2018年08月14日

●「インターネットブレインとは何か」(EJ第4827号)

 未来学者のレイ・カーツワイル氏、理論物理学者のフリーマン
・ダイソン氏、言語哲学者のノーム・チョムスキー氏の3人の対
話について、何を感じられたでしょうか。
 カーツワイル氏は、2030年には、仮想現実が脳の神経系の
なかで行われるため、現実と寸分違わない世界が脳内に実現する
ことが可能になるといいます。まるで映画『マトリックス』の世
界そのものです。
 約200万年前に、脳の拡大が起こり、それによって言語が生
まれ、芸術や音楽が誕生しています。これは、人間以外の他の動
物ではあり得ないことですが、現在、再びその脳の拡大が起きよ
うとしているとカーツワイル氏はいうのです。
 これに対して、ノーム・チョムスキー氏は、「何の根拠もない
ファンタジーに過ぎない」と切り捨て、フリーマン・ダイソン氏
も「そもそも科学は本質的に予想できないもの」と疑問を呈して
います。しかし、ダイソン氏はインターネットについては、最終
的には、全体がひとつの生き物のように振る舞うスーパーオーガ
ニズム(超生命体)になるかもしれないといっています。
 インターネットに関しては、カーツワイル氏も、脳の最上層を
インターネットに接続させることによって、人工的な脳として機
能させることができるといいます。これによって思考の拡大は無
限になり、2030年には、生物としての脳と人工的な脳が融合
すると予言しています。
 人間の脳をインターネットに接続する──カーツワイル氏の本
を読むと、これは十分可能なことのように思えてきます。「Io
T」は「モノ・インターネット」ですが、人間の脳が、その「モ
ノ」のひとつになり、「IoB」、すなわち「インタネット・オ
ブ・ブレイン」が実現するという考え方です。
 実は、この技術は既に一部実現しています。脳波をライブスト
リーミング可能な信号に転換し、インターネット上のポータルサ
イトを通じてアクセス可能にするというものです。
 この技術を開発したのは、南アフリカのウィットウォーターズ
ランド大学の研究チームで、この技術を利用するには「モバイル
脳波計(EEG)」を搭載したヘッドセットが必要になります。
このヘッドセットは脳波を信号として認識し、その信号は特化さ
れたコードの助けを借りて、小型コンピュータに送られ、解読さ
れるのです。
 この解読された信号が提供する情報は、ウェブサイト上で確認
できます。これにより、人間の脳内で何が起きているかを知るこ
とができます。しかし、情報の入力は一方向のみですが、双方向
でのやり取りもやがて可能になると思われます。
 人間の脳とインターネットの接続について、カーツワイル氏は
シリコンバレーのシンギュラリティ大学での講演で、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 2030年代に人間の脳は、インターネットに接続可能になり
メールや写真を直接、脳に送信したり、思考や記憶のバックアッ
プを行ったりできるようになる。これは脳内毛細血管を泳ぎまわ
るナノボット(DNA鎖からつくられる極小ロボット)によって
可能になる。非生物的な思考へと脳を拡張することは、私たちの
祖先が道具を使用することを学習したのと同様に、人類の進化の
次なるステップである。また、この拡張によって論理的知性だけ
でなく、感情的知性も高まる。人間は、脳モジュールの階層レベ
ルを増やし、さらに深いレベルの感情表現を生み出すだろう。
                  ──レイ・カーツワイル
─────────────────────────────
 ところで、フリーマン・ダイソン氏のいう「全体がひとつの生
き物のように振る舞うスーパーオーガニズム(超生命体)」とは
何を意味しているのでしょうか。
 元電通のCMプランナーで、編集者の高橋幸治氏は、「生命と
してのインターネット/血肉化する情報世界」というレポートで
これについて次のように述べています。
─────────────────────────────
 考えてみれば、私たちの身体自体が脳を中央制御室とした精緻
を極めた情報処理システムとして機能しているわけだから、情報
の相互関係や情報の相互伝達を生命的なイメージに置き換えるの
はごく当たり前のことなのかもしれない。
 そして地球を皮膜のように覆う情報の網の目=インターネット
は人間の脳神経系としてイメージされる。そのイメージが来るべ
き第二四半世紀には、単なるメタファーの域を超えて、現実に私
たちの脳神経系と接続されていくだろう。(一部略)
 WWW=World Wide Web の「Web」は周知の通り「織物」であ
り「網」であると同時に「蜘蛛の巣」である。WWWはその名称
の中にすでに生命的なイメージを内包しており、宮沢賢治も「イ
ンドラの網」を「その繊維は蜘蛛のより細く、その組織は菌糸よ
り緻密」と描写している。蜘蛛や菌糸という生命的イメージ。私
たちはもうインターネットを人間の外部に施設された単なる情報
インフラとして客観的に対象化することなどできない。
                  https://bit.ly/2OswbWn
─────────────────────────────
 今やほとんどの人がスマホを持っています。もし、スマホをな
くすと、非常に困惑します。スマホ自体は代替できますが、イン
ターネットでのつながりやアドレス帳などの個人情報、メール、
写真など、まさに自分自身をいうものを失ってしまうのに等しい
からです。そのようなものが、かつてあったでしょうか。
 既にスマホには、指紋認証、音声認証など、個人と切っても切
り離せないほど、自分の一部化しています。シンギュラリティに
なると、スマホが赤血球のサイズになって、体内に入ってくると
カーツワイル氏はいっています。そうなると、人間はインターネ
ットと文字通り一体化することになります。
          ──[次世代テクノロジー論U/071]

≪画像および関連情報≫
 ●脳と脳をインターネットで接続しテレパシーをする実験
  ───────────────────────────
   米ハーバード大学の専門からを中心にスペインやフランス
  の専門家らも参加している研究グループが、インドとフラン
  スにいる者同士が、心で思ったことを言葉や文字、あるいは
  ジェスチャーなどを使わずに直接伝える実験に成功した。
   この実験で、どんなに離れた相手とでも、最新技術を利用
  すれば脳から脳への情報伝達が可能であることが示されたこ
  とになる。これは科学がテレパシーを実現しようとしている
  ということなのだろうか。
   この実験の論文を共同執筆した一人である理論物理学者の
  ジュリオ・ルッフィーニ氏は、自分たちは電磁波で脳と情報
  をやりとりする技術を使っており、決して魔法ではなく、テ
  レパシーの技術的な実現なのだ、と語っている。
   インド南部の都市ティルヴァナンタプラムの被験者がスペ
  イン語の「こんにちは(Hola)」やイタリア語の「こんにち
  わ」と「さよなら(いずれもCiao)」を思い浮かべると、そ
  の際の脳波が測定されて符号化されたデータに変換された。
  そのデータがインターネット経由でフランス北東部のストラ
  スブールに送信されると、符号化されたデータが復元され、
  被験者の頭に取り付けられた電極から微弱な電流として刺激
  が与えられ、脳に直接送信されたという。すると、受信した
  被験者は、目に微弱な光を感じた。つまり、周辺視野で点滅
  する光を見たということらしい。挨拶の声が聞こえたという
  被験者もいたという。      https://bit.ly/2KONrD0
  ───────────────────────────

脳と脳がインターネットに接続される.jpg
脳と脳がインターネットに接続される
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2018年08月15日

●「意識はどのようにして発生するか」(EJ第4828号)

 「人間には『心』はあるか」──AIとかロボットのことにつ
いて書いてある本にはよく出ているテーマです。この社会で生き
ていると、ことあるごとに「心」を口にする人に会うものです。
悪いことをすると「心を入れ替えろ」といわれるし、行動や言葉
に「心がこもっていない」といわれたりします。
 AIロボットが話題になっているせいで、「人間とは何か」と
か「人間とロボットはどう違うか」ということが議論になったり
しています。人間とは、「意識がある」、「考える」、「心があ
る」といわれたりしますが、そういう曖昧なものは定義にならな
いという人もいます。
 大阪大学大学院基礎工学特別教授の石黒浩氏は、「心」につい
て、次のように述べています。
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 人に心はなく、人は互いに心を持っていると信じているだけ
 である。         ──石黒浩大阪大学大学院教授
─────────────────────────────
 ジュリオ・トノーニという米国の神経科医で神経科学者がいま
す。トノーニ氏の研究対象は意識と睡眠です。トノーニ氏に次の
著書があります。「意識」が「心」とイコールかどうかは分かり
ませんが、参考になる本です。
─────────────────────────────
  ジュリオ・トノーニ/マルチェッロ・マッスイミーニ著
        『意識はいつ生まれるのか』/亜紀書房刊
─────────────────────────────
 脳科学にとって最大のナゾは「意識」だったといえます。万人
が誰でも持っているのに、その正体がわからない。そのナゾをト
ノーニ氏は解き明かしているのです。脳は意識を生み出すが、コ
ンピューターは意識を生み出せない。では両者の違いはどこにあ
るのかについても言及しています。この理論は「φ理論」といわ
れています。
 多くの書評がネット上に出ていますが、そのなかの一つが意識
とは何なのかについて、わかりやすく説明しています。
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 この理論によれば、「意識」は種々の情報(知覚、記憶、感情
行動等)を司る大脳皮質のそれぞれの部位の神経細胞が一定以上
の数になり、加えてそれらの間に単なる直接的・直線的な形を超
えた複雑な電気的・化学的接続数がある一定レベルを超えれば発
生するもの、とある。
 著者のトノーニ教授は意識の量をこの二つのパラメータの関数
として表す数式も導いており、その結果を深い睡眠時(=意識が
ない状態)の被験者や植物状態とみなされている被験者の脳に外
部から電磁的刺激を与え、それが脳の部位をどのように活性化さ
せるかをモニターすることによって検証を重ねてきている。
                  https://bit.ly/2B3c1k7
─────────────────────────────
 これによると、意識は神経細胞が一定以上の数に発展し、それ
らの接続が複雑に絡み合うようになったある時点で、突然に発生
するものということになります。したがって、ロボットにおいて
も人間の脳と同じような、そういう神経細胞──ディープラーニ
ングがさらに進化し、高度な神経細胞ができると、意識が発生す
る可能性があるということになります。
 これに関連するある思考実験があります。米国の哲学者である
ヒラリー・バトナム氏の著書に書かれている思考実験「水槽の中
の脳」です。図を添付ファイルにしているので、そちらも参照し
てください。1981年時点の思考実験の理論です。
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 科学者が、ある人から脳を取り出し、特殊な培養液で満たされ
た水槽に入れる。そして、その脳の神経細胞をコンピュータにつ
なぎ、電気刺激によって脳波を操作する。そうすることで、脳内
で通常の人と同じような意識が生じ、現実と変わらない仮想現実
が生みだされる。このように、私たちが存在すると思っている世
界も、コンピュータによる「シミュレーション」かもしれない。
                  https://bit.ly/2M95s4s
─────────────────────────────
 この状態で、脳内では意識が生じ、現実世界と変わらないVR
(仮想現実)の世界が生み出されるというのです。何者かが、人
間を乗っ取って、培養液に浸し、エネルギー源として利用する。
当の人間は、現実と全く変わらない仮想現実の世界で過ごしてい
る──まさに映画『マトリックス』の世界そのものです。これを
「シミュレーション仮説」といいます。
 実は、現実世界が何者かにコントロールされているのではない
かと考えていた人は昔からいたのです。その代表的な人物は、フ
ランスの哲学者ルネ・デカルトです。デカルトといえば、次の有
名な言葉があります。
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         われ思う。故にわれ在り
           ──ルネ・デカルト
─────────────────────────────
 実はこの言葉は「シミュレーション仮説」を意味しているとい
われています。デカルトはこういっているのです。
─────────────────────────────
 もし全知全能の悪魔が私を欺いているとしたら、本当は「1+
1=5」であるのに、「1+1」と私が思考するたびに、悪魔に
欺かれて「2」を導き出してしまっている可能性がある。つまり
われわれが現実だと思っているものは、全て悪魔に欺かれた結果
に過ぎず、“本当の現実”は全く別物であるかもしれない。
                    ──ルネ・デカルト
                  https://bit.ly/2M95s4s
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          ──[次世代テクノロジー論U/072]

≪画像および関連情報≫
 ●人間の意識は異次元に存在している
  ───────────────────────────
   AI(人工知能)の驚異的な進歩の前に圧倒させられっぱ
  なしの人類だが、このままのペースで進化し続けるとなると
  いつかAIが“意識”を持つ日もやってくるのだろうか。し
  かし、最新の研究ではAIが、人間と同じような“意識”を
  持つことはないことを示唆している。なぜなら、“意識”や
  “心”は肉体に属するものではなく、別次元の存在であるか
  らだというのだが・・・。
   我々の五感はそれぞれの感覚器官を通じて物事を認識して
  いるが、それを最終的には渾然一体となった総合的な体験と
  して味わうことになる。例えばインドカレーを手づかみで食
  べている時には目も舌も鼻も指先もフルに使って料理を味わ
  い、場合によっては店内に流れるエスニックな楽曲に耳を傾
  けながら“食べる”という体験を得る。
   しかし、機械がこうした統合的な体験を味わおうとするの
  はなかなか大変なことであることがわかる。カメラで視覚情
  報を得て、マイクで音を拾い、各種センサーで認識した匂い
  や味や触感といったバラバラの情報を最後に何らかの処理で
  すべて組み合わせなければならないからだ。そしてそれぞれ
  の末端の回路は異なっているだけに、すべての知覚をぴった
  りと同期させるのもなかなか難しそうだ。
                  https://bit.ly/2P3gZQD
  ───────────────────────────

水槽の中の脳.jpg
水槽の中の脳
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2018年08月16日

●「AI搭載兵器が目下急増している」(EJ第4829号)

 8月4日のことです。ベネズエラのマドゥロ大統領を狙ったと
みられるドローンによる爆発事件が起きています。
─────────────────────────────
【サンパウロ=外山尚之】南米ベネズエラの首都カラカスで4日
マドゥロ大統領の演説中に爆発音があった。ベネズエラ政府はド
ローン(小型無人機)による攻撃を受けたとし、少なくとも7人
の兵士が負傷したと発表した。マドゥロ氏にけがはなかったとい
う。マドゥロ氏は5月に主要野党不在の大統領選で再選を果たし
事実上の独裁体制を敷いたばかりだった。
          ──2018年8月5日付、日本経済新聞
               https://s.nikkei.com/2w3N7eo
─────────────────────────────
 独裁者といわれるマドゥロ大統領のことですから、地上は厳重
な警備態勢を敷いていたと思われます。マドゥロ大統領の演説の
状況は、ちょうど、北朝鮮で、金正恩委員長が野外で演説するさ
いの大勢の人でびっしり埋まっている道路の状況と同じであり、
地上からのアプローチは不可能です。
 しかし、空からドローンで侵入されると防御不能です。今回の
場合は、爆弾を積んだドローンが空中で爆発しただけですが、既
に米軍では、機関銃や小型空対地ミサイルを搭載した軍用のマル
チコプター・ドローンが開発されているのです。もし、AI操縦
で、そういうドローンが複数機投入されていたら、大統領目がけ
て、ミサイルが飛んでくることになります。
 「AI操縦」とは何でしょうか。これについて既出の小林雅一
氏は、2016年に米国のDARPAにおいて、既にそういう実
験が行われているとし、次のように述べています。
─────────────────────────────
 ドローンが離陸するには兵士が発進指示を出さねばならないが
一旦飛び立ってしまえば、あらかじめ指定された監視対象(テロ
リストや彼らが乗った車など)を見つける作業は、無人機自体の
判断で行うことができる。ドローンは自らに搭載されたビデオカ
メラで地上の様子を撮影し、そのライブ映像を、地上にいる兵士
(に扮した技術者)に送信する。ドローンには人物やその顔面を
認識する特殊なソフトウエアが搭載されている。あらかじめテロ
リストなど危険人物を登録したデータベースと、この人物・顔認
識ソフトの解析結果を照合することにより、ドローンは上空から
撮影したビデオに危険人物が写っているかどうかを判定する。
 たとえばテロリストを発見した際には、ビデオ撮影した映像上
で、その危険人物の周囲を赤色の矩形で囲む。逆に民間人や味方
兵士などの場合には、その周りを緑色の矩形で囲む。これによっ
て(もしも実戦下の場合には)兵士がすぐに、ビデオ映像に写っ
ている人物が敵か、そうでないかを見分けることができる。
          ──小林雅一著/『AIが人間を殺す日/
          車、医療、兵器に組み込まれる人工知能』
                   集英社新書/0890
─────────────────────────────
 あまり考えたくないことですが、AIはごく当たり前のように
軍事兵器に組み込まれつつあります。1977年に米海軍が開発
した次の「対艦ミサイル」があります。これは日本の海上自衛隊
も装備しています。
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               ハーブーン/Harpoon
     マクドネル・ダグラス社開発対艦ミサイル
─────────────────────────────
 「ハーブーン」は、ミサイルの頭部に小型のレーダーを備えて
いて、敵艦に近づいたところでそのレーダーを起動させ、その反
射源に向って突入する方式です。しかし、ミサイルがレーダーを
発射すると、敵艦から探知される可能性もあります。
 そこで米海軍と米空軍とDARPAはこの点を改良して、AI
内蔵の長射程対艦ミサイル「LRASM」を2017年に開発し
たのです。このミサイルは「F─35」から発射される空対艦ミ
サイルです。この「LRASM」は、自前のレーダーを内蔵して
おらず、ミサイルの方からはいっさい電波を出さないのです。
 「LRASM」は、「ESM」という電波方向探知機を使って
敵艦が対空警戒のため発しているレーダーを捉え、搭載AIが、
その電波の特性から敵艦の種類などを分析し、攻撃すべき対象を
決定し、近づきます。そして、赤外線ビデオ映像を頼りに、その
敵艦の急所を正確に把握して、ピンポイントで激突するのです。
 「LRASM」の内蔵メモリーには、軍艦の出す電波の周波数
の違いを網羅した電波特性カタログが収録されているので、艦種
や艦型を特定できます。駆逐艦と空母が並んでいるときは、空母
の方を選ぶことになっています。しかも、「LRASM」はステ
ルス外形ですから、敵艦が気がつくとすれば、おそらく突入の直
前であり、防御する時間はないはずです。
 ちなみに、「LRASM」の射程は370キロメートルもあり
ハーブーンの3倍です。なにしろ発射してしまえば、後はミサイ
ルが自律的に判断して敵艦に正確に突っ込むのですから、防御し
ようがないのです。
 日本の航空自衛隊は、対艦用としてこの「LRASM」と、対
地用として、次の2つのミサイルを米国から輸入することを既に
決めています。
─────────────────────────────
      対地用 ・・ 「JASSM−ER」
      対艦用 ・・    「LRASM」
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 対地用の「JASSM−ER」については、北朝鮮の弾道弾発
射車両を撃破するためであり、「LRASM」については、尖閣
海域に襲来する中国の空母を撃墜するための備えです。「JAS
SM−ER」にもAI機能が内蔵されています。
          ──[次世代テクノロジー論U/073]

≪画像および関連情報≫
 ●AIは軍事利用されるのか?グーグルが出した宣言とは
  ───────────────────────────
   無人化した兵器は、自国の兵士を傷つけずに敵国を叩くこ
  とができることから、各国の軍が長年研究している。しかし
  これまでの無人兵器はリモートコントロールがベースになっ
  ているので、誰かが現地の様子をみながら操作する必要があ
  る。そのため、確かに兵士は遠隔から無人兵器を操作するこ
  とはできるが、完全に戦地から離れることはできない。
   では、無人兵器にAI(人工知能)を搭載したらどうなる
  か。「スイッチを押せば、あとは勝手に敵を倒してくれる」
  恐ろしい兵器になるだろう。そこでAI大国であり、軍事大
  国であるアメリカと中国の両国は、AI兵器の開発を進めて
  いる。嫌な話題だが、そもそもAIはその誕生当初から軍や
  兵器と深い関係にあった。戦争が科学を進歩させたことは悲
  しい事実ではあるが、AIもそのひとつということである。
   しかしいま、AIのトップランナー企業が「兵器用のAI
  は開発しない」と宣言するなど、AIの反軍事化の流れも生
  まれつつある。AIの究極の姿は、コンピュータが人間のよ
  うに思考することである。例えば、囲碁のトッププロを倒し
  たAI「アルファーゴ」は、囲碁のルールと戦術を理解し、
  対戦相手の何十手先も読むことができる。これは十分AIが
  「囲碁について思考した」といえそうだが、しかしアルファ
  ーゴは将棋では思考できないし、顔認証すらできない。つま
  りアルファーゴが人並みの思考をしたとは言い難い。では、
  「コンピュータが人間のように思考する」とはどのように定
  義されるのだろうか。      https://bit.ly/2nBq9r8
  ───────────────────────────

敵艦直撃寸前の「LRASM」.jpg
敵艦直撃寸前の「LRASM」
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2018年08月17日

●「今後戦争はケンタウロス戦になる」(EJ第4830号)

 5月7日から73回にわたって、AI(人工知能)について書
いてきましたが、このテーマは今回で終了します。これまでAI
は2回のブームがあり、今回は3回目のブームにあたります。ど
うやら今回のブームは本物のようです。現在、世の中が、これに
よって音を立てて、変化していることが実感できるからです。
 その一環として、保険業界、とくに自動車保険業界で「テレマ
ティクス保険」というのが流行しつつあります。流行しつつある
というよりも、それが当たり前のことになりつつあります。
 テレマティクス保険は、自動車に設置したテレマティクスサー
ビスの端末機から、走行距離、運転速度、急発進・急ブレーキと
いった運転情報の実績を取得し、実績に応じた保険料を算定する
保険のことです。
 軍事評論家の兵頭二十八氏の本のコラムに、これに関して、次
の予測が出ていました。きわめて実現性の高い予測です。
─────────────────────────────
 航空機のブラックボックスと同じものがすべての自動車に搭載
される。オーナーが購入して以降のすべてのペダル、ハンドル、
レバーおよびスイッチの操作、車両の刻々の位置座標(したがっ
て移動速度も)、全周記録ビデオカメラの情報がストアされると
ともに、定期的にクラウドサーバーヘアッブロードされる。警察
は捜査のためにいつでもその記録にアクセスし、記録デバイスか
らデータをコピー抽出できる・・・     ──兵頭二十八著
     『AI/戦争論/進化する戦場で自衛隊は全滅する』
                        飛鳥新社刊
─────────────────────────────
 兵頭氏は「ブラックボックス」といっていますが、そういう通
信機器がすべての車に装備される日は案外近いと思います。つま
り、車の必須部品のひとつとして、テレマティクス端末が装備さ
れるようになるという意味です。その装置がないと、車としては
認められなくなるのです。
 警察のAIコンピュータは、走行中の車から送られてくるデー
タを解析すれば、それぞれの運転者がどのような運転をしている
かすべてわかるので、交通違反点数を算定し、違反を摘発でき、
免許更新のさいは、それまでの運転状況を調べたうえで更新を認
めるかどうかを判定できます。
 また、免許期間中であっても、あおり運転など、とくに危険な
運転を冒した運転者は、コンピュータがそれを知らせるデータを
出してくるので、運転者に警察署への出頭を命じ、当該車のドラ
イブレコーダーなどを調べたうえで、免許停止などの科料を課す
ることができます。
 このシステムが導入されると、交通警察官を大幅に減らすこと
ができ、運転者も安全運転を心掛けるようになるので、交通事故
は大幅に減らすことができます。それだけに、導入される可能性
は高いと考えます。
 ところで、今後AIはどこまで発展するのでしょうか。レイ・
カーツワイル氏の予言のようになるのでしょうか。
 とくに心配なのは、AIの軍事への応用です。それを読み解く
カギは、米国の軍事刷新にあります。米軍はこれまで2回の軍事
刷新を図っており、現在は第3回目の軍事刷新に取り組んでいま
す。小林雅一氏の本を参考にして、記述しています。
─────────────────────────────
    ◎第1次軍事刷新/1940年〜1950年
     ・核兵器の開発/核弾頭の増設配備の拡大
    ◎第2次軍事刷新/1970年〜1980年
     ・ミサイルなど各種兵器の小型・高精密化
    ◎第3次軍事刷新/2016年〜
     ・各種兵器へのAI(人工知能)搭載など
─────────────────────────────
 現在の軍事力のトップは何といっても米国です。ロシアは資金
がありませんし、中国も米国には遠く及ばないレベルです。しか
し、第2次軍事刷新時点のレベルでは、とくに中国が米国を追い
上げてきていることは確かです。つまり、米国の軍事的優位性が
磐石であるといえなくなってきたのです。
 そこで、米国は、2016年からの3年間で、約180億ドル
(約1兆8000億円〜2兆2000億円)をかけて、AIによ
る自律的兵器を中心とする軍事技術の刷新を行っています。つま
り、米国はAIを次世代兵器の要に据えようとしているのです。
これが米国による第3次軍事刷新の内容です。
 小林雅一氏によると、近未来の戦争は「ケンタウロス戦」にな
るといっています。ケンタウロスとは、ギリシャ神話に登場する
半人半馬の怪物です。これは、これからの戦争は、半分は人間、
半分はマシンが担うことを意味しています。そうです。AIを装
備した人間です。これがどんなに強力であるかについて、小林雅
一氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 ある2人の凡庸なチェス・プレイヤーが、3台のパソコンとそ
こに搭載されたチェス・プログラム(AIソフト)を駆使して、
チェスの世界チャンピオンに勝利を収めた。彼らはまた同じ手段
でチェスを指すスーパー・コンピュータにも勝つことができたと
いう。ここから読み取れることは、最強のチェス・プレイヤーと
は単なる人間(世界チャンピオン)でもAIマシン(人工知能を
搭載したスパコン)でもなく、「AIマシンを使いこなす人間」
であるということだ。これと同じことを米軍は近未来の戦場でや
ろうとしている。それがまさにケンタウロス戦なのだ。
          ──小林雅一著/『AIが人間を殺す日/
    車、医療、兵器に組み込まれる人工知能』/集英社新書
─────────────────────────────
 このテーマは今回が最終回です。長い間のご愛読を感謝いたし
ます。20日からは新しいテーマに挑みます。
      ──[次世代テクノロジー論U/最終回/074]

≪画像および関連情報≫
 ●人工知能は「第2の核兵器」になるかもしれない
  ───────────────────────────
   急速に進化した人工知能(AI)の軍事利用が現実になろ
  うとしている。核よりも容易に拡散するかもしれないこうし
  た技術については、国際的に管理する仕組みが必要という提
  言もある。
   1899年、世界の列強はオランダのハーグで、航空機の
  軍事利用を禁止する条約を採択した。当時の新技術だった航
  空機の破壊力を恐れてのことだった。5年後にモラトリアム
  の期限が切れ、間もなく航空機は第一次世界大戦の大量殺戮
  を招いた。ワシントンにある無党派シンクタンク「新アメリ
  カ安全保障センター/CNAS」のフェロー、グレッグ・ア
  レンは「そのあまりの強力さがゆえに人々を魅了してしまう
  技術は確かに存在します」と話す。「人工知能(AI)もそ
  のような技術のひとつであり、世界中の軍隊が基本的には同
  じ結論に達しています」。
   アレンらは2017年7月、AIなどの最新技術が国家安
  全保障に及ぼす影響について、132ページにわたる報告書
  にまとめた。報告書はひとつの結論として、自律ロボットの
  ような技術が戦争や国際関係に及ぼす影響は、核兵器のそれ
  と同等だと述べている。     https://bit.ly/2gUW8yQ
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ケンタウロス.jpg
ケンタウロス
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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