです。
 問題は、なぜ、スピード決着したかです。その理由がメディア
で報じられることはありませんが、近藤大介氏は、次の3つの理
由が考えられるといっています。
─────────────────────────────
 1.「通商強硬派」の代表格であるトランプ大統領の関心が
   薄かったことである。
 2.「ZTE叩き」はその7倍の規模を誇るファーウェイ叩
   きの予行演習である。
 3.ZTEが秘密裡に、米国商務省が提案する「司法取引」
   に応じたからである。
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 近藤大介氏によると、問題が早く解決したのは「3」であると
いうのです。あくまで目的は「ファーウェイ潰し」であり、米国
が欲しかったのは、イランとの不正取引に関するファーウェイの
内部情報です。ZTEとファーウェイは、創業時期も1980年
代の半ばで同じであり、本社も同じ深せんにあるライバル企業で
あって、これまでさまざまな面で確執があったのです。
 技術面での競合、エンジニアの引き抜き、仕入先、顧客の奪い
合いなど、けっして仲の良い企業でなかったことは確かです。し
たがって、秘密の情報を聞き出す相手としてZTEは最適な存在
だったのです。会社が潰れるかどうかの瀬戸際であり、しかも競
合企業にダメージを与えられるので、ZTEが司法取引に応じた
としても、けっして不思議ではないのです。
 もしかすると、米国は、最初からファーウェイを潰す目的で、
計算のうえ、ZTEを叩いた可能性もあります。いずれにしても
米当局は、これによって、孟晩舟のイランに係る重要情報を入手
したのです。        ──[中国経済の真実/070]

≪画像および関連情報≫
 ●米国のZTE制裁がもたらす屈辱/WSJ
  ───────────────────────────
   中国の通信機器大手の中興通訊(ZTE)が米国から「欺
  瞞、虚偽の供述と再三にわたる米国の法律違反」と非難され
  「ペテン師」とまで呼ばれている。米商務省の公式サイトに
  公表された声明文は、その語彙が容赦なきものであるのみな
  らず、いたるところに辛辣な皮肉が隠すこともなく使用され
  「愛国」的な中国人を強く刺激した。
   ZTE事件は中国人に大きな心理的衝撃をもたらした一方
  で、中国の専門家が一年前にZTEの内幕を暴いた文章もイ
  ンターネットでは広く読まれるなど、中国世論も米国への反
  発一色ではない。
   2018年4月16日、米国商務部は米国企業にZTEと
  の取引を禁じると発表した。ZTEが過去にイランなどへ通
  信機器を輸出していたことなどが理由だった。4月20日、
  ZTEの総裁は訴えるような口調で、「この禁止令によって
  中興はショック状態に陥っている」と語った。このニュース
  は公共の場でも、ソーシャルメディアでも、極めて大きな論
  議を引き起こした。
   中国ではこの事件が一企業の得失を超え、官民の情緒と神
  経を逆なでし、あらゆる人が熱心に討論に参加するような事
  態を引き起こしている。それは、ZTE事件が突然、これま
  で人々が理解していなかった「中国と米国の実力の差」とい
  う真実を明らかにし、中国の弱さやその潜在的な危険をみん
  なの目前で暴いてみせたからだ。 https://bit.ly/2ZaATRS
  ───────────────────────────

Tモバイル/携帯電話専用自動検測ロボット.jpg
Tモバイル/携帯電話専用自動検測ロボット
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