2017年01月04日

●「トゥキュディデスの罠の意味探る」(EJ第4431号)

2017年最初のEJです。今年もよろしくお願いします。
 中国の習近平国家主席は、国営中央テレビを通じて、国民への
新年のメッセージとして、強い口調で次のように述べています。
─────────────────────────────
 我々は、領土主権と海洋権益を断固として守り抜く。この問題
で言いがかりをつけることを、中国人民は決して認めない。
          ──2017年1月1日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 習国家主席のこの発言は、明らかにトランプ次期米大統領の発
言を意識しています。トランプ氏は、大統領選挙中、選挙後を通
じて、台湾や南シナ海をめぐる問題で中国を揺さぶる発言を繰り
返しているからです。習国家主席はこれを「言いがかり」と表現
しているのです。
 そういうこともあって、今年のキーワードのひとつは「中国」
の動向です。中国の動きによって、世界に大変化をもたらす可能
性があるからです。最悪のシナリオとしては、戦争だって起きか
ねないのです。
 最近の日本における中国の報道については、かなりネガティブ
なものが多くなっているように感じます。経済の深刻な落ち込み
と南シナ海をめぐるオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所の裁定、
国内の権力抗争の激化などです。
 しかし、まさか中国が戦争を起こすとは考えにくいとする人は
多いと思います。これに関して、カルフォルニア大学教授のピー
ター・ナヴァロ氏が上梓した『米中もし戦わば』(文藝春秋)と
いう新刊書があります。いまこの本が売れているのです。
 このピーター・ナヴァロ氏は、大統領選挙中に政策顧問として
トランプ氏のアドバイザーを務めており、トランプ氏の通商政策
に影響を与えています。ナヴァロ氏は、他にも中国の政策を強く
批判する著書『中国は世界に復讐する』、『中国による死』も書
いている中国批判派の論客です。トランプ氏は、ホワイトハウス
内に「国家通商会議」を新設し、ナヴァロ氏を議長に指名すると
発表しています。
 ナヴァロ氏の著書『米中もし戦わば』(文藝春秋)の冒頭に次
の問題が出ています。
─────────────────────────────
【問題】歴史上の事例に鑑みて、新興勢力=中国と既成の超大国
=アメリカとの間に戦争が起きる可能性を選べ。
  「1」 非常に高い
  「2」ほとんどない
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この問題はどちらが正しいと思いますか。
 結論から先にいうなら、実は「1」の「非常に高い」が正解な
のです。これには歴史的な根拠があります。それは、2015年
9月の習国家主席の米国訪問のとき、オバマ大統領が引用したと
いわれる次の有名な言葉です。これは、紀元前五世紀のペロポネ
ソス戦争に由来する言葉です。
─────────────────────────────
         トゥキュディデスの罠
─────────────────────────────
 トゥキュディデスというのは、古代アテネの歴史家で、『ペロ
ポネソス戦争史』を著した歴史家です。ペロポネソス戦争とは、
紀元前431年〜紀元前404年の約30年の間、アテネを中心
とするデロス同盟とスパルタを中心するペロポネソス同盟との間
に発生した古代ギリシア世界全域を巻き込んだ戦争です。
 紀元前5世紀には、スパルタが現在の米国と同じように強大な
覇権国家だったのです。それに挑むように当時の文明をリードす
る存在になりつつあったのがアテネです。これについてハーバー
ド大学の政治学者であるグラハム・アリソン氏は、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 この劇的な(アテネの)勃興にスパルタはショックを受け、為
政者たちは恐怖心から対抗策を取ろうとした。威嚇が威嚇を呼び
競争から対立が生まれ、それがついに衝突へと発展した。30年
に及ぶペロポネソス戦争の末、両国はともに荒廃した。
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 ナヴァロ氏は、1500年以降、中国のような新興勢力が既存
の大国に対峙した15例のうち11例が戦争に発展したことを指
摘しています。つまり、70%以上の確率で実際に戦争がおきて
いるのです。まして現在中国のリーダーである習近平主席は、日
頃から「私は中国のゴルバチョフにはならない」と言明し、現在
の共産党政権による独裁の目的も、中国の発展や人民の幸福にあ
るのではなく、あくまで自分を核とする共産党体制を守ることに
置かれているようです。それだけに、武力による現状変更を強引
に行い、戦争に突き進む恐れは十分にあります。
 もうひとつ中国にとってリスクが大きいのは、経済の低迷であ
り、その解決のメドが立たないことです。もし、ハードランディ
ング必至ということになると、国民の不満が一挙に共産党に向う
恐れがあり、その国民の不満を外に反らすため、戦争に突入する
可能性はゼロではないといえます。
 そこで、今年の第1のテーマは、テーマとしてはきわめて難し
く、大きなテーマですが、次のようにします。明日から、書いて
いきます。
─────────────────────────────
     『米中戦争の可能性は本当にあるのか』     
      ─ そのとき日本はどうするか ─
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/001]

≪画像および関連情報≫
 ●ペロポネソス戦争/「世界史の窓」
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   前431年〜404年の27年間にわたって続いた、ギリ
  シアの代表的ポリスであるアテネとスパルタの対立を主軸と
  する戦争。ペロポネソスはその戦場となったギリシアの本土
  であるが、戦闘はエーゲ海上から遠くシチリア島まで及んで
  いる。アテネはデロス同盟の盟主として全ギリシアから東地
  中海一帯の海上までその支配を拡大したが、それに反発した
  スパルタはペロポネソス同盟を結成してそれに抵抗しようと
  した。この二つのポリスは、アテネが典型的な民主政を発展
  させたポリスであったのに対し、それに対してスパルタは貴
  族政(寡頭政)のもとで、貴族の中から王を選び、少数の貴
  族階級が多くの半自由民(ペリオイコイ)と奴隷(ヘイロー
  タイ)を抑えるために軍国主義を採っているというように、
  国家体制に大きな違いがあった。
   ペロポネソス戦争の歴史については、アテネの市民トゥキ
  ディデスの『戦史』に詳細に記録されている。トゥキディデ
  スは富裕なアテネの市民であり、また一時は将軍として出征
  したが、作戦に失敗して追放され、所有するトラキアに鉱山
  に隠棲して戦争の推移を見守り、叙述を続けた。その特徴は
  後半に史料を集めながら、厳しい史料批判を行い、客観的な
  事実を究明しながら、この未曾有の戦争の原因と経過を論述
  しようとしている点である。    http://bit.ly/2ir9yCW
  ───────────────────────────

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ピーター・ナヴァロ教授
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2017年01月05日

●「ミアシャイマー教授の3つの仮定」(EJ第4432号)

 なぜ、既存の覇権国家と新興国家の間では、なぜ戦争が起きる
のでしょうか。
 これについて、シカゴ大学のミアシャイマー教授は、有名な次
の自著のなかで、説得力のある理論を展開しています。
─────────────────────────────
       ジョン・J・ミアシャイマー著/奥山真司訳
  『大国政治の悲劇/米中は必ず衝突する!』/五月書房
─────────────────────────────
 ミアシャイマー教授は、覇権国家と新興国家の間で戦争が起き
る理由について、次の3つの仮定を立てています。
─────────────────────────────
   1.世界には国家を取り締まる組織は存在しない
   2.すべての国家は戦争のための兵器を増強する
   3.他国の真意を知るのはほとんど不可能である
─────────────────────────────
 「1」の仮定について考えます。
 国内で不当に誰かから攻撃を受ければ、国家権力の組織である
警察が出動します。そうであるからこそ、多くの場合は、その抑
止力で攻撃を受けないで済んでいるともいえます。
 しかし、国家がどこか別の国家から不当に攻撃された場合には
基本的にはその持っていきどころがないのです。国連があるじゃ
ないかという人もいますが、5つの常任理事国がその理念にもか
かわらず、それぞれ国益で動くので、国家を取り締まる「世界の
警察」として機能していないのです。つまり、無政府状態である
といえます。米国は世界の警察であるといいますが、米国も自ら
の国益で動くので、世界の警察であるはずがなく、当然のことな
がら、米国はそのような義務も負っていないのです。
 「2」の仮定について考えます。
 「1」で述べたように、世界体制は無政府状態なので、すべて
の国家は、武装──戦争のための兵器を増強します。基本的には
自衛のためです。しかし、ときとして、危険な拡大スパイラルが
起きるのです。いわゆる軍拡競争です。ミアシャイマー教授は、
これを「安全保障のジレンマ」と呼んでいます。それは、次のよ
うな意味です。
─────────────────────────────
 安全保障のジレンマとは、他国に対する脅威を感じた結果とし
て行われる軍拡ないし同盟強化の対応が、その当該他国の自国へ
の脅威認識を高め、結果としてさらに当該他国の軍拡ないし同盟
の強化をもたらす。防衛のための軍拡ないし同盟強化は他国への
脅威になることから、負の連鎖として軍拡競争や同盟強化競争が
続くこと。              http://bit.ly/2i1jRwB
─────────────────────────────
 「3」の仮定について考えます。
 現在、中国は驚くべきペースで軍備を拡張しています。かつて
の驚異的経済成長で得た富を軍事費に注ぎ込んでいるのです。ま
るでどこかの国との戦争を急いでいるようです。その意図は世界
の誰にもわからないのです。これについて、ミアシャイマー教授
は次のように述べています。
─────────────────────────────
 米中の今後の行動を正しく予測するためには、「取り締まる者
のいない世界には、できる限り強大な国になりたいという強い動
機が存在するのだ」と理解することが必要だ。その理由は、台頭
する他国が自国に悪意を持っていないかどうか、どの国も決して
確信が持てないからだ。だから、近隣に非常に強大で敵意を持っ
た国があれば(ドイツ帝国やナチス・ドイツや大日本帝国などを
想像してみるといい)、各国はそれよりも遥かに強大なカを貯え
て安心したいと思うようになる。相手が荒っばい振る舞いに出て
も、国家以上の権威を持った存在が助けに来てくれるわけではな
いのだから。したがって、取り締まる者のいない世界体制の中で
安全を保障する最良の方法は、その地域の覇権国家になり優位に
立つことで、どこからも攻撃されないようにすることなのだ。
       ──ジョン・J・ミアシャイマー著/奥山真司訳
    『大国政治の悲劇/米中は必ず衝突する!』/五月書房
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 中国はアジアの覇権国家になることを目指し、軍事大国になろ
うとしています。なぜ、そうするのかといえば、アジアで軍事大
国になれば、どこからも攻撃を加えられることはないからです。
また、その軍事大国になる仮定において、少々荒っぽいことをし
ても、その軍事力を恐れて、正面切って中国を非難できないと考
えているようです。それは、南シナ海の人工島の建設や、わが国
の固有の領土である尖閣諸島への度重なる傍若無人な領海侵犯に
よくあらわれています。
 しかし、戦争というものは、為政者の判断ミスや偶発的な事件
によって起こされるのです。中国の軍事力拡大や他国への領海侵
犯、仲裁裁判所の裁定に反する人工島の建設などによって関係国
間に緊張が高まるなかにおいて、ちょっとした偶発事件によって
戦争に発展するのです。ちょうど、オーストリア皇太子フランツ
・フェルディナントの暗殺事件がきっかけになって、第1次世界
大戦が起きたようにです。したがって、戦争はいつ起きても不思
議ではないのです。
 中国の意図を知るには、現在の中国のことをわれわれはもっと
知る必要があります。習近平国家主席という人物はどのような政
治家なのか、中国共産党内部の権力闘争はどうなっているのか、
中国の経済の状況は本当のところ、どのような状態なのか、知る
べきことはたくさんあります。
 これらについては、連載を進めながら、専門家の情報も参考に
しながら、丁寧に探っていきたいと考えています。
             ──[米中戦争の可能性/002]

≪画像および関連情報≫
 ●e─論壇/百花斉放
  ───────────────────────────
   ジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授は12月11日
  来日し、日本国際フォーラム、明治大学、西シドニー大学お
  よび、グローバル・フォーラム共催の日・アジア太平洋対話
  「パワー・トランジションの中のアジア太平洋:何極の時代
  なのか」を皮切りに、同志社大学、NSC、外務省、防衛省
  東京財団フォーラムでの討論後、日本国際フォーラムの「外
  交円卓懇談会」で活発な意見交換後、12月20日に離日し
  た。その強烈な個性と「攻撃的現実主義」と呼ばれるリアリ
  ズムで日本を揺さぶったが、国際摩擦を強める中国に対し、
  理論面から日米同盟の強化を主張する点で、極めて有意義だ
  った。伊藤剛明治大学教授と共に、教授の招聘を主導した小
  生としては、大きな満足であった。
   ミアシャイマー教授の理論は、国際システムの基本につい
  て(1)国際政治システムは、国家を構成要素とするアナキ
  ーである、(2)全ての国家は攻撃的軍事力を持つ、(3)
  国家は他国の意図(特に将来の意図)を知ることができない
  (4)国家は生存のため覇権を目指すの4点を指摘する。だ
  が、国家にとって直ちに世界覇権を獲得することは無理なの
  で、とりあえずは地域覇権の獲得を目指す。地域覇権を獲得
  すると、国家は、その地域での行動の自由を確保し、他の地
  域にも干渉し、そこでの覇権国の出現を防ぐものとされる。
                   http://bit.ly/2iYSGqa
  ───────────────────────────

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ミアシャイマー/シカゴ大学教授
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2017年01月06日

●「習近平国家主席とはどんな人物か」(EJ第4433号)

 2017年1月3日付、朝日新聞のトップ記事として、中国に
関する次の記事が掲載されています。
─────────────────────────────
 ◎中国、腐敗摘発へ新機関/政府と同格 全公務員を対象
  中国の習近平指導部が、すべての公務員の腐敗行為を取り
 締まる新たな国家機関「国家監察委員会」を2018年3月
 に創設する方針であることがわかった。内情を知る共産党関
 係者が明らかにした。国務院(政府)などと同格で、各省庁
 や地方政府を厳しく監視する。習氏が進める反腐敗政策の集
 大成ともいえる組織で、習氏への権力集中が一層強まる可能
 性がある。     ──2017年1月3日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 この国家監察委員会は、これまで共産党員の規律違反や腐敗行
為を摘発してきた党中央規律検査委員会の書記で、習国家主席の
盟友といわれる王岐山氏の去就と関係があります。
 王岐山氏は、今年69歳であり、「68歳定年」の慣例により
本来なら引退することになります。そこでより強力な監察機能を
持つ国家監察委員会を来春新設し、そのトップに王岐山氏を就任
させることによって、盟友の温存を図る画策ではないかといわれ
ているのです。いずれにせよ、習政権に逆らう者は、ことごとく
排除する体制の構築といえます。
 ところで、この習近平国家主席とはどのような人物なのでしょ
うか。その人物像は、中国専門のジャーナリストによっても、そ
れぞれ大きく異なるのです。
─────────────────────────────
 1.習近平は非常に優れた為政者で大衆に人気があり、力強い
   リーダーシップの持ち主である。
 2.習近平はロシアのプーチンタイプの実力者であり、ケ小平
   に次ぐ共産党の中興の祖になる。
 3.習近平は歴代指導者の中で最弱の“皇帝”で、党内の信頼
   も低く、党中央で孤立している。
 4.習近平は独裁者であり、第2の毛沢東を目指しプチ文革を
   起こそうとする危険人物である。
─────────────────────────────
 このように、習国家主席の印象は、中国をよく知る人によって
もこのように大きく異なるのです。つまり、人によって評価は大
きく分かれるのです。
 中国に詳しいジャーナリストの一人に福島香織氏がいます。テ
レビにもよく登場するので、知っている人は多いと思いますが、
福島氏は産経新聞社に入社し、1998年に上海・復旦大学に語
学入学し、2001年には香港支局長になり、2002年春から
2008年秋まで、中国総局特派員として北京に駐在するという
ベテランの中国通のジャーナリストです。
 福島氏は、2009年11月に産経新聞社を退社し、フリー記
者として中国を取材し、中国に関する多くの著書を上梓しており
私はその何冊かは読んでいます。福島氏は、最新刊書で、習近平
主席のイメージを次のように表現しています。
─────────────────────────────
 私個人の印象としては、今までの習近平の内政、外交における
言動、その生い立ちや周辺からの人物評を総合すると、小心の用
心深く周囲の人間に対する信頼感が薄く、自分の地位を安定させ
るための強い権力を求めつづけて満足しない独裁志向の極めて強
い人物というふうに映る。その独裁の目的は、中国の発展や人民
の幸福というところにはなく、自分を核心とする共産党体制を守
る、自分の権力地位を守る、という一点にある。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 「チャイナ・リスク」というと、経済崩壊、軍事的脅威、社会
動乱などが頭に浮かびますが、福島氏は「習近平政権自身がチャ
イナ・リスクそのもの」であるといっています。それは、この政
権が、かつての胡錦濤政権や江沢民政権とは、明らかに質の違う
危うさをはらんでいるからである──このように、福島香織氏は
いっているのです。
 少なくとも、現在の習近平政権は、前の胡錦濤政権とは大きく
異なるのです。胡錦濤前主席は共産党一党支配の限界というもの
をよく認識していたのです。北京五輪の終わった後の2008年
12月18日、第11期党中央委員会第3回全体会議30周年記
念日に胡錦濤前主席は次のように指摘しています。
─────────────────────────────
 私は次のような深い認識に至った。党の先進性も党の執政地位
も一度苦労して手に入れたあとは永遠に続く、というものではな
い。永遠に変化しないというものでもない。過去の先進性と現在
の先進性の意味は同じではない。現在の先進性は永遠の先進性で
はない。・・・党は人民と歴史が付与した重大な使命を受け止め
新しい状況の問題に対処するため自らを建設するためにまじめに
研究せねばならない、改革発展を指導する中でつねに自己を認識
し、自己を強化し、自己を高めねばならないのである。
                ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 胡錦濤前主席は、共産党体制が危機的状況にあることを深刻に
認識し、政治改革に取り組まなければならないと訴えています。
中国共産党指導者が対外的にこのようなことを発言したのは、初
めてのことであり、それだけ現実認識力が高かったのですが、中
国国内ではそれは「弱さ」に映ったのです。しかも、その肝心の
政治改革をやり遂げる力は、胡錦濤前主席にはなかったのです。
 本当は、2008年の北京五輪は、中国が責任ある大国として
民主・法治国家として生まれ変わるチャンスだったのですが、そ
れを胡錦濤政権は、実現することはできなかったのです。
             ──[米中戦争の可能性/003]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平とは何者なのか/ニューズ・ウィーク
  ───────────────────────────
   本誌2011年1月19日号にも書いたが、ウィキリーク
  スが年末に公表したアメリカ国務省の外交公電に、中国次期
  トップ習近平の知られざる素顔を暴く証言が含まれていた。
  「無骨な田舎者」「ビジネス感覚に長けたリーダー」「外国
  を敵視する危ない人物」――人となりを示す情報やエピソー
  ドが少なすぎるせいで、これまで習の素顔をめぐってはチャ
  イナウォッチャーの間でさまざまな憶測が飛び交っていたが
  この証言は論争に終止符を打つかもしれない。それぐらい重
  要な中身が含まれている。
   公電は駐北京アメリカ大使館から09年11月に発信され
  た。情報源は、アメリカ在住の中国人学者だ。在米中国人の
  情報が北京を経由し、地球を半周して国務省に戻った理由は
  定かでないが、そういった不可解さを差し引いても、この学
  者が語る内容は具体的で生き生きとした習近平のエピソード
  にあふれている。公電によれば、学者は習と同じ1953年
  に生まれた。習近平と同じく、父親は新中国の建国に貢献し
  た革命第1世代で、毛沢東の出身地である湖南省の別の村で
  生まれ、初期から中国革命に参加した。学者の説明によれば
  父親は「同時に日本と香港でも生活。労働運動のリーダーと
  して次第に頭角を現し、49年に中国に戻ったあと、初代労
  働部長(大臣)に就任した」のだという。
                   http://bit.ly/2j3NOjN
  ───────────────────────────

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習近平国家主席
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2017年01月10日

●「中国の『屈辱の100年間』とは」(EJ第4434号)

 ピーター・ナヴァロ氏の『米中もし戦わば』(文藝春秋)に出
ている2つ目の問題を引用します。
─────────────────────────────
【問題】過去200年間に中国を侵略した国を選べ。
  「1」フランス
  「2」ドイツ
  「3」イギリス
  「4」日本
  「5」ロシア
  「6」アメリカ
  「7」1〜6のすべて
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この正解は「7」の「1〜6のすべて」です。つまり、当時の
先進6ヶ国のすべてが、中国を侵略しているのです。その中国侵
略は、次の100年に及んでいます。
─────────────────────────────
     イギリスによるアヘン戦争/1839年
           日中戦争終結/1945年
─────────────────────────────
 アヘン戦争の1839年以前は、清(現在の中国)は、アジア
に君臨する大国だったのです。東南アジアのビルマ(現在のヤン
マー)やベトナム、西アジアのネパール、東アジアの朝鮮は、中
国に定期的に貢物を持って行く従属国だったのです。
 清は1683年までに台湾を征服し、太平洋に出る重要な通路
を確保しています。しかし、1839年にアヘンの密輸が原因で
アヘン戦争が起こり、イギリスの強力な海軍によって、香港と九
竜半島に加えて、すべての主要な港の支配権を割譲させられてい
ます。中国が味わったこの「屈辱の100年間」は、ここからス
タートしているのです。
 その後、大英帝国は、中国の支配下にあったネパールを奪い、
ビルマを植民地化しています。また、帝政ロシアは、中国東北部
の領土と、戦略上重要な日本海への通路を武力で脅し取っていま
す。さらにフランスは、台湾の海上封鎖によって、中国にベトナ
ム北部の支配を委譲させています。まさにやりたい放題です。
 1894年には朝鮮半島をめぐる問題で日清戦争が起こり、日
本はこの戦争に勝利して朝鮮半島の事実上の支配権を握り、この
とき台湾を戦利品として奪っています。さらに30年以上先の話
ですが、日本は満州を占領し、1932年に満州国を樹立してい
ます。1940年までに日本の占領は、東部の大半と中国の主要
な港すべてに及んだのです。
 1900年になる直前に「義和団事件」が起こります。これは
占領した外国人──とくに外国人の宣教師の横暴残虐な振る舞い
に反発した中国人が蜂起した事件です。これに関し、列強8ヶ国
は2万人規模の連合軍を組み、徹底的に弾圧したのです。義和団
事件について、「世界史講義録」から引用します。
─────────────────────────────
 1860年の北京条約で、キリスト教の布教が自由になって外
国人宣教師が奥地に入るようになると、治外法権を利用した横暴
なふるまいによって中国民衆との紛争が頻発するようになりまし
た。山東省では、1890年代末から、大刀会や義和拳という武
術を習う人々を中心として宣教師や教会を襲撃する仇教(反キリ
スト教)運動が活発化しました。
 彼らは義和団と呼ばれ、1899年頃から参加者と規模を拡大
し、「扶清滅洋(清を助けて西洋を滅ぼす)」を唱える大規模な
武装排外運動に発展しました。1900年には鉄道、電信の破壊
闘争を行ない、天津と北京を占拠。北京では公使館地区を包囲し
ました。清朝政府は当初列強の要請を受け、義和団鎮圧に当たっ
ていましたが、1900年6月、運動の盛り上がりを見て、義和
団とともに外国勢力を排除することに方向転換し、列国に宣戦布
告をしました。これに対し、日・露・英・米・仏・独・伊・墺の
8ヶ国は共同出兵し、2万の兵を送り込みました。連合軍は7月
に天津、8月には北京を占領し、清朝は降伏、徒手空拳で果敢に
戦った義和団も鎮圧されました。清朝は、翌1901年の北京議
定書で北京への外国軍の駐屯、賠償金4億5千万両などを受け入
れ、半植民地化は一層進行しました。  http://bit.ly/2iGKTwH
─────────────────────────────
 中国にとって、この屈辱の100年間は、まさに悪夢だったと
思います。こんなに長い間、苦しめられたのだから、中国が軍事
力を増強し、かつての列強に思い知らせるという思いになるのは
わかるような気がします。しかし、現代は「力には力を」という
考え方で、軍拡競争を行うのは間違っています。
 中国は経済が急成長したので、ここにきて多くの問題点が噴出
しています。共産党の一党支配には限界があるのです。胡錦濤政
権がやり残した経済改革と政治改革にこそ手をつけるべきです。
しかし、習近平政権は真っ先に軍制改革に手をつけ、どちらかと
いうと、毛沢東路線に回帰しようとしています。これに対して、
福島香織氏は次のように疑問を投げかけています。
─────────────────────────────
 しかし、毛沢東やケ小平時代の軍権に頼った強人政治の復活に
は、かなりの実力がいる。毛沢東もケ小平も革命戦争で実戦を積
み、激しい権力闘争を勝ち抜き、人心を掌握し、権謀術数を駆使
してどん底の中国をまがりなりにも導いてきた。その人間性の是
非はともかく、天才戦略家であり天才政治家である。習近平に、
そういった強人政治家としての戦略性、実力、人望があるのだろ
うか。     ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/004]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平率いる中華帝国の野望を読み解く/近藤大介氏
  ───────────────────────────
   中国の「新皇帝」となった習近平は、21世紀の東アジア
  に「パックス・チャイナ」を創ろうとしている――。27年
  にわたって中国問題をウォッチし続けてきたジャーナリスト
  の近藤大介氏が、中国の要人、日本政府の中枢にいる人物た
  ちを取材した記録をまとめた『パックス・チャイナ中華帝国
  の野望』が発売された。
   習近平が国家主席に就任して以降、東アジアでは尖閣紛争
  や南シナ海衝突、さらに北朝鮮の暴走など様々な外交イベン
  トが発生したが、その舞台裏でなにが起こっていたのか、日
  米中の要人たちの生々しい言葉とともに、詳細が記されてい
  る。これからの世界情勢を読み解く上で必読の一冊。本書の
  なかから、その一部を特別公開する。
   「習近平外交」は、「目の上のたんこぶ」である日本にど
  う対抗していくかということから始動した。2012年9月
  11日に野田佳彦政権が尖閣諸島を国有化したことから、中
  国が一斉反発し、中国各地で反日デモが吹き荒れた。暴徒と
  化した中国人が日系のデパートや工場などを破壊し、抗議デ
  モや狼藉は、全国約110ヶ所に及んだ。9月27日には、
  北京の人民大会堂で、胡錦濤主席も列席して盛大な国交正常
  化40周年記念式典が予定されていたが、中国国内の異様な
  「殺気」を受けて、立ち消えになった。日中関係はまさに、
  国交正常化40年で、最悪の時を迎えた。
                   http://bit.ly/2iGLG0M
  ───────────────────────────

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ジャーナリスト/福島香織氏
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2017年01月11日

●「中国を変貌させ兼ねない二冊の本」(EJ第4435号)

 中国でよく読まれている2冊の本があります。いずれも軍人学
者が書いた本です。重要なことは、これら2つの本が、現在の習
近平政権の思想の中枢になっていると思われることです。
─────────────────────────────
       1. 劉明福著  『中国夢』
       2. 戴 旭著 『C形包囲』
─────────────────────────────
 「1」の『中国夢』について述べます。
 この本は、国防大学の劉明福教授が著したもので、2010年
に出版されていますが、内容が米国を刺激しかねないという理由
で、一時出版禁止処分になっていたのです。
 ところが、有力者の提言によって出版禁止処分が解かれ、世に
出てきたのです。内容は、中国は経済的にも軍事的にも、世界一
になる必要があり、戦争で米国と戦っても、負けてはならないと
いう強迫観念で貫かれている、視野狭窄の軍事主義パラノイアに
陥った軍人が好む内容です。
 注目すべきは、この本ではケ小平が主唱した「韜光養晦(とう
こうようかい)」を否定していることです。「韜光養晦」という
のは、国力が整わないうちは国際社会で目立つことをせず、じっ
くりと力を蓄えておくという戦略のことです。
 これについて、元読売新聞北京支局長の濱本良一教授は、中国
は、胡錦濤後期の2007年頃から、少しずつ「韜光養晦路線」
の修正を行っているとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 1991年末にソ連が崩壊し、世界が次は中国の番だと考えて
いた時、最高実力者のケ小平は、『韜光養晦、有所作為』との大
方針を示した。その意味は『才能を隠して機会を待ち、少しだけ
行動にでる』というものだ。
 意図するところは、世界の脱社会主義の流れの中で、身を低く
かがめて力を蓄え、嵐が過ぎ去るのを待て。(中略)建国以来の
危機存亡に瀕した天安門事件を乗り切ったケ小平は老体に鞭打っ
て広東省など南方視察を敢行した。後継指導者として据えた江沢
民に対して、『改革・開放の御旗を絶対に降ろすな』と諭す意味
があった。そして濱本教授は、次の重要なポイントを指摘する。
「転換点は、2009年7月の海外駐在外交使節会議での胡錦濤
演説だった」と。
 なぜなら「韜光養晦、有所作為」の後節に「積極」が挿入され
「積極有所作為」とする主張に変化したことだと捉え、以後「自
己主張を強めた中国の姿勢が随所で見られるようになった。『微
少外交』から『強面外交』への大転換である」と指摘される。
 かくて軍事強硬路線を露骨に表現してアジア各国とぶつかり、
傲然としはじめた中国の姿勢に日本もASEAN諸国の過半も反
発し、団結し始めるのだ。ルトワックが指摘したように、『中国
の戦略には整合性がない』のである。     ──濱本良一著
『経済大国中国はなぜ強硬路線に転じたか』(ミネルヴァ書房)
                   http://bit.ly/2hU6Ysn
─────────────────────────────
 2012年に中国の最高指導者に就任した習近平国家主席は、
「中国の夢」と題して、中国の統治理念について語っていますが
そのネタ本は、劉明福著の『中国の夢』からとられています。
 しかし、次のように、劉明福氏が書いているドギツイ表現を抑
えてはいるものの、その本音は本に書かれている通りなのです。
その一部を以下にご紹介します。
─────────────────────────────
 誰しも理想や追い求めるもの、そして自らの夢がある。現在み
なが中国の夢について語っている。私は中華民族の偉大な復興の
実現が、近代以降の中華民族の最も偉大な夢だと思う。この夢に
は数世代の中国人の宿願が凝集され、中華民族と中国人民全体の
利益が具体的に現れており、中華民族1人1人が共通して待ち望
んでいる。
 歴史が伝えているように、各個人の前途命運は国家と民族の前
途命運と緊密に相連なっている。国家が良く、民族が良くて初め
て、みなが良くなることができる。中華民族の偉大な復興は光栄
かつ極めて困難な事業であり、一代、また一代の中国人が共に努
力する必要がある」と。         ──習近平国家主席
                   http://bit.ly/2iSWSof
─────────────────────────────
 この演説で習国家主席が述べている「中華民族の偉大な復興の
実現が中華民族の最も偉大な夢である」という表現は、その本音
が劉明福著の『中国の夢』にあるとすると、かつて中国の領土で
あった国や島嶼をすべて取り返すことこそ中国人の夢であるとい
うようにとれるのです。実際に習政権のやっていることはこの考
え方に沿っていると思います。そして、その実現のためには、軍
事力の増強が必要であると説いているのです。
 そして、現代について中国は「G2の時代」と呼び、米国と強
大化する中国が世界を二分、すなわち、太平洋を米国と中国とい
う2つの大国で二分し、仕切るといっています。しかし、やがて
中国が米国を上回るようになり、「G1の時代」──米国の一極
体制から、強大化する中国一極体制にとって代わる時代が来ると
いっているのです。
 胡錦濤政権では、確かに「韜光養晦路線」の修正ははじめたも
のの、『中国の夢』が説く軍人の夢というか、壮大な妄想に踊ら
されない国際社会に対する現実認識を持っていたといえます。さ
らに共産党一党支配の限界を認識し、構造的な経済や政治改革が
必要であると悟っていたといえます。
 しかし、習近平国家主席は、政治改革にも経済改革にも手をつ
けず、「軍制改革」に着手したのです。強軍化を推し進めるため
に、国家主席自身が軍権の完全掌握を図ったのです。「2」につ
いては、明日のEJで述べることにします。
             ──[米中戦争の可能性/005]

≪画像および関連情報≫
 ●「中国夢」に見え隠れする習近平のジレンマ
  ───────────────────────────
  加藤嘉一:長く中国を中心としたアジア太平洋外交に従事さ
  れていた小原さんは、在シドニー総領事、在上海総領事を経
  て、現在は東京大学で教鞭を採られています。外交官から研
  究者への転身ですね。ご著書『日本走向何方(日本はどこに
  向かうのか)』の中国語訳を担当させていただいた頃から、
  小原さんがアカデミズムを重視され、それに対するこだわり
  も肌で感じていたので、私自身にはそこまで大きなサプライ
  ズはありませんでした。どのような経緯で現在に至り、就任
  されたときはどんな心境だったのでしょうか?
  小原雅博:東大法学部からお話をいただいたときは、青天の
  霹靂でした。退職後に学問の道に入れればいいな、との漠然
  とした希望は頭の片隅にありましたが、外務省を辞めてまで
  の転身は考えていませんでしたから。ずいぶん迷いましたが
  東大の熱意と、ある方から頂いた福沢諭吉の「一身二生」と
  いう言葉に押されて、昨年秋に東大に移って来ました。国際
  問題には誰もが納得する答えはありません。「reasonable」
  で「workable」な解を求めて、歴史や文化や言葉を学び、社
  会の奥深く分け入って体験し、専門家の先行研究に目を通し
  て、思索を深めていく。そんな努力の先に出口が見えてくる
  のだと思っています。東大での最初の学期は、30人のゼミ
  生を持ち、さまざまな国際問題を取り上げて議論しましたが
  学生たちの問題意識は高く、私自身が多くのことを学びまし
  た。実務と理論の統合という目標はまだ遠くの彼方にありま
  すが、毎日勉強できる喜びが私を支えてくれています。
                   http://bit.ly/2iEI92K
  ───────────────────────────

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中国で話題になっている2冊の本
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2017年01月12日

●「C形包囲とは何か/空母の必要性」(EJ第4436号)

 昨日のEJでご紹介した中国でよく読まれている2つの本を再
現します。「1」については、既に昨日述べています。
─────────────────────────────
       1. 劉明福著  『中国夢』
     ⇒ 2. 戴 旭著 『C形包囲』
─────────────────────────────
 「2」の『C形包囲』について述べます。
 この本は、中国の現役空軍大佐であり、著名な軍事学者でもあ
る戴旭(ダイシェイ)氏によって2010年1月に発刊され、中
国本土で30万部のベストセラーになっている本です。
 ところで、「C形包囲」とは何でしょうか。
 「C形包囲」というのは、中国が包囲しているのではなく、中
国が包囲されているという意味です。それは海上だけでなく、陸
上でも包囲網が敷かれているといっています。書籍自体が入手で
きないので、この本を取り上げている沖縄対策本部公式サイトか
ら引用します。記述が分かりやすいからです。
─────────────────────────────
 ≪海上包囲網≫
 中国海軍は、次のような海上包囲網で閉じ込められています。
 ・東シナ海で合同軍事演習を行う日米同盟
 ・台湾の中にいる独立派
 ・海洋基本法案を可決し、中国の領土を自国の領土に編入し、
  6隻の潜水艦を発注しているフィリピン
 ・米軍と軍事連携を固めることを決めたベトナム
 ・14隻の潜水艦の建造と購入を決めたインドネシア
 ・27隻のヘリコプター搭載の巡視艇建造を決めたマレーシア
 ・総計780億ドルをかけて軍拡をすすめるオーストラリア
 ・2隻の航空母艦の建造を始めたインド
 ≪陸上包囲網≫
 ・アメリカのアフガニスタンを狙う本当の理由は、中央アジア
  からのエネルギー資源の道を裁ち切り、中国の国力を弱らせ
  るためである。
 そして、モンゴルも日米政府寄りなので、中国は東北のロシア
との国境をのぞいては、全てアメリカに包囲されていると述べて
います。自国の軍拡を棚にあげて、中国が攻撃をしているわけで
はなく、アメリカが緊張を高めているのだと言い放っています。
 つまり、「中国の周りは米国の手先となった国に包囲され、危
機的な状態にある。だから中国は戦争を避けられない」との理論
を細かく展開している書籍です。
 これから、中国が戦争を始める正当性を論じた書籍といえると
思います。人民解放軍は国民にも戦争を始める準備を訴え始めた
ということではないかと思います。そして、最後は「中国人民よ
平和を望むなら戦争に備えよ!」という言葉で結んでいます。
                   http://bit.ly/2j9Q6d5
─────────────────────────────
 『C形包囲』を沖縄対策本部公式サイトがなぜ取り上げたのか
については、あくまで推測ですが、この本に、沖縄(琉球)は中
国の領土であると記述されているからです。これについては巻末
の「画像と関連情報」を参照してください。
 気になることは、著者は10〜20年以内に、C型包囲を敷く
国々との間で戦争が起きると予言していることです。そのために
複数隻の空母が必要になるとも書いています。実際に中国は、不
完全空母とはいえ「遼寧」を既に有していますし、現在2隻の空
母を建設中といわれます。
 昨年12月25日、中国は初めて空母「遼寧」を、第一列島線
(九州─沖縄─台湾─フィリピン)の宮古海峡を越えて西太平洋
に進出させ、バシー海峡を通過して海南島の海軍基地を経て、南
シナ海に入っています。中国の空母船団はここを守るためのもの
であり、初めてそれを実現させたのです。
 確かにこの本も『中国の夢』と同様に「米国主導の複数の国々
によって中国は包囲されている」という被害妄想による強迫観念
に貫かれていますが、一方において、現在中国が置かれている立
場についても、次のように意外に謙虚に分析しています。
─────────────────────────────
 中国は世界の覇権を狙ってはいない。アジアの覇権も狙ってい
ない」と言い、同時に「自国の領域が平穏なことを望むだけであ
る。中国は他人の土地や海など寸歩たりともいらない。だが主権
は決して譲らない」と書いている。
 さらに中国は超大国などではないと言い、「現在、中国が経済
成長をしていると言っても、貿易黒字の85%以上は外国企業が
中国を拠点にして生産した製品を逆輸出しているに過ぎない。中
国が生産している製品の大半は特許費を払っており、加えて、中
国が汗水垂らして稼いだ金はアメリカの有毒な債券の購入に当て
られ、しかも債券価格はまたもや大幅に下落する。
 アメリカは、スペース・シャトル、ボーイングの旅客機と航空
母艦を持ち、日本は自動車、電気機器、コンピューター産業を持
ち、ロシアは巨大なエネルギー産業を持っている。では、中国に
は何があるのだろうか。
 中国の支柱産業は不動産、紡績、酒・タバコである。8億本の
ズボンを生産して、ようやく1機の旅客機に交換している現状で
ある。西側の諸国は何を根拠に中国が急速に“世界の超大国にな
る”などと決めつけるのか。私には皆目見当がつかない」と、中
国の現状を正しくつかんでいる。さらに、「現在の中国は巨大に
見えるが、ただの肥満体で力はない」と言い切っている。
                   http://bit.ly/2hYJkcE
─────────────────────────────
 これら2冊の本は中国で幅広く読まれており、習近平国家主席
の思想もこれらの本によって影響を受けています。慎重に米国と
の戦争は避けながらも、南シナ海や東シナ海での領土主張は断固
貫く構えといえます。   ──[米中戦争の可能性/006]

≪画像および関連情報≫
 ●『C形包囲』について/小島一郎氏のページ
  ───────────────────────────
   日本は、百数十年前に中国の領土であった琉球(沖縄)を
  併合したが、中国は第二次世界大戦の勝利にかこつけて失地
  回復を図ろうとせず、世界の利益を尊重した。しかし日本の
  態度はさらにひどくなり、琉球から始まり、中国の大陸棚を
  山分けしようとしたのである。つけあがるにもほどがある。
   双方は現状を維持したままで、両国関係と世界平和という
  大局から出発し、東シナ海を「友好の海、協力の海、和平の
  海」にするとの立場に基づいて、東アジアの近代史を振り返
  り、東シナ海問題だけを見るのではなく、それと密接な関係
  にある釣魚島問題、琉球問題も見てみようではないか。中国
  は長さ1・8万キロの海岸線、1万以上の島々、300万平
  方キロにもわたる海洋国土を有している。このようなこの上
  なく恵まれた地理条件を持つ大国は、世界海洋制覇に挑む使
  命があるにもかかわらず、中国歴代の支配者とくに明と清の
  政府は、統治が崩壊するまでそれに気が付いていなかった。
  今の中国海洋国土の2分の1は、領有権をめぐって周辺諸国
  と紛争中であり、多くの島は隣国の支配下に置かれているよ
  うな状況である。
   大国の中で空母を持っていないのは中国だけである。中国
  は永遠に空母を持たないわけにはいかない。いまから向こう
  50年の間は、中国海軍の発展目標は南シナ海以外の海域に
  定めてはいけない。私たちはこの50年の間、まず国力を総
  動員し、台湾問題を解決し、不法占拠された島々を取り戻さ
  ねばならない。          http://bit.ly/2hZ1rPn
  ───────────────────────────

中国海軍空母「遼寧」.jpg
中国海軍空母「遼寧」
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2017年01月13日

●「『五輪9年ジンクス』の謎を探る」(EJ第4437号)

 2016年11月19日、ペルーのリマで開催されたAPEC
で、米国のオバマ大統領と中国の習近平国家主席の間で米中首脳
会談が行われたのです。そのとき、習国家主席は終始悠然と勝者
としての笑みを浮かべていたのに対し、オバマ大統領の表情は極
めて厳しかったといいます。
 本来APECは、米国がアジア太平洋の盟主として振る舞う外
交舞台であったはずです。これまでオバマ大統領は、経済のTP
Pと軍事の米軍アジア・リバランスという、二重の中国包囲網を
敷いて、中国をおさえてきたのですが、次の大統領の座を反TT
Pを唱えるトランプ氏に奪われ、意気消沈していたようにみえた
というのです。
 おそらく習国家主席は、意気消沈しているように見えるオバマ
大統領を見て、中国の偉大な復興を果たす以前に国家主席が交代
するようなことがあるとその目的を果たすことは困難になる──
そのためには、終身でも国家主席を続けられる制度の改正が必要
であるという確信を抱いたものと思われます。
 中国では、国家主席ポストに「3選禁止」の規定があります。
それからもうひとつ「69歳定年」の規定もあるのです。つまり
中国の国家主席ポストは5年ごとの2期10年までしかできない
ことになっているのです。
 習近平氏は、2017年の党大会で2期目に入り、2022年
にその任務は終了します。そのとき習近平氏は、69歳になるの
で、定年に達することになります。習主席は、この「3選禁止」
と「69歳定年」の両方の規定を改正し、終身国家主席のボスト
にい続けるという野望を抱いているのです。
 そのため、習近平氏は、2016年1月から自らを「核心」と
する運動を起こし、10月の党第18期中央委員会第6回全体会
議(六中全会)のコミュニケのなかで「核心」の呼称が確認され
ています。この「核心」とは、任期のない「党の最高指導者」の
ことを意味しています。
 しかし、習近平氏の野望の実現は極めて困難です。なぜなら、
中国には、数々のチャイナ・リスクがあるからです。本来中国共
産党は、農民や労働者の党であったはずなのに、いつの間にか資
本家・プチブル層の利権組合になってしまっています。これには
政治改革を断行するしかないのです。
 それに、いつクラッシュしても不思議ではない深刻な経済リス
クもあります。経済崩壊を避けるために、習政権も2014年に
は「新常態/ニューノーマル/低成長経済の容認」を打ち出し、
「痛みに耐えて改革を進める」ことを宣言したはずなのに、結局
は7%成長路線にこだわり、無謀きわまる大型公共投資と財政出
を現在も続けている始末です。
 もうひとつ習政権には巷で噂されている懸念もあるのです。そ
れは「五輪9年ジンクス」です。専制国家(軍事政権を含む)が
オリンピックを開催すると、その9年前後に体制崩壊が起きると
いう、いわゆる一種の都市伝説です。例を3つ上げます。
─────────────────────────────
       1.1936年/ベルリン五輪
       2.1980年/モスクワ五輪
       3.1988年/ ソウル五輪
─────────────────────────────
 「1」は1936年の「ベルリン五輪」です。
 これは、いわゆるヒットラーのドイツが開催したオリンピック
です。当初ヒットラーはオリンピックはユダヤの祭典であるとし
反対していたのですが、プロパガンダとして使えると判断し、ド
イツが国の総力を挙げて取り組んだオリンピックです。
 しかし、その9年後の1945年、ヒットラー率いるナチス・
ドイツは崩壊しています。
 「2」は1980年の「モスクワ五輪」です。
 これは、冷戦下において、ソ連の首都モスクワで行われたオリ
ンピックです。しかし、1979年12月に起きたソ連によるア
フガニスタン侵攻の影響を受けて、集団ボイコットが起きたオリ
ンピックでもあったのです。
 しかし、その9年後の1989年に東西冷戦構造が崩壊し、そ
の2年後の1991年に旧ソ連が解体されています。
 「3」は1988年の「ソウル五輪」です。
 これは、韓国最後の軍人出身大統領の盧泰愚政権下で、韓国の
首都ソウル特別市で開催されたオリンピックです。前回のロサン
ゼルス五輪では東側陣営が、前々回のモスクワ五輪では西側陣営
がボイコットしたので、ソウル五輪は、12年ぶりにアメリカと
ソ連の二大大国の揃ったオリンピックになったのです。
 しかし、その9年後の1997年に元民主化運動家の金大中政
権という純然たる民主主義政権が誕生しています。さらに同年、
タイを中心にアジア通貨危機が起こり、韓国はそれに巻き込まれ
て、国家存亡の危機を経験しています。
 どうして、オリンピック後に体制崩壊が起きるのかについて、
福島香織氏は、自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 五輪という平和と自由、民主を象徴するような国際的スポーツ
大イベントが開催されると、多くの海外観光客が専制国家を訪れ
ることになり、その民間交流の結果、大衆が民主主義的な普遍的
価値観に目覚めはじめる。その一方で、五輪運営にかかった莫大
な費用のツケによって財政が悪化し、政権の弱体化が起きてしま
い、体制の転換が起こりやすい、という理屈らしい。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 今年は、奇しくも北京オリンピックからちょうど9年目に当た
ります。多くの制度的矛盾を抱える中国には、何が起きても不思
議ではないのです。果たして習近平政権は無事に2期目に入るこ
とができるでしょうか。  ──[米中戦争の可能性/007]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平氏は「中国共産党の核心」/THE HUFFINGTON POST
  ───────────────────────────
   中国共産党の重要会議「第18期中央委員会第6回全体会
  議(6中全会)」が4日間の日程を終えて、2016年10
  月27日に閉幕した。会議で採択されたコミュニケでは、習
  近平国家主席を「党中央の核心」と位置付けた。コミュニケ
  は、人民日報系のニュースサイトである「人民網」などで発
  表された。
   コミュニケでは、習氏が「率先して党の管理強化を全面的
  に推し進め、党内政治を浄化し、民心を獲得した」として、
  厳しい汚職摘発が「民心を勝ち取った」と評価。習氏の指導
  力をアピールするものとなった。これまで中国共産党におい
  て、最高指導者を「核心」と呼ぶ表現は毛沢東、ケ小平、江
  沢民の3氏にしか用いられていない。前国家主席の胡錦濤氏
  の時代は集団指導体制を重んじていたこともあり、「核心」
  という表現は使われなかった。
   党中央機関の決定を経て「核心」となったことで、習氏へ
  の権力集中がさらに進んだことになる。2017年秋には指
  導部メンバーの大幅な交代が予想される党大会を控えており
  人事でも強い主導権を握ることになるとみられる。
                  http://huff.to/2j1WDXZ
  ───────────────────────────

APEC(リマ)/米中首脳会談.jpg
 
APEC(リマ)/米中首脳会談
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2017年01月16日

●「習近平の暗殺は何回も起きている」(EJ第4438号)

 中国、正確には中華人民共和国は、中国共産党が一党支配をし
ています。したがって、中国共産党のトップである中央委員会総
書記が中華人民共和国の国家主席(元首)になります。順番から
いうと、まず、中国共産党大会で中央委員会総書記になって、そ
のうえで、全国人民代表大会(全人代)において、中華人民共和
国の国家主席になるのです。その任期は、いずれも5年で、2期
10年と決められています。現在の習国家主席の場合は、次のよ
うになっています。
─────────────────────────────
        ◎2012年11月15日
         中国共産党第6代中央委員会総書記
        ◎2013年 3月14日
         中華人民共和国第7代国家主席
─────────────────────────────
 中国共産党は、今年の秋に北京で「第19回党大会」を開催し
ます。この大会で習近平国家主席は2期目の中央委員会総書記に
指名され、2018年の全人代で2期目の国家主席に就任するこ
とになります。なお、中国共産党大会は、5年ごとに開催される
ことになっています。
 これまでの中国の国家主席がそうであったように、現在の習近
平国家主席の権勢ぶりを考えると、何の問題もなく2期目に移行
できると思われますが、このところ習国家主席の身辺は危険に満
ちており、その危険度は日々増加しています。福島香織氏は、習
近平氏の現況について次のように述べています。
─────────────────────────────
 『誰が習近平を謀殺するのか』(黄子佑著)という電子版書籍
が2015年春ごろ話題になった。(中略)習近平が突如失脚す
るとしたら、一番大きな可能性は普通の権力闘争の結果ではなく
暗殺か政変、クーデターである、という主張を書いた本だが、こ
れがまんざら、放言というわけでもないところが、チャイナリス
クなのである。
 なにせ習近平が暗殺未遂に遭ったのは、噂になっただけでも6
件はある。本人も暗殺計画に非常におびえ、今や習近平の護衛に
ついているSPは、テレビのニュース映像などから確認できるだ
けでも16人以上に膨らんだ。過去、ここまでどこへ行くにも、
SPに囲まれていた指導者はいない。暗殺もクーデターもいつ起
きても不思議はない、習近平自身がそう感じているのである。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 どうして、習近平国家主席がそんなに狙われるのかというと、
それは、就任の2012年から展開している「反腐敗キャンペー
ン」を建前にして、自らの政敵を次々に失脚させていることに原
因があります。
 そもそも中国の国家主席はリスクの多いポストなのです。それ
は、党が軍部を完全に掌握できていないことによって起こるケー
スが多いのです。つまり、シビリアン・コントロールが不安定に
なっているのです。
 初代の国家主席である毛沢東や、国家主席には就任していない
ものの、事実上の国家主席であったケ小平の世代は、革命戦争を
指導しており、その命令に軍部は素直に従っていたのですが、江
沢民政権以降は、最高指導者に軍歴がないことから、党と軍の統
制はうまくとれていないのです。
 習近平政権にとって最大の危機は、2015年にあったといえ
ます。そのキーワードは次の3つです。
─────────────────────────────
  1.       北載河会議 2015年8月 3日〜
  2.       天津大爆発 2015年8月12日
  3.抗日戦争勝利70年観兵式 2015年9月 3日
─────────────────────────────
 実は、この3つの出来事はつながっているという説があるので
す。北載河会議というのは、毎年夏になると、中国の最高指導者
たちは、渤海を望むリゾート地・北戴河に集まり、約3週間の夏
休みを過ごすことになっています。そこでは非公式に人事などの
案件が話し合われますが、基本的には夏期休暇です。
 未確認情報ではありますが、この会議の終了後に北載河会議に
中国共産党の高級幹部が集まるのを利用して、暗殺計画が企てら
れたというのです。2015年の計画では、この会議の終了後、
16日には列車に乗って天津市を訪れ、会議での決定事項を報告
することになっていたのです。暗殺計画は、その列車を爆破しよ
うとしたのです。ところが、この計画は突如中止されます。計画
が漏れたからです。もちろん、これらの高級幹部のなかに習近平
国家主席がおり、習政権高級幹部を狙った暗殺計画です。
 そして、計画漏洩後の8月12日、天津港地区・国際物流セン
ター内の危険物専用倉庫が大爆発を起こしたのです。それは、習
国家主席を乗せた列車を爆破しようとして用意した爆薬を犯人グ
ループが証拠隠滅のために爆破したものだというのです。
 これは、尋常な爆発ではなく、被害を受けた面積が約20平方
キロ(東京ドーム1500個以上)に及び、その後の中国経済に
深刻な影響を与えることになります。
 しかも、爆破された倉庫を保有する企業の実質的な責任者は、
習近平国家主席の政敵といわれる先々代の国家主席である江沢民
氏の腹心の親族であり、その関与が取り沙汰されています。その
ためか、政府は情報を隠蔽し、報道規制を強めたのです。
 中国国家インターネット情報弁公室は、関連サイトの閉鎖や中
国版のツイッターである微信のツイートを多数削減し、その発信
自体も禁じたのです。そのせいか、天津大爆発の情報は現在でも
不足しています。そして、9月3日には抗日戦争勝利70年観兵
式が行われたのです。そこで何が起きたのでしょうか。
             ──[米中戦争の可能性/008]

≪画像および関連情報≫
 ●天津大爆発は氷山の一角 同様事故20か月で30件以上
  ───────────────────────────
   2015年8月12日に中国・天津の化学工場で発生した
  大爆発事故は、被害を受けた面積が約20平方キロ(東京ド
  ーム1500個以上)に及び、中国経済に深刻な影響を与え
  ている。政府が情報統制の姿勢を強めるなか、事故の“爆心
  地”への潜入に成功したジャーナリストの相馬勝氏が、爆発
  事故の処理に追われる中国政府の対応について解説する。
   事故後1か月以上経ったいまも爆発原因は解明されず、事
  故現場の後片付けも終わっていないというのに、天津市当局
  は9月上旬、この爆発跡地に「生態公園」(エコパーク)を
  建設する計画を明らかにした。
   計画では、公園内に犠牲になった消防士らを悼む英雄記念
  碑のほか、幼稚園や小学校を建設するとしており、11月に
  も着工し来年7月に完成する予定。だが、ネット上では「責
  任追及が先だ。そうでないと、亡くなった消防士の無念さは
  いかばかりだろうか。彼らの霊が浮かばれない」「まだ残留
  化学物質があるのに、幼稚園や小学校を建設するのは非常識
  過ぎる」などとの批判の声が上がっている。
   公園案は民衆の不満を抑えるための習近平指導部の浅慮と
  もいうべきものだろう。住民はおろか、中国の国民も事故原
  因の究明を望んでいる。なぜならば、北京でも上海でも、全
  国各地で天津市のような不法な危険物の大量貯蔵が進んでい
  るとされるからだ。        http://bit.ly/2jkeA3v
  ───────────────────────────

天津大爆発の惨状.jpg
天津大爆発の惨状
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2017年01月17日

●「閲兵で怯えの表情を見せる習主席」(EJ第4439号)

 2015年は、習近平国家主席が最も多く命を狙われた年とい
えます。まず、8月3日から始まった北載河会議の後、習主席は
幹部と一緒に列車で天津市へ移動したのです。この移動自体には
何も問題はなかったのですが、実はその列車に強力な爆弾を仕掛
けて、習主席と幹部を殺害する計画があったのです。
 実は、2012年の北載河会議でも、その会議室に時限爆弾が
仕掛けられていたのです。その後は厳重なチェックが行われ、こ
の列車爆破計画も事前に情報が漏れて、暗殺計画は失敗に終わっ
ています。
 しかし、犯人グループはその大量の爆弾の処理に困り、天津港
湾地区の国際物流センターでそれを爆発させたのです。8月12
日のことです。したがって、この列車爆破計画と天津大火災はつ
ながっていると考えられます。
 そして、9月3日に抗日戦争勝利70周年の軍事パレードが行
われています。人工的に作ったといわれる「パレードブルー」と
呼ばれる快晴の下、北京市中心部を東西に走る長安街の大通りを
約1万2千人の人民解放軍の兵士たちが軍靴を響かせて行進した
のです。200機を超える戦闘機の飛行や、初公開の兵器など、
500点強の軍装備を披露し、中国の軍事大国ぶりをイヤという
ほど内外に見せつけたのです。習主席にとってこの軍事パレード
は得意絶頂の瞬間だったはずです。
 しかし意外だったのは、このときの習主席の表情が冴えなかっ
たことです。どうしてなのでしょうか。この軍事パレードのこと
を書いた『月刊正論』/2015年11月号は、習主席について
次のように記述しています。
─────────────────────────────
 この日の主役である習近平国家主席は始終さえない表情をして
いた。車に乗って解放軍の隊列を検閲したときも、高揚感はまっ
たくなく、ひどく疲れた様子だった。国内のメディアを総動員し
て宣伝し、長い時間をかけて準備した大きなイベントにも関わら
ず、内外から多くの批判が寄せられ、欧米などの主要国に参加を
ボイコットされたことは習氏にとって想定外だったに違いない。
習氏の表情には、その悔しさが出ていたのかもしれない。
 一方、習氏と比べて、一緒に天安門楼上に並んだロシアのプー
チン大統領や、久々に表舞台に登場した江沢民元国家主席ら党長
老たちは、最後まで、リラックスした表情で手を振り、元気な姿
をみせ続けた。脇役であるはずの彼らは、今回の軍事パレードを
通じて習氏よりも多くのものを手に入れたからかもしれない。
           ──『月刊正論』/2015年11月号
                   http://bit.ly/2jljzUR
─────────────────────────────
 実は習主席は怯えていたのです。国家主席に就任以来、何回も
暗殺を仕掛けられていることや、北載河会議の後の列車爆破計画
や天津大爆発が起きた直後だったので、軍事パレードの間に何が
起きても不思議ではない状況だったからです。とくに、国のトッ
プによるこうした観兵式や軍事演習の視察は、相手が兵器を持っ
ているだけに、武器に実弾が入っていないか、厳重な点検が必要
だったのです。
 抗日戦争勝利70周年の軍事パレードで、習主席の眠そうな何
かに怯えた表情について、産経新聞のジャーナリスト野口裕之氏
は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 複数の安全保障関係筋によると、観兵式前、将兵が携行する小
火器や動員する武装車輌/武装航空機に実弾が装填されていない
か、徹底的な「身体検査」を実施したもよう。展示飛行する航空
機の自爆テロを恐れ、地対空ミサイルまで配備したとの情報も在
る。いずれも、習氏暗殺を警戒しての防護措置。眠そうな習氏の
表情は、不安で前日一睡もできなかった結果だとの見方は、こう
した背景から浮上した。     ──「野口裕之の軍事情勢」
                   http://bit.ly/1PIgXXZ
─────────────────────────────
 また、軍事パレードで閲兵した習主席が左手で敬礼したことに
ついて、中国のメディアは奇妙な解釈をはじめたのです。中国の
古典を引用して、「吉事は左、凶事は右に属する。君子は左を貴
ぶ、用兵は右を貴ぶ」と紹介し、習主席が左手で敬礼をしたのは
「軍事パレードは戦争ではなく、武力を使用しない吉事である」
と説明しています。国家主席のやったことはどんなことであって
もミスであるとは認めないのです。
 本当のところどうであったのかは不明ですが、ある共産党関係
者によると、敬礼をする直前、陳情者と思われる男性が習主席に
駆け寄ろうとし、警戒に当たっていた警官に取り押さえられると
いう出来事があったのです。暗殺者に怯えていた習主席は、一瞬
動揺し、うっかり左手で敬礼をしてしまったというのです。
 習主席が暗殺に怯えているのは確かなことです。それは何度も
危ない目に遭っているからです。あるとき、健康診断のために共
産党の高官専用病院である北京の301病院に行ったとき、用意
されていた注射針のなかに毒を仕込んだものが発見されたことも
あったのです。
 301病院には“南楼”と呼ばれる病棟があり、そこには厳重
な警備が敷かれ、出入りには証明書の提示が必要です。ここが共
産党高官専用病院なのです。そういう場所でも毒入りの注射針が
仕掛けられるのですから、習主席が神経質になるのは十分理解で
きます。かつて何でもない風邪で301病院を訪れ、その後、亡
くなるケースは少なくないのです。つまり、政敵暗殺の目的で、
301病院が利用されることがあるのです。
 習近平国家主席がもし突然失脚するとしたら、一番大きな可能
性としては、権力抗争の結果などではなく、暗殺か、政変、クー
デターであると思われます。既にクーデターも起きていますが、
そのすべてが鎮圧されています。
             ──[米中戦争の可能性/009]

≪画像および関連情報≫
 ●少なくとも6回の暗殺未遂を受けている習近平主席
  ───────────────────────────
   香港メディアなどによれば、習近平はこれまで少なくとも
  6回、命が狙われたことがあったという。時間や場所、手口
  などの詳細が分かっているのは3回だ。
   共産党総書記に就任する直前の2012年夏、会議室に爆
  弾を仕掛けられたのが最初で、その直後に、健康診断のため
  に訪れた軍直属の病院で検査用の注射器に毒を入れられてい
  た。3回目は2013年夏、地方視察の際に乗る自動車が交
  通事故を起こすようにタイヤが細工された。いずれも事前検
  査で判明し、未然に防ぐことができたという。
   2014年4月30日にウルムチ南駅で起きた爆発事件も
  習近平暗殺が目的の可能性が高いといわれる。同月27日か
  ら新疆ウイグル自治区の視察に出かけていた習近平はこの日
  にウルムチから北京に戻る予定だった。夕方、ウルムチのタ
  ーミナル駅で突然、爆弾が炸裂し、3人が即死したほか70
  人以上が負傷した。
   中国当局はイスラム過激派のウイグル人による無差別テロ
  と発表したが、しかし、外国メディアが撮影した現場写真に
  は銃撃戦を思わせる銃弾跡が多くあり、手口はこれまでのウ
  イグル人が起こした暴力事件と大きく違っていた。
   治安当局の厳しい管理下にあるウイグル人たちは、それま
  で中国当局に抗議するために、ガソリンを積んだ自動車を建
  物に突っ込んだり、ナイフで通行人を切りつけたりするなど
  の事件を多く起こしたが、威力の高い爆弾や銃器を使った事
  はまずなかった。         http://bit.ly/2ipOSOT
  ───────────────────────────

左手で敬礼する習近平国家主席.jpg
左手で敬礼する習近平国家主席
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2017年01月18日

●「3回も白昼襲われた胡錦濤前主席」(EJ第4440号)

 胡錦濤国家主席時代の2006年5月のことです。胡錦濤主席
が、黄海で北海艦隊の視察を行ったのです。胡主席は、最新型の
弾道弾駆逐ミサイル艦に乗船し、巡視していたところ、いきなり
2隻の軍艦が、同時に挟み撃ちするように、胡主席が乗っている
駆逐艦に発砲してきたのです。この砲撃によって、駆逐艦上にい
た5人の海軍兵士が死亡しています。
 胡主席が乗っていた駆逐艦は、まさか白日の下で最高指導者の
暗殺事件が発生するとは夢にも考えておらず、慌てふためくなか
で、直ちに舳先を変えて全速力で演習海域を離れ、安全な海域に
向かったのです。そして、再度の暗殺を避けるため、胡主席は艦
上ヘリコプターで脱出し、北京ではなく、チベットに避難し、一
時身を隠しています。クーデターを恐れたからです。そして約1
週間後、北京に姿を現したといいます。
 実は、この暗殺計画の黒幕は江沢民元国家主席であるといわれ
ていますが、犯人として海軍司令、張定発が逮捕され、その後病
死したとされています。もちろん公式には発表されず、新華社、
解放軍報は何も報道せず、人民海軍報で自殺として張定発の死亡
が伝えられたのみです。
 このとき、胡錦濤氏は国家主席でしたが、軍部に対しては、江
沢民元主席が強い影響力を持っており、たとえ黒幕が江沢民氏で
あるとわかっていても何もできなかったのです。犯人の張定発は
江沢民元主席が中央軍事委員会主席を引退するとき、海軍司令に
任命しており、上海人であり、コテコテの上海閥です。
 続いて2007年10月2日、上海世界夏季特殊五輪の開幕式
でのことです。世界特殊五輪というのは、知的発達障害のある人
の自立や社会参加を目的として、日常的なスポーツプログラムや
成果の発表の場としての競技会を提供する国際的なスポーツ組織
のことで、スペシャルオリンピックといわれています。パラリン
ピックとは違うのです。
 胡錦濤主席は開幕宣言を行うために出席し、その後上海西部迎
賓館の宴会にも参加しています。このとき、迎賓館の地下の車庫
に駐車していた食品運搬車の運転席の下から、2・5キログラム
の爆薬のついた自動爆破装置が発見されたのです。警備スタッフ
が間一髪で発見し、胡主席は暗殺を免れています。
 まだあるのです。またしても海上閲兵式での出来事です。20
09年4月23日、青島で解放軍海軍有史以来最大規模の海上閲
兵式が行われたのです。その開始直前に江沢民氏の命を受けた艦
艇が胡主席を襲撃する暗殺計画が発覚したのです。胡主席は予定
を変更し、その日のために参加した外国の海軍代表との会見を先
に行うことで時間を作り、胡主席を襲う予定の艦艇を特定し、逮
捕したのです。その後、胡主席は閲兵式に出席しましたが、明ら
かに顔がひきつっていたといわれます。
 歴代の中国の国家主席が激しい権力抗争の結果、このようなテ
ロに見舞われることはそれほど珍しいことではないのです。まし
て、現在の習近平主席は、腐敗防止政策を徹底的に実施し、事実
上、習主席の政敵を排除しているので、それに反発するテロが頻
発しても不思議はないのです。事実習主席の暗殺事件は何回も起
きていることはこれまで述べた通りです。
 習主席の腐敗摘発は、習主席の盟友の王岐山中央規律検査委員
会書記が行っています。そのため、王岐山氏も何回も暗殺未遂事
件に遭っているのです。王岐山氏への暗殺未遂事件のひとつにつ
いて、福島香織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 2015年3月27日から28日にかけて、王岐山が河南省の
調査に出かけたときのこと。28日早朝、ある党の招待所で停電
があり、予備電源に切り替わった。だが50分後に再度停電。そ
の瞬間、駐車場に停車してあった省の党委員会保衛部専用車3両
が爆発した。
 じつは、この招待所は、王岐山一行が27日夜に宿泊する予定
だったが、直前に予定を変えて鄭州市の警備区招待所に泊まった
のだ。もし予定どおりであれば、王岐山はその朝、爆発した3両
の車のどれかに乗り込んだかもしれない。
 こういった暗殺計画については、中南海[故宮に隣接する共産
党中央委員会の所在地]内に本当の黒幕がいるのではないか、と
いう噂が立った。──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 2016年7月15日、トルコでクーデター未遂事件が起きて
います。このとき、エルドアン大統領は、避暑地マルマリスのホ
テルにいたのですが、即座にホテルから専用機で脱出し、イスタ
ンブールに向っています。そのホテルは反乱軍兵士が襲撃してい
ますが、エルドアン大統領は20分前に脱出しているのです。
 もっともイスタンブールに向う途中の空域で、2機の反政府軍
のF16戦闘機にロックオンされたのですが、あくまで民間航空
機であると主張して命びろいをしています。
 イスタンブールに到着したエルドアン大統領は、民放テレビに
スマホのフェースタイムを通じて登場し、国民に対して「反乱軍
に抵抗せよ」と呼び掛けたのです。国民は大統領の呼びかけに呼
応し、立ち上がったので、クーデターは鎮圧されています。
 16日の未明にこの事件を知った習近平国家主席は、側近の栗
戦書に、党と政府と軍の高官を中南海にすぐ来るよう命令したの
です。クーデターに対する対策会議のためです。習主席は、エル
ドアン大統領のクーデターへの対処に強い関心を持って、クーデ
ターの対策会議を開いたのです。現在の中国の状況では、いつ、
クーデターが起きても不思議ではないからです。
 トランプ政権発足まであと2日、歴代米政権としては異例の対
中国強硬政権が誕生することは確実の情勢です。習近平政権は、
国内外の難事に対してどのように対処するのでしょうか。とくに
米国との関係悪化は、中国としては避けたいところです。
             ──[米中戦争の可能性/010]

≪画像および関連情報≫
 ●脆弱な社会構造の上に君臨する習近平主席/澁谷司氏
  ───────────────────────────
   2016年7月15日夜(日本時間16日未明)、トルコ
  で、軍の一部によるエルドアン政権転覆のクーデターが起き
  た。一時、軍がテレビ局等を占領し、クーデターは成功した
  かに見えた。しかし、暗殺を逃れたエルドアン大統領がSN
  Sを駆使し、直接、市民に訴えかけた。これが奏功し、結局
  軍のクーデターは失敗に終わっている(ただし、このクーデ
  ターは、大統領による反対派粛清のための「自作自演」説が
  ある)。
   さて、トルコ軍によるクーデター未遂事件で、習近平主席
  が肝を冷やした事はあまり知られていない。トルコでクーデ
  ターが発生するやいなや、習主席は、腹心の栗戦書(中央弁
  公庁主任)に緊急会議の開催を命じた。いかに習近平主席が
  クーデターを恐れているか、その証左だろう。
   習主席はすでに何度も暗殺されかけているが、2016年
  の旧正月明け(2月14日以降)、ファースト・レディの彭
  麗媛への暗殺未遂事件も発生している。栗戦書が主催した党
  政軍の会議では、今後、どのように国内でのクーデターを未
  然に防ぐかが討議された。このように、習近平政権が海外の
  事件に対しても神経を尖らせている。
                   http://bit.ly/2jmwExw
  ───────────────────────────

王岐山書記.jpg
王岐山書記
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2017年01月19日

●「国防費よりも治安維持費の多い国」(EJ第4441号)

 国のトップが何回も暗殺を仕掛けられるというのは、国が一枚
岩ではないということです。そのため、権力抗争が激しくなり、
権力者に対して数々の暗殺が仕掛けられるのです。
 それに、中国のような大きな国を共産党の一党支配でコントロ
ールしようとするとどうしても無理があり、相当強力な独裁体制
を築かざるを得なくなります。しかも、同じ独裁でも、習近平主
席の場合、スターリンがやったような個人独裁体制をとろうとし
ている点が気になるところです。
 スターリンの個人独裁について、評論家の長谷川慶太郎氏は、
自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 スターリンは、1930年代以降、完全に個人独裁体制を確立
していた。絶大な政治権力を掌握していたが、よく知られている
ように、それは冷酷無比な大粛清を伴って達成されたものだ。第
2次大戦の前後にわたっての長い統治期間に、スターリンが粛清
した人間は数十万とも数百万ともいわれているが、それはスター
リンの政敵は言うに及ばず、一見なんら関係もなさそうな党員、
官僚、軍人、さらには一般人にまで及んでいる。(中略)
 現状では習近平は、「反腐敗」というスローガンのもと、汚職
退治で民衆の支持を受けているかのようである。しかし、これも
スターリンの粛清の時と同じである。中国の現在の摘発での、汚
職・収賄、外国資本と結びついている等の「規律違反」というよ
うな罪名は、ソ連の粛清時も同じようであった。共産党が摘発を
行う場合の常套手段と言ってもよい。   ──長谷川慶太郎著
           『中国大減速の末路』/東洋経済新報社
─────────────────────────────
 中国の軍事費は他国を圧倒していますが、中国社会では、その
巨額の軍事費よりも国内の治安維持費(公共安全費)の方が多い
といわれます。各地で住民の抗議行動やデモが頻発し、少数民族
による分離・独立運動などの社会矛盾の激増に備えるためでしょ
うが、それにしても国内の治安維持を主たる目的とする公共安全
費が、軍事を目的とする国防費を上回るのは、どう考えても正常
な姿ではないといえます。真の敵は国外にあるのではなく、国内
にあるかのようです。
 果してこれが本当であるかどうかを調べてみたのですが、ほぼ
事実であることがわかったのです。治安維持費は中国では「公共
安全費」といわれますが、2008年〜2012年の5年間で予
算額を比較してみると、次のようになります。
─────────────────────────────
                   単位:億元
          公共安全費      防衛費
    2008年  4097     4178
    2009年 ◎4870     4807
    2010年  5140     5321
    2011年 ◎6244     6012
    2012年 ◎7018     6703
       ──「日経ビジネス」 http://nkbp.jp/2jngT9K
─────────────────────────────
 これは予算額での比較ですが、2008年からの5年間で3年
間は公共安全費が防衛費を上回っているのです。とくに2012
年は、公共安全費の7017億6300万元(約9兆1230億
円)が国防費の6702億7400万元(約8兆7140億円)
を上回っています。明らかに異常です。
 このレポート(2012年3月/胡錦濤政権当時)をまとめた
住友商事総合研究所の中国専任シニアアナリストの北村豊氏は、
中国について、次のコメントを書いています。
─────────────────────────────
 中国が世界第2位の経済大国としての矜持を保って世界をリー
ドしていくつもりならば、国内の安定が最優先であるべきで、そ
のためには国内に蔓延する社会矛盾を解消することが不可欠であ
る。胡錦濤総書記が提唱する“和諧社会(調和のとれた社会)”
を実現して、その先にある「全面的な“小康社会(ややゆとりの
ある社会)”の建設」を達成するには、“群体性事件”を公権力
で抑制するのではなく、その原因を根本から取り除く地道な努力
が必要なはずである。             ──北村豊氏
       ──「日経ビジネス」 http://nkbp.jp/2iZCxgT
─────────────────────────────
 中国で習近平主席や政権幹部に対して、暗殺やテロが起きてい
る原因は、習政権の情け容赦のない「反腐敗キャンペーン」にあ
ります。確かに「腐敗」をなくすことは大切なことですが、その
キャンペーンが習主席の政敵排除の手段になってしまっているの
です。権力維持拡大のためなら何でもするという姿勢です。
 中国人民大学教授の周孝正氏という学者がいます。社会学や人
口学を専攻しながら中国の政治・社会問題について発言している
人です。その周孝正氏は、「現代の中国はナチス化している」と
いっています。
─────────────────────────────
 ケ小平の教えを破っているのが問題です。ケ小平は中国は経済
建設に専念して、100年変わってはいけないという方針を打ち
出しました。しかし、ケ小平の死後19年が経過し、習近平が指
揮を執っている現在、中国はたしかに「経済大国」といわれるよ
うにはなった。しかし、問題は習近平が打ち出している「中国の
夢」が果してどこに向っているかということです。私に言わせれ
ば、現在中国は30、40年代のドイツか日本のような国家主義
に向っている。ナチスは国家社会主義です。中国の現在の社会主
義は国家社会主義以上でも以下でもない。軍事費がとめどなく拡
大しているし、領土問題、歴史問題で周辺各国ともめている。
              ──月刊「WiLL」2月号より
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/011]

≪画像および関連情報≫
 ●「転換期中国のジレンマ」/周孝正氏
  ───────────────────────────
   中国人民大学名誉教授で、人口社会学者の周孝正氏の講演
  (テーマ「転換期中国のディレンマ」)を、富士通総研中国
  通セミナで聴いたが、非常に興味深かった。
   経済分析だけでは中国社会が抱える矛盾を解明できないた
  め、中国社会の深層の矛盾について、政治、経済と社会の3
  つの側面から問題を明らかにしようという趣旨のようであっ
  た。氏は、1947年生まれ、11年目2回目の訪日とのこ
  とだが、名刺など作ったことがないなど大分変った生活ぶり
  で、招待の連絡もなかなかとれず苦労したらしい。
   “一流の研究者は、専門家だけでなく素人もわかる”と言
  われる通りで、熱のこもった内容を通して感じることができ
  た。第一世代毛沢東の国民党との闘争、文化大革命での下放
  と日々革命、第二世代ケ小平の都市と農村、対外二つの開放
  と経済建設、天安門での発砲、第三世代江沢民の時代からの
  農民工、暫定居留証など例を引きながらの説明は、中国語で
  意味は分からないながら、語気の強い発声ぶりで話されると
  一層理解できた感がある。習近平と軍の関係について、習近
  平には過去の指導者たちと違って、自身には実戦経験がない
  ことを指摘していたのは、一寸印象的であった。ダブルスタ
  ンダードを取りあげた中で、中国の憲法はあっさり“偽物”
  とし、当時全く法律など無かった状況の中、毛沢東の指示で
  世界中の憲法の良いところを寄せ集めたものと解説していた
  のは面白い。           http://bit.ly/2jnXtkT
  ───────────────────────────

長谷川慶太郎氏.jpg
長谷川 慶太郎氏
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2017年01月20日

●「習近平主席には真の友達はいるか」(EJ第4442号)

 1月17日、中国の習近平国家主席は、世界経済フォーラム年
次総会(ダボス会議)に初めて出席し、基調講演を行い、次のよ
うに貿易の保護主義の批判を展開しています。
─────────────────────────────
 世界はテロや難民問題などに直面し、不確実性が増している。
しかし、金融危機も含め問題のすべてを経済のグローバル化がも
たらしたわけではない。われわれは明確に保護主義に反対する。
貿易戦争をすれば結局は双方が負けることになる。中国はグロー
バル経済の受益国であり、かつ貢献国である。
         ──2017年1月16日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 中国に保護貿易を批判されたくありませんが、この習主席の発
言は、明らかに、本日、アメリカ大統領に就任するトランプ氏が
主張する保護主義的な政策を意識したものであることは明らかで
す。それをいうために習主席はダボス会議に出席したのです。
 習近平主席が進める「反腐敗」キャンペーンは、情け容赦ない
もので、その対象は自身の親派とされる人物にも及んでいます。
それも必ずしも腐敗の排除をするだけではなく、今後自身の政敵
になると思われる人物についても、キャンペーンの名の下に排除
することが進められています。
 それは、恩人であろうと、年長者であろうと、盟友であろうと
相手を選ばないのです。習主席はひたすら権力の掌握を目指し、
強権を手にしようとしているように見えます。
 習主席がいかに非情であるかを示す軍の大物の排除劇がありま
す。それは、中国人民解放軍のナンバー2で、制服組のトップま
で上り詰めた当時71歳の退役上将で、軍長老の徐才厚の摘発事
件です。
 徐才厚は遼寧省の出身であり、江沢民元主席の抜擢によって出
世したいわば江沢民派の代理人です。軍内人事に絶大な影響力を
持っており、瀋陽軍区の出身者を優先して出世させ、遼寧閥を築
くなど、将校の地位を事実上売買するというようなこともしてい
たのです。いわば、軍内腐敗の元締め的存在であり、摘発されて
当然ではあったのですが、2012年11月の党大会で、すべて
の役職から退いており、末期がんを患っていたので、まさか摘発
されるとは本人はもとより誰も予想していなかったのです。
 しかし、習主席は国家主席になると、2014年6月、中央軍
事委規律委員会は、北京の301軍病院に入院していた徐才厚を
連行し、党籍を剥奪し、逮捕したのです。まさに「ハエもトラも
叩け!」を文字通り実行したことになります。これによって、徐
才厚は2015年3月15日、起訴を待たず、がん悪化による多
臓器不全で死亡しています。
 だが、もともと習主席と徐才厚は親密であり、彼は習主席の後
ろ盾的存在でもあったのです。
─────────────────────────────
 徐才厚と習近平はけっして赤の他人ではない。徐才厚は習近平
に対し、同じ上海閥の期待のエースとして、江沢民の頼みを受け
て将来的に軍内の後見人役となる約束をしていた。解放軍に所属
する歌姫、習近平夫人の彭麗媛に対しては父娘といってもいいよ
うな深い親交があった。習家のホームパーティでは、徐才厚はた
びたび主賓格で招かれ、習近平も心を込めて接待する姿がしばし
ば見かけられていた。つまり地位が高いだけでなく、恩人であり
身内といってもいいような人間関係の老い先短い重病の老人を病
床からひったてて訊問し、刑事罰を科す、というのは従来の共産
党的秩序や中国的長幼の序からは考えられなかった。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 このように味方まで敵に回してしまう習近平政権ですが、真の
味方はいないのでしょうか。
 その習近平氏の唯一の盟友といわれているのが、王岐山党中央
規律検査委員会書記です。いわゆる習政権の反腐敗キャンペーン
はここが担っており、習政権への権力集中に大きく貢献している
のです。王岐山氏は1948年生まれで、習近平氏よりも5歳年
上で、習近平氏と同じ太子党の出身です。
 王岐山氏は胡錦濤政権時代には、商務、金融、市場管理、観光
などを担当し、大きな成果を上げているのです。とくに、リーマ
ンショックのさい、王岐山氏は大規模財政出動を主導し、中国経
済を劇的に回復させるなどの手腕を発揮しています。
 しかし、2016年になってから、習近平主席と王岐山書記の
関係は微妙なものになりつつあるのです。それは、王岐山書記が
反腐敗キャンペーンによって政敵を倒し、権力が習近平主席に集
中すればするほど、習主席は友達の王岐山書記と距離を取ろうと
するからです。
 「習近平に真の友達はいるのか」──このテーマについてのメ
ディアや知識人は次のように結論しています。
─────────────────────────────
  1.習近平は権力さえあれば、友達は不要と考えている
  2.習近平には部下はいるが、信頼できる友達はいない
  3.習近平と王岐山の関係は、皇帝と臣下のそれである
─────────────────────────────
 確かに、習政権スタート当初は、習近平氏と王岐山氏は、お互
いに信頼できる真のパートナー同士だったのです。もともと王岐
山氏は高い能力の持ち主であり、反腐敗キャンペーンは大きな成
果を上げたのです。
 しかし、反腐敗キャンペーンの実行によって政敵がいなくなり
習政権に権力が集中するにつれ、習主席は皇帝化していったので
す。そして現在では、習近平氏と王岐山氏の関係は、まさに皇帝
と臣下の関係と同じになっています。つまり、習近平氏には臣下
はいるが、友達は一人もいなくなってしまったのです。
             ──[米中戦争の可能性/012]

≪画像および関連情報≫
 ●中国有識者層に募る習近平主席への不信感
  ───────────────────────────
   2016年4月下旬に北京と上海に出張した。目的は定例
  の中国経済情勢に関する現地での情報収集である。習近平政
  権が掲げる「新常態」の方針の下、的確なマクロ経済政策運
  営と積極的な構造改革の組み合わせによって、経済の安定が
  保持されており、安心して見ていられる状況である。
   この点については、今回の出張中に面談した政府内および
  民間の経済専門家の全員がほぼ一致した見方をしていた。し
  かし、その面談相手と話しているうちに、「経済は安定して
  いるが、最近政治情勢が不透明になってきていて心配だ」と
  の懸念を耳にすることが少なからずあった。
   これまで習近平政権が行ってきた政策について、政治面で
  は反腐敗キャンペーンの断行が国民的支持を得ている。経済
  面でも雇用と物価の安定を確保し続け、過剰設備の削減や過
  剰不動産在庫の処理への取り組みも一定の成果を上げるなど
  こちらも高い評価を得てきた。最近は政治リスクの高い軍組
  織の抜本的改革まで実現し、着々と政策の結果を積み上げて
  きている。こうした政策面の大きな成果もあって、多くの国
  民から「習おじさん」(中国語では「習大大」シーターター
  と発音)と親しみを込めた愛称で呼ばれるなど、政権基盤も
  安定度を増していた。ただし、有識者の間では学者やメディ
  アに対してイデオロギーや政府批判に関わる活動の取り締ま
  りがますます強化されてきていることに対する疑念がしばし
  ば指摘されていた。        http://bit.ly/2jvYNCq
  ───────────────────────────

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ダボス会議での習主席の演説
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2017年01月23日

●「習近平とフルシチョフは似ている」(EJ第4443号)

 社会主義国の軍隊は、共産党の指導に絶対に服従する党の軍隊
であり、いわゆる国軍ではないのです。これはかつてのソ連も現
在の中国も同じです。このようにしておくと、クーデターが起こ
りにくいのです。
 しかし、このような軍隊は強固な利益集団を形成し、その利権
や予算を争い、軍閥化する可能性が高いのです。江沢民時代の中
国ではそれが上海閥として顕在化したのです。
 江沢民主席時代から、軍、すなわち人民解放軍を牛耳ってきた
軍人といえば、次の2人です。江沢民元主席の腹心です。
─────────────────────────────
        東北の虎 ・・・・ 徐才厚
        西北の狼 ・・・・ 郭伯雄
─────────────────────────────
 その社会主義政権が最も嫌うのが党のための軍隊を国軍化する
ことです。胡錦濤前主席は人民解放軍の国軍化こそ政治改革の核
心であるとして、それに挑戦しようとしたのですが、江沢民元主
席を中心とする軍の猛反発によって挫折しています。そのとき、
胡錦濤前主席の改革を潰す先頭に立ったのが上記の2人です。
 ちなみに、軍の国軍化は中国における「8つのタブー」の筆頭
に位置付けられています。「8つのタブー」とは、雑誌やメディ
アに通達されている取り上げることが禁止されている事項です。
─────────────────────────────
  ≪8つのタブー≫
   1.軍の国軍化問題
   2.三権分立
   3.天安門事件
   4.党・国家指導者及び家族の批判・スキャンダル
   5.多党制
   6.法輪功
   7.民族・宗教問題
   8.劉暁波
─────────────────────────────
 ここで、中国において押さえておくべきことがあります。江沢
民と胡錦濤政権時代の20年間は、グローバル経済の発展のなか
で外交を極めて重視し、経済成長を優先に考えた政策をとったと
いうことです。その基本は、対日重視政策だったのです。
 確かに江沢民政権は強い反日政策をとり、胡錦濤政権では靖国
問題や尖閣国有問題などは起きたものの、その基本は日本を重視
する政策だったのです。「政冷経熱」といわれるように、経済成
長が何よりも重要だったからです。しかし、それは習近平政権に
なってその外交政策は一変するのです。これについて、福島香織
氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 習近平の外交は、強い軍の存在と、それをきっちり掌握する強
い党であることが共産党体制維持の最重要課題であるから、周辺
の大国にはきわめて強い態度で出ることが大切であった。なので
習近平政権当初から、その外交政策は国際社会が目をむくような
横暴さであり、粗野であった。その中でもとくに、日本は敵視さ
れている。   ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 習近平主席は、2012年11月の中央委員会総書記に就任時
点から強い意欲で軍制改革に取り組んだのです。2013年3月
に国家主席になると、その年の秋の三中全会のコミュニケに軍制
改革を盛り込んだのです。
 そして軍を掌握するために上記の徐才厚と郭伯雄という軍に影
響力の強い大物上将を失脚させ、軍制改革をやりやすくしたので
す。2014年3月に徐才厚、2015年4月に郭伯雄を自らが
推進する反腐敗キャンペーンを名目に逮捕・失脚させ、軍制改革
の邪魔者を排除したのです。この2人を失脚させると、江沢民元
主席は影響力を発揮できなくなるからです。
 習主席が進める軍制改革については、改めて詳しく述べますが
それは人民解放軍にとって不都合極まるものであったのです。そ
のため、当然のことながら江沢民派からのさまざまの抵抗はあっ
たのです。それが2015年8月の習近平主席とその幹部の暗殺
未遂事件につながってくるのです。
 ところで、習近平という人物は、かつてのソ連の指導者フルシ
チョフ総書記に似ているといわれます。なぜなら、フルシチョフ
も軍制改革を行ったからです。社会主義革命から誕生した政権は
「銃口から生まれた政権」といわれますが、それは陸軍の銃口な
のです。フルシチョフの軍制改革は、陸軍軍縮であり、陸軍司令
部の撤廃です。これには、軍閥化している軍の大反発を招くこと
になります。このフルシチョフの改革について、福島香織氏は次
のように説明しています。
─────────────────────────────
 フルシチョフは陸軍を軽んじて、核ミサイルの優先発展を決め
た。このことに盟友とされたマリノフスキー元帥は、各軍ともバ
ランスよく発展させるべきだ、陸軍を無視してはならないと反対
したが、フルシチョフはそれを聞かなかった。習近平は陸軍より
も海空軍の発展を優先させている。1964年のフルシチョフの
失脚は、軍に見放されたことが一つの重大な原因だとしている。
                ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 習近平主席による軍制改革も現在の陸軍中心の「軍区制」から
空軍と海軍中心の「戦略区制」に変更しようとするものです。こ
れはきわめて合理性があるのです。なぜなら、現在の中国にとっ
て、陸の国境線から攻め込まれるリスクは、ほとんどないからで
す。そうであるとすると、陸軍は大幅に削減されることになりま
す。これが習主席のいう「30万人の兵力削減」です。
             ──[米中戦争の可能性/013]

≪画像および関連情報≫
 ●フルシチョフの時代
  ───────────────────────────
   フルシチョフの時代は、あの有名な『スターリン批判』か
  ら始まる。第20回党大会において、外国代表を締め出し、
  スターリンの個人崇拝、独裁政治、粛清の事実を公表した。
  特に粛清について発表された数字は世界に衝撃を与えた。第
  17回党大会で選出された中央委員・同候補139名のうち
  98名が処刑、党大会の代議員全体1986名のうち110
  8名が同様の運命をたどった。彼らに科せられた「反革命」
  の罪状は、その大半が濡れ衣であったと言うものであった。
  スターリン批判はスターリンの個人批判にとどまり、それが
  可能にになった体制の問題にまで掘り下げられなかった。
   スターリン批判によって重い空気は取り払われたが、政治
  体制、経済政策はスターリン時代を踏襲したものであった。
  消費産業に一定の配慮はされたものの、軍需・重工業重点は
  変わらず、5か年計画は継続された。農業政策に通じていた
  彼は、農業改革を実施。西シベリアや中央アジア等の処女地
  開墾を行い食料・農産物の増産に成功する。特に中央アジア
  では大規模灌漑で、綿花生産は大きな成果を挙げ、一帯は綿
  花地帯と化し綿工業も発達した。農業生産での成功で、数年
  の間にアメリカを追い越すとフルシチョフは豪語するように
  なった。実はソ連は広大な耕作地を持ってはいたが、気象条
  件に左右される環境にあり、相次ぐ戦乱、集団化の失敗等で
  悩みは農業問題で、食料が自給出来なかったのであった。
                   http://bit.ly/2iMdodj
  ───────────────────────────

フルシチョフと習近平.jpg
フルシチョフと習近平
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2017年01月24日

●「習主席の軍制改革の目的とは何か」(EJ第4444号)

 習近平政権までの「軍制」はどうなっていたのでしょうか。そ
れは「7大軍区制」という制度だったのです。この制度は、旧ソ
連の「軍管区制度」にならったものといわれています。
 中国は広大な地域を持つ国ですから、その国境線は広大です。
したがって、いつ国境から敵が侵入してくるかわからないので、
陸軍を7つの軍事組織である「軍区」に分けて、敵の侵入に備え
ていたのです。軍区制は1949年に導入されています。
 この場合、軍区の司令はその地域の作戦を遂行するうえで、い
ちいち上層部の指揮を仰がなくでも、作戦を実行できる強固な指
揮権を有しています。その7つの軍区とその主たる対応国を以下
に示します。
─────────────────────────────
   1.瀋陽軍区 ・・・ 北朝鮮
   2.成都軍区 ・・・ インド(チベット独立派)
   3.北京軍区 ・・・ モンゴル
   4.南京軍区 ・・・ 台湾(日本)
   5.蘭州軍区 ・・・ ロシア・ウイグル独立派
   6.広州軍区 ・・・ ベトナム
   7.済南軍区 ・・・ 予備軍区
─────────────────────────────
 これら7つのそれぞれの軍区には、陸軍だけでなく、海軍、空
軍、第二砲兵(ミサイル部隊)も配置されており、兵站や兵力の
配置なども軍区の司令が担うのです。なお、軍区には政治委員も
設置され、軍政権もある。つまり、軍区の司令は軍事のことは自
らの判断で実行できるのです。しかし、この軍区制には次の2つ
の問題点があります。
─────────────────────────────
       1.軍区が軍閥化しやすいこと
       2.中央にとっては脅威になる
─────────────────────────────
 軍区は地域に密着しており、政治性の強い組織です。当然、地
域から人を登用し、軍人に育てるということも当然行われます。
また、利権の温床になりやすいのです。したがって、どうしても
派閥が形成されやすくなります。司令の権限は軍事限定ですが、
小さな国のようなまとまりを持つ可能性もあります。これが問題
点「1」です。
 この7大軍区制は、国境からの敵の侵入を防ぐのには有効だっ
たのですが、現在の中国に国境線からの侵入のリスクはほとんど
ないのです。最大の脅威であったロシアとの国境線の問題も既に
解決しているからです。
 中国が現在想定する戦争は、南シナ海や東シナ海での外敵との
空海軍やミサイル部隊による戦闘と、テロや内乱などの非対象戦
闘です。これには軍区制ではほとんど対応できず、軍区の強い政
治性は、軍隊を一本化するとき、スムーズにいかない原因になり
ブレーキになります。
 それに軍区が導入されてから70年近くになるので、中央のコ
ントロールが効かなくなりつつあります。これは中央にとって、
大きなリスクになるといえます。これが「2」の問題点です。
 江沢民元主席は、これらの7大軍区をうまくまとめ、その上に
君臨した国家主席です。そのため、胡錦濤氏が国家主席になって
も、江沢民主席は、軍をコントロールする権限は手放さなかった
のです。しかし、胡錦濤主席は、軍区制は時代遅れであるとして
その改革に取り組んだのですが、軍区は陸軍の利権であって、強
い抵抗に遭い、改革は失敗に終わっています。
 その軍制改革を習近平主席は、胡錦濤時代から、周到な計画の
下に実施したのです。その軍制改革の骨子は、次の4つです。
─────────────────────────────
   1.軍区制を廃止して、戦区制(戦略区制)にする
   2.軍令と軍政を分離し、軍の司法機構を一新する
   3.30万人の兵力を削減し、200万兵力にする
   4.軍の「民間向け商業活動」を全面的に廃止する
─────────────────────────────
 「1」について考えます。
 戦区制とは、米軍の統合軍がモデルです。戦略・作戦目的ごと
に、陸、海、空軍の統合軍が設置され、指揮系統も統合作戦指揮
系統が置かれるのです。具体的には、かつての7大軍区を次の5
戦区に編成されたのです。
─────────────────────────────
 1.東 部戦区 ・・・ 本部は南京。日本や台湾方面での紛
             争発生に対して対応する戦力
 2.南 部戦区 ・・・ 本部は広州。南シナ海やシーレーン
             の安全の確保を想定した戦力
 3.北 部戦区 ・・・ 本部は瀋陽。ロシアと北朝鮮方面で
             軍事衝突などに対応する戦力
 4.西 部戦区 ・・・ 本部は蘭州。中央アジアのイスラム
             過激派テロ活動に備える戦力
 5.中央部戦区 ・・・ 本部は北京。首都である北京とその
             周辺地を警護するための戦力
─────────────────────────────
 中国は2016年から「ロケット軍」や、サイバー攻撃・宇宙
空間の軍事利用を担う「戦略支援部隊」を創設しています。そし
て、陸軍を海軍・空軍と同列の扱いとし、中国共産党が直接作戦
指揮を行えるようにしたのです。これにより、習近平政権の統制
力はさらに高まったといえます。
 習主席は「各戦区には平和を維持し、戦争に勝つ使命がある」
といっていますが、まるで戦争に勝てる強軍があってこそ平和が
実現できると考えているようです。このように、習主席は、いつ
でも戦争ができるよう、軍制を改革し、着々と権力を自分に集中
させつつあります。「2」から「4」については明日のEJで述
べます。         ──[米中戦争の可能性/014]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平と中国軍の対立/国家主席に従わない人民解放軍
  ───────────────────────────
   習近平主席と中国軍は外から見ると強固な関係で、習の独
  裁あるいは軍と一体化しているようにも見える。だが実際に
  は、中国人民解放軍には習近平への不満が渦巻いており、機
  会があれば失脚させようと狙っている。
   まず中国人民解放軍について理解する必要があるが、この
  軍隊は中国という国家に所属してない。法律では中国共産党
  に所属する私兵なので、国家主席だろうと最高指導者だろう
  と、軍に命令する事はできない。これは、清国が辛亥革命に
  よって倒れたあと、国民党が政権を握り後で共産党が誕生し
  た経緯に原因が求められる。
   「一つの中国」の中で国民党軍と共産党軍が内戦をしてい
  るのだから、国家に所属する軍隊など敵に寝返りかねない。
  中国に近代国家としての正規軍が存在せず、共産党に所属す
  る私兵だという事は、党内の派閥や軍閥が強い力を持ってい
  る。習近平が人民解放軍を動かせるのは、「共産党中央軍事
  委員会主席」という地位に就いているからで、中国の国家主
  席だからではない。1982年に重要な憲法改正が行われ、
  「軍事委員会主席が軍を統率する」から「軍事委員会が軍を
  領導する」に変わっている。比較すると以前は、主席(毛沢
  東)個人に指揮権があったのに、現在は委員会が統率して指
  導するとなっていて、権限が縮小されている。これは恐らく
  毛沢東時代の独裁が経済や軍事に悪影響を与えた事から、最
  高指導者の権限を縮小したのでしょう。
                   http://bit.ly/2jLUHps
  ───────────────────────────

中国の軍制改革/5大戦区.jpg
中国の軍制改革/5大戦区
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2017年01月25日

●「軍制改革で強大化する習近平政権」(EJ第4445号)

 昨日のEJでご紹介した中国の軍制改革の4つの骨子を再現し
ます。「1」については説明済みです。
─────────────────────────────
   1.軍区制を廃止して、戦区制(戦略区制)にする[済]
 → 2.軍令と軍政を分離し、軍の司法機構を一新する
   3.30万人の兵力を削減し、200万兵力にする
   4.軍の「民間向け商業活動」を全面的に廃止する
─────────────────────────────
 「2」について考えます。
 軍制改革以前の人民解放軍の実権は、四大総部が握っており、
中央軍事委員会主席の持つ総帥権は飾りでしかなかったのです。
ちなみに中央軍事委員会主席は、国家主席が兼務します。四大総
部とは、次の4つの部署のことです。
─────────────────────────────
      1.総参謀部     3.総装備部
      2.総政治部     4.総後勤部
─────────────────────────────
 人民解放軍は四大総部による支配が長年続き、横の人事異動は
ほとんどなく、縦割り行政の弊害が指摘されていたのです。20
16年12月11日までに四大総部は解体され、その機能が15
の専門部局に分散されたのです。
 新しく設けられたのは「連合参謀部」「政治工作部」「訓練管
理部」「国防動員部」などの部局で、これまで四大総部の傘下に
あった部門が独立したのです。どうしてこの体制になったのかと
いうと、組織間の情報交換と連携を強化する狙いであるとの指摘
があるほか、軍内部の権限を細かく分散させることで、中央軍事
委員会主席である習近平主席が軍の全面的な掌握を進める狙いが
あると思われます。
 この組織改編の後で習近平主席は、北京市西部の中央軍事委員
会本部で各部署の責任者に任命された将軍を集め、次のように訓
示しています。
─────────────────────────────
 共産党中央と中央軍事委員会の指揮に断固として従わなけれ
 ばならない。       ──習近平中央人事委員会主席
─────────────────────────────
 四大総部の組織改編では、「軍政と軍令の切り離し」を行って
います。ところで、軍政と軍令はどう違うのでしょうか。
 軍事権は、「軍政権」と「軍令権」から成ります。軍政権とい
うのは、軍事行政、装備、兵站などの軍隊建設に関わる政治を意
味します。これに対して軍令権は、軍事力の直接的使用に関わる
権力のことです。つまり、軍令権は作戦用兵に関する統帥権を意
味します。明治憲法下では,日本はドイツを模倣して、軍令権は
内閣の権能外に独立させ、天皇が直接掌握するかたちになってい
たのです。
 軍政権と軍令権の関係について、福島香織氏は、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 平和時、軍令権はあまり存在感がない。むしろ軍政を握るもの
が軍の権力の中枢を握ることになる。逆にいえば、それが平時の
軍の常態である。だが、習近平が軍令権と軍政権を分離し、軍令
権については自らが掌握することにした。これは、平時から戦時
体制に変わる準備ともいえる。軍令権の中には仮想敵国の想定や
戦術戦略研究の方針も含まれるという。
 この改革が進めば、これまで軍の実権を握っていた四大総部は
中央軍事委の決定に従って実務に専念する職能機関に格下げにな
る見通しだ。中でも総政治部の権限は大幅に弱体化する。
          ──福島香織氏 http://nkbp.jp/2jMk1vI
─────────────────────────────
 今回の軍制改革では、軍の司法機構を一新するとありますが、
実際にどうなったのかについてはわかっていないのです。軍の司
法機関については、中央軍規律委員会が軍の腐敗を摘発すること
になっていますが、これまであまり厳しい裁きが行われてきてい
ないのです。
 これは長らく軍政を握ってきた徐才厚が身内意識を優先して甘
い裁きをやってきているからです。徐才厚は既に死亡しています
が、その残党は多く残っており、その一掃のために司法機関の改
革が打ち出されたものと思われます。おそらく中央軍規律委員会
を独立させて、新たに軍事政法委員会を作るなどの改革が行われ
るものと考えられます。
 そもそも習近平主席が仕掛けた軍制改革──とくに7大軍区の
改変の真の目的は、徐才厚派の多くいる瀋陽軍区と、郭伯雄派の
多くいる蘭州軍区の解体にあるのではないかといわれるのです。
これをやらないと、本当の意味での軍制改革はできないといわれ
ます。しかし、この軍制改革によって軍は動揺しており、不満が
渦巻いているのです。
 なぜ習近平主席は、このタイミングで軍制改革をやろうとした
のでしょうか。それは「2つの100年」の目標実現のためとい
われています。「2つの100年」とは次の2つです。
─────────────────────────────
   1.  中国共産党成立100年(2021年)
   2.中華人民共和国成立100年(2049年)
─────────────────────────────
 第1の100年は、2021年に訪れる中国共産党成立100
年に小康社会を樹立することです。小康社会とは、全面的なゆと
りある社会のことです。
 第2の100年は、2049年までに中国を社会主義現代国家
にするという目標です。そのための4つの全面──全面的小康社
会の建設、全面的改革の深化、全面的法治国家の推進、全面的統
治の厳格化の協調的推進に必要なのが軍制改革による強軍興軍化
であるというのです。   ──[米中戦争の可能性/015]

≪画像および関連情報≫
 ●人民解放軍を骨抜きにする習近平の軍事制度改革
  ───────────────────────────
   「政治権力は銃口から生まれる」。毛沢東が語ったこのき
  わめて明快な権力観は、習近平の中国でも生きている。習近
  平は、2012年11月に中国共産党総書記に就いて以来、
  歴代の指導者と同様に、繰り返し人民解放軍に対して「党の
  軍に対する絶対的な指導」を守るよう繰り返し確認してきた
  のである。これを制度的に保障するために、やはり歴代の指
  導者と同様に、習近平は中国共産党のトップである中国共産
  党中央委員会総書記であり、国家のトップである国家主席で
  あり、中国共産党の軍事に関わる意思決定のトップである中
  国共産党中央軍事委員会主席であり、国家の軍事に関わる意
  思決定のトップである国家中央軍事委員会主席を兼ねている
  のである。
   実は、中国共産党総書記はこれまで、その就任直後から、
  国家、そして軍の三権を一度に掌握してきたわけではない。
  現代中国政治において政治指導者たちは、権力を継承すると
  き、軍に関する権力の継承については極めて慎重におこなっ
  てきた。天安門事件の責任を負って失脚した趙紫陽の後任と
  して中国共産党総書記に就いた江沢民は、中国共産党中央軍
  事委員会主席の地位を、総書記就任から5ヶ月経ってから、
  ケ小平から継いだ。江沢民の後継である胡錦濤は2002年
  11月に総書記に就任したが、中央軍事委員会主席となった
  のは2年後のことであった。    http://bit.ly/2kfWAvP
  ───────────────────────────

軍人を激励する習国家主席.jpg
軍人を激励する習国家主席
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2017年01月26日

●「陸軍の兵力削減30万人への不満」(EJ第4446号)

 中国の軍制改革の4つの骨子を再現します。「1」と「2」に
ついては説明済みです。
─────────────────────────────
   1.軍区制を廃止して、戦区制(戦略区制)にする[済]
   2.軍令と軍政を分離し、軍の司法機構を一新する[済]
 → 3.30万人の兵力を削減し、200万兵力にする
 → 4.軍の「民間向け商業活動」を全面的に廃止する
─────────────────────────────
 「3」について考えます。
 習近平国家主席は、軍制改革によって兵力を30万人削減する
と発表しています。これは、2015年9月3日に中国で行われ
た抗日戦勝利70周年記念式典での習近平国家主席の演説のなか
で出てきたのです。演説のなかのその発言部分を抜き出して、以
下に示します。
─────────────────────────────
 平和のために、中国は終始平和発展の道を堅持していきます。
中華民族は従来、平和を愛しています。どこまで発展を遂げても
中国は永遠に覇を唱えず、永遠に拡張を行わず、自分自身がかつ
て経験した悲惨な遭遇を、ほかの民族に押しつけるようなことは
決してしません。中国人民は世界各国人民と友好的につきあい、
中国人民抗日戦争と世界反ファシズム戦争の勝利の成果を固とし
て守り、人類のために新たに、より大きな貢献をしていくよう努
めていきます。
 中国人民解放軍は、人民からなる軍隊で、全軍の将士は全身全
霊人民に奉仕するという根本的な主旨を心に刻み、祖国の安全と
人民の平和な生活を守るという神聖なる職責を忠実に全うし、世
界平和を守るという神聖なる使命を忠実に遂行しなければなりま
せん。ここで中国は、軍兵士30万人を削減することをここに宣
言します。              http://bit.ly/1KKEbNr
─────────────────────────────
 この演説で習主席は誠に殊勝なことをいっています。「中国は
覇権を唱えず、拡張を行わない」といい、他の国を攻めて領土を
拡張するようなことは永遠に行わないと断言しています。しかし
その一方で、南シナ海諸島や尖閣諸島のように、かつて歴史上、
中国の領土であった島々は中国のものであり、それは中国の譲れ
ない核心的利益であって、中国のものにするのは当然であるとい
う奇妙な論理を展開するのです。
 そのうえで習主席は、兵力を30万人減らすといっているので
す。一見すると、軍縮であると思うはずです。しかし、これは軍
縮ではなく、軍のスリム化であり、強軍化なのです。それと同時
に習主席にとって邪魔になる人材を切って、風通しをよくすると
いう裏目的もあるのです。この30万人のリストラについて福島
香織氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 (軍制改革によって)兵力30万人削減という大リストラを開
始している。これは軍縮ではない。軍のスリム化による強軍化で
あると同時に、軍の徐才厚、郭伯雄(ともに習近平の政敵として
粛清された)の残党の粛清発表と受け止められている。この30
万人の内訳の多くが「非戦閣員」といわれている。汚職の温床化
している装備部の圧縮が真っ先に挙げられている。また、30万
人中17万人は、陸軍の江沢民系、徐才厚系、郭伯雄系ら将校ク
ラスのようだ。この軍のスリム化は2017年までに完了させる
という。    ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 習近平主席は、この軍制改革と並行して着々とあることを実行
しています。それは軍内の要職に自分の息のかかった者を配置し
ようとしているのです。南京軍区出身、とくに第31集団軍出身
者が多いのです。習主席が、福建、浙江省勤務であったときの人
脈が中心です。
 具体的にいうと、趙克石(後勤保障部長)、李暁峰(政治委員
会書記)、王安竜(中央軍事委弁公庁副主任)、苗華(海軍政治
委員)、蔡英廷(解放軍軍事科学学院)といった習主席の腹心が
続々と出世しています。彼らのなかには実力不足の者も多く、軍
内に大きな不満が渦巻いています。まさしく、「お友達人事」そ
のものです。
 「4」について考えます。
 軍の「民間向け商業活動」とは何でしょうか。
 実はこれこそ人民解放軍を腐敗させる原因になったのです。ケ
小平は、経済成長を重視し、国防費を大幅にカットしたことがあ
ります。その国防費の不足を補うためにケ小平は、中国軍の独自
ビジネスを認めたのです。これについて、ハーバード大学アジア
センター・シニアフェローの渡部悦和氏は、自著で次のように述
べています。
─────────────────────────────
 腐敗した中国軍の改革は困難を極める。軍所有の土地や施設の
賃貸、新聞の発行、ホテルやレストランの経営、軍の病院を民間
人にも開放することによる診療収入の確保などのビジネスを展開
してきた。このビジネスが軍腐敗の原因であり、習主席は今回の
軍改革の一環として軍のビジネスの大半を禁止した。今後、習近
平政権と陸軍を筆頭とする軍の抵抗勢力との関係がどう推移する
かが重要な指標となる。いずれにせよ、中国軍の改革を通じた権
力基盤の強化にはまだまだ時間がかかると予想する。
        ──渡部悦和著「米中戦争/そのとき日本は」
                  講談社現代新書2400
─────────────────────────────
 それでも人民解放軍の腐敗はなくならないと思われます。腐敗
のある軍隊は絶対に強軍化できないものです。それでも習主席は
軍制改革を早期に完成させるといっています。
             ──[米中戦争の可能性/016]

≪画像および関連情報≫
 ●「戦争ができ、戦争に勝つ」軍隊の誕生
  ───────────────────────────
  2016年2月8日から13日まで、中国は春節(旧正月)
  の大型連休だった。習近平主席にとって、中国共産党のトッ
  プに立って迎える4回目の春節だった。北朝鮮がこのところ
  「大暴れ」しているので、習近平政権も大揺れの正月だった
  かと言えば、そうではない。
   思うに習近平主席にとって今年が最も安らかに迎えた春節
  ではなかったか。それは習近平主席が最も重要視する200
  万人民解放軍を、「自分の軍隊」に改造することに成功した
  からである。
   春節を一週間後に控えた2月1日午前10時、新調した人
  民服を着た習近平主席が、満足げな表情を浮かべて、「八一
  大楼」の大ホールの壇上に立った。「八一大楼」は、8月1
  日の人民解放軍創建記念日の名を冠した国防部の施設で、長
  安街沿いの軍事博物館東側に位置する。建築面積9万255
  平方メートル、地上12階、地下2階建てで、1997年に
  人民解放軍を統轄する中央軍事委員会のオフィスとして建て
  られた。習近平主席は、1979年、26歳の時に、元人民
  解放軍幹部だった父・習仲勲の命令で、中央軍事委員会のオ
  フィスで働くことからキャリアをスタートさせた。以後、中
  央軍事委員会主席に収まった現在に至るまで、そのキャリア
  の大半で、軍務を兼務してきた。  http://bit.ly/2kdjZug
  ───────────────────────────

30万人の兵力削減の演説.jpg
30万人の兵力削減の演説
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2017年01月27日

●「尖閣諸島国有化が招いた日中関係」(EJ第4447号)

 中国の支配者、習近平主席の正体を知るために、胡錦濤前主席
との違いを知る必要があります。胡錦濤政権は、中国が今後発展
していくためには、国際協調は欠かせないと考えており、そのた
めには、党の私軍である人民解放軍を党から切り離し、国軍とす
る軍制改革を行うべきであるとして、改革に着手したのです。そ
して、共産党執政の正当性の根拠を経済成長に求めたのです。
 社会主義国のトップとしては正しい判断であり、旧ソ連のゴル
バチョフ総書記のやったことに似ています。しかし、胡主席の軍
制改革は抵抗勢力の妨害によって潰されています。
 これに対して胡錦濤政権を受け継いだ習近平政権は、党が軍を
より掌握し、これによって共産党一党支配の正当性を担保しよう
としたのです。まさに中国の北朝化そのものです。世のなかの動
きに逆らう先祖返りを図ったといえます。
 ところで、習近平氏は、胡錦濤政権の国家副主席を務めていた
ときから、胡政権の進めようとする軍制改革に疑問を持ち、先祖
返りのための布石を打っていたといわれます。
 ところで、『習近平内部講話』(広度書局)という本がありま
す。この本には習近平氏の主張が詳しく書かれているのですが、
次のような習近平氏のレポートも載っています。
─────────────────────────────
          2012年9月13日付/習近平記
   「第18回党大会前の時局においての個人的見解」
─────────────────────────────
 このレポートは、当時の政権の胡錦濤、温家宝および江沢民、
李鵬、朱鎔基などに宛てたものになっています。この文書が書か
れた時点では、習近平副主席が次の総書記/国家主席になること
は確定していたのです。したがって、そのレポートの内容は、自
分が総書記になったら、このようにやりたいという政策の方向性
について書かれているのです。
 ところで、このレポートの日付に注目して欲しいのです。20
12年9月13日というのは、日本が尖閣諸島を国有化してから
2日後です。したがって、このレポートは、日本を意識した内容
にになっていることは確かです。
 それに、2012年9月1日〜14日までの2週間、習近平副
主席の動静は不明だったのです。その期間内の公式スケジュール
には、中国を訪問していたヒラリー・クリントン氏らの要人と面
接する予定があったのですが、それは突然キャンセルされていま
す。多くの中国メディアは、習近平氏は水泳中、プールサイドで
転んで背中を痛め、入院していると報道したので、暗殺説まで出
たほどです。
 実際は、習副主席はけがを理由に2週間の休暇を取り、ブレー
ン一人とこのレポートを作成していたのです。そのなかには当時
の習近平氏の日本観を窺うことができます。その部分を福島香織
氏の著書から引用します。
─────────────────────────────
 日本は長期の経済低迷に、天災人災が相次ぎ、社会存亡の危機
に見舞われている。右翼勢力の台頭、戦後の国際秩序への挑戦、
日本政府が釣魚島を「国有化」するなど、これは愚かな行動の一
例だ。われわれは、アジア太平洋と世界の平和環境、秩序維持、
国内の発展のために、かなり我慢して譲歩してきたが、最近の事
態は我慢の限界だ。釣魚島は東海の中国大陸棚の資源に関係する
だけでなく、国家の長期的戦略的経済利益に関係する。また、中
華民族の近代から現代に至る屈辱的な歴史と民族の痛みにも関係
する。(釣魚島防衛は)わが国民衆の民族の自尊、国家の尊厳、
国家領土主権の防衛という正当な要求のほか、社会の各種矛盾、
積怨、不満の爆発のはけ口も見つけることができる。・・・われ
われは一定の民意に従い、同時に正確に誘導し、日本が運んでき
たこの重い石を、自分の足の上に落とさせるようにしよう。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 このレポートには、胡錦濤政権は日本に対してあまりにも弱腰
であり、そのために尖閣諸島が国有化されたとの思いが強く込め
られています。実際にこの件に関して胡主席は、党長老、軍幹部
たちから、非難されていたのです。
 さらに、このレポートでは、次の具体的な7つの提案をしてい
ます。それらのほとんどは既に実行されています。
─────────────────────────────
 1.反日デモは抑制せず、もし日本製品(日貨)の打ち壊し
   が起きても恐れない。
 2.米国とも協調して、日本の軍国主義復活・拡張主義の復
   活に警戒を喚起する。
 3.両岸三地(台湾/香港/中国)で、漁民の非暴力形式で
   中国主権を主張する。
 4.国連などに働きかけ、釣魚島の主権を訴え、米国に肩入
   れさせてはならない。
 5.日本に対して強硬な外交姿勢を強め、経済貿易制裁など
   有形無形で発動する。
 6.上記に加えて、中国として軍事的に釣魚島を完全防衛す
   る準備を新調させる。
 7.国内で、釣魚島問題に関する民衆の言論を大きく解放さ
   せ、世論を形成する。
               ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 これを見ると、現在の中国の習政権が日本にとっていかにリス
クの多い政権であるかがわかります。実際に中国は、日本が少し
でもスキを見せれば、局地的軍事衝突に持ち込むハラであること
は確かです。現在でも、尖閣諸島周辺では中国の挑発は続けられ
ており、日中の火種になっているのです。
             ──[米中戦争の可能性/017]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平は尖閣諸島を奪うつもりだった/福島香織氏
  ───────────────────────────
   2012年9月の第18回党大会前に、習近平が、米国と
  ともに戦後国際秩序の守り手として、軍国主義復活を企てる
  日本を追い詰めていく戦略を頭に描いて、こんな手紙を書い
  ていたとしたなら、やはり彼はたいそう国際社会の現実を知
  らない外交音痴の人であったかと思う。結果から言えば、中
  国は「戦後国際秩序の守り手として米国と協調する路線」か
  ら、「米国に対抗する中華秩序圏のアジアにおける樹立」に
  方針変更したし、日米の離反を狙った外交・宣伝工作は失敗
  し、米国のアジア・リバランス政策を引き起こし、尖閣諸島
  (釣魚島)で作戦を仕掛ける前に南シナ海問題で米中の対立
  を先鋭化させた。"両岸三地共同の釣魚島防衛"など、ひまわ
  り、雨傘運動で消し飛んでしまった。
   そして2014年秋からは180度方針を転換し、むしろ
  日本に積極的にアプローチしてきている。春節には日本での
  「爆買ブーム」を比較的肯定的に報道し、フェニックステレ
  ビでは6月、安倍晋三の単独インタビューを比較的好意的な
  編集で流し、「安倍は中国に好意的」といったシグナルを発
  信した。最近では、安倍の密使として訪中した谷内正太郎に
  は、首相の李克強が35分の時間を割いて会談すると言う厚
  遇ぶりを見せた。        http://nkbp.jp/2jzKc5R
  ───────────────────────────

冷たい二国関係/日本と中国.jpg
冷たい二国関係/日本と中国


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2017年01月30日

●「空自のスクランブルの厳しい現状」(EJ第4448号)

 日本の新聞では大きく報道されませんが、尖閣諸島周辺空域で
は、間断なく飛来する中国戦闘機に対して、航空自衛隊のスクラ
ンブルが厳しさを増しています。
 2016年12月10日のことです。中国国防部は次の発表を
行ったのです。昨年暮れのことですから、覚えておられる人もい
ると思います。
─────────────────────────────
 2016年12月10日(土)、中国国防部は「中国空軍航空
機が、宮古海峡空域を経て西太平洋における定例の遠海訓練に赴
いたところ、日本自衛隊が2機のF─15戦闘機を出動させ、中
国側航空機に対し、近距離での妨害を行うとともに妨害弾を発射
し、中国側航空機と人員の安全を脅かした」(防衛省報道資料よ
り)と発表しました。        ──中国国防部の言い分
─────────────────────────────
 これに対して日本の防衛省は次の反論を行ったのです。「妨害
弾」などもってのほかというわけです。
─────────────────────────────
 これに対して防衛省は、翌12月11日(日)、空自F─15
戦闘機は中国軍用機に対し、状況の確認と行動の監視を、国際法
および自衛隊法に基づく厳格な手続きに従って行ったものであり
「中国軍用機に対し、近距離で妨害を行った事実はなく、妨害弾
を発射し、中国軍用機とその人員の安全を脅かしたという事実も
一切ありません」との見解を表明しました。 ──防衛省の反論
                   http://bit.ly/2jDHAnj
─────────────────────────────
 ところで、中国国防部のいう「妨害弾」というのは「フレア」
のことです。戦闘機が搭載しているミサイルは、敵のエンジンか
ら発射される赤外線を追尾して撃墜する赤外線追尾型ミサイルが
多いのです。フレアというのは、赤外線追尾型ミサイルを欺瞞す
る、いわばおとり弾のことです。
 敵機が近づいてきて、ロックオンされた場合、戦闘機はフレア
を射出してミサイルの追尾をフレアに引き寄せ、その間に現場か
ら離脱することになります。
 ということは、この場合、中国の戦闘機2機が、スクランブル
で接近してきた空自のF─15戦闘機2機に対し、ロックオンし
たので、2機のF─15戦闘機は、フレアを発出して離脱したと
いうことが想定されます。しかし、防衛省はそのどちらも否定し
ています。どうやら、ことを大きくしたくないようです。
 なぜかというと、このようなことはこれまでにも起きているか
らです。実は、これとそっくりの事例が2016年6月17日に
起きているのです。しかし、このときはなぜかメディアが取り上
げていないのです。官邸が特定秘密保護法の対象項目として公表
しなかったからです。
 福島香織氏は自著でこの事実を取り上げていますが、それは、
航空自衛隊の戦闘機パイロットで、元空将の織田邦男氏が、JB
プレスという有料サイトに掲載した主張に基づいています。福島
香織氏はこれについて次のように述べいます。
─────────────────────────────
 織田記事では、「(中国軍機から)攻撃動作を仕掛けられた空
自戦闘機は、いったんは防御機動でこれを回避したが、このまま
ではドッグファイト(格闘戦)に巻き込まれ、不測の状態が生じ
かねないと判断し、自己防御装置を使用しながら、中国軍機によ
るミサイル攻撃を回避しつつ戦域から離脱したという」とある。
素直に読めば、中国軍機がミサイル攻撃体制をとったので、フレ
ア(赤外線センサーを欺瞞するデコイ装置)を発射して、これを
回避し離脱した、と受け取れる。
 これを受けて、萩生田光一副官房長官が29日の記者会見で、
「近距離でのやり取りは当然あったのだと思う」としながらも、
「攻撃動作をかけられたという事実はない」と言明した。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 これは、12月10日に起きたこととまったく同じです。なぜ
そのとき政府はこのことを公表しなかったのでしょうか。
 それは、スクランブルをかける空自の戦闘機が厳しい状況に置
かれている現状と関係があります。福島氏によると、2016年
4月〜6月の中国戦闘機へのスクランブルは、前年同期比1・7
倍に増加しており、予備パイロットまでスクランブルに駆り出さ
れる事態になっているからです。そのため、中国戦闘機に押され
ているのです。そのため、織田氏は心ある日本人に対して警鐘を
鳴らす目的で、あえて有料サイトに論文をアップし、事実を公表
したものと思われます。福島氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 織田記事が懸命に警鐘を鳴らしているように、いま日本の対中
国防衛の最前線はきわめて厳しい状況にあることを、もっと多く
の日本人が知るべきだろう。だが日本政府はこれを特定機密保護
法の対象として、公表を見送ったうえ、自衛隊OBが危機感から
問題提起したことをむしろ問題視して、情報漏えいの犯人探しに
躍起になっている。これは、中国国防部がおおむねの内容を公表
した今になっては、東シナ海防衛の最前線にいる人たちの士気を
下げ、日本の防衛体制の穴を中国に知らしめる利敵行為以外の何
ものでもない。         ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 習近平主席の意思を受けて、中国戦闘機は本気で東シナ海の制
空権を取ろうとして尖閣周辺上空に飛来してくるのです。そのた
め、スクランブルをかけた空自の戦闘機が、中国機にドッグファ
イト(バックをとられること)されたからこそ、自衛隊機はフレ
アを射出して離脱したのです。バックをとられてロックオンされ
れば、フレアで離脱するしかないからです。
             ──[米中戦争の可能性/018]

≪画像および関連情報≫
 ●空自機、対領空侵犯措置にて「妨害弾」射出か
  ───────────────────────────
   防衛省は「近距離で妨害を行った」ことと「妨害弾(フレ
  ア)によって安全を脅かした」ことは否定しましたが、「フ
  レアの投下自体」は否定していません。よって、実際のとこ
  ろどのような状況であったのかは不明ですが、少なくとも中
  国国防部が主張する「フレアの射出によって安全が脅かされ
  た」という点は、フレアの特性上発生しようがないことは明
  白であると断定でき、中国国防部の発表は矛盾しています。
   もし仮に、本当に航空自衛隊のF─15戦闘機からフレア
  が射出されていたとしたならば、それはF─15のパイロッ
  トが何らかの脅威を認識したからであると推測されます。今
  回の中国空軍機の編隊には戦闘機が2機(防衛省はSu30
  戦闘機と発表)、確認されています。おそらくこの中国軍の
  戦闘機が、F─15に対してレーダー追尾(ロックオン)を
  仕掛けたのではないでしょうか。F─15には国産の自己防
  御システムが搭載されており、レーダー電波を逆探知するこ
  とでパイロットはロックオン、すなわち攻撃される寸前の状
  態であることを認知できます。もし、「レーダー誘導ミサイ
  ル」が発射された場合、F─15はやはりレーダー電波を逆
  探知し、パイロットはミサイル接近中であることを認知でき
  ます。ただし「赤外線誘導ミサイル」は電波を出さないので
  ミサイル接近警報装置を搭載していないF─15には、同ミ
  サイルで攻撃されているかどうかを知ることはできません。
                   http://bit.ly/2kA2pjw
  ───────────────────────────

スクランブル戦闘機によるフレア射出.jpg
スクランブル戦闘機によるフレア射出
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2017年01月31日

●「中国は軍事紛争を日本に仕掛ける」(EJ第4449号)

 2013年1月30日のことです。中国海軍の軍艦が、海自の
護衛艦に対してレーダーを照射するというとんでもない事件が起
きたのを覚えていますか。2013年2月5日付のAFPニュー
スは、その事件を次のように伝えています。
─────────────────────────────
 【2月6日AFP】小野寺五典防衛相は5日夜、中国海軍のフ
リゲート艦が1月30日に東シナ海で、海上自衛隊の護衛艦に射
撃用の火器管制レーダーを照射したと発表した。
 日本と中国の艦艇間でレーダー照射が明らかになったのは初め
て。両国関係は尖閣諸島の領有権問題で緊張が高まっており、武
力衝突が起きる恐れもあると懸念する声も聞かれている。
 小野寺防衛相によると、1月19日にも自衛隊ヘリコプターが
似たレーダー照射を受けた。関係者によれば、19日と30日の
レーダー照射はともに数分間続いた。小野寺防衛相は「大変、特
異な事例」で「一歩間違えれば大変危険な状態に発展していた」
と述べ、中国にこのような行為の自制を求める意向を表明した。
                   http://bit.ly/2jH4ASz
─────────────────────────────
 どこかの国の船舶、まして軍艦に対してレーダーを照射すれば
それは砲撃目的以外はあり得ないので、砲撃戦になることは確実
です。それがきっかけで戦争になっても不思議はないほど重大な
ことです。米国の軍艦に、もしレーダーを照射したら、たちまち
ミサイルが飛んできます。
 同じレーダー照射といっても戦闘機の場合と軍艦の場合は異な
るのです。戦闘機の火器管制レーダーの照射は「ロックオン」と
いいますが、必ずしも攻撃の照準を合わせるという目的ではなく
相手機がどこにいるかを把握し、そのスピードを測定するために
行うのです。スクランブルでは必ずやることです。
 したがって、ロックオンという行為それ自体は、攻撃の意思表
示ではないのです。しかし、戦闘機の位置によっては攻撃のサイ
ンになります。その攻撃のポジションが「ドッグファイト」、す
なわち、バックを取ることです。つまり、航空機のバックに回っ
てロックオンをすれば、それは攻撃のための照準合わせを意味す
ることになります。
 したがって、スクランブルをかけるときは、ロックオンはしま
すが、バックには回らないのです。相手機の斜めのポジションを
キープし、相手機に対し「ここは日本の領空である」と伝えるの
です。これは戦闘機の操縦技術としては非常に難しいのです。
 しかし、中国の戦闘機の操縦技術のレベルは今一つで、しかも
攻撃的ですぐバックを取ろうとします。日本のスクランブル機は
そうはさせないように操縦しますが、ときにはバックをとられる
ときもあります。そういうときは、フレアを発射して離脱するこ
とになります。そんなことは毎日のように起きています。
 しかし、軍艦が火器管制レーダーを照射するときは、砲撃以外
あり得ないのです。当然日本政府は中国に対して厳重抗議しまし
たが、その後は海軍のルールを知らないはねっ返りの暴走事件と
して、ことを収めてしまっています。
 これに関して福島香織氏は、「中国は空でも海でも、最初から
軍事衝突を起こす気で尖閣諸島にやってきている」として、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 習近平政権としては日本が挑発に乗って軍事行動を起こせば、
それを理由に局地的衝突に持ち込む気であったとみられる。この
ころは、米国は中国よりも日本の軍国主義化の方を警戒している
と、少なくとも中国は考えていた。続いて2013年2月に中国
が一方的に東シナ海上空にADIZ(防空識別圏)発表したのも
こうした日本挑発のシナリオに従ったものだろう。だが習近平に
大きな誤算があった。一つは、日本政府がこの手の挑発に非常に
忍耐強く、日本人は良くも悪くもこうした危機に鈍感であったと
いうこと。そして中国のこうした危険な挑発はむしろオバマ政権
にいっそうの警戒感を与える結果となった。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 習近平主席はこう考えているのです。彼の総書記就任前に作成
したレポートにもあるように、尖閣諸島は力づくでも手に入れる
が、重要なことがある。それは、そのさい米軍が出動しないよう
にすることだ。そのためには、アクシデントを装って、偶発的軍
事衝突を起こし、漁民を装った軍隊によって、尖閣諸島を奪うと
いうシナリオです。
 そうであるとすると、空でも海でも中国軍は本気で尖閣諸島を
奪う気でやってきているということになります。しかし、海警と
いう事実上の戦艦に近い公船を何回送り込んでも、日本の海上保
安庁の巡視艇は、いつても辛抱強く待機しており、領海に侵入し
ようとすると、非戦闘的に公船と並走しながら、やがて領海外へ
中国の公船を追い出してしまうのです。
 中国海軍は、そういう日本の巡視艇の高度な操船技術を肌で感
じているのです。巡視艇レベルでもこれほど高い技術を持ってい
るのですから、海上自衛隊はもっと高度であることを認めざるを
得ないのです。つまり、海でも空でも、戦争をするのではなく、
戦争をしないように対応する技術レベルが非常に高いのです。
 それに加えて日本の海自の潜水艦はまったく音がせず、どこに
潜んでいるかわからない恐怖が中国側にあります。したがって、
中国としては、たとえ米軍抜きでも、尖閣諸島を攻めあぐんでい
るというのが現在の状況です。
 このように、習近平政権は日本にとって非常に危険な政権であ
るといえます。米中戦争が起きる前に、尖閣諸島周辺海域におい
て、日中の軍事衝突が起きる確率はきわめて高いといえます。日
本は今まで以上にそれに備えることが必要です。
             ──[米中戦争の可能性/019]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプが中国・習近平政権に仕掛ける、3つの最終戦争
  ───────────────────────────
   選挙後初となる記者会見で本領を発揮したトランプ氏の様
  子が日夜報道されていますが、彼が大統領に就任することを
  世界中で最も恐れているのは、意外にもあの習近平氏かもし
  れません。無料メルマガ『石平のチャイナウォッチ』の著者
  で、中国情勢に精通する石平さんは、トランプ氏は大統領就
  任後、間髪おかず中国に「3つの戦い」を仕掛けるだろうと
  予測。これに対抗し得る力は今の中国にはない、と断言して
  います。
   中国の習近平政権にとって2017年は文字通り、内憂外
  患の年となりそうだ。まずその「外患」について論じたい。
  中国政府に降りかかってくる最大の外患はやはり、今月誕生
  する米トランプ政権の対中攻勢であろう。大統領選で中国の
  ことを、「敵」だと明言してはばからないトランプ氏だが、
  昨年11月の当選以来の一連の外交行動と人事布陣は、中国
  という敵との全面対決に備えるものであろうと解釈できる。
   トランプ氏は日本の安倍晋三首相と親しく会談して同盟関
  係を固めた一方、ロシアのプーチン大統領や、フィリピンの
  ドゥテルテ大統領とも電話会談し、オバマ政権下で悪化した
  両国との関係の改善に乗り出した。見方によっては、それら
  の挙動はすべて、来るべき「中国との対決」のための布石と
  理解できよう。          http://bit.ly/2kE9P5B
  ───────────────────────────

中国海軍軍艦による海自護衛艦へのレーダー照射.jpg
中国海軍軍艦による海自護衛艦へのレーダー照射
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2017年02月01日

●「人民解放軍内の不満の3つの原因」(EJ第4450号)

 習近平国家主席の軍制改革に対して、現在陸軍を中心として軍
内に不満が渦巻いています。その不満の原因は、大別すると、次
の3つになります。
─────────────────────────────
        1.陸軍軽視と大量リストラ
        2.側近の要職への大量起用
        3.国家主席に実戦経験なし
─────────────────────────────
 上記「1」と「2」については、すべて述べていますが、とく
に「2」については、現在、人民解放軍内部で強い不満が高まっ
ています。習主席が、軍制改革と同時に、自分の腹心を相当露骨
に主要ポストに次々と就任させているからです。
 ひとつ例を上げることにします。2015年7月に海軍上将に
昇進した苗華(びょうか)という軍人がいます。彼はもともと陸
軍畑の軍人ですが、いきなり海軍上将に昇進したのです。海軍上
将とは、海軍上級大将の意味であり、大将より上のランクになり
ます。ちなみにその上のランクは、元帥、大元帥です。
 しかし、陸軍畑で出世を重ねてきた軍人が、海軍に移籍して上
将になる──こういうことは通常は起こり得ない人事ですが、典
型的な習近平人事の一環なのです。
 人民解放軍に第31集団軍というのがあります。中国人民解放
軍第31集団軍の前身は1947年に編成され、国共内戦でも活
躍しています。49年には、第3野戦軍所属の第31集団軍に組
織が改編され、福建省のアモイ市に本拠を置くようになったので
す。そのため「アモイ軍」と呼ばれています。
 習近平主席は、福建省や浙江省勤務だったことがあり、そのと
きにアモイ軍で人脈を築いていたのです。苗華氏の簡単な経歴を
上げておきます。
─────────────────────────────
 ≪苗華氏の軍歴≫
 1969年12月:人民解放軍第31集団入隊(15歳)
 1999年08月:第31集団軍政治部主任→少将
 2010年12月:蘭州軍区政治部主任
 2012年07月:蘭州軍区副政治部員兼規律検査委員会
          書記→中将
 2014年06月:蘭州軍区政治委員
 2014年12月:海軍政治委員
 2015年07月:海軍上将
─────────────────────────────
 苗華氏の2012年7月までの昇進は順当です。蘭州軍区副政
治部員に就任し、陸軍の中将に昇進しています。それに兼務とし
て規律検査委員会書記になり、軍部のなかでの権力もきわめて高
くなっています。
 しかし、2012年11月に習近平氏が総書記、そして、20
13年3月に国家主席になると、苗華氏は、2014年12月に
急遽海軍の政治委員になるのです。そして、2015年7月に陸
軍中将から、将官の最高位である海軍上将に昇進します。これは
きわめて異例のことです。明らかに軍制改革に合わせて、習近平
主席が主導した人事です。
 こういう人事をやられると、生え抜きの海軍将校からすると、
きわめて不満であるし、モラールが下がります。まして、政治委
員ですから、人事権も握っているのです。こういう人事が苗華氏
のケースだけではなく、他でも幅広く行われているのです。軍部
内に不満がくすぶるのは当然のことです。これが冒頭に上げた軍
部の不満の原因「2」の内容です。
 それでは不満の原因の「3」とは何でしょうか。
 ケ小平最高指導者に続く江沢民、胡錦濤、習近平の中国の政権
において、真の意味で軍部を掌握していたのはケ小平だけである
といってよいと思います。それ以後の3政権は、本当の意味で軍
部を掌握していたとはいえないのです。それは、これら3政権の
トップは、戦争で実戦の指揮を執り、銃を持って、死線を潜り抜
けていないからです。
 しかし、ケ小平は違うのです。その違いについて、福島香織氏
は、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 振り返れば、ケ小平は文化大革命後、文革で総崩れになってい
た解放軍の立て直しを行いつつ軍権を掌握するために、軍制改革
と大リストラ、そして戦争を行った。1979年の中越戦争は、
ケ小平が軍権を掌握するプロセスのうえで非常に大きな意味を持
つ。国外的にはこの戦争は実践で鍛えられたベトナム兵によって
返り討ちにされ、解放軍の事実上の負けであったが、国内では勝
利宣言を行い、ケ小平はさらなる軍の近代化改革を進める。そし
て1984年の中越国境紛争で、その雪辱を晴らした。ケ小平は
この2回のベトナムとの戦争を通じて、軍の近代化と軍権の掌握
を確かなものにしたのだった。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 これは、どこの軍隊でもそうでしょうが、とくに中国では、戦
争での実戦の指揮を執ったことがなく、国防大学で軍事戦略や戦
術を極めたこともない文民政治家は、表面的にはともかく、基本
的には尊敬されないのです。
 要するに「実戦の指揮を執る」──これしかないのです。しか
し、米国が相手ではまず勝ち目はない。そうなると、格好の相手
は日本です。しかも、間違っても米国が出てこないかたちで、尖
閣諸島周辺海域で日本と局地的な軍事衝突を起こし、中国国民に
明確に勝ちと認められる勝利を収める──このことに現在の習近
平政権は狙いを定めています。だからこそ、中国は尖閣諸島周辺
の海と空に何回も繰り返し、制圧を目的として、本気でアタック
してきているのです。   ──[米中戦争の可能性/020]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平氏 対日強硬論火消し役として側近起用/2016年
  ───────────────────────────
   中国軍の動向に詳しい香港の日中関係筋によると、今年は
  中国の尖閣諸島への攻勢が本格化するという。すでに、海上
  保安庁は昨年末、機関砲4基を備えた改造フリゲート艦が日
  本領海に侵入したことを確認した。尖閣諸島をめぐって砲弾
  が飛び交う事態も懸念される。ジャーナリスト・相馬勝氏が
  指摘する。
   日本の排他的経済水域(EEZ)内で日中両国間の取り決
  めに反した中国海洋調査船による調査活動が、昨年すでに、
  22回あり、一昨年の2倍を超えたことが挙げられる。20
  11年には8回、2012年は3回、2013年7回、20
  14年は9回と推移し、昨年は初めて2桁台に乗り、前年比
  で2倍を超えた。その活動区域の多くは東シナ海となってい
  る。これらは科学調査とみなされているが、その一方で軍事
  的な動機が背景にあるとみられる動きも出ている。それが中
  国のIT企業大手「騰訊(テンセント)」が作成した中国人
  民解放軍による尖閣諸島奪還作戦の3Dアニメ動画だ。これ
  はユーチューブで公開され、昨年9月の時点で100万回も
  再生されている。この動画は「3D模擬奇島戦役」とのタイ
  トルで、「20××年、某軍事同盟が国際法を無視して海洋
  での紛争を引き起こし、綿密に計画された奇襲作戦によって
  いくつかの人民解放軍基地が攻撃された」場面から始まる。
   中国軍はこの報復として、沖縄の米軍基地とみられる軍事
  基地に中国の弾道ミサイルを撃ち込み、中国軍戦闘機が攻撃
  を加えたあと、中国軍の揚陸部隊が上陸を開始し、敵軍隊を
  壊滅し、敵の軍事基地に五星紅旗が翻るという単純なストー
  リーだ。一見たわいもない内容だが、実はこのような中国軍
  による短期集中攻撃作戦は米軍などの戦略家らの間でまこと
  しやかに想定されており、単なる夢物語でない。
                   http://bit.ly/2ju9sJG
  ───────────────────────────

習国家主席/苗華海軍上将.jpg
習国家主席/苗華海軍上将
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2017年02月02日

●「マラッカジレンマをかかえる中国」(EJ第4451号)

 ここまでの記述で、習近平主席が人民解放軍を完全に掌握する
目的で、「外敵と戦って勝利」の実績を作るため、そのターゲッ
トとして日本を想定していることがわかってきています。
 そのため、何年もかけて計画的に尖閣諸島周辺海域と空域に船
舶(海警)と戦闘機を送り込み、現地において何らかの「局地海
戦」を仕掛けようとしているのです。しかし、あくまで米軍が参
戦できないかたちでの局地戦を狙っています。
 現在、習近平国家主席が最も信頼していると見られる軍幹部は
次の3人です。
─────────────────────────────
       1.呉勝利海軍上将/海軍司令
       2.孫建国海軍上将
       3.馬暁天空軍上将/空軍司令
─────────────────────────────
 12月25日、中国は空母「遼寧」を中心に複数の艦艇を従え
て沖縄県の宮古海峡を通過し、初めて西太平洋に進出。その後、
バシー海峡を経て南シナ海に入り、海南島の海軍基地に寄港。南
シナ海で艦載機の発着艦訓練を実施しています。
 このとき、遼寧には呉勝利海軍司令が乗っており、指揮を執っ
ています。おそらくこれは、呉海軍司令の習主席への進言によっ
て実施された行動であると思われます。明らかに、トランプ氏の
「一つの中国」をめぐる発言を受けて米国を牽制したのです。そ
の証拠に遼寧は、母港の青島に戻るさい、台湾海峡を通過してい
るからです。つまり、往復の行程で台湾本島を一周したことにな
ります。露骨な台湾に対する威嚇です。
 呉勝利氏は、2006年から海軍司令を務めていますが、20
06年5月に、キーティング米太平洋軍司令官と会談したさい、
米国に次の提案をしています。
─────────────────────────────
 われわれはまだ空母を持っていないが、空母を保有した場合、
ハワイを起点として、東を米国、西を中国が管理することにして
はどうか。               ──呉勝利海軍司令
─────────────────────────────
 実に自国中心で、思い上がりで、野心的な提案です。何しろそ
のとき中国は、まだ空母を持っていなかったからです。「どうせ
アジアは中国のものになる」という過剰な自信に裏打ちされてい
るからです。
 呉海軍司令のこの「太平洋分割管理」が、後に習近平主席が訪
米のさい、オバマ大統領に呼びかけた「新しい大国関係」につな
がるのです。この提案の狙いは、要するに「アメリカはアジアか
ら出て行け!」ということなのです。このふてぶてしい中国の野
心に対して、オバマ大統領は「アジア回帰」あるいは「アジアへ
のリバランス」と呼ばれるような、アジア太平洋地域を明確に重
視する方向性を打ち出したのです。
 中国はなぜこのような提案をしたのかというと、アジアにおい
て米国は、中国にとって目の上のタンコブ的存在であり、邪魔そ
のものであるからです。戦略的にも米国のアジアへの影響力を落
とすことが中国の発展につながると考えているからです。
 それは中国の通商路に深く関係とます。これについてピーター
・ナヴァロ氏の本には、次の問題が出ています。
─────────────────────────────
【問題】中国が急速に軍事力を増強しているのは、堅調な経済成
長の維持に欠かせない通商路及び国際投資を防衛するためか。
  「1」イエス
  「2」 ノー
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この答えはもちろん「イエス」です。1949年の建国から約
30年間、中国(中国人民共和国)は、海とはほとんど縁のない
後進的な農業国家だったのです。石油はかなりの量が国内で産出
されたので、石油を輸入する必要はなかったのです。
 しかし、1978年にケ小平副主席の主導する経済革命によっ
て、きわめて中国的な特徴を持つ独特の国家資本主義が確立され
中国は大変貌を遂げることになるのです。それからさらに30年
が経過した時点で、中国は「世界の工場」と呼ばれるようになり
世界最大の工業生産国になったのです。しかし、その一方で中国
は世界最大の石油輸入国になり、その海上輸送路に大きく依存す
ることになったのです。
 現在、中国が輸入する石油の約40%は中東産、約30%はア
フリカ産です。問題はその海上輸送路です。産地から中国までの
シーレーンは約1万キロメートル以上に及ぶのです。そしてその
70%は、世界で最も悪名の高い海のチョークポイント、マラッ
カ海峡を通ることになります。
 しかし、マラッカ海峡は、水深が25メートルしかないため、
このマラッカ・マックスを超える大型タンカーは、迂回路を通ら
なければならないのです。その迂回路は次の2つです。
─────────────────────────────
          1. スンダ海峡
          2.ロンボク海峡
─────────────────────────────
 マラッカ海峡に近いスンダ海峡は、水深は30メートルあるの
ですが、不規則な海底地形と、激しい潮の流れがあり、喫水18
メートル以上の大型船は通過できないのです。
 そうすると、結局はロンボク海峡ということになります。ロン
ボク海峡は水深が100メートルを超えており、どのような大型
船でも通行できるからです。しかし、距離は離れています。これ
ら3つの海峡はいずれも米国の制海権下にあり、中国にとっては
大きな不安要素になっています。
             ──[米中戦争の可能性/021]

≪画像および関連情報≫
 ●中国は地政学の優等生/シリーズ地政学
  ───────────────────────────
   中国の歴史を振り返ると、ランドパワー(華北政権)とシ
  ーパワー(華南政権)とが互いに覇権を争い、興亡を繰り返
  しました。例えば、南宋時代にはシーパワーの特徴である市
  場や流通が発達して、華北の金朝と盛んに交易を行いますが
  モンゴルの騎馬民族が樹立した元朝は泣く子も黙るランドパ
  ワーでした。そして、明代には鄭和がケニアまで航海したほ
  どのシーパワーでしたが、清朝は台湾と外モンゴル、チベッ
  トを征服した大ランドパワーです。
   現在の中国共産党政権は北京を拠点とする華北政権ですが
  本能はランドパワーで、理性がシーパワーなのだと私は理解
  しています。中共中国の本来の姿がシーパワーでないことは
  その海洋戦略からも垣間見えます。常に本能としてのランド
  パワーが持つ領土的野心が、見え隠れしてしまってますから
  ね。中国は地理的に見てリムランドに位置しており、こうし
  た両生類的な性格を有することも地政学の理論上不思議では
  ないのですが、現在の中共政権による両生類的活動はそうい
  う形而上の理由ではなく、現実的な問題――エネルギー問題
  ――が動機となっています。
   中国は、1979年の改革開放以来、年平均9%を超える
  経済成長を続けてきた結果、いまや米国に次いで世界第2の
  エネルギー消費国になりました。原油需要量もまた世界第2
  位で、産油国としては世界第4位ながらも、国内生産分だけ
  では到底需要をまかないきれず、現在は石油純輸入国となっ
  ています。            http://bit.ly/2kU6fEk
  ───────────────────────────

中国シーレーンと主なチョークポイント.jpg
中国シーレーンと主なチョークポイント
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2017年02月03日

●「中国のマラッカジレンマとは何か」(EJ第4452号)

 習近平主席が悩んでいるとされる「マラッカ・ジレンマ」とは
何でしょうか。ピーター・ナヴァロ氏の本に、これに関係のある
次の問題が出ています。
─────────────────────────────
【問題】中国がアメリカやその同盟諸国による石油禁輸措置を恐
れる必要は本当にあるか?
  「1」ある
  「2」ない    ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この問題の正解は「1」の「ある」なのです。「マラッカ・ジ
レンマ」はこれに密接に関係するのです。中国が覇権を求めて世
界に乗り出そうとするとき、一番恐れるのは米国によるこの石油
禁輸措置(経済制裁)なのです。
 それは、米国や関連産油国からの輸出を禁止するだけでなく、
石油や関連物資を自国に輸送してくるシーレーンを海上封鎖する
ことを意味しています。世界でこれができる国は、米国しかない
のです。
 歴史的にみると、この米国による石油禁輸措置を一番最初に受
けたのは実は日本──当時の大日本帝国です。1941年のこと
です。石油、ガソリン及びその他の重要な資源の対日禁輸措置は
石油需要の80%を米国に依存していた日本にとっては大打撃で
これが日本によるあの真珠湾攻撃につながるのです。ちなみに米
国は、このとき、日本の船舶に対するパナマ運河の閉鎖及び、米
国における日本の資産の凍結も実施しています。
 実は、米国による石油禁輸措置を次に受けたのは、中華人民共
和国、現在の中国です。1950年の朝鮮戦争のときです。朝鮮
戦争について歴史をメモしておきます。
─────────────────────────────
 1950年6月、南北に分断された朝鮮半島で勃発した戦争。
北朝鮮の南下から始まり、アメリカが南を支援して盛り返し、後
半は中国軍が北を支援して参戦、53年に北緯38度線で休戦協
定が成立した。冷戦下のアジアにおける実際の戦争となり、日本
にも大きな影響を与えた。          ──世界史の窓
                   http://bit.ly/2jFuYLA
─────────────────────────────
 この中国軍の朝鮮戦争への参戦に激怒したハリー・トルーマン
米大統領は、中国に対して経済制裁を行っています。この制裁は
実に20年にわたって続き、ニクソン大統領の突然の中国訪問に
よってやっと解除されたのです。トランプ大統領が口にして問題
化している「一つの中国」も、このとき米国は中国に対して約束
しています。中国の要求をほとんど受け入れているのです。
 このようにいうと、ニクソン大統領は、いかにも大局的立場に
立って中国と和解したように見えますが、実は違うのです。この
とき、ニクソン政権は公約のベトナム戦争を終わらせることがう
まく行かず、苦境に陥っていたのです。この問題を解決するには
どうしても中国の協力が必要だったのです。
 そのシナリオを描いたのは、あのキッシンジャー博士です。彼
は水面下で中国と交渉を進め、劇的な米中国交正常化を成し遂げ
るのです。キッシンジャー博士としては、今後は米ソの二極対立
の時代は終わり、ソ連・欧州・日本・中国・米国の5大勢力が相
互に均衡を保つことによって、世界の安定を図るという構想をニ
クソン大統領に提案し、その線で交渉は成立したのです。
 実は、中国は現在でも米国から兵器技術輸出禁止措置を課され
ています。それだけに、中国が何らかの軍事行動を起こすと、米
国が石油の禁輸措置を含む厳しい経済制裁をかけてくることはわ
かっているので、それを恐れているのです。
 それは、米国の石油禁輸措置がどれほど、中国について厳しく
恐ろしいものかについて知ると、わかってきます。ピーター・ナ
ヴァロ氏は、これについて詳しく書いているので、以下、それを
参考にして述べることにします。
 中国が輸入している石油の大半は、ペルシャ湾から運び出され
ています。このペルシャ湾とホルムズ海峡は、米国の第5艦隊が
警備を担っています。第5艦隊の司令部はマナマ(バーレーンの
首都)にあり、遥か南のケニア沖まで出向いてパトロールを行っ
ています。まさに世界の警察官です。
 そして米第6艦隊は、地中海を管轄しており、スエズ運河の北
端から太平洋への玄関口のジブラルタル海峡までをパトロールし
ています。地中海を横断するこの航路は、中国にとってヨーロッ
パ、英国、スカンジナビア向けの製品を輸出するために重要であ
り、原料や農産物を輸入するためにも大切な通商路です。
 インド洋に出ると、その中央部にディエゴガルシア島がありま
すが、ここは米軍の最も重要な戦略拠点のひとつです。長距離爆
撃機の発着場であり、この基地からB─2ステルス爆撃機が出撃
すれば、中国の主要都市をすべて攻撃できるのです。
 そして、アジアに入るためにマラッカ海峡を通ることになりま
す。この海峡も完全に米軍とシンガポールの管理下にあります。
したがって、何かコトが起きると、いつでも海峡を封鎖できるの
です。海峡は狭いので封鎖しやすいのです。
─────────────────────────────
 マレー半島とインドネシアのスマトラ島の間に位置するマラッ
カ海峡は、インド洋と南シナ海を結ぶ全長800キロの海峡であ
る。幅は非常に狭く、水深は比較的浅い。アジアへのこの狭くて
危険な入り口を、年間6万隻以上もの船舶が中国向け(及び日本
韓国向け)の石油だけでなく、世界貿易で流通するおよそ3分の
1の物質を積んで通過している。通航量はパナマ運河の3倍近く
スエズ運河の2倍以上にのぼる。
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/022]

≪画像および関連情報≫
 ●アジアで中国をもっとも敵視している国は?
  ───────────────────────────
   中国メディアの網易はこのほど、アジアの国々のなかで中
  国をもっとも敵視しているのは「日本ではない」と主張する
  記事を掲載。その国は「シンガポール」だと記事は説明して
  いるが、何を以ってシンガポールが日本以上に中国を敵視す
  る国だと主張しているのだろうか。
   記事が注目しているのは「マラッカ海峡」だ。シンガポー
  ルの発展はまさにこの天然の海峡がもたらしたものであると
  指摘、積み替え港としてのシンガポールの役割がこの国に発
  展をもたらした。
   しかし、もし中国がマレー半島のクラ地峡に「クラ運河」
  を建設し、各国の船がシンガポールを経由せずにクラ運河を
  航路にとり、上海を積み替え港として利用するなら状況は変
  わるだろう。中国は莫大な利益を得ることができる一方で、
  シンガポールを利用する船は「80%減少する」と記事は指
  摘。シンガポールにとってはまさに致命的な打撃になること
  は容易に想像ができる。
  また記事は「中国の石油備蓄は7日分に過ぎない」と指摘、
  もしシンガポールがマラッカ海峡を封鎖し、中国の原油輸入
  を阻止した場合、中国にとって致命的な打撃になる。いざと
  いう時、この措置を「米国が支持、また指示するだろう」と
  指摘する。            http://bit.ly/1sYa0Nj
  ───────────────────────────

マラッカ海峡の重要性.jpg
マラッカ海峡の重要性
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2017年02月06日

●「中国の『真珠の首飾り』とは何か」(EJ第4453号)

 「真珠の首飾り」といえば、グレンミラーの名曲を思い出しま
すが、ここでいう真珠の首飾りは地政学の話です。「中国の真珠
の首飾り」といわれるものがあります。これは「マラッカ・ジレ
ンマ」から脱却するための中国の海洋戦略のことです。
 改めてマラッカ・ジレンマとは、輸入原油全体の8割が通過せ
ざるを得ないマラッカ海峡の安全保障が米軍に委ねられていると
いう中国の弱点のこと。仮に台湾有事のさい、米国が中国の補給
ルートを断つため、海峡を封鎖する可能性がゼロではないからで
す。そのため、このマラッカ海峡において、中国が抱える潜在的
な脆弱性のことを「マラッカ・ジレンマ」というのです。
 そういうわけで、中国がとるべき海洋戦略には、次の2つがあ
ります。
─────────────────────────────
       1.マラッカ・ジレンマの回避
       2.    シーレーンの防御
─────────────────────────────
 基本的な考え方はこうです。エネルギーの供給先の中東やアフ
リカから中国までの海域に、いつでも寄港できる港湾をあたかも
中国の外港のように拠点として配置しておく戦略です。もっと具
体的にいうと、マラッカ海峡が仮に封鎖されても原油を中国に運
ぶルートを確保することです。
 それらの拠点としての港湾を「真珠」といい、それらの真珠を
繋いだラインを真珠の首飾りと呼んでいるのです。これについて
は、添付ファイルを参照してください。
 それらの「真珠」として次の4つを取り上げます。なお、以下
の記述は、「海国防衛ジャーナル/シリーズ地政学」のブログを
参照に書いています。         http://bit.ly/2k7w46y
─────────────────────────────
      1.   グワダル(パキスタン)
      2. ハンバントタ(スリランカ)
      3.チッタゴン(バングラデシュ)
      4.  シットウェ(ミャンマー)
─────────────────────────────
 第1の「真珠」は、パキスタンのグワダル港です。
 これを拠点化できると、中国のタンカーはここで原油を積み下
ろし、鉄道、道路、パイプラインなどを使って、新疆ウイグル自
治区やチベット自治区などの中国の内陸部に輸送できることにな
ります。マラッカ海峡を通らずに済むのです。
 パイプラインについては、パキスタンとイランの間で、イラン
の天然ガスをパキスタンに運ぶためのパイプライン建設に同意し
ています。したがって、中国はこれを中国まで延引させるよう交
渉しているといわれます。しかし、現在工事は何も行われていな
いようです。
 しかし、グワダル港には2つの問題点があるのです。1つは民
族紛争です。パキスタンの首都イスラマバードに住む人々とグワ
ダルに住む人々とは民族が異なっており、仲が悪く、対立関係に
あります。イスラマバードに住む人々はパンジャブ人、グワダル
に住む人はシンド人と呼ばれています。
 シンド人は、パキスタン軍から強い弾圧を受けており、そのた
め、民族主義運動が起きているのです。したがって、シンド人は
もしパキスタン政府が自分たちの権利を踏みにじる開発を行えば
中国からの出稼ぎ労働者を殺すとまでいっているのです。
 もう1つは、隣の強国インドの干渉を受けやすいことです。イ
ンドは、インド洋を守るため、中国やパキスタンの勢力を警戒し
ています。実際にパキスタンの海運の9割を担うカラチ港は、イ
ンドに近いため、戦時によく封鎖されるのです。実際に1971
年の印パ戦争でカラチ港は封鎖されています。そのため、グワダ
ル港の中国の軍港化を警戒しています。したがって、中国として
は、グワダル港を真珠化することは、自国のシーレーン防衛にな
ると同時に、インドのシーレーンを抑えることになります。
 第2の「真珠」は、スリランカのハンバントタ港です。
 インドとスリランカの間には、ポーク海峡がありますが、水深
が浅く、暗礁も多く、タンカーの航行は困難なので、エネルギー
・ルートとしては、多くの国のタンカーがスリランカの南部に位
置するハンバントタ港を利用しているのです。
 実はスリランカと中国の関係は良いのです。スリランカは長年
内戦が続いていたのですが、中国は2007年に3500万ドル
(約33億円)相当の武器装備売買契約を結んでおり、中国はス
リランカの最大の武器供給国になっています。
 さらにスマトラ沖地震で疲弊したスリランカに対し、石炭火力
発電所や高速道路建設、経済特区設立などの投資を行い、高い戦
略的地理条件を備えたハンバントタ港を中国海軍の寄港地として
獲得しているのです。したがって、ハンバントタ港は既に真珠化
されているのです。
 第3の「真珠」は、バングラデシュのチッタゴン港です。
 チッタゴンはバングラデシュ第2の都市であり、その港は国内
最大で、天然の良港です。中国は港湾施設の整備などで既に手を
打っており、バンクラデシュは中国海軍の施設を受け入れ、同港
の利用を認めています。したがって、チッタゴン港も既に中国の
真珠化しているといえます。
 第4の「真珠」は、ミャンマーのシットウェ港です。
 シットウェは、ミャンマーのラカイン州の州都であり、その港
は深水港なのです。中国は、ミャンマーの軍事政権の時代から武
器輸出を行うなど、つながりが深く、既に中国の真珠のひとつに
なってしまっています。
 なかでも中国は、大ココ、小ココという2つの島を1994年
から借りており、そこに高性能の偵察・電子情報施設を築いてい
ます。さらに、ミャンマーの7つの海軍基地では、ミャンマーが
持っていない艦艇が入港できるように改造されているのです。
             ──[米中戦争の可能性/023]

≪画像および関連情報≫
 ●中国「真珠の首飾り」戦略によるコロンボ港開発
  ───────────────────────────
   中断されていた中国によるコロンボでの巨大プロジェクト
  に、スリランカの大統領が許可を出した。インド洋周辺に拠
  点を築くことで、自国の利益を確保しようとしていると批判
  を受ける中国の「真珠の首飾り」戦略。その一環として、ス
  リランカのコロンボに新たに港湾都市(ポート・シティ)を建
  設する計画が、スリランカの前政権下で進められてきた。
   「ポート・シティ」計画は2014年9月から習近平主席
  の肝いりで始まった。14億ドルの予算でコロンボ港の傍に
  埋立地を整備し、233ヘクタールもの施設やF1サーキッ
  トの建設が予定されている。それが、2015年1月の選挙
  を経て、シリセーナ政権が誕生した直後に計画は中断させら
  れた。特に問題点となったのは大規模開発による環境への影
  響である。ウィクラマシンハ首相はコロンボ港での埋め立て
  工事によって、スリランカ西岸での環境破壊が引き起こされ
  観光産業がダメージを受けることに懸念を表明していた。
   2009年5月に長年の内戦が終結して以降、前大統領の
  ラジャパクサ氏は、中国を頼りにして国内インフラの復興を
  推し進めてきた。その結果、スリランカ最大の支援者となっ
  た中国によって、道路や鉄道、港などの建設が進められた。
                   http://bit.ly/2jDRDNt
  ───────────────────────────

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中国の真珠の首飾り
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2017年02月07日

●「真珠の首飾りとダイヤネックレス」(EJ第4454号)

 昨日のEJで述べたように、中国はかなり以前から、いわゆる
「真珠の首飾り」の構築に精力的に取り組んできており、既にし
かるべき手を着実に打ってきています。本来その基本的な考え方
は「マラッカ・ジレンマ」を回避する──すなわち、もし台湾有
事などが起こってマラッカ海峡が封鎖されても、中国が原油を確
保できるようにすること、それが目的なのです。
 しかし、港湾を建設する以上、中国はそれを軍事基地化しよう
とするのです。その典型的な例をわれわれはミャンマーに見るこ
とができます。ミャンマーの場合、中国が近づいたのは軍事政権
のときであり、軍事政権が一番欲しい武器輸出を行い、港湾建設
などを積極的に引き受けることによって、各所に海軍部隊を配置
することで、同地域における軍事的な優位を獲得することに成功
しているのです。
 中国は、その見返りとして、アンダマン海にある大ココ島に海
洋偵察・電子情報ステーションを建設し、小ココ島には軍事基地
を建設しています。カネにものをいわせてやりたい放題です。そ
の目的は、マラッカ海峡近くのインド領アンダマン、ニコバルに
あるインド軍事基地や艦艇の動向を監視することです。
 さらに中国は、ミャンマーの7つある港のすべてにおいて、大
型艦艇が入れるように改造しています。ミャンマー海軍は、そう
いう大型船舶を保有していないので、明らかに中国の艦艇が寄港
できるようにしたのです。とくにシットウェ港は、深海港として
建設し、潜水艦も入れるようにしています。
 シットウェ港は、ベンガル湾をはさんで、インドの大都市カル
カッタまで約500キロのところにあり、中国軍はここに新設し
た信号傍受施設によって、インド当局のさまざまな動向を探れる
ようになったのです。
 さて、その中国の脅威に対してインドは、どのようにして対応
してきたのでしょうか。インドといえば、非同盟中立の立場をと
る国として知られています。インドについて三井物産戦略研究所
は、次のようにレポートしています。
─────────────────────────────
 インドは、長く非同盟中立政策を採ってきた。しかし、冷戦後
期には、対中戦略から、事実上の同盟といわれるほどにソ連と接
近し、非同盟中立は名目になった。逆に、欧米と距離を置いたこ
とで、経済的繁栄が犠牲になったとの認識もインド国内に生まれ
たのである。
 2000年代に入ると、繁栄と大国への願望から、米国との協
調を望んだ。2000年3月のクリントン米大統領の訪印は、関
係改善の契機になった。しかし、パートナーシップに対する認識
の違いと戦略的自立願望ゆえに長続きせず、インド国内に過度な
対米接近を否定する意見が出始めた。
 非同盟中立は、底流に流れる思想だが、戦後の英国支配から脱
するための、弱い大国としての非同盟中立と、近年の中国の圧力
に抗しつつ軍事力を背景にしての戦略的自立には大きな違いがあ
る。米国との距離感も、この微妙な対中バランスから生まれてい
る。                 http://bit.ly/2l21xVY
─────────────────────────────
 この中国の真珠の首飾り戦略は、インドから見れば、対インド
包囲網以外の何ものでもありません。このため、インドは、海外
拠点の取得によってこの包囲網を突破することを考えています。
つまり、中国の「真珠」に対抗して、インド洋から南シナ海の沿
岸に、港湾のネットワークを整備しようとしているのです。そし
てこれらの拠点を「ダイヤモンド」とし、作戦を「ダイヤのネッ
クレス」と呼称しています。このなかで、真珠とダイヤが一番ぶ
つかるのがミャンマーということになります。
 今やインドの対東アジア貿易が占める割合は50%を超えつつ
あり、インドにとって東アジアへの海上交通路の重要性はますま
す増しています。そのうえでインドも90%のエネルギーを湾岸
地域から輸入しています。そのため、ホルムズ海峡の通航に影響
を及ぼしているイランやパキスタンが中国との関係を深めている
ことに脅威に感じています。つまり、インドは「ホルムズ・ジレ
ンマ」を抱えているということがいえます。
 一方で米国はこの地域に対して考え抜かれた手を打とうとして
います。2011年のことですが、米国とオーストラリア両国は
オーストラリア北部のダーウィンに、新たに米海兵隊2500名
を駐留させる計画を発表しています。この計画には、オーストラ
リア北部の空軍施設を共同で使用することや、オーストラリア西
部への潜水艦を含む米艦船の寄港の活発化が盛られています。さ
らに、ココス諸島にも米豪共同運用のための空・海軍施設の拡大
計画もあるといわれています。ココス諸島というのは、インド洋
の南キーリング諸島と北キーリング諸島の2つの環礁と27のサ
ンゴ島から成るオーストラリア領の島々です。
 世界地図を広げて確認するとわかるように、中東地域からディ
エゴガルシア島〜ココス諸島〜クリスマス島〜ダーウィン〜パプ
ア・ニューギニア〜グアム〜日本列島にはすべて米軍が駐留して
おり、中国の真珠の首飾りの外側を取り巻く大きなリングができ
ています。
 軍事戦略家によると、中国の真珠の首飾りは軍事戦略にはなり
得ないといいます。なぜなら、中国がインド洋において空軍力を
欠いているからです。確かに中国は既に遼寧という空母を保有し
ていますが、これは訓練用の空母であって、実戦には使えないの
です。現在、さらに2隻を建造中ですが、それが完成し、兵士を
訓練して実戦で使えるようにするには最低でも5年以上かかると
考えられます。これまでは経済力をテコとしてやって来たのです
が、その経済力にも明らかに陰りが見えてきているのです。
 それに一番軍事基地化の進んでいるミャンマーは、軍事政権で
はなく、これから民主化に向うものと思われます。そういう状況
において、中国の軍事利用が進むとは考えられないのです。
             ──[米中戦争の可能性/024]

≪画像および関連情報≫
 ●民主化が胎動するミャンマーで思いを馳せた中国の現状
  ───────────────────────────
   2014年8月初旬に、私は初めてミャンマーを訪れた。
  ちょうど、同国が“民主化”へのプロセスに舵を切る頃のこ
  とである。首都ヤンゴンの中心地、日系企業も支社を置くオ
  フィスビル・サクラタワー付近を拠点に動いていたが、昼夜
  を問わず、街は活気であふれていた。見るからに“若さ”と
  いうパワーを感じさせた。ベトナムのホーチミンの街を歩く
  ようなイメージを彷彿とさせた。日本車が8割ほどを占めて
  いたように見受けられた道路上の渋滞は、バンコクやジャカ
  ルタほど深刻ではなかったと記憶している。
   8月10日には、首都ネピドーで東南アジア諸国連合地域
  フォーラム(ASEAN Regional Forum、ARF) が開催される直
  前であったため、道端にはそれを宣伝するポスターが掲げら
  れていた。ミャンマーが国際社会の一員として地域の発展と
  協力プロセスにエンゲージし、場合によってはイニシアティ
  ブを発揮していこうとする、国民国家としての意思が感じら
  れた。それを象徴するかのように、看板にはASEAN10
  ヵ国の国旗の脇に「ミャンマーがこの地域の平和や発展に貢
  献する時期が来たのだと思います。祖国がこのような盛大な
  国際会議を主催できるのを誇りに感じています」。
                   http://bit.ly/2kwIpSC
  ───────────────────────────

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中国の首飾りと米国の首飾り
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2017年02月08日

●「尖閣奪取は中国の既定路線である」(EJ第4455号)

 2月3日のことです。米国トランプ政権の閣僚であるマティス
国防長官が来日し、安倍首相や稲田防衛相との会談が行われてい
ます。会談で日本の最大の懸念事項である尖閣諸島の安保適用の
有無について安倍首相からマティス国防長官に確認が行われ、マ
ティス長官から次の発言を引き出しています。
─────────────────────────────
 尖閣諸島は日本の施政の下にある領域であり、安保条約5条
 の適用範囲である。米国は、尖閣に対する日本の施政を損な
 おうとするいかなる一方的な行動にも反対する。
                 ──マティス米国防長官
─────────────────────────────
 1月11日、米上院外交委員会の指名承認公聴会において、国
務長官候補のレックス・ティラーソン氏に対して、共和党のルビ
オ上院議員から尖閣諸島について問われ、ティラーソン氏は次の
ように答えています。
─────────────────────────────
 R:中国が尖閣諸島(沖縄県石垣市)に侵攻した場合、米国
   はどのように対応するか。
 T:米国の日本防衛義務を定めた日米安全保障条約を適用す
   る。米国は条約に従って対応する。これまでも日本防衛
   を確約してきた。   R=ルビオ T=ティラーソン
─────────────────────────────
 まだ、国務長官になる前の発言ですが、ティラーソン氏はもし
中国が尖閣諸島に侵攻した場合、日米安保条約を適用すると明言
しています。既にオバマ前大統領も尖閣諸島が安保条約の適用範
囲内であると発言しており、関係者全員が「日米安保適用内」を
明言したことになります。
 しかし、肝心のトランプ大統領はどうでしょうか。トランプ氏
は、選挙中の2016年3月のことですが、ワシントンポスト紙
とのインタビューで次のように発言しています。
─────────────────────────────
 ポスト記者:中国が尖閣諸島を攻撃した場合、安保条約を適
       用するか。
 トランプ氏:私がどうするか、話したくない。
─────────────────────────────
 通常であれば、現職の国防長官が約束したことを大統領が翻す
ことはあり得ないことです。閣内不一致になるからです。しかし
懸念されることは、トランプ氏が選挙中に発言した米軍の日本駐
留経費負担増額の話です。マティス国防長官との会談ではその話
は一切出ていませんが、今後も要求がないとは限らないのです。
こうした懸念について、2017年2月4日付の朝日新聞は、次
のように書いています。
─────────────────────────────
 マティス氏から尖閣防衛に関与するとの言質を引き出したにも
かかわらず、安倍政権内の懸念が、完全に払拭されたわけではな
い。トランプ政権は大統領と閣僚の発言が食い違う、「閣内不一
致」が常態化している。マティス氏とトランプ氏がどこまで事前
にすりあわせたか定かではない。予測不能が枕詞のトランプ氏が
ちゃぶ台返しをしない保証はない。(中略)
 日本側にはトランプ氏の「ディール(取引)外交」への警戒心
も根強い。尖閣への安保条約適用など安全保障分野での対日政策
継続をうたう一方、駐留経費や防衛費増額、さらには通商分野で
の取引を迫ってくる可能性は否定できない。
          ──2017年2月4日付、朝日新聞朝刊
─────────────────────────────
 米国対中国──この2大大国は、このままではいずれ激突する
運命にあります。中国は非常に長いスパンで米国に追いつき、米
国を凌駕することを考えています。それには計画があり、中国は
その計画に基づき、ことを進めてきています。その計画によると
尖閣諸島を中国のものにすることは、既定路線なのです。
 その計画を描いたのは劉華清という軍人です。劉華清は中国国
外ではほとんど知られていませんが、ケ小平の右腕として、中国
海軍を率い、「中国海軍の父」といわれている人物です。劉華清
は海軍司令のとき、「中国の経済・科学技術が発展すれば、海軍
力はさらに大きなものになる」と中国海軍の近代化を主張し、次
のような計画を打ち出しています。
─────────────────────────────
 2010年までに第1列島線内部の制海権を握って、東シナ海
南シナ海を中国の内海とし、2020年までに第2列島線の西太
平洋の制海権を確保、2040年までには太平洋、インド洋にお
いて、米海軍と制海権を競い合う。そして、2050年までには
全世界規模の海上権力を握る。     http://bit.ly/2l31Y5O
─────────────────────────────
 誠に身勝手な計画であり、現在のところ、何一つ達成されてい
ませんが、中国がこの計画にしたがって海軍力を強化してきてい
るのは間違いのない事実です。ピーター・ナヴァロ氏は、劉華清
について、次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 劉華清の名は、ベトナムでは、1974年に中国が西沙諸島を
奪取した際にべトナム兵の虐殺を命じた司令官として知られてい
る。中国の反体制派が劉華清と聞いてまず思い浮かべるのも、彼
が天安門事件(1989年)の虐殺に関わった部隊の司令官だっ
たことである。こうした暗いイメージもあるものの、最もよく知
られているのは「中国海軍の父」としての劉華晴である。自分の
目の黒いうちに中国が自前の空母を持てなかったら、「目を見開
いたまま死ぬ」と言ったというエピソードが有名である。
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/025]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ大統領の誕生と中国海軍の行動の活発化
  ───────────────────────────
   2016年12月25日、中国海軍の訓練空母「遼寧」が
  宮古海峡を抜けて、西太平洋に入った。中国海軍のこの行動
  は、明らかにトランプ氏をけん制したものだ。中国は、自ら
  の懸念が現実のものになるのを恐れているのである。
   空母「遼寧」は、3隻の駆逐艦及び3隻のフリゲート、1
  隻の補給艦を伴っていた。「遼寧」は、訓練空母であって実
  戦に用いる能力がないにもかかわらず、空母戦闘群の編成を
  とって行動したのだ。ファイティング・ポーズを見せている
  ということである。その相手は、もちろん米海軍だ。
   現在、米海軍では、一般的に空母打撃群という呼称が用い
  られているが、中国メディアでは空母戦闘群と呼称されるこ
  とが多い。米海軍でも、2006年までは空母戦闘群という
  呼称を用いていた。呼称を変えたということは、作戦概念を
  変えたということである。米海軍の空母の運用構想は、すで
  に2000年代半ばには変わっていたということでもある。
  一方の中国は未だ、空母戦闘群を米海軍との海上戦闘の主役
  と考えているようだ。中国海軍は、現在でも、台湾東方海域
  が米海軍との主戦場になると考えている。中国は、海軍の行
  動範囲の拡大は戦略的縦深性を確保するためだとする。中国
  が太平洋側に戦略的縦深性を確保したいと考えるのは、沿岸
  部に集中する主要都市を攻撃から守るためであるが、敵が太
  平洋から攻めてくると考えているということでもある。太平
  洋から中国を攻撃する国、それは米国以外にはない。米国が
  中国に対して軍事攻撃を行う可能性を懸念しているのだ。
                   http://bit.ly/2htgdj0
  ───────────────────────────

中国海軍の父/劉華清上将.jpg
中国海軍の父/劉華清上将
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2017年02月09日

●「中国海軍戦略の方程式を解読する」(EJ第4456号)

 中国海軍の建設は、次の式であらわすことができるとされてい
ます。中国の海軍戦略のいわば方程式です。これは、海上自衛官
の経験を持ち、元防衛大学校海上防衛学教授を務めた作家の山内
敏秀氏の論文に出ていたものです。
─────────────────────────────
  中国海軍の戦略=
  革命の完成+海の長城+海洋管轄権の擁護+局部戦争+
  海上交通路の保護+非戦闘軍事行動
                 http://bit.ly/2kAVwlH
─────────────────────────────
 中華人民共和国(現在の中国)が海軍の必要性に目覚めたのは
蒋介石の率いる国民党軍が台湾本島にこもり、そこを大陸反攻の
拠点としたことがきっかけであるといわれます。
 それまでの中国は、軍隊の強化といえば、陸軍の強化であり、
海軍にはあまり関心がなかったのです。しかし、国民党軍が島に
立てこもったので、それを取り戻すには海軍が必要であると考え
たというわけです。つまり、台湾を取り戻すまでは、革命は完成
していないという考え方に立ったのです。
 「海の長城」とは何でしょうか。
 「海の長城」とは、毛沢東主席が1949年に中国人民政治協
商会議第1回全体会議の開幕演説で使っています。
─────────────────────────────
 我が国の海岸線は長大であり、帝国主義は中国に海軍がないこ
とを侮り、百年以上にわたり我が国を侵略してきた。その多くは
海上から来たものである。中国の海岸に「海の長城」を築く必要
がある。  ──毛沢東主席演説    http://bit.ly/2l9SD97
─────────────────────────────
 この場合、「海の長城」はあくまで沿岸警備であり、国として
当然の防衛であるといえます。添付ファイルの上の図がそれに該
当します。
 しかし、この海洋防衛ラインが本土の沿岸部から離れる契機と
なったのは、1978年に採用された改革開放路線です。国防の
対象となるエリアが、従来の内陸の奥深くから沿岸部に設置され
た経済特区へと移り、さらには海洋そのものが経済発展の舞台と
して認識されるようになったのです。これを仕掛けたのは「中国
海軍の父」といわれる劉華清です。添付ファイルの下の左の図が
それに該当します。「85戦略転換」と書いてあるのは1985
年にそれが行われたからです。ところで、劉華清は次のような名
言を遺しています。
─────────────────────────────
 海軍は商船の存在によって生じ、商船の消滅によって消える
 ものである。            ──劉華清海軍司令
─────────────────────────────
 つまり、劉華清海軍司令は、海洋事業は国民経済の重要な構成
部分であり、その発展には強大な海軍による支援がなければなら
ないと主張します。この85戦略転換が「海洋管轄権の擁護」へ
と変わり、第1列島線と第2列島線という現在の中国の海軍戦略
の考え方が出てくるのです。南シナ海については、国際法を無視
した勝手な論理で「九段戦」なる線を引き、そこは中国の領海で
あるとしてその管轄権を主張しています。この中国の海軍戦略の
変化について、山内敏秀氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国の海軍戦略が変化する契機となったのは「改革・開放」路
線を決定した1978年の11期3中全会です。「改革・開放」
路線の決定によって、海洋が経済発展の場と認識され、さらにい
わゆる85戦略転換を受けて、中国海軍は戦略を再検討し、国家
の経済建設に貢献するため、300万平方キロメートルの海洋管
轄権を維持することを目的とした近海防御戦略を策定しました。
 (中略)新しい近海防御戦略における脅威認識は概ね渤海から
南シナ海にいたる300万平方キロメートルの海域における中国
の海洋開発を阻害する他国の活動を主たる脅威とするものでした
が、近海防御戦略は、「革命の完成」や「海の長城」に取って代
わったのではなく、それらに付加され、重心が移行したに過ぎな
いのです。      ──山内敏秀氏 http://bit.ly/2kAVwlH
─────────────────────────────
 それでは、冒頭の中国海軍戦略の式にある「局部戦争」とは何
でしょうか。
 山内敏秀氏は、「局部戦争」は局地戦争ではなく、特定の政治
目標を達成させるための限定的な戦争であると述べています。海
洋管轄権を擁護しようとすると、どうしてもその目的達成のため
に関係国との間に衝突が起きる可能性がありますが、それが局部
戦争です。そういう海上における局部戦争に勝利するため、海軍
力の増強と近代化が急務であるとしているのです。
 中国は、こうした局部戦争において、投送兵力、海上封鎖、対
地攻撃、陸上作戦支援、水上艦艇攻撃、海上輸送、武力誇示、軍
事恫喝などを行うため、海軍を運用しようとしています。現在、
既に起きている南シナ海での各種の紛争、中国の人工島をめぐる
争い、東シナ海の尖閣諸島を巡る各種の衝突は、やがて局部戦争
に発展する恐れが十分あります。
 それでは、海軍戦略の式の最後に書かれている「非戦闘軍事行
動」とは何でしょうか。
 これは現在の呉勝利海軍司令がいっているのですが、90年代
の米軍が目指した「MOOTW」のことをいっているのではない
かと思われます。
─────────────────────────────
   MOOTW=Military Operations Other Than War
─────────────────────────────
 海軍力を高めて行くと、それだけで戦闘を防ぎ、政治目標を達
成できるという意味にもとれます。「戦わずして勝つ」という孫
子の兵法です。      ──[米中戦争の可能性/026]

≪画像および関連情報≫
 ●「中国海軍は縮小する」/文谷数重氏
  ───────────────────────────
   日本にとって中国の脅威は海軍力にある。日本人は中国が
  どれほど陸軍をもっていても気にはならない。だが90年代
  後半以降、日本の海軍力の優越が失われると、途端に不安と
  なった。その海軍力はこの10年間で特に急成長した。空母
  実用化や中華イージス登場の背後で、外洋型軍艦と潜水艦を
  併せた主力艦を55隻を完成させている。中国海軍力は、今
  後も急成長をつづけるのだろうか?
   答えはノーである。質的な向上はあるが、数的成長は望め
  ない。今後10年間、2026年までは微増にとどまり、2
  027年以降は減少に転ずる。なぜなら、経済成長の停滞、
  装備の高級化、既存艦の大量退役のためだ。中国海軍の成長
  は止まる。その第一の理由は経済成長の停滞により軍事費の
  成長が止まるためだ。海軍増強は経済成長に伴う軍事費増額
  に支えられていた。ここ10年間、2006年から15年ま
  で中国軍事費は合計6億元である。これは96年からの10
  年間の3倍の額である。中国はその軍事費を傾斜配分して、
  海軍の急成長を実現した。だが、今後は軍事費の増額は見込
  めない。その大元となる経済成長が停滞するためだ。強気の
  政府発表でも年率5%とされており、さらに統計の信憑性か
  らすれば実質はそれ以下となる。 http://huff.to/2laHzYk
  ───────────────────────────

中国の海軍戦略の変遷.jpg
中国の海軍戦略の変遷
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2017年02月10日

●「ニカラグア運河は果してできるか」(EJ第4457号)

 昨日のEJで取り上げた中国海軍戦略の方程式を再現します。
─────────────────────────────
  中国海軍の戦略=
  革命の完成+海の長城+海洋管轄権の擁護+局部戦争+
  「海上交通路の保護」+非戦闘軍事行動
                 http://bit.ly/2kAVwlH
─────────────────────────────
 このなかで「海上交通路の保護」については、昨日のEJでは
取り上げていないので、今回考えます。海上交通路については、
その多くが米軍の支配下にあるので、中国としては沿岸に複数の
寄港地(真珠)を確保し、それをつなぐ「真珠の首飾り」戦略を
実施していることは、既に説明しています。これが「海上交通路
の保護」になっているわけです。
 中国は、世界中の重要な海峡や運河にも抜かりなく手を打って
います。そのひとつである「ニカラグア運河」について、東京財
団研究員で、元駐中国防衛駐在官の小原凡司氏の興味ある論文を
中心に紹介することにします。
 2016年6月26日のことです。その日はパナマ運河の拡張
工事完成式典が実施され、各国首脳が式典に集まったのです。し
かし、パナマ政府から招待されたにもかかわらず、中国の習近平
国家主席は姿を見せなかったのです。なぜ、出席しなかったので
しょうか。
 実はパナマは中国と国交がないのですが、台湾とは国交を結ん
でいます。したがって、この式典には台湾の蔡英文総統が出席し
ているのです。中国にいわせれば、そのような席に中国の国家主
席を招くのは失礼であるというわけです。中国は「一つの中国」
を認めない国とは国交を結ばない方針だからです。
 ニカラグア運河について述べる前に、バナマ運河の前提知識と
して、パナマ運河の歴史について「世界史の窓」から、次にメモ
してておきます。
─────────────────────────────
 大西洋と太平洋を結ぶ、パナマ地峡に設けられた運河。19世
紀のフランス外交官で、スエズ運河を完成させたフランス人のレ
セップスが建設に着手したが失敗。アメリカがパナマを強引に独
立させ、運河地帯の支配権を獲得し、1904年に着手し、19
14年に完成させた。アメリカは1977年の新パナマ条約で返
還を約束したが、89年にパナマ侵攻を実行、運河の支配維持を
図った。しかし、国際世論の反発が強く、99年に約束通り返還
された。     ──「世界史の窓」 http://bit.ly/2laXvL8
─────────────────────────────
 さて、パナマ運河は拡張工事が終わりましたが、ニカラグア運
河は着手されたものの、まだ完成していません。ニカラグア政府
と中国系企業HKNDが運河建設で合意し、2014年に着工し
2019年完成だったのですが、予定通りいっていないのです。
 一応中国系企業との契約になっていますが、運河の建設には巨
額の資金がかかり、一企業が担える金額ではないので、バックに
中国政府がいることは確実です。それにしても米国の喉元にあた
るニカラグアに、中国政府が関与して運河を建設することに米国
はよく黙っていたものです。
 中国は意識してそういう行動をとる国なのです。トランプ大統
領とオーストラリアのターンブル首相は、1月28日に電話で会
談しましたが、移民の問題をめぐって意見が衝突し、トランプ氏
に電話をガチャ切りされるということが起きています。
 そうすると、中国の王毅外相はこのタイミングをとらえてオー
ストラリアを急遽訪問し、全面的な戦略パートナーシップを充実
させると宣言し、3月の李克強首相のオーストラリア訪問を決め
ています。きわめて計算高い国であるといえます。
 ニカラグアもかつて運河建設をめぐって米国にさんざん翻弄さ
れ、結局パナマに運河を作られてしまった歴史があります。中国
はそのスキを衝いて、ニカラグア運河の建設を持ちかけたものと
思われます。
 米国は、運河建設に対してパナマとニカラグアを天秤にかけ、
両国に対して相当強引なことをやってきています。パナマ運河を
作るとき、当時パナマが属していたコロンビア政府が反対したの
で、パナマを強引にコロンビアから独立させています。
 また、ニカラグアで起きた暴動に便乗して海兵隊を派遣し、当
時の大統領を辞任させています。運河建設の権利を潜在敵国のド
イツに売ろうとしたという疑いをかけたのです。しかし、ニカラ
グア運河には、モモトンボ火山の噴火の危険が指摘されたので、
米国は1914年にパナマ運河を開通させています。
 ニカラグアの地理的ポジションについて知る必要があります。
ニカラグアは、メキシコの南、中米コスタリカの北に位置し、米
国の影響下にあります。そのコスタリカの南にパナマ運河がある
のです。パナマは、パナマ運河のおかげで経済が発展し、街には
高いビルが林立しています。コスタリカとしても、運河を建設す
れば経済も活性化するので、建設したいところですが、何しろ経
費が500億ドル(6兆円)もかかるので、大国の援助なくして
は建設不可能です。500億ドルはニカラグアのGDPの5倍近
い巨額な数字だからです。
 ニカラグア運河をどうしても建設したいニカラグアのオルテガ
政権は、2013年6月に香港系企業HKNDに新運河の計画・
建設・運営を認めることを決定し、その翌年から工事に着手して
います。HKNDは、北京に本社を置く信威通信産業集団の会長
の王靖氏が2012年に香港に設立した企業です。明らかにニカ
ラグア運河を建設することを目的とする企業と思われます。
 運河建設の条件は、運河完成後50年間、その後さらに50年
間更新可能となっており、運河の経営権はHKNDにあります。
つまり、ニカラグア運河は完全に中国の管理下に置かれることを
意味します。しかし、運河建設は簡単ではなかったのです。
             ──[米中戦争の可能性/027]

≪画像および関連情報≫
 ●中国主導「ニカラグア運河」/宮崎正広
  ───────────────────────────
   中国の「無謀」というより「発狂的な」海外投資の典型は
  対ベネズエラに行われた。反米政治家だったチャベス大統領
  の中国べた褒め路線にのっかって、中国は450億ドルをベ
  ネズエラ一国だけに投資した。担保はベネズエラが生産する
  石油であり、昨今は一日60万バーレルを輸入する。基本的
  ルールとは、幕末維新の日本が英米独露から押しつけられた
  不平等条約の中味を思い出すと良い。つまりカネを貸す見返
  りが関税だったように中国は猛烈に石油を確保して、その前
  払いを利息先取りを含めて行っているのである。
   将来のディスカウントを貸し付け利息に算定して計算して
  いるわけだから、原油代金はおもいのほか安くなっている筈
  である。パナマ運河をこえて、ベネズエラ石油は中国へ運ば
  れる。後述するようにニカラグア運河とパナマ運河拡張プロ
  ジェクトは、このベネズエラへののめり込み路線と直結する
  のである。ともかくベネズエラは歳入の過半が石油輸出(輸
  出の96%)によるものである。ベネズエラ原油価格は、1
  バーレル99ドル(13年)から、2015年四月現在、な
  んと1バーレル=38ドルに墜落したため、2015年は、
  2013年の三分の一の歳入に落ち込むことは必定である。
  ベネズエラはOPEC(石油輸出国機構)のメンバーでもあ
  り、勝手な行動も許されずチャベルを引き継いだニコラス・
  マドゥロ大統領は悲鳴を上げて中国に助けを求める。しかし
  中国はベネズエラ鉱区を買収し、投資しているが、石油市場
  の悪化により、これ以上の投資が出来ない。
                   http://bit.ly/2ktIYf5
  ───────────────────────────

オルテガ大統領と王靖HKND会長.jpg
オルテガ大統領と王靖HKND会長
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2017年02月13日

●「ニカラグア運河実現を阻む3問題」(EJ第4458号)

 ニカラグア運河は2014年に着工していますが、3つの問題
点に突き当たっています。次の3つです。
─────────────────────────────
      1.途中で資金が不足する恐れがある
      2.水源確保などの計画の甘さがある
      3.採算がとれるかどうかわからない
─────────────────────────────
 「1」は、運河の建設資金の問題です。
 2014年に着工したはずのニカラグア運河ですが、2015
年11月に英国のメディアは「ニカラグア運河の本格的工事開始
が1年間延期された」と伝えています。その翌日に、中国メディ
アが同じ内容を伝えているので、運河工事の1年延期は間違いな
いと思われます。
 「本格的工事開始が1年延期」という表現は、実際の工事には
入っていないことを意味します。それにしても、工事を請け負う
HKNDは中国の大富豪の企業であり、バックには中国政府がつ
いているのにどうして資金不足になったのでしょうか。
 HKNDの王靖会長のバックには中国政府がいるのは確かです
が、あくまで隠れた存在です。したがって、当面は王会長の個人
資産頼みになります。そのうえで世界の投資家からの資金を募る
計画もあるのですが、うまくいっていないようです。
 しかし、その肝心の王会長の個人資産が、中国株の暴落や経済
発展の減速によって、最高時の3分の1程度にまで目減りしてし
まい、深刻な資金不足を引き起こしているのです。
 実際に2014年からの1年間では工事はほとんど行われてい
ないのです。それは、米ブルームバークのある記事によって明ら
かにされています。2015年8月時点の話ですが、米ブルーム
バークのマクドナルド記者は、ニカラグア湖の岸辺のエルトゥー
ルという町を取材しています。このエルトゥールという町は、ニ
カラグア運河の工事がはじまると消滅する予定になっています。
この取材の結果、マクドナルド記者の書いた記事は、次の通りで
す。かなり長い記事なので、冒頭の一部のみ以下に示します。
─────────────────────────────
 町の人間はもう何ヶ月も運河建設関係者を目撃しておらず、工
事もわずかしか行われていないという。たしかに何人かの中国人
のエンジニアたちが、湖の東側に標識を立てていたのを去年の暮
れに見かけたし、今年のはじめには港が出来る予定の、西岸の工
事用の道が拡大され、照明が新しいものに変えられた。しかし現
地の若い実業家であるメンドーサ氏(32歳)は建設計画が進ま
ないことを確信しているために、エルトゥールの町の郊外にコン
ビニと隣接した2階建ての宿を建設中だ。彼は運河なんかできる
わけないと大胆に述べている。    http://exci.to/2luxzJD
─────────────────────────────
 「2」は、建設計画の中身の問題です。
 ニカラグア運河計画は、カリブ海と、太平洋と大西洋を結ぶ約
260キロメートル(パナマ運河の3・5倍)の運河を建設する
という壮大な計画です。
 この運河計画が普通の運河計画と違うのは、途中にニカラグア
湖を通過することです。運河の水位調節は、他の運河と同様に段
階的に水門を閉じて行う方式ですが、ニカラグア運河の計画には
水源としての人工湖計画がないのです。水路を引いて中央のニカ
ラグア湖の水源を使う計画になっています。
 しかし、これをやると湖の水源不足につながってしまいます。
それに生態系の変化も起こることになります。こうした建設計画
の甘さやニカラグア湖の生態系の問題では、環境団体による大規
模な反対運動も起きています。
 「3」は、この運河の採算性問題です。
 世界3大運河といわれますが、3つともいえるでしょうか。2
つはいえても3つ目をいえる人は少ないと思います。
─────────────────────────────
            全長   利用船舶数   開通年
 1.スエズ運河 167キロ 2万1000隻 1869年
 2.パナマ運河  80キロ 1万4000隻 1914年
 3.キール運河  98キロ 4万2000隻 1895年
─────────────────────────────
 これら3つの運河は、それぞれ別の場所にあるのですが、3つ
には関係があります。スエズ運河はエジブトにあり、地中海と紅
海を結ぶアジア/ヨーロッパ間ルートです。パナマ運河は、パナ
マにあり、太平洋と大西洋(カリブ海)を結ぶ南北アメリカの境の
ルートです。キール運河は、ドイツ北部にあり、北海とバルト海
を結ぶルートであり、デンマーク・ユトランド半島の根元に位置
しています。
 アジア/ヨーロッパ間ルートで考えると、スエズ運河とパナマ
運河は競争関係にあります。しかもこの2つの運河は最近相次い
で拡張工事を終了しています。スエズ運河は2015年、パナマ
運河は2016年です。その結果、パナマ運河は、スエズ運河に
比較して通航料金は3〜4割高くなっています。
 もし、ニカラグア運河ができると、その通航料金は相当高くし
ないと採算に合わなくなります。まして、ニカラグア運河はパナ
マ運河と非常に近い距離にあります。つまり、どちらを通航する
かは料金比較になるのです。スペイン在住の貿易コンサルタント
の白石和幸氏は自身のサイトで次のように述べています。
─────────────────────────────
 ニカラグア運河については完成するか否かが先ず疑問視されて
いる。また、パナマ運河とニカラグア運河が商業的に同時に採算
ベースに乗ることは不可能である。米国は中国の影響下にあるニ
カラグア運河は使用しないはずで、ニカラグア運河は中国の米国
を睨んだ戦略的な意味合いが強い。   http://bit.ly/2kdhxYI
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/028]

≪画像および関連情報≫
 ●前途絶望のニカラグア運河/宮崎正弘氏
  ───────────────────────────
   中国がパナマ運河に対抗してニカラグアに運河を建設する
  大プロジェクトは、日本円にして6兆円規模だ。全長278
  キロ、パナマ運河の三倍。気が遠くなる稀有壮大な夢の実現
  と騒がれた。
   ニカラグアのサンディニスタ左翼政権は派手に米国に敵対
  してきたが、複数政党制になっていまは連立政権である。政
  権が変わると、スリランカが、あるいはミャンマーがそうで
  あるように、中国主導のプロジェクトはときに中止されたり
  する。しかもニカラグアは、なぜか中国とは国交がない。台
  湾と外交関係がある不思議な左翼的国家、というより反米的
  な国家である。隣のコスタリカは白人国家。しかもコスタリ
  カのほうが、中国が出資してくれるので、あっさりと台湾と
  の外交関係を断った。
   米国から見れば、パナマ運河のすぐ北に競争相手ともいう
  べき大運河が建設されると聞けば、安全保障上からも、脅威
  であり、裏で妨害工作をするだろうと予測してきたが、妨害
  もなく、地元の環境保全の運動にも、表立った支援をなして
  いる様相はない。不思議だなといぶかしんできたのだが、最
  近の事情が伝わって、ようやく得心が出来た。つまり米国は
  この計画は最初から無理で、途中で放り投げてしまうだろう
  と楽観視してきたからだ。     http://bit.ly/2lySvzg
  ───────────────────────────

ニカラグア運河とパナマ運河の位置関係.jpg
ニカラグア運河とパナマ運河の位置関係
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2017年02月14日

●「ニカラグア運河/中国は諦めない」(EJ第4459号)

 ニカラグア運河についてネットで調べると、計画は大幅に遅れ
ているが、今後進められるであろうとする情報と、計画倒れで中
止になる公算が強いという相反する情報が溢れています。一体ど
ちらが正しいのでしょうか。
 東京財団研究員で、元駐中国防駐在官の小原凡司氏の論文の表
題(ウェッジ・インフィニティ/日本をもっと考える所載)は次
のようになっています。
─────────────────────────────
     小原凡司(東京財団研究員・元駐中国防駐在官)著
 中国が「ニカラグア運河」いよいよ建設へ「パナマ運河無力
 化の先に見据えるもの」   ──2016年6月27日付
                  http://bit.ly/2lDYKCD
─────────────────────────────
 現在、ニカラグア運河の建設は、HKNDによる調査などは行
われているものの、全然着手されていない状況です。その原因は
資金不足と地元民の反対にあるとみられます。しかし、小原氏の
論文を読む限り、運河にはさまざまな困難はあるものの、中国の
手で進められ、いずれは完成される可能性は高いと考えていると
読み取れます。
 なぜなら、もし、ニカラグア運河が完成すると、この運河建設
の主導権を握っている中国は、対米軍事戦略上、きわめて有利な
ポジションを占めることになるからです。小原凡司氏は、その中
国の優位性について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 ニカラグア政府は運河の東西両端(太平洋口と大西洋口)の港
湾や自由貿易区の浚渫や建設、さらにはリゾート開発の権益をも
HKNDに与えている。これにより運河沿岸地域すべてが中国系
企業の管轄となり、この広大な地域が事実上100年間、中国の
租借地となるとみられている。
 中国は、運河沿岸全域を管理することによって、米国に知られ
ることなく、何でも大西洋に送り込むことができるようになる。
パナマ運河で行われている積荷の検査を自国で行うことができる
からだ。
 例えば、中国は現在でもベネズエラに対して、Z─9型対潜ヘ
リコプターやSM─4型81ミリ装輪自走速射迫撃砲、SR─5
自走ロケット砲などを輸出しているが、さらに、中南米諸国に反
米姿勢を強めるように働きかけ、実際に武器を供給することも容
易になるのだ。(中略)
 中国はニカラグア運河を通航する搭載物資に関する情報をすべ
て得ることにもなる。安全保障上も、ビジネス上も極めて重要な
情報である。しかし、中国が太平洋と大西洋を行き来する物資に
関する情報をより多く得たいと思えば、ニカラグア運河がパナマ
運河よりも商業的に魅力的になる必要がある。
                   http://bit.ly/2lBPjTC
─────────────────────────────
 しかし、ニカラグア政府もHKNDもこの運河工事をいまさら
中止できなくなっている事情があります。運河を作る以上、その
ルートに当たる土地や住宅を政府が買い上げる必要があります。
その買収すべき土地の総面積は、2900平方メートルに及び、
対象者は3万人〜12万人になるといわれています。
 問題なのはその土地や家屋の買い上げ価格の低さです。ニカラ
グア政府は、「840条第12項」に基づき、運河開発に必要に
なる土地を政府の土地鑑定評価額で買い上げるが、それに対して
所有者からの不服は一切受け付けず、立ち退かなければならない
としています。こういう強引な手法がとれるのは、現在のダニエ
・オルテガ大統領は独裁者であるからです。
 もちろん住民はこれに対して大反発し、何回もデモが行われて
います。住民としては住み慣れた土地を強引に奪われ、しかもそ
の代償として受け取るお金は非常にわずかなのですから、住民の
反発は当然のことです。
 現在のオルテガ政権は、親米の長期政権であるアナスタシオ・
ソモサ・デバイレ政権を倒して成立した政権であり、社会主義を
目指しています。中国はそのような国に接近し、投資を行い、米
国の喉元に多くの拠点を構えようとしているのです。
 ニカラグアだけではないのです。中国はベネズエラをはじめと
し、エクアドル、アルゼンチンなど、いずれも社会主義路線を進
める準独裁国家を対象に、1000億ドルを超える巨額の投資を
行っているのです。エクアドルには銅山開発、アルゼンチンでも
鉱山開発に加えて、鉄道事業への投資も行われています。しかし
そのいずれも進出している中国企業とトラブルを起こし、うまく
いっていないのです。
 以下は、国家通貨研究所経済調査部森川央上席研究員によるニ
カラグア運河の現状のコメントです。
─────────────────────────────
 当初の計画では工事が始まっているはずだが、ニカラグア政府
は全く情報を開示しておらず、進捗状況は不明である。だが企業
関係者の声を総合すると、本格的に工事が始まった形跡は見られ
ない。(中略)計画が具体性を欠いているだけでなく、ニカラグ
アを支援する友好国に陰りがみられることも計画への不安材料と
なっている。ニカラグアの与党は左派のサンディニスタ民族解放
戦線(FSLN)である。FSLN政権下で、同国は米州ボリバ
ル同盟(ALBA)という左翼政権の同盟に参加している。友好
国はキューバ、ベネズエラ、エクアドル、ボリビアなどで、イラ
ンやロシアとも武器購入などで関係が密である。特にベネズエラ
からは破格の条件で石油の提供を受けていた。しかし、ベネズエ
ラ経済は現在、危機的状況を迎えている。ニカラグア経済はこれ
までのところ好調であるが、今後はベネズエラからの援助は期待
できず、先行きへの懸念材料となっている。
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/029]

≪画像および関連情報≫
 ●ニカラグア運河計画、実現に疑問も/WSJ
  ───────────────────────────
  【オメテペ(ニカラグア)】中米ニカラグアのサンディニス
  タ民族解放戦線(FSLN)が率いる現政権は、1980年
  代に吹き荒れた革命運動のさなかに国土の大半を接収した。
  政府はここにきて再び地方の土地を確保しようとして国を混
  乱させている。だが、今回は資本主義に基づく事業、つまり
  中国資本の助けを借りて太平洋と大西洋を結ぶ全長172マ
  イル(約277キロ)の運河を建設することが目的だ。
   ニカラグアが計画しているこの運河は、完成すればフット
  ボール場4つ分より長い船舶の航行が可能となる。大きすぎ
  て新たに拡張されたパナマ運河でさえ航行できない船舶も利
  用できるようになる。ニカラグアの運河で建設・運営に関す
  る50年の権利を有する香港ニカラグア運河開発投資(HK
  ND)によると、このプロジェクトは人類史上最大規模の土
  木工事になるという。
   HKNDによると、水路や通関施設、道路、自由貿易圏を
  整えるためには642平方マイル(1663平方キロ)の土
  地が必要になる。ニカラグア政府関係者は懸案事項である土
  地の収用を正当化する理由として、運河が完成すれば貧しい
  ニカラグアに5万人分の雇用が創出され、経済規模が2倍に
  拡大する見通しだと説明している。だが、土地が収用されれ
  ば、2万7000人の住民が移住を余儀なくされることにな
  る。             http://on.wsj.com/2kyBKEi
  ───────────────────────────

ニカラグア運河反対運動.jpg
ニカラグア運河反対運動
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2017年02月15日

●「中国はなぜ海洋強国を目指すのか」(EJ第4460号)

 中国が海軍の強軍化に力を入れ、世界中の港、海峡、運河など
の拠点化に異常なほど力を入れているのは、なぜでしょうか。中
国の真意を知るには、中国という国の地理的ポジションや歴史を
振り返ってみる必要があります。
 われわれ日本人が世界地図を見るとき、上が北で、下は南、右
は東で、西は左です。日本列島を中心に見ているからです。右に
は広大な太平洋が広がっており、行きつく先はアメリカ合衆国で
す。西に行くと韓国、北朝鮮、中国があり、北に行くと、ロシア
があります。まっすぐ南に下ると、パプアニューギニア、オース
トラリア大陸があります。
 それは日本列島を中心に見ているからそうなのであって、中国
を中心にして逆さに世界地図を見ると、その様相は一変します。
その逆さ地図については添付ファイルをご覧ください。
 まず、いえることは海が非常に狭いことです。まず、日本列島
があります。南に下ると、九州から奄美諸島、沖縄、八重山と南
西諸島が連なり、台湾につながっています。台湾からは、バシー
海峡をはさんでフィリピンがあり、その端はベトナムへと、つな
がっています。
 海は日本海、黄海、東シナ海、そして南シナ海が広がっていま
す。しかし、それらの海をふさぐにように位置しているのが、日
本列島と台湾、フィリピン、そしてベトナムに至る諸島群です。
これを中国は「第一列島線」と名付けています。
 このなかで中国にとって最も邪魔なのが日本です。日本は経済
力が巨大であり、最先端のハイテク兵器を大量に持っており、数
は少ないものの、訓練の行き届いた強力な海上自衛隊を有してい
ます。しかも、米国と同盟関係を結んでいるので、うっかり手を
出すと、局地戦では返り討ちに遭ってしまう恐れがあります。
 これに比して南シナ海の諸国は日本ほど強くはなく、中国とし
ては手が出しやすいのです。そこで、中国は南シナ海での人工島
づくりに乗り出したのです。
 この「逆さ地図」で世界情勢を読むという独特のアイデアを本
にまとめられたのは、ジャーナリストの松本利秋氏です。今回の
EJはその松本氏の主張を参考にさせていただいています。中国
の海への関心について、松本氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国の西の端はヒマラヤ山脈を挟んでインドと国境を接し、北
に向かってアフガニスタン、タジキスタン、キルギス、カザフス
タン、ここから東に向かってはロシア、モンゴル、北朝鮮との間
に国境線が走っている。
 中国では、秦の始皇帝が漢民族の国家を創設して以来、北方の
騎馬民族の侵入をいかに防ぐかが民族存亡の要であった。中国の
歴史は大陸内部の土地争奪戦が主要な要素であり、三国志をはじ
め中国の歴史記述には、海のことがほとんど出てこない。
 このように大陸内部でのせめぎ合いを繰り返している国を、地
政学では「大陸国家=ランドパワー」と呼ぶ。中国は、歴史的に
北方との闘いに関心を集中させており、海への関心はほとんどな
かったと言って過言でない。 ──ジャーナリスト/松本利秋氏
                   http://bit.ly/2l9Trgn
─────────────────────────────
 ここで歴史を少し振り返ります。中国はかつて海洋進出を試み
目的を果たせなかった歴史があります。1271年〜1368年
の中国は元の時代です。元王朝は、中国とモンゴル高原を中心と
した領域を支配した王朝です。この年代に中国と親しく、行き来
していたのは、イタリア人のマルコ・ポーロです。マルコ・ポー
ロは、1271年に北京で元の皇帝ヘブライに謁見しています。
 1292年にペルシャに嫁ぐダッタン(モンゴル)の王女のエ
スコート役を果すため、北京に行っています。婚礼ですからこの
とき多くの人物が同行したはずですが、それは海路を覚えるため
であったと思われます。このとき、マルコ・ポーロは杭州を出発
し、マラッカ海峡、インド洋を通ってペルシャのホルムズに上陸
しています。
 1274年に元は、朝鮮の高麗軍を先導させて、日本の北九州
に2度にわたり攻め込んでいます。鎌倉時代の中期のことです。
元寇──すなわち、「文永の役」(1274年)と「弘安の役」
(1281年)の2回ですが、いずれも失敗に終わっています。
 元は文永の役で負けた原因を分析し、造船技術や航海技術を十
分磨いて、2度目の弘安の役で再び日本侵攻作戦を実行したので
すが、これにも破れ、それに懲りたのか、その後長い間にわたっ
て外洋に進出することはなかったのです。
 その中国が外洋での戦争に臨まなければならなくなったのが、
1840年から2年にわたる英国との戦争です。清の時代に起き
たこの戦争は「アヘン戦争」と呼ばれています。中国はこの戦争
に破れ、英国に香港島とその対岸にある九龍半島を割譲させられ
ています。
 その後日本と朝鮮半島の覇権をめぐって、1894年から18
95年にわたって起きた「日清戦争」にも破れ、台湾を日本に割
譲せざるを得なかったのです。中国側の主張では、尖閣諸島はこ
のとき日本に奪われたとしているのです。
 この2度にわたる外洋での敗戦は、中国人の心のなかに屈辱の
歴史として刻み込まれ、海洋から攻めてくる敵国に対して、強い
敵愾心を持つようになったのです。しかし、経済の低迷によって
中国はなかなか本格的な海軍を持つことができなかったのです。
 その中国が改革開放経済政策を採って経済力がついてくると、
中国は積極的に海洋進出を試みるようになってきます。その頃か
ら、日本列島、沖縄、台湾、フィリピン、ベトナムの「第一列島
線」に加えて、日本の本州から小笠原諸島、グアム、ニューギニ
アを結ぶ「第二列島線」を設定し、中国海軍は、これら二つの線
の内側を勢力範囲とし、海洋からの外国勢力の侵入を防ぐ戦略を
採るようになってきたのです。これら二つの線のなかには入れさ
せない戦略です。     ──[米中戦争の可能性/030]

≪画像および関連情報≫
 ●中国は海洋強国たり得ない/地政学者・奥山真司氏
  ───────────────────────────
  ――中国に目を転じてみると、新たに総書記に選出された習
  近平は「海洋強国」建設を主張している。大陸国家である中
  国が海洋強国を掲げる理由は何か。
  奥山:中国はこれまで多くの国境紛争を抱えていたが、その
  多くを解決させることができた。歴史を振り返ってみると、
  中国は内陸からの異民族の侵略により滅びることが多かった
  のだが、その危険性がこれほど小さくなったのは史上初めて
  ではないか。これが、彼らの海洋進出の要因の一つだ。中国
  はこの海洋進出を正当化するために、自らがもともと海洋国
  家であったという神話を構築しようとしている。明の時代に
  大船団を組み、アフリカや東南アジアに遠征した鄭和を讃え
  るキャンペーンを展開しているのはそのためだ。
   とはいえ、彼らが本当に海洋強国になることができるかと
  言えば、その可能性は低い。いくら国境紛争の多くを解決し
  たとは言え、中国は周辺諸国から警戒されていることもあり
  軍事力の大半を海軍に注ぐというわけにはいかない。陸軍と
  海軍を両方充実させるというのは資金面から困難だろう。大
  陸国家であると同時に海洋国家であることはできないという
  のは、歴史の教えるところである。もっとも、中国のこれま
  での周辺海域への進出が、この「海洋強国」という戦略に明
  確に基づいたものであるかどうかは、かなり疑わしい。
                   http://bit.ly/2i9k0RW
  ───────────────────────────
  ●地図の出典/http://bit.ly/2l9Trgn

中国を中心とする逆さ地図で見る.jpg
中国を中心とする逆さ地図で見る
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2017年02月16日

●「日米首脳会談/水面下の米中戦争」(EJ第4461号)

 この原稿は12日の夜に書いています。EJの緊急特集です。
今回のテーマ「米中戦争の可能性」に関係のある情報が入ってき
たので、急遽執筆しています。
 安倍首相とトランプ大統領による丸2日間に及ぶ日米首脳会談
において、非常に印象に残る場面があったことに気がついておら
れるでしょうか。
 それは、北朝鮮の弾道ミサイル発射を受けて、最終日に行われ
た予定外の緊急日米首脳共同記者発表におけるトランプ大統領の
表情とそのコメント内容です。念のため、共同発表の全文を次に
示しておきます。
─────────────────────────────
安倍 晋三首相:今般の北朝鮮のミサイル発射は断じて容認でき
 ない。北朝鮮は国連決議を完全に順守すべきだ。先程トランプ
 大統領との首脳会談において、米国は常に100%日本と共に
 あるということを明言された。そしてその意思を示すために、
 いま私の隣に立っている。私とトランプ大統領は日米同盟をさ
 らに緊密化し、強化していくことで完全に一致した。
トランプ大統領:われわれ米国は同盟国である日本と共にある。
 これは100%だ。そういうことをみなさんに伝えたい。
       ──2017年2月13日付、日本経済新聞夕刊
─────────────────────────────
 日米両首脳共に「100%」という強い言葉を使っています。
このときトランプ大統領の表情は、何かを睨みつけるかのように
非常に厳しいものだったのです。それは、金正恩最高指導者だけ
ではなく、中国の習近平国家主席に対しても、向けられていたの
ではないかと思うのです。それは秘めた“怒り”です。
 それには理由があります。実は今回の日米首脳会談には、水面
下において、中国が一枚噛んでいるのです。中国と米国は、今年
の1月に入ってから、水面下で激しい神経戦を展開していたので
す。それはもちろん「一つの中国」をめぐるやり取りです。
 トランプ氏が「ひとつの中国」について疑問を呈したのは、1
月12日、ウォールストリート・ジャーナル紙とのインタビュー
においてです。その直後(正確な期日は不明)、中国は「東風5
C」という最新のミサイルを発射したのです。ミサイルを発射し
て何らかのメッセージを伝える手法は北朝鮮とそっくりです。こ
れについて、2月5日付の「朝日新聞デジタル」は次のように報
道しています。
─────────────────────────────
 複数の核弾頭を搭載でき、米国を射程に含むとされる中国の新
型大陸間弾道ミサイル「東風5C」の発射実験について、中国国
防省は2月3日、国内メディアの取材に答える形で、実施を認め
た。米メディアが「トランプ政権を牽制する狙いがある」と報じ
ていた。米国の一部メディアは、米情報機関筋の話として、「中
国軍が1月の早い時期に、大陸間弾道ミサイル『東風(DF)5
C』を山西省・太原の発射場から、北西部の砂漠に向けて発射し
た」と報じていた。報道によると、東風5Cは10個の核弾頭を
搭載可能とされる。          http://bit.ly/2knV6uK
─────────────────────────────
 この情報に関して、ジャーナリストの加賀孝英氏が、米軍、米
情報当局関係者から得た情報として、2月13日発行の「夕刊フ
ジ」において次のように伝えています。
─────────────────────────────
 中国は1月、核弾頭を搭載できる弾道ミサイル「東風(DF)
5C」を山西省から試射した。事実上、「アジアの米軍基地を攻
撃できる」と、大統領就任前のトランプ氏の就任直後、浙江省に
配備した。北米全域を射程とした弾道ミサイル「DF41」の映
像を見せつけた。一方で、中国は軍民両用(デュアルユース)の
車両が、北朝鮮に輸出されるのをわざわざと阻止し、米国に伝え
た。要は「中国は北朝鮮のすべてを握っている」という、トラン
プ氏へのメッセージだ。           ──加賀孝英氏
          2017年2月13日発行/「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 極めて露骨な米国への脅しです。上記の文中の北米全域を射程
とした弾道ミサイル「DF41」のユーチューブ映像とは次の通
りです。
─────────────────────────────
      DF41/DF31 ICBM/中国製
             http://bit.ly/2ko1SRn
─────────────────────────────
 もうひとつ注目すべきは、中国が北朝鮮をいかようにもコント
ロールできることをわざわざ伝えたことです。もしかすると、既
に北朝鮮が中国と一体化しつつあるのではないかとも考えられま
す。北朝鮮が12日に発射したミサイルと中国の「DF41」の
映像はそっくりです。技術供与が行われているのです。
 これに対して米国は、中国の脅しに対して、直ちに対応措置を
取っています。加賀孝英氏が得た米軍、米情報当局関係者から得
た極秘情報は次のように続くのです。
─────────────────────────────
 米国は2月8日、模擬核弾頭搭載の弾道ミサイルを発射し、ハ
ワイ沖3900キロの海域にピンポイントで着水させた。中国は
顔面蒼白になった。(そのうえで)トランプ氏は同日、大統領就
任祝いの返礼と称して、習氏に書簡を送った。つまり、「宣戦布
告なら受けて立つ」という通告だ。中国側は慌てて、9日の米中
首脳電話会談を言ってきた。         ──加賀孝英氏
─────────────────────────────
 加賀氏にいわせると、「米中は軍事衝突寸前」だったというの
です。日米首脳会談が行われる前には、米中でこのようなやり取
りがあり、その結果、トランプ大統領は幹部とも相談し、「一つ
の中国」の原則を受け入れ、日米首脳会談の前にコトを収めたの
です。          ──[米中戦争の可能性/031]

≪画像および関連情報≫
 ●「一つの中国発言修正はティラーソン国務大臣の尽力」
  ───────────────────────────
  ワシントン 10日 ロイター]──トランプ米大統領が前
  週、中国政府の求めに応じ、米国の「1つの中国」政策を維
  持すると表明した背景には、ティラーソン国務長官の尽力が
  あった。米当局者が明らかにした。トランプ大統領は9日に
  中国の習近平国家主席と電話会談し、中台がともに一つの中
  国に属するという「1つの中国」政策の維持で合意した。
   米当局者によると、大統領による突然の立場修正に先立ち
  ホワイトハウスではティラーソン国務長官やフリン大統領補
  佐官らが会合を行った。ある当局者はこの会合について、米
  中関係や地域の安定のために「1つの中国」政策の維持を表
  明することが正しい選択だと大統領を説得するための協調的
  努力だと述べた。
   ティラーソン長官は会合で、米中関係の柱となってきた政
  策を巡る疑念を解消しない限り、米中関係は停止したままに
  なると警告した。ティラーソン長官による今回の尽力は、ト
  ランプ政権が直面する幾つかの地政学的問題で同氏が影響力
  を持つ可能性を示唆している。過激派組織「イスラム国(I
  S)」との戦いや対イラン政策、ロシアとの関係改善など、
  トランプ氏が掲げる他の優先課題でティラーソン氏が今後ど
  のような役割を果たしていくか注目が集まる。
                   http://bit.ly/2kZIAnn
  ───────────────────────────

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米国は100%日本と共にある
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2017年02月17日

●「日米首脳会談にケチをつけた中国」(EJ第4462号)

 昨日のEJの続きです。なぜ、対中強硬派が揃っているトラン
プ政権の幹部が、日米首脳会談の直前に中国と電話会談を急遽行
い、トランプ大統領が「一つの中国」を認めたのでしょうか。
 それは、ティラーソン国務長官やマティス国防長官、フリン大
統領補佐官らが、現在アジアでコトを構えるのは得策ではないと
主張したからであるといわれます。米国は中東でも火種を抱えて
おり、こちらの方が優先順位が高いと判断したからです。
 しかし、米国は中国がいうところの「一つの中国」のポリシー
をそのまま認めたのではなく、ひとつの細工を施しています。そ
れは、ホワイトハウスの公式ホームページの「一つの中国」原則
の尊重について次のように記されていることでわかります。
─────────────────────────────
       to honor our “one China”policy.
─────────────────────────────
 ミソは「our」 にあります。「われわれの一つの中国の原則」
という意味になります。これは中国の原則ではなく、われわれ米
国の一つの中国の原則を尊重すると主張しているのです。すなわ
ち、「一つの中国」は認めるが、米国は台湾関係法で台湾を守る
というわけです。これは、もし中国が台湾を侵攻するようなこと
があれば、米国は軍事的に台湾を守るということを意味している
のです。台湾関係法は米国と台湾の事実上の軍事同盟です。
─────────────────────────────
 台湾関係法とは中華民国(台湾)に関するアメリカ合衆国と
 しての政策の基本が定められている法律である。事実上のア
 メリカ合衆国と中華民国(台湾)との間の軍事同盟である。
                  http://bit.ly/2kqfrzG
─────────────────────────────
 それにしても、中国はしたたかです。「一つの中国」を認めよ
うとしないトランプ政権に対し、さまざまな工作を行っているの
です。表面的には米国に対して威嚇を行い、同時に幅広い米国に
おける中国人脈を使って、内部から、「一つの中国」を認めさせ
る働きかけを行っています。硬軟を使い分けているのです。
 まず、中国は「核心的利益」(一つの中国)が冒されれば、世
界一の軍事力を持つ米国に対しても、戦争すら辞さないという姿
勢を示すものとして、昨日のEJで述べたように、トランプ氏の
大統領就任前の1月に「東風(DF)5C」を発射し、大統領就
任後には北米全体を射程に収める弾道ミサイル「DF41」を浙
江省に配備し、ミサイル発射の映像をユーチューブに公開して、
米国に見せつけています。これは米国への威嚇といえます。
 これに平行して、共和党内部の中国人脈を使って、「一つの中
国」を受け入れさせる工作を行っています。このなかにはキッシ
ンジャー博士もいたと思われます。フリン大統領補佐官は中国の
国務委員とのパイプがあり、そのルートを通じての工作もあった
と思われます。結局、その内部工作が功を奏し、ティラーソン
国務長官が中心となって、トランプ大統領を説得し、習近平国家
主席との電話会談が行われたものと考えられます。中国の工作が
実を結んだのです。
 それにしても、日米首脳会談の最後の日に、北朝鮮はなぜミサ
イルを発射したのでしょうか。明らかに意図的です。
 おそらく中国と北朝鮮は連携しているはずです。それは日米首
脳会談──とりわけ日本を牽制しようとしたものと思われます。
それには、米国も一枚噛んでいます。米国にも二面性があるので
す。そういう意味において、日本はトランプ政権に全面的には心
を許してはならないのです。
 安倍首相の外交は、力で現状を変更しようとする中国に対して
日米関係を強固なものにして、価値観を共有する各国と連携を図
りながら、中国包囲網を築くというものです。当然中国としては
日本に対して厳しい姿勢をとらざるを得ないことになります。
 そこで日米首脳会談の冒頭と最後に、日本を牽制するために行
われたのが、2つのサプライズです。会談の冒頭では、突然の習
近平対トランプの電話会見をぶつけ、会談の最後に北朝鮮のミサ
イル発射させることによって、日本が日米関係の成功をもろ手を
上げて喜べないようにしたのです。中国にとっては大成功です。
完全に日本はもてあそばれているように感じます。
 警戒すべきは、北朝鮮の「北極星2」の打ち上げ成功です。金
生恩最高指導者は次のように発言し、トランプ氏からツイッター
で反論を浴びています。
─────────────────────────────
 米本土を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)が完
 成する過程にある。        ──金正恩最高指導者
─────────────────────────────
 しかし、「北極星2」の成功によって、ICBMの完成に一歩
近づいたことは確かです。「北極星2」は、直前に燃料注入作業
をする必要がない固体燃料型で機動性が高く、液体型よりも軍事
的な脅威が大きいのです。「北極星2」には次の2つの特色があ
ります。
─────────────────────────────
    1.潜水艦型SLBMを陸上型に改良している
    2.移動型車両にキャタピラーを使用している
─────────────────────────────
 北朝鮮は潜水艦の保有数では世界有数の数を誇りますが、高度
な潜水艦を作る技術はないのです。しかし、水中からミサイルを
発射するSLBMの技術を有しているので、それを陸上型として
改良したのが「北極星2」です。
 「北極星2」の最大の特色は、ミサイルを運び、発射させる移
動車両がキャタピラーを使用していることです。北朝鮮はゴムが
とれないので、輸入に頼ることになるため、キャタピラーにした
のだと思いますが、これは世界に例がないのです。これならどこ
にも移動でき、ますます発射位置を特定できなくなるメリットが
あります。        ──[米中戦争の可能性/032]

≪画像および関連情報≫
 ●北発射のミサイル「ICBMに向かう中間段階」=専門家
  ───────────────────────────
  【ソウル聯合ニュース】北朝鮮メディアが2月13日、新型
  の中長距離弾道ミサイル「北極星2型」の試験発射を12日
  に行い、成功したと報じたことで、このミサイルの性能や発
  射方式などに関心が集まっている。
   朝鮮中央通信など、北朝鮮メディアの報道を要約すると、
  12日のミサイルは固体燃料を使用する新型の戦略兵器であ
  り、昨年8月に発射実験に成功したとされる潜水艦発射弾道
  ミサイル(SLBM)の体系を土台に射程を延長した新たな
  形態の中長距離ミサイルということになる。
   北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」が公開した北極星
  2型の発射の写真を見ると、昨年8月に水中発射した全長約
  9メートルのSLBM「北極星」とほぼ同じだった。専門家
  らはこのミサイルについて、固体燃料を使用する大陸間弾道
  ミサイル(ICBM)の開発に向けた中間段階の兵器体系で
  ある「新型IRBM(中長距離弾道ミサイル)」だと分析し
  ている。IRBMは射程2400〜5500キロの弾道ミサ
  イルを指す。北朝鮮が公表した写真を見ると、SLBMと同
  様に円筒の発射管から飛び出したミサイルは10メートルほ
  ど上がった空中で点火され、正しい姿勢を取って浮上した。
  SLBMと発射方式や全長(12メートル)は同じだが、エ
  ンジン体系が、全く異なる新たな地対地IRBMと分析され
  る。北極星2型を1段目として2段目の推進体を組み合わせ
  れば、ICBMとしての性能を発揮できるとみられている。
                   http://bit.ly/2lKma9x
  ───────────────────────────

「北極星2」発射光景.jpg
「北極星2」発射光景
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2017年02月20日

●「中国は多くの非対称兵器を有する」(EJ第4463号)

 中国軍の実力はどの程度のものでしょうか。
 軍事専門家によって意見が割れています。いま米中が戦えば、
もちろん米軍が圧倒的に強いですが、ピーター・ナヴァロ氏は米
軍が脅威に感じていることは少なくないといっています。ナヴァ
ロ氏は、次の問題を出しています。
─────────────────────────────
【問題】1600キロ離れた場所から発射したミサイルを、時速
55キロで航行中の空母に命中させるのは、どのくらい難しいか
選べ。
  「1」困難
  「2」非常に困難
  「3」ほぼ不可能
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この答えは「2」の「非常に困難」です。しかし、それを中国
が可能にしたと思われるからです。その名前は「対艦弾道ミサイ
ル」です。これは「空母キラー」といわれているのです。
 ミサイルについて知る必要があります。次の2つのミサイルの
違いがわかるでしようか。
─────────────────────────────
          1.巡航ミサイル
          2.弾道ミサイル
─────────────────────────────
 これら2つのミサイルは、推進力が違います。巡航ミサイルの
推進力は小型ジェットエンジンであり、弾道ミサイルの推進力は
ロケットです。なぜ、ロケットなのかというと、弾道ミサイルは
大気圏外に出るからです。これに対して、巡航ミサイルは、大気
圏から出ることはなく、大気圏のなかをジェットエンジンから推
進力を得て目標に向って飛行します。
 しかし、弾道ミサイルはロケットから推進力を得て大気圏外に
出て、ほとんど燃料を使わず、長距離を飛行できるのです。これ
について、ナヴァロ氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 弾道ミサイルは、通常はロケットによって打ち上げられ、大気
園外で準軌道飛行に入る。この希薄大気の中を、弾道ミサイルは
ほとんど燃料を使わず、長距離を飛ぶことができる。これが弾道
ミサイルの大きな利点である(価格はふつう巡航ミサイルのほう
がずっと安い)。目標付近に到達すると、弾道ミサイルは自由落
下して大気圏に再突入し、その過程で致死的な高速を獲得する。
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 中国のこの対艦弾道ミサイルの画期的な点は、司令部と衛星経
由で連絡をとりながら、目標を追尾できることです。しかも、再
び大気圏に突入した後も、大海原の小さな目標をロックオンし、
目標に達することができる点です。驚くべき性能の弾道ミサイル
といえます。
 この手の対艦弾道ミサイルは射程1500キロメートル以上と
いわれています。もし、本当であれば、このミサイルを中国沿岸
部から発射すれば、遥か遠くの太平洋上を航行する米国の空母を
撃沈することが可能になります。そうであれば、米国の空母艦隊
は中国に近づくことができなくなります。つまり、これを中国か
ら見ると、「接近阻止」になります。
 この対艦弾道ミサイルは、中国の「接近阻止/領域拒否」戦略
の一環で開発されたミサイルなのです。「接近阻止」とは、文字
通り中国本土(というより第一列島線と第二列島線)に近付かせ
ないという意味であり、「領域拒否」とは米海軍のアジア海域か
らの駆逐を意味します。この「接近阻止/領域拒否」戦略は、公
海の航行の自由という国際法の原則からすると、とくに米国は絶
対に譲れない一線ということになります。
 中国の対艦弾道ミサイルについて、ピーター・ナヴァロ氏は、
フィリップ・カーバージョージタウン大学教授の言葉を紹介して
います。
─────────────────────────────
 アメリカは世界最強の海軍を保有している。現在、アメリカ海
軍はおそらく、中国軍やロシア軍を含め、世界中ビこの海軍と通
常戦争を戦っても勝利することができるだろう。だが、中国は抜
け目なく行動し、対艦弾導ミサイルなどのいわゆる非対称兵器を
開発してきた。対艦弾遭ミサイルは、アメリカ海軍の艦隊を人質
に取る能カを持っているかもしれない。これは、アメリカのアジ
ア地域への海軍力展開能カが次第に小さくなっていくことを意味
している。      ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 この記述で注目すべきは「対艦弾導ミサイルなどのいわゆる非
対称兵器」という部分です。ここでいう「非対象兵器」とは何で
しょうか。
 米国の軍事力と中国の軍事力は非対称です。現在でも圧倒的に
米軍の方が優勢です。この場合、劣勢側はそれを覆すために開発
する兵器が「非対称兵器」です。
 例えば、対艦弾道ミサイルは一発せいぜい数百万ドルですが、
米国の空母は一隻100億ドルもします。非対称です。しかし、
このミサイルで、空母を撃墜することができるのです。こういう
兵器を「非対称兵器」といいます。中国は、「接近阻止/領域拒
否」戦略を実現するために、こういう非対称兵器を多数開発保有
しているのです。
 この対艦弾道ミサイルに該当する兵器に「東風/DF21D」
があります。移動車両に搭載してどこからでも発射でき、米空母
をターゲット化して追尾し、撃沈できます。そのため、「空母キ
ラー」と呼ばれているのです。これについては、明日のEJで述
べます。         ──[米中戦争の可能性/033]

≪画像および関連情報≫
 ●テロリストが軍隊よりも優位に立つ「非対称の戦争」
  ───────────────────────────
   パリで発生したISによる連続テロでは120名を超える
  市民が命を落とし、フランスのオランド大統領は「今回のテ
  ロは戦争行為」だと強く非難した。事件が起きる前から、同
  国を代表する日刊紙「ル・モンド」は、テロの危機が目前に
  あると警鐘を鳴らす記事を繰り返し掲載してきた。弊誌4月
  号の特集「これからの『戦争』と『世界』」に転載した「ル
  ・モンド」紙の記事をウェブでも公開する。
   1989年のベルリンの壁の崩壊は、人々の期待を裏切っ
  て、世界を不安定な新しい時代に引きずり込んだ。かつて冷
  戦時代、核戦争の危険は、敵でもありパートナーでもあった
  米国とソ連の2大国によって慎重に管理されており、世界は
  きわめて平和で、喜びに満ちていた。敵対するイデオロギー
  を背景にした紛争は、居心地の良いフランスと欧州大陸から
  遠く離れたところで行われ、燦々と輝く陽の光のもとで、美
  しいとさえ思えた。平和は「核の抑止力」という氷のカーテ
  ンに守られて、脅かされることすらなかった。
  21世紀に入ると、圧倒的な力を誇る米国の一国支配は20
  01年9月11日の同時多発テロ事件によって終止符を打た
  れてしまった。この事件は、永遠に平和で幸せだと信じられ
  ていた世界を大きく揺るがした。
   9・11を機に生まれてしまったのが「非対称的な戦略」
  である。これは、「ネズミのほうが猫よりも強い」、つまり
  弱者が強者に対して優位に立つという考えかただ。「非対称
  的な戦略」の誕生によって、嫌悪感と恐怖心と苦痛が支配す
  る、新しい国際社会が幕を開けた。 http://bit.ly/2m6N7nh
  ───────────────────────────

中国の対艦弾道ミサイル/DF21D.jpg
中国の対艦弾道ミサイル/DF21D
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