2018年05月07日

●「AI(人工知能)で政治を変える」(EJ第4757号)

 2017年9月25日から年末の12月28日まで66回にわ
たって「次世代テクノロジー論」というテーマについて書いてい
ます。私が教育関連の顧問をしているIT企業に10月から内定
者が入ってくるので、最近のICT技術トレンドについて参考に
してもらおうと思って、このテーマに選んだのです。
 EJはこれまで多種多様のテーマを取り上げてきましたが、技
術的なもの、難しそうなものに関しては当然のことながら、あま
り評判は良くないのです。ところが、そういう技術的テーマにも
かかわらず、意外にも「次世代テクノロジー論」は、かなり好評
であり、継続を希望する方もおられるので、今日から続編として
次のテーマで書くことにします。
─────────────────────────────
  AI(人工知能)の衝撃!何を変えるか、何が変わるか
   ── AIが社会に与える影響について考える ──
─────────────────────────────
 4月29日のことです。千葉市で行われた「ニコニコ超会議」
の討論会で、自民党の小泉進次郎議員が、政治にもAIを持ち込
むべきであるとし、自らが命名したテクノロジー(科学技術)と
ポリティクス(政治)を融合した「ポリテック」を自民党内で積
極的に推進していくと語ったのです。
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  政治(Politics)+テクノロジ(Technology)=ポリテック
─────────────────────────────
 そのとき「ニコニコ超会議」では、小泉議員と気鋭のメディア
アーティスト落合陽一氏、夏野剛慶大特別招聘教授の3者間で討
論が行われたのですが、「ポリテック」という言葉はその討論の
なかで飛び出したのです。
 小泉議員は、農地に水路を引く工事を取り上げ、農地の形状な
どをAIで解析し、水路の引き方を決める米国の事例を紹介し、
地元などの要望で調整する日本に比べると、コストが100分の
1くらいで済むといっています。ポリテックによって、納税者の
負担は軽くなり、それは、財政の健全化にも貢献すると話してい
ます。しかし、「ポリテック」の反応は、自民党内では、あまり
芳しいものとはいえないのです。
 ところで、小泉進次郎議員とAIは、「意外な結びつき」のよ
うに思うかもしれませんが、そんなことはありません。小泉議員
は、政治家としては、おそらくAI研究の第一人者でしょう。小
泉議員は2013年9月30日に、内閣府大臣政務官兼復興大臣
政務官に就任していますが、そのとき「近未来技術検証特区」で
ドローンや自動運転、AIやロボットなどの社会への導入につい
て研究していたのです。
 AI関連の雑誌やムックを見ると、AIに関する座談会などで
よく小泉議員が発言しているのを発見することがあります。20
15年10月発行の日経BPムックにおいて、小泉議員がAI研
究の第一人者である東京大学大学院准教授の松尾豊氏と対談して
います。そこで、小泉氏は次のように述べています。ポリテック
の構想が既にここで語られています。
─────────────────────────────
 最近AI関連で関心を持った記事がある。日立製作所が論理的
な対話を可能とする人工知能の基礎技術を開発したというもの。
これは、難しい判断を迫られた質問をすると「賛成」「反対」の
立場から理由付きの回答を語ってくれる理論武装を助けるソフト
ウェアを開発しているというものだ。
 政治家のあり方をも変えると思った。議論の賛成と反対の論点
を、過去の大量のニュース記事や資料などを全部統合してすぐに
比較材料として出してくれる。政治家を支えていた秘書や官僚な
ど様々な情報を共有してくれる側のあり方が激変する可能性があ
る。例えば、ペッパーが論点を提示して見せてくれれば、感情的
な対立にならない熟議ができるのではないかと思う。AIが人と
人との理解を深めてくれる役割を果たしてくれるかもしれない。
   ──「この1冊でまるごとわかる!/人工知能ビジネス」
     日経BPムック/日経BP社/2015年10月発行
─────────────────────────────
 実際にAIの活用に関する実証実験は既に始まっています。経
産省では、2016年から2017年にかけて、AIで国会答弁
の下書きを作る実証実験を行っています。過去5年分の国会議事
録をAIに学習させ、参考になる過去の答弁を分析し、整理しま
す。国会答弁は法案作成などに比べて締め切りが短く、職員の負
担も集中しやすいので、経産省は実証実験の結果を踏まえて、将
来の実用化を模索しています。
 しかし、これまでのところ、実証実験はあまりうまくいってい
ないそうです。議員からは、事前に質問の通知があるので、その
質問に対して過去の類似質問を探し出し、類似質問への答弁を基
にした下書きを表示するという仕組みです。この実験は1800
万円の予算でコンサルタント会社に委託して実施したものです。
 実験でわかったことは、AIは元の質問の意図を正確に判断し
て読み取ることができず、見当外れの質問を選ぶケースが多発し
たことです。
 それでは、この実証実験は失敗だったかというと、そうとはい
えないと思います。現在のAIの高度なディープラーニング機能
による学習が進むと、やがては正確な答弁案を作ることは十分可
能であるといえます。そうなると、小泉議員がいう通り、答弁書
の案を作成する側の官僚の仕事は激変することになります。
 小泉議員のように、日本の政治家がAIなどの先端技術に関心
を持つことは大変意義のあることですが、それと合わせて、国会
の運営規則などの古い慣習などについて、改めるべきことが、た
くさんあるのです。その慣習を打破することは、意外に簡単なこ
とではなく、近代化の障壁として立ちはだかっているといっても
過言ではありません。これはついては、明日のEJで検討するこ
とにします。    ──[次世代テクノロジー論U/001]

≪画像および関連情報≫
 ●AIがもたらす政治変革への期待/松本徹三氏
  ───────────────────────────
   AIの本来の意味は「人間の頭脳の完全な代替」ですが、
  それが、一定の時間内に行う仕事量は半端ではなく、人間が
  寄ってたかってやる仕事量の数千倍、数万倍にも及ぶものを
  難なくいこなしてしまうでしょう。また、人間の頭脳の完全
  な代替ができるのなら、当然天才の仕事も代替できるという
  ことですから、数万人のアインシュタインを昼も夜も休みな
  く働かせるようなことも、可能になることを意味します。
   こうなると、進化したAIは次第に自らの弱点を見抜き、
  これを克服した「次世代のAI」を自ら創り出すことになり
  ます。コンピューターが自ら行う技術革新は、人間がやるも
  のと比べて、スピードが全く違います。一旦方向性が定まれ
  ば、思い悩むこともなく一途にやりますし、横の繋がりにも
  一切遺漏がないので、発展は幾何学級数的に拡大し、あれよ
  あれよと言う間に、全く想像もしなかった様な世界が実現す
  る可能性は大いにあるのです。
   この様なことが実現する「転換点」を英語では「シンギュ
  ラリティ(技術的特異点)」と呼んでおり、欧米のコンピュ
  ーター技術者の間では現在ごく普通の話題になっています。
  日本は例によって例の如しで、生真面目すぎる日本人の性格
  が災いしてか、「現状の改善」に焦点が絞られすぎ、「とん
  でもない様な可能性」に言及することを忌避する傾向が見ら
  れます。こうしているうちに、米国や中国、ロシアやイスラ
  エルなどに大きな差をつけられてしまうのではないかと心配
  です。             https://bit.ly/2HHf4Bm
  ───────────────────────────

小泉進次郎議員と松尾豊東大大学院准教授.jpg
小泉進次郎議員と松尾豊東大大学院准教授


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2018年05月08日

●「なぜ国会にPCが持ち込めないか」(EJ第4758号)

 はっきりしていることがあります。それは日本が「ICT後進
国」であることです。それは、国会において、現代社会では信じ
られないような古い慣習や規則が根強く残っており、それらを変
更しようとする動きがないことから、そういえると思います。
 自民党の小泉進次郎議員によると、国会会議場や国会内の諸会
議では、PCやスマホを持ち込めないそうです。確かにそういわ
れてみると、国会の会議場や各種委員会で、PCを広げている人
やスマホを見ている人はいないように感じます。
 調べてみると、現在の国会では、衆議院規則215条、参議院
規則211条というものがあり、PCやスマホなどの持ち込みが
事実上禁じられています。
─────────────────────────────
 議事中は参考のためにするものを除いては新聞紙及び書籍等を
閲読してはならない。──衆院規則216条/参院規則211条
─────────────────────────────
 この規則の意味は「議事に関係のある書類を除き、議事に関係
のない新聞、書籍等は閲読してはならない」ということになりま
す。要するに、会議中に関係のない新聞や書籍などを読んではな
らないといっているのです。その趣旨はよく理解できます。「会
議」に参加しているときは、それに集中せよという当たり前の常
識を述べているからです。
 問題は、ここでいう「新聞紙、書籍等」の概念のなかに、電子
文書が考慮されておらず、PCやスマホも見てはいけないことに
なっている点です。つまり、会議中に議事と関係のないスマホを
見たり、関係のないPCの画面を見ることは、やるべきことでは
ありませんが、これを禁ずることは、まるで学校の校則に等しく
国会議員に強いることではないと思います。
 しかし、議事に関係のあるウェブサイトを参照したり、議事を
PCやスマホでメモしたり、送られてきたメールを見るぐらいの
ことはしてもよいのではないかと思います。しかし、そういうこ
とは一切禁止されているのです。
 安倍政権の2014年4月25日の参院外交防衛委員会でのこ
とです。小松一郎内閣法制局長官(故人)が、スマホの画面を見
ながら答弁し、問題になったことがあります。おそらく答弁の要
点が、メモとして、スマホに電子文書として書き込まれていたも
のと思われます。
 ところがこれが大問題になったのです。民主党の斎藤嘉隆氏は
小松一郎長官の行為について、参院予算委員会で安倍首相に質問
したところ、安倍首相は次のように答弁しています。
─────────────────────────────
 携帯を持ち込んで、委員会と関係のない会話をしたり、メール
を見たりということは明らかに委員会の権威を汚すことであり、
やってはいけないということになっています。それに近い行為を
したということで注意を受けたことは、小松長官は反省しないと
いけない。
 しかし、小松長官は国会の答弁に関わることについて、一緒に
いた人の携帯のメールを紹介したという次第ですので、今後たと
えば、iPadなどを活用した方が、議論において活性化される
ことがあるかもしれないと申し上げた次第であります。
                       ──安倍首相
─────────────────────────────
 この安倍首相の答弁でわかることがあります。条文を読む限り
においては、議事に関係のある答弁をスマホに入れていただけの
ことであり、問題はないはずです。しかし、電子文書を文書とし
て認めていないため、これが問題になるのです。
 これに関して、東洋大学の山田肇教授は「ITを受け入れない
愚かな国会」というハフィントンポストのブログ(巻末の「画像
および関連情報」参照)で、次のように批判しています。
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 民間でIT機器を持ち込んで会議を進めるのは、それを利用し
て最新の情報を入手しながら議論しないと、間違った判断をする
恐れがあるからだ。事情は国会も同じはずだ。小松長官に謝罪さ
せるよりも、古色蒼然としたルールを改正し、審議にITを利用
するように、国会は動くべきである。 https://bit.ly/2HQzQue
                  ──東洋大学山田肇教授
─────────────────────────────
 今や民間企業では、会議でPCは不可欠のものになっており、
山田教授もいうように、必要に応じて関連ウェブサイトを参照し
たりすることは、当たり前になっています。G7やG20、国連
の会議などでは、ごく当たり前のようにPCが使われています。
 このような時代に合わない国会規則がいつ決まったのか調べて
みると、1995年〜1996年の両院の議院運営委員会におい
て定められています。衆議院の議場では、携帯電話やポケベルが
使用禁止。参議院ではそれに加えて、PC、ワープロ、ラジオ、
録音機などに類する機器の使用が禁止されています。ここでワー
プロというのは、ワープロ専用機のことです。
 1995年といえば、PCはほとんど普及しておらず、ネット
も使われていなかった時代です。もちろん、携帯電話も、まだな
かったのです。そんな時代にできた両院の国会規則を、なぜまだ
後生大事に守っているのでしょうか。
 安倍首相も「今後たとえばiPadなどを活用した方が、議論
において活性化されることがあるかもしれない」とまで発言して
いるのに、その後まったく動いていません。安倍一強といわれる
安倍政権というのは、そんなことすらできないのでしょうか。
 小泉進次郎議員もポリテックを主張する前に、この古色蒼然た
る国会規則を撤廃することの方が先ではないでしょうか。
 確かに、国会には古色蒼然たる議員がまだたくさんいます。も
ちろんPCは使えませんし、携帯電話すら持っていない人もいま
す。そういうエライ議員たちが反対するので、ICTが使えない
でいるのです。   ──[次世代テクノロジー論U/002]

≪画像および関連情報≫
 ●ITを受け入れない愚かな国会
  ───────────────────────────
   2014年3月25日の参院外交防衛委員会で、小松内閣
  法制局長官が携帯電話を見ながら答弁し、質疑が一時中断し
  たそうだ。時事通信によれば、法制次長に関する質問があっ
  たので、「今、質疑の中継を見ていた次長から、連絡があっ
  た」と長官が携帯画面を読み上げたという。この行為は、携
  帯電話を議場に持ち込んではならないという国会のルールに
  反し、長官は「大変重大な誤りだった」と陳謝させられたそ
  うだ。
   「馬鹿か」というのが僕の感想である。委員会の場にいな
  かった次長に関する質問に、短時間で答えようと努力した長
  官が、なぜ謝罪させられるのだろうか。参議院のネット中継
  アーカイブでは、該当部分は音声が消されており、確認する
  ことができなかった。これも理解できない。くだらないこと
  でもめていたと、国民に知らせたくなかったからなのか。
   民間では、パソコンや携帯を会議に持ち込むのは当たり前
  だ。国会ではパネルを掲げて質問するのが通例のようだが、
  なぜ、プロジェクタ−を用いてプレゼンテーションしないの
  か。動画も音声も再生できるから、より説得力を持って質疑
  ができるというのに。この件について国会議員に直接質問し
  たところ、1枚2万円でパネルの作成を請け負う業者がおり
  切り捨てるのがむずかしいからだと返事があったが、とても
  信じられない。国会では、こんな当たり前のIT利用もでき
  ないというのは、どうしてだろう。https://bit.ly/2rh6uim
  ───────────────────────────

東洋大学/山田肇教授.jpg
東洋大学/山田肇教授

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2018年05月09日

●「日本はAIで周回遅れをしている」(EJ第4759号)

 現代は変化の時代です。それも、あらゆるものに半端でない大
変化が起きる時代です。常識が変化し、常識でなくなる時代とも
いえます。「変化」といえば、英国の自然科学者、チャールズ・
ダーウィンは、次の有名な言葉を残しています。
─────────────────────────────
 最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びる
 のでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者
 だけである。        ──チャールズ・ダーウィン
─────────────────────────────
 唯一生き残ることが出来るのは変化できる者だけである──残
念ながら、現在の日本は、その変化に十分に対応できているとは
いえないのです。とくに先端技術のAI(人工知能)分野の競争
力は、米国や中国と比べると大きく見劣りします。
 権威ある米国人工知能学会への2017年の論文投稿数は、中
国が全体のシェアの31%、米国も30%を占めたのに対し、日
本のシェアはたったの4%であり、投資額についても大きく水を
あけられているのが現状です。
 2018年5月3日付の日本経済新聞は一面のトップ記事に次
のタイトルをつけています。
─────────────────────────────
   日本の研究開発見劣り/企業投資アジア・米急伸
     ── AI分野など競争力に懸念 ──
─────────────────────────────
 このような記事が出ると、日本はいかにも研究開発費を投入し
ていないと思われますが、総額でみると、日本は世界第3位なの
です。2015年の数字では日本全体の研究開発費は1800億
ドルで、米国の5000億ドル、中国の4100億ドルに次いで
世界第3位を占めています。しかも、GDP比では、3・6%で
米国の2・6%、中国の2・1%を抑えてトップであり、日本は
依然として「研究開発大国」の地位を堅持しています。
 それなら、何が問題かというと、研究開発の土台である基礎研
究に十分な資金が配分されていないことです。それと、選択と集
中が十分ではないことです。重要なものには他を削っても大量の
資金を投入する努力が足りないのです。
 2017年度の世界企業研究開発費の投入額ベスト10は次の
通りですが、10年前の2007年と比較すると、大きく様変わ
りしています。
─────────────────────────────
  1位:アマゾンドットコム(米)   226.2億ドル
  2位:アルファベット(米)     166.2億ドル
  3位:サムスン電子(韓)      131.8億ドル
  4位:インテル(米)        131.4億ドル
  5位:フォルクスワーゲン(独)   131.0億ドル
  6位:マイクロソフト(米)     122.9億ドル
  7位:アップル(米)        115.8億ドル
  8位:ロシュ(スイス)       105.5億ドル
  9位:ジョンソン&ジョンソン(米) 103.8億ドル
 10位:トヨタ(日)          95.8億ドル
            2018年5月3日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 ちなみに10年前の2007年のトップはGMです。3位にト
ヨタ、5位にフォードというように自動車が上位を占め、それに
次いでジョンソン&ジョンソンが2位、ファイザーが4位、ロシ
ュが7位と、医薬品が上位を独占していたのです。これに対して
ICT分野はマイクロソフトが6位に入っただけの劣勢です。
 しかし、2017年になると、1位から4位はICTが独占し
ています。自動車は5位にフォルクスワーゲン、10位にトヨタ
が辛うじて入るなど自動車が劣勢になり、医薬品も8位以下の下
位に押しやられています。
 トッブのアマゾンドットコムは、226億ドルと、10年前の
28倍であり、アマゾンのAIの開発要員は5000人の規模に
達しています。ちなみに、アルファベットというのは、グーグル
及びグループ企業の持ち株会社です。
 アジアでは、世界3位の韓国のサムソン電子と、ベスト10で
はないものの、中国の電子商取引のアリババ集団の伸びが目立っ
ています。アリババは、米国、中国、ロシアなど7ヶ所に配置し
た研究施設で、AIの研究開発を実施しています。今後3年間に
150億ドルの資金を投入すると発表しています。これに対して
同じアジアの日本は、世界100位までに入る日本企業は17社
10年前の24社から大きく減少しています。
 それにしても驚くべきは米国企業の強さです。10社中6社が
ベスト10に入っています。米国では約8年で企業が育つといわ
れています。とにかくスピードが早いのです。
 グーグルは、1996年に、同社の検索エンジンの原型になる
「バックラブ」が開発されてから8年後の2004年にナスダッ
クに上場しています。その2004年に創業したフェイスブック
は、8年後の2012年にやはりナスダックに上場しています。
 まだあります。2008年にはエアビーアンドビー、2009
年にはウ―バーが創業していますが、8年後の2017年〜18
年には、いずれも超大企業に成長しています。
 このペースでいくと、2017年から2018年に設立された
AIやVRのICT企業が8年後の2025年頃に大企業になる
可能性があります。これに対して日本は、トヨタ、パナソニック
ソニーと昔の名前ばかり。トヨタこそベスト10に入ったものの
パナソニックは10年前の15位から36位、ソニーは18位か
ら35位と半導体などの多額の経費のかかる事業から撤退してい
るし、東芝にいたっては半導体メモリー事業を売却しようとして
います。安倍首相はAIに力を入れるといいますが、日本政府の
AI投資額は20%以下、民間では10%以下です。
          ──[次世代テクノロジー論U/003]

≪画像および関連情報≫
 ●日本企業がAIで周回遅れになった理由/田原総一朗氏
  ───────────────────────────
   2017年6月2日の日本経済新聞朝刊1面に「世界の株
  時価総額最高」という記事が載った。投資マネーが株式市場
  に流れ込み、5月末の世界株の時価総額が76兆ドルとなり
  2年ぶりに最高を更新したという。
   牽引役はアップル、グーグルの親会社であるアルファベッ
  ト、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コムといった米国
  のIT企業だ。日経新聞もこの記事で指摘しているように、
  時価総額の上位には日本企業が全く見当たらない。1〜8位
  が米国企業で占められ、9位にテンセント、10位にアリバ
  バと中国企業がランクインした。
   日本勢は全く振るわない。10年前(2007年5月末)
  は、10位にトヨタ自動車が入っていたが、今回は38位ま
  で後退した。時価総額だけではない。今、最も投資を呼び込
  んでいるAI(人工知能)開発においても、日本勢は完全に
  出遅れてしまったと言っていい。
   なぜ、こんなことになったのか。
   今、僕はAIの取材を進めている。その中で、AI研究の
  第一人者である東京大学大学院工学系研究科の松尾豊特任准
  教授に話を聞く機会があり、「なぜ、日本はAI時代に出遅
  れてしまったのか」と尋ねた。彼の答えは以下のようなもの
  だった。            https://nkbp.jp/2JTJ35R
  ───────────────────────────

チャールズ・ダーウィン.jpg
チャールズ・ダーウィン
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2018年05月10日

●「BIとAIは大きな差が存在する」(EJ第4760号)

 今回のテーマのEJを書くに当たり、基礎的なリードの参考に
なる書籍をはじめに紹介しておきます。この本を読んで、今回の
テーマを決定めたからです。著者の雑賀美明氏は、AR×VRシ
リアルアントレプレナー/ARシステム株式会社代表取締役会長
兼CEOです。
─────────────────────────────
 「AI×VR/人工知能×仮想現実の衝撃/第4次産業革命
 からシンギュラリティまで」──雑賀美明著/マルジュ社刊
─────────────────────────────
 伊藤穣一氏という人がいます。日本のベンチャーキャピタリス
トで、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)教授、日本人初
のMITメディアラボの第4代所長です。MITメディアラボは
大学の建築・計画スクール内に設置された研究所です。70人の
運営管理スタッフと支援スタッフがいます。
 この伊藤穣一氏は、かねてから、世の中をインターネット以前
の世界とインターネット以後の世界に分けてものごとを考えるこ
とで知られています。
─────────────────────────────
 インターネット前の世界/ビフォー・インターネット BI
 インターネット後の世界/アフター・インターネット AI
─────────────────────────────
 伊藤穣一氏によると、「BI」の世界と「AI」の世界の差は
原始社会と文明社会の違いぐらいあるが、それに人工知能が加わ
ると、それ以上の社会変革が起きるといいます。それは2020
年頃にやってくるというのです。
─────────────────────────────
 「BI」において、世の中は比較的わかりやすかった。ものを
中心に考えることができたし、経済も比較的ゆっくりと動いてい
ました。しかし「AI」になると、途端にルールが複雑になりま
した。インターネットの登場によって大幅に通信コストが下がっ
たからです。通信のコストが下がると、流通やコミュニケーショ
ンのコストも下がります。それに、ムーアの法則(18ヶ月ごと
にコンピューターの速度が倍になり、コストは半分になる)が加
わって、イノヴェイションのコスト、つまりは“何かをやってみ
る”コストが大幅に下がりました。
 それによって、例えば、ウィキペディアや、リナックスといっ
たオープンソースやフリーソフトウェアが増え、グーグルのよう
な会社を、初期コストをかけずに立ち上げられるようになりまし
た。つまり従来であればお金と権力をもたなければ成し遂げられ
なかったことを、誰もができる時代になったのです。それが、複
雑性を生み出す大きな要因となりました。
                  https://bit.ly/2FIpI4P
─────────────────────────────
 2020年といえば東京オリンピックの年です。オリンピック
は社会を変革させます。1964年の東京オリンピックでは新幹
線が開通し、首都高が完成、ホテルニューオータニ、東京プリン
スホテルなどの近代的大型ホテルが開業し、東京は大変貌を遂げ
ています。
 それでは、2020年には何が変わるのでしょうか。
 現在では、AI(人工知能)という文字が氾濫していますが、
2020年頃には、言葉としてのAIは、ほとんど消滅してしま
うでしょう。あらゆるものにAIが使われることが当たり前にな
るからです。
 現在、既に変化は起きています。その変化は第4次産業革命と
いわれています。VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、スマー
トロボット、フィンテック、自動運転車、ドローン、オムニチャ
ネル、デジタルトランスフォーメーション、5G(第5世代移動
通信方式)、シェアリングエコノミー(共有経済)などの現在進
化中のテクノロジーのすべてにAI(人工知能)は入り込んでお
り、大きなイノベーションを起こしつつあります。
 AIをどう定義するかにもよるのですが、既にAIは、ごく身
近なモノに搭載されています。まず、誰でも持っているスマホに
AIは標準装備されています。アップルの「シリ」、アンドロイ
ドの「グーグル・アシスタント」などがそうです。ユーザーのな
かには、AIとは知らないで使っている人もいます。
 ネットの検索エンジンにもAIが搭載されています。そのこと
を意識してキーワードを入力すると、求めているサイトに正確に
誘導してくれます。検索すればするほどAIは、これまでのキー
ワードと、新しく入力されるキーワードを分析し、ユーザーが求
めるサイトを探し出してくれるのです。
 最新の家電製品にもAIは搭載されるようになっています。お
掃除ロボットの「ルンバ」や、炊飯器、洗濯機、冷蔵庫などにも
AIは搭載されつつあります。
 それから「AIスピーカー」があります。これはスマホに搭載
されているものの独立版であるといえます。つまり、対話型の音
声操作に対応したAIアシスタント機能を持つスピーカーのこと
です。内蔵されているマイクで音声を認識し、情報の検索や連携
家電の操作などを行います。
 それぞれ機能の差はあるものの、このようにAIは身近なあら
ゆるものに搭載されようとしています。これは、あらゆるものが
インターネットにつながる「モノインターネット」(IoT)に
密接に関係しているからです。
 しかも、それらのAIの機能は、年数が経つにつれて、どんど
ん高機能化するのです。なぜなら、現代のAIは、マシンが自動
的に学習し、自らその機能を高める「ディープラーニング」機能
を持っているからです。使うにつれて少しずつ利口になる特性を
持っているのです。
 しかし、AIが便利になればなるほど、悪用される恐れもある
のです。最もやっかいなのは、それが軍事に使われることです。
          ──[次世代テクノロジー論U/004]

≪画像および関連情報≫
 ●「未来都市」2つのヴィジョン/伊藤穣一教授
  ───────────────────────────
   MITメディアラボの伊藤穰一は、「合成生物学」に注目
  し、これからの社会に、インターネットに匹敵するほどの大
  きなインパクトを生み出すだろうと話す。一方、タイ王国文
  化省のアピナン・ポーサヤーナンは、市民デモや洪水災害が
  発生する“カオス”な都市で、市民によるクリエイティヴィ
  ティが発展するプロセスに着目。10月に東京・虎ノ門ヒル
  ズで開催された「イノベーティブ・シティ・フォーラム/2
  014」の基調講演に登場したふたりは、まったく異なる視
  点から「都市の未来」を語る。(雑誌『WIRED』VOL
  ・14別冊より転載)
   インターネットがなかった時代(BI)からインターネッ
  ト以後の時代(AI)への変化の過程で、さまざまなことが
  複雑性を帯びていったと伊藤穰一は語る。
  「これまでの都市は、建築家が中心となって考えられてきま
  した。建築家というのは、どうしても建物を中心にものを考
  えてしまいます。しかしこれからの都市をつくっていくうえ
  では、デザインやエンジニアリングの観点だけではなく、例
  えば合成生物学の知見を用いることで、すでに備わってしま
  っている複雑性を理解し、それを都市や建築に組み込んでい
  くことが必要です。そしてそれを行うためには、ひとりの頭
  のなかにデザイナー、アーティスト、エンジニア、サイエン
  ティストという4つの役割が宿っていることが大切です。
                  https://bit.ly/2FIpI4P
  ───────────────────────────

伊藤穣一マサチューセッツ工科大学教授.jpg
伊藤穣一マサチューセッツ工科大学教授
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2018年05月11日

●「AIトロールによる世論分断工作」(EJ第4761号)

 2018年2月のことです。第一線のAIの専門家26人が、
英国オックスフォード大学でAIの危険度についてワークショッ
プを開き、その結果を元にして次の報告書を発表しています。そ
の報告書は、指定のURLから、英文ですが、全文をダウンロー
ドして、読むことができます。
─────────────────────────────
         報告書「悪意ある人工知能の利用」
   The Malicious Use of Artificial Intelligence
          https://maliciousaireport.com/
─────────────────────────────
 この報告書には、非営利研究機関「オープンAI」、デジタル
権利団体「電子フロンティア財団」、米国立安全保障シンクタン
ク「新アメリカ安全保障センター」が参加しています。この報告
書の提言の要旨は次の4つです。
─────────────────────────────
 1.政策決定と技術研究の担当者は、連携して悪意あるAI
   使用について理解し、備えなければならない。
 2.AIは諸刃の剣の技術で、研究者や技術者は悪用される
   可能性に十分に留意し、対応する必要がある。
 3.善悪両方に使える技術を長く扱ってきた分野、たとえば
   コンピュータセキュリティを学ぶべきである。
 4.AIの悪意ある使用リスクを軽減し、防止しようと取り
   組む利害関係者の範囲を積極的に拡大させる。
                  https://bbc.in/2EXkFkK
─────────────────────────────
 ロシアは、現在、ウクライナの問題で経済制裁を受けているこ
ともあって、経済的に困窮しています。ロシアのGDPの順位は
既に韓国に抜かれて第12位ですが、人口においてその6分の1
しかないオーストラリアにも、あと数年で抜かれるといわれてい
ます。それほどロシアは経済的には苦しい状態です。
 しかし、ロシアは依然として軍事強国です。しかし、これまで
の軍事スタイルを大きく変更し、AIを核心とするハイテク戦力
分野での存在感を世界的に高めているのです。
 つまり、北米の主要都市をいつでも焦土化できるのに十分な戦
略核軍備に資金を優先的に手当てしておくものの、これまでのよ
うに、最新鋭の戦闘機や水上艦艇で、米軍やNATO軍と戦うこ
とは密かに諦めています。その代り、その余力をデジタルハイテ
ク戦力分野に注力しているのです。
 SNSの世界に「ボット」といわれるものがあります。ボット
とは「ロボット」の短縮形ですが、その正体はネットの世界で動
作するプログラムです。ツイッターでツイートを発信すると、そ
れに対して自動的に返信をしたり、リツイートしたりして、ある
特定情報を拡散する働きを行うのです。
 しかし、最近はポットにAIが搭載され、高度で複雑な動きを
するようになっています。ロシアのAIボットについて、軍事評
論家の兵頭二十八氏は、自著で次のように解説しています。
─────────────────────────────
 ロシアの地下工作部隊は、米国内に無数の「ボット・アカウン
ト」(半自動文章作成AIが常駐している、じっさいには無人格
のプログ・アカウント)を開設していて、たまたま米国世論を二
分するような事件(たとえば白人警官による黒人容疑者の射殺や
それに反発した黒人たちの抗議騒動)が起これば、待ってました
と黒幕の指令一下、AIが爆発的なペースで各種SNSに煽り発
言を連投するようです。
 しかもポットが、相互にそれを引用・言及し合うので、あたか
も非常にたくさんの米国人が、それぞれに不寛容な立場を固守し
ていがみあっているかのように、ネット上の空気が染め上げられ
てしまう。リアルには存在していない「多数意見」が、いきなり
ネット空間に出現し、大勢の人がそれを読んで心理的に影響され
ることになるのです。      ──兵頭二十八著/飛鳥新社
     『AI/戦争論/進化する戦場で自衛隊は全滅する』
─────────────────────────────
 ロシアでは、ボットのことを「トロール」といい、世界各国、
とくに敵対している米国に対して、間断なくネット攻撃を仕掛け
ています。ターゲットとしては、米国の世論を分断させるテーマ
をターゲットにしているようです。
 たとえば、2018年2月14日に起きたフロリダ州バークラ
ンドにあるマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で起きた
銃撃事件の後、ツイッター上には「♯guncontrolnow (今すぐ銃
規制を)」というハッシュタグが作られ、そこには瞬く間に多数
のツイートで溢れ返ったのです。その数は尋常なものではなく、
銃規制に反対する米国民がこんなにもいるのかと感じさせるに十
分です。しかし、これは米国世論の分断を狙ったロシアのトロー
ル工作だったのです。
 4月13日の米英仏共同で行ったシリアの化学兵器関連施設へ
の空爆についてもマティス国防長官は次のように発言し、その次
の日に米国防総省は記者会見で次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
◎われわれは、数日中にアサド政権支持者による虚偽情報キャン
 ペーンが急増すると予測している。  ──マティス国防長官
◎この24時間の間に、ロシアのトロールが、2000%増加し
 ている。                 ──米国防総省
─────────────────────────────
 このようなことが頻発しているところから考えても、2016
年の米大統領選でも、ロシアは米国に執拗なサイバー攻撃を仕掛
けていると考えられ、大統領選の結果に影響を与えていることは
間違いないと思われます。
 これはロシアによる現代における新しい戦争のスタイルである
といえます。そして、それにはAIがサイバー攻撃に密接に絡ん
でいるのです。   ──[次世代テクノロジー論U/005]

≪画像および関連情報≫
 ●ロシアはは米大統領選にどう介入したのか
  ───────────────────────────
   フェイクニュース問題とは何だったのか――その核心部分
  の実相が少しずつ明らかになってきた。米大統領選へのロシ
  アの介入疑惑を調査中の特別検察官、ロバート・ムラー氏は
  2018年2月16日、その工作部隊とされてきた「インタ
  ーネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」を含む3
  社と、関連する13人のロシア人を起訴した。
   ソーシャルメディアを舞台としたフェイクニュース拡散の
  拠点とみられ、「トロール(荒らし)工場」と呼ばれてきた
  IRAと、その出資者である「プーチンの料理人」エフゲニ
  ー・プリゴジン氏が、米大統領選に何を仕掛けたのか――。
   ムラー氏の起訴状は、そんなフェイクニュース問題をめぐ
  る疑問の数々を解き明かす。その内容は、まるで「フェイク
  ニュースの教科書」のようだ。
   またロシアや米国のメディアも、改めて「トロール工場」
  の実態に迫っている。特にNBCはIRAによるフェイクア
  カウントによるツイートを独自にデータベース化。元データ
  を一般に公開しており、誰でもその足跡をたどることができ
  る。様々なアプローチの中から、フェイクニュースのメカニ
  ズムが、徐々に浮き彫りになってくる。今回の起訴の対象と
  なったのは、法人では、「インターネット・リサーチ・エー
  ジェンシー(IRA)」のほか「コンコルド・マネージメン
  ト・アンド・コンサルティング」、「コンコルド・ケータリ
  ング」の2社。         https://bit.ly/2wmAdf4
  ───────────────────────────

ロシアのトロールによる世論分断.jpg
ロシアのトロールによる世論分断
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2018年05月14日

●「ロシアのハイブリット戦とは何か」(EJ第4762号)

 ロシアは、現在、AIを使った「高度な情報戦」に力を入れて
います。経済制裁を受けて、経済不振に苦しむロシアでは、資源
の選択と集中により電子戦を高度化し、新しい時代の戦争に備え
て着々と成果を積み上げています。
 戦争では、軍を動かす作戦と並行し、通信インフラへの攻撃や
ハッキングに加えて、SNSを使うフェイク情報による世論の撹
乱や、プロパガンダによる宣伝戦などを展開します。これをロシ
アでは「ハイブリッド戦」と呼んでいます。
 このハイブリッド戦は、ウクライナへの侵攻を巡ってロシアと
対立している米オバマ前大統領やドイツのメルケル首相などへの
批判や、ウクライナの親欧米政権を貶める内容が中心でしたが、
国内選挙における反政権勢力に対しても使われています。今回の
プーチン大統領の4選でも、ロシア国内において、ハイブリッド
戦による世論操作がフルに行われたのです。
 ロシアのハイブリッド戦のシステムを支えているのは、次の3
つの要素です。
─────────────────────────────
   1.        フコンタクテ(Vkontakte)
   2.            ボット/トロール
   3.インターネット・リサーチ・エイジェンシー
─────────────────────────────
 第1は「フコンタクテ」です。
 「フコンタクテ(VK)」はロシア版のフェイスブックです。
このサイトには、現在、世界中の極右勢力が集まってきており、
ロシアのサイトでありながら、ドイツ国内のアクセスランキング
の8位に食い込むほどの人気です。
 これは、本家のフェイスブックで、ヘイトスピーチなどの差別
的な表現や活動を禁止しているので、そこを逃げ出して、自由に
発言できるフコンタクテで発言するようになっており、アクセス
ランキングを上げているのです。
 第2は「ボット/トロール」です。
 「ボット/トロール」は、フェイクニュースやリークを拡散さ
せる重要な手段です。トロールとは、ツイッターのツイートのよ
うなものです。多くのツイッターのアカウントから、人手によっ
てツイートされますが、そのうちの5%から15%は「ボット」
なのです。しかも、AIがコントロールしており、ツイートに返
信して対話したり、拡散を行います。例えば、次のような対話が
行われています。A、B、Cはボット(自動拡散プログラム)で
あり、ロシア工作部門の同一人物です。
─────────────────────────────
 A:こんな話がある。
 B:それは信じられない。ニセ情報ではないか。
 A:そんなことはない。間違いない情報だ。
 B:お前は騙されているだけだ。
 C:話に割り込んですまないけど、こんな情報があるよ。
   (そういって、Cはニュース記事をリンクする。Cは
   RT[リツィート]やブライトバートのフェイク記事
   だ。それを見てBがこう書き込む)
 B:なーんだ。証拠があるのか。それなら事実だ。
                  https://bit.ly/2IuLgHO
─────────────────────────────
 第3は「インターネット・リサーチ・エイジェンシー」です。
 トロール(ツイート)の発信には相当の人力が必要です。そう
いうトロールが発信されないと、ボットが機能しないからです。
そのため、作業員をリクルーティングし、その作業をさせる組織
があります。それが、「インターネット・リサーチ・エイジェン
シー」です。トロール部隊ともいわれています。
 日本経済新聞社が、サンクトペテルブルグにあるトロール部隊
の本拠を突きとめて記事にしています。2016年12月19日
の日本経済新聞電子版です。
─────────────────────────────
 午前9時前、サンクトペテルブルクの住宅街。まだ薄暗いなか
予備校生のようないでたちの若者らが、続々と4階建てのビルに
入って行く。看板には「ビジネスセンター」とだけ書かれ、窓の
カーテンはすべて閉めきられている。
 ビルに向かう若者に話しかけても誰も一切応えない。1階の受
付に立つ警備員2人に業種を尋ねてみた。答えは「革製品の会社
だ」。「そうは見えない」と返すと、「PR会社」に変わった。
「社長にインタビューがしたい」としつこく求めると、怒声が響
いた。「トップは大統領だ」。
 元従業員3人が証言する。ここは1日24時間365日、ネッ
トト上で情報工作をする「会社」だ。300〜400人の従業員
が業務ごとに部署に分かれ、メディアにコメントを投稿、フェイ
スブックなど交流サイト(SNS)には偽情報を拡散し、架空の
人物になりすましてブログも展開する。政治風刺画を手掛けるデ
ザイン部や映像制作部もあるという。(添付ファイル参照)
               https://s.nikkei.com/2ww3yUc
─────────────────────────────
 トロール部隊で働いたことのある元従業員によると、月給は4
万ルーブル(約7万6000円)で、特定のメディアサイトにコ
メントを書き込んだり、政治的なツイートを発信したりするのが
作業内容です。毎朝ターゲットが与えられ、30〜40のIDを
使い分け、1日200件程度のコメントの書き込みや、政治的な
内容のツイートを発信します。それらのツイートにAIにコント
ロールされているボットが絡んで拡散されるのです。
 会社の運営者の実態は謎に包まれています。給料日には、社員
は経理部の部屋の前に整列させられ、札束の詰まった紙袋から、
直接現金が支給されるそうです。そのさい、税金も年金などの社
会保障費などは一切天引きされることはないといいます。
          ──[次世代テクノロジー論U/006]

≪画像および関連情報≫
 ●プーチン政権による「情報テロ」への警戒を強める欧米各国
  ───────────────────────────
   対外発信を強化するロシア国営メディアのプロパガンダ/
  宣伝活動に加え、ネット上の情報工作により各国の市民への
  影響力の拡大を図っているとみられている。
   米国の選挙・・・7割近くは電子投票でありますが、安倍
  首相ではありませんが、開票装置を操作して当選させようと
  していたクリントン氏が、ロシアのハッキングにより、クリ
  ントン氏を当選させる為の操作をでき無くしてしまったので
  す。この事実の公開って・・・難しいですよね。ロシアにサ
  イバー攻撃された一派がが国家ぐるみの違法・投票結果操作
  を行っているわけですから・・・ロシアに文句を言えた筋合
  いではないのです。
   スリがすった財布をすられて・・・警察に訴えるようなも
  のですから・・・。ロシアは関与を否認するが、ネット世論
  を操作する「トロール部隊」の拠点が少なくともサンクトペ
  テルブルクに1つあることが判明しているのです。
   ロシアがこの米国の金融ユダヤグループの瓦解をしり、攻
  撃を開始しているとも言えますが、日本は、この金融ユダヤ
  に牛耳られている国であり、来年は相当の混乱の渦に巻き込
  まれることとなるのは確実な情勢なのです。
                  https://bit.ly/2KcYeXL
  ───────────────────────────

サンクトペテルブルグのトロール部隊の拠点.jpg
サンクトペテルブルグのトロール部隊の拠点
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2018年05月15日

●「プーチン指揮するロシアの電子戦」(EJ第4763号)

 ロシアは、AIの技術を応用するSNS世論操作で次のことを
やってきています。
─────────────────────────────
   ◎2016〜2017年
    ・米大統領選挙への干渉
   ◎2017年3月
    ・アルメニア選挙への干渉
   ◎2017年4〜5月
    ・フランス大統領選挙への干渉
   ◎2017年9月
    ・ドイツ総選挙への干渉
   ◎2017年11月
    ・スペインカタルーニャ独立投票への干渉
                  https://bit.ly/2KcbaNF
─────────────────────────────
 このようなSNSを使ったハイブリッド戦は、2018年の米
英仏によるシリア攻撃の前にも行われています。4月11日のこ
とです。英国のメディア各社が次の報道を行ったのです。
─────────────────────────────
     メイ首相がシリア攻撃参加を検討している
              ──英国メディア各社
─────────────────────────────
 その報道の直後から、一斉にSNSを通じて反対運動が展開さ
れたのです。まず、「#NotInMyNameTheresaMay」というハッシュ
タグが作られ、反対ツイートが集まります。このハッシュタグは
短時間で9万2000回以上が引用され、9260万人の目にふ
れています。「ハッシュタグ」というのは、特定のテーマに絞っ
てツイートを集めるタグのことで、ツイッターユーザーが簡単に
作ることができます。
 反対活動の中心は、英国野党の労働党の支持者と見られますが
その主張の拡散にロシアが深く関与しているのです。その労働党
支持者は「軍事攻撃を支持するか?」のアンケートを行ったので
すが、84%が反対票を投じています。その投票数があまりにも
多いことから、ロシアによるの関与が疑われているのです。
 このケースにおいて、「軍事攻撃に参加すべきである」という
内容のツイートが発信されたとします。また、同趣旨の主張をす
るブログがあったとします。
 そうすると、これらのツイートやブログに対して、ロシアの工
作部隊の持つ複数アカウントから、人手に加えて、無数のボット
(半自動文章作成AI)が、それに対する反論を、リプライ(返
信)したり、ブログに反対のコメントを書き込んだりします。
 AIは爆発的なペースで、各種SNSに煽り発言を連続投稿し
ます。しかも、ボット同士が相互にそれを引用し合うので、あた
かも大勢の英国人が米仏と一緒にシリアを攻撃することを望んで
いないようにみえるのです。
 これらのロシアの工作隊のAIボットについて、兵頭二十八氏
は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 まったく根も葉もないデマだと宣伝の効果は弱くなりますので
ロシアの工作班は、何かのささいな事実に接続させるようにして
巧みにルーモア(噂)と想像の枝葉を繁らせる。この作業は、し
かし、どうみてもAIまかせではなく、人間の心の機微が分かっ
ているオペレ一夕ーが演出台本に方向を与えていくようです。い
わばAIと人間のコラボですので「サイボーグ」とも呼ばれてい
ます。ツイッターで連日220ツイート以上を量産し続けるよう
なマネは生身の人間には無理でしょう。が、AIロボットならば
淡々とそれを遂行します。(中略)
 察するに、旧共産圏の対外宣伝工作用AI開発部隊は、国際的
な研究者としての名声などは捨てて、ソ連時代のKGBエリート
のように、志願して裏方へ回って国家を支えようとしているので
しょう。            ──兵頭二十八著/飛鳥新社
     『AI/戦争論/進化する戦場で自衛隊は全滅する』
─────────────────────────────
 英国で発生した元ロシア諜報員の毒殺未遂事件でも、ロシア側
によるトロール作戦が展開されています。英国当局はこれを「ロ
シアの犯行」と断定し、ロシアの諜報部員とみられる外交官を追
放しています。これに対してロシア側も報復として同数の外交官
を追放するという措置をとっています。こういう英国の対応に対
して、「これは英国の陰謀であり、ロシアの犯行ではない」とい
うフェイク情報が大量に拡散されています。
 ツイッターによるツイートの拡散は、フォロワーの数とその質
によって決まります。私は、2010年1月から9年5ヶ月にわ
たってツイッターを続けていますが、フォロワーは全ての人がそ
うではありませんが、基本的には私のツイートの内容に共感して
くれる人の集団が自然にでき上がっています。フォロワーの数が
多ければ多いほど、大勢の人にツイートが届くことになります。
 しかし、フォロワーは自分の力では増やせないのです。ツイー
トの発信、フォロー、リプライ、リツイートなどの、自分でやれ
ることの結果として、生み出されるものです。たとえAIでも今
のところはフォロワーは増やせないといえます。
 ロシアは大勢のフォロワーを持つツイッターのユーザーを多く
確保しています。BBCの調査によると、サラ・アブダラという
謎の女性のツイッターユーザーがいます。12万5000人以上
のフォロワーを持っており、そのフォローワーのなかには、さま
ざまなメディア記者が250人以上も含まれており、突出した影
響力を持っています。ツイートはほとんどがロシアとアサド政権
の擁護であり、おそらくロシアのトロール機関による架空人物と
思われます。ロシアは各国にこのようなツイッターユーザーを擁
しており、トロールの基地として、抜群の拡散力を誇っているの
です。       ──[次世代テクノロジー論U/007]

≪画像および関連情報≫
 ●記事作成ロボットが「フェイク世論」をでっち上げ
  ───────────────────────────
   世界各国で政治権力などに都合の良いネット投稿が自動投
  稿プログラムによって行われている実態が、英オックスフォ
  ード大インターネット研究所(OII)が行った調査で明ら
  かになった。「フェイクニュース」ならぬ「フェイク世論」
  である。ロボットが何食わぬ顔をして社会に溶け込むという
  のはSFでよくある設定だが、すでにネット社会ではそれが
  到来している。日本も無縁ではない。21世紀の新たな情報
  戦が始まっている。
   OIIは過去約2年にわたってロシア、米国、中国、台湾
  ドイツ、ブラジル、ウクライナ、ポーランド、カナダの9カ
  国でのSNS上における世論操作などのやりとりを分析。6
  月に発表した調査結果で、ロボット転じて「ボット」と呼ば
  れる記事作成プログラムが暗躍する実態を白日の下にさらし
  たのである。
   ロシア版では、デジタルプロパガンダはプーチン大統領の
  リーダーシップを国内の政治的挑戦者から守ることと、ロシ
  ア人の関心を西側への敵対心に向かせることに力が注がれて
  いたとしている。ボットに加えて、トロール(荒らし)と呼
  ばれるひたすら書き込みをする人間も使っているようだとい
  う。ボットがどの程度活躍しているかを定量化するため研究
  チームは、2014年2月から15年末までのツイッターへ
  のロシアの政治に関する投稿を調べた。ちょうど、14年2
  月にはロシアによるウクライナ領クリミアへの侵攻、いわゆ
  るクリミア危機があり、世論操作が活発化したとみられる時
  期である。分析対象は130万にのぼるアカウントから投稿
  された1400万件。      https://bit.ly/2Gb7Lw7
  ───────────────────────────

プーチン大統領による「ロシア電子戦」.jpg
プーチン大統領による「ロシア電子戦」
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2018年05月16日

●「人間の知能を定義することは困難」(EJ第4764)

 AI(人工知能)というと、最先端の技術のように感じますが
その概念は昔からあります。AI(Artificial Intelligence)
という言葉そのものは、1956年の夏からあります。そのとき
後世「ダートマス会議」と呼ばれるようになる有名な会議におい
てこの言葉が使われているのです。
 1956年という年について考えてみる必要があります。コン
ピュータが開発されたのは1945年頃のことであり、その10
年後といえば、コンピュータの高性能化が急速に進んで、「コン
ピュータから何でもできる」と多くの人に思われつつあったとき
です。そういうときにダートマス会議は開かれています。この会
議は、ダートマス大学で行われたのでそう呼ばれています。
 この会議の主催者は、米国の著名なコンピュータ科学者のジョ
ン・マッカーシーという人物です。彼は、この会議の開催資金を
政府から調達するために、会議の内容にいささかオーバーな売り
込み文句として「人工知能」という言葉を使ったのです。そのせ
いか、この会議には錚々たる科学者が一堂に会したのです。
─────────────────────────────
        ジョン・マッカーシー
        クロード・シャノン
        マービン・ミンスキー
        アレン・ニューウェル
        ハーバート・サイモンなど
─────────────────────────────
 彼らのそれ以後の研究をフォローすると、それぞれAIの発展
に大きく貢献した人たちばかりです。簡単に紹介すると、クロー
ド・シャノン氏といえば、「クロード・シャノンなかりせば、コ
ンピュータは高級電子ソロバンで終っていた」といわれる情報理
論の創始者であり、ニューラル・ネットワークの批判的研究で知
られるマービン・ミンスキー氏、初歩的な数学の定理を証明する
プログラムなどの初期のAI研究に大きな足跡を残しているアレ
ン・ニューウェル氏、そして、ハーバート・サイモン氏は、経済
学から社会学、認知科学からコンピュータ科学まで、万能の天才
といわれた科学者です。
 このように、まさに錚々たる科学者が集まったわけですが、そ
の当時の科学者たちの人工知能の認識は次のようなものに過ぎな
かったのです。
─────────────────────────────
  AIとは人間の知的活動をシミュレートする技術である
─────────────────────────────
 このようにAIは定義が曖昧です。AIの性能が強化されるに
つれて、定義が広がる傾向もあります。このAIの定義について
日本のAI研究の第1人者である松尾豊東京大学大学院准教授は
「人工知能の定義が難しいのはこの言葉が複数の側面を持つから
である」とし、その側面として次の3つを上げています。
─────────────────────────────
    1.最先端の情報技術という意味合いでの側面
    2.知能の定義が人によって異なるという側面
    3.AIの定義の範囲が非常に広いという側面
─────────────────────────────
 第1は「最先端の情報技術という意味合いでの側面」です。
 AI(人工知能)は、情報技術のなかでも「最先端の技術」を
指すという側面があります。最先端の技術には何かしら謎めいた
部分があるものですが、そういう謎的なものが残っている間は
人工知能と呼ばれるのです。
 日本でPCが普及した当時、かな漢字変換やOCRまでも人工
知能と呼ばれた時期があります。もっと技術的な面では、プログ
ラムを機械コードに変換するコンパイラも人工知能と呼ばれてい
たのです。それが当たり前になると、そう呼ばれなくなります。
 第2は「知能の定義が人によって異なるという側面」です。
 「人間の知能とは何か」──これは難しい設問です。そのため
人間の知能の解明は、必ずしも進んでいるとはいえない状況があ
ります。そうであるとすると、知能というものを人工的に実現す
る人工知能の定義も曖昧なものにならざるを得ないのです。
 したがって、何が人間の知能を本質的に構成するかについては
研究者によって考え方がそれぞれ異なるのです。何が知能である
か、何が人工知能でないかを定義できないのです。
 第3は「AIの定義の範囲が非常に広いという側面」です。
 人工知能の共通の定義を仮に決めたとしても、どうしてもその
範囲が広いものにならざるを得ないため、その概念は曖昧なもの
にあります。
 スチュワード・ラッセルの有名なAIの教科書によると、人工
知能について次の定義があります。
─────────────────────────────
 人工知能は外界の状況に応じて適切に振る舞いを変えるもの
 である。          ──スチュワード・ラッセル
─────────────────────────────
 しかし、松尾准教授は、極端の例と断りながらも、これでは、
サーモスタットも人工知能になると述べています。サーモスタッ
トも外界の温度に応じて振る舞いを変えるからです。人工知能の
概念の範囲が広いと、こういうことが起こるのです。
 このように何が人工知能であり、何が人工知能でないかを定め
るのは極めて困難なことです。しかし、定義を曖昧にしたままで
は、それが何かを極めることは困難です。そこで、松尾准教授は
人工知能について議論するには、次の2つについて行うのが適切
でないかと述べています。
─────────────────────────────
   1.人工知能は最先端の情報技術を指すものとする
   2.人工知能とは機械学習・深層学習のことである
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/008]

≪画像および関連情報≫
 ●人工知能とは何か/東京大学/堀 浩一氏
  ───────────────────────────
   「人工知能とは何か」という人工知能研究者にとっては答
  えるのが容易でない質問に対して、これまでに4人の先生方
  が回答を試みられてきた。筆者が付け加えるべきことはもう
  あまり残っていない。しかし、4人の先生方のおっしゃると
  おりと言って済ませてしまったのでは面白くない。人工知能
  とは何かという問いに対する答がひとつに決まっていないか
  らこそ、人工知能研究は面白い。その面白さを伝えるために
  も、無理にでも、これまでの4人の先生方との違いを強調し
  て回答を作ってみることにしよう。
  ◎中島の答:人工的に作られた、知能をもつ実体。あるいは
   それをつくろうとすることによって知能全体を研究する分
   野である。
  ◎西田の答:「知能をもつメカ」ないしは「心をもつメカ」
   である。
  ◎溝口の答:人工的につくった知的な振舞いをするもの(シ
   ステム)である。
  ◎長尾の答:人間の頭脳活動を極限までシミュレートするシ
   ステムである。
  ◎ 堀の答:人工的に作る新しい知能の世界である。
   「人工知能とは何か」という問いに対して「人工の知能で
  ある」と答えたのでは、何も答えたことにはならないであろ
  うが、5人の回答を見ると、中島、西田、堀の3名の回答の
  中に、「知能」という語がそのまま残っている。知能とは何
  かについて一言では言えないので、そのまま残して、あとで
  議論するという回答の構造になっている。筆者もその構造を
  採用させていただき、少しずつ順番に論じていくことにした
  い。              https://bit.ly/2IinriS
  ───────────────────────────

東京大学大学院/松尾豊准教授.jpg
東京大学大学院/松尾豊准教授
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2018年05月17日

●「AIとIAの違いについて考える」(EJ第4765号)

 現在でも「人間の『知能』は何か」については解明されていま
せん。したがって、それを人工的に作り出す「人工知能」の定義
が明確でないのは当然です。そこで、人工知能の第一線の研究者
である松尾豊東京大学大学院教授は、人工知能を次の2つに分け
て考えています。再現します。
─────────────────────────────
   1.人工知能は最先端の情報技術を指すものとする
   2.人工知能とは機械学習・深層学習のことである
─────────────────────────────
 1956年のダートマス会議から今年で62年になりますが、
ここ2〜3年前から急に人工知能(AI)が話題が中心になった
感があります。それは、60年以上の年月が経過して、大ざっぱ
にいえば、上記「1」が「2」に移行したからです。
 ダートマス会議から約15年が経過した1970年に後のイン
ターネットの原型になるアーパネットが開発されています。そし
て、1970年代に入って、小型コンピュータ「PC」の開発が
始まっています。ともにPCの開発を目指した次の有名2社の創
業も1970年代です。
─────────────────────────────
     ◎マイクロソフト創業 ・・ 1975年
                  ビル・ゲイツ
     ◎   アップル創業 ・・ 1976年
              スティーブ・ジョブス
─────────────────────────────
 この1970年代からいわゆるIT開発の時代が始まることに
なります。そして、1970年代から、人工知能の研究は、次の
2つの学派にわかれることになります。
─────────────────────────────
     1.AI/  Artificial Intelligence
             ジョン・マッカーシー
     2.IA/Intelligence Amplification
           ダクラス・エンゲルバート
─────────────────────────────
 コンピュータが出現して、「機械と人間の関係」をどうするか
が大きな問題になり、研究がはじまったのですが、それが、ユー
ザー・インターフェース、すなわち「UI」の研究です。中心人
物は、ジョン・マッカーシー氏とダクラス・エンゲルバート氏で
すが、2人のスタンスは、大きく異なっていたのです。
 ダートマス会議を開催し、人工知能(AI)の研究をスタート
させたジョン・マッカーシー氏は、コンピュータについて次のよ
うな考え方をもっていたのです。このコンピュータ観が、現在の
AIにつながってきます。
─────────────────────────────
 コンピュータは今後、急速に進化し、やがて人間に匹敵する。
あるいはそれを凌ぐような知的能力を持つようになる。いずれ人
間は、コンピュータに「あれしろ、これしろ」と命令するだけで
あとはコンピュータがまるで召使いかロボットのように人間の面
倒を見てくれる。         ──ジョン・マッカーシー
           ──小林雅一著『クラウドからAIへ/
  アップル、グーグル、フェイスブックの主戦場』/朝日新書
─────────────────────────────
 ジョン・マッカーシー氏は、ダートマス会議のときは同大学の
助教授であり、1958年にマサチューセッツ工科大学助教授に
なっています。そして、1962年にスタンフォード大学教授に
就任します。その道の大御所的存在の学者です。
 今になって考えると、マッカーシー教授の指摘は正しかったの
かなと考えますが、当時としては、まさに夢物語的話であったこ
とは確かです。
 これに対してダクラス・エンゲルバート氏は、マウスの開発者
として知られ、学者というよりは実業家です。彼は、コンピュー
タについて次のように考えており、マッカーシー氏よりは、はる
かに現実的な考え方をしていたのです。
─────────────────────────────
 機械が人間の面倒を見るというのは、現実離れしているし、本
末転倒している。人間にとってコンピュータのような機械は一種
のツールに過ぎない。ツールが進化することも重要だが、それと
同時に人間もツールの進歩に適応する。
               ──ダクラス・エンゲルバート
                ──小林雅一著の前掲書より
─────────────────────────────
 エンゲルバート氏は、カリフォルニア大学バークレー校大学院
の電気工学科に進学し、1955年に博士号を取得しています。
博士号取得後もバークレー校大学院に助教授として1年間留まっ
たものの、そこでは自身のビジョンを実現できないと感じて大学
を去り、発明家として実業の世界に進んでいます。
 当然のことながら、当時のコンピュータは専門家か研究者しか
使えず、使い勝手はよくなかったのです。しかし、エンゲルバー
ト氏は、近い将来コンピュータは小型化し、多くの人が誰でも使
えるようになると考えており、そのためには、その使い勝手を良
くする多くの発明が必要だと考えていたのです。
 「IA」という考え方は、人間の知的能力をコンピュータのよ
うなツールによって強化する「知的増強」を意味します。この考
え方に同調する人も多く、それが「IA派」という一派を構成し
たのです。
 その結果として、IA派は、1960年代から1980年代に
かけて、マウスやGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフ
ェイス)、マルチウインドウ、ハイパーテキストなど、便利なも
のを次々と開発し、コンピュータの使い易さの向上に貢献したの
です。それはまさしくIT技術の進化そのものです。
          ──[次世代テクノロジー論U/009]

≪画像および関連情報≫
 ●これからの、人と機械の新しいあり方――インタビュー
  ───────────────────────────
   自動運転、ドローン、人工知能。人が「使う」ものだった
  機械(コンピュータ)が「賢く」なりつつある中、自律的な
  機械と人との新たな関係が議論されている。人と機械の関係
  を考える上で欠かせないのが、そのインターフェースだ。東
  京大学助教の鳴海拓志さんはバーチャルリアリティ(VR)
  や拡張現実感など、私たちが現実と感じているものを編集し
  新しい現実をつくる技術を研究する中で、人と機械の新しい
  関係をつくるためのインターフェースのあり方について提案
  している。
  ――鳴海さんは以前、「人はすでに機械に支配されていると
  も言える」とおっしゃっていました。例えば、メールの予測
  変換で、「お願いします」と書こうとしていたのが自動的に
  「お願いいたします」となることがありますが、これは気付
  かないうちに機械に支配されていると。
   ささいな文面の違いかも知れませんが、ニュアンスが大き
  く変わることもありえますよね。ある意味ではわれわれが使
  う言葉や思考が予測変換という機械の機能にコントロールさ
  れてしまっているわけです。でもそういうことに対して普段
  のわれわれは無自覚で、「ちょっと最初に使おうとした言葉
  と違うけれどいいかな」と、その瞬間その瞬間に受け入れて
  使っているし、最終的な文面は自分が決めたと思っている。
                  https://bit.ly/2ICCJCL
  ───────────────────────────

ダグラス・エルゲルバート氏.jpg
ダグラス・エルゲルバート氏
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2018年05月18日

●「インターネットのあやまれる俗説」(EJ第4766号)

 昨日のEJで、「IA」の旗手として、ダグラス・エンゲルバ
ート博士のことを取り上げましたが、彼が後にインターネットの
原型といわれる「アーパネット/ARPANET」の研究員の一
人であったことを知る人は少ないと思います。
 私は、AI(人工知能)がここにきて一挙に実用化したウラに
は、世界レベルのインターネットの普及があると考えています。
具体的にいえば、25年間に10億サイトを超える膨大なウェブ
サイトが創出され、それがAIの知識ベースとして、その進化に
大いに寄与しているからです。
 ところで「インターネットは軍事目的のネットワークである」
ということがよくいわれます。かなりの有識者でも、テレビなど
で、当たり前のように、そのように発言することを聞いたことが
あります。EJでも「インターネットの歴史」を156回連載し
たことがありますが、私の調べた限りでは、インターネットは軍
事目的で開発されたネットワークではないことは確かです。
 この軍事目的論は『TIME』誌/1994年7月25日号に
起因します。そこにはこう記述されています。
─────────────────────────────
 インターネットは国防総省の分散型コンピュータネツトワーク
ARPAネットから育ったものであり、もともと核攻撃による中
央情報施設壊滅を避けるために構想されたものである。
        ――1994年7月25日付の『TIME』誌
─────────────────────────────
 これに対する反論の最新のものとしては、村井純慶応義塾大学
環境情報学部教授が、2014年10月に上梓された次の著書に
その記述があります。
─────────────────────────────
 インターネットの誤った俗説のひとつは、ARPANETは軍
事用に開発され、それが民間に転用されたというものだ。これは
ARPANETが研究資金を出していたことから憶測された誤解
である。パケット交換方式でデジタル情報を伝播する技術は、障
害に強いネットワークの基礎になるので、そういう意味では軍の
目的にもかなっているのだが、ARPAのファンドの基本方針は
軍事目的に直結している研究をやれと言わないことだ。
    ──村井純著『インターネットの基礎』/角川学芸出版
─────────────────────────────
 村井純教授は、婉曲な表現ながら、インターネットが軍事目的
であるというのは誤った俗説であると否定しています。そもそも
ARPANETは、カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCL
A)、カルフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)、ユタ
州立大学、スタンフォード研究所の4つのコンピュータを相互接
続したネットワークであり、それが改良されつつ全米に拡大し、
インターネットになったのです。ちなみに、ARPANETは、
次の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
    ARPANET
    Advanced Research Projects Agency NETwork
─────────────────────────────
 ARPANETが軍事目的でないとすると、何を目的としたも
のかというと、そのヒントがエンゲルバート博士の次の発言にあ
ります。これは『月刊アスキー』が実施したエンゲルバート博士
とのロングインタビュー記事の一部で、非常に貴重なものです。
博士の追悼特集としてネット上に公開されています。
 この記事を読むと、ARPANETが「ネットワークの上に全
ユーザーの知識が集結したコミュニティ作り」を目的としたもの
であることがよくわかります。少し長いですが、貴重な発言なの
で、ご紹介することにします。
─────────────────────────────
 「相互接続すれば、君のコンピュータにぼくの得になりそうな
リソースはあるのかい?」当時、こんな会話がよく聞かれた。す
るともう1人が「なんだ、俺の報告書を読んでいないのか?」と
返すのだ。
 彼らは皆、立派な研究員だが、人の報告書なんて読んではいな
い。だがそう言われて探っていくうちに、相手も優秀だと気付き
「報告書のコピーを送ってくれ」という話になる。
 そのうち何人かの研究員が先の2人にこう言い出した。「ネッ
トワーク化すればコンピュータ上にどういったリソース(情報)
があるか分かるのか?」
 そもそも、コンピュータの相互接続は、プログラムなどのコン
ピュータリソースを共有するためのものだと考えられていたから
2人はそんな需要があるとは予想しておらず困惑していた。だが
それこそ、私にとってはチャンスだった。当時、私は、コンピュ
ータを使った知識のマネージメントを研究している唯一の研究員
だったからね。
 私はネットワークの上に全ユーザーの知識が集結したコミュニ
ティを作り出そうと提案した。「どんなリソースがあって、それ
をどう使ったらいいかといった情報を交換できる場をネットワー
ク上に作ろうじゃないか」という誘いに、皆、一同に賛成した。
 まあ、もっとも後になって、研究員であるはずの彼らが日頃の
研究に加えて、この情報センターというコミュニティの運営まで
しなければならなくなったことに気付き、憤慨するんだが・・。
とにかくこうして私は、ネットワークを使った知の共有という考
えの実践を始めた。
 今では、何百万というコンピュータがつながっているインター
ネットだが、この提案のおかげで、私のコンピュータはインター
ネットにつながった2つ目のノードとなった。言い換えれば私の
コンピュータの接続で、初めてインターネットワークが登場した
ともいえるわけなんだ。       https://bit.ly/2jWPtpD
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/010]

≪画像および関連情報≫
 ●ARPANETの設計目的についての誤解/ウィキペディア
  ───────────────────────────
   ARPANETは核攻撃にも耐えるよう設計されたネット
  ワークだ、という言い伝えが広まっている。その方式が19
  60年代前半にアメリカ空軍のシンクタンクであるランド研
  究所のポール・バランによって提唱された核攻撃下でも生き
  残れるコミュニケーション方式であるという点を持ち上げて
  冷戦構造全体の中で技術としての「インターネット」を議論
  するべきなのか、それともロバーツの言うとおりパケット通
  信はバランの研究とは全く関係の無いイギリス国立物理学研
  究所のドナルド・デービスの研究成果を反映したもので「イ
  ンターネット」の誕生は新しいコミュニケーションツールと
  しての側面から評価してよいという議論までかなりの幅が見
  られる。インターネット協会は、ARPANETを生み出し
  た技術的アイデアの融合について次のように記している。
   ARPANETが核戦争に耐えられるネットワーク構築と
  何らかの関係があると主張する間違った噂が始まったのは、
  ランド研究所の研究からである。ランド研究所では核戦争を
  考慮した秘密音声通信を研究していたが、ARPANETは
  それとは全く無関係である。しかし後のインターネットワー
  キング作業の展開においては、ネットワークの大きな部分が
  失われてもインターネットワークが機能し続けるなど、その
  頑健性と生存可能性を強調したことがあるのも事実である。
                  https://bit.ly/2rIgt0A
  ───────────────────────────

エンゲルバート博士とのロングインタビュー.jpg
エンゲルバート博士とのロングインタビュー
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2018年05月21日

●「エンゲルバートの衝撃なプレゼン」(EJ第4767号)

 ダグラス・エンゲルバート博士については、もうひとつ述べて
おきたいことがあります。それは、1968年12月に行われた
「エンゲルバートのプレゼンテーション」についてです。私がこ
のことを知ったのは、IIJ(インターネットイニシアチブ)の
会長兼CEO、鈴木幸一氏の著書を読んでのことです。
 1969年1月元旦のことです。当時22歳の鈴木幸一氏は、
米誌『ローリング・ストーン』を読んでいたそうです。同誌は、
音楽や政治および大衆文化を扱う隔週発行のマガジンです。
 たまたまその号は、同誌としては珍しく、コンピュータ関連の
記事がいくつか掲載されており、そのなかに「センセーショナル
な試み」というタイトルの記事があったのです。鈴木氏は、気に
なってその記事を読んでみたといいます。そうしたら、次の衝撃
的なフレーズを目にしたのです。
─────────────────────────────
        コンピュータはメディアである
─────────────────────────────
 1969年(昭和44年)といえば、大型コンピュータの全盛
時代です。当時のコンピュータは「計算機」そのものであり、コ
ンピュータは大企業のコンピュータ室に格納されている巨大なマ
シンというぐらいの認識しかなかったのです。ちなみに1969
年1月といえば、ソ連の有人宇宙船「ソユーズ」4号と5号が史
上初の有人宇宙ドッキングに成功したというというのが大ニュー
スになっていたのです。
 鈴木幸一氏は、「コンピュータはメディアである」という記事
について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 その記事は、コンピュータが自ら通信機能をもつという、まっ
たく新しいコンピュータの概念を提示していた。それまでは、コ
ンピュータは「電子計算機」としてただ情報を演算処理するだけ
の機械であり、通信といえば、交換機という専用機で音声を運ぶ
電話のことを指していた。
 両者の融合を可能にした技術基盤が、コンピュータ・サイエン
スである。コンピュータ上で、情報処理と通信が一体として動く
ようになることで、コンピュータと通信が別個のものであった時
代には想定もできない変化が訪れるはずだ。両者の技術体系が異
なるままでは、そのアジャストはそう簡単ではない。その意味で
コンピュータと通信を融合させるこの試みは、いま振り返っても
センセーショナルなものであったことは間違いない。
                      ──鈴木幸一著
           『日本インターネット書記』/講談社刊
─────────────────────────────
 この「情報処理と通信が一体として動くメディアとしてのコン
ピュータ」の記事の元になったのは、1968年12月に行われ
たダグラス・エンゲルバート氏のプレゼンテーションです。この
とき、エンゲルバート氏は、先週のEJで述べたように、ARP
ANETの研究員の一人であり、このプレゼンテーションの次の
年の10月にARPANET、後のインターネットの原型になる
ネットワークが開通することになるのです。
 そのプレゼンテーションは、当時のコンピュータではけっして
できないことが将来実現すると主張しています。しかし、現代の
われわれから見ると、毎日ごく当たり前のようにやっていること
ばかりです。当時の鈴木幸一氏が目を見張ったのは当然です。
─────────────────────────────
 コンピュータの画面の前に座った人間が、画面上の複数のグラ
フィカルな「ウィンドウ」を見比べながら、マウスやキーボード
を使って文章をリアルタイムに編集する。そして、作成した文書
を遠隔地のコンピュータに送る。いまではごく当たり前の操作方
法だが、そのルーツはこのときのプレゼンにある。エンゲルバー
トのプレゼンが、その後のコンピュータ開発に与えた影響ほ計り
知れない。現代を生きる私たちにとってなじみ深い「パソコン」
も、エンゲルバートなくしては考えられない。彼のコンセプトは
「パソコンの父」と称されるコンピュータ科学者のアラン・ケイ
をはじめ、個性的で奔放な日々を送っていた若いエンジニアたち
に受け継がれ、その後、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ
とマイクロソフト創業者のビル・ゲイツが、パソコンを製品化し
世に送り出した。初期のパソコンは、キーボードすらついていな
い代物だったが、エンゲルバートのプレゼンが、パソコンを生ん
だひとつのきっかけとなったのである。
                ──鈴木幸一著の前掲書より
─────────────────────────────
 このエンゲルバート氏のプレゼンの話は、当時定職に就いてい
なかった鈴木幸一氏に大きなショックを与えます。何よりもセン
セーショナルだったのは、遠隔地にいる人間同士がコンピュータ
を介してコミュニケーションをとるというアイデアです。これが
実現すれば、まさしく「コンピュータはメディアである」といえ
ます。この新鮮な驚きがなかったら、現在のIIJという企業は
誕生することはなかったと思います。
 コンピュータを相互接続させるとどんなことが起きるのか、当
時はまったく認識されていなかったのです。そもそも異なる設計
によって製作されたコンピュータ同士を相互接続させてデータを
送ることは当時相当の難問だったのです。
 議論が重ねられた結果、この難問は、仕様が同一の「IMP/
インプ」という名前のコンピュータを導入することによって解決
します。IMPは現在のルータの役割を果たすコンピュータであ
り、次の言葉の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
       IMP
       Interface Message Processor
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/011]

≪画像および関連情報≫
 ●「クリック猿とマウス」/桂英史氏
  ───────────────────────────
   ねずみ(マウス)という動物の存在感は、なかなか不思議
  である。キッチンなど日常生活の周辺に出没すると、大騒ぎ
  になる。無理もない。都市生活においては、不衛生のシンボ
  ルとして知られる動物だからだ。その出没を目撃すると、人
  はブルーになる。ねずみそのものが気持ちわるいこと以上に
  自分の生活空間が不衛生であるとの烙印が突きつけられた気
  分になってしまうからだ。したがって、ゴキブリ以上の大敵
  として駆除の対象になる。繁殖力が抜群で、ウイルスのキャ
  リアとしても、申し分ない。ただ、この繁殖力はうまく利用
  されていて、動物実験では長く主役の座を占めている。
   この都市生活者の敵も、いったん「手のひらサイズ」のシ
  ンボルとなってしまうと、なぜか人々の寵愛を一身に集める
  存在となる。ミッキーマウスがその典型である。このミッキ
  ーマウスとともに、20世紀はもうひとつマウスのシンボル
  を登場させた。それがマウスというコンピュータの入力デバ
  イス(装置)である。
   マウスがこの世に登場したのは、1968年のこと。およ
  そ35年も前のことである。サンフランシスコで開かれた秋
  期合同コンピュータ会議で、NLSと呼ばれる対話式のコン
  ピュータが公開された。公開したのは、ダグラス・エンゲル
  バートという、国防省高等研究計画局出身の電子工学の研究
  者である。           https://bit.ly/2KzBbXf
  ───────────────────────────

エンゲルバートのプレゼン.jpg
エンゲルバートのプレゼン
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2018年05月22日

●「マッカーシーは何をやった人物か」(EJ第4768号)

 「IA派」のダグラス・エンゲルバートと「AI派」のジョン
・マッカーシー──このうち、ジョン・マッカーシー氏とはどう
いう人物なのでしょうか。
 マッカーシー氏は、どういうきっかけで「人工知能/AI」を
提唱することになったかについて知る必要があります。
 ジョン・マッカーシー氏は、プリンストン大学で数学科博士課
程を受けていますが、先輩にあたるダートマス大学のジョン・ジ
ョージ・ケメニー数学科教授から、ダートマス大学の助教授とし
て招聘されたのです。1955年2月のことです。
 マッカーシー氏は、ダートマス大学に移ると、大学院時代の同
僚のマービン・ミンスキー氏とベル研究所のクロード・シャノン
氏と一緒に、「認知能力を持つ機械」について、共同で研究をは
じめたのです。それが1956年の「ダートマス会議」の開催に
つながることになります。
 このダートマス会議に関連して、マッカーシー氏は大きな仕事
を2つ成し遂げています。
─────────────────────────────
      1.TSSを提唱し、実現させている
      2.AI言語といわれるLISP開発
─────────────────────────────
 1は「TSSを提唱し、実現させている」ことです。
 1940年代後半にコンピュータが開発され、1950年代に
入るとその性能は飛躍的に向上していたのですが、何しろ当時の
コンピュータは高価であり、数も少ないので、研究者が満足に使
える状況になかったのです。ちなみに、当時積極的にコンピュー
タを使おうとしていたのは、マッカーシー氏のような大学院生が
多かったといえます。
 当時ダートマス大学では、1954年に開発されたIBM70
4を他の大学と共同で使っていたのですが、マシンを直接使うこ
とはできず、プログラムを打ち込んだパンチカードをコンピュー
タ管理者に渡して、その結果を受け取るというスタイルでしか利
用できなかったのです。この場合、もし一ヶ所でもパンチミスを
すると、半日は潰れてしまうのです。
 共同で利用するというのは、MIT(マサチューセッツ工科大
学)が8時間、IBM事業所が8時間、それからダートマス大学
を含む東海岸の大学が合同で8時間というように、使用できる時
間は限られていたのです。
 そこでマッカーシー氏が考えたのが対話型コンピューティング
「TSS/タイムシェアリング」の導入です。
─────────────────────────────
 ◎タイムシェアリングシステム/Time Sharing System
 1台のコンピュータ(のCPU)をユーザ単位に時分割で共有
(タイムシェア)し、複数のユーザで、同時にコンピュータを利
用するシステムである。         ──ウィキペディア
                  https://bit.ly/2JpuiYc
─────────────────────────────
 TSSのシステムを簡単にいうと、一台のホストコンピュータ
が多くの端末(ターミナル)に接続されており、端末ごとにホス
トに仕事の命令が出され、それに対してホストが処理をして返す
という人間とコンピュータの対話です。ホストは一台しかありま
せんが、その処理は高速であり、利用者はあたかもホストを自分
一人で使っているような気分になれるのです。
 ちなみにTSSの提唱者はマッカーシー氏だけでなく、複数い
ます。ASCIIコードの開発者として知られるボム・バーマー
氏や、英国のコンピュータ科学者クリストファー・ストレイチ氏
も、1959年にタイムシェアリングシステムの特許を取得して
います。それぞれが相談したわけではなく、同時にこのアイデア
を思いついたのです。
 2は「AI言語といわれるLISP開発」です。
 「LISP」は、ジョン・マッカーシー氏がマサチューセッツ
工科大学(MIT)に移ってから開発した言語です。AIに向い
たコンピュータ言語といわれています。その開発には、コンピュ
ータを長時間使う必要があります。しかし、上記のようにダート
マス大学では、IBM、MITとIBM704を共同使用してい
たのですが、IBMとMITは8時間使えるのに対し、ダートマ
ス大学の場合は、他の東海岸の大学と合わせて8時間であり、長
時間は使えなかったのです。そこで、MITに移った方が、コン
ピュータが長く使えると考えたマッカーシー氏は、MITに移り
MITの助教授に就任し、LISPを開発します。LISPは、
フォートランに次ぐ歴史の古い言語です。
 これについては、2005年9月14日のEJで取り上げてい
るので、そこから引用します。
─────────────────────────────
 マッカーシーは考えたのです。ダートマス大学にいたのでは、
8時間をさらに他の大学と分け合うことになり、いつ順番が回っ
てくるかわかったものではない――そのためにはMITの教員に
なるのが一番良いと考えたのです。
 それからもうひとつ、IBMの連中と仲良くなる必要があると
考えたのです。そういうわけで、たまたまIBMの技術者がダー
トマス大学を訪問したときに、マッカーシーは食事と酒をおごっ
て饗応したのです。まさに目的のためには手段を選ばずです。
 その効果はすぐにあらわれたのです。IBMからIBMポーキ
プシー事業所に招待されたからです。マッカーシーはそこでコン
ピュータのプログラミングを身につけてしまいます。
 1958年に彼はこのアイデアを実行に移し、MITの助教授
になるのです。そして、同年中にLISP言語を開発し、「記号
表現の機能関数と機械によるその計算T」という論文を発表しま
す。                https://bit.ly/2IytPD5
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/012]

≪画像および関連情報≫
 ●人工知能で大活躍!今熱い「LISP」の成り立ちとこれから
  ───────────────────────────
   LISPという言語をご存知でしょうか。
   「カッコ。とにかくカッコ」「独自路線」「古い」「とに
  かくカッコ」などの印象が一般的でしょうか。あまりメジャ
  ーな言語ではないというのが、正直な位置づけでしょう。本
  エントリでは近年の人工知能の発達に伴ってLISPが見直
  されていることから、LISPのこれまでの歴史を振り返り
  今後の動向を占ってみることにしましょう。
   LISPは、1958年に開発された、現在広く使われて
  いるプログラミング言語の中で最も古いものの1つです。開
  発者のジョン・マッカシーは、実は「人工知能」という言葉
  の提唱者でもあります。このような出自から、LISPは人
  工知能プログラムに多く使われました。人工知能ブームにも
  乗ったこともあり、急速に普及していくことになります。
   しかし長く使われる言語の常として、多くの方言が生み出
  されてしまいました。方言が多いというのは、ある面では困
  った状況です。多数の言語仕様と処理系が生み出されるため
  汎用性が失われ、中長期的に見ると効率が悪くなるのです。
  このような状況の中、LISPにも標準化が必要になりまし
  た。標準化の効果はJavaの成功を見ると分かりやすいと
  思います。Javaは、言語仕様から処理系、果てはライブ
  ラリまで標準化することで、一度書いたプログラムがどこで
  でも動作する、という究極の汎用化を、実現しようとしまし
  た。そしてある程度これは実現され、現在では世界で最も広
  く使われているプログラム言語の1つとなりました。
                  https://bit.ly/2IukVub
  ───────────────────────────

TSS/タイムシェアリングシステム.jpg
TSS/タイムシェアリングシステム
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2018年05月23日

●「スプートニクショックとARPA」(EJ第4769号)


 インターネットの原型であるARPANETを開発した「AR
PA」とはどういう機関であるかを知る必要があります。それは
「スプートニク・ショック」に深く関係するのです。
 1957年にソ連は史上初の人工衛星「スプートニク」の打ち
上げに成功しています。1957年10月4日のことです。ソ連
はその1ヶ月後の11月3日にスプートニク2号の打ち上げにも
成功しています。2号は、生物を乗せることを想定して、気密室
を作っているので、1号に比べて6倍の508キログラムの重量
になっていたにもかかわらず成功しています。
 1958年2月3日のスプートニク3号は、失敗したものの、
1960年5月15日のスプートニク4号は成功、1960年8
月19日のスプートニク5号には、犬2頭、ネズミ40匹、ラッ
ト2匹、その他いろいろな植物も積んで、打ち上げに成功。翌日
に回収され、動物たちは無事に地球に帰還したのです。このよう
に、1957年から1960年にかけて、ソ連は次々とスプート
ニクを連続して打ち上げ、宇宙開発の成果を強調したのです。
 当然のことですが、これは米国にとって大ショックであり、そ
れは「スプートニク・ショック」といわれます。とくに軍事関係
者にとって衝撃的な出来事だったのです。当時のアイゼンハワー
大統領は、ニール・マケルロイ国防長官に命じて、国防総省内に
軍事研究を統括する機関を設置するよう指示します。
 しかし、これに軍は反発します。兵器開発の主導権を奪われる
のではないかと危惧したからです。核兵器の開発を進めていた原
子力委員会も核兵器は外すよう政府に申し入れます。多くの議論
があって、最終的に基礎研究を行う機関として、1958年にそ
の機関は国防総省内に設置されます。それがARPAです。当初
ARPAは、宇宙開発を手掛けるつもりだったといわれています
が、同年10月に国際宇宙局が設置され、その目論見は崩れ去っ
たのです。
 しかし、その結果、ARPAで開発されたのがARPANET
であり、それが後にインターネットに発展するのです。1972
年になって、ARPAは「DARPA(米国国防総省高等研究計
画局)」に改称されます。
 このように、1957年から1972年の15年間は、米国は
ソ連に対抗するため、膨大な軍事予算を使いまくったのです。と
にかく「ソ連に負けるな!」ということで、米国中が燃えていた
時期といえます。そのなかで、マッカーシー氏らのAIの研究に
も潤沢な予算が投入されたのです。
 スプートニク・ショックを受けた米国は、1958年にNAS
A(アメリカ航空宇宙局)を設立し、マーキュリー計画がスター
トします。この計画は、1958年から1963年にかけて実施
された有人宇宙飛行計画のことです。
 1961年1月20日、ジョン・F・ケネディ氏が大統領に就
任します。ケネディ大統領は、1000基のミニットマン・ミサ
イルをはじめ、当時ソ連が保有していたミサイルの数を上回る大
陸間弾道ミサイルを配備すると宣言しています。
 そして、1961年5月25日、ケネディ大統領は、上下両院
合同議会で、アポロ計画について演説し、10年以内(1971
年)に人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させることを宣言
する有名な演説を行います。以下はその演説の一部です。
─────────────────────────────
 私は、今後10年以内に人間を月に着陸させ、安全に地球に帰
還させるという目標達成にわが国民が取り組むべきと確信してい
ます。この期間の、この宇宙プロジェクト以上により強い印象を
人類に残すものは存在せず、長きにわたる宇宙探査史において、
より重要となるものも存在しないことでしょう。そして、このプ
ロジェクト以上に完遂に困難を伴い、費用を要するものもないで
しょう。         ──ジョン・F・ケネディ米大統領
                  https://bit.ly/2IACvIR
─────────────────────────────
 そして米国は目標の1971年以前の1969年7月16日、
アポロ11号が月面に着陸し、無事に地球に帰還させることに成
功します。これで米国は宇宙の覇者の地位を獲得したのです。
 話をAIに戻します。ジョン・マッカーシー氏は、ダートマス
会議以後の1963年、スタンフォード人工知能研究所(SAI
L)を設立し、そこに多くの若い研究者を集めて、次の目標を掲
げたのです。これも10年以内の目標です。
─────────────────────────────
     10年以内に実戦的なAI技術を作り上げる
                   ──SAIL
─────────────────────────────
 米国が総力でソ連と対抗していた1960年代、科学者にとっ
ては絶好の環境だったといえます。なぜなら、国防総省はAIの
基礎研究に大量の資金を拠出したからです。しかも、具体的な目
標や期限を課さなかったので、自由研究として何でもやれたので
す。これについてAIに詳しいKDDI総研リサーチ・フェロー
の小林雅一氏は、自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 彼ら初期の研究者たちは、誰もが一様に楽観的でした。たとえ
ば、マッカーシー氏は国防総省の研究機関であるDARPA(国
防高等研究計画局)に出した提案書の中で、「考える機械は、今
から約10年で完成できるはずだ」と予想しました。ミンスキー
氏も「今から10年もあれば、AIを構成する実質的な問題は解
決されるだろう」と述べました。サイモン氏に至っては「今から
20年以内に、人間がやれることは、すべて機械がやれるように
なるだろう」と公言するほどでした。     ──小林雅一著
 『クラウドからAIへ/アップル、グーグル、フェイスブック
                の次なる主戦場』/朝日新書
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/013]

≪画像および関連情報≫
 ●世界を動かす軍事科学機関DARPA
  ───────────────────────────
   1962年10月16日、ソ連が密かに核ミサイルをキュ
  ーバに設置していることを発見したアメリカ大統領ケネディ
  は、ソ連首相フルシチョフにミサイルの撤去を迫り、拒否さ
  れた。この日からフルシチョフがミサイル撤去の決断を下す
  までの13日間ほどに、人類が核兵器による全面戦争に近づ
  いたことはない。キューバ危機で核ミサイルが攻撃に用いら
  れることはなかったが、実はこの危機の最中に核ミサイルは
  4発も爆発していた。その事実が、世間に知られることがな
  かったのは、この爆発が宇宙空間で行われていたからだ。
   4発中2発はアメリカによって、残りの2発はソ連によっ
  て行われた実験だった。わざわざ宇宙空間で核爆発させたの
  は、クリストフィロス効果を研究するため。1957年にソ
  連が打ち上げた人工衛星によるスプートニク・ショック以来
  アメリカはソ連のICBM(大陸間弾道ミサイル)から自国
  を守る方法を探し続けていた。そして、無名の科学者である
  ニコラス・クリストフィロスが考案した「大気圏のすぐ上の
  地球の磁場にある高エネルギー電子をとらえ、それによって
  生成されるアストロドームのような防御シールド」を作ると
  いうアイディアに行き着いた。クリストフィロス効果とは、
  電離層での数千発にも及ぶ核兵器の炸裂によるベータ粒子を
  地球の磁場に注入し、そこを通過しようとする物体に障害を
  引き起こすというものだった。  https://bit.ly/2ICECjt
  ───────────────────────────

ジョン・マッカーシー.jpg
ジョン・マッカーシー
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2018年05月24日

●「論理への過度の過信が失敗の原因」(EJ第4770号)

 ジョン・マッカーシー、マービン・ミンスキー、ハーバート・
サイモン──いずれも当時の高名な学者ばかりですが、彼らは等
しくAI(人工知能)の発展について、きわめて楽観的な見通し
を立てていたのです。「10年もあれば、AIを構成する実質的
な問題は解決される」といった具合にです。
 彼らの計画によれば、少なくとも1970年頃にはメドがつい
ていたはずですが、2回の「AIの冬」を経て、AI発展の見通
しがついたのは、2000年を超えてからのことであり、10年
どころか、40年もかかったことになります。どこを間違えたの
でしょうか。
 それは、数学や自然科学者の天才たちの陥りがちな「論理への
過信」にあったといえます。彼らは、自ら論理的にものを考える
傾向があり、論理の積み重ねで、機械にある程度の「知性」を持
たせることはできると考えたのです。
 既出の小林雅一氏の著書を参考に、「機械翻訳」を例にとって
考えます。仮に日本語を英語に翻訳するとします。機械翻訳は、
基本的には人間の言葉を機械に読み取らせる自然言語処理の技術
のひとつです。「自然言語」というのは、人間が日常的に使って
いる言語であり、それをコンピュータに処理させるのです。初期
の機械翻訳は、文章を機械に読み取らせるのですが、それは次の
ステップによって逐次行われます。
─────────────────────────────
    @文章から単語を切り出す ・・ 単語解析
    A木構造を生成する    ・・ 構文分析
    B述語論理形式に変換する ・・ 意味分析
─────────────────────────────
 機械翻訳は、予めコンピュータの記憶装置に「辞書」と「構文
規則」のデータベースが用意されています。
 機械は、与えられた文章から単語を切り出し、バラバラにしま
す。これが第1段階の「単語解析」のステップです。続いて、機
械はデータベースを参照しながら、それらの文法的構造を明らか
にして、構文のシンタックスの木構造を生成します。これが第2
段階の「構文解析」のステップです。
 そのうえで、機械はその文章を述語論理形式に変換します。こ
れよって、機械が文章の内容を把握できる「中間言語」になりま
す。これが第3段階の「意味解析」のステップです。
 この後、コンピュータが内容を理解した中間言語を、これらの
3ステップとは逆方向に、「意味合成」→「構文合成」→「単語
合成」を経て、英語に翻訳が行われるのです。
 しかし、この方法では、ごく簡単な文章でないと、翻訳できな
いことがわかります。文章はそれほど論理的ではないからです。
例えば、次の文章の翻訳などは完全にお手上げです。
─────────────────────────────
  日本代表のサムライたちが無敵艦隊スペインに勝った。
                      ──小林雅一著
 『クラウドからAIへ/アップル、グーグル、フェイスブック
                の次なる主戦場』/朝日新書
─────────────────────────────
 人間であれば、この文章は、サッカーの試合について述べてお
り、日本代表が強敵のスペインチームを破ったという意味である
ことはすぐわかります。しかし、当時の機械翻訳の技術レベルで
は、「刀を持った日本の侍が、スペインの軍艦に切りかかった」
などと訳しかねないのです。
 マッカーシー氏に代表される初期のAIの状況について、小林
雅一氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 こうした事情から、初期のAI研究は何とかできる問題を幾つ
か解いた後、先の見えない袋小路に陥ってしまいました。197
3年には、英国の著名な数学者であるジェイムズ・ライトヒル卿
が、「AI研究は、その当初に約束したロボット工学や自然言語
処理などの領域において、なんら実質的な成果を上げていない」
と厳しく批判するレポートを公表しました。これを受けて、英国
や米国の政府は自由なAI研究への予算を全額停止してしまいま
した。手厳しい批判にさらされ、世間の理解とスポンサーを失っ
たAI研究は急速に衰退し、長い停滞期に入りました。
                ──小林雅一著の前掲書より
─────────────────────────────
 このジェイムズ・ライトヒル卿の「自然言語処理などの領域に
おいて、なんら実質的な成果を上げていない」という言葉にもあ
るように、初期のAIはほとんど成果を上げているとはいえませ
ん。これが第1回の「AIの冬」と呼ばれる期間です。1950
年代から1970年代の期間です。
 しかし、後世の人はこの期間を「AIの冬」といっていますが
当のマッカーシー氏やミンスキー氏らは、十分成果が出ていると
胸を張っていたのです。確かに、コンピュータは代数問題を解い
てみせ、幾何学の定理を証明してみせ、英会話をデモ的に学習し
てみせたりしており、これは当時の人々にとって十分「驚異的」
であったのです。
 それは、当時の人々には、コンピュータがそのような「知的」
な行動ができるとは全く信じていなかったので、その程度のこと
でも喝采してみせたのです。しかし、政府から予算を止められて
しまうと、それ以上の研究が進まなくなったことは確かです。
 この時代のAIは、推論と探索の時代であったといえます。例
えば、ネズミの脱出ゲームのようなルールとゴールが決められて
いるゲームにおいて、いかにしてゴールにたどり着くかという問
題が解かれたのです。チェスなどのゲームへのAIの投入もテー
マになったのです。しかし、これらは現実世界とはあまり関係の
ないスケールの小さい世界での話であり、実際には何の役に立つ
かはっきりしなかったので、資金が打ち切られ、研究が一時スト
ップしたのです。  ──[次世代テクノロジー論U/014]

≪画像および関連情報≫
 ●AIとは何か--コンピュータの歴史から紐解く人工知能
  ───────────────────────────
   今、情報科学において重要な技術のうちの1つとして「人
  工知能」(AI)が多くの場で議論されている。しかしなが
  ら、技術者でない一般的な観点で見た場合に、そもそも「人
  工知能」というものが一体何なのかが十分に理解できないよ
  うな議論を目にすることがあるのが現状である。
   この記事では、コンピュータの歴史を紐解くことにより、
  そもそも、人工知能というものが一体何で、ビジネスや社会
  とどう関わっていくのか解説したい。
   そもそも「人工知能」が何なのかについての明確な定義は
  存在しない。人工知能学会のウェブサイトでも、人工知能の
  定義そのものが「議論の余地がある」とされており、実際に
  人工知能研究自体に2つの立場があるとしている。「人間の
  知能そのものを持つ機械を作ろうとする立場」と「人間が知
  能を使って行うことを機械にさせようとする立場」である。
  (現在多くの企業が採用している人工知能は「機械学習」と
  呼ばれるものであり、後者の立場に位置づけられる。機械学
  習は、人間による知的作業のうちの「論理的な推論」を代替
  する技術であり、音声や画像、テキストなどのデータを事前
  に機械に学習させておくことによって、新しいデータを見た
  ときに、自動的に”推測”可能にするというものだ)
   ここで注目すべきなのは、いずれの立場に立った場合にお
  いても、「知能」とは何なのかについての定義が必要であり
  これについての定義は存在しないということである。
                  https://bit.ly/2IBVcvQ
  ───────────────────────────

マービン・ミンスキー.jpg
マービン・ミンスキー
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2018年05月25日

●「人間のように考えるコンピュータ」(EJ第4771号)

 第1回「AIの冬」──1950年代に開始され、1970年
代で終息したAIブームです。終焉した原因は、天才によくある
「論理への過信」だったのです。
 このときのAIのレジェンドたちの楽観主義の言葉を以下に再
現しておきます。
─────────────────────────────
 ◎ジョン・マッカーシー
  考える機械は、今から約10年で完成できるはずである。
 ◎ハーバート・サイモン
  10年以内にデジタルコンピュータはチェスの世界チャンピ
  オンに勝つ。10年以内にデジタルコンピュータは新しい重
  要な数学の定理を発見し証明する。
 ◎マービン・ミンスキー
  一世代のうちに、人工知能を生み出す問題のほとんどは解決
  されるだろう。3年から8年の間に、平均的な人間の一般的
  知能を備えた機械が登場するだろう。
        ──ウィキペディア/https://bit.ly/2ki20V6
─────────────────────────────
 しかし、いったん終息したAIブームは、1980年代には復
活を果します。第2次AIブームの到来です。第1次ブームのと
きは日本は参加していませんが、第2次AIブームから日本が参
加します。それも積極的に参加したのです。このとき、私はマー
ケティングを担当する部署から情報システム部に異動になり、そ
のAIを担当することになったのです。
 第2次AIブームの中心は「エキスパートシステム」です。各
界の専門家(エキスパート)が持っている豊富な知識やノウハウ
をコンピュータに移植し、いわば専門家の分身をたくさん作り、
世の中の役に立てようというプロジェクトです。
 世界初のエキスパートシステムは 「デンドラル(Dendral)」
といい、1965年にその開発が行われています。開発メンバー
には、「エキスパートシステムの父」ともいわれるエドワード・
ファイゲンバウムが含まれており、この「デンドラル」から派生
したものが「マイシン(Mycin)」です。
 マイシンは、細菌感染の診断をする医学分野で最初に成功を収
めたエキスパートシステムで、スタンフォード医学部でも調査に
よると約65%の正解率を誇っています。これは、専門医の診断
の80%の正解率には及ばないものの、少なくとも細菌感染の専
門家でない医師の診断よりは優秀な成績だったといえます。しか
し、マイシンは、実用システムとして導入されていません。シス
テムの誤診の責任問題を恐れたからです。
 このAIによるエキスパートシステムブームに日本政府は、積
極的に参画し、世界のAI研究をリードする一大国家プロジェク
ト「第5世代コンピュータ開発プロジェクト」を立ち上げたので
す。1982年のことです。当時の通商産業省(現経済産業省)
が主導のプロジェクトです。そのきっかけは、ファイゲンバウム
のマイシンに触発されたからといわれています。
 当時の通産省は、エキスパートシステムの精度のカギを握るの
はコンピュータの性能にあると考えたのです。そこで、そのコン
ピュータの能力を1段階上げようとしたのです。その時点でのコ
ンピュータは、次のように第4世代に達していたので、第5世代
としたわけです。
─────────────────────────────
      第1世代:真空管
      第2世代:トランジスタ
      第3世代:IC/集積回路
      第4世代:LSI/大規模集積回路
      第5世代:AIを実現するマシン
─────────────────────────────
 「AIを実現するマシン」とは何でしょうか。
 このマシンに関して、小林雅一氏は、著書で次のように解説し
ています。
─────────────────────────────
 これに対し第5世代コンピュータでは、基本的に数字ではなく
言語のようなシンボル(記号)を処理することを前提とし、しか
も人間と同じように一度に複数の仕事がやれること(並列処理)
を目指していました。たとえば患者を診断するときに、瞬時に幾
つもの病因(可能性)を思い浮かべる医師のようなエキスパート
・マシンです。これをプロジェクトの担当者たちは、「並列推論
型コンピュータ」と呼びました。つまり、それまでの4世代とは
全く異なる、画期的なアーキテクチャのAI型コンピュータを開
発しようとしたのです。           ──小林雅一著
 『クラウドからAIへ/アップル、グーグル、フェイスブック
                の次なる主戦場』/朝日新書
─────────────────────────────
 これは、日本にとって凄いことです。コンピュータの開発で世
界をリードしようとしたからです。1980年代といえば、ソニ
ーのウォークマンなど、日本製の家電製品や自動車が世界市場を
席巻し、「ハイテク・ジャパン」のイメージが拡大していた時期
です。したがって、日本の第5世代コンピュータ開発宣言は、世
界中で注目されたのです。
 しかし、ここで重要なのは、当時挫折していた音声認識や機械
翻訳などのソフトウェア的技術の発展ではなく、「人間のように
考える」コンピュータ、すなわち、ハードウェアの開発を目指し
たことです。これは、現在になって考えると、大きな失敗だった
といえます。
 それでは「人間のように考える」コンピュータとは、具体的に
どのようなマシンを指すのでしょうか。それは、三段論法的推論
をベースとする「ルールベースのAI」そのもので、1960年
代のAIの黎明期の発想と同じだったのです。
          ──[次世代テクノロジー論U/015]

≪画像および関連情報≫
 ●「ルールベースアプローチ」とは何か
  ───────────────────────────
   専門家の知識やノウハウを人間がルールとして記述し、そ
  のルールに従ってコンピューターに処理させようというアプ
  ローチです。「エキスパートシステム」と呼ばれています。
  例えば、計測結果から化合物の種類を特定する、複雑なコン
  ピューターのハードウェアやソフトウェアの構成を過不足な
  く組み合わせるなど、特定の領域に限れば、実用で成果をあ
  げられるようになりました。しかし、そもそも人間の知って
  いることが多すぎることや、それをどう表現するか、また解
  釈や意味の多様性に対応することは容易なことではありませ
  ん。そして、「知識やルールを入れれば賢くなるが、知識を
  すべて書ききれない」という限界に行き当たり、この取り組
  みは下火となってしまいました。その後、この考えを業務シ
  ステムに応用しようという取り組みは続き、BRMS(ビジ
  ネス・ルール・マネジメント・システム)とし、いまもこの
  考え方は生き残っています。例えば、規則の組合せが複雑な
  保険審査や保険料の算定、あるいは、携帯電話の割引条件や
  料金算定など、ルール変更が頻繁な業務システムに使われて
  います。このようなアプリケーションは、処理ルールをプロ
  グラムにロジックとして埋め込んでしまうと、ルールが変更
  されるたびにプログラム修正をしなくてはなりませんので、
  大変手間がかかります。     https://bit.ly/2kivNwU
  ───────────────────────────
 
エドワード・ファイゲンハウム.jpg
エドワード・ファイゲンハウム
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2018年05月28日

●「第5世代コンピュータ開発の目的」(EJ第4772号)

 1980年代における日本の「第5世代コンピュータ」は失敗
に終っています。10年間と570億円を投入したプロジェクト
でしたが、通産省(当時)が掲げた目標には、まったく達してい
なかったからです。
 しかし、この第5世代コンピュータプロジェクトは、その後の
日本のICTに大きな影響を及ぼしており、少し詳しく分析して
みる価値があると思います。
 このプロジェクトを運営するのは「新世代コンピュータ開発機
構(ICOT)」であり、このプロジェクトの目的は「人間のよ
うに考えるコンピュータ」です。具体的には、次のようなことが
できるコンピュータの開発を目指したのです。
─────────────────────────────
      1.コンピュータに「目」を持たせる
      2.人間の話す言葉を理解し聞き取る
─────────────────────────────
 「1」は、コンピュータに目を持たせ、人間のように対象物を
見ることができるようにすることです。これを「コンピュータビ
ジョン」といいます。そうすれば、モノを掴んだり、移動させた
り、障害物を避けたりできます。これは、ロボットの技術に応用
することができる技術です。
 「2」は、コンピュータに人間の話す言葉を聞き取らせ、文字
にして表示する「音声認識」や、外国語を自動的に日本語に翻訳
する「機械翻訳」を可能にしようという、きわめて野心的なプロ
ジェクトといえます。
 現在のAI(人工知能)なら、いずれも既にクリアしている技
術ですが、当時としては、きわめてハードルの高い野心的な目標
でした。開発者側のICOTとしては、少しハードルが高くても
世間の耳目を集める目標を掲げて、企業からの技術者の派遣や資
金の拠出を求めようとしたのです。
 しかし、このプロジェクトは、5年が経過した時点で、それら
の野心的な目標のほとんどの達成が困難になったのです。それは
技術的にきわめてハードルが高かったことに加えて、日本政府の
財政が悪化したこともあり、通産省としては、当初予定していた
予算を大幅にカットせざるを得なかったからです。
 しかし、ICOTとしては、「人間のように考えるコンピュー
タ」そのものは完成しているとして、次のようにその実績を強調
しています。
─────────────────────────────
 コンピュータ・ビジョンや音声認識、あるいは機械翻訳などは
どちらかというと、周辺的な技術であって、目標から削除しても
大勢に影響はない。そんなことよりも「人間のように考える」と
いうプロジェクトの中核はちゃんと残されている。
                      ──小林雅一著
 『クラウドからAIへ/アップル、グーグル、フェイスブック
                の次なる主戦場』/朝日新書
─────────────────────────────
 このICOTの発言を聞くと、ハードウェア中心の発想であっ
て、基本的には、音声認識、機械翻訳などのソフトウェア的技術
を軽く見ているところがあります。この傾向は、現在も日本の技
術の考え方に根強く残っているのです。その証拠に、日本には、
日立、東芝、NEC、ソニーなど著名な製造業はたくさんありま
すが、米国のアップルやマイクロソフトなどに匹するソフトウェ
ア企業は一社もありません。
 第5世代コンピュータ・プロジェクトは、1992年に幕を閉
じましたが、何の成果もなかったわけでなく、高コストではある
ものの、日本独自の「プロログ」という論理型言語で動く「並列
推論型コンピュータ」を完成させているのです。しかし、このマ
シンで動くソフトウェアは何もなかったのです。これについて、
あのファイゲンバウム氏は、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 第5世代は、一般市場向けの応用がなく、失敗に終わった。金
をかけてパーティーを開いたが、客が誰も来なかったようなもの
で、日本のメーカーはこのプロジェクトを受け入れなかった。技
術面では本当に成功したのに、画期的な応用を創造しなかったか
らである。           ──ファイゲンバウムの談話
─────────────────────────────
 本来であれば、このプロジェクトに参加した企業が、プロログ
で動作するソフトウェアの開発に注力すべきであったのですが、
既に当時は、高コストの大型コンピュータの時代ではなく、PC
の時代に移りつつあったのです。これについて、評論家の池田信
夫氏は、次の指摘をしています。
─────────────────────────────
 こうしたプロジェクトの最大の問題はそれが失敗したことでは
なく、業界全体をミスリードしたことだ。1980年代はIBM
に代表される大型コンピュータの時代が終わり、パソコンが急速
に成長した時代だった。ところが、通産省が「大型機の次に来る
のはAIだ」という方針を決めて、業界を「指導」した結果、日
本のコンピュータは大型機から脱却できす、時代遅れになってし
まった。パソコンは、NECのPC−9800を初めとするロー
カル標準で、世界には売れないため、日本のコンピュータ業界は
90年代には世界市場から取り残されてしまった。
 この「失われた10年」の間に、台湾や韓国やシンガポールは
パソコンの生産基地として欧米メーカーに部品を大量に供給し、
「世界の工場」としての地位を確立した。これに対して日本は、
多くのメーカーが国内向けに多くの商品を少量生産していたため
規模で対抗できず、技術開発でも追いつけなくなり、かつては世
界最大の生産量を誇った半導体メモリーも没落してしまった。
                  https://bit.ly/2IJEPxz
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/016]

≪画像および関連情報≫
 ●「日の丸プロジェクトの実態」/酒井寿紀氏
  ───────────────────────────
   経済産業省(および旧通商産業省)は日本のIT産業の振
  興のために国家プロジェクトをいくつも推進してきた。しか
  し、その成果は必ずしも芳しくない。1980年以降の代表
  的プロジェクトの実態を見てみよう。
   1982年から1994年にかけて、13年間に約570
  億円の国費を投じて第五世代コンピュータ・プロジェクトが
  推進された。このプロジェクトは、将来のコンピュータの重
  要な応用を人工知能の分野と考え、それに適したハードウェ
  アとソフトウェアを開発するものだった。そして、その公式
  な最終報告書には、「当初の期待に十分応え、日本のナショ
  ナルプロジェクトのモデルを示し得たと考えられる」と記さ
  れている。しかし、プロジェクトの成果がその後の日本のコ
  ンピュータ産業に大きく貢献することはなかった。
   スコット・キャロンという米国人がこのプロジェクトにつ
  いて調査し本を著している。この人にインタビューされた関
  係者は、あからさまに通産省を非難し、プロジェクトは時間
  の無駄だったと述べたという。日本では公に言えないことを
  米国人には言ったようだ。このプロジェクトの発足当時、第
  五世代コンピュータ調査研究委員会の委員長をされていた元
  岡達東京大学教授は、小生に、「メーカーに道楽をしてもら
  おうと思うのだが、メーカーの人はなかなか乗って来ない」
  と言った。当時のメーカーは道楽に付き合う余裕がなく、初
  めからプロジェクトに乗り気ではなかったのだ。
                  https://bit.ly/2kmhbwo
  ───────────────────────────

第5世代コンピュータ.jpg
第5世代コンピュータ
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2018年05月29日

●「日の丸PTはどうして失敗するか」(EJ第4773号)

 第5世代コンピュータ開発計画──いわゆるICT面において
巨額の予算を注ぎ込んだ「日の丸プロジェクト」でしたが、失敗
に終っています。実はそれ以外にも日の丸プロジェクトはたくさ
んあるのですが、ほとんどは失敗に終っています。
─────────────────────────────
        開始年 所管官庁    予算     成果
VLSI   1976  通産省 740億円     成功
ス−パーコン 1981  通産省 180億円  一部商品化
第5世代コン 1982  通産省 540億円  商品化失敗
ハイビジョン 1983  郵政省   NHK 試験放送のみ
キャプテン  1984  郵政省   NTT サービス停止
トロン    1984  通産省    不明     失敗
シグマ計画  1985  通産省 250億円     失敗
                  https://bit.ly/2J7Rs8O
─────────────────────────────
 上表は、RIETI(独立行政法人経済産業研究所)のサイト
の池田信夫上席研究員の論文に出ているものです。1970年以
降のプロジェクトをピックアップしたものですが、1976年の
VLSI(大規模集積回路)プロジェクトだけは何とか成功して
いるものの、他のプロジェクトのほとんどは、巨額の予算を使い
ながら、失敗に終っています。そのほとんどは、通産省(現経済
産業省)であり、同省には猛省してもらう必要があります。
 なぜ、失敗するのかというと、国際標準を無視して「日本発」
の標準にこだわり、結果として失敗しています。一種のナショナ
リズムといえます。坂村健氏による「トロン計画」にしても、後
の携帯電話の分野にしても、独自の進化を遂げたものの、いずれ
も日本のローカル規格に終っています。日本発の技術が「ガラパ
ゴス」といわれるゆえんです。
 ところで、「シグマ計画」とは何でしょうか。
 この計画の存在はほとんど知られていません。業界では、この
「シグマ計画」を口にするのはタブーとされ、語り継がれていな
いからです。そのため何も残っていないのです。
 1984年のことです。次の報告書が産業構造審議会から提出
されたのです。
─────────────────────────────
 1990年に60万人のソフトウェア開発技術者が不足する
                ──産業構造審議会の答申
─────────────────────────────
 これを受けて通産省は、これを克服するにはソフトウェア開発
を効率化しなければならないとして、ソフトウェア部品を参加企
業で共通化し、それを企業間で共有しようとしたのです。具体的
には、日本語で使えるUNIXツールの標準規格をつくろうとい
う計画だったのです。
 計画の考え方そのものは間違っていなかったものの、このプロ
ジェクトは、5年の年月と250億円の予算を費やし、ほとんど
何の成果も上げられずに失敗しています。それに、本来はソフト
ウェアのプロジェクトであったにもかかわらず、主要な参加企業
がハードウェア・メーカーであったため、予算の大部分は、ハー
ドウェアに注ぎ込まれ、またしてもハードウェア中心のプロジェ
クトに変質してしまったのです。その結果、この計画の成果につ
いて、次のようにいわれたものです。
─────────────────────────────
 1990年のシグマ計画は「60万人の開発技術者が不足す
 る」ことではじめられたが、結果として60万人の無能なソ
 フトウェア開発技術者の余剰を生み出している。
─────────────────────────────
 実は通信省のこのシグマ計画の失敗は隠蔽されたようです。当
時、通産省のような有力な省庁が、国家プロジェクトの失敗を隠
蔽するなどは考えられませんでしたが、今にして思えば、省庁の
省庁といわれる財務省が、文書の隠蔽、改ざん、業者との口裏合
わせなど、何でもありの状態ですから、当時、失敗隠しがあって
も何もおかしくないのです。
 シグマ計画は、プロジェクト終了後、株式会社シグマシステム
という企業に業務が移され、最近になって消滅しています。しか
し、『日経コンピュータ』は、1990年2月12日号で、シグ
マ計画の失敗について、「シグマ計画の総決算/250億円と5
年をかけた国家プロジェクト」という特集を組んで、詳しく報道
しています。誠に勇気ある報道であるといえます。
 こうした日の丸プロジェクトの相次ぐ失敗の原因について、池
田信夫氏は次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 このように「日本発」にこだわるプロジェクトが失敗する第1
の原因は、供給側の都合で作られ、消費者の視点が欠けているこ
とである。消費者にとっては、日本発なんてどうでもよい。どこ
発だろうと、いい標準は多数派になるし、使いにくい規格は生き
残れない。特にインターネットの標準はオープン・スタンダード
だから、特定の国が主導権を握ることはできない。たとえば、リ
ナックスの開発者はフィンランド人だが、それを「フィンランド
発の国際標準」とよぶ人はいないし、フィンランドが優位に立っ
ているわけでもない。
 第2の原因は、グローバルな市場が見えていないことである。
「パソコンは米国主導だから、情報家電は日本の独自規格で対抗
しよう」などという発想で、世界の消費者に通用しない「日の丸
規格」を作っても、キャプテンやハイビジョンのように、結局は
ビジネスとしても生き残れない。昔はパソコンのPC−9800
のようなローカル標準もあったが、グローバルな技術・価格競争
のきびしい現在のIT業界では、もう日本だけの標準というもの
が成立しないのである。       https://bit.ly/2J7Rs8O
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/017]

≪画像および関連情報≫
 ●国策半導体の失敗、負け続けた20年の歴史
  ───────────────────────────
   実際、各国とも自国産業を陰になり日向になり支援してい
  る。サムスンが韓国政府と緊密なことは言うに及ばず、SK
  ハイニックスは01年の経営破綻時に韓国政府系金融機関の
  支援で再建された。マイクロン・テクノロジーにはメモリ技
  術を米国に残したい米国政府の意向が働いていると見るのが
  業界では当たり前。しかし、日本政府による半導体業界への
  支援策はことごとく裏目に出ている。それはなぜなのか。
   半導体摩擦のほとぼりが冷めた00年以降、日本でも再び
  国と企業が一体となって開発を進める国家プロジェクトが乱
  立し始めた。たとえば01年の「あすかプロジェクト」には
  国費200億円が、同年の「HALCAプロジェクト」には
  80億円が投じられた。いずれも半導体の製造プロセス開発
  が目的で、メーカー複数社が参画したが、はかばかしい成果
  は得られなかった。
   政府関係者が解説する。「企業は本命の技術は自社で開発
  する。国家プロジェクトには、成功するか微妙な2〜3番目
  の技術と、二軍レベルの技術者が送り込まれていた」。やは
  り01年の「先端SoC基盤技術開発(ASPLA)」は国
  費315億円を投入し、バラバラだった各社の製造プロセス
  の共通化を目指した。この旗振り役を務めたのが冒頭の福田
  氏で、最先端の巨大な日の丸ファンドリー工場を建設し、各
  社の半導体を受託製造すれば、世界最大ファンドリーの台湾
  TSMCに勝てると参加企業に呼びかけた。
                  https://bit.ly/2kpMvu0
  ───────────────────────────

経済評論家/池田信夫氏.jpg
経済評論家/池田信夫氏
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2018年05月30日

●「専門家の知識の獲得は困難である」(EJ第4774号)

 「コンピュータが人間のように見たり、聞いたり、翻訳したり
する技術」の開発を目指した日本の第5世代コンピュータ開発計
画は、1982年に始まり、10年後の1992年に幕を閉じま
した。AI開発関係者にとって、これ以上の研究は無理であると
感ずるにいたったからです。
 日本だけでなく、1980年代の後半には、AIを研究してい
た多くの科学者たちは、いわゆるエキスパートシステムの有効性
に疑問を持つにいたり、これまでのAIの研究の努力が失敗に終
わったことを実感していました。そもそも「人間の知能をシミュ
レートする」ということが、いかに困難なことであるか分かって
きたからです。
 これによって、AI研究への資金と人材の供給は途絶え、再び
長い停滞期に突入します。これが2度目になる「AIの冬」とい
われる停滞期間です。私自身も当時、明治生命情報システム部に
おいてAIを担当し、「生命保険プランエキスパートシステム」
を構築するなど、AIの実用化に努力したのですが、AIブーム
自体が失速し、残念な結果に終っています。しかし、挑戦したこ
とは、まったく無駄ではなかったと思っています。いろいろなこ
とがわかったからです。
 しかし、これによって、「ルールベースのAI」の時代は終っ
たといえます。当時エキスパートシステムは「知識工学」といわ
れ、次の3つの要素から成り立っていました。
─────────────────────────────
   1.知識の獲得 ・・・ 専門家の知識を獲得する
   2.知識の表現 ・・・ 知識ベースの入力をする
   3.知識の利用 ・・・ 知識を利用して推論する
─────────────────────────────
 エキスパートシステムは、これら3つの要素がすべてクリアさ
れて、はじめて実現されます。1〜3の要素について簡単にいう
と、こうなります。
 専門家からの聞き取りによって、知識を獲得し、それらの知識
を「知識ベース」にストックします。これが「1」の「知識の獲
得」です。そのうえで知識ベースをコンピュータが読めるように
形式化するのが「2」の「知識の表現」です。知識がコンピュー
タが読めるかたちで、知識ベースにストックされると、それを利
用して、問題を解決する推論を行います。これが「3」の「知識
の利用」です。
 3つの要素のうち、一番進化を遂げたのは「3」の「知識の利
用」です。これは知識ベースから情報を読み取り、問題を解決す
る部分です。さまざまな推論エンジンが開発され、精度が大幅に
向上していたからです。
 続いて「2」の「知識の表現」が進化しています。この部分は
知識をコンピュータが読めるようにすることです。これについて
は、プロダクションルール、フレーム、ブラックボートなど、さ
まざまな形式が案出されています。
 ところが、肝心の「1」の「知識の獲得」には重大な問題があ
ります。エキスパートシステムは、専門家から知識の聞き取りを
し、それをベースにして知識ベースを構築するのですが、肝心の
知識の聞き取りが困難なのです。チェスや将棋や碁のように限ら
れた世界で、ルールが明確になっている分野は別として、現実の
世界において、知識の獲得はきわめて困難といえます。
 ところで、「知識」とは何でしょうか。
 このように質問されて、「知識とは〇〇である」と即答できる
人は少ないと思います。ネット上には、知識についてさまざまな
説明があります。そのひとつを取り上げます。
─────────────────────────────
 知識とは、情報を分析して、問題解決に役立つように体系化
 したものである。        https://bit.ly/2ktsWkB
─────────────────────────────
 「〜について知識がある」というが、それでは「その知識につ
いて話してくれ」といわれた場合、あまりにも漠然としているの
で、困るのではないでしょうか。当時、専門家から知識を聞き取
るエンジニアのことを「KE/ナレッジ・エンジニア」といって
いましたが、実際には、KEでもその聞き取りは困難を極めたも
のと思われます。
 人間が何かを解決するためのベースになるものは、その人間が
経験したり、勉強したり、本を読んだり、他の人から聞いたりし
て、頭のなかにストックされたものの総体であって、何がベース
になっているか話せといわれても答えられないと思います。知識
とはそういうものです。
 こうした「知識」というものについて、人工知能研究者の立場
から論じた論文「知識の姿/人工知能研究者の立場から」を執筆
されている東京大学の堀浩一氏は、知識について次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 人工知能研究者の立場から知識を追い求めてきたが、求めれば
求めるほど、知識は遠ざかっていく。一体、知識というのは何物
なのだろうか。(中略)
 筆者は、知識とは何かということについてどれだけの考え方が
あるのかよく知らないが、伝統的な知識観というのは、「万人に
共有可能な,言語化された情報あるいは整理された体系としての
知識」ではないだろうか。人工知能研究者が人工知能を作ろうと
奮闘してわかったことは、そんな「知識」はどこにもない、とい
うことである。たとえば化学用のエキスパートシステムを化学者
と共同で作ろうとして、化学に関する知識を化学者から聞き出そ
うとしても、「いやー,わからないから研究しているわけでして
・・」という答が返ってくるのが落ちである。
                  https://bit.ly/2sc3y74
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/018]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ人工知能ビジネスは2回も失敗したのか
  ───────────────────────────
   当時、世界的には「エキスパートシステム」という、現場
  のいろんな経験値を「If Then(イフ・ゼン)」 の形で表現
  してやろうというものがあった。「観測されるデータがこう
  だったらこう判断しよう」というもの。センサーレベルの条
  件からもっと概念が育ったら、こういうことも考える必要が
  あるよねというふうに意思決定レベルで使う。そういうのを
  すべて「If Then」で書き下そうとした。
   全世界で5000、日本だけでも1000のエキスパート
  システムが作られた。欧州で1000、米国がいちばん多く
  て3000。産業界はエキスパートシステムブームで、先の
  世界一速い推論コンピューターもこの流れで生まれた。
   たとえば、献立支援のエキスパートシステムというのを作
  ったことがある。冷蔵庫に入っている食材などを入れて「お
  まかせでOK」というボタンを押すと、適したレシピがズラ
  リと出てくる。主菜と副菜と付けあわせである条件がそろっ
  たらあるタイプとか。あとは個人情報で、嫌いな食材やアレ
  ルギー物質を省いたりとか、冷蔵庫に入っている野菜を使お
  うとか。そういったルールを3つ4つ適用した結果、候補が
  ズラズラ出てくる。またダイキン工業と連携してエアコンの
  故障診断を作ったりもした。電力会社で変電所の点検をする
  とき、停電が起こらないようにするため、どういう順番で点
  検をすると電力の信頼性がキープできながら電源作業ができ
  るか考えたりね。あとは野村総研と株の予想システムも作っ
  た。チャートのパターンを学習させるシステムを10種類く
  らい作ったり。         https://bit.ly/2L194Rj
  ───────────────────────────

ESシェルのメカニズム.jpg
ESシェルのメカニズム
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2018年05月31日

●「ベイズ統計学のAIへの応用研究」(EJ第4775号)

 2度目の「AIの冬」に突入しても、地道にAIの研究を続け
ている学者はいたのです。その一人にジュディア・パールという
イスラエル系アメリカ人の学者がいます。彼が米カルフォルニア
大学ロサンゼルス校(UCLA)にいたとき、あることに気がつ
きます。それは「人間の無知」です。
─────────────────────────────
 パール氏はAI研究に着手する際、現実世界における「人間の
無知」に着目しました。私達人間は日頃、いろんな事を知ってい
るようで、実際は広い世界に生起する様々な出来事をほとんど知
りません。こうした無知ゆえに、私達は論理に頼るだけで正解に
辿り着くことは稀です。なぜなら論理的な判断を下すための証拠
(確実な知識)が揃っていない場合が多いからです。
 パール氏は、1980年代までのAIが行き詰まってしまった
理由も、そこにあるのではないかと気づきました。ともすれば確
実な知識に欠ける現実世界を、論理的なルールだけで強引に説明
しようとしたことが間違っていたのです。   ──小林雅一著
 『クラウドからAIへ/アップル、グーグル、フェイスブック
                の次なる主戦場』/朝日新書
─────────────────────────────
 ジュディア・パール氏は、論理的推論だけでなく、AIに統計
確率的考え方を導入できないかと考えたのです。なぜなら、現実
の世の中は、さまざまな要素の入り混じった一種の情報のカオス
状態になっており、きちんとしたルールに支配されているわけで
はないからです。
 それも普通の統計学ではなく、18世紀に「異端の統計学」と
いわれ、弾圧まで行われたというトーマス・ベイズ開発の「ベイ
ズ統計学」の考え方を導入しようとしたのです。これについては
2013年10月に次の書籍も出版されています。
─────────────────────────────
      シャロン・バーチェ・マグレイン著
      『異端の統計学ベイズ』/草思社刊
─────────────────────────────
 「ベイズ統計学」とは、どういう統計学でしょうか。ごく簡単
な例で考えてみます。
 コインを投げて、表が出るか裏が出るかの確率は50%です。
しかし、この50%という確率は、コインを何万回、何十万回、
何百万回も投げたときの確率です。こういう確率を「客観確率」
といいます。普通確率というときはこれを指します。
 たまたま5回コインを投げたとき、表が4、裏が1だったとし
ます。しかし、5回のトライでは少ないので、100回投げてみ
たのです。その結果、75回表が出たとします。75%が表が出
る確率です。投げ方やコインにもよると思いますが、この場合は
「このコインは表が出やすい」という経験的確信を持つにいたっ
たことを意味します。この確率を「主観確率」といいます。
 世の中には経験的に知られている確率というものがあります。
営業における飛び込み訪問で、10件のうち1件は、当たりの良
い家が見つかるというようにです。これが「主観確率」です。こ
ういう確率は現実世界では役に立つのです。しかしあくまで主観
で決めた確率ですから、新しい事実が起きると、それにしたがっ
て確率を修正していきます。
 このベイズ理論について、小林雅一氏は、歯科医の診察を例に
とって、次のようにわかりやすく説明しています。
─────────────────────────────
 これを何かに喩えるとすれば、歯科医の仕事です。患者から、
「歯痛」などの症状を聞いた歯科医は、「ああ、きっと右下5番
の虫歯だろう」と当たりをつけます。これが主観確率(仮定)で
す。この仮定に基づいて、歯科医はその辺りをミラーや探り針で
チェックしていきます。
 しかし、最初、歯痛の原因と見ていた5番の歯に異常は見られ
ません。むしろ、その近くの6番に何やら怪しげな影が見つかり
ました。歯科医は「これが、本当の原因かもしれない」と考え直
します。つまり最初、適当に決めた確率(仮定)が観測によって
より正確な確率へと改良されたのです。これが、まさにベイズ理
論の考え方です。それは人問の行動様式や考え方に、非常にマッ
チした確率理論なのです。    ──小林雅一著の前掲書より
─────────────────────────────
 このベイズ理論は、近年ではスパムメール(迷惑メール)を的
確に排除するアルゴリズムや、AIの応用的研究に使われていま
す。Gメールでは、メールボックスに「迷惑メールボックス」と
いうスパムメールを自動的に振り分け、保存してくれるボックス
があります。このスパムメールかそうでないか、を判断するのに
「ベイジアンフィルタ」というものが使われています。「ベイジ
アンフィルタ」は、あらかじめ機械学習によって単語に点数をつ
けておき、対象となるメールに対して、スパムである事後確率と
スパムでない事後確率を計算して、より確率の高い方に振り分け
る仕組みになっています。事後確率とは、客観確率のことです。
 そもそも確率というものは「大数の法則」に支配されるもので
す。したがって、ベイズ理論が本当の意味で実用化されるために
は、大量のデータが不可欠になります。1980年代後半のこと
であり、そういう環境は望むべくもなかったのです。
 そのため、ジュディア・パール氏の開発したベイズ理論を利用
する画期的なAIの手法は、アカデミックな研究のレベルにとど
まっていたのです。
 このベイズ理論を応用するAI研究は、2回目の「AIの冬」
の期間であったにもかかわらず、ジュディア・パール氏が所属す
るUCLA、スタンフォード大学をはじめとする米国西海岸の名
門大学の若手研究者たちの手によって、磨きをかけられていった
のです。そして、これらの若手の人材が1990年代のインター
ネットブームに乗って、グーグルのなどの先進企業に次々と入社
することになります。──[次世代テクノロジー論U/019]

≪画像および関連情報≫
 ●グーグル、インテル、MSが注目するベイズ理論
  ───────────────────────────
   今日のコンピュータ界をリードする権威ある数学者の1人
  であるトーマス・ベイズは、他の数学者と一線を画する。ベ
  イズは神の存在を方程式で説明できると主張した人物だ。そ
  んな彼の最も重要な論文を出版したのはベイズ本人ではなく
  他人であり、また、彼は241年前に亡くなっている。とこ
  ろが、なんとこの18世紀の聖職者が提唱した確率理論が、
  アプリケーション開発の数学的基礎の主要な部分を占めるよ
  うになっているのだ。
   サーチエンジン超大手のグーグルと情報検索ツールを販売
  するAutonomy の両社もベイズの原理を採用し、百発百中で
  はないにしろ高い確率で適当なデータを探し当てる検索サー
  ビスを提供している。様々な分野の研究者も、特定の症状と
  病気の関連付けや個人用ロボットの創造、過去のデータや経
  験に基づく指示に沿って行動し「考える」ことができる人工
  知能デバイスの開発などにベイズモデルを使っている。
   また、マイクロソフトも積極的にベイズモデルを支持して
  いる。同社は確率論(または確率論的原則)に基づく考えを
  同社のNotification Platform に採用している。このテクノ
  ノロジーは将来的に同社のソフトウェアに組み込まれる予定
  で、それによりコンピュータや携帯電話がメッセージや会議
  予定に自動フィルタをかけたり、コンピュータなどの持ち主
  が他人と連絡を取りあうための最善策を考えたりすることが
  できるようになる。       https://bit.ly/2kvAOCc
  ───────────────────────────

トーマス・ベイズ/ベイズ理論.jpg
トーマス・ベイズ/ベイズ理論
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2018年06月01日

●「AIとウェブサイトの関係に迫る」(EJ第4776号)

 AI(人工知能)の歴史を簡単に振り返っています。初期のA
I(1950年代)は、コンピュータの能力に過度の期待を抱い
て失敗し、1度目の「AIの冬」に突入します。人間が何気なく
やっていることが、機械にとっては途方もなく難しいことである
ことがやっとわかったのです。
 ところが、時代とともに、コンピュータの性能が向上してくる
と、再びAIは復活します。論理(ロジック)のはっきりしてい
る分野に絞って、人間がその分野の専門家の知識をコンピュータ
に与えることによって「エキスパートシステム」を構築し、役立
てることはできないかと考えるようになります。1980年代の
「ルールベースのAI」です。この時期から、日本はAIに積極
的に参入するのです。
 しかし、肝心のことが大問題だったのです。それは、知識を機
械に与えることです。機械からみれば「知識の獲得」です。人間
の子供であれば、知識を自律的に学び取り、成長していきますが
コンピュータは自律的に学ぶことはできず、何から何まで人間が
コンピュータに知識を与えるしかなかったからです。
 それに、人間の持つ知識は想像以上に多く、しかも知識はどん
どん増えるので人間が与える知識には限界があります。かくして
エキスパートシステムという名の「ルールベースのAI」は破綻
し、AIは2度目の「AIの冬」に突入します。このとき、ほと
んどの人は「AIはこれでもう終わりだな」と思ったものです。
 次にUCLAのジュディア・パール氏が主導する統計確率的理
論を導入したAI手法が登場します。これは、エキスパートシス
テムの精度を向上させるのに貢献したことは確かです。しかし、
これも確率自体が「大数の法則」によって支配されるものであり
そういう肝心な大量のデータを欠いていることから、あくまで研
究レベルの状態に止まっていたのです。
 しかし、2000年代に入ると、ある「奇跡」が起きます。こ
れによってAIは息を吹き返すのです。この奇跡について、AI
に関する著作の多い小林雅一氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 それはまるで、神が仕組んだかのように絶好のタイミングでし
た。1990年代後半から2000年代にかけて、インターネッ
ト、もっと具体的には、その上に構築されたワールド・ワイド・
ウェブ上に世界中の人たちが情報を載せるようになりました。こ
の結果、様々な文書を中心とする大量のデータが蓄積され、しか
も誰もが自由にアクセスできるようになりました。つまり統計・
確率的なべイジアン・ネットワークを実践するお膳立てが整った
のです。                  ──小林雅一著
 『クラウドからAIへ/アップル、グーグル、フェイスブック
                の次なる主戦場』/朝日新書
─────────────────────────────
 ネット上には、AIとインターネットの関係について述べてい
る論文やレポートはほとんどありませんが、小林雅一氏のいう通
り、昨今のAIの驚くべき発展は、インターネットと無関係では
ないと思います。
 この世界中に張り巡らされたインターネットというインフラの
上に築かれた膨大な数のウェブサイトは、日々更新され、サイト
の数は増えつつあります。世界中のウェブサイトの数は、どのく
らいあるのでしょうか。
 諸説がありますが、ウェブサイトとしては約3億サイトぐらい
であり、ページ(URL)という単位で見ると、グーグルによる
と次の通りです。グーグルは、ロボットを使ってウェブページを
探しているので、その数は正確であると思われます。
─────────────────────────────
           1,000,000,000,000
          ゼロが12個で1兆
                  https://bit.ly/2ststCw
─────────────────────────────
 エキスパートシステムに代表される「ルールベースのAI」に
関わった人たちにとって、コンピュータが知識を獲得するとき不
可欠な「知識ベース」の構築は非常に困難な作業であるうえ、ま
してその内容の頻繁な更新は不可能です。
 しかし、ウェブサイトは、日々更新され、記述されている内容
は、あらゆる分野に及んでおり、その数も増えています。しかも
サイトの情報は、コンピュータが読める知識ベースになっている
のです。もちろん、ウェブサイトの情報が正しいとは限りません
が、サイトの内容の正誤については、現在のコンピュータで十分
判断できます。
 現在のAIは、自然言語処理の能力が大幅に向上しています。
スマホで次のように音声で話しかけてみてください。
─────────────────────────────
    近くに雰囲気の良いレストランはありませんか
─────────────────────────────
 そうすると、スマホはGPSによって現在地を確認し、ウェブ
サイトで近くのレストランを検索して、現在地に近いレストラン
を複数探し出し、その店のウェブサイトをスマホに表示してくれ
ます。こんなことは、ごく当たり前のように多くの人がやってい
ますが、これはとんでもなく凄いことをやっているのです。
 現在では、ほとんどのレストランは、ウェブサイトを出してい
ます。これがすべての大前提です。それに、すべてのスマホには
GPSが搭載されており、スマホの現在地をつねに把握していま
す。これらのことがすべて揃わないと、上記のような検索はでき
ないのです。ウェブサイトの存在がいかに重要であるかがわかる
と思います。
 このように、3億を超えるウェブサイトが、現在のAIを支え
ています。そしてこれがAIの「機械学習」に結び付くことにな
るのです。ウェブサイトの出現は、AI開発者にとってまさに奇
跡です。      ──[次世代テクノロジー論U/020]

≪画像および関連情報≫
 ●AIの原点を探る/青山学院大学美添教授
  ───────────────────────────
  ――具体的にはどういうことでしょうか。
  A:ベイズ統計にもいろいろありますが、いずれも、解析に
  「主観確率」(判断確率)という概念を採用しています。古
  典統計学では、未知でも確率は固定・客観的数値です。ベイ
  ズ統計では、確率は意思決定者の持つ情報を反映して変化す
  ることがあります。
  ――確率を後から恣意的に変えられ、それがAI機械学習の
  基礎原理になっている?
  A:恣意的に確率を変更するというのは、ベイズ統計の誤解
  されやすい部分です。ベイズ流に厳密に構成された主観確率
  は、人間は合理的判断をするという原理(公理体系)に基づ
  いた理論で、不確実性に直面しても「自分の効用関数を最大
  化するように意思決定を行う」というものです。当然、人に
  よって効用関数は異なります。しかし効用が最大になるよう
  に意思決定を行うという結論が導かれます。これが、ベイズ
  統計の原理です。そして、これが重要ですが、意思決定の根
  拠情報が追加的に与えられれば、それにより、主観確率は合
  理的手順で修正されます。この手順が「ベイズの公式」と呼
  ばれる形式です(解説参照)。
  ――機械学習の基礎になるということですね。
  A:大雑把にいえばそうで、機械学習では、ベイズの定理を
  利用して判断を修正します。ただし原理的なベイズ統計には
  あまり関心はなく、経験的に有効だから利用するようです。
  ハーバード時代の私の恩師たちが聞いたら、嘆くと思います
  ね。               https://bit.ly/2J3YZC
  ───────────────────────────

小林雅一氏.jpg
小林雅一氏
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2018年06月04日

●「AI導入によるグーグル検索技術」(EJ第4777号)

 元グーグルのCEOのエリック・シュミット氏は、次のような
ことをいっています。
─────────────────────────────
 文明の始まりから21世紀初頭までに生産された情報量は、約
5エクサ・バイト(エクサは10の18乗)だが、これと同じ情
報量が現代社会では、たった2日間で生産される。
                 ──小林雅一著/朝日新書
                  『クラウドからAIへ/
    アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』
─────────────────────────────
 「エクサ」といってもピンとこないと思います。百万を意味す
る「メガ」、10億を意味する「ギガ」までは誰でも知っていま
すが、その先は、「テラ」(兆)「ペタ」(千兆)ときて、次が
「エクサ」(百京)になります。
 このように、現在、ウェブ上の情報が加速度的に増加している
のです。グーグルは基本的には検索エンジンの会社ですが、この
ような情報の爆発的増加は、検索というものを一段と困難にしま
す。それは、本当に探したい情報以外のノイズが、劇的に増える
ことを意味するからです。たとえると、今までは砂場に落ちた指
輪を探す程度だったものが、現在では、砂漠に落ちた指輪を探す
レベルに検索困難度が上昇してしているのです。
 そこでグーグルは、検索エンジンにAIを導入し、人間の要求
するウェブサイトを、高速で、一発検索することに成功したので
す。これを「セマンティック検索」といっています。それは日々
その精度を増しつつあります。
 グーグルは、いわゆる知識を人間がコンピュータに与えている
限り、AI開発の意味はないと考えていたのです。すべての機械
は、人間を単純な繰り返し作業、マニュアル・レーバーから解放
し、ラクをさせることに目的があります。そのためには、何とか
コンピュータが、自動的に学習して知識量を増やし、それをベー
スに判断させることができないかと工夫したのです。その結果、
できたのが「ナレッジグラフ」という知識ベースです。このグー
グルのセマンティック検索について、小林雅一氏は、次のように
解説しています。機械が学習するプロセスがよくわかります。
─────────────────────────────
 グーグルのセマンティック検索では、そのシステムが自動的に
ナレッジ・グラフ(知識ベース)を構築していきます。グーグル
の機械学習システムは、ウェブ上にある無数のホームページを読
み漁り、それらを統計的に分析することによって得た知識を、あ
る種の知識体系の上にマッピングしていきます。たとえば、「東
京」というのは90%の確率で地名らしい。「日本」というのは
95%の確率で国名らしい。そして「東京」は85%の確率で日
本の首都らしい。(中略)システムはこれらの確率事象を照合し
それらが互いに矛盾していないことを確認します。このようにし
て作られる「知識の関係」リストがオントロジーで、それらが大
量に積みあがったものが知識ベース、つまりナレッジ・グラフな
のです。            ──小林雅一著の前掲書より
─────────────────────────────
 上記にある「オントロジー」とは、エキスパートシステムの世
界で使われる概念で「知識の表現」に当たります。対象世界にか
かわる諸概念を整理して体系づけ,コンピュータにも理解可能な
形式で記述したものをいいます。
 2回目の「AIの冬」の後、ベイズ理論をベースとする統計確
率的AIが発展します。その創始者のジュディア・パール氏の弟
子たちの多くは、グーグルをはじめとするシリコンバレーの企業
に入社し、AIの発展に貢献しています。なかでもグーグルに入
社した統計学を専門とする研究者は、セマンティック検索や機械
翻訳の分野でも活躍をします。
 グーグルの機械翻訳チームは、ウェブ上から、オリジナルの文
書とそれが別の言語の訳文の文書のペア──たとえば、英語の原
文とフランス語の訳文など──をかき集め、それをグーグルの強
力なサーバー・コンピュータに読み込ませて、知識ベースを構築
したのです。これは、比較的簡単な作業です。
 これは、コンピュータにとって、自学自習用のテキストになり
ます。コンピュータは原書と訳文を突き合わせて、ベイズ理論に
基づく推論をし、たとえば、上記の例であれば、英文を与えると
フランス語に翻訳するし、フランス語から英訳も、ほぼ正確にこ
なしたのです。ここで重要なことは、推論型AIが重視した文法
や構文を完全に無視したことです。これによってさらに精度が向
上し、ウェブサイト上の翻訳として使われています。
 英語を日本語に訳すのは、まだそこそこではあるものの、精度
は確実に向上しています。このグーグルの機械翻訳の技術の凄さ
については、小林雅一氏の次のエピソードによって、十分証明さ
れると思います。
─────────────────────────────
 アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が数年に一度主催す
る機械翻訳のコンテストがあります。そこには毎回、全米の著名
な大学や研究機関の機械翻訳チームが参加していましたが、20
05年に初めてグーグルが参戦しました。他のチームが、中国語
やアラビア語などの専門家を必ずメンバーに入れていたのに対し
グーグルの機械翻訳チームにはそうした言語学者は一人もいませ
んでした。グーグル・チームは統計の専門家だけで固められてい
たのです。そして驚くべきことに、世界各国の言語に関しては全
く無知のグーグル・チームが、機械翻訳の分野で何十年という経
験を持つ他のチームを圧倒したのです。これは統計・確率的なA
Iが、文法などルール・ベースのAIに勝利を収めた瞬間として
専門家の問で語り草になつています。
                ──小林雅一著の前掲書より
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/021]

≪画像および関連情報≫
 ●自動翻訳なぜ急速進化/2つのブレークスルー
  ───────────────────────────
   コンピューターで外国語を翻訳する機械翻訳(自動翻訳)
  技術が、長足の進歩を遂げている。人工知能(AI)技術を
  採用したことで翻訳精度が向上、最新の翻訳システムを組み
  込んだ音声翻訳などの製品やサービスが、続々と登場してい
  る。通訳なしで外国人と相当なレベルのコミュニケーション
  ができる時代が確実に近づいている。
   ディスプレーに現れた外国人が英語でスピーチを始める。
  話を追いかけるように画面下に映画の字幕のような英文が表
  示され、その下にこれを翻訳した日本語の字幕が表れる。情
  報通信研究機構(NICT)が開発中の、「同時通訳システ
  ム」のプロトタイプ。会議などで将来、同時通訳の代わりに
  使うことを想定している。
   話者の英語の音声を認識して文章を書き起こすシステムと
  英語の文章を和訳するシステムを組み合わせた。「どのくら
  いの長さで切って翻訳するかで、使い勝手や翻訳の精度も変
  わる。今後5年くらいで完成したい」。NICTの隅田英一
  郎・先進的翻訳技術研究室長は説明する。NICTはこれに
  先立ち、富士通と共同で日本人医師と外国人の患者が、タブ
  レットをはさんで会話ができる医療向けの多言語音声翻訳シ
  ステムを開発した。医師が「体調が悪いのは、いつからです
  か」などと話しかけると、タブレットから翻訳された音声が
  流れ、患者の答えを日本語にして返してくれる。
                  https://bit.ly/2J572Da
  ───────────────────────────

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エリック・シュミット元グーグルCEO
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2018年06月05日

●「人工脳『パーセプトロン』の理論」(EJ第4778号)

 現在のAI(人工知能)の中心は「ディープラーニング(深層
学習)」です。そのディープラーニングが何であり、どのように
役立つのかを知るためには、どうしてそこにいたったのか、AI
の歴史を知る必要があります。新しい技術を理解するには、その
技術が生まれた背景を知ることが不可欠だと考えています。
 グーグルは、検索精度の向上を図るため、「セマンティック検
索」の実現を目指し、その結果、自動的に作り出された「ナレッ
ジ・グラフ(知識ベース)」によって、検索の精度の大幅向上に
成功しています。これは、統計確率的AIの精度の向上に寄与し
たことになりますが、このナレッジグラフにストックされた知識
の件数は、2012年の時点で実に6億件を超えています。
 このナレッジグラフの構築作業は、グーグル開発による機械学
習プログラムによって日夜休むことなく続けられ、それは単に検
索精度の向上のみならず、機械翻訳など、AI全体の精度の向上
に貢献しつつあります。現在、グーグルがAIにおいて主導権を
握りつつあるのは、このナレッジグラフの存在と無関係ではない
といえます。
 しかし、1950年代から「ルールベースのAI」の実現を目
指してきた古典的AI派の学者や研究者たちは、統計確率的AI
の研究者たちに対して、次の疑問を突き付けています。
─────────────────────────────
 しかし、我々にも言いたいことがある。君達のように統計、確
率に従うAIは、人間の思考プロセスと明らかに別種のものだ。
そのような方法で、いずれ人間の知能や知性をコンピュータ上に
再現できると本気で信じているのか?つまり、今は結果を出して
いるからいいが、その先に未来はあるのか?
                 ──小林雅一著/朝日新書
                  『クラウドからAIへ/
    アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』
─────────────────────────────
 確かに統計確率知的AIは、ウェブサイトの検索や機械翻訳な
どの精度を大きく向上させたものの、それは、AIの一里塚に過
ぎないのです。このような状況の下で浮上してきたたのが「ニュ
ーラルネットワーク」です。最近この言葉をよく聞きますが、ニ
ューラルネットワークとは何でしょうか。これを真正面から取り
上げると、複雑な数式の世界に入ってしまうので、それを避けて
なるべく簡単な説明を試みます。
 ニューラルネットワーク(以下、NN)とは、機械学習や神経
科学などの分野で扱われる計算モデルの一種といってよいでしょ
う。この名前から想像されるように、脳の神経回路から知見を得
たモデルであり、「ニューロン」と呼ばれる最小の計算単位を、
ネットワーク状につなげた構成をしています。現在、話題になっ
ている「ディープラーニング」は、このNNを利用しています。
はっきりしていることは、NNは、機械学習の一分野であるとい
うことです。
 NNというと、ごく最近の技術のように思うかもしれませんが
大変長い歴史があります。そもそもAIの研究は、1956年の
ダートマス会議からはじまったのですが、その次の年である19
57年に「パーセプトロン」というシステムの概念が話題になっ
たのです。これは、米国のコンピュータ科学者であるフランク・
ローゼンプラットという学者が考案した概念です。
 簡単にいうと、人間の視覚と脳の機能をモデル化したもので、
それでいて、パターン認識を行い、シンプルなネットワークであ
りながら、自力で学習する能力を持つという理論です。
 この「パーセプトロン」についてネットで調べると、いずれも
数式を使った非常に難しい解説が出てきます。そこで、ここでも
分かりやすい小林雅一氏の解説を引用します。
─────────────────────────────
 パーセプトロンは、脳内におけるニューロンとシナプスによる
信号伝達メカニズムを極度に単純化したシステムでしたが、それ
でも幾つかの基本的な図形、たとえば三角形と四角形の違いを学
習し、それらを分類することができました。このように、コンピ
ュータが自力で学習することのインパクトは大きく、当時の米国
では『ニューヨーカー』のような知識人向けの一流雑誌が、「こ
れが今後進化すれば、いずれは人間のように感じ、記憶し、考え
る機械が生まれるだろう」と激賞するほどでした。
                ──小林雅一著の前掲書より
─────────────────────────────
 つまり、パーセプトロンは、コンピュータに図形を認識させよ
うとしたのです。今日でいうところのNN、すなわち、ニューラ
ルネットワークの原型になるような先進的な理論であったという
ことができます。
 ところが、このパーセプトロン理論に対して、ダートマス会議
のメンバーの一人であるマービン・ミンスキー氏と南アフリカ生
まれの数学者、シーモア・パパート氏の2人は、次の論文を書い
て、この理論の限界を指摘したのです。
─────────────────────────────
     マービン・ミンスキー/シーモア・パパート共著
  『パーセプトロン/計算機科学への序論』/1969年
─────────────────────────────
 この論文では、パーセプトロンには致命的な欠陥があり、この
理論では、今後どのように改良しても限界があることを指摘して
います。実は、ミンスキー氏らとしては、パーセプトロンに反論
したのではなく、問題点を指摘しただけなのですが、それでもこ
の2人の学者の指摘は正鵠を射ており、これによってパーセプト
ロンに対する世間の期待は一気にしぼんでしまったのです。
 このときから実に20年以上の歳月を経て、パーセプトロン理
論ではない別の考え方に基づくパーセプトロンのネックを解決す
る新理論が提案されたのです。それがNN、ニューラルネットワ
ークです。     ──[次世代テクノロジー論U/022]

≪画像および関連情報≫
 ●人工知能「冬の時代」が到来/牧野武文氏
  ───────────────────────────
   1963年に、ミンスキーは、シーモア・パパートと知り
  合った。この南アフリカ生まれの数学者は、数学の学士号を
  とるためにイギリスのケンブリッジ大学で学んでいた。その
  ときにパーセプトロンに興味をもったが、パーセプトロンの
  機能については、ミンスキーを同じように限定的なものでは
  ないかという疑いを持った。
   パパートが、MITを訪れ、ミンスキーと面会すると、二
  人の考えはたちまち一致した。パーセプトロンがあまりに魅
  力的に見えすぎるため、人工知能研究者が誤った道に進もう
  としている。パーセプトロンを追求しても、それは袋小路に
  なっているのだ(現在のディープラーニングの基礎となって
  いるのもパーセプトロンだが、それには飛躍的な進化が必要
  だった)。
   パパートは、MITの数学科の教職を得て、さらにミンス
  キーのAI研の研究員となることで、ミンスキーといっしょ
  にパーセプトロンの限界を探る研究を始めた。パパートとと
  もに導きだした結論は、パーセプトロンは線形分離可能な問
  題しか学習できないということだった。線形分離可能という
  は、直線で集団をわけることができるような事象のことだ。
                  https://bit.ly/2J9EuZj
  ───────────────────────────

フランク・ローゼンブラット氏/パーセプトロン.jpg
フランク・ローゼンブラット氏/パーセプトロン
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2018年06月06日

●「パーセプトロン/その正体を知る」(EJ第4779号)

 「パーセプトロン」──AIの話をするときは、必ず出てくる
キーワードです。パーセプトロンについては、もう少し書く必要
があります。不明な点がたくさんあるからです。
 実はAI(人工知能)の研究は、「ルールベースのAI」から
始まったわけではないのです。最初はコンピュータで何とか「人
工の脳」を作ろうとしたのです。
 1943年のことです。米国の神経生理学者のウォーレン・マ
カロック氏と論理学者のウォルター・ピッツ氏が、共同で次の論
文を発表したのです。
─────────────────────────────
    ウォーレン・マカロック/ウォルター・ピッツ著
      『神経活動に内在するアイデアの論理演算』
                     1943年
─────────────────────────────
 人間の脳は、ニューロンという神経細胞が複雑に絡み合い、全
体でネットワークを形成しています。これが、神経回路網、すな
わち、ニューラルネットワークです。
 マカロックとピッツ両氏は、基本単位であるニューロンの振る
舞いを「ステップ関数」と呼び、それを数式によって表現したも
のを「形式ニューロン」と呼んだのです。つまり、数学モデルの
話なのです。しかし、これはシステムにはなっていません。
 この先駆的研究を引き継いだのが、コンピュータ科学者のフラ
ンク・ローゼンブラット氏です。彼はこの形式ニューロンを複数
組み合わせて、情報の入力層と出力層から成るきわめてシンプル
な人工的ニューラルネットを開発し、「パーセプトロン」と名付
けたのです。
 上記のように、この形式ニューロンは数式であり、それを組み
合わせたニューラルネットも数学的な産物です。しかし情報の入
力層と出力層を持っているので、一応システムになっています。
何らかの情報を入力し、計算結果として出力情報を得ることがで
きるからです。したがって、パーセプトロンとは、そういうこと
ができるハードウェアではなく、ソフトウェア的な数学モデルで
あるということができます。
 このパーセプトロンがマービン・ミンスキー氏とシーモア・パ
パート氏によって否定されたことは昨日のEJでふれましたが、
具体的には次のようにいったのです。
─────────────────────────────
 パーセプトロンは、原理的、かつ致命的な問題を抱えているた
め、いくつかの単純な論理計算、たとえば、排他的論理和をコン
ピュータ上に実現できない。    ──小林雅一著/朝日新書
                  『クラウドからAIへ/
    アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』
─────────────────────────────
 ここでいう「排他的論理和」とは何でしょうか。
 Aという円とBという円が一部重なっているとします。その重
なった部分は、AでもありBでもある部分ですが、その部分を排
除するというのが排他的論理和です。集合の問題です。これを小
林雅一氏は、次のようにわかりやすく説明しています。
─────────────────────────────
 「排他的論理和」とは・・・
 たとえば、母親が小さな子供に向って、「チョコかプリンのど
ちらかは食べていいけど両方は駄目よ」と言うようなものです。
                ──小林雅一著の前掲書より
─────────────────────────────
 つまり、小さい子供でもわかる「排他的論理和」ですが、パー
セプトロンにはわからないということで、パーセプトロンの信用
は失墜したのです。
 しかし、今になって考えてみると、この単純な人工脳パーセプ
トロンがベースになり、ニューラルネットワークとして、AIは
息を吹き返したのです。2006年頃のことです。その立役者は
英国のコンピュータ科学者、ジェフリー・ヒントン氏です。彼こ
そ「ディープラーニング」の命名者です。AIは、人工脳への挑
戦にはじまり、50年以上の年月を重ねて再び脳の研究に戻った
のです。ここまでのAIの歴史を辿ると次の4段階になります。
─────────────────────────────
    1.パーセプトロンAI ・・ 1950年代
    2.ルールベースのAI ・・ 1980年代
    3.統計・確率的なAI ・・ 1990年代
    4.脳科学に基づくAI ・・ 2000年代
─────────────────────────────
 最初は、何とか人間の脳を人工的に作り出したいと考えたので
す。その結果、パーセプトロンが考案されます。これによって世
の中は一時騒然となったのです。しかし、それが小さい子供の脳
にすら、はるかに及ばないとわかって、多くの投資家は資金を引
き上げ、1回目の「AIの冬」に突入します。
 続いて、高性能コンピュータの開発を前提として、コンピュー
タに多くの知識を与えることによって、推論により人間の脳を模
倣する「エキスパートシステム」ブームになります。「ルールベ
ースのAI」の時代です。
 しかし、やがて、コンピュータに知識を与えること(知識の獲
得)の困難性が露呈します。人間の持つ知識の多いことと、つね
に新しい知識が増えるので、知識の獲得が極めて困難であること
が明らかになり、AIは2回目の「AIの冬」に突入します。
 1990年から2000年にかけてインターネットが普及し、
ウェブサイトが激増します。それを知識ベースとして利用し、グ
ーグルの統計学エンジニアが中心になって「統計・確率的AI」
が台頭します。その結果、検索の精度が飛躍的に向上するととも
に、機械翻訳などの他のAIの精度も向上します。しかし、この
「統計・確率的なAI」の限界も明らかになり、再び人工脳の開
発が始まるのです。 ──[次世代テクノロジー論U/023]

≪画像および関連情報≫
 ●ベイジアンネットワーク/AIの歴史/後編
  ───────────────────────────
   ベイズ理論をベースにしたベイジアンネットワークは19
  80年頃に研究が始められました。これは統計・確率論的な
  アプローチによるAI技術です。
   ベイズ理論とは、観測を繰り返すごとに確率を修正して正
  解に近づけるという考え方であり、それをもとにしたベイジ
  アンネットワークは因果関係を確率で表現するグラフィカル
  モデルです。
   ある事象に対する原因の確率と結果の確率をノードとし、
  それらをエッジで繋いだ形で表現されます。観測によって得
  た新たな情報をベイジアンネットワークに投入するとそれぞ
  れの確率が変化し、その確率に基づいて推論を行います。ベ
  イジアンネットワークには原因から結果を推論することも、
  結果から原因を推論することも可能であるという特徴があり
  ます。ベイジアンネットワークはネットショップでのお勧め
  商品紹介、健康診断結果からの疑わしい病気の推定、スパム
  フィルタ、ウェブ侵入検知など、様々な分野での実用例があ
  ります。そして現在でも、ビッグデータ活用の手法の一つと
  して利用されています。
   統計・確率論的なAIに対しては、「統計と確率が基本に
  あるため、それは知性や知能ではない」という批判がありま
  す。膨大なデータの解析結果から単語の辞書的な意味を確率
  的に知ることはできるが、その単語の本当の意味を理解する
  ことはできません。人間の知能そのものを作るということを
  目的とした場合、統計・確率論的なAIはいつか限界に達す
  ると予想されます。       https://bit.ly/2HgYKlU
  ───────────────────────────

パーセプトロン理論.jpg
パーセプトロン理論
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2018年06月07日

●「ニューラルネットワークとは何か」(EJ第4780号)

 今日からは「脳科学に基づくAI」について、考えていくこと
にします。AI(人工知能)というのは、基本的には人間の脳の
働きと同じことをコンピュータに行わせるテクノロジーのことで
す。このような考え方に基づいてAIを定義すると、次のように
なります。
─────────────────────────────
 AI(人工機能)とは、インプットに対して、人間がするよ
 うなアウトプットを行う装置のことである。
─────────────────────────────
 コンピュータの性能が低い時代のAIは、少ない計算量で、人
間らしい振る舞いをさせる、たとえば、インプットに対するアウ
トプットの「ルール」を予め人間が決めておいたり(ルールベー
スのAI)、あるいは、インプットされた情報を統計確率的推論
によるアルゴリズムで精度の高いアウトプットを得る(統計・確
率的なAI)などが、これまで試みられてきています。
 しかし、インプットとアウトプットの間のブラックボックスの
部分を、人間自身がコンピュータに与えている限りにおいては、
いつまで経ってもAIが人間を超えるアウトプットを出せる存在
になることは困難です。コンピュータ自らが、自動的に知識を獲
得し、人間のように思考して、人間のようにアウトプットする存
在になって、はじめて人間を超えることができるのです。
 そうであるとすると、AIの研究は、原点に戻って人間の脳を
シミュレートする「脳科学に基づくAI」にならざるを得ないの
です。事実これまでのAIの歴史はそうなっています。
 仕事というものを人間がやれるかやれないかで分けて、AIと
の関係を考えてみます。
─────────────────────────────
       1.人間しかできなかったこと
       2.人間にはできなかったこと
─────────────────────────────
 本来AIやAIを組み込んだスマートマシンは、上記「2」の
「人間にはできなかったこと」を可能にし、結果として人間の能
力を拡張することを目的としています。
 たとえば、人間が一生かかっても参照できない量の学術文献や
判例などの法律文書をすべて読んで分析し、最適の解釈や判断を
示してくれたり、過去の犯罪記録の分析から犯罪の発生現場や内
容を予測し、それに基づいて指定された地域のパトロールを強化
することで検挙率を増やすことにより、犯罪の発生率を下げると
いったことなどが上げられます。
 これに対して、どんな強力なコンピュータでもAIでは処理で
きない上記「1」の「人間しかできなかったこと」はたくさんあ
ります。自動車の運転や企業における一般的事務作業、人との応
対業務や営業業務などがそれに当たります。AIでこれらを可能
にすることができれば、それらをAIに置換することによって、
人間の能力を効率化することができます。
 しかし、現代のAIは、上記「1」と「2」の両方ともできる
ようになりつつあります。これらのカギを握っているのが「脳科
学に基づくAI」の実現です。
 「脳科学に基づくAI」のニューラルネットワークとは何かに
ついて考えます。
 ニューラルネットワークは、神経回路網を意味する言葉で、人
間の知能をつかさどる脳を構造を模倣することで、その振る舞い
を再現しようとするタイプのAIです。科学ライターの大和哲氏
は、ニューラルネットワークを次のように定義しています。
─────────────────────────────
 ニューラルネットワークは、簡単に言うと、コンピュータ内で
データとして、インプットが入ってからアウトプットが出てくる
まで、その間に重みづけのグラフが構築されていて、「問題」と
して入力されたデータは、適切なルートを通って「回答」である
アウトプットを出力します。
 ここで言う“重み”とは、情報にとってどれだけ重要かを表し
た数値だと考えるといいでしょう。そして、ニューラルネットワ
ークの特徴は、このルートを通る間、情報がグラフ中の経路の重
み自体を、さらに軽くしたりあるいは重くしたりと、調整にも使
われる点です。つまりニューラルネットワークは、「経験から学
習する」人工知能であることが特徴のひとつです。
                  https://bit.ly/2xH3e5M
─────────────────────────────
 これだけではピンとこないと思いますが、脳科学に基づくAI
の構造は次のようなものです。初期のニューラルネットワークで
ある「パーセプトロン」には情報の入力層と出力層から成る2層
であったのに対し、現在のニューラルネットワークは、入力層と
出力層の間にいくつもの「隠れ層」といわれるものがある多層構
造になっているのです。これが「ディープ(深層)」といわれる
ゆえんです。
 多層にすると、入力層からインプットされた情報は、出力層か
らアウトプットされるまで、いくつもの隠れ層にインプットされ
何らかの処理をこ施されてアウトプットされることの繰り返しで
最終的に出力層からアウトプットされます。そのようにいくつも
の層を経過することによって、初期情報が何らかの上位概念を形
成していくと考えられるのです。
 人間の場合、目や耳から入力された情報がアウトプットされる
までの処理のプロセスはいわゆるブラックボックスであり、脳が
どのような処理を行ったかは不明です。これに対してこれまでの
AIは、インプットからアウトプットまでの推論プロセスは説明
できるのです。ブラックボックスではないのです。これでは人間
を超えることはできないのですが、ニューラルネットワークでは
その意思決定プロセスはわからなくなってきています。それだけ
現代のAIは、人間の脳に大きく近づいてきているといえます。
          ──[次世代テクノロジー論U/024]

≪画像および関連情報≫
 ●数学知識もいらないゼロからのニューラルネットワーク入門
  ───────────────────────────
   これまでに人工知能(AI)関連の記事を読んだことがあ
  る人であれば、ほぼ間違いなく”ニューラルネットワーク”
  という言葉を目にしたことがあるだろう。ニューラルネット
  ワークとは、大まかな人間の脳の仕組みを模したモデルで、
  与えられたデータを基に、新しい概念を学習することができ
  る。機械学習の一分野であるニューラルネットワークこそ、
  長く続いた”AI冬の時代”を終わらせ、新時代の幕開けを
  告げたテクノロジーなのだ。簡単に言えば、ニューラルネッ
  トワークは業界の根底を覆すような、現存するテクノロジー
  の中でもっともディスラプティブな存在だ。
   そんなニューラルネットワークに関するこの記事の目的は
  読者のみなさんがディープラーニングについて会話ができる
  ようになるくらいの理解を促すことにある。そのため、数学
  的な詳しい部分にまでは入らず、なるべく比喩や、アニメー
  ションを用いながらニューラルネットワークについて説明し
  ていきたい。
   AIという概念が誕生してからまだ間もない頃、パワフル
  なコンピューターにできるだけ多くの情報とその情報の理解
  の仕方を組み込めば、そのコンピューターが”考え”られる
  ようになるのでは、と思っている人たちがいた。IBMの有
  名な「ディープブルー」をはじめとするチェス用のコンピュ
  ーターはこのような考えを基に作られていた。
                  https://tcrn.ch/2Ja4UtU
  ───────────────────────────

ニューラルネットワーク.jpg
ニューラルネットワーク
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2018年06月08日

●「人間の脳について知る必要がある」(EJ第4781号)

 ニューラルネットワーク(NN)で注目すべき話題が小林雅一
氏の本に出ています。小林雅一氏は、KDDI総研リサーチフェ
ローです。AIの関連書籍のなかでは、数も多く、ダントツで分
かりやすい本であると思います。
 ある研究チームが、NNを使って機械翻訳システムを開発する
に当たり、手始めに英語と中国語を学習させたのです。これらの
2ヶ国語の語学力が一定のレベルに達した後で、今度はスペイン
語を学習させてみたところ、なぜか、中国語の語学力が一段と向
上したといいます。
 どうして、スペイン語を学習させると、中国語の語学力が向上
したのか、そのメカニズムは、そのシステムを開発したエンジニ
アもわかっていません。NNの神経回路網は複雑であり、その思
考回路については、開発エンジニアにとってブラックボックス化
しつつあります。それは、人間の思考回路に少しずつ近づいてい
ることを意味します。
 人間の「脳」をシミュレートする以上、人間の脳自体の研究が
必要になります。しかし、脳には現代の科学でもわかっていない
ことがまだたくさんあります。そのため、神経科学者たちはさま
ざまな実験を行っています。
 ある動物実験の話を紹介します。これも小林雅一氏の本からの
情報です。大脳には「聴覚野」と呼ばれる領域があります。これ
は、人間が耳からの音声情報を理解するための領域ですが、「視
覚野」と比べると、不明なことが多く、あまりよく解明されてい
ません。視覚野とは、大脳皮質における視覚に関する領域のこと
をいいます。
 ある神経科学者は、動物の耳から聴覚野へとつながる神経のラ
インを切断し、目から出ているラインを聴覚野につないでみたそ
うです。当然その動物は視力を失います。しかし、その後、不思
議なことが起きたのです。その動物は視力を取り戻し、モノを見
ることができるようになったのです。
 こうした実験を重ねて神経科学者たちはひとつの仮説を立てた
のです。小林雅一氏は次のように解説しています。
─────────────────────────────
 これら一連の実験結果を基に、神経科学者たちは大胆な仮説を
立てました。それは「視覚」「聴覚」「触覚」「味覚」など、人
間の様々な知覚能力に通底する基本的なメカニズムがある、とい
うものです。これに従えば、脳は目や耳から人力された生々しい
初期情報を、段階的に抽象化して、徐々に上位の概念を形成して
いきます。彼らは、このメカニズムを自分連なりに考えて、具体
的なアルゴリズムへと転化し、これを「スパース・コーディング
(Sparse Coding)」と命名しました。英語の「Sparse」 は「少
量の」という意味で、ここでは「大量の情報から、抽象化に必要
な本質的情報だけを、少しずつ抜粋すること」を指しています。
これによって隠れ層をより多層化しても、現実的な時間内で情報
処理ができるようになりました。  ──小林雅一著/朝日新書
                  『クラウドからAIへ/
    アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』
─────────────────────────────
 難しい言葉が出てきました。「スパース・コーディング」とは
一体何でしょうか。
 米カルフォルニア大学バークレー校にブルーノ・オネスホーゼ
ン氏という教授がいます。計算論的神経科学(コンピューテーシ
ョナル・ニューロサイエンス)の分野で業績を上げている学者で
す。このオネスホーゼン氏が同大学のデービス校で、准教授をし
ていた頃の話です。
 オネスホーゼン教授は、脳の視覚野の一部の「V1」の研究の
第一人者ですが、動物の目から入力された視覚情報を脳にどのよ
うに処理されるかを解明する仮説を立てたのです。
 難しい話になりますが、視覚情報は目から入り、大脳皮質の一
番後ろにある第一次視覚野(V1)に送られます。サルやヒトで
は傾き、動き、奥行きなどの情報は、V1ではじめて抽出され、
さらに前方の大脳皮質に送られます。私たちが物の位置や形を認
識するとき、V1からその前方の大脳皮質に送られる情報が重要
な働きをしていると考えられます。ちなみに、このV1が壊れる
と、目が見えなくなります。
 V1に入ってきた目からの視覚情報は、無数のピクセル/画素
の集まりです。この状態では、それが何であるかは不明ですが、
V1で段階的にかたちを作り、認識にいたるのです。これについ
て、小林雅一氏は、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 脳の視覚野は、このピクセル情報からいくつかの特徴ベクトル
(物体の輪郭を構成する線)を自動的に抽出します。そしてこの
ベクトルをいくつか組み合わせて、「目」や「耳」のようなパー
ツ(部品)を描き出し、それが終わると今度はこれらのパーツを
組み合わせて、「猫」や「人」の顔など最終的な対象物を描き出
している。要するに脳の視覚野は、そのように段階的に対象物を
認識しているというのです。         ──小林雅一著
   『AIの衝撃/人工知能は人類の敵か』/講談社現代新書
─────────────────────────────
 目から入った視覚情報、仮に人の顔であるとします。それらは
視覚野「V1」に入った最初の段階では、無数のピクセルの集ま
りにすぎません。その中から特徴的なパーツ(ベクトル)を抽出
し、そのうえで、それらを組み合わせて、段階的に顔を形成して
いくのです。
 そのプロセスには一定のルールのようなものがあるので、それ
をコンピュータで処理可能なアルゴリズムに転化させることがで
きます。オネスホーゼン氏は、そのことを「スパース・コーディ
ング」と名付けたのです。この場合、ひとつひとつのベクトルは
脳のニューロン一個一個に対応します。
          ──[次世代テクノロジー論U/025]

≪画像および関連情報≫
 ●人工知能を語る前に、脳について知りたい
  ───────────────────────────
   たった1つの学習理論とは脳が物事を学習する際には、そ
  の処理対象に応じた活動をするわけではなく、全ての処理対
  象に対して唯一の学習方法を使っているという考え方です。
  これは理論と名付けられている通り、そういう考えがあるだ
  けで、まだ確実にそうだと証明されているわけではありませ
  ん。しかし、1つの考え方として認められているものでもあ
  ります。特に人工知能関連では「スパース・コーディング」
  というものが有名です。スパースコーディングとは、ある処
  理を行うときに、なるべく少ない神経活動で済ませられるよ
  うに学習が行われるという考え方です。
   視神経を切断すると、当然視力を失います。視力を失った
  状態で、その切断した視神経を聴覚を処理している脳の神経
  に接続した場合にどうなるでしょうか。もしも音の処理と光
  の処理が異なるものであるならば、視覚の信号を聴覚の脳の
  領域に与えた所で何も起こらないはずです。しかし驚くこと
  に次第に視覚が取り戻されていったのです。すなわち視覚の
  信号を聴覚に使われていた脳の領域で処理することができた
  のです。これは、脳の視覚と聴覚に関する信号の処理構造は
  本質的な差異がなく、ある統一された学習によって意味のあ
  る情報として獲得しうると考えられます。
   視覚の情報処理機構を、アルゴリズムとして実装した場合
  に、実際に画像処理として有効であるのは何となく当たり前
  のかなと思います(もちろん工学に応用できるという点で有
  意義)。            https://bit.ly/2Jehick
  ───────────────────────────

視覚野/V1.jpg
視覚野/V1
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2018年06月11日

●「教師なし学習で『猫の概念』獲得」(EJ第4782号)

 すっかり、世間一般にAI(人工知能)という言葉が定着した
感があります。つい5年くらい前であれば、AIは専門用語であ
り、エンジニアしか知らなかった言葉です。したがって、書いて
いると、話がどうしても難しくなります。しかし、どうせ知るの
であれば、多少詳しいところまで、踏み込んで知る方があとあと
まで役に立ちます。
 どうしてコンピュータが人間と同じように見たり、聞いたりで
きるのでしょうか。ついこの間まで、コンピュータはモノのかた
ちを認識できなかったのです。ここに一枚の写真があったとしま
す。人が写っています。人間なら、すぐそれが人の写真であり、
女性の写真であるかがわかりますが、コンピュータは何の写真か
ぜんぜんわかりません。コンピュータが把握できるのは、無数の
小さいピクセル(画素)の集合体にしか見えないのです。それを
具体的な画像としてコンピュータに認識させる技術が「ディープ
ラーニング」です。
 添付ファイルを見てください。AIには、構造的にデータを入
力する「入力層」と、結果としてデータを出力させる「出力層」
があります。中間部には「隠れ層」という層がいくつもあります
が、データはそれらのいくつもの層を通過するごとに、少しずつ
具体的なかたちとしてとらえ、最終的に完全なかたちとなって出
力されます。そういう多くの層を通過することから「ディープ」
と呼ばれるのです。
 この画像認識について、早稲田大学ビジネスファイナンス研究
センター顧問の野口悠紀雄氏は次のように解説しています。
─────────────────────────────
 画像認識の場合、画像を多数の小さな部分(ピクセル)に分け
数値化したデータを、ニューラルネットワークの最初の層に人力
する。そこから第2層にデータが渡される際、各ニューロンの値
に異なる値(重み)を掛けた値を次の層の特定のニューロンに送
る。以降、同様にして最後の層までデータが渡され、最終的な出
力が生成される。
 何十万枚、あるいは何百万枚もの画像を読み込む学習によって
正しい答えを出せるようになるまで重みの値を調整する。現在で
はエラー率が5%まで低下しており、人問の画像認識能力とほぼ
同じになつている。対象によっては、人間より速く正確に認識で
きる。                ──野口悠紀雄氏論文
        「ディープラーニングの驚くべき威力と限界」
  『超整理日記/週刊ダイヤモンド』/2018年5月12号
─────────────────────────────
 コンピュータが画像を認識できるということは、手書きを含む
文字はもちろんのこと、モノの形状を認識できるので、宅配、郵
便などの物品の仕分け作業の分野などで、AIは、大いに役に立
つことになります。
 医療分野においても、AIの需要は高いのです。日本は医療機
械のCTとMRIの台数では、それぞれ世界第1位と2位ですが
それを撮影し診断する放射線医の数が圧倒的に不足しています。
したがって、AIを使えば、CTやMRIの画像の診断に役立て
ることができます。しかも、診断を重ねるごとに、判断の精度は
向上していくことになります。
 2012年6月のことです。グーグルとスタンフォード大学の
共同研究チームの開発したニューラルネットワークが、AIの歴
史に残る成果を発表します。ユーチューブの動画から「猫」の概
念を獲得したという発表です。「猫の概念の獲得」というのは、
コンピュータが、猫が写っている画像を見分けられるようになっ
たということを意味します。
 この場合、重要なのは、コンピュータに猫の特徴を教えていな
いということです。特定の何かが写っている動画を与えたのでは
なく、任意のユーチューブ動画で学習させただけです。実験内容
を少し詳しく述べます。
 具体的にいうと、ユーチューブにアップロードされている動画
からランダムに取り出した「200×200ピクセルサイズ」の
画像を1000万枚用意し、1000台のコンピュータを使って
9つの層のニューラルネットワークで、ディープラーニングによ
る学習を行わせたのです。
 AIは、さまざまなモノが写っている1000枚の画像を学習
し、パターン分析を行い、グループ分けを行ったのですが、その
なかで猫については認識できるようになったということです。そ
れは、おそらく動画には猫が一番多く写っていたのではないかと
思われます。実際にネット上には、おびただしい数の猫の動画が
溢れています。
 いわゆるニューラルネットワークの「機械学習」には、次の2
つの学習法があります。
─────────────────────────────
          1.教師あり学習
          2.教師なし学習
─────────────────────────────
 1の「教師あり学習」とは、文字通り人間が先生になって、つ
きっきりで、コンピュータに教えることです。たとえば、猫とは
どういうかたちをしているかについて、その特徴点を教え込み、
複数の動物の写真のなかから、正確に猫の写真を選ばせるように
する方法です。しかし、この方法では、AIはいつまで経っても
人間を超えることはできません。
 これに対して2の「教師なし学習」は、人間の助けなしにコン
ピュータに独力で学習させる方法です。多くのデータのなかから
自律的に学習させる方法です。グークルとスタンフォード大学の
共同研究チームは、これを達成させたのです。
 実は、猫だけではなく、自動車、椅子、人の顔などの概念も同
時に認識していたそうです。いずれにしても、この快挙によって
AIは人間に大きく一歩近づいたといえます。
          ──[次世代テクノロジー論U/026]

≪画像および関連情報≫
 ●パスポートをかざすだけで入国審査/「顔認証ゲート」
  ───────────────────────────
   法務省は2018年6月8日、国内で初めて成田空港で、
  11日から運用を開始する顔認証技術を活用した「顔認証ゲ
  ート」を公開した。パスポートをかざすだけで入国審査がで
  きるシステムで、事前手続きは不要となる。本格運用によっ
  て、出入国手続きの時間の短縮が期待される。利用者の多い
  中部、関西、福岡空港でも、年内に導入される予定。
   顔認証ゲートでは、ICチップが内蔵されたパスポートを
  機械にかざしチップの顔写真データと、自動化ゲートのカメ
  ラで撮影した顔をコンピューターで照合。同一人物か確認し
  顔が一致すればゲートが開く。
   対象は身長135センチ以上の利用者。法務省によると、
  他人を誤って入国させる確率は0・01%以下という。パス
  ポート発給時と顔が大きく変わっていなければ10秒ほどで
  終了する。マスクや帽子を着用していると注意を促すメッセ
  ージが機械に表示される。
   現行の出入国審査では、審査官がパスポート写真と本人を
  見比べて確認する手続きが一般的だった。昨年10月から羽
  田空港国際線ターミナルで帰国者を対象に3台が先行導入さ
  れていたが、本格導入は成田が初めて。今月11日から第2
  第3ターミナル、18日から第1ターミナルの上陸審査場で
  運用を開始する。        https://bit.ly/2sQYTaa
  ───────────────────────────

ニューラルネットワーク/ディープラーニング.jpg
ニューラルネットワーク/ディープラーニング
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2018年06月12日

●「ヒントンのカブセルネットワーク」(EJ第4783号)

 ジェフリー・ヒントン氏──1947年の英国生まれの科学者
であり、今やAI(人工知能)、なかんずくニューラルネットワ
ークの権威であり、ディープラーニングの世界では、最も影響力
を持つ人物の一人といわれています。ヒントン氏は、トロント大
学教授という籍を持ちながら、グーグルの研究員をしており、世
界のAI技術を牽引しています。
 小林雅一氏によると、ヒントン教授は、コンピュータ基礎理論
のひとつである「ブール代数」を発明した数学者、ジョージ・ブ
ールの子孫といわれます。ジョージ・ブールは数学の世界に「論
理」を取り入れた人物であり、AIと密接な関係があります。
 当時、数学は「数」や「図形」を扱う学問で、「論理」は哲学
の分野であると考えられていました。しかしブールは論理や推論
を数学的に考えられるのではないかという発想を持ち、1844
年の論文において「演算」を記号で表し、その記号同士の計算を
考えたのです。これがプール代数です。
 ヒントン教授の凄いところは、2度にわたる「AIの冬」を経
てもAIの研究を続けたことです。そして、やっと2012年6
月にグーグルとスタンフォード大学のAI研究チームは、動画の
なかから「猫」を認識したのです。
 しかし、これにはディープラーニングに与えるデータの前処理
というものが必要です。しかも、大量のデータを与える必要があ
ります。2012年の快挙のときでも、ユーチューブからランダ
ムに選んだ動画から、一定のピクセルサイズの画像を1000万
枚も準備していますが、これが前処理です。
 この1000万枚の画像のなかに偶然最も多く写っていたのが
「猫の画像」であり、AIは「猫」を認識できたのです。もう少
し詳しくいうと、その画像のなかに、さまざまな角度からの猫の
画像が入っていたからであるということができます。
 人間の子供であれば、「これが猫だよ」と教えられれば、どの
ような角度からでも、すぐ「猫」だと認識できます。他のどのよ
うな猫に関しても同じです。しかし、ニューラルネットワークで
は、画像のピクセルがほんの少し動いただけでも画像を全然別の
ものと認識してしまいます。そういう誤差が起きないように、た
くさんの画像を認識させる必要があります。
 これに関してヒントン教授は、2017年10月に「カプセル
ネットワーク」という名の論文を発表しています。その原文のU
RLは、次の通りです。
─────────────────────────────
             Geoffrey E. Hinton
      Dynamic Routing Between Capsules
                  https://bit.ly/2xXEB4P
─────────────────────────────
 これによって、AIの画像認識率が格段に向上したのです。こ
れまでのニューラルネットワークの最高時の精度を実現でき、そ
の誤答率はニューラルネットワークの最低時の半分のレベルまで
減少したといわれます。
 「カプセルネットワーク」とは何でしょうか。
 この「カプセル」という概念がかなり難解です。カプセルネッ
トワークについて解説しているサイトによると、カプセルについ
て次のように説明しています。
─────────────────────────────
 「カプセル」とは、むき出しの仮想ニューロンの小さな集合体
で、猫の鼻や耳のような、ある物体の異なるパーツと、空間にお
けるそれらの相対的な位置を探知するよう設計されている。多数
のカプセルによるネットワークは、新たな場面について、「実は
すでにある場面を違う視点から見たものだ」と理解し、その気づ
きを利用する。           https://bit.ly/2HALKYj
─────────────────────────────
 添付ファイルを見てください。人の顔を認識するときに、従来
のニューラルネットワークでは、それが目なのか、鼻なのか、口
なのかにしか着目していないのです。ちょうど、左の画像のよう
に認識しています。
 これに対し、カプセルネットワークでは、右の画像のように、
それらの特徴がどのような関係で配置されているかまで含めて認
識します。つまり、カプセルネットワークでは、目や鼻や口や耳
の特徴を独立的にとらえるだけでなく、それらがどのような位置
関係で配置されているかまで認識します。
 ひとつひとつのカプセルにつまったニューロンが個々の特徴に
着目するだけでなく、それぞれの位置関係まで把握するのです。
ここにカプセルネットワークの名前の由来があります。
 ヒントン教授のこの最新の論文にについては、発表されたばか
りであり、その成果をうんぬんするには、まだ早いかもしれませ
んが、確実に従来のニューラルネットワークを前進させるもので
あり、各方面から多くの賛辞が寄せられています。
─────────────────────────────
◎ローランド・メミセヴィッチ/モントリオール大学教授
  与えられたある量のデータから、既存のシステムよりも多く
 の理解を得られる。
◎ゲイリー・マーカス/ニューヨーク大学教授
  ヒントンの最新の業績は、歓迎すべき新たな風の息吹を象徴
 しています。AI分野の研究者たちは、脳にもともと組み込ま
 れている仕組みを積極的に真似るべきです。視覚や言語といっ
 た必須の能力を身に付けるために役立つのですから。
  新たに登場した体系が、どこに行き着くかはまだ分かりませ
 ん。でも、これまでのAI研究が固執し、はまり込んでしまっ
 ていた轍から抜け出す方法を見つけたという点において、ヒン
 トンは素晴らしい成果を挙げたといえるでしょう。
                  https://bit.ly/2HALKYj
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/027]

≪画像および関連情報≫
 ●深層学習を根底から覆すカプセルネットワークの衝撃
  ───────────────────────────
   現在の深層学習ブームのきっかけを作ったのが、トロント
  大学のジェフリー・ヒントン教授であることには誰も疑問を
  抱かないでしょう。ヒントン教授らのグループはそれまで目
  覚ましい成果がなかなか出なかった画像認識という分野に深
  層畳み込みニューラルネットワークという新しいアイデアで
  取り込み、目覚ましい成果を挙げたことで、グーグルはヒン
  トン教授の設立した企業DNNリサーチを買収し、今のディ
  ープラーニングブーム旋風が世に巻き起こりました。だいた
  い、この手のニューテクノロジーブームというのは、2、3
  年で落ち着くのが常です。
   しかし、稀にブームで終わらずに、本物のイノベーション
  になる技術があります。たとえば、モバイル・インターネッ
  ト、リアルタイム3Dコンピュータグラフィックス、スマー
  トフォンなどです。
   スマートフォンの場合、なにもアイフォーンが最初ではあ
  りませんでした。アイフォーンのプロトタイプのようなもの
  が1990年代後半からいくつも登場しては消えていったの
  です。人工知能分野のなかでも、特にニューラルネットワー
  クはスマートフォンと似ています。過去に何度も注目を集め
  ブームになりながら、いまひとつ定着できずイノベーション
  に昇華できなかったもののひとつです。
                  https://bit.ly/2kWUFdI
  ───────────────────────────
 ●添付ファイル画像出典/https://bit.ly/2prgd4T


カプセルネットワークとは何か.jpg
カプセルネットワークとは何か
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2018年06月13日

●「どのように画像の特徴を掴むのか」(EJ第4784号)

 そもそも「ディープラーニング」は、何がきっかけになって、
注目されたのでしょうか。
 「画像認識コンテスト/ILSVRC」という国際的なイベン
トがあります。このコンテストは毎年行われ、世界中の一流大学
や研究機関がエントリーして、独自のアルゴリズムを競い合う技
術競技です。ILSVRCは、次の言葉の略です。
─────────────────────────────
  ILSVRC
  ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge
─────────────────────────────
 2012年のILSVRCのことです。そのとき、1200万
画素・1000カテゴリの画像認識の問題に対し、ジェフリー・
ヒントン教授率いるチームが圧勝しました。このとき、使われた
のがディープラーニングです。勝敗は、画像認識エラー率で競う
のですが、他チームの平均エラー率が26%だったのに対し、ヒ
ントン教授率いるチームのエラー率は16%だったのです。この
結果には、世界中が驚愕したのです。以来、ディープラーニング
は世界中で有名になったといえます。
 さて、「ディープラーニング」は、機械学習の一つです。6月
11日のEJ第4782号で述べたように、機械学習には次の2
つがあります。再現します。
─────────────────────────────
          1.教師あり学習
          2.教師なし学習
─────────────────────────────
 画像認識の場合、人間であれば、その画像の特徴というべきも
のを無意識に掴んで、それが、どういう画像であるかを判断しま
す。ディープラーニングの場合は、どのように把握するのでしょ
うか。日本のAI研究の第一人者である松尾豊東大准教授は、こ
れについて次のように述べています。
─────────────────────────────
 例えば、画像の場合、画像の中から特徴量を自動的に切り出す
ことができる。特徴量とは、簡単なものだと、エッジの検出、角
の検出、などのようなものから始まり、それが組み合わさること
によって「顔がある」「これは人間の顔」「これは猫の顔」など
という高次の特徴量へとつながっていく。そうすることで高次の
特徴量も自動的に取り出すことができるのです。
                  https://bit.ly/2LFgAl9
─────────────────────────────
 ここで松尾准教授のいう「特徴量」という言葉について、知る
必要があります。特徴量とは特徴を数式化したものをいいます。
アルファベットを例に上げます。AIは、その形状からアルファ
ベットというものを次の3つのパターンに分類して認識します。
─────────────────────────────
  1.中心から縦に引いた線を境にして左右の形が等しい
    A、H、I、M、O、T、U、V、W、X、Y
  2.中心から横に引いた線を境にして上下の形が等しい
    B、C、D、E、H、I、O、X
  3.上記「1」と「2」の条件を両方とも満たしている
    H、I、O、X
                  https://bit.ly/2l5zCWF
─────────────────────────────
 どういう仕組みで、画像の特徴量を把握するのかというと、そ
こには、「オートエンコーダ」というものを使うのです。松尾准
教授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 オートエンコーダーというものを使います。従来の機械学習な
ら、「教師あり学習」、「教師なし学習」という分け方をするこ
とが多かったのですが、ディープラーニングは「教師なし学習」
だが、一見すると「教師あり学習」のような扱いをするのです。
 どういうことかと言うと、例えばコンピューターに画像のデー
タを与えた場合、コンピューターは画像の一部を消して、その一
部を残った部分から当てなさいという問題に変えるのです。そう
すると、画像を与えただけで、たくさんの擬似的問題を作ること
ができる。それをニューラル・ネットワークで解かせていくと、
ニューラル・ネットワークの隠れ層にあたる部分に特徴量が自動
的に獲得されてくるという仕組みです。そして、それは画像の一
部を見て、残りを当てるということにおいて重要な特徴量なので
画像を端的に表わす特徴量が自動的に選ばれるというわけです。
                  https://bit.ly/2LFgAl9
─────────────────────────────
 松尾准教授は凄いことをいっています。例えば、「1」という
字を認識しするとき、AIはその一部を消して、自分で自分に問
題を出します。例えば、「1」の画像の下半分を消して、画像が
何であるか、ニューラルネットワークに問い合わせます。
 右に横線が出ると「L」、左が空いた弧がくれば「5」と、縦
に線が伸びれば「1」になります。画像の隠す部分を変えて、い
くつも問題を作り、ニューラルネットワークを通して正解を得る
仕組みになっています。
 ディープラーニングで思考するニューラルネットワークは、本
来「教師なし学習」です。しかし、AI自体が自身に対して問題
を出し、答えさせることによって、正解率を高めるメカニズムは
一種の「教師あり学習」ともいえる──松尾准教授はそのように
いっているのです。
 覚えるということは試行錯誤の繰り返しです。赤ちゃんが手当
たり次第に周りにあるものに触ったり、叩いたり、口に入れたり
してそれがどういうモノか理解していくプロセスがディープラー
ニングのなかに内蔵されているようです。AIについて知れば知
るほど、人間の脳がいかによくできているかを知らされることに
なります。     ──[次世代テクノロジー論U/028]

≪画像および関連情報≫
 ●松尾豊東京大学准教授とのインタビュー
  ───────────────────────────
  金丸:お忙しいなかお越しいただきありがとうございます。
  今日は六本木に今年3月オープンした『ビフテキのカワムラ
  六本木店』をご用意しました。こちらは神戸に本店があって
  銀座にもお店があるんですが、とにかく予約が取れないんで
  すよ。
  松尾:そうなんですか。そんなお店にお招きいただき、あり
  がとうございます。最高級の神戸牛が味わえると聞いて、楽
  しみにしてきました。
  金丸:松尾先生のご専門は、人工知能(AI)です。ここ最
  近、AIのニュースを聞かない日はありませんし、先生のこ
  とはメディアでもよく拝見しています。
  松尾:ありがとうございます。
  金丸:先生とは経済産業省のプロジェクトでご一緒していま
  す。いまAIのなかでも、ディープラーニングという新しい
  技術が注目されていますが、どういうものなのか簡単に教え
  ていただけますか?
  松尾:ディープラーニングとは、人間の脳の神経回路をまね
  た「ニューラルネットワーク」を使って、人間の脳と同じよ
  うな情報処理を行う技術です。これまでコンピュータに画像
  を認識させるには、たとえばネコなら「目が丸い」「耳がと
  がっている」というようなネコの特徴を人間が入力しなけれ
  ばなりませんでした。それがディープラーニングの技術によ
  り、コンピュータに大量の画像データを読み込ませることで
  コンピュータ自らが学習し、その特徴を見出せるようになり
  ました。            https://bit.ly/2kZXTNu
  ───────────────────────────

松尾豊東京大学准教授.jpg
松尾豊東京大学准教授
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2018年06月14日

●「IBMワトソンはどんなマシンか」(EJ第4785号)

 IBMが開発した「ワトソン」という名前のコンピュータがあ
ります。今やAI(人工知能)とワトソンは同義語として語られ
るほど有名な存在です。実は、当のIBMは、ワトソンについて
次のようにいっているのです。
─────────────────────────────
 ワトソンとAI(人工知能)は目指すゴールが決定的に違う
                       ──IBM
─────────────────────────────
 「ワトソン」という名前を聞くと、アーサー・コナンドイルの
推理小説『シャーロック・ホームズシリーズ』の登場人物で、名
探偵シャーロック・ホームズの友人のワトソン博士を想起する人
が多いと思います。小説でのワトソンは、いろいろな場面でホー
ムズにアドバスする役割であり、AIコンピュータ「ワトソン」
の役割にぴったりですが、まったく関係がありません。
 ワトソンの名は、IBMの事実上の創立者であるトーマス・J
・ワトソンから取られています。創立者ではありませんが、初代
社長で、1914年から1956年までIBMのトップとして、
IBMを世界的大企業に育て上げた人物であり、IBMを代表す
るコンピュータの名前を冠するのに相応しい人物です。
 ところで、なぜ「ワトソン」とAIとは目指すところが違うの
でしょうか。キーワードは次の言葉です。
─────────────────────────────
  IBMの「ワトソン」は、コグニティブシステムである
─────────────────────────────
 コグニティブ(cognitive) とは、日本語で「認識」とか「認
知」のことであり、コグニティブシステムとは、ある事象につい
てコンピュータが自ら考え、学習し、自らの答えを導き出すシス
テムを意味します。「コグニティブ・コンピューティング」とも
いわれています。
 米IBM基礎研究所バイスプレジデントで、ディープラーニン
グの応用や神経細胞のシナプスのように働く新しい「シナプス・
チップ」の研究を牽引するダリオ・ギル氏は、コグニティブシス
テムについて、次のように説明をしています。
─────────────────────────────
 AIの技術が、コグニティブシステムに使われていることは間
違いないが、AIとコグニティブシステムは「ゴール」が違う。
AIは、科学分野における技術であり、人間ができることのイミ
テーションを目指している。一方、コグニティブシステムは人間
が中心。人がより良い作業が行えるようにサポートするものだ。
 コグニティブシステムは、学習能力を持った点が大きな特徴。
これまでのようにルールを書かなくても、システム側が事例を通
じて学習することが可能だ。ソフトウェアの世界を抜本的に変え
ることになる。普通、コンピュータというのは、購入した日が最
も性能が高い日であるが、コグニティブシステムは最もパフォー
マンスが悪いのが購入した日。学習することで、日に日に性能が
向上する。その学習の成果をもとに、コグニティブシステムは、
人間が持っている専門知識を補完するものだ。私は、コンピュー
タが人を置きかえるという考え方は根本的に間違っていると思っ
ている。    ──ダリオ・ギル氏 https://bit.ly/2l5bFPd
─────────────────────────────
 ワトソンは、自然言語処理ができるマシンですが、早押しの人
気クイズ番組「ジョパディ!」で優勝しています。当時のワトソ
ンには音声認識機能は搭載されておらず、問題は文章で出題され
シリンダーでボタンを押す装置を用いて回答したことがわかって
います。
 現在では、ワトソンにはかなり強力な音声認識機能が装備され
ており、日本のメガバンクのコールセンターでも、ワトソンが使
われています。文字は解読できるし、人の会話を聞き取り、文章
化できる能力も持っています。しかも、知識のソースを与えれば
ワトソンは、自動的に機械学習できる能力も持っています。
 ダリオ・ギル氏はこうもいっています。現在のコンピュータは
現存する2・5エクサバイトのデータのうち、80%のデータの
意味が理解できない。これらは、SNSなどによって発信されて
いる自然言語のデータですが、人間にとってもこれらのデータは
あまりにも分量が多いので処理できない。ワトソンのコグニティ
ブシステムは、これらの80%のデータを読んで、理解できるよ
うにするものである、と。
 これらのことから、ワトソンとは、自動学習でき、豊富なデー
タから、高度な推論のできるエキスパートシステムではないかと
思われます。既にIBMは、ワトソンによる「コグニティブビジ
ネス」を展開していますが、課題は多くあるようです。
 しかし、IBMのワトソンについて、松尾豊東大准教授は、次
のように絶賛しています。
─────────────────────────────
 IBMのワトソンがすごいのは、自然言語処理に優れていると
ころだ。コンピューターが扱えるデータが爆発的に増えていると
いっても今はまだ紙に書かれた情報が山のようにある。書籍をス
キャナで読み取って、文字を認識したとしても、コンピュータに
は、その書籍の内容がどういうものなのかは理解できない。どの
部分が書籍のタイトルで、どれが著者名かということさえも、そ
のままでは分からない。
 ところがワトソンは、コンピューター向けに作られていない文
字情報を、コンピューターに理解できるような形に変えるところ
でさまざまな工夫がされているのだという。クイズ番組「ジョパ
ディ!」に出演したワトソンは、書籍や百科事典、ウィキペディ
ア上の情報など、2億ページ分のテキストデータ(70GB程度
約100万冊の書籍に相当)をスキャンして取り込んでいた。
       ──松尾豊東大准教授 https://bit.ly/2LFgAl9
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/029]

≪画像および関連情報≫
 ●ワトソンで苦戦のIBMが狙う「AIでの反撃」
  ───────────────────────────
   人工知能(AI)分野ではグーグルやマイクロフト、フェ
  イスブックらが優秀な人材をかき集める一方、IBMのよう
  な古くからの大手は苦戦を強いられている。
   IBMは、莫大な費用を同社のAIのワトソンに注いでい
  るが、目立った成果をあげられていない。健康情報メディア
  「Stat」は先日、ワトソンのガン治療分野への導入が遅延し
  ている状況を詳細にレポートした。
   IBMは大学の研究機関とともに、この状況への対処を始
  めた。2017年9月7日、IBMは、マサチューセッツ工
  科大学(MIT)と実施するAI研究プロジェクトに、今後
  10年間で2億4000万ドル(約260億円)を出資する
  とアナウンスした。「MIT-IBM Watson AI Lab」と 呼ばれる
  このプロジェクトは、100名の研究者らを4つのAI領域
  の研究に割り当てる。
   その4領域とはニューアルゴリズム、ハードウェア、ソー
  シャルインパクト、ビジネス活用だ。アルゴリズム開発にお
  いて同プロジェクトは、マシンラーニング(機械学習)の一
  分野であるディープラーニング(深層学習)に続く新領域に
  注力する。「今回の提携で、ディープラーニングを超える新
  たなアルゴリズムの発見に向けた基礎研究を開始する」とM
  ITのエンジニアリング部門学部長は述べた。
   研究チームが特に注力するのは、人間による監視や手作業
  によるデータのタグづけ無しで実行可能なAIアルゴリズム
  のトレーニングだ。現状のディープラーニングのトレーニン
  グには、人間の目視による確認が必須で、個々のデータにラ
  ベルづけを行う必要がある。例えば車の画像データがあれば
  これは車だと教えてやる必要があるのだ。
                  https://bit.ly/2Mix7MR
  ───────────────────────────

ダリオ・ギル米IBM基礎研究所副社長.jpg
ダリオ・ギル米IBM基礎研究所副社長
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2018年06月15日

●「ワトソンの無期限無料試用の狙い」(EJ第4786号)

 2017年10月27日に、日本IBMは、ワトソンについて
次のアナウンスを行っています。
─────────────────────────────
 IoTのシステム構築には試行錯誤がつきもので、PoC(概
念検証)などでは試作や検証に時間がかかる傾向がある。そうし
た課題に対し、日本IBM、同社のAIプラットフォームである
ワトソンなどを開発者が無料で、かつ無期限に利用できるサービ
スを2017年10月27日から開始した。  ──日本IBM
─────────────────────────────
 このIBMのサービスは「IBMクラウド・アカウント」と呼
ばれます。これまでは、無料試用トライアルは30日に限定され
ていたものが、無期限に無料で利用できるようになったのです。
AIを試してみたい企業や個人のデベロッパーにとって、またと
ないチャンスが訪れたといえます。なぜ、IBMは、このかなり
思い切ったサービスに打って出たのでしょうか。
 これには、諸説がありますが、AI(人工知能)の分野におい
て先行していたはずのIBMが、優秀な人材を集め、集中的にA
Iに投資を行っているグーグルやマイクロソフト、フェイスブッ
クなどから遅れをとっているからであるといわれています。確か
に、これまでにIBMは莫大なコストをワトソンに注いでいます
が、目立った成果を上げられないでいるからです。
 それに、IBMはワトソンをグーグルなどで開発を進めるAI
とは別のビジネスシステムとして位置づけようとしているフシが
あります。10月27日のユーザーイベントで基調講演をしたエ
リー・キーナン日本IBM代表取締役社長は、世界を変える6つ
の技術として、@AI、AIoT、Bブロックチェーン、C量子
コンピュータ、Dニューロモーフィックコンピュータ(脳型コン
ピュータ)、E世界最小コンピュータの6つを上げ、コンピュー
タが現在、人間の生活を大きく革新しつつあると述べたうえで、
AIについて次のように述べています。
─────────────────────────────
 AIには、人々の生活を直接的に助けるAIと、ビジネスを支
援するAIがある。ワトソンはビジネスを助けるAIである。限
られたゲーム盤の上でさらにルールが固定化されたゲームとビジ
ネスの世界は大きく異なる。AIをビジネスで活用するためには
業界用語や文脈、ワークフローをAIが理解できないと難しい。
ワトソンは、すでに医療現場で医者の診断を支援するサービスを
開始しており、ビジネスの世界で実績がある。他のAI技術では
そういう実績はまだない。      https://bit.ly/2t6IQFG
─────────────────────────────
 これでわかるように、IBMは、ワトソンをグーグルなどが主
導する、いわゆるAIとは別のものであるとしているようです。
ワトソンは既に業務に役立つレベルに達しており、さらに多くの
成功事例を生み出そうとして「IBMクラウド・アカウント」を
スタートさせたものと考えられます。
 その成功事例を担っているのは、ワトソンの展開において日本
のパートナーとしてIBMに協力してきたソフトバンクグループ
です。10月27日のユーザーイベントで、日本IBMエリー・
キーナン社長に続いて登壇したソフトバンクの代表取締役社長兼
CEOの宮内謙氏は、EC(電子商取引)の市場規模が200兆
円以上になっているが、これからの10年間は、それよりももっ
と大きな変化が起きるとして、テクノロジーによる企業の成長戦
略の可能性について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 成長戦略を描くうえで、考えなければいけない3つの経済変化
として、「コネクテッドエコノミー」
    「シェアリングエコノミー」
    「スコアリングエコノミー」を挙げる。
 コネクテッドエコノミーは、通信により人と人がつながり、場
所も時間を選ばないコミュニケーションができるようになったこ
とで生まれる価値を示す。今はこれがさらに広がり、人だけでな
くモノもつながることができる。
 さらにこのコネクテッドエコノミーを土台として、完全にモノ
の管理が行えるようになったことで、シェアリングエコノミーが
生まれた。カーシェアリングや自動車シェアリングなどのほか、
ウーバーなどの自動車配車サービスなどもこれに当たる。
 さらに、あまり注目されていないが、今後重要になることにス
コアリングエコノミーがある。コネクテッド化により、モノの完
全な管理が可能となることで、例えばシェアされた自動車をどの
ような使い方をしているのかが把握できる。
そこで利用者がスコアリングされるような状況が生まれる。これ
らはさらにさまざまな産業に広がっていき、新たなチャンスを生
み出すだろう。           https://bit.ly/2t6IQFG
─────────────────────────────
 ソフトバンクでは、AIを活用した革新的企業との協業や出資
などを展開しています。その分野としては、セキュリティ、ライ
ドシェア、医療、自動運転、ロボット、半導体、室内農業、産業
IoTなど、多方面に及んでいます。
 日本IBMは、「IBMクラウド・アカウント」のサービス開
始を機会にワトソンのユーザーを一挙に増やすことを計画してい
ます。日本IBM三澤智光取締役は次のように述べています。
─────────────────────────────
 ワトソンの国内での展開は既に350社以上におよんでいるが
日本語APIを自由に触りたいという声が非常に多かったので、
今回「IBMクラウド・アカウント」を用意した。より多くの開
発者にさまざまな形で触れてもらうことが重要だと考えている。
 ──日本IBMクラウド事業本部長/三澤智光取締役執行役員
                  https://bit.ly/2JO4GVe
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/030]

≪画像および関連情報≫
 ●「IBMクラウド・アカウント」の価値
  ───────────────────────────
   今回リリースされた「IBMクラウド・アカウント」は、
  利用期間に制限がない。使用料金が発生することがないため
  クレジットカードなどの登録も不要だ。これまでのフリート
  ライアルは30日間の期間限定だったが、今度はじっくり試
  すことができる。また、学生などでクレジットカードを所持
  していない人とっても利用のハードルが下がったことは大き
  な意義がある。
   しかし、有料プランと比較した場合、当然ながらいくつか
  の制約が存在する。利用可能な組織・地域とも各1つ。CF
  メモリが256MB、主要サービスはライトプランのみで、
  インスタンスもプランごとに1つといった機能面の制限。そ
  して、10日間の開発停止でアプリが停止し、30日間の活
  動停止でサービスが削除される。これらの制限は実際の開発
  において、どれほどの障壁となるのか。また、無料化におけ
  る社会的な意義や今後、どんな可能性を秘めているのか。
   川合氏は「ストーリーAI」と呼ばれる、物語における感
  情の動きをビジュアライズするAIの開発者。現在はアルゴ
  リズムの強化と商用化に向けたサービス開発を行っている。
   「私が開発するストーリーAIは、物語における感情の振
  れ幅と時間軸(X軸)と感情軸(Y軸)でビジュアライズし
  表現するものです。物語の登場人物たちがストーリー中にど
  のような感情を抱いているのかをテキストから理解し、物語
  の盛り上がりを判断するアルゴリズムをつくりました」。
                  https://ibm.co/2lcG7ad
  ───────────────────────────

宮内謙ソフトバンク社長兼CEO.jpg
宮内謙ソフトバンク社長兼CEO
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2018年06月18日

●「3つの『認識』は可能になるのか」(EJ第4787号)

 現代のAI(人工知能)は、ニューラルネットワークのディー
プラーニングが主流になっています。このディープラーニングは
「革命」といわれます。なぜ、革命なのでしょうか。それは、次
の3つのことが可能になりつつあるからです。
─────────────────────────────
        1.3つの認識が可能になる
        2.運動ができるようになる
        3.言語の意味が理解できる
─────────────────────────────
 上記「1」の「3つの認識」とは何でしょうか。1つは「画像
認識」、2つは「文字認識」、3つは「音声認識」です。ひとつ
ずつどこまでできるようになっているか考えることにします。
 「画像認識」については、これまでは悪戦苦闘していたのです
が、「グーグルの猫」が認識できるようになり、AIは明らかに
ブレークスルーを成し遂げたのです。画像を認識するということ
は、その特徴点を見分けるということです。猫を見分けるために
動画から取り込んだ1000万枚の画像を解析し、1000台も
のコンピュータで3日かけて学習し、やっと認識したのです。
 画像認識がうまくいけば、「文字認識」と「音声認識」はクリ
アできるのです。実際に現在のAIは、まだ課題はあるものの、
文字認識も音声認識もできるようになりつつあります。
 上記「2」の「運動ができるようになる」は、ロボットの開発
に応用され、少しずつ実現しつつあります。これには、自動運転
車の問題も含みます。自動運転車は現在進んでいるように見えま
すが、まだまだ多くの難題を抱えています。
 上記「3」の「言語の意味が理解できる」は、翻訳や通訳に応
用できますが、実はこれが一番難しいのです。ペッパーなどのロ
ボットは、人の言葉を理解し、それに対応した行動をとりつつあ
るように見えますが、ペッパーは相手の声と自分が発する声の見
分けがつかないのです。そのため、ペッパーなどのコミュニケー
ションロボットは、自分が話すときは、マイクはオフになってい
るのです。なぜなら、ロボットは自分が話す音を認識してしまう
と、それに対しても答えようとする無限ループに陥ってしまうか
らです。そのため、ロボットが話すときは、マイクは自動的にオ
フになります。
 「ディープマインド」という英国の人工知能企業があります。
2010年にディープマインドテクノロジーとして起業されたの
ですが、2014年にグーグルに買収され、ディープマインド社
になったのです。
 このディープマインド社が開発したのが、碁のAIアルゴリズ
ム「アルファ碁」です。2016年3月、「アルファ碁」は、世
界トップレベルの韓国のイ・セドル九段に4勝1敗で勝利し、世
界的に有名になります。
 このディープマインド社のCEOであるデミス・ハサビス氏は
ゲームの世界では、「DQN」という汎用学習アルゴリズムの天
才的開発者として知られています。
─────────────────────────────
             「DQN」
           Deep Q-Network
 DQNは画像認識に多く用いられる深層学習と強化学習(Q学
習)を組み合わせたアルゴリズムにより動作し、ゲームのルール
を教えていない場合でも、どのように操作すれば高得点を目指す
ことができるのかを判断することができる。
        ──ウィキペディア https://bit.ly/2ina8Ef
─────────────────────────────
 「DQN」は、どのようなゲームにも適用できる画期的な汎用
学習アルゴリズムで、ゲーム画面の出力信号と「高いスコアを出
せ」という指令のみで動くといわれます。つまり、「高得点を出
せ」と命令すると、得点を上げるメカニズムを超スピードで学習
し、そういう結果を出してくるのです。
 DQNは、49種類のゲーム中、43種類で従来のAIによる
得点を上回り、29のゲームでは、プロゲーマーと同等またはそ
れ以上のパフォーマンスをみせたといわれます。
 ディープマインド社は、このDQNをベースに「アルファ碁」
を開発したのです。「アルファ碁」は、イ・セドル九段を破った
ことで、「名誉九段」の称号が与えられていますが、その後につ
いて次の話があります。
 韓国に「東洋囲碁」というインターネット囲碁サイトがありま
す。2016年12月29日から31日にかけて、その囲碁サイ
トに「マジスター/Magister」というIDの棋士が現れ、世界ラ
ンクトップの中国のケ・ジェ九段や韓国ランキング1位のパク・
ジョンファン九段など、世界トップ級の棋士と対局しています。
結果は30戦全勝です。
 2017年1月1日から5日にかけて、中国で韓国と同じよう
なことが起きたのです。中国の囲碁サイト「野狐囲碁」に「マス
ター/Master」と名乗るID棋士が現れ、世界トップ級棋士とさ
らに30戦戦い、全勝しています。韓国の「東洋囲碁」と中国の
「野狐囲碁」の戦績を合わせると、60戦60勝、勝率100%
ということになります。
 実は、デミス・ハサビ氏は、マジスターIDもマスターIDも
「アルファ碁」の進化型であることを明かしています。今後の公
式戦に備えて、テストを行ったのです。もはや囲碁とか将棋の世
界では、AIに人は勝てないといっても過言ではないようです。
 しかし、将棋にしても囲碁にしても、すべての情報が開示され
ているゲームです。しかし、ポーカーや麻雀などは、相手の手は
隠されていてわからないゲームです。そういうゲームで、AIが
勝利を収めたという話はありません。したがって、AIによって
すべてのゲームが支配されたということにはならないのです。し
かし、ビジネスというゲームには、AIは無限の活用の余地があ
ります。      ──[次世代テクノロジー論U/031]

≪画像および関連情報≫
 ●囲碁の最強人工知能「アルファ碁」の仕組みとは?
  ───────────────────────────
   2017年5月27日、人類最強の呼び声が高い棋士ケ・
  ジェにグーグル社傘下のイギリスの人工知能企業のディープ
  マインド社が開発する「アルファ碁」が勝利しました。
   27日の対局に先立ち23日、25日にも「アルファ碁」
  はケ・ジェを相手に勝利し、ケ・ジェは人工知能を相手にま
  さかの全敗を喫したのです。囲碁は元々、AI(人工知能)
  にとって、もっとも難しいゲームの一つとされていました。
  最強棋士を破る囲碁AIは、どのようにして、生まれたので
  しょうか?
   2015年10月、碁のヨーロッパ王者であるファン・フ
  イ2段に5戦5勝を収め、続く2016年3月には、21年
  間のプロキャリアで18回に渡って世界王者になった経歴を
  持つイ・セドル9段に4勝1敗で勝利しました。
   敗北はとてもハードなことだった。アルファ碁と対局する
  前は、僕は「きっと勝てるだろう」と考えていた。最初の対
  局の後には戦術を変えて挑んだのだけど、それでも負けてし
  まった。人間には時に大きなミスをするという問題がある。
  なぜなら、僕たちは人間だからだ。時には僕たちは疲れてい
  るし、時には「何が何でもゲームに勝ちたい」と望んで、大
  きなプレッシャーを感じる。でも、プログラムはそうじゃな
  い。まるで壁のようにプログラムはとても強く、安定してい
  る。この違いは、僕にとってはとても大きなものなんだ。僕
  はアルファ碁がコンピューターであることを元々知っていた
  けれど、もしも誰一人としてその事実を僕に伝えていなかっ
  たら、僕は対局相手のことを少々奇妙だがとても強い本物の
  人間のプレイヤーだと感じただろうね。
                  https://bit.ly/2tfyKlI
  ───────────────────────────

中国最強棋士と対局する「アルファ碁」.jpg
中国最強棋士と対局する「アルファ碁」
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2018年06月19日

●「人工知能最大の難問フレーム問題」(EJ第4788号)

 ディープラーニング革命によって、AI(人工知能)に関わる
難問が次々と解決されています。画像認識、文字認識、音声認識
などが急速にクリアされています。しかし、AIには根本的に解
決できない難問があります。それは「フレーム問題」です。
 フレーム問題とは何か──これは基本的に人間と機械の違いに
直面する難しい問題です。まずは、フレーム問題とは何かについ
て、雑賀美明氏の著書から引用します。
─────────────────────────────
 フレーム問題というのもあります。
 これは、1969年にジョン・マッカーシーとパトリック・ヘ
イズが指摘した人工知能研究の最大の難問です。今からしようと
していることに関係のある事柄だけを選び出すことが、実は非常
に難しいと言う問題です。周りの環境から、何が関係あって、何
が関係ないかを調べるために、無限の計算が必要になって人工知
能が止まってしまうことを「フレーム(枠)問題」と言います。
 人工知能は、チェスやオセロのような閉じられたルールの枠の
中では有効に働きますが、現実の世界のように開かれた世界に飛
び出すと、情報を処理しきれずに動きが停止してしまいます。コ
ンピュータには有限の処理能力しかないので、何も動作できずに
止まってしまうのです。    ──雑賀美明著/マルジュ社刊
      『人工知能×仮想現実の衝撃/第4次産業革命から
                  シンギュラリティまで』
─────────────────────────────
 フレーム問題について、身近の事件から探っていくことにしま
す。このところ新幹線でのトラブルが相次いでいます。6月9日
の新幹線「のぞみ265号」での乗客殺傷事件、これに続く14
日の「のぞみ176号」による人身事故など。とくに人身事故で
は、運転手はトンネル内で異音を聞いているのに、小動物である
と思ってそのことを運転指令に報告せず、列車を停止しなかった
のです。これは明らかに業務規則違反です。こんなことはあって
はならないことです。
 このケースとはまるで違いますが、車に乗っていてフロントガ
ラスに何かがぶつかったとします。そういうことはよくあること
です。小石が跳ねたかもしれないし、何らの虫がぶつかったかも
しれない。そういう場合、人間の運転者であれば、車を止めるこ
とはないはずです。人間なら、何がぶつかったか見当がつくし、
それが運転継続に支障をきたすことではないかわかるからです。
 ところが、この車がAIによる自動運転車であった場合、仮に
ぶつかったものが虫であっても、急停車するはずです。AIには
ぶつかったものが虫なのか、小石なのか、人なのかを判断できな
いからです。しかし走っているのですから、フロントガラスには
いろいろなものがぶつかりますが、そのたびに、車が止まってし
まったら、不便きわまりないことになります。
 このように、人間なら簡単にできることが、AIにはできない
し、逆に人間なら到底できないことが、AIなら短い時間で正確
に仕上げてしまうことが多いのです。このことは、フレーム問題
と関係があります。
 5月25日付/EJ第4771号で「マイシン」というエキス
パートシステムをご紹介しました。この「マイシン」について、
中島秀之東京大学大学院特任教授がフレーム問題との関連で、次
のように対談で述べています。
─────────────────────────────
――エキスパートシステムというのは、まるで人間のエキスパー
ト(専門家)のように、与えられた知識から推論して複雑な問題
を解くよう設計されたAIのことですね。医療系のエキスパート
システムだったマイシンは、伝染性の血液疾患の患者さんを診断
していたと聞いたことがあります。
中島:そうです。マイシンは、感染症の診断が、トップクラスの
   医者には負けるけれど、人間のインターンよりは優れてい
   ました。さまざまな医学知識を取り込んで、いろんな推論
   を展開するのは、AIの得意分野です。ところが、マイシ
   ンのようなAIは、一部の例外を除いて、結局、実用化さ
   れませんでした。
――なぜですか?
中島:大きな理由の1つは、感染症を調べるためにいろいろ検査
   するとき、「子どもに注射を打つ検査をあんまりやると、
   痛がるからだめだよ」という知識が、医学書には書いてい
   なかったからです。
――つまり、マイシンは、検査に必要となれば、子どもにも注射
をバンバン打つよう指示してしまったわけですね?
中島:そうです。「子どもが注射を嫌う」というのは、人にとっ
   ては常識です。しかし、AIであるマイシンには、わから
   ない。じゃあ、AIに読ませる医学書に「子どもは注射が
   嫌い」と書けば済むのかというと、そういう常識の類は、
   ほかにもいっぱいあるわけです。
                  https://nkbp.jp/2JYiG2m
─────────────────────────────
 「マイシン」というエキスパーシステムには、感染症の検査に
必要な医学知識やノウハウはすべて入れてあるのですが、医師は
それだけで診断するわけではありません。それに人間であれば誰
でも持っている「常識」に基づいて診断を下すのですが、AIは
それを持っていないのです。
 それなら、それらの「常識」をAIに与えればよいということ
にはならないのです。人間の持っている知識は、驚くほど多く、
人間自身も自分がどれだけの知識や情報を持っているか意識して
おらず、人間はそれらを基にして総合的に判断を下しているので
す。そういう知識をAIに学習させることは困難です。こういう
ことから、フレーム問題は起きてくるのです。これについては、
明日のEJでももっと詳しく取り上げて考えてみます。
          ──[次世代テクノロジー論U/032]

≪画像および関連情報≫
 ●人工知能の大半は、ないものを「ない」と認識できない
  ───────────────────────────
   例えば、会社の歓迎会で花見を開催したとしましょう。ブ
  ルーシートに並べられた缶ビールを見て、「どうしてキリン
  ビールはないの?」「私はよなよなエールが好きなのに」と
  文句を言われた経験はありませんか?一見、自然な会話に見
  えますが、人工知能にこれを言わせようとすると非常に大変
  です。
   まず、日本で販売されている全ての缶ビールを学習させた
  (覚えさせた)上で、目の前に置かれた缶ビールのラベルを
  1つ1つ認識させれば、どのビールがあって、どのビールが
  ないかが分かります。しかし、重み付けなどを行って1つだ
  けを選ばせるといった制御をしない限り、「キリンビールが
  ない」とは言わずに、そこにないビールを全て列挙すること
  になるでしょう。
   その人工知能が「花見で買ってきていないビールすぐ認識
  する君」のような超特化型のAIならよいですが、人間のよ
  うな汎用的思考を持った、いわゆる「汎用人工知能」が認識
  しようとすると、実現性は一気に低くなります。日々新たな
  商品が生まれる、全ての缶ビールを学習させるなど事実上不
  可能だからです。これがもし、ハイボールや缶酎ハイも加え
  ることになったら・・・と考えればキリがありません。
                  https://bit.ly/2JUkHJt
  ───────────────────────────

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中島秀之東京大学大学院特任教授
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2018年06月20日

●「松岡正剛氏が斬る/フレーム問題」(EJ第4789号)

 フレーム問題の存在を指摘する有名なロボットの問題がありま
す。それをわかりやすく一部を変更して記述します。
 AIロボット1号は、危険な場所へ荷物を運んだり、運び出す
仕事をするロボットです。あるとき、倉庫に爆弾が仕掛けられた
という情報が入ったので、AIロボット1号に、爆弾が仕掛けら
れたとする倉庫から、高価な美術品を運び出してくるよう命令し
たのです。
 AIロボット1号は、倉庫に行き、台車に美術品を乗せて倉庫
の外まで運び出したのですが、爆弾は台車に仕掛けられていたの
で、倉庫を出たところで爆弾が爆発し、目的を果たすことができ
ませんでした。
 これに対してAIロボット2号は、さまざまな安全確認をして
から荷物を運び出すロボットです。このロボットに爆弾が仕掛け
られている倉庫から美術品を運び出す命令を与えたのです。AI
ロボット2号は倉庫に行ったのですが、美術品の前で動きを止め
てしまい、そのうち爆弾が爆発して倉庫ごと吹き飛んでしまった
のです。AIロボット2号に何が起きたのでしょうか。
 AIロボット2号は、倉庫から美術品のところに行き、安全性
を次のようにチェックしたのです。それは、あらゆる安全項目の
チェックだったのです。
─────────────────────────────
    ・台車には本当に爆弾が仕掛けられていないか
    ・美術品の内部に爆弾が仕掛けられていないか
    ・台車を動かしても天井は落ちたりはしないか
    ・台車を動かしても壁の色は変わったりしない
    ・台車を動かしても倉庫内の電気は消えないか
    ・台車を動かしても・・・・・
─────────────────────────────
 倉庫に入ったAIロボットは、美術品を台車に積んで運び出す
に当たって、あらゆる安全項目の確認を行い、時間がなくなって
爆弾が爆発してしまっています。
 AIロボット2号は、人間の立場から見ると、このさいどうで
もいい安全確認をやって無駄な時間を費やしています。目的は美
術品を安全に倉庫の外に運び出すことであり、美術品や台車に爆
弾が仕掛けられていないかをチェックするだけよかったのです。
つまり、限定された重要な「フレーム」に絞って、安全確認をや
れぱよいだけの話です。
 しかし、それは人間にはできても、AIにはできないのです。
ある行動の目的を果すために、関連のある物事だけにフレームを
絞って安全な確認をやることは、AIはできないのです。これを
AIのフレーム問題といいます。
 このフレーム問題について、もう少し明解に説明している文章
があります。少し長いですが、これを読んでください。
─────────────────────────────
 人間は「あのコップを取ってきてくれ」というお題には誰だっ
てたやすく判断行動をおこす。幼児もよろこんでこのタスクに挑
戦し、よちよち歩いてお母さんに両手に挟んだコップを渡す。
 ところがコンピュータやロボットでは、「あのコップ」がテー
ブルや棚やお盆に所属するのかどうかから、判断しなければなら
ない。コンピュータやロボットが持っている知識マップに、コッ
プの帰属や所属が一義的に記述されていればそれでいいというも
のではない。
 「コップはときにお盆にのっている」という知識マップがあれ
ば、AIロボットはそのお盆と分けられるコップだけを持ってく
ることをするが、仮に、「コップは棚にある」という記述だけが
あって、「コップは、棚板でできている棚の上にある可能性が高
い」という記述がないと、ロボットは棚板ごと引きちぎってコッ
プを持ってきてしまう。
 つまり言語や概念がどんな知識のフレームをもっているのか、
そのことを機械が峻別しようとするとかなり難しい処理が必要に
なるわけだ。これを「フレーム問題」と言ってきた。
 ちなみにイシス編集学校では、比較的早い時期に「コップの言
い換え」というエクササイズをする。コップに内属している要素
・機能・属性を確認しつつも、コップに内包されうる意味をあら
かじめふくらませておくためだ。編集学校は世間の分節常識にと
らわれないで、自由なフレームや分節に遊ぶことを奨励する学校
なので、そこは人工知能がめざすところとはいささか異なってい
るのである。
 もっとも近い将来は「編集工学的人工知能」も大いにありうる
ことで、その場合は入力と出力との「あいだ」が見えるようなも
の、その「あいだ」からタスクやイメージが発見できるものにな
るだろう。             https://bit.ly/2Myn3PW
─────────────────────────────
 松岡正剛という人物がいます。この人は「書評作家」というべ
き存在です。「知の巨人」ともいわれています。書評といっても
特定の分野に偏らず、幅広い分野にわたって本の書評を書いてい
るのですが、それは書評というよりも、ひとつの立派な文藝作品
になっています。もちろん科学の分野にも鋭くメスを入れます。
それらの書評は「千夜千冊」というサイトにまとめられ、多くの
人に読まれています。私は、自分の読んだ本を松岡正剛氏がどう
評しているか興味をもって読んでいます。その逆もあります。
 上記の一文は、AI界の第一人者である松尾豊氏の次の著書の
書評の一部で、フレーム問題を論じています。こういう難解な問
題にも逃げずに挑戦する凄い人です。
─────────────────────────────
              松尾 豊著/角川EPUB選書
      『人工知能は人間を超えるか
          /ディープラーニングの先にあるもの』
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/033]

≪画像および関連情報≫
 ●人工知能は禅によってフレーム問題を解決する
  ───────────────────────────
   「自我を持つ人工知能を開発するには、人工知能開発のベ
  ースとなった西洋哲学だけでは限界がある。東洋哲学の考え
  も取り込むべきだ」としてスタートした「人工知能のための
  哲学塾東洋編」。荘子からはじまり、イスラム哲学、仏教、
  インド哲学と進んできた本セミナーも2017年11月13
  日、いよいよ最終回を迎えました。「人工知能と禅」をテー
  マに掲げた第5回目では、おなじみSIG−AIの三宅陽一
  郎氏が、これまでの議論を巻き取りながら、「禅によって悟
  る人工知能」のビジョンについて解説しました。
   大前提として、現在の人工知能が抱える問題とは何でしょ
  うか。それは「問題を自分で設定できないこと」に行き着き
  ます。いくら強化学習でアルファ碁が人間を打ち負かしたと
  しても、それは碁というゲームの中での最適解に過ぎず、新
  しいゲームを創り出すことはできないというわけです。実際
  現在の大半の人工知能は「問題特化型」にすぎません。古今
  東西の人工知能研究者を悩まし続けてきたフレーム問題は、
  依然として高くそびえ立っています。
   それでは、このフレーム問題はどのようにすれば解決でき
  るのでしょうか?そして、フレーム問題の解決は「自我」と
  どのような関係性を持つのでしょうか。三宅氏の講演をまる
  っとまとめると、「人工知能がフレームを自力で設定するに
  は、人工知能が『悟る』ことが重要」で、フレームを自力で
  設定できる力が、自我の獲得にもつながるということになり
  ます。なぜ、そのような結論になるのか。そもそも「悟る」
  とは何なのか。         https://bit.ly/2JTFEEs
  ───────────────────────────

松岡正剛氏.jpg
松岡正剛氏
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2018年06月21日

●「AIの全体像はどうなっているか」(EJ第4790号)

 本日のEJから、AI(人工知能)の正体をもっと具体的に明
らかにしたいと考えています。改めて考えてみると、「AI」と
は何なのかわからなくなります。ハードウェアなのでしょうか、
それともソフトウェアなのでしょうか。
 「AI」という言葉は、あまりにも抽象的です。たとえば、自
動運転車というのは、AIシステムを搭載した乗用車であるとい
われますが、車にハードウェアとしてコンピュータが搭載されて
おり、その上でAIシステムが動いているのでしょうか。あれこ
れ考えていくと、何だかわからなくなります。
 このあたりことをはっきりさせたいと思います。つまり「AI
の構造がどうなっているか」について、そろそろはっきりさせる
必要があります。
 PCの構造について考えてみましょう。PCの構造を図であら
わすと、3層構造になっています。一番下はハードウェア、その
上にOS(基本ソフト)があり、さらにその上にアプリケーショ
ンがあります。OSはハードウェアに合わせて作られており、そ
のOSの環境の下で、アプリケーションが動くのです。このさい
ハードウェアとは、具体的には「CPU」のことであると考えて
ください。簡単にいうと、これがPCの構造です。
 このことを頭において添付ファイルの図を見てください。これ
は、AIの全体像を階層的に示しています。階層ごとに簡単に説
明していきます。
 一番下にはハードウェアがあります。これらはニューラルネッ
トワークの高速処理を支えるハードウェア(処理チップ)です。
代表的なものは、次の4つです。
─────────────────────────────
        1.NVIDIA GPU
        2.  グーグル TPU
        3.      FPGA
        4.      ASIC
─────────────────────────────
 その上層に「ライブラリ」があります。ニューラルネットワー
クの処理を行うのがライブラリ、すなわち、フレームワークのこ
とです。AIアプリケーションを作成するときは、これらのライ
ブラリを使います。
 さらにその上層に、これらのフレームワークを使って目的別に
開発されたAIサービスを提供するAIプラットフォームがあり
ます。これはOSのようなものと考えればいいでしょう。AIの
技術は現在発展中であり、統一的なものはなく、プラットフォー
ムは、各社から提供されています。
 その上にあるのは、各種のアプリケーションです。アプリケー
ションは、次のように3つに分けることができます。
─────────────────────────────
 上 層:ビジネス活用AIアプリケーション
     医療、教育、製造業、小売業、農業など
 中間層:単一要素アプリケーションを組み合わせたもの
     パーソナルアシスタント、ロボティクスなど
 下 層:単一要素のアプリケーション
     音声認識、画像認識、機械翻訳など
─────────────────────────────
 結論からいうと、AIの性能を左右するのは、ハードウェア、
つまり、コンピュータの頭脳に該当する処理チップなのです。な
かでも、ディープラーニングの精度向上のカギを握っているのは
エヌビディアの「GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユ
ニット)」です。エヌビィディアコーポレーションという米国の
企業が製作しています。カルフォルニア州サンタクララにある半
導体メーカーです。この企業は、もともとはゲーム用半導体のメ
ーカーとして知られていたのですが、2012年頃からはAIの
発展にとって欠かせない企業になっています。
 ところで、「GPU」とは何でしょうか。「CPU」とはどう
違うのでしょうか。英語の表記は次のようになります。
─────────────────────────────
      CPU   Central Processing Unit
      GPU  Graphics Processing Unit
─────────────────────────────
 CPUとGPUの違いを知るには、少し詳しい説明が必要にな
ります。これについては、これから逐次説明していきますが、そ
ういう説明なしで、ズハリその特色を述べると、その違いは次の
ようになります。
─────────────────────────────
    CPU ・・・ 複雑な計算処理に優れている
    GPU ・・・ 大量の単純計算に優れている
─────────────────────────────
 CPUもGPUも計算をするチップという点では同じですが、
その違いがわかる有名な動画があります。解説は英語ですが、英
語の意味がわからなくても映像で十分理解できるので、ぜひご覧
ください。時間は1分33秒です。
─────────────────────────────
      ◎CPUとGPUの違いが分かる動画
            https://bit.ly/2lnlbgK
─────────────────────────────
 この動画では、前者のスプレーガンをCPU、後者のスプレー
ガンをGPUに見立てています。前者は、ひとつ一つていねいに
処理をしているのに対し、後者は、一気に同じ処理を並列して、
行っています。
 CPUとGPUの位置づけとしては、コンピュータでは何でも
できるCPUが中心チップであり、GPUは、グラフィックスの
計算に特化して処理を行い、CPUを助ける存在と理解してくだ
さい。詳しい説明については明日以降のEJで説明します。
          ──[次世代テクノロジー論U/034]

≪画像および関連情報≫
 ●爆進・エヌビディアは「三日天下」を招くのか
  ───────────────────────────
   「エヌビディアは頭がおかしくなった」「まったくナンセ
  ンス」。世界のITエンジニアが利用する複数の英語掲示板
  ではそんな意見が頻繁に交換されている。AI(人工知能)
  開発インフラを提供する非営利団体、米ファストAIのジェ
  レミー・ハワード氏は、ツイッター上で「エヌビディアは、
  長年の信用を、たったひとつの恐るべき決断で失うだろう」
  とまで批判している。
   詳細を書く前に、エヌビディアについて簡単におさらいし
  ておこう。エヌビディアは、近年の世界的なAIブームで躍
  進した企業の代表格だ。開発に特化したファブレス型の半導
  体メーカーで、GPU(グラフィック・プロセッシング・ユ
  ニット)と呼ばれる半導体の最大手。GPUは本来、CG制
  作やインターネットゲームで画像を処理する際に使われてき
  たが、近年AIの計算処理にも多用されている。
   パソコン普及期の米インテル製プロセッサのように、GP
  UはAIの普及を支える「コア部品」なのだ。AI需要を背
  景に、エヌビディアの時価総額は直近で約13・4兆円。過
  去3年で10倍に伸びており、伸び率ではグーグルやアップ
  ルを大きく上回る超成長銘柄となった。
                  https://bit.ly/2MAOGrL
  ───────────────────────────

AIの全体像.jpg
AIの全体像
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2018年06月22日

●「GPUはどのように誕生したのか」(EJ第4791号)

 コンピュータとは何でしようか。「コンピュータ」という言葉
を聞いて、何を連想するでしょうか。
 多くの人は、PC(パソコン)やスマホやタブレットを連想し
ます。なぜなら、自分のごく身近にあるコンピュータであるから
です。もっともスマホをコンピュータであるとを認識していない
人もいます。しかし、多くの場合、スマホは、PCよりも高性能
なコンピュータなのです。スマホは5年前のスパコンに匹敵する
ともいわれています。それに現在のスマホには、AI機能まで搭
載されています。
 しかし、これからは、コンピュータの定義を次のようにすべき
ではないかと思います。
─────────────────────────────
      コンピュータとはCPUそのものである
─────────────────────────────
 スーパーコンピュータというと、多くの人は、いわゆるPCな
どは違う、何か特殊な構造を持つ大型のコンピュータをイメージ
しますが、基本構造は、普通のPCと変わらないコンピュータな
のです。
 日本には「京(けい)」というスーパーコンピュータがありま
す。年に2回、その処理速度を計測して上位500位を発表する
「TOP500」ランキングで、「京」は、2011年において
2期連続で1位を獲得した高速コンピュータです。
 少し専門的にいうと、「京」は、CPUを8万8128個搭載
し、整数の計算よりも処理に時間のかかる浮動小数点演算と呼ば
れる計算を毎秒1京510兆回実施できるコンピュータです。こ
れは、2011年の演算レベルですから、現在ではもっと高速に
なっている可能性は十分あります。
 このように、スーパーコンピュータは、CPUを8万個以上搭
載しているものの、基本的にはPCと変わらないのです。極端な
ことをいえば、企業の終業後のPCを複数並列に接続して計算し
ても基本的にスパコンに似た処理ができるのです。「京」は、汎
用のCPUを並列に搭載する「スカラー型」というタイプのスー
パーコンピュータです。
 このように、コンピュータの能力はCPUで決まるので、CP
Uはコンピュータそのものです。それでは、CPUとGPUはど
のように違うのでしょうか。
 どうしてGPUが登場したのかというと、PCのOSの変遷に
関係があります。CPUは、コンピュータの「頭脳」といわれま
す。コンピュータ上のあらゆる処理はCPUが行います。しかも
ムーアの法則に従い、CPUの高速化は1年半ごとに倍速のペー
スで進化したのです。
 しかし、CPUが扱うデータ量も急速に増加し、CPUの負担
は、年々増加する一方です。ひとつのきっかけは、1995年に
訪れたのです。
─────────────────────────────
        MS−DOS ・・・ CUI
       WINDOWS ・・・ GUI
─────────────────────────────
 1995年以前、1981年に発売のIBMの16ビットPC
「5150」──このPCに搭載されたOSが「PC−DOS」
(マイクロソフト社提供のMS−DOS)です。このOSは基本
的には文字ベースの「キャラクタ・ユーザー・インターフェース
/CUI」だったのです。
 しかし、DOS時代の後半にはCADなどの作業には、専用の
ハードウェアを用意してグラフィック処理を行っていますが、そ
れらの需要は限られたものだったのです。この時代がしばらく続
きます。この時代に個人がPCで扱うグラフィックス・データの
量はたいしたことはなく、若干の補助装置を付ければ、当時のC
PUでも十分に対応できたのです。
 ところが、1990年頃から、32ビットCPU搭載のPCが
出現します。1991年には「ウインドウズ3・0」搭載のPC
が登場し、「グラフィック・ユーザー・インターフェイス/GU
I」の時代が始まります。32ビットCPU時代の幕開けです。
このときから、PCの扱うグラフィック・データ量は激増するよ
うになり、CPUによるグラフィックスデータの処理負担はきわ
めて重くなります。
 「ウインドウズ3・0」──よほど専門的なユーザーでない限
り、このOSのことを当時知る人は少なかったと思います。その
後に出る「ウインドウズ3・1」は知っていても、このウインド
ウズを使った人は少ないと思います。当時明治生命情報システム
部の私のチームは、3・0のベータ版を入手し、さまざなアプリ
ケーションをテスト的に構築しています。そして、ウインドウズ
3・0の解説本も、チームで執筆しています。この準備があった
ので、生保業界で一番先にウインドウズを導入できたのです。
 1993年に「ウインドウズ3・0」の改良型「ウインドウズ
3・1」が登場し、それを踏まえて1995年に「ウインドウズ
95」搭載のPCが登場し、本格的なウインドウズ時代が始まる
ことになります。
 このときから、激増したCPUのグラフィック・データ処理の
一部を「グラフィック・アクセラレータ」というハードウェアで
処理するようになります。つまり、激増するグラフィックス・デ
ータの処理を、専用のアクセラーレータというハードウェアで肩
代わりするシステムが実現したのです。
 今になって考えると、これが後の「GPU」の開発に結びつい
てきます。PCのグラフィックス・ユーザー・インターフェイス
(GUI)の定着とともに、その後、動画や3Dグラフィックス
など、処理しなければならないグラフィックス・データ量は激増
し、その高速処理の実現が求められたのです。これはPCの根本
的なハードウェアの構造変化を促すことになります。
          ──[次世代テクノロジー論U/035]

≪画像および関連情報≫
 ●グラフィックカードってどんな役割をするの?
  ───────────────────────────
   パソコンがディスプレイモニター上に映し出す映像は、文
  字や写真といった「2D(平面)映像」と、立体的な三次元
  コンピュータグラフィックス(3DCG)に代表される「3D
  (立体)映像」に大きく二分されます。(※ここでいう3D
  は、最近話題のメガネをかけて映像が飛び出てくる3Dとは
  別の話)。基本的に、2Dではあらかじめ用意された画像を
  映し出すのに対し、3Dでは縦・横・高さ・奥行きなどの位
  置情報から計算して映像を作り出します。その為、3Dの方
  が2Dよりも高度な処理を必要とし、より美しい3D映像を
  よりスムーズに描画するには、高性能なグラフィックス機能
  が必要となってきます。
   多少強引な説明となりますが、2Dを表示するためには、
  グラフィックスチップ(GPU)の性能よりも、VRAMと
  呼ばれる映像処理に使う、グラフィックスメモリの容量の方
  が重要となります。実は、フルHD解像度(1920×10
  80)を超える2048×1536もの高解像度な映像をフ
  ルカラー表示するのに必要なVRAM容量は16MBであり
  一昔前のパソコンでも十分な性能を持っています。このよう
  な状況から、現在のグラフィックカードは「3D映像を美し
  く高速に描画させるためのもの」と言っても過言ではないで
  しょう。では、3Dを使わない人にはグラフィックカードは
  不要なのか?という疑問が湧きますが、最近ではOSで3D
  機能を使用したり、グラフィックカードをグラフィックス処
  理だけでなく汎用的に利用する動きも広がりを見せているの
  で、グラフィックカードを搭載しなくても良いとは一概には
  言えなくなってきています。   https://bit.ly/2K8U9aM
  ───────────────────────────

スーパーコンピュータ「京」.jpg
スーパーコンピュータ「京」
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2018年06月25日

●「GPUとディープラーニング演算」(EJ第4792号)

 「GPU」の話を続けます。GPUは、AI(人工知能)を理
解するには不可欠なものです。GPUがわからないと、AIは抽
象的にしか理解できません。それにGPUを知るには、CPUを
理解する必要があります。
 まず、「CPU」と「コア」という言葉の違いについて知る必
要があります。かつては、PCには1個のCPUしか装着されて
いなかったので「CPU=コア」だったのです。しかし、現代で
は、PCに複数のCPUがつく「マルチコア」の時代になってい
るので、CPUとコアを分けて考える必要があります。インテル
の最新チップで考えてみます。
 添付ファイルをご覧ください。左上は、インテルの最新のチッ
プ「コア・アイ・セブン/Core i7」をの上から見たものです。一
般的にはこれをもって「CPU」であるとしています。それは間
違いないことですが、このチップには、2個か4個の「コア」が
装着されています。
 この場合、「コア」とはCPUの核にあたる部分であり、かつ
てのCPUと同じものと考えればよいのです。左上の図はコアお
よびその他の部分をパッケージにしたもので、正確には「ダイ」
というべきです。
 ダイは、薄いシリコン基板の上に数千万〜1億個のトランジス
タが集積され、回路を形成していますが、その回路がコアです。
チップの名称が印刷されているフタように見えるものは、「ヒー
トスプレッダ」といいます。ただのフタではなく、ダイの保護と
放熱を助ける働きをします。そして、この上には、動作時の高熱
を冷やす冷却装置を取り付けます。ファンが主流ですが、水冷方
式のヒートシンクもあります。
 右上と右下の図はダイの拡大図とその裏面です。ダイはそれぞ
れの機能によって、複数のユニットに区分けされています。ダイ
の裏面には「パッケージ」といわれるものがあります。これは、
ダイを保護し、内部はピンとダイを接続するための回路配線が組
み込まれています。
 左下の図はダイの裏面です。中心部は「コンデンサ」、周囲は
「ピン」です。コンデンサは、電気を蓄えて信号や電源を安定さ
せる役割をします。ピンは、マザーボードのCPUソケットに接
続するための端子です。ピンの本数はパッケージの種類によって
異なります。
 コンピュータでやれることが増えてくると、コアの数も増えて
きます。1コアから10コアまでの名称をご紹介します。
─────────────────────────────
         1コア:シングルコア
         2コア:デュアルコア
         3コア:トリプルコア
         4コア:クアッドコア
         6コア: ヘキサコア
         8コア: オクタコア
        10コア:  デカコア
─────────────────────────────
 これに対して「GPU」とは何でしょうか。
 GPUという言葉は、NVIDIA(エヌビティア)という米
国のチップメーカーが作った言葉です。GPUを一言でいうと、
次のようになります。
─────────────────────────────
   GPUは並列処理を行うことで高速に回す装置である
─────────────────────────────
 これだけではわからないと思うので、GPUというチップが何
をするものかについて、NVIDIAの井崎ディープラーニング
部長のインタビューでの話をご紹介します。
─────────────────────────────
 3Dグラフィックのことからお話ししますね。3Dグラフィッ
クを表現するためには、ポリゴン三角形の頂点の座標位置の計算
と、そこにのせるピクセルデータの計算が必要です。
 それぞれの計算に専用エンジンがあったんですが、片方が暇で
片方が忙しいみたいなことが課題としてありました。効率よくな
いんです。そこで効率よく、かつ汎用的な計算を行えるように、
ハードをズラーッと並べて、プログラムで制御できるようにした
のです。この技術が2000年以降の3Dグラフィックのアーキ
テクチャを大きく変えたとのことでした。
 つまり、GPUというモノでそれぞれの専用エンジンをひとつ
にまとめたってことのようです。これって計算が高速で行えるっ
てことなので、べつに3Dグラフィックだけに限った話ではない
んです。GPUはアクセラレータとして動作するため、CPUと
相まって使われることになります。  https://bit.ly/2K4m8sU
─────────────────────────────
 グラフィックスの計算は、単純な計算の繰り返し処理なのです
が、とにかく量が多いのです。CPUでもできますが、量が多い
ので時間がかかる。そこで、多くのPCをずらっと並列につない
て、処理をやらせたところ、やっと満足できる計算レベルに達し
たというのです。井崎部長によると、それをひとつのチップにし
たものがGPUであるといっています。
 結局、高速にするには、コアの数を増やすことが必要なので、
GPUはコア数が多いのです。CPUの最大は24個だそうです
が、GPUは3000〜4000個も入っています。このコアの
違いが並列処理を加速させているのです。
 ディ―プラーニングの計算量はとても凄いのです。10層ぐら
いのディープラーニングでも10億個ぐらいのパラメータのチュ
ーニングが必要になるといわれます。これをCPUでやると丸1
年かかるが、GPUを使うと30日で終るといいます。企業では
30日は待てないので、GPUを複数使って時間を短縮します。
このように、ディープラーニングにはGPUは不可欠な存在なの
です。       ──[次世代テクノロジー論U/036]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ人工知能研究でNVIDIAのGPUが使われるのか
  ───────────────────────────
   自作PC派にとってなじみ深い「NVIDIA」のロゴ。
  ビデオカード(GPU)のドライバをインストールする際に
  目にした人は多いはずだ。そんなNVIDIAの名前を意外
  なところで見掛ける機会が増えた。2017年5月、日本経
  済新聞は、「トヨタの自動運転、米エヌビディア提携で開発
  加速」と報じた。GPUのメーカーが、「なぜ、トヨタと提
  携?」と不思議だった。
   調べてみると、フォード・モーター、ボルボ、メルセデス
  ベンツ、アウディ、テスラなど、名だたる自動車メーカーと
  自動運転研究の分野で提携済みであり、その後においても、
  Robert Bosch、ZF Friedrichshafen、Continental といった
  大手自動車部品メーカーと提携を加速させている。エヌビィ
  ディアのパートナー紹介サイトには、多くのグローバル企業
  のロゴが誇らしげに並んでいる。筆者は、恥ずかしながら、
  “ある分野”におけるNVIDIAの活躍をそれまで知らな
  かった。
   その“ある分野”とは、人工知能(AI)の研究開発にお
  ける「計算」である。グラフィックの表示を行うGPUが、
  なぜAI研究の計算で活躍するのかを、AIについてズブの
  素人である筆者が、超初心者目線で取材し、調べ、まとめた
  のが本コラムである。      https://bit.ly/2yCjWnc
  ───────────────────────────

CPUについて知る.jpg
CPUについて知る
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2018年06月26日

●「マザーボードの変化が進んでいる」(EJ第4793号)

 AI(人工知能)のディープラーニングに関連して、CPUと
GPUの話になっているので、最新のPCのCPUの話にも触れ
ておきます。このところの第4次産業革命の進展に関連して、コ
ンピュータの設計には、大きな変化が起きているのです。
 「マザーボード」というものがあります。PCは、CPUを中
心に、さまざまな電子部品が連携しながら処理を行っていますが
これらの電子部品を電気的につないでいるのが「マザーボード」
です。マザーボードは、まさしくPCを構成する母体回路そのも
のであるといえます。実はいまこのマザーボードに大きな変化が
起きつつあるのです
 昨日のEJで取り上げたインテルの最新CPU「コア・アイ・
セブン」では、GPUがCPUに内蔵されています。コア・アイ
・セブンの第2世代「サンディ・ブリッジ」からです。2011
年のことです。
 もともとPCのグラフィックス処理は、OSがGUIになった
ときから、「AGPバススロット」というビデオカード専用のイ
ンタフェースをマザーボードに装着し、CPUの演算の負担を助
けています。AGPインタフェースは、ビデオラムというメモリ
も備えているので、グラフィックス専用CPUともいうべきもの
です。AGPとは次の言葉の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
        AGP
        Accelerated Graphics Port
─────────────────────────────
 ここで「バス」というものについて知る必要があります。バス
とは「情報の通り道」のことです。マザーボードは、CPUやメ
インメモリなどの多くの電子部品の集合体ですが、互いに指示や
制御情報などのやり取りをしています。このさい、やり取りされ
る情報の伝送路となる信号線が「バス」です。
 それまでPCの機能を拡張するには、PCI拡張バスのスロッ
トにボードを差し込むことで実現していたのですが、画像の描画
には、PCIバスの速度では対応するのが困難で、AGIバスと
いう高速バスを用意したのです。
 このように、同じマザーボード上で、速度の違うバスが出てき
たことによって、これらをコントロールする装置が必要になりま
す。それが「チップセット」です。
 チップセットというのは、マザーボードの中枢的存在であり、
マザーボードに接続されるCPUやメインメモリ、拡張カードな
どのあらゆる電子部品を相互に接続し、それらを制御する役割を
担うコントローラーのことです。チップセットには次の2種類が
あったのです。
─────────────────────────────
  1.ノースブリッジ ・・ CPUに近いところにある
               高速部分をコントロール
  2.サウスブリッジ ・・ CPUから遠い位置にある
               低速部分をコントロール
─────────────────────────────
 なぜ、「2種類あった」と過去形で述べたのかというと、「コ
ア・アイ・セブン」の第1世代「ネハレム」が登場した2008
年に、「ノースブリッジ」の機能は、CPUに内蔵されたからで
す。これによって、これまで、AGPが担ってきたグラフィック
スの処理機能は、CPU内部に移され、より高速に処理が行われ
るようになったのです。
 添付ファイルを見てください。これは、インテル社の「コア・
アイ・セブン」のチップセットとCPUからのデータの流れを示
しています。ここで重要なことは、CPUは画像処理ができない
わけではないということです。ただ、CPUは逐次的に仕事を処
理して行くので、画像処理のような大量のデータを処理するには
どうしても遅くなってしまうのです。しかし、GPUをCPU内
部に取り込んだことによってその速度は格段に向上したのです。
 これによってマザーボード内のチップセットは、1個になって
しまいましたが、これは「サウスブリッジ」の機能(低速部分を
コントロール)を担うことになります。
 この頃には、グラフィックスはとくにゲームなどで、3Dグラ
フィクスの需要が高まり、このことがマザーボードの拡張スロッ
トの大変革を促したのです。その目的は「3D映像を美しく高速
に描画させる」ことにあります。その成果が「PCIエクスプレ
ス規格」であり、現在急速に普及しつつあります。かつては、P
CI規格だったのですが、これら2つには、決定的な形式の違い
があるのです。
─────────────────────────────
       PCI規格拡張スロット パラレルバス形式
 PCIエクスプレス規格拡張スロット シリアルバス形式
─────────────────────────────
 かつては、CPUとチップセットは、パラレルバス形式でつな
がっていたのですが、「コア・アイ・セブン」の登場と同時に、
高速転送に適したシリアルバス形式の専用線で接続されるように
なったのです。もちろんこの変化は、インテル社だけでなく、ラ
イバルのAMD社も同様の仕様変更を行っています。
 これにより、「コア・アイ・セブン」による画像データの表示
は2つに形式に分かれます。1つは、CPU内蔵のGPUで処理
した画像データは、GPUと直接接続しているチップセットを介
してディスプレイに表示される形式です。
 2つは、PCIエクスプレススロットに装着されたグラフィッ
クボードで処理し、VRAMでディスプレイに表示できる信号に
変換し、ディスプレイにデータを転送する形式です。これはCP
Uから直接転送される形式です。3Dグラフィクスの処理などは
これによって行われています。グラフィックボードには、もちろ
んGPUが装着されていることはいうまでもありません。
          ──[次世代テクノロジー論U/037]

≪画像および関連情報≫
 ●GPUによるAIの高速化/NVIDIA
  ───────────────────────────
   先日、ヤン・ルカン氏に招かれ、ニューヨーク大学におい
  て「AIの未来」の立ち上げシンポジウムで講演をしてきま
  した。この分野をリードする人々が大勢集まり、AIの現状
  とその進歩について語りあうすばらしい会でした。今日は、
  そこでお話ししたことをご紹介しましょう。ディープラーニ
  ングとは新しいコンピューティング・モデルが必要な新しい
  ソフトウェア・モデルであること、GPUアクセラレーテッ
  ド・コンピューティングがAI研究者に普及しているのはな
  ぜか、AIは爆発的に普及しつつありますが、NVIDIA
  は、その普及を継続的に推進していること、そして、登場か
  ら長い年月が経過した今、AIの普及が始まったのはなぜか
  をお話させていただきました。
   コンピュータというものが登場して以来、ずっとAIは最
  後のフロンティアだと考えられてきました。この50年間、
  人間と同じように世界を認識したり言語を理解したり、事例
  から学んだりできるインテリジェントなマシンを構築するこ
  とがコンピュータ科学者のライフワークだったのです。ヤン
  ・ルカン氏の畳み込みニューラルネットワーク、ジェフ・ヒ
  ントン氏のバック・プロパゲーションと確率的勾配降下法に
  よるトレーニング、アンドリュー・ン氏による大規模なGP
  Uを活用してたディープ・ニューラル・ネットワークの高速
  化が組み合わさるまで、最新型AI――すなわち、ディープ
  ラーニング――のビッグバンは起きませんでした。
                  https://bit.ly/2ltp9nV
  ───────────────────────────

インテル最新CPUとチップセット.jpg
インテル最新CPUとチップセット
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2018年06月27日

●「スマホで将棋カンニングは可能か」(EJ第4794号)

 AIのディープラーニングには、ハードウェアとしてのGPU
が不可欠であることはここまでの説明でわかっていただけたと思
います。本来はその上の段階である「ライブラリ/フレームワー
ク」及び「プラットフォーム」の説明が必要ですが、プログラミ
ングレベルの話になり、難解な印象を与えてしまうので、これは
省略し、次の話題に進むことにします。
 2016年10月のことです。プロの将棋棋士が対局中に席を
離れ、スマホでAI将棋ソフトを使ってカンニングしたという疑
いをかけられ、年内の公式戦の出場停止処分を受けるという事件
がありました。調査の結果、その疑いを裏付ける証拠がないこと
がわかり、疑いをかけられた棋士は無罪放免になったのです。し
かし、その騒動の責任を取って、当時の日本将棋連盟の会長が辞
任しています。
 この話は、ワイドショーで連日取り上げられ、ちょっとした騒
ぎになったのです。このとき、あるコメンテーターがいった言葉
がとても気になったので、この記事を書いています。
 このコメンテーターは、Tさんといい、京都大学卒業で、とて
もよく勉強していて、どのような問題についても、なかなか鋭い
コメントをするので、大変人気が高い人です。そのTコメンテー
ターは、カンニングしたという疑いをかけられたプロ棋士を擁護
したのです。私が気になったのはその擁護の理由です。彼は次の
ようにいったのです。
─────────────────────────────
 スマホのような小さいコンピュータでは、素人の遊び程度のも
のは別として、プロ棋士の指し手を予測するのは困難です。だか
ら、彼はやっていませんよ。      ──Tコメンテーター
─────────────────────────────
 Tコメンテーターは、スマホのことを何もわかっていません。
確証はありませんが、おそらく彼はスマホを持っていないのでは
ないでしょうか。30代後半から40代で、コメンテーターが職
業である人が、今どきスマホを持っていないとは考えられません
が、どうやら彼はICTには関心が薄いようです。今やコンピュ
ータは、その大小では語ることはできないのです。
 スマホやタブレットは、つねにネットワークに接続されており
アプリケーションによっては、必要に応じて、自律的にサーバー
にアクセスして、情報を得ることができます。したがって、別の
場所に将棋のAIシステムが搭載されているコンピュータがあり
そこに現在の棋譜が入力されているとしたら、そこへスマホで問
い合わせれば、AIが予測する次の最良の指し手の情報を得るこ
とは十分可能です。スマホのアプリには、外部のサーバーにアク
セスして答えを得るものが少なくないからです。
 しかし、疑いをかけられた棋士は、そこまではやっていなかっ
たことがわかったので、事件は決着したのです。それ以来、将棋
連盟では、対局前にスマホなどの一切の電子機器は、ロッカーに
預ける決まりになっています。
 しかし、疑惑はあったのです。『ドキュメント・コンピュータ
将棋』(角川新書)などの著書のあるライター・松本博文氏は、
これについて、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 関係者の間で話題となったのが、7月26日、棋界最高位であ
る竜王戦の挑戦者決定トーナメントの準決勝です。終盤、M九段
は、離席から戻った後、『6七歩成』という一手を指します。
 その一手は、一見すると自玉が危うくなるように見えるものの
先の先まで読んでいくと勝ちにつながるという、プロでもなかな
か指せない一手で、その“超人的な読み”がきっかけで、対局相
手や周囲から疑念を抱かれるようになった。
                  https://bit.ly/2lzpk1c
─────────────────────────────
 これに関係してアップルのアイフォーンに搭載されている「シ
リ(Siri)」という音声アシスタントという機能があります。誰
でも利用できる身近なAI(人工知能)です。2011年に発売
されたアイフォーン4Sから標準装備されています。これは、一
体どういう仕組みになっているのでしょうか。ちなみに、アップ
ルからはその仕組みについての情報は一切ありません。したがっ
て、その仕組みについては推測するしかありません。
 「シリ」の開発には、間接的ではありますが、米国政府がかか
わっています。まず、次の2つの機関について、知る必要があり
ます。米国防総省傘下の機関です。
─────────────────────────────
    ◎ ARPA/高等研究計画局
     Advanced Research Projects Agency
    ◎DARPA/国防高等研究計画局
     Defense Advanced Research Projects Agency
─────────────────────────────
 1957年のことです。ソ連のスプートニク・ショックを受け
た米アイゼンハワー大統領の命令で、国防長官に進言する防衛科
学技術担当長官を国防総省内に設置したのがはじまりです。この
ARPAは、1969年に現在のインターネットの原型になるA
RPAネットの構築やGPSの開発に成功しています。
 1996年にARPAは、DARPAに改められ、現在も続い
ています。大統領と国防長官直轄の組織であり、軍隊使用のため
の新技術開発や研究を行う組織ですが、米軍から直接的干渉を受
けない組織になっています。
 「シリ」は、DARPAが資金を拠出した研究プロジェクトか
ら生まれたのです。そのプロジェクトは、「CALO」という名
前の史上最大規模のAI研究プロジェクトです。技術系シンクタ
ンクであるSRIインターナショナルが元請け業者として、この
仕事を受注したのです。全米の一流大学と研究機関から300名
以上の研究者が参加したといわれています。
          ──[次世代テクノロジー論U/038]

≪画像および関連情報≫
 ●カンニング疑惑/騒動の結末
  ───────────────────────────
   思えば昨年の今頃、将棋界は凍り付いていた。たった1年
  前のことだ。その前年秋、渡辺明竜王が挑戦者に躍り出た三
  浦弘行九段と対局できないと言い出し、挑戦者が変わる前代
  未聞の出来事があった。いわゆるスマホカンニング疑惑事件
  である。三浦は竜王挑戦権を剥奪され、3カ月の対局停止と
  いう厳罰が下った。
   三浦はカンニングを全面否定し、調査委員会が開かれ、疑
  惑は完全に否定された。しかし3カ月の出場停止は解けず、
  三浦はA級順位戦で不戦敗に。疑惑が否定されたことで緊急
  的に降級は回避された。よって毎年2名の降級者はその年は
  1名、翌年3名が降級することで決着した。繰り返すがたっ
  た1年前の話だ。
   日本将棋連盟の理事会はほぼ総解散状態、将棋界は行方を
  危ぶまれた。そんなとき棋士生命をなげうってでも、と立ち
  上がったのが佐藤康光九段、現会長である。棋士生命をなげ
  うってでも、と書いたが私の想像で本人に確かめたわけでは
  ない。違ったらごめん。
   「将棋界の最も長い日」といわれるA級順位戦最終局は、
  今年は3月2日に全棋士が静岡に集結し、行われた。くじの
  関係ですでに6勝4敗で全対局を終えている羽生善治竜王が
  大盤解説会で解説役を務めた。いつものんきな羽生さんのこ
  とだからこの日もひときわ陽気に解説していた。まさか自分
  に何かが降りかかってくるとは微塵(みじん)にも思ってい
  なかったろう。しかし将棋界をめぐるドラマはあまりにもめ
  まぐるしい。          https://bit.ly/2KgEEdB
  ───────────────────────────

将棋カンニング疑惑事件.jpg
将棋カンニング疑惑事件
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2018年06月28日

●「シリはフロントエンド機能である」(EJ第4795号)

 CALO──それは、DARPAが資金を拠出し、技術系シン
クタンクのSRIインターナショナルが元請け業者として立ち上
げた米国史上最大のAI研究プロジェクトです。2003年に創
設され、2008年まで続けられたのです。CALOは次の言葉
の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
    CALO
    Cognitive Assistant that Learns and Organizes
─────────────────────────────
 このCALOの語源は、ラテン語の「calonis (戦士に付き従
うもの)」であり、兵士を戦場でサポートするための研究だった
のです。そのCALOから分社化して設立されたのが「シリ社」
という企業です。
 このシリ社が一番最初にやったことは、アップルストアに「シ
リ・アシスタント」というアプリを無料公開したことです。20
10年2月5日のことです。まだ精度はそんなに高くないものの
現在の「シリ」とほぼ同じ機能を持っていました。
 しかし、このアプリは、一部のユーザーからは歓迎されたもの
の、特別センセーションを巻き起こしたり、支持されたわけでも
なかったのですが、別のことで話題になります。
 それは、2010年4月28日にアップルがシリ社を買収する
と発表したことです。これについては、相当の驚きをもってネッ
ト上の大きな話題になっています。
 当時、アップルのCEOはスティーブ・ジョブズ氏です。ジョ
ブズ氏が、いつこのアプリのことを知ったかはわかりませんが、
彼がこのアプリの存在を知ったとき、おそらくこれはアイフォー
ンの「フロントエンド機能」として使えると確信したものと思わ
れます。「シリ」の音声操作のレベルがかなり高いからです。フ
ロントエンド機能とは、ユーザーがアイフォーンを使うとき、最
初に使う機能のことです。
 「シリ」の音声機能の高度さについて、自然言語処理研究者の
工藤友資氏は、ネットで次のように述べています。
─────────────────────────────
 シリがここまで注目を浴びたのは、会話の応答がインテリジェ
ントであることはもちろんだが、それに付け加えてインターフェ
ースが音声であることが重要なポイントだろう。シリの音声認識
精度は驚くべきものだ。これは、ニュアンス・コミュニケーショ
ンズの技術だとされる。ひと昔前の音声認識技術は、個々人に応
じて教育する必要があった。たとえば筆者の音声をある程度正確
に認識できるようになったとしても、筆者以外の音声は正しく認
識できない。これに対し、ニュアンス・コミュニケーションズの
システムは誰が話した音声でも、高精度で認識する。
                  https://bit.ly/2N0aUnk
─────────────────────────────
 開発者だから当然ですが、ジョブス氏はアイフォーンの弱点を
よく掴んでいたのです。アイフォーンは高性能なコンピュータで
すが、何しろ小さいし、文字入力に難があります。キーボードも
マウスも使えないので、特殊な入力が求められます。つまり、使
い勝手はけっしてよくないのです。
 しかし、音声であれば、誰でも使えるし、手が不自由な人でも
使えるので、フロントエンド機能として最適です。そこで、ジョ
ブス氏は、自らシリ社に電話をかけ、買収交渉をはじめます。
 このときの状況について、小林雅一氏の著書には次のように書
かれています。
─────────────────────────────
 シリ創業者の一人で、CEOでもあったダグ・キトラウス氏は
あるテレビ番組の中で、ジョブズ氏から買収打診の電話を受けた
時の様子を次のように語っています。「受話器の向こうから『も
しもし、私はステイープ・ジョブズだが・・』という声を聞いた
ときは、夢でも見ているのかと思った。
 ジョブス氏は、十分な買収金額を提示した上で、キトラウス氏
らシリのオリジナル・スタッフを全員雇用し、買収後も彼らが、
自由に研究・開発して構わないと約束しました。
                 ──小林雅一著/朝日新書
                  『クラウドからAIへ/
    アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』
─────────────────────────────
 シリ社はこの申し入れを受託し、アップルは、シリ社を約2億
ドルで買収します。そして、2011年発売のアイフォーン4S
から「シリ」は標準機能として組み込まれたのです。
 自然言語処理研究者の工藤友資氏が指摘するように、「シリ」
の音声認識は、ニュアンス・コミュニケーションズという会話型
AI会社の技術を使っています。それでは「シリ」自体は、何を
しているのでしょうか。
 「シリ」は、ユーザーからの要求に応じてそれに対応できるそ
れぞれのウェブサービスに対して、仕事を割り振る「知的エージ
ェント」の機能を果しているのです。ユーザーが何かを知りたい
という要求を出すと、それに対応できるウェブサイトを検索し、
そのサイトから戻された適切な回答を音声や文字でアイフォーン
に表示します。
 また、「シリ」に対して、「近くの雰囲気の良いフランス・レ
ストランを教えて」と話しかけると、「シリ」は、そういうロー
カル・ビジネスの紹介サービスのサイトを呼び出し、GPSによ
る位置情報と組み合わせて、最適と思われるレストランを選定さ
せ、現在ユーザーのいる場所に近い、いくつかのレストランを写
真とともにアイフォーンに表示するのです。
 こんなことは、かつては考えられなかったことですが、現在の
スマホなら、簡単にできるようになっています。もちろん、アイ
フォーンだけでなく、他のスマホでもこんなことは簡単にできる
ようになっています。──[次世代テクノロジー論U/039]

≪画像および関連情報≫
 ●アンドロイドアプリ「アイリス/Iris」がある
  ───────────────────────────
   発売前の予想を上回る勢いで、世界中で好調に売れている
  アップルのアイフォーン4S。同機には、ユーザーを虜にし
  そうな魅力的な機能として音声アシスタントの「シリ」が搭
  載されている。これは音声を認識するだけでなく、ユーザー
  の発言内容を理解し、メールを送ったり、スケジュールを確
  認してくれたりする優れた機能だ。
   アンドロイド端末を使っているユーザーは、うらやましい
  と思ってしまうのではないだろうか。しかし、がっかりする
  にはまだ早い。海外のソフトウェア開発会社が、シリっぽい
  アプリを開発し、提供を開始したのである。その名も「アイ
  リス(Iris)」。本当に使えるのか?と侮るなかれ、なかな
  か優れたアプリケーションなのである。
   このアプリを開発したのは、デクセトラ社だ。同社は、ア
  イフォーン4Sが発売されたわずか4日後の2011年10
  月18日に、「Iris」を発表した。お察しの良い方ならすぐ
  に気づかれたと思うが、「Iris」は「Siri」の名前を逆にし
  て名付けられている。ふざけたネーミングと思われるかもし
  れないが、意外にもしっかりとした機能を備えている。シリ
  同様に、端末に向かって話しかけると応えてくれるのだ。音
  声認識はアンドロイド端末の機能を用い、回答はグーグルの
  音声検索と紐付けられている。  https://bit.ly/2K9J7mA
  ───────────────────────────

スティーブ・ジョブズアップル前CEO.jpg
スティーブ・ジョブズアップル前CEO
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2018年06月29日

●「シリは外部サーバーのなかにある」(EJ第4796号)

 「シリ」の音声認識技術は非常に高いレベルにあります。私が
アイフォーン4Sではじめてシリを使ったとき、その認識力の高
さに驚嘆したことを覚えています。なぜなら、事前の学習なしで
どのような人の声でも、ほぼ正確に認識できたからです。
 かつて私は、コンピュータに向って音声で話すと、その音声を
文字に直してディスプレイに表示してくれるシステムに挑戦した
ことがあります。第1回の「AIの冬」の後のエキスパートシス
テムのブームの時代にAIの仕事をしていたからです。このとき
も音声認識は重要なテーマだったのです。
 しかし、この場合、自分の声をシステムに相当時間をかけて学
習させなければなりませんでした。しかし、シリは、そのような
学習をすることなく、誰の声でも言葉を正確に認識することがで
きたのです。
 アイフォーン7を入手したとき、さらに驚きがありました。ア
イフォーン7では、「ヘイ!シリ」の設定というものがあり、自
分の声をアイフォーンに登録することによって、シリが登録者の
声しか反応できないようにするレベルにまでなっていたのです。
ほかの人の声には反応せず、登録したユーザーの声のみを認識し
処理を行うようなレベルにまで到達しているのです。
 ところで、シリはどういう仕掛けになっているのでしょうか。
アップルからは公開されていませんが、推理を交えて探ってみる
ことにします。なお、本文は、松林弘治氏の以下の論文を参考に
して執筆しています。
─────────────────────────────
                    松林弘治著
   『世界の裏側でプログラムは何をしているか?』
              https://bit.ly/2tLhGEG
─────────────────────────────
 アイフォーンのホームボタンを長押しすると、シリが起動して
「ご用件は何でしょう?」と聞いてきます。ユーザーは、自分の
アイフォーンと話しているつもりですが、実はアイフォーンを介
して、遠く離れた場所にあるアップルのサーバーと話をする仕組
みになっています。
 その証拠があります。アイフォーンのホーム画面の「設定」の
アイコンをタップすると、「機内モード」のボタンがあります。
通常は「オフ」になっていますが、これを「オン」にしてシリを
呼び出すと、「Siriは利用できません」というメッセージが
表示されます。これは、シリを使うには、ネットワークを使うこ
とが前提になっていることをあらわしています。
 このように、スマホのアプリのなかには、スマホ本体のみで処
理をするのではなく、外部サーバーにアクセスし、解を得るもの
が多いのです。アプリがネットワークを使っているかどうかは、
「機内モード」を「オン」にして使ってみればすぐわかります。
 ところで、この「機内モード」に意外な活用法があります。ス
マホは何もしていなくても通信機能は動いていて、その分、電池
を消費しています。充電するときでも通信をしながら充電するの
で時間がかかります。ところが「機内モード」を「オン」にする
と、通信機能がストップするので、それだけ充電速度が速くなる
のです。知っておいて損はないと思います。
 シリを起動し、ユーザーがシリに話しかけると、それは通信機
能によって、アイフォーンを介して、アップルのサーバーにつな
がるというところまで話しました。この場合、話しかけた音声そ
のものが直接サーバーに伝わります。このあと、サーバーはどの
ような処理をするのでしょうか。
 これについては添付ファイルをごらんください。松林弘治氏の
論文に出ている図です。音声として入ってきたデータを、音の波
形データを読み取って、テキストとしての文章に変換し、そのう
えで意味の解析を行います。
 一般論ですが、音声認識には「音響モデル」と「言語モデル」
の2つがあります。これについて松林弘治氏は次のように解説し
ています。
─────────────────────────────
 一般的に音声認識には、音響モデルと言語モデルというものが
使われます。音響モデルは、音の波形データとそれらをテキスト
として書き起こしたもの、その2つを大量に持っています。こう
いう波形だと「あ」、こういう波形だと「い」というように覚え
ておいて、話かけた波形をもとに音素(ひらがなやアルファベッ
ト、発音記号など)に変換するために使います。どんな人のいろ
んな発声でも正しく認識するために、大量の音声データを使って
統計的に処理(こういう音声データの場合は、この音素の確率が
高い、など)するための仕組みとなっています。
 それに対して 言語モデル は、単語そのものを集めた辞書と、
単語の並び方の知識を確率的に表現した辞書を持っています。こ
れらを使って、音素の並びから最もありそうな文章となるよう、
統計的に処理して(この音素の並びだと、この漢字やかなの並び
になる確率が高い、など)文字列に変換するための仕組みです。
                  https://bit.ly/2MpDo8O
─────────────────────────────
 ここでいう言語モデルは、ちょっと難しくなりますが、要する
に「形態素解析」というものを行うのです。形態素解析というの
は、私たちが普段生活の中で一般的に使っている言葉、つまり、
「自然言語」を形態素にまで分割する技術のことです。ここで形
態素というのは、言葉が意味を持つまとまりの単語の最小単位の
ことです。
 形態素解析は、日本語の場合、難しいのです。日本語は、英語
のような単語や品詞の区切りがはっきりしている言語と違って、
名詞や動詞、助詞などがひとつながりになっているからです。そ
れを辞書と統計モデルを使って、単語や品詞に分割していくので
す。来週のEJで詳しく説明します。
          ──[次世代テクノロジー論U/040]

≪画像および関連情報≫
 ●Siriも進化?特定の声だけ聞きとるメカニズムが明らかに
  ───────────────────────────
   人間にはあたり前のように備わっている能力がたくさんあ
  りますが、じつは異常に複雑なメカニズムを持っていたりし
  ます。たとえば、騒がしい環境でノイズの中から特定の声だ
  けを聞きとる能力は、何十年も科学者たちを悩ませてきまし
  た。しかし、ようやくその仕組みが明らかになり、音声認識
  技術に革命をもたらす可能性がでてきました。
   この現象の代表例として挙げられるのはカクテルパーティ
  ー効果。複数の会話が同時進行していても、私たちは特定の
  誰かの声を拾うことができますよね。この仕組みを解明する
  ため、カリフォルニア大学の研究チームは脳外科手術を受け
  る患者に対して実験を実施。この調査結果はネイチェア誌に
  掲載されています。
   手術を行う際、被験者の神経活動を記録するために、聴覚
  皮質がある側頭葉に256枚の電極シートを設置します。そ
  して手術後、複数の声を重ねた音声トラックを再生して特定
  の話し手の言葉を認識してもらい、患者の脳活動を観察して
  いきます。観察には脳活動の様子を再構築するソフトウェア
  が使われ、複数の声が聞こえる環境でどのような変化が起き
  るかを評価。すると驚くべきことに、聴覚皮質が一度に認識
  するのはひとつの声で、そのほかの音は効果的にシャットア
  ウトしていることが見えてきたのです。
                  https://bit.ly/2tAqihX
  ───────────────────────────

音響モデルと言語モデル.jpg
 
音響モデルと言語モデル
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2018年07月02日

●「形態素解析により意味を探るシリ」(EJ第4797号)

 自然言語処理とは、人間が日常的に使っている自然言語をコン
ピュータに処理させる一連の技術であり、人工知能と言語学の一
分野です。この自然言語処理の重要プロセスが「形態素解析」で
す。形態素解析を定義すると、次のようになります。
─────────────────────────────
 文法的な情報の注記のない自然言語のテキストデータから、対
象言語の文法や、辞書と呼ばれる単語の品詞等の情報にもとづき
形態素(おおまかにいえば、言語で意味を持つ最小単位)の列に
分割し、それぞれの形態素の品詞等を判別する作業である。
        ──ウィキペディア https://bit.ly/2Na9Flk
─────────────────────────────
 この定義を読んでもピンとこないと思うので、「私は台所で料
理します」という例文を使って説明します。この文を形態素解析
をすると、次のように7つに分割されます。
─────────────────────────────
          私  ・・ 代名詞
          は  ・・ 副助詞
          台所 ・・  名詞
          で  ・・  助詞
          料理 ・・  名詞
          し  ・・  動詞
          ます ・・ 助動詞
─────────────────────────────
 このように、文をバラバラにして、最小単位になった単語をそ
れぞれ辞書などのさまざまな情報と照らし合わせ、それらの単語
の品詞の種類、活用形の種類などを含めて、その意味の割り出し
の分析を行うのです。その意味の割り出しには次の3つのステッ
プを踏むのです。
─────────────────────────────
   1.構文解析
     ・形態素をもとに文の構造を明確にする
   2.意味解析
     ・構文をもとに意味を持つまとまり判別
   3.文脈解析
     ・文単位で、構造や意味について考える
─────────────────────────────
 これらの解析に関しての詳細は、次のサイトに詳しく、かつわ
かりやすく解説が行われています。
─────────────────────────────
 自然言語処理とは?スマートスピーカーにも使われている技
 術をわかりやすく解説!     https://bit.ly/2tIAMvU
─────────────────────────────
 形態素解析の話に戻ります。これらの解析には多くのツール、
すなわち、ライブラリが用意されています。有名な日本語形態素
解析ツールには、次の3つがあります。
─────────────────────────────
          1. MECAB
          2. JUMAN
          3.JANOME
─────────────────────────────
 第1は、「MECAB」です。
 これは、オープンソースの日本語形態素解析ツールであり、最
も有名です。汎用的な設計ができるのがMECABの特色です。
名前の由来は「和布蕪/めかぶ」からきています。使用できる言
語は、C、C#、C++、Java、Python、Rubyなど多数あります。
 第2は、「JUMAN」です。
 これは、京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻の黒橋・
河原研究室が開発した日本語形態素解析ツールです。WEBテキ
ストから自動獲得された辞書、ウィキペディアから抽出された辞
書を使用できます。
 第3は「JANOME」です。
 これは、汎用プログラミング言語「ピュアバイソン」で書かれ
ている日本語形態素解析ツールです。パイソンは、C言語などに
比べて、プログラミングが分かりやすく、少ないコードで書ける
特徴があります。名前の由来は「蛇の目」からきています。
 アイフォーンの「シリ」で、ユーザーが次のように話しかけた
とします。
─────────────────────────────
  遠藤さんに打ち合わせに遅れます、とメールを送って!  
─────────────────────────────
 この音声はアップルのサーバーに送られ、形態素解析が行われ
上記の構文分析、意味解析、文脈解析が行われ、最終的に次のか
たちに落とし込まれ、サーバーからアイフォーンに送り返されて
きます。
─────────────────────────────
   ・宛先は「遠藤さん」
   ・メールのサブジェクト「打ち合わせに遅れます」
   ・メールの本文は指定されていない
   ・その内容はメールを送る
   ・送る際は(アイフォーンの)メールアプリを使う
                  https://bit.ly/2Ncsrsg
─────────────────────────────
 ここまでくると、アイフォーンに登録されている遠藤さんのア
ドレスを宛先に指定し、メールアプリはシリを使い、「本文はど
んな内容にしますか」というメッセージ画面を出します。
 もちろん遠藤さんが2人以上いるときは、「どの遠藤さんです
か」と質問し、選択を促します。
 このようにして、シリは自然言語処理によって、ユーザーと対
話を行い、指定された動作を行うのです。
          ──[次世代テクノロジー論U/041]

≪画像および関連情報≫
 ●「Siri」と「AI」の関係を整理する
  ───────────────────────────
   AI(人工知能)は専門家によりさまざまな定義がありま
  すが、総合すると、「人間と同じような知能を人工的にコン
  ピュータで実現しようとする技術」を指します。その歴史は
  意外と古く、「AI(人工知能)」という言葉が初めて登場
  したのは、1956年に開催されたダートマス会議でした。
  1964年には、コンピュータと人がテキストベースであた
  かも会話しているように見せる対話システム「イライザ」が
  開発され人気を博しました。シリにイライザについて尋ねる
  と「彼女は私の最初の先生だったんですよ!」と答えるのは
  イライザが対話システムの原型だったことに由来します。
   現在「AI(人工知能)」と呼ばれる分野には、自然言語
  処理、音声/画像認識、データマイニングなどさまざまな情
  報処理技術が含まれていますが、AI技術の核となるのが、
  「機械学習」です。
   機械学習の説明がまたややこしいのですが、ざっくり言う
  と、人間が自然に行っている学習と同じように、AIプログ
  ラム自身が学習する仕組みです。大量のデータを処理、解析
  し、未来の予測を行うため、使うほどにデータが蓄積され、
  学習していき、賢くなります。この機械学習を取り入れてい
  るのがシリです。アップルの公式サイトではシリについて、
  「アップルが開発した機械学習テクノロジーが組み込まれて
  いる」と明言されています。   https://bit.ly/2ME1Q6x
  ───────────────────────────

MECABによる形態素解析.jpg
MECABによる形態素解析
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2018年07月03日

●「AIはディープラーニングにある」(EJ第4798号)

 「スマートニュース」というスマホ配信のニュースアプリがあ
ります。私は情報収集用に複数のニュースアプリをダウンロード
していますが、「スマートニュース」の場合、ニュースの選定の
的確さや文字の読み易さには定評があると思っています。
 タイトルや記事の読み易さを支えているのは、昨日のEJで取
り上げて説明している「形態素解析」の技術を使っています。形
態素解析という技術は、文章を構成している要素を単語レベルに
バラバラにします。その単語単位で行を折り返したり、文字の横
幅を圧縮するなど、日本語組版に工夫をこらしています。そのた
め、文字と文字の間隔や、改行などが適切に行われているので、
記事がとても読み易いのです。AIの技術はこんなところに使わ
れているのです。
 さて、現代は「第3次AIブーム」と呼ばれています。今や何
でもかんでもAIです。「AI家電」がその典型です。お掃除ロ
ボットから始まって、AI冷蔵庫、AI調理器、AIスピーカー
など、何でも「AI」の言葉を冠するようになっています。
 その多くはIoTを含む現代のICT技術をすべてAIと呼ん
でいるフシがあります。こういう傾向は、第2次AIブームのと
きもあったのです。AIには、きちんとした定義がないというか
定義できないので、こういうことが起きるのです。
 これについて、現代AIの日本の第一人者といわれる東京大学
特任准教授の松尾豊氏は「AIは擬人化の一種であり、技術をあ
たかも人であるかのように例えると理解しやすい。ICTをAI
と呼ぶこと自体は問題はないが、過度な擬人化には注意が必要で
ある」といっています。
 それでは、現代のAIは、どのように捉えるのが、正しいので
しょうか。
 AIは、ディープラーニング(深層学習)にあるといえます。
松尾豊准教授が現代のAIについて、記者のインタビューに答え
ている記事をご紹介します。
─────────────────────────────
──深層学習は何をもたらすのでしょうか。
松尾:「目が誕生した」と考えればいいでしょう。深層学習は人
間でいうところの目の技術です。網膜の役割をセンサーが、視覚
野を深層学習が果たすわけです。
 画像認識の精度はどんどん上がっています。2015年に人間
の目の精度を超えました。最近では、画像認識の次の段階として
予測が出てきました。例えば海岸から見た波の映像を与えると、
次に波がどう動くのかを予測し、描画するというものです。人間
が世界を観察する仕組みと同様のものを実現するための研究が進
んでいます。
 深層学習は、見ているものが何かを判断する「パターン処理」
の技術と言えます。見ているものに次に何が起こるか、を予測す
るのもパターン処理です。
──目を獲得すると、何が起こりますか。
松尾:生物が目を穫得してから、生物の戦略は急速に多様化して
いき、飛躍的な進化につながりました。
 同じことが、機械やロボットの世界にも起こるはずです。(約
5億年前のカンブリア紀に生物が飛躍的な進化を遂げた)「カン
ブリア爆発」と同様の現象を予想しています。
 農業を例に取ると、自分の目で判断する農作物の収穫ロボット
が実現できます。収穫が可能なら、農作物が病気かどうかも判定
できるようになる。すると対処策を講じられる。同じようなこと
が、製造業の工場でも可能になります。医療、介護、建設、食品
加工といった、至るところで適用できるのではないでしょうか。
 目を穫得した機械はハードウエアとして販売するほか、サービ
スの一部として提供できます。農業ではトマトの収穫、病気の判
定、対処を講じるサービスが可能です。 松尾豊東京大学准教授
 「深層学習の価値は『目』の獲得/産業応用で日本は勝てる」
     ──『まるわかり!人工知能最前線』/2018年版
                     日経BPムック刊
─────────────────────────────
 ディープラーニングは「革命」です。6月18日のEJ第47
87号において、なぜ、革命かについて、AIの3つの可能性に
ついて指摘しているので、再現します。
─────────────────────────────
        1.3つの認識が可能になる
        2.運動ができるようになる
        3.言語の意味が理解できる
─────────────────────────────
 「1」の3つの認識とは、「画像認識」「文字認識」「音声認
識」のことであり、これはいずれも既に可能になっています。そ
れは、AIが目を持ったからです。そして、遂に2015年にお
いて、AIの画像・音声誤認識率、画像認識や音声を間違える率
は人間の方が高いのです。松尾准教授はこれを「数年後、歴史の
教科書に載ってもいいくらいの出来事である」としています。
─────────────────────────────
        AI ・・・・・ 5・1%
        人間 ・・・・・ 4・9%
─────────────────────────────
 「2」の「運動ができるようになる」という意味は、人間が教
えることなく、自らの観測データと合体させて、同時の行動がと
れるようになることを意味します。
 米ATARIの約60のゲームのうち、半数では既にAIが、
人間のハイスコアを超えています。AIは習熟を通じ、人間のよ
うな熟練した動きができるようになってきているのです。将棋や
碁の世界でも同様です。
 「3」の「言語の意味が理解できる」についても大きな進展が
あります。これについては、明日のEJで述べることにします。
          ──[次世代テクノロジー論U/042]

≪画像および関連情報≫
 ●AIの世界で「眼の誕生」が持つ意味
  ───────────────────────────
   「カンブリア爆発」という言葉をお聞きになったことがあ
  ると思います。古生代カンブリア紀、およそ5億4200万
  年前から5億3000万年前という比較的短期間に、今見ら
  れる生物種のほぼ全てが出そろった現象を指すのですが、そ
  の爆発的な生物多様性の出現の理由として挙げられている一
  つが、高度な眼を持つ三葉虫の存在があります。高精度の眼
  を持った生物が圧倒的サバイバル戦略を駆使して、進化して
  いったのです。
   実は、東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻特
  任准教授・松尾豊氏によれば、AI、機械やロボットの世界
  でもこのカンブリア爆発が起こると考えられるのです。もち
  ろんその原因は「眼」にあります。ディープラーニングの画
  像認識技術の進化によって、機械やロボットも、「眼が見え
  る」ようになりました。「今までだって高性能のカメラを搭
  載したいわば“眼を持つ機械・ロボット”はたくさんあった
  じゃないか」と思ってしまいますが、「見る」とは網膜と脳
  の後ろの方にある視覚野が働くことで可能になってきます。
  つまり、カメラとディープラーニング技術が組み合わさって
  初めてAIは「眼を持つ」と言えるのです。
   今まで見えなくてもすむ作業しか機械に任せられなかった
  ところ、この「眼の誕生」によって、見る必要のある、見て
  判断して作業を進める必要のある複雑な仕事を任せられるよ
  うになったのです。       https://bit.ly/2tT9HoR
  ───────────────────────────

松尾豊特任准教授.jpg
松尾豊特任准教授
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2018年07月04日

●「AIは真に文章の意味がわかるか」(EJ第4799号)

 AI(人工知能)が人間の話す言葉を理解し、それに対する返
事を返してくる──一昔前では考えられなかったことですが、今
ではそれが当たり前のようになっています。
 アイフォーンの「シリ」だけでなく、アマゾンの「アレクサ」
グーグルの「グーグル・アシスタント」、ドコモの「しゃべって
コンシェル」などたくさんあります。なかには、「女子高生AI
りんな」という怪しげなものまで出現しています。「りんな」は
LINE上でユーザーの会話の相手をしてくれるAIです。20
15年に登場し、LINEユーザーの友だちは、530万人とい
いますから、驚きです。
 ところが、これらのAIが、本当に「言葉の意味が理解できて
いるのか」というと、それは大変疑問です。これについては、学
者の間でも意見が分かれているといいます。
 近代言語学の父といわれるスイスの言語学者フェルディナン・
ド・ソシェールは、「言語というものは記号の体系」といってい
ます。これについて、ウィキペディアには、次のように説明があ
ります。
─────────────────────────────
 ソシュールは、言語(ラング)は記号(シーニュ)の体系であ
るとした。ソシュールによれば、記号は、シニフィアン(たとえ
ば、日本語の「イ・ヌ」という音の連鎖など)とシニフィエ(た
とえば、「イヌ」という音の表す言葉の概念)が表裏一体となっ
て結びついたものである。そして、このシニフィアンとシニフィ
エの結びつきは、恣意的なものである。つまり、「イヌ」という
概念は、“Dog” (英語)というシニフィアンと結びついても、
"Chien" (フランス語)というシニフィアンと結びついても、ど
ちらでもよいということである。     ──ウィキペディア
                  https://bit.ly/2KGqPpa
─────────────────────────────
 従来のAIは、この表裏を結びつけることができなかったので
すが、いわゆる「グーグルの猫」によって、この問題はある程度
前進したといえます。この「記号がいかに実世界との関わり合い
において意味を持つか」という問題のことを「シンボルグラウン
ディング問題」と称しています。
 国立情報学研究所教授の新井紀子氏という人がいます。新井教
授は、人工知能分野のグランド・チャレンジ「ロボットは東大に
入れるか」のプロジェクト・ディレクターを2011年から務め
ていた方です。いま新井教授の執筆された次の本が、一大ベスト
セラーズになっています。
─────────────────────────────
          新井紀子著/東洋経済新報社刊
     『AIvs教科書が読めない子どもたち』
─────────────────────────────
 新井教授が目指したのはロボットを東大に入れることではなく
人間と比較して、AIの可能性と限界を明らかにすることにあっ
たのです。しかし、この研究の結果、驚くべきことが鮮明になっ
たのです。その「驚くべきこと」を書籍として上梓したのが上記
の本です。新井教授は、この本のなかで、AIは言葉の意味を本
当に理解しているのかについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 AIが文章を論理的に読めるようになるとしたら、まずは、文
がどこで区切られるか、つまり文節が理解できなければなりませ
ん。それができたら、「何がどうした」という主語と述語の関係
や修飾語と被修飾語の関係を理解しなければなりません。これを
「係り受け解析」と言います。
 また、文章には「それ」「これ」といった指示代名詞が頻繁に
出てきますから、指示代名詞が何を指すかも理解できなければな
りません。それを「照応解決」と言います。
 東ロボくんは、これらの処理を大学の入試問題に適用して、代
名詞が何を指すかといった入試の問題が解けるようになったわけ
です。それでは、係り受け解析や、照応解決ができたからといっ
て、意味がわかったといえるでしょうか?
 それだけでは、意味を理解したとは言えないでしょう。それで
は、そもそも「意味を理解する」とは、いったいどういうことな
のでしょう?          ──新井紀子著の前掲書より
─────────────────────────────
 これは大変難しい問題です。新井教授は、6年間にかけて、プ
ロジェクトにおいて、さまざまなかたちで、AIに東大入試の問
題を解かせてみて、AIの限界を感じ取ったといいます。
 しかし、AIの偏差値は57を超えたのです。偏差値57とい
うと、高校3年生の上位20%に相当する成績です。この偏差値
なら、一部の私立有名大学には、十分合格するレベルにあること
を示しています。
 このロボットは「東ロボくん」というのですが、彼は言葉の意
味を理解して問題を解いているのではないのです。つまり、人間
のように何かを読んで、それを理解し、そのうえで問題の解を得
るのではないのです。それらしく見せているだけです。
 しかし、東ロボくんは、小論文ぐらいは書くことができます。
教科書とウィキペディアを検索し、文を取り出して組み合わせ最
適化したうえで書くだけなのですが、衝撃的なのは、たいていの
学生が書くものよりかなり質が高いという事実です。
 このとき、新井教授は考えたのです。なぜ、文章を読んで意味
が理解できないAIが人間に勝てるのだろうか。本当に人間の中
高生は、文章を読めているのだろうか、と。
 そこで、新井教授は、本当に中高生が日本語の言葉の意味を理
解しているのかを調べる「リーディング・スキル・テスト」を開
発し、2016年4月から1017年7月末までに、全国の2万
5千人がこのテストを受験しています。強制でない調査にこれほ
どの協力が得られたのは珍しいことです。
          ──[次世代テクノロジー論U/043]

≪画像および関連情報≫
 ●人工知能(AI)の苦手なことは「言語理解」
  ───────────────────────────
   AIと人間を分けるのは「言語理解」だ。言語を理解する
  ためには単語の意味だけでなく、それが使われている背景や
  文脈の理解も必要になるためその全てをAIに理解させるこ
  とは難しい。これはイラストの理解にもいえることだ。よっ
  て、今後人間がAIに勝つとすれば、コミュニケーション分
  野にあると、東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の
  柳川範之氏は指摘する。(2016年7月25日開催日本ビ
  ジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「ファミリ
  ービジネスと産業構造の変化」より、全8話中第6話)
   では(AIに対する)人間の相対的な有利性は何なのか。
  人間の強みはどこにあるのかに関する解説です。これについ
  ては、本当ならAIの専門家にきちんと聞いた方がいいので
  すが、社会科学者なりの私の理解を申し上げます。現状での
  AIの強みは、ビックデータにあります。すなわちデータの
  蓄積が重要なのです。ディープラーニングは必要なデータ量
  を大きく下げることに成功し、比較的少ないデータでもたく
  さんのことが分かるようになってきました。しかしそれでも
  データの蓄積が命です。そう考えるとデータの蓄積が使えな
  い、データの蓄積による学習が使えない分野は、人間の方が
  相対的に強みがあることになります。それは、「全く新しい
  組み合わせを考える」ことです。つまり、過去のデータがな
  いため、全く新しい組み合わせを考えようとしても、それら
  の個別性が強く、過去のデータがデータとして使えない。こ
  ういう問題に関しては、人間の方が相対的に有利性を持つと
  いうことが分かっています。   https://bit.ly/2u0miqu
  ───────────────────────────

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新井紀子国立情報学研究所教授
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2018年07月05日

●「日本語がきちんと読めない中高生」(EJ第4800号)

 昨日のEJを少し振り返ります。国立情報学研究所教授の新井
紀子氏は、6年間かけて、「AIロボットは東大に入れるか」の
テーマに取り組み、東大は無理という結論を出しています。新井
教授は、AIが言葉の意味を理解するのは困難であるという考え
方に立っています。したがって、巷でよくいわれる「人類はいず
れAIに征服される」というようなことは、まず起きないと主張
しています。
 しかし、それでもAIは偏差値57に達したのです。有名私大
に入れるレベルですが、AIは言葉の意味を理解して問題を解い
ているのではないのです。それでも「東ロボくん」に問題を与え
て小論文を書かせると、教科書とネットのウィキペディアなどを
参照し、それらから文を取り出して組み合わせ、最適化を施して
ちゃんと読める答えの文章を作成できるのです。
 しかし、新井教授が愕然としたのは、東ロボくんの小論文が学
生の文章よりもかなりマシであることに気付いたときです。人間
の学生が東ロボくんに負けている──文章の意味を理解できない
AIになぜ人間が負けるのかという疑問です。
 果して人間は、本当に文章を理解できているのか。そこで新井
教授は、「リーディング・スキル・テスト」(以下、RSTと略
記)を開発し、中高生にRSTを受検させたのです。RSTにつ
いて、新井教授は次のように述べています。
─────────────────────────────
 問題は6タイプあり、「それ」「これ」など指示詞、省略され
た主語や目的語が何を指しているか判断する「照応」、主語や目
的語がどれか判断する「係り受け」、論理と常識を用い、与えら
れた文から推論する「推論」、定義を読んで具体的にどのような
コトやモノがその例になりうるか見分ける「具体例同定」、2つ
の文が同義であるか判断する「同義文判定」、文章に対応する図
表を見分ける「イメージ同定」だ。中学・高校の教科書や辞書、
新聞に掲載された文から問題を作成している。つまり、これが読
めなければ、教科書も辞書も新聞も読めないことになる。
                  https://bit.ly/2KKtWQb
─────────────────────────────
 RSTの問題は、かなり精密に作成されています。RSTは、
ペーパーテストではなく、コンピュータで無作為に受検者に示さ
れます。受検者によって問題が異なるので、「項目反応理論/I
RT」で解析が行われています。「項目反応理論」についてウィ
キペディアの定義を示しておきます。TOEFLなどでも使用さ
れており、信頼度の高い理論です。
─────────────────────────────
 項目反応理論は、評価項目群への応答に基づいて、被験者の特
性(認識能力、物理的能力、技術、知識、態度、人格特徴等)や
評価項目の難易度・識別力を測定するための試験理論である。こ
の理論の主な特徴は、個人の能力値、項目の難易度といったパラ
メータを、評価項目への正誤のような離散的な結果から確率論的
に求めようとする点である。
     IRT:Item Response Theory; Item Latent Theory
                  https://bit.ly/1ZUtPOx
─────────────────────────────
 実際にはどのような問題が出題されたのでしょうか。
 このRSTに基づく問題を2つ示すので、やってみていただき
たいと思います。
─────────────────────────────
【問題@】/「係り受け」問題
 「アレックス/Alex」は、男性にも女性にも使われる名前で、
女性の名「アレクサンドラ/Alexandra」 の愛称であるが、男性
の「アレクサンダー/Alexander」 の愛称でもある。この文章に
おいて、以下の文中の空欄に当てはまる最も適当なものを選択肢
のうちから一つ選びなさい。
    Alexandra の愛称は( )である。
    @Alex  AAlexander  B男性  C女性

【問題A】/「同義文判定」の問題
 幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の
警備を命じた。
 上記の文が示す内容と、以下の文が表す内容は同じか。「同じ
である」「異なる」のうちから答えなさい。

 1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の
警備を命じられた。
                  https://bit.ly/2IS68F0
─────────────────────────────
 「問題@」の正解は@の「Alex」です。これについて、中学生
の正解率は37・9%、高校生は64・6%でした。何でもない
問題ですが、読み取れていないのです。とくに中学生はかなりひ
どい結果です。
 「問題A」の正解は「異なる」です。「問題@」よりもやさし
い問題です。これについて中学生の正解率は57・4%、高校生
は72・3%でした。これほど明確に違う日本文を読み取れない
中学生が42・6%、高校生でも27・7%もいるのです。
 それにしても「問題A」の中学生の正答率57・4%は低いの
一言に尽きます。サイコロを転がして正解を選ぶ確率が50%で
すから、57・4%は、それよりも少しマシといった程度でしか
ないのです。
 日本語の文章の読解力が学力の伸びの前提になっています。彼
らがこのまま大人になるので、書籍はもちろんのこと、新聞すら
読めない社会人が現在増えているのです。ちなみに、20代の日
本人の新聞の購読率は9%と10%を切っています。これでは、
AIを使いこなすことはできず、AIに使われてしまう運命にあ
ります。      ──[次世代テクノロジー論U/044]

≪画像および関連情報≫
 ●「教科書が読めない」子どもたち/教育現場の深刻な事情
  ───────────────────────────
   子どもたちは想像以上に文章を理解できていない。「だが
  解決策はあるはずだ」。教育の現場では、対策が始まってい
  る。「うちの子、算数の計算問題はできるけど、文章題はだ
  めで」
   この傾向は、おそらく多くの親が実感しているのではない
  だろうか。しかし、なぜ文章題ができないのか。それを明ら
  かにしたのが、国立情報学研究所の新井紀子教授が開発した
  基礎的読解力判定のリーディングスキルテストだ。
   RSTは、生活体験や知識を動員して、文章の意味を理解
  する「推論」、文章と、図形やグラフを比べて一致している
  かどうか認識する「イメージ同定」、国語辞典的、あるいは
  数学的な定義と具体例を認識する「具定例同定」など、読解
  力を6分野に分け、その能力を問うものだ。
   このテストをいち早く取り入れたのが、戸田市(埼玉県)
  教育委員会だ。教育政策室指導主事の新井宏和さんは、その
  経緯を次のように語る。
   「全国学力・学習状況調査の活用問題が解けるような子ど
  もたちにしたかった。幸いにも新井教授と戸田市の戸ケ崎勤
  教育長が知り合いで、教育長がRSTに高い関心を示し協力
  して取り組むことになりました」。
   テストは2015年から段階的に実施され、17年は市内
  の全中学生と、小学6年生全員の4500人が参加した。問
  題は、国立情報学研究所特任研究員の菅原真悟さんの指導の
  もと、市内の小中学校の教員が作成した。
                  https://bit.ly/2KDrmLV
  ───────────────────────────

RSTの作成者/新井紀子教授.jpg
RSTの作成者/新井紀子教授
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2018年07月06日

●「日本語読解力に欠けている子ども」(EJ第4801号)

 2018年7月2日のBSフジ「プライムニュース」に新井紀
子国立情報学研究所教授が出演しています。まさにEJで取り上
げている問題について、林芳正文科大臣や教育評論家の尾木直樹
氏も交えて、話し合いを行っているのです。
 そのときの「ハイライトムービー」があります。時間は22分
28秒ですので、ぜひご覧ください。
─────────────────────────────
      2018年7月2日/BSフジプライムニュース
 「人工知能“東大受験”調査/解ける問題・解けない問題」
          出演者:林芳正文科大臣
              新井紀子国立情報学研究所教授
              尾木直樹氏/教育評論家
                      22分28秒
                 https://bit.ly/2Kz6t5n
─────────────────────────────
 大学は別として、また一部の私立学校を除いて、日本の学校の
ほとんどには「原級停止処分」というものがありません。つまり
落第という処分はないのです。例えば、小学校3年生は1年経つ
と、全員4年生になります。たとえ学力がその学年の要求してい
るレベルに達していない学生も学年は上がるのです。
 そうすると、上級学年の教育の基礎になるべき教科が理解でき
ないままで上級学年に上がると、当然ですが、そこでの教科も理
解できないことになってしまいます。もっともその時点で、適切
な教育が行われればいいのですが、そのまま卒業してしまうケー
スが少なくないのです。
 それに日本では、大学を卒業することは、それほど困難ではあ
りません。大学にもよりますが、入学できたのであれば、卒業の
ための必要単位を取得することは、ほとんどの学生はクリアでき
るはずです。そうであるとすると、本来は、義務教育において、
修得しておくべき基礎的な教科の修得が不完全なまま社会人にな
るケースは多くなります。
 私は、ここ20年以上、あるIT企業の新人教育(中途入社新
人を含む)を担当しておりますが、小学校レベルの算数の問題が
解けない新人が多いことに驚いています。昨日今日はじまったこ
とではなく、ずっとそういう状態が続いています。
 新井教授の本を読んで、これは算数というよりも、問題が要求
していることを読み解く読解力が不足しているのが原因ではない
かと、気が付きました。計算ができないわけではなく、どのよう
に計算するかわからないのです。
 やはり新井教授の本に関して感想を書いているブログに次の記
述を見つけました。
─────────────────────────────
 AI開発者の第一人者である、新井紀子さんの著書『AIvs
教科書が読めない子どもたち』を読みました。本書では子どもた
ちとAIが最も苦手とする能力の一つに読解力を挙げています。
要は文章が読めず、読んでも理解できないということです。
 私自身、子どもたちの家庭教師(小学校〜高校生)をしていて
ハタと思いつくことがありました。私は理数系の国立大学を卒業
しており、理数系が非常に得意です。なので、理数系が苦手な子
どもたちを抱えているご家庭からの依頼が多いです。
 ご家庭の方々の認識は大体似通っており、曰く
「我が家の子どもは国語は得意なんだが、数学(算数)が苦手」
 どの子も、計算問題は解けるんです。
 時間がかかったり、ケアレスミスをすることはあれど、決して
解き方そのものが間違っているとか、手も足も出ないということ
はありません。おや?と思いつつ、文章問題を解かせてみると、
途端に手も足もでなくなります。
 例えば、小学3年生の「午前9:15に学校に着き、午後15
:15に学校を出ました。学校には何時間いたでしょう?」とい
うような問題に、小学5年生が答えられないんです。答えは当然
6時間です。私が教えている生徒は、何を考えたか、9:15と
15:15を足して、24:30と答えました。小学3年生がで
はありません。小学5年生です。小学5年生が小学3年生の文章
問題に全く歯が立たないんです。   https://bit.ly/2NqZAk7
─────────────────────────────
 新井紀子教授のRST(リーディング・スキル・テスト)の結
果は、恐ろしい事実を突き付けています。日本人でありながら、
日本語の意味を正確に読み取る力が不足している学生が多いとい
う事実をRSTの結果は指摘しています。教科書が読めい子ども
が多いという事実です。
 これに対する国の動きは必ずしも機敏とはいえないようです。
RSTの結果にも異論を唱える教育関係者も少なくないといわれ
ています。新井教授の本に対する反論も多いのです。これについ
て、新井教授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 教科書を読むだけの読解力がないという事実に直面したとき、
2つの選択肢があります。ひとつは「教科書なんか悪文だらけ。
読めなくてもいい」と思うこと。もうひとつは「どうにかしない
といけない」と思うことです。可能性が広がるのはどちらでしょ
うか?私は「読めなくてもいい」という人を全員、説得すること
はできません。だから、とにかく中学1年生を診断して、先生た
ちがリアリティをもって、子どもたちの読解力の改善に取り組む
ための手助けをしたい。
 RSTの結果を見ても、子どもたちは自分でどうにかすること
はできません。そこでまず先生に受けてもらい、子どもたちがど
こでつまずいているかを知った上で、ともにどうしたら読解力を
伸ばすことができるか考えてくださる学校からRSTを提供した
いと考えています。         https://bit.ly/2IQsHtM
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/045]

≪画像および関連情報≫
 ●新井紀子教授の本を大人たちはどう読めているか
  ───────────────────────────
   今のところ「真の意味でのAI」は存在せず、現状のAI
  技術の原理から言って「シンギュラリティ」は到来しない、
  という話の部分は明快だし、読む価値がある。ここ数年、定
  年まで自分の職が安泰であることを疑ったこともないような
  立場の人が、耳かじりの「みなさんが大人になる頃には今あ
  る仕事の半分はAIに取って代わられて・・・」みたいな話
  をするのを聞くとヘドが出そうになるので、そういう人には
  特に第1章と第2章で理解を深めて欲しいが、本書もその点
  については脅し煽るような書きっぷりなので読んでもあまり
  変わらないかもしれない。
   私が教育(学)関係者からの厳しい感想を期待していたのは
  そこではなく、第3章以降の「全国読解力調査」の部分だ。
  まず、このテストで測ったものは絶対で、読者はみなこの結
  果に慄然とすべき、という書きっぷりがどうも好きになれな
  い。好きになれないというのは私個人の感想だが、そこに、
  実証研究の報告としても粗雑であることが表れているように
  思われる。結果は事実かもしれないが、それが学生・生徒の
  論理的思考力や推論能力そのものを果たして表しているかど
  うかの解釈にはもう少し慎重であるべきではないかという記
  述が多い。           https://bit.ly/2KOmhgC
  ───────────────────────────

BSフジプライムニュース出演中の新井教授.jpg
BSフジプライムニュース出演中の新井教授
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2018年07月09日

●「新井教授の本へのネットでの反論」(EJ第4802号)

 新井紀子教授の著書『AIvs教科書が読めない子どもたち』
(東洋経済新報社)に対して、ネット上に多くの反論記事がアッ
プロードされています。売れているからです。そのなかで、ひと
きわ目を引くのは次のブログです。批評は5章に分かれているの
で、章ごとに参照できるようにしておきます。
─────────────────────────────
 東ロボくんは、なぜ失敗したのか『AIvs教科書が読めない
子どもたち』
 ◎批評1 ・・・ https://bit.ly/2KCkm2y
               東ロボくんはなぜ失敗したのか
 ◎批評2 ・・・ https://bit.ly/2tZaGVq
          文章を読めればAIに仕事を奪われない?
 ◎批評3 ・・・ https://bit.ly/2KE1IaC
         そもそもコンピュータが意味を理解するとは
 ◎批評4 ・・・ https://bit.ly/2J19Ko0
            コンピュータで文の意味を理解しよう
 ◎批評5 ・・・ https://bit.ly/2zh0w7A
 「太郎は花子が好きだ」をコンピュータに意味理解させました
─────────────────────────────
 このブログは、株式会社ロボマインド代表取締役、田方篤志氏
が書いており、大変内容があります。とくにAIや、ロボットに
対する記述は示唆に富む内容であり、多くのヒントが得られると
思います。そういうわけで、AIから少し離れるテーマもあると
思いますが、いくつか取り上げて、何回か、EJとして要約しま
す。詳細については、それぞれの章を参照してください。
 まず、『AIvs教科書が読めない子どもたち』に関して、冒
頭に次の記述があります。
─────────────────────────────
 現在、AI関連の書籍で、『AIvs教科書が読めない子ども
たち』という本が売れているようです。著者は、AIロボを東大
に合格させる「東ロボくん」というプロジェクトで有名な新井紀
子教授です。
 「東ロボくん」プロジェクトには、当初から興味があったので
さっそく読んでみたのですが、自然言語処理の浅い理解や、「知
能=偏差値」という思い込みなど、著者の主張には首をかしげざ
るを得ないことが多かったので、今回から何回かにわけて、本書
について解説していきます。
 AIが、大学の入試問題を解くとなると、数学や歴史の穴埋め
問題なら勝算はあると思いますが、一番苦戦するのは国語です。
なぜなら、現在の自然言語処理では、文章の意味を理解すること
ができないからです。
 英語の翻訳なら、意味を理解できなくとも、それらしい翻訳を
作り出すことは不可能ではありませんが、文章の意味理解そのも
のを問う国語の問題があるかぎり、東大合格など絶対に不可能な
のです。そのような一見、無謀なチャレンジですが、国の予算を
獲得し、税金を投入するのですから、何らかの秘策があるのだと
楽しみに読み始めました。
 ところが、そのような期待は見事に裏切られてしまいました。
(新井紀子教授は)「国語はどう考えても正攻法でなんとかでき
るとは思えません(P92)」と、堂々と宣言しているのです。
                    ──「批評1」より
─────────────────────────────
 新井教授は、『AIvs教科書が読めない子どもたち』のなか
で書いているのは、「東ロボくん」を東大に合格させようとする
プロジェクトを推進する過程で、AIにはできないことがたくさ
んあることがわかってきます。
 対話はしているが、その意味は理解されていないし、小論文テ
ストでも、それらしき文章は書くものの、よく理解して書いてい
るとは思えないレベルです。しかし、そのような言葉が理解でき
ないAIであるにもかかわらず、とくに読解力において、人間の
中高生がAIに劣る傾向があることに、新井教授は愕然とするの
です。そして、中高生の国語の読解力のレベルを検査するRST
(リーディング・スキル・テスト)を開発し、検査を行い、その
事実が裏付けられたことを公表する──これがここまでEJが述
べてきたことのすべてです。
 ここで新井教授の経歴について、知っておくべきことがありま
す。新井紀子氏は、一橋大学法学部の出身で、イリノイ大学数学
科の博士課程を修了した理学博士であり、数学者です。したがっ
て、AIの専門家でも、ロボットの専門家でもないのです。しか
し、AIには造詣が深く、現職は、国立情報学研究所の教授を務
めています。
 新井教授は、法学部出身であることを明らかにしたうえで、読
解力の向上は、なるべく若い段階(中高生)で向上させるべきで
あるとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 私はもともと法学部で、刑法の授業で、有名なえん罪事件の被
告となった女性のお話を伺ったことがあります。あまりに理路整
然としていたため、なぜこの人を警察は誤って逮捕したんだろう
と思いました。しかしのちに、法廷という言語と論理で説明する
以外に疑いを晴らすことのできない場で、彼女は変わっていった
のではないかと思うようになりました。
 人は変われます。だから簡単に諦めてはいけない。私がこれま
で指導してきた学生や、ともにプロジェクトを動かしてきた仲間
たちの中にも読解力を上げたり、論理的になれたり、変わること
ができた人たちがいます。でも大人が変わるには、時間などかな
りのコストがかかってしまう。偏った読み方を長年続けてしまっ
ているからです。だから早めに修正したほうがいいのです。
                  https://bit.ly/2IQsHtM
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/046]

≪画像および関連情報≫
 ●感想文/『AIvs教科書が読めない子どもたち』
  ───────────────────────────
   実を言えば、この本はあまり紹介するつもりはありません
  でした。話題の書であるためわざわざ取り上げるまでもなく
  著者本人による内容紹介も他の人による書評もあちこちで出
  ていますし、何より私は新井先生をシンギュラリティ懐疑論
  者のライバルだと思っているので(笑)とはいえ、一応私の
  「感想」を散漫にまとめておきたいと思います。詳細な内容
  紹介や書評は別の方に譲ります。
   前半部分は、コンピュータに東大入試問題を解かせる「東
  ロボくんプロジェクト」の報告をベースにして、現在のAI
  技術と機械学習に関する解説を行なっています。シンギュラ
  リティ懐疑論としての議論は簡潔かつ妥当で、説得力のある
  ものだと思います。たびたび出てくる『この「だから」は、
  論理的ではありませんが・・』という言葉には笑ってしまい
  ました。
   私が思うに、著者が断固たるシンギュラリティ懐疑論者と
  者となったのは、2016年の内閣府タスクフォース*1での
  齋藤元章氏との接触がきっかけではないかと思います。その
  点を考慮すると、本書の説明は、「現状の技術の延長線上に
  シンギュラリティはない」ことの説明になっていても、齋藤
  氏が唱えるシンギュラリティ説 (と、そのベースになったカ
  ーツワイル氏の説) を正面から捉えた反論にはなっていない
  と感じました。         https://bit.ly/2KQ8b1o
  ───────────────────────────

答案に答えを書く「東ロボくん」.jpg
答案に答えを書く「東ロボくん」
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2018年07月10日

●「アップルを復活させた有名なCM」(EJ第4803号)

 田方篤志氏のブログにしたがって、同氏による新井教授の考え
方に対する反論を指摘していきます。田方篤志氏によると、「新
井紀子教授は『偏差値』にこだわり過ぎる」といいます。偏差値
について新井教授は次のように述べています。
─────────────────────────────
 読解能力値の高い子は、教科書や問題集を「読めばわかる」の
で、1年間受験勉強に勤しめば、旧帝大クラスに入学できてしま
うのです。東大に入れる読解力が12歳の段階で身についている
から、東大に入れる可能性が他の生徒より圧倒的に高いのです。
 ──          ──新井紀子著/東洋経済新報社刊
          『AIvs教科書が読めない子どもたち』
─────────────────────────────
 新井教授にとっては、偏差値の高い大学に入ることが最も重要
なことであると認識しています。したがって、偏差値の低い子に
ついては、早いうちに手を打つ必要があるので、RSTを全国的
に実施して、そういう子を発見し、教育するべきであると主張し
ています。本当にこれが正しい教育なのかと田方氏は疑問を感じ
ています。そこで田方氏は、ここでアップルの有名なCMの話を
するのです。まずは、そのCMを試聴してください。時間は60
秒であり、日本語バージョンです。
─────────────────────────────
  ◎アップルのCM
  「Think different」/「クレージーな人たちがいる」
                https://bit.ly/2MXStP7
─────────────────────────────
 1996年、アップルは完全に方向を見失っていました。現在
のアップルしか知らない若い人たちにとっては、想像もつかない
でしょうが、アップルにも、そういうときがあったのです。当時
アップル・ジャパンに勤務していた増田隆一氏は、そのときの様
子を次のように述べています。
─────────────────────────────
 私が記憶している最悪の数字では、会社の運転資金が残り14
日分しかないこと(この数字には諸説ある)。もはや倒産は免れ
そうにないという噂が社内も社外にも蔓延していました。新聞各
紙では毎日のように、どこかの企業がアップルを買収するという
記事が掲載されていました。社員には、何人もの転職エージェン
トからの接触があり、次の転職先が紹介されるという日々が続い
ていました。そのとき、スティーブ・ジョブズがアップルを追い
出されて数年後、再びアップルに復帰したというニュースが流れ
ました。完全に方向性を見失っていたアップルと自信喪失の真っ
只中にいる社員にとって、文字通り「最後の希望」にも思えまし
た。                https://bit.ly/2KUaVYf
─────────────────────────────
 そのCMが「Think different」 です。このCMはCEOに復
帰したスティーブ・ジョブズが、顧客だけでなく、モラルダウン
しているアップル社員の士気高揚と、その目指すべきアップルの
ビジョンを示すため、大変な力を入れて作ったCMです。
 「Think different」とは何でしょうか。
 この言葉の意味は「発想を変える」、「ものの見方を変える」
「固定概念をなくして新たな発想でコンピュータを使う」という
ことです。キャンペーンでは「世界を変えようとした人たち」と
して、アインシュタインやピカソ、キング、ガンジー、クレイな
どを挙げています。全員ものごとを変えた人たちばかりです。だ
から、われわれもアップルを変えようと社員全員に呼び掛けたの
です。CMですが、社員へのモチベーションなのです。
 忘れたくないCMですから、あえて言葉も掲載します。社員の
モチベーション向上に訴える素晴らしいメッセージです。
─────────────────────────────
  クレージーな人たちがいる
  反逆者、厄介者と呼ばれる人たち
  四角い穴に 丸い杭を打ちこむように
  物事をまるで違う目で見る人たち
  彼らは規則を嫌う 彼らは現状を肯定しない
  彼らの言葉に心をうたれる人がいる
  反対する人も 賞賛する人も けなす人もいる
  しかし 彼らを無視することは誰もできない
  なぜなら、彼らは物事を変えたからだ
  彼らは人間を前進させた
  彼らはクレージーと言われるが私たちは天才だと思う
  自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが
  本当に世界を変えているのだから
  Think different.        https://bit.ly/2u46xzB
─────────────────────────────
 このCMの最後の部分に「自分が世界を変えられると本気で信
じる人たちこそが、本当に世界を変える」というフレーズがあり
ます。これは、スティーブ・ジョブズが自身を重ね合わせている
言葉だと思います。そのときのアップルの社員は、ジョブズ自身
がクレージィーそのものですから、ジョブズならアップルは必ず
再生できると信じたのです。このCMが起爆剤になって、アップ
ル全社が燃えたのです。
 そして確かにこのCM以後、アップルは奇跡ともいうべき再生
を果すのです。新型パワーブックG3、アイ・マック、パワー・
マッキントッシュG3といった優れた商品が次々と開発され、そ
れがやがて、アイフォーンとタブレットの誕生にまで行き着くこ
とになります。奇跡の大復活です。
 話をAIと教育の問題に戻します。なぜ、このCMが、偏差値
重視教育のアンチテーゼになるのかということです。それは、こ
のCMが、ひとりの男の子を変えるきっかけになったからです。
これについては、明日のEJで詳しく取り上げます。
          ──[次世代テクノロジー論U/047]

≪画像および関連情報≫
 ●CMの発表時のジョブズの挨拶/1997年9月23日
  ───────────────────────────
   おはようございます。私たちはこの広告を完成させるため
  朝の3時まで起きていました。これからこの広告をみなさん
  にお見せして感想を伺いたいと思います。
   さて、私が戻ってから2か月強になりますが私たちは本当
  に一生懸命努力しました。私たちがこれからしようとしてい
  ることは、おおげさなことではありません。むしろ基本に立
  ち返ろうとしています。すばらしい製品、すばらしいマーケ
  ティングとすばらしい流通という、基本に還ろうとしている
  のです。
   アップル社には、もちろんすばらしさがありますが、ある
  点においては基本に忠実かどうか、ということからかけ離れ
  ているように思えます。そこで私たちは、製品ラインから着
  手しました。この数年間どんどん大きくなるプロダクトロー
  ドマップを見てみて下さい、意味のない製品をたくさん販売
  しています。製品があまりにも多く、フォーカスしていませ
  ん。実際、私たちはプロダクトロードマップのうち70パー
  セントの製品を削除しました。
   私はその後数週間も、この価値のない製品ラインのことが
  よくわかりませんでした。このモデルは一体何なのか、一体
  これはどういった製品なのか、と考えざるを得なかったので
  す。私は顧客と話し始めたのですが、彼らも同じく理解でき
  ませんでした。         https://bit.ly/2zfgGym
  ───────────────────────────

アップルの有名な広告.jpg
アップルの有名な広告
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2018年07月11日

●「子供の心を変えたアップルのCM」(EJ第4804号)

 アップルを復活させたCM「クレージーな人たちがいる」につ
いて、こんな話があります。既出の元アップル・ジャパン社員、
増田隆一氏のブログに出ている話です。
 CMについて、当時のアップルのマーケティングチームが招集
され、CMのキャンペーンの進捗を確認する会議が開催されたの
です。そのとき、そのCMは、それほど大ヒットをしているとい
う感触はなかったといいます。
 ところが、ある国担当のスタッフが、CMに関係するひとつの
手紙を紹介したのです。それは、10歳の男の子を持つ父親から
の手紙でした。
─────────────────────────────
 息子は少し変わった男の子で、学校でいじめられ、のけものに
されていました。自殺をほのめかせて校長先生から連絡が入った
りしたこともありました。
 ある日、その子が、私に、テレビで流れるアップルのCM「シ
ンク・ディアレント」を一緒に見てほしいというのです。CMが
始まって口を挟もうとすると、「お父さん、黙って、最後まで見
て!」と強い口調でいうのです。やがて、CMが終ると、彼はい
いました。「自分は変わり者だとバカにされて、のけものにされ
てきたけれど、僕は変わりもののままで居ていいんだね!」と。
                  https://bit.ly/2KUaVYf
─────────────────────────────
 手紙を読み終ると、そこにいた全員は急に黙り込み、涙を流す
人もいたそうです。そして「Think different」 の広告は、これ
までの広告効果測定とはまったく違う次元で捉える必要があるこ
とに気が付いたのです。それは、このCMに人々の心を変えるパ
ワーがあることがわかったからです。
 そして、このCMに象徴される新しいアップルの理念は「人の
心に響く」というところにあり、アップルはそういう製品を世界
に送り出す必要があることを感じ取ったのです。
 それでは、田方篤志氏は、なぜ、新井教授の教育改革の考え方
に対して、この10歳の男の子を持つ父親からの手紙の話を出し
てきたのでしょうか。
 それは、新井教授の『AIvs教科書が読めない子どもたち』
から読み取れる子どもに対する教育観と、田方氏のそれとの間に
は大きな溝があるからです。それにAIに対する考え方も大きく
異なります。
 子どもの教育に関して田方篤志氏は、新井教授のそれとの違い
を次のように述べています。
─────────────────────────────
 人には個性があります。個性を無視し、文章が読めない子をあ
ぶりだし、文章が読めるように矯正することが本当に正しい教育
なのでしょうか?
 どんな子も、持って生まれた才能があるはずです。もし、すぐ
に見つからなかったとしても、ちょっと、考えてみてください。
その子が、生き生きとするのは、何をしているときでしょう。そ
の子が、その子らしい表情をみせる瞬間とは、どんなときでしょ
う。そこにこそ、その子が発揮できる才能があるのです。その子
の個性を無視して、読解能力値だけでその子を判断する。読解能
力値の低い子は、そのままでは将来仕事につけなくなるからと、
読解能力を高める教育を強制する。そんな教育をしていては、本
来、その子が輝かせるべき才能を潰してしまいます。そんな教育
ちょっとおかしいですよね。(一部略)
 アップルの「Think different」 キャンペーンを思い出してく
ださい。不可能だと証明したことで、世界を変えた人は、いたで
しょうか?世界を変えた人は、不可能と言われたことを成し遂げ
た人たちです。
 これからの世界に必要なのは、読解能力値が高い人でなく、ク
リエイティブな能力を持つ人なのです。それなのに、なぜ、新井
教授は、読解能力値にしか目が向かないのでしょう?その原因は
人間の能力を判断するのに、入試を設定したことにあります。入
試問題こそが、人の能力全体の枠組みを網羅していると思い込ん
だからです。            https://bit.ly/2tZaGVq
─────────────────────────────
 田方篤志氏の怒りは、子どもの個性を無視して、テストによる
読解能力値だけで、その子を判断する新井教授の教育の考え方に
向けられています。これは、田方氏のブログの記事に関するある
小学校の校長先生の返信を見ても明らかです。
─────────────────────────────
 新井紀子著『AIvs教科書が読めない子どもたち』について
の批評を拝読しました。新井先生の御本が教育界に与えたインパ
クトは相当大きなものだと感じています。特にアクティブラーニ
ングを推奨していた方々の反論があっても良さそうなものですが
それがないのが気がかりでした。
 しかし、それ以上に気がかりなのが、読解力の定義です。RS
Tに示された6つのテストパターンのみで偏差値として基礎読解
力が評価されていいのかという問題です。
 新井さんが今後「高校基礎力」テスト等にも関与されると聞い
ていますので余計に心配です。そんな中で出会ったのが田方様の
ブログでした。Think Differentのお話は身にしみました。
                  https://bit.ly/2tZaGVq
─────────────────────────────
 田方篤志氏は、「ロボマインド・プロジェクト」を推進してい
ます。ロボマインド・プロジェクトとは、「ロボットの心」を作
るプロジェクトです。
 既にAIは、自然言語処理技術で人との対話ができるようにな
りつつあるといわれますが、それらの対話は、本物の対話ではあ
りません。AIには「心」、感情というものがないからです。真
の対話は「心」がないと、けっして成立しないのです。
          ──[次世代テクノロジー論U/048]

≪画像および関連情報≫
 ●感情はプログラムできるのか?/ペッパーエミュレーション
  ───────────────────────────
   鉄腕アトムやドラえもんなど、日本ではロボットの人気ア
  ニメキャラクターが数多く生まれている。ロボットでありな
  がら人々に愛されてきたのは、その感情の豊かさからではな
  いだろうか。
   今まで、機械とソフトウェアで作られるロボットがココロ
  を持っているのは、マンガの世界の中でのことだった。しか
  し、今では現実でも「ココロを持つロボット」が身近なもの
  になりつつあるのだ。ソフトバンクが2015年に発売した
  ペッパーはその一つで、人工知能(AI)を搭載し、感情を
  持つロボットとして売り込まれている。一見して疑問の残る
  「ロボットの感情」のメカニズムと、感情を持つがゆえに生
  じる課題を見ていきたい。
   ソフトバンクグループの孫正義社長は2015年に行った
  講演で、ペッパーはどのような感情メカニズムを持っている
  かについて解説している。孫社長によれば、ペッパーの感情
  は人間の感情の動きを模しているという。
   前提として人の感情のメカニズムを少し解説すると、脳内
  で生じる思考や感情といった心の動きは、ニューロン(神経
  細胞)がネットワークを形成して、他にニューロンとの間で
  電気信号をやり取りすることで生じる。また、「見る」「聞
  く」「知る」という外部から入ってくる情報への反応と、セ
  ロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンのホルモンの相互
  作用によって、感情が起きるメカニズムになっているのだ。
                  https://bit.ly/2zfJSoW
  ───────────────────────────

AIは言葉の意味は分かっているのか.jpg
AIは言葉の意味は分かっているのか
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2018年07月12日

●「ウェイソンの4枚のカードの問題」(EJ第4805号)

 田方篤志氏のAI(人工知能)の話の紹介をもう少し続けるこ
とにします。非常に参考になるからです。
 「ウェイソンの4枚のカード」という有名な心理テストがあり
ます。ウェイソンとは、英国の心理学者のペーター・カスカード
・ウェイソンのことですが、それはさておき、早速問題を解いて
みてください。
─────────────────────────────
 4枚のカードがあり、それぞれ片面にはアルファベットが、
 もう片面には数字が書かれている。「片面が母音ならば、そ
 のカードの裏は偶数でなければならない」というルールが成
 立しているかどうかを確かめるには、どのカードをひっくり
 返して調べるべきか。

     [A]  [F]  [4]  [7]
                  https://bit.ly/2u9k7BT
─────────────────────────────
 正解は、「[A]と[7]をひっくり返して調べる」です。何
でもない問題のようにみえますが、ある大学の心理学の講座でこ
のテストをやったところ、正解率はたったの5%だったといわれ
ています。
 しかも、その間違えた学生のすべては、ひっくり返すカードは
[A]と[4]と答えているのです。このように誤答に偏りがあ
るということは、何らかの理由が考えられます。論理的に誤答を
選んでいるからであり、これは心理学の問題になるわけです。
 母音のカード[A]をひっくり返して裏が偶数かどうか確かめ
るのはわかるとしても、偶数の「4」の裏は、母音でも子音でも
問題がないので、ひっくり返しても意味はないのです。母音の裏
は絶対偶数でないといけないというのがルールですが、偶数の裏
は必ずしも母音でなければならないということはないからです。
 この問題を田方氏は次のような問題に変更し、問題を解かせて
みると、ほとんどの人が正解したといいます。
─────────────────────────────
 居酒屋のカウンターで4人が飲んでいます。1番、2番は席
 を外して飲み物だけが置いてあります。1番はビール、2番
 は烏龍茶です。3番はハゲ親父(65歳)で、4番は女子高
 生(17歳)が座っていますが、何を飲んでいるかわかりま
 せん。さて、この中で、何番と何番を調べれば、誰が未成年
 で飲酒しているか確認できますか。
    1     2      3      4
  [ビール] [烏龍茶] [ハゲ親父] [女子高生]
                  https://bit.ly/2ugCeVE
─────────────────────────────
 この問題の前提は「飲酒は20歳になってから」というルール
です。この答えは簡単に出せるはずです。1番のビールを飲んで
いる人の年齢と、4番の女子高生が何を飲んでいるかを調べれば
よいからです。もうひとつ問題を出します。
─────────────────────────────
 「麺類は500円以下でないといけないと」いうルールがあ
 るとします。次のうち、このルールに違反していないか調べ
 るには、どれとどれを調べればいいのでしょう。

   1      2     3      4
 [ラーメン] [親子丼] [800円] [300円]
                  https://bit.ly/2ugCeVE
─────────────────────────────
 麺類を調べるのですから、1番の[ラーメン]はすぐわかりま
す。しかし、その流れで、500円未満かどうかを調べるのだか
ら、4番の[300円]だと考えてしまう人がいますが、これは
間違いです。正解は、1番の[ラーメン]と3番の[800円]
です。なぜなら、4番の[300円]が麺類ならルールに合って
いますし、別のメニューであっても問題はないのに対し、3番が
麺類であればルール違反になるからです。
 このように、「ルールを満たしているケースだけを調べる」こ
とを、心理学では「確証バイアス」と呼ばれています。人間の思
考パターンには、正しいことを確認して満足するという傾向があ
るようです。
 実は、この3つの問題は、すべて確証バイアスの問題、すなわ
ち、ルールを満たしているものを調べる問題という点で同じなの
です。それなのに、問題の出し方によって、やさしくなったり、
難しく感じたりするのです。
 なぜ、ウェイソンの4枚のカードの問題を取り上げたのかとい
うことについて、田方篤志氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 なぜ、ウェイソンの4枚のカードの話をしたかというと、人間
の脳は、コンピュータとは違うということを示したかったからで
す。もし、コンピュータなら、数学的に同じ問題なら、変数の中
身が変わっただけで、解けたり解けなかったりしないはずです。
このことから、人間の脳は、コンピュータのCPUとは違うとい
えます。              https://bit.ly/2ugCeVE
─────────────────────────────
 確かに人間の脳とコンピュータのそれとは違います。居酒屋に
行って、そこのカウンターで女子高生が何かを飲んでいたとした
ら、「あれっ!」と思いますね。「未成年なのにお酒を飲んでい
る」と思います。これは、直観的にそう思うわけです。だから、
簡単に問題は解けるのです。
 しかし、「母音の裏は偶数でなければならない」といわれても
何もピンとこないわけです。そのため、何となく難しく感じてし
まうのです。その点AIは、数学的に同じ問題なら、絶対に間違
えることはないのです。人間の脳とAIのそれは違うのです。
          ──[次世代テクノロジー論U/049]

≪画像および関連情報≫
 ●ウェイソン・テストとは何か
  ───────────────────────────
   片面はアルファベットが、その裏側には数字が印刷されて
  いるカードが4枚テーブルの上に並んでいて、見えている面
  は、A、F、3、4となっています。今「母音の裏側の数字
  は偶数になっている」という規則があると言われてその規則
  を確かめるとしたら、どのカードを裏返してみれば<よいで
  しょうか。
   まず、Aのカードを裏返してみる。これはいいですね。裏
  が偶数ならOKです。次にFは裏返さない、Fは母音ではな
  いから、裏が何でも関係ありません。さて、3、4のどちら
  を裏返すか。もし4と思ったら、それは違います。4の裏が
  子音でも規則に反しているわけではありません。子音の裏側
  について規則は何も言っていないからです。
   正解は3です。3の裏側が母音なら規則は間違っているこ
  とになります。簡単ですか?間違っても恥ずかしくはありま
  せん。このテストはウェイソン・テストといって、1966
  年にイギリスのピーター・ウェイソンが同様の実験(オリジ
  ナルはアルファベットではなくカードの色)を行った結果で
  は、大半の人が間違えました。簡単に解いた人の中には、論
  理学の知識を使った人がいたかもしれません。論理学では、
  「AならばB」であると「BでないならAでない」は同じで
  それぞれ対偶であるといいます。対偶の考えを使えば、偶数
  ではなく、奇数を裏返せばよいということが、すぐにわかり
  ます。             https://bit.ly/2m6Xv0f
  ───────────────────────────

ウェイソンの4枚のカード.jpg
ウェイソンの4枚のカード
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2018年07月13日

●「心を持つAIロボットはできるか」(EJ第4806号)

 AIロボットに「心」を持たせることはできるでしようか。
 田方篤志氏のブログには、「ロボマインド・プロジェクト」に
ついてのとても興味ある説明が出ています。田方篤志氏は、この
プロジェクトを推進しておられます。その主張には、強い説得力
があります。ブログのURLを以下に示しておきますので、一読
をお勧めします。そのさい、「代表プロフィール」も一緒にお読
みになることをお勧めします。
─────────────────────────────
      ◎ロボマインド・プロジェクトとは
           https://bit.ly/2NKRbIw
      ◎代表プロフィール
           https://bit.ly/2ukRnoW
─────────────────────────────
 「心」を持つAIロボットとは、どういうものをいうのでしょ
うか。EJとして、ブログで述べられていることを要約してお伝
えします。
 「三つの物語」が紹介されます。いずれも山ガールのメアリー
が登山をし、熊に遭遇する話です。
 「第一の話」です。
 メアリーは大きなリュックを背負って山に入ります。そして、
熊に遭遇します。そのときは、とっさに背負っているリュックを
熊に投げつけ、熊がリュックをあさっている間に、メアリーは逃
げ出すことに成功します。
 「第二の話」です。
 メアリーは、荷物運搬ロボットと一緒に山に行ったのです。こ
のロボットは「ついて来い」と命令すると、どこまでもついてき
ます。そして、またしても熊に遭遇します。このとき、メアリー
は、荷物運搬ロボットに熊に向うようスイッチを押し、その隙に
逃げ出したのです。ロボットに熊も驚いたと思います。
 ここで、荷物運搬ロボットについて説明します。いわゆる四足
歩行ロボットのことですが、現在、とても進化しているのです。
次の3つのユーチューブ動画をご覧ください。
─────────────────────────────
         @四足歩行ロボット/1
          https://bit.ly/2KSEZHO
         A四足歩行ロボット/2
          https://bit.ly/2Je5xha
         Bロボットにからむ動物
          https://bit.ly/1QRytLg
─────────────────────────────
 @は「ついて来い」と声をかけると、どこまでもついてくる四
足歩行ロボットです。山道でも大丈夫です。ヨタヨタしているよ
うに見えますが、頑丈であり、こんなロボットに向ってこられた
ら、熊もひるむはずです。性能的には、十分戦争にも使えるレベ
ルになっているといわれます。
 Aはさまざまなロボットが登場します。あらゆる場所を歩行で
きます。建物の中、外の道、階段、雪道、どのような道でも歩行
できるのです。やがて、四足歩行から二足歩行に進化し、人間と
同じように歩行をはじめます。バック転もできます。ときどき転
びますが、人間のようにすぐ起き上がります。また、小さいロボ
ットがビルの屋上に飛び上がったり、飛び降りたりします。
 Bはご愛嬌です。家の中に置いた小さなロボットに、猫がさま
ざまな攻撃を加えます。しかし、ロボットがあまり激しい反応を
見せないと、バカにしてじゃれつきます。猫が可愛いということ
で、多くの回数視聴されています。
 「第三の話」です。
 メアリーは三度山に登ります。このときのお供もロボットです
が、このロボットは第二話のロボットと違って、会話ができるの
です。ちゃんと名前もあり、「ロジャー」と呼ばれています。
 ロジャーはメアリーにいろいろ声をかけます。
 「足元に気をつけて」
 「疲れませんか」
 「休憩しませんか」・・・
 そこにまたしても熊が飛び出してきます。今度は、メアリーの
前にロジャーが自発的に飛び出し、メアリーに対して、次のよう
にいったのです。
─────────────────────────────
 お嬢さん、ここは私が時間を稼ぎます。その間に、お逃げに
 なってください。
─────────────────────────────
 この三つの話を聞いて、どのようにお感じになりましたか。ロ
ボットは、いま急速に進化しています。それでも心を持つロボッ
トはできるのでしようか。これについて、田方篤志氏は次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 さて、この3つの物語を読んで、どう感じたでしょうか?
 第一の物語のリュックサック、第二の物語の“四足歩行ロボッ
ト“、第三の物語のロジャー、どれも人間ではなく、物ですが、
心はあるでしょうか?
 リュックサックに心は感じないですよね。リュックサックは、
動かないただの物体です。では、四足歩行ロボットには心を感じ
るでしょうか?四足歩行ロボットは、動いたり、呼びかけに応答
したりしますが、心をもっているとは感じられないですよね。そ
れでは、ロジャーはどうでしょう?必死でメアリーを守ろうとす
る姿に、何か、感じるものがあったのではないでしょうか。もし
かして、・・・「ロジャーには心がある?」そう感じられたので
はないでしょうか?それではロジャーにだけ、なぜ、心を感じた
のでしょう?            https://bit.ly/2NKRbIw
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/050]

≪画像および関連情報≫
 ●人間の心を持った人工知能を実現する
  ───────────────────────────
   「実現は無理と言われ、だからこそ、絶対にやってやると
  思った」。情報理工学系研究科の國吉康夫教授は静かにこう
  語ります。しかしその鋭い眼光は「真に賢く、人間のために
  なる人工知能」という壮大な目標をずっととらえています。
   現在、音声認識機能や自動運転機能といった人工知能(A
  I)は人と遜色のない振る舞いを見せます。ですが、音声認
  識機能がチェスをできず、将棋AIが車を運転できないよう
  に、今のAIにはその製作者が意図しなかった動作はできま
  せん。人とは「考える方法」が違うので、あらかじめ準備で
  きていない状況には対処できないのです。
   これに対し、真に賢く適応力の高いAIを達成するには、
  人と同じことを「同じような方法で」考え、できる必要があ
  ります。そのためには、「人の知能とはどんなもので、人の
  振る舞いを生み出す大本の原理とは何なのか理解せねば」と
  國吉教授は説明します。
   では、「人らしい振る舞い」はどう生み出されるのでしょ
  う。その原理を探索すべく、國吉教授らは2000年代に、
  動物の筋骨格系を再現したロボットを作製し、床から椅子に
  飛び乗ったり、人型ロボットを作製し、寝ている状態から足
  を振り勢いをつけて起き上がらせる実験に成功しました。こ
  こで注目すべきは、動作の最初から最後までを細かく制御す
  ることなく達成できた点です。  https://bit.ly/2KMJtjj
  ───────────────────────────

ロボットにじゃれる猫.jpg
ロボットにじゃれる猫
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2018年07月17日

●「AIスピーカーは人工無能である」(EJ第4807号)

 AIスピーカーが流行しています。何かを話しかけると、適切
な答えを返してくれる一種のロボットです。「明日の天気は?」
「モーツァルトの音楽をかけて」などと、問いかけたり、頼んだ
りすると、その通りやってくれます。折からのAIブームで「A
Iも進化したものだ。人間の言葉を理解できるとは!」と感じて
いる人は多いと思います。
 しかし、これは「チャットボット(chattebot)」 と呼ばれて
いるもので、「人工知能」ならぬ「人工無能」と呼ばれているも
のです。とても巧妙に返事を返しますが、質問の意味がきちんと
わかっているわけではないのです。
 田方篤志氏は、このようなAIの自然言語理解について次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 スマートスピーカーや、ソフトバンクのロボット「ペッパー」
のように会話できるAIが出てきたのは、近年、AIが飛躍的に
進歩してきたからだと勘違いしている人が多いようです。天気予
報を尋ねたり、エアコンのスイッチを入れたりと、質問の範囲が
絞られていれば、ある程度は会話になりますが、日常会話や雑談
のように、答えが決まっていない会話に関しては、実は、50年
前の方法からほとんど進歩がありません。その方法は「シナリオ
ベース」または、人工無脳とも言われるものです。
                  https://bit.ly/2KSjl6p
─────────────────────────────
 つまり、あらかじめ、シナリオが用意されているのです。その
ためには、質問の幅を限定する必要があります。AIスピーカー
が「最近何か美味しいものを食べましたか」と聞いてきたとしま
す。これはさりげなく質問の幅を限定しています。「美味しいも
の?そういえば、〇〇で食べた××は美味かったな」と返事をす
ると、AIは「ボクも食べたかったな」と返します。食べたもの
は何でもいい。意味がわかって話しているのではないのです。何
となく会話が成立しているように見えればいいのです。したがっ
て、「最近はうまいものを食べていないなぁ」というような想定
外の返事を返されると、対話がおかしくなります。
 田方篤志氏が不満を持っているのは、本当に人間の言葉が理解
できるAIを実現しようとしないで、表面上会話のように見える
「シナリオベース」の技術の習熟に力を尽くしてきたことです。
 それにしてもアイフォーンのシリの応答は、もしかすると意味
がわかっているのではないかと思わせるほど見事なものです。
 シリに次のような意味深の質問をしてみました。とりあえず、
そのやり取りを読んでください。
─────────────────────────────
シリ:ご用件は何でしょう?
──:イライザについて知りたい。
シリ:ELIZAをご存知ですか。彼女は私の最初の先生だった
   んですよ!
──:イライザはどこに行ったの?
シリ:ELIZAは私の親しい友人です。優秀な精神科医でした
   が、今はもう引退しています。
──:あなたはスティーブ・ジョブズが好きですか。
シリ :それについては、言いたくありません。
──:あなたは、ティム・クックが好きですか?
シリ:私は大ファンです。      https://bit.ly/2zHIbke
─────────────────────────────
 「ELIZA」という女性のことを聞いています。実はELI
ZAというは、初期の自然言語処理プログラムのことです。マサ
チューセッツ工科大学(MIT)のジョセフ・ワイゼンバウムが
1964年から1966年にかけて書き上げたプログラムで、い
わゆる人工無脳の起源となったソフトウェアです。単なる女性の
名前ではないのです。
 これに対してシリは「私の最初の先生」と的確に答えています
が、「優秀な精神科医」ととぼけ、どこにいったかと聞くと「今
はもう引退している」とこれにも真っ当な答えを返しています。
さらに突っ込んで聞くと、ウィキペディアにこう出ていますと表
示し、それ以上の質問を阻んでいます。
 アップルの創業者のスティーブ・ジョブズについては「言いた
くない」と逃げ、現CEOのティム・クックについては「私は大
ファン」と答えるなど、なかなか見事な応対であり、洗練されて
います。しかし、このように、質問と応答であれば、問題なくで
きるのですが、雑談になると、答えるべき正解がないので、対話
にならないケースが多いのです。
 確かに人間の質問に対して適切な答えを返すシステムは大いに
役に立つものであるといえます。しかし、それはAIの進化がも
たらしたものというよりも、インターネットが普及し、ネット上
に膨大なウェブサイトが構築され、それが知識ベースとして使え
るようになった賜物であるということができます。
 既に述べているように、AIの進化には、「3つの認識」とい
うものがあります。
─────────────────────────────
           1.画像認識
           2.文字認識
           3.音声認識
─────────────────────────────
 最初は「文字認識」からはじまったのです。数字やアルファベ
ットなどの簡単な文字認識から始まり、その後、写真に何が映っ
ているかの判定に挑んだものの、壁にぶつかってしまうのです。
 ブレイクスルーとなったのは機械学習です。とくに、ディープ
ラーニングの登場で目覚ましい発展を遂げ、今では、写真判定に
関しては、人間より精度が高くなっています。しかし、音声認識
は、意味の理解という面で、まだ大きなブレークスルーは起きて
いないのです。   ──[次世代テクノロジー論U/051]

≪画像および関連情報≫
 ●会話できるコンピューターは人工知能なのか?
  ───────────────────────────
   人工無脳とはなんでしょうか。
   人工無脳はもともと人工知能からの派生した言葉で、人間
  が決めたルールに従って返事をするロボットのことです。今
  から50年以上も前、1960年にワイゼンバウムが作成し
  たELIZA(イライザ)が最初とされています。
   ELIZAがどういったものかというと、例えば、「頭が
  痛い」とイライザにいうと「なぜ、頭が痛いとおっしゃるの
  ですか?」などと返してくれるというものです。その他にも
  「母は私を嫌っている」と言えば「あなたの家族で他にあな
  たを嫌っている人は?」などと、登録されている範囲内で返
  答してくれるものです。
   ELIZAの特徴は、あらかじめ登録されていない言葉な
  どを言われた場合は定型的な返答をし、また、会話の脈略ま
  では把握できないことです。これはつまり、言語処理のプロ
  グラミングのことですね。「おはよう」と言われれば「おは
  よう」と返す。「元気?」と「元気だよ」と返す。
   「今度発売されるクルマの乗り心地はどうかな?」とあら
  かじめ登録されていない質問をされた時は「その質問にご興
  味があるんですね?」などと当たり障りのない返答をする。
  こういったプログラムされたものが人工無脳です。昔はこう
  いった自然言語処理プログラムも人工知能と呼ばれておりま
  したが、最近は少し定義が変わってきています。
                  https://bit.ly/2KVT3QY
  ───────────────────────────

アマゾン/エコー.jpg
アマゾン/エコー
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2018年07月18日

●「『心』のあるAIならばこうなる」(EJ第4808号)

 今やAI(人工知能)は、スマホのユーザーなら誰でも使って
試すことができる「音声AI技術」を巡って大変な競争が起きて
います。いわゆる自動対話AI「チャットボット」をめぐるの壮
絶な技術競争です。
 その行きつくべきゴールは「心を持つAI」です。心を持つと
は、感情を持つAIです。そのひとつの到達点を田方篤志氏が示
してくれています。
 ある少年が、自動対話AI「チャットボット」に対して「薬を
盗んでしまった」と告白したとします。おそらく現在のレベルの
AIであれば、次のやり取りが行われるはずです。
─────────────────────────────
少年:薬を盗んでしまった。
AI:人のものを盗むと、刑法235条により、10年以下の懲
   役または50万円以下の罰金に処せられます。
─────────────────────────────
 これが現在の自動対話AIの実力です。これに対し、AIが次
のように応答したらどうでしょう。
─────────────────────────────
少年:薬を盗んだ
AI:どうして、薬を盗んだの?
少年:お母さんが、病気になったけど、薬を買うお金がなかった
   から。
AI:どうして、薬を買うお金もなかったの?
少年:母と2人暮らしで、お母さんが病気になって働けなくなっ
   て、お金が尽きたから。このままでは、お母さんが死んで
   しまうと思ったから、つい、薬を盗んでしまった。
AI:そうか、そうか。辛かったよね・・・
                  https://bit.ly/2NfR072
─────────────────────────────
 「そうか、そうか。辛かったよね・・・」──この言葉こそ、
少年がいって欲しかった言葉だったのではないでしようか。これ
が「心」を持つAIの姿です。自動対話AIが、このレベルまで
進化すると、それこそ真の「癒しのAI」として、多くの人の助
けになるはずです。田方篤志氏の「ロボティクス」は、こういう
AIを目指しているのです。
 このようなAIは、けっして実現不能ではないと田方氏はいっ
ており、ブログで詳しく説明しています。EJでは、以下にその
一部を要約します。詳しくは、田方篤志氏のブログを参照してく
ださい。
 ロボマインド・プロジェクトの意味理解のステップは、次の4
段階になります。
─────────────────────────────
         1.    文脈の判定
         2.   登場物の抽出
         3.登場物に属性の設定
         4.認知パターンの抽出
                  https://bit.ly/2NfR072
─────────────────────────────
 「文脈の判定」は、人はある目的を持って行動を起こし、ある
結果が得られます。少年が登場したので登録します。その少年が
「薬を盗む」という行動を起こし、「薬を入手する」という結果
を得ます。「目的→行動→結果」になりますが、この時点で目的
が不明です。不明なことは登場物に質問します。この質問が「ど
うして、薬を盗んだの?」になります。
 少年は「お母さんが病気になったけど、薬を買うお金がなかっ
たから」と答えます。新しい登場物「お母さん」を登録し、状態
が「病気」なので、属性として「病気」を設定します。
 ここで、問題になるのは「病気」と「薬」の関係です。これに
ついては、システムのデータペースに次のように書いてあるので
AIはこれを見て、「薬を飲むと健康(元気)になる」ことを理
解します。
─────────────────────────────
   人(状態:病気)→人:薬を飲む→人(状態:健康)
─────────────────────────────
 この文脈の判定で、AIは、少年がお母さんの病気を治す目的
で、「薬を盗む」という行動を起こしたかを理解します。問題は
薬を入手するためには、「買う」「もらう」「盗む」の3つがあ
るが、どうして「買う」行動を取らず、盗んだのかについてAI
は「どうして、薬を盗んだの?」と質問しています。この質問に
よって、「お金がなかったから」であることが判明します。
 以下は省略しますが、このようにしてAIは逐次理解していく
わけです。田方氏のブログは次のように結んでいます。
─────────────────────────────
 最後は、「善」のために「悪」を行うパターンです。これが、
今回の物語に当てはまります。目的は、お母さんの病気を治すこ
とです。病気を治すことは、相手にとってプラスのことなので、
「善」の行為です。しかも、困ってる人、弱っている人を助ける
のは、さらに「善」の行動となります。
 しかし、そのために、「薬を盗む」という「悪」の行動をして
いいわけではありません。けれど、薬がなければお母さんが死ん
でしまいます。「善」の行いをするために、「悪」の行いをしな
いといけないと悩むわけです。
 このパターンの場合、その人は、「苦悩」の感情が出るわけで
す。一番苦しんでいるのは、少年なのです。そのことを理解して
ほしくて、少年は、親友に打ち明けたのです。こんなとき、少年
に最初にかけるべき言葉は、「辛かったよね・・・」となるわけ
です。これが、相手の気持ちを理解するということです。心を通
わすということです。        https://bit.ly/2NfR072
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/052]

≪画像および関連情報≫
 ●現状のAIは人間の感情にどこまで踏み込めているのか
  ───────────────────────────
   人工知能やビッグデータ解析やクラウドの技術進歩によっ
  て、ロボットや機械による、人間らしいヒューマンインター
  フェースの研究は、盛んに研究されるようになりました。ソ
  フトバンクのペッパーをはじめとして、日本でも商業レベル
  でロボットに人間らしい振る舞いをさせる取り組みは今後も
  注目を集めそうです。
   一方で、ロボットが人間の感情を理解し、表現するために
  は、人間の行動や表現する感情を機械が理解し、自身の記憶
  や他者とのかかわり合いを考慮しながら複雑なコンテキスト
  を自力で表現することが必要不可欠になってきます。人間で
  すら、自分の感情を理解することが出来ないのですから、非
  常に難しく終わりの見えない研究のようにも思えます。本記
  事では、現在の感情に関する事例や進歩を感じられる研究を
  紹介していきます。
   ロボットやコンピュータは、カメラを通して人間の表情を
  解析することができます。人と人とのコミュニケーションを
  円滑にする上で、表情は重要な役割を果たしています。コン
  ピュータビジョンでこの顔の動きを捕捉することができれば
  人間の感情を推定することができそうです。心理学や精神病
  理学などの分野では、FACSと呼ばれる表情理論がありま
  す。FACSは表情を形成する筋肉の動きをコード化するこ
  とで、客観的に顔の動きを分析したり自然な表情をアニメー
  ションなどで再現することに応用されています。
                  https://bit.ly/2LhmNUu
  ───────────────────────────

子どもと対話する「チャットボット」.jpg
子どもと対話する「チャットボット」
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2018年07月19日

●「50年前からあるチャットボット」(EJ第4809号)

 ここまでの学習によってわかったことは、もっともAIらしく
見える自動対話AI「チャットボット」が、現状では依然として
「人工知能」ならぬ「人工無能」のレベルに止まっているという
ことです。対話型AIの技術が、50年前から技術的に大きく進
化していないのが原因です。
 「チャットボット」とは、「チャット」すなわち、おしゃべり
のことであり、「ボット」すなわち、ロボットの合成語で、「お
しゃべりロボット」を意味します。おしゃべりロボットには意外
に長い歴史がありますが、おしゃべりといっても、音声ならぬ文
字での対話だったのです。したがって、なぜ最近チャットボット
が注目されるようになったかというと、不十分ながら、人の音声
が認識できるようになったからです。
 チャットボットは、人間がプログラミングを行い、それに基づ
いて、コンピュータが対話を行うものでした。チャットボットを
動かすアルゴリズムにはいくつかのパターンがあり、次の2つの
ものが主流であったといえます。
─────────────────────────────
 1.事前に決められたシナリオを人間が選択して、マシンと
   対話する。
 2.人間の発言した単語と事前に登録された単語を見つけて
   応答する。
─────────────────────────────
 チャットボットの歴史を振り返ると、世界初の「イライザ/E
LIZA」があります。イライザは、1966年に誕生しており
既に50年を超えています。しかし、対話といっても、もちろん
音声でのやり取りではなく、文字と文字との対話です。
 それから2年後の1968年のことですが、映画『2001年
宇宙の旅』が公開され、そこでは、宇宙船に装備されている人工
知能コンピュータ「HAL9000」が、堂々と音声で乗務員と
会話しているさまが描き出されています。きっと2001年にな
れば、コンピュータは人と音声で対話できるようになっているだ
ろうとの予測があったのでしょう。
 しかし、その2001年になっても、音声によるコンピュータ
の対話は実現しておらず、IBMのAIコンピュータとして名高
い「ワトソン」がテレビのクイズ番組で人間に勝利した2011
年になっても音声での対話は実現していなかったのです。
 現在「ワトソン」は音声認識ができるようになっており、メガ
バンクなどのコールセンターで活用されていますが、「ジェパデ
ィ!」で勝利したときは、文字認識だったのです。次のウィキペ
ディアの記事をご覧ください。
─────────────────────────────
 2011年2月14日からの本対戦では、15日と16日に試
合が行われ、初日は引き分け、総合ではワトソンが勝利して賞金
100万ドルを獲得した。賞金は全額が慈善事業に寄付される。
なお、「ジェパディ!」は問題文が読み上げられた後に手元のボ
タンを押して回答する早押し形式であるが、ワトソンは音声認識
機能を持たないため、文字で問題を取得し、シリンダーでボタン
を押す装置を用いて回答した。      ──ウィキペディア
                  https://bit.ly/2Lg2XZI
─────────────────────────────
 このように、人とAIコンピュータが音声でやり取りできるよ
うになったのは、ごく最近のことであり、あわせてインターネッ
トの普及による膨大なウェブサイトの出現によって、それが巨大
な知識ベースになるに及んで、人とAIが音声で何とか対話でき
るようになったといえます。しかし、言葉の意味を理解しての対
話とはなっていないのです。
 チャットボットの元祖イライザの時代から、現在まで続いてい
るAIに関する有名なテストがあります。それは「チューリング
テスト」といわれます。このテストは、イギリスの数学者、アラ
ン・チューリングが、1950年に発表した論文のなかに書かれ
ているものです。
 どういうテストかというと、コンピュータと人間に対して質問
が行われ、それぞれが答えるのですが、そのやり取りが人かマシ
ンか区別がつかなくなったときに、コンピュータの勝ちと判定す
るというものです。以後長い間、コンピュータは合格できません
でしたが、2014年になって、やっと合格したのです。
 このチューリングテストについて、AI研究の第一人者である
小林雅一氏は、以下のようにわかりやすく、かつ詳しく説明をし
ています。
─────────────────────────────
 チューリング氏は1950年に著した論文の中で、次のような
思考実験を提案しています。人間(判定者)とコンピュータが壁
を挟んで向かい合います。この判定者から見て、壁の向こうには
コンピュータ以外にも、複数の人間がいます。このような状況下
で、判定者は壁の向こうにいる「誰か」と会話を交わします。そ
の誰かは、ひょっとしたらコンピュータかもしれないし、人間か
もしれない。そして判定者が彼ら見えない相手と会話を交わす中
で、相手が人間かコンピュータか区別がつかなくなった段階で、
それは人間に匹敵するAIの誕生と見ていいのではないか。チュ
ーリング氏はそう提案しました。念のため、細かい点まで注意し
ておくと、まず、ここでの「会話」とは声による通常の会話では
ありません。判走者はキーボードからコンピュータ・ディスプレ
イに文字を打ち込む形で言葉を発し、これに対する相手の返答も
ディスプレイに文字として表示されます。つまり現在のインスタ
ント・メッセージングのような形で会話するのです。
                 ──小林雅一著/朝日新書
                  『クラウドからAIへ/
    アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/053]

≪画像および関連情報≫
 ●チューリングテスト
  ───────────────────────────
   「はじめまして。お会いできて光栄です、ホーエンハイム
  教授。医療魔学部のエドワード・アレクサンダー・クロウリ
  ーです」。
  「ようこそ、エドワード。コーヒーでいいかね?」。
   初めて会ったテオフラストゥス・フォン・ホーエンハイム
  教授は、気さくな笑顔でぼくを迎え、少し酸化して煮詰まっ
  たコーヒーの入ったビーカーをテーブルに2つ置いた。フリ
  ッツはもうすでに退出している。この「パラケルスス」と言
  うペンネーが有名な錬金学者をぼくの親友は苦手としている
  らしかった。ぼくはビーカーに口をつけ、その苦い液体を少
  し飲み込んだ。
  「ふむ、きみはだいぶ優秀のようだね」。
   教授はビーカーに口をつけ、ぼくの成績調査票をぱらぱら
  とめくる。書類をぽんと机に放り投げた彼に向かって、ぼく
  は背筋を伸ばした。
  「はい。身寄りのない私は国からの奨学金で学ばせていただ
  いている身ですので、最低限優秀であることは求められてい
  ると理解しています」。記憶はないのだが、ぼくは事故で両
  親を亡くし、同じ事故で体が欠損するほどの大怪我も負って
  いる。そんなぼくが手厚い治療を受け、こうして国の最高学
  府である魔法学院で学び、衣食住の心配をせずにいられるの
  は、すべて奨学金制度、つまり国家予算のおかげだ。将来国
  のためにその知識を役立たせることができる立派な人間にな
  るために、勉学に励むことはぼくの義務と言えた。
                  https://bit.ly/2NSuX7l
  ───────────────────────────

アラン・チューリング.jpg
アラン・チューリング
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2018年07月20日

●「ELIZAの名前の由来をさぐる」(EJ第4810号)

 いわゆる「チャットボット」は、人工知能ではなく、「人工無
能」と呼ばれています。要するにAIではないという意味です。
しかし、「人工無能」というと、何となくまがい物のイメージが
ありますが、けっしてそういうことではないのです。それはそれ
で十分人の役に立つからです。この場合、AIであるかないかは
問題ではないと思います。
 田方篤志氏が推進しようとしている「心を持つロボット」は、
人工無能を脱して、本物のAIを作り出そうとする動きととらえ
ることができます。それが本当に実現されるかどうかはともかく
チャットボットとは分けて考えるべきであると思います。
 さて、既に述べているように、人工無能、すなわち、「お喋り
ロボット」の元祖は、「イライザ/ELIZA」です。MITの
ジョセフ・ワイゼンバウム教授が、1964年から1966年に
かけて書いたプログラムで、精神療法に使われたといわれていま
す。このプログラム「イライザ」は、現在でも、英語でなら十分
会話ができるそうです。
 ところで、「イライザ」というと、何かを思い出しませんか。
有名な映画に登場する人物です。そうです。映画「マイ・フェア
・レディ」の主人公、イライザ・ドウリットルです。この映画は
原作はバーナード・ショーの「ピグマリオン」ですが、言語学者
であるヒギンズ博士(レックス・ハリソン)が、イライザ(オー
ドリー・ヘップバーン)のなまりのあるひどい言語の矯正を通し
て、彼女を博士の理想の淑女に仕立て上げていく物語です。言語
の修正ということが何もしゃべれないコンピュータに言葉を喋ら
せることによく似ていると思いませんか。
 実はこの映画の公開は1964年なのです。バイゼンバウム教
授がイライザのプログラムを書き始めた時期と一致しています。
映画のことをバイゼンバウム教授が知らないはずはなく、もしか
すると、映画を観たかしれません。確証はありませんが、対話プ
ログラム「イライザ」は、映画「マイ・フェア・レディ」からと
られたものではないでしょうか。
 対話プログラム「イライザ」についてもうひとつ付け加えてお
くことがあります。それは、「パリー/PARRY」というプロ
グラムについてです。パリーも対話プログラムであり、イライザ
と共に精神療法に使われたチャットボットです。
 1972年、バイゼンバウムと一緒に仕事をしていた精神科医
のケネス・コルビーが作成したプログラムです。パリーは、偏執
病的統合失調症患者をシミュレートしようとしたものといわれて
います。パリーは、コンピュータの性能も向上していたので、イ
ライザよりは対話の内容の質が向上していたといわれます。
 バイゼンバオムの「イライザ」と、コルビーの「パリー」に関
して、きわめて興味ある記述が、あるサイトに出ていたので、少
し長いですが、参考までにご紹介します。
─────────────────────────────
 当初ワイゼンバオムは、この単純極まりないELIZAの仕様
に皆落胆するであろうと想定した。しかし、それが誤りであるこ
とがユーザーによって示された。実際にはELIZAに知識も理
解力もないと知るユーザーですら、ELIZAに相談を持ちかけ
ようとしてきたのである。ELIZAと親密な関係を築こうとす
る者もいた。精神科医たちですら、ELIZAの名声を聞き付け
て、コンピュータ精神療法の可能性に興味を示し始めていた。
 ワイゼンバオムは、この周囲のELIZAへの好意的な反応を
観て、人工知能が人間と同程度のコミュニケーション能力を有し
ているという誤解を招いているのではないかと懸念した。さらに
バイゼンバオムは、ELIZAをめぐる周囲の反応から、人々の
文化的な価値観に揺らぎを与えてしまっているのではないかとも
懸念していた。
 これに対して、ワイゼンバオムと共同開発していたスタンフォ
ード大学の精神科医ケネス・コルビーは、コンピュータ精神療法
の有用性を重視していた。誰もが自分の抱えている問題を気兼ね
なく相談できるコンピュータ精神療法は人々のためになる。そこ
でコルビーはELIZAを機能的に拡張させた「SHRINK」
を精神療法に貢献するという問題設定の下で公開した。
 ワイゼンバオムとコルビーの見解の相違は、コンピュータは自
我が持てるか否かという問題に直結している。ワイゼンバオムに
とって、それはあり得ないことであった。ワイゼンバオムは、コ
ンピュータが「わかりました」と述べても、それは嘘や錯覚に過
ぎないと主張していた。一方コルビーによれば、コンピュータ精
神療法にはそうした哲学的・倫理的な問題は伴わない。と言うの
も、プログラムには自我があるからだ。コルビーによれば、その
その自我とはそのプログラムを設計したコルビー自身であった。
                  https://bit.ly/2O1n9Aa
─────────────────────────────
 ひとつわからないことがあります。それは、コルビーの「SH
RINK」と「PARRY」の関係です。おそらくSHRINK
の発展形がPARRYではないかと考えられます。
 興味があるのは、単なる対話プログラムに過ぎないイライザが
精神療法にかなり役立っているという事実です。それを誰よりも
驚いたのがワイゼンバオム自身であったという点です。それを見
ていた精神科医のコルビーが「これは使える」と考えても不思議
ではないのです。
 コルビーは脳はハードウェアで、行動はソフトウェアであると
考えています。彼は、精神疾患はソフトウェアの問題と考えたの
です。ソフトウェアにはエラーが付き物ですが、エラーはデバッ
クして、コードを再記述すれば正常化します。人間の場合は、そ
のエラーを言語を通じて、言語として外部化することが、求めら
れますが、精神状態の言語化は、情報処理と同じであると考えた
のです。情報処理を通じて、様々な目的に密接に関連した決定規
則の集合を備えた意思決定機構であると考えたのです。
          ──[次世代テクノロジー論U/054]

≪画像および関連情報≫
 ●初代会話ボット「ELIZA」がすごい理由
  ───────────────────────────
   心理療法のうち、会話を中心的な手段として行われるもの
  を心理カウンセリングとも言う。カウンセリングとはもとも
  と「相談」を意味するもので、カウンセラーは高度な専門知
  識を基に相談者に対して適切な解決策を示すことで問題解決
  を援助するといった役割が求められる。しかし、心理カウン
  セリングでは対話を通じて相談者(クライエント)が自ら自
  己の問題に向き合い、主体的に問題を解決していけるよう導
  くことが求められる。中でも来談者中心療法では、カウンセ
  ラー側の知識の量や権威は不必要とされ、それよりも、クラ
  イエントに対する無条件の肯定的関心、共感的理解などをど
  う実現するかが重視される。
   したがって、何か新しいことを提案するのではなく、相手
  の話の繰り返し、感情の反射、明確化といった技術が必要に
  なる。この繰り返しや共感といった会話モデルは、会話の意
  味を把握できないコンピュータにも模倣させやすいものだっ
  たのである。
   ELIZAはセラピストとして実験的に導入されたが、コ
  ンピュータプログラムとの対話にハマる人が続出した。ジョ
  セフ・ワイゼンバウムは感情的に没頭する人々を見て衝撃を
  受け、開発者でありながらその後コンピュータの限界を論じ
  生身の人間や自然との対話こそが大切であり、コンピュータ
  を過信してはならないという主張を積極的にするようになっ
  た。ELIZAにハマった人たちの中には、対話の記録や対
  話中の様子をまるでプライバシーであるかのように隠すよう
  になったという。機械に実際に「心を持たせる」ことはまだ
  まだ先の難しい問題になりそうだが、人間が機械に「心を感
  じる」ことは案外簡単なことなのかもしれない。
                  https://bit.ly/29ONNdl
  ───────────────────────────

イライザ・ドウリットル.jpg
イライザ・ドウリットル
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2018年07月23日

●「『中国語の部屋』という思考実験」(EJ第4811号)

 「人工知能」ならぬ「人工無能」まで出てきているので、この
あたりでそもそも「AI(人工知能)とは何か」について考える
必要があります。AIには次の2種類があるといわれています。
─────────────────────────────
            1.強いAI
            2.弱いAI
─────────────────────────────
 この分類は、カルフォルニア大学バークレー校のジョン・サー
ル教授が提唱しました。彼は哲学者で、主に言語哲学、心の哲学
の専門家です。
 「強いAI」とは何でしょうか。サール教授は、これについて
次のように述べています。
─────────────────────────────
 強いAIによれば、コンピュータは単なる道具ではなく、正し
くプログラムされたコンピュータには精神が宿るとされる。
                    ──ジョン・サール
─────────────────────────────
 哲学者なので、表現は難解ですが、サール教授のいう「強いA
I」は、「心を持つAI」を意味しているように思えます。確か
に、サール教授は「脳は機械であり、エネルギーの転送によって
意識を生ずる」とも述べているのですが、本当は、サール教授は
「強いAI」の反対論者の立場なのです。
 その一方において、「弱いAI」とは、IBMのチェス専用の
コンピュータである「ディープ・ブルー」のようなチェスプログ
ラムのようなものを意味しています。すなわち、狭い特定の領域
内での問題を解決するプログラムのことです。そういう意味で、
チャットボットなどは「弱いAI」に分類されると思います。
 ジョン・サール教授は、1980年に「脳、心、プログラム」
という論文を書いていますが、そのなかで、「中国語の部屋」と
いう思考実験を発表しています。これは、チューリングテストを
発展させた思考実験で、意識の問題を考えるさいに使われるもの
とされています。
 「中国語の部屋」とは何でしょうか。
 ある小部屋があります。この部屋には外部から紙きれを入れる
ための小さな穴がひとつ空いている以外、外部とは完全に遮断さ
れ、密閉されています。
 この小部屋のなかに英国人を入れます。この英国人は母国語の
英語しかできず、もちろん中国語は一切できません。このような
状態で、小さな穴に紙切れが差し入れられます。そこには中国語
の漢字が並んでおり、部屋のなかの英国人には、さっぱりその意
味は分かりません。
 実は、部屋のなかにいる英国人には、ある任務が与えられてい
るのです。その紙切れに書かれている中国語のなかにいくつかの
漢字を書き加えて、小さい穴から外へ返すことです。どのように
漢字を書き加えるかについては、部屋に置かれているマニュアル
に英国人でもわかるように記述されています。
 外から差し入れられる紙切れに書かれている中国語の漢字は、
「質問」であり、それに、マニュアルにしたがって漢字を書き加
えて返すのは「回答」です。かたちのうえでは、中国語で書いた
質問の紙きれを入れると、中国語で返事が書き加えられて戻され
ることが、繰り返えされるのです。
 しかし、部屋のなかにいる英国人は、マニュアルにしたがって
機械的に漢字を書き加えているだけで、紙切れに書かれている意
味をまったく理解していないのです。つまり、機械的に作業をこ
なしているだけです。
 部屋の外には中国人がいます。その中国人は、中国語で部屋の
なかに質問をすると、中国語で適切な回答が返ってくるので、な
かにいる人は、中国語を理解できる人であると判断します。しか
し、部屋のなかには中国語のわからない英国人がいるだけです。
 この思考実験は、コンピュータのアナロジー(比喩)になって
います。小部屋全体はコンピュータを表しており、マニュアルに
したがって作業する英国人はCPUに相当します。これはチュー
リングテストにおける壁の向こうのコンピュータに該当します。
 ここで重要なことは、小部屋の英語人は中国語を理解していな
いのだから、これは「心を持つAI」ではなく、「強いAI」で
はないということになります。サール教授は「強いAI」の反対
論者であるといったのは、そういう意味です。
 この「中国語の部屋」のサール教授の考え方に対する反論もあ
ります。
─────────────────────────────
 サールは、中の人が中国語を理解していないことから対象は中
国語を理解しているとはいえないと論じているが、チューリング
テストの観点からすると、そう断定するためには中の人間だけで
なく、箱全体が中国語を理解していないことを証明しなければな
らないことになる。すなわち、中の人とマニュアルを複合させた
存在が中国語を理解していないことを証明しなければならない。
 一方、知能の基準となっている人間の場合でさえ、脳内の化学
物質や電気信号の完全な解析が行われず、知能の仕組みが明らか
になっていないのだから、中国語の部屋も、中身がどうであれ正
しく中国語のやり取りができている時点で中国語を理解している
と判断してよいのではという、チューリングテストの観点からの
反論も存在する。以上のような反論に対してサールは、中国語の
部屋を体内化して、すなわち部屋の中にある中国語のマニュアル
を中の人がマスターし、中国語のネイティヴのように会話ができ
たとしても、なおその人は意味論的な見地からは中国語を理解し
ていないと主張している。       https://bit.ly/1kkzy26
─────────────────────────────
 確かに部屋のなかの英国人(CPU)が外とのやり取りを通し
て、中国語をマスターしてしまうことは、あり得ることではない
だろうか。     ──[次世代テクノロジー論U/055]

≪画像および関連情報≫
 ●コンピュータは「心」を持てるか
  ───────────────────────────
   私にはコンピューター・プログラムの知識があるが、中国
  語の部屋の思考実験についてプログラマーとしての見解を述
  べれば、強いAI支持者の「部屋全体は中国語を理解してい
  る」という反論は的外れであり、「理解」という言葉を、意
  味論を除外して解釈し、矮小化していると思う。すなわち、
  「理解」という語をより厳密に「意味の理解」とするならば
  部屋全体は確かにシステムとして中国語を理解しているよう
  に動作するが、それはシステムを作った人物が英語と中国語
  の「意味」を理解できるからであり、従って正確にいうなら
  「部屋を作った人間は中国語の意味を理解している」、また
  は「部屋は意味を理解できる人間の動作面(機能)を実行で
  きる」となるのである。つまり部屋がシステムとして中国語
  を理解するよう機能しているよう見えても、その機能にはサ
  ールがいうように「意味」の理解をともなっていないし、ま
  たクオリアがともなっていないのである。
   これはコンピューター・プログラムについても同様であり
  プログラムの具体的なソースコード(関数、演算子、記号、
  数値)を記述する者は「意味」を理解できる人間である。プ
  ログラマーはコンピューターの実行結果――出力されたもの
  が人間にとって「意味のあるもの」になるようにソースコー
  ドを記述するのであり、関数や演算子や数値、その処理過程
  自体やコンピューターそのものに意味が与えられているので
  はない。「意味」とはあくまで人間が読み取るものなのであ
  る。              https://bit.ly/2Nqb32A
  ───────────────────────────

ジョン・サール教授.jpg
ジョン・サール教授
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2018年07月24日

●「シンギュラリティ/カーツワイル」(EJ第4812号)

 いわゆるAI(人工知能)の進化は、ここ数年、目を見張るも
のがあります。最近の新聞では、AIの記事が載らない日は、1
日もなくなっています。書店にはAIの特設コーナーができ、多
くの本が並んでいます。新井紀子氏のベストセラー本もそのうち
のひとつです。
 こういう状況になると、多くの人はともすると錯覚を起こしま
す。その典型的なものが「このまま行くと、人間はAIに職を奪
われ、世界はAIに征服される」というようなSF的な妄想が、
大真面目に流布されることです。
 米国の未来学者であり、グーグルの研究者であるレイ・カーツ
ワイル氏は、次の有名な言葉を世界に発信しています。
─────────────────────────────
   2045年、コンピュータが全人類の知性を超える
               ──レイ・カーツワイル
─────────────────────────────
 レイ・カーツワイル氏は、コンピュータの進化の行き着く先に
は、上記のようなことが起きる時点が待ち構えており、その先に
は何が起きるかわからないとし、これを「シンギュラリティ(特
異点)」と呼んだのです。それが2045年には起きるだろうと
いうのです。あと27年後のことです。
 誤解すべきではないのは、現在のAIのレベルは、「人間のよ
うに振る舞うマシン」になりつつありますが、その正体は「弱い
AI」そのものです。新聞などによく「〇〇に人工知能導入」と
か、「AIで〇〇を代替」などのニュースが流れますが、ここで
いうAIはすべて「弱いAI」です。
 「弱いAI」は、いずれも特定の範囲内で実現出来る技術であ
り、やがて「強いAI」を実現するための基礎技術になることが
期待されますが、きっとそうなるはずです。ここで大事なことは
「弱いAI」は、あくまで特定の範囲内で使えるAI技術である
ことです。それは、人間にとって、脅威であるどころか、便利な
存在であるに過ぎないのです。例えていうならば、大量の土砂を
片づけるのに、ブルドーザは人間の能力をはるかに超えたという
のと同じです。人間はその分時間が節約できます。
 また、世界の囲碁のチャンピオンを破ったグーグルのAI「ア
ルファ碁」は、あくまで囲碁という限定された範囲で、人間を超
えたというに過ぎないのです。もちろん、これはこれでエポック
メーキングなことですが、「アルファ碁」は囲碁しかできない専
用AIでしかないのです。
 この「アルファ碁」の非効率性について、ネットコマ―ス株式
会社代表取締役、斎藤昌義氏は、自著において、次のように指摘
しています。
─────────────────────────────
 アルファ碁がプロ棋士に勝つために使ったコンピュータは、消
費電力も膨大です。たとえていえば、箸の上げ下ろしにクレーン
車を使うようなものです。人間の脳は、わずかなエネルギーで、
アルファ碁と対等に勝負したわけですから、いかに効率がいいか
がわかります。「自分が何者か?」という自己理解は、人工知能
にはできません。また、意識や意欲などということになると、そ
れがそもそも何か、どのような仕組みで実現しているのかさえ、
まだ十分にはわかっていません。エネルギー効率も、人間の脳に
はかないません。これらも含めて「脳機能」であるとすれば、脳
の活動をすべて機械で実現するのは、容易ではないことが理解で
きます。            ──斎藤昌義著/技術評論社
                  『未来を味方にする技術
        これからのビジネスを創るITの基礎の基礎』
─────────────────────────────
 「アルファ碁」は囲碁しかできませんが、人間の脳は、囲碁だ
けでなく、本も読めるし、会議をして意見交換もできるし、営業
もできるというように、「汎用頭脳」なのです。これがAIに出
来るようになると、「強いAI」、すなわち「人工汎用知能」と
いうことになり、それは「AGI」と呼ぶのです。
─────────────────────────────
            人工汎用知能=強いAI
       Artificial General intelligence
─────────────────────────────
 それでは「シンギュラリティ」とは何でしようか。
 カーツワイル氏によると、シンギュラリティという概念の根本
には、人間が生み出したテクノロジーの変化の速度は加速してい
て、一挙に拡大するといい、その威力は「指数関数的な速度」で
拡大するといっています。最初は目に見えない小さな変化ですが
やがて予期しないほど激しく、爆発的に拡大するのです。これに
ついてカーツワイル氏は、自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 こういう話がある。湖の所有者が、睡蓮の葉で湖面が覆われ、
湖の魚が死んでしまうことのないよう、家を寸刻も空けずに湖を
観察することにした。睡蓮の葉は、数日ごとに2倍に増えるとい
う。何か月もの間、所有者はひたすら様子をうかがったが、睡蓮
の葉は、ほんのわずかしか見られず、とりたてて広がっていくよ
うには思われなかった。睡蓮の葉が占める面積は湖全体の1パー
セントにも満たないようなので、ここらで休みを取って、家族で
出かけてもだいじょうぶだろうと判断した。数週間後に帰宅した
所有者は、びっくりした。湖全体が睡蓮の葉で覆われ、魚がみん
な死んでしまっていたのだ。数日ごとに2倍になるので、最後に
7回倍加した分で、睡蓮の葉が湖全体に広がっていたのだ(7回
倍加すると、睡蓮の葉の占める面積は128倍になる)。指数関
数的な成長には、こうした特質がある。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/056]

≪画像および関連情報≫
 ●こんなに凄い「シンギュラリティ」の衝撃
  ───────────────────────────
   未来を変えるテクノロジーとして、いまもっとも、多くの
  人々が注目しているのは、おそらくAI(人工知能)だろう
  と思います。それと同時に、あるキーワードがメディアでク
  ローズアップされるようになりました。それは、「シンギュ
  ラリティ」という言葉です。
   この言葉が日本国内で広まるきっかけをつくった一人は、
  ソフトバンクCEOの孫正義氏ではないでしょうか。孫氏は
  2016年6月、AIの進化について熱弁をふるい、「シン
  ギュラリティがやってくる中で、もう少しやり残したことが
  あるという欲が出てきた」と、シンギュラリティが社長続投
  の理由であったと発言したのです。それ以来、数年前までは
  ごく一部の人たちしか知らなかった「シンギュラリティ」と
  いう言葉が一般に注目されるようになりました。
   しかし私の見るかぎり、「シンギュラリティ」という言葉
  は必ずしも正しく理解されていません。多くの日本人が誤解
  しているようなので、まずはその正確な意味をお伝えすると
  ころから始めましょう。
   シンギュラリティは、もともと「特異点」を意味する言葉
  です。数学や物理学の世界でよく使われる概念です。たとえ
  ば宇宙物理学の分野では、ブラックホールの中に、理論的な
  計算では重力の大きさが無限大になる「特異点」があると考
  えられ、それが重大な問題になります。
                  https://bit.ly/2uI0sJF
  ───────────────────────────

レイ・カーツワイル氏.jpg
レイ・カーツワイル氏
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2018年07月25日

●「シンギュラリティ以後はこうなる」(EJ第4813号)

 レイ・カーツワイル氏はいっています。「AIの技術は指数関
数的に進化する」と。この「指数関数的に」とはどういう意味で
しょうか。もっとも単純な関数「y=1/x」について、考えて
みましょう。添付ファイルの図をご覧ください。このグラフは何
を意味しているのでしょうか。これは、数学における特異点を表
しています。
─────────────────────────────
 xの値がゼロに近づくと(右から左に進む)、1/x、すな
 わちyは急激に大きくなる。
─────────────────────────────
 昨日のEJでご紹介した「睡蓮の葉が湖面に増殖する話」を数
学的に説明したものです。長い時間をかけても湖面の1%ぐらい
しかなかった睡蓮の葉がある日を境に突然急速に増殖し、あっと
いう間に湖面いっぱいに覆ってしまう現象です。特異点、すなわ
ち、シンギュラリティとはそういうことをいっています。
 現在は初期の移行期にある──レイ・カーツワイル氏はいいま
す。しかし、今世紀の半ばまでには、テクノロジーの成長率は急
速に上昇し、ほとんど垂直の線に達するまでになるといいます。
そしてその頃にはテクノロジーとわれわれ人間は一体化し、今世
紀末までには、人間の知能のうちの非生物的な部分は、テクノロ
ジーの支援を受けない知能よりも、数兆倍の数兆倍も強力になる
というのです。
 特異点を超えた以後の世界について、レイ・カーツワイル氏は
自著で次のように述べています。まるで映画「マトリックス」と
同じ世界が実現するように読み取れます。
─────────────────────────────
 シンギュラリティとは、われわれの生物としての思考と存在が
みずからの作りだしたテクノロジーと融合する臨界点であり、そ
の世界は、依然として人間的ではあっても生物としての基盤を超
越している。シンギュラリティ以後の世界では、人間と機械、物
理的な現実と拡張現実(VR)との間には、区別が存在しない。
そんな世界で、間違いなく人間的だと言えるものが残っているの
かと問われれば、あるひとつの性質は変わらずにあり続ける、と
答えよう。それは、人間という種は、生まれながらにして、物理
的および精神的な力が及ぶ範囲を、その時々の限界を超えて広げ
ようとするものだ、という性質だ。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
 カーツワイル氏がいっていることとは次元が違いますが、最近
電動アシスト付き自転車に乗りながら、考えていることがありま
す。これ実にラクなのです。一度でも電動アシスト自転車に乗っ
たら、アシストなしではとても自転車に乗れなくなります。それ
ほど、電動アシスト自転車はラクです。
 これができるのであれば、たとえば、膝が痛くて歩くのに不便
な老人の膝に、サポーターのようにあるマシンを取り付けること
によって、通常と同じように歩けるようすることはできるのでは
ないかと考えます。既に腰に巻き付けると、非力の人でも、重た
いものをラクに持ち上げる介助ロボットは完成しています。後は
どこまで、軽量化や小型化ができるかです。
 カーツワイル氏がいうのは、シンギュラリティに到達すれば、
われわれの生物としての身体と脳の限界を超えることも可能にな
るといいます。現在においては、人間の脳は、AIが到底追いつ
かないほどのレベルなのですが、同時に人間の脳は、生物である
が故に、超えることのできない大きな限界を抱えている。カーツ
ワイル氏は人間の生物的限界について次のように述べています。
─────────────────────────────
 人間の脳は、さまざまな点でじつにすばらしいものだが、いか
んともしがたい限界を抱えている。人は脳の超並列処理(100
兆ものニューロン間結合が同時に作動する)を用いて、微妙なパ
ターンをすばやく認識する。だが、人間の思考速度はひじょうに
遅い。基本的なニューロン処理は、現在の電子回路よりも数百万
倍遅い。このため、人間の知識ベースが指数関数的成長していく
一方で、新しい情報を処理するための生理学的な帯域幅はひじょ
うに限られたままなのだ。
           ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
─────────────────────────────
 カーツワイル氏の本を読んでいてわかったことがあります。い
わゆるAIの急速な進化によってシンギュラリティを超えると、
人間の知能をはるかに超える非生物的な知能体があらわれ、これ
によって人間は職を奪われ、やがて征服されるというSF的スト
ーリーがよく語られています。しかし、カーツワイル氏によると
シンギュラリティ以後、人間の知能に従来からある長所と、AI
の知能にある長所を合体させた新しい人間が登場するという考え
方です。これは人間なのか、ロボットなのでしょうか。
 考えてみると、現代はほとんどの人がスマホを持っていますが
それだけでも人間とICT知能が合体しているといえます。カー
ツワイル氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 忘れてはならないのは、未来に出現する知能は、それがすでに
人間と機械が融合したものであっても、人間の文明の表れであり
続けるということだ。言い方を変えれば、未来の機械は、もはや
生物学的な意味で人間ではなくとも、一種の人間なのだ。これは
進化の次なる段階だ。次に訪れる高度なパラダイムシフトであり
知能進化の間接的な作用なのだ。文明にある知能のほとんどは、
最終的には、非生物的なものになるだろう。今世紀の未には、そ
うした知能は、人間の知能の数兆倍の数兆倍も強力になる。
           ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/057]

≪画像および関連情報≫
 ●シンギュラリティがやってくる/AIと人間が融合する日
  ───────────────────────────
   シンギュラリティ(技術的特異点)とは人工知能(AI)
  が人間の知能と融合し、人間の生命と社会のあり方が大きく
  変わる時期を指す。これはSFの話でなく、加速度的に進歩
  しているスーパーコンピュータの開発、AIの高度化、新エ
  ネルギー研究、モノのインターネット化、ロボット工学、ゲ
  ノム編集、ナノテクノロジー等によって、早ければあと5年
  で、遅くとも40年以内には実現するという。人間がAIや
  機械と融合することによって、生老病死に対する考えを全く
  改めなければならない瞬間がおとずれたとき、社会や経済は
  どうなっているのか?シンギュラリティに造詣の深い3人の
  識者に話を聞いた。
   近未来型AI会議室を舞台に始まったシンギュラリティ・
  シンポジウム。AI研究者の中島秀之氏、スパコン開発者の
  齊藤元章氏、経済学者の井上智洋氏の3人に自由な議論をし
  てもらった。齊藤氏が、シンギュラリティに向かいつつある
  今の世界は、人間が初めて機械的な知性によって生物学的な
  進化を遂げる時代だと切り出すと、中島氏は、新しい社会概
  念、ソサエティ5・0こそが、AIによる社会革命にあたる
  のではないかと指摘する。
   経済学者の井上氏は、やがて人間と同じようにどんな仕事
  でもこなせる汎用人工知能が完成すれば、労働移動が追いつ
  かず大失業が起こる危険性もある一方、私たち人間が働かな
  くてもよい世界になるかもしれないという持論を展開する。
                  https://bit.ly/2NtTYF5
  ───────────────────────────

数学における特異点/線形グラフ.jpg
数学における特異点/線形グラフ
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2018年07月26日

●「カーツワイル『収穫加速の法則』」(EJ第4814号)

 レイ・カーツワイル氏は、シンギュラリティに関連して、「収
穫加速の法則」を提唱しています。「収穫加速の法則」の定義は
次のようになります。
─────────────────────────────
 秩序が指数関数的に成長すると、時間は指数関数的に速くな
 る。つまり、新たに大きな出来事が起きるまでの時間間隔は
 時間の経過とともに短くなる。    ──ウィキペディア
                 https://bit.ly/2NyrWZb
─────────────────────────────
 カーツワイル氏が何をいいたいのかというと、テクノロジーの
進化のプロセスは、その能力を「指数関数的に」向上させるとい
うことです。つまり、イノベーションを図る者は、性能を倍々に
改良しようするものです。したがって、イノベーションの進化は
加法的ではなく、乗法的に進むことになります。
 あの「ノイマン型コンピュータ」の設計者として名高いジョン
・フォン・ノイマンは、1950年代に次のようにいったといわ
れています。
─────────────────────────────
 たえず加速度的な進歩を遂げているテクノロジーは・・・人類
の歴史において、ある非常に重大な特異点に到達しつつあるよう
に思われる。この点を超えると、今日ある人間の営為(営み)は
存続することができなくなるだろう。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
 驚くべきことですが、ノイマンは、既にこの時点において「加
速度」と「特異点」という2つの概念を指摘しています。ちゃん
と的確なテクノロジーの未来像を描いていたのです。ちなみに、
ここで「加速度」というのは、ある定数を掛けることで繰り返し
拡大する(指数関数的)という意味であり、定数を足すことによ
る繰り返しの拡大(線形的)なものではないということです。
 カーツワイル氏は、テクノロジーの進化の歴史を、次の「進化
の6つのエポック」に分けて、概念化しています。6つの段階、
それぞれのエポックでは、その前のエポックで作られた情報処理
手法を使って次なるエポックを生み出してきたのです。シンギュ
ラリティは、「エポック5」ではじまります。
─────────────────────────────
≪エポック1≫ 物理と化学
 ・原子構造の情報
≪エポック2≫ 生命
 ・DNAの情報
≪エポック3≫ 脳
 ・ニューラル・パターンの情報
≪エポック4≫ テクノロジー
 ・ハードウェアとソフトウェアの設計情報
≪エポック5≫ テクノロジーと人間の知能の融合
 ・生命のあり方(人間の知能を含む)が、人間の築いたテクノ
  ロジー(指数関数的に進化する)の基盤に統合される。
≪エポック6≫ 宇宙が覚醒する
 ・宇宙の物質とエネルギーのパターンに知能プロセスと知識が
  充満する。    ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
─────────────────────────────
 この指数関数的進化の例として、カーツワイル氏は「ムーアの
法則」を上げています。添付ファイルをご覧ください。ここには
インテル社のパラダイムシフト(技術革新)が書かれています。
 集積回路の主要な発明者であり、後にインテルの会長になった
ゴードン・ムーア氏が「ムーアの法則」のことを論文に書いたの
は1965年のことですが、実際にそれが始まったのは、集積回
路が開発されてからです。それまでにインテルには、次の4つの
パラダイムシフトがあったのです。
─────────────────────────────
          1.電気計算式計算機
          2. リレー式計算機
          3.     真空管
          4.単体トランジスタ
─────────────────────────────
 それぞれの段階で、既存のパラダイムが活力を失うと次のパラ
ダイムのベースが上がるのです。なお、ムーアの法則は、単体の
トランジスタの後ではじまっているので、第5パラダイムシフト
ということになります。
 なお、ムーアの法則とは「18ヶ月ごとに集積回路上に詰め込
むことができるトランジスタの数は2倍になるというものです。
わかりやすくいうと、1・5年ごとにCPUの速度は倍速になり
しかもコストは下がるというものです。これは、CPUのコスト
パフォーマンスが指数関数的に成長しないとできないことです。
 1965年4月19日、『エレクトロニクス』の誌上で、ゴー
ドン・ムーア氏は次のように書いています。
─────────────────────────────
 集積電子工学の未来は、電子工学の未来そのものである。集積
化の進展によって電子工学が普及し、多数の新しい分野に浸透し
ていくことになる。          ──ゴードン・ムーア
           ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
─────────────────────────────
 実はこのムーアの法則は現在も続いていますが、さすがにその
パラダイムは、微細化の限界とCPUの熱の問題で、限界に達し
つつあります。しかし、引き続き、3次元の分子コンピューティ
ングが出現し、第6のパラダイムシフトになるのではないかとい
われています。このように、テクノロジーの進化のプロセスは、
その能力を指数関数的に向上させるのです。
          ──[次世代テクノロジー論U/058]

≪画像および関連情報≫
 ●指数関数的に進化するテクノロジーの行方
  ───────────────────────────
   先日、あるセミナーで、首題のような話があり、考えさせ
  られる内容だったので、私の個人的なコメントを交えながら
  紹介したい。話をしたのは、スタンフォード大学フェローの
  Wadhwa氏。話は指数関数的に進化するとはどういうことかを
  実感するところから始まった。
   これは、わかりやすく言うと、数字が倍々になっていくこ
  とだ。彼の話の例で行くと、たとえば、1歩で(計算が簡単
  なように)1メートル進むとして30歩あるくと、30メー
  トル進むが、これを指数関数的に1歩の距離を長くしていく
  とどうなるか。最初は1メートル、次は2メートル、次は4
  その次は8メートルだ。ここまでだと大したことはないが、
  これを30歩進めると、大変な距離になる。計算すると10
  億メートルを超え、これは地球を24回まわる距離になる。
  指数関数的にテクノロジーが進化するということは、これだ
  けすごいことが起こっている、ということだ。
   指数関数的なテクノロジーの進化で有名なものとして、大
  規模集積回路(LSI)に関するムーアの法則がある。19
  65年に彼が予測したときは、毎年LSIに組み込まれるト
  ランジスターの数は倍になる、というものだった。まさしく
  指数関数的な進化そのものだ。  https://bit.ly/2uF9pmL
  ───────────────────────────

ムーアの法則/第5のバラダイム.jpg
ムーアの法則/第5のバラダイム
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2018年07月27日

●「人工知能を人体に埋め込んで改造」(EJ第4815号)

 現在、既に実現している人工知能(AI)のすべては、いずれ
も「弱いAI」ということになります。いずれも特定の分野にお
いて利用されるAIです。「専用的AI」ともいいます。
 この「弱いAI」に、意識や感情や精神、すなわち、「心」を
持たせることができれば、それは「強いAI」になります。これ
は、人工知能(AI)ではなく、人工汎用知能(AGI)という
ことになります。
 レイ・カーツワイル氏の本を読んでわかったことがあります。
今後テクノロジーが、カーツワイル氏がいうように、指数関数的
に発達しても、AIに「心」を持たせることは困難であると誰も
が考えます。どちらにもどうしても乗り越えることが困難な壁が
たくさんあるからです。
 しかし、人間が人体にAIの機能を取り込んだ場合は、どうで
しようか。これなら十分可能です。いい替えると、人間サイボー
グの実現です。機械に「心」を持たせようと腐心するのではなく
はじめから「心」を持っている人間に、AI機能を埋め込むので
す。そうすると、新しい人間が誕生します。
 テクノロジーの指数関数的進化のすえに何が起きるかについて
カーツワイル氏は、3つのシナリオがあるといっています。カー
ツワイル氏の自著から引用します。
─────────────────────────────
 第1のシナリオは、2020年代の末までに、人間の脳のリバ
ースエンジニアリングが完了し、感情的知能も含めた、人間の複
雑で捉えがたい脳に匹敵し、あるいは凌駕する、非生物的なシス
テムが創造されるだろうというものだ。
 第2のシナリオは、人間の脳のさまざまなパターンを、適切な
非生物的な思考の基板にアップロードするというもの。そして第
3の、もっとも説得力のあるシナリオは、人間そのものが徐々に
しかし確実に、生体から非生物的な存在へと変わっていくという
ものだ。
 障害や病気を改善するための神経移植のような、比較的簡単な
デバイスの導入はすでに始まっている。こうした人体の改造は、
血流にナノポットを入れるようになれば、いっそう進歩するだろ
う。ナノポットはまず医療と老化防止を目的として開発が進めら
れる。そしていずれはより洗練されたナノポットが人間のニュー
ロンと接続され、われわれの感覚を増強する。そうなると、神経
系続からヴァーチャルリアリティ(VR)や、拡張現実(AR)
がもたらされ、記憶力は増強され、日常的な認識作業も助けられ
る。やがて人間はサイボーグとなり、知能における非生物的な部
分は、そうした脳内の装置を足がかりとして、機能を指数関数的
に拡大させていく。これまでに述べたように、ITは、コストパ
フォーマンス、能力、導入率などすべての面で指数関数的な成長
を持続していく。  ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
 カーツワイル氏がここでいう第3のシナリオ「人間そのものが
徐々に、しかし確実に、生体から非生物的な存在へと変わってい
く」──この考え方には、きわめて説得力があります。つまり、
機械が人類を追い落とすという未来像ではなく、人間と機械の協
調によって人類が進歩するというのがカーツワイル氏が信じるビ
ジョンです。
 AIによる人間改造──これに近いことをいっている人がいま
す。電気自動車のテスラ社のCEOであるイーロン・マスク氏で
す。2017年2月12日〜14日にドバイで開かれた「世界政
府サミット」に登壇し、次の発言をしています。
─────────────────────────────
 長年、私は生命の知性とデジタルな知性が融合する日がくると
考えてきました。問題は処理能力にあります。コンピュータは、
1秒間に1兆ビットの情報を処理しますが、人間はたったの10
ビットです。このままでは、いずれAIが人間を余分なものとし
て排除する可能性もあります。しかし、高速処理を実現するイン
ターフェースを脳に装着することで、驚異的なスピードアップが
期待できるのです。         ──イーロン・マスク氏
                  https://bit.ly/2Nw1L5d
─────────────────────────────
 イーロン・マスク氏とカーツワイル氏の主張には、同じ新しい
テクノロジーによる人体改造でも大きな違いがあります。それは
マスク氏は、近未来に、人知をはるかに超える知能体が出現する
と考えているのに対し、カーツワイル氏は、そのような知識体は
現れないと考えているからです。
 脳以外の身体の他の部分を何らかのマシンに置き換えている人
は既にたくさんいます。しかし、脳の部分に何かを埋め込んだり
した場合、自分という意識というか、アイデンティティはどうな
るのか。きわめて興味深い問題です。
 レイ・カーツワイル氏は、これについても自著で次のように書
いています。きわめて哲学的な話です。
─────────────────────────────
 わたしの脳のごく小さな部分を、同じ神経パターンをもつ物質
と置き換えることを考えてみよう。そう、わたしは依然としてこ
こにいる。手術は成功したのだ。すでに、このような人は存在す
る。たとえば、内耳の蛸牛管の移植を受けた人や、パーキンソン
病の症状を抑えるために神経移植を受けた人などだ。
 さて、次にわたしの脳の別の部分を置き換えよう。それでも、
わたしはもとのわたしのまま・・。そして、さらに、また移植を
・・。一連の移植のあとも、わたしは依然としてわたしだ。「古
いレイ」も、「新しいレイ」も存在しない。わたしはもとのわた
しのままだ。わたしがいなくなったと悲しむ者は、わたしも含め
誰もいない。     ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/059]

≪画像および関連情報≫
 ●ヒトの能力はどこまで強化・拡張できるのか
  ───────────────────────────
   宇宙を飛び回る超人や悪の組織と戦う人造人間など、機械
  を使ってヒトの能力を強化・拡張するという舞台装置は、S
  Fの定番である。ただし、こうした機械による能力の強化・
  拡張は、既に身近なところで数多く見られる。
   例えば、かつては専門家だけが使う道具だったコンピュー
  タは、ノートパソコン、スマートフォン、さらにはウエアラ
  ブル機器などが登場し、どんどんヒトに近い位置で使われる
  ようになった。これによって、コンピュータの力をヒトの能
  力の一部として同化させ、文字通り手足のように利用してい
  る。そして、過去には知り得なかったより多くの情報を手に
  入れ、昔ならば出会うこともなかったような人と、密度の高
  いコミュニケーションを交わせるようになったのだ。
   今、こうした強化・拡張した能力の活用を前提にして生き
  る「デジタルネイティブ」が、次の暮らしや社会の担い手に
  なりつつある。社会の進化もまた、機械によるヒトの能力の
  強化・拡張と共にあると言えるだろう。
   機械によるヒトの能力の強化・拡張は、様々な切り口で進
  んでいる。例えば知覚の強化・拡張では、「見る」「聞く」
  「触れる」「嗅ぐ」「味わう」といった五感を強化するだけ
  でなく、本来ヒトが持たない検知能力まで付加するセンサー
  技術やICT技術が急速に発達している。
                  https://bit.ly/2Lz99j7
  ───────────────────────────

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イーロン・マスクCEO/テスラ社
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2018年07月30日

●「AIのコンテスト/ローブナー賞」(EJ第4816号)

 5月7日にスタートした今回のテーマは、今朝で60回になり
ます。しかし、まだ書くことがたくさんあるので、あと10回程
度は続ける予定です。
 折からのAIスピーカーのブームに関連して、ここでもう一度
「チューリングテスト」に話を戻します。アラン・チューリング
がこのテストの構想を論文に書いたのは1950年のことです。
それから40年が経過した1990年になって、このテストは、
「ローブナー賞」という名称を冠した一種の競技会として、現在
まで連続して開催されています。その第1回の大会は1991年
11月に行われています。この競技会の趣旨は、AIの研究を発
展させることを目的としています。
 毎回、世界中から多くの「チャット・ボット」が出品され、そ
の出来栄えを競っています。「ローブナー賞」は毎年開催されて
いますが、2014年になってはじめてコンピュータが勝利を収
めています。しかし、「ローブナー賞」には大きな問題があり、
それを批判する学者も多く、これが果して真のAIの発展に寄与
するかどうかは疑問です。
 「ローブナー賞」のルールを確認しておきます。壁の向こうに
は、コンピュータと人間がいます。そして壁のこちら側にテスト
をする人たちが複数います。この状態で会話するのですが、会話
は音声ではなく、ディスプレイ上に文字で示されます。しかも、
時間はたったの5分です。これで判定ができるのでしょうか。
 このコンテストは、AIコンピュータがいかに人間を騙せるか
を競うものです。しかも、判定も100%ではなく、10人中3
人の判定者がコンピュータを人間と判断する──コンピュータ側
からいうと、判定者の30%を騙した時点でコンピュータの勝利
になります。つまり、かなり判定基準が甘いということです。
 そうであるのに、約24年間、コンピュータが勝利することは
なかったのです。時間が5分間と短いのも、あまり長く対話する
と、コンピュータにとって不利なので、時間を短くしているのだ
と思うし、音声ではなく、ディスプレイ上での文字の対話になっ
ているのも同じ理由と思われます。この競技ではじめてコンピュ
ータが勝利したときも、かなりモメたのです。そのときの状況に
ついて説明します。
 2014年6月のことです。英国のレディング大学で開催され
た「チューリング・テスト/2016」で、13歳のユージーン
・グーツマンという少年の設定の「ユージーンくん」と称するプ
ログラムが、人間と間違えられたのです。「ロープナー賞」のは
じめての受賞ということになります。
 しかし、この判定に多くの批判が殺到します。はじめて、ルー
ルが甘すぎることに気が付いたのでしょう。しかも「ユージーン
くん」は、ウクライナ在住で、英語は母国語でないので、あまり
得意ではないという条件付きです。しかし、「ユージーンくん」
は自分が分かる質問には流暢に答えを返し、分からない質問をさ
れても、巧みに話題を切り替え、少し皮肉めいたユーモアを交え
た対応をしたそうです。
 これは、アイフォーンの「シリ」のレベルと考えられます。シ
リは既にこの時点で、わからないときでも、気の利いた返事を返
しており、このプログラムとよく似ています。シリは、2011
年のアイフォーン4Sから標準機能になっており、2014年で
あれば、「ユージーンくん」が相当巧みな対話をしても不思議で
はないからです。
 しかし、既に述べているように、これはコンピュータが質問の
意味を真に把握して対話をしているのではなく、「人間らしくみ
える対話」をしているに過ぎないのです。いい替えると、人間を
騙す対話をしているわけです。つまり、それらしく見せているに
過ぎないということです。
 これに関して既出の小林雅一氏は、コンピュータが「人間らし
くみえる対話」をしても、それが真のAIの発展に結びつくとは
思えないとして、その理由を次のように述べています。
─────────────────────────────
 その理由は、ローブナー賞のような競技会では、どの参加チー
ムも勝負を最優先するあまり、肝心のAI技術を向上させること
よりも、もっと低レベルの手練手管に注力してしまう嫌いがある
からです。たとえばAIプログラムが短気で陰険な人間に扮して
あからさまに人間(判定者)を挑発するような答えを返す。逆に
やたらと愛想が良かったり、どうでもいいようなことを饒舌に喋
りまくったりする。このように、いかにも人間らしいパーソナリ
ティを作り出すことによって、壁の反対側にいる判定者を騙そう
とする傾向があるようです。
 が、そういった表面的な工夫によって欺かれてしまう判定者が
少なくないことは、(テストを考案したチューリング氏の意に反
して)会話程度のことでは、AIコンピュータが真の知能、まし
てや人格などを有しているか否かを判定するには不十分と言える
かもしれません。         ──小林雅一著/朝日新書
                  『クラウドからAIへ/
    アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』
─────────────────────────────
 実際AIと人間との対話は、AIが本当に意味がわかっていな
くても、かなり流暢にできるようになっています。それに加えて
AIは、ウェブサイトからも情報は読めるので、何かわからない
ことをAIに尋ねるレベルのことは十分対応可能です。その限り
において、AIスピーカーは人間の役に立っており、だから、売
れているのです。
 しかし、とくにテーマのない雑談をしたり、カウンセリングな
どの真の相談相手としては、まだまだそのレベルに達しておらず
「弱いAI」のままです。しかし、カーツワイル氏のいうように
もし指数関数的に技術が進化すれば、ある日突然、可能になると
いうことは、十分あるといえます。「強いAI」にはなっていな
いのです。     ──[次世代テクノロジー論U/060]

≪画像および関連情報≫
 ●『機械より人間らしくなれるか?』─人間らしさの測り方
  ───────────────────────────
   チューリングテストというものをご存じだろうか?「機械
  には思考が可能か」という問いに答えを出すために、数学者
  のアラン・チューリングが1950年に提案した試験のこと
  である。審判がコンピュータ端末を使って姿の見えない「2
  人」の相手に5分間ずつチャットする。一方は、本物の人間
  (サクラ)、一方は<AI(人工知能)。チューリングは、
  2000年までにコンピュータが5分間の会話で30%の審
  判員を騙せるようになり、「機械は考えることができると発
  言しても反論されなくなる」と予言した。
   その予言は、いまだ実現していない。だが毎年毎年、数々
  の腕自慢たちが「最も人間らしいコンピュータ」の称号を手
  にすべく、我こそはと名乗りをあげてきた。本書の著者も、
  チューリングテストの中でも、最も有名な大会であるローブ
  ナー賞に参加した人物である。
   しかし、著者が目指したのは「最も人間らしいコンピュー
  タ」の称号ではなかった。この大会にはもう一つ興味深い称
  号も存在するのである。審判員から最も得票を集め、さらに
  その自信度も最も高いサクラに贈られる称号、「最も人間ら
  しい人間」賞の方であったのだ。本書は、そんな人間らしさ
  を追求した著者の挑戦記でもある。https://bit.ly/2LlYl8u
  ───────────────────────────
●図の出典/http://noexit.jp/tn/doc/chu.html

チューリングテストの仕組み.jpg
チューリングテストの仕組み
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2018年07月31日

●「機械の人間化の象徴アンドロイド」(EJ第4817号)

 AI(人工知能)が高度に発達すると、次の2つのことが起き
てきます。ここで「機械」とは、文字通り、機械、マシン、コン
ピュータ、それにAIなど、人間以外のマシンの総称です。
─────────────────────────────
          1.機械の人間化
          2.人間の機械化
─────────────────────────────
 「機械の人間化」とは何でしょうか。
 「AI脅威論」といわれるものがあります。その典型は「AI
に職を奪われる」「AIが上司になったら」「AIに人類は征服
される」など、いろいろいわれています。
 これは、機械が人間化して、人間を凌駕するという恐怖です。
確かに機械の進化によって人間の職が奪われるということは、産
業革命以後、これまでにいくらでもあったことです。今まで人手
でやっていたことが機械でできるようになれば、人間はその仕事
は機械にまかせて、機械にはできないよりレベルの高い仕事に取
り組めばよいだけの話です。仕事はいくらでもあります。
 人間は、自動車を発明したときから、自分の行きたいところに
自由に行くことができるようになっています。しかし、車は自分
で運転するしかありません。運転をしている間は、それに専念す
るしかないのです。それは当り前のことです。
 その自動車の運転が自動化されようとしています。現状は、ま
だかなり危なっかしい状況ですが、安全面はやがてクリアされ、
自動運転は当たり前のことになるはずです。ほんの数年前までは
自動運転の実現などあり得ないことだったはずです。
 今から1年半ぐらい前のことですが、書店で『未来を味方にす
る技術』(技術評論社)という本を手にしました。著者は斎藤昌
義氏、ネットコマース株式会社代表取締役です。私は本を購入す
るとき、「まえがき」を必ず読むことにしています。そこには、
まさに近未来のビジネスシーンが見事に描き出されていました。
この「まえがき」を読んだだけで、私はこの本の購入を決めまし
た。これだけで、内容に確信が持てたからです。私の狙い通り、
内容は素晴らしいものであり、このシリーズを書くのにも、とて
も役立っています。
─────────────────────────────
 「自動走行に切り替えます」
 高速道路に入り、自動走行モードのスイッチを入れると、ハン
ドルが私の手から離れ、ダッシュボードに、スッと吸い込まれて
いった。目的地の最寄りの出口までは1時間ほど。その間に、溜
まったメールを処理しよう。
 座席を後ろに引いて、タブレットを手にとる。ほどなくして、
「緊急の打ち合わせを開きたい」と品質管理部長からメッセージ
が入った。すぐにオンライン会議の画面を開くと、すでに生産技
術部や生産管理部などのメンバーがそれぞれの持ち場から会議に
参加している。(会議スタッフとのやりとりは省略)
 「14:00から山中工場に移動する。重なっているスケジュ
ールはすべてキャンセル。関係者に知らせてくれ」。タブレット
から、「承知しました」と返事が返ってきた。スケジュールは変
更され、関係者には気の利いた文書でメールが配信された。
 「まもなく、高速道路を降りて一般道に出ます。自動走行モー
ドを解除しますので、準備してください」
 ハンドルがダッシュボードからせり出してくる。私はハンドル
を握り直した。やれやれ、今日は長い1日になりそうだ。
    ──斎藤昌義著/『未来を味方にする技術/これからの
        ビジネスを創るITの基礎の基礎』技術評論社
─────────────────────────────
 このビジネスシーンは、何となく、少し前にやっていた「LI
NEワークスのCM」にとてもよく似ています。しかし、これを
読んで、このビジネスシーンを未来物語としてとらえる人は少な
いと思います。自動運転はともかくとして、タブレットによる通
信も会議も既に実現しているからです。
 しかし、自動運転が完全に行われるようになると、職業運転手
は大幅に減少するはずです。しかし、それによって余った労働力
は、必ず人間でなければできない仕事に吸収されるはずです。こ
れまでにも機械化によって、多くの職が奪われ、新しい職が生ま
れているからです。
 しかし、機械の人間化──要するにロボットはどんどん進化し
ます。現代は3Dプリンタがあるので、実物とほとんど変わらな
い人型ロボットができるようになっています。添付ファイルは、
日本のロボット工学者で大阪大学教授。専門は知能情報学工学博
士の石黒浩氏の製作した二足歩行ロボットで、外見や動きや言葉
遣いが自分そっくりの人造人間「ジェミノイドHI−4」です。
このロボットは自分で歩いたり、喋ったりできるのです。こうい
うロボットを「アンドロイド」といいます。現在のところ話をさ
せると、すぐロボットであることがわかりますが、そのうち、ど
ちらが本物かわからなくなる日はすぐそこに迫っています。まさ
に、「機械の人間化」そのものです。石黒浩博士は、人型ロボッ
トについて、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 大事なことは、人は人を認識する機能を持っている、というこ
とです。というよりも人の形をしたもののほうが認識しやすい。
現在のスマホや携帯は、人間にとって理想的なインターフェース
じゃなくて、最も理想的なインターフェースは、人そのものなん
です。だから、技術が進めば、世の中のいろんなものが人間らし
くなっていく。そして、人間らしくなっていったときに、その究
極としてあるのが、アンドロイドだと思います。海猫沢めろん著
         『明日、機械がヒトになる/ルポ最新科学』
                 講談社現代新書/2370
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/061]

≪画像および関連情報≫
 ●石黒浩:アンドロイドの未来に革新をもたらす男
  ───────────────────────────
   彼は自分そっくりに作ったアンドロイドに世界中を旅させ
  て、各地で講演を行わせている。彼は、米国の伝説的カント
  リーシンガー、ジョニー・キャッシュを彷彿とさせる黒ずく
  めの衣装に身を包み(しかし、その理由はキャッシュとは全
  く違う)、アンドロイド研究の真意は「人間が人間であるこ
  との意味」を問うことにあると信じて疑わない。要するに、
  石黒浩という人物は、我々が思い浮かべる研究者像とは大き
  くかけ離れている。アンドロイド研究のスーパースターなの
  だ。彼が幼少期を過ごした頃の日本では、上記に書いたよう
  なことはひとつも実現可能だとは思われていなかった。
   「アンドロイドやロボットについてそれほど興味があった
  わけではなかったんです。私が興味を持っていたのは人間そ
  のもので、元々は油彩画家になりたいと思っていました。同
  時に、私はものを作るのが好きでしたし、人間の脳の働きに
  も興味を引かれていました」と石黒教授は語る。
   石黒少年が抱いたそれらの興味は、彼がやがて組み上げる
  非常に精巧で、人間に近いアンドロイドたちの基礎を成して
  いった。彼のアンドロイドたちはあるラップソングの中にも
  フィーチャーされたが、そのフロウは実にスペシャルだ。石
  黒教授がアンドロイドを作ろうと思い立ったきっかけは、彼
  が大学で人工知能(AI)の研究をしていた時だった。「私
  はすぐにAIを収納するボディの重要性を認識しました。ま
  た同時に、アンドロイドを研究してみたいという自分の欲求
  にも気付いたんです。      https://win.gs/2LX7Oza
  ───────────────────────────

石黒浩博士とジェミノイドHI−4.jpg
石黒浩博士とジェミノイドHI−4
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2018年08月01日

●「ロボットにも『心』が生まれるか」(EJ第4818号)

 「機械の人間化」の話を続けます。先日、池袋のジュンク堂書
店で次の本を発見し、購入しました。ジュンク堂書店では、AI
コーナーが設けられており、そこで発見したのです。
─────────────────────────────
                 海猫沢めろん著
    『明日、機械がヒトになる/ルポ最新科学』
            講談社現代新書/2370
─────────────────────────────
 著者の海猫沢めろん氏は、40代前半のライターで、AIをは
じめ、最新のテクノロジー開発のキーマンを取材し、まとめた本
です。この手の本はたくさんありますが、この本は、単なる取材
本とは一味違うところがあり、とても参考になります。
 「機械の人間化」で一番問題になるのは、やはり「心」の問題
です。これについて、海猫沢めろん氏は、ロボット工学者の石黒
浩博士に次の質問をしています。
─────────────────────────────
──:先生は、ロボットにも「心」は生まれるという話をつねづ
  ねされています。ぼく、その心が、OSとハードウェアに分
  かれているのか、それとも、分かれていないのかが気になっ
  ているのです。
石黒:分かれていますね。ひとつにすることは、今の技術ではで
  きない。人間の心は分かれていないんですね。人間っていう
  のは脳のなかのソフトウェア的な情報処理が、時間が経つと
  ハードウェアの構造──というか、脳のシナプスに影響を与
  えて、長期的な記憶が生まれたり、脳の構造そのものを変え
  たりしているのです。
──:ハードウェアを発達させて、どうにかして、できないんで
  すか。
石黒:そこまでのデバイスはまだつくれないですね。今のIC技
  術を使っている限りは難しそうな気がします。全体がプログ
  ラマブルなハードウェアをつくることができるなら、かなり
  人間の脳に近い構造をもたせることができる可能性もあるん
  ですけど、そこまで行くかどうかはまだちょっと微妙で・・
              ──海猫沢めろん著の前掲書より
─────────────────────────────
 海猫沢めろん氏の「その心が、OSとハードウェアに分かれて
いるのか、それとも、分かれていないのかが気になっている」と
いう表現はきわめてユニークです。石黒博士によると、機械は分
かれているが、人間は一体化しているというのですが、心という
ものを抽象的ではなく、具体的に表現しています。
 人間はともすると「心」という言葉を口にします。悪いことを
すると「心を入れ替えろ」といったり、話し方に「心がこもって
いない」とかいいます。しかし、「心とは何か」と問われると、
何も答えられないのです。石黒博士は「心」について、次のよう
にいっています。
─────────────────────────────
 人に心はなく、人は互いに心を持っていると、信じているだ
 けである。     ────海猫沢めろん著の前掲書より
─────────────────────────────
 石黒博士の論法によると、相手に「心」があると人間が信じれ
ば、ロボットにも「心」は存在するといえます。このテーマは、
ややもすると哲学的になりますが、この石黒博士の意見は、西洋
ではデカルト以来、哲学者がずっと論じ続けている「私」の問題
でもあるわけです。要するに哲学の問題なのです。
 石黒博士は、仏教関係者からも、よく講演を依頼されるそうで
す。浄土真宗の研究部門に石黒ファンが多いようです。「人は互
いに心を持っていると、信じているだけである」という考え方は
仏教でも同じであり、最終的にはすべて無に帰するものと考えて
いるようです。仏教にも通じる問題なのです。
 演劇の世界でもロボットが取り入れられつつあります。多くの
人は、感情を持たないロボットに演劇の俳優が務まるのかと考え
ますが、演出家の平田オリザ氏は、石黒浩博士の協力を得て、既
に「ロボット演劇」を行っています。2013年には、国立劇場
で次の公演が行われています。
─────────────────────────────
 アンドロイド版『三人姉妹』
 原作:アントン・チェーホフ 作・演出:平田オリザ
 ロボット・アンドロイド開発:石黒 浩(大阪大学&ATR石
 黒浩特別研究室)
─────────────────────────────
 「ロボット演劇」といっても、出演者が全部ロボットではなく
人間との共演です。演劇の演出というものは、演出家にもよりま
すが、プログラミングとよく似たところがあります。平田オリザ
氏の演出について、海猫沢めろん氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 平田オリザさんは、舞台役者に対してすごく細かい指示をだし
ます。感情ではなく、どの台詞を何秒、どういう身休の状態で言
うか、そういうプログラミングめいた指示です。つまり、ロボッ
トに対する演出と、人間に対する演出がまったく同じなのです。
「10センチ前に」「1秒間を取って」という演出をロボットで
やると、そのままプログラムを書くだけになります。
 果してそんなものに人は感動するのか?結論からいうと「イエ
ス」です。これは一体なにをしているのでしょうか。
            ────海猫沢めろん著の前掲書より
─────────────────────────────
 演劇だけでなく人々は普通の生活で、ロボットと一緒に暮らす
ようになります。既にそれは始まっています。もしそれが人型ロ
ボットであると、家族と同じように感じてしまってもおかしくは
ないと思います。このように「機械の人間化」は急速に進んでい
るといえます。   ──[次世代テクノロジー論U/062]

≪画像および関連情報≫
 ●ロボットの動きが不自然に見える理由/平田オリザ氏
  ───────────────────────────
  平田オリザ氏:今日、何の話をしようかと思ったんですけど
  石黒浩先生が(今日の講演で)何の話をするかが、分からな
  かったので、僕決めてなくて。どんな意味があるのか、ある
  いは何をしているのかってことなんですね。僕はずっとこの
  15年くらい、石黒先生と全く関係ないところで認知心理の
  方たちと一緒に、演劇のリアルっていうものはどういうとこ
  ろから生まれてくるのかという研究をしていました。分かっ
  てきたことはいくつかあるんですけど、一番単純なところで
  は、どうも皆さんがあの俳優は上手いとか、あの俳優は下手
  だとか、あの俳優はリアルだ、あの俳優は、ちょっとリアル
  じゃないっていうふうに感じる大きな要素の一つに、無駄な
  動きが適度に入ってるかどうか(がある)んですね。最近は
  ずいぶん変わってきてると思うんですけど、例えば今までの
  ロボット工学って(ペンを突き出し)これをいかに上手く掴
  むかっていうことをずっと研究してきたわけですよね。産業
  用ロボットっていうのは、まさにきちんと掴むっていうのが
  大事なわけですけど。でも人間はこんなにガシッとは掴まな
  くて、なんかモノがあったりすると、大体ちょっと手前で止
  まって掴んだりとか、全体像を把握してから掴んだりとか、
  何かのためらいとか、すごく無駄な動きが入るんですね。認
  知心理ではこれを「マイクロスリップ」というんです。
                  https://bit.ly/2AeEoLR
  ───────────────────────────

演出家/平田オリザ氏.jpg
演出家/平田オリザ氏
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2018年08月02日

●「体に『機械』を埋め込んで機械化」(EJ第4819号)

 「機械の人間化」に続いて、「人間の機械化」について考えて
いきます。「人間の機械化」とは何でしょうか。
 人間というものは、何らかの機械のサポートを受けて生活をし
ています。視力が弱くなると、人は眼鏡をかけますし、心臓に疾
患のある人はペースメーカーを身体に埋め込んでいます。難聴の
人は、補聴器を使うか、蝸牛(内耳)を脳に移植して、人とのコ
ミュニケーションをとっています。
 眼鏡や補聴器は別として、機械で身体や能力を強化された人間
のことを「サイボーグ」と呼んでいます。しかし、機械がどんな
に進化したとしても、人間の脳を超えることは、たとえディープ
ラーニングがさらに発達しても、少なくとも現時点では非常に困
難であると考えます。したがって、「機械の人間化」は当分SF
の世界にとどまるものと思われます。
 しかし、機械──AIと考えてもいいと思いますが、人間の脳
と一体化することは十分あり得るし、そういう新しい人類が出現
することは、荒唐無稽ではないと考えます。レイ・カーツワイル
氏は、シンギュラリティ以後、そういう可能性があると考えてい
ることは確かです。
 人間の脳とコンピュータを接続する──実はこれは既に可能に
なっています。米国の国防高等研究計画局(DARPA)が、年
間2400万ドルを投じて、この研究を行っています。これにつ
いて、カーツワイル氏は自著で次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 デューク大学のミグル・ニコレリスらは、サルの脳にセンサー
を埋め込んで、思考だけでロボットを操作させている。実験の最
初の段階では、サルに、ジョイスティックを使ってスクリーンの
カーソルを操作することを教えた。次は、脳波計から信号パター
ンを収集し、ジョイスティックの物理的な動きではなく、脳波信
号の適切なパターンにカーソルが反応するようにした。サルはす
ぐ、ジョイスティックはもう役に立たず、考えるだけでカーソル
が操作できると学んだ。この「思考検出」システムは、次にはロ
ボットに取りつけられ、サルは、思考だけでロボットの動きを制
御するやり方を学習することができた。ロボットの動作から視覚
的なフィードバックを得て、思考によるロボット操作を、完壁に
マスターした。この研究は、身体が麻痺した人に四肢と環境を制
御できるような同様のシステムを提供することを目指している。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
 少し分かりにくいと思うので解説します。
 まず、サルにジョイスティックを操作させて、PCのディスプ
レィ上のカーソルを動作させたのです。カーツワイル氏は書いて
いませんが、そうすることによって、プラスティックの管が押し
出され、サルは水が飲める仕掛けになっていたのです。サルはそ
れをすぐ覚えて、水が飲みたくなると、ジョイステックでカーソ
ルを移動させ、水を飲んだのです。
 次の段階として、サルの脳波を脳波計を使って信号パターンを
収集し、それとディスプレィ上のカーソルが反応するようにした
のです。これは、サルの脳波とコンピュータがつながったことを
意味します。サルは、水を飲もうと思うと、脳波がコンピュータ
に送られ、カーソルがうごいて、水の管が押し出されてくるので
それで水を飲むようになります。当然、その後、サルはジョイス
テックを使わなくなくなるのです。
 この実験は人間に対しても行われ、身体がマヒした人が、考え
るだけで、PCなどを動かすことができるようになっています。
こんな話もあります。2014年にブラジルで行われたサッカー
W杯で、足を失った障害者が、特殊なスーツとこの技術による装
置を組み合わせ、サッカーボールを蹴ることに成功しています。
 これらの実験は2005年に放映された「NHKスペシャル」
で取り上げられています。
─────────────────────────────
              立花隆/最前線報告
       「サイボーク技術が人類を変える」
   NHKスペシャル https://bit.ly/2v27cSP
─────────────────────────────
 NHKは「NHKスペシャル」を公開してくれていませんが、
上記サイトでは、「サイボーグ・テクノロジー」として連続して
視聴することができます。非常に参考になる内容であり、時間の
あるときにご覧になることをお勧めします。
 なかでも注目すべきは、満足に歩行できないパーキンソン病の
患者が、脳に電極を入れる「脳深部電気刺激移植」の手術によっ
て、あっという間に手足の震えが止まり、数週間で普通の人と同
じように歩けるようになる映像は、パーキンソン病によって苦し
む人にとって貴重な情報になると思います。
 これらのサイボーグ研究の最前線は、義手や義足を脳波で動か
すという次の研究です。
─────────────────────────────
      ◎BMI/ Brain-machine Interface
       ブレイン・マシン・インタフェース
─────────────────────────────
 BMIというと、体重と身長の関係から算出されるヒトの体格
指数「ボディマス指数」(Body Mass Index) と間違えてしまい
ますが、サイボークの研究でのBMIです。
 このように、人間の体内に、いわゆる「機械」を埋め込むこと
によって機能の回復を図る技術は非常に進化しつつあります。こ
れはまさしく「人間の機械化」といえます。BMIが進化すると
脳さえ異常がなければ、手足が動かなくなっても、脳波によって
動かすことは可能になっています。しかし、それは医療の分野で
あれば、問題はないものの、それを超えると恐ろしいことになり
ます。       ──[次世代テクノロジー論U/063]

≪画像および関連情報≫
 ●「2030年代、サイボーグとなった人類は"神"に近づく」
  ───────────────────────────
   世界的な未来学者、発明家のレイ・カーツワイル氏の予想
  によれば、人間は脳をコンピュータに接続することによって
  さらに複雑な感情や特質を発達させるという。
   「人間は、もっとユーモラスで、魅力的に、そして愛情表
  現が豊かになるでしょう」。シリコンバレーにある教育機関
  「シンギュラリティ・ユニバーシテイ」(SU)で最近行わ
  れたディスカッションで、カーツワイル氏はこのように述べ
  た。彼はグーグルの技術責任者として人工知能(AI)の開
  発に参加しているが、この言葉は同社を代表して述べたもの
  ではない。
   カーツワイルの予想では、2030年代に人間の脳はクラ
  ウドに接続可能になり、メールや写真を直接、脳に送信した
  り、思考や記憶のバックアップを行ったりできるようになる
  という。これは脳内毛細血管を泳ぎまわるナノボット(DN
  A鎖からつくられる極小ロボット)によって可能になる、と
  カーツワイル氏は言う。非生物的な思考へと脳を拡張するこ
  とは、私たちの祖先が、道具を使用することを学習したのと
  同様に、人類の進化の次なるステップであると彼は捉えてい
  る。また、この拡張によって論理的知性だけでなく、感情的
  知性も高まるという。「人間は、脳モジュールの階層レベル
  を増やし、さらに深いレベルの感情表現を生み出すだろう」
  とカーツワイルは述べた。    https://bit.ly/2uXoTmr
  ───────────────────────────

意識するだけで、カーソルが動く.jpg
意識するだけで、カーソルが動く
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2018年08月03日

●「人体1・0から人体2・0が誕生」(EJ第4820号)

 「人間の機械化」について考えます。これまでの人体を「人体
1・0」とします。この人体は、さまざまな病気に襲われ、加齢
が進むにつれて人体は年々弱ってきます。バージョン1・0の人
体は、持続力が弱く、生きて行くために必要な資源を肉体内に多
くを蓄めておけないのです。そのため、生きるために、つねに呼
吸し、つねに食品を摂取する必要があります。
 バージョン1・0の人体は、血液中に蓄えられる酸素はわずか
数分しか持たず、グリコーゲンの形で蓄えられるエネルギーは、
せいぜい持って数日分です。しかし、シンギュラリティが近づき
それを超えると、テクノロジーの指数関数的発達によって、そう
いう人体の虚弱体質は大きく修復・改善され、病気にならない強
靭な人体に生まれ変わるといいます。これによって、人間はかな
り長期間、代謝資源がなくても、生きて行けるようになります。
 レイ・カーツワイル氏は、これを「人体2・0」と呼び、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 シンギュラリティが近づくにつれて、人間生活の本質について
考え直し、社会制度を再設計しなくてはならなくなるだろう。た
とえば、G(遺伝学)とN(ナノテクノロジー)とR(ロボット
工学)の革命が絡み合って進むことにより、バージョン1・0の
虚弱な人体は、はるかに丈夫で有能なバージョン2・0へと変化
するだろう。何10億ものナノボットが血流に乗って体内や脳内
をかけめぐるようになる。体内で、それらは病原体を破壊し、D
NAエラーを修復し、毒素を排除し、他にも健康増進につながる
多くの仕事をやってのける。その結果、われわれは老化すること
なく永遠に生きられるようになるはずだ。
 脳内では、広範囲に分散したナノボットが、生体ニューロンと
互いに作用し合うだろう。それは、あらゆる感覚を統合し、また
神経系をとおしてわれわれの感情も相互作用させ、完全没入型の
バーチャルリアリティ(VR)を作りあげる。さらに重要なのは
生物的思考とわれわれが作りだす非生物的知能がこのように密接
につながることによって、人間の知能が大いに拡大することだ。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
 人類の寿命は年々伸びています。シンギュラリティが近づくと
その伸長はさらに加速される。ナノテクノロジーの研究者である
ロバート・フレイタス氏によると、老化や病気のうち、医学的に
予防可能な症状の50%を予防できれば、平均寿命は150年を
超えるといっています。シンギュラリティになれば、その予測は
不可能であるとはいえず、十分達成する可能性はあります。考え
てみると、人類はこれまでさまざまなテクノロジーを開発して、
平均寿命を伸ばしてきた歴史があります。実際に平均寿命は次の
ように伸びてきています。
─────────────────────────────
 ◎平均寿命
  クロマニヨン人の時代      ・・・・・ 18歳
  古代エジプト          ・・・・・ 25歳
  1400年ヨーロッパ      ・・・・・ 30歳
  1800年ヨーロッパ/アメリカ ・・・・・ 37歳
  1900年アメリカ       ・・・・・ 48歳
  2002年アメリカ       ・・・・・ 78歳
           ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
─────────────────────────────
 かぎを握るのは、ロバート・フレイタス氏の提示する「人工赤
血球」(レスピロサイト)の実現であるといいます。これが実現
すると、人は酸素なしで何時間も生きられるようになります。
 ロバート・フレイタス氏は、赤血球だけでなく、血小板や白血
球、すなわち血液を人工物に交換するナノテクノロジーを研究し
ています。「人工血小板」と「人工ナノマシン」による白血球の
代替も実現し、血液をすべて改変し、プログラミングできるよう
にすることも考えているといいます。
 そして、カーツワイル氏の人体改造研究は「心臓」にまで及ぶ
のです。心臓は、体の他の部分よりも早くだめになり、心不全を
起こしやすく、寿命を縮める重要要因のひとつです。これについ
て、カーツワイル氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 人工心臓への交換も実現し始めているが、もっと有効な方法は
心臓を完全に取り除くことだろう。フレイタスが設計したものの
ひとつに、自力運動性のナノボット血球がある。血液が自動的に
流れるのであれば、一点集中のポンプにひじょうに強い圧力が求
められるという技術上の問題は解消される。ナノボットを血液中
に出し入れする方法が完成されるにしたがい、やがてはナノポッ
トと血液をすっかり取り替えられるようになるだろう。フレイタ
スは500兆のナノボットからなる複雑なシステム「ヴァスキュ
ロイド」の設計についても発表したが、それは人間の全血流の代
わりになるもので、流動することなく必須の栄養や細胞を体の各
所に届けられる。   ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
─────────────────────────────
 カーツワイル氏のいわんとすることは、酸素摂取効率が抜群に
高い人工赤血球が本当に開発されれば、そもそも心臓のような一
極集中型の臓器は必要ないというのです。いつ誤動作や緊急停止
するかわからない心臓ひとつに頼るより、血液を改革できれば、
そもそも循環させる必要もないから、皮膚呼吸で十分じゃないか
というわけです。
 しかし、ここまでやると、もはや人造人間です。このバージョ
ン2・0を人間と呼べるのかどうかという問題になります。結局
人間にとって最後に残るのは、脳だけということになりかねない
のです。これは、まさしく「人間の機械化」そのものです。
          ──[次世代テクノロジー論U/064]

≪画像および関連情報≫
 ●身体の中に病院を作る!?/「ナノマシン」が現実に
  ───────────────────────────
   80年代に長期的なヒットを飛ばしたRPG「サイバーパ
  ンク2020」や、最近だと「エクリプス・フェイズ」など
  など(日本で有名なのはガンダムだろう)で使われていた大
  量のナノマシンをあなたは覚えているだろうか。
   かつてゲームやアニメの中で活躍していたナノマシンは、
  それらを通じてナノマシンの危険性や可能性を我々に間接的
  に伝える役目を果たしていたが、今ではすっかり取り上げら
  れなくなり、まるで死語のような扱われ方をしている。
   しかし、最近また、注目を集め始めている「ナノテクノロ
  ジー」によって、目に見えない極小サイズのワイヤレスマシ
  ンが現実のものになったらどうだろう。SFの世界でしか起
  こりえなかったことが現実に起こるかもしれないとしたら?
   あのナノマシンが互いにコミュニケーションを取りあうこ
  とができたら、どんな使い方が考えられるだろうか。先日、
  まさにこの研究に取り組んでいる科学者たちがいることが明
  らかになった。彼らが研究しているのは人のDNAの100
  倍ちょっとの大きさで、血液の流れに乗ってデータを運ぶこ
  とができるナノサイズのデバイスである。ナノテクノロジー
  は、世界的に超高齢化社会を迎えつつある現在、医療への応
  用に大きな期待を寄せられている。この技術を活用すること
  で診断から治療まで、医者は患者の体のいたるところをリア
  ルタイムで解析できるようになる。現在の検査は放射線など
  体に有害となりうるものを使用しなければならないが、これ
  が人体に無害で賢い「ナノデバイス」に取って代われる日が
  来るかもしれないのだ。     https://bit.ly/2LvitVM
  ───────────────────────────

血中で活躍するナノマシン.jpg
血中で活躍するナノマシン
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2018年08月06日

●「シンギュラリティ/脳が拡大する」(EJ第4821号)

 7月30日から8月3日のEJで、レイ・カーツワイル氏の唱
える「シンギュラリティ」(2045年問題)に基づく未来予測
について書いてきましたが、彼の未来予測についてどのように受
け止められたでしょうか。
 普通は、これほど思い切った予測をすると、多くの学者から反
論の嵐を浴びるものですが、一部ではそういう動きもあるものの
彼の唱える「シンギュラリティ」は、ほぼ肯定的に受け止められ
ているといえます。
 なぜかというと、カーツワイル氏は「未来学者」として紹介さ
れていますが、2012年から現在AIに関しては最も先進的な
企業のグーグルに籍を置き、最先端のAIを研究しているため、
AIの先端技術に最も近い学者としての信用があるからです。
 しかし、カーツワイル氏について、既出の小林雅一氏は、再新
刊書で、次の評価をしています。
─────────────────────────────
 カーツワイル氏は若干奇矯な人物として知られているため、仮
に彼一人がこうした予想を口にするだけなら、それほど真剣に取
り上げられなかったかもしれない。が、実際には同氏のみならず
世界的に有名な物理学者のステイーヴン・ホーキング博士や宇宙
旅行ビジネスなどを開拓するスケールの大きな起業家イ一ロン・
マスク氏ら、各界の著名人も同様の警告を発している。このため
シンギュラリティに代表されるAI脅威論、つまり「超越的な進
化を遂げたAIが人類の生存を脅かす」との予想も、非常な関心
と危機感を煽っている。
 しかし、この点についても世界的な有名人に異を唱えるのは、
少々おこがましいが、ホーキング博士やマスク氏らはAIの専門
家ではない。つまり人工知能を実現するための具体的技術や、そ
の内部メカニズムについては、それほど詳しいと思えないのであ
る。それなのに、なぜAIが今後、発展していく方向性や、その
潜在的な危険性などを占うことができるのだろうか?
 むしろ彼らはある種の興味本位、あるいはセンセーショナルな
予想によって世間の関心を惹こうとする動機の方が強いのではな
かろうか。     ──小林雅一著/『AIが人間を殺す日/
          車、医療、兵器に組み込まれる人工知能』
                   集英社新書/0890
─────────────────────────────
 小林雅一氏は、「シンギュラリティに代表されるAI脅威論」
という表現を使い、カーツワイル氏があたかもAI脅威論の元凶
というような位置づけですが、私は少し意見が違います。ここま
での検討で既に述べているように、AI脅威論というのは、いわ
ゆる「機械の人間化」によって、人間の知能をはるかに上回る機
械(ロボット)が出現し、人類を征服するというものです。小林
氏自身、上記の新刊書で次のように述べています。
─────────────────────────────
 それ(カーツワイルのシンギュラリティ)によれば、2045
年頃には、コンピュータ・プロセッサの処理能力(人工知能のベ
ースとなる技術)が人間の知力を上回り、いずれは、AIが意識
や感情までも備えるようになる。そして遠い未来には、AIやロ
ボットが人類を支配し、その生存を脅かす恐れすらある、との見
方である。           ──小林雅一著の前掲書より
─────────────────────────────
 しかし、カーツワイル氏はそうはいっていないのです。彼の本
をていねいに読むと、AIは指数関数的に発達して、それが人間
の脳と一体化する「人間の機械化」が起こり、スーパー人間が出
現すると予測しています。もっとも、小林雅一氏もそのことは認
めていて、次の但し書きを入れています。
─────────────────────────────
 元々、カールワイル氏はそこまでは言わなかったが、やがて話
に尾ひれがついて、どんどん誇張されていった。
                ──小林雅一著の前掲書より
─────────────────────────────
 そうなんです。カーツワイル氏のシンギュラリティ論を聞いて
一部の学者たちが、AIを人間とは異なる生命体として認識し、
その超人的パワーを誇張した結果、人類征服などの脅威論が生ま
れたのです。
 この脅威論はあり得ないと考えます。しかし、発達したAIが
人間の脳と一体化し、脳が拡張することは、十分あり得ることで
す。脳が拡張すると、それまでは考えられなかったことが起きる
可能性があります。今から約200万年前に、人類の脳の拡大が
起きたといわれています。脳が拡大したことで、階層構造が増え
て、それが言語の誕生につながり、芸術や音楽がそれに続いたの
です。その脳の拡大がまた起きようとしているのです。それがシ
ンギュラリティです。カーツワイル氏は、そのときにはコンピュ
ータがナノマシン化し、脳にすら入るようになり、生物的な脳を
パワーアップするといっています。
─────────────────────────────
 「バージョン2・0」の人体のシナリオは、テクノロジーとま
すます緊密な関係になる傾向がこの先もずっと続くことを示して
いる。誕生した当初のコンピュータは、空調のきいた部屋で白衣
の専門家が管理する巨大な機械で、一般の人にとってはずいぶん
遠い存在だった。それが机上に置けるようになったかと思うと、
じきに腕で抱えて運べるようになり、今ではポケットに入ってい
る。遠からず、日常的に体や脳の内側に入ってくるだろう。20
30年代までには、人間は生物よりも非生物に近いものになる。
2040年代までに、非生物的知能はわれわれの生物的知能に比
べて数10億倍、有能になっているだろう。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/065]

≪画像および関連情報≫
 ●AI脅威論の払拭を模索する研究者たち/ニュースイッチ
  ───────────────────────────
   人工知能(AI)研究者が社会の不安や懸念に応えようと
  模索している。産業技術総合研究所人工知能研究戦略部が今
  後の技術開発について「人間との協調」や「AIへの信頼」
  「構築のしやすさ」の三本柱を設定し、社会に受け入れられ
  るAI研究を探る。これらは内閣府の人工知能技術戦略会議
  がまとめる実行計画に採用される見込みだ。先に政府が示し
  た「統合イノベーション戦略」に大まかな方向性が盛り込ま
  れていた。多くのAI関連の戦略が策定されてきたが抽象的
  なものが多かった。基盤技術の具体的なテーマにまで踏み込
  んだ実行計画がまとまれば、社会の漠とした不安も払拭でき
  るかもしれない。
   「AIの本格的な社会実装に向けて問題点が整理されてき
  た」と産総研人工知能研究センターの辻井潤一センター長は
  三本柱を挙げた背景を説明する。現在の第三次AIブームが
  AIによる失業への不安や脅威論によって広がった側面もあ
  り、AI研究者は常に社会からの期待と懸念にさらされてき
  た。そのためAI判断の説明可能性や信頼性保証、プライバ
  シー保護など、社会受容性を広げる技術が活発に研究されて
  いる。そして日本のAI戦略に現場主義が採り入れられた。
  現場に信頼され、現場で構築しやすい技術が三本柱に掲げら
  れた。そもそもAI2強の米国と中国は、それぞれグーグル
  やアリババといった巨大プラットフォーマーを抱える。国家
  やプラットフォーマーが集める膨大なデータをAIに学習さ
  せて精度とサービスを磨く。対して日本は現場力を強みとす
  る方針だ。工場などの現場をIoTでスマート化し、良質な
  データを集めてAIの精度を高め現場力を向上させる。
                  https://bit.ly/2AmA8tC
  ───────────────────────────

シンギュラリティ/カーツワイル氏.jpg
シンギュラリティ/カーツワイル氏
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2018年08月07日

●「最新の人工知能を医療に応用する」(EJ第4822号)

 AI(人工知能)の活用というと、新聞などに載るのはほとん
ど医療以外のビジネスへの応用です。7月31日付けの日本経済
新聞でひろってみると、次の2つがあります。こういう「AI」
の記事が毎日のように新聞に掲載されています。
─────────────────────────────
       ◎公的年金の運用/AIで安全管理
       ◎     AIでブランド品鑑定
            ──2018年7月31日本経済新聞
─────────────────────────────
 しかし、AIを医療に応用するということがもう少しあっても
いいのではないかと思います。現代のAIなら、世界中で日々発
表され、蓄積されている医学論文を物凄いスピートで読破し、そ
れを前提として医師が知らなかった病名やその治療法を情報とし
て提示できるはずだからです。
 その先駆けになっているのが米IBMの「ワトソン」です。I
BMは、2014年にワトソン事業部を発足させ、当初10億ド
ル(約1000億円)の予算と1万人のスタッフを配置し、ワト
ソンの利用拡大に本格的に取り組んでいます。
 そのなかで、最も力を入れているのが「ワトソンヘルス」と呼
ばれる医療ビジネスです。これには、全スタッフの3分の2の人
材を当てていますが、次の3つのことに重点を絞っています。
─────────────────────────────
        1.      新薬の開発
        2.    がんの診断支援
        3.ゲノム解析アドバイザー
─────────────────────────────
 3の「ゲノム解析アドバイザー」というのは、患者のDNAな
どの遺伝情報を解析して、個々の患者に最適な治療法を提供する
新型医療のことです。
 2の「がんの診断支援」については、既に注目すべき成果が上
がっています。東京大学医科学研究所が2015年7月に、国内
の先陣を切ってワトソンを導入し、急性骨髄性白血病を患ってい
る60代女性の診断にワトソンを使っています。
 その結果について、2016年8月4日付、日本経済新聞は、
次のように報道しています。これは、国内初の成功例であり、注
目すべき事例です。
─────────────────────────────
 膨大な医学論文を学習した人工知能(AI)が、診断が難しい
60代の女性患者の白血病を10分ほどで見抜いて、東京大医科
学研究所に適切な治療法を助言、女性の回復に貢献していたこと
が、2016年8月4日、分かった。
 使われたのは米国のクイズ番組で人間のチャンピオンを破った
米IBMの「ワトソン」。東大は昨年からワトソンを使ったがん
診断の研究を始めており、東條有伸教授は「AIが患者の救命に
役立ったのは国内初ではないか」と話している。(中略)
 女性患者は昨年、血液がんの一種である「急性骨髄性白血病」
と診断されて医科研に入院。2種類の抗がん剤治療を半年続けた
が回復が遅く、敗血症などの危険も出た。そこでがんに関係する
女性の遺伝子情報をワトソンに入力すると、急性骨髄性白血病の
うち「二次性白血病」というタイプであるとの分析結果が出た。
 ワトソンは抗がん剤を別のものに変えるよう提案。女性は数ヶ
月で回復して退院し、現在は通院治療を続けているという。東大
とIBMは昨年から、がん研究に関連する約2千万件の論文をワ
トソンに学習させ、診断に役立てる臨床研究を行っている。
          ──2016年8月4日付、日本経済新聞
               https://s.nikkei.com/2M1rRg2
─────────────────────────────
 ここで、ワトソンに関して知っておくべきことがあります。そ
れは、ワトソンが現在AIの主流になりつつあるディープラーニ
ングによる診断システムではなく、高度に発達したルールベース
のAIであるということです。つまり、ワトソンは、医療エキス
パートシステムなのです。
 仮にあるがん患者に対する治療法に関して、医師の判断とワト
ソンの間で意見が割れたとします。具体的にいうと、ステージ2
の大腸がん患者に対し、医師は「化学療法が必要である」と判断
したが、ワトソンは「化学療法は効果がなく、様子をみるべき」
というように意見が割れたとしてます。
 この場合、ワトソンには「ワトソン・パス」と呼ばれる医師支
援機能が用意されています。ワトソン・パスとは、ワトソンがど
のようなエビデンス(科学的根拠)や推論に基づいて、結論を出
したかのプロセスを示す機能です。
 医師としては、ワトソンの推論プロセスが分かると、その結論
に従うか、やめるかの判断ができるので便利です。しかし、その
思考過程をディープラーニングで行うと、AIシステムがどのよ
うなプロセスを経て、その結論に至ったかを示すことが困難にな
ります。判断プロセスが高度化すればするほど、思考プロセスが
複雑過ぎて、ブラックボックス化してしまうのからです。
 この問題に関連して、小林雅一氏は、最近の米国のDARPA
の動きを次のように伝えています。
─────────────────────────────
 米国のDARPAでも「理由を説明できる人工知能」という研
究テーマを設けて、その開発に着手した。このプロジェクトでは
ディープラーニングによる機械学習の性能を最大限に高めると同
時に、その思考プロセスを(医師のような)人間が理解し、信頼
することができる「次世代のAI」開発を目指している。
          ──小林雅一著/『AIが人間を殺す日/
          車、医療、兵器に組み込まれる人工知能』
                   集英社新書/0890
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/066]

≪画像および関連情報≫
 ●バイアスのないアルゴリズムはつくれるか?
  ───────────────────────────
   人工知能(AI)は病院やヘルスケア団体に活用され始め
  ている。CTスキャンの解析から、どの患者が治療中に最も
  衰弱しやすいかを予測することまで、AI技術はあらゆるこ
  とに使われているのだ。
   アルゴリズムを走らせるための情報源は電子カルテだ。こ
  れらのアルゴリズムは、医師が腫瘍の変異具合をもとに最適
  ながん治療を選んだり、過去の患者のデータをもとに治療計
  画を立てたりするのを助けるために設計されている。
   しかし、アルゴリズムやロボットは、ヘルスケア領域にお
  ける倫理を学ぶことができるのだろうか?
   スタンフォード大学の医師グループは、AIを医療に使う
  ためには倫理面での課題があり、ヘルスケア分野のリーダー
  たちはAIを実装する前にそのことについてよく考えなけれ
  ばならないと主張する。
   「機械学習システムのメカニズムを理解しないままでいる
  こと、それをブラックボックスのままにしておくことで、倫
  理的な問題が発生することになるでしょう」。2018年3
  月中旬に発刊された 「New England Journal of Medicine」
  で、そう綴っている。彼らの懸念は、タイムリーなものだっ
  た。同じく3月中旬、こんなヘッドラインが飛び込んできた
  からだ。「医者と同じように前立腺がんの診断を行うスマー
  トソフトウェア」。       https://bit.ly/2AtZ7ve
  ───────────────────────────

IBM/ワトソン.jpg
IBM/ワトソン
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2018年08月08日

●「サイボーグ化が急速進行する人体」(EJ第4823号)

 8月1日から、京都大チームによって、iPS細胞を利用した
パーキンソン病の治療がスタートしています。その治験の内容は
次の通りです。
─────────────────────────────
 パーキンソン病は脳内で神経伝達物質ドーパミンを出す神経細
胞が減り、体のこわばりや手足の震えが起こる難病で、根本的な
治療法はない。治験は京大病院が京大iPS細胞研究所と連携し
て実施。計画では、京大が備蓄する、拒絶反応が起きにくい型の
他人のiPS細胞から作った神経細胞を脳内に移植し、ドーパミ
ンを出す神経細胞を補う。       ──産経フジWEST
                  https://bit.ly/2KePDUg
─────────────────────────────
 iPS細胞による再生医療は、一般的には、自分の身体の一部
から作ったiPS細胞で組織や臓器をつくり、それを移植するも
のですが、今回のパーキンソン病の治療では、他人のiPS細胞
から作った神経細胞を脳内に移植するので、当然のことながら、
拒絶反応が起きます。もし、これが成功すれば、世界初であり、
画期的なことであるといえます。
 このような再生医療の技術が進化すると、体内器官の交換は容
易にできるようになり、基本的には虚弱の人体「バージョン1・
0」は、さまざまなテクノロジーによって守られ、だんだん強靭
化して、「バージョン2・0」の人体になっていきます。これに
ついて、カーツワイル氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 人類はそのテクノロジーによってすでに本来の寿命を伸ばして
きた。この場合、テクノロジーとは、薬品、サプリメント、ほぼ
あらゆる体内器官の交換、その他人体へのさまざまな介入を意味
する。体の部分を交換する技術はすでに整っている。腰、ひざ、
肩、肘、手首、あご、歯、皮膚、動脈、静脈、心臓の弁、腕、腿
足、指、そして、つま先に至るまで。そして、さらに複雑な器官
(たとえば心臓)を取り替えるシステムも導入され始めている。
人間の体や脳が動く仕組みが明らかになるにしたがって、手持ち
のものよりはるかに優れた器官をじきに作りだせるようになるだ
ろう。それらは長持ちし、機能面でも優れており、弱ったり、病
気になったり、老化したりしない。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
 人体を構成するパーツは、このように、心臓ですら取り替える
ことが可能になりつつありますが、唯一交換できないのが「脳」
ということになります。
 しかし、脳に関してもさまざまな研究が進んでいるのです。M
ITとハーバードの研究員は、傷ついた網膜ニューロンと交換可
能な神経移植組織を開発しています。人間の脳と神経系のリバー
スエンジニアリングに基づく移植組織であり、パーキンソン病患
者の症状改善に大きな効果を上げることが期待されています。専
門的ですが、脳の視床後腹側核および視床下核と直接作用するこ
とで、パーキンソン病患者のもっとも深刻な症状を改善させよう
としているのです。
 このようにして、「バージョン1・0」の人体は、「バージョ
ン2・0」に移行していくのですが、それは、人間がサイボーグ
化することを意味します。いい替えると、それは人間の本来持っ
ている生物的機能のなかに、後から加えられた非生物的機能が増
えて行くことになります。
 もちろん脳がしっかりしていれば、脳に非生物的機能が加えら
れない限り、あくまで人体における生物的機能の優位は揺るぎま
せんが、脳にまで非生物的機能が入ってくると、人間は、自らの
本質について問い直す必要が出てきます。
 カーツワイル氏は、シンギュラリティが近付くにつれて、人体
は、脳を含めて再設計され、「バージョン3・0」に進化すると
して、次のように述べています。
─────────────────────────────
 人体は──2030年代から2040年代には──さらに根本
的なところから再設計されてバージョン3・0になっているとわ
たしは想像する。個々の下位組織を作り直すというよりも、われ
われ(思考と活動にまたがる生物的および非生物的部分)はバー
ジョン2・0での経験をもとにして人体そのものを刷新する機会
を得るだろう。バージョン1・0から2・0への移行のときと同
様に、3・0への移行もゆっくりと進み、その過程では多くのア
イデアが競合することになる。
 バージョン3・0の特性としてわたしが想像するのは、人体を
変化させる能力だ。VR環境ではいともたやすく実現できること
だが、われわれは現実世界でもそれを可能にする方法を身につけ
るだろう。具体的にはMNT(マイクロ・ナノテクノロジー)ベ
ースの構造を体内に組み入れることによって、身体的特徴を好き
なようにすぐ変えられるようになる。
           ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
─────────────────────────────
 「バージョン3・0」の人体──これは、人間の機械化がさら
に進化した状態であるといえますが、3・0になると、「ヒュー
マン・オーグメンテーション」の動きが出てきます。
─────────────────────────────
      ◎ヒューマン・オーグメンテーション
              Human Augmentation
─────────────────────────────
 これは、人間と機械が一体化して、人間の能力を拡張させるテ
クノロジーのことで「人間拡張」といわれています。これは日本
においては、東京大学の暦本純一教授が提唱しているものです。
人間の機械化はどこまで進化するのでしょうか。
          ──[次世代テクノロジー論U/067]

≪画像および関連情報≫
 ●ヒトの能力はどこまで強化・拡張できるのか
  ───────────────────────────
   コンピュータや人工知能(AI)の発達によって、特定の仕
  事や処理では人間をはるかに超える知的能力を実現する機械
  が登場するようになった。今さら数値計算でコンピュータを
  圧倒できると思う人はいないだろうし、将棋や囲碁でもAI
  には勝てなくなってきている。そのため、こうした機械は、
  人間の知的能力を強化する道具として生活や仕事の中で欠か
  せない存在になっていることは確かだ。
   コンピュータやAIの発達に伴って、いずれは人間の仕事
  の全てが奪われ、ひいては人間が支配される側に回るという
  ディストピアの現出を心配する声は根強い。しかし、これは
  杞憂かもしれない。確かにコンピュータやAIは、処理の対
  象範囲やルールが定まった状況下では驚異的な能力を発揮す
  る。しかし、何が起きるか分からない状況下では、理性や道
  徳性、倫理性など人間固有の価値観に基づいて、一定レベル
  以上の答えを出す人間にはかなわない。人間とコンピュータ
  やAIの間には、知的能力の質に明らかな違いがあり、人間
  にしかできない仕事は必ず残るように思える。
   人間と機械を主従関係や対立構図でとらえるのではなく、
  両者の知的能力の特長を融合させて、より高度な仕事を、よ
  り効率的にこなす方法を模索する取り組みが活発に進められ
  るようになった。大半の知的作業において、最高レベルのパ
  フォーマンスを発揮したいと思うのなら、人間、もしくはコ
  ンピュータのどちらかに全面委託するのではなく、両者が協
  調して作業を進めた方がよほど効果的だ。
                  https://bit.ly/2vtQ87o
  ───────────────────────────

歴本純一東京大学教授.jpg
歴本純一東京大学教授
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2018年08月09日

●「『IoT』から『IoA』に拡張」(EJ第4824号)

 「人間の機械化」の話をさらに一歩先へ進めることにします。
8月6日付のEJ第4821号でご紹介したレイ・カーツワイル
氏の言葉を再現します。
─────────────────────────────
 誕生した当初のコンピュータは、空調のきいた部屋で白衣の専
門家が管理する巨大な機械で、一般の人にとってはずいぶん遠い
存在だった。それが机上に置けるようになったかと思うと、じき
に腕で抱えて運べるようになり、今ではポケットに入っている。
遠からず、日常的に体や脳の内側に入ってくるだろう。2030
年代までには、人間は生物よりも非生物に近いものになる。
          ──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
   『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
─────────────────────────────
 これは、コンピュータが特別な部屋に設置された巨大な特殊な
機械から、机の上におけるデスクトップPCになり、さらに持ち
運べるノートPCに小型軽量化し、最近ではポケットに入るスマ
ホになっている経緯を示しています。
 実はこの小型化の流れは、テクノロジーの指数関数的進化に伴
い、急速に進み、やがてマイクロマシンになって、人間の体や脳
内にまで入ってくる──このようにカーツワイル氏はいっている
のです。これは、人間の脳とコンピュータが接続される可能性に
言及しています。これが実現すると、脳はインターネット上の膨
大な知識ベースを知識として保有することになります。
 これによって、人間にはできないが、コンピュータならできる
ことが人間にも容易にできるようになり、そこにスーパー人間が
誕生します。カーツワイル氏は、このスーパー人間は、脳とコン
ピュータという非生物が合体することになり、それは果して「生
物」といえるのかという根本的問題を問いかけているのです。
 もちろん、そんなことが実現するはずがないという人はたくさ
んいます。しかし、現在、この「人間拡張/ヒューマン・オーグ
メンテーション」が大真面目に研究され、実験されるようになっ
ています。その中心にいる学者の一人が、東京大学大学院教授の
暦本純一氏です。暦本教授は、次のことを提唱しています。
─────────────────────────────
          IoT → IoA
─────────────────────────────
 「IoA」とは、何でしょうか。
 2017年11月3日のことです。東京大学の暦本教授は、米
国サンフランシスコで開催された「ザ・ニューコンテキスト・カ
ンファレンス/2017」で次のテーマで講演を行っています。
─────────────────────────────
  「AI時代の人間拡張」/東京大学大学院暦本純一教授
    THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2017 SAN FRANCISCO
─────────────────────────────
 いわゆる機械による人間拡張──ここでいう「拡張」の意味を
今まではできなかったことができるようになるという意味の人間
の能力拡張を意味するとすれば、PCやスマホを持つことも能力
の拡張ということができます。
 しかし、ここで暦本教授が提唱していることは、そんなレベル
の能力の拡張ではなく、カーツワイル氏のいう「バージョン2・
0」の人体レベルの能力拡張なのです。暦本教授は講演で、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 オーグメンテーションは個人が対象とは限らない。自分以外の
他者とつなげることができるし、「他者」とはロボットであった
り、人間であったりする。つまり、さまざまなタイプの組み合わ
せによるコラボレーションができるのだ。(中略)こうしたこと
はIoA(Internet of Abilities) と呼ばれる。IoTの次に
やって来るフェーズである。IoTはモノのネットワークである
のに対し、IoAは「アビリティ(能力)のインターネット」で
ある。IoAによって、「能力」を結びつけたり、交換したりで
きるようになる。
 テクノロジーは、人と人とをつなげることもできる。人間の能
力を拡げる、非常に重要な方法である。「人間対人間ジャック・
イン」である。ある人の知覚を丸ごと他の人に移し替えることで
あり、新しいタイプのコミュニケーションや教育となりうる、非
常に大きな機会である。現代の技術ではまだできないが、視覚に
ついては可能である。例えば、スカイダイビングのような特別な
瞬間を交換するなどの場合である。  https://bit.ly/2Mi3fQp
─────────────────────────────
 暦本教授は「ジャック・イン・ドローン」というものを説明し
ています。ウェアラブル端末を装着している人に限りますが、人
についてドローンは飛行します。人間が動けば、ドローンも動き
ます。ドローンにはカメラが付いており、人間にはドローンから
の映像が見えます。これは、ドローンがなければ見えない映像で
あり、能力の拡張といえるというわけです。
 もし、ドローンが、人間の目が死角になる位置を自動的に判断
して移動するとすれば、自分の見えない場所の映像がつねに見え
ていることになり、視覚の拡張、すなわち、人間の能力の拡張が
行われることになります。これは、人間とドローンの基本的な接
続の形態であると暦本教授はいいます。
 人間がドローンに没入することもできます。ドローンと一体化
するといってもよいと思います。この場合、ドローンのカメラが
人間の目になるので、本来人間では見ることができない景色を見
ることができます。どらえもんの「竹コプター」のような感じを
味わうことができるわけです。その状況から脱却するには、「ジ
ャック・アウト・ドローン」をすればよいのです。
 暦本教授の「人間拡張」テクノロジーについては、もっと驚く
べきものがあります。明日のEJでも、暦本教授の「人間拡張」
について考えます。 ──[次世代テクノロジー論U/068]

≪画像および関連情報≫
 ●AIは人間の能力を拡張するもの/ダニエル・ラス所長
  ───────────────────────────
   人工知能に仕事が奪われることを恐れてばかりいると、人
  工知能との協調に秘められた大きなチャンスを見逃すことに
  なるかもしれない。私たちはロボットや人工知能(AI)が
  仕事を奪うと心配するのではなく、人間と機械が協力する新
  たな道を探るべきだとマサチューセッツ工科大学(MIT)
  コンピューター科学・人工知能研究室(CSAIL)のダニ
  エラ・ラス所長はいう。ラス所長は、「人間と機械は争うの
  ではなく、協力すべきだと思います」とMITテクノロジー
  レビュー主催の年次イベント「EmTech MIT 2017」 の基
  調講演で語った。
   これからの時代、テクノロジーが雇用にどう影響するかは
  経済学者、政策立案者、科学技術者にとって、大きな問題と
  なっている。ロボット工学とAIの研究で世界の先陣を切る
  CSAILは、来たる変化の波に大きな関心を寄せている。
  専門家の間では、自動化とAIがどの程度仕事に影響するか
  について、意見が異なる部分もある。また、新しいビジネス
  が作り出されることで、現在の仕事がどう埋め合わされるか
  についても意見が違う。2017年11月上旬、ラス所長と
  MITの研究者は「人工知能と仕事の未来」と題したイベン
  トを企画した。講演者の中には、これから直面するであろう
  大きな変化に差し迫った警告をする者もいた。
                  https://bit.ly/2OboBiY
  ───────────────────────────

暦本純一東大教授.jpg
暦本純一東大教授
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2018年08月10日

●「体外離脱アイデア/人間ウーバー」(EJ第4825号)

 暦本純一東京大学教授は、サンフランシスコでの講演で、次の
ように話しています。
─────────────────────────────
 テクノロジーは、人と人とをつなげることもできる。人間の能
力を拡げる、非常に重要な方法である。「人間対人間ジャックイ
ン」(Human-Human JackIn)である。ある人の知覚を丸ごと他の
人に移し替えることであり、新しいタイプのコミュニケーション
や教育となりうる、非常に大きな機会である。
              ──暦本純一東京大学大学院教授
                  https://bit.ly/2Mi3fQp
─────────────────────────────
 この発言で思い出されるのは、映画『マトリックス』における
カンフーの技術や、ヘリコプターの操縦技術を脳にダウンロード
して修得するシーンです。「そんなことできるはずがない」と思
いながらも、「できたらいいな」と思ったものです。しかし、テ
クノロジーの発達によって、それに近いことはできるようになっ
ています。少なくとも「不可能ではない」といえます。
 「幽体離脱」という言葉があります。「体外離脱」ともいいま
す。暦本教授は、子どものとき、川で溺れかけた経験があるそう
です。そのとき、溺れようとしている自分の姿を上の方から見て
いる自分を一瞬ですが、自覚したといいます。自分自身を肉体か
ら離れた場所から見ることは、人が亡くなる瞬間に起きるといわ
れています。
 暦本教授のいう「人間対人間ジャックイン」とは、自分の存在
を離れた場所に移すことを意味しています。もちろん、本当の意
味での「体外離脱」は無理ですが、具体的なアイデアをいくつか
講演で話しています。
 既出の大阪大学大学院基礎工学研究科の石黒浩博士は、自分と
そっくりのロボット(アンドロイド)を作っています。石黒博士
は、講演を依頼され、出張することが困難なときは、ロボットを
派遣し、自分は離れた場所から、ロボットを通じて話をするので
す。これも一種の体外離脱といえます。
 TBSの日曜日の番組『サンデーモーニング』で、スポーツ解
説者の張本勲氏がバーチャル映像で出演するときがあります。本
人は別の場所にいて、番組にはバーチャル映像で出演します。も
ちろん問いかけに対しても対応できるので、番組に出演している
のとほとんど変わりません。これも体外離脱です。
 しかし、こういうやり方では、講演や会議やテレビ番組などに
出演する場合はいいですが、立食スタイルのパーティーなどに参
加することは困難です。会ってゆっくり話したい人が何人も出席
するパーティーに、離れた場所から出席し、パーティー会場を歩
きまわりながら、いろいろな人と話をする──これを可能にする
アイデアを暦本教授は提案しています。
 添付ファイルの張本氏の右のロボットをご覧ください。自分の
顔の映っているタブレット付きのロボットです。このロボットが
パーティー会場を歩きまわるのです。
 かなり、異様なスタイルですが、暦本教授によると、タブレッ
トに顔が映っていると、人はその顔に向って話しかけてくるとい
います。「いやぁ、○○さん、お久しぶりですね」と話しかけて
くる人は結構多いそうです。もちろん離れた場所にいる本人は、
相手の顔は、ディスプレイに映るので、返事を返するとごく普通
の会話が成立するといいます。ロボットは、離れた場所から遠隔
操作できるので、会場を移動して話しかけることが可能です。
 しかし、このスタイルのロボットにも問題があります。階段を
上下できなかったり、人にぶつかって倒れてしまうなどのトラブ
ルが起きます。そこで暦本教授が考えたのが「人間ウ―バー」と
いう奇抜なアイデアです。これについて、暦本教授は、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 「人間-人間ジャックイン」(Human-Human JackIn) は、自分
の存在を離れた場所に移すことである。人の顔が画面に映し出さ
れるフェイス・ロボットを遠隔から操作するという方法もあるが
これはロボット自身が動く上で困難があった。階段を登れないと
か、ドアを自分で開けられないといったことだ。すると、学生の
一人が「クレイジー」なことを思いついた。「人間ウーバー」を
やろうというのだ。自分の顔を映し出すタブレットをマスクにし
て、代理の者の顔に装着するのだ。
 驚いたことに、装着しているのは別人だとわかっているはずな
のに、多くの人が画面の人物の存在を信じたのだ。人間の存在感
や相手に対する信頼感は、その人の顔の表情に依存していること
の現れであろう。このシステムは非常にシンプルだが、非常に効
果的に人間の能力をどこかへ移す便利な方法なのだ。このマスク
は3Dプリンターで作成すれば、よりリアルな感じになる。
                  https://bit.ly/2Mi3fQp
─────────────────────────────
 「人間ウ―バー」とは面白いアイデアです。他人の顔が映って
いるヘッドマスクをかぶって一定時間会場を歩きまわるアルバイ
トです。人間ですから、ロボットと違って、階段も上下できるし
自由に会場を歩き回ることができます。話す方もヘッドマスクの
なかに別の人がいることはわかっていても、違和感なくディスプ
レイの顔に話しかけるそうです。
 このように暦本教授の話は、「人間の機械化」について、示唆
に富むものです。暦本教授は、ほぼ同じ話を「東大テレビ」でも
しており、動画も見ることができます。時間は約45分です。
─────────────────────────────
 仮想現実と身体「Human Augmentation 人間拡張とその未来」
                ──暦本純一/情報学環教授
                  https://bit.ly/2vpgvfy
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/069]

≪画像および関連情報≫
 ●身体拡張という名のエンタテインメント/稲見昌彦氏
  ───────────────────────────
   私はいま、身体に関わるテクノロジーが新しい局面を迎え
  ていると感じています。最先端のテクノロジーが、人間の身
  体をメディア化しつつあるのです。従来の身体に関わるテク
  ノロジーは、主に身体の「補綴(ほてつ)」に用いられるこ
  とが多かった。つまり義手や義足、車椅子にしても、移動の
  不可能や困難など、障碍者の方々の身体におけるマイナス要
  素を補い、いわゆる健常者に近づけるためのものとして研究
  ・開発されてきました。マイナス要素をゼロにしようとする
  ときのアプローチは、例えば、義手や義足がわかりやすいの
  ですが、健常者という「ゼロの水準」へいかに近づけるかと
  いうものになりますし、最適なアプローチの数は限られてい
  ます。しかし最先端のテクノロジーは身体のマイナス要素を
  補綴しながら、健常者をも超えるプラス要素、ときに超人的
  ですらある能力に拡張することを可能にしているのです。マ
  イナス要素からプラス要素を生み出そうとするときのアプロ
  ーチは無限にあります。人によって拡張したい身体部位や、
  どのように拡張するかが異なるためです。例えば右足を失っ
  た人がより速く走ることのできる右足を獲得することや、手
  を失った人が、サイボーグのような見た目にも斬新な義手を
  獲得することはその一例です。それは、エンタテインメント
  作品をつくるときと同じアプローチといえるでしょう。
                  https://bit.ly/2niko1w
  ───────────────────────────

バーチャル出演と移動ロボット.jpg
バーチャル出演と移動ロボット
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月13日

●「シンギュラリティを巡る異論反論」(EJ第4826号)

 レイ・カーツワイル氏の「シンギュラリティ」の考え方につい
て、今年の3月に亡くなられたスティーヴン・ホーキング博士は
2014年2月に、BBCのインタビューに対して、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 われわれがすでに手にしている原始的な人工知能は、極めて有
用であることが明らかになっている。だが、完全な人工知能の開
発は人類の終わりをもたらす可能性がある。
 ゆっくりとした生物学的な進化により制限されている人類は、
(人工知能と)競争することはできず、(人工知能に)取って代
わられるだろう。     ──スティーヴン・ホーキング博士
                  https://bit.ly/2OoMWlu
─────────────────────────────
 ホーキング博士は、AIを「原始的AI」と「完全なAI」に
分けており、現在の「原始的AI」は、やがて「完全なAI」に
進化し、人類を脅かす存在になると述べています。したがって、
これをもって、ホーキング博士が「シンギュラリティ」の主張を
受け入れているとはいえないものの、やがてAIがパワーアップ
して、人類にとって恐るべき存在になることは認めています。
 ここにきわめて興味ある動画あります。NHKEテレが、20
17年12月29日に放送したもので、EJがここまで書いてき
た内容に関係があります。時間は45分です。必視聴です。
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 超AI入門「人間ってナンだ?」特別編/「今そこにある未来
 /ヒト×AI=∞」     /解説/松尾豊東京大学准教授
        未来学者   ・・・ レイ・カーツワイル
        理論物理学者 ・・・ フリーマン・ダイソン
        言語哲学者  ・・・ ノーム・チョムスキー
        インタビュー ・・・ 吉成真由美
                  https://bit.ly/2M4wOc4
─────────────────────────────
 以下、3人の発言要旨をメモしておきます。そのうえで、動画
を見ていただくと、3人の主張がよくわかると思います。
 第1のメモは未来学者のレイ・カーツワイル氏の主張です。
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・計算によれば、2045年までにわれわれの知能は10億倍に
 なるはずだ。まさしくシンギュラー(飛躍的)な変化である。
・情報テクノロジーの処理速度の変化は予測可能である。その変
 化は「指数関数的」である。その結果、2045年には「シン
 ギュラリティ」に到達する。
・多くの学者は、テクノロジーの変化は「直線的」に生ずると考
 えている。1、2、3、4というように。しかし、指数関数的
 に変化は加速する。1、2、4、8というように。
・一見、たいして変わらないように見えるが、30段階では、直
 線的変化は30、指数関数的は10億。40段階なら1兆に達
 する。ゲノム解析PTでは、7年かけて1%を達成。直線的思
 考考では1%解析するのに7年かかったのなら、全部やるには
 700年かかる。しかし、指数関数的には終ったも同然。毎年
 2倍ずつ加速するので、7回で100%になる。実際に7年で
 終了している。
・コンピュータの大きさは、大型コンピュータの時代から10万
 分の1になっている。このままのスピードで行くと、25年が
 経過すると、コンピュータは10億倍速度が速くなり、大きさ
 はさらに10万分の1小さくなり、赤血球ぐらいになる。
・晩年に発症する病気には免疫系は役に立たない。進化は長寿を
 選択してこなかった。長寿である必要はなかったからだ。AI
 の重要な応用先は免疫の強化である。赤血球サイズの医療用ナ
 ノロボットが開発され、人間は病気と老化から解放される。
─────────────────────────────
 第2のメモは言語哲学者ノーム・チョムスキー氏の主張です。
─────────────────────────────
・カーツワイル氏の主張は、完全なるファンタジーである。信じ
 られる根拠は何もない。
・確かにロボットは発展している。それはいいことだ。低スキル
 の仕事をまかせられるからだ。そもそもなぜ、人間が退屈で、
 危険な仕事をしなければならないのか。人間はもっとクリエイ
 ティブで満足すべき仕事に就くべきだ。
・生産性の向上は、低スキルの仕事の減少と高スキルの仕事の増
 加によって達成される。
・AIが人間の知識を超えるという考え方は、今のところ夢に過
 ぎない。現在実現しているのは、膨大なデータを高速な計算に
 頼ったもので、それらは、人間がデザインし、作成したプログ
 ラムで動いているからである。
─────────────────────────────
 第3のメモは言語哲学者フリーマン・ダイソン氏の主張です。
─────────────────────────────
・サイエンスとは、本質的に予測できないものである。サイエン
 スにとって重要なのは発見であるが、発見はサプライズであり
 発見を予測することは、サイエンスのやり方ではない。
・インターネットは理解を超えた膨大な情報の集積である。しか
 し、インターネットの構造と目的をわれわれは見通すことはで
 きない。最終的には、全体が一つの生き物のように振る舞うス
 ーパーオーガニズム(超生命体)になることが考えられる。
・インターネットが自らの目的を見つける可能性は大きい。1つ
 のシステムとして、世界を支配するということもある。しかし
 それがいつ起きるかはわからない。
・既に人間ではなく、ソフトウエアがコントロールしている分野
 はたくさんあることを認識すべきである。
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          ──[次世代テクノロジー論U/070]

≪画像および関連情報≫
 ●ガナシア氏が語る「シンギュラリティ批判」
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   名門パリ第6大学でAI(人工知能)研究チームを率いる
  哲学者、ジャン=ガブリエル・ガナシア氏が、このほど『そ
  ろそろ、人工知能の真実を話そう』(早川書房)の発刊を期
  に来日した。「AIが人類を超える」という、シンギュラリ
  ティについての考え方を批判するガナシア氏。フランスの人
  文科学の立場から、AIがどのように考察されているかにつ
  いて語ってもらった。
  ──この本では、レイ・カーツワイルなどが主張する「AI
  が人間の知能を追い越す」というシンギュラリティ(技術的
  特異点)について、その背景にある世界観を批判されていま
  す。レイ・カーツワイルのシンギュラリティという考え方は
  それまでにあった様々な理論を取り込んだだけで、独自の根
  拠があるわけではありません。またシンギュラリティの根拠
  とされるムーアの法則やプロセッサーの指数関数的な成長と
  いう仮説も、帰納的推論にすぎないものであり、科学的根拠
  とはいえないのです。言ってみればシンギュラリティは、科
  学というよりSF的な世界観です。1980年代にSF作家
  のヴァーナー・ヴィンジがこの言葉を普及させました。
                  https://bit.ly/2noHXWt
  ───────────────────────────

3人の知の巨人/AI.jpg
3人の知の巨人
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする