2019年04月17日

●「中国はなぜ参加が拒否されたのか」(EJ第4990号)

 日米欧などの国際共同研究グループが、銀河系の中心にあるブ
ラックホールの写真撮影に成功しています。アインシュタインの
一般相対性理論に基づいてその存在が予言されてから、約100
年後の撮影成功の快挙です。しかし、こういう国際的な宇宙開発
プロジェクトには、中国は入っていないのです。
 中国が先頭を走る量子暗号通信も、「セキュアなインターネッ
ト」の実現に繋がるものであり、人類にとって明るいニュースな
のですが、中国という共産党一党独裁の全体主義国家が主導する
開発ということになると、何しろ覇権を狙う国であるだけに、世
界中の国が強い警戒心をいだいてしまうのです。
 そういうことを棚に上げて、中国が内心強い怒りを貯めている
もののひとつに「国際宇宙ステーション」があります。なぜなら
中国は、非民主主義国家であるという理由で、その参加を拒否さ
れているからです。その怒りが物凄いエネルギーとなって、宇宙
開発が進んだともいえるのです。
 中国の百度百科で「国際宇宙ステーション」を引くと、次のよ
うに出ているそうです。
─────────────────────────────
 ●中国が参入しているか否か:否
 ●最終退役はいつごろか:2024年。どんなに延期しても
  2028年
 ●最も適切な次の宇宙ステーションを担う国はどこか:中国
  中国が独自の宇宙ステーションを創りあげ、次世代を担う
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 そもそも国際宇宙ステーション計画は、1981年〜1989
年まで大統領を務めたレーガン氏が、米ソ冷戦期における宇宙競
争において、西側諸国の結束力をアピールすべく提案したもので
す。つまり、これによって、宇宙において西側諸国の優位性を確
保しようとしたのです。したがって、もともと、国際宇宙ステー
ション計画は、「共産主義国家VS民主主義国家」の枠組みに、
なっているのです。
 しかし、1991年にソ連が崩壊してしまうと、宇宙に関して
高い技術力を持って民主主義国家になったロシアを、国際宇宙ス
テーション建設の仲間に引き入れようとしたのです。
 そういうわけで、アメリカ、ロシア、日本、カナダ、及び欧州
宇宙機関が中心となって、1999年から軌道上の組み立てが開
始され、2011年に完成したのが、現在の有人国際宇宙ステー
ションなのです。なお、欧州宇宙機関の加盟国は、ベルギー、デ
ンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ノルウェー
スペイン、イギリスです。
 このような事情により、国際宇宙ステーションは、軍事的、防
衛的目的があるので、共産主義国家である中国は、米国がこれま
で参加を拒んできたのです。遠藤誉氏は、これに対して中国が、
宇宙空間から中国を排除しようとしていると指摘して、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 「国際宇宙ステーションには、中国は参加を許されていない。
排除されている」という事実は、中国にとっては、きっと「許し
がたいこと」であり、「報復の執念を強く抱く対象」となったで
あろうことは、容易に想像がつく。
 この「報復の執念」を中国が抱いたのは、国際宇宙ステーショ
ンが正式にスタートした1999年前後のことだろうが、それは
まさに潘建偉らが、オーストリアの科学アカデミーと密接な関係
を持ち、量子通信衛星に情熱を注ぎ始める時期と一致している。
 中国は、「後発の利」を最大限に活かしている国だ。日米など
が主導する国際宇宙ステーションには、中国の墨子号が持ってい
るような量子暗号による機能はない。しかし中国は、国際宇宙ス
テーションが2024年には退役すると踏んで、次世代の中国独
自の宇宙ステーションには「量子暗号通信機能」を搭載しようと
計画しているのである。      ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 このように各国が人工衛星を打ち上げ、宇宙に出て行けるよう
になると、宇宙の領有権というものが問題になってきます。これ
については、1966年に国連総会で採択され、1967年から
発効した「宇宙条約(宇宙憲章)」というものがあります。この
条約では、次の4つのことが規定されています。
─────────────────────────────
       1.宇宙空間の探査・利用の自由
       2.        領有の禁止
       3.      平和利用の原則
       4.  国家への責任集中の原則
       ──ウィキペディア  https://bit.ly/2GmpVOS
─────────────────────────────
 このように、天体を含む宇宙空間に対しては、いずれの国家も
領有権を主張することはできない」と定められており、月、その
他の天体も、もっぱら平和利用に限定され、軍事利用は一切でき
ないとされています。ところが、資源の利用に関しては何の規定
もなかったのです。
 そこで、さらに1979年に国連総会で採択され、1984年
に発効した「月協定」では、人類が最も行く確率の高い月に関し
て、月の表面や地下などの天然資源は、いかなる国家・機関・団
体・個人にも所有されないことが定められています。しかし、米
国や日本をはじめ、ほとんどの国がこの協定に加盟しておらず、
死文化してしまっているのです。
 ところが、中国の巧妙な働きかけによって、国家の所有はだめ
だが、個人や企業の所有を認めるという「2015宇宙法」を時
のオバマ米大統領が後押しして成立させてしまうのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/071]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の宇宙ステーションの一部技術がISS超える?
  ───────────────────────────
   中国有人宇宙事業チーフデザイナーの周建平氏は2018
  年4月24日、2022年に完成予定の中国宇宙ステーショ
  ン「天宮」は、情報とエネルギー、動力技術、ランニングコ
  ストの面で、国際宇宙ステーション(ISS)を上回る可能
  性があると表明した。科技日報が伝えた。
   周氏はまた、「全体的に見て、天宮は規模のほか、機能や
  応用の効果、建造技術、物資補給などの重要指標でミールを
  上回り、ISSの水準に達するか近づくことになる」と説明
  した。周氏は同日開かれた、3年目となる「中国宇宙の日」
  メイン活動で、天宮について詳細に説明した。周氏によると
  その基本構造は1つの核心モジュール、2つの実験モジュー
  ルで構築される。3つのモジュールの複合体の重量は66ト
  ンで、定員は通常3人。乗組員交代の時には短期的に6人を
  収容できる。
   天宮には3つの接合部があり、有人宇宙船、補給船、その
  他の宇宙船による接合と停泊を受け入れる。船内には26の
  ペイロード積載空間、67の中小型船外ペイロード接合部、
  3つの船外大型ペイロード吊り下げ箇所、1つの拡張試験プ
  ラットフォーム吊り下げ箇所がある。給電、情報、熱制御、
  ロボットアームなどの応用ペイロードによる力強い支援力を
  持つ。実験プロジェクト及び試験設備は需要に応じて交換も
  しくはアップグレードできる。モジュール化補給船はペイロ
  ード実験に、高い輸送能力と理想的な輸送環境を提供する。
                  http://exci.to/2GoUB1X
  ───────────────────────────

国際宇宙ステーション(ISS).jpg

国際宇宙ステーション(ISS)
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2019年04月18日

●「着々と進む中国宇宙ステーション」(EJ第4991号)

 現在の国際宇宙ステーションには、中国は参加を拒否されてい
ます。中国が民主主義国家ではないというのがその理由です。こ
れに関し、中国は「許しがたいこと」であるとし、復讐の執念に
燃えているといわれます。「既に宇宙大国になっている中国を差
し置いて、何が国際宇宙ステーションか」というわけです。こう
いうことがまかり通ると考えていることが、今の中国の問題点で
あるといえます。
 中国は、その報復措置として、現在の国際宇宙ステーションが
退役する2024年(延長したとしても2028年)より前に中
国の宇宙ステーションを完成するつもりでいます。宇宙で先行し
て、それで復讐を果そうとしているようです。
 そのため、中国がこれまでにやったこと、その後やると考えら
れることについて、以下にまとめます。
─────────────────────────────
◎2011年 9月29日
 ・「天宮1号」が、甘粛省の酒泉衛星発射センターから打ち
  上げられた。宇宙実験室のひな形およびドッキング試験宇
  宙船。ドッキング技術の修得が目的。
◎2016年 9月15日
 ・「天宮2号」打ち上げ成功。「天宮1号」をベースに改良
  製造された8・6トン級の宇宙ステーション試験機。ドッ
  キング標的機だった「天宮1号」に対し、「天宮2号」は
  宇宙実験室と位置付けられる。
 ・同年10月18日に「神舟11号」がドッキングし、有人
  運用を開始。11月16日に「神舟11号」が切り離され
  有人運用を終了。
◎1017年 4月22日
 ・無人補給船「天舟1号」と宇宙実験室「天空2号」が自動
  ドッキングを終了。「天宮2号」は長期運用が可能。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 次の国際宇宙ステーションで主導権をとるべく、中国が自信を
をもって打ち上げた「天宮1号」は、2016年3月16日から
制御不能になり、世界中を騒然とさせたのです。当時の産経新聞
ニュースは次のように伝えています。
─────────────────────────────
 【北京=西見由章】中国有人宇宙プロジェクト弁公室は、20
18年4月2日、中国が独自の有人宇宙ステーション建設に向け
て打ち上げた初の無人宇宙実験室「天宮1号」が、同日午前8時
15分(日本時間同9時15分)ごろ、南太平洋の上空で大気圏
に再突入したと発表した。ほとんどすべての部品が再突入の際に
燃え尽きたとしている。中国外務省の耿爽報道官は、2日の記者
会見で、「地上への損害は現在確認されていない」と語った。
 欧米の専門家らは、天宮1号が制御不能のまま大気圏に突入し
落下地点をコントロールできなかったと分析しているが、中国当
局は最後まで制御の可否について明言しなかった。任務の成功を
国内外にアピールし、メンツを保つ意図があるとみられる。
                  https://bit.ly/2VOgiOn
─────────────────────────────
 実はこのとき中国は世界中から非難されたのです。2016年
から制御不能になっており、いつどこに落ちるか分からない状況
であったのに、そのことを世界に知らせなかったからです。国の
メンツがあるということのようですが、あまりにも無責任である
といえます。これは、昨年4月の話ですので、記憶にある人は多
いと思います。
 勝手にロケットを打ち上げておいて、制御に失敗するとそれを
隠蔽し、情報を伝えない──こういうところが共産主義国家が信
用されないところです。結果として、南太平洋ハイチ近くの海底
に落下し、被害はなかったのですが、中国政府は、そこに誘導し
たとウソをついています。
 「天宮1号」は8・5トンの重さですが、もし人口密度の高い
場所に落ちれば、大災害になったことは間違いないところです。
制御不能になったのですから、日本を含めて、地球上のどこに落
ちるかわからなかったはずです。
 さて、中国は、今後、宇宙ステーションに関して、何をやるの
でしょうか。遠藤誉氏は、自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国は2020年までに重さ66トンの天官3号の建設に着手
し、2022年までに建設を終える計画を立てている。つまり、
2022年までに本格的に宇宙ステーションを稼動させ、現在の
国際宇宙ステーションの次の世代を、中国が宇宙で担うという計
画を立てている。
 打ち上げに使うのは「長征5号」の予定だ。構成要素としては
コアモジュール「天和」、2つの実験モジュール「間天」と「巡
天」および無人補給船「天舟」を同時にオプションとして打ち上
げるとのこと、いずれも「天」の文字が付いている。
 これまでの宇宙ステーションと違うのは、なんといっても天宮
の中に量子暗号による通信装置が配備されていることで、搭乗員
が量子暗号による通信装置のメンテナンスに宇宙ステーション内
で携わるという。最終目標は、一群の静止衛星で、世界全体をカ
バーするつもりでいる。すべての西側諸国は、中国独自の宇宙ス
テーションに頼るしかないだろうと、鼻息は荒い。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 現在、宇宙空間を飛行している「天空2号」は、2019年7
月まで軌道上を飛行していますが、その後、軌道から離脱させる
と発表しています。平均高度は、400キロ前後の低高度の円軌
道上にあるといわれています。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/072]

≪画像および関連情報≫
 ●地球・月系の支配を狙う中国の野望/櫻井よしこ/コラム
  ───────────────────────────
   いま、世界のどの国よりも必死に21世紀の地球の覇者た
  らんと努力しているのが中国だ。彼らは習近平国家主席の唱
  える中国の夢の実現に向かって走り続ける。そのひとつが、
  宇宙制圧である。21世紀の人類に残された未踏の領域が宇
  宙であり、宇宙経済を支配できれば、地球経済も支配可能と
  なる。宇宙で軍事的優位を打ち立てれば地球も支配できる。
   2016年10月17日、中国が2人の宇宙飛行士を乗せ
  た宇宙船「神舟11号」を打ち上げた背景には、こうした野
  望が読みとれる。内モンゴル自治区の酒泉衛星発射センター
  から飛び立った中国の6度目の有人宇宙船打ち上げは、無人
  宇宙実験室「天宮2号」に48時間後にもドッキングし、2
  人の飛行士は30日間宇宙に滞在する。
   打ち上げは完全な成功で、計画から実行まで全て中国人が
  行ったと、総責任者の張又侠氏は胸を張った。中国は独自の
  宇宙ステーションを2022年までに完成させ、30年まで
  に月に基地を作り、中国人の月移住も始めたいとする。
   いま宇宙には、日本をはじめアメリカやロシアなど15か
  国が共同で運営維持する国際宇宙ステーション(ISS)が
  存在する。ここに参加しない唯一の大国が中国である。中国
  はアメリカとロシアの技術をさまざまな方法で入手し、独自
  の開発を続けてきた。また彼らは世界で初めて「宇宙軍」も
  創設した。その狙いは何か。少なからぬ専門家が中国の軍事
  的意図を懸念する。       https://bit.ly/2GvPz2H
  ───────────────────────────

制御不能で墜落した「天宮1号」.jpg
制御不能で墜落した「天宮1号」

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2019年04月19日

●「中国の恐るべき戦力『軍民融合』」(EJ第4992号)

 習近平国家主席は「肩書きマニア」といわれます。2017年
1月22日に政治局会議が招集され、下記の委員会の設置が正式
決定し、習近平主席が主任に就任、新しい肩書きがもうひとつ増
えたのです。
─────────────────────────────
                  習近平
        中央軍民融合発展委員会主任
─────────────────────────────
 ここでいう「軍民融合」とは何でしょうか。
 ここで「中央」というのは、党中央ということになります。し
たがって、「軍民融合」が、統一的な党中央の指導に基づいて進
められることを意味しています。習近平主席は、2016年から
中国航天科技集団など、中央軍産企業、大手金融機関など13企
業による初の軍民融合産業発展基金を設立しています。その基金
規模は、302億元にのぼるのです。
 「軍民融合」とは、軍需産業の民営化という側面があります。
中国では、主要産業の多くが国営企業ですが、これでは絶対に国
の経済は持たないと習近平主席は考えています。本当だとしたら
これはきわめて真っ当な考え方です。旧ソ連が崩壊したのは、国
家が重工業を担い、採算を度外視して軍需産業を発展させようと
したためである、といわれているからです。
 中国事情に詳しい福島香織氏は、ネット上の「日経ビジネス」
に掲載した論文で、軍民融合について米国と日本を例にしたフェ
ニックステレビのコメントを紹介しているので引用します。
─────────────────────────────
 軍民融合とは、国家の運命の大事に影響するものである。軍民
融合がうまくできなければ、軍備が落ちぶれるだけでなく、国家
経済が破たんする。世界上の軍事強国は、早々に軍民融合を果た
している。例えば米国陸軍の未来の戦士システムでは、兵士一人
ひとりが携帯電話端末を持たなくてはならないが、この端末は、
サムスン製だ。いわゆる軍内の専門工場で生産された軍用携帯電
話ではない。
 日本も同じで、日本には軍産企業は表向きない。しかし日本の
軍需産業は極めて強大だ。そうりゅう型潜水艦、10式タンク、
いずも型護衛艦、これらの武器をだれが作っているのか。中国人
の多くは知らないだろうが、日本の大企業にはいずれも軍工部門
があるのだ。三菱、富士、東芝、住友、ダイキン、リコーなど。
これらはすべて民営企業であり、武器を生産する、日本の特色あ
る軍民融合である。         https://bit.ly/2VRzeeX
─────────────────────────────
 しかし中国でいうところの「軍民融合」は、米国や日本の場合
と明らかに違うのです。世界中どこにでもいる「ふつうの顔をし
た中国人」、すなわち華僑華人は、必要に応じていつでも諜報員
になりうるといっているのです。つまり、民間のふつうの顔をし
た中国人は、必要に応じて、いつでも「軍人」にもなりうるとい
う意味での「軍民融合」なのです。
 2015年11月25日に成立した「2015宇宙法」では、
宇宙条約で禁止されている月などの土地の領有権や資源採取は、
国家については認められないが、「個人あるいは企業による所有
は許される」ことを決めています。
 これには、ウラがあると遠藤氏はいいます。宇宙旅行の実現を
目指して米国では、いわゆる宇宙ベンチャーの動きが活発になっ
ています。テスラーのイーロン・マスク氏による「スペースX」
や、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス氏による「ブルーオ
リジン」がそうです。
 「2015宇宙法」は、これらの民間企業が宇宙旅行を実現す
る試みを米国政府として後押しして、オバマ米大統領が主導して
まとめたものです。しかしその裏には中国の働きかけがあるので
す。「個人あるいは企業による所有は許される」ということにな
ると、中国の場合は、「軍民融合」によって、「個人・企業の所
有=中国という国の所有」ということになってしまうからです。
 来週の4月24日は「中国宇宙の日」です。これは、2016
年からはじまっていますが、その制定の趣旨は、「2016中国
的航天」の冒頭に次のように書かれています。ちなみに「中国的
航天」とは、中国の宇宙という意味です。
─────────────────────────────
 中国の宇宙事業は、1956年の誕生以来、60年の輝かしい
歴史を経ており、「両弾一星」のスローガンで開始され、輝かし
い成果の代表として有人宇宙飛行や月探査があり、自立更生・自
主技術革新の発展路線を進み、深遠な宇宙精神を蓄積してきた。
宇宙精神を継承し、技術革新の熱意を鼓舞するため、中国政府は
2016年から、毎年4月24日を「中国宇宙の日」とすること
を決定した。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 「両弾一星」のスローガンは何を意味するのでしょうか。
 「両弾」とは原子爆弾と水素爆弾を意味しています。「一星」
とは、人工衛星のことです。実は1970年4月24日は、毛沢
東の中国が、最初の人工衛星「東方紅1号」を発射した日なので
す。毛沢東は、執念のように「両弾一星」を狙ったといいます。
その精神は、後継の指導者に受け継がれています。
 「両弾」はその後「核爆弾」としてひとつにまとめられ、もう
一つの弾には「弾道ミサイル」が入っています。したがって、現
在、「両弾一星」は次の3つを意味しています。
─────────────────────────────
     ◎「両弾一星」
      核爆弾、弾道ミサイル、弾道ミサイル
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/073]

≪画像および関連情報≫
 ●中国「軍民融合」戦略=米国務次官補
  ───────────────────────────
   クリストファー・フォード米国際安全保障・不拡散担当国
  務次官補は最近、中国共産党は米国の技術を獲得し、ハイテ
  ク軍事能力を高めるため、「中国製造2025年」と「軍民
  融合」戦略を用いた、大規模な戦略があると明かした。中国
  は違法行為も含め、あらゆる手段で米国の技術を手にし、米
  国に戦いを挑んでいるという。
   フォード氏は2018年9月、「連邦調査局(FBI)と
  商務部によるカウンターインテリジェンスと輸出入管理」に
  関する会議の中で発言した。同次官補は、中国人入国ビザの
  審査を強化するなど、5つの対応戦略を提案している。
   フォード氏は会議の中で、この大規模な対米戦略への対応
  措置として、@包括的な輸出入管理と特許、A安全保障意識
  Bビザ審査の再検討、C投資の審査、D同盟国を中心とした
  多国間の連携と協力、といった対策を示した。
   フォード氏は、中国は、世界の覇権を狙い影響力を強める
  だけでなく、世界に及ぶ米国の力を、中国にすり替えようと
  していると指摘。この計画は長期的な戦略であり、米国は大
  規模で全面的な中国問題に直面していると警鐘を鳴らした。
  具体的には、中国共産党政府は少なくとも建党100年にあ
  たる2049年までに、大国としての地位を確立し、東アジ
  アの主導権を握る計画があると、フォード氏は述べた。
   フォード氏の分析によれば、中国共産党政権による「国の
  総合力」とは他国のような競争力の向上のみならずハイテク
  技術による経済力を掲げている。これは、米国が国家として
  追及する、軍事におけるハイテク技術の発展を指すという。
                  http://exci.to/2vb33eI
  ───────────────────────────

「軍民融合」が進む中国.jpg
「軍民融合」が進む中国.

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2019年04月22日

●「再生医療技術iPSは本物なのか」(EJ第4993号)

 今回のEJは第4993回、このまま行くと、EJは連休明け
の5月9日に第5000号に到達します。ここまで、約20年か
かっています。土日祝日を引くと1年で約250回、1000号
に達するには約4年かかります。スタートが1998年ですから
5000号で20年になるのです。これほど続けられたのは、多
くの人の支えがあり、読者の皆様の支持と励ましがなければ、続
けることはできなかったと思います。厚く御礼申し上げます。お
そらく特定のテーマを決めて連載するスタイルの日刊メールマガ
ジンはEJだけだと思います。
 5000号を9日先に控えた22日から数回、現在のテーマか
ら少し離れますが、気になるニュースがあるので、それを急遽取
り上げることにします。もっともそれは日本の医療技術の話であ
り、今回のテーマとまるで関係のない話ではないはずです。
 『選択』という雑誌があります。選択出版株式会社が発行して
いますが、この会社の設立は1974年4月なので、約45年の
歴史があります。実は、この雑誌は書店で購入することはできず
年間予約購読のみです。私は、5年ほど前から『選択』を購読し
ていますが、とても役に立っています。
 『選択』の記事には、著者名がありません。書店で購入できず
著者名もないというと、内容の信憑性を疑う人もいますが、記事
内容は正確で、掲載人物は全て実名で、その主張はストレートで
あり、まさに歯に衣を着せない迫力ある筆致で書かれています。
相当実力のある記者が書いているものと思います。
 この『選択』/2019年4月号に、次のタイトルの記事が掲
載されたのです。
─────────────────────────────
      ◎世界が冷視「科学公共事業」の惨状
           「幻想」のiPS再生医療
        ──『選択』/2019年4月号
─────────────────────────────
 この記事の内容はなかなか衝撃的なのです。安倍政権はiPS
再生医療を政権の成長戦略と位置づけているので、政治と無関係
ではないのです。
 そのためか、「iPS再生医療」はよく新聞に掲載されますが
それは、何かの病気のiPS再生医療がスタートするときだけの
ことです。網膜疾患の臨床研究やパーキンソン病への適用など、
治療がスタートするときは、大きな記事になりますが、その後の
経過や結果は、ほとんど記事にならないのです。そう思っていた
ときに、『選択』4月号がiPS再生医療を取り上げたのです。
 ところがです。2019年4月18日付の日本経済新聞夕刊に
iPS再生医療関連記事が掲載されたのです。しかも、トップ記
事としてです。
─────────────────────────────
             他人iPS移植安全確認
     理研術後1年の経過良好/実用化へ7合目
       ──2019年4月18日付の日本経済新聞夕刊
─────────────────────────────
 まるで『選択』の批判に応えるような記事の内容です。そして
その次の19日からは、このニュースは他紙でも伝えられたので
す。しかし私の知る限り、iPS再生医療の経過や結果が記事に
なったことはきわめて珍しいことです。
 そもそも、なぜ、私が、いわゆる再生医療に関心を持ったかと
いうと、EJで「STAP細胞事件」をテーマに取り上げたこと
があるからです。EJのスタイルは、特定のテーマを取り上げて
あらゆる情報を積み重ねて真実に迫ろうとするものですが、うま
くいかないことも多々あるのです。しかし「STAP細胞事件」
については、かなりのところまで迫ったとの自負があります。ブ
ログで読めるので、アドレスを記しておきます。
─────────────────────────────
  STAP細胞事件をわれわれはどのようにとらえるべきか
     ── 事件の背後に潜む闇を解明する ──
  2015年5月7日付、EJ第4028号
       〜2015年9月25日付、EJ第4125号
                 https://bit.ly/2DnKAQG
─────────────────────────────
 『選択』の記事と、今回の新聞報道が、関連があるかどうかは
わかりませんが、記事の内容を対比させてみると、『選択』で批
判していることに、新聞の記事は応えているようにみえます。し
かし、もし、関連があるとしたら、『選択』は書店では売ってい
ないし、読んでいる人はきわめて限定された人たちであるのに、
なぜ気にするのか疑問です。
 ひとつ考えられることは、『選択』を読んでいる人は限定的で
はありますが、その読者層は、大手企業のトップであるとか、著
名文化人であるとか、ジャーナリストなど、自分の意見を持って
発信している人が多いと思われます。したがって、いかに読者が
限定されているとはいえ、批判が拡がる前に、反論を試みたので
はないかと考えられます。
 もうひとつ違和感があるのは「他人のiPS細胞の移植」とい
う言葉です。本来iPS細胞は、自分の細胞から作られるという
ことではじまったはずです。自分のiPS細胞で作るので、拒絶
反応もないし、安全であるというのが、「売り」ではなかったの
でしょうか。
 「自分のiPS細胞」から「他人のiPS細胞」へ──これは
大きな変化のはずです。この変化は、どのようにして決まったの
でしょうか。そのことが、新聞などの報道で、少なくとも大きく
伝えられたことはなかったように思います。少なくともこのこと
は、大きなニュース価値があると思うのにです。
 いろいろな疑問があります。明日からしばらくの間、このテー
マを追及していきたいと思います。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/074]

≪画像および関連情報≫
 ●2018、再生医療はどこまで進んでいる?
  ───────────────────────────
   先日、「患者・社会と考える再生医療」というイベントに
  参加してきました。「“再生医療の研究をめぐる情報”につ
  いて、みんなで考えてみませんか?」をテーマに、医師、研
  究者、市民が一緒になってディスカッションなどを行うとい
  うなかなかユニークな試みです。
   主催は日本再生医療学会。学会の幹事で、京都大学iPS
  細胞研究所(サイラ)上廣倫理研究部門の八代嘉美准教授が
  中心となり、午前中は医師、研究者による講演、そして午後
  からホームワークタイム。参加者はグループに分かれ、自分
  たちが患者として再生医療についてどのような情報を求めて
  いるのか、何が足りないのか、どうしたらいいのかという問
  題について、語り合い、アイデアを出し合いました。
   その中で最も多かった課題は、「今、何が行われているか
  分からない」「再生医療が必要になったらどこに連絡すれば
  いいのか」「そもそも私たちは、治療を受けられるの?」と
  いったもの。つまり正しい情報をどこに求めるかということ
  でした。こうした課題を解決するには、伝える側が「正しい
  情報をいかに分かりやすく伝えるか」という点が重要だと痛
  感しました。
   iPS細胞の登場によって、iPS細胞から人の組織や臓
  器をつくり、それを移植することで「今まで不可能だった治
  療が可能になる」、「夢の再生医療が現実になる!」と大き
  な話題になりました。実際に、再生医療の研究はここ数年、
  ものすごい速さで進んでいて、「世界初の快挙!iPS細胞
  を用いた臨床手術成功」などのニュースを目にする機会も多
  くなりました。         https://bit.ly/2UL6cBo
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『選択』/2019年4月号
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2019年04月23日

●「理研はどうしてがん化を隠すのか」(EJ第4994号)

 現在、日本において、iPS細胞を使った主な再生医療の臨床
応用への動きとしては、次の5つがあります。
─────────────────────────────
 1.加齢黄班変性 (2013年開始) ・・・・・ 理研
 2.パーキンソン病(2018年開始) ・・・・・ 京大
 3.脊髄損傷   (2019年開始) ・・・・・ 慶応
 4.角膜疾患   (2019年開始) ・・・・・ 阪大
 5.心臓病    (2019年開始) ・・・・・ 阪大
─────────────────────────────
 これを見るとわかるように、理化学研究所による「加齢黄班変
性」の臨床研究が、鳴り物入りでスタートしてから、5年間は新
しい臨床研究は何も走っていないのです。しかし、2018年に
入ってから、京都大学の高橋淳教授らによるパーキンソン病への
臨床研究を皮切りに4つの臨床研究が、ほぼ同時にスタートして
います。一体この5年間に何があったのでしょうか。
 2011年10月、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長
がノーベル・医学・生理学賞を受賞し、その急速な普及に国民の
期待が一挙に高まったのは、記憶に新しいところです。「日本に
は世界に類のない『iPS再生医療』という医療技術がある」と
多くの日本人が誇りと期待を抱いたと思います。
 しかし、理研の高橋政代プロジェクトリーダーたちが開始した
自己細胞を使った「加齢黄班変性」の臨床研究は、事実上の中止
に追い込まれていたのです。しかし、理研はそのことを公表して
いないし、メディアもある程度わかっていても、きちんと伝えて
いないのです。それは、iPS細胞が、がん化する危険を組織ぐ
るみで隠匿しようとする姿勢があることです。これについて『選
択』では、次のように批判しています。
─────────────────────────────
 (高橋プロジェクトリーダーたちが始めた)研究は、患者の細
胞を採取し、体外でiPS細胞を作り、網膜細胞に育てるという
もの。iPS細胞に限らず、体外で細胞を培養すると、遺伝子変
異が生じやすい。さらに、幼弱なiPS細胞を網膜細胞などに完
全に分化させないまま戻してしまえば腫瘍化してしまう。iPS
細胞の臨床応用に立ちはだかるのは、がん化する危険性だ。実際
それは2例目の症例で問題となった。高橋氏らが投与前にiPS
細胞の遺伝子を解析したところ、発がんに関する複数の遺伝子異
常が見つかった。このまま戻せば移植したiPS細胞から、がん
が生じかねない。      ──「幻想」のiPS再生医療」
              『選択』/2019年4月号より
─────────────────────────────
 理研の高橋政代氏は、この臨床研究の経過を世界的に権威のあ
る「ニューイングランド医学誌」で発表していますが、この研究
の最大の問題である遺伝子異常の詳細に言及していないばかりか
現在にいたるまでそのことを公表すらしていないのです。
 こういう理研の姿勢に対して、米国在住のある研究者は、次の
ように批判し、懸念を表明しています。
─────────────────────────────
 現時点で、iPS細胞による再生医療が成功していると考えて
いる人は誰もいない。安全性に関する重大な疑問があるのに、そ
れを公表していない。  ──『選択』/2019年4月号より
─────────────────────────────
 「ネイチャー・バイオテクノロジー」誌にいたっては、「理研
のiPS治療は失敗した」と酷評すらしているのです。なぜ、そ
こまでいわれて、研究機関が黙っているのかというと、それは安
倍政権がこのiPS再生医療に深く関与しているからです。
 「iPS細胞はがん化する」──これは後からも述べますが、
事実です。しかし、これだけは口が裂けてもいえないというのが
理研の姿勢です。当然この姿勢は世界中の研究者から批判を浴び
ることになります。
 その後、理研は、自己細胞ではなく、他人の細胞を用いる方針
に変更したのです。他人の細胞で問題が解決されるわけではなく
がん化の危険は依然としてあるのですが、他人の細胞を使う方が
コストを下げられるメリットがあるという話法に統一するように
したようです。例えば次のようにです。そのさい、がん化の話は
一切せず、あくまでコストが安くなると訴えるのです。
─────────────────────────────
 iPS細胞は京都大学(京大)の山中伸弥教授らが発見した。
体の様々な細胞に変化させられる。2年前には世界で初めて、理
化学研究所(理研)などがiPS細胞からつくった目の細胞を目
の難病の患者に移植した。
 そのときは、患者本人の皮膚の細胞から、iPS細胞をつくっ
た。その患者だけが使える専用の細胞を準備し、慎重に安全かを
調べたので、手術の準備に10ヶ月間、約1億円がかかった。
 本人だけでなく、いろんな人に使えるiPS細胞を前もって準
備できれば、もっと早く手術が可能だし、一人あたりの費用も安
くできる。そこで、今回は、あらかじめ健康な人から提供しても
らった血の中の細胞からiPS細胞をつくっておくiPS細胞ス
トックを使う計画だ。理研の高橋政代プロジェクトリーダーは、
「前回の費用で5人分はカバーできると思う」と話している。
                  https://bit.ly/2IuUJzl
─────────────────────────────
 確かに患者個人の細胞を使うよりも、事前に多くの人の細胞か
らiPS細胞を作り、備蓄しておけば、必要なとき、すぐ使える
ので便利であるし、コストも下がるという理屈は成り立ちますが
それはがん化を防ぐことにはならないのです。
 それにしても安倍政権は、どうして山中教授のiPS再生医療
にかくも肩入れすることになったのでしょうか。それは、第1次
安倍政権のときからの因縁があるのです。そもそも安倍首相と山
中教授をつないだのは、第1次政権で首相補佐官だった世耕弘成
氏なのです。     ──[米中ロ覇権争いの行方/075]

≪画像および関連情報≫
 ●パーキンソン病のiPS治験、1例目実施 京大病院
  ───────────────────────────
   パーキンソン病は、脳内で神経伝達物質のドーパミンを出
  す神経細胞が減り、手足の震えや体のこわばりなどが起こる
  難病。国内に約16万人いるとされるが、根本的な治療法は
  ない。京大によると、1例目の患者には50代男性を選定。
  10月にiPS細胞から作製した約240万個の細胞を左側
  の脳内に移植する手術を実施した。脳出血などは起きていな
  い。今後2年間にわたり術後の経過を観察、評価する。
   治験では、京大が備蓄する、拒絶反応が起こりにくい型の
  他人のiPS細胞からドーパミンを出す神経細胞のもととな
  る細胞を作製。患者の頭蓋骨に直径12ミリの穴を開け、脳
  に注射針のような器具で細胞を注入する。動きにくさなどの
  症状の改善や、進行を抑えたり服用する薬の量を少なくした
  りする効果が期待できるという。
   京大が7月に発表した計画では、50〜69歳の患者7人
  を対象に治験を行い、効果を検証する。薬物治療で十分な効
  き目がなく、5年以上パーキンソン病にかかっていることな
  どが条件となっている。iPS細胞の再生医療では、これま
  で理化学研究所などがiPS細胞から作った網膜の細胞を目
  に重い病気のある患者に移植する世界初の臨床研究を実施。
  大阪大はiPS細胞から作った心筋シートを重症心不全患者
  の心臓に移植しようと計画中。京大は、血液成分「血小板」
  を難病貧血患者に輸血する臨床研究計画も進めている。
                  https://bit.ly/2PlErt4
  ───────────────────────────


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iPS細胞による再生医療/パーキンソン病
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2019年04月24日

●「iPS細胞は必然的にがん化する」(EJ第4995号)

 山中伸弥教授がiPS細胞に関する最初の論文を出したのは、
2006年8月のことですが、2007年12月に文科省は、そ
のための研究支援の「総合戦略」を策定しています。きわめて早
い対応ですが、これには第1次安倍政権が関わっています。第1
次安倍政権は2006年9月26日にスタートし、2007年8
月27日に終っています。
 第1次安倍政権で首相補佐官を務めたのは安倍首相のオトモダ
チの世耕弘成氏、世耕氏は、山中伸弥氏と、大阪教育大学付属天
王寺中学・高校の同級生で、中学3年のときは世耕氏が生徒会長
山中氏が副会長だったことがあり、仲がよかったそうです。その
縁もあって、山中氏から安定的な研究資金を求められ、世耕氏は
官邸として、財務省との調整を行ったというのです。
 こういう経緯でiPS細胞による再生医療関連のプロジェクト
には、京大、理研、慶大、東大の4拠点に、5年間で総額217
億円が投じられ、2013年からの第2次安倍政権では、10月
に山中教授がノーベル賞を受賞したこともあって、研究費支援は
さらに加速することになります。
 現在のiPS研究支援の中心は、国立研究開発法人日本医療研
究開発機構(AMED)ですが、その2019年度予算は147
億円です。それに加えて、山中伸弥教授の率いる京大iPS細胞
研究所は、年間25億円の予算が付いています。まさに大盤振る
舞です。この金額がどれほど巨額であるかは、米国のiPS関連
研究年間予算(2014〜2019年平均)が3・8億円に過ぎ
ないことを知れば十分でしょう。しかも、この予算は2021年
以降は打ち切られることになっています。米国は、再生医療がま
だ臨床応用に程遠いと考えているからです。
─────────────────────────────
     日本:147億円 VS 米国:3・8億円
─────────────────────────────
 山中教授だけではないのです。岡野・慶大教授、澤・阪大教授
高橋・京大教授、高橋・理研プロジェクトリーダーらの進める研
究に関しては、年間4億円程度の予算が付いています。しかし、
彼らの研究について『選択』は、次のようにかなり厳しいトーン
で批判しています。
─────────────────────────────
 iPS細胞を臨床応用するに際し、最大の課題は安全性の担保
だ。未熟な技術で作製したiPS細胞を大量に備蓄したり、疾患
ごとに臨床試験を組んだりすることではない。先行して集中すべ
きは、大型動物を使った大規模かつ長期的な動物実験である。確
かに澤・阪大教授や高橋・京大教授はブタやサルなどの大型動物
を使った実験をして、安全性は担保されたと主張しているが、い
ずれの研究も小規模で、観察期間は2ヶ月〜2年間と短い。日本
が推し進めているiPS細胞の臨床研究は、有効性も安全性も未
確認の「人体実験」と言っても過言ではないのだ。
              ──「幻想」のiPS再生医療」
              『選択』/2019年4月号より
─────────────────────────────
 「人体実験と言っても過言でない」とは大変過激な意見である
といえます。具体的にいうと、2018年後半以降に走っている
4つのiPS臨床研究──京大のパーキンソン病、慶応の脊髄損
傷、阪大の角膜疾患、そして同じ阪大の心臓病の臨床研究が「人
体実験に等しい」といっているのですから。
 彼らの研究は、いずれも京大が備蓄を進めている他人のiPS
細胞を使うというものです。メディアは「備蓄細胞は遺伝子変異
が少ないことを確認している」と報道していますが、これについ
て米国在住の研究者は「素人を騙している」として、次のように
批判しています。
─────────────────────────────
 自己細胞だろうが、他人の細胞だろうが、体外で培養すれば遺
伝子変異は起こる。全ての異常が事前の検査で判明するわけでは
ない。また他人の細胞を移植する場合、拒絶反応を抑えるために
免疫抑制剤の投与が欠かせない。発がんのリスクが高まるが、こ
の不都合な真実は議論されないのだ。
 がん免疫を研究する医師は「がん化が想定されるiPS細胞を
移植した患者を免疫抑制状態に置くなど、倫理的に許されない」
と批判する。      ──『選択』/2019年4月号より
─────────────────────────────
 ここで「再生医療」の歴史を簡単に振り返る必要があります。
そもそも再生医療の概念は、「ES細胞」の登場から出てきたも
のです。ES細胞(胚性幹細胞)は、受精卵の胚を万能細胞とし
て使うものです。しかし、受精卵は「命」そのものであり、生命
科学の分野では、禁断の研究という扱いを受けたのです。
 次に登場したのが「iPS細胞」です。山中伸弥教授は、人工
的な遺伝子操作で、体細胞を万能細胞に戻すことに成功したこと
によって、ノーベル賞を受賞したのです。そのため、iPSとは
「人工多能性幹細胞」というのです。
 ここで「人工的」というのは、体の細胞、たとえば皮膚細胞に
3〜4個の遺伝子(山中ファクター)を加えることで、2〜3週
間培養することを意味します。ES細胞の最大の難点を克服した
といわれています。しかし、iPS細胞には必然的にがん化がつ
いて回るのです。
 ところがです。同じ体の細胞(最初はリンパ球)を使いながら
それを弱酸性の溶液に25分程度浸し、その結果得た細胞を3日
間培養して万能細胞を作る「STAP細胞」が登場したのです。
これは細胞自体には、一切手を加えないので、がん化の危険性は
ない夢の細胞です。
 しかし、これは、何だかわけのわからないうちに、利害の関係
のある輩が、大勢で寄ってたかって、潰してしまったのです。案
外これこそ本命だったのではないかというわけです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/076]

≪画像および関連情報≫
 ●iPS細胞はこうして生まれた/ES細胞に残された課題
  ───────────────────────────
   2012年10月。細胞の運命に関する常識を変えたとし
  て、山中伸弥さんが、英国のJ・ガードン教授とともにノー
  ベル医学・生理学賞を受賞しました。
   皮膚の細胞にたった4つの遺伝子を入れるだけで、からだ
  中のほぼ全種類の細胞になれる能力「多能性」を持つiPS
  細胞をつくれるというのです。いったい何が、彼を大発見へ
  と導いたのでしょうか。
   私たちのからだは、1個の受精卵が分裂をくり返し、皮膚
  や心臓などさまざまな細胞へ分化することでつくられます。
  ある細胞がからだ中のほぼ全種類の細胞になれる能力を多能
  性と呼び、発生のごく初期段階の個体である「胚」の内部に
  ある内部細胞塊がこの性質を持っています。
   内部細胞塊を取り出してつくられた細胞を「ES細胞」と
  いいます。ES細胞には多能性があり、さまざまな細胞にな
  れるので、失われた臓器をよみがえらせる再生医療へつなが
  ると期待されていました。
   しかし、ES細胞は、つくるときに胚を壊す必要があり、
  命を犠牲にするとも考えられるという「倫理」の問題と、他
  人の細胞であるES細胞を移植しても、免疫によって排除さ
  れてしまうという「拒絶」の問題を抱えており、どうしても
  実用化できずにいました。    https://bit.ly/2IP2QGi
  ───────────────────────────

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山中伸弥教授/ノーベル賞
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2019年04月25日

●「iPS細胞がん化の3つのリスク」(EJ第4996号)

 今回のテーマである「米中ロ覇権争いの行方」に突然割り込ん
だ「iPS再生医療の緊急ニュース」については、今日と明日の
EJで一応終了し、5月7日からのEJは、元のテーマに戻りま
す。なお、iPS再生医療については、EJの次のテーマとして
取り上げることを考えています。
 iPS細胞がなぜがん化するのか、そのメカニズムはわかって
います。iPS細胞による臨床研究に携わる関係者は、全員その
ことは承知していることです。しかし、彼らは、がん化について
は、いっさい口を閉ざして語っていないのです。そこで、iPS
細胞がなぜがん化しやすいかについて、基本的なことを簡単に述
べておきます。なお、これは2015年の「STAP細胞事件」
のテーマのときに既に述べていることです。
 iPS再生医療のがん化の危険は、次の3つにまとめることが
できます。
─────────────────────────────
         1.がん化の危険/1
         2.がん化の危険/2
         3.がん化の危険/3
─────────────────────────────
 「がん化の危険/1」について説明します。
 iPS細胞は、マウスの皮膚の細胞に山中ファクターと呼ぶ4
つの遺伝子を入れて培養し、作ります。山中ファクターとは次の
4つです。
─────────────────────────────
           1. Oct4
           2. Sox2
           3. KIf4
           4.c─Myc
─────────────────────────────
 この山中ファクターのなかで、4番目の「c─Myc」は強い
発がん性遺伝子です。実際に実験において、4つの遺伝子を入れ
て作ったiPS細胞によるキメラマウスのうち、半分は正常だっ
たものの、20〜40%ぐらいのマウスには甲状腺などにがんが
できたのです。これは大問題です。
 しかし、この問題は幸運にも解決します。山中研究室の研究員
の一人が「c─Myc」を使わず、3ファクターだけでiPS細
胞の作成に成功したからです。「c─Myc」のファクターを使
わないと、iPS細胞を作る効率は悪くなるものの、作れること
がわかったことは大きな成果であり、「がん化の危険/1」は克
服されたことになります。
 「がん化の危険/2」について説明します。
 問題は、山中ファクターをどのようにして体細胞に送り込むか
ということです。これには運び屋としてウイルスを使うのです。
これを「ウイルスベクタ−」といいます。ごく簡単にいうと、ウ
イルスに遺伝子組み換えをしたいDNAを組み込んで、このウイ
ルスを遺伝子組み換えをしたい目的の細胞に感染させるのです。
 これについて、田中幹人編『iPS細胞/ヒトはどこまで再生
できるか』(日本実業出版社)の著者は、ウイルスによってがん
化が起きる可能性について、次のようにのべています。
─────────────────────────────
 ウィルスを利用して遺伝子を体細胞に組み込むとき、「どこに
入るかわからない」という欠点がある。これは遺伝子組み替えの
宿命ともいえる。遺伝子配列を本に例えるなら、狙った位置では
なく、別のページに因子遺伝子が貼り付けられる場合も起こりう
る。すると、「問題を引き起こすかもしれない。こういった仕組
みによって、ガンを抑制している遺伝子が読み取れなくなり、間
接的にガンを引き起こすケースも確認されているのだ」。
             ──田中幹人編/日本実業出版社刊
        『iPS細胞/ヒトはどこまで再生できるか』
 ──船瀬俊介著『STAP細胞の正体/「再生医療は幻想だ」
             復活!千島・森下学説』/花伝社刊
─────────────────────────────
 「がん化の危険/3」について説明します。
 これについては、iPS細胞研究チームは、一切口を閉ざして
語らないのです。研究チームだけではないのです。医学界も沈黙
し、メディアも触れようとしません。どうしてでしょうか。これ
を明かしたのは次の本です。
─────────────────────────────
 舩瀬俊介著/森下敬一監修
 『STAP細胞の正体/「再生医療は幻想だ」復活!千島・
                   森下学説』/花伝社
─────────────────────────────
 人体は、約60兆個の細胞で構成されています。これらの体細
胞も寿命があります。ある程度まで増殖すると、増殖が止まり、
「終始期」という終末サイクルに入り、細胞は次世代の細胞に引
き継がれるのです。
 これらの細胞が「終始期」に入るとき、増殖を止める2つのブ
レーキがかかります。それは、次の2つのタンパク質です。
─────────────────────────────
            1. RB
            2.P53
─────────────────────────────
 この2つのブレーキ役のタンパク質がちゃんと働かないと、増
殖が止まらず、がん化してしまうことになります。しかし、再生
医療では、iPS細胞を増殖させようとします。そのとき、これ
ら2つのタンパク質が邪魔になります。そこで、iPS細胞を作
るときは、2つの酵素を叩いて、機能をストップさせているので
す。そうすると、何が起きるでしょうか。ブレーキ役が不在です
から、iPS細胞だけでなく、がん細胞も増殖してしまうことに
なります。      ──[米中ロ覇権争いの行方/077]

≪画像および関連情報≫
 ●iPSから対がん免疫細胞を作製 京大などが発表
  ───────────────────────────
   人のiPS細胞から、がんへの攻撃力を高めた、免疫細胞
  「キラーT細胞」を作製したと、京都大などのチームが発表
  した。免疫の力でがんを治療する「がん免疫療法」の新たな
  手法につながる可能性がある。京大iPS細胞研究所が保管
  するiPS細胞を使うことで、短期間で多くのキラーT細胞
  をつくることができる。今後、実際の患者に使う臨床試験の
  準備を進めるという。
   人の体内では、絶えずがんが生まれているが、キラーT細
  胞を含む免疫細胞が攻撃することで、健康を保っている。だ
  が、がんが、免疫のしくみを回避したり、免疫細胞の攻撃力
  が弱まったりするとがんが増殖し、発症すると考えられてい
  る。チームは、第三者の血液由来のiPS細胞にがんを認識
  する遺伝子を組み込んだ。その後、キラーT細胞のもととな
  る細胞の状態に変化させて増殖。ステロイドホルモンなどを
  加えて培養し、がんを攻撃する、高品質のキラーT細胞をつ
  くった。人のがんを再現したマウスに注射したところ、何も
  しない場合に比べ、がんの増殖を3〜4割に抑えられた。が
  ん治療薬「オプジーボ」は、がんが免疫のしくみを回避する
  のを防ぐ。一方、今回の方法は免疫の攻撃力を上げることで
  がんの治療をめざす。チームの金子新・京大iPS細胞研究
  所准教授は「従来の免疫療法が効かない患者への治療法や、
  併用して使う選択肢にしたい」と話している。米科学誌「セ
  ル・ステムセル」に掲載される。(野中良祐)
                  https://bit.ly/2ILZJyI
  ───────────────────────────


ヒトiPS細胞の作り方.jpg
ヒトiPS細胞の作り方
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2019年04月26日

●「治験体制を骨抜きにした法律改正」(EJ第4997号)

 昨日のEJでご紹介した舩瀬俊介著/森下敬一監修の『STA
P細胞の正体』(花伝社)において著者は、現在のiPS再生医
療を車に例えて、非常に分かりやすく説明しています。
─────────────────────────────
 わかりやすい例が、自動車だ。アクセルとブレーキ。最低でも
この二大制御装置がなければ、存在すらおぼつかない。生命体は
なおさらだ。あらゆる生体には、ホメオスタシス(生体恒常性維
持機能)が備わっている。それは生体が正常に戻ろうとする“働
き″なのだ。それが病気や怪我のときに発揮される現象を、我々
は「自然治癒力」と呼んでいる。セルサイクルにおける細胞増殖
抑制酵素というブレーキの存在も、このホメオスタシスの一環で
あることが、よく理解できる。こうして生命体は調和とバランス
を保って存続し続けるのである。
 しかし、iPS細胞という最新鋭モデルカーはそうではない。
アクセルはあるが、ブレーキがない!そんな最新型の自動車をあ
なたは、見たことがあるか?試乗する気になるか?
 ──船瀬俊介著『STAP細胞の正体/「再生医療は幻想だ」
             復活!千島・森下学説』/花伝社刊
─────────────────────────────
 これまで安倍政権は、成長戦略の一環として、iPS再生医療
に1000億円以上の資金を注ぎ込んできています。それでいて
成果は上がっていないのです。『選択』4月号では、「安倍政権
の最大の罪は、iPS細胞研究の実用化促進というお題目の下、
日本の再生医療の治験体制を骨抜きにしてしまった点に尽きる」
と厳しく指摘しています。これは、どういうことかというと、少
しでも早く成果を出せるよう、2013年11月に次の2つの法
律を成立ないし改正させていることです。そんな法律が成立した
り、改正されたことはほとんどの人は知らないはずです。
─────────────────────────────
        1.再生医療等安全性確保法
        2.      薬事法改正
                  https://bit.ly/2L1DuaL
─────────────────────────────
 これらの法律は、再生医療に用いる製品はついては、少ない数
例の治験で安全性を確認し、その有効性が「推定」できれば、条
件付きで承認できるようになったのです。つまり、治験を甘くし
たわけです。だから、「人体実験」と批判されるのです。
 薬事法の改正については、これまでの医薬品の承認には、次の
3つの厳しい試験が必要ですが、再生医療関連の医薬品には、3
つ目の試験である「第三相試験」は求めず、有効性は市販後に検
証されることになったのです。
─────────────────────────────
◎第一相試験
 ・動物実験の結果をうけてヒトに適用する最初のステップで、
  安全性を検討する上で重要なプロセスである。
◎第二相試験
 ・第一相の結果をうけて、比較的軽度な少数例の患者を対象に
  有効性・安全性などの検討を行う試験である。
◎第三相試験
 ・実際にその医薬品を使用するであろう患者に対し、有効性の
  検証や安全性などの検討を大規模に実施する。
                  https://bit.ly/1CpKcrf
─────────────────────────────
 実際にこれらの法改正によって何が起きたかについて、2つの
ケースをお知らせします。
 第1のケースです。2015年9月に、医療機器の製造・販売
の国内最大手であるテルモ社は、虚血性心疾患治療製品「ハート
シート」の承認を受けたのです。承認申請に用いた治験データは
12年から国内の3つの医療機関で実施した7例のみであり、主
導したのは、澤大阪大学教授です。治験データはあまりにも少な
いですが、法律には適合しているのです。
 これについて、「ネイチャー」は、有効性を評価できるだけの
十分なエビデンスに欠けているとして,「効くかどうかも定かで
はない治療を患者に売りつけるのか?」と疑問を呈する記事を掲
載したのです。
 第2のケースです。岡野慶大教授が創業したバイオベンチャー
「サンバイオ社」が大日本住友製薬と共同開発をしている再生細
胞医薬品「SB623」のケースです。2016年6月に発表さ
れた第二相試験(前期)では18人の患者が登録され、良好な結
果が出たので、株価は急上昇し、1万2000円に跳ね上がった
のです。しかし、1019年1月29日の第二相試験(後期)で
は、思うような結果がです。そのショックで、株価は2401円
まで下落したのです。株の乱高下です。
 岡野研究室の関係者によると、「iPS細胞から分化させて、
形態は神経に見えるものの、機能はいまひとつ。無理矢理刺激し
て論文を書いてしまった」と明かしています。承認基準の甘さが
こんなところに影響を与えているのです。これがiPS研究の実
態なのです。
 『選択』4月号掲載の「『幻想』のiPS再生医療」はレポー
トを次の言葉でしめくくっています。
─────────────────────────────
 山中氏の業績が偉大であることは、論を俟たない。だが、安倍
政権が、人気取りのために飛びつき、巨額の血税を注いだ結果、
iPS研究は隘路にはまり込んだ。揚げ句の果てには、国際標準
のルールまで変える反則技も繰り出す。気がつけば、iPS細胞
は巨大公共事業と化し、利権にまみれた腐敗が横行している。日
本の先端医療を弄んだ安倍政権の罪は大きい。
                ──船瀬俊介著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/078]

≪画像および関連情報≫
 ●再生医療製品の早期承認制度は果たして得策か/ネイチャー
  ───────────────────────────
   日本は、再生医療の研究と臨床応用で最先端の地位を守る
  ことに無我夢中で取り組んでいる。患者の成熟細胞を再プロ
  グラム化して体内のさまざまな組織に分化できるようにした
  人工多能性幹(iPS)細胞の研究に数十億円の予算が計上
  され、薬事法の改正により医薬品や医療機器とは別に「再生
  医療等製品」という分類が新設され、当該製品の迅速な実用
  化のための条件および期限付きの「早期承認制度」が創設さ
  れた。この戦略はある程度奏功している。
   2015年9月には改正法の下で最初の再生治療製品が複
  数承認された。日本国内で再生医療関連事業を強気に展開す
  る会社によれば、早期承認制度こそが患者のニーズに最も迅
  速に応える方法であり、これがなければ、再生治療製品の開
  発は数年にわたって数百億円の費用を要する第T〜W相の臨
  床試験で行き詰まるという。しかし、早期承認制度が患者に
  恩恵をもたらすものか、あるいは日本の医療制度の過大な負
  担の軽減に役立つものかは、現時点では明らかではない。
   この新制度によって承認を受けた再生治療製品の1つであ
  る「ハートシート」(テルモ株式会社製)は、患者の大腿部
  から採取した骨格筋に含まれる筋芽細胞(未分化で単核の筋
  細胞)を培養してシート状にした製品で、重症の心不全患者
  の心臓表面に移植される。このハートシートは、第U相臨床
  試験で7人の患者について安全性と有効性が示唆されたとこ
  ろで、薬事当局が製造販売の「条件付き承認」とした。
               https://go.nature.com/2TJ4T5f
  ───────────────────────────


テルモ「ハートシート」.jpg
テルモ「ハートシート」



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2019年05月07日

●「中国への外交政策を間違えた米国」(EJ第4998号)

 4月27日に行われた日米首脳会談でトランプ大統領は、当初
安倍首相に「貿易交渉を5月中に決着させよう」というようなキ
ツイことをいっていましたが、その後一転して、難しい交渉は参
院選後にやることで合意したようです。時事通信社は「タイム誌
によると」と断って、次のように報道しています。
─────────────────────────────
【ワシントン時事】米誌タイムは2日までに、新たな日米貿易協
定交渉について、今年夏の参院選後に本格化する見通しだと報じ
た。トランプ大統領が先週末の首脳会談で、安倍晋三首相に配慮
する姿勢を見せたという。日本政府は、農産物や自動車の市場開
放協議が選挙に及ぼす影響を最小限にとどめたい方針を伝えたと
みられる。
 タイム誌によると、トランプ大統領は交渉責任者であるライト
ハイザー米通商代表部(USTR)代表らの助言を無視し、「本
格的な協議を先送りすることに応じた」という。両国は今月中に
も、個別品目の関税撤廃・引き下げに向けた事務レベルの調整に
着手するとされるが、最終決着は参院選後に持ち越される可能性
が高い。【時事通信社】       https://bit.ly/2ZZiTrh
─────────────────────────────
 お互いに選挙が大事なのでこういう妥協が生まれたものと考え
られますが、こういうざっくばらんな交渉ができるのも、安倍首
相とトランプ大統領の個人的人間関係があるからなのでしょう。
しかし、これによって安倍首相は、農産品を含む重要交渉で大幅
に譲歩せざるを得なくなり、この参院選後への延期のツケは相当
高くつくものと思われます。
 戦後から日本が選んできた道は、あくまで日米同盟を基軸にし
て、アジア大陸の脅威──冷戦時代はソ連、現在は中国と北朝鮮
──に対応するというものです。つまり、米国の軍事力を後ろ盾
にして日本はこれまで国を発展させてきたのです。そういう意味
で日本は米国の保護国であるといえます。
 日本のこの選択は、日本の発展に大きく寄与したことは確かで
す。しかし、それは、米国が世界最大の覇権国であり続けること
が条件になります。覇権国とは、軍事力、政治力、経済力、文化
的影響力など総合国力において圧倒的に優越し、他国との力量の
乖離を前提に国際社会に秩序=国際公共財(たとえば、自由貿易
体制や国際金融の安定性)を供給する国家のことです。
 確かにこれまで米国は、そういう覇権国であったし、現在もそ
の地位を維持しています。しかし、軍事力に関わる中国の技術的
レベルは急速に伸長し、米国に激しく迫っています。なかでも、
これからの主戦場になる宇宙の分野では、中国は米国のレベルを
超えています。なぜ、こういう結果になったのでしょうか。
 それは、米国が中国に対する政策を誤ったからです。米国には
中国への対応に関して次の2つの考え方があります。それは、そ
れぞれ、一派を形成しています。
─────────────────────────────
        1.中国の強化を奨励する一派
              キッシンジャー派
        2.中国の進出を警戒する一派
              ブレジンスキー派
─────────────────────────────
 今回は、第1の「中国の強化を奨励する一派」について考える
ことにします。
 この一派は、中国を西側国際社会に引き入れ、国力を強化させ
ればやがては民主国家になると甘く考えていたのです。この考え
方に立って政策を進めたのはニクソン政権です。ニクソン政権は
現トランプ政権と同じ強烈な米国第一主義であり、米国の利益の
ためなら、他国はどうなってもいいという考え方です。
 1972年2月、ニクソン大統領は、それまで一貫して中国封
じ込め政策をとってきたにもかかわらず、電撃的に中国を訪問し
たのです。「敵の敵は味方」という考え方です。これによって、
米国の中国封じ込め政策に全面協力をしていた日本の佐藤内閣は
窮地に陥ってしまいます。
 ニクソン大統領は、泥沼化していたベトナム戦争を終わらせる
ため、当時ソ連と対立していた中国を味方につけるため中国を訪
問したのです。このとき、その絵図を描き、自ら中国を訪問し、
ニクソン訪中を実現させたのが、当時大統領補佐官をしていたヘ
ンリー・キッシンジャー氏です。以来、キッシンジャー氏といえ
ば、現在に至るまで、中国派といわれる存在です。
 既出の日高義樹氏は、キッシンジャー氏と大変親しく、かつて
の日高氏のテレビ番組に、キッシンジャー氏はよく出演していた
のです。その日高氏は、最新刊書において、キッシンジャー氏の
ことを次のように述べています。
─────────────────────────────
 「中国の指導者は頭が良い。優れた見識を持っており、あらゆ
る問題の解決策をうまく考え出す」
 私が長く付き合っているアメリカのキッシンジャー元国務長官
が中国について口を開くと、必ずこう言う。キッシンジャー博士
だけでなく、私が付き合っているアメリカの政治家や学者たちは
中国の長い歴史と、そして地理的に占めている大きさに恐れと敬
意を抱いており、中国とはとても戦うことはできないという気持
ちを強く持っているようである。
 こうしたアメリカの指導者たちの考え方が、中国共産党という
非人間的で非合理な政治体制をそのまま国際社会のなかに導き入
れてしまった。キッシンジャー博士やニクソン大統領の対中国政
策の裏には、当時アメリカを悩ませていたベトナム問題や冷戦を
戦っているソビエトをうまく処理するために、中国の力を利用し
たいという思惑も存在していた。  ──日高義樹著/悟空出版
『2020年「習近平」の終焉/アメリカは中国を本気で潰す』
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/079]

≪画像および関連情報≫
 ●ヘンリー・キッシンジャーの「中国」
  ───────────────────────────
   アメリカでのパンダハガー(親中派)筆頭であり、1969
  年から75年まで特別補佐官・国務長官を務めたヘンリー・
  キッシンジャー。1960年代のアメリカでは、中国をソ連
  以上に、より切迫した脅威とみなす認識が一般的だった。中
  国の文化大革命は狂信的なものであり、べトナム戦争は中国
  の拡張主義の現われとみなされていた。
   朝鮮戦争などもあり、20年以上にわたってアメリカと中
  国はハイレベルでの接触を持たなかったが、1971年7月
  キッシンジャーはパキスタン経由で秘密裏に訪中し、周恩来
  と長時間の会談をした。(それ以来、キッシンジャーは中国
  に50回以上訪れている)
   その時のアメリカ側の動機は、ベトナム戦争の泥沼からの
  撤退、冷戦の一つの戦術的側面(ソ連を封じ込めるため)。
  中国側の動機は、文化大革命の混乱による疲弊からの脱却、
  形の上ではソ連の同盟国だったが、モスクワの脅威に対抗す
  るため。更にキッシンジャーは、ニクソンから、アメリカが
  日本から撤退すると、日本が独自の軍事大国となり、中国に
  とって脅威となることを周恩来に指摘せよ、というメモを渡
  されて訪中している。「本書の主眼は、1949年に中華人
  民共和国が建国されて以来の米中指導者の相互交流を描くこ
  とにある。           https://bit.ly/2UZRkdt
  ───────────────────────────

ニクソン米大統領/中国を電撃訪問







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2019年05月08日

●「中国の野心を抑制する日本核武装」(EJ第4999号)

 昨日のEJで取り上げた米国における中国への対応に対する2
つの考え方を以下に再現します。
─────────────────────────────
        1.中国の強化を奨励する一派
              キッシンジャー派
     ⇒  2.中国の進出を警戒する一派
              ブレジンスキー派
─────────────────────────────
 第2の「中国の進出を警戒する一派」について考えます。第1
についての検討は、昨日のEJで既に終っています。
 ズビグネフ・ブレジンスキー氏は、その実績から、ヘンリー・
キッシンジャー元国務長官と並ぶ戦略思想家といわれています。
とくにブレジンスキー氏は、地政学的観点を取り入れた考察をす
る優れた政治学者として知られています。リンドン・ジョンソン
大統領の大統領顧問を務め、1977年から1981年までカー
ター政権時の第10代国家安全保障問題担当大統領補佐官を務め
たことでも知られています。
 ブレジンスキー氏は、多くの著作を遺していますが、次の著作
はとくに注目すべきです。
─────────────────────────────
        ズビグネフ・ブレジンスキー著/山岡洋一訳
           『ブレジンスキーの世界はこう動く/
      21世紀の地政戦略ゲーム』/日本経済新聞社刊
─────────────────────────────
 ブレジンスキー氏は、22年前の1997年に上梓したこの著
作のなかで、中国の行動を極度に危険視し、正確に今日の事態を
予測しているのです。
─────────────────────────────
 中国が大国として登場してきたことで、地政戦略上きわめて重
要な課題が生まれている。民主国家になり、自由主義経済になっ
た中国を、アジアの協力の枠組みのなかに取り込むことができれ
ば最高の結果だといえる。しかし、民主主義の道を歩まないまま
経済力と軍事力が増大していけば、どうなるだろう。近隣諸国が
なにを望み、どう考えようとも、「大中華圏」が登場し、それを
防ごうとすれば、中国との対立が激化するだろう。そうなれば、
日米関係も緊張する。日本政府がアジアにおける日本の役割につ
いての考え方を大転換させかねず、最悪の場合には、米国が東ア
ジアから撤退せざるを得なくなる。
       ──ズビグネフ・ブレジンスキー著の前掲書より
─────────────────────────────
 上記のなかで、「日米関係も緊張する」とは、具体的にいうと
「米国が中国の封じ込めを進めたとき、これまでのように、日本
がそれに従うとは限らない」という意味になります。
 つまり、このまま中国が、軍事、経済の両面において、米国と
拮抗し、上回る存在になってきたとき、米国にとって最も従順な
同盟国であるはずの日本が、米国についてくるとは限らないと、
ブレジンスキー氏は警告しているのです。それは、中国が日本の
隣国であるからです。つまり、これは日本人が真剣に考えるべき
日本の問題であり、現在米国と日本が置かれている立場を、正確
に予言しているといえます。
 ウォルター・ラッセル・ミードという、米国の政治学者がいま
す。バード大学教授で、専門はアメリカ外交政策、ハドソン研究
所の上級研究員です。ミード氏は、トランプ政権誕生以来、きわ
めてユニークなトランプ観察を行っていますが、2017年9月
5日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙に「トランプは日
本の核武装を欲しているか」というタイトルのレポートを投稿し
ています。そこには、次のように書かれています。
─────────────────────────────
 注意深い観察者は、かなり前から、北朝鮮の好戦性と核保有に
よって日本は核兵器に目を向けるようになることを知っている。
世界で日本ほど核能力を取得しやすい立場にいる国はない。決定
から核保有までの時間が数ヶ月であることは大方の専門家が知っ
ている。それに伴う混乱の中で韓国と台湾がおそらくそれになら
い、少なくとも台湾は日本からそっと援助を受けるだろう。日本
のエリートの意見は核の選択賛成論にかなり傾いている。
                 ──2017年9月5日付
          ウォール・ストリート・ジャーナル紙より
─────────────────────────────
 「日本の核武装論」──トランプ政権を支えるスタッフは、今
のところ、現状維持を望んでおり、トランプ大統領も選挙前に言
及していた日本の核武装に関する発言は、大統領になってからは
控えています。しかし、米中交渉がこじれ(必ずこじれる)、米
朝関係も進展しない場合は、トランプ大統領は再び日本に核武装
を促してくる可能性は十分あると思います。これについて、ミー
ド氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 大統領もその一人だろうが、彼らは東アジアの核武装化は米外
交の敗北ではなく、勝利と見るだろう。中国の地政学的野心は、
日本、韓国、それにおそらく、台湾の核武装化で封じ込められよ
う。ワシントンは、在韓米軍を引き揚げ、国防費を削減しつつ、
中国を抑える費用を同盟国に負担させることができる。
              ──「選択」/2019年5月号
─────────────────────────────
 地政学的にみて、日本の核武装が、いかに必要不可欠な状態に
なっても、日本の国内事情から考えても、核武装が実現するとは
思えませんが、地政学的には中国の台頭を止めるには、そういう
方法しか考えられないということであると思われます。
 かつて在日米軍は、日本を守るために駐留しているのではなく
日本に核武装化させないための「ビンの蓋」であるといわれてい
たのです。      ──[米中ロ覇権争いの行方/080]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ米国が中国に貿易戦争を仕掛けたか
  ───────────────────────────
   2018年3月に、米国の通商法301条に基づく対中制
  裁措置の発動が発表されたことをきっかけに、米中貿易摩擦
  はエスカレートし、その後に起こった双方の間の関税引き上
  げ合戦に象徴されるように、貿易戦争の域に達している。こ
  れまでの米中関係は、いろいろな問題を抱えながらも、特定
  の分野における摩擦にとどまり、今回のような貿易戦争に発
  展することがなかった。貿易戦争は、相手だけでなく、自国
  にも大きなダメージを与える。米国がなぜ大きな代償を覚悟
  しながら、貿易戦争を仕掛けたのかを巡って「中国異質論」
  を展開する米国側と、米国における「中国脅威論」を批判す
  る中国側の主張が対立しているように見えるが、どちらも一
  面で真実を捉えているように思われる。
   中国が欧米と異なる政治経済体制──いわゆる「中国モデ
  ル」を維持しながら、経済大国として台頭してきたことを背
  景に、米国は対中政策を「関与」から「抑止」に転換した。
  中国に対する自国の優位性を維持するために、中国への市場
  開放圧力を強め、中国を対象とする技術移転への制限を強化
  し、WTOをはじめとする国際貿易体制の再構築を目指して
  いる。中国では、米国が仕掛けた貿易戦争に対してどう対応
  すべきかを巡って、徹底抗戦を主張する「タカ派」と、でき
  るだけ米国の要求を受け入れ、問題の早期解決を望む「ハト
  派」の間で意見が分かれている。 https://bit.ly/2LxWqhs
  ───────────────────────────

ズビグネフ・ブレジンスキー氏.jpg
ズビグネフ・ブレジンスキー氏
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2019年05月09日

●「中国のアキレス腱/経済財政事情」(EJ第5000号)

 本日で、1998年9月15日を第1号として、営業日の毎朝
お届けしてきた日刊メールマガジン「エレクトロニック・ジャー
ナル(EJ)」は、節目となる5000回に到達しました。この
正味20年間を支えていただいた読者の皆様に心より感謝申し上
げるしだいです。ありがとうございました。
 当面、続ける意欲はまだありますので、今まで通り発行してい
きますが、今回のテーマに関しては、少し軌道修正をしたいと考
えております。今年の1月4日から執筆してきている今回のテー
マ「米中の覇権争いは今後どうなっていくか」は、同時期に開始
された米中貿易交渉の進行と合わせて書いてきましたが、ここに
きて重大局面を迎えようとしています。
 2019年5月5日、トランプ米大統領は突如、2000億ド
ル(約22兆円)分の中国製品に課す関税を10%から25%に
引き上げると宣言したのです。5日に宣言して、10日から引き
上げるというのです。その間、5日しかないのです。かなり無茶
苦茶な話であり、いかにもトランプ風です。
 このトランプ大統領の突然の関税引き上げ宣言に関し、米産業
界は猛反発しています。製造業や小売業の業界団体は、たった5
日前の通告で関税を課すことによる悪影響を訴えています。米企
業としては、米中協議の進展による関税撤廃を期待していたので
すが、真逆の結果となり、困惑しているのです。
 しかし、このトランプ大統領のツイッターでの通告に対し、共
和党ならぬ野党・民主党上院トップであるシューマー院内総務は
次のツイートを発信し、関税の引き上げに賛成しています。
─────────────────────────────
 力こそが中国に勝利する唯一の手段である。中国に屈しては
 ならない。後退してはならない。
            ──民主党上院シューマー院内総務
─────────────────────────────
 なぜ、トランプ大統領は、突如関税引き上げを、通告したので
しょうか。
 これについて、ライトハイザー代表とムニューシン財務長官は
次のようにいっています。
─────────────────────────────
 ◎ ライトハイザー代表
  ここ一週間ほどで、中国側のコミットメントに、後退がみら
 れた。米国としてはそれは受け入れられない。
 ◎ムニューシン財務長官
  これまでに交渉した、非常に明確な文言を後戻りさせようと
 していることが、週末にかけて明白になった。そうした後退に
 よって、合意が著しく変わる可能性があった。
           [北京/ワシントン/6日/ロイター]
─────────────────────────────
 このEJの原稿を書いている7日時点の情報では、中国が何を
後退させたのかは、はっきりしていません。いくつかの情報から
総合して考えると、外国企業が中国に進出したさいに、強制的技
術移転を条件とする制度を撤回させる法制化を中国側が約束した
にもかかわらず、それを後退させたのではないかといわれていま
す。もしそうであったとすれば、それは十分「ちゃぶ台返し」と
いうことになります。
 このニュースが流れたとき、ダウ平均は反落しましたが、その
後少し戻しています。それは、劉鶴副首相を含む中国の交渉団が
会談のために米国に向うことが明らかになったからです。その会
談で中国が後戻りを撤回する可能性はあります。しかし、関税引
き上げは、10日の午前0時1分と期日と時間を切っているので
関税引き上げが撤回される限界は、本日、すなわち9日中という
ことになります。したがって、決裂リスクも色濃くあるのです。
 このように、突然関税引き上げを宣言するなど、トランプ大統
領は関税をもて遊んでいると批判する向きも多いですが、日高義
樹氏は、トランプ大統領の中国に対する考え方は一貫していると
して、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国に対するトランプ大統領の基本的な考え方は、「中国は紛
れもなく共産主義国家で、このまま力を持たせておけば世界を共
産化する悪魔の国である」というものだ。トランプ大統領は20
18年初め、得意のツイッターでこう述べている。
 「中国が不法な貿易や先端技術の盗用を続けて強力な国家にな
れば、世界はどうなるか、どれほどひどいことになるか計り知れ
ない」
 このトランプ大統領の考え方は、冷戦時代に「共産主義者は滅
ぼす以外にない」と唱えたハーバード大学のリチャード・パイプ
ス博士やハリー・ロジック博士、さらにはトランプ政権の国家安
全保障担当補佐官ジョン・ボルトン博士ら、アメリカの超保守勢
力に繋がっている。
 トランプ大統領はこの考え方に基づいて、関税などの経済攻勢
によって中国を財政的に追い詰め、結果的に中国の政治体制であ
る共産主義体制を崩壊させようとしている。トランプ大統領はさ
らに、強力な経済力によってアメリカに次ぐ軍事力を保有してい
る中国を軍事的にも追い詰め、アメリカの軍事力を抑止力として
中国の現政権を取り潰してしまおうと考えている。
                 ──日高義樹著/悟空出版
『2020年「習近平」の終焉/アメリカは中国を本気で潰す』
─────────────────────────────
 日高義樹氏の指摘で重要なのは「関税などの経済攻勢によって
中国を財政的に追い詰める」ということです。すなわち、中国の
経済・財政事情はきわめて深刻であり、ここを衝くことが中国の
勢いを封ずることになるという考え方です。経済・財政事情こそ
中国のアキレス腱です。現在トランプ政権は、関税を使い、的を
絞って、この一点を攻撃しているのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/081]

≪画像および関連情報≫
 ●「中国、約束破った」報告受けトランプ氏激怒
  ───────────────────────────
   【ワシントン=塩原永久】トランプ米大統領は5日、中国
  からの輸入品2千億ドル(約22兆円)分に上乗せした10
  %の関税を、10日から25%に引き上げるとツイッターで
  表明した。米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表
  は、6日、貿易協議で中国が構造改革の約束を「撤回した」
  と非難し、関税引き上げを8日にも正式発表すると明らかに
  した。貿易摩擦の解消を目指した米中の交渉は、瓦(が)解
  (かい)するか、土壇場で妥結するかの重大局面を迎えた。
   交渉責任者のライトハイザー氏は「協議は続ける」と述べ
  9、10両日に中国の劉鶴副首相が率いる交渉団が訪米する
  との見通しを記者団に語った。一方、中国が先週の閣僚協議
  で、約束していた改革の取り組みを後退させ、報告を受けた
  トランプ氏が、関税強化を決断したとの見方を示した。ロイ
  ター通信が報じた。米ブルームバーグ通信によると、ライト
  ハイザー氏が先週北京で協議した際、中国側が外国企業への
  技術移転強要を是正する法整備の約束を撤回。報告を受けた
  トランプ氏は激怒した。ライトハイザー氏によると、10日
  の午前零時過ぎに、2千億ドル分への関税率を25%に上げ
  る。トランプ氏は6日にも、巨額の対中貿易赤字は「これ以
  上、認められない」とツイッターに投稿した。同氏は5日の
  投稿で「中国との協議は続いているが(進展が)遅すぎる」
  と述べ、不満を表明した。    https://bit.ly/2WzQWEk
  ───────────────────────────

「関税引き上げる」と宣言するトランプ大統領.jpg
「関税引き上げる」と宣言するトランプ大統領


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2019年05月10日

●「中国はミンスキーモーメント状態」(EJ第5001号)

 遠藤誉氏の本を読むと、中国の宇宙技術は既に米国を超えてお
り、このまま推移すると、「中国製造2025」は目標通り実現
し、今後中国は、これまで絶対磐石ともいえる存在の米国の安全
保障上の地位を脅かす存在になることがよくわかります。これは
西側自由諸国にとって脅威であり、とくに東アジアに位置する日
本にとって中国は、最大の脅威になります。
 どうして中国の技術力は向上したのでしょうか。
 千人計画、万人計画などによるに優れた人材の結集、必要な機
材の購入、豊富な研究開発費の投入、ネットを通じての機密情報
の窃取など──いずれも膨大なカネがかかる。しかし、中国は世
界第2位の経済大国であり、しかも社会主義国、トップの判断で
カネはいくらでも投入できるのです。これらを総合すれば、技術
力は向上できて当然といえます。
 しかし、その肝心な経済・財政の事情は、本当のところどうな
のでしょうか。
 これまで、中国を論ずる多くの書籍では、「中国経済は近い将
来破綻する」というトーンのものが多いのですが、当の中国は、
一向に破綻しないでいます。どうなっているのでしょうか。
 2018年の中国の経済事情について、中国事情に詳しい福島
香織氏は、中国国民が切実に感ずるレベルの厳しさであると指摘
して、次のように述べています。
─────────────────────────────
 2018年の中国経済を概観すると、経済鈍化は庶民が肌身で
切実に感じるレベルである。党大会後から始まった債務圧縮政策
は中国の雇用を支えてきた民営中小零細企業を直撃、報道ベース
でざっくり500万件が倒産し200万人が路頭に迷い、740
万人の出稼ぎ者が都市部から農村に戻った。その原因を習近平路
線にあるとする声は党内でも大きい。習近平の政策の一番強烈な
ところは「習近平を核心とする党中央」が一切を指導する独裁路
線であり、株式市場も為替市場も民営企業も債務も、党(習近平
の意向)が完璧にコントロールしてやろう、という点だ。そんな
ものを完璧にコントロールできる天才的指導者などいるか、とい
う話だ。これはケ小平の改革開放路線(資本主義を経済の手段と
して容認し、経済活動については政治的制約を極限まで減らし、
結果的に豊かになった企業家および中間層を党に取り込むことで
共産党の権力を強くする)とは真逆。だから、習近平路線の呼び
名は「逆走路線」あるいは「改毛超ケ」(毛沢東のやり方を改良
してケ小平を超越する)と表現される。    ──福島香織氏
                  https://bit.ly/2H3P4gf
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 この福島氏の記述によると、昨今の中国の経済事情は相当深刻
の度を増しています。それに加えて、製造業の高度化を推進する
「中国製造2025」や、国内余剰生産などの矛盾を国外に移転
し、解決しようとする「一帯一路」という戦略が覇権台頭主義と
して警戒され、米国から貿易戦争を仕掛けられます。それによっ
て、外資引き上げが加速し、経済は急減速しています。人民元は
急落し、不動産バブル、地方債務は、まさにはじける寸前の状態
になっています。
 2017年の暮れ頃から、中国の金融官僚たちは「ミンスキー
・モーメント」という言葉を口にするようになったのです。これ
は、何を意味する言葉でしょうか。
 バブル──バブル的な信用(債務)に支えられている経済にお
いて、長く隠れていたリスクが突然顕在化し、これに慌てふため
いた投資家たちによる資産の投げ売りが起きる──まさにその瞬
間のことを「ミンスキー・モーメント(ミンスキーの瞬間)」と
いいます。バブルがはじけるときの瞬間のことです。サブプライ
ムショックでは、これが起きたのです。
 ちなみに、ミンスキーというのは、米国の経済学者ハイマン・
ミンスキーの名前にちなんだもので、サブプライム・ショックは
「ミンスキー・クライシス」と呼ばれることもあります。
 バブルというものは、必ずはじけるものなのです。それが経済
の原則です。2015年7月に中国の株式バブルが崩壊したので
すが、中国政府は「サーキットブレーカー制度」を発動させるな
どして、株式市場をクローズし、はじけるのを抑えたのです。こ
れがよくないのです。
 もし、流れに任せてバブルをはじけさせ、リセッション(景気
後退)に突入すればよかったのですが、人為的にコントロールし
て抑えてしまったのです。しかし、何度もはじけようとするので
中国当局は、そのつど株価維持政策を行ったり、為替介入をした
りして凌いできていますが、そろそろ限界に達するはずです。
 先日、ジュンク堂書店に行ったとき、中国の経済の現況を探る
本が複数出版されており、購入して読んでみると、いずれもリア
リティーがあります。中国が今後どうなっていくのかを探るのに
役に立ちそうです。そこで、このテーマは今回をもって終了し、
来週の13日から、中国の経済の状況を追跡する新しいテーマに
挑戦することにします。
 既に何度も書いているように、中国──中華人民共和国はきわ
めて異常な国家です。建国は1949年ですが、中国人民の国家
ではなく、中国共産党の国家です。トップの習近平は、中華人民
共和国の国家主席ですが、同時に中国共産党の総書記も務めてい
ます。この中国共産党総書記は、中国国家主席の上に立つ存在な
のです。すべてに国家よりも中国共産党が優先するのです。
 中国の軍隊は「中国人民解放軍」といいますが、これは中国と
いう国の軍隊、すなわち国軍ではなく、中国共産党を守る軍隊な
のです。あの天安門事件のとき、中国人民解放軍は、中国人民に
発砲しましたが、これは中国共産党が危なくなったので、それを
守るために共産党の軍隊が発砲したのです。
 このように中国は非常に異常な国であるといえます。いま、こ
の国の経済は大きな危機に瀕しています。
       ──[米中ロ覇権争いの行方/082/最終回]

≪画像および関連情報≫
 ●成長率が鈍化した中国経済、実は「40年前の日本」と同じ
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   中国国家統計局は2019年1月21日、2018年の国
  内総生産(GDP)を発表した。物価の変動を除いた実質成
  長率はプラス6・6%となり、2017年の成長率(6・8
  %)を0・2ポイント下回った。中国の成長率は2000年
  以降、8%を超える成長が続き、一時は10%を突破してい
  たが、このところ成長鈍化が鮮明になっている。
   2018年については、米国と貿易戦争が勃発したことで
  輸出が低迷したほか、政府が進める債務削減策によって公共
  事業が大幅に縮小し、これにともなって全体の成長率も低下
  した。中国のGDP統計は、日本や米国と異なり、生産面か
  らの推計が中心となっている。支出面からの比較が難しく、
  業界ごとの成長率で間接的に状況を把握するしかない。
   製造業による生産は、プラス6・2%となっており、20
  17年を下回った。建設は以前から4%台の成長にとどまっ
  ており、全体より低く推移している。製造業の多くは輸出に
  依存している可能性が高いので、成長減速の主な原因は米中
  貿易戦争である可能性が高い。
   貿易統計もそれを裏付けている。中国の2018年12月
  におけるドルベースの輸出額(ドルベース)は2213億ド
  ル(24兆1200億円)と前年同月比で4・4%のマイナ
  スとなった。米国向け輸出が大きく減ったことで輸出全体が
  低迷した。           https://bit.ly/2V8C8uP
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ハイマン・ミンスキー氏.jpg
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする