2016年07月11日

●「世界で大きな変化が起きつつある」(EJ第4316号)

 世界が大きく激動しつつあります。とくに米大統領選における
トランプ現象、英国の欧州連合(EU)からの離脱、世界各地で
イスラム国によると見られるテロの続発など、世界でただならぬ
動きが起きています。
 ベンジャミン・フルフォードの本に、その変化を如実に示して
いる次の2つの指数が紹介されています。2つの指数は添付ファ
イルをごらんください。
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        1.オンス・バーレル指数
        2. バルチック海運指数
─────────────────────────────
 1の「オンス・バーレル指数」は、金1オンスでどのくらいの
量の石油(バレル)が買えるかを年代ごとに示したものです。こ
の数値は、国際的に大きな経済危機が起きると、必ず跳ね上がる
のです。要するに金価格が上がり、原油価格が下がればこの数値
は上昇するのです。
 グラフにあるように、チェルノブイリ原発事故、米ソ冷戦崩壊
ラテンアメリカ債務危機、アジア通貨危機、リーマンショックで
は、数値はすべて跳ね上がっています。心配なのは、2016年
になると、この数値が今までにないほど跳ね上がっていることで
す。何が起ころうとしているのでしょうか。
 この数値はドルベースです。ドルの価値を維持するために、金
の価格と原油の価格は、つねに何らかのコントロールが行われ、
その数値が大きく上昇しないようにされています。いわばドルの
生命維持装置のようなものであるといってよいと思います。
 それにもかかわらず、この数値が上昇するのは、この生命維持
装置が機能不全に陥ったことを意味しています。それが経済危機
であるというのです。つまり、今後途方もない経済危機が起きる
可能性があることを予告しているといえます。
 2の「バルチック海運指数」は、大量の石炭や鉄鉱石、穀物を
梱包せずに運ぶ、ばら積み船運賃の国際市況のことです。これは
世界で実際に行われている経済活動をあわわしています。
 この数値が上がっていれば、経済活動は活発であることを示し
下がっていれば、世界の経済活動が停滞していることを意味しま
す。したがって、経済を見るプロはこの数値を参照するのです。
 海運は隠しようのない、かつコントロールしようのないデータ
なのです。なぜなら、それはGPSで確認できるし、海上保険も
あるので、誤魔化しようがないからです。したがって、この数値
が高ければ経済活動は活発であるし、停滞しているようだと、数
値は下がるのです。
 現在、この数値が驚くほど下がっています。既に過去最低記録
を更新していますし、一般に報じられているよりもはるかに経済
は停滞していることを示しているようです。何が起ころうとして
いるのでしょうか。
 ところで、なぜプロは、特殊性の高いこれらの指数を重視する
かということについて、ベンジャミン・フルフォード氏は次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 景気の動向を示す経済統計や指数は、どれもこれも嘘と捏造が
まかり通っているからだ。ちょっと操作をするだけで簡単に誤魔
化すことができる。
 たとえば物価指数や平均株価などが典型であろう。株価でいえ
ば、どんな不況でも業績を上げている企業は存在する。ニューヨ
ークダウ平均を上げたければ、業績悪化で株価の下がった企業銘
柄を外し、業績が上がっている企業を選び直せば、いくらでも平
均値を上げることができる。とくに現在は量的緩和をしてお札を
刷りまくって、それを市場に投入している。
 物価指数や平均所得も同様で、所得が下がっている場合、物価
指数の調査対象を「安い商品」に切り替える。そうすれば「名目
上」所得は上昇する。ゆえに景気は上昇している、と大々的に報
じるわけだ。       ──ベンジャミン・フルフォード著
 『99%の人類を奴隷にした「闇の支配者」最後の日々/アメ
      リカ内戦から世界大改変へ』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 冒頭に述べたように、2015年〜2016年にかけて、世界
中でいろいろな出来事が起きています。よく考えると、そのほと
んどは米国の変化と関係があります。それはオバマ政権になって
から少しずつ顕在化してきたものでしたが、米国は明らかに内向
きになり、孤立主義になりつつあります。それは、今年の11月
に行われる米大統領選の結果によって、決定的な変化になること
は必至の情勢です。
 次期米国大統領は、果してヒラリー・クリントン氏か、ドナル
ド・トランプ氏か──この結果を現在予測することは、非常に難
しいことですが、いずれにしても、米国は大きく変化するはずで
す。そこでEJの今回のテーマは、米国を取り上げます。
─────────────────────────────
    「世界の警察官」をやめて米国はどう変わるか
     ──内向きの米国で世界はどう変わるか─―
─────────────────────────────
 このテーマであれば、前回のテーマである「現代は陰謀論の時
代である」とうまく繋がってきます。この世界は誰が支配してい
るのかに深く関係するからです。
 今回の英国のEUからの離脱によって、冷戦後に出現した世界
秩序が崩壊に向って歩みを進める先駆けになり、米欧の「大西洋
同盟」が危機に瀕する可能性があります。
 日本にとって、今回の米大統領選の結果ほど安全保障に影響を
与えるものはないと思います。在日米軍はどうなるのか、日米安
保同盟はどう変化するのか。米大統領選の進行に合わせて、明日
から書いていくことにします。
            ──[孤立主義化する米国/001]

≪画像および関連情報≫
 ●下げ止まらないバルチック指数/世界景気懸念で日本株は
  ───────────────────────────
  [東京2014年7月22日ロイター]・・ばら積み船運賃
  の国際市況を示すバルチック海運指数が下げ止まらず、1年
  半ぶりの低水準となっている。船の供給過剰や季節要因が主
  因だが、世界の貿易量の伸びが鈍化しているのではないかと
  市場では警戒感が強い。高まる地政学リスクも、貿易のネガ
  ティブ要因だ。連休明けの日本株は反発したが、世界経済の
  減速懸念が強まるなか、ここ最近のレンジ内の動きに、とど
  まっている。           http://bit.ly/29Dvx9y
  ───────────────────────────

2つの重要指数.jpg
2つの重要指数
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2016年07月12日

●「国防長官が3回代わるオバマ政権」(EJ第4317号)

 2013年11月23日のことです。中国国防省は突如として
東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定したことを発表し
たのです。FNNニュースを再現します。
─────────────────────────────
 中国国防省は23日、東シナ海上空に国籍不明機などが侵入し
た場合、戦闘機による緊急発進の対象となる「防空識別圏」を設
定したと発表した。
 これは、中国国防省が23日午前から施行するとして発表した
もので、沖縄の尖閣諸島が含まれ、日本が設定している防空識別
圏と広い範囲で重なっている。
 中国はまた、防空識別圏内を飛ぶ航空機に対し、飛行計画の提
出や国防省の指示に従うことなどを義務づけ、従わない場合は、
中国軍が防衛的緊急措置をとるとしている。
 中国メディアが22日、日本にも到達可能な国産のステルス無
人攻撃機の試験飛行に成功したと報じるなど、尖閣諸島をめぐる
緊張がさらに高まるのは必至となっている。
                   http://bit.ly/29EwxqF
─────────────────────────────
 周辺国への事前説明や協議は一切ないのです。それにこの空域
は、日本固有の領土である尖閣諸島上空を覆っているのです。日
本の主権に対する重大な挑戦です。しかも中国はこの空域を飛行
するすべての民間航空会社に対し、飛行計画の事前の提出を要請
したのです。これは国際法を完全に無視している無茶苦茶で、一
方的な要求です。
 日本政府は、この中国の一方的で、非常識な要求をはねつけて
います。当然のことです。しかし、オバマ政権は、米民間航空機
各社に飛行計画の提出を認めるような態度をとったのです。これ
に日本政府は仰天したのです。
 実はオバマ大統領は、同じ年の9月にシリア問題に絡んで次の
有名な発言をしていたのです。
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     アメリカはもはや世界の警察官ではない
─────────────────────────────
 中国は、このオバマ大統領の発言を受けて、防空識別圏(AD
IZ)を設定しても米国からクレームはこないと判断して、この
暴挙に及んだものと思われます。
 このオバマ大統領の対応を見て、チャック・ヘーゲル米国防長
官は直ちに軍に指示して“ある行動”をとらせたのです。“ある
行動”とは、中国の設定した東シナ海・防空識別圏に事前通告せ
ず、B52爆撃機を飛行させたことです。
 そのB52爆撃機の飛行は、2013年11月25日に行われ
ましたが、中国からの反応はゼロ。中国は自ら設定した防衛識別
圏を管理する能力を持っていなかったのです。ウォール・ストリ
ート・ジャーナルはこのニュースを次のように報道しています。
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【ワシントン】米政府当局者は26日、米戦略爆撃機「B52」
2機が中国当局に事前通報しないまま、東シナ海の尖閣諸島周辺
上空を飛行したと発表した。中国は最近同上空に防空識別圏(A
DIZ)を設定したと発表しており、米軍機による飛行は中国に
対する直接的な挑戦ないし異議申し立てを意味する。
 米当局者によれば、2機のB52はグアムの空軍基地から飛び
立ち、ワシントン時間の25日午後7時(日本時間26日午前9
時)ごろ中国が新たに設定した防空識別圏内に入った。
 米国防当局者はこれより先、米国は中国の新たな防空識別圏に
挑戦すると約束するとともに、中国が要求している飛行計画や無
線周波数、無線中継機情報の提出に従わない方針を明らかにして
いた。              http://on.wsj.com/29pLVFg
─────────────────────────────
 ヘーゲル国防長官は、この飛行についてオバマ大統領の了解を
とっていないのです。米軍としては、いつも行っている警戒飛行
活動の一環として行っており、軍の自主的判断に基づくものです
が、これによって中国に明確に「NO」を突き付けたのです。
 オバマ大統領と国防長官は、国防に関してまったく意見が合わ
ず次々と辞任し、現在の国防長官は4人目です。
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   ロバート・ゲイツ ・・ 2006年12月18日辞任
   レオン・パネッタ ・・ 2011年 7月 1日辞任
  チャック・ヘーゲル ・・ 2013年 2月27日辞任
 アシュトン・カーター ・・ 現職
─────────────────────────────
 辞任した各国防長官たちは、回顧録でオバマ大統領を批判して
います。ロバート・ゲイツ氏は「オバマ氏は自らに仕える司令官
を信頼せず、自らの戦略を信じていない」と痛烈に批判していま
す。ゲイツ氏はブッシュ政権から引き続き国防長官を務めており
大統領の考え方の違いに我慢がならなかったのでしょう。
 レオン・パネッタ氏は、クリントン政権時代のホワイトハウス
首席補佐官を務め、オバマ政権ではCIA長官も務めているので
ゲーツ氏よりも政権に好意的ですが、それでも「米国の力は大統
領の発言にかかっており、レッドラインを超えたと判断したら、
行動しないといけない」と戒めています。
 チャック・ヘーゲル氏は共和党出身ですが、ブッシュ政権での
イラク戦争に反対していたことを買われて国防長官に抜擢された
のですが、オバマ大統領のイスラム国政策を批判し、「オバマ政
権のシリア政策でトクするのはアサド政権だ」と批判し、国防長
官を辞任しています。
 このように、オバマ政権は歴代の国防長官にすべて批判されて
おり、それによって世界の国々のパワーバランスが大きく変わろ
うとしています。オバマ大統領率いる現在の米国政権は、明らか
に内向きになっているといわざるを得ないのです。
            ──[孤立主義化する米国/002]

≪画像および関連情報≫
 ●ゲーツ元国防長官が回顧録でオバマ大統領を批判
  ───────────────────────────
  【ワシントン】ロバート・ゲーツ元米国防長官は近く発売さ
  れる回顧録の中で、アフガニスタン紛争をめぐるオバマ大統
  領の対応を鋭く批判した。回顧録は米軍の戦略にとって重要
  な時期に政権内部に生じていた軋轢についても明らかにして
  いる。(2014年当時)
   ブッシュ前大統領とオバマ大統領の両政権で国防長官を務
  めたゲーツ氏はこう記述している。オバマ大統領は自らが承
  認した戦略に不信感を抱き、戦闘から抜け出す方法を最も見
  つけたがり、自身が選んだ司令官に幻滅し、国防総省の政策
  を細かく管理しようと試み、ホワイトハウスの補佐官と大将
  が対立することになった、と。
   ゲーツ氏は2011年3月のホワイトハウスでの会議で、
  オバマ大統領がアフガニスタンのカルザイ大統領に対する不
  信感と同様に、現地で戦術を指揮する人物として自らが選ん
  だペトレイアス陸軍大将に対する不信感も強調したと述懐し
  ている。ゲーツ氏は「座りながらこう考えた。大統領は自分
  の指揮官を信頼していない。カルザイ大統領を嫌っている。
  自分の戦略を信じていないし、この戦争を他人事のようにと
  らえている」とし、「彼にとって(戦争から)抜け出すこと
  がすべてだ」と記している。だが、ゲーツ氏をいらつかせる
  原因となったのはオバマ大統領だけではない。同僚はゲーツ
  氏を冷静で礼儀正しい男性だと表現する。文官で無党派の同
  氏の立場を考えると、オバマ大統領に対するこうした厳しい
  評価はいっそう驚きだと指摘する。 http://bit.ly/29uKl5w
  ───────────────────────────

中国が勝手に設定した防空識別圏を飛行するB52.jpg
中国が勝手に設定した防空識別圏を飛行するB52
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2016年07月13日

●「オバマはどのような大統領なのか」(EJ第4318号)

 今回のテーマを取り上げたきっかけは、ジュンク堂池袋本店で
次の新刊書を見つけて購入したからです。テーマを決めるには、
メインになる書籍が必要なのです。
─────────────────────────────
                       高畑昭男著
          『「世界の警察官」をやめたアメリカ/
      国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
─────────────────────────────
 オバマ大統領がどのような大統領であるかを如実に示している
のは、ウクライナ紛争とシリア問題における米国の対応であり、
そこによくあらわれていると思います。
 ウクライナ紛争では、2014年3月1日、プーチン大統領が
軍事介入についてロシア上院の承認を取ったとき、オバマ大統領
は、軍事行動を止めるよう電話で1時間半にわたって説得したも
のの、失敗に終わっています。
 そしてオバマ大統領は、「ウクライナのいかなる軍事的措置は
大きな代償を伴うだろう」とロシアを牽制し、ウクライナの新政
権へ援助を約束したのですが、あくまで経済的、外交的援助に限
定するとし、軍事的措置は視野に入れていないことをわざわざメ
ディアに発表したのです。
 これは、ロシアが軍事的に介入してきても米国としては何もし
ないという意思表明であり、そのためロシアは易々とクリミアに
軍を進め、軍事的に占拠することができたのです。
 プーチン大統領としては、当然米軍と一戦を交えることだけは
絶対避けなければならないものの、やはりオバマ大統領の「アメ
リカはもはや世界の警察官ではない」という宣言と「ウクライナ
への軍事的措置は視野に入れていない」という発言が、仕掛けて
も「米軍は出てこない」という判断をプーチン大統領にもたらし
たものと思われます。プーチン氏のしたたかな計算です。
 実は英国は、ロシアを牽制するため、欧米の共同軍事訓練をウ
クライナ周辺で行うべきと提言していたのですが、米国がそれを
拒んだので、実現しなかったのです。オバマ大統領は何が何でも
軍事行動は行いたくないという態度です。
 もちろんウクライナは、米国の同盟国ではないし、NATOの
加盟国でもないのです。米国やNATOはウクライナを守る義務
はないのです。しかし、無関係というわけではないのです。
 ウクライナは、NATOアフガニスタン国際治安支援部隊(I
SAF)に部隊を派遣しており、一緒に戦ってもいるのです。い
わばNATOのパートナー国なのです。ロシアはウクライナがN
ATOに加盟することを非常に警戒していますし、英国の提案の
ように共同軍事訓練をやっていたら、ロシアは軍を動かすことは
できなかったと思います。
 白鴎大学教授の高畑昭男氏は、これについて次のような見解を
述べています。
─────────────────────────────
 アメリカは、軍事衛星や各種の傍受システムなど世界最先端の
ハイテク軍事技術を備えている。ロシア軍や民兵勢力の動きは手
に取るように見えている。初期段階で英国が提案したようにNA
TOの共同演習を展開したり、地中海艦隊をロシアに近い黒海方
面へものものしく移動させるなどの陽動作戦で牽制していたら、
事態は異なっていた可能性が高い。ロシア側は「アメリカが何を
するかわからない」と警戒し、慎重な行動を余儀なくされたに違
いない。            ──高畑昭男著の前掲書より
─────────────────────────────
 続いて、シリアのアサド政権での化学兵器使用疑惑におけるオ
バマ政権の対応です。2012年の夏以降、アサド政権は、複数
回にわたり、反政府勢力や市民に対して化学兵器を使用し、大勢
の死者が出ているという「国境なき医師団」の声明に対して、オ
バマ政権がどう動いたかです。
 2012年8月に行われた再選キャンペーンにおいてオバマ大
統領は、次のように述べているのです。
─────────────────────────────
 国民の信を失ったアサド大統領は退陣すべきである。シリアの
軍事介入は考えていないが、化学兵器が使われたりすれば、それ
は「レッドライン」だ。すべての計算が一変する。
                ──高畑昭男著の前掲書より
─────────────────────────────
 「レッドライン」とは超えてはならない一線のことであり、こ
の文脈からは「生物兵器が使われるようなことになれば軍事介入
も辞さない」という意味にとれます。
 そのレッドラインをアサド政権が越えたのです。レッドライン
発言から考えて、当然オバマ大統領は軍事介入の決断をしたので
すが、その最終決定の決断は議会に預けてしまったのです。これ
に対して下院議員の一人は「米軍最高司令官の責任を放棄するも
の」と痛烈に批判したのです。
 軍事介入の決断を議会に預ける演説をしたのは、2013年8
月31日ですが、その前日、オバマ大統領はスーザン・ライス大
統領国家安全保障問題担当補佐官らの側近に次の趣旨のことを話
したということが、高畑昭男氏の本に出ています。
─────────────────────────────
 とびきりのアイデアがある。まず君たちに聞いてみたい。議会
に決断を委ねるのだ。           ──オバマ大統領
─────────────────────────────
 側近は「議会に諮る必要はないし、議会が反対すれば大統領の
立場が悪くなる」と進言したのですが、オバマ大統領は聞き入れ
なかったといいます。
 イラク戦争のさい、ジョージ・ブッシュ大統領も議会の承認を
求めましたが、それは大統領がイラクとの開戦を宣言し、そのあ
とで、議会に諮っているのです。決定自体を議会に預けたオバマ
大統領とは違うのです。 ──[孤立主義化する米国/003]

≪画像および関連情報≫
 ●オバマ米大統領、シリア軍事介入決断/議会承認へ
  ───────────────────────────
  【ワシントン】オバマ米大統領は2013年8月31日、ホ
  ワイトハウスで記者会見し、シリアに対して限定的な軍事攻
  撃を命じることを決定したと表明した。大統領は事前に議会
  の承認を求めることにも同意した。米国のシリア攻撃は秒読
  み段階にあるとみられていたが、オバマ大統領が議会の承認
  を求めると表明したことで、シリアの化学兵器使用を受けて
  展開していた米軍の動きは停止する。米国の分析報告書によ
  ると、シリア政府は21日に化学兵器を使用し、400人以
  上の子どもを含む1400人以上が死亡した。
   オバマ大統領の側近はこれまで、大統領がシリアへの軍事
  攻撃について議会の承認を求めることはなく、大統領には軍
  事行動の開始を命じる法的な権利があるとの見解を示してい
  た。今回の決定はオバマ氏自身にとってもいら立たしい方針
  転換だった。
   大統領は議会の指導者が9月9日の議会再開から議論を行
  い、採決することで合意していると述べた。民主党が多数派
  を占める上院の指導部は再開の前倒しを検討した。シリアへ
  の軍事攻撃の方針が決まり、大統領のシリア政策は未知の方
  向に進むことになる。議会では軍事介入だけでなくオバマ氏
  を巡っても意見が割れており、対立が起きることは確実だ。
  大統領は議会での審議に同意することで、英国のキャメロン
  首相のように議会承認を得られないというリスクを負うこと
  になる。           http://on.wsj.com/29IXolG
  ───────────────────────────

議会にシリア攻撃の可否を委ねる.jpg
議会にシリア攻撃の可否を委ねる
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2016年07月14日

●「なぜ議会に最終決定を委ねたのか」(EJ第4319号)

 米国はもはや世界の警察官ではない──オバマ大統領によるこ
の演説が行われたのは、2013年9月10日、午後9時〜9時
17分、ホワイトハウスのイーストルームの間から、全米テレビ
中継を通じて米国民へ語りかけています。その要旨は、次のよう
になります。
─────────────────────────────
 私は米軍最高司令官であると同時に、世界最古の民主主義国の
大統領でもある。問題がアメリカに対する直接的脅威でない以上
討議を米議会に委ねるのが正しいと判断した。われわれの民主主
義は、議会の支持を得て大統領が行動するときに最も強力かつ効
果的となるからだ。
 イラク、アフガニスタン戦争後、いかなる軍事攻撃も、国民に
支持されないのはわかっている。国民から寄せられた声の中で、
「アメリカは世界の警察官たるべきでない」という意見にも同意
する。アメリカは世界の警察官ではない。世界で起きる凶事のす
べてを正すのはわれわれの能力と手段を超える。だが、適切な努
力とリスクによってわれわれの子孫を化学兵器から守れるなら、
われわれは行動すべきだ。          ──高畑昭男著
           『「世界の警察官」をやめたアメリカ/
       国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
─────────────────────────────
 なぜ、オバマ大統領はこんな演説をしたのでしょうか。
 それは、オバマ大統領がレッドラインを越えたとして「シリア
に軍事介入する」と決断したはずの重要決定を議会に委ねたこと
の言い訳ではなかったと思われるのです。
 やはりオバマ大統領は、何となく後ろめたさを感じていたので
はないかと思われます。大統領として決断しながら、それから逃
げるような対応について、何らかの説明が必要だと感じたものと
思われます。
 米国の大統領は「世界一孤独な権力者」といわれています。な
ぜなら、合衆国憲法では「行政権は大統領に属する」と定められ
ているからです。つまり、あらゆる権限は大統領に集中しており
それを行使するのは大統領しかいないからです。
 南北戦争を決断したリンカーン大統領、湾岸戦争に踏み切った
ブッシュ(父)大統領、アフガニスタンとイラク戦争をはじめた
ブッシュ(子)大統領のいずれも自らが決断したあとに議会の承
認をとっています。自ら決断せず、議会に最終決定を委ねたのは
オバマ大統領だけなのです。
 米国の南北戦争は、奴隷解放のために起こされた内戦といわれ
ていますが、少し事情が異なるのです。確かにリンカーンは奴隷
解放を唱えてはいましたが、けっして奴隷解放のために南北戦争
を起こしたわけではないのです。
 当時米国の南部は世界の綿花の75%を生産していたのですが
それはコストが安い奴隷を酷使することによって可能だったので
す。したがって、もし奴隷制度が廃止されると、南部は経済崩壊
を起こしてしまうことになります。
 北部もそのことはわかっていて、リンカーンを大統領に選出す
る1860年の大統領選で米国民は消極的選択をしたのです。こ
の7月10日に投開票され、自公両党が圧勝した参院選でも日本
国民は消極的選択をしたといえます。憲法改正を進めることが分
かっていて安倍政権を選んだのは、明確な選択肢を示さない野党
よりもマシという選択だったと思われるからです。
 リンカーンが何をするかわかっていた南部諸州は、リンカーン
が大統領になると、先手を打って「独立」を宣言し「アメリカ連
合国」という新しい国家を立ち上げたのです。この時点で米国は
二分されたことになります。
 リンカーンはこのことを深刻に考えたのです。もはや奴隷制度
の廃止ではなく、いかにして米国を一本化するかです。これにつ
いて、リンカーンの有名な言葉があります。
─────────────────────────────
 もし、奴隷を一人も自由にせずにアメリカを救うことができる
ものならば、私はそうするでしょう。
 もし、すべての奴隷を自由にすることによってアメリカが救え
るならば、私はそうするでしょう。
 もし、一部の奴隷を自由にし、他はそのままにしておくことに
よってアメリカが救えるものならば、そうもするでしょう。
                   http://bit.ly/29MkN5u
─────────────────────────────
 そのため、リンカーンは、それによって起こり得るあらゆる非
難や抵抗を押し切って戦争を決断し、二分された米国をひとつに
まとめたのです。リンカーン大統領の決断がなければできなかっ
たことです。二分化された国家をひとつにまとめるには戦争を起
こすしかなかったのです。大統領の決断はきわめて重いのです。
 オバマ大統領の決断で不可解なことは、「ロシアがアサド政権
を説得し、国連を通じて化学兵器を廃棄させる」というプーチン
大統領の提案をやすやすと受け入れたことです。その直前にオバ
マ大統領は、化学兵器問題ではプーチン氏と妥協しないといって
いたからです。戦争しないで済むなら、何であろうと受け入れる
のでしょうか。
 オバマ大統領は、2014年4月に訪日したとき、日米安全保
障条約第5条の対象に尖閣諸島も含まれると明言しましたが、米
側同行記者に次の質問を受けています。
─────────────────────────────
 中国が尖閣諸島を侵略した場合に、アメリカ軍を出動させて日
本を守ると約束したそうだが、それは新たなレッドラインを示し
たことにならないか。      ──高畑昭男著の前掲書より
─────────────────────────────
 これに対し、オバマ大統領は条文の解釈として既に定着してい
る内容を述べたに過ぎないと、法律家のようなコメントを返して
いるのです。      ──[孤立主義化する米国/004]

≪画像および関連情報≫
 ●米国の「真のレッドライン」は何か/イアン・ブレマー氏
  ───────────────────────────
   シリアの化学兵器使用疑惑をめぐり、米国による軍事介入
  の可能性に世界の注目が集まるなか中東における米国のレッ
  ドライン(越えてはならない一線)と信頼に深刻な影響を与
  えかねないもう1つの深刻な問題が見過ごされている。
   国際原子力機関(IAEA)の報告によると、イランは高
  度ウラン濃縮のための遠心分離機約1000基を設置し終え
  試験を行う予定だという。イランの濃縮能力が高まるに伴い
  核兵器製造のための高濃縮ウラン備蓄に必要とする時間は大
  幅に縮小している。向こう1─2年で、イランが兵器転用可
  能なウランの備蓄に必要な期間は約10日にまで減る可能性
  がある。米国が確実に対処するにはあまりに短い時間だ。
   米国が講じるシリアへの次なる一手は、イラン情勢と表裏
  一体だ。米政府が中東で懸念する最大の安全保障問題は、核
  兵器製造の可能性を秘めたイランである。核武装したイラン
  は地域を不安定化させ、原油相場に衝撃を与えるほか、米国
  の同盟諸国を脅かすことになる存在だ。長期的な見通しほど
  予測困難であり、決してそれは明るいものではない。核の力
  を手に入れたイランは中東諸国にドミノ効果を引き起こしか
  ねない。新たに「アラブの春」が起きた場合、核兵器を保有
  する破綻国家は脅威以外の何ものでもない。
                   http://bit.ly/29uEhJB
  ───────────────────────────

米国南北戦争.jpg
米国南北戦争
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2016年07月15日

●「世界の警察官は4ヶ国でスタート」(EJ第4320号)

 「世界の警察官」といえばすぐアメリカを連想しますが、本当
は5ヶ国あるのです。それは、第二次世界大戦後に創設された国
際連合の常任理事国である次の5ヶ国です。
─────────────────────────────
           1.アメリカ
           2.イギリス
           3.フランス
           4. ロシア
           5.  中国
─────────────────────────────
 これら5ヶ国の正式名称は「安全保障理事会常任理事国」とい
うのです。つまり、国際連合のこの仕組みは、昨今日本で話題沸
騰になった「集団的安全保障」という考え方を具現化し、大きな
戦争を抑止して平和を実現することです。これら5つの大国はそ
の目的を実現する主役といえます。したがって、世界の警察官は
これら5ヶ国のはずです。
 しかし、これら5ヶ国のうち、世界の警察官らしい役割を果た
してきたのは米国であるといえます。そもそもこの集団的安全保
障の仕組みそのものには大きな疑問があるのです。これについて
しばらく述べることにします。
 国際連合の前身は、第一次世界大戦後の国際連盟です。米国の
ウッドロー・ウイルソン大統領の提案によって実現した国際平和
機構の仕組みです。国際連盟は、1920年1月、連合国と中立
国あわせて45ヶ国が参加して創設されたのです。世界史でも初
めての国際的な集団安全保障の試みだったのです。この国際連盟
の創設による功績によってウイルソンはノーベル平和賞を授与さ
れたのです。
 しかし、国際連盟は力不足だったのです。なぜなら、本来大戦
を阻止する目的で創設された国際連盟が、第2次世界大戦を防げ
なかったことです。それは、さまざまな制度上の不備や平和を破
壊する国に対する制裁の仕組みを欠いていたからです。さらに物
事の意思決定は、全会一致で決めることになっており、最高意思
決定機関である総会で1ヶ国でも反対があるとどのような決議も
成立しなかったのです。
 しかし、何よりも大きな失敗は、創設の旗を振った米国がこの
国際連盟に入れなかったことです。ウイルソン大統領は議会の孤
立主義者たちの反対によって、上院の批准が得られなかったので
す。このときの経緯について、国際問題評論家の古森義久氏は著
書で次のように書いています。
─────────────────────────────
 病弱のウイルソン大統領は医師の制止にもかかわらず、国内各
地を回り、国際連盟加盟をアピールした。だが旅中に血栓症に倒
れ、上院は加盟条約の批准を否決してしまった。アメリカ国内の
一部の伝統的な孤立志向が反戦感情と結びつき、勢いを得た結果
だった。アメリカなしの国際連盟には当初、ドイツもソ連も入れ
なかった。フランスとイギリスが中心メンバーとなったものの、
両国の利害は対立した。日本やイタリアも加わったが、英仏主体
の国際連盟には冷淡だった。国際連盟の加盟国は一時は59ヶ国
にも達したとはいえ、1930年代には日本、ドイツ、イタリア
が次々と脱退していった。そして国際連盟は39年のドイツ軍の
ポーランド突入による第二次大戦の始まりに対しても、まったく
無力となった。 ──古森義久著/『国連幻想』/産経新聞社刊
─────────────────────────────
 この国際連盟の集団的安全保障の考え方を引き継ぎ、世界の警
察官を何とか実現させたいと考えたのは、第32代米大統領フラ
ンクリン・ルーズベルトです。ルーズベルト大統領は、その創設
に当たって次の2つのことの実現を目指したのです。それは、ウ
イルソン大統領の失敗の轍を踏まないようにしたことです。
─────────────────────────────
 1.アメリカ自身がその国際平和機構への加盟が実現できる
   ようにする。
 2.平和を破壊する国家に対して実力行使できる仕組みを創
   設すること。
─────────────────────────────
 同じような構想を英国のチャーチル首相も持っていたのです。
チャーチル首相は、世界を「西半球(南北米大陸)」「ヨーロッ
パ」「太平洋圏」の3つに分け、地域ごとに平和と安定をはかる
べきであると主張し、米国、英国、ソ連、フランスの4ヶ国を世
界の警察官にする案を示したのです。
 これに対して米国はアジアの中国の存在を重視し、フランスよ
りも中国を4ヶ国のなかに加えるべきであると主張したのです。
なおルーズベルト大統領は、当時日本を「平和を脅かす国」と位
置づけ、第2次世界大戦後、日本の経済力を解体して、再起不能
にするといっていたのです。そのため、中国をアジアの警察官に
しようとこだわっていたのです。これについて、白鴎大学の高畑
教授は次のように述べています。
─────────────────────────────
 4人目の警察官を「中国にするかフランスにするか」の米英ソ
連の腹の探りあいは、三者三様の利害を反映していて興味深い。
国際政治の裏で指導者の人柄や性格がいかに作用するかについて
もうかがえる。そうこうするうちに、新たな機構の骨格をまとめ
るための非公式会議が1944年8月、ワシントン郊外ジョージ
タウンのダンパートン・オークス邸で開かれた。ところが、中国
とフランスの扱いが定まっていなかったために、ソ連代表は中国
代表との同席を拒否し、米英ソ連3ヶ国の会談と、ソ連が同席し
ない米英中国3ヶ国の会談が別々に開かれる異例の方式となった
という。──高畑昭男著/『「世界の警察官」をやめたアメリカ
      /国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/005]

≪画像および関連情報≫
 ●ウイルソンと国際連盟、そしてソビエトの取扱
  ───────────────────────────
   アメリカ第28代大統領ウッドロー・ウィルソンは、第一
  次世界大戦終結へ向けて努力するばかりではなく、終結後の
  新しいヨーロッパの安全保障体制の構築に腐心をしました。
  1823年のモンロー主義による孤立主義の宣言、1904
  年の金融・財政に関しては関与を行なうというルーズベルト
  ・コロラリーの宣言のなかで、1917年4月に第一次世界
  大戦へ参戦をしたアメリカは、ヨーロッパの(国際)政治に
  は決してかかわりを持たないというそれまでの孤立主義から
  大きな変革を自らが行なおうとしたのでありました。
   なぜ、ヨーロッパの国家間関係にアメリカ大統領が、明晰
  なアドヴァイザー達と共に取り組んだのか、その背景の大き
  な理由は、まず、ハプスブルグをはじめ、ホーエンツォレル
  ン、(オットーマン)などの王朝が第一次世界大戦において
  消滅をし始めたことが上げられます。
   ヨーロッパの絢爛豪華な文化的遺産は、まさにこのような
  王朝文化であったのであり、その王朝が、一つ、また、一つ
  と次から次へと消滅してゆく第一次世界大戦の持つ意味は、
  一般のヨーロッパ人にとっては、ヨーロッパの歴史始まって
  以来のことでありました。唯一ナポレンの時代を経験してい
  ました、実際にそれを経験した人物など既におらなかったわ
  けであり、王朝が消えてゆく状況に直面したヨーロッパは、
  未曾有の政治的混乱が予想されたのであります。
                   http://bit.ly/29Delys
  ───────────────────────────

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ウッドロー・ウイルソン元米大統領
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2016年07月19日

●「安保理拒否権はなぜ設けられたか」(EJ第4321号)

 米国のルーズベルト、英国のチャーチル、ソ連のスターリンの
3人は、テヘラン、ヤルタと場所を変えて、国際連合の構想を固
めていったのです。4人目の世界の警察官をフランスにするか、
中国にするかをめぐっては意見がまるで合わなかったのです。
 チャーチルとスターリンは中国の参加に反対し、フランスにつ
いてはルーズベルトとスターリンが反対したのです。米国が推す
中国については戦いで「あまりにも弱過ぎる」とし、フランスは
英国に亡命フランス政権を組織したシャルル・ドゴール将軍が強
い反共主義者であるとしてスターリンが反対したのです。
 結局、ダンバートン・オークス邸での会議を経て、「一般的国
際機構の設立に関する提案」(ダンバートン・オークス案)がま
とまり、世界の安全を守る安全保障理事会は米国、英国、ソ連、
フランス、中国の5ヶ国に決定したのです。これによって世界の
警察官は5ヶ国になったのです。
 そのときの案には、現在とは大きく違う点があります。それは
国連の加盟国は戦争を含む武力行使が一切禁止され、もしこれに
違反すると、安全保障理事会の5人の警察官による武力行使を含
む強力な制裁を受けるというものです。
 しかし、ダンバートン・オークス案には、5人の世界の警察官
には「拒否権」が与えられており、1ヶ国でも拒否権を行使する
と、安全保障理事会は強制行動を起こせなくなってしまうという
のです。これに中南米諸国が懸念を表明したのです。
 もし、安保理常任理事国5ヶ国の利害の伴うある国が加盟国の
どこかの国を侵略しようとしたさい、利害の伴う警察官が安全保
障理事会で拒否権を使うことがあるからです。そこで、中南米諸
国は、メキシコ郊外のチャプルテペックで会議を開き、安全保障
理事会の承認が得られない場合は、自らの国を守る自衛権を行使
できるようにするという決議をしているのです。これが、次の国
連憲章第51条の「個別自衛権」になったのです。
─────────────────────────────
 ≪国連憲章/第51条≫
 この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃
が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維
持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の
権利を害するものではない。(一部省略)http://bit.ly/XZ7yG3
─────────────────────────────
 問題は、安全保障理事会常任理事国になぜ「拒否権」が与えら
れたかです。拒否権にとことんこだわったのはソ連です。これが
決まったのは、ダンバートン・オークス邸の会議においてです。
 これには面白い話があります。このとき、ソ連の主席代表とし
て出席していたのは、アンドレイ・グロムイコ駐米大使です。あ
の長い東西冷戦時代の外相として、西側をとことん揺さぶり、悩
ませた人物です。
 ところが、グロムイコ代表は、ダンバートン・オークス会議で
は、「とてもナイスで、ものわかりのよい人物」だったといわれ
ているのです。これについて、国際問題評論家の古森義久氏は次
のように述べています。
─────────────────────────────
 ソ連の国連創設への当時の取り組みは米英側が予想したよりは
ずっとスムーズで柔軟だった。だからこそグロムイコ代表の言動
も「ナイス」と評されたのだろう。ただし同じ人物評でも崩壊し
た旧ソ連側に語らせると「ダンバートンオークス会議でのグロム
イコはスターリンの理想的な走り使い少年だった」(ヘンリー・
トロフィメンコ・ロシア科学アカデミーUSAカナダ研究所首席
アナリスト)となる。(中略)ダンバートンオークス会議ではグ
ロムイコ代表はおどろくほどの協調性を示し、米英側の国連に関
するほとんどの提案に柔順に同意した。
        ──古森義久著/『国連幻想』/産経新聞社刊
─────────────────────────────
 しかし、グロムイコソ連代表は、次の2つのことに関しては、
絶対に譲らなかったのです。
─────────────────────────────
 1.国連に参加するのは、ソ連邦だけでなく、構成する15
   の共和国すべてを個別に加盟させる。
 2.国連での重要な平和と安全の案件についてはすべての安
   保理常任理事国の賛成を必要とする。
─────────────────────────────
 実はグロムイコソ連代表にはしたたかな計算があったのです。
本当に通したいのは「2」であり、「1」については少し譲って
もよいという計算です。「1」の15の共和国全部の参加につい
ては、協議の結果、ソ連邦と、ウクライナ、ベラルーシ両共和国
の3国の加盟で決着したのです。大幅譲歩です。
 しかし、「2」に関しては、ソ連代表は絶対に譲らなかったの
です。米英側は、拒否権の制限を主張し、常任理事国のうち4ヶ
国が賛成すれば、残り1国の拒否権は認めないという案や、紛争
案件の当事者はもちろん、利害関係国は採決に加わることができ
ない仕組みを提案したのですが、グロムイコソ連代表は微動だに
しなかったのです。
 確かに当時の中国は自由主義陣営に属していたので、米英仏中
が組めば、ソ連は孤立し、自国に不利益な決定を押し付けられる
ことを警戒したものと思われます。結局、米英が折れて、国連憲
章はソ連の要求を受け入れ、1945年4月〜6月にサンフラン
シスコで行われた国連憲章制定会議で確定したのです。
 しかし、国連の運営はこの拒否権が大きなカベになり、空転を
重ねて行くことになるのです。しかもソ連は現在のロシアとなり
中国は共産主義国家として安全保障理事会の常任理事国の一角を
依然として占めているため、北朝鮮の暴挙のように、本当に国連
として動かなければならないときに、何も有効に機能できない状
態が現在も続いているのです。
            ──[孤立主義化する米国/006]

≪画像および関連情報≫
 ●国連の安保理が平和の障害になっている/2015年記事
  ───────────────────────────
   国連が創設されたのは70年前。その主要機関の一つであ
  る安全保障理事会は、国際平和と安全に責任を持つことを目
  的に作られた。しかし、理事会の構成や、常任理事国だけに
  与えられた拒否権の問題などで、その影響力の限界が指摘さ
  れており、創設70年を節目に、新たな改革が求められてい
  る。安保理は、常任理事国5ヶ国(中、仏、英、米、露)と
  総会が2年の任期で選ぶ非常任理事国10ヶ国で構成されて
  いる。来年より、日本も非常任理事国となることが決まって
  いる。インターナショナル・ビジネス・タイムズ(IBT)
  に寄稿した、インドの政治家で国連事務次長も務めたシャシ
  ・タルール氏は、安保理は1945年当時の地政学的現実を
  反映し、現状に合っていないと主張する。同氏は、創設当時
  51ヶ国だった国連加盟国は現在193ヶ国となっているの
  に、安保理の理事国は11ヶ国から15ヶ国に増えたのみだ
  と指摘。また、創設時のパワーバランスに重きが置かれ、世
  界人口の5%に過ぎない欧州が議席の33%を支配していた
  り、70年前に戦勝国だったという理由で常任理事国がその
  地位や拒否権を享受しているのはおかしいとし、改革が必要
  だと述べている。         http://bit.ly/29zOid0
  ───────────────────────────

グロムイコ元ソ連外相.jpg
グロムイコ元ソ連外相
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2016年07月20日

●「なぜ、NATOは創設されたのか」(EJ第4322号)

 国連憲章第51条をもう一度読んでみましょう。第51条を再
現します。
─────────────────────────────
 ≪国連憲章/第51条≫
 この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃
が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維
持に必要な措置をとるまでの間、「個別的又は集団的自衛の固有
の権利」を害するものではない。(一部省略)
             「」は著者 http://bit.ly/XZ7yG3
─────────────────────────────
 この第51条は、世界の平和を脅かす紛争には、基本的に国連
の安全保障理事会が対応するが、その手続きが整うまでの間、当
事国がその敵と戦う自衛権(個別自衛権)の発動を妨げるもので
はないことを規定しています。
 この場合、個別自衛権に加えて「集団的自衛権」も認められて
いることは注目に値します。これは、実質的には、2国間、多国
間の同盟を指していることが明らかだからです。これは、安全保
障理事会による集団安全保障システムがきちんと機能すれば、国
連加盟国が多国と同盟を結び、集団的自衛権を行使する必要はな
いはずです。まさにこれは、理想と現実のギャップであり、その
ギャップは現在に至るも解決できないでいるのです。
 日本は個別的自衛権を発動させるために、事実上の軍隊(自衛
隊)を持ったものの、米国と同盟を結んでも集団的自衛権だけは
憲法の関係上使えないようになっていたのです。しかし、安倍政
権による安保法制の成立によって、制約付きではあるものの、集
団的自衛権が使えるようになったのです。
 国際連合の基本フレームを構築したのは、米国のルーズベルト
大統領、英国のチャーチル首相、ソ連のスターリン書記長の3人
ですが、理想主義者のルーズベルト、現実主義者のチャーチル、
狡猾なスターリン──彼らはまるで性格が違うのです。
 国連構築の会議において、スターリンは終始笑顔で、機嫌が良
かったそうです。そのため、ルーズベルトはスターリンを信頼し
てしまい、個人的な親近感を深めつつあったといいます。「ソ連
とだって十分話し合いができる」と思い込んでしまったのです。
そして拒否権などの絶対に譲ってはならないものもソ連に譲歩し
てしまっています。
 しかし、チャーチルは、スターリンの笑顔の裏に隠された野心
を持つ独裁的な性格を早くから見抜き、当時欧州に広がりつつあ
ったソ連共産主義は脅威と考えていたのです。そして、まさに事
態はチャーチルの懸念した通りになったのです。これに関して、
白鴎大学の高畑教授は次のように述べています。
─────────────────────────────
 ルーズベルトの理想を阻んだのは、大戦終結と同時に始まった
東西冷戦の現実である。それを端的に示すエピソードが、早くも
2ヶ月後に起きている。英国首相を退いたチャーチルは1946
年3月、トルーマン大統領の招きで訪米し、ミズーリ州アルトン
のウエストミンスター大学で国際情勢に関する演説を行った。こ
の中でチャーチルは、すさまじい勢いで欧州に広がるソ連共産主
義の脅威について「バルト海のシュテッティンからアドリア海の
トリエステまで、欧州大陸を横切る『鉄のカーテン』が降ろされ
た。中欧、東欧の歴史ある国々の首都がカーテンの向こう側に閉
ざされた」と警告し、欧州が東西に分断されつつある深刻な状況
に目を向けるよう訴えた。冷戦の緊張を象徴する「鉄のカーテン
演説」として知られる有名なスピーチである。 ──高畑昭男著
           『「世界の警察官」をやめたアメリカ/
       国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
─────────────────────────────
 チャーチルのいうシュテッティンは、ポーランド北西部の都市
であり、トリエステはイタリア北東部の現スロベニア国境のある
港町です。これら両都市を結ぶラインの左側にあるポーランド、
チェコスロバキア、ハンガリー、ユーゴスラヴィア、ルーマニア
ブルガリアなどにソ連の鉄カーテンが降ろされ、それらの国はい
ずれも自由のない暗黒の世界に引きずり込まれた──チャーチル
はこのように訴えたのです。
 1949年にソ連は原爆開発に成功します。そうすると、米国
の核兵器独占態勢は崩れ、ソ連の脅威は一層強くなります。これ
によって生まれたのがNATO(北大西洋条約)です。ベルギー
オランダ、ルクセンブルグ、イギリス、アメリカの西欧5ヶ国は
イタリア、ポルトガルの南欧2ヶ国、アイスランド、デンマーク
ノルウェーの北欧3ヶ国にカナダを巻き込んで、北太平洋条約を
締結し、軍事同盟のNATOが生まれたのです。1949年4月
のことです。北大西洋条約の第5条には次の規定があります。こ
こにも国連憲章第51条が出てくるのです。
─────────────────────────────
≪北大西洋条約/第5条≫
 締約国は、ヨーロッパまたは北アメリカにおける1または2以
上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすこ
とに同意する。したがって、締約国は、そのような武力攻撃が行
われたときは、各締約国が、国際連合憲章第51条の規定によっ
て認められている個別的又は集団的自衛権を行使して、北大西洋
地域の安全を回復し及び維持するために、その必要と認める行動
(兵力の使用を含む)を個別的に及び他の締約国と共同して直ち
に執ることにより、その攻撃を受けた締約国を援助することに同
意する。               http://bit.ly/29CsBJh
─────────────────────────────
 要するに、「NATO加盟国に対する武力攻撃は、全加盟国に
対する武力攻撃とみなす」を柱とする集団的自衛権です。これに
対してソ連も1955年に東側陣営を糾合したワルシャワ条約機
構(WTO)を創設して、NATOに対抗したのです。
            ──[孤立主義化する米国/007]

≪画像および関連情報≫
 ●欧米唯一の指導者/ウラジミール・プーチン
  ───────────────────────────
   売女マスコミ人間、ロビン・エモットとサビーヌ・シーボ
  ルトによるロイターのニュース報道が、欧米には正直で理性
  的で信頼できるジャーナリストや政府幹部が全くいないこと
  を示している。http://reut.rs/29vmAJy
   まず、記者の不誠実さ、無能さを検討し、次に欧米政府幹
  部のそれを検討しよう。エモットとシーボルトは、NATO
  を“欧米の防衛同盟”と表現している。クリントン政権以来
  NATOは、アメリカ合州国が確立したニュルンベルク原則
  の下では、戦争犯罪にあたる攻撃的戦争を仕掛ける同盟だ。
  NATOの旗印のもとで、NATOの隠れ蓑の下で、アメリ
  カ政府によって、多数の国々が爆撃され、侵略され、政府を
  打倒された。これら破壊された国々は、NATO同盟の国々
  に対する、いかなる脅威ともなっておらず、NATO加盟諸
  国に対する、いかなる攻撃的行動も行ってはいなかった。ロ
  イターの記者や編集者連中は、一体どうして、これに気がつ
  かずにいられるのだろう?彼らは、一体なぜ、アメリカ政府
  の侵略道具を“防衛同盟”と呼ぶのだろう?エモットとシー
  ボルトは、“ロシアによる侵略が”NATOが、3000人
  から、4000人の兵士をバルト諸国やポーランドに派兵し
  ている理由だと報じている。言い換えれば、バルト三国とポ
  ーランドに対する、ありもしないロシア侵略なるものが、軍
  事的配備によって対抗すべき事実とみなされているのだ。
                   http://bit.ly/29DUvRx
  ───────────────────────────

スターリンソ連書記長.jpg
スターリンソ連書記長
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2016年07月21日

●「中仏両国は常任理事国の資格なし」(EJ第4323号)

 世界平和を目指す目的で創設されたはずの国際連合(国連)が
3人の創設者、米国のルーズベルト、英国のチャーチル、ソ連の
スターリンのうち、ルーズベルトがスターリンに親近感をおぼえ
たせいか拒否権などでスターリンに大幅な譲歩を重ね、1945
年4月12日に病死してしまうのです。
 1945年10月24日、加盟国の半数以上の国連憲章の批准
が終わり、国連は正式に発足したのです。既に8月には日本が無
条件降伏し、長く苦しい世界大戦が終わり、これからは国連の安
全保障システムによる平和な時代が訪れると世界中が期待したの
です。しかし、国連発足1年も経たないうちに、その期待は裏切
られることになります。
 それは、米国とソ連という超大国とその陣営の対立による東西
冷戦が激化したためです。そのために西側陣営はNATO、東側
陣営はWTOという東西両陣営の軍事同盟が対峙するという平和
どころか、一触即発の最悪の事態になってしまったのです。
 その国連に対して、フランスの国際政治学者のモーリス・ベル
トラン氏は、次のように国連を皮肉ったのです。
─────────────────────────────
 国連は紛争を解決する平和の守護者ではなく、「芝居の舞台」
として機能するようになった。   ──モーリス・ベルトラン
─────────────────────────────
 「芝居の舞台」とはどういう意味でしょうか。これについて英
国の国連代表団の高官で、国連の歴史研究家のエバン・ルアード
氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 1945年から55年までの国連は失敗に終わった。大多数の
加盟国は国連を大国やその他の国が紛争を解決するための場所と
みなしていなかった。国連はむしろ公然と議論し、反対側と公的
に非難し、決議案を示し、世論を一定方向へ扇動する場とみてい
た。国連は平和を模索する場というよりは戦場であり、互いを理
解しあう場というよりは、互いをだますための場であり、和解よ
りは対立のための道具として認識されるようになった。1945
年からの10年間、国連は冷戦の一手段にすぎなくなった。国連
は東側諸国にとって、自分の意見を世界に宣伝するための場だっ
た。西側諸国にとって国連は多数票を獲得し、世界が自分たちの
側についていることを示せる、という場となった」。
        ──古森義久著/『国連幻想』/産経新聞社刊
─────────────────────────────
 つまり、国連の紛争解決の機能は、拒否権などによって最初か
ら有名無実化し、政治プロパガンダを演ずる場所となり、その意
味において、「芝居の舞台」といわれるのです。
 ここまで述べてきたように、国連の構想は第二次世界大戦中に
企画されています。したがって、第二次世界大戦の勝者が戦後の
国際秩序を統治するためのメカニズムとして意図されていたので
す。そのため、その勝者は、安全保障理事会の常任理事国として
拒否権という特権を与えられることになったのです。
 それでは「勝者の条件」とは何なのでしょうか。
 「枢軸国」という言葉があります。これは、第二次世界大戦で
のドイツ・イタリア・日本の日独伊三国同盟を中心とした諸国の
ことをいうのです。したがって、その枢軸国と戦った連合国が勝
者ということになります。
 しかし、連合国といっても、第二次世界大戦における戦闘で莫
大な犠牲を払い、枢軸国を破った国こそ真の勝者です。そういう
意味では、米英ソの3ヶ国ということになります。フランスと中
国(中華民国)は勝者ではないのです。ソ連と英国は、ドイツと
戦って勝利しており、米国は日本に勝利しているのに対し、フラ
ンスはドイツに、中国は日本に破れているからです。
 その証拠として、終戦後枢軸国側への要求や戦後への構想を決
める重要会議では、フランスと中国は外されています。テヘラン
会議やヤルタ会談は、米英ソの3大国主導で決められています。
ということは、米英ソこそ枢軸国に対する勝者であり、3人の警
察官だったということになります。
 それではフランスはどうだったのでしょうか。
 フランスは戦争ではドイツに破れて降伏し、全土を制圧され、
親ナチスのビシー政権を誕生させています。ドイツへの抵抗勢力
としては、ドゴール将軍が英国において「国民解放戦線」を立ち
上げていますが、これに関して米国もソ連もこの亡命政権風の組
織を政府としては認めておらず、フランスに対してきわめて冷淡
だったといえます。
 それらの勝者というより敗者である中国を米国が、フランスに
関しては英国が自国の思惑で、枢軸国への勝者として安全保障理
事会の常任理事国の特権を与えているのです。これを認めたとこ
ろに国連の深刻なひずみが存在するといってもよいのです。
 それから70年以上を経た現在でも、これらの5大国は常任理
事国に名を連ねています。しかも、このうちソ連はロシアとなり
中国は中華民国から中華人民共和国に変わったにもかかわらず、
依然として常任理事国の地位を保っているのです。これは、きわ
めて奇異なことです。これら5ヶ国は真に世界の平和を維持する
大国としての務めを本当に果たしているとはいえないからです。
 国連予算の分担率を見ると、2016年は次のようになってい
ます。常任理事国でない日本とドイツが5位内に入っています。
─────────────────────────────
       分担率      分担金額(百万ドル)
   アメリカ  22%           594
     日本  10%           237
     中国   8%           194
    ドイツ   6%           156
   フランス   5%           119
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/008]

≪画像および関連情報≫
 ●「戦勝5ヶ国の絶対権利」は永久不滅なのか
  ───────────────────────────
   フランスは2001年、国連安全保障理事会の常任理事国
  (米英仏ロ中)は、大量虐殺のような犯罪行為に歯止めを掛
  ける事案に関しては拒否権の行使を控えるべきだという提案
  を持ち出した。国連創設70周年記念を目前にした現在、オ
  ランド大統領はこの案を再び積極的に追求し始めている。は
  たして、実現は可能だろうか。
   当然、ロシアと中国が難色を示すのは想像にかたくない。
  ロシアは旧ソ連時代を合わせて1946年以降、実に100
  回以上の拒否権行使を行っている。2011年以降は4回の
  拒否権行使を行い、シリアにおける虐殺行為に歯止めをかけ
  るための決議を妨害している。
   拒否権行使が約80回に上る米国も、この件に関しては熱
  心さを欠いている。フランス案を支持しているのは英国のみ
  である。拒否権を廃止もしくは制限するような、正式な定款
  変更が実現することはありえないと、誰もが考えている。
   しかしここ15年間でP5に対する国際的な圧力は高まっ
  ている。2005年総会における「保護する責任」原則の全
  会一致の採択以降、それはより一層顕著になっている。シリ
  ア情勢に対する決議の妨害は激しい嫌悪を生み出しており、
  最新の総計では、68ヶ国がさまざまな国連フォーラムでフ
  ランス案に対する支持を表明していた。
                   http://bit.ly/1C5ilAT
  ───────────────────────────

国連安全保障理事会.jpg
国連安全保障理事会
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2016年07月22日

●「UNは国際連合を意味していない」(EJ第4324号)

 日本人が何の疑問もなく「国連」と呼ぶ国際機関は、次の英語
を翻訳したものです。
─────────────────────────────
   United Nations/ユナイテッド・ネーションズ/UN
─────────────────────────────
 「ユナイテッド・ネーションズ」をそのまま訳せば「連合国」
になります。どのように考えてもユナイテッド・ネーションズは
「国際連合」とは訳せないのです。これは完全なる誤訳です。し
かし、なぜこの明らかな誤訳を現在においても日本はまだ使って
いるのでしょうか。
 日本で国連と呼ぶ軍事同盟の名前は意外に早くから決まってい
ます。これについて、古森義久氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 この軍事同盟を「ユナイテッド・ネーションズ」と最初に呼ぶ
ことを提唱したのは日本軍のパールハーバー奇襲を受けた直後の
アメリカのルーズベルト大統領だった。ホワイトハウスを訪れ、
入浴中だったイギリスのチャーチル首相に相談し、同意を得たと
いうのが定説である。
 チャーチル首相はイギリスの詩人、バイロンがうたった「ユナ
イテッド・ネーションズが剣を抜けば」という一節を引用して賛
意を表したという。その呼称は「連合国」としてすぐ42年1月
1日に発効した大西洋憲章に盛られた。その2年半後のダンパー
トンオークス会議では戦後の国際機関もこの軍事同盟と同じ呼称
にすることが決められた。その過程ではソ連は「世界連合」を、
イギリスは「世界評議会」を、それぞれ新国際機関の名に提唱し
たという。   ──古森義久著/『国連幻想』/産経新聞社刊
─────────────────────────────
 重要なのは、この名称が決まったのが、第二次世界大戦中であ
ることです。さらに、国連の創設が決まった1945年6月の時
点でも戦争はまだ終わっておらず、唯一の枢軸国として日本は連
合国に対して血みどろの抗戦を展開していたのです。
 驚くべきことは、連合国側は、日本軍が米国に宣戦布告し、真
珠湾を攻撃した1941年12月の時点で、この戦争の勝敗の帰
趨はついたとして、そのため、戦争勝利後の世界をどう統治する
かという思索をめぐらせていたのです。そのシナリオが、ユナイ
テッド・ネーンョンズであったということができます。
 そのため、連合国の敵国であった日本やドイツなどに対しては
ユナイテッド・ネーションズでは「敵国条項」が設けられており
現在も残っているのです。ちなみに、ここでいう「敵国」を正確
にいうと、日本、ドイツ、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー
フィンランドなのです。どういうわけか、イタリアが入っていな
いのです。どうして入っていないのでしょうか。
 それは、イタリアが途中で枢軸国から脱退、日本とドイツに宣
戦布告したので除外されているのです。ドイツについてもナチス
・ドイツから国の体制が変換したという理由で、敵国から外そう
とする動きもあったといわれます。ドイツは欧州の一国であり、
この国を敵国に回すと、困ることがあるからです。結局、日本だ
けが悪者になってしまうことになります。これもきわめて不可解
な勝者の論理ということになります。
 つまり、ユナイテッド・ネーションズという名の軍事同盟は、
ナチス・ドイツや日本のような侵略国家が二度と生まれないよう
にするためのものであり、日本やドイツを戦後に再起不能な状態
にまで解体し、第二次世界大戦を戦った米英ソの連合国の大国が
その後の世界を支配する目的を持っていたのです。
 ところが、米英ソのうち、ソ連が東側陣営を糾合し、米英を中
心とする西側陣営との間で冷戦構造をつくるに及んで、この軍事
同盟の構想が根本から崩れてしまうのです。逆にいうと、これが
日本とドイツを救ったといえます。
 不可解なのは、日本は「連合国」と訳すべきユナイテッド・ネ
ーションズをなぜ「国際連合」と訳したのでしょうか。ちなみに
中国では忠実に「聯合国」と訳しているし、台湾においてもそれ
が公式呼称になっています。
 当時の日本の外務省当局は、当然のことながら、ユナイテッド
・ネーションズの性格を知っていたはずです。そうでいながら、
あえて実体にそぐわない「国際連合」という訳語を当てはめたも
のと考えられます。むしろ戦後日本は国連に積極的に深く関わり
それを本当の意味の世界平和を実現する国際機関に変えることを
意図していたのではないかと考えられます。
 なにしろ日本は太平洋戦争において「退却」を「転進」、「全
滅」を「玉砕」、「敗戦」を「終戦」、「占領軍」を「進駐軍」
といい換えてきた国であり、こういうことは得意だからです。し
かし、「連合国」を「国際連合」としたことは、失敗だったとい
う指摘があります。元外務省国連局社会課長の色摩力夫氏です。
─────────────────────────────
 戦後のわが国の社会にあり得べき違和感を懸念して、俗耳に入
り易い「政治的表現」を狙ったらしい。だがこれは賢明な判断で
はなかった。「国連」という呼称がわれわれ日本人の途方もない
「国連神話」を生み出す要因の一つとなったからだ。
     ──色摩力夫著『国際連合という神話』/PHP新書
        ──古森義久著/『国連幻想』/産経新聞社刊
─────────────────────────────
 ところで、敵国条項については日本の努力もあって、1995
年に国連総会で「旧敵国条項の削除を検討する報告書承認」決議
案を採択。賛成155、反対0、棄権3という圧倒的多数の支持
で採択されたのです。しかし、敵国条項は今もって削除は行われ
ていないのです。
 国連憲章の改正は、加盟国の3分の2以上の国々が国内手続き
にしたがった批准をしなければならないというえらく面倒な手続
きが必要だからであり、決議が採択されても依然敵国条項は残っ
ているのです。     ──[孤立主義化する米国/009]

≪画像および関連情報≫
 ●国際連合(国連)なんか存在しない
  ───────────────────────────
   私が自虐史観から目覚めるのに欠かせなかったのが、独立
  総合研究所の青山繁晴さんの存在。青山繁晴さんは、毎週水
  曜日に関西地方で夕方17時〜19時に放送されている「ス
  ーパーニュースアンカー/関西テレビ」に出演し、大変重要
  な事実を伝え続けてくれています。
   本日、2013/1/16(水)のスーパーニュースアン
  カーの青山繁晴さんのお話は、まさに過去の戦争で日本に押
  し付けられた戦後体制のお話が一部ありました。私たちは、
  United Nations=国際連合(平和を維持するため世界各国が
  協調するための機関)などと学校で教わるし、テレビや新聞
  でもそう伝えられるので、それが正しいと思い込んできまし
  た。しかし、中国をはじめ、世界各国で United Nations の
  訳語は「連合国」なんです。つまり、先の大戦で勝利した連
  合国が、恒久的に世界支配の座につき、利益追求するために
  作った虚構なのです。日本は国連憲章の中で未だに「敵国」
  扱いされている、「敵国条項」があります。それにつけこん
  で中国は「日本は敵国だから、侵略行為をすれば国連安保理
  の決議無でも攻撃しても良い」という論理を掲げ、尖閣諸島
  に挑発を繰り返しているのです。
   国連が常任理事国の利益だけを追求した胡散臭い機関であ
  ることくらいもう知っていたけど、まさに世界は「連合国」
  と認識しているにも関わらず、日本だけが「国際連合」など
  という誤訳を押し付けられ、真実を隠されてきたんです。
                   http://bit.ly/2ae8Eqe
  ───────────────────────────


古森 義久氏
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2016年07月25日

●「なぜUNを国際連合と訳したのか」(EJ第4325号)

 ルーズベルトが理想として掲げた国連による集団安全保障シス
テムをごく簡単に述べるとこうなります。
 それは、「戦争なき世界」を実現するために各国の武力行使を
原則禁止し、侵略行為が起きたときに安全保障理事会と常任理事
国の「5人の警察官」が合意の下で武力行使権限を行使し、平和
を回復する仕組みです。「5人の警察官が力を合わせて世界の平
和を守る」という壮大な理想であるといえます。
 このさい、実際に紛争処理に当たるのは国連に常設する「国連
軍」ということになっています。国連軍とは安全保障理事会(安
保理)と特別協定を結んだ加盟国がそれぞれ兵力を供出し、安保
理に直属する軍事参謀委員会の助言を得て、軍隊を直接指揮する
というものです。
 しかしすべては理想倒れに終わっています。何よりもソ連のゴ
リ押しで常任理事国に「拒否権」が与えられたことによって集団
安全保障システム自体が機能不全に陥っています。国連軍につい
ても肝心の安保理と特別協定を結ぶ国がなく、いままで一度も組
織されたことはないのです。
 といっても「国連軍」らしいものが結成されたことがこれまで
に2回あります。「朝鮮国連軍」とイラクを攻撃するための湾岸
戦争のさいの「多国籍軍」の2つです。これについては、改めて
述べることにします。
 さて、ここでなぜ日本政府がユナイテッド・ネーションをあえ
て「国際連合」と訳し、いままで使ってきたかということについ
て考えます。なお、日本が国連に加盟するまでの記述は「UN」
という表現を使うことにします。
 UNの集団安全保障システムが正常に機能するなら、加盟国は
自国を防衛するための最小限度の軍隊組織を持つだけでよいこと
になります。よく考えると、自国の防衛以外に他国に武力行使を
しない憲法を持つ日本にとってUNの集団安全保障システムは実
に理想的なものであるといえます。
 日本は、サンフランシスコ講和条約が発効し、主権が回復した
1952年にUN加盟を申請したのですが、冷戦の最中でもあり
ソ連をはじめとする社会主義国の反対によってなかなか実現しな
かったのです。
 しかし、1956年10月の日ソ共同宣言とソ連との国交回復
によって、1956年12月12日に安保理決議121の承認勧
告を得て、12月18日の全会一致の承認で、80番目のUN加
盟国になったのです。
 日本は、国連に加盟すると、異常なほど国連に力を入れ始めた
のです。日本は折からの高度成長の波により、国力を向上させて
いたので、80番目の加盟国とはいえ、しだいに国連における影
響力を高めつつあったのです。確かに国連が適切に機能してくれ
れば日本にとっては有益です。
 そのため、実際は常任理事国の拒否権によって機能不全に陥っ
ていた国連を「世界平和実現のための国際機関」にしようとして
「国際連合」と訳したものと考えられます。ちなみに日本が国連
に加盟した1956年の通常予算の分担率は1・92%であり、
当時の加盟国80ヶ国が出す予算総額の50分の1以下の資金を
負担するに過ぎなかったのです。しかし、日本は2016年には
米国に次いで分担率は10%を負担するまでになっています。
 しかし、多額の分担金を負担する割には、日本の国連に占める
影響力は必ずしも高いとはいえないのです。これについては、外
国の国連専門家たちからは、日本の影響力の微小さについて不公
平であるとの声も上がっています。
─────────────────────────────
◎フランス国際法学者ロスタン・メイディ氏
 日本は急速に増えている国連平和維持活動(PKO)経費の多
くを負担しているが、意思決定過程からは外されている。この事
実に日本側から強いいらだちの感情が起きるのは当然だろう。
◎米国元国務次官補プリンストン・ライマン氏
 国連では、分担金の額が影響力の主要素であることは疑問の余
地がない。アメリカに近い最高レベルの金額を長年払いつづけて
きた日本の国民からその支払額にふさわしい地位を国連で得るこ
とへの期待が当然出るだろう。
        ──古森義久著/『国連幻想』/産経新聞社刊
─────────────────────────────
 問題は、常任理事国の改革を含む国連改革の実施です。これに
ついては、長い間にわたって一顧だにされなかったのですが、こ
こにきて、少しずつその機運が盛り上がりつつあります。なぜな
ら、本来は世界の警察官の役割を果たすべき常任理事国が本来の
任務を果しているとはいえないからです。オバマ米大統領までが
「もはやアメリカは世界の警察官ではない」という始末です。
世界の警察官であるからこそ常任理事国のポストが与えられてい
ることをオバマ大統領は忘れています。
 2016年7月21日付、日本経済新聞の夕刊に、次期国連事
務総長候補のアルゼンチンのスサナ・マルコラ外相の記事が掲載
されていたので、紹介します。
─────────────────────────────
◎事務総長選で安保理改革訴え/候補のアルゼンチン外相
 次期国連事務総長選に立候補しているアルゼンチンのスサナ・
マルコラ外務・宗務相は日本経済新聞の取材に応じ、「一部の国
のみが決定権を持つ国連安全保障理事会は行き詰まっている」と
話した。次期総長選の争点として安保理改革の是非を問う意向を
示した。2016年末に退任する国連の潘基文事務総長の後任選
びに立候補している。「(政治的権限を持たない)事務総長は意
思決定する立場ではないが、私は意思決定の過程に選択肢を提供
できる」として、常任理事国に偏重した意思決定の仕組みの変革
を訴えた。 ──2016年7月21日付、日本経済新聞/夕刊
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/010]

≪画像および関連情報≫
 ●安保理は機能不全から抜け出せるか/安保理関係者
  ───────────────────────────
   「国連は今、悩み続けている」。2012年の暮れ、国際
  社会の平和と安全を守ることを任務とする国連安全保障理事
  会の関係者は、NNNの取材に対してこう漏らした。
   確かに、2012年ほど、安保理の限界が声高に批判され
  た年もなかっただろう。拒否権を持つ常任理事国の意見の不
  一致。そして、その度に、国際社会として一枚岩の対応に出
  られないという機能不全。その象徴がシリア問題だった。
   内戦の激化により死者が4万人を超えたともいわれるシリ
  ア問題で、この1年、安保理は何ら有効な対応策を打ち出す
  ことができなかった。アサド政権への制裁を求める安保理決
  議案は、3度にわたってロシアと中国の拒否権で廃案となっ
  た。「欧米」対「中露」で分裂する安保理に孤立無援となっ
  た特使のアナン前国連事務総長は、任命からわずか半年で、
  安保理への批判を口にして調停役から自ら退いた。
   また、シリアに派遣された非武装の停戦監視団も、数か月
  間の活動で撤退を余儀なくされた。そもそも、そこには監視
  するべき「停戦」などなかったからだ。アサド政権は数度に
  わたって停戦を受け入れるかのような姿勢を見せたが、結局
  戦闘がやむことはなかった。
   こうした事態に安保理が対応できなかった最大の理由。そ
  れは国際社会の結束の欠如だ。アサド政権に対する圧力の是
  非、また、国際社会はどこまで介入するべきか、こうした点
  で安保理は「欧米」対「中露」で真っ二つに割れ、結局、内
  戦収束に向けた道筋をつけることはできなかった。
                   http://bit.ly/2a4Lx2o
  ───────────────────────────

スウェーデン/スサナ・マルコラ外相.jpg
スウェーデン/スサナ・マルコラ外相
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2016年07月26日

●「朝鮮国連軍は現在も存在している」(EJ第4326号)

 最も「国連軍」らしいものが結成されたのは、朝鮮戦争のとき
の「朝鮮国連軍」です。そこで、どのようにして朝鮮戦争が起き
たのかについて考えてみます。
 北朝鮮軍が韓国に侵入したのは、1950年6月24日の午後
10時頃のことです。そのとき、トルーマン米大統領は、ホワイ
トハウスではなく、ミズリー州インデペンデンスの自宅にいたの
です。そこにアチソン国務長官による北朝鮮軍侵入の速報が入っ
たのです。
 トルーマン大統領は、翌25日に安保理を緊急招集し、北朝鮮
による武力攻撃により、韓国の平和が破られたとし、北朝鮮に対
し、直ちに攻撃停止と軍の撤収を求める決議(82号)を9対0
で採択します。続いて、韓国政府の要請に対し、攻撃を撃退し、
国際平和と安全を回復するために必要なあらゆる支援を加盟国に
求める決議(83号)を7対1で採択しています。極めて迅速な
決定です。このとき安保理は正常に機能したのです。
 安全保障理事会は、現在においては常任理事国5ヶ国、非常任
理事国10国の15ヶ国の構成ですが、1965年以前は非常任
理事国6ヶ国の11ヶ国の構成だったのです。2つの決議のうち
82号の9対0はソ連ともう1国の欠席、83号は反対はユーゴ
スラビア、ソ連、エジプト、インドは欠席です。
 このときなぜソ連は、欠席していたのでしょうか。
 これについては、少し歴史を振り返る必要があります。朝鮮半
島が分断された原因は、ソ連のスターリンの策略にあります。当
時、日本とソ連は中立条約を結んでいたのです。しかし、スター
リンは、米国のルーズベルト大統領、英国のチャーチル首相との
ヤルタでの密約に基づき、広島、長崎に原爆が投下された直後の
1945年8月に「日ソ中立条約は延長せず」と日本に一方的に
通告し、日本に宣戦布告し、侵攻を開始したのです。
 この侵攻のとき、ソ連軍は満州と朝鮮半島になだれ込み、朝鮮
半島の北部に日本が降伏した後も居座り続けたのです。当時朝鮮
は日本が併合していたのです。このソ連の行為を日本人は決して
忘れてはなりません。なぜなら、ソ連はやってはならないことを
日本に対して2つやっているからです。
 1つは日ソ条約の条約違反です。ソ連は一方的に条約を延長し
ないと通告していますが、条約は1946年まで有効であり、明
らかな条約違反ということになります。
 2つは、事実上敗戦が決まっていたのに、北方領土までソ連軍
が占領したことです。これが違法であることはいうまでもないこ
とです。この問題は現在に至るも解決していないのです。
 ソ連が朝鮮半島北部、正確にいうと、北緯38度線の北部に居
座ったのは北方領土を占領した策略と同じです。戦争終結のどさ
くさに紛れて他国の領土に侵攻し、そのまま居座って自国の支配
下に置く卑劣な作戦です。
 朝鮮半島については、共同信託統治下に置かれ、速やかに統一
国家として独立されることが連合軍として原則合意されていたの
です。そのため、朝鮮半島に居座り続けるソ連に対し、米国は朝
鮮半島からの撤退を要求したのです。
 しかし、ソ連は撤退しなかったのです。そのとき米軍は朝鮮半
島の南部に展開していたものの、その数は限られていたのです。
なぜなら、米軍の多くは日本にいて、日本軍の終戦処理に追われ
ていたからです。
 ソ連は北への自由な出入りを禁止し、日本が残した産業基盤を
接収し、本気で統治を始めたのです。米国は国連総会の決議の下
に朝鮮に関する国連臨時委員会を創設し、朝鮮半島の南北両域で
の自由選挙を求めたものの、ソ連は拒否し、そのまま朝鮮の北部
に居座り続けたのです。
 米国はやむを得ず、朝鮮半島の南部地域だけに自由選挙を実施
させ、1948年8月に李承晩を初代大統領とする大韓民国が正
式に発足するのです。それを待っていたように、同年9月9日、
ソ連の後押しによって、朝鮮民主主義人民共和国が金日成を主席
として共和国樹立の宣言をします。これが、朝鮮半島の南北分断
のはじまりです。
 これに平行してソ連は安全保障理事会に対し、難問を持ちかけ
ていたのです。それは、1949年10月1日に建国された中華
人民共和国を安全保障理事会の常任理事国として、中華民国に代
わって就任させよと迫っていたからです。しかし、米国などの多
数派が拒否したため、それを不服としてソ連は安全保障理事会を
ボイコットしています。
 もちろん北朝鮮をそそのかして韓国に武力進攻させたのはソ連
の仕業です。それなら、ソ連は常任理事国としてなぜ「拒否権」
を行使して北朝鮮を守らなかったのでしょうか。その点について
ソ連は事態を少し甘く見ていたようです。高畑昭男氏はこれにつ
いて次のように述べています。
─────────────────────────────
 推定10万人の北朝鮮軍はまたたくまに韓国領土の大半を席巻
し、緒戦は破竹の勢いがあった。このため、スターリンは仮に安
保理決議が成立しても、北朝鮮軍が力ずくで既成事実を固めるこ
とができると踏んでいた可能性もある。だが、アメリカを中心と
する朝鮮国連軍は、緒戦の劣勢を立て直し、9月に入ると仁川上
陸作戦を機に反転攻勢に成功し、北朝鮮軍を敗走させた。
    ──高畑昭男著『「世界の警察官」をやめたアメリカ/
       国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
─────────────────────────────
 現在、朝鮮戦争は停戦状態になっていますが、北朝鮮と韓国の
間には平和条約が締結されていません。このことはあまり知られ
ていませんが、「朝鮮国連軍」は、現在でも米、英、仏の「3人
の警察官」をはじめとする8ヶ国による国連軍後方司令部が日本
に設置されています。もし、北朝鮮と韓国で戦闘が再開されると
即座に朝鮮国連軍が動く体制が現在でも維持されているのです。
            ──[孤立主義化する米国/011]

≪画像および関連情報≫
 ●「韓国の亡命政権、難民に備えよ」(2015年9月)
  ───────────────────────────
   朝鮮戦争勃発前、「そのとき」に備えて現実的な対応に取
  り組んだ地方自治体がある。半島と地理的に近い山口県だ。
  韓国の李承晩政権の日本亡命と難民流入対策として、独自に
  情報収集を進めていた。19日に成立した安全保障関連法を
  めぐる情緒的な反対論とは対極にある「いま、目の前にある
  危機」に取り組んだ県の対応を、安保問題の専門家も注目す
  る。(九州総局 村上智博)
   山口県が、国とは別に独自の情報収集に乗り出した直接の
  きっかけは、さきの大戦終了後、朝鮮半島からの密入国者が
  増えていたためだ。むろん、戦後に建国した北朝鮮による、
  不穏な動きを探るのが最大の主眼であった。
   「山口県史」によると、朝鮮半島の緊張の高まりに危機感
  を持った知事の田中龍夫が昭和22年、まず手をつけたのが
  知事直轄組織の「朝鮮情報室」の創設だった。36歳の若さ
  で知事に就任した直後のことだった。
   朝鮮総督府の勤務経験者ら朝鮮語に長けた人材を集め、中
  波と短波をラジオで傍受し翻訳した。田中はこうして得た情
  報を分析し「朝鮮情報」という冊子にまとめ、首相の吉田茂
  ら閣僚に報告していた。      http://bit.ly/1NiBrdK
  ───────────────────────────

アチソン元米国務長官.jpg
アチソン元米国務長官
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2016年07月27日

●「ロシアと中国はなぜ常任理事国か」(EJ第4327号)

 民主党の鳩山政権時代の話です。2010年3月5日に開催さ
れた参院予算委員会で、自民党の佐藤正久参院議員が鳩山首相と
平野官房長官に対して朝鮮戦争について質問したのです。その模
様を産経フジニュースは次のように伝えています。
─────────────────────────────
 鳩山由紀夫首相と平野博文官房長官は5日の参院予算委員会で
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)が、休戦状態にある朝鮮戦
争の再発に備え日本にある国連軍の指定基地であるのを知らない
という失態を演じた。普天間移設には国連軍の扱いも必要だが、
国連重視を唱える政権にもかかわらず、首相と平野氏の念頭には
なかったことになる。
 質問したのは、陸上自衛隊のイラク先遣隊長だった「ひげの佐
藤」こと佐藤正久参院議員(自民)で「そこも分からずに移設を
うんぬんするのはおかしい」とあきれ顔だった。
 日本には国連軍地位協定に基づき国連軍の軍人がいて司令部も
存在するが、平野氏は「国連軍の形でいるか分からないが、神奈
川県米軍キャンプ座間に、国連軍の旗を掲揚している」「正規の
国連軍は日本に駐留したことはない」と迷答弁。佐藤氏が「7ヶ
所あるうちの一つが普天間だと知っていたか」と質すと、首相は
「教えていただいたことに感謝する」と、初耳だと認めるしかな
かった。    ──2010年3月5日付、産経フジニュース
─────────────────────────────
 はじめての政権奪取とはいえ鳩山元首相は、日本の総理がシビ
リアン・コントロールにおいて、有事には自衛隊の頂点に立つ最
高司令官であることを知らなかったのです。これについては次の
菅元首相も知らなかったといいます。誠にお粗末な話です。
 「日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定」に基づ
いて、在日米軍施設と併設する形で「国連軍後方司令部」が横田
基地に置かれています。在日米軍基地のうち、次の7ヶ所が協定
に基づく国連軍施設に指定されているのです。
─────────────────────────────
   1. キャンプ座間   5.   嘉手納飛行場
   2.横須賀海軍基地   6.   普天間飛行場
   3.佐世保海軍基地   7.ホワイトビーチ地区
   4.  横田飛行場     (沖縄市うるま市)
─────────────────────────────
 2014年現在の後方司令部の構成国は、米国、英国、フラン
ス、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、タイ、韓
国、トルコの9ヶ国です。
 これは何を意味しているのかというと、朝鮮戦争に関しては、
ソ連(ロシア)、中国を除く「3人の世界の警察官体制」が今も
続いていることになります。
 世界の警察官といわれる以上、世界平和と安全を守る責任があ
るはずです。そのために国連の常任理事国の地位が与えられてい
るのです。しかし、その常任理事国の一国であるソ連が、北朝鮮
をそそのかし、侵略戦争に踏み切らせたことは、明らかな国連憲
章の違反であるといえます。
 その朝鮮戦争は現在も続いているのです。終わっていないので
す。それにもかかわらず、ソ連はロシアへの体制変換があったと
はいえ、そのまま常任理事国を引き継いでいます。なぜ、それが
認められたのでしょうか。
 確かにロシアは、ソ連の構成国の中でも人口・軍事・経済的に
主要な位置にあったことと、ソ連が有していた国際的な条約や関
係を継承することを約束したことによって、国連は現在のロシア
をソ連の後継政権と認めたのです。しかし、北朝鮮問題について
ソ連のとった国連憲章違反については不問とされています。これ
はおかしな話です。国連憲章に違反した国が依然として常任理事
国を続けているからです。
 もうひとつ安保理の常任理事国については疑問があります。そ
れは、5人の世界の警察官のうちの1つであるはずの中華民国が
なぜ中華人民共和国になったのかです。
 これは「アルバニア決議」として採択された国連総会2758
号決議に関係するのです。この決議の提案国が、中華人民共和国
(現在の中国)の友好国であるアルバニアであるところから「ア
ルバニア決議」といわれるのです。正確には次のようにいわれて
います。1971年10月25日に採択された決議です。
─────────────────────────────
   ≪国連総会2758号決議≫
   国際連合における中華人民共和国の合法的権利の回復
─────────────────────────────
 これはどういう意味でしょうか。
 この決議の名称にはおかしなことがあります。中華人民共和国
の建国は1949年であり、国連の設立後のことです。したがっ
て、中華人民共和国が国連の加盟国であったことはないのです。
したがって、「中華人民共和国の合法的権利の『回復』」という
のはおかしな表現です。加盟国でない中華人民共和国が権利を回
復するはずはなく、それをいうなら「合法的権利の『取得』」と
いうべきです。そこに何があったのでしょうか。
 アルバニア決議の賛否については、添付ファイルにしてありま
すが、賛否の状況は正確には次の通りです。
─────────────────────────────
 賛成(中共派) 76ヶ国/ソ連、英、仏、ヨーロッパなど
 反対(台湾派) 35ヶ国/ 米、日、オーストラリアなど
 棄権      17ヶ国
 無投票      3ヶ国
─────────────────────────────
 実は、現在でも、国連憲章には中華民国(台湾)が常任理事国
になっています。その事実は意外と知られていないのです。これ
については、明日のEJでさらに追及することにします。
            ──[孤立主義化する米国/012]

≪画像および関連情報≫
 ●「大陸と台湾」はOK、でも「中国と台湾」はノー
  ───────────────────────────
   2011年6月中旬、筆者は、生まれて初めて台湾を訪れ
  た。上海浦東空港を離陸し、2時間弱で台北桃園空港へと着
  陸した。案外近いものだ。飛行機の座席から窓の外をのぞく
  と、緑がいっぱい見えた。他の乗客たちと一緒に流れに乗っ
  て、入国審査へと進んだ。日本を含めた他の国と同様、本国
  人と外国人は別れて入国するルールとなっていた。本国人は
  少なかった。列に並ぶこともなく、スムーズに審査を受け、
  入国していく。そんな光景を筆者は羨ましくながめていた。
  外国人は長い列に並ばなければならなかった。それだけ外国
  からの訪問客が多いということであろう。筆者がよく入国す
  る日本、中国、香港などもそうだ。台湾が特別なわけではな
  い。外国人の入国には色々と手間がかかるものだ。
   列に並びながら周りを見渡すと、中国からの訪問客が圧倒
  的に多いことに気づいた。ほとんどが団体ツアー客だ。相変
  わらず「大陸仕込み」の大声で隣の人と話をしたり、「列が
  長すぎる」と愚痴をこぼしたりしている。列に割り込んでく
  る男性も居た。一緒に並んでいた日本人や欧米人が、何とも
  言えない不可解な表情で、その光景を眺めているのが印象的
  だった。20分くらいは並びそうだ。読書をしながら辛抱強
  く待とうと決断し、かばんから1冊の本を取り出した。と、
  その矢先、隣の隣に並んでいた中国人観光客が突如大声で騒
  ぎ出した。「中華民国って何だよ!ここは中華人民共和国台
  湾省じゃないのか!」      http://nkbp.jp/2al77lt
  ───────────────────────────

アルバニア決議賛否状況.jpg
アルバニア決議賛否状況
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2016年07月28日

●「アルバニア決議の不可解さを探る」(EJ第4328号)

 2016年7月24日、ラオスの首都ビエンチャンで、東南ア
ジア諸国連合(ASEAN)の外相会談が行われたのです。ここ
では南シナ海の中国の主張を否定した仲裁裁判所の判決への対応
が協議されることが期待されていたのです。
 中国にとっては、この外相会談は日米中が入らない南シナ海の
関係国会談であり、ここで「仲裁判決の受け入れを求める共同声
明」が出されると、大きなダメージになります。そのため、中国
の王毅外相は事前にビエンチャン入りし、ASEANの複数の外
相と相次ぎ会談することによって、経済支援を武器として札束で
頬を叩き、仲裁判決をテーマにしないよう働きかけたのです。
 そのあらわれが、相手国の部屋まで足を運んで会談を行ってい
ることです。中国は自ら大国であるという意識を強く持っており
会談を行うときは、小国の場合、相手国を呼び付けることが多い
のです。それをわざわざ出向いてきてやっているんだぞという意
思表明です。鼻持ちならない大国意識といえます。会談の前に安
倍首相をわざと待たせたりするのも、そういう態度のあらわれで
す。しかし、真の大国ならば国際法を順守すべきです。
 しかし、結果は3つに分かれたのです。仲裁判決を受け入れる
べきと主張するのは、フィリピン、ベトナム、シンガポール、イ
ンドネシア、マレーシアの5ヶ国で、対中牽制は容認するが連携
を優先すべきと主張するのは、タイ、ブルネイ、ラオス、ミャン
マーの4ヶ国、中国批判を一切認めないは、カンボジア1ヶ国に
なったのです。
 そのため共同声明が出せなかったのです。文案として「南シナ
海について法律の完全な尊重が必要である」が検討されたのです
が、カンボジアが中国の批判は絶対に認めないと強硬に主張した
ので、意見がまとまらなかったからです。ASEANの意思決定
は、全会一致が原則になっているので、1国でも反対すれば通ら
ないのです。考えてみると、これは常任理事国が拒否権を持つ安
保理の議決と同じです。
 さて、中華人民共和国(現在の中国)がいかにして、安保理の
常任理事国の地位を手に入れたかですが、これには多くの謎があ
ります。中国は、どのようにして、中華民国(台湾)を追い出し
常任理事国の地位を手に入れたのかについて考えます。
 アルバニア決議はどのような内容なのでしょうか。決議の全文
は次のようになっています。
─────────────────────────────
 国連総会は、国連憲章の原則を思い起こし、中華人民共和国の
合法的権利を回復させることが、国連憲章を守り、かつ国連組織
を憲章に従って活動させるためにも不可欠であることを考慮し、
中華人民共和国政府の代表が国連における中国の唯一の合法的な
代表であり、中華人民共和国が国連安全保障理事会の5つの常任
理事国の1つであることを承認する。
 中華人民共和国のすべての権利を樹立して、その政府の代表が
国連における中国の唯一の合法的な代表であることを承認し、蒋
介石の代表を、彼らが国連とすべての関連組織において不法に占
領する場所からただちに追放することを決定する。
                   http://bit.ly/2a8QdBB
─────────────────────────────
 非常に読みにくい決議文になっています。本来論理的におかし
いことを無理に論理づけたのですから、わかりにくくなるのは当
然です。要するに次のことをいいたいものと思われます。
─────────────────────────────
 中華人民共和国の政府の代表は、国連における中国の唯一の合
法的な代表であるが、蒋介石が国連とそのすべての関連組織に代
表として不法に占拠していたので、これを追放する。
─────────────────────────────
 つまり、中華民国も中華人民共和国も同じ中国であって、この
決議(1971年10月25日)までは、蒋介石なるものが、中
国の名において国連およびその関連施設を不法に占拠していたが
これを追放し、正常化する──こういう決議なのです。
 要するに、これは中国が唱える「一つの中国」論ですが、肝心
の中華民国(台湾)はそれを受け入れていないのです。しかし、
中国の国力の向上とともに、世界中の国が「一つの中国」を受け
入れざるを得ないようになっています。それでも台湾は現在でも
中国の一部であるとは認めず、独立を目指しているのです。
 中華人民共和国の建国は1949年のことであり、「一つの中
国」を認めない限り、常任理事国の地位を引き継ぐことはできな
かったということはいえます。いずれにせよ、中華人民共和国が
常任理事国になれたのは、その当時のソ連の強いバックアップが
あったからです。ソ連としては、常任理事国に共産主義国家が増
えることは大きなメリットがあったのです。
 不可解なのはこの決議に対する中華民国のとった行動です。中
華民国の代表はアルバニア決議の出る前に退場しているのです。
つまり、決議に加わっていないのです。中華民国は常任理事国の
ひとつであり、自分の国を外す決定であるので、拒否権を行使し
てもよかったと思います。もしやっていれば、アルバニア決議は
採択されなかったことになります。
 もうひとつ納得できないことがあります。それは、国連総会の
決議は、重要な決議の採択には、3分の2以上の賛成を必要なの
です。しかし「追放反対重要問題決議案」は提出されましたが、
「否決」されているのです。これは過半数でいいのです。
─────────────────────────────
        ≪追放反対重要問題決議案≫
         賛成 ・・・・・ 55
         反対 ・・・・・ 59
         棄権 ・・・・・ 15
         欠席 ・・・・・  2
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/013]

≪画像および関連情報≫
 ●日本は常任理事国入りをすべきである/2015年5月
  ───────────────────────────
   国連の常任理事国入りを目指して日本、ドイツなど4ヶ国
  が、安全保障理事会の改革案を提出したことを、このほど、
  朝日新聞が報じた。
   記事によると、日本、ドイツ、インド、ブラジルの4ヶ国
  は、現在15ヶ国の安保理の構成国を25〜26ヶ国とし、
  常任理事国を現在の5から11へ非常任理事国を現在の10
  から15へと拡大する改革案を提出した。4ヶ国はそれぞれ
  常任理事国入りを目指しており、安倍晋三首相も積極的な姿
  勢を示している。
   改革に必要な国連憲章の改正には、全加盟国の3分の2の
  賛成と現・常任理事国のアメリカ、イギリス、フランス、ロ
  シア、中国の5ヶ国の賛同が必要。だが、既得権益を手放し
  たくない仏中の反対などが予想され、実現の見通しは不透明
  という。
   果たして、国連の体制を見直し、常任理事国を増やすべき
  なのか。答えは「イエス」である。その最大の理由は、国際
  情勢の変化だ。現在の国連は、第2次大戦の際に、戦勝国で
  ある連合国側が敗戦国を抑えこむ形でつくられた。だが、戦
  後70年が経ち、勤勉な国民性を持つ日本やドイツは目覚ま
  しい発展を遂げ、世界経済の牽引役となっている。また、人
  口が増加するインドやブラジルなどの国々が先進国の仲間入
  りを果たそうとするなど各国の役割が大きく変化している。
                   http://bit.ly/2am71ID
  ───────────────────────────

蒋介石国民党総裁.jpg
蒋介石国民党総裁
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2016年07月29日

●「改革が必要な安保理の拒否権行使」(EJ第4329号)

 国連安全保障理事会の常任理事国の持つ拒否権──この拒否権
の存在によって国際連合は、その目的である世界平和の実現のた
め、紛争を解決する本来の機能を果たせないでいます。なぜなら
安保理の拒否権は、米国、英国、フランス、中国、ロシアの5大
国に与えられた独占的特権であり、そこには何の制限も課せられ
ていないからです。
 制限なき拒否権──これがどれほど危険なものであるかについ
て考えます。そもそも拒否権は今までどのくらい行使されたのか
2008年7月現在の数字は次のようになっています。
─────────────────────────────
             2008年7月現在
                  発動回数
       アメリカ ・・・・   83回
       イギリス ・・・・   32回
       フランス ・・・・   18回
        ロシア ・・・・  127回
         中国 ・・・・   10回
            http://bit.ly/2a45fd4
─────────────────────────────
 全体の47%を旧ソ連を含むロシアが発動しています。しかも
そのほとんどが自国の権益を害する案件に関して発動されている
のです。この127回には含まれませんが、シリア内戦に限って
も、ロシアは4回拒否権を発動しているのです。これはロシアと
長らく同盟関係にあるシリア・アサド政権を擁護するための発動
になっています。
 それでいて、クリミア半島の帰属をめぐってロシアとウクライ
ナの間で起こったクリミア危機(ウクライナ紛争)では、ロシア
の拒否権行使の脅威を原因とし、国際社会、とりわけ国連はロシ
アによるクリミア併合や軍事介入に対してほとんど何も対処・糾
弾することができていないのです。安保理の常任理事国の一国が
武力行使にかかわっているのですから、国連としては動きようが
ないのです。
 米国の大統領にも拒否権が認められています。しかし、無制限
というわけではなく、一定の制限がかけられています。その仕組
みを簡単に説明します。
 議会が制定した法案は、国家元首である大統領のもとに送付さ
れてきます。大統領はこの法案を承認する場合は、法案に署名す
れば法案は法律になります。この場合、大統領が署名しなくても
議会の会期中に日曜日を除いて10日以上経過すると自動的に法
律になります。
 大統領が法案に反対する場合は、法案に署名しないで、承認で
きない理由を記述した書類を添えて、議会の会期中に日曜日をの
ぞく10日以内に議会に差し戻すのです。これは大統領の拒否権
の発動ということになります。
 大統領の拒否権によって差し戻された法案に対して、議会はど
うしても法案を成立させたいときは、次の2つの対応をとること
ができます。
─────────────────────────────
 1.大統領の拒否の内容を十分考慮し、必要に応じて法案に
   修正を加えて大統領に再送付する。
 2.上下両院でその法案を3分の2以上で再可決すれば、大
   統領の署名なしでも法律にできる。
─────────────────────────────
 このように、議会がその気になれば、大統領の拒否権を跳ね返
すことができるようになっているのです。これは大統領の独裁を
防ぐ仕組みにもなっています。
 このような制限を安保理の常任理事国の持つ拒否権にもかける
ことは可能です。例えば、次のように拒否権に一定の歯止めをか
ければ、独裁を防ぐことができます。
─────────────────────────────
 1.安保理決議の内容によっては、必ずしも全会一致を必要
   としないようにする。
 2.常任理事国5ヶ国のうち、4ヶ国が賛成すれば、1ヶ国
   の拒否権は認めない。
 3.安保理にかかわる紛争案件の当事者となる常任理事国は
   表決には加われない。
─────────────────────────────
 しかし、これらの拒否権行使の制限は一切行われることなく、
70年以上の年月が経過しています。なぜなら、この仕組みを変
更するには、国連総会で全加盟国の3分の2以上の賛成に加えて
常任理事国のすべての国の賛成が必要になります。これは、事実
上いかなる変更も不可能ということになります。
 これまで拒否権行使の抑止の試みがぜんぜんなかったわけでは
ないのです。次のフランスによる提案があります。しかし、この
提案にロシアや米国が賛成するとは思えないのです。次の記事は
早稲田大学学生原貫太氏のレポートからの引用です。
─────────────────────────────
 (安保理の)拒否権の行使を抑止しようという取り組みがフラ
ンスを主導として行われてきている。2001年、フランスは、
「ジェノサイド(集団殺害)などの大量残虐行為に対して歯止め
を掛ける議案に関しては、安保理常任理事国は自発的、そして集
団的に拒否権の発動を控えるべきだ」といった内容の提案を持ち
出した。フランスは、「拒否権は常任理事国の特権であるべきで
はないし、そうなることも出来ない」という姿勢を示しており、
イギリスもこの案に対して賛成の意を示している。
 また、2006年4月の国連安保理決議1674号による「保
護する責任」の再確認などの影響もあり、常任理事国に対する国
際的な圧力は一層強まっきている。  http://huff.to/29W2L3m
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/014]

≪画像および関連情報≫
 ●「国連安保改革への道」/植木安弘上智大学教授
  ───────────────────────────
   国連は今年で創設70周年を迎えます。国連の前身、国際
  連盟が僅か20年でその使命を終えたのと比べると、国連は
  東西冷戦や非植民地化、南北対立など、さまざまな国際政治
  変動を乗り越えて今日まで存続し、国際協調の促進の場とし
  ての役割を果たしております。
   その国連で国際平和と安全保障の維持で最も重要な役割を
  与えられているのが安全保障理事会です。安全保障理事会の
  決議には法的拘束力があり、経済制裁や武力制裁といった強
  制行動が取れる極めて強い政策決定権限を持った国連の中心
  的機関です。
   国連は現在193の加盟国で構成されています。ところが
  安全保障理事会は僅か15ヵ国で構成されているにすぎませ
  ん。しかも、その内5ヵ国が常任理事国で、拒否権を持って
  います。この常任理事国は第二次世界大戦の戦勝国であり、
  米国、イギリス、フランス、ロシアと中国の5ヵ国がこの特
  別な地位を占めています。このように重要な国連の政策決定
  機関を改革してその決定に参画したいという動きは以前もあ
  り、1965年に一度国連憲章が改正され、理事国の数が、
  11から15に増えました。その時は非常任理事国の枠を拡
  大しただけでした。        http://bit.ly/2adiWbs
  ───────────────────────────

安保理における拒否権行使.jpg
安保理における拒否権行使
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2016年08月01日

●「ばかなことはするな/ドクトリン」(EJ第4330号)

 既に述べたように、70年を超える国連の歴史において、安保
理決議を経て世界の5人の警察官による「国連軍」に近い部隊が
編成されたのは、たった2回しかないのです。
─────────────────────────────
         朝鮮国連軍 ・・・ 1950年
     湾岸戦争/多国籍軍 ・・・ 1991年
─────────────────────────────
 イラク軍のクウェート侵攻に端を発する湾岸戦争のときは、国
連は直ちに動いたのです。国連の安全保障理事会は、即時無条件
撤退を求める安保理決議660、全加盟国に対してイラクへの全
面禁輸の経済制裁を行う安保理決議661、海上封鎖のための安
保理武力行使容認決議665、そして安保理対イラク武力容認決
議678を速やかに採択しています。このさい、常任理事国は、
中国が棄権しています。しかし、多国籍軍については、有志国を
募って編成する方式をとっています。
 しかし、それ以降は、常任理事国がまとまって安保理決議を下
したことは1回もないのです。つまり、5人の警察官はいるもの
の、その何人かは必ず反対し、結局は安保理決議を経ないで賛成
国だけで武力攻撃を行っているのです。
 いくつか上げてみます。1998年、クリントン政権は、フセ
イン・イラク政権が湾岸戦争以後も何度も安保理決議違反を繰り
返しているので、国連の大量破壊兵器査察計画を妨害したとして
安保理で空爆をすることを提案したのです。しかし、常任理事国
で賛成したのは英国のみであり、フランス、ロシア、中国は反対
に回ったのです。そのため、米英は安保理決議なしでイラクへの
空爆を実施しています。「砂漠の狐作戦」です。
 次はイラク戦争です。2003年、ブッシュ(子)大統領は、
イラクのサダム・フセイン大統領が化学兵器などを備蓄し、米国
と世界に差し迫った脅威を与えていると主張し、イラクがフセイ
ン大統領の退陣と政権交代に応じなければ、国連は武力行使を容
認せよと迫ったのですが、これについても賛成したのは米英のみ
で、フランス、ロシア、中国は反対し、米英は安保理決議なしで
イラク戦争に突入しています。実はイラク戦争は、ブッシュ大統
領は早く終わると考えていたようですが、第二次世界大戦よりも
長期化しているのです。
 開戦が2003年3月であり、駐留米軍が撤退を完了したのは
2011年12月のことですから、実に8年9ヶ月を要している
からです。結局、安保理決議があろうとなかろうと、国のトップ
が戦争の決断をすると、国連としてはそれを止める手段はないの
です。このように5人の警察官体制は、世界平和にはほとんど貢
献していないといえます。
 常任理事国の5人の警察官体制は、90年代後半になると、武
力制裁に積極的な米英両国と、消極的なロシアと中国両国の対立
がある一方で、フランスは中間で態度が揺れるという状態が続き
ます。これでは意見がひとつにまとまることはほとんどないとい
えます。この体制は現在も続いているのです。したがって、安保
理の改革は喫緊の課題です。
 さて、オバマ大統領は、このイラク戦争に反対し、戦争を終結
させることを公約として当選しています。ちょうど、米軍の犠牲
者が急増していたときであり、米国の世論は戦争反対に大きく傾
いていたのです。
 オバマ大統領としては、大変苦労として2011年末に駐留米
軍のイラクからの撤退を完了した後のシリア問題において、ここ
で再び戦争に巻き込まれてはならないという思いから、優柔不断
な態度をとり、ロシアにつけ込まれると共に、かえってISの拡
大を許してしまったことは外交上大いに問題があります。
 これに関して興味ある話題があります。2014年4月、アジ
ア歴訪の途上、オバマ大統領は、大統領専用機「エアフォースワ
ン」の機上で行われた同行記者団との懇談において、記者達にシ
リア問題やウクライナ問題の対応について問われたのです。質問
には「腰が引けてるんじゃないか」という厳しいものもあったと
いいます。これに対して、オバマ大統領は次のように反論したの
です。高畑昭男氏の著作から引用します。
─────────────────────────────
 「シングルヒットや二塁打を重ねていれば、ときにはホームラ
ンも打てる。大切なことは(前政権のように)イラク戦争のよう
な大エラーを犯さないことだ」。大統領はさらに、シリア上空に
飛行禁止空域を設定し、ウクライナ軍に武器援助を行うなどの軍
事対抗策を求める専門家たちに対して「無謀な政策だ」と非難し
苛立ちを込めて「ばかなことはするな、ということなんだ」と言
い放ったという。大統領はこの後、席を立って自室へ戻りかけた
が、思いついたように立ち止まり、記者団に向かって、教師が小
学生に念を押すように「私の外交政策は何かね?」と唱和を求め
た。記者団は声を揃えて「ばかなことはするなということだ」と
叫んだという。  ──高畑昭男著『「世界の警察官」をやめた
  アメリカ/国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
─────────────────────────────
 後になって、オバマ大統領が機上で記者団に話した次の言葉が
話題になります。
─────────────────────────────
     ばかなことはするな/Don't do stupid stuff
─────────────────────────────
 この言葉は、大統領たるものはイラク戦争のようなばかなこと
を絶対してはならないと訴えているのです。今回の民主党の大統
領候補のヒラリー・クリントン氏は、オバマ大統領の外交ドクト
リンを「ばかなことをするなドクトリン」と呼び、「オバマ外交
には首尾一貫とした戦略やドクトリンがない」と批判した演説を
行っています。オバマ氏としては、かつての部下から自分の言葉
を使って、正面切って批判されたことになります。
            ──[孤立主義化する米国/015]

≪画像および関連情報≫
 ●オバマ大統領の外交政策/2014年8月
  ───────────────────────────
  【ワシントン】オバマ米大統領と側近らは、今後数十年間の
  国際関係の枠組みとなる新しい世界の安全保障体制を築いて
  いると考えている。しかし、ホワイトハウスがその長期戦略
  に抱く自信と、ウクライナから中東まで世界で繰り広げられ
  る日常的混とんは、毎日まるで分割画面のように対照的光景
  をもたらしている。
   このずれは大統領の支持率にも反映されている。ウォール
  ・ストリート・ジャーナル・NBCニュースが今週実施した
  世論調査で、オバマ大統領の外交政策に対する米国民の支持
  率は36%と過去最低となった。
   外交問題評議会(CFR)のリチャード・ハース会長は、
  オバマ大統領自身、自らが目指していることについての混乱
  を一層深めていると指摘する。ハース氏は「多くの場合、大
  統領が何を達成しようとしているか不明だ」と述べた。
   オバマ大統領は自分の任期中に米国の影響力が弱まったと
  いう見方を払拭できないことにますます不満を募らせている
  ようだ。オバマ大統領の外交政策を批判する向きは複数の危
  機が重なって発生していることでも(米国の影響力低下は)
  明らかだと指摘する。     http://on.wsj.com/29YBBZL
  ───────────────────────────

オバマ米大統領.jpg
オバマ米大統領
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2016年08月02日

●「内容空疎なウェストボイント演説」(EJ第4331号)

 7月28日、クリントン元国務長官が民主党大会で大統領候補
に指名され、これで今回の米国大統領候補は、「共和党/ドナル
ド・トランプ氏VS民主党のヒラリー・クリントン氏」が正式に
決定したことになります。いよいよ本番の選挙戦です。
 しかし、共和党大会でも、民主党大会でも、拍手のなかには多
くのブーイングも混ざっており、大会としての盛り上がりに欠け
たといわざるを得ないのです。おそらくこれほど嫌悪度の高い候
補者同士が争う大統領選は今までになかったことでしょう。今回
EJでは、選挙戦の進むなかで、どちらが勝利して晴れて大統領
になるのかの情報を含めて、これら2人の候補者を取り上げてい
くつもりです。
 オバマ大統領はとくに外交政策においてきわめて消極的な政策
をとっています。それは既に米国外交の随所にあらわれています
が、最近になってオバマ大統領は、自身の言葉で外交政策につい
て発言する機会が多くなっています。
 そのひとつとして注目されるのは、2014年5月28日に行
われたウェストポイント陸軍士官学校の卒業式におけるオバマ大
統領の演説です。ちょうど12年前に、ここでブッシュ(子)前
大統領も演説を行い、9・11テロ事件以降のアメリカの対テロ
国家戦略を明らかにしています。この2014年の演説は世界の
警察官を下りると発言した後だったので注目されたのです。
 この演説でオバマ大統領は、米国による指導力の柱として次の
4つをあげています。
─────────────────────────────
 1.米国が軍事力を行使するときは、米国の核心的利益や国
   民が危険にさらされたときに限られる。
 2.国際テロ組織が新しい拠点を狙う国々とは、パートナー
   関係を築き、対テロ戦略をシフトする。
 3.NATOや国連などの国際機構をできる限り発展させ、
   国際秩序をそれらによって強化させる。
 4.国家安全保障の観点から考えても、今まで通り民主主義
   と人権を世界の協力の下に支えて行く。
─────────────────────────────
 要するに、米国は国民や国の核心的利益が危険にさらされるよ
うな事態が起きない限り、軍事行使はしないと明言し、国際的な
紛争は、あくまで国連などの国際機構を通じて解決に当たると述
べているのです。
 具体的にいうと、かつてのクリントン政権やブッシュ(子)政
権がやったように、国連決議がないのに軍事同盟国でない他国の
ために軍事行動をとるようなことはしないといっているのです。
 いっていることはごくまともなことですが、国連が70年以上
を経過しても世界の安全保障に機能してこなかった歴史を無視し
ています。オバマ大統領が国連改革のために何ら前向きに動いて
いないからです。
 オバマ大統領のウェストポイント演説について米英のメディア
は、こぞって「その中身は空疎である」と切り捨て、外交の重要
問題をほとんど取り上げていないと指摘しています。そして、む
しろ演説で触れなかった問題こそ重要問題であると、その問題を
列挙しています。
 アジアへの回帰あるいはリバランスについても言及がなかった
課題です。アジア回帰は、2011年にヒラリー・クリントン国
務長官により、「我々の政権の最も重要な外交的努力の一つ」と
して喧伝されたものですが、何しろ演説中、「ジャパン」という
単語はゼロ、「チャイナ」も3回しか出てこず、アジアに関して
はほとんど関心がないようです。
 この演説について、2014年5月29日付の英フィナンシャ
ル・タイムズ紙は次の指摘をしています。
─────────────────────────────
 オバマ氏は明確な目標を設定し、それを粘り強く達成すること
で評価されたいようだ。しかし、ニューヨーク州ウェストポイン
トの米陸軍士官学校卒業式で行われたオバマ氏の外交演説は、現
地の状況よりも米国の政治の都合で優先順位が決まるという疑念
をほとんど払拭できなかった。オバマ氏の外交政策指揮全般にも
同じことが言えるかもしれない。壮大な目標を掲げるのは得意だ
が、実際の行動は最新の世論の動きに影響されやすい。(中略)
 オバマ氏は、世界中の問題に介入する米軍を受け継ぎ、それに
対処してきた。しかし外交的な行動を起こさないのは同氏に多く
の責任がある。演説だけで疑念を抱く者を安心させることはでき
ない。米国の同盟国の多くが、同氏の語る言葉の高尚さと、日常
的に示す重大な地政学的課題への無関心さとのギャップを警戒し
ているのは正しい。米国の孤立主義を否定する同氏の主張はある
程度納得できるものだったが、重要な課題の多くは手つかずのま
まだ。中国海軍の挑発的な行動にどう対処するか、ロシアの新帝
国主義的な領土侵攻についても演説ではほとんど触れられなかっ
た。環太平洋経済連携協定(TPP)や、環大西洋貿易投資協定
(TTIP)の行き詰まった交渉にも言及しなかった。
 ──2014年5月29日付、英フィナンシャル・タイムズ紙
                http://s.nikkei.com/2axDUnt
─────────────────────────────
 この演説の空疎さを表現したのは、ネット上に登場した風刺漫
画(添付ファイル)です。この風刺漫画でオバマ大統領が明日の
米国を担う若い陸軍士官に白い旗を渡しています。まるで「敵と
は戦わず、白旗を上げよ」といっているようです。
 オバマ外交を見る限り、そこに「撤退するアメリカ」が見えて
きます。それは「世界の警察官を下りる」という大統領の言葉に
明確にあらわれています。トランプ氏とクリントン氏はこの点を
どのように考えているのでしょうか。
 米国はこれまでに何回も撤退しようとしてきた「孤立主義」の
歴史があります。これについては、明日からのEJで考えていき
ます。         ──[孤立主義化する米国/016]

≪画像および関連情報≫
 ●重要事項に言及しない空疎なオバマ演説
  ───────────────────────────
   オバマ大統領が、2014年5月28日にウェストポイン
  ト(米陸軍士官学校)で行った外交演説について、同日付W
  SJウォールストリート・ジャーナル社説は、オバマが演説
  で触れなかった重要問題を列挙して演説の空疎さを指摘し、
  同じくフィナンシャル・タイムズ社説は、米国が重要な外交
  課題に果敢に取り組む用意があるとの確信を同盟国に与える
  には不十分であった、と指摘しています。ウォールストリー
  ト・ジャーナル社説の趣旨は次の通り。
   すなわち、ウェストポイントでのオバマ大統領の演説は、
  自身の外交政策への強固な弁護を意図したものだが、オバマ
  が演説で述べなかったことについてこそ考える必要がある。
  ロシアとのリセットについて言及しなかった。オバマは20
  09年のメドヴェージェフとの会談で、「リセットボタンは
  作用した」と公言した。同じ年に、オバマはモスクワで「帝
  国が主権国家をチェス盤上で駒として扱う時代は終わった」
  と言った。
   アジアへの回帰あるいはリバランスについても、言及が無
  かった。アジア回帰は、2011年にヒラリー・クリントン
  により、「我々の政権の最も重要な外交的努力の一つ」とし
  て喧伝され、米国のイラクおよびアフガンからの撤退は世界
  からの撤退ではないということを示す意図があった。しかし
  マクファーランド国防次官補が、最新の国防予算のカットを
  受けて、3月に認めた通り、「アジア回帰は、率直に言って
  不可能なので、現在再検討されている」。
                   http://bit.ly/2afwX4B
  ───────────────────────────

ウェストボイント演説を風刺する漫画.jpg
ウェストボイント演説を風刺する漫画
 
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2016年08月03日

●「米国は孤立主義のDNAを有する」(EJ第4332号)

 米国外交といえば「同盟外交」といわれます。冷戦時代におい
て米国は、自国を防衛し、東側陣営に対抗するため、価値観を同
じくする国とは同盟関係を築くことにより、自由世界の安全と秩
序を守ってきています。
 米国は、ヨーロッパについてはNATO、アジア太平洋では日
本、韓国、豪州と同盟を結び、その同盟ネットワークによって、
ソ連を中心とする東側陣営に盤石の体制をとってきたのです。
 しかし、米国という国のDNAをたどると、そういう米国とは
まるで違う姿が浮かび上がってきます。草創記の米国はそうでは
なかったからです。それは、米国の初代大統領ジョージ・ワシン
トンの「告別の辞」に、アメリカという国のDNAを見ることが
できます。
─────────────────────────────
 われわれはどうして特別な場所にいる利点を捨てようとするの
でしょうか。われわれの立場を捨てて、外国の立場に立とうとす
るのでしょうか。なぜ、われわれの運命をヨーロッパの運命と織
り交ぜて、われわれの平和と繁栄がヨーロッパの野心や競争、利
害、移り気、気まぐれに巻き込まれなければならないのでしょう
か。いかなる国とも恒久的な同盟関係を避けることこそ、われわ
れの真の政策なのです。
      ──1796年9月17日/ジョージ・ワシントン
         ──高畑昭男著『「世界の警察官」をやめた
  アメリカ/国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
─────────────────────────────
 これは明らかに非同盟主義を謳っています。つまり、孤立主義
です。ワシントンは「世界のいずれの国家とも永久的同盟を結ば
ずにいくことこそ、われわれの真の国策である」と辞任のさいの
告別の辞で訴えているのです。
 どのような理由で米国はこのような孤立主義の外交政策をとっ
たのでしょうか。
 それは、誕生したばかりの米国の置かれていた状況を知るとわ
かってきます。当時の米国は、東部13州だけで構成される小国
に過ぎなかったのです。13州の人口は約220万人、南部の奴
隷を加えても300万人には届かなかったのです。
 これに対してヨーロッパ列強の人口は、フランスの約2300
万人を筆頭にドイツ約2200万人、スペイン約1000万人で
あり、米国とはケタがひとつ違うのです。もし、これらの列強に
攻められたら、米国はひとたまりもなかったといえます。
 そうかといって、どこかの国と同盟を結べば、その国の起こす
戦争に巻き込まれるリスクがあるし、その国の敵国に攻められる
恐れもあります。当時のヨーロッパの列強は、そういう戦争を何
回も繰り返していたからです。
 幸い米国は、ヨーロッパとは地続きではなく、日常的な関わり
を避けることができる地政学的位置にあります。したがって、米
国はヨーロッパの列強から距離を置く孤立主義をとり、その間に
経済建設を行うことができたのです。
 そういう米国も英国との独立戦争のときは、フランスと同盟を
結び、何とか独立を勝ち取っています。これに関して既出の高畑
昭男氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 実際、独立13州は対英独立戦争の際にはフランスと一時的同
盟を結び、その軍事支援を得て、かろうじて勝利を達成した。だ
が後年、フランス革命に伴って欧州列強による干渉戦争が起きた
ときは、フランスとの同盟関係がまだ生きていたにもかかわらず
アメリカは直ちに中立を宣言し、同盟解消に動いている。独立時
の対仏同盟は「緊急避難の一時的同盟」にすぎなかったのだ。こ
うした経過を見れば、初期のアメリカがいかに小国であったか、
いかに欧州列強の介入や干渉を恐れたか、そしていかに欧州のも
めごとに巻き込まれないようにして単独行動の余地を残すかに心
を砕いていたことがよくわかる。
         ──高畑昭男著『「世界の警察官」をやめた
  アメリカ/国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
─────────────────────────────
 このように米国外交の底流には、非同盟、不関与、内向きとい
うワシントンの掲げた孤立主義が脈々と流れており、それは、ワ
シントン大統領の下で国務長官を務め、第3代大統領になるトー
マス・ジェファーソン、第5代大統領のジェームス・モンローへ
と受け継がれていくことになります。
 この米国の孤立主義が影をひそめるようになったのは、第13
代のミラード・フィルモア大統領の時代からです。米国は折から
の世界の帝国主義の流れに乗って、積極的に海外権益を追及する
積極介入主義に変わっていきます。ちなみにこのフィルモア大統
領が1853年にペリー海軍提督に命じて日本を訪問させ、日本
に開国を迫ったのです。日米関係のはじまりです。
 実は今日までの米国の外交を振り返ってみると、孤立主義と積
極介入主義が繰り返されていることがわかります。世界から撤退
したり、戻ったりしているのです。ごく大雑把にいうと、米国は
18世紀末に独立してから伝統的に孤立主義を採りながら、19
世紀末に世界の大国となってから、帝国主義的介入を展開、第二
次世界大戦後は世界的覇権を握っています。そして20世紀末の
冷戦終結からその力は大きく揺らぎながら、現在もなお強大な影
響力を保っているということができます。
 リーマンショックの後誕生したオバマ政権の外交姿勢は、明ら
かに世界から撤退しようとしています。孤立主義の復活です。人
間に例えると、身体が弱り、気力が落ち込んだり、自信を失った
りすると、どうしても気分が内向きになり、DNAに組み込まれ
た孤立主義が頭をもたげてきます。現在の米国の状況はこれに似
ていると思います。「米国第1主義」を唱えるトランプ氏がもし
大統領になったら、この傾向は一層強まるでしょう。
            ──[孤立主義化する米国/017]

≪画像および関連情報≫
 ●アメリカになぜ「トランプ現象」が起こるの?/吉野孝教授
  ───────────────────────────
   現在、世界では2つの潮流、外向き志向(グローバリゼー
  ション、国際主義)の潮流と内向き志向(国内優先主義、排
  外主義)の潮流がぶつかり合っている。
   その顕著な例は、EU諸国のイスラム系移民・難民の受け
  入れ問題にみることができる。かつてEUは規模の拡大を目
  指し、西欧以外の多くの国から労働者を受け入れた。
   しかし、1980年代になると、外国人労働者の排斥を主
  張する極右政党が台頭し、その後、イスラム系移民の増加に
  ともない、グローバリゼーション政策を象徴する多文化主義
  を見直す国も出現した。シリア内戦の泥沼化により2015
  年春からEU諸国に流入するイスラム系難民が激増したもの
  の、8月にドイツのメルケル首相が「難民受け入れ」を表明
  した。しかし、同年11月にパリ同時多発テロ事件が発生し
  さらに多数の難民がEU諸国に殺到した結果、EUは、20
  16年3月に、密航船でギリシャに渡ってくる移民・難民を
  一部の例外を除いて全員送り返すことでトルコと合意した。
  こうして2つの潮流の対立に直面し、EUは従来の政策を見
  直さざるをえなくなったのである。
   ところで、外向きか内向きかをめぐる対立が、別の意味で
  大きな国内政治争点となっている国もある。それは他ならぬ
  アメリカである。         http://bit.ly/2aGahgz
  ───────────────────────────

ジョージ・ワシントン米初代大統領.jpg
ジョージ・ワシントン米初代大統領
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2016年08月04日

●「ジェファーソンは何をやったのか」(EJ第4333号)

 異例づくしの今回の米国の大統領選挙の背景について知るには
アメリカ合衆国の外交の歴史を振り返る必要があります。とくに
当初泡沫候補者といわれたドナルド・トランプ氏が、なぜ共和党
正式候補者になれたかについては、それが必要なのです。
 昨日のEJでも述べたように、米国外交の基本的理念は、初代
大統領のワシントン、第3代大統領のジェファーソン、第5代大
統領のモンローによって築かれたといえます。これら3人は、米
国の孤立主義というDNAを形成したといえます。
 それでは、非同盟主義を説いたワシントン大統領の国務長官を
務めたトーマス・ジェファーソンとは、どのような人物であった
のかについて考えてみることにします。
 トーマス・ジェファーソンといえば、「独立宣言」の起草者と
して有名です。「独立宣言」は、トマス・ジェファーソンが起草
し、ベンジャミン・フランクリン、ジョン・アダムスが修正して
アメリカ独立戦争の2年目にあたる1776年7月2日の第2回
大陸会議総会で13植民地の全会一致で決議されています。8日
にフィラデルフィア市民に正式発表、翌日ニューヨークのワシン
トン軍の前で朗読されたのです。
 米国の独立宣言は、イギリスの圧政、悪政を告発し、平等、自
由、幸福の追求などの基本的人権と圧政に対する革命権を認め、
高らかに宣言したものです。ジェファーソンは起草者ですから、
独立宣言には彼の考え方がよくあらわれています。
 ジェファーソンは国務長官として、政府の中枢に入りますが、
財務長官のハミルトンや副大統領のジョン・アダムスなどを中心
に、連邦政府の権限を強化すべきであると主張するフェデラリス
トがたくさんいたのです。ジェファーソンはこれに反対したので
アンチ・フェデラリストといわれます。
 1791年にジェファーソンは、アンチ・フェデラリストを結
集して「リパブリカン党」を結成します。そして、両派は大論争
を巻き起こすことになるのです。
 1797年、第2代大統領を選ぶ選挙で、フェデラリストのア
ダムズが当選し、ジェファーソンは次点だったのです。ところが
そのときの規則では、副大統領は次点が就くことになっていたの
です。つまり、大統領はフェデラリスト、副大統領はアンチ・フ
ェデラリストですから、うまくいくはずがないのです。これは、
1804年に改正されるのですが、このようなヘンな規定が残っ
ていたのです。
 しかも、当時副大統領職は、初代副大統領のジョン・アダムズ
が「人類の作った最も不要な職」と嘆いたほどの閑職であり、超
ヒマなポストだったのです。このときの状況について、米国の歴
代の大統領について詳しいジャーナリスト、コルマック・オブラ
イエン氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 1797年、ワシントンは大統領の座を降りる際、後継者たち
に「パーティ・ポリティックス(党利党略優先の政治)に陥って
はならない」とクギを刺して退いた。
 しかし、それは完全に無視された形になり、フェデラリストと
リパブリカンの対立はどんどんヒートアップした。それに比べれ
ば今日の民主・共和両党の確執などは、まるで子供の喧嘩のよう
なもの。アダムズ自身は自党のフェデラリストとは一線を画し、
党優先を避けるために自分の考えを全面に押し出して、意思決定
をするようになった。こうした姿勢は双方の党から反発を招く結
果となった。  ──コルマック・オブライエン著/平尾圭吾訳
             『大統領たちの通信簿』/集英社刊
─────────────────────────────
 4年後の1801年の大統領選では、ジェファーソンはアダム
ズを破り、第3代大統領になります。1804年に選挙法は改正
され、次点を副大統領にするという規則はなくなり、少しずつ正
常化されていきます。ジェファーソンは、2期の1809年まで
大統領を務めますが、次のような綱領を公表します。それまで政
党は綱領を公表することはなかったので、画期的なことです。そ
こには、ジェファーソンの政治信条が明確に出ています。
─────────────────────────────
 私はあらゆる国との自由貿易に賛成する。政治的な結びつきは
どことも結ばない。外交的機関はほとんどないかあるいは無であ
る。私は新しい条約を結んでヨーロッパの紛争に入って行こうと
は思わない。ヨーロッパの均衡を保つために虐殺の戦場に入ろう
とは思わない。自由の原則に対抗する戦争に対して国王達と同盟
を結ぼうとは思わない。      ──トマス・ジェファソン
                   http://bit.ly/2amVSX8
─────────────────────────────
 この綱領を見るとわかるように、ジェファーソンの政治信条は
ワシントンの非同盟主義が色濃く反映されています。それに加え
てジェファーソンは、大統領就任演説において、文官の武官に対
する優位、少数意見の尊重、信仰の自由、言論出版の自由など、
民主主義の原則を打ち出しています。このような民主主義の高ま
りを「ジェファソニアン・デモクラシー」といっています。
 またジェファーソンはリパブリカン党であり、連邦政府の権限
の強化、巨大化には反対していたので、「連邦政府は国防と外交
を、それ以外は州政府で」という、現在でいう「小さな政府」を
実現しようとしたのです。
 そして、大統領任期の最後の1808年には、予定されていた
とおり、黒人奴隷貿易を禁止する措置を決定しています。しかし
奴隷制度自体は残っており、それを廃止する南北戦争は1861
年に起きるのです。
 ジェファーソンは、アンチ・フェデラリストである自分が政権
を持つ意義を「1800年の革命」と呼んでいます。このジェフ
ァーソンの薫陶を受け継いだのが、第5代大統領になるジェーム
ズ・モンローです。モンローはこれを発展させ、モンロー・ドク
トリンをまとめるのです。──[孤立主義化する米国/018]

≪画像および関連情報≫
 ●ジェファソン政権の特色
  ───────────────────────────
   1800年の大統領選挙は「1800年の革命」と呼ばれ
  ることが多い。ジェファソンはそれを、「1776年の革命
  が政府の形体上の革命だったように、それは政府の原理上、
  真の革命でした。それは剣によって達成されたのではなく、
  理性的かつ平和的な改革の手段、すなわち人民の投票によっ
  て達成されました」と説明する。
   ジェファソンにとって「1800年の革命」は「第2のア
  メリカ革命」であった。さらにアメリカという広大な領域に
  共和制を樹立するという「実験」は<ジェファソンにとって
  「共和政ローマ時代以来全く例を見ない」ものでもあった。
  ジェファソンの理念はアメリカだけにとどまらず、「我々自
  身のためだけに行動するのではなく、全人類のために行動し
  ている」と述べているように全人類をも対象にしている。そ
  れは当時のアメリカの使命感を如実に示している。
   従来、ジェファソンは、弱体な行政府を望み、「黙示的権
  限」の合憲性に対して疑義を唱えていた。ジェファソンの考
  えによると、各州はその領域内で大幅な権限を保持し、連邦
  政府は専ら外交と通商問題を担うようにするべきであった。
  そうすれば連邦政府を「非常に簡素な組織」にとどめること
  ができ、僅かな職員と費用で済ませることができると大統領
  になる少し前にジェファソンは語っている。
                   http://bit.ly/2aDYBMR
  ───────────────────────────

トマス・ジェファーソン米3代大統領.jpg
トマス・ジェファーソン米3代大統領
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2016年08月05日

●「モンロードクトリンの狙いは何か」(EJ第4334号)

 米国の初代大統領ジョージ・ワシントンが掲げた「非同盟主義
=孤立主義」は、第3代大統領トマス・ジェファーソンに引き継
がれ、それは第5代大統領ジェームズ・モンローによってさらに
発展させられるのです。
 ところでモンロー大統領とは、どういう人物だったのでしょう
か。コルマック・オブライエン氏の本から、モンロー大統領の項
目の一節を引用します。
─────────────────────────────
 あるときジェファーソンは友人のモンローのことを、「彼の心
はあらぬ方向に向っているかもしれない。彼の心は外に、海外に
向かっている。だが、その心は純粋で、悪いという根拠はなにも
見つからない」。こういったモンロー評は一般的なもので、大統
領としての彼はたいていの場合、勤勉で優しい気質を反映した仕
事ぶりだった。 ──コルマック・オブライエン著/平尾圭吾訳
             『大統領たちの通信簿』/集英社刊
─────────────────────────────
 モンロー大統領は、1817年から1825年の8年間大統領
職にあったのですが、当時のアメリカ大陸にはヨーロッパの植民
地が多く残っていたのです。したがって、モンローの時代は、ア
メリカ大陸内のヨーロッパの植民地に対して、米国としてどのよ
うに向き合うかが問われていたといえます。
 そういう背景を受けて、モンロー大統領は、1823年12月
に議会に提出した一般教書のなかで、外交方針として次の3つの
原則を打ち出したのです。
─────────────────────────────
      1.    欧州への不干渉と中立
      2.    南北米大陸への不干渉
      3.欧州による南北米への干渉阻止
─────────────────────────────
 これらの3つの原則は、米国はヨーロッパ諸国に干渉しないが
同時にアメリカ大陸全域に対するヨーロッパ諸国の干渉にも反対
するという思想です。モンローは、独立戦争を戦った最後の世代
のワシントン(初代)、ジェファーソン(第3代)、マディソン
(第4代)と続く、ヴァージニア州出身の大統領です。
 モンロー大統領は、上記3つの不干渉原則を踏まえて、具体的
に次のような外交方針を打ち出したのです。これは「モンロー・
ドクトリン」と称され、米国の基本的な外交方針として、20世
紀前半まで維持されたのです。
─────────────────────────────
 1.合衆国は、新世界でヨーロッパ強国が所有している植民地
   に干渉しない。
 2.ヨーロッパ強国がその君主制の制度を西半球のいかなる地
   域にせよ広げようとすることは我国の平和と安全にとって
   危険なものと見なす。
 3.すでに独立を達成した国を圧迫するヨーロッパの強国は合
   衆国に対する非友好的な意向を示すものと見なす。
 4.アメリカ両大陸は今後、ヨーロッパ強国によって将来の植
   民の対象と考えてはならない。また、合衆国としてはヨー
   ロッパの事態に干渉する意図はない。
                   http://bit.ly/2aod9iT
─────────────────────────────
 考えてみると、第二次世界大戦は日本が参戦するまでは、ヨー
ロッパの戦争であったといえます。ヨーロッパではナチスドイツ
が台頭し、フランスが完全に占領され、英国も大空襲されていま
す。そのため、連合国はしきりに米国に参戦を求めますが、米国
はモンロー主義を盾に取り、参戦を拒んだのです。当時の米国の
世論は、戦争に巻き込まれることを極度に嫌ったのです。
 米国にいわせると、これを破ったのは日本軍による真珠湾攻撃
が原因であると主張します。なぜなら、これによって米国の世論
は「好戦的」に変化したというのです。
 これについては、当時、ルーズベルト大統領は日本の真珠湾攻
撃を事前に知っていたといわれています。しかし、あえて日本に
攻撃させることで、アメリカの世論を変化させ、連合軍への参加
のきっかけにしようとしたというのです。
 もっと陰謀論的にいうと、ルーズベルト大統領は、わざと日本
を米国と戦争せざるを得ない状況に追い込み、真珠湾を攻撃させ
たとなります。これが、ルーズベルト大統領が第二次世界大戦後
に国連を立ち上げて、モンロー主義を「国際主義」に発展させよ
うとした動機になったのではないでしょうか。
 その後の米国は、このモンロー・ドクトリンを基本とする外交
の下で、着々と国力を増強していったのです。これについては、
高畑昭男氏の本から引用します。
─────────────────────────────
 若いアメリカはモンロー・ドクトリンを基本とする外交の下で
着々と国力を蓄えていった。ナポレオン時代のフランスからルイ
ジアナ領を購入(1867年、ジェファーソン大統領)し、帝政
ロシアからアラスカを購入(1867年、アンドリュー・ジョン
ソン大統領)した他、メキシコから分離独立したテキサス州を併
合しただけではなく、米墨(メキシコ)戦争(1846〜48年
ジェームズ・ポーク大統領)に勝利して、メキシコ領だったカリ
フォルニアなども手に入れて、領土を大幅に西へ拡大した。奴隷
制をめぐって国を二分した南北戦争(1861〜65年)では、
アメリカ分裂を画策する英国の介入を阻止するために苦心したが
それ以外の期間は欧州列強に対する中立と孤立主義の外交を維持
することによって、おおむね平和と繁栄を享受し、めざましい勢
いで国土と国力を増やしていったのである。
         ──高畑昭男著『「世界の警察官」をやめた
  アメリカ/国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/019]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ氏はモンロー主義に戻りたい米国民の本音を語って
  いる/杉江義浩のオフィシャル
  ───────────────────────────
   11月の選挙でドナルド・トランプ氏がアメリカ合衆国大
  統領になろうとなるまいと、米国民の本音は「アメリカ・フ
  ァースト」であることに変わりはありません。言ってみれば
  よその国のことはどうでもいい、外国の問題に関わるのはや
  めて、アメリカ人の幸せだけを考える政府にしよう、という
  非常に内向きな考え方です。その考え方が今や主流になろう
  としています。
   日本や韓国、あるいはヨーロッパにアメリカ軍を駐留させ
  たり、アフガニスタンやイラクに攻撃をしたり、と「世界の
  警察官」と呼ばれるくらい積極的に外交上のリーダーシップ
  をとってきた昨今のアメリカしか知らない僕たちには、にわ
  かに信じがたいことです。けれどもこのような外交に積極的
  なアメリカの姿は、アメリカ建国以来の歴史を見ると、ここ
  70年あまりの一時的な姿にすぎないことが分ります。本来
  のアメリカは、もともと、とても内向きな国だったのです。
   1823年、第5代アメリカ大統領ジェームズ・モンロー
  が議会で演説して提唱した外交方針であるモンロー主義とい
  うのがあります。アメリカ合衆国は南北アメリカのこと以外
  には口を出しませんよ、ヨーロッパはヨーロッパで、好きに
  やってください、と明言したのです。モンロー主義とは、典
  型的なアメリカ孤立主義だとも言えます。
                   http://bit.ly/2aoIOh1
  ───────────────────────────

モンロー米5代大統領.jpg
モンロー米5代大統領
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2016年08月08日

●「米国の孤立主義は棍棒外交に変化」(EJ第4335号)

 第26代米国大統領に、セオドラ・ルーズベルト(在任:19
01年〜1909年)という人物がいます。セオドラ・ルーズベ
ルトには、次の有名な言葉があります。
─────────────────────────────
 太い棍棒を携えつつ、穏やかに話せ、さればさらに遠くまで
 前進できる。        ──セオドラ・ルーズベルト
─────────────────────────────
 「穏やかに話せ」といっていますが、ルーズベルトは穏やかに
話したことなど生涯を通じて一度もなく、いつもカン高い声と派
手な身振りで、熱っぽく話し、あらゆる事柄にエネルギッシュに
対応した大統領として知られています。
 一部には軍国主義者であるとの評価はあるものの、生涯に40
冊以上の本を著しており、そのテーマも、海軍の歴史からバード
ウォッチングにいたるまでの幅広く多岐にわたっていたといわれ
るルネッサンス風教養人だったのです。
 彼は、いわゆるモンロー・ドクトリンを拡大解釈し、西半球の
どの国ともヨーロッパ諸国からの侵害を受ければ、戦い、撃退す
ると言明しているのです。そして、モンロー・ドクトリンに関連
して、「世界の警察官」宣言をしています。
─────────────────────────────
 南北米の秩序を守るためには、アメリカが国際的警察権を行
 使する用意がある。     ──セオドラ・ルーズベルト
─────────────────────────────
 なお、セオドラ・ルーズベルトのいう「太い棍棒」とは海軍力
のことを指しています。彼は、米海軍きっての戦略家アルフレッ
ド・セイヤー・マハン提督の『海上権力史論』を精読し、米国の
シーパワーの復活が通商の拡大と繁栄を導くと力説し、海軍力を
増強しなければ、モンロー主義宣言と米国の名誉を放棄すること
になると力説したのです。このマハン提督の本には、次のような
ことが書かれています。
─────────────────────────────
 アメリカ西岸の安全のためにはサンフランシスコから3000
マイル以内にある港湾、すなわちハワイ・ガラパゴス・中南米な
どに外国の給炭所を獲得させないという不退転の決意をもたなけ
ればならない。            http://bit.ly/2aRfaUD
─────────────────────────────
 このように、米国が英国に次ぐ海軍力を持つ海洋国家を目指し
たのは、このマハン提督の本とそれを実際に行動に移したセオド
ラ・ルーズベルトの影響が大きかったといえます。この頃から米
国はワシントンやジェファーソンが唱えた孤立主義を捨て、モン
ロー・ドクトリンを拡大解釈して、その行動面では、欧州列強に
負けじと海外権益を拡充する積極介入主義に変化していったので
す。孤立主義からの脱却です。
 ちなみに、このセオドラ・ルーズベルト大統領の、次の次の第
28代米国大統領がウッドロー・ウイルソンであり、彼の下で米
国は第一次世界大戦に遭遇するのです。そして、国際連盟が結成
されることになるのです。これについて、既出の高畑昭男氏は次
のように述べています。
─────────────────────────────
 マッキンレーや、セオドア・ルーズベルトが「力の外交」に目
覚めて対外積極介入に転じ、領土や利権の拡大などの実益を追求
したのに対し、ウィルソンは道義や理念の側面から積極外交を推
進した。自由や民主主義といったアメリカの価値を世界に広げる
「国際主義」を、外交の柱に据えたのである。
         ──高畑昭男著『「世界の警察官」をやめた
  アメリカ/国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
─────────────────────────────
 上記の「マッキンレー」とは、第25代米大統領ウイリアム・
マッキンレー(在任:1897年〜1901年)のことです。こ
マッキンレー大統領の時代に「メイン号事件」が起こります。こ
の事件は、米国の陰謀といわれているので、どのような事件か述
べておくことにします。
 米国は、中南米を支配下に置きたいと考えていたのですが、当
時はキューバ、グアム、フィリピンなどはスペイン領だったので
す。マッキンレー大統領は気の優しいナイスガイだったのですが
利権は守るという考え方の持ち主だったのです。
 とくにキューバは何年間かにわたり、その宗主国のスペインに
対し、反乱を起こして戦っていたのです。そのため、キューバの
首都のハバナに米国は巨額の投資をしており、それが危険にさら
されていたのです。しかし、南北戦争で懲りている米国民はスペ
インとコトを構えるのは絶対反対だったのです。
 そういうわけでマッキンレー大統領は、資産を守る名目で、戦
艦「メイン」をハバナ港に派遣します。ところがその戦艦「メイ
ン」が、ハバナ港に入った直後に突然爆発し、乗船していた米兵
200名以上が死傷したのです。
 米国のメディアは、これはスペインによる仕業であるとする記
事を大々的に報道したのです。これが米国民の怒りに火を注ぎ、
スペインとの戦争に発展します。米西戦争です。その結果、この
戦争に勝利した米国は、スペイン領のキューバ、グアム、フィリ
ピンを次々に勢力下に置いたのです。
 まるで戦争になることがわかっていたような米軍の手際の良過
ぎる対応から、当時から本当にスペインの仕業かどうか疑われて
いたのです。つまり、戦艦「メイン」の爆発は、米軍による自作
自演ではないかと思われていたのです。しかし、多くの米兵も死
傷していることから、まさかとは考えられていたのです。
 事件から約70年以上が過ぎた1970年代になって、この事
件は米国の謀略であったことが証明されています。米海軍自身が
スペインの騙し討ちではなく、米国の自作自演の芝居であったこ
とを認めたのです。領土拡張のためなら、自国民も殺害する国で
あったということです。 ──[孤立主義化する米国/020]

≪画像および関連情報≫
 ●戦艦「メイン」号事件について
  ───────────────────────────
   19世紀も半ばになって、かつての大植民帝国スペインは
  次々と領土を失い、没落の一途をたどる。(ただし勘違いし
  てはならないのは、植民地時代に作り上げた人と金と物の流
  れ、特にカトリック組織を通した通路は決して失われていな
  いということだ。一つの帝国にとって「旧植民地」は単なる
  「旧」では無い)最後に残された植民地は、キューバ、プエ
  ルトリコ、フィリピン、グアム周辺と、アフリカの一部(現
  在の赤道ギニアとサハラウイ)であった。1880年代以降
  はそのキューバとフィリピンで独立運動が盛んになりスペイ
  ン政府は激しく弾圧を繰り返す。1895年にキューバで、
  ホセ・マルティー(同年に殺害される)が指導する独立運動
  が大きな盛り上がりを見せ状況は危機的になる。
   一方、南北戦争の混乱から立ち直り、またインディアンの
  大虐殺と土地の強奪をほぼ完了させたアメリカ合衆国は、南
  北戦争でやや出遅れた感のある帝国主義的進展を開始させる
  時期にあった。彼らにとってフィリピンなどの太平洋の諸島
  とカリブ海はまさに垂涎の的であった。キューバにはすでに
  砂糖キビ・プランテーションに大量の米国資本が投下されて
  いたのだ。まさに「甘い汁」である。そして国内のイエロー
  ・プレス(イエロー・ジャーナリズム)と呼ばれる様々な新
  聞が「スペインによるキューバ人大虐殺」を書きたて、国民
  の反スペイン感情を煽ってていたが、同時にそれは「独立と
  自由を守る正義のアメリカ人」という国民のナルシシズムを
  心地良くくすぐるものでもあっただろう
                   http://bit.ly/2aKSLGr
  ───────────────────────────

セオドラ・ルーズベルト元米大統領.jpg
セオドラ・ルーズベルト元米大統領
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2016年08月09日

●「アメリカ例外主義とは何か考える」(EJ第4336号)

 米国の外交姿勢について考えるとき、それに付きまとう考え方
がもうひとつあります。それが「米国例外主義」です。これは米
国の建国の理念のひとつにもなっているのです。
 この考え方が最近話題になったのは、2013年9月10日夜
にオバマ大統領が行った世界の警察官放棄演説を受けて、その翌
日の11日、ロシアのプーチン大統領の「ロシアからの警告」と
題するニューヨーク・タイムズ紙への寄稿です。
 そのなかで、プーチン大統領は、次のように米国の例外主義に
ついて批判しています。
─────────────────────────────
 動機が何であれ、人々が自分たちは例外であると思うように促
すのは、非常に危険だ。大きな国もあれば、小さい国もある。裕
福な所も、貧しい所も、民主主義の伝統が長い国も、まだ民主主
義への道を探っている国もある。国によって政策も様々だ。我々
は皆違うが、神の恩恵を祈る時、神は皆を平等に創ったというこ
とを忘れてはならない。      ──プーチンロシア大統領
                   http://bit.ly/2asMJOz
─────────────────────────────
 よくわからないのは、このプーチン氏の論説が、シリアへの米
国の武力介入宣言に関し、ロシアがアサド政権を説得し、国連を
通じて化学兵器を廃棄させるとするプーチン提案に、オバマ大統
領が一転してそれを受け入れた後に出されていることです。
 本来であれば、プーチン大統領としては、自分の提案をオバマ
大統領が受け入れ、シリアへの攻撃を断念したのですから、歓迎
の意を表してもいいのですが、論説全体では米国を強く批判する
内容になっています。
 確かにプーチン氏は、論説の冒頭では、オバマ演説に一応の歓
迎の意を示しているのですが、おそらくこれによって「オバマ組
し易し」と思ったのでしょう。これまで積りに積もってきた日頃
の米国に対する憤懣が、国連の決議なき米国のアフガニスタンや
イラクへの武力行使に加えて、米国の建国の精神にまでも踏み込
んで、批判してみせたのです。プーチン氏は、米国のこれまでの
軍事行動について、次のように批判しています。
─────────────────────────────
 国連安保理の承認なしに軍事行動すれば国連は崩壊した国際連
盟と同じ運命をたどる。国際法と秩序が崩れかねない。(中略)
国際法で武力行使が認められるのは、自衛の場合と安保理決議が
ある場合である。それ以外は国連憲章に違反し、侵略に当たる。
 世界何百万の人が民主主義の模範どころか、力に頼るだけの粗
暴な存在とみなしている。    ──プーチン・ロシア大統領
─────────────────────────────
 オバマ大統領の外交姿勢についての批判だけならまだしも、こ
のロシアの批判については、米国の議会も「いつも国連の安保理
決議で拒否権をふりかざすロシアにはいわれたくない」と反発を
強めたのは当然のことといえます。
 ところで「米国の例外主義」とは何でしょうか。
 米国の例外主義とは、米国の宗教的、道徳的な信念です。今日
のアメリカ合衆国は、英国のニューイングランド植民地に発する
のです。英国のジェームズ1世によって,永住を目的とする植民
特許状が初めて付与されたのは1606年のことです。
 彼らは、ピューリタン(清教徒)と呼ばれるプロテスタントに
よって体現されたのです。彼らは神がその民と契約を結び、地球
上の他の国民を導くために彼らを選んだと信じていたのです。こ
のピューリタンの指導者ジョン・ウィンスロップは、この考えを
「丘の上の町」という譬えで表現したのです。
─────────────────────────────
 「丘の上の町」/City Upon a Hill
 あなたがたは世の光である。丘の上にある町は,隠れること
 ができない。       ──マタイによる福音書第5章
─────────────────────────────
 ジョン・ウィンスロップ師は、新大陸に上陸する直前に、これ
からわれわれが行く丘の上にある町は、下から仰ぎ見る視線が絶
えず注がれるように、ニューイングランドのピューリタン社会へ
の視線も絶えず他の世界から注がれ、この社会が全世界の社会の
モデルになるべきであると説いています。これについて、高畑昭
男氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 ウィンスロップはキリストの教えを引用し、新大陸アメリカに
理想のコミュニティを建設することが「神の特別な恵み」に基づ
く崇高な使命であるという信念を持って、清教徒たちを教導しよ
うとした。政争や腐敗にまみれたヨーロッパとは異なる理想の国
家を建設し、世界の模範となる、という使命感と理念が「アメリ
カ例外主義」として建国精神に刷り込まれたのである。この思想
は約150年後に書かれたアメリカ独立宣言(1776年)にも
受け継がれ、「すべての人は平等に造られ、生存、自由、幸福を
追求する権利を持つ」(自由と人権)という原則や、「市民の総
意に基づく共和制」(民主主義)といった国づくり精神の骨格に
組み込まれていった。──高畑昭男著『「世界の警察官」をやめ
 たアメリカ/国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
─────────────────────────────
 しかし、この米国例外主義は、そのときどきの大統領によって
は、「米国は他の先進国と違い、特別な国であり、何をやっても
正当化される」という間違った考え方に傾くことも多くあったこ
とは事実です。プーチン大統領はこれを批判したのです。
 「オバマ組し易し」と読んだロシアのプーチン大統領は、オバ
マ大統領の世界の警察官放棄演説の翌年の2014年にきわめて
大胆にクリミアのセヴァストポリの編入を強行したのです。今や
ロシアは、オバマ米国を完全になめ切っており、これが中国の南
シナ海での傍若無人な人工島建設にも繋がっているのです。
            ──[孤立主義化する米国/021]

≪画像および関連情報≫
 ●「丘の上の町」について
  ───────────────────────────
   今日のアメリカ合衆国は,イギリスのニューイングランド
  植民地に発する。イギリスのジェームズ1世によって,永住
  を目的とする植民特許状が初めて付与されたのは1606年
  のことで,フランス,オランダなど先発諸国に大きく遅れを
  取った。その後,1614年に,イギリスの探検家ジョン・
  スミスがアメリカ東沿岸を探検し,その地域がイギリスにと
  ても似ていることから「ニューイングランド」という名称を
  与えた。
   初期のアメリカ植民地に移住してきた者は,少数の貴族,
  「ジェントルマン」階級,農民,商人,職人らの中産階級,
  上記の指導者たちに率いられてきた一般の農民,小作人たち
  それに奉公人や徒弟など,様々の種別があった。ニューイン
  グランド植民地に移住してきた者は,これらの中でも中産的
  生産者層のものが多く,当時のイギリス経済社会の発展を担
  っていた人々であった。
   1620年11月20日,ピルグリムファーザーズと呼ば
  れるピューリタン分離派の男女102名が,ニューイングラ
  ンドにたどり着いた。上陸に先立って,彼らは上陸後いかな
  る社会を建設すべきかを協議し,その結果を「メイフラワー
  誓約」を締結した。        http://bit.ly/2aFgPvJ
  ───────────────────────────

プーチン・ロシア大統領.jpg
プーチン・ロシア大統領
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2016年08月10日

●「米国民は国内重視に傾斜している」(EJ第4337号)

 「ピュー・リサーチ・センター」という米国のシンクタンクが
あります。ワシントンD.C.を拠点として、米国や世界における
人々の問題意識や意見、傾向に関する情報を調査するシンクタン
クです。米国の世論調査は、この研究所で行われています。
 高畑昭男氏の本に、このピュー・リサーチ・センターが、20
13年7月に実施した米国の世論調査のうち、次の2つの調査項
目の結果が出ています。添付ファイルをご覧ください。
─────────────────────────────
      1.「揺れるアメリカの国際関与」
      2. 「大統領が専念すべき分野」
─────────────────────────────
 「1」は1964年〜2011年にかけての調査ですが、「自
国の問題に専念せよ」という孤立主義を支持する人は、平均して
36%であったのに対し、「国際問題に関与すべし」とする人は
倍近くの60%前後を占めていたのです。
 しかし、ここ数年間では、「自国の問題に専念せよ」は最大で
49%に拡大し、過去10年の調査で、最も高い水準に達してい
ます。これに対して、「国際問題に関与すべし」は50%にダウ
ンしています。つまり、半々になっているのです。
 「2」は「大統領はどの分野に専念すべきか」について、外交
政策と国内政策を比較して聞いています。これによると2007
年には外交政策40%、国内政策39%と拮抗していたものの、
年を追うにつれて外交政策を上げる人が目に見えて減少し、20
12年には遂に10%を切り、2013年は6%まで減少してい
ます。今や「内政に専念せよ」との意見は実に83%に達してい
るのです。明らかに民意が内向きになっています。
 米国の世論がどうしてこのように内向きになったかについては
次の2つの理由があると考えられます。
─────────────────────────────
 1.不景気、失業、雇用問題などの国内経済問題が外交政策
   に影響している。
 2.イラク、アフガニスタン戦争の長期化がもたらしている
   厭戦気分がある。
─────────────────────────────
 これらの2つの理由からもわかるように、内向きになる要因は
一時的、変動的なものです。経済の問題は基本的には循環的なも
のであり、経済政策によって向上することもあるし、厭戦気分は
時間が経てば変化するものです。
 したがって、米国のDNAに孤立主義であるといっても、国力
が増強するにつれて、先進国の帝国主義の流れに合わせて、積極
的介入主義に転じ、さらに進んで国際連盟や国際連合などの国際
機関を通じての国際主義へと外交政策は変化しているのです。
 この他にピュー・リサーチ・センターの調査では、「米国は世
界で卓越した軍事大国であるべきか」という質問もしていますが
これについて57%の人が賛成と答えていますし、米国と中国が
大国関係を結び、中国が米国と並ぶ軍事大国なることを承認する
かとの質問には、29%の人しかそれを容認していないのです。
 このピュー・リサーチ・センターの調査結果について高畑昭男
氏は、次のようにまとめています。
─────────────────────────────
 要するにアメリカ国民の大多数は、世界の平和と安全を担う役
割は、他国と分担したい半面、世界一の軍事力を保つ「強いアメ
リカ」であり続けたいというのが本音らしい。一国の「行動の自
由」を究極的に保証するのは、軍事力である。今のアメリカ国民
の心情を総じて言うとすれば、「世界の警察官」をたった一人で
引き受けるのは望まないが、行動の自由は確保しておきたいとい
うことなのだろう。──高畑昭男著『「世界の警察官」をやめた
  アメリカ/国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
─────────────────────────────
 なぜ、米国の外交政策の歴史や現在の民意について詳しく調べ
ているのかというと、共和党の大統領候補であるドナルド・トラ
ンプ氏が、いわゆる日本の「安保タダ乗り論」を批判し、彼が大
統領になったときの日本への影響を心配しているからです。
 ところで、評論家の副島隆彦氏は、共和党の大統領候補である
ドナルド・トランプ氏の主張を「孤立主義」と訳するのは間違い
であると指摘しています。トランプ氏の外交政策の基本は、アイ
ソレーショニズム(isolationism)であり、このアイソレートを
直訳して「孤立主義」と日本では訳されているのだが、これは間
違いであると断じているのです。
 アイソレーショニズムというのは、「外国のことに関わるより
アメリカは国内問題を優先すべき」という思想のことであり、ト
ランプ氏のそれは、次のようにいうべきであると副島氏は指摘し
ています。
─────────────────────────────
     アメリカ・ファースト(I'm 'America First.')
─────────────────────────────
 副島氏は、この「アメリカ・ファースト」についても日本の新
聞記者は「アメリカ第一主義」と訳していることに不満を漏らし
ています。これは「アメリカの国益が第一」という意味に捻じ曲
げて使おうとしていると批判しているのです。副島氏は自著で次
のように述べています。
─────────────────────────────
 しかし、「アメリカ・ファースト!」は、決して「アメリカの
国益重視」という意味ではない。「アメリカ国内問題が第一(フ
ァースト)。外国のことは第二(セカンダリー)だ」という意味
だ。だからせめて「アメリカ国内第一主義」と訳さなければなら
ない。                   ──副島隆彦著
     『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社刊
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/022]

≪画像および関連情報≫
 ●「米孤立主義」という誤解/ジョセフ・ナイ氏
  ───────────────────────────
   2014年2月10日付のプロジェクト・シンジケートで
  ジェセフ・ナイ米ハーバード大学教授が、米国が内向きにな
  り孤立主義に陥っていると見るのは間違いである、と論じて
  います。すなわち、本年のダボス世界経済フォーラムと数日
  後のミュンヘン安全保障会議において、米国は内向きになり
  孤立主義になっているのではないかとの質問を多く受けた。
  ケリー国務長官はダボスでの力強い演説で「米国は関与を控
  えることは無く、これまで以上に関与を深めていることを誇
  りにしている」と述べたが、疑念は消えなかった。
   ダボスでは、参加者の多くが、米国の景気後退を米国の長
  期的衰退と誤解していた数年前とは違って、今年は、米国経
  済が底力を相当に回復したと見ていた。他方、経済について
  の悲観論者は、かつてはもて囃されていたブラジル、ロシア
  インド、トルコのような新興市場に注目していた。
   米国の孤立主義に対する懸念は最近の出来事に由来する。
  先ず、米国はシリアに軍事介入することを控えている。更に
  アフガニスタンからも撤兵することになる。オバマ大統領が
  議会との対立や政府閉鎖の結果、昨秋のアジア訪問をキャン
  セルしたことも、良くない印象を与えた。
                   http://bit.ly/2aWLPGP
  ───────────────────────────

ピュー研究所による「米国の国際関与度に関する調査」.jpg
ピュー研究所による「米国の国際関与度に関する調査」
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2016年08月12日

●「コクゾウムシの枢軸とは一体何か」(EJ第4338号)

 海上保安庁によると、9日に尖閣諸島周辺海域で中国海警局の
公船が最大13隻も接続水域を航行し、そのうち4隻が延べ10
回、領海に侵入しています。傍若無人な中国の振る舞いです。
 岸田外相は、程永華駐日大使を呼び3回にわたり、抗議したの
ですが、中国公船はそのまま居座っているという事態が続いてい
ます。周辺には数百隻の中国漁船が展開しているのです。南シナ
海で起こっている事態が東シナ海でも起こりつつあるのです。
 このような事態は、冷戦が終結した時点から、予想されていた
ことだったといえます。1989年に1945年から44年間に
わたって継続してきた米ソ冷戦が終結した後、次のようなことが
いわれたのです。
─────────────────────────────
 イデオロギー対立に終始した人類の歴史が終わり、どの国も民
主主義と自由に基づく政治経済体制を目指すようになる。
                   ──「歴史の終焉説」
─────────────────────────────
 この考え方に対して正面切って反対を唱えた人がいます。米国
政治外交誌『アメリカン・インタレスト』の編集長であるウォル
ター・ラッセル・ミード氏です。彼は次の評論を発表し、そこで
「コクゾウムシの枢軸」という聞き慣れない表現を使って注目を
集めたのです。ミード氏は革新的中道派の気鋭の政治学者です。
─────────────────────────────
  「歴史の終わりの終わり」/The End of History Ends.
         コクゾウムシの枢軸/Axis of Weevils.
─────────────────────────────
 「コクゾウムシの枢軸」については、白鴎大学高畑昭男教授の
本にも紹介されているし、ネット上にも高畑氏のコンテンツは多
くあります。その主張をまとめながら、以下にご紹介します。
 ここで「コクゾウムシ」というのは一種の昆虫で、穀類の中身
をかじって空洞化させ、そこに卵を産んで増殖します。目くじら
立てて即座に駆除しなければならないほどの害虫ではないが、そ
うかといって放置すると、後がやっかいなことになります。それ
では、なぜミード氏が「コクゾウムシの枢軸」というように「枢
軸」という言葉を使ったかというと、かつてブッシュ(子)大統
領が、イラン、イラク、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んだことから
きていると思われます。
 ミード氏がコクゾウムシと呼んでいる国は、中国、ロシア、イ
ランの3国です。これら3国は、米国のパワー低下をみてとり、
まるでコクゾウムシのように、「世界秩序」という穀類の食い争
いをしているというのです。ミード氏がいうその理由と根拠につ
いて、高畑昭男氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 アメリカは、冷戦終結後も圧倒的なパワーを駆使して世界秩序
を主導してきた。これに対し、ユーラシア大陸の一角を占めるロ
シア、中国、イランはそれぞれに不満を募らせている。「大口シ
ア」主義を掲げるロシアのプーチン大統領は、かつてソ連が君臨
した勢力圏の復活を画策し、周辺諸国を力ずくで再び支配しよう
としている。ウクライナ問題や2008年に起きたグルジア紛争
はその典型だ。
 一方、台頭を続ける中国は、その経済、政治、軍事力をかさに
着て勢力圏を拡大し、強引な力による現状変更を進めようとして
いる。その対象は安全保障面から国際金融面に拡大しつつある。
イランも、歴史的にスンニ派アラブ諸国が優位を占めてきた中東
の力の均衡を崩壊させ、レバノン、シリア、イラクなど隣接諸国
を通じて着々とシーア派勢力圏の拡大を狙っている。
         ──高畑昭男著『「世界の警察官」をやめた
  アメリカ/国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
─────────────────────────────
 オバマ大統領の世界の警察官放棄宣言以後に世界で起こってい
ることを見ると、このウォルター・ラッセル・ミード氏の指摘が
いかに的確であるかがよくわかります。中国とロシアがまるで水
を得た魚のように動き出したからです。やがてそれにイランも加
わってくる可能性があります。
 オバマ政権は、イラクとの戦争を終わらせることを公約にして
できた政権です。オバマ大統領はその公約を実現させつつありま
す。しかし、その後の世界秩序をどのようにして守るかの視点が
決定的に欠けています。
 現在、米国では共和党のトランプ氏と共和党のクリントン氏の
間で、次期大統領選の本番が行われています。EJでは来週から
この問題にメスを入れていきますが、トランプ候補は、日本に対
し、米軍の駐留経費を全額支払わないのであれば、米軍を撤退さ
せると繰り返し、いっています。これに対してトランプ氏が外交
戦略というものが分かっていないからであり、実際に大統領にな
ればそんなことはしないだろうという識者は少なくありません。
 しかし、これは、案外米国の本音かもしれないのです。という
のは、米国には「オフショアー・バランサー」という構想がある
からです。
 「オフショアー・バランサー」とは、米軍のプレゼンスを米本
土に近い安全な場所に移し、後方からリモート・コントロールす
る戦略です。その方がコストも少なくて済むし、米国の経済・財
政面の現状を考えると、合理的に見えるからです。
 これに対し高畑昭男氏は、これまでの米国の指導力と抑止力は
つねに前線に軍隊を常駐することで確保されてきたことは歴史の
経験則であるといいます。
 そしてもしこのオフショア・バランシング戦略が日米同盟に適
用されたら、アジアの安全保障体制に深刻な影響を与えることに
なると警告しています。次の米国の政権がトランプ氏になるのか
クリントン氏になるのかによって、多少違っては来ますが、日本
としては、本気で自国の安全保障問題について考える必要があり
ます。         ──[孤立主義化する米国/023]

≪画像および関連情報≫
 ●繁殖する「コクゾウムシの枢軸」/高畑昭男氏
  ───────────────────────────
   米外交のユニークな分析で知られる気鋭の米政治学者、ウ
  ォルター・ラッセル・ミードがロシア、中国、イランの3ヶ
  国を「コクゾウムシの枢軸」と呼ぶ挑発的評論を発表し、米
  外交界にちょっとした論議を巻き起こしたのは、2013年
  12月のことだった。
   コクゾウムシは穀類をガリガリかじって空洞化させ、内部
  に卵を産みつけて繁殖する。国際秩序を蚕食する行動と似て
  いることから3カ国を「コクゾウムシ」と名づけたようだ。
  ブッシュ前大統領はイラン、イラク、北朝鮮を「悪の枢軸」
  と呼んだが、「悪」とコクゾウムシは発音も近いので、語呂
  あわせのユーモアもあったのかもしれない。直前の11月は
  中国が一方的に防空識別圏を設定し、ウクライナでヤヌコビ
  ッチ政権がロシアの執拗な圧力に屈して欧州連合(EU)と
  の経済連携協定を土壇場で断念させられた(それが今春のキ
  エフ政変につながった)時期だ。
   ミードによれば、ロシア、中国、イランはユーラシア大陸
  中央部にあり、冷戦後の米国主導による21世紀の秩序に少
  なからぬ不満を持つ。「米国パワーの相対的低下と地政学的
  なすきを狙って秩序の侵食を図っている」と分析する。
                   http://bit.ly/2aLsitH
  ───────────────────────────

岸田外相、程永華駐日大使に抗議.jpg
岸田外相、程永華駐日大使に抗議
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2016年08月15日

●「共和党を混乱させるトランプ候補」(EJ第4339号)

 8月に入って、米国共和党に激震が走っています。大統領選本
番になっても、共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏の暴言
が止まらず、民主党候補のクリントン氏に支持率で大きな差をつ
けられているからです。
 支持率低下の直接的な原因は、トランプ氏がイラク戦争で戦死
したイスラム教徒のホマユン・カーン大尉の父親でパキスタン移
民のキズル・カーン氏に誹謗中傷を加えたことです。
 米国のメディアは、戦死した兵士の遺族を「ゴールド・スター
・ファミリー」という表現で呼び、国のために命を捧げた兵士と
その家族は「愛国のシンボル」として称えられるのです。そのた
め、そのゴールド・スター・ファミリーを冒涜することは米国で
は最大のタブーになっているのです。
 カーン氏の演説は、クリントン氏が民主党の大統領候補の指名
を受託した7月28日の民主党全国大会で行われたのです。キズ
ル・カーン氏は、トランプ氏がイスラム教徒の入国禁止を主張し
ているので、米国憲法がすべての米国民の自由と平等を保障して
いることを踏まえて演説を行い、それが全米でテレビ中継され、
ユーチューブで全世界に報道されたからです。カーン氏はそのな
かで次の発言をしています。
─────────────────────────────
 トランプさん、あなたは一度たりとも米国憲法を読んだことが
ありますか、あなたは一度たりともアーリントン墓地を訪れたこ
とがありますか。あそこには米国のために命を捧げた米兵が眠っ
ています。人種、宗教、文化を超えてすべての戦死者が眠ってい
るのです。             http://nkbp.jp/2bcu499
─────────────────────────────
 カーン氏の演説を受けてトランプ氏は、「どうせヒラリー・ク
リントンのスピーチライターが書いたのだろう」と見当違いなこ
とをいって毒づき、カーン氏の妻が一緒に登壇しながら無言だっ
たことを取り上げて、「彼女は夫に何も発言させてもらえなかっ
たのではないか」と、暗にイスラム教徒の女性であるがゆえに発
言できなかったことをほのめかしたのです。
 しかもその発言を咎められると、「公の場で、名指しでけなさ
れたのだから、それに反論して何が悪い」と開き直ったので、火
に油が注がれる結果になったのです。これに対する共和党の反応
は次の通りです。
─────────────────────────────
 (トランプ氏のこの反論を受けて)民主党はもとより、共和党
の実力者たちも一斉に反発しました。共和党上院トップのミッチ
・マコ−ネル院内総務、ポール・ライアン下院議長、08年の共
和党大統領候補だったジョン・マケイン上院軍事委員長らは「カ
ーン大尉は英雄だ」「カーン一家の犠牲はつねに称えられるべき
だ」「トランプ氏の発言は共和党を代表するものではない」と異
口同音にトランプ氏を批判したのです。http://nkbp.jp/2bcu499
─────────────────────────────
 共和党のこの反応を見て、トランプ氏は、ライアン下院議長に
次の反論をしています。
─────────────────────────────
 我々には強い指導者が必要である。彼を(選挙で)支持する
 かしないかは、まだ決める段階ではない。 ──トランプ氏
─────────────────────────────
 トランプ氏の短所は、「自分の怒りが自分で制御できない」こ
とにあるといえます。少しでも気に入らないことがあると、後先
のことを考えず、すぐ相手を攻撃することです。
 とくにポール・ライアン下院議長といえば、共和党の大物が、
次々とトランプ氏を批判するなかにあって、トランプ氏と会って
話し合い、トランプ氏を共和党の大統領候補にすることに協力し
た人物であり、トランプ氏にとって貴重な味方なのです。それで
も怒りが収まらないと批判してしまうのです。
 もっともトランプ氏は、流石にまずいと思ったのでしょう。数
日後にライアン氏やマケイン氏に対して詫びを入れたようですが
そういう自分を制御できない人物に核のボタンを預けて大丈夫な
のかという不安が出てきているのです。
 ここで忘れてはならないことがあります。4年ごとに行われる
米国の大統領選では大統領だけではなく、上下両院議員選挙が行
われるのです。下院は議員の任期が2年なので2年に1回、上院
は任期は6年ですが、2年ごとに全体の3分の1が改選されるし
くみになっています。
 選挙当日は、ブースの壁や投票用紙には、候補者たちの筆頭に
には大統領候補の名前があり、続いてその州の上院、下院議院候
補の名前が出ているのです。そのため、投票するさい、トップに
書かれている大統領候補の名前が有権者の心理に強い影響を与え
る可能性が高いといえます。したがって、民主党でも共和党でも
議員たちとしては自分たちの意に沿わない大統領候補を選ぶはず
がないのです。
 トランプ氏が共和党の大統領候補になる可能性が出てきた今年
の2月に、マコーネル院内総務は今年改選予定の上院議員24人
を緊急に呼び出し、次のように述べたといいます。
─────────────────────────────
 今度の選挙では大統領のことはまったく考えなくてよい。自分
の選挙だけに全力をあげなければならない。選挙資金も自分のた
めだけに使い、地元実力者との関わりも自分のためにだけに利用
して、議会勢力を傷つけないようにしなければならない。
                      ──日高義樹著
          『トランプが日米関係を壊す』/徳間書店
─────────────────────────────
 このマコーネル院内総務の行動はきわめて異常なことです。米
国の政治、とくに強力な上院の政治勢力が、自分の党の大統領候
補に真っ向から対立する姿勢を示しているのです。
            ──[孤立主義化する米国/024]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ氏がイスラム教徒の戦没者遺族を「侮辱」
  ───────────────────────────
   【ワシントン=加納宏幸】米共和党大統領候補の不動産王
  ドナルド・トランプ氏(70)が7月31日、戦死したイス
  ラム教徒の米軍人の遺族を侮辱したとして批判された。共和
  党幹部もトランプ氏に対する不快感の表明が相次ぎ、陣営は
  釈明を迫られた。米軍最高司令官になる資質に関わるだけに
  11月の本選にも影響を与えそうだ。
   遺族は、2004年にイラクで自爆テロにあって戦死した
  フマユン・カーン陸軍大尉の父でパキスタン出身のキズル・
  カーン氏。民主党大統領候補にヒラリー・クリントン前国務
  長官(68)を指名した同党全国大会に7月28日、妻と登
  壇し、イスラム教徒の入国禁止を主張するトランプ氏に「米
  国憲法を読んだことがあるのか」「(戦没者が眠る)アーリ
  ントン国立墓地を訪れたことがあるか」などと問いかけた。
   トランプ氏は31日、ツイッターで「カーン氏から敵意を
  もって攻撃されたが、反応してはいけないのか。イラク戦争
  (開戦決議)に賛成したのはクリントン氏で、私ではない」
  と反論。米メディアでは「クリントン氏のスピーチライター
  が原稿を書いたのではないか」とも発言した。
   カーン氏は31日のCNNテレビ番組でトランプ氏を「黒
  い魂を持っている。指導者には到底ふさわしくない」と批判
  し、共和党幹部に同氏への支持撤回を要求。クリントン氏も
  カーン氏に同調し、同党に「党派よりも国家(への忠誠)を
  取るべきだ」と訴えた。      http://bit.ly/2boE7Wl
  ───────────────────────────

キズル・カーン夫妻の演説.jpg
キズル・カーン夫妻の演説
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2016年08月16日

●「クリントンは敵失で大きくリード」(EJ第4340号)

 ゴールド・スター・ファミリーを冒涜したツケは小さくないよ
うです。8月5日時点での支持率は次のようになっています。
─────────────────────────────
  民主党/ヒラリー・クリントン支持 ・・・・ 47%
  共和党/ ドナルド・トランプ支持 ・・・・ 38%
─────────────────────────────
 この時点での支持率の差は9ポイントですが、2012年、バ
ラク・オバマ氏と争って敗れたミット・ロムニー氏でさえ、支持
率で、9%の差はついたことはないのです。
 地域別にみると、支持率はどうなっているでしょうか。クリン
トン氏の支持率からトランプ氏の支持率を引くと、次のようにな
っています。つまり、「+」であれば、クリントン氏が上回って
いるということになります。
─────────────────────────────
        北西部 ・・・・ +14%
        中西部 ・・・・ +15%
    ⇒   南 部 ・・・・  +3%
        西 部 ・・・・ +12%
─────────────────────────────
 ここで注目すべきは南部の「+3%」です。これまで南部では
民主党候補の支持率が共和党候補のそれを上回ったのは20年ぶ
りのことです。居住地域でみると、クリントン氏が都市部で36
%リードしていますが、都市部近郊ではトランプ氏はクリントン
氏を1%、農村部では23%リードしています。
 年齢別の支持率はどうなっているでしょうか。若者に弱いとい
われていたはずのクリントン氏は次のようになっています。
─────────────────────────────
      18歳〜34歳 ・・・・ +12%
      35歳〜49歳 ・・・・  +4%
      50歳〜64歳 ・・・・ +16%
       65歳以上 ・・・・   −3%
─────────────────────────────
 米国の大統領選挙のさいには、共和党と民主党の間で勝利政党
が変動する洲があります。これらの洲を「揺れる洲」という意味
の「スィング・ステート」といわれます。日本語では「激戦州」
ということになります。
 スィング・ステートは、12洲ほどありますが、そのうちの4
州での支持率が出ています。
─────────────────────────────
    1.     フロリダ洲 ・・・・  +6%
    2.  ペンシルベニア洲 ・・・・ +11%
    3.     ミシガン州 ・・・・  +9%
    4.ニューハンプシャー州 ・・・・ +15%
─────────────────────────────
 工業地帯を抱えるペンシルベニア洲とミシガン州での勝敗を分
けるには、そこに住むブルーカラー層の票の取り合いになるので
すが、上記の通り、いずれも支持率では、クリントン氏が大きく
リードしているのが現状です。
 以上の分析は、2016年8月10日付の『日経ビジネスオン
ライン』に掲載の高濱賛氏の記事に基づいていますが、同年8月
3日付の『ウォール・ストリート・ジャーナル』でも、同様の分
析結果を載せています。
─────────────────────────────
 米CNNテレビが1日発表した調査から、自分を保守派だとす
る有権者の25%近くがトランプ氏でなくクリントン氏を支持す
るだろうと述べたことが分かった。この調査全体ではクリントン
氏が7ポイントのリードを示している。共和党の牙城であるユタ
州とジョージア州でも、最近の調査では支持率が拮抗している。
ユタ州での民主党の強気姿勢を示す例として、来週にはビル・ク
リントン元大統領が妻に代わって同州で選挙活動をする予定だ。
 両党の全国大会が終了した後の世論調査を分析したところ、ト
ランプ氏が白人労働者階級を中心に新たな支持層を共和党に呼び
込む一方、大卒の白人有権者からの支持を失っていることが示唆
された。大卒の白人有権者は、これまでの共和党の勝利に重要な
役割を果たしてきた層だ。     http://on.wsj.com/2atZrb6
─────────────────────────────
 8月8日にトランプ氏は、ノースカロライナ州での演説におい
てダメ押しとも言うべき、深刻な失言をしています。
─────────────────────────────
 8月8日、ノースカロライナ州ウィルミントンで行った演説で
トランプは、最高裁をはじめとする判事をヒラリー・クリントン
が指名することに対する憂慮の意を表明した。「もしヒラリー・
クリントン氏が判事を指名する立場になったら、我々には為す術
がなくなる。(武器携帯の権利を定めた)憲法修正第2条を擁護
する人々には、それを止める手段があるかもしれない。私にはよ
くわからないが・・・」。       http://bit.ly/2aTDQwe
─────────────────────────────
 トランプ氏は言葉を濁しているが、この発言はこともあろうに
共和党の大統領候補者が、憲法修正第2条擁護派、すなわち銃規
制反対派の人たちに対し、政敵(クリントン氏および彼女が指名
するであろう判事)への行動(暴力ないし暗殺?)を促している
ととられても、仕方のないものであるといえます。
 ここまでくると、トランプ氏への大統領候補としての資質には
大きな疑問符がつきます。この発言が出る前の8月5日時点での
統計に基づいて選挙情勢を予測する「ファイブ・サーティ・エイ
ト」は、クリントン氏は選挙人346・7人を確保しているのに
対し、トランプ氏は191・0人にとどまっていると予測してい
ます。そして、クリントン氏がこの大統領選挙で勝利する確率は
81・5%であるとしています。果たして本当にその通りになる
のでしょうか。     ──[孤立主義化する米国/025]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ、ヒラリー暗殺を示唆する問題発言でテロを扇動
  ───────────────────────────
   今回の騒動(ノースカロライナ州でのトランプ氏の発言)
  では、クリントン側の肩を持たざるをえない。トランプの発
  言は、銃の所持を支持する特定のグループが、クリントンや
  彼女の指名する判事たちに対して何か事を起こすように仕向
  けている。そのグループができることとは?銃の使用に他な
  らない。
   「クリントンや判事たちに対して武器を取れ」というトラ
  ンプの発言を、多くの人々は無意味な発言として受け止める
  だろう。ほとんどの人々はジョークとして受け流すだろうが
  中にはトランプ氏の発言を真剣に受け止め、行動を起こす可
  能性を探る人も必ずいるはずである。つまりトランプは、テ
  ロ行為を扇動したのである。法にも引っかからない暗示的な
  “stochastic terrorism/暗示的なテロの扇動”については
  この10年以上に渡り学会でたびたび論議されてきた。その
  言葉が今回はぴったり当てはまる。暗示的なテロの扇動につ
  いては、数年前にとあるブロガーが取り上げ、「言葉やその
  他の方法で不特定の人々を扇動し、暴力やテロ行為を起こす
  ように仕向けること。統計学的に予測することはできるが、
  個別には予測不可能」と定義している。
                   http://bit.ly/2aTvUh3
  ───────────────────────────

トランプ候補のノースカロライナ州での演説.jpg
トランプ候補のノースカロライナ州での演説
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2016年08月17日

●「トランプ氏が中途棄権する可能性」(EJ第4341号)

 2016年の米国の大統領選挙の現況は、支持率では、クリン
トン候補がトランプ候補を大きくリードしています。しかし、当
然のことながら、支持率が大統領を決めるわけではないのです。
実際には、洲ごとに割り当てられている大統領選挙人538人の
過半数の270人を獲得した候補者が勝利者になります。538
という数は、上院議員と下院議員の数と同数とされています。
 といっても上下両院議員の数は正確には535人ですが、上下
両院議員のいないワシントンD.C.に大統領選挙人を3人を割り
当てているので、538人になります。
 仕組みとしては、有権者は大統領選挙人(以下、選挙人)を選
ぶ間接選挙のスタイルになっているのですが、実際には有権者は
各州ごとに共和党のトランプ氏か、民主党のクリントン氏かのど
ちらかを選ぶ直接選挙と変わらないのです。
 どうしてこのような間接選挙のスタイルをとっているのかとい
うと、建国当時にできた制度が、現在まで引き継がれているから
です。当時は、全米で一斉に選挙をすることは困難であり、また
一般の有権者は政界の事情に疎い人も多く、誰が大統領に相応し
いかの判断は選挙人に任せた方がよいという考え方によって「選
挙人を選ぶ」というスタイルになったのです。
 それにしてもトランプ氏は、クリントン氏に支持率でこれほど
の差をつけられているのに、なぜ、自殺行為ともいうべき暴言を
重ねるのでしょうか。
 2016年8月3日の米3大ネットワーク(CBS、NBC、
ABC)の夜のニュースは、トランプ氏のわがままぶりに、トラ
ンプ陣営のポール・マナフォート選対最高責任者はお手上げの状
態になっていると報道し、ロサンゼルス・タイムスも、次のよう
なショッキングな記事を掲載しています。
─────────────────────────────
 共和党指導者たちは、トランプ陣営のスタッフがトランプ氏を
コントロールできなくなっていることに苛立っている。トランプ
氏が突如、共和党大統領候補をやめてしまった場合の対処策につ
いてすら協議し始めているという。共和党指導部の幹部の一人は
万が一、トランプ氏が辞めた場合、その空席をどう埋めるかにつ
いて弁護士が法律面から研究調査していると語っている。
                  http://nkbp.jp/2bjoQG3
─────────────────────────────
 最近メディアには、トランプ氏について、真偽はともかくいろ
いろ陰謀論めいた記事が頻出しています。わざと暴言を吐いて自
分を追い込み、途中で大統領選を降りてしまうのではないかとか
あれほどクリントン氏を罵倒しながら、実はクリントン氏とは話
がついているのではないかというような類の話です。
 実はトランプ氏はオバマ政権がスタートした2009年までは
民主党員であり、クリントン一家とはとても親しかったのです。
その証拠に、トランプ氏は2005年に行われた現夫人のメラニ
ア氏との結婚式にクリントン夫妻を招待しているのです。
 それでいて、予備選挙を戦っているとき、トランプ氏は、クリ
ントン氏のことを次のように罵倒しています。
─────────────────────────────
◎ヒラリー・クリントンは、アメリカの歴史上最悪の国務長官で
 あった。──2015年7月8日、NBCニュースにおけるイ
 ンタビューでの発言
◎彼女(ヒラリー)が今持っている唯一のカードは、「女性」の
 カードである。他に何もない。率直に言って、もしヒラリーが
 男性であれば、票の5%も得ることはできないと思う。今彼女
 のために有利に働いているのは女性票だけだ。すばらしいこと
 は女性はヒラリーのことを好きではないということだ。わかっ
 たか。    ──2016年4月26日の記者会見での発言
                      ──開高一希著
      『アメリカはなぜトランプを選んだか』/文藝春秋
─────────────────────────────
 こういう考え方とはまったく違う意見もあります。現在、トラ
ンプ氏の暴言にまゆをひそめているのは、いわゆる高学歴のイン
テリ層であり、これに対してトランプ氏を支持しているのは、米
国のミドルとは呼べない下層国民であるというのです。この層の
人々はトランプ氏の発言を熱烈に支持しており、これまでの彼の
数々の暴言も肯定的に受け入れているといいます。
 実際に2016年2月23日、ネバダ洲での演説においてトラ
ンプ氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
     私は低学歴の人たちが好きだ。
     I like people with lower educations.
─────────────────────────────
 このトランプ氏の発言について副島隆彦氏は「これは極めつけ
の正直な言論である」と評価し、次のように述べています。実際
にこの発言をしたとき、党員集会に来ていた数千人の聴衆は、割
れんばかりの歓声と拍手を送ったといいます。
─────────────────────────────
 自分たちの指導者になる者が、本気で、体を張って本音の言論
をやってみせると、大衆はそれに応える。それが「あなたを支持
するよ、応援するよ」ということだ。本場の大阪漫才(吉本興業
の難波花月劇場)でも、最高級の芸を極めた漫才師は、「あんた
らアホなお客がいてくれるからワシの漫才が冴えるんや」という
観客罵倒芸をやる。客はゲラゲラと笑う。
 アメリカの大衆・庶民の感情の勘どころを、しつかりと自分の
アメリカ・テレビ出演漫才芸で40年間も(30歳の頃からもう
40年)みっちり自分の体で仕込んできたドナルド・トランプに
勝てる者はいない。             ──副島隆彦著
      『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/026]

≪画像および関連情報≫
 ●2016年8月13日のアーカイブ/柏の住人
  ───────────────────────────
   トランプは共和党全国大会で大統領候補の指名を受ければ
  言動を変えるのではと思っていましたが、そうはならないよ
  うです。人口比で見て白人男性だけの支持では大統領選には
  勝てません。高濱氏の記事にありますように、トランプは単
  なる人格障害か、クリントンを勝たすためにわざと共和党大
  統領候補に立候補したのかもしれません。日高義樹氏に以前
  聞いたところによれば、「米国で一番尊敬されるのは軍人」
  とのことでした。トランプも当然そのことを知っている筈で
  す。それでいて暴言を吐けば、どういう結果を齎すか分かっ
  ていると思います。だから人格障害と言われる訳です。レー
  ガンの再来を期待しましたが、レーガンのように他人の話を
  よく聞く耳は持ち合わせていないようです。クリントンは大
  統領に相応しくないと思っていましたので、トランプの方が
  マシと思って期待していたのですが、今のままでは彼も大統
  領になる資格はないでしょう。両人を大統領候補としてしか
  選べない所に、米国民の不幸があります。
   クリントンが勝てば、中国との不正な金を貰っていた経緯
  から、中国に厳しい態度は取れないと思います。中国系米人
  ノーマン・シューによる違法献金事件だけでなく、北野幸伯
  氏のメルマガによればインドネシア華僑のリッポ・グループ
  から違法献金を受け、ビルが大統領に選ばれたと書かれてい
  ます。元記事は、伊藤貫氏の『中国の核が世界を制す』です
  が。如何に悪辣な人間かが分かろうというもの。野心の為に
  は手段を選ばず、汚い金塗れの人物です。
                   http://bit.ly/2bblRPC
  ───────────────────────────

暴論続発のトランプ共和党候補.jpg
暴論続発のトランプ共和党候補
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2016年08月18日

●「トランプとキッシンジャーの会談」(EJ第4342号)

 評論家の副島隆彦氏が、2016年のアメリカの大統領選に関
係する次の新刊書を上梓されています。
─────────────────────────────
                     副島隆彦著
   『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社
─────────────────────────────
 本書の第1章は「トランプ大統領の誕生」となっており、次の
記述があります。ここで、副島隆彦氏は「トランプが次の米国大
統領になる」といい切っています。
─────────────────────────────
 2016年5月3日、共和党のインディアナ州予備選でトラン
プが勝った。当日、競争者のテッド・クルーズ候補(テキサス州
上院議員)が選挙戦から撤退した。これで、トランプの勝ちが決
まった。
 このあと5月12日にトランプは、アメリカの共和党の実力者
で下院議長のポール・ライアン(若い。46歳)と話をつけた。
これでトランプは共和党の大統領候補指名を確実にした。ポール
・ライアンと何を話したか。「私たちの間には今もいくつかの相
違点がある。しかし、大きいところでは意思一致(合意)」でき
た」と互いに承認し合った。これは「トランプ=ライアン・ステ
ートメント(宣言)」と呼ばれるべきものだ。共和党本部がトラ
ンプに折れたのだ。
 どうやら、ここでドナルド・トランプが、次のアメリカ大統領
になる流れが生まれた。そして私は5月22日に「トランプが大
統領になる」と決断した。自分なりに10日間真剣に考え込んだ
あとでの結論だった。      ──副島隆彦著の前掲書より
─────────────────────────────
 この本の第1刷は2016年7月10日であり、この段階で、
「トランプが次の米国の大統領になる」という予測(予言)を出
すのは、実に大胆であるといえます。
 副島氏がいかなる根拠でそのように決断したかについては、本
書に詳しく書かれているのですが、そのなかでもっとも重要な意
味を持つのが、5月18日にトランプ氏がニューヨーク在住の元
米国務長官のヘンリー・キッシンジャー氏を自ら訪問したことで
す。そのときのユーチューブの映像があるのでごらんください。
時間は約46秒です。
─────────────────────────────
  ◎トランプ大統領候補、キッシンジャー元国務長官と会談
                 http://bit.ly/2bj8AI4
─────────────────────────────
 なぜ、キッシンジャー元国務長官に会うことが重要なのでしょ
うか。キッシンジャー氏は現在93歳ですが、今もなお外交官と
して現役なのです。かたちのうえだけとはいえ、シリア停戦が実
現したのは、キッシンジャー氏がモスクワにプーチン大統領を訪
ねて水面下で根回しして実現させたのです。
 そういうわけで、キッシンジャー氏に会って外交面での教えを
受けるのは、共和党の大統領候補にとって避けられない通過儀礼
になっているともいわれます。
 もうひとつ、トランプ氏がキッシンジャー氏に会ったのは、自
分の大統領としての資質に懐疑的な共和党の雰囲気を変え、共和
党の主流との関係を友好的にする目的もあるとみられます。それ
に、トランプ氏はその発言から、外交問題についてはネックがあ
り、3月2日には、外交の専門家が100名が連名で、「トラン
プ氏は大統領に相応しくない」として抗議声明を出しています。
キッシンジャー氏に会ったのは、そういう声明に応えるためでも
あるともいえるのです。
 しかし、副島氏によると、トランプ氏がキッシンジャーに会っ
た真の狙いは、デイヴィッド・ロックフェラー氏(現在101歳
で健在)に何らかのわたりをつけるためであるというのです。副
島氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 このデイヴイッド・ロックフェラーが、まさしく実質の世界
皇帝≠ナあり、ダビデ大王″である。そしてキッシンジャーは
その最高位の直臣である。キッシンジャーと同格の重臣は、ポー
ル・ボルカー(88歳。金融・経済問題の担当。80年代、レー
ガン政権のFRB議長を務めた)である。この事実を理解せず、
認めようとしない者は、事情通であれば日本にはもうあまりいな
いだろう。           ──副島隆彦著の前掲書より
─────────────────────────────
 なぜ、大統領になるのに、デイヴイッド・ロックフェラーへの
接触が必要なのでしょうか。
 ロックフェラーグループは、自らの事業のために大統領選には
深く関わっています。今回の大統領選ではジェフ・ブッシュ大統
領だけはどうしても阻止したかったのです。これについての副島
国家戦略研究所研究員の中田安彦氏のコメントです。
─────────────────────────────
 私の独断だが、トランプ候補が成し遂げたのは、「ブッシュ王
朝の阻止」と「クリントン王朝への挑戦」だと思っている。ブッ
シュ前政権には対外拡張主義のネオコン派が幅を利かせた。反ト
ランプのネオコン派は、クリントンへの期待を述べ始めたところ
だ。しかし、反クリントン王朝というのはいまや共和党を団結さ
せる唯一のスローガンだ。アメリカは国王のいない共和国であっ
て世襲王朝ではない、というのが彼らの建前だ。そもそも、ネオ
コン派の外交政策の暴走がアメリカの衰退を早めた。これはオバ
マ大統領も示す認識だ。ネオコン派は米国の二大政党制の真ん中
に存在する「コウモリ」(党派性をはっきりさせない)のような
集団で、レーガン政権のソ連打倒の戦略を実施したものの、イラ
ク戦争でその知的傲慢さを露呈した。  http://bit.ly/2butHFr
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/027]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ氏の日本嫌いはどこに起因するのか
  ───────────────────────────
   「不動産王」として売り出し中だったドナルド・トランプ
  氏の政治的野心はこの頃芽生えたのかもしれない。1987
  年、ニューヨーク・タイムズなど有力紙に、意見広告を載せ
  て、政府を批判した。
  ▼「日本やサウジアラビアのような金持ちの同盟国に、防衛
  負担をさせない外交政策は軟弱だ」。マスコミは、「未来の
  キッシンジャー(元国務長官)にでもなるつもりか」と冷や
  かしたものだ。今や国務長官どころか、米大統領選で共和党
  候補指名を確実にしている。
  ▼意見広告の2年後、三菱地所が、ニューヨークの象徴でも
  あるロックフェラーセンターを買収する。トランプ氏は日本
  非難の急先鋒となった。「私の事務所に来た日本人が、いき
  なり室内をカメラで撮り始めた。無礼を大目に見ていたらい
  きなり切り出してきた。『アイ・ウオント・プロパティー!
  アイ・ハブ・マネー!』(不動産が欲しい。お金はある)」
  当時、得意にしていたジョークである。
  ▼先頃ネブラスカ州で開かれた政治集会では、日本の牛肉関
  税にかみついた。日本が米国に輸出する自動車にも高関税を
  かけるべきだと言うのだ。この主張も80年代から、まった
  く変わらない。当初は、移民やイスラム教徒をめぐる暴言が
  注目された。実は「日本たたき」の方がずっと、年季が入っ
  ている。             http://bit.ly/2bjo7IT
  ───────────────────────────

ヘンリー・キッシンジャー氏.jpg
ヘンリー・キッシンジャー氏
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2016年08月19日

●「世の中は闇の権力が動かしている」(EJ第4343号)

 EJの前回テーマのときにも書いたことですが、この世の中は
表の権力者ではなく、闇の権力者が動かしています。米国の政治
の世界でもそういう力が強く働いており、現在展開されている米
国の大統領選もそういう勢力の影が色濃くみられるのです。
 副島隆彦氏が指摘する、トランプ氏にロックフェラー財閥の現
在の当主デイヴィッド・ロックフェラー氏がついたのではないか
という情報は、今後の大統領選の行方にどのような影響を与える
でしょうか。
 これについては、今後詳しく書いていきますが、今回は少し脱
線して、日本の政治事情について書きます。見逃せないことが平
然と行われているからです。
 日本の政治の世界でも、表の権力者は自民党ですが、実質的に
は日本の官僚機構が日本を動かしています。これを変えなければ
日本は何も変わらないのです。統治機構を変えなければならない
のです。しかし、かねてから、その必要性を説いていた政治家が
いたのです。それは他ならぬ小沢一郎氏です。
 小沢一郎氏は自由党を解党して当時の民主党に入り、選挙のた
びに少しずつ勝利を積み重ねて議員を増やし、遂に代表になって
2009年の衆院選に臨もうとした直前、いきなり何の前触れも
なく、東京地検特捜部に秘書2人が逮捕されたのです。
 そのため、小沢氏は代表を降りざるを得なくなり、選挙では民
主党が大勝して歴史的政権交代が実現したのです。この政権交代
は明らかに小沢氏の功績であるといえます。もし小沢氏が代表の
まま選挙で勝利していれば、小沢政権が誕生していたのです。そ
うすれば官僚機構にメスが入り、日本の統治機構の大改革が行わ
れていたはずです。「政治を官から民へ取り戻す」が小沢氏の政
治スローガンであったからです。
 これは官僚機構にとっては最悪の事態です。そのため、官僚機
構はありもしない疑惑をデッチ上げて小沢氏の秘書を逮捕し、小
沢氏を代表の座から降ろさせ、小沢政権を作ることを防いだので
す。選挙での自民党の敗北は必然だったからです。
 さらに官僚機構側は、ありとあらゆる汚い手を使って小沢氏を
検察審議会を使って強制起訴し、裁判をしたのですが、無罪の判
決が下っています。しかし、その間メディアは官僚機構側につき
小沢氏を完全に無視することによって、その政治生命を奪うこと
に加担したのです。それは現在も続いています。日本のメディア
は官僚機構に完全に屈服してしまっています。この詳細について
は、EJにおいて「小沢一郎論」(72回)、「自民党でいいの
か」(125回)に詳しく書いています。
 さて、2016年8月15日付の日本経済新聞の夕刊に検察庁
の人事が写真付きで発表されています。そのなかに次の人事が出
ていたのです。いずれも発令は9月5日付です。
─────────────────────────────
 ◎黒川弘務氏(法務次官)
  81年東大法卒、83年東京地検検事。松山地検事正、11
  年法務省官房長、東京都出身、59歳
─────────────────────────────
 この人事は、黒川弘務法務省官房長が出世して、法務省事務次
官になることを告げるものです。そして、この人事の出た翌日の
16日には、東京地検特捜部は甘利元大臣の秘書2人を再び不起
訴処分とすることを発表しています。つまり、この発表をもって
甘利元大臣をはじめ、秘書2人も無罪放免になったのです。
 しかし、これはとんでもないことです。これについて、18日
発行の日刊ゲンダイは次のように報道しています。
─────────────────────────────
 「甘利ワイロ事件」特捜部は「総合的に判断して(あっせん利
得処罰法)構成要件に当たらない」と説明しているが、元秘書2
人は約1300万円ものワイロを受け取り、甘利本人も大臣室で
50万円の現金をもらっている。これが犯罪でなくて何だという
のだ。「ワイロを渡した人が『渡した』と言って録音テープまで
残っている。もらった側も『もらった』と認めている。これで不
起訴になるなら、今後、国会議員や秘書はカネをもらって口利き
のやり放題。あり得ない話でしょう」(民進党の山井和則国対委
員長代理)   ──2016年8月18日発行/日刊ゲンダイ
─────────────────────────────
 この甘利事件について日本の全メディアは、事実のみ伝えて一
切論評しません。陸山会事件では、ありもしないウソ八百を針小
棒大に記事として取り上げ、小沢氏の政治生命を絶とうとしたに
も関わらず、甘利事件ではこの有様です。それは、官僚機構から
何らかの圧力を受けているからです。
 この黒川弘務なる人物は、2009年に小沢一郎代表が政治資
金規正法違反に問われた「陸山会事件」で暗躍したとして知られ
ています。黒川氏は相当のヤリ手として知られ、何か法務省とし
て困ったことがあると、呼び戻され、暗躍すると日刊ゲンダイは
伝えています。
 黒川弘務氏の陸山会事件の関わりについては、前参議院議員で
今回の参院選で当選した森ゆうこ氏が、陸山会事件を振り返った
次の書籍に、180ページから229までの約50ページにわた
り、詳しく書かれています。
─────────────────────────────
                       森ゆうこ著
    『検察の罠/小沢一郎抹殺計画の真相』/日本文芸社
             第5章「対決──真犯人は誰か」
─────────────────────────────
 この本を読むと、法務省も東京地検特捜部も検察審査会も何も
信じられなくなります。そういうことを勇気をもって伝え、国民
の知る権利を守るのがメディアの仕事であるのに、こともあろう
に現政権や法務省という権力機構の圧力に負けて本来の仕事をし
ないのは実にけしからんことであると思います。
            ──[孤立主義化する米国/028]

≪画像および関連情報≫
 ●【コヤツの名前を忘れまい】
  ───────────────────────────
   通常国会閉会に合わせたかのような6月1日の検察による
  「甘利明不起訴処分」。どうも不自然で裏がありそうだぞと
  思っていたが、案の定そうだったのだ。甘利収賄事件の検察
  捜査潰しは次期法務省事務次官(法務省トップ)を狙ってい
  るという黒川弘務同省官房長が黒幕だったというのだ。その
  裏事実に鋭く迫っているのが今回転載のリテラ記事である。
   いつもながらに、「リテラ」の既存大手マスコミのタブー
  などものともしない取材力を高く評価させていただく。同記
  事によると、黒川官房長は安倍官邸と深いつながりがあり、
  「法務省内でも『自民党の代理人』といわれているほど、政
  界とべったりの法務官僚」らしいのだ。ここにも学校で習う
  「三権分立」など全くの絵空事であり、実際は「三権癒着」
  である事が如実に示されているのである。ともあれ、法務省
  の“赤レンガ組”トップエリートが時の政権にズブズブでは
  今回の甘利明被疑者「不起訴」のケースのような不正処分が
  今後とも後を絶たないわけである。舛添都知事などのように
  さほど強大な権力をバックに持たない者は連日大バッシング
  にあい、本当の巨悪はマスコミも報道をスルーしてくれ、の
  うのうと議員歳費をくすねて遊び回っていればいいわけで、
  暗黒司法極まるまこと由々しき事態である。
                   http://bit.ly/2bpvRIo
  ───────────────────────────

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大臣辞任会見での甘利明氏
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2016年08月22日

●「クリントン大統領は評価できるか」(EJ第4344号)

 米国の大統領も裏の寡頭勢力によって動かされているという事
実を明らかにしていきます。ビル・クリントン第42代米大統領
のことをどのように評価しているでしょうか。
 ビル・クリントン元大統領は、1993年1月から2001年
1月まで2期にわたり、大統領職を務めています。一般論として
の評価としては、経済政策を重視し、米国に世界大戦後2番目に
高い好景気を実現させることによって、米国の巨額の財政赤字を
削減することに貢献した大統領としての高い評価があります。
 しかし、その一方において、在任中はモニカルインスキーとの
不倫などのスキャンダルが暴露され、窮地に陥ると、そのタイミ
ングに合わせるかのように、アフガニスタンやスーダンへの爆撃
を行っています。これらの攻撃は、「スキャンダルから目をそら
させるための爆撃」であるとして批判されたものです。
 さらに日本人にとっては最も友好的でない大統領として親しみ
を感じない人が多かったと思います。それは彼の姿勢が露骨に中
国寄りだったからです。あるサイトでは、クリントン元大統領の
対日姿勢について次のように述べています。
─────────────────────────────
 (クリントン元大統領は)基本的に、日本嫌いで中国に友好的
であるという姿勢を隠していませんでしたので、そこが評判の悪
さの基本だと思います。中国で江沢民に反日政策を取らせたのが
クリントン大統領だといわれています。
 アジア太平洋地域では歴代政権と違い親中華人民共和国であり
今後の主要な貿易相手国としての重要性を認める一方、日本や中
華民国(台湾)などの同盟国には非常に厳しかった。1998年
の中華人民共和国訪問時には、江沢民総書記(当時)との会談で
「台湾の独立不支持、二つの中国及び一中一台の不支持、台湾の
国連等国際機関への加盟不支持」を表明し、台湾だけでなく、ア
メリカ国内の保守派からも大きな非難を浴びた。日本政府に対し
ては減税や銀行への公的資金の投入を高圧的に内政干渉にも近い
形で要求し、当時の橋本首相さえも激怒したという。
                   http://bit.ly/2b5w8MD
─────────────────────────────
 結論からいうと、このビル・クリントン氏は、米国大統領とし
てはたいした人物ではなかったのです。いわゆる裏の寡頭勢力に
担がれた大統領に過ぎなかったのです。
 ビル・クリントン氏は彗星のごとく現れ、あれよあれよという
間に支持を固めて大統領になっています。その相手の共和党の候
補は、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領(父)であり、湾岸戦
争で、イラクを破った大統領の2期目であったのです。米国では
戦争に勝利した大統領は人気が高く、大統領選では無敵といわれ
ているのですが、無名のビル・クリントン氏はそのブッシュ氏を
破って大統領になったのです。
 このビル・クリントン氏については、2006年5月8日付の
EJで書いているので、ここではそれをリライトしてお届けする
ことにします。
 クリントン氏の政治経歴は、アーカンソー州の知事を12年勤
めただけです。その実績はどうだったのでしょうか。
 アーカンソー州の人口は約260万人、全米人口の100分の
1に過ぎない小さい洲です。この洲の当時の状況について、米国
のいくつかの研究所が行った調査の結果は次の通りです。
─────────────────────────────
 勤労者の平均賃金 → 49位 全般的福祉状況 → 45位
 平均個人所得   → 47位 幼児の死亡率  → 49位
 全般的労働条件  → 49位 若年層の雇用  → 50位
 教師の給与    → 50位 環境政策    → 48位
─────────────────────────────
 これを見ると、米国50州のうち、いずれも最下位かそれに近
い順位であることがわかると思います。このドン尻の州を当時の
クリントン知事が引き継いで、30位ぐらいにしたというのであ
れば、見事な行政手腕といえますが、12年やって49位のまま
だったのです。これでは、行政手腕のなさを疑われても仕方がな
いでしょう。
 1992年4月、クリントン氏はニューヨーク州での予備選挙
で勝利し、民主党大統領候補の指名を確実にしたのですが、その
時点での評判はあまりよくなかったのです。それは次の数字によ
くあらわれています。
 この数字は、予備選に投票した民主党員のなかで「現在立候補
している人物以外に立候補して欲しい」と答えた人の比率です。
─────────────────────────────
    ニューハンプシャー州 ・・・・・ 29%
    ジョージア州 ・・・・・・・・・ 40%
    スーパーチューズデイ ・・・・・ 50%
    コネチカット州 ・・・・・・・・ 60%
    ニューヨーク州 ・・・・・・・・ 66%
─────────────────────────────
 それに加えてクリントン氏については、アーカンソー洲知事時
代、女性スキャンダル、マリファナ疑惑があり、予備選の期間中
メディアはそれを取り上げて、さんざん批判したのです。このよ
うに、まともであればとても米国の大統領になれるような人物で
はなかったといえます。
 ところがです。ビル・クリントン氏が正式に民主党の大統領候
補に指名されると、メディアの攻撃が一斉にストップし、好意的
なものに変わるのです。そしてメディアの攻撃の矛先は、クリン
トン氏の相手のブッシュ氏(父)に向けられたのです。
 問題は、そのようなクリントン氏は、なぜ米国の大統領選に出
ることができたのでしょうか。大統領選に出るには大変な資金が
かかるのです。その資金はどこから調達したのでしょうか。
 これら多くの疑問がありますが、この謎については明日のEJ
で述べます。      ──[孤立主義化する米国/029]

≪画像および関連情報≫
 ●世界中を狂乱の渦に巻き込んだ不倫スキャンダルの顛末
  ───────────────────────────
   1998年、第42代アメリカ合衆国大統領ビル・クリン
  トンの浮気が発覚した。相手は、ホワイトハウス実習生モニ
  カ・ルインスキー24歳。大統領の不倫スキャンダルはマス
  コミ報道に煽られ、世界は狂乱の渦に巻き込まれた。
   不倫スキャンダルの5年前の1993年、46歳のクリン
  トンは、第二次世界大戦後に生まれたベビーブーマー初の大
  統領となる。1996年に再選。ババ(兄弟)のニックネー
  ムで、国民的な支持と人気を一身に受けたものの、在位の2
  期8年は数々の疑惑やスキャンダルにまみれる。大統領の下
  半身問題は、政敵の格好の攻撃材料になった。
   1994年、クリントンは、アーカンソー州知事だったと
  き、部下だったポーラ・ジョーンズにセクハラ容疑で告訴さ
  れた。クリントンは、ホワイトハウスの実習生ルインスキー
  と性的関係を持っていたが、公判中、ルインスキーとの性的
  関係を否定する。
   ところがクリントンは、ルインスキーに「私と関係があっ
  たことを裁判で言わないでくれ」と念押ししていた。困った
  ルインスキーは、同僚に電話をかけて相談を持ちかける。話
  を聞いた同僚は、裁判で偽証することを拒み、ルインスキー
  との会話のテープを公にした。   http://bit.ly/2bxEEFh
  ───────────────────────────

ビル・クリントン元米大統領.jpg
ビル・クリントン元米大統領
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2016年08月23日

●「なぜビル・クリントンは勝てたか」(EJ第4345号)

 バルセロナオリンピックの開かれた1992年の米国大統領選
挙は、湾岸戦争に勝利した現職の大統領ジョージ・H・W・ブッ
シュ氏と、彗星の如くあらわれた無名のビル・クリントン元アー
カンソー洲知事との一騎打ちになったのです。
 予備選では、ブッシュ候補は余裕の戦いであったのです。しか
し、本選挙になると、状況が一変します。メディアが一斉にブッ
シュ候補に対して牙を剥いたからです。それを明瞭に示すデータ
があります。
 1992年の大統領選において、マス・メディアがブッシュ候
補に対して不利な報道をしたことは、「ワシントン・ポスト紙」
のオンブズマン、ジョアン・バード女史の調査――選挙前の73
日間の調査によって明らかになっています。
─────────────────────────────
   ≪対ブッシュ候補≫
     有利な記事 ・・・・・・・・・ 175本
     不利な記事 ・・・・・・・・・ 184本
   ≪対クリントン候補≫
     有利な記事 ・・・・・・・・・ 195本
     不利な記事 ・・・・・・・・・  52本
─────────────────────────────
 これを見ると、確かにクリントン候補が有利になっています。
なぜ、このようなことが行われたというと、次の2つが理由が考
えられます。
─────────────────────────────
 1.ブッシュ大統領が反シオニストの立場を鮮明にしたこと
 2.ロッフェラー家がクリントン候補に肩入れしていること
─────────────────────────────
 「1」の理由について述べます。
 ブッシュ大統領は、なんとか中東和平交渉を成功させたいと努
力していたのですが、イスラエルが強硬に反対し、行き詰ってし
まったのです。そのため、1991年9月、ブッシュ大統領は、
イスラエルへの100億ドル信用保証を米国政府が行うことを拒
否したのです。つまり、ブッシュ大統領は反シオニストの立場を
鮮明にしたわけです。なお、「シオニスト」については、巻末の
「画像および関連情報」をご覧ください。
 本来であれば、次の年に大統領選挙を控えているブッシュ大統
領としては、あえて反シオニスト的行動を取ることはリスクが大
きいのですが、湾岸戦争に勝利しており、選挙には相当の自信を
持っていたので、反シオニストの立場をとったのです。
 しかし、危機感を抱いたシオニスト派は、何としてもブッシュ
再選は阻止しなければならないと考えたわけです。そのためには
不本意ではあるけれども、ブッシュ氏の対立候補である民主党の
無名の大統領候補、ビル・クリントン氏に乗らざるを得なかった
のです。「敵の敵は味方」の論理です。
 そこで、影響力のあるロスチャイルド系のメディアを使って、
ブッシュ大統領に対して、一大ネガティブ・キャンペーンを展開
したのです。米国のマスメディアは、ほとんど英ロスチャイルド
系で、後はロックフェラー系です。1992年の選挙のさいには
「2」で述べる理由によって、ロックフェラー系のメディアも、
ブッシュ大統領叩きに参戦したのです。
─────────────────────────────
           ≪ロックフェラー財閥系≫
             NBCテレビ T V
     ウォールストリートジャーナル 新 聞
   USニューズ&ワールド・リポート 週刊誌
           ≪ロスチャイルド財閥系≫
                CNN T V
             ABCテレビ T V
             CBSテレビ T V
        ニューヨーク・タイムズ 新 聞
              ワシントン・ポスト
           ニューズウィーク 週刊誌
─────────────────────────────
 「2」の理由について述べます。
 ロックフェラー財閥は、すべての米国政権に何らかのかたちで
関わっています。場合によっては、政権の換骨奪胎、すなわち、
政権乗っ取りまで行います。クリントン政権のときは、まさにそ
れが行われたのです。
 1992年の大統領選挙のとき、なぜ、デイヴィッド・ロック
フェラー氏(当時チェース・マンハッタン銀行の頭取で、ロック
フェラーグループの総帥)が、アーカンソー州知事のビル・クリ
ントン氏を大統領選に担ぎ出したのかについては、2つの理由が
あるといえます。
 1つは、ジョン・D・ロックフェラー4世(78歳/通称ジェ
イ)が1992年の大統領選に民主党から出馬したのですが、そ
れを潰すためです。なぜ、潰すのでしょうか。これは副島隆彦氏
によると、ロックフェラー家のお家騒動によるものです。これに
ついては、改めて述べますが、2006年のEJで書いているの
で、参照してください。
─────────────────────────────
 2006年5月15日付、EJ第1834号
 「クリントン前大統領の正体を探る」 http://bit.ly/2bBoDxY
─────────────────────────────
 2つは、この大統領選でブッシュ大統領を破ってクリントン政
権をつくり、政権の換骨奪胎を行うことです。彼らはかつてのカ
ーター政権のときと同じ戦略で、民主党のクリントン政権を事実
上乗っ取ることを考えたのです。
 そして、ロックフェラーグループは、狙い通り、クリントン政
権の換骨奪胎を実現しています。
            ──[孤立主義化する米国/030]

≪画像および関連情報≫
 ●世界を支配する二大財閥/EJ第1828号
  ───────────────────────────
   このような米国の保守本流の財界で、最も力があり、かつ
  著名な財閥がロックフェラー財閥なのです。特徴としては、
  南ドイツ系ですが、ユダヤ人ではなく、プロテスタントであ
  り、カトリックではないのです。ちなみに、大統領を出した
  ルーズベルト家は、南ドイツ出身のプロテスタントのファミ
  リーなのです。
   このロックフェラーに対抗しているのは、ユダヤ系のロス
  チャイルド財閥です。ロスチャイルドは、ドイツのフランク
  フルト出身のユダヤ財閥ですが、その中にあって一番力が強
  いのは英国のロスチャイルド家なのです。ロスチャイルド財
  閥は、シオニスト系財閥の代表というべき存在です。
   ここで知っておくべきことがあります。それは、「シオニ
  ズム」と「シオニスト」という言葉の意味です。「シオニズ
  ム」――これは、ユダヤ人の間に起きた祖国「イスラエル」
  建国運動のことなのです。1948年にイスラエルは、建国
  されていますが、その後はイスラエルを拡張し、アラブ諸国
  に対して強硬主義を取ることを支持する主義をシオニズムと
  いい、それを行う人をシオニストというのです。注意すべき
  ことは、すべてのユダヤ人イコールシオニストではないとい
  うことです。──2006年5月2日付、EJ第1828号
                   http://bit.ly/2bEs0EK
  ───────────────────────────

ジェイ・ロックフェラー氏.jpg
ジェイ・ロックフェラー氏
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2016年08月24日

●「ビルとロックフェラー財閥の関係」(EJ第4346号)

 ドナルド・トランプ米共和党大統領候補は、今年の5月18日
にキッシンジャー元国務長官の自宅を訪問しています。一般的な
受け止め方は、単なる通過儀礼の挨拶か、外交政策について教え
を請うための訪問であろうというものです。
 しかし、キッシンジャー氏に会うことはそう簡単ではないので
す。何人かの関係者を通じて相当の根回しが必要であり、そのう
えでやっと会うことが可能になるといわれています。
 5月3日にトランプ氏はインディアナ州の予備選で勝利し、同
じ日に唯一の競争者であるテッド・クルーズ候補が選挙戦から撤
退したので、その時点で共和党の大統領候補になることはほぼ確
定したのです。その約2週間後の18日にキッシンジャー氏に会
えたのは、もしかするとキッシンジャー氏側からの要請があった
可能性もあります。つまり、呼び出されたのです。
 副島隆彦氏は、そのタイミングでキッシンジャー氏がトランプ
氏に会ったということは、ロックフェラー財閥の現在の当主であ
るデイヴィッド・ロックフェラー氏と何らかの繋がりができたこ
とを意味するといいます。
 とくにトランプ氏がその1日前の17日にした次の発言と関係
があるというのです。
─────────────────────────────
 私は(金正恩氏)と話をするだろう。彼と話すことに何の異存
もない。その上で、同時に中国に強い圧力をかける。米国は経済
的に、中国に対して大きな影響力を持っているのだから。
                      ──副島隆彦著
      『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社
─────────────────────────────
 このトランプ氏の発言が何を意味するかについては、副島氏の
本を参照していただくことにして、ここでロックフェラー家のお
家騒動について簡単に述べることにします。そうでないと、なぜ
1992年の大統領選で、デイヴィッド・ロックフェラー氏が無
名のビル・クリントン候補を支援したことが理解できないと思う
からです。
 ロック・フェラー1世はジョン・D・ロックフェラー氏(18
39〜1937)です。スタンダード・オイル社を設立し、石油
王といわれた人です。
 ロック・フェラー2世はジョン・D・ロックフェラー氏(18
74〜1960)です。ロックフェラー財団を設立し、国連本部
ビルの敷地を寄贈した人です。彼には5人の息子がいたのです。
─────────────────────────────
  長男:ジョン・D・ロックフェラー3世
     (1906〜1978)
  次男:ネルソン・オルドリッチ・ロックフェラー
     (1908〜1979)
  3男:ローレンス・S・ロックフェラー
     (1910〜2004)
  4男:ウィンスロップ・ロックフェラー
     (1912〜1973)
  5男:デイヴィッド・ロックフェラー
     (1915〜)現在、101歳
─────────────────────────────
 現在の当主は、5男のデイヴィッド・ロックフェラー氏が務め
ています。それにしても、なぜ5男なのでしょうか。
 ロックフェラー3世は、1978年に72歳で亡くなっていま
すが、ロックフェラー3世には長男がいたのです。ジョン・D・
ロックフェラー4世です。この人が通称「ジェイ」と呼ばれてい
る人物であり、3世がなくなったとき41歳だっのです。十分当
主を引き継げる年齢に達していたといえます。本来であれば、こ
のジェイ・ロックフェラー氏こそ、ロックフェラー家の正式な跡
取りになります。
 ところが、3世の後を継いだのは、次男のネルソン氏だったの
です。だが、そのネルソン氏は次の年に亡くなってしまったので
す。本来なら、そこでジェイ・ロックフェラー氏が当主になるべ
きですが、ネルソン氏の後を継いだのは、当時64歳の5男のデ
イヴィッド氏だったのです。そしてそのまま101歳の現在でも
ロックフェラー家の当主を務めているのです。つまり、兄弟から
兄弟へ当主の座のたらい回しが行われたのです。つまり、2代に
わたって分家が跡を継いでいることになります。そこには典型的
な跡目相続の醜い争いがあったのです。
 ここで、4男のウィンスロップ・ロックフェラー氏に注目する
必要があります。4男は3世が亡くなる以前に亡くなっているの
ですが、彼はなんとアーカンソー州知事を務めているのです。実
はこの4男の隠し子といわれているのが、ビル・クリントン氏で
あるとされています。
 ロックフェラー2世の5兄弟の貴重な写真が副島氏の本に出て
いたので、添付ファイルにしてあります。ウィンスロップ氏とビ
ル・クリントン氏は確かによく似ています。
 だからこそ、ジェイ・ロックフェラー氏が1992年の大統領
選に出馬したとき、当主のデイヴィッド氏は、アーカンソー州知
事をしていたビル・クリントン氏を出馬させ、予備選でジェイ・
ロックフェラー氏を潰したのです。これがロックフェラー家のお
家騒動の顛末です。
 しかし、ロックフェラー家には跡継ぎがいないのです。しかも
デイヴィッド氏は既に101歳であり、先はそんなに長くないと
思われます。もし、デイヴィッド氏が亡くなると、跡継ぎは当然
ジェイ・ロックフェラー氏ということになります。しかし、そう
すんなりとはいかない可能性があるのです。なぜなら、ビル・ク
リントン氏が跡を継ぐという説もあるからです。果たしてどうな
るのでしょうか。そのため、ロックフェラー家の跡目相続には、
世界中が注目しているのです。
            ──[孤立主義化する米国/031]

≪画像および関連情報≫
 ●ビル・クリントンのロックフェラー起源露呈
  ───────────────────────────
   ビル・クリントンは、アーカンソー州で生まれ、そして彼
  はアーカンソー州の知事になったので、彼をロックフェラー
  の私生児だと思うほとんどの人は、彼の父がウィンスロップ
  であったことを前提とする傾向がある。しかし、ビル・クリ
  ントンは、ロックフェラー家がシカゴ大学を建てていたシカ
  ゴで受胎した可能性が最も高い。理由のないことではない、
   単にもしあなたが、ウィンスロップのひげを取ってみれば
  彼がビルのお父さんである可能性はあまりないことが明らか
  になる。それはビル・クリントンがロックフェラーではない
  ことを意味しているか?うーん・・・私たちは皆、アーカン
  サス州出身の小さな男の子たちが、ただFRBの「労働が自
  由をもたらす」プランテーションの大統領(社長)に成長す
  ることはないと知っている。だから・・・ビルはなんらかの
  彼を気に入る高レベルのコネを持っていた。
   多分それはただウィンスロップではなかった。おそらくそ
  れは別のロックフェラーだった。そして、赤ちゃんビルはた
  だビルの本当の父親を濁し混乱させるために彼の家に預けら
  れた。ロックフェラー家は、確かに大統領執務室に非嫡出の
  子孫を案内することができるだろう・・・だからどのロック
  フェラーがビルを産ませた可能性があるか?ロックフェラー
  家のいずれでも可能性がある。   http://bit.ly/2brAMVO
  ───────────────────────────
 ●図形出典/副島隆彦著の前掲書より

ウィンスロップとビル・クリントン.jpg
ウィンスロップとビル・クリントン

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2016年08月25日

●「クリントン夫妻のギクシャク関係」(EJ第4347号)

 もし、ビル・クリントン元米大統領がロックフェラー2世の4
男であるウィンスロップ・ロックフェラー氏の隠し子であるなら
ば、ヒラリー・クリントン氏は、ロックフェラー家の嫁というこ
とになります。それなら、なぜ、ディヴィッド・ロックフェラー
氏は、副島隆彦氏のいうようにトランプ支持なのでしょうか。
 この理由について、副島隆彦氏は明らかにしていないものの、
著書で次のように述べています。
─────────────────────────────
 クリントン夫妻は目下、「クリントン財団」を作って金集めに
夢中である。慈善団体を装うCGIは、100億ドル(1兆円)
ぐらい集めたようだ。このことを叔父のデイヴィッド・ロックフ
ェラーは気に入らないようだから、「もうヒラリーは要らない」
となったようである。            ──副島隆彦著
      『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社
─────────────────────────────
 確かにこのクリントン財団にはいろいろな疑惑があり、「クリ
ントン・キャッシュ」というタイトルで書籍や映画になっており
ヒラリー・クリントン氏の選挙に影響が及ぶ可能性があります。
これについては改めて取り上げることにします。
 また、ヒラリー・クリントン氏は、各地の集会の演説で、夫の
ビル・クリントン氏のことをよく取り上げています。たとえば、
「彼は、経済を活性化させる方法を知っており、もし私が大統領
に選ばれたら、90年代の経済を取り戻すために、夫には経済再
生の仕事を手伝ってもらうつもりである」と支持者に話すなど、
夫婦仲はわるくないと思われていたのです。
 しかし、最近の夫婦仲はあまりよくないようです。なぜなら、
妻の選挙戦を助けるはずのビル・クリントン元大統領が、暴言や
失言などを繰り返し、妻の足を引っ張っているからです。このク
リントン夫妻の仲について副島隆彦氏は、添付ファイルの写真と
ともに、自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 「もう応援に来ないで」とビルに言い渡したヒラリー。ここに
真実の夫婦がいる。ビルが余計な発言ばかりするものだから、ヒ
ラリーが怒っている。夫婦仲は極めて悪い。
                ──副島隆彦著の前掲書より
─────────────────────────────
 実際にビル・クリントン氏はどのような暴言を吐いたのでしょ
うか。その一部が「ニューズウィーク/日本版」に出ているので
ご紹介します。
 クリントン氏は、大統領時代に「包括的犯罪防止法」という法
律を1994年に成立させています。この法律には、重罪で前科
2犯の者が新たに罪を犯した場合、たとえ3度目が軽い罪であっ
ても、終身刑を科すという条項があるのです。その結果、刑務所
に入れられる黒人男性が激増し、米国の刑務所は過密状態になっ
てしまっています。
 ヒラリー・クリントン氏は、この法律の廃止を公約に掲げてい
ます。彼女は黒人に人気があり、黒人票を頼りにしているという
こともあります。しかし、ビル・クリントン氏は、自分の実績を
否定されたように感じたのでしょう。演説で、次のように激しく
反論したのです。
─────────────────────────────
 13歳の子供を麻薬漬けにして、街なかで同じアフリカ系アメ
リカ人の子供を殺させるような大人を許すのか。そんな奴も善良
な市民だと思うのか。ヒラリーは違う。そうは思っていない!あ
なたたちが大切だと言う命を奪うような連中を、あなたたちは擁
護するのか。             http://bit.ly/1RXl71T
     ──「ニューズウィーク/日本版」/2016年4月
─────────────────────────────
 また、ビル・クリントン氏は「過去8年間のひどい遺産」とオ
バマ政権を全否定するような発言を繰り返しています。しかし、
最初の4年間は妻のヒラリー氏も国務長官として政権に参加して
いるので、その発言は妻も否定したことになります。高齢といっ
ても彼はまだ70歳であり、ボケる年齢とは思えないのです。
 どうやら彼は、妻が頑張っていると妨害したくなるらしいので
す。妻に追い越され、焦っているようにもみえます。そのための
暴言のようです。そのビル・クリントン氏は、大統領時代の経済
の実績をとくに誇りにしています。
 確かに、クリントン政権はアメリカ経済の中心を重化学工業か
らIT・金融に重点を移し、第二次世界大戦後としては2番目に
長い好景気をもたらし、インフレなき経済成長を達成しており、
経済政策としては高い実績を上げています。
 しかし、それらの経済政策は、デイヴィッド・ロックフェラー
筋が送り込んだ次の強力な経済スタッフの手によって、成し遂げ
られたものなのです。
─────────────────────────────
 1.ロバート・ライシュ  ・・ 労働長官
 2.ジェフリー・サックス ・・ 閣外ブレーン
 3.ローレンス・サマーズ ・・ 財務次官
 4.ロバート・ルービン ・・・ 国家経済安全保障会議議長
 5.ミッキー・カンター ・・・ 通商代表
─────────────────────────────
 もし、ビル・クリントン氏に本当にそれほどの政治手腕がある
なら、49位で引き継いだアーカンソー州知事を12年後に同じ
49位のままで渡すことなど、あり得ないことです。
 ビル・クリントン大統領は1996年に再選されますが、両院
で共和党に多数派を明け渡しながら、大統領に当選した最初の民
主党の大統領であり、また、大統領選挙で2回とも一般投票の過
半数を獲得しないで選ばれた最初の大統領でもあるのです。2回
とも400人よりも少ない選挙人で当選した20世紀唯一の大統
領なのです。      ──[孤立主義化する米国/032]

≪画像および関連情報≫
 ●ヒラリー・クリントン:大統領就任時・夫を起用か!
  ───────────────────────────
   民主党大統領候補指名を目指すヒラリー・クリントン氏は
  大統領に就任すれば夫のビル・クリントン元大統領に「米経
  済の活性化」を担当させると表明した。大統領選の本選を見
  据え、クリントン政権下の1990年代の好景気を有権者に
  思い起こさせ、支持を広げる戦略だ。
   米メディアによると、クリントン氏は5月15日のケンタ
  ッキー州での集会で「彼は(経済を活性化する)方法を知っ
  ている」と訴えた。16日にも同州で支持者に対して「誰も
  が恩恵を受けた90年代のような経済を取り戻したい」と強
  調した。「私が幸運にも大統領になり、彼が『ファースト・
  ジェントルマン』になったら、働いてもらうと夫に既に伝え
  た」と語った。
   クリントン氏は元大統領の具体的な役職などの詳細は明ら
  かにせず、閣僚ポストに指名する可能性は否定した。クリン
  トン氏は夫の大統領時代、ファーストレディーとして医療保
  険制度改革の責任者に就任した経験がある。改革は共和党の
  反対で挫折した。クリントン元大統領は民主党支持者に根強
  い人気があり、妻の選挙応援のために各地を遊説している。
   この発言の奥には、この指名選挙について回る「味方のは
  ずの夫ビルの失言・暴言に手を焼いているから」だという見
  方もある。ビル・クリントン元大統領の胸の内に、妻のヒラ
  リーを大統領にしたくないという思いが潜んでいるのかもし
  れない。そうでなければ、雄弁かつ頭脳明晰なはずの元大統
  領が妻の選挙戦で不用意な発言を繰り返している理由が分か
  らない。             http://bit.ly/2bOcxTu
  ───────────────────────────

クリントン夫妻は険悪ムード?.jpg
クリントン夫妻は険悪ムード?
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2016年08月26日

●「クリントン氏支持率で大差を保つ」(EJ第4348号)

 米国大統領選が行われる11月8日まで約2ヶ月間になってい
ますが、共和党のドナルド・トランプ氏と民主党のヒラリー・ク
リントン氏の選挙運動の状況はどうなっているでしょうか。
 2016年8月24日の時点では、クリントン氏は支持率にお
いてトランプ氏に大きな差をつけており、クリントン陣営として
は、ほぼ勝利は間違いないとして、8月16日には政権移行チー
ムを立ち上げ、メンバーを発表しています。
 政権移行チームは、来年1月の大統領就任までに前政権から業
務を引き継ぎ、次期政権の骨格を固める仕事をします。多くの場
合、この政権移行チームがそのままホワイトハウス高官などに就
任するケースが多いのです。
 これに対してトランプ陣営では、政権移行チームの責任者とし
てニュージャージー州のクリス・クリスティー知事を充てると発
表しているだけです。トランプ陣営は政権移行チームどころか、
この時期になって、陣営の最高責任者を保守系サイト「ブライト
バート・ニュース」の会長、スティーブン・バノン氏を任命する
テコ入れを行っています。
 このスティーブン・バノン会長は、「米国の最も危険な政治職
人」といわれる人物であり、トランプ氏が息子が戦死したイスラ
ム教徒を批判して共和党内からも非難を受けたときでもバノン氏
のサイトでは「トランプ氏の主張は正しい」とする記事を載せて
いたのです。バノン氏が運営する「ブライトバート・ニュース」
について朝日新聞は次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 「ブライトバート・ニュース」とは、保守的な姿勢やエスタブ
リッシュメント(既成勢力)への反発を打ち出し、リベラル系の
政治団体や政治家のスキャンダルを積極的に扱ってきたが、掲載
した動画が「相手が都合悪いように、悪意ある編集をしている」
と指摘されるなどの問題も起きた。(中略)
 ヘイトクライム(憎悪犯罪)などに詳しい「南部貧困法律セン
ター」は、今年4月、「イスラム教徒や移民に対する、明らかに
差別的な記事が掲載されるようになった」という報告書を公表。
「白人が被害に遭う、黒人による犯罪が米国内で急増している」
といった、陰謀説を助長する記事も多い、と述べた。
           ──2016年8月19日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 クリントン氏はトランプ氏に、どのくらいの差を付けているの
でしょうか。接戦州とみられているバージニア洲を例にとって分
析してみることにします。
 8月7日〜17日に行われたロアノーク大学の世論調査による
と、クリントン氏は、トランプ氏に対して16ポイントの大幅な
差をつけています。
─────────────────────────────
     ドナルド・トランプ ・・・・・ 32%
    ヒラリー・クリントン ・・・・・ 48%
─────────────────────────────
 支持率で2ケタの差は非常に大きなリードであり、8月の下旬
時点でこの差がついていることは、通常であれば2ヶ月で挽回す
ることは困難です。
 ロアノーク大学の調査だけではなく、キニピアック大学やワシ
ントンポスト紙の調査でも、クリントン氏はトランプ氏に10%
以上の差をつけています。それに加えて、無党派層においては、
20%近い大差をつけているのです。
─────────────────────────────
               A    B    C
   ドナルド・トランプ 38%  36%  25%
  ヒラリー・クリントン 50%  51%  43%
             A:キニピアック大学の調査
             B:米紙ワシントン・ポスト
             C:       無党派層
─────────────────────────────
 もうひとつ重要な要素として「党員の支持」があります。これ
に関しては、次の調査結果があります。
─────────────────────────────
     ドナルド・トランプ ・・・・・ 78%
    ヒラリー・クリントン ・・・・・ 91%
─────────────────────────────
 トランプ氏の78%の支持率はきわめて低い支持率です。なぜ
なら、クリントン支持を打ち出す共和党有力者がここにきて相次
いでいるからです。これに乗じてクリントン陣営は、共和党員や
無党派の有権者に「造反」を呼びかける専門チームを立ち上げて
造反者を増やそうとしています。
─────────────────────────────
 クリントン陣営は8月10日、新たにネグロポンテ元国家情報
長官やグティエレス元商務長官などから支持を取りつけたとして
過去の共和党政権時の閣僚3人や共和党の現職連邦議会議員6人
を含む50人の「支持者」リストを発表した。
 陣営のボデスタ選挙対策本部長は「クリントン氏への超党派の
支持は、彼女が党派を超えて大きな課題に取り組める証拠だ」と
述べ、共和党員や無党派の有権者に支持を呼びかけた。現職の連
邦議会議員らが敵対する党の候補へ支持を表明するのは異例だ。
           ──2016年8月12日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 しかし、これでクリントン氏の勝利が確定したわけではないの
です。トランプ陣営としては、ここまでくると、正攻法では勝ち
目はないので、クリントン氏の最大のウィークポイントを衝く戦
術をとる可能性が濃厚です。トランプ陣営が「ブライトバート・
ニュース」のスティーブン・バノン会長を陣営の最高責任者に決
めたのはそのためであろうと考えられます。
            ──[孤立主義化する米国/033]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ氏の異常性格に不安/撤退も話題
  ───────────────────────────
   11月の米大統領選を前に、共和党候補トランプ氏は「性
  格異常」でないかとの不安が持ち上がっている。こうなると
  大統領として「核ボタン」を押すかも知れない最高権力者に
  不適格である。事態はここまで深刻に受け止められている。
  この見方は、特定のメディアだけに登場しているのでなく、
  複数のメディアで危惧されるに至った。
   トランプ氏が予備選で見せた他候補への批判や政策を巡る
  主張において、異常な攻撃や主張を展開している。そのたび
  に、米共和党の良識派は一斉に眉をひそめ、トランプ氏から
  遠ざかる姿勢を見せた。だが、共和党候補に決定して以来、
  「眉をひそめる」どころか、米国の運命を誤らせる。そうい
  う疑念が深まってきた。最近では共和党員の2割が「撤退」
  を希望する、という世論調査まで現れている(『ロイター』
  8月10日付)。
   問題は、彼の性格がわずかなことにも過剰な反応を見せ、
  常軌を逸した反応が見られることだ。このままでは、支持率
  は悪化したままで、トランプ氏自身がやる気をなくして「候
  補辞退」の挙に出なくもない。共和党内では、「代替候補者
  問題」まで秘かに話し合われる始末だ。もはや、「トランプ
  後」が共和党の話題になるっている。
                  http://amba.to/2bhWyuL
  ───────────────────────────

クリントンVSトランプ.jpg
クリントンVSトランプ
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2016年08月29日

●「ヒューイ氏とトランプ氏の類似点」(EJ第4349号)

 「トランプ候補VSクリントン候補」──どちらが勝利を収め
るかは今のところ不明です。確かにクリントン氏が現時点では大
幅にリードしていますが、予備選のときと違って投票行動が行わ
れたわけではなく、現状ではクリントン氏の支持率が少し高いに
過ぎないからです。
 ただ、トランプ氏のような破天荒な候補者が、なぜ共和党の指
名候補者になれたのかについて熟考すべきです。それは、アメリ
カという国が変化しつつあることの証であるからです。米国の変
化は、日本に対して直接的な影響を与えるので、検証してみるこ
とにします。
 「トランプ現象はオバマが作り出したもの」といわれます。そ
れは、オバマ大統領の共和党に対する厳しい非難と批判にひとつ
の原因があります。オバマ大統領の次の発言です。
─────────────────────────────
 共和党は、アメリカのドアを閉めてしまい、外国からの移民を
排除しようとしている。アメリカの精神を踏みにじっている。共
和党に政権を渡してはならない。       ──日高義樹著
          『トランプが日米関係を壊す』/徳間書店
─────────────────────────────
 大統領は党派性の強い発言は控えるべきです。民主党出身の大
統領であっても、民主党の党首ではありますが、米国国家全体の
元首であるからです。これでは国民の半分を占める保守派のアメ
リカ人は全部、本当のアメリカ人ではないといっているようなも
のです。こういうオバマ大統領の存在が、トランプ氏という特異
のキャラクターを持つ政治家を生み出したのです。
 実は、トランプ氏のような政治家の出現は、はじめてのことで
はないのです。それはヒューイ・ロングという民主党の政治家の
ことです。彼は、1930年代にルイジアナ州の知事を務めてい
たのです。
 当時ルイジアナ州は貧困のドン底にあったのですが、ロング知
事は積極的に公共投資を行い、多くの道路建設を行い、生産地と
市場を結んで、交通事情を一変させたのです。当然多くの州民は
職を得て、暮らし向きは改善します。そして、ロング知事は石油
会社と上流階層を徹底的に批判し、主として農民たちに受ける政
策を次々と打ち出したので、洲民の喝采を浴び、支持率はますま
す高くなったのです。
 しかし、そのウラで議会をはじめとする洲の重要なポストを腹
心で固め、反新聞法をつくって検閲評議会を発足させ、言論の自
由をも規制するようになります。そして、最終的に州内のすべて
の公務員を自由に任免できる権限を手にして、裁判所の判事まで
腹心で固めることによって、司法を意のままにしたのです。州内
の各市もロング知事の軍門に下り、独裁体制を確立します。
 さらに時のフランクリン・ルーズベルト大統領に対決姿勢を打
ち出し、ニューディール政策とウォール街を敵に回して「富の共
有」計画を説いたのです。このロング知事のやり方はヒットラー
のやり方に酷似しています。ヒットラーも、公共投資を行い、ア
ウトバーン(自動車高速道路)を建設し、国民に仕事を与えるこ
とからはじめています。そのためヒューイ知事のやり方は、「ア
メリカのワイマール化」と呼ばれたのです。
 ここで大事なことは、政治家が人々の支持を得る手段は、富を
独占する金融資本と大企業を徹底的に敵視し、公共事業と福祉政
策で、経済的な弱者らに「施し」を与えることです。それにロン
グ知事は、教育の無償化にも踏み込んでいます。まるでトランプ
氏の政治姿勢とこれまでに口にしていることと、サンダーズ氏の
説く政策と同じです。しかし、ロング知事は暗殺され、独裁体制
は、ルイジアナ洲にとどまったのです。このロング知事のような
政治家の手法は「ポピュリズム」と一般的に呼ばれますが、これ
について、評論家の副島隆彦氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 ポピュリズム populism とは日本では単なる「大衆迎合主義」
「人気取り政治」の意であるように理解されている。日本を代表
する『読売新聞』のトップである渡邊恒雄氏のような人物からそ
のような誤解をしている。ポピュリズムとは、アメリカの中西部
の草の根の大衆たちが抱いている、ワシントンやウォール街の権
力者や財閥に対する根本的な不信感に基づく感情を代弁する思想
運動のことを言う。日本でポピュリストとされる小泉純一郎前首
相は、本当の意味でのポピュリズムとは正反対の人物だ。
 アメリカで、このポピュリズムを歴史的に体現すると言われる
のが、ヒューイ・ピアース・ロング(1893年〜1935年)
である。彼は、大恐慌の時代に政界で活躍した人物だ。その政治
姿勢は日本でいえば田中角栄に相当する。
                   http://bit.ly/2bH7cjy
─────────────────────────────
 ルイジアナ州のロング知事の独裁体制については、ルーズベル
ト大統領が本気で軍事介入を考えたほど、深刻なものであったの
です。いわばアメリカ政治の危機だったといえます。そしてロン
グ知事の死後80年の年を経過して、再び同じような人物があら
われたことになります。それだけ米国が傷んできた証拠です。
 日本にもヒューイ・ロング知事に似た人物がいると指摘する人
がいます。それは橋下徹前大阪市長です。類似点を上げると、弁
護士資格を取得して活躍し、刺激的な演説をして支持者を増やし
政敵たちを口汚い言葉で攻撃する。そして批判する新聞を槍玉に
上げて攻撃する──確かによく似ています。
 その橋下元市長は「政治は最終的には独裁ですよ」といったこ
とがあります。独裁者というものは、眉間にシワを寄せた強圧的
なイメージの人物ではなく、親しみやすい顔をして、どこか憎め
ない人物が多いと示唆する人がいます。確かに、橋下氏もトラン
プもそういう人物に近いところがあります。ヒューイ・ロング氏
(添付ファイル参照)も、まさしくそういうタイプの人物です。
            ──[孤立主義化する米国/034]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ現象とヒューイ・ロング/三浦小太郎氏
  ───────────────────────────
   アメリカ大統領共和党候補のひとりドナルド・トランプの
  言動は、あまりに低レベルな差別主義と大衆迎合が目立ち、
  ほとんど「ギャグ」の世界に近いものとなっている。こうい
  う人物がもしかしたら大国アメリカの指導者になる可能性が
  あるかと思うと、正直、民主主義というものの恐ろしさを感
  じざるを得ない。共和党有力者が保守本流からネオコンまで
  一致団結してトランプだけは候補にすまいと動いているのも
  当然だろう。
   かつてオバマとの大統領選で、共和党のマケイン候補の演
  説会場で、あるマケイン支援者(もしかするとベイリン副大
  統領候補の支援者か)の女性が、「私はオバマは信用できな
  い、彼はアラブ系だから」という声を発した時、マケイン氏
  が直ちに、「奥さん、それは違いますよ。彼は家庭を大事に
  する立派なアメリカ国民だ。ただ、たまたま政治的意見が私
  と違うだけだ」とたしなめ、レイシズムにはっきり拒否の姿
  勢を示したのに感動した私としても、アメリカ共和党の名誉
  のためにもこういう人物が大統領候補に選ばれないことを望
  む。しかし、ここで押さえておかなければならないのは、ト
  ランプの発言の中には、民主党のサンダース、そして現代ア
  メリカを「99%の民衆と1%の富裕層&支配者」の対立と
  見なして草の根の運動を繰り広げた人たちの声をも代弁する
  要素が含まれていることだ。    http://bit.ly/2bHcgop
  ───────────────────────────

ヒューイ・ロング元ルイジアナ州知事.jpg
ヒューイ・ロング元ルイジアナ州知事
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2016年08月30日

●「なぜ、マルコ・ルビオだったのか」(EJ第4350号)

 2016年米大統領選において、共和党の候補者指名を目指し
て立候補した人は実に17人いるのです。一応名前をすべて上げ
ておきます。◎印の人が9人いますが、これは有力候補といわれ
ていた候補者です。
─────────────────────────────
 ◎1.ドナルド・トランプ   10.リンゼイ・グラム
 ◎2.ジョン・ケーシック   11.マイク・ハッカビー
 ◎3.テッド・クルーズ    12.ボビー・シンダル
 ◎4.マルコ・ルビオ     13.ジョージ・パタキ
 ◎5.ベン・カーソン     14.ランド・ポール
 ◎6.ジェブ・ブッシュ    15.リック・サントラム
  7.ジム・ギルモア     16.リック・ペリー
 ◎8.クリス・クリスティー ◎17.スコット・ウォーカー
 ◎9.カーリー・フィオリーナ
─────────────────────────────
 トランプ氏を除く主要候補は、今後も何かと米国において話題
になる人物であるので、順番に簡単にご紹介しておきます。米国
政界に影響を与える人物であるといえます。(敬称略)
 ジョン・ケーシックはオハイオ洲知事で、連邦議会下院議員と
して20年近くの経験を有するベテラン。テッド・クルーズはテ
キサス洲上院議員で、ティーパーテイー系の共和党保守派の急先
鋒。マルコ・ルビオはフロリダ洲上院議員で、キューバ系のヒス
パニック。ベン・カーソンは元神経外科医。FOXニュースにコ
メンテーターとしてよく出演。
 ジェブ・ブッシュは元フロリダ州知事で、父も兄も大統領を務
めあまりにも有名。クリス・クリスティーは元連邦検事で、ニュ
ージャージー洲知事。カーリー・フィオリーナは元米ヒューレッ
ド・パッカードの最高経営責任者。候補者中唯一の女性。スコッ
ト・ウォーカーはウィスコンシン洲知事。ティーパーティー運動
を背景に登場した若手保守派の代表的存在。
 共和党本部としては、当然のことながら、存在感の大きいジェ
フ・ブッシュを大本命としていたと思いますが、実は指名は得ら
れても、本選ではヒラリー・クリントン候補には勝てないと考え
ていたのです。唯一クリントン氏に勝てる候補は、マルコ・ルビ
オ氏であると本部は考えていたフシがあります。
 マルコ・ルビオ氏について、共同通信社客員論説委員で青山学
院大学教授は、自著で次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 共和党では以前から、マルコ・ルビオを本命視し、彼に期待す
る動きがあった。まだ若く政治的な手腕は未知数だというものの
合衆国の上院議員の一年生という点はバラク・オバマも同じ。ア
メリカの保守派の知識人たち、特にいわゆるネオ・コンサヴァテ
ィブ系、ネオコンと呼ばれる人びとは、彼ならばヒラリーに勝て
ると期待した。(中略)彼ならば勝てるとみられていた大きな理
由は、政策の幅広さだ。たとえば外交政策一つとっても尖閤問題
まできちんと方針ができあがっていた。──会田弘継著/左右社
  『トランプ現象とアメリカ保守思想/崩れ落ちる理想国家』
─────────────────────────────
 なぜ、共和党本部はマルコ・ルビオ氏を本命であると考えてい
たのでしょうか。これについて知るには、マルコ・ルビオ氏につ
いて詳しく知る必要があります。
 マルコ・ルビオ氏は1971年生まれの45歳の若手の共和党
議員です。両親がキューバからの移民であるヒスパニック系の政
治家です。米国でヒスパニックというと、メキシコ、キューバ、
プエルトリコなどのラテンアメリカ出自の人を指し、ヒスパニッ
ク系アメリカ人または、ラテン系アメリカ人といいます。
 ネット上には、マルコ・ルビオ氏についての多くの情報があり
ますが、以下は室橋祐貴氏(日本若者協議会代表理事)のブログ
の情報をまとめて紹介します。
 ルビオ氏は、演説が巧みなところから「共和党のオバマ」とい
われていますが、政策については「強いアメリカの復活」を掲げ
て、伝統的家族観の復権、銃規制に反対、法人税引き下げ、対中
国への強固姿勢で知られており、典型的な共和党議員としてのス
タンスをもっています。
 ルビオ氏は、具体的な政策を掲げて、それを実現する実行力に
優れた政治家としての評価があります。これに関してルビオ氏を
有名にした功績があります。ルビオ氏がフロリダ州下院議員時代
の2006年、「フロリダ州の未来のための革新的な100のア
イデア」という本を出版したのです。
 この本には、ルビオ氏がフロリダ洲の対話集会の討議で得られ
た改革のアイデアを100にまとめたものです。州民の要望が盛
り込まれたアイデア集になっています。ルビオ氏はそのなかから
実現可能なものをひとつずつ議会にかけて審議し、既に57のア
イデアが可決されています。これによって、ルビオ氏は上院議員
選で当選し、上院議員になったのです。
 ルビオ氏の政策で注目すべきは安全保障政策です。米国は世界
の警察官として世界への影響力を高めるべきであると主張してい
ます。ルビオ氏は「私は大統領として中国にこう対処する」とい
うWSJへの論文で次のように述べています。
─────────────────────────────
 オバマ政権は、中国の違法な領海拡張や不当な経済活動、国内
の人権弾圧を無視して、ひたすら対話を求め、中国政府の責任を
促す。しかし、効果が全くないままである。
 対中政策の目標は、第1に「米国の強さ」を保持するために、
太平洋での優位性を取り戻す。第2には、米国経済を中国の果敢
な攻勢から守る。第3は、米国の自由と人権の保護の立場から中
国の人権弾圧を厳しく非難していくことである。
                  http://huff.to/2ciO63W
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/035]

≪画像および関連情報≫
 ●マルコ・ルビオ――「共和党のオバマ」はいつ化けるか
  ───────────────────────────
   これまで本欄でなかなか紹介するタイミングがなかったが
  極めて重要な人物だと思われるので、今回示しておきたい。
  それが共和党から大統領候補として名乗りを上げているマル
  コ・ルビオ上院議員である。
   取り上げにくかったのは、同党候補者で話題を独占してい
  るドナルド・トランプ氏と、知名度が高い民主党のヒラリー
  ・クリントン氏の状況について世間の関心が集まっていたこ
  と、一方で、ルビオ氏は世論調査でトップに立ったわけでは
  なく一般には地味に映る存在だったからである。しかしなが
  ら紹介するのは、ルビオ氏こそ共和党の指導者たちが最も期
  待し、「勝てる」候補者だと思っている人物だからである。
  そして2月に米大統領選の火ぶたを切るアイオワ州の党員集
  会とニューハンプシャー州での予備選挙の状況次第では、そ
  のルビオ氏が大きく浮上してくる可能性がある。
   ルビオ氏は、その名前が示すようにヒスパニック系。両親
  がキューバからの移民である。弁護士であり、フロリダ州下
  院議員などを経た後、2010年にフロリダ州選出の上院議
  員として当選を果たしている。1971年生まれの44歳、
  党の有望株である。共和党の中枢が彼を支持するにはいくつ
  かの理由がある。現在先頭を争う、トランプ氏とベン・カー
  ソン氏が共和党候補者となった場合、本選挙では民主党のク
  リントン氏に勝てないというデータが出ているからだ。一方
  そのクリントン氏の弱みは、手垢がついて新味に欠けること
  だが、44歳のルビオ氏は新鮮そのものであり、いわば「共
  和党のオバマ」である。      http://bit.ly/2bqAy3v
  ───────────────────────────

マルコ・ルビオ米上院議員.jpg
マルコ・ルビオ米上院議員
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2016年08月31日

●「アメリカ合衆国は移民国家である」(EJ第4351号)

 アメリカ合衆国の国章やアメリカのコインには、次のラテン語
の文字が書かれています。
─────────────────────────────
     E Pluribus Unum/エ・プルリブス・ウヌム
─────────────────────────────
 これは「多くのものから一を」の意味で、アメリカのポリシー
というかモットーをあらわしています。もともとは「自由自治が
認められた多くの州や植民地が一つの国家にまとまる」という意
味だったのですが、最近では「多くの民族、人種、宗教、言語、
祖先が一つの国家とその国民を形成する」という概念に変わって
きたのです。これは「メルティング・ポット」と呼ばれているの
です。「原型が溶かされてひとつになる」という意味です。
 この概念は、20世紀初頭のユダヤ人作家イズレイル・ザング
ウィルが唱えており、1908年に発表の彼の戯曲「坩堝/るつ
ぼ」にそれがあらわれているというのです。「人種の坩堝」とい
う言葉はここから生まれているのです。
 メルティング・ポットの異議として、50年代から「サラダボ
ウル」という言葉が登場したのです。これに関して青山学院大学
教授の会田弘継氏は自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 やがて「サラダボウル」ということばが登場した。多様な民族
や人種があくまでそれぞれの違いを持ちつつ、アメリカ社会を構
成しているのだという考え方だ。ポストモダン的な文化的多元主
義の発想といえるだろう。このとき「多くのものから一を」とい
うスローガンだって、白人文化、ヨーロッパ文化がつくり出した
ものではないかという批判があった。
 その指摘には認めるべき点もある。しかしたとえヨーロッパ文
化に発した価値観だとしても、人権や民主主義は人類に普遍的な
価値である。世界中に民主主義国家が生まれ、近代文明を築いて
きた。むやみに、ポストモダン的な多元主義によって、近代的価
値観を相対化するのは危険だ、というのがそれに対する批判だっ
た。シュレジンガー・ジュニアやハンティントンの言っているの
はそれだ。             ──会田弘継著/左右社
  『トランプ現象とアメリカ保守思想/崩れ落ちる理想国家』
─────────────────────────────
 アメリカという国は「移民国家」なのです。先住民のインディ
アンを除いて、15世紀以降、世界各地の移民から構成され,多
民族が統合された国民国家なのです。人種の異なる多くの人々が
アメリカにやってきたのです。アメリカはそれらの人々を受け入
れ、そして、それらの人々や子孫が大変な苦労をしながらアメリ
カという国をつくってきたのです。
 しかし、それは簡単なことではなかったのです。米国の歴史学
者で、元ハーバード大学教授のオスカー・ハンドリンという人が
います。彼は『根こそぎにされた人々』という本のなかで、次の
ようなことを述べています。2016年3月18日に日本記者ク
ラブで行われた上英明氏による講演から、要約します。
─────────────────────────────
 移民というのは、急激な社会、経済の変化によって故郷で生活
できなくなった人々が入ってくる。彼らは持てるものを全て失い
自分ではどうすることもできない力によって、土着の社会から根
こそぎにされた人々である。
 こうして孤独になった人々が一人また一人とアメリカに入って
きて、新しい文化、新しい生活、新しい環境になじもうとしても
なかなかそれがうまくいかない。このように、移民というのは悲
劇なのである。
 アメリカをつくったのは、こうした悲劇の移民たちである。大
変な苦難に耐えて、自分たちの成功はなかったとしても、何とか
子孫だけは残してきたのである。したがって、アメリカという国
は移民国家である。       ──オスカー・ハンドリン著
   『根こそぎにされた人々』/上英明氏による講演より要約
─────────────────────────────
 そういう国であるだけに、米国は人種差別には厳しい国なので
す。とくにエリート階層の人々はそうです。これは黒人の差別を
なくそうとしてはじまった公民権運動以来、延々と米国で続いて
きていることです。
 会田弘継氏や副島隆彦氏の本を読んではじめて知ったのですが
米国には「PC」という言葉があります。PCといっても、パソ
コンのことではなく、次の英語の略です。
─────────────────────────────
          ポリティカル・コレクトネス
     Political correctness/略称「PC」
─────────────────────────────
 PCとは「差別用語」を使わせないようにする社会統制や言論
統制のことです。これをいわゆるエリート層でない人のなかには
不満を持つ人が多いのです。これについて、副島隆彦氏は次のよ
うに述べています。トランプ氏の暴言は、このPCを打ち破った
ものといえるのです。
─────────────────────────────
 マイクロ・アグレッション micro aggression と言って、ささ
いな言葉遣いに対して目くじらを立てて、何でもかんでも差別発
言だと仕立て上げて、「君、今の発言は不適切だよ」と相手を注
意、非難する。このリベラル派の人間たちの神経過敏症のことを
指す。アメリカでは人々の日常の発言内容への取り締まりがあま
りにもキツいものだから、この言論統制の風潮に対して、保守派
で本音でものごとを語ろうとする人たちからの反発がずっとあっ
た。「現実は現実だ。実情としてあるものをそのまま言っていい
はずだ」と。                ──副島隆彦著
      『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/036]

≪画像および関連情報≫
 ●ポリティカル・コレクトネスとは?
  ───────────────────────────
   要するに、ポリティカル・コレクトネス(略称:PC)とは
  「差別的な表現をなくそう」とする概念のことなんです。日
  本語にすると「政治的正しさ」みたいな訳になってしまいま
  すが、これは例えば「自民党が正しくあるためにはこうある
  べき」とかそういう正しさのみを指すものではないです。日
  本でも移民や在日外国人に対する憎悪や軽蔑の念を込めて発
  言する「ヘイトスピーチ」が問題になっています。
   この記事内で投票形式で議論されている通り、ヘイトスピ
  ーチはPC的観点から規制されるべきなのか、はたまた「表
  現の自由」として保障されるべきなのかという視点で問題が
  議論されています。
   日本では法規制が採決見送りになってしまったそうですが
  アメリカ、カナダ、他欧州各国ではヘイトスピーチは法律に
  よって厳しく罰せられる対象となっています。ドイツもヘイ
  トスピーチにはかなり厳しい処罰が適用されます。
   ドイツは、ヘイトスピーチを世界で最も厳しく取り締まる
  国の一つだ。ヘイトスピーチは刑法第130条の「民族扇動
  罪(Volksverhetzung)」 に該当し、裁判所は最低3ヶ月、
  最高5ヶ月の禁固刑を科すことができる。(ハフィントンポ
  スト:熊谷徹氏)。       http://huff.to/2c1hVmp
  ───────────────────────────

「人類の坩堝」/E Pluribus Unum.jpg
「人類の坩堝」/E Pluribus Unum 
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2016年09月01日

●「米国人種構成はどうなっているか」(EJ第4352号)

 アメリカには何かが起きているようです。他の先進国にはない
大きな構造的な変化が起きつつあります。だから、ドナルド・ト
ランプ氏のような大統領候補者が登場してくるのです。
 こんなデータがあります。先進国では45歳から55歳のいわ
ゆる中年層は、国の経済状態にもよりますが、平均的には職を得
て、一定の収入を有し、加えて昨今の医療技術の進歩などの恩恵
を受けて、死亡率が上昇することはあり得ないのです。しかし、
米国の中年白人層に関しては死亡率が上がっています。
 添付ファイル「A」の折れ線グラフをご覧ください。同じアメ
リカ人でも、ヒスパニック系アメリカ人の死亡率は下がっている
のに対し、白人アメリカ人の死亡率がダントツに高いことがわか
ります。これはどうしたことでしょうか。
 このグラフは、ノーベル経済学賞受賞者のアンガス・デイトン
夫妻が米国の各種の統計資料を調べているときに偶然に発見した
ものです。米国の中年層をフランス、ドイツ、英国と比較したも
のですが、省略記号を以下に示しておきます。
─────────────────────────────
 ◎中年(45歳〜54歳)アメリカ人の死亡率の推移
      USW ・・・・・・・ 白人アメリカ人
      USH ・・ ヒスパニック系アメリカ人
      FRA ・・・・・・・・・ フランス人
      GER ・・・・・・・・・・ ドイツ人
       UK ・・・・・・・・・ イギリス人
─────────────────────────────
 このグラフは、既出の会田弘継氏の本に出ていたものですが、
会田氏はこの傾向とトランプ氏の支持率との相関を調べた「ニュ
ーヨーク・タイムズ」紙の分析を次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 「ニューヨーク・タイムズ」紙がさらに共和党予備選挙の行わ
れた洲で、郡(カウンティ)ごとにこの中年白人男性の死亡率と
トランプの支持率とを比べてみたところ、明らかに関連している
ことがわかった。死亡率の高い所ではトランプの支持率が高い。
このことが、明瞭に見て取れるグラフを「ニューヨーク・タイム
ズ」紙は公表した。         ──会田弘継著/左右社
  『トランプ現象とアメリカ保守思想/崩れ落ちる理想国家』
─────────────────────────────
 会田氏によると、これらの中年層は職は得ていても収入は十分
ではなく、会社による医療保険のサポートも満足が得られていな
いことから、自分の仕事がグッドジョブではないと感じている人
が60%に達していることを指摘しています。そういう不安定な
生活状況がトランプ票につながっていると思われます。
 現在、アメリカの人種構成はどうなっているでしょうか。大雑
把に示すと、次のようになります。
─────────────────────────────
  白人     ・・・ 20000万人 ・・ 68%
  ヒスパニック ・・・  4500万人 ・・ 15%
  黒人     ・・・  4000万人 ・・ 13%
  アジア系   ・・・  1000万人 ・・  4%
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                       100%
                      ──副島隆彦著
      『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社
─────────────────────────────
 白人は約2億人ですが、東欧(スラブ)系とラテン系で1億4
千万人を占めており、純粋な白人、すなわちWASP(ワスプ)
は6000万人に大幅に減っています。
 それでは、「WASP/ワスプ」とは何でしょうか。
 WASPとは次の言葉の頭文字です。
─────────────────────────────
 W  ・・・ White    ・・ 白人
 AS ・・・ Angro Saxon ・・ アングロ・サクソン系
 P  ・・・ Protestant  ・・ 新教徒
─────────────────────────────
 アングロ・サクソン系とは、5世紀ごろ民族大移動でドイツの
北西部からグレートブリテン島に移住したアングル人とサクソン
人の総称であり、現在のイギリス国民およびイギリス系の人々や
その子孫を指しています。つまり、英国から植民地の米国に移民
してきて、今日の米国人の基礎を作った人々のことです。
 プロテスタントとは、宗教改革活動を始めとして、カトリック
教会から分離し、とくに福音主義を理念とするキリスト教諸派の
総称のことです。
 しかも白人比率は大幅に下がっているのです。添付ファイルの
「B」をご覧ください。2010年で64%、2020年で60
%ですが、2050年には遂に50%を切り、47%になってし
まうのです。驚くなかれ、1960年からの100年で白人は半
分に減ってしまったことになります。
 黒人とアジア系はあまり変化はありませんが、メキシコ、キュ
ーバ、プエリトルコのラテンアメリカ出自のヒスパニックは急速
に増えています。2060年には全体の31%に達し、白人との
差は12%しかなくなってしまいます。これによって、なぜ共和
党がヒスパニック出身のマルコ・ルビオ氏に期待を寄せたかがわ
かると思います。
 副島隆彦氏によると、これ以外に「イーガル・アライブ」とい
う違法入国者とVISA切れの「オーバー・ステイヤー」といわ
れる人が3500万人ぐらいおり、そのまま違法就労していると
いわれます。彼らはヒスパニック系なのです。トランプ氏が「わ
れわれの仕事を奪っている」と警告をしたのは、彼らのことを指
しています。深刻なのは、学歴の低い高卒白人が暮らし向きに強
い不満を持っており、彼らが今回トランプ氏を熱烈に支持してい
るのです。       ──[孤立主義化する米国/037]

≪画像および関連情報≫
 ●[橘玲の日々刻々]/2003年6月13日
  ───────────────────────────
   すこし前の話だが、ワシントンのダレス国際空港からメキ
  シコのカンクンに向かった。12月の半ばで、機内はすこし
  早いクリスマス休暇をビーチリゾートで過ごす家族連れで満
  席だった。
   乗客は約8割が白人で残りの2割はアジア(中国)系、あ
  とは実家に帰ると思しきヒスパニックの家族が数組という感
  じだった。クリスマスまでまだ1週間以上あるから、彼らは
  長い休暇をとる経済的な余裕のあるワシントン近郊のひとた
  ちだ。その富裕層の割合は、アメリカの人種構成とは大きく
  異なっている。国勢調査によれば、全米の人口のおよそ7割
  は白人(ヨーロッパ系)で、10%超がアフリカ系(黒人)
  6%がヒスパニックでアジア系は5%程度だ。しかし私が乗
  り合わせた乗客のなかに黒人の姿はなく、メキシコに向かう
  便にもかかわらずヒスパニックの比率もきわめて低かった。
   もちろん私は、たったいちどの体験でアメリカについてな
  にごとかを語ろうとは思わない。このときの違和感を思い出
  したのは、チャールズ・マレーの『階級「断絶」社会アメリ
  カ』(草思社)を読んだからだ。  http://bit.ly/2bz15sq
  ───────────────────────────
 ●グラフ出典/グラフA/会田弘継著の前掲書より
        グラフB/副島隆彦著の前掲書より

グラフA/グラフB.jpg
グラフA/グラフB
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2016年09月02日

●「トランプはなぜ指名を獲得したか」(EJ第4353号)

 ドナルド・トランプ氏は、なぜ共和党の大統領候補の指名を獲
得できたのでしょうか。
 これには、アメリカという国の人口構造の変化が影響している
ことは確かですが、それにしても、長年米国の大統領選を取材し
てきているベテランのジャーナリストたちがなぜ、誰一人として
トランプ氏が激しい予備選を勝ち抜き、共和党の大統領候補の指
名を受けることを予測できなかったのでしょうか。
 しかし、トランプ氏はちゃんとした戦略をもって選挙戦に臨ん
でいるのです。トランプ氏がどのようにして選挙戦を戦ったかに
ついて振り返ってみます。
 2015年6月16日にトランプ氏が大統領選への出馬宣言を
したとき、誰も驚くことはなかったといいます。単なる泡沫候補
が一人増えただけであるとしか考えなかったからです。なぜなら
トランプ氏は、これまでにも複数回、出馬をほのめかしたり、第
三党で予備選に出馬したりしましたが、いずれも早々に敗退して
いたからです。
 しかし、出馬宣言後、トランプ氏の支持は予想に反して大きく
伸びるのです。それでもその時点では、支持率でトップに立って
いたのは、やはりジェブ・ブッシュ候補であり、トランプ氏の支
持率はブッシュ氏の半分以下であったのです。
 ところが、2015年7月になると、トランプ氏の支持は大き
く伸び、支持率のトップに立ったのです。サフォーク大学とUS
Aトゥデイ紙の世論調査です。回答者の3分の1が投票先を決め
ていないとするなかで、トランプ氏17%、ジェブ・ブッシュ氏
14%、他の候補は一桁の支持だったのです。
 そのとき、多くの人はトランプ氏の躍進に驚きはしたものの、
大方の予想は「あくまで一時的なもの」であろうと思っていたの
です。しかし、今になって考えると、そのときすでに風向きは変
わっていたのです。
 トランプ氏の支持急伸は、今では有名になっている出馬会見の
発言に原因があると思います。トランプ氏は、冒頭に次のスロー
ガンを打ち出したのです。
─────────────────────────────
 Make America Great Again!  アメリカを再び偉大にする!
─────────────────────────────
 このフレーズを最初に打ち出したのは、ロナルド・レーガン元
大統領です。そのときの表現は正しくは次の通りです。
─────────────────────────────
        Let's Make American Great Again.
─────────────────────────────
 実はトランプ氏はこのフレーズを商標登録しているのです。し
かし、申請したところ、そのフレーズの登録をラジオ番組のパー
ソナリティであるボビー・ボーンズ氏が先に取得していることが
わかったので、トランプ氏は10万ドルを支払って、権利を譲渡
してもらったのです。それほどの投資をしたうえで、トランプ氏
はこのフレーズをスローガンとして使っているのです。
 その証拠に、大統領選の共和党の候補者の一人であるスコット
・ウォーカー氏が演説でこのフレーズを使ったとき、トランプ氏
はスコット氏に対し、クレームをつけています。2015年5月
12日付のデイリーメール・オンラインは、これについて次のよ
うに報道しています。
─────────────────────────────
 スコット・ウォーカーは、サウスカロライナのフリーダム・サ
ミットでトランプのお気に入りのキャッチフレーズを2回とどろ
かせることで、スピーチを終えた。その2時間後トランプは、デ
イリーメール・オンラインに「ウォーカーが私のキャッチフレー
ズを使ったことでがっかりした。私は実際それを商標登録した。
そのセリフを使うと非常に称賛される」と話した。
   ──間高一希著/『アメリカはなぜトランプを選んだか』
                         文藝春秋
─────────────────────────────
 さらにトランプ氏は、このスローガンについて、「エコノミス
ト」誌のデイヴィッド・レニー氏によるインタビューで次のよう
に話しています。
─────────────────────────────
 国民は何よりも再び偉大になるのをみたいと思っている、と思
う。私の全テーマは、Make America Great Again! である。これ
はこの国に対する偉大さのコンセプトである。国民は我々とビジ
ネスをするどの国にも、むしり取られていることに嫌気がさして
いる。中国であれ、日本であれ、メキシコであれ、ベトナムであ
れ。日本は自動車をアメリカにもってきてのさばっている。一方
通行だ。国民はアメリカで起きていることをみることに嫌気がさ
している。           ──間高一希著の前掲書より
─────────────────────────────
 トランプ氏は、出馬演説でこのフレーズをスローガンとして打
ち出した後、今では既に有名になってしまったメキシコからの移
民の侵入を防ぐために「グレート・ウォールを建てる」という発
言をするのです。
 当然のことながら、この発言は「暴言」としてメディアに取り
上げられ、それによって17人の候補者の誰よりも知名度はアッ
プしたのです。トランプ氏は意識して計算のうえ暴言を吐いてお
り、トランプ氏の名前は、米国のみならず全世界に広がっていっ
たのです。
 しかし、ここにいたっても、大方の人はトランプの人気上昇は
過激発言によってテレビ露出が増え、それによる一時的なもので
あり、そのうち失速するだろうと考えていたのです。
 しかし、そうはならなかったのです。それがはっきりするのは
2015年8月6日の最初の共和党の候補者討論会のときです。
この討論会は、支持率上位10人しか参加できないという足切り
があったのです。    ──[孤立主義化する米国/038]

≪画像および関連情報≫
 ●いまなぜドナルド・トランプなのか?
  ───────────────────────────
   不動産王として有名なアメリカの実業家、ドナルド・トラ
  ンプ氏は、2016年の大統領選挙に出馬を表明。オバマ大
  統領や移民に対する暴言、失言などが物議を醸しているにも
  関わらず、共和党候補者としては一番人気を保っている。全
  米に吹き荒れるトランプ旋風の背景には一体何があるのか。
   まず、どういった人々がトランプ氏を支持しているのだろ
  うか。BBCによると、トランプ氏の支持者は、年配で、よ
  り経済的に豊かではなく、より教育を受けていない層だとい
  う。政治コンサルタントのフランク・ルンツ氏による調査に
  よれば、トランプ支持者は国の将来に悲観的、オバマ大統領
  と主流派メディアが嫌いでイスラム教徒にも慎重だという。
  調査の回答者の20%は自らを中道的と称しており、65%
  が保守的、13%が非常に保守的と答えたという(BBC)
   カナダのトロント・スター紙は、トランプ氏を支持する有
  権者は、右寄りの白人低所得者層で、現在の政治システムに
  裏切られたと感じている人々だと説明。71%のトランプ・
  サポーターが懸命に働き成功するという「アメリカンドリー
  ム」は消滅したと感じているとする。同紙は、オバマ政権下
  で格差が拡大し、ミドルクラスの生活も苦しくなったとする
  識者の意見を紹介し、「偉大なアメリカを取り戻す」という
  トランプ氏の言葉が、不当に下層市民扱いされていると感じ
  ている白人労働階級の支持を集めていると指摘している。
                   http://bit.ly/2bE9Ukw
  ───────────────────────────

大統領選出馬宣言をするトランプ氏.jpg
大統領選出馬宣言をするトランプ氏
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2016年09月05日

●「トランプ氏とメキシコ大統領会談」(EJ第4354号)

 8月31日のことです。共和党の大統領候補のドナルド・トラ
ンプ氏は突如メキシコを訪れ、メキシコのペニャニエト大統領と
会談したのです。会談後の共同記者会見でトランプ氏は持論であ
るメキシコの壁に言及し、次のように述べています。
─────────────────────────────
 不法移民や武器の流入を防ぐため、両国国境間に壁を建設する
必要がある。これに関連して、北米自由貿易協定(NAFTA)
の見直しが必要である。      ──ドナルド・トランプ氏
─────────────────────────────
 この会議は、メキシコ大統領がプライベートにトランプ氏を招
待するかたちで行われたのです。会談でトランプ氏は、ペニャニ
エト大統領に次の趣旨のことを述べたとされています。
─────────────────────────────
 大統領の招待は光栄である。あなたを友と呼びたい。世紀の手
続きで米国に入国してきているメキシコ人はとても真面目であり
尊敬できる。しかし、不法移民の流入を防ぐ目的でメキシコとの
国境に壁を建設する必要がある。  ──ドナルド・トランプ氏
─────────────────────────────
 トランプ氏がいっていることには一理あります。メキシコ人を
目の敵にしているのではなく、メキシコからもぐり込んでくる不
法移民──イーガル・アライブが問題であり、それを何とかしな
ければならないからです。これらの不法移民は、メキシコ人以外
も含めて3500万人もいて、米国人の職を奪っていることは事
実だからです。
 しかし、トランプ氏はメキシコ大統領の前では、言葉を選んで
発言していますが、大統領選の演説では非常にストレートな表現
で次のように述べています。
─────────────────────────────
◎メキシコが自国民を送り込むとき彼らはベストな国民を送って
 こない。多くの問題を抱えている国民を送ってくる。彼らはそ
 の問題を持ち込んでくる。ドラックを持ち込んでくる。彼らは
 強姦魔だ。中には善良な人もいると思うが。
◎多くの人間が職につけない。仕事がないからだ。中国が我々の
 仕事を持っているからだ。メキシコが我々の仕事を持っている
 からだ。彼らはみんな我々の仕事を持っている。実際の失業率
 は18%から19%の問だ。ひょっとして21%にもなってい
 るかもしれない。誰もそのことを口にしない。ナンセンスに満
 ちあふれた統計だからだ。我々の敵国は日に日に強くなってい
 るが、我が国は弱くなっている。      ──間高一希著
      『アメリカはなぜトランプを選んだか』/文藝春秋
─────────────────────────────
 トランプ氏は、メキシコとの国境に壁を建設することについて
メキシコ大統領と議論したが、その費用を「誰が負担するかにつ
いては協議していない」と発言しています。
 トランプ氏のこの発言を知ったペニャニエト大統領は、早速ツ
イッターで、次のように反論したのです。
─────────────────────────────
 私はトランプ氏との会談の冒頭で、壁の建設費用は支払わない
と明確に伝えている。    ──ペニャニエトメキシコ大統領
─────────────────────────────
 このメキシコ大統領のツイッターをめぐってメディアは、トラ
ンプ氏を批判しています。トランプ氏は、国内ではいいたい放題
のことをいうが、その当事国に行くと、はっきり主張できないで
いる。だから、「内弁慶である」と書いています。実際にメキシ
コから帰りに直行したアリゾナ州フェニックスの集会でトランプ
氏は、演説で次のようにいっています。
─────────────────────────────
 私が大統領に選ばれたら、その初日に犯罪歴のあるメキシコの
不法移民の強制送還を実施する。  ──ドナルド・トランプ氏
─────────────────────────────
 トランプ氏は、壁の建設費用をメキシコに請求するのではなく
関税をかけて取り戻すといっています。だから、メキシコ政府が
支払わないといっても平気なのです。
 また、トランプ氏は、賃金の安いメキシコに米国企業の工場が
進出し、米国の雇用が奪われていることに苛立っています。しか
し、これは先進国であれば、どこの国でもあることで、仕方がな
いことなのですが、彼はそんなことはとんでもないことであり、
そういう企業をメキシコから呼び戻すとまでいっています。
 これに関してメキシコのペニャニエト大統領は、会談で強く反
論したといわれます。「北米自由貿易協定(NAFTA)の改定
が必要だ」とするトランプ氏に対し、ペニャニエト大統領は「仕
事が両国で失われることがないよう協力する必要があるが、NA
FTAが両国に利益にならないということにはならない。貿易は
ゼロサムゲームではない」と反論したのです。
 トランプ氏は予備選のときと何も変わっていないのです。本選
になれば、発言を修正してくると期待されていたトランプ氏です
が、ほとんど変化はないようです。トランプ氏はこれに関連して
次のように主張しています。
─────────────────────────────
 フォードは数週間前に25億ドルの自動車工場をメキシコに建
設すると発表した。世界最大の工場の一つになるそうだ。私が大
統領なら、時間を無駄にせず、すぐに親しいフォードのトップに
電話して言う。
 「おめでとう!」メキシコに25億ドルの工場を作って、そこ
で作った車をアメリカに売るということだけどそれはよいニュー
スだ。悪いニュースをお知らせしよう。その工場で作った、国境
を越えてくるどの自動車にも、どのトラックにも35%の関税を
かける。            ──間高一希著の前掲書より
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/039]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ氏「壁は権利」/メキシコ大統領と会談
  ───────────────────────────
  【ワシントン=青木伸行】米大統領選の共和党候補、ドナル
  ド・トランプ氏は8月31日、メキシコを訪問しペニャニエ
  ト大統領と会談、メキシコとの国境に「壁」を築く正当性を
  主張するとともに、現行の北米自由貿易協定(NAFTA)
  はメキシコに有利だとし、再交渉するとの立場を改めて強調
  した。
   会談後の共同記者会見で、トランプ氏は「国境の安全を確
  保することは、主権国家の権利であり、相互の利益だ」と指
  摘。「壁を建設し違法な人、麻薬、武器の移動を止めること
  は、いかなる国にも認められている」と述べた。
   ただ、これまでトランプ氏が主張してきた、「壁」の建設
  費をメキシコに負担させることについては、「(会談では)
  論議しなかった。今後の話だ」と説明した。だが、記者会見
  の数時間後、大統領はツイッターで「会談の冒頭に、私はメ
  キシコが(建設費を)支払わないことを明確にした」と明か
  した。
   このためAP通信は「トランプ氏は真実を語らなかった」
  と報じた。記者会見で大統領は、良好な両国関係の重要性を
  強調しつつ、「すべてのことに合意できないに違いない」と
  指摘した。「メキシコ国民は(トランプ氏に)感情を害され
  た」とも述べた。         http://bit.ly/2c9Hyl9
  ───────────────────────────

ペニャニエトメキシコ大統領とトランプ氏.jpg
ペニャニエトメキシコ大統領とトランプ氏
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2016年09月06日

●「2015年時点で独走態勢を確保」(EJ第4355号)

 トランプ氏がどのようにして共和党大統領候補の指名を獲得し
たかについて分析を続けます。それがトランプ氏が大統領になれ
るかどうかのカギを握ることになるからです。
 トランプ氏は出馬宣言で、Make America Great Again! と宣言
したあと、次のようなことをいっています。そこでは日本への言
及もあるのです。
─────────────────────────────
 我が国は深刻なトラブルに陥っている。我々にはもはや勝利は
ない。昔は勝利を収めていたが、今はない。我々が例えば貿易交
渉で中国を打ち負かすのを誰かが最後に見たのはいつか?中国は
我々を打ちのめそうとしている。だから、私は逆に中国をずっと
打ち負かす。ずっとだ。
 何でもいいが、何かで日本を打ち負かしたのはいつか。彼らは
何百万台もの単位で、日本製の自動車を送ってくる。それに対し
て我々はどうするのか?東京でシボレーの車を最後に見たのはい
つか?東京には存在しない。いいか?彼らは常に我々を打ち負か
す。我々が国境でメキシコを打ち負かすのはいつか。彼らは我々
を嘲る。我々の馬鹿さを嘲る。そして今彼らは我々を経済的に叩
きのめしている。本当だぜ、彼らは我々の友好国ではない。彼ら
は我々を経済的に叩きのめしている。(中略)
 私は、南側の国境(メキシコとの国境〉に万里の長城を建設す
る。私よりも立派に建設する人は誰もいないことは確かだ。あま
りお金をかけないで建設し、メキシコにその費用を払わせる。
                      ──間高一希著
      『アメリカはなぜトランプを選んだか』/文藝春秋
─────────────────────────────
 トランプ氏は、出馬会見やその後の演説において、米国が直面
しているトラブルの核心に触れているのです。国の借金、国境問
題、貧困問題、医療問題、核兵器、貿易問題、コモン・コアを含
む教育問題などに厳しく言及したのです。
 ところで「コモン・コア」とは何でしょうか。日本ではあまり
取り上げられないので、解説します。
 米国では、合衆国憲法修正第10条によって、公教育に関する
権限は洲に委ねられているのですが、2009年頃から各州共通
のカリキュラム(全米共通学力基準)を作ろうという動きが出て
きているのです。これがコモン・コアです。
 実は、このコモン・コアを積極的に推し進めているのが、ジェ
フ・ブッシュ候補なのです。彼は教育政策には一家言を持ってい
るのです。これに対して、トランプ氏は次のように全面的に批判
しています。単にジェフ・ブッシュを牽制したかっただけなので
しょうか。
─────────────────────────────
 コモン・コアを終わらせよ。それは最悪である。ブッシュは、
コモン・コアを全面的に支持している。どうやってブッシュが指
名を勝ち取るのかはわからない。ブッシュは移民についても弱腰
だ。一体どういうつもりで、この男に票を入れることができるの
か。教育はローカル(洲別)であるべきだ。
                ──間高一希著の前掲書より
─────────────────────────────
 早々に消えるとみられていたトランプ候補が強い存在感を見せ
つけたのが、2015年8月6日にFOXテレビにより開催され
た第1回共和党候補者討論会においてです。これは、17人の候
補者のうち、支持率上位10人しか参加できない決まりになって
います。
 そのときの支持率第1位はトランプ氏で、ブッシュ氏が第2位
であり、ウォーカー氏は第3位だったのです。そのときのトラン
プ氏の際立った発言は、次の質問に対する回答だったのです。
─────────────────────────────
 もし、候補者指名を受けられなかったら、指名された候補を
 応援するか。第3党から出馬しないと誓えるか。
─────────────────────────────
 これに対して9名は「イエス」と答えたのに対し、トランプ氏
だけは「答えられない」と返答しています。それだけではない。
討論会の翌日、討論会の司会をしたミーガン・ケリー氏への女性
蔑視ともとれる発言までしているのです。(巻末参照)
 この討論会の少し前から、トランプ氏は独走状態に入っていた
のです。トランプ氏がいくら暴言を吐いても、支持率は一時的に
落ちるものの、すぐ復活する。この不可解な状況について、既出
の会田弘継氏は自著で次のように解説しています。
─────────────────────────────
 これはまさにわけのわからない現象だった。ヒドい発言が飛び
出せば飛び出すほど、人気が高まる。TV討論会に端を発した女
性蔑視とも取れる発言のときはさすがに一時落ち込んだとはいえ
支持率はすぐに回復する。11月、パリで大規模なテロ事件が起
こつたころには、トランプはイスラム教徒入国を禁止せよとます
ます言い募ったが、それでも支持率は落ちなかった。もはや独走
状態となり、ルビオとクルーズがかろうじて追いかけるという構
図になった。一体これはなぜなのか。国際情勢がその理由ではな
い。あくまで内在的な、アメリカの国内的な要因がこの現象を招
く主たる原因とみていいだろう。外交政策として一貫して彼が主
張している、日本や中国への非難、保護主義貿易、排外的な移民
政策などが支持される理由も、アメリカ国内にあると考えるべき
だ。「我々は現実的・具体的な目的のない戦いに米国将兵を送り
込むことはできない」という著書のことばが彼の姿勢を端的に示
している。             ──会田弘継著/左右社
  『トランプ現象とアメリカ保守思想/崩れ落ちる理想国家』
─────────────────────────────
 そして、2016年に入り、予備選が開始されたのです。その
とき、既にトランプ氏は有力候補になっていたのです。
            ──[孤立主義化する米国/040]

≪画像および関連情報≫
 ●ドナルド・トランプ候補、ディベート司会者に逆ギレ?!
  ───────────────────────────
   アメリカは2016年の大統領選に向け、早くもオーバー
  ヒート状態です。投票日は来年11月ですが、8月6日に共
  和党候補者によるディベートの第1回戦が行われ、上を下へ
  の大騒動となりました。理由は17人もいる共和党候補者の
  一人、不動産王で大富豪のドナルド・トランプです。ディベ
  ートの司会者であるFOXチャンネルのアンカーウーマン、
  ミーガン・ケリーに過去の女性蔑視発言について容赦なく問
  い詰められ、逆ギレしたのです。トランプはディベートの翌
  日、ケリーの態度は“That was really unfair.” (とても
  不公平だった)とコメントしたばかりか、なんと「ケリーは
  生理中で機嫌が悪かった」と解釈できる発言を口にし、さら
  にはケリーからの謝罪すら要求。この “blood”発言はメデ
  ィアによって大きく取り上げられ、大統領選が政治ではなく
  まるで“サーカス”のようだとも言われました。ケリー自身
  は「私は公平に仕事を続けていきます」とコメントし、トラ
  ンプへの謝罪を断りました。
   この件、最終的にどうなったかと言えば、ケリーが突如と
  して2週間の“休暇”を取って番組から消え、なんとも後味
  の悪いエンディングとなったのでした。(復帰後のケリーに
  よるトランプ報道に期待が募りますね)。
                   http://bit.ly/2bLQXzQ
  ───────────────────────────

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第1回共和党候補者討論会でのトランプ候補
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2016年09月07日

●「改めて知るトランプの盤石の強さ」(EJ第4356号)

 米大統領予備選は、2016年2月1日、アイオワ州から開始
されたのです。予備選が行われる洲の順序は共和党と民主党では
異なりますが、最初は両党ともアイオワ州から始まるのです。
 以下に、3月22日までの34洲における共和党の勝利者を示
しています。2行に分けていますが、順序は、アイオワ州〜ケン
タッキー洲、ルイジアナ州〜ユタ州の順になります。
─────────────────────────────
   ▲アイオワ          ◎ルイジアナ
   ◎ニューハンプシャー     ▲メイン
   ◎サウスカロライナ      ○プエルトリコ
   ◎ネバダ           ◎ハワイ
   ◎アラバマ          ▲アイダホ
   ▲アラスカ          ◎ミシガン
   ◎アーカンソー        ◎ミシシッピ
   ◎ジョージア         ○コロンビア特別区
   ◎マサチューセッツ      ◎フロリダ
   ▲ミネソタ          ◎イリノイ
   ▲オクラホマ         ◎ミズーリ
   ◎テネシー          ◎北マリアナ諸島
   ▲テキサス          ◎ノースカロライナ
   ◎バーモント         □オハイオ
   ◎バージニア         ○米領バージン諸島
   ▲カンザス          ◎アリゾナ
   ◎ケンタッキー        □ユタ
           勝利者:◎トランプ  ○ルビオ
               ▲クルーズ  □ケーシック
─────────────────────────────
 共和党のアイオワ州での支持率は、2015年8月の時点で、
CNNと調査機関ORCインターナショナルによる世論調査では
トランプ氏22%で首位、2位は14%でベン・カーソン氏だっ
たのですが、クルーズ氏が逆転し、この洲の勝利者になっていま
す。得票率は次の通りです。アイオワ洲は有権者登録の60%が
福音派といわれる地区であり、クルーズ氏が手堅く票をまとめて
勝利したのです。
─────────────────────────────
      首位:クルーズ ・・・・・ 28%
      2位:トランプ ・・・・・ 24%
      3位: ルビオ ・・・・・ 23%
─────────────────────────────
 このようにアイオワ州はなかなかの接戦だったのですが、2月
9日のニューハンプシャー州では、トランプ氏が34%以上の得
票率でその強さを見せつけたのです。
 予備選というのは、党内選挙ですから、基本的には党員登録を
している人が投票するのですが、ニューハンプシャー州では党員
でなくても投票できるオープン方式をとっています。それにこの
洲は選挙のたびに共和党と民主党の勝者が入れ替わるスウィング
洲になっています。したがって、ここでの勝敗は本選を占う重要
な情報になります。結果は、大方の予想を裏切ってトランプ氏が
勝ったことによって、驚きが全米に広がったのです。
 第3戦はサウスカロライナ洲です。ここはブッシュ父子の地盤
のひとつであり、当然のことながら、2015年6月まではジェ
フ・ブッシュ氏は支持率でトップに立っていたのです。ところが
トランプ氏が出馬を宣言するや、2〜3ヶ月でトランプ氏に支持
率を奪われ、兄のブッシュ前大統領も応援に入ったものの、形勢
を挽回できなかったのです。
 結果は、トランプ氏が2位のルビオ氏に10ポイント以上の差
をつけて勝利し、ジェフ・ブッシュ氏は4位に沈んだのです。開
票直後の状況を産経ニュースは次のように伝えています。ブッシ
ュ氏の惨敗です。この結果を受けて、ジェフ・ブッシュ氏は予備
選から撤退を表明したのです。
─────────────────────────────
 サウスカロライナ州では午後7時(日本時間21日午前9時)
に共和党予備選の投票が締め切られた。米メディアは7時半ごろ
から、相次いで「トランプ氏が勝利」と報じた。米CNNテレビ
によると、開票率6%段階の得票率は、トランプ氏が32・5%
マルコ・ルビオ上院議員が22・0%、テッド・クルーズ上院議
員が21・5%、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事が9・9%
ジョン・ケーシック・オハイオ州知事が7・6%、元神経外科医
のベン・カーソン氏が6・3%。    http://bit.ly/2c1Zv5z
─────────────────────────────
 もう一度上記の表(米大統領選の予備選の2月〜3月までの勝
敗)を見てください。これを見ると、34洲のうち21の州にお
いてトランプ氏は勝利しています。その勝率は61・7%と圧勝
です。これでトランプ氏の強さがわかったと思います。
 このトランプ氏の意外なほどの強さを知った共和党本部は、3
月15日のフロリダ洲予備選で形勢を挽回すべく、テコ入れをし
たのです。フロリダ洲はジェブ・ブッシュ氏が知事を務めた洲で
あり、現在ではルビオ氏の地盤になっています。ここはスウィン
グ洲であり、29人の代議員は勝者総取りで、本選では絶対に落
とせない洲であったからです。
 そこで共和党本部は、フロリダ、ミシガン、イリノイの3洲に
300万ドルをかけて、アンチ・トランプのテレビCMを打った
のです。同じ共和党の候補者なのにアンチ・トランプのCMを打
つとはアンフェアなことですが、トランプ氏の勢いはそのような
ことでは止まらなかったのです。
 フロリダ州の結果は、トランプ氏の圧勝に終わっのです。これ
によって、ルビオ氏は撤退を表明します。共和党が本命としてい
たマルコ・ルビオ氏は、3月15日にはやばやと撤退せざるを得
なくなったのです。どうして、このような結果になったのでしょ
うか。         ──[孤立主義化する米国/041]

≪画像および関連情報≫
 ●「ブッシュ王朝」を拒否した米世論2つの感情
  ───────────────────────────
   大統領選予備選の「第3ラウンド」は、3月1日の「スー
  パー・チューズデー」の行方を占う意味で、重要な位置づけ
  がある。先週20日、その「第3ラウンド」として、民主党
  はネバダ州党員集会、共和党はサウスカロライナ州予備選が
  実施された。
   民主党では、ヒラリー・クリントン候補が下馬評よりはや
  や優勢の「52・7%」対「47・2%」で、バーニー・サ
  ンダース候補を下し、サンダースの勢いはやや鈍った感があ
  る。一方の共和党では、依然としてドナルド・トランプ候補
  が大差で首位を取り、マルコ・ルビオ候補が2位へと浮上し
  た。この「第3ラウンド」の大きな動きは、何と言っても共
  和党内の力関係に変化が生じたことだ。1位になったトラン
  プは、ローマ法王との批判の応酬をしたり、FBIや裁判所
  の命令に反論中のアップル製品への「不買運動」を呼びかけ
  たりと、相変わらず話題に事欠かない中で、32・5%の支
  持を集め、2位グループに10ポイントの差をつけて勢いを
  保っている。その一方で、2位以下のグループでは大きな変
  化が見られた。まず2位に入ったルビオ(22・5%)だが
  これはオハイオでの善戦後に「テレビ討論で同じ決めセリフ
  を4回繰り返す」というミスを犯してニューハンプシャーで
  は大きく後退していたのが、完全に復活したという評価がさ
  れている。2位ではあったが、勝利宣言と言っても良い力強
  い演説には若々しいカリスマ性も感じられ、「共和党主流派
  のチャンピオン」という座を獲得したのは間違いない。
                   http://bit.ly/2186ChT
  ───────────────────────────

大統領予備選から撤退を表明するジェフ・ブッシュ氏.jpg
大統領予備選から撤退を表明するジェフ・ブッシュ氏
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2016年09月08日

●「米民主党の予備選/CとSの接戦」(EJ第4357号)

 ここまで共和党を中心に述べてきましたが、民主党の予備選の
勝敗についても見て行くことにします。予備選の行われる洲の順
位は共和党のそれとは若干異なりますが、2016年2月1日の
アイオワ洲から、3月26日のワシントン州までの35洲の勝敗
を次に示します。
─────────────────────────────
  C/アイオア          C/ルイジアナ
  S/ニューハンプシャー     S/ネブラスカ
  C/ネバダ           S/メイン
  C/サウスカロライナ      S/ミシガン
  C/アラバマ          C/ミシシッピ
  C/サモア           C/北マリアナ諸島
  C/アーカンソー        C/フロリダ
  S/コロラド          C/イリノイ
  C/ジョージア         C/ミズーリ
  C/マサチューセッツ      C/ノースカロライナ
  S/ミネソタ          C/オハイオ
  S/オクラホマ         C/アリゾナ
  C/テネシー          S/アイダホ
  C/テキサス          S/ユタ
  S/バーモント         S/アラスカ
  C/バージニア         S/ハワイ
  S/アブロード         S/ワシントン
  S/カンザス  勝利者:C=クリントン/S=サンダーズ
─────────────────────────────
 この35洲でクリントン候補が勝利した洲は20洲、サンダー
ズ候補は15洲であり、クリントン氏の抜群の知名度を考えると
サンダーズ氏は大善戦であったということができます。クリント
ン氏の勝率は57・1%です。もっとも獲得代議員の数では、ク
リントン氏は圧倒的な数を獲得していますが、それは選挙制度の
仕組みによるもので、各州の真の民意を必ずしも反映したもので
はないといえます。
 ところで、バーニー・サンダーズ氏とは何者でしょうか。なぜ
ここまでクリントン氏が善戦できたのでしょうか。
 サンダーズ氏について知るには、ブッシュ政権の第2期に起き
た「ハワード・ディーン旋風」について知る必要があります。今
回の予備選でサンダーズ氏を支えた左派の水脈がディーン旋風と
深い関わりがあるからです。
 クリントン政権も2期目になると、議会で共和党が躍進し、民
主党が劣勢になります。これによって民主党のリベラルな政策が
実現困難になり、共和党の新自由主義的政策が幅をきかすように
なります。そのような情勢で迎えた2004年の大統領選挙で、
ディーン旋風は起きたのです
 ハワード・ディーン氏は、奇しくもバーニー・サンダーズと同
じ、バーモント洲出身の議員です。バーモント州の下院議員から
バーモント州知事を務め、意を決して2004年の大統領選挙に
出馬します。
 バーモント州の知事に過ぎないディーン氏は無名であり、はじ
めは泡沫候補扱いにされます。しかし、ブッシュ政権のイラクへ
の関わりに懐疑的な姿勢を示し、イラク戦争に反対することを宣
言すると、反戦候補としてにわかに注目を集め、2003年秋ま
でに各種世論調査でトップに立ち、民主党の最有力大統領候補と
して注目を浴びるようになったのです。
 9・11以後、米国の大勢が「イラク戦争やむなし」という風
潮に傾くなかにあって、彼はインターネットを駆使して戦争反対
を強く訴えたのです。そして共和党寄りの政策に傾く当時の民主
党主流派を「本来の民主党はどこに行ったのか」と正面切って批
判し、多くの若者の支持を得ます。そのとき彼が掲げたスローガ
ンは次の通りです。
─────────────────────────────
  We are the democratic wing of the democratic party.
           我こそが民主党のなかの民主党である
                  ──会田弘継著/左右社
  『トランプ現象とアメリカ保守思想/崩れ落ちる理想国家』
─────────────────────────────
 当時選挙にインターネットを使って政策を訴えることは、あま
り行われておらず、ディーン氏の選挙戦術は新鮮なものに映り、
多くの若者の支持を獲得するにいたるのです。
 しかし、予備選ではなぜか支持があまり広がらず、途中で失速
してしまったのですが、そのネットによる草の根選挙運動を支え
たグループは生き残り、次の大統領であるオバマ氏の選挙運動を
支えるにいたるのです。
 バーニー・サンダーズ氏について学習院女子大学長の石澤靖治
氏は、実際に予備選が始まる前に次のような予測をしています。
そして実際に予測の通り、サンダース氏はニューハンプシャー洲
の予備選に勝利するのです。
─────────────────────────────
 衆目の一致する「正統派」の候補者を現時点で脅かしているの
が、民主党ではバーニー・サンダース上院議員、共和党では実業
家のドナルド・トランプ氏である。両人が異色であるというのは
次のような点からである。サンダース氏は無所属だが、上院で民
主党の会派に所属している。無所属であることも珍しいが、それ
以上に目立つのは資本主義の大本山のアメリカにあって、同氏は
自分自身を「社会主義者だ」と明言している点である。そんな極
端さから最初は泡沫候補とみられていたが、最近行われた世論調
査の一つには、最初に予備選挙が行われるニューハンプシャー州
で本命のクリントン氏に肩を並べるものも出てきた。
                   http://bit.ly/2caWxgo
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/042]

≪画像および関連情報≫
 ●ニューハンプシャー州はどうなるか/2016年予備選
  ───────────────────────────
   予備選の結果はどうなっても衝撃的な結果になるだろう。
  ニューハンプシャー州の有権者の4割近くは、まだ投票する
  候補者を決めていないという。それ以上に、彼らは州の「ブ
  ランド」、つまり予備選の結果が、彼らの予想もしない行動
  で大きく左右されるということを十分わかっている。有権者
  の行動は、今回も予測できないだろう。
   しかし2月9日夜の前に、ニューハンプシャー州の予備選
  と今後のことについて、すでにわかっていることがいくつか
  ある。民主党のヒラリー・クリントン陣営は、アイオワ州以
  上の大量のスタッフをニューハンプシャー州に送り込んでい
  る。州のほぼ全域で猛攻をかけていて、バーニー・サンダー
  スの陣営も驚くほどだ。その大攻勢は、これからのクリント
  ン氏の戦いを象徴するものだ。指名争いはおそらく、資金潤
  沢なサンダース氏との長く苦しい戦いとなる。
   クリントン氏はおそらく、大勢の「特別代議員」に頼るだ
  ろう。いや、確実に頼らざるをえなくなる。特別代議員は多
  くが党の要職にあり、予備選や党員集会の結果に縛られず、
  7月の全国党大会で投票する権利を持つ。バラク・オバマ氏
  にあと僅かのところで敗れた2008年にもクリントン氏は
  そうしようとしたが、「アフリカ系初の2大政党の大統領候
  補」へ大きな追い風を受けていたオバマ氏に、真っ向から挑
  んでも勝算はなかった。今回、クリントン氏にためらいはな
  いだろう。           http://huff.to/2ce2nfd
  ───────────────────────────

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2004年大統領選を戦うディーン氏
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2016年09月09日

●「民意を反映しない特別代議員制度」(EJ第4358号)

 バーニー・サンダース氏は、なぜクリントン氏に対して善戦で
きたのでしょうか。
 サンダース氏がニューハンプシャー洲で勝利したとき、クリン
トン氏の支持者の多くは「えっ!」と驚いたそうです。「どうし
て?」というわけです。誰もがクリントン氏が圧勝すると思って
いたからです。
 既に述べたように、ニューハンプシャー州は党員でなくても投
票できるオープン方式をとっており、この州での勝敗は、本選の
結果を占う材料のひとつになるからです。しかし、クリントン氏
の支持者は、ニューハンプシャー洲がサンダース氏の出身州であ
るバーモント洲と隣り合わせであるので、それで勝利したのであ
ろうと納得したといいます。
 しかし、その後もサンダースは北部のミシガン、ウィスコンシ
ン、中西部のコロラド、アイダホ、ユタ、カンザス、ネブラスカ
インディアナという経済で苦しんでいる洲で勝ち続け、最終的に
は23の洲と地域で勝利したのです。サンダース氏は、一貫して
次のスローガンを掲げて予備選を戦っています。
─────────────────────────────
 ヒラリー・クリントンは富裕層の代表であり、格差社会の象
 徴である。          ──バーニー・サンダース
─────────────────────────────
 このキャンペーンによるサンダース氏のアッピールが若年層に
圧倒的に支持され、クリントン氏は非常に苦しめられたのです。
しかし、クリントン氏には有力な味方がついていたのです。それ
が「特別代議員制度」です。
 米国の大統領選挙は非常に複雑な制度になっています。最も基
本的なことは選挙が次の2段階になっていることです。
─────────────────────────────
    1.「代議員」の獲得数で党の候補者が決まる
                ──大統領予備選挙
    2.「選挙人」の獲得数で大統領が選出される
                 ──大統領本選挙
─────────────────────────────
 「代議員」と「選挙人」──とてもわかりにくいです。ネット
上には多くの解説がありますが、一読してすぐわかる解説はほと
んどありません。
 そこで「選挙人」については改めて述べることにし、ここでは
「代議員」について解説します。
 民主党のニューハンプシャー州の投票結果は次のような不可解
なものになっています。
─────────────────────────────
                 得票率 獲得代議員
   ヒラリー・クリントン ・・ 39%   15人
   バーニー・サンダース ・・ 60%   12人
─────────────────────────────
 この結果は奇怪です。ニューハンプシャー州の選挙の結果にお
いて60%の得票率のサンダース氏の獲得代議員が12人である
のに対して、39%の得票しかできなかったクリントン氏の獲得
代議員が15人と多いからです。これは、代議員には次の2つが
あるに関係があります。
─────────────────────────────
       1.一般代議員    delegate
       2.特別代議員 super delegate
─────────────────────────────
 代議員の人数は、人口に応じて各州ごとに決められており、民
主党は4764人、共和党は2472人です。この代議員の過半
数を獲得した者が予備選の勝利者、すなわち、党の指名候補者に
なれます。
 代議員は、州ごとの予備選、党員集会の得票に応じて各候補に
配分される一般代議員が大半ですが、予備選、党員集会の結果に
拘束されずに候補者を選べる「特別代議員」がいます。
 特別代議員は、民主党で712人(15%)、共和党は126
人(4%)に過ぎないものの、今回のように、圧倒的に強い候補
がいない場合や、接戦になった場合、多数の候補が乱立した場合
などは、この特別代議員の意向が候補者選びの結果を左右する可
能性は十分あります。
 それでは特別代議員とは何でしょうか。「はてなキーワード」
のサイトから引用します。
─────────────────────────────
 アメリカ合衆国大統領予備選挙の民主党の大統領候補者を決定
する党大会において、特別に大統領候補者を決定する党内の選挙
に投票することができる代議員のこと。民主党の場合、連邦議会
の上下両院議員や州知事、党委員会のメンバーなどから構成され
る。原則として予備選挙や党員集会の結果に縛られずに投票する
ことができる。共和党にも似たような非拘束の代議員は各州の代
表者から数人ずつ選ばれるが、数は民主党の特別代議員と比べ非
常に少ない。           ──「はてなキーワード」
─────────────────────────────
 なぜ、こんな制度が設けられているかというと、党として不本
意な候補者が指名されるのを防ぐためであるといえます。その点
共和党の場合は、特別代議員の数が少ないので、今回のトランプ
氏のような党の主流派にとって不都合な候補が選ばれることにな
る原因になります。特別代議員は党の中枢に鎮座する幹部であり
党の主流派の候補者を支持する傾向が強いからです。
 ちなみに今回は、クリントン氏が特別代議員計712人のうち
609人を獲得したのに対し、サンダース氏は47人にとどまり
勝敗を大きく左右したのです。なお、56人がなお、態度未定の
まま党大会に臨んでいることがわかっています。サンダース氏の
悔しさはわかるような気がします。
            ──[孤立主義化する米国/043]

≪画像および関連情報≫
 ●米大統領が決まるまで/毎日新聞
  ───────────────────────────
   州の独立性が強い米国では、民主、共和両党とも州ごとに
  予備選、党員集会のいずれかを実施し、候補者は、その結果
  に応じて配分される代議員の数で正式指名を争う。
   代議員数は民主党が4764人、共和党が2472人。候
  補者が正式指名を受けるには、両党とも7月の全国大会で代
  議員の過半数を獲得しなければならない。
   各党の指名争いの二つの方式のうち、予備選は、地区別に
  設置された投票所で党員が候補者を選んで投票する。通常は
  事前に党員登録が必要だが、ニューハンプシャー州などは特
  殊な方式で、党員登録していない「無党派」も投票できる。
   一方、アイオワ州などで実施される党員集会は、党員間で
  話し合った後、挙手、投票などで勝者を決める。形態は州に
  よってさまざまだ。党員集会は、投票するだけの予備選と比
  べ時間がかかるため、熱心な党員が集まる傾向があるとされ
  る。代議員は、州ごとの予備選、党員集会の得票に応じて各
  候補に配分される一般代議員が大半だが、予備選、党員集会
  の結果に拘束されずに候補者を選べる「スーパー代議員」も
  いる。スーパー代議員は連邦議会の議員などで、時には勝敗
  の鍵を握る。共和党では比例配分のほか、1位の候補がその
  州の代議員全員を獲得する総取り方式もある。
                   http://bit.ly/2cEGS9w
  ───────────────────────────

米予備選を戦うバーニー・サンダース.jpg
米予備選を戦うバーニー・サンダース
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2016年09月12日

●「『選挙人』を選ぶ米国大統領選挙」(EJ第4359号)

 米大統領選で民主党のヒラリー・クリントン候補とドナルド・
トランプ候補の支持率がここにきて拮抗してきています。一時は
10ポイント近くクリントン候補がリードしていましたが、9月
に入ると、クリントン氏の支持率がダウンして、トランプ氏と拮
抗するようになったのです。
 9月26日から10月中旬にかけて、両候補者によるテレビ討
論が行われ、大統領選は終盤に入って行きます。そして11月8
日に一般選挙が行われます。どちらが大統領になるのか、世界中
が注目しています。
 ここで最終的に民主・共和両党の指名候補がどのように大統領
はなるのかについて考えます。そのためには「選挙人」について
理解する必要があります。大統領は「選挙人」の獲得数によって
決まるからです。
─────────────────────────────
    2.「選挙人」の獲得数で大統領が選出される
                 ──大統領本選挙
─────────────────────────────
 11月の第1月曜日の次の火曜日、すなわち11月8日に本選
挙が行われます。この選挙を「一般選挙」というのです。選挙は
州単位に行われ、民主党の指名候補を選ぶのか、共和党の指名候
補を選ぶのかの投票を行います。なお、そのさい、大統領候補と
セットになっている副大統領候補も選ぶことになります。
 ここで重要なことは、米国では選挙を行うときは、事前の登録
が必要であることです。米国では、18歳になると選挙権が与え
られますが、日本と違って登録所に行って登録しないと選挙に参
加できないのです。つまり、登録しないと、実質的に選挙権がな
いことになります。
 選挙をするための登録率と登録者の投票率は、おおよそ次のよ
うになっています。
─────────────────────────────
       ◎登録率(1996年)
            白人 ・・ 56%
            黒人 ・・ 51%
        ヒスパニック ・・ 27%
       ◎投票率(2012年)
         65歳以上 ・・ 72%
        45〜64歳 ・・ 68%
        25〜44歳 ・・ 60%
        18〜24歳 ・・ 45%
─────────────────────────────
 人種別の有権者登録率は、1996年時点では上記の通りでし
たが、その後登録率は上昇し、白人は70%、黒人60%、ヒス
パニックは50%になっているそうです。
 さて、「選挙人」は人数が決まっています。538人です。こ
の数は人口に比例して各州に割り当てられています。ただし、ど
の州にも属さないコロンビア特別区(DC)には、選挙人は3人
割り当てられています。そして、この538人は、米国の上院議
員と下院議員の数の合計と同じです。これについては添付ファイ
ルをご覧ください。
 誰を選挙人に認定するかは各州によって異なりますが、多くの
場合、各州の政党中央委員会の投票で選出されます。または州の
選出公職者、党指導者、あるいは大統領候補と個人的または政治
的につながりのある者などが選ばれます。
 それでは、11月8日にはどのように選挙が行われるのでしょ
うか。また、なぜ、選挙を行うのは11月の第1月曜日の翌日な
のでしょうか。
 米国がこの選挙方式を決めたのは1845年のことです。11
月を選んだのは「農閑期であるから高い投票率が得られる」とい
う理由であり、日曜日は教会に行く日、月曜日は週空けの日であ
り、忙しいということで、火曜日にしたといわれています。
 今年の場合、11月8日(火)が投票日ですが、選挙は洲ごと
に登録を済ませた有権者が、どちらの大統領候補を選ぶかの投票
を行います。これは普通の選挙と同じです。
 そして、一票でも多く得票した候補者が、その洲に割り当てら
れている選挙人をすべて獲得するのです。この方式を次の言葉で
呼んでいます。
─────────────────────────────
       勝者総取り方式/winner takes all
─────────────────────────────
 ひとつの洲を例にとります。カルフォルニア州には55人の選
挙人が割り当てられています。選挙人が一番多い洲です。この洲
の一般選挙の結果、A候補者がB候補者よりも多くの票を獲得し
たとすると、A候補者がカリフォルニア州の55人の選挙人すべ
てを獲得するのです。これが「勝者総取り方式」です。得票率は
関係ないのです。洲の代表である大統領選挙人は、選挙結果にし
たがって、洲として選挙人は一本化しようということになってい
るのです。
 11月のこの選挙が終わると、12月の第2水曜日の次の月曜
日、今年の場合は12月19日になりますが、11月8日の一般
選挙で選ばれた選挙人が各洲都に集まり、改めて大統領を選挙す
るのです。このことはあまり知られていません。
 11月の一般選挙で2人の候補者の獲得選挙人は決まります。
したがって、過半数の270人の選挙人を獲得した大統領候補者
が大統領になることは決まっており、あくまで12月の選挙は形
式的なものになります。
 伝統にしたがって、米国の大統領選挙ではこのようなかたちで
行われます。1年前の前哨戦からはじまり、選挙の年の予備選で
民主・共和両党の指名候補が決定され、11月8日の一般投票で
決まるという2年に及ぶ長丁場の選挙戦を経て大統領が決まるの
です。         ──[孤立主義化する米国/044]

≪画像および関連情報≫
 ●米大統領選挙がいよいよ本格化
  ───────────────────────────
   アメリカ大統領選挙は投票日まで残り2か月となり、世論
  調査では民主党のクリントン候補が共和党のトランプ候補を
  リードしているものの差は縮まっていて、激しい争いが繰り
  広げられています。
   2期務めたオバマ大統領の後任を決める大統領選挙は11
  月8日の投票日まで、残り2か月となり、終盤戦に入りまし
  た。先月上旬の時点では、共和党のトランプ候補がアメリカ
  兵の息子を亡くしたイスラム教徒の夫婦を侮辱したとされる
  発言が波紋を広げ、各種の世論調査の平均値で、民主党のク
  リントン候補の支持率はトランプ氏を8ポイント程度上回っ
  ていました。しかしその後、クリントン氏が関連する財団の
  献金者に便宜を図っていた疑惑が浮上し、2人の差は縮まり
  ました。
   最近の支持率は、クリントン氏が45.9%、トランプ氏
  が42.9%と、クリントン氏がリードしているものの、差
  は3ポイントにとどまっています。また、南部のフロリダ州
  やノースカロライナ州、中西部オハイオ州などでは接戦が予
  想され、激しい争いが繰り広げられています。今月26日か
  ら来月にかけて2人が直接対決する討論会が3回予定されて
  いて、クリントン氏が引き離すのか、それともトランプ氏が
  巻き返すのか注目されます。    http://bit.ly/2caRD0H
  ───────────────────────────

米国各州の選挙人数.jpg
米国各州の選挙人数
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2016年09月13日

●「嫌われ者同士史上最低の大統領選」(EJ第4360号)

 今回の米大統領選挙の予備選において、民主、共和両党を通じ
かなり目立っていた候補者は次の4人です。
─────────────────────────────
 ◎共和党          ◎民主党
  ・ドナルド・トランプ    ・ヒラリー・クリントン
  ・ テッド・クルーズ    ・バーニー・サンダース
─────────────────────────────
 この4人は1人を除き、他の3人はどちらかというと、非常に
嫌われています。最も好感度が高い1人とはバーニー・サンダー
ス氏のことです。CNNによると、「登録有権者の60%がサン
ダース氏に肯定的な見方をしており、否定的に見ていた割合は、
33%だった」と報道しています。
 なぜ、サンダース氏の好感度がこれほど高いのでしょうか。そ
れは、反ワシントン、反ウォール街、反富裕層のサンダース氏の
主張が一貫していたからであり、それが多くの若者の共感を得て
いたからです。
 これに対して、他の3人の嫌われ方は、それは尋常なものでは
ないのです。共和党軍事保守派のリンゼイ・グラハム議員は、共
和党の指名選びについて次のように発言しています。
─────────────────────────────
 共和党の統一候補がトランプになるのか、クルーズになるのか
というのは、まあ射殺されるか、毒殺されるか選べというような
モノだよ。           ──リンゼイ・グラハム議員
                      ──冷泉彰彦著
   『民主党のアメリカ共和党のアメリカ』/日本経済新聞社
─────────────────────────────
 ところで、予備選を最後まで戦ったテッド・クルーズ氏とは、
どういう人物なのでしょうか。
 テッド・クルーズ氏は、プリンストン大学卒で、ハーバード・
ロースクールではハーバード・ロー・レビューの編集者を務め、
優秀な成績で卒業しています。経歴から見るとトランプ氏よりマ
シですが、何でも度が過ぎた反対論者で徹底しています。クルー
ズ氏については、株式会社プラトンのCEOである室橋祐貴氏の
サイトの記述を引用します。
─────────────────────────────
 国民皆保険(オバマケア)や銃規制に反対なのはもちろん、L
GBTや妊娠中絶、障害者権利に反対、進化論や地球温暖化も否
定している。また、「小さい政府」を目指しているため、エネル
ギー、商務、教育、住宅都市開発の各省を廃止、税率を一律にし
て内国歳入庁を廃止することも主張。ウォール街だけではなく、
シリコンバレーの富裕層からも支持を集めており、インターネッ
ト規制に反対している。
 外交に関しても、イスラエルとの同盟強化、イランとの核合意
の破棄、ISへの「絨毯爆撃」、自由貿易の推進を掲げており、
また不法移民への反対に関してもトランプ氏と同様に、いやむし
ろそれ以上に、強く反対しており、3月10日の討論会では移民
対策としてメキシコ国境に壁を造り、国境警備の人員を3倍にし
不法移民への福祉を打ち切ると表明した。
                  http://huff.to/2c7LPJk
─────────────────────────────
 それでは、指名を獲得したトランプ氏とクリントン氏について
はどうでしょうか。
 これについて、ロイター/イプソスによる9月5日に発表の世
論調査は、興味ある結果を示しています。トランプ氏とクリント
ン氏を支持する理由を聞いたところ、いずれも半数が対立候補の
勝利を阻止するためという消極的支持だったことです。
 トランプ氏の支持者の約47%は、クリントン氏に勝利してほ
しくないためとし、43%はトランプ氏の政治的スタンスに好感
を抱いているため、6%は個人的に同氏を気に入っているためと
答えています。
 これに対してクリントン氏の支持者も、約46%がトランプ氏
に大統領になってほしくないためとし、40%はクリントン氏の
政治的スタンスに賛同しているためとしたほか、11%は個人的
に同氏を気に入っているためと答えています。
 この世論調査の結果にも関連して、ノンフィクションライター
の降旗学氏は、ダイヤモンド・オンラインのサイト上で、2人の
本選での戦いを「嫌われ者同士の『史上最低の戦い』」と表現し
次のように述べています。
─────────────────────────────
 もっと下世話な言い方をすれば、かつて奴隷を解放した伝統の
共和党が指名したのは暴言と失言しかできない政治経験ゼロのト
ランプで、平等を謳う民主党が指名したのは平等とは名ばかりの
嘘つきで高慢ちきで何よりもおカネが大好きなヒラリーだったこ
とが、今回の大統領選を史上最低のものにした・・・、と言って
いいのかもしれない。2人とも嫌われ者なのだ。
                   http://bit.ly/2c81msL
─────────────────────────────
 現在でも多くの人は、テレビ討論でトランプ氏はクリントン氏
には勝てないだろうとし、接戦ながら最終的にはクリントン氏が
勝利すると予測しています。
 しかし、クリントン氏はここからが正念場なのです。米国では
99%の人から収奪した1%の人たちに富が集中しているといわ
れていますが、クリントン氏はその1%に入る富裕層であるとい
うのです。登録有権者はこのことを非常に嫌います。
 それに加えて、選挙終盤になってもメール問題のダメージは消
えず、予想以上に深刻になっています。クリントン氏がどんなに
釈明しても「嘘つき」と批判されてしまうのです。何しろ投票日
直前で、この問題がムシ返されたことは、クリントン氏に取って
大ダメージです。副島隆彦氏が予測するようにトランプ氏が勝つ
可能性は大です。    ──[孤立主義化する米国/045]

≪画像および関連情報≫
 ●米大統領選の勝敗を分けるポイント
  ───────────────────────────
   実業家のドナルド・トランプ氏が、正式に米共和党の大統
  領候補となった。党内ではいまだに反トランプの声もあるよ
  うだが、民主党のヒラリー・クリントン氏との本選で勝敗を
  分けるカギはどこにあるのだろうか。
   共和党の指名大会は異例ずくめだった。もともと共和党の
  構成員は、「穏健派」が大多数を占めている。それに保守派
  の市民団体、白人優位思想、きわめて小さな政府指向をもつ
  「ティーパーティー」、男女以外の結婚や人工中絶に反対で
  教育に聖書を盛り込む「キリスト教右派」、低学歴・低所得
  で既存の政治に怒りを持つ「高齢白人層」が加わっている。
   従来の共和党は、穏健派の主張が反映されていた。つまり
  ほどよい小さな政府であり、自由貿易の推進である。このた
  め、やや大きな政府で、やや自由貿易に反対しがちな民主党
  への対抗軸が提供されてきた。自由貿易を主張してきたので
  移民にも比較的寛容であった。
   ところが、今回の共和党はまったく違う。「高齢白人層」
  の意向を代弁して、自由貿易に反対なのだ。しかも、共和党
  の伝統的な「小さな政府」ではなく、「大きな政府指向」で
  ある。米国内では、やや異端である「ティーパーティー」や
  「キリスト教右派」の主張もトランプ共和党は取り入れてい
  る。一方、本来の主流派である「穏健派」がまだ反トランプ
  になっており、党がまとまらないのだ。
                   http://bit.ly/2cN0SrP
  ───────────────────────────

嫌われ者同士の大統領選.jpg
嫌われ者同士の大統領選
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2016年09月14日

●「ブキャナンに酷似のトランプ戦略」(EJ第4361号)

 パット・ジョセフ・ブキャナンという人がいます。1938年
生まれで、米国の政治コメンテーターであり、78歳で現在も健
在です。かつてはリチャード・ニクソン大統領のスピーチ・ライ
ターであり、さらにジェラルド・フォード、ロナルド・レーガン
各大統領のシニア・アドバイザーも務めています。
 ブキャナン氏は、1992年と1996年の2回の大統領選に
出馬していますが、1992年のときの主張が今回のトランプ氏
のそれに酷似しているのです。既出の会田弘継氏は、ブキャナン
氏の主張について次のように述べています。
─────────────────────────────
 ブキャナンの主張を確認しておこう。それは「アメリカ・ファ
ースト(アメリカを第一に)」、貿易保護主義、移民排斥、日本
やドイツの核武装容認、NATO不要論、日米同盟廃棄!──。
 どれをとっても、驚くほどトランプの主張と一致している。ブ
キャナンはニクソンのスピーチライターを務めた論客でカトリッ
クである。事業家のトランプと、出自の点で通底するものは特段
ない。ならばおよそ20年のときを隔てて、ふたりの主張がこう
も似通うのは何ゆえなのか。
 ブキャナンは大統領選で、冷戦が終結したいま、アメリカがな
ぜ世界の安全保障の何もかも負わなければならないのか。世界の
警察官たらねばならない必要はどこにあるのか。いま、アメリカ
は故郷に帰るべきときである。そう主張をした。中南米系(ヒス
パニック)を対象にした排外的な移民政策と保護主義的貿易政策
を訴え、アメリカにはこれ以上他国から安い製品を入れさせない
し、外国に展開する軍隊も引き揚げさせる、と。──会田弘継著
  『トランプ現象とアメリカ保守思想/崩れ落ちる理想国家』
                         左右社刊
─────────────────────────────
 トランプ氏の政策がブキャナン氏のそれとそっくりなのは、2
人には接点があったからです。2000年にブキャナン氏は共和
党を離れ、第三政党である改革党に加わっていますが、そのとき
トランプ氏は大統領への野心を胸に改革党からの出馬も考えて、
ブキャナン氏に会っています。米国では、共和党と民主党を二大
政党、それ以外の政党を第三政党と呼んでいるのです。
 改革党は実業家のロス・ペロー氏が創設した政党で、1996
年にはペロー氏自ら大統領選を戦うものの敗退し、2000年に
はブキャナン氏を擁立しています。
 いわゆる「トランプ現象」と呼ばれる社会現象には、次の2人
の思想家の考え方が深く関わっている──会田弘継氏はこのよう
に分析しています。
─────────────────────────────
        1.  ドナルド・ウォレン
        2.サミュエル・フランシス
─────────────────────────────
 「1」のドナルド・ウォレンについて述べます。
 ドナルド・ウォレンは社会学者であり、70年代に学生を動員
して当時の白人中間層に属する何百人もの人々に長時間のインタ
ビュー調査を行い、その調査結果を「ラディカル・センター」と
いう調査報告書にまとめたのです。
 調査の対象になった彼らは、どこにでもいるごく普通のアメリ
カ人であり、右でもなければ左でもなく、金持ちでもなければ貧
乏でもなく、ごく普通の中間層です。しかし、彼らは不当に政府
から無視されており、どこにも持って行きようのない強い怒りを
秘めているのです。
 ウォレンは彼らをミドル・アメリカン・ラディカルズ(MAR
S)と名づけ、彼らこそ米国政治を根底から揺さぶる「ラディカ
ル・センター」であると考えたのです。
 グローバル化が進む最近の米国でMARSは、実質所得が減少
しつつあり、経済不安を抱えているのに、政府は金持ちと貧乏人
ばかりを大切にして、そのツケを払っているのは自分たちである
として、政治に大きな不満を持っているのです。
 続いて「2」のサミュエル・フランシスについて述べます。
 サミュエル・フランシスは米国の保守派の論客であり、かねて
から、白人中産階級を「疎外」する米国システムに疑問を持って
いたのです。フランシスは、ウォレンの調査に注目し、MARS
に働きかけるべきであるとブキャナン氏に提言したのです。
 ブキャナン氏はそれを実行に移して行くのですが、そのときの
スローガンが次のフレーズです。
─────────────────────────────
      アメリカ・ファースト(I'm 'America First.')
─────────────────────────────
 これでわかるように、トランプ氏の主張は明らかにこのブキャ
ナン氏のそれをコピーしています。政治専門誌の「ナショナル・
ジャーナル」のベテラン記者のジョン・ジュディス氏はMARS
について次のように述べています。
─────────────────────────────
 政府は金持ち階級と貧困階級だけを相手にし、「(下層)中産
階級は無視されている」という強い不信感を持つ。大企業は力を
持ち過ぎている、と感じ、政府には福祉政策や年金制度を、さら
には物価統制や就労・教育支援までやってほしいと思っている。
政府が嫌いなのか好きなのか、ないまぜの心理だ。
 この中産階級ラディカルこそが、民主党の人種隔離廃止政策に
反対し、党を割って「アメリカ独立党」から1968年大統領選
に出馬したウォレス元アラバマ州知事を、また1992年や19
96年大統領選で共和党あるいは無所属(第3党)候補として旋
風を巻き起こしたブキャナンや富豪実業家ロス・ペローの支持母
体となった。そして今、トランプ旋風の原動力となっているのも
彼らだ、とジュディスは見る。    http://huff.to/2c2YhsO
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/046]

≪画像および関連情報≫
 ●書評/パット・ブキャナン「超大国の自殺」/宮崎正弘著
  ───────────────────────────
   悪党どもの最後の砦、それは「愛国」と「民族」カードで
  ある。尖閣を煽る共産党は自らの支配が最後のステージにあ
  ることを自覚している。
  パット・ブキャナン著「河内隆弥訳『超大国の自殺』」/幻
  冬舎刊
   「アメリカはもう死んでいる」とのっけから衝撃的発言が
  連発される。アメリカの「緩慢な後退には、国益と、国民の
  意思の不一致がみられる」(464p)。
   ブキャナンといえば、ニクソンのスピーチ・ライターをつ
  とめ、レーガン革命では保守思想の旗手として大活躍した。
  しかもブッシュの弱腰中道路線をこっぴどく批判していたば
  かりか、それでも収まらず1992年と96年には自ら大統
  領選挙に出馬し、その予備選ではいくつかの州でトップか二
  位をかざり、本命ブッシュが青ざめる。ともかく共和党主流
  派を大いに脅かす存在となった。
   その後も保守系雑誌で健筆をふるい、テレビのコメンテー
  ターとしても大活躍、根強いファンがある。そのファンは日
  本にも及んでおり、彼の論理的根拠は、その民族的アイデン
  ティティの確立と歴史主義の尊重という立場、日本で言えば
  石原慎太郎的であり、西尾幹二的であり、過激な傾向を帯び
  ている点では中川八洋的でもある。かれはグローバリズムに
  反対する国益最優先主義者でもある。
                   http://bit.ly/2cuJFmi
  ───────────────────────────

パット・ブキャナン氏.jpg
パット・ブキャナン氏
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2016年09月15日

●「アメリカ・ファースト思想の原点」(EJ第4362号)

 2016年3月27日付のニューヨーク・タイムズで、マギー
・ヘイバーマンは、トランプ氏に外交政策に関してインタビュー
しています。
─────────────────────────────
ヘイバーマン:もし、日本と韓国が著しく負担額を増加しなけ
       れば、そのような国から米軍を撤退させても構
       わないか?
  トランプ:はい、撤退させる。喜んでしようとは思わない
       が、撤退させても構わない。我々はこういうこ
       とに何10億ドルもの莫大なお金を失う余裕は
       ない。もうそんなことをすることはできない。
       そういうことができた時代もあったが、今はも
       はやできない。彼らはますます図に乗って要求
       水準をぐっと上げてくる感じがする。上げてく
       ると思う。彼らがもっと負担する額を増やさな
       ければ、米軍撤退に対してイエスと言わざるを
       得ない。          ──間高一希著
     『アメリカはなぜトランプを選んだか』/文藝春秋
─────────────────────────────
 トランプ氏は、日本だけでなく、ドイツについても、サウジア
ラビアについても軍隊を置くことに反対しています。とくに日米
安保条約については「興味深い」と皮肉をいい、その片務条約性
を批判しています。
─────────────────────────────
  我々が日本と結んでいる条約は興味深い。誰かが我々を攻
 撃したら日本は助ける必要がない。誰かが日本を攻撃したら
 我々は日本を助けなければならない。そういう条約が我々が
 結ぶ条約だ。 ──2015年9月3日号「エコノミスト」
─────────────────────────────
 この考え方はどこからきているかというと、「アメリカ第一委
員会」America First Committee にたどりつくのです。1940
年代の話です。この委員会を作ったのは、あのチャールズ・リン
ドバーグです。
 リンドバーグといえば、大西洋単独無着陸飛行の成功の偉業で
あまりにも有名です。飛行機の安全性が現代のように万全ではな
く、いつ墜落するかわからない時代に成功させていることで、リ
ンドバークは一躍英雄になったのです。
 1927年5月20日5時52分にリンドバーグは、スピリッ
トオブセントルイス号で、ニューヨーク・ロングアイランドのル
ーズベルト飛行場を飛び立ち、5月21日22時21分、パリの
ル・ブルジェ空港に着陸し、大西洋単独無着陸飛行に初めて成功
しています。
 そのリンドバーグが、なぜ、米国孤立主義者の団体、アメリカ
第一委員会を作ったのでしょうか。
 リンドバーグは共和党員だったのです。第2次世界大戦のさい
時の大統領ルーズベルトは英国のチャーチル首相の勧めもあって
参戦のチャンスを窺っていたのです。しかし、この委員会は参戦
に一貫して反対です。副島隆彦氏は、この間の事情について、次
のように述べています。
─────────────────────────────
 この「アメリカ・ファースト!」という言葉を初めて使ったの
は、空の英雄″チャールズ・リンドバーグである。リンドバー
グは飛行機乗りの花形で、当時の英雄だった。いつ墜落死するか
わからないものを恐れず乗り回したからだ。
 リンドバーグ(1902〜1974年)は、アメリカの第2次
世界大戦への参戦に反対した。このときに「外国のことに関わる
な」「アメリカ人の息子たちを外国の戦争で死なせるな」と言っ
て、この言葉を発した。彼が作った運動や団体と共に使われるよ
うになった。                ──副島隆彦著
      『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社
─────────────────────────────
 トランプ氏のいう「アメリカ・ファースト!」、すなわち、外
国のことに関わるな、国内問題を優先せよという主張の根拠はこ
こにあります。1941年、ヨーロッパでは既に戦火が上がり、
英国も空襲を受けてその命運は風前の灯になっていたのです。そ
のため、英国のチャーチル首相は、米国の参戦をルーズベルト大
統領に働きかけたのです。
 リンドバーグは、アメリカ第一委員会として、各地で演説をし
て、絶対に参戦反対を主張します。第一次世界大戦では、米国は
ヨーロッパの無謀な戦争に参加して、多くの米国の若者が大勢命
を落としたではないか、なぜ再びヨーロッパの戦争に参加しなけ
ればならないのかと訴えたのです。1941年9月11日にリン
ドバーグは、アイオワ州デモインでの演説では、英国人とユダヤ
人がアメリカに連合国側への参戦を働きかけていると述べ、参戦
への反対を表明しています。「ヨーロッパの紛争に巻き込まれて
はならない」というジェファーソン初代米大統領の孤立主義の考
え方と同じです。
 この発言に対してユダヤ系の米国人は反発し、フランクリン・
ルーズベルト大統領は、リンドバーグのアメリカ陸軍航空隊での
委任を解除して、不快感を表明します。そして、1941年12
月8日未明の日本軍のハワイ真珠湾攻撃を受けて、米国は第2次
世界大戦に参戦したのです。
 ドナルド・トランプ氏の主張は、せんじつめると、このリンド
バーグの主張「アメリカ・ファースト!」に行きつきます。この
主張は、米国が世界に出て行って、世界中をカネと軍事力で支配
するグローバリズムに断固として反対しています。したがって、
反ユダヤ主義なのです。米国は世界中から引き揚げるべきである
という主張であり、それはイスラエル支援からの撤退、中東から
の撤退も意味しているからです。
            ──[孤立主義化する米国/047]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ「大統領」の外交・金融政策が日本を直撃
  ───────────────────────────
   トランプの外交思想は、グリーンらが属するアメリカの主
  流派の外交サークルとは違う「アメリカ・ファースト」(米
  国国内問題優先主義、米国第一主義)と呼ばれる派閥に属す
  る。アメリカ・ファーストはアイソレーショニズム(孤立主
  義)とも訳されるが、さきのタイムズ紙のインタビューによ
  ると、これはトランプの好む表現ではないらしく、彼は積極
  的にのちの外交演説でも「アメリカ・ファースト」を使って
  いる。
   「アメリカ・ファースト」という言葉にはアメリカ政治文
  化に根付く古い歴史がある。これはもともとナチスが台頭し
  第二次世界大戦が欧州で勃発した後の1940年に、アメリ
  カが欧州の解放に参戦すべきだとする国際主義者の掛け声に
  たいして、「アメリカは欧州の事情に関わっている余裕がな
  い。大恐慌からの復興が先決で国内問題を優先すべきだ」と
  する立場の人々の集まりとして設立された「アメリカ第一委
  員会」に由来する。
   その代表格が飛行機乗りのチャールズ・リンドバーグだっ
  た。彼らはアメリカを欧州の戦争に巻き込まれないようにす
  るための平和主義者だった。同時にユダヤ人からはヒトラー
  に融和的な反ユダヤ主義を背景にしていると批判されたが、
  メンバーの中には確かにヘンリー・フォードのような反ユダ
  ヤ主義の疑いを持たれる人物もいたのは事実だ。
                   http://bit.ly/2cF2SPF
  ───────────────────────────

チャールズ・リンドバーク.jpg
チャールズ・リンドバーク
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2016年09月16日

●「共和党と民主党/どちらがよいか」(EJ第4363号)

 米国の二大政党制──共和党と民主党のことですが、大統領選
挙はこれら両党の指名候補の対決ということになります。日本に
とっては、民主党の大統領よりも共和党の大統領の方がよいと漠
然と考えている日本人は多いようです。
 確かに、米国の大統領と日本の首相が非常に親密であったとき
の大統領はいずれも共和党であったという事実があります。頭に
浮かぶのはレーガン大統領のときの中曽根首相、ブッシュ(子)
大統領のときの小泉首相です。いずれも共和党の大統領です。
 これに対して民主党のビル・クリントン大統領のときは日本に
はまるで属国に対するように厳しい要求を突きつけ、日本政府を
戸惑いさせたものです。クリントン大統領は、アジアでは中国を
ことさら重視し、日本を軽視するスタンスをとったのです。
 1998年には、クリントン大統領は訪中し、9日間滞在して
います。大統領の滞在期間としては非常に長いですが、中国が好
きなんでしょう。日本の官邸は、帰りに日本へ立ち寄るよう要請
したものの、無視され、大統領はそのまま帰国しています。これ
は「ジャパン・パッシング」として、米国の日本軽視の象徴のよ
うになったものです。
 ちなみにオバマ大統領も中国の招きを受け入れ、大統領夫人や
子どもたちが中国に一週間滞在しています。これらのことによっ
て、日本にとって米民主党の大統領は、「反日/親中」のイメー
ジが強くなったといえます。
 したがって、今回の大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利す
るのは最悪であるものの、そうかといってヒラリー・クリントン
氏が大統領になっても、日本にとってよいことはないと嘆いてい
る人が多いのです。つまり、どっちが大統領になっても、日本に
はロクなことにはならないだろうと考えているわけです。
 これに対して日本政府は、「トランプよりはクリントンの方が
マシ」と考えているようです。その根拠は、オバマ政権の国務長
官のときのクリントン氏は、尖閣諸島は日米安保条約の対象にな
ると明言するなど、日本にとってかなり「好意的」な姿勢のよう
に見えたからです。
 しかし、国務長官と大統領は立場が違うのです。国務長官は大
統領の指示にしたがって、外交全般を行うからです。したがって
国務長官のときに日本に「好意的」であったからといって、大統
領になると変貌する可能性は十分あるといえます。クリントン家
が「親中」であることは確かだからです。親中の米大統領は日本
にとってやりにくい存在になります。
 日本にとってどちらの大統領がよいかなどという視点ではなく
今回の米大統領選は、もっと大きな視点に立って考える必要があ
ると思います。白鴎大学経営学部教授の高畑昭男氏は、多くの識
者が今後の世界が単調な「多極化世界」にはならないと指摘して
いることを踏まえて、これまで米国が果してきたような秩序形成
の担い手を誰も想像できないとして、今回の米大統領選の意味に
ついて次のように述べています。
─────────────────────────────
 次期アメリカ大統領選に世界が注目する理由もそこにある。ア
メリカに代わる秩序形成パワーが他に見つからなければ、アメリ
カの再生に期待するしかないからだ。誰が「ポスト・オバマ」大
統領になるにせよ、その任期は2017年1月に始まり、再選さ
れれば2015年1月まで続く。「2025年」までの大切な8
年間は、「ポスト・オバマ」の一人(再選された場合)もしくは
二人の大統領の双肩に委ねられる。「ポスト・オバマ」は、つき
ることのない課題や中国、ロシアなどの問題行動にいかに立ち向
かうかを国民と世界に説明しなければならない。
 それにふさわしい行動力、決断力があるかどうかも問われる。
リバランス戦略を継続するのか、しないのか。中国に対する「牽
制と協調」のバランスをいかに図るのか。その決断と戦略次第で
アジア太平洋の命運が左右される。日本の平和と安全にも大きな
影響を与える。中国経済がどう推移し、ロシアがどんな行動をと
るかなどの外的要素もあるが、重要な点はアメリカがいかに主体
的に行動するかにかかっている。 ──高畑昭男著/『「世界の
    警察官」をやめたアメリカ/国際秩序は誰が担うのか』
                    株式会社ウエッジ刊
─────────────────────────────
 共和党と民主党──どちらが勝つでしょうか。それを読むには
これら二大政党について研究してみる必要があります。共和党と
民主党の違いはどこにあるのでしょうか。
─────────────────────────────
 ≪共和党≫
  ・  保守の党/減税と歳出の抑制「小さな政府論」推進
   外交姿勢/基軸に孤立主義を持ち、反共、反テロ
 ≪民主党≫
  ・リベラルの党/福祉を中心とする「大きな政府論」推進
   外交姿勢/国連中心外交による「国際協調主義」
─────────────────────────────
 共和党と民主党の基本的な対立軸は、共和党の「保守」に対し
て民主党の「リベラル」です。そして共和党は党是として減税と
歳出の抑制による「小さな政府論」、民主党は福祉を中心とする
「大きな政府論」をそれぞれ展開しています。したがって、「オ
バマ・ケア」などの福祉政策を民主党は積極推進し、共和党は一
貫してそれに反対するのです。これは明確な対立軸といえます。
 外交姿勢に関しては、共和党は基軸に孤立・排外主義を持ちな
がら、20世紀には「反共」、21世紀は「反テロ」という価値
観から世界情勢への介入を行ってきています。これに関して民主
党は、国連中心外交など国際協調の外交姿勢を取っています。
 しかし、現代においては、単に「保守」と「リベラル」という
対立軸で共和党と民主党を分けることは困難になっています。来
週のEJでは、この点について検討とます。
            ──[孤立主義化する米国/048]

≪画像および関連情報≫
 ●日本人が知らない「二つのアメリカ」の世界戦略/深田 匠
  ───────────────────────────
   アメリカの国際戦略を解析していく上で、まず共和党と民
  主党はまったく対照的であることを理解してもらう必要があ
  る。共和党も民主党もひとまとめにして『アメリカ』という
  単位で考えてしまう視点は日本人が陥りがちな誤りである。
  「共和党でも民主党でもアメリカはそんなにかわらないだろ
  う」と思っている人も多いようだが、この両党は対外戦略も
  内政面も大きく異なった思想信条を基盤としており、当然な
  がら個々の議員によって個人差は当然あるものの党全体のカ
  ラーとしては正反対なのだ。
   かつてパキスタンのアユブ・カーン大統領が「アメリカと
  いう国とつきあうのはガンジス川とつきあうようなものだ」
  と述べたことがある。ガンジス川は平均して四年に一度、大
  洪水を起こして、それまで築いたものを全て押し流してしま
  う。アメリカも四年に一度の大統領選挙があり、その新政権
  が共和党か民主党かによって全く違った国際戦略に変わって
  しまうという意味である。
   未来学の始祖と言われるK・ボールディング博士は、名著
  『ザ・ダメージ』の中でこの二大政党を「共和党は象、民主
  党はロバ」として、「共和党は伝統を重んじ、落ち着きがあ
  り、高貴な気位を持つ、厳格な頑固者」「民主党は成り上が
  り的で、敏感にして小利口だが、自分のことを何も分かって
  いない陽気な間抜け」と評している。
                   http://bit.ly/1hIwTth
  ───────────────────────────

対立するクリントン/トランプ.jpg
対立するクリントン/トランプ
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2016年09月20日

●「北核実験に米国はどう対応するか」(EJ第4364号)

 9月13日午前、米領グアムのアンダーセン米空軍基地を発進
したB1戦略爆撃機2機が、ソウルの南約60キロメートルの位
置にある烏山(オサン)基地上空を低空飛行したのです。北朝鮮
が核実験などの挑発をすると、米国がよくやる牽制行為です。
 これに関しては「威嚇飛行をするだけなんだよね」という冷め
た見方があることも確かです。オバマ大統領は何があっても絶対
に軍事行動には出ないと足元を見られているからです。
 しかし、一概にそうとはいえないのです。北朝鮮による今回の
5回目の核実験は、北朝鮮の表現を使えば「核弾頭の爆発実験」
ですが、米国はまだ核弾頭は完成していないし、少なくとも実戦
配備のレベルには達していないと判断しています。
 しかし、あと数年で実戦配備のレベルに達することは確実とみ
られます。北朝鮮は経済面においては、中国と一体化しつつあり
北朝鮮国内では人民元が広く使われているといいます。北朝鮮が
経済面で急に破綻することはもはやあり得ないと思われます。
 そうなると、北朝鮮の核を潰すには今が一番のチャンスという
ことになります。いや、今しかチャンスはないといえます。しか
もオバマ大統領はやる勇気はないとみられており、北朝鮮はたか
を括っています。
 米国の民主党は「リベラル」の政党であり、戦争などしないと
思われていますが、事実と大きく異なります。二度の世界大戦の
参戦に踏み切ったのはいずれも民主党の大統領のときであり、共
和党は反対だったのです。また、朝鮮戦争とベトナム戦争につい
ても、介入を決定したのは民主党政権なのです。
─────────────────────────────
 ◎第一次世界大戦(1914年〜1918年)
  ・ウッドロー・ウイルソン第28代大統領/民主党
 ◎第二次世界大戦(1939年〜1945年)
  ・フランクリン・ルーズベルト第32代大統領/民主党
 ◎朝鮮戦争(1950年〜1953年休戦)
  ・ハリー・トルーマン第33代大統領/民主党
 ◎ベトナム戦争(1964年〜1975年)
  ・リンドン・ジョンソン第36代大統領/民主党
─────────────────────────────
 これだけではないのです。1993年の第1次北朝鮮核危機の
さい、クリントン大統領は核施設が密集している寧辺爆撃を本気
で検討しています。そのとき、米国は日本に対して、兵器および
弾薬の提供、米艦船の防御、民間の空港および港湾の利用など、
1500余項目の支援を要請したのですが、日本政府は憲法9条
を理由にこれを拒否したため、実現しなかったのです。このよう
に、民主党は好戦的なDNAを持っているのです。
 米国は、北朝鮮の挑発、とくに核実験に関しては、段階を踏ん
で攻撃の手順をひとつずつ進めてきています。北朝鮮による核実
験は次の5回ですが、とくに何をするかわからない金正恩政権に
なってからの米国の対応はきわめて戦略的です。
─────────────────────────────
      ≪北朝鮮の核実験≫
      ◎金正日
       第1回:2006年10月09日
       第2回:2009年05月25日
      ◎金正恩
       第3回:2013年02月12日
       第4回:2016年01月06日
       第5回:2016年09月09日
─────────────────────────────
 金正恩政権になってからの第3回の核実験は、2013年2月
12日に行われています。米国はこのとき韓国との合同軍事訓練
の一環として、3月29日にステルス戦略爆撃機B2を韓国に飛
来させています。B2はステルス機能を持つ核搭載機であり、核
爆弾なら16個を搭載可能で、それに加えて14トンもある大型
爆弾「バンカーバスター」も運べるのです。北朝鮮の核ミサイル
基地攻撃には最適の爆撃機なのです。ステルス性の強いことから
「空の幽霊」と呼ばれています。
 これに続いて米軍は、3月31日には、F22戦闘機を烏山空
軍基地に送っています。F22は、ステルス性能、推力偏向ノズ
ル、超音速巡航性能の3つを合わせ持つ戦闘機で、その空対空戦
闘能力で他を圧倒します。F22に対する敵機は、どこにいるか
わからない敵から一方的に攻撃をされるという恐ろしい状況に置
かれます。確実に敵をとらえるため「猛禽類」と呼ばれます。
 第4回の核実験は、2016年1月6日に行われています。こ
のとき、米軍は、1月11日にB52を米韓両軍の戦闘機と共に
韓国の烏山空軍基地上空で低空飛行を実施した後、配備先の米領
グアムにあるアンダーセン米空軍基地に帰投しています。
 B52は古い重爆撃機ですが、改良を加えて、原爆をはじめ、
大量の爆弾を搭載できるようになっています。2015年11月
に、南シナ海にある中国の人工島の周辺の空域を飛行して話題と
なりました。また、2014年には中国の一方的な防空識別圏設
定後にその防衛識別圏のなかを悠々と飛行して注目を集めたあの
重爆撃機であり、ベトナム戦争や湾岸戦争でも活躍しています。
そのため「空飛ぶ要塞」といわれています。B52については、
次のユーチューブの画像をご覧ください。
─────────────────────────────
   米軍のB52戦略爆撃機/ http://bit.ly/2cgjCig
─────────────────────────────
 米軍は何をやっているのかというと、同盟国である韓国に対す
る「核の傘」を具体的に北朝鮮に誇示しており、北朝鮮に対し、
いつでも攻撃できることを示しているのです。今年になって2回
目になる第5回目の核実験に対する米国の対応については明日の
EJで取り上げることにします。
            ──[孤立主義化する米国/049]

≪画像および関連情報≫
 ●平壌を米ステルス機が急襲!金正恩氏も凍り付く
  ───────────────────────────
   米韓合同軍事演習「フォールイーグル」(野戦機動演習)
  にステルス戦闘機F22が参加する理由は、平壌への威嚇に
  あるとされる。米国は軍事演習を使って、もうひとつの重要
  な対北心理作戦「作戦計画5030」(北朝鮮動揺計画)を
  行っているとされるからだ。その中身は、レーダーに捕捉さ
  れないステルス戦闘機を平壌上空に送りこみ急降下や急上昇
  で威嚇する−というものだ。
   米軍が同演習にステルス機(当初はF117)を投入した
  のは2005年から。同年の夏、平壌上空に侵入する「50
  30」の秘密作戦があったことをスクープしたのは、日本の
  軍事専門家、恵谷治氏だった。恵谷氏はいう。「この年F1
  17は平壌上空から金正日総書記の住む宮殿めがけて急降下
  急上昇を繰り返した。爆撃機の爆音と振動はものすごい。金
  総書記は本当の恐怖というものを体験したはずだ」
   恵谷氏のスクープはその後、予期しない形で裏付けられて
  いる。米韓合同軍事演習に参加していたF117のパイロッ
  トが米軍事専門誌に「私にとって最も記憶に残る任務は北朝
  鮮の領空をかき回したことだ・・・の任務のことを考えると
  気が遠くなるような感じだ」(エアフォース・タイムズ)と
  証言したのだ。          http://bit.ly/1PbjdKQ
  ───────────────────────────

B2/F22.jpg
B2/F22
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2016年09月21日

●「オバマ大統領は対北空爆を行うか」(EJ第4365号)

 北朝鮮にとっては5回目、金生恩政権になって3回目、今年に
なって2回目の北朝鮮による核実験が行われたのは、2016年
9月9日のことです。
 これに対して米国は、B1戦略爆撃機2機を韓国に派遣したの
です。B1爆撃機は、日本の領空に来ると、航空自衛隊のF─2
戦闘機と編隊飛行を組み、日韓ADIZ(防衛識別圏)境界から
は、航空自衛隊機に代わり、韓国空軍のF─16、F─15戦闘
機によってエスコートされながら、韓国上空まで飛行するという
息の合ったデモンストレーションを見せつけたのです。
 ここで知っておくべきことがあります。「B1爆撃機」と書い
ていますが、正しくは「B─1B爆撃機」というべきなのです。
この爆撃機は次の2種類があり、それには2人の大統領の意向が
密接に絡んでいます。
─────────────────────────────
      1.B─1A ・・ カーター大統領
      2.B─1B ・・ レーガン大統領
─────────────────────────────
 1970年のことです。米空軍は、高高度高速侵略能力と低空
侵攻能力を併せ持つ爆撃機の試験用の機体をロックウェル・イン
ターナショナル社に発注しています。
 しかし、1977年に就任したカーター第39代大統領によっ
て配備計画が中止されます。ただ、試験機での研究を続けること
は認められたのです。ちなみにカーター大統領は民主党です。
 ところが、1981年に就任した共和党のレーガン第40代大
統領は、米空軍が次期多目的爆撃機としてB─1を推奨すると、
その改良型の100機生産を承認するのです。これによって生ま
れたのがB─1Bです。B─1Bは、B─1Aに比べて低空侵攻
能力に比重が置かれ、高高度の巡航速度がマッハ1・25に切り
下げられたほか、自重、最大離陸重量が増加しています。
 B─1Bは、1985年から核兵器を搭載してのスクランブル
に備えての任務(アラート任務)につきます。しかし、ソ連崩壊
後の1991年に、B─1Bは戦略核攻撃任務から外れ、その後
は通常兵器を使用する爆撃機として改修されたのです。
 北朝鮮が金正恩政権になってから、核実験が行われるたびに米
国は、米空軍の持つすべての爆撃機を朝鮮半島に派遣して北朝鮮
を威嚇しています、
 第3回目の核実験では、B2とF22を派遣しています。核兵
器を搭載する「空の幽霊」といわれるB2戦略爆撃機が北朝鮮の
指導部を猛爆し、「猛禽類」といわれるF22が北朝鮮空軍を殲
滅するというデモンストレーションです。
 今年の第4回の核実験では、「空飛ぶ要塞」といわれるB52
が出動し、いつでも核攻撃ができることを示しています。米国が
いつも威嚇に使うのがこのB52です。
 しかし、それに比べると、9月の第5回目の核実験では、核攻
撃ができないB─1Bが2機飛来しています。その能力からすれ
ば、やや格落ち感は否めないところですが、今回は日本の航空自
衛隊と韓国空軍との連携を見せつけたのです。
 それにB─1Bは、核兵器こそ搭載することはできませんが、
非常に多くの通常爆弾を機内のウェポンベイ(爆弾庫)に格納す
ることができ、そのペイロードは2000ポンド(907キログ
ラム)誘導爆弾ならば最大24発搭載できるのです。そして、地
中貫通爆弾、いわゆる「バンカーバスター」によって、地下施設
に対する攻撃も可能であることを誇示しているのです。
 今回の北朝鮮による第5回核実験でのB─1Bの飛来について
米太平洋軍司令官、ハリー・B・ハリス・ジュニア海軍大将は次
のように述べています。
─────────────────────────────
 これらの飛行は、北朝鮮による挑発的で地域を不安定化させ
 る行動に対して、韓国、米国、日本の防衛連帯を示威するも
 のである」。 ──ハリー・B・ハリス・ジュニア海軍大将
─────────────────────────────
 北朝鮮が激しく嫌がる米韓合同軍事訓練では、もし北朝鮮が訓
練中に何かを起こせば、直ちに戦争に突入する体制を敷いて行っ
ているのです。具体的には、米軍1万5000人以上、韓国軍約
30万人。米軍の戦闘航空旅団と海兵遠征旅団に加え、米原子力
空母「ジョン・C・ステニス」を中心とする空母打撃群、北朝鮮
に上陸可能な強襲揚陸艦も参加しています。
 日本の防衛省関係者は、「今回の演習は、北朝鮮の核・ミサイ
ル基地への先制攻撃も念頭に置く米軍の作戦計画「5015」に
基づいた訓練だ」といい、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 最大の特徴は「斬首作戦」だ。特殊部隊が奇襲し、正恩氏ら北
朝鮮首脳を確保、排除する「正恩独裁体制殲滅作戦」になる。隊
員らは、精密に再現された平壌市街、正恩宅の模型で徹底的に訓
練している。もし、作戦が決行されれば、正恩氏は100%助か
らない。               http://bit.ly/2d7yjle
─────────────────────────────
 オバマ大統領は、大統領として最後になる今年の一般教書で、
北朝鮮に関して一切言及しなかったのです。北朝鮮が1月6日に
核実験を行ったにもかかわらずです。これを見越したのか、北朝
鮮は、9月にもう一度核実験を強行しています。完全にオバマ大
統領の足元を見ての強行と思われます。
 現在、北朝鮮は6度目になる核実験を強行する構えを見せてい
ます。オバマ大統領の弱腰を見て、新大統領になる前にもう一回
核実験を仕掛けてくる可能性はゼロではないと思われます。1年
に3回の核実験であり、もし本当に行われると、米国のメンツは
それこそ丸潰れになります。
 しかし、北朝鮮の試みは極めて危険です。そうなると、米国は
ピンポイントで北朝鮮の核施設などを破壊する可能性は極めて高
いからです。      ──[孤立主義化する米国/050]

≪画像および関連情報≫
 ●オバマ大統領の最後の大仕事は対北空爆か
  ───────────────────────────
   北朝鮮の度重なる核実験に対して、アメリカは、グアムの
  アンダーセン空軍基地に配備している爆撃機を朝鮮半島に出
  動させたと報じられております。北朝鮮に対する強い牽制の
  意味が込められておりますが、朝鮮半島において有事となる
  可能性も否定はできません。それでは、仮に、北朝鮮に対し
  ては軍事的手段しか道がないと判断された場合、どのような
  シナリオが想定されるのでしょうか。
   第1のシナリオは、朝鮮戦争の休戦協定が、南北どちらか
  一方の破棄により破られ、両軍の戦闘が再開されるというも
  のです。いわば第二次朝鮮戦争であり、このケースでは、事
  実上、当時の米韓対中朝の対立構図が再燃するものと予測さ
  れます。米韓間において1954年に米韓相互防衛条約が結
  ばれる一方で、中朝間でも、1961年に参戦条項を含む軍
  事同盟である中朝友好協力相互援助条約が締結され、200
  1年に更新されているからです(20年ごとに更新)。
   第2の想定は、北朝鮮の核・ミサイル開発を国連憲章上の
  平和への脅威とみなし、NPT等の国際法違反を根拠として
  軍事制裁を課すというシナリオです。この場合には、中国の
  出方によってもその後の展開は変化します。仮に、中国が、
  北朝鮮を見捨てる形で北朝鮮への軍事制裁を認める安保理決
  議に賛成するとしますと、国連の枠内の下で多国籍軍が結成
  されます。            http://bit.ly/2cTdQAY
  ───────────────────────────

米B─1Bと空自F2戦闘機.jpg
米B─1Bと空自F2戦闘機
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2016年09月23日

●「北の暴走は『切迫』段階に突入か」(EJ第4366号)

 北朝鮮は、9月9日の第5回の核実験に続いて第6回の核実験
を行おうとしています。それが予定される日は、今回の核実験に
対する国連の安全保障理事会による制裁決議が出た直後か、10
月10日の朝鮮労働党創立記念日のどちらかと思われます。
 北朝鮮のハラは、年3回目の核実験をしても、オバマ大統領の
弱腰では米韓による報復はないと見ています。北朝鮮としては次
の新大統領と交渉し、北朝鮮を核保有国として認めさせることを
念頭に置いています。そのためにはなるべく多くの実験を重ねて
おく必要があるという判断です。
 北朝鮮は、どうやら次の大統領はトランプ氏になると見ている
ようです。トランプ氏の北朝鮮に関する関心は、2016年5月
17日付のロイター通信とのインタビューから読み取ることがで
きます。これに関して副島隆彦氏次のように述べています。
─────────────────────────────
 米大統領選で共和党候補指名を確実にしたドナルド・トランプ
氏は、5月17日、ロイターとのインタビューに応じた。トラン
プ氏は北朝鮮の核開発を阻止するため、金正恩朝鮮労働委員長と
会談することに前向きな姿勢を示した。(一部略)
 トランプ氏は北朝鮮政策について詳細には触れなかった。だが
金(正恩)氏と会談すれば、米国の北朝鮮政策が大きく転換する
ことになると強調。
 「私は彼(金正恩氏)と話をするだろう。彼と話すことに何の
異存もない」と述べた。その上で「同時に中国に強い圧力をかけ
る。米国は経済的に中国に対して大きな影響力を持っているのだ
から」と語った。              ──副島隆彦著
      『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社
─────────────────────────────
 米韓両国は、北朝鮮による核攻撃を「威嚇」「切迫」「使用」
の3段階に分けて、それぞれの段階に合わせた米韓両軍の対応を
決めています。今年の2回にわたる北朝鮮の核実験は、既に「威
嚇」の段階を超えて「切迫」に近付いていると判断し、第2段階
への対応をSCM(韓米定例安保会議)で具体化することにして
います。これに関して、2016年9月21日付の「聯合ニュー
ス」は次のように報道しています。
─────────────────────────────
 韓国の政府当局者は聯合ニュースの取材に対し、「北の核能力
は実際的で現実的なものであり、現在の北は核による『威嚇』と
『使用切迫』の中間段階のレベルまで来ていると判断される」と
の考えを明らかにした。(中略)北朝鮮の核兵器使用が切迫して
いると判断される2段階では、精密攻撃が可能な誘導ミサイルな
どで北朝鮮の核戦力を先制攻撃し、米国の核戦力で北朝鮮の核戦
力を攻撃するための準備に入る。また米国は核戦力の準備態勢強
化を発表する。北朝鮮が核兵器を使用する3段階では韓米両国が
断固たる対応措置を取ることになる。  http://bit.ly/2cG6EbZ
─────────────────────────────
 聯合ニュースが伝えている第2段階「切迫」への対応は、「精
密攻撃が可能な誘導ミサイルなどで北朝鮮の核戦力を先制攻撃」
になっています。実際に米韓両国は、北朝鮮を先制攻撃をすると
いっているのです。これは容易ならざることです。
 そんなことを中国は許すのでしょうか。北朝鮮への経済制裁で
さえ骨抜きにする中国のことですから、先制攻撃を許すはずはな
いと考えられます。
 しかし、本稿を執筆している21日のテレビ朝日の『スクラン
ブル』で、国連総会出席中の中国の李活強首相とケリー米国務長
官とが北朝鮮制裁について話し合い、いくつかの条件付きで、必
要であれば、中国は米韓両軍の北朝鮮への先制攻撃を容認する姿
勢を見せているというのです。この場合、中国は北朝鮮という国
を崩壊させることには反対であり、あくまで金正恩朝鮮労働委員
長の斬首作戦には黙認するというスタンスです。
 もちろんこのような重要報道がテレビで伝えられるはずがない
ので、その真偽のほどはわかりませんが、『スクランブル』で、
そのような報道があったことは事実です。
 それでは条件とは何でしょうか。番組に出演していたコリアレ
ポート編集長の辺真一氏によると、条件とは次の2つではないか
と発言しています。
─────────────────────────────
    1.南シナ海での人工島に関わらないで欲しい
    2.韓国へのTHAAD配備は再考して欲しい
─────────────────────────────
 もし、辺真一氏の情報が本当であるとすると、両方とも米国と
しては絶対に飲めない条件です。しかし、米中の間には何らかの
合意があった可能性はあります。韓国の朴槿恵大統領は核実験後
に北朝鮮を次のように厳しく批判しています。いつものトーンと
はいささか違う強い表現です。
─────────────────────────────
 金正恩の精神状態は統制不能とみなければいけない。北がわれ
われの領土に核ミサイルを一発でも発射するなら、その瞬間に北
の政権を終わりにする。          ──朴槿恵大統領
─────────────────────────────
 朴大統領のこの発言で注目すべきは「その瞬間に北の政権を終
わりにする」という強い表現です。要するに「金正恩委員長の斬
首作戦を実施する」というように読むことができます。
 これらの情報は、当然北朝鮮にも伝わっていると思うので、朝
鮮労働党創立記念日の10月10日に北朝鮮がどう出るのかに注
目が集まります。米韓両軍が10日から15日、北朝鮮の鼻先の
黄海などで米韓合同海上訓練を実施するからです。訓練は有事の
北朝鮮主要施設への攻撃を想定しており、米海軍の原子力空母の
ロナルド・レーガンが参加します。まさに一触即発であり、いつ
何が起きても不思議ではない状況といえます。
            ──[孤立主義化する米国/051]


≪画像および関連情報≫
 ●北朝鮮核実験 暴走する脅威に冷静対処せよ
  ───────────────────────────
   北朝鮮の核ミサイルの脅威が確実に増した。国際社会は結
  束し、金正恩政権の暴走を食い止めねばならない。北朝鮮が
  建国記念日に当たる9日、5回目の核実験を実施した。国営
  メディアは、「核弾頭の威力判定のための核爆発実験を断行
  した」と伝えた。
   1月の核実験からわずか8か月である。同じ年に2回の実
  験を行ったのは初めてだ。金政権は一段と予測不能となり、
  更なる危険水域に入ったと言えよう。度重なる国連安全保障
  理事会の決議は、北朝鮮の核実験を明確に禁じている。日米
  中や東南アジア諸国連合が参加する東アジア首脳会議も8日
  北朝鮮の核実験や弾道ミサイルに対して「深刻な懸念」を表
  明したばかりだ。
   実験強行は、北朝鮮に核放棄を求める国際社会への露骨な
  挑戦であり、断じて容認できない。安倍首相が声明で「我が
  国に対する重大な脅威であり、地域の平和と安全を損なう」
  と厳しく非難したのは、当然である。
   今回の実験は、観測された地震のエネルギーから、過去最
  大規 模だったと推定される。看過できないのは、北朝鮮が
  「戦略弾道ミサイルに装着できるように規格化された核弾頭
  の性能」を実験した、と吹聴したことだ。あえて「核弾頭」
  に言及することで、より実戦的な段階にあるとアピールした
  いのだろう。           http://bit.ly/2cPkD03
  ───────────────────────────

金正恩朝鮮労働党委員長.jpg
金正恩朝鮮労働党委員長
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2016年09月26日

●「労働党創立記念日テポドン2発射」(EJ第4367号)

 本日26日、はじめて民主党のクリントン候補と共和党のトラ
ンプ候補が直接対決するテレビ討論会があります。第1回のテー
マは次の3つ。30分ずつ論争が行われます。
─────────────────────────────
          1.米国の先行き
          2. 繁栄の達成
          3. 米国の安全
─────────────────────────────
 各種世論調査をまとめた政治サイトである「リアル・クリア・
ポリティクス」(RCP)によると、現時点でクリントン氏とト
ランプ氏の支持率は、クリントン氏が2ポイント、トランプ氏を
上回っている状況です。8月時点でのクリントン氏の8ポイント
差が2ポイント差に縮まっています。
 ロイター通信によると、現在のクリントン氏の勝つ確率は60
%、1週間前の83%から大幅に後退しています。したがって、
26日のテレビ討論でどちらが勝つか注目されるのです。
 今回の北朝鮮による5回目の核実験の成功は、明らかにクリン
トン氏にとって逆風です。オバマ政権の口先だけの牽制が結果的
に北朝鮮に時間の猶予と核・ミサイル開発を許し、現実の危機を
広げているからです。トランプ氏は北朝鮮の核実験について講演
で次のように述べています。
─────────────────────────────
 北朝鮮の核実験はクリントン氏が国務長官になって以降、4回
目だ。核実験を阻止できないのは、国務長官として失敗した一例
である。             ──ドナルド・トランプ氏
           2016年9月23日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 ところで、北朝鮮の核戦略能力はどの程度のレベルなのかにつ
いては、さまざまな意見があります。レベルは着実に上がってき
ていますが、「核弾頭の小型化」については懐疑的であるという
意見も少なくないのは事実です。また、潜水艦からのミサイル発
射についても合成動画ではないかという意見もあるのです。しか
し、北朝鮮は何回も成功させており、合成動画とは思えません。
 ここで北朝鮮による核脅威を考えるとき、ミサイルに搭載され
る燃料について、基本的な知識を持つ必要があります。ミサイル
の燃料には次の2つがあります。
─────────────────────────────
           1.液体燃料
           2.個体燃料
─────────────────────────────
 長距離の射程を有する弾道ミサイルには、液体燃料が使われま
す。液体燃料は燃焼効率が良いので、ミサイルを遠くまで飛ばす
ことができるからです。それに加えて、液体燃料は車のエンジン
のように推進制御装置と合わせて軌道の微調整を行うことが可能
なので、正確にターゲットに命中させることができます。
 しかし、デメリットもあります。それは、液体燃料をミサイル
のタンク内に長期間保管することができないことです。タンクが
腐食して燃料漏れを起こしやすくなるからです。そのため、ミサ
イルには発射直前に燃料を注入する必要があります。このような
発射準備の兆候は、衛星などの情報網に察知され易く、相手から
発射前に攻撃を受ける恐れがあります。
 これに対して、潜水艦や車両などから発射されるミサイルは、
小型であり、取扱いが簡単であることから、固体燃料が使われま
す。固体燃料は、液体燃料と比べて、化学的に安定した状態でミ
サイルに搭載することができるので、事前に積み込んでおくこと
ができます。
 固体燃料を使うミサイルは、発射する側からは、衛星に探知さ
れることなく、必要なときにいつでも発射することができます。
それは発射される側にとっては、大きな脅威なります。とくに潜
水艦に搭載されてしまうと、発見するのは困難です。
 重要なことは、北朝鮮は車両からも、潜水艦からもミサイルを
発射し、映像を公開しています。素直に考えると、北朝鮮はその
ための技術を有し、使いこなしていることは確かです。それに加
えて今回の5回目の核実験です。しかも北朝鮮は「核弾頭の実験
である」といっているのです。これによって北朝鮮の脅威は、一
段と高まったことは確かです。
 朝鮮労働党創立記念日の10月10日に北朝鮮が何をするかが
注目されています。推測ですが、実施するのは第6回目の核実験
ではなく、テポドン2を人工衛星と称して打ち上げるのではない
かと考えられます。もしこれをやるとすると、北朝鮮は2016
年2月に続く今年2回目の打ち上げになります。これは「地球観
測衛星光明星4号」と称していますが、射程1万キロメートルを
超える弾道ミサイルであり、テポドン2と呼ばれています。この
光明星と称する飛翔体は沖縄県上空を通過して、飛翔体の一部が
宇宙空間で軌道に乗ったとされています。
 北朝鮮は、既に旧式のミサイルでも、グアムや沖縄の米軍基地
の射程内にあります。それに加えて、射程1万キロメートルのテ
ポドン2が成功すると、ハワイにある米軍基地も核攻撃の対象に
なります。それだけに、北朝鮮は10月10日にテポドン2の打
ち上げを成功させて、大統領の代わる米国に核保有国として認め
させることを考えていると思われます。
 振り返ってみると、2016年1月に4回目の核実験を実施し
それをオバマ大統領が一般教書で何も言及しなかったことを見て
とると、2月には「光明星4号」(テポドン2)を打ち上げ、さ
らに続いて9月9日に第5回目で、今年2回目になる核弾頭の核
実験を実施し、成功させています。
 それに加えてもっと深刻な情報があります。それは、北朝鮮の
核技術が一般に認識されているのとは違い、相当進んでいるとい
うという情報です。明日のEJで詳しくお伝えします。
            ──[孤立主義化する米国/052]

≪画像および関連情報≫
 ●北朝鮮の核ミサイルは本当に恐れるに足りるか?
  ───────────────────────────
   北朝鮮がミサイルや核技術の分野で大きな進歩を遂げたの
  は事実だが、すべての問題が克服されたわけではない。ロシ
  アの軍事専門家ウラジーミル・エフセーエフ氏はそう語る。
   「ある情報によると、北朝鮮の第三の核実験では、核弾頭
  に使用可能な、相当小型の核爆弾が用いられた。今年2月の
  初めに重量200キログラムの衛星が打ち上げられたことも
  北朝鮮の技術が進歩していることの証だ。『北朝鮮は熱核兵
  器の開発に取り組んでいる』との情報もある。しかし、こう
  した開発には、非常に多額の資金が必要だ。ゆえに、おそら
  く、今後数年間でこうした兵器が完成されることはない。し
  かし、北朝鮮は、核爆弾をブースト、つまり、強化すること
  は出来るだろう。核爆弾の威力が20キロトン程度にまで高
  められる可能性はある。ただ、目下、北朝鮮は、緻密な大気
  の層を通る際に弾頭を保護するための耐熱コーティング技術
  に集中している。このようなコーティングがなければ、ミサ
  イル本体の燃焼と損失は不可避である。この問題が解決され
  たら、次のステップは弾頭の飛行試験を行い、遠隔測定デー
  タを集めることである。それなくして、弾道ミサイルを用い
  て核弾頭を正確にターゲットに届けることは出来ない。こう
  したテストがすべて完了してはじめて、『北朝鮮は戦略的抑
  止力を手にした』と言える。韓国や日本は強力なミサイル防
  衛システムを持っている。自由落下型核兵器を持っていても
  それで有効な攻撃ができるとは限らないのだ」。
                   http://bit.ly/2cLxnDQ
  ───────────────────────────

地球観測衛星光明星4号.jpg
地球観測衛星光明星4号
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2016年09月27日

●「テポドン2改はミサイルではない」(EJ第4368号)

 拉致問題があるので当然ですが、日本人は北朝鮮という国に対
して好意を持っていません。そのせいか「北朝鮮は経済が深刻で
そのうち崩壊するだろう」という希望的な予測をしている向きも
少なくありません。
 そして北朝鮮のミサイル・核技術についても、「たいしたこと
はない。核の小型化などはまだできていないだろう」と、北朝鮮
の核技術を低く見て、きわめて楽観的な観測をしている人はたく
さんいます。
 これらは、いずれも正しくないのです。そのうち崩壊するだろ
うと予測している北朝鮮の経済は一向に崩壊しそうにないし、少
なくとも平壌では、以前に比べると比較にならないほど、生活水
準は向上しているようにみえます。北朝鮮の経済は中国との一体
化が進み、国内では人民元が流通しているといわれます。
 北朝鮮のミサイルや核技術は実は高度に発達しているのです。
もちろん核の小型化も進んでおり、核ミサイルを発射する能力は
十分あるといえます。実は米国は早くからそれらの情報を正確に
掴んでいるのですが、その報道はきわめて控え目です。したがっ
て、本当のことは日本のメディアは気づかないでいます。
 北朝鮮の核ミサイル技術のレベルを知るには、ロケットや核兵
器について正確な知識が必要です。昨日のEJでテポドン2を取
り上げ、射程1万キロメートルのテポドン2が成功すると、ハワ
イにある米軍基地も核攻撃の対象になると書きました。
 このこと自体は正しいのですが、テポドン2は液体燃料を使う
ので、高さ67メートルの塔を2週間以上かけて、衆人環視のな
かで組み立て、2016年2月4日に液体燃料の注入を開始し、
3日後の7日に発射しています。そんなことをしていたら、塔を
組み立てる段階で敵の航空攻撃で破壊されてしまいます。
 そんなことは北朝鮮は百も承知です。だからこそ北朝鮮は「人
工衛星の打ち上げである」といっているのです。ところが日本で
はそのように受け止めず、あくまで弾道ミサイルの飛翔実験であ
ると考えています。
 これについて、軍事ジャーナリストの田岡俊次氏が「ダイヤモ
ンド・オンライン」で解説しているので、以下、田岡氏の主張を
要約して述べます。田岡氏の主張の結論は次の通りです。
─────────────────────────────
 北朝鮮が発射したテポドン2はその改良型であるが、ミサイ
 ルではない。    ──軍事ジャーナリスト/田岡俊次氏
─────────────────────────────
 北朝鮮は、2016年2月7日、午前9時30分、北朝鮮黄海
岸、東倉里(トンチャンリ)付近の「西海衛星発射場」から、テ
ポドン2改良型のロケットを発射し、地球観測用の人工衛星「光
明星4号」の打ち上げに成功したと発表しています。
 ところが、日本のメディアは、次の表現を使って、このことを
伝えています。
─────────────────────────────
     衛星打ち上げと称する長距離ミサイル発射
─────────────────────────────
 田岡氏は、これは文字通りテポドン2改良型というロケットに
よる衛星の打ち上げ実験であって、ミサイルの発射ではないと主
張しています。実際に、地球周回軌道に2つの物体が乗っている
のです。そうであるとすると、日本のメディアの論法でいうと、
「衛星打ち上げと称する長距離ミサイル発射で人工衛星打ち上げ
に成功」という複雑な表現になってしまいます。田岡俊次氏はこ
の表現について次のように反論しています。
─────────────────────────────
 「弾道ミサイルと衛星打ち上げロケットは技術的には同一」と
の報道もよくあるが、これは、「旅客機と爆撃機は基本的には同
一」と言うレベルの話だ。ICBM(大陸間弾道ミサイル)が登
場して60年近くの間にロケット、ミサイル技術が進歩し、分化
が進んだ今日では「即時発射」を必要とする軍用のミサイルと、
準備に時間が掛かっても大推力で大型の衛星を上げたい衛星用ロ
ケットでは大きなちがいがある。    http://bit.ly/2dsRvNb
─────────────────────────────
 つまり、現在のミサイルの技術は、どこまで飛翔するかではな
く、いかに相手に悟られずに即時発射できるかどうかが問題なの
です。つまり、燃料の問題に移っているのです。燃料をタンクに
填めたまま待機でき、即時発射が可能な「貯蔵可能液体燃料」の
開発やさらに維持が容易でキーを回せば発射できる「固体燃料」
の長距離ロケットの開発の問題なのです。
 もっとも、北朝鮮の場合は、人工衛星打ち上げ用のロケットで
あっても、核実験と交互にやるなど、あくまで核ミサイルの発射
実験とみられ、「弾道ミサイル技術を使用したいかなる発射、核
実験をこれ以上実施してはならない」とする国連安保理決議20
87などの何回もの決議に違反することになるので、非難されて
しかるべきですが、北朝鮮がきちんと国際的な手続きを踏んでい
れば本来は問題はないのです。
 日本のマスコミは、北朝鮮を非難しようとして、人工衛星用ロ
ケットをあえて「ミサイル」と強調していますが、それは正しく
はないと田岡氏はいっているのです。核弾頭を運ぶ弾道ミサイル
には次の2つの大きなカベがあります。
─────────────────────────────
     1.固体燃料による3段ロケットの開発
     2.再突入時に弾頭を熱から守る耐熱性
─────────────────────────────
 これら2つのうち、北朝鮮は「1」についての研究は相当進ん
でいるとみられています。「2」についても最近はほぼ垂直に向
けてロケットを発射する実験を繰り返しており、2つのカベの克
服は着実に進んでいると見られます。北朝鮮のミサイルと核技術
は、われわれが想像以上に進んでいるのです。
            ──[孤立主義化する米国/053]

≪画像および関連情報≫
 ●中国とロシアが北朝鮮にミサイル技術供与している
  ───────────────────────────
   ロシアと中国は、表向き北朝鮮の核とミサイル開発を非難
  しているが、その実、開発技術を供与している。旧ソ連つま
  りロシアの技術者が北朝鮮にスカウトされ、最初のミサイル
  開発が始まったのは分かっている。
   スカッドミサイルや初期のノドンがこれにあたり、中東で
  イラクがイスラエルに使用したのと同じタイプです。その後
  「テポドン」という大型弾道ミサイルが開発されて、大陸間
  弾道弾や人工衛星打ち上げに使用されている。この技術もや
  はり旧ソ連のロケット技術者をスカウトして開発させたと見
  られている。いずれも共産体制が崩壊して軍縮が進み、失業
  した技術者を北朝鮮が雇ったので、ロシアは積極的には協力
  しなかった。
   だが最近、北朝鮮のロケット技術が急速に進歩し、とうて
  い自国だけの独自開発では不可能と思われている。2016
  年6月以降だけで移動式の中距離弾道ミサイル「ムスダン」
  水中発射可能な潜水艦搭載ミサイル、さらに精密誘導された
  新型「ノドン」の発射に成功している。特に奇妙なのが水中
  から発射された潜水艦ミサイルで、北朝鮮は潜水艦を一隻も
  持っていないのに、発射に成功している。
   1990年代から2000年代にかけて、北朝鮮は旧ソ連
  のスクラップ潜水艦を数十隻購入したのが分かっている。動
  作せず潜水もできないものだったが、このスクラップを解体
  して1隻のまともな潜水艦を完成させたという説がある。
                   http://bit.ly/2cWraIJ
  ───────────────────────────

田岡俊次氏.jpg
田岡 俊次氏
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2016年09月28日

●「北朝鮮は核小型化に成功している」(EJ第4369号)

 さらに北朝鮮の核技術のレベルを検証していきます。これまで
の5回の核実験の「地震規模」と「爆発規模」についてのデータ
を以下に示します。
─────────────────────────────
  ≪北朝鮮の核実験≫
   ◎金正日          地震規模   爆発規模
    第1回:2006年10月  3・9      1
    第2回:2009年05月  4・5    3〜4
   ◎金正恩
    第3回:2013年02月  4・9    6〜7
    第4回:2016年01月  4・8      6
    第5回:2016年09月  5・0  10〜12
    註:地震規模/マグニチュード 爆発規模/キロトン
─────────────────────────────
 今年の9月9日に北朝鮮によって実施された核実験の爆発規模
については、ソースによって数値が異なります。韓国国防省によ
ると、その威力は「10キロトン程度」であるとしているのに対
し、元米国家安全保障会議アジア上級部長のマイケル・グリーン
氏によると、「その威力は20キロトンに及ぶ」と述べているの
です。数字が大きく異なります。
 しかし、他の情報を総合すると、「10〜12キロトン」が妥
当な数値であり、今回の爆発規模は相当大きなものであったこと
がわかります。ちなみに、広島型の威力は13キロトン、長崎型
は23キロトンです。この爆発規模を得るには、ウラン13キロ
グラム、プルトニウム4キログラム以上が必要といわれます。
 軍事ジャーナリスト田岡俊次氏の「北朝鮮の核は実戦配備レベ
ル/有効な対抗手段はあるか」という「ダイヤモンド・オンライ
ン」上のレポートには興味ある事実が述べられています。
─────────────────────────────
 北朝鮮は2006年10月9日の第1回核実験の前に中国に対
し、「威力4キロトンで実験する」と通知していた。これは核物
質全体に連鎖反応が及ぶ前に一部を吹き飛ばし、威力を小さくす
る「威力制御」の技術をすでに持っていたことを物語る。ただ初
回だけに制御が効きすぎたのか、威力は1キロトン以下だったよ
うだ。北朝鮮はその後3回の核実験でも制御を効かして、4キロ
トンないし6キロトン程度(米、韓国の推定)の威力で行ってき
た。だが今回は10キロトンないし20キロトンの威力であった
ことは、核兵器開発の実験用に威力を抑えた核爆発ではなく、威
力制御をしない実戦用の核弾頭を試験したと考えられる。
                   http://bit.ly/2cMUM62
─────────────────────────────
 驚くべきことですが、北朝鮮は第1回の核実験のときから、核
物質の連鎖反応をセーブする「威力制御」という高等技術を使い
爆発規模をコントロールしていたのです。
 北朝鮮は、今年1月の核実験は「水素爆弾」であるといい、世
界を驚かせています。しかし、6キロトンという爆発レベルから
推察すると、「ブースト型原爆」であるといわれています。これ
は核融合反応を一部利用した核爆弾で、原爆と水爆の中間レベル
の爆弾であるといわれています。
 問題は、これが何を意味するかということです。専門家による
と、ブースト型原爆の技術は、水爆開発に必要な技術でもあるこ
とであり、「北朝鮮の核開発は一段階先に進んだということがで
きる」ということです。
 さらに、ブースト型原爆は、核弾頭の小型化にもつながり、ミ
サイル技術の向上と合わせて、威力の高い長距離弾道ミサイルの
開発を可能とし、北東アジアだけでなく、米国にとっても大きな
脅威になることを意味しています。
 実は核実験が行われたとき、それを発表する主体が2016年
と、それ以前は異なるのです。
─────────────────────────────
     第1回〜第3回 ・・・・ 朝鮮中央通信
         第4回 ・・・・   政府声明
         第5回 ・・・・ 核兵器研究所
─────────────────────────────
 第1回〜第3回は朝鮮中央通信の発表です。第4回の「水爆」
は政府声明となっています。9月9日の第5回は核兵器研究所の
声明として出されており、「核弾頭の威力判定」と宣言し、次の
ようなコメントが付いています。
─────────────────────────────
 核弾頭の小型化・規格化によってわれわれは、いろいろな分裂
物質に対する生産とその利用技術を確固ととらえて小型化、軽量
化、多様化されたより打撃力の高い核弾頭を決心した通りに必要
なだけ生産できるようになり、われわれの核兵器はより高い水準
に確固と上がるようになった。        ──平井久志氏
           「北朝鮮・核搭載ミサイルの衝撃(上)
      米国も認めた現実の脅威」 http://bit.ly/2d0ZvSV
─────────────────────────────
 共同通信客員論説委員の平井久志氏は、以上の声明には次の2
つの重要ポイントがあるといいます。
─────────────────────────────
  1.核弾頭の小型化・軽量化・多様化に成功したこと
  2.弾道ロケットを装着できるように標準化・規格化
─────────────────────────────
 「1」は、核弾頭の小型化成功の声明です。射程1300キロ
のノドン・ミサイルが搭載可能な核弾頭の重量は約700キロ〜
1000キロといわれますが、それに成功したということです。
 「2」は、戦略弾道ロケットに装着できるよう核弾頭を標準化
・規格化したという声明です。規格化したということは、それを
量産化できるということを意味しています。
            ──[孤立主義化する米国/054]

≪画像および関連情報≫
 ●「核弾頭小型化は事実」 米、北朝鮮の主張認める
  ───────────────────────────
   【ワシントン=石川智規】米国防総省のデービス報道部長
  は九日、北朝鮮が核弾頭の小型化成功を主張していることに
  ついて「北朝鮮の訴えは事実だとみなす必要がある」と指摘
  した。米政府はこれまで、北朝鮮が核弾頭の小型化には成功
  していないとの見解を示していた。
   デービス氏は「われわれは実際に北朝鮮の小型化運用を確
  認したわけではない」としつつ「小型化は特に難しい技術で
  はない」と述べた。また、在韓米軍に配備する最新鋭地上配
  備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD=サー
  ド)」について「二〇一七年中の配備を予定している。緊急
  事態になれば速やかに配備できる」と強調。韓国や日本など
  同盟国への防衛体制を引き続き強化する考えを示した。
   一方米国務省のトルドー報道部長は同日の記者会見で「北
  朝鮮の核兵器保有は受け入れられない」と指摘。「不可解な
  体制が行う挑発行動に、国際社会が協調して圧力をかけ続け
  る努力が必要だ」と述べた。
  <核の小型化> 核兵器をミサイルに搭載する弾頭とするた
  めに必要な技術。爆撃機などで攻撃するよりもミサイルで撃
  ち込めば相手が防御態勢を取る時間が極めて短くなり迎撃も
  難しくなる。このため、現在は核弾頭をミサイルに搭載する
  のが一般的。初歩的な核弾頭の重量は500〜600キロが
  目安とされ、小型化、軽量化には高度な技術が求められる。
  米国や中国などは1960年代までに一定の小型化を実現し
  たとみられる。 (共同)     http://bit.ly/2dhmGLU
  ───────────────────────────

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核実験を決断した金正恩委員長
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2016年09月29日

●「北朝鮮の核技術は高度化している」(EJ第4370号)

 昨日のEJで、平井久志共同通信客員論説委員の北朝鮮の核技
術についての2つのコメントを紹介しましたが、それを再現し、
以下、平井氏のレポートに基づいて解説します。
─────────────────────────────
  1.核弾頭の小型化・軽量化・多様化に成功したこと
  2.弾道ロケットに装着できるように標準化・規格化
─────────────────────────────
 「1」について考えます。
 北朝鮮の第3回核実験というと、2013年2月12日に行わ
れていますが、金正恩氏がトップになってはじめての核実験とい
うことになります。このとき、北朝鮮は、次のようにコメントを
発表しています。
─────────────────────────────
 以前の核実験と違い、爆発力が大きく、なおかつ小型化、軽量
化された原子爆弾を使い、高い水準で完全かつ完璧に実施された
核実験である。    ──第3回核実験での北朝鮮のコメント
─────────────────────────────
 北朝鮮の発表には、眉につばをする人が多いですが、いま考え
ると、この発表は真実を伝えていたと考えられます。今年9月の
第5回の核実験では、上記の「原子爆弾」の部分が「核弾頭」に
変わっており、これまで5回核実験を重ねているところから、核
弾頭の小型化が実現できても不思議はないといえます。
 2016年3月9日に金正恩氏は、核兵器研究所の科学者や技
術者と会い、核の兵器化事業を視察していますが、そのとき次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 核弾頭を軽量化して弾道ロケットに合わせて標準化、規格化を
実現したが、これが本当の核抑止力である。   ──金正恩氏
─────────────────────────────
 この核の弾頭化と並行して、北朝鮮は今年に入って、ミサイル
の発射実験を何回も行っています。北朝鮮は米韓の合同軍事演習
の実施や、核実験をしたことによる国連の制裁決議などに合わせ
るかのように多くのミサイルを発射しています。それは抗議のた
め、反発の意思表示のための発射のように捉えられがちです。し
かし、それは違うのです。実験やミサイルの発射をそういうタイ
ミングに合わせて行っているのは確かですが、北朝鮮は、冷静に
計画的に必要な実験を積み重ねてきているのです。
 それは今年に入ってからのミサイルの発射実験に見られます。
「ムスダン」といわれる中距離弾道ミサイル(射程:2500〜
4000キロ)は、韓国では既に実戦配備されていると見られて
いましたが、今年の4月15日にはじめて発射されたのです。し
かし、このときは失敗したものの、6月22日の発射では成功さ
せています。
 同じ中距離弾道ミサイル「ノドン」(射程:1300キロ)も
8月3日に発射されています。これは秋田県沖の約250キロの
日本の排他的経済水域に落下していますが、飛距離は約1000
キロで、北朝鮮がこれまでミサイルとして発射したものでは、最
長距離だったのです。
 さらに北朝鮮は、9月5日に弾道ミサイル3発を発射して成功
させています。これは動画がテレビのニュース番組で紹介されて
いるので、多くの人が視聴しているはずです。しかもいずれも成
功させています。3発とも約1000キロ飛翔しているのです。
これらはノドンではなく、スカッドの改良型とみられています。
このように、日を追って精度が向上してきているのです。
 「2」について考えます。
 核兵器の標準化・規格化は、核弾頭の量産化を意味していると
平井久志氏は指摘しています。北朝鮮は、5000キロワットの
実験用原子炉を稼働させ、その使用済み核燃料を再処理して兵器
用のプルトニュウムを生産しているとみられます。
 ここでいう「5000キロワットの実験用原子炉」は、6ヶ国
協議の合意で稼働を止めていた原子炉ですが、2013年再稼働
させています。これについて北朝鮮は公式に認めています。
 ジョエル・ウィット米ジョンズ・ホプキンズ大客員研究員は、
北朝鮮は最悪の場合、2020年までに核兵器100個を製造す
る可能性があることを次のように指摘しています。
─────────────────────────────
 スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)
は北朝鮮の核兵器について昨年は6〜8個保有と推定していたが
今年6月の報告では最大10個に増加とした。また、米シンクタ
ンク、科学国際安全保障研究所(ISIS)も今年6月の報告書
で、北朝鮮は過去1年半の間に核兵器を4〜6個増やし、現在の
保有数は13〜21個に上ると推計している。
 米ジョンズ・ホプキンズ大客員研究員のジョエル・ウィット氏
は、昨年2月に、北朝鮮が最悪の場合、2020年までに核兵器
100個を製造できるとの分析を発表した。同氏はこの時点で北
朝鮮が保有する核兵器はプルトニウム型とウラン型を合わせて、
10〜16個と推定。5年後の保有数について、核開発にほとん
ど進展がない場合は20個、ある程度順調に進展した場合は50
個、予想以上に急速に進展した場合は100個と予測した。
                   http://bit.ly/2d0ZvSV
─────────────────────────────
 ここまで、平井久志氏のレポートをご紹介してきましたが、不
可解なのは、金正恩氏がトップについてから、北朝鮮の核技術が
なぜここまで急速に進化を遂げたのかです。
 国連安保理制裁決議による経済や原材料などの制約にもかかわ
らず、経済も比較的安定し、ミサイルの原材料にも不足はしてい
ないようです。つまり、制裁はまるで効いていないのです。これ
はどう考えても中国の支援がないと不可能なことです。経済だけ
でなく、核技術の支援も行っていることは明らかです。
            ──[孤立主義化する米国/055]

≪画像および関連情報≫
 ●金正恩氏の核戦略を侮るべからず/産経ニュース
  ───────────────────────────
   北朝鮮が5回目の核実験を強行した9日、韓国の朴槿恵大
  統領は「権力を維持するために、周辺国の忠告に耳を貸さぬ
  金正恩(朝鮮労働党委員長)の精神状態は制御不能とみなけ
  ればいけない」と、呼び捨てで激しく非難した。韓国紙・朝
  鮮日報(10日付)も社説で、北朝鮮を「ゴロツキ」と罵倒
  した。ところがわが国は「精神状態が制御不能なゴロツキ」
  の手口をきちんと学習していない。今次小欄は、北朝鮮の核
  ・ミサイルの脅威度を洗い、対する日本の安全保障態勢や国
  防認識がいかに追いついていないかを検証する。
   5回目の核実験で使われた爆弾の威力は、TNT火薬1万
  トンに相当する約10キロトンと言われる。広島に投下され
  たウラン型原爆《リトルボーイ》が15キロトンだから、威
  力のほどがわかる。
   広島市国民保護協議会の《核兵器攻撃被害想定専門部会報
  告書》によると、仮に広島市中心部で1キロトンの核兵器が
  地表1メートルの高さで爆発すると、死者1万人/負傷者5
  万人に達する。《広島市・長崎市原爆災害誌編集委員会》の
  調べでは、実際の広島型は爆風も凄まじく、半径2キロ以内
  の全木造家屋が倒壊・焼失、半径2〜4キロ圏内では全壊か
  半壊し、窓ガラスは16キロ先でも割れていた。
                   http://bit.ly/2dqrYRu
  ───────────────────────────

3発連続してミサイル発射(北朝鮮).jpg
3発連続してミサイル発射(北朝鮮)
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2016年09月30日

●「斬首作戦に対抗する7日戦争計画」(EJ第4371号)

 「5015作戦計画」というものがあります。「50」という
のは、朝鮮半島のことをあらわしています。これは、米韓両軍の
北朝鮮に対する軍事作戦計画のことです。
 2016年1月6日に北朝鮮が「水爆」と称する核実験を行っ
て以来、この軍事作戦計画の名前が、ネットや表のメディアに盛
んに登場するようになっています。当初はネットだけの情報でし
たが、最近では表のメディア──例えば週刊誌でも報道され、話
題になっています。
 一番新しい情報をひとつ上げると、9月29日発売の次の週刊
誌にも掲載されています。
─────────────────────────────
 米韓が密かに企てる──「金正恩暗殺計画」/内幕レポート
             ──『週刊文春』/10月6日号
─────────────────────────────
 5015──この作戦計画について述べる前に、次の2つの作
戦計画について、知っておく必要があります。
─────────────────────────────
      1.5027作戦計画/OPLAN5027
      2.5029作戦計画/OPLAN5029
─────────────────────────────
 「5027作戦計画」とは何でしょうか。
 5027は、北朝鮮の侵攻を想定した米韓両軍の防衛作戦計画
のことです。この計画は、朝鮮戦争後に策定され、その後何回か
改訂されています。
 それでは、「5029作戦計画」とは何でしょうか。
 5029は、北朝鮮において、クーデター、革命、大規模亡命
・大量脱北、大量破壊兵器流出など、体制を動揺させる急激な変
化が起きたときの米韓両軍の軍事計画です。
 つまり、5027も5029も、北朝鮮が主体になって動いた
ときや、北朝鮮にクーデターなどが発生したときの米韓両軍の対
応作戦ということになります。この時点では、米韓の方から北朝
鮮を攻撃するつもりはなく、北朝鮮の方から攻撃してきたり、北
朝鮮国内で何かが起きたときに、米韓両軍がどう対処するかとい
う作戦だったのです。
 しかし、「5015作戦計画」(OPLAN5012) は米韓両軍が先
手を打って北朝鮮に攻め込む作戦のことです。この作戦計画は、
2015年6月に署名されています。
 どうしてこのような作戦計画を立てたかというと、金正日体制
と違い、金正恩体制になってからは、国際社会からの強い制止に
もかかわらず、ミサイル発射や、核実験を次々と繰り返すように
なったからです。
 北朝鮮に対しては、これまでに何回も国連安保理制裁決議、各
国による経済制裁が課されていますが、誰も金生恩朝鮮労働党委
員長の暴走を止めることはできなくなっています。そこで、米国
では次のことを真剣に考えるようになったのです。
─────────────────────────────
 米国で議論になっていたのは、いかに、金生恩体制を崩壊させ
るか。ジョン・マケイン上院議員は「サージカル・ストライク」
(外科手術的な拠点攻撃)をして、トラブルの芽を摘むべきだと
主張しています。
     ──産経新聞ワシントン駐在客員特派員・古森義久氏
                『週刊文春』/10月6日号
─────────────────────────────
 サージカル・ストライクとは、具体的にいうと、「金正恩暗殺
計画」のことです。いわゆる「斬首作戦」です。既にこの作戦は
定例の米韓合同軍演習のなかで行われているようです。米韓合同
軍事演習は、2016年については、次のスケジュールで既に行
われています。
─────────────────────────────
  第1回米韓合同軍事演習/ 3月 7日〜 4月30日
  第2回米韓合同軍事演習/ 8月22日〜 9月02日
─────────────────────────────
 北朝鮮は、この「5015作戦計画」に基づく米韓合同軍事演
習に猛反発し、対抗するために「7日戦争作戦計画」なるものを
ちらつかせています。この知られざる戦争計画について、コリア
・レポート編集長の辺真一氏は、次のように明かしています。
─────────────────────────────
 「7日戦争作戦計画」に基づけば北朝鮮は序盤に気勢を制すた
め、初日にソウル、京畿道、義政府、水原に向け集中砲火し、核
ミサイルで韓国を圧倒し、ソウルを3日で制圧するとしている。
すでに軍総参謀部は米韓連合軍の上陸作戦が開始されたその日に
東部、中部、西部の第1次連合打撃部隊に「先制報復打撃作戦の
遂行に移行するよう」軍令を出している。
 ソウルはDMZ(非武装地帯)から50キロしか離れてない。
前方の砲兵部隊は発射命令を受けた時から30分の間、107ミ
リ、122ミリ、240ミリ放射砲と中長距離砲12万6千発と
「KN−01」や「KN−02」など地対地短距離ミサイル1千
発を雨あられと降り注ぐものとみられる。(中略)
 続いて、スカッドミサイル(B=300キロ、C=500キロ
D=700キロ)1千発で韓国の主要攻撃対象物を壊滅する作戦
だ。北朝鮮にはミサイル発射基地が25か所あり、3〜5分以内
に韓国内の標的に打撃を与えることができる。
                   http://bit.ly/2d99xFD
─────────────────────────────
 しかし、北朝鮮は確かに既に高度なミサイル技術を持ち、核兵
器の生産に成功しつつあるとはいえ、核の実戦配備まではできて
いないと米国は分析しています。しかし、そう遠くない日にそれ
はクリアされることは確実です。そうであるとすると、米韓両軍
にとって、残された時間はあまりないことになります。
            ──[孤立主義化する米国/056]

≪画像および関連情報≫
 ●米軍の作戦計画《5015》に基づく斬首作戦
  ───────────────────────────
  【野口裕之の軍事情勢】ビン・ラーディンやIS幹部を次々
  に仕留めた米軍特殊部隊が次に見据える「斬首作戦」のター
  ゲットとは・・・
   さぞ、やつれて、顔も青ざめているかと期待したら、大ハ
  ズレ。国内で毎年「ウン万人」規模の餓死者を出しているに
  もかかわらず、映像越しに観る北朝鮮の金正恩第1書記は肥
  え太り、顔は肉まんのように白かった。なぜ期待したのかは
  当然、3月7日に始まった米韓合同軍事演習が、32万人も
  の米韓将兵が参加する過去最大規模であること。
   しかも、北朝鮮の核・ミサイル基地に対する先制攻撃も視
  野に入れる米軍の作戦計画《5015》に基づいているため
  だ。何よりも、特殊作戦部隊や有人・無人機の精密誘導(ピ
  ンポイント)爆撃で、金氏ら首脳部を急襲し、排除する《斬
  首作戦》が作戦思想に貫かれている。
   しかし、期待はそれだけではない。金氏が3月25日に想
  像したであろう、自らの運命だ。この日、米国のアシュトン
  ・カーター国防長官は、米軍特殊作戦部隊が潜伏中の《イス
  ラム国=IS》のNO.2を殺害したと、発表したのだ。絵
  に描いたごとき、見事な斬首作戦といえる。金氏は他の無法
  者の、斬首作戦による惨めな最期も思い出しているかもしれ
  ぬ。例えば、《イスラム暴力集団を率いるテロリストのアブ
  ・ムサブ・ザルカウィ(1966〜2006年)。2006
  年、米空軍のF−16戦闘機に精密誘導爆撃され、特殊作戦
  部隊が身柄を確保した後死亡した》 http://bit.ly/2cDQ9yX
  ───────────────────────────

先制攻撃を仕掛けかねない金正恩委員長.jpg
先制攻撃を仕掛けかねない金正恩委員長
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2016年10月03日

●「5015作戦計画は実行できるか」(EJ第4372号)

 「5015作戦計画」の話を続けます。「コード50」は朝鮮
半島をあらわし、「コード15」は「排除」を意味します。排除
とは、具体的には強制的な排除、つまり、暗殺を含む排除を意味
しています。「核承認者の排除」という表現も使われています。
 これまで「コード15」は、ウサマ・ビン・ラディンやISの
ジハーディ・ジョン(聖戦士)に対し行われ、成功しています。
ジョンについては無人戦闘機が使われています。イラクのフセイ
ン大統領についても行われたのですが、これについては失敗し、
全面戦争になってしまったのです。
 このような国家による要人暗殺は、当然表に出ることはなく、
標的に知られぬように秘密裏に行われるのが普通です。しかし、
金正恩委員長について米国は、5015作戦の実施を公表してい
るのです。どのように公表されているかについて、9月27日発
行の「夕刊フジ」は、次のように報道しています。
─────────────────────────────
 驚かないでいただきたい。「中国が、米国の北朝鮮に対する先
制攻撃を認め、オバマ政権が作戦決行日のXデーの検討に入った
もようだ」という衝撃情報が浮上している。
 まず、中央日報(日本語版)は、20日、「中国が北朝鮮の核
施設を狙った米軍の軍事作戦を黙認する方針を決めた」と、中国
情勢に詳しい台湾有力誌の報道を引用するかたちで報じた。
 朝鮮日報(同)も24日、「北核実験・・米報道官が『先制軍
事行動』に言及」とのタイトルで、米ホワイトハウスのアーネス
ト報道官が22日(現地時間)のブリーフィングで、「一般論的
に、そして北朝鮮と特定することなく言いたい」と前置きしつつ
も、「作戦事案の一つである『先制軍事行動』は事前に論議しな
い」と語った、と答えた。 ──「米軍北先制軍事攻撃Xデー」
             9月27日発行/「夕刊フジ」より
─────────────────────────────
 9月2O日に開催された国連総会で演説した安倍首相は、時間
の大半を北朝鮮による核実験の非難に費やしています。そのとき
中国の李克強首相と米国のケリー国務長官が会談を行っているの
ですが、そのときからこの未確認情報が流出をはじめたのです。
おそらく米中で何らかの合意があったことは確かです。
 これに関連する動きがあります。それは、米司法省と財務省が
中国遼寧省丹東市の貿易会社「鴻祥実業発展有限公司」と4個人
を刑事訴追したことです。
 この会社は、北朝鮮の核兵器開発に関与し、国連安保理決議に
違反した疑いが持たれているのです。北朝鮮が8月に成功した潜
水艦発射ミサイル(SLBM)にも、中国の技術が流れたといわ
れています。中国はこのことを米国に指摘され、中国としては条
件付きで、米軍の軍事作戦を黙認せざるをえなくなったのではな
いかと思われます。
 これまでも北朝鮮が核実験やミサイル発射を行うたびに、国連
安保理決議で北朝鮮に対する制裁が何回も行われていますが、実
は「民生品はOK」という抜け穴があり、それを利用して中国は
国際社会から孤立した北朝鮮に多大な支援を行っているのです。
2012〜13年には、北朝鮮の貿易の4分の3以上を中国が占
めているのです。北朝鮮が中国からの支援を受け続ける限り、米
国による制裁は、たとえ同盟国の賛同があってもうまくいかない
公算が大きいのです。
 しかし、今回は米国から動かぬ証拠を突き付けられ、米国の北
朝鮮に対する5015軍事作戦を黙認せざるを得なくなったとみ
られます。
 これに呼応して韓国でも動きがあります。9月21日のことで
すが、韓国国会において、韓民求・国防部長官は5015作戦の
存在を認める発言をしています。
─────────────────────────────
 金正恩を除去するための特殊作戦部隊を運用する計画がある。
                  ──韓民求・国防部長官
─────────────────────────────
 このように、米韓両国ともに暗殺計画である5015作戦計画
を公開しているのです。これには次の2つの狙いがあります。
─────────────────────────────
  1.あえて北朝鮮に知らせて、暴発を思い止まらせる
  2.北朝鮮が先制攻撃をしてきても十分に対応できる
─────────────────────────────
 狙いの「1」は、あくまで北朝鮮の暴発を止めるための計画で
あり、北朝鮮が行動を改めれば、攻撃などはしたくないのです。
そのため事前に知らせて威嚇することによって、暴発させないよ
うにしようというわけです。
 狙いの「2」は、確かに北朝鮮は一連の核実験やミサイルの発
射を成功させていますが、米韓両国はまだそれを実戦配備できる
ところまでいっていないと判断しているのです。もちろん通常兵
器では反撃してくるでしょうが、核先制も核反撃もできないとみ
ています。しかし、もう少し北朝鮮に時間を与えると、核兵器の
実戦配備が進んでしまうでしょう。今がチャンスなのです。
 もし、5015作戦計画が実施されると、次のようなことが十
分起こりうるのです。
─────────────────────────────
 201X年某日深夜、ステルス型軍用ヘリコプター4機が北朝
鮮領空内に極秘で侵入した。数分後、平壌から××キロメーター
地点に15名で構成される韓国軍・特殊部隊メンバーが降り立っ
た。暗視スコープを装着し、アサルトライフルやサブマシンガン
で武装した一行は陸路、平壌を目指した。○韓×分、平壌市内の
主席宮近くの公邸を急襲、激しい銃撃戦が繰り広げられた。数十
分後に建物を制圧、寝室にいた最高指導者に銃口が向けられた。
            ────『週刊文春』/10月6日号
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/057]

≪画像および関連情報≫
 ●米軍も動き出した金正恩暗殺計画/2016年2月
  ───────────────────────────
   アメリカが金正恩の暗殺に動きだしたという情報が、飛び
  交っている。北朝鮮が開発を進めるミサイルがアメリカの心
  臓部である東海岸に届く可能性が高まり、アメリカも無視で
  きなくなってきたからだ。
   米軍はすでに第1空輸特戦団や第75レンジャー連隊所属
  の特殊戦兵士を韓国入りさせている。イラク戦やアフガニス
  タン攻撃に投入され、要人を暗殺する「斬首作戦」を実行し
  てきた特殊部隊だ。海軍特殊部隊のネイビーシールズもすで
  に韓国で訓練を始めている。軍事誌「PANZER」の和泉
  貴志編集長はこう言う。
  「北朝鮮が1月に強行した4度目の核実験以降の米国の一連
  の動きは、国連の制裁決議に従わなければ、ミサイル発射場
  の東倉里を攻撃するという警告でした。なのに、北朝鮮がそ
  れに耳を貸さず、発射を断行したことで、米国も本腰を入れ
  ざるを得なくなった。極秘潜入を得意とする米空軍の特殊部
  隊支援機MC―130Jの投入は、プレッシャーになってい
  るはずです」韓国国防省は、半島有事を想定した米韓合同軍
  事演習「キー・リゾルブ」を3月7日〜4月30日に実施す
  ると発表。過去最大規模になるという。
                   http://bit.ly/2dEQtem
  ───────────────────────────

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5015作戦計画
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2016年10月04日

●「北朝鮮先制攻撃への韓国の本気度」(EJ第4373号)

 「5015作戦計画」について韓国はどのように捉えているの
でしょうか。米国の北朝鮮への攻撃は、当然のことながら、韓国
の同意がなければできないからです。韓国の事情について考えて
みることにします。
 朴槿恵大統領は、金正恩委員長に対しては、相当怒りを持って
いることは確かです。どうしてかというと、朴氏が大統領になる
直前に金正恩委員長が彼にとってはじめての、北朝鮮にとっては
3回目の核実験をやったからです。明らかに朴槿恵大統領の就任
を牽制するための核実験と考えられます。
─────────────────────────────
  3回目の核実験を実施 ・・・ 2013年2月12日
  朴槿恵大統領の就任日 ・・・ 2013年2月25日
─────────────────────────────
 このとき朴大統領は、自分の任期中に北朝鮮問題を解決するこ
とを心に誓ったのだと思います。しかし、これまでのように、日
米韓の枠組みでは解決しないと考えて、親中政策を取ることにし
たのです。彼女は、北朝鮮問題の解決には中国の力が不可欠であ
ると考えていたからです。反日離米親中姿勢です。
 最初の何年かはよかったのです。中国に歩調を合わせて、安倍
首相との首脳会談を頑なに拒否し、執拗に慰安婦問題の解決を強
く日本に迫ったのです。中国の求めに応じ、AIIBへも進んで
参加し、副総裁の地位につこうとしたのです。
 そして、米国から強く求められていたTHAAD配備から逃げ
回り、2015年9月3日に朴大統領は、習近平主席、プーチン
大統領らとともに、中国・天安門の壇上にいたのです。米国の反
対を押し切り、抗日戦争70周年記念式典に出席したからです。
それほどまでして、北朝鮮問題解決のために米国から離れて、中
国に擦り寄ったのです。習主席とのホットラインも設置し、いつ
でも連絡がとれるようにしたのです。
 しかし、2016年1月6日、北朝鮮は4回目の核実験を強行
します。朴槿恵大統領は、ホットラインを使って習主席と連絡を
取ろうとしたのですが、肝心なときに、習主席とは連絡がとれな
かったのです。習主席は意図的に電話に出なかったからです。
 このとき韓国大手3紙は、2016年1月12日付で、一斉に
朴大統領の親中離米政策の批判を掲載したのです。以下に、最大
手の「朝鮮日報」の記事の要約を示します。
─────────────────────────────
・核実験の直後、中国と共同対応を取るため、韓国は国防相によ
 る電話会談を要請したが、1月11日になっても何の回答もな
 い。昨年末に開通し、決定的瞬間に効果を発揮するはずのホッ
 トラインが、いざ必要な時に無用の長物になっていたのだ。
・首脳同士の電話会談もまだ行われていない。中国の態度は、外
 交関係の常識に大きく反すると言わざるを得ない。
・昨年9月、朴大統領は欧米諸国から冷たい視線を浴びながらも
 中国で行われた抗日戦勝70周年記念式典に出席、韓中関係は
 大きく好転し、関係も深まるかと思われた。しかし今回、それ
 は完全に無に帰した。
・尹炳世(ユン・ビョンセ)外相は昨年7月、韓中関係は「史上
 最高」と語り「米国と中国の双方からラブコールを受けるのは
 祝福だ」とも発言した。ところが危機的状況に直面すると、韓
 中間には越えられない大きな壁があることが判明した。外交の
 責任者が自慢げに語った言葉が数ヶ月後には虚しい戯言になっ
 てしまった。
・朴槿恵政権が取り続けてきた中国重視政策の影響で、同盟国で
 ある米国からも韓国の中国傾斜を懸念する声が出始めている。
 北朝鮮による核実験という決定的瞬間に中国がその本心をさら
 け出した今、我々は対日外交に続き、対中戦略についても方針
 の見直しを迫られている。
・このままでは国としての誇りを持ち続けることも、国民に「政
 府は外交によって国益をもたらしている」という信頼を持たせ
 ることもできない。
・外交政策担当者の失敗によるものであるなら、今すぐ担当者を
 交代させ、新たな戦略と方針を定めねばならない。大統領の間
 違った指針が今の状況を招いたのなら、大統領自らすぐにでも
 国民に説明すべきだ。       http://nkbp.jp/2dkvxda
─────────────────────────────
 北朝鮮が本格的に核兵器の開発に取り組んだのは、朝鮮戦争終
戦後のことです。当初はソ連の支援を受け、寧辺に核施設を建設
し、開発を進めたがうまく行かず、ソ連も原子力の協力は、平和
利用に限定されるべきとの立場を崩さなかったのです。
 それでも核兵器の開発にこだわる北朝鮮は1964年に原子爆
弾を保有した中国に懇願し、核兵器開発の支援を要請したのです
が、断られてしまいます。しかし、それでも北朝鮮はあくまで核
兵器を持つことに執着し、国際原子力機構(IAEA)を脱退し
核兵器の独自開発を目指そうとしたのです。
 これに対して危機感を抱いたのは、当時の米国のクリントン大
統領です。彼は中国に続いて北朝鮮まで核保有国を増やしたくな
かったからです。そこで、北朝鮮の寧辺の核施設に先制攻撃をす
ることを韓国に提案したのです。ところが、当時の金泳三韓国大
統領はこれを拒否し、先制攻撃プランは中止されたのです。
 いま考えると、あのとき北朝鮮を攻撃し、金政権を倒しておけ
ば、北朝鮮による核危機で、世界中が振り回されることはなかっ
たといえます。そして、再びめぐってきた北朝鮮への先制攻撃プ
ランの5015作戦計画。今度は朴槿恵大統領はハラをくくって
いるので、いつ行われても不思議はない状況です。
 朴槿恵大統領の任期は来年の12月までであり、任期中に北朝
鮮を屈服させることに強い意欲を持っています。むしろ問題は退
任が迫っているオバマ大統領の方です。またしてもシリアへの攻
撃のように腰砕けになる可能性もあるからです。
            ──[孤立主義化する米国/058]

≪画像および関連情報≫
 ●金泳三元大統領、米国の北朝鮮爆撃計画阻止を後悔
  ───────────────────────────
  「私がビル・クリントン米大統領の(1994年)北朝鮮寧
  辺(ニョンビョン)核施設爆撃計画を阻止していなければ、
  今ごろ韓半島は非核化されていたはずだが・・・」。
   金泳三(キム・ヨンサム)元大統領が08年に当時のバー
  シュボウ駐韓米国大使に会い、このように打ち明けたという
  米国務省の外交公電が内務告発サイト「ウィキリークス」を
  通して公開された。
   94年の第1次北核危機当時、米国の北朝鮮爆撃計画を金
  前大統領が引き止めたことは知られているが、本人がこれを
  後悔しているということは初めて公開された事実だ。ウィキ
  リークスが公開した米外交公電25万1287件のうち、こ
  うした北朝鮮関連文書は数千件にのぼる。北朝鮮に関する些
  細な情報も逃さず収集する米国の執拗さが分かる。
   在韓米国大使館が09年2月10日に国務省に報告した公
  電は、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記に対する
  警護について記述している。金正日が特別列車で地方を巡回
  したり、中国・ロシアを訪問する際、列車が移動する線路に
  は50メートル間隔で私服を着た秘密要員が配置される。少
  しでも異常があれば線路に設置された非常ベルを響かせる。
  また列車移動経路の周辺の村には私服警察が多数投入され、
  徹底した検問が実施される。この公電は、金委員長の列車旅
  行の度に警護を担当した北朝鮮保衛部出身の幹部との面談に
  基づいて作成された。       http://bit.ly/2df93uu
  ───────────────────────────

金泳三元韓国大統領.jpg
金泳三元韓国大統領
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2016年10月05日

●「脱北者を訓練して北に潜入させる」(EJ第4374号)

 「5015作戦計画」に対する韓国の朴政権の本気度について
さらに検証します。まず、朴槿恵大統領の金生恩朝鮮労働党委員
長に対する怒りのレベルをその公式発言から分析します。
─────────────────────────────
◎2016年02月16日/金生日総書記生誕日
  もう既存の方式と善意で北朝鮮の核開発意志を折ることは
 できない。核開発では生き残れず、むしろ体制崩壊を促すだ
 けだとということを金生恩政権に思い知らせる。
◎2016年09月09日/5回目の核実験実施
  金正恩の精神状態は制御不能である。さらに挑発するとき
 は即座に政権を終わらせる。
─────────────────────────────
 韓国の歴代政権では、北朝鮮の「体制崩壊」について口にする
ことはタブーとなっていたのですが、朴大統領はそれをはじめて
口にしています。
 朴大統領は、これまで北朝鮮を呼ぶときは、「金生恩政権」と
か、「金生恩委員長」のように何らかの称号をつけていましたが
5回目の核実験のときは「金生恩」と呼び捨てにし、「精神は制
御不能」と狂人扱いにしています。そして、さらにこれ以上の挑
発をするときは、「直ちに政権を終わらせる」という強い表現を
使っています。これは、朴大統領の怒りがいかにすさまじいかを
示しているといえます。
 「コリア・レポート」編集長の辺真一氏は、「週刊文春」で次
のように述べています。
─────────────────────────────
 朴槿恵大統領の任期は、来年12月の大統領選挙で事実上終わ
る。朴大統領は「北朝鮮を制裁と圧力で屈服させる」と明言して
いますが、彼らが自ら屈服する可能性は低い。では、任期中にど
う北朝鮮問題を解決するのか。
 韓国には延べ3万人と言われる脱北者がいます。勿論、元軍人
や元工作員もいる。彼らを再教育して、暗殺部隊として北朝鮮に
送り込む。そんな腹案を朴大統領が持っていたとしてもおかしく
はない。        ────『週刊文春』/10月6日号
─────────────────────────────
 「脱北者を北朝鮮に送り込む」という腹案を朴大統領が持って
いてもおかしくない──このように辺真一氏がいっているのには
理由があります。
 朴槿恵氏は、韓国の第5代〜第9代大統領である朴正煕氏の長
女として生まれています。彼女がフランスのグルノーブル大学に
在学中の1974年に母親が文世光事件で暗殺されたのです。
 朴槿恵氏は急遽フランスから帰国し、母の代わりに父親のファ
ーストレディを務めていたのですが、その父親も1979年に暗
殺されてしまうのです。朴槿恵氏は、父母ともに暗殺されるとい
う大変な悲劇に直面し、政治の道を選ぶことになります。
 その朴正煕大統領時代の1968年、北朝鮮特殊部隊によって
大統領府(青瓦台)が狙われ、朴正煕大統領が暗殺されかかる事
件があったのです。朴正煕大統領はその報復として、軍の特殊犯
(死刑囚)31人を孤島の実尾島(シルミド)に集め、厳しい訓
練を施し、北朝鮮に潜入させ、金日成首相を暗殺させようとした
ことがあるのです。辺真一氏は、朴槿恵大統領は父親のその作戦
を受け継ぎ、金正恩委員長の暗殺部隊を養成しているのではない
かといっているのです。
 この話は、2003年に『シルミド(実尾島)』という映画で
公開されています。その簡単な解説は次の通りです。このビデオ
はレンタルショップでも入手可能です。
─────────────────────────────
 死刑囚31人がシルミ島に集められ、金日成を暗殺するために
“殺人マシーン”へと仕立てあげられていく悲劇を描いた実話の
映画化。韓国では1000万人を超える大ヒットとなった。監督
は『幸せは成績順じゃないでしょう』の韓国のヒットメイカー、
カン・ウソク。主演に『オアシス』などで演技派として評価の高
いソル・ギョング。脇を固める俳優陣も『リ・ベラメ』のホ・ジ
ュノや『黒水仙』のアン・ソンギらなど、韓国の大スターが名を
連ねる。クライマックスシーンの銃撃戦は息詰るほどのすさまじ
い迫力!               http://bit.ly/2dl7Dy6
─────────────────────────────
 辺真一氏によると、休戦協定の1953年から、南北対話が始
まった1972年までの間に、北朝鮮に送り込まれた工作員のう
ち、逮捕あるいは失踪した工作員は7726人いるがわかってい
ます。相当多くの工作員が北朝鮮に入っていますが、一度も成功
していないのです。
 また、韓国軍の武装も急ピッチで進められています。ある軍事
ジャーナリストは次のように述べています。
─────────────────────────────
 特殊部隊用の小銃などの火器、送信装備整備等のために300
億ウォン(約27億円)の予算が計上され、秘密裡に平壌に侵入
できるステルス空軍用ヘリ、輸送機などの配備も、検討されてい
る。さらに韓国空軍には長距離空対地ミサイル・タウルスを導入
することも決まっている。タウルスは、射程が500キロもあり
韓国南部の上空から平壌に向けて発射が可能です。その威力は、
厚さ6メートル以上の強化コンクリートを突き抜けて地下施設を
焦土化できるほど強力で、仮に金正恩委員長が平壌の地下施設に
潜んでいたとしても逃げ切ることはできないのです。
            ────『週刊文春』/10月6日号
─────────────────────────────
 このように韓国はどうやら本気です。このことは当然金正恩委
員長に伝わっています。それでは、Xデーはいつが考えられるで
しょうか。10月10日の朝鮮労働党記念日、この日が一番可能
性があります。もしこの日に北朝鮮が第6回目の核実験をやれば
確実にXデーになります。──[孤立主義化する米国/059]

≪画像および関連情報≫
 ●国に裏切られ抹消された部隊/実尾島事件
  ───────────────────────────
   こんにちは、まめ柴です。みなさんいきなりですが、お国
  に指示され、そのお国の為頑張ってたのに裏切られたらどう
  思います?まぁ、日本は、そんな国じゃないと信じたいです
  が・・・。
   実尾島事件(シルミド事件)、1971年朴正煕(パク・
  チョンヒ)今の韓国の大統領、パク・クネのお父さんが大統
  領だった時代、に秘密裏に『684部隊というのが作られま
  した。その部隊が作られる発端になったのが、『青瓦台襲撃
  事件』です。この青瓦台とは韓国の大統領府です。韓国の大
  統領の家みたいなものかな?これは北朝鮮が派遣した軍隊、
  31名によって韓国を襲撃しようとした事件です。結局、失
  敗におわったのですが・・・。
   このうち一人の工作員を捕まえ尋問すると、目的は偉大な
  大韓民国大統領の暗殺とわかり、朴正煕(パク・チョンヒ)
  はブチ切れます。朴正煕は、その報復措置をとることにしま
  す。その報復措置とは、こちらも秘密部隊を作り北朝鮮に送
  り込み、金日成を退治しなさい!とのことでした。そこで秘
  密裏に作られた部隊が『684部隊』なのです。この部隊も
  北朝鮮に対抗したのか同じ31名で形成し、実尾島でとても
  過酷な訓練をさせられるのです。(ちなみにこの過酷すぎる
  訓練ですでに7名も死んでいます) http://bit.ly/2dt7TN2
  ───────────────────────────

映画「シルミド」.jpg
映画「シルミド」
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2016年10月06日

●「オバマは5015を決断できるか」(EJ第4375号)

 5015作戦が実行されると、米軍はどのように行動するので
しょうか。
 それは何度も米韓合同軍事演習で繰り返し行われていることで
すが、まず、原子力空母と原子力潜水艦で、北朝鮮の周辺海域を
海上封鎖します。そのうえで、米軍の最新鋭のステルス戦闘機で
あるF22や、戦闘爆撃機のB1、B2などにより、北朝鮮のミ
サイル発射場、地下秘密基地、核実験場など約700ヶ所を徹底
的に破壊することになります。
 実は北朝鮮のどこを攻撃すべきかの情報は、米国がこれまで諜
報活動を重ねてほとんど掴んでいるといわれます。これと同時に
米海軍特殊部隊「ネイビーシールズ」などの最強特殊部隊が、既
に北朝鮮に潜入している韓国工作員と呼応し、金正恩氏ら北朝鮮
幹部を急襲し、確保・排除する──北朝鮮はほとんど何もできず
その圧倒的な軍事力の前に100%敗北すると思われます。
 Xデーは、朝鮮労働党創立記念日ではないかといわれています
が、米韓両軍のこれに対する備えは盤石です。10月3日〜21
日まで、米アラスカ州で核施設への攻撃を想定した空軍主体の合
同軍事演習を行う予定になっていますし、10月10日〜15日
は韓国西方の黄海などで、米原子力空母「ロナルド・レーガン」
も参加し、米韓合同軍事演習を行うことになっているからです。
この演習期間に北朝鮮が何らかの反撃を行うと、そのまま、50
15作戦の本番に移行することになります。
 さらにカーター米国防長官は、最近しきりに次の言葉を使って
いるそうです。
─────────────────────────────
     Fight Tonight !/ファイト・トゥナイト!
              ──カーター米国防長官
─────────────────────────────
 これは「今夜でも戦闘開始できる!」という意味であり、まさ
に米韓両軍は臨戦態勢に入っているのです。
 問題は、肝心のオバマ米大統領が本当に5015作戦の実行を
決断できるかどうかです。今まで何回もあったように、軍として
は作戦通りにコトを進めても、最後の土壇場で「GO!」を出せ
ない大統領に米軍幹部は苛立っています。
 しかし、核廃絶を唱えるオバマ大統領としては、米国を名指し
して北朝鮮に今年に入って2回も核実験を実施され、「なめられ
ている!」と激怒しているといわれます。レガシー(業績)を遺
したいオバマ大統領としては、暴走する北朝鮮に対して最後の仕
事として、5015作戦を実行したいと考えている可能性は十分
あると思います。
 ところが、オバマ大統領の評価は芳しくないのです。国際ジャ
ーナリストの落合信彦氏は「オバマは第2次世界大戦以来、最悪
の大統領である」と断じ、最新刊の著書で次のように、オバマ大
統領の無能さを痛烈に批判しています。
─────────────────────────────
 オバマの無能さはこれまで何度も見せつけられた。
 例えば、2012年、リビアのベンガジでクリストファー・ス
テイーヴンス大便を含む4人が暴徒(イスラム過激派)に殺され
た。一国の大便は、大統領の代わりとして着任している。しかも
スティーヴンスはオバマの親しい友人だった。(中略)
 本来ならオバマは、スティーヴンスを殺したリビアのイスラム
過激派を爆撃するか、海兵隊を送ってもよさそうなものだが、そ
れもやらなかった。かつてレーガンは西ドイツのディスコ「ラ・
ベル」でリビア人テロリストが仕掛けた爆弾によってアメリカ兵
が殺された時、軍に命じてリビアのトリポリやベンガジを爆撃さ
せた。カダフィは震え上がって、その後テロは起こさなかった。
たった一人のアメリカ兵が殺されても相手を爆撃するレーガンの
ようを大統領はしばらくはアメリカには出てこないだろう。
 オバマは何もせず、2隻の駆逐艦をリビア沖に送っただけ。駆
逐艦は何の活動もせず、ただ地中海に停泊していただけだった。
その後アメリカは、シリアが化学兵器を使って反体制派を攻撃し
たと判断し、オバマが地中海に駐留していた駆逐艦数隻をシリア
近くに進めるよう命令を出した。駆逐艦はミサイルの攻撃態勢に
入ったが、いざ発射という時、オバマが命じて止めてしまった。
       ──落合信彦著/『そして、アメリカは消える』
                         小学館刊
─────────────────────────────
 この攻撃停止が米国の威信を大きく傷つけたのです。ロシアは
完全に米国の足元を見て、以後アサド政権を助けるためにISだ
けでなく、反政府軍にも平然と空爆をはじめたのです。
 北朝鮮もロシアと同じような目でオバマ大統領を見ているはず
です。だからこそ第5回の核実験を行い、「核弾頭実験成功!」
と世界に喧伝したのです。北朝鮮は、「米国は核を持つ国に絶対
に戦闘を仕掛けない」と見ており、まして、任期があとわずかの
オバマ大統領がやるはずがないと考えています。
 現在、米国では史上最低の2人の候補者による大統領選が行わ
れています。どうしてこんなことになったのでしょうか。それは
オバマ大統領にも大きな責任があります。もっともそういうオバ
マ氏に8年間も米国を委ねた米国民にも責任はあります。現在の
米国について、落合信彦氏は次のように苦言を呈しています。
─────────────────────────────
 無能で口先だけのオバマ。それを当選させた無知な国民たち。
そして一般アメリカ人たちの引きこもり状態。これだけ条件が揃
えば、当然、国家は没落する。没落した国家を直すには3倍の年
月が必要であると、学生時代に政治科学の教授から聞いたことが
ある。オバマは8年かけてアメリカを壊してしまった。このまま
いけばアメリカは永遠の眠りについてしまうかもしれない。
                ──落合信彦著の前掲書より
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/060]

≪画像および関連情報≫
 ●朴槿恵は「北爆」を決意できるのか/鈴置高史氏
  ───────────────────────────
  ──9月9日、北朝鮮が5回目の核実験を実施しました。韓
  国はどうするのでしょうか。
  鈴置:核武装論に勢いが付きました。その偽装版ともいうべ
  き原子力潜水艦の保有論も広がっています。注目すべきは、
  北朝鮮への先制攻撃論が浮上したことです。戦術核の再配備
  を望む声が政界から上がりましたが、米国は応じてくれそう
  にない。韓国が自前の核を持とうにも、核弾頭も、第2撃能
  力――弾道ミサイルを発射できる潜水艦を造るにも時間がか
  かる。「目前の核」に対抗するには「先制攻撃しかない」と
  の思いです。
   核実験当日のハンギョレの記事「早期に帰国した朴大統領
  『金正恩の精神状態、制御不能』」(9月9日韓国語版)。
  小見出しを読むだけで「先制攻撃論」浮上の経緯がよく分か
  ります。それを引用します。
   ・4時間前倒しで帰国し、会議を招集
   ・オバマ、安倍と連続して電話
  ・「国内不純勢力」の徹底監視も注文
  ・政府は即刻、非常対策会議に突入
  ・「核武器の被害時には北指導部を直接、膺懲」
   ラオス訪問中だった朴槿恵(パク・クンヘ)大統領は北朝
   鮮の5回目の核実験に虚を付かれました。あわてて帰国し
  オバマ大統領だけではなく、日本の安倍晋三首相とも電話で
  話しました。          http://nkbp.jp/2d5v6BS
  ───────────────────────────

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5015作戦はいつでもはじめられる
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2016年10月07日

●「中国と北朝鮮の本当の関係を探る」(EJ第4376号)

 「唇亡歯寒」(くちびるほころびてはさむし)という中国の言
葉があります。互いに助け合うべき関係にあるものは一体であっ
て、一方がなくなってしまうともう一方も危くなることを例えた
言葉です。これは中国と北朝鮮の関係を指してもいえるのです。
 現在、北朝鮮の対中国貿易依存度は80%以上であり、北朝鮮
市場で中国製品が占める割合は90%を超えています。中国の電
話帳には北朝鮮の電話番号も載っているし、北朝鮮国内では人民
元が大量に流通しています。
 このように考えると、少なくとも経済に関しては、中国と北朝
鮮は一体であるといえます。このような状況では、国連で北朝鮮
にいくら制裁をかけても、中国としては、自国の国益上、北朝鮮
の息の根を止めることなどできないと考えられます。
 中国の立場に立って考えると、日本と米国との関係が悪化する
ような局面においては、北朝鮮という国はおろそかにできない存
在なのです。とくに政治・軍事面において北朝鮮は中国にとって
戦略的価値の高い国といえます。
 あくまで推測ではありますが、北朝鮮は事実上中国が完全に支
配しており、ミサイルの発射にしても、核実験にしても、中国の
意思を北朝鮮が担っているのではないかと考えられます。つまり
中国としては表立ってはできないことでも悪役の北朝鮮が代わっ
てやっているのではないかという疑いです。こういう構図であれ
ば、国連の制裁が効くはずがないのです。
 もし、中国と北朝鮮が国家として一体化していると仮定すると
当然ミサイル技術も、核技術も中国の技術供与が行われているも
のと思われます。それなら、北朝鮮の核・ミサイル技術が意外に
高度なのも納得ができます。とくに潜水艦からのミサイル発射技
術などは、北朝鮮が単独でマスターするのは困難です。
 おそらく現状はそこまでいっていないと思われますが、そうで
あっても、北朝鮮の命運が中国によって完全に握られている以上
いずれそれに近いかたちになることは容易に想像できます。
 もし、本当にそうなった場合、北朝鮮は中国に取って、戦略的
にきわめて使い勝手の良い国になる可能性があります。国際社会
としては、そうならないように、北朝鮮の暴走を止める有効な手
を打っていく必要があります。
 しかし、金正日総書記の時代から金正恩委員長の時代に代わっ
てからは、中国のコントロールがいささか効かなくなりつつある
のではないかと思われます。
 何しろ、父である金正日総書記の在任中は、16発のミサイル
発射実験と2回の核実験を実施しただけなのに対して、金正恩委
員長は、この4年間で既に、35発のミサイル発射実験と3回の
核実験を行っています。しかし、これらがすべて中国の容認の下
に行われたかについては疑問があります。
 しかも今年に入って行われた2回の核実験と3発のミサイルの
同時発射については中国は相当怒っているはずです。なぜなら、
9月5日の3発のミサイル発射は、中国がホストを務める杭州G
20サミットの開催中に行われていますし、9月9日の核実験は
大統領選が行われている米国に対して、「北朝鮮は既に核保有国
である」ことを誇示したものと思われます。
 とくにG20開催中のミサイルの発射は、中国のメンツを完全
に潰しており、許し難いものであったはずです。1月の第4回の
核実験、そして9月9日の核実験もその実施を直前に知らされて
いたとはいえ、中国は強い危機感を感じたといわれます。
 そういうわけで、9月20日開催の国連総会における中国の李
克強首相とケリー米国務長官との会談で、中国は米韓の5015
作戦実施を条件付きで受け入れたのでしょう。ここで条件という
のは、北朝鮮という国を潰し、韓国による併合をさせないという
ものであると思われます。中国としては、北朝鮮がなくなること
は絶対に反対だからです。
 そこで、予測不能で不都合な行動をとる金正恩委員長のクビは
取り、トップを代えて、北朝鮮自体は存続させるという考え方で
合意したのでしょう。それでは、金正恩委員長の後継者は誰なの
でしょうか。これについて、次のサイトでは、具体的な後継者に
ついて次のように予測しています。
─────────────────────────────
 あるいはこのまま米国に口実を与えないため、中国が先に動く
ことも選択肢の一つとして考えられる。
 「中国は亡命中の“金正男カード”を持っている。北朝鮮国内
で暗殺やクーデターが起きればいつでも正恩の首などすげ替えら
れるのです。そうすれば在韓米軍の緩衝地帯としての北朝鮮を温
存できます。
 しかし、正男の賞味期限は過ぎている。そこで担ぎ出されるの
が金漢率(キム・ハンソル)。正男の長男です。儒教文化圏では
長男が家督を継ぐことが当然という認識ですから、中国から見て
も最も正統的な後継者といえます。米国も漢率なら乗りやすい。
 '13年8月にパリ政治学院に進学しているし、'12年10月
にフィンランド国営放送が行ったインタビューでは、北朝鮮の福
祉の向上に寄与すること、人権改善のために努力し世界の平和を
構築したい、という抱負を明らかにしていますから、米国にとっ
ても“適任者”といえます。      http://bit.ly/2dWYzBO
─────────────────────────────
 中国としては、米韓両国による5015作戦によって、北朝鮮
の政権が終わるのは望ましくないはずです。そうであるならば、
中国が先に動いて、北朝鮮の政権交代を実施する方が、次の体制
を中国主導で構築できるので、そのように動く可能性はゼロでは
ないと思います。
 いずれにしても、北朝鮮の金正恩体制は、今後の動き方しだい
では、その命運は風前の灯になろうとしています。しかし、金正
恩委員長の方も、そういうことに対しては相当慎重になっている
はずです。簡単にクビを取られるわけにはいかないからです。
            ──[孤立主義化する米国/061]

≪画像および関連情報≫
 ●北朝鮮と世界大戦の危機/田中宇/2013年4月11日
  ───────────────────────────
   北朝鮮がミサイルを発射しそうな状況になっている。北朝
  鮮で最も尊敬されている国父の金日成(今の権力者である金
  正恩の祖父)の誕生日が4月15日で、北朝鮮の最大の年中
  行事である金日成生誕記念日(太陽節)の祭典の一環として
  歌舞音曲公演のたぐいと並び、国威発揚の意味を込めて、4
  月11日から15日ごろまでの間に、ミサイルが発射される
  と、日米などで予測されている。
   北朝鮮はこれまで毎年のように、太陽節やその他の国家的
  な節目の時期に、短距離や中距離、長距離のミサイルを発射
  してきた。北朝鮮政府は以前、発射するものを「ミサイル」
  でなく「人工衛星を打ち上げるロケット」と説明し、ロケッ
  トの先端に入れる人工衛星の実物を海外の記者たちに公開し
  て平和利用であることを強調した。昨年の打ち上げ後には、
  米国のNASAが北の打ち上げた人工衛星が衛星軌道に乗っ
  たことを認めた。だが北朝鮮政府は、昨年末に核実験を挙行
  し、核兵器保有国であることを宣言した後、打ち上げたもの
  が核弾頭を搭載可能なミサイルであり「米韓などが北を潰す
  と威嚇する限り、北朝鮮は、抑止力として核ミサイルを持つ
  権利がある」という説明に転換した。
                   http://bit.ly/2cOHBWk
  ───────────────────────────

ケリー米国務長官/李克強首相.jpg
ケリー米国務長官/李克強首相
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2016年10月11日

●「女性蔑視的発言でトランプ氏苦境」(EJ第4377号)

 米大統領選をめぐって大変なことが起きています。この原稿は
10月9日に執筆していますが、本日の夜、米国では、民主党大
統領候補ヒラリー・クリントン氏と共和党大統領候補ドナルド・
トランプ氏による第2回目のテレビ討論が行われます。日本時間
は10月10日の午前10時からとなります。したがって、この
原稿は第2回テレビ討論の結果を見ないで書いていることをお断
りしておきます。
 10月7日のことです。米ワシントンポスト紙がある動画を公
開したのです。その動画とはゴシップ番組「アクセス・ハリウッ
ド」が10年前に偶然収録したものです。同番組に出演していた
トランプ氏の待機中の会話をマイクが拾い、記録されたのです。
 問題はその内容です。それは、ドナルド・トランプ氏がいかに
女性を思い通りにできるかを淫らで攻撃的な言葉で自慢している
会話です。なお、このニュースに関しては在ニューヨークの東洋
経済特約記者であるピーター・エニス氏の記事(東洋経済オンラ
イン)をベースに書いています。
 その動画の会話は、あまりにも卑猥であり、文章でご紹介する
には差し支えがあるので、次の動画をご覧ください。(英文)
─────────────────────────────
    「アクセスハリウッド」の問題の動画/52秒
               http://bit.ly/2dZ7fVv
─────────────────────────────
 この動画の反響はすさまじいものだったのです。あっという間
に全米に広がり、テレビのニュースでは米南東部に大きな被害を
もたらしているハリケーン「マシュー」よりも、その扱いは大き
かったといいます。
 共和党本部は大混乱になったのです。これをめぐって、トラン
プ氏と共和党本部役員との電話会議は、8日の早朝まで延々と続
いたといわれます。
 これに関して共和党の関係者は、次々に次のような深刻なコメ
ントを出しています。
─────────────────────────────
◎CNBC政治コメンテーター/ジョン・ハーヴッド氏
  全国の共和党役員らは絶望している。トランプ氏が共和党大
 統領候補であることは変えられないため、共和党は負けるだろ
 う。上院下院ともに民主党員が多数になるかもしれないという
 現状を涙ながらに飲み込んでいる。
◎テッド・クルーズ氏のスポークスマン/リック・タイラー氏
  これでもうトランプ氏が当選することはないだろう。この国
 のリーダーとなる人物としては、トランプ氏はモラルに欠け過
 ぎている。
─────────────────────────────
 現在、下院議長を務めるポール・ライアン氏も、この報道を受
けて次のようにコメントしています。そして予定していたウィス
コンシン下院議員選挙区へのトランプ氏の同行を拒否し、副大統
領候補のマイク・ペンス氏が出席することになっています。
─────────────────────────────
  気分が悪くなる。この状況を深刻に受け止めることを望む
                 ──ポール・ライアン氏
─────────────────────────────
 トランプ氏を大統領候補から下ろすべきであるとの国民の声も
高まってきています。候補者を副大統領候補のマイク・ペンス氏
に差し替える案も出ていますが、今となって候補を差し替えるこ
とは法的に不可能になっています。そのマイク・ペンス氏でさえ
も今回の件については怒り心頭に発しているといいます。
 しかし、当のトランプ氏はこうした国民の怒りにまともに応え
ようとしていないのです。トランプ氏はこの10年前の発言に関
して次のコメントを出し、お詫びの動画を公開しています。しか
し、反省の姿勢は動画でも一向にみられないのです。
─────────────────────────────
 私の発言で怒らせてしまったかもしれない人たちに対して謝
 罪する。           ──ドナルド・トランプ氏
         「お詫び動画」/ http://bit.ly/2dOBa5l
─────────────────────────────
 トランプ氏は、謝罪はしているものの、一向にめげておらず、
この映像流出を「大統領選への注意をそらすもの」と呼び、クリ
ントン候補の夫ビル・クリントン元大統領の過去の不倫問題につ
いて「このことについては今後数日のうちにもっと語る。9日の
討論会で会おう」と述べ、米ミズーリ州セントルイスで行われる
2回目のテレビ討論会で取り上げることを示唆しています。
 この問題は、共和党にとってはきわめて深刻です。そもそもト
ランプ氏が大統領候補に選ばれること自体が問題なのです。その
深刻さについてピーター・エニス氏は次のように伝えています。
─────────────────────────────
 保守的で宗教心の強いユタ州では特にトランプ氏に反対する動
きが顕著だ。現在のユタ州の州知事であるゲーリー・ハーバート
氏はトランプ氏への支援を取り下げ、同様に影響力のあるマイク
・リー上院議員、ジェイソン・チェイフェッツ下院議員も後に続
いた。ユタ州だけに限らず、全国各地の共和党員が今、大混乱の
中にいる。特に11月の上院選挙での再選がかかっている共和党
の上院議員にとって重要だ。この中にはジョン・マケイン氏(2
008年共和党代表大統領候補)も含まれ、マケイン氏はトラン
プ氏の問題発言に対し、「許しがたいことだ」とコメントしてい
る。その中でも連邦議会で最も有力な共和党の女性議員とされる
ニューハンプシャー州から選出されたケリー・エイヨット上院議
員に対する影響はかなり大きく、再選挙に出馬することすらでき
なくなってしまう危険と現在隣り合わせであるという。
                   http://bit.ly/2dOHcCV
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/062]

≪画像および関連情報≫
 ●わいせつ会話、トランプ氏痛手/朝日新聞デジタル
  ───────────────────────────
   米大統領選は投開票日まで残り1ヶ月となった。ここに来
  て共和党候補トランプ氏(70)は、過去のわいせつな会話
  を暴露されて党内から支持撤回の動きが出るなど支持率を落
  としている。9日(日本時間10日午前)には、民主党候補
  のクリントン氏(68)との2回目のテレビ討論会がある。
  逆風の中、トランプ氏がどう巻き返すのかが注目される。
   米紙ワシントン・ポストが7日に報じたのは、トランプ氏
  が2005年、テレビ番組の収録に向かうバス内で、既婚女
  性と性的関係を持とうとしたことを説明する会話だ。胸に付
  けたマイクで録音したとみられる音声を、バス外からの映像
  とともに公開した。
   「スターになれば、何でもできる」「私は自動的に美しい
  ものに引きつけられ、キスを始めた。磁石のように。もはや
  待てなかった」などと下品な性的表現で自慢げに語った。ト
  ランプ氏は声明で「気分を害する人がいたら謝罪する」と釈
  明した。同氏はこれまでもミスコン優勝者を「ミス子豚」と
  侮蔑するなど、女性蔑視との批判を受けていた。
   共和党に影響力を持つライアン下院議長は同日、「発言に
  うんざりしている」と声明を出し、8日に予定していた初め
  てのトランプ氏の集会への参加を急きょ取りやめた。同党の
  チェイフェッツ下院議員もインタビューで「もはや道義的に
  大統領として承認できない」と支持撤回を表明。「致命傷」
  になりかねない状況に陥っている。 http://bit.ly/2e16DyM
  ───────────────────────────

トランプ氏の「お詫びビデオ」.jpg
トランプ氏の「お詫びビデオ」
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2016年10月12日

●「米国はなぜここまで劣化したのか」(EJ第4378号)

 日本時間の10月10日、第2回目のトランプ氏とクリントン
氏のテレビ討論会が、ミズーリ州セントルイスのワシントン大学
で行われました。終了直後のCNNの世論調査は次の結果であり
一応クリントン氏の勝利になっています。
─────────────────────────────
                  第2回  第1回
    ドナルド・トランプ ・・・ 34%  27%
   ヒラリー・クリントン ・・・ 57%  62%
─────────────────────────────
 トランプ氏にとって、これほどのスキャンダルが明らかになり
ながら、それでも34%の支持を得ているということは、なんと
か戦線に踏みとどまったといえる結果です。トランプ氏の支持率
は、第1回の27%よりも増えているからです。
 トランプ氏の女性蔑視発言について、テレビ朝日の「スクラン
ブル」(10日)で、外交ジャーナリストの手嶋龍一氏は次の趣
旨のコメントをしています。
─────────────────────────────
 米メディアのほとんどは、トランプ氏の大統領としての資質に
問題ありとして、クリントン氏支持を表明しています。そのため
トランプ氏のスキャンダルを収集しており、この女性蔑視発言の
情報も早くからワシントンポスト紙は握っていたと思います。
 もし、クリントン氏が圧倒的に優勢であれば、本当はこんな情
報は出したくなかったはずです。しかし、トランプ氏の支持率が
選挙の終盤にきてもかなり高く、大統領になる可能性があるので
いまこの時期にそれを出さざるを得なくなったところに、アメリ
カ合衆国という国の劣化を感じます。     ──手嶋龍一氏
   2016年10月10日テレビ朝日「スクランブル」より
─────────────────────────────
 米メディアは、別にクリントン氏に特別に肩入れしているので
はないと思います。予備選の結果、共和党も民主党も、大統領に
必ずしも相応しくない人物が候補に選ばれてきたといえます。し
かし一方の候補は、明らかに資質に欠ける候補なので、消去法と
して民主党のクリントン氏を支持せざるを得なくなったのです。
 そういう候補が選ばれるのは、既に米国という国が傷んでいる
証拠といえます。なぜなら、政治家を選ぶのは国民であり、資質
に欠ける候補が選ばれるのは国民に責任があります。なかでも共
和党はトランプ氏の女性蔑視発言で現在大混乱に陥っており、有
力議員は次々とトランプ氏には投票しないとまでいっています。
一体共和党はどうなってしまったのでしょうか。
 日本人は米国という国について、いろいろ知っているようで意
外に知らないことがたくさんあると思います。そこで来年大統領
が代わるアメリカについて知っておく必要があります。そこで、
米国の2大政党である民主党と共和党について、まず考えてみる
ことにします。
 参考にする本はたくさんありますが、アメリカ論には定評のあ
る冷泉彰彦氏の次の新刊書を参考にします。
─────────────────────────────
                       冷泉彰彦著
         『民主党のアメリカ/共和党のアメリカ』
                    日本経済新聞社刊
─────────────────────────────
 そもそも米国の民主党と共和党はいつできたのでしょうか。そ
の2大政党ができる前に米国には、どのような政党があったので
しょうか。
 民主党と共和党の創設時期は次の通りであり、民主党の方が先
に創設されています。共和党創設の26年前です。
─────────────────────────────
       民主党 ・・・・・ 1828年
       共和党 ・・・・・ 1854年
─────────────────────────────
 ところで、米国が英国との独立戦争に勝利して、アメリカ合衆
国において、最初の大統領選挙が行われたのは、1789年2月
4日のことです。選挙人を選出する方法の決定は、各州にまかさ
れたのです。当時アメリカ合衆国は13州で、10州のみが選挙
人団の投票を行っています。その結果、初代の米大統領は独立戦
争を勝利に導いたジョージ・ワシントン将軍が選ばれたのです。
政党は無所属です。
 民主党選出の大統領がはじめて就任したのは、第7代のアンド
ルー・ジャクソン大統領からです。参考までに、初代大統領から
第7代大統領のまでの大統領の名前と所属政党、在任期間につい
て次に示します。
─────────────────────────────
    ◎初代大統領/ジョージ・ワシントン
     ・1789年〜1797年/無所属
    ◎2代大統領/ジョン・アダムズ
     ・1797年〜1801年/フェデラリスト
    ◎3代大統領/トーマス・ジェファーソン
     ・1801年〜1809年/リパブリカン
    ◎4代大統領/ジェームズ・マディソン
     ・1809年〜1817年/リパブリカン
    ◎5代大統領/ジェームズ・モンロー
     ・1817年〜1825年/リパブリカン
    ◎6代大統領/ジョン・クインシー・アダムズ
     ・1825年〜1829年/リパブリカン
    ◎7代大統領/アンドルー・ジャクソン
     ・1829年〜1837年/民主党
        ──コルマック・オブライエン著/平尾圭吾訳
             『大統領たちの通信簿』/集英社刊
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/063]

≪画像および関連情報≫
 ●【米大統領選2016】第2回テレビ討論会
  ───────────────────────────
   11月8日の米大統領選に向け、民主党候補のヒラリー・
  クリントン前国務長官と共和党候補のドナルド・トランプ氏
  による第2回テレビ討論会が9日(日本時間10日午前)、
  ミズーリ州セントルイスのワシントン大学で行われた。
   討論開始から間もなく、司会者を務めるCNNのアンダー
  ソン・クーパー氏が、トランプ氏が「スターなら(女性に)
  何でもできる」などと発言した録音テープを米紙ワシントン
  ・ポストが7日に報じたことについてトランプ氏に質問。ト
  ランプ氏は、「誇りに思っていない。家族に謝罪した」と述
  べたものの、すぐにテロ対策などに話題をかえ、「ISIS
  (いわゆる「イスラム国」の別称)を打ち負かす」を倒すな
  どと述べた。クリントン氏はテープの内容について、「どん
  な人物なのか物語っている」、「(あらゆる人を侮辱してき
  た)これまで見てきたトランプそのものだ」とトランプ氏を
  批判した。
   ワシントン・ポストが入手して伝えたビデオは、2005
  年の米NBC番組収録前に司会者と交わした会話を録音した
  もの。トランプ氏は既婚女性とセックスしたいと言い、他の
  女性にキスしたい、女性器をわしづかみすればいいなどと語
  っていた。
   トランプ氏は、クリントン氏が国務長官在任中に公務に私
  用メールアカウントを使っていた問題について話題を向け、
  「恥を知るべきだ」と批判。クリントン氏は「間違いを犯し
  た。とても申し訳ないと思っている」とし、機密情報を手に
  入れるべきでない人物に渡った証拠はないと語った。
                   http://bbc.in/2dNf5lF
  ───────────────────────────

手嶋龍一氏.jpg
手嶋 龍一氏
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2016年10月13日

●「米国の独立戦争には特殊性がある」(EJ第4379号)

 今回の米大統領選挙の結果、民主党のトランプ候補が勝つにせ
よ、トランプ候補が勝つにせよ、日本にとっては同盟国である米
国にどのように向き合うべきかが問われることになります。
 日本人はそういうことを今まであまり真剣に考えてこなかった
と思うのです。しょせんは他国の選挙であり、どちらが勝っても
アメリカには変わりがないと思ってきたからです。
 しかし、今回の選挙では、ドナルド・トランプ氏という異色の
候補が出てきて、「日米安保条約には不満がある」と明言し、そ
の見直しを示唆するなど、もしトランプ候補が大統領になると、
日本の安全保障に重大な影響が出る可能性が現実のものになりつ
つあります。つまり、今までのように、他国の選挙として傍観視
できないのが今回の米国の大統領選挙なのです。
 仮に大統領に選ばれるのがクリントン氏であったとしても、ト
ランプ氏のような候補が共和党の大統領候補に選ばれるというこ
と自体が、米国民のなかにはトランプ氏の主張を幅広く支持する
世論があることを意味しており、日本としてはそれに真剣に向き
合う必要があるからです。そのためには、米国の建国の歴史を少
し振り返ってみる必要があると思います。EJがこの時期に米国
を取り上げているのは、そういう理由からです。
 米国の独立戦争後から民主党が結成される1828年頃まで存
在していた政党は次の2つです。
─────────────────────────────
          1.フェデラリスト
          2. リパブリカン
─────────────────────────────
 米国の初代大統領は、ジョージ・ワシントンです。記録による
と、ワシントンの所属政党は「無所属」になっています。これに
対して、2代大統領のジョン・アダムズの政党は「フェデラリス
ト」です。フェデラリストとは何でしょうか。
 フェデラリストは「連邦派」と呼ばれており、アメリカ合衆国
憲法の制定過程で、連邦政府の権限を強いものにして、統一をは
かることを主張した人びとのことで、その後もアメリカ合衆国の
有力な党派として続いたのです。そういう意味では、初代大統領
のワシントンは無所属となっていますが、基本的には連邦派であ
るといえます。
 連邦政府の権限を強化する憲法の制定は、ワシントン政権のと
きのハミルトン財務長官らが中心となって進められたのです。そ
れは、強力な政府に指導される統一的な国家の形成をめざすもの
であり、その財政基盤としての商工業の発達を促そうというもの
であったので、商工業者の支持が強かったといいます。
 しかし、アンチ・フェデラリスト(反連邦派)といってこの連
邦政府の強大化に反対する勢力が出現したのです。3代大統領の
トーマス・ジェファーソンはアンチ・フェデラリストです。そし
て憲法の草案が発表されると、それこそ嵐のごとき大論議が巻き
起こったの起こったのです。
 この議論に対して、アレクザンダー・ハミルトン、ジョン・ジ
ェイ、ジェイムズ・マディスンらは、87年10月から88年5
月の間に85本の論文を書き、ニューヨークの新聞に発表し、そ
れは他邦の新聞にも転載され、88年春には『フェデラリスト』
として刊行される一大労作になっています。
 このアンチ・フェデラリストは、「リパブリカン」ないし「民
主共和党」と称され、実質的には、現在の民主党の先駆けとなっ
たのです。ウィキペディアの「歴代アメリカ大統領一覧」には、
民主共和党と記載されています。
 この党は、どちらかというと、フェデラリストが主張する強力
な中央政府よりも、州政府の権利を重視したのです。農業的利益
をはかること、王制を廃し共和制を樹立したフランス革命の正当
性を支持することを基本理念にしていたのです。
 ここで考えるべきことがあります。それは米国の英国の植民地
からの独立戦争は、通常の独立戦争とは異なるということです。
ある独立国が侵略国家に征服され、その国の植民地になったとし
ます。その植民地にされた国が独立する場合、過去の国家の正当
性を主張して、昔の国家の再現を図ろうとするケースが多いので
す。これは新しい国家の建設というよりも、あくまで独立の回復
なのです。
 しかし、米国の場合は征服された国家の再現ではないのです。
これについて、冷泉彰彦氏は、次のように米国の独立の特殊性に
ついて述べています。
─────────────────────────────
 これに対して、アメリカの独立戦争の場合は、国家の正統性を
証明する「過去」が全くなかった。ここにユニークな点がある。
独立以前のアメリカは宗主国英国の植民地であったが、その英国
が「侵略」する以前に、この地に住んでいたのはアメリカ先住民
なのであって、独立を考え始めた植民地人ではなかった。そして
英国からの入植者とその子孫からなる植民地人としては、先住民
国家の正統性を継承するという考えは皆無であったから、独立と
いっても過去の国家の復元という意味合いを持たなかったのであ
る。           ──冷泉彰彦著/日本経済新聞社刊
          『民主党のアメリカ/共和党のアメリカ』
─────────────────────────────
 アメリカ大陸には、ヨーロッパ人はいなかったのです。先住民
としてインディアンが住んでいただけです。そこで、大航海時代
になって、ヨーロッパの国々がこぞってアメリカへと渡っていく
ことになります。スペイン、フランス、オランダ、スウェーデン
もアメリカに進出して、植民地をつくったのです。
 そして、最後に英国が進出したのです。そして、18世紀の幾
度にもわたる戦争の結果、その地をほぼ手中に収めたのが、英国
だったのです。しかし、英国はフランスとも戦争をしており、国
家財政は破綻の一歩手前に来ていたのです。そこで植民地は英国
の重税に喘ぐことになります。[孤立主義化する米国/064]

≪画像および関連情報≫
 ●アメリカは最初からイギリスのものだったわけではない
  ───────────────────────────
   アメリカ合衆国が元々イギリスの植民地から始まった国で
  あるということ(もともとは先住民の大地であること)は皆
  さんご存知の通りですが、実はその前にはいろいろな国が取
  り合いをしていた地域でした。これはお隣のカナダも同じで
  すね。最終的に戦争に勝って利権を獲得したのはもちろんイ
  ギリスですけども、その頃には新たな問題が発生してしまい
  ます。
   当時イギリスは北米大陸だけでなく、インドを植民地化す
  るための戦争やスペインとのすったもんだなど、いくつかの
  ドンパチを立て続け・並行して行っていた時期でした。その
  ため、あっちでもこっちでも多額の費用が必要になり、その
  穴埋めに新たな課税をするハメになってしまったのです。国
  内はもちろん、新たに加わったアメリカ13州(以下13植
  民地)もその例外ではありません。
   ここで、13植民地特有の事情が絡んできます。13植民
  地が他の植民地と決定的に違うのは、現地住民を征服したの
  ではなく、新たに移り住んだ人々の土地であったということ
  です。簡単に言えば白人がたくさんいたということになりま
  すね。そのためか、他の植民地と比べて税金が低く、イギリ
  ス本国内と比べてもかなり優遇されていました。
                   http://bit.ly/2dTtOxd
  ───────────────────────────

アレクサンダー・ハミルトン.jpg
アレクサンダー・ハミルトン
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2016年10月14日

●「アメリカ独立戦争はなぜ起きたか」(EJ第4380号)

 米国の独立戦争勃発から初代大統領が就任するまでの一連の流
れを以下に示しておくことにします。すべて一気に決まったわけ
ではないからです。
─────────────────────────────
 ◎1775年 4月
  独立戦争勃発(レキシントン・コンコードの戦い)
 ◎1776年 7月
  独立宣言採択(フィラデルフィアでの第二回大陸会議)
 ◎1781年10月
  独立戦争終結(ヨークタウンの戦い)
 ◎1787年 9月
  合衆国憲法制定(草案完成、批准と発効は後日)
 ◎1789年 4月
  初代大統領就任(憲法の発効による連邦政府の発足)
             ──冷泉彰彦著/日本経済新聞社刊
          『民主党のアメリカ/共和党のアメリカ』
─────────────────────────────
 米国の独立戦争が勃発したのは1775年4月のことです。問
題は、何が原因で独立戦争が起きたかですが、通常の独立の戦い
とはいささか様相が違うのです。
 かたちのうえでは、米国は英国の植民地ではあったのですが、
米国人は、英国人を中心とするヨーロッパ人であり、いわば「も
うひとつの英国」とでもいうべき存在だったのです。したがって
米国は通常の植民地とは異なる扱いを受けていたのです。
 しかし、当時は次の3つの背景があり、英国としては米国にも
重い税をかけざるを得ない状況になっていたのです。
─────────────────────────────
 1.英国は対外戦争の戦費が増大しており、本国はもちろん
   のこと、全属州の増税は不可避であったこと
 2.植民地の米国、とくに北米の経済力は勢いがあり、それ
   は本国である英国を上回る状況にあったこと
 3.啓蒙主義が広まり、フランス革命がブルボン朝絶対王政
   を打倒し、市民革命の波が盛り上がったこと
─────────────────────────────
 「代表なくして課税なし」という言葉があります。英国議会は
納税額などによって代表を決める仕組みになっており、米国から
税を取り立てるのであれば、当然米国からも英国議会に代表を送
る権利を認める必要があります。
 しかし、米国代表を入れると、英国議会で圧倒的な多数となる
可能性が強く、どっちが本国かわからなくなってしまうので、英
国議会は米国代表を排除していたのです。そうであるならば、米
国としては「代表なくして課税なし」の原則の通り、税を納める
必要はないことになります。
 それに加えて時あたかも、ルネサンスに始まる人間解放の思想
が、宗教改革を経て、封建社会の教会や王権の絶対的権威が揺ら
ぐなかで生まれたルソーなどの啓蒙思想が広がっており、それが
米国独立の起爆剤になったトマス・ペインのパンフレット『コモ
ン・センス』の発行に結びついたのです。
 『コモン・センス』は、トマス・ペインによって発行されたパ
ンフレットであり、タイトル通り、人々の「常識」に訴える平易
な英文で、アメリカ合衆国の独立の必要性を説き、合衆国独立へ
の世論を大いに高める役割をしたのです。
 こういう状況のなかで英国は米国に対して次々と税金をかけて
いきます。1764年に砂糖法、植民地に輸入する砂糖に関税を
かけたのです。1年後の1765年には印紙法、米国で刊行され
るすべての印刷物に対して英国の印紙を貼ることを義務付けるも
のです。2年後の1767年にはタウンゼント法、酒、茶、紙、
ガラス、ペンキなどの日用品に非常に高率の関税を掛けるもので
す。英国は「代表なくして課税なし」の原則を無視して、なり振
り構わず、米国へ課税を強行したのです。
 このことがきっかけになって起こったのが、「ボストン茶会事
件」です。これが、そうでなくても高まっていたアメリカの独立
戦争に火をつけたといえます。
─────────────────────────────
 1773年、イギリスが茶法(茶条令)を制定し、東インド会
社に茶の専売権を与えたことに反対するアメリカ植民地の急進派
が起こした事件。ボストン港に入港していた同会社の船に侵入し
たモホーク族に変装した男達が、茶箱342箱(価格1万8千ポ
ンド)を海中に投棄し、夜陰に乗じて逃げた。イギリス当局は犯
人を捕らえようとしたが、植民地人は「ボストンで茶会(ティー
パーティー)を開いただけだ」と冗談を言ってごまかし、真犯人
は検挙できなかった。
 これに対する報復としてイギリス本国はボストン港を封鎖し、
さらに強圧的諸条令を制定して植民地側を屈服させようとした。
反発した植民地側はイギリス製品の不買運動などに立ち上がり、
1774年9月にフィラデルフィアで大陸会議を開催して13植
民地の代表が集まり、本国との対立は決定的となって、1775
年のアメリカ独立戦争となる。このようにボストン茶会事件は、
アメリカ独立戦争勃発の引き金となった事件であった。
                   http://bit.ly/2dPfK6I
─────────────────────────────
 1774年、英国への対応をめぐり第1回大陸会議がフィラデ
ルフィアで開催されたのです。これにはジョージア州を除く12
の植民地の代表が集まり、英国に対して通商断絶の決議が行われ
たのです。植民地代表がいないところで決められた課税に対して
は断固拒否しようと決めたわけです。
 そして翌年の1775年、ボストン郊外にてイギリスと植民地
の人たちにおける武力衝突が勃発します。これがレキシントンの
戦いであり、独立戦争の第1戦がはじまったのです。
            ──[孤立主義化する米国/065]

≪画像および関連情報≫
 ●ティーパーティー(茶会)とボストン茶会事件
  ───────────────────────────
   「ティーパーティー」という名称は、当時の宗主国イギリ
  スの茶法(課税)に対して反旗を翻した1773年のボスト
  ン茶会事件に由来しており、同時にティーは「もう税金はた
  くさんだ(Taxed Enough Already)」の頭字語でもある。
   「オバマケアより危険なものはない」。クルーズ上院議員
  は11日、ワシントンでの保守系政治団体の会合でオバマケ
  ア批判を展開した。来年1月から個人の保険加入義務化が始
  まるオバマケアの扱いは、予算協議の焦点のひとつだ。小さ
  な政府を志向する茶会は義務化を「自由の侵害」ととらえて
  おり、クルーズ氏は茶会の立場に寄り添ったかたちだ。
   イギリスは、莫大な戦費のために国の財政が窮乏した。そ
  こで、時の国王ジョージ3世は「植民地防衛のための費用な
  のだから、植民地の連中に分担させよう!」と考え、関税法
  を改めて税金の取りたてを強化した。
   イギリスの北アメリカ植民地ではタウンゼンド諸法の撤廃
  (1770)後も茶税のみ残され,73年には茶税法が制定
  され、茶は植民地人にとって本国の重商主義的圧制のシンボ
  ルとなっていた。こうした事態の中、1773年12月16
  日の夜に事件は起こった。毛布やフェイスペイント等でモホ
  ーク族風の簡易な扮装をした3グループ、50人ほどの住人
  がボストン港に停泊していた東インド会社の船を襲撃。「ボ
  ストン港をティー・ポットにする」と叫びながら、342箱
  の茶箱を海に投げ捨てた。     http://bit.ly/2dJSRBq
  ───────────────────────────

トマス・ペイン.jpg
トマス・ペイン
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2016年10月17日

●「米独立戦争前後の3種類の人たち」(EJ第4381号)

 既出の冷泉彰彦氏の本によると、米国の独立戦争が勃発する前
後には、米国には次の3種類の人たちがいたのです。
─────────────────────────────
          1.ロイヤリスト
          2.厭戦ノンポリ
          3.パトリオット
─────────────────────────────
 「ロイヤリスト」とは、米国に移っても、あくまで英国王を支
持する人たちです。彼らは本国の英国からいくら重税をかけられ
ても、仕方がないとし甘んじて受け入れる層です。もちろん彼ら
は、本国の英国との戦争には絶対に反対です。
 「厭戦ノンポリ」とは、もともと政治には関心がなく、戦争に
は反対する層です。つまり、厭戦派です。彼らは農園などを経営
して生活水準も安定しており、重税は困るが、戦争に訴えてまで
英国から独立しようとする気はない層です。
 「パトリオット」は、英国からの増税は不当であり、あくまで
米国は独立を目指すべきであるとして独立を推進しようとする人
たちです。それも単に独立するだけでなく、世界初の共和制民主
主義国家アメリカを建設しようとしていたのです。パトリオット
とは「愛国者」を意味しています。
 パトリオットといえば、映画『パトリオット』という次の映画
があります。この映画は、1775年の米国独立戦争を描く米国
建国の歴史ドラマです。
─────────────────────────────
        映画『パトリオット』/2000年製作
   ローランド・エメリッヒ監督/メル・ギブソン主演
           予告編/ http://bit.ly/1F1xDm6
─────────────────────────────
 映画の内容を明かすのは問題ですが、概要を知っていただく必
要があります。この映画の概要を紹介しているサイトはいくつも
ありますが、一番わかりやすいと思われるサイトを以下にご紹介
します。まずは読んでいただきたいと思います。
─────────────────────────────
 1776年のイギリス植民地時代のアメリカ、サウスキャロラ
イナにおいて。かつてはフレンチ・インディアン戦争の英雄とし
て名を馳せたベンジャミン(メル・ギブソン)だったが、妻には
先立たれ、7人の子供達と一緒に農夫として暮らしている。
 イギリス本国の植民地アメリカに対する重税政策はアメリカの
13州の反発を呼び、今やサウスキャロライナの議会でもイギリ
スに対して、戦争を挑むか否かの決断が迫られていた。戦争を経
験して己の過去を悔いているベンジャミンはイギリスとの開戦に
は反対していたのだが、息子のガブリエル(ヒース・レジャー)
は、そんな父親に反発しアメリカ大陸軍に入隊する。
 そんなある日のこと、戦火はベンジャミンの家のすぐ近くまで
迫ってきていた時に、ガブリエルが負傷して帰ってくる。そこへ
イギリス軍のダビントン大佐(ジェイソン・アイザックス)一行
が現われ、ガブリエルをスパイ容疑で連れ去ろうとし、それを止
めようとした弟のトーマスが撃ち殺されてしまう。
 目の前で息子が殺され、家を焼き討ちされたベンジャミンは怒
りから、かつての戦闘本能が呼び起され、三男、四男坊を連れて
イギリス軍の一行に奇襲攻撃を喰らわせて、ガブリエルを救出。
このままではイギリスの横暴が続いてしまうことを悟ったベンジ
ャミンは荒れくれ男達等を集めて民兵団を結成し、イギリス帝国
軍団に戦いを挑むのだ・・・!     http://bit.ly/2dm4dfm
─────────────────────────────
 ここで重要なのは、メル・ギブソン扮するベンジャミンが独立
戦争に反対していることです。彼はインディアンとの戦いで戦功
があり、英雄といわれる勇壮な人物ですが、本人は戦争には反対
だったのです。しかし、息子のガブリエルはそんな父親に反対し
て、アメリカ大陸軍に入隊するのです。
 冒頭の3分類によると、父親のベンジャミンはノンポリ、つま
り厭戦派であり、息子のガブリエルはパトリオットということに
なります。この映画では、父親と息子の葛藤を描き、ノンポリと
パトリオットとの対立軸があったことを表現しています。映画の
製作者は、この対立軸をドラマの中心テーマにしているのです。
 それにベンジャミンは戦争の経験があるだけに、戦争はするべ
きではないと考えたのです。まして相手はインディアンなどでは
なく、当時世界最強の英国軍です。寄せ集めの米軍が勝つのは容
易なことではないという事情もあります。
 しかし、英国軍に息子のカブリエルを連行され、それを阻止し
ようとした次男を射殺されたベンジャミンは怒りを持って立ち上
がるのです。このように、独立戦争前後には冒頭の3種類の人た
ちがおり、ロイヤリストを含む厭戦ノンポリとパトリオットの明
確な対立軸が存在したのです。
 このように、米国の独立戦争にいたる経緯を調べると、通常の
他の国の独立戦争のそれとは違うものが見えてきます。独立とい
うことで米全国民が一本化されたのではないのです。冷泉氏はこ
れについて次のように書いています。
─────────────────────────────
 いずれにしても、独立戦争の前後には心情的な対立軸、つまり
「戦争に訴え、外国の力を借りてでも世界初の共和制民主国家を
作る」という心情と、「生活が保障されているのなら、植民地で
あっても構わないし、戦争や外国との同盟には反対」という心情
の対立が生まれていた。そして、これがアメリカの歴史を貫く対
立軸の原型になっていった。この対立は、やがて独立を果たした
新国家において連邦政府を置くべきかという論争に発展する。
             ──冷泉彰彦著/日本経済新聞社刊
          『民主党のアメリカ/共和党のアメリカ』
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/066]

≪画像および関連情報≫
 ●映画「パトリオット」感想
  ───────────────────────────
   メル・ギブソン主演の映画「パトリオット」を見てみた。
  アメリカ独立戦争を舞台にした戦争映画である。評判にたが
  わず、すばらしい映画だったので、感想を皆さんに披露する
  次第である。
   いやあ、イギリス軍のかっこいいこと。ぴっちり組んだ歩
  兵の隊列、号令とともに一糸乱れず構え―狙い―撃ち―装填
  する、そろった動きの美しさ。歩兵戦列の前進とともに着弾
  点をずらしていく砲兵の正確さ(おそらく散兵線を制圧する
  ためだろう)。あれこそが軍隊ですな。
   それに対して民兵ども、ありゃ明らかに反則だ。戦争じゃ
  ない。戦闘時でもないのに、輸送隊が次々に賊に襲われて殺
  されていく。将校もお構いなしに皆殺しだ。その将校たちの
  同僚の気持ちを考えれば、タピントン大佐みたいなのが出て
  くる気持ちもわからないではない。
   ところでタピントン大佐、やはり育ちの悪さが出ている。
  まあ、当時の騎兵サーベルは斬る剣なのかもしれないが、あ
  の剣の振り回し方は将校というよりならず者だ。いろいろ苦
  労してはるんですね。しかし、どうしてあの状態からイギリ
  ス軍が負けたのかいまいち納得しかねる。反斜面陣地で第一
  線が壊滅しはしたが、コーンウォリス閣下はちゃんと予備の
  戦列を後ろに配置して、味方の退却を支援収容している。
                   http://bit.ly/2d92RGj
  ───────────────────────────

映画『パトリオット』.jpg
映画『パトリオット』
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2016年10月18日

●「米国独立戦争前後の2つの対立軸」(EJ第4382号)

 独立戦争を経て、アメリカという国のかたちが形成されていっ
たプロセスをもう一度振り返ってみます。
─────────────────────────────
    ◎1774年 9月 ・・・ 第1回大陸会議
    ◎1775年 4月 ・・・  独立戦争勃発
    ◎1775年 5月 ・・・ 第2回大陸会議
    ◎1776年 7月 ・・・  独立宣言採択
    ◎1781年10月 ・・・  独立戦争終結
    ◎1787年 9月 ・・・ 合衆国憲法制定
    ◎1789年 4月 ・・・ 初代大統領就任
─────────────────────────────
 このプロセスから、米国の独立が通常の国の独立運動とは違う
ところが見えてきます。次の2つのポイントがあります。
─────────────────────────────
 1.独立戦争が始まってから、1年3ヶ月後に「独立宣言」
   が採択されていること
 2.戦勝の6年後に憲法が制定され、その1年半後に連邦政
   府が発足していること
─────────────────────────────
 「1」から考えます。
 英国による米国植民地への懲罰的な課税に反発して、米国植民
地13州のうち、ジョージア州をのぞく12洲がフィラデルフィ
アに集まって、会議を開いています。これが第1回大陸会議とい
われるものです。1774年9月のことです。
 このとき、パトリオット(愛国者)、ロイヤリスト(王政派)
厭戦ノンポリ、それぞれ3分の1ずつであったといいます。それ
ぞれ議論はあったものの、パトリオットの主張によって、「宣言
と決議」で植民地に対する英国議会の立法権の全面的否定と、英
国の不輸入、不輸出、不消費を守るための「大陸通商断絶同盟」
結成を宣言したのです。この参加者のなかに、初代大統領になる
ヴァージニア州代表のジョージ・ワシントンがいたのです。
 戦争はいきなりはじまったのです。ことは英国軍がボストン近
郊のコンコードに貯蔵されていた植民地側の軍需物資を接収する
ため出動したことが発端です。
 この当時、植民地側の米国には、州ごとに州兵や地方を守る民
兵がいただけで、職業的な軍隊などなかったのです。とても精強
な英国軍に太刀打ちできるレベルではなかったのです。当時の状
況については、ウィキペディアを参照します。
─────────────────────────────
 戦争が始まったとき、アメリカには職業的な陸軍も海軍もなく
各植民地には地元の民兵隊が存在するのみで、これが自らの地域
防衛にあたっていた。独立戦争前のアメリカでは、イギリス軍が
各植民地の民兵隊を補助的に用いていた。開戦時、一部を除いて
この民兵隊のほぼ全てがアメリカ軍に加わった。
 民兵の装備は簡単なものであり、ほとんど訓練されておらず、
通常は制服もなかった。当時、民兵の従軍期間は数週間から数か
月間に限られており、家から遠く離れた所へは行きたがらなかっ
たので、通常大規模な作戦には使えなかった。民兵には正規兵の
ような訓練や規律が欠けていたが数では勝り、レキシントン・コ
ンコードの戦い、ベニントンの戦いとサラトガ、さらにボストン
包囲戦では正規兵を打ち負かすことができた。米英両軍共にゲリ
ラ戦を用いたが、アメリカ軍はイギリス軍正規兵がいない地域で
効果的に王党派の活動を抑えた。    http://bit.ly/2daPKV3
─────────────────────────────
 英国軍がコンコードの軍事物質を奪いに来るという情報は事前
に漏れていて、米国側はほとんどの物質を移動していたのですが
やって来た英国軍とレキシントンで衝突し、ゲージ将軍率いる英
国軍兵士数名が死亡、コンコードでは244名が死傷するという
戦闘に発展したのです。これが独立戦争の事実上のはじまりにな
ったのです。これが「レキシントン/コンコードの戦い」です。
 パトリオットたちは、これは独立戦争の開始であると捉えて、
1775年5月10日、フィラデルフィアで第2回大陸会議を開
催します。この会議は米国独立革命の最高の連絡会議になってい
たからです。
 この会議において、13州の代表は「武力抵抗の理由と必要の
宣言」を採択し、アメリカ連合軍を創設し、ジョージ・ワシント
ンを総司令官に任命したのです。これを受けてワシントン将軍は
ボストンに向い、ヨーロッパ諸国と外交関係を結ぶために、外交
使節の派遣と戦争遂行に必要な紙幣の発行を決めています。そし
て、ペンシルヴァニア州代表のフランクリンが「連合の規約と永
久の連合」案を作成し、1776年7月に独立宣言を採択したの
です。「1」の独立戦争開始の1年3ヶ月後に独立宣言が採択さ
れた事情は、以上の通りです。
 独立戦争がはじまる前の状況では、いわゆる「パトリオット」
と「ロイヤリスト+厭戦ノンポリ」が強く対立していたのです。
しかし、「ロイヤリスト+厭戦ノンポリ」は、「パトリオット」
のリーダーシップに引きずられたといえます。トマス・ジェファ
ーソン、アレクサンダー・ハミルトン、トーマス・ペインなどが
強力なリーダーシップを発揮したのです。
 冷泉彰彦氏の本には、「パトリオット」と「ロイヤリスト+厭
戦ノンポリ」の対立軸が出ているので、それを添付ファイルにし
てあります。実は冒頭の「2」、すなわち「戦勝の6年後に憲法
が制定され、その1年半後に連邦政府が発足していること」につ
いての解明はこの対立軸に深く関係します。
 つまり、連邦政府を設立することに対して、パトリオットによ
る「理想を追い求める賢人政治」とロイヤリストと厭戦ノンポリ
による「現実のなかで個別の実利を追い求める大衆世論」の対立
が生まれるのですが、後者がポピュリストと呼ばれる勢力になっ
ていきます。これについては、明日のEJで述べます。
            ──[孤立主義化する米国/067]

≪画像および関連情報≫
 ●欧米で台頭するポピュリズム、背景にあるもの
  ───────────────────────────
   現在の政治ムードを表す言葉を1つ挙げるとすれば何だろ
  うか。怒り、不安、ポピュリズム(大衆迎合主義)――。い
  ずれを選ぶにしても確かなのは、大西洋を挟む両サイドの雰
  囲気に等しく当てはまるだろうということだ。欧州と米国の
  政治潮流は往々にして同調するが、今ほどそれが如実なこと
  はめったにない。どちらでも政治的な既成勢力が揺らぎ、非
  主流派が舞台の中央に躍り出ている。各政党は様変わりし、
  有権者は従来の支持政党から離れているようだ。
   米国でこうした流れを明白に表しているのが、大統領選の
  共和党候補指名争いで富豪のドナルド・トランプ氏が首位を
  走っていることだ。トランプ氏は政党登録を5度変えており
  すんなりと定義づけられるイデオロギーや政策綱領を持たな
  い。最も知られている政策は不法移民のほか、少なくも一時
  的にイスラム教徒を国から締め出すという方針だ。同氏の主
  なセールスポイントは、米国の政治階級を「ばか」と呼んで
  はばからないことと、大統領就任のあかつきにはワシントン
  の全てをぶち壊すと公約している点だ。
   しかし、これはトランプ氏だけにとどまらない。左派のバ
  ーニー・サンダース上院議員が民主党の指名争いで大健闘し
  ている。彼らが実践する反体制的な政治は、大統領選に出馬
  する数カ月も前から欧州でも拡大していた。欧米でこうした
  機運をあおっているのは、中間層が感じている経済的な不安
  や、流入する移民に雇用を奪われ、社会保障費などの公的資
  金が吸い取られることへの警戒感だ。
                 http://on.wsj.com/2ecvyhC
  ───────────────────────────
 ●図表の出典/冷泉彰彦著/『民主党のアメリカ/共和党のア
  メリカ』/日本経済新聞社刊

独立戦争から建国当初の対立軸.jpg
独立戦争から建国当初の対立軸
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2016年10月19日

●「独立戦争後における民主党の誕生」(EJ第4383号)

 米国の独立戦争が通常の国の独立運動と違う2つのポイントを
再現します。
─────────────────────────────
 1.独立戦争が始まってから、1年3ヶ月後に「独立宣言」
   が採択されていること
 2.戦勝の6年後に憲法が制定され、その1年半後に連邦政
   府が発足していること ←
─────────────────────────────
 「2」について考えます。
 フランスと同盟を結んで英国と戦った米国の独立戦争は、17
81年10月の「ヨークタウンの戦い」に勝利して終結していま
す。独立戦争当時、英国軍の最終拠点だったバージニア州ヨーク
タウンにおいて、同年9月にフランス海軍は、チェサピーク湾の
海戦で英国艦隊を打ち破り、英国のコーンウォリス将軍が脱出で
きないよう封鎖したのです。ワシントン将軍は、ニューヨークか
ら急遽米仏連合軍を南部に移動させ、1万7000人の大部隊で
10月初めにヨークタウンを包囲します。これによって1781
年10月19日に全軍が米仏軍に降伏したのです。
 このヨークタウン降伏によって、イギリス国王ジョージ3世は
休戦の方向に進む議会への支配力を失い、その後は陸上で大きな
戦闘がなくなり、事実上戦争は終結したのです。
 問題はここからです。戦争終結から合衆国憲法の制定まで6年
の年月を要しています。そのときの米国の状況について、冷泉彰
彦氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 独立戦争に「勝っただけ」の1781年の時点では、英国を追
い出したが連邦政府は作らないとか、独立はするが憲法は作らな
いという選択肢があり、それを主張する勢力があったのである。
その中でアメリカを独立国として確立し、憲法を整備しながら連
邦政府の機能を確立しよう、という政治的な立場が生まれていっ
た。この立場は、英国への反抗に立ち上がった「パトリオット」
の延長線上にあるものだが、もはや目的は反英ではなく、連邦政
府の確立に移っていったので「フェデラリスト」(連邦主義者)
と呼ばれることになる。  ──冷泉彰彦著/日本経済新聞社刊
          『民主党のアメリカ/共和党のアメリカ』
─────────────────────────────
 独立戦争以前の「パトリオットVSロイヤリスト+厭戦ノンポ
リ」の対立構図は、独立戦争終了後は連邦政府を設立するかしな
いかをめぐって、次の対立構図に変化したのです。
─────────────────────────────
        「連邦派」VS「州権派」
─────────────────────────────
 ここで「連邦派」とは、かつてのパトリオット、独立戦争後の
「フェデラリスト」のことであり、連邦政府を設置し、憲法を制
定し、連邦税を課税する体制をつくるというものです。兵力の持
ち方については、国際情勢に対応して、連邦として常備軍を保有
すべきであるという考え方です。
 これに対して「州権派」とは、州があるのだから連邦政府など
不要であるという考え方です。やっと独立戦争をして英国を追い
払い、英国からの課税を免れたのに、なぜ屋上屋の連邦政府を設
立し、課税するのか理解できないというものです。もちろん憲法
制定にも反対であるし、兵力についても州兵制で十分であるとい
う意見です。
 冷泉彰彦氏は、この連邦政府の設立をめぐる論争は、一部のエ
リート層による賢人政治と、これに反発する大衆の支持を背景に
して個別の実利を追い求める大衆政治に各州が政治的に二分され
る危機に発展する恐れがあったことを指摘しています。実際には
連邦派の強いリーダーシップによって連邦政府が作られ、アメリ
カ合衆国が建設されていくのですが、以来現代まで米国にはこれ
ら2つの対立軸はかたちを変えて残っていくことになります。そ
れは次の構図です。
─────────────────────────────
     「フェデラリスト」VS「ポピュリズム」
─────────────────────────────
 1787年9月に合衆国憲法が制定され、1789年4月に初
代大統領にワシントンが就任するのですが、1791年に民主共
和党(リパブリカン)が結成されます。この党を代表する最初の
大統領は、3代大統領のトーマス・ジェファーソンです。これに
ついて、ウィキペディアには次のように記述しています。
─────────────────────────────
 民主共和党は、リパブリカン党あるいはジェファソニアン・リ
パブリカン党と自称したが、実質的には現在の民主党の先駆けと
いえる。民主共和党は強力な中央政府よりも州政府の権利を重視
した。農業的利益をはかること、王制を廃し共和制を樹立したフ
ランス革命の正当性を支持することを基本理念とした。この政党
はまた、イギリスと密接に手を結ぶことに反対した。
         ──ウィキペディア http://bit.ly/2ecd42p
─────────────────────────────
 このあと、4代のマディソン、5代のモンローと民主共和党の
大統領が続くのですが、1820年にはいわゆる連邦派は消滅し
ていたのです。それと同時に民主共和党では内部分裂が起こり、
次の2つの派閥に分派したのです。
─────────────────────────────
  1.民主共和党 ・・   アンドリュー・ジャクソン
  2.国民共和党 ・・ ジョン・クインシー・アダムズ
─────────────────────────────
 国民共和党の代表のジョン・クインシー・アダムズが6代大統
領になり、7代大統領は民主共和党を「民主党」と改称し、アン
ドリュー・ジャクソンが就任するのです。
            ──[孤立主義化する米国/068]

≪画像および関連情報≫
 ●日本にもポピュリズム破綻のリスク/2016年5月
  ───────────────────────────
   足元の経済・金融市場はほとんど硬直状態というところだ
  が、米国の大統領選挙や英国の国民投票など政治にまつわる
  トピックはそれこそ枚挙に暇がない。政治に関しては門外漢
  の経済学者としても、米国のトランプ氏の発言など気になる
  ことが多い。
   最近のトランプ氏の発言を見ると、「アメリカ・ファース
  ト(米国の事情が最優先)で、海外からの輸入品には高関税
  を課する」としている。そうすることによって、米国内の労
  働者を保護すると主張する。
   しかし冷静に考えると、米国企業が海外で生産した製品を
  米国内に持ってくる場合、高関税が課されるとなると、米国
  の消費者はその分の関税を負担することになる。米国企業と
  しても、海外の安価な労働力を利用するメリットを放棄せざ
  るを得ない。
   米国ほど大規模な経済になると、経済を巡る様々な要素は
  複雑に絡みあっており、同氏が想定するほど簡単なことでは
  ない。少なくとも、同氏の不動産ビジネスのように単純には
  いかない。また、米国をはじめ世界の主要国が自国の利益ば
  かり追い求めるようになると、様々な問題を巡って国際協調
  体制を作ることが難しくなる。その結果、主要国がメリット
  ・デメリットを分け合いながら世界的な問題に対処すること
  ができなくなる。         http://bit.ly/2eg3FL5
  ───────────────────────────

コーンウォリス将軍の降伏.jpg
コーンウォリス将軍の降伏
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2016年10月20日

●「ウィスキーへの課税で内戦に発展」(EJ第4384号)

 米国の独立戦争後に顕著になったのは次の2つの勢力の対立構
図です。再現します。
─────────────────────────────
     「フェデラリスト」VS「ポピュリズム」
─────────────────────────────
 1789年4月に合衆国憲法の発効による連邦政府が発足し、
ジョージ・ワシントンが初代大統領に就任します。この政権の最
大の悩みは、独立戦争の戦費だったのです。ところで、米国はど
のようにして独立戦争の戦費を調達したのでしょうか。
 もともと独立軍には大した財源はなかったのですが、当時米国
の最大の都市であったフィラデルフィアの豪商たちが戦費を用立
てたのです。つまり、民間資本で戦費を賄ったことになります。
その代表的な人物の一人がロバート・モリスです。モリスは、米
国の財政を立て直すためにいろいろな努力をしているのですが、
最大の貢献はそれを託す人物として、アレクサンダー・ハミルト
ンを初代の財務長官に指名したことです。
 通常の国家の独立は、独立前の反乱軍の全ての債務を破産処理
して、新生国家は借金ゼロでスタートするのが普通です。しかし
ハミルトン財務長官は、独立戦争の戦費(債務)を新生のアメリ
カ合衆国が継承する決断をしたのです。これによって、アメリカ
合衆国はマイナスからのスタートになったのです。
 何とかカネを稼ぐ必要がある──ハミルトン財務長官はウイス
キーに目をつけます。当時米国の主要な産物は小麦だったのです
が、出荷した後で余った小麦で、ウイスキーを作っている農家が
多かったのです。当時の米国農家のウィスキー作りについて書い
てあるサイトから引用します。
─────────────────────────────
 酒はもともと、作物の余剰生産物により生産される。生きるた
めに必要な穀物の他に、余った穀物を、簡単な構造の単式蒸留機
により、家内工業的に少量生産された。その蒸留酒となり付加価
値を持った酒が、市場に出て、貨幣との交換価値を得る。農民た
ちの汗の結晶から、僅かばかりの酒が生まれ、その酒を売却する
ことにより、多くの農民は生活必需品を得たのである。
                   http://bit.ly/2dxk1Mn
─────────────────────────────
 ワシントン大統領とハミルトン財務長官は、このウィスキーに
対し連邦税をかけることを決断します。しかし、その税制は大農
業主よりも小規模農場主に対して厳しかったのです。それに大統
領のワシントン自身が大農業主であり、ウィスキーも作っていた
ので、中部から南部の州を中心として、連邦政府に対して不公平
だという声が強く出てきたのです。
 とくにウイスキー生産のメッカであるペンシルベニアでは、重
税反対運動が盛り上がり、大勢の人が集結し、連邦政府と一戦も
辞さずという不穏な空気が広がります。これに対して、ハミルト
ン財務長官の方も、反乱は断固鎮圧するという強い意思を示しま
す。これが「ウィスキー税内乱」です。1794年のことです。
これについて冷泉彰彦氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 これに対して、ハミルトンは強硬だった。「今こそ、連邦政府
の権威と権力を見せつけるとき」だという決意をしたのである。
独立戦争直後の時点ということもあって、同じような「民兵の召
集」が行われ、一万二千の軍隊が投入された。政府軍と反乱側の
規模の差は圧倒的なものとなった結果、戦闘らしい戦闘にはなら
ず、代表者数十名が逮捕され、その中の数名が病死するなどした
というだけで事件は収束、国家の分裂というような事態にはなら
なかった。        ──冷泉彰彦著/日本経済新聞社刊
          『民主党のアメリカ/共和党のアメリカ』
─────────────────────────────
 冷泉彰彦氏の指摘で重要なのは、ハミルトンが1万2000人
の軍隊を出した理由が、このさい連邦政府の力を見せつけて、連
邦制に反対させないようにしたという点です。その時点では、連
邦制に反対の州はまだ多かったからです。
 実際に連邦制が定着したのは、初代大統領のワシントンと2代
大統領のアダムズがともにフェデラリスト(連邦派)であり、ワ
シントンの8年間、アダムズの4年間の計12年間で、何とか連
邦制そのものに対する反対はなくなったのです。
 しかし、2代大統領のジョン・アダムズにとって気の毒だった
のは、副大統領が、リパブリカンのトーマス・ジェファーソンで
あったことです。リパブリカンは州権派、すなわち、民主共和党
であり、大統領とは党が異なるのです。なぜこんなことになった
のかについて、『大統領たちの通信簿』のオブライエン氏は次の
ように説明しています。
─────────────────────────────
 さらに事を面倒にしたのは、副大統領のトーマス・ジェファー
ソンが、フェデラリストではなく、リパブリカンだったことであ
る。1804年に選挙法が修正されるまで、副大統領の地位は大
統領選挙で第2位になったものが獲得していたのだ。当然アダム
ズとジェファーソンは折り合いが悪く、ジェファーソンはあらゆ
る機会を捉えて、大統領の反対派をマスコミを通じて応援した。
        ──コルマック・オブライエン著/平尾圭吾訳
             『大統領たちの通信簿』/集英社刊
─────────────────────────────
 3代大統領は、2代大統領の副大統領であったジェファーソン
が就任します。ここからがリパブリカンの天下となります。以来
4代から6代大統領までは、リパブリカンの出身者で占められ、
第7代大統領は、リパブリカンを「民主党」に名称変更して、ア
ンドルー・ジャクソンが就任します。
 このジャクソン政権において、ポピュリズムが明確に姿をあら
わすことになります。これについては、明日のEJで述べます。
            ──[孤立主義化する米国/069]

≪画像および関連情報≫
 ●ジョン・アダムズについて
  ───────────────────────────
   アダムズはアメリカ革命の初期に著名になった。大陸会議
  には、マサチューセッツ湾植民地の代表として出席し、17
  76年に大陸会議がアメリカ独立宣言を採択するときに指導
  的な役割を果たした。大陸会議からヨーロッパに派遣され、
  イギリスとのパリ条約締結では交渉の主役となり、またアム
  ステルダムから重要な借款を得る中心人物だった。
   アダムズは独立に貢献したことで、ジョージ・ワシントン
  の下で2期副大統領を務め、また第2代大統領にも選出され
  ることになった。この大統領としての任期の間、自身の連邦
  党(アレクサンダー・ハミルトンが率いる一派)内部での抗
  争と、新しく頭角を現したジェファーソン流共和主義者との
  党派抗争に悩まされることになった。また論争の多かった外
  国人・治安諸法に署名した。大統領任期中の最大の功績は、
  1798年にフランスとの擬似戦争危機を平和的に解決した
  ことである。
   1800年大統領選挙で、トーマス・ジェファーソン(当
  時の副大統領)に再選を阻まれた後は、マサチューセッツ州
  に引退した。妻のアビゲイル・アダムズとともにアダムズ政
  治一家と呼ばれる政治家、外交官および歴史家の家系を作り
  育てた。彼の息子ジョン・クィンシー・アダムズは第6代ア
  メリカ合衆国大統領になった。アダムズの功績は当時他の建
  国の父ほどは評価されなかったが、現代ではより大きな評価
  を受けるようになってきた。    http://bit.ly/2eEKhH6
  ───────────────────────────

ジョン・アダムズ米2代大統領.jpg
ジョン・アダムズ米2代大統領
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 孤立主義化する米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月21日

●「ジャクソン大統領はポピュリスト」(EJ第4385号)

 7代米大統領のアンドリュー・ジャクソンは、ポピュリストと
いわれています。それは、ジャクソンが普通選挙で選ばれた最初
の大統領であることにも原因があります。
 既に述べたように、大統領を選ぶ選挙は、各州の有力者が選挙
人になって決めていたのですが、やがて各州の議会が選挙人を選
ぶ間接選挙になり、1828年の選挙から、選挙人を普通選挙で
選ぶ現在の方式になったのです。この普通選挙で選ばれた最初の
大統領が、アンドリュー・ジャクソンであり、はじめての民主党
の大統領なのです。
 このアンドリュー・ジャクソンの政治について、冷泉彰彦氏は
次のように述べています。
─────────────────────────────
 ジャクソンは大衆の支持を背景に、連邦政府の縮小を図り、同
時にフロンティアの白人農場主の意向を反映し、アメリカ先住民
に対して過酷な移住を強制したりもした。さらに南部出身のジャ
クソンは北部の商業にばかり有利なものとして、銀行や紙幣制度
を軽視、国立第二銀行を閉鎖するなど、発展しつつあった金融業
を攻撃した。その結果、多くの銀行が、経営破綻に陥ることにも
なった。         ──冷泉彰彦著/日本経済新聞社刊
          『民主党のアメリカ/共和党のアメリカ』
─────────────────────────────
 アンドリュー・ジャクソン政権は8年間続いたのですが、大統
領としての評価は、上記の冷泉氏の指摘にもあるように、大衆の
支持を受けて連邦政府の縮小を図ったり、金融業の発展を阻害す
るなど、けっして高いとはいえなかったのです。
 しかし、ジャクソン大統領は国民には人気があったのです。そ
れは、1812年〜15年に勃発した「米英戦争」に自ら指揮し
て英国に完勝したからです。ところで、米英戦争とはどういう戦
争だったのでしょうか。
 米英戦争とは、第2の独立戦争といわれる戦争で、どのような
原因で戦争が勃発したのかについて、ネットの「世界史の窓」か
ら引用します。
─────────────────────────────
 ナポレオン戦争中に起こったアメリカ合衆国とイギリスの戦争
で、1812年戦争、第2次アメリカ独立戦争とも言う。ヨーロ
ッパの戦争に対し、アメリカ合衆国は当初中立政策を採り、貿易
の利益を守っていたが、ナポレオンの大陸封鎖令に対抗してイギ
リスも逆封鎖したためアメリカにとっても貿易が途絶え、大打撃
を受けた。一方イギリス海軍がアメリカ人船員の強制徴用を行う
など、海上権の侵害が続いたため、国内で主戦論が台頭した。第
4代マディソン大統領(リパブリカン党)は国内の主戦論に押さ
れ、一方的にイギリスに宣戦した。   http://bit.ly/2e8r4Mo
─────────────────────────────
 ジャクソンは、ジェファーソンのリパブリカンを取り込んで民
主党を結成したのですが、このジャクソン政権は、自身の出身地
である南部の農業主などの大衆世論を背景に、ワシントンの国政
に大きな影響を与えることになったのです。だから「ポピュリズ
ム」といわれたのです。
 このジャクソン民主党の政治の特徴について、冷泉彰彦氏は次
の4つを上げています。
─────────────────────────────
   1.            商工業ではなく農業
   2.   「大きな政府」ではなく「小さな政府」
   3.      北部に対抗する勢力としての南部
   4.ワシントンのエスタブリッシュに対するアンチ
                ──冷泉彰彦著の前掲書より
─────────────────────────────
 現在の米民主党といえば「大きな政府」が基本スタンスですが
ジャクソン政権はもともとリパブリカン(州権派)であり、連邦
制の縮小を図ろうとしていたので、「小さな政府」路線に立脚し
ていたのです。
 ちなみに民主党でもすべて大きな政府路線であるとは限らない
のです。1980年代のロナルド・レーガン政権(共和党)以来
米国の経済政策はおおむね小さな政府路線を維持してきています
が、レーガン政権後の唯一の民主党政権であるクリントン政権は
自立を重視した福祉改革など、政権後半にかけて中道寄りの姿勢
を強め、レーガン政権の小さな政府路線に大きな変更を加えてい
ないのです。これに対してオバマ政権は、明らかに大きな政府で
あるといえます。
 南部と北部──当時の米国は、多くの面で南北の対立が激しく
なっていったのです。農業を中心に政治に発言力を増してきた南
部と、北部を中心とした商工業の発展は、連邦政府による産業保
護政策や、通商の安全を確保するための軍事力を強めようとする
政策で、北部との対立は深まっていったのです。
 この南部を代表するのが民主党ですが、これに対抗するために
1833年に誕生したのが「ホイッグ党」です。ホイッグ党は英
国にもありましたが、これとは無関係です。ホイッグ党について
は、ウィキペディアを参照します。
─────────────────────────────
 第7代大統領アンドリュー・ジャクソンおよび民主党の政策に
ついて「専制的であり、近代化に対する反動である」として反対
し、大統領に対する議会の優越、社会や金融の近代化、保護貿易
による国民経済活性化などを実現するために結成された。
 ホイッグという名は、アメリカ独立革命の際の独立派(パトリ
オット)が、反王政派である自らを呼ぶのに使っていた名であり
イギリスのホイッグ党との直接的な関係はない。連邦党や第6代
大統領ジョン・クィンシー・アダムズ支持派の国民共和党の系列
である。     ──ウィキペディア http://bit.ly/2e8J6hq
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/070]

≪画像および関連情報≫
 ●アンドリュー・ジャクソンとその時代/佐藤清文氏
  ───────────────────────────
   2006年9月26日で、小泉純一郎政権が幕を閉じ、安
  倍晋三政権がスタートしました。小泉前首相は自民党の派閥
  を解体させ、派閥主義を終焉させましたが、その代わり、多
  くのグループが乱立してはいるものの、無批判的な政党に変
  容させてしまいました。安倍新総理はそうした雰囲気を背景
  に誕生したのです。
   振り返って見ると、小泉手法は1829年から37年まで
  在任した合衆国第7代大統領アンドリュー・ジャクソンによ
  く似ていました。ジャクソンの政治は「ジャクソニアン・デ
  モクラシー」として知られ、後継者のマーティン・ヴァン・
  ビューレンと合わせてその治世は「ジャクソンの時代」と呼
  ばれています。1812年戦争の英雄であり、初の西部出身
  の大統領である彼の粗野さと無教養は、今日では伝説となっ
  ています。”OK”の語源が”All Correct” の略として彼
  が用いたエピソードに由来していることはその一端がうかが
  われます。
   今でこそ二大政党制の国と言われていますが、アメリカに
  も一党優位制の時代がありました。1820年から1828
  年の間は、共和派の候補者同士が大統領選挙を争っていたの
  です。派閥抗争は激しいもので、政治が滞ることもしばしば
  でした。             http://bit.ly/2ealjQN
  ───────────────────────────

アンドリュー・ジャクソン7代米大統領.jpg
アンドリュー・ジャクソン7代米大統領
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 孤立主義化する米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする