2017年01月04日

●「トゥキュディデスの罠の意味探る」(EJ第4431号)

2017年最初のEJです。今年もよろしくお願いします。
 中国の習近平国家主席は、国営中央テレビを通じて、国民への
新年のメッセージとして、強い口調で次のように述べています。
─────────────────────────────
 我々は、領土主権と海洋権益を断固として守り抜く。この問題
で言いがかりをつけることを、中国人民は決して認めない。
          ──2017年1月1日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 習国家主席のこの発言は、明らかにトランプ次期米大統領の発
言を意識しています。トランプ氏は、大統領選挙中、選挙後を通
じて、台湾や南シナ海をめぐる問題で中国を揺さぶる発言を繰り
返しているからです。習国家主席はこれを「言いがかり」と表現
しているのです。
 そういうこともあって、今年のキーワードのひとつは「中国」
の動向です。中国の動きによって、世界に大変化をもたらす可能
性があるからです。最悪のシナリオとしては、戦争だって起きか
ねないのです。
 最近の日本における中国の報道については、かなりネガティブ
なものが多くなっているように感じます。経済の深刻な落ち込み
と南シナ海をめぐるオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所の裁定、
国内の権力抗争の激化などです。
 しかし、まさか中国が戦争を起こすとは考えにくいとする人は
多いと思います。これに関して、カルフォルニア大学教授のピー
ター・ナヴァロ氏が上梓した『米中もし戦わば』(文藝春秋)と
いう新刊書があります。いまこの本が売れているのです。
 このピーター・ナヴァロ氏は、大統領選挙中に政策顧問として
トランプ氏のアドバイザーを務めており、トランプ氏の通商政策
に影響を与えています。ナヴァロ氏は、他にも中国の政策を強く
批判する著書『中国は世界に復讐する』、『中国による死』も書
いている中国批判派の論客です。トランプ氏は、ホワイトハウス
内に「国家通商会議」を新設し、ナヴァロ氏を議長に指名すると
発表しています。
 ナヴァロ氏の著書『米中もし戦わば』(文藝春秋)の冒頭に次
の問題が出ています。
─────────────────────────────
【問題】歴史上の事例に鑑みて、新興勢力=中国と既成の超大国
=アメリカとの間に戦争が起きる可能性を選べ。
  「1」 非常に高い
  「2」ほとんどない
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この問題はどちらが正しいと思いますか。
 結論から先にいうなら、実は「1」の「非常に高い」が正解な
のです。これには歴史的な根拠があります。それは、2015年
9月の習国家主席の米国訪問のとき、オバマ大統領が引用したと
いわれる次の有名な言葉です。これは、紀元前五世紀のペロポネ
ソス戦争に由来する言葉です。
─────────────────────────────
         トゥキュディデスの罠
─────────────────────────────
 トゥキュディデスというのは、古代アテネの歴史家で、『ペロ
ポネソス戦争史』を著した歴史家です。ペロポネソス戦争とは、
紀元前431年〜紀元前404年の約30年の間、アテネを中心
とするデロス同盟とスパルタを中心するペロポネソス同盟との間
に発生した古代ギリシア世界全域を巻き込んだ戦争です。
 紀元前5世紀には、スパルタが現在の米国と同じように強大な
覇権国家だったのです。それに挑むように当時の文明をリードす
る存在になりつつあったのがアテネです。これについてハーバー
ド大学の政治学者であるグラハム・アリソン氏は、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 この劇的な(アテネの)勃興にスパルタはショックを受け、為
政者たちは恐怖心から対抗策を取ろうとした。威嚇が威嚇を呼び
競争から対立が生まれ、それがついに衝突へと発展した。30年
に及ぶペロポネソス戦争の末、両国はともに荒廃した。
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 ナヴァロ氏は、1500年以降、中国のような新興勢力が既存
の大国に対峙した15例のうち11例が戦争に発展したことを指
摘しています。つまり、70%以上の確率で実際に戦争がおきて
いるのです。まして現在中国のリーダーである習近平主席は、日
頃から「私は中国のゴルバチョフにはならない」と言明し、現在
の共産党政権による独裁の目的も、中国の発展や人民の幸福にあ
るのではなく、あくまで自分を核とする共産党体制を守ることに
置かれているようです。それだけに、武力による現状変更を強引
に行い、戦争に突き進む恐れは十分にあります。
 もうひとつ中国にとってリスクが大きいのは、経済の低迷であ
り、その解決のメドが立たないことです。もし、ハードランディ
ング必至ということになると、国民の不満が一挙に共産党に向う
恐れがあり、その国民の不満を外に反らすため、戦争に突入する
可能性はゼロではないといえます。
 そこで、今年の第1のテーマは、テーマとしてはきわめて難し
く、大きなテーマですが、次のようにします。明日から、書いて
いきます。
─────────────────────────────
     『米中戦争の可能性は本当にあるのか』     
      ─ そのとき日本はどうするか ─
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/001]

≪画像および関連情報≫
 ●ペロポネソス戦争/「世界史の窓」
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   前431年〜404年の27年間にわたって続いた、ギリ
  シアの代表的ポリスであるアテネとスパルタの対立を主軸と
  する戦争。ペロポネソスはその戦場となったギリシアの本土
  であるが、戦闘はエーゲ海上から遠くシチリア島まで及んで
  いる。アテネはデロス同盟の盟主として全ギリシアから東地
  中海一帯の海上までその支配を拡大したが、それに反発した
  スパルタはペロポネソス同盟を結成してそれに抵抗しようと
  した。この二つのポリスは、アテネが典型的な民主政を発展
  させたポリスであったのに対し、それに対してスパルタは貴
  族政(寡頭政)のもとで、貴族の中から王を選び、少数の貴
  族階級が多くの半自由民(ペリオイコイ)と奴隷(ヘイロー
  タイ)を抑えるために軍国主義を採っているというように、
  国家体制に大きな違いがあった。
   ペロポネソス戦争の歴史については、アテネの市民トゥキ
  ディデスの『戦史』に詳細に記録されている。トゥキディデ
  スは富裕なアテネの市民であり、また一時は将軍として出征
  したが、作戦に失敗して追放され、所有するトラキアに鉱山
  に隠棲して戦争の推移を見守り、叙述を続けた。その特徴は
  後半に史料を集めながら、厳しい史料批判を行い、客観的な
  事実を究明しながら、この未曾有の戦争の原因と経過を論述
  しようとしている点である。    http://bit.ly/2ir9yCW
  ───────────────────────────

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ピーター・ナヴァロ教授
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2017年01月05日

●「ミアシャイマー教授の3つの仮定」(EJ第4432号)

 なぜ、既存の覇権国家と新興国家の間では、なぜ戦争が起きる
のでしょうか。
 これについて、シカゴ大学のミアシャイマー教授は、有名な次
の自著のなかで、説得力のある理論を展開しています。
─────────────────────────────
       ジョン・J・ミアシャイマー著/奥山真司訳
  『大国政治の悲劇/米中は必ず衝突する!』/五月書房
─────────────────────────────
 ミアシャイマー教授は、覇権国家と新興国家の間で戦争が起き
る理由について、次の3つの仮定を立てています。
─────────────────────────────
   1.世界には国家を取り締まる組織は存在しない
   2.すべての国家は戦争のための兵器を増強する
   3.他国の真意を知るのはほとんど不可能である
─────────────────────────────
 「1」の仮定について考えます。
 国内で不当に誰かから攻撃を受ければ、国家権力の組織である
警察が出動します。そうであるからこそ、多くの場合は、その抑
止力で攻撃を受けないで済んでいるともいえます。
 しかし、国家がどこか別の国家から不当に攻撃された場合には
基本的にはその持っていきどころがないのです。国連があるじゃ
ないかという人もいますが、5つの常任理事国がその理念にもか
かわらず、それぞれ国益で動くので、国家を取り締まる「世界の
警察」として機能していないのです。つまり、無政府状態である
といえます。米国は世界の警察であるといいますが、米国も自ら
の国益で動くので、世界の警察であるはずがなく、当然のことな
がら、米国はそのような義務も負っていないのです。
 「2」の仮定について考えます。
 「1」で述べたように、世界体制は無政府状態なので、すべて
の国家は、武装──戦争のための兵器を増強します。基本的には
自衛のためです。しかし、ときとして、危険な拡大スパイラルが
起きるのです。いわゆる軍拡競争です。ミアシャイマー教授は、
これを「安全保障のジレンマ」と呼んでいます。それは、次のよ
うな意味です。
─────────────────────────────
 安全保障のジレンマとは、他国に対する脅威を感じた結果とし
て行われる軍拡ないし同盟強化の対応が、その当該他国の自国へ
の脅威認識を高め、結果としてさらに当該他国の軍拡ないし同盟
の強化をもたらす。防衛のための軍拡ないし同盟強化は他国への
脅威になることから、負の連鎖として軍拡競争や同盟強化競争が
続くこと。              http://bit.ly/2i1jRwB
─────────────────────────────
 「3」の仮定について考えます。
 現在、中国は驚くべきペースで軍備を拡張しています。かつて
の驚異的経済成長で得た富を軍事費に注ぎ込んでいるのです。ま
るでどこかの国との戦争を急いでいるようです。その意図は世界
の誰にもわからないのです。これについて、ミアシャイマー教授
は次のように述べています。
─────────────────────────────
 米中の今後の行動を正しく予測するためには、「取り締まる者
のいない世界には、できる限り強大な国になりたいという強い動
機が存在するのだ」と理解することが必要だ。その理由は、台頭
する他国が自国に悪意を持っていないかどうか、どの国も決して
確信が持てないからだ。だから、近隣に非常に強大で敵意を持っ
た国があれば(ドイツ帝国やナチス・ドイツや大日本帝国などを
想像してみるといい)、各国はそれよりも遥かに強大なカを貯え
て安心したいと思うようになる。相手が荒っばい振る舞いに出て
も、国家以上の権威を持った存在が助けに来てくれるわけではな
いのだから。したがって、取り締まる者のいない世界体制の中で
安全を保障する最良の方法は、その地域の覇権国家になり優位に
立つことで、どこからも攻撃されないようにすることなのだ。
       ──ジョン・J・ミアシャイマー著/奥山真司訳
    『大国政治の悲劇/米中は必ず衝突する!』/五月書房
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 中国はアジアの覇権国家になることを目指し、軍事大国になろ
うとしています。なぜ、そうするのかといえば、アジアで軍事大
国になれば、どこからも攻撃を加えられることはないからです。
また、その軍事大国になる仮定において、少々荒っぽいことをし
ても、その軍事力を恐れて、正面切って中国を非難できないと考
えているようです。それは、南シナ海の人工島の建設や、わが国
の固有の領土である尖閣諸島への度重なる傍若無人な領海侵犯に
よくあらわれています。
 しかし、戦争というものは、為政者の判断ミスや偶発的な事件
によって起こされるのです。中国の軍事力拡大や他国への領海侵
犯、仲裁裁判所の裁定に反する人工島の建設などによって関係国
間に緊張が高まるなかにおいて、ちょっとした偶発事件によって
戦争に発展するのです。ちょうど、オーストリア皇太子フランツ
・フェルディナントの暗殺事件がきっかけになって、第1次世界
大戦が起きたようにです。したがって、戦争はいつ起きても不思
議ではないのです。
 中国の意図を知るには、現在の中国のことをわれわれはもっと
知る必要があります。習近平国家主席という人物はどのような政
治家なのか、中国共産党内部の権力闘争はどうなっているのか、
中国の経済の状況は本当のところ、どのような状態なのか、知る
べきことはたくさんあります。
 これらについては、連載を進めながら、専門家の情報も参考に
しながら、丁寧に探っていきたいと考えています。
             ──[米中戦争の可能性/002]

≪画像および関連情報≫
 ●e─論壇/百花斉放
  ───────────────────────────
   ジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授は12月11日
  来日し、日本国際フォーラム、明治大学、西シドニー大学お
  よび、グローバル・フォーラム共催の日・アジア太平洋対話
  「パワー・トランジションの中のアジア太平洋:何極の時代
  なのか」を皮切りに、同志社大学、NSC、外務省、防衛省
  東京財団フォーラムでの討論後、日本国際フォーラムの「外
  交円卓懇談会」で活発な意見交換後、12月20日に離日し
  た。その強烈な個性と「攻撃的現実主義」と呼ばれるリアリ
  ズムで日本を揺さぶったが、国際摩擦を強める中国に対し、
  理論面から日米同盟の強化を主張する点で、極めて有意義だ
  った。伊藤剛明治大学教授と共に、教授の招聘を主導した小
  生としては、大きな満足であった。
   ミアシャイマー教授の理論は、国際システムの基本につい
  て(1)国際政治システムは、国家を構成要素とするアナキ
  ーである、(2)全ての国家は攻撃的軍事力を持つ、(3)
  国家は他国の意図(特に将来の意図)を知ることができない
  (4)国家は生存のため覇権を目指すの4点を指摘する。だ
  が、国家にとって直ちに世界覇権を獲得することは無理なの
  で、とりあえずは地域覇権の獲得を目指す。地域覇権を獲得
  すると、国家は、その地域での行動の自由を確保し、他の地
  域にも干渉し、そこでの覇権国の出現を防ぐものとされる。
                   http://bit.ly/2iYSGqa
  ───────────────────────────

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ミアシャイマー/シカゴ大学教授
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2017年01月06日

●「習近平国家主席とはどんな人物か」(EJ第4433号)

 2017年1月3日付、朝日新聞のトップ記事として、中国に
関する次の記事が掲載されています。
─────────────────────────────
 ◎中国、腐敗摘発へ新機関/政府と同格 全公務員を対象
  中国の習近平指導部が、すべての公務員の腐敗行為を取り
 締まる新たな国家機関「国家監察委員会」を2018年3月
 に創設する方針であることがわかった。内情を知る共産党関
 係者が明らかにした。国務院(政府)などと同格で、各省庁
 や地方政府を厳しく監視する。習氏が進める反腐敗政策の集
 大成ともいえる組織で、習氏への権力集中が一層強まる可能
 性がある。     ──2017年1月3日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 この国家監察委員会は、これまで共産党員の規律違反や腐敗行
為を摘発してきた党中央規律検査委員会の書記で、習国家主席の
盟友といわれる王岐山氏の去就と関係があります。
 王岐山氏は、今年69歳であり、「68歳定年」の慣例により
本来なら引退することになります。そこでより強力な監察機能を
持つ国家監察委員会を来春新設し、そのトップに王岐山氏を就任
させることによって、盟友の温存を図る画策ではないかといわれ
ているのです。いずれにせよ、習政権に逆らう者は、ことごとく
排除する体制の構築といえます。
 ところで、この習近平国家主席とはどのような人物なのでしょ
うか。その人物像は、中国専門のジャーナリストによっても、そ
れぞれ大きく異なるのです。
─────────────────────────────
 1.習近平は非常に優れた為政者で大衆に人気があり、力強い
   リーダーシップの持ち主である。
 2.習近平はロシアのプーチンタイプの実力者であり、ケ小平
   に次ぐ共産党の中興の祖になる。
 3.習近平は歴代指導者の中で最弱の“皇帝”で、党内の信頼
   も低く、党中央で孤立している。
 4.習近平は独裁者であり、第2の毛沢東を目指しプチ文革を
   起こそうとする危険人物である。
─────────────────────────────
 このように、習国家主席の印象は、中国をよく知る人によって
もこのように大きく異なるのです。つまり、人によって評価は大
きく分かれるのです。
 中国に詳しいジャーナリストの一人に福島香織氏がいます。テ
レビにもよく登場するので、知っている人は多いと思いますが、
福島氏は産経新聞社に入社し、1998年に上海・復旦大学に語
学入学し、2001年には香港支局長になり、2002年春から
2008年秋まで、中国総局特派員として北京に駐在するという
ベテランの中国通のジャーナリストです。
 福島氏は、2009年11月に産経新聞社を退社し、フリー記
者として中国を取材し、中国に関する多くの著書を上梓しており
私はその何冊かは読んでいます。福島氏は、最新刊書で、習近平
主席のイメージを次のように表現しています。
─────────────────────────────
 私個人の印象としては、今までの習近平の内政、外交における
言動、その生い立ちや周辺からの人物評を総合すると、小心の用
心深く周囲の人間に対する信頼感が薄く、自分の地位を安定させ
るための強い権力を求めつづけて満足しない独裁志向の極めて強
い人物というふうに映る。その独裁の目的は、中国の発展や人民
の幸福というところにはなく、自分を核心とする共産党体制を守
る、自分の権力地位を守る、という一点にある。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 「チャイナ・リスク」というと、経済崩壊、軍事的脅威、社会
動乱などが頭に浮かびますが、福島氏は「習近平政権自身がチャ
イナ・リスクそのもの」であるといっています。それは、この政
権が、かつての胡錦濤政権や江沢民政権とは、明らかに質の違う
危うさをはらんでいるからである──このように、福島香織氏は
いっているのです。
 少なくとも、現在の習近平政権は、前の胡錦濤政権とは大きく
異なるのです。胡錦濤前主席は共産党一党支配の限界というもの
をよく認識していたのです。北京五輪の終わった後の2008年
12月18日、第11期党中央委員会第3回全体会議30周年記
念日に胡錦濤前主席は次のように指摘しています。
─────────────────────────────
 私は次のような深い認識に至った。党の先進性も党の執政地位
も一度苦労して手に入れたあとは永遠に続く、というものではな
い。永遠に変化しないというものでもない。過去の先進性と現在
の先進性の意味は同じではない。現在の先進性は永遠の先進性で
はない。・・・党は人民と歴史が付与した重大な使命を受け止め
新しい状況の問題に対処するため自らを建設するためにまじめに
研究せねばならない、改革発展を指導する中でつねに自己を認識
し、自己を強化し、自己を高めねばならないのである。
                ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 胡錦濤前主席は、共産党体制が危機的状況にあることを深刻に
認識し、政治改革に取り組まなければならないと訴えています。
中国共産党指導者が対外的にこのようなことを発言したのは、初
めてのことであり、それだけ現実認識力が高かったのですが、中
国国内ではそれは「弱さ」に映ったのです。しかも、その肝心の
政治改革をやり遂げる力は、胡錦濤前主席にはなかったのです。
 本当は、2008年の北京五輪は、中国が責任ある大国として
民主・法治国家として生まれ変わるチャンスだったのですが、そ
れを胡錦濤政権は、実現することはできなかったのです。
             ──[米中戦争の可能性/003]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平とは何者なのか/ニューズ・ウィーク
  ───────────────────────────
   本誌2011年1月19日号にも書いたが、ウィキリーク
  スが年末に公表したアメリカ国務省の外交公電に、中国次期
  トップ習近平の知られざる素顔を暴く証言が含まれていた。
  「無骨な田舎者」「ビジネス感覚に長けたリーダー」「外国
  を敵視する危ない人物」――人となりを示す情報やエピソー
  ドが少なすぎるせいで、これまで習の素顔をめぐってはチャ
  イナウォッチャーの間でさまざまな憶測が飛び交っていたが
  この証言は論争に終止符を打つかもしれない。それぐらい重
  要な中身が含まれている。
   公電は駐北京アメリカ大使館から09年11月に発信され
  た。情報源は、アメリカ在住の中国人学者だ。在米中国人の
  情報が北京を経由し、地球を半周して国務省に戻った理由は
  定かでないが、そういった不可解さを差し引いても、この学
  者が語る内容は具体的で生き生きとした習近平のエピソード
  にあふれている。公電によれば、学者は習と同じ1953年
  に生まれた。習近平と同じく、父親は新中国の建国に貢献し
  た革命第1世代で、毛沢東の出身地である湖南省の別の村で
  生まれ、初期から中国革命に参加した。学者の説明によれば
  父親は「同時に日本と香港でも生活。労働運動のリーダーと
  して次第に頭角を現し、49年に中国に戻ったあと、初代労
  働部長(大臣)に就任した」のだという。
                   http://bit.ly/2j3NOjN
  ───────────────────────────

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習近平国家主席
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2017年01月10日

●「中国の『屈辱の100年間』とは」(EJ第4434号)

 ピーター・ナヴァロ氏の『米中もし戦わば』(文藝春秋)に出
ている2つ目の問題を引用します。
─────────────────────────────
【問題】過去200年間に中国を侵略した国を選べ。
  「1」フランス
  「2」ドイツ
  「3」イギリス
  「4」日本
  「5」ロシア
  「6」アメリカ
  「7」1〜6のすべて
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この正解は「7」の「1〜6のすべて」です。つまり、当時の
先進6ヶ国のすべてが、中国を侵略しているのです。その中国侵
略は、次の100年に及んでいます。
─────────────────────────────
     イギリスによるアヘン戦争/1839年
           日中戦争終結/1945年
─────────────────────────────
 アヘン戦争の1839年以前は、清(現在の中国)は、アジア
に君臨する大国だったのです。東南アジアのビルマ(現在のヤン
マー)やベトナム、西アジアのネパール、東アジアの朝鮮は、中
国に定期的に貢物を持って行く従属国だったのです。
 清は1683年までに台湾を征服し、太平洋に出る重要な通路
を確保しています。しかし、1839年にアヘンの密輸が原因で
アヘン戦争が起こり、イギリスの強力な海軍によって、香港と九
竜半島に加えて、すべての主要な港の支配権を割譲させられてい
ます。中国が味わったこの「屈辱の100年間」は、ここからス
タートしているのです。
 その後、大英帝国は、中国の支配下にあったネパールを奪い、
ビルマを植民地化しています。また、帝政ロシアは、中国東北部
の領土と、戦略上重要な日本海への通路を武力で脅し取っていま
す。さらにフランスは、台湾の海上封鎖によって、中国にベトナ
ム北部の支配を委譲させています。まさにやりたい放題です。
 1894年には朝鮮半島をめぐる問題で日清戦争が起こり、日
本はこの戦争に勝利して朝鮮半島の事実上の支配権を握り、この
とき台湾を戦利品として奪っています。さらに30年以上先の話
ですが、日本は満州を占領し、1932年に満州国を樹立してい
ます。1940年までに日本の占領は、東部の大半と中国の主要
な港すべてに及んだのです。
 1900年になる直前に「義和団事件」が起こります。これは
占領した外国人──とくに外国人の宣教師の横暴残虐な振る舞い
に反発した中国人が蜂起した事件です。これに関し、列強8ヶ国
は2万人規模の連合軍を組み、徹底的に弾圧したのです。義和団
事件について、「世界史講義録」から引用します。
─────────────────────────────
 1860年の北京条約で、キリスト教の布教が自由になって外
国人宣教師が奥地に入るようになると、治外法権を利用した横暴
なふるまいによって中国民衆との紛争が頻発するようになりまし
た。山東省では、1890年代末から、大刀会や義和拳という武
術を習う人々を中心として宣教師や教会を襲撃する仇教(反キリ
スト教)運動が活発化しました。
 彼らは義和団と呼ばれ、1899年頃から参加者と規模を拡大
し、「扶清滅洋(清を助けて西洋を滅ぼす)」を唱える大規模な
武装排外運動に発展しました。1900年には鉄道、電信の破壊
闘争を行ない、天津と北京を占拠。北京では公使館地区を包囲し
ました。清朝政府は当初列強の要請を受け、義和団鎮圧に当たっ
ていましたが、1900年6月、運動の盛り上がりを見て、義和
団とともに外国勢力を排除することに方向転換し、列国に宣戦布
告をしました。これに対し、日・露・英・米・仏・独・伊・墺の
8ヶ国は共同出兵し、2万の兵を送り込みました。連合軍は7月
に天津、8月には北京を占領し、清朝は降伏、徒手空拳で果敢に
戦った義和団も鎮圧されました。清朝は、翌1901年の北京議
定書で北京への外国軍の駐屯、賠償金4億5千万両などを受け入
れ、半植民地化は一層進行しました。  http://bit.ly/2iGKTwH
─────────────────────────────
 中国にとって、この屈辱の100年間は、まさに悪夢だったと
思います。こんなに長い間、苦しめられたのだから、中国が軍事
力を増強し、かつての列強に思い知らせるという思いになるのは
わかるような気がします。しかし、現代は「力には力を」という
考え方で、軍拡競争を行うのは間違っています。
 中国は経済が急成長したので、ここにきて多くの問題点が噴出
しています。共産党の一党支配には限界があるのです。胡錦濤政
権がやり残した経済改革と政治改革にこそ手をつけるべきです。
しかし、習近平政権は真っ先に軍制改革に手をつけ、どちらかと
いうと、毛沢東路線に回帰しようとしています。これに対して、
福島香織氏は次のように疑問を投げかけています。
─────────────────────────────
 しかし、毛沢東やケ小平時代の軍権に頼った強人政治の復活に
は、かなりの実力がいる。毛沢東もケ小平も革命戦争で実戦を積
み、激しい権力闘争を勝ち抜き、人心を掌握し、権謀術数を駆使
してどん底の中国をまがりなりにも導いてきた。その人間性の是
非はともかく、天才戦略家であり天才政治家である。習近平に、
そういった強人政治家としての戦略性、実力、人望があるのだろ
うか。     ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/004]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平率いる中華帝国の野望を読み解く/近藤大介氏
  ───────────────────────────
   中国の「新皇帝」となった習近平は、21世紀の東アジア
  に「パックス・チャイナ」を創ろうとしている――。27年
  にわたって中国問題をウォッチし続けてきたジャーナリスト
  の近藤大介氏が、中国の要人、日本政府の中枢にいる人物た
  ちを取材した記録をまとめた『パックス・チャイナ中華帝国
  の野望』が発売された。
   習近平が国家主席に就任して以降、東アジアでは尖閣紛争
  や南シナ海衝突、さらに北朝鮮の暴走など様々な外交イベン
  トが発生したが、その舞台裏でなにが起こっていたのか、日
  米中の要人たちの生々しい言葉とともに、詳細が記されてい
  る。これからの世界情勢を読み解く上で必読の一冊。本書の
  なかから、その一部を特別公開する。
   「習近平外交」は、「目の上のたんこぶ」である日本にど
  う対抗していくかということから始動した。2012年9月
  11日に野田佳彦政権が尖閣諸島を国有化したことから、中
  国が一斉反発し、中国各地で反日デモが吹き荒れた。暴徒と
  化した中国人が日系のデパートや工場などを破壊し、抗議デ
  モや狼藉は、全国約110ヶ所に及んだ。9月27日には、
  北京の人民大会堂で、胡錦濤主席も列席して盛大な国交正常
  化40周年記念式典が予定されていたが、中国国内の異様な
  「殺気」を受けて、立ち消えになった。日中関係はまさに、
  国交正常化40年で、最悪の時を迎えた。
                   http://bit.ly/2iGLG0M
  ───────────────────────────

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ジャーナリスト/福島香織氏
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2017年01月11日

●「中国を変貌させ兼ねない二冊の本」(EJ第4435号)

 中国でよく読まれている2冊の本があります。いずれも軍人学
者が書いた本です。重要なことは、これら2つの本が、現在の習
近平政権の思想の中枢になっていると思われることです。
─────────────────────────────
       1. 劉明福著  『中国夢』
       2. 戴 旭著 『C形包囲』
─────────────────────────────
 「1」の『中国夢』について述べます。
 この本は、国防大学の劉明福教授が著したもので、2010年
に出版されていますが、内容が米国を刺激しかねないという理由
で、一時出版禁止処分になっていたのです。
 ところが、有力者の提言によって出版禁止処分が解かれ、世に
出てきたのです。内容は、中国は経済的にも軍事的にも、世界一
になる必要があり、戦争で米国と戦っても、負けてはならないと
いう強迫観念で貫かれている、視野狭窄の軍事主義パラノイアに
陥った軍人が好む内容です。
 注目すべきは、この本ではケ小平が主唱した「韜光養晦(とう
こうようかい)」を否定していることです。「韜光養晦」という
のは、国力が整わないうちは国際社会で目立つことをせず、じっ
くりと力を蓄えておくという戦略のことです。
 これについて、元読売新聞北京支局長の濱本良一教授は、中国
は、胡錦濤後期の2007年頃から、少しずつ「韜光養晦路線」
の修正を行っているとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 1991年末にソ連が崩壊し、世界が次は中国の番だと考えて
いた時、最高実力者のケ小平は、『韜光養晦、有所作為』との大
方針を示した。その意味は『才能を隠して機会を待ち、少しだけ
行動にでる』というものだ。
 意図するところは、世界の脱社会主義の流れの中で、身を低く
かがめて力を蓄え、嵐が過ぎ去るのを待て。(中略)建国以来の
危機存亡に瀕した天安門事件を乗り切ったケ小平は老体に鞭打っ
て広東省など南方視察を敢行した。後継指導者として据えた江沢
民に対して、『改革・開放の御旗を絶対に降ろすな』と諭す意味
があった。そして濱本教授は、次の重要なポイントを指摘する。
「転換点は、2009年7月の海外駐在外交使節会議での胡錦濤
演説だった」と。
 なぜなら「韜光養晦、有所作為」の後節に「積極」が挿入され
「積極有所作為」とする主張に変化したことだと捉え、以後「自
己主張を強めた中国の姿勢が随所で見られるようになった。『微
少外交』から『強面外交』への大転換である」と指摘される。
 かくて軍事強硬路線を露骨に表現してアジア各国とぶつかり、
傲然としはじめた中国の姿勢に日本もASEAN諸国の過半も反
発し、団結し始めるのだ。ルトワックが指摘したように、『中国
の戦略には整合性がない』のである。     ──濱本良一著
『経済大国中国はなぜ強硬路線に転じたか』(ミネルヴァ書房)
                   http://bit.ly/2hU6Ysn
─────────────────────────────
 2012年に中国の最高指導者に就任した習近平国家主席は、
「中国の夢」と題して、中国の統治理念について語っていますが
そのネタ本は、劉明福著の『中国の夢』からとられています。
 しかし、次のように、劉明福氏が書いているドギツイ表現を抑
えてはいるものの、その本音は本に書かれている通りなのです。
その一部を以下にご紹介します。
─────────────────────────────
 誰しも理想や追い求めるもの、そして自らの夢がある。現在み
なが中国の夢について語っている。私は中華民族の偉大な復興の
実現が、近代以降の中華民族の最も偉大な夢だと思う。この夢に
は数世代の中国人の宿願が凝集され、中華民族と中国人民全体の
利益が具体的に現れており、中華民族1人1人が共通して待ち望
んでいる。
 歴史が伝えているように、各個人の前途命運は国家と民族の前
途命運と緊密に相連なっている。国家が良く、民族が良くて初め
て、みなが良くなることができる。中華民族の偉大な復興は光栄
かつ極めて困難な事業であり、一代、また一代の中国人が共に努
力する必要がある」と。         ──習近平国家主席
                   http://bit.ly/2iSWSof
─────────────────────────────
 この演説で習国家主席が述べている「中華民族の偉大な復興の
実現が中華民族の最も偉大な夢である」という表現は、その本音
が劉明福著の『中国の夢』にあるとすると、かつて中国の領土で
あった国や島嶼をすべて取り返すことこそ中国人の夢であるとい
うようにとれるのです。実際に習政権のやっていることはこの考
え方に沿っていると思います。そして、その実現のためには、軍
事力の増強が必要であると説いているのです。
 そして、現代について中国は「G2の時代」と呼び、米国と強
大化する中国が世界を二分、すなわち、太平洋を米国と中国とい
う2つの大国で二分し、仕切るといっています。しかし、やがて
中国が米国を上回るようになり、「G1の時代」──米国の一極
体制から、強大化する中国一極体制にとって代わる時代が来ると
いっているのです。
 胡錦濤政権では、確かに「韜光養晦路線」の修正ははじめたも
のの、『中国の夢』が説く軍人の夢というか、壮大な妄想に踊ら
されない国際社会に対する現実認識を持っていたといえます。さ
らに共産党一党支配の限界を認識し、構造的な経済や政治改革が
必要であると悟っていたといえます。
 しかし、習近平国家主席は、政治改革にも経済改革にも手をつ
けず、「軍制改革」に着手したのです。強軍化を推し進めるため
に、国家主席自身が軍権の完全掌握を図ったのです。「2」につ
いては、明日のEJで述べることにします。
             ──[米中戦争の可能性/005]

≪画像および関連情報≫
 ●「中国夢」に見え隠れする習近平のジレンマ
  ───────────────────────────
  加藤嘉一:長く中国を中心としたアジア太平洋外交に従事さ
  れていた小原さんは、在シドニー総領事、在上海総領事を経
  て、現在は東京大学で教鞭を採られています。外交官から研
  究者への転身ですね。ご著書『日本走向何方(日本はどこに
  向かうのか)』の中国語訳を担当させていただいた頃から、
  小原さんがアカデミズムを重視され、それに対するこだわり
  も肌で感じていたので、私自身にはそこまで大きなサプライ
  ズはありませんでした。どのような経緯で現在に至り、就任
  されたときはどんな心境だったのでしょうか?
  小原雅博:東大法学部からお話をいただいたときは、青天の
  霹靂でした。退職後に学問の道に入れればいいな、との漠然
  とした希望は頭の片隅にありましたが、外務省を辞めてまで
  の転身は考えていませんでしたから。ずいぶん迷いましたが
  東大の熱意と、ある方から頂いた福沢諭吉の「一身二生」と
  いう言葉に押されて、昨年秋に東大に移って来ました。国際
  問題には誰もが納得する答えはありません。「reasonable」
  で「workable」な解を求めて、歴史や文化や言葉を学び、社
  会の奥深く分け入って体験し、専門家の先行研究に目を通し
  て、思索を深めていく。そんな努力の先に出口が見えてくる
  のだと思っています。東大での最初の学期は、30人のゼミ
  生を持ち、さまざまな国際問題を取り上げて議論しましたが
  学生たちの問題意識は高く、私自身が多くのことを学びまし
  た。実務と理論の統合という目標はまだ遠くの彼方にありま
  すが、毎日勉強できる喜びが私を支えてくれています。
                   http://bit.ly/2iEI92K
  ───────────────────────────

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中国で話題になっている2冊の本
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2017年01月12日

●「C形包囲とは何か/空母の必要性」(EJ第4436号)

 昨日のEJでご紹介した中国でよく読まれている2つの本を再
現します。「1」については、既に昨日述べています。
─────────────────────────────
       1. 劉明福著  『中国夢』
     ⇒ 2. 戴 旭著 『C形包囲』
─────────────────────────────
 「2」の『C形包囲』について述べます。
 この本は、中国の現役空軍大佐であり、著名な軍事学者でもあ
る戴旭(ダイシェイ)氏によって2010年1月に発刊され、中
国本土で30万部のベストセラーになっている本です。
 ところで、「C形包囲」とは何でしょうか。
 「C形包囲」というのは、中国が包囲しているのではなく、中
国が包囲されているという意味です。それは海上だけでなく、陸
上でも包囲網が敷かれているといっています。書籍自体が入手で
きないので、この本を取り上げている沖縄対策本部公式サイトか
ら引用します。記述が分かりやすいからです。
─────────────────────────────
 ≪海上包囲網≫
 中国海軍は、次のような海上包囲網で閉じ込められています。
 ・東シナ海で合同軍事演習を行う日米同盟
 ・台湾の中にいる独立派
 ・海洋基本法案を可決し、中国の領土を自国の領土に編入し、
  6隻の潜水艦を発注しているフィリピン
 ・米軍と軍事連携を固めることを決めたベトナム
 ・14隻の潜水艦の建造と購入を決めたインドネシア
 ・27隻のヘリコプター搭載の巡視艇建造を決めたマレーシア
 ・総計780億ドルをかけて軍拡をすすめるオーストラリア
 ・2隻の航空母艦の建造を始めたインド
 ≪陸上包囲網≫
 ・アメリカのアフガニスタンを狙う本当の理由は、中央アジア
  からのエネルギー資源の道を裁ち切り、中国の国力を弱らせ
  るためである。
 そして、モンゴルも日米政府寄りなので、中国は東北のロシア
との国境をのぞいては、全てアメリカに包囲されていると述べて
います。自国の軍拡を棚にあげて、中国が攻撃をしているわけで
はなく、アメリカが緊張を高めているのだと言い放っています。
 つまり、「中国の周りは米国の手先となった国に包囲され、危
機的な状態にある。だから中国は戦争を避けられない」との理論
を細かく展開している書籍です。
 これから、中国が戦争を始める正当性を論じた書籍といえると
思います。人民解放軍は国民にも戦争を始める準備を訴え始めた
ということではないかと思います。そして、最後は「中国人民よ
平和を望むなら戦争に備えよ!」という言葉で結んでいます。
                   http://bit.ly/2j9Q6d5
─────────────────────────────
 『C形包囲』を沖縄対策本部公式サイトがなぜ取り上げたのか
については、あくまで推測ですが、この本に、沖縄(琉球)は中
国の領土であると記述されているからです。これについては巻末
の「画像と関連情報」を参照してください。
 気になることは、著者は10〜20年以内に、C型包囲を敷く
国々との間で戦争が起きると予言していることです。そのために
複数隻の空母が必要になるとも書いています。実際に中国は、不
完全空母とはいえ「遼寧」を既に有していますし、現在2隻の空
母を建設中といわれます。
 昨年12月25日、中国は初めて空母「遼寧」を、第一列島線
(九州─沖縄─台湾─フィリピン)の宮古海峡を越えて西太平洋
に進出させ、バシー海峡を通過して海南島の海軍基地を経て、南
シナ海に入っています。中国の空母船団はここを守るためのもの
であり、初めてそれを実現させたのです。
 確かにこの本も『中国の夢』と同様に「米国主導の複数の国々
によって中国は包囲されている」という被害妄想による強迫観念
に貫かれていますが、一方において、現在中国が置かれている立
場についても、次のように意外に謙虚に分析しています。
─────────────────────────────
 中国は世界の覇権を狙ってはいない。アジアの覇権も狙ってい
ない」と言い、同時に「自国の領域が平穏なことを望むだけであ
る。中国は他人の土地や海など寸歩たりともいらない。だが主権
は決して譲らない」と書いている。
 さらに中国は超大国などではないと言い、「現在、中国が経済
成長をしていると言っても、貿易黒字の85%以上は外国企業が
中国を拠点にして生産した製品を逆輸出しているに過ぎない。中
国が生産している製品の大半は特許費を払っており、加えて、中
国が汗水垂らして稼いだ金はアメリカの有毒な債券の購入に当て
られ、しかも債券価格はまたもや大幅に下落する。
 アメリカは、スペース・シャトル、ボーイングの旅客機と航空
母艦を持ち、日本は自動車、電気機器、コンピューター産業を持
ち、ロシアは巨大なエネルギー産業を持っている。では、中国に
は何があるのだろうか。
 中国の支柱産業は不動産、紡績、酒・タバコである。8億本の
ズボンを生産して、ようやく1機の旅客機に交換している現状で
ある。西側の諸国は何を根拠に中国が急速に“世界の超大国にな
る”などと決めつけるのか。私には皆目見当がつかない」と、中
国の現状を正しくつかんでいる。さらに、「現在の中国は巨大に
見えるが、ただの肥満体で力はない」と言い切っている。
                   http://bit.ly/2hYJkcE
─────────────────────────────
 これら2冊の本は中国で幅広く読まれており、習近平国家主席
の思想もこれらの本によって影響を受けています。慎重に米国と
の戦争は避けながらも、南シナ海や東シナ海での領土主張は断固
貫く構えといえます。   ──[米中戦争の可能性/006]

≪画像および関連情報≫
 ●『C形包囲』について/小島一郎氏のページ
  ───────────────────────────
   日本は、百数十年前に中国の領土であった琉球(沖縄)を
  併合したが、中国は第二次世界大戦の勝利にかこつけて失地
  回復を図ろうとせず、世界の利益を尊重した。しかし日本の
  態度はさらにひどくなり、琉球から始まり、中国の大陸棚を
  山分けしようとしたのである。つけあがるにもほどがある。
   双方は現状を維持したままで、両国関係と世界平和という
  大局から出発し、東シナ海を「友好の海、協力の海、和平の
  海」にするとの立場に基づいて、東アジアの近代史を振り返
  り、東シナ海問題だけを見るのではなく、それと密接な関係
  にある釣魚島問題、琉球問題も見てみようではないか。中国
  は長さ1・8万キロの海岸線、1万以上の島々、300万平
  方キロにもわたる海洋国土を有している。このようなこの上
  なく恵まれた地理条件を持つ大国は、世界海洋制覇に挑む使
  命があるにもかかわらず、中国歴代の支配者とくに明と清の
  政府は、統治が崩壊するまでそれに気が付いていなかった。
  今の中国海洋国土の2分の1は、領有権をめぐって周辺諸国
  と紛争中であり、多くの島は隣国の支配下に置かれているよ
  うな状況である。
   大国の中で空母を持っていないのは中国だけである。中国
  は永遠に空母を持たないわけにはいかない。いまから向こう
  50年の間は、中国海軍の発展目標は南シナ海以外の海域に
  定めてはいけない。私たちはこの50年の間、まず国力を総
  動員し、台湾問題を解決し、不法占拠された島々を取り戻さ
  ねばならない。          http://bit.ly/2hZ1rPn
  ───────────────────────────

中国海軍空母「遼寧」.jpg
中国海軍空母「遼寧」
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2017年01月13日

●「『五輪9年ジンクス』の謎を探る」(EJ第4437号)

 2016年11月19日、ペルーのリマで開催されたAPEC
で、米国のオバマ大統領と中国の習近平国家主席の間で米中首脳
会談が行われたのです。そのとき、習国家主席は終始悠然と勝者
としての笑みを浮かべていたのに対し、オバマ大統領の表情は極
めて厳しかったといいます。
 本来APECは、米国がアジア太平洋の盟主として振る舞う外
交舞台であったはずです。これまでオバマ大統領は、経済のTP
Pと軍事の米軍アジア・リバランスという、二重の中国包囲網を
敷いて、中国をおさえてきたのですが、次の大統領の座を反TT
Pを唱えるトランプ氏に奪われ、意気消沈していたようにみえた
というのです。
 おそらく習国家主席は、意気消沈しているように見えるオバマ
大統領を見て、中国の偉大な復興を果たす以前に国家主席が交代
するようなことがあるとその目的を果たすことは困難になる──
そのためには、終身でも国家主席を続けられる制度の改正が必要
であるという確信を抱いたものと思われます。
 中国では、国家主席ポストに「3選禁止」の規定があります。
それからもうひとつ「69歳定年」の規定もあるのです。つまり
中国の国家主席ポストは5年ごとの2期10年までしかできない
ことになっているのです。
 習近平氏は、2017年の党大会で2期目に入り、2022年
にその任務は終了します。そのとき習近平氏は、69歳になるの
で、定年に達することになります。習主席は、この「3選禁止」
と「69歳定年」の両方の規定を改正し、終身国家主席のボスト
にい続けるという野望を抱いているのです。
 そのため、習近平氏は、2016年1月から自らを「核心」と
する運動を起こし、10月の党第18期中央委員会第6回全体会
議(六中全会)のコミュニケのなかで「核心」の呼称が確認され
ています。この「核心」とは、任期のない「党の最高指導者」の
ことを意味しています。
 しかし、習近平氏の野望の実現は極めて困難です。なぜなら、
中国には、数々のチャイナ・リスクがあるからです。本来中国共
産党は、農民や労働者の党であったはずなのに、いつの間にか資
本家・プチブル層の利権組合になってしまっています。これには
政治改革を断行するしかないのです。
 それに、いつクラッシュしても不思議ではない深刻な経済リス
クもあります。経済崩壊を避けるために、習政権も2014年に
は「新常態/ニューノーマル/低成長経済の容認」を打ち出し、
「痛みに耐えて改革を進める」ことを宣言したはずなのに、結局
は7%成長路線にこだわり、無謀きわまる大型公共投資と財政出
を現在も続けている始末です。
 もうひとつ習政権には巷で噂されている懸念もあるのです。そ
れは「五輪9年ジンクス」です。専制国家(軍事政権を含む)が
オリンピックを開催すると、その9年前後に体制崩壊が起きると
いう、いわゆる一種の都市伝説です。例を3つ上げます。
─────────────────────────────
       1.1936年/ベルリン五輪
       2.1980年/モスクワ五輪
       3.1988年/ ソウル五輪
─────────────────────────────
 「1」は1936年の「ベルリン五輪」です。
 これは、いわゆるヒットラーのドイツが開催したオリンピック
です。当初ヒットラーはオリンピックはユダヤの祭典であるとし
反対していたのですが、プロパガンダとして使えると判断し、ド
イツが国の総力を挙げて取り組んだオリンピックです。
 しかし、その9年後の1945年、ヒットラー率いるナチス・
ドイツは崩壊しています。
 「2」は1980年の「モスクワ五輪」です。
 これは、冷戦下において、ソ連の首都モスクワで行われたオリ
ンピックです。しかし、1979年12月に起きたソ連によるア
フガニスタン侵攻の影響を受けて、集団ボイコットが起きたオリ
ンピックでもあったのです。
 しかし、その9年後の1989年に東西冷戦構造が崩壊し、そ
の2年後の1991年に旧ソ連が解体されています。
 「3」は1988年の「ソウル五輪」です。
 これは、韓国最後の軍人出身大統領の盧泰愚政権下で、韓国の
首都ソウル特別市で開催されたオリンピックです。前回のロサン
ゼルス五輪では東側陣営が、前々回のモスクワ五輪では西側陣営
がボイコットしたので、ソウル五輪は、12年ぶりにアメリカと
ソ連の二大大国の揃ったオリンピックになったのです。
 しかし、その9年後の1997年に元民主化運動家の金大中政
権という純然たる民主主義政権が誕生しています。さらに同年、
タイを中心にアジア通貨危機が起こり、韓国はそれに巻き込まれ
て、国家存亡の危機を経験しています。
 どうして、オリンピック後に体制崩壊が起きるのかについて、
福島香織氏は、自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 五輪という平和と自由、民主を象徴するような国際的スポーツ
大イベントが開催されると、多くの海外観光客が専制国家を訪れ
ることになり、その民間交流の結果、大衆が民主主義的な普遍的
価値観に目覚めはじめる。その一方で、五輪運営にかかった莫大
な費用のツケによって財政が悪化し、政権の弱体化が起きてしま
い、体制の転換が起こりやすい、という理屈らしい。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 今年は、奇しくも北京オリンピックからちょうど9年目に当た
ります。多くの制度的矛盾を抱える中国には、何が起きても不思
議ではないのです。果たして習近平政権は無事に2期目に入るこ
とができるでしょうか。  ──[米中戦争の可能性/007]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平氏は「中国共産党の核心」/THE HUFFINGTON POST
  ───────────────────────────
   中国共産党の重要会議「第18期中央委員会第6回全体会
  議(6中全会)」が4日間の日程を終えて、2016年10
  月27日に閉幕した。会議で採択されたコミュニケでは、習
  近平国家主席を「党中央の核心」と位置付けた。コミュニケ
  は、人民日報系のニュースサイトである「人民網」などで発
  表された。
   コミュニケでは、習氏が「率先して党の管理強化を全面的
  に推し進め、党内政治を浄化し、民心を獲得した」として、
  厳しい汚職摘発が「民心を勝ち取った」と評価。習氏の指導
  力をアピールするものとなった。これまで中国共産党におい
  て、最高指導者を「核心」と呼ぶ表現は毛沢東、ケ小平、江
  沢民の3氏にしか用いられていない。前国家主席の胡錦濤氏
  の時代は集団指導体制を重んじていたこともあり、「核心」
  という表現は使われなかった。
   党中央機関の決定を経て「核心」となったことで、習氏へ
  の権力集中がさらに進んだことになる。2017年秋には指
  導部メンバーの大幅な交代が予想される党大会を控えており
  人事でも強い主導権を握ることになるとみられる。
                  http://huff.to/2j1WDXZ
  ───────────────────────────

APEC(リマ)/米中首脳会談.jpg
 
APEC(リマ)/米中首脳会談
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2017年01月16日

●「習近平の暗殺は何回も起きている」(EJ第4438号)

 中国、正確には中華人民共和国は、中国共産党が一党支配をし
ています。したがって、中国共産党のトップである中央委員会総
書記が中華人民共和国の国家主席(元首)になります。順番から
いうと、まず、中国共産党大会で中央委員会総書記になって、そ
のうえで、全国人民代表大会(全人代)において、中華人民共和
国の国家主席になるのです。その任期は、いずれも5年で、2期
10年と決められています。現在の習国家主席の場合は、次のよ
うになっています。
─────────────────────────────
        ◎2012年11月15日
         中国共産党第6代中央委員会総書記
        ◎2013年 3月14日
         中華人民共和国第7代国家主席
─────────────────────────────
 中国共産党は、今年の秋に北京で「第19回党大会」を開催し
ます。この大会で習近平国家主席は2期目の中央委員会総書記に
指名され、2018年の全人代で2期目の国家主席に就任するこ
とになります。なお、中国共産党大会は、5年ごとに開催される
ことになっています。
 これまでの中国の国家主席がそうであったように、現在の習近
平国家主席の権勢ぶりを考えると、何の問題もなく2期目に移行
できると思われますが、このところ習国家主席の身辺は危険に満
ちており、その危険度は日々増加しています。福島香織氏は、習
近平氏の現況について次のように述べています。
─────────────────────────────
 『誰が習近平を謀殺するのか』(黄子佑著)という電子版書籍
が2015年春ごろ話題になった。(中略)習近平が突如失脚す
るとしたら、一番大きな可能性は普通の権力闘争の結果ではなく
暗殺か政変、クーデターである、という主張を書いた本だが、こ
れがまんざら、放言というわけでもないところが、チャイナリス
クなのである。
 なにせ習近平が暗殺未遂に遭ったのは、噂になっただけでも6
件はある。本人も暗殺計画に非常におびえ、今や習近平の護衛に
ついているSPは、テレビのニュース映像などから確認できるだ
けでも16人以上に膨らんだ。過去、ここまでどこへ行くにも、
SPに囲まれていた指導者はいない。暗殺もクーデターもいつ起
きても不思議はない、習近平自身がそう感じているのである。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 どうして、習近平国家主席がそんなに狙われるのかというと、
それは、就任の2012年から展開している「反腐敗キャンペー
ン」を建前にして、自らの政敵を次々に失脚させていることに原
因があります。
 そもそも中国の国家主席はリスクの多いポストなのです。それ
は、党が軍部を完全に掌握できていないことによって起こるケー
スが多いのです。つまり、シビリアン・コントロールが不安定に
なっているのです。
 初代の国家主席である毛沢東や、国家主席には就任していない
ものの、事実上の国家主席であったケ小平の世代は、革命戦争を
指導しており、その命令に軍部は素直に従っていたのですが、江
沢民政権以降は、最高指導者に軍歴がないことから、党と軍の統
制はうまくとれていないのです。
 習近平政権にとって最大の危機は、2015年にあったといえ
ます。そのキーワードは次の3つです。
─────────────────────────────
  1.       北載河会議 2015年8月 3日〜
  2.       天津大爆発 2015年8月12日
  3.抗日戦争勝利70年観兵式 2015年9月 3日
─────────────────────────────
 実は、この3つの出来事はつながっているという説があるので
す。北載河会議というのは、毎年夏になると、中国の最高指導者
たちは、渤海を望むリゾート地・北戴河に集まり、約3週間の夏
休みを過ごすことになっています。そこでは非公式に人事などの
案件が話し合われますが、基本的には夏期休暇です。
 未確認情報ではありますが、この会議の終了後に北載河会議に
中国共産党の高級幹部が集まるのを利用して、暗殺計画が企てら
れたというのです。2015年の計画では、この会議の終了後、
16日には列車に乗って天津市を訪れ、会議での決定事項を報告
することになっていたのです。暗殺計画は、その列車を爆破しよ
うとしたのです。ところが、この計画は突如中止されます。計画
が漏れたからです。もちろん、これらの高級幹部のなかに習近平
国家主席がおり、習政権高級幹部を狙った暗殺計画です。
 そして、計画漏洩後の8月12日、天津港地区・国際物流セン
ター内の危険物専用倉庫が大爆発を起こしたのです。それは、習
国家主席を乗せた列車を爆破しようとして用意した爆薬を犯人グ
ループが証拠隠滅のために爆破したものだというのです。
 これは、尋常な爆発ではなく、被害を受けた面積が約20平方
キロ(東京ドーム1500個以上)に及び、その後の中国経済に
深刻な影響を与えることになります。
 しかも、爆破された倉庫を保有する企業の実質的な責任者は、
習近平国家主席の政敵といわれる先々代の国家主席である江沢民
氏の腹心の親族であり、その関与が取り沙汰されています。その
ためか、政府は情報を隠蔽し、報道規制を強めたのです。
 中国国家インターネット情報弁公室は、関連サイトの閉鎖や中
国版のツイッターである微信のツイートを多数削減し、その発信
自体も禁じたのです。そのせいか、天津大爆発の情報は現在でも
不足しています。そして、9月3日には抗日戦争勝利70年観兵
式が行われたのです。そこで何が起きたのでしょうか。
             ──[米中戦争の可能性/008]

≪画像および関連情報≫
 ●天津大爆発は氷山の一角 同様事故20か月で30件以上
  ───────────────────────────
   2015年8月12日に中国・天津の化学工場で発生した
  大爆発事故は、被害を受けた面積が約20平方キロ(東京ド
  ーム1500個以上)に及び、中国経済に深刻な影響を与え
  ている。政府が情報統制の姿勢を強めるなか、事故の“爆心
  地”への潜入に成功したジャーナリストの相馬勝氏が、爆発
  事故の処理に追われる中国政府の対応について解説する。
   事故後1か月以上経ったいまも爆発原因は解明されず、事
  故現場の後片付けも終わっていないというのに、天津市当局
  は9月上旬、この爆発跡地に「生態公園」(エコパーク)を
  建設する計画を明らかにした。
   計画では、公園内に犠牲になった消防士らを悼む英雄記念
  碑のほか、幼稚園や小学校を建設するとしており、11月に
  も着工し来年7月に完成する予定。だが、ネット上では「責
  任追及が先だ。そうでないと、亡くなった消防士の無念さは
  いかばかりだろうか。彼らの霊が浮かばれない」「まだ残留
  化学物質があるのに、幼稚園や小学校を建設するのは非常識
  過ぎる」などとの批判の声が上がっている。
   公園案は民衆の不満を抑えるための習近平指導部の浅慮と
  もいうべきものだろう。住民はおろか、中国の国民も事故原
  因の究明を望んでいる。なぜならば、北京でも上海でも、全
  国各地で天津市のような不法な危険物の大量貯蔵が進んでい
  るとされるからだ。        http://bit.ly/2jkeA3v
  ───────────────────────────

天津大爆発の惨状.jpg
天津大爆発の惨状
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2017年01月17日

●「閲兵で怯えの表情を見せる習主席」(EJ第4439号)

 2015年は、習近平国家主席が最も多く命を狙われた年とい
えます。まず、8月3日から始まった北載河会議の後、習主席は
幹部と一緒に列車で天津市へ移動したのです。この移動自体には
何も問題はなかったのですが、実はその列車に強力な爆弾を仕掛
けて、習主席と幹部を殺害する計画があったのです。
 実は、2012年の北載河会議でも、その会議室に時限爆弾が
仕掛けられていたのです。その後は厳重なチェックが行われ、こ
の列車爆破計画も事前に情報が漏れて、暗殺計画は失敗に終わっ
ています。
 しかし、犯人グループはその大量の爆弾の処理に困り、天津港
湾地区の国際物流センターでそれを爆発させたのです。8月12
日のことです。したがって、この列車爆破計画と天津大火災はつ
ながっていると考えられます。
 そして、9月3日に抗日戦争勝利70周年の軍事パレードが行
われています。人工的に作ったといわれる「パレードブルー」と
呼ばれる快晴の下、北京市中心部を東西に走る長安街の大通りを
約1万2千人の人民解放軍の兵士たちが軍靴を響かせて行進した
のです。200機を超える戦闘機の飛行や、初公開の兵器など、
500点強の軍装備を披露し、中国の軍事大国ぶりをイヤという
ほど内外に見せつけたのです。習主席にとってこの軍事パレード
は得意絶頂の瞬間だったはずです。
 しかし意外だったのは、このときの習主席の表情が冴えなかっ
たことです。どうしてなのでしょうか。この軍事パレードのこと
を書いた『月刊正論』/2015年11月号は、習主席について
次のように記述しています。
─────────────────────────────
 この日の主役である習近平国家主席は始終さえない表情をして
いた。車に乗って解放軍の隊列を検閲したときも、高揚感はまっ
たくなく、ひどく疲れた様子だった。国内のメディアを総動員し
て宣伝し、長い時間をかけて準備した大きなイベントにも関わら
ず、内外から多くの批判が寄せられ、欧米などの主要国に参加を
ボイコットされたことは習氏にとって想定外だったに違いない。
習氏の表情には、その悔しさが出ていたのかもしれない。
 一方、習氏と比べて、一緒に天安門楼上に並んだロシアのプー
チン大統領や、久々に表舞台に登場した江沢民元国家主席ら党長
老たちは、最後まで、リラックスした表情で手を振り、元気な姿
をみせ続けた。脇役であるはずの彼らは、今回の軍事パレードを
通じて習氏よりも多くのものを手に入れたからかもしれない。
           ──『月刊正論』/2015年11月号
                   http://bit.ly/2jljzUR
─────────────────────────────
 実は習主席は怯えていたのです。国家主席に就任以来、何回も
暗殺を仕掛けられていることや、北載河会議の後の列車爆破計画
や天津大爆発が起きた直後だったので、軍事パレードの間に何が
起きても不思議ではない状況だったからです。とくに、国のトッ
プによるこうした観兵式や軍事演習の視察は、相手が兵器を持っ
ているだけに、武器に実弾が入っていないか、厳重な点検が必要
だったのです。
 抗日戦争勝利70周年の軍事パレードで、習主席の眠そうな何
かに怯えた表情について、産経新聞のジャーナリスト野口裕之氏
は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 複数の安全保障関係筋によると、観兵式前、将兵が携行する小
火器や動員する武装車輌/武装航空機に実弾が装填されていない
か、徹底的な「身体検査」を実施したもよう。展示飛行する航空
機の自爆テロを恐れ、地対空ミサイルまで配備したとの情報も在
る。いずれも、習氏暗殺を警戒しての防護措置。眠そうな習氏の
表情は、不安で前日一睡もできなかった結果だとの見方は、こう
した背景から浮上した。     ──「野口裕之の軍事情勢」
                   http://bit.ly/1PIgXXZ
─────────────────────────────
 また、軍事パレードで閲兵した習主席が左手で敬礼したことに
ついて、中国のメディアは奇妙な解釈をはじめたのです。中国の
古典を引用して、「吉事は左、凶事は右に属する。君子は左を貴
ぶ、用兵は右を貴ぶ」と紹介し、習主席が左手で敬礼をしたのは
「軍事パレードは戦争ではなく、武力を使用しない吉事である」
と説明しています。国家主席のやったことはどんなことであって
もミスであるとは認めないのです。
 本当のところどうであったのかは不明ですが、ある共産党関係
者によると、敬礼をする直前、陳情者と思われる男性が習主席に
駆け寄ろうとし、警戒に当たっていた警官に取り押さえられると
いう出来事があったのです。暗殺者に怯えていた習主席は、一瞬
動揺し、うっかり左手で敬礼をしてしまったというのです。
 習主席が暗殺に怯えているのは確かなことです。それは何度も
危ない目に遭っているからです。あるとき、健康診断のために共
産党の高官専用病院である北京の301病院に行ったとき、用意
されていた注射針のなかに毒を仕込んだものが発見されたことも
あったのです。
 301病院には“南楼”と呼ばれる病棟があり、そこには厳重
な警備が敷かれ、出入りには証明書の提示が必要です。ここが共
産党高官専用病院なのです。そういう場所でも毒入りの注射針が
仕掛けられるのですから、習主席が神経質になるのは十分理解で
きます。かつて何でもない風邪で301病院を訪れ、その後、亡
くなるケースは少なくないのです。つまり、政敵暗殺の目的で、
301病院が利用されることがあるのです。
 習近平国家主席がもし突然失脚するとしたら、一番大きな可能
性としては、権力抗争の結果などではなく、暗殺か、政変、クー
デターであると思われます。既にクーデターも起きていますが、
そのすべてが鎮圧されています。
             ──[米中戦争の可能性/009]

≪画像および関連情報≫
 ●少なくとも6回の暗殺未遂を受けている習近平主席
  ───────────────────────────
   香港メディアなどによれば、習近平はこれまで少なくとも
  6回、命が狙われたことがあったという。時間や場所、手口
  などの詳細が分かっているのは3回だ。
   共産党総書記に就任する直前の2012年夏、会議室に爆
  弾を仕掛けられたのが最初で、その直後に、健康診断のため
  に訪れた軍直属の病院で検査用の注射器に毒を入れられてい
  た。3回目は2013年夏、地方視察の際に乗る自動車が交
  通事故を起こすようにタイヤが細工された。いずれも事前検
  査で判明し、未然に防ぐことができたという。
   2014年4月30日にウルムチ南駅で起きた爆発事件も
  習近平暗殺が目的の可能性が高いといわれる。同月27日か
  ら新疆ウイグル自治区の視察に出かけていた習近平はこの日
  にウルムチから北京に戻る予定だった。夕方、ウルムチのタ
  ーミナル駅で突然、爆弾が炸裂し、3人が即死したほか70
  人以上が負傷した。
   中国当局はイスラム過激派のウイグル人による無差別テロ
  と発表したが、しかし、外国メディアが撮影した現場写真に
  は銃撃戦を思わせる銃弾跡が多くあり、手口はこれまでのウ
  イグル人が起こした暴力事件と大きく違っていた。
   治安当局の厳しい管理下にあるウイグル人たちは、それま
  で中国当局に抗議するために、ガソリンを積んだ自動車を建
  物に突っ込んだり、ナイフで通行人を切りつけたりするなど
  の事件を多く起こしたが、威力の高い爆弾や銃器を使った事
  はまずなかった。         http://bit.ly/2ipOSOT
  ───────────────────────────

左手で敬礼する習近平国家主席.jpg
左手で敬礼する習近平国家主席
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2017年01月18日

●「3回も白昼襲われた胡錦濤前主席」(EJ第4440号)

 胡錦濤国家主席時代の2006年5月のことです。胡錦濤主席
が、黄海で北海艦隊の視察を行ったのです。胡主席は、最新型の
弾道弾駆逐ミサイル艦に乗船し、巡視していたところ、いきなり
2隻の軍艦が、同時に挟み撃ちするように、胡主席が乗っている
駆逐艦に発砲してきたのです。この砲撃によって、駆逐艦上にい
た5人の海軍兵士が死亡しています。
 胡主席が乗っていた駆逐艦は、まさか白日の下で最高指導者の
暗殺事件が発生するとは夢にも考えておらず、慌てふためくなか
で、直ちに舳先を変えて全速力で演習海域を離れ、安全な海域に
向かったのです。そして、再度の暗殺を避けるため、胡主席は艦
上ヘリコプターで脱出し、北京ではなく、チベットに避難し、一
時身を隠しています。クーデターを恐れたからです。そして約1
週間後、北京に姿を現したといいます。
 実は、この暗殺計画の黒幕は江沢民元国家主席であるといわれ
ていますが、犯人として海軍司令、張定発が逮捕され、その後病
死したとされています。もちろん公式には発表されず、新華社、
解放軍報は何も報道せず、人民海軍報で自殺として張定発の死亡
が伝えられたのみです。
 このとき、胡錦濤氏は国家主席でしたが、軍部に対しては、江
沢民元主席が強い影響力を持っており、たとえ黒幕が江沢民氏で
あるとわかっていても何もできなかったのです。犯人の張定発は
江沢民元主席が中央軍事委員会主席を引退するとき、海軍司令に
任命しており、上海人であり、コテコテの上海閥です。
 続いて2007年10月2日、上海世界夏季特殊五輪の開幕式
でのことです。世界特殊五輪というのは、知的発達障害のある人
の自立や社会参加を目的として、日常的なスポーツプログラムや
成果の発表の場としての競技会を提供する国際的なスポーツ組織
のことで、スペシャルオリンピックといわれています。パラリン
ピックとは違うのです。
 胡錦濤主席は開幕宣言を行うために出席し、その後上海西部迎
賓館の宴会にも参加しています。このとき、迎賓館の地下の車庫
に駐車していた食品運搬車の運転席の下から、2・5キログラム
の爆薬のついた自動爆破装置が発見されたのです。警備スタッフ
が間一髪で発見し、胡主席は暗殺を免れています。
 まだあるのです。またしても海上閲兵式での出来事です。20
09年4月23日、青島で解放軍海軍有史以来最大規模の海上閲
兵式が行われたのです。その開始直前に江沢民氏の命を受けた艦
艇が胡主席を襲撃する暗殺計画が発覚したのです。胡主席は予定
を変更し、その日のために参加した外国の海軍代表との会見を先
に行うことで時間を作り、胡主席を襲う予定の艦艇を特定し、逮
捕したのです。その後、胡主席は閲兵式に出席しましたが、明ら
かに顔がひきつっていたといわれます。
 歴代の中国の国家主席が激しい権力抗争の結果、このようなテ
ロに見舞われることはそれほど珍しいことではないのです。まし
て、現在の習近平主席は、腐敗防止政策を徹底的に実施し、事実
上、習主席の政敵を排除しているので、それに反発するテロが頻
発しても不思議はないのです。事実習主席の暗殺事件は何回も起
きていることはこれまで述べた通りです。
 習主席の腐敗摘発は、習主席の盟友の王岐山中央規律検査委員
会書記が行っています。そのため、王岐山氏も何回も暗殺未遂事
件に遭っているのです。王岐山氏への暗殺未遂事件のひとつにつ
いて、福島香織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 2015年3月27日から28日にかけて、王岐山が河南省の
調査に出かけたときのこと。28日早朝、ある党の招待所で停電
があり、予備電源に切り替わった。だが50分後に再度停電。そ
の瞬間、駐車場に停車してあった省の党委員会保衛部専用車3両
が爆発した。
 じつは、この招待所は、王岐山一行が27日夜に宿泊する予定
だったが、直前に予定を変えて鄭州市の警備区招待所に泊まった
のだ。もし予定どおりであれば、王岐山はその朝、爆発した3両
の車のどれかに乗り込んだかもしれない。
 こういった暗殺計画については、中南海[故宮に隣接する共産
党中央委員会の所在地]内に本当の黒幕がいるのではないか、と
いう噂が立った。──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 2016年7月15日、トルコでクーデター未遂事件が起きて
います。このとき、エルドアン大統領は、避暑地マルマリスのホ
テルにいたのですが、即座にホテルから専用機で脱出し、イスタ
ンブールに向っています。そのホテルは反乱軍兵士が襲撃してい
ますが、エルドアン大統領は20分前に脱出しているのです。
 もっともイスタンブールに向う途中の空域で、2機の反政府軍
のF16戦闘機にロックオンされたのですが、あくまで民間航空
機であると主張して命びろいをしています。
 イスタンブールに到着したエルドアン大統領は、民放テレビに
スマホのフェースタイムを通じて登場し、国民に対して「反乱軍
に抵抗せよ」と呼び掛けたのです。国民は大統領の呼びかけに呼
応し、立ち上がったので、クーデターは鎮圧されています。
 16日の未明にこの事件を知った習近平国家主席は、側近の栗
戦書に、党と政府と軍の高官を中南海にすぐ来るよう命令したの
です。クーデターに対する対策会議のためです。習主席は、エル
ドアン大統領のクーデターへの対処に強い関心を持って、クーデ
ターの対策会議を開いたのです。現在の中国の状況では、いつ、
クーデターが起きても不思議ではないからです。
 トランプ政権発足まであと2日、歴代米政権としては異例の対
中国強硬政権が誕生することは確実の情勢です。習近平政権は、
国内外の難事に対してどのように対処するのでしょうか。とくに
米国との関係悪化は、中国としては避けたいところです。
             ──[米中戦争の可能性/010]

≪画像および関連情報≫
 ●脆弱な社会構造の上に君臨する習近平主席/澁谷司氏
  ───────────────────────────
   2016年7月15日夜(日本時間16日未明)、トルコ
  で、軍の一部によるエルドアン政権転覆のクーデターが起き
  た。一時、軍がテレビ局等を占領し、クーデターは成功した
  かに見えた。しかし、暗殺を逃れたエルドアン大統領がSN
  Sを駆使し、直接、市民に訴えかけた。これが奏功し、結局
  軍のクーデターは失敗に終わっている(ただし、このクーデ
  ターは、大統領による反対派粛清のための「自作自演」説が
  ある)。
   さて、トルコ軍によるクーデター未遂事件で、習近平主席
  が肝を冷やした事はあまり知られていない。トルコでクーデ
  ターが発生するやいなや、習主席は、腹心の栗戦書(中央弁
  公庁主任)に緊急会議の開催を命じた。いかに習近平主席が
  クーデターを恐れているか、その証左だろう。
   習主席はすでに何度も暗殺されかけているが、2016年
  の旧正月明け(2月14日以降)、ファースト・レディの彭
  麗媛への暗殺未遂事件も発生している。栗戦書が主催した党
  政軍の会議では、今後、どのように国内でのクーデターを未
  然に防ぐかが討議された。このように、習近平政権が海外の
  事件に対しても神経を尖らせている。
                   http://bit.ly/2jmwExw
  ───────────────────────────

王岐山書記.jpg
王岐山書記
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2017年01月19日

●「国防費よりも治安維持費の多い国」(EJ第4441号)

 国のトップが何回も暗殺を仕掛けられるというのは、国が一枚
岩ではないということです。そのため、権力抗争が激しくなり、
権力者に対して数々の暗殺が仕掛けられるのです。
 それに、中国のような大きな国を共産党の一党支配でコントロ
ールしようとするとどうしても無理があり、相当強力な独裁体制
を築かざるを得なくなります。しかも、同じ独裁でも、習近平主
席の場合、スターリンがやったような個人独裁体制をとろうとし
ている点が気になるところです。
 スターリンの個人独裁について、評論家の長谷川慶太郎氏は、
自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 スターリンは、1930年代以降、完全に個人独裁体制を確立
していた。絶大な政治権力を掌握していたが、よく知られている
ように、それは冷酷無比な大粛清を伴って達成されたものだ。第
2次大戦の前後にわたっての長い統治期間に、スターリンが粛清
した人間は数十万とも数百万ともいわれているが、それはスター
リンの政敵は言うに及ばず、一見なんら関係もなさそうな党員、
官僚、軍人、さらには一般人にまで及んでいる。(中略)
 現状では習近平は、「反腐敗」というスローガンのもと、汚職
退治で民衆の支持を受けているかのようである。しかし、これも
スターリンの粛清の時と同じである。中国の現在の摘発での、汚
職・収賄、外国資本と結びついている等の「規律違反」というよ
うな罪名は、ソ連の粛清時も同じようであった。共産党が摘発を
行う場合の常套手段と言ってもよい。   ──長谷川慶太郎著
           『中国大減速の末路』/東洋経済新報社
─────────────────────────────
 中国の軍事費は他国を圧倒していますが、中国社会では、その
巨額の軍事費よりも国内の治安維持費(公共安全費)の方が多い
といわれます。各地で住民の抗議行動やデモが頻発し、少数民族
による分離・独立運動などの社会矛盾の激増に備えるためでしょ
うが、それにしても国内の治安維持を主たる目的とする公共安全
費が、軍事を目的とする国防費を上回るのは、どう考えても正常
な姿ではないといえます。真の敵は国外にあるのではなく、国内
にあるかのようです。
 果してこれが本当であるかどうかを調べてみたのですが、ほぼ
事実であることがわかったのです。治安維持費は中国では「公共
安全費」といわれますが、2008年〜2012年の5年間で予
算額を比較してみると、次のようになります。
─────────────────────────────
                   単位:億元
          公共安全費      防衛費
    2008年  4097     4178
    2009年 ◎4870     4807
    2010年  5140     5321
    2011年 ◎6244     6012
    2012年 ◎7018     6703
       ──「日経ビジネス」 http://nkbp.jp/2jngT9K
─────────────────────────────
 これは予算額での比較ですが、2008年からの5年間で3年
間は公共安全費が防衛費を上回っているのです。とくに2012
年は、公共安全費の7017億6300万元(約9兆1230億
円)が国防費の6702億7400万元(約8兆7140億円)
を上回っています。明らかに異常です。
 このレポート(2012年3月/胡錦濤政権当時)をまとめた
住友商事総合研究所の中国専任シニアアナリストの北村豊氏は、
中国について、次のコメントを書いています。
─────────────────────────────
 中国が世界第2位の経済大国としての矜持を保って世界をリー
ドしていくつもりならば、国内の安定が最優先であるべきで、そ
のためには国内に蔓延する社会矛盾を解消することが不可欠であ
る。胡錦濤総書記が提唱する“和諧社会(調和のとれた社会)”
を実現して、その先にある「全面的な“小康社会(ややゆとりの
ある社会)”の建設」を達成するには、“群体性事件”を公権力
で抑制するのではなく、その原因を根本から取り除く地道な努力
が必要なはずである。             ──北村豊氏
       ──「日経ビジネス」 http://nkbp.jp/2iZCxgT
─────────────────────────────
 中国で習近平主席や政権幹部に対して、暗殺やテロが起きてい
る原因は、習政権の情け容赦のない「反腐敗キャンペーン」にあ
ります。確かに「腐敗」をなくすことは大切なことですが、その
キャンペーンが習主席の政敵排除の手段になってしまっているの
です。権力維持拡大のためなら何でもするという姿勢です。
 中国人民大学教授の周孝正氏という学者がいます。社会学や人
口学を専攻しながら中国の政治・社会問題について発言している
人です。その周孝正氏は、「現代の中国はナチス化している」と
いっています。
─────────────────────────────
 ケ小平の教えを破っているのが問題です。ケ小平は中国は経済
建設に専念して、100年変わってはいけないという方針を打ち
出しました。しかし、ケ小平の死後19年が経過し、習近平が指
揮を執っている現在、中国はたしかに「経済大国」といわれるよ
うにはなった。しかし、問題は習近平が打ち出している「中国の
夢」が果してどこに向っているかということです。私に言わせれ
ば、現在中国は30、40年代のドイツか日本のような国家主義
に向っている。ナチスは国家社会主義です。中国の現在の社会主
義は国家社会主義以上でも以下でもない。軍事費がとめどなく拡
大しているし、領土問題、歴史問題で周辺各国ともめている。
              ──月刊「WiLL」2月号より
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/011]

≪画像および関連情報≫
 ●「転換期中国のジレンマ」/周孝正氏
  ───────────────────────────
   中国人民大学名誉教授で、人口社会学者の周孝正氏の講演
  (テーマ「転換期中国のディレンマ」)を、富士通総研中国
  通セミナで聴いたが、非常に興味深かった。
   経済分析だけでは中国社会が抱える矛盾を解明できないた
  め、中国社会の深層の矛盾について、政治、経済と社会の3
  つの側面から問題を明らかにしようという趣旨のようであっ
  た。氏は、1947年生まれ、11年目2回目の訪日とのこ
  とだが、名刺など作ったことがないなど大分変った生活ぶり
  で、招待の連絡もなかなかとれず苦労したらしい。
   “一流の研究者は、専門家だけでなく素人もわかる”と言
  われる通りで、熱のこもった内容を通して感じることができ
  た。第一世代毛沢東の国民党との闘争、文化大革命での下放
  と日々革命、第二世代ケ小平の都市と農村、対外二つの開放
  と経済建設、天安門での発砲、第三世代江沢民の時代からの
  農民工、暫定居留証など例を引きながらの説明は、中国語で
  意味は分からないながら、語気の強い発声ぶりで話されると
  一層理解できた感がある。習近平と軍の関係について、習近
  平には過去の指導者たちと違って、自身には実戦経験がない
  ことを指摘していたのは、一寸印象的であった。ダブルスタ
  ンダードを取りあげた中で、中国の憲法はあっさり“偽物”
  とし、当時全く法律など無かった状況の中、毛沢東の指示で
  世界中の憲法の良いところを寄せ集めたものと解説していた
  のは面白い。           http://bit.ly/2jnXtkT
  ───────────────────────────

長谷川慶太郎氏.jpg
長谷川 慶太郎氏
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2017年01月20日

●「習近平主席には真の友達はいるか」(EJ第4442号)

 1月17日、中国の習近平国家主席は、世界経済フォーラム年
次総会(ダボス会議)に初めて出席し、基調講演を行い、次のよ
うに貿易の保護主義の批判を展開しています。
─────────────────────────────
 世界はテロや難民問題などに直面し、不確実性が増している。
しかし、金融危機も含め問題のすべてを経済のグローバル化がも
たらしたわけではない。われわれは明確に保護主義に反対する。
貿易戦争をすれば結局は双方が負けることになる。中国はグロー
バル経済の受益国であり、かつ貢献国である。
         ──2017年1月16日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 中国に保護貿易を批判されたくありませんが、この習主席の発
言は、明らかに、本日、アメリカ大統領に就任するトランプ氏が
主張する保護主義的な政策を意識したものであることは明らかで
す。それをいうために習主席はダボス会議に出席したのです。
 習近平主席が進める「反腐敗」キャンペーンは、情け容赦ない
もので、その対象は自身の親派とされる人物にも及んでいます。
それも必ずしも腐敗の排除をするだけではなく、今後自身の政敵
になると思われる人物についても、キャンペーンの名の下に排除
することが進められています。
 それは、恩人であろうと、年長者であろうと、盟友であろうと
相手を選ばないのです。習主席はひたすら権力の掌握を目指し、
強権を手にしようとしているように見えます。
 習主席がいかに非情であるかを示す軍の大物の排除劇がありま
す。それは、中国人民解放軍のナンバー2で、制服組のトップま
で上り詰めた当時71歳の退役上将で、軍長老の徐才厚の摘発事
件です。
 徐才厚は遼寧省の出身であり、江沢民元主席の抜擢によって出
世したいわば江沢民派の代理人です。軍内人事に絶大な影響力を
持っており、瀋陽軍区の出身者を優先して出世させ、遼寧閥を築
くなど、将校の地位を事実上売買するというようなこともしてい
たのです。いわば、軍内腐敗の元締め的存在であり、摘発されて
当然ではあったのですが、2012年11月の党大会で、すべて
の役職から退いており、末期がんを患っていたので、まさか摘発
されるとは本人はもとより誰も予想していなかったのです。
 しかし、習主席は国家主席になると、2014年6月、中央軍
事委規律委員会は、北京の301軍病院に入院していた徐才厚を
連行し、党籍を剥奪し、逮捕したのです。まさに「ハエもトラも
叩け!」を文字通り実行したことになります。これによって、徐
才厚は2015年3月15日、起訴を待たず、がん悪化による多
臓器不全で死亡しています。
 だが、もともと習主席と徐才厚は親密であり、彼は習主席の後
ろ盾的存在でもあったのです。
─────────────────────────────
 徐才厚と習近平はけっして赤の他人ではない。徐才厚は習近平
に対し、同じ上海閥の期待のエースとして、江沢民の頼みを受け
て将来的に軍内の後見人役となる約束をしていた。解放軍に所属
する歌姫、習近平夫人の彭麗媛に対しては父娘といってもいいよ
うな深い親交があった。習家のホームパーティでは、徐才厚はた
びたび主賓格で招かれ、習近平も心を込めて接待する姿がしばし
ば見かけられていた。つまり地位が高いだけでなく、恩人であり
身内といってもいいような人間関係の老い先短い重病の老人を病
床からひったてて訊問し、刑事罰を科す、というのは従来の共産
党的秩序や中国的長幼の序からは考えられなかった。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 このように味方まで敵に回してしまう習近平政権ですが、真の
味方はいないのでしょうか。
 その習近平氏の唯一の盟友といわれているのが、王岐山党中央
規律検査委員会書記です。いわゆる習政権の反腐敗キャンペーン
はここが担っており、習政権への権力集中に大きく貢献している
のです。王岐山氏は1948年生まれで、習近平氏よりも5歳年
上で、習近平氏と同じ太子党の出身です。
 王岐山氏は胡錦濤政権時代には、商務、金融、市場管理、観光
などを担当し、大きな成果を上げているのです。とくに、リーマ
ンショックのさい、王岐山氏は大規模財政出動を主導し、中国経
済を劇的に回復させるなどの手腕を発揮しています。
 しかし、2016年になってから、習近平主席と王岐山書記の
関係は微妙なものになりつつあるのです。それは、王岐山書記が
反腐敗キャンペーンによって政敵を倒し、権力が習近平主席に集
中すればするほど、習主席は友達の王岐山書記と距離を取ろうと
するからです。
 「習近平に真の友達はいるのか」──このテーマについてのメ
ディアや知識人は次のように結論しています。
─────────────────────────────
  1.習近平は権力さえあれば、友達は不要と考えている
  2.習近平には部下はいるが、信頼できる友達はいない
  3.習近平と王岐山の関係は、皇帝と臣下のそれである
─────────────────────────────
 確かに、習政権スタート当初は、習近平氏と王岐山氏は、お互
いに信頼できる真のパートナー同士だったのです。もともと王岐
山氏は高い能力の持ち主であり、反腐敗キャンペーンは大きな成
果を上げたのです。
 しかし、反腐敗キャンペーンの実行によって政敵がいなくなり
習政権に権力が集中するにつれ、習主席は皇帝化していったので
す。そして現在では、習近平氏と王岐山氏の関係は、まさに皇帝
と臣下の関係と同じになっています。つまり、習近平氏には臣下
はいるが、友達は一人もいなくなってしまったのです。
             ──[米中戦争の可能性/012]

≪画像および関連情報≫
 ●中国有識者層に募る習近平主席への不信感
  ───────────────────────────
   2016年4月下旬に北京と上海に出張した。目的は定例
  の中国経済情勢に関する現地での情報収集である。習近平政
  権が掲げる「新常態」の方針の下、的確なマクロ経済政策運
  営と積極的な構造改革の組み合わせによって、経済の安定が
  保持されており、安心して見ていられる状況である。
   この点については、今回の出張中に面談した政府内および
  民間の経済専門家の全員がほぼ一致した見方をしていた。し
  かし、その面談相手と話しているうちに、「経済は安定して
  いるが、最近政治情勢が不透明になってきていて心配だ」と
  の懸念を耳にすることが少なからずあった。
   これまで習近平政権が行ってきた政策について、政治面で
  は反腐敗キャンペーンの断行が国民的支持を得ている。経済
  面でも雇用と物価の安定を確保し続け、過剰設備の削減や過
  剰不動産在庫の処理への取り組みも一定の成果を上げるなど
  こちらも高い評価を得てきた。最近は政治リスクの高い軍組
  織の抜本的改革まで実現し、着々と政策の結果を積み上げて
  きている。こうした政策面の大きな成果もあって、多くの国
  民から「習おじさん」(中国語では「習大大」シーターター
  と発音)と親しみを込めた愛称で呼ばれるなど、政権基盤も
  安定度を増していた。ただし、有識者の間では学者やメディ
  アに対してイデオロギーや政府批判に関わる活動の取り締ま
  りがますます強化されてきていることに対する疑念がしばし
  ば指摘されていた。        http://bit.ly/2jvYNCq
  ───────────────────────────

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ダボス会議での習主席の演説
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2017年01月23日

●「習近平とフルシチョフは似ている」(EJ第4443号)

 社会主義国の軍隊は、共産党の指導に絶対に服従する党の軍隊
であり、いわゆる国軍ではないのです。これはかつてのソ連も現
在の中国も同じです。このようにしておくと、クーデターが起こ
りにくいのです。
 しかし、このような軍隊は強固な利益集団を形成し、その利権
や予算を争い、軍閥化する可能性が高いのです。江沢民時代の中
国ではそれが上海閥として顕在化したのです。
 江沢民主席時代から、軍、すなわち人民解放軍を牛耳ってきた
軍人といえば、次の2人です。江沢民元主席の腹心です。
─────────────────────────────
        東北の虎 ・・・・ 徐才厚
        西北の狼 ・・・・ 郭伯雄
─────────────────────────────
 その社会主義政権が最も嫌うのが党のための軍隊を国軍化する
ことです。胡錦濤前主席は人民解放軍の国軍化こそ政治改革の核
心であるとして、それに挑戦しようとしたのですが、江沢民元主
席を中心とする軍の猛反発によって挫折しています。そのとき、
胡錦濤前主席の改革を潰す先頭に立ったのが上記の2人です。
 ちなみに、軍の国軍化は中国における「8つのタブー」の筆頭
に位置付けられています。「8つのタブー」とは、雑誌やメディ
アに通達されている取り上げることが禁止されている事項です。
─────────────────────────────
  ≪8つのタブー≫
   1.軍の国軍化問題
   2.三権分立
   3.天安門事件
   4.党・国家指導者及び家族の批判・スキャンダル
   5.多党制
   6.法輪功
   7.民族・宗教問題
   8.劉暁波
─────────────────────────────
 ここで、中国において押さえておくべきことがあります。江沢
民と胡錦濤政権時代の20年間は、グローバル経済の発展のなか
で外交を極めて重視し、経済成長を優先に考えた政策をとったと
いうことです。その基本は、対日重視政策だったのです。
 確かに江沢民政権は強い反日政策をとり、胡錦濤政権では靖国
問題や尖閣国有問題などは起きたものの、その基本は日本を重視
する政策だったのです。「政冷経熱」といわれるように、経済成
長が何よりも重要だったからです。しかし、それは習近平政権に
なってその外交政策は一変するのです。これについて、福島香織
氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 習近平の外交は、強い軍の存在と、それをきっちり掌握する強
い党であることが共産党体制維持の最重要課題であるから、周辺
の大国にはきわめて強い態度で出ることが大切であった。なので
習近平政権当初から、その外交政策は国際社会が目をむくような
横暴さであり、粗野であった。その中でもとくに、日本は敵視さ
れている。   ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 習近平主席は、2012年11月の中央委員会総書記に就任時
点から強い意欲で軍制改革に取り組んだのです。2013年3月
に国家主席になると、その年の秋の三中全会のコミュニケに軍制
改革を盛り込んだのです。
 そして軍を掌握するために上記の徐才厚と郭伯雄という軍に影
響力の強い大物上将を失脚させ、軍制改革をやりやすくしたので
す。2014年3月に徐才厚、2015年4月に郭伯雄を自らが
推進する反腐敗キャンペーンを名目に逮捕・失脚させ、軍制改革
の邪魔者を排除したのです。この2人を失脚させると、江沢民元
主席は影響力を発揮できなくなるからです。
 習主席が進める軍制改革については、改めて詳しく述べますが
それは人民解放軍にとって不都合極まるものであったのです。そ
のため、当然のことながら江沢民派からのさまざまの抵抗はあっ
たのです。それが2015年8月の習近平主席とその幹部の暗殺
未遂事件につながってくるのです。
 ところで、習近平という人物は、かつてのソ連の指導者フルシ
チョフ総書記に似ているといわれます。なぜなら、フルシチョフ
も軍制改革を行ったからです。社会主義革命から誕生した政権は
「銃口から生まれた政権」といわれますが、それは陸軍の銃口な
のです。フルシチョフの軍制改革は、陸軍軍縮であり、陸軍司令
部の撤廃です。これには、軍閥化している軍の大反発を招くこと
になります。このフルシチョフの改革について、福島香織氏は次
のように説明しています。
─────────────────────────────
 フルシチョフは陸軍を軽んじて、核ミサイルの優先発展を決め
た。このことに盟友とされたマリノフスキー元帥は、各軍ともバ
ランスよく発展させるべきだ、陸軍を無視してはならないと反対
したが、フルシチョフはそれを聞かなかった。習近平は陸軍より
も海空軍の発展を優先させている。1964年のフルシチョフの
失脚は、軍に見放されたことが一つの重大な原因だとしている。
                ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 習近平主席による軍制改革も現在の陸軍中心の「軍区制」から
空軍と海軍中心の「戦略区制」に変更しようとするものです。こ
れはきわめて合理性があるのです。なぜなら、現在の中国にとっ
て、陸の国境線から攻め込まれるリスクは、ほとんどないからで
す。そうであるとすると、陸軍は大幅に削減されることになりま
す。これが習主席のいう「30万人の兵力削減」です。
             ──[米中戦争の可能性/013]

≪画像および関連情報≫
 ●フルシチョフの時代
  ───────────────────────────
   フルシチョフの時代は、あの有名な『スターリン批判』か
  ら始まる。第20回党大会において、外国代表を締め出し、
  スターリンの個人崇拝、独裁政治、粛清の事実を公表した。
  特に粛清について発表された数字は世界に衝撃を与えた。第
  17回党大会で選出された中央委員・同候補139名のうち
  98名が処刑、党大会の代議員全体1986名のうち110
  8名が同様の運命をたどった。彼らに科せられた「反革命」
  の罪状は、その大半が濡れ衣であったと言うものであった。
  スターリン批判はスターリンの個人批判にとどまり、それが
  可能にになった体制の問題にまで掘り下げられなかった。
   スターリン批判によって重い空気は取り払われたが、政治
  体制、経済政策はスターリン時代を踏襲したものであった。
  消費産業に一定の配慮はされたものの、軍需・重工業重点は
  変わらず、5か年計画は継続された。農業政策に通じていた
  彼は、農業改革を実施。西シベリアや中央アジア等の処女地
  開墾を行い食料・農産物の増産に成功する。特に中央アジア
  では大規模灌漑で、綿花生産は大きな成果を挙げ、一帯は綿
  花地帯と化し綿工業も発達した。農業生産での成功で、数年
  の間にアメリカを追い越すとフルシチョフは豪語するように
  なった。実はソ連は広大な耕作地を持ってはいたが、気象条
  件に左右される環境にあり、相次ぐ戦乱、集団化の失敗等で
  悩みは農業問題で、食料が自給出来なかったのであった。
                   http://bit.ly/2iMdodj
  ───────────────────────────

フルシチョフと習近平.jpg
フルシチョフと習近平
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2017年01月24日

●「習主席の軍制改革の目的とは何か」(EJ第4444号)

 習近平政権までの「軍制」はどうなっていたのでしょうか。そ
れは「7大軍区制」という制度だったのです。この制度は、旧ソ
連の「軍管区制度」にならったものといわれています。
 中国は広大な地域を持つ国ですから、その国境線は広大です。
したがって、いつ国境から敵が侵入してくるかわからないので、
陸軍を7つの軍事組織である「軍区」に分けて、敵の侵入に備え
ていたのです。軍区制は1949年に導入されています。
 この場合、軍区の司令はその地域の作戦を遂行するうえで、い
ちいち上層部の指揮を仰がなくでも、作戦を実行できる強固な指
揮権を有しています。その7つの軍区とその主たる対応国を以下
に示します。
─────────────────────────────
   1.瀋陽軍区 ・・・ 北朝鮮
   2.成都軍区 ・・・ インド(チベット独立派)
   3.北京軍区 ・・・ モンゴル
   4.南京軍区 ・・・ 台湾(日本)
   5.蘭州軍区 ・・・ ロシア・ウイグル独立派
   6.広州軍区 ・・・ ベトナム
   7.済南軍区 ・・・ 予備軍区
─────────────────────────────
 これら7つのそれぞれの軍区には、陸軍だけでなく、海軍、空
軍、第二砲兵(ミサイル部隊)も配置されており、兵站や兵力の
配置なども軍区の司令が担うのです。なお、軍区には政治委員も
設置され、軍政権もある。つまり、軍区の司令は軍事のことは自
らの判断で実行できるのです。しかし、この軍区制には次の2つ
の問題点があります。
─────────────────────────────
       1.軍区が軍閥化しやすいこと
       2.中央にとっては脅威になる
─────────────────────────────
 軍区は地域に密着しており、政治性の強い組織です。当然、地
域から人を登用し、軍人に育てるということも当然行われます。
また、利権の温床になりやすいのです。したがって、どうしても
派閥が形成されやすくなります。司令の権限は軍事限定ですが、
小さな国のようなまとまりを持つ可能性もあります。これが問題
点「1」です。
 この7大軍区制は、国境からの敵の侵入を防ぐのには有効だっ
たのですが、現在の中国に国境線からの侵入のリスクはほとんど
ないのです。最大の脅威であったロシアとの国境線の問題も既に
解決しているからです。
 中国が現在想定する戦争は、南シナ海や東シナ海での外敵との
空海軍やミサイル部隊による戦闘と、テロや内乱などの非対象戦
闘です。これには軍区制ではほとんど対応できず、軍区の強い政
治性は、軍隊を一本化するとき、スムーズにいかない原因になり
ブレーキになります。
 それに軍区が導入されてから70年近くになるので、中央のコ
ントロールが効かなくなりつつあります。これは中央にとって、
大きなリスクになるといえます。これが「2」の問題点です。
 江沢民元主席は、これらの7大軍区をうまくまとめ、その上に
君臨した国家主席です。そのため、胡錦濤氏が国家主席になって
も、江沢民主席は、軍をコントロールする権限は手放さなかった
のです。しかし、胡錦濤主席は、軍区制は時代遅れであるとして
その改革に取り組んだのですが、軍区は陸軍の利権であって、強
い抵抗に遭い、改革は失敗に終わっています。
 その軍制改革を習近平主席は、胡錦濤時代から、周到な計画の
下に実施したのです。その軍制改革の骨子は、次の4つです。
─────────────────────────────
   1.軍区制を廃止して、戦区制(戦略区制)にする
   2.軍令と軍政を分離し、軍の司法機構を一新する
   3.30万人の兵力を削減し、200万兵力にする
   4.軍の「民間向け商業活動」を全面的に廃止する
─────────────────────────────
 「1」について考えます。
 戦区制とは、米軍の統合軍がモデルです。戦略・作戦目的ごと
に、陸、海、空軍の統合軍が設置され、指揮系統も統合作戦指揮
系統が置かれるのです。具体的には、かつての7大軍区を次の5
戦区に編成されたのです。
─────────────────────────────
 1.東 部戦区 ・・・ 本部は南京。日本や台湾方面での紛
             争発生に対して対応する戦力
 2.南 部戦区 ・・・ 本部は広州。南シナ海やシーレーン
             の安全の確保を想定した戦力
 3.北 部戦区 ・・・ 本部は瀋陽。ロシアと北朝鮮方面で
             軍事衝突などに対応する戦力
 4.西 部戦区 ・・・ 本部は蘭州。中央アジアのイスラム
             過激派テロ活動に備える戦力
 5.中央部戦区 ・・・ 本部は北京。首都である北京とその
             周辺地を警護するための戦力
─────────────────────────────
 中国は2016年から「ロケット軍」や、サイバー攻撃・宇宙
空間の軍事利用を担う「戦略支援部隊」を創設しています。そし
て、陸軍を海軍・空軍と同列の扱いとし、中国共産党が直接作戦
指揮を行えるようにしたのです。これにより、習近平政権の統制
力はさらに高まったといえます。
 習主席は「各戦区には平和を維持し、戦争に勝つ使命がある」
といっていますが、まるで戦争に勝てる強軍があってこそ平和が
実現できると考えているようです。このように、習主席は、いつ
でも戦争ができるよう、軍制を改革し、着々と権力を自分に集中
させつつあります。「2」から「4」については明日のEJで述
べます。         ──[米中戦争の可能性/014]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平と中国軍の対立/国家主席に従わない人民解放軍
  ───────────────────────────
   習近平主席と中国軍は外から見ると強固な関係で、習の独
  裁あるいは軍と一体化しているようにも見える。だが実際に
  は、中国人民解放軍には習近平への不満が渦巻いており、機
  会があれば失脚させようと狙っている。
   まず中国人民解放軍について理解する必要があるが、この
  軍隊は中国という国家に所属してない。法律では中国共産党
  に所属する私兵なので、国家主席だろうと最高指導者だろう
  と、軍に命令する事はできない。これは、清国が辛亥革命に
  よって倒れたあと、国民党が政権を握り後で共産党が誕生し
  た経緯に原因が求められる。
   「一つの中国」の中で国民党軍と共産党軍が内戦をしてい
  るのだから、国家に所属する軍隊など敵に寝返りかねない。
  中国に近代国家としての正規軍が存在せず、共産党に所属す
  る私兵だという事は、党内の派閥や軍閥が強い力を持ってい
  る。習近平が人民解放軍を動かせるのは、「共産党中央軍事
  委員会主席」という地位に就いているからで、中国の国家主
  席だからではない。1982年に重要な憲法改正が行われ、
  「軍事委員会主席が軍を統率する」から「軍事委員会が軍を
  領導する」に変わっている。比較すると以前は、主席(毛沢
  東)個人に指揮権があったのに、現在は委員会が統率して指
  導するとなっていて、権限が縮小されている。これは恐らく
  毛沢東時代の独裁が経済や軍事に悪影響を与えた事から、最
  高指導者の権限を縮小したのでしょう。
                   http://bit.ly/2jLUHps
  ───────────────────────────

中国の軍制改革/5大戦区.jpg
中国の軍制改革/5大戦区
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2017年01月25日

●「軍制改革で強大化する習近平政権」(EJ第4445号)

 昨日のEJでご紹介した中国の軍制改革の4つの骨子を再現し
ます。「1」については説明済みです。
─────────────────────────────
   1.軍区制を廃止して、戦区制(戦略区制)にする[済]
 → 2.軍令と軍政を分離し、軍の司法機構を一新する
   3.30万人の兵力を削減し、200万兵力にする
   4.軍の「民間向け商業活動」を全面的に廃止する
─────────────────────────────
 「2」について考えます。
 軍制改革以前の人民解放軍の実権は、四大総部が握っており、
中央軍事委員会主席の持つ総帥権は飾りでしかなかったのです。
ちなみに中央軍事委員会主席は、国家主席が兼務します。四大総
部とは、次の4つの部署のことです。
─────────────────────────────
      1.総参謀部     3.総装備部
      2.総政治部     4.総後勤部
─────────────────────────────
 人民解放軍は四大総部による支配が長年続き、横の人事異動は
ほとんどなく、縦割り行政の弊害が指摘されていたのです。20
16年12月11日までに四大総部は解体され、その機能が15
の専門部局に分散されたのです。
 新しく設けられたのは「連合参謀部」「政治工作部」「訓練管
理部」「国防動員部」などの部局で、これまで四大総部の傘下に
あった部門が独立したのです。どうしてこの体制になったのかと
いうと、組織間の情報交換と連携を強化する狙いであるとの指摘
があるほか、軍内部の権限を細かく分散させることで、中央軍事
委員会主席である習近平主席が軍の全面的な掌握を進める狙いが
あると思われます。
 この組織改編の後で習近平主席は、北京市西部の中央軍事委員
会本部で各部署の責任者に任命された将軍を集め、次のように訓
示しています。
─────────────────────────────
 共産党中央と中央軍事委員会の指揮に断固として従わなけれ
 ばならない。       ──習近平中央人事委員会主席
─────────────────────────────
 四大総部の組織改編では、「軍政と軍令の切り離し」を行って
います。ところで、軍政と軍令はどう違うのでしょうか。
 軍事権は、「軍政権」と「軍令権」から成ります。軍政権とい
うのは、軍事行政、装備、兵站などの軍隊建設に関わる政治を意
味します。これに対して軍令権は、軍事力の直接的使用に関わる
権力のことです。つまり、軍令権は作戦用兵に関する統帥権を意
味します。明治憲法下では,日本はドイツを模倣して、軍令権は
内閣の権能外に独立させ、天皇が直接掌握するかたちになってい
たのです。
 軍政権と軍令権の関係について、福島香織氏は、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 平和時、軍令権はあまり存在感がない。むしろ軍政を握るもの
が軍の権力の中枢を握ることになる。逆にいえば、それが平時の
軍の常態である。だが、習近平が軍令権と軍政権を分離し、軍令
権については自らが掌握することにした。これは、平時から戦時
体制に変わる準備ともいえる。軍令権の中には仮想敵国の想定や
戦術戦略研究の方針も含まれるという。
 この改革が進めば、これまで軍の実権を握っていた四大総部は
中央軍事委の決定に従って実務に専念する職能機関に格下げにな
る見通しだ。中でも総政治部の権限は大幅に弱体化する。
          ──福島香織氏 http://nkbp.jp/2jMk1vI
─────────────────────────────
 今回の軍制改革では、軍の司法機構を一新するとありますが、
実際にどうなったのかについてはわかっていないのです。軍の司
法機関については、中央軍規律委員会が軍の腐敗を摘発すること
になっていますが、これまであまり厳しい裁きが行われてきてい
ないのです。
 これは長らく軍政を握ってきた徐才厚が身内意識を優先して甘
い裁きをやってきているからです。徐才厚は既に死亡しています
が、その残党は多く残っており、その一掃のために司法機関の改
革が打ち出されたものと思われます。おそらく中央軍規律委員会
を独立させて、新たに軍事政法委員会を作るなどの改革が行われ
るものと考えられます。
 そもそも習近平主席が仕掛けた軍制改革──とくに7大軍区の
改変の真の目的は、徐才厚派の多くいる瀋陽軍区と、郭伯雄派の
多くいる蘭州軍区の解体にあるのではないかといわれるのです。
これをやらないと、本当の意味での軍制改革はできないといわれ
ます。しかし、この軍制改革によって軍は動揺しており、不満が
渦巻いているのです。
 なぜ習近平主席は、このタイミングで軍制改革をやろうとした
のでしょうか。それは「2つの100年」の目標実現のためとい
われています。「2つの100年」とは次の2つです。
─────────────────────────────
   1.  中国共産党成立100年(2021年)
   2.中華人民共和国成立100年(2049年)
─────────────────────────────
 第1の100年は、2021年に訪れる中国共産党成立100
年に小康社会を樹立することです。小康社会とは、全面的なゆと
りある社会のことです。
 第2の100年は、2049年までに中国を社会主義現代国家
にするという目標です。そのための4つの全面──全面的小康社
会の建設、全面的改革の深化、全面的法治国家の推進、全面的統
治の厳格化の協調的推進に必要なのが軍制改革による強軍興軍化
であるというのです。   ──[米中戦争の可能性/015]

≪画像および関連情報≫
 ●人民解放軍を骨抜きにする習近平の軍事制度改革
  ───────────────────────────
   「政治権力は銃口から生まれる」。毛沢東が語ったこのき
  わめて明快な権力観は、習近平の中国でも生きている。習近
  平は、2012年11月に中国共産党総書記に就いて以来、
  歴代の指導者と同様に、繰り返し人民解放軍に対して「党の
  軍に対する絶対的な指導」を守るよう繰り返し確認してきた
  のである。これを制度的に保障するために、やはり歴代の指
  導者と同様に、習近平は中国共産党のトップである中国共産
  党中央委員会総書記であり、国家のトップである国家主席で
  あり、中国共産党の軍事に関わる意思決定のトップである中
  国共産党中央軍事委員会主席であり、国家の軍事に関わる意
  思決定のトップである国家中央軍事委員会主席を兼ねている
  のである。
   実は、中国共産党総書記はこれまで、その就任直後から、
  国家、そして軍の三権を一度に掌握してきたわけではない。
  現代中国政治において政治指導者たちは、権力を継承すると
  き、軍に関する権力の継承については極めて慎重におこなっ
  てきた。天安門事件の責任を負って失脚した趙紫陽の後任と
  して中国共産党総書記に就いた江沢民は、中国共産党中央軍
  事委員会主席の地位を、総書記就任から5ヶ月経ってから、
  ケ小平から継いだ。江沢民の後継である胡錦濤は2002年
  11月に総書記に就任したが、中央軍事委員会主席となった
  のは2年後のことであった。    http://bit.ly/2kfWAvP
  ───────────────────────────

軍人を激励する習国家主席.jpg
軍人を激励する習国家主席
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2017年01月26日

●「陸軍の兵力削減30万人への不満」(EJ第4446号)

 中国の軍制改革の4つの骨子を再現します。「1」と「2」に
ついては説明済みです。
─────────────────────────────
   1.軍区制を廃止して、戦区制(戦略区制)にする[済]
   2.軍令と軍政を分離し、軍の司法機構を一新する[済]
 → 3.30万人の兵力を削減し、200万兵力にする
 → 4.軍の「民間向け商業活動」を全面的に廃止する
─────────────────────────────
 「3」について考えます。
 習近平国家主席は、軍制改革によって兵力を30万人削減する
と発表しています。これは、2015年9月3日に中国で行われ
た抗日戦勝利70周年記念式典での習近平国家主席の演説のなか
で出てきたのです。演説のなかのその発言部分を抜き出して、以
下に示します。
─────────────────────────────
 平和のために、中国は終始平和発展の道を堅持していきます。
中華民族は従来、平和を愛しています。どこまで発展を遂げても
中国は永遠に覇を唱えず、永遠に拡張を行わず、自分自身がかつ
て経験した悲惨な遭遇を、ほかの民族に押しつけるようなことは
決してしません。中国人民は世界各国人民と友好的につきあい、
中国人民抗日戦争と世界反ファシズム戦争の勝利の成果を固とし
て守り、人類のために新たに、より大きな貢献をしていくよう努
めていきます。
 中国人民解放軍は、人民からなる軍隊で、全軍の将士は全身全
霊人民に奉仕するという根本的な主旨を心に刻み、祖国の安全と
人民の平和な生活を守るという神聖なる職責を忠実に全うし、世
界平和を守るという神聖なる使命を忠実に遂行しなければなりま
せん。ここで中国は、軍兵士30万人を削減することをここに宣
言します。              http://bit.ly/1KKEbNr
─────────────────────────────
 この演説で習主席は誠に殊勝なことをいっています。「中国は
覇権を唱えず、拡張を行わない」といい、他の国を攻めて領土を
拡張するようなことは永遠に行わないと断言しています。しかし
その一方で、南シナ海諸島や尖閣諸島のように、かつて歴史上、
中国の領土であった島々は中国のものであり、それは中国の譲れ
ない核心的利益であって、中国のものにするのは当然であるとい
う奇妙な論理を展開するのです。
 そのうえで習主席は、兵力を30万人減らすといっているので
す。一見すると、軍縮であると思うはずです。しかし、これは軍
縮ではなく、軍のスリム化であり、強軍化なのです。それと同時
に習主席にとって邪魔になる人材を切って、風通しをよくすると
いう裏目的もあるのです。この30万人のリストラについて福島
香織氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 (軍制改革によって)兵力30万人削減という大リストラを開
始している。これは軍縮ではない。軍のスリム化による強軍化で
あると同時に、軍の徐才厚、郭伯雄(ともに習近平の政敵として
粛清された)の残党の粛清発表と受け止められている。この30
万人の内訳の多くが「非戦閣員」といわれている。汚職の温床化
している装備部の圧縮が真っ先に挙げられている。また、30万
人中17万人は、陸軍の江沢民系、徐才厚系、郭伯雄系ら将校ク
ラスのようだ。この軍のスリム化は2017年までに完了させる
という。    ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 習近平主席は、この軍制改革と並行して着々とあることを実行
しています。それは軍内の要職に自分の息のかかった者を配置し
ようとしているのです。南京軍区出身、とくに第31集団軍出身
者が多いのです。習主席が、福建、浙江省勤務であったときの人
脈が中心です。
 具体的にいうと、趙克石(後勤保障部長)、李暁峰(政治委員
会書記)、王安竜(中央軍事委弁公庁副主任)、苗華(海軍政治
委員)、蔡英廷(解放軍軍事科学学院)といった習主席の腹心が
続々と出世しています。彼らのなかには実力不足の者も多く、軍
内に大きな不満が渦巻いています。まさしく、「お友達人事」そ
のものです。
 「4」について考えます。
 軍の「民間向け商業活動」とは何でしょうか。
 実はこれこそ人民解放軍を腐敗させる原因になったのです。ケ
小平は、経済成長を重視し、国防費を大幅にカットしたことがあ
ります。その国防費の不足を補うためにケ小平は、中国軍の独自
ビジネスを認めたのです。これについて、ハーバード大学アジア
センター・シニアフェローの渡部悦和氏は、自著で次のように述
べています。
─────────────────────────────
 腐敗した中国軍の改革は困難を極める。軍所有の土地や施設の
賃貸、新聞の発行、ホテルやレストランの経営、軍の病院を民間
人にも開放することによる診療収入の確保などのビジネスを展開
してきた。このビジネスが軍腐敗の原因であり、習主席は今回の
軍改革の一環として軍のビジネスの大半を禁止した。今後、習近
平政権と陸軍を筆頭とする軍の抵抗勢力との関係がどう推移する
かが重要な指標となる。いずれにせよ、中国軍の改革を通じた権
力基盤の強化にはまだまだ時間がかかると予想する。
        ──渡部悦和著「米中戦争/そのとき日本は」
                  講談社現代新書2400
─────────────────────────────
 それでも人民解放軍の腐敗はなくならないと思われます。腐敗
のある軍隊は絶対に強軍化できないものです。それでも習主席は
軍制改革を早期に完成させるといっています。
             ──[米中戦争の可能性/016]

≪画像および関連情報≫
 ●「戦争ができ、戦争に勝つ」軍隊の誕生
  ───────────────────────────
  2016年2月8日から13日まで、中国は春節(旧正月)
  の大型連休だった。習近平主席にとって、中国共産党のトッ
  プに立って迎える4回目の春節だった。北朝鮮がこのところ
  「大暴れ」しているので、習近平政権も大揺れの正月だった
  かと言えば、そうではない。
   思うに習近平主席にとって今年が最も安らかに迎えた春節
  ではなかったか。それは習近平主席が最も重要視する200
  万人民解放軍を、「自分の軍隊」に改造することに成功した
  からである。
   春節を一週間後に控えた2月1日午前10時、新調した人
  民服を着た習近平主席が、満足げな表情を浮かべて、「八一
  大楼」の大ホールの壇上に立った。「八一大楼」は、8月1
  日の人民解放軍創建記念日の名を冠した国防部の施設で、長
  安街沿いの軍事博物館東側に位置する。建築面積9万255
  平方メートル、地上12階、地下2階建てで、1997年に
  人民解放軍を統轄する中央軍事委員会のオフィスとして建て
  られた。習近平主席は、1979年、26歳の時に、元人民
  解放軍幹部だった父・習仲勲の命令で、中央軍事委員会のオ
  フィスで働くことからキャリアをスタートさせた。以後、中
  央軍事委員会主席に収まった現在に至るまで、そのキャリア
  の大半で、軍務を兼務してきた。  http://bit.ly/2kdjZug
  ───────────────────────────

30万人の兵力削減の演説.jpg
30万人の兵力削減の演説
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2017年01月27日

●「尖閣諸島国有化が招いた日中関係」(EJ第4447号)

 中国の支配者、習近平主席の正体を知るために、胡錦濤前主席
との違いを知る必要があります。胡錦濤政権は、中国が今後発展
していくためには、国際協調は欠かせないと考えており、そのた
めには、党の私軍である人民解放軍を党から切り離し、国軍とす
る軍制改革を行うべきであるとして、改革に着手したのです。そ
して、共産党執政の正当性の根拠を経済成長に求めたのです。
 社会主義国のトップとしては正しい判断であり、旧ソ連のゴル
バチョフ総書記のやったことに似ています。しかし、胡主席の軍
制改革は抵抗勢力の妨害によって潰されています。
 これに対して胡錦濤政権を受け継いだ習近平政権は、党が軍を
より掌握し、これによって共産党一党支配の正当性を担保しよう
としたのです。まさに中国の北朝化そのものです。世のなかの動
きに逆らう先祖返りを図ったといえます。
 ところで、習近平氏は、胡錦濤政権の国家副主席を務めていた
ときから、胡政権の進めようとする軍制改革に疑問を持ち、先祖
返りのための布石を打っていたといわれます。
 ところで、『習近平内部講話』(広度書局)という本がありま
す。この本には習近平氏の主張が詳しく書かれているのですが、
次のような習近平氏のレポートも載っています。
─────────────────────────────
          2012年9月13日付/習近平記
   「第18回党大会前の時局においての個人的見解」
─────────────────────────────
 このレポートは、当時の政権の胡錦濤、温家宝および江沢民、
李鵬、朱鎔基などに宛てたものになっています。この文書が書か
れた時点では、習近平副主席が次の総書記/国家主席になること
は確定していたのです。したがって、そのレポートの内容は、自
分が総書記になったら、このようにやりたいという政策の方向性
について書かれているのです。
 ところで、このレポートの日付に注目して欲しいのです。20
12年9月13日というのは、日本が尖閣諸島を国有化してから
2日後です。したがって、このレポートは、日本を意識した内容
にになっていることは確かです。
 それに、2012年9月1日〜14日までの2週間、習近平副
主席の動静は不明だったのです。その期間内の公式スケジュール
には、中国を訪問していたヒラリー・クリントン氏らの要人と面
接する予定があったのですが、それは突然キャンセルされていま
す。多くの中国メディアは、習近平氏は水泳中、プールサイドで
転んで背中を痛め、入院していると報道したので、暗殺説まで出
たほどです。
 実際は、習副主席はけがを理由に2週間の休暇を取り、ブレー
ン一人とこのレポートを作成していたのです。そのなかには当時
の習近平氏の日本観を窺うことができます。その部分を福島香織
氏の著書から引用します。
─────────────────────────────
 日本は長期の経済低迷に、天災人災が相次ぎ、社会存亡の危機
に見舞われている。右翼勢力の台頭、戦後の国際秩序への挑戦、
日本政府が釣魚島を「国有化」するなど、これは愚かな行動の一
例だ。われわれは、アジア太平洋と世界の平和環境、秩序維持、
国内の発展のために、かなり我慢して譲歩してきたが、最近の事
態は我慢の限界だ。釣魚島は東海の中国大陸棚の資源に関係する
だけでなく、国家の長期的戦略的経済利益に関係する。また、中
華民族の近代から現代に至る屈辱的な歴史と民族の痛みにも関係
する。(釣魚島防衛は)わが国民衆の民族の自尊、国家の尊厳、
国家領土主権の防衛という正当な要求のほか、社会の各種矛盾、
積怨、不満の爆発のはけ口も見つけることができる。・・・われ
われは一定の民意に従い、同時に正確に誘導し、日本が運んでき
たこの重い石を、自分の足の上に落とさせるようにしよう。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 このレポートには、胡錦濤政権は日本に対してあまりにも弱腰
であり、そのために尖閣諸島が国有化されたとの思いが強く込め
られています。実際にこの件に関して胡主席は、党長老、軍幹部
たちから、非難されていたのです。
 さらに、このレポートでは、次の具体的な7つの提案をしてい
ます。それらのほとんどは既に実行されています。
─────────────────────────────
 1.反日デモは抑制せず、もし日本製品(日貨)の打ち壊し
   が起きても恐れない。
 2.米国とも協調して、日本の軍国主義復活・拡張主義の復
   活に警戒を喚起する。
 3.両岸三地(台湾/香港/中国)で、漁民の非暴力形式で
   中国主権を主張する。
 4.国連などに働きかけ、釣魚島の主権を訴え、米国に肩入
   れさせてはならない。
 5.日本に対して強硬な外交姿勢を強め、経済貿易制裁など
   有形無形で発動する。
 6.上記に加えて、中国として軍事的に釣魚島を完全防衛す
   る準備を新調させる。
 7.国内で、釣魚島問題に関する民衆の言論を大きく解放さ
   せ、世論を形成する。
               ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 これを見ると、現在の中国の習政権が日本にとっていかにリス
クの多い政権であるかがわかります。実際に中国は、日本が少し
でもスキを見せれば、局地的軍事衝突に持ち込むハラであること
は確かです。現在でも、尖閣諸島周辺では中国の挑発は続けられ
ており、日中の火種になっているのです。
             ──[米中戦争の可能性/017]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平は尖閣諸島を奪うつもりだった/福島香織氏
  ───────────────────────────
   2012年9月の第18回党大会前に、習近平が、米国と
  ともに戦後国際秩序の守り手として、軍国主義復活を企てる
  日本を追い詰めていく戦略を頭に描いて、こんな手紙を書い
  ていたとしたなら、やはり彼はたいそう国際社会の現実を知
  らない外交音痴の人であったかと思う。結果から言えば、中
  国は「戦後国際秩序の守り手として米国と協調する路線」か
  ら、「米国に対抗する中華秩序圏のアジアにおける樹立」に
  方針変更したし、日米の離反を狙った外交・宣伝工作は失敗
  し、米国のアジア・リバランス政策を引き起こし、尖閣諸島
  (釣魚島)で作戦を仕掛ける前に南シナ海問題で米中の対立
  を先鋭化させた。"両岸三地共同の釣魚島防衛"など、ひまわ
  り、雨傘運動で消し飛んでしまった。
   そして2014年秋からは180度方針を転換し、むしろ
  日本に積極的にアプローチしてきている。春節には日本での
  「爆買ブーム」を比較的肯定的に報道し、フェニックステレ
  ビでは6月、安倍晋三の単独インタビューを比較的好意的な
  編集で流し、「安倍は中国に好意的」といったシグナルを発
  信した。最近では、安倍の密使として訪中した谷内正太郎に
  は、首相の李克強が35分の時間を割いて会談すると言う厚
  遇ぶりを見せた。        http://nkbp.jp/2jzKc5R
  ───────────────────────────

冷たい二国関係/日本と中国.jpg
冷たい二国関係/日本と中国


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2017年01月30日

●「空自のスクランブルの厳しい現状」(EJ第4448号)

 日本の新聞では大きく報道されませんが、尖閣諸島周辺空域で
は、間断なく飛来する中国戦闘機に対して、航空自衛隊のスクラ
ンブルが厳しさを増しています。
 2016年12月10日のことです。中国国防部は次の発表を
行ったのです。昨年暮れのことですから、覚えておられる人もい
ると思います。
─────────────────────────────
 2016年12月10日(土)、中国国防部は「中国空軍航空
機が、宮古海峡空域を経て西太平洋における定例の遠海訓練に赴
いたところ、日本自衛隊が2機のF─15戦闘機を出動させ、中
国側航空機に対し、近距離での妨害を行うとともに妨害弾を発射
し、中国側航空機と人員の安全を脅かした」(防衛省報道資料よ
り)と発表しました。        ──中国国防部の言い分
─────────────────────────────
 これに対して日本の防衛省は次の反論を行ったのです。「妨害
弾」などもってのほかというわけです。
─────────────────────────────
 これに対して防衛省は、翌12月11日(日)、空自F─15
戦闘機は中国軍用機に対し、状況の確認と行動の監視を、国際法
および自衛隊法に基づく厳格な手続きに従って行ったものであり
「中国軍用機に対し、近距離で妨害を行った事実はなく、妨害弾
を発射し、中国軍用機とその人員の安全を脅かしたという事実も
一切ありません」との見解を表明しました。 ──防衛省の反論
                   http://bit.ly/2jDHAnj
─────────────────────────────
 ところで、中国国防部のいう「妨害弾」というのは「フレア」
のことです。戦闘機が搭載しているミサイルは、敵のエンジンか
ら発射される赤外線を追尾して撃墜する赤外線追尾型ミサイルが
多いのです。フレアというのは、赤外線追尾型ミサイルを欺瞞す
る、いわばおとり弾のことです。
 敵機が近づいてきて、ロックオンされた場合、戦闘機はフレア
を射出してミサイルの追尾をフレアに引き寄せ、その間に現場か
ら離脱することになります。
 ということは、この場合、中国の戦闘機2機が、スクランブル
で接近してきた空自のF─15戦闘機2機に対し、ロックオンし
たので、2機のF─15戦闘機は、フレアを発出して離脱したと
いうことが想定されます。しかし、防衛省はそのどちらも否定し
ています。どうやら、ことを大きくしたくないようです。
 なぜかというと、このようなことはこれまでにも起きているか
らです。実は、これとそっくりの事例が2016年6月17日に
起きているのです。しかし、このときはなぜかメディアが取り上
げていないのです。官邸が特定秘密保護法の対象項目として公表
しなかったからです。
 福島香織氏は自著でこの事実を取り上げていますが、それは、
航空自衛隊の戦闘機パイロットで、元空将の織田邦男氏が、JB
プレスという有料サイトに掲載した主張に基づいています。福島
香織氏はこれについて次のように述べいます。
─────────────────────────────
 織田記事では、「(中国軍機から)攻撃動作を仕掛けられた空
自戦闘機は、いったんは防御機動でこれを回避したが、このまま
ではドッグファイト(格闘戦)に巻き込まれ、不測の状態が生じ
かねないと判断し、自己防御装置を使用しながら、中国軍機によ
るミサイル攻撃を回避しつつ戦域から離脱したという」とある。
素直に読めば、中国軍機がミサイル攻撃体制をとったので、フレ
ア(赤外線センサーを欺瞞するデコイ装置)を発射して、これを
回避し離脱した、と受け取れる。
 これを受けて、萩生田光一副官房長官が29日の記者会見で、
「近距離でのやり取りは当然あったのだと思う」としながらも、
「攻撃動作をかけられたという事実はない」と言明した。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 これは、12月10日に起きたこととまったく同じです。なぜ
そのとき政府はこのことを公表しなかったのでしょうか。
 それは、スクランブルをかける空自の戦闘機が厳しい状況に置
かれている現状と関係があります。福島氏によると、2016年
4月〜6月の中国戦闘機へのスクランブルは、前年同期比1・7
倍に増加しており、予備パイロットまでスクランブルに駆り出さ
れる事態になっているからです。そのため、中国戦闘機に押され
ているのです。そのため、織田氏は心ある日本人に対して警鐘を
鳴らす目的で、あえて有料サイトに論文をアップし、事実を公表
したものと思われます。福島氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 織田記事が懸命に警鐘を鳴らしているように、いま日本の対中
国防衛の最前線はきわめて厳しい状況にあることを、もっと多く
の日本人が知るべきだろう。だが日本政府はこれを特定機密保護
法の対象として、公表を見送ったうえ、自衛隊OBが危機感から
問題提起したことをむしろ問題視して、情報漏えいの犯人探しに
躍起になっている。これは、中国国防部がおおむねの内容を公表
した今になっては、東シナ海防衛の最前線にいる人たちの士気を
下げ、日本の防衛体制の穴を中国に知らしめる利敵行為以外の何
ものでもない。         ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 習近平主席の意思を受けて、中国戦闘機は本気で東シナ海の制
空権を取ろうとして尖閣周辺上空に飛来してくるのです。そのた
め、スクランブルをかけた空自の戦闘機が、中国機にドッグファ
イト(バックをとられること)されたからこそ、自衛隊機はフレ
アを射出して離脱したのです。バックをとられてロックオンされ
れば、フレアで離脱するしかないからです。
             ──[米中戦争の可能性/018]

≪画像および関連情報≫
 ●空自機、対領空侵犯措置にて「妨害弾」射出か
  ───────────────────────────
   防衛省は「近距離で妨害を行った」ことと「妨害弾(フレ
  ア)によって安全を脅かした」ことは否定しましたが、「フ
  レアの投下自体」は否定していません。よって、実際のとこ
  ろどのような状況であったのかは不明ですが、少なくとも中
  国国防部が主張する「フレアの射出によって安全が脅かされ
  た」という点は、フレアの特性上発生しようがないことは明
  白であると断定でき、中国国防部の発表は矛盾しています。
   もし仮に、本当に航空自衛隊のF─15戦闘機からフレア
  が射出されていたとしたならば、それはF─15のパイロッ
  トが何らかの脅威を認識したからであると推測されます。今
  回の中国空軍機の編隊には戦闘機が2機(防衛省はSu30
  戦闘機と発表)、確認されています。おそらくこの中国軍の
  戦闘機が、F─15に対してレーダー追尾(ロックオン)を
  仕掛けたのではないでしょうか。F─15には国産の自己防
  御システムが搭載されており、レーダー電波を逆探知するこ
  とでパイロットはロックオン、すなわち攻撃される寸前の状
  態であることを認知できます。もし、「レーダー誘導ミサイ
  ル」が発射された場合、F─15はやはりレーダー電波を逆
  探知し、パイロットはミサイル接近中であることを認知でき
  ます。ただし「赤外線誘導ミサイル」は電波を出さないので
  ミサイル接近警報装置を搭載していないF─15には、同ミ
  サイルで攻撃されているかどうかを知ることはできません。
                   http://bit.ly/2kA2pjw
  ───────────────────────────

スクランブル戦闘機によるフレア射出.jpg
スクランブル戦闘機によるフレア射出
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2017年01月31日

●「中国は軍事紛争を日本に仕掛ける」(EJ第4449号)

 2013年1月30日のことです。中国海軍の軍艦が、海自の
護衛艦に対してレーダーを照射するというとんでもない事件が起
きたのを覚えていますか。2013年2月5日付のAFPニュー
スは、その事件を次のように伝えています。
─────────────────────────────
 【2月6日AFP】小野寺五典防衛相は5日夜、中国海軍のフ
リゲート艦が1月30日に東シナ海で、海上自衛隊の護衛艦に射
撃用の火器管制レーダーを照射したと発表した。
 日本と中国の艦艇間でレーダー照射が明らかになったのは初め
て。両国関係は尖閣諸島の領有権問題で緊張が高まっており、武
力衝突が起きる恐れもあると懸念する声も聞かれている。
 小野寺防衛相によると、1月19日にも自衛隊ヘリコプターが
似たレーダー照射を受けた。関係者によれば、19日と30日の
レーダー照射はともに数分間続いた。小野寺防衛相は「大変、特
異な事例」で「一歩間違えれば大変危険な状態に発展していた」
と述べ、中国にこのような行為の自制を求める意向を表明した。
                   http://bit.ly/2jH4ASz
─────────────────────────────
 どこかの国の船舶、まして軍艦に対してレーダーを照射すれば
それは砲撃目的以外はあり得ないので、砲撃戦になることは確実
です。それがきっかけで戦争になっても不思議はないほど重大な
ことです。米国の軍艦に、もしレーダーを照射したら、たちまち
ミサイルが飛んできます。
 同じレーダー照射といっても戦闘機の場合と軍艦の場合は異な
るのです。戦闘機の火器管制レーダーの照射は「ロックオン」と
いいますが、必ずしも攻撃の照準を合わせるという目的ではなく
相手機がどこにいるかを把握し、そのスピードを測定するために
行うのです。スクランブルでは必ずやることです。
 したがって、ロックオンという行為それ自体は、攻撃の意思表
示ではないのです。しかし、戦闘機の位置によっては攻撃のサイ
ンになります。その攻撃のポジションが「ドッグファイト」、す
なわち、バックを取ることです。つまり、航空機のバックに回っ
てロックオンをすれば、それは攻撃のための照準合わせを意味す
ることになります。
 したがって、スクランブルをかけるときは、ロックオンはしま
すが、バックには回らないのです。相手機の斜めのポジションを
キープし、相手機に対し「ここは日本の領空である」と伝えるの
です。これは戦闘機の操縦技術としては非常に難しいのです。
 しかし、中国の戦闘機の操縦技術のレベルは今一つで、しかも
攻撃的ですぐバックを取ろうとします。日本のスクランブル機は
そうはさせないように操縦しますが、ときにはバックをとられる
ときもあります。そういうときは、フレアを発射して離脱するこ
とになります。そんなことは毎日のように起きています。
 しかし、軍艦が火器管制レーダーを照射するときは、砲撃以外
あり得ないのです。当然日本政府は中国に対して厳重抗議しまし
たが、その後は海軍のルールを知らないはねっ返りの暴走事件と
して、ことを収めてしまっています。
 これに関して福島香織氏は、「中国は空でも海でも、最初から
軍事衝突を起こす気で尖閣諸島にやってきている」として、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 習近平政権としては日本が挑発に乗って軍事行動を起こせば、
それを理由に局地的衝突に持ち込む気であったとみられる。この
ころは、米国は中国よりも日本の軍国主義化の方を警戒している
と、少なくとも中国は考えていた。続いて2013年2月に中国
が一方的に東シナ海上空にADIZ(防空識別圏)発表したのも
こうした日本挑発のシナリオに従ったものだろう。だが習近平に
大きな誤算があった。一つは、日本政府がこの手の挑発に非常に
忍耐強く、日本人は良くも悪くもこうした危機に鈍感であったと
いうこと。そして中国のこうした危険な挑発はむしろオバマ政権
にいっそうの警戒感を与える結果となった。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 習近平主席はこう考えているのです。彼の総書記就任前に作成
したレポートにもあるように、尖閣諸島は力づくでも手に入れる
が、重要なことがある。それは、そのさい米軍が出動しないよう
にすることだ。そのためには、アクシデントを装って、偶発的軍
事衝突を起こし、漁民を装った軍隊によって、尖閣諸島を奪うと
いうシナリオです。
 そうであるとすると、空でも海でも中国軍は本気で尖閣諸島を
奪う気でやってきているということになります。しかし、海警と
いう事実上の戦艦に近い公船を何回送り込んでも、日本の海上保
安庁の巡視艇は、いつても辛抱強く待機しており、領海に侵入し
ようとすると、非戦闘的に公船と並走しながら、やがて領海外へ
中国の公船を追い出してしまうのです。
 中国海軍は、そういう日本の巡視艇の高度な操船技術を肌で感
じているのです。巡視艇レベルでもこれほど高い技術を持ってい
るのですから、海上自衛隊はもっと高度であることを認めざるを
得ないのです。つまり、海でも空でも、戦争をするのではなく、
戦争をしないように対応する技術レベルが非常に高いのです。
 それに加えて日本の海自の潜水艦はまったく音がせず、どこに
潜んでいるかわからない恐怖が中国側にあります。したがって、
中国としては、たとえ米軍抜きでも、尖閣諸島を攻めあぐんでい
るというのが現在の状況です。
 このように、習近平政権は日本にとって非常に危険な政権であ
るといえます。米中戦争が起きる前に、尖閣諸島周辺海域におい
て、日中の軍事衝突が起きる確率はきわめて高いといえます。日
本は今まで以上にそれに備えることが必要です。
             ──[米中戦争の可能性/019]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプが中国・習近平政権に仕掛ける、3つの最終戦争
  ───────────────────────────
   選挙後初となる記者会見で本領を発揮したトランプ氏の様
  子が日夜報道されていますが、彼が大統領に就任することを
  世界中で最も恐れているのは、意外にもあの習近平氏かもし
  れません。無料メルマガ『石平のチャイナウォッチ』の著者
  で、中国情勢に精通する石平さんは、トランプ氏は大統領就
  任後、間髪おかず中国に「3つの戦い」を仕掛けるだろうと
  予測。これに対抗し得る力は今の中国にはない、と断言して
  います。
   中国の習近平政権にとって2017年は文字通り、内憂外
  患の年となりそうだ。まずその「外患」について論じたい。
  中国政府に降りかかってくる最大の外患はやはり、今月誕生
  する米トランプ政権の対中攻勢であろう。大統領選で中国の
  ことを、「敵」だと明言してはばからないトランプ氏だが、
  昨年11月の当選以来の一連の外交行動と人事布陣は、中国
  という敵との全面対決に備えるものであろうと解釈できる。
   トランプ氏は日本の安倍晋三首相と親しく会談して同盟関
  係を固めた一方、ロシアのプーチン大統領や、フィリピンの
  ドゥテルテ大統領とも電話会談し、オバマ政権下で悪化した
  両国との関係の改善に乗り出した。見方によっては、それら
  の挙動はすべて、来るべき「中国との対決」のための布石と
  理解できよう。          http://bit.ly/2kE9P5B
  ───────────────────────────

中国海軍軍艦による海自護衛艦へのレーダー照射.jpg
中国海軍軍艦による海自護衛艦へのレーダー照射
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2017年02月01日

●「人民解放軍内の不満の3つの原因」(EJ第4450号)

 習近平国家主席の軍制改革に対して、現在陸軍を中心として軍
内に不満が渦巻いています。その不満の原因は、大別すると、次
の3つになります。
─────────────────────────────
        1.陸軍軽視と大量リストラ
        2.側近の要職への大量起用
        3.国家主席に実戦経験なし
─────────────────────────────
 上記「1」と「2」については、すべて述べていますが、とく
に「2」については、現在、人民解放軍内部で強い不満が高まっ
ています。習主席が、軍制改革と同時に、自分の腹心を相当露骨
に主要ポストに次々と就任させているからです。
 ひとつ例を上げることにします。2015年7月に海軍上将に
昇進した苗華(びょうか)という軍人がいます。彼はもともと陸
軍畑の軍人ですが、いきなり海軍上将に昇進したのです。海軍上
将とは、海軍上級大将の意味であり、大将より上のランクになり
ます。ちなみにその上のランクは、元帥、大元帥です。
 しかし、陸軍畑で出世を重ねてきた軍人が、海軍に移籍して上
将になる──こういうことは通常は起こり得ない人事ですが、典
型的な習近平人事の一環なのです。
 人民解放軍に第31集団軍というのがあります。中国人民解放
軍第31集団軍の前身は1947年に編成され、国共内戦でも活
躍しています。49年には、第3野戦軍所属の第31集団軍に組
織が改編され、福建省のアモイ市に本拠を置くようになったので
す。そのため「アモイ軍」と呼ばれています。
 習近平主席は、福建省や浙江省勤務だったことがあり、そのと
きにアモイ軍で人脈を築いていたのです。苗華氏の簡単な経歴を
上げておきます。
─────────────────────────────
 ≪苗華氏の軍歴≫
 1969年12月:人民解放軍第31集団入隊(15歳)
 1999年08月:第31集団軍政治部主任→少将
 2010年12月:蘭州軍区政治部主任
 2012年07月:蘭州軍区副政治部員兼規律検査委員会
          書記→中将
 2014年06月:蘭州軍区政治委員
 2014年12月:海軍政治委員
 2015年07月:海軍上将
─────────────────────────────
 苗華氏の2012年7月までの昇進は順当です。蘭州軍区副政
治部員に就任し、陸軍の中将に昇進しています。それに兼務とし
て規律検査委員会書記になり、軍部のなかでの権力もきわめて高
くなっています。
 しかし、2012年11月に習近平氏が総書記、そして、20
13年3月に国家主席になると、苗華氏は、2014年12月に
急遽海軍の政治委員になるのです。そして、2015年7月に陸
軍中将から、将官の最高位である海軍上将に昇進します。これは
きわめて異例のことです。明らかに軍制改革に合わせて、習近平
主席が主導した人事です。
 こういう人事をやられると、生え抜きの海軍将校からすると、
きわめて不満であるし、モラールが下がります。まして、政治委
員ですから、人事権も握っているのです。こういう人事が苗華氏
のケースだけではなく、他でも幅広く行われているのです。軍部
内に不満がくすぶるのは当然のことです。これが冒頭に上げた軍
部の不満の原因「2」の内容です。
 それでは不満の原因の「3」とは何でしょうか。
 ケ小平最高指導者に続く江沢民、胡錦濤、習近平の中国の政権
において、真の意味で軍部を掌握していたのはケ小平だけである
といってよいと思います。それ以後の3政権は、本当の意味で軍
部を掌握していたとはいえないのです。それは、これら3政権の
トップは、戦争で実戦の指揮を執り、銃を持って、死線を潜り抜
けていないからです。
 しかし、ケ小平は違うのです。その違いについて、福島香織氏
は、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 振り返れば、ケ小平は文化大革命後、文革で総崩れになってい
た解放軍の立て直しを行いつつ軍権を掌握するために、軍制改革
と大リストラ、そして戦争を行った。1979年の中越戦争は、
ケ小平が軍権を掌握するプロセスのうえで非常に大きな意味を持
つ。国外的にはこの戦争は実践で鍛えられたベトナム兵によって
返り討ちにされ、解放軍の事実上の負けであったが、国内では勝
利宣言を行い、ケ小平はさらなる軍の近代化改革を進める。そし
て1984年の中越国境紛争で、その雪辱を晴らした。ケ小平は
この2回のベトナムとの戦争を通じて、軍の近代化と軍権の掌握
を確かなものにしたのだった。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 これは、どこの軍隊でもそうでしょうが、とくに中国では、戦
争での実戦の指揮を執ったことがなく、国防大学で軍事戦略や戦
術を極めたこともない文民政治家は、表面的にはともかく、基本
的には尊敬されないのです。
 要するに「実戦の指揮を執る」──これしかないのです。しか
し、米国が相手ではまず勝ち目はない。そうなると、格好の相手
は日本です。しかも、間違っても米国が出てこないかたちで、尖
閣諸島周辺海域で日本と局地的な軍事衝突を起こし、中国国民に
明確に勝ちと認められる勝利を収める──このことに現在の習近
平政権は狙いを定めています。だからこそ、中国は尖閣諸島周辺
の海と空に何回も繰り返し、制圧を目的として、本気でアタック
してきているのです。   ──[米中戦争の可能性/020]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平氏 対日強硬論火消し役として側近起用/2016年
  ───────────────────────────
   中国軍の動向に詳しい香港の日中関係筋によると、今年は
  中国の尖閣諸島への攻勢が本格化するという。すでに、海上
  保安庁は昨年末、機関砲4基を備えた改造フリゲート艦が日
  本領海に侵入したことを確認した。尖閣諸島をめぐって砲弾
  が飛び交う事態も懸念される。ジャーナリスト・相馬勝氏が
  指摘する。
   日本の排他的経済水域(EEZ)内で日中両国間の取り決
  めに反した中国海洋調査船による調査活動が、昨年すでに、
  22回あり、一昨年の2倍を超えたことが挙げられる。20
  11年には8回、2012年は3回、2013年7回、20
  14年は9回と推移し、昨年は初めて2桁台に乗り、前年比
  で2倍を超えた。その活動区域の多くは東シナ海となってい
  る。これらは科学調査とみなされているが、その一方で軍事
  的な動機が背景にあるとみられる動きも出ている。それが中
  国のIT企業大手「騰訊(テンセント)」が作成した中国人
  民解放軍による尖閣諸島奪還作戦の3Dアニメ動画だ。これ
  はユーチューブで公開され、昨年9月の時点で100万回も
  再生されている。この動画は「3D模擬奇島戦役」とのタイ
  トルで、「20××年、某軍事同盟が国際法を無視して海洋
  での紛争を引き起こし、綿密に計画された奇襲作戦によって
  いくつかの人民解放軍基地が攻撃された」場面から始まる。
   中国軍はこの報復として、沖縄の米軍基地とみられる軍事
  基地に中国の弾道ミサイルを撃ち込み、中国軍戦闘機が攻撃
  を加えたあと、中国軍の揚陸部隊が上陸を開始し、敵軍隊を
  壊滅し、敵の軍事基地に五星紅旗が翻るという単純なストー
  リーだ。一見たわいもない内容だが、実はこのような中国軍
  による短期集中攻撃作戦は米軍などの戦略家らの間でまこと
  しやかに想定されており、単なる夢物語でない。
                   http://bit.ly/2ju9sJG
  ───────────────────────────

習国家主席/苗華海軍上将.jpg
習国家主席/苗華海軍上将
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2017年02月02日

●「マラッカジレンマをかかえる中国」(EJ第4451号)

 ここまでの記述で、習近平主席が人民解放軍を完全に掌握する
目的で、「外敵と戦って勝利」の実績を作るため、そのターゲッ
トとして日本を想定していることがわかってきています。
 そのため、何年もかけて計画的に尖閣諸島周辺海域と空域に船
舶(海警)と戦闘機を送り込み、現地において何らかの「局地海
戦」を仕掛けようとしているのです。しかし、あくまで米軍が参
戦できないかたちでの局地戦を狙っています。
 現在、習近平国家主席が最も信頼していると見られる軍幹部は
次の3人です。
─────────────────────────────
       1.呉勝利海軍上将/海軍司令
       2.孫建国海軍上将
       3.馬暁天空軍上将/空軍司令
─────────────────────────────
 12月25日、中国は空母「遼寧」を中心に複数の艦艇を従え
て沖縄県の宮古海峡を通過し、初めて西太平洋に進出。その後、
バシー海峡を経て南シナ海に入り、海南島の海軍基地に寄港。南
シナ海で艦載機の発着艦訓練を実施しています。
 このとき、遼寧には呉勝利海軍司令が乗っており、指揮を執っ
ています。おそらくこれは、呉海軍司令の習主席への進言によっ
て実施された行動であると思われます。明らかに、トランプ氏の
「一つの中国」をめぐる発言を受けて米国を牽制したのです。そ
の証拠に遼寧は、母港の青島に戻るさい、台湾海峡を通過してい
るからです。つまり、往復の行程で台湾本島を一周したことにな
ります。露骨な台湾に対する威嚇です。
 呉勝利氏は、2006年から海軍司令を務めていますが、20
06年5月に、キーティング米太平洋軍司令官と会談したさい、
米国に次の提案をしています。
─────────────────────────────
 われわれはまだ空母を持っていないが、空母を保有した場合、
ハワイを起点として、東を米国、西を中国が管理することにして
はどうか。               ──呉勝利海軍司令
─────────────────────────────
 実に自国中心で、思い上がりで、野心的な提案です。何しろそ
のとき中国は、まだ空母を持っていなかったからです。「どうせ
アジアは中国のものになる」という過剰な自信に裏打ちされてい
るからです。
 呉海軍司令のこの「太平洋分割管理」が、後に習近平主席が訪
米のさい、オバマ大統領に呼びかけた「新しい大国関係」につな
がるのです。この提案の狙いは、要するに「アメリカはアジアか
ら出て行け!」ということなのです。このふてぶてしい中国の野
心に対して、オバマ大統領は「アジア回帰」あるいは「アジアへ
のリバランス」と呼ばれるような、アジア太平洋地域を明確に重
視する方向性を打ち出したのです。
 中国はなぜこのような提案をしたのかというと、アジアにおい
て米国は、中国にとって目の上のタンコブ的存在であり、邪魔そ
のものであるからです。戦略的にも米国のアジアへの影響力を落
とすことが中国の発展につながると考えているからです。
 それは中国の通商路に深く関係とます。これについてピーター
・ナヴァロ氏の本には、次の問題が出ています。
─────────────────────────────
【問題】中国が急速に軍事力を増強しているのは、堅調な経済成
長の維持に欠かせない通商路及び国際投資を防衛するためか。
  「1」イエス
  「2」 ノー
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この答えはもちろん「イエス」です。1949年の建国から約
30年間、中国(中国人民共和国)は、海とはほとんど縁のない
後進的な農業国家だったのです。石油はかなりの量が国内で産出
されたので、石油を輸入する必要はなかったのです。
 しかし、1978年にケ小平副主席の主導する経済革命によっ
て、きわめて中国的な特徴を持つ独特の国家資本主義が確立され
中国は大変貌を遂げることになるのです。それからさらに30年
が経過した時点で、中国は「世界の工場」と呼ばれるようになり
世界最大の工業生産国になったのです。しかし、その一方で中国
は世界最大の石油輸入国になり、その海上輸送路に大きく依存す
ることになったのです。
 現在、中国が輸入する石油の約40%は中東産、約30%はア
フリカ産です。問題はその海上輸送路です。産地から中国までの
シーレーンは約1万キロメートル以上に及ぶのです。そしてその
70%は、世界で最も悪名の高い海のチョークポイント、マラッ
カ海峡を通ることになります。
 しかし、マラッカ海峡は、水深が25メートルしかないため、
このマラッカ・マックスを超える大型タンカーは、迂回路を通ら
なければならないのです。その迂回路は次の2つです。
─────────────────────────────
          1. スンダ海峡
          2.ロンボク海峡
─────────────────────────────
 マラッカ海峡に近いスンダ海峡は、水深は30メートルあるの
ですが、不規則な海底地形と、激しい潮の流れがあり、喫水18
メートル以上の大型船は通過できないのです。
 そうすると、結局はロンボク海峡ということになります。ロン
ボク海峡は水深が100メートルを超えており、どのような大型
船でも通行できるからです。しかし、距離は離れています。これ
ら3つの海峡はいずれも米国の制海権下にあり、中国にとっては
大きな不安要素になっています。
             ──[米中戦争の可能性/021]

≪画像および関連情報≫
 ●中国は地政学の優等生/シリーズ地政学
  ───────────────────────────
   中国の歴史を振り返ると、ランドパワー(華北政権)とシ
  ーパワー(華南政権)とが互いに覇権を争い、興亡を繰り返
  しました。例えば、南宋時代にはシーパワーの特徴である市
  場や流通が発達して、華北の金朝と盛んに交易を行いますが
  モンゴルの騎馬民族が樹立した元朝は泣く子も黙るランドパ
  ワーでした。そして、明代には鄭和がケニアまで航海したほ
  どのシーパワーでしたが、清朝は台湾と外モンゴル、チベッ
  トを征服した大ランドパワーです。
   現在の中国共産党政権は北京を拠点とする華北政権ですが
  本能はランドパワーで、理性がシーパワーなのだと私は理解
  しています。中共中国の本来の姿がシーパワーでないことは
  その海洋戦略からも垣間見えます。常に本能としてのランド
  パワーが持つ領土的野心が、見え隠れしてしまってますから
  ね。中国は地理的に見てリムランドに位置しており、こうし
  た両生類的な性格を有することも地政学の理論上不思議では
  ないのですが、現在の中共政権による両生類的活動はそうい
  う形而上の理由ではなく、現実的な問題――エネルギー問題
  ――が動機となっています。
   中国は、1979年の改革開放以来、年平均9%を超える
  経済成長を続けてきた結果、いまや米国に次いで世界第2の
  エネルギー消費国になりました。原油需要量もまた世界第2
  位で、産油国としては世界第4位ながらも、国内生産分だけ
  では到底需要をまかないきれず、現在は石油純輸入国となっ
  ています。            http://bit.ly/2kU6fEk
  ───────────────────────────

中国シーレーンと主なチョークポイント.jpg
中国シーレーンと主なチョークポイント
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2017年02月03日

●「中国のマラッカジレンマとは何か」(EJ第4452号)

 習近平主席が悩んでいるとされる「マラッカ・ジレンマ」とは
何でしょうか。ピーター・ナヴァロ氏の本に、これに関係のある
次の問題が出ています。
─────────────────────────────
【問題】中国がアメリカやその同盟諸国による石油禁輸措置を恐
れる必要は本当にあるか?
  「1」ある
  「2」ない    ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この問題の正解は「1」の「ある」なのです。「マラッカ・ジ
レンマ」はこれに密接に関係するのです。中国が覇権を求めて世
界に乗り出そうとするとき、一番恐れるのは米国によるこの石油
禁輸措置(経済制裁)なのです。
 それは、米国や関連産油国からの輸出を禁止するだけでなく、
石油や関連物資を自国に輸送してくるシーレーンを海上封鎖する
ことを意味しています。世界でこれができる国は、米国しかない
のです。
 歴史的にみると、この米国による石油禁輸措置を一番最初に受
けたのは実は日本──当時の大日本帝国です。1941年のこと
です。石油、ガソリン及びその他の重要な資源の対日禁輸措置は
石油需要の80%を米国に依存していた日本にとっては大打撃で
これが日本によるあの真珠湾攻撃につながるのです。ちなみに米
国は、このとき、日本の船舶に対するパナマ運河の閉鎖及び、米
国における日本の資産の凍結も実施しています。
 実は、米国による石油禁輸措置を次に受けたのは、中華人民共
和国、現在の中国です。1950年の朝鮮戦争のときです。朝鮮
戦争について歴史をメモしておきます。
─────────────────────────────
 1950年6月、南北に分断された朝鮮半島で勃発した戦争。
北朝鮮の南下から始まり、アメリカが南を支援して盛り返し、後
半は中国軍が北を支援して参戦、53年に北緯38度線で休戦協
定が成立した。冷戦下のアジアにおける実際の戦争となり、日本
にも大きな影響を与えた。          ──世界史の窓
                   http://bit.ly/2jFuYLA
─────────────────────────────
 この中国軍の朝鮮戦争への参戦に激怒したハリー・トルーマン
米大統領は、中国に対して経済制裁を行っています。この制裁は
実に20年にわたって続き、ニクソン大統領の突然の中国訪問に
よってやっと解除されたのです。トランプ大統領が口にして問題
化している「一つの中国」も、このとき米国は中国に対して約束
しています。中国の要求をほとんど受け入れているのです。
 このようにいうと、ニクソン大統領は、いかにも大局的立場に
立って中国と和解したように見えますが、実は違うのです。この
とき、ニクソン政権は公約のベトナム戦争を終わらせることがう
まく行かず、苦境に陥っていたのです。この問題を解決するには
どうしても中国の協力が必要だったのです。
 そのシナリオを描いたのは、あのキッシンジャー博士です。彼
は水面下で中国と交渉を進め、劇的な米中国交正常化を成し遂げ
るのです。キッシンジャー博士としては、今後は米ソの二極対立
の時代は終わり、ソ連・欧州・日本・中国・米国の5大勢力が相
互に均衡を保つことによって、世界の安定を図るという構想をニ
クソン大統領に提案し、その線で交渉は成立したのです。
 実は、中国は現在でも米国から兵器技術輸出禁止措置を課され
ています。それだけに、中国が何らかの軍事行動を起こすと、米
国が石油の禁輸措置を含む厳しい経済制裁をかけてくることはわ
かっているので、それを恐れているのです。
 それは、米国の石油禁輸措置がどれほど、中国について厳しく
恐ろしいものかについて知ると、わかってきます。ピーター・ナ
ヴァロ氏は、これについて詳しく書いているので、以下、それを
参考にして述べることにします。
 中国が輸入している石油の大半は、ペルシャ湾から運び出され
ています。このペルシャ湾とホルムズ海峡は、米国の第5艦隊が
警備を担っています。第5艦隊の司令部はマナマ(バーレーンの
首都)にあり、遥か南のケニア沖まで出向いてパトロールを行っ
ています。まさに世界の警察官です。
 そして米第6艦隊は、地中海を管轄しており、スエズ運河の北
端から太平洋への玄関口のジブラルタル海峡までをパトロールし
ています。地中海を横断するこの航路は、中国にとってヨーロッ
パ、英国、スカンジナビア向けの製品を輸出するために重要であ
り、原料や農産物を輸入するためにも大切な通商路です。
 インド洋に出ると、その中央部にディエゴガルシア島がありま
すが、ここは米軍の最も重要な戦略拠点のひとつです。長距離爆
撃機の発着場であり、この基地からB─2ステルス爆撃機が出撃
すれば、中国の主要都市をすべて攻撃できるのです。
 そして、アジアに入るためにマラッカ海峡を通ることになりま
す。この海峡も完全に米軍とシンガポールの管理下にあります。
したがって、何かコトが起きると、いつでも海峡を封鎖できるの
です。海峡は狭いので封鎖しやすいのです。
─────────────────────────────
 マレー半島とインドネシアのスマトラ島の間に位置するマラッ
カ海峡は、インド洋と南シナ海を結ぶ全長800キロの海峡であ
る。幅は非常に狭く、水深は比較的浅い。アジアへのこの狭くて
危険な入り口を、年間6万隻以上もの船舶が中国向け(及び日本
韓国向け)の石油だけでなく、世界貿易で流通するおよそ3分の
1の物質を積んで通過している。通航量はパナマ運河の3倍近く
スエズ運河の2倍以上にのぼる。
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/022]

≪画像および関連情報≫
 ●アジアで中国をもっとも敵視している国は?
  ───────────────────────────
   中国メディアの網易はこのほど、アジアの国々のなかで中
  国をもっとも敵視しているのは「日本ではない」と主張する
  記事を掲載。その国は「シンガポール」だと記事は説明して
  いるが、何を以ってシンガポールが日本以上に中国を敵視す
  る国だと主張しているのだろうか。
   記事が注目しているのは「マラッカ海峡」だ。シンガポー
  ルの発展はまさにこの天然の海峡がもたらしたものであると
  指摘、積み替え港としてのシンガポールの役割がこの国に発
  展をもたらした。
   しかし、もし中国がマレー半島のクラ地峡に「クラ運河」
  を建設し、各国の船がシンガポールを経由せずにクラ運河を
  航路にとり、上海を積み替え港として利用するなら状況は変
  わるだろう。中国は莫大な利益を得ることができる一方で、
  シンガポールを利用する船は「80%減少する」と記事は指
  摘。シンガポールにとってはまさに致命的な打撃になること
  は容易に想像ができる。
  また記事は「中国の石油備蓄は7日分に過ぎない」と指摘、
  もしシンガポールがマラッカ海峡を封鎖し、中国の原油輸入
  を阻止した場合、中国にとって致命的な打撃になる。いざと
  いう時、この措置を「米国が支持、また指示するだろう」と
  指摘する。            http://bit.ly/1sYa0Nj
  ───────────────────────────

マラッカ海峡の重要性.jpg
マラッカ海峡の重要性
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2017年02月06日

●「中国の『真珠の首飾り』とは何か」(EJ第4453号)

 「真珠の首飾り」といえば、グレンミラーの名曲を思い出しま
すが、ここでいう真珠の首飾りは地政学の話です。「中国の真珠
の首飾り」といわれるものがあります。これは「マラッカ・ジレ
ンマ」から脱却するための中国の海洋戦略のことです。
 改めてマラッカ・ジレンマとは、輸入原油全体の8割が通過せ
ざるを得ないマラッカ海峡の安全保障が米軍に委ねられていると
いう中国の弱点のこと。仮に台湾有事のさい、米国が中国の補給
ルートを断つため、海峡を封鎖する可能性がゼロではないからで
す。そのため、このマラッカ海峡において、中国が抱える潜在的
な脆弱性のことを「マラッカ・ジレンマ」というのです。
 そういうわけで、中国がとるべき海洋戦略には、次の2つがあ
ります。
─────────────────────────────
       1.マラッカ・ジレンマの回避
       2.    シーレーンの防御
─────────────────────────────
 基本的な考え方はこうです。エネルギーの供給先の中東やアフ
リカから中国までの海域に、いつでも寄港できる港湾をあたかも
中国の外港のように拠点として配置しておく戦略です。もっと具
体的にいうと、マラッカ海峡が仮に封鎖されても原油を中国に運
ぶルートを確保することです。
 それらの拠点としての港湾を「真珠」といい、それらの真珠を
繋いだラインを真珠の首飾りと呼んでいるのです。これについて
は、添付ファイルを参照してください。
 それらの「真珠」として次の4つを取り上げます。なお、以下
の記述は、「海国防衛ジャーナル/シリーズ地政学」のブログを
参照に書いています。         http://bit.ly/2k7w46y
─────────────────────────────
      1.   グワダル(パキスタン)
      2. ハンバントタ(スリランカ)
      3.チッタゴン(バングラデシュ)
      4.  シットウェ(ミャンマー)
─────────────────────────────
 第1の「真珠」は、パキスタンのグワダル港です。
 これを拠点化できると、中国のタンカーはここで原油を積み下
ろし、鉄道、道路、パイプラインなどを使って、新疆ウイグル自
治区やチベット自治区などの中国の内陸部に輸送できることにな
ります。マラッカ海峡を通らずに済むのです。
 パイプラインについては、パキスタンとイランの間で、イラン
の天然ガスをパキスタンに運ぶためのパイプライン建設に同意し
ています。したがって、中国はこれを中国まで延引させるよう交
渉しているといわれます。しかし、現在工事は何も行われていな
いようです。
 しかし、グワダル港には2つの問題点があるのです。1つは民
族紛争です。パキスタンの首都イスラマバードに住む人々とグワ
ダルに住む人々とは民族が異なっており、仲が悪く、対立関係に
あります。イスラマバードに住む人々はパンジャブ人、グワダル
に住む人はシンド人と呼ばれています。
 シンド人は、パキスタン軍から強い弾圧を受けており、そのた
め、民族主義運動が起きているのです。したがって、シンド人は
もしパキスタン政府が自分たちの権利を踏みにじる開発を行えば
中国からの出稼ぎ労働者を殺すとまでいっているのです。
 もう1つは、隣の強国インドの干渉を受けやすいことです。イ
ンドは、インド洋を守るため、中国やパキスタンの勢力を警戒し
ています。実際にパキスタンの海運の9割を担うカラチ港は、イ
ンドに近いため、戦時によく封鎖されるのです。実際に1971
年の印パ戦争でカラチ港は封鎖されています。そのため、グワダ
ル港の中国の軍港化を警戒しています。したがって、中国として
は、グワダル港を真珠化することは、自国のシーレーン防衛にな
ると同時に、インドのシーレーンを抑えることになります。
 第2の「真珠」は、スリランカのハンバントタ港です。
 インドとスリランカの間には、ポーク海峡がありますが、水深
が浅く、暗礁も多く、タンカーの航行は困難なので、エネルギー
・ルートとしては、多くの国のタンカーがスリランカの南部に位
置するハンバントタ港を利用しているのです。
 実はスリランカと中国の関係は良いのです。スリランカは長年
内戦が続いていたのですが、中国は2007年に3500万ドル
(約33億円)相当の武器装備売買契約を結んでおり、中国はス
リランカの最大の武器供給国になっています。
 さらにスマトラ沖地震で疲弊したスリランカに対し、石炭火力
発電所や高速道路建設、経済特区設立などの投資を行い、高い戦
略的地理条件を備えたハンバントタ港を中国海軍の寄港地として
獲得しているのです。したがって、ハンバントタ港は既に真珠化
されているのです。
 第3の「真珠」は、バングラデシュのチッタゴン港です。
 チッタゴンはバングラデシュ第2の都市であり、その港は国内
最大で、天然の良港です。中国は港湾施設の整備などで既に手を
打っており、バンクラデシュは中国海軍の施設を受け入れ、同港
の利用を認めています。したがって、チッタゴン港も既に中国の
真珠化しているといえます。
 第4の「真珠」は、ミャンマーのシットウェ港です。
 シットウェは、ミャンマーのラカイン州の州都であり、その港
は深水港なのです。中国は、ミャンマーの軍事政権の時代から武
器輸出を行うなど、つながりが深く、既に中国の真珠のひとつに
なってしまっています。
 なかでも中国は、大ココ、小ココという2つの島を1994年
から借りており、そこに高性能の偵察・電子情報施設を築いてい
ます。さらに、ミャンマーの7つの海軍基地では、ミャンマーが
持っていない艦艇が入港できるように改造されているのです。
             ──[米中戦争の可能性/023]

≪画像および関連情報≫
 ●中国「真珠の首飾り」戦略によるコロンボ港開発
  ───────────────────────────
   中断されていた中国によるコロンボでの巨大プロジェクト
  に、スリランカの大統領が許可を出した。インド洋周辺に拠
  点を築くことで、自国の利益を確保しようとしていると批判
  を受ける中国の「真珠の首飾り」戦略。その一環として、ス
  リランカのコロンボに新たに港湾都市(ポート・シティ)を建
  設する計画が、スリランカの前政権下で進められてきた。
   「ポート・シティ」計画は2014年9月から習近平主席
  の肝いりで始まった。14億ドルの予算でコロンボ港の傍に
  埋立地を整備し、233ヘクタールもの施設やF1サーキッ
  トの建設が予定されている。それが、2015年1月の選挙
  を経て、シリセーナ政権が誕生した直後に計画は中断させら
  れた。特に問題点となったのは大規模開発による環境への影
  響である。ウィクラマシンハ首相はコロンボ港での埋め立て
  工事によって、スリランカ西岸での環境破壊が引き起こされ
  観光産業がダメージを受けることに懸念を表明していた。
   2009年5月に長年の内戦が終結して以降、前大統領の
  ラジャパクサ氏は、中国を頼りにして国内インフラの復興を
  推し進めてきた。その結果、スリランカ最大の支援者となっ
  た中国によって、道路や鉄道、港などの建設が進められた。
                   http://bit.ly/2jDRDNt
  ───────────────────────────

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中国の真珠の首飾り
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2017年02月07日

●「真珠の首飾りとダイヤネックレス」(EJ第4454号)

 昨日のEJで述べたように、中国はかなり以前から、いわゆる
「真珠の首飾り」の構築に精力的に取り組んできており、既にし
かるべき手を着実に打ってきています。本来その基本的な考え方
は「マラッカ・ジレンマ」を回避する──すなわち、もし台湾有
事などが起こってマラッカ海峡が封鎖されても、中国が原油を確
保できるようにすること、それが目的なのです。
 しかし、港湾を建設する以上、中国はそれを軍事基地化しよう
とするのです。その典型的な例をわれわれはミャンマーに見るこ
とができます。ミャンマーの場合、中国が近づいたのは軍事政権
のときであり、軍事政権が一番欲しい武器輸出を行い、港湾建設
などを積極的に引き受けることによって、各所に海軍部隊を配置
することで、同地域における軍事的な優位を獲得することに成功
しているのです。
 中国は、その見返りとして、アンダマン海にある大ココ島に海
洋偵察・電子情報ステーションを建設し、小ココ島には軍事基地
を建設しています。カネにものをいわせてやりたい放題です。そ
の目的は、マラッカ海峡近くのインド領アンダマン、ニコバルに
あるインド軍事基地や艦艇の動向を監視することです。
 さらに中国は、ミャンマーの7つある港のすべてにおいて、大
型艦艇が入れるように改造しています。ミャンマー海軍は、そう
いう大型船舶を保有していないので、明らかに中国の艦艇が寄港
できるようにしたのです。とくにシットウェ港は、深海港として
建設し、潜水艦も入れるようにしています。
 シットウェ港は、ベンガル湾をはさんで、インドの大都市カル
カッタまで約500キロのところにあり、中国軍はここに新設し
た信号傍受施設によって、インド当局のさまざまな動向を探れる
ようになったのです。
 さて、その中国の脅威に対してインドは、どのようにして対応
してきたのでしょうか。インドといえば、非同盟中立の立場をと
る国として知られています。インドについて三井物産戦略研究所
は、次のようにレポートしています。
─────────────────────────────
 インドは、長く非同盟中立政策を採ってきた。しかし、冷戦後
期には、対中戦略から、事実上の同盟といわれるほどにソ連と接
近し、非同盟中立は名目になった。逆に、欧米と距離を置いたこ
とで、経済的繁栄が犠牲になったとの認識もインド国内に生まれ
たのである。
 2000年代に入ると、繁栄と大国への願望から、米国との協
調を望んだ。2000年3月のクリントン米大統領の訪印は、関
係改善の契機になった。しかし、パートナーシップに対する認識
の違いと戦略的自立願望ゆえに長続きせず、インド国内に過度な
対米接近を否定する意見が出始めた。
 非同盟中立は、底流に流れる思想だが、戦後の英国支配から脱
するための、弱い大国としての非同盟中立と、近年の中国の圧力
に抗しつつ軍事力を背景にしての戦略的自立には大きな違いがあ
る。米国との距離感も、この微妙な対中バランスから生まれてい
る。                 http://bit.ly/2l21xVY
─────────────────────────────
 この中国の真珠の首飾り戦略は、インドから見れば、対インド
包囲網以外の何ものでもありません。このため、インドは、海外
拠点の取得によってこの包囲網を突破することを考えています。
つまり、中国の「真珠」に対抗して、インド洋から南シナ海の沿
岸に、港湾のネットワークを整備しようとしているのです。そし
てこれらの拠点を「ダイヤモンド」とし、作戦を「ダイヤのネッ
クレス」と呼称しています。このなかで、真珠とダイヤが一番ぶ
つかるのがミャンマーということになります。
 今やインドの対東アジア貿易が占める割合は50%を超えつつ
あり、インドにとって東アジアへの海上交通路の重要性はますま
す増しています。そのうえでインドも90%のエネルギーを湾岸
地域から輸入しています。そのため、ホルムズ海峡の通航に影響
を及ぼしているイランやパキスタンが中国との関係を深めている
ことに脅威に感じています。つまり、インドは「ホルムズ・ジレ
ンマ」を抱えているということがいえます。
 一方で米国はこの地域に対して考え抜かれた手を打とうとして
います。2011年のことですが、米国とオーストラリア両国は
オーストラリア北部のダーウィンに、新たに米海兵隊2500名
を駐留させる計画を発表しています。この計画には、オーストラ
リア北部の空軍施設を共同で使用することや、オーストラリア西
部への潜水艦を含む米艦船の寄港の活発化が盛られています。さ
らに、ココス諸島にも米豪共同運用のための空・海軍施設の拡大
計画もあるといわれています。ココス諸島というのは、インド洋
の南キーリング諸島と北キーリング諸島の2つの環礁と27のサ
ンゴ島から成るオーストラリア領の島々です。
 世界地図を広げて確認するとわかるように、中東地域からディ
エゴガルシア島〜ココス諸島〜クリスマス島〜ダーウィン〜パプ
ア・ニューギニア〜グアム〜日本列島にはすべて米軍が駐留して
おり、中国の真珠の首飾りの外側を取り巻く大きなリングができ
ています。
 軍事戦略家によると、中国の真珠の首飾りは軍事戦略にはなり
得ないといいます。なぜなら、中国がインド洋において空軍力を
欠いているからです。確かに中国は既に遼寧という空母を保有し
ていますが、これは訓練用の空母であって、実戦には使えないの
です。現在、さらに2隻を建造中ですが、それが完成し、兵士を
訓練して実戦で使えるようにするには最低でも5年以上かかると
考えられます。これまでは経済力をテコとしてやって来たのです
が、その経済力にも明らかに陰りが見えてきているのです。
 それに一番軍事基地化の進んでいるミャンマーは、軍事政権で
はなく、これから民主化に向うものと思われます。そういう状況
において、中国の軍事利用が進むとは考えられないのです。
             ──[米中戦争の可能性/024]

≪画像および関連情報≫
 ●民主化が胎動するミャンマーで思いを馳せた中国の現状
  ───────────────────────────
   2014年8月初旬に、私は初めてミャンマーを訪れた。
  ちょうど、同国が“民主化”へのプロセスに舵を切る頃のこ
  とである。首都ヤンゴンの中心地、日系企業も支社を置くオ
  フィスビル・サクラタワー付近を拠点に動いていたが、昼夜
  を問わず、街は活気であふれていた。見るからに“若さ”と
  いうパワーを感じさせた。ベトナムのホーチミンの街を歩く
  ようなイメージを彷彿とさせた。日本車が8割ほどを占めて
  いたように見受けられた道路上の渋滞は、バンコクやジャカ
  ルタほど深刻ではなかったと記憶している。
   8月10日には、首都ネピドーで東南アジア諸国連合地域
  フォーラム(ASEAN Regional Forum、ARF) が開催される直
  前であったため、道端にはそれを宣伝するポスターが掲げら
  れていた。ミャンマーが国際社会の一員として地域の発展と
  協力プロセスにエンゲージし、場合によってはイニシアティ
  ブを発揮していこうとする、国民国家としての意思が感じら
  れた。それを象徴するかのように、看板にはASEAN10
  ヵ国の国旗の脇に「ミャンマーがこの地域の平和や発展に貢
  献する時期が来たのだと思います。祖国がこのような盛大な
  国際会議を主催できるのを誇りに感じています」。
                   http://bit.ly/2kwIpSC
  ───────────────────────────

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中国の首飾りと米国の首飾り
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2017年02月08日

●「尖閣奪取は中国の既定路線である」(EJ第4455号)

 2月3日のことです。米国トランプ政権の閣僚であるマティス
国防長官が来日し、安倍首相や稲田防衛相との会談が行われてい
ます。会談で日本の最大の懸念事項である尖閣諸島の安保適用の
有無について安倍首相からマティス国防長官に確認が行われ、マ
ティス長官から次の発言を引き出しています。
─────────────────────────────
 尖閣諸島は日本の施政の下にある領域であり、安保条約5条
 の適用範囲である。米国は、尖閣に対する日本の施政を損な
 おうとするいかなる一方的な行動にも反対する。
                 ──マティス米国防長官
─────────────────────────────
 1月11日、米上院外交委員会の指名承認公聴会において、国
務長官候補のレックス・ティラーソン氏に対して、共和党のルビ
オ上院議員から尖閣諸島について問われ、ティラーソン氏は次の
ように答えています。
─────────────────────────────
 R:中国が尖閣諸島(沖縄県石垣市)に侵攻した場合、米国
   はどのように対応するか。
 T:米国の日本防衛義務を定めた日米安全保障条約を適用す
   る。米国は条約に従って対応する。これまでも日本防衛
   を確約してきた。   R=ルビオ T=ティラーソン
─────────────────────────────
 まだ、国務長官になる前の発言ですが、ティラーソン氏はもし
中国が尖閣諸島に侵攻した場合、日米安保条約を適用すると明言
しています。既にオバマ前大統領も尖閣諸島が安保条約の適用範
囲内であると発言しており、関係者全員が「日米安保適用内」を
明言したことになります。
 しかし、肝心のトランプ大統領はどうでしょうか。トランプ氏
は、選挙中の2016年3月のことですが、ワシントンポスト紙
とのインタビューで次のように発言しています。
─────────────────────────────
 ポスト記者:中国が尖閣諸島を攻撃した場合、安保条約を適
       用するか。
 トランプ氏:私がどうするか、話したくない。
─────────────────────────────
 通常であれば、現職の国防長官が約束したことを大統領が翻す
ことはあり得ないことです。閣内不一致になるからです。しかし
懸念されることは、トランプ氏が選挙中に発言した米軍の日本駐
留経費負担増額の話です。マティス国防長官との会談ではその話
は一切出ていませんが、今後も要求がないとは限らないのです。
こうした懸念について、2017年2月4日付の朝日新聞は、次
のように書いています。
─────────────────────────────
 マティス氏から尖閣防衛に関与するとの言質を引き出したにも
かかわらず、安倍政権内の懸念が、完全に払拭されたわけではな
い。トランプ政権は大統領と閣僚の発言が食い違う、「閣内不一
致」が常態化している。マティス氏とトランプ氏がどこまで事前
にすりあわせたか定かではない。予測不能が枕詞のトランプ氏が
ちゃぶ台返しをしない保証はない。(中略)
 日本側にはトランプ氏の「ディール(取引)外交」への警戒心
も根強い。尖閣への安保条約適用など安全保障分野での対日政策
継続をうたう一方、駐留経費や防衛費増額、さらには通商分野で
の取引を迫ってくる可能性は否定できない。
          ──2017年2月4日付、朝日新聞朝刊
─────────────────────────────
 米国対中国──この2大大国は、このままではいずれ激突する
運命にあります。中国は非常に長いスパンで米国に追いつき、米
国を凌駕することを考えています。それには計画があり、中国は
その計画に基づき、ことを進めてきています。その計画によると
尖閣諸島を中国のものにすることは、既定路線なのです。
 その計画を描いたのは劉華清という軍人です。劉華清は中国国
外ではほとんど知られていませんが、ケ小平の右腕として、中国
海軍を率い、「中国海軍の父」といわれている人物です。劉華清
は海軍司令のとき、「中国の経済・科学技術が発展すれば、海軍
力はさらに大きなものになる」と中国海軍の近代化を主張し、次
のような計画を打ち出しています。
─────────────────────────────
 2010年までに第1列島線内部の制海権を握って、東シナ海
南シナ海を中国の内海とし、2020年までに第2列島線の西太
平洋の制海権を確保、2040年までには太平洋、インド洋にお
いて、米海軍と制海権を競い合う。そして、2050年までには
全世界規模の海上権力を握る。     http://bit.ly/2l31Y5O
─────────────────────────────
 誠に身勝手な計画であり、現在のところ、何一つ達成されてい
ませんが、中国がこの計画にしたがって海軍力を強化してきてい
るのは間違いのない事実です。ピーター・ナヴァロ氏は、劉華清
について、次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 劉華清の名は、ベトナムでは、1974年に中国が西沙諸島を
奪取した際にべトナム兵の虐殺を命じた司令官として知られてい
る。中国の反体制派が劉華清と聞いてまず思い浮かべるのも、彼
が天安門事件(1989年)の虐殺に関わった部隊の司令官だっ
たことである。こうした暗いイメージもあるものの、最もよく知
られているのは「中国海軍の父」としての劉華晴である。自分の
目の黒いうちに中国が自前の空母を持てなかったら、「目を見開
いたまま死ぬ」と言ったというエピソードが有名である。
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/025]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ大統領の誕生と中国海軍の行動の活発化
  ───────────────────────────
   2016年12月25日、中国海軍の訓練空母「遼寧」が
  宮古海峡を抜けて、西太平洋に入った。中国海軍のこの行動
  は、明らかにトランプ氏をけん制したものだ。中国は、自ら
  の懸念が現実のものになるのを恐れているのである。
   空母「遼寧」は、3隻の駆逐艦及び3隻のフリゲート、1
  隻の補給艦を伴っていた。「遼寧」は、訓練空母であって実
  戦に用いる能力がないにもかかわらず、空母戦闘群の編成を
  とって行動したのだ。ファイティング・ポーズを見せている
  ということである。その相手は、もちろん米海軍だ。
   現在、米海軍では、一般的に空母打撃群という呼称が用い
  られているが、中国メディアでは空母戦闘群と呼称されるこ
  とが多い。米海軍でも、2006年までは空母戦闘群という
  呼称を用いていた。呼称を変えたということは、作戦概念を
  変えたということである。米海軍の空母の運用構想は、すで
  に2000年代半ばには変わっていたということでもある。
  一方の中国は未だ、空母戦闘群を米海軍との海上戦闘の主役
  と考えているようだ。中国海軍は、現在でも、台湾東方海域
  が米海軍との主戦場になると考えている。中国は、海軍の行
  動範囲の拡大は戦略的縦深性を確保するためだとする。中国
  が太平洋側に戦略的縦深性を確保したいと考えるのは、沿岸
  部に集中する主要都市を攻撃から守るためであるが、敵が太
  平洋から攻めてくると考えているということでもある。太平
  洋から中国を攻撃する国、それは米国以外にはない。米国が
  中国に対して軍事攻撃を行う可能性を懸念しているのだ。
                   http://bit.ly/2htgdj0
  ───────────────────────────

中国海軍の父/劉華清上将.jpg
中国海軍の父/劉華清上将
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2017年02月09日

●「中国海軍戦略の方程式を解読する」(EJ第4456号)

 中国海軍の建設は、次の式であらわすことができるとされてい
ます。中国の海軍戦略のいわば方程式です。これは、海上自衛官
の経験を持ち、元防衛大学校海上防衛学教授を務めた作家の山内
敏秀氏の論文に出ていたものです。
─────────────────────────────
  中国海軍の戦略=
  革命の完成+海の長城+海洋管轄権の擁護+局部戦争+
  海上交通路の保護+非戦闘軍事行動
                 http://bit.ly/2kAVwlH
─────────────────────────────
 中華人民共和国(現在の中国)が海軍の必要性に目覚めたのは
蒋介石の率いる国民党軍が台湾本島にこもり、そこを大陸反攻の
拠点としたことがきっかけであるといわれます。
 それまでの中国は、軍隊の強化といえば、陸軍の強化であり、
海軍にはあまり関心がなかったのです。しかし、国民党軍が島に
立てこもったので、それを取り戻すには海軍が必要であると考え
たというわけです。つまり、台湾を取り戻すまでは、革命は完成
していないという考え方に立ったのです。
 「海の長城」とは何でしょうか。
 「海の長城」とは、毛沢東主席が1949年に中国人民政治協
商会議第1回全体会議の開幕演説で使っています。
─────────────────────────────
 我が国の海岸線は長大であり、帝国主義は中国に海軍がないこ
とを侮り、百年以上にわたり我が国を侵略してきた。その多くは
海上から来たものである。中国の海岸に「海の長城」を築く必要
がある。  ──毛沢東主席演説    http://bit.ly/2l9SD97
─────────────────────────────
 この場合、「海の長城」はあくまで沿岸警備であり、国として
当然の防衛であるといえます。添付ファイルの上の図がそれに該
当します。
 しかし、この海洋防衛ラインが本土の沿岸部から離れる契機と
なったのは、1978年に採用された改革開放路線です。国防の
対象となるエリアが、従来の内陸の奥深くから沿岸部に設置され
た経済特区へと移り、さらには海洋そのものが経済発展の舞台と
して認識されるようになったのです。これを仕掛けたのは「中国
海軍の父」といわれる劉華清です。添付ファイルの下の左の図が
それに該当します。「85戦略転換」と書いてあるのは1985
年にそれが行われたからです。ところで、劉華清は次のような名
言を遺しています。
─────────────────────────────
 海軍は商船の存在によって生じ、商船の消滅によって消える
 ものである。            ──劉華清海軍司令
─────────────────────────────
 つまり、劉華清海軍司令は、海洋事業は国民経済の重要な構成
部分であり、その発展には強大な海軍による支援がなければなら
ないと主張します。この85戦略転換が「海洋管轄権の擁護」へ
と変わり、第1列島線と第2列島線という現在の中国の海軍戦略
の考え方が出てくるのです。南シナ海については、国際法を無視
した勝手な論理で「九段戦」なる線を引き、そこは中国の領海で
あるとしてその管轄権を主張しています。この中国の海軍戦略の
変化について、山内敏秀氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国の海軍戦略が変化する契機となったのは「改革・開放」路
線を決定した1978年の11期3中全会です。「改革・開放」
路線の決定によって、海洋が経済発展の場と認識され、さらにい
わゆる85戦略転換を受けて、中国海軍は戦略を再検討し、国家
の経済建設に貢献するため、300万平方キロメートルの海洋管
轄権を維持することを目的とした近海防御戦略を策定しました。
 (中略)新しい近海防御戦略における脅威認識は概ね渤海から
南シナ海にいたる300万平方キロメートルの海域における中国
の海洋開発を阻害する他国の活動を主たる脅威とするものでした
が、近海防御戦略は、「革命の完成」や「海の長城」に取って代
わったのではなく、それらに付加され、重心が移行したに過ぎな
いのです。      ──山内敏秀氏 http://bit.ly/2kAVwlH
─────────────────────────────
 それでは、冒頭の中国海軍戦略の式にある「局部戦争」とは何
でしょうか。
 山内敏秀氏は、「局部戦争」は局地戦争ではなく、特定の政治
目標を達成させるための限定的な戦争であると述べています。海
洋管轄権を擁護しようとすると、どうしてもその目的達成のため
に関係国との間に衝突が起きる可能性がありますが、それが局部
戦争です。そういう海上における局部戦争に勝利するため、海軍
力の増強と近代化が急務であるとしているのです。
 中国は、こうした局部戦争において、投送兵力、海上封鎖、対
地攻撃、陸上作戦支援、水上艦艇攻撃、海上輸送、武力誇示、軍
事恫喝などを行うため、海軍を運用しようとしています。現在、
既に起きている南シナ海での各種の紛争、中国の人工島をめぐる
争い、東シナ海の尖閣諸島を巡る各種の衝突は、やがて局部戦争
に発展する恐れが十分あります。
 それでは、海軍戦略の式の最後に書かれている「非戦闘軍事行
動」とは何でしょうか。
 これは現在の呉勝利海軍司令がいっているのですが、90年代
の米軍が目指した「MOOTW」のことをいっているのではない
かと思われます。
─────────────────────────────
   MOOTW=Military Operations Other Than War
─────────────────────────────
 海軍力を高めて行くと、それだけで戦闘を防ぎ、政治目標を達
成できるという意味にもとれます。「戦わずして勝つ」という孫
子の兵法です。      ──[米中戦争の可能性/026]

≪画像および関連情報≫
 ●「中国海軍は縮小する」/文谷数重氏
  ───────────────────────────
   日本にとって中国の脅威は海軍力にある。日本人は中国が
  どれほど陸軍をもっていても気にはならない。だが90年代
  後半以降、日本の海軍力の優越が失われると、途端に不安と
  なった。その海軍力はこの10年間で特に急成長した。空母
  実用化や中華イージス登場の背後で、外洋型軍艦と潜水艦を
  併せた主力艦を55隻を完成させている。中国海軍力は、今
  後も急成長をつづけるのだろうか?
   答えはノーである。質的な向上はあるが、数的成長は望め
  ない。今後10年間、2026年までは微増にとどまり、2
  027年以降は減少に転ずる。なぜなら、経済成長の停滞、
  装備の高級化、既存艦の大量退役のためだ。中国海軍の成長
  は止まる。その第一の理由は経済成長の停滞により軍事費の
  成長が止まるためだ。海軍増強は経済成長に伴う軍事費増額
  に支えられていた。ここ10年間、2006年から15年ま
  で中国軍事費は合計6億元である。これは96年からの10
  年間の3倍の額である。中国はその軍事費を傾斜配分して、
  海軍の急成長を実現した。だが、今後は軍事費の増額は見込
  めない。その大元となる経済成長が停滞するためだ。強気の
  政府発表でも年率5%とされており、さらに統計の信憑性か
  らすれば実質はそれ以下となる。 http://huff.to/2laHzYk
  ───────────────────────────

中国の海軍戦略の変遷.jpg
中国の海軍戦略の変遷
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2017年02月10日

●「ニカラグア運河は果してできるか」(EJ第4457号)

 昨日のEJで取り上げた中国海軍戦略の方程式を再現します。
─────────────────────────────
  中国海軍の戦略=
  革命の完成+海の長城+海洋管轄権の擁護+局部戦争+
  「海上交通路の保護」+非戦闘軍事行動
                 http://bit.ly/2kAVwlH
─────────────────────────────
 このなかで「海上交通路の保護」については、昨日のEJでは
取り上げていないので、今回考えます。海上交通路については、
その多くが米軍の支配下にあるので、中国としては沿岸に複数の
寄港地(真珠)を確保し、それをつなぐ「真珠の首飾り」戦略を
実施していることは、既に説明しています。これが「海上交通路
の保護」になっているわけです。
 中国は、世界中の重要な海峡や運河にも抜かりなく手を打って
います。そのひとつである「ニカラグア運河」について、東京財
団研究員で、元駐中国防衛駐在官の小原凡司氏の興味ある論文を
中心に紹介することにします。
 2016年6月26日のことです。その日はパナマ運河の拡張
工事完成式典が実施され、各国首脳が式典に集まったのです。し
かし、パナマ政府から招待されたにもかかわらず、中国の習近平
国家主席は姿を見せなかったのです。なぜ、出席しなかったので
しょうか。
 実はパナマは中国と国交がないのですが、台湾とは国交を結ん
でいます。したがって、この式典には台湾の蔡英文総統が出席し
ているのです。中国にいわせれば、そのような席に中国の国家主
席を招くのは失礼であるというわけです。中国は「一つの中国」
を認めない国とは国交を結ばない方針だからです。
 ニカラグア運河について述べる前に、バナマ運河の前提知識と
して、パナマ運河の歴史について「世界史の窓」から、次にメモ
してておきます。
─────────────────────────────
 大西洋と太平洋を結ぶ、パナマ地峡に設けられた運河。19世
紀のフランス外交官で、スエズ運河を完成させたフランス人のレ
セップスが建設に着手したが失敗。アメリカがパナマを強引に独
立させ、運河地帯の支配権を獲得し、1904年に着手し、19
14年に完成させた。アメリカは1977年の新パナマ条約で返
還を約束したが、89年にパナマ侵攻を実行、運河の支配維持を
図った。しかし、国際世論の反発が強く、99年に約束通り返還
された。     ──「世界史の窓」 http://bit.ly/2laXvL8
─────────────────────────────
 さて、パナマ運河は拡張工事が終わりましたが、ニカラグア運
河は着手されたものの、まだ完成していません。ニカラグア政府
と中国系企業HKNDが運河建設で合意し、2014年に着工し
2019年完成だったのですが、予定通りいっていないのです。
 一応中国系企業との契約になっていますが、運河の建設には巨
額の資金がかかり、一企業が担える金額ではないので、バックに
中国政府がいることは確実です。それにしても米国の喉元にあた
るニカラグアに、中国政府が関与して運河を建設することに米国
はよく黙っていたものです。
 中国は意識してそういう行動をとる国なのです。トランプ大統
領とオーストラリアのターンブル首相は、1月28日に電話で会
談しましたが、移民の問題をめぐって意見が衝突し、トランプ氏
に電話をガチャ切りされるということが起きています。
 そうすると、中国の王毅外相はこのタイミングをとらえてオー
ストラリアを急遽訪問し、全面的な戦略パートナーシップを充実
させると宣言し、3月の李克強首相のオーストラリア訪問を決め
ています。きわめて計算高い国であるといえます。
 ニカラグアもかつて運河建設をめぐって米国にさんざん翻弄さ
れ、結局パナマに運河を作られてしまった歴史があります。中国
はそのスキを衝いて、ニカラグア運河の建設を持ちかけたものと
思われます。
 米国は、運河建設に対してパナマとニカラグアを天秤にかけ、
両国に対して相当強引なことをやってきています。パナマ運河を
作るとき、当時パナマが属していたコロンビア政府が反対したの
で、パナマを強引にコロンビアから独立させています。
 また、ニカラグアで起きた暴動に便乗して海兵隊を派遣し、当
時の大統領を辞任させています。運河建設の権利を潜在敵国のド
イツに売ろうとしたという疑いをかけたのです。しかし、ニカラ
グア運河には、モモトンボ火山の噴火の危険が指摘されたので、
米国は1914年にパナマ運河を開通させています。
 ニカラグアの地理的ポジションについて知る必要があります。
ニカラグアは、メキシコの南、中米コスタリカの北に位置し、米
国の影響下にあります。そのコスタリカの南にパナマ運河がある
のです。パナマは、パナマ運河のおかげで経済が発展し、街には
高いビルが林立しています。コスタリカとしても、運河を建設す
れば経済も活性化するので、建設したいところですが、何しろ経
費が500億ドル(6兆円)もかかるので、大国の援助なくして
は建設不可能です。500億ドルはニカラグアのGDPの5倍近
い巨額な数字だからです。
 ニカラグア運河をどうしても建設したいニカラグアのオルテガ
政権は、2013年6月に香港系企業HKNDに新運河の計画・
建設・運営を認めることを決定し、その翌年から工事に着手して
います。HKNDは、北京に本社を置く信威通信産業集団の会長
の王靖氏が2012年に香港に設立した企業です。明らかにニカ
ラグア運河を建設することを目的とする企業と思われます。
 運河建設の条件は、運河完成後50年間、その後さらに50年
間更新可能となっており、運河の経営権はHKNDにあります。
つまり、ニカラグア運河は完全に中国の管理下に置かれることを
意味します。しかし、運河建設は簡単ではなかったのです。
             ──[米中戦争の可能性/027]

≪画像および関連情報≫
 ●中国主導「ニカラグア運河」/宮崎正広
  ───────────────────────────
   中国の「無謀」というより「発狂的な」海外投資の典型は
  対ベネズエラに行われた。反米政治家だったチャベス大統領
  の中国べた褒め路線にのっかって、中国は450億ドルをベ
  ネズエラ一国だけに投資した。担保はベネズエラが生産する
  石油であり、昨今は一日60万バーレルを輸入する。基本的
  ルールとは、幕末維新の日本が英米独露から押しつけられた
  不平等条約の中味を思い出すと良い。つまりカネを貸す見返
  りが関税だったように中国は猛烈に石油を確保して、その前
  払いを利息先取りを含めて行っているのである。
   将来のディスカウントを貸し付け利息に算定して計算して
  いるわけだから、原油代金はおもいのほか安くなっている筈
  である。パナマ運河をこえて、ベネズエラ石油は中国へ運ば
  れる。後述するようにニカラグア運河とパナマ運河拡張プロ
  ジェクトは、このベネズエラへののめり込み路線と直結する
  のである。ともかくベネズエラは歳入の過半が石油輸出(輸
  出の96%)によるものである。ベネズエラ原油価格は、1
  バーレル99ドル(13年)から、2015年四月現在、な
  んと1バーレル=38ドルに墜落したため、2015年は、
  2013年の三分の一の歳入に落ち込むことは必定である。
  ベネズエラはOPEC(石油輸出国機構)のメンバーでもあ
  り、勝手な行動も許されずチャベルを引き継いだニコラス・
  マドゥロ大統領は悲鳴を上げて中国に助けを求める。しかし
  中国はベネズエラ鉱区を買収し、投資しているが、石油市場
  の悪化により、これ以上の投資が出来ない。
                   http://bit.ly/2ktIYf5
  ───────────────────────────

オルテガ大統領と王靖HKND会長.jpg
オルテガ大統領と王靖HKND会長
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2017年02月13日

●「ニカラグア運河実現を阻む3問題」(EJ第4458号)

 ニカラグア運河は2014年に着工していますが、3つの問題
点に突き当たっています。次の3つです。
─────────────────────────────
      1.途中で資金が不足する恐れがある
      2.水源確保などの計画の甘さがある
      3.採算がとれるかどうかわからない
─────────────────────────────
 「1」は、運河の建設資金の問題です。
 2014年に着工したはずのニカラグア運河ですが、2015
年11月に英国のメディアは「ニカラグア運河の本格的工事開始
が1年間延期された」と伝えています。その翌日に、中国メディ
アが同じ内容を伝えているので、運河工事の1年延期は間違いな
いと思われます。
 「本格的工事開始が1年延期」という表現は、実際の工事には
入っていないことを意味します。それにしても、工事を請け負う
HKNDは中国の大富豪の企業であり、バックには中国政府がつ
いているのにどうして資金不足になったのでしょうか。
 HKNDの王靖会長のバックには中国政府がいるのは確かです
が、あくまで隠れた存在です。したがって、当面は王会長の個人
資産頼みになります。そのうえで世界の投資家からの資金を募る
計画もあるのですが、うまくいっていないようです。
 しかし、その肝心の王会長の個人資産が、中国株の暴落や経済
発展の減速によって、最高時の3分の1程度にまで目減りしてし
まい、深刻な資金不足を引き起こしているのです。
 実際に2014年からの1年間では工事はほとんど行われてい
ないのです。それは、米ブルームバークのある記事によって明ら
かにされています。2015年8月時点の話ですが、米ブルーム
バークのマクドナルド記者は、ニカラグア湖の岸辺のエルトゥー
ルという町を取材しています。このエルトゥールという町は、ニ
カラグア運河の工事がはじまると消滅する予定になっています。
この取材の結果、マクドナルド記者の書いた記事は、次の通りで
す。かなり長い記事なので、冒頭の一部のみ以下に示します。
─────────────────────────────
 町の人間はもう何ヶ月も運河建設関係者を目撃しておらず、工
事もわずかしか行われていないという。たしかに何人かの中国人
のエンジニアたちが、湖の東側に標識を立てていたのを去年の暮
れに見かけたし、今年のはじめには港が出来る予定の、西岸の工
事用の道が拡大され、照明が新しいものに変えられた。しかし現
地の若い実業家であるメンドーサ氏(32歳)は建設計画が進ま
ないことを確信しているために、エルトゥールの町の郊外にコン
ビニと隣接した2階建ての宿を建設中だ。彼は運河なんかできる
わけないと大胆に述べている。    http://exci.to/2luxzJD
─────────────────────────────
 「2」は、建設計画の中身の問題です。
 ニカラグア運河計画は、カリブ海と、太平洋と大西洋を結ぶ約
260キロメートル(パナマ運河の3・5倍)の運河を建設する
という壮大な計画です。
 この運河計画が普通の運河計画と違うのは、途中にニカラグア
湖を通過することです。運河の水位調節は、他の運河と同様に段
階的に水門を閉じて行う方式ですが、ニカラグア運河の計画には
水源としての人工湖計画がないのです。水路を引いて中央のニカ
ラグア湖の水源を使う計画になっています。
 しかし、これをやると湖の水源不足につながってしまいます。
それに生態系の変化も起こることになります。こうした建設計画
の甘さやニカラグア湖の生態系の問題では、環境団体による大規
模な反対運動も起きています。
 「3」は、この運河の採算性問題です。
 世界3大運河といわれますが、3つともいえるでしょうか。2
つはいえても3つ目をいえる人は少ないと思います。
─────────────────────────────
            全長   利用船舶数   開通年
 1.スエズ運河 167キロ 2万1000隻 1869年
 2.パナマ運河  80キロ 1万4000隻 1914年
 3.キール運河  98キロ 4万2000隻 1895年
─────────────────────────────
 これら3つの運河は、それぞれ別の場所にあるのですが、3つ
には関係があります。スエズ運河はエジブトにあり、地中海と紅
海を結ぶアジア/ヨーロッパ間ルートです。パナマ運河は、パナ
マにあり、太平洋と大西洋(カリブ海)を結ぶ南北アメリカの境の
ルートです。キール運河は、ドイツ北部にあり、北海とバルト海
を結ぶルートであり、デンマーク・ユトランド半島の根元に位置
しています。
 アジア/ヨーロッパ間ルートで考えると、スエズ運河とパナマ
運河は競争関係にあります。しかもこの2つの運河は最近相次い
で拡張工事を終了しています。スエズ運河は2015年、パナマ
運河は2016年です。その結果、パナマ運河は、スエズ運河に
比較して通航料金は3〜4割高くなっています。
 もし、ニカラグア運河ができると、その通航料金は相当高くし
ないと採算に合わなくなります。まして、ニカラグア運河はパナ
マ運河と非常に近い距離にあります。つまり、どちらを通航する
かは料金比較になるのです。スペイン在住の貿易コンサルタント
の白石和幸氏は自身のサイトで次のように述べています。
─────────────────────────────
 ニカラグア運河については完成するか否かが先ず疑問視されて
いる。また、パナマ運河とニカラグア運河が商業的に同時に採算
ベースに乗ることは不可能である。米国は中国の影響下にあるニ
カラグア運河は使用しないはずで、ニカラグア運河は中国の米国
を睨んだ戦略的な意味合いが強い。   http://bit.ly/2kdhxYI
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/028]

≪画像および関連情報≫
 ●前途絶望のニカラグア運河/宮崎正弘氏
  ───────────────────────────
   中国がパナマ運河に対抗してニカラグアに運河を建設する
  大プロジェクトは、日本円にして6兆円規模だ。全長278
  キロ、パナマ運河の三倍。気が遠くなる稀有壮大な夢の実現
  と騒がれた。
   ニカラグアのサンディニスタ左翼政権は派手に米国に敵対
  してきたが、複数政党制になっていまは連立政権である。政
  権が変わると、スリランカが、あるいはミャンマーがそうで
  あるように、中国主導のプロジェクトはときに中止されたり
  する。しかもニカラグアは、なぜか中国とは国交がない。台
  湾と外交関係がある不思議な左翼的国家、というより反米的
  な国家である。隣のコスタリカは白人国家。しかもコスタリ
  カのほうが、中国が出資してくれるので、あっさりと台湾と
  の外交関係を断った。
   米国から見れば、パナマ運河のすぐ北に競争相手ともいう
  べき大運河が建設されると聞けば、安全保障上からも、脅威
  であり、裏で妨害工作をするだろうと予測してきたが、妨害
  もなく、地元の環境保全の運動にも、表立った支援をなして
  いる様相はない。不思議だなといぶかしんできたのだが、最
  近の事情が伝わって、ようやく得心が出来た。つまり米国は
  この計画は最初から無理で、途中で放り投げてしまうだろう
  と楽観視してきたからだ。     http://bit.ly/2lySvzg
  ───────────────────────────

ニカラグア運河とパナマ運河の位置関係.jpg
ニカラグア運河とパナマ運河の位置関係
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2017年02月14日

●「ニカラグア運河/中国は諦めない」(EJ第4459号)

 ニカラグア運河についてネットで調べると、計画は大幅に遅れ
ているが、今後進められるであろうとする情報と、計画倒れで中
止になる公算が強いという相反する情報が溢れています。一体ど
ちらが正しいのでしょうか。
 東京財団研究員で、元駐中国防駐在官の小原凡司氏の論文の表
題(ウェッジ・インフィニティ/日本をもっと考える所載)は次
のようになっています。
─────────────────────────────
     小原凡司(東京財団研究員・元駐中国防駐在官)著
 中国が「ニカラグア運河」いよいよ建設へ「パナマ運河無力
 化の先に見据えるもの」   ──2016年6月27日付
                  http://bit.ly/2lDYKCD
─────────────────────────────
 現在、ニカラグア運河の建設は、HKNDによる調査などは行
われているものの、全然着手されていない状況です。その原因は
資金不足と地元民の反対にあるとみられます。しかし、小原氏の
論文を読む限り、運河にはさまざまな困難はあるものの、中国の
手で進められ、いずれは完成される可能性は高いと考えていると
読み取れます。
 なぜなら、もし、ニカラグア運河が完成すると、この運河建設
の主導権を握っている中国は、対米軍事戦略上、きわめて有利な
ポジションを占めることになるからです。小原凡司氏は、その中
国の優位性について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 ニカラグア政府は運河の東西両端(太平洋口と大西洋口)の港
湾や自由貿易区の浚渫や建設、さらにはリゾート開発の権益をも
HKNDに与えている。これにより運河沿岸地域すべてが中国系
企業の管轄となり、この広大な地域が事実上100年間、中国の
租借地となるとみられている。
 中国は、運河沿岸全域を管理することによって、米国に知られ
ることなく、何でも大西洋に送り込むことができるようになる。
パナマ運河で行われている積荷の検査を自国で行うことができる
からだ。
 例えば、中国は現在でもベネズエラに対して、Z─9型対潜ヘ
リコプターやSM─4型81ミリ装輪自走速射迫撃砲、SR─5
自走ロケット砲などを輸出しているが、さらに、中南米諸国に反
米姿勢を強めるように働きかけ、実際に武器を供給することも容
易になるのだ。(中略)
 中国はニカラグア運河を通航する搭載物資に関する情報をすべ
て得ることにもなる。安全保障上も、ビジネス上も極めて重要な
情報である。しかし、中国が太平洋と大西洋を行き来する物資に
関する情報をより多く得たいと思えば、ニカラグア運河がパナマ
運河よりも商業的に魅力的になる必要がある。
                   http://bit.ly/2lBPjTC
─────────────────────────────
 しかし、ニカラグア政府もHKNDもこの運河工事をいまさら
中止できなくなっている事情があります。運河を作る以上、その
ルートに当たる土地や住宅を政府が買い上げる必要があります。
その買収すべき土地の総面積は、2900平方メートルに及び、
対象者は3万人〜12万人になるといわれています。
 問題なのはその土地や家屋の買い上げ価格の低さです。ニカラ
グア政府は、「840条第12項」に基づき、運河開発に必要に
なる土地を政府の土地鑑定評価額で買い上げるが、それに対して
所有者からの不服は一切受け付けず、立ち退かなければならない
としています。こういう強引な手法がとれるのは、現在のダニエ
・オルテガ大統領は独裁者であるからです。
 もちろん住民はこれに対して大反発し、何回もデモが行われて
います。住民としては住み慣れた土地を強引に奪われ、しかもそ
の代償として受け取るお金は非常にわずかなのですから、住民の
反発は当然のことです。
 現在のオルテガ政権は、親米の長期政権であるアナスタシオ・
ソモサ・デバイレ政権を倒して成立した政権であり、社会主義を
目指しています。中国はそのような国に接近し、投資を行い、米
国の喉元に多くの拠点を構えようとしているのです。
 ニカラグアだけではないのです。中国はベネズエラをはじめと
し、エクアドル、アルゼンチンなど、いずれも社会主義路線を進
める準独裁国家を対象に、1000億ドルを超える巨額の投資を
行っているのです。エクアドルには銅山開発、アルゼンチンでも
鉱山開発に加えて、鉄道事業への投資も行われています。しかし
そのいずれも進出している中国企業とトラブルを起こし、うまく
いっていないのです。
 以下は、国家通貨研究所経済調査部森川央上席研究員によるニ
カラグア運河の現状のコメントです。
─────────────────────────────
 当初の計画では工事が始まっているはずだが、ニカラグア政府
は全く情報を開示しておらず、進捗状況は不明である。だが企業
関係者の声を総合すると、本格的に工事が始まった形跡は見られ
ない。(中略)計画が具体性を欠いているだけでなく、ニカラグ
アを支援する友好国に陰りがみられることも計画への不安材料と
なっている。ニカラグアの与党は左派のサンディニスタ民族解放
戦線(FSLN)である。FSLN政権下で、同国は米州ボリバ
ル同盟(ALBA)という左翼政権の同盟に参加している。友好
国はキューバ、ベネズエラ、エクアドル、ボリビアなどで、イラ
ンやロシアとも武器購入などで関係が密である。特にベネズエラ
からは破格の条件で石油の提供を受けていた。しかし、ベネズエ
ラ経済は現在、危機的状況を迎えている。ニカラグア経済はこれ
までのところ好調であるが、今後はベネズエラからの援助は期待
できず、先行きへの懸念材料となっている。
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/029]

≪画像および関連情報≫
 ●ニカラグア運河計画、実現に疑問も/WSJ
  ───────────────────────────
  【オメテペ(ニカラグア)】中米ニカラグアのサンディニス
  タ民族解放戦線(FSLN)が率いる現政権は、1980年
  代に吹き荒れた革命運動のさなかに国土の大半を接収した。
  政府はここにきて再び地方の土地を確保しようとして国を混
  乱させている。だが、今回は資本主義に基づく事業、つまり
  中国資本の助けを借りて太平洋と大西洋を結ぶ全長172マ
  イル(約277キロ)の運河を建設することが目的だ。
   ニカラグアが計画しているこの運河は、完成すればフット
  ボール場4つ分より長い船舶の航行が可能となる。大きすぎ
  て新たに拡張されたパナマ運河でさえ航行できない船舶も利
  用できるようになる。ニカラグアの運河で建設・運営に関す
  る50年の権利を有する香港ニカラグア運河開発投資(HK
  ND)によると、このプロジェクトは人類史上最大規模の土
  木工事になるという。
   HKNDによると、水路や通関施設、道路、自由貿易圏を
  整えるためには642平方マイル(1663平方キロ)の土
  地が必要になる。ニカラグア政府関係者は懸案事項である土
  地の収用を正当化する理由として、運河が完成すれば貧しい
  ニカラグアに5万人分の雇用が創出され、経済規模が2倍に
  拡大する見通しだと説明している。だが、土地が収用されれ
  ば、2万7000人の住民が移住を余儀なくされることにな
  る。             http://on.wsj.com/2kyBKEi
  ───────────────────────────

ニカラグア運河反対運動.jpg
ニカラグア運河反対運動
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2017年02月15日

●「中国はなぜ海洋強国を目指すのか」(EJ第4460号)

 中国が海軍の強軍化に力を入れ、世界中の港、海峡、運河など
の拠点化に異常なほど力を入れているのは、なぜでしょうか。中
国の真意を知るには、中国という国の地理的ポジションや歴史を
振り返ってみる必要があります。
 われわれ日本人が世界地図を見るとき、上が北で、下は南、右
は東で、西は左です。日本列島を中心に見ているからです。右に
は広大な太平洋が広がっており、行きつく先はアメリカ合衆国で
す。西に行くと韓国、北朝鮮、中国があり、北に行くと、ロシア
があります。まっすぐ南に下ると、パプアニューギニア、オース
トラリア大陸があります。
 それは日本列島を中心に見ているからそうなのであって、中国
を中心にして逆さに世界地図を見ると、その様相は一変します。
その逆さ地図については添付ファイルをご覧ください。
 まず、いえることは海が非常に狭いことです。まず、日本列島
があります。南に下ると、九州から奄美諸島、沖縄、八重山と南
西諸島が連なり、台湾につながっています。台湾からは、バシー
海峡をはさんでフィリピンがあり、その端はベトナムへと、つな
がっています。
 海は日本海、黄海、東シナ海、そして南シナ海が広がっていま
す。しかし、それらの海をふさぐにように位置しているのが、日
本列島と台湾、フィリピン、そしてベトナムに至る諸島群です。
これを中国は「第一列島線」と名付けています。
 このなかで中国にとって最も邪魔なのが日本です。日本は経済
力が巨大であり、最先端のハイテク兵器を大量に持っており、数
は少ないものの、訓練の行き届いた強力な海上自衛隊を有してい
ます。しかも、米国と同盟関係を結んでいるので、うっかり手を
出すと、局地戦では返り討ちに遭ってしまう恐れがあります。
 これに比して南シナ海の諸国は日本ほど強くはなく、中国とし
ては手が出しやすいのです。そこで、中国は南シナ海での人工島
づくりに乗り出したのです。
 この「逆さ地図」で世界情勢を読むという独特のアイデアを本
にまとめられたのは、ジャーナリストの松本利秋氏です。今回の
EJはその松本氏の主張を参考にさせていただいています。中国
の海への関心について、松本氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国の西の端はヒマラヤ山脈を挟んでインドと国境を接し、北
に向かってアフガニスタン、タジキスタン、キルギス、カザフス
タン、ここから東に向かってはロシア、モンゴル、北朝鮮との間
に国境線が走っている。
 中国では、秦の始皇帝が漢民族の国家を創設して以来、北方の
騎馬民族の侵入をいかに防ぐかが民族存亡の要であった。中国の
歴史は大陸内部の土地争奪戦が主要な要素であり、三国志をはじ
め中国の歴史記述には、海のことがほとんど出てこない。
 このように大陸内部でのせめぎ合いを繰り返している国を、地
政学では「大陸国家=ランドパワー」と呼ぶ。中国は、歴史的に
北方との闘いに関心を集中させており、海への関心はほとんどな
かったと言って過言でない。 ──ジャーナリスト/松本利秋氏
                   http://bit.ly/2l9Trgn
─────────────────────────────
 ここで歴史を少し振り返ります。中国はかつて海洋進出を試み
目的を果たせなかった歴史があります。1271年〜1368年
の中国は元の時代です。元王朝は、中国とモンゴル高原を中心と
した領域を支配した王朝です。この年代に中国と親しく、行き来
していたのは、イタリア人のマルコ・ポーロです。マルコ・ポー
ロは、1271年に北京で元の皇帝ヘブライに謁見しています。
 1292年にペルシャに嫁ぐダッタン(モンゴル)の王女のエ
スコート役を果すため、北京に行っています。婚礼ですからこの
とき多くの人物が同行したはずですが、それは海路を覚えるため
であったと思われます。このとき、マルコ・ポーロは杭州を出発
し、マラッカ海峡、インド洋を通ってペルシャのホルムズに上陸
しています。
 1274年に元は、朝鮮の高麗軍を先導させて、日本の北九州
に2度にわたり攻め込んでいます。鎌倉時代の中期のことです。
元寇──すなわち、「文永の役」(1274年)と「弘安の役」
(1281年)の2回ですが、いずれも失敗に終わっています。
 元は文永の役で負けた原因を分析し、造船技術や航海技術を十
分磨いて、2度目の弘安の役で再び日本侵攻作戦を実行したので
すが、これにも破れ、それに懲りたのか、その後長い間にわたっ
て外洋に進出することはなかったのです。
 その中国が外洋での戦争に臨まなければならなくなったのが、
1840年から2年にわたる英国との戦争です。清の時代に起き
たこの戦争は「アヘン戦争」と呼ばれています。中国はこの戦争
に破れ、英国に香港島とその対岸にある九龍半島を割譲させられ
ています。
 その後日本と朝鮮半島の覇権をめぐって、1894年から18
95年にわたって起きた「日清戦争」にも破れ、台湾を日本に割
譲せざるを得なかったのです。中国側の主張では、尖閣諸島はこ
のとき日本に奪われたとしているのです。
 この2度にわたる外洋での敗戦は、中国人の心のなかに屈辱の
歴史として刻み込まれ、海洋から攻めてくる敵国に対して、強い
敵愾心を持つようになったのです。しかし、経済の低迷によって
中国はなかなか本格的な海軍を持つことができなかったのです。
 その中国が改革開放経済政策を採って経済力がついてくると、
中国は積極的に海洋進出を試みるようになってきます。その頃か
ら、日本列島、沖縄、台湾、フィリピン、ベトナムの「第一列島
線」に加えて、日本の本州から小笠原諸島、グアム、ニューギニ
アを結ぶ「第二列島線」を設定し、中国海軍は、これら二つの線
の内側を勢力範囲とし、海洋からの外国勢力の侵入を防ぐ戦略を
採るようになってきたのです。これら二つの線のなかには入れさ
せない戦略です。     ──[米中戦争の可能性/030]

≪画像および関連情報≫
 ●中国は海洋強国たり得ない/地政学者・奥山真司氏
  ───────────────────────────
  ――中国に目を転じてみると、新たに総書記に選出された習
  近平は「海洋強国」建設を主張している。大陸国家である中
  国が海洋強国を掲げる理由は何か。
  奥山:中国はこれまで多くの国境紛争を抱えていたが、その
  多くを解決させることができた。歴史を振り返ってみると、
  中国は内陸からの異民族の侵略により滅びることが多かった
  のだが、その危険性がこれほど小さくなったのは史上初めて
  ではないか。これが、彼らの海洋進出の要因の一つだ。中国
  はこの海洋進出を正当化するために、自らがもともと海洋国
  家であったという神話を構築しようとしている。明の時代に
  大船団を組み、アフリカや東南アジアに遠征した鄭和を讃え
  るキャンペーンを展開しているのはそのためだ。
   とはいえ、彼らが本当に海洋強国になることができるかと
  言えば、その可能性は低い。いくら国境紛争の多くを解決し
  たとは言え、中国は周辺諸国から警戒されていることもあり
  軍事力の大半を海軍に注ぐというわけにはいかない。陸軍と
  海軍を両方充実させるというのは資金面から困難だろう。大
  陸国家であると同時に海洋国家であることはできないという
  のは、歴史の教えるところである。もっとも、中国のこれま
  での周辺海域への進出が、この「海洋強国」という戦略に明
  確に基づいたものであるかどうかは、かなり疑わしい。
                   http://bit.ly/2i9k0RW
  ───────────────────────────
  ●地図の出典/http://bit.ly/2l9Trgn

中国を中心とする逆さ地図で見る.jpg
中国を中心とする逆さ地図で見る
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2017年02月16日

●「日米首脳会談/水面下の米中戦争」(EJ第4461号)

 この原稿は12日の夜に書いています。EJの緊急特集です。
今回のテーマ「米中戦争の可能性」に関係のある情報が入ってき
たので、急遽執筆しています。
 安倍首相とトランプ大統領による丸2日間に及ぶ日米首脳会談
において、非常に印象に残る場面があったことに気がついておら
れるでしょうか。
 それは、北朝鮮の弾道ミサイル発射を受けて、最終日に行われ
た予定外の緊急日米首脳共同記者発表におけるトランプ大統領の
表情とそのコメント内容です。念のため、共同発表の全文を次に
示しておきます。
─────────────────────────────
安倍 晋三首相:今般の北朝鮮のミサイル発射は断じて容認でき
 ない。北朝鮮は国連決議を完全に順守すべきだ。先程トランプ
 大統領との首脳会談において、米国は常に100%日本と共に
 あるということを明言された。そしてその意思を示すために、
 いま私の隣に立っている。私とトランプ大統領は日米同盟をさ
 らに緊密化し、強化していくことで完全に一致した。
トランプ大統領:われわれ米国は同盟国である日本と共にある。
 これは100%だ。そういうことをみなさんに伝えたい。
       ──2017年2月13日付、日本経済新聞夕刊
─────────────────────────────
 日米両首脳共に「100%」という強い言葉を使っています。
このときトランプ大統領の表情は、何かを睨みつけるかのように
非常に厳しいものだったのです。それは、金正恩最高指導者だけ
ではなく、中国の習近平国家主席に対しても、向けられていたの
ではないかと思うのです。それは秘めた“怒り”です。
 それには理由があります。実は今回の日米首脳会談には、水面
下において、中国が一枚噛んでいるのです。中国と米国は、今年
の1月に入ってから、水面下で激しい神経戦を展開していたので
す。それはもちろん「一つの中国」をめぐるやり取りです。
 トランプ氏が「ひとつの中国」について疑問を呈したのは、1
月12日、ウォールストリート・ジャーナル紙とのインタビュー
においてです。その直後(正確な期日は不明)、中国は「東風5
C」という最新のミサイルを発射したのです。ミサイルを発射し
て何らかのメッセージを伝える手法は北朝鮮とそっくりです。こ
れについて、2月5日付の「朝日新聞デジタル」は次のように報
道しています。
─────────────────────────────
 複数の核弾頭を搭載でき、米国を射程に含むとされる中国の新
型大陸間弾道ミサイル「東風5C」の発射実験について、中国国
防省は2月3日、国内メディアの取材に答える形で、実施を認め
た。米メディアが「トランプ政権を牽制する狙いがある」と報じ
ていた。米国の一部メディアは、米情報機関筋の話として、「中
国軍が1月の早い時期に、大陸間弾道ミサイル『東風(DF)5
C』を山西省・太原の発射場から、北西部の砂漠に向けて発射し
た」と報じていた。報道によると、東風5Cは10個の核弾頭を
搭載可能とされる。          http://bit.ly/2knV6uK
─────────────────────────────
 この情報に関して、ジャーナリストの加賀孝英氏が、米軍、米
情報当局関係者から得た情報として、2月13日発行の「夕刊フ
ジ」において次のように伝えています。
─────────────────────────────
 中国は1月、核弾頭を搭載できる弾道ミサイル「東風(DF)
5C」を山西省から試射した。事実上、「アジアの米軍基地を攻
撃できる」と、大統領就任前のトランプ氏の就任直後、浙江省に
配備した。北米全域を射程とした弾道ミサイル「DF41」の映
像を見せつけた。一方で、中国は軍民両用(デュアルユース)の
車両が、北朝鮮に輸出されるのをわざわざと阻止し、米国に伝え
た。要は「中国は北朝鮮のすべてを握っている」という、トラン
プ氏へのメッセージだ。           ──加賀孝英氏
          2017年2月13日発行/「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 極めて露骨な米国への脅しです。上記の文中の北米全域を射程
とした弾道ミサイル「DF41」のユーチューブ映像とは次の通
りです。
─────────────────────────────
      DF41/DF31 ICBM/中国製
             http://bit.ly/2ko1SRn
─────────────────────────────
 もうひとつ注目すべきは、中国が北朝鮮をいかようにもコント
ロールできることをわざわざ伝えたことです。もしかすると、既
に北朝鮮が中国と一体化しつつあるのではないかとも考えられま
す。北朝鮮が12日に発射したミサイルと中国の「DF41」の
映像はそっくりです。技術供与が行われているのです。
 これに対して米国は、中国の脅しに対して、直ちに対応措置を
取っています。加賀孝英氏が得た米軍、米情報当局関係者から得
た極秘情報は次のように続くのです。
─────────────────────────────
 米国は2月8日、模擬核弾頭搭載の弾道ミサイルを発射し、ハ
ワイ沖3900キロの海域にピンポイントで着水させた。中国は
顔面蒼白になった。(そのうえで)トランプ氏は同日、大統領就
任祝いの返礼と称して、習氏に書簡を送った。つまり、「宣戦布
告なら受けて立つ」という通告だ。中国側は慌てて、9日の米中
首脳電話会談を言ってきた。         ──加賀孝英氏
─────────────────────────────
 加賀氏にいわせると、「米中は軍事衝突寸前」だったというの
です。日米首脳会談が行われる前には、米中でこのようなやり取
りがあり、その結果、トランプ大統領は幹部とも相談し、「一つ
の中国」の原則を受け入れ、日米首脳会談の前にコトを収めたの
です。          ──[米中戦争の可能性/031]

≪画像および関連情報≫
 ●「一つの中国発言修正はティラーソン国務大臣の尽力」
  ───────────────────────────
  ワシントン 10日 ロイター]──トランプ米大統領が前
  週、中国政府の求めに応じ、米国の「1つの中国」政策を維
  持すると表明した背景には、ティラーソン国務長官の尽力が
  あった。米当局者が明らかにした。トランプ大統領は9日に
  中国の習近平国家主席と電話会談し、中台がともに一つの中
  国に属するという「1つの中国」政策の維持で合意した。
   米当局者によると、大統領による突然の立場修正に先立ち
  ホワイトハウスではティラーソン国務長官やフリン大統領補
  佐官らが会合を行った。ある当局者はこの会合について、米
  中関係や地域の安定のために「1つの中国」政策の維持を表
  明することが正しい選択だと大統領を説得するための協調的
  努力だと述べた。
   ティラーソン長官は会合で、米中関係の柱となってきた政
  策を巡る疑念を解消しない限り、米中関係は停止したままに
  なると警告した。ティラーソン長官による今回の尽力は、ト
  ランプ政権が直面する幾つかの地政学的問題で同氏が影響力
  を持つ可能性を示唆している。過激派組織「イスラム国(I
  S)」との戦いや対イラン政策、ロシアとの関係改善など、
  トランプ氏が掲げる他の優先課題でティラーソン氏が今後ど
  のような役割を果たしていくか注目が集まる。
                   http://bit.ly/2kZIAnn
  ───────────────────────────

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米国は100%日本と共にある
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2017年02月17日

●「日米首脳会談にケチをつけた中国」(EJ第4462号)

 昨日のEJの続きです。なぜ、対中強硬派が揃っているトラン
プ政権の幹部が、日米首脳会談の直前に中国と電話会談を急遽行
い、トランプ大統領が「一つの中国」を認めたのでしょうか。
 それは、ティラーソン国務長官やマティス国防長官、フリン大
統領補佐官らが、現在アジアでコトを構えるのは得策ではないと
主張したからであるといわれます。米国は中東でも火種を抱えて
おり、こちらの方が優先順位が高いと判断したからです。
 しかし、米国は中国がいうところの「一つの中国」のポリシー
をそのまま認めたのではなく、ひとつの細工を施しています。そ
れは、ホワイトハウスの公式ホームページの「一つの中国」原則
の尊重について次のように記されていることでわかります。
─────────────────────────────
       to honor our “one China”policy.
─────────────────────────────
 ミソは「our」 にあります。「われわれの一つの中国の原則」
という意味になります。これは中国の原則ではなく、われわれ米
国の一つの中国の原則を尊重すると主張しているのです。すなわ
ち、「一つの中国」は認めるが、米国は台湾関係法で台湾を守る
というわけです。これは、もし中国が台湾を侵攻するようなこと
があれば、米国は軍事的に台湾を守るということを意味している
のです。台湾関係法は米国と台湾の事実上の軍事同盟です。
─────────────────────────────
 台湾関係法とは中華民国(台湾)に関するアメリカ合衆国と
 しての政策の基本が定められている法律である。事実上のア
 メリカ合衆国と中華民国(台湾)との間の軍事同盟である。
                  http://bit.ly/2kqfrzG
─────────────────────────────
 それにしても、中国はしたたかです。「一つの中国」を認めよ
うとしないトランプ政権に対し、さまざまな工作を行っているの
です。表面的には米国に対して威嚇を行い、同時に幅広い米国に
おける中国人脈を使って、内部から、「一つの中国」を認めさせ
る働きかけを行っています。硬軟を使い分けているのです。
 まず、中国は「核心的利益」(一つの中国)が冒されれば、世
界一の軍事力を持つ米国に対しても、戦争すら辞さないという姿
勢を示すものとして、昨日のEJで述べたように、トランプ氏の
大統領就任前の1月に「東風(DF)5C」を発射し、大統領就
任後には北米全体を射程に収める弾道ミサイル「DF41」を浙
江省に配備し、ミサイル発射の映像をユーチューブに公開して、
米国に見せつけています。これは米国への威嚇といえます。
 これに平行して、共和党内部の中国人脈を使って、「一つの中
国」を受け入れさせる工作を行っています。このなかにはキッシ
ンジャー博士もいたと思われます。フリン大統領補佐官は中国の
国務委員とのパイプがあり、そのルートを通じての工作もあった
と思われます。結局、その内部工作が功を奏し、ティラーソン
国務長官が中心となって、トランプ大統領を説得し、習近平国家
主席との電話会談が行われたものと考えられます。中国の工作が
実を結んだのです。
 それにしても、日米首脳会談の最後の日に、北朝鮮はなぜミサ
イルを発射したのでしょうか。明らかに意図的です。
 おそらく中国と北朝鮮は連携しているはずです。それは日米首
脳会談──とりわけ日本を牽制しようとしたものと思われます。
それには、米国も一枚噛んでいます。米国にも二面性があるので
す。そういう意味において、日本はトランプ政権に全面的には心
を許してはならないのです。
 安倍首相の外交は、力で現状を変更しようとする中国に対して
日米関係を強固なものにして、価値観を共有する各国と連携を図
りながら、中国包囲網を築くというものです。当然中国としては
日本に対して厳しい姿勢をとらざるを得ないことになります。
 そこで日米首脳会談の冒頭と最後に、日本を牽制するために行
われたのが、2つのサプライズです。会談の冒頭では、突然の習
近平対トランプの電話会見をぶつけ、会談の最後に北朝鮮のミサ
イル発射させることによって、日本が日米関係の成功をもろ手を
上げて喜べないようにしたのです。中国にとっては大成功です。
完全に日本はもてあそばれているように感じます。
 警戒すべきは、北朝鮮の「北極星2」の打ち上げ成功です。金
生恩最高指導者は次のように発言し、トランプ氏からツイッター
で反論を浴びています。
─────────────────────────────
 米本土を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)が完
 成する過程にある。        ──金正恩最高指導者
─────────────────────────────
 しかし、「北極星2」の成功によって、ICBMの完成に一歩
近づいたことは確かです。「北極星2」は、直前に燃料注入作業
をする必要がない固体燃料型で機動性が高く、液体型よりも軍事
的な脅威が大きいのです。「北極星2」には次の2つの特色があ
ります。
─────────────────────────────
    1.潜水艦型SLBMを陸上型に改良している
    2.移動型車両にキャタピラーを使用している
─────────────────────────────
 北朝鮮は潜水艦の保有数では世界有数の数を誇りますが、高度
な潜水艦を作る技術はないのです。しかし、水中からミサイルを
発射するSLBMの技術を有しているので、それを陸上型として
改良したのが「北極星2」です。
 「北極星2」の最大の特色は、ミサイルを運び、発射させる移
動車両がキャタピラーを使用していることです。北朝鮮はゴムが
とれないので、輸入に頼ることになるため、キャタピラーにした
のだと思いますが、これは世界に例がないのです。これならどこ
にも移動でき、ますます発射位置を特定できなくなるメリットが
あります。        ──[米中戦争の可能性/032]

≪画像および関連情報≫
 ●北発射のミサイル「ICBMに向かう中間段階」=専門家
  ───────────────────────────
  【ソウル聯合ニュース】北朝鮮メディアが2月13日、新型
  の中長距離弾道ミサイル「北極星2型」の試験発射を12日
  に行い、成功したと報じたことで、このミサイルの性能や発
  射方式などに関心が集まっている。
   朝鮮中央通信など、北朝鮮メディアの報道を要約すると、
  12日のミサイルは固体燃料を使用する新型の戦略兵器であ
  り、昨年8月に発射実験に成功したとされる潜水艦発射弾道
  ミサイル(SLBM)の体系を土台に射程を延長した新たな
  形態の中長距離ミサイルということになる。
   北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」が公開した北極星
  2型の発射の写真を見ると、昨年8月に水中発射した全長約
  9メートルのSLBM「北極星」とほぼ同じだった。専門家
  らはこのミサイルについて、固体燃料を使用する大陸間弾道
  ミサイル(ICBM)の開発に向けた中間段階の兵器体系で
  ある「新型IRBM(中長距離弾道ミサイル)」だと分析し
  ている。IRBMは射程2400〜5500キロの弾道ミサ
  イルを指す。北朝鮮が公表した写真を見ると、SLBMと同
  様に円筒の発射管から飛び出したミサイルは10メートルほ
  ど上がった空中で点火され、正しい姿勢を取って浮上した。
  SLBMと発射方式や全長(12メートル)は同じだが、エ
  ンジン体系が、全く異なる新たな地対地IRBMと分析され
  る。北極星2型を1段目として2段目の推進体を組み合わせ
  れば、ICBMとしての性能を発揮できるとみられている。
                   http://bit.ly/2lKma9x
  ───────────────────────────

「北極星2」発射光景.jpg
「北極星2」発射光景
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2017年02月20日

●「中国は多くの非対称兵器を有する」(EJ第4463号)

 中国軍の実力はどの程度のものでしょうか。
 軍事専門家によって意見が割れています。いま米中が戦えば、
もちろん米軍が圧倒的に強いですが、ピーター・ナヴァロ氏は米
軍が脅威に感じていることは少なくないといっています。ナヴァ
ロ氏は、次の問題を出しています。
─────────────────────────────
【問題】1600キロ離れた場所から発射したミサイルを、時速
55キロで航行中の空母に命中させるのは、どのくらい難しいか
選べ。
  「1」困難
  「2」非常に困難
  「3」ほぼ不可能
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この答えは「2」の「非常に困難」です。しかし、それを中国
が可能にしたと思われるからです。その名前は「対艦弾道ミサイ
ル」です。これは「空母キラー」といわれているのです。
 ミサイルについて知る必要があります。次の2つのミサイルの
違いがわかるでしようか。
─────────────────────────────
          1.巡航ミサイル
          2.弾道ミサイル
─────────────────────────────
 これら2つのミサイルは、推進力が違います。巡航ミサイルの
推進力は小型ジェットエンジンであり、弾道ミサイルの推進力は
ロケットです。なぜ、ロケットなのかというと、弾道ミサイルは
大気圏外に出るからです。これに対して、巡航ミサイルは、大気
圏から出ることはなく、大気圏のなかをジェットエンジンから推
進力を得て目標に向って飛行します。
 しかし、弾道ミサイルはロケットから推進力を得て大気圏外に
出て、ほとんど燃料を使わず、長距離を飛行できるのです。これ
について、ナヴァロ氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 弾道ミサイルは、通常はロケットによって打ち上げられ、大気
園外で準軌道飛行に入る。この希薄大気の中を、弾道ミサイルは
ほとんど燃料を使わず、長距離を飛ぶことができる。これが弾道
ミサイルの大きな利点である(価格はふつう巡航ミサイルのほう
がずっと安い)。目標付近に到達すると、弾道ミサイルは自由落
下して大気圏に再突入し、その過程で致死的な高速を獲得する。
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 中国のこの対艦弾道ミサイルの画期的な点は、司令部と衛星経
由で連絡をとりながら、目標を追尾できることです。しかも、再
び大気圏に突入した後も、大海原の小さな目標をロックオンし、
目標に達することができる点です。驚くべき性能の弾道ミサイル
といえます。
 この手の対艦弾道ミサイルは射程1500キロメートル以上と
いわれています。もし、本当であれば、このミサイルを中国沿岸
部から発射すれば、遥か遠くの太平洋上を航行する米国の空母を
撃沈することが可能になります。そうであれば、米国の空母艦隊
は中国に近づくことができなくなります。つまり、これを中国か
ら見ると、「接近阻止」になります。
 この対艦弾道ミサイルは、中国の「接近阻止/領域拒否」戦略
の一環で開発されたミサイルなのです。「接近阻止」とは、文字
通り中国本土(というより第一列島線と第二列島線)に近付かせ
ないという意味であり、「領域拒否」とは米海軍のアジア海域か
らの駆逐を意味します。この「接近阻止/領域拒否」戦略は、公
海の航行の自由という国際法の原則からすると、とくに米国は絶
対に譲れない一線ということになります。
 中国の対艦弾道ミサイルについて、ピーター・ナヴァロ氏は、
フィリップ・カーバージョージタウン大学教授の言葉を紹介して
います。
─────────────────────────────
 アメリカは世界最強の海軍を保有している。現在、アメリカ海
軍はおそらく、中国軍やロシア軍を含め、世界中ビこの海軍と通
常戦争を戦っても勝利することができるだろう。だが、中国は抜
け目なく行動し、対艦弾導ミサイルなどのいわゆる非対称兵器を
開発してきた。対艦弾遭ミサイルは、アメリカ海軍の艦隊を人質
に取る能カを持っているかもしれない。これは、アメリカのアジ
ア地域への海軍力展開能カが次第に小さくなっていくことを意味
している。      ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 この記述で注目すべきは「対艦弾導ミサイルなどのいわゆる非
対称兵器」という部分です。ここでいう「非対象兵器」とは何で
しょうか。
 米国の軍事力と中国の軍事力は非対称です。現在でも圧倒的に
米軍の方が優勢です。この場合、劣勢側はそれを覆すために開発
する兵器が「非対称兵器」です。
 例えば、対艦弾道ミサイルは一発せいぜい数百万ドルですが、
米国の空母は一隻100億ドルもします。非対称です。しかし、
このミサイルで、空母を撃墜することができるのです。こういう
兵器を「非対称兵器」といいます。中国は、「接近阻止/領域拒
否」戦略を実現するために、こういう非対称兵器を多数開発保有
しているのです。
 この対艦弾道ミサイルに該当する兵器に「東風/DF21D」
があります。移動車両に搭載してどこからでも発射でき、米空母
をターゲット化して追尾し、撃沈できます。そのため、「空母キ
ラー」と呼ばれているのです。これについては、明日のEJで述
べます。         ──[米中戦争の可能性/033]

≪画像および関連情報≫
 ●テロリストが軍隊よりも優位に立つ「非対称の戦争」
  ───────────────────────────
   パリで発生したISによる連続テロでは120名を超える
  市民が命を落とし、フランスのオランド大統領は「今回のテ
  ロは戦争行為」だと強く非難した。事件が起きる前から、同
  国を代表する日刊紙「ル・モンド」は、テロの危機が目前に
  あると警鐘を鳴らす記事を繰り返し掲載してきた。弊誌4月
  号の特集「これからの『戦争』と『世界』」に転載した「ル
  ・モンド」紙の記事をウェブでも公開する。
   1989年のベルリンの壁の崩壊は、人々の期待を裏切っ
  て、世界を不安定な新しい時代に引きずり込んだ。かつて冷
  戦時代、核戦争の危険は、敵でもありパートナーでもあった
  米国とソ連の2大国によって慎重に管理されており、世界は
  きわめて平和で、喜びに満ちていた。敵対するイデオロギー
  を背景にした紛争は、居心地の良いフランスと欧州大陸から
  遠く離れたところで行われ、燦々と輝く陽の光のもとで、美
  しいとさえ思えた。平和は「核の抑止力」という氷のカーテ
  ンに守られて、脅かされることすらなかった。
  21世紀に入ると、圧倒的な力を誇る米国の一国支配は20
  01年9月11日の同時多発テロ事件によって終止符を打た
  れてしまった。この事件は、永遠に平和で幸せだと信じられ
  ていた世界を大きく揺るがした。
   9・11を機に生まれてしまったのが「非対称的な戦略」
  である。これは、「ネズミのほうが猫よりも強い」、つまり
  弱者が強者に対して優位に立つという考えかただ。「非対称
  的な戦略」の誕生によって、嫌悪感と恐怖心と苦痛が支配す
  る、新しい国際社会が幕を開けた。 http://bit.ly/2m6N7nh
  ───────────────────────────

中国の対艦弾道ミサイル/DF21D.jpg
中国の対艦弾道ミサイル/DF21D
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2017年02月21日

●「DF21D索敵メカニズムを探る」(EJ第4464号)

 ピーター・ナヴァロ氏は、中国の対艦弾道ミサイル「東風21
D」は、米原子力空母にとって脅威であると述べています。しか
し、中国側からの公式な情報公開はなく、その性能についての詳
細はまだ不明です。そこでネットを中心にDF21Dについて、
できるだけ情報を集め、その構造や性能について検証してみるこ
とにします。
 DF21Dは「ASBM」とも呼ばれますが、これは次の英語
の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
     ASBM/Anti-Ship Ballistic Missile
                対艦弾道ミサイル
─────────────────────────────
 まず、ミサイルの本体ですが、その構造については、添付ファ
イルを見ていただきたいと思います。全長は12・3メートル、
直径1・4メートル、発射重量は15トンを超えます。温度、湿
度、汚れからミサイルを保護するため、キャニスターという円筒
形の密閉容器に収納されており、自走式発射機に搭載されるよう
になっています。最大射程は2000キロメートルです。
 DF21Dは、再突入体とロケットモーターで構成されます。
ロケットモーターは、固体推進剤を使用する2段式です。固体推
進剤は、事前に装填しておくことができ、即応性に優れ、長期間
の保管にも耐えることができます。発射台は、移動可能な車両に
なっており、どこからでも発射することができます。
 再突入体の先端部分は「レドーム」になっており、アクティブ
・レーダー・シーカー(探知機)を内蔵しています。レドームと
いうのは次の通りです。
─────────────────────────────
 Radome
 レーダーとドームを掛け合わせた造語であり、レーダーアン
 テナを保護するための覆いのことである。
─────────────────────────────
 レドームの後方は弾頭部分です。ここは単一弾頭、複数の子弾
頭の搭載も可能になっています。その後ろは誘導制御部分であり
INS(慣性航法装置)、GPS(全地球測位システム)、軌道
制御装置を内蔵しています。なお、外側には4枚の操舵翼が取り
付けられています。以上がDF21Dの基本構造です。
 問題は、どこにいるかわからない米空母をどのようにして捉え
るかです。これについては、中国は次の2つによって探知すると
しています。
─────────────────────────────
     1.宇宙に配備されている各種偵察衛星
     2.地上に配備しているOTHレーダー
─────────────────────────────
 「1」は、中国の地球観測衛星の「遥感シリーズ」が利用され
ていると思われます。遥感シリーズの衛星は、地球観測を目的と
するもので、科学的な試験や資源調査、農作物の管理といった用
途で活用されているとしているものの、軍事目的ではないかとい
う警戒の声も出ています。なお、遥感シリーズの衛星には次の3
つがあります。説明は省略します。
─────────────────────────────
      1.電子工学センサーを搭載するもの
      2.合成開口レーダーを搭載するもの
      3.編隊で飛行し、艦艇の電波を傍受
─────────────────────────────
 「2」のOTHレーダーとは何でしょうか。OTHレーダーと
は、超水平線レーダーのことで、非常に広い範囲から目的物を発
見できる性能を有しています。
 OTHレーダーについて、元陸上自衛隊東部方面総監で、ハー
バード大学アジアセンター・シニアフェローの渡部悦和氏は次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 OTHレーダーは、2007年に配備され、中国の海岸線から
2000キロメートルまでの目標を発見し、大まかな(精密では
ない)目標位置情報の把握が可能になった。(中略)中国による
OTHレーダーによるターゲティング(目標標準)は、現時点で
は開発途上だが、明らかにこの分野に重点的な投資を行っており
将来的には警戒が必要である。        ──渡部悦和著
    『米中戦争そのとき日本は』/講談社現代新書2400
─────────────────────────────
 DF21Dがどのように発射され、艦艇を攻撃するのについて
検証します。DF21Dは、発射指令を受けると、キャニスター
を起立させ、発射準備をします。キャニスター下部には高圧ガス
発生装置が内蔵されており、ガスの圧力により、ミサイルを上方
に噴出させます。
 射出されたミサイルは、次の段階でロケット・モーターが点火
され、上昇し、加速します。そして、第1段、第2段部分を燃焼
後に分離し、再突入体が大気圏外に出て、慣性で飛翔します。地
上司令部のコントロールで所定の高度に乗り、目標の艦艇の近く
に来ると、大気圏に再突入し、レーダー・シーカーを作動させて
軌道修正を行い、艦艇を探索し、攻撃するのです。
 しかし、DF21Dは現時点で額面通りに効果を発揮できるか
どうかは不明です。米国の空母艦隊は常時移動しています。その
ように移動する艦艇の位置を正確に捉えることは非常に難しいこ
とであり、中国の発表を額面通りに受け取れないのです。
 それに、米軍もDF21Dの対応策を考えているはずです。O
THレーダーは大規模な固定式の装置であり、地上に置かれてい
るので、戦争がはじまれば、真っ先に破壊される対象になるとい
う脆弱性を持っています。既に固定目標で、DF21Dの実験を
行っていますが、海上の移動艦艇への実験はまだ行われていない
レベルです。       ──[米中戦争の可能性/034]

≪画像および関連情報≫
 ●中国がDF21Dを地上固定目標に試射?
  ───────────────────────────
   「空母キラー」だとか「ゲーム・チェンジャー」と呼ばれ
  ながら、空母リャオニンに比べて情報が出てこないのが、対
  艦弾道ミサイル(ASBM)のDF21D(東風21D)で
  す。そのDF21Dの試射が、中国西部のゴビ砂漠において
  行われたという情報がありました。試験では、米空母の飛行
  甲板を模した全長200メートルほどの施設を砂漠に建設し
  それを標的としてDF21Dが発射され、着弾しています。
   今回の情報はアルゼンチンの画像掲示板に投稿されたこと
  を発端に、中国のメディアにも報じられていますが、なにぶ
  ん実験の詳細などは一切わかりません。誤報の疑いも強いも
  のです。外交誌『The Diplomat』でも取り上げられています
  が、やはり確定的なことは書かれていません。
   『The Diplomat』の記事中でランド研究所のロジャー・ク
  リフ氏も言及していますが、仮に今回のDF21Dの試射が
  所期目標をクリアしているとすれば、次のステップは洋上の
  移動目標への試射となります。これは、地上の固定目標を攻
  撃するのに比べて難度が飛躍的に高くなります。まず、広い
  洋上で目標の抽出をしなければなりません。敵味方判定はも
  ちろん、米海軍の空母と駆逐艦では大きさが違いすぎます。
  そして、発射した後の中間誘導において、正確な情報のアッ
  プデートとリンクが求められますよね。1時間前の衛星情報
  などは役に立ちません。発射から着弾まで5分だとしても、
  その間に空母は数キロメートルも移動してしまっています。
                   http://bit.ly/2kArRtO
  ───────────────────────────

東風21D略図.jpg
東風21D略図
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2017年02月22日

●「米国を上回る中国ミサイルの性能」(EJ第4465号)

 「空母キラー」といわれるDF21D──中国はこれで「接近
阻止/領域拒否」戦略をとろうとしています。これについて、既
出のハーバード大学アジアセンター・シニアフェローの渡部悦和
氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 DF21Dなど中国の対艦弾道ミサイルは、米海軍にとって新
たな脅威となっているが、米軍は対抗手段の開発を進めている。
例えば、DF21Dは空母キラーとして有名になったが、メディ
アで言われるような、ミサイル1発で米空母を一撃できるという
万能の兵器ではない。DF21Dの脅威を誇張することにより、
米軍に心理的効果を与えている側面がある。DF21D以上に、
中国の対艦巡航ミサイルを搭載する潜水艦や、航空戦力の方が、
米軍の空母打撃部隊にとっては脅威となる。  ──渡部悦和著
    『米中戦争そのとき日本は』/講談社現代新書2400
─────────────────────────────
 DF21Dには、いろいろな問題点があります。仮に空母の位
置が特定できたとしても、発射から着弾まで空母は数キロメート
ル移動します。そのため、赤外線レーダーによる終末誘導が不可
欠になります。
 しかし、DF21Dの再突入体が大気圏に再突入するときの速
度は秒速3〜4キロメートルになり、音速の10倍以上に達する
のです。そうなったときの再突入体の先端部分の温度は700度
を超えるのです。この高温では、赤外線センサーは機能しないの
で、終末誘導は不可能になります。中国は、この問題をまだ解決
できていないのです。
 しかし、中国にこの対艦弾道ミサイルと対艦巡航ミサイルを同
時に発射されると、守ることが困難になります。なぜなら、イー
ジス艦の防空能力が弾道ミサイル防衛に奪われ、艦隊の防空能力
が低下するからです。この場合、弾道ミサイルの方は命中する可
能性は極めて低いものの、巡航ミサイルの命中精度はきわめて高
いので脅威です。もしかすると、DF21D開発の目的は、そこ
にあるのではないかともいわれているのです。
 中国のミサイルの脅威について論ずるとき、どうしても、DF
21Dのような対艦弾道ミサイルの脅威を考えてしまうものです
が、むしろ巡航ミサイルの方が危険であると主張する軍事専門家
が多くなっています。
 たとえば、アメリカ海軍大学校教授、ライル・ゴールドスタイ
ン氏は、東シナ海の日本の尖閣諸島の現状について、次のように
警告しています。
─────────────────────────────
 たとえば東シナ海の戦略的均衡が兵器の種類によってどのよう
に変わるかを見てみると、日本の海上部隊は地上発射ミサイルの
深刻な脅威にさらされているように思われる。たとえば、中国沿
海部から発射される巡航ミサイルは尖閣諸島付近の海上保安庁の
船舶を射程内に収めているし、これをおそらく決定的に打ち負か
すこともできると思われる。したがって、巡航ミサイルの脅威は
非常に大きい。対艦弾道ミサイルにばかり気を取られていると、
巡航ミサイルの脅威から目を逸らすことになりかねない。
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 ピーター・ナヴァロ氏は、上記の問題に関連して、次の問題を
読者に尋ねています。
─────────────────────────────
【問題】保有している通常型(非核)ミサイルの種類と総数が最
も多い国を選べ。
  「1」中国
  「2」ロシア
  「3」アメリカ
           ──ピーター・ナヴァロ著ノ前掲書より
─────────────────────────────
 正解は「1」の中国なのです。中国は、おそらくミサイルの種
類と数では世界を圧倒していると考えられます。改革開放経済路
線で経済力のついた中国は、膨大な軍事費を投入して、米国に追
いつこうとしてきたのです。
 しかし、力と力の対決では、中国は現在も、またこれから先も
米国に勝利することはできないと悟るのです。それは、過去の2
つの「戦い」を経験したからです。
 1つは、第一次湾岸戦争の「砂漠の嵐」作戦であり、もう1つ
は、1996年、中国の侵略行為を阻止するために米軍の空母戦
闘群2群が台湾近海に向った第三次台湾海峡危機のことです。そ
のとき、米国軍の火力の凄さをまざまざと見せつけられ、もはや
マンパワーに頼る防衛の時代ではないことを中国は痛感させられ
たのです。そのときから、中国はミサイル保有数の増加とその性
能の向上に力を入れるようになったのです。これが、中国の誇る
「非対称兵器重視戦略」です。
 この中国の非対称兵器重視戦略によるミサイル開発技術はさら
に高度化され、遂に防衛不能といわれるミサイルを生み出したの
です。それは次のミサイルです。
─────────────────────────────
       極超音速滑空飛翔体/WU─14
─────────────────────────────
 このミサイルは、1014年に最初の実験が行われていますが
この最高速度はマッハ10、音速の10倍(時速1万2000キ
ロ)に達するというのです。このミサイルが危険なのは、大気圏
突入後に機体を引き起こすことができ、ほぼ水平に近い角度で滑
空して目標に到達できる性能を持っていることです。そのため、
迎撃が非常に困難化するのです。この技術レベルは、明らかに米
国を上回っており、米軍は現在その対処に苦慮しているといわれ
ます。          ──[米中戦争の可能性/035]

≪画像および関連情報≫
 ●「米国が恐れる中共の極超音速滑空体」
  ───────────────────────────
   中共は、2016年10月19日、有人宇宙船「神舟11
  号」と、無人宇宙実験室「天宮2号」のドッキングに成功し
  た。「宇宙強国」を目指す中共は天宮2号で宇宙ステーショ
  ン運営に向けた様々な実験を行い、2022年頃の完成を目
  指す本格的な宇宙ステーションに繋げる計画だという。産経
  新聞が「宇宙強国/中国の野望」(上・21日付、下・22
  日付)と題した特集記事で伝えている。
   この記事の中で特に注目したのは、中共が開発中の「極超
  音速滑空体」についての以下の記述だ。
   [2014年1月、中国上空を最高でマッハ10に達する
  高速で飛行する物体が米軍に探知された。米国のほぼ全土を
  射程に入れる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の技術を手に
  した中国が、次世代の戦略兵器として開発を進める「極超音
  速滑空飛翔体」だ。完成すれば、国際社会の戦略バランスを
  大きく変える可能性が指摘されている。
   極超音速滑空飛翔体は放物線を描いて落下するのではなく
  超音速で、自由に運動しながら滑空し、高い命中精度を有す
  る。米国の現在のミサイル防衛(MD)では撃墜が不可能と
  される。中国による14年1月の実験成功後、米議会の諮問
  機関である「米中経済安全保障調査委員会」は、中国が20
  年までの開発を目指していると警告した](23日付)
                   http://bit.ly/2kLLKt7
  ───────────────────────────
 ●画像出典/http://bit.ly/2lj6cU4

中国最新ミサイル/WU−14.jpg
中国最新ミサイル/WU−14
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2017年02月23日

●「中国の真意はどこにあるかを探る」(EJ第4466号)

 中国の人民解放軍の「接近阻止/領域拒否」戦略についてもう
少し詳しく考えてみる必要があります。「接近阻止/領域拒否」
は「A2/AD」と略記されることがあります。
─────────────────────────────
        A2/AD
        Anti-Access/Area Denial
─────────────────────────────
 米中戦争の可能性について、ひとつはっきりしていることがあ
ります。それは、「中国は米国とは戦いたくない」ということで
す。なぜなら、いま中国が米国と総力戦をやれば、中国が確実に
負けるからです。
 そこで、中国の人民解放軍が、強大な米軍にいかに勝利するか
を徹底的に検討した結果、考え出された戦略が「A2/AD」な
のです。この戦略はよく考え抜かれており、米軍はこれに頭を悩
ますことになるのです。いわば米軍に対しては、「戦わずして勝
つ」戦略が「A2/AD」です。
 「戦わずして勝つ」というと、「孫子の兵法」が頭に浮かびま
すが、本当にそのように書かれているのでしょうか。「孫子の兵
法」は、あのナポレオンも愛読し、実戦に生かしたといわれてい
るのです。
 確かに「孫子の兵法」の総説の三「謀攻篇」に次のように書か
れています。
─────────────────────────────
 孫子曰わく、
 凡そ用兵の法は、国を全うするを上と為し、国を破るはこれ
 に次ぐ。
  軍を全うするを上となし、軍を破るはこれに次ぐ。
  旅を全うするを上となし、旅を破るはこれに次ぐ。
  卒を全うするを上となし、卒を破るはこれに次ぐ。
  伍を全うするを上となし、伍を破るはこれに次ぐ。
 是の故に百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして
 人の兵を屈するは、善の善なる者なり。
         ──「孫子の兵法」の総説の三「謀攻篇」
                  http://bit.ly/2mdI1Wx
─────────────────────────────
 「軍」「旅」「卒」「伍」は軍の規模を表しています。人数は
目安ですが、軍は「軍隊」で1万5千人、旅は「旅団」で500
人、卒は「大隊」で100人、伍は「小隊」で5人を意味してい
ます。要約すると、次のようになります。
─────────────────────────────
 およそ軍事力を用いる原則としては、敵国を保全したまま勝つ
のが最上の策で、敵国を撃破して勝つのは次善の策である。した
がって、百度戦闘して百度勝利を収めるのは、最善の方策ではな
い。戦わずに敵の軍事力を屈服させることこそ、最善の方策なの
である。               http://bit.ly/2mdI1Wx
─────────────────────────────
 この「戦わずして勝つ」という孫子の戦略は、老子から影響を
受けているという説があります。そこで老子について調べると、
老子は次のようにいっているのです。
─────────────────────────────
    「善勝敵者不与」/善く敵に勝つ者は与にせず
         うまく敵に勝つ者は、敵と戦わない
                     ──老子
─────────────────────────────
 確かに老子も同じことをいっています。力づくで戦って勝って
も、必ずその反動があり、それが自分に跳ね返ってくるという教
えです。ところで、孫子、老子とくれば、孔子が出てきます。こ
の3人の賢人は、同世代の人であり、推定ですが、生年順でいえ
ば、老子、孫子、孔子であるとされています。
 それでは、「A2/AD」戦略は、これら3賢人の教えから出
てきたのかというと、けっしてそうではないのです。要するに、
中国の本音は、米国とは戦いたくないが、アジアの覇権はどうし
ても握りたい。それを実現するには、米国をアジアに近づけない
ようにする──そういう戦略が「A2/AD」なのです。
 現在の中国は、老子や孫子が説くように「不争(不戦)」では
なく、勝てる相手であれば露骨な圧力をかけ、己が必要とする領
土を平気で奪い取ることを考えています。
 ピーター・ナヴァロ氏は、「中国の真意」について、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 中国の真意についてだが、中国が、少なくともアヘン戦争以前
のことまで持ち出して、領土と東シナ海・南シナ海の海洋権益を
拡大しようとしているのは明らかである。同様に、中国のこうし
た報復主義的行動が、日本、フィリピン、ベトナムといった近隣
諸国との紛争の原因であることも明らかである。これより規模は
小さいが、ブルネイやインドネシア、マレーシアとの間にも中国
は紛争を抱えている。(中略)
 こうした無数の紛争が、実在すること自体には疑いの余地はな
い。これについては、客観的な証拠がある。だが、中国の拡張主
義がアジアの覇権国になるための攻撃的行動なのか、それとも単
に自国の通商路の保護と国土防衛という正当な防衛行動なのか、
については、甚だしい見解の相違が存在する。
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 中国の拡大主義は、どうみてもアジアの覇権国になるためです
が、中国側からいうと、それは「積極的防衛」ということになっ
てしまうのです。しかし、中国がこれを実現するには、米国が邪
魔なのです。そのために出てきたのが「A2/AD」戦略という
わけです。        ──[米中戦争の可能性/036]

≪画像および関連情報≫
 ●今さら聞けない中国軍の接近阻止/領域拒否(A2/AD)
  ───────────────────────────
   最近の日本の安全保障に関する研究者、自衛官の間では、
  中国軍が「積極防衛」という基本方針に従って、「接近阻止
  /領域拒否」(英語でA2/ADと略される)の能力を強化
  しており、このことが北東アジア地域における米国の抑止力
  を低下させる恐れがあるという状況判断が、議論の前提とし
  て広く共有されつつあります。
   しかしながら、このような議論は依然として国民の間で共
  有されているとは言い難い状況が続いていると思います。そ
  の背景には米国での議論を日本に持ち込む際に、「A2/A
  D」というペンタゴン用語、つまり国防の関係者以外には理
  解し難い用語が十分に日本国内で理解されておらず、また理
  解を広げる取り組みが専門家の側でまだまだ不足している事
  情が関係していると思います。
   今回は、改めて中国軍が重視する接近阻止/領域拒否が何
  を目指すものであり、それが日本や米国にどのような影響を
  及ぼすものであるのかを基礎から説明したいと思います。
   ここではマックデヴィットの研究に沿って説明してみたい
  と思います。そもそも接近阻止・領域拒否という用語が米国
  国防総省の公文書で最初に使用されたのは2001年度4ヶ
  年防衛評価であり、当時この用語は台湾有事で米軍が介入し
  てくることを防止するための中国軍の取り組みを特徴付ける
  ために用いられていました(McDevitt 2011: 191)。
                   http://bit.ly/2lm3dKH
  ───────────────────────────

孫子の兵法.jpg
孫子の兵法
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2017年02月24日

●「軍事作戦上における距離の重要性」(EJ第4467号)

 中国人民解放軍の「接近阻止/領域拒否」(A2/AD)戦略
の前提というべきものが「第1列島線」と「第2列島線」です。
この定義は、米国防省と中国でその解釈は異なるのです。
─────────────────────────────
 ≪米国防省定義≫
 ・第1列島線
  九州南部から南西諸島、台湾、フィリピン、大スンダ列島
  を結ぶ線である。
 ・第2列島線
  伊豆諸島、小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニュー
  ギニアに至る線である。
 ≪中国の定義≫
 ・第1列島線
  カムチャッカ半島、千島列島、日本列島、南西諸島、台湾
  フィリピン、大スンダ列島を結ぶ線である。
 ・第2列島線
  カムチャッカ半島、千島列島、日本列島の一部、伊豆諸島
  小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニューギニアに至
  る線である
                     ──渡部悦和著
   『米中戦争そのとき日本は』/講談社現代新書2400
─────────────────────────────
 ハーバード大学アジアセンター・シニアフェローの渡部悦和氏
は、日本としては2つの定義では、日本列島が含まれていること
から、「中国の定義」をベースにものごとを考えるべきであると
主張します。中国の定義による第1列島線/第2列島線は、添付
ファイルを参照してください。
 中国は第1列島線内を「近海」、第1列島線外を「遠海」と呼
んでいます。当初中国は「近海防御戦略」を策定していたのです
が、1985年に劉華清海軍司令はそれを見直し、空母3隻体制
の導入により、中国本土から離れた場所で敵を迎撃する「積極防
御戦略」を採用することになります。
 この「積極防衛」という言葉は、あまりにも一方的に中国サイ
ドに立ったものの見方です。南シナ海のある国々を自国領化する
ことは、中国にとって米国をはじめとする強大国から自国を守る
「積極的防衛」であっても、その国には「侵略」なのです。国際
法を無視して南シナ海の人工島を埋め立て、軍事基地化すること
も中国にとっては「積極的防衛」の一環であるというのです。
 戦略・国際研究センターのシニアアドバイザーであるボニー・
グレーザー氏は、中国について次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国は他国の身になって考えないから、中国という国とその行
動を他国がどう見ているかを理解しない。これこそ、中国が抱え
ている問題だと思う。私が中国をよく自閉症国家と呼ぶのはその
ためだ。自分の行動が近隣諸国をどれほど恐がらせているか、中
国には理解できないように思われる。
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 軍事において「距離の過酷さ」という言葉があります。元来こ
の言葉は、オーストラリアの歴史家、ジェフリー・ブレイニー氏
の著書に出てくるのです。
─────────────────────────────
            ジェフリー・ブレイニー著
    『距離の暴虐』/The Tyranny of Distance
─────────────────────────────
 この本は、現在のオーストラリアはどのようにして形成された
かについて書かれているのですが、オーストラリアの歴史や独自
性は、欧州からの地理的な遠さと密接に関係があるということを
主張しています。それを米海軍大学のジェームズ・ホームズ教授
が軍事作戦上の「距離の過酷さ」と表現して使ったのです。
 確かにそれはいえることです。ハワイから台湾までは8270
キロメートル、南沙諸島までは9190キロメートルあります。
しかし、グアムの米軍基地から台湾までは2740キロメートル
南沙諸島までは3080キロメートルであり、B−1、B−2爆
撃機での攻撃が可能になります。まして、在日米軍基地やフィリ
ピンの米軍基地は対中国の米軍の前方展開基地であり、これは中
国にとって大きな脅威になります。
 既出の渡部悦和氏は、軍事上の「脅威」を自著で次の式であら
わしています。
─────────────────────────────
      「脅威」=「能力」×「意思」÷距離
          ──渡部悦和著の前掲書より
─────────────────────────────
 ここで「能力」とは他国を侵略できる能力であり、「意思」は
他国を侵略する意思のことです。現在の中国は、そのどちらも有
していると考えられます。多くの軍事の専門家は、その積を「脅
威」としています。確かに日本は、中国の脅威をモロに受けてい
るといえます。
 しかし、渡部悦和氏は対象国の間の距離を変数として挿入すべ
きであると主張しています。この場合、「能力」と「意思」が同
じ場合、中国から受ける「脅威」は、中国に隣接する日本と、中
国からはるかに距離的に遠い米国では異なるのです。距離が近く
なればなるほど脅威は高くなり、距離が遠くなればなるほど「脅
威」は低くなるのです。
 冷戦時に米軍は、距離を克服するため、前方展開戦略をとって
きたのです。欧州には主として西ドイツに、アジアでは日本と韓
国に前方展開のための基地を確保してきたのですが、冷戦終了後
は一部の基地は維持しているものの、全体としては米国は軍を大
きく引いています。    ──[米中戦争の可能性/037]

≪画像および関連情報≫
 ●東シナ海で日本版「A2AD」戦略、中国進出封じ込め
  ───────────────────────────
  [東京:2015年12月18日/ロイター]──中国が南
  シナ海の支配を強める中、南西方面に軸足を移す日本の防衛
  政策が、地域の軍事バランスにとって、重要性を増しつつあ
  る。中国本土から西太平洋への出口をふさぐように連なる南
  西諸島を軍事拠点化し、東シナ海に壁を築く日本の戦略は、
  中国軍の膨張を食い止めたい米国の思惑とも合致する。
   南西諸島に監視部隊やミサイルを置いて抑止力を高め、有
  事には戦闘機や潜水艦などと連携しながら相手の動きを封じ
  込める戦略を、日本政府は「海上優勢」、「航空優勢」と表
  現している。しかし、安全保障政策に携わる関係者は、米軍
  の活動を制限しようとする中国の軍事戦略「接近阻止・領域
  拒否(A2/AD)」の日本版だと説明する。
           ──関連コラム/http://bit.ly/2lrzhP1
                   http://bit.ly/2m9KHbD
  ───────────────────────────
 ●図出典/渡部悦和著の前掲書より

第1列島線/第2列島線.jpg
第1列島線/第2列島線
 
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2017年02月27日

●「軍事基地の脆弱性を克服する戦略」(EJ第4468号)

 中国の「接近阻止/領域拒否」(A2/AD)戦略に対して、
いわゆる「距離の過酷さ」の有力な解決手段であるアジアの米軍
基地の脆弱性について、ピーター・ナヴァロ氏は次の問題を読者
に出題しています。
─────────────────────────────
【問題】中国の攻撃に対して、アジアのアメリカ軍基地及び空母
戦闘群はどの程度脆弱かを選べ。
  「1」まったく脆弱ではない
  「2」幾分脆弱
  「3」きわめて脆弱
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この問題に対するピーター・ナヴァロ氏の正解は「3」の「き
わめて脆弱」なのです。
 現在のところ、第2列島線上のグアムの米軍基地は、中国の通
常型精密攻撃システムの射程外にあります。しかし、中国はグア
ムも射程に収める新兵器の開発に余念がない状況であり、やがて
グアムもその射程に入る可能性は十分あります。
 現在、アジアにおける米国の主要な軍事基地というと、日本と
韓国に次の基地があります。日本本土の佐世保および横須賀海軍
基地、横田空軍基地、沖縄の嘉手納空軍基地とトリイステーショ
ン陸軍基地があります。それに、韓国の烏山(オサン)空軍基地
と大邸(テグ)陸軍基地です。
 中国には、「空母キラー」と呼ばれる弾道ミサイルDF21D
や極超音速滑空飛翔体WU−14ミサイルがあると紹介しました
が、その命中精度などは、あくまで中国の一方的な発表であり、
真偽のほどは不明です。
 実際問題として、移動する目的物に命中させるのは極めて困難
なことであり、まだ成功していないのです。かつて米軍は極めて
命中精度の高い「パーシングU」という弾道ミサイルを保有して
いましたが、そのミサイルでも平均誤差が30メートルもあった
のです。中国のミサイルの精度が、現時点でそれを超えているこ
とはあり得ないのです。ピーター・ナヴァロ氏の予測は、そうい
う実態を知りながらも、いずれ完成する可能性はあるという観点
に立って事態を現実よりも深刻に捉えているようです。
 ちなみに、この米軍の「パーシングU」ミサイルは、1987
年の米ソ間の「中距離核戦力全廃条約」の取り決めですべて解体
され、現在では、一応条約の取り決め上、作れなくなっているの
です。米ソ冷戦の終結によって、米国はもはや核戦争の恐れなし
と考えたのでしょう。しかし、それは甘かったようです。
 これに対して軍事基地というのは、固定されていて移動しない
ターゲットです。したがって、中国のミサイルによって、繰り返
し攻撃されると大きなダメージを受けます。中国のミサイルは、
その命中精度よりも、繰り返し攻撃の方が、防御することが困難
になります。
 アメリカの海軍大学校のトシ・ヨシハラ教授は、軍事基地の脆
弱性について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 基地の多くはグーグルアースではっきり見ることができる。基
地は、上空から丸見えの、固定されたソフトターゲットだ。だか
ら、中国軍は座標を打ち込んでミサイルを一斉に発射すれば、ア
メリカ軍の弾薬庫や燃料タンクやその他の兵站支援施設を一気に
破壊することができる。そうなれば当然、第1列島線上のアメリ
カ軍の作戦継続能カは著しく弱体化する。
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 これら米軍事基地の脆弱性に対して、米国はどのように対応す
るべきでしょうか。現時点で意見が一致しているのは、次の3つ
の対策です。
─────────────────────────────
       1.既存軍事基地を強化する戦略
       2.軍事基地の提供国内の分散化
       3.非対称武器による軍備再編化
─────────────────────────────
 第1は「既存軍事基地を強化する戦略」です。
 米軍基地は、軍事資産──燃料タンクや兵器などを野ざらしに
しておく傾向があります。これではミサイルの攻撃を受けると兵
站のすべてを失う恐れがあります。なぜ、そんなに無防備かとい
うと、米軍はこれまで圧倒的に強力なので、他国から徹底的に基
地に攻め込まれた経験がないからです。
 そこで、基地の燃料タンクや兵器庫を地下の深部に置き、膨大
な量のコンクリートと鉄筋で基地を固め、要塞化することです。
ミサイルの一撃を食っても大丈夫なようにガードするのです。
 第2は「軍事基地の提供国内の分散化」です。
 米軍の駐留を受け入れている国、例えば日本国内で基地を分散
化することです。そうすれば、中国はマトが絞れなくなり、攻撃
しにくくなります。日本はまだ対中戦争の危機を肌で感じていな
いので、当初は反対するでしょうが、危機を認識すれば、絶対に
できない問題ではないと思います。そうすれば、沖縄の負担の軽
減にもつながるのです。
 第3は「非対称武器による軍備再編化」です。
 中国からのミサイルの標的にならないように、これまでの空母
戦闘群の主力艦重視を改め、非対象戦争を中国に仕掛けるために
空母艦隊を縮小し、機雷や攻撃型潜水艦を中心とする軍備再編戦
略を展開します。そして中国の最も嫌がる海上のチョークポイン
トがすぐに封鎖できる体制を作るのです。この場合、とくに攻撃
型潜水艦が重要になります。といっても空母戦闘群が不要になる
ということではなく、今までとは違う役割をさせるのです。
             ──[米中戦争の可能性/038]

≪画像および関連情報≫
 ●米海軍が主張/空母の重要性は不変
  ───────────────────────────
   米海軍の空母や空母航空戦力は、精密誘導兵器の発達によ
  り、今後ますます脆弱になると指摘され、さらに、次期空母
  フォード級の価格が従来の2倍(約1兆6千億円)に跳ね上
  がっていることから、米議会や専門家等から将来性について
  疑問や批判を受けています。
   具体的に米議会は、米海軍に対し「空母の価格低減策」や
  「空母の代替」の検討を命じ、米海軍は1年を掛け「嫌々な
  がら」検討を進めていますす。
   そんな中、2015年8月11日、米海軍の航空戦力軍司
  令官であるマイク・シューメイカー海軍中将が、空母及び搭
  載航空機が提供する戦力は、現在も将来も柔軟性のある戦力
  オプションとして、重要であり続けるとの文書を発表しまし
  た。また翌12日には、CSISと米海軍協会が主催の「海
  軍航空戦力」のパネル討論会に登場し、上記文書の主張を発
  信しています。
   11日付シューメイカー海軍中将の文書によれば、今日、
  米国の安全保障環境は、今まで以上に、空母戦闘群を求めて
  いる。空母戦闘群は、多様な脅威や自然災害にまで迅速に対
  応し、国家指導者にオプションやプレゼンスやアクセスを提
  供している。           http://bit.ly/2lC9GBb
  ───────────────────────────

ニミッツ級米航空母艦.jpg
ニミッツ級米航空母艦
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2017年02月28日

●「潜水艦の隠密性に欠陥を持つ中国」(EJ第4469号)

 「強化」「分散」「再編」の3戦略は、日本と米国が中国に対
して「戦わずして勝つ」戦略であるといえます。このうち、「分
散」に関して、アメリカ海軍大学校のトシ・ヨシハラ教授は次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 基地や艦船といった高価値資産を日本列島全体に再配置すれば
中国にとってはターゲットを絞り込むことが遥かに困難になるだ
ろう。たとえば、およそ1000キロにわたって伸びている琉球
諸島には、アメリカやその同盟諸国の空軍及び海軍が使用するこ
とのできる港湾施設や飛行場が数多く存在する。琉球諸島の南西
の島々にまで軍を分散して配置することができれば、中国にとっ
てターゲットを絞り込むことは非常に困難になるだろう。
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 このトシ・ヨシハラ教授は、中国の海洋戦略を分析した『太平
洋の赤い星』の自著で有名です。この本は、米海軍のトップであ
る米海軍作戦部長が認定した指定図書の一つにもなっています。
ヨシハラ教授は米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院で博士
号を取得したアジア太平洋地域の安全保障問題の専門家です。
 しかし、この基地分散化戦略の実現は、容易なことで実現はし
ないと思います。基地受け入れ国の日本では、それこそ草の根レ
ベルの反対に遭うことが確実です。しかし、自衛以外の戦争を放
棄した日本の場合、そうでもしいない限り、中国の侵略を許して
しまうことになります。
 多くの日本人は「中国が日本に攻めてくるはずがない」と考え
ています。しかし、中国の「A2/AD」戦略で、米国がアジア
から撤退するようなことになれば、日本の安全保障は風前の灯に
なってしまいます。そうなれば、中国は尖閣諸島だけでなく、沖
縄へも攻勢をかけてくることは確実です。中国はその目標を20
30年に置いています。そうなる前に日本人は、もっと国の安全
保障について敏感になる必要があります。
 「再編」、すなわち「軍備再編」戦略の中核となるのは潜水艦
戦力です。その中国の潜水艦について中国関連の記事を日本語で
報道する2016年5月17日付の「レコード・チャイナ」にお
いて、環境時報が「2030年、中国の潜水艦保有数は米国の倍
になるが、一方で大きな問題も存在を抱えている」と前置きして
次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国の潜水艦に関して、米戦略国際問題研究所(CSIS)は
「中国の094型原子力潜水艦はソナーから逃れることはできな
い。ロシアが1970年代に造った667BDR型戦略原潜(デ
ルタ型原子力潜水艦)を上回る騒音があるためすぐに見つかる」
と問題を指摘し、南シナ海北部の海南島にある潜水艦基地が手薄
で、米国とその同盟国にとって攻略は難しくないと述べた。米国
の専門家は中国の潜水艦部隊の弱点を指摘したうえで、中国がこ
うした弱点を克服するために基地建設や兵力増強を行っていると
語った。(翻訳・編集/内山)      http://bit.ly/1U4uyJA
─────────────────────────────
 潜水艦戦力は数ではないのです。潜水艦の生命線はその「隠密
性」にありますが、それが日米海軍に対して著しく劣っており、
潜航地点が容易に捕捉されてしまうのです。上記の報道は、中国
海軍の本音であるといえます。
 何しろ通常動力型潜水艦か、原子力潜水艦かまで正確に判別さ
れてしまうので、中国は日米の探知方法を探るために、数年前に
総参謀部から多数のスパイを派遣したのですが、ことごとく失敗
に終わっています。
 日本は原子力潜水艦を持っていません。しかし、日本の「そう
りゅう」型潜水艦は、原子力潜水艦を上回っており、バッテリー
なので、まったく音がしないのです。その性能は世界一であり、
日本の海上自衛隊は質的には米国に次いで世界2位の海軍といわ
れています。したがって、日米が非対称兵器でアジアの海を守っ
たら、それこそ鉄壁の守りになるのです。空母でも戦艦でも「音
のしない潜水艦」には勝てないのです。
 日本はその「そうりゅう」型潜水艦の技術をオーストラリアに
輸出しようとしたことがあります。しかし、フランスが割り込ん
できて、この話はなくなったのです。フランスは原子力潜水艦を
バッテリー型に改造しようとしたのですが、うまくいかず、日本
にアドバイスを求めてくる始末です。
 オーストラリアへの輸出の失敗に海上自衛隊の幹部はホッとし
たそうです。オーストラリアに技術を輸出すれば、確実に技術は
中国に渡ってしまうからです。
 この「そうりゅう」型潜水艦について、元公安調査庁調査第2
部長の菅沼光弘氏は、自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国の原子力潜水艦もそうですが、原子炉から必然的に泡が出
るものだから、この抱の音を消すことができない。これはしよう
がないのです。原子力でエンジンを動かすわけで、原子力発電と
いうのは、今度の原発事故以来の報道でもよく知られるようにな
りましたが、いったん動かしたらすぐには止められない。という
ことは中国の原潜は常に泡を海中に出しているということです。
だから、ソナーで見つけられやすいのです。原子力潜水艦にはそ
ういう欠点がある。「そうりゆう」は、バッテリーだから、まっ
たく音がしない。潜水艦というのは秘匿性が最大の武器です。ど
こにいるかわからないというのが武器で、どこにいるかわかった
のでは、開戦と同時にバーンとやられて終わりです。
 ──菅沼光弘著『アメノカが今も恐れる軍事大国ニッポン/緊
         迫する核ミサイル防衛の真実』/成甲書房刊
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/039]

≪画像および関連情報≫
 ●中国潜水艦の隠密性悪く「最新鋭艦」も鉄くず/勝又壽良氏
  ───────────────────────────
   「張り子の虎」という言葉がある。見かけ倒しで、実際に
  は強くも偉くもないものの喩えだ。中国海軍の誇る最新鋭潜
  水艦が、生命線である「隠密性」で著しく劣っており、日米
  海軍に簡単に潜行地点を補足される、というのだ。この問題
  は、4月20日のブログでも取り上げたがその後、中国海軍
  当局がそれを認める発言をしていることが確認できた。
   改めて、基礎技術の未熟な中国の軍拡がいかに無謀である
  か、財源の無駄遣いであるかを論じたい。強がりを止めて周
  辺国と協調したほうが、どれだけ中国国民の福祉向上になる
  のか。それを真面目に考えるべきである。このまま、中国は
  「軍拡路線」を続けて、保守派と人民解放軍が結託した「産
  軍複合体」だけが潤っても、国民は疲弊するだけなのだ。
   中国海軍当局者の「悩める声」を先ず紹介したい。『大紀
  元』(5月17日付け)は次のように伝えている。近年、海
  軍力の増強に取り組んできた中国は深い悩みがあるようだ。
  中国海軍は現在、約200隻の近代的潜水艦を有し、原子力
  空母の建設も予定している。しかし、中国人民解放軍総参謀
  部の情報筋によると、潜水艦の命である隠密性の低さに軍幹
  部は悩まされているという。同情報筋が『大紀元』に伝えた
  ことによると、軍上層部は潜水艦が内海を離れると、すぐに
  日米の対潜センサーに捕捉されてしまうため、公海に進入で
  きないことに頭を抱えているという。
                  http://amba.to/2lPnEBL
  ───────────────────────────

日本が誇る「そうりゅう」型潜水艦.jpg
日本が誇る「そうりゅう」型潜水艦
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2017年03月01日

●「究極の非対称兵器である『機雷』」(EJ第4470号)

 中国の潜水艦には、ハードウェアの隠密性の問題だけでなく、
敵の潜水艦と戦う、いわゆる潜水艦戦がほとんどできないという
致命的な能力不足があります。そもそも中国海軍は、潜水艦戦を
戦った経験がないのです。
 これに対して米海軍は、第一次世界大戦(1914〜18年)
の途中からドイツ海軍と戦ってきた経験を持っています。その後
の第二次世界大戦では、米海軍は、高性能の潜水艦を持つドイツ
や日本と潜水艦戦で死闘を繰り広げてきているのです。そういう
実戦の経験を持つ日米と、潜水艦戦経験ゼロの中国との戦いは、
初めから勝敗がみえています。
 日本の海自と米海軍が合同で戦略を立てれば、総合技術力と経
験で劣る中国海軍はとうてい敵うはずがないのです。そうした現
実を無視して、中国が、第1列島線とか第2列島線など、太平洋
を勝手に自国領海に繰り入れるがごとき戦略は自殺行為でありま
す。こうした中国海軍の対潜水艦戦の現状について、既出のハー
バード大学アジアセンター・シニアフェローの渡部悦和氏は、自
著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国海軍の潜水艦の能力は逐次向上しているが、敵の潜水艦を
攻撃する能力──いわゆる対潜水艦戦(ASW)能力に関しては
著しく低く、これは海上自衛隊や米海軍の潜水艦が東シナ海や南
シナ海で比較的自由に活動できる大きな要因となっている。
 海上自衛隊の場合は、優秀な対潜哨戒能力を有するP−3Cや
P1を80機保有し、さらに対潜哨戒ヘリであるSH−60Kも
保有する世界一流の対潜哨戒能力を誇る。
 これに対して中国海軍は、P−3Cと似た大型の哨戒機をわず
か4機持っているのみで、エンジン性能は低く、航続距離も短く
対潜哨戒ヘリとしての能力は低い。また、中国の水上艦艇で可変
深度ソナー(VDS)や戦術曳航式ソナーを装備している艦艇は
少なく、水上艦艇のAWS能力も低いと言わざるを得ない。
                      ──渡部悦和著
    『米中戦争そのとき日本は』/講談社現代新書2400
─────────────────────────────
 海戦用の究極の非対称兵器の代表ともいうべきものが「機雷」
です。何しろ兵器としては、安いもので一個20万円程度のコス
トで、相手に強い心理的インパクトを与え、大型の軍艦でも沈没
させることができるのですから、まさしく「非対称兵器」です。
 機雷は「機械水雷」を省略した言葉です。機雷とは、水中に設
置されて艦船が接近、または接触したとき、自動または遠隔操作
により爆発する水中兵器です。機雷に触れることを「触雷」、機
雷を設置した海域を「機雷源」といいます。
 米中戦争での機雷に関して、ピーター・ナヴァロ氏は次の問題
を読者に出しています。
─────────────────────────────
【問題】第二次大戦以後、アメリカの軍艦が沈没または深刻なダ
メージを被った事例のうち、機雷によるものの割合を選べ。

  「1」 0%
  「2」20%
  「3」40%
  「4」80%
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この問題の答えは「4」の「80%」です。軍艦が機雷によっ
て受けるダメージは想像以上に大きいのです。第二次大戦以後に
敵の攻撃によって沈没したか、深刻なダメージを受けた米国の軍
艦は19隻ですが、そのうちの15隻が機雷によるものであった
のです。まさに80%です。
 機雷は、単に船を沈めるだけでなく、その威力は敵の海軍の行
動を心理的に制限させる効果があるのです。ピーター・ナヴァロ
氏は、こうした機雷の効果を、次のような分かりやすい譬えで説
明しています。
─────────────────────────────
 自分が20平方キロメートルの広大な牧場を所有していると想
像してみよう。その上で、その広大な土地のどこかに、両足を吹
き飛ばす威力を持った地雷が一個だけ埋まっていると想像してみ
てほしい。牧場をハイキングする気になるだろうか。そして、干
し草の山の中に隠れている一本の針のような地雷を探し当てて除
去し、再び自由に行動できるようにするまでにどれだけの時間と
費用がかかることだろうか。
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 米軍はベトナム戦争において、ハイフォン港において、加害者
としての機雷作戦を成功させています。1972年5月8日、空
母コーラルシーから出撃した戦闘機は、北ベトナムの最も重要な
港に機雷を投下したのです。その機雷の総数は、1万1000個
以上に及んだのです。
 この機雷投入によって、北ベトナム周辺の海上交通路は完全に
麻痺し、結果として北ベトナムが輸入する物資の80%を効果的
に遮断することに成功したのです。当時強大な米軍に対して優勢
に戦っていた北ベトナムも、この経済封鎖には閉口し、パリ平和
会議のテーブルに戻ったのです。
 第二次世界大戦で、日本が無条件降伏したのは、広島と長崎へ
の原爆投下といわれていますが、直接的原因は、米軍のB−29
が日本近海にばらまかいた1万2000個もの機雷であったとさ
れてます。海に囲まれた日本では、機雷がばらまかれると、海が
ぜんぜん使えなくなり、軍や兵器、食料の補給などがまったくで
きなくなる状況に陥ったからです。「機雷恐るべし」です。
             ──[米中戦争の可能性/040]

≪画像および関連情報≫
 ●海自の機雷整備方針は誤り?/希典のひとりごとのブログ
  ───────────────────────────
   海上自衛隊の機雷整備方針が間違っているなどとは考えて
  もみなかった。軍事ライターの文谷数重氏が「軍事研究」3
  月号に寄稿している「中国海軍を封じ込める海上自衛隊の機
  雷」と題した記事を読むまでは。文谷氏は、記事の冒頭で次
  のように書いている。
   「日本は機雷の準備に熱心である。生産は1956年に再
  開され、生産規模も65年ごろには年間500個ほどに達し
  た。質も時代につれて進展し、高性能化している。その整備
  は、最近では上昇・追尾機雷を指向している。これは深海底
  に敷設され、敵艦船を感知すると、上昇あるいは自走し敵艦
  船を攻撃するというものだ。ここ30年で開発された機雷は
  ほぼこのタイプである。
   だが、この上昇・追尾機雷だけの整備は正しい選択なのだ
  ろうか?本来、これらの機雷はニッチ向けとされるものだ。
  特殊用途には合致するが、汎用性はない。大深度での対潜用
  に特化しているが、逆に言えばそれ以外には向かない。それ
  に特化した機雷整備方針は誤りである。汎用品としての能力
  に欠けており、主力機雷に据えるものではない。この上昇・
  追尾機雷の重視は惰性に過ぎない。かつての冷戦期には好適
  な機雷であり、ソ連原潜やその太平洋進出を妨害する三海峡
  封鎖には向いていた。       http://bit.ly/2lHJeb7
  ───────────────────────────

各種機雷.jpg
各種機雷
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2017年03月02日

●「中国はなぜ海軍強化にこだわるか」(EJ第4471号)

 空母戦闘群の脆弱性が指摘されるなか、なぜ、中国は今も海軍
力強化に力を入れ、空母3隻体制にこだわるのでしょうか。
 その原因は1995年から96年の台湾海峡危機にあります。
きっかけは、1995年の夏に中国が最も台湾総統に就くことを
恐れていた李登輝氏が、母校の米コーネル大学で、台湾の民主化
について講演するという声明だったのです。次の年に台湾初めて
の総統直接選挙が行われることが決まっていたので、講演で李登
輝氏が「台湾独立支持」を表明するのではないかと中国は神経を
とがらせていたのです。
 当然中国は米国に対して李登輝氏の講演を取りやめるよう働き
かけたのですが、米国は聞き入れず、講演は行われたのです。こ
れに抗議して中国は、1995年7月に、台湾の北端から60キ
ロしか離れていない場所でミサイルの発射実験を行ったのです。
そのミサイル実験はそれから断続的に続き、11月になると、そ
れが「台湾侵攻演習」に規模を拡大したのです。
 事態を重視したクリントン米大統領は、12月に空母ニミッツ
を中心とする空母戦闘群を台湾海峡に送り込んだのです。空母を
中心とする米艦隊が台湾海峡をパトロールするのは1976年以
来のことです。これに驚いたのか、中国海軍はミサイルの発射を
いったん中止します。事態が収拾されたとみた米海軍は、空母ニ
ミッツをいったんペルシャ湾に引かせたのです。
 しかし、この時点で中国海軍は、海戦が何たるか、まったく理
解していなかったのです。むしろ「米艦隊何するものぞ」と、米
海軍への対抗意識をむき出しにしていたといいます。
 1996年3月に、台湾にとって初めての総統直接選挙が近づ
くと、中国は弾道ミサイルによる一連の威嚇射撃を皮切りに、台
湾近海で、大規模な「台湾侵攻演習」を再びはじめたのです。海
軍艦隊40隻、航空機260機、兵士15万人が参加するという
大規模な演習です。12月の演習では、ミサイルの着弾場所は海
上交通路を避けて行われていたのですが、今回は海上交通路に近
く、台湾海峡が事実上封鎖される事態になります。中国はもし台
湾が李登輝氏を選ぶのであれば、台湾を武力で侵攻するぞと威嚇
し、選挙を牽制しようとしたのです。
 この事態にクリントン大統領は重大な決断をします。あらかじ
め、太平洋上で待機させていた米空母インディペンデンスとペル
シャ湾に停泊していた空母ニミッツに高速で台湾に戻るよう命じ
不測の事態に備えたのです。
 このとき、中国人民解放軍は、はじめて2隻の空母による戦闘
群がどれほど強大であり、どれほど恐ろしいかを骨の髄まで思い
知ったのです。戦艦と戦闘機が、縦横無尽に海と空を動き回る空
母戦闘群に、人民解放軍は手も足も出なかったからです。また、
米国の台湾関係法の存在を中国が感じ取った瞬間でもあります。
台湾有事にはこのように米軍が出動することを知ったのです。
 この台湾海峡危機が、李登輝氏の台湾総統直接選挙の得票率を
相対多数から過半数の54%にまで押し上げ、李登輝氏が総統に
就任します。中国が最も避けたかったことが実現してしまったこ
とになります。中国は、この事態に直面し、次の4つのことを学
習したのです。
─────────────────────────────
 1.台湾は「島」であり、海軍の力が強大でないと、併合す
   ることは困難である。
 2.制海権と制空権の両方を掌握している軍隊には手も足も
   出せないということ。
 3.人民解放軍にも空母戦闘群が必要であり、戦闘機の近代
   化も急ぐ必要がある。
 4.台湾有事のさいには、米空母戦闘群が出動しないような
   体制を構築すること。
─────────────────────────────
 ピーター・ナヴァロ氏は、この台湾海峡危機についての問題を
読者に出しています。
─────────────────────────────
【問題】1995年〜96年の第三次台湾海峡危機によって、戦
略的重要性が浮き彫りにされたものを選べ。

  「1」制空権
  「2」制海権
  「3」1と2の両方
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この問題の正解が「3」であることは、上記の事情からわかる
と思います。台湾近海で人民解放軍が制海権と制空権を握るには
米軍と戦うのではなく、台湾有事のさい、米軍の接近を阻止する
ことが重要であると悟るのです。「A2/AD」戦略です。しか
し、米中戦争の引き金になりそうな複数の要因のうち、その筆頭
はやはり台湾です。既出のトシ・ヨシハラ教授は、中国にとって
台湾の重要性について次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国は台湾を、屈辱の100年間に奪われた領土の中でまだ取
り戻していない、最後の1ピースとみなしている。だから、中国
から見れば、台湾を取り戻して祖国に再び受け入れることは聖な
る責務なのだ。中国は過去数十年間、台湾をめぐって戦う用意が
あると繰り返し言明しているのだから、米中という大国の間で戦
争が起きる可能性がある。 ──米国海軍大トシ・ヨシハラ教授
         ────ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 しかし、今や台湾はヨシハラ教授のいうように、中国にとって
「聖なる責務」どころか中国の野望を達成するための重要拠点に
なっています。台湾は米国にも日本にも、絶対に中国領にしては
ならないのです。     ──[米中戦争の可能性/041]

≪画像および関連情報≫
 ●米中衝突の可能性継続/防衛研究所が「安全保障レポート」
  ───────────────────────────
   防衛省のシンクタンク、防衛研究所は2月24日、中国の
  中長期的な軍事動向を分析した年次報告書「中国安全保障レ
  ポート2017」を公表した。今年は「変容を続ける中台関
  係」がテーマで、中国にとって台湾は「統一すべき対象」の
  ままだと警鐘を鳴らし、台湾をめぐる米中衝突の可能性につ
  いても「冷戦期から継続している」と指摘。中国が台湾への
  武力侵攻能力を獲得するとみられる2020年に向け、蔡英
  文政権への圧力を高めていくと予測した。
   報告書では、中台関係について「経済・貿易・観光などの
  面で深化したものの、中国の台湾に対する軍事力強化をとど
  めることにはならなかった」と分析。中国の海洋進出を「非
  常に強硬」と言及し、「台湾が自衛に力を注がなくなると、
  中国の行動がさらに拡張的となる可能性もある」と指摘。台
  湾については有権者の大多数が中台関係の現状維持を望んで
  いるとして、蔡政権は「現状維持の固定化」に進むとの見解
  を示した。蔡政権が先住民族の権利を認めて謝罪したことは
  「中国大陸とは異なる歴史と社会の下で発展してきた台湾の
  存在を強調」して台湾と中国の歴史を切り離す可能性を秘め
  ており、中国の警戒感は高いとも指摘した。一方で、米国は
  中台関係を考える上で「欠かすことのできない存在」だと強
  調。報告書はトランプ政権の成立に触れていないが、防衛研
  究所関係者は「後ろ盾となる米国との関係は、台湾にとって
  決定的に重要だ」と話した。    http://bit.ly/2lXig0c
  ───────────────────────────

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李登輝元台湾総統
 
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2017年03月03日

●「中国軍の数に心配する必要はない」(EJ第4472号)

 今回のテーマを書くに当たって、中国人民解放軍のことを知る
ために関連する書籍を何冊も読んでいます。その結果、気づいた
ことがあります。それは、同じことを書いていても、本によって
ニュアンスが異なるというか、人民解放軍の威力や脅威の印象が
大きく異なるように感ずることです。
 トランプ政権の国家通商会議議長に就任予定であるピーター・
ナヴァロ氏の『米中もし戦わば/戦争の地政学』(文藝春秋)を
メインに読んでいますが、ナヴァロ氏は中国人民解放軍の戦力の
脅威を強調するために、その戦力をいささか過大に表現している
ところがあります。
 本書の第9章「地下の万里の長城」では、中国は、3000発
の核弾頭を地下に隠し持っていることが書かれていますが、これ
に対して京都大学教授の中西寛氏は、日本経済新聞の書評で次の
ように疑問を呈しています。
─────────────────────────────
 言うまでもなく中国の軍事力については、不明部分が多く、分
析に幅がある。その幅の中で本書は脅威を最大限に見積もる立場
に立つ。例えば、中国の核弾頭数について米政府の見解を紹介し
つつ、3000発を地下に貯蔵しているという説を大きく採り上
げているが、この説は大半のアナリストに否定されている。ある
いは第5世代戦闘機のJ−31型機を空母艦載機と推測している
が、性能が悪い輸出用とするする見解も強い。
                  ──中西寛京都大学教授
           2017年1月15日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 一方、ハーバード大学アジア・シニアフェロー、元陸上自衛隊
東部方面総監の渡部悦和氏の『米中戦争/そのとき日本は』(講
談社現代新書)では、あくまで客観的に事実をていねいに伝えて
います。例えば、中国空軍の保有する航空機について、次のよう
に書いています。
─────────────────────────────
 中国空軍は、作戦機2020機を保有しているが、その大部分
は第3世代機(J−7やJ−8など)以前の古い作戦機である。
しかし、今や、第4世代の戦闘機が主力になっており、現在第4
代世代機731機を保有している。(中略)
 第4世代機については、ロシアからSu−27(F−15に対
抗する優れた格闘性能や後続距離の長さを起こるロシアのベスト
セラー戦闘機)及びSu−30(Su−27を発展させた複座多
用途戦闘機)を購入する一方で、国産のJ−10をイスラエルに
協力してもらう形で開発・製造した。J−10は、2014年末
までに294機生産している。
 中国の第4世代機の主力であるJ−11は、Su−27をライ
センス生産したもので105機保有している。さらにJ−11B
を170機保有しているが、これはSu−27SKをロシアの許
可なくコピーし改善したものであり、J−11の改善型だ。
                      ──渡部悦和著
    『米中戦争そのとき日本は』/講談社現代新書2400
─────────────────────────────
 渡部悦和氏は、学者ですから当然ではありますが、事実に基づ
いて記述しています。しかし、結果として中国空軍の戦闘機の数
が強調されており、これを読む日本人は、中国空軍に脅威を感じ
てしまうと思います。しかし、渡部悦和氏の文章をていねいに読
むと、中国空軍の戦闘機はロシアから購入したもので、それをコ
ピーし、量産化したものであることがわかります。
 一方、兵頭二十八氏という軍学者がいます。陸上自衛隊東部方
面隊に任期制2等陸士で入隊し、北部方面隊第2師団第2戦車連
隊本部管理中隊に配属した経験を持つ著述家で、中国人民解放軍
について詳しく、それに関係するベストセラーがあります。
 要するに、空軍に関しては、ロシア空軍と米国空軍の戦いなの
です。少し古い話ですが、1982年にレバノン領内のシリア軍
を駆逐するため、ベカー高原で、イスラエル空軍とシリア空軍と
の大規模な空戦があったのです。
 この空戦は、米国製F−15戦闘機のイスラエル空軍と、ソ連
製戦闘機(ミグ21、23、スホイ22)のシリア空軍との戦い
だったのです。結果はどうだったかというと、40機のイスラエ
ル空軍機が、最初の数日間で一方的にシリア空軍機を80機以上
を撃破したのに対し、イスラエル空軍機の損失は、高射火器で落
とされた2機だけであったといいます。つまり、空戦では、全勝
だったのです。兵頭二十八氏は、この事実を指摘したうえで、次
のように述べています。
─────────────────────────────
 基本的にロシア製の兵器体系を採用し、しかもロシア軍のよう
に改良・改善を真剣に行っていない現代中共産軍(人民解放軍)
は、もし実戦上で西側軍と正面衝突することになれば、稀な僥倖
的戦果を除いて良いところなく破れる運命にある・・・というこ
とだ。なにしろ本家のロシア製ですら勝ち目が薄いのに、中共軍
が使っているのはその「劣化コピー版」なのだから。
                     ──兵頭二十八著
      『こんなに弱い中国人民解放軍』/講談社+α新書
─────────────────────────────
 兵頭氏は、そもそも米国の戦闘機とロシアの戦闘機には既に大
きな差があり、中国空軍が大量に保有しているのは、そのロシア
戦闘機の劣化コピーなのであって、米軍機にはまったく歯が立た
ない「張り子の虎である」といっているのです。
 中国空軍の戦闘機については、改めてEJでも取り上げますが
数を保有していても、それは必ずしも脅威ではないのです。この
ように、米中の戦力比較については、いろいろな本を読まないと
本当のことはわからないのです。以後はそういう観点に立って、
このテーマを追求していきます。
             ──[米中戦争の可能性/042]

≪画像および関連情報≫
 ●中国軍は張り子の虎/兵士も装備も二流/兵頭二十八氏
  ───────────────────────────
   とても興味深い本を読んでいる。軍事評論家の兵頭二十八
  氏の「こんなに弱い中国人民解放軍」という本である。通常
  日本人は私を含めて軍事技術を正確に理解することはほとん
  どない。だから最近の中国の軍事費の増額を見て「人民解放
  軍はとてつもなく強いのではなかろうか」との気持ちになっ
  てしまう。
   新聞などを見ていても経済に関する情報は満ち溢れている
  が、軍事技術を解説したような記事は湾岸戦争のような戦闘
  が起こらない限り目に触れることはない。だから中国の軍隊
  を正確に評価できないし、また、自衛隊の実力も評価できな
  い。「もしかしたら自衛隊は中国軍にかなわないのではなか
  ろうか・・・」漠然とした不安感がよぎる。
   私がかろうじて知っている中国人民解放軍の実態は、ポス
  トは実力でなくワイロで決まるということで、出世したけれ
  ば上司に付け届け(ワイロ)を送りその多寡で決まるというも
  のだ。だから人民解放軍は上位の地位になればなるほど軍事
  知識はなく、一方商行為的には有能(軍事費をちょろまかし
  て懐にいれ、それをワイロの原資にする)な人物が配されて
  いる。だから実際の戦闘が始まれば無能な上司が指揮をとる
  のでこれは非常に混乱することだけは確かだ。しかしそれで
  も近代的な航空機や艦船をそろえれば日本は苦戦するのでは
  なかろうかと思ってしまう。    http://bit.ly/2l3O3wK
  ───────────────────────────

F−15戦闘機.jpg
F−15戦闘機
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2017年03月06日

●「3分の1だが中国の軍事費は巨額」(EJ第4473号)

 トランプ大統領は、米国時間の2月28日夜、上下両院合同会
議で、「アメリカ精神の復活」と題する演説を行い、強いアメリ
カを再建するため、史上最大規模の国防支出増額を求めると次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 米国を安全に保つためには、戦争を防ぎ、また絶対に必要な場
合には戦い、勝利するための手段を米兵に提供しなくてはならな
い。米軍を再建し、国防費の強制削減措置を撤廃し、史上最大規
模の国防支出増額を求める予算を議会に送る。
                http://s.nikkei.com/2m6HicJ
─────────────────────────────
 オバマ前政権では、国防費は強制削減措置によって、削減の方
向であっただけに、市場最大規模の540億ドル(約6兆円)の
拡大は、日本にとっては心強いものがあります。
 また、演説では米国での雇用拡大協力企業のひとつとして日本
のソフトバンクの名前を出したほか、名前は出していないものの
日本への言及もあったのです。これはどう考えても日本のことで
あると思います。
─────────────────────────────
 もっとも緊密なある同盟国は数十年前、かの大戦で戦った相手
だった。こうした歴史はわれわれに、より良い世界を作り出せる
のだという可能性への信念を抱かせる。 ──トランプ米大統領
                http://s.nikkei.com/2m6HicJ
─────────────────────────────
 軍事の専門家の予測では、2030年までには米中戦争は十分
起こり得るとしており、米国がいま軍事費を削減させるのはリス
クがあります。この軍事費に関して、ピーター・ナヴァロ氏は読
者に次の問題を出しています。
─────────────────────────────
【問題】軍事費が多いほうを選べ。

  「1」中国
  「2」アメリカ
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この答えは「2」です。添付ファイルに主要国の軍事費のグラ
フを付けていますが、米国の国防予算は約6000億ドル、これ
に対して中国の軍事費は約2000億ドルで、米国の3分の1に
過ぎないのです。数字的には圧倒的な差です。
 トランプ政権のこの軍事費の拡大について、前嶋和弘上智大学
教授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 米国の国防予算の拡大は、トランプ氏が選挙の時から主張して
いた世界での米軍優位を保つ「強い米国」を実現する内容だ。従
来に比べて多く予算が国防に回ることで、軍事産業の雇用の拡大
にもつながる。トランプ氏は「米国第一」と雇用拡大につながる
強いメッセージを狙っている。(中略)
 米国の国防費が増加することで、東アジアの安全保障に貢献す
る面はある。一方で、ロシアや中国を刺激することになり、軍事
費の拡大につながる可能性もある。
         ──2017年3月1日付、日本経済新聞社
─────────────────────────────
 トランプ米大統領は、強いアメリカを取り戻すために、既に中
国の3倍以上になっている軍事費を、さらに540億ドル(約6
兆円)も増やすというのです。それは増やし過ぎではないかとい
う反対意見もあります。
 しかし、ピーター・ナヴァロ氏は、トランプ大統領の考え方は
間違っていないとして、次の2つのことを指摘しています。
─────────────────────────────
 1.米軍が世界規模で戦力投射しなければならないのに対し
   中国軍はアジア地域での戦力投射に絞っている。
 2.中国における軍事費1ドルは、米国における軍事費1ド
   ルよりも、はるかに多くの価値を生み出すこと。
          ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 そもそも軍事費の総額比較は意味がないのです。兵器について
考えると、米国の納税者は、空母10隻の費用を負担しなければ
なりませんが、アジア地域のパトロールに派遣されている空母は
そのうちの2隻に過ぎないのです。
 これに対して中国は、空母3隻を製造中であり、それを主とし
てアジア太平洋地域での戦力の強化のために運用しようと考えて
います。この場合、質の戦力差を無視すれば、アジア地域に関し
ては、中国軍が米軍を圧倒することになります。
 米国の1ドルと中国の1ドルの差ですが、まず、中国軍兵士の
人件費は、米軍兵士のそれよりはるかに安い。それに加えて、兵
器の製造コストも中国の方がはるかに安いのです。ナヴァロ氏は
それは単に労働力が安価だからという理由だけでなく、次のよう
な不愉快な事情もあるとしています。
─────────────────────────────
 中国は、軍事研究や新兵器システム開発にほとんど費用をかけ
る必要がないのである。その重要な理由の一つは、最新兵器の設
計をペンタゴンや民間防衛企業から盗み出す中国人ハッカーのス
キルの高さである。もう一つの理由としては、中国が外国から購
入したテクノロジーの多くを、不法にリバースエンジニアリング
(製品を分解したり動作を観察することによって技術を模倣する
こと)していることが上げられる。
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/043]

≪画像および関連情報≫
 ●増え続ける中国の軍事費/児玉克哉氏
  ───────────────────────────
   中国の全国人民代表大会で発表された2016年の「国防
  予算」(軍事予算)は、前年実績比7・6%増の9543億
  元(約16・2兆円)で、過去最高を更新したことが報道さ
  れています。伸び率はやや低くなり、1桁といっても、まだ
  7.6%の伸びです。絶対額の比較としては、日本の防衛関
  係費(16年度防衛予算案)の約3・2倍に達し、世界でも
  有数の軍事大国になっています。
   日本の軍事力が、中国よりも明らかに優れていた時代は終
  わっています。今では、質、量ともに、日本を軍事力では、
  優っているといえます。兵器の質や隊員の質などでは、微妙
  なところがあるにしても、やはりここまで中国が軍事費を注
  ぎ込むと、中国の軍事力の優位はあります。
   ただ、ここで考えなければならないことは、軍事力だけが
  国力ではないということです。経済力や国際社会における地
  位なども総合的に考えなければなりません。経済力において
  も、中国は高度成長を遂げ、GDPの世界2位となり、日本
  を抜いています。その経済力を持っての軍事力強化の側面が
  ありました。では軍事力強化は経済発展にプラスなのでしょ
  うか。この議論はかなりクラシックなもので、長年、延々と
  されてきたものです。軍事費を高めると確かに軍需産業は育
  ちますし、明らかに潤う分野があります。戦後はむしろ軍事
  費は経済発展にプラスというイメージが先行し、軍事費を抑
  えても経済成長は可能か、という議論があったくらいです。
                   http://bit.ly/2m7zs2F
  ───────────────────────────

主要国の軍事費/2014〜2015.jpg
主要国の軍事費/2014〜2015
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2017年03月07日

●「エンジンが作れない中国の製造業」(EJ第4474号)

 米国と中国の軍事費を比較するさい、中国がコスト面で大きく
有利になる理由について、ピーター・ナヴァロ氏は、「そこには
不愉快な事情が存在する」と明かしています。今回は、これにつ
いて、さらに詳しく掘り下げます。
 ピーター・ナヴァロ氏のいいたいことは、中国は戦闘機などの
軍事技術を自らの技術革新によって開発するのではなく、彼らの
有する高度な2つの能力によって外国から盗み出しているという
のです。高度な2つの能力とは次の2つです。
─────────────────────────────
      1.   高度なハッキングの技術
      2.リバースエンジニアリング技術
─────────────────────────────
 「1」は、セキュリティの厳重な米国防総省や複数の米防衛企
業のサーバーから、戦闘機などの軍事技術の秘密データを盗み出
す技術のことです。要するに軍事情報を盗むサイバー戦争です。
 「2」のリバースエンジニアリング技術は、そのようにして入
手した情報から、実際の軍事兵器を再現させるテクニックのこと
をいいます。技術をコピーしてミサイルや戦闘機を作るのです。
 これについて、ピーター・ナヴァロ氏は、戦闘機や戦闘管理シ
ステムなどに関連して、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国は、サイバースパイ行為と伝統的なスパイ行為、それに外
国製兵器のリバースエンジニアリングを巧みに組み合わせて、外
国の軍事技術を盗み出している。(中略)
 サイバースパイ行為の結果、中国はアメリカの第五世代戦闘機
と同等の戦闘機を出動させることができるようになった。第五世
代戦闘機は、アジアの航空支配の要である。同時に、中国はアメ
リカから盗み出した設計図を元に大量のドローンを製造し、ビル
・ガーツが「アメリカ海軍の心臓部」と呼んでいるイージス戦闘
管理システムをも、サイバー戦士に盗み出させた。
 また中国は、冷戦時代スタイルの従来型のスパイ行為によって
弾道ミサイルや巡航ミサイルの技術を盗み出した。その技術を使
って大量に生産されたミサイルは、今ではアメリカの艦船や前進
基地や諸都市に向けられている。特に憂慮すべき事実は、ロシア
との軍縮条約に縛られているアメリカのミサイル保有数と比較し
て、中国のそれのほうが遥かに多いことである。
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 ナヴァロ氏のいう中国人の2つの優れた能力のうち、「1」の
「高度なハッキングの技術」については、確かに認められると思
います。実際問題として、米国は、中国のハッキングによって、
重要情報を盗み出されています。中国ではハッキングは違法では
なく、ハッキングは、愛国教育とインターネットで育った若い世
代にとって魅力的な出世コースになっています。これについては
非常に重要であり、改めて取り上げます。
 しかし、「2」の「リバースエンジニアリング技術」について
は、本当に優れているのかについては疑問があります。世界の工
場といわれている中国の製造業の実力については、ナヴァロ氏の
いうほど技術の高いものではないのです。
 日本最大の中国情報サイト「レコード・チャイナ」に次のよう
な記事が出ています。
─────────────────────────────
 2016年3月4日、中国のポータルサイト・今日頭条が、中
国メーカーが製造する自動車のエンジンは、ほとんどが日本メー
カーであることを指摘する記事を掲載した。
 記事によれば、多くの中国メーカーの自動車が三菱からエンジ
ンの供給を受けていると紹介。三菱自動車は、中国に瀋陽航天三
菱とハルピン東安三菱の2社の合弁会社があり、中国でエンジン
を製造していると伝えた。
 その上で、中国の自動車メーカーの多くが三菱エンジンを採用
する理由について、「中国ブランドには成熟したエンジン製造技
術がない」ことと、「三菱エンジンは安定していて燃費が良く、
メンテナンスが容易であり、中国で生産しているためコストも安
かった」ことを挙げた。
 これに対して中国のネットユーザーからさまざまなコメントが
寄せられた。「中国車でさえ心臓部は日本なのに、日本製品不買
なんて言えるか?」「ボールペンのボールすら作れないんだから
エンジンは言うまでもない」。     http://bit.ly/2lfz2bf
─────────────────────────────
 中国は回るもの、モーターが作れないといわれます。中国の製
造業のほとんどが国営企業であり、とくに、精密さが要求される
モーターとかエンジンなどは作れないでいるのです。
 これについて、中国の李克強首相は、中国製造業の問題点を正
直に認め、次のようにこ述べています。
─────────────────────────────
 2016年1月4日に山西省太原市で開催された鉄鋼石炭業界
における生産能力過剰問題の座談会に出席した中国の李克強首相
は、国内鉄鋼業界が深刻な生産能力過剰に陥っている一方で、高
品質の鋼材の生産ができなく輸入に頼る現状を指摘した。李首相
は「われわれはボールペンのボールを含めて、ダイス鋼を生産す
る能力すらなく、輸入に頼っている。これらの構造的問題を調整
する必要がある」と述べた。      http://bit.ly/2mh0gOj
─────────────────────────────
 李克強首相は、中国のことについて、意外に本音を漏らす人と
して知られますが、その人が「中国はボールペンのボールすら生
産できない」といっているのです。そういう中国において、ピー
ター・ナヴァロ氏のいうように、高度なリバースエンジニアリン
グ技術があるとはとうてい思えないのです。
             ──[米中戦争の可能性/044]

≪画像および関連情報≫
 ●「かたち」だけ日本に追いつけ、追い越せ
  ───────────────────────────
   中国新幹線事故の大惨事は早くから予測されていた。手抜
  き工事、汚職、速度だけにこだわり、運営管理がずさん。お
  そらく遠因のひとつは中国人がチームワークを取れないこと
  に起因するのではないか。諺に言う。「中国人はひとり一人
  は優秀だが、三人寄れば豚になる」。日本人は「三人寄れば
  文殊の知恵」だが・・・。
   新幹線は高度の信号システムと管制が必要、しかし中国が
  拙速に開通させた高速鉄道は外国からのハイテクの寄せ集め
  つまり使いこなせないのである。局所的には優秀なエンジニ
  アがいても全体の整合性がないのである。
   中国の輸出力が世界一なのは労働の安価で成立しているの
  であり、高性能の技術を期待して、世界の消費者が中国製を
  買っているのではない。そもそも中国人はあれだけの電化製
  品を生産しながら、なぜ秋葉原へ日本製品を買い物に来るの
  か?軍事も外交も経済と同様に背伸びしすぎているが、通貨
  =人民元の躍進にしてもいつまで続くだろうか? げんに共
  産党幹部はなべて子弟を欧米日に留学させ、賄賂のカネをせ
  っせと海外へ運び、人民元を信用せずに金(ゴールド)をた
  め込んでいるではないか。新幹線事故が近未来の頓挫と経済
  的挫折を暗示しており、中国の今後を予測すると明るいこと
  が皆無に近いことに愕然となる。  http://bit.ly/2lWrqJu
  ───────────────────────────

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ピーター・ナヴァロ氏
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2017年03月08日

●「成都J−20はF22に勝てるか」(EJ第4475号)

 サチェル・ペイジという人を知っていますか。野球の歴史上最
高の投手の名前です。サチェル・ペイジは1930年にメジャー
リーグ選抜との交流戦で、22奪三振完封記録を持っている黒人
投手のことです。
 ピーター・ナヴァロ氏は、米国と中国の軍事力について語ると
き、サチェル・ペイジの次の名言を思い出すといっています。
─────────────────────────────
 後ろを振り返るな。誰かが追いついてきているかもしれない
                  ──サチェル・ペイジ
─────────────────────────────
 マラソンなどで、大きく差をつけていると信じてトップを走っ
てきたが、もし振り返ると競争相手がすぐ自分の後ろにいたとい
う“恐怖”を現在の米国防当局がいつも感じているということを
ピーター・ナヴァロ氏はいいたいのでしょう。いわゆる“中国の
脅威”です。
 「量の中国/質の米国」という言葉がよく使われますが、ピー
ター・ナヴァロ氏は、これに関して次の問題を提示しています。
─────────────────────────────
【問題】次の記述のうち、中国とアメリカの軍事バランス及び、
通常戦争が起きた場合に予想される勝敗を最も的確に表現してい
るものを選べ。
 「1」技術的に優るアメリカ軍が中国軍をしのいでいる。よっ
    て、戦争になれば今ならアメリカが勝つ。
 「2」中国は、急速にアメリカとの技術的な差を縮めている。
    よって、長期的には勝敗の予想は次第に困難になる。
 「3」中国の経済成長がアメリカを上回り続ければ、中国はア
    メリカよりも遥かに大量の兵器を製造するようになり、
    いつかは、アメリカが技術的優位を保っていたとしても
    中国はそれを量で凌駕するようになる。
 「4」地域紛争であれば、中国はアメリカを上回る軍事力を持
    たなくても勝つことができる。
 「5」1〜4のすべて
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この問題の答えは「5」です。しかし、ピーター・ナヴァロ氏
が本気でそのように考えているとは思えないのです。中国の脅威
を強調するために、あえてそのようにいっているのではないかと
も考えられるのです。
 中国に「屈辱の100年間」があるように、米国にも「屈辱の
1日」があります。「屈辱の1日」とは、第2次世界大戦冒頭に
おいて、大日本帝国にハワイ上空の制空権を奪われ、真珠湾がほ
とんど壊滅状態に陥った日のことです。
 その「屈辱の1日」以来、米国がつねにとってきている基本軍
事戦略は、まず空から邪魔者を取り除き、敵の作戦空域を最新の
制空戦闘機で支配するという戦略です。その制空戦闘機の最高峰
ともいえる戦闘機が、F−22やF−35によって代表される第
五世代戦闘機群です。
 ここで「第五世代戦闘機」とは、どのような戦闘機を指してい
う言葉なのでしょうか。
 「第五世代戦闘機」の定義について、軍事評論家の兵頭二十八
氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 米空軍はF−22をもって、「第五世代」戦闘機と呼ぶ。その
「第五世代」の定義は、「ステルス」(敵のレーダーや光学セン
サーで探知され難い)、「アフターバーナーなしの超音速巡航」
(ふつう、エンジンの最終段へ燃料を噴射すればロケットのよう
に加速して音速を出せるが、そのような燃料の無駄遣いをしなく
とも、マッハ1以上で飛べる)、「超長射程の空対空戦闘能力」
(70キロ以上の射程があるミサイルを運用できる)、「ドッグ
ファイト時の驚異的機動性」(敵戦闘機との近接格闘戦になった
とき、後ろをとられない)の四要件を満たすことだという。
                     ──兵頭二十八著
      『こんなに弱い中国人民解放軍』/講談社+α新書
─────────────────────────────
 しかし、F−22はいくつか不安要素もあるのです。ひとつは
保有台数が少ないということです。F−22は1997年に初飛
行し、2005年12月から190機近くが米空軍に配置されて
います。しかし、その後、景気の低迷、財政赤字増大を理由に議
会はそれ以上の製造を中止しています。これは、経済力の悪化が
軍事力展開能力に悪影響を及ぼしつつある典型例といえます。そ
ういう意味において、トランプ大統領による史上最大規模の軍事
費の拡大は、同盟国にとってはプラスの材料であるといえます。
 これに対して中国は、米国のF−22とF−35の要素を併せ
持つ多用途戦闘機である「成都J−20(マイティドラゴン)」
と、それに加えて、空母の艦載機と思われる「成都J−31」を
発表しています。
 このうち、J−20は2011年に一般公開されたのですが、
そのタイミングが極めて挑戦的であったのです。というのは、そ
のとき、ロバート・ゲイツ米国防長官(当時)が中国との関係修
復のために訪中し、胡錦濤国家主席と会見する数時間前だったの
です。真偽のほどは不明ですが、胡錦濤主席は、どうやらこの公
開を知らなかったようです。ゲイツ長官によると、胡錦濤主席は
「単なる偶然一致」と釈明したそうです。いずれにしても、きわ
めてバツの悪い会見になったことは確かです。
 しかし、中国の戦闘機の実力については、本当に額面通りなの
かについては一切わかっていないのです。それと問題なのは、第
五世代戦闘機の技術を中国はどのようにして取得したのかです。
これについては、明日のEJで説明することにします。
             ──[米中戦争の可能性/045]

≪画像および関連情報≫
 ●初の展示飛行わずか1分/「殲(J)20」の実力を探る
  ───────────────────────────
   中国広東省珠海市で2011年11月、2年に1度の「中
  国国際航空宇宙ショー」が開かれ、中国空軍の次世代ステル
  ス戦闘機「殲(J)20」が初めて一般公開された。だが、
  その公開方法は、開幕式典で2機が1分に満たないわずかな
  時間、上空を飛行しただけ。2011年にその存在が明らか
  にされて以降、注目を集め続ける殲20だが、その実力はな
  おベールに包まれている。台湾空軍の論文などから、殲20
  の能力を探る。(台北 田中靖人)
   カナダに本部を置く軍事情報誌「漢和ディフェンス・レビ
  ュー」の12月号の記事は、珠海での展示飛行について、飛
  行性能の高さを示すような動きはなく、「生気がない」と酷
  評。殲20は、欧米の第5世代戦闘機の「根本的な標準(装
  備)」である推力偏向エンジンを備えておらず、エンジンに
  問題があるとの見方を示した。
   軍事産業情報会社「シェファード」が珠海発でサイトに掲
  載した記事によると、殲20は、試作を終え低率初期生産段
  階に入っている。「XX0011」と書かれた殲20の目撃
  情報があることから、すでに11機が生産されている可能性
  があり、2017〜18年に実戦配備を意味する「初期運用
  能力」(IOC)を取得するとの見通しを紹介。実現すれば
  戦闘機の開発としては短期間だとしている。
                   http://bit.ly/2m27x1O
  ───────────────────────────

成都J−20(マイティドラゴン).jpg
成都J−20(マイティドラゴン)
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2017年03月09日

●「J−20の欠陥はエンジンにある」(EJ第4476号)

 コソボ戦争真っ最中の1999年3月27日のことです。北大
西洋条約機構(NATO)のセルビア空襲に投入された米軍ステ
ルス戦闘機F−117ナイトホーク1機がセルビアの防空ミサイ
ルに当たって、撃墜されています。操縦士は無事脱出したものの
ステルスの残骸はセルビアの農耕地に散らばったのです。
 このとき、真っ先に動いたのは中国人のスパイです。セルビア
の農民や一般市民の家を丹念に訪ね歩き、かなりの金額と引き換
えにその残骸を買い取り、それを中国本土に持ち帰ったのです。
こういうとき中国は素早く動くのです。
 中国の本土に送られた残骸は、エンジニアによって組み立てら
れ、米国のステルス技術の多くが中国の手に渡っています。しか
し、ステルス機一台を分解しても、第5世代戦闘機のすべての技
術を獲得できるわけではないのです。それでは、他の技術はどの
ようにして獲得したのでしょうか。これについて、ピーター・ナ
ヴァロ氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 新旧のスパイ技術を駆使して、中国はこれまで、研究・開発に
何兆ドルもの税金が注ぎ込まれているアメリカの機密情報や知的
財産を盗み出してきた。アメリカヘのさらなる打撃として、中国
はこのようなスパイ行為の成果を兵器製造に利用している。こう
したコピー兵器の中には、やがて本家本元を越える性能を獲得す
るものもあるかもしれない。
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 要するに最新鋭の兵器を自ら開発しようとせず、既に他国──
主に米国──の優れた兵器についての重要情報を、ハッキングに
よって盗み出すのです。そのため、強力なサイバー部隊を育てて
います。このサイバー部隊についての詳細は改めて取り上げます
が、そのハッキング技術はきわめて高度です。
 しかし、そのようにして技術を盗み出したとされる「成都J−
20」の性能について、米空軍制服組トップは、J−20は30
年前に米国が同盟国と共同開発した初期型ステルス戦闘機程度の
性能しかないと表明しています。
─────────────────────────────
 ゴールドフェイン参謀総長は、「J−20とF−35の比較は
ほとんど無意味」とし、自身が第一世代のステルス戦闘機のパイ
ロットであった経験から、J−20は第一世代であるF−117
との比較が適当との見方を示した。つまり、30年前の米国のス
テルス戦闘機の能力であることを明かした。
 米軍の「F−117」は1990年代に実戦して2008年に
退役した。中国軍によると、最新機「J−20」は2018年に
兵役する。
 香港のアジア時報も2016年2月23日、軍事専門家の話と
して、中国の「J−20」「J−35」と米国の「F−22」と
「F−35」には大きな差があると伝えた。それによると、「中
国機は強力なエンジンを搭載していないため、ステルス戦闘機の
『超音速の巡航能力」を発揮できない』という。著名な航空専門
家のリチャード・アボラフィア氏は、第五世代ステルス戦闘機に
備えるべき10の特徴のうち、中国の「J−20」は2つしかな
いと指摘している。          http://bit.ly/2lGj6dw
─────────────────────────────
 やはり、原因はエンジンにあります。中国は自ら強力なエンジ
ンが作れないのです。リエンジニアリング技術がまだ十分でない
ことをあらわしています。しかし、そうであるからといって、ゴ
ールドフェイン参謀総長のいうように、J−20が第一世代の能
力しかないかというと、そうではないのです。
 それは、台湾空軍が発行する『空軍学術』の2013年2月号
に掲載されているJ−20に関する論文(論文には殲20と表記
されている)を読むとわかります。この論文は、昨日のEJの巻
末で紹介しています。したがって、詳細は興味があればそちらを
参照していただくとし、ここではもっとも重要な部分を取り上げ
ることにします。
─────────────────────────────
 電波を反射する面積でステルス性を計算するRCS値はF22
が0・1平方メートルなのに対し、殲20は0・1〜0・5平方
メートルの間で、同じくステルス戦闘機のF35とほぼ等しいと
推測している。            http://bit.ly/2mouZsH
─────────────────────────────
 RCS値は「Radar cross section」 の略語で、電波に対し、
どれほどのステルス性があるかをあらわす値です。航空自衛隊が
運用するF15のRCS値は10〜15平方メートル。このため
J−20は、F15などの第4世代戦闘機よりもステルス性に優
れており、敵地などへの先制攻撃を行う際に「絶対的な優勢を備
えている」といえます。中国人民解放軍は、それが盗んだものと
はいえ、ちゃんとステルス性を再現できているのです。
 問題はエンジンです。強力なエンジンは、戦場で優位な位置を
確保し、ミサイル発射後に直ちに空域を離脱するために必要な超
音速巡航については達成されていないのです。論文には次の記述
があります。
─────────────────────────────
 F22が推力16トンで音速1・5超の超音速巡航を実現した
のに対し、殲20のエンジンは中国が生産するWS10Aでもロ
シアから購入したAL31でも12トン前後。このため、ロシア
から高性能の117Sエンジンを導入するか、国産のWS15の
開発を成功させる必要がある。     http://bit.ly/2mouZsH
─────────────────────────────
 このように、戦闘機というハードウェアに関しては、中国はか
なり米国に接近しているとはいえます。
             ──[米中戦争の可能性/046]

≪画像および関連情報≫
 ●中国側は、日本のサイバー戦能力を過大視
  ───────────────────────────
   米国などが「サイバー攻撃の発信源」とみている中国。そ
  の中国の側から海外のサイバー事情を見た場合、日本はどの
  ように映っているのだろうか。中国共産党の機関紙「人民日
  報」のインターネット版「人民網」の日本語サイトに、「こ
  んなおもしろいリポートが載っている」と情報セキュリティ
  会社大手「LAC」(東京)の特別研究員、伊東寛さんに教
  えてもらった。伊東さんは陸上自衛隊が2005年に立ち上
  げたサイバー部隊「システム防護隊」の初代の元隊長(1等
  陸佐)でもある。(聞き手・谷田邦一)
   「日本など各国の『サイバー戦』軍備」と題するリポート
  の著者は、人民解放軍軍事科学院の研究員。日本の防衛省の
  シンクタンク・防衛研究所にあたる機関の研究レポートのよ
  うな位置づけになる。それによると、自衛隊のサイバー能力
  を「攻守兼備」と見越し、「多額の経費を投入し、ハードウ
  ェアおよびサイバー戦部隊を建設している」と分析。このあ
  たりまでは「なるほど」とうなずける。
   ところが、それに続き「5000人からなる『サイバー空
  間防衛隊』を設立、開発されたサイバー戦の『武器』と『防
  御システム』は、すでに比較的高い実力を有している・」と
  いう記述になると、かなり誇大視されているのではと思えて
  しまう。防衛省が自前のネットワーク防護のために立ち上げ
  た3自衛隊統合の「指揮通信システム隊」は、約160人。
  同システム隊に組み込まれる部隊で、来年度予算で要求して
  いる「サイバー空間防衛隊(仮称)」の要員も100人に満
  たない規模のとどまる見込みだ。  http://bit.ly/2mCNLgq
  ───────────────────────────

F−35/第五世代戦闘機.jpg
F−35/第五世代戦闘機
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2017年03月10日

●「F22/4機で敵機を殲滅できる」(EJ第4477)

 潜水艦のところで述べましたが、中国はハードウェアとしての
潜水艦は多数保有していますが、潜水艦戦の実戦経験はないので
す。その点日本は、第二次世界大戦で米国と潜水艦戦で死闘を繰
り広げてきており、その経験は現在の海上自衛隊に受け継がれて
います。それに、米原子力潜水艦との日米合同軍事訓練も頻繁に
行っており、日米は潜水艦戦では世界最強です。
 これと同じことが航空機戦にもいえるのです。中国は潜水艦と
同様に航空機もたくさん保有していますが、空中戦の実戦経験は
ほとんどないはずです。もちろん空中戦はシミュレーターによっ
て、さまざまな演習体験を積むことはできますが、あくまでそれ
は演習であって実戦とはほど遠いものです。
 航空機戦で米軍がとる体制は「2機小隊」です。単純な形態で
すから、高速機動しても、陣形を保持して、互いに監視、保護の
状態を維持して戦闘を継続できます。さらに、この2機体制を2
組にした「4機小隊シュワルベ」というのがあります。これはド
イツ空軍が生み出した高速戦闘での基本単位であり、リーダーに
率いられた2組の分隊が協力して敵機を挟み打ちにするのです。
 この4機体制について、既出の軍事評論家の兵頭二十八氏は、
ついて次のように述べています。
─────────────────────────────
 4機というのは、米空軍の基本的な空戦単位である。常に「2
機」と「2機」の組になり、空中において互いに機動的にカバー
し合うことによって、敵機の数がいかほど多数であったとしても
僚機を後方からやすやすと撃墜させるような隙を決してつくらな
いようにするという空戦技法を、米空軍は長年、洗練してきてい
るのだ。                 ──兵頭二十八著
      『こんなに弱い中国人民解放軍』/講談社+α新書
─────────────────────────────
 2014年2月6日付の「世界を斬る/日高義樹」(日高義樹
氏のコラムサイト/夕刊フジのウェブ版/ZAKZAK)が米国
の4機体制に言及しているので転載します。
─────────────────────────────
 太平洋・米空軍のハーバート・カーライスル司令官はこう述べ
ている。「太平洋軍はアラスカのエーメンドーフからF22ラプ
ターをハワイに移していたが、今後はグアムにも配備し、嘉手納
と千歳基地にローテーションで展開する」。
 F22はステルス性、つまりほとんどレーダーに映らない最新
鋭の戦闘機だ。パイロットらは「ニンジャ」というニックネーム
をつけている。F22の4機が初めて沖縄に進出してきたとき、
若い飛行隊長が私にこう言った。
 「われわれは台湾防衛のシミュレーションをやってきたばかり
だが、1機で50機の中国戦闘機を撃墜することに成功した」。
 米国の専門家は、台湾攻撃に中国が動員できるJ10やJ11
といった最新鋭の戦闘機が200機にのぼると推定している。F
22なら4機で、「こうした中国の戦闘機をすべて撃ち落とすこ
とができる」と主張している。
 「戦闘地域のほぼ100キロ後方でE3Cが軍事行動を管制し
F22の4機に新鋭のK135給油機が同伴する体制を整えてい
る」。米空軍首脳はこう述べているが、米国はこれまで情報が漏
れることを警戒し、F22を隠してきた。日本にも、一段格下の
F35を売りつけようとしてきたが、中国の挑発的な行動に対し
て、ついにエースを投入することにしたのである。
                   http://bit.ly/2lJZg1H
─────────────────────────────
 これによると、F−22は1機で50機の中国戦闘機を撃墜で
きるといっています。現状では中国のJ−20は兵役についてい
ないので、J−10やJ−11なら、訓練された4機体制で出撃
すれば、味方は1機も失うことなく、中国が何機を繰り出してき
ても全滅できるといっています。
 どうしてこのようなことができるのかというと、上記の次の記
述が重要です。
─────────────────────────────
 戦闘地域のほぼ100キロ後方でE3Cが軍事行動を管制し
 F22の4機に新鋭のK135給油機が同伴する体制を整え
 ている。                 ──米軍首脳
─────────────────────────────
 ここでいう「E3C」とは何でしょうか。
 E3CはAWACSといい、軍用機の一種です。大型レーダー
を搭載し、一定空域内の敵性・友軍の航空機といった空中目標を
探知・分析し、なおかつ、友軍への航空管制や指揮を行う機種の
ことです。空中警戒管制システムや空中警戒管制機とも呼ばれて
います。
 戦闘機のレーダーは、当然ではあるものの、空全体を見回すよ
うにはできておらず、パイロットは、戦場全体を概観できないの
です。そこで、戦場全体を概観できる高性能レーダーを搭載した
航空機(AWACS)を戦場から100キロ程度後方の空中に置
き、旋回して戦闘を指揮するのです。AWACSは長時間飛行を
続けることが可能です。
 このAWACSがあると、はるか遠くから迫ってくる敵機も把
握できるので、その動きを見張りながら、味方戦闘機が空対空ミ
サイルを最も効果的に発射して命中させることができます。これ
を持っている空軍と持っていない空軍では、空中戦では勝負にな
らず、このシステムであれば、戦闘機の性能はあまり問題にはな
らないのです。
 中国空軍は、それらしく見えるAWACSを4機所有している
ものの、ほとんど使われていないと思われます。日本の航空自衛
隊は、米国にAWACSを特注し、4機保有しており、米軍との
合同訓練で完全に使いこなしているといわれます。このように航
空戦は数では優位に立つことは困難なのです。
             ──[米中戦争の可能性/047]

≪画像および関連情報≫
 ●尖閣で不足/早期警戒管制機AWACSをどうするのか
  ───────────────────────────
   航空自衛隊がAWACSを配備して、15年が経過しまし
  た。当時はロシアを想定していたが、尖閣騒動などで中国の
  脅威に増強が必要になっている。
   航空自衛隊が運用している早期警戒機などが次々と運用期
  間を終えたり更新の時期を迎えている。AWACS(早期警
  戒管制機)のE−767は導入から15年が経過して搭載機
  器の改修が行われている。
   また最初から言われていた事だが日本列島をカバーするに
  は4機ではとても足りず、尖閣諸島や竹島周辺の状況を考慮
  すると2倍の8機は必要である。現状の4機のうち半数は整
  備などで待機している筈で、飛行できるのは良くて2機でし
  かない。
   2014年10月、日本政府はボーイング社とE−767
  のアップグレード(性能向上)契約を結んだと発表した。契
  約額は9・5億ドルで1000億円から1200億円に相当
  する。E−767はボーイングE−3の搭載機器を767に
  移植したもので、1993年に生産開始した。レーダーと電
  子装置などはE−3最終型と同じとされ、1990年ごろに
  生産されたタイプである。つまり、E−767の搭載機器は
  実質的に25年前のものだった。1990年と言えばパソコ
  ンのウィンドウズすら普及してなかった時代で、機器の性能
  も推して知るべしである。     http://bit.ly/2lHxFxu
  ───────────────────────────

E3/AWACS.jpg
E3/AWACS
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2017年03月13日

●「国家や企業の重要情報を盗む部隊」(EJ第4478号)

 スパイとは何でしょうか。
 スパイとは、敵対勢力などの情報を得るため、諜報活動などを
する者の総称です。これを情報を盗まれる敵対勢力の側から見る
とそれは「泥棒」になりますが、国家としてスパイを行い、敵の
重要情報を盗み出すことに成功したそのスパイは、その情報が重
要であればあるほど「英雄」になるのです。何となく割り切れな
いものを感じます。
 ピーター・ナヴァロ氏は、ハッキングについて、次の問題を読
者に出しています。
─────────────────────────────
【問題】ハッキングによって行われる恐れのあるものを選べ。

 「1」民間企業から知的財産を盗んで自国の経済と軍事力を強
    化し、競合国の経済と軍事力を弱体化させる
 「2」航空管制ネットワーク、配電網、銀行・金融システム、
    地下鉄といった敵国の重要なインフラを破壊、あるいは
    使用不能にする
 「3」競合国と同等の軍備を保つため、平時に防衛機密を盗み
    出す
 「4」戦時に、敵国の航空機、ミサイル、船舶、戦車を破壊し
    たり、使用不能にしたり、行き先を勝手に変えたりする
 「5」目くらましと誤誘導によって、戦場において戦略的・戦
    術的に優位に立つ
 「6」軍事通信を傍受または妨害する
 「7」1〜6のすべて
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 中国では、ミサイルや戦闘機などの先端的兵器は、自ら開発す
るよりも、先端国家からサイバースパイによって設計情報を盗み
出し、それをリバースエンジニアリングによって再現することに
重点を置いている国です。その方が時間的にも、経済的にもコス
トが安くて済むからです。このポリシーには、非常に違和感を覚
えますが、国家間のことであり、同じようなことをどこの国でも
やっていることなので、それは仕方がないと思います。先端技術
を持つ側は、それを盗まれないよう防衛すればよいからです。
 上記の問題の答えは「7」です。現在中国は組織的なサイバー
部隊を編成し、大規模なハッキングを行っているといわれます。
 中国では、ハッキングは違法ではないのです。それどころか、
ハッキングは愛国教育とインターネットで育った若い世代にとっ
て、魅力的な出世コースになっているのです。中国には、政府の
認可を受けた技術系のハッカー専門学校がたくさんあり、そこで
基礎を学ぶことが出来ます。
 しかし、人民解放軍の管理下にあるサイバー部隊に入るために
は、もっと高度な教育を受ける必要があります。このサイバー部
隊は、人民解放軍のエリート部隊なのです。これについてナヴァ
ロ氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 ハッカー志願者の中には、ハルピン工業大学といった国内の一
流大学に入り、サイバースパイ活動に必要な工学や数学の高等教
育を受ける道を選ぶ若者もいる。だが、多くのエリートハッカー
志望者にとってさらに魅力的な進路は、外国の、できればアメリ
カの大学に進むことである。その理由は、外国の大学のほうが教
育水準の高い場合が多いからだけでなく、将来ターゲットとする
ときのためにホスト国とそのインフラをじっくり研究できるから
でもある。      ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 ところで、「ハッキングは違法なのか」ということがよくいわ
れます。日本では、多くの場合、一般的に開示されてい内容以上
の技術を使って、許可なく他人のエリアに進入した場合は犯罪に
なります。ある有名人の非公開のサイトに侵入し、情報を見た場
合も犯罪になっています。
 このような説明をする人もいます。「錠前師」といえば、鍵を
扱う熟練者のことです。金庫の所有者の求めに応じて金庫を開け
る人と求めに応じないであける人(つまり泥棒です)──いずれも
錠前師というのです。これはとてもデリケートな問題なのでハッ
カーと区別して「クラッカー」という言葉を使っています。
─────────────────────────────
 営利目的など個人または組織の利益を追求する目的で、違法な
ハッキング行為をすることを「クラッキング」といい、これは犯
罪になる。              http://bit.ly/2mw51mk
─────────────────────────────
 中国で最も有名なサイバー部隊は「APT1部隊」です。この
「APT」とは、次のことを意味しています。
─────────────────────────────
   APT/アドバンスド・パーシステント・スレット
              「高度で執拗な脅威」の意
             Advanced Persistent Threat
─────────────────────────────
 APTは、愉快犯的な「誰でも」「どの会社でも」攻撃してや
ろうという動機ではなく、特定の個人や部門、企業などを明確に
ターゲットにする攻撃のことをいいます。そういう目的を持つ部
隊が上海・浦東地区にある12階建のビルにあります。APTサ
イバー部隊です。
 APTという名前が付いているので、特定のターゲットのコン
ピュータ・ネットワークを高度で執拗に長期間攻撃することを目
的とする部隊です。主要産業20部門にわたる外国企業140社
以上のセキュリティシステムに不正にアクセスしています。これ
は明らかな国家的犯罪といっても過言ではないと思います。
             ──[米中戦争の可能性/048]

≪画像および関連情報≫
 ●「大規模サイバー攻撃の影に中国軍」:米企業リポート
  ───────────────────────────
   米国のセキュリティー企業マンディアントのリポートによ
  れば、「コメント・クルー」または「APT1」と呼ばれる
  このハッカーグループは、上海の浦東地区にある12階建て
  を拠点に活動していることが特定されたが、このエリアには
  中国人民解放軍の61398部隊の本部があり、同部隊の一
  部であるとも言われている。また、同部隊は数百人から数千
  人のハッカーを抱えており、このハッカーらを使って、20
  06年以降、国営企業のチャイナ・テレコムなどのリソース
  を利用しながら、多くの米国企業から貴重なデータを盗み出
  してきたと見られているという。
   「さまざまな分野の企業各社に対する大規模で継続的な攻
  撃が、中国の1つのハッカーグループから行われていること
  を考えると、APT1の背後には別の組織の影が浮かび上が
  る」とマンディアントはリポートの中に記している。「われ
  われがこの文書で示した証拠を踏まえれば、APT1が61
  398部隊であるという主張に至る」(マンディアントのリ
  ポートより)
   マンディアントによれば、世界中の組織をターゲットに中
  国軍が行っている組織的なサイバースパイ活動やデータの窃
  盗行為などは、中国共産党の上級幹部が直接指揮するものだ
  という。また、61398部隊はこういったサイバー攻撃を
  行うため、中国国内の大学の科学・工学関連の学部から積極
  的に新たな才能を引き入れているとのことだ。
                   http://bit.ly/2n9QBdb
  ───────────────────────────

中国APT1サイバー部隊.jpg
中国APT1サイバー部隊
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2017年03月14日

●「サイバー戦争は3つの戦線がある」(EJ第4479号)

 中国人民解放軍のサイバー部隊「APT1」については、さら
に述べることがあります。APT部隊は「APT1」だけではな
いのです。「APT30」というのも見たことがあるので、中国
全土にAPTは30部隊以上あるのではないかと思われます。
 中国のサイバー戦争部隊には次の3つの戦線があります。それ
ぞれの戦線によってその盗み出すものが異なるのです。
─────────────────────────────
 ●サイバー戦争第一戦線
  外国企業の製品設計図や研究開発の成果、特許製法、契約
  リスト、価格設定情報、組合規約などを盗み出す
 ●サイバー戦争第二戦線
  アメリカ兵器システムの大規模な窃盗。アメリカのミサイ
  ル防衛システム。基地の軍備状況などを盗み出す
 ●サイバー戦争第三戦線
  配電網、浄水場、航空管制、地下鉄システム、交通網、電
  気通信などの重要なインフラ情報などを盗み出す
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 サイバー戦争第一戦線は、いわゆる「経済ハッキング」部隊と
いうことができます。
 その役割は、多くの場合、外国のライバル企業に対して中国企
業の立場を有利にすることにあります。中国の大企業の大半は国
営企業だからです。
 そのためには、外国企業の製品設計図や研究開発の成果などの
情報に加えて、電話の対話、電子メールの内容、ブログ、SNS
などでの対話情報まで、ありとあらゆるものを傍受し、分析する
のです。いずれにしても、長期間にわたってハッキングして情報
を取得します。企業がやるのではなく国家がやっているのですか
ら、重要情報を盗まれる企業としては、たまったものではないと
思います。
 サイバー戦争第二戦線は、いわゆる「軍事ハッキング」という
ことができます。
 軍事情報に関しては、世界で一番進んでいる米国の兵器システ
ムからの大規模な盗み出しです。とくに、米国のミサイル防衛に
とってきわめて重要な20以上もの兵器システムのリストがある
のです。このリストについて、ワシントン・ポスト紙は、次のよ
うに伝えています。
─────────────────────────────
 最先端のパトリオットミサイルPAC−3、陸軍の弾道弾迎撃
ミサイルシステムTHAAD(終末高高度地域防衛)、海軍のイ
ージス弾頭ミサイル防衛システムである。加えて、F/A−18
戦闘機やV−18戦闘機やV22オスプレイ、ブラックホーク・
ヘリコプターや、海軍の沿岸域の哨戒を目的とする新型沿岸域戦
闘艦など、非常に重要な戦闘機や戦闘艦も含まれている。
                 ──ワシントン・ポスト紙
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 これによると、日本に設置されているPAC−3や、韓国に設
置されようとしているTHAADの情報も盗まれている可能性が
大ということになります。
 サイバー戦争第三戦線は、いわゆる「インフラハッキング」と
いうことができます。
 テルベント社というスペインの企業があります。電力グリッド
向け遠隔制御システムベンダーの会社です。フランスのシュナイ
ダーエレクトリックの子会社です。同社は、2012年9月10
日にとんでもないことに気が付いたのです。悪意のあるハッカー
が社内ファイアウォールとセキュリティシステムに侵入して、悪
質なソフトウエアを埋め込み、プロジェクトファイルを盗んだと
いうことにです。これは明らかにAPT部隊の仕業です。
 テルベント社は、南北アメリカの50%を超える石油及び天然
ガスのパイプラインの詳細な設計図を保有し、それらのシステム
にアクセスできるソフトウェア企業です。同社のあるアナリスト
は、中国のハッキングのその途方もない影響力について、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 もし誰かが私を雇い、できるだけ多くの重要なシステムを破壊
する攻撃力がほしいのだがと言ってきたら、私なら、中国がテル
ベント社にやったのと同じことをやる。・・・・ あれはまさに
聖杯だ。       ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 アメリカの重要インフラに「マルウェア」を仕込んだといって
いるのです。テルデント社であれば、それをすることが可能なの
ですが、真偽のほどは不明です。ところで、「マルウェア」とは
何でしょうか。
─────────────────────────────
 マルウェアとは、不正かつ有害に動作させる意図で作成された
悪意のあるソフトウェアや悪質なコードの総称で、コンピュータ
ウイルスやワームなどがある。     http://bit.ly/2mNTwaI
─────────────────────────────
 このマルウェアは、ことがあるときは、APT部隊が遠隔操作
で、インフラを爆破することができるというのです。つまり、そ
れまでインフラに埋め込まれたマルウェアは、ひたすらAPT部
隊からの命令を待ち続けるのです。恐ろしい話です。
 中国人民解放軍では、このようなタイプの戦争のことを「超限
戦」と呼んでいます。人民解放軍の2人の大佐が同名の書籍『超
限戦』を出版しています。日本のインフラについても十分警戒す
べきであると思います。日本の一番セキュリティの脆弱な部分だ
からです。        ──[米中戦争の可能性/049]

≪画像および関連情報≫
 ●IoTや重要インフラをサイバー攻撃から守る
  ───────────────────────────
   2009年から2010年にかけて、イランの核施設にあ
  るウラン濃縮用遠心分離機が運転停止となる事件が発生しま
  した。「スタックスネット」と呼ばれるコンピューターウィ
  ルスのサイバー攻撃を受けたためです。分離機の異常動作や
  施設の乗っ取りといった深刻な事態にこそなりませんでした
  が、この事件は社会インフラへのサイバー攻撃が現実の脅威
  であることを広く認識させる契機になりました。
   その後も、重要インフラ/社会インフラをターゲットにし
  たサイバー攻撃が続発しています。2011年のブラジルの
  発電所の制御システム運行停止、2012年の米ミシガン州
  の天然ガスパイプラインや、サウジアラビアの石油会社にお
  けるワークステーション3万台へのサイバー攻撃、2013
  年の韓国の政府機関・金融機関へのサイバー攻撃、2015
  年のトルコ、2016年にはウクライナで起きた大規模停電
  などです。
   プラントや工場、電力や交通などの設備といった社会イン
  フラには、ほぼ例外なく「制御システム」と言われる心臓部
  があり、停止することなく機器を制御・監視しています。従
  来、この制御システムは外部とは接続されない“クローズ”
  した環境にあり、サイバー攻撃を受け難いと考えられていま
  した。イランの核施設も同様で、分離機の制御システムはイ
  ンターネットから隔離されていました。
                   http://bit.ly/2lOMXp6
  ───────────────────────────

ユニット61398本拠ビル.jpg
ユニット61398本拠ビル
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2017年03月15日

●「日米は超限戦を仕掛けられている」(EJ第4480号)

 中国のミサイル技術は、現在相当進んだ状況にあります。中国
は、どうしてその技術を獲得したのでしょうか。
 それは米国からの技術供与によるものです。1990年代に中
国は米国に届くミサイルを保有していなかったのです。ところが
当時のクリントン大統領は基本的には中国と融和策をとり、ミサ
イル技術を供与したものと思われています。
 続くブッシュ政権とオバマ政権で、中国のAPT部隊は米国か
ら、次の先端技術を奪っています。米国は意外に鷹揚なところが
あって、中国は易々と米国の優れた主要技術をハッキングによっ
て奪っています。各政権時代に中国が奪った主要先端技術を上げ
ると次のようになります。
─────────────────────────────
     クリントン政権 ・・・・ ミサイル技術
      ブッシュ政権 ・・・・ F−35技術
       オバマ政権 ・・・・ ドローン技術
─────────────────────────────
 アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のマイケル・
オースリン氏は、そもそも米国のサイバーセキュリティ対策が甘
いとして次のように述べています。
─────────────────────────────
 アメリカはサイバーセキュリティを真剣に考えていない。防衛
機密を真剣に考えていない。クリントン政権下の1990年代、
中国はアメリカのミサイルに関する膨大な量のデータを盗んだ。
気がつくと突然、中国は事実上アメリカまで到達可能な大陸間弾
遺ミサイルを保有していた。
 ブッシュ政権時代、中国はF−35などの情報を盗んだ。オバ
マ政権時代には、ドローンの情報を盗んだ。アメリカは大国で、
文化的にも技術的にも進んでいるから、アメリカが造るものは何
であれ、すべて相手よりも勝っていると考えている。それをいい
ことに中国は、何十年にもわたってアメリカからこっそり盗んで
きた。何十年にもわたって何十億ドルもの研究開発費をアメリカ
の納税者からこっそり盗んできたのだ。
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 既に述べたように中国には「屈辱の100年間」というものが
あります。長い年月の重みに耐えて、彼らはやっと現在、この屈
辱を晴らす機会がきたとして動き出しているのです。「孫子の兵
法」に次の一節があります。
─────────────────────────────
 百戦百勝は善の善なるものにあらざるなり。戦わずして人の
 兵を屈するは善の善なるものなり。  ──「孫子の兵法」
─────────────────────────────
 これは、強敵とまともに戦えば自身も傷つくので、真正面から
戦わず、策略などで相手を屈服させる方法が最も良いということ
です。現在の中国、すなわち中華人民共和国は、当時の日本兵と
戦って、その強さに驚嘆し、とても勝てないと悟ったのです。
 そこで、巧みに国民党軍(中華民国/台湾)と日本軍を戦わせ
日本軍の力も借りて国民党軍を破り、最終的に勝利を収め、中華
人民共和国を建国したのです。これは、孫子の兵法に則っていま
す。しかし、彼らは、戦争が終わっても一貫して日本を敵視し、
さまざまな工作によって、日本国内に親中反日思想を持つ人間を
増やし、各界に潜り込ませるなど、様々な工作を日本に対して、
行ってきています。日本人と比べると、彼らは、はるかに執念深
いといえます。
 これは「超限戦」というのです。この本は、人民解放軍の2人
の大佐によって書かれています。日本語訳です。
─────────────────────────────
            喬良/王湘穂共著
         『超限戦』/共同通信社
─────────────────────────────
 「超限戦」は、中国の戦法(心理/世論/法律の三戦)のこと
であり、EJでは2013年の「日本の領土」のテーマで、既に
取り上げています。
─────────────────────────────
    2013年2月1日付、EJ第3478号
      「中国は『超限戦』を展開している」
             http://bit.ly/2nhQxoD
─────────────────────────────
 「超限戦」は、現代でも一層スケールアップして続けられてい
ます。『影なき狙撃者』という映画があります。1962年制作
のサスペンス映画です。この映画は『クライシス・オブ・アメリ
カ』として、2004年にリメイクされています。この映画は、
現在の米国が抱える漠然とした不安というものを感じさせる映画
になっています。           http://bit.ly/1RzsOMd
 ピーター・ナヴァロ氏は、中国の超限戦の恐怖をこの映画風の
シナリオにして次のように書いています。
─────────────────────────────
 成都の企業の中国人エンジニアが、複雑なカスタムコンピュー
タチップ内に埋め込む「キル・スイッチ」を設計する。中国は、
「キル・スイッチ」が埋め込まれた「洗脳チップ」をアメリカへ
輸出し、それらはアメリカの防衛システム内に組み込まれる。
 往年の名画『影なき狙撃者』の筋書きと同じように、洗脳され
たコンピュータチップは中国人ハッカーの指令をそこで、じっと
待っているのだ。想像してみてほしい。中国の攻撃を受けた台湾
あるいは日本を支援するためにスクランブル発進した空母艦載機
F−35戦闘機のエンジンが飛行中に停止し、電子システムが麻
痺する事態を。    ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/050]

≪画像および関連情報≫
 ●中国ハッカー集団が関与するセキュリティ侵害
  ───────────────────────────
   「超限戦」と云う言葉は中国、軍人によって書かれた書籍
  の、日本語版がベストセラーとなった際、使用された(19
  99年)。従来の武器による、戦争の常識を超えた戦争のこ
  とである。簡単にいえば手段は「何でもあり」である。
   勝つためには、嘘も捏造も当り前、現在日本が中国・韓国
  に情報戦で苦戦しているのも、超限戦の一例なのだ。アメリ
  カと中国でサイバー戦が行われ、非難の応酬が、行われたの
  も、記憶に新しい。勿論これも、超限戦である。「勝つため
  には如何なる手段もあり」と云う超限戦は、「覇権を目指す
  国」が有る以上無くなる可能性は絶無でしょう。残念です。
   国連について、8・9・10月と3回、この「ガラス瓶」
  に愚稿を発信しましたが、結局、超限戦と名前が変つても、
  紀元、前「孟子」の説く、王道を世界が歩まなければ、戦争
  のない、平和な世界は地球上に生まれないのです。
   冷静に考えると、白色人種が過去500年にわたって有色
  人種の国家、社会、に行った「植民地政策」「奴隷政策」は
  ルールなしの、正に超限戦であった。と云うべきである。彼
  等は「文明の遅れ劣った、国家・社会、に文明の福音を授け
  る」と弁明する、狡猾さを持っていた。然し、本質は、正に
  「何でもあり」の侵略の戦争であったのだ。
                   http://bit.ly/2mOw6lB
  ───────────────────────────

『超限戦/21世紀の「新しい戦争」』.jpg
『超限戦/21世紀の「新しい戦争」』
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2017年03月16日

●「米国は北朝鮮にどう対応するのか」(EJ第4481号)

 「米中戦争の可能性」について書いていますが、その導火線に
なりそうな事態が起きるリスクが高まりつつあります。そのリス
ク要因は北朝鮮です。
 3月6日朝、北朝鮮は突然日本海に向けて弾道ミサイルを4発
同時に発射しました。
─────────────────────────────
 北朝鮮が6日朝、同国西岸から弾道ミサイル4発を日本海に向
けて発射した。3発は日本の排他的経済水域(EEZ)に落下し
たとみられる。米韓両軍が1日から、北朝鮮の脅威に備えた定例
の合同野外機動訓練を開始しており、これに対する報復の動きと
みられる。   ──「ニューズウィーク日本版ウェブ編集部」
─────────────────────────────
 これは、3月1日から始まった米韓合同軍事演習に北朝鮮が報
復したものと捉えられていますが、北朝鮮は米国のトランプ新政
権に対して、一貫して何かを訴えています。その何かとは、米国
との二国間の話し合いです。金正恩委員長はトランプ米大統領の
ハラがまだ読めないでいるのです。
 それは、2月10日の日米首脳会談の直後からはじまったので
す。日米首脳会談の最終日のミサイルの発射がそれです。北朝鮮
は、昨年の大統領選の終盤から、ミサイル発射も、核実験もやっ
ていないのです。それ以来、トランプ政権の発足まで北朝鮮は鳴
りを潜めていたというわけです。
 それは、トランプ氏が大統領選のなかで、「北朝鮮と話し合っ
てもよい」という趣旨のことをいっていたからです。副島隆彦氏
は、2016年5月の時点で、これについて自著で次のように述
べています。
─────────────────────────────
 米大統領選で共和党候補指名を確実にしたドナルド・トランプ
氏は、5月17日、ロイターのインタビューに応じた。トランプ
氏は北朝鮮の核開発を阻止するため、金正恩朝鮮労働党委員長と
会談することに前向きな姿勢を示した。(中略)
 トランプ氏は北朝鮮対策について詳細には触れなかった。だが
金(正恩)氏と会談すれば、米国の北朝鮮政策が大きく転換する
ことになると強調。「私は彼(金正恩氏)と話をするだろう。彼
と話すことに何の異存もない」と述べた。その上で、「同時に中
国に強い圧力をかける。米国は経済的に、中国に対して大きな影
響力を持っているのだから」と語った。    ──副島隆彦著
     『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社刊
─────────────────────────────
 ところがトランプ氏が大統領になっても、北朝鮮について何の
言及もないし、事態はまったく動かなかったのです。そこで、日
米会見の最終日にミサイルを打ち上げたものと思われます。
 これと並行して金正恩氏が行ったのは、マレーシアでの兄の金
正男氏のVXを使っての暗殺です。ここで重要なのは、殺害の手
段として使ったとみられるVXが大量破壊兵器であることです。
 それに加えて、6日の弾道ミサイル4発の同時発射です。この
ように北朝鮮は、立て続けに強硬手段を打ち出してきたのです。
このミサイルの同時発射について北朝鮮の朝鮮人民軍戦略軍は、
弾道ミサイルの発射は、4月末まで行われる史上最大規模米韓軍
事演習に対抗するものと断ったうえで、次のように言明している
のです。
─────────────────────────────
 米軍の北朝鮮攻撃のさいに、在日米軍基地を攻撃対象として
 行われたことを隠さない。       ──北朝鮮報道官
─────────────────────────────
 ミサイル発射の目的を「在日米軍基地攻撃」と北朝鮮が明言し
たのは、これがはじめてのことです。北朝鮮は「もし、軍事演習
にかこつけて、少しでもわが国を攻撃する兆候が見られれば、日
本を攻撃する」といっているのです。
 問題は、この度重なる北朝鮮の暴発に対して、米国がどう動く
のかということです。もはやオバマ政権ではないのです。トラン
プ大統領がどのような決断を下すかです。
 2017年3月13日付の「夕刊フジ」は、これに関する新し
い情報を伝えています。これらの情報は、複数の米軍、米情報当
局関係者から得たものとされています。
─────────────────────────────
◎米国は、北朝鮮のミサイル発射を失敗させるため、北朝鮮の協
 力者に電子機器に「マルウェア」(妨害ウイルス)を埋め込ま
 せる工作をしていた。正恩氏は米韓合同軍事演習開始直前にこ
 れを察知し、関係ない高官数人を処刑した。
◎米国は5日、最新の無人ステルス攻撃機の飛行映像を、公開し
 た。無人機はビンラーディン容疑者殺害でも使われた。「地上
 に出てきたら爆殺する」という米国の脅しだ。正恩氏は慌てふ
 ためき、翌日、ミサイルを発射した。
◎正恩氏は常軌を逸して暴走している。北東部ブンゲリにある核
 実験場で、6回目の核実験の準備に入った。9日、衛星写真で
 確認された。金正恩は全世界を敵に回すつもりだ。
       ──2017年3月13日付の「夕刊フジ」より
─────────────────────────────
 これは何を意味しているのかというと、米朝軍事衝突がいつ起
きても不思議ではないということです。それは、あくまで北朝鮮
の出方しだいです。折悪しく韓国では10日、朴大統領は弾劾に
よって罷免され、大統領選が始まります。
 韓国の次期大統領は、現在出馬すると見られている候補者の支
持率を見る限り、「従北」「反日反米」の大統領が選出される可
能性が大です。これは東アジア情勢に深刻な影響をもたらすこと
は確実であり、米国は5月9日予定の韓国新大統領が決まる前に
動く可能性があります。もし北朝鮮がこれ以上のことをすると、
限定的北朝鮮攻撃も十分起こり得るのです。
             ──[米中戦争の可能性/051]

≪画像および関連情報≫
 ●北朝鮮の暴走は止まらない。だがそのツケも出始めて
  ───────────────────────────
   3月14日付の韓国紙・中央日報は北朝鮮が米空母攻撃を
  想定し、対艦弾道ミサイル(ASBM)を開発中と報じた。
  ASBMは艦船など海上の移動目標を攻撃するミサイルで、
  「空母キラー」とも呼ばれる。
   韓国情報当局者は同紙に「北朝鮮がASBM開発に必要な
  ミサイル誘導や軌道修正の技術を開発した」と述べた。昨年
  9月と今月6日に、準中距離のスカッドERとみられる弾道
  ミサイルを試射した際、「こうした技術をテストした」とい
  う。(出典北朝鮮、「空母キラー」開発中=対艦ミサイル技
  術試験か−韓国紙:時事ドットコム
   北朝鮮のキム・インリョン国連次席大使は13日、マレー
  シアで起きた金正男氏殺害事件について、「北朝鮮の評価を
  傷つけ、社会体制を転覆するために米韓両国が行った暴挙の
  産物だ」と主張し、米韓両国を改めて非難した。ニューヨー
  クの国連本部で開いた記者会見で語った。キム氏は「米国は
  (猛毒の神経剤)VXを製造できる数少ない国の一つ」と指
  摘。米国は化学兵器を韓国に保有し、事件に使用されたVX
  も韓国で製造された可能性があると述べた。事件への北朝鮮
  の関与には「根拠がない」と反論した。一方、殺害された人
  物は「北朝鮮人のキム・チョル」と強調し、正男氏とは認め
  なかった。北朝鮮による弾道ミサイル発射を非難した国連安
  保理の報道機関向け声明については、発射を「自衛措置」と
  正当化し、反発した。       http://bit.ly/2n7Bi4l
  ───────────────────────────

北朝鮮弾道ミサイル4発同時発射.jpg
北朝鮮弾道ミサイル4発同時発射
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2017年03月17日

●「米軍は北の限定攻撃に踏み切るか」(EJ第4482号)

 この原稿は3月16日に書いています。少し不思議なことがあ
るのです。3月15日夜にティラーソン米国務長官が来日してい
ます。初来日ですが、単なる国務長官就任挨拶のための訪問では
なく、緊迫する北朝鮮情勢について、安倍首相らと協議するため
の来日です。そのため、ティラーソン国務長官は、日本の次は韓
国、さらに中国も訪問する日程であり、そのスケジュールは事前
に明らかになっています。
 不思議なことというのは、16日の新聞、テレビでティラーソ
ン国務長官の来日を伝えていないことです。少なくとも16日付
の朝日新聞と日本経済新聞には、米国務長官来日を1行も報道し
ていないのです。しかし、来日は添付ファイルのように事実であ
り、ティラーソン国務長官は現在安倍首相らと緊急会談をしてい
るはずです。これは夕方のニュースで短く報道されただけです。
 テレビでは、森友学園の籠池理事長の問題と侍ジャパンのイス
ラエル勝利のニュースばかりであり、米国務長官来日のニュース
は報道されていないのです。これは異常なことです。
 昨日のEJで、3月13日付「夕刊フジ」の情報を根拠として
米軍は北朝鮮の出方によっては、米軍による北朝鮮への限定攻撃
もあると伝えました。「夕刊フジ」の情報だけでは信憑性に問題
があると考える人も多いと思いますが、3月15日の昼のテレビ
では、それとほぼ同じ内容のニュースを伝えていることを私自身
が確認しています。
 その根拠のひとつとして、今回の米韓合同軍事演習には、空母
カールビンソンが参加していますが、そこに、ビンラディンを射
殺した米海軍、ネイビーシールズのチーム6はじめレンジャー、
グリーンベレーなど特殊部隊要員が多く参加していることです。
 そのとき、テレビに登場した人物はサイモン・タック氏なる人
物ですが、ネットにはそのサイモン・タック氏を含む次の記事が
出ています。ここに記述されていることと、私が15日にテレビ
で視聴した内容はほぼ同じです。
─────────────────────────────
 アメリカ経済・ビジネス・インサイダーに3月4日付で入手し
たもので、影のCIAと呼ばれる「ストラトフォー」。サイモン
・タック氏は、北朝鮮の武装力除去のため、米国は迅速な外科手
術打撃に集中し、アメリカのステルス機でミサイル生産施設を打
撃する。空襲のときの標的は北朝鮮の原子炉・ミサイル生産施設
・ICBM発射台などがある。他にも山岳地帯に隠れたミサイル
発射台狩りに出る。電話取材についてタック氏は「米軍指導者が
軍事行動以外に道がなかったら早い展開で物事が進む。一般市民
は軍事行動が唯一の道だと悟る前に、攻撃のニュースを聞くこと
になる」など話した。
 北朝鮮に対し、アメリカがどのような手を打つのか緊張が高ま
る中、ティラーソン国務長官が来日。トランプ政権の北朝鮮対策
はどのようなものなのか?カギを握るのはティラーソン国務長官
は今日日本を訪れ、17日韓国、18日中国を訪れる。歴訪の目
的は北朝鮮政権の抜本的な見直しにあり、金正恩体制転換やアメ
リカの先制攻撃など力による外交安保政策を3カ国へ説明し理解
を求めると見られる。歴訪を前に国務省高官は11日、北朝鮮へ
圧力をかけるためあらゆる手段がある、より効果的な方法を検討
していると強調。           http://bit.ly/2mvQ01s
─────────────────────────────
 サイモン・タック氏は「カギを握るのはティラーソン国務長官
である」といっています。マスコミがティラーソン国務長官来日
を積極的に報道しないのは、事前に米国から報道をできる限り控
えるよう要請があったのではないかと思われます。
 北朝鮮としては、ティラーソン国務長官がどのように動くか重
大な関心を持っているのは確実であり、日本のテレビ報道を注目
しています。そのため米国としては、国務長官の動きや発言を北
朝鮮に知られないように、日本のメディアに報道を自粛するよう
要請したことは十分考えられます。
 13日、米国務省のトナー報道官代行は、記者会見で次のよう
に話しています。
─────────────────────────────
 トランプ政権は、オバマ政権の「戦略的忍耐」方針を転換し、
新たな対北朝鮮戦略を構築しつつある。米軍の特殊部隊が正恩氏
を急襲・排除する「斬首作戦」や北朝鮮の核・軍事関連施設を精
密誘導(ピンポイント)爆撃する「限定空爆」など、「あらゆる
選択肢」が含まれている。
 こうした戦略を実行するには同盟国である日本と韓国の理解と
ともに、北朝鮮と「血の友誼」を結ぶ中国の了解が欠かせない。
朝鮮戦争は休戦中であり、北朝鮮中枢を攻撃した場合、中国によ
る介入も考えられるからだ。ティラーソン氏のアジア歴訪は、X
デーに向けた「地ならし」といえそうだ。
       ──2017年3月16日発行「夕刊フジ」より
─────────────────────────────
 北朝鮮の限定攻撃──これを実現するには日本、韓国、中国が
了解する必要があります。この場合、日本はともかくとして、韓
国と中国を説得するのは、容易ではないと思われます。
 なぜなら、韓国は朴大統領は弾劾裁判で罷免され、親北反日の
大統領が選ばれる可能性があります。韓国の大統領選挙は5月9
日に迫っています。かつてクリントン政権のとき、クリントン大
統領は、北朝鮮攻撃を決断し、当時の金泳三大統領に電話を入れ
決断を迫ったのです。しかし、金泳三大統領は「絶対反対」を表
明し、クリントン大統領は北朝鮮攻撃を断念しています。
 中国はもっと難しいと思います。中国も韓国に親北政権ができ
ることを歓迎しており、反対するはずです。しかし、その場合、
米国から、北朝鮮への国連制裁の完全な実行を強く求められるは
ずです。しかし、どうやら、トランプ政権は北朝鮮をこのままに
はできないと考えていることは確かです。どういう結果に終わる
のでしょうか。      ──[米中戦争の可能性/052]

≪画像および関連情報≫
 ●ビンラディン暗殺作戦の米特殊部隊/米韓合同軍事演習参加
  ───────────────────────────
   ネイビーシールズ・チーム6をはじめとする米特殊戦部隊
  が、韓米合同キーリゾルブ(KR)とトクスリ演習(FE)
  に過去最大規模で参加する。これらは韓国軍特殊戦部隊と有
  事の際、北朝鮮の戦争指揮部を攻撃し、核物質の貯蔵庫など
  大量破壊兵器(WMD)施設を掌握する訓練を実施する。
   3月13日、軍筋によると、今月から来月末まで行われる
  2つの演習に米統合特殊戦司令部の陸海空軍(海兵隊含む)
  特殊戦部隊と合同特殊戦部隊所属の将兵が参加する。
   レンジャーやデルタフォース、グリーンベレー、デブグル
  など米特殊部隊が網羅されたと同筋は伝えた。参加規模も例
  年は1000人ほどだったが、今年は1500人を上回ると
  いう。別の消息筋は「米特殊戦部隊員は戦時を想定して平壌
  の深部に侵入し、金正恩労働党委員長など北朝鮮の戦争指導
  部の殺害や戦争指揮所の爆破、核・ミサイル基地の攻撃とい
  った強度な訓練を行う」と話した。韓国軍特殊戦部隊とも合
  同訓練を実施し、その成果の検証・評価も行うという。
   特に「デブグル」という別称を持つネイビーシールズ・チ
  ーム6(海軍特殊部隊)は、陸軍のデルタフォースとともに
  「特殊部隊の中の特殊部隊」と評価される。2011年5月
  オサマ・ビンラディン殺害作戦(作戦名「ネプチューン・ス
  ピア)もデブグルの「作品」だ。  http://bit.ly/2npS8Mz
─────────────────────────────

ティラーソン米国務長官初来日.jpg
ティラーソン米国務長官初来日
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2017年03月21日

●「問題児/北朝鮮にどう対応するか」(EJ第4483号)

 ピーター・ナヴァロ氏は、北朝鮮についての問題も読者に出し
ています。
─────────────────────────────
【問題】次の想定される事態のうち、米中戦争の引き金になる可
    能性が最も高いものを選べ。

 「1」飢餓、国内の権力争い、社会不安によって北朝鮮が内部
    崩壊する
 「2」韓国領の島を砲撃する、船舶を沈没させるなど、北朝鮮
    が韓国に挑発行為をおこなう
 「3」北朝鮮の核開発を阻止するため、アメリカが北朝鮮の核
    関連施設を先制攻撃する
 「4」アメリカとアジアの同盟諸国が北朝鮮のミサイル攻撃を
    想定した最先端の弾道ミサイル防衛網を配備する
 「5」北朝鮮軍が韓国に大規模な侵攻を仕掛ける
 「6」北朝鮮が、日本、韓国、アメリカに核ミサイル攻撃を仕
    掛ける 
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この問題の正解はどれだろうか。
 常識的に考えれば、「1」の内部崩壊か、「2」の挑発の可能
性が高いと考えられます。しかし、内部崩壊については、中国の
支援がある限り、起こり得ないでしょう。中国は北朝鮮にエネル
ギーの90%、食料の45%を供給しているからです。文字通り
中国は北朝鮮の命綱を握っているのです。
 しかし、中国は北朝鮮がどんなに無法に振る舞っても、米国に
どれほど圧力をかけられても、北朝鮮への支援をやめないと思わ
れます。その理由について、ピーター・ナヴァロ氏は次のように
述べています。
─────────────────────────────
 なぜ中国は、中国自身を戦争の、それもおそらくは核戦争の渦
に巻き込む恐れのある政権にテコ入れし続けるのだろうか。同じ
疑問を抱いている中国の指導者も少なくとも数人はいるのだが、
その一方で中国が明らかに恐れているのは、北朝鮮が崩壊した場
合、あるいは、西ドイツが事実上東ドイツを吸収したのと同じよ
うな形で北朝鮮が韓国と和解した場合でも、統一された朝鮮半島
は中国ではなく、民主的な米韓同盟の側につくだろうということ
である。       ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 実は、北朝鮮が経済的に崩壊し、その影響が北朝鮮全土に及ぶ
場合、またはクーデターなど軍事的に現政権が倒された場合、大
変なことが起きるのです。まず、何百万人にも及ぶ難民が発生し
韓国や中国に怒涛のように難民が流れ込むはずです。船で日本に
押し寄せる難民も少なくないと思われます。
 クーデター軍が北朝鮮全土を制圧した場合は別として、制圧し
切れずに北朝鮮軍が大混乱を起こし、無法状態に陥った場合、米
韓合同軍は直ちに北朝鮮に攻め入り、核兵器を確保しようとする
はずです。問題は、その事態を中国は座視しないと思われること
です。北朝鮮での主導権を取るため、中国も人民解放軍を北朝鮮
に派遣するはずです。この場合、米韓合同軍、北朝鮮軍、中国人
民解放軍が北朝鮮で衝突する可能性は十分あります。それが米中
戦争に発展することはあり得ることです。
 「2」の北朝鮮による韓国への挑発は、これまでもあったこと
であり、当然あると考えられます。しかし、5月9日の大統領選
で、親北反日の革新系政権ができると、挑発はなくなると思われ
ます。こういう政権の樹立は、中国にとっても都合のよいことで
あることは確かです。
 「3」の米軍による北朝鮮の核関連施設の先制攻撃は、EJ第
4482号(3月10日付)で述べているように十分あり得るこ
とです。とくに、米韓合同軍事演習が終了する4月末までに北朝
鮮が何かコトを起こせばそのリスクは確実に高まります。
 「5」の北朝鮮軍による韓国への大規模な侵攻と、「7」の日
米韓の軍事基地への核ミサイル攻撃については、まず起こり得な
いと考えられます。北朝鮮の核兵器は、どこかの国を攻撃するた
めのものではなく、他国が攻め入るのを抑止するためのものであ
るからです。
 もっとも起こり得ると思われるのが「4」の米国とアジア同盟
国による北朝鮮のミサイル攻撃を想定した最先端の弾道ミサイル
防衛網の配備です。既に韓国では「THAAD」(最新鋭ミサイ
ル防衛システム)の配備が始められています。これに中国は猛反
対をしていますが、韓国の新政権が果して反対できるかどうか疑
問です。ピーター・ナヴァロ氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 アメリカ側から見れば、「全面核戦争も辞さない」という度重
なる北朝鮮の脅しに対して、アメリカが従来よりも遥かに強力な
ミサイル防衛システムをアジアの戦域に配備するのは至極道理に
かなったことに思われる。だが中国は、そのようなミサイル防衛
網は北朝鮮だけではなく中国自身にも向けられていると主張し、
こうしたミサイル防衛網に強く反対してきた。
 中国側の主張のレトリックをはぎ取ってみれば、これはまさに
エスカレーションを招く要因としてすでに述べた「安全保障のジ
レンマ」の一バリエーションである。中国が恐れているのは、ア
メリカがアジアに最新鋭ミサイル防衛システムを配備すれば、中
国の「報復攻撃」能力をも封じることができるようになるだろう
ということである。この懸念は実際かなり筋がとおっている。そ
うなれば、中国はアメリカの先制攻撃を心配しなければならなく
なるからである。   ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/053]

≪画像および関連情報≫
 ●北朝鮮崩壊三つのシナリオ『北朝鮮の核心』
  ───────────────────────────
   北朝鮮には市民運動も組織立った抵抗も存在しない。そん
  な国に訪れる体制崩壊とは、いったいどんな形をとるのだろ
  う。重大な危機が生じて安定が終焉を迎える。そうしたシナ
  リオとして、以下の3つをあげることができる。
   1.指導層の内部対立をきっかけとするもの。
   2.民衆の側による蜂起。
   3.中国で発生した何らかの社会変動が北朝鮮に拡散する
     というシナリオ
   もちろん、このすべてが組み合わさることも考えられるし
  予想外の展開になることもありうる。──『北朝鮮の核心―
  そのロジックと国際社会の課題』より。
   この中で最も都合が良いのと、都合が悪いのはどのシナリ
  オでしょうか?もっとも都合が良いのは、1と2の複合版で
  しょう。ルーマニアのチャウシェスク政権が崩壊したときと
  同じことをすればいいだけです。
   北で、「金正恩は倒れるぞ!怖くないぞ!!」というデモ
  が平壌や各都市で勃発するようにするために、連座制・強制
  収容所・秘密警察を外部の圧力で無力化し、人民を弾圧でき
  ないようにするのが大事です。平和的な体制変更には、「市
  民運動も組織だった抵抗もない」、という前提を崩す必要が
  あります。            http://bit.ly/2n5Mmyr
  ───────────────────────────

金正恩委員長と軍幹部.jpg
金正恩委員長と軍幹部
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2017年03月22日

●「中国は台湾を本当に取り戻せるか」(EJ第4484号)

 昨日のEJ第4483号で述べたように、北朝鮮という国が経
済的ないし、クーデターなどで崩壊した場合、それが韓国を巻き
込む米中戦争の引き金になる確率はかなり高いのです。したがっ
て、しかるべき後継者を立ててこの国を残すことが米中韓3ヶ国
にとって現状ではベストな選択といえるのです。
 そういう意味で、北朝鮮の正当な後継者である金正男氏が暗殺
されたのは、米中韓にとってきわめて痛いのです。そうであるか
らこそ、金正恩委員長は、金正男氏を暗殺したのです。金正恩氏
が一番不安に思っていたのは、どこかの国が金正男氏を擁立し、
北朝鮮の政権交代を仕掛けてくることであったからです。
 しかし、どうしてもわからないことがあります。それは、北朝
鮮が、核・ミサイル技術をどこから手に入れたのかです。とくに
部品の入手先がどこかです。
 中国かロシアと考える人は多いですが、実際には、国連の決議
や制裁において、核兵器転用の部品などの検査義務があるので、
技術供与や部品提供は簡単なことではないのです。これについて
ネットでは次の記述があります。
─────────────────────────────
 事情をしらない人には意外かもしれませんが、台湾からが多い
んです。どうして国連決議などで北朝鮮の制裁が行われているの
に北朝鮮は核兵器開発ができるのか・・・
 専門家が調査した結果ですが、国連決議に調和しなくていい台
湾などがその供給源になっていることは、北朝鮮問題に興味もっ
ている人であれば、だれもが知っていることなんです。そして、
北朝鮮の原子力開発に従事した脱北者の証言で、一番の武器調達
ルートや兵器転用の部品の調達先は日本だという証言が多いし、
90%は日本製という証言をする人もいます。
     ──「ヤフー!知恵袋」   http://bit.ly/2nxxcDa
─────────────────────────────
 台湾とは意外ですが、中国は台湾を中国の一部(台湾省)とみ
なしていて、台湾は国連に入れないのです。現在台湾は、23の
国と国交がありますが、ほとんどの人が世界地図でその位置を指
させないような小国ばかりです。それらの国でさえ、中国は経済
援助などと条件に台湾との国交を断絶させているのです。
 ピーター・ナヴァロ氏は、米中戦争の引き金を引く筆頭として
台湾を指摘し、次の問題を読者に出しています。
─────────────────────────────
【問題】台湾をめぐって米中戦争が起きるとしたら、その際に最
    も重要な役割を果たすと思われるファクターを選べ。

 「1」ナショナリズム
 「2」戦略地政学
 「3」イデオロギー
 「4」道徳観
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この問いに対する4つの選択肢において、「4」の道徳観は外
すことができると思います。正解は1つに絞ることは困難であり
「2」「3」「4」のすべてが正解です。
 「2」のナショナリズムについては、台湾は紛れもなく中国固
有の領土であり、中国にとって台湾を取り戻すのは中国の強い意
思のあらわれです。台湾は、1885年に清朝が新設した台湾省
に属した地域のことであり、具体的には台湾本島、付属島嶼およ
び澎湖諸島から構成されています。
 1895年には日清戦争の結果、下関条約によって日本に割譲
され、1945年まで日本統治時代が続いたのです。つまり、台
湾は中国にとっては日本に奪われた島であり、屈辱の100年の
間でまだ取り戻すことができていない領土なのです。したがって
台湾を祖国に再び受け入れることは、中国人のプライドとナショ
ナリズム的情熱がかかっているのです。
 これに加えて、中国にとって台湾は、地政学的にも、イデオロ
ギー的にも絶対に取り戻さなければならない理由があるのです。
それが「2」と「3」です。
 台湾は、第1列島線のほぼ中央に位置しており、戦略的に重要
なポジションにあるのです。台湾の戦略地政学的な意味について
人民解放軍の彭光謙少将は次のように述べています。
─────────────────────────────
 仮に台湾が本土から切り離されるようなことになれば、中国は
永久に、西太平洋の第一列島線以西に閉じ込められてしまう。そ
うなれば、中国復活のために戦略上欠くべからざる空間が失われ
てしまう。    ────ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 第2次世界大戦において、フィリピンを防衛していたダグラス
・マッカーサーが屈辱的な撤退をした原因は、台湾から次々と発
進し間断なく攻撃してくる日本軍の飛行中隊だったのです。その
とき、マッカーサーは「台湾は日本の不沈空母である」といった
といわれています。
 「3」のイデオロギーとは何でしょうか。
 台湾は、中国から見れば「離反した省」ですが、民主主義国家
として成功しています。中国とはイデオロギーが違うのです。ピ
ーター・ナヴァロ氏は、台湾の民主主義は1949年に中華民国
総統の蒋介石と国民党支持者らが台湾入りし、その数十年の統治
のときにもたらされたものではないと強調しています。そのとき
は毛沢東率いる大陸中国と変わるものではなかったのです。
 しかし、台湾はその後民主主義国家として生まれ変わったので
す。1996年の初めての民主的な総統選挙が行われた結果、活
発な民主主義が正しく機能しているのです。中国的なものから離
れてはじめて国力が増したのです。まさにイデオロギーの差であ
るといえます。      ──[米中戦争の可能性/054]

≪画像および関連情報≫
 ●台湾は中国とどう付き合っていくのか/2016.1.30
  ───────────────────────────
   8年にわたる雌伏の時を経ての圧勝だった。1月16日に
  実施された台湾の総統選挙において、最大野党・民主進歩党
  (民進党)の蔡英文主席が、対立する与党・中国国民党(国
  民党)の朱立倫主席に、300万票の大差をつけて勝利。8
  年ぶりの政権交代へとこぎ着けた。
   同日に実施された定数113の立法院(国会)選挙でも、
  民進党が68議席と過半数を獲得した一方、国民党は35議
  席とほぼ半減。民進党が立法院で過半数を制するのは初めて
  のことだ。蔡氏は、就任する5月20日に、安定政権として
  出発できる。
   今回の選挙ではっきりしたのは、「“一つの中国”には反
  対だという民意」(民進党関係者)だ。中国との関係を強化
  し、経済浮揚につなげようとした現在の馬英九政権に、台湾
  人民は「ノー」を突き付けた。とはいえ、蔡氏が馬総統を超
  えるほどの有効な経済政策を打ち出せるかは、現段階では、
  はっきりしない。
   台湾にとって中国は最大の貿易相手国。特に輸出依存度は
  30%程度にも達している。実は、民進党の陳水扁政権時代
  から、対中輸出は増加傾向にあった。そして、馬政権時代の
  2010年、中国とのFTA(自由貿易協定)となる「EC
  FA」(両岸経済協力枠組み協定)を締結、中台はさらに結
  び付きを強めた。         http://bit.ly/2mdFmk9
  ───────────────────────────

蔡英文台湾総統.jpg
蔡英文台湾総統
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2017年03月23日

●「アジア太平洋の戦略的拠点/台湾」(EJ第4485号)

 ティラーソン米国務長官のアジア歴訪──日本には2日滞在し
岸田外相や安倍首相と会談するなど時間をかけたのに対し、韓国
ではユン・ビョンセ外相との会談と外相主催の夕食会には出席し
たものの、他の閣僚とは会わずに部屋にこもっています。
 次の日、ティラーソン国務長官は中国を訪問し、王毅外相と会
談、その場で王毅外相にトランプ政権の北朝鮮政策をぶつけてい
ます。米中の安保の溝は鮮明です。ティラーソン国務長官の発言
のポイントは3つです。
─────────────────────────────
 1.歴代米政権の対北朝鮮政策を変更し、米軍が北朝鮮の核
   関連施設を先制攻撃する軍事手段を否定しない。
 2.北朝鮮の後ろ楯である中国は、食糧や燃料を輸出するな
   ど、実質的に北朝鮮をここまで支えてきている。
 3.そのため中国主導のこれまでの6者協議は「何の成果を
   出していない」ので一層の中国の貢献を求める。
─────────────────────────────
 もし、4月末までの米韓合同軍事演習中にもし北朝鮮が何かの
アクションを起こすと、米軍が動く可能性は本当にあり、緊張が
高まっています。
 トランプ大統領は、電話会談では「ひとつの中国」は認めたも
のの、本音は「そんなもの認めない」という姿勢です。台湾につ
いての米国の立場は「現状維持」です。なぜなら、台湾は米国に
とっても地政学上重要なポジションを占めているからです。
 ヘリテージ財団のディーン・チェン氏は、これについて次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 台湾は、日本本土と沖縄以外では、第一列島線上で第二の非常
に発展した部分である。だから、台湾から立ち去ることはある意
味、中国海軍に、他の障害物にほとんど邪魔されることなく太平
洋に出て行ける門を開いてやることと同じだ。
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 アジア太平洋地域における米国の軍事体制の確立には次の3つ
の条件が必要です。米国はこれらの3つの条件を現状一応クリア
しています。
─────────────────────────────
    1.第1列島線に位置する国々との同盟強化
    2.第1列島線上の島々に米軍事基地を設置
    3.第1列島線の最重要部分である台湾防衛
─────────────────────────────
 このように考えると、台湾は米国にとって「一つの中国」の原
則はあるものの、戦略地政学上、絶対に中国に帰属させてはなら
ないアジアの最重要拠点であるといえます。その重要性について
アメリカ海軍大学校教授のトシ・ヨシハラ氏は次のように述べて
います。
─────────────────────────────
 平和的な方法によってにせよ、武カによってにせよ、中国が台
湾を併合するようなことになれば、中国は第1列島線を半分に切
断できることになる。これは、本質的に、アジア太平洋地域にお
けるアメリカ軍の最前線を分断することと同じである。これは、
第二次大戦終結以来の、アジア太平洋地域におけるアメリカの軍
事態勢史上、前代未聞の事態である。
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 今まで、米国は中国と台湾について3回話し合っています。ニ
クソン政権の1972年、カーター政権の1979年、そしてレ
ーガン政権の1982年です。そして、1979年4月10日に
米国の国内法として台湾関係法が制定されています。これは事実
上の米国と台湾の軍事同盟ということができます。その結果、次
の2つのことが確認されているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.中国は1つであり、台湾は別の国ではない
    2.台湾に対する中国の主権はこれを認めない
―――――――――――――――――――――――――――――
 わかったようなわからない確認事項です。つまり、台湾はきわ
めて中途半端なポジションに置かれているのです。しかし、これ
ら2つの取り決めのウラには、米国の次の強い意思が働いていま
す。つまり、米国は台湾と次の約束をしているのです。これが米
国の台湾に対する基本政策です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、中国が台湾に対して武力行使をすれば、米国は軍事力を
もって台湾を防衛する。
 1979年以前の(かつて中華民国として認識していた)台湾
とアメリカ合衆国との間のすべての条約、外交上の協定を維持す
る。             ──「台湾関係法」(根拠法)
─────────────────────────────
 その後現代まで米国と台湾との関係は、表面上は変わっていな
いものの、2000年以降のジョージ・W・ブッシュ(子)大統
領とオバマ大統領の16年間で米国と台湾の関係はかなり後退し
たといえます。
 それはこの間に中国の経済が大きく成長し、軍事的脅威も増大
したことです。そのため、「米国経済は中国との貿易に大きく依
存しており、中国と事を荒立てたくない」という政治的事情が介
在しています。それに米国の軍事費の削減によって、アジアでの
米国のプレゼンスが相対的に弱くなっていることが原因です。
 しかし、2016年に8年ぶりに台湾では、中国と距離を置く
民進党政権が誕生し、トランプ米大統領の「ひとつの中国にこだ
わらない」という発言が飛び出したことで、米中間に緊張が走っ
ています。        ──[米中戦争の可能性/055]

≪画像および関連情報≫
 ●日本版「台湾関係法」の制定を/あるネット評論
  ───────────────────────────
   日本人以上に、日本人の心を持った方(金美鈴氏)でもあ
  りますが、櫻井よしこさんとの対談は、見ごたえのあるもの
  でした。今、中国に操られた翁長沖縄知事のお蔭で、大揺れ
  の沖縄ですが、その沖縄のすぐ南が「台湾」です。
   台湾は、日本のすぐ傍にありながら、隣国の韓国や中国に
  比べて、あまり日本人は関心を持っていないように思うので
  すが、人口が約2,300万人の台湾から「東日本大震災」
  のときに、莫大な寄付金が寄せられたことで、その存在が見
  直されるようになりました。
   僕も、学校教育では台湾は中国共産党に敗れた中国国民党
  が逃げてきた場所くらいしか習わなかったように思います。
  それ以前の、日本統治時代のことや、戦後の台湾の歩みなど
  殆ど教えられた記憶もありません。ただ、現在の中華人民共
  和国が、国として認められ、日本もアメリカも韓国も中共と
  国交を樹立した際に、台湾と断交したと言うことは、中学時
  代に、うっすらと習った記憶があります。
   しかし、韓国や中国の実態を知り始めてから、僕の台湾に
  対する見方も、かなり変わってきました。そう言えば、僕が
  いつも買っているDVD−R、DVD−RWなどは台湾製が
  多いよなあ、横目で机上にある電卓を見てみたら、これも台
  湾製だ。知らないうちに、台湾のものを買っているんだなあ
  と、不思議な感じもしました。  http://amba.to/2nRlY8R
  ───────────────────────────

第1列島線.jpg
第1列島線
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2017年03月24日

●「米は金正恩斬首作戦を実行するか」(EJ第4486号)

 3月17日付のEJ第4482号で指摘したように、トランプ
政権が4月末まで続く米韓合同軍事演習の間に北朝鮮を限定攻撃
する可能性があります。これについてさらに新しい情報が入って
きているので、緊急特集してお届けします。
 朝鮮半島有事をめぐっては、在韓米軍はどう動くべきかについ
て、複数のシミュレーションが存在します。これに関する4つの
コードとその簡単な説明です。
─────────────────────────────
  5027:北朝鮮が韓国に侵攻した状況に対応する対応
  5029:クーデターや革命などが起こったさいの対応
  5030:必要物資を枯渇させて政変を起こさせる対応
  5015:北朝鮮の核・ミサイル基地への先制限定攻撃
─────────────────────────────
 このうち5015は、2015年6月に策定されています。そ
の内容について、ジャーナリストの山口敬之氏は、『週刊文春』
3月30日号で、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 これは(5015)は、最新兵器の特性を活用した核・ミサイ
ル基地への先制攻撃や指導部の排除も含まれる作戦だ。軍事施設
を徹底的に破壊するため、攻撃対象は700ヵ所に上り、いずれ
も基本的に壊滅させることが求められている。ミサイルや特殊爆
薬で爆撃しては、攻撃の成果を偵察機で検証し、必要ならば再攻
撃を仕掛ける。攻撃完了には数週間から数ヶ月からかかると見ら
れる。          ──『週刊文春』3月30日号より
─────────────────────────────
 現在、トランプ米政権が北朝鮮に対処しようとしているのは、
限定攻撃といわれていますが、5015ではないのです。作戦の
目的は、5015の目的である北朝鮮の核・ミサイル基地への限
定攻撃ではなく、金正恩委員長の「司令部システム」への限定攻
撃です。したがって、攻撃対象は5015でいう700ヵ所では
なく、20〜40ヵ所に過ぎないのです。司令部システムへの限
定攻撃で狙うのは、あくまで金正恩委員長自身であり、いわゆる
「金正恩斬首」なのです。金委員長による「核による断末魔の反
撃」を抑えることを目的にするものです。
 米国が「斬首作戦」を展開するのは、オサマ・ビン・ラディン
を処刑したさいのオペレーションと同じです。現在、米韓合同軍
事演習で、そのときの特殊部隊要員はすべて米空母カールビンソ
ンに乗船して韓国周辺にやってきていることは、EJ第4482
号で既に述べた通りです。
 トランプ米大統領が「金正恩斬首作戦」にこだわっている証拠
といえるものがあります。それは、民主党のラッセル国務次官補
を3月8日まで続投させたことです。ラッセル氏は、30年以上
の経験を持つ職業外交官で、日韓両国で勤務した経験を持つアジ
アのスペシャリストです。
 オバマ大統領はオバマ政権時代の幹部を根こそぎ解任していま
すが、ラッセル国務次官補だけは留任させたのです。それはラッ
セル国務次官補が「金正恩斬首作戦」の考案者だからなのです。
ラッセル氏は、2016年10月に安全保障記者を前に次のよう
な衝撃的な発言をしています。
─────────────────────────────
 金正恩は核攻撃能力を強化するだろうが、そうすれば金正恩
 は即死する。          ──ラッセル国務次官補
─────────────────────────────
 「即死」という言葉は、非常に強い響きを持っています。昨年
10月の時点でラッセル国務次官補がこの発言をしていることは
オバマ政権のときから「金正恩斬首作戦」が周到に練られていた
ことを物語っています。そのラッセル氏も3月8日にはひっそり
と退任しています。これは、彼がいなくても作戦を実行できる体
制が国務省にできたことを意味します。
 ここで重要なのは、「金正恩斬首作戦」は北朝鮮という国を崩
壊させるのではなく、トップの首をすげ替えることを意味してい
ることです。つまり、別のトップを用意する必要があります。こ
のトップに最もふさわしい人物は金正男氏以外いないのです。
 北朝鮮も米国が金生恩委員長の暗殺を企てていることは当然わ
かっています。そのため北朝鮮は、米国の動きを注視し、その動
きに合わせていちいち反応しています。
 日米首脳会談が行われたのは今年の2月のことですが、それを
狙うように、北朝鮮は、移動車両から弾道ミサイルを発射して牽
制しています。そして、安倍首相が帰国の途についた頃に、金正
男氏がマレーシアでVXガスで暗殺されたのです。金正恩委員長
は、自分に代わり、北朝鮮のトップの座につく可能性の高い金正
男氏を暗殺したのです。
 3月1日に米韓合同軍事演習が始まると、それを牽制するかの
ように、北朝鮮は3月6日に弾道ミサイル4発を同時に打ち上げ
ています。そして3発のミサイルが日本のEEZ(排他的経済水
域)に落下したのです。軍事専門家の分析によると、長崎県の米
海軍佐世保基地と、山口県の米海兵隊岩国基地が標的だったので
はないかとされています。
 そして3月15日から19日まで、ティラーソン国務長官は日
本、韓国、中国の3ヶ国を訪問します。これは、作戦が実行され
る可能性があることを伝える歴訪であったと思われます。このテ
ィラーソン国務長官をサポートするためか、3月17日にトラン
プ大統領は、北朝鮮について次のツイートを発信しています。
─────────────────────────────
 北朝鮮の行動は非常に悪い。アメリカを長年愚弄し続けた。
 中国は事態を放置してきた。     ──トランプ大統領
─────────────────────────────
 そうすると、北朝鮮は19日に弾道ミサイル推進エンジンの燃
焼実験を公開して米国を牽制したのです。非常にきわどい火遊び
であるといえます。    ──[米中戦争の可能性/056]

≪画像および関連情報≫
 ●“新”正恩氏斬首作戦 トランプ氏「最終決断」秒読み
  ───────────────────────────
   北朝鮮情勢が緊迫している。金正恩(キム・ジョンウン)
  朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏
  殺害事件などを受け、ドナルド・トランプ米大統領が最終決
  断を迫られているのだ。「兄殺し」もいとわない狂気のリー
  ダーに、核・化学兵器搭載可能な大陸間弾道ミサイル(IC
  BM)を握らせれば世界の平和と安定が脅かされかねない。
  ジャーナリスト、加賀孝英氏の独走リポート。
   「あいつ(正恩氏)は異常だ!テロリストだ!トランプ大
  統領は、そう吐き捨てたようだ」。旧知の米情報当局関係者
  はそう語った。
   驚かないでいただきたい。朝鮮半島有事が秒読みで迫って
  いる。米国は、国連安保理決議を無視した新型中距離弾道ミ
  サイルの発射(12日)や、猛毒の神経剤VXを使用したマ
  レーシアでの残忍な正男氏殺害事件(13日)を受け、新た
  な「作戦計画=正恩氏斬首作戦」を準備した。米国はこれま
  で、北朝鮮に対して「作戦計画5015」を用意してきた。
  どこが違うのか。米軍関係者が明かす。「5015は、北朝
  鮮の核・軍事施設など約700カ所をピンポイント爆撃し、
  同時に、米海軍特殊部隊(ネービーシールズ)などが正恩氏
  を強襲・排除する。新作戦計画は、特殊部隊の単独作戦だ。
  国際テロ組織『アルカーイダ』の最高指導者、ウサマ・ビン
  ラーディン殺害時と同じだ」。   http://bit.ly/2m8PEB7
  ───────────────────────────

北朝鮮によるミサイルエンジン燃焼実験成功.jpg
北朝鮮によるミサイルエンジン燃焼実験成功
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2017年03月27日

●「米軍は斬首作戦をいつ実行するか」(EJ第4487号)

 金正恩委員長の斬首作戦──この作戦の実施のハードルは非常
に高い。そのため、この作戦はオバマ政権時の昨年秋から対北朝
鮮作戦のひとつとして、着々と準備が進められてきたのです。し
たがって、トランプ政権になって急に浮上したわけではないので
す。オバマ政権では、絶対に実施できなかった作戦ですが、軍部
は独自に準備を進めてきたといえます。そのため、斬首作戦の高
いハードルが、少しずつ下がってきているのです。そのハードル
を下げた出来事とは次の4つです。
─────────────────────────────
      1.在韓米軍の緊急避難訓練の実施
      2.日韓でのGSOMIA締結発効
      3.韓国でのTHAAD前倒し配備
      4.特殊部隊による特殊訓練の実施
─────────────────────────────
 「1」は、「在韓米軍の緊急避難訓練の実施」です。
 2016年10月末のことです。米大統領選の直前です。在韓
米軍が韓国を脱出して沖縄に避難する訓練を行っています。これ
は、朝鮮半島有事のさい、北朝鮮軍が38度戦を越えて南進して
きた場合の対応訓練です。この時期にこのような訓練を行うとい
うことは、そのリスクが高いということを意味しています。
 「2」は、「日韓でのGSOMIA締結発効」です。
 2016年12月には、米国の後押しもあって日韓でGSOM
IA(秘密軍事情報保護協定)が締結し、即日発効したのです。
これによって、日韓で秘密情報が直接やり取りできるようになり
朝鮮半島有事のさい、即応性がとれるようになったのです。
 「3」は、「韓国でのTHAAD前倒し配備」です。
 続いて韓国のTHAAD(高高度ミサイル迎撃システム)配備
の大幅前倒しです。本来は、2017年夏頃の配備が予定されて
いたのですが、朴大統領の弾劾が可決されたことによって、大幅
にTHAAD配備が前倒しされ、大統領選前の4月にも実戦配備
される予定になっています。
 「4」は、「特殊部隊による特殊訓練の実施」です。
 斬首作戦は、目指す相手がどこにいるかを突きとめる必要があ
ります。官邸中枢の情報によると、米軍は既に金正恩委員長の居
場所を突きとめており、特殊部隊はそのための訓練を積んでいる
といわれます。官邸中枢は金委員長の居場所での訓練について次
のように述べています。
─────────────────────────────
 米軍による攻撃を警戒している金正恩は、地下150メートル
程度の地下居宅など複数の強固に防護された施設を転々としてい
るようだ。米軍は、その所在をキャッチしたうえで、“隠れ家”
そっくりの施設をつくり、特殊部隊による突入訓練を繰り返して
いた。          ──『週刊文春』3月30日号より
─────────────────────────────
 米国防総省は、大統領の意向に関わらず、独自に動ける範囲が
大きいのです。オバマ政権では、大統領と国防長官の意見が対立
し、何人もの防衛長官が辞任していますが、防衛長官としてはや
るべきことはやっているのです。上記の斬首作戦への対応がそれ
を示しています。
 国防総省としては、次の大統領がクリントン氏になっても、ト
ランプ氏になっても、オバマ政権の対北朝鮮政策である「戦略的
忍耐」は変更になると考えていたのです。したがって、大統領選
挙前から上記のようなやるべき手を打っていたのです。まして、
オバマ政権を引き継ぐといっていたクリントン氏ではなく、北朝
鮮に厳しいトランプ氏が大統領になったので、国防総省の対応は
正解だったといえます。
 それなら、斬首作戦はいつ実施されるのでしょうか。
 それは北朝鮮の出方によって、いつ実施されてもおかしくはな
いのです。その最大の原因は、朴大統領の弾劾罷免にあるといえ
ます。韓国大統領選挙は、4月16日に告示され、5月9日に投
開票されることになっています。
 韓国の大統領選挙では、有力な保守系候補がおらず、最大野党
「共に民主党」の文在寅前代表が既に多くの支持を集めており、
革新系の大統領が誕生する可能性があります。文在寅大統領が誕
生すると、親北親中反日政権ができることは確実です。文在寅氏
について、「ニュースポスト・セブン」のサイトの室谷克実氏の
記事を引用します。
─────────────────────────────
 文在寅は「従北・親中」と称されることが多いが、実態は「従
中・親北」だ。新政権は中国との関係を最優先する政策に方針転
換し、中国が設置に猛反対する「高高度ミサイル防衛体系(TH
AAD)」の配備延期や「日韓軍事情報包括保護協定(GSOM
IA)」の破棄を主張するはずだ。
 北朝鮮と意を通じ、中国という後ろ盾を得て強気になった韓国
は、かねて領土であると主張する対馬の“奪還”に向かう可能性
がある。具体的な手段としては、対馬の警察力の弱さにつけ込み
新政権の意向を汲んだ大量の韓国人観光客が対馬に上陸し、「こ
こは我々の島だ」と一方的に領有権を宣言して攪乱。その後もあ
の手この手で揺さぶりをかけてくると考えられる。竹島周辺では
韓国海洋警察の艦船が日本の海洋調査船などにわざと衝突して撃
沈する可能性がある。         http://bit.ly/2n0SILS
─────────────────────────────
 文在寅氏は、つねづね「アメリカにものがいえる韓国になるべ
きである」といっています。米国がこだわるTHAAD配備にも
GSOMIAにも反対であるので、親中反米になります。
 しかし、文在寅氏が大統領になる前、米韓軍事演習が終わる前
に斬首作戦が実行されたらどうなるでしょうか。それは大統領選
挙結果にも、その後の韓国のあり方にも重大な影響を与えること
は確実です。斬首作戦は明日行われても不思議はないのです。
             ──[米中戦争の可能性/057]

≪画像および関連情報≫
 ●日本に災厄をもたらす次期大統領最有力「文在寅」の正体
  ───────────────────────────
   朴槿恵が弾劾訴追されたのは、朝鮮日報、東亜日報、中央
  日報という韓国の保守系新聞が誤報を繰り返しながらも、左
  派と同じトーンで朴槿恵叩きをやったことが一番の原因じゃ
  ないでしょうか。
   今回、北朝鮮が朴槿恵の罷免決定から1日もたたないうち
  に北朝鮮が速報を流しました。昨年10月以降、韓国のマス
  コミが大々的に「崔順実スキャンダル」を報道し始めてから
  北朝鮮のメディアは継続して朴槿恵を弾劾すべきだ、逮捕す
  べきだと発信し、韓国のマスコミはよくやっていると書いて
  いたんです。
   朴槿恵退陣のデモを主催した団体の主体は、親北の左派で
  す。その中心勢力は民労総(全国民主労働組合総連盟)とい
  う極左の労働組合。国家保安法の反対やTHAAD配置の反
  対、北朝鮮と連邦制で統一すべきだと掲げ、デモをやってき
  た組織です。
   一昨年には火炎瓶を投げたり、鉄パイプを振り回したり、
  過激なデモをやっていて、国民の支持はあまり得られなかっ
  たけど、今回は10月に保守系の新聞が大規模なキャンペー
  ンをやったために、朴槿恵弾劾というスローガンに変え、暴
  力的な行動を謹んだ。       http://bit.ly/2ngk0jh
  ───────────────────────────

文在寅氏/次期韓国大統領候補.jpg
文在寅氏/次期韓国大統領候補
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2017年03月28日

●「朴大統領の弾劾は憲法違反である」(EJ第4488号)

 韓国が大変なことになっています。5月9日の大統領選の投開
票の結果によっては、民主主義国家である韓国が消滅してしまう
可能性があるからです。
 日本でテレビ報道を見ると、朴大統領の不祥事をめぐり、市民
による大規模な大統領反対デモが連日のように起こり、その影響
というか勢いによって国会は拙速に大統領の弾劾訴追を決めてい
ます。弾劾訴追の可否を裁く憲法裁判所も、世論の動向を無視で
きず、朴大統領の弾劾は妥当であるとの判断を下したのです。
 しかし、西岡力麗澤大学客員教授によると、デモに関してはか
なり状況が異なるのです。確かに昨年12月のはじめまでは、左
派のロウソクデモの参加者の方が多く、その勢いで、弾劾訴追が
決まっています。左派は「民労総」という過激な労働組合が強力
な組織動員を掛けています。そこに北朝鮮の勢力が加わって、大
規模なデモになっています。日本の大使館や領事館に少女像を置
く運動をしているのもそういう連中です。
 しかし、1月の最初の土曜日からは、保守派の太極旗デモが動
員で左派デモを逆転しているのです。この保守派のデモこそ、子
供も含むごく普通の一般市民たちのデモであり、左派のデモの人
数を圧倒するようになったのです。そうすると、左派が警察に圧
力をかけて、「デモ参加者数を警察発表するな」と要求し、それ
によって警察発表はなくなっています。これによって、どちらの
デモだかわからなくなっています。
 問題はそれを報道するテレビ局が、左派のデモも朴支持派のデ
モも一緒にして「名誉革命」と煽って、報道していることです。
このように、テレビも左派勢力に加担したフシがあります。だか
ら、朴氏の罷免が決まったとたん、朴大統領支持派の存在が急に
目立つようになったのです。目標を達成した左派はデモの動員を
やめたからです。「朴さんを支持する勢力もあったんだ」と、は
じめてわかった人も多かったと思います。
 このような状況ですから、今回の韓国の政変は、親北勢力によ
る周到な朴政権潰しの疑いが濃厚です。発端になったタブレット
PCの発見からして、真実であるかどうは疑わしいのです。これ
は「JTBC」というケーブルテレビ局が関わっているのですが
このタブレットPCの入手が極めて疑わしいのです。この疑惑に
ついては、いずれ情報を集めて、EJのテーマとして取り上げた
いと思います。
 日本は大統領制ではありませんが、日本には内閣不信任制度が
あり、これが成立すると、総理大臣は総辞職するか、国会を解散
します。しかし、韓国には国会解散権がないのです。大統領は国
民から直接選ばれているので、政治責任を負えないのです。
 そこで、国会にできるのは、憲法裁判所へ訴追案を出すことだ
けです。本来、訴追案は、重大な憲法違反か法律違反があったと
きに限られるのです。国会は通常の検察の役割をし、3分の2以
上の賛成で起訴状の代わりに憲法裁判所に訴追案を出すのです。
 今回のケースは、大統領の犯罪ということなので、国会が特別
検察を任命したのですが、ろくに捜査をしないで、弾劾訴追状を
憲法裁判所に提出しています。
 その弾劾訴追状がひどいのです。証拠として挙げられているの
は、崔順実(チェ・スンシル)に対する検察の起訴状と新聞のス
クラップだけです。そこには、弾劾の理由として、100万人の
国民が弾劾を求めるデモを行ったことを上げ、これ以上大統領の
職責を遂行するなという国民の意思は明らかであると書かれてい
ます。証拠を何ら示すことなく、デモの大きさを弾劾の理由にし
ているのです。
 しかもこの100万人という数は主催者の左派労組などが一方
的に発表した数字であり、警察発表では約30万人に過ぎないの
です。その他の訴追理由として、セウォル号沈没事故のさいの空
白の7時間も添えられていますが、これは崔順実問題とは何の関
係もないことです。こういういい加減な訴追状を国会で3分の2
以上の賛成で、憲法裁判所に提出しているのです。
 その憲法裁判所もおかしなことをしています。争点整理という
名の下で、審理に入る前に「弾劾訴追の議決手続きは国会の自律
権に属するので、その瑕疵に関しては争点として取り上げない」
という決定をしているのです。こうなると、韓国はとても法治国
家とはいえないと思います。しかも憲法裁判所は一審制であり、
ここで出た判決で決まってしまうのです。韓国のまともな弁護士
は、弾劾そのものが憲法違反だといっています。
 このように韓国は、既に親北の左翼勢力に乗っ取られているよ
うです。一種の革命が起きているのです。今後何が起きるか予測
できない状況になっています。政治的な内戦が起きる可能性もあ
ります。西岡力氏は、今後の韓国の運命について、次のように最
悪のシナリオを書いています。十分起こり得ることですが、もし
その前に米軍が北の斬首作戦に踏み切ると、韓国の国内情勢は一
変する可能性があります。
─────────────────────────────
 まず5月、文在寅か他の左派候補が大統領に当選。6月に平壌
を訪問して金正恩と会談し、連邦制統一実現で合意し、米軍撤退
を要求。韓国内では保守派が連邦制統一に反対する大規模デモを
行い、大続領官邸を取り囲む。警官と衝突、あるいは左派の連邦
制統一賛成デモと衝突して流血事態となり、警察や軍が保守派の
デモを鎮圧にあたる。軍の一部が反乱して、保守デモを守るかも
しれない。
 その後、保守デモが鎮圧され、連邦制の是非を問う国民投票実
施、連邦制を多数が支持すれば、米軍は撤退せざるを得ない。金
正恩主導で連邦制統一が行われ、釜山や竹島に日本を敵として想
定したミサイル基地、レーダー基地ができる。
    「朝鮮半島最悪のシナリオ」/櫻井よしこ/西岡力対談
               ──Hanada/5月爽快号
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/058]

≪画像および関連情報≫
 ●朴氏失脚で韓国左派政権誕生の最悪シナリオ
  ───────────────────────────
   今年は韓国に親北政権が誕生し、韓国が衰退に向かう可能
  性が高く、朝鮮半島をめぐる安全保障が激動の時代を迎えそ
  うだ。これは、韓国の保守与党が、国民から見放されたため
  だ。ソウル大研究所の最近の調査では保守与党「セヌリ党」
  の支持率は、30.3%から9.2%に急落した。保守勢力
  は、与党セヌリ党を解散して、党名を変え新たな保守政党を
  発足させないと、大統領選勝利は難しい。
   野党指導者たちは、日韓の慰安婦合意破棄を主張し、米軍
  のTHAAD(高高度防衛ミサイル)韓国配備にも、反対し
  ている。強硬な対北制裁にも、批判的だ。親北野党からの大
  統領誕生で、日米韓の安保協力は難しくなり、米韓同盟も弱
  体化する。拉致問題解決にも、協力しなくなる。
   韓国は、政党が大統領を作り出すのでなく、大統領が政党
  を創出する政治だ。与党セヌリ党は、朴槿恵大統領当選後に
  ハンナラ党から改名した。盧武鉉大統領は、ウリ党を創設し
  た。また「風の政治」とも言われる。およそ3カ月で、世論
  と政治の「風向き」が変わる。韓国政治は風が吹くと、一斉
  に同じ方向に走り出し、少数反対意見は抹殺されかねない。
  儒教文化による「大衆全体主義」の性向だ。韓国政治の底流
  には、親北左翼と保守勢力の長い対立がある。政治は、儒教
  的価値で動かされる。「正統性」と「大義名分」である。左
  翼は、「正統性は、日本帝国主義と戦闘した北朝鮮にある」
  との主張で、若者を引きつけた。  http://bit.ly/2mBPR0P
  ───────────────────────────

韓国のローソクデモ.jpg
韓国のローソクデモ
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2017年03月29日

●「『国民抵抗権』というものがある」(EJ第4498号)

 2017年5月9日の韓国大統領選の結果いかんでは、韓国が
赤化されようとしています。懸念されることは、それによって、
内戦が発生しかねないということです。
 韓国には「国民抵抗権」というものがあるそうです。西岡力氏
はこれについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 弾劾決定は憲法違反として、従北左派政権を阻止するため(弾
劾反対を訴えている)太極旗デモのリーダーたちは、「国民抵抗
権」を発動すると主張している。
 国民抵抗権とは、「政府が体制を揺るがすような政策を取った
場合、国民が街頭に出て、政権を倒すための行動をすることは、
法的に有効である」という考え方である。    ──西岡力氏
                   http://bit.ly/2nV8mNV
─────────────────────────────
 韓国の憲法には「3・1運動」と「4・19学生革命」が明記
されています。「3・1運動」は、1919年3月1日に、日本
統治時代における朝鮮で起こった日本からの独立運動のことであ
り、「4・19学生革命」は、この運動によって韓国大統領(初
代〜3代)の李承晩氏が辞任に追い込まれています。
 保守派は、今回の弾劾そのものが憲法違反であるといっていま
す。米国帰りでその保守派のリーダー的存在である金平佑弁護士
は「今回の弾劾裁判は憲法違反である」と主張しています。
 これに関して、MBC以外の地上波テレビ局全局と、保守を含
めた全新聞社が金平佑弁護士のことを「糖尿病の老人の妄言」と
切り捨てて聞く耳を持っていません。韓国では、国会、メディア
学校教育については左派が握っているのです。
 しかし、保守派には強い動員力があります。実際にユーチュー
ブでの金平佑弁護士の呼びかけに応じて大勢の人が保守派のデモ
に参加しています。西岡氏は、具体的にどのようにして、国民抵
抗権を示すかについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 保守派は、国民抵抗権を以て500万人を集めようと言ってい
ます。憲法裁判所、国会を囲み、憲法違反の訴追を可決した国会
を解散させようとしています。実際には、国会解散の手段は憲法
に書かれていませんが、国民抵抗権で解散させることは可能だと
解釈しています。
    「朝鮮半島最悪のシナリオ」/櫻井よしこ/西岡力対談
               ──Hanada/5月爽快号
─────────────────────────────
 韓国の最大の問題点は、韓国メディアが左派寄りの姿勢にある
ことです。2月に金正日の長男である金正男氏が殺害されました
が、このニュースを韓国国内では大きく報道していないのです。
どうしてでしょうか。
 同じ民族であり、自国に深い関係の深い北朝鮮の大ニュースで
あるにもかかわらず、その報道は日本に比べて非常に控えめなの
です。それは、韓国のメディアが報道を調節しているからです。
 本来このニュースは、親北朝鮮を標榜する左派の文在寅氏支持
の人たちにとっては、大きなショックであるはずです。なぜなら
金正恩委員長は、腹違いとはいえ血を分けた自分の兄を殺害した
のですから、儒教精神の強い韓国人にとっては衝撃のはずです。
 韓国では、常に年上の人を尊敬し、年長者を最大の師とするの
です。ですから、日本以上に目上の人に対する礼儀作法に厳しく
それは言葉遣いだけではなく、食事でのマナーやルール、立ち居
振る舞いにまで全て気を遣うのです。したがって、弟が兄を殺害
するなど絶対に許されることではないのです。
 左派の人たちは、朴槿恵勢力が、自ら陥っている危機から脱出
するために、意図的に北朝鮮のせいにしていると考えているよう
です。したがって、この事件は左派の人たちにはほとんど影響し
ていないと西岡力氏はいっています。
 もうひとつ、ネットを含めて日韓のメディアには大きな違いが
あります。その結果、日本人は韓国のさまざまなニュースに接す
る機会が多いにもかかわらず、韓国人は日本のニュースについて
それほど詳しく知らないという事情があるのです。
 これについて、世宗大学校教授の保坂祐二氏は、次のように指
摘しています。保坂祐二氏は1988年より韓国に在住し、20
03年に韓国に帰化した日系韓国人です。
─────────────────────────────
 日本のマスコミはチェ・スンシル事件を見ても、とても速く報
道している。ところで、日本の最大のポータルサイトであるヤフ
ージャパンでは、日本のマスコミ報道だけでなく、韓国マスコミ
の日本語版報道も簡単に接することができる。連合ニュース、朝
鮮日報、中央日報、東亜日報、ハンギョレ新聞などがその主役た
ちだ。これらマスコミ社の日本語版は韓国内のニュースを日本に
迅速に配達するという長所と共に大きな短所も持っている。
 例えば、韓国国民用に使った韓国を格下げするような記事やコ
ラムも日本に多く流れていく。韓国を裸にして、その弱みまでも
全て他の国に見せているわけだ。(中略)
 一方、日本のメディアには、韓国語版が全くない。したがって
韓国人たちは、日本国内の情報に直接接することが難しい。結果
的に韓国人と日本人の間に情報量ですでに大きな違いが生じてい
る。日本人たちは韓国についてよく知っているが、韓国人たちは
日本についてほとんど知らない状況は既に昔からである。このよ
うに深刻な情報の不均衡は結局、国家的にも社会的損失につなが
るという事実を知るべきことだ。 ──保坂祐二世宗大学校教授
─────────────────────────────
 これは重要な情報です。例えば、日本の大使館や領事館前に慰
安婦像を設置したことに、日本が怒っていることは知っていても
その怒りがどれほど激しいものであるかについては、韓国の人は
十分伝わっていないのです。情報が不足しているからです。
             ──[米中戦争の可能性/059]

≪画像および関連情報≫
 ●流動化「韓国情勢」の先にある懸念
  ───────────────────────────
   与党セヌリ党の朴大統領の失脚は、当然ながら、野党勢力
  の伸長を促し、今後、多くの韓国ウォッチャーが懸念する通
  り、韓国の急速な“左傾化”が憂慮されている。言いかえれ
  ば、北朝鮮勢力との接近である。今回の反朴デモにも、多く
  の北朝鮮工作員がかかわっているのは自明だが、私が思い起
  こすのは、あの金大中時代から盧武鉉時代(1998年〜2
  008年)のことである。
   韓国が、10年の長きにわたって続いたあの「太陽政策」
  の失敗を、再び繰り返さない保証はどこにもない。それは極
  端な見方かもしれないが、韓国に「軍事クーデター」さえ呼
  び起こしかねない“不安定な政治状況”をもたらすだろう。
  核弾頭の小型化に向けて、急ピッチの研究開発がつづく北朝
  鮮。果たして韓国はアメリカの「THAADミサイル(終末
  高高度防衛ミサイル)」導入が、激しい中国の反発を生んで
  いる中で、“ポスト朴”政権が誕生しても、腰砕けせずに、
  この導入方針を「維持」できるのか、予測がつかない。
   おまけに、アメリカには、さらに先行き「不透明」なトラ
  ンプ政権が誕生し、朝鮮半島をめぐる米・中の綱引きがどう
  展開するのかもわからない。日本の尖閣支配に対して、中国
  国家海洋局海監東海総隊が「日本の実効支配打破を目的とし
  た定期巡視」をおこない始めて、丸4年。いつ、どのタイミ
  ングで、尖閣に中国の武装漁民が上陸し、それを守るために
  中国の4000トン級の新型多機能海洋法執行船がどう出る
  のかも予断を許さない。      http://bit.ly/2n6hKtW
  ───────────────────────────

西岡力麗澤大学客員教授.jpg
西岡力麗澤大学客員教授
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2017年03月30日

●「斬首作戦の準備は既に整っている」(EJ第4490号)

 「金正恩斬首作戦」は、オバマ政権時代の2016年の秋頃か
ら米軍として判断し、そのための必要なステップをひとつずつ、
着実に進めてきたのです。このことは、27日のEJ第4487
号で述べた通りです。
 この斬首作戦は、昨年8月頃に大統領候補者(クリントン/ト
ランプ両氏)に対して行われる「インテリジェンス・ブリーフィ
ング」で伝えられたか、大統領当選直後にトランプ氏に伝えられ
たものと思われます。もっとも8月の時点では、トランプ氏はあ
まり信用されていなかったので、当選直後に伝えられた可能性が
高いと思われます。
 トランプ氏は大統領に当選するやオバマ大統領によって任命さ
れたすべての閣僚、次官、次官補といった政府の幹部に根こそぎ
クビを通告しています。しかし、既に述べているように、国務省
のダニエル・ラッセル次官補については留任させています。
 このラッセル次官補は、2016年12月に重要な任務を果た
すため、日韓両国を訪問しています。これについて、ジャーナリ
ストの山口敬之氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 例のラッセル次官補は、11月のトランプ大統領選出後に異例
の続投が決まった後、12月17日から日韓両国を訪問した。こ
こでの中心議題の一つが北朝鮮問題だったことがわかっている。
 そして、このラッセルの動きと相前後して、難航していたGS
OMIAが急転直下、合意・署名され、即日発効した。日韓関係
の悪化に伴った国民感情に配慮した韓国側が態度を急変させた背
景には、現実味を増す半島有事シナリオをアメリカに突き付けら
れた結果とみる関係者は少なくない。
 軍備に関わる動きはこれだけではない。配備国韓国のみならず
自国のミサイルシステムの有効性が毀損されるとして激しく抵抗
してきたTHAAD(高高度ミサイル迎撃システム)が、予定を
大幅に前倒しして韓国中部のゴルフ場に配備されることが決まっ
たのだ。 ──山口敬之氏/月刊WiLL/5月号(2017)
─────────────────────────────
 韓国のロッテ所有のゴルフ場にTHAAD配備の前倒し──こ
れに衝撃を受けたのは中国です。しかし、中国にはひとつの希望
があったのです。それは韓国の政変です。
 朴大統領の罷免で大統領選挙は5月9日になり、十中八九親北
親中の文在寅氏が5月に大統領になる。そうなれば、夏に予定さ
れているTHAAD配備にストップをかけ、その後、配備を撤回
する──このように中国は考えていたのです。
 しかし、トランプ政権は先手を打ったのです。米国は2016
年の秋から、韓国の政変の先を読んで、THAAD配備の前倒し
すなわち、大統領選挙の投開票日よりも早い4月中の実戦配備を
決めたからです。一度配備されてしまうと、たとえ親北政権がで
きても、撤去は非常に難しくなります。
 これに関する中国の怒りはすさまじかったのです。本来抗議は
米国にすべきなのに、怒りの矛先はTHAAD配備の土地提供を
決めたロッテに向けられたのです。相手が自分よりも強いところ
との衝突は回避し、弱いところを攻めるのが中国なのです。
 ロッテが土地の提供を決めた2月27日以降、ロッテの中国国
内の5つの百貨店と100以上あるロッテ系のスーパーにおいて
官民挙げての不買運動や嫌がらせがはじまったのです。
 翌日の28日には人民日報系の「環境時報」は、「ロッテを中
国市場から閉め出す」ことを堂々と主張し、中国最大の国営通信
社である「新華社通信」は「中国はロッテを歓迎しない」との論
説を発表しています。
 これら国営メディアの主張を受けて、中国のネットユーザーは
その日から猛烈に反応し、数万本のコメントを流しています。そ
のほとんどは「ロッテ死ね」「ロッテは中国から出て行け」「心
ある中国人よ、今日からロッテの商品を買うのをやめよう」「ロ
ッテを地獄に落とせ」などです。
 3月7日になると、特定の市のロッテのスーパーには、一斉に
地元の消防局によって検査が行われ、営業停止の処分が下された
のです。理由は「消防態勢の隠された不備」ですが、それはもち
ろん口実に決まっています。中国評論家の石平氏は、このロッテ
いじめは事実上の「禁韓令」そのものといっています。
 それにしても中国は、なぜそこまでTHAAD配備に反対なの
でしょうか。
 THAADとは、米国の開発した最新の弾道ミサイル防衛シス
テムです。THAADは、弾道ミサイルの終末段階(大気圏に再
突入してから地上に落下するまで)において、上空50キロから
150キロという高い位置でミサイルを破壊します。パトリオッ
トも同じですが、撃ち落とす位置が上空20キロから40キロと
いう非常に低い位置なのです。
 中国が嫌がっているのはTHAADに付いている「Xバンドレ
ーダー」の方です。このレーダーは500キロキロから1000
キロの探知距離があり、北朝鮮全域を探知範囲に設定することが
できます。PAC3だけの状態と比較すると、早い段階で、しか
も広範囲にわたって迎撃が可能になるので、ミサイルを打ち落と
せる確率が飛躍的に高まるのです。
 情報によると、最大で2000キロの探知も可能といわれてい
ます。レーダーを西に向ければ中国沿岸部も探知範囲に含めるこ
とができますし、中国としては、米国のいう北朝鮮対策というの
は名目で、事実上中国のミサイルを迎撃するものだとして警戒し
ているのです。韓国側は中国に届かないよう探知範囲を数100
キロに制限するといっているようですが、中国側は納得していな
いのです。
 斬首作戦の準備は、米軍側は既に整っている状況です。問題は
いつやるかどうかの判断にかかっています。これに北朝鮮は核実
験で応えようとしていますが、非常にリスクが高いといえます。
             ──[米中戦争の可能性/060]

≪画像および関連情報≫
 ●韓国配備のTHAADレーダーについて/軍事ブロガー
  ───────────────────────────
   韓国配備が決まった在韓アメリカ軍のTHAADですが、
  これに使われているXバンドレーダー「AN/TPY−2」
  は日本の青森県車力と京都府京丹後に配備されているXバン
  ドレーダーと同じものです。これらはデータリンクで繋がり
  お互いをカバーし合う事が出来ます。
   このレーダーは車載移動式で、左右には回転せず上下方向
  の角度調節機能があります。左右方向にはフェイズドアレイ
  方式で左右各60度、合計120度の捜査範囲があります。
  探知距離に付いては、詳細は不明ですが、射撃管制モードで
  500キロ以上、捜索モードで1000キロ以上の性能があ
  るとされています。
   このように日本海は日本配備のXバンドレーダーが大部分
  をカバーしているため、北朝鮮が日本海配備の潜水艦からS
  LBMをどの位置から発射しようと探知が可能です。京都の
  Xバンドレーダーで韓国配備のTHAAD迎撃ミサイルを管
  制し誘導することも可能であり(リモート射撃)、潜水艦の
  SLBMで奇襲攻撃する事は難しいと言えるでしょう。
   (追記:それならまず最初に日本配備のXバンドレーダー
  を破壊すればいい、という方法については、弾道ミサイルの
  命中精度では小さな目標は狙っても当たらないという問題が
  あるため、潜入させた特殊部隊による破壊工作といった手段
  が考えられます)。        http://bit.ly/2nYEtfy
  ───────────────────────────

THAADが運用するXバンドレーダー.jpg
THAADが運用するXバンドレーダー
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2017年03月31日

●「果してレッドラインを超えたのか」(EJ第4491号)

 2月23日のことです。トランプ大統領は、ロイター通信のイ
ンタビューで次のように話しています。
─────────────────────────────
 北朝鮮の金正恩に会ってもいいと思っていたが、時すでに遅
 しである。            ──トランプ米大統領
─────────────────────────────
 それは、北朝鮮のやっていることが、トランプ大統領の「レッ
ドライン」を超えたからです。レッドラインとは、超えてはなら
ない一線のことです。
 トランプ政権は、これまでの米国の北朝鮮に対する政策は誤り
であったといっています。それは、ティラーソン米国務長官の次
の言葉によくあらわれています。
─────────────────────────────
 北朝鮮に対して米国は、20年にわたって、アプローチを誤
 り続けた。米国にとって新しいアプローチが必要である。
               ──ティラーソン米国務長官
─────────────────────────────
 その新しいアプローチに対して、トランプ政権のレッドライン
とは、次の3つです。
─────────────────────────────
  ◎レッドラインに達したか
   1.弾道ミサイルに搭載できるレベルの核弾頭小型化
   2.米国本土に到達できる弾道ミサイルの開発に成功
   3.ミサイルが実戦に耐えられる戦略性を持っている
─────────────────────────────
 第1のラインは、「弾道ミサイルに搭載できるレベルの核弾頭
小型化」が達成されているかどうかです。
 これに関しては既にクリアしていると考えられます。2016
年12月時点の米軍高官は、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 【ワシントン=共同】米軍高官は8日、北朝鮮が核弾頭の小型
化に成功し、弾道ミサイルに搭載する能力を既に備えているとの
分析を記者団に明らかにした。宇宙空間から大気圏にミサイルを
再突入させる際の技術獲得については懐疑的な見方を示した。
                http://s.nikkei.com/2mHsrqR
─────────────────────────────
 北朝鮮は、2006年を第1回目として、これまでに5回の核
実験をやっています。その実績から既に北朝鮮の核弾頭は1・0
〜1・2トン程度まで小型化に成功していると考えられますが、
ミサイルが一度宇宙空間に出て、大気圏に再突入するさいの高熱
に耐えられるレベルに達しているかどうかは、現時点では懐疑的
であると、いっているのです。
 第2のラインは、「米国本土に到達できる弾道ミサイルの開発
に成功」しているかどうかです。
 北朝鮮の本土からミサイルを撃って、米国本土に到達するには
1万3000キロ程度の射程を持つミサイル(ICBM)が必要
になります。北朝鮮は「開発の最終段階に入った」とはいってい
るものの、現時点ではまだ完成しているとはいえません。しかし
金正恩委員長時代になってからだけでも北朝鮮は70回もミサイ
ルを発射しているのです。そのため十分な経験を積んでいると思
われるので、米国本土に届くICBMの完成にはそれほど時間は
かからないものと思われます。
 それに、北朝鮮は潜水艦発射型弾道ミサイルの実験には成功し
ています。したがって、潜水艦で、できるだけ米国に近づいて、
SLBMを発射すれば、米国本土に届くので、このラインは既に
クリアしていると考えてよいと思います。
 第3のラインは、「ミサイルが実戦に耐えられる戦略性を持っ
ている」かどうかです。
 北朝鮮は、これもクリアしているのです。既に北朝鮮のミサイ
ルは固体燃料を使い、すべて移動体車両から発射可能のミサイル
です。それに発射までに5分程度しかかからず、しかも複数のミ
サイルを同時に発射できる技術レベルに達しています。
 このように考えると、北朝鮮のミサイル技術は、すべてトラン
プ政権のレッドラインを超えているのです。そうであるとすれば
米国は直ちに対応する必要があります。だからこそ、トランプ政
権は斬首作戦を実施に移そうとしているのです。
 しかし、北朝鮮という国を直ちに崩壊させるわけにはいかない
のです。もし、崩壊させようとすると、3月21日のEJ第44
83号で検討したように、米中が衝突しかねないからです。その
ため、斬首作戦になったのです。
 しかし、要人暗殺は非常に難しいのです。その死亡を確認しな
ければならないからです。添付ファイルを見てください。特殊部
隊によるビン・ラディン攻撃の一部始終を、ホワイトハウスのシ
チュエーションルームで米国政府の幹部が見ているシーンです。
オバマ大統領もクリントン国務長官の姿もあります。これと同じ
ことを金正恩斬首作戦についてもやろうとしているのです。ジャ
ーナリストの山口敬之氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 殺害だけが目的なのであれば、居場所に強力なミサイルを打ち
込めば済む。しかし、そうするとターゲットの死亡確認が難しく
なる。このため、敵性組織の強力なリーダーを殺害する際には、
リスクが高くても特殊部隊をターゲットの居場所に投入し、目の
前で殺害する。
 「戦略的忍耐」を掲げ、決断できない大統領のレッテルを貼ら
れていたオバマにとっては、多数のアメリカ人を殺害したとされ
るビン・ラディンを無残に殺害してみせることで、アメリカ国民
の処罰感情に応えて見せる必要があったのである。
     ──山口敬之氏/月刊WiLL/5月号(2017)
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/061]

≪画像および関連情報≫
 ●ビンラディン射殺作戦の全貌
  ───────────────────────────
   9・11米同時多発テロの首謀者として、米国が10年も
  の長きにわたって追い続けた国際テロ組織「アルカイダ」の
  指導者オサマ・ビンラディン容疑者が、ついに発見され、殺
  害された。この希代の凶悪テロリストの正体は、いったい何
  だったのか。これでテロとの戦いに終止符は打たれるのか。
   作戦終了後、ホワイトハウス地下の危機管理室で、戦闘の
  様子をリアルタイムで見ていたオバマ大統領は「ようやく捕
  まえた」と叫んだという。
   2001年9月11日の米同時多発テロの首謀者とされ、
  米連邦捜査局(FBI)が「10大重要指名手配犯」の一人
  として、血眼になって追い続けてきたオサマ・ビンラディン
  はわずか38分の銃撃戦の末、射殺された。
   白人の侵入に抵抗した米先住民族の戦士の名から、「ジェ
  ロニモ」と名付けられたこのビンラディン殺害作戦は、軍事
  ジャーナリストの神浦元彰氏によると、「教科書に載るよう
  な完璧さ」だったという。それもそのはずだろう。作戦は昨
  年2月から、米国の威信をかけて周到に準備されていた。米
  中央情報局(CIA)関係者が明かす。「最終的に居場所を
  突き止めたのは2ヶ月前のことでした。作戦を指揮したのは
  CIA。機密漏洩を防ぐため、直前まで軍にも知らせないほ
  ど慎重に進められました。オバマ大統領は、決行直前にアフ
  ガニスタン駐留米軍司令官を新CIA長官に、リオン・パネ
  ッタCIA長官を新国防長官に指名するなど、人事面でも万
  全を期したのです」。       http://bit.ly/2op4IYT
  ───────────────────────────

ビン・ラディンが殺害される一部始終を見る米政府幹部.jpg
ビン・ラディンが殺害される一部始終を見る米政府幹部
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2017年04月03日

●「マレーシア政府はなぜ妥協したか」(EJ第4492号)

 トランプ米大統領と中国の習近平国家主席が、4月6〜7日に
フロリダ州のトランプ氏の別荘「マール・ア・ラーゴ」で会談を
行います。この会談の最大のテーマは北朝鮮問題です。3月31
日付の朝日新聞はこれについて次のように報道しています。
─────────────────────────────
 会談で最重要の課題になるのが、北朝鮮の核・ミサイル開発で
緊迫する朝鮮半島情勢だ。軍事手段を含めた新たな対北朝鮮政策
を策定している米国が、北朝鮮の後盾となっている中国側に対し
徹底した制裁の履行などを求める見通し。
 経済面では、トランプ政権は貿易赤字削減を目指しており、米
国にとって最大の貿易赤字国の中国に対し、是正を強く求めるこ
とになりそうだ。 ──2017年3月31日付、「朝日新聞」
─────────────────────────────
 トランプ政権の出だしは必ずしも順調ではないが、対北朝鮮強
硬路線は、着実に手が打たれています。3月29日、下院外交委
員会は、北朝鮮をテロ支援国家に再指定するよう政府に促す法案
や、経済制裁の強化を求める法案を可決しています。
 米国が北朝鮮をテロ支援国家に指定したのは1988年1月の
ことです。87年11月に北朝鮮工作員が関与した大韓航空機爆
破事件が起きた2ヶ月後のことです。このときは、犯人の金賢姫
が逮捕されており、北朝鮮のテロへの関与は明白であったので、
テロ支援国家に指定できたのです。
 なお、この指定は、2008年10月に核問題を巡る6ヶ国協
議の合意に基づき、北朝鮮の核攻撃に向けた取り組みに応ずるか
たちで解除されています。
 今回の米国の再指定は、金正男氏が、マレーシアの空港でVX
によって殺害されたことを受けてのことですが、30日、マレー
シアと北朝鮮は、不可解な合意をしているのです。合意事項は次
の通りです。
─────────────────────────────
 ■両国が発表した主な合意事項
  【両国共通の発表内容】
   ・北朝鮮にいるマレーシア人と、マレーシアにいる北朝
    鮮人の出国を容認
   ・死亡した北朝鮮国籍者の遺体は北朝鮮に送る
  【北朝鮮のみ発表】
   ・両国はビザなし渡航の再導入を肯定的に討議し、関係
    発展へ努力する
  【マレーシアのみ発表】
   ・この深刻な犯罪に対する警察の捜査は継続する
         ──2017年3月31日付、「朝日新聞」
─────────────────────────────
 この合意で一番損をしたのはマレーシア政府です。国内で北朝
鮮による暗殺事件を起され、ベトナムとインドネシア国籍の実行
犯2人の女性は逮捕したものの、犯行を直接指揮した複数人の北
朝鮮人をやすやすと逃亡させたからです。さらに犯行に加担した
とみられる3人の北朝鮮人は、在マレーシア北朝鮮大使館に逃げ
込んだので、マレーシア警察は彼らの事情聴取を要求したのです
が、北朝鮮大使館は治外法権を盾ここれを拒んでいます。
 これに対して北朝鮮のやったことは、北朝鮮を出国しようとし
ていたマレーシア外交官を含む複数のマレーシア人の出国を禁止
し、いわば彼らを人質に取ったのです。
 マレーシア政府は、結局、事件解明のカギを握る大使館にいる
北朝鮮人3人と、北朝鮮の空港で足止めされているマレーシア人
の“人質”と交換するかたちで、事件の決着を図り、金正男氏の
遺体を「キム・チョルという名の北朝鮮国籍の男」して、出国を
認めたのです。
 これは、明らかにマレーシアの外交的な失敗です。もっともそ
のさい、マレーシアの捜査員が北朝鮮大使館に入り、大使館内に
いる3人と、かたちばかりの事情聴取をしてはいているものの、
重要な情報は得られなかったのです。その結果、マレーシア政府
としては、暗殺事件の関与者と思われる3人と、北朝鮮で人質と
なっているマレーシア人の交換に応ぜざるを得なかったのです。
 この“取引”を北朝鮮側からみると、次の3つの大きなメリッ
トがあります。
─────────────────────────────
 1.金正男氏とみられる遺体を身元を確認しないで北朝鮮政
   府が引き取ったことで、死因は単なる心疾患で、暗殺事
   件などは発生していないと主張できる。
 2.今回の暗殺に関わった複数の関与者を一人も他国に引き
   渡すことなく、すべて北朝鮮に戻すことができ、暗殺の
   あったことを他国は証明できなくなる。
 3.国交断絶が避けられたことで、両国にメリットのあるマ
   レーシアとのビザなし渡航の再導入について、マレーシ
   ア政府と交渉できる余地を残している。
─────────────────────────────
 疑問なのは、マレーシア政府が、なぜこの不利な取引に応じた
のかです。もし、北朝鮮だけが相手であれば、マレーシアは自国
民が人質にとられているとはいえ、このような誰が見てもわかる
裏取引には応じなかったと思われるからです。
 クアラルンプール空港での金正男暗殺事件によって、マレーシ
アが世界の注目を集めているので、外交官を含む何の罪もないマ
レーシア人が、不当にも北朝鮮を出られないでいることをもっと
鮮烈に国際社会に訴えることもできたはずです。
 ひとつ考えられることがあります。それは、北朝鮮とマレーシ
アの交渉にウラに中国がいるのではないかということです。中国
は北朝鮮側に立って、何らかの圧力をマレーシアにかけたのでは
ないかと思われます。マレーシアにとって中国は重要な国であり
中国からの要請には断れない事情があると考えられます。
             ──[米中戦争の可能性/062]

≪画像および関連情報≫
 ●金正男殺害を中国はどう受け止めたか――中国政府関係者
  ───────────────────────────
   習近平政権誕生以来、中朝関係が冷え切っている中、中国
  はなぜ金正男氏を保護してきたのか、殺害は今後の中朝関係
  に影響するかなど、日本人が抱く疑問をぶつけた。回答から
  東北アジア情勢と課題が見えてくる。
   中国の中央テレビ局CCTV系列は、金正男氏が2月13
  日にマレーシアのクアラルンプール国際空港で毒殺されたこ
  とに関する報道で、2月16日昼のニュースの時点でもなお
  「金という姓の韓国籍男性」が殺害されたという形での報道
  しかしていなかった。
   これに関して、日本の多くのメディアが「中国が困惑して
  いる証拠」という主旨の報道をしていたので、先ずは中国政
  府関係者に「名前を完全な形で明示しない真意は何か」を聞
  いてみた(116日午後2時)。
   以下すべて、「あくまでも個人の意見だが」という前提で
  答えてくれた。「CCTVは最も権威あるテレビ局なので、
  責任ある報道しかすることができない。絶対に確実だと公式
  に確認されるまでは、"金正男"というフルネームを言うこと
  はできない。パスポートが偽造でないかなど、まだ確認され
  ていない」とのこと。特に北朝鮮の場合、偽造パスポートで
  海外渡航しているケースが多いのも事実。その後、マレーシ
  ア政府がパスポートやDNA鑑定により「まちがいなく金正
  男だ」と公表すると、CCTVもまた、「金正男が何者かに
  よって殺害された」と実名で伝えるようになった。というこ
  とは今も評論が全くないのは指示を出したのが北朝鮮か否か
  が判明していないからか。それにしても報道が静かすぎる。
                   http://bit.ly/2lyBecN
  ───────────────────────────

マレーシア/ナジブ首相.jpg
マレーシア/ナジブ首相
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2017年04月04日

●「マレーシアが中国に接近した理由」(EJ第4493号)

 北朝鮮は、マレーシアをどのように説得したのでしょうか。確
かに北朝鮮とマレーシアは友好国ですが、マレーシアとしては、
これだけの大事件を衆人環視の前で起され、世界的な話題になっ
ているのに、このような曖昧なかたちでの幕引きが、普通ならで
きるはずがないのです。
 マレーシアは3月上旬までは北朝鮮籍者に対する入国ビザ(査
証)の免除停止など、北朝鮮に対し、国交断絶も辞さない強い姿
勢だったはずです。それが急転直下の合意です。北朝鮮とマレー
シアとのこの曖昧な合意について、4月1日付の日本経済新聞は
次のように報道しています。
─────────────────────────────
 30日の両国の合意は、ビザ免除の再導入に向けた討議の実施
が含まれるなど「円満解決」をにおわせる内容だった。ナジブ首
相やアニファ外相も合意発表以降、遺体が「正男氏」だとの名言
を避け、「VXで殺害されたのは金正男氏」とのこれまでの主張
を封じた。     ──2017年4月1日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 これはマレーシアとしてはこれは大変な譲歩です。下手をする
と、マレーシアはテロを容認する国家との汚名を着せられ兼ねな
いからです。相当大きな力が働かないと、こうはならないと思い
ます。そこに中国の影を見るのです。
 ここで検証してみるべきは、マレーシアと中国の関係と、北朝
鮮と中国の関係です。今回は、マレーシアと中国の関係について
考えてみます。
 マレーシアは2018年に総選挙が予定されていますが、ナジ
ブ政権は、大きな政治的な問題を抱えていて、元首相マハティー
ル氏率いる野党の猛烈な攻勢を受けているのです。ナジブ首相自
らの不正資金疑惑と「マレーシアのイメルダ夫人」といわれるロ
スマ・マンソール首相夫人の無駄使いです。
 これについて、ジャーナリストの大塚智彦氏は、次のように書
いています。
─────────────────────────────
 国営投資会社ワン・マレーシア開発(1MDB)に関連した不
正資金流用問題や治安維持で首相に強大な特権を与える「国家安
全保障会議(NSC)法」制定、仇敵となったマハティール元首
相による「ナジブ打倒」を掲げる新党結成などで人気と支持に陰
りのでてきたナジブ首相に、追い打ちをかけるようにロスマ夫人
の疑惑やスキャンダルが次々と浮上しているのだ。
 夫人の立場でありながら政治に口出ししたり、不動産購入や宝
飾品収集といった贅沢三昧の私生活などが暴かれ、その「マイナ
スイメージ」には夫のナジブ首相も口をさしはさめない状態のよ
うで、内外から「マレーシアのイメルダ」と不名誉な異名を与え
られている。「イメルダ」は言わずと知れたフィリピンの独裁的
指導者だった故マルコス大統領の夫人で、贅沢三昧な生活ぶりが
暴露されたあのイメルダ・マルコス夫人である。
                   http://bit.ly/2nppOVT
─────────────────────────────
 ナジブ首相の疑惑とは、自らが代表を務めていた国営投資会社
「ワン・マレーシア/1MDB」から、ナジブ首相の個人口座に
約800億円の振り込みがあったとするものです。
 ナジブ首相のこの不正資金流用疑惑に関連して、米司法当局が
米国内のナジブ首相の資産を差し押さえる民事訴訟を起こしたこ
とから、ナジブ政権はかつての米国寄りの姿勢を改め、中国に接
近しようとします。
 そういう事情からナジブ首相は、2016年10月31日から
中国を訪問したのです。中国にとってマレーシアは、戦略上きわ
めて重要な国です。それは南シナ海問題です。この問題では20
16年7月12日にオランダ・ハーグの仲裁裁判所が下した「中
国の領有権主張に法的根拠はない」とする裁定があり、中国とし
てはこの裁定を無視し、関係国の2国間協議での解決策を模索し
ています。マレーシアとも互いに領有権が重複する環礁があるの
です。このように、中国とマレーシアは、政治的に解決しなけれ
ばならない問題を抱えているのです。
 2016年10月から11月にかけてナジブ首相は中国を訪問
し、まず、李克強首相と会談、大型の経済援助を引き出していま
す。マレー半島横断鉄道建設計画への中国の参加、カリマンタン
島サラワク州での鉄鋼プラント開発での協力など、14項目で合
意し、調印。その総額は3兆6千億円に上るのです。
 また、中国からマレーシア海域で哨戒任務に当たる高速哨戒艇
を4隻購入することでも合意しています。このようにマレーシア
が軍事分野で大型装備品を中国から購入することは初めてのケー
スであり、軍事面でも関係緊密化を図ろうとしています。
 ジャーナリストの大塚智彦氏は、このマレーシアの露骨な中国
寄りの姿勢は、どこかフィリピンのドゥテルテ大統領の外交姿勢
と共通するところがあるといっています。
─────────────────────────────
 ナジブ首相は哨戒艇購入合意に関連して中国メディアに対し、
「自分たちより小さい国を公平に扱うことは大国の義務である。
かつての(マレーシアの)宗主国を含む他の国に内政について説
教される筋合いはない」と述べ、マレーシアを植民地にしていた
英国などを念頭に厳しく批判した。こうした言いぶりも、どこか
ドゥテルテ大統領の米国に対する数々の暴言を彷彿とさせる。
                   http://bit.ly/2npqMBL
─────────────────────────────
 マレーシアと中国とはこのような関係です。それも高度な政治
決断などではなく、自らの政治資金疑惑や夫人の不祥事を覆い隠
して来年の選挙に勝利するためにやったことです。中国とこのよ
うな関係にあるマレーシアが、金正男殺害事件で協力を求められ
たら、絶対に断ることはできないと思います。それが急転直下の
解決になったのです。   ──[米中戦争の可能性/063]

≪画像および関連情報≫
 ●マハティールと仇敵が目指す政権打倒
  ───────────────────────────
   2016年9月5日、マレーシアの首都クアラルンプール
  にある高等裁判所は異様な雰囲気に包まれていた。この日は
  ナジブ・ラザク政権下で8月1日から施行された「国家安全
  保障会議(NSC)法」に対して、アンワル・イブラヒム元
  副首相が違法性を訴えた裁判の口頭弁論が開かれる予定だっ
  た。その裁判所に予告なしに突然マハティール・モハマド元
  首相が現れたのだ。
   2003年までの22年間、マレーシアの首相を務めたマ
  ハティールは同国を代表する政治家。一方のアンワルはマハ
  ティール政権で副首相を務め、最有力の後継者と目されなが
  らも、1998年にマハティールから突然解任され、同性愛
  や職権乱用の容疑で追及を受けるなどマハティールによって
  政界の第一線から葬り去られた人物。言ってみればこの2人
  は「蜜月から仇敵」と極端に変質した関係を18年間続けて
  きた関係なのだ。その2人が裁判所の一室で約30分間、密
  談。関係者によると二人は笑顔で握手を交わし「18年に渡
  る怨念を消去させた」ように真剣に話し合ったという。
   アンワルはマハティールから切り捨てられて以降は野党連
  合・人民連合の指導者となりながら一定の政治力を維持。2
  015年2月に同性愛罪で最高裁の有罪が確定、禁固5年で
  服役中の身だが、獄中でも反政府運動の指導者として人気は
  高く、妻のワンアジザさんは野党「人民正義党(PKR)」
  の党首を務め、長女のヌルル・イザー・アンワルさんもPK
  R副党首で下院議員として活躍している。
                   http://bit.ly/2cXDHa8
  ───────────────────────────

アンワルとマハティール.jpg
アンワルとマハティール

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2017年04月05日

●「2・28/中国は何を仕掛けたか」(EJ第4494号)

 中国研究家の遠藤誉氏が奇妙な一致を指摘しています。具体的
にいうと、2017年2月28日に中国を中心に起きた出来事に
ついてです。どのような出来事なのでしょうか。
 この日、韓国の政変によって配備が前倒しされたTHAADの
配備予定地の契約を韓国国防部とロッテ側が行ったのです。これ
によって、中国にあるロッテのスーパーに対して、政府主導の大
規模な不買運動が起きていることは既に述べた通りです。
 同じ2月28日、北朝鮮の李吉成外務次官を団長とする北朝鮮
の外務省代表団が北京に到着しています。王毅外相や劉振民外務
次官らと会談を行うためです。中国が招いたのです。
 金正男殺害事件があってからというもの、中国は表面上は北朝
鮮側にも、マレーシア側にも中立の立場を取り続けていたのです
が、どうしてこの時期に北朝鮮代表団を受け入れたのか、遠藤氏
は疑問があるといっています。
 さらにその同じ28日に、別の北朝鮮外交団がマレーシアにも
行っているのです。なぜ、同じ28日に行ったのかについて、遠
藤誉氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 北朝鮮は同じ日に中国とマレーシアを同時訪問することによっ
て、マレーシアに圧力を掛けているものと、解釈することができ
る。中国のTHAADに対する強烈な抗議という「弱みにつけ込
んだ」実に巧みな外交攻勢だ。
 マレーシア訪問の目的を、北朝鮮代表団は「遺体の引き渡し」
「朝鮮籍公民の身柄引き渡し」および「北朝鮮・マレーシア両国
の友好発展」と述べているが、マレーシアが北朝鮮と国交断絶を
するかもしれないという危機への警戒感が最優先しているものと
言っていいだろう。そのためにマレーシアよりは「大国」とみな
されるであろう「中国」を選び、同時訪問を果たしたものと解釈
する。         ──遠藤誉氏 http://bit.ly/2oK9pN8
─────────────────────────────
 不気味な一致はまだあります。同じ2月28日に、中国のヤン
・チェーチー国務委員が米国を訪問し、トランプ大統領と会談し
ています。トランプ大統領としては、初めての中国の要人との会
談です。一体何を話したのでしょうか。
 遠藤氏によると、「互いの核心的利益の尊重」を前提とし、米
中が国際問題で協力を拡大したいとして、習近平国家主席の訪米
の日程の調整をしたといいます。
 まだあります。同じ2月28日、6ヶ国協議のロシア主席代表
であるモルグロフ外務次官も北京入りしているのです。中国外交
部の孔鉉佑外務次官補と会談するためです。テーマは朝鮮半島情
勢についての意見交換であるとしていますが、THAAD配備問
題であることは明らかです。これも中国の招きです。
 遠藤氏によると、これによってTHAAD配備賛成国である米
国、韓国、日本の3ヶ国と、反対国である中国、北朝鮮、ロシア
の3ヶ国に分かれ、反対国が同じ日に中国に集まって協議したと
いうことになります。それほどTHAAD配備は、中北露にとっ
て深刻な脅威なのです。
 このように、2月28日にいくつもの協議が行われたのでしょ
うか。なぜ、2月28日だったのでしょうか。それは、次の2つ
の理由によるものです。
─────────────────────────────
 1.THAADの配備場所がロッテ所有星州ゴルフ場に決ま
   り、配備が大幅に前倒しされたこと
 2.翌日の3月1日から4月末日までの2ヶ月間にわたって
   米韓合同軍事演習が開始されること
─────────────────────────────
 これが2月28日に起きた出来事です。翌日から始まる米韓合
同軍事演習の期間中に何が起きても不思議ではないからです。中
北露の協議は、そのための打ち合わせであるとも考えられます。
 昨日のEJで、中国とマレーシアの関係について述べましたの
で、次に北朝鮮と中国の関係について考えます。韓国の中央日報
日本語版は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国は北朝鮮の戦略的価値を重視する。韓半島は大陸と海洋勢
力の交差地点だ。北朝鮮は米軍事力の大陸接近を遮断する。尖兵
と防御の緩衝の役割である。北朝鮮も自らの地政学的資産を活用
する。中国はその分を支払う。北朝鮮に石油と食糧を供給する。
相互扶助の特殊関係だ。中国は北朝鮮を放棄しない。
                   http://bit.ly/2oKvI53
─────────────────────────────
 金正恩政権になってから、中国は北朝鮮を上手にコントロール
できなくなっています。金正恩氏は伯父の張成沢をはじめ、多く
の中国系幹部を処刑しています。そういうこともあって、中朝は
首脳会談すら行っていないのです。しかし、それでも中国にとっ
て北朝鮮は戦略上重要な国なのです。
 中国では、「北朝鮮屏風論」とか「北朝鮮番犬論」という考え
方があります。つまり、中国にとって北朝鮮は、米軍を鴨緑江へ
の進出を食い止めるための「屏風」であり、中国に代わって米国
に吠えてくれて、絶対に裏切らない「番犬」という考え方です。
 北朝鮮は中国にとって便利な存在でもあります。中国には立場
上、絶対にできないことでも北朝鮮ならやることができます。そ
れによって米国を追い込むことも可能です。
 もちろんそのツケは中国に回ってきます。「北朝鮮の暴走は中
国にも責任がある。きちんと制裁せよ」と。実際に北朝鮮の無謀
な核やミサイル実験のたびに国連安保理は、北朝鮮に対して制裁
決議を行い、中国に厳しく制裁するよう迫っています。
 しかし、中国は絶対に北朝鮮を守っています。それは、北朝鮮
の存在は、中国にとってプラスだからです。しかし、トランプ政
権では、中国はこれまで通り北朝鮮を守れるかどうかはわからな
くなっています。     ──[米中戦争の可能性/064]

≪画像および関連情報≫
 ●朝鮮半島有事の危機はすぐそこに来ている!
  ───────────────────────────
   米国のトランプ政権にとって北朝鮮の脅威は当面、安全保
  障上の最大の危機として迫ってきたようだ。北朝鮮が核兵器
  と各種ミサイルの開発へとひた走り、無法な実験を重ねてき
  た歴史は長い。この数ヶ月、その好戦的な言動はとくにエス
  カレートしてきた。
   ではトランプ政権はどう対応するのか。政権内外で「予防
  攻撃」という名の下での軍事手段が、頻繁に語られるように
  なった。ティラーソン国務長官は軍事行動を含む「あらゆる
  選択肢の考慮」を明言した。
   上院外交委員長のボブ・コーカー議員(共和党)が、「米
  国は北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を予防的に攻
  撃する準備をすべきだ」と述べた。
   上院軍事委員会の有力メンバー、リンゼイ・グラハム議員
  (共和党)は北朝鮮のICBM開発阻止のため大統領に予防
  的軍事攻撃の権限を与える法案を出すと言明。ウォルター・
  シャープ元在韓米軍司令官は、北朝鮮がICBMを発射台に
  載せる動きをみせれば攻撃をかけることを提唱した。199
  0年代から米側の対応策では軍事手段は断続して語られてき
  た。だがいまほど現実味を帯びたことはない。トランプ政権
  は歴代政権よりも確実に強固な姿勢を固めたようなのだ。
                   http://bit.ly/2nWcSLn
  ───────────────────────────

遠藤 誉氏.jpg
遠藤 誉氏
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2017年04月06日

●「中国が戦争に踏み切る5つの条件」(EJ第4495号)

 2017年3月に開催された全人代(全国人民代表大会)で、
1時間40分に及ぶ大演説をした李克強首相は、演説の最後に今
年の重要任務の1つとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 国防・軍隊改革を不断に深化させ、領海・領空・国境防衛の管
理・コントロールを強化する。訓練や戦争の準備を強化し、国家
主権、安全、発展の利益を断固として守らなければならない。
                    ──李克強中国首相
─────────────────────────────
 「戦争の準備を強化する」──李克強首相はなぜこのような発
言をしたのでしょうか。それは、習近平国家主席の意を汲んで、
そのように発言したものと考えられます。
 習近平主席には、昨年秋の「6中全会」(中国共産党中央委員
会第6回全体会議)が「習近平同志を核心とする党中央」という
表現でその功績を讃えており、今年の秋の6中全会では、正式に
「核心」に位置づけられるのは確実です。
 この表現は、これまで、毛沢東、ケ小平、江沢民の3氏のみに
しか与えられておらず、習氏が「核心」になるということは、そ
れだけ権力が強化されることを意味します。
 しかし、この3人の指導者のなかでは、江沢民氏だけが、唯一
実戦を経験していないので、軍としては真のリーダーとして認め
なかったといわれます。その点、毛沢東、ケ小平は革命戦争で実
戦の経験があります。
 そういう意味では、江沢民と胡錦濤の両国家主席は共産党の強
いリーダーではなく、ケ小平の作った集団指導体制の枠組みで、
ケ小平の威光を借りて指導者としての仕事をしていたに過ぎない
──少なくとも軍はそのようにみなしています。
 これに対して習近平主席は大規模な軍制改革を成し遂げていま
す。だが、毛沢東は人民解放軍を創設しているし、ケ小平は文化
大革命後、総崩れになっていた解放軍の立て直しを行い、そのう
えで、1979年に中越戦争を起しています。ところが習近平主
席には実戦経験がないのです。
 中越戦争では、実戦で鍛えられていたベトナム軍に返り討ちに
されたもののその貴重な経験を生かし、軍を立て直し、1984
年の第2次中越国境戦争では勝利しています。ケ小平はこの2回
の戦争によって、軍の近代化を成し遂げているのです。
 それ以来、紛争は数多くあったものの、大きな戦争は起きてい
ないのです。しかもケ小平までは陸軍が中心の軍制改革ですが、
習近平主席のそれは陸軍を減らし、海軍を中心とする改革であり
まさに実戦は未体験ゾーンです。したがって、習主席としては何
としても戦争をしたいと思っているはずです。巨大な軍隊を持つ
と、戦争をしてみたくなるものです。
 中国、朝鮮半島を中心とする東アジア分析をライフワークとす
る講談社の近藤大介氏は、中国が戦争するとしたら、その相手は
次の5条件を満たす国であると分析しています。
─────────────────────────────
@周辺国であること。遠方まで軍隊を派遣して戦争を遂行する気
 は中国にはありません。
Aアメリカが敵にならないこと。たとえば、尖閣諸島を侵略する
 と、日米安保条約によってアメリカと交戦するリスクがあるの
 で、尖閣諸島をめぐる戦争には今のところ慎重です。
B中国が勝てる相手であること。もし負けると、習近平政権の権
 威が失墜してしまうので、強国との戦争には慎重です。
C中国国民が恨んでいる国であること。国民全体の士気を高める
 必要があるからです。
D戦争に大義名分があること。国際社会に向けた大義名分がない
 と参戦できません。
     ──近藤大介氏/月刊WiLL/5月号(2017)
─────────────────────────────
 この5つの条件に該当する国はどこでしょうか。
 それは北朝鮮しかないのです。中国の本音としては、台湾侵攻
ですが、もしこれをやると確実に米軍が参戦してくるので、手が
出せないでいます。
 しかし、北朝鮮に関しては中国が生殺与奪権を握っています。
中国が北朝鮮へ石油の供給を止めれば確実に崩壊します。6〜7
日の米中首脳会談では、トランプ大統領は、そのことを習近平主
席に要求するはずです。だが、下手にそれをやれば、北朝鮮のミ
サイルが確実に中国を襲います。それに、既に述べているように
北朝鮮は中国にとって重要な国であり、中国としては、現状を変
更したくないと思われます。
 その一方で中国はこれ以上北朝鮮が核・ミサイル開発能力を高
めることは容認できないとも考えています。米国と利害が一致す
る点もあるのです。とくに3月6日に、北西部の平安北道の東倉
里から日本海に向って打ち上げられた3発のミサイルは、米軍岩
国基地を狙ったものとの分析があり、中国が承知しなくても米軍
が限定攻撃に踏み切る可能性は高いのです。このミサイルの分析
については、改めて取り上げます。
 それに金正恩政権になってから、中国は北朝鮮を十分コントロ
ールできなくなっており、国境を接しているだけにそのリスクは
きわめて高くなりつつあります。
 もし米国に先に攻撃されると、中国も動かざるを得なくなりま
す。北朝鮮の核施設を占領することが優先されるからです。現在
北朝鮮の核施設の多くは中朝国境近くにあるので、それをめぐっ
て米軍と戦闘になる可能性があります。しかし、中国としては今
は米中戦争は避けたいと考えています。
 そういう状況から、いくつかの条件付きで、北朝鮮という国家
を残すことを前提に、中国は米国と共同で金正恩政権を倒す斬首
作戦に協力する可能性があります。そのさい中国は、THAAD
施設の撤去を条件にすると思われます。
             ──[米中戦争の可能性/065]

≪画像および関連情報≫
 ●金正男暗殺はなぜいまなのか?なぜマレーシアだったのか?
  ───────────────────────────
   金正男の暗殺がなぜこの時期に決行されたことについては
  いま様々な憶測がなされている。主なものとしては、韓国中
  央日報が流した「亡命政権を樹立しようとしていたからだ」
  との情報だ。だが、この情報や説が事実なら、金正男氏が金
  正恩政権に真っ向から対決を挑もうとしたことになる。しか
  し金正男氏が2012年4月、弟の正恩氏に「自分と家族を
  助けてほしい」などと訴える書簡を送っていたことを考える
  とこうした情報には違和感がある。
   また「金正男氏が亡命を計画していたからだ」との説もあ
  る。亡命説については、過去に金正男氏に対する暗殺未遂が
  あった2012年ごろ、金正男氏からではなく、韓国側から
  「韓国に来た方が安全なのではないか」と打診され。それに
  対して金正男氏はそのまま外(海外)に滞在することを望む
  と回答したという。韓国中央日報の報道では、金正男氏が打
  診したこととなっているが、これは全く逆であるようだ。
   こうした点を考慮するなら、今回の暗殺の根拠を、最近金
  正男氏が亡命、特には亡命政権樹立に向かっていたからだと
  するのは少々無理があると思われる。亡命政権を樹立するな
  ら自身の保護壁であった叔母の金慶喜氏やその夫の張成沢氏
  が健在であった時期に行動を起こしていただろう。彼には金
  正恩政権と対決する意思はなかったと思われる。
                   http://bit.ly/2ooKAtJ
  ───────────────────────────

斬首作戦のカギを握る米中首脳会談.jpg
斬首作戦のカギを握る米中首脳会談
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2017年04月07日

●「北朝鮮の標的は佐世保と岩国基地」(EJ第4496号)

 北朝鮮といえば恐怖政治のイメージが強いですが、技術エリー
トの教育には、金正日の時代から大変力を入れており、現在でも
それは続けられています。
 具体的には、2003年から毎年約1000人の若者を選抜し
米ニューヨーク州にあるシラキュース大学に留学させ、テクノク
ラートのための研修を受講させています。これは2011年から
の金正恩の時代になっても、人数を増やして、米国を中心とする
欧米の大学や研究機関で先端知識を学習させており、国家建設の
ためのテクノクラートを育成しています。
 もちろん米国はこのために正式にビザを発給して、それは米朝
関係が悪化した時も中断されることなく続いています。北朝鮮は
1988年にテロ支援国家に指定され、2008年に解除されて
いますが、北朝鮮のテクノクラート教育に関してはそういうこと
に関係なく米国はビザを発給しています。しかし、今回、北朝鮮
が再びテロ支援国家に指定されると、トランプ政権は北朝鮮人の
入国を禁止する可能性があります。
 現在北朝鮮の核・ミサイル技術を支えているのは、このテクノ
クラート集団です。その実力は決して見くびることはできないほ
どレベルは高度です。その技術がよく表れているのが、潜水艦発
射型弾道ミサイル(SLBM)です。北朝鮮は、このミサイルを
「北極星1」と「北極星2」と呼んでいます。
 ここには「コールド・ロンチ」という技術が使われているので
すが、ジャーナリストの山口敬之氏はこの「コールド・ロンチ」
について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 通常のミサイルは、ロケットエンジンに点火して地上から打ち
上げられる。しかし、この「北極星1/2」は、まず、空気圧な
どによって数メートル上空に打ち出され、その後でエンジンに点
火されていたのである。
 SLBMは潜水艦本体を傷つけないため、このコールド・ロン
チが不可欠となる。軌道などから射程1300キロ程度とみられ
るこのミサイルは、アメリカの東西海岸から射出すれば、アメリ
カ本土すべてを狙えることになる。
       ──山口敬之氏 WiLL/5月号(2017)
─────────────────────────────
 SLBMだけではないのです。3月6日朝、北朝鮮は、西部の
平安北道東倉里付近から東方向に向けて、ミサイル4発を同時に
発射しています。これら4発のミサイルは、約1000キロ飛行
し、3発が日本の排他的経済水域(EEZ)に落下していますが
そのうちの1発は、能登半島まであと200キロの水域に着弾し
たのです。もう1発はおそらく失敗とみられます。
 驚くべきは、それらのミサイルがほぼ80キロの間隔で着弾し
ていることです。これは北朝鮮がミサイルを狙った目標場所にほ
ぼ正確に着弾させることができることを意味します。韓国国防部
の発表によると、これらのミサイルは準中距離弾道ミサイル「ス
カッドER」であることがわかっています。
 静岡大学特任教授で軍事評論家の小川和久氏は、これら4発の
ミサイルの隠された狙いについて分析し、緊急レポートを書いて
いるので、以下に要約してお伝えします。
 ミサイル発射後に北朝鮮が発表した動画や写真を見ると、ミサ
イルは、一列に並んだ4基の移動式発射車両から発射されていま
す。これは世界、とくに日米韓の国民に見せつけるためのデモン
ストレーションであって、実戦ではこのような発射をすることは
ありえないことです。もし、そんなことをすれば、米韓両軍に発
見され、一撃で何発ものミサイルが破壊されてしまうからです。
実戦では距離をおいた場所から発射されることになります。
 このミサイル発射について、北朝鮮の「労働新聞」は、金正恩
委員長の言葉として、次のように報道しています。
─────────────────────────────
 有事の際に在日米軍基地の攻撃任務を担う北朝鮮の部隊が発射
訓練をし、成功した。金生恩委員長は米国と韓国が北朝鮮に対し
て、ただ一点の火花でも散らすなら、核弾頭を装填した火星砲で
侵略と挑発の本拠地を焦土化する決死の覚悟を固くした。
      小川和久氏/「金正恩ミサイル発射隠された狙い」
               ──Hanada/5月爽快号
─────────────────────────────
 小川和久氏は、金正恩委員長の語る3つのフレーズ──「有事
の際に」「ただ一点の火花でも散らすなら」「決死の覚悟を固く
した」に、金正恩氏の怯えと覚悟を読み取ることができるといっ
ています。つまり、このフレーズは、米韓両軍が北朝鮮に対して
軍事攻撃を仕掛けなければ、核弾頭搭載のミサイルを発射するこ
とはない。それでもやるなら、われわれは死ぬ覚悟で戦うつもり
である──このように訴えているのです。
 添付ファイルに、韓国の聯合通信が3月7日夜に配信した写真
(上)があります。この写真を反時計回りに135度回転させて
カメラに対する机の傾きを補正したのが下の図です。これについ
て小川和久氏は次の指摘をしています。
─────────────────────────────
 東倉里付近を中心とする半径1千キロの円が、日本海と西日本
に描かれ、ミサイル4発の軌跡が、約4・2度ずつの間隔で扇形
に分かれて引かれており、金正恩氏の指揮棒は、ミサイルの着弾
点よりも日本側の海上を指している。
 当初、着弾海域の延長線上にあることから目標だと考えられた
青森県三沢基地は地図上では1千キロの円の外にあり、円内、つ
まり射程圏内に入っているのは、長崎県の米海軍佐世保基地と山
口県の米海兵隊岩国基地である。──Hanada/5月爽快号
─────────────────────────────
 この分析によると、北朝鮮は、複数のミサイルを同時に佐世保
基地と岩国基地に正確に着弾できることを日米韓に示し、恫喝し
ているのです。      ──[米中戦争の可能性/066]

≪画像および関連情報≫
 ●北朝鮮弾道ミサイル発射の標的は佐世保・岩国基地
  ───────────────────────────
   3月6日に北朝鮮が発射し日本海に落下した4発のミサイ
  ル。それに対して軍事ジャーナリストの小川和久氏は「標的
  は、実は長崎県の米海軍佐世保基地、山口県の米海兵隊岩国
  基地だった」とショッキングなツイート。
   取材に対して小川氏は発射地点からちょうど1000キロ
  の円に、岩国、佐世保が収まっていることを指摘し「バッチ
  リと射程圏内に入っている。(北朝鮮は)核抑止力が備わっ
  た立場で、国内の軍事力を削って、負担を軽くして、経済建
  設にいきたい。弾道ミサイルはピンポイントは必要ないんで
  す。とくに核兵器だった場合は関係ない。地域全部を焦土に
  できる」と分析した。
   また、「日本の街を見ると、国民が生命を政治に丸投げし
  て、安全が確保されていない街。どこにシェルターがあるん
  だ。政治を動かして、国民が安心して暮らせるような日本国
  に変えていく。自ら政治をグリップすることが求められてい
  る」と危機感を募らせた。     http://bit.ly/2orkerf
  ───────────────────────────
 ●写真・図出典/Hanada/2017年5月爽快号より

北朝鮮ミサイルの着弾海域.jpg
北朝鮮ミサイルの着弾海域
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2017年04月10日

●「北朝鮮は張徳江氏が掌握している」(EJ第4497号)

 注目の米中首脳会談が行われ、北朝鮮問題についてもトランプ
大統領と習国家主席の間で話し合いが行われましたが、今回は日
米首脳会談のように共同記者会見が実施されず、米中双方がそれ
ぞれのメディアに都合のよいように報告が行われています。
 ティラーソン米国務長官によると、中国と間では、次の合意が
行われたと伝えられています。
─────────────────────────────
 1.     北朝鮮の核開発抑制に向けた協力強化で一致
 2. 貿易不均衡解決のための「100日計画」策定で合意
 3.米中間の課題を話し合う新たな対話枠組みの設置で合意
 4.   中国は米国によるシリアへのミサイル攻撃を理解
─────────────────────────────
 これらの合意で注目すべきは、習国家主席が北朝鮮対応で「協
力強化」を約束し、シリア攻撃を「理解」したことです。習国家
主席としては、まさか米中首脳会談中に米軍がシリアへのミサイ
ル攻撃をするとは思わないので、北朝鮮制裁への対応強化を約束
させられたことは、想定外であったと思われます。
 しかし、習主席には北朝鮮への制裁強化は事実上できないもの
と思われます。それは中国共産党最高指導部の暗闘が影響してい
るのです。金正恩委員長がこうも強気な理由は、最高指導部の一
部がバックについているからです。習近平氏は国家主席であって
も北朝鮮の金委員長とは一度も首脳会談すらしていないことがそ
れを物語っています。彼は北朝鮮には影響力が低いのです。
 以下は、中国事情に詳しいノンフィクション作家の河添恵子氏
の緊急リポートに基づいています。中国のトップ指導者にはチャ
イナセブン(中国共産党常務委員)と呼ばれる人たちがいます。
─────────────────────────────
  ◎チャイナセブン
  序列第1位/習近平国家主席 ・・・・・・ 太子党派
  序列第2位/李克強首相 ・・・・・・・・ 共青団派
  序列第3位/張徳江全人代常務委員 ・・・ 江沢民派
  序列第4位/兪正声人民政治協会議主席 ・・ 太子党
  序列第5位/瀏雲山政治局常務委員 ・・・ 江沢民派
  序列第6位/王岐山中央規律検査委員会書記  太子党
  序列第7位/張高麗副首相 ・・・・・・・ 江沢民派
─────────────────────────────
 このチャイナセブンの序列3位に張徳江という人物がいます。
張徳江氏は、江沢民派に属しており、太子党の習近平氏とは対立
関係にあります。チャイナセブンには、序列5位の瀏雲山政治局
常務委員と序列7位の張高麗副首相も江沢民派です。
 江沢民氏といえば、上海閥と呼ばれ、北朝鮮とは直接関係がな
いように見えます。しかし、中華人民共和国建国当時の1949
年の頃の江沢民氏のキャリアは中国東北部の吉林省(省都・長春
市)にあったのです。吉林省は北朝鮮と隣接しています。
 河添恵子氏は、江沢民氏と北朝鮮との関係について、次のよう
に書いています。
─────────────────────────────
 江氏は、50年代、長春第一汽車製造廠(自動車製造工場)に
勤務し、モスクワのスターリン自動車工場で研修を受けた。江氏
は昇格していく段階で、張徳江氏をドンとする「吉林幣」(ジー
リンパン)を形成する。吉林省の幹部を、次々と高級幹部に抜擢
していったのだ。張氏は中国・延辺大学朝鮮学部で学び、北朝鮮
・金日成総合大学経済学部に留学しており、朝鮮語が巧みだ。
 そして、江氏が国家主席就任翌年の1990年3月、初の外遊
先は「兄弟国」の北朝鮮だった。金正日総書記と会談した際に、
張氏が通訳を務めた。正日氏が2006年1月に中国・広東州大
学街を視察した際も、当時、広東省委員会書記だった張氏が随行
し、江氏が同伴している。          ──河添恵子氏
          ──2017年4月6日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 このようにして金正日前総書記時代に張徳江氏は、「中国の代
理人」のポジションを固め、瀋陽軍区を中心に北朝鮮との関係を
一層緊密化し、序列3位の地位にまで昇りつめたのです。
 習近平氏は政権の座に就くと、人民解放軍の軍制改革を断行し
従来の7大軍区を5軍区に再編し、すべてを北京でコントロール
しようとしたのですが、旧瀋陽軍区を含む「北部軍区」は再編に
よってかえって勢力は拡大し、それはかなわなかったのです。
 中国国内外の専門家によると、事実上張徳江氏が率いる北部軍
区が金正恩体制の後盾になっており、食料もエネルギーも北部軍
区や遼寧省の国境町、丹東市周辺の軍産企業から北朝鮮に流れて
いるといわれています。おそらく核技術についても北朝鮮へ供与
されていると思われます。また、張徳江氏は、現在、韓国の大統
領選を有利に進めている文在寅候補とも面談しています。
 このように習主席に北朝鮮はどうすることもできないのです。
そこで習主席は北朝鮮との関係を半ば放棄し、韓国の朴政権に接
近することによって、韓国の属国化に動いたのです。そのため、
一時朴政権は中国に大きく傾斜し、2015年9月、北京の天安
門広場で行われた「抗日戦勝70年記念式典」に出席した朴氏は
ロシアのプーチン大統領の隣りのポジションという破格の厚遇を
受けたのです。
 しかし、朴大統領は北朝鮮問題を解決させるために習近平主席
に近づいたのに、習政権は何もしてくれなかったので見切りをつ
け、日米韓の連携に戻り、習主席への仕返しとしてTHAADの
配備を容認したのです。習主席は北朝鮮の問題に関しては、何も
しなかったのではなく、何もできなかったのです。
 したがって、トランプ大統領との会談で、北朝鮮の核開発抑制
に向けた協力強化で一致」としても、習主席にはそれを実行する
ことは期待できないのです。しかし、米軍の北朝鮮攻撃やいわゆ
る金正恩斬首作戦への協力をすることは可能であるといえます。
             ──[米中戦争の可能性/067]

≪画像および関連情報≫
 ●香港親中メディア、党内序列3位・張徳江を連日糾弾
  ───────────────────────────
   一貫して中国政府擁護の報道を繰り返してきた香港随一の
  親中メディア「成報」が2016年9月28日から今月4日
  までに、江沢民元総書記の側近、党内序列3位の張徳江全人
  代常務委員会委員長を痛烈に批判し、解任と責任追及を求め
  る記事4本を連日トップ紙面に掲載した。国内外がこの異例
  な動きに強い関心を寄せているなか大紀元コラムニストは江
  派と対立する習近平指導部の命令である可能性を指摘した。
   一連の報道はいずれも容赦のない内容で、香港を主管する
  中央港澳工作協調小組組長でもある張氏の「数々の問題点」
  を指摘した。▼強硬かつ一方的な政策決定が香港社会の対立
  を深化させ、2014年末に学生ら民主派による大規模な道
  路占拠運動を誘発した。▼2002〜03年、広東省のSA
  RS(重症急性呼吸器症候群)発症情報を隠ぺいしたことで
  香港および国内外に感染を拡大させて多くの死者を出した。
  ▼本土の腐敗の悪習を香港政界に持ち込んだ。▼香港政界に
  闇勢力を浸透させた。
   記事は張氏を「香港を乱す災いの元凶(災星)」「香港を
  乱す四人組の一人である」「糞をかき混ぜる棒である」と激
  しい言葉で批判し、「現最高指導部では江沢民派の代表であ
  る張は、絶えず政局を乱し、各種の改革を妨げている」「江
  沢民は張を庇う黒幕である」と元総書記まで名指して、「香
  港市民が強く望んでいる」として張氏の解任と責任追及を習
  近平指導部に「進言した」。    http://bit.ly/2oODXRS
  ───────────────────────────

張徳江全人代常務委員長.jpg
張徳江全人代常務委員長
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2017年04月11日

●「北朝鮮と中国の本当の関係を探る」(EJ第4498号)

 中国にとって北朝鮮は、きわめて利用価値の高い国であるとい
えます。そのポイントを上げると次の3つがあります。
─────────────────────────────
        1.地政学的利点のある隣国
        2.緩衝地帯・屏風・番犬論
        3.かつての血の友誼の同盟
─────────────────────────────
 第1は、「地政学的利点のある隣国」であることです。
 中国は北朝鮮と幅広く国境を接しています。どこの国でも隣国
との関係は難しいものですが、これまでのところ両国の関係は比
較的良好であるといえます。
 北朝鮮は、民主主義国の大韓民国と38度線を境に二分されて
いる分断国家です。中国から見ると、米軍の駐留する民主主義国
の韓国と直接接していない点でメリットがあります。
 第2は、「緩衝地帯・屏風・番犬論」という視点です。
 中国から見ると、北朝鮮との間に長い国境線を持っているとい
うことは、外部から中国に侵略があったときの屏風の役割をする
緩衝地帯になり得ます。また、中国に代わって米国に吠えてくれ
る番犬的存在でもあります。
 第3は、「かつての血の友誼の同盟」であることです。
 1950年の朝鮮戦争のとき、北朝鮮軍は奇襲作戦によって、
ソウルを占領し、敗走する韓国軍を釜山付近まで追い詰めたので
す。ところが、国連安保理決議により、米軍を中心とする国連軍
が編成され、韓国に派遣されると、形勢が逆転します。補給線が
延びきっていた北朝鮮軍が今度は敗走し、国連軍はソウルを奪還
し、平壌も占領、さらに中朝国境近くまで迫り、北朝鮮は存亡の
危機に立たされたのです。
 ところが、1950年10月、鴨緑江を越えて参戦したのが中
国の人民志願軍。「人海戦術」を駆使して国連軍を押し戻し、平
壌とソウルを奪い返したのです。その後戦況は一進一退になり、
1953年7月27日、板門店で休戦協定が締結され、現在にい
たっています。このとき、北朝鮮と中国の間に生まれたのが「血
の友誼の同盟」です。この同盟関係は簡単に壊れることなく、現
在も続いているといわれます。
 この血の友誼の関係を象徴しているのは、中国と北朝鮮の首脳
同士が会ったときの挨拶のハグの親密さです。それは、添付ファ
イルの3枚の写真によくあらわれています。
 写真Aは、1990年3月、江沢民氏が党総書記に就任した翌
年に北朝鮮を訪問し、金正日総書記に会ったときのハグです。両
手での握手はもちろん、弾けるような笑顔で強くハグしているこ
とがわかります。ノンフィクション作家の河添恵子氏によると、
このまるで恋人同士のようなこの関係は「中国共産党と北朝鮮の
指導者が面会する時の特殊な儀礼」とか、「中朝の“鮮血擬血”
の友情な証」といわれているそうです。
 写真にはありませんが、胡錦濤国家主席が2004年に北朝鮮
を訪れたときも金正日総書記と同様のハグをしているし、李源朝
国家副主席(共青団派)がはじめて金正恩委員長と面会したとき
も、写真Bのようにハグしています。
 しかし、2008年3月、習近平国家副主席が北朝鮮を訪問し
金正日総書記と面会したときはハグはなく、習副主席は微笑み歩
み寄ったものの、双方は一定の距離を保った普通の握手だけだっ
たのです。
 たかが挨拶のハグというかもしれませんが、習近平主席は北朝
鮮に対して冷たいのです。中国は韓国と1992年に国交を樹立
していますが、それ以来中国は、韓国と北朝鮮に対して等距離外
交を基本としてきたのです。
 それでも習政権以前のケ小平、江沢民、胡錦濤政権では、等距
離外交とはいいながら、北朝鮮重視を続けてきています。しかし
習政権になると、露骨に韓国を重視するようになったのです。こ
れについては、昨日のEJでも言及しています。
 習近平主席は、挨拶に訪中した崔竜海(チェリンヘ)朝鮮人民
軍総政治局長に会っていますが、そのときの模様について、河添
恵子氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 2013年5月、習主席は崔竜海朝鮮人民軍総政治局長と会見
した。彼は、金正恩が指導者となって初めて中国に送り込んだ特
使だった。中韓メディアは、「雀竜海が金正恩の親書を手渡すと
習主席は何も言わず無表情で受け取り、片手で秘書に手渡した」
と写真と共に報じた。
 その翌月、習主席は朴槿恵大統領を中国へ招いた。季克強首相
(序列2位)、張徳江(序列3位)とも会見や食事を共にするな
ど大歓待を受けた朴槿恵大統領は、習主席にハルビン駅に(伊藤
博文を暗殺したとされる)安重根義士記念館の建設を懇願する。
           ──月刊WiLL/5月号(2017)
─────────────────────────────
 ここまでの分析でわかったことは、中国が北朝鮮をめぐって必
ずしも一つではないことです。北朝鮮と距離を置こうとする主流
の習主席一派と、北朝鮮を擁護する江沢民派が、目下権力闘争の
真っただ中にあるのです。
 これでは、習近平主席が、いかにトランプ米大統領から北朝鮮
をコントロールせよと要請されてもできるはずがないのです。も
しやれることがあるとすれば、米軍の攻撃を黙認することだけで
あると思います。もしかすると、先の米中首脳会談において習主
席は「黙認」を示唆している可能性があります。
 現在、北朝鮮に最も密着しているのは、「北部戦区」であり、
序列3位の張徳江氏(江沢民派)が仕切っています。もし、この
戦区が北朝鮮と通じてクーデターを起こす可能性がないとはいえ
ないのです。そういう場合、北朝鮮の核は、北京へも向けられる
ことになります。そうであるとすると、習主席が米国と組むこと
は考えられます。     ──[米中戦争の可能性/068]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ中国は北朝鮮からの石炭輸入を停止したのか
  ───────────────────────────
   2017年18日、中国は、北朝鮮からの石炭輸入を今年
  いっぱい停止すると発表した。石炭は北朝鮮の輸出の3分の
  1を占めており、この禁輸措置で、GDPの5%に当たる約
  10億ドル(約1130億円)が吹き飛ぶだけに、北朝鮮に
  は非常に厳しい制裁となる。度重なるミサイル発射と核実験
  にもかかわらず、これまで一貫して北朝鮮擁護の立場をとり
  制裁にも消極的だった中国が、ついに中朝関係を見直すのだ
  ろうか?
   金正恩氏は政権の座について以来、中国が核開発に反対し
  ているにもかかわらず、核実験とミサイル発射をこれまでに
  ない頻度で行っている。金正男氏暗殺の前日で、安倍首相が
  訪米中の12日にも、日本海にミサイルを発射した。中国の
  外交政策アドバイザーで南京大学教授の朱鋒氏は、これまで
  中国は北朝鮮と兄弟関係にあったが、金正恩政権は中国の国
  益になることを全くしたことがなく、いまや中国の忍耐力は
  尽きつつあると述べる(ニューヨーカー誌)。ロイターは、
  核開発問題を平和的に解決しようとしない金正恩氏の態度に
  中国はすっかり嫌気がさしてしまっている、という中国の北
  朝鮮専門家の言葉を紹介した。フォーブス誌も、リスクやコ
  ストが高まる中、60年間続いた中朝の友好関係を中国が考
  え直すことが予測されると述べ、両国の関係は続くものの国
  際社会とうまく付き合うため、中国は距離を置くだろうとし
  ている。             http://bit.ly/2nZ5oEw
  ───────────────────────────

中国幹部と北朝鮮幹部の親密さの差.jpg
中国幹部と北朝鮮幹部の親密さの差
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2017年04月12日

●「米は北朝鮮を本当に攻撃できるか」(EJ第4499号)

 朝鮮半島の緊張が高まっています。4月10日の時点で、米空
母カールビンソンが予定を変更して朝鮮半島に引き返しつつあり
ます。命令の出たのは4月8日のことです。シリアの空軍基地を
米軍がミサイルで攻撃した2日後のことです。
 空母カールビンソンは、3月15日にも韓国南部釜山に入港し
ています。米韓合同軍事演習に参加するためです。その後、シン
ガポールに向い、オーストラリアに寄港する予定であったのです
が、急遽朝鮮半島に戻るよう命令が下されたのです。何のための
命令でしょうか。
 理由は2つあると思います。1つ目の理由は、北朝鮮に対する
「威嚇」です。だからこそ、予定変更を公表したのです。一般的
に空母の航行予定は極秘であり、攻撃されるリスクもあるので、
わざわざ明かすことはないのです。
 それに、東アジアには多くの米軍基地があり、本当に北朝鮮を
攻撃するつもりであれば、わざわざ空母を派遣する必要はないか
らです。しかも米海軍の横須賀基地には、空母ドナルド・レーガ
ンがいるのです。空母の2隻体制は非常に珍しいといえます。そ
れならば、なぜ、空母カールビンソンを、朝鮮半島に戻そうとし
ているのでしょうか。
 それは、朝鮮半島有事のさい、韓国にいる米軍関係者の家族を
避難させるためではないかと考えられるのです。これが2つ目の
理由です。空母であれば、大勢の人を乗せて避難させることがで
きるからです。
 実は朝鮮半島には、それほど危機が高まっているのです。コリ
ア・レポート編集長の辺真一氏は、これについて次のようにいっ
ています。
─────────────────────────────
    トランプ対金正恩の究極のチキンレースである
                   ──辺真一氏
─────────────────────────────
 米トランプ政権は、もし北朝鮮が、核実験かミサイルの発射な
どの行動を起こしたとき、米軍は直ちに北朝鮮に何らかの攻撃を
起こす構えです。これについては、先の米中首脳会談でトランプ
大統領は習近平国家主席にその旨を伝え、習主席から何らかの暗
黙の了承を得ていると思われます。
 北朝鮮がそういう行動を起こすと思われる日は、4月に関して
は次の2日があり、危機は切迫しています。
─────────────────────────────
    4月15日/太陽節・金日成105回誕生日
    4月25日/建軍節・朝鮮人民軍創設記念日
─────────────────────────────
 問題は、北朝鮮がこれらの記念日に核実験かミサイル発射を果
してやるかどうかです。もしやらなければ金正恩委員長は米国の
「威嚇」に屈したことになります。
 かつて金正恩委員長は、核実験の凍結と米韓合同軍事演習の中
止とのバーター取引を提案したことがあります。2015年の新
年の辞においてです。しかし、この提案がオバマ大統領によって
否定されてからは、核実験の凍結を外交カードに使うことはあき
らめています。そのことは、2016年1月と9月の4回目、5
回目の核実験を強行したことからも明らかです。
 したがって、金正恩委員長としては、カールビンソンがやって
こようと、シリアがミサイルで攻撃されようと、それによって、
第6回目の核実験をあきらめることは、限りなくゼロに近いとい
えます。金正恩委員長は「核を持っている限り、絶対に攻撃され
ることはない」と信じ切っているからです。だから、米国がいか
に「攻撃するぞ!」という姿勢を示しても動じないのです。
 そういうわけで、金委員長が上記の記念日に核実験を行う可能
性は高いと思われます。問題は、北朝鮮が実際に核実験を行った
とき、今度はトランプ政権が決断を迫られることになります。も
し攻撃を行わないと、オバマ政権と同じであるとみなされるし、
核兵器を持つ威力が米国にも通じると、かえって北朝鮮を増長さ
せることになってしまいます。
 かつてクリントン政権(1992年〜2000年)のとき、一
度北朝鮮への攻撃を真剣に検討したことがあります。そのときは
当時の金泳三韓国大統領の反対で思いとどまったのですが、これ
について、辺真一氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 クリントン大統領は全面戦争という最悪のシナリオに備え19
94年5月19日、シュリガシュビリ統合参謀本部議長らから戦
争シミュレーションのブリーフィングを受けた。シミュレーショ
ンの結果は「戦争が勃発すれば、開戦90日間で▲5万2千人の
米軍が被害を受ける▲韓国軍は49万人の死者を出す▲戦争費用
は610億ドルを超える。最終的に戦費は1千億ドルを越す」と
いう衝撃的なものだった。
 当時、極東に配備されていた在日米軍3万3千4百人と在韓米
軍2万8千5百人を合わせると、約6万2千人。なんとその約8
割が緒戦3か月で被害を受けることになる。駐韓米軍のラック司
令官にいたっては「南北間の隣接性と大都市戦争の特殊性からし
て米国人8万〜10万人を含め(民間人から)100万人の死者
が出る」と報告していた。       http://bit.ly/2nxsXbk
─────────────────────────────
 まして北朝鮮は1994年のときと違い、今や核とミサイルを
保有しているのです。今のところ米本土への攻撃は無理としても
日本における米軍基地は射程に入るのです。それでも米国は攻撃
に踏み切ることはできるでしょうか。
 しかし、トランプ大統領は予測不能なのです。何をするか予測
はつかないのです。これだけのブラフにもかかわらず、北朝鮮に
核実験をやられて、何もできないとしたら、米国は完全な敗北と
いうことになってしまいます。それはトランプ大統領の我慢のレ
ベルを超えています。   ──[米中戦争の可能性/069]

≪画像および関連情報≫
 ●北朝鮮の核実験が見送られる可能性はないのか?/辺真一氏
  ───────────────────────────
   北朝鮮の6回目の核実験が「カウントダウンに入った」と
  韓国のメディアの多くは伝えている。咸鏡北道吉州郡豊渓里
  にある核実験場を空撮した偵察衛星画像を分析した米ジョン
  ズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト「38ノース」の予測
  や「金正恩(委員長)が決心すればいつ実験されてもおかし
  くない」との韓国国防部の見解に起因しているようだ。本当
  に北朝鮮は6回目の核実験に踏み切るのか?見送る可能性は
  全くないのか?
   過去遡ってみると北朝鮮が核実験を予告、示唆しておきな
  がら実際にやらなかった例は何回かある。一度目は2010
  年10月から11月にかけてで、オバマ大統領の訪韓(11
  月10日)に合わせてであった。また、2012年にも4月
  から5月にかけて同様の動きを示したことがあった。ゲーツ
  国防長官(当時)が中止を求める一方で、国連安全保障理事
  会の常任理事国5カ国(米国、英国、フランス、ロシア、中
  国)が共同声明を出し北朝鮮に核実験の自制を求めていた。
  その結果、北朝鮮の核実験の動きは、いずれも単なるアドバ
  ルーン、デモンストレーションで終わっていた。実際に3回
  目の核実験が行われたのは、翌年の2013年2月12日で
  あった。             http://bit.ly/2pltTfi
  ───────────────────────────

コリア・レポート編集長/辺真一氏.jpg
コリア・レポート編集長/辺真一氏
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2017年04月13日

●「4つの選択肢で北朝鮮に対処する」(EJ第4500号)

 米軍は、空母カールビンソンだけでなく、空母ドナルド・レー
ガンにも朝鮮半島沖への出動を命令しています。空母2隻体制で
す。戦車を積んだ強襲上陸艦も周辺海域に展開しています。そう
でなくても、米韓合同軍事演習で米韓の軍隊が朝鮮半島周辺に集
結しているのです。米軍は本気で戦争を始める構えです。
 米軍による北朝鮮への先制攻撃──冷静に検討すると、もし本
当にこれが実施されると、米軍とその家族、韓国軍、韓国一般市
民、そして米軍基地を持つ日本にも、大きな被害が及ぶ恐れがあ
ります。
 そのため、米国の歴代政権、クリントン政権もブッシュ政権も
オバマ政権も、中国をからめて北朝鮮との話し合い路線をとって
きたのですが、結局、北朝鮮に多くの核兵器を作らせる時間を与
えてしまったといえます。北朝鮮にまんまと騙されてしまったこ
とになります。
 トランプ大統領率いるトランプ米政権は、これまでの北朝鮮政
策は間違っていたとはっきり認めています。そして、高度で危険
な核・ミサイル技術を持つ最もリスクの高い国として、北朝鮮に
対峙しようとしています。しかし、北朝鮮を核保有国としては絶
対に認めない方針です。あくまで非核化です。
 それでは、米軍はこれほどの規模の臨戦態勢をとって、北朝鮮
に対して、何をやろうとしているのでしょうか。それは、北朝鮮
の出方によって違ってきます。TBSの番組「ひるおび」の伝え
る最新の情報によると、次の4つの選択肢があるようです。
─────────────────────────────
   ◎北朝鮮           ◎米国
 1.何もしない
 2.ミサイルを発射する ・・・・ 金融制裁を中国に実施
 3.核実験をする ・・・・・・・ 金融制裁を中国に実施
 4.ICBMを発射する ・・・・ 金正恩斬首作戦を実施
─────────────────────────────
 トランプ政権は、北朝鮮問題についてはあくまで「中国が責任
を負うべき」と考えています。数次に及ぶ国連安保理決議を無視
して北朝鮮が核・ミサイルの開発を続けさせた責任は中国にある
と考えているのです。この前提に立って、上記の4つの選択肢を
設けたのです。
 もし、北朝鮮が「1」の「何もしない」のであれば、米軍の威
嚇が効いたということであり、引き続き、北朝鮮には圧力をかけ
続けることになります。
 しかし、「2」のミサイルの発射や「3」の核実験が行われた
場合、中国に厳しい金融制裁をかけるといいます。つまり、今後
北朝鮮に核実験やミサイル発射をさせたら、それは中国の責任で
あり、中国の金融機関に制裁を発動するというのです。この話は
先の米中首脳会談でトランプ大統領は、習近平主席に対し通告し
ているはずです。もちろん習主席は認めていないでしょう。
 何しろトランプ大統領VS習近平国家主席による米中首脳会談
は、終了後の共同声明も共同記者会見もないという異常さです。
終了後に両国が勝手に自国のメディアに発表するだけなのです。
したがって、米海軍によるシリアのミサイル攻撃も、米国と中国
では、次のように発表が異なるのです。
─────────────────────────────
     米国発表:米軍のシリア攻撃を理解する
     中国発表:対話による解決が必要である
─────────────────────────────
 選択肢「4」の「ICBMを発射する」が行われた場合、米軍
は直ちに軍事行動を実施するとしています。このことは、中国だ
けでなく、日本の安倍首相にも、韓国にも伝えられています。そ
のため、安倍首相は、長嶺駐韓国大使を急遽帰還させたのです。
目的は、本当に戦闘が起きたとき、在留邦人をどのようにして避
難させるかなどの対策をとるためです。
 それでは、北朝鮮はどの選択肢をとるでしょうか。
 「1」の選択肢「何もしない」はあり得ないと思われます。こ
の選択肢をとるということは、北朝鮮は米国の圧力に屈したこと
を意味するからです。
 しかし「2」と「3」の選択肢は必ず実施されると思います。
それも「3」の「核実験をする」は必ず実施されるでしょう。問
題はそれを中国が止められるかどうかです。つまり、今回米国は
力づくで、中国に北朝鮮の起こす国際社会への迷惑な行為の責任
をとらせようとしているのです。これに対して中国がどのように
出るかが注目されます。
 選択肢「4」の「ICBMを発射する」を北朝鮮がやったとき
は、その成否にかかわらず、「レッドラインを超えた」として、
米軍は軍事行動を起こすことになります。軍事作戦の最大の課題
は、いかに短期日で報復能力を壊滅できるかにかかっています。
しかし、これは非常に困難です。これについて書かれている次の
記事を読んでください。
─────────────────────────────
 トランプ政権下での米軍の目標は、開戟から短時日のうちに報
復能力まで壊滅させることだ。朝鮮半島周辺に可能な限り多数の
空軍力、海軍力を集結させ、核・ミサイル施設だけでなく、地上
軍基地や重火器集積地も間髪をいれずに攻撃する必要がある。
 仮に弾道ミサイルと核兵器をすベて破壊したとしても、北朝鮮
にはなお通常兵器と100数十万の兵員が残る。軍事境界線に近
い韓国の京畿道、江原道、ソウル特別市は合計2400万人の人
口密集地帯である。北朝鮮には牽引砲、自走砲、多連装ロケット
砲などがそれぞれ2000〜4000程度ある。射程は20キロ
程度。在米軍事筋は「どう隠しても、発射時点で兵器の場所が分
かり、すぐに破壊できる」と言うものの、米韓地上部隊や民間人
への被害は不可避である。  ──「選択」/2017年4月号
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/070]

≪画像および関連情報≫
 ●金正恩殺害を習近平は黙認するのか!?
  ───────────────────────────
   中国にとっても金正恩はもはや捨て置けぬ存在であるはず
  です。金正恩は就任してから中国の意向を無視し続け、パイ
  プ役だった張成沢も処刑してしまいました。またTHAAD
  配備で対立する韓国では5月9日に大統領選で親北(という
  より北朝鮮そのものの)の文在寅が当選確実な情勢です。こ
  のままでは朝鮮半島全体が北朝鮮の支配下になってしまいま
  す。したがって、習近平が米軍による斬首作戦を黙認するの
  と引き換えに、金政権打倒後の利権を確保するため急きょ渡
  米・会談しているという見方があります。
   一方で、別の見方もあります。現在、中国で朝鮮半島の利
  権を束ねているのは政治局常務委員の張徳江(序列3位)と
  劉雲山(序列5位)という、江沢民派の人物です。習近平は
  今年秋の党大会で2人が退任するのを機に江沢民派を一掃す
  るつもりですが、まだ確定していません。
   習近平としては党大会まではカードを残しておきたい思惑
  から今回は江沢民派の意見を聞き入れたのかもしれません。
  (5日に金正恩が日本海に向けミサイルを発射したのは、劉
  雲山から「習近平に殺害を黙認させない」という情報を掴ん
  だからではないかとも考えられます)。ただし、習近平が朝
  鮮半島に対する決定権を掌握しきれていないとなると、引き
  続き中国指導部内の勢力争いが影響することになります。
                   http://bit.ly/2p1TSZF
  ───────────────────────────

米中首脳会談(フロリダ).jpg
米中首脳会談(フロリダ)
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