2017年04月14日

●「日本の核武装を阻むNPTの存在」(EJ第4501号)

 4月27日に米軍が北朝鮮を攻撃するという噂がまことしやか
に広まっています。なぜ、4月27日なのでしょうか。
 それは、25日の北朝鮮の建軍節に北朝鮮がミサイル発射か核
実験をやるとして、それに対抗するために米軍が動くのではない
かということで流された噂であると思われます。それに27日は
新月であり、夜が暗いからです。米軍の攻撃は夜が多いのです。
シリアの空軍基地への空爆も夜に実施されています。
 しかし、昨日のEJでも述べたように、金正恩委員長が仮に核
実験をやっても、ICBMを発射しない限り、米軍は直ちには動
かないと思われます。ただ、トランプ大統領は、核実験が行われ
れば、中国に対して、とくに通商問題を中心として、相当強いプ
レッシャーをかけることになると思われます。
 4月7日のことです。米国家安全保障会議(NSC)は、トラ
ンプ大統領に「在韓米軍への核兵器の再配備」を提案したといわ
れています。関連記事を次に示します。
─────────────────────────────
 【パームビーチ(米フロリダ州)=永沢毅】米NBCニュース
は4月7日、米国家安全保障会議(NSC)が対北朝鮮政策の見
直しの一環で、在韓米軍への核兵器の再配備をトランプ大統領に
提案したと報じた。複数の情報機関や軍高官の話として伝えた。
北朝鮮の核・ミサイル問題への対応策として検討している。
 NSCは北朝鮮の金正恩委員長の体制転換計画も選択肢として
トランプ氏に提案したという。米政府はこのほど対北朝鮮政策の
見直しを終え、核の再配備とあわせていずれのシナリオも新たな
計画に含まれているという。核兵器の再配備先としては、ソウル
南方にある烏山(オサン)空軍基地が候補に挙がっている。
                http://s.nikkei.com/2prLy5c
─────────────────────────────
 このように朝鮮半島が緊張感をはらんでくると、必ず出てくる
のが、韓国と日本の核武装論です。世界最貧国といわれる北朝鮮
が大国アメリカに対して一歩も引かない姿勢がとれるのはやはり
核・ミサイル兵器を所有しているからです。米国としては、シリ
アを攻撃できても、核を持つ北朝鮮への攻撃はどうしても慎重に
ならざるを得ないのです。
 韓国の核武装に関しては、2月15日に発表された韓国紙・中
央日報の世論調査では次のようになっています。
─────────────────────────────
    ・「とても賛成」 ・・・・・・ 32・8%
    ・「ある程度賛成」 ・・・・・ 34・9%
    ・「どちらかといえば反対」・・ 20・9%
    ・「とても反対」・・・・・・・  9・6%
              http://huff.to/2o3H4k6
─────────────────────────────
 これによると、核武装の賛成は67・7%、反対は30・5%
となり、賛成が反対を大きく上回っています。1月15日の韓国
ギャラップ調査でも、賛成54%、反対38%と、同様の傾向を
示しています。
 日本以上に北朝鮮の脅威を身近に感じている現在の韓国の国民
としては当然の世論であると思います。しかし、日本の場合は、
核武装は慎重に考える必要があります。
 実は、EJでは2009年に日本の核武装論として、国際政治
・米国金融アナリストで政治思想家の伊藤貫氏の主張を紹介して
います。伊藤貫氏は「核武装がなければ日本は滅ぶ」と主張して
いる人です。
─────────────────────────────
       2009年8月24日付、EJ第2640号〜
 「伊藤貫氏による日本核武装論」/ http://bit.ly/2o58cQi
─────────────────────────────
 2009年の時点と現在では、東アジア情勢は大きく変化して
おり、伊藤貫氏の主張はかなり的中しているのです。しかし、だ
からといって、日本の核武装実現のハードルはきわめて高いとい
えます。なぜなら、もし、日本が核武装をする場合、憲法の改正
が必要であることに加えて、NPT(核兵器拡散防止条約)から
脱退しなければならないことや、日米安全保障条約を維持するこ
とが困難になります。
 NPTは、国連常任理事国の米国、英国、フランス、ロシア、
中国の5ヶ国には核兵器の保有を認め、その他の国々の核兵器の
保有を禁止するという不公平極まりない条約です。それでも現在
そのNPTには、190ヶ国が加盟しており、世界秩序になって
いるのです。
 世界には、この5大国以外にも核兵器を保有している国があり
ます。インドとパキスタンです。これら2国は最初からNPTに
加盟せず、核兵器保有を実現しています。北朝鮮はNPTに加盟
していたのですが、1993年に脱退しています。
 もうひとつ、核兵器を保有も否定もしていない国があります。
それはイスラエルです。しかし、全世界はイスラエルは核保有国
であることを知っています。したがって、現在核兵器を保有して
いる国は、全部で9ヶ国ということになります。
 NPTについては、次のようなことがいわれています。
─────────────────────────────
 ・NPTは、日本とドイツの核武装を封じる目的で作られて
  いる。           ──村田良平外務事務次官
 ・米国と中国は「日本に核武装させない『密約』」を結んで
  いる。         ──伊藤貫国際政治アナリスト
─────────────────────────────
 上記の村田良平氏は、日本のNPT加盟時の外務省事務次官で
あり、伊藤貫氏指摘の「密約」は、1972年2月に、ニクソン
米大統領とキッシンジャー大統領補佐官が北京で、中国の周恩来
首相と交わしたものといわれています。
             ──[米中戦争の可能性/071]

≪画像および関連情報≫
 ●【寄稿】日韓の核武装論、米国がすべきことは
  ───────────────────────────
   北朝鮮の金正恩第1書記は2016年6日、最近の水素爆
  弾の実験と衛星の打ち上げについて、革命に最後の勝利をも
  たらす「前例のない」成果だと称賛した。こうした自画自賛
  は目新しいものではない。しかし、日本では、北朝鮮の核開
  発プログラムと、安全保障に関する米国との取り決めが十分
  ではないかもしれないという感覚を背景に、タブー視されて
  きた核兵器議論が出てきている。安倍晋三首相は4月1日、
  「憲法9条は一切の核兵器の保有および使用をおよそ禁止し
  ているわけではない」とする答弁書を閣議決定した。
   一方、韓国の与党は周辺諸国に対する軍事的な保険として
  「平和」利用目的のプルトニウムを貯蔵しておくよう朴槿恵
  大統領に求めた。韓国の保守系主要紙、朝鮮日報は2月19
  日付の記事で、既存の民間核施設を利用して1年半で核爆弾
  を製造する方法を詳細に報じることまでしている。
   日本と韓国は核不拡散条約の加盟国であり、日本の反核姿
  勢の原点は広島と長崎に原子爆弾が投下された1945年に
  遡る。だが仮に両国が、米国の「核の傘」が畳まれつつある
  と感じれば、そうしたスタンスはどちらの国にとっても核保
  有国という核クラブへの参加――もしくは少なくとも喫緊に
  それを目指すと表明すること――を必ずしも妨げるものでは
  ない。日本はすでに、原子力発電所の使用済み核燃料から抽
  出された11トンのプルトニウムを国内に保有している。
                 http://on.wsj.com/2pslAOO
  ───────────────────────────

朝鮮半島沖に向う米空母カール・ビンソン打撃群.jpg
朝鮮半島沖に向う米空母カール・ビンソン打撃群
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2017年04月17日

●「静かな先制攻撃/発射の残骸作戦」(EJ第4502号)

 4月11日、トランプ米大統領は、ツイッターで、次のように
ツィートしています。
─────────────────────────────
      North Korea is looking for trouble.
─────────────────────────────
 メディアによって訳し方は異なりますが、「北朝鮮は挑発的な
ことをしようとしている」という意味になります。「喧嘩を売ろ
うとしている」とも訳せます。
 これに続いてトランプ大統領は、次のように発言しています。
しかもこれを何回も繰り返しているのです。
─────────────────────────────
 中国が米国への支援を決断するのであれば、素晴らしい。そ
 うでないのなら、われわれは彼ら抜きで解決する。
                  ──トランプ米大統領
─────────────────────────────
 ここで「われわれ」というのは、「米国とその同盟国」という
意味です。具体的には韓国と日本です。トランプ大統領の口ぶり
では、中国にはあまり期待しておらず、単独でやることの方に力
点が置かれているように感じます。トランプ大統領は、何となく
自信を持って発言しているようにみえます。
 何しろ「戦争が勃発すれば、開戦90日間で5万2千人の米軍
が被害を受け、韓国軍は49万人の死者を出す」といわれている
のです。日本にも関係のあることであり、軽々しく「われわれで
やる」といわれても困ります。
 しかし、この試算はクリントン政権時のものであり、それから
15年以上が経過しているのです。その間に軍事技術は大きく発
展しています。トランプ政権は経験豊富な軍人出身者が閣僚や補
佐官として大統領をサポートしています。大統領は彼らから重要
な情報を聞いているのではないでしょうか。だから、大統領はあ
れほど自信満々なのではないか、と。そういう想定に立って考察
してみることにします。
 現在、米韓合同軍事演習を行っており、朝鮮半島周辺には米軍
と韓国軍の艦艇が集合しています。そこに空母カール・ビンソン
もやってくるのです。これは、必ずしも北朝鮮を攻撃するためで
はなく、次の2つの目的があるのです。攻撃のためであれば、東
アジアには多くの米軍基地があるので、空母を中心に艦艇を集結
させる必要はないのです。
─────────────────────────────
       1.北の弾道ミサイルを迎撃する
       2.韓国在住の米国民を救出する
─────────────────────────────
 ミサイルを迎撃するためには、迎撃能力を持つ艦艇を集結させ
ることによって、きめの細かいネットワークを築くことができ、
北朝鮮がミサイル発射に成功しても、ほぼ100%迎撃すること
が可能になります。これが「1」です。
 「2」は、万一の場合の韓国に在住する米軍家族や米国ビジネ
スパースンを救出するためです。とくに空母には大勢乗せられる
ので、万全です。この救出について、米軍は昨年末に脱出訓練を
実施しています。
 ところで、韓国に在住する日本人は少なくとも3万人以上いま
す。商社マンなどのビジネスパーソンです。日本政府は彼らをど
のようにして救出するのでしょうか。ちなみに自衛隊は韓国に入
国することはできないことになっています。
 それでは、米軍はどのような作戦で北朝鮮を攻撃しようとして
いるのでしょうか。
 それは、次の名前で呼ばれる作戦です。「静かな先制攻撃」と
いわれています。この作戦については、東京新聞・中日新聞論説
委員の長谷川幸洋氏がレポートを書いています。
─────────────────────────────
       「Left of Launch」(発射の残骸)
                   http://bit.ly/2p2wLSi
─────────────────────────────
 どういう作戦かというと、武力攻撃の直前に、有人無人の「電
子撹乱機」を飛ばして妨害電波を送るのです。これによって、北
朝鮮の有線、無線のほか、PC、スマホを含むほぼすべてのネッ
トワークを一時的に使えない状態にします。
 そうすると、北朝鮮軍の指揮命令系統は遮断され、総司令部か
らの一切の命令は届かなくなるだけでなく、ミサイルシステムも
制御不能になります。つまり、北朝鮮が反撃したくてもできない
状況にしてから一斉に攻撃をかけるのです。
 米軍は、1991年の湾岸戦争でも、2003年のイラク戦争
でもこの作戦を実施して一定の成果を上げています。当時に比べ
ると、技術は格段に向上しています。4月5日に北朝鮮の発射し
たミサイルが失敗したのは、この作戦が実行され、成功したもの
ということができます。
 元韓国国防省分析官で、拓殖大学国際開発研究所の高水研究員
は、これについて次のように述べています。
─────────────────────────────
 当然、北朝鮮も対策をとっていますが、IT技術に関しては、
米国の方が上です。米国は攻撃する以上、“麻酔”で同盟国に犠
牲が出ないよう、事前に反撃封じをするはずです。
          ──拓殖大学国際開発研究所の高水研究員
            4月14日発行「日刊ゲンダイ」より
─────────────────────────────
 米軍は、移動式のミサイル発射装置の場所や金正恩委員長の居
場所については把握していないものの、核施設など攻撃すべき場
所については詳細を把握しているといわれます。それは700ヶ
所に及ぶそうです。したがって、成功すれば、北朝鮮は2時間で
反撃できない状況に陥るはずであるといいます。トランプ氏の自
信の根拠はこれです。   ──[米中戦争の可能性/072]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプの自信の根拠/長谷川幸洋氏/2017.4.7
  ───────────────────────────
   米中首脳会談を前に、北朝鮮がまた弾道ミサイルを発射し
  た。トランプ大統領は「中国の協力がなくても、米国が単独
  で北朝鮮に対処する」と表明している。いったい米国には、
  どんな選択肢があるのか。
   今回の弾道ミサイルは、当初、新型の中距離弾道ミサイル
  「北極星2型」とみられたが、そうではなく「スカッド改良
  型」という見方もある。いずれにせよ、ミサイルはいったん
  高く上昇した後、約60キロ離れた日本海に落下した。この
  発射について、新しい技術を試した実験という見方がある一
  方、従来と比べるといかにも飛距離が短かったことなどから
  「失敗だった」という見方もある。菅義偉官房長官は「失敗
  の可能性もあるが、分析中」と慎重な姿勢だ。失敗だったと
  すれば、何が原因だったのか。そこに触れる前に、トランプ
  大統領の発言をみておこう。
   大統領は4月2日、フィナンシャル・タイムズ(FT)と
  のインタビューで「もしも中国が北朝鮮の問題を解決しよう
  としないなら、我々がやる。言いたいのは、それだけだ」、
  「中国なしでも米国は北朝鮮に完全に対処できる」「『完全
  に』だ。それ以上は何も言わない」などと語った。
                 http://on.ft.com/2n1JeoF
                   http://bit.ly/2p2wLSi
  ───────────────────────────

金正恩委員長/トランプ大統領.jpg
金正恩委員長/トランプ大統領
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2017年04月18日

●「日本は実験なしで核を開発できる」(EJ第4503号)

 シカゴ大学教授ジョン・ミアシャイマー氏の本に次の一節があ
ります。本テーマの2回目にご紹介した言葉です。
─────────────────────────────
 取り締まる者のいない世界体制の中で安全を保障する最良の方
法は、その地域の覇権国家になり優位に立つことで、どこからも
攻撃されないようにすることなのだ。
       ──ジョン・J・ミアシャイマー著/奥山真司訳
    『大国政治の悲劇/米中は必ず衝突する!』/五月書房
─────────────────────────────
 日本は専守防衛を目指しています。どこの国とも戦争はやらな
い。しかし、悪意を持つ国があり、その国から攻められたら国を
守らなければならないので、自衛隊という事実上の軍隊を保有し
ています。その実力は世界第4位といわれています。
 もし、米中戦争が起きれば、確実に日本は戦場になります。世
界第4位の軍隊を保有していても、覇権国にならない限り、攻め
られる恐れがあるのです。北朝鮮ではありませんが、「攻められ
ない」ことを目指すのなら、「核を持つ」のはひとつの選択肢で
あるといえます。専守防衛も果たせます。
 しかし、日本にとって核兵器を持つことは、非常にハードルが
高いといわざるを得ません。トランプ氏は選挙中に日本の核保有
を容認するかのような発言をしましたが、後でそれを取り消して
います。日米安保条約は「日本に核を持たせないための条約」と
さえいわれているのです。
 2015年8月8日のことです。中国の環境時報は「日本は核
実験なしで核兵器を作る技術力があり、短期間で中国以上の核兵
器大国になる能力がある」と報道したのです。環境時報は、中国
共産党中央委員会の機関紙「人民日報」の国際版です。その論説
を紹介します。具体的には、中国城市安全研究所副所長の楊承軍
教授による署名原稿です。
─────────────────────────────
 論説は、日本には世界最大のヘリカル型核融合実験装置がある
など、核融合技術で世界一流と紹介。核爆発実験をしなくても高
性能のスーパーコンピューターによるシミュレーションで核兵器
を作る能力があるなどと主張した。さらに、日本はミサイル搭載
用の核弾頭を開発する能力もあり、極めて短期間のうちに「世界
第3位の核兵器保有国」になれると主張した。
                   http://bit.ly/2oAv1hp
─────────────────────────────
 これは、多くの日本人にとっては驚きのニュースです。日本で
は、核兵器について議論をするのもはばかられるし、作れないと
は思わないが、短期間のうちに「世界第3位の核兵器保有国」に
なれるとは考えてもいないからです。
 2014年の時点での核兵器の保有数は、以下のようになって
います。
─────────────────────────────
     1位: ロシア ・・・・・ 8000発
     2位:アメリカ ・・・・・ 7315発
     3位:フランス ・・・・・  300発
     4位:  中国 ・・・・・  250発
     5位:イギリス ・・・・・  225発
─────────────────────────────
 日本が世界3位の核保有国になるためには、日本が300発以
上の核兵器を短期間で作れるということを意味します。楊承軍教
授はそのようにいっています。
 楊承軍教授は、もし日本が核兵器を持つと、次のようになるこ
とを指摘して論文をしめくくっています。
─────────────────────────────
 日本が核兵器を保有した場合、西太平洋地区、とくに、わが国
(中国)の安全に対する重大な脅威になる。したがって、強い関
心を持ち続けなければならないし、絶対に、警戒を緩めてはなら
ない。                   ──楊承軍教授
─────────────────────────────
 かつて「日本も核兵器を持つかどうか」について、北朝鮮の脅
威に関連して、議論ぐらいすべきじゃないかということをいった
政治家がいます。中川昭一元衆議院議員(故人)です。中川氏の
発言です。
─────────────────────────────
 「非核三原則」は国民との重い約束だ。しかし、最近の北朝
 鮮の核兵器実験の動向を受けて、この約束を見直すべきかど
 うか議論を尽くすべきだ。        ──中川昭一氏
─────────────────────────────
 楊承軍教授の論文は本当のことをいっているのでしょうか。
 これに関しては、iRONNAに木走正水氏の次のレポートが
あるので、それを基にして検証してみたいと思います。
─────────────────────────────
 「日本には実験なしで核兵器開発できる能力がある」中国メ
 ディアは本当か          http://bit.ly/2pBUR2j
─────────────────────────────
 まず、楊承軍教授のいう「日本には世界最大のヘリカル型核融
合実験装置がある」というのは事実です。重い原子であるウラン
やプルトニウムの原子核分裂反応を利用する核分裂炉に対して、
軽い原子である水素やヘリウムによる核融合反応を利用してエネ
ルギーを発生させる装置が核融合炉ですが、核融合に関する技術
において、今や日本は世界の先端を走っているのです。
 米国は、この研究は水爆の研究と同じであるとして、中止する
よう強い圧力をかけてきたのですが、米国には弱い日本政府とし
ては珍しく、「これは人類のための研究である」として、つっぱ
ねてきたのです。そのため、関連技術で多くのノーベル賞受賞者
が出ているのです。核融合は世界最先端の爆縮技術がないと実現
不可能です。       ──[米中戦争の可能性/073]

≪画像および関連情報≫
 ●「非核」でも核武装している?
  ───────────────────────────
   日本では「非核」であることは当然として受け止められて
  いるが、世界から見ると、日本ほどの技術力と経済力があっ
  て「非核」なのはドイツと日本、イタリア(ともに第二次世
  界大戦の敗戦国)だけだ。
   日本では国連を「国連」と翻訳しているが、そのまま英語
  を翻訳すれば「連合軍」だから、まだ世界は戦争が終わった
  ときの秩序を保持していることを示している。もし今後、世
  界的な戦争がなければ、第二次世界大戦の勝ち負けが長く国
  際政治に影響を与えることを示している。
   ところで、日本は非核大国だが、アメリカの核ミサイルを
  積んだ原子力潜水艦が西太平洋にいるので、日本はいわゆる
  「核の傘」の下にいる(集団的自衛)。そして日本は50基
  を超える原発と濃縮技術、再処理技術、ロケット技術、それ
  に制御はお手の物なので、核兵器とそれを運搬するミサイル
  はすぐ作ることができる。つまり日本はアメリカとの集団的
  自衛で核武装している状態にあり、かつプルトニウムも濃縮
  施設ももっているので、現実に核武装し、自国でも原発を持
  てる状態にあるという状態だ。諸外国は技術力が優れ、軍事
  も強い日本が独自の核ミサイルを持つことを極度に警戒して
  おり、むしろアメリカの原潜の方が日本の核ミサイルより安
  全と思っている。         http://bit.ly/2owzQHa
  ───────────────────────────

中川昭一氏/日本核武装論.jpg
中川昭一氏/日本核武装論
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2017年04月19日

●「世界3位の核保有国になれる日本」(EJ第4504号)

 日本はその気になったら、短期間で世界第3位の核兵器保有国
になれる──これは事実でしょうか。
 結論からいうと、それは事実です。核兵器は核分裂を主とする
原子爆弾と核融合を主とする水素爆弾の大きく二つに分類されま
すが、日本はその両方とも作る技術を保有しています。しかも、
核融合の技術は世界に冠たるものがあることは、昨日のEJで指
摘した通りです。
 そのため、中国は楊承軍教授に限らず、日本の核兵器保有を非
常に警戒しています。あるとき、国連総会で中国の大使が「日本
は核開発に乗り出す可能性がある」と発言し、日本の大使がそれ
に反論する応酬があったのです。
 そのとき中国大使は、日本が47トン以上のプルトニウムを保
有しており、ごく短時間で核兵器を保有できるといったのですが
日本大使は冷静に日本の専守防衛の基本方針と非核三原則の堅持
を説明したのです。興味深いことは、日本大使は「ごく短時間で
核兵器を保有できる」については否定しなかったことです。
 原子爆弾について考えてみます。国際原子力機関(IAEA)
によると、原子炉用のプルトニウムなら、8キログラムで1発の
核兵器が作れるそうです。そうすると、日本は47トンのプルト
ニウムを保有しているので、計算上6000発の原子爆弾を作れ
ることになります。これは、ロシア、アメリカに次ぐ世界第3位
になります。つまり、これは事実なのです。
 日本は核実験をしなくても核兵器が作れる──これは本当のこ
とでしょうか。
 いわゆる核実験(正しくは核爆発実験)には、次の2つの方式
があります。
─────────────────────────────
    1. ホット・ラボ ・・・   核爆発実験
    2.コールド・ラボ ・・・ 核起爆装置実験
─────────────────────────────
 「ホット・ラボ」というのは、核爆発実験、北朝鮮のやってい
る核実験のことです。地上であれ、地下であれ、これをやると、
他の国にわかってしまいます。
 これに対して「コールド・ラボ」というのは、核爆発を伴わな
い核起爆装置の実験です。爆縮型の原爆は核起爆装置の完成が核
兵器の完成を意味します。
 1993年7月のことですが、パキスタン陸軍のアスラム・べ
グ退役参謀長は、インタビューで次のように発表して、核兵器の
保有を宣言しています。
─────────────────────────────
 パキスタンは、1987年に一線を越えた。起爆装置を開発し
原爆実験に成功した。実験はコールド・ラボ状態で行われ、大成
功を収めている。       ──アスラム・べグ退役参謀長
─────────────────────────────
 少し専門的になりますが、コールド・ラボ実験は、核物質以外
は完成した核兵器を使用して、起爆装置を爆発させ、衝撃波の画
像処理を行う超高速測光機やハイテク・センサーなどで、その成
否を検証するものです。
 パキスタンのように公表はしていませんが、イスラエルもコー
ルド・ラボ実験を行っています。イスラエルについては次の情報
があります。
─────────────────────────────
 イスラエルの場合は諸説あるようでして、ネゲブ砂漠で地下核
実験を行ったとの説や、南アフリカの核開発計画に協力する見返
りとして核実験をさせて貰ったとの説、或いは米国から核爆発デ
ータを提供して貰い、それを元にスパコンでシミュレートしたと
の説などがあり、どれが真相なのか未だに定まっていない様子で
す。いずれにしてもイスラエルとは米国の庇護の元で成り立って
いるような国で中東に於ける米国の橋頭堡みたいな位置付けにあ
ると言っていいでしょう。       http://bit.ly/2ogYda3
─────────────────────────────
 これは未確認情報ですが、日本は昭和40年代(1965年)
に極秘裏に通産省工業技術院によってコールド・ラボが行われ、
成功していると噂されています。50年近く前の話で、現在の日
本の技術でそれができないはずはないといえます。
 イスラエルのケース「米国から核爆発データを提供して貰い、
それを元にスパコンでシミュレート」は、日本も技術的に可能で
す。しかし、スパコンでシミュレートするには、核実験を何度も
行っている米国からのデータ提供がないとできないのです。これ
については、米国はデータの提供はしないはずです。米国は日本
の核武装を何よりも恐れているからです。その片務性によって不
公平といわれている日米安保条約は、表向きはともかく、日本が
核保有国にならない見返りに行われているといわれています。
 最近日米安保条約によって提供されるという「核の傘」に日本
では、疑問や不安が出てきています。日本が核で攻撃されたとき
米国が核兵器で反撃してくれることになっていますが、本当に米
国は反撃してくれるのかについて疑問が出てきているからです。
自ら反撃するのではなく、他国に依存しているからです。
 確かに日本は米国の「核の傘」に守られて、約70年間どこと
も戦争せず、平和を謳歌してきています。これは日米安保条約の
お陰であるといえます。しかし、核保有国が増えている現在では
今後はそれが困難になりつつあります。
 「ニュークリアシェアリング」というものがあります。事実上
の核保有といわれます。核兵器を持たないベルギー、ドイツ、イ
タリア、オランダが米国と結んでいる条約です。これら4ヶ国は
有事のさい、米国の核を使って反撃できるのです。そのため、そ
れらの国々は、日常的に米国の核を使って訓練しています。これ
なら米国に頼らず、有事のさいはそれぞれの国の判断で反撃でき
ます。日本はもっと自国の安全保障について真剣に考えるべきと
きにきています。     ──[米中戦争の可能性/074]

≪画像および関連情報≫
 ●世界の孤児にならずに事実上の核保有を実現/北野幸伯氏
  ───────────────────────────
   日本で「核武装を主張する人たち」も、結局、最大の脅威
  は中国。次に同国の属国・北朝鮮。その次にロシアであるこ
  とを同意してくれるでしょう。
   「だから、日本も核を持て!」という論理ですが、それを
  やると、「中国どころか、アメリカ、欧州、ロシアも敵にま
  わしてしまう」という話をしました。では「核を持てない」
  日本はいったいどうすればいいのか?第一のステップは、日
  米安保を「片務」から「双務」にすること。そのために「集
  団的自衛権を認めよう」と。次のステップですが、「ニュー
  クリア・シェアリング」(核の共有)という仕組みがありま
  す。これは核兵器を持たないベルギー、イタリア、ドイツ、
  オランダがアメリカと結んでいる条約です。過去には、カナ
  ダ、ギリシャ、トルコも参加していました。
   「ニュークリア・シェアリング」とは何かというと、右の
  4国は、有事の際さい、アメリカの核を使って反撃できるの
  です。そのため、この四国は日常的にアメリカの核を使って
  訓練をしています。「集団的自衛権」を自らに認めることで
  アメリカと対等な同盟国になりうる日本。アメリカと数年間
  信頼関係を醸成したうえで「ニュークリア・シェアリング」
  を要求したらいい、と私は考えます。
                   http://bit.ly/2pleWdM
  ───────────────────────────

「ニュークリア・シェアリング」という方法がある.jpg
「ニュークリア・シェアリング」という方法がある
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2017年04月20日

●「イプシロンは弾道ミサイル化可能」(EJ第4505号)

 4月16日に北朝鮮はミサイルを発射しましたが、数秒後に落
下しています。米軍が朝鮮半島付近に艦艇を集結させるなかでの
まさかのミサイル発射であり、金正恩委員長の大胆なチキンゲー
ムの一環です。
 この北朝鮮の行動に対して、マクマスター大統領補佐官は次の
ようなメッセージを出しています。
─────────────────────────────
 今回の弾道ミサイル発射は、挑発的で脅迫的な北朝鮮の行動パ
ターンの一環である。アメリカは今こそ武力行使に至らないよう
あらゆる行動を取り、平和的解決に努める。
               ──マクマスター大統領補佐官
                   http://bit.ly/2oOITFA
─────────────────────────────
 あれほど強気なトランプ大統領の発言からすると、このマクマ
スター大統領補佐官の発言は、何となく米国は一歩引いた感じが
します。やはり、核兵器を保有していると、米国といえども慎重
にならざるを得ないのでしょうか。
 トランプ政権は、中国に圧力をかけて北朝鮮問題を解決しよう
としていますが、この方法では、北朝鮮問題は解決しないと考え
ます。なぜなら、中国にとって北朝鮮は地政学上必要な国である
からです。平和的解決などと称して、手ぬるい解決を図ろうとす
ると、今度こそ米国に確実に届くICBMが完成し、結局北朝鮮
を核保有国として認めることになってしまいます。もし、そうい
う方向に行くのであれば、日本も安全保障上核兵器の保有を検討
せざるを得なくなります。
 日本の核武装問題の検討を続けます。日本はその気になれば、
短時間で核兵器が作れることは既に説明しましたが、さらに一歩
進めて考えてみます。
 米国は、日本が核兵器を持つことを絶対に許さないでしょうし
ニュークリアシェアリングも認めないと思います。米国にとって
日本の核武装は最大の脅威であると考えているからです。それに
日本は、世界唯一の被爆国であり、国民に核アレルギーが強いの
で、たとえそれが専守防衛の安全保障のためであっても、核保有
が実現するハードルは高いのです。
 それでは、どうすればよいでしょうか。解決のヒントになるの
は、木走正水氏のレポートです。木走氏のレポートをまとめると
次のようになります。
─────────────────────────────
 1.日本の持てる技術を結集して、一朝ことがあったときは
   短時間で核兵器を持てるようにする。
 2.プルトニュウム抜きの核弾頭を300発以上製造してお
   き、必要なとき一挙に核兵器化する。
 3.日本独自の固体燃料ロケット「イプシロン」の技術を向
   上させ、弾道ミサイル化し量産する。
─────────────────────────────
 日本が「一朝ことがあったときは短時間で核兵器を持てる」の
であれば、それは一定の抑止力になります。中国の楊承軍教授の
論文はそのことを警戒して書いています。そうであるとしたら、
それを意識的にもっと対外的に強調し、PRすればよいのです。
そうであれば、核兵器を持っていなくても、持っていることとあ
まり変わらなくなります。これが「1」です。
 核兵器を持つには、核を小型化し、弾頭化することが必要にな
ることと、それを運ぶロケット技術が必要です。このうち核の小
型化に関しては日本は十分な技術を有しています。木走正水氏は
これについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 いずれにしても日本の有する技術力をもってすれば、核爆弾を
持つという国民の総意・意思が固まれば、それは早期に実現可能
であろうと思われます。
 さてエントリーして思いついたのですが、安全保障上のカード
として、また現憲法に抵触しない範囲で何か可能なことはないの
かという意味でこんなのはいかがでしょうか。
 製造技術を確立してプルトニウム抜きの核爆弾を300発ほど
保有する。そしてイプシロンを改良して弾道ミサイルも同数量産
しておく。プルトニウムが入っていませんから、爆発もしないし
兵器ではないことになります。で、日本を怒らしたら、いつでも
瞬時にプルトニウムを挿入できるぞ、という脅しになります。
 「日本がその気になれば核ミサイルはすぐに保有できる」、こ
の事実だけでも安全保障上の有効なカードとなると思います。読
者の皆さんはどうお考えでしょうか。  http://bit.ly/2aXNY4y
─────────────────────────────
 「プルトニウム抜きの核爆弾」が技術的には可能でも、許され
るかどうかはわかりませんが、不可能ではないと思います。これ
が「2」です。
 「3」は「イプシロン」についてです。これは、国産の固体燃
料用のロケットで、世界に冠たる技術を持つロケットです。その
1号機は、2013年9月に打ち上げられましたが、あくまで試
験機で、ロケット自体よりも打ち上げシステムの改革に重点が置
かれたのです。そして、3年後の2016年12月に2号機の打
ち上げに成功します。日刊工業新聞の記事です。
─────────────────────────────
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月20日に小型固体
燃料ロケット「イプシロン」2号機を内之浦宇宙空間観測所(鹿
児島県肝付町)から打ち上げる。機体と運用、設備からなる打ち
上げシステム全体を1号機より効率化した。ただ、機能を強化し
ても打ち上げコストは同等に抑えることに成功した。効率的で低
コストなロケット技術の開発が進むことで国際競争力の向上が期
待される。(冨井哲雄)        http://bit.ly/2oOTyQi
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/075]

≪画像および関連情報≫
 ●イプシロン2号機の成功と「国防上のブラフ」効果
  ───────────────────────────
   宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、12月20日午後
  8時、ジオスペース探査衛星「ERG」を搭載したイプシロ
  ンロケット2号機を打ち上げた。打ち上げは成功し、打ち上
  げ後13分27秒でERGを予定の軌道に投入した。成功後
  ERGは「あらせ」と命名された。
   イプシロン2号機は「強化型イプシロン」という名称を持
  つ。2013年9月14日に打ち上げた初号機と比較すると
  第2段の強化により、地球を南北に回る太陽同期極軌道への
  打ち上げ能力が、450キログラムから590キログラムに
  増強されている。打ち上げ後の記者会見でプロジェクト・マ
  ネージャーを務める森田泰弘JAXA・宇宙科学研究所教授
  は「試験機であったイプシロン初号機の段階では、自分の抱
  く自信には精神論的な部分が大きかった。が、今回の強化型
  イプシロンを予定日に打ち上げできたことで、精神論ではな
  く、物理的に『確実に打ち上げることができる』という自信
  を持った」と述べた。
   2号機の後もイプシロンの開発は続く。3号機では衛星を
  より正確な軌道に投入する「ポスト・ブースト・ステージ」
  という液体エンジンの小推力の段と、分離時に衛星に与える
  衝撃が小さい衛星分離機構が搭載される。この3号機で強化
  型イプシロンの開発は終了し、当面は完成した強化型イプシ
  ロンの打ち上げが続く事になる。 http://nkbp.jp/2ohT2Yg
  ───────────────────────────

「イプシロン」2号機打ち上げ成功.jpg
「イプシロン」2号機打ち上げ成功
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2017年04月21日

●「イプシロンは世界に誇る国産技術」(EJ第4506号)

 日本が世界に誇る固体燃料ロケットである「イプシロン」につ
いてもう少し詳しく述べます。なぜなら、このロケットは日本の
安全保障に役に立つと思われるからです。
 「固体燃料」と「液体燃料」の違いについて知る必要がありま
す。一般に議論されているのは、液体燃料の場合は、発射直前に
注入しなければならないので、注入段階で衛星などによって発見
される可能性が高いが、固体燃料は予めセットしておくことがで
きるので、発射が発見されにくいというロケットを武器であるミ
サイルとして使う観点です。本当の違いは次の通りです。
─────────────────────────────
 固体燃料と対となるものに液体燃料があり、どちらにも長所と
短所がある。詳細は省くが、たとえば固体燃料は大きな推力(パ
ワー)が出せる反面、その推力の制御ができず、一旦火をつける
と燃料がなくなるまで燃え続ける。一方液体燃料は固体ほど大き
な推力は出せないが、燃費が良く、推力の量を変えたりや、エン
ジンを途中で止めたりといった制御も可能である。
                   http://bit.ly/2pTldwX
─────────────────────────────
 主力大型ロケットとして日本で用いられているH−UAロケッ
トなどは両方を搭載しており、パワーを必要とするときは固体燃
料、燃費が必要なときは液体燃料を使うのです。
 イプシロンが生まれるきっかけになったのは「M−V/ミュー
・ファイブ」(以下、MVロケット)というロケットです。これ
は固体燃料ロケットとしては最高の効率を発揮できたので、「究
極の固体ロケット」といわれたのです。
 MVロケットは、1997年の初号から合計7回打ち上げられ
廃止されています。実は、この廃止は中央官庁統合と関係があり
ます。結果としてこの組織統合がイプシロンを生み出す原動力に
なったといえます。MVロケットは、当時の文部省傘下の宇宙科
学研究所が作っていたのです。東京大学宇宙航空研究所がその前
身です。しかし、文部省と科学技術庁は非常に仲が悪かったとい
われます。2001年に文部省と科学技術庁が統合され、文部科
学省が誕生します。それでも文部省と科学技術庁の遺恨試合の因
縁は残っていたのです。
 しかし、結果として、これが国産のロケット開発に大きな影響
を与えることになったのです。科学技術ジャーナリストの松浦晋
也氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 文部省と科学技術庁は1960年代にロケットの管轄を巡って
大規模な権限争いを展開しており、1966年に「どっちの側か
らも有利に読める玉虫色」の国会報告という形で決着を図った。
 文科省発足により、旧科技庁系官僚は文部省系のM−Vロケッ
トの廃止へと動いた。1966年の国会報告は「Mロケットの改
良」を認めており、それが文部省ロケットの研究開発の根拠とな
っていた。そこで、まず「M−Vロケットは完成した」というこ
とにして、それ以上のロケット開発の道を封じた。次いでM−V
ロケットが高コストであることを理由に、廃止へと追い込んだ。
                  http://nkbp.jp/2oXvz1A
─────────────────────────────
 MVロケットは、とことんロケットそのものの性能の良さが追
及され、それを実現させてきたのですが、その半面コストは非常
に高く、ただでさえ予算の少ない日本の宇宙開発にとって、その
コストの高さが足かせになっていました。ちょうどそういうとき
に、中央官庁統合が行われたのです。
 この結果、宇宙科学に関連する組織整理が行われ、現在、宇宙
科学研究所は、JAXA・宇宙科学研究所になっています。そし
て、宇宙科学研究所は、MVロケットの低価格化を実現し、かつ
運用コストを簡素化し、「M−VA」という構想実現を目指して
取り組むようになります。
 しかし、JAXA組織は、航空宇宙技術研究所(NAL)、宇
宙科学研究所(ISAS)、国土交通省系の宇宙開発事業団(N
ASDA)の3機関を統合したもので、なかなか意見がまとまら
なかったのです。
 MVロケットの改良型であるイプシロンは、低コスト化と運用
簡素化をクリアする設計プランが早くから提案され、2010年
には打ち上げができる状態にあったのですが、意見がまとまらず
2013年3月に打ち上げられ、成功します。
 その後、3年間にわたって改良が加えられ、2016年12月
20日に2号機が打ち上げられ、約13分27秒後に搭載してい
た「ジオスペース探査衛星」(ERG)を予定した軌道に投入す
ることに成功します。この成功をもってERGには「あらせ」と
いう愛称が与えられました。そしてこれは「強化型イプシロン」
と呼ばれるようになります。
 小型化・軽量化が図られており、打ち上げ能力が約30%増加
したにもかかわらず、打ち上げコストは1号機と同じ約50億円
に収まっています。さらに2号機では、ロケットが正常に飛行し
ているかどうかを地上からの管制レーダーに頼ることなく、ロケ
ット自身が自律的に判断する装置が搭載され、地上レーダーは不
要になります。将来的にはノートPC2台での打ち上げ可能なほ
どコンパクトなモバイル管理を目指し、コストを30億円に抑え
ることを目指しています。
 この日本のイプシロンの技術は、海外では「日本が潜在的に大
陸間弾道ミサイル(ICBM)」を持つ能力を育てている」とい
う論調で報道されていますが、確かにいつでもICBMにつなが
る技術であり、「安全保障面でのブラフ」として使えると、既出
の科学技術ジャーナリストの松浦晋也氏はいっています。
 確かに「全段固体推進剤」「打ち上げ期間の短縮」「少人数の
運用者」という3つの特質が揃っており、この技術を持っている
だけで日本の安全保障面での抑止効果は十分あるといえます。
             ──[米中戦争の可能性/076]

≪画像および関連情報≫
 ●東京オリンピック開催決定とイプシロンの効力
  ───────────────────────────
   インターネット上には、台湾・タイ・インドネシア・トル
  コなどの国々の祝意が溢れています。これら親日諸国のこと
  を知っていても、何故、親日なのかを体系的に知っている方
  は、意外と少ないのが現状です。中韓を徹底的に封じ込める
  には、日本人が中韓を見捨てて、投資も観光客も親日国家の
  東南アジアと南アジアにシフトすることが必要なのです。
   最近のニュースで一番中韓にとってショックだったのは、
  イプシロンの打ち上げ成功です。マスメディアは、低コスト
  で宇宙ビジネスに本格的に参入できる画期的な技術を物にし
  たと報道しているが、実態は世界最高性能の弾道ミサイルを
  開発したことになったのであり、組み立てから発射まで人工
  知能によって一週間で発射可能のコンパクトな技術は、反日
  中韓にとっては安全保障上の脅威なのです。それがためか、
  韓国はイプシロン打ち上げ成功から二分後にニュースを流し
  ていました。我が国のロケット打ち上げ精度は、ホワイトハ
  ウスの円筒形の屋根を直撃できる精度があり、国民の生命と
  財産を守るためには、あらゆる手段を執ることができますの
  で、イプシロン効果で中国の尖閣での圧力は減速します。日
  本の安全保障のためには、あと数年間尖閣海域で威嚇行動を
  継続してもらえれば、様々な安全保障上の準備ができるので
  す。これらの状況で中国は、どのように行動するかは中国エ
  リートの友人によると、テーブルの下で握手を求めてくるの
  が中国人の特質だとのことなのです。また、その逆に友好的
  に話し合っていても、テーブルの下にナイフを隠しもってい
  るのも中国人なので、いっさい隙を与えてはいけない民族な
  のです。             http://bit.ly/2ou73kC
  ───────────────────────────

国産固体燃料ロケット「イプシロン」.jpg
 
国産固体燃料ロケット「イプシロン」
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2017年04月24日

●「朝鮮半島北半分は習主席に任せる」(EJ第4507号)

 北朝鮮が中国に「核実験を実施する」と通知したようです。こ
の情報は21日から流れています。実施日についての情報はあり
ませんが、建軍節──朝鮮人民軍創建85周年記念日の25日の
早朝であると思われます。つまり、明日の朝です。
 4月20日、韓国「聯合ニュース」はこれに関して次のように
伝えています。
─────────────────────────────
 ◎米軍の特殊観測機/韓国上空に緊急出動
 「北朝鮮が中国に核実験を行うと通知した」という未確認情報
が出回っている。国防部や外交部など、関連省庁で確認に追われ
ている。               ──「聯合ニュース」
              2017年4月21日/夕刊フジ
─────────────────────────────
 事実を確かめると、確かに20日に米空軍の特殊観測機「WC
135」が沖縄の嘉手納基地から、朝鮮半島に向けて緊急発進し
ています。「WC135」は、北朝鮮が核実験をしたかどうかを
探る飛行機であり、これが発進したことは、核実験を警戒し、観
測態勢に入ったことを意味します。
 現在、金正恩氏とトランプ氏は壮絶なチキンゲームを展開して
います。2人とも一歩も引かない構えです。しかし、このところ
米国がちょっと引いた感じに見えます。米国のスタンスは「北朝
鮮のことは中国に任せる」というものです。このことをトランプ
氏は選挙中からいっていたのです。
 しかし、4月10日のEJ第4497号で述べたように、習近
平主席は北朝鮮をコントロールできない事情にあります。習主席
は、北朝鮮に隣接し、中国北東部を管轄する旧瀋陽軍区を含む北
部戦区(北朝鮮と直結する江沢民派の牙城)を掌握しきれていな
いからです。実は、米国はこのことをよく知っています。
 先の米中首脳会談のメインテーマが北朝鮮マターだったことは
両首脳とも周知のことだったはずです。そうであるならば、実際
に北朝鮮に強い影響力を持っているチャイナセブン序列第3位の
張徳江全人代常務委員長を同行させるべきです。しかるに、習主
席の米国訪問に同行したのは、次の3人の腹心であり、いわゆる
江沢民派は誰も同行していないのです。
─────────────────────────────
      房峰輝・連合参謀部参謀長
      劉鶴・中央財経指導小組弁公室主任
      栗戦書・党中央弁公庁主任
─────────────────────────────
 これによって習政権は、習近平主席が国内で「核心」と位置づ
けられていようと、それを国内外にいかに喧伝しようと、その実
体は「張りぼて」であることを見抜いたと思われます。米国はそ
れでいて習政権に北朝鮮問題の解決に圧力をかけているのです。
 4月16日(日)のことですが、日経の「風見鶏」に大石格編
集委員による「北朝鮮は中国の手で」と題する興味ある記事が掲
載されたのです。その一部に次の記述があります。
─────────────────────────────
 トランプ政権は発足直後、中国に「朝鮮半島の北半分は中国の
自由にしてよい」と伝えた。これが聞き込んだ噂である。もちろ
ん、「米国の脅威がなくなるならば」との条件付きだ。例えば、
クーデターで金政権を倒す。米国にはハードルが高い金委員長の
殺害も、北朝鮮軍にパイプがある中国ならば手の打ちようがあろ
う。少々混乱しても米国が介入してこないとわかっていれば、踏
み切りやすい。(中略)
 半島統一は韓国にとっては悲願かもしれないが、米国には所詮
はひとごとだ。領地安堵で中国に汚れ役をさせることができれば
こんなに楽な話はない。
    ──4月16日付、日本経済新聞「風見鶏」(大石格)
─────────────────────────────
 トランプ氏が、このところ、北朝鮮への中国の役割を強調する
のは、ここに狙いがあるかも知れないのです。そのためには、ト
ランプ大統領は、習主席に対して、韓国へのTHAADの設置も
中止してもよいといっていますし、為替操作国の指定うんぬんも
やめてもいいという条件を出しています。きわめて大きな譲歩で
あるといえます。
 確かに最近になって米国は韓国で設置を急いでいたTHAAD
の工事を中断し、「次の大統領が決めること」という柔軟姿勢を
示しています。口だけでなく、行動で示してもみせたのです。こ
れは中国にとって大きなチャンスでもあります。
 習近平主席としては、これはピンチではあるものの、江沢民派
と北朝鮮とのパイプを断ち切ることによって、国内完全統一がで
きるかもしれないと考えはじめたのではないかと思われます。こ
れに関連して中国の事情に詳しいノンフィクション作家・河添恵
子氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 ここで習氏が最も恐れているのは、中国内部の敵(江沢民派)
から正恩氏に作戦情報などが密告されることだ。そうなれば、中
南海(=中国政府や中国共産党の本部のある北京の中心部)が先
に火の海になりかねない。
 ただ、いつの時代も中国の支配者は「ピンチをチャンスに変え
る」したたかさがある。しかも必ずや「漁夫の利」を狙う。ここ
で浮かぶのは2010年7月から施行した「国防動員法の発令」
である。国防動員法は、中国が有事の際、政府と人民解放軍が民
間のあらゆる人的・物的資源を動員・徴用する法律である。
   ──2017年4月21日「夕刊フジ」 河添恵子氏論文
─────────────────────────────
 そうであるとすると、もし25日に北朝鮮が核実験をやったと
しても米軍は動くことはないと考えられます。トランプ政権はあ
くまで「中国に北朝鮮を処分させる」考え方ではないかと思われ
るからです。       ──[米中戦争の可能性/077]

≪画像および関連情報≫
 ●中国・国防動員法の恐怖/産経ニュース/けいざい独談
  ───────────────────────────
   「中国政府がひとたび『有事だ』と判断すれば対中進出し
  ている日系企業も含めて、中国のあらゆる組織のヒト・カネ
  ・モノの徴用が合法化され、戦時統制下におかれる懸念があ
  ることにもっと関心を払うべきだ」マレーシアを拠点に日系
  企業向けコンサルティング業務を手がけるエリス・アジア事
  務所の立花聡代表は厳しい表情で“警告”を続けた。
   あまり知られていないが、2010年7月1日に中国が、
  「国家の主権、統一と領土の完全性および安全を守るため」
  として施行した「国防動員法」の規定をさしている。全14
  章72条からなる同法について、立花氏は「(適用の)可能
  性は低いだろうが法律として存在する以上、(日本にとって
  も)不確定要素となる」と指摘した。「有事」の定義はやや
  あいまいながら、仮に東シナ海や南シナ海などで偶発的な衝
  突が起きた場合、中国が有事と考えれば一方的に適用が可能
  だ。例えば第31条。「召集された予備役要員が所属する単
  位(役所や企業など)は兵役機関の予備役要員の召集業務の
  遂行に協力しなければならない」。予備役要員は中国国籍の
  男性18〜60歳、女性18〜55歳が対象。有事の際、戦
  地に送られるというよりは、兵站などの後方支援や中国の敵
  国に関する情報収集任務が与えられる可能性がある。
                   http://bit.ly/1Esf6Wz
  ───────────────────────────

米空軍特殊観測機/WC135.jpg
米空軍特殊観測機/WC135
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2017年04月25日

●「社会主義国統計データの嘘に迫る」(EJ第4508号)

 このテーマで今回は第78回になるので、そろそろ最終章に入
る必要があります。テーマは「米中戦争の可能性」ですが、最後
に中国の経済の先行きについて考えます。
 「中国の経済はいずれ破綻する」ということがこれまでいわれ
てきましたが、一向に破綻する気配はなく、軍事力は年々向上し
ています。同様に、北朝鮮も早くから破綻が囁かれてきましたが
中国と同様に破綻するどころか、強力な核兵器を保有するまでに
なっています。社会主義国の場合、民主主義国の常識は通用しな
いようです。しかし、それでも最後は間違いなく、崩壊してしま
うのです。ソ連の崩壊がそれを証明しています。
 「中国崩壊論」について、高橋洋一氏は自著で次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 巷に溢れる「中国崩壊論」のように中国経済がクラッシュする
かというと、そう簡単にコトは運ばない。中国経済が抱える問題
は、マグマのように溜まりに溜まり、これからも溜まっていくが
一気に爆発することは当面ない。なぜなら、共産党の一党独裁体
制下では、偽装会計などを駆使して、いかようにでも問題を糊塗
できるからだ。
 しかし、さまざまな局面で、少しずつ小噴火を起こしていく。
いつ大爆発を起こすか・・・2年や3年の間は起こらないが、そ
の先は不透明である。そのとき、リーマンショック、あるいはそ
れ以上の衝撃を世界に撒き散らすことは容易に想像がつく。しば
らくは中国の動向から目が離せないという理由もそこにある。
      ──高橋洋一著/『中国GDPの大嘘』/講談社刊
─────────────────────────────
 上記の高橋洋一著の『中国GDPの大嘘』(講談社刊)という
本は、中国の統計のウソを見事に暴いた労作です。以下この本を
ベースに中国の統計のからくりについて検証していきます。
 ところで、ソ連はどうして崩壊したのでしょうか。
 国家の運営は、しばしば船の航海に例えられます。安全な航海
に欠かせないのは、正確な「海図」と「航路」を綿密に調べ上げ
たデータ、そしてそれに基づく船の正確な状況認識が必要です。
 国の政治・経済の運営に不可欠な「海図」は、各種の統計デー
タということになりますが、ソ連は実に50年以上にわたってこ
れらの各種統計データを巧妙に改竄し、捏造していたのです。
 しかもその手法は精緻を極めており、プロの経済学者でも騙さ
れてしまうほど巧妙だったのです。高橋洋一氏はこれについて次
の話を明かしています。
─────────────────────────────
 問題は、そのデタラメな偽造会計を世界の大半が信じていたと
いうこと──。たとえば、アメリカのノーベル経済学賞受賞者の
ポール・サミュエルソン。彼はソ連が出すデタラメ数値を信じて
「ソ連は成長している」と言い切ってしまった。サミュエルソン
ほどの偉人ですら、騙されてしまう。それだけ、統計データの虚
偽を見抜くのは難しいことなのである。
                ──高橋洋一著の前掲書より
─────────────────────────────
 このソ連の統計作成手法は、ソ連が崩壊してはじめて明るみに
出たのです。ゴルバチョフ書記長の「ペレストロイカ」(改革政
策)と「グラスノチ」(情報公開)の結果、明らかになったので
す。それによると、GDPは半分しかなかったといわれます。
 中国の統計システムは、このソ連の統計システムに学んでいる
のです。中華人民共和国の創設は1949年のことですが、その
さい、1万人から成るソ連の顧問団が北京にやってきて、中国の
産業育成について、ソ連は社会主義国の先輩として指導していま
す。そのとき、統計作成の手法も指導されたのでしょう。
 中国の2017年1月〜3月の実質経済成長率は、4月17日
に前年同期比6・9%と発表され、18日の日本経済新聞は次の
ように伝えています。
─────────────────────────────
 中国の2017年1〜3月の実質経済成長率は、前年同期比で
6・9%だった。地方を中心にインフラや不動産への投資が増え
成長をかさ上げした。習近平指導部は最高指導部が入れ替わる秋
の党大会をにらんで安定成長の演出に躍起だ。ただ、資産バブル
の拡大など先行きのリスクは膨らんでいる。
     ──2017年4月18日付、日本経済新聞(朝刊)
─────────────────────────────
 中国のGDP成長率の発表についていつも不思議に思うことが
あります。それは、他国に比べてダントツに早いことです。今年
の場合も、1〜3月の数値がたった17日で発表されています。
これに対して、日本や米国の発表はきわめて遅いのです。米国で
は速報値でさえ翌月の下旬になってしまいます。つまり、1〜3
月の速報値は4月の下旬になります。日本についてはもっと遅い
のです。日本では速報値は翌々月の中旬、つまり、5月の中旬に
ならないと出てこないのです。
 もっとも計算は早い方がよいに決まっています。普通に考える
と、中国のような巨大な国では集計に1ヶ月ぐらいかかっても不
思議はないのですが、なぜかたったの17日で出てきます。だか
ら、きちんと集計されていないのではないかという疑いも出てく
るのです。
 社会主義国の場合、統計の概念が民主主義国と違うのです。社
会主義国では、国が計画し、目標とした数値に統計を合わせるべ
きという考え方があります。国が立てた経済計画は神聖なもので
あり、どんなことがあっても達成しなければならないものであり
統計はそれに合わせるべきであるという国の意思が強く作用して
います。これは、企業の粉飾決算に似ています。2015年に発
覚し、2年かかって企業を存亡の危機に陥れている東芝の粉飾決
算の構図とまったく同じであるといえます。
             ──[米中戦争の可能性/078]

≪画像および関連情報≫
 ●中国のGDP操作疑惑/経済専門家「ヤラセではないか」
  ───────────────────────────
   米国では、2008年の金融危機以来、国内総生産(GD
  P)の伸びが年率2%台あたりをさまよい、米連邦準備制度
  理事会(FRB)が自信をもって金融正常化と利上げ加速に
  踏み切れない最大の理由となっている。だが、そんな米国を
  尻目に、中国では年率8%代後半の成長が安定的に継続し、
  世界を驚かせている。それでも、以前の二桁台よりは経済拡
  大スピードが落ちているというのだから、なおさら驚異であ
  る。世界中が経済の長期停滞にあえぐ中、そんな順調なGD
  Pの成長は、本当に可能なのだろうか。何か裏があるのでは
  ないか。事実、米国ではここ数年、中国の経済統計数値の集
  計・分析・発表などで人為的な操作が加えられているとの疑
  惑が繰り返し論じられている。
   具体的に何が問題なのか。米国の論調から探ってみよう。
  中国国家統計局が2016年10月18日に発表した、今年
  7〜9月の第3四半期のGDPによると、中国経済は前年比
  6・7%成長し、1〜3月の第1四半期、4〜6月の第2四
  半期に続き、政府の成長目標6・7%をドンピシャと達成し
  た。これにかみついたのが、調査会社キャピタル・エコノミ
  クス中国担当エコノミストのジュリアン・エバンス=プリチ
  ャード氏だ。同氏は、「3つの四半期にわたって数字が同じ
  であるのは、データが『ならし作業』で粉飾されていること
  を示唆している」と述べた。    http://bit.ly/2ozmb0e
  ───────────────────────────

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ポール・サミュエルソン氏
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2017年04月26日

●「中国のGDPは本当に正当なのか」(EJ第4509号)

 中国のGDP成長率が10%を切ったのは2011年度からで
す。その2011年から2016年度までのGDP成長率を調べ
ると、次のようになります。
─────────────────────────────
                GDP成長率
       2011年 ・・・ 9・50%
       2012年 ・・・ 7・75%
       2013年 ・・・ 7・69%
       2014年 ・・・ 7・30%
       2015年 ・・・ 6・90%
       2016年 ・・・ 6・70%
─────────────────────────────
 2011年から毎年少しずつGDP成長率が下がっています。
その変化率は非常に少ないのです。もっとも、下がったとはいえ
高い成長率ですが、この数字だけを見ていても別におかしな点は
見当りません。しかし、他の国と比較してみると、その異常性が
見えてきます。
 高橋洋一氏によると、GDP成長率で変化率の少ない国のラン
キングを見ると、上位に社会主義国が名前を連ねています。
─────────────────────────────
        第1位:バングラディシュ
        第2位:ラオス
        第3位:ベトナム
        第4位:中国
      ──高橋洋一著/『中国GDPの大嘘』/講談社刊
─────────────────────────────
 中国は経済大国です。国土が大きく、人口も多く、世界中と貿
易をしている国です。それだけに世界経済の変化の影響を受けや
すいはずであり、米国や日本のように、変化率はもっと大きくな
るはずです。それが変化率の少ない国の順位で、世界第4位であ
るとは異常なことです。
 中国には、全国GDPだけでなく、各地方政府が発表する地方
GDP統計があります。中央政府は、地方政府から報告される地
方GDPをすべて合計して全体のGDPを発表していると思われ
ますが、それなら各地方政府のGDPの合計額が全国GDPに一
致に一致するはずです。
 ところが、地方政府全部のGDPを積算すると、全国GDPの
数値を大きく上回る数字になってしまうのです。しかも、その乖
離幅は年々増大しています。このようなことは、通常は起こり得
ないことです。
─────────────────────────────
       全国GDP   地方GDP合計   乖離幅
 2010年  40・9      43・7   2・8
 2011年  48・4      52・1   3・7
 2012年  53・4      57・7   4・2
 2013年  58・8      63・4   4・6
 2014年  63・6      68・4   4・8
 2015年  67・7      72・5   4・8
                     単位:兆人民元
                ──高橋洋一著の前掲書より
─────────────────────────────
 現在の中国のGDPは、2016年度が6・7%ですが、GD
Pを生み出す要素を検証すると、大きく伸びる可能性はきわめて
低いといわざるを得ないのです。中国の消費は不動産投資が主力
であり、耐久消費財の筆頭である車は、販売台数が大きく伸び悩
んでいます。
 そもそも中国の個人消費がGDPに占める割合は約30%しか
ないのです。これに対して米国は65%、日本は60%を占めて
います。不動産投資が中心ですから、もし不動産バブルが破裂し
てしまうと、経済は壊滅的な打撃を受けることになります。
 中国では民間企業の設備投資はほとんどないのです。現在中国
で成長を牽引しているアリババなどのネット・通信企業は、巨額
の投資を必要としないのです。ただ、国有企業による過剰な設備
投資と外国企業による直接投資があります。
 しかし、国有企業の設備投資は経済を改革する必要があるので
制限され、大幅に減少しています。外国企業──とくに中国への
2大投資国といわれるドイツと韓国は、自国内での経済がおもわ
しくなく、日本や米国の企業も中国から撤退傾向にあります。
 それでは、輸出はどうでしょうか。まさに命綱ともいえる輸出
は、2016年が前年比7・7%マイナスと激減し、輸入につい
ても5・5%のマイナスです。これによって、貿易は赤字転落寸
前の状態です。
 このように見ていくと、中国のGDPの伸びる余地はあまりな
いことがわかります。高橋洋一氏は、中国のGDPについて、き
わめて大胆な次の指摘をしています。
─────────────────────────────
 私は、中国の実際のGDPは公式発表されている数値の3分の
1程度ではないかとさえ思っている。こんな計算の仕方もある。
ソ連の公式統計では、1928〜85年の国民所得の平均成長率
は年率8・2%とされていた。しかし実は3・3%でしかなかっ
たという事実を1987年、ジャーナリストのセリューニンと経
済学者のハーニンが、その論文「狡猾な数字」で指摘している。
この手法を中国国家統計局が踏襲し、仮に15年間続けていたと
したら・・・その実際のGDPは半分ということになる。
                ──高橋洋一著の前掲書より
─────────────────────────────
 中国では、毎年全人代で発表するGDPの目標には、政治的暗
闘がその裏に隠されています。そこには、習近平主席対李克強首
相のすさまじい暗闘が繰り広げられているのです。
             ──[米中戦争の可能性/079]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の偽装GDPは世界のリスクだ!/田村秀男氏
  ───────────────────────────
   中国の国内総生産(GDP)の7〜9月期の前年比の成長
  率が6・9%と7%を割った。「世界の工場ほころび」(朝
  日新聞20日付朝刊)、「中国リスク、出口見えず」(日経
  新聞同)などと大騒ぎだが、何かヘンである。小学生でも知
  っている経済の常識では7%近い成長は高成長であり、好景
  気そのものである。なのに各紙は何の説明もしない。その点
  20日の朝刊1面トップではっきりと「偽りのGDP、異様
  に巨大化」と報じた産経新聞を読んで、ストンと胃の腑に落
  ちた読者も多いだろう。親中国各紙は、北京のご機嫌を損な
  わないよう問題の本質から目をそらし、読者を混乱させてい
  る。中国GDP統計が嘘だと詳報したのは産経ばかりではな
  い。米ウォールストリート・ジャーナル紙も20日付で、米
  欧の有力エコノミストに取材して「中国GDPの信憑性、エ
  コノミストは疑問視」との特集をした。同記事によれば、エ
  コノミストの多くがGDP発表値は党中央の政治圧力の産物
  であり、実際の7〜9月期成長率について4〜5%の間とみ
  ている。筆者が重視する鉄道貨物輸送量や輸入額でみると、
  グラフのように2ケタ台のマイナス成長とみてもおかしくな
  いはずだが、北京の公表値はまさしく偽装データも同然との
  見方を裏付ける。 ──「お金は知っている」(2015)
                   http://bit.ly/1k0RWgu
  ───────────────────────────

高橋洋一氏.jpg
高橋 洋一氏
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2017年04月27日

●「経済司令塔を変えようとする中国」(EJ第4510号)

 2016年3月の全人代(全国人民代表大会)開幕式での出来
事です。開幕式では首相が政府活動報告をするのが習わしです。
国内外のメディアがカメラを回し、全国民が注視する華やかな政
治イベントにおいて、習近平主席と李克強首相は、お互いに目を
合わさず、終始憮然とした表情だったのです。
 習主席は、政府活動報告をする李首相の演説をいかにもつまら
なそうな表情を浮かべ、拍手を送らず、恒例になっている演説を
終えてひな檀に戻ってきた李首相と握手をしてねぎらうこともし
なかったといいます。中国ジャーナリストの福島香織氏は、この
ときの状況について次のように述べています。
─────────────────────────────
 これは異常事態であった。全人代の政府活動報告における拍手
と握手は、いわゆる台本に載っている約束事である。それをあえ
てしないどころか、全人代開催中、二人は目を合わせることもな
かった。また、政府活動報告を読み上げる李克強の様子も異様で
あった。目の下にクマをつくり疲労困悠といった様子で、読み間
違いが30回以上あり、声もときおりかすれた。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 中国では首相職が経済政策の責任者としての指揮を執ることに
なっています。ケ小平が決めた集団指導制のルールです。しかし
習近平主席にとってはこれが不満なのです。
 実は、2016年の全人代で李克強首相が憔悴しきっていたの
は、政府活動報告の起草をめぐって、習近平主席との間で激しい
やり取りがあったからです。全人代での政府活動報告は2015
年12月に行われた中央経済工作会議における決定に基づいて行
われることになっていたのですが、GDP目標の数値については
大もめにもめたのです。それは、2012年秋の第18回中国共
産党大会において、習主席がビジョン「偉大な中国の夢」と共に
掲げた次の具体的な目標に原因があるのです。
─────────────────────────────
 2020年までにGDPと国民の平均収入レベルをそれぞれ
 2倍にする。              ──習近平主席
─────────────────────────────
 ここでいう2倍とは、2010年対比です。これを達成するに
は、年平均7%以上の成長が必要なのです。これによって習政権
は、年7%以上という高い経済成長の維持が至上命令になったの
です。ちなみに、中国の公式統計によると、2012年の固定資
産投資総額はおよそ36兆人民元(約612兆円)、前年比20
%という高い伸びです。この投資によってこの年の成長率はかな
り押し上げられています。
 しかし、経済刺激、政府の直接投資に頼る経済成長には当然限
界があり、2013年には景気が息切れしてきたのです。中国当
局は、無理に無理を重ねて、死にもの狂いで7%を支えてきたの
です。その結果、この過剰な投資は各地に鬼城(グイチェン)を
林立させるなど、多くの負の遺産を遺しています。
 2014年以降、GDP成長率目標を決める中央経済工作会議
では紛糾し、習近平主席と李克強首相の仲はどんどん険しいもの
になっていったのです。そして、2015年の中央経済工作会議
では、主席と首相の対立は頂点に達したのです。これについて、
福島香織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 この政府活動報告は2015年12月に行われた中央経済工作
会議[中国共産党と政府が毎年12月頃、合同で開催する経済関
連で最高レベルの会議を指す]での決定に沿って書かれるのだが
この中央経済工作会議ではGDP目標は盛り込まれなかった。前
年と同じ7%とするか、前年よりも0・5ポイント下げた6・5
%という数字にするか議論が分かれ、結局、最低ラインを6・5
%、目標は7%と幅を持たせることでいちおう一致したが、数字
の盛り込みは見送られた。だが、全人代に提出する政府活動報告
では具体的数字は必要だ。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 このとき、習近平主席はあくまで7%を主張したのですが、李
克強首相は最低ラインの6・5%を主張して譲らず、決着がつか
なかったといわれます。そして、「7%〜6・5%」というレン
ジで数字を盛り込むことで決着したのです。
 習近平主席は、残りの任期の5年間を自分の思い通りに国家を
運営するため、要職に自分の腹心を配置してきています。実は習
主席が一番交代させたいのは、序列第2位の李克強首相です。そ
のため、あえて李首相に高いGDP目標を立てさせ、その数字を
達成できなかったときに責任を取らせるかたちで交代させたいと
考えており、実際にそうなる可能性は高いと思われます。
 2016年5月9日付、人民日報に「権威人士」なる人物によ
る記事が掲載され、李克強首相の経済政策を批判しています。そ
のなかでマクロ経済に関して次のように述べています。これを書
いたのは、習主席の経済ブレーンである劉鶴中央財経指導小組弁
公室主任であると思われます。
─────────────────────────────
 供給サイドの主要矛盾解消、供給サイドの構造改革が必須。投
資の拡大をやり過ぎず、適度にし、まな板から包丁が飛び出るよ
うなことであってはならない。天まで届くほど伸びる枝はない。
高レバレッジは必ずハイリスクを伴う。システマティックな金融
危機をうまくコントロールできなければ、数字の上で経済成長を
導くことができても、国民の貯蓄を台無しにしてしまう。
                ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/080]

≪画像および関連情報≫
 ●中国で強まる習氏独裁/ナンバー2の李克強首相もクビか
  ───────────────────────────
   中国の全国人民代表大会(全人代=国会)で、習近平国家
  主席の独裁ぶりが極まっている。共産党で序列第2位の李克
  強首相も平身低頭で恭順の意を示したが、年後半に開かれる
  党大会でクビになるのではとの観測が強まった。
   「習同志を核心とする中国共産党中央の力強い指導の下、
  経済、社会の発展を推し進めた」。李首相は政府活動報告で
  「核心」を繰り返して習氏の功績をたたえた。忠誠を誓う李
  氏に対し、椅子に深く腰掛けた習氏は報告書を開くこともな
  く退屈そうな仏頂面。報告書を読み上げる前に習氏に向かっ
  てお辞儀をした李氏と「格の違い」を際立たせた。会議終了
  後も、習氏は李氏と言葉こそ交わしたが、握手もせずに足早
  に退場した。
   政府が1月に公表した2016年の国内総生産(GDP)
  発表資料でも、李首相がトップを務める国務院の表記が削除
  されるなど、首相の主管分野である経済政策からの排除はあ
  からさまだった。存在感を失った李氏。習氏の信頼が厚い王
  岐山・党中央規律検査委員会書記または汪洋副首相と交代す
  るとの見方も指摘されている。   http://bit.ly/2oFvcoD
  ───────────────────────────

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李首相と習主席の冷たい関係
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2017年04月28日

●「中国で現在大規模リストラが発生」(EJ第4511号)

 中国経済の統計は数字が操作されていると多くの人が指摘して
いますが、メディアは中国当局の発表する数値をそのまま報道し
ています。EJでは、今までに何回も中国をテーマに取り上げて
いますが、多くの中国の専門家もそのことを指摘しています。た
だ、一部にはその事実を否定する専門家もいます。
 とくに経済学者の高橋洋一氏は、中国はソ連の偽装統計を引き
継いでおり、経済統計の数字は正確ではないことを『中国GDP
の大嘘』(講談社刊)という自著で明らかにしています。そのこ
とをテーマに単行本を上梓されているのです。
 これについては、中国ウォッチャーの宮崎正弘氏も最近刊著に
おいて、高橋洋一氏と同じことをもっとストレートな表現で、そ
のデタラメぶりを指摘しています。
─────────────────────────────
 旧ソ連の経済統計が、革命から70年間、まったくのデタラメ
だったことは広く知られる。ノルマ達成だけが目的の数字をその
まま経済統計に用い、あとは作文と辻複合わせだった。
 たとえばある製鉄所では、原材料の鉄鉱石の割り当てが100
トンなのに、生産が200トンと報告される。アルミが原材料か
ら50トン精製されるとすれば100トンと平気で報告される。
在庫を確認しにくる係官は賄賂をもらって口をつぐむ。
 そもそも炭鉱事故があると現場に飛ぶ新聞記者が、会社幹部に
「書かない原稿料」を請求するのが中国のジャーナリストの特徴
であるように。          ──宮崎正弘著/徳間書店
     『米国混乱の隙に覇権を狙う中国は必ず滅ぼされる』
─────────────────────────────
 このように「中国経済失速論」が盛んなのですが、最近は「一
向に崩壊しないではないか」という声も聞こえてきます。中国は
社会主義国であり、確信犯として正しくない統計数字を使い続け
ても、それが実態をあらわしていなくても、相当長期間にわたっ
て通用してしまうのです。
 ソ連は、1922年から1991年までの70年間続いていま
す。しかし、うそをつき続けていると、うそがひとり歩きを始め
収拾がつかなくなり、誰も本当のことを把握できなくなって、突
然死してしまうのです。ソ連はそのように終末を迎えています。
 中国、すなわち、中華人民共和国の建国は1949年、今年で
69年になります。ソ連が崩壊した70年目が近付いています。
 中国の2016年度のGDP成長率は6・7%、年々下がって
はいるものの、高い成長率です。しかし、2016年の上海株式
は13%下落したのです。ニューヨーク株は2016年を通して
13・4%上昇し、ドルは対円で17%も上昇しています。日経
平均も年初から上昇しているのです。しかも、中国はIMFのS
DR(特別引出権)入りを果たし、本来なら上がるはずの人民元
が対ドルで6・6%も下落したのです。
 2016年度の中国では、金融機関を中心に大幅なリストラが
行われています。大不況です。これについて宮崎正弘氏は、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 中国の国有銀行トップの座にある中国工商銀行が約7600人
のリストラを発表したほか、中国銀行が約6900人、中国建設
銀行が約6800人を削減、中国農業銀行もおよそ4000人を
リストラし、この傾向は招商銀行、交通銀行、上海浦東発展銀行
などにおよび、十大銀行のリストラ規模は合計3万6000人に
達する。すでに国有企業も、余剰人員削減、産業再編へ向けての
合併が進んでいるが、社債デフォルトも頻発している。
 鉄鋼、アルミ、石炭などの企業城下町には失業者が溢れかえり
暴動前夜の様相を呈している。しかし銀行の3万人余のレイオフ
とは、2008年のリーマンショックの際にウォール街が断行し
た大量レイオフの規模に迫る「大不況」突入前夜の状況に酷似し
ている。大乱必至となるだろう。 ──宮崎正弘著の前掲書より
─────────────────────────────
 これでいて2016年のGDP成長率は6・7%なのです。明
らかに何かがおかしいのです。しかし、中国ウオッチャーのなか
には、中国の数字は正しいと主張する人もいます。キャノングロ
ーバル戦略研究所研究主幹の瀬口清之氏は、「文藝春秋」5月号
で、次のように「中国経済失速論」を批判しています。
─────────────────────────────
 中国の経済統計を語るとき、必ず指摘されるのが「数字の信憑
性」の問題です。今年2月にも、地方政府が公表したGDPを合
算すると、全国のGDPを大きく超過したというニュースが流れ
ました。
 しかし私の現地での実体験から判断するに、中国の国家機関や
人民銀行などの経済政策担当者は、正確な統計データを得ること
に非常にこだわりを持っています。中央政府が国の経済をコント
ロールするには、地方政府から上がってくる統計データに頼るし
か術がなく、そのためには正確なデータが不可欠だからです。デ
ータに疑わしいものを見つけたときには国家統計局に対して「こ
の数字はおかしくないか?」と厳しく追及する役人もいます。
 私が27年間見てきたかぎり、彼らが国家統計局発表の数字と
異なるデータを参考にして、政策運営をしていたことはありませ
ん。GDPの数字にしても、工業生産、設備投資、輸出入の数値
にしても、常に公表データと同じ指標を見ている。裏帳簿がある
わけではないのです。            ──瀬口清之著
     「中国経済失速論にだまされるな」/文藝春秋5月号
─────────────────────────────
 かなり前ですが、田原総一朗氏の番組「激論クロスファイア」
で、瀬口清之氏と遠藤誉氏の対談を見たことがあります。しかし
二人の中国に関する意見はまるで食い違っていたのです。どう考
えても、私には遠藤氏の話の方が正しいように感じたものです。
中国の統計数字がおかしいことは、首相になる前の李克強氏です
ら認めていることです。  ──[米中戦争の可能性/081]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の国有銀行が過去最大リストラ/3万6000人削減
  ───────────────────────────
   【上海=河崎真澄】中国の国有商業銀行が大幅な人員削減
  策を進めている。地元紙によると、過去1年で最大手の中国
  工商銀行が約7600人の行員を削減するなど、大手10行
  で少なくとも3万6千人以上が退職に追い込まれ、過去最大
  規模のリストラになっているという。経済成長の鈍化に加え
  預金金利と貸し出し金利の固定化で安定していた収入源が、
  ここ数年の段階的な金利自由化で崩壊。さらに、ネット金融
  決済が約5億人にまで普及し、個人顧客への窓口対応が必要
  な行員数が大幅に減るなど、銀行を取り巻く環境が激変した
  ことが経営を一気に悪化させた。
   4大国有商銀の人員削減は公表されているだけで工商銀行
  のほか中国銀行の約6900人、中国建設銀行の約6800
  人、中国農業銀行が約4千人など。ほかにも交通銀行や招商
  銀行など中堅行で軒並み数百人〜数千人が削減されている。
  大手は人員削減により、円換算で年間に数十億円から数百億
  円の人件費の負担を軽減したという。
   一部の人材はネット系の金融機関などに吸収されたが、高
  騰している不動産市況が下落に転じれば不良債権問題が顕在
  化し「今後も銀行業界では1年で数万人のリストラが続く」
  (金融業界筋)とみられる。
   銀行のみならず、過剰生産問題に揺れる鉄鋼や石炭などの
  国有企業も、工場の統廃合などで数十万人の規模のリストラ
  に踏み切りつつあり、全土で広がる失業者の急増が社会不安
  に結びつかないかが懸念されている。
                   http://bit.ly/2iOJ11w
  ───────────────────────────

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宮崎正弘氏/瀬口清之氏
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2017年05月01日

●「なり振り構わぬ中国の株価維持策」(EJ第4512号)

 中国の株式市場について考えてみます。株式市場といえば、資
本主義の象徴ですが、中国に株式市場が創設されたのは1990
年のことです。なぜ、株式市場が創設されたのでしょうか。
 それは、あの天安門事件と関係があるのです。天安門事件が起
きたのは1989年のことです。民主化を求める学生たちが天安
門広場で大規模デモを敢行したのです。政府は人民解放軍を導入
して鎮圧し、数千人の死者を出す大事件になったのです。
 ときの権力者のケ小平は、もしこのような事件が再発されると
中国共産党は崩壊すると考えて強硬手段をとったのです。ケ小平
の驚くべき政治的な勘です。もし、現代であれば、人民解放軍の
戦車の前に立ちはだかったあの青年の写真は、スマホで、あっと
いう間に中国全土に広がり、大勢の人民が立ち上がり、中国共産
党は崩壊の危機に瀕することは確かです。
 このように天安門事件で危機感を覚えたケ小平は、それまでの
経済政策を変更し、上海としんせんに証券取引所を開設し、金儲
けを奨励することにしたのです。つまり、民主化を求める人民に
民主化させない代わりに、資本主義の主幹システムを導入したの
です。まさに苦肉の策です。
 もともと社会主義の国に株式市場を開設するには無理があると
いえます。証券取引所には国有企業が国有企業のまま上場されて
いたりしたからです。しかし、2000年に入ると、中国の株式
市場は盛り上がってきたのです。実際に株式によって多くの中国
人が、豊かになったことは確かです。これを見て多くの中国人は
株式に関心を持つようになります。そして日本の証券会社でも中
国株を扱うところが増えてきたのです。
 しかし、中国人のバクチ好きを知っている政府は、信用取引だ
けは認めなかったのです。もし認めると、株式投資が過熱するこ
とが目に見えていたからです。その頃、株式投資をしている人た
ちの間では、胡錦濤総書記の後任に習近平氏が就くのか、李克強
氏が就くのかに関心が集まっていたのです。李克強氏が経済に強
いことはよく知られており、これに対して習近平氏は「経済オン
チ」であり、市場からあまり信頼されていなかったのです。
 2007年10月に上海総合指数は最高値をつけていたのです
が、第17回中国共産党大会で、習近平氏の共産党序列が6位、
李克強氏の序列が7位に決まると、とたんに株価は暴落したので
す。これは、胡錦濤総書記の後任が習近平氏に決まったことを意
味しており、多くの投資家が失望売りをしたからです。
 自分が経済オンチであるといわれていることを意識している習
近平氏は、2012年に総書記に就任するや株式の信用取引制度
を導入したのです。何としても、株価を上げたかったからです。
 その結果、何が起こったでしょうか。
 株式市場の活況と急速な景気後退です。これについて高橋洋一
氏は、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 2015年3月以降、「禁断」の信用取引を導入した効果もあ
って、株価は歴史的な高値を更新していた。しかし、実体経済は
その一年前から変調をきたしていた。株式市場以外は、景気低迷
にあえぎ、不動産バブルもはじけていたのだ。
 それでも、というより、だからこそ人々は株式投資にのめり込
んだ。民間企業の経営者のなかには、急騰する株式相場の誘惑に
勝てない者も数多くいた。なにしろ不景気のなか、会社経営は厳
しいが、株価だけは上昇している。勢いマネーゲームに参戦する
経営者が増えてもおかしくない。(中略)
 実体経済と株式市場のこの乖離を、中国政府は「新常態(ニュ
ーノーマル)」という言葉で説明した。急成長から緩やかな成長
へと減速し、安定的な経済成長に移行した、と強弁したのだが、
実態は急速な景気後退だった。
      ──高橋洋一著/『中国GDPの大嘘』/講談社刊
─────────────────────────────
 しかし、2015年夏に株価(上海株)は暴落するのです。そ
のとき、当局はなり振り構わぬ株価維持策を実施しています。そ
の維持策のなかに、大株主に対する一部企業の株式売却禁止措置
があります。期限は6ヶ月間です。自由主義経済圏ではあり得な
いこの暴挙を中国当局は実施したのです。
 このとき、一ヶ月で下げた株価の総額は、1兆5000億人民
元(約26兆円)にもなったのです。まさに中国株のバブルの崩
壊です。26兆円もの金額が一瞬にして消えたのです。しかも、
このときは、多くの投資家は信用取引をしていたので、有り金を
すべて失ったうえ、莫大な借金を負う投資家も少なくなかったの
で、飛び降り自殺(跳楼/ティアオロウ)する投資家が続出した
のです。中国政府は「跳楼」に関する報道を禁止し、ネットでの
その種のニュースをすべてカットしたのです。習近平主席は自ら
の失政を隠蔽するため、情報操作をやったのです。
 高橋洋一氏の本に出ていたのですが、中国の株式市場の世界で
は、「イーヒン・アルビン・チーシュー」という言葉があるそう
です。これは「10人の投資家のうち勝つのは1人、トントンが
2人、残り7人は負ける」という意味だそうです。このうち、勝
つ1人とは共産党幹部の官僚なのです。なぜなら、彼らはインサ
イダーで情報を得られるので損はしないのです。
 国有企業には持ち株の売却を禁止する一方、中国政府は商業銀
行、証券会社、生命保険会社などに大量に株を買わせ、株価を買
い支えようとしています。そのため、これらの金融機関は新規融
資ができなくなり、しかも大量の不良債権をかかえることになり
ます。そしてそれが、中国の経済をさらに冷え込ませる結果にな
るのです。
 そして、株の売却を禁じられた国有企業は、過剰設備をかかえ
ることに加えて、膨大な株の含み損もかかえることになります。
さらに2016年1月に解除されるはずの株式売却禁止措置はさ
らに延長され、さらなる株価の暴落を招くことになるのです。
             ──[米中戦争の可能性/082]

≪画像および関連情報≫
 ●中国「新常態」という異常事態/福島香織氏
  ───────────────────────────
   中国の国会にあたる全国人民代表大会が3月5日から開幕
  し、李克強首相は政府活動報告で、中国の経済成長率目標を
  7%前後に引き下げ、「中国の経済状況が新常態(ニューノ
  ーマル)に入った」と位置付けた。この首相の新常態宣言は
  ケ小平の改革開放以来の30年の中国の高度経済成長に終わ
  りを告げる「低成長宣言」と受け取る向きもあれば、ケ小平
  の改革開放以来続いてきた経済構造を痛み覚悟で転換すると
  いうシグナルと受け取る向きもある。左派経済学者の郎咸平
  などは、「習総書記の語る『新常態』はケ小平の南巡講話以
  上の影響力」とも言っていたが、果たして「新常態」とは、
  どういう状況をいうのだろうか。そして、その「新常態」と
  はいつまで続くのだろうか。
   習近平が最初に「新常態」という言葉を使ったのは、20
  14年5月の河南視察旅行中の発言だ。「中国の発展は依然
  重要な戦略的チャンスの時期にあり、我々は自信を強化し、
  目下の中国経済発展の段階的特徴から出発して新常態に適応
  し、戦略上の平常心を保ち続けなければならない」。
   この新常態の理念について、さらに具体的に説明されたの
  はその年の11月のAPEC商工サミットでの「発展の持久
  を求め、アジア太平洋の夢をともに築こう」という演説の中
  で、「新常態は中国のさらなる発展のチャンスをもたらすも
  のなのだ」と発言。       http://nkbp.jp/2pIu20J
  ───────────────────────────

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株価暴落で頭をかかえる投資家
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2017年05月02日

●「中国金融機関の保有する不良債権」(EJ第4513号)

 中国の経済統計にはウソがある──このことはよくいわれてい
ますが、実際にどこがウソであるかを指摘することは、それほど
簡単ではないのです。
 ひとつのチェック方法があります。複数の統計を比較すること
です。たとえば、GDPと失業率の関係をチェックする方法があ
ります。これは「オークンの法則」として知られています。
 オークンの法則とは、米国の経済学者、アーサー・オークンが
発表した実質GDPの変化率と失業率の間に見られる負の相関関
係のことです。これは、1960年代初頭の米国経済に関する実
証研究によって解明された法則です。失業率が1%低下すると、
実質GDPは3・2%上昇するというものです。
 生産活動が活発化すると、雇用者が増加し、失業率が低下、実
質GDPが上昇します。逆に、生産活動が停滞すると、雇用者が
減少し、失業率が上昇、実質GDPが低下するという関係のこと
を「オークンの法則」というのです。
 そこで、中国当局が発表する公式の失業率を見ると、きわめて
不可解なことがわかります。添付ファイルに2002年から20
14年までの失業率を付けているのでご覧ください。
 これは、国家統計局と人力資源社会保障部が発表した「登記失
業率」ですが、過去10年間にわたって、4・0%〜4・3%の
間でしか動いていないのです。これは、上のグラフ──完全失業
率は4・5%〜4・7%以内と掲げる国家目標の範囲内に収まっ
ています。この数字にはリーマンショックによる景気後退や20
14年の景気後退が反映されておらず、とても実態をあらわして
いるとは思えないのです。この国は、まず目標が先にあって、そ
れに基づいて結果が決まるようです。高橋洋一氏は、これについ
て、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 そもそも中国の公式失業率は、調査の対象を、失業率が低い都
市部の戸籍を持ち、なおかつ職業安定所に登録した労働者だけを
対象にしている。もともと無意味な失業率調査であり、統計数値
なのだ。実情としては、中国の失業率は10%以上、悪いときは
20%にも上ると見られている。だから正確な失業率統計などな
いに等しいのだ。
      ──高橋洋一著/『中国GDPの大嘘』/講談社刊
─────────────────────────────
 かつてのソ連にしても、中国にしても社会主義国は、どうして
国の公式数値を改竄するのでしょうか。ソ連の場合は、アメリカ
を代表とする資本主義国家陣営と張り合っていたのです。そこで
アメリカに負けない目標を立て、実際の数値を目標に合わせて改
竄していたものと考えられます。
 中国の場合も同様です。彼らは経済大国世界第2位の日本に焦
点を合わせ、日本を抜くことに全力を傾けたのです。何がなんで
もGDPを増加させるために膨大な投資を行ったのです。その結
果、実際に中国はその目標を達成し、今度はアメリカを追ってい
ますが、中国の経済数値をていねいにチェックしていくと、数値
に実態が追いついていないことがわかります。
 株価についても同様です。株価が暴落すると、なり振り構わな
い株価維持策を行い、金融機関を含む国有企業に株式を購入させ
その売却まで制限して株価を買い支えることを平気でやってきて
います。その結果、中国の4大銀行は膨大な不良債権を抱える事
態に陥っています。
 ここに中国の国有4大銀行の2014年12月期決算の数字が
あります。この数字を見ると、4大銀行の減速が鮮明になってい
ることがわかります。
─────────────────────────────
 ◎中国4大銀行/2014年12月期決算    単位億元
         純利益  不良債権残高  不良債権比率
 中国工商銀行 2758    1244     1.13
     比率   5.0     32.9     0.94
 中国建設銀行 2278    1131     1.19
     比率   6.1     32.7     0.99
 中国農業銀行 1794    1249     1.51
     比率   7.9     42.4     1.22
   中国銀行 1695    1004     1.18
     比率   8.1     37.2     0.96
               ・純利益比率:前期比伸び率
     ・不良債権残高比率:2013年12月末比伸び率
        ・不良債権比率:2013年12月末の数字
    ──2015年3月31日付/日本経済新聞/電子版
─────────────────────────────
 4大銀行の純利益の合計が8526億元(約16兆2千億円)
と前の期に比べ6・5%増にとどまり、これまでの2ケタ成長に
ブレーキがかかっています。一方において、国内景気の減速によ
る企業の業況の悪化を反映し、不良債権は昨年1年間に36%も
増えています。
 収益を圧迫しているのはこの不良債権です。昨年末時点の不良
債権残高は合計4631億元と、1年前に比べて、36・2%膨
らんでいます。各行で見ても、不良債権の残高は、前年比で32
%〜42%と大きく膨らんでいます。
 また、マッキンゼー国際研究所による中国の抱える債務総額は
対GDP比でみると、次のように急増しています。
─────────────────────────────
        2000年  2007年  2014年
   政府     23%    42%    55%
   非金融業   83%    72%   125%
   家計      8%    20%    36%
                  http://amba.to/2piFChF
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/083]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の不良債権は190兆円/日本総研が試算/2016年
  ───────────────────────────
   中国の金融機関が抱える潜在的な不良債権の残高が昨年末
  時点で、12兆5千億元(約190兆円)に達したとの試算
  を大手シンクタンクの日本総合研究所が24日までにまとめ
  た。中国の公式統計の約10倍に当たる。経済成長の減速で
  隠れた不良債権が増えているとみられる。うまく処理できな
  ければ、中国で金融危機が発生する恐れもある。
   試算は中国の上場企業2300社余りの2015年度決算
  を分析し、借入金の8・6%分が、不良債権になり得ると推
  定。この比率を非上場企業向けの融資や、正規の融資以外の
  「シャドーバンキング(影の銀行)」を通じた貸し出しも含
  む中国全体の融資額に当てはめ、不良債権残高を推計した。
   中国政府は昨年末時点の不良債権残高を1兆2744億元
  としている。だが日本総研の関辰一副主任研究員は、当局の
  不良債権の認定基準が甘いと指摘。「金融機関も経営状況を
  正確に公開していない。政府が適切なタイミングで公的資金
  を投入できるか疑わしい」とみている。
                   http://bit.ly/2oUqvYa
  ───────────────────────────

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中国の失業率の推移
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2017年05月08日

●「中国経済不振の根本的な2大原因」(EJ第4514号)

 2016年1月のダボス会議のときの話です。著名な投資家の
ジョージ・ソロス氏は次のように発言したのです。
─────────────────────────────
    中国経済のハードランディングは不可避的である
                ──ジョージ・ソロス
─────────────────────────────
 中国当局はこの発言に激しく反発し、「ソロスが中国経済の破
滅を仕掛けている」と吹聴したのです。そのソロス氏は2017
年1月6日に来日して安倍首相と面会し、約40分間話していま
す。何を話したかは定かではありませんが、中国経済のことが話
題になったことは容易に想像できます。
 最近の中国経済に関して中国当局は、次の言葉を使ってその状
況について表現しています。
─────────────────────────────
      2015年全般 ・・・・・ V字型
      2016年前半 ・・・・・ L字型
      2016年後半 ・・・・・ h字型
      2017年前半 ・・・・・ I字型
─────────────────────────────
 「V字型」はV字回復のことです。V字型に似たものに「U字
型」というのがありますが、中国は「L字型」で、右肩下がりで
回復しないことを意味しています。「h字型」は、少し回復する
が、また下がるという意味です。「I字型」は中国から米国への
資金流出が止まらず、底抜けしていることを表現しています。V
LhI──この言葉通り、中国の経済はきわめて深刻であること
を意味しています。
 現在の中国経済を語るとき、外せないのは2008年秋のリー
マン・ショックを受けて中国政府が実施した4兆人民元(約68
兆円)投資と、空前の金融緩和です。これが功を奏して世界経済
は立ち直りのきっかけを掴んだのですが、中国はその後、生産過
剰と在庫過剰の問題を抱え込むことになります。実は、これはあ
まり知られていないのですが、4兆人民元投入の効果に味を占め
た中国政府はその後も2009年から4年間にわたって景気刺激
策を継続し、その投入資金を110兆人民元(約1900兆円)
まで膨らませてしまったのです。
 つまり、それだけの固定資産投資が行われたということです。
これが中国各地に鬼城(グイチェン)を生み出すなど、負の遺産
を遺すことになったのです。
 それに加えて、米国はリーマン・ショックの後遺症が重く、E
Uはギリシャ破綻に伴うユーロ危機、日本は失われた20年で、
それぞれ景気が回復せず、それまで先進国への輸出に頼ってきた
中国の経済成長が鈍化してしまうことになったのです。
 多くの中国ウォッチャーは、中国の経済不振をこのような角度
から説明しようとしますが、もっと根本的な原因があると主張し
ているのは、北京の講談社文化有限公司副社長を経て、「週刊現
代」特別編集委員に就任した近藤大介氏です。近藤氏は、膨大な
固定資産投資の弊害を認めたうえで次のように述べています。
─────────────────────────────
 表面的には、たしかにそうだろう。だが私に言わせると、中国
経済がいつまで経っても回復できない根本的な原因は、次の2点
である。
 第1に、「社会主義市場経済」という中国の社会システム自体
の矛盾が、もはや抜き差しならないところまで来ていて、各所で
炸裂していることである。
 第2に、「マルクスは知っていてもケインズは知らない」と揶
揄される習近平主席が「現代の毛沢東」となって、「マルクス主
義経済学」と呼ばれる社会主義的史観に立って経済を運営してい
るからである。           ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
─────────────────────────────
 中国に改革開放の道を開いたのは、毛沢東以来の2代目皇帝の
座についたケ小平です。ケ小平は中国共産党の総書記の座には就
きませんでしたが、自らは「核心」を名乗り、最高指導者として
君臨したのです。
 ケ小平は1976年に毛沢東が亡くなると、1978年から改
革開放政策をスタートさせています。しかし、当初は、農家に一
部農産物の自由耕作を認めたり、5つの都市に経済特区を設けて
外資を導入する程度にとどめていたのです。
 しかし、1989年に「天安門事件」が起こり、1991年に
ソ連が崩壊すると、ケ小平は共産党政権存続の危機感を痛感し、
改革開放を加速させたのです。このとき、政治は引き締めながら
も、地方政府には改革開放の促進を求め、国民には「金儲けに走
る」自由を認めたのです。
 1992年10月の第14回共産党大会において、「社会主義
市場経済」という方針を定め、1993年3月には憲法を改正し
第15条で次のように明記したのです。
─────────────────────────────
       憲法第15条
       国家は社会主義市場経済を実行する
─────────────────────────────
 「社会主義市場経済」とは何でしょうか。
 政治は社会主義を堅持するが、経済は市場経済に変更する──
これが社会主義市場経済です。これは、世界のどこの国もやった
ことのない体制であり、成功するかどうかは、誰も予想ができな
かったのです。本来政治が社会主義であれば、経済は計画経済で
あるべきであり、それを市場経済にするのであれば、政治は資本
主義でなければならないはずです。それをケ小平は、政治は社会
主義、経済は市場経済といいとこ取りの新しい制度を採用し、中
国の新しい発展を図ったのです。
             ──[米中戦争の可能性/084]

≪画像および関連情報≫
 ●「社会主義市場経済」はファシズムの一形態に過ぎない
  ───────────────────────────
   中国の「抗日戦争勝利記念日」(2016年9月3日)が
  近づいてきた。昨年の同日、天安門広場で大々的に繰り広げ
  られた「世界反ファシズム戦争勝利70周年記念」軍事パレ
  ードは記憶に新しい。
   「歴史を鑑(かがみ)に」と居丈高に迫る中国の歴史戦に
  は、3つの狙いがある。第1は潜在敵国、特に日本に贖罪、
  史観を浸透させ、その精神的武装解除を図ることである。第
  2は「反省しない日本」への敵愾(てきがい)心をかき立て
  独裁体制の維持を正当化することである。第3は自由、民主
  法の支配、人権といった「現在」の問題に焦点が当たらぬよ
  う、注意を過去にそらすことである。
   従って、とりわけアジアの自由主義大国・日本が誤った贖
  罪意識から脱して、正しく「歴史を鑑」とすることが、日本
  自身にとってはもちろん、自由世界全体にとっても戦略的に
  極めて重要となる。
   まず、ファシズムという言葉だが、これはイタリアのムソ
  リーニが、共産主義でも資本主義でもない「第三の道」とし
  て打ち出したものである。国家主義的な独裁を永遠の統治原
  理としつつ、資本主義のエネルギーを抑圧体制活性化のため
  に用いるというのがその「第三」ないし折衷策たる所以(ゆ
  えん)である。          http://bit.ly/2bCbdmb
  ───────────────────────────

ケ小平/毛沢東以来の2代目皇帝.jpg
ケ小平/毛沢東以来の2代目皇帝
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2017年05月09日

●「社会主義と市場経済の矛盾の爆発」(EJ第4515号)

 中国が改革開放に舵を切った1992年といえば、中国は日本
の8分の1程度の経済規模しかないアジアの貧国だったのです。
この程度の規模であれば、政治は社会主義、経済は市場経済とい
う矛盾に満ちた制度でも支障はなかったのです。
 このケ小平時代以降現在までの中国の姿について、近藤大介氏
は自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 ケ小平時代以降の中国は、現在に至るまで、突き詰めると「維
穏(ウェイウェン)」(治安維持)と「開放(カイファン)」と
いう2つのことしかやっていない。この両者は互いに反対方向に
べクトルを向けて、引っ張り合っている。そして、この両者が綱
引きをする緊張した綱の上に、13億8270万人(2016年
12月時点)の中国人が乗っかっているのが、現在の中国の姿で
ある。               ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
─────────────────────────────
 ケ小平は、政治と経済について、共産党序列ナンバー1とナン
バー2の役割を次のように決めていたのです。
─────────────────────────────
   維穏/政治分野/社会主義 ・・・ 共産党総書記
   開放/経済分野/市場経済 ・・・  国務院総理
─────────────────────────────
 ケ小平の時代に続く江沢民体制のときは、政治は江沢民総書記
が握り、経済は朱鎔基首相が担当。さらに次の胡錦濤体制のとき
は、政治は胡錦濤総書記、経済は温家宝首相という分担でやって
きたのです。
 江沢民政権時代はケ小平がまだ元気であり、その睨みが効いて
いたせいもあって、政治と経済の綱引きはバランスよく行われ、
高度成長を維持してきたのです。続く胡錦濤時代になると、経済
の規模が大きくなり、政治と経済のバランスをとることが困難に
なり、リーマンショックなどもあって難しい判断が必要になった
ものの、胡錦濤総書記と温家宝首相は何とか深刻な事態を乗り切
り、政権を習近平政権に引き継いだのです。しかし、経済成長に
翳りが出てきたのもこの時期であったのです。
 ところが習近平政権になると、習近平総書記と李克強首相の間
がうまくいかなくなってしまうのです。まず、2人はライバル同
士であり、最初から人間関係はギクシャクしていたのです。この
2人の関係について、近藤大介氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 2013年3月に正式に発足した習近平総書記と李克強首相の
新政権は、それまで5年以上にわたって、最大のライバル関係に
あった両者が、互いに妥協を強いられた結果として誕生した「政
略結婚政権」だった。そのため、ナンバー1とナンバー2の間に
信頼関係はなく、むしろ互いに疑心暗鬼になっていた。
 結果として習近平総書記は、「維穏」(政治)ばかりでなく、
「開放」(経済)の役割も李克強首相から取り上げて、自分が独
占した。その結果、それまで緊張していた綱は緩み、中国経済は
混乱に陥ってしまったのである。 ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 習近平氏は名門の精華大学で学んだのですが、その専攻は有機
化学学科であり、経済に関しては全くの素人です。これに対して
李克強氏は艱難辛苦のすえに北京大学に入学し、経済学博士号を
取得している秀才であり、経済の専門家でもあるのです。
 そのため、習総書記が経済オンチでも、もともと経済の担当は
首相であるので、問題はないはずです。まして李克強首相は経済
学博士であり、習近平総書記が首相とうまく連携すれば政治と経
済をバランスさせることはできたはずです。
 ところが習主席には野望があったのです。まして習政権になっ
てからの経済成長率は7%台になり、習政権としては何としても
経済を立て直す必要があったのです。それに習主席は李首相を信
用せず、政治のことだけでなく、経済にまでいろいろと口を出す
ようになったのです。そして、場合によっては経済減速の責任を
李克強首相にとらせて退任させ、すべてを自分のコントロール下
に置き、核心として、独裁体制を築こうとしているのです。
 しかし、もともと矛盾に満ちている中国経済は、既に抜き差し
ならないところにきているのです。これについて近藤大介氏は次
のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 そもそも社会主義と市場経済は互いに相矛盾する概念である。
それでも「呉越同舟」できたのは、21世紀初頭までの中国経済
が、小規模な存在だったからだ。ところが中国は、2010年に
GDPで日本を追い越して、アメリカに次ぐ世界第2の経済大国
に成長した。いまや中国のGDPは、日本の3倍に達しようとし
ていて、2020年代前半には、アメリカを追い越して世界一に
なる見込みだ。ここまで中国経済が巨大化した結果、社会主義制
度との間に、無数の軋轢が生じているのである。
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 社会主義と市場経済の軋轢を生んだ元凶は何でしょうか。
 それは国有企業です。中国では、基幹産業のほんとんどすべて
を約800社の国有企業が独占しています。そしてこの約800
社で中国の富の60%をを握っているのです。
 これらの国有企業に対して地方政府や銀行(これも国有企業)
が、すさまじい乱脈融資を行い、習政権が発足した2013年の
時点では、国家の負債額がGDPの2倍以上に膨張してしまった
のです。したがって、習政権としては、何よりも先に国有企業改
革に着手する必要があったのです。そのことがよくわかっていた
李克強首相は、その国有企業改革に手をつけようとしたのです。
それは待ったなしの情勢だったからです。
             ──[米中戦争の可能性/085]

≪画像および関連情報≫
 ●国有企業改革が本当はできない中国/2016年3月10日
  ───────────────────────────
   全人代の最大の課題は、中国が本気で国有企業の構造改革
  ができるか否かにある。もし徹底させれば、それは一党支配
  体制崩壊につながる危険性があるため、中国にはできない。
  党の存続を優先する中国の矛盾を読み解く。
   改革開放前まで中国の企業は原則として全て国営だった。
  「五星紅旗」丸抱えで運営してきたので、改革開放後は市場
  経済の競争には勝てず、多くが倒産。1992年に所有権と
  経営権の両方を持つ「国営企業」を、所有権だけ国に残して
  経営権は企業に移して、それを「国有企業」と称することに
  した。しかしそれでも今でいうところのゾンビ企業が溢れ、
  とても国際競争になど、参入できない状態だったので、19
  90年代後半、時の朱鎔基首相が果敢な「痛みを伴う決断」
  をして、20万社近くあった企業を10万社強まで減らして
  3000万人におよぶレイオフ(業績回復時の再雇用を条件
  に従業員を一時的に解雇すること。自宅待機失業者)を出し
  た。それでもこの改革により2001年にはWTO(世界貿
  易機関)加盟に成功し、国有企業は国際競争力をつけるため
  民営化の方向に動くはずだった。ところが、時の江沢民国家
  主席は「それでは『旨み』がない」ということで、1998
  年に「国有企業の人事に関しては中共中央組織部が決定し、
  国有企業の中に党組織を設置する」ことを決めたのである。
                   http://bit.ly/2p8njs1
  ───────────────────────────

習近平総書記と李克強首相.jpg
習近平総書記と李克強首相
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2017年05月10日

●「不動産投資に依存する中国の経済」(EJ第4516号)

 李克強首相は、「リコノミクス」と称して国有企業改革プラン
を策定しています。そのキーワードは次の3つです。
─────────────────────────────
        1.国有企業の市場化
        2.  市場の多元化
        3.国有企業の民営化
─────────────────────────────
 「1」は、国有企業を市場化することです。
 国有企業を守っている親方日の丸的な制度を廃止し、国有企業
を市場に委ねることです。当然、市場変化についていけない企業
は市場から退場することになります。
 「2」は、市場を多元化することです。
 国有企業、民営企業、外資系企業などをすべて平等に扱い、競
争原理を働かせることによって市場を多元化するのです。これに
よって市場は競争原理が働き、活性化します。
 「3」は、国有企業を民営化することです。
 かつて小泉首相がいっていたように、「民間にできることは民
間にまかせる」を徹底し、政府機能を縮小し、国有企業を民営企
業に生まれ変わらせるのです。
 これは、李克強首相が率いる急進改革グループがまとめたもの
ですが、国有企業改革プランとしては妥当なものです。しかし、
提案された李首相のプランは習近平総書記に一顧だにされなかっ
たのです。このプランが政策として認められるには、2018年
3月までの習近平政権の政策の基本として、「3中全会」で「公
報」として採択される必要があります。
 しかし、習総書記は李首相を公報の起草委員会のメンバーから
外し、公報として採択されたのは、国有企業に関しては次の内容
だったのです。
─────────────────────────────
 揺らぐことのない公有制経済の発展を強固なものとし、公有制
の主体的地位を堅持し、国有経済の主導的な作用を発揮し、国有
経済の活力、コントロールの能力、影響力を不断に増強させてい
く。                ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
─────────────────────────────
 何だこれは!・・という内容です。これは、国有企業の民営化
どころか国有化を強化する内容です。習総書記の考える国有企業
の改革とは、長い間江沢民一派の握っていた国有企業利権を引き
はがし、自分の利権に組み替えようとするもので、国有企業改革
を権力抗争に使おうとしているのです。
 中国は「不動産投資だけに依存する経済」といわれます。中国
のGDP成長率に占める不動産投資の比率が高いからです。この
不動産の伸びが鈍化すると経済が失速してしまうのです。201
4年と2015年に経済が失速していますが、いつもは、前年比
20%程度の伸びがあるのに、2015年の不動産投資はわずか
1%の伸びにとどまっています。
 「なぜ不動産なのか」について、中国通である宮崎正弘氏と石
平氏の2人の対談本に興味深いやり取りがあるので、ご紹介する
ことにします。
─────────────────────────────
宮崎:中国の景気が非常によく見えた蜃気楼の最大の原因は何か
   っていったら、不動産なんですよ。だから不動産価格の高
   騰ぶり、まだ続いているところもあるけどもね。このカラ
   クリというのは、つまり中国的視点から見ると、どういう
   カラクリだったの?
石 :それはどういうことかというと、特に温家宝の首相時代、
   内需が徹底的に不足してる中で経済をどうやって成長させ
   る?それが問題になったのです。1つは輸出です。も1つ
   が、やっぱり投資を煽り立てる。投資率が高ければ、あち
   こち投資が盛んになればなるほど、いろんな産業がそれで
   繁栄するんです。そうなると、その中で特に目を付けたの
   がいまの不動産。不動産を一棟造れば、中国にとってどう
   いう経済問題が解決されるか。まず不動産造れば、地方政
   府の財政が成り立つ。まず地方政府が安泰になる。不動産
   造れれば、1つ造れば関係する下流のいろんな産業にみん
   な反映する。鉄鋼産業にしてもそうですよ。
宮崎:制作過程におけるクレーン、ブルドーザー、それから消費
   における建材、タイル・・・。
               ──宮崎正弘/石平著/WAC
         『いよいよトランプが習近平を退治する!』
─────────────────────────────
 つまり、不動産を中心とした産業連鎖です。それではどうやっ
て不動産を支えて行くのかというと、財源の裏付けのない貨幣を
増刷して市場に投入するのです。個人はこれでローンを組んで不
動産を購入し、企業もその資金を手に入れて不動産投資をするの
です。この場合、大量に貨幣を刷るとインフレになりますが、中
国の場合は、それが全部不動産に吸収されてしまうので、インフ
レにはならないのです。しかし、不動産バブルが破裂すると、大
変なことになります。
 それでもGDPに占める不動産投資の比重も落ちてきているの
です。2013年のGDP比における不動産投資は約16%、2
014年は15%、2015年も14%というように減少傾向に
あります。逆にいうと、経済としては正常化に向っているといえ
ます。実はこれでも不動産投資の割合は、非常に大きいのです。
 1990年に日本の不動産バブルがはじけたとき、GDPに占
める不動産投資の割合は9%でしたし、2007年のサブプライ
ムローン問題が発覚したときの米国のそれは6%だったので、減
少傾向にあるとはいえ、中国の比率がいかに高いかがわかると思
います。しかし、バブルというものはいつかははじけるのです。
             ──[米中戦争の可能性/086]

≪画像および関連情報≫
 ●ゴールドマン警告「中国の不動産バブル崩壊」懸念
  ───────────────────────────
   このところ中国の住宅バブル崩壊を危ぶむ声が急増してい
  る。2016年9月から10月にかけて多くのメディア、投
  資銀行、そして豪州政府までもが中国住宅市場の過熱に警鐘
  を鳴らしている。中国政府が政策の舵取りを誤れば金融危機
  やコモディティー価格の急落などで世界経済を揺るがしかね
  ない。ここでは中国の住宅市場に対する見方を紹介し、有効
  な手立てを打ち出すためには中国政府が抱える2つのジレン
  マを抱えていることを解説していこう。
   まず、中国の住宅市場の動きをおさらいしよう。まず、販
  売金額は年初の急伸のあと8月まで前年比40%以上の増加
  ペースが続いている。政府が発表する新築住宅の価格動向を
  見ても、8月は主要70都市のうち64都市で値上がりし、
  7月の51から大きく増加。昨年2月までの約半年間がほぼ
  ゼロであったのと比べると様変わりだ。前月比の値上がり幅
  は6年ぶりの高さとなり、一年前に比べ南京と上海が30%
  以上、北京は24%など高騰が続いている。
  この住宅ブームの裏には政府の後押しがある。昨年12月の
  共産党政治局会議では経済成長鈍化を食い止める一環として
  住宅在庫の解消が重要課題とされ、中央・地方政府はその後
  あらゆる政策を動員、住宅の需要喚起に躍起になっていた。
                   http://bit.ly/2pciU7D
  ───────────────────────────

李克強首相/リコノミクス.jpg
李克強首相/リコノミクス
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2017年05月11日

●「中国ではなぜ鬼城が増加するのか」(EJ第4517号)

 正確な数字はありませんが、中国全土に散らばる「鬼城」は枚
挙にいとまがなく、現在も増えつつあります。その規模に関して
は大きいのは100万人級、小さいのは団地級までありますが、
数は100ヶ所以上に及ぶのです。なぜ、中国は、誰も住む人が
いない住宅の建設を続けるのでしょうか。
 直接的には、これらの大工事をすることによって経済活動が発
生しGDPが増えるので、やっているのです。それによって、日
本のGDPを抜くという目的があったのかもしれません。これに
ついては後述します。
 遠因としては、李克強首相が2014年2月に打ち出した20
20年までの国家プロジェクト「城鎮化」計画にあります。「城
鎮化」について、上海生まれの中国人で、現在、中国と日本の間
で出版や映像プロデューサーとして活躍している邱海濤氏は次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 城鎮化とは、李克強首相の経済成長戦略のもっとも重要な目玉
政策の1つであり、改革開放が行きづまるなかでの窮地脱出策と
して練りあげられた、壮大な計画だといわれている。核となるの
は、農民を都市部に移住させることである。日本語でいう「都市
化」のことだ。           ──邱海濤著/徳間書店
                   『中国大動乱の結末/
 混乱が止まらない経済・政治・社会を現地から驚愕レポート』
─────────────────────────────
 中国人の戸籍は、「農村戸籍」と「都市戸籍」に分けられ、農
村戸籍は60%、都市戸籍は40%です。毛沢東時代の1950
年後半にこの戸籍制度は導入されています。農村から都市への移
動は厳しく制限されており、日本人のように自分の意思で勝手に
引っ越しできないのです。農民が出稼ぎに都市に行くことはでき
ますが、農村戸籍のままです。
 豊かな大都市の戸籍を持つ者は、社会保障も有名大学への入学
も優遇されますが、農村戸籍では都市の大学への入学もままなり
ません。また、都市部の人間がマイホームに住み、不動産権利証
書を持っているのに対し、農民たちには自分の土地も家もなく、
そこに多くの格差があります。
 農民たちの土地や家は村から借りたもので、村の集団所有制に
なっています。したがって、住むことはできても、私有財産では
ないので、物件を売買できないのです。農地にしても使用権があ
るだけで、私有財産ではないのです。
 中国のノーベル文学賞作家の莫言氏と並び称される買平凹(か
へいおう)という作家は、中国の農民の暮らしについて2016
年4月、小説『極花』の中で、次のように述べています。
─────────────────────────────
 この10年近く、農村はひどく荒廃してきた。多くの村には人
の影がなく、家屋が倒れかかり、草が膝まで伸びている。村がど
んどん消えている。農村の廃頽ぶりは人を落胆させるほど凄まじ
く、故郷が失われようとしている。これから中国で何が起こるか
わからない。僕は心を痛めているのだ。 ──買平凹著『極花』
       ──邱海濤著/『中国大動乱の結末』/徳間書店
─────────────────────────────
 具体的に城鎮化(都市化)計画は、国が農家に農地使用の権利
証書を発給し、家屋・農地の下請け、賃貸、交換、譲渡の自由を
与えようというものであり、農民がこの権利証書を抵当にして銀
行から資金を借り入れる制度も整備されています。制度の趣旨と
しては悪いものではないのです。
 しかし、城鎮化計画の最大の狙いは、無計画な都市建設によっ
て生み出された中国各地の「鬼城」や膨大な新築住宅在庫を市民
権を持つようになった農民を移住させることによって、一挙に解
決させようと考えているのです。実は、この城鎮化計画が一向に
うまくいっていないのです。
 2016年7月13日付、新華社通信は、次の数字を報道して
います。
─────────────────────────────
    城鎮化に伴う新都市・新区の計画人口34億人
─────────────────────────────
 ここでいう「34億人」という数字は、何を意味しているので
しょうか。
 中国では、既に述べているように、城鎮化によって、人口増を
図るために新都市や新区を建設しています。その数は3500ヶ
所(2016年5月時点)であり、34億人というのは、そこに
建設される住宅群の収容可能人口なのです。
 34億人というと、現在の中国人口の2・5倍であり、全世界
の人口の半分を意味するのです。出産による人口増はすでにピー
クを過ぎていますし、農村部から都市部への移住者による人口増
に頼るしかないですが、どう考えても実現不可能な数字です。
 それに既に中国に現有している住宅の総量は需要量を上回って
いるのです。それにもかかわらずこの計画を進めようとすると、
中国の鬼城は増える一方です。それでもこの壮大な計画を実行す
ることによって、住宅投資を行うことができ、経済を活性化させ
GDPを増加させることができるのです。
 香港のフェニックステレビは、専門家の意見を引用して、次の
事実を明らかにしています。
─────────────────────────────
 過去5年間、中国では年平均の新築住宅戸数が1000万戸を
超えたが、実際の需要は800万戸にも及ばなかった。
   ──香港「フェニックステレビ」http://nkbp.jp/2qggkT2
─────────────────────────────
 とっくの昔に住宅が供給過剰になっているのに、城鎮化計画を
進めると、住宅の供給過剰を一層促進させ、鬼城がさらに増えて
しまうことになってしまいます。
             ──[米中戦争の可能性/087]

≪画像および関連情報≫
 ●中国鬼城/人口減少するのに34億人のマンション建設
  ───────────────────────────
   中国では人口減少プロセスが始まっていて、既に労働可能
  人口は減少しているが、数年後に総人口も減少し始めます。
  まず出生率が減少し女性は子供を産むより働くのを望み、高
  齢者だけが増えて行き、子供の数は急減します。
   まるで日本のようですが、中国も20年くらい遅れて日本
  化が進行しています。にもかかわらず中国の多くの自治体で
  は、2030年までに人口倍増する計画を建てている。中国
  では中央政府の他に省や自治区の地方政府があり、その下に
  城鎮という行政府が存在する。不動産開発を行っているのは
  この城鎮で、通常は省や自治区は直接は行っていない。
   中央政府の国務院の統計によると、新規開発計画の合計は
  34億人に達している。中国全体で1万ヶ所を超える新都市
  や産業地区が予定されていて、計画が達成される為には、今
  後15年間で中国の人口を4倍にする必要がある。中国には
  既に全土で100ヵ所以上の大規模なゴーストタウンが存在
  し、合計は数億人分とみられる。
   中国は農村から都市への移住を進め、都市化率を高めよう
  としていて、現在は56%となっています。日本の都市化率
  は公式には66%であるが、実際には95%以上であり、欧
  米と『都市』の基準が違っている。欧米では人口2000人
  以上は都市だが、日本では面積あたりの人口密度の条件など
  があって厳しい。         http://bit.ly/2pVilmr
  ───────────────────────────

中国城鎮化計画.jpg
中国城鎮化計画
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2017年05月12日

●「作るために作る中国の不動産投資」(EJ第4518号)

 中国では、どうして人が住まない「鬼城」が続々とできている
のでしょうか。今回もこのテーマを追求していきます。
 その理由は、ズバリGDPを増やし、高度成長をアピールし、
まず、日本のGDPを抜き、やがて米国のGDPを抜いて、世界
一になる──こういう野望です。
 日本がGDPで中国に抜かれたのは2010年のことです。日
本は1968年に当時の西ドイツのGDPを抜いて世界第2位の
経済大国になり、以来42年間、世界第2位の座を守って来たの
ですが、2010年に中国に抜かれています。中国の野望のひと
つは果されたのです。
 それでは、どのようにして中国はGDPを増やしたのでしょう
か。GDPを増やすには、いろいろな方法がありますが、手っ取
り早いのは国内投資、不動産に手をつけることです。
 昨日のEJで述べたように、中国の土地は個人所有は認められ
ておらず、すべて国有です。ここで、中国の中央政府と地方政府
の関係について知る必要があります。それは、中央予算と地方予
算の関係を知ることによって理解できます。既出の邱海濤氏の本
から引用します。
─────────────────────────────
 「地方予算」と「中央予算」の関係。
 本来、地方予算の財源は主に税収からくるとされるが、中国の
場合、地方政府による土地の譲渡で得られる収入が地方財源の半
分以上までを占めるといわれている。
 中央予算は地方からの納税で賄われる。地方予算は主に各級の
地方政府部門や地方国有企業、学校、病院、そして公的年金など
に使われるが、中央予算は主に外交、国防、対外援助、各級の中
央政府部門および中央国有企業、学校、病院などに使われる。
 また、中国における土地所有権についてだが、中国のすべての
土地は憲法で「全民所有制」と定められており、全国民の財産と
なっているため、理屈としては土地は中央政府、地方政府のいず
れのものでもない。
 しかし、現実には、土地は国民の財産であるにもかかわらず、
国民には発言権がなく、地方長官1人だけでも土地の用途や処置
などを決断できるようになっている。言い換えれば、土地所有権
は主に地方政府が握っている。ただし、地方政府の土地使用計画
は事前に中央政府に報告し、許可をもらわなければならない。
       ──邱海濤著/『中国大動乱の結末』/徳間書店
─────────────────────────────
 GDPを増加させるため、中央政府は地方政府に対して命令を
出します。そこで地方政府は、住んでいる住民や、土地を農地に
して使っている農民を追い出して、勝手に売り出しをはじめたの
です。農地買収については、若干の立ち退き補償金は出るものの
ほとんどは雀の涙に過ぎないのです。立ち退きは強引に行われ、
抵抗が大きい場合は、治安部隊が出動することもあります。
 ここで不動産を扱うデベロッパーは地方政府と組んでいて、共
産党幹部が出資をしていたり、共産党幹部の親族が経営していた
りします。おいしい話には必ず共産党幹部や親族が絡んでいるの
です。これがこの国のどうしようもない体質です。
 デベロッパーは、農民から取り上げた土地を担保に銀行やシャ
ドウバンクから融資を受け、団地や都市を作り、それを売り出し
ます。共産党幹部がそれをいったん買って、リベートを付けて人
民に売るケースもあります。
 しかし、そもそも中央政府によるきちんとした都市づくりの計
画に基づいて作られていないので、一向に売れなかったり、高価
で買えなかったりで、誰も住まない都市ができるのです。砂漠の
なかに突如できた100万人都市もありますが、作ることが目的
で、それを売り切ることを考えていないのです。しかし、それだ
けの投資を行っているので、GDPは確実に増加し、成長率を押
し上げることになります。
 しかし、莫大な資金を投入し、建設した高層マンションがまっ
たく売れなければ、投入資金を回収できないので、デベロッパー
は倒産し、不動産市場は崩壊するはずです。そうならないために
デベロッパーは、地方政府から土地の提供を受け、銀行から融資
を受け、都市づくりを継続します。次のケースもあります。
─────────────────────────────
 投機者と銀行、デベロッパーが共謀して、実際の不動産価値に
見合わない高値を付けて、投機者は実際の価格に見合わない不動
産を担保に融資を受けて、その融資された金のうちからデベロッ
パーからキックバックをもらう。融資は最初から返済するつもり
がなく、銀行側は、それをわかったうえで、融資し、担保となっ
た不動産を差し押さえる、ということになる。こういったからく
りから、二束三文の不動産まで法外な価格で取引される状況が起
きている一面もある。この結果起きるのは、銀行の不良債権の増
大である。   ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 実は鬼城の多くは高速鉄道の沿線に作られていますが、人が住
んでいない鬼城のためにも高速鉄道が作られています。高速鉄道
路線は2万キロメートル以上ですが、黒字路線は「北京─上海」
のみの1300キロメートルだけです。
 そもそも中国の鉄道総距離は11万キロ超メートルですが、そ
の大半が赤字であり、累積債務が68兆円に達しています。しか
も国営の中国鉄路総公司は鉄道を運営しているだけであり、鉄道
建設費は赤字に含まれていないのです。こんな状況で、毎年60
00キロメートルの鉄道建設を進め、そのうち2000キロメー
トル程度が高速鉄道です。
 こういうことをしているので、「高速道路は空気を運び、マン
ションには誰も住まず、道路には車も人も見かけない」というよ
うにネットで批判されるのです。しかし、それは事実であり、中
国の現実なのです。    ──[米中戦争の可能性/088]

≪画像および関連情報≫
 ●「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」/宮崎正弘氏
  ───────────────────────────
   全人代の席上で、次のような驚くべき発言が飛び出してい
  る。「一部の地方政府に倒産の可能性があるので、気をつけ
  て欲しい」(15年12月の全人代常務委員会で陳笠・常務
  副委員長)。
   すでに明らかになった地方政府の債務は邦貨換算推定で、
  320兆円から340兆円。公式発表でも290兆円。この
  金額は地方政府の歳入の2年分、殆どが不動産の無謀な開発
  と担当党員のポケットに消えた。そして、「発狂的投機」は
  「風と共に去りぬ」。借金を棒にする性癖がある中国人の経
  済活動から容易に想定できたリスクだが、それにしても想像
  を絶する巨額、返せる筈がないだろう。つまり、これらの開
  発費は銀行の不良債権と化ける。
   フィナンシャルタイムズが「中国の債務はGDPの290
  %だ」と報じたが、もし、そうであるとすれば、中国全体の
  債務は2900兆円となる。リーマンショックより、規模は
  壮大にして未曾有の数字である。
   無謀かつ無計画。そして借金に無関心と無心。貸し込んだ
  のは国有銀行とシャドーバンキング、そして理財商品などか
  らの迂回融資、あげくにヤミ金融。皮肉なことに後者のヤミ
  金融は胴元が殆ど公務員だ。
   「ここに巨大都市を造ろう」と呼びかけて、人口過疎の農
  村や湿地帯、いやはや海まで埋立てて人口島をつくり、セメ
  ントを流し込み、いい加減な地盤改良工事の果てに鉄筋、セ
  メント量を誤魔化す手抜き工事を繰り返した。
                   http://bit.ly/2pYDR9V
  ───────────────────────────

浙江省の「鬼城」.jpg
浙江省の「鬼城」
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2017年05月15日

●「不動産バブルを演出している中国」(EJ第4519号)

 中国の経済発展は、胡錦濤時代以降においては、マンションと
自動車が牽引しているのです。マンション(不動産)と自動車に
力に入れるということは、それに付随する鉄鋼生産から電化製品
までのさまざまな消費を喚起することになるので、経済成長に結
びつくのです。
 しかし、習近平政権になると、2015年6月に株式バブルが
崩壊したので、意図的に不動産バブルを再燃させて価格をつり上
げるリスクのある手法を取るようになります。それは、中国人民
銀行(中国の中央銀行)が、銀行の1年物貸出基準金利を引き下
げることです。住宅ローン金利は、この基準金利にリンクしてい
ます。2015年の基準金利の変更は次の5回です。
─────────────────────────────
                1年物貸出基準金利
    2015年 3月 1日 ・・・ 5・35%
    2015年 5月11日 ・・・ 5・01%
    2015年 6月28日 ・・・ 4・85%
    2015年 8月26日 ・・・ 4・60%
    2015年10月24日 ・・・ 4・35%
─────────────────────────────
 2015年には基準金利を5回も下げています。こんな短期間
で5回も下げるのは異常です。基準金利を下げれば、住宅ローン
金利も下がるので、住宅を購入しやすくなり、不動産バブルに火
がつくことになります。
 ここにひとつ疑問が出ます。中国は私有財産を認めていない国
なのになぜ住宅を購入するのかという疑問です。これについては
宮崎正弘氏と石平氏の対談において石平氏の説明があります。
─────────────────────────────
宮崎:それで私が前から不思議に思ってたのは、中国は私有財産
   を認めていない。私有財産でない権利を、何ゆえに人民が
   買うのか、と。
石 :いや、それは誰でも分かってるんです。法律で憲法で私有
   財産を認めない。さらに不動産買っでも、土地が自分の物
   にはならない。みんなそれが分かっている。しかし分かっ
   ている中で、やっぱり買う。じやあ、どうして買う?(中
   略)要するに、投資は彼らにとって、新しい産業に投資す
   る、そういう意識、感覚はないんですよ。本来ならば、投
   資というのは新しい産業を興すためにするもの。じや、彼
   ら中国人にとっていちばんの安心の財産が何かというと、
   お札ではなんです。   ──宮崎正弘/石平著/WAC
         『いよいよトランプが習近平を退治する!』
─────────────────────────────
 さらに石平氏は、中国人は昔から目に見える形の財産しか信じ
ないといいます。ですから、建物や金銀などで、価格の上がるも
のを本能的に持とうとするのです。マンションも2軒以上持つの
は当たり前で、「マンションの2軒目を持たずんば人に非ず」と
いわれているぐらいです。
 習政権は、基準金利の引き下げに加えて、さらにバブルを煽る
政策をやっています。住宅購入でネックになるのは頭金ですが、
これを販売価格の20%まで引き下げたり、頭金自体を銀行が事
実上肩代わりすることも黙認したりしたのです。なかには、住宅
ローンの15%割引きをするケースもあったといいます。10年
前のサブプライム・ローンとまるで同じパターンです。住むため
ではなく、投機のために住宅を手に入れようとしているのです。
 さらに問題なのは、サブプライム・ローンのときと同様に銀行
がはローンが払えるかどうかのチェックをきちんとやっていない
ことです。つまり、ローンをきちんと払えない人にも1軒ではな
く、2軒も3軒もマンションを売っていることです。
 その結果、景気は低迷しているのに、不動産バブルが進むとい
う独特の経済状態が生まれることになったのです。この実体経済
と株式市場や不動産市場の乖離についてこれを習政権は、「新常
態(ニューノーマル)」と呼んでいるのです。明らかなゴマカシ
以外のなにものでもないのです。
 このようにして不動産バブルは過熱し、2016年9月に国家
統計局が発表した8月の70都市住宅価格調査によると、新築マ
ンションの価格が90%以上にあたる64都市で前月よりも上昇
したのです。尋常な値上がりではないのです。これについて、近
藤大介氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国では、全国の市町村を、重要性や人口などを鑑みて、一線
都市から四線都市に区分している。一線都市は、北京、上海、広
州、深せん、天津の5都市。二線都市が、南京、武漢、重慶など
41都市。三線都市が紹興、珠海、吉林など110都市。残りす
べてが四線都市である。
 これまでは、マンション価格の上昇が激しいのは、主に一線都
市だった。だが2016年夏は、一部の二線都市、三線都市の上
昇率が、一線都市の上昇率を上回るという新現象も起こった。こ
れは、不動産バブルが地方都市にまで浸透してきたことを示して
いた。しかも上がり方が尋常でなかった。
                  ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
─────────────────────────────
 中国には「金九銀十」という不動産用語があります。これは、
「黄金の9月と銀色の10月」という意味です。9月中秋節(旧
盆)の3連休から、10月の国慶節(建国記念日)の7連休にか
けて、マンションの売り上げがピークに達するので、そのように
呼ばれるのです。いわばカキ入れどきです。
 そういうわけで、2016年の「金九銀十」も各都市の不動産
業者は大量の新築マンションの販売を仕掛けようとしていたので
す。しかし、銀十の10月にとんでもないことが起きるのです。
             ──[米中戦争の可能性/089]

≪画像および関連情報≫
 ●中国不動産バブル「2017年に崩壊しそう」な理由
  ───────────────────────────
   2016年の秋ごろから、中国の不動産バブルが再熱して
  いるとの指摘が増えている。バブルは膨れ上がっても、はじ
  けてしまっても経済成長には大きなマイナス。中国政府も手
  をこまねいているわけではないが、うまく制御できていない
  ようだ。2017年中にもはじけるのではないかとの指摘も
  ある。
   中国は、2010年に日本のGDPを抜き、アメリカに次
  ぐ世界第2位の経済大国となった。その前年ごろから住宅価
  格が高騰し、バブルのような様相を見せていた。バブルとは
  簡単に言えば、資産価格が通常の賃料や金利などから大幅に
  乖離して形成されてしまう現象のこと。1980年代の日本
  の「不動産バブル」が世界初とされる。その後、90年代の
  「アメリカITバブル」、2008年の「コモディティバブ
  ル」を経て、中国の「住宅バブル」は世界4番目と位置付け
  られた。
   世界的な金融危機に対応するため、中国当局は銀行に融資
  拡大を奨励して景気を刺激したり、貸出総量規制を撤廃する
  などして大幅な金融緩和を実施。不動産市場に資金が大量に
  流れ込んだ。また、経済成長に伴う労働力不足を解消するた
  め、農村部から都市部へ人口を移動させたことで、住宅需要
  が一気に高まった。        http://bit.ly/2qbSA1c
  ───────────────────────────

中国人民銀行.jpg
中国人民銀行
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2017年05月16日

●「突如発令された住宅の購入制限令」(EJ第4520号)

 「金九銀十」で住宅マンションブームが盛り上がっていた20
16年9月25日(日)のことです。南京市人民政府が、ホーム
ページ上に次の通達をアップしたのです。南京市は二線都市の筆
頭の820万都市です。
─────────────────────────────
◎南京市の不動産市場のさらなるコントロールのための主要地区
 の不動産購入制限措置に関する通知
 1.すでに1軒の住宅を所有している南京市の非戸籍保持者
   家庭の不動産購入(新築及び中古物件)を当分の間禁止
   する。
 2.すでに2軒以上所有している南京市の戸籍保有者家庭の
   新築不動産購入を当分の間禁止する。
                  ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
─────────────────────────────
 突然の通知で、しかも明日(26日)から実施するというので
す。明日から実施するなら、今日買ってしまえということで、市
内のマンションセンターに南京市民が殺到したのです。時期が時
期であり、多くの市民がマンション購入を考えていたのに、この
ような通達を突然ホームペー上で通告し、しかも明日から実施す
るというのは乱暴な話ですが、中国ではこういうことはよく起き
ることなのです。
 この通知の効果で、9月25日だけで、1604軒のマンショ
ンが売れたのです。本当は買う人がもっと多かったのですが、応
対するマンション販売スタッフの人数が足りなかったのです。そ
れに加えて南京政府は、10月5日にさらに詳細なマンション購
入制限令を出し、購入に強いブレーキをかけたのです。
 この南京市のマンション購入制限令は、燎原の火のごとく全国
各都市に広がったのです。制限令の内容はさまざまですが、頭金
の大幅引き上げが多く、それも細かな条件によって頭金は販売価
格の70%程度が標準になったのです。2016年の初めには、
頭金ゼロでも購入できた住宅が秋には頭金が販売価格の70%以
上にハネ上がってしまったのです。
 その結果、非戸籍保有者が締め出されることになったのです。
これによって彼らは、自分が住む住宅を手に入れることが困難に
なったといえます。なぜなら、頭金の割合が増えても困らないの
は、富裕層だけということになるからです。彼らは、自らが住む
ための住宅ではなく投機用の住宅を多く手に入れ、それを売って
ますます豊かになっていくのです。深刻な格差の拡大です。
 これらの住宅購入制限令で不思議なことは、これだけ大きな影
響を及ぼす政策であるのに、通達は中央官庁の国務院ではなく、
地方政府(地方自治体)が発令していることです。国務院には住
房和城郷建設部という専門官庁があるにもかかわらずです。
 しかし、10月5日にこの専門官庁のホームページには、新華
社通信上に掲載された「権威専家」というネームで書かれている
次の記事を転載したのです。
─────────────────────────────
 多くの都市で行った不動産市場のコントロール政策は投資と投
機の需要を抑制するのが目的だった。住宅価格があまりに急激に
上昇するのを抑止し、不動産市場を安定化させようとしたのだ。
日々刻々状況が変わる不動産市場に対して、市場を安定化させコ
ントロールしていくことに対して、引き続き細かな指導をし都市
政策に結びつけていく。            ──権威専家
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 この「権威専家」とは何者でしょうか。
 中国の官製メディアでは、よく「権威専家」とか「権威人士」
という名称が使われますが、これは習近平主席と劉鶴中央財経指
導小グルプ弁公室主任兼発展改革委員会副主任を指しています。
これについては、4月27日のEJ第4510号で「権威人士」
について説明しています。
 「権威専家」が習近平サイドの人物であるとすると、マンショ
ン購入制限令を事実上主導したのは、李克強サイドではなく、習
近平サイドであるということになります。しかし、このマンショ
ン購入制限令は、習政権が進めようとしているはずの「鬼城」解
消計画や戸籍制度改革と明らかに矛盾します。これについて、近
藤大介氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 こうしたことから透けて見えるのは、2016年秋の「マンシ
ョン購入制限令」は、李克強首相が統括する国務院の主導ではな
くて、習近平総書記サイドが主導したということだ。おそらく、
9月に李克強が、ニューヨークの国連総会、カナダ、キューバと
11日間も外遊に出ている間(9月18〜28日)に、習近平と
劉鶴が主導して進めてしまったのだろう。
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 どうして同じ政権でありながら、習主席サイドは矛盾した政策
をとるのでしょうか。
 それは政権内部で権力抗争をしているからです。習近平主席は
李克強首相を追い落としたいのです。そのため、習主席は腹心の
劉鶴主任を使って李首相の政策の批判をさせ、次の5年間では首
相の職を奪おうとしているのです。習主席は経済オンチといわれ
ており、そのため劉鶴主任を重用しています。
 李克強首相は、自ら辞任するのではないかといわれます。もし
李首相が来年から首相を務めない場合、習近平国家主席の側近で
ある王岐山・中央規律検査委員会書記が次期首相に有力視されて
いますが、「関連情報」の記事にあるように、劉鶴主任の抜擢と
いう説もあります。これが実現すると、次の5年間では習主席の
1人執権体制が強化されることを意味します。
             ──[米中戦争の可能性/090]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平主席と李克強首相の対立激化 次期首相は習氏腹心か
  ───────────────────────────
   中国共産党の序列ナンバー1の習近平国家主席と、序列ナ
  ンバー2李克強首相との対立が激化しつつあるとの見方が広
  がりつつある。そんななか、来年秋の中国共産党の第19回
  党大会の最高幹部人事で、李氏は党政治局常務委員を解任さ
  れるか、あるいは再任されても、翌年春の全国人民代表大会
  (全人代=日本の国会に相当)で首相の職務を解かれ、全人
  代委員長に横滑りする可能性が出ていることが分かった。
   その後任として、習氏の信頼が厚い腹心で、経済政策全般
  を任されている劉鶴・党中央財経工作指導小組(グループ)
  弁公室主任が首相のダークホースとして急浮上しているとい
  う。米国を拠点にする中国問題専門の華字ニュースサイトの
  「博聞新聞網」が伝えた。
   習氏と李氏の対立は以前からも伝えられていたが、2人の
  険悪な関係が明るみに出たのは2016年3月初旬の全人代
  の冒頭李氏が政府活動報告を終えた後、ひな壇に戻ってきた
  李氏に隣席の習氏は握手すらせず会話を交わすこともなく、
  一顧だにしないという異様な光景が衆人環視の中で展開され
  てからだ。さらに2人の政策が明らかに対立していることが
  分かったのが5月9日付の党機関紙「人民日報」の報道から
  だ。同紙は「権威人士」なる最高幹部かあるいは最高幹部に
  連なるブレーンとみられる匿名の人物への長文のインタビュ
  ーを掲載した。その内容は中国の経済情勢や経済政策に関す
  る見方で、権威人士のインタビュー内容は李氏ら政府高官の
  立場と明らかに食い違っていた。  http://bit.ly/2rdzfub
  ───────────────────────────

劉鶴主任.jpg
劉鶴主任
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2017年05月17日

●「北朝鮮ミサイル発射の意味は何か」(EJ第4521号)

 5月14日早朝の北朝鮮の弾道ミサイルの発射で再び朝鮮半島
が緊張に包まれています。今回のテーマは「米中戦争の可能性」
ですが、米朝紛争が米中戦争のきっかけになる可能性は十分ある
ので、この問題をしばらく取り上げます。
 この北朝鮮の弾道ミサイル発射は公開発射なのです。12日夜
から平安北動亀城市付近の飛行場に発射台を展開し、13日未明
にミサイルを起立させ、実際に発射したのは、その24時間後な
のです。堂々たる公開発射であるといえます。
 当然のことながら、その発射の兆候は日米韓の専門当局は把握
していたものと思われます。もっとも今回発射のミサイルは液体
燃料使用の新型「火星12型」なので、発射の兆候は衛星をよく
観察すればわかるはずですし、北朝鮮も最初から隠すつもりはな
かったものと思われます。
 それでは、なぜ発射は5月14日だったのでしょうか。それは
「3つ国に対するサイン」であると思われるのです。
─────────────────────────────
      1.米国へ対話の条件を示すサイン
      2.中国に対する怒りを示すサイン
      3.韓国文政権に祝意を示すサイン
─────────────────────────────
 「1」は「米国へ対話の条件を示すサイン」です。
 米国は、空母カール・ビンソンを朝鮮半島に派遣するなど、北
朝鮮に強い威嚇を行う一方で、中国に北朝鮮への経済制裁を強め
るよう要請し、中国も一定程度それに応えています。
 また、トランプ大統領は、ブルームバーグとのインタビューで
次のように語っています。
─────────────────────────────
   金生恩委員長とは「適切な状況下」であれば会談する
                 ──トランプ米大統領
─────────────────────────────
 問題は「適切な状況下」とは具体的に何かです。トランプ大統
領はそれを明確にしていませんが、「北朝鮮が核・ミサイルを放
棄する」ことであることは明らかです。
 北朝鮮の今回のミサイル発射は金委員長からのトランプ大統領
への返信であると思われます。北朝鮮の対話の条件は「核・ミサ
イルの保有を前提とする」というメッセージです。
 「2」は「中国に対する怒りを示すサイン」です。
 北朝鮮が弾道ミサイルを発射した5月14日は、中国が今年一
番重要なイベントと位置付ける「シルクロード経済圏構想(一帯
一路)」という初の国際会議の開催日なのです。中国にとっては
最も重要な日にミサイルを発射されたのです。習近平主席として
は北朝鮮によって顔に泥を塗られた思いでしょう。一帯一路国際
会議で習近平主席は演説において7回も間違えるなど、内心の苛
立ちを示しています。
 実は北朝鮮は中国に「4月20日に核実験を実施する」と伝え
ているのです。ところが、習主席は「もし、核実験を強行すれば
中朝国境を封鎖し、厳しい制裁をかける」と返し、北朝鮮は核実
験を中止しています。したがって、今回の弾道ミサイル発射は、
その意趣返しであると考えられます。
 「3」は「韓国文政権の祝意を示すサイン」です。
 韓国に文在寅政権ができたことは、北朝鮮にとってはきわめて
プラスです。北朝鮮は多数の工作員を送り込んで、朴政権の打倒
のための大規模デモを指揮し、大統領選挙においても、何かと文
在寅陣営を助けているのです。したがって、今回の弾道ミサイル
発射は文在寅政権誕生に祝意を送っていると考えられます。
 14日の弾道ミサイル発射に関して気になったのは米国の対応
です。今回のミサイル発射は北朝鮮も隠していないし、当然米国
はわかっていたはずです。もちろん中国もです。ところが事前に
両国は何のメッセージも出していないのです。
 もうひとつ米国はミサイルが発射された後、「これはICBM
ではない」というコメントを出しています。米国は弾道ミサイル
に関して妙な線引きをしています。つまり、わざわざICBMの
次の定義を持ち出しているのです。
─────────────────────────────
  ICBM(intercontinental ballistic missile1)とは
  55OOキロメートル飛翔するミサイルである
─────────────────────────────
 これに関しては、金正恩委員長が年頭談話で「ICBMの開発
は最終段階に入っている」と述べたことに関して、トランプ大統
領は「そうはならない!」というツイートを発信して、反対を表
明しています。しかし、北朝鮮は飛翔距離で弾道ミサイルを分類
していないのです。今回の弾道ミサイルにしてもICBMの第1
弾ロケットの実験ではないかともいわれています。もしそうであ
れば、通常軌道では4500キロメートル飛翔しており、実質的
にICBMであるといっても過言ではないのです。
 それは米国が「ICBMができればレッドゾーンである」との
ニュアンスの発言をしているので、ミサイル発射直後に「ICB
Mではない」と発言したのではないかと思われます。なんとなく
米国はハードルを下げているように感じます。
 しかし、シルクロード会議に北朝鮮の金英才・対外経済相らが
参加したことについて、北京の米国大使館は次のように抗議の書
面を中国外務省に送っています。米国としては、非常に控えめな
抗議ですが、形ばかりの懸念を伝えたのです。しかし、中国外務
省はこれを無視しています。
─────────────────────────────
 北朝鮮を招くことは、世界が北朝鮮に圧力をかけている時に
 誤ったメッセージを送ることにならないか。
                   ──北京米国大使館
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/091]

≪画像および関連情報≫
 ●北朝鮮 新型中距離弾道ミサイルの発射実験に成功
  ───────────────────────────
   14日、日本海に向けて弾道ミサイル1発を発射した北朝
  鮮は、キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長の立ち
  会いの下、新型の中距離弾道ミサイルの発射実験に成功した
  と、写真とともに発表し、ミサイル技術の向上を図るため、
  今後も発射を繰り返す姿勢を強調しました。
   北朝鮮は14日、北西部・ピョンアン(平安)北道のクソ
  ン(亀城)付近から弾道ミサイル1発を日本海に向けて発射
  し、ミサイルはおよそ800キロ飛行し、高度は初めて20
  00キロを超えたと推定されています。
   これについて北朝鮮は15日朝、国営メディアを通じて、
  キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長の立ち会いの下、新型の
  中距離弾道ミサイル「火星12型」の発射実験に成功したと
  発表しました。
   15日付けの朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、1面から
  3面にわたって写真を掲載し、移動式の発射台に搭載された
  弾道ミサイルが真上に向かって上昇する様子や、屋内の施設
  で組み立てられたミサイルの姿などが写っています。
   今回の発射は、通常より角度をつけて高く打ち上げる「ロ
  フテッド軌道」を用いて「周辺諸国の安全に考慮した」とし
  たうえで、「高度は2111キロまで上昇し、787キロ離
  れた公海上の目標水域に正確に着弾した」としています。
   発射実験のあと、キム委員長は「アメリカ本土と太平洋作
  戦地帯は、われわれの攻撃圏内に入っている」とアメリカを
  強くけん制し、ミサイル技術の向上を図るため、今後も発射
  を繰り返す姿勢を強調しました。  http://bit.ly/2qJjajo
  ───────────────────────────

「火星12型」成功に喜ぶ金委員長.jpg
「火星12型」成功に喜ぶ金委員長
  
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2017年05月18日

●「米国には北に5つの選択肢がある」(EJ第4522号)

 「すべての選択肢がテーブルの上にある」──トランプ米大統
領をはじめペンス副大統領、ティラーソン国務長官がこれと同じ
言葉を発しています。米国は、自国の安全が脅かされることがな
いようにしたいのです。こういう米国の立場になって考えた場合
「あらゆる選択肢」には次のようなものがあります。
─────────────────────────────
      1.中国を通じて経済制裁を強める
      2.北朝鮮と米国が直接対話をする
      3.北朝鮮を核保有国として認める
      4.金正恩の斬首作戦を成功させる
      5.米国は北朝鮮を限定攻撃をする
─────────────────────────────
 第1の選択肢として考えられるのは「中国を通じて経済制裁を
強める」ことです。
 北朝鮮に最も影響力のある国は中国です。北朝鮮にとって中国
は最大の輸出国であり、石油や食料品などの最大の輸入国でもあ
ります。そういう意味において中国は、北朝鮮の生殺与奪の権利
を握っているといえます。したがって、北朝鮮に経済制裁をかけ
るのには、中国がやるのが一番効果的なのです。
 中国は、既に北朝鮮に対して経済制裁の圧力をかけています。
石炭の輸入を今年中停止し、もし、それでも北朝鮮が核実験を強
行するときは、石油の輸出を止める断油措置を講じ、それに加え
て、中朝国境を閉鎖すると警告したのです。
 中国の場合、国境に接する北部戦区と北朝鮮は、いわゆる「辺
境貿易」を密かにやっており、国境封鎖はこれができなくなるの
で、北朝鮮は大きなダメージを受けます。これによって北朝鮮は
核実験を中止しましたが、その代り14日に弾道ミサイルを発射
しています。
 しかし、中国の本音は地政学上北朝鮮を崩壊させることには反
対であり、中国を通じての経済制裁には限度があり、これによっ
て北朝鮮が核・ミサイルの開発・保有をあきらめることはあり得
ないと考えます。
 第2の選択肢として考えられるのは「北朝鮮と米国が直接対話
をする」ことです。
 水面下ではありますが、米国と北朝鮮はノルウェーのオスロで
非公式会談を行っています。これについて、産経新聞ニュースは
次のように伝えています。
─────────────────────────────
【北京=西見由章】ノルウェー・オスロで米国の元政府高官らと
接触した北朝鮮外務省の崔善姫米州局長は13日、帰国に向けた
経由地の北京の空港で、トランプ米政権との対話について「必要
な条件が整えば対話する」と記者団に語った。韓国の文在寅政権
については「見守っていく」と述べるにとどめた。
                   http://bit.ly/2rlgkhN
─────────────────────────────
 水面下とはいえ、米国がなぜ対話に応じたかというと、北朝鮮
で米国人が4人拘束されているからです。しかし、米国政府と北
朝鮮の正規の対話に応ずる条件(適切な状況下)としては北朝鮮
が絶対に飲めない次の条件ということになります。
─────────────────────────────
    北朝鮮が核・ミサイルの開発と保有を放棄する
─────────────────────────────
 この条件がある限り米朝対話は絶対に実現しないということに
なります。北朝鮮が妥協できる余地があるとすると、それは「核
・ミサイルの凍結」だけですが、これはトランプ政権としては飲
めない条件です。なぜなら、それでは歴代米政権、とくにオバマ
政権と何も変わらないし、米国はまたしても騙されることになり
かねないからです。
 第3の選択肢として考えられるのは「北朝鮮を核保有国として
認める」ことです。
 「アメリカファースト」の米国があくまで自国の安全にだけこ
だわるのであれば、この第3の選択肢しかないのです。しかし、
米国としては、この選択肢は簡単には取れないのです。それは、
次のことが必然的に起きるからです。
─────────────────────────────
 1.北朝鮮を核保有国として認めることは、それは米国の敗
   北を意味するからである。
 2.北朝鮮が核保有国になると、核保有こそ効果的防衛手段
   になるので核が拡散する。
 3.北朝鮮が核保有国になると、米の核の傘が無力化し、日
   本や韓国の核武装を招く。
─────────────────────────────
 第4の選択肢として考えられるのは「金正恩の斬首作戦を成功
させる」ことです。
 この作戦は、既に水面下でCIAによって行われています。し
かし、北朝鮮の場合、これは容易ではないのです。クリントン大
統領時代に米CIA長官を務めたジェームズ・ウールジー氏は、
次のように述べています。
─────────────────────────────
 金正恩の「斬首作戦」の実行は、通常の暗殺ミッションに比
 ベて、はるかに難しい。他の独裁者とは違うのです。
         ──ジェームズ・ウールジー元CIA長官
─────────────────────────────
 北朝鮮は外国人が簡単に入国できる国ではなく、外部の組織が
斬首作戦を実行することは困難なのです。したがって、北朝鮮内
部に協力者をつくり、暗殺を実行させる必要があります。これに
ついては、たびたび試みられているものの、この国では成功率が
きわめて低いのです。1から4までの選択肢はいずれも難があり
ます。第5の選択肢については、明日のEJで取り上げます。
             ──[米中戦争の可能性/092]

≪画像および関連情報≫
 ●金正恩「斬首作戦」 実行ならば日本経済も打ち首に
  ───────────────────────────
   国内の目が「森友学園」に注がれている間、東アジアには
  深刻な危機が訪れていた。核とミサイルをおもちゃにしてい
  た「お坊ちゃま」の暴走に、トランプ大統領は怒髪天。「金
  正恩」斬首作戦が実行されれば、日本経済も「打ち首」寸前
  で、逆風の大嵐が吹き荒れるというのだ。
   4月26日未明の平壌。小雨の空模様に加え、この日は新
  月。辺りは墨を流したような闇が広がるだけだ。前夜から、
  米韓空軍は平壌を大規模空爆。防空レーダーと防衛隊に壊滅
  的な打撃を与えていた。この闇と噴煙の中を縫うように、数
  台のヘリコプターが進んでいく。いくつかは地上部隊をおろ
  し、平壌の制圧に走らせるが、いくつかは意思を持ったよう
  に別の“標的”に急進していくのだ。
   ブラックホーク。幾多の戦場で活躍した米軍のヘリは“目
  標”の建物の前に降りると、次々と隊員たちを吐き出した。
  米海軍の特殊部隊・シールズ。韓国の「北派工作員」。先導
  するのは軍用犬だ。「精鋭部隊」は建物を取り囲むと、意を
  決したように四方八方から侵入を開始。数十分後、漆黒の闇
  に銃声、続けて歓声が響いた。「彼をやったぞ!」――。あ
  とひと月も経たないうちにこうした光景が見られるとはにわ
  かには信じがたいけれど、絵空事とは一笑に付せないほど、
  北朝鮮とアメリカの対立は深刻さを増している。
                   http://bit.ly/2pERg8m
  ───────────────────────────

ノルウェー/オスロでの米朝水面下会談.jpg
ノルウェー/オスロでの米朝水面下会談
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2017年05月19日

●「米国は北朝鮮に限定攻撃できるか」(EJ第4523号)

 米国が北朝鮮に対してとれる「あらゆる選択肢」には5つあり
ますが、それを再現します。既に昨日のEJで1〜4については
検証が終わっています。
─────────────────────────────
      1.中国を通じて経済制裁を強める
      2.北朝鮮と米国が直接対話をする
      3.北朝鮮を核保有国として認める
      4.金正恩の斬首作戦を成功させる
    ⇒ 5.米国は北朝鮮を限定攻撃をする
─────────────────────────────
 第5の選択肢として考えられるのは「米国は北朝鮮を限定攻撃
をする」ことです。
 この原稿を書いている5月17日現在、米軍が北朝鮮への武装
を解いていないにもかかわらず、この第5の選択肢はあり得ない
という雰囲気になっています。なぜなら、この選択肢は、あまり
にもリスクが大きいと思われているからです。
 1994年に北朝鮮がNPTを脱退すると宣言したとき、クリ
ントン大統領自身は北朝鮮への攻撃を決断したのですが、当時の
ペリー国防長官が次の見通しを報告したことと、金泳三韓国大統
領が猛反対したことによって断念しています。
─────────────────────────────
 朝鮮半島で戦争が勃発すると、最初の90日間で米軍兵士の
 死傷者は5万2000人に上る。   ──ペリー国防長官
─────────────────────────────
 これについて、平和外交研究所代表の美根慶樹氏は、米軍の北
朝鮮への攻撃は非常に困難であるとして、その根拠を6つ上げて
説明しています。少し長いですが、以下に引用します。
─────────────────────────────
 第1に、北朝鮮の軍事能力は核とミサイルの開発などによって
1990年代とは比較にならないくらい強大になっている。クリ
ントン元大統領時代と同様のシミュレーションをすれば、米国兵
の犠牲は何倍、あるいは何十倍にもなるだろう。
 第2に、朝鮮半島で米国と北朝鮮の軍事衝突が起これば、必ず
韓国が巻き込まれ、壊滅的な打撃をこうむる。北朝鮮・平壌と韓
国・ソウルの距離は約200キロメートルにすぎず、攻撃するの
にミサイルは必要ではない。北朝鮮は直接ソウルに砲弾を撃ち込
める性能の兵器を保有している。
 第3に、日本にも被害が及ぶであろうし、そうなると、日本と
しても単純に米国の決定を支持するとは言えなくなる。少なくと
も、軍事作戦の開始以前には、反対せざるをえなくなることもあ
ろう。また、実際に軍事衝突が起こった場合、安保法制によると
自衛隊を朝鮮半島に派遣せざるをえなくなる可能性も出てくる。
 第4に、中国も間違いなく反対するだろう。
 第5に、米国内でも反対意見が強いと思われる。反対論の根拠
として挙げられそうなこととして、米国は現実に被害を被ってい
ないこと、中東に比べて北朝鮮問題の優先度は低いこと、全面戦
争に発展して米国も核攻撃される危険が生じてくること、などが
挙げられる。手段をまだ尽くしていないのに軍事行動に出ること
には、特に強い疑問が呈されるだろう。
 第6に、先に攻撃すれば、米国が64年前に結ばれた朝鮮戦争
の休戦協定に違反することとなる。国際連合においても、安全保
障理事会のお墨付きを得るのは、中国やロシアが反対するので、
まず不可能と見るべきだ。       http://bit.ly/2reFHoh
─────────────────────────────
 この米軍による北朝鮮限定攻撃の選択肢はあり得ないという雰
囲気を察知してか、北朝鮮は5月14日に新型ミサイル「火星2
型」を打ち上げ、成功させています。米国とのチキンレースを展
開するなかで、北朝鮮はかなり強気の一手を打ってきたのです。
 米国は、明言はしていないものの、核実験をやるか、ICBM
を成功させればレッドラインしていますが、「火星2型」はそれ
に大きく近づいています。しかし、米国は「ICBMではない」
と即座に否定しています。それは、レッドラインではないといい
たかったものと思われます。
 確かに「火星12型」は、その飛翔距離は約4000キロメー
トルとされ、「5500キロ以上がICBM」とする米国の定義
には該当しませんが、本物のICBMが開発されるのは時間の問
題であることは間違いないことです。
 「火星12型」には新型のエンジンが搭載されており、1段目
の飛翔と指定の海域に落下させる実験ではないかといわれている
のです。実際には30分間飛翔し、正確ではないかもしれないが
弾頭を日本海に落としているので成功です。そうであるとすると
ロケットを2弾方式にすれば、5500キロメートルは確実に飛
翔するので、事実上のICBMです。
 現在米国は、中国の制裁に期待しているようですが、それには
明らかに限界があります。制裁に関して北朝鮮は激しく中国に反
発しており、かなり強気です。それには、どうやらロシアが絡ん
でいると思われますが、これについては改めて述べます。
 しかし、その一方で、5月16日、米原子力空母「ロナルド・
レーガン」が米海軍横須賀基地を出港しています。行き先は発表
されていませんが、朝鮮半島に向うものと思われます。朝鮮半島
周辺の海域には、既に米空母「カール・ビンソン」がいるので、
もし、ロナルド・レーガンが朝鮮半島に向うと、空母2隻体制に
なります。実際に戦闘をはじめるのに近い体制です。
 この状態でもし北朝鮮が核実験をやったら、米国はどう対応す
るのでしょうか。レッドゾーンを明らかに越えています。それで
もトランプ政権が中国に頼り、対話路線を探ろうとするのでしょ
うか。それでは、朝鮮半島周辺への空母打撃群の派遣は何だった
のでしょうか。それとも一転して米国は北朝鮮への限定攻撃を行
うのでしょうか。これについては来週のEJで詳しく述べます。
             ──[米中戦争の可能性/093]

≪画像および関連情報≫
 ●米国は北朝鮮を攻撃できるか?/辺真一氏
  ───────────────────────────
   トランプ政権のシリア空爆は、米国にとって越えてはなら
  ない一線を越えたら、軍事力を行使する決意を実際に行動で
  示したことになる。
   特に、米中首脳会談最中にシリアへの軍事行動に踏み切っ
  たことは「中国が北朝鮮の核開発阻止に協力しなければ、米
  国が独自に行動する」とのトランプ大統領の警告が、決して
  ハッタリではないことを見せつける結果となった。
   これに対して北朝鮮外務省は8日の談話で「一部にはシリ
  アに対する米国の軍事攻撃が我々に対する警告的行動である
  と騒いでいるが、そんなことに驚く我々ではない」と米国の
  威嚇を一蹴した。逆に「シリアの事態は、我々に帝国主義者
  らへの幻想は絶対禁物である」と述べたうえで「今日の現実
  は力には力で対抗し、核武力を常時強化してきた我々の選択
  が千万回正しかったことを立証した」と、核兵器を軸とした
  自衛的国防力を引き続き強化することを強調した。
   仮に金正恩政権が米国のシリア空襲に恐れおののいている
  なら、容易には6度目の核実験に踏み切れないだろう。換言
  すれば、史上最大規模の米韓合同軍事演習の最中にそれも3
  月中旬に演習に参加し、引きあげたばかりの原子力空母「カ
  ール・ヴィンソン」が再び朝鮮半島に派遣されている状況下
  で、それもシリア空爆の後に核のボタンを押すのはよほどの
  覚悟ができなければできない。   http://bit.ly/2nxsXbk
  ───────────────────────────

米戦略爆撃機「B─52」.jpg
米戦略爆撃機「B─52」
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2017年05月22日

●「北朝鮮の情報を把握している米軍」(EJ第4524号)

 米国が北朝鮮を軍事攻撃する可能性はあるのでしようか。現時
点では「あり得ない」という声が圧倒的です。「あまりにも犠牲
が大き過ぎる」というのがその理由です。
 しかし、これと同じ質問をドイツ国際政治安全保障研究所のハ
ンス・ギュンター・ヒルペルト氏にすると、次のように答えてい
ます。このインタビューは、2017年5月18日付の日本経済
新聞に掲載されていたものです。
─────────────────────────────
 可能性はある。北朝鮮への攻撃は朝鮮半島や日本に大損害をも
たらす悪夢のシナリオだ。だから米国はこれまで慎重だった。だ
が緊張が高まり、米朝両国は実体的なパイプを持っていないよう
にみえる。どちらかが相手の出方を読み違え、偶発的に危機が拡
大する恐れがある。
 北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)で米国を攻撃できる
ようになることを大統領は許さない。米国はいま何か動かさなけ
ればならない。交渉や制裁が失敗すれば戦争もあり得なくない。
         ──2017年5月18日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 はっきりしていることがあります。それは、このハンス・ギュ
ンター・ヒルペルト氏もいうように、米国は北朝鮮が直接米国本
土を狙える核・ミサイル(ICBM)を開発したときは、絶対に
北朝鮮を許さないということです。つまり、そのさいは、実力行
使は十分あり得るというわけです。
 北朝鮮が14日に打ち上げた「火星12型」について、米国は
その飛翔距離から「ICBMではない」としているものの、技術
的にはICBMの完成であると考えています。そうであるとする
と、そのICBMが実戦配備される前に米国としては手を打つ必
要があります。今の段階でそれを排除しておかないと、大変なこ
とになるからです。つまり、米国は北朝鮮を限定攻撃をする可能
性は十分あるわけです。
 まして現在、朝鮮半島周辺海域には米空母カール・ビンソンを
中心とする複数の艦艇と原子力潜水艦ミシガンと、それと同級の
潜水艦が配備されており、もう一隻の米空母ロナルド・レーガン
も朝鮮半島に向かっています。つまり、米国はいつでも北朝鮮に
対して限定攻撃ができる態勢にあります。
 しかし、米国は全面戦争だけは避けたいと考えています。その
ための課題は、いかにして初期の攻撃で、北朝鮮の報復攻撃能力
を殲滅するかにあります。実はミサイルの発射よりも怖いのは、
DMZ(非武装地帯)にある1万5千ものロケット砲です。これ
が発射されると、まさにソウルは火の海になります。
 実は米韓両軍は、北朝鮮の核施設や軍事基地、空軍基地、部隊
の正確な位置、ロケット砲の配置、高性能レーダー基地、地下基
地、その出入り口と換気施設など、あらゆる精密な情報を入手し
ているといます。しかも、リアルタイムで更新を続けているので
す。まして、北朝鮮の内部を探る偵察機などは、カール・ビンソ
ンに搭載され、朝鮮半島周辺にいるのですから、日々時々刻々情
報を入手しているはずです。
 韓国国防省で、情報参謀などを務めた高永拓殖大学客員研究員
は、これについて次のように述べています。
─────────────────────────────
 米国は、偵察衛星やU−2偵察機、無人偵察機グローバルホー
ク、さらに高性能カメラを備えたドローンなどを駆使して、24
時間、移動などの情報を監視。「ターゲットリスト」をリアルタ
イムで更新しているのです。北のあらゆる拠点が対象になってい
ます。           ──『週刊文春』/5月18日号
─────────────────────────────
 これに加えて、韓国国家情報院は、脱北者から詳しい情報の聞
き取りをしています。韓国国家情報院のある幹部は、その徹底し
た諜報活動について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 韓国に約3万1千人いる脱北者からは国情院が丹念に聞き取り
を行ない、北の主要な施設や生産拠点の情報はほぼ抑えている。
彼らの中にはかなり重要度の高い施設で働いていた人間が数多く
います。金正日時代でも、平壌で行なわれた軍事パレードの映像
を、北朝鮮の領空内に偵察機を一切入れずに撮っています。ハイ
ビジョンカメラで捉えたような映像でした。
 また、米国は、北朝鮮の核実験を評価するため、協力者を現地
に送り込み、実際に該当地域の土壌や水を調査用に持ち帰らせて
いるのです。        ──『週刊文春』/5月18日号
─────────────────────────────
 実は、朝鮮半島周辺海域に展開する米海軍は、トランプ大統領
の命令が出れば、直ちに攻撃を実行できる態勢にあります。この
場合、米軍による単独攻撃になると思います。問題は、この場合
中国はどのように対応するでしょうか。
 この中国の軍事介入について、2017年4月22日付の「環
境時報」は次のように書いています。
─────────────────────────────
 戦争が起こることには反対するが、しかし万一戦争が始まった
時には、中国はどのような立場を取るかに関して、米朝に通報す
る。もし北朝鮮が核・ミサイルの活動を展開し続け、米国がそれ
らの施設に外科手術的(=武力的)攻撃をしたならば、中国は、
(戦争行為をしたことに対して)外交的抗議を表明するだろうが
軍事的介入はしない。ワシントンは北朝鮮がソウル地区に報復的
攻撃をするであろうリスクを十分に考えなければならない。これ
らのリスクは米韓にとって耐え難いほど重いものとなるだろう。
                   http://bit.ly/2pNHJf6
─────────────────────────────
 つまり、中国は米国による北朝鮮への限定攻撃には軍事介入し
ないといっているのです。これは中国の大きな譲歩であるといえ
ます。          ──[米中戦争の可能性/094]

≪画像および関連情報≫
 ●日米の有事態勢/米軍空母増派が「サイン」
  ───────────────────────────
   緊迫化する北朝鮮情勢をめぐり、トランプ米政権は軍事力
  行使を選択肢に含む牽制の動きを続けている。現在でこそ米
  海軍の原子力空母カール・ビンソンが日本海に展開するなど
  米軍の威力を誇示する段階にとどまっているが、4月27日
  にはトランプ大統領が「北朝鮮との非常に大規模な紛争に行
  き着く可能性は当然ある」と発言した。トランプ政権の軍事
  オプションを実行する米軍は、いかなる態勢で北朝鮮と向き
  合っているのか。そして自衛隊はどのような役割を果たすの
  か。(千葉倫之、杉本康士)
   カール・ビンソンは米軍が10隻保有する原子力空母の1
  つ。同艦を中核とする第1空母打撃群は駆逐艦2隻、巡洋艦
  1隻などで構成される。FA18戦闘攻撃機約50機のほか
  早期警戒機や電子戦機など、約70機の艦載機を搭載してい
  る。ただ、カール・ビンソンが展開しただけで対北朝鮮攻撃
  を実行する態勢が整ったとは言い難い。湾岸戦争やイラク戦
  争など米国が過去に遂行した戦争では、いずれも複数の空母
  が同時展開して作戦に従事した。航空自衛隊関係者は「現段
  階では北朝鮮を威圧する政治的な行動にとどまっている」と
  語る。5月上旬に定期整備を終える米海軍第7艦隊の空母ロ
  ナルド・レーガンに加え、米本土から空母が周辺海域に展開
  すれば、米国が本気で準備に入ったサインだと捉えることが
  できる。             http://bit.ly/2pWBeTp
  ───────────────────────────

朝鮮半島周辺海域に展開するカール・ビンソン.jpg
朝鮮半島周辺海域に展開するカール・ビンソン
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2017年05月23日

●「米朝もし戦えば1時間で反撃封殺」(EJ第4525号)

 北朝鮮核・ミサイル問題を論理的に解いてみると、どういう答
えが出るでしょうか。
 結論からいうと、この問題の米国にとってのベストの解決策は
北朝鮮への限定攻撃によって核・ミサイル関連施設を破壊するこ
としかないのです。しかし、中国との約束により、北朝鮮という
国家は存続させる方針です。
 元自衛艦隊司令官の香田洋二氏は、米国と北朝鮮の神経戦につ
いて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 この事態が起きる可能性は、昨年から徐々に高まっていたとい
える。私は昨秋には、米朝の軍事衝突の可能性が20〜30%に
なっていたと分析しており、機会をとらえ警告を発していたが、
可能性は2017年1月1日のICBM最終段階宣言でさらに高
まり、トランプ政権誕生で現実味を強めていったのである。無論
北朝鮮も米国も自らのメンツだけにこだわって対立をエスカレー
トさせたのではない。まして金正恩が自暴自棄になっただとか、
トランプが感情的になっただとか、そういう話では断じてない。
 単純に言えば、北朝鮮は自国の存続のために、米本土に届く核
ミサイル開発で米国を交渉の場に引きずり出そうとし、米国は多
数の自国民が核ミサイルによって死ぬ事態だけは断じて避けなけ
ればならないと考え、両者がギリギリの政治戦と神経戦を繰り広
げた結果なのである。  ──『月刊正論』/2017年6月号
                   http://bit.ly/2ry8P6g
─────────────────────────────
 米国、とくに現在の米政権は「アメリカ・ファースト」を標榜
するトランプ政権です。当然のことながら「米国は多数の自国民
が北朝鮮の核・ミサイルによって死ぬ事態だけは、断じて避けな
ければならない」と強く考えています。
 香田洋二氏は、現在の米軍が北朝鮮を限定攻撃するシミュレー
ションを『週刊文春』5月18日号で解説しています。
─────────────────────────────
 米朝もし戦わば「1時間で平壌制圧」/元海自司令官ら断言
              ──『週刊文春』5月18日号
─────────────────────────────
 香田洋二氏によると、攻撃は2波にわたって行われますが、そ
のターゲットについては次のように述べています。
─────────────────────────────
 まず、ソウルに多連装ロケット砲が向けられている長距離砲兵
部隊、「ノドン」「テポドン」などで日本を射程に収める弾道弾
部隊が目標となります。同時に、巡航ミサイルの撃墜防止のため
北朝鮮の東西両海岸にあるレーダサイト、対空ミサイル、高射砲
部隊への攻撃が1次攻撃の中心となる。これは2次攻撃を行う際
の有人攻撃機への脅威の低減も兼ねます。地下基地・施設はかな
り深度のあるものもあり難敵ですが、出入り口と換気施設の破壊
は比較的、容易に行なわれます。──『週刊文春』5月18日号
─────────────────────────────
 攻撃は、東の日本海と西の黄海から行われます。時間は夜明け
数時間前、500発から1000発のトマホークと空中発射巡航
ミサイル(ALCM)による集中攻撃が行われます。
 トマホークについては、原子力潜水艦ミシガンと同級の潜水艦
から発射され、ALCMは爆撃機によって発射されます。ALC
Mというのは、米空軍の長距離攻撃スタンドオフ兵器で、航空機
の子供のような形状の白いミサイル(添付ファイル参照)であり
ピンポイントで攻撃目標を的確に攻撃します。
 これらの原子力潜水艦からのトマホークの発射と同時に、攻撃
兵器の大量搭載が可能なB−52爆撃機、高速と低空飛行を得意
とするB−1爆撃機、B−2ステルス爆撃機が一斉に空母から発
進し、北朝鮮の高性能レーダー基地、内陸部の地下基地攻撃には
レーダーに探知されにくいB−2が、対空火力の強い防空施設に
はB−1による奇襲集中攻撃を行います。
 これと同時並行に行われるのが、電波・通信網の撹乱です。こ
れについて、香田洋二氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 電波・通信網の撹乱は、電子戦機「EA−18Gグラウダー」
によって、対空警戒監視レーダー、飛行中のミサイルなど、電波
・電磁波を含むすべての装置の無力化が可能と考えられます。
               ──『週刊文春』5月18日号
─────────────────────────────
 イラクのように拡散した地域と違って北朝鮮は地域が限定され
ているので、その攻撃効率は高く、香田洋二氏によると、第1波
の夜明けの一斉攻撃による北朝鮮兵力の陸上からの反撃は、航空
機を含めほぼ皆無であるとしています。
 ある韓国国防省関係者は、米軍が、北朝鮮への軍事行動に踏み
切った場合、どのくらい時間を要するかについて、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 北朝鮮の基本的な攻撃能力を無力化させるのにかかる時間は
 約1時間である。     ──『週刊文春』5月18日号
─────────────────────────────
 第1波の攻撃開始から2時間後に米軍内で攻撃評価が行われ、
巡航ミサイル約100発を使って第2波攻撃が開始されます。こ
の第2波攻撃について香田洋二氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 第2波は主として1次攻撃の“撃ち漏らし攻撃”への攻撃とな
ります。韓国と日本への攻撃を無力化し、脅威を最小化させる目
的です。防護態勢が最も手厚い平壌や、他の政治・経済の重要地
域の防空部隊・防衛部隊などの優先度は低くなります。
               ──『週刊文春』5月18日号
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/095]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプが今やろうとしていること/高橋洋一氏
  ───────────────────────────
   筆者は、東アジアの軍事バランスに常に注目している。た
  とえば、2012年8月27日付け本コラム「失われた20
  年で東アジアでの日本のプレゼンスは激減した。軍事費から
  分析する日中韓米露の『軍事力バランス』」では、古典的な
  リチャードソン型軍事モデルを使って、日本の周辺国の軍事
  バランスを分析している。     http://bit.ly/2qyp9Gz
   それによれば、日本の周辺国の軍事バランスは最近崩れて
  おり、これが地域の不安定を読んでいる、ということが分か
  る。この状態は長期的に続いており、ますます不安定になっ
  ている。オバマ大統領時代、アメリカは物わかりのいい国に
  なっていた。オバマ大統領は、「アメリカは世界の警察官の
  役目をもはや果たさない」というスローガン通りに行動し、
  それが世界の不安定化を招いていた。
   その例は、北朝鮮の核・ミサイルの挑発、ロシアのクリミ
  アやシリアへの介入、中国の南シナ海への勢力拡張である。
  それらが、具体的な東アジアの軍事バランスの変化にも数字
  として表れている。
   一方、トランプ大統領は大統領選挙期間中、アメリカ第一
  の姿勢から世界各地での紛争には手を出さないという姿勢で
  いた。そのままであれば、5年前に本コラムで分析した軍事
  バランスは今後もより不安定にならざるを得ないので、東ア
  ジアはいつ軍事紛争があってもおかしくない地域になってい
  ただろう。            http://bit.ly/2qEsAtP
  ───────────────────────────

巡航ミサイル/ALCM.jpg
 
巡航ミサイル/ALCM

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2017年05月24日

●「北朝鮮軍の『最後の切り札』とは」(EJ第4526号)

 米国が北朝鮮への軍事オプションをとるとしても、中国との関
係で、地上兵力を北朝鮮へ送り込むことはできないのです。した
がって、やれることは空爆だけです。これに加えて、特殊部隊に
よる、いわゆる「斬首作戦」を組み合わせるのが「限定攻撃」と
いうことになります。
 しかし、これで北朝鮮の反撃を抑えることは、ほとんど困難で
あるといえます。したがって、昨日のEJ第4525号でご紹介
した北朝鮮軍事オプションは、あくまでひとつの攻撃シミュレー
ションのひとつに過ぎないのです。
 北朝鮮は、朝鮮戦争の教訓にならって、北朝鮮全土を細かく区
分し、それぞれに通信、食料、医療、戦闘など最低限の機能を持
たせるようにし、たとえ国土が分断されても独自に抗戦できるよ
うにしているのです。これらの拠点を数次の攻撃ですべて破壊す
るのはほぼ困難です。それに加えて、北朝鮮には次の3つの「最
後の切り札」があるのです。
─────────────────────────────
      1.ソウルを火の海にできる長距離砲
      2.核や生物兵器による大量破壊兵器
      3.20万人以上の強力特殊作戦部隊
─────────────────────────────
 第1は「ソウルを火の海にできる長距離砲」です。
 これらの長距離砲は通常兵器ですが、何しろ数が多いので、防
戦が困難です。射程20キロ程度の小口径砲、ソウルを射程に収
める240ミリ、南方のキョンキド、ピョンテクにある米軍基地
にまで届く300ミリなど多彩な長距離砲が少なくとも1000
門以上あることは確かです。
 問題は、これらの長距離砲群を各種ミサイルや航空攻撃ですべ
て制圧できるかどうかです。設置場所についてはほとんど把握で
きているといわれますが、北朝鮮軍はこれらの長距離砲を山脈沿
いにくり抜いた坑道に隠しており、複数の出口を使って攻撃する
ようにしているので、すべてを破壊することは困難です。
 韓国・慶南大学の金東葉博士は、これらの長距離砲について次
のように述べています。
─────────────────────────────
 航空機による攻撃で、50%の砲門を破壊した場合でも、1時
間で3000発以上の砲弾がソウルに降り注ぐ計算になる。その
場合、ソウルの5〜7%程度が破壊される。
           ──高山右近大夫長房の情報配信ブログ
                   http://bit.ly/2pVcBKD
─────────────────────────────
 第2は「核や生物兵器による大量破壊兵器」です。
 北朝鮮は、年間約80キロの高濃縮ウランを製造する能力があ
るといわれます。このことから北朝鮮は2020年までに計50
個の核爆弾を保有する可能性があります。
 それらの核爆弾を運ぶミサイルとしては、1000発以上の弾
道ミサイルを保有しています。そのほとんどは短距離の「スカッ
ド」ですが、射程1300キロの「ノドン」は約200発保有し
ており、これで日本と在日米軍基地を攻撃することができます。
 さらに、射程3000キロ以上の「ムスダン」は約40発保有
しており、これでグアムの米軍基地を射程に収めています。それ
に14日に発射に成功した新型ミサイル「火星15型」がありま
す。射程は4500キロを超えており、事実上のICBMです。
これは米本土まで届きます。
 これらの核兵器よりもやっかいなのは、生物化学兵器です。そ
れは25種類に及び、2500〜5000トンも保有しているの
です。これを弾頭に入れてロフテッド軌道で落とされると防御す
ることはきわめて困難です。
 第3は「20万人以上の強力特殊作戦部隊」です。
 どこの国にも特殊作戦部隊はありますが、北朝鮮のそれはとく
に強力です。「高山右近大夫長房の情報配信ブログ」に次の記述
があります。
─────────────────────────────
 軍事関係筋によれば、北朝鮮軍特殊部隊は、米海軍精鋭特殊部
隊シールズと同じように、7〜8人の少人数で、1戦闘単位を構
成。有事となれば、AN2軽飛行機やホーバークラフト、潜水艦
特殊工作船などで韓国や日本に侵入する。
 それぞれの戦闘小隊は平時には、日韓の特定の施設、たとえば
「官庁」「放送局」「駅」など、市民生活を混乱に陥れる重要な
ソフトターゲットを一つずつ割り当てられ、全く同じ模型を相手
に連日、襲撃・制圧する訓練を続けているという。同筋は「狭く
て暗い場所での戦闘能力などに優れ、1人で一般の兵士5〜6人
に相当する力がある」と語る。     http://bit.ly/2pVcBKD
─────────────────────────────
 辺真一氏によると、北朝鮮の特殊作戦部隊の強さは、体力など
の訓練に加えて、思想教育が徹底していることにあるといってい
ます。それはかつての日本軍に似ているところがあると辺真一氏
はいい、次のように述べています。
─────────────────────────────
 北朝鮮の特殊部隊隊員の思想教育は特に徹底しており「将軍様
の命令とあれば、爆弾を抱えて敵陣に飛び込むことも辞さない」
との「特攻精神」で武装されている。実際に2009年4月に衛
星と称する長距離弾道ミサイルを発射した際には日米のイージス
艦による迎撃に備え、14人の空軍パイロットから成る特攻隊を
編成し、爆弾を搭載して、そのままイージス艦に突撃する訓練を
行っていた。潜水艦による北朝鮮武装兵士浸透事件で韓国軍に唯
一拘束された李光洙人民軍偵察局上尉は「死を覚悟している者に
は怖いものはなにもない。そのような教育を受けてきた」と筆者
に語っていた。            http://bit.ly/2rBrkYl
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/096]

≪画像および関連情報≫
 ●北朝鮮特殊部隊1万人が日本上陸で日本が戦場化
  ───────────────────────────
   北朝鮮が近く6回目の核実験を実施するとの観測が高まる
  なか、トランプ米大統領は対北軍事作戦の発動を辞さないと
  の構えを強めており、朝鮮半島有事が現実化しつつある。第
  2次朝鮮戦争が勃発すれば、韓国の釜山から日本の対馬まで
  わずか115キロメートルしか離れておらず、そこから九州
  は目と鼻の先だけに、日本も戦火に巻き込まれ、甚大な被害
  が出ることが予想される。
   日本政府がまず実施しなければならないのは、韓国に滞在
  する約6万人の邦人救出・避難作戦。さらに、朝鮮半島での
  戦火に逃げまどう韓国・北朝鮮人計30万人(初期段階)の
  難民の保護だ。戦闘が拡大すれば、北朝鮮から在日米軍基地
  に向けて打ち込まれるスカッドやノドンミサイルの迎撃態勢
  の整備が急務であり、その一部が都市部に到達し、一般国民
  も犠牲になることも否定できない。さらに、陸海空軍に所属
  する13万人の北朝鮮軍特殊部隊のうち、日本への攻撃に割
  かれる1個旅団、約1万の特殊部隊による日本本土でのテロ
  や奇襲攻撃にどう対処するのか。もはや朝鮮半島有事は対岸
  の火事ではなく、日本も戦場と化す「北東アジア戦争」とな
  る可能性が高い。         http://bit.ly/2qHbrQc
  ───────────────────────────

北朝鮮の特殊作戦部隊.jpg
北朝鮮の特殊作戦部隊
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2017年05月25日

●「本当に軍事オプションは不可能か」(EJ第4527号)

 5月22日の新聞報道で、中国は米国に対して、米国が北朝鮮
に具体的な行動をとるまでの猶予期間として「100日間」を要
求していたことがわかったのです。両国の貿易不均衡是正のため
の100日計画とは別の約束です。
 米国は、中国が協力しない場合、北朝鮮と取引がある大手金融
機関を含む複数の中国企業に対して米国独自の制裁を加えると通
告しています。もし、これが行われると、米国の金融機関や企業
との取引が出来なくなるので、中国としては大きなダメージを被
ることになります。
 米中首脳会談は4月はじめに行われているので、100日とい
うと7月中旬になります。基本的に米国は、それまでは中国の対
応を見守るはずです。その間、北朝鮮がミサイルを発射するなど
の挑発行為をしても動かないと考えられます。これについて辺真
一氏は次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 コリア・レポート編集長の辺真一氏は「北朝鮮問題はしばらく
中国に任せておこう」ということではないか、との持論を展開し
た。しかし、その中国に対して北朝鮮が対抗姿勢を取っていると
いう懸念もある。3日付の朝鮮中央通信は「中朝関係の根本を否
定し、親善の伝統を抹殺する妄動だ。友好がいくら大切だとして
も命同然の核と引き換えにしてまで懇願しない」との記事を掲載
した。中国と北朝鮮の比較的友好だった関係が悪化し、中国が北
朝鮮に対する締め付けを強化すれば、トランプ大統領としては狙
い通りということになるのだろうか。  http://bit.ly/2rrKBym
─────────────────────────────
 米国と北朝鮮との対話は、たとえそれが行われたとしても平行
線をたどることは必至の情勢です。北朝鮮は核を手放すことは絶
対にないし、米国はいま北朝鮮の核・ミサイルを容認すれば、子
孫の代まで北朝鮮に脅迫され続ける恐れがあり、それは絶対に容
認できないと考えているからです。このように米朝双方が譲らな
ければ緊張感が増すだけで、事態は硬直状態になります。つまり
この勝負は将棋でいえば、既に詰んでいます。
 マティス米国防長官は、19日の記者会見で、「もし軍事オプ
ションを取れば信じられない規模での悲劇が起きる」と発言し、
いまの段階での軍事オプションはないことを示唆しています。北
朝鮮は、この発言に「軍事オプションはない」と判断し、またし
ても弾道ミサイルを発射し、成功させています。米国と対話を行
う場合、有利なポジションを確保しておこうとしているのです。
 北朝鮮はさらにエスカレートして核実験を実施する可能性もあ
ります。これは北朝鮮にとっては大きな賭けですが、米国はそれ
でも何もできないと考えられます。おそらく米国は核実験を抑え
ることができなかった中国を責めると思います。中国は断油を含
む経済制裁をすると思いますが、北朝鮮はロシアに頼って危機を
脱すると思います。
 しかし、米国がそれでも何もしなければ、このチキンレースは
米国の負けであると世界が認めることになります。将棋でいえば
米国の投了です。プライドの高い米国がその屈辱を甘んじて受け
るとはとても思えないのです。
 そう意味において、米国が北朝鮮に対して軍事オプションをと
る可能性も十分あると考えます。その根拠になると思われるもの
は次の4つです。
─────────────────────────────
 1.カール・ビンソンとロナルド・レーガンという2隻の空
   母打撃群が既に朝鮮半島周辺海域におり、いつでも米軍
   は戦闘に入れる態勢にある。
 2.もし、トランプ政権が北朝鮮と対話し、仮に「核凍結」
   を勝ち取ったとしても、それではオバマ政権の「戦略的
   忍耐」と同じと批判される。
 3.今なら相当の被害が出るにしても、軍事オプションで米
   国は北朝鮮の脅威を取り除けると判断している。最終的
   に北攻撃の可能性はある。
 4.トランプ政権はロシアンゲートなどで支持率が低迷して
   いる。歴代政権では、こういう状況を打開するために軍
   事行動をとってきている。
─────────────────────────────
 北朝鮮が核・ミサイルを廃棄しない場合、軍事オプション以外
の手段では、経済制裁が現実的です。北朝鮮が核実験をした場合
中国は、中朝国境を閉鎖し、石油の供給を絞ることは米国との約
束もあるので、実施すると思います。
 北朝鮮と国境を接する中国の北部戦区は中央の習近平政権とは
距離があります。江沢民一派が仕切っており、北朝鮮といわゆる
辺境貿易を行っているのです。食糧などはこの辺境貿易を通じて
北朝鮮に入っています。したがって、中朝国境が軍隊で閉鎖され
ると、食料も止まってしまう可能性があります。
 このことを察知した金生恩委員長は、ロシアとの経済協力強化
に向け、ロシア極東ウラジオストクとの間の定期航路を開設した
のです。ニューズウィーク誌は、次のように報道しています。
─────────────────────────────
 朝鮮中央通信社(KCNA)によると、定期航路に就航する貨
客船「万景峰」号はこの日、北朝鮮の羅津港を出発した。「万景
峰は羅津ーウラジオストック間の国際的な観光船として、両国の
海上輸送や経済協力観光に前向きな貢献をするだろう」とした。
北朝鮮東部の清津のロシア総領事が貨物船を見送ったという。
                   http://bit.ly/2r7yczO
─────────────────────────────
 北朝鮮が中国を見限り、ロシアに接近すると、事態はさらに複
雑化します。世界を騒がせている北朝鮮とロシアが連携すると、
米国は一層手を出しにくくなるからです。ウクライナのときのよ
うに人道支援で食料品を届けるという名目で、ロシア軍が北朝鮮
に入る可能性もあります。 ──[米中戦争の可能性/097]

≪画像および関連情報≫
 ●プーチン大統領が北朝鮮に接近〜米中露の危険な駆け引き
  ───────────────────────────
   ソ連時代には北朝鮮とは密接な軍事協力をしてきた。そも
  そも朝鮮民主主義人民共和国、つまり北朝鮮の建国はソ連が
  主導したものだ。第二次世界大戦の後に、ソ連は朝鮮半島の
  北半分を占領し、ソ連軍抗日パルチザンの金日成氏を送り込
  んで、北朝鮮を作り上げた。朝鮮戦争では朝鮮半島の覇権を
  めぐってアメリカと戦った。冷戦時代には、ソ連は北朝鮮と
  軍事同盟を結び、北朝鮮の兵器の多くはソ連時代の中古品で
  あった。それをベースに、北朝鮮の軍事兵器が出来ていると
  言っていい状態であった。しかし冷戦の終わりは状況を一変
  させた。ソ連の後のロシア連邦と大韓民国、つまり、韓国は
  1990年に国交を結び、それからはロシアは北朝鮮からほ
  ぼ手を引き、韓国との関係を重視するようになった。
   ソ連崩壊後、軍事協力は事実上停止していた。2001年
  にロシアと北朝鮮は「防衛産業及び軍備分野における協力協
  定」と「2001年軍事協力協定」の二つの協定を結んだ。
  それもほぼ実質的なものにはならず、やっと最近になってこ
  の軍事協力が具体化しつつある。プーチン大統領と金正恩氏
  との関係は良いとは思えないが、プーチン大統領にとって北
  朝鮮は対アメリカ関係、対中国関係から重要性を増しつつあ
  る。北朝鮮の核実験やミサイル発射で国連が経済制裁を加え
  る決議をしても、抜け道を作り、北朝鮮を支えてきたのは中
  国だけでなく、ロシアもだ。国境を超えてロシア領に北朝鮮
  の労働者が送り込まれ、外貨を稼いできたと言われる。
                   http://bit.ly/2rGEXWo
  ───────────────────────────

北朝鮮の貨客船「万景峰」号.jpg
北朝鮮の貨客船「万景峰」号
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2017年05月26日

●「中国はなぜ民主国家になれないか」(EJ第4528号)

 ロシア・ゲート疑惑が広がり、トランプ政権が北朝鮮について
何を考えているかを探るために、安倍首相の外交担当補佐官であ
る河井克行氏は、安倍首相の命を受けて、ワシントンを訪問して
います。会った人は、共和党を中心に米議会の要人、シンクタン
クなどの複数の幹部です。
 24日の夕刊フジによると、実際に会ったのは、ジョン・マケ
イン上院軍事委員長、マイク・ロジャーズ下院軍事委員会戦略小
委員長、トム・コットン上院軍事委員会航空陸上小委員長、トム
・ダシェル元民主党上院院内総務、ウィリアム・ハガティ次期駐
日大使たちです。その結果わかったのは、次の5つです。
─────────────────────────────
 1.トランプ政権では、これまでは中東問題が最重要課題で
   あったが、現在では北朝鮮問題が最重要課題になってい
   る。空母を2隻配置するなど、全力を上げている。
 2.北朝鮮の金生恩朝鮮労働党委員長の方が、習近平中国国
   家首席よりも上位に立っている。北朝鮮はすべてを見透
   かしており、中国をナメ切っているようにみえる。
 3.中国の北朝鮮に対する圧力には、現時点では低い評価し
   かできない。圧力はきわめて不十分であり、十分効果を
   上げていない。北朝鮮に変化を起こさせていない。
 4.米国と北朝鮮との直接対話については、人によって意見
   が分かれるが、対話をしても意味がないと考える。米国
   は対北朝鮮政策について、ジレンマを抱えている。
 5.韓国で文在寅大統領が誕生したことには違和感をおぼえ
   ざるを得ない。「親北」の文在寅氏を大統領に選出する
   韓国世論には、きわめて強い不信感を持っている。
─────────────────────────────
 現在、北朝鮮問題は膠着状態に陥っています。その一方でトラ
ンプ政権は、ロシア・ゲートが深刻化しており、それどころでは
ない状況です。
 ここで話を中国に戻します。久しぶりにピーター・ナバロ氏の
本の問題を取り上げます。
─────────────────────────────
【問題】経済的関与がアジアの平和促進に果たす役割について正
しく述べている文を選べ
 「1」経済的関与によって、中国は独裁国家から、暴力や侵略
    に訴えることのないリベラルな民主主義国へと変わって
    いく。よって、経済的関与は平和の維持に役立つ。
 「2」経済的関与は、中国共産党の独裁的権力を強め、中国の
    軍事力増強に資金を提供したに過ぎない。

           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この問題の正解は残念ながら「2」です。現在の中国をつくっ
てしまったのは米国であるといえます。日本にも応分の責任はあ
ります。中国を好戦的な独裁国家から、平和的でリベラルな民主
国家に変えるには経済支援を含む経済的関与によって、世界第1
位の米国と、2位の日本はこれまで大金を賭けてきたのです。
 実際にこの方法で、シンガポール、韓国、台湾などのアジア諸
国が独裁国家から民主主義国に移行しています。その移行を後押
しし、推進したのは、自由貿易とこれによってもたらされる外国
との経済的な関わりだったといえます。
 ラテンアメリカのアルゼンチンやチリやエクアドル、ヨーロッ
パのハンガリーや、ポーランドや、チェコ共和国などもかつては
独裁国家でしたが、今ではけっして豊かな国ばかりではないもの
の、完全な民主主義国になっています。こうした例にならえば、
中国も経済的関与を強めることによって民主主義国になれると、
これまで期待されてきたのです。
 しかし、中国だけは違ったのです。中国は、経済的に豊かにな
ればなるほど、その経済的エンジンが軍事力を強化することに結
び付き、その結果、中国共産党の独裁体制が、以前より強化され
るようになっています。
 今考えると、中国に対して一番間違った対応をしたのは、クリ
ントン大統領だったといえます。クリントン大統領は、任期満了
直前の2000年に、米国経済界の後押しを受けて、中国との経
済的な関わりを強めるために議会に中国のWTO加盟を支持する
よう求め、次のように演説したのです。
─────────────────────────────
 経済面から見れば、この(中国のWTO加盟)承認は一方通行
の道路のようなものだ。中国がWTOに加盟すれば、世界人口の
5分の1を擁する市場、つまり世界最大の潜在的市場が開かれる
ことになる。史上初めて、中国がわれわれと同じように、開かれ
た通商ルールに従うことに同意するのだ。史上初めて、アメリカ
の労働者によってアメリカで作られた製品を、アメリカ企業が中
国で販売することができるようになるのだ。
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 この結果、何が起きたのでしょうか。
 中国がWTOに加盟すると、雪崩を打つように米国企業は生産
拠点を中国に移したので、米国では7万を超える工場が閉鎖に追
い込まれ、失業者は2500万人以上になったのです。そして米
国の貿易赤字は年間3000億ドルに膨れ上がり、現在、米国の
対中貿易赤字は何兆ドルにも達しています。
 この点をとらえて、ピーター・ナヴァロ氏はクリントン大統領
を「壊滅的な経済的帰結を招いたという点でこれほど誤った判断
を下したアメリカ大統領は他にいない」とまでいっています。
 それでも中国が民主主義国家になったのであれば、無駄なこと
ではなかったのですが、経済成長は民主化にはつながらなかった
のです。         ──[米中戦争の可能性/098]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の民主化、困難な理由と実現の可能性を問う
  ───────────────────────────
   中国は民主化する可能性があるのか。“中国屋”と呼ばれ
  る中国専門ジャーナリストや研究者の永遠のテーマだが、先
  日、米国最大手の中国の民主化運動を推進するNGO・公民
  力量の主宰者、楊建利が東京を訪れていたので、私もインタ
  ビューしたし、明治大学現代中国研究所が主催した講演会に
  も行ってきた。独裁体制をより強化しようとする習近平政権
  の登場で、中国の“党内民主”化は以前よりも遠のいたよう
  ではあるが、楊建利が“中国の民主化をあきらめない”とす
  る分析もなかなか興味深いので、ここで紹介したい。
   楊建利は高校を経ずに飛び級で山東省師範学院数学系に入
  学し、1989年の民主化運動に参加したのち米国に移住。
  ハーバード大学で政治経済学、カリフォルニア大学バークレ
  ー校(UCバークレー)で数学の博士の学位を取得し、米国
  に拠点を置きながら、中国民衆の権利と自由を推進する活動
  を続けてきた。当然、中国当局からは中国入国拒否のブラッ
  クリストに入る人物だが、2002年に中国東北部の失業者
  大規模デモの状況を視察するため、他人のパスポートで入国
  したところを逮捕され、不法入国などで5年間投獄された経
  験を持つ。2007年、当時のブッシュ大統領の働きかけで
  釈放され米国帰国後、中国のNGO・公民力量を創設し、中
  国の民主化を海外から働きかける。http://nkbp.jp/2qZaR2c
  ───────────────────────────

河井克行外交担当補佐官.jpg
河井克行外交担当補佐官
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2017年05月29日

●「独裁国を民主化させるキーワード」(EJ第4529号)

 米国による大規模な経済的関与の恩恵を受けながら、中国はか
えって国家の独裁性を強め、経済的利益の多くを軍事力強化に注
ぎ込み、現在アジア全般にわたって覇権を強めつつあります。ど
うしてこうなってしまったのでしょうか。
 クリントン元大統領は、中国に相応の市場開放を確約させるこ
となく、米国が市場を大幅に開放すれば、経済的に大きなダメー
ジを受けることは最初からわかっていたのです。中国のWTO加
盟を認めることはそれを意味しているのです。
 WTOに加盟すれば貿易は増大する。そうなれば中国は民主主
義国へと変化せざるを得ない──クリントン元大統領はそのよう
に考えたのです。確かに世界の人口の5分の1を擁する巨大な市
場が開かれれば、米国にも大きな利益がもたらされます。そして
中国が民主国家になれば、合わせて平和がもたらされるに違いな
いと考えたのです。
 しかし、中国は、あらゆる機会をとらえて自由貿易システムを
操作し、それによって利益を最大化することによって、自国経済
のみを発展させたのです。そして、米国経済に深刻なダメージを
与えたのです。「経済的関与が民主化と平和を促進する」という
考え方は、中国には通じなかったのです。
 「経済的関与が民主化と平和を促進する」──この主張の論拠
について、ピーター・ナヴァロ氏は、「USA★エンゲージ」の
ウェブサイトを見ることを推奨しています。この「USA★エン
ゲージ」自体については後で述べることにし、最初にその主張を
紹介することにします。キーワードは次の3つです。
─────────────────────────────
      1.成長する中間層の有する変革力
      2.第三者組織の数と種類と影響力
      3.情報流入量の増大とそのパワー
─────────────────────────────
 第1は「成長する中間層の有する変革力」です。
 これについて、「USA★エンゲージ」は次のように主張して
います。
─────────────────────────────
 市場経済の発展は、教育の普及、社会の外界への開放、独立し
た中間層の発達など、社会に変化をもたらし、それが独裁的支配
への逆風になる。   ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 経済が発展すると、中間層が発生し、社会のなかで一定の影響
力を持つようになります。これらの中間層は、一般論として、政
治的自由、法による支配、腐敗の一掃などを要求するようになり
政府は中間層に支持を求めざるを得なくなって、国は民主化の道
を進むことになるというのです。
 第2は「第三者組織の数と種類と影響力」です。これについて
「USA★エンゲージ」は次のように主張しています。
─────────────────────────────
 経済発展は国家と社会との関係をも変える傾向がある。経済が
発展するにつれて、国家をチェックし、政治参加の幅を広げる第
三者組織の数と種類が増え、就業や富の蓄積の機会に対する国家
管理や腐敗や情実は減少する傾向がある。
  シーモア・マーティン・リプセットスタンフォード大学教授
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 経済が発展し、中間層が豊かになり、生活が安定化してくると
第三者組織が増加し、政治参加を求めるようになります。そして
環境保護、人権、言論の自由などのチェックを強めるようになり
国は民主化に向ってさらに前進します。
 第3は「情報流入量の増大とそのパワー」です。これについて
「USA★エンゲージ」は次のように主張しています。
─────────────────────────────
 経済が外に開かれれば、情報の流入量は飛躍的に増大する。イ
ンターネット、テレビ、書籍、新聞、コピー機、外国の雑誌、あ
りとあらゆる形態の大衆的娯楽及び知的見解が流入しい始め、民
主主義、人権、法による支配といった思想を広めていく。
        ヘンリー・ローウェンスタンフォード大学教授
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 経済活動が活発になると、必然的に外部からの情報流入量が多
くなります。まして現代は情報社会であり、あらゆる情報通信手
段があり、外部からの情報流入を止めることは困難です。
 ピーター・ナヴァロ氏は、「USA★エンゲージ」について次
のように説明しています。
─────────────────────────────
 「農業団体とメーカーの幅広い連合」と自称する団体で、その
メンバーにはアップル、ボーイング、キャタピラー、コナグラ、
ユニオン・カーバイド、ウェステングハウス、ゼロックスなどそ
うそうたる米国の多国籍企業が名を連ねている」とあります。
                   http://bit.ly/2r7u4yY
─────────────────────────────
 「経済的関与が民主化と平和を促進する」という主張は、こう
した多国籍企業にプラスの結果がもたらすのです。確かに多国籍
企業の立場に立つと、独裁国家、とくに中国は一大市場であると
いえます。そこでは、労働力のコストは安く、税負担を劇的に軽
減できることや、厳しい環境保護規定や安全規定も存在しないの
で、移すべき生産拠点としては絶好の環境なのです。
 しかし、中国は実にしたたかだったのです。中間層とは取引を
して沈黙させ、第三者組織を監視する機関を作り、情報流入につ
いては5万人にも及ぶ「サイバーコップ」軍団を動員して都合の
悪い情報は封じ込めているのです。そこには絶対に民主化などし
ない意思を感じます。   ──[米中戦争の可能性/099]

≪画像および関連情報≫
 ●日本を不幸にする中国の民主化/田中宇氏
  ───────────────────────────
   オーストラリアの軍隊系のシンクタンクが「中国が民主化
  すると、大衆扇動型の指導者が出てきて、反日・反欧米感情
  やナショナリズムを扇動する傾向が強まって、何をしでかす
  か分からない国に変質する恐れがある。豪州やアジア諸国に
  とっては、今の共産党独裁体制の中国の方が、国家としての
  行動パターンが分かりやすいので良い」とする分析書を発表
  した。
   オーストラリア戦略政策研究所が発表したこの分析書によ
  ると、中国経済の発展は輸出が基盤であり、世界との関係を
  悪化させることは自国経済を自滅させるので、中国政府がす
  すんで海外と敵対する政策を採ることはあり得ない。だが、
  今後の民主化によって国内政治が不安定になった場合、どこ
  か外国との敵対関係を煽り、国民のナショナリズムを扇動す
  ることで、指導力を維持しようとする政治家が現れる可能性
  がある、と分析書は予測している。
   私も、この分析書の見方には賛同する。中国に限らず、ロ
  シアやイラクなど世界の多民族国家の多くは、リベラルな民
  主主義をやろうとすると、矛盾する各派の主張に収拾をつけ
  られず、国内が混乱する。特に中国は、表向きは「漢民族が
  国民の9割」とされているものの漢民族の地域でも100キ
  ロも移動すれば話し言葉が変わるような多様性の強い社会で
  あり、単一国家として維持できているのが不思議なぐらいで
  ある。              http://bit.ly/2rIGXAf
  ───────────────────────────

クリントン元米大統領.jpg
クリントン元米大統領
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2017年05月30日

●「中国経済実態は既に崩壊している」(EJ第4530号)

 中国経済はどうなっているのでしょうか。2016年は中国経
済悪化のニュースが頻繁に飛び込んできたものですが、2017
年に入ると、そういうニュースは影を潜めています。
 しかし、それは中国の景気が回復したということではなく、中
国当局が経済のマイナス報道の規制を行っているからです。それ
では、その実態はどうなのでしょうか。
 中国経済の現況を正しく把握するために、歴史的に中国経済の
重要な動きについて、以下に簡単にメモしておきます。
─────────────────────────────
     1980年 ・・・・ 改革開放路線開始
     1990年 ・・・・ 証券取引所を開設
     1994年 ・・・・ 管理変動相場制へ
     2001年 ・・・・ WTOに正式加盟
     2016年 ・・・・ 人民元SDR入り
─────────────────────────────
 中国の改革開放路線は、ケ小平政権時代の1980年代から始
まっています。社会主義国が特区方式で、実質的な資本主義化を
実現するという「社会主義市場経済」がスタートしたのです。世
界ではじめてのことです。
 それは、1990年代の江沢民政権のときに加速し、上海に証
券取引所を開設し、株式会社方式を導入します。その頃から消費
者物価指数が上昇し、1994年までに2ケタのインフレを記録
しています。1994年に二重相場制から「管理された変動相場
制」に移行し、人民元を大幅に切り下げています。
 アジア通貨危機を経て、中国経済は安価な労働力と資源を背景
に急速に工業力を付けて輸出を大幅に伸ばしたのです。その結果
2000年には米国の対中貿易赤字が対日赤字を上回ってしまっ
たのです。
 このような工業化を遂げて世界の経済大国になった中国に対し
米国のクリントン政権の強い後押しによって、2001年12月
に中国はWTO(世界貿易機関)加盟を果たすのです。このよう
にして、13億人の巨大市場である中国貿易は自由化され、20
04年に中国は遂に日本を抜いて世界3位の経済大国になったの
です。そして、2016年10月に人民元はIMFでSDR(特
別引出権)を獲得し、国際通貨になったのです。ちなみに中国で
はこのSDR入りのことを「入籠(ルーラン)」といいます。
 このように書くと、中国経済は前途洋々のようにみえますが、
本当のところは四苦八苦の状態です。社会主義市場経済というも
のがうまく機能しなくなっているのです。
 2016年12月は中国がWTOに加盟して15周年だったの
ですが、そのためのイベントは開かれていないのです。とにかく
習政権になってから、経済の面ではきわめて不振なのです。もと
もと社会主義国において市場経済を行うのは、資本主義への傾斜
を強めなければならないのですが、習近平政権では逆に社会主義
への傾斜を強めているので、いろいろなところに矛盾が噴き出し
てきています。
 既出の近藤大介氏の本に、ある中国経済関係者の声が出ていた
のでご紹介します。
─────────────────────────────
 WTOの議定書には、中国の加盟から15年経ったら、加盟国
は中国を『市場経済国』と認定し、中国の輸出品に対する反ダン
ピングの関税算定の代替国から外すと記されている。だが、現実
はどうだ?アメリカが拒否し、EUが拒否し、日本も拒否してい
る。先進国が揃って、WTO違反を犯しているのだ。
                  ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
─────────────────────────────
 この発言を聞くと、いかに中国がわかっていないかがよくわか
ります。中国のWTO加盟のいきさつから考えて、15年も経て
ば、中国は社会主義国が市場経済を行うことによって表面化する
数々の矛盾を解決して、独裁国家から脱却するだろうと西側先進
国は期待していたのです。なぜなら、経済面の矛盾を修正しよう
とすると、資本主義化せざるを得ないからです。しかし、習政権
になってからは、資本主義化ではなく、社会主義化を強めている
のです。これでは「市場経済圏」と認定することは困難です。
 中国経済の矛盾の兆候がさまざまな面に出てきています。その
実態について、中国に詳しい福島香織氏は「すでにクラッシュし
ている」といっています。それを社会主義国の特有のからくりと
嘘でもって大丈夫なように見せているというのです。統計数字の
水増しをはじめ、地方政府、国有企業、銀行の巨額債務をいかに
して隠すかについて研究しているのです。
 それでは、一体そのシナリオはどうなるのかについて、福島氏
は次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国の経済崩壊とは、じつはすでに崩壊している経済の実態を
受け入れることなのだ。中国では実質破綻状態にありながら、中
央政府からの補助金で倒産せずにいる国有企業を「ゾンビ企業」
と呼んでいるが、中国経済がすでに「ゾンビ経済」なのだ。すで
に死んでいる経済をきちんと死なせる。そのとき、何が起きるの
か。最悪のシナリオは、国有企業と銀行の倒産ラッシュ、大量の
失業者の出現、ようやく形成されてきたそこそこ豊かな中間層の
消失、人民元の大暴落と消費者物価のハイパーインフレ・・・。
当然日本を含む世界経済も無傷ではいられない。だが本当に恐ろ
しいのは、突如、人民元が紙くずとなり財産を失った人民の怒り
が社会不安を引き起こし、それを政権が力ずくで抑え込もうとす
るときに発生する流血と混乱の可能性だ。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/100]

≪画像および関連情報≫
 ●中国はいつ崩壊するの?/梶井彩子氏
  ───────────────────────────
   「中国崩壊」が指摘されるようになって、一体、何年経つ
  だろうか。体制どころか経済さえも、まだまだ崩壊している
  ようには見えない。それどころか、緩やかに衰退するアメリ
  カを凌駕せんとする勢いは、今なお継続されているように見
  える。「中国崩壊論」を注意深く読めば@条件付き崩壊(○
  ×になった時、崩壊する)A崩壊が「始まった」(完全崩壊
  までに何年もかかる)B実質はすでに崩壊している(にもか
  かわらず表向きそうは見えない)――というものに分けられ
  る。確かに説得力があると思われるデータを提示しているも
  のもある。常に自虐的で「日本もうダメ」「中国に従うしか
  ない」とするような一部の人々もいることを考えれば、「中
  国にもこれだけの弱点がある」「日本の方がずっと安定して
  いる。中国は崩壊しそうなほど不安定」とする論調に意味は
  ある。実際、不安定であることに間違いはないし、崩壊後の
  リスクも考えておかねばならない。「中国脅威論」を煽りす
  ぎるのが問題であるのも確かだ。
   だがそこは諸刃の剣。これは読む側が気を付けるべきこと
  だと思うが、「中国崩壊論」を読んで事実を把握する、ある
  いは溜飲を下げるだけでなく、読んだことで中国に対して、
  「油断」してしまうフシはないだろうか。
                   http://bit.ly/2qtYh7l
  ───────────────────────────

近藤大介氏.jpg
近藤 大介氏
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2017年05月31日

●「SDR構成通貨に値しない人民元」(EJ第4531号)

 2017年4月26日、中国共産党中央委員会の機関紙である
人民日報は、次の趣旨の報道を行っています。
─────────────────────────────
 過去20年にわたって「中国経済崩壊論」が幾度となく言われ
ハードランディングするなどと主張する西洋の専門家もいたが、
これらの予言は一度も当たったことがない。中国経済の長期的な
発展の傾向は基本的に変わっておらず、この先の中国経済はさら
に健全で持続的に発展する。
 世界経済の成長にも大きく貢献し、経済構造からみても中国経
済の質はますます良くなっており、ここ数年は国民総生産(GD
P)成長率6・5%前後を維持していて、中国が目標とする「小
康社会」が実現していると論じ、中国経済崩壊論などは全く成り
立つ訳がない。    ──2017年4月26日付、人民日報
─────────────────────────────
 人民日報のこの報道に対し、皮肉な話ですが、中国のネットユ
ーザーは「そんなに深刻とは思っていなかったが、人民日報がこ
う言うということは・・・」とか、「人民日報がこういう記事を
出すとは、本当に経済はダメなんだな」などのコメントが寄せら
れ、人民日報の記事から逆のことを読み取っているのです。要す
るに、政府系メディアの報道を全く信用していないのです。
 どうしてこのような評価になったのかというと、習近平政権の
経済運営がかなりひどいからです。中国では、ケ小平ルールとい
うものがあって、本来、経済問題は国務院総理(首相)、すなわ
ち、李克強首相の仕事なのです。しかも李首相は北京大学で経済
学博士号を持つ経済の専門家であり、適任です。
 しかし、習主席は経済問題も習近平グループでやるという野望
を持っており、李首相の政策にことごとくクレームをつけたので
す。そのため、李首相は自分の思うように経済を動かすことがで
きず、経済は混乱しています。これについて、近藤大介氏は習政
権の経済運営について、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 習近平政権の約4年間を評価すると、政治分野と軍事分野に関
しては、習近平が強い指導力を発揮している。(中略)ところが
経済分野に関してだけは、この4年間というもの落第点である。
たとえてみれば、今日大雨が降ったから慌てて傘を用意し、今度
は台風が吹き荒れだしたから戸や窓を補強するといった具合だ。
万事後手後手で、かつ出たとこ勝負のため、長期的な見通しや整
合性に乏しい。           ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
─────────────────────────────
 中国という国は、どのようなことでも世界一になろうとする国
なのです。実際にGDPにおいては、2010年8月に日本を抜
き、世界第2の経済大国になっています。そのときの中国の喜び
というか、高揚した気持ちを2010年8月17日付の「環境時
報」は次のように伝えています。
─────────────────────────────
 わが国はこの5年間、イタリア、フランス、イギリス、ドイツ
を、GDPで追い抜いてきたが、今回ついに、日本を追い抜いて
世界第二の経済大国となった。日本では、内閣府がこの事実を発
表した10分後に、日経平均株価が今年最大の下げ幅となる91
00ポイントまで下落してしまった。実際、中国の今年の予測経
済成長率は10%なのに日本は3%にすぎない。日本は1968
年に西ドイツを追い抜いて以来、40数年間にわたって守り抜い
てきた「世界第二の経済大国」の地位から陥落したのだ。
       ──2010年8月17日付、「環境時報」より
─────────────────────────────
 もちろん国家が「世界一になる」というような目標を持つこと
自体はわるいことではありません。しかし、そのために長年にわ
たって異常なほど巨額な不動産投資を積み上げて、GDPを増加
させ、日本を抜いたのです。その結果、中国国内に100ヶ所以
上の巨大な「鬼城」ができてしまったのです。既に述べているよ
うに、鬼城は一向に解決されておらず、そのままです。
 それに加えて中国は、通貨でもドルに代わって人民元を基軸通
貨にしようという野望をいだいています。そのためにIMF(国
際通貨基金)が認定するSDR(特別引出権)に入ることに執念
を燃やし、さまざまな政治工作を繰り広げて、2015年11月
30日の理事会で、中国人民元をSDRの構成通貨のひとつにす
ることが認定されています。その構成比率は次の通りです。
─────────────────────────────
            構成通貨比率  決済通貨シェア
  ドル(アメリカ)  41・73%   40・87%
  ユーロ(EU)   30・93%   30・82%
  人民元(中国)   10・92%    1・72%
  円(日本)      8・33%    3・46%
  ポンド(イギリス)  8・09%    8・73%
        註:済通貨シェア(2016年6月統計)
─────────────────────────────
 SDRの構成通貨になるには2つの条件──「貿易規模と代金
決済で使われる通貨比率の高さ」と「金融市場で自由に交換でき
る」という2つの基本条件を満たしていることが求められるので
すが、人民元にはその基本的条件を満たしていないのです。それ
でもIMFのラガルド専務理事は、中国に異常に肩入れし、人民
元のSDR入りを認めさせたのです。
 実際に2016年6月統計による決済通貨のシェアでは、人民
元は構成比率の10・92%に対して、わずかに1・72%を占
めたに過ぎないのです。実際に中国は、海外との経常決済に占め
る人民元建ての決済金額のシェアは、2015年の26%から、
2016年末には16%に縮小しています。人民元をSDRに加
えたIMFのラガルド専務理事の責任は大きいといえます。
             ──[米中戦争の可能性/101]

≪画像および関連情報≫
 ●悲願のSDR入りを果たした中国/読売オンライン
  ───────────────────────────
   IMFが2015年11月30日に人民元をSDR構成通
  貨として採用することを正式に決定すると、中国国営新華社
  は即座に速報を打ち、「歴史的な一歩」と歓迎した。李克強
  首相も中国の改革・開放の成果を国際社会が認めたものとし
  て高く評価した。
   SDRとはIMFが加盟国に対し、出資比率に応じて配る
  国際通貨の一種。通貨危機などで外貨不足に陥った加盟国は
  SDRを他国に渡せば、米ドルなどと交換できる。SDRの
  構成通貨見直しは5年ごとに実施される。前回2010年の
  見直しの際には、中国の期待に反する形でIMFは人民元の
  SDR採用を見送っている。中国としては捲土重来を期す形
  で、人民元の国際化に向けて着実に規制の緩和、自由化を進
  めてきた。
   経済面では米国発の金融危機、欧州発の財政危機後の激動
  の世界経済をけん引してきたとの自負もあるだろう。今や中
  国は名目GDPでは世界第2位の経済大国であり、実質的な
  購買力をベースとした為替換算では14年に米国を追い越し
  て世界第1位の経済大国となった。SDR入りは中国にとっ
  て外交的勝利であり、また、自らの経済力に見合った当然の
  帰結との思いもあろう。      http://bit.ly/2rcbqnw
  ───────────────────────────

IMFラガルド専務理事.jpg
IMFラガルド専務理事
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2017年06月01日

●「ラガルド理事はなぜ親中国なのか」(EJ第4532号)

 そもそもIMF(国際通貨基金)は、なぜ中国をSDRに加え
たのでしょうか。人民元がSDRの構成通貨になると、人民元は
自由な市場で取引され、価格が自由に変動する変動相場制へ移行
するのが前提とならなければならないはずです。なぜなら、そう
でなければ、とても国際通貨とはいえないからです。
 しかし、そうではないのです。中国は変動相場制には移行せず
中国の事情による「管理された変動相場制」のままです。人民元
がSDRに採用された直後の2015年12月1日、中国人民銀
行(中央銀行)の易網副総裁は、記者会見で、記者からの「為替
レートは市場に任せるのか」の問いに次のように答えています。
─────────────────────────────
 われわれの長期にわたる目標は、変動相場制への移行である。
その目標が実現する頃には、為替介入はほとんどなくなっている
だろう。ただし、われわれが現在採用しているのは、管理された
変動相場制であり、市場の安定化のためには、ある程度の介入は
行う。IMFは、われわれの為替レート形成のメカニズムを変え
ることまでは求めていない。  ──中国人民銀行・易網副総裁
      ──高橋洋一著/『中国GDPの大嘘』/講談社刊
─────────────────────────────
 誰が考えても人民元のSDRの構成通貨入りは時期尚早です。
しかし、それを主導したのはIMFのラガルド専務理事です。ラ
ガルド氏は、2007年6月からフランスのフィヨン内閣の財務
相を務めていたのですが、2011年6月28日、前任者ストロ
スカーン氏の不祥事による辞任を受けて、IMF専務理事に就任
したのです。女性としてはじめてのIMFの専務理事です。
 ラガルド専務理事はその後中国への傾斜を一層強めます。中国
としては、SDR入りを目指しているので、ラガルド専務理事に
に接近し、取り入ったことは確かです。それは近藤大介氏の本の
次の一節でもよくわかります。
─────────────────────────────
 2015年10月1日から一週間の国慶節(建国記念日)の連
休中、中国メディアは連日、「入籠/ルーラン」の吉報を大々的
に伝えた。「入籠」とは、文字通り「籠」(通貨バスケット)に
入る」、すなわち中国が、IMF(国際通貨基金)でSDR(特
別引出権)を獲得し、国際通貨となったことを意味する。人民元
を国際通貨にすることは、中国の長年の悲願だった。
 9月30日、IMFのラガルド専務理事は、わざわざチャイナ
ドレスを身にまとって会見。「入籠」について、「世界にとって
歴史的な日であり祝福したい」と述べた。(中国中央電視台)
                  ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
─────────────────────────────
 しかし、中国人民元はSDR入りした後、まるで坂から転げ落
ちるように下落を続けたのです。2016年の人民元の対ドルの
下落率は6%超となり、これは、大規模な切り下げのあった19
94年以来の大きさになったのです。これについて、近藤大介氏
は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 人民元の下落も止まらない。2016年の為替レートは1ドル
6・4895元か6・9429元まで下落し、2017年は「1
ドル7元時代」を迎える可能性が出てきた。日本では円安になる
と、輸出産業が伸びる上、株高になって景気が回復すると思いが
ちだが、新興国の中国では、元安は資金流出と、それに伴う経済
の「底抜け」を意味する。    ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 この人民元の下落は中国が一番恐れていたことです。そこで中
国は人民元の流出を防ぐために、資本規制を強めたのです。その
資本規制は現在でも続いており、中国進出企業に大きなダメージ
を与えています。
 それは、中国に進出している日本をはじめとする外国の企業が
人民元で得た利益を自国に持ち出すことができないからです。こ
れでは人民元はとても国際通貨といえないのです。経済の専門家
であるはずのラガルド氏が、そのようなことがわからないはずは
ないのです。それにもかかわらず、ラガルド専務理事は、なぜ中
国に肩入れしたのでしょうか。
 それは、ラガルド氏には政治的な思惑があったからです。ラガ
ルド氏はフィヨン内閣の財務相時代のことで、裁判沙汰を抱えて
いたからです。裁判はラガルド氏にとって不利な状況であり、裁
判結果によっては、IMF専務理事のポストの再任も難しくなる
可能性があったのです。
 ラガルド専務理事の任期は、2016年7月までであり、次期
専務理事のポストを確保するためには、中国の協力は不可欠だっ
たのです。中国は人民元のSDR入りの尽力者であるラガルド氏
の支持を早くから表明しており、ラガルド氏は問題なく専務理事
に再任されたのです。
 しかし、裁判については、2016年12月19日に次の判決
が出たのです。有罪なのに刑罰免除の判決です。
─────────────────────────────
【パリ時事】国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が、フ
ランス財務相時代に担当した損害賠償訴訟の調停が職務怠慢に当
たるかが争われた公判で、パリの共和国法院(閣僚の事件を扱う
裁判所)は2016年12月19日、専務理事を有罪とする一方
刑罰は免除する判決を言い渡した。専務理事は財務相当時の20
08年、仏実業家が政府系金融機関に対して起こした損害賠償訴
訟で、政府側代表として調停に参加。捜査当局は、国庫から実業
家に支払われた約4億ユーロ(約490億円)の和解金が過度に
高額だったと判断し、専務理事の怠慢によって支払額が膨らんだ
と主張した。             http://bit.ly/2rn3uSp
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/102]

≪画像および関連情報≫
 ●「人民元、SDR入り」で何が変わるのか/福島香織氏
  ───────────────────────────
   IMFの加盟国に対し、出資額に比して配られ、通貨危機
  に陥った際には外貨に交換できる仮想通貨「SDR」。従来
  は米ドル、ユーロ、円、英ポンドが構成通貨であったが、こ
  こに5番目の通貨として人民元が加わることになった。構成
  比率はドル、ユーロに続く10・92%で日本の8・33%
  を上回る。現実にはSDR入りしたからといって、各国中央
  銀行がすぐ外貨準備高として人民元保有を増やすようになる
  とか、人民元に対する信用が一気に上昇するというわけでは
  ないだろう。なぜなら、人民元は今なお、制限なく自由に外
  貨と兌換できる通貨ではないし、その相場は市場原理ではな
  く政府の介入によってなんとか安定しているからだ。
   米国はこれまでも、たびたび、中国を為替操作国と批判し
  てきた。大統領選共和党候補のトランプ氏は、当選の暁には
  中国を為替操作国認定する、と言明している。SDR通貨は
  5年に一度見直され、その時、もし資格がないと判断されれ
  ば、SDRから外される可能性もある。今後5年の間で、人
  民元が市場化されるのか。本当に自由化されるのかによって
  も、影響力は変わってくる。一方、自由化市場についてあま
  り肯定的な姿勢ではない習近平政権にとっては、政治的な意
  味が大きい。人民元の国際通貨の仲間入りを政権として実現
  させた。ちなみに中国が長年、人民元のSDR入りに拘り続
  けてきたのは、米ドル基軸体制を切り崩し、人民元こそが国
  際基軸通貨として世界金融を支配するという遠大な野望の第
  一歩という位置づけだからだ。  http://nkbp.jp/2rmXhWU
  ───────────────────────────

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有罪判決を受けたラガルドIMF専務理事
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2017年06月02日

●「人民元換物投機でビットコインへ」(EJ第4533号)

 5月12日にイタリアで開かれたG7財務相・中央銀行総裁会
議で麻生財務相は、次のように演説しています。
─────────────────────────────
 中国は人民元安に歯止めをかけるため、元の海外送金を規制し
ている。麻生氏は「外国資本が本国に送金する際に支障が出てい
る。国際社会としても注視する必要がある。経常取引に規制をか
けるのはIMFの協定違反である。資本規制が行き過ぎていると
すれば、日本として言わなければいけない。
                http://s.nikkei.com/2qF13GW
─────────────────────────────
 実は中国の資本規制は、企業だけでなく、個人にもかけられて
いるのです。なぜ、個人にまで資本規制をかけるのかというと、
2015年以降の資本の流出額が半端ではないからです。
 ちなみに、2015年の流出額は、実に1兆ドル(約121兆
円)であり、前年の7倍以上、過去最高の流出額です。2016
年も同様の流出額に達しています。その原因は、人民銀行が20
15年8月に人民元の大幅切り下げを行ったからです。
 この人民元の切り下げは予想外の措置であり、金融市場に衝撃
が走ったのです。これについて、ブラウン・ブラザーズ・ハリマ
ン通貨ストラジスト、CFAの村田雅氏は、自著で次のように述
べています。
─────────────────────────────
 中国当局が元をドルペッグ制に戻したという見方が金融市場に
広がってきた2015年8月11日の午前10時過ぎ、人民銀は
人民元の対ドルレートの基準値を前日(10日)の1ドル=6・
1162元から6・229元に設定すると発表した。人民元の対
ドルでの下落率は、1・8%と過去最大になった。予想外の切り
下げによって、金融市場には衝撃が走った。
              ──村田雅志著/東洋経済新報社
          『次のバブルが迫る/人民元の切り下げ』
─────────────────────────────
 これによって世界には、中国当局への不信感が高まると同時に
中国国内では人民元安の不安から、人民元をドルに両替しようと
する人が殺到したのです。そのため銀行窓口では「ドルがない」
として、数千ドル規模の両替が断られるようになり、国内の不安
感が、一層高まったのです。取り付け騒ぎです。
 中国が現在行っている、いわゆる「管理された変動相場制」と
は、毎日「基準値」というものを算出して決めています。基準値
とは、前日の市場での終値を参考に上下2%の変動を当局が決定
し、毎朝発表する方式です。
 2015年8月の人民元大幅切り下げは、中国当局が基準値の
算出方式を突然変更し、人民元相場を市場実勢に近づけようとし
たのです。つまり、当局の意思によって人民元の対ドルレートを
恣意的に決めることができるということです。さらに5月26日
も基準値の算出方式を変更しています。資本流出が止まらないか
らです。つまり、どんどん市場化に逆行しているわけです。
 そこで富裕層は、さまざまな手段で資金を海外に逃がそうとし
ています。とにかく中国人は、自国の通貨人民元を信用していな
いのです。そこでやるのは「換物投機」です。これがはじまるの
は、国家にとって危険な兆候です。
 中国の事情に詳しい宮崎正弘氏は、通貨ルーブルの価値がどん
どん下落する当時のソ連の崩壊時の状況について、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 89年に東西冷戦が終わって、91年12月にソ連が崩壊する
までの2年間、ルーブル札は旧ループル札のままだったんです。
それが89年のときは、強制両替で旅行に行ったら、1日たとえ
ば公式レートでかならず両替しなきゃいけない。そうすると、1
ルーブルでが240円だった。東西冷戦が終わったら、60円に
なって突然1円を切った。91年に1円を切って、12銭になっ
た。たった2年間でドーンと2千分の1になったのです。
 そのとき、ロシア人がどういう投資行動を取ったかというと、
換物投機。簡単なんですよ。通貨が下がるんだから、いま持って
ているうちにドルに換える。闇ドルでもいい。2番目、住宅を買
う。自動車を買う。だから、いま中国でやってるのは、その前兆
じゃない?          ──宮崎正弘/石平著/WAC
         『いよいよトランプが習近平を退治する!』
─────────────────────────────
 実は、中国でも同じようなことが起きています。何がなんでも
人民元をモノに換えようとしているのです。換物投機で金を買い
時計(ロレックス)を買い、最近ではそれがビットコイン(仮想
通貨)に向っています。
 そのため、現在、ビットコインが急騰しています。ビットコイ
ンの価格は、2016年までは「1ビットコイン(BTC)=5
万円」程度で落ち着いていたのですが、2016年後半には10
万円を超えたのです。これが2017年に入ると20万円を超え
5月23日には30万円の高値をつけたのです。このビットコイ
ン高騰の背景には中国の存在があります。人民元の換物投機の対
象にビットコインが選ばれているからです。5月20日付、日本
経済新聞は、ビットコインについて次の記事を掲載しています。
─────────────────────────────
 インターネット上の仮想通貨ビットコインの価格が急上昇して
いる。ドル建て相場は5月19日、伝統的な「無国籍通貨」の金
の史上最高値を上回った。(中略)取引の大半を中国が占める。
人民元の先安観が背景にあり、参加者の8割〜9割は中国人との
説もある。資本規制で個人の投資先が限られるなか、規制の抜け
穴としてビットコインに資金を移す動きが強まった。
         ──2017年5月20日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/103]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の「元」の下落とビットコインの高騰は表裏一体
  ───────────────────────────
   「2016年という1年は、中国の人民元がゆっくりと下
  落していく現実に、世界の市場が適応していかなければなら
  ない年だった」
   このように米紙「ニューヨーク・タイムズ」が指摘すると
  おり、人民元は対ドルで年間約7%の下落となり、リーマン
  ショック前の水準にまで迫った。この人民元安の原因は、世
  界的なドル高傾向などが関連した複合的なものだという。
   フランス紙「ル・モンド」は、中国の経済成長が鈍化した
  ことから、当局も輸出を刺激するために人民元の価値が下が
  ることを容認した、と書く。
   また同紙は別の記事で、中国の債券市場が発展しすぎてバ
  ブル状態に近くなり、不良債権問題も生じつつあると指摘す
  る。国際決済銀行の「中国は3年以内に深刻な危機に見舞わ
  れる」という予測を引き、中国全体の債務がGDPの250
  %を超えた状態が、人民元への信頼も失わせているのだと説
  いている。米「ブルームバーグ」も同様に解説し、加えて、
  「2016年は中国政府当局が資本の国外流出を防ごうとし
  て規制の強化を繰り返したことが、かえって人民元の信頼を
  損ね、さらなる資本の流出を招く悪循環に陥った」と述べて
  いる。では流出した中国の資本はどこに向かっているのかと
  いえば、仮想通貨の「ビットコイン」だという。
                   http://bit.ly/2qHcyxF
  ───────────────────────────

人民元下落/ビットコイン急騰.jpg
人民元下落/ビットコイン急騰 
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2017年06月05日

●「中国はソ連邦に酷似してきている」(EJ第4534号)

 今後一体中国はどうなるのでしょうか。このテーマを読み説く
ため、中国を論じた多くの本を読んでみたのですが、その予測は
いずれも暗いものです。「かつてのソ連邦と同じ運命になる」と
いう意見も多いのです。
 中国の経済関係の統計は信用できないということを指摘してき
ましたが、仮に数字を恣意的に改ざんしても、中国は社会主義国
であるので、ある程度の期間はもつのです。しかし、そういうデ
タラメな国家運営をやっていると、いつかは崩壊します。ソ連邦
がその典型です。ソ連邦と中国を比較してみます。
─────────────────────────────
         建国年     崩壊年   存続期間
  ソ連邦  1922年   1991年    69年
  中国   1949年            68年
─────────────────────────────
 ソ連邦は69年間で崩壊しています。それでも約70年間もっ
たのです。それがある日突然崩壊したのです。表面的には誰も崩
壊するとは思っていなかったので、世界は驚愕したものです。
 それでは中国はどうでしょうか。同じように中国も大きな矛盾
を抱えており、それが積もり積もっています。そして、今年で既
に68年間が経過しています。今のところ中国も表面的にはとて
も崩壊するようには見えませんが、崩壊する要因は少なくないの
です。中国が一番恐れているのは、人民の反乱です。
 中国の人口は13億人を超えています。それを少数のエリート
集団の共産党が一党で支えています。共産党一党支配です。もし
人民が何かに不満を持って立ち上がったら、共産党はひとたまり
もないからです。その人民の不満を一番起こしやすいのが経済不
調・崩壊であるといえます。
 政治評論家の長谷川慶太郎氏は、中国がもし崩壊すると、何が
起きるかについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 あれほどの広大な国土と世界一の大きな人口を抱える大国が崩
壊した場合、その後、もう一度中央集権国家を建設するには、中
核となる政治勢力が必要であるが、その時にはもはやそれを担え
る政治勢力は存在しない。そうなれば中国は、抗争、内乱等の大
混乱を経て、各地にそれぞれ、解放軍の幹部が中心となって成立
する新しい国家が次々に生まれることになるだろう。
 具体的には、著者は中国全土が現在ある7つの大軍区(洛陽軍
区、北京軍区、済南軍区、南京軍区、広州軍区、成都軍区、蘭州
軍区)に従って、それぞれが独立国家になる、すなわち中国は分
裂国家となるという判断で事態を見るべきであると考えている。
            ──長谷川慶太郎著/東洋経済新報社
        『中国崩壊前夜/北朝鮮は韓国に統合される』
─────────────────────────────
 長谷川氏の著著は、2014年5月に発刊されているので、上
記のように7軍区で説明されていますが、現在これは5戦区に改
編になっています。
 ソ連邦でもそうですが、社会主義国の最大の問題点は、賄賂の
横行です。そのことがよくわかっている習近平主席は、「ハエも
トラも切る」として、腐敗排除キャンペーンを行っていますが、
とても根絶できるるものではないのです。高橋洋一氏がこんな話
をしています。高橋氏の著者からその部分を引用します。
─────────────────────────────
 2015年、日本の政界にさざ波が立った。高支持率を維持し
続ける安倍政権を支えてきた経済再生担当大臣の甘利明氏に、収
賄疑惑が降りかかったのだ。ここで私がこの事件を持ち出したの
は、中国のネットユーザーの声が面白かったからである。たとえ
ばこんな声だ。
 「政治のみならず、企業、公共機関など、日本の社会はすべて
透明度が高い。まったく恐ろしい国家だ」。「100万円程度で
辞任?それくらいなら、下級公務員でも、もらっているよ」
 お金を受けとったとされる甘利氏を擁護、あるいは日本社会を
賞賛する声が目立ったのである。これは別に皮肉ではない。つま
り、それだけ中国社会の腐敗ぶりが凄まじいのだ。
      ──高橋洋一著/『中国GDPの大嘘』/講談社刊
─────────────────────────────
 中国は2015年11月に贈収賄罪の刑法を改正しています。
それまでは、贈収賄の規模や収賄額を基準にして量刑を決めてい
たのですが、それを「贈収賄の額プラス情状」に改めたのです。
これは、収賄額が巨額であっても反習近平派の収賄状況について
暴露すれば、刑を減刑するし、収賄額が少なくとも口を割らない
場合は、重刑になることもあるというものです。
 驚くべきことですが、中国には『賄賂白書』というものがある
のです。この賄賂白書について、近藤大介氏は、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 反腐敗闘争には、実はカラクリがある。私が北京に住んでいた
胡錦清時代の2010年8月、中国経済改革研究基金会国民経済
研究所という民間経済シンクタンクが、中国初の『賄賂白書』を
発表した。それによると中国のGDPの3割にあたる4兆元(約
70兆円、当時)が「賄賂経済」だという。胡錦清時代には「全
民腐敗」という言葉が流行語になるほど、社会に賄賂が蔓延して
いた。               ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
─────────────────────────────
 『賄賂白書』について当時の温家宝首相は、「わが国は腐敗に
まみれている」といって嘆いたそうですが、その温家宝首相も後
に一族で27億ドルもの不正蓄財が指摘されたのです。中国の腐
敗の深刻さは底なしといえます。これが積もり積もると、経済の
崩壊はある日突然起こり、国家は破綻に追い込まれるのです。
             ──[米中戦争の可能性/104]

≪画像および関連情報≫
 ●ソ連と酷似してきた中国/急激な成長と衰退
  ───────────────────────────
   中国の急激な成長期が終わり、衰退期に入ると予測されて
  いるが、共産国家は衰退期を上手く乗り切れない。崩壊した
  ソ連は発足から急成長を続けたが、たった一度の衰退期を乗
  り切れずに崩壊した。最近の中国は何から何まで過去のソ連
  にそっくりで、双子の兄弟のようです。
   かつて共産国家ソ連はユーラシア大陸のほとんどを勢力下
  に置いて、世界を支配するかに思えました。ベトナム戦争で
  アメリカが敗れ、ソ連側が勝った頃に拡大は頂点に達し、ソ
  連が新たなリーダーになるように見えた。中国も、リーマン
  ショック頃まで急拡大し、世界のリーダーになるのは時間の
  問題と思われました。
   不思議な事にアメリカに挑む新興勢力は必ず、米国の7割
  程度の国力をピークに、衰退期に入る。ソ連と戦後日本がそ
  うだったし、中国も同じくらいのGDPで頭打ちになり、衰
  退期に入りました。「7割の法則」が在るのかどうか知りま
  せんが、アメリカの衰退時期と新興国家の成長期が重なると
  こうなっている。ソ連は1917年のロシア革命で誕生した
  が、伝説のように市民が蜂起した訳ではなく、ドイツの悪巧
  みで発生した。当時第一次大戦で負けそうだったドイツは、
  対戦相手のロシアで革命を起こさせて有利にするため、レー
  ニンを送り込んだ。レーニンはロシア人だがドイツに亡命し
  て国家崩壊を企む人物で、日本で言えば麻原彰晃レベルの人
  間でした。普通は誰も相手にしませんが、ロシアは大戦や財
  政危機で国民生活が破綻しており、飢えた人々はレーニンに
  従った。             http://bit.ly/2slm2km
  ───────────────────────────

政治評論家/長谷川慶太郎氏.jpg
政治評論家/長谷川慶太郎氏
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2017年06月06日

●「ドットとピケティが論ずる中国論」(EJ第4535号)

 エマニュエル・トッドという人がいます。フランス国立人口統
計学研究所(INED)の研究員を務める1951年生まれの歴
史人口学者です。次の2つの著書で、ソ連邦の崩壊とその後の米
国の衰退を予想しています。
─────────────────────────────
  『最後の転落』(1976) ・・・・ ソ連邦の崩壊
   『帝国以後』(2002) ・・・・  米国の衰退
─────────────────────────────
 エマニュエル・トッド氏は、ソ連邦の乳児死亡率の高さに注目
し、「ソ連邦は崩壊する」と予想したのです。当時は米ソ冷戦の
最中であり、ソ連邦の政治体制は盤石に見えたので、崩壊など誰
も信用しなかったのです。しかし、1991年にソ連邦はトッド
氏の予想通りに崩壊したのです。
 そのエマニュエル・トッド氏は、中国をどう見ているのでしょ
うか。彼の中国に対する予測はきわめて悲観的なのです。
─────────────────────────────
 私は中国については、非常に悲観的だ。ほとんどの歴史人口学
者はそうだと思う。その人口が膨大であるのに対し、出生率が極
端に低いという問題を抱えている。中国は全員が豊かになる前に
高齢化社会に突入する。
 他方、社会保障制度が未整備で、男の子を選択するための偏っ
た人工中絶が行われている結果、男女比率のバランスが取れてい
ない。経済については、膨大な輸出能力を持っている。しかし、
私はこの国が自分で運命を操れる怪物であるとは思わない。共産
党のビートルズ(成功した世界的スター)ではなく、西側が経済
成長を実現するための輸出基地と言える。利益率を上げるために
中国の安い労働力を使うことは西側にとって自然な決定だった。
 現状の中国経済は設備投資比率がGDPの40%、50%に達
している。それは、経済バランスから見て異様であり、スターリ
ン時代の旧ソ連がそうであったように、経済が非効率であること
を示している。           http://nkbp.jp/1hFYFt8
─────────────────────────────
 さすが人口歴史学者らしい分析です。衝撃的なのは「社会保障
制度が未整備で、男の子を選択するための偏った人工中絶が行わ
れている結果、男女比率のバランスが取れていない」という指摘
です。どのくらい男女のバランスが悪いのか国連の調査によると
次のようになっています。
─────────────────────────────
 世界の平均 ・・・ 女子の出生100/男子の出生105
 中国の場合 ・・・ 女子の出生100/男子の出生117
─────────────────────────────
 女子の出生100に対して、男子の出生が107を超えると不
均衡とされるので、「117」という数字がいかに異常であるか
わかると思います。
 これほどの差があるということは、女子を妊娠したことがわか
ると、選択的に堕胎を行っていたか、出生しても当局に申告して
いないかのどちらかであるということです。これは、中国が前近
代的な父権主義社会であることを示しています。
 ドット氏によると、伝統的な中国社会の長所は、強い父権の下
における平等主義にあるといいます。とくに兄弟間の平等性が重
視されてきたのです。社会にこういう平等主義があったからこそ
中国では共産主義革命が起きたのです。実際に毛沢東は「すべて
の人は平等であるべきだ」といっています。そのとき中国は貧し
い国だったのですが、人々はきっと幸福だったはずです。
 しかし、ケ小平は中国に改革開放政策を取り入れたのです。そ
の結果、中国は急速に経済成長を始めたのです。しかし、中国は
平等主義の社会であり、経済成長によって、不平等や貧富の格差
がすさまじい勢いで広がると、潜在的な政治的不安定度が高くな
り、社会に不満が渦巻くようになったのです。
 中国政府は、この人民の不満をナショナリズムを高揚させるこ
とで外に向けようとします。それが反日政策・反日教育になった
のです。これはきわめて危険なことです。中国としてはそうせざ
るを得ないところに追い込まれたといえます。
 フランスの経済学者であるトマ・ピケティ氏は、これについて
日本と比較し次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本は経済成長の過程で格差が解消されていきましたが、中国
は経済が発展すればするほど格差が広がっています。中国は社会
主義の国であるはずなのに、大部分の資本が一握りの人に独占さ
れています。このことを私は理解できない。
       ──トマ・ピケティ氏 http://nkbp.jp/2qK39X3
─────────────────────────────
 ここで素朴な疑問が生じます。どうして中国では経済成長する
につれて格差が拡大してしまったのでしょうか。トマ・ピケティ
氏は、それは企業や政府の間にはびこる汚職・賄賂にあると指摘
しています。その意味で、習政権がいま取り組んでいる反腐敗運
動は、それが正しく行われれば富の不平等な分配を是正できると
いい、次のように述べています。
─────────────────────────────
 そもそも中国ではなぜここまで汚職が蔓延するのでしょうか。
それは、個人の収入をきちんと管理する制度がないからです。賄
賂を受け取っても長期にわたって誰にも気が付かれないので、通
常ではあり得ない金額の蓄財に走る人もいます。だからこそ、反
腐敗運動は格差是正に非常に効果があるのです。
       ──トマ・ピケティ氏 http://nkbp.jp/2qK39X3
─────────────────────────────
 しかし、習近平主席は反腐敗運動を自らの権力拡張に使おうと
しており、腐敗は依然として減っていないのです。そのため軍拡
を行い、ますますナショナリズムを高めるという悪循環に陥って
いるのです。       ──[米中戦争の可能性/105]

≪画像および関連情報≫
 ●世界のこれから。2023年、中国が滅びる!?
  ───────────────────────────
  「外婚制共同体家族国家は必ずどこかの時点で崩壊する
   これは、いま、世界で注目を集めているフランスの人類学
  者エマニュエル・トッドの家類型論から導き出される結論で
  す。トッドは、「家族システム」という考え方において、家
  族をその類似点と相違点から、大きく4つの類型に整理して
  考えています。その一つが、外婚制共同体家族国家です。特
  徴としては、「男子は長男、次男以下の区別なく、結婚後も
  両親と同居。そのため、かなりの大家族となる。父親の権威
  は強く、兄弟たちは結婚後もその権威に従う。ただし、父親
  の死後は、財産は完全に兄弟同士で平等に分割され、兄弟は
  このときにそれぞれ独立した家を構える」などがあげられま
  す。ロシアや中国がこのタイプとなります。
   ソ連の崩壊を、トッドは1976年の著書『最後の転落』
  で予言し、実際にソ連は1991年に崩壊しました。では、
  80年代までのソ連に匹敵する共産主義大国、現在の中国は
  どうなのか。やはり崩壊するのか。
   慎重なトッドは、断言はしていません。しかし、「カタス
  トロフィーのシナリオも考えられる」という答えは出してい
  ます。その理由の一つは、家族類型に内在する危機です。外
  婚制共同体家族社会では、カリスマ的な父親が、権力者と権
  威者を兼ねた独裁者として君臨する一方、兄弟=国民が横並
  びに並んで従います。これは縦型の権威主義と、横型の平等
  主義を二つ合わせたものですが、この二つはうまく折り合う
  バランスを見つけるのが非常に難しく、常に、構造的な危機
  を内包しています。       http://exci.to/2qQFFyA
  ───────────────────────────

エマニュエル・ドット/トマ・ピケティ.jpg
エマニュエル・ドット/トマ・ピケティ
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2017年06月07日

●「独自の技術を持たない中国の悲劇」(EJ第4536号)

 このままでは中国は崩壊せざるを得ない──このことをさらに
実証していきます。歴史人口学者、エマニュエル・ドット氏は中
国の繁栄について次のような厳しい指摘をしています。
─────────────────────────────
 中国の経済的な繁栄は、中国の指導者たちが有益な決断を主体
的に下した結果、得られたものではなく、経済的な力関係の中で
欧米日の資本主義諸国から押し付けられたものを受け入れたから
こそ得られたものなのです。一見、中国の最高指導者たちは賢そ
うに見えますが、実はそう賢くもありません。彼らの進路を決め
てきたのは、中国の膨大な人口を安価な労働力として「使ってき
た」欧米日のグローバル企業なのです。その意味で、いびつな中
国経済を生んだのは、欧米日のグローバル企業なのです。だから
彼らには、中国経済の不安定な現状に対して多いに責任があると
いえる。               http://bit.ly/2rRtyGn
─────────────────────────────
 ドット氏の「一見、中国の最高指導者たちは賢そうに見えます
が、実はそう賢くもありません」という指摘は誠に強烈ですが、
中国の為政者のやっていることを見ると、そう思わざるを得ない
ことが多いのです。
 かつて中国は「世界の工場」といわれましたが、実は独自技術
ゼロの国なのです。こういうと、中国は米国に匹敵するステルス
戦闘機も開発しているし、宇宙開発でも有人飛行にさえ成功して
いるではないかと反論する人もいますが、実は独自開発はほとん
どなく、コピー技術ばかりです。高橋洋一氏はこれについて次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 まず、ステルス戦闘機。中国のサイバー攻撃によって、英米が
共同開発した最新鋭ステルス戦闘機「F−35」の設計に関する
機密情報が漏洩したことは、周知の事実である。「F−35」戦
闘機を開発・製造しているロッキード・マーチン社がサイバー攻
撃を受け、フォルムなどの機密情報が盗まれたのだ。(中略)
 では、有人飛行に成功したロケット技術については、どうだろ
うか。2003年には「神舟五号」ロケットにより、世界で3番
目の有人宇宙飛行を成功させた。その後も宇宙ステーション計画
や、月探査、あるいは火星探査計画も進めている。その技術は、
1950年代に友好関係にあったソ連から多くを学んでいる。そ
の後は独自で開発を進めてきたのは事実であるが、他の分野、た
とえば一眼レフカメラの技術などでは、ドイツや日本には遠く及
ばない。  ──高橋洋一著/『中国GDPの大嘘』/講談社刊
─────────────────────────────
 中国に独自技術が乏しいことは確かです。いわゆる「爆買い」
で多くの中国人が日本に来て買ったものは、炊飯器などの家電製
品、一眼レフカメラ、スキンケア化粧品、目薬などです。これは
中国には、それらの日本製品に対抗できる製品がないことを意味
しています。実は、ロケットや戦闘機を作る技術よりも、一眼レ
フカメラを作る技術の方がはるかに難しいのです。
 中国系の情報サイト「レコード・チャイナ」に、驚くべきこと
が出ています。中国車のほとんどに三菱自動車のエンジンが搭載
されているというのです。中国はどうしても高性能な自動車エン
ジンが作れないのです。微博には「これじゃ、国産車といえない
よね」という類いの書き込みも増えているといいます。
─────────────────────────────
2016年3月4日、中国のポータルサイト・今日頭条が、中国
メーカーが製造する自動車のエンジンはほとんどが日本メーカー
であることを指摘する記事を掲載した。記事によれば、多くの中
国メーカーの自動車が三菱からエンジンの供給を受けていると紹
介。三菱自動車は、中国に瀋陽航天三菱とハルピン東安三菱の2
社の合弁会社があり、中国でエンジンを製造していると伝えた。
 その上で、中国の自動車メーカーの多くが三菱エンジンを採用
する理由について、「中国ブランドには成熟したエンジン製造技
術がない」ことと、「三菱エンジンは安定していて燃費が良く、
メンテナンスが容易であり、中国で生産しているためコストも安
かった」ことを挙げた。        http://bit.ly/2rwLKC5
─────────────────────────────
 中国にとってもっと深刻なことがあるのです。それは日本と同
じ少子高齢化の進行です。しかし、日本よりも中国の場合はもっ
と事態は深刻なのです。それは生産年齢人口(15歳〜59歳)
の急速な減少傾向です。
 中国では、2012年に生産年齢人口が建国以来はじめて減少
に転じたのです。それは一人っ子政策が原因です。2014年に
なると、1年で370万人の人口が減少したのです。さすがにこ
れに危機感を抱いた中国政府は一人っ子政策を緩和することを決
めています。それは夫婦のどちらかが一人っ子であれば、第2子
を認めることにしたのです。しかし、緩和策はあくまで第2子ま
でであって、第3子は現在も認められていないのです。
 中国政府は、この一人っ子政策の改正によって、毎年200万
人の新生児が誕生し、2050年までに労働人口が3400万人
増えるという試算を発表したのです。しかし、新生児は1年の目
標の4分の1の50万人にも満たなかったのです。
 なぜ、そんなに減ったのでしょうか。それは、教育費の高騰に
よって第2子を生むことができなくになっていたのです。それに
子供を多くつくるよりも自分たちの生活を充実させたいと考える
中国人が多くなったことも影響しています。
 もうひとつ深刻なことがあります。それは環境汚染の影響によ
ると見られるがん患者が激増し、これによる労働人口の喪失が発
生していることです。この環境汚染が原因で、毎年220万人も
の死亡者が出ています。この労働人口の減少によって労働コスト
はますます上昇し、中国は「世界の工場」にもなれなくなってい
るのです。このように中国経済は、まさに満身創痍の状態である
といえます。       ──[米中戦争の可能性/106]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の人口が激減へ、2100年には6億人にまで減少か
  ───────────────────────────
   2016年7月1日、台湾メディア・中時電子報は、世界
  最大の人口を抱える中国だが、将来的に現在の半数程度にま
  で激減する可能性があると報じた。
   中国は深刻な高齢化や労働人口の減少など、人口に関する
  構造的な問題に直面している。出生率がさらに減少すれば、
  今世紀末には人口が10億人程度になることが予想され、最
  悪の場合には6億人にまで減少する恐れもあるという。そう
  なれば、消費力も生産力も現在の半分にまで落ち込むことに
  なり、経済問題や社会問題も引き起こされることになる。
   中国のシンクタンク・中国社会科学院の研究によると19
  78年の改革開放から30年は人口の多さが経済成長に大き
  く貢献してきたが、現在は逆に人口の多さに起因する不満や
  問題が増えている。しかし、十分な労働年齢人口が確保でき
  なくなり、さらに介護を必要とする高齢者が増えた場合には
  どう対処すればよいのかと指摘している。
   急激に人口が減る恐れが出ている背景には、長年続けられ
  てきた計画出産政策(一人っ子政策)がある。人口の男女比
  バランスが崩れてしまい、男性が女性よりも3000万人も
  多い状況となっている。そのため、一定年齢層で妊婦が少な
  く、子どもが生まれにくい“断層”のような時期が発生して
  しまうという。米ウィスコンシン大学の専門家は、政府が即
  座に出産・育児を奨励するなど、適切な対策を講じたとして
  も、2100年の人口が8億人を超えることはないと予測し
  ている。(翻訳・編集/岡田)   http://bit.ly/2sD5lQG
  ───────────────────────────

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中国について語るエマニュエル・ドット氏
 
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2017年06月08日

●「海外でトラブルが頻発の中国PT」(EJ第4537号)

 中国には「冊封体制」という考え方があります。「冊封(さく
ほう)」とは、かつての中国の皇帝が貢物をもってきた周辺諸国
の君主に官号・爵位などを与えて君臣関係を結び、彼らにその統
治を認めることをいうのです。
 経済や軍事力で力をつけてきた中国は、どうやらこの冊封体制
の再現を考えているようです。しかし、中国はここまで見てきた
ように、国内に大きな問題を抱え込んでいます。そのため、力を
国外へ向けようとしています。
 中国が最も力を入れてきたのがアフリカです。南ア、タンザニ
ア、ザンビア、ガーナ、ナイジェリア、アンゴラ、モーリシャス
アルジェリア、マダガルガスなどに中国は進出しています。中国
はこれらの国々に対して、札束攻勢をかけたのです。
 しかし、中国の評判は芳しくないのです。ほとんどのプロジェ
クトがうまくいっていないからです。アフリカ各地で中国排斥運
動まで起きています。やり方が汚いからです。これについて宮崎
正弘氏は、次のように中国のやり方を明かしています。
─────────────────────────────
 とにかくアフリカの場合はまず不良品を売りつける。それから
プロジェクトはもらったのはいいけども、全部役に立たない。国
のトップは買収される。要するに大統領宮殿を造ってくれるって
いうんで靡くわけですよ。つぎにこのプロジェクトをやると言っ
で、それは結局国の借金なんですよね。つぎに農地を買われる。
すでに何万エーカーという土地を買って、そこで中国人が来て農
作物を作って、それをみんな中国へ持って帰るというわけ。それ
は頭に来ますよ。現地の雇用がないんだから、トランプが雇用が
いちばん大事だと言っているように。どこの国だって雇用がいち
ばん大事。だから中国はもう要らない。出で行けということにな
るでしょうね。        ──宮崎正弘/石平著/WAC
         『いよいよトランプが習近平を退治する!』
─────────────────────────────
 もちろん中国の実績がゼロというわけではないのです。アフリ
カ南部諸国をつなぐ高圧電線網、ザンビアの発電所、アンゴラの
鉄道、コンゴの橋と道路など、実績はいくつもあります。しかし
多くの場合、それがトラブルを生んでいるのです。
 ザンビアのケースを取り上げます。多くの海外プロジェクトで
中国は、現地で雇用せず、多くの中国人作業員を現地に送り込み
作業が終了すると引き上げるか、その地にそのまま居座るという
方式を取るのですが、ザンビアの場合、20億ドルを投資し、2
万人もの現地雇用を創出したのです。
 こういう海外プロジェクトをやる場合は、国有企業が進出する
のですが、多くの場合、企業の態度が横柄なのです。そのため、
多くのトラブルが起きます。2006年には銅山を買いとった中
国企業に対し、現地労働者の激しい抗議デモが発生したのです。
このとき、中国人側が発砲し、46人が殺害されるという悲惨な
事件が起きたのです。これによって一気に反中感情が爆発したの
です。以来、ザンビアの対中感情は現在も悪いままです。
 中国の海外プロジェクトがなぜうまくいかないのかについては
別の理由もあります。高橋洋一氏は、自著で次のような恐るべき
事実を明らかにしています。
─────────────────────────────
 中国が海外でのプロジェクトで安値受注できるのは、犯罪者を
労働者として送り込んでいるという側面もある。監獄生活か海外
労働のどちらを選ぶか囚人に選択させ、ほぼタダ働きさせている
のだ。そのなかには死刑囚まで含まれている。中国の刑務所で死
刑囚を収容できる上限の人数は400万人で、刑務所は「満員御
礼」の状況が続いているという事情も背後にはあるのだが・・。
 おまけに、中国人の傲慢な態度が現地の人々から総スカンを喰
らっている。一人っ子政策のおかげで「小皇帝」と呼ばれ、甘や
かされて大人になった者が世界へ出ている。これも大きなリスク
要因。アフリカ各地で中国人排斥運動のデモが頻発しているのも
そういった背景があるのだろう。
      ──高橋洋一著/『中国GDPの大嘘』/講談社刊
─────────────────────────────
 受注契約直前に中国側にひっくり返されたインドネシアの高速
鉄道建設についてこういう話があります。これは、インドネシア
におけるジャカルタからバンドンまでの高速鉄道建設計画であり
2016年1月21日に、ジョコ大統領や中国要人が出席して、
華々しく、起工式が催されています。
 しかし、この計画は現在も着工されていないのです。そもそも
起工式の時点で建設認可が下りていなかったのです。認可に必要
な必要書類が揃っていなかったからです。中国側からの書類が不
足しており、提出された書類も中国語で記載されており、審査員
が読んで理解できなかったのです。これは工事を日本から分捕っ
て受注した中国側の怠慢そのものです。
 なお、受注前に中国側から提出された提案書には、日本の提案
書をまる写ししたものが入っていたのです。日本側は、提案に当
たって、ボーリング調査や地質調査などを数年かけて行い、精密
なデータを作成しているのです。中国側は、そうした調査を一切
行わず、日本のデータをコピーしています。しかもルートも日本
案とまったく同じなのです。
 それでは、日本側のデータがどうして中国側に渡っていたので
しょうか。それは、推測するしかありませんが、インドネシア側
の誰かが中国側に漏らしたか、中国側が買い取ったかのいずれか
ではないかと思います。このようなことをしていると、中国はも
ちろん、インドネシアも国際的信用を失ってしまいます。
 実は、中国が受注した高速鉄道計画が頓挫するのは、これだけ
ではないのです。米国のエクスプレスウェスト社と中国鉄道公司
との合弁によるラスベガスとロサンゼルスを結ぶ高速鉄道計画は
中国側がするべきことを時間通りにやっていないという理由で合
弁解消になっています。  ──[米中戦争の可能性/107]

≪画像および関連情報≫
 ●中国高速鉄道、各国が相次いでキャンセル
  ───────────────────────────
   日本が競合の末に敗れたインドネシアを始め、世界各国で
  破格の条件を提示し次々と高速鉄道計画の受注に成功した中
  国ですが、アメリカでは工事の中止が決定、その他の国でも
  同じような動きが出始めるなど、ここに来て暗雲が立ち込め
  ています。メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴
  史、中国・韓国の真実」』の著者で評論家の黄文雄さんはこ
  れについて「世界が中国のインチキぶりにようやく気が付き
  始めた結果」と一刀両断し、習近平政権がますます苦境に追
  い込まれることになるとの厳しい私見を記しています。
  このところ、中国の高速鉄道の輸出計画が次々と挫折してい
  ます。6月8日には、ラスベガスとロサンゼルスを結ぶ高速
  鉄道の計画で、アメリカのエクスプレスウエスト社が中国鉄
  道総公司との合弁解消を発表しました。この合弁は2015
  年9月の習近平主席の訪米前に発表されたものです。201
  6年9月に  も着工する見通しでしたが、エクスプレスウ
  エスト社は合弁解消の理由として「中国企業がやるべきこと
  を時間通りできていない」と計画の遅れが原因だったとして
  います。中国側は寝耳に水のことだったようで「無責任で契
  約違反だ」と批判していますが、もともと習近平主席の訪米
  の成果として強調するためにぶち上げたプロジェクトであっ
  た可能性も高く、むしろアメリカ企業のほうが中国企業の実
  態を見て危機感をのでしょう。   http://bit.ly/29zHFIc
  ───────────────────────────

インドネシア・ジョコ大統領/安倍首相.jpg
インドネシア・ジョコ大統領/安倍首相
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2017年06月09日

●「中国はどうしてまだ崩壊しないか」(EJ第4538号)

 書店に行ってみるとわかることですが、「中国は崩壊する」を
テーマにする本と「中国はなぜ崩壊しないか」をテーマにする本
が溢れています。前者と後者を比率でいうと、7対3です。この
ところ後者の本が新刊書では多くなっています。
 「なぜ、中国は崩壊しないのか」については、中国が社会主義
国であるということに尽きると思います。なぜなら、社会主義の
国であれば、資本主義国ではやってはならないことが何でもでき
るからです。統計を改ざんし、事実を隠してウソの報告をしても
誰からも咎められることはないからです。たとえ、中国経済が、
とっくの昔に崩壊していても、それを隠すことだって十分可能で
す。国家がその気になれば何でもできるのです。
 その典型的な例を日本にみることができます。現在、多くの日
本人は、日本の政府債務がGDP対比で200%を超えているこ
とを知っています。数字で示されれば、確かにその通りであり、
信じてしまいます。
 GDP対比200%以上であるのは「政府債務」ですが、多く
の人は、それを「日本の債務」とイコールでとらえています。そ
のため、多くの日本人は、日本は途方もない借金大国だと考えて
しまっています。しかし、これは、財務省がマスコミを使って国
民にそう思わせているだけです。なぜ、そんなことをするのかと
いうと、国民に「増税やむなし」と思わせたいからです。
 その一方で、日本が「世界一の債権大国」であることをほとん
どの日本人は知りません。それも1年や2年ではないのです。日
本が25年連続の世界一の債権大国であることを・・・。
 なぜ、こんなことになるのかというと、マスコミが政府におも
ねっており、伝えるべきことを正しく伝えていないからです。世
界一成功した投資家といわれるウォーレン・バフェット氏は、次
のように述べています。
─────────────────────────────
 マスコミが馬鹿な国は、国民も馬鹿になり、投資家も馬鹿に
 なる。           ──ウォーレン・バフェット
─────────────────────────────
 バフェット氏の指摘は強烈です。これは日本のことをいってい
るのかもしれません。知って欲しいことがあります。政府を含む
国の数字は原則として自己申告であるということです。国際機関
ではその数字が正しいかどうかはチェックしないのです。ところ
で、日本の財務省は借金を多くみせたいのです。その場合、どこ
までを借金に含めるかは財務省の判断に委ねられています。
 日本の借金には、為替介入の引当金、特殊法人の借金、有料道
路の建設費まで含め、そのうえ地方自治体の借金や、「第3セク
ター」のようなものまで全て政府の借金に入れています。つまり
日本の借金は「官僚の天下り費や飲み屋のつけ」まで含まれてい
ることになります。借金を大きくみせたいからです。
 これに対してドイツの借金は、あくまで「政府の借金」だけに
絞っています。財務省が「日本の借金」を外国と比較するなら、
アメリカやドイツと同じ基準で計算するべきであるし、基準が違
うなら、世界の政府の借金の比較はそもそも意味がないことにな
ります。もうひとつ論点があります。
 資本主義国では、政府が発行する国債などを中央銀行が直接引
き受けることなどにより、中央銀行が政府の財政赤字を補填する
形で資金を出すことを「財政ファイナンス」として、禁じていま
す。しかし、日本はデフレから脱却するために「異次元の金融緩
和」を続けています。これは政府の財政赤字を補てんするためで
はありませんが、結果としては日銀の保有する国債は膨大な量に
なっています。これに関して、経済評論家の三橋貴明氏は次のよ
うに述べています。なお、これは三橋氏の2014年6月20日
のレポートであることをお断りしておきます。
─────────────────────────────
 日本銀行が2014年6月18日に発表した1〜3月の資金循
環統計によると、日銀がもつ国債の残高は3月末で201兆円と
なり、昨年3月末より57・2%増えた。国債全体に占める日銀
の保有残高の割合は20・1%で、保険会社を抜いて初めて最大
の保有者となった。日銀の保有残高が急増したのは、昨年4月か
ら始めた大規模な「金融緩和」で市場に大量のお金を流すために
満期が長い「長期国債」を金融機関から毎月6兆〜8兆円買って
いるからだ。今年末には長期国債の保有残高が190兆円と20
12年末(89兆円)の2倍になる。
 日本銀行が国債を保有した場合、政府は借金を返済する必要も
利払いをする必要もなくなります。一応、政府は日本銀行が保有
する国債に対し、律儀に金利を支払っていますが、日銀の決算終
了後に「国庫納付金」として返還されています。
 というわけで、日銀の国債保有が量的緩和で増えている以上、
現在は政府の借金が実質的に減り続けているというのが真実なの
です。それにも関わらず、財務省やマスコミは相変わらず、「国
の借金1000兆円突破!間もなく破綻!」といった論調で国民
を煽り、悲壮感をまき散らし、経済成長やデフレ脱却の妨害をし
ています。              http://bit.ly/2rTlILK
─────────────────────────────
 政府の借金は、返済しなくてもよいといいませんが、個人の借
金と違って、完済しゼロにする必要はないのです。返す場合でも
長期間にわたって少しずつ返済すればよいのです。それは、政府
の寿命は一般人と違って永遠に続くと考えているからです。財務
省はあえて政府の借金を家計の借金と同一視し説明しています。
 公表していませんが、中国の借金はGDP対比300%を確実
に超えています。中国はこれを返済するつもりはないし、返済で
きないでしょう。現在も政府債務は増え続けていますが、これに
よって中国経済が崩壊する様子はみられないのです。つまり、社
会主義国では何でもやれるのです。しかし、ものには限界という
ものがあります。いつかは突然崩壊するはずです。それは明日か
も知れないのです。    ──[米中戦争の可能性/108]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の政府債務残高、実は世界最速ペースで減少
  ───────────────────────────
   日本は国内総生産(GDP)比で世界最大の政府債務残高
  を抱える国として長年知られてきた。しかし、実情は変わり
  つつある。実効ベースで見た場合、公的借り入れ負担は年間
  にGDPの15ポイントに相当するペースで急減していると
  の推計もあるためで、そうだとすれば一段と管理可能な水準
  に向かっていることになる。
   変貌の謎を解く鍵は日本銀行による先例のない日本国債買
  い入れだ。一部エコノミストはこれを政府債務の「マネタイ
  ゼーション(貨幣化)」と呼ぶ。政府のバランスシートに国
  債の負債は残るが、もはや民間部門が保有するわけではない
  ため、実効ベースでは関係ないというのが、一部識者の見方
  だ。日本の政府債務残高はグロスベースで現在、GDPの2
  倍余りと推計されるが、日銀統計を使ったシュルツ氏の算定
  では、銀行や家計など民間部門から日銀に保有が移行しつつ
  あることで大きな影響が生じている。同氏の推計によれば、
  政府債務残高のうち、民間保有分は2012年末の第2次安
  倍晋三内閣発足直前のGDP比177%から、向こう2−3
  年で同100%程度に低下する見通しだ。日本が借り入れを
  減らしている訳ではない。安倍政権はさらなる財政刺激策を
  準備中であり、その資金は国債発行で賄われる。
                   http://bit.ly/2sfaXE9
  ───────────────────────────

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経済評論家/三橋貴明氏
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2017年06月12日

●「シャンボー教授による中国崩壊論」(EJ第4539号)

 「中国はなぜ崩壊しないのか」についてさらに考えます。仮に
中国の不動産バブルが崩壊したとします。しかし、社会主義国で
あれば、国家が大量の資金を投入してバブルを鎮めることは、程
度にもよりますが、十分可能です。そして、社会主義国であれば
そのようにしたことを外部に隠蔽することも可能です。経済統計
数字を改ざんすることができるのです。
 この考え方に立つと、中国の不動産バブルはとっくに崩壊して
いる可能性もあります。既に国家として密かに処理されており、
それが外部には、そのようには見えないだけではないかとも考え
られます。中国崩壊論はかなり昔から何回も出てきているのです
が、それと同等の中国繁栄論も出ており、国際社会では崩壊論を
まともに信用する識者は少なかったのです。
 ところが、2015年に入ると、中国に対する国際社会の見方
が繁栄論から崩壊論に一変するのです。それは、ジョージ・ワシ
ントン大学の国際政治学者であるデイビッド・シャンボー教授が
執筆した次の論評が公開されたからです。
─────────────────────────────
          デイビッド・シャンボー著
      『終焉に向かい始めた中国共産党』
     ウォール・ストリート・ジャーナル紙
─────────────────────────────
 この論評は大変な反響を呼んだのです。なぜなら、デイビッド
・シャンボー教授は、ワシントンでも有名な親中派の学者であり
その見解は信用されていたからです。「あのシャンボー教授がい
うのであれば、中国はきっとそうなのだろう」と考える人が多く
ショックが拡大したのです。それは2001年のゴードン・チャ
ン氏の本のときとは比較にならなかったのです。
 「ゴードン・チャン氏のとき」とは何でしょうか。
 ゴードン・チャン氏は、米国の作家で、2001年に次の著書
を上梓したのです。
─────────────────────────────
    ゴードン・チャン著/栗原百代・渡会圭子訳
     『やがて中国の崩壊がはじまる』/草思社
─────────────────────────────
 この本は話題になりましたが、多くの人にはにわかに中国が崩
壊するとはとても考えられなかったのです。2001年といえば
中国がWTOに加盟したばかりであり、中国の経済が急成長をは
じめたときであったからです。本文中には「中国経済は10年以
内に崩壊する」と予言していますが、2010年には中国はGD
Pで日本を抜いて世界第2位の経済大国になっており、ゴードン
・チャン氏の予言は、大外れだったといえます。
 しかし、2015年は、誰の目にも中国の衰えが明らかになっ
た年であり、その年に出されたデイビッド・シャンボー教授の論
評が国際社会に強いインパクトを与えたのです。
 デイビッド・シャンボー教授は、現在の中国には、体制の脆弱
性を示す次の5つの亀裂があることを指摘しています。
─────────────────────────────
 1.中国の経済エリートたちは、既に片足をドアの外に出し
   ており、もし少しでも体制が揺らぎ始めれば、大挙して
   逃亡する用意だけはできている。
 2.習近平は、政治的な抑圧を大幅に強化している。これは
   党の指導者たちの不安と自信のなさの表れである。今後
   この傾向はますます強化される。
 3.政権に忠誠を誓っているように見える者たちも、実際に
   はそう装っているだけである。そうしないとこの社会で
   は生きていけないと思っている。
 4.党及び軍にはびこる腐敗は、社会全体に蔓延している。
   根本原因は一党支配体制にあり、反腐敗キャンペーンで
   は問題解決は困難と思っている。
 5.中国経済は制度的な落とし穴にはまっており、簡単には
   脱出できない。党の大胆な経済改革パッケージも既得権
   益層がその実施を妨害している。
─────────────────────────────
 シャンボー教授によると、中国の政治体制は見かけ以上に壊れ
ており、現在、習近平主席は、反対派と腐敗を厳しく取り締まる
ことによって、党の支配を強化しようとしていると指摘していま
す。しかし、その独裁政治は、中国の社会と体制に強いストレス
を与えており、限界点は近づいているといいます。それは、上記
の5つの亀裂によく表れています。
 共産党による一党独裁体制は、その最終段階に既に入っており
思った以上に進んでいるといえます。そして、共産党支配は静か
に終わる可能性は少なく、意外に長引き、混沌とし、暴力を伴う
ものになると、習近平体制がクーデターによって失脚する可能性
についても指摘しています。
 これら5つの亀裂は、現在の政治システム(中国共産党の一党
支配)が原因で顕在化したものです。したがって、この亀裂は、
中国の政治改革によってのみ解決できる──とシャンボー教授は
いいます。しかし、それは非常に困難なことです。
 このシャンボー教授の論評は、あまりにも大きな反響を呼んだ
ので、シャンボー教授はその後の講演会で、次のように若干の修
正を行っています。
─────────────────────────────
 「中国が崩壊する」と予測したのではなく、「中国共産党の延
長式の没落」を予測した。崩壊とは別の問題。ゴードン・チャン
氏と一緒にしないでほしい。      ──とシャンボー教授
                  http://exci.to/2rP8bTm
─────────────────────────────
 中国の将来を予測することは非常に困難です。しかし、崩壊は
しないまでも「衰退」に向うことは避けられないと教授は予測し
ているのです。      ──[米中戦争の可能性/109]

≪画像および関連情報≫
 ●「中国経済崩壊論」の拡散でAIIBつぶしに乗り出すか
  ───────────────────────────
   「中国経済崩壊論」の拡散も、米国が今後、取るであろう
  戦略だ。これは「経済戦」の一環である。米国は現在、日本
  と欧州を巻き込み、「対ロシア経済制裁」をしている。しか
  し、ロシアと違い、世界第2の経済大国・中国に経済制裁を
  課すことは、困難だろう。そもそも、「AIIBをつくった
  から制裁する」とはいえない。他の理由で中国を経済制裁し
  ようにも、欧州が「制裁はイヤだ!」といえば、またもや米
  国の権威は失墜する。
   では、どうするのか?「中国経済の崩壊は近いですよ」と
  いう噂を広めるのだ。実をいうと、これは完全な「噂」でも
  ない。実際、中国のGDP成長率は、年々下がっている。賃
  金水準が上がり、外国企業がどんどん東南アジアなどに逃げ
  出している。だから、米国が「中国経済の崩壊は近い」とプ
  ロパガンダしても、必ずしもウソとはいえない。
   事実、最近「中国崩壊説」をよく見かけるようになった。
  たとえば、ゴールドマン・サックスの元共同経営者ロイ・ス
  ミス氏は2015年3月2日、「中国経済の現状は1980
  年代の日本と似ている点が多い」「日本と同様、バブル崩壊
  に見舞われるだろう」と述べた。さらに、かつては、親中派
  だったデヴィッド・シャンボー(ジョージ・ワシントン大学
  教授)は3月6日、「ウォール・ストリート・ジャーナル」
  に、「終焉に向かいはじめた中国共産党」を寄稿して、中国
  政府を激怒させた。        http://bit.ly/2s7eN2s
  ───────────────────────────

ディビッド・シャンボー教授.jpg
ディビッド・シャンボー教授
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2017年06月13日

●「中国は自分の国をどう見ているか」(EJ第4540号)

 数ある中国崩壊論に関する書籍のなかで、最新刊で内容のある
次の本を発見し、読んでいます。在米中国人経済学者2名による
精緻な中国分析ですが、なかなか読み応えがあります。
─────────────────────────────
 何清蓮×程暁農著/中川友訳/ワニブックス「PLUS新書」
 「中国──とっくにクライシスなのに崩壊しない“紅い帝国”
のカラクリ/在米中国人経済学者の精緻な分析で浮かび上がる」
─────────────────────────────
 「米中戦争はあるのか」について考えるとき、今後中国がどう
なるのかについて判断することが不可欠になります。とくに米国
の大統領は、アジア情勢に米国としてどう向き合うべきかを決め
るとき、この判断が必要です。
 オバマ大統領は、大統領に就任したときは、アジアにはほとん
ど関心がなく、同盟国である日本の首相にさえ、早く会おうとし
なかったのです。しかし、大統領就任後7年が経過した第2期政
権の終わり頃になって、中国についての次の見解を発表していま
す。あまりにも遅すぎるし、その間に南シナ海に中国にやすやす
と人工島を造られてしまっています。
─────────────────────────────
 弱体化しおびえた中国は、成功に満ち興隆する中国よりさら
 に脅威である。           ──オバマ前大統領
─────────────────────────────
 オバマ大統領のいう「弱体化しおびえた中国」とは、現在の中
国のことですが、その中国の方が国際社会にとって脅威であると
して、その理由を次のように述べています。
─────────────────────────────
 かりに中国が失敗した場合、国民を満足させられるような成長
軌道を維持できず、そのため国民の結束を図る原理として民族主
義に訴えるとしたら、もし中国が国際秩序の維持、構築という大
国に見合う責任をとても担えきれそうにないと感じたなら、もし
中国がこの世界を勢力圏の視点からしかとらえないなら、我々は
将来的に中国と衝突することになる可能性ばかりか、これから訪
れる多くの問題の対処にはさらなる困難がともなうことを覚悟す
べきだろう。               ──オバマ大統領
               何清蓮×程暁農著の前掲書より
─────────────────────────────
 冒頭の中国を分析した書籍の著者(何清蓮/程暁農両氏)につ
いて簡単にご紹介しておく必要があります。
 何清蓮(か・せいれん)氏は、1956年に湖南省生まれの中
国人で、上海復旦大学を卒業。その後記者生活を送り、中国社会
科学院の特約研究員を経て2001年に米国へ脱出。現在、ボイ
ス・オブ・アメリカのコラムニストとして活躍しています。
 程暁農(てい・ぎょうのう)氏は、1952年に上海市生まれ
の中国人で、中国経済体制改革研究所の総合研究所の元主任。独
仏に留学後に米プリンストン大学で博士号を取得し、現在は同大
学の当代中国研究センターCEOを務めています。
 中国は、当時のクリントン米大統領の支援を受けてWTOに加
盟するや急速に経済成長を始めます。そして、2003年頃から
「中国の平和的台頭」を対外宣伝のポイントに据えるのです。こ
れは、中国共産党の理論界の重鎮である鄭必堅氏の次の論文の発
表がきっかけになっています。
─────────────────────────────
              鄭必堅著「中国の平和的台頭」
 「フォーリン・アフェアーズ誌」/2005年9月10日号
─────────────────────────────
 ところが、2006年になると、中国の対外宣伝ポイントは次
のように変更されるのです。
─────────────────────────────
 北京コンセンサスがワシントン・コンセンサスに取って代わ
 り、世界に向けて「中国モデル」を輸出する。
─────────────────────────────
 いま考えると、この頃が中国の絶頂期であったといえます。こ
こでいう中国モデルとは次の発展方式のことです。
─────────────────────────────
     1.共産党独裁体制下での公有制を土台に
     2.市場原理を導入して経済を活性化させ
     3.外国資本技術の導入で成長を加速する
─────────────────────────────
 共産党独裁体制下での市場経済の導入という世界初めてのモデ
ルが成功しつつあり、中国はこの「中国モデル」の輸出に意欲を
示したのです。このモデルは、ベネズエラの当時のチャベス大統
領によって絶賛され、発展途上国において、一時大いにもてはや
されることになったのです。
 2010年に中国は日本を抜いて、世界第2の経済大国になり
ます。しかし、中国は、この時点から対外宣伝ポイントのトーン
落とし、以下のように一変するのです。
─────────────────────────────
 2010年、中国のGDPが初めて日本を追い抜き、中国は世
界第2の経済体となった。しかし、中国政府の将来的な見通しは
かなり慎重なものへと転じ、中国は多くの方面でいまだ発展途上
国レベルにあると述べるようになった。11年3月、IMF(国
際通貨基金)のあるリポートが、購買力平価ベースで計算すると
中国のGDPは5年後にアメリカを追い越し、2016年は「中
国の世紀の元年」となり、「アメリカの時代」はもはや終わりを
告げつつあると述べた。これに対し、中国側はただちに国家統計
局の馬建堂局長がIMFのリポートヘの反論を公表し、中国の経
済発展のレベルはまだまだ低い水準にあると訴えた。
               何清蓮×程暁農著の前掲書より
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/110]

≪画像および関連情報≫
 ●何とか合意できた「北京コンセンサス」
  ───────────────────────────
   日本と中国の政府間外交が機能停止に陥っている状況の中
  で、私たちの民間外交がどのような役割を果たせるのか、と
  いうことがずっと問われてきました。そこで、私たちは、民
  間の中に冷静な議論をつくり上げ、日中の民間レベルで「両
  国の間に戦争を起こすようなことは絶対にしない」、という
  ことで合意することを目指しました。
   しかし実をいうと、その合意である「北京コンセンサス」
  も、直前になって完成を一時断念しました。「不戦宣言」と
  いう誰もが納得できるような大きな意義のある宣言も、政府
  間外交というフィルターを通して見ると、いろいろな問題が
  出てきます。例えば、尖閣諸島(釣魚島)をどう扱えばいい
  のか、歴史認識をどうすればいいか、など様々な問題がある
  わけす。そこで、コンセンサスには日中間で合意できないこ
  とは記載しない、合意できることだけを記載しようというこ
  とになりましたが、その線引きの判断が最後の最後までずれ
  込みました。
   それでも、私たちはどうしても不戦宣言を出したかった。
  そこで、発表の場となる最終日の全体会議が始まる深夜のぎ
  りぎりの局面になってようやく作成作業を再開し、朝の4時
  までかかって文面をつくったわけです。その作業には明石康
  ・元国連事務次長や宮本雄二元駐中国特命全権大使、それか
  ら武藤敏郎・大和総研理事長、元日銀副総裁といった皆さん
  が、ご高齢にもかかわらず、夜を徹して協力してくださいま
  した。明け方まで全員で文面を何度も見直して、最終的な文
  章を完成させ、12時ぐらいに「北京コンセンサス」として
  世界に向けて公表することができました。
                   http://bit.ly/2t0PfjR
  ───────────────────────────

在米中国人経済学者の中国分析本.jpg
在米中国人経済学者の中国分析本
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2017年06月14日

●「中国は世界一をなぜ目指さないか」(EJ第4541号)

 何清蓮と程暁農両氏による中国論は、われわれにまったく新し
い視点から中国を見せてくれるような気がします。それは、他の
中国関連本から得られる中国観とは大きく異なるものです。
 2001年以降、急成長を始めた中国経済という急行列車に多
くの国が競って乗ろうとし、中国の経済成長はますます加速しま
す。そして、2008年のリーマンショックでは、「4兆元の投
資」といわれる巨大な財政出動と併せて空前の金融緩和を行い、
危機を短期間で終息させるに及んで、中国の存在感は、一挙に高
まったといえます。そして、2010年にはGDPで日本を抜い
て世界第2位の経済大国になったのです。あとは、いつ米国に追
いつき、米国を抜くかという段階に達したのです。少なくとも世
界はそう見ていたのです。これからは、中国の時代である、と。
 しかし、当の中国は、この時点からそれまでの「中国モデル」
とか「北京コンセンサス」というようなハイトーンの対外宣伝戦
略をやめています。そして、2009年2月、外遊中のメキシコ
で、当時副主席であった習近平氏による次の有名な発言が行われ
たのです。
─────────────────────────────
 腹がいっぱいになって暇になった外国人が、われわれの欠点を
あれこれあげつらっている。中国は革命を輸出せず、飢餓や貧困
も輸出せず、外国に悪さもしない。これ以上いいことがあるか。
               ──習近平国家副主席(当時)
─────────────────────────────
 この発言は、仲間うちの記者たちと話したときのものですが、
次期国家指導者としての発言としてふさわしくないと批判を浴び
たのです。1970年代末から始まった改革開放以降、欧米に対
し、一貫して協調路線を取ってきた中国の指導者がこのような強
硬な発言をしたことがなかったからです。
 ところで中国は、もっとも胸を張ってよいこの時期になぜ突出
するのを控えるような対応をしたのでしょうか。何清蓮と程暁農
両氏によると、政府の指導者がこの時点で、いずれ中国に訪れる
であろう経済的困難を感じており、その要因が克服することが難
しいものであっことがわかっていたからであるというのです。
 中国経済に問題があることは、次のようなことからも窺い知る
ことができます。2008年から2016年まで、経済系メディ
アの年頭ニュースには、決まって次のフレーズが掲げられていた
といいます。こういうニュースは、経済が担当の首相であったり
一流のエコノミストの発言が基になるのですが、年が明けるたび
に、中国政府は何らかの不安を感じていたことになります。
─────────────────────────────
    今年は中国経済にとって最も困難な1年になる
─────────────────────────────
 このことは非常に民主主義国の陣営にとって、理解しがたいこ
とです。中国経済が発展をはじめたとき、国際社会は「中国の民
主化が進む」と歓迎したのです。中国の民主化が進めば、対外的
な軍事拡張によって人口過剰の危機を転嫁するのではないかとい
う国際社会が密かに恐れていた不安が解消されるからです。
 しかし、そうはならなかったし、当の中国は、最初から民主化
させるつもりなど全然なく、あくまで共産党による独裁体制を維
持する方針だったからです。それは、毛沢東の秘書を務めたこと
がある次の共産党の長老の言葉によってわかります。
─────────────────────────────
 人類を進歩させるものは民主主義、人治、科学、改革の4つ。
逆に人類の進歩を邪魔し、後退させるものは、独裁、人治、愚昧
革命の4つだ。毛沢東は後の4つのことで、文革など国家を大混
乱に陥れた。ケ小平は、愚昧をやめ、科学を進め、革命をやめ、
改革に力を入れた。しかし独裁と人治は継承した。
 そして、江沢民、胡錦濤、習近平は「3人ともケ小平の描いた
欠陥のある設計図の実行者でしかない。しかも、残念なことに、
政治家としての魅力も実力も能力も小粒になっている」と。
      ──矢板明夫著/『習近平/共産中国最弱の帝王』
                         文藝春秋
─────────────────────────────
 歴史的にはっきりしていることがあります。私有を公有にする
共産党政権は、最終的には存続することができないということで
す。存続させるためには、何らかのかたちで資本主義経済を取り
入れる必要があります。
 社会主義国の経済と政治の転換には、歴史的にみて、次の3つ
のモデルがあります。
─────────────────────────────
          1.中 欧モデル
          2.ロシアモデル
          3.中 国モデル
─────────────────────────────
 「1」は「中 欧モデル」です。
 中欧諸国の転換は、旧体制に異議を唱える知識人層によって共
産主義が一掃され、体制変換が行われています。このモデルでは
共産党エリートの居場所はないのです。ポーランド、ハンガリー
チェコ、スロヴァキアがこのモデルです。
 「2」は「ロシアモデル」です。
 このモデルでは、共産党エリートが民主派エリートに変身した
ので、転換でもたらされた多くの恩恵にあずかっていますが、庶
民も私有化プロセスのなかで、一部の所有権を確保しています。
旧来の権力者が新社会を率いた典型的なモデルといえます。
 「3」は「中 国モデル」です。
 このモデルでは、全面的な公有制と計画経済は放棄したものの
共産党資本主義によって全体主義制度を強固なものにし、共産党
指導者が私有化のプロセスで数々の犯罪行為を行っています。そ
のため、国家全体に深刻な腐敗をもたらしているのです。
             ──[米中戦争の可能性/111]

≪画像および関連情報≫
 ●資本主義と共存する中国共産党の謎
  ───────────────────────────
   今日、中国共産党はこの国の唯一の政党でありつづけてい
  る。過去30数年間に多くの観測筋や解説者が、中国はいず
  れ西洋型の資本主義へ向かうだろうと期待を寄せた。その過
  程で中国共産党は、市場改革が進展するにつれ重要性を失う
  か、共産主義とともに廃れるか、民主化を受け入れて台湾や
  韓国と同じ道を歩むだろうと見られた。
   しかし今日、中国共産党に、その一党支配体制を改める用
  意があるとの兆しは見当たらない。その割合を高めている私
  企業家や大学卒業者も含めて、あらゆる職業の8000万人
  以上の党員(2011年末現在)をかかえる党は、かつてな
  いほど強大に見える。共産党が存続して、中国型の資本主義
  はますます異質で好戦的な勢力、西洋の資本主義を打倒しな
  いまでも、これと対立する勢力に見える。
   経済の自由化と共産党支配の継続とのややこしい協調関係
  中国における共産党の存続は、経済改革の最も顕著な特徴に
  違いないが、それは多くの人に改革の始めから終わりまで中
  国の党国家としての一見誤りのない役割に目を向けさせた。
  旧ソ連圏のように、これまでの与党・共産党が次々に崩壊し
  市場主導の改革への道が拓かれた移行経済(トランジション
  ・エコノミー)とは違って、中国は共産党と市場経済がとも
  に繁栄できるように見える唯一の例として際立っている。
                  http://nkbp.jp/2r59FYr
  ───────────────────────────

全権力を掌握しつつある習近平国家主席.jpg
全権力を掌握しつつある習近平国家主席
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2017年06月15日

●「中国は衰退するが、崩壊はしない」(EJ第4542号)

 昨日のEJで、社会主義国の政治的転換と経済的転換について
述べましたが、政治と経済のどちらが先に転換されるかによって
結果が違ってきます。
─────────────────────────────
   1.政治的転換が先に起きる ・・ 中 欧モデル
   2.政治・経済の転換が同時 ・・ ロシアモデル
   3.経済的転換が先に起きる ・・ 中 国モデル
─────────────────────────────
 中国の場合は、専制的な共産党一党支配の政治体制はそのまま
で、経済的転換が先に行われた「3」のケースです。これは、最
悪のパターンです。「3」のケースでは共産党のエリート(紅い
エリート)たちは資本家になり、自分たちの利益のために、民主
化を妨害し阻止します。なぜなら、民主化とは、紅いエリートた
ちの政治的特権を剥奪することを意味するからです。したがって
彼らがそんなことをするはずがありません。
 中国の急速な経済発展と一時的な繁栄は、社会主義国特有の政
府によるすべての資源(リソース)を集中させた結果によるもの
です。その場合、民主主義国と違って、生態環境の汚染や国民の
健康的配慮などは一切なく、いわば略奪的な方法で経済を高度に
発展させ、異例のスピートでGDPを向上させたのです。このよ
うなことは、政府が専制的権限を持っている社会主義国でないと
できないことです。
 その結果、中国に何が起きたでしょうか。
 何清蓮/程暁農両氏は、社会主義国であれ、民主主義国であれ
どんな社会であれ、人がその生存を支えるための条件として次の
4つの要素を上げ、現在の中国の実情を説明しています。
─────────────────────────────
  1.水や土地や大気の安全などの生存基盤が確立している
  2.社会の構成員間の関係を調節する倫理・道徳システム
  3.社会の構成員の最低ラインの生存が確保される就業率
  4.社会の正常な運営を維持する政治的統合力が存在する
 何清蓮×程暁農著/中川友訳/ワニブックス「PLUS新書」
 「中国──とっくにクライシスなのに崩壊しない“紅い帝国”
のカラクリ/在米中国人経済学者の精緻な分析で浮かび上がる」
─────────────────────────────
 何清蓮/程暁農両氏によると、現在の中国で残っている要素は
「4」だけであるといいます。他の条件は、既に崩壊していると
いうのです。
 中国では、人が生きて行くために不可欠な水や大気は、極限ま
で汚染され、「1」は既に崩壊しています。工場から垂れ流され
る真黒な煙、何が浮いているのかわからない川、汚染された土地
枯れ果てた湖沼など。北京などの大都市の表通りはきれいである
ものの、一歩裏に回れば、生活ゴミの山。政府は本気で環境対策
に取り組んでいるとはとうてい思えないのです。
 社会では収賄や収奪が当たり前になり、そこに倫理・道徳シス
テムは働いておらず、上層から下層まで、腐敗は広く社会に蔓延
し、「2」も崩壊しています。それに加えて物価は高騰し、最低
限の収入を確保するための職の確保も、難しい状況になっていま
す。貧富の格差は拡大するばかりで、ワールドクラスの大富豪が
多数おり、豊かな中間層が海外で爆買いしている一方で、数億人
に及ぶ生活困窮者がその日暮らしの生活を送っています。そのた
め「3」も破綻しているといえます。
 それでいて、中国は崩壊しないというのです。このような中国
の現況を踏まえて、何清蓮/程暁農両氏は「中国は衰退はするが
崩壊しない」として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国政府はすべての資源を集中させて「安定の維持」に努めて
いる。かたや中国の民衆は、自己組織化の能力に欠け、「ばらば
らな砂」に等しいため、中国共産党という巨岩には抗うすべもな
い。したがって共産党政権は今後20年から30年、崩壊するこ
とはあり得ず、中国社会は長期にわたって「衰退するが、崩壊し
ない」状態のままに置かれるだろう。このプロセスは共産党政権
が中国の未来を犠牲にして自身の存続を図るプロセスであり、中
国が日々衰えてゆくプロセスにほかならない。もちろん、それは
中国が外に向けて負の影響をまき散らすプロセスでもある。例え
ば、海外への中国人の大量移住、環境汚染の外国への流出、国内
の矛盾から目を逸らさせるために対外的な衝突を仕掛ける等々で
ある。          ──何清蓮×程暁農著の前掲書より
─────────────────────────────
 現在中国では、習近平国家主席が中心になって「腐敗一掃キャ
ンペーン」を実施しています。しかし、中国の腐敗は、上層から
中層、下層まで行われており、日常茶飯事化しています。習近平
首席がやっているのは、腐敗キャンペーンを利用して政敵を排除
する権力抗争そのものに過ぎないのです。
 2016年4月3日に、ICIJ(国際調査報道ジャーナリス
ト連合)はパナマ文書を公表し、オフショア・カンパニーを開設
して資産を移転した権力者のリストを公開しています。パナマ文
書は、1150万件ありますが、その30%は中国人なのです。
約3万3000人の中国関係者と4188社のオフショア・カン
パニーの存在が明らかになっています。
 データベースを検索すると、中国の現職高級官僚とローマ字表
記が一致する多くの名前が発見されたのです。習近平の義兄・ケ
家貴、李鵬の娘・李小琳、温家宝の息子・温雲松、前全国政治協
商会議主席の買慶林、現政治局常務委員の劉運山などの親族・子
女の名前が続々と出てきています。
 中国共産党は国内への波及を恐れ、言論統制を行い、インター
ネットでも厳重な規制を行い、関連ワードで検索しても絶対に出
てこないようにしています。このことを踏まえて、何清蓮/程暁
農両氏は、現在の中国の政権を名付けて「盗賊型政権」と呼んで
います。         ──[米中戦争の可能性/112]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平政権に痛恨の一撃 パナマ文書は中国経済の時限爆弾
  ───────────────────────────
   世界中に波紋を広げている「パナマ文書」で名前が挙がっ
  た中国の習近平国家主席は、情報統制に必死だ。「中国内で
  ネット検索すると、『パナマ文書』という言葉はヒットしま
  すが、中国人の名前は一切出てきません。メディアも右へな
  らえです」(在中マスコミ関係者)
   そりゃそうだ。政権発足から一貫して「反腐敗」を掲げ、
  民衆の支持を得てきた習国家主席の姉の夫や、党幹部の親族
  がタックスヘイブン(租税回避地)を利用していたなんて知
  れ渡ったらシャレでは済まされない。中国事情に詳しいジャ
  ーナリストの柏木理佳氏が言う。「ただ、情報統制にも限界
  があります。ネット上で噂が出回りそうになれば、当局が削
  除するといういたちごっこが続いていますが、それこそ中国
  人は世界中にいる。今はSNSがありますし、個人間のやり
  とりをすべて取り締まることは難しい。都市部だけでなく地
  方まで情報が広がるのも時間の問題でしょう」
   習政権にとってパナマ文書は、まさに“時限爆弾”。中国
  経済も減速どころか、急ブレーキがかかりかねない。「そも
  そも今の中国経済は、インターネットなどのサービス業だけ
  が支えている。そこに厳しい規制をかけること自体、自分で
  自分の首を絞めるようなもので、加えて『物価だけ上がって
  給料が上がらない』というエリート層の不満も充満してきて
  いる。パナマ文書をきっかけに、たまりにたまった民衆のス
  トレスが爆発し、大規模な反政府デモにつながる恐れはあり
  ます」(柏木理佳氏)       http://bit.ly/2sgn8Ro
  ───────────────────────────

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パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」
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2017年06月16日

●「中国はなぜ『盗賊型政権』なのか」(EJ第4543号)

 何清蓮/程暁農両氏の本には「盗賊型政権」という言葉が出て
きます。著者によると、現在の中国には、盗賊型政権に見られる
盗賊型統治の特徴がすべて備わっているといいます。
 それでは「盗賊型政権」とは何でしょうか。
─────────────────────────────
 盗賊型政権とは、統治者が厚顔無恥にも公共財と民間財を略奪
して、はばからぬ政権である。
 何清蓮×程暁農著/中川友訳/ワニブックス「PLUS新書」
 「中国──とっくにクライシスなのに崩壊しない“紅い帝国”
のカラクリ/在米中国人経済学者の精緻な分析で浮かび上がる」
─────────────────────────────
 公共財と民間財を略奪する──といっても、ピンとこないので
著者が実例として上げてくる2つの政権について簡単にご紹介す
ることにします。
─────────────────────────────
  1.アルフレッド・ストロエスネル政権/パラグアイ
  2.            モブツ政権/ザイール
─────────────────────────────
 「1」は、パラグアイのストロエスネル政権です。
 ストロエスネル政権は、1954年から89年までパラグアイ
を統治した政権です。1954年7月、ストロエスネルは、対立
候補なしで大統領に選出されると、共産党非合法化に続き、すべ
ての革新団体の禁止と新聞の自由の制限を実施して、独裁体制を
確立し、予算の6割を軍事費に充てています。
 その独裁ぶりに反発し、左翼勢力による権力奪取の試みがあっ
たものの失敗し、反対勢力がほとんど海外へ亡命したので、19
58年から88年まで、5年の任期ごとに8選を果たし、独裁体
制を築いてやりたい放題の政権運営をしています。
 当時は東西冷戦下であり、反共の砦として米国、ドイツ、日本
とくに日本からの手厚い借款を受けて、国内の近代化を推し進め
各種のインフラを整備し、世界最大級の水力発電所を建設して電
力を隣国に売却することで利益を得るなど、経済の安定化に寄与
する貢献もしているのです。
 「2」は、ザイールのモブツ政権です。
 モブツ政権は、1965年から97年までザイール(現コンゴ
民主共和国)を統治した政権です。モブツは軍人上がりで、19
65年にクーデターで政権を掌握し、大統領に就任すると、やは
り東西冷戦を利用して、アフリカにおける反共の砦を任じ、その
見返りに西側先進国からの支援金を一手に引き受けて、そのほと
んどを着服したのです。
 モブツの不正蓄財は総額およそ50億ドルといわれ、西欧諸国
や西アフリカ、モロッコ、ブラジルなどに、豪華別荘や古城・豪
邸を保有し、隠し銀行口座を設けています。モブツに私物化され
た政権を揶揄する言葉として、「モブツの個人資産は、ザイール
共和国の対外債務に等しい」といわれたのです。
 パラグアイのストロエスネル政権も、ザイールのモブツ政権も
反対勢力を追放し、政権を批判するメディアを封じ、自分のやり
たい放題をやっています。両政権とも反共の砦として西側諸国か
らの支援を私物化しています。ストロエスネル政権は政権末期に
おいて、幹部の腐敗が横行し、民心を失い、クーデターで倒れて
います。ともに公共財と民間財を略奪して私物化するという不祥
事を起こしているのです。
 何清蓮/程暁農両氏は、中国が典型的な盗賊型政権であるとし
て、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国の現政権は今述べた「盗賊型政権」の特徴をすべて兼ね備
えている。収賄者は政府の上層から中層・下層に至るまで広く分
布し、どんな小役人であれ、手中にある権力を利用してレント・
シーキング〔権力を利用した不法な超過利潤の追求、すなわち汚
職・腐敗を指す〕にいそしまない者はいない。世界の数ある「盗
賊型政権」が用いた略奪手段は、ひとつ残らず中国で実践されて
いる。          ──何清蓮×程暁農著k前掲書より
─────────────────────────────
 ここで「レント・シーキング」という言葉が使われています。
これは、民間企業などが政府や官僚組織へ働きかけを行い、法制
度や政治政策の変更を行なわせることをいうのです。規制のため
実現できないことを上層機関に賄賂などを使う働きかけによって
可能にする手口です。これは下から上へのレント・シーキングで
す。レントというのは「超過利潤」を意味します。
 現在、日本の国会で連日行われている加計学園の獣医学部新設
をめぐり、官邸サイドの働きかけがあったかどうかが討論されて
いますが、中国ではこういうとき、賄賂を使うことが常態化して
いるのです。儲けが出そうな業種における許可証──例えば、炭
坑や金坑などの各種鉱山業の採掘許可証などは役人が私腹をこや
す格好の手段になっています。
 中国は国家によって土地が独占されています。地方政府は権力
を駆使して土地を利用している農民を立ち退かせ、その土地を高
値で不動産デベロッパーに売却して暴利をむさぼるのです。そし
て、その不動産デベロッパーが共産党幹部の家族であったりする
のです。そういう意味で中国の役人は、土地転売でボロ儲けする
不動産ブローカーそのものといえます。
 このように、中国では上層・中層・下層に腐敗が蔓延しており
それが常態化しています。まさに盗賊的政権そのものです。しか
し、中国では、現在克服困難な経済的、社会的な難題が山積して
いるのです。これは、腐敗一掃キャンペーンぐらいで解決できる
ものではないのです。
 中国にとって今や繁栄は過去のものになっています。中国人が
目にしているものは、空を覆うスモッグ、汚染された土地、真っ
黒な河川、そして仕事の機会を得られない数億人にも及ぶ失業者
なのです。        ──[米中戦争の可能性/113]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の衰退と日本の出番/朝倉慶氏
  ───────────────────────────
   先日朝倉慶の「中国ゴーストタウンセミナー」ということ
  で、中国の現状を視察してきましたが、ツアー参加者一同予
  想以上の衝撃を受けました。内陸部オルドスでは人のいない
  マンション群が山のように連なっています。そして回りに作
  られた広大に続く工場群はただの一つも動いていません。そ
  して最も驚くべきことはそれらの工場群やマンション群を取
  り巻くインフラや道路が非常に綺麗で整備つくされ続けてい
  るということです。
   人のいないマンション群や稼働しない工場を想像してみて
  ください。それが延々と続く姿を想像してみてください。当
  然廃墟のようにすたれて人が全くいない、まさにゴーストタ
  ウンが出現してそれは薄気味の悪いところに思えませんか?
   ところが現実は全く違うのです。廃墟でありながら今も整
  備され続けていて、道路はちり一つなく綺麗に整備、掃除さ
  れているのです。何処に行っても人影もまばら、特に子供の
  姿はほとんど見かけることはありませんでした。ところがマ
  ンション群にはその広大な建物の一つ二つに電気がともると
  ころ、全くともらないところ、とにかく人の気配は全くあり
  ません。そしてそれらが何故綺麗になっているかというと実
  は、連日清掃しているからなのです。たまに会う人々はまさ
  に清掃の仕事をしている人のようで、この人のいない街を何
  故かしっかりと清掃し続けて清潔さを保とうとしているよう
  です。              http://bit.ly/2ssLK9d
  ───────────────────────────

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ストロエスネル大統領/モブツ大統領
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2017年06月19日

●「中国ジニ係数は危険レベルにある」(EJ第4544号)

 「中国崩壊論」というのは、2015年を契機に急に表に出て
くるようになっています。2015年に中国経済が危機的兆候を
見せはじめたからです。それが一番現実味を帯びたのは、ジョー
ジ・ワシントン大学のシャンボー教授の『終焉に向かい始めた中
国共産党』の論文です。これについては、6月12日付、EJ第
4539号で述べています。
 しかし何清蓮/程暁農両氏(以下、何清蓮氏)によると、シャ
ンボー教授をはじめとする外部のウォッチャーたちは、民主主義
国家の経験から中国に危機が発生すると判断しており、それは必
ずしも正しくないとして、次のように反論しています。
─────────────────────────────
 中国政府が他国の政府と違う最大の点は、それが専制政府であ
り、資源を集中させる能力が民主的な政府とはけた違いに強いと
いうことである。執政者が危機はどこにあるかを察知さえすれば
その防衛能力は民主的な政府より、とりわけ無力で弱々しい民主
的な政府よりはるかに高い。
 2016年に中国はGDP成長率の緩やかな減速という状況の
なかにあって、全国の税収は11・59兆元に達した。これは前
年比42%の増加である。さらに今後数年以内に、地方政府の税
収増加の重点は不動産税の徴収に向けられるだろう。
 何清蓮×程暁農著/中川友訳/ワニブックス「PLUS新書」
 「中国──とっくにクライシスなのに崩壊しない“紅い帝国”
のカラクリ/在米中国人経済学者の精緻な分析で浮かび上がる」
─────────────────────────────
 ここで何清蓮氏はきわめて重要なことを述べています。中国で
は現在でも不動産税(日本の固定資産税)を徴収していないとい
う事実です。どうしてかというと、中国では所得に比べてあまり
にも不動産価格が高いからです。もし、課税を強行すると、大半
の中国人には耐えがたい重税になります。そのため暴動を恐れて
中国政府は課税に踏み切れなかったのです。何清蓮氏の本から、
2015年のデータを示すと、次のようになります。
─────────────────────────────
    不動産平均価格 ・・・ 年収の22・95倍
    中国人平均年収 ・・・ 年収/7820ドル
─────────────────────────────
 しかし、国家に危機が訪れれば、不動産税課税に踏み切るはず
であり、それは巨額の税収増を生むことになります。したがって
中国は簡単には破綻しないのです。
 それに、現在中国おける住宅の保有率は、米国や日本などの先
進国よりも信じられないほど高いのです。したがって、不動産税
の課税対象は非常に広いのです。
─────────────────────────────
   ≪都市部≫
   ・住宅保有率 ・・・・・・・・・ 88・12%
   ・一世帯当たり住宅保有数 ・・・  1・22戸
   ≪農村部≫
   ・住宅保有率 ・・・・・・・・・ 94・72%
   ・一世帯当たり住宅保有数 ・・・  1・15%
       ──「中国家庭金融調査報告」/2014
             ──何清蓮×程暁農著の前掲書より
─────────────────────────────
 ここで都市部において、一世帯当たりの住宅保有数1・22戸
をもっと具体的に述べると、1戸を保有する世帯は69・05%
であり、2戸を保有する世帯は15・55%、3戸以上を持つ世
帯は3・63%です。彼らは、住むというよりも、投資物件とし
て不動産を保有しているのです。こういう経済構造は、経済成長
が続いているうちはいいのですが、ひとたび成長が止まると、ひ
どい貧富の格差を生み出すことになります。
 このように何軒も住宅を保有する層がいる一方で、中国の都市
部には住宅を保有していない11・88%の世帯があります。彼
らは、購買能力をまったく欠いた貧困層であり、住宅を購入する
どころか、その日その日を生き永らえるのに精一杯なのです。住
宅を購入するなど、夢のまた夢です。
 そのため、中国のジニ係数は、ジリジリと上昇し、現在異常な
高さに達しています。
─────────────────────────────
      1995年 ・・・・・・ 0・45
      2002年 ・・・・・・ 0・55
      2012年 ・・・・・・ 0・73
─────────────────────────────
 ジニ係数は、1936年にイタリアの統計学者コンラッド・ジ
ニが考案し、その名をとって「ジニ係数」と呼ばれています。完
全平等社会であれば「0」、完全不平等社会であれば「1」とな
るのです。
─────────────────────────────
  0・1〜0・2 ほとんど格差のない社会
  0・2〜0・3 格差少なく安定した社会
  0・3〜0・4 格差のある社会
  0・4〜0・5 厳しい格差、社会が不安定になる要素
  0・5〜0・6 格差が限度を超え、社会的不満が激増
  0・6〜0・7 社会的動乱が発生してもおかしくない
  0・7〜    革命が起こるか、動乱状態に突入する
                http://nkbp.jp/2tfzN4a
─────────────────────────────
 日本のジニ係数は2012年は「0・320」です。格差社会
です。これに対して中国は「0・73」です。革命が起きても不
思議はないレベルに達しています。社会の頂点にいる1%の世帯
が全国の3分の1以上の資産を占有しているのです。しかも底辺
層の25%の世帯の資産の総額は、全体の1%ぐらいしかないの
です。          ──[米中戦争の可能性/114]

≪画像および関連情報≫
 ●中国最新報告書/「貧富格差が危険ラインに」
  ───────────────────────────
   中国の名門大学、北京大学の最新調査報告・家庭追跡調査
  報告書シリーズ「中国人生活発展報告2015」により、同
  国の貧富の差がいっそう拡大していることが改めて確認され
  た。同報告書によると、全体の1%の世帯が国民総資産の約
  3分の1を保有する一方で、全世帯数の25%を占める最下
  層世帯が所有する資産はわずか1%前後にとどまり、貧富の
  格差を示すジニ係数は危険ラインに迫っている。
   報告書が発表した中国の種類別ジニ係数で、所得のジニ係
  数は80年代初頭の0・3前後から現在は0・45以上に、
  資産のジニ係数は95年の0・45から12年の0・73に
  上昇している。
   ジニ係数とは、国民全体の所得や資産分配の不平等さ、あ
  るいは格差を測るための指標の一つである。値の範囲は0か
  ら1で、値が大きいほど格差が大きく、それにより社会の不
  満も高まることから、一般に社会騒乱多発の警戒ラインは、
  0・4、危険ラインは0・6とされている。12年9月に中
  国当局が発表した初の「社会管理に関する政府報告書・中国
  社会管理革新レポート」には、中国における社会格差が既に
  同警戒ラインに迫っていると記されている。
                   http://bit.ly/2sCQ4Cw
  ───────────────────────────

ジニ係数対比(OECD).jpg
ジニ係数対比(OECD)
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2017年06月20日

●「中国でクーデターは起こらないか」(EJ第4545号)

 中国のジニ係数が0・7に達し、クーデターが起きても不思議
でないレベルに達しています。それほど格差が拡大しているから
です。しかし、クーデターなどは起きないと何清蓮氏はいうので
す。彼は、中国の民衆のことを「自己組織化の能力に欠け、ばら
ばらな砂のような存在である」と表現しています。
 何清蓮氏はそれに加えて現在の習近平政権の力は強大であり、
仮に民衆が天安門事件のようなクーデターを起こしても、たちま
ち鎮圧されるとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国政府は高度に組織化された完全武装の独裁政権である。そ
の武装力は中国の歴代王朝のなかでもずば抜けている。この世界
第3位の軍事大国に対峙する民衆は、刃物類を購入することさえ
制限を受けている始末である。当局の武装力と民間の抵抗力の格
差には前代未聞の開きが生じている。
 2015年7月9日に始まった「一斉摘発行動」によって権利
擁護活動家が一網打尽にされた後は、国内ではたとえゆるいつな
がりであっても、組織的な反対勢力は一掃された。つまり、軍事
クーデターでも起きない限り、中共の統治を武力で終わらせるこ
とは不可能なのである。
 何清蓮×程暁農著/中川友訳/ワニブックス「PLUS新書」
 「中国──とっくにクライシスなのに崩壊しない“紅い帝国”
のカラクリ/在米中国人経済学者の精緻な分析で浮かび上がる」
─────────────────────────────
 中国のジニ係数については、中国ウオッチャーの宮崎正弘氏も
言及しています。2013年頃、中国のジニ係数は0・62ぐら
いで最悪であるといわれていたのです。しかし、中国の国家統計
局の出す数字はあまり信用できず、本当の数字はわからないです
が、北京大学が2016年12月に独自調査に基づいて発表した
数字の0・73がひとり歩きしています。これについて、宮崎正
弘氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 ジニ係数が0・73などとは異常事態である。所得格差、富の
偏在に対しても国民の不満を「反日」ですり替え、「愛国主義」
の具体的ジェスチャーとして、アメリカの無人潜水艇を捕獲した
り、空母「遼寧」を西太平洋に派遣したりして、「中国はアメリ
カと伍せる軍事大国だ」と国民を鼓舞しても、それは支配階級の
演出する危ういナショナリズムだから、効果は期待できなくなっ
た。富裕層は、愛国の虚実を知っており、インテリ層は情報操作
だという本質を見抜いている。そして、庶民は急に愛国などと言
われても、馬鹿馬鹿しくて関心を抱かない。目先の食事がいちば
ん大事なのである。        ──宮崎正弘著/徳間書店
     『米国混乱の隙に覇権を狙う中国は必ず滅ぼされる』
─────────────────────────────
 中国では人民によるクーデターは起こらない──何清蓮氏はこ
う述べています。しかし、軍事ジャーナリストの野口裕之氏によ
ると、クーデターは起こり得るというのです。以下、野口裕之氏
のレポートに基づいて、要約して述べることにします。
 それは北朝鮮に深く関係する話です。現在の北朝鮮に隣接する
中国側の部分、すなわち旧満州東部からロシア沿海州南西部は、
李氏朝鮮の時代(1392〜1910)以降、多くの朝鮮人が移
住したのです。深い森林で覆われ、朝鮮総督府の支配も届かない
無法地帯で、匪賊や馬賊の根拠地だったのです。彼らは頻繁に越
境して、朝鮮半島の北部(北朝鮮)の町村を襲っては、朝鮮人ら
への略奪や殺戮を繰り返したのです。
 時代が経過して、これらの匪賊や馬賊は中国の人民解放軍にな
ります。そしてこの地域は「瀋陽軍区」に属することになったの
です。彼らは、長い間にわたる付き合いから、しだいに人民解放
軍と生活必需品や武器やエネルギーなどをお互いに交換するよう
になります。これがいわゆる「辺境貿易」のはじまりです。
 この辺境貿易は、ケ小平が市場経済の号令をかけた1992年
から公認されたので、これを契機に大きく発展することになりま
す。このときから、中朝貿易には、中国政府が認可した企業が行
なう一般貿易と、国境周辺の地方人民政府が許認可権を持ってい
る辺境貿易の2つになったのです。
 実は、この瀋陽軍区は習近平主席による軍制改革によって「北
部戦区」に再編成されたのですが、これについては、1月24日
付、EJ第4444号で述べています。北部戦区の本部は瀋陽で
あり、ロシアと北朝鮮方面で軍事衝突などに対応する戦力です。
そして5戦区中最大の戦力なのです。
 これについて、「闇株新聞」の著者が次のように分かり易く書
いているので、参考までに引用します。
─────────────────────────────
 「瀋陽軍区」は中国人民解放軍ではあるものの、朝鮮系の馬賊
・匪賊の末裔が多く(だから強い)、北朝鮮に武器・エネルギー
・食料・生活必需品を密輸し、さらに、北朝鮮のレアメタル採掘
権なども入手し不正蓄財に励んでいます。これは経済制裁を受け
ている北朝鮮にとってもメリットがあり、経済制裁の「抜け穴」
となっています。
 もともと中国人民解放軍とは軍務だけではなく、武器や食料な
どを自己調達する「軍産複合体」のようなものですが、とくに、
「瀋陽軍区」は不正蓄財で潤い、ますます中央政府と対立するよ
うになっていきました。        http://bit.ly/2sDVMEf
─────────────────────────────
 この戦区が瀋陽軍区であったときのトップは、当時中央軍事委
員会副主席だった徐才厚(江沢民派)です。徐才厚は中国人民解
放軍のナンバー2、制服組のトップを務めた人物です。しかし、
習近平主席は、腐敗キャンペーンの一環で、病気療養中の徐才厚
を汚職など規律違反を理由に病院で逮捕し、連行しています。彼
は党籍を剥奪され、その後死亡しています。
             ──[米中戦争の可能性/115]

≪画像および関連情報≫
 ●国内最強の軍隊を有する瀋陽軍区
  ───────────────────────────
   江沢民のあとの胡錦濤、習近平は共産党軍事委員会委員長
  であっても人民解放軍の統制がまったくでいていない。この
  ことが北朝鮮危機の問題にあらわれている。「反習近平の勢
  力が北朝鮮を握っていて、それに習近平は指一本、触れられ
  ない」といったのは共産党の幹部レベルでの権力闘争ではな
  く、現在の共産党指導部が人民解放軍の支配下にある北朝鮮
  をどうすることもできないということだ。
   俗に「3つの50万トン」という言葉がある。石炭、原油
  穀物を各50万トンずつ、中国が北朝鮮に無償で提供とする
  という援助契約だ。そのなかで一番大事なのは原油の50万
  トンであり、北朝鮮は中国経由で原油の供給を受けている。
  中国はその原油を止めたと称しているが、本当に止まったか
  どうかはわからない。北朝鮮にとって原油供給減は丹東から
  新義州につながる、鴨緑江の河口に敷設されたパイプライン
  一本だけである。この唯一のパイプラインが象徴するように
  中国は板挑戦経済の首根っこを押さえている。したがって、
  中国が北朝鮮を完全にコントロールしている。ただし、対北
  朝鮮用のパイプラインのバルブを握っているのは、北京の中
  央政府ではない。北朝鮮と1300キロの国境を接している
  人民解放軍の瀋陽軍区である。したがって、正確には「中国
  の人民解放軍・瀋陽軍区が北朝鮮をコントロールしている」
  というべきだろう。       http://amba.to/2sf2Eax
  ───────────────────────────

勢力が拡大した北部軍区(瀋陽軍区).jpg
勢力が拡大した北部軍区(瀋陽軍区)
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2017年06月21日

●「北朝鮮と中国瀋陽軍区の親密関係」(EJ第4546号)

 中国について考えるとき、どうしても中国をひとつのまとまっ
た国としてみてしまいますが、中国の国内において“核心”の習
近平主席でも、支配できない地域があるのです。その地域こそ、
北朝鮮と密接な関係のあるかつての「瀋陽軍区」、現在の「北部
戦区」です。
 既に述べているように、北部戦区(正確には北部戦区の瀋陽地
域)は、北朝鮮と国境を接しており、長年にわたって北朝鮮とは
親交があることは、昨日のEJで述べた通りです。この北部戦区
を支配しているのは、チャイナセブンにおける江沢民派の次の3
人(〇印)です。
─────────────────────────────
  ◎チャイナセブン
  序列第1位/習近平国家主席 ・・・・・・ 太子党派
  序列第2位/李克強首相 ・・・・・・・・ 共青団派
 〇序列第3位/張徳江全人代常務委員 ・・・ 江沢民派
  序列第4位/兪正声人民政治協会議主席 ・・ 太子党
 〇序列第5位/劉雲山政治局常務委員 ・・・ 江沢民派
  序列第6位/王岐山中央規律検査委員会書記  太子党
 〇序列第7位/張高麗副首相 ・・・・・・・ 江沢民派
─────────────────────────────
 チャイナセブンの序列第3位の張徳江全人代常務委員、第5位
の劉雲山政治局常務委員、第7位の張高麗副首相の3人は、いず
れも江沢民派で、習近平主席とは対立関係にあり、激しい権力抗
争を繰り広げています。そして彼らの支配する北部戦区は、現在
の金正恩体制の生殺与奪の権を握っている存在といえます。
 この北部戦区の江沢民派の人脈については、4月10日と11
日のEJで詳しく述べているので、参照してください。
─────────────────────────────
 ◎4月10日付、EJ第4497号
 「北朝鮮は張徳江氏が掌握している」http://bit.ly/2oTI3b1
 ◎4月11日付、EJ第4498号
 「北朝鮮と中国の本当の関係を探る」http://bit.ly/2okPtkG
─────────────────────────────
 これら3人の江沢民派のチャイナセブンが、中国において、ど
のくらい強い力を持っているかは、人民解放軍を自分の配下に置
こうとする習近平主席による軍制改革において、自らの支配地域
をかえって拡張させたことによってもわかります。いわば、焼け
太りに成功しているのです。
 習近平主席は、軍制改革で、北京軍区と瀋陽軍区を合併させ、
その新戦区をすべて中国最高指導部で管轄しようと目論んだので
すが、3人の猛反対によって断念しています。それどころか、張
徳江全人代常務委員は、瀋陽軍区に加えて、劉雲山政治局常務委
員が支配してきた北京軍区の一部の内モンゴル自治区を取り込み
さらに山東省を飛び地として確保するなど、北部戦区を大拡張さ
せたのです。これは習近平主席の敗北といえます。
 先の米中首脳会談で、トランプ米大統領は、北朝鮮の第6回目
の核実験やICBMの発射を抑えるよう、習近平国家主席に強い
プレッシャーをかけましたが、彼に北朝鮮をどうこうできる力は
事実上ないといえます。そこで習近平主席はトランプ米大統領に
100日間の猶予を求め了解を得ています。時間稼ぎです。米中
首脳会談は4月6日に行われているので、期限は7月初旬に終了
します。あと15日ほどです。
 しかし、現時点でも習近平主席には、北部戦区をコントロール
できていないのです。もちろん石油を止めることはできますが、
もしそれを強行すると、北部戦区が北朝鮮と組んでクーデターを
起こしかねないのです。これに関連して、野口裕之氏は、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 最精強を誇る「瀋陽軍区」は、習主席にとって目障りどころか
政治生命まで左右する「超危険な存在」であった。いや、依然、
「超危険な存在」と言うべきだ。今なお北部戦区は「瀋陽軍区」
なのだ。習主席は北京より平壌と親しい「瀋陽軍区」によるクー
デターを極度に恐れている。「瀋陽軍区」高官の一族らは、北朝
鮮に埋蔵されるレアメタルの採掘権を相当数保有する。「瀋陽軍
区」が密輸支援する武器+エネルギー+食糧+生活必需品武器や
脱北者摘発の見返りだ。北朝鮮の軍事パレードで登場するミサイ
ルや戦車の一部も「瀋陽軍区」が貸している、と分析する関係者
の話も聞いた。            http://bit.ly/2tk3v8q
─────────────────────────────
 習近平主席が北朝鮮に対し、石油供給停止などの強い経済制裁
に踏み切れないでいるのは、もしそれをやると、北部戦区が北朝
鮮と組んで、クーデターを起こし兼ねないからです。ここに北朝
鮮の核が効いてくるのです。それは、おそらく北京にとって最悪
のクーデターになるはずです。野口裕之氏は、クーデターの可能
性について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 1.北京が北朝鮮崩壊を誘発させるレベルの対北完全経済制
   裁に踏み切れば「瀋陽軍区」はクーデターを考える。
 2.他の戦区の通常戦力では鎮圧できず、北京は旧成都軍区
   にある核戦力を使って威嚇し、恭順させるしかない。
 3.「瀋陽軍区」としては、北朝鮮との連携で、核戦力さえ
   握れば、旧成都地区の核戦力を封じることができる。
                  http://bit.ly/2tk3v8q
─────────────────────────────
 北部戦区の高官たちは、北朝鮮に埋蔵されるレアメタルの採掘
権と引き換えに、高濃度ウランを生み出す遠心分離機用の金属・
酸化アルミニウムなどの核関連物質や、戦車用バッテリーなどの
大量の通常兵器の関連部品を北朝鮮に密かに売りつけているとい
われているのです。もちろんそのなかに、戦略物資の重油も含ま
れているのです。     ──[米中戦争の可能性/116]

≪画像および関連情報≫
 ●北朝鮮の後ろ盾/瀋陽軍区とロスチャイルド家の関係
  ───────────────────────────
   現在の北朝鮮の武力解除に向けての緊迫した事態を考慮す
  る上で、北朝鮮の後ろ盾である瀋陽軍区に注目する必要があ
  ります。ここが重要なのは、フルフォード氏がこれまで何度
  も日本、韓国、北朝鮮、旧満州を統合する「ネオ満州国」と
  いう統一国家建設の構想を持つ支配層が居ることを言及して
  いるためです。取り上げた野口裕之氏の瀋陽軍区に関する記
  事は大変優れた明快なもので、引用元で全文をご覧になるこ
  とを勧めます。
   記事によると、瀋陽軍区は中国人民解放軍の中でも最精強
  な軍区であり、習近平氏の政治生命まで左右する「超危険な
  存在」とのことです。ここが、北朝鮮に対して、武器・エネ
  ルギー・食料・生活必需品を密輸し、見返りに北朝鮮に内蔵
  されるレアメタルの採掘権を得ているようです。
   北京は瀋陽軍区を警戒し、核武装を許さないため、瀋陽軍
  区は北朝鮮に原料や技術を流し、北朝鮮が核を保有すること
  で、事実上の瀋陽軍区の核保有を目指しているということで
  す。記事では、北朝鮮と瀋陽軍区は一蓮托生であるとしてい
  ます。なので、北朝鮮の武装解除は瀋陽軍区の消滅につなが
  ります。イスラエルは将来の移住先としてネオ満州国を考え
  ており、瀋陽軍区に多数のイスラエル企業が入り込み、将来
  のイスラエルからの移民に備えています。
                   http://bit.ly/2sQr0sq
  ───────────────────────────

劉雲山政治局常務委員.jpg
劉雲山政治局常務委員
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2017年06月22日

●「朝鮮戦争に参戦した義勇軍の正体」(EJ第4547号)

 ここで「朝鮮戦争」を振り返ってみる必要があります。朝鮮が
日本の植民地支配から解放されたのは、1945年8月15日の
ことです。時あたかも東西冷戦が進行するなかで、朝鮮は南北に
分断されたのです。1948年に朝鮮半島に政治体制の異なる2
つの国家が成立したのです。
─────────────────────────────
   1.朝鮮民主主義人民共和国 ・・ 社会主義体制
   2.       大韓民国 ・・ 資本主義体制
─────────────────────────────
 戦争が起きたのは1950年6月のことです。北朝鮮の金日成
は、中国革命に続いて、朝鮮半島でも社会主義統一国家をつくる
べきであるとして、6月25日に軍事行動を起こし、38度線を
越えて大韓民国に攻め込んだのです。
 国連安全保障理事会は緊急会議を開催し、北朝鮮に即時停戦と
北朝鮮軍の撤退勧告を決議しています。このとき常任理事国のソ
連は中国代表権問題で他の4常任理事国と対立し、安保理をボイ
コットしていたので、ソ連抜きの安保理決議になったのです。
 ことは急を要しており、国連軍を結成するには時間がかかると
して、トルーマン米大統領は米国軍を単独で朝鮮半島に派遣する
ことを決意し、日本駐留の米軍に出動を命じたのです。
 6月28日、北朝鮮軍はソウルを占領し、引き続き破竹の勢い
で南進したのです。大田で米軍を破り、国連軍としての米軍が朝
鮮半島に到着したときには、北朝鮮軍は半島南端の釜山に迫って
いたのです。
 7月7日、国連安保理は、国連軍の派遣をソ連抜きで決定し、
マッカーサー元帥を統一司令長官に任命します。国連軍といって
も全体の90%は米軍だったのです。9月15日、マッカーサー
司令長官は、仁川上陸作戦で北朝鮮軍の背後を突いて形勢を逆転
し、ソウルを奪回します。国連軍はそのまま38度線を越えて進
撃し、10月20日に平壌を陥落させたのです。
 ところが、中国が突然参戦するのです。しかし参戦したのは中
国人民解放軍ではなく、中国人民義勇軍なのです。その結果、国
連軍は38度線まで押し戻され、1953年7月27日、南北朝
鮮代表、米中代表が板門店で朝鮮休戦協定を結びます。
 中国義勇軍がどのようにして、国連軍を38度線まで押し戻し
たかについて、関連サイトの記事を紹介します。
─────────────────────────────
 中朝国境付近に集結した中国義勇軍(実質人民解放軍)は10
月19日から、隠密裏に鴨緑江を渡り、北朝鮮への侵入を開始し
た。中国軍は11月に入り国連軍に対して攻勢をかけ、アメリカ
軍やイギリス軍を撃破し南下を続けた。国連軍は中国人民解放軍
の参戦を予想していなかった上、補給線が延び切って、武器弾薬
・防寒具が不足しており、これに即応することができなかった。
 11月24日には国連軍も鴨緑江付近より、中国義勇軍に対す
る攻撃を開始するが、中国人民軍は山間部を移動し、神出鬼没な
攻撃と人海戦術により、国連軍を圧倒、その山間部を進撃してい
た韓国第二軍が壊滅すると黄海側、日本海側を進む国連軍も包囲
され、平壌を放棄し38度線近くまで潰走した。
                   http://bit.ly/2slw9HB
─────────────────────────────
 この「中国義勇軍」の参戦によって、敗戦一歩手前までいった
北朝鮮は救われたのです。もし、北朝鮮が降伏していれば、その
時点で朝鮮半島は、大韓民国として統一されていたはずです。そ
のため、中国と北朝鮮の同盟は、「血の友誼の同盟」として長く
語り継がれることになったのです。
 しかし、野口裕之氏によると、この中国義勇軍は、人民解放軍
所属の第4野戦軍で、朝鮮族らが中心となって編成された「外人
部隊」だったのです。20日付のEJ第4545号でも述べたよ
うに瀋陽軍区に住みついた朝鮮系の匪賊、馬賊の末裔であり、も
ともと北朝鮮とは深い親交があったのです。したがって、人民解
放軍には所属しているものの、北朝鮮とは同じ民族であり、義勇
軍として参戦しても不思議はないのです。
─────────────────────────────
 「瀋陽軍区」が北朝鮮と、北京を半ば無視してよしみを通じる
背景には出自がある。中国は朝鮮戦争勃発を受けて“義勇軍”を
送ったが、実体は人民解放軍所属の第四野戦軍。当時人民解放軍
最強の第四野戦軍こそ瀋陽軍区の前身で、朝鮮族らが中心となっ
て編成された「外人部隊」だった。瀋陽軍区の管轄域には延辺朝
鮮族自治州も含まれ、軍区全体では最大180万人もの朝鮮族が
居住する。いわば、「瀋陽軍区」と北朝鮮の朝鮮人民軍は「血の
盟友」として今に至る。金正日総書記(1941〜2011年)
も2009年以降、11回も瀋陽軍区を訪れた。──野口裕之氏
                   http://bit.ly/2tEIHrE
─────────────────────────────
 2017年4月、中国が米国の要請を受け入れて、核放棄をし
なければ、さらに厳しい経済制裁をかけると警告したことに北朝
鮮は21日の朝鮮中央通信で、名指しはしなかったものの、次の
ように中国を抗議したのです。北朝鮮が中国を批判することは、
きわめて異例なことです。
─────────────────────────────
 彼ら(中国)が誰かに踊らされて経済制裁に執着するならば、
われわれとの関係に及ぼす破局的な結果も覚悟すべきだ。われわ
れの核抑止力は国と民族の生存権を守るためのものであり、何か
と交換するためのものではない。
       ──2017年4月21日付、朝鮮中央通信より
─────────────────────────────
 しかし、中国の義勇軍は北部戦区の瀋陽地域に今でも残ってい
るのです。したがっていくら習近平主席の北京が米国の要請を受
けて経済制裁をかけようとしても、義勇軍がサポートするので制
裁は効かないのです。   ──[米中戦争の可能性/117]

≪画像および関連情報≫
 ●朝鮮戦争/中国義勇軍参加の裏話
  ───────────────────────────
   金日成はスターリンに南朝鮮(韓国)進攻の支援を、そし
  て毛沢東は台湾進攻の支援を求めた。スターリンはいずれに
  も支援を約束したが、ソ連の利益に鑑みて、戦争は朝鮮を先
  とし、中国を朝鮮戦争に介入させた。(北海閑人著『中国が
  ひた隠す毛沢東の真実』)
   毛沢東には、自分がアメリカに負けるはずがない、という
  確信があった。中国には何百万もの兵隊を使い捨てにできる
  という基本的な強みがあるからだ。ちょうど厄介払いしたい
  と思っている部隊もあったー朝鮮戦争は、国民党部隊の敗残
  兵を戦場に送って始末する恰好の機会になるだろう。彼らは
  内戦末期に部隊ごとまとまって投稿してきた国民党軍兵士で
  毛沢東は意図的に彼らを朝鮮の戦場に送り込んだ。万が一国
  連軍が始末をつけてくれなかった場合に備えて、後方には特
  別の処刑部隊が待機して戦線から逃げもどってきた兵士たち
  を始末することになっていた。(ユン・チアン『マオ誰も知
  らなかった毛沢東』(下))
   『マオ』については酷評があるが、この国民党部隊の敗残
  兵を朝鮮戦争に投入したのは本当らしい。軍事評論家佐藤守
  氏はブログ「朝鮮戦争裏話」でこう書いている。93歳の元
  特務機関員門脇氏の体験談ヒアリングだ。
   <毛沢東が、自分に降伏してきた米軍の最新装備を誇る蒋
  介石軍を“後顧の憂い”を除去するために見事に「始末」し
  た根拠を教えていただきたいと事前に申し上げていたのだが
  中国の軍事科学出版社などが出したこれに関する詳細な歴史
  研究書を見せていただき、それが事実であったことが確認で
  きた。              http://bit.ly/2sOTX8h
  ───────────────────────────

国連軍を指揮するマッカーサー司令官/朝鮮戦争.jpg
国連軍を指揮するマッカーサー司令官/朝鮮戦争
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2017年06月23日

●「米国は北朝鮮を先制攻撃するのか」(EJ第4548号)

 このところ北朝鮮への緊張感が少し緩んでいるような感じがし
ます。有力な米国ウォッチャーによると、トランプ米大統領は、
ロシアゲート疑惑で北朝鮮どころではないともいわれていますが
本当にそうなのでしょうか。
 そういえば、最近は米空母、カールビンソンやロナルド・レー
ガンの情報が入ってこなくなっています。現在、どこにいるので
しょうか。それとも引き上げたのでしょうか。もっとも空母や原
子力潜水艦などの艦艇が現在どこにいるかは極秘なのです。今回
米軍は、あえてそれを明かし、北朝鮮にもの凄いプレッシャーを
かけたのです。しかし、それがどこにいるかわからなくなった現
在の方が北朝鮮にとってはリスクが大きいといえます。
 米軍が北朝鮮に先制攻撃するのではないかと思われていた時点
があります。それは2017年4月12日です。このとき、米国
は日本政府に次のように伝えていたのです。
─────────────────────────────
 ◎米が日本に「北朝鮮攻撃」を言及/報道局
 北朝鮮の核や弾道ミサイル開発をめぐり、アメリカ政府が日本
政府に対し、中国の対応によっては、アメリカが北朝鮮への軍事
攻撃に踏み切る可能性を伝えていたことがわかった。
 軍事攻撃の可能性への言及があったのは、先週、行われたアメ
リカと中国の首脳会談より前の4月上旬で、日米の外交筋による
と、北朝鮮への対応に関し、アメリカ政府高官は、日本政府高官
に対し「選択肢は2つしかない。中国が対応するか、われわれが
攻撃するかだ」と述べ、「攻撃」という表現を使って、アメリカ
の方針を説明した。          http://bit.ly/2rEm4Tu
─────────────────────────────
 4月6日に行われた米中首脳会談で習近平主席は「100日の
猶予」をトランプ米大統領に求め、了承されています。会談中の
シリアへのミサイル攻撃は大きなショックを習近平主席に与えた
と思われます。このように、4月中は米国はなかなか強気であり
やる気満々だったのです。
 しかし、5月に入ると米国の態度は一変します。先制攻撃につ
いて逡巡する発言が相次いだのです。それは、マクマスター大統
領補佐官にはじまって、マティス国防長官、ティラーソン国務長
官と続きます。5月19日の朝日新聞デジタルは、マティス国防
長官の発言次のように伝えています。
─────────────────────────────
 マティス氏は会見で、北朝鮮の核・ミサイル問題を解決する手
段としての軍事行動について「信じられない規模での悲劇が起き
る」と指摘した。米軍が北朝鮮の関連施設を先制攻撃した場合、
反撃によって同盟国の日本や韓国などへの被害が出ることを念頭
に発言したものとみられる。
 トランプ政権は「すべての選択肢がテーブルの上にある」とし
て、軍事行動も辞さない構えで北朝鮮に圧力をかけてきた。マテ
ィス氏の発言は、軍事行動という選択肢に消極的な立場を示した
ものだ。マティス氏はまた、日韓や中国などとの協力で、外交的
な解決を目指す考えを示した。(ワシントン=峯村健司)
                   http://bit.ly/2qH7wmj
─────────────────────────────
 「もし、米国が北朝鮮と戦争すれば、信じられないほどの悲劇
が起きる」──これはどこかで聞いたセリフです。かつてクリン
トン米大統領が北朝鮮を攻撃しようとしたとき、在韓米軍司令官
から「とんでもない被害が起きる」と警告されたセリフと同じで
す。4月に「北朝鮮を攻める」といい、日本にまで通告していた
米国が今頃になっていう発言ではないです。そんなことはとっく
にわかっていたことです。これはどう考えても不自然です。急に
怖気づいたのでしょうか。
 何かウラがあります。論理的に考えても、今こそが米国が北朝
鮮からの脅威を取り除くラストチャンスです。米国がこの機会を
見逃すことはないと思います。
─────────────────────────────
 1.北朝鮮のミサイル技術を分析すると、ICBMは実質的
   には完成の域に達している。
 2.核兵器に関しては5回の実験で完成しているし、その小
   型化も一年以内に完成する。
 3.このまま北朝鮮の核・ミサイル開発を放置すると、米国
   の安全保障上の脅威になる。
─────────────────────────────
 情報によると、米国は北朝鮮に関する情報をほとんど集めてい
るのです。地上地下を含めて、あらゆる核施設、ミサイルをはじ
めとする兵器の位置、金正恩委員長をはじめとする幹部の居場所
にいたるまで、すべてを把握しています。さまざまな諜報を通し
て、今までに既に得ている情報に加えて、変化、最新の情報も取
得しているはずです。まして、空母2隻を含む米国の大艦隊が朝
鮮半島のすぐ近くに、2ヶ月以上にわたり常駐していたのです。
 何もしていないはずがないのです。無人偵察機を飛ばしたり、
脱北者から聞き取りをしたり、攻撃に必要な情報はすべて集めて
いるはずです。その結果、いま攻撃すると、悲惨な結果に終わる
と判断したのでしょうか。世界最強の米軍が北朝鮮のような小国
に怯んだのでしょうか。
 中国が米国に猶予を求めた100日は7月中旬に到達します。
今のところ中国は目に見えるかたちでの北朝鮮への制裁をかけて
いるようには思えない。米国のイライラも募っています。
 しかし、中国は米国に何をいわれても、ここまで述べてきたよ
うに、国内事情により北朝鮮をコントロールできないのです。重
要なのは、米国は中国から北朝鮮への限定攻撃の許可を得ている
ことです。それにここにきて、米国と韓国の文在寅政権との間に
隙間風が吹きはじめています。今月末には米韓首脳会談が行われ
ますが、どうなるか予断を許さない状況になっています。
             ──[米中戦争の可能性/118]

≪画像および関連情報≫
 ●北朝鮮と米国、戦争になる可能性はあるのか/東洋経済OL
  ───────────────────────────
   [ワシントン4月27/ロイター]トランプ米大統領は、
  北朝鮮の核・ミサイル開発を巡ってこう着状態となれば、同
  国との大きな紛争が起きる可能性があると述べた上で、外交
  的な解決を望む姿勢を示した。ロイターとのインタビューで
  語った。また、韓国政府に対しては、米軍による新型迎撃ミ
  サイル(THAAD)システム配備の対価として10億ドル
  (約1110億円)の支払いを求める考えを示した。
   29日に、就任から100日を迎えるトランプ氏は、大統
  領執務室でロイターに対し「最終的に北朝鮮と大きな、大き
  な紛争が起きる可能性はある」と述べた。一方、平和的な解
  決を望む姿勢もうかがわせ、「外交的に解決したいが、非常
  に困難だ」とも語った。
   また、北朝鮮の行動抑制に向けた取り組みへの中国の協力
  について、習近平国家主席を称賛。「精一杯力を尽くしてく
  れていると確信している。混乱や死は決して見たくないだろ
  う」と述べた。
   ただ「そうは言っても習氏が愛情を持っているのは中国で
  あり、中国の国民だ。何かを実行したいと思ってもできない
  ということも恐らくあり得る」との見方も示した。
                   http://bit.ly/2ssfGkY
  ───────────────────────────

トランプ米大統領VS金正恩委員長.jpg
トランプ米大統領VS金正恩委員長
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2017年06月26日

●「崩壊寸前にある米国と韓国の関係」(EJ第4549号)

 1月4日から書き続けてきている今回のテーマ「米中戦争の可
能性」は、30日に終了し、7月3日からのEJは、新しいスタ
イルでお届けする予定です。
 6月29日〜30日、韓国の文在寅大統領はホワイトハウスを
訪れ、トランプ大統領と会談します。しかし、この米韓首脳会談
は難問山積であり、決裂することはないと思われますが、結果し
だいでは、米韓関係に亀裂が入る恐れがあります。これは日本に
も大きな影響があります。
 韓国についての辛口評論家として知られる室谷克実氏は、文在
寅大統領について次のようにいったことがあります。
─────────────────────────────
 文在寅大統領は、表向きに発言していることと、実際にやっ
 ていることとは違うことが多い。     ──室谷克実氏
─────────────────────────────
 実際に大統領に当選してからの43日、文在寅大統領の言動に
は、室谷克実氏のいう通りのことが起きています。それは米韓関
係に影響を与えることが多いのです。現在、韓国の文在寅政権と
米国のトランプ政権との間には次の2つの問題があります。
─────────────────────────────
        1.THAAD配備トラブル
        2.韓国高官による問題発言
─────────────────────────────
 1は「THAAD配備トラブル」です。
 THAADの在韓米軍配備地に関しては、前政権との約定に基
づいて、小規模な環境影響評価が進められ、今月中に終了する予
定だったのです。
 ところが、文在寅政権は、法令に基づいて環境影響評価を出す
べきであり、それには1年程度かかると主張したのです。これに
対してトランプ政権は強く反発します。これを受けて6月8日、
トランプ政権は、マティス国防長官やティラーソン国務長官を集
めて緊急会議を行っています。米メディアのなかにはこの動きを
「米韓同盟の危機」と報じたところもあります。そこで何が議論
されたかについては明らかになっていませんが、今後の米韓関係
について、真剣に話し合われたと考えられます。
 この会議について国際政治学者の藤井厳喜氏は、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 このままいくと、北朝鮮に「超太陽政策」を取っている文氏の
望む通り、THAADが配備されない事態となりかねない。米韓
同盟は存亡の危機に立っており、トランプ氏は米韓首脳会談に向
けた対応策を協議したのだろう。トランプ政権は、今後「在韓米
軍削減」や「THAADの韓国外での配備を含めた厳しい処置を
文政権に突きつけるのではないか。
          ──2017年6月9日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 ただ、トランプ政権は、この問題に関して、トーマス・シャノ
ン国務次官を6月13日〜15日に韓国に派遣したのです。その
交渉結果についても公表されていませんが、米韓首脳会談で話し
合われることになるはずです。
 米国の政府関係者は「文政権についてトランプ政権は愛想を尽
かしつつある」といい、次のように述べています。
─────────────────────────────
 韓国が北朝鮮制裁の「抜け穴」となるようであれば、トランプ
政権は看過できず、米韓関係は取り返しがつかないことになるだ
ろう。米韓関係が冷え込めば、在韓米軍関係者や韓国滞在の米国
人は脱出を急ぐ。これは、米軍による北朝鮮攻撃のハードルを一
気に下げるだろう。──2017年6月12日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 2は「韓国高官による問題発言」です。
 「THAAD配備トラブル」で米トランプ政権の怒りというか
緊張が伝わっているはずの文在寅大統領の外交・安全保障特別補
佐官/文正仁氏は、6月20日訪米し、そこでの発言が波紋を広
げています。韓国聯合ニュースの報道です。
─────────────────────────────
 韓国・聯合ニュースによると、朝鮮半島の南北統一と外交・安
全保障を担当している文正仁(ムン・ジョンイン)特別補佐官は
16日、ワシントンにおいて、北朝鮮が核開発や弾道ミサイルの
実験を中止すれば、韓国は米国と協議し、在韓米軍の戦略兵器の
削減や米韓合同軍事訓練の規模を縮小させてもいいと発言した。
 韓国大統領府は「文特別補佐官の個人的な見方による発言」だ
とし、政府の公式見解ではないとコメントしたが、文特別補佐官
の発言は米国の「核放棄が絶対的な前提条件」とする主張とは明
らかに食い違うものであり、韓国国内では米韓同盟の今後にマイ
ナス影響が生じることを懸念する声が上がっている。また、文特
別補佐官は米国通とされる人物ではあるが、「在韓米軍だろうと
韓国大統領だろうと、韓国の法律を上回ることはできない。もし
文在寅大統領が法を犯せば、弾劾の対象になり得る」と語るなど
問題発言をたびたび行っている。韓国の専門家の中には、こうし
た発言は米韓首脳会談を見込んだ高度な交渉戦略ではないかとの
見方もあるという。          http://bit.ly/2tUZBCd
─────────────────────────────
 この特別補佐官の発言は、個人的見解では済まないものであり
確信犯的発言です。上記の「米韓首脳会談を見込んだ高度な交渉
戦略」の可能性も十分あります。それほど、韓国の文政権は北朝
鮮一辺倒の政権なのです。
 この発言が原因で、米韓関係が崩れたとしたら、北朝鮮や中国
は、拍手喝采するでしよう。心配なのは、これによって、北朝鮮
への攻撃のハードルが一気に下がることです。米軍はソウルを気
にせず、一気に攻撃に移る可能性があります。
             ──[米中戦争の可能性/119]

≪画像および関連情報≫
 ●THAADに続いて文正仁大統領補佐官/冷めたワシントン
  ───────────────────────────
   首脳会談を10日後に控えて韓米関係が前例がないほどの
  異常気流に包まれている。核心は韓国新政権に対する米国の
  「不信感」だ。16日(現地時間)に文正仁(ムン・ジョン
  イン)大統領統一・外交・安保特別補佐官がワシントンでし
  た発言が大きな波紋を呼んだ。文特別補佐官は「文在寅(ム
  ン・ジェイン)大統領が2つのことを提案したが、一つは北
  が核・ミサイル活動を中断すれば米国との議論を通じて韓米
  合同軍事訓練を縮小できるということだ。私の考えでは、文
  大統領は韓半島(朝鮮半島)への米国の戦略武器展開を縮小
  することも念頭に置いている」と述べた。東アジア財団と、
  ウッドロー・ウィルソンセンターが共同で主催したセミナー
  でだ。セミナーでの発言後、文特別補佐官は特派員懇談会で
  文大統領の条件のない南北対話提案に対する米国の反対に言
  及しながら、「北が非核化しなければ対話をしないというの
  を我々がどのように受け入れるのか」とし「南北対話は朝米
  対話と条件を合わせる必要はない」とも述べた。
   米国の反応は冷たかった。国務省のエドワーズ報道官(東
  アジア・太平洋担当)は17日(現地時間)、文特別補佐官
  の発言に対する中央日報側の質問に「私たちはミスター文の
  個人の見解と見ている」とし「韓国政府の公式政策が反映さ
  れていないはずだ。韓国政府に確かめてほしい」と答えた。
                   http://bit.ly/2sXjQlH
  ───────────────────────────

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韓国/文在寅大統領
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2017年06月27日

●「外交関係八方塞がりの文在寅政権」(EJ第4550号)

 2017年6月20日のことです。韓国空軍キム・ソンドク広
報チーム長は、国防部の記者会見室で次の発表をしたのです。
─────────────────────────────
 米国の戦略爆撃機B1Bが2機、朝鮮半島上空で20日、韓
 国空軍と合同演習を計画している。韓国の防衛識別圏の南端
 に入り、済州島の南方、東海(日本海)側、西側を経由し、
 南下していく。韓国空軍のF15Kが2機、同時に合同演習
 を行う。朝鮮上空には約2〜3時間とどまる。
         ──韓国空軍キム・ソンドク広報チーム長
       朝鮮日報日本語版   http://bit.ly/2tW18Id
─────────────────────────────
 この発表は、グアム島のアンダーセン空軍基地を離陸したB1
B編隊が済州島付近で韓国の防空識別圏に入った直後に行われて
います。問題は、この米空軍B1B2機の出撃が何を意味するか
です。通常メディアには、非公開か、消極的公開(パッシブ)に
するのですが、今回米国側からは積極公開(アクティブ)の指示
があったので、とても詳しいのです。何のために、ここまで明ら
かにするのかというと、「脅し」の意味があるからです。
 B1Bは、最高速度マッハ1・25で飛ぶ爆撃機です。核兵器
削減条約の関係で現在は核を搭載していませんが、核を搭載する
ことは可能です。そのため、米軍がこの爆撃機を飛ばすときは、
何らかの「脅し」が目的のときが多いのです。
 もちろん脅しの対象は北朝鮮に決まっています。それもB1B
がグアムを発進したのは、北朝鮮のツアーに参加し、意識不明の
状態で帰国したオットー・ワームビア氏が死亡した数時間後のこ
とでなので、それに対する抗議の意味があるといわれています。
米国の怒りがその行動にあらわれています。
 もうひとつ、今回の場合は、韓国政府に対する米国の不満とい
う側面もあります。それは、昨日のEJ第4549号で述べたよ
うに、THAAD配備トラブル、韓国高官による問題発言、平昌
冬季五輪の北朝鮮合同開催など、何かと北朝鮮に配慮する韓国の
文在寅政権に対する米国の怒りがそこに結集しています。
 文在寅大統領は、5月10日の大統領就任式の演説で、次のよ
うにいっています。
─────────────────────────────
 必要なら、直ちにワシントンに飛んで行く。北京、東京にも
 行き、条件が整えば平壌にも行く。   ──文在寅大統領
─────────────────────────────
 しかし、文在寅大統領は、米国とも、中国とも、日本とも、そ
れに北朝鮮ともうまくいっていないのです。当初親北は抑制的と
いわれた文在寅大統領ですが、室谷克実氏の言葉通り、発言とは
裏腹に露骨な親北姿勢を見せつつあります。
 もし、文大統領がいうように、北朝鮮の馬息嶺スキー場で五輪
競技が行われれば、世界から観客が集まり、金生恩政権に貴重な
外貨収入をもたらし、国際社会が進める経済制裁が骨抜きになる
──こんなことをトランプ米政権が容認するはずがないことを文
在寅政権は、まるで考えていないようにみえます。
 文在寅政権がTHAADの設置を急に遅らせた理由のひとつに
中国からの法外な要求があるといわれています。これも朝鮮日報
日本語版の情報ですが、文在寅政権は、中国からTHAAD施設
の見学を要求されているというのです。
 THAAD施設は米国の軍事機密であり、見せられるわけがな
いのですが、中国は韓国を格下の国とみているので、こういう無
茶苦茶な要求を出してくるのです。本来であれば、即刻拒否すれ
ばよいのですが、韓国にはそれができないのです。
 昨年7月にTHAADの配備が決まってからというもの、中国
は「禁韓令」を連発し、中国のドラマや映画、バラエティー、広
告などから韓流スターが排除される動きが拡大しており、その対
象範囲は、化粧品や旅行にまでおよび、韓国経済は、大打撃を受
けているからです。そのため、THAADの本格配備を遅らせる
ことによって、時間稼ぎをしようとしているようにみえます。
 日本との関係もギクシャクしています。文在寅氏は、大統領選
公約に慰安婦合意の「無効化と再交渉」を掲げており、22日の
ロイター通信とのインタビューで次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本は慰安婦問題をはじめとする過去の歴史問題の解決に十分
な努力をしていない。確固たる反省と二度としないとの決意を示
すのが、関係発展への道である。    ──文在寅韓国大統領
─────────────────────────────
 これに対して、日本は外務省を通じて「日本の立場と異なる」
と抗議しています、
 北朝鮮にも韓国はいいようにあしらわれています。南北関係の
改善を目指し、民間団体の対北接触申請15件を承認したのです
が、そのうち1団体の訪朝を北朝鮮が拒否したのです。北朝鮮は
最初から韓国を相手にしておらず、米国との対話のみを強く求め
ています。なぜなら、米国との関係が改善すれば、日本や韓国と
の問題は自動的に改善すると思っているからです。
 このように文在寅政権は現在八方塞がりの状態です。しかも一
連の親北寄りの発言によって、同盟国である米国に強い懸念を持
たれている状態です。果たして、6月29日〜30日に予定され
ている米韓首脳会談がどうなるのか予断を許さない状況です。
 6月21日、北朝鮮は、ICBMとみられるミサイルエンジン
の燃焼実験を行っています。
─────────────────────────────
【ワシントン=共同】米FOXニュースは22日、複数の米政府
当局者の話として、北朝鮮が21日に弾道ミサイル用のロケット
エンジンの燃焼実験を行ったと報じた。ロイター通信によると、
大陸間弾道ミサイル(ICBM)向けの可能性があると米政府は
みている。     ──2017年6月23日/日本経済新聞
──────────── ──[米中戦争の可能性/120]

≪画像および関連情報≫
 ●韓国がTHAADを拒否するなら「日本移転」しかない!
  ───────────────────────────
   「文大統領は、最新鋭のTHAAD(サード=高高度防衛
  ミサイル)システムをいらないというつもりだろうか?彼は
  正気だと思うか?」
   文氏はTHAADについて大統領選挙キャンペーン前から
  「次の政権(文在寅政権)で再協議すべきだ」と威勢良く主
  張。4月に入り「北朝鮮が6回目の核実験を強行し、核によ
  る挑発を続け高度化するのなら、THAAD配備は避けられ
  なくなる」と、次第に歯切れが悪くなっていった。10日の
  大統領就任式では「米国に加え、配備に反発する中国とも真
  摯に話し合っていく」と就任早々無責任な言葉を口にした。
   中国は、自国の軍事動向が広範囲にのぞかれてしまうTH
  AADの配備に猛烈に反発し、事実上の対韓経済制裁に踏み
  切っている。在韓米軍防護の要でもあるTHAADを何とし
  ても存続させたい米国と中国の双方の顔を立てるなど不可能
  だ。米国が軍事同盟国だとの自覚に欠ける文氏の正体が、早
  くも鼻につき始めた。
   筆者は米軍関係者に答えた。「正気か否かは分からないが
  北朝鮮を信頼し、支持する気持ちは本気だ。ミサイルを無力
  化できるTHAADは北朝鮮にとって邪魔。愛する北に邪魔
  な兵器は、文政権にとっても邪魔なのだ」。
                   http://bit.ly/2rMECkz
  ───────────────────────────

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死の白鳥/B1B
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2017年06月28日

●「北朝鮮への米軍先制攻撃はないか」(EJ第4551号)

 6月21日、「米中安保対話」が行われましたが、双方が主張
をぶつけあっただけで終了しています。肝心の北朝鮮問題に関し
ては何の進展もなかったのです。対話の前日にトランプ大統領は
北朝鮮問題に対する中国の取り組みについて「うまくいっていな
い」とツイートで不満を表明しましたが、懸案問題の進展は一切
なかったのです。6月23日付、日本経済新聞はこれについて次
のように報道しています。
─────────────────────────────
 中国の反応は冷ややかだった。中国外務省の報道官は、22日
の記者会見で、「解決の鍵は中国にはない」と指摘。米国側が合
意したと発表した「国連決議で制裁対象になっている北朝鮮企業
との取引中止」も、中国側の発表には具体的な言及はない。米中
が明確に一致したのは朝鮮半島の非核化や国連決議の履行などだ
けで、従来と変わらない。南シナ海問題の議論も、平行線のまま
だった。     ──2017年6月23日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 中国はトランプ米政権の足元を見ています。どうせ米国はロシ
アゲート疑惑で北朝鮮どころではないと判断しているようです。
それに習近平主席がトランプ大統領に約束した100日にはまだ
日が半月残っています。
 どちらにせよ、ここまで述べてきているように、中国には北朝
鮮問題を解決する力はないのです。しかし、習近平政権としては
秋の共産党大会までは、「米国との安定した関係」の維持が絶対
必要なのです。だから、時間稼ぎをしているのです。
 このようなわけで、現状米国には武力で北朝鮮を叩く意思はな
いように見えます。それは、次の理由からいえることです。
─────────────────────────────
 1.トランプ大統領は、ロシアゲート疑惑への対処で北朝鮮
   どころではない。
 2.米空母カールビンソンもロナルド・レーガンも引き上げ
   日本海にいない
 3.米軍は韓国に在住する米国人家族に対して韓国脱出措置
   を取っていない。
 4.米国が先制攻撃を行えば、同盟国である韓国や日本に被
   害がおよぶこと。
─────────────────────────────
 「1」については、米国ウォッチャーが盛んにいっていますが
ロシアゲートでトランプ大統領が弾劾に追い込まれる可能性はき
わめて低いといえます。いや、逆にそれによってトランプ大統領
の支持率がさらに下がるとすれば、それこそ北朝鮮への先制攻撃
を行う動機になる可能性があります。
 「2」については、米軍は情報を出さなくなったので、どこに
いるか不明です。カールビンソンはサンディエゴの母港に戻って
いるという情報もあります。しかし、実際には、どこにいるかわ
からないのです。空母の位置は極秘だからです。
 そもそも空母は日本海にいる必要はなく、攻撃場所からかなり
離れた位置にいても攻撃は可能です。まして、ロナルド・レーガ
ンは、横須賀港が母港ですから、日本の近海にいるはずです。そ
れに空母ニミッツも朝鮮半島に向っているという情報もあったの
です。現在どこにいるかは不明です。
 「3」の韓国在住の米軍家族や一般米国人の韓国脱出措置です
が、これは何回も行われています。昨年の暮れから今年の1月に
かけて実施しています。これについては、ジャーナリストの桜木
美佐氏が、2017年3月28付、夕刊フジの自身のコラム「国
防最前線」に次のように書いています。
─────────────────────────────
 CNNによると、在韓米軍は今年1月、沖縄への家族脱出避難
訓練を実施し、60人が参加したという。これほどの本格的な訓
練は2010年以来で、訓練では生物テロから12時間身を守れ
る防護服の装着訓練が行われている。米兵の家族は常に避難用の
荷物をまとめておくことが奨励されているという。
        ──2017年3月28付、「夕刊フジ」より
─────────────────────────────
 実は、在韓米軍は、6月に入って、さらに家族脱出避難訓練を
行っているのです。「米軍による北朝鮮先制攻撃はない」とする
評論家が多いなかで、朝鮮情勢に詳しい辺真一氏だけは、米軍の
先制攻撃はありうると主張しています。彼は家族脱出避難訓練に
ついて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 駐韓米軍は現在、韓国に居住している米国人を国外に退避させ
る訓練を実施していることをフェイスブック通じて、明らかにし
た。訓練は6月5日から始まり9日まで実施される。
 駐韓米第8軍によると、訓練は朝鮮半島有事の際「旅券など書
類を持ってソウルの龍山基地など韓国全土に散在している集結場
所や退避統制所に集まる非戦闘員(米軍兵士の家族など民間人)
らを航空機や鉄道、船舶で安全に日本に退避させる」ことを目的
としている。各集結所では先月(5月17日)から有事時の行動
マニュアルや、行政手続きを説明する「非戦闘員救出作戦(NE
O)訓練」に関するブリーフィングが行われている。
                   http://bit.ly/2sEicVE
─────────────────────────────
 米軍は、これまで朝鮮有事に備えた訓練を行っていますが、あ
くまで国内への避難訓練であり、国外脱出訓練を行っていなかっ
たのです。しかし、トランプ政権になってからは国外に脱出する
訓練を行っています。それが6月に行われていることは重要な意
味を持っているといえます。
 「4」は米軍が一番頭を悩ませている問題です。しかし、韓国
の文在寅政権の出方しだいでは、先制攻撃の高いハードルを一挙
に下ろしかねないことになります。この問題は明日のEJで述べ
ます。          ──[米中戦争の可能性/121]

≪画像および関連情報≫
 ●米中安保対話/北朝鮮に時を稼がせるな/産経ニュース
  ───────────────────────────
   米中両国は初めての「外交・安全保障対話」を開いた。米
  側は北朝鮮の核・ミサイル開発阻止に向けて経済的、外交的
  圧力を強めるよう主張したものの、中国側は受け入れなかっ
  た。貿易や金融取引によって北朝鮮を経済的、軍事的に延命
  させているのは、中国である。圧力強化を先送りすればする
  ほど、北朝鮮には核・ミサイル戦力を強化する時間が与えら
  れる。それは、米中を含む関係国の安全が脅かされることを
  意味する。米中対話では「朝鮮半島の非核化」を目指す方針
  で一致したというが、そこに実効をもたらすには中国の行動
  が欠かせない。
   中国側は米国に対し、北朝鮮との直接対話を促した。だが
  現状のまま交渉に入っても核・ミサイル開発の放棄を引き出
  せるとは考えにくい。トランプ大統領は米中対話に先立ち、
  自身のツイッターで「結果が出ていない」と、中国の北朝鮮
  への影響力行使が不十分であるとの認識を示した。中国外務
  省報道官は「国際社会の責任ある一員」として、中国が建設
  的役割を果たしていると反論したが、説得力に乏しい。北朝
  鮮の軍事的暴発を抑止しつつ、金融制裁や石油禁輸の措置を
  講じなければならない。      http://bit.ly/2s9BO0p
  ───────────────────────────

米中外交・安全保障対話/2017.jpg
米中外交・安全保障対話/2017
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2017年06月29日

●「米の先制攻撃は本当に行われるか」(EJ第4552号)

 北朝鮮有事は、米軍が深く関与することになるので、米中戦争
の前哨戦になる可能性があります。北朝鮮との戦いに腕をこまね
いているようでは、米国は中国との戦争に勝つことなどとうてい
不可能です。今後の米国の対応について考えます。
 昨日のEJで「もはや米国による北朝鮮への先制攻撃はない」
とする理由を4つ上げましたが、4番目の理由を再現します。
─────────────────────────────
 4.米国が先制攻撃を行えば、同盟国である韓国や日本に被
   害がおよぶこと。
─────────────────────────────
 この4番目の理由──トランプ政権のマティス国防長官とティ
ラーソン国務長官は、この理由を上げて米国による先制攻撃は困
難であるとのメッセージを世界に発信しています。これによって
北朝鮮を含めて関係国に「米軍による先制攻撃はない」と思わせ
ています。果たしてこれは米国の本心なのでしょうか。
 5月のある日、香田洋二元自衛艦隊司令官がテレビ番組で「韓
国在住の米軍家族や米国人への避難の呼びかけはまだしていない
ようですが、米軍の北朝鮮への先制攻撃はあるでしょうか」と聞
かれ、次の趣旨のことを答えています。
─────────────────────────────
 先制攻撃というものは、誰もがそれを予想しないときに起きる
ものであり、一般人がそれを知るのは終わってからです。戦争と
いうのはそうしたものなのです。──香田洋二元自衛艦隊司令官
─────────────────────────────
 この北朝鮮問題ですが、将棋に例えると、局面は詰んでおり、
この問題の解決に米国のやるべきことはひとつしかないのです。
なぜ、詰んでいるのかというと、次の3つの事実があります。
─────────────────────────────
 1.北朝鮮は、どのような条件を出されても核兵器の開発を
   やめることはない。
 2.習近平政権には、北朝鮮に制裁などのコントロールする
   力を持っていない。
 3.北朝鮮が求める対話とは、北朝鮮を核保有国として認め
   させることにある。
─────────────────────────────
 「1」については、これまでの北朝鮮の核開発の歴史をみると
核放棄などあり得ないし、仮に北朝鮮が「核凍結」を約束したと
しても、絶対にそれを守らないことはわかっています。
 「2」については、ここまで述べてきた通り、北部戦区の北朝
鮮と国境を接する瀋陽地区は完全な親北朝鮮であり、中央の習近
平政権といえどもコントロールできないのです。したがって、ト
ランプ政権の要求には対応したくても実現困難です。米国はこの
事情を承知したうえで、中国に強くて効果的な制裁を迫っている
フシがあります。
 「3」については、米国は絶対に認めないと思います。もし、
これをやると、日本や韓国まで核兵器を保有する流れになり、日
米安保条約も機能しなくなり、アジアの安全保障に重大な影響を
もたらすことになるからです。
 そうであるとすると、米国は北朝鮮に何らかの直接的な攻撃を
加えて、核兵器開発ができないようにする──これしか有効な方
策はないことになります。問題は、米国が果して攻撃できるかど
うかです。現在、米軍は、先制攻撃に当たって、次の3つの前提
に立っているものと考えられます。
─────────────────────────────
 1.北朝鮮はミサイルは使えるが、核・ミサイルはまだ使え
   ない状況にあると米軍は考えている。
 2.米軍は約1時間の第1次攻撃で、ソウルへの若干の反撃
   に抑え込むことが可能と考えている。
 3.先制攻撃が始まると、北朝鮮はソウルへの反撃が精一杯
   で、日本攻撃の余裕はないと考える。
─────────────────────────────
 現在、北朝鮮は航空機に搭載できる核爆弾は所有していますが
ミサイルに搭載できる核弾頭は持っていないのです。もし、航空
機に核を搭載して出撃できても、米空軍はそれを確実に撃墜でき
る体制を敷いています。米軍の攻撃しだいでは、航空機が発進で
きるかも疑問です。
 それでは、いつ攻撃するかです。米国はレッドゾーンを設けて
いませんが、事実上次の2つがレッドゾーンです。
─────────────────────────────
      1.北朝鮮がICBMを発射したとき
      2.北朝鮮が6回目核実験実施のとき
─────────────────────────────
 実は、米軍は5月の時点で先制攻撃の手順をすべて詰め終わっ
ているといわれます。どのようにして米軍は北朝鮮を攻撃するの
でしょうか。
 そのヒントがあります。2017年5月18日付、日本経済新
聞にそれは出ています。
─────────────────────────────
  米、ミサイル300発で圧力/北朝鮮包囲網 ほぼ完成か
   ──2017年5月18日付、日本経済新聞/真相深層
                   編集委員/高坂哲郎
─────────────────────────────
 日本経済新聞といえば経済紙です。なかでも「真相深層」のコ
ラムは気鋭の編集者が書くコラムであり、読み応えがあります。
筆者は、編集委員の高坂哲郎氏です。高坂哲郎氏は、政治部時代
に防衛庁、外務省を担当したのち、防衛省の防衛研究所で安全保
障を学んだいわばその道のプロです。記事はその高坂哲郎氏の筆
によるものです。記事は内容豊富です。明日のEJはこのテーマ
の最終回ですが、高坂哲郎氏による米軍の先制攻撃についてご紹
介します。        ──[米中戦争の可能性/122]

≪画像および関連情報≫
 ●米国が北朝鮮を攻撃する「Xデー」はいつか
  ───────────────────────────
   米政府が今後さらに一歩踏み込むことを選ぶとしたら、最
  も可能性が高いのは、突然の、そして願わくは圧倒的な、北
  朝鮮の疑わしいミサイル・核兵器開発施設の爆撃である。し
  かし、これをもってしても北朝鮮が核兵器開発から完全に手
  を引くとは考えにくい。影響を与えられるとすれば、北朝鮮
  がディーゼル電気潜水艦に弾道ミサイルを搭載するというよ
  うな、より野心的な兵器開発に乗り出すことをとどまらせる
  くらいだ。
   米空軍兵が擁する最大と考えられている通常爆弾(3万ポ
  ンドのGBU−57「大型貫通爆弾」)は、こうした標的を
  念頭に置いて設計された。ジョージ・W・ブッシュ政権で主
  にイランの核開発施設を破壊するために開発され、その近辺
  にある米軍基地か、米国本土から出撃したB2ステルス爆撃
  機から投下される。
   通常のジェット航空機と異なり、B2は、おそらく極東ア
  ジア地域に配備されているより新型のF−22ラプター、ま
  た、より新型のF−35統合打撃戦闘機とともに、北朝鮮の
  空域に探知されずに侵入できる。今のところ、米国が北朝鮮
  を攻撃していない理由は、米国がイランを攻撃しなかった理
  由と同じだ。すべての施設を破壊できるかどうかがわからな
  い一方、考えられる報復は破壊的なものになると多くの専門
  家は考えている。         http://bit.ly/2rSDBHx
  ───────────────────────────

北朝鮮はミサイル攻撃できるか.jpg
北朝鮮はミサイル攻撃できるか
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2017年06月30日

●「米国は必ず北朝鮮を奇襲攻撃する」(EJ第4553号)

 核兵器を持つ国を攻撃するのはリスクがある──現在の北朝鮮
に対する米軍の対応を見ているとそれを感じます。しかし、北朝
鮮は、ミサイルの技術は高度化しつつあるものの、ミサイルに搭
載できる核の小型化に関してはまだ成功していないと米国は考え
ています。しかし、それは時間の問題です。
 したがって、米国としては北朝鮮の暴走を止めるには、今しか
ないと判断しています。今こそ核爆弾を際限なく量産する北朝鮮
の核計画を潰す最後のチャンスだと考えているわけです。
 北朝鮮は「地下要塞都市」といわれます。ある北朝鮮の高官は
地下要塞について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 北朝鮮は金日成の時代から第2次朝鮮戟争を想定して、地下空
間の要塞化を進めてきた。平壌にミサイルが飛来するような状況
になった時点で、金正恩と腹心は地下に潜る。とりわけ、平壌市
の中心から北東へ15キロメートルほど、国土峰という山の地下
に造成された『鉄峰閣』と呼ばれる野戦指令所は、最高幹部の執
務室を備えており、金正恩はここから戦闘の総指揮を取る。
        ──『週刊現代』/2017年6月10日より
─────────────────────────────
 米軍は、これまで何回も北朝鮮攻撃計画を検討しており、北朝
鮮についての情報は詳細に掴んでいます。そもそも毎年3月と8
月に行われる米韓合同軍事演習は、北朝鮮の田植えと収穫の時期
に合わせて毎年行われるのです。
 米韓合同軍事演習が行われると、北朝鮮としてはいつ攻められ
るかわからないので、兵器や兵力を配置するなど、それなりの対
応をしなければならないのです。北朝鮮では、兵士は農繁期に欠
かせないマンパワーであり、もし田植えの時期が遅れると、秋の
食糧危機を招きかねないのです。そのため米韓合同軍事演習は、
北朝鮮への兵糧攻めの意味もあるのです。
 それでは、北朝鮮への米軍の奇襲攻撃はどのように行われるの
でしょうか。日本経済新聞編集委員の高坂哲郎氏のレポートには
次のようにあります。
─────────────────────────────
 核実験場やウラン濃縮施設、弾道ミサイルの移動式発射台を隠
したトンネルなどに向け、米軍は巡航ミサイルを撃ち込む。その
数は推定300発。シリア攻撃の5倍の規模になる。
 米軍は海軍に加え、米本土や在日米軍基地から戦略爆撃機を飛
ばした空爆も視野に入れる。アフガニスタンの過激派組織「イス
ラム国」(IS)のトンネルを破壊した大規模爆風爆弾(MOA
B)など、北朝鮮の地下施設を無力化できる特殊な爆弾を平壌北
部にある北朝鮮司令部の破壊に使う可能性もある。金正恩氏はこ
こで有事の指揮をとるとされる。       ──高坂哲郎氏
      2017年5月18日付、日本経済新聞/真相深層
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 この攻撃がどんなにすさまじいものか、現代戦を経験した軍人
にしかわからないと思います。何の予告もなく、おそらく夜間に
いきなり、300発ものミサイルが、連続して撃ち込まれるので
す。それと同時に、レーダーが把握できない戦略爆撃機が次々と
飛来し、間断なく爆撃が行われます。
 地下要塞に関して米軍はどこに換気施設があるのかについても
既に正確に把握しており、爆撃はそれらに照準を絞って行われま
す。これでは幹部は、地下空間に潜んでいられなくなります。
 それでも北朝鮮は反撃してくるはずです。なかでも威力がある
のは、数千発ともいわれる長距離砲やロケット弾による一斉攻撃
です。これについて、高坂レポートは次のように書いています。
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 米軍の攻撃に反撃し、北朝鮮軍は韓国の首都ソウル一帯に数千
発の長距離砲やロケット弾を撃ち込む可能性がある。一方、米韓
合同軍は北側の発射地点をレーダーで瞬時に割り出し、戦闘攻撃
機や無人機で破壊を始める。その部隊は今春の米韓合同軍事演習
への参加の名目ですでに現地にいる。北朝鮮の火砲は自走できな
い旧式が多い。米韓軍に遅かれ早かれ破壊され、北朝鮮の砲撃は
長く続かないというのが専門家の見立てだ。  ──高坂哲郎氏
      2017年5月18日付、日本経済新聞/真相深層
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 上記のような攻撃後、米軍特殊部隊は空から北朝鮮に上陸し、
重要な仕上げを行うことになります。これについて、軍事評論家
の黒井文太郎氏は次のように述べています。
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 上陸後に米軍が真っ先に行うのは、核・ミサイルを押さえるこ
と。特殊部隊を投入し、所在の判明している核兵器をすべて破壊
する。その場にいる人間を尋問したり、コンピュータネットワー
クの情報を解析したりして、他の施設にあるものも虱潰しに破壊
していくでしょう。      ──軍事評論家/黒井文太郎氏
      2017年5月18日付、日本経済新聞/真相深層
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 問題は米軍が北朝鮮に奇襲作戦を行った場合、長年北朝鮮の後
ろ盾になっていた中国はどうするでしょうか。これに関しては、
条件付きで、トランプ米大統領と習近平国家主席との間で話し合
いができているはずです。秋の共産党大会前の攻撃には反対する
でしょうが、ここでは米国とことを構えたくないはずです。
 問題は攻撃の時期です。一番可能性のあるのは8月の米韓合同
軍事演習の時期です。この場合、奇襲攻撃は韓国と共同ではなく
米国単独で行われると思います。韓国の政権が文在寅政権になっ
ているためです。米国は親北政策をとる韓国とは距離を置くはず
です。そういう意味で、29日〜30日に行われている米韓首脳
会談がどういう結果で終わるのか注目されます。
 1月から6ヶ月かけて書いてきた今回のテーマは今回が最終回
です。長い間にわたるご愛読を感謝したします。
         ──[米中戦争の可能性/123/最終回]

≪画像および関連情報≫
 ●米中戦争勃発の可能性は「16分の12」だ!
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   2015年9月、米国のバラク・オバマ大統領が、訪米し
  た中国の習近平・国家主席と会談した。この会談の席で、ほ
  ぼ確実に話題にならなかったことがひとつつある。その話題
  とは、「10年以内に米中戦争が勃発する可能性がある」と
  いうものだ。
   両国の首脳陣にとって、米中の武力衝突など起こりえない
  話なのだろう。また、米中の指導者たちには、「戦争を起こ
  すほど自分たちは愚かではない」と考えている節がある。
   だが、人類はこれまでとんでもない愚行を何度も犯してき
  た。100年前の第一次世界大戦を振り返ってみるといい。
  あなたが「米中戦争など起こりえない」と言うとき、それは
  「米中戦争が起きる可能性はゼロだ」と言っているのだろう
  か。それとも、「米中戦争が起きる状況を自分は思い描けな
  い」と言っているだけなのだろうか。
   1914年の時点で、まもなく「世界大戦」という未曾有
  の大戦争が起こり、想像を絶する数の人が死ぬと予見できた
  人は、ほとんどいなかった。だが、その4年後、第一次世界
  大戦が終わったとき、ヨーロッパは荒廃し果てていた。ドイ
  ツからは皇帝がいなくなり、オーストリア/ハンガリー帝国
  は解体され、ロシア皇帝はボリシェヴィキによって打倒され
  フランスは一世代分の国民を失い、英国からは若者と富が奪
  われた。             http://bit.ly/2sLKhdG
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米海軍の誇る空母カールビンソン.jpg
米海軍の誇る空母カールビンソン
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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