2019年01月04日

●「キーパーツは半導体の生産と供給」(EJ第4920号)

 このEJは、2019年最初のEJになります。EJを書き始
めて、ちょうど22年目にあたる1月4日ですが、今日は、20
19年の最初のテーマを決める日です。このテーマ設定に関して
少し書くことにします。21年間もEJを書いてきて、EJその
ものについて書くことは、ほとんどなかったからです。正月明け
の1月4日なら、こういう書き方を許していただけるのではない
かと、考えた次第です。
 昨年暮れに13回ですが、「フリーテーマ」でEJを書いてみ
ました。実はEJは、もともと500号ぐらいまではフリーテー
マで(テーマなし)書いていたのです。ところが読者から「資料
として残したいので、テーマを付けて欲しい」という要望があり
それ以降、現在のように、テーマごとの連載になったのです。
 フリーテーマの方が、書く方としては、その方がラクなのです
が、何しろデイリーですから、必ずネタがなくなります。そうし
てできるものは、新聞や週刊誌、とくに夕刊紙と似たような内容
にしかならないのです。それに報道が仕事ではないのですから、
プロに勝てるはずがありません。
 そして、フリーテーマでは、何よりも、それが資料として残し
にくいことです。ところが、最近になって、EJをテーマごとに
製本し、冊子化する読者が出てきたのです。そういう読者が何人
かおられることは、以前から承知しておりましたが、昨年暮れに
「日本航空123便墜落の真相」を冊子化している読者から、そ
の冊子をいただきましたので、添付ファイルにしてあります。こ
れは、私にとって大変光栄であり、ありがたいことです。
 そもそも私が、EJを発刊しようと考えた動機は「日刊もの」
を書いてみたいと考えたからです。私は、書籍を発刊したことも
月刊誌の連載を書いたことも、週刊誌の連載の経験もあります。
現在でも業界紙の週刊連載を書いています。しかし、日刊連載だ
けはやったことがなかったのです。日刊なら、詳しく書くことが
できるという思いからです。
 EJは、ニュース性のあるテーマを選んでいます。ニュースを
追っていると、そのウラにとんでもない事実が隠されていること
がしばしばあります。EJは、それを詳しく掘り下げ、追及して
いるつもりです。
 ひとつ例として最近のニュースを取り上げます。現在、日本と
韓国が、いろいろな問題でモメています。日本の哨戒機が韓国の
駆逐艦から、火器管制レーダーを照射された事件は、お互いの主
張がぶつかり合い、遂に年越しをしてしまいました。事実は明白
であるのに、韓国側が猛烈に反論してきています。
 この事件につき、ツイッターのフォロワーから、「カイカイ反
応通信」というサイトを教えていただきました。これは、韓国の
ネットユーザーの反応を紹介するサイトです。そこには、次の趣
旨のことが書かれているので、要約します。
─────────────────────────────
 照射事件が起きたのは、韓国のEEZと日本のEEZがぶつか
る日韓の中間水域でのことです。ここは「大和堆」と呼ばれる海
域にも近く、北朝鮮の船舶が頻繁に出没するので、海上自衛隊は
北朝鮮による違法積み替えが行われる可能性があるとして、普段
から多くの哨戒機を送り込んでいたのです。
 ここで、韓国の船舶と北朝鮮の船舶との間で違法積み替えが行
われていたというのです。韓国の駆逐艦は、その発覚を防ぐため
数10メートルの距離で警護活動を行っていたと思われます。
 そこに海上自衛隊の哨戒機がやってきたのです。哨戒機はレー
ダーで2隻の船が並んでいるのを探知し、確認のため、接近した
のです。突然出現した海自の哨戒機に慌てた韓国の駆逐艦は、事
実を知られるのを恐れ、哨戒機に火器管制レーダーを照射したの
です。そうすれば、哨戒機が回避行動を取り、現場から離脱する
と考えたからです。その間に積み替えをしていた2隻の船舶は逃
走したのです。           https://bit.ly/2s71Nrm
─────────────────────────────
 要するに、韓国は、軍艦の警護の下に韓国船舶と北朝鮮船舶と
の積み荷交換をしていたことになります。北朝鮮船舶を救助する
ためというのはウソということになります。韓国が、日本の哨戒
機に火器管制レーダーを照射するという危険な行為を行ってまで
隠したかったのは違法積み荷交換の事実です。
 おそらくこのことは日米ともに知っていると思われます。とく
に韓国は、日本だけでなく、米国ともモメでおり、なかでも文在
寅大統領の過度な北朝鮮への肩入れには相当ハラを立てているこ
とは確かです。したがって韓国は日本へ無理な反論をして、この
事件を取り繕っているというのです。
 もちろんこれが真実であるかどうかはわかりませんが、最近は
国際情勢が複雑化して、国内問題でも国外の問題と密接に結びつ
いていることが多いです。とくに日本にとって強い影響のある国
は、アメリカ、中国、ロシアです。そこで、次のテーマでしばら
く書いていくことにします。
─────────────────────────────
  米中ロ、とくに米中の覇権争いは今後どうなっていくか
 ──中国は技術面で米国を追い抜くことはできるか ──
─────────────────────────────
 現在、既に起きていて、激しさを増しつつある米中貿易戦争が
どうなるかは、世界経済にとっては当然のことですが、日本にも
大きく影響します。日本にとっては早期に決着しない方がプラス
かもしれません。いずれにしても、韓国はこれは期限である2月
中にはとても決着できる問題ではないといえます。
 これを左右するのは、キーパーツである半導体の生産供給競争
です。これについては米国はもちろん世界一ですが、かなり中国
に追い込まれているといえます。もし、この分野で米国が敗れる
と、米国は、将来宇宙での覇権を失う恐れがあります。そうはさ
せないとして米国がいま起こしているのが貿易戦争なのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/001]

≪画像および関連情報≫
 ●レーダー照射:韓国軍に北の工作の影響はないのか
  ───────────────────────────
   防衛省は12月28日、韓国海軍の火器管制レーダーの照
  射問題でビデオ映像(約13分間の映像)を公開した。この
  映像に北朝鮮漁船と見られる小船がハッキリ写っている。こ
  の小船はいったい何をしていたのか。なぜ、ここにいたのだ
  ろうか。
   映像の場所は能登半島沖の大和堆(やまとたい)と呼ばれ
  る日本のEEZ(排他的経済水域)である。ここに、北朝鮮
  漁船が普段から頻繁にやって来て、イカなどの密漁をしてい
  ることで知られている。韓国が説明するように、仮に、映像
  に映っている北朝鮮漁船と見られる小船がそのような密漁船
  であったとしても、なぜ、韓国の駆逐艦や警備救難艦が物々
  しく、日本のEEZに出動して、遭難救護にあたらなければ
  ならないのか。当日、天候は良好で、波も穏やかである。漁
  船が遭難するような状況ではない。北朝鮮漁船が日本のEE
  Zに入り、遭難したならば、日本に通報し、日本の救援を求
  めるべきである。
   瀬取りをしていたという見方もあるが、わざわざ日本のE
  EZにまで来て、瀬取りをするだろうか。韓国と北朝鮮が上
  海沖まで遠出をして、中国の影響圏で、瀬取りをしているこ
  とは確認されているが、日本のEEZで瀬取りを行うメリッ
  トはないように思う。      https://bit.ly/2QiLy4a
  ───────────────────────────

EJの冊子化.jpg
EJの冊子化

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2019年01月07日

●「中国本には2つの種類が存在する」(EJ第4921号)

 年末から2019年の年始にかけて、米中が台湾をめぐって、
激しくぶつかっています。
 12月31日のことです。トランプ大統領は、アジア諸国との
安全保障や経済面の包括的な協力強化を盛り込んだ「アジア再保
証推進法」に署名し、新法を成立させています。この法律には、
台湾への防衛装備品の売却促進やインド太平洋地域での定期的な
航行の自由作戦が盛り込まれており、明らかに中国を強く牽制す
る内容になっています。
 これに対して、中国の習近平主席は、1月2日、台湾に対して
硬軟を織り交ぜた5つの提案をしています。その3項目目に次の
記述があります。
─────────────────────────────
 B「1つの中国」原則を堅持し、台湾独立には絶対反対。武
  力使用の選択肢も放棄しない。
             ──習近平/台湾への5提案より
─────────────────────────────
 これは、台湾に向けたものであると同時に、米国を牽制してい
ます。中国は、台湾での昨年11月の統一地方選で、独立志向を
持つ民進党が大敗したことを受けて、台湾に対して実利を強調す
る「ソフト路線」を展開することで、「親中」世論を台湾に拡大
させることを狙っています。これに対して、台湾の蔡英文総統は
次のように強く反発しています。
─────────────────────────────
 台湾は一国二制度を絶対に受け入れない。中台交流推進の条件
として、台湾2300万人の人民が、自由と民主主義を堅持して
いることを尊重すべきである。        ──蔡英文総統
            ──2019年1月3日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 EJでは、2回にわたって中国をテーマにして書いています。
2013年と2017年にです。
─────────────────────────────
                 新中国論/76回
    2013年01月04日/EJ第3503号〜
         米中戦争の可能性を探る/123回
      2017年03月11日/EJ第4431
─────────────────────────────
 実はこのとき痛感したことがあります。中国について本を出版
している人はたくさんいますが、次の2種類に大別できます。
─────────────────────────────
    1.米国を中心とする西側から中国を論じる著者
    2.中国を中心に西側、とくに米国を論じる著者
─────────────────────────────
 日本で発刊される中国本は圧倒的に「1」が多いのです。しか
し、この手の本を読むと、中国観を誤る恐れがあります。なぜか
というと、日本人の反中・嫌中意識は80%を超えていて、中国
が米国を超えようとしていることを素直に認めず、結局、最後は
米国が勝つということを内心期待して、「1」の本を読む人が多
いからです。したがって、「1」の本の著者は、どうしても話を
読者の期待する方向に合わせようとする傾向があります。つまり
一定のバイアスがかかるのです。
 一方、中国内部の真の情報は、内部に協力者がいないと、なか
なか入手できないものです。その協力者は、中国共産党の序列で
いうと相当上の人とつながっており、そこから情報を入手してい
る関係上、著者は中国にとって真の不利益になることは発言でき
ないし、書けないのです。これらの人々は「中国ウォッチャー」
といわれる人たちです。
 したがって、どちらの中国本を読むとしても、それぞれのバア
イアスを考慮して読まないと、中国観を誤ってしまいます。最近
発売されている中国に関する新刊書には、まさに上記の「1」と
「2」に該当する次の2つの本があります。
─────────────────────────────
 ◎「1」に属する本
                       日高義樹著
       「アメリカに敗れ去る中国/安倍外交の危機」
         徳間書店刊/2018年11月30日発刊
 ◎「2」に属する本
                       遠藤 誉著
              「『中国製造2025』の衝撃
          /習近平はいま何を目論んでいるのか」
           PHP/2019年01月11日発刊
─────────────────────────────
 「1」の著者は、日高義樹氏です。
 1959年にNHKに入局し、NHK外信部、ニューヨーク支
局長、ワシントン支局長、米国総局長を歴任。その後、ハーバー
ド大学客員教授に就任、現在はハドソン研究所主席研究員として
主として日米関係の将来の調査、研究にあたっている人物です。
つまり、米国側から見た中国分析の第1人者です。
 「2」の著者は、遠藤誉氏です。
 遠藤誉氏は、中国吉林省長春生まれです。国共内戦/蒋介石率
いる国民革命軍と、中国共産党率いる中国工農紅軍との間で行わ
れた内戦を経験し、1953年に日本に帰国します。
 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、そして
理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員、教授などを
歴任し、現在では、中国分析の第一人者といわれています。
 まさに真逆です。日高義樹氏は、米国の保守派のシンクタンク
の首席研究員、遠藤誉氏は、中国社会科学院社会学研究所客員研
究員です。中国社会科学院は、中国の哲学及び社会科学研究の最
高学術機構であり、総合的な研究センターです。当然、今後の中
国の覇権の行方についても2つの本で違ってきています。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/002]

≪画像および関連情報≫
 ●米中競争の行方と日本の役割
  ───────────────────────────
   12月1日、ブエノスアイレスG20に合わせて開催され
  た米中首脳会談は決裂を回避し、米中それぞれが外交的な勝
  利を宣言する結末となった。2月末まで90日間行われる交
  渉で合意点を拡大できるかが鍵となるが、米中貿易戦争はつ
  かの間の小休止を得ることになった。アメリカによる対中関
  税の「第4弾」は回避され、「第3弾」に含まれていた追加
  関税(19年1月から)の発動も当面猶予された。
   両国は構造的な対立局面に入っており、アメリカは中国と
  の競争を前面に据えた政策を修正しないとみる向きが強い。
  会談直後のタイミングでのファーウェイ最高幹部の逮捕も、
  そのような見通しに説得力を持たせている。つまり、小休止
  は休戦に過ぎないということだが、その背景にはアメリカの
  中国認識の悪化も大きい。
   中間選挙、アジア歴訪を前にマイク・ペンス副大統領がハ
  ドソン研究所で行った演説(18年10月4日)は、多面に
  わたり中国の行動を批判しており、今年に入り(特に初夏に
  かけて)強硬化の一途をたどったアメリカの対中認識の悪化
  を総括するような内容であった。ペンス氏は、「中国は政府
  を挙げて、政治・経済・軍事的な手段、さらにはプロパガン
  ダまで活用して米国に対する影響力を広げ、利益をかすめ取
  ろうとしています」と述べた上で、中国が投げかける問題は
  貿易赤字だけでは決してなく、アメリカからの技術窃取、安
  全保障、信仰の自由、さらには民主主義や国際秩序のあり方
  への挑戦であると、逐一具体的な例をあげて、40分の演説
  時間の多くを割いて中国を叩き続けたのである。
                  https://bit.ly/2FaZ2gv
  ───────────────────────────

日高義樹氏と遠藤誉氏.jpg
日高義樹氏と遠藤誉氏
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2019年01月08日

●「『2025』は半導体制覇の戦略」(EJ第4922号)

 米中関係で現在問題になっているものに、中国が2015年に
打ち出した「中国製造2025」があります。これについて、日
高義樹氏と遠藤誉氏のコメントを両氏の書籍から、抜き出してみ
ると、かなり違うのです。
 はじめに、日高義樹氏のコメントから検証します。
─────────────────────────────
 中国は数の上ではいまや、アメリカやロシアに匹敵する兵器を
保有している。それにもかかわらず、なぜ依然としてして戦いの
技術の面で遅れているのか。その最大の理由はすでに述べたよう
に、中国が自ら技術を開発するのではなく、常に外国から盗んで
いるからである。
 中国は手短かに先進諸国に追いつこうと、兵器類を外国から買
い集めたり、技術を盗んで製造したりしてきた。莫大な貿易黒字
で豊富な資金があり、共産主義による専制国家なので、そうした
安易な行動を取ることが容易だった。かくして中国は戦いに勝つ
ための技術を自ら開発する努力を怠った。その段階で、その兵器
をいかに使うかという努力も、なおざりにされてしまったのであ
る。したがって、アメリカやロシアに匹敵する軍事力を保有して
いても、その内容が空虚なのである。(一部略)
 習近平が「チャイナ・メイド2025」という名の計画のもと
で、人工頭脳の開発に全力をあげているのは、中国の軍事大国と
しての能力を高めるためであり、アメリカに勝つためである。こ
れに対して当然のことながらトランプ大統領は全力をあげて、習
近平の計画を阻止しようとしている。     ──日高義樹著
        「アメリカに敗れ去る中国/安倍外交の危機」
                        徳間書店刊
─────────────────────────────
 中国が「中国製造2025」を打ち出したときは、オバマ政権
でしたが、これに対して何の手も打っていないのです。歯牙にも
かけなかったというべきかもしれません。オバマ大統領の出身母
体である民主党は、どちらかというと中国に甘いというか寛容で
あり、クリントン政権にいたっては、中国に対して米国の門戸を
大きく開き、WTOに加盟させたのです。しかし、これが現在の
中国を作り上げてしまったといえます。
 中国は少しでも早く米国に追いつこうと、まず、圧倒的な数の
国民を持つ経済的優位性を生かして経済を飛躍的に伸長させ、日
本を抜いて米国に次ぐ世界第2位の経済大国になります。そして
それから得られる潤沢な資金を使って、カネで兵器を買い漁り、
多数の留学生を米国をはじめとする先進国に送り込んで技術を習
得させたのです。さらにカネで買えない技術に関しては、ハイテ
ク手段を縦横に駆使して技術を盗んだりして、現在、米国やロシ
アに匹敵する数の軍備を持つにいたっています。
 しかし、日高義樹氏は、いかに数を揃えていても、自ら開発し
たものではないだけに、それを使いこなせるレベルには到底達し
ていないといいます。確かにそれはその通りです。したがって、
「中国製造2025」にしても、同様に当初米国は、それを何ら
脅威には感じていなかったのです。AI(人工知能)にしても、
現時点では、米国のレベルの方が圧倒的に高く、そう簡単に追い
つけるものではない──これが、日高氏の論調です。日高氏は本
のなかで、「失敗したチャイナ・メイド2025」というタイト
ルをつけてこのように論じています。
 これに対して、遠藤誉氏は「中国製造2025」は、ハイテク
製品のキーパーツにおいて米国を抜く計画であることを明確にし
て、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国は、2015年5月に「中国製造(メイド・イン・チャイ
ナ)2025」という国家戦略を発布し、2025年までに、ハ
イテク製品のキー・パーツ(コアとなる構成部品/主として半導
体)の70%を「メイド・イン・チャイナ」にして自給自足する
と宣言した。同時に有人宇宙飛行や月面探査プロジェクトなどを
推進し、完成に近づけることも盛り込まれている。
 アメリカや日本を中心として、運営されている国際宇宙ステー
ションは、2024年あたりに使用期限切れとなることを見込ん
で、中国が中国独自の宇宙ステーションを2022年までには正
常稼動できるようにする国家戦略が「2025」に潜んでいるの
である。(一部略)
 中国は今、トランプが仕掛けてきた米中貿易戦争は、「202
5」を破壊させるためであり、中国の特色ある社会主義国家を崩
壊へと導くためであると解釈するに至っている。だから一歩も引
かない。「2025」はトランプの攻撃より、今や社会主義体制
が維持できるか否かのデットライン化してしまったのだ。
   ──遠藤 誉著/PHP/「『中国製造2025』の衝撃
           /習近平はいま何を目論んでいるのか」
─────────────────────────────
 遠藤氏は、中国が10年計画で挑んでいるのは、ハイテク製品
のキー・パーツ(つまり、半導体)の70%を「メイド・イン・
チャイナ」にするというのです。中国は、既に米国が支配してい
る分野で米国に勝つのは容易ではないことはよく理解しており、
米国があまり力を入れていない分野を支配することを目指してい
ます。それが「宇宙」であり、それには半導体が不可欠です。
 中国は、2009年に「宇宙計画2050」を発布しましたが
米国は大きな反応を示していないのです。さらに中国は2016
年に「宇宙計画白書」を発表していますが、「2025」と歩調
を合わせて2022年までに中国独自の宇宙ステーションを正常
に稼働させようとしているのです。
 2014年4月に習近平国家主席は、中国人民解放軍の空軍に
対して、「空天一体化」を指示し、「強軍の夢」について語って
います。ちなみに「天」は中国語では「宇宙」、「空天」とは、
空軍と宇宙の一体化──つまり、宇宙軍を意味しています。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/003]

≪画像および関連情報≫
 ●「宇宙軍創設」トランプの真意は中国への宣戦布告
  ───────────────────────────
   トランプ米大統領が2018年6月、宇宙軍創設の指示を
  出した。マスコミはトランプの発言をとかくフェイクと見な
  したがる。そこで、この発言もトランプ一流の大ぼらかのよ
  うな報道ぶりだった。
   もっとも、マスコミの責任ばかりとは言えない。米国は、
  1980年代、当時のレーガン大統領がスターウォーズ計画
  を発表した。当時から人気のSF映画の題名そのままに、レ
  ーザー砲で旧ソ連の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を破壊
  する画像がニュースなどで繰り返し流されたものだった。
   結局、米ソ冷戦の終結で、この計画も沙汰止(さたや)み
  になった。ただし、ここで開発された技術が現在のミサイル
  防衛に生かされているので、レーガンの大ぼらだったという
  のは言い過ぎであろう。
   とはいえ、発表当初から膨大な予算を必要とすることから
  実現を疑問視する声が絶えず、ICBMをレーザーで破壊す
  る画像が文字通り絵に描いた餅に終わったのは事実である。
   従ってトランプの宇宙軍創設も当初マスコミは大統領の大
  ぼらと見なしたわけだが、8月にペンス副大統領が具体的な
  計画を打ち出し、にわかに現実性を帯び始めた。なにしろペ
  ンスは誠実な人柄で知られ、マスコミからも評価が高いから
  だ。ペンスは「2020年までに宇宙軍を設置する」と述べ
  それまでの当面の措置として宇宙担当の国防次官補を新たに
  任命し、統合宇宙司令部、宇宙作戦部隊、宇宙開発局を設置
  すると発表した。        https://bit.ly/2SCDkWL
  ───────────────────────────

中国/「空天一体」.jpg
中国/「空天一体」
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2019年01月09日

●「なぜ中国に貿易戦争を仕掛けたか」(EJ第4923号)

 はじめに日高義樹氏の本を中心に中国の事情について書いてい
くことにします。私は、日高義樹氏の著作はほとんど持っており
読んでいますし、日高氏の主宰するテレビ番組も欠かさず、観て
いたほどの、いわゆる日高ファンです。当然のその主張は、EJ
にも反映されています。
 日高義樹氏が所属し首席研究員を務めるハドソン研究所という
のは、米国の保守派のシンクタンクで、1961年に未来学者の
ハーマン・カーン氏によって設立されています。財源は米政府の
委託に依存していますので、米政府寄りの姿勢が強く、米政府の
意向が反映されます。
 ハーマン・カーンは、1961年にランド研究所から独立して
「ハドソン研究所」を設立し、所長を務めています。1970年
には「超大国日本の挑戦」(邦訳:ダイヤモンド社刊)を著し、
「21世紀は日本の世紀である」と予測した人です。ちなみに、
よく似ている「ジャパン・アズ・ナンバーワン」は、社会学者エ
ズラ・ヴォーゲルによる1979年の著書です。
 2018年10月4日、ペンス副大統領は中国に対して、まる
で宣戦布告するような激しい内容の演説を行いましたが、このハ
ドソン研究所での演説だったのです。
 日高義樹氏は、2016年の米大統領選挙において、既に7月
の時点でトランプ大統領の当選を予測しています。その分析力は
確かなものです。記者の質問に答えています。
─────────────────────────────
──大統領選が大詰めになってきましたが、なぜトランプがこん
なに支持されているのでしょう。
日高:頭が良いのと戦術に優れているのではないですか。今の段
階では(インタビューは7月28日)トランプが大統領になると
思います。今一番大きな問題は移民の問題。不法移民が1500
万人もいますが、これをどうするかということについて、意見は
分かれています。共和党の政治家の多くは、金持ちから支援を受
けていますが、彼らは安い移民労働力で儲けている。しかし、安
い賃金で働く移民がいると白人の給料が上がらない。それに多く
の白人たちがすごく腹を立てています。トランプは初めからその
人たちを取り込む戦略でした。この層である国民の20%がトラ
ンプについたのです。一方のヒラリーは人道的な解決法を模索し
ていますからね。この移民問題が今度の選挙で大きな要素を占め
ていると思います。         https://bit.ly/2FbaARO
─────────────────────────────
 「中国は米国の技術を盗んでいる」──これは米国による中国
に対する強い不満の表明です。トランプ政権になってから米国は
それを言葉を選ばずストレートで明言しています。
 ペンス副大統領は、昨年10月、ハドソン研究所での演説で、
次のように述べています。そこには、中国に対する強い怒りが込
められているように感じます。
─────────────────────────────
 過去17年間で、中国のGDPは9倍になり、世界第2の経済
大国になった。この成功の大部分がアメリカの中国投資によって
もたらされた。また、中国共産党は、ほんの数例を挙げるだけで
も、関税、割り当て、為替操作、強制的な技術移転、知的財産窃
盗、およびキャンディーのように与えられる工場への補助金を含
む自由かつ公平な貿易と矛盾する政策の武器を使用してきた。
 現在中国は、「中国製造2025」計画を通じて、ロボット工
学、バイオテクノロジー、人工知能など、世界で最先端の産業の
90%を管理することを目指している。  ──ペンス副大統領
                  https://bit.ly/2C1NGdc
─────────────────────────────
 「強制的技術移転」「知的財産窃盗」など、非常に強い言葉で
す。とくに「窃盗」という言葉などは、他国を侮辱することにな
るので、普通は使わないものです。そこまでいわれながら、中国
は米国に対して具体的な行動を起こしていないのです。「勝てな
い相手とは喧嘩しない」という姿勢です。
 そもそも中国を甘やかしたのは、クリントン、ブッシュ、オバ
マの24年間です。この3代の大統領は、ビジネス経験がほとん
どなく、多くの面においてそういうことに強い官僚の力に大きく
依存したのです。
 米国では「スイングドア」という言葉がよく使われます。日本
の「天下り」に該当する言葉ですが、日本の官僚は天下りすると
元の政治の世界には戻れませんが、米国では、ビジネスから政治
その逆の政治からビジネス、どちらからの出入りも自由なのであ
り、だからスイングトアといわれるのです。
 とくにひどかったのは、オバマ政権の8年間です。この大統領
は、完全に習近平主席に取り込まれ、米国から見ると、明らかに
不公平な米中関係ができてしまったのです。
 中国は民主主義国家ではなく、全体主義国家であり、経済の中
心は国営企業です。その国営企業に膨大な政治資金をふんだんに
導入し、安い製品を作らせ、世界中に輸出しています。これは、
明らかに経済的不正行為です。
 それに加えて、中国に進出してくる米国の企業に対して、中国
企業との合弁活動を強制しています。これは、法律でそのように
定められており、中国への進出企業は、技術を供与せざるを得な
い仕組みになっています。これが「強制的技術移転」です。
 それに加えて、中国は米国に多くの産業スパイを送り込み、先
端技術を盗もうとしています。その他、ハイテク技術を駆使して
技術を盗もうとしていのす。
 ところが、中国にとっては、想像だにしなかったトランプ政権
が誕生し、これまでの目論見が狂ってきています。現在、トラン
プ大統領の周りを固める側近スタッフは、すべてコテコテの対中
強硬派として知られる人たちです。その当然の帰結として、米中
貿易戦争がはじまったのです。この戦争で、米国は一歩も引くつ
もりはないのです。  ──[米中ロ覇権争いの行方/004]

≪画像および関連情報≫
 ●中国助ける時代「終わった」 融和路線転換
  ───────────────────────────
   ペンス米副大統領による中国政策に関する演説が米中関係
  に波紋を広げている。中国による知的財産権の侵害や軍事的
  拡張、米国の内政への干渉を公然と非難、両大国が覇権を争
  う対決の時代に入ったことを印象づけた。チャーチル英元首
  相がソ連を批判した「鉄のカーテン」演説に匹敵し、「新冷
  戦」の始まりを告げたとの見方も外交専門家に浸透しつつあ
  る。2018年10月4日、ペンス氏が保守系シンクタンク
  ハドソン研究所で披露した演説は経済問題に限らず、政治、
  軍事、人権問題まで多岐に及び、トランプ政権の対中政策を
  体系立てて示す包括的な内容となった。
   「北京は『改革開放』とリップサービスを続けるが、ケ小
  平氏の看板政策も今ではむなしく響く」経済的に豊かになれ
  ば国民は政治的な自由を求め、やがて中国にも民主主義が広
  がる――。米国の歴代政権はこうした立場から「関与(エン
  ゲージメント)政策」を推進し、2001年には中国の世界
  貿易機関(WTO)加盟も容認した。だが世界第2の経済大
  国となった後も、中国で政治的自由化が進む気配はない。
   むしろ習近平(シー・ジンピン)指導部の下で統制は強ま
  り、民主化の火は消えかけている。台湾の外交的孤立を図る
  など、自らの戦略的利益を追求する姿勢も強まる一方だ。ペ
  ンス氏は、米国が中国に手をさしのべてきた日々は「もう終
  わった」と断じた。    https://s.nikkei.com/2JvlvoG
  ───────────────────────────

中国を正面から批判するペンス米副大統領.jpg
中国を正面から批判するペンス米副大統領
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2019年01月10日

●「米国商務省が本気で調査している」(EJ第4924号)

 トランプ大統領は、何かにつけてツイートを発信しますが、そ
の内容には核心を衝く鋭いものもあります。例えば、WTOにつ
いての次のツイートです。
─────────────────────────────
 中国は、自由貿易体制を維持すると言っているが、WTOに発
展途上国と認定された立場を利用して、資本主義に反する経済活
動を行っている。国営企業を基盤にした中国の経済体制は、資本
主義の原則に違反している。    ──トランプ氏のツイート
                ──日高義樹著/徳間書店刊
        「アメリカに敗れ去る中国/安倍外交の危機」
─────────────────────────────
 トランプ米大統領は、中国が世界第2の経済大国でありながら
発展途上国と認定するWTOに強い不満を持っています。なぜな
ら、中国は、発展途上国という有利な立場で、貿易活動を行うこ
とができるので、不公平だというわけです。
 さらにトランプ大統領は、貿易上で紛争が発生したときに最終
的判断を下すWTOの上級委員会7人の委員のうち、任期切れの
香港やアフリカなどの中国寄りの3人の委員の再任に反対し、他
の委員の就任も認めないので、現在でも3人は空席のままになっ
ています。中国がアフリカをはじめとする資金援助国をそういう
委員につけるよう画策し、何でも自分たちの思う通りにことを進
めようとしており、フェアではないというわけです。
 実はトランプ大統領は一度口にしたこと(ツイッターを含む)
は、部下に命じてそれをトコトン徹底させるのです。意外にしつ
こい人なのです。大統領選挙のときから、いい続けている国境の
かべの問題で、現在も政府機関が閉鎖されていますが、トランプ
大統領は簡単には諦めないはずです。
 そういうわけで、部下の方は大変です。とくに商務省はフル回
転でいろいろな調査をやっています。トランプ政権になってから
商務省は、中国の自動車やコンピュータをはじめ、あらゆる製品
について、技術やパテントの盗用がないかどうか徹底的に調査し
ています。もし、米国の知的財産権を侵害したと認定されると、
その中国企業は米国への進出を禁止されます。米国の安全保障上
の立場を危険なものにしたと認定されるからです。
 それだけではないのです。その中国企業と取引のある他国の企
業(日本などの同盟国も含む)についても、犯罪行為に加担した
とみなされ、制裁を受けることになるからです。
 ある米商務省の関係者は、中国の新幹線のことを「まるで泥棒
が盗んだ物を詰め込んだ大きな箱」と表現し、次のように述べて
います。
─────────────────────────────
 中国の科学技術と能力はアメリカや西側諸国と比べると、その
差は考えられているよりも大きい。想像以上の落差に驚いたが、
とくに目を見張ったのが、多くの製品やシステムがアメリカや日
本、西ヨーロッパから盗んだ技術で作られていることだ。
 中国の新幹線を建物に例えれば、土台をすべて盗んできた技術
と材料で作り、その上にわずかながら持っている自分たちの技術
を加えて作られている。したがって中国の新幹線は、あらゆる部
門で世界の新幹線に比べて遅れている。とくに日本やヨーロッパ
に比べて、その遅れが著しい。  ──日高義樹著/徳間書店刊
        「アメリカに敗れ去る中国/安倍外交の危機」
─────────────────────────────
 こうした商務省の調査は、「国家緊急経済防衛対策」と「対米
投資監視委員会法」に基づいて行われたものですが、商務省以外
にも、FCC/フェデラル・コミュニケーションズ・コミッショ
ン(連邦通信委員会)も並行して、中国のアリババなどのテレコ
ミュニケーション企業の調査を実施しています。
 FCCは、米国国内の放送通信事業の規制監督を行っている政
治色の強い合衆国政府の独立機関です。ちなみに、日高義樹氏は
「テレコミュニケーション企業」と表現していますが、これは、
ICT企業のことであると思われます。
 日高氏は、今や、トランプ政権は、この問題を米国の安全保障
にかかわる重大問題であるとして、自著において、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 これまでアメリカのテレコミュニケーション業界はオバマ前政
権の手厚い保護を受け、中国との関係を強め、安い中国製品を多
量に購入し、企業活動を拡大してきた。こうしたアメリカのテレ
コミュニケーション業界は当然のことながら、反トランプ勢力と
して、トランプ批判をアメリカ中に流し続けている。だがトラン
プ政権が次々に放つ厳しい規制措置によって、事態は急転換しつ
つある。アメリカ通商代表部は、2018年4月以来、中国のテ
レコミュニケーション企業の不法なオペレーションについて大が
かりな実態調査を行ってきた。その結果明らかになったのは中国
の巨大テレコミュニケーション企業アリババが、アメリカ国内で
アメリカ企業と同等の自由な活動を展開していること、そのいっ
ぽうで中国に進出しているアメリカのアマゾン・コムやマイクロ
ソフトが、中国政府から強い圧力を受け、中国企業とのベンチャ
ーを強要され、技術を奪われてきたことである。
                ──日高義樹著の前掲書より
─────────────────────────────
 これに関わる問題で現在苦境に陥っているのは、フェイスブッ
クです。フェイスブックは、中国のテレコミュニケーション企業
の華為技術(ファーウェイ)とユーザーの情報を共有していたこ
とが発覚しています。
 これはとんでもないことです。FBIによると、フェイスブッ
クは事実上中国の手先になって、米国の重要な情報を中国に流し
ているといわれても、言い訳ができない事態に陥っているといえ
ます。この問題については、下記「関連情報」参照していただき
たいと思います。   ──[米中ロ覇権争いの行方/005]

≪画像および関連情報≫
 ●崖っぷちのフェイスブック/中国企業との情報共有で
  ───────────────────────────
  [ワシントン/6日/ロイターBREAKINGVIEWS]
   米フェイスブック(FB)は、中国に関する問題で政治的
  に最悪の過ちを犯した。FBは既にロシアの米大統領選干渉
  疑惑に絡んで議会から追及されている。
   しかし中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)と
  利用者情報を共有していた事実を今まで隠していたことは、
  与野党双方の政治家を激高させるとみられ、同社の事業が制
  約を課される公算が大きい。
   FBに対する米政界の怒りは、過去1年で高まり続けてき
  た。ロシアがFBやグーグル、ツイッターといったソーシャ
  ルメディアを政治宣伝に利用していたとされる問題で、議会
  は公聴会を開いている。英データ分析会社ケンブリッジ・ア
  ナリティカがFBの利用者情報を不正入手した件では、FB
  のザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が4月に議会で
  証言した。
   しかしこれらの事案は党派性という要素が働いて状況を複
  雑化させた。ロシアの干渉はトランプ大統領陣営の追い風に
  なったとの見方があるためだ。こうした中でザッカーバーグ
  氏は不祥事に見舞われたトップとしては、ウェルズ・ファー
  ゴの元CEOのジョン・スタンプ氏よりも、かなりうまく事
  態を乗り切ってきた。      https://bit.ly/2QyZrf2
  ───────────────────────────

中国製新幹線「復興号」.jpg
中国製新幹線「復興号」
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2019年01月11日

●「選挙に使われていたFBデーター」(EJ第4925号)

 昨日のEJで、米中貿易戦争のさなかで、フェイスブックが苦
境に陥っていると書きました。フェイスブックは、GAFAの一
角を占める米国大企業の一つであり、なぜ、苦境なのかについて
ネットから情報を集めて書くことにします。
 米国のインターネット企業にとって、中国は実に魅力ある国で
あるといえます。それは何といっても約14億人という巨大な人
口を持つ国だからです。「多くの人とつながる」というのが、イ
ンターネット企業の目標であることを知るとき、中国ほどそれを
満たしてくれる市場はないのです。
 しかし、中国は民主主義国家ではなく、進出するにはさまざま
な情報統制を受け入れる必要があります。その結果、米国のイン
ターネット企業は、中国で一敗地に塗れているのです。作家で、
起業家のエミリー・パーカー氏は、ブログで次のように書き出し
ています。2016年10月19日の記事です。
─────────────────────────────
 米国のインターネット企業にとって、中国は事実上の敗北の地
だ。西洋のテック企業が中国の情報統制を緩めることを多くの人
が願った。だがそれらの企業は中国市民の発言の検閲に積極的に
参加した。ヤフーは民主化活動家に関する情報を中国当局に提供
し、活動家は投獄された。マイクロソフトはメディアの自由を求
める著名な活動家、マイケル・アンティのブログを閉鎖した。
 グーグルは中国で政治的にデリケートな検索結果を検閲した。
2006年、3社は米国議会小委員会委員長から、中国政府への
「嫌悪を催すような協力」について非難された。グーグルは中国
本土の自社検索エンジンを2010年に停止し、検閲とサイバー
セキュリティについて公式に抗議した。
 フェイスブックは、2009年から中国で規制されており、買
収した写真共有サービス、インスタグラムも2014年に規制さ
れた。かつてソーシャルネットワークの中国進出は破滅的である
か不可能だと考えられており、中国専門家の中には現在もそう信
じる人がいる。だが、フェイスブックの中国進出は今や有望に見
える。               https://bit.ly/2LWX054
─────────────────────────────
 フェイスブックが現在苦境に陥っているのは、2016年の2
つの選挙に深い関係があります。
─────────────────────────────
      1.EU離脱の可否を問う国民投票
           2016年06月23日
      2.2016年の米国の大統領選挙
           2016年11月08日
─────────────────────────────
 結論からいうと、この2つの選挙にフェイスブックは深く関与
している疑いがあるのです。もう少し正確にいうと、この2つの
選挙には、次の英国の企業が関わっています。
─────────────────────────────
  ケンブリッジ・アナリティカ/本社イギリス/ロンドン
                  Cambridge Analytica
                https://bit.ly/2C7li7R
─────────────────────────────
 ケンブリッジ・アナリティカは、一口でいうと、データマイニ
ング、データ分析を手法とする選挙コンサルティング会社です。
この企業の事務所は、英国と米国にありますが、米国の事務所に
は、ドナルド・トランプ大統領のかつての盟友スティーブン・バ
ノン氏が出入りしていたと言いわれます。役員会のメンバーでも
あったからです。
 それでは、このケンブリッジ・アナリティカとフェイスブック
は、どういう関係なのでしょうか。
 いうまでもなく、フェイスブックは、その分析すべきデータの
提供者です。これはとんでもないことです。多くの人は、フェイ
スブックのデータが流出し、マーク・ザッカーバークCEOが米
国議会に呼ばれて喚問されているということは知っているでしょ
うが、まさか2016年の2つの選挙に深く関わっていることを
知る人は少ないと思います。
 企業のデータ流出事件は、枚挙にいとまがないほど多発してい
ます。そのため、そういうことに不感症になっているユーザーは
少なくないと思います。しかし、フェイスブックのデーター流出
だけは絶対にあってはならないことだと思っています。実害があ
まりにも大きいからです。
 ちなみに私は、最初からフェイスブックをやっていませんし、
これからもやるつもりはありません。SNSでやっているのは、
ツイッターのみです。ツイッターは、2010年1月4日からば
じめており、毎日ツイートしています。ツイッターは匿名は許さ
れますが、私は実名でツイートしています。
 なぜ、フェイスブックのデータ流出が、問題なのかというと、
フェイスブックのアカウントを獲得するには、氏名、メールアド
レス、生年月日、顔写真などの多くの個人情報を登録する必要が
あるからです。公開範囲を設定した上で、電話番号や居住地も登
録している人は少なくありません。
 それは、絶対に情報が流出することはないという厳重なセキュ
リティへの信頼感があるからこそ、そうするのです。何しろフェ
イスブックは世界で16億5000万人のユーザーがいるし、日
本でも2500万人のアクティブユーザーがいるのです。私のよ
うに、ICT機器が使えるのにフェイスブックをやっていない人
を探すのが、困難なほどフェイスブックは普及しているのです。
 それでも人間のやることですから、データの流出事故は起きる
ものです。しかし、フェイスブックのデータ流出は、アクシデン
トて、起きたものではなく、フェイクブックが自ら流しているの
です。現実に米国と英国ではケンブリッジ・アナリティカによっ
て、選挙に利用されていたのです。事件の詳細は来週のEJでお
伝えします。     ──[米中ロ覇権争いの行方/006]

≪画像および関連情報≫
 ●「微博」など中国SNSから個人情報30億件流出
  ───────────────────────────
   「微博(ウェイボー)」など中国の主なSNS(会員制交
  流サイト)から、30億件もの個人情報が不正アクセスによ
  り盗まれたことが、このほど明らかになった。中国の店頭市
  場に上場するIT関連企業の実質的なトップが犯行を首謀し
  たとみられ、インターネット利用の広がる中国において「過
  去最大」の情報流出として衝撃を広げている。(フジサンケ
  イ・ビジネスアイ)
   報道によると、一連の不正アクセスは、中国のSNSユー
  ザーから自分のアカウントで身に覚えのない操作が繰り返さ
  れている、という通報が相次いだことで、浙江省のサイバー
  警察が捜査を進めて判明した。
   複数のIPアドレスを特定して調べた結果、インターネッ
  ト広告を手掛ける北京瑞智華勝科技公司など3社の介在が浮
  上。警察はこれまでに容疑者6人の身柄を拘束した。
   さらに、これら企業の実質的な経営権を持つ人物が、犯行
  を首謀していたとみて行方を追っている。不正アクセスによ
  り抜き取られた可能性のある個人情報が30億件に達したの
  は、中国のネット犯罪で「最大規模」という。被害を受けた
  のは、バイドゥ、テンセントなど、大手を含む中国のインタ
  ーネットサービス企業96社の利用者。電子商取引大手アリ
  ババのセキュリティー部門が警察の捜査に協力したという。
                  https://bit.ly/2QxPgXN
  ───────────────────────────

マーク・ザッカーバードCEO.jpg
マーク・ザッカーバードCEO
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2019年01月15日

●「フェイスブックへの重大なる疑惑」(EJ第4926号)

 先週金曜日のEJ第4925号で述べたように、ケンブリッジ
・アナリティカという英国の企業が、今後世の中を変革する可能
性のある2つの重要選挙(「EU離脱の可否を問う英国の国民投
票」と「2016年の米国の大統領選挙」)にフェイスブックの
データが不正に取得され、利用された疑惑が問題となり、フェイ
スブックが苦境に立っています。
 ケンブリッジ・アナリティカは、2018年5月2日、関連会
社とともに破産手続きを申請し、同日付ですべての業務を停止し
ています。なぜ、破産申請をしたのかについて、同社のウェブサ
イトは、次の趣旨の声明を出しています。
─────────────────────────────
 過去数ヶ月間にわたり、ケンブリッジ・アナリティカは多くの
根拠なき疑惑の的となってきた。そして、記録を訂正する努力に
もかかわらず、当社は業務について、合法のみならず政治領域、
商業領域どちらにおいても広く認められているインターネット広
告の規格に合っている商行為を中傷されてきた。
 ケンブリッジ・アナリティカは、従業員は倫理的、合法的に振
舞ってきたと揺るぎない自信を持っているが(中略)、メディア
報道の包囲攻撃は事実上全ての顧客と供給業者を離れさせた。
 その結果として、当社は事業運営の継続はもはや不可能だと判
断した。              https://bbc.in/2H9wpTw
─────────────────────────────
 ケンブリッジ・アナリティカは一体何をしたのでしようか。そ
れにフェイスブックはどのように関わったのでしょうか。
 既に述べているように、ケンブリッジ・アナリティカは、ネッ
ト上のデータを使って解析する選挙コンサルティング会社です。
2014年のことですが、フェイスブック上で、性格のタイプを
診断するアプリが開発され、ユーザーに提供されたのです。その
開発会社とケンブリッジ・アナリティカとの関係は、今のところ
わかっていません。
 このアプリは、ダウンロードして質問に答えると、その答えた
ユーザーだけでなく、その友達のデータまで収集してしまう設計
になっていたのです。元ケンブリッジ・アナリティカの社員から
の情報によると、約27万人がこのアプリを使ったことによって
米国に住む5000万人分のデータが、フェイスブック上の友達
ネットワークを通じて収集され、そのアプリの開発業者からケン
ブリッジ・アナリティカに売却されたというのです。
 問題は、このことがフェイスブックの規約に違反していないか
どうかです。
 アプリによって、フェイスブック内でデータが共有されるのは
規約で認められています。もともとフェイスブックは、閉じた情
報世界であり、その閉じた世界の中での情報の共有は違反ではな
いのです。
 しかし、それが外部に売却されたり、フェイスブックの外と共
有されることは違反になります。そういうことが発覚した場合は
収集したデータはすべて消去し、その証拠をフェイスブック社に
示すことが規約上決められています。
 この時点ではフェイスブック側に瑕疵はないようにみえます。
そもそもアプリというものは、情報の共有を求めてくるものが多
いのです。スマホにはGPSが付いているので、位置情報を持っ
ていますが、多くのアプリはその共有を求めてきます。アプリで
は、位置情報の共有がないと、本来の機能を発揮できないものが
あり、その場合、ユーザーは当然ですが、そのアプリをダウンロ
ードする以上、位置情報の共有を認めます。
 しかし、フェイスブックの場合、情報の共有の仕組みが複雑で
あり、自分ではそれとわからないまま、情報を勝手に共有されて
しまうケースが多いのです。
 今回のケースでは、外部のケンブリッジ・アナリティカにフェ
イスブックの膨大なデータが渡っています。ケンブリッジ・アナ
リティカは、データは使っていないし、収集したデータは、フェ
イスブック社の指示にしたがい、適切に消去していると主張して
いますが、その真偽は不明です。
 そもそもこの事件は、2017年5月18日に『タイム/TI
ME』誌が、2016年の米国大統領選挙におけるロシアの干渉
に関して、ケンブリッジ・アナリティカを調査しているという記
事を掲載したことによってはじまったのです。
 しかし、米国の政治学者の多くは、ケンブリッジ・アナリティ
カの「マイクロ・ターゲッティング」という手法に疑問を持って
います。これに関して、ウィキペディアは次のように述べていま
す。少し難解ですが、引用します。
─────────────────────────────
 アメリカの政治学者の多くは、ケンブリッジ・アナリティカが
「マイクロターゲッティング」と呼称する手法の投票者に対する
効果について、非常に懐疑的である。この手法「マイクロターゲ
ッティング」においては、特定のグループに分類された人々の行
動や興味・関心、意見等をデータ解析によって予見し、そこから
彼らにとって最も効果的な反応を引き出すメッセージが発信され
る。これに対して政治学者たちは、このようなデジタルデータへ
のアクセスによって得られる結果は、公表されている投票者のデ
ータから抽出される情報以上に有意味的なものではなく、また特
に投票者の意向が移り変わってゆく場合に、限定的な価値しか持
たないと反論する。従って、個人の類型を基にして政治的な価値
観を推測するのは困難であり、こういった個人の類型を基に投票
者に送信されるメッセージは、得てして標的を誤ることになりが
ちであるという。──ウィキペディア https://bit.ly/2C7li7R
─────────────────────────────
 このように見ると、フェイスブックは情報を窃取された被害者
のような立場であり、問題はないように見えます。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/007]

≪画像および関連情報≫
 ●FBのデータ不正共有疑惑「8700万人に影響」
  ───────────────────────────
   フェイスブックは、2018年4月4日、最大でフェイス
  ブック利用者8700万分のデータが、選挙コンサルティン
  グ会社の英ケンブリッジ・アナリティカにより不適切に共有
  されただろうと発表した。それまで発表していた対象利用者
  数から大幅に増加した。
   同社はBBCに、データを不正に共有された利用者のうち
  約110万人は英国からアクセスしていたと答えた。情報が
  不正使用された利用者数はこれまで、一連の疑惑を告発した
  クリストファー・ワイリー氏が示した5000万人だと言わ
  れてきた。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経
  営責任者は「明らかに、もっと対策が必要だった。これから
  進めていく」と述べた。
   記者会見の中でザッカーバーグ氏は、フェイスブックは利
  用者に道具を提供しているのであって、使い方を決める主な
  責任は利用者自身にあると、以前は考えていたと話した。し
  かし、同氏は、そのような狭い考え方は「振り返ってみると
  間違いだった」と付け加えた。
   現時点で把握している内容を踏まえれば(中略)自分たち
  の責任についてもっと幅白い視点が必要だと、我々は理解し
  ていると思う」とザッカーバーグ氏は語った。「私たちは、
  ツールを構築しているだけではなく、人がそのツールをどう
  使い、その結果どうなるかついても、全面的な責任を取る必
  要がある」           https://bbc.in/2SRCNjN
  ───────────────────────────

フェイスブック(FB)に対する疑惑.jpg
フェイスブック(FB)に対する疑惑
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2019年01月16日

●「フェイスブックは今後どうなるか」(EJ第4927号)

 およそあらゆる企業にとって、フェイスブックのユーザーデー
タがいかに貴重なものであるかわかるでしょうか。
 それは、「友達」の質が他のSNSと違うからです。フェイス
ブックの場合、ユーザーAが、ユーザーBの「友達」になる場合
は、AはBに対して「友達リクエスト」を送って、Bの承認を得
る必要があります。つまり、リアルの世界と同じように、友達に
なる場合は、相手の承諾が必要なのです。
 LINEの場合は、アドレス帳に相互に携帯電話番号が登録さ
れていれば、自動的に「友だち」になりますし、ツイッターのフ
ォロワーは相手の承諾なしにフォロワーになれます。そして、い
つでもフォローを外すことができます。つまり、フェイスブック
の「友達」とは質が異なるのです。
 ビジネスで考えてみます。商品を売る企業の立場で考えてみま
す。Aというセールスパーソンが、Bに対して、商品かサービス
を売り込み、成功したとします。この場合、企業としてはBを中
心とする人間関係をたどって、さらに商品かサービスを拡大して
売り込んでいきたいと思うものです。
 そのさい、フェイスブックの「友達」の情報が分かると、それ
は有力な見込客になります。これが商品の売り込みではなく、選
挙の投票先ということになると、条件は営業とは異なると思いま
すが、それでも「友達」は支持を拡散できる有力な拠点的存在に
なるはずです。それほど、フェイスブックの「友達」は貴重な存
在なのです。
 さて、話をフェイスブックのデータ流出事件に戻します。結局
ケンブリッジ・アナリティカに流出したデータは、8700万人
にのぼったのです。しかもその大半は、明確な同意のない「ユー
ザーの『友達』のデータ」です。その結果、マーク・ザッカーバ
ークCEOは、米議会と欧州議会での証言を迫られる事態に発展
したのです。しかし、ザッカーバーグCEOは、議会で、データ
の共有は規約としてルール化されており、不正にデータを取得し
たケンブリッジ・アナリティカに対しては、そのデータの消去を
要請し、その証明も済んでいると証言しています。そしてその後
データーの共有はできないようにセキュリティを強化したと証言
しています。あくまでフェイスブックとしては、一応被害者の立
場をとっているのです。
 しかし、ことはそんなことでは終らなかったのです。フェイス
ブックのデータの扱い方に不適切なことが次々と明らかになった
からです。ザッカーバークCEOは、次のサイクルを何度か繰り
返しているのです。
─────────────────────────────
    疑惑発覚 → 議会釈明 → 対策強化約束
    ↑ ←―――――――――――――― ↓
─────────────────────────────
 ウォールストリート・ジャーナルによると、フェイスブックで
は「ホワイトリスト」と呼ばれる特定企業に対しては、ユーザー
データーの共有を認めています。このホワイトリストのなかには
カナダロイヤル銀行や日産自動車が含まれているといいます。
 極め付きは、2018年6月3日付のニューヨーク・タイムス
のスクープです。これによると、フェイスブックは、2007年
頃から、複数の端末メーカーと「パートナー契約」と称して、当
然のことのように、データの共有を平然と10年以上続けていた
のです。
 その端末メーカーは、実に60社にのぼるのです。アップル、
サムスン、ブラックベリー、マイクロソフト、アマゾンなどが含
まれます。それだけではないのです。この60社のなかには、中
国の次のメーカーも含まれていたのです。
─────────────────────────────
       1. ファーウェイ(華為技術)
       2.    レノボ(聯想集団)
       3.オッポ(広東欧伯移動通信)
       4.          TCL
─────────────────────────────
 フェイスブックをめぐり、これだけ多くの疑惑が生じているの
です。日本では「フェイスブックのデータ流出」のニュースは報
道されていますが、今回EJで取り上げたフェイスブックに関わ
る詳細な報道は一切ないのです。
 それでは、その渦中のフェイスブックは、現在、どういう状況
にあるのでしようか。これについては、次のサイトの記事の一部
をご紹介します。
─────────────────────────────
 このような一連の流れで、「フェイスブック」の株価は暴落し
わずか数日で8・4兆円の資産が吹き飛びました。ちなみにフェ
イスブック」は、有形資産をほとんど持っていない企業です。こ
の一連の報道のあと、もともと関係性が良くなかった米電気自動
車メーカーの「テスラ」と米宇宙ベンチャーの「スペースX」の
CEOイーロン・マスクが、「フェイスブック」の公式ページを
削除。ロイター通信によると、ドイツの金融の大手「コメルツ銀
行」なども「フェイスブック」への広告出稿を見合わせており、
企業や著名人の「フェイスブック離れ」が、急速に進みつつあり
ます。               https://bit.ly/2Ctkqef
─────────────────────────────
 もし、フェイスブックがやったことが本当であるとすると、こ
れは大変なことです。上記のサイトにあるように、大手の大企業
が、フェイスブック上の公式ページを閉鎖したり、広告を引き上
げたり、しはじめているからです。これは個人にも波及します。
 一番問題なのは、中国との関係です。フェイスブックは、中国
のいいなりになってもよいから、中国とはビジネスをやりたいと
考えています。しかし、米国が中国とは激しい貿易戦争をやって
いるときに、フェイスブックの行動が許されるでしょうか。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/008]

≪画像および関連情報≫
 ●今フェイスブックに何が起きているのか
  ───────────────────────────
   先週末(2018年3月)から、フェイスブックはかつて
  ない危機に瀕している。トランプ陣営に雇われたデータ分析
  ファームであるケンブリッジ・アナリティカが、ユーザーの
  承諾なしに数千万人の個人情報を不正利用していたと、報じ
  られたのだ。
   フェイスブックには、2010年から2015年にかけて
  サードパーティのアプリに、個人情報の詳細を集めることを
  許していた。悪用されることに気がついたフェイスブックは
  2015年に、(外部の)アクセスを一時停止し、プラット
  フォームをアップデートした。しかしケンブリッジ・アナリ
  ティカは既に何千万人ものデータを集めており、手遅れだっ
  た。2010年4月、フェイスブックは、ソーシャルグラフ
  (ネット上での人間の相関図)をサードパーティのアプリに
  公開した。ユーザーの「友達」の情報を含んだ莫大な量のデ
  ータを、取得理由を伝えることなく、要請できるようになっ
  た。これらのアプリはユーザーの公開プロフィール(名前、
  性別、場所、タイムゾーン、フェイスブックID)が含まれ
  た広範囲のデータセットを取得できた。それだけではなく、
  そのユーザーの友達の名前、経歴、誕生日、学歴、政治的見
  解や交際状況、宗教、メモ、オンライン表示などの情報もで
  ある。さらに許可が与えられると、デベロッパーには、ユー
  ザーの個人メッセージへもアクセスが拡大できた。
                  https://bzfd.it/2RuCsHm
  ───────────────────────────

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李克強首相とザッカーバークCEO
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2019年01月17日

●「英国のEU離脱の選挙結果に異議」(EJ第4928号)

 2019年1月16日朝、衝撃的なニュースが飛び込んできま
した。英国政府がEUと協議のすえまとめた離脱案を受け入れる
ための承認採決が行われましたが、200票以上の大差で否決さ
れたのです。BBCのニュース記事を以下に示します。
─────────────────────────────
 英議会下院(定数650)は、15日夜、イギリスの欧州連合
(EU)離脱について英政府がEUとまとめた離脱条件の協定の
承認採決を行い、432(反対)対202(賛成)の大差でこれ
を否決した。
 230票差での政府案否決は、英現代政治史において、政府に
とって最悪。2年以上にわたりブレグジット(イギリスのEU離
脱)交渉を行い、協定を取りまとめてきたテリーザ・メイ首相に
とっては、大きな敗北となった。
 また、これを受けて最大野党・労働党は、政府に対する不信任
案を提出した。なお、本日午後7時(日本時間17日午前4時)
に投票が行われる予定で、採択されれば総選挙となる可能性があ
る。                https://bbc.in/2QR3HGz
─────────────────────────────
 実は、「EU残留か離脱か」を問う2016年6月23日の国
民投票の結果に影響を与えたのは、ケンブリッジ・アナリティカ
(以下、CA)の疑いが濃厚です。同社はフェイスブックのデー
タを不正に取得し、本当は「EU残留」であった民意を逆の「E
U離脱」に導いたのです。
 なぜ、そんなことがわかったのかというと、ケンブリッジ・ア
ナリティカでリサーチ担当として働いていたクリストファ・ワイ
リー氏が内部告発をしたからです。
 このワイリー氏の内部告発に基づいて、英オブザーバー紙およ
びガーディアン紙、英チャンネル4ニュース、米ニューヨークタ
イムズ紙などが調査報道を行っています。
 調査報道というのは、あるテーマ、事件に対し、警察・検察や
行政官庁、企業側からの情報によるリーク、広報、プレスリリー
スなどからだけの情報に頼らず、取材する側が主体性と継続性を
持って様々なソースから情報を積み上げていくことによって新事
実を突き止めていこうとするタイプの報道のことです。したがっ
て、その内容はかなり正しいといえます。
 実際にCAがどのようにして、選挙の投票先に影響を与えたか
については、詳細はわかっていませんが、フェイスプック上の詳
細な個人情報に対して心理的プロファイリングを行ってパターン
化し、それらのパターンごとに「カスタマイズされた情報」をフ
ェイスブックのタイムラインなどに流し、投票に何らかの影響を
与えようとしたと思われます。
 英国の国民投票については、CAと関係があるカナダのAIQ
という企業がかかわっており、「日経ビジネス」は、次のように
書いています。
─────────────────────────────
 英国のEU離脱を問う国民投票でも、CAとの関連があるとい
われるカナダの企業AIQによって行われたと指摘されているが
フェイスブックの情報がこちらでも流用されたのかは未だ不透明
だ。ただし、AIQは、離脱派陣営の団体「ボートリーブ」から
270万ポンド(約4億600万円)に及ぶ多額の報酬を得てお
り、これは「ボートリーブ」の支出の実に40%に上ると報じら
れた。デジタル戦略の効果を測ることは容易ではないが、「ボー
トリーブ」のキャンペーン担当者は離脱決定後、AIQなしには
「勝利は成し得なかった」と発言したと言われている。
 告発者のワイリー氏も特別委員会での証言で、このような「不
正な行為」がなければ、EU離脱決定に際し、異なる結果であっ
た可能性に言及した。ワイリー氏の証言によれば、EU離脱を問
う国民投票で、デジタル戦略によって有権者による実際の行動を
転換させることに成功した率はおよそ5〜7%であったという。
離脱を問う投票では、離脱支持が52%、残留48%と僅差だっ
たことを考えると、効果は否定できないのではないか。
                  https://bit.ly/2HrLrV9
─────────────────────────────
 ここでいうAIQという企業はどういう企業なのでしょうか。
ワイリー氏によると、AIQは、CAのフランチャイズ企業のよ
うなものではないかといっています。この企業は、法律を無視し
て、フェイスブックなどから不正に収集した情報を使用するのに
何の躊躇いもみせない企業であるというのです。
 どちらかというと、AIQは、ターゲットを狭く絞って、その
ターゲット層に響くメッセージを繰り返し送ったり、タイムライ
ンに表示させることで、意識的、無意識的に人々の思想や行動に
影響を与えるマーケティングキャンペーンを繰り広げるのです。
 そもそもフェイスブックの情報は、個人情報、発信する情報の
コンテンツ、受信する情報の種類や、「いいね!」をつけるコン
テンツなど、ユーザーの特性を把握できる内容を、豊富に持って
います。そのため、ターゲットを狭く絞りやすいのです。しかも
内容は正確で、写真まで付いています。したがって、フェイスブ
ック社としては、これらは絶対に流出させてはならない情報なの
です。ユーザーは、フェイスブックなら、セキュリティが万全で
あると信じているからこそ、正確な個人情報を託していますが、
フェイスブック社は、その信頼を裏切っています。
 とくに許せないのは、フェイスブックは、ユーザーの数を増や
すため、中国系4社を含む60社を超える端末企業と情報を共有
していることです。これでは、情報の流出に歯止めがかからなく
なり、信頼性を大きく損ねてしまいます。まして、そのデータが
世界を変える2つの選挙行動に影響を与えていることは、ほぼ確
実であるといえます。
 とくにフェイスブックのCEO、マークザッカーバーク氏は、
中国市場に大いなる関心を持っています。これについては、明日
のEJで述べます。  ──[米中ロ覇権争いの行方/009]

≪画像および関連情報≫
 ●「フェイスブックは評判の危機」/疑惑渦中の学者語る
  ───────────────────────────
   フェイスブックのデータ流出疑惑をめぐり、疑惑のきっか
  けとなったアプリの開発者アレクサンダー・コーガン博士が
  2018年4月24日、英議会下院のデジタル・文化・メデ
  ィア・スポーツ(DCMS)委員会で証言した。同氏はフェ
  イスブックが全面的な「PR危機状態」(世間からの批判で
  評判が危機にあること)にあると語った。
   コーガン氏の発言は、同氏が英ケンブリッジ・アナリティ
  カ社によるデータ不正収集における自身の役割について下院
  議員の厳しい追及を受けてなされた。同氏はフェイスブック
  が、自社のデータが「数千におよぶ第三者によって利用され
  ていた」ことに全面的に気づいていたと述べた。
   同氏はケンブリッジ・アナリティカは同氏からデータを受
  け取っていなかったとするアレクサンダー・ニックス最高経
  営責任者(CEO=停職中)のこれまでの主張についても、
  「でっち上げだ」と批判した。後の釈明でケンブリッジ・ア
  ナリティカは、コーガン博士が設立した会社からデータの使
  用権を与えられたことを認めたものの、その情報が2016
  年の米大統領選で使われたことは否定した。コーガン博士が
  DCMS委員会で証言した後、ケンブリッジ・アナリティカ
  は記者会見を開き、同社の広報担当者クラレンス・ミッチェ
  ル氏は同社が、「(ジェイムズ・)ボンド映画の悪役ではな
  い」と語った。
   「データ分析は(広告配信などにおける)より正確な対象
  絞込みのために一般的に使われており、完全に合法だ。一部
  で描写されているような、ボンド映画に出てくるような洗脳
  ではない」           https://bbc.in/2CmvRnO
  ───────────────────────────

クリストファ・ワイリー氏.jpg
クリストファ・ワイリー氏
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2019年01月18日

●「ザッカーバーグは中国に異常接近」(EJ第4929号)

 ヤフーやグーグル、フェイスブックなどの米ネット企業にとっ
て、中国進出は大きな挑戦であったといえます。しかし、中国に
は厳しい規制と検閲があり、ユーザーが自由に発言できないなど
ネット企業にとって大きなカベがあるのです。
 フェイスブックのザッカーバークCEOも「世界中の人々をつ
なげたい」という目標を持つ以上、どんな困難なことがあっても
中国を無視できない」と語っています。ザッカーバークCEOに
ついて、エミリー・パーカー氏は次のように述べています。エミ
リー・パーカー氏は、ウォール・ストリート・ジャーナル中国担
当で、米国務省のアドバイザーを務めています。
─────────────────────────────
 ザッカーバーグCEOは、明らかに中国を苦労する価値がある
ものと考えている。たとえそれがいくらかの「西洋的価値観」を
投げ捨てることを意味してもだ。ザッカーバーグCEOは、今年
(2016年)初めに北京を訪れ、劉雲山中国中央宣伝部部長と
会談し、大きな注目を集めた。
 中国の国営メディアはフェイスブック創業者が中国でインター
ネットを発展させ、政府と協力してよりよいサイバースペースづ
くりに取り組むと約束したと報じた。劉部長は「中国特有の」イ
ンターネット統治の概念を強調した。その意味するところは明ら
かだ。中国版フェイスブックは間違いなく検閲される。今年の訪
問(2016年)はちょっとした「続編」だった。2014年に
ザッカーバーグCEOは、中国サイバー管理局のルー・ウェイ局
長をフェイスブックのオフィスでもてなした。その時、ザッカー
バーグCEOのデスクの上には習近平国家主席の本がたまたま置
かれていた。            https://bit.ly/2LWX054
─────────────────────────────
 実は、米国のネット企業のなかでもフェイスブックは、中国の
指導部にとくに警戒されていたのです。なぜなら、中国では「ア
ラブの春」のことを「フェイスブック革命」と表現していたから
です。現在とはまるで逆の話ですが、中国政府は、米国のネット
企業は、米国政府による諜報活動のバックドアになっているので
はないかと警戒していたのです。
 実際にフェイスブックは、2009年から中国でアクセス規制
されていますし、同社が買収したインスタグラムも2014年に
規制されています。しかも、中国でもテンセント(微信)が20
11年に「ウィーチャット」というサービスをはじめており、ま
すます参入が厳しくなっているのです。
 それでもザッカーバーグCEOはあきらめていないのです。そ
こで彼は、できる限り中国の要人に会い、警戒を解こうとしたの
です。中国の指導者は、人間関係を重視することを知っており、
そのためにザッカーバークCEOは、劉雲山氏をはじめとする中
国の要人に会っているのです。
 それにもうひとつ、バッカーバーク氏には強みがあるのです。
彼は2012年に結婚しましたが、妻は華僑系のプリシラ・チャ
ンという中国人です。まさか、そのために中国人と結婚したので
はないとは思いますが、同業他社よりも有利なポジションにいる
ことは確かです。ザッカーバークCEOの考え方はこうです。
─────────────────────────────
 中国には、13億人という人口の数からみても、世界中の人を
繋げることを目標とするフェイスブックとしては無視できない存
在である。そのため、若干の「西洋的価値観」を捨て、多くの統
制や検閲を受け入れたとしても、参入すべき価値がある。そのた
めには、できる限り中国の要人との接触に努めるとともに、中国
内にフェースブックとしていろいろな拠点を設ける必要がある。
─────────────────────────────
 ザッカーバークCEOは、上記の考え方に基づいて、中国訪問
を繰り返していますが、依然として再参入は認められていない状
況です。とくにトランプ政権になってからは、米国の方が安全保
障上の観点から、中国系通信企業に規制を強化しているので、一
層困難になっています。
 ウォール・ストリート・ジャーナルは、2017年10月時点
のフェイスブックの中国との関わりについて、次のようにレポー
トをしています。
─────────────────────────────
 【北京】中国でフェイスブックへのアクセスが解禁されるのは
まだ先かもしれない。それでも同社のマーク・ザッカーバークC
EOは、訪中を繰り返している。
 ザッカーバーク氏は、2017年10月28日、顧問委員を務
める北京の精華大学の年次会合に出席するため、中国入りした。
 フェースブックは、9月、新設した中国の政府担当部門トップ
にビジネス向け交流サイト米リンクトインで、中国政府との折衝
を統括していたウィリアム・シュアイ氏を招き入れた。リンクト
インは、中国ユーザー向けコンテンツの検閲を受け入れ、現地企
業との合弁を立ち上げることを条件に中国参入を認められた。
 フェイスプックは今年に入り、仮想現実(VR)部門オキュラ
スの上海拠点に500万ドル(約5億6000万円)の追加融資
を実施している。
 サッカーバーク氏は30日、精華大学の会合で演説した習近平
国家主席とも短い時間ながら、顔を合わせた。今回の訪中で、中
国当局とフェイスブックに関する話し合いの場が設けられたかど
うかは明らかになっていない。
 ザッカーバーク氏はこれまで、中国がフェイスブックの未来に
とって重要な市場であると述べてきた。北京の調査会社マーブリ
ッジ・コンサルティングのマネジメントディレクター、マーク・
ナトキン氏は、精華大学で顧問委員を務めるのも(フェイスブッ
ク)が再参入を諦めていない証しかもしれないと述べている。
                https://on.wsj.com/2Cu4PuE
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/010]

≪画像および関連情報≫
 ●「ザッカーバーク親中派戦略」は功を奏すか
  ───────────────────────────
   宣伝という意味では、中国で過ごした数日間は、フェイス
  ブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)
  にとって大成功だったと言えるだろう。
   ザッカーバーグの今回の訪中は、中国の国内メディアで大
  きく取り上げられ、中国のインターネットユーザーの注目を
  集めた。天安門広場でジョギングをしたというフェイスブッ
  クへの投稿は大きな反響を呼び、中国ネット通販最大手アリ
  ババ創業者の馬雲(ジャック・マー)との対談もメディアは
  こぞって報道した。2016年3月19日には、中国指導部
  の1人である共産党の劉雲山・党政治局常務委員とも会談し
  た。過去の訪中でもザッカーバーグは、習いたての中国語を
  披露したり、中国への熱い思いを語ったりしてこの国の人々
  に好印象を与えてきた。米国においてもザッカーバーグは習
  近平国家主席と会談したり、中国高官に習の著書を読んでい
  ると話したり、生まれたばかりの娘マックスに中国語の名前
  をつけたりした。今回を含む訪中で、ザッカーバーグが「中
  国人の間で知名度ナンバーワンの外国人実業家」という地位
  を固めたのは間違いない。だがこうした懐柔策により、中国
  政府にフェイスブックへのアクセス規制をやめさせ、約7億
  人のネットユーザーの取り込みを図るという最終目標が達成
  できるのかどうかはまったく分からない。
                  https://bit.ly/2CoTKLu
  ───────────────────────────

ザッカーバーク夫妻.jpg
ザッカーバーク夫妻
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2019年01月21日

●「トランプ政権を甘く見ていた中国」(EJ第4930号)

 1月11日から5回にわたって、フェイスブックのデータ流出
事件について書きましたが、これが本当であるとすると、その影
響は多岐にわたり、とんでもないことになります。
 フェイスブックを毎日使うアクティブ・ユーザー数は2018
年7月31日時点で、世界で14億7000万人、日本国内だけ
でも2800万人もいます。既に述べているように、フェイスブ
ックの登録には、氏名、性別、生年月日、メールアドレスが必要
であり、プロフィールには写真を設定する必要があります。プラ
イバシーの公開範囲を絞って、居住地や出身地などのさらに詳し
い情報を設定する人もおり、その流出はきわめて深刻です。
 ところがフェイスブックでは、ユーザーに断りなく、端末メー
カー60社以上とこれらのデータを共有しており、そのなかには
ファーウェイを含む4社の中国メーカーも含まれています。こん
なことは許されることではなく、フェイスブックの信用失墜につ
ながりかねない深刻な事態です。
 フェイスブックの情報漏洩の話はひとまず置き、トランプ氏が
大統領に就任にした2017年以降、米中間で起きたことについ
て、主として日高義樹氏の記述に沿ってみていくことにします。
 2017年4月7日、習近平国家主席が訪米し、米中首脳会談
が行われます。この首脳会談において、米中間の貿易不均衡の問
題が指摘され、その解消のための米中包括経済対話メカニズムの
立ち上げが合意されています。
 このとき、習近平国家主席は、米国の対中輸出を増やすための
100日計画の策定を約束しています。苦し紛れにその場をしの
ぎ、時間稼ぎをした印象です。果せるかなその100日後の20
17年7月に、米中の閣僚級による包括経済対話メカニズムの交
渉が行われましたが、何の進展も見ないまま頓挫しています。
 これを受けて、トランプ政権は、中国に対し、不公正な貿易慣
行がないか、スーパー301条に基づく調査を開始すると宣言し
調査をはじめます。2017年9月18日、ライトハイザー米通
商代表は、講演において、次のように述べています。
─────────────────────────────
 外国企業が中国に進出するさい、技術移転を強要し、その上で
不公正な補助金で輸出を促進する中国が、国際的な貿易体制の脅
威になっている。       ──ライトハイザー米通商代表
─────────────────────────────
 ここまでいわれても中国は、額面通りに受け取らず、次のよう
に反論しています。
─────────────────────────────
 それは、企業間の取引の話であり、中国政府による干渉など一
切あり得ない。            ──中国の高峰報道官
─────────────────────────────
 この時点でも、中国はまだトランプ政権を甘く見ており、楽観
視していたといえます。なぜなら、11月には、トランプ大統領
の訪中が決まっていたからです。
 11月9日、トランプ大統領は中国を訪問し、習近平国家主席
による最大級のもてなしを受けます。このとき行われた米中首脳
会談では、対中貿易赤字削減のため、総額2535億ドルの商談
が調印されていますが、そのほとんどは、覚書や協議書のたぐい
であったのです。このようなもので、騙されるようなトランプ大
統領ではないのです。
 年が明けて2018年になると、トランプ政権は、具体的に行
動を起こします。1月12日に中国が2017年の対米貿易額を
発表しますが、その対米貿易黒字額は、2758億1000万ド
ルという過去最高を更新したのです。
 これに対してトランプ政権は、1月22日に緊急輸入制限を発
動し、太陽光発電パネルに30%、洗濯機に20%以上の追加関
税を課すことを発表しています。太陽光パネルの国別シェアにつ
いては、1位がマレーシアで、2位が中国だったのです。これに
よって、関税引き上げによる貿易戦争がスタートしますが、標的
はまだ中国に向けられていないのです。
 そして、3月1日、トランプ政権は、通商拡大法232条に基
づいて、鉄鋼、アルミニウム製品に追加関税を実施すると発表し
ます。課税額は鉄鋼25%、アルミ10%。米国の安全保障を理
由にするものですが、日本を含め、ほとんどの国がターゲットに
なったのです。そして、3月23日、トランプ政権による鉄鋼、
アルミ製品への追加関税措置が発動されます。
 これに対して中国商務省は、128品目の米国製品に対し、約
30億ドルの追加関税をかける報復措置を発表し、この時点から
米中の貿易戦争の様相がはっきりとしてきたのです。
 実は、トランプ大統領は、この鉄鋼、アルミ製品の追加関税の
発表後、4人の経済政策担当の閣僚級のスタッフを北京に送って
います。ムニューチン財務長官、ロス商務長官、ライトハイザー
通商代表、ナバロ国家通商会議委員長の4人です。このときの様
子について、日高義樹氏は次のように書いています。
─────────────────────────────
 北京での会議では、トランプ政権の経済政策の責任者である4
人の意見がまったく合わず、大混乱になったという。ムニューチ
ン財務長官は、トランプ大統領の対中国強硬政策に反対し、政策
としては望ましいものではない、という姿勢を明確にした。いっ
ぽうでは、ライトハイザー通商代表が、トランプ大統領の決定が
手ぬるいと主張し、もっと厳しい制裁措置が必要であると主張し
た。(中略)政府を代表してワシントンからやってきたトランプ
政権の経済政策のトップが、意見が合わずして対立し、混乱して
いることを交渉の相手の前でひけらかしてしまったのである。
                      ──日高義樹著
        「アメリカに敗れ去る中国/安倍外交の危機」
                        徳間書店刊
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/011]

≪画像および関連情報≫
 ●米中貿易戦争なら米国の圧勝、日本には漁夫の利
  ───────────────────────────
   米国の対中輸入額は、対中輸出額の約4倍あります。とい
  うことは、米国の対中輸入制限と中国の対米輸入関税が同時
  に課された場合、単純に考えて、中国の受ける打撃の方が4
  倍大きいということを意味しています。中国のGDPは米国
  よりも小さいので、打撃額のGDPで比べれば、その差は更
  に大きくなります。金額だけではありません。中国の対米輸
  出品が労働集約型製品で、米国の対中輸出品が技術集約型製
  品だ、という点も両者の打撃の大きさに影響します。
   まず、米国の中国からの輸入品について、考えてみましょ
  う。米国は、別の国から輸入することもできますし、米国内
  でも生産することができます。現在米国が中国から輸入して
  いるのは、「安いから」という理由だけなので、関税がかか
  れば対中輸入は激減し、他国からの輸入と国内生産が増える
  でしょう。国内生産が増える分は、米国内の雇用を増やしま
  す。「米国の人件費は高いので、中国から輸入されている物
  を米国内で作るはずがない」、と考える人もいるでしょうが
  途上国で労働集約的に作るか米国内で機械を使って作るかの
  比較なので、中国と米国の生産コストの差は賃金格差ほど大
  きくはないのです。一方で、米国の対中輸入関税が中国に与
  える打撃は大きなものとなります。労働集約型製品の輸出が
  大きく落ち込むと、中国人労働者が大量に失業することにな
  るからです。          https://bit.ly/2QXFC17
  ───────────────────────────

ライトハイザー通商代表.jpg
ライトハイザー通商代表
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2019年01月22日

●「歴代大統領とは異なるトランプ流」(EJ第4931号)

 米国による鉄鋼、アルミ製品の追加関税の実施という厳しい通
商上の措置の発表直後に、経済政策担当の閣僚ら4人が相手国で
ある中国に赴いて、その旨を伝える──これは外交上のマナーで
す。問題は、中国で使者である4人の意見が合わず対立し、混乱
したのですから、驚いたのは中国側です。「トランプ政権は分裂
している」と習近平国家主席が考えても不思議はないのです。
 これについて、日高義樹氏は、トランプ大統領に近いといわれ
る経済専門家の意見として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 「トランプ政権では大統領がすべてを決める。したがって、対
立しようが、混乱が起きようが、周りで騒いでも意味がない。政
治的に無意味だといえる」 実際にトランプ大統領は、重大な決
定をあっという間に行っている。(何をやったのか)
 政府から25パーセント以上の資金援助を受けている中国の国
営企業をアメリカから締め出すこと、アメリカ企業の中国への進
出を制限すること、WTOの重要な組織を事実上崩壊させてしま
うことなど、すべて強力な政治力がなければ出来ない措置を、瞬
く間に実現してしまった。習近平政権からすると信じられない出
来事が起きてしまったのである。       ──日高義樹著
        「アメリカに敗れ去る中国/安倍外交の危機」
                        徳間書店刊
─────────────────────────────
 ムニューチン財務長官は最初から中国寄りの人物であり、本人
もそれを隠そうとしないし、意見の違う人を外す傾向の強いトラ
ンプ大統領としては珍しく、気にしていないように見えます。
 ムニューチン財務長官は、宣誓式においては、具体的な構想を
述べていないのですが、宣誓式に立ち会ったトランプ大統領は、
次のように発言しています。
─────────────────────────────
   不当に利益を得る者から、米製造業の雇用を守る。
                 ──トランプ大統領
─────────────────────────────
 ここで、「不当に利益を得る者」とは、明らかに中国を指して
います。トランプ大統領は、就任のときから中国に対して強い問
題意識を持っていたのです。それにもかかわらず、中国寄りと知
りながら、ムニューチン氏を財務長官に任命しています。
 ムニューチン財務長官は、現在でも中国との貿易戦争をやめる
べきだと主張しています。
─────────────────────────────
【ワシントン/17日/ロイター】ムニューシン米財務長官が中
国の輸入品に課されている関税の一部または全部を撤廃すること
を提案した。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)
が17日、内部事情に詳しい関係者の話として報じた。
 報道によると、財務長官は1月30〜31日に予定されている
米中通商協議において、関税引き下げを提案する考えを示したが
ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、この考えに反
対。またトランプ大統領にはまだ提案されていないという。
 財務省報道官は報道を否定したが、米中通商問題解決への期待
から米株式市場は上昇した。財務省報道官は「ムニューシン長官
もライトハイザー代表も、関税やその他の件に関する中国との交
渉について誰にもいっさい提言を行っていない」とし、「中国と
の交渉は継続中で、完了には程遠い」と語った。
                  https://bit.ly/2sAN3kX
─────────────────────────────
 米国の大統領選挙の場合、選挙に関わるあらゆること──資金
集めから、テレビによる宣伝・広報、作戦計画、イベントの開催
投票日に有権者を投票に駆り出すことにいたるまで、多くの機関
や組織や企業が関わっています。
 そして大統領が首尾よく当選すると、ホワイトハウスのスタッ
フには、選挙戦に参加した組織からの関係者が送り込まれ、大統
領の政治を仕切ることになります。それは、政権としてどのよう
な政策を行うかにまでに及びます。大統領は、そういうスタッフ
が作り上げた政治的提案、政策のなかから、何をやるかを決定す
るのです。問題は、そういうホワイトハウスに入ってくるスタッ
フは、多くの場合、企業や団体の利害を持ち込んでくる場合が多
いのです。そうすると、どうしても政治に「色」がついてしまう
ことになります。
 しかし、トランプ大統領の場合、そういう今までの慣習という
か、やり方を踏襲せず、自分がやりたいようにホワイトハウスを
仕切ったのです。日高義樹氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 トランプ大統領はそうした(ホワイトハウスの)仕組みを一切
受け付けず、すべての政策を自らが決め、実施を要求する。この
ためにホワイトハウスが混乱し、閣僚やスタッフが相次いでやめ
るという事態になった。アメリカのマスコミはそうした事態を見
て、トランプのホワイトハウスが大混乱していると伝えている。
 しかしながら大統領がすべての決定を行うことが、トランプ政
権の強さ、ホワイトハウスの強さで、アメリカ経済を短期間のあ
いだに拡大させた原動力となっているのである。アメリカのマス
コミが「ホワイトハウスの混乱」、と伝えている状況は、トラン
プのホワイトハウスの強さの象徴なのである。
                ──日高義樹著の前掲書より
─────────────────────────────
 「何でも自分で決める」──これがトランプ大統領のスタンス
です。しかし、これは大変よいことである反面、米国の大統領と
もなると、独断は大きなリスクがはらんでいます。
 第2回の米朝首脳会談が2月末に行われることに決まりました
が、これに関してトランプ大統領が「北朝鮮攻撃」の計画を密か
に練っているのではないかという奇怪な情報が出ています。明日
のEJで取り上げます。──[米中ロ覇権争いの行方/012]

≪画像および関連情報≫
 ●2回目の米朝首脳会談、トランプは何をたくらむのか?
  ───────────────────────────
   金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の側近の1
  人である金英哲(キム・ヨンチョル)同党副委員長は、昨年
  6月1日にホワイトハウスを訪問し、ドナルド・トランプ米
  大統領に金委員長の親書を手渡しました。その後、2週間足
  らずで1回目の米朝首脳会談が開催されました。
   ただ、今回は事情がまったく異なります。金英哲氏が1月
  18日にワシントンを訪問し、トランプ大統領と会談を行い
  ましたが、開催時期は2月末になりました。同大統領にとっ
  て、2回目の米朝首脳会談の緊急性が本当に高ければ、1月
  末ないし2月上旬になったかもしれません。
   いまトランプ大統領の最優先課題は、2016年米大統領
  選挙における「公約の中の公約」である米国とメキシコとの
  「国境の壁」建設と、連邦政府機関の一部閉鎖の再開である
  ことは間違いありません。米メディアによれば連邦政府機関
  の一部閉鎖により、約42万人の政府職員が無給で仕事を続
  けており、約35万人が自宅待機を余儀なくされています。
   これらの内政問題の目処が立ってから、2回目の米朝首脳
  会談に取り組もうとするトランプ大統領の思惑が透けて見え
  ます。つまり、「国境の壁」建設予算及び政府機関の一部閉
  鎖の問題が、首脳会談の日程に影響を及ぼした可能性が高い
  といえます。          https://bit.ly/2RTRDct
  ───────────────────────────

ムニューチン米財務長官.jpg
ムニューチン米財務長官
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2019年01月23日

●「北朝鮮攻撃の可能性は増している」(EJ第4932号)

 具体的な非核化に踏み出すことなく、トランプ米大統領への親
書攻勢によって、2回目の米朝首脳会談を勝ち取った金正恩委員
長ですが、その一方で、ネット上に次のようなレポートが登場し
ています。
─────────────────────────────
                  2019年1月21日
 「トランプはいま、北朝鮮攻撃の計画を密かに練っているか
 もしれない」         ジャーナリスト/山田敏弘
                 https://bit.ly/2W8gI2j
─────────────────────────────
 問題は、なぜこの時期にこのようなタイトルの記事が出るのか
です。米国は、米韓合同軍事演習すら中断して、北朝鮮の非核化
を促しているときです。それがなぜ「北朝鮮攻撃の計画」なので
しょうか。
 詳細については、上記の原文を読んでいただくとして、ここに
きて、なぜ、北朝鮮攻撃なのか、レポートに沿って要約解説する
ことにします。
 多くの人がそう思っているように、トランプ大統領も北朝鮮が
本当に核兵器を手放すとは思っていないはずです。なぜなら、金
正恩委員長は、核兵器こそ体制維持のための唯一の保険であると
考えているからです。現に数次にわたる核実験とミサイルの発射
実験をやったからこそ、トランプ大統領とのシンガポールでの首
脳会談が実現したと考えているはずです。
 ところで、2018年末に、トランプ政権から、次の2人の大
物が去っています。
─────────────────────────────
      1.ジョン・ケリー大統領首席補佐官
      2. ジェームス・マティス国防長官
─────────────────────────────
 ジョン・ケリー大統領首席補佐官は、大統領の身内が幅を利か
して混乱していた政権内部に秩序をもたらす役割として登用され
きちんと仕事をしていています。さらに、トランプ大統領が国際
秩序やルールを考慮しない、思い付きの政策を実行しようとする
のを、何度も、オーバーにいえば、身体をはってとめてきている
のです。しかし、そのため、後から政権入りしたジョン・ボルト
ン大統領補佐官(安全保障担当)とぶつかることが多くなってい
たのです。
 結局、11月の中間選挙で野党・民主党が躍進し、議会がねじ
れ状態になったことで、ケリー補佐官は退任を決意します。自分
いなくても、議会がトランプ大統領の暴走を止めてくれると考え
たからです。
 ジェームス・マティス国防長官は、ケリー首席補佐官と連携し
て、トランプ大統領の暴走をとめてきています。マティス国防長
官について、山田敏弘氏は次のように書いています。
─────────────────────────────
 マティスは、軍の政策と歴史にも精通し、人望が厚い国防長官
だった。トランプ政権がカオス状態にあるなかで、マティスは政
権内に安定をもたらしていると評されていた。またダン・コーツ
元国家情報長官によれば、国外においても「マティスのリーダー
シップは、同盟国と敵国から尊敬されていた」という。
 マティスは、北朝鮮攻撃については慎重であり、トランプに攻
撃を思いとどまらせてきた。マティスが退任したことで、ある国
防省の元幹部は米メディアに「クレイジーなトランプがいても、
マティスが国防省を仕切っていたから夜はゆっくり眠れたのに・
・・」と語っていたが、今後、彼らは夜も眠れなくなるかもしれ
ない。実は、マティスがいたことで安心していたのは政府関係者
だけではない。メディアも然り。マティスには、国防長官になる
前に、とある詐欺企業の活動に関与していたというスキャンダル
があったのだが、メディアではあまりこの詐欺企業への関与を深
く追及しないふしもあった。     https://bit.ly/2DqLOuT
─────────────────────────────
 これまでトランプ大統領は、マティス国防長官に何の相談もせ
ず、米韓合同軍事演習を中止すると発表したり、いきなり宇宙軍
の創設を宣言したり、シリアからの米軍の撤退を発表したりと、
やりたい放題。国の安全保障に関するこれだけのことを相談なし
にやられたら、マティス国防長官としても堪忍袋の緒が切れたの
でしょう。しかし、マティス国防長官は、辞任の発表とその理由
について記者会見を開いています。
 これがトランプ大統領の怒りを買い、マティス氏自身が辞任時
期を3月末としているのに、無理やり後任を任命して、2018
年末に辞任させています。よほどハラが立ったのでしょう。
 第2回の米朝首脳会談が行われ、北朝鮮が具体的な非核化に言
及せず、経済制裁の解除を求めた場合、ボルトン安全保障担当大
統領補佐官は黙っていないでしょう。今やトランプ大統領の周り
にいるのは、強硬派ばかりです。そういう意味で、前回とは異な
ります。山田敏弘氏は次のように書いています。
─────────────────────────────
 ケリーが去り、マティスがいなくなり、さらに、議会はねじれ
状態。トランプが、早朝に大好きな米FOXニュースを見て「や
れやれ、やはり金正恩に思い知らせるしかないか」なんて思いつ
くようなことがあった時に、誰がトランプに「ノー」と言えるの
だろうか。
 昨年、米国務省の関係者から聞いた話では、「米国務省の担当
者たちは水面下でいかにトランプを(北朝鮮と)戦争させないか
と必死になって動いてきた」という。北朝鮮攻撃に慎重だったマ
ティス国防長官などと同様に、国務省はトランプに軍事攻撃とい
う決断をさせないように働きかけてきたという。そうした目に見
えない抑止力も奪われつつある。   https://bit.ly/2R1PjLV
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/013]

≪画像および関連情報≫
 ●2回目の米朝首脳会談/開催しなければならない事情
  ───────────────────────────
   1月20日、2月下旬の米朝首脳会談に向けた実務協議が
  ストックホルム近郊で始まった。北朝鮮の具体的な非核化措
  置や北がアメリカに求める見返りも議題になっている可能性
  があり、日本や韓国の当局者も現地に入って米朝との接触を
  試みている。
  飯田)スウェーデンのストックホルムの近郊で始まった実務
  協議ですが、20日から始まって22日にかけて行われる予
  定です。日本からも金杉アジア大洋州局長が現地に入ってい
  るということです。
  須田)2回目の米朝首脳会談ということもあって、どうやっ
  て目に見える形で結果を出すのか。1回目を受けて米朝が水
  面下で協議を進めて来たけれど、何の結果も出ていませんよ
  ね。とは言え、アメリカにとってもトランプ政権が3年目を
  迎えているにも関わらず、内政はともかく外交の分野ではほ
  とんど実績が残せていないという状況を受けて、唯一成果ら
  しい成果が米朝首脳会談くらいなのですよ。ただこれは非核
  化という結果を出さなければなりません。そのなかでトラン
  プ大統領としても、そこへすがらざるを得なかったのかなと
  思います。北朝鮮側の事情ですが、かつての金正日体制の頃
  の北朝鮮といまの金正恩体制は全く似て非なるものだという
  ことを、大前提としてご理解頂きたいのです。
                  https://bit.ly/2T5RX55
  ───────────────────────────

第1回米朝首脳会談/シンガポール.jpg
第1回米朝首脳会談/シンガポール
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2019年01月24日

●「中国経済の真相について検証する」(EJ第4933号)

 2019年1月22日付の日本経済新聞は、その第一面トップ
に次の記事を掲載しています。
─────────────────────────────
◎中国経済の減速鮮明/18年成長率28年ぶり低水準
 【北京=原田逸策】中国経済の減速が鮮明だ。2018年の実
質成長率は6・6%と28年ぶりの低水準で18年10月〜12
月期は6・4%に落ちた。7〜9月期比での低下幅は0・1ポイ
ントに過ぎないが、消費などの主要指標は米中貿易戦争の影響が
本格化した秋以降に急変している。
         ──2019年1月22日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 中国の実質成長率には不思議なことがたくさんあります。最近
はほとんど6%成長で、6%前半か後半かで、コンマひとつ上下
するだけで大騒ぎになります。いつも6%の世界での上下です。
 6%といえば高い成長率です。ちなみに天安門事件直後の19
90年が3・9%成長で、2018年度が6・6%というならよ
くわかりますが、このところ、6%台の成長率がほとんどです。
なぜ、6%台なのでしょうか。
 それは、習近平主席が、国民に対して「2020年までに国民
の収入を2倍にする」という約束をしているからです。2010
年対比で2倍にするというのです。そうすると、10年間、毎年
7%成長しないと、実現できないのです。
 しかし、中国の経済はかなり深刻であり、7%成長は維持でき
ない。といって、7%から遠く離れることもできないので、実際
は6%以下であっても、6%以下にはできないのです。
 中国の経済成長率に対して疑問を持ち、『中国GDPの大嘘』
(講談社)という著書もある高橋洋一氏は、中国のGDP成長率
の「微動状態」について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 世界との輸出入取引が大きい中国経済が、世界経済の大きな変
動と無縁のはずはないのに、このような小刻みな動きをみると、
統計改竄と推定せざるを得ない。中国GDPの変動が小さいこと
は、GDP成長率の「変動係数」を各国と比較してみればよくわ
かる。変動係数とは、ばらつきを表す標準偏差を平均値で除して
比較可能にした統計量である。
 2000年以降のGDP成長率について、統計が取れる180
ヶ国の変動係数を見ると、中国は0・21と小さい方から7番目
だ。そのあたりにはベトナムやラオスなどの独裁社会主義国が多
い。ちなみに日本は2・00で156位だ。
 なお、先進国のGDP成長率の変動係数はどうだろうか。平均
が小さく、変動係数が2桁になったものを異常値として除いた堅
めの平均で1・26である。これをみると、中国GDP成長率は
異常に変動しないことがわかるだろう。    ──高橋洋一氏
                  https://bit.ly/2CI4uVg
─────────────────────────────
 現在、日本では、「毎月勤労統計」の不正調査が問題になって
いますが、統計というものは実態をできるだけ正確に表すもので
なければならないのです。この不正によって、「毎月勤労統計」
をもとに給付水準が決まる雇用保険や労災保険に、大きな影響が
出てしまっているのです。
 高橋洋一氏によると、中国の統計システムは、社会主義国家の
「先輩」である旧ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)に学んで
いるといいます。それは、国家目標との関連で、統計に改ざんに
改ざんを繰り返した揚句「ソ連崩壊」をもたらした統計手法であ
り、中国はそれを教わっているといいます。
 中国、すなわち、中華人民共和国は1949年に誕生しました
が、それと同時に経済的な大改革を実行に移しています。そのと
き司令塔になって指導に当ったのはソ連大使館です。ソ連から、
1万人を超える顧問団が北京にやってきて、4万人のロシア語を
マスターした中国人と一緒に、中国の産業育成に取り組んだので
す。そのときの目標は次の通りです。
─────────────────────────────
 中国経済は、10年以内にイギリスを追い越し、15年以内
 にアメリカに追いつく。       ──中国の国家目標
─────────────────────────────
 このとき、ソ連から密かに持ち込まれたものが「ソ連式統計シ
ステム」です。国家目標が達成できなかったときにどのように統
計を操作するかの手法です。高橋洋一氏は、中国は、このソ連の
統計システムを使っているのではないかというのです。この統計
システムは非常に巧妙に作られていて、米国のノーベル経済学賞
受賞経済学者であるポール・サミュエルソン教授は、ソ連のデタ
ラメの経済統計値を信じて、「ソ連は成長している」といってし
まったという話は有名です。
 ソ連が崩壊してはじめてわかったことは、1928年から19
85年までの国民所得の伸びはソ連の公式統計によると90倍、
平均成長率は8・3%ということでしたが、実際にはその倍率は
6・5倍、平均成長率は3・3%でしかなかったのです。
 それなら、現在の中国の統計数値は、本当のところどうなので
しょうか。これについて高橋洋一氏は、中国の数字のデタラメさ
について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国の成長率が誇張されていることは誰もが知っている。社会
主義の中国では、国家が発表する統計は国有企業の「成績表」と
いう意味がある。そして、その統計を作っているのは、「中国統
計局」という国家の一部局である。言ってしまえば、自分で受け
たテストの採点を自分でしているようなものなので、信頼性はど
こにも担保されていない。          ──高橋洋一氏
                  https://bit.ly/2sKa5Wt
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/014]

≪画像および関連情報≫
 ●世界景気をけん引した中国経済に陰り!/田中徹郎氏
  ───────────────────────────
   ここのところ中国経済の成長性に陰りが見え始めました。
  振り返りますと、中国の全盛期はリーマン・ショックから昨
  年あたりまでではなかったでしょうか。
   金融ショックで先進国の経済が危機に陥る一方、元気のよ
  かった中国は4兆元にもおよぶ経済対策を実施し、世界の救
  世主ともてはやされました。「世界を救った中国」という称
  賛と、4兆元効果による経済的実利・・・。2009年から
  昨年あたりまでの中国は、順風満帆だったといえるのではな
  いでしょうか。一時は近々中国が世界の覇権を握るという見
  方もあったものです。
   自信過剰になってしまうのは当然かもしれませんね、なに
  しろアヘン戦争以来イギリスやフランス、ドイツ、日本など
  にやられっぱなしで、その間、悔しい思いをし続けてきたわ
  けですから。150年という年月にも及ぶ我慢のあと、やっ
  と訪れた反転攻勢のチャンスです。
   仲裁裁判所の判決を「紙くずだ」と切り捨てる。国家の元
  首が軍事目的ではないと言いながら、着々と人工島を軍事拠
  点化する。小国に多額の貸付を行い、返済不能に陥るや、港
  を租借する。海外の企業が中国に進出する際、技術の移転を
  強要する。著作権の侵害を厳しく取り締まるといいながら野
  放しにする・・・。このように中国がここ数年とってきた行
  動は、私たちから見れば粗暴にも見えますが、逆に言えば、
  彼らはそれほどまで自信を深めていたということではないで
  しょうか。           https://bit.ly/2sFvC2y
  ───────────────────────────

経済学者/高橋洋一氏.jpg
経済学者/高橋洋一氏
  
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2019年01月25日

●「米中貿易戦争で落ち込む中国経済」(EJ第4934豪)

 米国から貿易戦争を仕掛けられて、中国人民中央銀行と国家財
政当局が衝突し、習近平政権は、収拾のつかない政策的な混乱に
陥っているといわれます。
 中国の経済政策の中心は、対米貿易の拡大です。そのため、財
政当局としては、人民元を引き下げ、金融を緩和して輸出を一層
拡大させようとします。
 これによって、中国税関総署が昨年12月8日に発表した貿易
統計によると、11月の対米貿易黒字は、前年同月比27・6%
増の355億ドル(約4兆円)で、単月の黒字額で過去最高を更
新しています。このように、中国にとって対米貿易の拡大は、ド
ル箱そのものだったのです。
 しかし、それが米国による関税引き上げによって、米国からの
資金源がまったく閉ざされてしまったのですから、中国の財政当
局としては混乱するのは当然です。米国のトランプ政権としては
中国の経済成長にブレーキをかけることによって、結果としてそ
の危険な覇権主義を抑えることになると判断し、貿易戦争を仕掛
けたのです。
 中国の政策当局者は、表面上は平静を装って次のように述べて
いますが、内心は相当焦っていたのです。
─────────────────────────────
 中国経済の伸びは現在年間GDPで6・7パーセントである。
アメリカとの貿易がうまくいかなくなったとしても、0・3パー
セントほど伸び率が減ることになるが、中国経済が大きな打撃を
受けることはない。          ──中国の政策当局者
                ──日高義樹著/徳間書店刊
        「アメリカに敗れ去る中国/安倍外交の危機」
─────────────────────────────
 米国の中国に対する2018年の貿易戦争は、追加関税措置が
開始される7月以前から始まっていたのです。そして7月6日、
米国は、中国から輸入される818品目に対して340億ドル規
模の追加関税を発表し、中国側も同規模の報復関税を発動して本
格的な貿易戦争が始まったのです。結局、米中の貿易戦争は1年
続いているのです。これによる中国経済の減速が明らかになりつ
つありますが、その減速スピートが予想以上のものであることが
わかってきています。その予想を上回る減速について、ジャーナ
リストの山田順氏は、次のように書いています。
─────────────────────────────
 中国汽車工業協会が3019年1月14日に発表した2018
年度の新車販売台数では、28年ぶりに前年比でマイナスに転じ
ました。2017年比2・8%減で、約2800万台。数字的に
は大したことがないように思えますが、消費の落ち込みが原因で
すから、その影響ははかりしれません。
 この中国の消費市場の落ち込みをさらに裏付けたのが、17日
に日本電産が発表した19年3月期の業績予想の下方修正です。
日本電産の永守重信会長はこう言いました。「昨年11、12月
は経験したことがない落ち込み。46年間経営しているが、こん
なに落ちたのは初めてだ」
 この発言で、日本の産業界に衝撃が走りました。日本電産は中
国で自動車や白物家電向けのモーターを提供しています。その生
産が30〜40%も落ち込み、工場は在庫の山になったというの
です。日本電産と同じく下方修正を発表したのが安川電機で、こ
ちらはスマホ向け製造装置の生産が大きく落ち込んだのが原因で
す。「世界の工場」とされてきた中国ですが、消費の落ち込みと
ともに、工場の稼働率が落ち、大不況に見舞われていると言って
いいのです。            https://bit.ly/2FJike7
─────────────────────────────
 日本電産の永守重信会長は「炭鉱のカナリア」の異名を持つ人
です。危険を察知すると、素早く知らせてくれます。その永守会
長が中国経済の落ち込みは予想以上で、「リーマン級もある」と
予測しています。
 現在トランプ政権は、メキシコ国境の壁の問題で民主党と対立
していますが、こと中国に関しては、民主党も一枚岩であるとい
われています。ジャーナリストの山田順氏によると、民主党のナ
ンシー・ペロシ下院議長は筋金入りの「中国嫌い」で知られてお
り、ブッシュ政権時代に「北京五輪をボイコットせよ」と主張し
たくらいです。したがって、中国叩きなら議会は問題なく、一致
団結できるのです。
 つまり、中国が約40年にわたって経済の拡大を続けてこられ
たのは、米国経済のおかげなのです。米国としても中国が経済発
展すれば、民主国家になると予測して支援してきたのですが、経
済力を利用して覇権を求めるようになったので、その経済力その
ものを弱体化させようとして貿易戦争を起こしたといえます。
 中国の経済は明らかにバブルであるといえます。この状態でも
し米国からの資金が入ってこなくなると、バブルは崩壊すること
になります。しかし、中国は社会主義国ですから、かつてのソ連
がそうであったように、民主国家ではできない、いろいろな方策
を講ずることができますが、崩壊は時間の問題です。
 現在の中国の経済の現況について、日高義樹氏は、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 中国経済がバブルであるという事実は、40兆ドル以上の莫大
な借金を抱え込んでいることに示されている。この40兆ドルと
いうのは、中国のGDPのおよそ4倍にあたる。
 中国の人々は、いわば借金の二日酔いの中で暮らしているよう
なものだ。銀行は政府の命じるまま、担保なしで貸し出しを続け
ている。いっぽう政府は、土地不動産の価格崩れを防ぐために、
一般の人々の土地や住宅の売買を禁止している。
                ──日高義樹著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/015]

≪画像および関連情報≫
 ●米中貿易戦争/いま中国で起きている「ヤバすぎる現実」
  ───────────────────────────
   米トランプ政権が、中国製品に関税をかけたり、中国から
  の投資に規制をかけようとしたりと、「なりふり構わぬ」格
  好で、中国を潰しにかかっています。
   なぜトランプ政権が、このような行為に及ぶのかと言えば
  それは「未来の中国年表」を見ると一目瞭然です。「未来の
  中国年表」とは、「人口はウソをつかない」をモットーに、
  人口動態から中国の行く末を予測したものです。現在の米中
  両大国の人口を比較すると、中国は、アメリカの約4・2倍
  の人口を擁しています。経済規模(GDP)については20
  17年の時点で、63・2%まで追い上げています。このペ
  ースで行くと、2023年から2027年の間に、中国はア
  メリカを抜いて、世界ナンバー1の経済大国となるのです。
   先端技術分野に関しては、アメリカにとってさらに深刻で
  す。国連の世界知的所有権機関(WIPO)によれば、各国
  の先端技術の指標となる国際特許出願件数(2017年)は
  1位がアメリカで5万6624件ですが、2位は中国で4万
  8882件と肉薄しています。
   しかも、企業別に見ると、1位が中国のファーウェイ(華
  為)で4024件、2位も中国のZTEで2965件。3位
  にようやくアメリカのインテルが来て2637件となってい
  ます。トランプ政権がファーウェイとZTEの2社を目の敵
  にしているのも、アメリカの焦燥感の表れなのです。
                  https://bit.ly/2wjm67H
  ───────────────────────────

日高義樹氏.jpg
日高義樹氏
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2019年01月28日

●「米国はなぜ貿易戦争を仕掛けたか」(EJ第4935号)

 トランプ大統領は、毀誉褒貶相半ばする人物です。よくいう人
もいれば、悪くいう人もいます。単純な人間という人もいます。
たとえば、米中貿易戦争では、米国が中国との貿易でこうむって
いる赤字はけしからんとして「特別関税」をかける──ずい分乱
暴な措置のように見えます。企業家は赤字が嫌いなので、貿易赤
字に過剰に反応しているという人もいます。
 しかし、トランプ大統領の対中国政策はなかなかスジが通って
います。日高義樹氏は、特別関税に関して、海兵隊出身のある財
界人の次の言葉を紹介しています。
─────────────────────────────
 特別関税をかけるというトランプ大統領の真意は、中国が不正
な貿易で貯め込んでいる資金を使って、人権を無視した全体主義
的な侵略政策を、近隣の国々に及ぼすのを阻止することだ。トラ
ンプ大統領はアメリカに対する輸出で稼いだ資金を、不法な目的
のために使っている中国に、心底ハラを立てている。
                ──日高義樹著/徳間書店刊
        「アメリカに敗れ去る中国/安倍外交の危機」
─────────────────────────────
 2018年にそれははじまったのです。2018年のはじめに
米国防総省とCIAは、トランプ大統領に「中国製造2015」
に関する報告を行っています。中国が2015年までに、あらゆ
る先端技術で米国に追い付くという計画です。
 中国が米国との貿易で得ている貿易黒字は年間およそ5000
億ドルです。トランプ大統領は、この5000億ドルが、全体主
義的な非人道的な侵略政策を推し進めるために使われているとみ
ています。
 それに加えて、2018年4月の全国人民代表大会における習
近平主席による次の演説です。この大会は、李克強首相を始めと
する国家機関指導者や閣僚たちがこぞって「習近平『新時代』」
と叫ぶ異様な雰囲気に包まれていたといいます。
─────────────────────────────
 中国の社会主義は「新時代」に入った。今世紀半ばまでに、中
国は、米国と肩を並べる「社会主義近代化強国」を建設する。
                    ──習近平国家主席
                  https://bit.ly/2R9TpBF
─────────────────────────────
 「中国製造2025」と習近平主席のこの演説によって、トラ
ンプ大統領の怒りは頂点に達し、米中貿易戦争は開始されたので
す。トランプ大統領の対中国戦略は、特別関税だけが目立って見
えますが、基本的には次の2つの柱があるのです。
─────────────────────────────
◎国家戦略第1:
 中国経済の基本になっている、国営企業のアメリカ進出を禁止
することだった。2018年6月26日、トランプ大統領は国家
緊急経済防衛政策を発動し、中国政府が25%以上の資金を出し
ている中国の国営企業のアメリカ進出を禁止した。
◎国家戦略第2:
 中国の国営企業だけでなく、中国の民間企業が、アメリカに投
資するさい、これまでは商務省や国務省の認可だけでよかったも
のを、新しくCIAなどの審査を必要とする仕組みに変えること
だった。            ──日高義樹著の前掲書より
─────────────────────────────
 上記国家戦略に基づき、トランプ政権は、「対米投資監視委員
会」を設置しています。この委員会には、商務省、国務省、CI
Aが担当します。CIAが加わっているのは、安全保障上の観点
からの監視が必要であると考えているからです。
 また、米国の企業が中国で投資するさいにも、この監視委員会
の審査が必要になったのです。これまで、米国の企業が中国に進
出すると、必ず中国企業との合弁のかたちで共同経営の仕組みを
とらされ、先端技術の無料での提供を余儀なくさせられてきたか
らです。
 このように、トランプ政権は基本的に必要な手を打ったうえで
2018年7月6日、午前0時1分(米国東部時間)、対中制裁
関税を発動したのです。これに対して習近平主席が率いる中国は
居丈高に戦う姿勢を示したのです。
 このとき、習近平主席は、全国人民代表大会において、中国の
憲法第79条「国家主席の任期は二期、10年を超えてはならな
い」という規定を削除させ、事実上の「終身主席」の地位を手に
入れて4ヶ月しか経っておらず、米国に対して弱気の姿勢を見せ
るわけにはいかなかったのです。そこで、同日午後0時5分(北
京時間)中国商務部の報道官は次の談話を発表しています。
─────────────────────────────
 アメリカはWTOの規則に違反し、今日までの経済史上最大規
模の貿易戦争を発動した。この種の追加関税行為は典型的な貿易
覇権主義であり、まさに全世界の産業と価値のチェーンの安全を
著しく脅かすものである。また、世界経済の復興の足踏みを阻害
するものであり、世界の市場に動揺を引き起こすものであり、世
界のさらに多くの無辜の多国籍企業と一般企業、消費者に波及す
るものであり、アメリカの企業と国民の助けにならないばかりか
彼らの利益をも損なうものだ。中国側は、先制攻撃はしないとし
た。だが国家の核心的利益と国民の利益を断固として守るため、
必要な反撃に出ざるを得ない。        ──近藤大介著
    『習近平と米中衝突/「中華帝国」2021年の野望』
                   NHK出版新書568
─────────────────────────────
 このとき習近平国家主席は、いささか気分が高揚しており、米
国何するものぞと考えていたようです。中国人民日報社が発行す
る国際紙『環境時報』では、「ワシントンの貿易覇権主義は必ず
敗れる」と題する勇ましい記事を掲載しています。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/016]

≪画像および関連情報≫
 ●米中貿易戦争/いま中国で起きている「ヤバすぎる現実」
  ───────────────────────────
   米トランプ政権が、中国製品に関税をかけたり、中国から
  の投資に規制をかけようとしたりと、「なりふり構わぬ」格
  好で、中国を潰しにかかっています。なぜトランプ政権が、
  このような行為に及ぶのかと言えば、それは「未来の中国年
  表」を見ると一目瞭然です。「未来の中国年表」とは、「人
  口はウソをつかない」をモットーに、人口動態から中国の行
  く末を予測したものです。
   現在の米中両大国の人口を比較すると、中国は、アメリカ
  の約4・2倍の人口を擁しています。経済規模(GDP)に
  ついては、2017年の時点で、63・2%まで追い上げて
  います。このペースで行くと、2023年から2027年の
  間に、中国はアメリカを抜いて、世界ナンバー1の経済大国
  となるのです。
   先端技術分野に関しては、アメリカにとってさらに深刻で
  す。国連の世界知的所有権機関(WIPO)によれば、各国
  の先端技術の指標となる国際特許出願件数(2017年)は
  1位がアメリカで5万6624件ですが、2位は中国で4万
  8882件と肉薄しています。しかも企業別に見ると、1位
  が中国のファーウェイで、4024件、2位も中国のZTE
  で2965件。3位にようやくアメリカのインテルが来て、
  2637件となっています。トランプ政権がファーウェイと
  ZTEの2社を目の敵にしているのも、アメリカの焦燥感の
  表れなのです。         https://bit.ly/2wjm67H
  ───────────────────────────

トランプ米大統領.jpg
トランプ米大統領

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2019年01月29日

●「世界第2位経済大国の正体に迫る」(EJ第4936号)

 米国のトランプ政権から貿易戦争を仕掛けられて、それを習近
平政権の中国が昂然と受けて立ったのは明らかに失敗です。なぜ
なら、中国経済の実態が米国に対する輸出に過度に依存している
経済であるからです。これについて、日高義樹氏は、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 中国経済は、アメリカに対する輸出に一方的に依存している。
2017年、中国製品の世界に対する全輸出の実に3分の2以上
88パーセントがアメリカ向けであった。中国は、2017年、
アメリカから2758億ドル、概算すると30兆円以上の貿易黒
字を手にした。そういったアメリカに対して貿易戦争を続けられ
るはずがない。中国がアメリカから買っている食料や石油はいわ
ば戦略的物資である。中国としては国家の存立のために買わざる
をえない必需品であり、貿易戦争の対象にはなり得ない。
                ──日高義樹著/徳間書店刊
        「アメリカに敗れ去る中国/安倍外交の危機」
─────────────────────────────
 中国は、米国に次ぐ世界第2位の経済大国です。それでいて発
展途上国でもあるのです。この現状認識を中国の習近平国家主席
は持っていないと日高義樹氏はいいます。つまり、現状認識に欠
けているのです。習近平国家主席は、よく米国との「2大大国時
代」を口にしますが、そのこと自体が認識の欠如です。
 なぜ、中国は発展途上国なのかというと、それはたくさん上げ
ることができます。国内のインフラストラクチャーは整備されて
おらず、国民生活の格差は拡大する一方です。当然そこに湧き上
がってくる国民の不満や反感を習近平主席は、独裁体制を基盤に
力で押し潰しているのです。
 それに経済大国といっても、それはGDPが米国に次いで第2
位だからであり、肝心の経済の実体には大きな問題がいくつもあ
るのです。とくに1人当たりの国民所得でいうと、中国は、20
15年は72位、7990ドルに過ぎないのです。以下に、20
15年度のG7の順位を示します。世界第3位の経済大国である
日本は、G7中第6位、世界順位第24位と低迷しています。
─────────────────────────────
     ◎G7における一人当たりGDP/2015
        順位      国名    米ドル
        5位    アメリカ  55805
       13位    イギリス  43771
       16位     カナダ  43332
       18位     ドイツ  40997
       20位    フランス  37675
       24位      日本  32486
       25位    イタリア  29867
       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
       72位      中国   7990
              https://bit.ly/2sLvX3S
─────────────────────────────
 今回の米中貿易戦争で、中国の失うものはあまりにも大きいと
いえます。その失うもののなかでも大きいのは、中国は米国が主
張する不正な経済活動で米国から得ている年間5000億ドルの
資金(貿易黒字)が今後得られなくなることです。しかし、中国
は米国との交渉において、米国との貿易収支の幅をどれだけ狭め
ればよいかを考えているレベルであり、中国の指導者が事態の深
刻さに気が付いていないフシがあります。このことについて、日
高義樹氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 習近平と中国政府の致命的な失敗は、新しい事態が生じた際の
プランB、つまり対応策を考えていなかったことである。経済拡
大に邁進するだけで、経済拡大の停止という状況が起きた場合の
プランBを考えておかなかった。私のハドソン研究所の友人はこ
う言っている。
 「中国政府はアメリカから際限なくドルが入ってこなくなった
場合、国民をどう納得させるか、まったく考えていなかった」
 習近平が、国民の不満を押さえつけて納得させる手段は、独裁
体制と言論弾圧を強化すること、侵略的な対外政策で、国民の目
を外にそらすことであった。だがそうした手段を取り続けるため
にも、アメリカからの湯水の如き貿易黒字という収入が必要なの
である。            ──日高義樹著/徳間書店刊
        「アメリカに敗れ去る中国/安倍外交の危機」
─────────────────────────────
 どうして中国はこの深刻な事態に気が付かないのでしょうか。
それは、現トランプ大統領の前の3人の米国の大統領──クリン
トン、ブッシュ、オバマの3人の大統領の判断の誤りにあったと
いえます。
 その判断ミスとは、中国経済は巨大であり、米国経済や世界経
済が発展するために必要不可欠なものであるが、もし崩壊すると
その影響は計り知れないほど大きくなり、米国経済を直撃すると
考えて、中国の不正な経済活動に目をつぶったことです。それに
中国が経済的に発展すれば、政治体制が変わり、やがて民主主義
国家に変貌すると予測したことです。
 ここでいう不正な経済活動とは、「米国経済の高価な首飾り」
といわれる先端技術やパテントを、スパイ活動やサイバー技術を
悪用して盗み、それを国営企業に与えて大量な製品を作り、それ
を当の米国に売るということを指しています。
 トランプ大統領が決断した今回の貿易戦争は、そういう不正な
行為を絶対に許さないという意思のあらわれです。これについて
日高義樹氏は、興味ある言葉で表現しています。「少数の人間を
長いあいだだますこと、大勢の人間を短い間だますことはできる
が、大勢の人間を長いあいだだますことは出来ない」と。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/017]

≪画像および関連情報≫
 ●中国・国有企業「3兆円不正」の証拠を公開!
  ───────────────────────────
   2017年7月14日と15日、北京で全国金融活動会議
  が開かれた。共産党大会直前に、主な幹部が全員出席して行
  われた5年に一度の金融分野での重要会議だ。
   習近平主席が長い演説を行った初日の会議終了後に、異変
  は起こった。中国共産党序列14位の孫政才・重慶市党委書
  記(53歳)が突然、身柄を拘束されたのである。現役の中
  央政治局委員(トップ25)であり、今秋の第19回共産党
  大会で習近平主席の後継者になるとも目されていた幹部が、
  引っ捕らえられたことで金融問題の会議どころではなくなっ
  てしまった。ある北京の経済官僚が明かす。
   「党中央(習主席)に逆らうと、恐ろしい報復が待ってい
  る」ことを見せつけたのだ。先日も共産党の学習会の席で、
  習主席の最大の経済ブレーンである劉鶴・中央財経指導小グ
  ループ主任の最新の訓示が配られ、そこにはこう書かれてい
  た。「中国に純粋な経済学などない。あるのは政治経済学の
  みだ。習近平総書記を核心とする党中央が指導する経済学に
  従うことこそが、国務院(中央官庁)と国有企業に課せられ
  た重大な使命である」
   昨年11月には、「お上ではなく市場を見て仕事しろ」と
  常々言っていた楼継偉財政部長(財務相)が突然、閑職に追
  いやられた。国有企業の経営者たちは、党中央に従わないと
  たちまち「腐敗分子」のレッテルを貼られて逮捕される。つ
  いこの間も国有企業18社が、見せしめに遭ったばかりだ」
                  https://bit.ly/2SeWUvr
  ───────────────────────────

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習近平国家主席
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2019年01月30日

●「『奉陪到底』を貫く中国の対抗策」(EJ第4937号)

 米中貿易戦争が本格的に始まったのは、2018年7月からで
すが、その前哨戦は3月から始まっています。3月22日、午後
12時45分から13分間にわたって行われたトランプ大統領の
演説では、600億ドル(約6兆3000億円)もの中国製品に
高関税をかける制裁措置を行うというものだったのです。
 これを中国はどのように受け止めたのでしょうか。ここからは
中国サイドの視点に立って、トランプ政権のアクションをみてい
くことにします。著名な中国ウオッチャーの1人である近藤大介
氏の次の新刊書をベースにご紹介します。近藤大介氏は2009
年から2012年まで、講談社北京副社長を務めています。
─────────────────────────────
                      近藤大介著
  「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
                 NHK出版新書568
─────────────────────────────
 この時点では、中国は余裕綽々であったのです。このトランプ
演説について、精華大学中米関係研究センターの周世検研究員は
次のように批判しています。
─────────────────────────────
 まずトランプのネーミングが正しくない。何が「中国による経
済的侵略」だ。貿易というのは、損するけれどもやるなどという
商人はいない。年間5200億ドルの商品が中国からアメリカへ
流れているのは、中国が強制的にアメリカに押しつけているもの
ではなく、アメリカの商人がわざわざ中国までやって来て買って
いくのだ。かつ、貿易の3分の2は日用品であり、アメリカ人の
生活に足りないものを中国が補っているにすぎない。それを「経
済的侵略」などと言うのは、「胡説人道」(デタラメ)だ。
 トランプが見ているのは、中国との貿易ではなく、11月の中
間選挙だ。「オレはアメリカ人の利益を守るためなら、何でもや
る」とアピールしたいのだ。トランプは中間選挙で負けたらレイ
ムダックになり、2年後の再選は難しくなる。それでアメリカの
ためではなく、ただ私利私欲のために今回の暴挙を犯したのだ。
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 この時点でのこの主張は比較的真っ当なもので、日本のメディ
アでも同じような論調だったのです。このとき世界は、まだトラ
ンプ大統領を色眼鏡で見ており、特別関税なんか暴挙であって、
このまま貿易戦争が続けば、米国が敗者になるという見方が支配
的であったのです。
 ちょうどこのとき、ノーベル経済学賞受賞の経済学者、スティ
グリッツ教授が北京に滞在中であり、記者にコメントを求められ
次のように答えています。この映像が中国では、繰り返し、テレ
ビで流されたのです。
─────────────────────────────
 わが国が起こした不安と混乱について、世界に対してお詫び
 する。        ──ジョセフ・スティグリッツ教授
               ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 さらに、トランプ大統領の演説に対し、中国の崔天凱駐米大使
は、次の緊急声明を出しています。駐米大使がこういう声明を出
すのは、異例なことです。
─────────────────────────────
 われわれは、アメリカとの貿易戦争は戦いたくない。だが、貿
易戦争を恐れるものでもない。もしわが国に何者かが貿易戦争を
仕掛けてきたなら、必ずや戦う。「奉陪到底、看誰真正堅持到最
後」                  ──崔天凱駐米大使
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 声明の最後の「奉陪到底、看誰真正堅持到最後」とはどういう
意味でしょうか。
 これは「最後まで付き合ってやる。どちらが本当に最後まで持
ちこたえられるか見てみようではないか」という意味です。実は
1996年5月、米国が中国に報復関税をかけるといったときに
当時外交部報道官だった崔天凱氏は「平等協商解決」としかいえ
なかったのです。これは「平等に協議して解決しよう」という意
味になります。つまり、20年経って、米中の実力が大きく変化
したことのあらわれといえます。
 しかし、ここで注意すべきことがあります。それは米国が「不
正な経済行為」といっていることです。中国ウォッチャーの本か
らは、当然ではありますが、そういう言葉は一切出てこないので
す。ですから、一見中国のいっていることが正しく聞こえてしま
うところもあります。
 習近平主席の考えている経済政策というのは、国の支配下にあ
る国営企業を使って、政府の資金で安い製品を作り、輸出競争力
をつけ、世界中にばらまくというものです。これは、社会主義国
や全体主義国だからできることであって、トランプ大統領は「こ
れではフェアではない」といっているのです。
 つまり、トランプ大統領は、国際社会において大国として振る
舞うのであれば、中国の今の政治体制を改革すべきであると暗に
求めているのです。少なくともそのことに中国の首脳たちは気が
付いていないと思います。この時点で中国は、貿易戦争はトラン
プ大統領が中間選挙目当てのパフォーマンスと捉えていたフシが
ありますが、それは大きな間違いであることがやがてわかること
になります。
 中国も米国と本気でやり合うのは本意ではなかったのです。し
かし、3月16日に米国が「台湾旅行法」に署名したことによっ
て、「奉陪到底」を決めたのです。台湾問題は中国最大の核心的
利益であり、米台間の高位級の交流を促すこの法案は、中国とし
ては絶対に受け入れられないものだからです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/018]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の済学者「勝ち目なく壊滅的」
  ───────────────────────────
   米中両国の事務レベル貿易協議が22日から米国で開かれ
  る予定だが、双方の主張は依然として隔たりが大きく、摩擦
  解消につながるかは不透明だ。今春に始まった米中貿易戦争
  は、すでに中国経済にダメージを与え始めた。「中国に勝ち
  目はなく、はやく失敗を認めて、事態を収束すべきだ」との
  厳しい見方も中国国内でくすぶっている。
   2期目の習近平政権が発足した直後の3月23日、中国商
  務省は米国による鉄鋼・アルミ製品への追加関税措置への報
  復として、128品目の米国製品に対し追加関税を課すと発
  表。問題がエスカレートした。
   中国の官製メディアは「われわれはいかなる戦争も恐れて
  いない」と強気な姿勢を崩していない。ただ、対米輸出に依
  存している中国経済が米国と全面対決することは「無謀な戦
  い」とみる投資家も少なくなく、中国の金融マーケットは敏
  感に反応した。
   株式市場では3300ポイント前後だった上海総合指数が
  3月末から下落し、8月中旬には2600ポイントと約20
  %も下げた。人民元の為替相場も対ドルで10%近く急落し
  た。中国は近年、経済成長率が前年比6〜7%で推移してい
  る。為替相場が下落すれば、輸入コストが大幅アップするな
  ど、成長率を押し下げる要因になる。「中華民族の偉大なる
  復興」とのスローガンを掲げ、経済規模で米国を追い越すこ
  とを夢みる習政権にとって、打撃は大きい。
                  https://bit.ly/2HxfaM9
  ───────────────────────────

スティグリッツ教授.jpg
スティグリッツ教授
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2019年01月31日

●「トランプ米大統領を甘く見た中国」(EJ第4938号)

 2018年になってトランプ米大統領から貿易戦争を仕掛けら
れたとき、中国は妙な高揚感を持っていたといいます。そのため
中国としては、次の3原則でこれに臨むと宣言しています。
─────────────────────────────
   1.たとえ相手がアメリカであっても何も恐れない
   2.米国のWTO違反に対する正義の防衛戦である
   3.全面戦争ではなく、貿易に限った局地戦である
─────────────────────────────
 この強気の対応のウラには、中国はトランプ大統領を一段低く
見下していたフシがあります。『習近平と米中衝突』の著者であ
る近藤大介氏は、米国を担当する中国の外交関係者の言葉として
中国の本音を次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 われわれが得ている情報によれば、トランプ大統領は、物事を
一人で決める傾向がある。トランプには団体という概念がない。
優秀なシンクタンクも活用しなければ周囲に専門家も置かない。
商人の手法そのもので、まず相手に大きく吹っかけてから、徐々
に値切っていくだけだ。
 トランプ政権はまた中国を深く研究しているように思えない。
それに対し、中国はアメリカを長期にわたって十分研究している
から、半分の力でアメリカに勝てるだろう。(中略)
 これが、ヒラリー・クリントン大統領だったら、大変なことに
なっていただろう。トランプは単純な商人だから、「商談」にな
る。最後はトランプが、前線に立つライトハイザーUSTR(米
通商代表部)代表をクビにして、幕引きを図るのではないか。
             近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 中国としては、米国に対して「2つのことを聞いてやったでは
ないか」という思いがあります。2つのことの1つは、「北朝鮮
を何とかしてくれ」といってきたことです。これに対し中国は、
国連制裁を守るだけでなく、厳しい独自制裁を北朝鮮に課して、
中国としては米国の要請に応えたつもりなのです。
 2つは、「貿易不均衡を何とかしてくれ」と要求してきたこと
です。これに対しては、2017年11月のトランプ大統領の訪
中のさい、十二分におもてなしをしたうえで、2535億ドル分
米製品を購入して応えている。習近平主席としては、米国の要求
は、これで終わりと考えていたのです。
 実際に、この米中貿易問題の担当者である劉鶴副首相は、その
とき、次のように主張しています。
─────────────────────────────
 昨年(2017年)11月にわれわれはアメリカから2535
億ドル分も購入した。あと何を買って欲しいというのか。両国の
貿易格差が縮まらないのは、中国がアメリカの先端技術を高く買
うと言っているのに、アメリカが許可しないからではないか。
                      ──劉鶴副首相
                  近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 これはかなり思い上がった考え方です。それは、中国政府がト
ランプ大統領を「商人」と見下し、甘く見ていた結果であるとい
えます。習近平主席は、中国をロシアが「プーチンのロシア」と
いわれているように「習近平の中国」と呼ばれるようにしたいと
考えているのです。そのため、国家主席の任期10年の規定を廃
止し、生きている限り国家主席を続けられる「永代資格」が必要
であると考えたのです。そんなとき、米国から貿易戦争を仕掛け
られたので、中国全体に妙な高揚感、「米国なにするものぞ」と
いう思いが高まっていたのです。
 しかし、人民解放軍は、米国の出方に不気味さを感じ取ってい
ました。2018年3月23日、トランプ大統領がホワイトハウ
スで対中貿易戦争の宣戦布告をしたほぼ同時刻に、米軍は「航行
の自由作戦」を敢行し、南シナ海南沙諸島の美済島の12海里内
にミサイル駆逐艦「マスティン」を進入させてきたからです。
 ある重大な発表をしたりするさいに、それに関連する重大な行
動を同時並行に起こさせるのは、トランプ大統領の常套手段であ
るといえます。2018年にアルゼンチンのブエノスアイレスで
の米中首脳会談の開催とほぼ同時刻に、カナダでファーウェイの
副会長を逮捕していたこともトランプ流です。
 同じことが昨日30日にも起きています。この日、ワシントン
で米中貿易戦争の閣僚級協議が開始されたのですが、その1日前
に、ファーウェイ孟副会長を起訴し、同副会長を逮捕しているカ
ナダ当局に対し、その身柄の引き渡しを求めたのです。米国は、
閣僚級協議とは一切関係ないといっていますが、協議の内容は知
的所有権に関するものであり、関係は大ありです。これがまさに
トランプ流といってよいと思います。
 「マスティン」の南シナ海南沙諸島進入に関して中国国防部は
任国強報道官によるメッセージを発表して、米国を非難していま
す。その要旨は次の通りです。
─────────────────────────────
 中国海軍は、570艦艇と514艦艇(共にミサイル・フリゲ
ート艦)を即刻、出動させ、「マスティン」に警告を発した。中
国は、南シナ海において、争いようのない主権を有していて、ア
メリカの行為は中国の主権と安全を厳重に損なうものだ。かつ海
空で思いがけない事件を引き起こすことになる。アメリカ軍の挑
発行為は、中国軍の国防建設をさらに強化するものにしかならな
い。              ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 このようなことから、中国の人民解放軍は、これら一連のトラ
ンプ政権の中国への圧力は、周到に計画されたものではないかと
考えはじめたのです。しかし、中国上層部の高揚感は続いていた
のです。       ──[米中ロ覇権争いの行方/019]

≪画像および関連情報≫
 ●中国が南シナ海で「戦争のリハーサル」
  ───────────────────────────
   中国空軍は2018年3月25日、SNSアカウントでの
  報道官声明を通じ、南シナ海で実戦訓練を行うと同時に、台
  湾北部の宮古海峡で偵察行動訓練を行ったと発表した。中国
  空軍の申進科報道官は、一連の訓練を「戦争準備のための演
  習」だと語っている。行われた時期は明らかにされていない
  が、23日の米海軍の「航行の自由作戦」など、西側諸国の
  軍事行動を意識しているのは明らかだ。中国側が「戦争」と
  いう言葉を明言したこともあり、主要海外メディアは一連の
  訓練や南シナ海情勢に警戒感を強めている。
   申報道官の声明によれば、南シナ海での“威力偵察作戦”
  には、最新鋭のH−6K戦略爆撃機、Su−35戦闘機も参
  加。中国のH−6K爆撃機は、アメリカ、ロシア以外の国で
  唯一長距離空対地ミサイル発射能力を持つ。APは、南シナ
  海からであれば「遠くオーストラリアまで射程に収める」と
  H−6Kが実戦訓練に参加したことの危険性を指摘する。
   沖縄本島と宮古島の間にある宮古海峡でもH−6KとSu
  30戦闘機による戦闘訓練が行われた模様だ。日本の防衛省
  は、23日に中国の爆撃機・戦闘機8機が宮古海峡を通過し
  たことを確認。航空自衛隊の戦闘機がスクランブル発進して
  いる。宮古海峡は日本にとって戦略的に重要であるばかりで
  はなく、台湾有事の際にも地政学的な鍵となるエリアだ。
                  https://bit.ly/2DHrLIJ
  ───────────────────────────

米ミサイル駆逐艦「マスティン」.jpg
米ミサイル駆逐艦「マスティン」
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2019年02月01日

●「中国に現在何が起こっているのか」(EJ第4939号)

 2018年は、中国の最高指導者習近平主席にとって特別の年
といえます。2018年3月11日、全人代は、国家主席と国家
副主席の任期を2期10年とする制限を撤廃して習近平思想を盛
り込む中華人民共和国憲法改正案を賛成2958票、反対2票で
成立させ、習近平氏は中国の事実上の皇帝になったのです。
 ところで、習近平主席の誕生日は6月15日です。この日にな
ると、習近平派の側近たちは、中南海の習近平宅に参集し、お祝
いをするのが常ですが、不思議なことに、習近平氏の誕生日には
ロクなことが起きていないのです。
 習近平国家主席は、サッカーが趣味だそうです。そこで、20
13年の誕生日には、還暦祝いとして、側近がタイの代表チーム
を招いて、中国代表と親善試合をさせたのです。タイは中国より
も格下であり、中国が勝つという想定のもとに、わざわざタイの
チームを招いたのです。しかし、結果は「中国1対タイ5」で、
中国が完敗してしまったのです。
 2015年の誕生日は、株式バブルの真っ只中だったのです。
前日まで上海総合指数は5178ポイントと高値をつけており、
さらなる上昇が期待されていたのです。個人投資家としては、習
主席の誕生日には、きっとご祝儀相場があると信ずる者が多く、
勝負に出たのです。ところが、上海総合指数は、5048ポイン
トまで急落し、その後3週間で32%も暴落したのです。この下
落によって、540兆円が消え、「習近平暴落」という不名誉な
ネーミングがついてしまったのです。
 そして、2018年6月15日、トランプ米大統領からの次の
メッセージが届いたのです。
─────────────────────────────
 これ以上、対中貿易赤字の拡大を看過できない。そのため、中
国の知的財産権侵害に対する制裁措置として、500億ドル(約
5兆5000億円)分の中国製品に、25%の追加関税を課す。
まず、7月6日に、産業ロボットや電子部品などハイテク製品を
中心に、計818品目、340億ドル分の制裁関税を発動する。
残りの160億ドル分は、これから発動時期を検討していく。
             近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 まさか、習近平主席の誕生日を狙って、トランプ大統領が貿易
戦争を仕掛けたわけではないでしょうが、中国にとっては、6月
15日にトランプ政権による爆弾が炸裂したのです。
 しかし、最初のうちは中国は威勢が良かったのです。2018
年7月7日、人民日報社の発行する国際紙「環境時報」は、「ワ
シントンの貿易覇権主義は必ず敗れる」と題する次の社説を掲載
したのです。
─────────────────────────────
 アメリカが貿易戦争の最初の一撃を放った。だが中国を倒すに
は及ばず、必ずや強力な反撃を食らうだろう。
 まず第一に、アメリカは世界の貿易の歴史に、永久に残る汚点
を刻んだ。ワシントンはWTOの規則に完全に違反した史上最大
規模の貿易戦争を故意に発動し、世界経済を全面的に破壊する影
響を与える可能性がある。それは、ワシントンのちっぽけなソロ
バンで弾き出したものとはかけ離れた規模であり、この一点だけ
をとっても、アメリカは世界貿易史に残る犯罪国家だ。
 第二に、ワシントンの貿易覇権主義が敗北に終わることは疑い
がない。ワシントンは、自分たちが勝つと無理やり思い込んで開
戦したが、「戦場」で痛い目に遭って初めて、理性を取り戻すか
もしれない。
 グローバリゼーションが深く浸透した21世紀にあって、各国
の経済は、とりわけ中国とアメリカの経済は、「自己の中に相手
がいて、相手の中に自己がいる」関係にあり、切り離すことはで
きない。アメリカが中国を叩いて、自分だけ無傷ということはあ
り得ない。
 現在ワシントンが踏んでいるのは、二本のレッドラインだ。一
本は多国間の規則というレッドラインであり、もう一本は中国が
発展していく権利というレッドラインである。前者によって全世
界の反対に遭い、後者によって中国からの反撃に遭っている。ワ
シントンは、世界の反対と中国の反撃が巨大なパワーとなること
を見くびったのだ。       ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 「環境時報」はなかなかうまい表現を使っています。現在の中
国と米国の関係については、「『自己の中に相手がいて、相手の
中に自己がいる』関係にあり、切り離すことはできないと述べて
います。つまり、争えば共倒れになるといっているのです。確か
にその指摘は当っています。世界1位の経済大国と世界2位の経
済大国が貿易で争えばどちらも経済がおかしくなるし、どちらも
傷つき、それによって世界経済にも大きな影響が出ます。
 しかし、米国としては、自国の安全保障上の問題があって貿易
戦争を仕掛けており、両方とも傷つくことは確かですが、今なら
国力の差によって勝つと読んで、米国は、この貿易戦争を仕掛け
たのです。
 果せるかな、中国国内では、トランプ爆弾によって大きな地殻
変動が起きつつあり、3つの方面から「習近平政権批判」が続々
と出てきたのです。
─────────────────────────────
  1.国内の経済や金融の専門家からの習近平批判である
  2.北載河会議での長老たちからの政権失政批判である
  3.「墨汁事件」に代表される市民の習政権批判である
─────────────────────────────
 時の国家主席である習近平主席を批判するということは、中国
では考えられないことです。しかし、米国との貿易戦争によって
その考えられないことが起きているのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/020]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ中国共産党指導者の誕生日は国家機密なのか?
  ───────────────────────────
   日本であまり知られていないことだが、中国では共産党指
  導者の誕生日は国家機密になっている。中国政府は公式ホー
  ムページなどで指導者の略歴を発表しているが、生まれた年
  と月しか公表しておらず、誕生日がない。例えば習近平国家
  主席の場合「1953年6月生まれ」となっている。
   そのため記事を書く際、指導者の年齢をめぐり困るときが
  ある。例えば2013年の全国人民代表大会(国会に相当)
  で、副首相に任命された汪洋氏の場合、「1955年3月生
  まれ」となっており、人事が決まったのは3月16日で、そ
  のときに誕生日が来ていたかどうかが分からない。57歳か
  58歳そのどちらかの可能性があるため、年齢を省いて記事
  を書かざるを得なかった。
   中国人は指導者の誕生日については関心が高く、性格から
  星座を推測するなど、長文を書いて論証する人さえいるほど
  だ。インターネットで、習近平主席の誕生日は「6月1日」
  と「6月15日」と2つの説が有力だが、それぞれ根拠があ
  り、どれを信じればいいのかわからない。しかし、李克強首
  相の誕生日が「1955年7月1日」であることははっきり
  している。それをばらしたのはインドのモディ首相である。
  2015年7月1日、モディ首相は自身のツイッターに「中
  国の李首相、お誕生日おめでとうございます」と書き込んだ
  ことが、インターネット上で話題となった。
                  https://bit.ly/2WCqc6u
  ───────────────────────────

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トランプ大統領と習近平国家主席
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2019年02月04日

●「中国内で習近平批判が巻き起こる」(EJ第4940号)


 当初くみしやすいと考えていたトランプ米大統領からの貿易戦
争ですが、それによって中国国内では、大きな地殻変動が起きる
ことになったのです。それは、次の3方面から巻き起こった「習
近平批判」です。その3つの方面を再現します。
─────────────────────────────
   1.国内の経済や金融の専門家からの習近平批判
   2.北載河会議での長老たちからの政権失政批判
   3.「墨汁事件」に代表される市民の習政権批判
─────────────────────────────
 「1」の習近平批判について考えます。
 近藤大介氏によると、中国の学者には、次の3つのタイプがあ
るといいます。
─────────────────────────────
 1.中国共産党や時の政権に媚びて、政権の目指す方向の正
  当性を主張し、立身出世を目指す御用学者
 2.中国共産党や時の政権から助成金などの支援は受け入れ
  るが、表面的、国際的なことを論ずる学者
 3.中国共産党や時の政権から距離を置き、中国にとって悪
  いものは悪いと一刀両断するタイプの学者
─────────────────────────────
 習近平政権が、当初トランプ政権からの貿易戦争をくみしやす
しととらえたのは、上記1のタイプの御用学者たちから、中国経
済はやがて米国を抜いて世界一になるとか、米国の方こそ中国を
恐れているなどの政権幹部にとって耳ざわりのよい提言を多少な
りとも信じていたからであるといえます。
 しかし、米中の貿易戦争が過熱化すると、中国国務院傘下のシ
ンクタンクから、一編の経済論文が提出されたのです。このシン
クタンクは、2015年6月に設立された研究員約120名を擁
する国家金融・発展実験室のことであり、金融政策を政府に提言
するのが仕事です。ここに属する学者は上記2のタイプの研究者
たちであるといえます。その論文の要旨は次の通りです。
─────────────────────────────
 中国では今年に入って、債券の不履行、ボラティリティ(流動
性)の緊張、為替の下降や株価の下落などが相次いで起こり、し
かもそれらはますます勢いを増している。通貨総量の増大は縮小
し、企業への融資環境はあまりに先細りしている。
 それらに加えて、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げと
中米貿易摩擦の長期化に伴って、不確実性が高まっている。そう
した中、いまや中国に金融恐慌が起こる確率は極めて高い。
 中国発の金融恐慌への対応は、大規模で、かつ明確に世間に宣
布しなければならない。主要な措置は、第一に、直ちに国務院金
融安定発展委員会の内部に応急処置を取る機構を立ち上げる。第
二に、対策を制定し、適宜果断に、違約や破産事件を処理してい
く。第三に、いち早くわが国の通貨供給制度を、米ドル、為替、
外貨準備と切り離し、不可避になってくる外部との衝突を防ぐた
めの準備を、周到に取り行うことだ。
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 この論文は、シンクタンクを率いる李揚理事長と部下の3名の
研究者の連名になっています。李揚理事長は、中国社会学院で、
金融研究所長、副院長などを歴任し、中国人民銀行(中央銀行)
で通貨政策を決める通貨政策委員も務めた経済学者であり、習政
権の金融ブレーンの一人です。しかし、仕事であるとはいえ、論
文の内容は、結果として習政権の貿易戦争への対応の甘さを指摘
しており、学者生命を賭けて警鐘を鳴らしたのです。習政権下で
政策を批判するのは、大変なことなのです。その結果、実態に基
づかない政権におもねる情報を吹き込んだ御用学者たちが非難の
対象となったのです。
 「2」の習近平批判について考えます。
 中国では、8月上旬に「北載河会議」というものが開かれるこ
とになっています。北載河というのは、渤海湾に面した中国河北
省の保養地です。この北戴河において、毎年7月下旬から8月上
旬ごろにかけて、共産党の指導部や引退した長老らが避暑を兼ね
て集まり、人事などの重要事項を非公式に話し合うことが毛沢東
時代から行われているのです。重要なことは、この会議では長老
たちに強い発言権があることです。したがって、現政権が北載河
会議で批判されると、他の長老たちの担ぐ一派との間で毎年のよ
うに権力闘争が起きるのです。
 7月6日に米国との貿易戦争がはじまった直後の北載河会議で
す。まして、「下手をすると中国発の金融恐慌が起きる」と指摘
された状態で北載河会議に臨むと、習近平主席は長老たちから批
判のマトにされることは火を見るよりも明らかです。そこで、習
近平政権は、党中央宣伝部に命じて、国内の全メディアに対して
「官製報道」以外の米中貿易戦争関連の情報を一切禁止したので
す。禁止されたのは、次の7つの報道です。
─────────────────────────────
       1.       中米貿易戦争
       2.     中国経済の不景気
       3.        消費の低迷
       4.        家賃の高騰
       5.特定の国家元首に対する批判
       6.       離職率の増加
       7.      政府の税制批判
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 しかし、いかに官製報道を行っても、年初3307ポイントを
つけていた上海総合指数は6月末には2847ポイントと14%
も下落してしまったのです。この数値は隠しようがないのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/021]

≪画像および関連情報≫
 ●金融ブレーンが告発!「中国発の金融恐慌は必ず起こる」
  ───────────────────────────
   いよいよ世界中が注視する運命の7月6日がやって来る。
  サッカー・ワールドカップの話ではない。世界の2大経済大
  国であるアメリカと中国が、共に相手国に対して340億ド
  ル規模もの経済制裁を課す米中貿易戦争の火ぶたが切って落
  とされるのだ。「米中冷戦時代」の始まりと言い換えてもよ
  い。これによって米中両国はむろん、世界中が大なり小なり
  巻き込まれていくことになる。あのリーマン・ショックから
  丸10年を経て、またもや人類は懲りずに人為的な巨大リス
  クを背負い込んでしまうのだ。
   中国中央テレビ(CCTV)はこのところ、2018年上
  半期に、中国経済がどれほど好調で、どれほど各種のデータ
  が伸びているかを連日これでもかというほど報道している。
  これまでは、7月中旬に上半期の速報データが発表された際
  に、この種の報道は行われてきた。それが1ヵ月前倒しで報
  道されるということは、本当は中国経済が悪化しているから
  それを覆い隠すために、いわゆる「豊作報道」を連発してい
  るのではないかと勘ぐりたくなってくる。そもそも、毎年6
  月下半期は、中国経済のアキレス腱となる時節だ。なぜなら
  銀行など金融機関が、上半期のデータを遜色なくするため、
  一斉に貸し渋りに走るからだ。2015年6月下半期の株式
  暴落も、そのような中で起こった。おそらく、そのような周
  期を見越した上で、米トランプ政権は6月15日に、対中経
  済制裁の7月6日からの発動を宣言したのではないか。
                  https://bit.ly/2MPNsJO
  ───────────────────────────

北載河会議.jpg
北載河会議
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2019年02月05日

●「周到に準備して北載河会議に臨む」(EJ第4941号)

 米中戦争をきっかけに中国国内で起きた地殻変動ともいうべき
習近平政権批判騒ぎについて説明しています。批判の起きた3方
面を再現します。
─────────────────────────────
   1.国内の経済や金融の専門家からの習近平批判
 ⇒ 2.北載河会議での長老たちからの政権失政批判
   3.「墨汁事件」に代表される市民の習政権批判
─────────────────────────────
 トランプ米大統領が仕掛けてきた貿易戦争について、御用学者
の意見を聞いて初期の対応を誤った習近平政権が北載河会議前に
必死になってその取り繕いをやっています。北載河会議で問われ
る可能性のある習政権の「失政」とは次の3つです。
─────────────────────────────
◎第1の失政
  中国があまりにも強国路線を前面に出したことにより、トラ
 ンプ政権が貿易戦争で中国を叩く口実を与えたこと。
◎第2の失政
  米国と中国との間にはまだ経済では大きな差があり、貿易戦
 争によって、中国経済が本当に傾いてしまったこと。
◎第3の失政
  周辺諸国を含む国際社会が米中貿易戦争で自由貿易の推進と
 いう「正論」を説く習政権を支持してくれないこと。
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 上記の3つの失政ですが、これは当然の話です。誰も本当の意
味で、中国が自由貿易やグローバリズムの旗振りを任じても支持
などしないでしょう。中国は、南シナ海の領有権の問題で、ハー
グの常設仲裁裁判所が下した「中国の主張には国際法的根拠はな
い」という判決に対して、「そんなものは紙くずと同じ」といっ
て、聞く耳を持たなかったのです。自国主義を掲げるトランプ米
政権も狂っていますが、自分たちの意に沿わない国際法など歯牙
にもかけない中国が自由貿易を推進するといっても、どこの国も
本心では支持などしないと思います。
 近藤大介氏によると、2018年7月31日、習近平主席は中
央政治局会議を開き、次の「6つの決定」を行っています。これ
も北態河会議対策です。この会議は、中国共産党トップ25人が
集まって、ほぼ毎月行っています。
─────────────────────────────
 1.「穏中有変」
  ・経済の評価をこれまでの「穏中有好」を「穏中有変」に改
   めている。安定したなかに変化が見られるの意。経済が変
   化のあることを認めている。
 2.「積極的財政政策と穏健的貨幣政策」
  ・金融引き締め政策を改め、人民元を緩和し、公共投資を拡
   大し、内需を喚起する。
 3.「六穏」
  ・六穏とは、就業、金融、貿易、外資、投資、決済期日のこ
   とで、この6つを安定させる。
 4.「補短板」
  ・「補短板」とは、短所の補強・補填のことである。地方の
   インフラ投資を拡大させる。
 5.「レバレッジ率低下策の堅持」
  ・レバリッチ率とは負債率のことである。これ以上レバリッ
   チ率が上がると、リーマンショックのときと同じになるの
   で、これを鎮める。
 6.「不動産価格統制の堅持」
  ・中国経済にとって、最大のリスクは不動産バブルの発生。
   これを防止する。
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 こうした対策を施した結果、北載河会議は、いつ行われ、どう
なったのでしょうか。何しろ、会議の開催日をはじめとして、内
容は一切公開されないので、明確には分からないのです。
 しかし、2018年9月以降の習近平政権の動きを見ていると
米国の要求をかなり受け入れる方針に変化し、12月のアルゼン
チンのブエノスアイレスでの米中首脳会談の開催に漕ぎ付けてい
ます。その米中首脳会談の結果、2019年1月1日に予定され
ていた2000億ドル(約23兆円)分の中国製品に対する現行
10%の関税の25%への引き上げを90日間遅らせることに同
意しています。
 現在、ネット上で、情報を集めていますが、習近平主席は、北
載河会議での長老の反撃をうまく乗り切ったようです。これにつ
いては、改めて書くことにします。
 しかし、それでも習近平批判はなかなか鎮静化しないのです。
なぜ、全体主義下の中国において、任期のない終生トップの権限
を手に入れた習近平主席を批判できるのでしょうか。それは、長
老たちを中心として、一定の数の習近平批判勢力が存在するから
です。長老たちは、習近平派が提案する中国のトップの任期10
年を撤廃する改正は認めても、憲法にあたる党規約、第10条6
項の改正は死守したのです。
─────────────────────────────
     党規約/第10条6項
     党はいかなる形式の個人崇拝も禁止する。
─────────────────────────────
 しかし、2018年3月の全国人民代表大会で国家主席の任期
撤廃を行うと、習近平総書記への「個人崇拝」は、激しさの度を
増していったのです。メディアも連日、習近平礼賛報道に行い、
党規約第10条6項に違反する事態になっていったのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/022]

≪画像および関連情報≫
 ●北戴河会議控え・・・スローガンから「習近平」消えた
  ───────────────────────────
   【北戴河(河北省)=西見由章】中国共産党の指導部や長
  老らが河北省の避暑地に集まり、人事や重要政策について非
  公式に議論する「北戴河会議」が間もなく始まる。米中貿易
  摩擦の激化を受けて習近平総書記(国家主席)への批判が党
  内外で表面化しつつある中、重要会議の拠点でも党のスロー
  ガンから習氏の名前が激減し、習指導部の苦しい立場をうか
  がわせている。
   2018年7月31日、北戴河にある党幹部専用ビーチ沿
  いの道路は約3キロにわたって封鎖され、党や軍の関係者を
  乗せたとみられる当局ナンバーの特別車両が、相次いで出入
  り。周辺道路は武装警察や警察、私服の当局者が目を光らせ
  沖合では中国海警局の公船が警戒していた。複数の地元住民
  によると7月中旬には警戒態勢が強まったという。
   党幹部らが宿泊するのは、ビーチそばの森に点在する瀟洒
  (しょうしゃ)な西洋風別荘だ。前日に保養地を一望する聯
  峰(れんほう)山公園の展望台に向かったところ、数人の当
  局者が記者を尾行・撮影していた。
   北戴河の厳戒態勢は例年通りだが、“異変”もある。「新
  時代の中国の特色ある社会主義思想の偉大な勝利を勝ち取ろ
  う」。街中では会議のために新設した真新しい看板が目につ
  く。              https://bit.ly/2GgV1b4
  ───────────────────────────

街中に設置されている中国共産党スローガン.jpg
街中に設置されている中国共産党スローガン
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2019年02月06日

●「習近平主席北載河会議を乗り切る」(EJ第4942号)

─────────────────────────────
   1.国内の経済や金融の専門家からの習近平批判
 ⇒ 2.北載河会議での長老たちからの政権失政批判
   3.「墨汁事件」に代表される市民の習政権批判
─────────────────────────────
 「2」の検討を続けます。長老たちも集まる北載河会議で何が
あったかが注目されています。北載河会議では、大規模な「習近
平降ろし」が画策されているという噂もあって、この会議が注目
されていたのです。習近平政権は、北載河会議をどのようにして
乗り切ったのでしょうか。
 そもそも北載河会議がいつ始まったかもわからないのですが、
多くのメディアが8月3日に続々と北載河入りしているので、そ
の日かその日以降に会議が始まったものと推測されています。
 8月4日には、中国社会科学院・工程院院士62人を招いた座
談会が開かれています。科学院、工程院は、中国の科学技術系エ
ンジニアの母体であり、「中国製造2025」の具体案を支える
提言機関であるので、北載河会議と関係があるかもしれないので
す。「中国製造2025」には、米国が強く反発しているので、
その対応策を協議した可能性があります。
 中国の事情に詳しい福島香織氏の情報によると、習近平主席は
アラブ・アフリカ歴訪から帰国すると、7月31日に北京で中央
政治局会議と集団学習会を開き、それに参加した政治局員を引き
連れて北載河会議入りしています。
 結果として、2018年の北載河会議は、完全に習近平主席の
ペースで進み、「習近平降ろし」は大きくトーンダウンしたと伝
えられています。実は、これにはワケがあるのです。それは、長
老一人ひとりの懐柔策が功を奏したのです。
 習近平主席の前の主席である胡錦濤氏に対しては、その子息の
胡海峰氏に手厚い処遇をし、習主席に反対できないようにしてい
ます。胡海峰氏は、いわゆるできのわるい子息であり、政治家と
してもビジネスパーソンとしても成功できなかったといいます。
そこで習主席の計らいで、浙江精華長江デルタ研究員の党書記職
を与えられたのです。これによって、胡錦濤氏は習近平主席に頭
が上がらなくなったといわれます。
 李鵬氏の子息である李小鵬氏も同様です。李小鵬氏は、李鵬氏
の跡を継いで、電力利権にからんでおり、腐敗の噂の絶えない人
物です。習近平主席としては、腐敗一掃運動の一環で摘発するこ
ともできますが、現在交通運輸部長職に就いています。そして8
月7日から、習近平主席の特使として、コロンビア大統領就任式
に出席しています。
 このように習近平主席は、長老たちの弱点であるできの悪い子
供たちをうまく取り込んで、長老たちを分断するとともに、「習
近平降ろし」の流れを封じ込めるのに成功しています。腐敗防止
キャンペーンを巧みに使い、アメとムチで長老たちを身動きでき
ないようにしているのです。これについて、福島香織氏は、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 長老、太子党、党中央、メディア、軍部、知識人層にアンチ習
近平派が存在するのは間違いない。清華大学法学院教授の許章潤
が7月24日、天則経済研究所のサイト上に「我々が目下抱いて
いる恐懼と期待」というコラムを発表したが、この中ではっきり
と習近平の現政策を「逆行」と批判し、天安門事件の再評価、国
家主席任期の復活、個人崇拝の制止、公務員財産開示法の施行な
どを訴えている。個人崇拝は知的レベルの低い行為、といい、ま
るで習近平の知的レベルが低いといわんばかりだ。
 また国務院発展研究センター金融研究所総合研究室副主任の高
善文が7月28日、地方の証券会社の講演で、習近平がケ小平の
韜光養晦戦略を放棄したことが米中関係の破壊の原因だ、と指摘
したと伝えられている。           ──福島香織氏
                  https://bit.ly/2Tqxicg
─────────────────────────────
 福島香織氏が指摘する上記の高善文氏の講演での指摘、「習近
平がケ小平の韜光養晦戦略を放棄したことが米中関係の破壊の原
因」は重要であると思います。ここで「韜光養晦(とうこうよう
かい)戦略」というのは、国力が整わないうちは、国際社会で目
立つことをせず、じっくりと力を蓄えておくという戦略です。と
ころが、習近平主席は、その戦略を捨てたことで、米国が貿易戦
争を仕掛けてきたのではないかといっているのです。これはその
通りであると思います。
 米国が仕掛けた貿易戦争は、単に貿易の問題だけではなく、習
近平政権の「中国製造2025」潰しにあるといわれます。した
がって北載河会議で何らかの検討行われたと考えられます。それ
を裏付けるのが、前述の8月3日に北載河会議と並行して行われ
た中国社会科学院・工程院院士62人を招いた座談会です。この
座談会には、副首相の胡春華氏も出席しているのです。
 胡春華氏は、中国共産主義青年団(共青団)中央書記処第一書
記を務めた人物で、胡錦濤派です。今後、「中国製造2025」
についての米国との協議においては、この胡春華氏が前面に出る
代わりに政治局常務委員の王滬寧氏が責任を取らされる可能性が
あります。福島香織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 秋の四中全会で、ひょっとすると政治局常務委員のポストが王
滬寧から胡春華に入れ替えられるのではないか、というのは、ア
ンチ習近平派の期待をこめただけの噂にすぎない。だが、党内ア
ンチ習派の不満を抑えるために、後継者として胡春華を政治局常
務委員に迎え入れ、個人崇拝・独裁化の印象をやや薄めようとい
うのは、習近平の立場に立ってみれば決して無理な妥協案ではな
いとも考えられる。         https://bit.ly/2GmDqP1
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/023]

≪画像および関連情報≫
 ●内憂外患の習近平政権/軍の威光をバックに「北戴河」突破
  ───────────────────────────
   【北京=藤本欣也】中国共産党大会を秋に控え権力闘争が
  激化する中、習近平指導部は内憂外患を抱えている。孫政才
  政治局員の失脚で、近く始まる非公式会議の「北戴河会議」
  も波乱含みだ。習氏としては、中国人民解放軍建軍90周年
  の8月1日に大規模な軍事演習を挙行して軍の存在をアピー
  ル、最高司令官である自らの立場を強めて北戴河会議を乗り
  切る構えだ。
   北京の中国人民革命軍事博物館周辺は7月21日、厳重な
  警備態勢が敷かれた。この日、習氏が李克強首相ら党最高指
  導部メンバーを引き連れて訪問、建軍90周年の特別展を見
  学。その模様は国営メディアを通じて全国に放映された。
   習指導部を取り巻く内外の環境は厳しい。国内では、ノー
  ベル平和賞を受賞した民主活動家、劉暁波氏の死去の影響が
  広がるのを押さえ込むのに躍起だ。24日には慈善組織と称
  する「善心匯」メンバーらが大規模抗議集会を強行した。
   対外的には、中印国境付近で両国の軍部隊が1カ月以上対
  峙する異常事態となっている。中朝国境付近では、中国側が
  朝鮮半島の危機に備え、軍事力を増強したと米紙が報じてい
  る。南シナ海では、ベトナムが始めたガス田の掘削作業に中
  国が猛反発し、中止させた。東シナ海では23日、上空で中
  国軍戦闘機が米軍機の飛行を妨害。中国の軍艦・公船による
  日本の領海への侵入も相次いでいる。
                  https://bit.ly/2DaOQ52
  ───────────────────────────

王滬寧政治局常務委員と胡春華副首相.jpg
王滬寧政治局常務委員と胡春華副首相

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2019年02月07日

●「習近平のポスターに墨汁をかける」(EJ第4943号)

─────────────────────────────
   1.国内の経済や金融の専門家からの習近平批判
   2.北載河会議での長老たちからの政権失政批判
 ⇒ 3.「墨汁事件」に代表される市民の習政権批判
─────────────────────────────
 「3」の習近平批判について考えます。
 国内の3方面で起きた「習近平批判」の3つ目は、何と市民に
よる習近平批判です。習近平体制にとって、こういう動きが一番
警戒すべきことなのです。たった一人の反乱でも、それがSNS
で拡散されると、あっという間に中国全土に拡散される恐れがあ
るからです。
 2018年7月4日、午前6時40分過ぎにその事件は起きた
のです。湖南省出身の29歳女性が、上海の海航ビルの前で、壁
に大きく貼られた習近平主席のポスターに墨汁をかけ、それを自
撮りして、SNSにアップロードしたのです。まさに習近平政権
が最も恐れることをやったわけです。
 そのときの貴重な動画があります。中国国内では動画は完全に
消去されていますが、これは中国外に流出した動画のひとつと思
われます。墨汁をかけた女性の名前(とうようけい)もわかって
いますが、メールでは表示できないので、省略します。
─────────────────────────────
◎「墨汁事件」の動画        https://bit.ly/2UIxSCu
 女性は中国語で話していますが、その内容は次の通りです。近
藤大介氏の本から引用します。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
 尊敬する皆さん、おはよう!いまは7月4日の午前6時40分
頃で、私はいま上海の陸家囁(浦東新区にある金融街)にいて、
後ろにあるのが海航ビル(習近平主席や王岐山副主席と関係が深
いとされ、経営危機に陥っている海南省の巨大グループ)。まだ
朝早いから、皆さんはきっと出勤途中でしょう。後ろにあるのは
習近平のパネル写真よ。私が言いたいのは、絶対に習近平の独裁
専制の暴政に反対だということ。中国共産党が私にやっている圧
迫にも反対だ。
 反対!(と叫んで墨汁を習主席の大判の顔写真にぶっかける)
この人を恨んでいる!見たでしょう、これが私の行動よ。習近平
に反対!専制と暴政に反対!共産党が、私にかけている圧力に反
対!国際組織が調査して正してくれることを要求する。私をダメ
にするのは、中国共産党と政府だということを調査してほしい。
 そうよ、今日は、この男に墨汁をぶっかける日。私がやったの
よ。この男はどうするでしょうね。習近平よ、私はここで待って
いるから、捕まえに来なさいよ。私はたった一人で、中国共産党
の独裁、暴政、専制に反対し、あなたが捕まえに来るのを待って
いるのよ。
 後ろはまさに海航ビル。習近平、あなたが一番好きな会社よ、
そうでしょう?私はあなたの顔に墨汁をぶっかけた。見たでしょ
う?醜くなった自身の顔を見たでしょう?さあ、今日のニュース
はこれでおしまいよ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 この動画について、次のような多くの書き込みが行われていま
す。しかし、それらは時間が経過するにつれて、当局により次々
に削除されていき、中国の国内では、完全に見られなくなってし
まっています。そういうことをするために、中国という国は、防
衛費を上回る莫大な人材とコストをかけているのです。
─────────────────────────────
◎あなたは誰もがやりたいと思っていてもできないことを実行に
 移したのだ。
◎誰もが、この息詰まりしそうな空気のなかで、沈黙し続けるこ
 とに限界を覚えている。あなたは、われわれに勇気を与えてく
 れた。あなたこそが英雄である。
◎この暗黒の中国大陸では能力や学問がどんなにあっても役に立
 たない。独裁政治に抗議する勇気を持ってこそ英雄になれる。
                  https://bit.ly/2UAmZlU
─────────────────────────────
 習近平のポスターに墨汁をかけた女性は、その後家に戻り、家
の周辺に私服や制服の公安局員の数が増える様子をスマホで撮っ
て、ネット上に流していましたが、やがて映像はプツリと消えた
といいます。そして、誰も彼女とは、連絡がとれなくなっていま
す。その日のうちに拘束されたものと思われます。その後、父親
も拘束されています。
 こうした一連の動きが、今後中国の民主化につながるのかどう
かを中国国内の民主活動家に意見を聞いてみると、次のような絶
望的な返事が返ってきました。中国の民主化は、今後20年経っ
ても実現しないだろうというのです。
─────────────────────────────
 考えてみてください。中国には200万人の軍隊がおり、数百
万人の警察がいます。彼らは自国の人民を鎮圧するために存在し
ているのです。中国人民は少なくともあと20年間は不民主の中
で生きていくしかないのです。中国人は、考えることさえコント
ロールされています。微信(ウィチャット)も、微博(ウェイボ
ー)も全て監視されているのですから」
 しかも中国で何が起きているのかを知るために、特殊な方法を
使って海外から情報を入手するしかないのです。人民が絶対に横
につながらないように、政府は最大の工夫をしているのです。
 こんな環境下で民主化運動など、夢のまた夢。われわれに前途
はない!              https://bit.ly/2TxjKLQ
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/024]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平の顔写真ポスターに墨汁かける運動拡大
  ───────────────────────────
   中国では今月(2018年7月)に入って、習近平国家主
  席の肖像画が印刷されたポスターに墨汁や黒インクをかける
  運動が北京や上海を中心に全土に拡大しており、中国共産党
  中央弁公庁は最近、地方の党機関に対して、街頭や建物内に
  ある習氏の肖像画入りのポスターや掲示板、宣伝塔、彫像な
  どを撤去する指示を出していたことがわかった。
   習近平指導部が国家主席などの任期を撤廃したり、習氏を
  批判する人権活動家や弁護士らを多数逮捕するなど独裁体制
  の強まりに反発する声が多くなっているためで、指導部は習
  氏の個人礼賛キャンペーンを停止するなどの措置をとってお
  り、今春以降、加速していた個人崇拝の動きに、歯止めがか
  かったかたちだ。
   また、2012年に現指導部が発足してから最大の失点と
  目される米中貿易問題の影響もあるとみられ、7月下旬から
  の中国共産党の重要会議「北戴河会議」で習指導部への批判
  が集中する可能性もある。
  習氏の肖像画に墨汁などをかける運動が広がったきっかけは
  上海在住の董瑶けいさん(29歳=女性)が今月4日早朝、
  中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」に、生配信したパ
  フォーマンスだった。董さんは「私は習近平とその独裁主義
  に反対です」と言うと、背後にある街頭の習氏の肖像画入り
  ポスターに墨汁をかけたのだ。その動画は、ウェイボー上で
  シェアされ、瞬く間にインターネット上で拡散した。
                  https://bit.ly/2RCcMUc
  ───────────────────────────

習近平主席への個人崇拝が問題化.jpg
習近平主席への個人崇拝が問題
 
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2019年02月08日

●「墨汁事件は海航集団と関係がある」(EJ第4944号)

 墨汁女子について、近藤大介氏は、次の3つの点が気になると
しています。
─────────────────────────────
         1.撮影場所が上海である
         2.海航集団ビル前である
         3.海外組織に対しSOS
─────────────────────────────
 第1は「撮影場所が上海である」ことです。
 上海は、習近平主席の最大の政敵といわれる江沢民元主席のお
膝元であることです。上海では、習近平主席に対して反感を持つ
人が多いといいます。近藤大介氏が旧知の上海人の社長に米中貿
易戦争の感想を求めると、次のように述べたというのです。
─────────────────────────────
 皮肉な話だが、トランプ大統領に対する支持者が最も多いのは
ラストベルト(錆びた地帯)と呼ばれるアメリカ中西部ではなく
て、上海ではないか。中米貿易戦争が勃発して以降、「特朗普、
加油!」(トランプ頑張れ)という声をよく耳にするからだ。上
海ディズニーランドも南京路にある世界最大規模のスターバック
スも、連日大盛況だ。7月10日には、上海市政府と米テスラ社
とが、上海新工場の建設に関する調印式を行った。
 習近平政権は政治的な締めつけが厳しく、上海人が望む自由な
ビジネスができない。上海が「自由貿易区」に指定されたのは、
習近平政権が発足した2013年のことだったが、5年経った現
在でも、ほとんど恩恵を受けていないのだ。現政権は明らかに、
過去の江沢民政権や胡錦濤政権ほどの経済的センスを持ち合わせ
ていない。そこにトランプが、ドカンと雷を落とし、中国を真の
開放に向かわせるかもしれない。だからわれわれは、トランプの
外圧に期待しているのだ。今年は改革開放40周年なのだから、
本来ならもっと経済を開放したらよいのだ。
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 第2は「海航集団ビル前である」ことです。
 犯人の女性が習近平主席のポスターに墨汁をかけたのが海航集
団の前であったことは象徴的です。偶然であったかもしれないし
何か意味があったとも考えられます。海航集団は、習近平政権と
浅からぬ関係があるからです。
 まず、海航集団とは何かについて知る必要があります。ちょう
どこの時期(2018年7月)、海航集団は中国国内で、大きな
話題になっていたのです。海航集団については、ネット上に次の
解説があります。
─────────────────────────────
 海航空集団は航空運輸業務を主力とするが、それ以外に空港サ
ービス、ホテル、小売業、物流、金融など多くの事業に携わって
いる。同集団傘下の海南航空は、中国の航空会社として異色だ。
中国では中央政府系の中国南方航空、中国東方航空、中国国際航
空が「中国三大航空会社」とされる。
 保有する運用機材(航空機)で見ると、前記三大航空会社はい
ずれも400機台〜500機台。海南航空は200機強と半分程
度の規模だ。ただし、三大航空会社の場合、購入を予約している
機材が現保有機数の半分程度なのに対し、海南航空は260機以
上と、機材の倍増計画を明確にしている。しかも、予約機のうち
200機が、中国が「大型旅客機」として開発中のC919であ
るなど、「チャレンジング」な姿勢が目立つ。
                  https://bit.ly/2UHhmCs
─────────────────────────────
 この時期において、海航集団に大変なことがあったというのは
2017年7月のことですが、海航集団の王健会長が出張先のフ
ランスで客死したからです。トップが亡くなっているのです。公
式には、「事故死」ということになっていますが、そのことを額
面通りに受け取る人は少ないといいます。なぜかというと、海航
集団は、この時点での負債総額が6000億元(約10兆円)に
達し、事実上の破綻状態にあったからです。そのため、自殺では
ないかともいわれたのです。
 それに「海航集団は習近平政権の政商である」といわれており
王健会長の突然の死に強い疑いの目が向けられていたのです。そ
れを暴露したのは、中国の元富豪といわれる郭文貴という人物で
す。彼は、米国に亡命し、ニューヨークから習近平政権のスキャ
ンダル情報を暴露し、流していたのです。郭文貴氏のバックには
江択民元主席がいるといわれててます。
 海航集団と習近平政権の関係──というよりも習近平主席の盟
友である王岐山副主席と海航集団との関係ですが、郭文貴氏は、
米国からユーチュープを使って暴露情報を流したのです。王岐山
氏は、党中央紀律検査委員会(中紀委)を率いて汚職摘発で辣腕
を振るい、とくに、江沢民派の幹部の多くを刑務所に送っている
ので、大きな恨みを買っています。
 近藤大介氏は、上海での墨汁事件は、郭文貴氏と何らかの関係
があるのではないかと推測しています。
─────────────────────────────
 墨汁事件では、「郭文貴全世界フォロワーチーム」なる名義の
アカウントから、ユーチューブを通じていくつもの「スクープ報
道」がなされていた。例えば、8月2日には、菫瑶けい(墨汁を
かけた女性)の父・菫建彪が「娘は精神病などではない」とする
声明を発表したと報道していた。郭文貴が滞在するニューヨーク
といえば、トランプ大統領のお膝元であり、そのトランプ大統領
は、墨汁事件が起こった2日後の7月6日に、習近平政権に対し
て貿易戦争を「開戦」したのだ。この2日間の近似は、単なる偶
然だろうか。          ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/025]

≪画像および関連情報≫
 ●海航集団をめぐる2つの事件
  ───────────────────────────
   数日前ドイツ銀行の話題を振った際、海航集団が同行の株
  主だと申し上げました。また同集団は12兆円とも言われる
  負債で経営危機に陥っており、背後に中国ナンバー2の王岐
  山副主席がいるとも申し上げました。
   さて、今日のニュースをみていると海航集団に関する新た
  な2つの事件が報じられています。
   1つは韓国アシアナ航空で一部航空機が機内食を提供でき
  なくなり、大混乱に陥った事件。そして、もう一つは、海航
  集団の傘下の海南航空の王健会長がフランス出張中に「事故
  死」したことであります。
   まず、アシアナ航空の事件ですが、これには背景がありま
  す。アシアナはもともと機内食提供会社をLSG社と契約し
  ていました。しかし、アシアナが海航側と取引をし、1年半
  ほど前に海航と4:6の比率で機内食提供会社、ゲートグル
  メコリアを設立します。ところが新工場建設中の今年3月、
  その現場が火事となり、6月30日のLSG社との契約終了
  に機内ケータリングが間に合わないことが判明します。その
  ため、LSG社に短期契約更改交渉をするものの決裂、アシ
  アナはやむを得ず、小さなシャープDo&Coという会社に
  委託をします。残念ながら、初日から供給がうまくできず、
  大きな混乱を招いたとうストーリーです。更にシャープ社の
  社長は自殺するという痛ましい展開になっています。
                  https://bit.ly/2DfEK2Q
  ───────────────────────────

米国から放送する郭文貴氏.jpg
米国から放送する郭文貴氏
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2019年02月12日

●「なぜ中国はガチンコ勝負に出たか」(EJ第4945号)

 習近平主席に墨汁をかけた女性(菫瑶けい氏)は、故郷の湖南
省の精神科病院に強制的に入院させられたといわれています。上
海市内で働く女性の弟に警察から連絡が入り、上海市政府当局者
から「お姉さんを精神鑑定にしたが、精神を病んでいるとの診断
結果が出た」と告げられたそうです。
 弟は警官らの求めに応じ、手続きのため、入院先の精神科病院
に行き、姉の入院に立ち会っています。この病院での精神鑑定で
も姉は精神を病んでいるとの診断結果が下されたといいます。
 米政府系報道機関「ボイス・オブ・アメリカ/VOA」は、犯
人の女性の精神病院入りについて次のように報道しています。
─────────────────────────────
 本当の精神病患者は入院させずにほったらかしだが、当局に都
合がいい健常者は、逆に精神科病院に強制入院というのが、中国
の実態である。    ──―ボイス・オブ・アメリカ/VOA
─────────────────────────────
 一応民主的な手続きがとられているようにみえますが、中国で
は、犯罪を犯し刑務所に入れられるよりも、精神病院に入れられ
る方がずっと恐ろしいのです。薬物などで本当の精神病にされる
可能性もありますし、入院後何をされるかわからないからです。
VOAの記者は、湖南省の董さんの実家を訪ね、董さんの母親に
取材したところ、「娘が精神を病んでいるはずがない」などと頑
強に否定したといいます。なお、7月13日には菫瑶けい氏の父
親も拘束されています。
 問題は、この墨汁事件の背景です。果して単独犯なのか、それ
ともバックがあるのかです。事件の起きた場所が江沢民元主席の
地元である上海であるので、いろいろな憶測を呼んでいます。そ
れに彼女が中国のSNSではなく、あえてツイッターを使ってい
るので、海外組織に助けを求めているように見えます。
 中国では、ツイッターの使用が制限されていますが、VPNな
どを通せば使えるのです。習近平のポスターに墨汁をかけた後、
菫瑶けい氏にアドバイスを与えていた民主活動家の華桶という男
性がいるのですが、この男性も当局に拘束されています。しかし
この事件はニュースとして世界中に拡散され、海外に知られてし
まったことは確かです。
 さて、トランプ米政権によって仕掛けられた貿易戦争に対して
中国の習近平政権は「ガチンコ勝負」に出たのです。この対応に
ついて中国国内では多くの反対意見があるのです。習政権が米国
に対して強気に出た理由について、近藤大介氏は次のように説明
しています。
─────────────────────────────
 中国が、トランプに対して強気に出た背景には、2つのことが
あった。1つは、昨年11月にトランプが訪中した時の印象がと
てもよかったため、トランプが本気で、中国に牙を剥いてくると
は想定していなかった。あの時、2535億ドルものプレゼント
(中国からアメリカへの投資や購買)を与えて、それでもう貿易
摩擦問題は解決したと思っていたのだ。
 ところがトランプは、北京から戻るや態度を一変させた。中国
からすれば、「あの時の2535億ドルは一体何だったのだ?}
という怒りがあった。
 もう一つの背景は、習近平政権の第1期5年が、何もかもうま
く行き過ぎたことだ。政治的には習主席の一強体制が確立し、経
済的にはアメリカの3分の2の規模までGDPが拡大した。外交
的には「一帯一路」に多くの国が賛同し、軍事面でも科学技術面
でも世界ナンバー2の地位を確立した。
 そんな中、今年3月20日に全国人民代表大会が閉幕した。習
主席は憲法改正で自らの任期を取っ払い、省庁を改編し、ほしい
がままの幹部人事を断行した。つまり2期日の習近平政権が始動
した時点で、死角はゼロだったのだ。
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 中国に「樹大招風/シュータージャオフン」という言葉があり
ます。読んで字のごとく、「樹が大きくなれば風を招く」という
意味になります。これは、日本の諺「出る杭は打たれる」と同じ
意味です。つまり、習政権は、早く前に出過ぎたのではないかと
いう声が中国国内に少なからずあるということです。もう少し辛
抱して、ケ小平の遺訓である「韜光養晦」を守るべきだったので
はないかという意見です。
 一方、トランプ米政権は中国に対して、一向に手を緩めなかっ
たのです。9月25日、トランプ大統領は、国連総会でスピーチ
していますが、その席で中国を次のように攻撃しています。20
17年のデビュー時の演説の敵役は「北朝鮮」でしたが、201
8年は、中国を敵役に替えてとして批判しています。
─────────────────────────────
 アメリカは、中国がWTOに加盟してから、300万人の工場
労働者を失った。そのうちほぼ4分の1は鉄鋼関連だ。そして6
万の工場もだ。その結果、過去20年で、13兆ドルもの貿易赤
字を抱え込んでしまったのだ。
 だが、もうそんな日々とはオサラバだ。これ以上、そのような
乱用は容赦しない。われわれの労働者が、犠牲になるのを許さな
い。アメリカ企業は騙され、アメリカの富は略奪され、移管され
たのだ。アメリカは自国民を守るため、決して躊躇しない。
 アメリカはさらなる2000億ドルの中国製品に対する追加関
税を宣言した。トータルで2500億ドルになる。私は習主席に
対して、大いなる敬意と愛情を抱いている。だが、貿易不均衡は
看過できないことを明らかにしておきたい。中国市場の歪みと彼
らの商習慣は、許されるものではない。
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/026]

≪画像および関連情報≫
 ●ケ小平が主導した外交の特徴
  ───────────────────────────
   本日は中国の外交方針の変遷について語ることになってい
  るが、焦点はここ数年の方針転換であり、毛沢東時代まで振
  り返る余裕はない。しかし、ケ小平が主導した中国外交の特
  徴をおさらいすることでポイントを把握することは出来る。
   ケ小平外交の第一の特徴は、現実的な国際情勢判断に基づ
  いていたことにある。ケ小平は、世界では平和と発展が主な
  潮流となっており、世界大戦は回避可能だと考えた(毛沢東
  はそう考えていなかった)。そこで、目下の第一の任務は発
  展であり、資本主義国との間でも経済的な相互依存関係を築
  いていった。
   第二の特徴は客観的な自己認識を有していたことである。
  ケ小平においても大国意識は強かったが、それと同時に、中
  国は小国でもあると認識していた。後に「社会主義の初級段
  階」にあるとも言われたが、要するに科学技術や工業化が遅
  れた発展途上国だという自覚が強かった。
   第三には、イデオロギーより国家利益を重視したことが挙
  げられる。国際共産主義運動から次第に足を洗い、平和な国
  際環境を実現して四つの近代化を追求することを外交の目標
  に据えた。
   そして第四に、「韜光養晦」の外交方針の採用が挙げられ
  る。表現は時代によって異なり、80年代の方針は「同盟せ
  ず、覇を称えず、突出せず」というものであった。
                  https://bit.ly/2tdPxWP
  ───────────────────────────

トランプ大統領国連演説/2018.jpg
トランプ大統領国連演説/2018
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2019年02月13日

●「アリババ会長はなぜ退任するのか」(EJ第4946号)

 事の発端はこうです。2018年9月8日付の「ニューヨーク
・タイムズ」が次の趣旨の報道をしたのです。
─────────────────────────────
    アリババのマー会長が10日にも会長を退任する
    ──2018年9月8日付、ニューヨーク・タイムズ紙
─────────────────────────────
 しかし、翌日の9日、アリババ傘下の香港メディアがこの報道
を否定します。これによって、少なくとも日本では誤報と判断さ
れ、騒ぎにはならなかったのですが、中国メディアは、万一に備
えて、Xデーの10日に向けて臨戦態勢をとったのです。
 そして10日午前、マー氏が1通の手紙を公表します。その趣
旨は次の通りです。
─────────────────────────────
  2019年9月10日に私はアリハバの会長を退任する
                   ──ジャック・マー氏
─────────────────────────────
 2018年9月11日、マー会長はロシアのウラジオストクに
姿を現しています。同地で開催された「東方経済フォーラム」に
出席したのです。その席には、ロシアのプーチン大統領も同席し
ており、プーチン大統領は、マー氏に対し、次のように質問して
います。
─────────────────────────────
プーチン:そこに座ってロシアのお菓子を食べている若い方に質
 問したい。馬雲さん、あなたは、まだ若いのに、なぜ引退する
 のか。
J・マー:大統領閣下、私は若くありません。昨日ロシアで54
 歳の誕生日を迎えました。私は創業して19年間、一生懸命働
 いてきました。でも、もっと多くの好きなことを、やりたいと
 思っています。例えば、教育や慈善事業です。
プーチン:あなたは私よりも若い。私はすでに66歳。なぜ、現
 役を退くのか。          https://bit.ly/2SnRz5P
─────────────────────────────
 プーチン大統領の疑問は当然です。アリババは3万6000人
もの従業員を抱え、時価総額4200億ドル(約46兆円)の巨
大企業です。その企業のトップが、そんなに簡単に辞めてもいい
のか──誰でもそのように考えるからです。
 ジャック・マー氏の退任にはいくつもの説があります。アリバ
バの創業は1999年3月。今年はちょうど19年目。マー氏は
創業19年のうち、できるだけ早く後継者を発見し、約10年間
を後継者育成に充てるという方針を立て、後継者づくりを行って
きたといいます。そして、実際に現在のCEOダニエル・チャン
(張勇)氏に経営を任せてきています。
 コラムニストの浦上早苗氏は、後継者のチャンCEOについて
次のように紹介しています。いまわれわれの知っているアリババ
は、既にチャンCEOのアリババだと、マー氏はいうのです。
─────────────────────────────
 チャンCEOは、米会計事務所プライスウォーターハウスクー
パース(PwC)の上海拠点やゲーム会社のCFOを経て、20
07年にアリババに入社した。今やブラック・フライデーを上回
る世界最大のセールに成長した11月11日の「独身の日」セー
ルを2009年に始めたのも、日本の大企業が多く出店する、B
toCサイトの「天猫」の立ち上げを担ったのもチャン氏。20
13年にはマー氏からアリババグループのCEOを引き継ぎ、最
近では、スターバックスとの提携など、マー氏が提唱する「新小
売」のコンセプトの具現化に手腕を発揮している。
                  https://bit.ly/2SrgepV
─────────────────────────────
 それでは、ジャック・マー氏は、退任したら何をやるのでしょ
うか。マー氏の手紙には次のようにあります。
─────────────────────────────
 私は教育に戻りたいと思う。私が最もやりたいことをするのは
私を非常に興奮させ、この上もない幸福を感じさせるのである。
私は皆さんに請け負うことができる。アリババは馬雲だけに属す
るものではないが、馬雲は永遠にアリババに属していることを。
              ──馬雲/2018年9月10日
─────────────────────────────
 しかし、これは表面上の理由であると思います。教育ビジネス
をやりたいのであれば、アリババとしてやってもいいし、アリバ
バから離れる必要はないと思います。では、どうして退任するの
でしょうか。
 「マー氏は逃げている」──ジャーナリストの相馬勝氏はいい
ます。何から逃げているのでしょうか。それは、中国政府、すな
わち、中国共産党から逃げているという指摘です。
 というのは、このところ、党中枢の幹部と関わりを持つ有能な
若手経営者が、次々と職を追われているからです。ジャーナリス
トの相馬勝氏は、これについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 例えば、中国最高指導者だったケ小平の孫娘と結婚した安邦保
険の呉小暉元会長は、のちに離婚したものの、その関係を利用し
て同社を巨大化させた。呉氏は派手な海外投資でニューヨークの
著名なホテルなどを買収していったが、いまや詐欺と職権乱用な
どの罪で懲役18年の実刑判決を受け、個人資産105億元(約
1800億円)を没収された。
 また、曾慶紅元国家副主席と親しいとされる政商の郭文貴氏は
現在、米国に事実上の亡命状態だ。同じく、曾氏と親密な関係に
あった実業家の肖建華氏は香港の最高級ホテルのスィートルーム
に滞在中、何者かによって拉致され、中国大陸に連れていかれた
と伝えられる。           https://bit.ly/2BvnRRU
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/027]

≪画像および関連情報≫
 ●沈みゆく船を見切ったジャック・マーが電撃退任
  ───────────────────────────
   馬雲(ジャック・マー)といえば、中国ビジネス界の超大
  物。英語教師を務めていたが、ネット通販最大手アリババ・
  ドットコムのカリスマ創業者となり、アマゾン・ドットコム
  の創業者ジェフ・ベゾスの中国版とも呼ぶべき存在に上り詰
  めた。そんな中国の起業家精神を象徴するマーが、来年9月
  にアリババの会長を退任すると表明した。このニュースは投
  資家を驚かせただけではない。中国に築いた輝かしい地位を
  投げ出す理由は何なのかと、さまざまな臆測を呼んでいる。
   マーが語った退任の理由を、軽く考えるべきではないだろ
  う。推定380億ドル以上の資産を持つ54歳の大富豪は、
  退任後は慈善活動、特に教育事業に、時間と精力を注ぐとい
  う。中国の教育環境を向上させるのは結構だが、この言葉を
  額面どおりに受け取るわけにはいかない。優れたビジネスマ
  ンが想定外の行動を取るとき、凡人には分からない何かを見
  据えていることがある。
   例えば、香港の著名な実業家である李嘉誠(90)がそう
  だった。彼が13年に中国から資産を引き揚げたとき、表向
  きには売却が必要という説明だった。だが今にして思えば、
  中国経済が浮き沈みの激しい段階に入ると見越して早めに撤
  退を図ったのだ。その後の展開は、李の判断が正しかったこ
  とを示している。マーがアリババを離れる理由は自分の評判
  を守ることかもしれない。会社が順調なうちに側近も社員も
  残して去れば、サクセスストーリーに傷が付かない。
     ──「ニューズウィーク」 https://bit.ly/2Dv5lZQ
  ───────────────────────────

アリババ会長/ジャック・マー氏.jpg
アリババ会長/ジャック・マー氏 
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2019年02月14日

●「中国国有企業改革は進んでいない」(EJ第4947号)

 アリババ創業者、ジャック・マー(馬雲)氏の突然の引退宣言
についてもう少し追及することにします。どう考えてもこの引退
宣言は不自然であると考えるからです。
 その前に、習近平氏が国家主席になってからの中国の経済運営
について知っておく必要があります。そのため、少し歴史を振り
返ることにします。1949年の初代皇帝である毛沢東が建国し
た現在の共産党政権は、1989年に学生たちが政治の民主化を
求めて蜂起した天安門事件によって転覆させられる一歩手前まで
いったのです。時の国家指導者のケ小平は、軍隊の力で学生たち
を押さえ込み、共産党政権を死守しています。
 ケ小平は、天安門事件を契機として、国民に「民主」の代りに
「金儲けに走る自由」を与えたのです。そうでもしないと、第2
第3の天安門事件が起こりかねなかったからです。ケ小平は、毛
沢東の死後2年が経過した1978年から改革開放を進めていた
のですが、1992年に改革開放の加速命令を出しています。
 ところで、「改革開放」とは何でしようか。
 常識的には、政治が「社会主義」であれば経済は「計画経済」
であり、経済が「市場経済」であれば、政治は「資本主義」のは
ずです。それをケ小平は、両方のいいところをとって「社会主義
市場経済」を推進したのです。これが「改革開放」です。
 この場合、国のトップ2人が、「政治」と「経済」のバランス
をうまく取る必要があります。
─────────────────────────────
     共産党総書記(主席) ・・・・・ 政治
      国務院総理(首相) ・・・・・ 経済
─────────────────────────────
 この「社会主義市場経済」が現在の中国を作ったことは確かで
す。しかし、ケ小平時代のように中国の経済規模が小さいときは
舵取りを誤らなければ、うまく経済を運営できますが、現在のよ
うに経済規模が巨大化した場合は、その舵取りはきわめて困難に
なります。それに加えて、ナンバー1の共産党総書記とナンバー
2の国務院総理が、それぞれの役割分担をバランスよく行う必要
があるのです。江沢民時代と胡錦濤時代はそれが奇跡的といって
よいほどうまくいったのです。
─────────────────────────────
    ◎江沢民時代 ・・ 1989年〜2002年
     【政治】江沢民主席 【経済】朱鎔基首相
    ◎胡錦濤時代 ・・ 2003年〜2012年
     【政治】胡錦濤主席 【経済】温家宝首相
    ◎習近平時代 ・・ 2013年〜2018年
              2019年〜
     【政治】習近平主席 【経済】李克強首相
─────────────────────────────
 しかし、2013年3月に発足した習近平主席と李克強首相の
新政権は、2人がライバル同士であったことに加えて、信頼関係
がなく、互いに疑心暗鬼の関係だったのです。しかも、習主席は
「政治」だけでなく「経済」の役割も李首相から取り上げて、独
占するという愚を犯したのです。その結果、中国の経済は、習近
平時代から混乱に陥ってしまったといえます。
 この習近平政権について、近藤大介氏は、中国にとって2つの
不幸が重なったと述べています。
─────────────────────────────
◎第1の不幸
  習近平という政治家が、稀代の経済オンチであり、中国経
 済を2度まで崩壊させた毛沢東に匹敵する。
◎第2の不幸
  社会主義と市場経済の矛盾からくる軋轢が、もはや、抜き
 差しならないところまできてしまっている。
─────────────────────────────
 「第1の不幸」については、習近平主席が自らの経済オンチを
自認し、李克強首相に「経済」を信頼して任せれば、ある程度解
決できますが、現在もそうしていないので、経済は、深刻な情勢
になりつつあります。
 「第2の不幸」については、もともと矛盾している社会主義と
市場経済の軋轢が限界に達しつつあることです。それが顕著に見
られるのが「国有企業」です。中国の国有企業について近藤大介
氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国では、基幹産業のすべてを、1100社あまりの国有企業
が独占しており、この1100社で中国の富の6割強を握ってい
る。ところが、地方自治体や、やはり国有企業である銀行が、国
有企業に乱脈融資を続けた結果、習近平時代が始動した2013
年の時点で、国有企業を中心とした国家の負債額がGDPの2倍
以上に膨れ上がってしまった。国有企業の改革は「待ったなし」
の状況だったのだ。             ──近藤大介著
          『中国経済「11OO兆円破綻」の衝撃』
                講談社+α新書711−1C
─────────────────────────────
 これに対し、李克強首相は、いわゆる経済プラン「リコノミク
ス」による解決プランを示していますが、その本丸も「国有企業
改革」だったのです。
 しかし、習近平主席は、この解決プランに乗らず、これまで江
沢民一派が牛耳っていた国有企業利権を引きはがし、自派の利権
に組み替えようとしたのです。江沢民派で石油利権を握っていた
周永康元常務委員を腐敗摘発の名の下に逮捕したのがそれです。
「国有企業改革」は完全にほったらかしです。
 なぜなら、国有企業改革をすれば利権がなくなってしまうから
です。習主席は、国有企業改革を議論し、まとめる「公報」起草
委員会から、本来担当であるはずの李克強首相を外す措置まで、
とっています。    ──[米中ロ覇権争いの行方/028]

≪画像および関連情報≫
 ●「社会主義市場経済」はファシズムの一形態に過ぎない
  ───────────────────────────
   中国の「抗日戦争勝利記念日」(9月3日)が近づいてき
  た。昨年の同日、天安門広場で大々的に繰り広げられた「世
  界反ファシズム戦争勝利70周年記念」軍事パレードは記憶
  に新しい。
   「歴史を鑑(かがみ)に」と居丈高に迫る中国の歴史戦に
  は、3つの狙いがある。第1は潜在敵国、とくに日本に贖罪
  (しょくざい)史観を浸透させ、その精神的武装解除を図る
  ことである。第2は「反省しない日本」への、敵愾(てきが
  い)心をかき立て独裁体制の維持を正当化することである。
  第3は自由、民主、法の支配、人権といった「現在」の問題
  に焦点が当たらぬよう、注意を過去にそらすことである。
   従って、とりわけアジアの自由主義大国・日本が誤った贖
  罪意識から脱して、正しく「歴史を鑑」とすることが、日本
  自身にとってはもちろん、自由世界全体にとっても戦略的に
  極めて重要となる。
   まずファシズムという言葉だが、これはイタリアのムソリ
  ーニが、共産主義でも資本主義でもない「第三の道」として
  打ち出したものである。国家主義的な独裁を永遠の統治原理
  としつつ、資本主義のエネルギーを抑圧体制活性化のために
  用いるというのがその「第三」ないし折衷策たる所以(ゆえ
  ん)である。       ──島田洋一福井県立大学教授
                  https://bit.ly/2I7bTDB
  ───────────────────────────

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改革開放の推進者/ケ小平
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2019年02月15日

●「経済発展を無視した国有企業改革」(EJ第4948号)

 中国経済を正常軌道に乗せるには、国有企業改革に手を染める
必要があります。2012年に発足した習近平体制は、それに着
手する絶好の機会だったのです。なぜなら、中国の社会主義市場
経済の「経済」を担当する国務院総理の李克強氏が、経済にすこ
ぶる詳しいプロであったからです。
 李克強氏は、早速「リコノミクス」を策定し、国有企業改革プ
ランを作っています。その内容は概略次の通りです。
─────────────────────────────
 第1段階は、国有企業の市場化だ。市場に合わない、いわゆる
親方日の丸的な制度は、すべて削ぎ落としていく。第2段階は、
市場の多元化だ。中国の市場は、国有企業、民営企業、それに外
資系企業を、すべて平等に扱うようにして、競争の原理を働かせ
る。そして第3段階が、国有企業の民営化だ。民間にできること
はどんどん民間に権限を委譲し、市場の活性化を図っていく」。
        ──近藤大介著/講談社+α新書711−1C
          『中国経済「11OO兆円破綻」の衝撃』
─────────────────────────────
 しかし、「3中全会」において採択された「公報」で示された
国有企業改革に関する記述は、次のようなものです。この公報を
作成する起草委員会から、肝心の李克強首相を外しているので、
この考え方に李克強首相の意見は反映されていません。
─────────────────────────────
 揺るぐことのない公有制経済の発展を強固なものとし、公有制
の主体的地位を堅持し、国有経済の主導的な作用を発揮し、国有
経済の活力、コントロール、能力、影響力を不断に増強させる。
公有制を主体とした多種所有制の経済は、中国の特色ある社会主
義制度の支柱である。      ──「公報」/3中全会より
─────────────────────────────
 抽象的にボカされ、何をいっているのか明確ではありませんが
国有企業の民営化どころか、強化とも取れる宣言であるといえま
す。公有、公有、公有と公有が強調されています。これは、習近
平公有企業改革の伏線だったのです。習近平氏は、かねてから、
トップに就いたら必ずやると決めていたことがあります。これに
ついて、近藤大介氏は、次のように書いています。
─────────────────────────────
 習近平主席は、2012年11月に中国共産党のトップに立っ
て以来、決して表には出さないが、一貫した「政治目標」を持っ
ている。それは最大最強の長老である江沢民元主席及びその一派
を壊滅させるというものだ。なぜなら、石油、鉄道、電力、資源
・・といった多くの利権を、江沢民一派が手放さなかったからで
ある。そして、こうした利権の温床こそが、基幹産業を寡占する
国有企業に他ならなかった。   ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 習主席は、2012年の年末から、「腐敗防止キャンペーン」
の名の下に、かねてからの計画を実行に移します。まず、やった
ことは、周永康前・中央政治局常務委員の失脚です。周永康氏は
「江沢民の金庫番」といわれた人物です。2013年12月に身
柄を拘束し、2015年6月11日に無期懲役を科しています。
 そのうえで習近平主席は国有企業改革に着手します。2015
年8月24日のことです。習主席は、「中国共産党と国務院の国
有企業改革を深化させるための指導意見」と称する長文の通達を
共産党および政府として決定しています。その「目的」について
は、次のように書かれていたのです。
─────────────────────────────
 中国の偉大なる社会主義の御旗を高く掲げ、党の国有企業への
指導を強化させ、強大で優秀な国有企業を作り、中華民族の偉大
なる復興という中国の夢の実現に、積極的に貢献することを目的
とする。揺るがない公有制経済、社会主義市場経済、監督管理強
化、党の指導などを基本原則とする。
         ──「中国共産党と国務院の国有企業改革を
              深化させるための指導意見」より
─────────────────────────────
 何を狙っているのかというと、国有企業を分類し、そのうち優
秀な国有企業を中心に、党の指導強化の下で、他を淘汰していく
というのです。そしてその改革を2020年までに完了させると
しています。
 リコノミクスでは、国有企業の市場化→多元化→民営化の3ス
テップで進めるというまともなものです。経済を発展させるには
「民営化」は欠かせないのです。しかし、その姿勢はカケラもな
く、「焼け太りによる市場の寡占」を目指すものといっても過言
でぱないのです。この指導同意見に対して、市場は敏感に反応し
ています。
 9月14日月曜日、上海総合指数は先週末に比べて2・67%
安い3114ポイントまで急落しています。これは、習近平就任
以来、7回目の暴落で「第7次習近平暴落」といわれます。
 こういう市場の反応を完全に無視し、2015年5月19日付
国営新華社通信は次の論評を出しています。あくまで国有企業重
視の姿勢が鮮明なのです。
─────────────────────────────
 習近平総書記はこれまで何度も、国有企業の強大化と優良化を
強調してきた。国有企業は国有経済の核心であり、支柱である。
国有企業がなければ、国有経済はなく、これまでの経済成長の重
大な成果もなく、中国の特色ある社会主義制度もなく、国民の共
同の富もない。そのため、国有企業改革とは、国有企業をなくす
ことではなく、その主体的な地位をさらに高めることなのだ。わ
れわれはそのことを自覚し、国有企業の各種私有化への反対を、
旗臓鮮明にしなければならない。 ──2015年5月19日付
                    国営新華社通信より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/029]

≪画像および関連情報≫
 ●【中国を読む】国有企業改革の変遷と課題/日本総研
  ───────────────────────────
   中国の国有企業政策は、1980年代の「経営請負制度の
  導入」、90年代の「民営化」、2000年代入り後の「強
  大化」という3つのフェーズに分けることができる。いまも
  政府は不良債権問題をコントロールするため国有部門を拡大
  している。これは、企業活動全体の効率を低下させ、潜在的
  な不良債権を増やすという副作用を持つ処方箋だ。国有企業
  の強大化は、当面の政権安定に寄与するものの、将来の問題
  を大きくする。
   中国の国有企業改革はさまざまな試行を経て、経営請負制
  度の導入から本格化した。1984年10月、中国政府は、
  国有企業の経営効率が大変低いと指摘したうえで、国有企業
  を活性化させる基本方針を打ち出した。この具体策として、
  経営請負制度が全国規模で導入されるようになった。経営請
  負制度とは、国有企業が国庫に上納する利潤額などの目標を
  達成すれば、自らの裁量によって利益を設備投資や従業員の
  給与に充てることが可能となるなど、経営の自由をある程度
  認めるという制度であった。
   もっとも90年代初めには、経営請負制度に対する否定的
  な見方が広がった。納得性の高い3〜5年先の上納利潤額な
  どの目標を設定するのは至難の業であり、目標が現実的な数
  値でないことが多々あったのである。「国有企業の所有者は
  政府」という原則に全く手を付けなかったことも大きな問題
  であった。           https://bit.ly/2N611Vt
  ───────────────────────────

周永康氏と習近平氏.jpg
周永康氏と習近平氏
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2019年02月18日

●「中国の民間企業を気にする習体制」(EJ第4949号)

 習近平国家主席にとって、国有企業ほど重要なものはないと考
えられます。国有企業は共産党の利権の巣窟であり、もし国有企
業が弱体化すれば、共産党も弱体化するからです。そのため、市
場での企業の優遇状況が以下のようになるようにしていますが、
これでは、他国、とくに米国とまともな投資協定などは結べない
のです。現在米国との間でまさにこれが問題になっています。
─────────────────────────────
    外資系企業<中国の民営企業<中国の国有企業
─────────────────────────────
 それに、習近平主席は、経済問題を政治問題の延長線上でとら
えています。つまり、自己の権力と利権が増大する経済政策こそ
が、習主席にとって正しい経済政策なのです。
 その習主席の経済ブレーンの筆頭格が劉鶴氏です。2018年
3月19日に、第2次李克強内閣の国務院副総理に就任していま
すが、劉鶴副首相は習主席の意向を踏まえて、国有企業改革をめ
ぐっては縮小を目指す李克強総理より、拡大を掲げる習近平総書
記の立場を代弁しています。いわば、李克強首相の経済政策にブ
レーキをかける役割を劉鶴氏が担っているといえます。
 このように、習主席にとって社会主義は何よりも大事なもので
あり、就任以来イデオロギーの引き締めを図っています。米国と
しては、中国経済が発展すれば必ず市場経済に移行すると考えて
いたものの、習主席は中国を真逆の方向に引っ張っていこうとし
ています。それがまさに米中貿易戦争というかたちで激突してい
るといえます。
 このことについて、北海道大学大学院公共政策学研究センター
の西本紫乃研究員は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 2016年12月中旬、教育部の陳宝生部長(大臣に相当)が
共産党の機関誌『紫光閣』に教育機関におけるイデオロギーの徹
底強化に関する記事を発表した。教育機関のイデオロギーを徹底
することで体制の維持を強固にするとともに、次世代を担う若者
に対して正しい思想教育をしなければならない、という趣旨の文
章である。この陳宝生部長の文章で注目すべきは、「敵対勢力」
の中国への攻勢を防ぐ必要があると述べている点である。「敵対
勢力」が中国に侵入するときは、まず教育システムに入り込み学
校を乱すのだという。「敵対勢力」が具体的に何を指すのか明確
ではないが、国外からの脅威というより、おそらく内なる敵を指
しているのだと思われる。つまり、中国国内の西洋の哲学や価値
観を教える教員や体制批判的な意見をもつ人を「敵対勢力」と見
ているのだ。中国国内の有識者はこの文章を、教育機関内部の体
制に従順でない人たちを排除するための、クリーンアップキャン
ペーンの開始宣言だと見ている。   https://bit.ly/2SNgmQb
─────────────────────────────
 西本紫乃研究員は、習近平主席の独特の人事について解説して
います。習主席は、自身の政権をつくるに当って、自分が歴任し
たポストでのかつての部下を中心に要職に起用しています。安倍
首相と同じいわゆる「お友だち人事」です。そして、その人物に
対し「クライエンテリズム的人間関係」を強く求めるのです。
 「クライエンテリズム的人間関係」とは、いわゆる「親分子分
関係」のことです。コトバンクには次のように出ています。
─────────────────────────────
 人から受けた好意に対してはお返しをするという社会的交換の
一種で、互酬的関係という。ある特定の人から何かを頼まれたと
きに、過去にその人から受けた好意に照らして断りきれないとい
う感情。親分・子分の関係,パトロン・クライエントの関係はこ
うしてできあがる。クライエンテリズムは,このような特定の人
間に結びつく影響力の関係である。一般に前近代的なものといわ
れるが,現在でも政治や国家を「好意の源泉」とする政治的なク
ライエンテリズムは,南イタリアのキリスト教民主党などにみら
れる。    ──ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典より
─────────────────────────────
 習近平主席に取りたててもらった部下たちは、子分として習主
席の掲げる左派イデオロギーを受け継ぎ、それをさらに加速させ
る旗振り役を任じなければならないのです。それが、引き立てて
もらった恩にお返しすることになるのです。
 習近平体制ではさまざまな規制が強化されています。2016
年11月には「国民教育促進法」の修正案が可決され、2017
年以降、私立の小中学校の設立ができなくなっています。教育機
関のイデオロギーによる囲い込みの一環であり、こうした規制は
今後、ますます強化されていくと考えられます。
 こういう中国の習近平政権において、いちばん頭の痛い問題は
中国の民間企業、それも成功をおさめ、急速に伸びつつある民間
企業のCEOです。彼らの多くは、外国からの資本提供を多く受
けている多国籍企業であり、表面上はともかく、ハラの中では、
自由市場を望んでいる──これは、現在の中国の社会主義市場経
済とは本質的に相いれないからです。
 それにしても、このところ中国では、安邦保険、海南航空集団
万達集団などの民営企業のトップが失脚したり、世間からバッシ
ングを浴びることが相次いでいます。
 「安邦保険」に関しては、創業者の呉小暉氏を詐欺や職権乱用
の罪で懲役18年とする判決が出されています。習近平指導部は
個人資産105億元(約1800億円)を没収し、呉氏を厳罰に
処しています。「海南航空集団」は、中国最大の民間航空コング
ロマリットですが、海南航空集団の会長、王健が旅先の南フラン
ス・プロバンスで客死しています。「万達集団」は中国最大財閥
・王健林率いる企業ですが、経営危機に陥っています。
 こういうことが現在中国では、相次いで起きているのです。こ
れらの事件に関し、アリババのジャック・マー会長が、強い不安
を感じたとしても不思議はないのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/030]

≪画像および関連情報≫
 ●ケ小平一族の企業「安邦」、急ブレーキの意味
  ───────────────────────────
   中国の代表的“紅色企業”安邦保険集団が揺れている。紅
  色企業とは、革命に参加した主要ファミリーが経営や資本に
  かかわっている企業を指すが、この企業のCEOはケ小平の
  孫娘の婿・呉小暉。つまり、ケ小平一族の企業という、中国
  最強と見られる免罪符を持っていた。しかも、中国建国十大
  元帥のひとり陳毅の息子・陳小魯も董事を務めている。ケ小
  平と陳毅という最強の革命ファミリーの名前を背景に、呉小
  暉は“中国のバフェット”と呼ばれる手腕で一民間企業・安
  邦集団を巨大化し、中国2位の保険収入を誇るまでに成長さ
  せた。だが、この安邦の躍進に習近平がブレーキをかけてい
  る。その意図はどこにあるのだろうか。
   2017年5月5日午後、中国保険監督管理委員会(保監
  会)は安邦保険集団傘下の安邦人寿保険株式会社に対して、
  3ヶ月の新規製品の発売禁止処分を決定した。これは安邦人
  寿の発売する安享5号というハイリスクユニバーサルライフ
  保険が、規制・監督を逃れて市場秩序を乱しているなど、2
  種類の保険商品に違反が見られたことに対する処罰というこ
  とになっている。その前の4月、安邦による米保険会社のフ
  ィデリティ・ギャランティ生命買収などに保監会がストップ
  をかけた。香港紙によれば、安邦の海外資産比率が高すぎる
  のが理由という。キャピタルフライトを食い止めるために、
  中国当局が海外投資を抑制しているにもかかわらず、安邦が
  言うことを聞かないので、本格的に圧力をかけ始めた、と見
  られている。          https://bit.ly/2tqMc6S
  ───────────────────────────

安邦保険集団.jpg
安邦保険集団
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2019年02月19日

●「京東集団CEOが米国で逮捕報道」(EJ第4950号)

 2018年8月31日のことです。中国の電子商取引(EC)
企業では、アリババに次ぐ2位の「京東集団」の創業者、劉強東
CEO(45歳)は、出張先の米国ミネソタ州ミネアポリスで地
元警察に逮捕されるというニュースが流れたのです。
 容疑は強姦罪で、裁判で有罪になれば、最低でも懲役12年、
最高の場合、懲役30年が科されるといわれます。しかし、劉C
EOはすぐ保釈され、北京の本社に戻っていますが、ミネアポリ
スでの裁判の決着はまだついていないのです。
 このように書くと、EC企業の若手経営者の単なる性犯罪じゃ
ないかといわれますが、事件のバックに習近平指導部の影がちら
ついており、ハニートラップの疑いもあるので、少し詳しく見る
ことにします。
 京東集団は、なかなかの有力企業で、米IT大手グーグルと米
小売り大手ウォルマートを後ろ盾につけ、世界進出を加速する計
画を持っています。劉強東CEOは、インタビューで、グーグル
から数ヶ月前に5億5000万ドル(約610億円)規模の出資
を受け、中国外の顧客を獲得するため、グーグルと戦略を立てて
いる初期段階にあると表明しています。習近平主席は、このタイ
プの中国の民営企業を最も警戒するのです。
─────────────────────────────
 財経ネット報道を参考にすると、劉強東はミネソタ州立大学と
清華大学経済管理学院の合同DBAプログラムに参加するために
訪米した。8月27日に妻子を連れてプライベートジェットでミ
ネアポリス入りし、29日夜には家族でミネトンカ湖上の遊覧船
で晩餐会を行った。この晩餐会に被害を主張する25歳の中国人
女子留学生も参加していた。
 事件は30日夜に発生した。市内の日本食レストランで、劉強
東は清華大学経済管理学院教授の崔海濤が引率してきた学生、留
学生らも招いて晩餐会を開き、例の女子留学生も参加。この席で
は32本の葡萄酒が空けられ、かなり乱れた酒宴となった様子が
レストランの従業員らに証言されている。
 この晩餐会のあと、酔った女子留学生は、劉強東に学生寮まで
送ってもらった。だが、その女子留学生からその夜午前2時ごろ
警察に通報があった。女子留学生は男友達の助けを借りて警察に
連絡をしたというが、警官が駆け付けてみると「間違いました。
すみません」と言うだけだった。
 31日夜も有名イタリア料理店で留学生たちを招いた宴会が開
かれ、その女子留学生も参加。9月1日午前1時ごろ、その女子
留学生は学校職員の助けを借りて警察に通報した。警察が呼び出
されたのはミネソタ州立大カールソン管理学院の小教室で、そこ
にいた劉強東が、性暴行既遂として逮捕されたのだった。劉強東
はそこで女子学生と会う約束をしていた、と主張した。
                  https://bit.ly/2BEkA2N
─────────────────────────────
 話が複雑なので整理します。この事件の主役は、米国に出張し
た劉強東京東集団CEOと、米国の大学に留学している中国人の
女子留学生です。劉強東氏は、現地の日本食レストランで、中国
人留学生を招いてパーティーを開催しています。それらの留学生
を連れてきたのは、清華大学経済管理学院の崔海濤教授です。劉
強東氏は、そのパーティーの席で、崔海濤教授からその女子留学
生を紹介されます。おそらくパーティーは他にも女子留学生が参
加していたと思われますが、崔海濤教授はその留学生を特定して
紹介しているのです。
 パーティー終了後、劉強東氏は酒に酔ったその女子留学生を学
生寮まで送っています。初対面の女子留学生に、なぜそこまです
るのかというと、崔海濤教授からその女子留学生を特定して紹介
されたからでしょう。そこで何かがあったとみるべきです。おそ
らくその女子留学生は性被害に遭ったと考えられます。
 学生寮に戻ったその女子留学生は、事情を聞いた寮の男友達、
おそらく米国人の友達の助けを借りて、深夜に警察に通報します
が、警察官が来ると、何でもないとして警察官を帰しています。
 次の日も劉強東氏は、別の中国人留学生を招いてパーティーを
開いていますが、その女子留学生も参加しているのです。その席
で、劉強東氏はおそらくその女子留学生に「後で会おう」といい
ミネソタ州立大カールソン管理学院の小教室で会うことを約束し
ます。約束の時間に、その小教室に女子留学生と学校職員と警察
官が踏み込み、劉強東氏は逮捕されるのです。女子留学生は、昨
夜は思いとどまったものの、翌日になって警察に通報することを
決めたと思われます。誰かの強い勧めがあったからです。
 怪しいのは、留学生を引率した崔海濤教授です。この重要証人
は早々に帰国しています。彼が中国共産党とつながっていた可能
性は十分あります。しかも、崔海濤教授の授業は9月から休講に
なり、彼のプロフィールが掲載されている所属する精華大学長江
商学院のサイトから消えているのです。
 この事件について中国の事情に詳しい福島香織氏は、中国で今
も行われている「性賄賂」について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 男尊女卑の根強い中国には「性賄賂」が横行している。それは
大学においても同じで、金主や政治家にさまざまな資金援助や便
宜を得る見返りに女子学生にキャバクラ嬢やそれ以上の真似事を
させることがある。女子学生は単位や奨学金、留学チャンスなど
と引き換えにそれに応じることもある。崔海涛は昨年のDBAプ
ログラムでもよく似たことをやったという匿名証言が一部で流れ
た。そう仮定すると、引率の教授が特定の女子留学生を何度も劉
強東に引き合わせたことも、彼女の名前が劉強東の初恋の人と同
じであったというのも偶然ではなかったかもしれないし、彼女が
警察に通報しながら逡巡したのも納得できよう。
                  https://bit.ly/2IjcUbJ
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/031]

≪画像および関連情報≫
 ●性的暴行容疑で逮捕の中国大手ECトップ/米紙
  ───────────────────────────
   2018年9月6日、中国ネット通販大手・京東集団(J
  Dドットコム)の劉強東(リウ・チアンドン)最高経営責任
  者(CEO)が訪問先の米ミネソタ州で女性に性的暴行を加
  えたとして逮捕された問題で、新聞は米紙ウォール・ストリ
  ート・ジャーナル(WSJ)が逮捕前後の詳細について報じ
  た記事を取り上げた。
   WSJによると、被害を訴えたのはミネソタ大学に通う中
  国人女性で、女性は先月30日夜、同州ミネアポリスにある
  日本料理店で開かれたワインと料理を楽しむ食事会で劉氏と
  同じテーブルに着いた。問題は食事会の後に起きたという。
   記事はまた、店にいた人の話として「出席者は20人余り
  だった」と説明。出席者の中に劉氏がいたかどうかは不明と
  のことだが、「周囲からボスと呼ばれる人がいた」「食事会
  は9時ごろ終わったが、何人かは酔いつぶれていた」とのコ
  メントが寄せられたことも報じた。
   新聞はこのほか、「事件発生は31日午前1時。劉氏の収
  監までに約22時間を要した。この間、一体何が起きたのか
  情報は明らかにされていない」と説明し、WSJの報道とし
  て「警察は事件の因果関係やその他の側面について議論する
  ことを拒んでいる」とも伝えている。 (翻訳・編集/野谷)
                  https://bit.ly/2GNLUiu
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劉強東京東集団CEO.jpg
劉強東京東集団CEO
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2019年02月20日

●「馬雲会長は先を読んで逃げたのか」(EJ第4951号)

 一連の急成長企業の若手経営者、「安邦保険集団」の呉小暉C
EO、フランスで急死した「海航集団」の王健会長、そして米国
で逮捕された「京東集団」の劉強東CEO、いずれも不可解な事
件で失脚させられています。
 一般的な観測では、これらの若手経営者は、これからの中国を
支える重要な人材であり、国のトップである習近平主席としては
交流を密にしているとされていましたが、そうではなく、むしろ
警戒心を高め、敵対しているのです。習近平政権にとって最も重
要な国有企業の存在を脅かす存在としてとらえているようです。
中国の民営企業の位置付けはあくまで次の通りです。
─────────────────────────────
    外資系企業<中国の民営企業<中国の国有企業
─────────────────────────────
 このうち、安邦保険集団の呉小暉CEOと、海航集団の王健会
長のケースには共通点があります。
 呉小暉CEOは、ケ小平の孫娘の婿であり、安邦保険集団はケ
小平一族の企業なのです。中国建国十大元帥のひとり陳毅の息子
・陳小魯も董事を務めています。ケ小平と陳毅という最強の革命
ファミリーの名前を背景に、呉小暉は“中国のバフェット”と呼
ばれる手腕で一民間企業・安邦集団を巨大化し、中国2位の保険
収入を誇るまでに成長させています。
 故王健氏が率いていた中国複合企業、海航集団(HNAグルー
プ)は、江沢民派が後ろ盾といわれています。HNAの大株主で
ある海南省慈航公益基金会のトップが海南省元高官である一方で
HNAが89年創業当時から、資金調達で当時の劉剣峰・海南省
省長のバックアップを受けていたのです。
 劉剣峰氏は、1984年に中国電子工業部の副部長兼規律検査
組の組長を務め、1997年には、国有通信大手のチャイナ・ユ
ニコムの会長に就任しています。これに対して、江沢民氏は19
83年〜85年まで電子工業部部長(大臣クラス)を務めており
劉剣峰氏の上司の関係です。それに加えて、チャイナ・ユニコム
は、江沢民氏の長男である江綿恒氏が実質オーナーを務める江沢
民一族の利益基盤であり、そういう関係もあって、HNAのバッ
クには江沢民一族がいるのです。
 習近平主席は、成功した若手経営者のバックには大物の政治が
いるとして、とくに警戒しています。なかでも、江沢民元主席の
勢力がバックにいる民営企業に対しては、さまざまな方法を駆使
して潰しにかかります。
 ジャック・マー(馬雲)氏は、江沢民元主席の孫で、投資ファ
ンドを運営する江志成氏と近い関係にあります。江志成氏は、江
沢民氏の孫です。これは、アリババの「潜在的リスク」といわれ
ジャック・マー会長も、十分それを意識していたのです。
 中国に詳しい宮崎正弘氏は、アリババのジャック・マー会長と
江沢民派の関係について、次のように書いています。
─────────────────────────────
 アリババは中国最大のネット通販、そのシェアは8割を超え、
筆頭株主は孫正義の「ソフトバンク」である。つまり最大の裨益
者は日本企業という皮肉!
 創業者の馬雲は通販ビジネス成功の勢いに乗って盛んにM&A
作戦を展開し、映画製作、百貨店、サッカーチームにまで経営の
手を広げた。馬雲は世界的なビジネスリーダーとなり、神話も生
まれた。本社は浙江省杭州市。ハイテク団地に近い川岸に巨大な
本社ビルがある(筆者も何回か目撃しカメラに収めた)。
 中国の通信ビジネスで大成功を収めたのは、このアリババと、
「騰訊」、そして「百度」だ。アリババのCEO馬雲は個人資産
が218億米ドルといわれ、江沢民の孫、江志成と「親密」な関
係が指摘されている。江志成は米国留学後、香港へあらわれて、
「博裕ファンド」を設立した。
 この江沢民の孫ファンドが、アリババの相当数の株主であるこ
とが分かっている。また、このファンドが、馬雲のすすめるベン
チャー・ビジネスに出資しているとも云われ、持ちつ持たれつの
ズブズブ関係がある。おりから江沢民の子分だった周永康ら「石
油派」が失脚し、江沢民は、捲土重来を期していると囁かれてい
る。                https://bit.ly/2SGdtkD
─────────────────────────────
 つまり、アリババは、早い時点から、習近平政権に睨まれてい
たし、ジャック・マー氏自身も十分それを認識していたのです。
2015年には、中国人民大学公共管理学の劉太剛氏が次のコラ
ムを書いてからは、アリババに対する風当たりは一層厳しくなっ
たのです。
─────────────────────────────
     アリババのビックデータは国家安全を脅かす
─────────────────────────────
 2017年には、中国人民銀行(中央銀行)がアリババのアリ
ペイはじめ、電子マネーを傘下に収容する通達も出しています。
建前は、スマホ決済の安全性を高めるためとなっていますが、こ
れによって、2019年以降、年換算で1000億円相当のアリ
ペイ金利収入が、人民銀行に接収されることになっています。
 こうした状況を踏まえて、時代の空気に敏感なジャック・マー
会長は、逃げを打ったのではないかと考えられます。
 福島香織氏は、これは終生国家主席を続けようとする習近平主
席への痛烈な、最後の当てこすりであるとして、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 野心の強い劉強東がはめられ、賢い馬雲は逃げを打った、と言
う噂が本当なら、声高にスゴイと叫ばれる中国のIT業界の前途
は、けっこう暗雲が垂れ込めているという気もするのだ。
                  https://bit.ly/2tonYtV
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/032]

≪画像および関連情報≫
 ●上場後のアリババを「やっつける」か/北京指導部情報
  ───────────────────────────
   【大紀元日本9月19日】中国の電子商取引最大手、アリ
  ババ集団(BABA)は19日に、ニューヨーク証券取引所
  (NYSE)に上場する見通し。米紙ニューヨーク・タイム
  ズ(NYT)は今年7月、謎めいた政治的背景を持つアリバ
  バの投資会社や「紅二代」株主について報じた。香港メディ
  アは最近、北京指導部の情報筋の話として、中国当局は米国
  上場後にアリババを「やっつける」可能性があると伝えた。
   NYT紙は7月21日、長篇評論「アリババの背後にある
  多くの「紅二代」株主が米国上場の真の勝者」を掲載し、深
  い政治的背景を持つアリババの投資会社の状況を明らかにし
  た。報道によると、江沢民元国家主席の孫、江志成氏が設立
  した「博裕ファンド」や、陳雲元副総理の子息、陳元氏が、
  15年間率いた「国開金融」(CDBキャピタル)、中国共
  産党序列5位の劉雲山政治局常務委員の息子、劉楽飛氏や中
  国共産党の革命元勲、王震・大将の息子、王軍氏に関係する
  「中信資本」(シティック・キャピタル)など、いずれもア
  リババに投資しているという。NYT紙はまた、「今や、ア
  リババを倒すためには巨大な衝撃を与える必要がある。・・
  ・諸々の国家部門では多くの密接な政治的同盟者を有する」
  と、北京ベースの証券分析会社美奇金投資コンサルティング
  会社の共同創立者楊思安氏の話として述べた。
   香港誌「中国密報」の最新号は、「アリババと四大太子の
  黄金の宴」と題する記事では、北京の情報筋の話として「N
  YTの分析は根も葉もない話ではなく、目下の中南海(北京
  指導部)の情勢に関する一つの客観的論述である。
                  https://bit.ly/2UXX7Aw
  ───────────────────────────

江志成氏/江沢民元主席の孫.jpg
江志成氏/江沢民元主席の孫
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2019年02月21日

●「米中貿易戦争で中国経済失速拡大」(EJ第4952号)

 2月14日のEJ第4947号から書いてきた中国のEC企業
の雄、アリババのジャック・マー(馬雲)会長の突然の退任の話
はこのくらいにして、米中貿易戦争の話に戻ることにします。
 2月20日現在、ワシントンにおいて、次官級の貿易協議が続
いていますが、本日と明日の22日にかけて開催する予定の閣僚
級の会合に向けての地ならしをやっています。3月1日まで今日
を含めて8日しかありませんが、トランプ氏は次のように延長の
可能性をほのめかしています。
─────────────────────────────
 タイミングは正確にはいえないが、3月1日は「魔法の日(マ
ジカル・デイト)」ではない。多くのことが起こりうる。
                   ──トランプ米大統領
       ──2019年2月20日付、日本経済新聞夕刊
─────────────────────────────
 そもそも中国は米国に経済では絶対に勝つことは困難です。そ
の国力の差が謙著だからです。2017年の時点で、中国のGD
Pは米国の63・2%であり、約3分の2です。したがって、両
国がガチンコでぶつかれば、その体力差は歴然としています。
 もうひとつ、中国は、金融システムが米国に比べて脆弱です。
自由市場のなかで150年もの間、もまれ抜いてきている米国の
金融システムに比べて、中国のそれは、1992年に始めた社会
主義市場経済という独自のシステムであり、その強靭さは比較に
ならないでしょう。ソ連が崩壊したことからわかるように、国家
が経済をコントロールできるかどうかはきわめて疑問です。しか
し、中国はできると固く信じているようです。
 米中貿易戦争がはじまってからも、秋ぐらいまでは中国経済は
きわめて好調だったのです。しかし、今にして思うとそれは駆け
込み需要であり、12月には遂に前年同月比4・4%減少の失速
になったのです。中国の経済は次のように誰の目にも明らかなよ
うに、目下失速しつつあるのです。
─────────────────────────────
 中国経済に関して、足元で最大の衝撃は、昨年の自動車販売が
2・8%減の2808万台と前年比マイナスに転落したことだろ
う。日本の新聞は「28年ぶり」と書いているが、28年前とは
89年6月の天安門事件の翌年で、中国経済は国際制裁を受け、
過去最悪と言われた年であり、昨年の自動車販売は事実上、史上
初のマイナスなのである。
 それが年間3000万台を前にした足踏みでないことは年明け
の動きでわかる。北京、上海ともに自動車販売は「ディーラーが
一部の店舗の閉鎖を始めた」(中国の自動車業界関係者)ほどの
不振。2月5日の春節を前に例年なら盛り上がる高額商品の消費
は真逆の様相を示している。
            ──『選択』/2019年2月号より
─────────────────────────────
 「小米(小米科技)」という中国の企業があります。スマホ会
社として創業し、現在、スマホの世界シェア4位のIT大手企業
です。中国のIT企業というと、どちらかというと、習近平主席
から睨まれている企業が多いのですが、小米は習近平主席のお気
に入りといわれています。
 中国当局は、中国国内の株式市場を活性化させるため、すでに
海外市場で上場している中国の有力企業や「ユニコーン」と呼ば
れる中国の新興企業群を中国国内でも上場させる計画を立ててい
ます。ちなみに「ユニコーン」と呼ばれる企業とは、次のような
企業のことです。
─────────────────────────────
 「ユニコーン企業」とは、創設10年以内、評価額10億米ド
ル以上、未上場、テクノロジー企業といった4つの条件を兼ね備
えた企業を指す。アメリカの調査機関の集計によれば、2017
年12月1日時点で、世界に220社のユニコーン企業が存在し
それらの多くはアメリカもしくは中国の企業だ。アメリカ発の企
業は109社で全体の49・5%を占めている。これに続いて中
国発の企業が59社で全体の26・8%を占める。日本は(当時
上場が決まっていなかった)メルカリの1社のみ。
                  https://bit.ly/2BL6MDq
─────────────────────────────
 中国には、CDR(中国預託証券)という制度があります。ア
リババやテンセントなどの中国のIT企業は、中国ではなく、米
国や香港で上場しているので、中国国内の投資家がそれらの企業
の株式を購入するにはカベがあるのです。そこで、他国で上場さ
れている株式を人民元建てで取引できるようにする制度です。中
国国内の信託銀行に証券を預けて、受領書を発行してもらうこと
で、実質的に株式を保有できるのです。これをCDR(中国預託
証券)といい、CDRは次の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
        CDR
        Chinese Depositary Receipt
─────────────────────────────
 中国当局としては、CDRの最初の適用事例としようとしたの
は、小米だったのです。小米もこれを受け入れ、香港市場と上海
市場に同時に上場する計画を立てていたのです。資金調達予定額
は、それぞれ50億ドルで、香港と上海で100億ドルを狙って
います。
 しかし、小米は、6月19日になって、突然上海での上場を延
期し、香港でのみ上場したのです。小米は、中国当局との約束を
破ったことになります。これは相当勇気のいることです。
 小米の創業者の雷軍CEOは、米中貿易戦争による中国経済の
不安定さに懸念を抱いたのです。ビジネスマンとしては、当然の
判断であるといえます。これは、中国内外の有力企業の「中国離
れ」を意味しています。中国経済は現在どんどん不安定化を増し
ています。      ──[米中ロ覇権争いの行方/033]

≪画像および関連情報≫
 ●日本が中国に「ユニコーン企業」数で大敗北を喫した理由
  ───────────────────────────
   グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンという4
  大IT関連企業は、それぞれの頭文字を取ってGAFAと呼
  ばれることがある。一方、百度(バイドゥ)、アリババ、テ
  ンセントの3社の呼称であるBATに、ファーウェイのHを
  付け加え、私はこれら4社をBATHと呼んでいる。
   BATHの成長はきわめて著しく、GAFAを猛追してい
  る状況だ。特に上場済みのBATの時価総額は2017年の
  1年間で倍増し、2017年12月末時点の額を合計すると
  1兆米ドルを超えている。
   個別で見た場合、GAFAの時価総額に続くのは、アメリ
  カ企業を除くと6位のテンセントと8位のアリババのみだ。
  米中企業以外を見ていくと、ヨーロッパ企業の最上位は18
  位の英蘭企業のロイヤル・ダッチ・シェルで、時価総額は、
  2746億米ドルである。トヨタは42位にランクインして
  おり、時価総額は1891億米ドルだ。ヨーロッパ勢も日本
  勢も、米中のトップ企業からは大きな差をつけられていると
  見ていいだろう。では中国のBATHがアメリカのGAFA
  を追い越す日はやってくるのだろうか?利益額ではすでにア
  リババはアマゾンを大幅に上回っている。時価総額ではアマ
  ゾンに及ばないアリババだが、いずれアマゾンを凌ぐことに
  なるだろう。          https://bit.ly/2BL6MDq
  ───────────────────────────

中国内の「小米」の店舗.jpg
中国内の「小米」の店舗
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2019年02月22日

●「発展途上国が遭遇する2つの要因」(EJ第4953号)

 中国は、ある意味において、非常にタイミングの悪いときに米
国から貿易戦争を仕掛けられたといえます。それは、ちょうど中
国の経済が減速しているさなかの貿易戦争だったからです。
 それは、発展途上国が必ず遭遇する次の2つの要因による経済
の減速のさなかだったのです。
─────────────────────────────
          1. 中所得国の罠
          2.ルイスの転換点
─────────────────────────────
 1は「中所得国の罠」です。
 中所得国の罠は、自国経済が中所得国のレベルで停滞し、先進
国(高所得国)入りがなかなかできない状況のことをいいます。
これは、新興国が低賃金の労働力などを原動力として経済成長し
中所得国の仲間入りを果たした後、自国の人件費の上昇や後発新
興国の追い上げ、先進国の技術力などの先端イノベーションの格
差などに遭って競争力を失い、経済成長が停滞してしまう現象を
指しています。
 2は「ルイスの転換点」です。
 「ルイスの転換点」は、英国の経済学者、アーサー・ルイスに
よって提唱された概念です。これについては、2013年に執筆
したEJのテーマ「新中国論」で一度説明しているので、それを
引用することにします。
─────────────────────────────
 「ルイスの転換点」という言葉があります。農業を中心として
きた低開発国が、高度成長期になったとき、農村の未活用の余剰
労働力が都市部に移動して製造業などに投入されるため、人件費
は上昇しないのです。
 中国も外資系大手企業の間で「魔法のような国」といわれたこ
とがあります。人を雇おうと思って広告を出すと、広告枠の何倍
もの内陸の若者たちが次から次へと出稼ぎに来るので、いくら人
を雇っても人件費が上がらない国という意味で、「魔法の国」と
呼んだのです。
 しかし、労働力移動が峠を越えて完全雇用に近づくと、人件費
は向上し、人出不足になってくるのです。それに既に職に就いて
いる労働者たちは賃金値上げのためのストを頻繁に行い、人件費
が高騰してくるのです。そのターニングポイントを「ルイスの転
換点」と呼んでいます。
     ──2013年4月11日付、EJ第3525号より
─────────────────────────────
 これら「中所得国の罠」と「ルイスの転換点」は、新興国は必
ず遭遇しますが、日本では1960年代後半ごろにこの転換点に
達しています。中国の場合、国が広いので、完全雇用とはいえな
いものの、既に2006年頃にはこの転換点に達しているものと
考えられます。
 ルイスの転換点を過ぎると、求人難が起こり、それは人件費の
高騰を招きます。全国各地で法定最低賃金が引き上げられ、そう
いうところから、もはや現在の中国では「ものを安く作れない」
状況が生まれているのです。
 2013年時点の日本総研の湯元健治氏(シニアエグゼクティ
ブエコノミスト)のレポート(「中国は中所得国の罠を回避でき
るか」)によると、やはり中国は、ルイスの転換点を超えている
として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国では農村から都市への労働力移動がストップし、労働力不
足と賃金上昇が経済成長を抑制する「ルイス転換点」をすでに通
過した可能性が高い。このままでは、今後10年間の潜在成長率
が5〜6%に低下しかねない。労働や資本に依存した成長パター
ンからイノベーション・生産性主導型成長への転換が急務だが、
国有企業による基幹産業の独占の弊害、外資依存の低賃金加工組
立型経済モデルの行き詰まり、民営企業の活力低下などが指摘さ
れている現在、「国進民退」のトレンド転換は容易ではない。国
有企業の民営化や先進的な民間企業の育成によって、イノベーシ
ョン能力を高めなければならない。  https://bit.ly/2Xf1uJx
─────────────────────────────
 このように、中国は、ルイスの転換点は既に達していますが、
中所得国の罠からは、まだ抜け出せていないのです。これから抜
け出すためには、一人当たりGDPがもっと上昇していかなくて
はなりませんが、中国の2017年の一人当たりGDPの順位は
74位(日本は25位)と低迷しています。
 中国は、こういう状況で、米国から貿易戦争を仕掛けられたの
です。この貿易戦争がこのまま続くと、今後中国から外資の大量
撤退をもたらし、グローバルな産業再配置を促しています。こう
した産業の連鎖構造再配置の過程で、中国で発生するのは資本の
流出と失業の増加です。
 中国では、現在メディアでの「報道禁止事項」が増え続けてい
ます。この数ヶ月だけで、貿易戦争、失業、外貨準備高の流失、
株式市場、不動産のマイナス情報が「報道禁止事項」に加えられ
ました。失業率も報道禁止事項に入っているのです。
 2018年8月に、「7月の全国の都市の失業率は5・1%で
あり、前年より0・3%上昇した」と発表されましたが、誰もこ
の数字を信用していない状況です。現在、日本でも統計不正が問
題になっていますが、本当の失業率は、実に22%ともいわれて
いるのです。
 日本の共同通信によると、現在までに6割の日本企業が、中国
から他の国へ撤退、あるいは撤退中で、残る4割もいかに撤退す
るか考慮中だとしています。もともと中国の失業率は高かったの
です。これに大量の外資撤退による失業を加えると、そうでなく
ても深刻だった傷口に塩を塗られるようなものであり、失業問題
は今後さらに深刻の度を加えることは確実です。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/034]

≪画像および関連情報≫
 ●中国のますます深刻化する失業状況/2018年10月
  ───────────────────────────
   中・米貿易戦争は、外資の中国からの大量撤退をもたらし
  グローバルな産業再配置を促しています。こうした産業の連
  鎖構造再配置の過程で、発生するのは中国などの新興国家か
  らの資本流出と失業増加です。米国は税制改革と規則の緩和
  によって経済発展を促進させ、グローバルな投資家の避難港
  となりました。8月だけで、全米の雇用は20万1千人増え
  失業率は3・9%です。しかし、中国では大量の外資撤退に
  よって、もともと深刻だった失業問題の傷口に塩を塗られた
  ようなものです。
   中国では、現在ますます「報道禁止事項」が増え続けてい
  ます。この数カ月だけで、貿易戦争、失業、外貨準備高の流
  失、株式市場、不動産のマイナス情報が「報道禁止事項」に
  加えられました。しかし、そんなことをしても、様々な方法
  で中国の失業問題の深刻さを計算することは出来ます。国家
  統計局は、8月中旬に「7月の全国の都市の失業率5・1%
  であり、前年より0・3%上昇した」と発表しました。
   こういったデータは中国経済のアナリストたちは信用して
  いません。まず、この統計規格そのものが「中国的特色」を
  帯びており、今年の4月以降に、中国政府は発表する失業率
  を「都市登記失業率」から「調査失業率」に改変しました。
  政府に委託を受けた専門家グループは「調査失業率の全面解
  析における9つの問題」として、まことしやかに、調査失業
  率は以前の都市失業率より信用できると”論証”しています
  が、専門家たちはみなこの中国的特色の調査は本当の失業率
  ではないことを承知しています。 https://bit.ly/2SSJtlK
  ───────────────────────────

不可解な中国の失業率.jpg
不可解な中国の失業率
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2019年02月25日

●「米中貿易戦争で今まで起きたこと」(EJ第4954号)

 米中貿易戦争で、米国と中国において、これまで何が起きたか
重要なポイントについて、ていねいに見る必要があります。
 2017年6月のことです。6月3日にシンガポールにおいて
「アジア安保会議」が開催されたのです。トランプ政権のアジア
政策がみえないなか、ジェームズ・マティス国防長官(当時)が
どんな話をするか注目されたのです。このとき、マティス長官は
中国を名指しして、次の趣旨の非難演説を行っています。
─────────────────────────────
 中国の国際法に反する海洋進出や軍事拠点化に対し、米国は
 断固反対する。     ──マティス米国防長官(当時)
─────────────────────────────
 実はこの会議に中国は大物を送っていないのです。過去数年人
民解放軍の副参謀長クラスを送っていた中国が、そのときはずっ
と位の低い軍事科学院副院長の何雷中将の派遣にとどめているの
です。何があったのか理由ははっきりしませんが、当時、中国と
シンガポールの間はトラブル続きであり、そういうことが影響し
たとも考えられます。
 2017年6月28日、中国において「国家情報法」が施行さ
れます。これについての「産経ニュース」の記事を引用します。
─────────────────────────────
 中国で28日、国家の安全強化のため、国内外の「情報工作活
動」に法的根拠を与える「国家情報法」が施行された。新華社電
によると、全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会で昨年
12月に審議に入りし、今月27日に採択された。国家主権の維
持や領土保全などのため、国内外の組織や個人などを対象に情報
収集を強める狙いとみられる。
 習近平指導部は反スパイ法やインターネット安全法などを次々
に制定し、「法治」の名の下で統制を強めている。だが、権限や
法律の文言などがあいまいで、中国国内外の人権団体などから懸
念の声が出ている。       ──2017年6月28日付
       ──「産経ニュース」 https://bit.ly/2U1Lf0B
─────────────────────────────
 この法律の成立によって、「いかなる組織および個人も国家の
情報活動に協力する義務を持つ」ことになります。ビジネスなど
で得られた情報も、国家がそれを要求すれば、国家に提供しなけ
ればならなくなります。この法律がある限り、中国以外の国は、
中国との取引に慎重にならざるを得なくなります。
 2018年3月のことです。3月11日、中国は、全国人民代
表大会で、ケ小平の定めた国家主席の「2期10年」の再選制限
が撤廃されたのです。権力ポストは、長くやっていると、必ず腐
敗すると見抜いたケ小平が「2期10年」の制限を設けたのです
が、習近平主席はこの制限を外し、フリーにしたのです。自ら腐
敗防止キャンペーンの先頭に立っていながら、自分だけは大丈夫
と考えているのでしょうか。これによって、習近平国家主席は、
終身国家主席でいることができるのです。
 2018年3月22日、米国は、通商法301条に基づき、中
国の知的財産侵害に制裁関税を課すことを表明しています。これ
によって貿易戦争の戦端は開かれたといえます。
 2018年4月4日のことです。中国は、米国産の自動車や綿
花などに25%の関税を課すと発表しています。中国が先に仕掛
けてきたのです。これに対して米国は、2018年4月16日、
米企業に中国ZTEとの取引を禁じる制裁を発効させます。
 2018年7月6日、米国は、中国製品340億ドルを対象に
制裁関税第1弾を発動し、続いて、8月に第2弾、9月に第3弾
を発動します。はじめのうちは、中国も米国に合わせて報復関税
をかけていましたが、やがてそれもできなくなります。
 2018年8月13日、米国で「国防権限法2019」が成立
します。これに基づき、2020年8月から、ファーウェイなど
中国5社の製品を使用している企業は、米政府との取引が禁止に
なります。
 そして、2018年10月4日、ペンス副大統領はハドソン研
究所で演説します。その演説は、対中冷戦への決意を述べる、中
国にとって、きわめて激しい内容ですが、これは米国政府のコン
センサスであると考えるべきです。その一部を引用します。
─────────────────────────────
 過去17年間、中国のGDPは9倍に成長し、世界で2番目に
大きな経済となりました。この成功の大部分は、アメリカの中国
への投資によってもたらされました。また、中国共産党は、関税
割当、通貨操作、強制的な技術移転、知的財産の窃盗、外国人投
資家にまるでキャンディーのように手渡される産業界の補助金な
ど、自由で公正な貿易とは相容れない政策を大量に使ってきまし
た。中国の行為が米貿易赤字の一因となっており、昨年の対中貿
易赤字は3750億ドルで、世界との貿易赤字の半分近くを占め
ています。トランプ大統領が今週述べたように、大統領の言葉を
借りれば、過去25年間にわたって「我々は中国を再建した」と
いうわけです。
 中国政府は現在、多くの米国企業に対し、中国で事業を行うた
めの対価として、企業秘密を提出することを要求しています。ま
た、米国企業の創造物の所有権を得るために、米国企業の買収を
調整し、出資しています。最悪なことに、中国の安全保障機関が
最先端の軍事計画を含む米国の技術の大規模な窃盗の黒幕です。
そして、中国共産党は盗んだ技術を使って大規模に民間技術を軍
事技術に転用しています。      https://bit.ly/2OPqMwq
─────────────────────────────
 2018年12月1日、アルゼンチンで、米中首脳会議が行わ
れ、次の段階に進むのを90日間(2019年3月1日)延期す
ることで双方合意しています。しかし、その同じ日、米国の依頼
でカナダ当局によって、ファーウェイ創業者の娘の孟晩舟副会長
が拘束されます。これは中国に大きなショックを与えたのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/035]

≪画像および関連情報≫
 ●米中貿易戦争で一段と進む中国の景気悪化/産経新聞
  ───────────────────────────
   中国の景気悪化が一段と進み、2018年末の上海株式市
  場は前年末比約25%安、12月の景況感指数は2年10ヶ
  月ぶりの低い水準となった。米中貿易戦争の痛みの顕在化は
  米アップルをも直撃している。中国経済への逆風は今後さら
  に増すとの見方が強く、米国との貿易協議にも影響を与えて
  いるもようだ。
  「1年を通じて低迷が続いた」
   中国の経済メディア「東方財富網」は18年の上海株式市
  場をこう振り返った。同市場の代表的な指数である総合指数
  の18年末の終値は2493・90と、前年末(3307・
  17)比で24・6%下落した。米中貿易摩擦の深刻化とと
  もに低迷基調を強め、12月27日には終値が約4年1ヶ月
  ぶりの安値を記録している。
   中国経済では消費の冷え込みが目立つ。11月の消費動向
  を示す小売売上高の伸び率は、03年5月以来15年半ぶり
  の低水準。年明け早々の今月2日に米アップルが中国での販
  売不振を理由に業績予想を下方修正したのも、消費者の財布
  のひもが固くなったことが大きい。中国メディアによると、
  18年の中国の新車販売台数も1990年以来28年ぶりの
  前年割れになる見通しとなっている。悪影響は製造現場にも
  広がる。政府が昨年末に発表した12月の景況感を示す製造
  業購買担当者指数(PMI)は49・4と、好不況の節目の
  50を割り込んだ。2016年2月以来2年10カ月ぶりの
  低水準だ。           https://bit.ly/2IvvnSI
  ───────────────────────────

中国を糾弾するペンス副大統領演説.jpg
中国を糾弾するペンス副大統領演説
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2019年02月26日

●「ペンス演説は米政府の意向である」(EJ第4955号)

 『文藝春秋』3月特別号で、次のメンバーによる中国について
討論を特集しています。なかなか中身があるので、そのコアな部
分をご紹介します。
─────────────────────────────
     「トランプVS習近平/『悪』はどっちだ」
     宮家邦彦/キャノングローバル戦略研究所研究主幹
     呉 軍華/日本総研理事
    ケビン・メア/NMVコンサルティング上級顧問
     冨坂 聡/ジャーナリスト
               ──『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 米国はアジアをどう見ているのか──トランプ政権は、明確な
形でアジア戦略を発表していませんが、今回の貿易戦争でそれは
見えてきています。
 通常であれば、そういう国家戦略は、大統領の一般教書演説で
発表されるものですが、トランプ大統領は、アジア戦略を中国へ
の貿易戦争というかたちでそれを示したのです。だが、トランプ
大統領が気にしているのは、対米貿易赤字だけです。しかし、ペ
ンス副大統領が、昨年10月の演説で米国の考え方を表明し、ト
ランプ発言を補っています。これについて冨坂聡氏は次のように
解説しています。
─────────────────────────────
 現在のアメリカの考え方は、昨年10月のマイク・ペンス副大
統領の演説によく表れていました。端的に言えば、アメリカが、
「西側的な価値観、国際ルールの中での(中国の)台頭ならば歓
迎する。しかし、今の習近平のやり方は間違っている。それを修
正するのか、しないのか」と、中国に決断を迫ったのです。
        ──冨坂聡氏の意見/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 トランプ大統領のツイートを見ていると、混乱することが多い
と思います。あれほど、ファーウェイ排除に強硬姿勢を見せてい
たのに、このところ、一転「排除見直し」にも言及しています。
中国は、これには徹底抗戦の構えです。米国の排除の呼びかけに
乗ろうとする米国の同盟国に対して露骨な嫌がらせを執拗に繰り
返しています。
 米国と諜報活動などの機密情報を共有する5ヶ国で作る「ファ
イブアイズ」という協定があります。米国、英国、カナダ、オー
ストラリア、ニュージーランドの5ヶ国です。これら5ヶ国は、
米国の呼びかけに対して、ファーウェイ排除を決めています。秘
密情報を共有するのですから当然です。
 これに対し中国は、カナダ以外の4ヶ国に対して、露骨な嫌が
らせをやっています。英国のハモンド財務相は訪中を突然キャン
セルされ、ニュージーランド航空機は理由もなく上海着陸を拒否
される。ニュージーランド首相の訪中は延期され、オーストラリ
ア産の石炭の輸入禁止などの露骨な嫌がらせです。
 こうした中国の嫌がらせに屈したのか、英高官は「ファーウェ
イ製品の安保上のリスクは管理可能」と発言し、ニュージーラン
ドのアーダン首相は、「われわれはまだファーウェイ製品を排除
すると決めたわけではない」と発言するなど、足元の乱れが起き
ています。ファーウェイ幹部を逮捕したカナダについては、カナ
ダ人複数名の身柄を確保するなど、中国はやりたい放題の圧力を
かけています。
 そのせいか、ファーウェイの創業者の任正非氏は、「我々を宣
伝してくれて本当に感謝している。いまわれわれは5Gを売りは
じめているが、すぐに6Gを迎えることになる」と米国に対して
皮肉を交えつつも自信をのぞかせています。
 しかし、宮家邦彦氏は、トランプ大統領が何をいおうとも、ペ
ンス副大統領の演説が米国政府のコンセンサスであるとして、次
のように述べています。
─────────────────────────────
 ペンス副大統領の演説は、アメリカ政府のコンセンサスだと考
えていいと思います。ペンスはオーソドックスなワシントンの論
理を知る政治家です。あの内容は、突然思いついたわけではなく
何ヶ月もの間、各省庁が議論や協議を行い、一枚のペーパーにな
った演説だと見るべきでしょう。
 アメリカは、自国の脅威となるものは、すべて潰してきた国で
す。不正義と見なしたものはどんな力を使ってでも変えるという
国ですから、。日本も1930〜40年代にかけて脅威とみなさ
れ、潰された。だから今回も中国に対してとことんやる気とみた
ほうがいい。 ──宮家邦彦氏の意見/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 米国内には、中国に対する姿勢について、次の2つの人種がい
るのです。
─────────────────────────────
     1.   パンダハガー(対中融和派)
     2.ドラゴンスレイヤー(対中強硬派)
─────────────────────────────
 宮家邦彦氏は、現在のワシントンは、パンダハガーが政策の決
定過程から激減しているといっていますが、これを呉軍華氏は次
のように肯定しています。
─────────────────────────────
 2015年あたりが転換期だったと思います。元CIAのマイ
ケル・ピルズベリーなど、代表的なパンダハガーたちが相次いで
公の場で反省の弁を吐露し始めた。流れが変わると思っていたら
やはりドラゴンスレーヤーが増えたのはもとより、対中融和を訴
える声がほぼなくなっていきました。トランプ政権はこの流れを
受け継いだ形で対中アプローチをしているといっても過言ではあ
りません。   ──呉軍華氏の意見/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/036]

≪画像および関連情報≫
 ●欧州のパンダハガー(独仏英)が中国警戒に急傾斜
  ───────────────────────────
   英国政府筋はチャイナバッシングの開始を示唆している。
  欧州はこれまでパンダハガーとして、やみくもに中国とのビ
  ジネスを拡大してきた。そのためにもAIIBにも率先して
  加盟した。
   しかし買収されやすく、他方で欧州企業の中国企業買収に
  は高い壁がある。見えない条件があって、うまく行かないと
  いう不満が拡がっていた。ロンドンの豪華住宅地やマンショ
  ンの不動産価格は中国の爆買いによってつり上がり、庶民か
  ら不満が突出し始めた。
   中国と異常なほどの「蜜月」を享受してきたドイツ政府も
  EU加盟国に、「不公平な中国からの投資を警戒するよう」
  に呼びかけた。EU全域には中国の企業買収などの過激な投
  資進出に不快感が拡がっていたが、中国贔屓と見られたドイ
  ツでも、とうとう中国への堪忍袋の緒が切れた。メルケルの
  中国傾斜路線に黄信号が灯ったのだ。
   直接の理由は中国の国家安全保障に直結するハイテク技術
  やロボット企業を片っ端から買収し始めたことへの不安から
  である。シグマ・ガブリエル独副首相は中国と香港を五日間
  に亘って訪問したのち、「EUは中国のIT企業や最先端技
  術の企業買収を許可してきたが、われわれEUのメンバーが
  中国の企業や思案買収は対等ではなく不公平である」と不満
  をぶち挙げた。「中国の通商関係を切る意思はさらさらない
  が」としてミカエル・クラウス駐中国独大使も発言を補強す
  る。              https://bit.ly/2IxgTlj
  ───────────────────────────

宮家邦彦氏.jpg
宮家邦彦氏

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2019年02月27日

●「ドラゴンスレイヤーが米国を守る」(EJ第4956号)

 米国は、現在、本当の意味で中国を「脅威」と位置づけていま
す。それは「脅威」というより、「恐怖」に近い感情になりつつ
あります。「このままでは自分たちのヘゲモニー(主導的地位)
を奪れるかもしれない」という恐怖です。これについて、NMV
コンサルティング上級顧問のケビン・メア氏は、次のように表現
しています。
─────────────────────────────
 確かにアメリカ政府は、中国を「脅威」と位置付けています。
南シナ海・東シナ海における人民解放軍の軍事的な脅威、サイバ
ー攻撃の脅威、人工衛星破壊実験など宇宙開発における脅威、人
工島建設でサンゴ礁を破壊した環境に対する脅威・・・中国はア
メリカにとって、さまざまな意味で「脅威」となりつつある。
 しかし、私が強調したいのは、「脅威」である一方、巷間言わ
れている「中国が台頭したからアメリカが衰退した」という見方
は間違っているというものです。アメリカは中国が発展すること
は歓迎します。容認できないのは、国際ルールを無視し、「中国
のルール」を押し通そうとしていることなのです。
        ──ケビン・メア氏/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 現在のトランプ政権の対中国政策は、大統領選挙中のトランプ
陣営の政策顧問だったピーター・ナバロ氏とアレックス・グレイ
氏による次の論文に基づいています。なお、ピーター・ナバロ氏
は、現在、国家通商会議委員長の職にあります。
─────────────────────────────
       ピーター・ナヴァロ/アレックス・グレイ共著
「ドナルド・トランプのアジア太平洋への『力による平和』」
            ビジョン」/2016年11月発表
─────────────────────────────
 この共同論文では、「アジアの自由主義的秩序を保つためには
中国の軍事覇権を抑える力の実効が欠かせない」ことを強調して
おり、これに基づき、トランプ大統領は、アジア主体に海軍艦艇
の274隻から350隻への増強、そして、海兵隊の18万から
20万への増強計画を発表しています。
 心配の種は、トランプ大統領のむらっ気です。果して計画通り
実行できるかどうかです。北朝鮮の非核化問題でも、ノーベル平
和賞がちらつくと、大きく北朝鮮に譲歩してしまう可能性すらあ
ります。このトランプ大統領について、宮家邦彦氏は、次のよう
にコメントしています。
─────────────────────────────
 トランプの存在がトランプ政権の最大の変数ですからね。彼は
戦略家なのか。戦略がないのか。私はこの2年間ずっと自問した
けど、結局答えは出ませんでした。トランプは「自己愛性人格障
害」の傾向があり、人から賞賛されることが最優先される。内政
も外交もその手段に過ぎません。だから常識では考えられない判
断もします。
 しかし、多くのドラゴンスレイヤーがホワイトハウスにいる限
り、戦略的警戒感は解けないでしょうし、トランプも本能的に警
戒心は抱いていると見ています。
       ──宮家邦彦氏の意見/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 続いて、習近平体制について考えます。「2期10年」の任期
を撤廃し、事実上終身の国家主席になったことについて、どう見
るかです。
 米国の大統領の場合は、「2期8年」が限界であり、これ以上
大統領を務めることはできないのです。貿易戦争を仕掛けられて
慌てている中国にしても、じっと我慢して、トランプ後を待つ戦
略だってあるのです。
 習近平は権力欲にとりつかれているという見方もありますが、
宮家邦彦氏は「習近平は相当悩んだ末に権力の集中をしたのでは
ないか」という見方をしています。
 これと同じ考え方をするのは、元伊藤忠会長の丹羽宇一郎氏で
す。丹羽氏は、2010年、民間出身では初の中国大使に就任し
現在は、公益社団法人日本中国友好協会会長を務めています。尖
閣諸島国有化(2012年)当時の中国大使であり、大変苦労を
されています。その丹羽氏は、「私が習近平でも、改革のために
は権力を一手に掌握したかもしれない」といって、習近平主席に
よる憲法改正について理解を示しつつ、習近平氏について次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 終身権力者の立場という利己主義的発想だけで、憲法を改正し
たと見ることは、習近平を見誤ることにつながる。習近平には、
いや大部分の国や組織の指導者の心底には、国民のためという大
義があると私は確信している。
 たしかに、憲法改正直後に散見した中国系メディアの「中国に
とって、社会主義の現代化を実現するにあたって重要なステージ
で、中国と中国共産党は安定した、強力で、一貫したリーダーシ
ップを必要としている」という主張は、いかにもご都合主義に映
る。だが、その一方で中国が世界の大国・一流国になるには、強
く優れたリーダーの存在が欠かせないというのも事実だ。
 習近平を一方的に独裁者と切り捨てるのではなく、政治の本道
に立って、もう少し彼の言葉と行動に注目してもよいだろう。
 習政権において権力が腐敗するか否かは、習近平の退き際にか
かっている。私は多くの日本のメディアや有識者が考えているよ
りもずっと早く、習近平本人による退任の宣言があるものと考え
ている。そのときは、盟友、王岐山も一緒かもしれないし、王岐
山のほうが少し早いかもしれない。人の真価は、結局その退き際
で決まるものだ。    ──丹羽宇一郎著/東洋経済新報社刊
          『習近平の大問題/不毛な議論は終った』
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/037]

≪画像および関連情報≫
 ●中国、習近平終身主席か/文化大革命再来の懸念
  ───────────────────────────
   中国共産党中央委員会は2月下旬、国家主席の任期の上限
  に関し、連続2期10年までとする条文を憲法から削除する
  改憲案を全国人民代表大会(全人代:日本の国会に相当)に
  提出した。3月5日に開幕する全人代で可決され、正式決定
  する。中国の改憲は2004年以来14年ぶり。習近平国家
  主席(党総書記=64)は13年に国家主席に就任しており
  今回の全人代で再選される。任期の上限撤廃により23年以
  降の3期目はおろか、終身主席も可能となる。
   国家主席は国家機構のトップで、国家元首に相当する。党
  トップである総書記の任期については党規約に明確な規定は
  なく、習氏に党、国家、政府、さらに軍という中国の4大権
  力が習氏に集中することになり、実質的に習近平独裁体制が
  始動する。
   また、今回の全人代では、習氏の指導理念を憲法に明記す
  ることも決まるほか、国家と政府の最高指導部人事にも習氏
  の側近が多数任命される見通しだ。党内外で習氏への個人崇
  拝の動きが広がっており、かつての毛沢東張りの独裁者の誕
  生となり、党内外では1000万人以上が殺害された文化大
  革命(1966〜76年)の悲劇が繰り返されることを懸念
  する声も出ている。       https://bit.ly/2IxERNl
  ───────────────────────────

ケビン・メア氏.jpg
ケビン・メア氏 
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2019年02月28日

●「習近平体制は簡単には崩壊しない」(EJ第4957号)

 事実上の終身国家主席の地位と権限を手に入れた習近平体制は
その直後に米国から貿易戦争を仕掛けられ、中国経済に大きなダ
メージを与えています。現在、中国国内で何が起きているかにつ
いて、日本総研理事の呉軍華氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 現状のままでは、習近平政権は続くでしょう。唯一、習近平政
権の阻害要因になりうるのが「アメリカ」という要素なんです。
今後アメリカがどの程度、中国に圧力をかけるか。それによって
中国国内にどのくらいの影響が出るか。
 現に最近、中国国内で現行政策への批判が表面化しつつあるの
です。習近平は、2014年頃からケ小平以来の中国の国家方針
であった「才能を隠して好機を待つ」という意味の「韜光養晦」
(とうこうようかい)を葬り、強硬な「対米主戦論」を前面に打
ち出した。ところが、昨年夏、米中貿易戦争が始まると、「習近
平は韜光養晦を止める時期を見誤った」という批判の声が出始め
たのです。これもアメリカが国内に与えた影響の一つです。
           ──呉軍華氏/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 2018年8月21日と22日の2日間、習近平主席は北京で
全国宣伝思想工作会議を招集し、社会主義思想の引き締めを図っ
たのですが、その席上、幹部たちに対して、次のように釈明して
いるのです。
─────────────────────────────
 私に対する個人崇拝が進んでいることは知らなかった。自分が
青年時代に7年間、下放されていた狭西省の寒村・梁家河が「革
命の聖地」となっていることを、中国中央電視台のニュースで、
はじめて知って驚いた。           ──習近平主席
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
─────────────────────────────
 これによって、党の指導部は方針を変更し、習近平主席のポス
ターを撤去したり、終身国家主席の誕生のために用意されていた
国威発揚映画『すごいぞ、わが国』の公開の中止を決めたりして
います。個人崇拝が進むのはまずいのです。
 現在のところ米中貿易戦争の3月1日の交渉期限は延期され、
3月中に米中首脳会談が行われる可能性が大です。しかし、これ
によって通商協議は解決する可能性がありますが、知財侵害や国
有企業への補助など、米国が問題視する中国側の「構造問題」は
落としどころはまったく見えない状況にあります。
 もしこの問題がこじれて、経済が悪化すると、中国はどうなる
のでしょうか。
 冒険投資家のジム・ロジャーズ氏は、リーマン・ショックから
10年が経過し、「次の経済危機は既に静かにはじまっている」
と述べ、その経済危機はリーマン・ショックをはるかに上回る規
模になるとし、次のような不気味な予言をしています。
─────────────────────────────
 中国での想定外の企業や地方自治体などの破綻が火種になるだ
ろう。中国では、この5年、10年に債務が膨張した。足元では
債務削減を進めているが、その影響で景気は減速し、世界経済も
停滞に陥る。            ──ジム・ロジャーズ氏
           2019年2月24日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 中国政府にとって一番怖いのは国民の反乱です。外部には伏せ
られていますが、現在中国の失業率は最悪の状態です。もし、米
国との交渉がうまくいがず、経済がさらに悪化した場合、共産党
体制に何らかの影響が出るのでしょうか。中国は、北朝鮮などと
違って、世界中に中国人は住んでおり、米国をはじめとする自由
な国の様子を見ています。それで自分の国の独裁政治は誤ってい
るとは考えないものでしょうか。
 これについて、呉軍華氏は、「共産党体制はそんなに簡単には
壊れない」として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 共産党への反発は今もすでにあるんです。しかし、共産党への
反発=政治不安定とはならない。歴史を紐解くと、1960年代
文化大革命で何千万人が餓死し、人民の不満は募りました。しか
し、あれだけ酷い状況でも共産党は権力を維持した。「共産党や
習近平は気にいらない。でも彼らがいなければ国が大混乱に陥り
もっと大変なことになる」と考えていてる人が大半なのです。
           ──呉軍華氏/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 一党独裁で、政治的自由は与えないが、経済は自由で、金儲け
は賛成という国は中国以外にもあります。その典型はシンガポー
ルです。基本的にはベトナムもそうです。米朝首脳会談で、北朝
鮮が、その会談場所としてシンガポールやベトナムを選ぶのは、
そこにシンパシイを感じているからでしょう。
 しかし、シンガポールは小さな島国で、統治が簡単ですが、中
国のような大きな国で一党独裁制をとると、どうしても無理が出
てくるのです。呉軍華氏は、もし、中国の体制の危機について、
次のように述べています。
─────────────────────────────
 体制が揺らぐという意味で中国にとって最も脅威になるのは、
アメリカによる「ピンポイント・アタック」。つまり、有力者や
企業、機関を対象とした制裁だと思います。昨年9月、アメリカ
は人民解放軍の兵器管理部門である李尚福中央軍事委員会装備発
展部部長を制裁対象にしました。個人が対象になったのは初めて
です。12月には通信機器企業ファーウエイ創業者・任正非CE
Oの娘、孟晩舟副会長がカナダ当局に拘束されました。
           ──呉軍華氏/『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/038]

≪画像および関連情報≫
 ●中国は5年以内に"隠れ不良債権"で壊れる/関辰一研究員
  ───────────────────────────
   金融は各種の経済活動を下支えする社会インフラであるが
  ゆえに、容易に、経済と社会の危機を誘発する導火線にもな
  る。経済成長を続け、GDPでは日本を抜き去り、米国に迫
  る中国経済の「罠」とは、水面下で、金融リスクが大きく高
  まったことである。金融リスクの核心が不良債権問題である
  ため、その実態に迫った。後述するように中国の公式統計は
  信頼性に欠けると思われる点がいくつもあるからだ。
   中国の不良債権の実態を知るために、筆者は中国上場企業
  2000社余りの財務データを基に、中国の潜在的な不良債
  権の規模を推計した。結論を先に述べれば、推計額は公式の
  不良債権残高統計の約10倍となった。中国の不良債権問題
  は深刻であり、何らかのきっかけで金融危機が発生する可能
  性は払拭できない。
   不良債権とは、一般的に、金融機関にとって約定どおりの
  返済や利息支払いが受けられなくなった債権、あるいはそれ
  に類する債権を指す。中国では、金融機関がリスクを軽視し
  た融資審査のもと、過剰な融資を行ってきた。利息の支払い
  余力が不十分な企業に対しても、追加で資金を貸し続けてい
  るケースも多い。その結果、金融機関は巨額な不良債権を抱
  えるようになったとみられる。  https://bit.ly/2U7aTAQ
  ───────────────────────────

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呉軍華日本総研理事
 
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2019年03月01日

●「当局と企業が一体化している中国」(EJ第4958号)

 「米中ひとまず休戦へ」―─26日の新聞の見出しです。貿易
不均衡に関しては、中国は、今後6年で大豆やLNGなど、1兆
ドル規模の輸入拡大を約束してきており、知財問題などでは進展
がなくても、休戦に意義あると米国は考えています。
 中国側としては、3月5日に開幕する全国人民代表大会(全人
代)の直前に追加関税を10%から25%に引き上げられる最悪
の事態だけは避けたいと考えているので、休戦合意が成立したの
ではないかと思います。
 しかし、構造問題に関してはほとんど前進していないのです。
そのため、これについては「長期戦」に持ち込み、トランプ後を
見据える作戦です。とくにファーウェイやZTEなどのハイテク
産業の補助金や国有企業優遇策の撤廃には、中国は国家資本主義
の根幹ともいえる産業政策の撤廃には、まったく応じていないし
今後も応じるつもりはないようです。もともと、ファーウェイの
孟晩舟副会長の逮捕に関しては、北朝鮮とイランへの制裁逃れを
画策した容疑なのです。これについてのケビン・メア氏と冨坂聡
氏とのやりとりです。
─────────────────────────────
メア:ファーウエイ副会長の拘束は、米中対決とは違う文脈のも
 のではないですか。そもそも、国際法違反という別の理由があ
 るでしょう。彼らは、イランの制裁逃れのために組織的に密輸
 していたのだから、
冨坂:勿論その通りです。昨年4月にアメリカが中国の通信会社
 ZTEに取引禁止の制裁を課したのも北朝鮮とイランへの制裁
 逃れという同じ理由でした。彼らがなぜ制裁違反をするのか。
 私はこれも「田舎者の論理」で説明できると思うんです。「バ
 レなきゃいいでしょ」と考えてずっとやってきたら、「ゲッ、
 バレたか!」というような・・・。中国はこの辺の感覚が国際
 社会とズレているのです。
        ──メア氏/冨坂聡氏『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 冨坂聡氏は、中国筋から情報を得ているジャーナリストですの
で、若干中国を庇うというか、優しいところがあります。田舎者
だから、国際ルールを守らないという論理です。しかし、田舎者
も都会に慣れてくれば、そのうち守るようになるという含みをも
たせています。
 2013年の中国海軍のフリゲート艦による自衛隊護衛艦に対
する火器管制レーダー照射事件や、その翌年の中国戦闘機の自衛
隊機への異常接近事件も、すべて「田舎者だから」の論理で説明
してしまっています。しかし、これらは、田舎者だからでは済ま
ない話です。
 宮家邦彦氏は、中国の南シナ海における人工島建設を巡る一連
の軍事活動は、満州事変を引き起こしたかつての日本陸軍の過ち
に酷似しているとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国の南シナ海での軍事行動を見ていると、1930年代の日
本の陸軍が犯した過ちを繰り返しているように思えるんです。例
えば、中国は南シナ海に油田開発のために人工島を建設しました
が、あれは言ってみれば、現代の満州事変″でしょう。
 そして南シナ海の資源について、国際仲裁裁判所が中国の主張
する管轄権を否定する裁定を出しましたが、あれは正に現代の
リットン報告書≠ナす。その意味で中国は、すでにレッドライン
は超えている。もしかするとかつての日本と同じように大破局の
道を歩むかもしれません。
           ──宮家邦彦氏『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 満州事変とは、1931年9月18日、奉天郊外の柳条湖で、
南満州鉄道が爆破されことを受け、日本の関東軍は、それを中国
国民軍に属する張学良軍の犯行であると断定し、鉄道防衛の目的
と称して反撃し、軍事行動を拡大したのです。この柳条湖事件か
ら開始された、宣戦布告なしの日中両軍の軍事衝突が満州事変と
いわれるのです。
 リットン報告書というのは、リットンを委員長とする調査団が
満州事変に関して現地調査してまとめられた報告書のことです。
リットン報告書では、満洲国に対する日本の主張は認められず、
否認され、それをもって日本は、国際連盟を脱退し、戦争への傾
斜を深めていくのです。
 宮家邦彦、呉軍華、ケビン・メア、冨坂聡4氏による米中超大
国の覇権争いの分析の最後のところで、メア氏と宮家氏が次のや
り取りをしています。
─────────────────────────────
メア:ファーウェイやZTEが製造する通信機器には、「バック
 ドア(裏口)」が仕掛けられており、中国当局が世界中から機
 密情報を吸い上げているというのは、公然の秘密でした。
宮家:バックドアに関しては、2009年にアメリカ国家安全保
 障局(NSA)が「米政府はファーウェイ及びZTEの機材を
 使うな」と警告を出しています。近年になって表面化しただけ
 で、この話は情報のプロの世界では知られていました。
         ──メア氏/宮家氏『文藝春秋』3月特別号
─────────────────────────────
 ここにきてファーウェイは、米国に対して開き直っています。
「バックドアというなら証拠を示せ」と。ファーウェイの副会長
の郭平副会長は、26日、スペインで開かれている世界最大の携
帯関連見本市「MWC19バルセロナ」において講演で、スノー
デン事件に関連して「米国の法律は、政府機関が国境を越えて、
データにアクセスすることを認めている」と批判しています。
 しかし、米国の場合、政府機関が捜査で入手した情報を民間企
業と共有することなどあり得ないのです。しかし、中国は情報当
局と企業は一体化しており、捜査で抜いた情報を共有しているの
です。        ──[米中ロ覇権争いの行方/039]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ問題の核心/丸山知雄氏
  ───────────────────────────
  <ファーウェイが情報を盗んでいるという決定的な証拠は今
  のところない。世界有数の技術力を持ち、経済性にも優れた
  ファーウェイ製品が使えないのであれば、5Gへの投資をし
  ばらく猶予するというのも一つの選択肢ではないだろうか>
   ファーウェイ(華為技術)はいま中国でもっとも高い技術
  力を持つ企業である。スマホや、スマホでの通信を支える基
  地局、通信ネットワークの機器を作って、世界じゅうに売っ
  ている。
   ファーウェイは10数年前までは日本のNECや富士通の
  後を追いかける存在だったが、今では移動通信の基地局では
  スウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキアと並ぶ世
  界三強の一角を占め、直近では世界1位である。スマホでも
  最近アップルを抜いて韓国のサムスンに次いで世界2位であ
  る。こうした競争力は重厚な研究開発力に支えられている。
  従業員18万人のうち8万人が研究開発に従事し、2017
  年には売り上げの15%に相当する1兆5000億円以上を
  研究開発に投入した。
   アメリカは早い段階からファーウェイに対して疑いの目を
  向けてきた。民間企業だと言っているが、本当は政府や軍の
  息がかかっているのではないか、製品のなかに「裏口」が仕
  掛けられていて、中国がそこから、情報を抜き取れるように
  なっているのではないか、といった議論が議会で盛んに行わ
  れていた。           https://bit.ly/2C55F1R
  ───────────────────────────

冨坂聡氏.png
冨坂聡氏
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2019年03月04日

●「米国を追い上げる中国の先端技術」(EJ第4959号)

 今週から世界中で話題になっている「ファーウェイ」の問題を
取り上げます。ファーウェイはどのような企業なのでしょうか。
本当に通信機器に仕掛けを施し、情報を盗み取るような企業なの
でしょうか。
 2018年9月のことです。中国通信機器の最大手、華為技術
(ファーウェイ)の創業者の娘、孟晩舟副会長は、故郷である四
川省成都での講演会で、誇らしげに次のように述べています。
─────────────────────────────
 「十年一剣」を磨く。我々は既に5Gでの技術優位である世
 界標準を獲得している。  ──孟晩舟ファーウェイ副会長
─────────────────────────────
 けっして過大な表現ではないのです。次世代通信技術「5G」
関連の特許に占める割合でファーウェイは、断然トップであり、
実用化でも先行しています。
─────────────────────────────
       ◎5G関連特許に占める割合の順位
      1位:ファーウェイ ・・・ 29%
      2位: エリクソン ・・・ 22%
      3位:サムスン電子 ・・・ 20%
          ──2019年2月4日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 しかし、この講演会から3ヶ月後、孟晩舟氏は、米国からの要
請により、カナダ当局に逮捕されています。「米企業から秘密情
報を盗んだ疑い」などが逮捕容疑です。
 中国は、AI(人工知能)の分野でも、国と企業が一体となっ
て技術力を向上させ、世界レベルの技術を持ちつつあります。中
国には、AIの分野では、米国の「GAFA」に対応する「BA
TIS」という国家プロジェクト「AI発展計画」があり、次の
5つの企業がプラットフォーマーになっています。
─────────────────────────────
    B ・・ バイドウ        自動運転
    A ・・ アリババ     スマートシティ
    T ・・ テンセント      ヘルスケア
    I ・・ アイフライテック    音声認識
    S ・・ センスタイム       顔認識
─────────────────────────────
 習近平政権は、これら民営企業5社に対して、補助金や許認可
などの面で手厚い保護を与えています。つまり、国家ぐるみの巨
大プロジェクトなのです。
 米国の「GAFA」4社は、公正なルールに基づいて激しい市
場競争を勝ち抜いて現在の地位にいるのに対し、中国の「BAT
IS」は、国家が指名し、国家が資金を与え、場合によっては、
国家(軍)が、サイバー攻撃などによって入手した情報まで民営
企業に与え、国際的技術競争に勝ち抜こうとします。それはまさ
に「電子戦」そのものです。
 このように書くと、同じようなことを米国もやっているという
かもしれませんが、中国の場合は政治状況が異なるので、そこに
「自由な競争のルール」など、かけらもないのです。それは、ま
さに「戦争」であって、勝つためには手段を選ばないのです。こ
れについて、日本経済新聞は、次のように書いています。
─────────────────────────────
 米国の手も真っ白とは言いがたい。NSA元職員のエドワード
・スノーデン氏は、14年、NSAが中国の通信機器最大手、華
為技術(ファーウェイ)のシステムに侵入して機密情報を得たと
暴露した。米国法は外国人のデジタル通信を令状なしで監視する
ことを認めており、「中国のハイテク企業幹部はくまなくデータ
を調べられる」(米中外交筋)という。
 それでも西側軍事筋は「米国政府は、入手した情報を民間企業
に提供することはない」と強調。習近平(シー・ジンピン)国家
主席が掲げる「軍民融合」の掛け声の下、盗んだ先端技術を国有
企業に横流しする中国の活動は一線を越えていると主張する。
          ──2019年2月5日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 このように、科学技術の分野での中国の躍進を支えているのは
豊富な資金力です。次の数字の意味はわかるでしょうか。
─────────────────────────────
         51兆円 VS 45兆円
─────────────────────────────
 これは、米国と中国の研究開発投資の額です。米国の51兆円
に対し、中国の41兆円、あと10兆円まで迫っています。20
16年の中国の研究開発投資は、官民合わせて約45兆円、これ
は、2000年の約10倍、2009年に日本、2015年に欧
州連合(EU)を抜き去り、米国の51兆円に肉薄しようとして
いるのです。
 全米科学財団(NSF)の調査によると、研究論文の数におい
ては、2016年時点で既に中国は、次のように米国を上回って
いるので、このままでは、中国の研究開発投資は、米国を抜いて
世界一になる可能性があります。
─────────────────────────────
    ◎研究論文の数の比較
    米国:40万9千本 VS 中国:42万6千本
─────────────────────────────
 確かに、数の面では中国の勢いは圧倒的ですが、質になると、
いろいろな問題があります。党主導の計画に合わせたノルマもあ
り、中国系米国人のシュエイン・ハン氏は、次のように分析して
います。
─────────────────────────────
    トップダウンの研究環境がひずみを生んでいる
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/040]

≪画像および関連情報≫
 ●貿易で折れても、覇権争いでは決して折れない米国
  ───────────────────────────
   米国と中国の貿易摩擦、そして、覇権争いがエスカレート
  している。その影響もあって、中国の経済指標の悪化が目立
  つ。中国の2018年自動車販売台数は28年ぶりの対前年
  比マイナスに沈んだ。1月21日に発表された2018年の
  実質GDP成長率は6・6%増と、こちらも28年ぶりの低
  い水準となった。日本に目を向けても、中国向け工作機械受
  注等が減速。1月中旬には、日本電産が中国の需要低下を背
  景に2019年3月期の業績予想を下方修正し、一転減益見
  通しとした。マーケットは、日本企業への影響を懸念してい
  る。海外投資家からは日本株は景気の影響を受けやすいと見
  られていることもあり、売りを浴びやすい地合にある。
   米国は、中国との貿易に関する協議で合意できない場合、
  2000億ドル分の制裁関税を10%から25%に引き上げ
  るとしている。これまで、制裁関税の応酬を繰り広げてきた
  が、実体経済に影響が見られ始め、金融市場にも、懸念が広
  がっていることもあり、米中の景気共倒れリスクを回避する
  方向で双方歩み寄る可能性もあろう。
   しかしながら、知的財産等、ハイテク覇権に関する事項に
  関しては、そう簡単に折り合うことは無さそうだ。米国のペ
  ンス副大統領が2018年10月にハドソン研究所における
  演説で、中国を痛烈に批判したことは記憶に新しい。中国に
  覇権は渡さない、対立も辞さないという強いスタンスは、ト
  ランプ大統領の「ご乱心」では決してない。
                  https://bit.ly/2HaFwBN
  ───────────────────────────

四川省成都での孟晩舟講演会.jpg
四川省成都での孟晩舟講演会
 
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2019年03月05日

●「『大而不強』という中国語の意味」(EJ第4960号)

 日本政府が尖閣諸島を民間から買い上げ、国有化することを決
めたのは、2012年9月10日の閣議決定においてです。交代
直前の胡錦濤政権下のことです。これによって、中国各地では、
日中国交正常化以降最大の規模にまで、反日デモが膨れ上がった
のです。当然日本製品不買運動も起きています。
 しかし、ネットの一部には、構成する部品のほとんどが日本製
品であるスマホまで捨てるのかという意見が拡散したのです。こ
れについて、現代中国分析の第1人者である遠藤誉氏は、自著で
次のように述べています。
─────────────────────────────
 「まさか携帯電話まで、ボイコットするんじゃないよね?」と
いうコメントがネットに貼り付けられているのを発見した。それ
は北京にある某科学研究院の研究員が書いたもので、彼は、彼の
アイフォーン4Sの図をコメントに添えていた。そして「液晶画
面、フラッシュメモリー、ブルートゥースからカメラ・モジュー
ルに至るまで、裏には東芝、シャープ、ソニー、TDK、セイコ
ーエプソンなどのロゴがある。それでも、このアイフォンは日本
製品と言えないのだろうか?」という疑問を投げかけている。
 中国の視点から見てみると、たしかにほとんどのアイフォンは
中国大陸か台湾などで組み立てられている。そして驚くべきこと
に、1台のアイフォンの利潤に関しては、理念設計側のアップル
が80ドルほどを儲け、キー・パーツを製造する日本企業は20
ドルほどを稼ぎ、そして組立作業しかやっていない中国は、ほん
の数ドルしか稼ぐことができないのである。
                   ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 日本では、中国の反日デモは、中国政府がウラでコントロール
しているといわれていますが、「それは事実と異なる」と遠藤氏
はいいます。習近平体制になってからは、反日デモが起きないよ
う厳しく取り締まっているからです。しかし、それは日本のため
ではなく、反日デモが起きると、やがて、その批判の矛先は中国
政府に向けられる恐れがあるからです。
 確かに製品の表面には「メイド・イン・チャイナ」となってい
るものの、それらの製品、とくにハイテク製品の部品のほとんど
が、「メイド・イン・ジャパン」であることが多いからです。若
者が必ず持っているスマホはその典型です。
 そのため、習政権では、中国人民、とくに若者への監視体制を
強化させ、反日デモが起きないようネット言論を厳しく抑え込ん
だのです。中国が何よりも一番恐れているのは、米国でもロシア
でもなく、まして日本でもなく、自国の人民なのです。
 しかし、取り締まりには限界があり、中国自身の技術力自体を
向上させるため、2013年に入ると、習近平主席は中国工程院
に命じて「製造強国戦略研究」に着手させ、その成果物として、
2015年に「中国製造2025」が発表されています。
 中国工程院とは何か。中国工程院とは、中国政府(国務院)直
属のアカデミーの1つであり、技術分野の最高研究機関です。中
国政府には次の3つの院があります。
─────────────────────────────
      1.  中国科学院/1949年設立
      2.中国社会科学院/1977年設立
      3.  中国工程院/1994年設立
─────────────────────────────
 遠藤誉氏は、90年代半ばから2000年初頭まで、中国社会
科学院社会研究所の客員教授・客員研究員を務めています。この
社会科学院の社会研究所は、「中国政府のシンクタンク」と称さ
れている組織です。
 遠藤誉氏のテレビでの話や著作における言説には、習近平国家
主席をやや強く礼賛するところがあるような気がしますが、他の
中国ウオッチャーでは語られることのない新鮮な情報がもたらさ
れることがしばしばあるので、私は遠藤氏の著作や話を注目して
読んだり、聞いたりしています。
 2012年10月1日、国慶節ゴールデンウィークの中国のカ
ラーテレビ市場では、日本製品が駆逐され、中国製と韓国製だけ
になっており、それに大衆は歓呼の声を上げているとの報道に対
して、中国社会科学院全国日本経済学会理事の白益民氏が、ウェ
イボー(微博)で、次の投稿をして、報道に対して「冷や水」を
浴びせています。
─────────────────────────────
 日本の製造業経済は強大だ。ソニーや松下(原文ママ)、ある
いはシャープが必ずしも日本製造業のレベルを真に代表するとは
限らない。ニコン、川崎(原文ママ)、石川島播磨、京セラなど
の電子装備製造業こそが、実は日本製造業の象徴なのだ。
               ────遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 中国には「大而不強」という言葉があります。「大きいが強く
ない」という意味です。1979年にケ小平は、ベトナムが中国
の友好国のカンボジアを攻撃したことを理由にして、ベトナムに
攻撃を仕掛けます。
 ケ小平は勝てると踏んで戦争を仕掛けたのです。軍の規模が圧
倒的に大きかったからです。しかし、当時ベトナム戦争で疲弊し
ていたはずのベトナムは滅法強く、勝てなかったのです。まさに
「大而不強」──「大きいが強くない」です。ケ小平は、「無駄
な兵がだぶついているだけ」として、中国人民解放軍の100万
人削減を断行しています。
 遠藤誉氏は、ちょうど日本が尖閣諸島の国有化をしたことを境
に、中国の製造業増強の考え方が大きく変化したといっているの
です。それは、ちょうど習近平体制が始まった時期と一致するの
です。        ──[米中ロ覇権争いの行方/041]

≪画像および関連情報≫
 ●2012年の中国で日本製品不買運動/尖閣国有宣言
  ───────────────────────────
   中国と日本との尖閣諸島(中国名・釣魚島)領有権を巡る
  対立が激化している中、中国内での反日空気が、強まってい
  る。所々で反日デモが行われ、在中日本人たちが中国人らか
  ら攻撃を受けた。日本製品の販売が大幅に落ち込み、中国人
  の日本への旅行計画のキャンセルが殺到している。
   13日午後5時半ごろ、北京・朝陽区の日本大使館前では
  「釣魚島は中国の領土だ」と主張する中国人らにより突然、
  デモが行われた。帰宅途中の市民たちが加わり、デモ隊は一
  時、2000人にまで増えた。現在、中国のインターネット
  には今週末と休日の15日と16日、満州事変発生日の18
  日に、反日デモを繰り広げるべきだという書き込みが相次い
  で掲載されている。中国は、1931年9月18日、日本が
  満州に攻撃を加えた日を、国恥日と定めている。
   上海在住の日本総領事館は、日本政府による尖閣諸島国有
  化措置(11日)以降、日本人の被害事例が計6件寄せられ
  ていると明らかにした。中国政府が経済的報復可能性に触れ
  ている中、民間レベルでの日本製品の不買運動に、火が付い
  ている。13日、中国上海江楊北路にある日系自動車「ホン
  ダ」代理店前では、一人の中国人が自分のホンダ自動車を燃
  やした。彼は反日スローガンの書かれたプランカードを手に
  し、掛け声を叫んでいたが、公安によって制止された。その
  関連写真は中国のインターネット上で急速に広まっている。
                  https://bit.ly/2TbokU3
  ───────────────────────────

遠藤誉氏.jpg
遠藤誉氏
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2019年03月06日

●「なぜ中国ハイテク技術は伸びたか」(EJ第4961号)

 「大而不強」についてもう少し考えます。朱高峰という人がい
ます。中国工程院の設立に尽力し、2002年まで、工程院の副
院長を務めていた人物です。彼は、当時の中国製造(メイド・イ
ン・チャイナ)をどう表現するかと記者に聞かれ、次のように答
えています。
─────────────────────────────
 生産量は非常に大きいが、しかし価値はそれほど高くない。メ
イド・イン・チャイナは、全世界を覆っている。多くの国がメイ
ド・イン・チャイナなしに生活することができないほどだ。しか
しその中国製は、未だ中低級の製品であることを認めなければな
らない。つまりひとことで言えば「大而不強」(大きいが強くな
い)という4文字で表現するのが、最も適切だ。 ──朱高峰氏
                   ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 習政権が成立した年である2012年の中国の製造業の状況は
どうであったかについて、遠藤氏の本からまとめると、次のよう
になります。
─────────────────────────────
      ◎2012年/製造業の対前年増加幅
       米国:1兆8533億ドル
       中国:2兆3307億ドル
                世界銀行の統計
─────────────────────────────
 上記の数字で分かるように、中国は、額としては米国を大きく
上回っています。それは、全世界の製造業の20%の生産量を占
めています。
 しかし、中国製造業の付加価値を調べてみると、そこには大き
な問題点を指摘できます。これについて遠藤誉氏は、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 工業先進国の製造業付加価値は、平均35%強であるのに対し
て、中国製造業の付加価値は21・5%に過ぎない。製造業の増
加幅が中国のGDPの32・6%しか占めていないのに対して、
その製品を製造するためのエネルギー消費量は全国のエネルギー
消費量の58・0%を占めている。つまり、生産性は32・6%
しかGDPに頁献していないのに、その製品を製造するためのエ
ネルギーは、国家全体の58・0%を奪っているので、建設的で
なく、損をしているということだ。 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 要するに中国は、表面からは見えないキー・パーツの部分に弱
く、それらを外国から輸入し、組み立てているに過ぎない中国製
品が数多くあるのです。中国は、人体大の原子爆弾を作ることは
できても、心臓大のエンジンを製造することができないでいる状
態にあるのです。とくにエンジンを作ることができないでいるこ
とは有名です。そのおかげで日本電産は大儲けしています。
 中国の製造業における問題点としては、次の3つを上げること
ができます。
─────────────────────────────
   1.イノベーション能力と核心のコア技術に弱い
   2.基盤技術(汎用性高い多目的技術)に欠ける
   3.製造に当って資源の浪費と環境汚染がひどい
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 2012年の中国の技術のレベルでは、米国のそれに追いつき
追い越すためにはあと「30年」はかかる状態だったのです。中
国は、2025年を起点として、第2段階を2035年、第3段
階を2045年として計画していたのです。
 問題は、少なくとも習近平政権ができるまでは、その程度の技
術レベルであった中国が、AIをはじめ、あらゆる技術のキー・
パーツになる半導体の分野において、信じられない速度で、米国
に追いついてきたことにあります。具体的にいうと、中国は、半
導体産業に関して、世界ベスト10に入る企業があらわれるほど
急激に成長してきているのです。
 それが果して事実であるかどうか。もし事実であったとすると
なぜそんなことができたのか。これらについては、これから書い
ていくことになりますが、それが事実であるからこそ、トランプ
政権は、中国に貿易戦争を仕掛けたのです。しかし、その真の狙
いは貿易問題ではなく、「中国製造2025」にあります。
 このトランプ大統領と習近平主席のバトルについて、遠藤誉氏
は、自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 トランプは、この10年の問に中国が成し遂げるであろう成果
にストップをかけ、中国にアメリカを凌駕させる足がかりを絶対
に与えてはならないと、米中貿易戦争という手段を通して挑戦し
ている。それを見抜いたトランプの目は鋭い。
 習近平は、この10年間で何としても中国のハイテク分野にお
けるコア技術の自国による自給自足を満たし、宇宙開発において
アメリカに追いつき追い越そうとしている。国家主席の任期制限
を撤廃してまで、自分の手で成し遂げようと死闘しているのであ
る。そうしなければ、彼が政権スローガンに掲げた「中華民族の
偉大なる復興」を成し遂げる「中国の夢」は実現せず、中国共産
党による一党支配体制は崩壊するという危機感を抱いているから
だ。「アメリカこそが偉大だ」とするトランプと「中華民族の偉
大なる復興」を叫ぶ習近平と、ここは「偉大さ比べ」になった格
好だが、どちらに軍配が上がるのか。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/042]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平の「自力更生」は「中国製造2025」の達成
  ───────────────────────────
   習近平が最近よく言う「自力再生」は、決して文革時の毛
  沢東返りではなく、「中国製造2025」によりコア技術の
  自給自足達成を指している。「中国製造2025」を見なけ
  れば、中国も米中関係も日中関係も見えない。
   その証拠に、2018年5月8日の中国政府の通信社「新
  華社」電子版「新華網」の報道を見てみよう。「中国製造2
  025:困難に遭い、自ら強くなる」というタイトルで「中
  国製造2025」と「自力再生」の関係が書いてある。文字
  だけでなく、写真に大きく「中国製造2025」とあるので
  一目瞭然だろう。なお、中国語では「製造」は「制造」と書
  く。小見出しには「2018年は絶対に普通ではない年にな
  る!」とあり、冒頭に、おおむね以下のような趣旨のことが
  書いてある。──いまわれわれは、国家戦略「中国製造20
  25」を推進しており、改革開放40周年を迎えようとして
  いる。ある国が、わが国に高関税をかけてわが国のハイテク
  製品輸出に徹底的な打撃を与えようとしている。どこまでも
  つきまとう執拗な封鎖を通して、われわれは「困難から抜け
  出すには、ただ一つ自力再生以外にない」ということを知ら
  なければならない!ここにある「ある国」とは、言うまでな
  く、「アメリカ」のことである。
                  https://bit.ly/2IMrpVL
  ───────────────────────────

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習近平国家主席VSトランプ大統領
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2019年03月07日

●「半導体市場における中国勢の躍進」(EJ第4962号)

 中国が「中国製造2025」という国家戦略を発布したのは、
2015年5月のことです。少なくともこの時点までは、中国の
製造技術は大したことがなかったのです。ところが2015年以
降、中国の製造技術に大きな変化が起きているのです。
 次の表をごらんください。
 この表は、「ファブレス半導体」の2017年度の売上高トッ
プ10ですが、そこに中国企業が2社入っているのです。これは
本当に驚異的なことです。「ファブレス」とは、「工場を持たな
い」という意味です。製造工場を持たないで製品の企画・設計を
行い、製品はOEM供給を受ける形で調達し、自社ブランドの製
品として販売する企業です。
─────────────────────────────
 ◎2017年のファブレス半導体トップ10売上ランキング
            企業名     本社 2017年
      1   クアルコム   アメリカ 17078
      2  ブロードコム シンガポール 16065
      3  エヌピディア   アメリカ  9228
      4 メディアテック     台湾  7875
      5    アップル   アメリカ  6660
      6     AMD   アメリカ  5249
   ★  7  ハイシリコン     中国  4715
      8  ザイリンクス   アメリカ  2475
      9    マーベル   アメリカ  2390
   ★ 10    紫光集団     中国  2050
                   単位:100万ドル
        2018年1月4日/米ICインサイト発表
                   ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 第7位の「ハイシリコン」は、独立企業ではあるものの、現在
話題のファーウェイ(華為技術)にのみ半導体を収めているメー
カーです。ほぼファーウェイへの提供分だけで、売上高において
第7位を占めているのですから凄い実績です。
 第10位の「紫光集団」は、チンホワ・ユニグループといい、
1988年に精華大学の「校営企業/精華大学科技開発総公司」
として誕生しています。校営企業は教育機関に付設されている企
業のことです。校営企業については、遠藤誉氏の本に次の説明が
あります。
─────────────────────────────
 中国には、実は毛沢東時代から「校営企業」というのがあって
学校(専門学校や大学)に企業が付設されていた。というのは、
毛沢東時代は、まさに社会主義をそのまま地でいっていたので、
教育機関はすべて国営(地方は公営)で無料。学費が無料なだけ
でなく、学校のキャンパスには、必ず無料の宿舎があり、食堂も
完備していて、学生は国家の丸抱えで学園生活を送っていた。そ
の代わりに卒業したら、必ず国家が分配する国営企業に行って働
かなければならない。
 そのため、準備期間として、学生たちはその教育機関に関係す
る国営企業で実習を行っていた。その小型版を教育機関に付設し
これを「校営企業」、中国文字では「校弁企業」と称していた。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 精華大学はかつては「精華学堂」と呼ばれていたのです。少し
歴史を振り返る必要があります。清朝の末期のことですが、19
00年に「義和団の乱」という排斥運動が起きたのです。これを
利用して、清王朝の女帝の西太后は、中国を侵略していた帝国主
義列強に対して宣戦布告して戦争になったのです。
 しかし、当時の中国が欧米列強に勝てるわけがなく、2ヶ月も
しないうちに壊滅的敗北を喫し、莫大な賠償の支払いを余儀なく
されたのです。そのとき、米国のジョン・ヘイ国務長官は西太后
に同情し、条件付きで賠償を減額する案を提案します。その案と
は、優秀な中国人学生の米国への留学生派遣(1940年まで)
および、そのための教育施設の設置を行うというものです。これ
により、1911年に設立されたのが「精華学堂」です。精華学
堂は、中国の優秀な学生を米国に留学させるためのいわば予備校
としての位置づけです。
 精華大学といえば、1998年3月〜2003年3月までの朱
鎔基国務院総理、それ以後2期の国家主席、胡錦濤国家主席、習
近平国家主席は、いずれも精華大学出身です。これは大変珍しい
ことです。
 さて、1993年2月13日に中共中央・国務院が産学連携を
奨励すると、精華大学科技開発総公司は、「大学」の文字を外し
て「精華紫光(集団)総公司」に改称しています。その後、民間
企業の「北京健坤投資集団有限公司」と合併し、国有企業(ここ
では精華紫光(集団)総公司)との混合所有制になります。その
民間企業のトップを務めていていたのは、趙偉国氏という人物で
あり、その趙氏が、以後紫光総公司の菫事長(法人を代表する責
任者)を務めることになります。
 趙偉国CEOは、「半導体の虎」という異名を持つスゴ腕の持
ち主であり、紫光集団をファプレス半導体の第10位にランキン
グさせたのは、趙偉国CEOの力が大きいといえます。なお、趙
偉国CEOは、2013年には、当時ナスダック市場に上場して
いた「スプレッドトラム」(上海市)を買収しています。
 2011年にスプレッドトラムは、世界のファブレス半導体企
業のトップ17位に入っていたのです。このとき、ハイシリコン
は16位にランクされています。しかし、そのとき、スプレッド
トラムは、成長率(対前年比)で見ると、230%のダントツで
トップなのです。趙偉国CEOはそこを見逃さなかったのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/043]

≪画像および関連情報≫
 ●韓国経済に打撃か、中国が半導体を大量生産へ―韓国紙
  ───────────────────────────
   2018年2月27日、韓国紙・亜州経済は、中国企業が
  2018年末から半導体の大量生産を始めようとしており、
  グローバル市場における韓国企業の立場に深刻な影響が生じ
  るのではないかとの懸念が深まっていると伝えた。
   記事によると、半導体にはリード・オンリー・メモリ/R
  OMとランダム・アクセス・メモリ(RAM)があり、RO
  Mは半導体市場の4分の3を占める。ROMの分野に限れば
  中国の技術はすでに韓国を上回っているという。
   半導体市場調査会社・米ICインサイトが25日に発表し
  た統計では、09年の時点ではファブレス半導体企業トップ
  50社のうち中国は1社だけだったが、16年になると11
  社にまで増え、シェアも10%を突破。一方、韓国は1社の
  みでシェアも1%にとどまっている。
   中国のファブレス半導体企業は、近年のモノのインターネ
  ット(IoT)や人工知能(AI)、自動運転車などの急成
  長を背景に業績を大きく伸ばし、韓国のサムスン電子と並ぶ
  総合半導体メーカーに成長。その影響力を拡大させている。
  記事は「中国が『自給自足』するようになって自国のシェア
  を高めれば韓国の半導体輸出にも影響が生じることになる。
  そうした中、中国の半導体企業は年内にも3ヶ所の工場を完
  成させ、大量生産をスタートさせる」と伝えた。
                  https://bit.ly/2HfRTwB
  ───────────────────────────

精華大学(中国).jpg
精華大学(中国)
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2019年03月08日

●「ファーウェイにハイシリコンあり」(EJ第4963号)

 ここで「ICとは何か」を明らかにしておく必要があります。
IC(アイシー)とは次のようなものです。
─────────────────────────────
 IC(integrated circuit)とは、トランジスタやダイオード
や抵抗、コンデンサなどの電子部品を集積し、シリコンなどでで
きている半導体チップのことをいう。集積回路とも呼称する。そ
こに使われている素子の数が、1000〜10万個程度のものを
LSI(Large Scale Integration)と称する。
─────────────────────────────
 米半導体調査会社のICインサイトによると、2017年のI
C市場におけるファブレスメーカーが占める割合は27%で、そ
の市場規模は1014億ドル、10年前の割合は18%であった
ので、10年間で9ポイント上昇したことになります。
 国別でみると、1位はアメリカ、2位は台湾、そして3位は中
国です。中国についてICインサイトは、添付ファイルのグラフ
を示し、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 3位となった中国は、近年、徐々に市場での存在感を増しつつ
ある。その結果、市場シェアも2010年の時点で5%に過ぎな
かったものの、2017年には11%へと増加しており、高い成
長を続けていることが窺える。ファブレス半導体企業トップ50
社中、中国のファブレス企業は、2009年の時点でハイシリコ
ンのみであったが、2017年には10社に増加している。
 中でも清華紫光集団(ユニグループ)は中国最大のファブレス
半導体企業であり、世界でも9位のファブレス企業として位置づ
けられるまでに成長している。また、ハイシリコンは、90%以
上の売り上げを親会社であるファーウェイに依存しており、これ
とZTE、デイタング両社の社内消費分を除外すると、ファブレ
ス市場における中国のシェアは約6%に低下するとのことで、中
国のシステムメーカーの勢いが強いことが窺える。
                  https://bit.ly/2H3gDJi
─────────────────────────────
 世界が「中国恐るべし」と最初に衝撃を受けたのは、2012
年のことです。それまでの中国のスマホは、製品自体は非常に優
れてはいるものの、チップセットに米国のクアルコムや、台湾の
メディアテックの製品を使っているなど、中身はまだ「中国」の
ものではなかったのです。
 しかし、2012年にファーウェイ傘下のハイシリコン(海思
半導体)という半導体メーカーが、突然「K3V2」というチッ
プを発表したのです。これは実に驚くべきものだったのです。
─────────────────────────────
       K3V2 ・・・ 150Mbps LTE Cat.4
             bps bit per second
─────────────────────────────
 なぜ、驚くべきかというと、当時このスピードのチップに対応
しているメーカーは世界中に1社もなかったからです。アメリカ
のクアルコムでさえ「100Mbps LTE Cat.3」 であったからです。
「150Mbps」 というのは、1秒間に150メガビットの情報を送
れる速度という意味です。
 その後、クァルコムが「スナップドラゴン/855」という新
製品を出すと、ハイシリコンも「麒麟/Kirin980」 という新
製品をぶつけて、対抗するという激しい競争が繰り広げられるよ
うになったのです。いつの間に、どのようにして、ハイシリコン
はこれほどのハイレベルに達したのでしょうか。そもそもハイシ
リコンという企業はどういう企業なのでしょうか。
 中国のネット上では、ハイシリコンに対して、次のようなメッ
セージが多く発信されています。
─────────────────────────────
   海思(ハイスー)よ、あなたこそが、中国の芯だ!
                   ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 ここで「海思」というのはハイシリコンのことです。「海思」
の英語表現が「HiSilicon/ハイシリコン」 ということになりま
す。「海思」には、創業者の熱い思いが込められているのですが
これについては改めて述べるとして、ハイシリコンの営業の最大
の特色について、研究解析調査会社「テカナリエ」の清水洋治氏
は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 ハイシリコン社は外販をしていません。ファーウェイ社のため
のハーウェイ社によるハーフェイ社のためのチップなのです。こ
れほど高性能のチップを、中国の他のスマホメーカーに供給し始
めたら、クァルコム社もメディテック社も、あっという間に市場
を失ってしまう可能性があります。      ──清水洋治氏
                  https://bit.ly/2C9Gzi2
─────────────────────────────
 遠藤誉氏によると、ハイシリコンの総裁は女性で、1969年
生まれ、まだ50歳であり、とても若い。実に知性的で飾り気が
なく、研究にいそしんでいる印象を与える人だそうです。その名
前は次の通りです。
─────────────────────────────
        何庭波氏/ハイシリコン総裁
─────────────────────────────
 もともとファーウェイの社員であり、1996年に入社し、半
導体チップデザイン業務の総工程師を務めていたのです。そして
2004年10月に「海思半導体有限公司」を設立したのですが
あくまでファーウェイの研究開発部門としての位置付けを守って
おり、他のいかなるメーカーにも半導体を売らないのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/044]

≪画像および関連情報≫
 ●わずか6年で世界トップに/中国半導体メーカーの実力
  ───────────────────────────
   「中国とどう向き合うか。真剣に考えるべき」。技術者塾
  「半導体チップ分析から見通す未来展望シリーズ」で講師を
  務めるテカナリエの清水洋治氏は、その重要性を指摘する。
  中国の強みといえば、かつては「コスト」や「人口・市場」
  と言われていたが、最近では技術やサービスの競争力が急速
  に高まっている。特にハイテク分野でその傾向が顕著だ。
   例えばフィンテック。スマートフォン(スマホ)を活用し
  た決済サービスの進化は、日本をはるかにしのぐ。また、電
  気自動車(EV)の普及でも世界をリードする存在になりそ
  うだ。こうした中国躍進の波は、技術力の根幹ともいえる半
  導体にも押し寄せる。
   日経BP社は「中国のNVIDIAは誰か?中国企業の技
  術力を探る」と題したセミナーを、上述の未来展望シリーズ
  の第1回として開催する。1年前の2017年2月に開催し
  たセミナー「半導体回路の分析から、中国エレクトロニクス
  企業の技術力を探る」の内容を更新し、中国の最新スマホチ
  ップやスマートスピーカーなどの新しい情報を盛り込む予定
  だ。本稿では、好評を博した17年2月開催のセミナーから
  中国のスマホ用半導体に関する内容の一部を紹介する。
                  https://nkbp.jp/2tVAPE0
  ───────────────────────────

中国のファブレスICサプライヤー.jpg
中国のファブレスICサプライヤー 

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2019年03月11日

●「米国政府によるZTE潰しの意味」(EJ第4964号)

 ハイシリコン(HiSilicon) とは、「海思(ハイスー)」とい
う中国語を英語表記したものです。なぜ、「海思」なのかについ
て、遠藤誉氏が追跡しています。大陸の中国で「海」という言葉
が出てくるのは、何か意味があると感じたからだそうです。
 ハイシリコンの総裁は、既に述べているように、1969年生
まれの何庭波氏という50歳の女性です。元ファーウェイの社員
で、2004年10月に独立して、ハイシリコンを創業していま
す。経営者になりたかったわけでなく、あくまで「自分は『工程
師』である」という精神文化を持っていて、半導体製品は外販せ
ず、ファーウェイのために研究し、ファーウェイのためにチップ
を開発しているのです。
 何庭波総裁とは、どういう人物なのでしょうか。
 何庭波総裁は、ハイシリコンの新入社員には、単なる挨拶を超
えて、いつも熱く語りかけます。そのなかで何庭波総裁は、次の
ように述べています。来月入社してくる新人に何を話すべきかの
参考になると思います。
─────────────────────────────
 私たちは国内各地だけでなく、世界とつながっています。そし
て必要が生じれば、どこにでも行きます。たとえば、私は(ファ
ーウェイ)入社したその日から、半導体チップの製造に取り掛か
りましたが、2年後の1998年には上海の研究所に行かなけれ
ばならない事態に迫られました。無線通信に関する研究拠点が、
上海にあったからです。
 そこで私は一人で上海に行き、そこのチームの仲間入りをして
研究開発に没頭しました。ようやく成果が出て、深せんに戻って
また半導体の研究開発に没頭しましたが、しばらくすると任総裁
にアメリカのシリコンバレーに行ってこいと言われたのです。
 私は、シリコンバレーに2年間出向しました。この2年間で私
が学んだものは多く、半導体設計の大きなギャップを思い知らさ
れました。その後、全世界から多くの多彩な人材を吸収するに至
りました。(中略)
 創造することに価値を見出して下さい。あなた方の技術と知識
をホァーウェイに注いでください。ホァーウェイは、あなた方が
いるからこそ美しく輝くのです。あなた方は高速鉄道のような動
力車に乗ったのではなく、あなた方がその先頭の運転席にいるの
です。運転するのは、あなた方なのです。
 ホァーウェイは、あなた方が輝かせるのです!自分の人生を美
しく輝かせることがホァーウェイを美しく輝くことにつながる。
期待しています!ありがとう!     ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 この何庭波総裁の新入社員への挨拶から遠藤誉氏は、「海思」
という社名は「海の彼方から祖国を思う」と意味ではないかと推
定しています。祖国の中国から遠く離れたアメリカから、多くの
ことを学び、それを祖国の中国に持ち帰る──そういう思いが、
「海思/ハイスー」という社名になったというわけです。
 社名はさておき、ハイシリコンの最大の特色は、既に述べてい
るように製品を「外販しない」ということです。半導体を提供す
るのはファーウェイ一社のみというわけです。つまり、ハイシリ
コンという企業は、独立企業でありながら、ファーウェイの専属
の研究開発部門であり、他社には一切製品を提供しないことをポ
リシーにしているのです。
 そのポリシーを守る姿勢は、米クアルコムから長く半導体の提
供を受けていたZTE(中興通訊)が、クアルコムから突然提供
を断られ、ピンチに瀕したときも、ハイシリコンは提供に応じな
かったことでも、ポリシーを守る頑固さがわかります。仮に習近
平政権が命令しても提供しないと思われます。
 ZTEは、米国で成功した数少ない中国ブランドといえます。
ZTEは、高機能なスマホを低価格で販売することに加え、NB
Aの試合のスポンサーを務め、ロビー活動に多額の費用を投じて
政治家やパートナー企業から信頼を獲得し、米国市場で4位とな
る11%のシェアを獲得することに成功したのです。そのような
親米企業でも、国防に懸念があるとなったら、米国は絶対に許さ
ないのです。
 中国の通信機器に関しては、2012年の議会報告書書──そ
のタイトルは「中国の通信機器企業ZTEとファーウェイによっ
て引き起こされたアメリカの国家安全問題」の段階から、中国へ
の警戒感は強くなってきており、この問題に関しては、大統領よ
りも議会の方が警戒感が強いのです。したがって、この問題でト
ランプ大統領が中国と取引しようとしたら、米議会は絶対に許さ
ないと思われます。
 遠藤氏は、この米国政府によるZTE排斥問題に関して、自著
で次のように述べています。
─────────────────────────────
 トランプ政権が2018年4月17日に、中国の国有企業であ
るZTE(中興通訊)に、向こう7年間の取引禁止を発表すると
中国のネットは燃え上がった。多くは「やるなら、やれ!中国に
は華為と中微がある!」と叫んでいる。
 「中微」は、中国人が「中微半導体設備(上海)有限公司」/
AMECを指して言うときの略語だ。中国の一般庶民の感覚とし
て、ホァーウェイ、特にその頭脳であるハイシリコンと中微(A
MEC)を応援する声が高い。誰もZTEには関心を持たないし
中国の青年を取材したときの「ZTEはバカだから」という、吐
き捨てるような反応が一般的だ。そして異口同音に言うことは、
「トランプが中国の半導体産業の猛進を加速させた」という視点
だ。それは、残念ながら、真実に近い可能性を孕んでいる。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/045]

≪画像および関連情報≫
 ●日本人が知らない中国「ZTE」の覇権/米スマホ市場4位
  ───────────────────────────
   米中貿易摩擦が悪化する中、最初の犠牲者となったのが、
  中国の通信機器大手「ZTE(中興通訊)」だ。同社の業績
  悪化は長期間に及びそうだ。
   米トランプ政権は深センに本拠を置くZTEが対イラン制
  裁に違反したとして、同社が米企業からスマートフォンや通
  信機器に不可欠な部品を購入することを7年間禁止すると発
  表した。
   この措置により、ZTEは主要事業の運営停止に追い込ま
  れている。トランプはツイッター上でZTEへの制裁緩和を
  示唆したが、同社の顧客の中には供給体制への不安から取引
  を縮小するケースが出ており、業績の影響は甚大だ。こうし
  た中、ライバル企業がZTEの顧客獲得に動いており、一度
  失った契約を取り戻すのは容易ではないとアナリストらは指
  摘する。トランプは、2018年5月14日に次のようにツ
  イートした。「巨大企業であるZTEが速やかに事業に戻れ
  るよう、習主席と方策を協議している。中国ではあまりに多
  くの職が失われた。既に商務省に対して指示を出した」。
   ZTEの中で打撃が最も大きいのは、スマートフォン事業
  だ。現在、アリババが運営する「Tモール」の、ZTE公式
  ショップは販売を停止している。また、オーストラリアの大
  手通信会社「Telstra」 は「米国の制裁により当社への商品
  供給が困難になった」と述べてZTE製スマートフォンの販
  売を取り止めた。        https://bit.ly/2Hq3aKY
  ───────────────────────────

ZTE(中興通訊).jpg
ZTE(中興通訊)

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2019年03月12日

●「任正非華為CEOは何を語ったか」(EJ第4965号)

 2018年8月13日のことです。トランプ大統領は、「20
19年度国防権限法」に署名しています。この法律で、中国のZ
TEとファーウェイに関して、向こう7年間の取引停止を命じて
います。この法律では、政府職員や政府とビジネスを行う可能性
のある企業は、両社の製品を使ってはならないとしています。
 その後、トランプ政権は、日本、英国、カナダ、ドイツといっ
た米国の同盟国に対しても、これを強制するようになり、ファー
ウェイ包囲網は、世界的な広がりを見せつつあります。そして、
2018年暮れには、ファーウェイの創業者である任正非氏の娘
である孟晩舟副会長が、イランとの不正取引容疑でカナダで逮捕
されてしまうのです。
 これに対して、2019年1月18日、ファーウェイのCEO
である任正非氏は記者会見を開き、「ファーウェイは各国の法令
を順守している」と強調してみせたのです。任正非CEOは、大
の記者会見嫌いで知られていますが、さすがに世界的な包囲網に
危機感を感じたと思われます。基本的な記者とのやり取りを再現
しておきます。
─────────────────────────────
記 者:中国政府や共産党から機密情報の提供を求められた場合
 反対できますか。
任正非:過去30年間、様々な顧客と向き合うなかで、安全上の
 問題が起きたことはない。顧客企業の不利益になる形でデータ
 を提出するように求められたとしても拒絶する。
記 者:娘である孟晩舟副会長が、イランとの不正取引に関わっ
 た疑いでカナダで逮捕されました。
任正非:大変な驚きだ。司法手続きに入っているので、コメント
 は控えたい。
記 者:米国の制裁で同業の中興通訊(ZTE)は、部品は調達
 できず、経営危機に陥りました。
任正非:当社はZTEのようにはならない。仮に、米国の制裁が
 あったら、自ら代替品を生産するが、そうなると米国にとって
 も不利になるのではないか。制裁があっても影響は大きくない
 だろう。
記 者:欧米や日本でもファーウェイ製品排除の動きが広がって
 います。
任正非:全体としてあまり影響を受けていない。今年も当社は大
 きく成長を続ける予定だ。ただ成長率は、2018年の20%
 を下回る可能性がある。個人としては、日本政府から排除され
 る動きがあるとは感じておらず、日本社会には今後も受け入れ
 てもらえると思う。
         ──2019年1月19日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 冒頭の記者の質問「中国政府や共産党から機密情報の提供を求
められた場合、反対できますか」は、2017年6月から施行さ
れた「国家情報法」を念頭に置いての質問です。任正非CEOは
「顧客企業の不利益になる形でデータを提出するように求められ
たとしても拒絶する」と答えていますが、これは国家情報法違反
の犯罪になってしまう恐れがあります。国家情報法第7条には、
次のように規定されているからです。
─────────────────────────────
 国家情報法第7条
 いかなる組織及び個人も、国家の情報活動に協力する義務を
 有する。
─────────────────────────────
 「国家情報法」に関する記者と任正非CEOのやり取りは、他
にもあります。記者は、かなり突っ込んで聞いており、任正非C
EOも詳しくそれに答えていますが、任正非CEOの答えは、希
望観測的なところがあります。そのあたりが限界なのでしょう。
そのやり取りを以下に示します。
─────────────────────────────
記 者:なぜ中国には、クアルコムのような知的財産を扱うこと
 によって発展していく企業が生まれないのか。
任正非:知的財産が、もしも物権法の一部に組み込まれていたな
 ら、オリジナルを発明した側にもっと有利だったろう。それで
 も西側諸国に言い訳するわけではないが、知的財産の保護は、
 国の長期的な発展にとって有利だ。中国もニセ札やニセ物を支
 持しなければ、ますます競争力がつく企業が現れるだろう。
記者:現在の世界は再び、人々に共産主義の帽子を被せて叩くと
 いう「マッカーシー(赤狩り)時代」に舞い戻っているのでは
 ないか。中国でも「国家情報法」、とりわけ第7条が施行され
 て、華為が国際展開する上で、何か障害が起こっているか。
任正非:まず、私は、そのような法解釈はしていない。外交部が
 はっきり述べているように、中国はどんな法律も、企業にすべ
 てを要求するようなことはしない。中国政府はまた、国連、ア
 メリカ、EUの輸出や制裁に関する法律も含めて、進出する企
 業はその国々の法律法規を遵守しなければならないと強調して
 いる。              https://bit.ly/2ENlE58
─────────────────────────────
 口では比較的のんきなことをいっている任正非CEOですが、
実は会見を開いてここまで語るのは、焦慮感に駆られている証拠
といえます。なぜかというと、ファーウェイは、1987年の創
業以来、非上場を貫いており、任正非CEOはめったに人前に出
ない厚いヴェールに包まれた「謎の経営者」といわれてきた人だ
からです。そのCEOが会見を開き、記者の質問にていねいに答
える──相当追い詰められているといえます。
 ファーウェイのバックには人民解放軍がいるといわれています
が、それは本当のことでしょうか。現在、中国では、アイフォー
ンから、ファーウェイに乗り換える人が増えており、アップルの
順位は5位にまでダウンしています。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/046]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイCEOが米国に「証拠を見せろ」と反論
  ───────────────────────────
   ここしばらくの中国のファーウェイに関するニュースを見
  ると、メディアの種類によって報じ方が大きく異なることが
  わかる。テック系のメディアは、同社が2018年にリリー
  スしたスマートフォンやラップトップが高い評価を得ている
  ことや業績が予想を上回る見込みであることを報じている。
   一方で政治・経済系のメディアは、同社と米政府とのトラ
  ブルを盛んに報じている。ファーウェイのスマートフォンは
  この1年で販売数量だけでなく、評価の面でも大きな躍進を
  遂げた。かつては、中国製スマートフォンを見下していた欧
  米系メディアは、今やファーウェイ製品の革新性や性能の高
  さをアップルやサムスンと同等に評価している。
   筆者が住む香港の人々は、中国製品を敬遠する傾向がある
  が、最近では、ファーウェイ製品をよく見かけるようになっ
  た。ファーウェイのCEO、胡厚崑(同社のCEOは3人の
  交代制)は先日、同社の東莞市の施設で記者会見を開いた。
  胡によると、クリスマスまでにスマートフォンの出荷台数が
  同社史上最高の2億台を突破し、売上高は、1000億ドル
  (約11兆円)に達する見込みだという。
   欧米系メディアは、今回の記者会見を直前になって知らさ
  れた。会見では、12月1日に逮捕された同社の孟晩舟CF
  Oのことや、米政府が同盟国に対してファーウェイ製品の使
  用中止を求めていることについては全く語られなかった。
                  https://bit.ly/2TEQPc7
  ───────────────────────────

ファーウェイ任正非CEO.jpg
ファーウェイ任正非CEO

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2019年03月13日

●「華為技術の後ろに軍隊がいるのか」(EJ第4966号)

 「ファーウェイのバックには人民解放軍がいる」といわれるこ
とがあります。それは、本当のことなのでしょうか。中国研究家
の近藤大介氏のレポートを読むと、任正非CEOはファーウェイ
という企業を「軍隊」と捉えており、世界の市場を「戦場」と表
現してします。まさに「軍隊的経営」です。
 任正非CEOは、2019年の年明けに社員向けのメールを配
信していますが、そのなかのフレーズのいくつかを示します。
─────────────────────────────
 ・5Gは地雷であり、東でも西でも炸裂する。
 ・新たな戦闘で這い上がるのだ。
 ・管理部門の幹部から「将軍」を選抜する。
 ・自己革新と隊伍の「血液交換」を断行する。
 ・われわれは多くの派兵を惜しまない。
 ・チベットの将軍に空母を動かせといっても意味がない。
                  https://bit.ly/2EVBISf
─────────────────────────────
 なぜ、ファーウェイと人民解放軍が結びつけられるのかについ
て、遠藤誉氏は自著のなかで、任正非氏の生い立ちを含めて、詳
しく書いています。詳しくは、遠藤氏の著書を読んでいただくと
して、以下に要約することにします。
 背景としては、3月5日付のEJ第4960号において、「大
而不強」という言葉の説明として取り上げたケ小平によるベトナ
ム戦争(中越戦争)後の、人民解放軍の100万人削減がありま
す。「兵士はたくさんいるが、無駄な兵士が、だぶついているだ
け」と判断し、兵士の大幅削減を決断したのです。
 そして、職を失った解放軍兵士の技術兵を中心にして、ケ小平
は、かつて武器製造の根拠地だった内陸部のあちこちで「自動車
産業」を起こすよう指示したのです。重要なのは「技術兵を中心
として」という部分です。これを「軍民転換」といいます。19
80年代のことです。
 任正非氏は、1944年に貴州省の極貧の家に生まれ、成人に
なる時点で文化大革命に遭遇しています。任正非氏は、重慶建築
工程学院(現在の重慶大学)で学んでいたのですが、卒業の一年
前に文化大革命が起きてしまうのです。
 文化大革命については、表面的にはきれいごとをいっています
が、その本質は、大躍進政策の失敗によって国家主席の地位を劉
少奇党副主席に譲った毛沢東共産党主席が、自身の復権を画策し
紅衛兵と呼ばれた学生運動を扇動して政敵を攻撃させ、失脚に追
い込むための、中国共産党内部での権力闘争です。
 とくに大学教授などの知識層が狙われたといいますが、非常に
多くの人が、この文革によって被害を受けたのです。共産党の資
料に残されていないのですが、40万人から1000万人の人が
何らかの被害を受けたといわれています。
 しかし、「農工兵」に関しては迫害から逃れることができると
知って、任正非氏は人民解放軍入隊を選んだのです。なお、「農
工兵」とは、「農」は農民、「工」は工場従事者、「兵」は兵隊
のことです。任正非氏は人民解放軍を志願したところ、重慶建設
工程学院で学んだ経歴により、基礎建築兵に配属され、正式に兵
士になったのです。
 もともと技術レベルが高かったので、順調に出世し、技術員、
工程師になり、副所長にまでなっています。しかし、そこで突然
解雇され、深せんの南海石油後方勤務サービスに配置換えになる
のです。ケ小平による人民解放軍の100万人削減の影響です。
 しかし、新しい仕事には興味も関心もない任正非氏は、周囲か
ら、2万1000人民元(日本円で約30万円)をかき集めて、
ファーウェイ(華為技術)を立ち上げるのです。1987年のこ
とです。
 しかし当時は、雨後の竹の子のように小さい企業が立ち上がっ
ては消えていくという時代であり、事業経営が最も難しい時代で
あったといえます。ファーウェイはどのようにして生き残ったの
でしょうか。遠藤誉氏は、このちっぽけな企業、ファーウェイが
生き残ったの理由には次の2つあるといいます。
─────────────────────────────
  1.通信機器開発&サービスをメインの事業にしたこと
  2.当時としては珍しい従業員持ち株制を導入したこと
─────────────────────────────
 ファーウェイは、起業時期のタイミングが実によかったといえ
ます。中国は、固定電話が普及しておらず、ポケベルの時代を経
て、いきなり携帯電話の時代に突入しています。ファーウェイは
それを先取りしたのです。従業員持ち株制も画期的です。当初、
任正非CEO自身の持ち株は1・3%、残りの98・7%の株主
はすべて従業員なのです。従業員のやる気が起きて当然です。
─────────────────────────────
 起業当初のホァーウェイの顧客は、中国電信、中国移動、中国
網通(網はインターネット)、中国聯通などの、中国企業が中心
だったが、1997年に香港のハチソン・ワンポアと海外契約を
得たのを皮切りに、2000年代以降は、ブリティッシュ・テレ
コム、ドイツテレコム、テレフォニカ、テリア・ソネラ、アドバ
ンスト・インフオ・サービスおよびシンガポール・テレコムなど
全世界の大企業向け事業も大きく展開して、世界のホァーウェイ
として一気にグローバル化していく。
 2012年には売上高でエリクソンを超えて、世界最大の通信
機器メーカーとなっている。製品によっては世界シェア1位だ。
特にスマホにおいては、出荷台数、シェアともに世界3位であり
2017年には世界シェアでアップルを抜いて世界2位になった
こともあった。            ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/047]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ急成長の謎を解く/日経XTECH
  ───────────────────────────
   まずは、「ファーウェイ基本法」について。「ファーウェ
  イ基本法(以下、基本法と略)」とはファーウェイの基本理
  念や経営方針をまとめたものだが、驚くべきことにウィキペ
  ディアの中国版ともいえる「百度百科」にも一項目として記
  載され、全文が掲載されている。本書によれば、基本法は、
  1996年ごろから考案され、1998年に正式に発表され
  たものであり、基本理念のほかに、経営方針、組織編制、人
  材開発、管理方針、後継者およびその改正方法などからなる
  2万字に及ぶ「憲法」である。本書では事あるごとに「基本
  法」に言及され、いかにファーウェイにとってこの基本法が
  重要な存在かがわかる。
   また、本書では触れられていないが、「百度百科」ではこ
  の基本法について面白い解説を付けている。「この基本法が
  ほかの企業から大変な関心を寄せられているのは、普段低姿
  勢な(永井注:本書の中でも、任正非CEOについて何度も
  『低姿勢』『謙虚』といった表現が現れる)ファーウェイが
  このように高らかに自らの理念を謳い上げているからだ。こ
  のようなファーウェイの2面性がより人々に『ファーウェイ
  は理解できない』と感じさせるのである。」このように本稿
  の冒頭でも述べたとおり、中国人にとってもファーウェイは
  謎なのだ。なぜ、このように、ファーウェイは謎と感じられ
  るのか。            https://nkbp.jp/2u41PS8
  ───────────────────────────

ファーウェイ本社.jpg
ファーウェイ本社
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2019年03月14日

●「国家情報法第8条の内容とは何か」(EJ第4967号)

 遠藤誉氏によれば、ファーウェイのバックに人民解放軍がいる
といわれるのは、創業者の任正非CEO自身が人民解放軍兵士の
経験があり、ケ小平のいわゆる「軍民転換」によって、とくに技
術系の企業に軍の出身者が多くいるのは、当たり前であるという
のです。
 しかし、問題は先端企業に元軍人が多いか少ないかではなく、
ファーウェイが通信機器の開発メーカーであることと、2017
年6月から施行されている「国家情報法」があることです。とく
に問題があるとされる同法第7条を再現します。
─────────────────────────────
 国家情報法第7条
 いかなる組織及び個人も、国家の情報活動に協力する義務を
 有する。
─────────────────────────────
 この条文の意味するところは、中国の企業と個人は、国家が必
要と認めて命令すれば、いかなる組織や個人の持つ情報も提供し
なければならないというものです。この条文だけ見ると、国家が
命令すれば、中国人民と企業は必要に応じてスパイにならざるを
得ないことになります。
 これに対して任正非CEOは「私はそのような法解釈はしてい
ない。外交部がはっきり述べているように、中国はどんな法律も
企業にすべてを要求するようなことはしない」と述べています。
 わかったようなわからないような任正非CEOの発言ですが、
「外交部がはっきり述べているように」という部分に注目して、
外交部の発言を探したところ、2019年2月20日の耿爽(グ
ン・シュアン)報道官の次の発言が見つかったのです。
─────────────────────────────
記 者:一部のメディアからファーウェイ(華為技術)に関する
 情報が報じられています。米国およびその同盟国がファーウェ
 イが中国政府に協力して情報を摂取しているという確かな証拠
 を示せていないという内容がある一方、中国の「国家情報法」
 第7条の規定に憂慮を示し、ファーウェイの参入を制限すべき
 という内容もあります。これについて、どう評価しますか。
報道官:私の理解が間違っていなければ、これらを報じたメディ
 アは西側諸国のメディアですね?
記 者:(うなづく)
報道官:私たちはこれらのメディアが、米国などの国が情報窃取
 の証拠を示せていないという点を認めていることについて、肯
 定的に評価する。これは客観的な態度だ。ここで強調しておき
 たい。第7条では確かに「いかなる組織や公民も国家の情報活
 動を支持、協力し、知り得た秘密を厳守しなければならない」
 と書かれているが、続く第8条では「国家の情報活動は法に基
 づいて行われ、人権を尊重、保障し、個人や組織の合法的な利
 益を守らなければならない」とされている。この法律を批判す
 る人は、本当に詳しく条文を読んだことがあるのだろうか。こ
 の法律を一方的に、切り取って見るのではなく、全面的に見て
 正確に理解することを求める。   https://bit.ly/2CjWn1O
─────────────────────────────
 グン・シュアン報道官のいう通り、第8条を示されれば、それ
なりに納得はできますが、少なくともネット上で調べる限り、国
家情報法の詳細の情報はなく、専門家でない限り、私も含めて、
第8条の内容をはじめて知った人が多いはずです。
 しかし、第7条にしても第8条にしても、条文は抽象的表現で
あり、国家の意思によって、恣意的に判断される余地は大きく、
国家情報法という法律の存在自体が脅威です。
 なお、遠藤誉氏の著作「『中国製造2025』の衝撃」には、
「国家情報法」自体の記載は見当たらないのです。この本で述べ
ていることと、国家情報法は無関係ではないにもかかわらず、不
思議な話です。ちなみに、この法律の施行は2017年6月であ
り、本の発行は2019年1月11日になっています。
 これに関連して、ネット上には次のようなツイートが発信され
ているのを発見しました。やっぱり何かあると思います。
─────────────────────────────
 ◎北の遊び人/2018年12月16日:13:06
 今朝のフジテレビ「報道プライムサンデー」で遠藤誉オバチャ
ンは、なぜ「ファーウェイの社員には、中国共産党員が大勢いる
こと」を隠し、「ファーウェイ副会長がもっていた7通のパスポ
ート」には一切触れないし「中国の国家情報法」について説明し
ないのだろう?           https://bit.ly/2VU7HsO
─────────────────────────────
 遠藤誉氏の論文やレポートで、「国家情報法」について書かれ
ているものがないか探してみましたが、見つかっていません。そ
の代わり、中国の「反スパイ法」について、日本人として心得て
おくべき記事はあります。
─────────────────────────────
    中国「反スパイ法」の具体的スパイ行動とは?
                ――日本人心得メモ
              https://bit.ly/2qN3tos
─────────────────────────────
 この記事には恐ろしいことが書いてあります。中国に旅行に行
くとき、誰かから、どこそこの景色を写真に撮って送って欲しい
と頼まれたとします。そういうことはよくあると思います。
 実は、そこは撮影不可の場所なのですが、現場には、それが撮
影不可とわかる看板などの表示は、見当たらないことが多いので
す。たとえ看板が出ていたとしても、気が付かないことが多いと
思われます。そこで依頼されたようにそこの景色を撮影し、ネッ
トで送ったとすると、それは、「反スパイ法」による「スパイ行
為」に該当するのです。遠藤誉氏は、日本人に注意を喚起してい
るのですが、国家情報法については、どこにも書いていないので
す。         ──[米中ロ覇権争いの行方/048]

≪画像および関連情報≫
 ●ファーウェイ、米国の企業秘密を盗んでいない可能性
  ───────────────────────────
   2018年12月1日に中国通信機器大手ファーウェイの
  孟晩舟・副会長兼CFO(最高財務責任者)が、米国の要請
  によりカナダのバンクーバーで逮捕されて以降、米国による
  ファーウェイへの攻撃が激しさを増している。
   今年1月16日に米紙ウォール・ストリート・ジャーナル
  は、米政府がファーウェイを米企業の企業秘密を盗んだ疑い
  で本格捜査していると報じた。また、1月21日にカナダ紙
  グローブ・アンド・メール(電子版)は、米政府がカナダに
  ファーウェイの孟副会長の身柄引き渡しを正式要請する方針
  を固めたと報じた(1月23日付日本経済新聞)。
   そして米国司法省は1月28日、ファーウェイと孟副会長
  を、イランとの違法な金融取引に関わった罪および米通信会
  社から企業秘密を盗んだ罪で起訴した。
   このように米国がファーウェイを攻撃する根拠として、筆
  者は以下のように考えていた。恐らく、多くの人も同じよう
  に理解をしていたのではないか。
  (1)通信基地局の売上高シェアで世界1位のファーウェイ
  は、中国政府の手先であり、17年6月28日に中国で成立
  した「国家情報法」に基づいて、中国政府の指示により米国
  の知的財産を盗んでいた。
  (2)上記の技術盗用の証拠をつかんだ米国が、カナダへ要
  請し、孟副会長を逮捕・起訴するとともに、18年8月13
  日に米国が制定した「国防権限法2019」に基づいて世界
  中からファーウェイを排除しようとしている。
                  https://bit.ly/2VP7QxI
  ───────────────────────────


グン・シュアン中国報道官.jpg
グン・シュアン中国報道官
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2019年03月15日

●「社会信用スコアという制度が始動」(EJ第4968号)

 英国のジョージ・オーウェルという作家の作品に、『1984
年』というのがあります。全体主義国家によって分割統治された
近未来世界の恐怖を描いた作品です。ちなみにこの作品は、19
48年に執筆されており、近未来とされている1984年とは、
「4」と「8」と入れ替えたアナグラムという説があります。
 現代はジョージ・オーウェルのいう社会が既に存在します。そ
れが現代の中国であり、いみじくもそれを指摘したのは、米国の
ペンス副大統領です。2018年10月4日、ペンス副大統領は
ハドソン研究所における演説で、次のように述べています。
─────────────────────────────
 今日、中国は、他に類を見ない監視国家を築いており、時に米
国の技術の助けを借りて、ますます拡大し、侵略的になっていま
す。彼らが「グレートファイアウォール(インターネット検閲)」
と呼ぶものも同様に厳しくなり、中国人への情報の自由なアクセ
スを大幅に制限しています。
 そして2020年までに、中国の支配者たちは、人間の生活の
事実上すべての面を支配することを前提とした、いわゆる「社会
的信用スコア」と呼ばれるジョージ・オーウェル式のシステムを
実施することを目指しています。同プログラムの公式青写真によ
れば「信用できない者が一歩も踏み出せないようにしながら、信
用できる者が天下を歩き回ることを許可する」というものです。
   ──ペンス米副大統領演説より https://bit.ly/2OPqMwq
─────────────────────────────
 中国という国家にとって一番大切なものは、中国共産党という
政治体制です。人民解放軍は、中国という国を守る軍隊ではなく
中国共産党を守る軍隊なのです。そのため、中国という全体主義
国家にとって一番警戒すべきものは、他ならぬ中国の国民であり
そのため、過度の監視体制を敷いています。最先端のICT技術
を使い、国民を監視しているのです。中国の軍事費は日本の4倍
といわれますが、それ以上のお金をかけて、約14億人の中国国
民の動向を監視しています。
 その具体的なシステムのひとつが、2014年からスタートし
た「社会信用スコア」という制度です。ペンス副大統領が、ジョ
ージ・オーウェルの世界と呼ぶのがこの制度です。この「社会信
用スコア」について遠藤誉氏は、自著のなかで、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 中国では「社会信用システム」という制度が2014年から動
いている。正確には2014年6月14日に国務院が「社会シス
テム構築の計画概要(2014〜2020年)」という通知を発
布している。
 これは所得やキャリアあるいは日常の社会的言動などからすべ
ての国民を評価してランキングを付けるもので、評価基準は「公
務の誠実性」「商業の誠実性」「社会に対する誠実性」だ。一見
「社会責任」に似ているように見えるが、実は似て非なるもの。
すべての人民および中国大陸に居住する外国人と外国企業を含め
たすべての「人間」と「組織」を一部始終監視するためのシステ
ムなのである。中国の商店ではどこでも電子決済が進んでいると
日本の一部のメディアでは中国を褒めている情報が散見されるが
顔認証も徹底的に進展させて、中国大陸上に居住するすべての人
間が「中国共産党に忠実であるか否か」「反政府的行動をしてい
ないかどうか」を完璧に監視するためのシステムなのだ。このよ
うな恐ろしいものが動き始め、中国に進出する日本企業とその従
業員も、監視の対象となっていく。喜んでいる場合ではない。
                   ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 この遠藤誉氏の記述で注意すべきは、この制度が適用されるの
は中国人だけではないことです。その対象は「すべての人民およ
び、中国大陸に居住する外国人と外国企業を含めたすべての『人
間』と『組織』」となっている点です。中国から見て、外国人も
外国企業も対象になるのです。実際にこの制度で、どんなことが
起きるのでしょうか。
 2018年5月2日付の「ニューズウィーク」に掲載されたク
リスティーナ・チャオ氏による次のレポートがあります。
─────────────────────────────
 14億人を格付けする中国の「社会信用システム」本格始動
 へ準備           ──リスティーナ・チャオ氏
                 https://bit.ly/2jmQ03V
─────────────────────────────
 このレポートでは、中国で調査報道記者として活動している劉
虎(リウ・フー)氏は、自分の名前がブラックリストに載ってい
ることを知ったのは、航空券を買おうとして、航空会社から拒否
されたときです。劉氏は、航空会社が保有するリストに、中国政
府が航空機への搭乗を禁止する「信頼できない人物」として自分
の名前が載っていることを知って愕然としたといいます。
 その原因は、2016年に公務員の腐敗を訴える記事をSNS
で発信し、中国政府と衝突しています。中国政府から罰金の支払
いを求められ、劉氏はそれに従っています。劉氏としては、これ
で一件落着すると思ったからです。
 しかし、劉氏はその後も「不誠実な人物」として格付けされ、
航空機の切符が買えないだけではなく、その他にも多くの制約を
受けています。このように一度スコアを落とされると、なかなか
回復できないことが劉氏のケースでわかります。
 しかし、中国政府は、このシステムについて「このシステムの
目的は、調和のとれた社会を推進することである」としています
が、一方において、この制度は市場や政治行動をコントロールす
るツールに過ぎないとの批判も存在します。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/049]

≪画像および関連情報≫
 ●中国を変えた"信用格付けシステム"の怖さ
  ───────────────────────────
   広大な領土に多大な人口を擁する中国では、むかしから統
  治者は「いかに秩序をもたらすか」に頭を悩ませてきた。長
  い年月の中で、恐怖による圧政、寛容による仁政、教育によ
  る統制などさまざまな統治が試みられてきたが、ここにきて
  ついに統治者は画期的な方法を手に入れつつあるようだ。そ
  の方法とは、「予測アルゴリズム」という情報テクノロジー
  のことである。
   中国では、長年にわたり食品生産や医薬品製造の安全性は
  保たれておらず、偽装や偽造、詐欺、脱税に官僚の腐敗、学
  術上の不正も横行し、治安当局の取り締まりも十分な効果を
  発揮してはいなかった。そのため、企業や消費者の取引コス
  ト、経済秩序に関する行政のコストも大きく、人びとの規範
  意識を高めることは切迫した課題であった。
   そうした中で、新たな統治手法として注目されるのが「予
  測アルゴリズム」だ。これは、オンライン上の購買や、閲覧
  ・行動の履歴といったパーソナルデータや、企業の信用取引
  データなど、いわゆる「ビッグデータ」を分析し、対象とな
  る人物や企業の動向を予測する情報テクノロジーだ。中国政
  府は、いま、こうした技術を統治能力の改善に役立てようと
  している。           https://bit.ly/2VWNHG4
  ───────────────────────────

ジョージ・オーウェル.jpg
ジョージ・オーウェル
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2019年03月18日

●「なぜ、中国の技術は急進展したか」(EJ第4969号)

 このようにいうと失礼ではあるが、かつて中国の「技術」など
とるに足らないものであったはずです。少なくともそういう時代
が長く続いたことは確かなことです。
 しかし、「中国製造2025」を立ち上げた2015年以降は
中国は多くの技術面で米国を猛追する存在になりつつあります。
宇宙などの特定分野では、既に米国を抜いています。それをイヤ
というほど世界に見せつけたのは、今年の1月3日発表の中国の
宇宙技術での大成果です。
─────────────────────────────
 ◎月面争覇/中国「宇宙強国」掲げ巨費/軍関与
 月探査に本格参入して十数年という中国が、3日、半世紀を超
える歴史を持つ米ロ両国に先んじて月の裏側への着陸を成功させ
た。習近平指導部の大号令のもとで、「宇宙強国」の実現にひた
走る。資源の埋蔵が有望視される月を「主戦場」に、各国の競争
が激しくなるのは確実だ。
          ──2019年1月4日付、朝日新聞より
─────────────────────────────
 経緯を簡単にいうと、中国が月面の撮影を目的とする「嫦娥1
号」を打ち上げたのは、2007年のことです。その時点では、
中国は技術開発で出遅れ、月探査では、旧ソ連、米国、日本、欧
州に続く存在だったのです。
 しかし、2013年に中国は「嫦娥3号」を月の表側に着陸さ
せることに成功します。この時点で、中国は、旧ソ連、米国に続
き、3番目に月面着陸に成功した国に躍進します。
 そして、それから5年後、中国は「嫦娥4号」を月の裏側への
着陸に成功させ、月面探査の分野では、世界のトップに立ったの
です。さらに今年は、「嫦娥5号」を打ち上げ、月の裏側の表土
の試料を地球に持ち帰る計画を進めています。
 これだけではないのです。月探査に続いて、2022年に完成
を目指す中国独自の宇宙ステーション、中国版「GPS」の衛星
測位システム「北斗」の構築など、宇宙関連の技術開発は激しさ
を増しています。まさに「米中2強時代」が現実のものとなりつ
つあります。
 そういう宇宙技術開発の進展は、人類に寄与するのであればよ
い傾向といえますが、中国の宇宙開発には人民解放軍が深く関与
し、情報はほとんど開示されないのです。そういう先端技術の軍
事利用を目指しているからです。情報自体が開示されないので、
そういう分野でのノーベル賞受賞者が少ないのではないでしょう
か。これまでの中華人民共和国としてのノーベル賞受賞者は、わ
ずか3人しかいないのです。
─────────────────────────────
     2010年     平和賞/  劉暁波
     2012年     文学賞/   莫言
     2015年 生理学・医学賞/屠ユウユウ
─────────────────────────────
 注目すべきは、中国の技術開発の速度の速さです。どのように
してそのような高度な技術開発を可能にしたのでしょうか。
 遠藤誉氏によると、そのヒントは、1964年の中国の核実験
の成功にあるとして次のように述べています。
─────────────────────────────
 1964年10月16日、中国は初めての核実験に成功し、世
界を驚かせた。農民を中心とした革命戦争に勝利して、1949
年10月1日にようやく誕生した新中国(中華人民共和国)に、
科学技術などあり得るはずもないと、誰もが思っていただろう。
あのとき、中国における農民の割合は90%に近く、毛沢東は農
奴の屈辱的なエネルギーを味方に付けて革命に成功している。
 1917年のロシア革命は、都市の労働者が中心だったので、
旧ソ連のスターリンは毛沢東を「田舎バター」として軽蔑し、ロ
シア革命の中心となった都市労働者がいないような「文明的に遅
れた中国」で、革命など成功するはずがないとバカにしていたの
だ。ところが毛沢東は、その予想に反して中国の革命戦争に勝利
して新中国を建国しただけでなく、核実験に成功する。世界が驚
かないはずがないだろう。       ──遠藤誉著/PHP
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 銭三強という人物がいます。1936年に精華大学を卒業して
フランスに渡り、マリー・キューリー研究所に留学します。あの
ノーベル賞を2回も受賞したマリー・キューリーの研究所です。
キューリー自身は1934年に他界していたものの、娘のイレー
ヌ・ジョリオ・キューリーがいたのです。銭三強は、彼女の下で
原子核の研究に没頭し、原子物理学で博士号を取得しています。
 1946年にウラニウムの核分裂において成功をおさめ、この
功績で、銭三強はフランスアカデミーの物理学賞を受賞し、19
48年に中国に帰国しています。その翌年の1949年10月1
日に新中国──中華人民共和国が誕生するのです。まさに絶妙の
タイミングだったのです。
 実は、毛沢東は、原子爆弾の製造に執念を燃やしていたといわ
れています。それは、当時中国から見て、戦争での圧倒的な強さ
を誇っていた日本が、米国による原子爆弾2発で降伏したのを見
て、これによって、自分が誕生させた新生中国を強国にしようと
考えたからです。
 1949年11月に中国科学院が設立されると、銭三強は、そ
の傘下の近代物理学研究所の所長に任命されます。朝鮮戦争が休
戦協定を締結した1955年、毛沢東は早速動き始めます。中国
の核の力を強めるために、プロジェクトチームを立ち上げさせ、
銭三強をそのリーダーに任命します。そして1956年、銭三強
は、40数名の科学者を引き連れて、毛沢東の命令でソ連に行き
原子爆弾についての調査と研究をスタートさせるのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/050]

≪画像および関連情報≫
 ●「毛沢東の狂気」が蘇る時/毛沢東 語録
  ───────────────────────────
   最近、中国の国内メディアで、「毛沢東」にまつわるいく
  つかの興味深い記事が見つかった。1つは、人民日報社の自
  社サイトである「人民網」が2011年1月17日に掲載し
  た記事で、1957年11月に毛沢東がソ連で開かれた社会
  主義陣営の各国首脳会議に参加したときのエピソードを紹介
  したものである。
   記事によると、毛沢東はこの会議で、当時のソ連共産党フ
  ルシチョフ第一書記の提唱する「西側との平和的共存論」に
  猛烈に反発して次のような過激な「核戦争論」をぶち上げた
  という。
   「われわれは西側諸国と話し合いすることは何もない。武
  力をもって彼らを打ち破ればよいのだ。核戦争になっても別
  に構わない。世界に27億人がいる。半分が死んでも後の半
  分が残る。中国の人口は6億だが半分が消えてもなお3億が
  いる。われわれは一体何を恐れるのだろうか」と。
   毛沢東のこの「核戦争演説」が終わったとき、在席の各国
  首脳はいっせいに凍りついて言葉も出なかったという。さす
  がの共産党指導者たちも、「世界人口の半分が死んでも構わ
  ない」という毛沢東の暴論に「圧倒」されて閉口したようで
  ある。毛沢東という狂気の政治指導者の暴虐さをよく知って
  いる中国の知識人なら、この発言を聞いても別に驚かないの
  だが、筆者の私が興味深く思ったのはむしろ、人の命を何と
  も思わない共産党指導者の異常さを露呈し、党のイメージダ
  ウンにつながるであろうこの「問題発言」が、他ならぬ共産
  党機関紙の人民日報社の自社サイトで暴かれたことである。
                  https://bit.ly/2HqfTOe
  ───────────────────────────

毛沢東総書記.jpg
毛沢東総書記
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2019年03月19日

●「銭三強と銭学森による核実験成功」(EJ第4970号)

 中国の核実験を成功させた立役者としては、銭三強の他にもう
一人の人物が必要です。それは、銭学森(センガクシン)という
人物です。銭学森は弾道ミサイルの専門研究者です。
 銭学森とはどのような人物でしょうか。
 銭学森は、世界的に有名な中国の科学者であり、アーサー・ク
ラーク原作の映画『2001年宇宙の旅』に出てくる中国の宇宙
船「チェン号」は、銭学森の名前からとられています。ネット上
に出ている銭学森の経歴を引用します。
─────────────────────────────
 銭学森は1911年、杭州生まれ。1935年に渡米してマサ
チューセッツ工科大学に留学後、カリフォルニア工科大学に移っ
て、数学者セオドア・フォン・カルマンの下で研究を始める。カ
ルテクでは後にジェット推進研究所(JPL)の母体となった学
生ロケット研究グループ「スーサイド・スクワッド」に参加して
いた。そのままフォン・カルマンが初代所長となったJPLに加
わり、陸軍の資金を受けて、JPL初期の活動である「コーポラ
ル」といったミサイル開発に関わる。
 銭自身が優れたロケット研究者であったのみならず、ナチス・
ドイツのロケット工学者ウェルナー・フォン・ブラウンが、ペー
パークリップ作戦後に合衆国に移送された際には、最初の面談を
行い、その技術をアメリカのミサイル(ロケット)開発に融和さ
せる役割も果たした。        https://bit.ly/2FcgPCz
─────────────────────────────
 ウェルナー・フォン・ブラウンについては、こんな話がありま
す。ドイツ軍が、連合軍に対して劣勢に傾いていた1943年、
ヒットラー総統の命令で、ナチス・ドイツにおいて、当時の究極
兵器として、長距離弾道ミサイル「V2ロケット」を開発し、ロ
ンドンを攻撃する準備をフォン・ブラウンが中心になって進めて
いたのです。
 しかし、根っからのエンジニアであるブラウンは、ロケットに
ついての壮大なプラン──地球を回る軌道に乗せるロケットや、
月ロケットのことをあちこちで話し過ぎるとして、SS(ナチ親
衛隊)とゲシュタポ(国家秘密警察)は、国家反逆罪としてブラ
ウンを逮捕してしまうのです。
 しかし、V2ロケットの開発中であり、ブラウンは必死に釈放
を求めましたがうまくいかず、最後にはヒトラー総統自身がSS
とゲシュタポを説得してやっと釈放されたのです。
 1945年5月になると、ドイツの敗戦は確実な情勢になった
ので、ブラウンたちの仲間は、亡命先としてどの国にするかを検
討したのです。彼らにはロケット技術があり、それを亡命先に高
く売ってよい条件での亡命を勝ち取ろうとしたのです。
 科学者たちのほとんどはロシアを恐れ、フランスは奴隷のよう
に扱うから嫌だという者が多く、英国はいいのだが、ロケット計
画を賄う資金がないということで、結局米国が一番良いというこ
とになったのです。そして、ブラウンが実際に米国に赴いたとき
銭学森はブラウンと面談し、彼らの有する技術を米国のミサイル
開発に融合させる技術的な貢献を果たしています。
 しかし、1950年、折からの「赤狩り」で、銭学森は共産主
義者のスパイであるとして逮捕され、米国の自宅に軟禁されてし
まうのです。それを知った毛沢東と周恩来は、あらゆる外交の手
立てを駆使し、銭学森の奪還を図ります。結局、1955年に朝
鮮戦争の米軍捕虜との引き換えに銭学森を取り戻し、中国に帰国
させたのです。
 毛沢東は、銭学森を銭三強のいるソ連に向わせ、合流させるの
です。これによって、中国としては、原子爆弾製造のための磐石
な体制を作ったことになります。しかし、ソ連との関係は最初か
らあまりよくなかったのです。おそらくスターリンは中国に原子
爆弾を保有させたくなかったものと思われます。そのため、ソ連
との関係悪化は加速し、1959年6月にはソ連から中国への援
助は完全に打ち切られています。
 一方、フランスとの関係はうまくいっていたのです。フランス
のキューリー研究所に留学していた放射能科学者、楊承宗は帰国
に当って、キューリー研究所から素晴らしいプレゼントがもたら
されたのです。遠藤誉氏の本から引用します。
─────────────────────────────
 楊承宗は、1947年にフランスのキューリー研究所に留学し
て博士学位を取得したのだが、新中国誕生後、毛沢東の呼び掛け
に応えて中国に帰国しようとした。するとイレーヌ・キューリー
夫妻が、炭酸バリウムによって純化された10グラムのラジウム
標準資料を楊承宗にプレゼントしたのである。これは世界的に見
ても、誰もが喉から手が出るはど欲しいものだった。彼女は中国
の成功を祈ると言い、原爆成功と同時にフランスは中国と国交を
結ぶにちがいないと言って、毛沢東に1つの「言葉」を送ってく
れと頼んだのである。それは「もし原子爆弾に反対するのなら、
自分の原子爆弾を持ちなさい」という言葉だった。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 毛沢東は、1960年に中華人民共和国第9局(核兵器製造機
関)を設置し、チベット族自治区に核開発のための第9学会(北
西核兵器研究設計学会)を設立しています。第9学会のコードナ
ンバーは「211」です。そして、1964年に中国は、次の2
つの核に関する実験に成功しているのです。
─────────────────────────────
 1.第9学会で開発された初の中国核兵器(コードネーム=
  596)が、核爆発に成功したこと
 2.核弾頭を装備した東風2号Aミサイルが発射され、標的
  上空569メートルで爆発したこと
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/051]

≪画像および関連情報≫
 ●金正恩より恐ろしい核指導者は毛沢東―米外交専門誌
  ───────────────────────────
   2017年7月18日、米華字メディアの多維新聞による
  と、米外交専門誌ナショナル・インタレストはこのほど、北
  朝鮮の最高指導者である金正恩氏より恐ろしい核指導者は、
  中国の毛沢東だと指摘している。
   北朝鮮は、2017年7月4日、大陸間弾道ミサイル(I
  CBM)の発射実験を行った。米国、韓国、日本などは金正
  恩の核武装計画により絶え間ない脅威にさらされている。だ
  が歴史上、金正恩が及ばない核指導者が少なくとも1人は存
  在した。それが中国の毛沢東だ。
   毛沢東が数十年間戦争と混乱に陥った中国に統一をもたら
  した変容的で歴史的な指導者であることは疑いようのない事
  実だ。だが彼は権力を引き受けた瞬間から、核戦争に「無邪
  気な」態度を取るようになった。
   この中国の革命的指導者は、米国と敵対するだけでなく、
  重要な大国のソ連との力比べも惜しまなかった。中ソの紛争
  は1969年、中国軍がソ連の国境警備隊を襲い、50人の
  兵士を殺害した際に頂点に達した。毛沢東ははるかに強力で
  核武装した国との戦争の危険にさらされた。毛沢東の最も恐
  ろしい側面は、中国が1964年に最初に実験した核兵器に
  関する彼の見解であった。ソ連は当初、中国が独自に核兵器
  を建設するのを支援することに同意した。だが、毛の核戦争
  に対する「遠慮のない」態度に対する懸念から、支援を打ち
  切っている。          https://bit.ly/2Fijyvm
  ───────────────────────────

銭学森と毛沢東.jpg
銭学森と毛沢東
    
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2019年03月20日

●「『ヒト』において絶対優位の中国」(EJ第4971号)

 ヒト、モノ、カネといいますが、このすべてが揃わないと、科
学技術は発達しないのです。今の中国には、このすべてが揃って
います。それに、民主主義国にはある手続きやルールという面倒
なものが社会主義国にはない。トップが決断すれば、ヒト、モノ
カネはすべて揃うのです。
 この差が宇宙技術において、よく反映されています。1957
年10月4日のことです。ソ連が人類初の人工衛星「スプートニ
ク1号」の打ち上げに成功したのです。これによる米国をはじめ
とする西側諸国のショックは、計り知れないものがあり、それを
「スプートニクショック」と呼んだのです。
 それまで米国は、自国を「宇宙開発のリーダーであり、それゆ
えミサイル開発のリーダーでもある」と信じており、いささかも
疑っていなかったのです。米国も人工衛星計画「ヴァンガード計
画」を進めていましたが、うまくいっていなかっただけに、ソ連
の人工衛星計画の成功は、全米をパニックに陥れたのです。
 それ以来、宇宙技術、少なくとも月探査技術に関しては、米国
は、中国、ロシアに続く3位に甘んじています。中国は「宇宙を
制するものは全世界を制す」と考えており、ここ5年ぐらいでこ
の分野の真の覇者が決まると考えられます。
 中国が最大の競合相手の米国に対して、絶対的優位に立つもの
があります。それは「ヒト」、つまり人口です。現在、中国の人
口は次に示すように世界一であり、2位のインドとつば迫り合い
をやっています。
─────────────────────────────
     中 国 ・・・・・ 13億9008万人
     インド ・・・・・ 13億1690万人
     米 国 ・・・・・  3億2589万人
                  https://bit.ly/2udXprQ
─────────────────────────────
 中国と米国の人口の差は10億人以上あります。この差は絶対
的なものであり、米国は対抗不能です。もちろん数ばかりが多く
てもそれは必ずしも優位性にはなりません。「大而不強」という
言葉もあり、人材の質が問われます。そこで、カギを握るのは、
「留学生制度」です。
 どこの国も留学は国として奨励していますが、民主主義国の場
合、何を学び、将来留学で得た経験や技術を何に使うかはあくま
で本人の自由です。それらが結果として国のためになればよいと
いう考え方に立っているからです。
 しかし、中国のような社会主義国では、彼らが自ら学びとるこ
とに加えて、国が何らかの目的と任務を与え、それらの情報収集
をさせることも不可能ではないと思います。あくまで表向きは、
合法的な情報収集ですが、最初からそういう意識を持って留学す
れば、それは国として物凄い情報収集パワーになります。それも
数が多ければ多いほど効果的です。
 それでは、中国では、どのくらいの人が留学しているのかにつ
いて調べてみると、2017年の中国人出国留学人数は、60万
8400人、初めて60万人を突破しています。前年比11・7
%のプラス、留学生資源国トップの座を維持しています。
 博士号取得者は22万7400人、14・9%のプラスです。
出国留学の目的国は、欧米の先進国に集中しています。2017
年の特徴は、“一帯一路”沿線国家群への留学が増加しているこ
とです。合計6万6100人、前年比15・7%の伸びです。中
国人出国留学生の留学先トップ10を示すと、次のようになって
います。
─────────────────────────────
     1.韓国       6.ロシア
     2.タイ       7.日本
     3.パキスタン    8.インドネシア
     4.米国       9.カザフスタン
     5.インド     10.ラオス
                  https://bit.ly/2TSIMZj
─────────────────────────────
 ちなみに、日本人による海外留学数についても触れておくと、
文科省発表のデータによると、数は多くはないものの、増加はし
ています。2017年度は10万5301人であり、対前年度比
で8448人増えています。留学先・留学者数のベスト5は次の
通りです。
─────────────────────────────
      1.米国       19527人
      2.オーストラリア   9879人
      3.カナダ       9440人
      4.中国        7144人
      5.韓国        7006人
                  https://bit.ly/2TGJ3iR
─────────────────────────────
 国家としてハイレベルの人材を増やすには、基本的には2つの
方法があります。
─────────────────────────────
    1.自国の若い人材を優秀な人材に育て上げる
    2.諸外国から優秀な人材を積極的に招致する
─────────────────────────────
 どこの国でも上記の2つについては、当たり前のようにやって
いることですが、中国はこれらの2つを、かなり緻密な計画を立
てて積極的にやっています。
 「1」に関しては、中国は留学生制度を、他国よりも積極的に
活用し、緻密な計画を立てて優秀な人材づくりを行っています。
 「2」に関しては、2008年からの「千人計画」、2012
年からの「万人計画」によって、文字通り、国を上げて人を集め
ており、かなりの成果を上げています。何といっても「ヒト」な
のです。       ──[米中ロ覇権争いの行方/052]

≪画像および関連情報≫
 ●「世界中の留学生の4人に1人」を占める中国人
  ───────────────────────────
   飲食店やコンビニなど、日本の至る所でアルバイトに励む
  中国人留学生を目にする機会はすこぶる多い。独立行政法人
  日本学生支援機構(JASSO)が2016年3月に発表し
  た『平成27年度外国人留学生在籍状況調査結果』によれば
  2015年(平成27年)に日本に滞在した外国人留学生の
  総数が20万8379人であるのに対して、中国人留学生は
  9万4111人で、実に全体の45・2%を占め、国別で第
  1位となっている。第2位のベトナム人留学生が、3万88
  82人で18・2%であるから、中国人留学生の多さは突出
  している。
   12月12日に“中国社会科学院文献出版社”から出版さ
  れた『中国留学発展報告(2016)』によれば、2015
  年に中国は海外留学生が最も多い国になったという。同書は
  “中国与全球化智庫(中国グローバル化研究センター、略称
  :CCG)”が、2015年における中国の海外留学の動向
  を研究した結果を取りまとめた報告書である。報告書の要点
  は以下の通り。
  【1】2015年における中国の海外留学生は126万人で
  全世界の海外留学生総数の25%を占めた。これは、世界中
  の海外留学生の4人に1人が中国からの留学生であることを
  意味する。           https://bit.ly/2CptYrr
  ───────────────────────────

プートニク打ち上げ成功記念切手.jpg
プートニク打ち上げ成功記念切手
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2019年03月22日

●「中国の超大規模な『人狩り』作戦」(EJ第4972号)

 習近平政権がいかに留学生制度──とくに留学後に中国に帰国
させることに力を注いでいるかを示すデータがあります。遠藤誉
氏の本に出ているものですが、以下に要約します。
 1978年の改革開放後に中国を出国した中国人の留学生の数
は、516万4900人、そのうち、学業終了後に帰国した留学
生の数は、2017年の時点で、313万2000人です。つま
り、40年かけて約6割の人が帰国したことになります。
 ところで、習近平政権になってから帰国した中国人留学生の数
は231万3600人です。習近平政権は2012年に発足して
いるので、約6年間でこの人数が帰国したことになります。パー
センテージでは、40年かけて帰国した313万2000人の約
74%が6年間で帰国したことになります。
 このデータを発表したのは、中国共産党機関紙「人民日報」で
すが、習政権になってからの留学生の帰国率はきわめて高く、そ
れだけ中国人民が習政権に期待している証であると「人民日報」
は誇らしげに強調しています。
 中国は既に追いつき、追い抜くべきターゲットとして、はっき
りと米国を見据えています。それは、マラソンで、はるか後方か
ら追い上げてきて、トップを走る米国の背中が見えている状況に
よく似ています。習近平氏は、2012年11月15日に、中国
共産党中央委員会総書記に選出された半月後、中国国家博物館の
「復興の道」展を視察したときに、次の発言を行っています。こ
れが「中国の夢」といわれるものです。
─────────────────────────────
 誰しも理想や追い求めるもの、そして自らの夢がある。現在み
なが「中国の夢」について語っている。私は「中華民族の偉大な
復興」の実現が、近代以降の中華民族の最も偉大な夢だと思う。
この夢には数世代の中国人の宿願が凝集され、中華民族と中国人
民全体の利益が具体的に現れており、中華民族一人ひとりが共通
して待ち望んでいる。        https://bit.ly/2HHClBQ
─────────────────────────────
 そして、2013年6月8日、習近平主席は、オバマ米大統領
と米カリフォルニア州サニーランドで非公式会談を行ったさい、
「中国の夢」について次のように説明しています。
─────────────────────────────
 中国の夢は国家の富強、民族の振興、人民の幸福であり、協力
発展、平和、ウィンウィンの夢でもある。それは、米国のアメリ
カンドリームや各国国民の夢とは共通している。
                  ──習近平中国国家主席
                  https://bit.ly/2HHClBQ
─────────────────────────────
 習近平主席は言葉を慎重に選びながらも、米国との「ウィンウ
インの夢」を実現し、二大大国としてやっていきたいという気持
ちに溢れています。それは、米国を射程にとらえたという自信か
ら来るものです。そのためには、何といっても「人」──頭脳を
集める必要があるということで、留学生として送り出したからに
は、中国に戻ってもらえるよう研究施設を増設し、そのための報
酬、研究開発費などの予算を積み増しているのです。
 優秀な人材をいかにして増やすか──これまで中国はこのこと
に力を入れ、とくに胡錦濤政権時代からは、具体的な人集め政策
を実施しています。それが2008年からスタートした「千人計
画」です。この計画の英語表記は次のようになっいます。
─────────────────────────────
    The Recruitment Program of Global Experts
      グローバル人材のリクルート・プログラム
─────────────────────────────
 3月18日のEJで述べたように、中国には、後にも先にもノ
ーベル賞受賞者は3人しかいないのです。これでは、二大大国と
して米国と肩を並べるにはほど遠い状態です。しかし、それは国
籍にこだわっているからであって、「中国系」まで含めるのであ
れば話は別です。
 楊振寧という学者がいます。1922年に安徽省で生まれてい
るので、中国人です。1957年にノーベル物理学賞を受賞して
いますが、楊振寧の国籍は「中華民国」であって、「中華人民共
和国」ではないのです。したがって、中国人が取得したことには
ならないのです。しかも1964年には、楊振寧はアメリカの国
籍を取得しています。
 これに目をつけたのが、胡錦濤主席(当時)です。胡錦濤主席
も安徽省であるところから、胡錦濤政権によるさまざまな働きか
けによって、2003年に、中国に呼び戻すことに成功していま
す。そして2008年に「改革開放30周年記念における中国に
最も影響を与えた海外専門家」として表彰を受けています。そし
て、最新の情報によると、2016年末において、中国籍に戻っ
ています。
 このことがきっかけになって、千人計画の対象者には「国籍を
問わない」という項目が入ったのです。国籍がどこであれ、親中
国の学者を中国に集めることに成功すれば、次世代を育てるのに
役立つからです。このことに関して、遠藤誉氏の本には、楊振寧
についての次のエピソードが出ています。
─────────────────────────────
 当時国家主席だった胡錦濤が直接楊振寧に会ったときに、彼は
大学院ではなく学部の学生に講義をしていた。それを目の当たり
にした胡錦濤は感動し、「こんなご高齢なのに」と言ったところ
「いえ、科学者は自分の知識を次世代に伝えてこそ、その役割を
果たすことができるのです。そうでないと、科学の発展は、そこ
で止まります」という回答が戻ってきたのである。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/053]

≪画像および関連情報≫
 ●楊振寧が昨年末に中国国籍に/理科系のノーベル賞は2人
  ───────────────────────────
   1957年に中国系の物理学者、楊振寧と李政道の2名が
  ノーベル物理学賞に輝いた。研究対象は「パリティ対称性の
  敗れ」だが、詳しい事は分からない。楊振寧は中華民国安徽
  省合肥市、李政道は中華民国江蘇省蘇州市の出身だ。いまな
  ら大陸中国出身だが、当時は中華民国だから、大陸中国人の
  受賞ではない。
   というわけで理科系の学者で中国人として初のそして唯一
  のノーベル賞は、2015年に大村智と同時に医学・生理学
  賞の屠ゆうゆうだ。抗マラリア薬の開発が評価された。しか
  しなぜか彼女は中国では冷遇されている。
   しかし最近になって中国人ノーベル賞受賞者が一人増えて
  2人になった。先ほどの楊振寧が外国籍を放棄し中国籍にな
  り、中国科学院士になったのだ。
   ノーベル賞受賞者の国籍など本来はどうでもいいことだ。
  科学の発展に寄与すれば誰であっても構わない。どの国での
  受賞者が何人いるなどはノーベル賞の本来の趣旨からはそぐ
  わない議論だ。それでもある国から出ればその国の人は嬉し
  いし喜びだし誇りでもある。
   楊と李の受賞には、もう一人の中国系科学者の功績も大き
  い。パリティ対称性の破れを実験で確かめたのは呉健雄とい
  う女性科学者で上海出身だ。本来なら彼女も同時にもらって
  おかしくないところだ。     https://bit.ly/2Wh1cAO
  ───────────────────────────

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「中国の夢」を語る習近平国家主席
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2019年03月25日

●「人材を集めるにはその背景がある」(EJ第4973号)

 胡錦濤政権が2008年から実施している「千人計画」の募集
要領は次のようになっています。
─────────────────────────────
 ◎「千人計画」募集要領
  55歳以下で国籍を問わず、著名研究機関や大手企業で上
 級管理職を経験した人物、海外で博士学位を取得した人物、
 また、中国が求めるハイレベルイノベーション創造人材など
 を対象とする。
─────────────────────────────
 募集要領では、外国人を含め、幅広く人材を求めているようで
すが、当面中国籍で海外、とくに米国の大学や研究機関などで働
いている人物をピックアップし、説得して中国に帰国させようと
しているのです。そのさいの処遇に関しては次の通りです。
─────────────────────────────
 気になる処遇の方だが、まず着任時に100万元(執筆時のレ
ートで1645万円ほど)の一括補助金(所得税免除)が出て、
その後は、たとえば日本と比べるなら、ほぼ日本における給料の
2倍近い月収を出す。5年以内の中国国内における収入の内、住
宅手当、飲食手当、引越し代、票訪問にかかる経費、子女の教育
費などについて免税となる。毎招致人材の雇用機関が、招致人材
の帰国あるいは入国前の収入水準を参考に、本人と協議し、合理
的な賃金額を決めるとなってはいるが、中国人で「祖国愛が強い
人」は別だが、外国人は、表的には給料がよほど良くない限り動
かない。したがって、給料は「魅力的な程度に」いいと考えてい
いだろう。             ──遠藤誉著/PHP/
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 このような処遇もさることながら、研究者にとって関心がある
のは「研究費」です。これに関しては、高いレベルの人材を獲得
しようと、中国の各地方政府で競争になっています。これについ
て、遠藤誉氏は次のように書いています。
─────────────────────────────
 2017年3月24日付の「光明日報」(1949年6月に創
刊された中共中央宣伝部直轄の新聞)は、研究者に対する史上最
高の待遇として、「年収500万元(約8225万円)、科研費
3000万元(約5億円)」という金額が現れたと報じた。
 それも地方の大学で、たとえば華北水利水電大学、杭州電子科
技大学天津工業大学などで、天津は別だが、わりあい地方に分散
している。            ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 この「千人計画」に基づいて集めた各領域におけるハイレベル
の人材は、2012年7月の時点で、千人の倍以上の2263名
に達しています。そこで2011年8月からは、「千人計画」の
なかで「外専千人計画」を加えて、外国国籍の専門家の招聘にも
力を入れています。既に2014年の時点で、242人の招聘に
成功しているといわれています。
 国籍については、米国が最も多く、シンガポール、英国、カナ
ダ、ドイツ、デンマーク、オーストラリア、そして日本と世界中
から招聘しているのです。さらに、2012年8月には「万人計
画」が発足しています。「万人計画」は、向こう10年間と期限
が切られているので、2022年までに達成を目指すことになり
ます。2012年から発足した習近平政権は、「万人計画」の達
成には、強い意欲を示しています。
 それは、2012年11月に総書記に就任したばかりの習近平
氏が、12月5日に、中国で研究に従事している外国人専門家を
招集して、北京で座談会を開いていることでも習政権がこれに力
を入れることは明らかであったのです。
 このように、中国では、今や国を上げて、ハイレベルの人材集
めに狂奔していますが、これには、米国に追い付き、追い越すと
いう目標達成のためだけではなく、その背景として、中国の強い
危機感があるのです。それは、「人材の持続性」を将来的に確保
するための人材戦略です。
 それは、中国の文化大革命の結果生じたもので、遠藤誉氏はこ
れについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 なぜなら中国には、1966年から76年にかけて、教育機関
が閉鎖されていたという、人材育成に関する「空白の10年間」
がある。したがって政界だろうと経済界だろうと、年齢的にその
時期にさしかかった若者たちは教育を受けていなくて、「人材の
空白」があるのだ。1978年12月に改革開放が宣言され、中
国国内の大学も77年から再開されたものの、知的欲求に餓えて
10年間も肉体労働に従事させられていた頭脳たちは、まるで堰
を切ったように一斉に海外に出てしまった。国費留学生の出国が
認められたのは1981年で、私費留学生は83年からである。
 だから1996年の第9次5ヵ年計画から、海外に散らばった
頭脳たちを呼び戻す「中国全球人材信息網」というネットワーク
を形成して、留学人員創業パークに招き入れたのだが、これにも
やがては限界が来る。       ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 毛沢東の愚かな10年におよぶ文化大革命によって教育を奪わ
れた世代は、物凄い知的欲求に衝かれて海外に飛び出していった
人たちであり、根性があり、それぞれ優秀な人材に育った人が多
いのです。だからこそ、中国政府は、それらの人材を中国に帰国
させようとしてやっきとなっているのです。これが「千人計画」
「万人計画」の背景にあるのです。
 企業の人材の採用でもそうですが、景気が悪いからといって、
採用しなかったり、採用を大幅に絞ると、人材の持続性が切れ、
企業の成長力に支障をもたらすことになるのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/054]

≪画像および関連情報≫
 ●国内ハイレベル人材育成「万人計画」名簿第一弾発表
  ───────────────────────────
   中国中央人材工作協調グループ弁公室はこのほど、国家ハ
  イレベル人材特別支援計画(通称「万人計画」)の対象者名
  簿第一弾を正式に発表したことを明らかにした。人民日報が
  報じた。
   「万人計画」は、「千人計画(海外ハイレベル人材招致計
  画)」と並行して進められている、国家級重大人材誘致プロ
  ジェクトで、対象者第一弾に選ばれたのは、合計277人。
  277人の内訳は「傑出した人材」6人、「科学技術イノベ
  ーションのリーダー型人材」72人、「傑出した青年人材」
  199人。このほか「科学技術起業分野のリーダー型人材」
  「哲学・社会科学分野のリーダー型人材」「大学教学分野の
  優秀教員」「百千万プロジェクトのリーダー型人材」の4タ
  イプの人材についても、すでに第一回評定・選抜が終了して
  おり、最終評定・選抜や公示などの手順を経て近く公表され
  る。「万人計画」の対象者選抜は、国内外での実績を十分に
  考慮し、「成功の経験を参考とし、『ベスト・オブ・ザ・ベ
  スト』を選抜する」という原則にのっとり、度重なる推薦を
  通じ、厳しい篩分けによって進められた。今回選ばれた「傑
  出した人材」と、「科学技術イノベーションのリーダー型人
  材」は全員、「863計画」や「973計画」など国家重大
  科学研究計画のチームリーダーや、ハイレベル革新チームの
  リーダーを担当している。    https://bit.ly/2TwKzPO
  ───────────────────────────

中国文化大革命.jpg
中国文化大革命
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2019年03月26日

Electronic Journal 第4974号/「中国は米国に深く手を入れている」

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 □□□□□□□□ Electronic Journal  □□□□□□□□
 □□□□□□□□ No.4974 2019/03/26  □□□□□□□□
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 ■■■■■■■■■ Hirano Office ■■■■■■■■■
 ■■■■■■■ h_hirano@d1.dion.ne.jp ■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 2016年の米国大統領選挙──習近平政権としては、選挙に
おいて、ヒラリー、トランプ、どちらの候補者が勝っても対応で
きるよう両様の構えをとっていたのです。とくにトランプ大統領
が実現したとき、何が起きるか、中国への影響はどうか、につい
て、慎重に分析し、準備していたのです。
 習政権は、トランプ氏が選挙中に次のようにいっていたことを
重視し、あらかじめ対策を立てています。
─────────────────────────────
        中国を為替操作国に指定する
─────────────────────────────
 このため習近平主席は、自身の母校である清華大学経済管理学
院にある「顧問委員会」に、米国の名だたる企業のトップに委員
になってもらうことによって強化し、トランプ大統領が本当に中
国を為替操作国に指定しようとしたときに、力になってもらおう
としていたフシがあります。この顧問委員会について、遠藤誉氏
は自著において、次のように述べています。
─────────────────────────────
 この顧問委員会は、清華大学の出身である朱鎔基元首相(国務
院総理)が2000年に設立させたもので、もともとは90年代
後半に朱鎔基首相が強力に推進していたWTO(世界貿易機関)
に加盟するための経済貿易研究が目的だった。
 顧問委員会の名誉主席は今も朱鎔基元首相だが、そこにはアメ
リカの大手企業のCEOが数十名も入っている。たとえば、ゴー
ルドマンサックスの元CEOで、元米財務長官だったヘンリー・
ポールソンやJPモルガン・チエースのCEOであるジュイミー
・ダイモンなどがおり、習近平は2016年になって、さらに新
しくテスラ・モーターズやスペースXのCEOであるイ一口ン・
マスク氏を委員に入れた。ザッカーバーグも新委員だ。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 遠藤氏の本には、顧問委員会の最新のリストが掲載されていま
すが、それを見ると、遠藤氏が上げた人たちの他にも、米国の著
名な金融企業、IT企業などのトップが、ズラリと名前を並べて
いるのです。
 ティム・クックアップルCEO、マイケル・デル/デルテクノ
ロジー会長兼CEO、インドラ・ヌーイペプシコ会長兼CEO、
ジニ・ロメッティIBM会長兼社長兼CEO、それに、カルロス
・ゴーン氏の名前まであります。
 遠藤氏によると、なかでもシュテファン・シュワルツマン/ブ
ラックストーングループ共同創立者およびCEOが委員にいるこ
とは重要であるといっています。ブラックストーングループは投
資ファンドです。シュテファン・シュワルツマン氏は「蘇世民」
という中国名を持つほど、親中国派の人物で、習近平氏とは大の
仲良しであり、トランプ政権が誕生してしばらくの間、「大統領
戦略政策フォーラム」という組織の議長をしていたほどです。
 ちなみに、イーロン・マスク氏もこのシュワルツマン氏がフォ
ーラム・メンバーに選んだのですが、イーロン・マスク氏がトラ
ンプ政権の移民政策を批判したことが原因で、フォーラム自体が
撤廃されてしまっています。しかし、2人とも顧問委員会の委員
にはしっかりと残っています。
 注目すべきことは、シュワルツマン氏は精華大学のなかに「蘇
世民書院」という名の機関を立ち上げていることです。この機関
は、各界のトップリーダーを目指すグローバル人材を育てること
を目的としています。これについて、遠藤誉氏の本には、次の説
明があります。
─────────────────────────────
 アメリカを中心として、世界トップの経営者を教授として招聘
し、書院を卒業したのちに関連したアメリカの大企業で実習させ
世界トップレベルの経営者に育てていく。顧問委員会の多くの委
員が、アメリカのCEOなどなので、その企業に行くケースが多
い。(中略)
 蘇世民書院で教えている教授陣の多くは、アメリカのハーバー
ド大学、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学、イェ
ール大学、カルフォルニア大学などの名門大学や、イギリスのオ
ックスフォード大学やウェストミンスター大学あるいは、シンガ
ポールのシンガポール国立大学の教授や名誉教授など、錚々たる
メンバーが30名ほど揃っている。 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 しかし、どうやら、習近平主席の目論見は外れたようです。ト
ランプ大統領は、規格にはまらない大統領であり、ボールは習政
権が予想していない角度から飛んできたのです。それは、米国の
知的財産の保護という視点からの中国批判です。それは、ペンス
副大統領の演説(以下、参照)に明確にあらわれています。
 この問題は、小手先の対応策では収めることは不可能です。ト
ランプ政権が続いて、この方向からの攻撃が強まると、上記蘇世
民書院などは確実に槍玉に上がります。
─────────────────────────────
 中国政府は、21世紀の経済の圧倒的なシェアを占めるために
官僚や企業に対し、米国の経済的リーダーシップの基礎である知
的財産を、あらゆる必要な手段を用いて取得するよう指示してき
ました。中国政府は現在、多くの米国企業に対し、中国で事業を
行うための対価として、企業秘密を提出することを要求していま
す。また、米国企業の創造物の所有権を得るために、米国企業の
買収を調整し、出資しています。最悪なことに、中国の安全保障
機関が、最先端の軍事計画を含む米国の技術の大規模な窃盗の黒
幕です。そして、中国共産党は盗んだ技術を使って大規模に民間
技術を軍事技術に転用しています。  https://bit.ly/2OPqMwq
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/055]

≪画像および関連情報≫
 ●中国ビジネス研究所代表、多摩大学大学院フェロー/沈才彬
  ───────────────────────────
   シュワルツマンは、アメリカ人の名前で、ニューヨークに
  本社を置く米国最大の投資ファンド会社『ブラックストーン
  グループ』のCEOを務めるスティーブン・シュワルツマン
  氏のこと。蘇世民は氏の中国語名である。清華大学には20
  学院、54学部があるが、人の名前で学院や学部を命名した
  のは初めてである。
   外国人8割、世界名門校の教授陣による英語授業、全寮制
  食事無料、最高額奨学金支給、入学のための国際旅費全額支
  給など、清華大学に前例がない事柄が多く、神秘なる学院と
  言われる。なぜ米国人の名前で学院を命名したか?シュワル
  ツマン学院は一体どんな学院?何のために設立し、どんな特
  徴を持つか?筆者は今年7月下旬、多くの疑問を持ちながら
  清華大学シュワルツマン学院を訪れた。
   広大な清華大学キャンパス。周囲を歩けば、1時間以上か
  かる。正門から北方の奥に向かい、約40分歩くと、緑に囲
  まれる灰色のレンガ造りの低層ビルが見えてくる。入口付近
  の壁には「SCHWARZMAN COLLEGE」と「蘇
  世民書院」と書いてある。ここはまさに神秘なるシュワルツ
  マン学院だ。学院関係者の紹介によれば、2013年ブラッ
  クストーングループCEOを務めるスティーブン・シュワル
  ツマン氏は1億ドルの私財を清華大学に寄付し、毎年200
  名の外国留学生を支援する奨学金プロジェクトを設立した。
  これはこれまで中国の大学が海外から受け入れた最大規模の
  寄付金でもある。        https://bit.ly/2FxncSs
  ───────────────────────────

蘇世民書院交流午餐会
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2019年03月27日

●中国のある有名な教授の自殺事件(EJ第4975号)

 2018年12月1日のことです。この日、アルゼンチンのブ
ェノスアイレスで、米中首脳会談が開催され、米中貿易戦争の一
時休戦が決まっています。同時にこの日は、ファーウェイの孟晩
舟副会長兼CFOが、カナダで逮捕されています。
 これらのニュースは、世界中に大々的に報道されたので、誰で
も知っています。しかし、その同じ12月1日に、スタンフォー
ド大学の張首晟教授が亡くなっていることについては、一部の人
しか知らないはずです。死因は自殺と見られています。しかも、
これら3つの事件は、無関係ではなく、すべてがつながっている
のです。
 張首晟スタンフォード大学教授とは何者でしょうか。
 張首晟氏は、1963年に中国・上海で生まれ、15歳で上海
の名門・復旦大学に入学し、ドイツ留学後、ニューヨーク州立大
学で物理学博士号を取得しています。33歳で米スタンフォード
大学の教授になり、トポロジカル絶縁体と量子スピンホール効果
で画期的成果を上げ、「将来のノーベル賞候補」といわれるよう
になっていたのです。
 米科学誌「サイエンス」は、張教授率いるチームが2006年
に提唱した量子スピンホール効果について「世界10大成果」の
1つと評価するほど、価値のある素晴らしいものだったのです。
 ところが、12月1日、カルフォルニア州サンフランシスコ市
の大学構内で、飛び降り自殺をしたとされています。まだ55歳
の若さであり、研究者として前途洋々であっただけに、その死を
訝る人が多くなっています。
 2018年4月、グーグルでの張首晟教授の講演(英語)の映
像があります。
─────────────────────────────
 ◎ITの将来──量子コンピューティング、AI、ブロック
  チェーンについて  ──張首晟スタンフォード大学教授
                 https://bit.ly/2TSpsMT
─────────────────────────────
 これほどの実績を上げている学者を中国が放っておくはずがあ
りません。張首晟氏はスタンフォード大学教授とともに、習近平
主席の母校である北京・精華大学の客員教授や、江沢民国家主席
の長男が学長を務める上海科技大学の特任教授も務めていたので
す。したがって、当然「千人計画」のメンバーに選ばれていたこ
とは間違いないと思われます。
 それどころか、この張首晟教授こそ「千人計画」の発案者の1
人ともいわれているのです。それに加えて、単なる研究者とは思
えないこともあります。それは、習近平氏が副主席のときに創設
された「国家一等功」賞を次のメンバーとともに受賞しているの
です。この賞を授与されるということは、国家に多大な貢献をし
ていることの証になります。したがって、「千人計画」の対象者
になっていることは明らかです。
─────────────────────────────
  1.香港「フェニックステレビ」の劉長楽会長兼CEO
  2.「アリババグループ」ジャック・マー(馬雲)会長
  3.中国IT企業「テンセント」のポニー・マーCEO
  4.ファーウェイ(華為技術)の創業者/任正非CEO
  5.張首晟スタンフォード大学教授/精華大学客員教授
─────────────────────────────
 トランプ政権になってからは、FBIが「千人計画」の対象者
に対する捜索を開始し、「知財泥棒」として逮捕されるケースが
多くなり、海外にいる中国人の間では、「千人計画」ならぬ「入
獄計画」と揶揄されるようになったのです。
 2018年6月には、米国防総省は、下院軍事委員会の公聴会
で、次の警告を行っています。
─────────────────────────────
 超ハイレベル人材選抜プログラム(「千人計画」)の目的は
 米国の知的財産を獲得することにある。  ──米国防総省
─────────────────────────────
 一体何が起きたのでしようか。
 これに関連する情報は、ネットに散見されますが、「大紀元」
の情報を引用します。この「大紀元」というメディアは、米国の
華僑によって設立され、新聞のかたちで主に中国人に向けて配信
されますが、中国共産党に対立するスタンスでの、中国国内事情
の暴露報道が特徴的です。
─────────────────────────────
 サウスカロライナ大学の謝田教授は3つの情報源から得た話と
して、「ヒューストンの研究機関にFBIが訪れた。その直後、
複数の中国人研究者が解雇された」と大紀元に伝えた。在米学者
の間では「FBIは千人計画のリストに基づいて違反者を摘発し
ている」との話が広がっている。
 テキサステック大学は「千人計画に参加するアメリカ人教員を
処罰する」との声明を発表し、同大で客員教授に就任予定の中国
人教授の招へいをキャンセルした。
 そんな中、ネット上の複数の投稿によると、中国教育部は各大
学に対して、「千人計画」が含まれた情報をウェブサイトから削
除するよう通達したという。「友人が通う大学では、千人計画に
リクルートされたある教授に関する情報が全て削除された」「国
内では、(当局が)大規模に『千人計画』の4文字が含まれた投
稿や、リストに入っている研究者の情報を削除している。なぜだ
ろう」。SNS微信(ウィーチャット)の投稿によると、教育部
は、その後、各大学のウェブサイトを点検したという、徹底ぶり
だった。              http://exci.to/2HVy4e6
─────────────────────────────
 このようなFBIによる捜査のなかで、2018年12月1日
ファーウェイの孟晩舟副会長が逮捕され、FBIの追及に追い詰
められたと思われる張首晟教授が自殺をしているのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/056]

≪画像および関連情報≫
 ●「千人計画」のリクルーターになる/財経新聞
  ───────────────────────────
   日本のシリコンバレーと称される筑波で科学技術を学び、
  日本政府から6億円ほどの支援を得てハイテク分野の研究で
  日本と中国で成果を収めてきた中国人の科学技術者がいる。
  中国に帰国した彼は現在、中国共産党政府が、海外のハイレ
  ベルの人材を招聘するプログラム「千人計画」のリクルータ
  ーとなり、人材をスカウトしている。
   中国共産党中央組織部が率いる、海外ハイレベル人材招致
  「千人計画」は2008年にスタートした。当局が公開する
  資料によると、研究職、技術者、大企業での知的財産、技術
  保護の能力など、海外のハイレベルの人材を中国に高待遇で
  招き入れ、そのスキルを中国へ「輸入」する人材計画だ。
   人材の募集要項によると、55歳以下で国籍を問わず、著
  名研究機関の研究者や大手企業で上級管理職を経験した人物
  また中国が求めるハイレベルイノベーション創業人材などを
  対象としている。
   対象者はかなりの厚遇で迎えられる。中央財政からは対象
  人材に一人当たり100万元(約1400万円)の国家奨励
  金とする一括補助が受けられるほか、社会保障制度が適応さ
  れ、配偶者の就業先や子女の就学も希望に応じて手配される
  という。また収入水準も雇用機関と協議できるとしている。
                  https://bit.ly/2U69air
  ───────────────────────────

4975-ショーチェン・ザン博士.jpg
ショーチェン・ザン博士


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2019年03月28日

●「中国の留学生管理は徹底している」(EJ第4976号)

 1978年に改革開放を実施して、中国で「4つの近代化」を
成し遂げようとしたケ小平は、そのときから「諸外国から情報を
集める」ことを徹底しようと考えていたといいます。「4つの近
代化」とは次の4つです。
─────────────────────────────
        1.  「工業」の近代化
        2.  「農業」の近代化
        3.  「国防」の近代化
        4.「科学技術」の近代化
─────────────────────────────
 そのさい、外交方針としては、「韜光養晦」の方針を徹底させ
たのです。「韜光」とは名声や才覚を覆い隠すこと、「養晦」は
隠居するというのが本来の意味ですが、一般には、爪を隠し、才
能を覆い隠し、時期を待つ戦術を形容する言葉とされています。
そ-うでないと、情報は集まらないと考えたからです。
 具体的には、世界中に散らばる中国からの留学生を中心とする
情報収集、中国に進出する外国企業からのノウハウの収集です。
それは、実に巧妙なものであり、それが現代の中国を作ることに
貢献したのです。しかし、現代の中国の習近平政権では、「韜光
養晦」の方針のマントをかなぐり捨て、あらゆる方面に中国の力
を誇示するようになっています。
 それでは、留学生を通じて、どのようにして情報を収集するの
でしょうか。その具体的な管理方法について遠藤誉氏は、自らの
体験から、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 世界各国にいる中国人留学生は、各大学で、「中国留学生学友
会」というものを結成していて、学友会の会長は各国に駐在して
いる中国大使館教育処と連携を取り、大学における中国人留学生
の基本情報を提供している。つまり、どの国のどの大学における
中国人留学生も、全員が中国大使館教育処の管轄下にあるという
ことになる。
 この情報を一瞬で、中国中央政府の国家教育部に報告すれば、
中国政府中央は全世界にいる中国人留学生の情報を掌握し、監視
あるいは管轄することが可能となる。中国人留学生の安全を守る
ため、と言われれば何も言い返せないが、目的がそれだけではな
いことは、誰の目にも明らかだろう。小さな大学とか、その大学
にあまり多くの留学生がいない場合は例外だが、たとえば日本の
国立大学などは、すべてこの管轄下にあるということは言える。
それは大学院に進んでも同じで、教育機関を卒業し、その国の企
業で働いていたり、あるいはその国で起業している人たちは、国
家人事部という中央行政省庁が管轄する。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 これで分かるように、中国では、留学生が、どこで、どのよう
な研究をし、どのような仕事を得て、現在どのような地位に就き
どういう成果を上げているか、完全に把握しているのです。
 中国では、留学生のことは、「留学人員」、もしくは「海外学
子」という言葉で呼んでいます。遠藤誉氏によると、2001年
6月に次のようなイベントが開かれているのです。
─────────────────────────────
  期日:2001年6月29日
  内容:「留学人員科学技術交流会」
  主催:瀋陽市人民政府/科学技術委員会工業科学技術処
─────────────────────────────
 このイベントでは、事前にウェブサイトに出ている「難題招標
表」に基づいて、留学人員は招標する必要があります。「招標」
とは「入札」と同じ意味です。
 「難題招標表」には、瀋陽市にある重点企業が抱える「難題」
──文字通り、なかなか解決できないでいる課題が載っているの
です。留学人員は、そのなかで、自分が解決できると思われる難
題をマーキングし、提供できる技術、専門分野、連絡先、現職な
どを記入するのです。これが「招標」です。企業側は、応募して
きた留学人員を検討し、最も適切と思われる「頭脳」を落札し、
その留学人員には、科学技術交流会に出席する資格を与える仕組
みになっています。
 その交流会に実際に出席した遠藤誉氏によると、儀式は瀋陽体
育館に約7000人集めて行われ、中国人民解放軍儀仗隊による
国旗掲揚まであるものものしいものです。そして、別会場で行わ
れた交流会の様子を遠藤氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 盛大な開幕式が終わると、会場は藩陽市の国家ハイテク技術産
業開発区にある施設(文字が難しく表示できないのでこの表現を
使うことにする)に移った。「難題招標表」だけで何組かは海外
にいた段階で「落札」してしまったらしい。これを「得標」と称
する。地方政府が資金援助をするので、堂々と公開で技術提供の
調印式を行う。
 いかにも「羽ばたきます」ということを象徴したような、翼を
空に広げた造りの21階建ての施設には、インターネットで見た
「難題招標表」よりも詳細な人材募集のポスターが並んでいる。
あの「難題招標表」リストに載っていた以外の技術を求める人材
募集広告も新たに付け加えられていて、業績や能力により通常の
10倍以上の給料を出すというものもある。調印式は1階の国際
会議場で行われた。真紅の絨毯が敷き詰められた階段教室のよう
な大会議場には、大きな半円を措いた舞台があり、20人ほどが
横並びに座れる横幅がある。細いテーブルと椅子の後ろに、儀式
に立ち会う国や地方の指導層がズラリと立って並んでいる。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/057]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の海外留学に変化の兆し/海帰族・海待族
  ───────────────────────────
   中国経済が世界に大きな影響を及ぼすようになってきた。
  中国躍進の背景には、「海帰族」(海外留学帰国者)という
  大きなブレーン集団が貢献していることは間違いない。20
  05年までに「海帰族」は23万人を超えた。一方、最近に
  なって一部の「海帰族」が「海待族」(仕事が見つけられず
  家で待機する「海帰族」)に転化する現象が生まれている。
  同じ「海帰族」でありながら、その明暗がはっきり分かれて
  いる。しかしこれは、中国社会がさらに進化していく過渡期
  の現象であり、決して悲観する必要はない。
   1970年代以降、中国では改革開放政策が取られ、社会
  の各方面で改革が行われてきた。また、欧米諸国の先進科学
  技術を習い、文化大革命によって多大の影響を受けた欧米諸
  国との経済格差を取り戻すため、1978年に最初のアメリ
  カ留学組が派遣され、長い間、中断されていた留学生の海外
  派遣が再開された。
   しかしその後、長年にわたって海外に出る留学生の人数は
  大きな成長を見せず、1992年には、6540人に過ぎな
  かった。このような状況は1990年代後半まで続き、留学
  はいわゆる少数のエリート学生のみの特権になっていた。こ
  れらのエリートをいかに帰国させ国内で活動させるか。これ
  が中国の大きな課題となっていた。
                  https://bit.ly/2YnaVau
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国連で演説するケ小平.jpg
国連で演説するケ小平
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2019年03月29日

●「中国では政府に国家人事部がある」(EJ第4977号)

 中国の人口は13億9008万人ですが、現在中国人は世界中
に住んでいます。諸外国に住む中国人のことを「華僑」といいま
すが、中国共産党政府による定義では次のようになっています。
─────────────────────────────
 「華僑」とは、中国大陸・台湾・香港・マカオ以外の国家・地
域に移住しながらも、中国の国籍を持つ漢民族である。
                  https://bit.ly/1Nyl4Y4
─────────────────────────────
 華僑の他に「華人」という言葉もあります。華僑は、中華人民
共和国の国籍を保持したまま外国に居住する者と、現地国籍も有
する二重国籍の者の両方を意味します。この他に、もともとは中
国人であるけれども、現地国籍しか持っていない者がいます。こ
れを「華人」というのです。現在の中国は、国に役立つ技術を持
つ華僑はもちろん、華人も含めて帰国させようとしています。
 ケ小平が目標として目指した「4つの近代化」を達成するため
には、優秀で、将来中国の発展に役立つ人材は、どこにいようと
中央政府として把握しておく必要があります。
 世界各国には、「中国人博士協会」というものがあります。日
本にも「全日本中国人博士協会」があります。そのサイトには、
協会について次の説明があります。
─────────────────────────────
 全日本中国人博士協会(以下、博士協会と略記)は、1996
年7月に発足し、日本の教育機関・研究機関・民間企業などにお
いて、学術研究・技術開発・企業経営などに従事している中国人
博士ならびに日本から帰国された博士により構成されている団体
です。               https://bit.ly/2Wtdkib
─────────────────────────────
 これら各国の博士協会は、国家人事部(名称は頻繁に変更され
ている)という中央行政省庁が管轄しています。つまり、全世界
の博士協会が「できる華僑・華人」をウォッチングし、上層部に
報告しているのです。
 遠藤誉氏の本に、在日中国博士協会による中国人留学人員の現
況報告のメールの概要が掲載されています。これは、遠藤氏の筑
波大学での教え子からの転送メールです。タイトルは「広州科技
交流会の報告」になっています。
 このなかで、米国、とくにシリコンバレーに留学している留学
人員の意識の高さに比べて、日本に留学している留学人員の意識
の薄さが指摘されています。その部分を引用します。
─────────────────────────────
 いま、アメリカや世界各地で活躍している留学人員たちが帰国
して中国で創業するのがブームになっています。アメリカのシリ
コンバレーの中国人企業主の同胞たちは、ふつうの白人たちの収
入よりも何倍も多い収入を得ているようです。カリフオルニアの
シリコンバレーには2万社にのぼる企業が林立しているそうです
が、そのうち、中国人とインド人によって起こされた企業の割合
は、現地の白人が起こした企業数を遥かに上回り、白人はもはや
「少数民族」になりつつあると聞いています。そこでは、新しい
技術を持った創業者は、つねに新しい機会に恵まれているようで
す。日本にいる皆さんには、まだまだこのような意識が薄いと思
います。自分は日本人よりも優れていると自認している人は多い
でしょうが、それでも結局は日本人が経営する大企業とよばれる
会社に就職して、日本人と同じ給料がもらえれば、それで万々歳
と思う人が、それ以上に多いことは非常に残念な事実です。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 在日の中国博士協会が焦っているのは、日本には高学歴の中国
人留学生の数が少なく、それを反映して在日の博士協会のパワー
も小さくなっているからです。現在、日本には観光レベルでは、
中国人が圧倒的に多いですが、学問や新技術の開発などにおいて
日本は魅力のある国ではなくなっているのです。ちなみに、日本
の筑波大学は、各国留学生にとって「日本のシリコンバレー」と
いわれているそうです。日本人のほとんどはそんなことは知らな
いと思いますが・・・。
 2000年頃からは、「SCOBA(スコバ)」という制度も
始まっています。「SCOBA」は次の略号です。
─────────────────────────────
  ◎SCOBA/硅谷留美博士企業化協会
  Silicon Vally Chinese Overseas Business Association
─────────────────────────────
 遠藤氏の情報が凄いことは、たとえば、この「SCOBA」に
してもウィキペディアには、中国のサイトを含めて、出てこない
ことです。つまり、最新の情報ということになります。
 SCOBAとは、「留学人員向けの短期帰国資金援助国家教育
部経費」というタイトルで始められた制度ということですが、制
度の詳細に関しては不明です。ただ、そのときのSCOBAの担
当は、国家教育部になっていて、国家人事部ではないのです。
 しかし、1999年に国家人事部が「グローバル・チャイナ・
タレンツ・ネットワーク」を立ち上げると、それ以後は、国家人
事部の担当になったのです。遠藤氏によると、当時国家人事部と
国家教育部の間には、相当根強い縄張り争いがあったのではない
かということです。
 そもそも企業のように、国家人事部とか国家教育部という中央
政府行政組織があることが異常であり、国家が人民を国家権力に
よって厳しく管理している実態が読み取れます。中国にとって目
下の「敵」は米国のみです。したがって、米国にマトを絞って手
段を選ばず、人材戦略を展開中です。しかし、これに「待った」
をかけたのはトランプ米政権です。これはトランプ大統領の大成
果であるといえます。これに対しオバマ前大統領は本当に何もし
なかったといえます。 ──[米中ロ覇権争いの行方/058]

≪画像および関連情報≫
 ●外国人留学生がガッカリする日本の就職事情
  ───────────────────────────
   「就職の面接で『いずれは母国に戻る』と回答したら不採
  用になると聞きました。せっかく日本で勉強したのだから、
  まずは日本で仕事をしてみようというのが素直な気持ちです
  が、正直に答えてはいけないのは変だと思います」
   「日本で働きたいと思っても、大企業ならともかく、そも
  そも名前を知らない中小企業と出会うチャンスはほとんどあ
  りません」「大学の留学課は、生活や履修のことには相談に
  乗ってくれますが、就職のこととなると、まるで取り合って
  くれません。『キャリアセンターに相談してください』と言
  われ、キャリアセンターに行ったら、『留学課で相談してく
  れ』とたらい回しにあいました」「工場や小売り・サービス
  業で働くために日本へ留学に来たワケではないのですが、就
  職できそうな企業はそれらばっかりです」
   これは海外から日本へ学びに来ている外国人留学生の声で
  す。彼ら、彼女らの多くが日本国内で就職をしようと思って
  も、さまざまなハードルに阻まれ、うまくいく人は多くあり
  ません。日本政府は2008年に、当時14万人だった留学
  生を2020年をメドに30万人まで増やす「留学生30万
  人計画」を打ち出しました。
   首相官邸のウェブサイトによれば、同計画は、日本を世界
  により開かれた国とする「グローバル戦略」の一環だとして
  います。計画の実施から9年経ったいま、日本学生支援機構
  の高等教育機関などの外国人留学生在籍状況調査によれば、
  2016年5月1日現在の外国人留学生は、23万9287
  人。8年で約10万人増えた計算です。
                  https://bit.ly/2uvYz25
  ───────−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


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遠藤誉氏/日本記者クラブ講演
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2019年04月01日

●「なぜ、中国は技術大国になったか」(EJ第4978号)

 日本では、最近モノを売るのに「日本製です」とか「メイド・
イン・ジャパン」を強調するようになっています。ハズキルーペ
のCMなどはまさにそうです。なぜ、そんなアナウンスをするの
かというと、その方が、購入者が安心するからです。「日本製な
ら、大丈夫だ」と思わせるためです。ネットでの販売ではとくに
この安心が必要なのです。
 こんな話があります。日本のマスク業者が中国に工場を建て、
生産し、販売していたのですが、よく売れたそうです。しかし、
そのデザインをそっくり真似た大量のニセモノが中国に出回り、
その商品の生産を中止せざるを得なくなったといいます。
 相当前の話なのに、そのニセモノマスクは現在も同じブランド
で大量生産され、一部は、日本にも入ってきているといいます。
その生産工場は不衛生で、マスクの品質も日本製に比べて、著し
く落ちるそうです。中国人の観光客も日本ではドラックストアな
どで、現在でもこうしたマスクなどの衛生商品、化粧品、薬など
を大量に購入しています。「中国人は、自分の国を信じていない
人が多い。中国製商品の安全性に不安があったり、偽物が横行し
ていると思っていたりする」と当の中国人がいっているのです。
自分の身は自分で守るというわけです。
 中国では、ちゃんとしたモーターが作れないといわれます。自
動車製造を例にとると、中国の自動車メーカーの多くが、三菱自
動車のエンジンの供給を受けているといわれます。三菱自動車は
中国に瀋陽航天三菱とハルピン東安三菱の2社の合弁会社があり
中国でエンジンを製造しています。なぜ、三菱製品を使うのかと
いうと、「三菱エンジンは安定していて燃費が良く、メンテナン
スが容易であり、中国で生産しているためコストも安い」という
ことを上げています。あるネットユーザーは、尖閣諸島国有化で
日本製品の不買運動が起きたとき、こういっています。
─────────────────────────────
 中国車でさえ心臓部は日本なのに、日本製品不買なんて言える
のか?ボールペンのボールすら作れないんだから、エンジンは言
うまでもない。中国ブランドには、成熟したエンジン製造技術が
ない。             ──ある中国ネットユーザー
─────────────────────────────
 そういう中国が、半導体製造や宇宙技術などの分野において、
世界を上回る技術を有し、やがては米国を超える可能性があると
いうのですから、そこにいささか違和感を持つ人がいるのは、不
思議ではないと思います。
 中国が自動車のエンジンなどよりも、はるかに難しい半導体の
生産において、米国のレベルに迫りつつあるというのは、大変な
驚きであり、にわかには信じられない人も多いと思います。だか
らこそ、まともに着実に研究を積み上げた結果ではないのではな
いかと思われてしまうのです。
 ペンス米副大統領は、今や有名になった中国を批判する演説で
「中国共産党は自由かつ公正な貿易とは対照的な『政策的武器』
を使っている」といい、その政策的武器とは、関税・総量規制・
為替操作・強制的技術供与・知的財産窃盗、および対外投資に必
ず組み込まれる国営企業群などであり、それによって、北京の製
造業基盤が作り上げられたと指摘しているのです。
 しかし、半導体製造や宇宙技術などの分野において中国が高度
なレベルに達しているのは事実のようです。それらについて、今
までは詳しい情報はなかったのですが、遠藤氏の『中国製造20
25」の衝撃』の著作に詳しく書かれています。それは凄い情報
です。この著作のなかで、遠藤氏は、自分が「中国の回し者」と
思われてしまうと困るので、日本の半導体のコア技術の専門家の
言説を詳しく紹介し、そういう疑念を持たれないようにしている
として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 私が中国の土着の感覚で追いかけている中国の裏事情から行き
つく結果と、彼等(日本の半導体コア技術の専門家)の分析結果
が、最終的には一致していくのも心強く、興味深い。
 さて、こういった専門家たちが異口同音に強調し、驚いている
のは、中国半導体産業の驚異的な発展のスピードなのである。私
が中国生まれの中国育ちであり、かつては中国政府のシンクタン
ク中国社会科学院で客員教授を務めていたことから、「アイツは
親中だ」とネットで罵倒する人もいれば、『毛沢東日本軍と共謀
した男』(新潮新書)などで「中国共産党の嘘」を徹底して暴い
たものだから、「アイツは反中、反共だ!」と、これもまたネッ
トで叩かれたりする。「親中」と「反中」の両方を非難されるの
なら、ちょうど「中立」だということが分かっていいのかもしれ
ないとも思う。
 しかし、「2025」を解剖するに当たり、また「親中」とか
「中国を褒めすぎ」などと謂れなき非難を受けるのも不本意だし
何よりもここに書いている内容が事実であることを信じてもらわ
ないと困るので、日本の第一級の専門家たちの客観的な見解を引
用させていただこうと思う。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 遠藤誉氏の本を読んで、私自身は遠藤氏のことを「親中」とか
「中国を褒めすぎ」とは思いませんが、何となく習近平主席への
畏敬の念というか、尊敬の念というか、そういうものが少しある
のではないかと感じます。しかし、この本に書かれている情報は
真実であり、その内容は驚くべきものです。
 また、遠藤氏の文章に、高度な半導体技術やハイレベルな宇宙
技術を持ち、米国に迫りつつある中国という国に対する高揚感の
ようなものを感じるのは、私だけでしょうか。この点については
この問題に関心を持つ普通の日本人とは少し違うなという感じを
抱いています。やはり、中国で生まれ、中国で育つと、そうなる
のでしょうか。    ──[米中ロ覇権争いの行方/059]

≪画像および関連情報≫
 ●花田編集長の右向け右!/動画あり
  ───────────────────────────
   2015年4月3日、金曜夜10時、第46回のゲストは
  東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授の遠藤
  誉さんです。『チャイナ・ナイン』『チャイナ・セブン』な
  どのベストセラーで中国を分析されてきた遠藤さんが、アジ
  アインフラ投資銀行(AIIB)をめぐる米中の暗闘を徹底
  解説します。遠藤さんは「中国は一党支配体制を維持するた
  め腐敗撲滅に力を入れているが、同時に一党支配を批判する
  言論を激しく弾圧している。しかし言論弾圧の中では腐敗は
  撲滅できない。言論を弾圧する一党支配があるからこそ腐敗
  は生まれるのだ。そこには中国の根本的な矛盾がある」と言
  います。そして、言論の自由のないところに、国際金融セン
  ターは似合わないとも言います。
   国際金融センターをアメリカから北京と上海に移そうとし
  ている中国。その中国が主導するAIIBに、イギリス、ド
  イツ、フランス、イタリアが雪崩を打って参加を表明しまし
  た。その切り崩しの背景とは?水面下では米中によって何を
  行われているのか?「習近平の力は、政権スタート時から毛
  沢東を越えている」と遠藤さん。「紅い皇帝」習近平が激し
  く進めている反腐敗運動の狙い、それは第一義的には「紅い
  王朝」の崩壊を防ぐという目標だったが、いまや国際金融界
  の覇者となる条件を整えるための最後の一手を打とうとして
  いると遠藤さんは言います。中国の戦略とチャイナ・マネー
  が勝つのか「自由と民主」に勝つのか。遠藤さんの分析を伺
  います。            https://bit.ly/2YBJzNI
  ─────────────────────


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毛沢東を超える習近平主席
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2019年04月02日

●「中国が量子通信衛星打ち上げ成功」(ÉJ第4979号)

 米国が中国に決定的に差をつけられているのは、「宇宙開発」
の分野ではないかと思います。宇宙開発といってもいろいろあり
ます。ロケットの打ち上げにはじまって、人工衛星、惑星探査、
有人宇宙飛行、そして宇宙ステーションなど、いろいろです。
 この分野では、既に述べているように、米国は社会主義国に遅
れをとる傾向が強いのです。かつてのアイゼンハワー大統領時代
のスプートニクショックがその好例です。社会主義国では、最高
指導者が決断すれば、開発に必要なヒト、モノ、カネはすぐ揃い
ますが、民主主義国では、予算ひとつとっても、さまざまな手続
や審議を行う必要があり、どうしても遅れてしまうのです。
 それでは、実際に宇宙技術のどの分野で中国が米国をリードし
ているのかについて考えていくことにします。
 2016年8月16日のことです。中国の国営通信社、新華社
は、次のニュースを大々的に報道したのです。サイエンス・ポー
タル・チャイナからニュースを引用します。
─────────────────────────────
 中国は16日午前1時40分、「長征2号丁」ロケットを使い
酒泉衛星発射センターから世界初の量子科学実験衛星(略称は、
「量子衛星」)「墨子号」を打ち上げた。新華社が伝えた。
 量子衛星は中国科学院宇宙科学先導特別プロジェクト第1陣の
科学実験衛星の一つで、その主な科学目標は、△衛星・地球間高
速量子暗号通信実験を行い、これを踏まえたうえで広域量子暗号
ネットワーク実験を行い、宇宙量子通信の実用化で重大な進展を
目指す。△宇宙スケールで量子もつれ通信・量子テレポーテーシ
ョン実験を行い、宇宙スケールの量子力学の整合性を確認する実
験・研究を行う。          https://bit.ly/2UoHVjg
─────────────────────────────
 われわれは、このような衛星打ち上げの報道に接しても、あま
り強い関心を示さなくなっています。もはや衛星打ち上げなどは
現在ではニュースにならないのです。しかし、この衛星の打ち上
げは、超大ニュースそのものなのです。なぜなら、世界初の「量
子通信衛星」の打ち上げだからです。このニュースで一番ショッ
クを受けたのは、米国のはずです。おそらくスプートニク・ショ
ック級の大ショックです。これは、米国の軍事的優位を根底から
揺るがす大問題であるといえます。
 遠藤誉氏によると、ロケットの名称「墨子号」にも深い意味が
あるといいます。墨子といえば、日本では中国の戦国時代の思想
家として知られていますが、中国では「中国最古の科学者」とし
て知られているというのです。
 墨子は、物理学のなかでも光学に関して関心が深く、光の直進
性や反射性など、光に関するさまざまな実験をやっていたそうで
す。そういう意味で、超先端科学を担うロケットの名称に墨子の
名前を使ったのです。
 ところで、墨子といえば、あの小泉純一郎首相は、イラクへの
自衛隊派遣に関する国会論争において、墨子の次の言葉を使って
自分の正当性を主張したものです。
─────────────────────────────
 義を為すは毀(そしり)を避け誉(ほまれ)に就くに非(あ
 ら)ず                    ──墨子
─────────────────────────────
 ところで、普通の通信衛星と量子通信衛星とは、どこが違うの
でしょうか。
 難しい言葉を一切使わないでいうと、「量子通信」とは、第三
者には絶対に解読されない通信のことです。遠藤誉氏の言葉を借
りると、量子通信衛星とは次のようなものです。
─────────────────────────────
 量子力学の原理を利用して、他者には解読不可能な暗号を用い
た通信システムを構築するための人工衛星である。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 「他者には解読不可能な暗号を用いた通信システム」──その
ようなものが本当に存在するのでしょうか。
 よく「セキュアな通信」といいますが、それは「第三者に盗聴
されないよう対策を施してある通信」のことです。メールも電話
も一応「セキュアな通信」ですが、あらゆる手段を使って盗聴し
ようとすれば、それを防ぐことは困難になります。そういう意味
で「解けない暗号はない」のです。
 「RSA暗号」という有名な暗号があります。最初に「素数」
について知る必要があります。素数というのは、1とその数以外
に約数がない数のことです。たとえば、4は1とその数以外に2
で割れるので、素数ではありません。しかし、2と3と5は、1
とその数以外には割れる数がないので、すべて素数ということに
なります。
 ある数を素数の積に分解するのを因数分解といいます。たとえ
ば、「91」は何と何を掛けたものかと問われたら、すぐに答え
られますか。これを解くのが因数分解です。91は「7×13」
という素数の積に分解できます。ちなみに、7と13は素数とい
うことになります。
 しかし、因数分解は、桁が多くなると、計算に非常に時間がか
かるのです。たとえば、200桁の因数分解には、現代のスパコ
ンで約10年かかりますし、1万桁になると、スパコンでも10
00億年かかります。こうなると、物理的には計算はできるもの
の、実際上時間がかかるので不可能であるということで、暗号に
使われるのです。
 しかし、量子コンピュータが出現すると、200桁の因数分解
なら、数分、1万桁になっても、数時間から数日で説くことがで
きてしまいます。既に量子コンピュータが出現している以上、R
SA暗号は、暗号としては使えないことになります。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/060]

≪画像および関連情報≫
 ●この世の中の暗号がすべて無力になるかもしれない
  ───────────────────────────
   SSL/TLSの項でも触れられているが、秘密を守るた
  めの暗号技術の開発は何世紀にもわたって続いてきた。その
  おかげで、ネットで銀行振込や買い物を安心してできるわけ
  だけれど、世の中そんなに甘くなかった!というのが今回の
  話。どういうことかというと、「現在、多くの人が使ってい
  る暗号化技術が無力化する」可能性があるのだ。
   マジか!?と世界の研究者たちを震撼させたのは1994
  年に発表された"ショアのアルゴリズム"理論。発表した米ベ
  ル研究所の研究者ピーター・ショアさんいわく、「量子コン
  ピューターが実現すれば、現在の暗号は、すべて破れてしま
  う」。なるほどそういうことか。・・・で、量子コンピュー
  タて?
   量子コンピューターについてはこのICT用語事典でも取
  り上げているので、詳しくはそちらを読んでいただきたいが
  以下、簡単におさらいを。現在のコンピューターは、1ビッ
  トで0か1(有か無か)の1つの状態しか表すことができな
  い。量子力学の原理を利用した量子コンピューターでは、1
  量子ビットあたり2つの状態を表すことができる。たとえば
  「00000000」から「11111111」の組み合わせから特定の条件
  を選ぶ場合、今のコンピューターは律儀に総当たり計算をし
  て解を探すが、量子コンピューターでは大量の組み合わせを
  1回の計算で完了できるのだ。これはつまり、大量の計算を
  並列して一度に行うようなものだ。
                  https://bit.ly/2CFt6Pt
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「墨子号/打ち上げ成功」.jpg
「墨子号/打ち上げ成功」
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2019年04月03日

●「量子とは何か理解する必要がある」(ĒJ第4980号)

 「量子とは何か」──今回は技術がメインテーマではないので
量子論を展開するつもりはありませんが、「量子通信」「量子暗
号」「量子通信衛星」については、量子の基本的なことを理解す
る必要があります。
 物質を形成しているのは「原子」です。その原子は、「電子」
「陽子」、「中性子」からできています。その陽子と中性子は、
さらに「クォーク」という粒子からできています。クォークは、
物質の最小単位の一つとされており、この粒子のことを物理学で
は「素粒子」といっています。同じ素粒子の仲間には、「電子」
と「光子」などがあります。
 これらの原子以下の電子、中性子、陽子などを「量子」と呼ん
でいるのです。単独に量子というものが存在するわけではないの
です。もうひとつ忘れてはならないのが「光」です。光は粒子と
しての性質と波としての性質がありますが、光を粒子としてみた
ときの「光子」や「ニュートリノ」などの素粒子も量子と呼んで
いるのです。
 このような量子の世界には、われわれの世界の力学とは異なる
力学が働くのです。量子の世界とは、ナノサイズ、またはそれよ
りも小さい世界です。ナノサイズとは、1メートルの10億分の
1の極小の世界であり、この世界においては、われわれの身の回
りにある物理法則、ニュートン力学や電磁気学などは通用せず、
「量子力学」というとても不思議な法則によって物事が動くので
す。壁をくぐり抜けたり、瞬時に別の場所に移動したり、それは
まるでハリーポッターの世界です。
 ここでいささか、わかりにくいことを理解しなければならない
のです。それは次のことです。
─────────────────────────────
    量子は「粒子」と「波」の2つの性質を有する
─────────────────────────────
 これは、光についてよく説明されるので、光を例にとって説明
を行います。なお、これについての説明は、2017年のテーマ
「次世代テクノロジー論」のなかの「量子コンピュータ」の部分
で取り上げていますので、そちらも参照してください。
 量子は、物理の世界で最小の、これ以上は分割できない物質や
エネルギーの基本単位です。量子は、粒子(粒子性)と波(波動
性)の両方の性質を持ち合わせているので、次の性質を持つこと
になります。
─────────────────────────────
     1.粒子性 ・・・       最小物質
     2.波動性 ・・・ エネルギーの基本単位
─────────────────────────────
 2017年12月21日のEJ第4671号で、光を取り上げ
量子が粒子性と波動性を両方を持っていることを確認する有名な
実験を紹介しています。それをここに再現します。添付ファイル
を参照してご覧ください。
─────────────────────────────
 最初に「波」について考えてみます。水を張った水槽があると
します。この水槽は2つの穴の空いた板で真ん中が仕切られてい
ます。この状態で、左側にコインを落としたとします。そうする
と、仕切り板に向って波が発生します。
 穴に到着すると、波は二つに分かれ、仕切り板の右側で相互作
用を起こします。相互作用とは、2つの山が重なり合うと、山は
大きくなり、波の強度が増し、逆に山と谷が重なると、お互いに
打ち消し合う、そのさまをいうのです。その結果、「干渉パター
ン(干渉縞)」という模様ができ上がります。これは「波」の存
在を示す証拠といえます。これについては、添付ファイルを参照
してください。
 続いて「粒子」の実験です。仕切り板で仕切られた2つの部屋
があります。仕切り板には2つの丸い穴が空いていますが、現在
は左の穴は塞がっており、右の穴だけ空いています。なお、右の
部屋の正面には、スクリーンが張ってあるとします。
 この状態において、左の部屋から仕切り板に対して光を当てま
す。そうすると、光は空いている右の穴を通ってスクリーンの右
側に丸い像を結びます。続いて、今度は右の穴を塞いで左の穴を
空けます。そうすると、光は左の穴を通して、スクリーンの左側
に丸い像を結びます。当たり前ですが、これは光が「粒子」であ
ることを示しています。
 問題は次です。今度は仕切り板の左右の穴を両方とも空けて、
左側の部屋から光を当てます。通常であれば、右の部屋のスクリ
ーンの左右に2つの丸い像が映し出させるはずです。しかし、実
際にはスクリーンには、干渉縞が映し出されるのです。これは光
が「波」であることを示しています。
      2017年12月21日付/EJ第4671号より
─────────────────────────────
 この量子の粒子性と波動性の性質の他に、量子には「重ね合わ
せ」という不思議な現象があるのです。現在のCPUのチップは
限りなく原子レベルに近づいています。反時計回りに自転する原
子を仮に「1」とします。それをひっくり返して回転軸が下を向
いて時計回りに自転するようすれば、その原子は「0」をあらわ
すことになります。もちろん、0と1は逆でもいいのです。この
場合、原子は極小のスイッチとして機能します。
 原子のレベルまでは、現在の力学が作用していますから、物理
的に何の矛盾はないのです。現在、多くの人が、このクラスのコ
ンピュータを使っています。しかし、微細化がさらに進んで素粒
子レベル、量子レベルに達すると、量子力学が働くのです。そう
すると、何が起きるのでしょうか。
 そうすると、量子は「0」と「1」の両方の状態をとるように
なります。これを量子の「重ね合わせ」といいます。実に不可解
な現象です。これについては、明日のEJで詳しく説明します。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/061]

≪画像および関連情報≫
 ●波と粒子の二重性から粒子と波の二重性へ
  ───────────────────────────
   光が波であるのか粒子であるのかはニュートンの時代から
  物理の大問題であった。この論争の決着には長い時間が必要
  だったが、19世紀には干渉や回折、さらには偏光が発見さ
  れ、ついに光が波であることが決定した。そして、一方で、
  マックスウェルの電磁気学により光を電磁波として取り扱う
  理論的基盤が構築されていた。
   それに対して、アインシュタインは改めて光の粒子性を主
  張したわけであり、そういう意味では、非常に大胆な提案で
  あったわけである。アインシュタインが光の粒子性を主張し
  たからといって、光の波動性を否定していたわけではないこ
  とに注意しておこう。古典的には、あるものが粒子であり波
  であるということはありえない。そして、私たちも、光は波
  であるか粒子であるかのどちらかであると考えてしまいがち
  だけれども、量子論の枠組みでは、光は波動的な面と粒子的
  な面の両方を持ち合わせたものなのである。これを波と粒子
  の二重性という。
   1905年のアインシュタインの光量子モデルから、次の
  話まで約20年の歳月が流れている。実際には、この歳月の
  間に量子論に関連した多くの進歩があり、「前期量子論」と
  呼ばれる時代を形成している。  https://bit.ly/2uCQubU
  ───────────────────────────

「ヤングの実験/干渉縞」無題.jpg
「ヤングの実験/干渉縞」無題
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2019年04月04日

●「量子もつれ現象を通信に活用する」(EJ第4981号)

 1952年生まれの、米アーカンソー出身のジョージ・ジョン
ソン氏という科学ライターがいます。『タイム』であるとか『ワ
イヤード』などに科学記事を執筆している人ですので、かなり名
のある科学ライターであると思います。
 技術の本というのは、著名な科学者自身の書いたものよりも、
ベテランの科学ライターが書いたものの方が分かりやすく、役に
立つことが多いですが、ジョージ・ジョンソン氏による量子コン
ピュータの解説は、まさにそれに該当します。
 私がいくつか購入した量子コンピュータの本のなかでダントツ
に役に立ったのは、ジョンソン氏の本です。それに、ミステリー
小説を多く出版する早川書房から出版されているのも興味深いで
す。ジョンソン氏の本をご紹介しておきます。
─────────────────────────────
            ジョージ・ジョンソン著/水谷淳訳
 『「数理を愉しむ」シリーズ/量子コンピュータとは何か』
                      /早川書房刊
─────────────────────────────
 原子レベルを超えて極少化されたチップによる「オン/オフ」
のスイッチには量子力学が姿を現しはじめます。ちょうどコマの
ように、回転軸を上に向けて反時計回りに自転する原子を「0」
と表現し、それをひっくり返し、回転軸が下を向いて時計回りに
自転するようにすれば、その原子は「1」という数字を表現する
ようになります。これはもちろん逆でも同じことです。
 しかし、原子が「0」か「1」のどちらか一つしか取れないと
きは、その原子は従来のチップと何も変わりはないのです。
 しかしさらにチップの極少化が進むと、チップは同時に「1」
と「0」の両方の状態を取ることができるのです。これが量子の
「重ね合わせ」の現象なのです。これについて、ジョージ・ジョ
ンソン氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 コンピュータ技術者が、量子レベルにまで小型化を進めると、
チップの中の出来事は、もはや決定論的ではなくなる。1と0を
はっきり区別できなくなるのだ。そして1と0に加えて、Φとい
う状態も取りうるようになる。(ここではこの記号はギリシャ文
字の「ファイ」の意味ではなく、0と1が量子的に重ね合わされ
た状態を表す)。量子はこのようなあいまいさを持っているので
同じ原因が同じ結果を及ぼすとは限らない。不確かさが支配する
のだ。正しい用語ではこれを「量子的不確定性」と言う。
           ──ジョージ・ジョンソン著/水谷淳訳
          『量子コンピュータとは何か』/早川書房
─────────────────────────────
 はじめの頃、エンジニアたちは、この重ね合わせを「困った事
態」ととらえたのです。そこでエンジニアたちは、いかにしてこ
の量子効果を抑え込んで、「0」と「1」が混ざり合うのを防ぐ
かに知恵を絞ったのです。
 しかし、その間にもコンピュータの部品の極少化は進み、量子
効果の抑え込みが困難になった1980年代になって、米国の2
人の物理学者、リチャード・ファインマン氏とポール・ベニオフ
氏は、むしろ量子的不確定性を活用すれば、かつてない装置を作
れるのではないかと気が付いたのです。それが、人類が量子コン
ピュータへの道をめざすきっかけになったのです。
 この「量子的不確定性」のことを「量子もつれ」とか「量子の
絡み合い」というようになり、英語で次のように表現するように
なったのです。
─────────────────────────────
  quantum entanglement/カンタム・エンタングルメント
─────────────────────────────
 この「カンタム・エンタングルメント」について、遠藤誉氏が
とてもわかりやすく解説してくれています。
─────────────────────────────
 カンタム・エンタングルメントと表現することからも分かるよ
うに、量子あるいは光子は、互いにどんなに遠く離れていても、
間に如何なる媒体がなくても、互いに影響し合うことを指す。こ
れは、量子が「波と粒子の二面性」を持っていると同時に「1つ
なのに、同時に複数の場所に存在する」という「状況の共存性」
という、摩訶不思議な性格を持っているからである。(中略)
 つまり、どちらかの状況に変化が起きると、もう片方にもすぐ
さま同じ影響が及ぶ現象を一種の遠隔作用というが、通信を暗号
化し、盗聴を防ごうと思ったときに、2つの「もつれた量子」が
途中で誰かにハッキングされたりすると、2点間で影響していた
「もつれの法則」が壊れてしまい、遠隔作用が成立しなくなって
しまう。そのため、ハッキングされたことが分かるので、こっそ
りハッキングや盗聴ができなくなるという効果があるのである。
人類の誰もが、この夢のような量子通信ができるための量子通信
衛星の発射に成功したいと競争していたのに「こともあろうに」
というか、アメリカではなく、もちろん日本でもなく、こともあ
ろうに、あの中国が先に成功したのだ。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 つまり、エンタングルメントの関係にある2つの粒子は、どん
なに離れていても、その一方だけを観測すれば、もう一方の状況
は認識できるのです。これは、「量子テレポーション」ともいう
べき現象であり、量子通信の基礎になるものです。
 中国は、そのための衛星を2016年に打ち上げに成功し、既
に実験を重ねているのです。この「量子のもつれ」を利用すれば
凄いことができるのではないかということに米国は、1980年
に気が付いているのです。それがどうして、後発であるはずの中
国に先を越されることになったのでしょうか。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/062]

≪画像および関連情報≫
 ●シンガポールとイギリスが量子通信衛星の打ち上げを計画!
  ───────────────────────────
   「量子鍵」配布による暗号化通信の実現のためには、衛星
  による量子通信技術の開発がカギとなる。量子暗号通信が実
  現すれば、理論上第三者による傍受が不可能となり、セキュ
  リティ強化の観点から国を挙げての取り組みが進められてい
  る。中国はすでに通信衛星からの量子もつれ配信を行う実験
  を成功させているほか、日本でも情報通信研究機構(NIC
  T)が、小型衛星を使っての量子通信の実験をおこなってい
  る。こうした世界情勢に後れをとるまいと、シンガポールと
  イギリスが手を組んだようだ。
   シンガポールとイギリスは、2021年までに小型量子通
  信衛星を打ち上げることを目指し、共同プロジェクトを開始
  した。両国の戦略は、量子通信の分野で先行する中国よりも
  はるかに小型で低コストな量子通信システムを開発し、広域
  をカバーする通信網を展開すること。
   中国の通信衛星の重量が600キログラム以上あるのに対
  して、シンガポールの開発する「キューブサット」は最終的
  に約12キグラムにまで軽量化する計画だ。ただ、通信衛星
  を小さくすればバックアップシステムなどを搭載する余裕が
  なくなり、冗長性を犠牲にせざるをえない。このため、シン
  ガポール国際大学の量子テクノロジーセンターが、発進の振
  動や宇宙での温度変化などを綿密にシミュレートし、そのう
  えで性能テストを実施。極力故障が起こらないシステムを設
  計しているようだ。       https://bit.ly/2OBDigo
  ───────────────────────────

量子の重ね合わせ(量子もつれ).jpg
量子の重ね合わせ(量子もつれ)
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2019年04月05日

●「中国はなぜ量子通信で先行したか」(EJ第4982号)

 量子通信において、中国はなぜ米国を押さえてそれを成功させ
ることができたのでしようか。
 遠藤誉氏は、中国による量子通信衛星打ち上げ成功について、
著書で次のように述べています。
─────────────────────────────
 アメリカでは「独裁国家中国」だからこそ、すべてをかなぐり
捨てて巨額のカネをつぎ込んだ結果だと、腹立たしげに分析する
傾向にあるが、必ずしもそうではない。これまで本書で一貫して
追跡してきた「人材の獲得」にこそ、その成功の鍵がある。はん
けんい「墨子号」チームのリーダーとなっていた人物は、中国科
学院の院士の一人である潘建偉(パンジェンウェイ)だ。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 上記の遠藤氏の言葉の表現のなかから、読み取れることがひと
つあります。それは「すべてをかなぐり捨てて巨額のカネをつぎ
込んだ結果だと、腹立たしげに分析する傾向」という表現です。
この表現は、明らかに中国人の立場に立って、アメリカを強く非
難しています。「そんなんじゃない。ただカネを注ぎ込めばでき
るような簡単なことじゃない」と。
 私は、遠藤氏が、米国に先駆けて量子通信衛星の打ち上げ成功
した中国の快挙について、心のなかで誇らしいと考えているよう
な気がします。それは中国人ならではのことです。こういう表現
は、遠藤氏の本には、随所に見られることです。本書の「まえが
き」に次のような表現があります。
─────────────────────────────
 いま日本では「習近平一強」を語るに当たり、権力闘争ばかり
に焦点を当てたがる傾向があるが、そのような、日本人の耳目に
心地よい迎合型分析をしていると、これら一連の国家戦略が見え
てこない。それは日本の国益を損ねる。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 これは、日本のメディアに対して憤りをぶつけています。もち
ろん、遠藤氏としては、中国の事情に通じている日本人の学者と
して、「その分析は間違っている」ということを強調したいので
しょうが、その主張は、日本人としてよりも、中国サイドからの
主張に聞こえてしまうのです。遠藤氏は、この主張の最後を次の
ように締めくくっているからです。
─────────────────────────────
 その意味では(日本は)トランプに感謝すべきだろう。彼が米
中貿易戦争を仕掛けてくれたことにより、「2025」が持つ重
要性に焦点を当ててくれたのだし、中国の戦略をあばいてくれた
のだから。日本人が事実とかけ離れた権力闘争物語を面白がって
いる内に、中国はハイテク産業のコア技術で日本を追い抜き、宇
宙を支配してしまうかもしれない。 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 もちろん遠藤氏に責任があるわけではありません。中国につい
て論ずるときは、遠藤氏のような中国ウォッチャーからの情報は
不可欠であり、大変役に立つのですが、中国からの情報はいろい
ろな要素を勘案して、一歩引いて見る必要があると思うし、私は
そう心がけているので、そう書いたままです。
 遠藤氏のいうように、いくらカネを注ぎ込んだとしても、それ
だけで、量子通信衛星の打ち上げなどに成功できるものではない
のです。もちろんカネは不可欠ですが、何といっても、そのカネ
を使って、それを成し遂げる人材が必要です。
 中国は、千人計画や万人計画などを通じて、優秀な人材──中
国人を中心とするが、外国人でも──を計画的に中国国内に集結
させてきたのです。「墨子号チーム」のリーダーは、潘建偉(パ
ンジェンウェイ)という人物です。現在、49歳の若さです。こ
の潘建偉氏について、遠藤氏は次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 潘建偉は国家「千人計画」の特別招聴専門家の一人で、20年
ほど前(1996年、26歳で)、オーストリアに留学したとき
に、オーストリア科学アカデミー院長で宇宙航空科学において最
高権威を持つツァイリンガー教授に会っている。初対面は、19
96年の10月。そのときツァイリンガ一教授に、「あなたの夢
は何ですか?」と聞かれたそうだ。すると若気の至りもあって、
つい「中国で世界一流の量子物理実験室を持つことです」と答え
たとのこと。
 潘建偉はは当時を思い出し、「生まれたばかりの子牛は虎を恐
れない」という諺を用いて「経験の乏しい若者はこわさを知らな
いがゆえに無鉄砲なまねをするものだ」と照れながらも、結局そ
の夢を捨てきれずに、帰国後の2001年に中国科学技術大学で
量子物理学・量子情報実験室を持つことが叶い、こんにちまで走
り続けてきたと、墨子号発射の彼のインタビューで語っている。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 実は潘建偉氏は中国共産党員ではないのです。中国には、中国
共産党以外に、次の8つの民主党派があります。これを「八大民
主党派」と呼んでいます。潘建偉氏はこのうちの九三学社に入党
している変わり種です。
─────────────────────────────
   1.中国国民党革命委員会  5.中国農工民主党
   2.中国民主同盟      6.中国致公党
   3.中国民主建国会     7.九三学社
   4.中国民主促進会     8.台湾民主自治同盟
─────────────────────────────
 潘建偉氏は、中国科学技術大学の常務副学長にして、中国科学
院量子科学技術創新研究院院長を務めています。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/063]

≪画像および関連情報≫
 ●量子超大国を目指す中国で「量子の父」と呼ばれる男
  ───────────────────────────
   2017年年9月29日、中国の科学実験衛星「墨子号」
  が、地球半周分も離れたウィーンと北京の2都市間でハッキ
  ング不可能なビデオ会議の開催に成功した。墨子号は、時速
  2万9000キロメートルで進みながら、北京から北東に車
  で数時間の距離にある興隆の地上局に向けて小さなデータパ
  ケットを送信した。その後1時間以内にオーストリアを通過
  する際、別のデータパケットを、グラーツ市近くの地上局に
  送った。
   墨子号が送信したデータパケットは、データ伝送を保護す
  るための暗号鍵だった。この実験がひと際注目されたのは、
  衛星から送信された暗号鍵が繊細な量子状態にある光子の中
  で符号化されていたためだ。通信を傍受しようとするいかな
  る企ても、量子状態を壊して、情報を破壊し、ハッキングの
  痕跡を残してしまう。1と0を表す電気や光の信号の流れ、
  つまり読み取りや複製が可能な古典的な情報単位(ビット)
  で暗号鍵を送るよりはるかに安全な方法なのだ。
   映像は量子ではなく従来の方法で暗号化されていたが、復
  号に量子鍵が必要だったため、安全性は保証されていた。墨
  子号による実験は、世界初の量子暗号を用いた大陸間ビデオ
  接続となった。         https://bit.ly/2YQ5YXK
  ─────────―-−


(中国の学会で発表する潘建偉氏.jpg
中国の学会で発表する潘建偉氏
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2019年04月08日

●「国民栄誉賞か千人招聘人材戦略か」(EJ第4983号)

 5日の新聞各紙によると、現役を引退したイチロー選手が政府
に国民栄誉賞を辞退したそうです。辞退は、2001年と、20
04年に続いて3回目になります。2001年のときは「まだ若
い、発展途上」、2004年のときは「まだ野球人としてやるこ
とがある」と辞退の理由を述べています。
 この2回の辞退の言葉を聞けば、3回目も辞退するのはわかっ
ていたと思います。確かに2004年のときに「野球人生が終っ
たとき」といっていましたが、これは外交辞令でしょう。彼は国
民栄誉賞という、何か偉業を成し遂げたときに授与される勲章に
は、あまり関心がないようです。
 これに比べると、中国の「千人計画」は表彰ではありませんが
若い人にとっては魅力的です。他国に留学中に、国のトップから
「君はわが国にとって大切な人材だ。国として研究環境を整える
から、帰国して国のために尽くして欲しい」といわれたらどうで
しょうか。きっと帰国する人が多いはずです。人は上層部から期
待されるとやる気を出すものです。
 成果を出して、そのうえでもらう表彰ではなく、これから出す
成果に対して国が期待し、「千人計画」の一員に加えてくれるの
です。褒章ではなく、国が期待をかけてくれるのです。その方が
人間というものはモチベーションが上がるのです。
 吉林大学に黄大年という教授がいたのです。地球物理学者です
が、黄大年氏は英国に留学し、ここで骨を埋めるつもりで18年
間研究に没頭します。そのとき、「千人計画」の招聘教授の声が
かかったのです。いろいろ悩んだ末に、2009年に英国での研
究を放棄して、中国に帰国し、航空宇宙地球物理学探索技術研究
に従事することになります。もちろん「墨子号」の打ち上げにも
関わっています。
 彼は、50代の若さで亡くなっていますが、なぜ帰国したかに
ついて、遠藤誉氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 このとき彼に帰国を決意させた理由は、中国が大々的に「千人
計画」という人材戦略を策定し、国家予算を思いきりそこに注ぐ
という確固たる国家戦略に基づいて動こうとしている、その本気
度を感じたからだという。「国家がこの私を宝物のようにして欲
しがってくれており、大きな国家事業に向けてまい進しょうとし
ている。自分の人生が、そこで必要とされているというのなら、
戻って祖国のために尽くそう、という自尊心と尊厳を抱かせた」
と述べている。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 実際問題として、中国共産党中央当局としても、「千人計画」
や「万人計画」などの人材戦略が、これほどの成果を上げるとは
考えていなかったと思われます。とくに、潘建偉氏を中心とする
世界初の量子通信衛星打ち上げ成功には、中国科学技術大学を中
心として、中国科学院の上海技術物研究所、中国科学院光電技術
研究所、中国科学院上海微小衛星工程センター、中国科学院紫金
山天文台、中国科学院国家天文台などの多くの研究所や大学がま
さに一体となって取り組み、成功を成し遂げています。
 なお、実際の「墨子号」打ち上げに際しては、潘建偉氏の指導
教官であったオーストリアのツァイリンガー氏がリーダーを務め
るチームが、ヨーロッパの多くの量子物理学チームが関係する宇
宙局と連携をとって、宇宙と地上とを結ぶ通信をとるなど、全面
協力しています。別にこそこそ隠れて、秘密裡にやっていたわけ
ではないのです。
 科学誌「ネイチャー」は、毎年、今年の科学界を振り返るため
10人を選んで発表しています。選ばれる人は科学者とは限らず
患者さんもいるし、反科学の急先鋒もいます。そして、この20
17年度の10人の1人に潘建偉氏が選ばれているのです。その
10人の名前を以下に列挙しますが、これらの人がどういう人で
あるかは、NPO法人オール・アバウト・サイエンスジャパンの
西川伸一氏のコメントを参照してください。
─────────────────────────────
 ◎2017年度「ネイチャー」/今年の10人
  1.David Liu: Gene corrector
    遺伝子編集者
  2.Marica Branchesi: Merger maker
    中性子星合体の大観測体制
  3.Emily Whitehead: Living testimonyial
    生き証人
  4.Scott Pruitt:Agency dismantler
    環境保護局解体請負人
 ★5.Pan Jianwei
    量子通信の父
  6.Jennifer Byrne:Error sleuth
    論文の間違いを暴く刑事
  7.Lassina Zerbo: Test-ban tracker
    核実験禁止協定違反追跡者
  8.VICTOR CRUZ-ATIENZA:quake chaser
    地震追跡者
  9.Ann Olivarius: Legal champion
    法律のチャンピオン
 10.Khaled Toukan:opening sesame
    開けゴマ          https://bit.ly/2FU52sT
─────────────────────────────
 西川氏は、Pan Jianwei (潘建偉)のことを「熱意のみなぎる
楽天的性格で、リスクをとってよく考えて選んだテーマに果敢に
チャレンジする研究者として記事では紹介している」と記述して
います。この発表は2017年12月17日に「ネイチャー」か
ら行われています。  ──[米中ロ覇権争いの行方/064]

≪画像および関連情報≫
 ●ネイチャーの「今年の10人」に中国の潘建偉氏が入選
  ───────────────────────────
   ネイチャー誌は2017年12月17日、今年1年で科学
  に重要な影響を与えた「今年の10人」を選出し、中国から
  は物理学者の潘建偉氏が選ばれた。また、重力波観測施設の
  「VIRGO」の天文学者マリカ・ブランケージ氏らが選ば
  れた。ネイチャーの編集者は、「量子通信やゲノム編集、潜
  在的な核の危機、米国の環境保護政策の後退など、これら選
  出された10人が2017年の科学の成果と挫折をもの語っ
  ている」とした。科技日報が伝えた。
   ネイチャーは入選者全員を記事で紹介。そのなかで、「量
  子の父」と題した潘氏に関する記事では「彼は中国で、量子
  の父と呼ばれている。潘氏は、その呼び名にふさわしい人物
  だ。潘氏に率いられ、中国は、遠距離量子通信技術における
  リーダー的国家となった」と紹介された。潘氏が率いる世界
  初の量子科学実験衛星「墨子号」のチームは2017年6月
  1000キロ級の衛星・地球双方向量子もつれ配送を実現し
  世界で長年維持されてきた100キロ級の記録を打破した。
  関連成果はサイエンス誌に掲載された。それから約1ヶ月後
  同チームは再び世界で初めて1000キロ級の衛星・地球双
  方向量子通信を実現した。関連成果はネイチャー(電子版)
  に掲載された。これにより、潘氏のチームは墨子号の3大科
  学目標を、計画よりも前倒しで達成した。中国科学院の白春
  礼院長は当時、「墨子号の一連の成果が国際的に大変な評判
  となっている。中国の量子通信分野の 研究が、世界を全面的
  にリードする有利な地位を占めていることが分かる」と評価
  した。             https://bit.ly/2D11Ta6
  ───────────────────────────

潘建偉氏の研究室.jpg
潘建偉氏の研究室
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2019年04月09日

●「太平洋戦争は暗号で敗北している」(EJ第4984号)

 中国に「量子暗号通信」の技術を先取りされることが、米国に
どれほど深刻なことであるかについて知る必要があります。考え
てみると、トランプ政権になってから米中の関係がとくに厳しく
なっているのは、中国の「量子暗号通信」の成功も、その原因の
一つになっているのです。
 トランプ政権が発足した約1年後の2018年1月20日、中
国政府の「新華網」は、米国にとって、第2の「スプートニク・
ショック」ともいうべきニュースを伝えたのです。そのニュース
について、遠藤誉氏の本から引用します。
─────────────────────────────
 中国とオーストリアの問で、墨子号を介して量子暗号による通
信に成功したという内容だ。中国科学院の院長、自春礼とオース
トリア科学アカデミーのツァイリンガーは、2017年9月29
日に、量子暗号を用いた世界初の大陸横断ビデオ会議を行ったと
のこと。中国科技大学の潘建偉と、同僚の彭承志らでつくる研究
チームは、中国科学院上海技術物理研究所の王建宇が率いる研究
チームやマイクロサット・イノベーション研究院、国家宇宙科学
センターといった機構と共同で、オーストリア科学アカデミーの
ツァイリンガーが率いる研究チームと協力し、量子通信衛星「墨
子号」を使い、中国とオーストリアの間で距離7600キロメー
トルの「大陸間量子鍵配送」を実現し、鍵の共有による暗号化デ
ータ伝送と動画通信を実現したのである。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 「暗号を制する者が世界を制する」といわれます。その象徴的
な事例として、日本と米国が戦った太平洋戦争があります。この
戦争で日本軍の暗号は最初から米軍に解読されていたのです。そ
れなら敗北は必至ですが、なぜ、日本軍による真珠湾攻撃だけは
成功を収めたのでしょうか。結論からいうと、暗号は事前に米軍
の優れた暗号解読者たちによって解読され、日本が攻撃を仕掛け
る6時間も前から、日本が何かをするとわかり、報告を上げてい
たのです。場所もパールハーバーの可能性が高いと特定していま
す。しかし、肝心の米国政府は、これに対して何の措置も取らな
かったのです。それは、次のロジックによる米国の油断があった
といえます。
─────────────────────────────
 ある一つの事柄について、我々は一種の思考凍結状態、あるい
は、心が麻痺した状態にあったように思われた。それは、我々の
推理が、次のようになるからであった。
 もし、日本がパールハーバーを攻撃すれば、それは戦争を意味
する。そして、戦争になれば、アメリカが勝つ。それなら、日本
はパールハーバーを攻撃するようなことがありうるだろうか。答
えは「ノー」である。        https://bit.ly/2UATeVP
─────────────────────────────
 日本軍が使っていた暗号機は、市販のマシンを絶対に解読され
ないように改良発展させたもので、それは「パープル暗号」と呼
ばれていたのです。
 マシンとしては、2台の電動式タイプライターと、その間に介
在する、プラグ盤と暗号用円盤箱から成るもので、左側のタイプ
ライターで平文をタイプすると、右側のタイプライターで暗号文
が打ち出される仕組みであったのです。(添付ファイル参照)
 しかし、米国は日本の機密事項を知るために、ウィリアム・フ
リードマンという人物に日本のパープル暗号機と同じものを作ら
せる仕事を与えたのです。彼のスタッフには、日本がパープル暗
号の前身である「レッド暗号」を解読したチームが協力し、約1
年半かけてパープル暗号機のコピー機を作り上げたのです。これ
によって、日本の外交機密文書は米国によって解読されることに
なったのですが、日本側はそのことを知る由もなかったのです。
 それにもかかわらず日本軍が真珠湾攻撃に成功したのは、いく
つかの要因があります。ワシントンでは、日本の野村、来栖両大
使がまとまるとは思えない平和維持の提案を行っている間に、日
本海軍機動部隊の32隻は、1隻また1隻と日本の領海を密かに
抜け出し、移動を開始していたのです。その艦上には430機に
も及ぶ日本海軍航空隊の精鋭が待機していたのです。
 米国の情報部は、日本軍の各艦艇から発信する無線を傍受する
ことによって、その動きを監視していたのですが、どこに向って
いるかはその時点ではわかっていなかったのです。しかし、突然
日本艦隊の航跡がわからなくなります。全艦が一斉に無線封止を
したからです。それを機に全艦がパールハーバーへと針路を変変
更したのです。しかし、米軍は日本艦隊の航跡を把握できなくな
ります。1941年12月2日のことです。
 問題は、日本としては、最後通牒をいつワシントンに届けるか
です。ワシントンとハワイの時差は約6時間あります。したがっ
て、パールハーバーを午前7時30分に攻撃するには、最後通牒
をワシントンに午後1時30分に届ける必要があります。それよ
り早く届けると、米国側に準備時間を与えることになります。
 日本政府は、攻撃予定日の前日の1941年12月6日から最
後通牒電の発送をはじめていますが、パープル暗号を14個に分
割し、18時間以上かけて発送しています。ワシントンの日本大
使館は、この暗号文の翻訳を開始しますが、そこから1キロと離
れていない米海軍省でも、同じ解読作業をはじめていたのです。
そして、12月7日早朝に14個目の暗号文が届きます。そこに
は、次のように書かれていたのです。
─────────────────────────────
 日本政府は、米国政府の態度にかんがみ、今後交渉を続けても
妥結にいたることは不可能であると考えるのを遺憾とする。
                  https://bit.ly/2UATeVP ─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/065]

≪画像および関連情報≫
 ●ミッドウェー海戦の敗北
  ───────────────────────────
   ミッドウエー海戦は短期間であったが、連戦連勝を続けて
  きた日本軍側が初めて経験した挫折であり、太平洋をめぐる
  日米両軍の戦いにおけるターニング・ポイントとなった。ま
  さにミッドウエー海戦は、「太平洋の戦局はこの一戦に決し
  た」というべき戦いであり、「戦史上特筆大書さるべき」海
  空戦であったが、それは日本側にとってではなく戦果絶大な
  ものがあったのは米軍側であった。この作戦は山本五十六司
  令長官のシナリオ通り進行。ミッドウエーを攻略することに
  よって米空母部隊の誘出を図り、これを捕捉撃滅することは
  現在の戦力からみて容易であると判断。ミッドウエー上陸予
  定日は月齢や気象を踏まえて6月7日(昭和17年)と計画
  され、同じにアリューシャン攻撃も行われることとなってお
  り、本作戦には日本連合艦隊の決戦兵力のほとんど動員され
  ていた。(350隻の艦隊、飛行機1000機、将兵10万
  以上の大出動)山本五十六司令長官に「日本海軍暗号の解読
  は絶対にありえない」と言はした暗号であったが、守勢の立
  場にあった劣勢の米国海軍の強い力となったのがこの暗号解
  読であった。日本海軍主力が太平洋のどこかで遠からず積極
  的な作戦に出てくることは確実であったが、その時期や目的
  地について判断がつきかねていた。https://bit.ly/2OWObdc
  ───────────────────────────

日本のパープル暗号機.jpg
日本のパープル暗号機
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2019年04月10日

「エニグマはどうして解読されたか」●(EJ第4985号)

 戦争に暗号は不可欠なものです。日本の暗号「パープル暗号」
は、太平洋戦争が始まる前から、米国に解読されていたというお
粗末さでしたが、日本とともに連合軍と戦ったナチスドイツの暗
号「エニグマ」は、当時世界で最も強力な暗号であり、連合軍側
はなかなか解けず、悩み抜いたといわれます。
 この「エニグマ」によって、ドイツの潜水艦「Uボート」は、
連合軍側の商船を次々と沈め、数万人の生命を奪い、北米からの
物質や兵員を運ぶ重要な補給ルートを遮断したのです。
 「エニグマ」の仕組みについて、ここで詳しく説明するつもり
はありませんが、「エニグマ」の強みは、当日しか使えない「日
鍵」を使うことにあります。オペレータは「日鍵」のコードブッ
クに基づき、毎日機械の設定を調整し、暗号の配列や規則性を変
更していたのです。「エニグマ」は、添付ファイルの写真を見て
いただくとして、どのように操作するか、そのイメージは「エニ
グマ」について書かれた次の文章を読んでください。
─────────────────────────────
 キーボードで「P」のキーを叩くと、対応する電気信号が生じ
それぞれ26本のワイヤーが仕込まれている3枚のローターを経
由してランプボードまで流れる。
 この時ランプボード側で点灯するのは「J」という文字かもし
れない。そしてもう一度「P」のキーを叩くと、一番目のロータ
ーが回転して、配線が組み替わり、電気の流れる経路が変わるた
め、今度は同じ「P」のキーを叩いても、ランプボードで点灯す
るのは「F」のような別の文字になる。
 それぞれ回転するローターが3つあるため、例えばユーザーが
繰り返し「P」のキーを叩いた場合、エニグマが生成するランダ
ムな文字列は、1万9500キーストローク以上にならないと繰
り返さないものになる。そして1941年にドイツ海軍がUボー
ト用のエニグマに4つめのローターを加えたことで、ランダムな
文字列の長さは約45万7000キーストロークに増加した。
 そして、オペレーターから見て、キーボードの手前にあるのが
プラグボードだ。このプラグボードのおかげでエニグマのランダ
ムさがさらに増しているが、これは元々ドイツ軍の兵站に関わる
問題に対処するために考えられたものだった。
                  https://bit.ly/2YW4pHQ
─────────────────────────────
 しかし、「エニグマ」は、相当難航したものの、連合軍側は解
読に成功しているのです。ただし、解読したことは極秘にされた
ので、ドイツは最後まで「エニグマ」を使い続けたのです。それ
は、日本でも同じです。
 それでは、一体どのようにして、「エニグマ」を解読したので
しょうか。「エニグマ」の解読には、次の2つの説があります。
─────────────────────────────
    1.ポーランドのレイフェスキによる解読成功
    2.Uポートの捕獲成功による仕組み解読成功
─────────────────────────────
 「1」について説明します。
 1つの説は、この解読困難な暗号を解読したのが、ポーランド
の暗号解読班「ビュロ・シフロフ」に所属する、若き天才暗号解
読者・レイフェスキであるというものです。
 レイフェスキは、大量の暗号文を元に文字と文字のつながりの
法則を見つけ出し、1京通りある暗号パターンを105456通
りにまで削減することに成功したのです。この105456通り
の暗号文をパターン化して一覧表を作成し、その一覧表をデータ
ベースにして、スクランブラーの設定17576通りを総当たり
にチェックする装置を制作したのです。これにより、毎日変化す
るプラグボードの設定さえわかれば、当日の暗号は全て解読でき
るようになったのです。
 しかし、ナチスドイツはさらに「エニグマ」を複雑にしてきた
のです。こうなると、レイフェスキの作った解読装置では、処理
が困難になります。そこで、ポーランドは、同じ連合国である英
国やフランスの暗号解読機関にこれまでの成果を提供して協力を
求めたのです。
 英国では、やはり「エニグマ」を解読しようと大量の数学者、
科学者を集めていたのです。そのなかには、全英チェスチャンピ
オン、古典学者、美術オタク、焼き物の名人、クロスワードパズ
ルのマニア、トランプの名人など多彩な人物がいたのです。
 そのなかに、後にコンピュータの原型ともいえる「チューリン
グマシン」を開発したアラン・チューリングもいたのです。そし
て「エニグマ」は、彼らの手によってすべて解読され、その後、
間もなくドイツは降伏することになります。
 「2」について説明します。
 アメリカ軍のダニエル・ギャラリー大佐は、何とかドイツの潜
水艦Uボートを丸ごと捕獲しようと試みたのです。Uボートには
「エニグマ」マシンが搭載されているからです。しかし、これは
実に困難な作戦です。戦争に使われる船舶に関しては、その秘密
保持のため、どこの国でも自爆して何も残さないからです。その
ための自爆ボタンも取り付けられているのです。
 しかし、1944年、はじめて奇跡的にUボート「U505」
の捕獲に成功したのです。これについては、次のサイトに詳しい
説明があります。
─────────────────────────────
   ◎エニグマ暗号をすべて手に入れたアメリカ軍作戦
               https://bit.ly/2I5ZoaL
─────────────────────────────
 これによって、米軍は「エニグマ」の全貌を手に入れることが
できたのです。しかし、それはひた隠しに隠されたのです。この
とき捕獲された「U505」は、現在、シカゴ科学産業博物館に
展示されており、誰でも見ることができます。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/066]

≪画像および関連情報≫
 ●「ヒトラーの心を読んだコンピューター」
  ───────────────────────────
   世界は、あるイギリスのハッカー集団に感謝しなければな
  らない。1938年、イギリスで最高の数学者と科学者たち
  が、『エニグマ』の暗号を解読する方法を編み出すよう依頼
  された。
   エニグマとは、ドイツ軍が戦争中に情報をやり取りするの
  に使った暗号機械だ。その結果生まれたのが『コロッサス』
  という世界初の電子的なデジタル・コンピューターだった。
  後継機種である『コロッサス2』は1944年6月1日に稼
  動を開始し、すぐさま、ある暗号メッセージの解読に成功し
  た。そのメッセージはアドルフ・ヒトラーとドイツ軍の最高
  指令部が、連合国の策略――以前から予想されていたイギリ
  ス海峡を越えての進攻が、ノルマンディーの海岸ではなくカ
  レーを目指しているように見せかける計画――に引っかかっ
  ていることを裏付けるものだった。
   ドワイト・D・アイゼンハワー連合軍最高司令官は、この
  情報を武器に、『オーバーロード作戦』の計画を遂行した。
  そして6月6日、ヨーロッパ連合軍はノルマンディーに上陸
  し、史上最大の海越えの侵略を果たした。イギリスのチェル
  トナムにある政府通信本部では先週、コロッサス・プロジェ
  クトに関する文書を正式に機密扱いから外し、2冊からなる
  報告書を、イギリス全体の公文書類を保管する公文書館に移
  した。             https://bit.ly/2U55mtT
  ───────────────────────────

「エニグマ」暗号マシン.jpg
「エニグマ」暗号マシン
.
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2019年04月11日

●「量子暗号通信米国も負けていない」(EJ第4986号)

 ナチス・ドイツの暗号マシン「エニグマ」は、ポーランドのレ
イフェスキがヒントを提供し、英国の天才的暗号解読者、アラン
・チューリングが解読に成功したといわれています。実際にアラ
ン・チューリングがどのようにして「エニグマ」を解読したかに
ついては映画になっています。
─────────────────────────────
 『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』
             監督:モルティン・ティルドゥム
         出演:ベネディクト・カンバーバッチほか
                2015年3月13日公開
─────────────────────────────
 アラン・チューリングとは何者でしょうか。
 チューリングは、想像の世界で現代のコンピュータの前駆的マ
シンを作った人物です。そのマシンは「チューリング・マシン」
と呼ばれ、大変有名です。科学ライターの竹内薫氏の独特の筆致
で、チューリングマシンの基本的仕組みをご紹介します。
─────────────────────────────
 凄い機械なのだ(想像の産物やけど)。だが、構造はシンプル
だ。なんせ、チューリング・マシンには、たった3つの部品しか
ない。テープとヘッドと本体だ。まず1つ目は、書き換え可能な
テープ。このテープは「均等なマス目が1列に並んでいるような
もの」である。テープの長さは無限だ(想像の機械やからね)。
テープには、入力/出力データが書き込まれる。2つ目はテープ
に接するヘッド。ヘッドはテープの1マス分の大きさで、「マス
に書かれた情報を読み取ること」と「マスに情報を書き込むこと
/消去すること」ができる。さらにヘッドはテープの1を左右に
1マスずつ動くことができる。3つ目は、ヘッドと情報をやりと
りする本体。本体には、プログラムを格納でき、プログラムが実
行されている状況を一時的に記憶できる。ここでのプログラムは
状態遷移関数を並べたものだ。  ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/ Google、NASA で実用が
        始まった“夢の計算機”』/PHP新書987
─────────────────────────────
 竹内薫氏がいうように、チューリング・マシンは「想像上のマ
シン」であり、チューリングは、実際に機械を作ろうとしたわけ
ではないのです。チューリングは、『計算可能な数について』と
いう数学の論文のなかで、人間の論理思考を「機械」に喩えよう
としたのです。これは、現在のコンピューターの基本的なアーキ
テクチャーを決める、生物学でいうところのDNAの構造を確定
するような理論だったのです。
 前記の映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者
の秘密』では、「エニグマ」を解読するために、電気と歯車で動
く機械を組み立てて、その日のエニグマの設定を見つけ出そうと
悪戦苦闘する姿が描かれています。私は、現時点でこの映画を見
ておりませんが、時間のある時に観てみたいと考えています。
 ついでに述べておくと、英国軍が暗号解読にやっきになってい
たころ、アメリカでは大砲の弾道計算表をつくるために高速計算
機「ENIAC」が開発されたのです。これは世界初のコンピュ
ータといわれていますが、これは現在のコンピュータのように2
進数ではなく、10進数で作られていたのです。
 アラン・チューリングは、こういう天才にありがちな精神的な
葛藤から、青酸カリを飲んで自殺してしまうのです。1954年
のことです。遠藤誉氏も、このチューリングについて、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 このナチスの暗号を解読した功労者の一人に、イギリスのアラ
ン・マシスン・チューリング(1912年6月23日〜54年6
月7日)という暗号解読者がいる。彼がいなかったら、果たして
ドイツを敗北に追いやることができたか否かも怪しいほど、彼の
功績は大きい。(中略)
 もし、チューリングが生きていれば、量子暗号に関して中国と
オーストリアが協力体制に入ることもなかっただろうし、戦後の
国際社会の中で、かつてのあの大英帝国の威光を失ってイギリス
が没落していくことも、もしかしたら、なかったかもしれない。
アメリカ一国が強国となって、世界のトップに立つこともなく、
暗号を牛耳った者が世界を制するという原則に従って、中国をこ
のように「のさばらせなかった」かもしれないのである。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 欧米や日本は、早い段階から、中国を遥かに上回る高度なレベ
ルの通信技術を持っていたのに、なぜここにきて中国に抜かれて
しまったのでしょうか。
 これについてはこのあと検証しますが、2018年10月26
日、注目すべきニュースが入ってきています。
─────────────────────────────
 アメリカ東海岸に設置された全長800キロに及ぶ未使用の光
ケーブル(ダーク・ファイバー)が本格的な商用量子暗号ネット
ワークとして活用される。計画では今年中に最初の顧客を受け入
れるという。これにより量子暗号化によって暗号鍵を交換する商
用サービスがアメリカで初めて運用されることになる。(中略)
 量子暗号化を利用したネットワークというのは新しいコンセプ
トではない。しかしテクノロジーの発達と現行の暗号システムに
対する攻撃が繰り返され、安全性に懸念が生じていることの双方
の理由から最近急速に注目を集めるようになっている。これは量
子力学の理論と光子を利用して暗号鍵を交換する通信だ。理想的
な状態では傍受により量子状態が変化するため、中間での盗聴が
不可能となる。           https://tcrn.ch/2Iu2CEp
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/067]

≪画像および関連情報≫
 ●AIではなく、量子コンピュータが我々の将来を決める
  ───────────────────────────
   「量子(quantum)」 という言葉は、20世紀後半になっ
  て他の一般的な形容詞では表せない、何かとても重要なもの
  を識別するための表現手段となった。例えば「Quantum Leap
  (量子の跳躍)」は劇的な進歩のことを意味する(スコット
  主演の、90年代初頭のテレビシリーズのタイトルでもある
  が)。もっとも、それは面白いとしても不正確な定義だ。し
  かし、「量子」を「コンピューティング」について使うとき
  我々がまさに劇的な進歩の時代に入ったことを表す。
   量子コンピューティングは、原子と亜原子レベルで、エネ
  ルギーと物質の性質を説明する量子論の原理に基づいた技術
  だ。重ね合わせや量子もつれといった理解するのが難しい量
  子力学的な現象の存在によって成立する。
   アーウィン・シュレディンガーの有名な1930年代の思
  考実験は、同時に死んでいて、かつ生きているという一匹の
  猫を題材にしたもので、それによって、「重ね合わせ」とい
  うものの明らかな不条理を浮き彫りにすることを意図してい
  た。重ね合わせとは、量子系は、観察、あるいは計測される
  まで、同時に複数の異なる状態で存在できるという原理だ。
  今日の量子コンピュータは数十キュービット(量子ビット)
  を備えていて、まさに、その原理を利用している。各キュー
  ビットは、計測されるまでは0と1の間の重ね合わせの中に
  存在している(つまり、0または1になる可能性がいずれも
  ゼロではない)。キュービットの開発は、膨大な量のデータ
  を処理し、以前には不可能だったレベルの計算効率を達成す
  ることを意味している。それこそが、量子コンピューティン
  グに渇望されている潜在能力なのだ。
                  https://bit.ly/2U5qL65
  ───────────────────────────

映画「イミテーション・ゲーム」.jpg
映画「イミテーション・ゲーム」
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2019年04月12日

●「中国経済は量子研究に耐えうるか」(EJ第4987号)

 問題は、量子暗号通信の分野で、中国は本当に米国を追い越し
たのかどうかということです。遠藤誉氏は、2016年8月16
日付の「ウォールストリート・ジャーナル」の次の記事を取り上
げています。この記事のタイトルは、なかなか含蓄あるものだっ
たのです。
─────────────────────────────
China's Latest Leap Forward Isn't Just Great─It's Quantum
   「中国の最近の「大躍進」は、まさに偉大なんじゃないか
    ──それは量子だ」   https://on.wsj.com/2Ub64Wu
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 「Great Leap Forward」とは、1958年から1961年にか
けて毛沢東が展開した「大躍進政策」のことです。毛沢東が、党
内の右派との抗争に勝利し、党内の主導権を獲得した高揚感から
「核武装をはじめ、経済的にアメリカ合衆国やイギリスを15年
以内に追い越す」と宣言して実施した農業と工業の大増産政が大
躍進政策です。
 この大躍進政策は、現実を無視した滅茶苦茶な手法によって行
われ、多数の人民を処刑死・拷問死させるなど、権力闘争のため
に中国国内で大混乱が起き、3000万人の餓死者を生むという
悲惨な結果を招いたのです。つまり、「大躍進=大失敗」だった
のです。ウォールストリート・ジャーナルの記事は、この大躍進
政策の失敗を念頭に置き、「過去の大躍進は失敗だったが、最近
の『大躍進』は、まさに本物の『グレイト』じゃないか」と書い
ているのです。そして「それは『クォンタム(量子)だ」と締め
くくっています。
 遠藤氏は、このウォールストリート・ジャーナルの記事をまと
めていますが、そのなかから米国のサイバー・セキュリティ機関
「ニュー・アメリカ」のフェローの発言を引用します。
─────────────────────────────
 「この分野における中国の投資は、米国のサイバー能力の恐怖
によって一部動かされている」と、サイバーセキュリティに特化
した「ニュー・アメリカ」のフェロー、ジョン・コステロ氏は言
っている。彼は同時に「アメリカが中国のネットワークに深く入
り込んでいる」という2013年の暴露を指摘してもいる(著者
注:スノーデンのことを指しているのか?)。彼はまた、アメリ
カの研究機関が、現在セキュア通信用に世界中で使われているベ
ースの暗号化を打ち砕くことが理論的に可能な、強力な量子コン
ピュータの 構築方法を、中国が研究していると指摘した。「中
国が電子的スパイ活動が可能になるところまで成長していること
を危倶している」と、コステロ氏は述べている。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
 中国は、量子暗号の研究において、はるか先を走っている米国
になぜ追いつくことができたのでしょうか。
 それは「人材戦略」の成果であることは確かですが、それに伴
い、研究開発費も非常に伸びています。遠藤氏の本には、主要国
の研究開発費の推移と2024年までの予測値が出ているので、
それを添付ファイルにしてあります。
 中国が「千人計画」を始めたのは2008年のことですが、そ
の時点の中国の研究開発費は、日本とほぼ同じ規模であり、EU
28ヶ国や米国とは、大きく離されていたのです。しかし、そこ
から、中国の研究開発費は劇的に上昇し、2013年には、EU
28ヶ国と並び、2015年には、中国の研究開発費は米国に次
いで世界第2位になっている──このように国連のユネスコは述
べています。
 そして、2018年には中国は米国と並び、2019年には米
国を追い抜き、「中国製造2025」の到達年度である2025
年には中国の研究開発費は米国をはるかに上回る規模になると予
測しているのです。
 ただ、中国の経済が今後もそれに耐えられるかどうかについて
は疑問があります。米国は、中国の動きには気が付いていて、警
戒を深めており、経済がかぎを握ると考えています。そのため、
オバマ政権の後半からトランプ政権にかけて、中国との経済にお
ける対立を強めています。ボルトン大統領補佐官は、次のように
いっています。
─────────────────────────────
 中国とは、エンゲージメントを放棄せず、コンテインメントを
維持していく。          ──ボルトン大統領補佐官
─────────────────────────────
 「コンテインメント」とは何でしょうか。
 コンテインメントとは「封じ込める」という意味です。中国と
は、「エンゲージメントは放棄せず、コンテインメントを維持す
る」とは、交渉は粘り強く行うが、経済的に封じ込めるという高
等戦略を意味するのです。
 本来、コンテインメントは、第2次世界大戦後に米国が共産主
義の非共産主義諸国への浸透を防ぐためにアメリカ合衆国がとっ
た政策を意味しています。それをトランプ政権は、これまでのと
ころ、非常に巧妙にコンテインメントを行っているといえます。
 日本の航空自衛隊のF35Aが墜落しましたが、これは誠に深
刻な事態です。日本はF35(A、B、C)を大量導入して、日
本の空の守りを固めようとしています。しかし、中国の軍の関係
者はそれを嘲笑っているそうです。なぜなら、F35はステルス
性が最大の売りの一つですが、中国の量子研究が進み、「量子レ
ーダー」が開発されると、F35は裸にされてしまうからです。
F35のステルス性は、あくまで現在のレーダーを前提としてお
り、量子レーダーの下では、全く役に立たないからです。「量子
を制する者、世界を制す」は本当のことなのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/068]

≪画像および関連情報≫
 ●1年で集積度が驚異的に向上した量子コンピュータ
  ───────────────────────────
   「量子コンピュータ」とは、量子力学の原理を情報処理に
  積極的に利用したコンピュータである。従来のコンピュータ
  (以下「古典コンピュータ」と呼ぶ)における情報の最小単
  位は0と1、すなわち「ビット」である。一方、量子コンピ
  ュータでは、0と1、0と1の重ね合わせ状態である「量子
  ビット」が情報処理の基本単位だ。もし300量子ビットの
  量子コンピュータが存在すれば、2300(2の300乗)
  の重ね合わせが実現できる。この数字は、宇宙を構成する全
  原子数2261個よりも大きいという、天文学的に膨大な数
  である。量子コンピュータにおいては、この重ね合わせ状態
  に対して並列に情報処理を行う。その後、干渉効果を利用し
  て答えが得られる確率を巧みに増幅して、答えを読み出す。
   したがって、量子ビット数が1つ増えると並列度は2倍、
  量子ビットがn個増えると並列度は2n倍、というように、
  指数関数的に増大する。一方古典コンピュータは「32ビッ
  トから64ビット」のようにビット数が2倍になると表現で
  きる情報量が2倍になるだけで並列度は増大しない。このよ
  うにビット(量子ビット)数と性能の関係が、量子コンピュ
  ータと古典コンピュータでは大きく異なる点に注意してほし
  い。それでは、量子コンピュータは、古典コンピュータの性
  能を圧倒的に上回る「夢のコンピュータ」なのだろうか?
   実は、そう言い切ってしまうのはあまり正確ではない。古
  典コンピュータに対して量子コンピュータが指数関数的に高
  速になることが証明されている数学的問題はわずか60個程
  度である。           https://bit.ly/2v1d1iW
   ───────────────────────

研究開発費の推移(予測).jpg

研究開発費の推移(予測)
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2019年04月15日

●「中国/量子もつれ個数の世界記録」(EJ第4988号)

 ここで中国とオーストリア間で、量子通信衛星「墨子号」を介
して実施されたとされる「量子暗号通信」のメカニズムを確認し
ておくことにします。
 量子通信衛星が発信するのは「量子暗号」です。この量子暗号
は「0」と「1」が重ね合わされた状態──いわゆる「量子のも
つれ」の状態で発信されます。
 既に述べているように、原子の先の量子の世界では、「0」と
「1」の他に、「0」と「1」の両方の状態を取ることができる
のです。この「量子のもつれ」を暗号の「鍵」として使うのが量
子暗号通信です。
 さて、宇宙空間を回っている墨子号から「量子のもつれ」の状
態で量子暗号が発信され、この暗号を使って地球上のAという地
点と、Bという地点で通信が行われたとします。この場合、もし
この通信がハッキングされたとすると、量子のもつれは破綻して
通信できなくなります。通信中のA地点とB地点もハッキングに
気がつくので、別の量子(光子ともいう)のペアが発信され、通
信を続けることができます。
 量子暗号通信衛星は、詳しいことは不明ですが、おそらく複数
の量子(光子)のペアを発信し、その1つのペアが「鍵」として
選択され通信しますが、ハッキングされると自動的に別の「鍵」
が選択され、通信をシームレスに続けることができるのではない
かと考えられます。この中国とオーストリアの量子暗号通信につ
いて、遠藤誉氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 2017年9月29日、中国科学院の白春礼院長とオーストリ
ア科学アカデミーのツァイリンガ一院長は、量子暗号を用いた世
界初の大陸横断ビデオ会議を行った。地上と衛星との間で量子暗
号を用いた世界初の大陸横断ビデオ会議を行った。地上と衛星と
の間で、量子暗号を用いて量子通信をしただけでなく、地上にお
ける大陸間横断を実施したわけだ。
 実験において、墨子号は河北省興隆市とオーストリア・グラー
ツの地上基地で、衛星地上間量子「鍵」配送を実施した。指令制
御衛星を中継とし、興隆地上基地とグラーツ地上基地間の鍵共有
を実現した。
 実験中の鍵共有量は、約800キロバイト。鍵共有に基づき、
ワンタイムパッドの暗号化を採用し、共同チームは北京とウィー
ンの間でも画像暗号化伝送を行った。共同チームは高級暗号化標
準「AES−128」と結びつけ、シードを1秒毎に更新し、北
京からウィーンに至る暗号化動画通信システムを構築した。さら
にこれを利用し、75分間にわたる中国科学院とオーストリア科
学院の大陸間量子機密ビデオ会議を行った。両国のアカデミーの
院長が、史上初めての量子暗号を用いた機密会議を行ったのであ
る。 ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 これによると、量子暗号通信をするには、複数の量子(光子)
のもつれを作り出す必要があります。この技術は絶望的に難しい
といわれています。
 ここにもう一人のキーマンが登場します。それは、1982年
に中国の浙江省で生まれた陸朝陽という人物です。また37歳と
いう若さですが、「量子の父」といわれる潘建偉氏の弟子であり
「量子の鬼才」と呼ばれています。
 陸朝陽氏は、中国科技大学物理学系に入学し、2004年に卒
業することになっていたのですが、偶然オーストリアから帰国し
た潘建偉教授の話を聞き、魅了されてしまったといいます。彼は
迷うことなく、マイクロ・スケール物理科学国家実験室量子物理
・量子情報研究科の修士課程に進み、潘建偉研究室で光子のもつ
れと量子コンピュータの研究に従事しています。
 2011年には、英国の奨学金を得て、ケンブリッジ大学のキ
ャンペンディッシュ研究所で博士学位を取得し、同時にケンブリ
ッジ大学チャーチル学院のフェローに選ばれています。その確率
は1%という難関を突破してのフェロー就任です。
 この陸朝陽氏を含む潘建偉チームは、この絶望的に困難な技術
の突破口を開くのです。これについて2018年7月3日の「人
民日報」は、次のように伝えています。
─────────────────────────────
 複数の粒子もつれの操作は、量子計算が超越できない技術的難
題として、世界の競争の中心になっている。播建偉のチームは、
2016年末に、10個の光子ビットと10個の超伝導量子ビッ
トのもつれを実現し、この2つの「世界記録」を更新し維持して
きた。長年にわたる模索と技術の難関突破により、研究チームは
18個の光量子ビットのもつれの実験と厳格な複数体もつれの検
証を実現し、すべての物理体系におけるもつれ数の世界記録を更
新した。同成果は大スケール・高効率量子情報技術に応用可能で
あり、同時に中国が世界の複数体もつれの研究をけん引し続けて
いることの証となっている。
          ──2018年7月3日付、「人民日報」
─────────────────────────────
 これによると、中国は既に18個の光量子ビットのもつれを作
り出すことに成功しているのです。それは、6つの光子の次の3
つの自由度を調節することで、世界ではじめて、18個の光量子
ビットのもつれの作り出しに成功し、すべての物理体系における
「もつれ数の世界記録」を達成しているのです。
─────────────────────────────
        1.         偏光
        2.ルート(光の進む経路)
        3.     軌道角運動量
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/069]

≪画像および関連情報≫
 ●「量子のもつれ」が相対論を脅かす/「日経サイエンス」
  ───────────────────────────
   私たちが経験から知っているように,この宇宙で私たちが
  直接に影響を及ぼすことのできる物体は直接触れているもの
  だけだ。しかし量子力学によると、「量子もつれ」という性
  質がもたらす遠隔作用が存在し、2つの粒子が何の媒介もな
  しに同期して振る舞う。この非局所効果は単に直観に反して
  いるだけではない。アインシュタインの特殊相対性理論に深
  刻な問題を投げかけ,物理学の根底を揺るがす。
   量子もつれとなる特性はいろいろある。例えば,それぞれ
  の自転の向きがはっきり決まっていないにもかかわらず,反
  対向きに自転していることは確実な2個の粒子がありうる。
  量子もつれは,粒子がどこに存在するかによらず,粒子が何
  であるかによらず,互いにどんな力を及ぼし合っているかに
  よらずに,2つの粒子を関連づける。原理的には,銀河の両
  サイドに遠く離れた電子と中性子が量子もつれになっている
  例も考えられる。
   一方で、子もつれは「非局所性」という非常に気味悪く
  徹底的に直観に反する現象を引き起こす。対象に触れず、そ
  こまでつながったどんな実体の連鎖にも触れることなく、物
  理的影響が及ぶ可能性が生じるのだ。
   非局所性の最大の問題は,その圧倒的な奇妙さを別とする
  と、特殊相対性理論に重大な脅威をもたらすという点だ。こ
  こ数年で,この昔からの問題がついに物理学の真剣な議論の
  対象となった。議論の行方によって,物理学の基盤は最終的
  には崩れるか,歪められるか,再創造されるか,確固たるも
  のになるか,あるいは腐敗のタネがまかれることになるだろ
  う。              https://bit.ly/2KCPFKZ
  ───────────────────────────
 ●添付フィル解説 https://bit.ly/2v5srmd

箱の中の猫.jpg

 箱の中の猫 
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2019年04月16日

●「米国は宇宙では中国に遅れている」(EJ第4989号)

 遠藤誉氏の本を読むと、こと量子暗号通信関連の技術では、米
国は中国に大差をつけられているように感じます。中国は、既に
どんなことをクリアしているか、以下にまとめておきます。
─────────────────────────────
 ◎2011年
  ・中国とオーストリアで「大陸間量子通信強力協定」締結
 ◎2016年 8月16日
  ・世界初の量子通信衛星「墨子号」打ち上げ成功
 ◎2016年
  ・潘建偉研究室が10個の光子ビットと10個の超電導量
   子ビットのもつれを実現/2つとも世界初、世界記録
 ◎2017年 5月 4日
  ・世界初の光量子コンピュータ中国が開発に成功
 ◎2018年 7月 3日
  ・18個の光量子ビットのもつれに成功。「もつれ数の世
   界記録」更新
 ◎2018年 9月29日
  ・「墨子号」が大陸間量子暗号通信に成功。量子暗号を用
   いた中国、オーストリア間の世界初の大陸横断ビデオ会
   議を実施
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 量子研究の進化のキーになるのは、量子コンピュータがいつ開
発されたかです。中国は、2017年5月4日に開発に成功した
と発表していますが、コンピュータの仕様などの詳細は、まった
く不明です。
 米国はどうかというと、カナダのベンチャー企業の開発による
「Dウェーブ・システム(以下、Dウェーブ)」という名の量子
コンピュータを2013年に、軍需産業を支えるロッキード・マ
ーチン社と米国航空宇宙局(NASA)が購入して使っているの
です。中国の開発成功よりも4年も前のことであり、米国がそれ
ほど遅れているようには見えないのです。なお、量子コンピュー
タの分野では、日本もがんばっており、既に量子コンピュータは
実用レベルに入っています。
 しかし、中国は、量子通信衛星「墨子号」を2016年8月に
打ち上げており、これについては米国は大きく遅れを取っている
といえます。中国は、かなり緻密な計画の下に、人材と資金を注
ぎ込み、着実に成功させています。
 そして、何よりも決定的に米国に明確な差をつけたと世界に思
わせたのは、2019年1月3日の次の記事です。
─────────────────────────────
 ◎中国探査機、世界初の月裏側着陸
 【北京=共同】中国国営の中央テレビによると、中国の無人探
査機「嫦娥4号」が3日午前(日本時間同)、世界で初めて月の
裏側への軟着陸に成功した。着陸後に撮影した画像の地球への送
信にも成功した。今後、鉱物資源などを調査する。習近平指導部
は「宇宙強国」の地位確立に向けた取り組みを加速する。
 嫦娥4号は昨年12月8日に打ち上げられた。「嫦娥」は中国
の月に住む伝説の仙女の名。地形や中性子線などの月面環境を観
測するほか、地質も調査する。月は常に同じ面が地球に向いてい
るため、裏側は地球から見えない。中国メディアによると、裏側
は表側より起伏が大きいなど環境が異なるため、新たな科学的成
果が期待できる。  ──2019年1月3日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 量子暗号衛星による量子暗号通信の成功に加えて、世界初の中
国探査機の月の裏側への着陸です。これには、米国の科学技術陣
と軍事当局は相当の衝撃を受けているはずです。
 地球から月の裏側に通信を送っても、月自体が遮蔽物になって
電波は届かないのです。1968年に、アポロ8号の宇宙飛行士
が始めて月の周りを飛行したとき、短時間ではありますが、地球
との通信が途絶えています。
 そのため、アンテナの役割をする衛星を打ち上げる必要がある
のですが、その衛星は月の周りのある1点に固定させなければな
らないので、その位置に正確に打ち上げるのはかなり至難の業な
のです。中国はその中継衛星「鵲橋(じゃっきょう)号」を20
18年5月に打ち上げに成功しています。
 これについて遠藤誉氏はウェブサイト上で、次のように説明し
ています。
─────────────────────────────
 アンテナの役割をする中継通信衛星は、月の周りの1点に固定
していなければならないが、中国はピンポイント的に、力の作用
がゼロになって動かない「ラグランジュ点」に焦点を当てて打ち
当てた。月の裏側に行くことよりも、実は、このラグランジュ点
にピンポイント的に衛星を打ち当てて、「宇宙で固定しておくこ
と」の方が遥かに困難だ。(中略)
 アメリカの科学者が「是非とも、中継通信衛星・鵲橋号を使わ
せてほしい」と申し出てきた。「アメリカも月の裏側に着陸した
いが、中継通信衛星を打ち上げることが困難なので、中国が利用
し終わっても、どうか回収しないでアメリカに使わせてほしい」
というのが、その科学者の申し出の内容だ。「中国は喜んで承諾
した」と、中国工程院の院士で中国月探査総設計師(リーダー)
の呉偉仁氏が述べている。これは、まずいではないか。
                  https://bit.ly/2Ueaz2x ─────────────────────────────
 これはどのように考えても、米国は、少なくとも宇宙において
は中国に完全に遅れているといわざるを得ない状況です。やはり
米国に昔日の面影はなく、あらゆるところに劣化が表面化してい
るといっても過言ではない状況です。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/070]

≪画像および関連情報≫
 ●ただの着陸ではない ── 中国が世界を震撼させたワケ
  ───────────────────────────
   地球から月への数週間の飛行の後、中国は無人探査機「嫦
  娥4号(じょうが4号)」を月面に着陸させた。だが、着陸
  地点はどこでも良かったわけではない。中国は自動車サイズ
  の着陸船と探査車を月の裏側に着陸させた──人類が過去上
  空からしか観測したことのない未知の場所だ。
   中国の偉業には世界中から祝福が寄せられた。宇宙探査に
  関心を持つ人はもちろん、NASAの高官からも。嫦娥4号
  は、月の成り立ちの謎を解明する手がかりを探り、地球から
  数十光年離れた場所から届く電波をスキャンし、氷が堆積し
  ている場所を探す。「アメリカの宇宙計画は常に世界をリー
  ドしてきた。中国による月面着陸は、紛れもなく科学的な成
  果」と引退したNASAの宇宙飛行士マーク・ケリー氏は、
  1月4日(現地時間)、ツイートした。
   さらに同氏は、中国のミッションは「政治のレベルを超え
  て、宇宙開発を進める必要があることを思い出させてもくれ
  た」と付け加えた。また、「世界は我々を置いてけぼりにし
  ている」と述べた──「我々」とはアメリカのことだ。ケリ
  ー氏は極めて愛国的な宇宙飛行士として知られ、宇宙開発に
  ついて熱心に発言している。また、中国は宇宙探査において
  世界中を打ち負かす存在になると考えているのは同氏だけで
  はない。「ただの着陸ではない」とオーストラリアの宇宙飛
  行士アラン・ダフィ氏は着陸の後、ワシントンポストに語っ
  た。              https://bit.ly/2PafkJz
  ───────────────────────────

月面を探査する玉兎号.jpg

月面を探査する玉兎号
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