2007年01月05日

ケータイの通信戦争がはじまる(EJ第1993号)

 2007年最初のテーマは久しぶりにITの話題を取り上げた
いと思います。テーマは次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     「ケータイ2.0/生き残るのはどこか」
       ― 知られざる衝撃の通信戦争 ―
―――――――――――――――――――――――――――――
 私事ですが、昨年12月にケータイの会社を変更したのです。
「iモード」のスタートとほぼ同時期の1999年5月から利用
してきたNTTドコモからソフトバンクに変更したのです。もち
ろん「番号ポータビリティ制度」(MNP)を利用してです。
 私の場合、ケータイは仕事の関係上、アナログの頃から使って
いたので、10年以上にわたってNTTのケータイを使い続けて
きているのです。それなのに、なぜ、最大のシェアを誇るNTT
ドコモから一番シェアの小さいソフトバンクに変更したのかとい
うと、ソフトバンクの戦略に共感したからです。
 そして、その戦略について述べることは、ケータイの今後の変
化について語ることになると思ったのが今回のテーマを選んだ理
由です。今回は予告編的な話から入っていきたいと思います。
 MNPのスタートは2006年10月24日――その時点での
携帯電話契約件数のシェアは次のようになっていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTTドコモ 5214万3700件 ・・・ 55.4%
 KDDI   2660万3100件 ・・・ 28.3%
 ソフトバンク 1533万0800件 ・・・ 16.3%
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     合計 9407万7600件 ・・・100.0%
―――――――――――――――――――――――――――――
 携帯電話の契約件数は、ケータイを使っている人の数をあらわ
していると考えてよいと思いますが、ケータイの利用者9408
万人という数字は、日本の人口1億2800万人の74%に当た
るのです。これは、仕事を持っている人のほぼ全員、外を歩いて
いる人の10人中8人がケータイを持っている計算になります。
 かつてこれほど普及した携帯端末はありません。しかも、ケー
タイの場合、文字通り肌身離さず持っているわけであり、相手が
どこにいても連絡がとれることになります。これは実に凄いこと
ではないでしょうか。
 それにしてもNTTドコモのシェアは実に55.4%――マー
ケティング的にいうと圧倒的なシェアです。まさに1人勝ちの状
態です。これに対してソフトバンクは16.3%であり、これは
勝負にならない差であるといえます。この状況でどのように戦う
のか――ソフトバンクの戦略には非常に興味があったのです。
 NTTドコモには、何といっても先行者利益があり、しかも、
NTTという巨大にして強力な通信会社をバックに持っているの
です。強いし、一番有利なポジションを占めていたといえます。
 それに加えてケータイ各社は、ポイント制や家族割引など、顧
客が他社に流出しない手を次々と打っていったのです。古くから
使っていればいるほど、会社を変更すると損になる仕組みを各社
競って作り上げていたのです。
 なかでも一番大きな壁は、会社を変更すると、電話番号が変わ
ることだったのです。これは利用している期間が長ければ長いほ
ど、大勢の人に番号の変更を知らせることが必要になり、やっか
いなことだったのです。下手をすると、ケータイの会社を変更す
ると、ビジネス上の大きなリスクを抱える恐れすらあったといえ
るのです。
 NTTドコモが現在のような圧倒的なシェアを獲得できたのは
その先駆者としての経営努力もさることながら、他社に変更する
と電話番号が変わるという壁に守られてきている点も無視できな
いと思うのです。
 しかし、その壁が2006年10月24日から外されることに
なったわけです。番号ポータビリティ制度(MNP)です。した
がって、この制度は、最大シェアを有するNTTドコモにとって
最大の危機であり、それ以外の会社にとって千載一遇のチャンス
ということになります。
 この場合、KDDI(au)とソフトバンクは攻めの戦略、N
TTドコモとしては守りの戦略をとることになります。最大シェ
アを有するNTTドコモとしては、全会社力を傾けて顧客の流出
を防ぐ必要があることになります。
 NTTドコモから見た場合、auやソフトバンクは自社に誘い
込む魅力的な戦略をとってくることははじめからわかっているこ
とであり、時間もあったのだから、それを無力化するような顧客
流出阻止戦略をそれこそ智恵を絞って考え出し、実行すべきだっ
たと考えます。
 しかるに、です。NTTドコモは、信じられないことにそれを
ほとんど何もやらなかったのです。やったのは、莫大なお金をか
けて有名タレントを使ったCMを頻繁に流しただけです。
 そうでなければ、長年NTTドコモのケータイを使い、PCの
通信環境としてかつてのISDNを採用し、それをフレッツAD
SL、さらにフレッツ光へと変更している私が、ソフトバンクに
変更するはずがないのです。そのくらい、NTTドコモは、MN
Pに対して、何もやっていないと思います。
 この千載一遇のチャンスにauとソフトバンクは、何をやった
のでしょうか。とくにソフトバンクを中心にして、このテーマを
来週から追ってみたいと思います。
 「ソフトバンクのユーザ同士の通話は無料にする」――これが
ソフトバンクの孫正義社長が、MNPスタートの前日に打ち出し
たキーとなる戦略です。
 孫社長はIP電話サービスをはじめるときにも無料サービスを
打ち出していますが、ケータイの場合の衝撃度はIP電話の比で
はないのです。しかも、これはNTTドコモはもちろん、auで
も実施不能の戦略なのです。   ・・・・ [通信戦争/01]


≪画像および関連情報≫
 ・番号ポータビリティ制度(MNP)とは何か
―――――――――――――――――――――――――――――
  番号ポータビリティは、携帯電話や固定電話などの電話の利
  用に際して、契約している電話会社(電気通信事業者)を変
  更しても、電話番号は変更しないまま、継続して利用できる
  仕組みである。番号持ち運び制度とも言われる。また、携帯
  電話については、MNP(Mobile Number Portability)とも呼
  ばれる。              ――ウィキぺディア
―――――――――――――――――――――――――――――

「予想外割」を発表する孫社長.jpg
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2007年01月09日

通話無料サービスの衝撃(EJ第1994号)

 「ソフトバンクのユーザ同士の通話は無料にする」――いくつ
かの条件付きではありますが、このソフトバンク戦略は、同業他
社であるNTTドコモやau、とくにドコモには絶対に真似がで
きないのです。なぜなら、シェア55%のNTTドコモがそれを
やったら、一番重要な収入源の電話料金が激減し、電話事業が成
り立たなくなってしまうからです。
 シェアが過半数を占めているということは、ケータイで誰かに
電話する場合、相手がドコモである可能性が高いということなの
です。したがって、それを無料にすると命取りになります。
 ところで、ケータイはもはや電話とはいえないのです。ケータ
イには次の3つがあります。料金は3つの使い方によって決まっ
てくるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.通  話
           2.Eメール
           3.パケット
―――――――――――――――――――――――――――――
 これについては改めて詳しく述べますが、ドコモは「通話」に
よる収入に一番重点を置いている企業なのです。したがって、多
くの限定条件付きならともかく、ソフトバンクのようなかたちで
の「通話無料」を打ち出すことはできないのです。これはauで
も同じことがいえます。
 これら3つのうち、最初から2と3を入れて論ずると、話がや
やこしくなるので、しばらく「通話」に絞って考えることにしま
す。なぜなら、これら3つのなかでは「通話」が一番重要だから
です。ケータイでメールやイターネット、音楽のダウンロードな
どをやらない人はいても通話をしない人はいないからです。ケー
タイは機能がどんなに進化しても電話であることには変わりはな
いからです。統計データがあるわけではありませんが、ケータイ
を通話専用で使っている人の割合は一番高いと思うのです。
 もし、ケータイを通話専用で使う場合、現在、どこの会社とケ
ータイの契約を結んでいる人でも、ソフトバンクケータイ宛の通
話が無料になるソフトバンクのサービスを利用するのが一番トク
になります。なぜなら、今までの通話のうち、ソフトバンクケー
タイ宛にかけていた分が無料になるからです。当たり前の話です
が、今までソフトバンクにかけていた分は有料だったからです。
 したがって、MNP開始寸前の孫社長の通話0円発表は、ドコ
モやauにとって衝撃的だったのです。そのため、ドコモの中村
社長は、一部上場の大企業の社長としては、いささか感情的な発
言をしています。彼は、ソフトバンク同士の通話はすべてが無料
ではなく、無料でない時間帯があると噛みついたのです。
 確かに、ソフトバンクのユーザ同士の「通話無料」には、次の
時間帯はユーザ同士であっても、「月に200分までは無料」だ
からです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  午後9時〜午前1時までの通話は月200分限度で無料
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように「一番大事なことが小さく書いてある」ことは確か
に問題ですが、これはケータイ各社の広告にもいえることであっ
て、ソフトバンクだけの問題ではないと思います。
 「ケータイ・ウォッチ」というサイトに出ている記事をご紹介
しておくことにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中村氏は「23日夜から言われっぱなしで、怒りすら覚える部
 分がある」と発言。ソフトバンクの新聞広告を持ち出して0円
 の表記と、孫社長の名前は大きく書いてあるが、大切な条件が
 小さく書いてある。ソフトバンクモバイルに移動したが、請求
 書を見て、こんなはずじゃなかったという人が増えることが心
 配。こういう出し方はフェアなのかどうか」などと語った。同
 氏がこれだけ他社を批判することは、これまでに例がなかった
 だけに、記者の間からも驚きの声が出ていた。
 http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/31710.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 考えてみると、普通の人は午後9時〜午前1時までは家にいる
ケースは多く、そのときは固定電話を使えばいいわけです。大半
の人にはあまり問題ではない制約であると思います。しかし、現
代の若者はこの時間帯で友達と長話をするということです。
 しかし、対ソフトバンクケータイ宛の通話を無料にするには、
もうひとつ大事な条件があるのです。中村社長はなぜこの点を問
題視しなかったのでしょうか。それは次の条件です。
―――――――――――――――――――――――――――――
      「ゴールドプラン」に入っていること
―――――――――――――――――――――――――――――
 ゴールドプランについては改めて詳しく述べますが、このプラ
ンに入っていないと、通話もメールも無料にならないのです。こ
のゴールドプラン――本来は月額基本料が9600円なのですが
2006年1月15日までに申し込んだ場合は、70%割引きの
2880円で加入できるというのです。もちろん、今後もこの料
金はコースを変更しない限り変わらないのです。
 ゴールドプランの加入によるソフトバンクケータイ宛の無料通
話サービスのヒントは、ウィルコムの「定額プラン」にあると考
えられます。しかし、ウィルコムはMNPの埒外にあります。
 ウィルコムの前身はかつてのDDIポケットであり、KDDI
の傘下に入っていたのです。総務省が主体となってケータイ各社
を集めてMNPを検討していたとき、DDIポケットはKDDI
の傘下企業であったため、代表を出せなかったのです。その後外
資に買収されてウィルコムになったものの携帯電話会社ではない
ということにされてしまい、今回のMNPから外されてしまった
のです。このウィムコムのユーザ同士通話無料サービスについて
は、明日のEJで述べます。   ・・・・ [通信戦争/02]


≪画像および関連情報≫
 ・景品表示法とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  景品表示法は一般消費者の保護及び公正な競争秩序の確保の
  見地から、昭和37年に独占禁止法の不公正な取引方法の規
  制を補完する法律として制定され、不当な顧客誘引行為のう
  ち、過大な景品類の提供や不当な表示をより効果的に規制す
  ることを目的としています。さらに、公正競争規約の制度を
  定め、公正取引委員会の認定を受けて、景品類又は不当な表
  示に関する事項について、業界が自主ルールを設定できると
  しています。
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年01月10日

0円戦略の元祖はウィルコム(EJ第1995号)

 通話無料サービスの元祖はウイルコムなのです。このウィルコ
ム――もともとKDDI傘下のDDIポケットというPHS最大
手の会社だったのです。
 KDDIの傘下にいるときのDDIポケットは、新規事業をや
ろうとしてもKDDIの意向を斟酌しながらやらなければならな
かったのです。まして、KDDIはauという携帯電話事業を有
しているので、少しでもauとバッティングする事業には手を出
すことができなかったのです。
 そういう状況のDDIポケットを救ったのは、カーライルとい
う米国の投資会社でした。カーライルは京セラと組んで、DDI
ポケットの株式を90%購入し、DDIポケットをウィルコムと
いう会社に生まれ変わらせたのです。これによって、ウィルコム
は、KDDIに気兼ねすることなく、自由に事業展開ができるよ
うになったのです。2004年10月のことです。
 このような経緯で2005年3月に発表したのが、「ウィルコ
ム定額プラン」なのです。このプランは、月に2900円でウィ
ムコムユーザ同士なら、通話無料というサービスです。毎日何時
間話しても無料なので、カップルや女子高校生間に爆発的に普及
したのです。最近は法人の採用も増えています。
 2006年8月末現在の契約数は419万100件と他のケー
タイ各社に比べて大きく見劣りはするものの、その契約の伸びは
急速であり、今後もさらに伸びる可能性があります。
 しかし、かつてPHSはつながりにくいという評価が下され、
各社がPHSから撤退するなかで、なぜウィルコムだけが定額制
を実現できたのでしょうか。
 それは同社が10年近い歳月をかけて築いてきた16万を超え
る基地局にあるのです。この全国16万基地局という数字は、現
在、NTTドコモのFOMAの基地局がせいぜい4万5000局
くらいでであることを考えるとき、それがいかに凄い数字である
かがわかると思います。
 PHSとケータイでは、基地局の設定の方式が違い、コスト的
にも低コストでできるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.マクロセル 方式 ・・・ ケータイ
     2.マイクロセル方式 ・・・  PHS
―――――――――――――――――――――――――――――
 マクロセル方式というのは、ひとつの基地局が広いエリアをカ
バーするものをいい、ケータイで使われています。これに対して
マイクロセル方式とは、多くの基地局で狭いエリアをカバーする
方式で、「アダプティブアレイ」という技術が使われています。
 ケータイで採用されているマクロセル方式では、電波はアンテ
ナを中心に同心円状に飛ばされるのです。つまり、トラフィック
が集中するわけです。トラフィックとはネットワークを流れる情
報量のことです。
 これに対してアダプティブアレイ技術では同心円状ではなく、
ユーザの多いエリアに集中して電波を飛ばし、トラフィックを分
散させるのです。それに加えて「空間多重」という特殊な技術も
使われており、それによってひとつの電波を複数のユーザが同時
に使えるようにしているのです。このように、PHSの技術はと
ても進んでいるのです。
 それに従来のPHSではバックボーンとして、NTTの専用線
を使っていたのです。バックボーンというのは、通信事業者間を
結ぶ大容量の基幹通信回線のことです。
 ところが、これに非常にコストがかかったのです。音声やデー
タ通信を行うたびに高いアクセスチャージをNTTに支払わなけ
ればならず、この負担によってDDIポケットは革新的な経営が
何もできなかったのです。
 そこで、ウィルコムはこのバックボーンをIP網に変更したの
です。これによってNTTに支払う高いアクセスチャージが不要
になり、定額制を実施できる財務基盤ができたのです。16万基
地局から成るマイクロセル方式のPHSは、基地局ひとつ当りの
負荷が少ないので、これをコストの安いIP網と組み合わせるこ
とによって、定額制に十分対応できるようにしたのです。
 このウィルコムの定額プラン――月額2900円の定額でウィ
ルコムのユーザ(070)同士の通話は何時間話しても無料なの
です。これはケータイにおけるはじめての通話の定額サービスと
いうことができます。
 それだけではないのです。ウィルコムの端末から、ケータイや
PCに配信するEメールもすべて無料なのです。月額2900円
の定額料金で、一切の制約条件なしで070同士の通話と、ケー
タイやPCへのEメールはすべて無料になるのです。
 ウィルコムは電話機というより、電話機能が付いたPDA(パ
ーソナル・デジタル・アシスタンツ)なのです。現在、ウィルコ
ムの端末として最新型は次の機種(添付ファイル参照)です。
―――――――――――――――――――――――――――――
          W−ZERO3[es]
―――――――――――――――――――――――――――――
 W−ZERO3[es]の上蓋を開けると、小さなカードが入っ
ています。これは「W−SIM」といって、この中にPHSのア
ンテナや通信制御機能、電話帳データなどが入っています。ウィ
ルコム端末の特徴は、この「W−SIM」と本体の組み合わせで
できているところにあります。端末を変更するときは「W−SI
M」を抜いて、それを新しい端末にセットすればよいのです。W
−ZERO3[es]は超小型PCそのものです。
 ソフトバンクは明らかにウィルコムの料金プランを意識して今
回の「0円戦略」を立てています。ソフトバンクでは、1月15
日までの新規加入者には、本来9600円(月額)のゴールドプ
ランの料金を70%引きにし、月額2880円にするとしていま
すが、これはウィルコムの2900円を意識した料金であるとい
えます。            ・・・・ [通信戦争/03]


≪画像および関連情報≫
 ・空間多重技術とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  無線通信の技術革新は目覚しく、近年ではGbps オーダの高
  速伝送を実現する研究開発が進んでいる。有線と無線との格
  差はなくなり、無線通信の応用領域は益々拡大することが予
  想される。時間・周波数・空間領域における多面的な電波伝
  搬特性を積極的に利活用することで,限られた無線周波数資
  源を有効に利用し,高速・高品質・大容量伝送を実現する高
  能率無線技術が注目を集めている。
         http://yoshida.kuee.kyoto-u.ac.jp/sp.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ウィルコム端末.jpg
posted by 平野 浩 at 04:43| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月11日

「ゴールドプラン」の狙いは何か(EJ第1996号)

 ソフトバンクの孫社長は、携帯電話事業についてつねづね次の
2つのことをいっています。そして、今回のMNPに当たっての
ソフトバンクの「0円戦略」は、それを改革するための第一歩で
あると宣言しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.ケータイの料金は非常に高過ぎる
     2.ケータイの料金体系は複雑過ぎる
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かにそれは事実であると思います。しかし、ソフトバンクの
「0円戦略」は、あまりにも発表後の変更が多く、とても褒めら
れたものではありません。その結果、孫社長の言葉と裏腹にソフ
トバンクの料金体系は複雑怪奇なものになってしまっています。
 話を複雑にしないために、ケータイの3つの要素――「通話」
「Eメール」「パケット」のうち、「通話」に絞ってここまで話
をしています。
 ここまでのことをまとめると、ソフトバンクケータイ宛の通話
が無料になるのは、「ゴールドプラン」に加入した人だけという
ことになります。「ゴールドプラン」の基本料金は月額9600
円ですが、1月15日までに加入すると70%引きの2880円
で加入できるのです。
 月額2880円の基本料金は、ケータイの基本料金としては、
きわめて低いレベルです。NTTドコモの料金プランでいうと、
ランクが一番下の「待受が多い/タイプSS」の3600円より
も安く、それでいて、ソフトバンクの最高ランクのコースに入れ
るのです。70%の割引きというのは、9600円の「ゴールド
プラン」に継続加入して、11年目に得られる最高の割引き率で
すが、それを加入と同時に得られるのです。
 それならば、1月15日までに「ゴールドプラン」に入った方
がトクということになります。なぜなら、それによってソフトバ
ンクケータイ宛の通話が無料になるからです。
 しかし、うまい話には必ず落とし穴があるものです。「ゴール
ドプラン」に入るには「新スーパーボーナス」に加入することが
条件になっているからです。
 「新スーパーボーナス」とは何でしょうか。
 「新スーパーボーナス」には、次の3つの特典があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.最新機種購入に大きな割引きがある
     2.加入月から最大2ヶ月間基本料無料
     3.3つのオプションの最大4ヶ月無料
―――――――――――――――――――――――――――――
 1は後で説明します。2は、「ゴールドプラン」に加入すると
基本料金が最大2ヶ月無料になる――つまり、2880円が2ヶ
月無料になるのです。
 3の3つオプションとは次の3つのサービスであり、これも最
大4ヶ月無料で付いてくるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     サービス    無料期間     月額料金
  パケットし放題   最大2ヶ月  月額1029円
  スーパー安心パック 最大3ヶ月  月額 498円
  スーパー便利パック 最大4ヶ月  月額 498円
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                   月額2025円
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記3つのオプションは、無料期間を過ぎると、基本料金に加
えて請求されます。そうすると、月額2880円といいながら、
実際はこれにプラスして4905円(2025+2880)が月
額基本料金となってしまうのです。
 しかも、「ゴールドプラン」の小さな文字のただし書きには次
のように書いてあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ゴールドプランは、新スーパーボーナスにご加入いただいてい
 るお客様のみ申し込みが可能な料金プランです。新スーパーボ
 ーナスが解約された場合、ゴールドプラン以外の料金プランへ
 変更していただきます。  ――「ゴールドプラン」説明より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、これは後から撤回されているのです。つまり、3つの
オプションは最初から付けなくても「ゴールドプラン」に加入で
きるし、無料期間が過ぎる前に解約しても「ゴールドプラン」を
維持できるようになったのです。
 それでは、「新スーパーボーナス」とは、一体何のためにある
のでしょうか。
 それは、端末を購入し易くするために存在するといってよいと
思います。MNPによって他社から移ってくる人は、ソフトバン
クの端末を購入しなければなりません。興味深いのは、「新スー
パーボーナス」で購入する場合、24ヶ月の分割支払いで端末を
購入することが条件となっていることです。
 何のためにそのような条件が付いているのでしょうか。
 それは最低限2年間はソフトバンクから他社に転出して欲しく
ないからです。しかも、2ヶ月の基本料金の無料期間があるので
すべて支払うのに26ヶ月かかるのです。その代わり割賦といっ
ても金利・手数料はソフトバンク持ちです。
 「新スーパーボーナス」の真の狙いは、高級端末――例えば、
ワンセグTV付き端末などをきわめてイージーペイメントで購入
できる制度なのです。このあたりのことについては、意外に外に
は漏れてなくて、実際にソフトバンクに乗り換えた人にしかわか
らないと思います。
 ソフトバンクは割賦の金利・手数料を負担するほか、相当高額
の割引きをするのですが、その割引額がいくらになるのかを伏せ
ているからです。この点については、明日のEJで具体的な例を
上げて詳しく説明します。    ・・・・ [通信戦争/04]


≪画像および関連情報≫
 ・「ゴールドプラン」関連のソフトバンクのCM
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「ゴールドプラン」の内容は、クラブ活動を行っているスポ
  ーツ女子大生4人が登場して次の会話をする。
  「試合の件は電話して」
  「いいよ。私にかけるとお金がかかるし」
  「あ、そっか。ソフトバンクじゃないんだ」
  「ごめん」
  「いいよ、悪いわけじゃないんだし」
              ――いじめCMとして話題になる
  ≪関連CM≫
        http://www.youtube.com/watch?v=0SKF54N0e6Y
  ―――――――――――――――――――――――――――

「ゴールドプラン」CM.jpg


posted by 平野 浩 at 05:13| Comment(1) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月12日

端末を入手しやすくさせるサービス(EJ第1997号)

 番号ポータビリティ制度――MNPの最大の目玉は、ケータイ
電話機(端末)だと思うのです。どうしてかというと、ケータイ
キャリア各社を変更するには必然的に端末を買い直さなければな
らないからです。
 その端末の最大の目玉は、時期的にやはりワンセグケータイで
あろうと思います。おそらく10月24日のMNPスタートまで
に、各社それぞれ魅力的な端末を用意すると考えていたのです。
 しかし、私の予想とは大きく違っていたのです。昨年12月の
時点までで、それぞれのキャリア各社が用意したワンセグ付き端
末は、NTTドコモはわずか1機種、auは2機種、ソフトバン
クは3機種だったのです。投入時期は、au、ドコモ、ソフトバ
ンクの順であり、どのように見ても一番遅く発売したソフトバン
クの端末が、デザイン、機能ともに一番良いと思われます。これ
は、明らかに意気込みの違いをあらわしていると思います。
 NTTドコモの中村維夫社長は、ワンセグ本放送開始の直前に
次のようにいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 通信と放送の融合にどのように取り組んでいくのかを探ってい
 きたい。今のサイマル放送では、ケータイはテレビ受像機のま
 まであり、ドコモにメリットはない。2008年のサイマル放
 送見直しで、どんなサービスができるのか、どんなビジネスモ
 デルが構築できるのかが、重要な課題だといえる。もし、テレ
 ビとは別の放送を流すことができれば、そこで新たな広告が獲
 得できたり、有料での放送を行うことも可能だ。
              ――NTTドコモの中村維夫社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するにワンセグケータイは、ドコモとしてメリットがないの
で、最小必要限度のことしかしない、と明らかに乗り気ではなく
事実その通りの対応をしています。この社長には完全に顧客から
の視点が欠けています。私は、中村社長のこの発言を知って、ド
コモを離れようと決意したのです。
 ちなみに「サイマル放送」というのは、ワンセグの放送内容と
して、2008年までは現在据え置き型テレビ向けに放送されて
いる番組を視聴できるようにする――そういう措置のことをいう
のです。2008年には見直しが行われるのです。
 現状では、ワンセグケータイ端末はあらゆる端末の中の最高機
種に位置づけられています。通常の端末に付いている機能にプラ
スして、ワンセグTV、音楽プレーヤー、お財布ケータイ、ブル
ーツゥースなど、すべての機能が付いています。したがって、価
格はどうしても5〜7万円もしてしまうのです。
 問題は、現実問題として5〜7万円の端末が売れるだろうかと
いうことにあります。一般の顧客が店頭で支払うケータイ端末の
価格はせいぜい2〜3万円でしょう。いまどき、7万円ならPC
だって購入できるからです。
 ところが「新スーパーボーナス」なら、誰でもリーズナブルな
価格で最高級のケータイ端末を手にすることができるのす。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ・機種/ソフトバンク911SH――アクオス・ケータイ
 ・価格/72480円
  72480÷24=3020 → 本来の1ヶ月の負担分
  3020−2280=740 → 実際の1ヶ月の負担分
―――――――――――――――――――――――――――――
 実際の例に基づいて説明します。ソフトバンクから提供されて
いるシャープ製のワンセグケータイ/911SHを選んだとする
と、価格は72480円になるのです。金利・手数料はソフトバ
ンクの負担ですから、それを24で割ると3020円――これが
実際の毎月の負担額ということになります。
 しかし、この3020円から毎月ソフトバンクが2280円を
負担してくれるのです。したがって、740円がワンセグケータ
イの月額負担分になります。つまり、24ヶ月間は基本料金であ
る2880円に740円を加えた3620円を支払うことになる
わけです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    740円×24=17760円
    72480円−17760円=54720円
―――――――――――――――――――――――――――――
 したがって、24ヶ月を払い終わると、ユーザの端末負担分は
17760円になります。この価格で最高級のワンセグケータイ
端末が入手できるのです。このケースのソフトバンクの割引きは
24ヶ月で、54720円ということになるわけです。
 ソフトバンクの割引き額はケータイ端末によって異なり、機種
によっては無料になるものもあるのです。要するに「新スーパー
ボーナス」は端末を買いやすくするためのサービスである――そ
う考えることができます。
 「新スーパーボーナス」の前身の「スーパーボーナス」は、上
記のケースでいう17760円を頭金として店頭で受け取って端
末を渡し、ユーザの毎月の負担分と同等額をソフトバンクで割引
いて、24ヶ月間続けるシステムだったのです。
 「新スーパーボーナス」は、その頭金を24回分割にして支払
うシステムにし、店頭では受け取らないようにしたのです。その
ため、店頭では1円も支払う必要がないので「お持ち帰り0円」
と称したわけです。
 ここまで、「通話」を中心にソフトバンクの「0円戦略」につ
いてご紹介してきましたが、これだけでも戦略の核心は見えるは
ずです。来週の月曜日は1月15日であり、「ゴールドプラン」
の締切日ですが、ソフトバンクは16日から「ホワイトプラン」
という新しいサービスをスタートさせようとしています。
 来週からは、もう少し全体的な立場から、ケータイによる通信
戦争について書いていきたいと考えています。これから壮絶な戦
いが始まるのです。       ・・・・ [通信戦争/05]


≪画像および関連情報≫
 ・ワンセグ放送とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  地上デジタル放送で行なわれる携帯電話などの移動体向けの
  放送。2006年4月1日放送開始。もともと技術的呼称と
  して1セグメント放送と呼ばれていたが、地上デジタル放送
  推進協会によって2005年9月にワンセグという名称が決
  定された。日本の地上デジタル放送方式では、1つのチャン
  ネルが13の「セグメント」に分割されており、これをいく
  つか束ねて映像やデータ、音声などを送信している。ハイビ
  ジョン放送は12セグメント必要だが、通常画質の放送は4
  セグメントで済むため、3つの異なる番組を1つのチャンネ
  ルで同時に放送することもできる。
  ―――――――――――――――――――――――――――

アクオスケータイ.jpg
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2007年01月15日

KDDIの勝因は何なのか(EJ第1998号)

 1月12日付の東京新聞によると、2006年の携帯電話純増
数は、KDDIの圧勝であったということです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        年間の純増/減       06年末シェア
 KDDI   253万0200台  28.7%(+1.3)
 NTTドコモ 184万8100台  55.0%(−0.9)
 ソフトバンク  37万9800台  16.3%(−0.5)
             ――2007.1.12/東京新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 新聞には、この表のほかにMNP関連として、次の数字が掲載
されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
              番号継続制度関連
      KDDI    46万4700台
      NTTドコモ ▲34万6000台
      ソフトバンク ▲11万7400台
―――――――――――――――――――――――――――――
 この数字は、一部概数であるとしているのですが、10月にス
タートしたMNPによって、KDDI、すなわちauがNTTド
コモから35万ユーザ、ソフトバンクから11万ユーザを奪って
46万ユーザを獲得したということを意味しています。
 序盤戦でKDDIが好調なのは確かですが、本当の意味でのM
NP関連のデータは3月末頃までの数値を見ないといえないと考
えます。それでは、KDDIはなぜ勝利したのでしょうか。
 それはイメージ戦略の勝利なのです。良い意味での「安い」と
いうイメージを作ったことに勝因があります。現在、ケータイの
料金は全般的には極めて割高です。これはソフトバンクの孫社長
のいう通りなのです。
 かつては固定電話が割高で、電話会社は多くの利益を稼ぎ出し
ていたのですが、それが崩れたため今度はケータイに参入し、同
じように利益を上げようとしているのです。日本のケータイ料金
は世界一高いのです。
 EJの今回のテーマを書くため、ケータイキャリア各社の料金
を精査したのですが、使い方の違いによって多少の差はあるもの
の全体としての料金はほとんど違いはないのです。とくにMNP
開始一年前くらいからその差はなくなってきています。
 その中にあってauは、独特のイメージ戦略をとってきている
のです。「auバイ・KDDI」というフレーズを私たちは何回
聞かされたのでしょうか。これで「auはKDDIなんだ」とい
うイメージが浸透したと思います。
 しかし、ケータイの通話料金で差を出すのは大変なのです。何
といってもケータイの通話料金はドル箱だからです。そこでau
はケータイの通話料金を表面に出さず、メールとパケットで勝負
する戦略を立てたのです。
 auは今では当たり前の「パケ割」を2002年10月から導
入しています。「パケ割」は「パケット割引」のことで、パケッ
ト通信料金が割安になるサービスです。そして、パケット料金が
定額になる「EZフラット」を2003年11月から開始してい
ます。ずい分早い仕掛けです。
 既にお話ししているように、ケータイには次の3つの要素があ
りとてもわかりにくくなっています。そこで、auはあえて2と
3を前面に出して強調する戦略をとったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.通  話
           2.Eメール
           3.パケット
―――――――――――――――――――――――――――――
 インターネットなどの通信は、データをパケットという単位に
分けて送受信するのです。いわゆるパケット通信方式です。NT
Tドコモの「iモード」のスタート当初は、メールもパケット制
だったのですが、ケータイ端末の性能が向上し、端末でウェブサ
イトを見たり、音楽データをダウンロードしたりするようになっ
たので、メールは1通当たりいくらで、送るデータの容量で課金
する現在の料金制が導入されたのです。
 2003年頃からケータイでウェブサイトを見たり、ゲームを
やったりするユーザが若者の間で広がり、そのためNTTドコモ
の「iモード」ユーザを中心に「パケ死」状態になる若者が急激
に増えたのです。「パケ死」とはパケット通信料金が高額になっ
て、ケータイ料金を支払えず、利用を中止されてしまう状態のこ
とをそう呼んだのです。
 この時期にauは、「パケ割」と月額4410円の定額料金の
「EZフラット」を投入したのです。もっとも月額4410円の
定額といっても、それにケータイの基本料金がプラスされるので
すから、けっして安い料金とはいえないのです。
 しかし、NTTドコモよりはかなり安かったので、「パケット
のau」という評価が広がったのです。MNP開始の3年も前の
話です。MNPがまだ話題にもならない頃、NTTドコモの独走
が続いていた頃からauは着実に手を打っていたのです。
 auの戦略にあわてたNTTドコモは、急遽月額4095円の
「パケ・ホーダイ」を導入します。2004年6月からスタート
したNTTドコモのサービスです。
 しかし、auの場合は、低コストのネットワークをあらかじめ
作ったうえで、料金値下げや定額制の実施に踏み切っているのに
NTTドコモの場合は、auに対する対抗措置としての性格が強
いのです。表向きは強気ではあるものの一部赤字覚悟の対抗措置
ではないかと業界関係者は見ているのです。
 そのため、「パケ・ホーダイ」を使えるのは、基本料金が月額
6982円以上の高額プランのユーザに限定したのです。相手は
若者なのです。NTTドコモはどういうユーザを対象にこのサー
ビスを考えたのでしょうか。   ・・・・ [通信戦争/06]


≪画像および関連情報≫
 ・auとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  au(エーユー)は、KDDIおよび沖縄セルラー電話の提
  供する携帯電話事業のブランドである。auブランドを開発
  した株式会社ジザイズによると、携帯電話を介し、様々な人
  やモノとの出会いが生まれ、その出会いを通じて全ての価値
  が集い合う世界の実現を「『会う』に始まり、『合う』に行
  き着く」という意味合いから「au」の2文字でシンプルに
  表現したと説明。一方でauによると、 access, always, ame
  -nityなどのAと、unique, universal,user などのUで構成
  されていると説明している。
  ―――――――――――――――――――――――――――

MNPスタート!!.jpg
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2007年01月16日

データ通信か通話かの選択(EJ第1999号)

 ケータイ自体の月額基本料金に加えて4410円の料金プラン
はいかにパケット使い放題とはいえ高すぎるといえます。まして
NTTドコモの「パケ・ホーダイ」にいたっては、月額基本料金
6982円プラス4095円、合計11077円という超高額料
金プランになってしまっています。
 ウェブサイトを見たり、音楽をダウンロードしたりするのは主
として収入の乏しい若者なのです。まして学生にとってはとても
支払える金額ではないと思います。このあたりかつてのインター
ネット利用の初期の頃を思い出します。
 これではいけないと考えたのが、KDDI・au事業企画部、
多田一国料金制度グループリーダーです。そして智恵を絞って考
え出したのが「ダブル定額」という仕組みです。これは、2段階
にわたる定額方式――第1段階2100円/第2段階4410円
――なのです。だから、「ダブル定額」というのです。
 つまり、あまりパケットを使わない月は2100円で済み、多
く使っても4410円以上はかからない――というわけです。し
かし、それでも高すぎると、多田一国グループリーダーは考えた
のです。ウェブサイトを見るといってもニュースを見たり、乗換
案内をする程度という人は多く、月額2100円はそういう人た
ちにとっては高すぎる料金といえます。
 そこで登場したのが「ダブル定額ライト」です。導入したのは
2005年5月のことです。これは、ダブル定額の2段階の下に
もう一段階作り、その段階を月額1050円としたのです。
 そして通常なら月額2625円かかるところを1050円、そ
れを超えても加算される通信料は通常の60%OFFTがプラス
されるだけで済むのです。しかし、累計が52500パケットを
超えるときは、4200円(4410円/税込み)で、後はいく
ら使っても4200円どまりとなる――これが「ダブル定額ライ
ト」の仕組みです。
 ケータイのユーザは、通話しかしない人と通話にプラスして動
画や音楽を大量にダウンロードする人の2極に分かれます。au
は、このどちらにも属さない中間層――通話が中心だが、ニュー
スや天気予報、乗換案内などをときどき使う人に対して、もっと
ネットを使ってもらうために「ダブル定額ライト」を効果的に訴
求できないかと考えたのです。
 そこで考え出されたのがCMなのです。まず、中間層に対して
「ダウンロード」という言葉を覚えてもらう必要がある――KD
DI・マーケティング本部の村山直樹宣伝部長は考えたのです。
そして、CMキャラクターとして投入したのが「仲間由紀恵・ウ
イズ・ダウンローズ」です。
 当時仲間由紀恵はTV映画『ゴクセン』で人気があり、その年
の紅白歌合戦で赤組の司会を務め、2006年にはNHKの大河
ドラマ『巧名が辻』で山内一豊(上川隆也)の妻千代を演ずるな
ど国民的な人気が高かったのです。
 この仲間由紀恵とまったくキャラクターの異なる次の2人を加
えたグループ――「仲間由紀恵・ウイズ・ダウンローズ」はau
のCMのために生まれた音楽グループなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        ヴォーカル :仲間由紀恵
        MC/ダウン:藤田 正則
        DJ/ローズ:井田  篤
―――――――――――――――――――――――――――――
 「仲間由紀恵・ウイズ・ダウンローズ」は音楽アーチストとし
て、「恋のダウンロード」と「恋は無期限」の2曲のヒットを飛
ばしましたが、あくまでauの宣伝用であり、既に解散していま
す。現存する音楽グループをCMに起用したのではなく、CMの
ために新たに音楽グループを立ち上げたのですから、奇抜な試み
といえます。これはauが打ち出した新しい音楽ビジネスモデル
「着うたフル」と密接な関係があるのですが、これについては改
めて述べます。
 このようなauの攻勢に対して、NTTドコモはデータ通信用
の回線を整備して「パケ・ホーダイ」を6982円以上の高額プ
ランから、すべてのプランに解放したものの、auは既に「ダブ
ル定額ライト」をやっているにも関らず、使っても使わなくても
いきなり定額の4095円になる魅力の薄い制度のままだったの
です。NTTドコモはとにかくデータ通信よりも通話で稼ぎたい
一心なのです。このあたりにMNPスタート段階において、au
の一人勝ちを生み出す原因があると思います。
 こういうauのデータ通信の諸施策が着実に効果を上げるのを
見ながら、NTTドコモが打った手が「ドコモダケ」だったので
す。「何とかドコモの料金プランを訴求したい」と考えたNTT
ドコモが打ち出した施策です。NTTドコモが一番力を入れてい
るのが「ファミリー割引/以下、家族割」です。「ドコモダケ」
はこれを訴えたものだったのです。
 シェア50%を上回るNTTドコモの場合、家族の誰かがドコ
モである可能性は高いのです。とくに一家の主人は仕事の関係も
あって、ドコモであるケースは高いです。ドコモはそこに目をつ
けたのです。
 最近は子供もケータイを持つ時代です。家族がドコモであれば
家族割が効き、大幅に料金が安くなるということになると、一家
の主人は当然家族にもドコモを持つように主張します。子供は親
にケータイ代金を持ってもらう関係上、あまり自分の意思を通せ
ないものです。また、MNPスタートにおいて、誰かがauと契
約したいといっても、家族割があるので抜けることは困難である
――したがって、家族割は効果的であるとNTTドコモは考えた
のです。
 このようにNTTドコモは、明らかに通話で稼ぐことを最優先
に考えていることがわかります。そのため、相対的にデータ通信
面はauに遅れをとる結果になるのです。そのため成人若者には
そっぽを向かれることになります。・・・・ [通信戦争/07]


≪画像および関連情報≫
 ・「ドコモダケ」のCM
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ドコモダケは、2005年1月に登場したNTTドコモの料
  金案内のCMやパンフレットなどに登場するキノコ型のマス
  コットキャラクター。現在、ドコモダケのストラップがゲー
  ムセンターの景品になるなど商品化も進んでいる。デザイナ
  ーはシンガタの黒須美彦、電通の原田睦子、東北新社の垣内
  美香。CMの共演は加藤あい。    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
仲間由紀恵 with ダウンローズ.jpg
posted by 平野 浩 at 04:39| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月17日

着うたフル/auの音楽戦略

 ケータイと音楽――もともと何の関係もなかったのですが、最
近では「ケータイ=音楽プレーヤー」の時代になっています。今
年に入って米アップルコンピュータは、携帯音楽プレーヤー「i
Pod」の機能を搭載した携帯電話を6月から米国で発売すると
発表しています。
 ケータイと音楽の最初の結び付きは「着メロ」だったのです。
電話やメールの着信音を自分の好きな音楽のメロディにする試み
です。ケータイ端末にも何曲かは入っていますが、ネットを通し
て自分の好きな曲のサワリの部分をケータイに取り込めるように
する――これが「着メロ」です。
 しかし、これでビジネスになるのは、その楽曲の著作権を持つ
作曲家と楽曲に加工を施すコンテンツプロバイダだけなのです。
とくにプロバイダは、著作権のない楽曲も使えるので、いくらで
も利益を出せる立場にあります。
 しかし、音楽ビジネスというものは、レコード会社、アーティ
スト、作曲家、作詞家、コンテンツプロバイダのすべてに利益が
出るようにしないと本当の意味で普及しないのです。
 そういうことで出てきたのは「着うたフル」なのです。「着う
たフル」――この奇妙な言葉の本当の意味は、実際にやっている
人でないと分からないでしょう。「着うたフル」を知るには「着
うた」を知る必要があります。
 「着うた」は携帯電話の着信音をMP3やAACなどのフォー
マット符号化された30秒程度の長さの楽曲にして提供するサー
ビスのことです。あくまで提供されるのは楽曲の一部ですが、歌
手の歌声が入っているのです。「着うた」は、2002年12月
にサービスを開始しています。
 「着メロ」と比べてもっと大きな違いがあります。「着うた」
は、楽曲の使用料が音源を所有するレコード会社にも支払われま
す。そのため、料金は「着メロ」よりも割高――1曲平均105
円程度になります。パケット数は「着メロ」で50キロバイト程
度ですが、「着うた」は、100キロバイトを超え倍以上になっ
ています。こういう背景を考えてauは「ダブル定額ライト」を
案出したのです。
 「ダブル定額ライト」の効果もあって、「着うた」は、開始以
来の3年間で3億ダウンロードを達成するなど、auとレコード
会社は有力な収益源を確保するまでになっています。
 これに対して「着うたフル」とは、携帯電話で従来の着うたを
1曲全部(だから「フル」)をダウンロードできるようにした音
楽配信サービスのことで、「着うた」の発展形です。
 「着うた」のときからそうなのですが、レコード会社は当初こ
そ「CDが売れなくなる」として反対していましたが、「着うた
フル」は、開始して以来大ヒットになり、2006年5月の時点
において、対応端末の台数は800万台を超え、累計のダウンロ
ード数は6000万回に迫っているのです。
 レコード会社にしても、CDの発売前に「着うた」をプロモー
ション用として無料で配信し、かえってCDの販売枚数を増やす
ケースも多くあり、この方式であれば、レコード会社、アーティ
スト、作曲家、作詞家、コンテンツプロバイダのすべてに利益が
上がる音楽ビジネスとして、本格的音楽配信市場が確立しつつあ
るといえます。ちなみに、「着うた」も「着うたフル」もソニー
・ミュージック・エンタテインメントの登録商標です。
 仲間由紀恵・ウイズ・ダウンローズによるauのCM曲「恋の
ダウンロード」と「恋は無期限」も「着うたフル」で配信され、
結果としてヒットにつながっているのです。
 なお、auは「着うたフル」が大ヒットすると、すぐ次の手を
打っています。それは「LISMO」です。これはケータイに取
り込んだ音楽ファイル――正確には「EZ(イージー)着うたフ
ル」をPCでバックアップできるサービスです。それにPCでも
「着うたフル」の楽曲を購入できるのです。
 しかし、PC単体では音楽を聴くことはできないのです。著作
権の関係からです。PCに収録した楽曲を聴くにはUSBを介し
てPCとケータイ端末を繋げば可能です。なお、他の端末をUS
Bに繋いでも再生はできないようになっています。しかし、アッ
プルが「iPod」機能付き携帯電話端末を出して参入してくる
と「LISMO」は苦しくなるはずです。
 『Web2.0時代のケータイ戦争/番号ポータビリティで激
変する』の著者、石川温氏によると、PC向けの音楽配信サービ
スは採算が合わないとして次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本レコード協会が発表した2006年度第2四半期の有料音
 楽配信売上実績によると、パソコン向けの音楽配信は、全体の
 10%しかない。残りの90%をケータイが占めているのだ。
 ちなみにモバイル配信の222億円のうち、実に7割以上が、
 auによるもの。いかにauが音楽でリードしているかがよく
 わかる。――石川温著、『Web2.0時代のケータイ戦争/
              番号ポータビリティで激変する』
             (角川ONEテーマ/そ−122)
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように見てくると、auがいかに若者に支持されているか
がわかると思います。通話のほかにケータイで音楽を聴こうと考
えるユーザにはauがお勧めであるといえます。それほど、au
は、この面に大きく力を入れており、他の2社との差別化はでき
ていると思います。       ・・・・ [通信戦争/08]


≪画像および関連情報≫
 ・「着うたフル」の認証キー
  ―――――――――――――――――――――――――――
  着うたフルは、電話番号が認証キーとなる。すなわち、ダウ
  ンロードを行った端末か、それと同じ電話番号を持つ端末で
  しか再生ができない。つまり、番号を変えずに機種変更すれ
  ば、機種変更後の端末でも楽しむことができる。ただし、機
  種変更後の端末が着うたフル対応機種の場合に限られる。な
  お、MNPで他社へ乗り換えた場合は、データの形式が異な
  るので着うたフルの引継ぎは出来ない。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

〓Ь????????.jpg
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2007年01月18日

NTTドコモとauの基地局の違い(EJ第2001号)

 今回のテーマ「ケータイ2.0/通信戦争」は、ソフトバンク
を中心に書くつもりでおります。しかし、ソフトバンクはケータ
イ・ビジネスには一番遅い参入であるので、その競合相手である
NTTドコモや auについて先に知っておく必要があります。
それに加えて、ケータイに関する専門用語などについても解説し
ていくつもりでおります。
 auが音楽を中心に見事なケータイ・ビジネスを展開している
のに対して、NTTドコモはどのような対応を今までしてきたの
でしょうか。
 MNPに利用しての転入・転出の数値においては、次のように
KDDIが圧倒的の一人勝ちであり、ソフトバンクとNTTドコ
モは純減になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  第1位 KDDI ・・・・・ 14万4800台転入超
  第2位 ソフトバンク ・・・  3万9600台転出超
  第3位 NTTドコモ ・・・ 10万9000台転出超
―――――――――――――――――――――――――――――
 この数表はどの新聞にも出ているのですが、実態を間違ってと
らえてしまう恐れがあります。例えば、上記のソフトバンク(正
確にはソフトバンクモバイル)の「3万9600台転出超」とい
うのは、MNPによって他のキャリアからソフトバンクに転入し
た数よりも、ソフトバンクのユーザがMNPを利用して他のキャ
リアに転出した数の方が多いこと――差し引き3万9600人の
マイナスになっているという意味であり、契約者数自体が純減し
たわけではないのです。
 全体としての契約者数の純増減でみると、契約者数は3社とも
純増しているのです。ちなみに、2006年12月時点でのケー
タイキャリア各社の純増減数(新規から解約を差し引いた純増減
数)をとっみると、次のようになります。12月の純増数ではソ
フトバンクはNTTドコモを上回っているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  第1位 KDDI ・・・・・ 29万7500台
  第2位 ソフトバンク ・・・  9万7000台
  第3位 NTTドコモ ・・・  8万7600台
      電気通信事業者協会(TCA)による調査
―――――――――――――――――――――――――――――
 KDDIは5ヶ月連続の首位であり、12月も他社に圧倒的な
差をつけています。しかも、KDDIの29万7500台という
数字は、2006年6月をもって新規加入の受付を終了している
ツーカーの数字(18万2100台減)を含んでおり、auに限
っていうと、47万9600台の純増なのです。
 それにしてもNTTドコモはどうしてしまったのでしょうか。
ドコモは純増数においては、ソフトバンクにも遅れをとっている
のです。これは、同社の3Gケータイである「FOMA」の戦略
の失敗に尽きると思います。
 ケータイには、その機能において、歴史的、発展的に次の分類
があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1世代/1Gケータイ ・・・ アナログ
 第2世代/2Gケータイ ・・・ デジタル/Eメールなど
 第3世代/3Gケータイ ・・・ デジタル/TV電話など
―――――――――――――――――――――――――――――
 FOMAは、NTTドコモの第3世代ケータイサービス名称で
あり、その技術規格名称は「W−CDMA」というのです。19
98年に当時の郵政省は「W−CDMA」を次世代携帯電話規格
の日本案としてITU(国際電気通信連合)に提出していたので
すが、なかなかスムーズには規格はまとまらなかったのです。
 しかし、NTTドコモとしては、3Gケータイの世界初にこだ
わって、世界共通仕様の結論が出る前であったのにもかかわらず
2001年10月にFOMAを見切り発車させたのです。
 結局国際規格としての一本化はできず、日本国内でも2つの標
準規格――W−CDMA/cdma2000の2方式が混在する結果
となっています。それにしても日本は少し急ぎ過ぎの感があるの
です。というのは、2005年の時点で欧米はまだほとんどが2
Gケータイであり、2001年10月に3Gケータイを出したの
は技術的に早過ぎる感があります。
 というのは、当時NTTドコモと端末メーカーが有していた技
術的ノウハウは2GケータイのPDC方式のものであり、3Gケ
ータイのW−CDMA方式のノウハウについては当然のことなが
ら当初はきわめて乏しいものだったのです。
 つまり、FOMAの場合、基地局との無線通信の制御やバッテ
リーの使い方などはPDC方式のそれとは全く違うものであり、
かなりの試行錯誤の期間を要したのです。また、基地局は一から
作る必要があり、2Gケータイの基地局は使えなかったのです。
 その結果として、基地局の不足から「圏外」が多くなり、つな
がりにくいとのクレームが殺到したのです。後で改めて述べます
が、FOMAの電波は従来のムーバの電波に比べると弱いため、
遮蔽物の影響を受け易かったのです。さらに、端末のバッテリー
はすぐ消耗してしまい、これもユーザの不信を買ったのです。
 これに対して、auの3Gケータイ化は、既設の基地局を生か
すという方針のもとに、従来の2Gの基地局を3Gにも使えるよ
うに改良したのです。この方式の場合、3Gケータイを持ってい
ると3G基地局のあるところでは3Gケータイとして、2Gの基
地局では2Gケータイとして機能するので便利です。
 したがって、auの3Gケータイでは「圏外」ということがほ
とんどなくなり、評判は上々だったのです。基地局の改良が進む
につれてシームレスにネットワークは拡大するので、スタートが
NTTドコモよりも遅かったもかかわらず、auは途中でドコモ
を追い抜いてしまったのです。FOMAの基地局がムーバ並みに
なったのは2006年からです。 ・・・・ [通信戦争/09]


≪画像および関連情報≫
 ・KDDI・ツーカーとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ツーカーとは、KDDIによる加入携帯電話サービスの呼称
  である。関東・東海・関西の3大都市圏を中心に、1.5G
  Hzの周波数帯のPDC方式を利用した移動体通信を提供し
  ている。ブランド名の「ツーカー」とは、「ツーカーの仲」
  「ツーカーな関係」といった言い回しで用いる「気心の知れ
  た人間関係」を指す。なお、2006年6月30日をもって
  新規加入の受付を終了している。また同年12月31日をも
  って機種変更用端末の販売も終了し、2008年3月31日
  をもってツーカーそのもののサービスも終了する。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ケータイ基地局.jpg

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2007年01月19日

送受信ともに課金されるケータイメール(EJ第2002号)

 既に何度も述べているように、ケータイの利用には次の3つが
あります。これからの話はケータイの料金に関わることなので、
きちんと読んでいただく必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.通  話
           2.Eメール
           3.パケット
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず、「通話」ですが、これは一般の固定電話と同じで、交換
機を経由しますので、話す時間に応じて料金がかかります。各社
によって料金は異なりますが、平均的には「30秒/20円(税
別)」程度かかります。この料金はかつての固定電話、「3分/
10円」と比べると、途方もなく高い料金であることをアタマに
入れておく必要があります。しかし、ケータイでも固定電話と同
じ感覚でかけてしまう人がとても多いのです。
 仮にケータイで3分間話したとしましょう。そうすると、3分
は180秒ですから、120円かかってしまうのです。固定電話
なら、これが10円以下で済むのですから、12倍も高いという
ことになります。5分なら200円、10分なら400円です。
仕事の電話なら、そのくらい話しているのではありませんか。し
たがって、ケータイで長話をすることは命取りです。
 このように考えると、もし、かける相手が同じキャリアなら、
何時間話しても無料(無料ではない時間帯もありますが)という
サービスがいかに有利であるかわかると思います。通話を無料に
することはキャリアにとっては大変なことなのです。
 次は「Eメール」ですが、メールで重要なことは、送信にも受
信にも料金が課金されることです。最近では、メールの文字数で
表現されていますが、基本的には1パケット当たりいくらという
料金計算になります。ちなみに1パケットは128バイト(半角
文字=1バイト、全角文字=2バイト)です。
 ごく常識的な理解では、送信時に料金がかかるのはわかるが、
受信時に料金がかかるのはわからんという人は多いと思います。
メールの受信についてはこんな話があります。
 福田康夫さんが官房長官をしていたときの話です。当時ケータ
イに迷惑メールがうんざりするほど着信していたのです。福田官
房長官のケータイも同様であったそうです。あるとき官房長官は
受信メールにも料金がかかるのを知って首をひねったというので
す。そこで、官房長官はNTTドコモの幹部を官邸に呼びつけ、
次のように聞いたそうです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、受信メールに金がかかるのか。ましてこっちに何も関係
 のないメールにまでなんで料金を払わなければならないのか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドコモの幹部は恐縮して、受信メールにも料金がかかる理由を
説明したのですが、官房長官にどうしても納得してもらえなかっ
たというのです。しかし、そのとき「迷惑メール」については早
急に対策を立てるようにという強い指示を官房長官から受けてし
まったのです。
 これを契機にケータイキャリア各社は、本気で迷惑メール対策
に乗り出し、現在ではほとんど解決しています。やればできるの
です。ところであなたは、ケータイメールではどうして受信にお
金がかかるかご存知でしょうか。
 NTTドコモの3Gケータイ(FOMA)のケースを例にして
全角20文字から全角5000文字までの送信と受信の料金を比
較してみます。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ≪FOMA≫      送信    受信
     全角  20文字  1.9円  2.7円
     全角  50文字  2.1円  2.9円
     全角 100文字  2.5円  2.9円
     全角 250文字  3.8円  3.6円
     全角1000文字  9.9円  6.1円
     全角3000文字 26.0円 13.0円
     全角5000文字 42.0円 20.0円
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見ると、文字数が少ないときは送信料よりも受信料の方
が高く、文字数が多くなると、逆に送信料の方が受信料よりも高
くなっています。どうしてこのようなことになるのでしょう。
 これについては、ケータイメールの送受信のメカニズムにかか
わることなので改めて述べますが、Jフォン(現在のソフトバン
クモバイル)は、ボーダフォン時代を通して一貫して受信料は無
料(一定文字まで)なのです。
 ところがドコモの2Gケータイ≪mova≫については、FOMA
より送信料が高いのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ≪mova≫        送信    受信
     全角  20文字  1.0円  1.0円
     全角  50文字  1.6円  1.0円
     全角 100文字  2.3円  1.3円
     全角 150文字  3.8円  1.6円
     全角 250文字  4.5円  2.3円
―――――――――――――――――――――――――――――
 どうしてこのようなことが起こるのかというと、それは周波数
の帯域幅ということに関係があります。周波数はわかりにくい話
なのですが、ケータイを理解するには避けて通れないので、これ
についても、号を改めて説明します。
 NTTドコモは、受信料無料でJフォンに攻められたときFO
MAだけはパケット料金を割り引いて、≪mova≫からFOMAへ
の移行を呼びかけたのです。この戦略は功を奏し、かなりの加入
者があったといいます。     ・・・・ [通信戦争/10]


≪画像および関連情報≫
 ・Jフォンについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1997年2月、東京デジタルホンがコミュニケーションネ
  ーム「J-PHONE」を使用開始。 1998年3月、イメージ・
  キャラクターに藤原紀香や優香やフェイ・ウォンを起用した
  CMや広告が流れ、OLなど女性を中心にブームが起きる。
  1999年8月、日産自動車の経営不振でそれまで保有して
  いたデジタルホン3社を有する日本テレコム(現・ソフトバ
  ンクテレコム)に譲渡。1999年10月、デジタルツーカ
  ー各社が「ジェイフォン」(J-フォン)を冠した商号に変更
  し、全国統一ブランドとなる。
 ・藤原紀香のCMを見たい人はどうぞ!!
        http://vision.ameba.jp/watch.do?movie=65953
  ―――――――――――――――――――――――――――

藤原紀香のJフォンCM.jpg
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2007年01月22日

なぜ、受信にも課金されるのか(EJ第2003号)

 ケータイメールは送信時と受信時の両方に料金がかかる――こ
のことをケータイ利用者はあまり問題にしません。もしかすると
そのことを知らないのかもしれません。細かな話でもありますし
関心のない人が多いのかもしれません。
 ケータイキャリア(携帯電話会社)もパンフレットなどには、
この事実をはっきりとは書いていません。きちんと書いているの
は――小さい字ではありますが、NTTドコモぐらいでしょう。
 19日のEJの最後にご紹介したNTTドコモの≪mova≫の例
を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ≪mova≫        送信    受信
     全角  20文字  1.0円  1.0円
     全角  50文字  1.6円  1.0円
     全角 100文字  2.3円  1.3円
     全角 150文字  3.8円  1.6円
     全角 250文字  4.5円  2.3円
―――――――――――――――――――――――――――――
 どうして送信の料金が受信より高くなるのでしょうか。この料
金表にもあるように、最近ケータイメールは文字数で料金を徴収
していますが、本来料金はパケットで計算されているはずです。
パケットについては次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1パケット当たりの料金=0.3円
    1パケット=128バイト(128Bと表記)
    半角文字=1B/全角文字=2B
―――――――――――――――――――――――――――――
 「18時30分の準急に乗ります。山本」――仮にケータイで
このようなメールを送ったとします。全角17文字ですが、それ
以外のメールヘッダの部分もカウントされますので、50文字以
内として送信料金は1.6円、送信先が受信すると受信料として
1円が送信先の負担になります。
 しかし、現在でも1パケット当たり0.3円しかかかっていな
いはずです。そこでパケットで計算してみましょう。全角17文
字は、1文字2バイトになるので34バイトです。それにヘッダ
部分が仮に20バイトかかったとすると54バイト――128バ
イトまでは0.3円ですから、送信料金は0.3円なのです。そ
れを1円とっているわけです。
 しかし、実際はこうならないのです。少し専門的な話になって
しまいますが、≪mova≫の場合、送信時は本文をそのまま送るの
ではなく、「URLエンコード」という方式で本文を符号化して
送信しているのです。
 「URLエンコード」とは何でしょうか。実際の例を使って説
明します。「携帯電話」という文字列を「URLエンコード」で
符号化してみます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      携帯電話=%B7%C8%C2%D3%C5%C5%CF%C3
―――――――――――――――――――――――――――――
 わけのわからない文字が並んでいますが、決められたルールで
文字列を変換しているだけです。このようにして送る理由は、端
末の能力に問題がある場合です。
 「携帯電話」は全角4文字で8バイトですが、URLエンコー
ドで符号化すると半角が24個の文字列になり、8バイトが24
バイトに膨れ上がってしまいます。これにメールヘッダ部分を加
えると相当大きなバイト数になるはずです。これについては、次
のサイトを参照されるとよいでしょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
    http://www.age.jp/~busters/price_hikaku.htm
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、URLエンコードで送ったとしても128バイト以上
にはならないはずです。それに受信時はURLエンコードに変換
せず、そのまま(シフトJISという方式で)送信されるので、
送信の方が受信よりも高くなるというわけです。
 さて、どうしてケータイメールの受信に課金されるのかについ
て説明します。しかし、これに関してはキャリア各社は説明して
いないので、正確でない部分があるかも知れませんが、一応書く
ことにします。間違っていればご指摘ください。
 ケータイメールがどのようにして相手に届くのか−−概略を述
べると次のようになります。AさんがBさんにケータイメールを
送る場合を考えます。AさんとBさんはNTTドコモの「iモー
ド」同士であるとします。
 Aさんのメールは無線を利用して近くの基地局を経由して交換
機に入り、「iモードセンター」に届きます。センターには会員
のデータベースがあるので、センターは宛先であるBさんの情報
をデータベースから入手し、Bさんの現在位置を割り出します。
そして現在位置に近い交換機と基地局を経由して無線でBさんの
ケータイに着信通知を出すのです。これによって、Bさんは受信
操作をしてAさんからのメールを自分のケータイに取り込むので
す。これが同じキャリア同士のメールの送受信です。
 それでは、BさんがNTTドコモではなく、他のキャリアの場
合、「iモードセンター」に届いたAさんのメールは、Bさんの
属するキャリアのセンターに送信されます。そして、同様の手順
でそのセンターはBさんの現在位置を割り出し、交換機と基地局
を経由して無線でBさんのケータイにメールを届けるのです。
 この場合、Aさんは送信料をNTTドコモから徴収され、Bさ
んは受信料を自分の属しているキャリアに徴収されます。つまり
送信と受信は完全に切り分けられているのです。この方式なら、
メールの宛先が他のキャリアであっても送信と受信の料金の徴収
はうまくいくことになります。
 ケータイメールが受信する側でも料金がかかる理由は以上の通
りです。             ・・・ [通信戦争/11]


≪画像および関連情報≫
 ・URLエンコードとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ヤフー!など検索エンジンで検索すると、URLに検索単語
  が記号化された感じで表示されますが、これをURLエンコ
  ードといいます。URLエンコードとは、URLとして用い
  てよい文字のみになるように文字列をエンコード(変換)す
  ること。例えば、空白文字は+、チルダ(〜)記号は%7E
  に変換されるという意味です。
  http://www.bousaid.que.jp/software/urlencode/index.php
  ―――――――――――――――――――――――――――

ケータイメールはどのように届くか.jpg

posted by 平野 浩 at 04:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月23日

パケットは歯止めをかけて使うべし(EJ第2004号)

 「通話」と「Eメール」については、重要なポイントは説明し
ました。次は「パケット」です。ケータイでネットにアクセスし
たり、ソフトや音楽をダウンロードしたりする――そういうとき
に「パケット」が問題になってきます。
 そのようにいうと、「自分はケータイでネットはやらない」と
宣言して、パケットに何も関心を持たない人がいるものです。中
高年層の人にそういう人が多いは大変残念なことです。
 何も無理にケータイでネットをやる必要はないですが、パケッ
トについては知っておくべきです。まして、あなたがもし一家の
家計を握る責任者だとしたら、パケットについて知っておかない
と、大変なことになってしまうでしょう。
 今や子供がケータイを使う時代であり、彼らは間違いなくネッ
トを使うにきまっています。そういうとき親が、パケットについ
ての知識がないと、子供のケータイの利用に歯止めをかけられな
くなります。ケータイでのネットの利用は、ひとつやり方を誤る
と莫大な課金をされることになるからです。
 インターネットはパケット通信といって、情報はパケット単位
で送受信されます。1パケットの大きさを知っておきましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1パケット=128B(バイト)
―――――――――――――――――――――――――――――
 1パケットは128バイト、漢字やひらがななどの全角文字は
2バイトであり、アルファベットや数字などの半角文字は1バイ
トです。したがって、1パケットは日本語64文字がひとかたま
りとなったものです。
 先日、ケータイではネットをやらないといっている人がニュー
スのヘッドラインを表示したり、料金表示をしたり、乗換案内を
使っているのを知ってびっくりしたことがあります。それらはす
べてネットを使わないとできないことなのですが、本人はネット
だと気がついていないのです。困ったものです。
 こういうものはすべてパケットに換算され、それに応じて料金
が課金されるのです。NTTドコモを例にとって、どのくらいの
料金になるか示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ニュースのヘッドラインを表示 ・・・・ 39〜40円
  銀行の残高照会 ・・・・・・・・・・・ 81〜82円
  株価を検索する ・・・・・・・・・・・ 48〜49円
  エアラインの空席照会 ・・・・・・・・ 65〜66円
  タウンページで店舗検索 ・・・・・・・ 56〜57円
  グーグルなど検索を利用 ・・・・・・・ 30〜31円
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この程度のことであれば大したことではないのです。
「着うたフル」などで音楽を一曲ダウンロードするとどうなるか
計算をしてみましょう。
 FOMAの場合、通常は1パケットあたり0.21円となって
います。これを見て、なぁんだ、1円以下の話じゃないか、大し
たことないと考えてしまうと、大変なことになります。
 音楽ファイルはいくつかの形式がありますが、「MP3形式」
というのがよく使われます。そこで、これを使って計算してみま
す。音楽一曲が5分程度であるとすると、大体5MBの大きさに
なります。計算結果は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   5MB=5120KB 1KBは1024Bなので
   5120×1024=5242880B
   1パケット=128Bなので
   5242880÷128=40960パケット
   40960×0.21=8602円
―――――――――――――――――――――――――――――
 驚くなかれ、音楽一曲をダウンロードすると、FOMAの場合
8602円になります。なお、これはNTTドコモに支払う料金
であり、音楽を購入するお金は別にかかるのです。CDならゆう
に2枚買えてしまう価格です。もし、ケータイ代金が親持ちの場
合、子供に何曲もダウンロードされると、たちまち数万円になっ
てしまいます。
 ここにパケット定額サービスの意義があるのです。FOMAの
ケースでいうと、音楽ファイルが5MBの場合、「パケットパッ
ク30」では、2219〜2220円で済むことになります。し
かし、それでも高いとは思いませんか。
 ちなみに「パケットパック30」の料金は月額3150円であ
り、パケット代が0.0525に下がるのですが、定額ではあり
ません。定額の「パケ・ホーダイ」にする場合は月額4095円
を支払う必要があります。しかし、「パケ・ホーダイ」でも、i
モード以外は、1パケットにつき0.021円を支払うことにな
ります。これに加えて基本料金と電話代がかかるのです。これで
は「パケ死」が起きるわけです。
 はっきりしていることは、ケータイで音楽を聴くことはやめる
ことです。CDを購入して「iPod」で聴くのがはるかに安上
がりです。電話に何でもやらせるのは考えものです。
 しかし、キャリア各社もいろいろな手でパケットを使わせよう
としてきます。それが「無料通信」です。例えば、上記FOMA
の「パケットパック30」では、無料通信分が月に3000円付
いています。「パケットパック30」の基本料金が3000円で
無料通信分が3000円――そそっかしい人は、基本料金は結局
無料になると思ってしまいます。
 ぜんぜん違うのです。無料通信分は使わないと意味がなく、そ
の金額は2曲分にも満たないのです。無料通信分などというわか
りにくい言葉を使わず、「1曲無料」とする方が良心的であると
思います。NTTドコモとauは、無料通信分のオンパレードで
高額な料金を隠しているといわれても仕方がないと思います。パ
ケットの怖さを理解できたでしょうか。・・ [通信戦争/12]


≪画像および関連情報≫
 ・パケットとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  コンピュータ通信において、送信先のアドレスなどの制御情
  報を付加されたデータの小さなまとまりのこと。データをパ
  ケットに分割して送受信する通信方式を「パケット通信」と
  呼ぶ。データを多数のパケットに分割して送受信することに
  より、ある2地点間の通信に途中の回線が占有されることが
  なくなり、通信回線を効率良く利用することができる。また
  柔軟に経路選択が行なえるため、一部に障害が出ても他の回
  線で代替できるという利点もある。
  ―――――――――――――――――――――――――――

着うたフル/auのサイトより.jpg
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2007年01月24日

なぜ、ホワイトプランを導入したのか(EJ第2005号)

 ケータイの料金に深く関係する3要素――通話、Eメール、パ
ケットについての基本的な説明は前回までで終了しています。続
いて、現在の日本の携帯電話業界の現状を理解し、今後の展開を
予測するために必要な通信の基礎知識についての説明に入るので
すが、その前にソフトバンクが1月5日に急遽発表した「ホワイ
トプラン」(1月16日スタート)について述べておきます。
 1月17日発行の『夕刊フジ』に、次の衝撃的なトップタイト
ルが出たのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        危うい/ソフトバンク激安設定
    ―― 債権者の金融機関からブーイング ――
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでいう「ソフトバンク激安設定」が「ホワイトプラン」な
のです。「ホワイトプラン」の特徴をまとめてみます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.1時から21時まではソフトバンク携帯電話宛の通話は何
   時間話しても無料
 2.ソフトバンク携帯電話宛のメールは無料。他社へのメール
   は3円〜200円
 3.それでいて月額基本料金は980円。ソフトバンク・ユー
   ザのコース変更可
 4.ホワイトプランに新スーパーボーナスを付けると、端末の
   大幅割引き購入可
―――――――――――――――――――――――――――――
 月額基本料金は980円――これは他のキャリアのどのコース
よりも安いのです。NTTドコモとau両社の最も安いコースは
「タイプSS」(ドコモ)「プランSS」(au)は、月額37
80円(税込み)ですから、比較にはなりません。
 ドコモやauのあらゆる割引きが行われた後の月額基本料金で
も、1000円以下にはならないのです。それに加えて、対ソフ
トバンクへの通話やメールも無料というのですから、他社には価
格的には対抗不能です。
 それでは、月額基本料9600円を70%引きにして2880
円にした「ゴールドプラン」とどこが違うのでしょうか。違いは
たったのひとつ、午後9時から午前1時までについての料金が異
なるだけです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪21時から1時まで≫
 ゴールドプラン ・・・・・ 21円/30秒(税込み)
 ホワイトプラン ・・・・・ 200分/月間までは無料
―――――――――――――――――――――――――――――
 この21時から1時までという時間ですが、年代層によって認
識が異なるのです。中高年層ビジネスマンであれば、午後9時以
降は家にいる可能性が高く、固定電話もあるので、ケータイを最
も使わない時間帯ですが、高校生や若年層ではこの時間帯の通話
が最も多いのです。
 それからもうひとつ「月200分までは無料」というサービス
の受け止め方です。マスコミでは、200分を30で割って「一
日たったの6分強」というように、その少なさを訴えていますが
果たして本当にそうでしょうか。
 確かに「一日6分」というように6分を強調すると少ないよう
に感じますが、それは毎日一日も欠かさずこの時間帯に電話をか
けたときの話であり、200分はかなりの時間なのです。ソフト
バンクには前から、「月200分までは無料」というサービスが
あったのですが、ほとんどのユーザが使い切れず、大幅に残して
しまうことがわかっています。したがって、孫社長としては「月
200分までは無料」を大きなサービスとして位置づけ提供した
つもりだったのです。
 しかし、「ゴールドプラン」のユーザ――かくいう私もそうで
すが――としては「月200分までは無料」のために月額980
円で済む基本料金を2880円支払うのは得策ではないといえる
でしょう。1900円も安くなるのですから。
―――――――――――――――――――――――――――――
       2880円−980円=1900円
―――――――――――――――――――――――――――――
 したがって、現在「ゴールドプラン」に入っているソフトバン
クのユーザは速やかに「ホワイトプラン」に変更することをお勧
めします。そのうえで「パケット放題」をプラスしても1000
円ほど安くなってしまうからです。
 それでは、ソフトバンクはどうして「ホワイトプラン」を導入
したのでしょうか。
 当初の計画では孫社長としては、「ゴールドプラン」の激安提
供を1月15日で打ち切りたくなかったのです。しかし、銀行団
との約束でこのプランは15日までということになったのです。
 ソフトバンクは、身の丈を超えるボーダフォンの買収にボーダ
フォンの事業資産を担保にLBO(レバレッジ・バイ・アウト)
ローンで短期の資金調達を行っています。そして、昨年11月末
にこの借り換えを行ったのです。
 ソフトバンクモバイル(旧ボーダフォン)の全資産を担保とし
携帯電話事業が創出するキャッシュフローを裏付けとする事業証
券化で1兆4500億円もの資金調達を行ったのです。つまり、
将来の事業収益も借り入れの裏付けとしたことになります。
 事業証券化には詳細なる負債返済スケジュールが銀行団に提出
されており、それに付随する種々の約束事があったるはずです。
そのひとつとして「ゴールドプラン」の激安提供を1月15日ま
でとすることもあったと考えられます。しかし、MNPスタート
当初のシステムダウンや広告のクレームなどがあって、想定より
契約数が伸びなかったので、より刺激の強い「ホワイトプラン」
を出したのではないかと考えられます。これなら、銀行団のブー
イングはあり得ることです。    ・・・ [通信戦争/13]


≪画像および関連情報≫
 ・ソフトバンクモバイルの財務制限条項について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  詳細な負債返済スケジュールをはじめ、最大設備投資額、E
  BITDAの目標値などさまざまな条件が明記されている。
  たとえば、携帯電話の契約者数目標は2019年まで四半期
  ごとに詳細な設定がなされている。「マネジメントケース」
  が経営陣の設定した事業計画で「ミニマムケース」が今回の
  事業証券化スキームにより合意した借り入れ返済の最低水準
  となる。このミニマムケースを割り込むと貸し手の管理が厳
  しくなってしまう。
     ――『週刊東洋経済』2006年11月25日号より
  ―――――――――――――――――――――――――――

ホワイトプランを発表する孫社長.jpg
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2007年01月25日

携帯電話の歴史を振り返る(EJ第2006号)

 日本の携帯電話事業の現状を理解するためには、現在までの歴
史的経緯を掴んでおく必要があります。そこで、現在のNTTド
コモ、au、ソフトバンクモバイル3社による競合時代になるま
での経緯を簡単に述べることにします。ただし、PHSについて
は省略します。
 携帯電話の歴史をさかのぼると、1979年の自動車電話が最
初であることがわかります。この自動車電話からアナログ携帯電
話までを第1世代(1G)というのです。この自動車電話はきわ
めて高かったのです。
 保証金20万円、加入料金8万円、基本料金3万円、そしてき
わめて高額な通話料と、とても庶民が手を出せるものではなかっ
たのです。当時自動車電話付きの車を持っていることは一種のス
テータスだったのです。
 1985年に電気通信事業が自由化されたのです。日本電信電
話公社が日本電信電話株式会社(NTT)となり、同時にバッテ
リー部分を肩から吊るして持ち運ぶショルダーフォン100型が
登場したのです。
 1987年になってはじめて独立型のTZ−802型の携帯電
話機が登場します。肩から吊るさないと重かったバッテリー部分
と本体部分を軽量・小型化したのです。このときの重量は9OO
グラム、続くTZ−803型では640グラムまで軽量化されて
います。現在の携帯電話の元祖的存在といえるでしょう。
 さて、自由化が行われると、日本移動通信(IDO)と関西セ
ルラー(DDIなど)が新規参入してきます。その時点でNTT
は既に全国展開していたのです。このとき当時の郵政省は、実に
不思議な決定を行ってたのです。
 郵政省は、「携帯電話会社は1地域2社まで」という方針を打
ち出したことです。既に民間会社になっているNTTを助けたか
たちになったのです。地域の担当は次のようになったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   関東・甲信・東海地方 ・・・ NTT IDO
   それ以外の地域    ・・・ NTT DDI
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、これはどうみてもNTTが有利であり、とくに出張の
多いビジネスマンなどはこぞってNTTを採用したのです。本当
に新規事業者を育てようとするなら、このような地域制限はする
べきではなかったのです。
 この決定は日本の携帯電話事業の発展を阻害するいろいろな問
題を引き起こしたのです。この当時はアナログ方式だったのです
が、郵政省が地域制限をしたことと米国の露骨な介入によって、
HICAP方式とモトローラ方式(TACS方式)という互換性
のない2つの方式の混在を生んだのです。
 1992年NTTから移動体通信部門が分社化し、NTTドコ
モが誕生します。同社はNTTが10年以上かけて整備してきた
サービスエリアをそのまま引き継いだのですから、他のキャリア
に比べて圧倒的に有利であったといえます。
 一方、IDOとDDIセルラーグループは、2OOO年7月に
auとして統合したのです。auという名前はここではじめて出
てくるのです。2000年10月にそのauがKDD、第二電電
と合併してKDDIとなったのです。
 そして、アナログ方式の携帯電話の利用者が180万人台を突
破した1993年に携帯電話の世界にデジタル化の波が襲ってき
たのです。これを第2世代(2G)といいます。問題はどの周波
数帯を使うかです。郵政省はアナログ方式で使用していた800
MHz帯にデジタル方式を導入することに決めたのです。
 しかし、そのとき800MHz帯はいろいろなものに使われて
いて非常に混んでいたのです。そんな状況に対応するために政府
は800MHzに加えて、1.5GHz帯をデジタル方式専用に
割り当てることにしたのです。これに参入したのが、NTTドコ
モグループに加えてデジタルフォンとツーカーだったのです。
 このデジタルフォンとツーカーは、携帯電話事業の第2陣とし
て参入してきたのです。1994年のことです。それぞれの主要
株主は、デジタルフォンは日本テレコム、ツーカーは日産自動車
だったのです。
 しかし、それぞれ単独では開拓が厳しいということで、郵政省
の指導で、デジタル・ツーカーグループとして事業を行うことに
なったのです。しかし、1999年8月に日産自動車は経営不振
で、本業に関係ない事業から撤退することになり、日産が保有し
ていたツーカーの株式を日本テレコムにすべて売却したのです。
 それを契機にデジタル・ツーカーグループは、1999年10
月、Jフォンと名称変更したのです。Jフォンは「写メール」を
成功させるなど健闘したのですが、そのJフォンを傘下におさめ
たのがボーダフォンなのです。そして、しばらくの間、NTTド
コモとKDDI(au)、それにボーダフォン3社の競合の時代
が続くのです。
 しかし、ボーダフォンは設備投資を控えて、あまりにも利益に
こだわったため業績が伸びず、大きくシェアを伸ばすことはでき
なかったのです。そして、2006年にそのボーダフォンを買収
したのがソフトバンクなのです。そのとき、ソフトバンクの孫社
長は、次のようにいっていたといわれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の携帯電話事業は既存の3社で一兆円以上もの営業利益を
 稼ぎ出している。まさに、利益のプライベート・クラブ。そん
 な仲間にわれわれも入れる。  ――孫正義ソフトバンク社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、孫社長が携帯事業をやるといい出したのは、野田聖子
衆議院議員が郵政大臣をやっていたときであり、その頃から大変
な苦労のすえ携帯電話事業参入を果たしているのです。他の2社
は、そんな孫社長率いるソフトバンクの参入をひそかに恐れてい
たのです。          ・・・・・ [通信戦争/14]


≪画像および関連情報≫
 ・日本最初の携帯電話機/TZ−802型
  ―――――――――――――――――――――――――――
  NTTにとって初めての携帯電話サービスが開始されたのは
  1987年(昭和62年)4月のことです。この新サービス
  に伴って発売された携帯電話1号機「TZ−802型」は、
  体積500CC、重量約900グラムと重く決して、手軽な
  携帯電話ではありませんでした。しかし、携帯電話専用機と
  なり、1987年(昭和62年)は名実ともに携帯電話の始
  まりの年になりました。携帯電話第1号機登場後、契約者の
  増加に対応するため大容量方式が導入され、それに伴う新機
  種端末の開発も進められ、1989年(平成元年)2月に発
  売した新端末「TZ−803型」は重量640グラムを実現
  しました。   ――NTTドコモ歴史的展示スクエアより
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年01月26日

なぜ、800MHz帯にこだわるのか(EJ第2007号)

 携帯電話が固定電話と比べて難しいのは、無線を使う点にあり
ます。無線通信を行うには「無線基地局(以下、基地局)」とい
うものが必要になります。
 ひとつの基地局から電波を発信したときに届く範囲は狭い範囲
に限られています。その基地局から電波の届く範囲のことを「セ
ル」というのです。このセルをめぐって、既存の通信事業者と新
規参入の通信事業者との間で大きな争いの原因になるのです。
 セルの大きさは、基地局から送信される電波の出力と周波数に
よって次の3つに分類されます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.マクロセル  ・・・ 半径数キロ メートル以上のもの
 2.マイクロセル ・・・ 半径数100メートル以上のもの
 3.ピコセル   ・・・ 半径数10 メートル以上のもの
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中で一番多いのが「マイクロセル」――人口密度の高い都
市部に多く置かれている基地局です。これに対して人口密度の低
い郊外などでは「マクロセル」が使われます。「ピコセル」とは
イベントホールや地下街などで使われる基地局です。
 日本では、いわゆる2Gの携帯電話――デジタル方式の周波数
を割り当てのさい、800MHz帯と1.7GHz帯を使うこと
にしたということは、昨日のEJで述べました。
 ところが通信事業者としては、1.7GHz帯よりも800M
Hz帯の周波数の方が使い勝手がよいのです。そのため、携帯電
話事業に早くから参入している通信事業者であるNTTドコモや
auはきわめて有利な立場にあるといえます。
 どうして使い勝手が良いのかというと、低い周波数帯の方が電
波が届きやすいことが上げられます。極端な例ですが、800M
Hzを音、1.7GHzを光であると考えて欲しいのです。音は
光より遅いですが、かなりの障害物があっても届きやすいのに対
し、光は高速ですが、直進性が強いので障害物に弱いのです。
 さらに、800MHz帯では主として都市部で使われる1.7
GHzの基地局の出力で比較的大きめのマクロセルが実現可能に
なることです。これは人口密度が低い郊外での基地局を作るとき
に効率がよいといえます。
 もし、1.7MHzでマクロセルを実現するには、出力を上げ
る必要があるのです。これはコストに直接響いてきます。それで
いて小高い山の反対側や建物の陰などの電波の届かないところが
出てきてしまうのです。これをマイクロセルでカバーしようとす
ると、多くの基地局を作る必要があり、これもコストアップの要
因になります。しかも、郊外は人口密度が低いので、基地局の効
率性は低くなります。
 逆に8OOMHzにおいてはセルを小さくすることは、効率は
わるくならないのです。なぜなら、出力を小さくしても単にマク
ロセルがマイクロセルやピコセルになるだけだからです。つまり
セルのサイズは大は小を兼ねるわけです。
 実はこの800MHz帯への参入をめぐって、総務省を巻き込
んで、ソフトバンク対NTTドコモ&auの間で大論争があった
のです。
 2004年9月6日朝のことです。日本経済新聞の朝刊にソフ
トバンクの次のような意見広告が載ったのです。孫社長の顔写真
付きで、新聞の全段をぶち抜いた大広告です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いま声を上げなければ、この国の携帯電話料ずっと高いままか
 もしれません。
 携帯電話市場に、もっと自由な競争を。あなたの声をパブリッ
 ク・コメントへ。本日十七時まで。
―――――――――――――――――――――――――――――
 同じ日の午後2時に孫社長は、帝国ホテルに報道関係者に集め
て緊急記者会見を開き、次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 我々も800メガヘルツ帯での参入を希望していたのに、総務
 省の方針案では、既に事業者がNTTドコモとauに決まって
 いる。総務省はこの2社に決めた理由を明らかにせず、当事者
 だけで国民共有の周波数の使い道を決めている。
 ――日経コミュニケーション編、『風雲児たちが巻き起こす携
                  帯電話崩壊の序曲』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 同じ年の9月24日、孫社長は再び「ユーザーの声は圏外です
か」というタイトルの意見広告を再び出しています。結局3万通
を超える意見が総務省に集まったのです。そのほとんどは「ソフ
トバンクに新規参入を認めるべきだ」というものだったのです。
 これによっては総務省は、何らかの動きをせざるを得なくなっ
たのです。2004年9月30日、総務省は「携帯電話用周波数
の確保に向けた取り組み」と題する政策方針を発表しています。
 この方針では、800MHz帯への新規通信事業者の参入は認
めないが、その代わりに1.7GHz帯を用意するという内容で
あったのですが、孫社長はこれを無視してあくまで800MHz
帯への参入にこだわったのです。
 その後も総務省対ソフトバングの話し合いは続けられたものの
ソフトバンクはなかなか妥協に応ずる気配はなく、膠着状態が続
いたのです。そして、遂に2004年10月13日、孫社長は、
米マイクロソフトの独占禁止法問題を手がけた弁護士や米国政府
の通信分野のアドバイザーを務めた腕利きの弁護士などをずらり
と揃えて、総務省を提訴したのです。
 総務省提訴の会見を行った後孫社長は米国に飛び、旧知の米国
の通信規制機関FCCのマイケル・パウエル委員長(当時)と会
っています。そして、日本の周波数割り当て方針の不透明さを訴
え、米国から日本への圧力の要請までやったといわれています。
 そこまでやるか――総務省をはじめ、NTTドコモ、au関係
者は孫社長の執念を悟ったのです。・・・・ [通信戦争/15]


≪画像および関連情報≫
 ・周波数とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  周波数とは,1秒間に繰り返される波の数のことで,ヘルツ
  (Hz)という単位で表される。例えば、空気の振動数を指
  す場合は,耳で聞こえる音の高さとして使われる。人間の耳
  に聞こえる周波数はおよそ16Hz〜20KHzの範囲とさ
  れており,これ以外の周波数を直接聞くことはできない。携
  帯電話で使われる周波数は音でも商用電源でもなく「電波」
  のことである。通常,離れた機器同士で電気信号をやりとり
  するためには,導線となるケーブルが必要になる。しかし,
  両者に距離がありケーブルを引くことが物理的に困難な場合
  電気信号を空中に放射し,それをまた受信することで,無線
  による電気通信が可能になる。このときに利用されるのが,
  電波であり電気信号と電波を変換するのが送受信機である。
  電波は,通信だけでなくラジオやテレビの放送にも使われて
  いる。
  ―――――――――――――――――――――――――――

周波数とセルのサイズ.jpg

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2007年01月29日

800Mz帯を再編する理由は何か(EJ第2008号)

 孫社長は総務省を相手どって行政訴訟を起こす根拠として電波
法第1條を持ち出しています。電波法第1條には次のように記述
されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 電波法第1條:この法律は電波の公平かつ能率的な利用を確保
 することによって、公共の福祉を増進することを目的とする。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これをベースとして、孫社長は総務省で次官や局長を務めた人
間がNTTドコモとKDDIに多数天下っている事実をつきとめ
公平でオープンであるべき電波の割り当て業務を密室的談合で決
めているのではないかという主張を展開するのです。
 孫社長は一般的には技術畑の人間と思われていますが、彼は技
術的知識だけでなく、日本の法律を実によく勉強しています。そ
して、議論の場では自身の正当性を主張するよりどころとしてそ
れを巧みに利用しているのです。
 こんな話があります。ソフトバンクはADSLで北米方式の通
信機器を採用しているのですが、その方式の申請のさい、それが
日本方式の機器(ISDN)と干渉するとして締め出されそうに
なったことがあります。普通の通信会社だったら、それであきら
めてしまうでしょう。
 しかし、そのとき孫社長は日本がWTO(世界貿易機関)に加
盟していることを持ち出し、次のように主張したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国際標準である北米方式より日本方式だけが優遇されるのは国
 際間の自由な貿易ルールを定めたWTOの趣旨に反する。
  ――日経コミュニケーション編、『風雲児たちが巻き起こす
                 携帯電話崩壊の序曲』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 結局、最終的には総務省側が折れて、北米方式が正式に認めら
れたという経緯があるのです。孫正義という人物、一筋縄ではい
かないのです。私はかつてあるパーティ会場で孫正義氏と会い、
話をしたことがあるのですが、物腰はやわらかで腰が低く、とて
も魅力的な話し方をする人物という印象があります。普通に話を
している限りでは強引さは感じられないのです。
 そもそも総務省はなぜ800MHz帯の再編をやろうとしたの
でしょうか。それには歴史的な経緯があるのです。
 1990年代は「ニューメディア時代」といわれ、当時の郵政
省はいろいろな無線サービスを立ち上げているのです。例を上げ
ると、陸上ではテレターミナルという名のデータ通信サービス、
港湾にはマリオネットという港湾専用の電話サービスなど、そし
て自動車電話サービス(後の携帯電話サービス)もそれに加わっ
たのです。つまり、サービス多様化政策を取っていたのです。
 しかし、携帯電話以外はことごとく事業が失敗して撤退してし
まったのです。役所のやることはすべてこのように計画性がない
のです。しかし、正式に失敗ということになると、郵政省の責任
になるので、唯一業績を伸ばしつつあった携帯電話サービス――
NTTドコモ(当時はNTT移動通信網)とDDI(現在のKD
DI)に頼み込んで、事業を引き継いでもらったのです。
 そのため、NTTドコモやKDDIは、10Mヘルツ幅、3M
ヘルツ幅、2Mヘルツ幅などの細切れの周波数帯を飛び石状態で
利用するという不便さを強いられたのです。そういう歴史的な経
緯を一切無視して、孫社長が正論を唱えて800MHz帯に割り
込んできたので、NTTドコモやKDDIの幹部はアタマにきた
というわけです。
 実はもうひとつ800MHz帯をいじる必要が総務省にはあっ
たのです。ADSLに上りと下りがあるように、携帯電話にも上
りと下りがあります。
 つまり、携帯電話は上りと下りの2つの周波数帯に分けてサー
ビスが提供されているのです。しかし、日本の場合、上りと下り
の周波数の配置が逆転しているのです。これは世界的に見てきわ
めて特殊なことなのです。
 その理由は、アナログテレビ放送で利用している周波数との混
信を防ぐためです。携帯電話機の送信電波によってテレビ放送に
ノイズ障害が起こる可能性があったのです。
 しかし、その後テレビ・チューナーのフィルター機能が向上し
干渉を防ぐことができるようになったし、アナログテレビの放送
自体が2011年に終了するので、このさい800MHz帯を整
備して上下逆転を修正したいと総務省は考えたのです。このよう
に日本の電波の割り当ては計画性がないことは間違いのないこと
であるといえます。
 ソフトバンクの提訴を受けて総務省は、「携帯電話利用周波数
の利用拡大に関する検討会」を開くことにしたのです。この検討
会は、2004年10月21日を第1回とし、2005年2月ま
で、計8回開かれたのです。
 しかし、総務省は利害関係のあるNTTドコモとauと連携を
取り、ソフトバンクの800MHz帯への参入は断固認めないと
いう方針で臨んだのです。
 このときソフトバンクと並んで800MHz帯への参入を希望
したのは、イー・アクセス、アイビー・モバイル、平成電電であ
り、それぞれの会社のトップが一堂に会してそれぞれの主張を述
べたのです。そのとき、守る側の総務省の考え方を代弁したのは
auの小野寺社長の次の発言です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 仮に新規事業者に800Mヘルツ帯を割り当てると、我々は現
 在使用中の帯域のサービスを一部中止し、移行先周波数への対
 応設備を作らなければならない。しかも瞬時にやらないと利用
 者に迷惑をかける。そうなると費用は一兆円を超える。どう考
 えても無理だ。            ――小野寺au社長
           日経コミュニケーション編の前掲書より
――――――――――――――――・・・・ [通信戦争/16]


≪画像および関連情報≫
 ・携帯電話の上りと下りの周波数
  ―――――――――――――――――――――――――――
  無線通信などでデュプレックス通信(同時送受信)を実現す
  る方式の一つで、上りと下りの電波がぶつかりあわないよう
  に、それぞれ別の周波数帯を利用するもののことである。通
  信経路の周波数帯を半分に分割して、送信と受信を同時に行
  なう。     ――これについては明日のEJで解説予定
  ―――――――――――――――――――――――――――

日経コミュニケーション編の本.jpg
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2007年01月30日

携帯電話は全二重か半二重か(EJ第2009号)

 通信の専門用語に「全二重通信」と「半二重通信」というのが
あります。トランシーバという通信機器がありますが、この通信
機器は、こちらが話しているときは、相手は話すことはできませ
ん。どちらか一方向しか話せないので、切り替えながら通話を行
うことになります。これを「半二重通信」といいます。
 これに対して固定電話は双方向で話すことができます。相手が
話しているときにこちらも話すことができるのです。これを「全
二重通信」というのです。整理しておきましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
     半二重通信 ・・・ half duplex 片方向
     全二重通信 ・・・ full duplex 双方向
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは携帯電話はどちらだと思いますか。全二重通信でしょ
うか。それとも半二重通信でしょうか。
 実は両方あるのです。携帯電話が採用する方式によって、どち
らもあり得るのです。
 携帯電話では、次の2つの方法で双方向通信を実現させている
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     時  分割複信・・ TDD/半二重通信
     周波数分割複信・・ FDD/全二重通信
―――――――――――――――――――――――――――――
 TDDというのは、1つの周波数を使って高速にデータの送信
方向を切り替えて双方向を実現します。時間軸で周波数を分割す
るので、「時分割複信」(Time Division Duplex)といっていま
すが、周波数はひとつですから、半二重通信です。
 TDDの場合、データ通信では多少通信が途切れることがあっ
ても最終的にひとつのファイルにまとめられるので問題はありま
せんが、音声通信ではそういうわけにはいかないので、切り替え
が高速に行われる必要があります。
 そのため、携帯電話でTDDを採用するときは、かなり高めの
周波数を利用する必要があります。高い周波数を使うと、一度に
送れる情報が多くなり、非常に短時間で送信と受信のタイミング
を切り替えられるので、音声が途切れることはないのです。
 TDDを採用している代表的な例にPHSがあります。PHS
は、1.9GHzという高めの周波数を使っているので、データ
通信に向いているうえ、通話も途切れることはないのです。
 もう一つの方法はFDDです。これは送信用と受信用のそれぞ
れ2つの周波数を使って双方向通信を実現する方法で、「周波数
分割複信」(Frequency Division Duplex) といわれます。この
方法では、つねに送受信両方向で通信が行われるので、全二重通
信ということになります。
 FDDでは音声が途切れる心配はないので、音声通信が重要な
位置を占めている携帯電話に向いている方式といえます。しかし
2つの周波数を使うので、TDDと比べると多くのチャネル(周
波数帯)を用意しておく必要があります。
 送信用と受信用の2つの周波数を使うといっても、あまり近接
している周波数を使うと、それぞれの電波が干渉し合い混線する
恐れがあるので、少し離れた周波数帯を使う必要があります。
 ここまで説明すると、携帯電話における「上り」と「下り」が
理解できます。
―――――――――――――――――――――――――――――
        携帯電話 →  基地局/上り
        基地局  → 携帯電話/下り
―――――――――――――――――――――――――――――
 携帯電話を中心として、携帯電話から基地局に向かって発信さ
れる電波を「上り」、反対に基地局から携帯電話に向かって発信
される電波を「下り」というのです。ちなみに、日本の携帯電話
で利用されている「W−CDMA」、「cdma2000」、PDC
はいずれもFDDを採用しています。
 ここで、電波と周波数について少し知っておくと、ケータイに
強くなると思います。
 電波の伝わり方――電波伝搬という――には、次の3つがある
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.直進する電波で届く ・・・ 「直進」
     2.反射した電波で届く ・・・ 「反射」
     3.回折した電波で届く ・・・ 「回折」
―――――――――――――――――――――――――――――
 「直進」については説明不要ですが、「反射」は山やビルなど
に反射して届く電波であり、「回折」は障害物を回り込んで届く
電波です。このような電波の伝わり方は、周波数によって変わる
のです。一般的に次のことがいえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    周波数の高い電波は、反射や回折が起きにくい
    周波数が低い電波は、反射や回折が起きやすい
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように電波は周波数の高低によって性質が異なるのです。
高低といっても、どこからが「高」かどれより下が「低」かわか
らないので、同じような性質を持つ周波数を区切って分類してい
るのです。その区切りのことを「周波数帯」といっています。つ
まり、周波数帯が異なると電波の性質も異なるのです。
 実際にデータや音声を送るときは、この「周波数帯」の中をさ
らに小さく区切って使うのです。その区切りの一定の幅――帯域
幅のことを「チャネル」というのです。よくテレビでは「チャン
ネル」といいますが、チャネルもチャンネルも同じ意味です。
 「音声を送る」とは、送受信しやすい電波に音声を乗せ、その
合成した電波をやり取りするのです。このように情報を電波に乗
せることを「変調」というのですが、「変調」については改めて
ご説明します。         ・・・・ [通信戦争/17]


≪画像および関連情報≫
 ・「変調」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  変調方式は、変調すなわち情報を記録・伝送するにあたり、
  情報および記録・伝送媒体の性質に応じて最適な電気信号に
  変換する操作の方式である。無線通信では一定周波数の電波
  を発生し、それを変調することにより情報を伝送する。この
  変調を受ける電波を搬送波(キャリア)という。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

電波の3つの届き方.jpg
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2007年01月31日

どのようにして音声情報を送受信するか(EJ第2010号)

 800MHz帯をめぐる既存業者と新規参入希望業者との大論
争は、2004年10月21日にはじまりましたが、2005年
1月になっても両者の言い分は平行線をたどり、決着を見ること
はなかったのです。
 最初から800MHz帯を新規参入者に割り当てるつもりのな
かった総務省は、2005年2月9日に正式に新規参入業者への
割り当ては行わずという方針を通知しています。孫社長の希望は
叶えられなかったのです。
 これに関わるソフトバンクのやり方には多くの批判があること
は確かですが、何でもかんでも総務省が中心となって有力既存業
者との協議で物事を決めるこれまでの慣習にはじめて抵抗した勇
気は高く評価すべきであるといえます。
 800MHz帯参入計画が失敗に終ると、ソフトバンクは一転
しておとなしくなります。孫社長自身も極力メディアへの露出は
避けて、ひたすらADSL事業の黒字化に専念するのです。そし
て2005年度中間期決算では、営業利益44億円を計上し、4
年半ぶりに営業黒字を達成したのです。
 そのときソフトバンクに残されている携帯電話事業への参入の
道は、1.7GHz帯への参入しか残されていなかったのです。
そのためには「ひたすらおとなしくして世間を騒がせず時期を待
つ」作戦に転じたのでしょう。
 この「大人のソフトバンク」戦略が功を奏し、2005年11
月10日にソフトバンクは正式に携帯電話事業参入の証書を手に
したのです。このときソフトバンクが総務省に提出した計画書に
よると、2007年4月1日から商用サービスを開始すると明記
してあるのですが、事態はそのようにはならなかったのです。
 ここで、ソフトバンクの話はひとまずおいて、少し技術的な話
をしたいと思います。それが今後のケータイ・ビジネスを予測す
るのに不可欠であるからです。
 固定電話でも携帯電話でも、そもそも電話というものは音声を
相手先に送ったり、受けたりするものです。ところで、音はどの
ように伝わるのでしょうか。
 音は電磁波と同じ波なのです。音には高い音もあり、低い音も
あります。この音の高低は、やはり周波数を使ってあらわすので
す。例えば、楽器のチューニングには周波数が使われますね。ギ
ターの5弦は「A音」といい、チューニングのさいの基本になる
のです。A音は通常は440Hzに合わせるのですが、キーを高
くして演奏したいときは、441Hzとか442Hzに設定した
りするのです。
 人間が聞き取れる音の周波数は、下限が20Hz、上限は20
KHz程度であるといわれます。それと携帯電話に使われる周波
数は880MHzや1.7GHz、2GHzなど、あまりにもか
け離れていますが、どうしてなのでしょうか。
 携帯電話では、話した音声の情報がそのまま電波となって空中
を伝わっていくというわけではないのです。簡単にいうと、送受
信しやすい電波に音声情報を乗せて流すのです。この情報を電波
に乗せることを「変調」といいます。そして音声を受け取る側で
は変調されたものを元の音声に戻す「復調」を行うのです。
 変調で使われる情報を乗せるための電波――これを「搬送波」
というのです。「搬送波」は英語で「キャリア」と呼ばれるので
すが、日本では通信事業者のことを「キャリア」というので、あ
えて難しい「搬送波」――はんそうは――という言葉を使うので
す。ラジオ放送やアマチュア無線の周波数は、搬送波の周波数そ
のものです。
 つまり、音声はそのまま電気信号として電波にするのではなく
変調を行って相手側に電波として送信し、相手側はそれを復調し
て音声に戻す――こういうやり方で音声をやりとりするのです。
 詳しい説明は避けますが、変調には次の3つがあることを知っ
ておくべきです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.振 幅変調(AM) ・・・ Amplitude Modulation
 2.周波数変調(FM) ・・・ Frequency Modulation
 3.位 相変調(PM) ・・・ Phase   Modulation
―――――――――――――――――――――――――――――
 「振幅変調」というのは、文字通り振幅によって情報を表現す
る方法です。ラジオのAM放送はこの振幅変調を利用しているの
で、AM放送と呼ばれるのです。
 「周波数変調」とは、周波数の高低を変化させることによって
情報を電波に乗せる方法です。音声情報の振幅が大きいときは搬
送波の周波数は高く、逆に振幅が小さいときは搬送波の周波数を
低くなるようにするのです。FM放送やテレビ放送はこの周波数
変調で情報を送っているのです。
 「位相変調」とは、搬送波の位相を変化させることによって情
報を電波に乗せる方法をいいます。ところで、「位相」というの
は何でしょうか。
 交流電気を例にとると、電流や電圧は時間とともに一定の周期
をもって変化しています。その周期運動の繰り返しを分析すると
同じ角度で波形を描いている個所が見られます。この同形の波形
のことを位相と呼んでいるのです。同形の波形と逆の波形にする
など――位相を変化させることによって、情報を表現する――こ
れを位相変調というのです。
 変調にはこのほか、高速道路の料金徴収システムであるETC
の電波などで使われるASK変調(振幅偏移変調)などいろいろ
あるのですが、この話はこのあたりでやめた方がよいでしょう。
 苦心のすえ孫社長が手に入れた1.7GHz帯――しかし、そ
の周波数の幅はわずか5MHzしかないのです。それに対して、
NTTドコモやauは15MHzと3倍です。これにどう対抗し
ていくかが難しいのです。ドコモやauはソフトバンクの参入を
恐れていましたが、5MHzなら大したことはできないだろうと
甘く考えていたのです。     ・・・・ [通信戦争/18]


≪画像および関連情報≫
 ・搬送波(carrier)とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  変調と復調のメカニズムについて見ていくことにしよう。ア
  ナログ信号の基本的な波形に搬送波がある。搬送とは、波形
  や振幅が一定の波(正弦波)のことだが、この波の振幅(波
  のゆれ幅)、周波数(単位時間に繰り返される波の数)、位
  相(波の開始位置)を加工することで、さまざまな情報をの
  せることが可能になる。例えば、音声をアナログの電気信号
  へアナログ変調する場合、振幅の大小は声の大きさを伝える
  ことができるし、周波数は声の高さを伝えることができる。
  これらを用いることで、音声をアナログ変調し、アナログ伝
  送路にのせて伝送することができるわけだ。
  http://www.keyman.or.jp/3w/prd/10/30000810/?vos=nkeyadww10000801
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ・図の出典/神崎洋冶・西井美鷹著、『体系的に学ぶ/携帯電
  話のしくみ』より。日経BPソフトプレス刊

音声信号の伝わり方/搬送波.jpg
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2007年02月01日

なぜボーダフォンを買収したのか(EJ第2011号)

 ソフトバンクが1.7GHz帯に獲得した周波数はたったの5
MHz幅です。このままでは東京や大阪などのユーザーが集中す
る大都市圏では明らかに帯域が不足します。
 そこで、ソフトバンクとしては、無線LANと組み合わせて、
それをカバーする方針を立てたのです。ソフトバンクは、グルー
プ会社である日本テレコム(現ソフトバンクテレコム)などと共
同で、全国の駅やホテル、ファストフード・チェーンなどに、約
3200の無線LANの無線基地局を設置していたので、それを
利用しようと考えたわけです。
 しかし、総務省は、当初は5MHz幅しか割り当てないが、携
帯電話の利用者数が250万人を超えた時点で、さらに5MHz
幅を追加する方針であると新規事業者に約束していたのです。し
たがって、ソフトバンクとしてはなんとしても利用者数を250
万人にもっていく必要があったのです。
 しかし、各種の実証実験の結果、5MHz幅の状態で音声通話
サービスをやることは困難であり、あくまで追加の5MHz幅を
獲得してから音声通話サービスをはじめるしかないと判断したの
です。そして、その目標を2007年の冬と設定したのです。
 問題は追加の5MHz幅を獲得するため、250万人のユーザ
をどのようなサービスで獲得するかです。ソフトバンクはその方
法として、サービス当初は無線LANと携帯電話のデータ通信の
機能を持つカード型のデータ通信端末を提供し、PCなどのデー
タ通信に利用してもらう計画を立てたのです。
 もっと具体的にいうと、次の3種類の通信技術を組み合わせて
既存の携帯電話事業者に対抗しようとしたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 高速無線通信記述/ワイマックス −I
 携帯電話のデータ通信       I− 高速データ通信
 無線LAN           −I
―――――――――――――――――――――――――――――
 実際にソフトバンクは、携帯電話事業参入の証書を手に入れる
1ヶ月前の2005年10月に総務省から実験用の免許を取得し
て、韓国LG電子、カナダのノーテルと組んで、埼玉県さいたま
市で実験を行っているのです。
 この3つの通信技術を使うと、大容量の映像ファイルを中断な
く切り替えることができ、スムーズな画像のテレビ電話が可能に
なるということです。実際にソフトバンクがどのようなかたちで
携帯電話事業をはじめようとしていたか、本当のところは正確に
はわかりませんが、データ通信からスタートしようとしていたこ
とは確かなのです。
 しかし、孫社長は結果として苦労して手に入れた新規参入の切
符をあっさりと捨ててしまいます。それは、孫社長の目的が単に
携帯電話事業に参入することではなく、携帯電話事業を改革する
――そのためにはNTTグループに勝つ必要があるからです。
 2001年9月、ADSLサービス「ヤフー!BB」をスター
トさせ、NTTや他の事業者を圧倒したのです。なぜなら、「ヤ
フー!BB」は当時通信速度が8メガビット/秒の最高速で、し
かも料金は、他社の半分の月額3000円強という衝撃的なもの
だったからです。
 そして、1年後の2002年9月、遂にADSLのシェアで、
NTT東日本を抜き去ったのです。NTTにとっては、通信の世
界でシェア・トップを奪われることは、NTT100年の歴史に
なかったことであり、きわめて屈辱的なことだったのです。
 さらに2002年4月にソフトバンクがやったのは、IP電話
サービス「BBフォン」です。BBフォンのユーザ同士なら、通
話料無料という分かりやすいメリットが受け入れられ、たった1
年半で300万人を超えるユーザを獲得したのです。このように
ソフトバンクはNTT東西の最大の収益基盤である固定電話に攻
撃を仕掛けたため、NTTグループとしても本気でソフトバンク
と対峙せざるを得ない状況にになったのです。
 しかし、ADSLもIP電話も新市場での戦いであったのに対
し、携帯電話事業は利用者が飽和状態になっている事業であって
先行業者が圧倒的に有利なのです。
 しかも、すべてをゼロからはじめる新規参入では、全国各地へ
の基地局の設置や携帯電話端末の調達、そしてユーザの獲得とい
う難問がめじろ押しであり、とてもトップ企業に挑戦できる状況
にはならない――このように孫社長は考えたのです。
 そして、とっておきのウルトラCを炸裂させたのです。それが
ボーダフォン日本法人の買収です。つまり、既存業者を買収する
ことによって時間を買う作戦に出たわけです。
 2006年4月27日、ソフトバンクはボーダフォンの持つ全
株式を手に入れます。そのときソフトバンクの孫社長は次のよう
にいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 通信インフラからコンテンツまで、グループで自前で手がけら
 れる事業者は世界でも類を見ない。決して総合通信会社になっ
 たと言わないでいただきたい。私の志からはちょつと小さい。
 総合デジタル情報カンパニーを目指している。  ――孫社長
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体" target="_blank">2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ソフトバンクによるボーダフォン日本法人の買収によって、苦
しい立場に追い込まれたのがNTTグループであると思います。
NTT法で縛られているNTT東西地域会社、NTTドコモ、N
TTコミュニケーションズは別会社であり、グループ内の事業の
連携が取りにくいのです。その点ソフトバンクは固定電話と携帯
電話をセット割引きするというNTTグループでは絶対にできな
いサービスをやろうと思えばできる立場にあります。
 こういう事態でありながら、NTTドコモの対応は鈍く、精彩
を欠いています。        ・・・・ [通信戦争/19]


≪画像および関連情報≫
 ・ワイ・マックスとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  移動端末向けの高速無線通信規格のことです。固定向けの高
  速無線通信規格WiMAXを移動中の携帯端末でも利用でき
  るようにしようとする規格で、正確には、IEEE802.
  16e規格を利用した無線通信技術です。IEEE802.
  16eは、WiMAXの規格であるIEEE802.16−
  2004をベースにしており、移動通信をサポートするため
  に、移動中に基地局を切り替えても通信を継続するハンドオ
  ーバーなどに関する技術を追加した規格で、2005年12
  月に標準化作業が完了しています。
   http://dictionary.rbbtoday.com/Details/term3547.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

2010年NTT解体.jpg


     2010年NTT解体
posted by 平野 浩 at 04:40| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月02日

キヤリアだけが儲かる仕組みがある(EJ第2012号)

 携帯電話事業者――日本ではキャリアと呼んでいますが、これ
から、NTTドコモ、au、ソフトバンク3社による壮絶な戦い
がはじまります。どこが勝利を収めるでしょうか。
 番号ポータビリティー制度――MNPのスタート前の予想では
auは独り勝ちをするが、それはNTTドコモよりもソフトバン
クから多くの加入者を奪うことによって勝利がもたらされるとい
うものだったのです。つまり、MNPではソフトバンクが草刈り
場になると考えられていたのです。
 というのは、auはこれまでNTTドコモの解約率低下によっ
て奪いにくくなった加入者を主としてソフトバンクから奪って成
長してきたからです。
 しかし、この予想はかなり外れたのです。予想通りauは伸び
たのですが、ソフトバンクは必ずしも草刈り場にならず、ドコモ
が大幅に加入者を減らしているからです。
 現在、携帯電話市場は、ほとんど90%近い人がケータイを使
う完全な成熟市場になっています。こういう成熟市場における市
場競争では、シェアの小さいキャリアの方が有利になる可能性が
あるのです。次のような単純なモデルで考えてみましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
    NTTドコモ ・・・・・ 5000万人
    au ・・・・・・・・・ 3000万人
    ソフトバンク ・・・・・ 1500万人
―――――――――――――――――――――――――――――
 仮にドコモの解約率を1%とすると50万人が解約することに
なります。同じように1%の解約率で計算すると、auは30万
人であり、ソフトバンクは15万人になるのです。
 このケースでは、ドコモは、auとソフトバンクの解約者を全
部吸収したとしても45万人にしかならず、加入者数が純減して
しまう可能性が高いといえます。
 これに対して、ソフトバンクはドコモとauの解約者の20%
を獲得するだけで16万人となり、純増を達成できます。ソフト
バンクは料金プランで勝負に出ているので、20%のシェア獲得
は十分に可能であるといえます。
 auも32%で30万人を超えるので純増は十分可能ですが、
今後ソフトバンクが躍進して競争力が上がり、ドコモが守りを固
めるとauも苦しくなってきます。
 かつて「auの優勢、NTTドコモの守り、ボーダフォンの劣
勢」といわれた構図は、ボーダフォンに代わったソフトバンクが
新料金プランの開発や新しい端末の提供ならびにサービスの拡充
などによる攻勢をかけると、成熟市場では一番大きな成長を遂げ
る可能性は高いのです。
 もうひとつ日本のケータイについて語るとき、頭に置いておく
べきことがあります。それは、現在の携帯電話事業のビジネスモ
デルがキャリアだけが儲かる仕組みになっていることです。キャ
リアの儲けは、次の式によって決まってきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    契約者数 × 加入者月間売上高(ARPU)
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、日本のARPUは平均6500円であり、欧米諸国に比
べると、1.5〜2倍高いのです。要するにキャリアはボロ儲け
しているのです。
 しかし、ケータイの端末を提供しているメーカーは深刻な経営
難に陥っているといわれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NECの携帯事業を担うモバイル・パーソナルソリューション
 部門が06年9月中間決算で410億円の営業赤字を計上。同
 様に松下電器産業のパナソニックモバイルコミュニケーション
 ズは、06年7〜9月期に3億円の赤字を出している。国内携
 帯端末「2強」がこの有り様なのだ。
    ――塚本潔著、「ドコモ/垂直統合モデルの限界」より
      『週刊/エコノミスト』2006年12月12日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 ジャーナリストの塚本潔氏によると、日本の携帯電話事業にお
いては、端末の仕様にいたるまで、キャリア主導で決められると
いいます。それでもauとソフトバンクについては、独自規格で
あっても自由裁量の余地が多いのに対して、NTTドコモは細か
い仕様にいたるまですべて指示を出してくるといわれます。
 それに日本のケータイ端末――とくに第3世代端末は高すぎて
海外ではほとんど売れないのです。そのため、国内市場オンリー
であり、端末で利益を出すのは困難な状況にあるのです。
 それにもかかわらず、なぜ、日本では比較的安い価格で端末が
提供されおり、「O円端末」まであるのはなぜでしょうか。これ
についてはあるからくりがあるのですが、来週のEJで明らかに
する予定です。
 本来、キャリアと端末メーカーは共存共栄であるべきです。し
かし、現在儲かっているのはキャリアだけであり、加入者はかな
り高い利用代金を支払わされているのです。
 2006年中間決算においてNTTドコモは減益であるといっ
ても、5169億円、auは1852億円、ソフトバンクでさえ
568億円も稼いでいるのです。潤っているのはキャリアだけと
いわれても仕方がないでしょう。
 それにしても、なぜケータイ端末はキャリア別に存在するので
しょうか。PCのように、どこのキャリアでも使える端末はなぜ
ないのでしょうか。基地局にしても、なぜ全部のキャリアで共有
できないのでしょうか。もし、それが可能になれば、ケータイの
利用代金は劇的に下がるはずです。
 どうやら、ソフトバンクの孫社長はそれを狙っているフシがあ
るのです。彼は旧来の携帯電話業界のしきたりそのものを壊わす
ことによって、ケータイの料金を下げようとしているのです。今
後のソフトバンクから目は離せないです。・ [通信戦争/20]


≪画像および関連情報≫
 ・NTTドコモ/auについて/松本徹三氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  圧倒的に強いドコモであれ、KDDIであれ、基本的に通信
  会社から出発した会社。よく言えば安定性や信頼性が高いが
  悪く言えば決定や行動が遅い。我々も信頼性や安定性を軽視
  しているわけではないが,それを満たすのは100点を取る
  ことだけではない。90点で合格できるのであれば,勉強時
  間は100点の時の10分の1で済む。発想を転換すれば信
  頼性や安定性を損なわずに迅速に行動できるはずだ。孫さん
  はいつも言っている。「発想を変えろ、既成観念を捨てろ」
  と。私もまったく同じ考えだ。
              ――ソフトバンクモバイル副社長
  ―――――――――――――――――――――――――――

エコノミスト/2006.12.12.jpg
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2007年02月05日

ケータイ関係者が全員ゆでガエルになる(EJ第2013号)

 ソフトバンクがボーダフォンを買収してすぐやったことがあり
ます。それは、携帯電話の販売体制を販売代理店経由から直販に
切り替えたことです。何でもないことのように見えますが、これ
は大変勇気のいる、意義のある意思決定なのです。
 販売代理店――現在の携帯電話市場は、数社の大手販売代理店
の影響力がきわめて大きいのです。それらの大手販売代理店の多
くは、複数キャリアのブランドショップ――ドコモショップや、
auショップや量販店を運営しています。
 現在、携帯電話機――ケータイ端末の店頭での平均価格は、か
なりの高級機でもせいぜい2〜3万円程度です。安いものなら、
1万円以下もありますし、少し古いタイプなら100円端末もあ
りうるのです。どうして、そんなに安いのでしょうか。
 実は、端末メーカーからキャリアへの卸価格はもっと高く、5
〜7万円もするのです。それならどうしてそんなに安く売れるの
でしょうか。
 それは、キャリアが販売代理店に支払う「販売奨励金」――ま
たは販売インセンティブと呼称−−があるからです。その金額は
キャリアによる多少の違いはありますが、端末一台について4〜
5万円という高額なものなのです。
 販売代理店としては、ケータイの契約ができるとこの販売奨励
金が入るので、端末代金を大幅に値下げできるのです。ケータイ
端末が作られるまでの流れを整理しておきましょう。
 キャリアは端末メーカーに仕様を示して制作を依頼します。端
末ができると、端末メーカーは見積書を提出し、キャリアが買い
取ってくれる数量を教えてもらい、その数だけを生産します。こ
れならノーリスクです。そのときの一台の卸価格は4〜7万円も
するのです。
 キャリアはこれらの端末を大量に仕入れて、自社直営店で販売
するとともに販売代理店に対し、販売奨励金を支払うことを約束
して端末を卸します。販売代理店は販売奨励金を勘案して端末の
価格を決め店頭に展示します。販売奨励金の額は一台について約
4〜5万円もあり、他社との競合もあるので、端末価格はかなり
安く設定されることになります。
 ユーザとしては、かなり高機能の端末が比較的買い易い価格で
手に入るので、購入するユーザは多くなります。しかし、キャリ
アとしては、その販売奨励金相当額をユーザが支払う通信費用の
中から数ヶ月かけて回収しているのです。
 何のことはない。ユーザは本来の高い端末の代金をそれと知ら
されずに払わされているのです。そのために通信料はかなり割高
に設定されているのです。もっと別の言い方をすると、あまりケ
ータイを利用しないユーザの基本料金が販売奨励金の原資の補て
んに当てられているといってよいと思います。
 海外の大手携帯電話メーカー幹部は、日本のこの制度について
次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 販売奨励金の原資がどこにあったかといえば、利用者が支払う
 割高な通信料。その費用をなぜ通信料金に還元しないのか。そ
 うすれば、日本の携帯電話料金はもっと安くできるはずだ。
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、販売代理店に対する販売奨励金制度は、ケータイビジ
ネスの立ち上がり期には、絶大の威力を発揮して携帯電話の加入
者を増やし、普及を加速させるのに役立ったのです。
 そういう普及期には、キャリア、販売代理店、端末メーカー、
ユーザのそれぞれがメリットを享受するウィン・ウィンの関係に
あったといえます。
 ところが今や端末販売の80〜90%が買い替えが占め、回収
の原資となるARPU――平均利用料金も料金値下げ競争によっ
て従来よりダウンしていることを考えると、この販売奨励金制度
が制度疲労を起こしつつあることは確かです。
 さらに、新規契約で安い端末を入手し、数ヶ月で契約を解約す
るというユーザが現れるに及んで、キャリアと販売代理店の間で
販売奨励金をめぐるトラブルも出始めています。こういうケース
では、キャリアは販売奨励金分をユーザから吸い上げる前に解約
されてしまうので、大赤字になります。まして、MNPが始まっ
ている現在ではユーザの流動性は一層加速することは避けられな
いのです。奨励金で釣って売る方法が限界に達しているのです。
 それなら、キャリアが販売奨励金をダウンさせたらどうなるで
しょうか。
 そうすると、端末の店頭販売価格は一挙に高騰します。その結
果、販売数は減少し、販売代理店の収入は減少します。既に述べ
たように販売代理店は複数のキャリアのブランドショップを運営
しているので、販売インセンティブの高いキャリアの販売に注力
することになり、販売奨励金をダウンさせたキャリアの販売数は
ますます減少することになります。
 おそらくこの状態にキャリアは3ヶ月以上は耐えられないと思
われ、再び販売奨励金を上げざるを得ない――こういうわけで、
キャリアは販売奨励金がいずれ自社の首を絞めることになること
が分かっていながら、結局はやめることはできないのです。
 キャリアが置かれているこのような状態を「ゆでガエル現象」
と呼ぶ人がいます。野村総合研究所の情報・通信コンサルティン
グ部上級コンサルタント北俊一氏がその人です。
 水槽にカエルを入れて、少しずつ火を加えていくと、水が少し
ずつお湯に代わっていき、一瞬にしてそれが熱湯に変わる――カ
エルは程よい温度のときに酩酊状態になってしまい飛び出せず、
ゆでガエルになってしまうことがわかっています。
 北氏はこの実験の例をひき、キャリアと端末メーカー、販売代
理店を水槽の中のカエルに例えて、販売奨励金というほどよい温
度にひたっていると、そのうち飛び出せなくなると警告を発して
いるのです。しかし、孫正義社長はボーダフォンを買収すると同
時に水槽から飛び出したのです。 ・・・・ [通信戦争/21]


≪画像および関連情報≫
 ・北 俊一氏/ゆでガエル発言
  ―――――――――――――――――――――――――――
  野村総合研究所(NRI)は1月26日,携帯電話市場の継
  続的で飛躍的な発展のために,競争構造を見直すべきだとい
  う提言を発表した。同社が毎月発行する報告書最新号の中で
  北俊一・上級コンサルタントが指摘している。「いまのまま
  では,携帯電話事業者もメーカーも販売代理店も破たんしか
  ねない。少しずつお湯が熱くなっているのに気付かないでい
  るカエルが,結局“ゆでガエル”となって死んでしまう話を
  想起させる状況にある」と。
  http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/NCC/NEWS/20040126/138754/
  ―――――――――――――――――――――――――――

NRI/北俊一氏.jpg
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2007年02月06日

販売奨励金は廃止される可能性がある(EJ第2014号)

 携帯電話業界で現在慣行となっている販売奨励金制度――これ
はいずれ・・というより、すぐにでもやめなければならない制度
なのです。しかし、この制度についてNTTドコモの中村社長に
聞くと、彼はこれについて多くを語ろうとしないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 販売奨励金は、需要が急増している時には加入の敷居を下げる
 効果はあるけど、今の環境ではかなり疑問。でもどこかが安い
 値段で出せば、対抗せざるを得ない。
                 ――NTTドコモ中村社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対して、auの小野寺社長は中村社長と違ってかなり詳
しく話しています。現状は必要悪であり、制度を廃止することに
は慎重であるべきだという意見のようです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 奨励金は下げていくという方向が正しいと思っている。しかし
 下げたからといって現状が変わるだろうか。ある店舗が値下げ
 すれば、他店もそれに追随する。そこで赤字を補填しなければ
 店舗は成り立たない。店舗が潰れていけば、最終的にはエンド
 ユーザーに迷惑をかけることになる。奨励金がなくなれば、キ
 ャリアは楽になる。ただし、本当にそれで良いのか。日本市場
 の先進性は、インセンティブモデルだから新サービスと対応機
 種を同時にリリースできたことにある。新機軸のサービスの普
 及を遅らせることが良いのかどうか、という面からの議論も必
 要ではないか。            ――au小野寺社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この制度は基本的におかしいと思います。最初にユー
ザの立場から考えてみます。あるキャリアと契約して3万円の端
末を購入したとします。しかし、この端末の卸価格は5万円であ
る――販売奨励金が横行している携帯電話業界ではそういうこと
は十分あり得ることなのです。
 この場合、そのユーザは、本人は知らないまま2万円分の端末
価格を通信料金として払わされていることになります。つまり、
キャリアの通信料金はその分高くなっていることになります。結
局ユーザーは端末を3万円ではなく、5万円で購入させられたこ
とになるわけです。あなたはそれで納得できるでしょうか。
 次に端末メーカーについて考えます。端末メーカーは、キャリ
アからあらかじめ買い取ってもらえる数量を教えてもらってから
生産し、納入しています。これなら在庫リスクはないので、ノー
リスクということになります。
 要するに、日本の携帯電話端末メーカが作る端末は、お客の厳
しいチェックにさらされていないのです。つまり、市場原理が働
いていないわけです。自らリスクをとろうとしないから、国際競
争に巻き込まれたら確実に負けます。日本のメーカーの技術レベ
ルは高いのに、こんなことをやっていると、競争力を失ってしま
うことになります。
 しかし、販売奨励金の廃止はキャリアだけの意思でできるもの
ではないのです。しかし、熱を増しつつある水槽から飛び出して
それに代わる新しい仕組みを作ることは可能です。それを一番先
にやったのはソフトバンクなのです。私はそこにソフトバンクの
先見性を見たので、長年続けてきたNTTドコモに見切りをつけ
たのです。ソフトバンクの対応は明日のEJで解説します。
 販売奨励金はいずれ廃止されることは確実です。問題はそれを
どのようにしてソフトランディングさせるかですが、それは総務
省の裁量にかかっています。
 1月22日のロイター電によると、総務省は「モバイルビジネ
ス協議会」を発足させ、第1回会合を開いています。関連記事を
示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 [東京/22日ロイター]総務省は22日、携帯電話業界の新
 たなビジネスモデルのあり方について協議する「モバイルビジ
 ネス研究会」(座長・斉藤忠夫東大名誉教授)の第一回会合を
 開いた。委員の多くが、携帯キャリアが代理店に支払う販売奨
 励金や、携帯電話番号などが書き込まれたICカード(SIM
 カード)を端末から外して他の端末に装着できない現行のビジ
 ネスモデルについて、端末メーカーの競争力を阻害しているな
 どと問題視。今後はこうした点のほか、既存キャリアのネット
 ワークを借りて携帯電話事業を行う「MVNO」(仮想移動体
 通信事業者)の普及促進策などについて議論する。月1回程度
 の会合を開き9月中旬に報告書をまとめる。出席した菅義偉総
 務相は「少子高齢化が進む日本が発展するために大事な分野。
 基本に立ち返り、(ビジネスモデルのあり方を)役所として考
 える必要がある」と述べた。
 http://www.thinkit.co.jp/free/news/reuters/0701/22/7.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 韓国では既に2000年に販売奨励金制度は廃止(法制化は2
003年)されています。携帯電話業界はいったいどうなったで
しょうか。
 端末の販売価格は急上昇し、これによって売り上げは激減して
います。しかし、端末は価格の安いものから高いものまで豊富に
市場に提供され、現在では相当高価な端末でもそれ相応の魅力が
あれば売れています。ユーザのニーズにフィットしたからです。
 このような相当厳しいユーザのチェックに耐えて、サムソンは
大躍進しているのです。これに対して長年キャリアの庇護の下に
安住してきた日本の端末メーカーはどう対処するのでしょうか。
日本のメーカーは、今や規模と利益の両面において、ノキアやサ
ムソンに大きく水をあけられているのです。
 現在の日本の携帯電話市場では、最新・最高の機能を持つ端末
が一番の売れ筋になっています。これは販売奨励金制度が生み出
したいびつな現象です。この制度を廃止し、市場の正常化をはか
る必要があります。       ・・・・ [通信戦争/22]


≪画像および関連情報≫
 ・SIMカードとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  SIMカードとはGSMやW−CDMA(ケータイの方式)
  などの方式の携帯電話で使われているICカード。SIMカ
  ードは他の一般的なICカードと同じく、クレジットカード
  サイズで提供されるが、ICチップの部分だけを切り離して
  使うようになっている。これは、昔の自動車電話やショルダ
  ーホンなどの大型の端末ではSIMカードソケットがクレジ
  ットカードサイズであったものが、その後小型化されたこと
  の名残りである。          ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

au?????В?.jpg
posted by 平野 浩 at 17:26| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月07日

スーパーボーナスと販売奨励金(EJ第2015号)

 ソフトバンクの孫正義社長が、下から火であぶられて熱を増し
つつある水槽から最初に飛び出した理由は、他のキャリアと一緒
に水槽に入っていたのでは、ソフトバンクとして上位会社を抜く
ことはできないと考えたからです。
 それは、ケータイ端末が現在のキャリアの市場シェアに合わせ
て制作されているからです。それだけではない。シェアに合わせ
て売り場面積なども調整されているのです。これでは、下位会社
が上位会社を抜くことは不可能であり、市場シェアは固定化され
ることになってしまうからです。
 もうひとつ、シェアの最も小さいソフトバンクとしては、上位
会社であるNTTドコモやau並みに販売奨励金を販売代理店に
支払うのはできず、販売競争で遅れをとることになるという事情
もあったのです。
 そこでソフトバンクが考え出したのが「スーパーボーナス」と
いう制度なのです。既に述べたように、この制度の目的は、ユー
ザに携帯端末を安く提供することにあるのです。
 この制度の特徴は、携帯端末を「割賦販売」するところにあり
ます。しかし、月々の割賦金額相当分とほぼ同額を毎月ソフトバ
ンクが負担するのです。このソフトバンクが負担する金額はお客
が購入する端末によって異なるのです。
 もし、お客が購入する端末の月額分がソフトバンクの負担分よ
り大きいときは、その差額はお客の負担になるのです。MNP開
始までは、差額分の総額は一括して店頭でお客から徴収し、あと
はお客が他社へ転出しない限り、毎月の割賦分はソフトバンクが
負担したのです。したがって、お客は最初に店頭で支払っう差額
分だけで端末を購入できたのです。もちろん、金利・手数料はソ
フトバンク負担です。
 この制度をMNP以後は、お客が負担する差額分についても店
頭で支払わず、毎月徴収するという方式に改めています。これが
「新スーパーボーナス」(以下、「スーパーボーナス」)です。
この制度については、EJ第1997号を参照していただきたい
と思います。
 この制度の狙いは、端末を24ヶ月間の割賦で販売をすること
にあります。割賦販売であれば、その間お客の他社流出を防ぐこ
とができるからです。さらにソフトバンクでは、新規契約に関し
ては2ヶ月間は基本料金は無料サービスとしているので、26ヶ
月間お客をソフトバンクに囲い込みができることになります。実
に巧妙な方法であると思います。
 このように、お客を26ヶ月囲い込めると、端末料金のソフト
バンク負担分を十分回収する時間があることになります。しかし
それを大きめに設定した基本料金から得ている――この批判をか
わすために、基本料金を限度一杯まで下げてしまったのです。そ
れが「ゴールドプラン」の70%割引であり、今年に入って打ち
出した月額基本料金980円の「ホワイトプラン」なのです。
 ソフトバンクとしては、投資分を取り返すにはお客に携帯をで
きる限り多く使ってもらう施策を多方面に展開し、それから上が
る利益でそれをクリアする――誠にオーソドックスな経営の考え
方であり、お客としても納得できます。
 孫正義社長自身は、「スーパーボーナス」導入の目的は次の2
つにあることを指摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.短期間で端末を買い替えるユーザが得する点を解消
  2.ソフトバンク自身のキャッシュ・フローが改善する
―――――――――――――――――――――――――――――
 孫社長は、さらに携帯電話業界のこれまでの販売モデルに関連
して、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ほんの数ヶ月で事業者や端末を乗り換える人が多くなると、現
 在の携帯電話会社のビジネスはすさんでしまう。インセンティ
 ブを支払って端末価格を下げているからだ。一方で、これまで
 の販売モデルは、すぐに端末を買い替えるユーザも、長期ユー
 ザも通信料は同額だ。したがって、長く使ってもらっているユ
 ーザの料金は割高になってしまう。つまり、短期買い替えユー
 ザの販売インセンティブを長期契約ユーが負担している不公平
 感がある。          ――孫正義ソフトバンク社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融関係者の「スーパーボーナス」の見方を2つご紹介してお
きます。こちらは賛否両論があるのです。
 USB証券・株式調査部アナリスト、高橋圭氏は「スーパーボ
ーナス」はキャッシュフローの改善策になると述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 販売インセンティブモデルでは、先に一括して割引分をキャリ
 アが支払う。だが、スーパーボーナスは、ソフトバンクモバイ
 ルがインセンティブを分割後払いしているようなものだ。ユー
 ザが端末を購入する時点のソフトバンクの支払額は、後者の方
 が圧倒的に少ない。その結果、ユーザ獲得時のキャッシュ・フ
 ローは、売り切り販売インセンティブ・モデルよりも改善する
 はずである。       ――高橋圭USB証券アナリスト
―――――――――――――――――――――――――――――
 この高橋氏とは180度違う考え方をしているのが、同じUS
B証券のマネージング・ディレクターの乾牧夫氏は、「スーパー
ボーナス」について次の見方もできると述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財務的に行き詰っている会社が必要に迫られ、今までの商習慣
 を続けているだけでもつらいのではないか。 ――USB証券
             乾牧夫マネージング・ディレクター
―――――――――――――――――――――――――――――
 それに販売代理店幹部は、「スーパーボーナス」のお客に対す
る説明には時間がかかり、効率的ではないという問題点を指摘し
ています。           ・・・・ [通信戦争/23]


≪画像および関連情報≫
 ・日系携帯電話8社合わせてもサムソン電子に及ばす
  ―――――――――――――――――――――――――――
  クレジットなどの決済機能やワンセグ放送、音楽ダウンロー
  ドなど高機能化が進む日本の携帯電話。しかし、日本メーカ
  ーの世界における販売シェアは10社合計で8.8%に低迷
  欧米や韓国の企業に大きく水をあけられている。この現状を
  打開し、世界に通用する産業にしようという議論が政府内で
  活発化し始めた。ただ、日本と海外の携帯電話会社のビジネ
  スモデルの違いも根底にはあり、一朝一夕に変えることは難
  しそうだ。総務省によると、携帯電話端末の05年のシェア
  はフィンランドのノキアが33.5%で首位。米モトローラ
  がこれに続き、日本メーカーは10社合わせても韓国・サム
  スン電子に及ばない。
                  ――MSNニュースより
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月08日

不可解な日本端末のSIMロック(EJ第2016号)

 国民の90%近くが持っている携帯電話、テレビやカメラを含
む高度な機能が詰め込まれた携帯電話端末――こういうものを見
ていると、日本のケータイは世界に冠たるものであると考えてし
まいます。
 ところが実際は、日本の端末メーカーが束になっても、世界に
出ると韓国のサムソン電子や、フィンランドのノキアの1社分の
シェアにすらかなわないのです。
 どうしてこんなことになったのでしょうか。
 これは、国の通信政策と日本の支配的通信事業者であるNTT
の政策の失敗といわざるを得ないのです。その代表的な例がNT
Tドコモが採用した第2世代携帯電話の規格「PDC」です。こ
のPDC規格は日本が先行して開発しながら、それを世界標準に
できなかった規格なのです。
 それは、最新技術に異常にこだわり、急いで商用化しようとす
るNTTの体質と、NTTの海外進出を縛るNTT法によって、
PDC規格は世界標準とはなり得ず、GSM規格が世界の標準と
なったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 PDC ・・ Personal Digital Cellular
 GSM ・・ Global System for Mobile Communications
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう技術優先の傾向は、ADSL技術を熟知しながら電話
を守ろうとして結局失敗(認めていないが)したISDN、アナ
ログの独自技術にこだわり、世界のデジタルTV化に乗り遅れた
NHKなどにも見ることができます。
 しかし、日本がGSM規格に乗れなかったことは、後々まで尾
を引くことになります。それは海外でケータイを使う機会が非常
に多くなったことです。ケータイを海外で使うことは現在ではい
ろいろな方法で可能になっていますが、基本的には次の方法で外
国で使うことができます。
 GSM方式の携帯電話機は、次の2つの部分から成る構造をし
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  GSM方式の携帯電話機 = 本体 + SIMカード
―――――――――――――――――――――――――――――
 SIMカードは、他の一般的なICカードと同様にクレジット
カードサイズで提供されるのですが、ICチップの部分だけを切
り離して使うようになっています。
 なお、3Gのケータイでは、NTTドコモのFOMAとソフト
バンクでは、「W−CDMA」という規格を使っているので、S
IMカード構造になっていますし、auはW−CDMA方式では
ないものの、SIMカード構造の携帯電話機を採用しています。
 海外でケータイを使う場合は、その国のプリペイドSIMカー
ドを購入して携帯電話機にセットすれば良いのです。各国のプリ
ペイドSIMカードは、空港などでパスポートを示せば入手でき
ますが、そのカードを日本で使われている携帯電話機にセットす
ることはできない構造になっています。もちろん、SIMカード
がセットできる構造になっている日本の3Gの携帯電話機でも使
えないようになっているのです。それは、自社の以外のSIMカ
ードが使えないようにロックがかけられているからです。これを
「SIMロック」と呼んでいます。
 それではどうすればよいのでしょうか。
 各国のSIMカードがセットできる携帯電話機――つまり、S
IMロックのかかっていない携帯電話機をわざわざ購入すること
によってはじめて可能になります。NTTドコモとソフトバンク
のどちらでも利用できるSIMロックフリーの携帯電話機として
は、ノキア製の6650、7600、6630、E61の4種類
がそれに該当します。
 さて、ここからが少しややこしい話なのです。そのプリペイド
SIMカード――それぞれの各国のキャリアのものを購入して使
う場合と、日本の国際ローミングSIMカードを使う場合とでは
料金がぜんぜん違ってくるのです。
 例えば、A国のプリペイドSIMカードをA国のキャリアから
購入(A国の空港など)して使う場合について説明します。A国
に滞在してA国内の人と通話した場合は、当然ですが、国内通話
になります。もし、その電話機でA国から日本のX氏に電話する
と「端末→日本→X氏」となるので、国際通話になるのです。
 しかし、日本の国際ローミングSIMカードを使う場合、すべ
ての通話は次のように日本経由の国際電話になるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪A国に滞在してA国のB氏に電話≫
  ・端末→日本→A国→B氏の折返し国際通話
 ≪A国に滞在して日本のX氏に電話≫
  ・端末→日本→X氏の国際電話
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在では、3Gケータイの申し込みのとき、国際使用の手続き
をしておけば、自分の携帯電話機に付いているSIMカードを海
外で利用可能の携帯電話機(レンタル可能)にセットして使えま
すが、すべて国際通話になります。
 FOMAのケースでいうと、ドコモからワールド・ウイング対
応の携帯電話機をレンタルして、自分のFOMAにセットされて
いるSIMカード――UIMカードと呼称――を抜いて、そのレ
ンタルした携帯電話機にセットすれば使えるのです。
 どうして、こんなに面倒なのでしょうか。
 要するに、日本の国内で使われている携帯電話端末は、SIM
カードは付いていても、端末自体は海外では一切使えないことに
なります。逆に外国から日本へのGSM方式の携帯端末を持込使
用はできないことになっています。しかし、SIMカードは日本
国内に対応している端末を購入するかレンタルすればそれにセッ
トして使えることになります。  ・・・・ [通信戦争/24]


≪画像および関連情報≫
 ・ローミング(roaming)とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ローミングは、携帯電話やPHS、またはインターネット接
  続サービス等において、事業者間の提携により、利用者が契
  約しているサービス事業者のサービスエリア外であっても、
  提携先の事業者のエリア内にあれば元の事業者と同様のサー
  ビスを利用できることをいう。    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

SIMロック
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2007年02月09日

SIMロックはいつ外すのか(EJ第2017号)

 なぜ、日本の携帯電話機には、SIMロックが施されているの
でしょうか。
 これは販売奨励金制度と関係があるのです。キャリアとしては
販売代理店に多額の販売奨励金を支払う以上、ユーザに簡単にや
められては困るわけです。
 これまで特定のキャリアにユーザを固定させてきたのは、他の
キャリアに移ると、番号が変わるということだったと思います。
これはケータイの初期の頃から使ってきたヘヴィ・ユーザをひと
つのキャリアに留めていた要因だったのです。しかし、昨年10
月のMNP発足によって、その縛りはなくなり、他のキャリアに
移りやすくなったのです。
 そしてもうひとつの縛りは、キャリアを変えると端末も買い替
えなければならないということなのです。この縛りは不都合な話
なのです。どうして、買い替えないといけないのでしょうか。
 それは、SIMロックのせいなのです。これからのケータイは
3Gが中心となり、端末にはSIMカードが使われます。それな
ら、キャリアを変えるとき、SIMカードを取り替えれば、今ま
で使っていた端末が移動したキャリアの端末になる――そうなっ
たら便利だと思いませんか。
 しかし、現在は各キャリアがSIMロックをかけているので、
それができないでいます。しかし、もしそれができれば、販売奨
励金を廃止して、端末が相当高価になったとしても、必要に応じ
て高い端末でも買う人がいると思うのです。
 携帯電話の販売を販売代理店を経由しないで、直販方式にした
孫社長は、おそらくこのSIMロック解除にも手をつけるのでは
ないかと考えられます。ユーザにとって便利になることがわかっ
ているのにそれをやらない――これは商売人にとって自殺行為で
ある思います。もし、ロックを外せば、自分の使っているケータ
イが海外でもそのまま使えることにもなるのです。しかし、これ
をやられると、ドコモとauはこたえるはずです。
 一見進んでいるように見える日本の携帯電話業界――既に述べ
てきたように、実は現状大きく遅れているのです。それはNTT
ドコモが最新技術とはいえ日本独自の規格を世界に先駆けて導入
し、結果として日本の技術仕様を孤立させたことが大きな原因の
ひとつとなっているのです。
 孫社長は、ボーダフォンを買収してから携帯電話の専門家を何
人か役員として迎え入れています。松本徹三氏もその一人です。
松本氏は、米クアルコム社の上級副社長からの転身です。
 その松本氏は、NTTドコモとソフトバンクの違いについて興
味深いことを述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ソフトバンクとドコモを比べると、ドコモにはハンデキャップ
 と呼べるものがある。それは膨大なR&D(研究開発)部門を
 持っていることだ。R&Dがあれば、自分たちの技術を使わな
 ければならない。確かにドコモの技術力は高いが、それが常に
 世界最高だという保証はない。一方、ソフトバンクの立場は、
 世界中の技術の中でベストな組み合わせを選び、できるだけよ
 い条件で買うことだ。そうすれば、通信技術であろうと、端末
 であろうと、われわれが長期的に見てドコモよりもよいものを
 出せない理由はない。技術を持たないことがわれわれの武器で
 ある。      ――松木徹三ソフトバンクモバイル副社長
         『週刊/エコノミスト』12月12日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTTは、技術にこだわると同時に電話会社であるため、どう
しても電話を守ろうとします。ましてNTTは民営化されている
企業であり、NTTにとって一番大事である電話を守ろうとする
のは当然です。
 しかし、インターネットが普及拡大することが確実視されてい
た1995年において、当時やろうと思えばできたADSLを無
視して、ISDNの一般普及を決めたNTTの判断には大きな問
題があったと思うのです。
 なぜなら、ユーザの立場に立って考えた場合、ISDNはAD
SLに比べると、あまりにも不便であるからです。とくに速度と
コストの面でISDNはあまりにも不利であるからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          ISDN        ADSL
   速 度    64Kbps       12Mbps
   コスト      高い          低い
―――――――――――――――――――――――――――――
 速度については、ISDNが1秒間に64キロビットであるの
に対して、ADSLは1秒間に12メガビットであって、まるで
比較にならないからです。それに加えて、ADSLはコストが比
較にならないほど安いからです。
 というのは、ISDNはあくまで電話であって、ネットにつな
ぐたびに電話料をとられるのに対して、ADSLは電話線は使う
のの、電話ではなく、電話料をとられないので、コストは大幅に
違ってくるのです。
 低速でしかもコストが高いISDNと、高速でコストの安いA
DSL――これは勝負になりません。それでもNTTがISDN
を選んだのは、電話会社であるNTTが電話を守ろうとしたから
です。ここに民営化の問題点があるのです。
 しかし、その後韓国でのADSLの普及や国内でもソフトバン
クがADSLを手がけると、一転してNTTもADSLをはじめ
る始末です。これでは当時高価だったターミナル・アダプタ(約
7万円)を購入してISDNをはじめた多くのユーザのことを何
も考えていない措置といえます。つまり、NTTは顧客という視
点を忘れていると思うのです。
 現在、そのNTTは壮大なる次期ネットワークシステムに取り
組もうとしていますが、その取り組みにも大きな問題がありそう
なのです。           ・・・・ [通信戦争/25]


≪画像および関連情報≫
 ・ISDNについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ISDN――Integrated Services Digital Networkは、 交
  換機・中継回線・加入者線まですべてデジタル化された、パ
  ケット回線交換データ通信にも利用できる公衆交換電話網で
  ある。ITU−T(電気通信標準化部門)シリーズ規格とし
  て定められている。         ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月13日

固定電話と携帯電話の融合が進む(EJ第2018号)

 2007年1月末の時点で、日本の携帯電話とPHS(以下、
ケータイ)を合わせた契約総数が一億件を超えました。正確にい
うと、1億22万45OO件――2007年1月1日現在の日本
の人口は1億2千7百75万人ですから差を取ると、2752万
5500万人がまだケータイを持っていない計算になります。
 しかし、このうち9歳未満の子供は1815万3OOO人、さ
らに80歳以上の老人が669万6000人――これらの人はケ
ータイを持っていないと考えると、9歳以上、80歳未満の人で
ケータイを持っていない人はわずか937万2500人となって
しまいます。ほぼ国民一人一台のケータイを持っているといって
も過言ではない状況になっています。
 ところで、昨年の10月26日からスタートしたMNP制度に
よるケータイの顧客の奪い合い競争はどうなったでしょうか。ス
タート前の下馬評では、ソフトバンクはドコモとauの草刈り場
になり、その分を吸収してauは突出、ドコモは多少顧客数を減
らすものの、ソフトバンクの吸収分でそれを最小限に抑えるとい
われていたのです。
 しかし、実際はそうなっていないのです。一人負けになってい
るのはソフトバンクではなく、NTTドコモなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ≪1月の携帯電話3社の純増減数≫
               全体   うちMNPの分
  NTTドコモ    +7000   −9万8500
  KDDI   +20万8400  +10万8400
  ソフトバンク +16万4000   −1万0000
      ――2007年2月8日付、日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 auは、新規契約から解約分を引いた純増分で20万8400
件と6ヵ月連続首位であり、ソフトバンクも16万4000件と
ボーダフォン時代を含め、3年1ヶ月ぶりの10万件超えを達成
しています。MNPスタート以来、孫社長が次々と打ち出した施
策が明らかに効いています。これに対してドコモは、純増が極端
に伸び悩んでおり、深刻な状態であると考えられます。この傾向
は今後さらに拡大すると考えられるからです。
 NTTドコモの失敗の原因のひとつと考えられるのは「ワンセ
グ」に対する取り組みの意欲の低さにあります。かつてJフォン
がケータイにカメラを付けて「写メール」をヒットさせたとき、
NTTドコモの幹部は「当社はケータイにカメラはいらないと考
えている」と発言した前科があるのです。
 しかし、それから数ヶ月も経たないうちにケータイにカメラを
付けて発売しているのです。先見性がないというよりも、顧客の
ニーズを掴んでいないところがドコモの問題点です。
 既にEJ第1997号でご紹介したように、ドコモの中村社長
は「サイマル放送のままのワンセグはドコモにとってメリットは
ない」と突き放しているのです。しかし、電話はあまりかけない
が、テレビは欲しいというユーザはたくさんおり、そういうユー
ザがドコモから逃げ出していることを中村社長は知らないようで
す。顧客の視点を忘れており、すべてが他社の後追いです。これ
では、ドコモからの顧客の流出は止まらないでしょう。
 ワンセグは通信と放送の融合のひとつのかたちです。もしかす
ると、近い将来現在のケータイに当然のようにカメラが付いてい
るように、すべてのケータイにTVが付き、ワンセグが見られる
ようになっている可能性があるのです。
 日本の場合は、通信(ケータイ)と放送(ワンセグ)の融合が
ハードウェアとしては実現しつつありますが、諸外国では固定電
話と携帯電話の融合が進められつつあります。従来は別々に営ん
できた事業を統合することで、利便性を高める狙いがあります。
 これは、英国のBTフュージョンが2005年9月から開始し
ているサービスです。BTフュージョンで使われる携帯電話機は
携帯電話機能のほかブルーツゥースと呼ばれるごく短距離の無線
通信機能を備えているのです。
 この機能によって、携帯電話機を家で使うと固定電話とブルー
ツゥース経由でつながり、ブルーツゥースのエリアから外れると
携帯電話となるのです。この切り替えは自動的に行われ、携帯電
話で話しながら家の中に入ると、ブルーツゥースのエリアに入る
ので、その時点で固定電話になるというものです。これによって
どうしても割高になり勝ちな携帯電話の料金を下げる効果がある
のです。もちろん料金請求は一本にまとめられ、電話番号もひと
つで済み、固定電話と携帯電話を別々に持つ必要がなくなってし
まうのです。
 この「固定と携帯の融合」のことを、「FMC」と呼んでいま
す。FMCは次の言葉の頭文字をひろったものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         FMC
         Fixed Mobile Convergence
―――――――――――――――――――――――――――――
 このBTフュージョンのサービスに対し、韓国のKT、テレコ
ムイタリア、オランダのKPN、日本のNTTグループとKDD
Iもその取り組みを表明しています。
 しかし、この動きは、電話事業の発展のかたちとしてとらえる
よりも、携帯電話の普及による固定電話の減収に危機感を抱いた
固定電話業者による移動通信の取り込みとしてとらえるべきもの
です。しかし、携帯電話は端末もネットワークも技術革新が激し
い分野なのです。それを時間の流れの遅い固定電話と融合してし
まってよいのものでしょうか。
 2007年1月18日に、総務省の情報通信審議会電子通信事
業部会は「FMCサービスの導入へ向けた報告書(案)」を発表
しています。そこでは、FMCサービス用の新規番号は、「06
0」になることが記述されています。固定と通信の融合は急ピッ
チで進められているのです。   ・・・・ [通信戦争/26]


≪画像および関連情報≫
 ・FMCとは何か
 ――――――――――――――――――――――――――――
 携帯電話は便利だが,通話料やパケット代が高いのが難点。そ
 う感じている人はたくさんいるだろう。一方で,自宅から電話
 をかけるときでも,電話帳から簡単にかけられるという理由で
 固定電話ではなく高い携帯電話を使ってしまう人も少なからず
 いるだろう。こんなとき,「携帯電話を使いながら固定電話経
 由で通話できたら」なんて夢見る人もいるかもしれない。これ
 を実現するのがFMC。すなわち携帯電話と固定電話の融合で
 ある。
 http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/DENWA/20050829/220191/
 ――――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月14日

NTTグループの次世代ネットワーク構想(EJ第2019号)

 NTTドコモ、au、ソフトバンクモバイル――この3社の競
合は今後ますます激しいものになっていきます。その中にあって
NTTグループがどう動くかは、他社に対して大きな影響を与え
ます。NTTグループは、どのような戦略で何を目指そうとして
いるのでしょうか。
 NTTグループは、2004年11月に固定電話のIP化を発
表してします。具体的にいうと、2010年までに光ファイバー
を3OOO万回線提供して、IP技術を使う次世代ネットワーク
(NGN)を構築する「中期経営計画」を公表したのです。
 電話網のIP化――IP技術は「距離」の概念のない技術なの
です。しかし、NTTグループは1999年のNTT再編の組織
のままです。これは「距離」に対応した組織です。
―――――――――――――――――――――――――――――
          I― NTT東西地域会社
  NTT持株会社―I  NTTコミュニケーションズ
          I― NTTドコモ
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTT東西地域会社は地域通信、NTTコミュニケーションズ
は長距離通信、NTTドコモは移動体通信、この3社を純粋持株
会社であるNTT持株会社が統括している――これが現在のNT
Tグループの組織構造です。
 この場合、NTT東西地域会社とNTTコミュニケーションズ
の3社はNTT持株会社の100%子会社なのですが、NTTド
コモの資本については約60%しか持っていないのです。NTT
の問題を考えるとき、このことを頭に置く必要があります。
 はっきりしていることは、この体制のままでは、昨日のEJで
述べたFMC――固定通信と移動体通信の融合は困難であるとい
うことです。
 NTTの推進する次世代ネットワーク構想(NGN)では、次
のようになっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 次世代ネットワークを東西NTTが構築し、2008年以降に
 東西NTTのネットワークと、NTTドコモが構築を進める次
 世代携帯電話のためのIPネットワークを一体化する。この段
 階で固定と移動がバックボーンのレベルで融合する。
               ――日経コミュニケーション編
     『風雲児たちが巻き起こす携帯電話崩壊の序曲』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この構想では、次世代ネットワーク構築の主体はNTT東西会
社ということになります。しかし、NTTドコモは、2003年
からバックボーン・ネットワークのIP化に取り組んでおり、N
TT東西会社よりその技術ははるかに進んでいるのです。
 それにもかかわらず、次世代ネットワークはNTT東西会社を
中心として進められつつあり、それは固定電話の収入減に対処す
るため新しい収入源を移動体通信に求める構図になります。これ
では移動体通信を中心にFMCを構築しようとしているKDDI
やソフトバンクには対抗できないことになります。
 なぜなら、NTTドコモはNTT東西会社の固定電話サービス
を使わなくても、インターネット接続業者などが提供するIP電
話サービスを使うことができるからです。NTTドコモ自身もイ
ンターネット接続業者であり、やろうと思えば独自でFMCを実
現できるからです。
 もうひとつNTTグループが構築を進める次世代ネットワーク
には、わからない点があります。それは、次世代ネットワークに
おけるNTTコミュニケーションズの役割です。
 NTTコミュニケーションズは長距離通信において地域通信間
を中継する役割を担っている企業ということになっています。し
かし、この企業は「OCN」というインターネット接続プロバイ
ダ事業を行うかたわら、ポータルサイト「goo」を手がけ、ブ
ログやSNSまで手を伸ばしています。
 つまり、NTTコミュニケーションズでは早い時期からIP系
サービスを多く手がけてきており、多くのIPエンジニアをかか
えているのです。NTTグループが進めようとするNGNにはそ
うした人材が役に立つはずです。
 しかし、2006年8月の事業再編においては、NTT持株会
社は、なぜかNTTコミュニケーションズを次世代ネットワーク
の構築から外し、NTT東西会社から1200人規模の法人営業
部隊をNTTコミュニケーションズに移したのです。法人営業は
各グループ会社がそれぞれやっていたのですが、それをNTTコ
ミュニケーションズに一元化し、NTTグループのワンストップ
サービスができるようにするという構想です。
 しかし、IP技術に詳しい同社の技術陣は次世代ネットワーク
の担当としてNTT東西へは異動していないのです。これは実に
不思議な話です。本来であれば、IP技術に詳しいNTTコミュ
ニケーションズがグループ内のIP系のサービスを集約し、次世
代ネットワークを一元的に担当するべきです。
 しかし、どうしてもNTT東西会社を中心として考えるNTT
持株会社の幹部はそれを嫌ったのです。そういうわけで、NGN
の構築にはNTTコミュニケーションズを一切かかわらせず、販
売会社にするという案が激論のすえ採択されたのです。
 それにNTT持株会社は、もうひとつ大きなミスをしているの
です。昨年、通信に関わる国際規格を決める団体ITU――国際
電気通信連合の電気通信標準化局長選挙において、万全の根回し
で送り出した井上友二氏(NTT持株会社取締役)が3回目の選
挙で落選してしまったことです。
 しかも、その上の事務総局次長は中国、その上のトップ事務総
局長はアフリカに奪われてしまったのです。これは、NTT持株
会社の失敗というより、日本外交の敗北といってよい結果です。
 このような経緯から、NTTクループの次世代ネットワークは
失敗するといわれているのです。 ・・・・ [通信戦争/27]


≪画像および関連情報≫
 ・次期電気通信標準化局長、英国のジョンソン氏に決定
  ―――――――――――――――――――――――――――
  トルコ共和国アンタルヤで開催されている――本部・スイス
  連邦ジュネーブ――全権委員会議において、現地時間の11
  月14日(火)午後4時45分(日本時間同日午後11時45
  分)より、同電気通信標準化局長選挙が行われ、英国のジョ
  ンソン氏が投票数の過半数である82票を超える83票を獲
  得し、ITUの次期電気通信標準化局長に選出された。
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:39| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月15日

NTTコミュニケーションズの事業再編の謎(EJ第2020号)

 NTTコミュニケーションズの創業は1999年7月のことで
す。もともとは長距離通信事業者として発足したのです。そのた
め、県間や国際通信の電話設備やデータ通信網を有して、地域通
信事業者であるNTT東西会社を中継したのです。つまり、当初
は通信インフラを所有していたのです。
 しかし、NTTコミュニケーションズは、2006年8月の事
業再編でこのインフラから切り離され、インフラを持たない通信
事業者として発足することになったのです。いわゆる水平分業型
の事業体への変身です。
 通信業界におけるNTTグループをのぞく他の2強ともいうべ
きKDDIもソフトバンクも固定通信と移動通信の両方のインフ
ラを持つ垂直統合型の事業体であり、海外でもそういう事業体は
増えています。そういう意味で、「インフラを持たない通信事業
者」としてのNTTコミュニケーションズは特異な存在であると
いえます。果たしてこのような戦略でKDDIやソフトバンクに
対抗するのでしょうか。
 しかし、NTTコミュニケーションズの社長の和才博美氏はき
わめて意欲的であり、次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 インフラがなければ借りればいい。NTTコミュニケーション
 ズには規制がなく常に先進的なビジネスにチャレンジできる。
 法人事業と上位レイヤーを融合させた新しいサービスの提供な
 どに挑戦していく。           ――和才博美社長
               ――日経コミュニケーション編
     『風雲児たちが巻き起こす携帯電話崩壊の序曲』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで「上位レイヤー」とは、「goo」などのポータル事業
などを指しています。しかし、今までこの面においては、同社は
あまり成功しているとはいえないのです。
 そのため、どのように考えてもNTTコミュニケーションズは
NTTグループの中でかなり割を食っている感じであることは確
かなのです。ある証券アナリストは次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTTコミュニケーションズを水平分業型にするのは戦略的な
 施策というより、グループ間闘争の結果のように見える。次世
 代ネットワークからNTTコミュニケーションズを外したため
 その見返りに法人営業などを集約したのだろう。長距離電話の
 売り上げと利益に頼れる間に、法人事業と上位レイヤーでしっ
 かり稼げるようにならなれければ、固定電話収入が減るにつれ
 てNTTコミュニケーションズはジリ貧になる。
          ――日経コミュニケーション編前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに法人営業を一元化させるというのは、効率の面から考え
るとプラスの効果がありますが、一元化したのはNTTコミュニ
ケーションズとNTT東西会社の営業だけであって、NTTドコ
モは入っていないのです。したがって、今度は、NTTコミュニ
ケーションズとNTTドコモの営業のバッティングが起こり、中
途半端な施策であるといわざるを得ないのです。
 現実に次のようなことが法人営業の世界で起きているのです。
2006年11月のことですが、NTTドコモは一つの携帯電話
端末で、社内では固定電話として使い、社外では携帯電話として
利用できるサービスをはじめています。FMCの法人版そのもの
です。ところが、これはNTT東西会社の提供するIP電話サー
ビスと完全にバッティングするのです。
 このサービスに関して、NTTドコモのある幹部にコメントを
求めると、次の答えが返って来たのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 競争ですからね。KDDIと競争するように、東西NTTやN
 TTコミュニケーションズとも競争する。NTT持株会社以外
 にNTTドコモの株主がいるわけですから、仕方がないです。
          ――日経コミュニケーション編前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このコメントでもわかるように、NTTドコモは次世代ネット
ワークに関して、持株会社がリードしようとする方向に抵抗を示
しているように感じられます。つまり、ドコモはグループ主導の
融合を嫌がっているようです。
 逆にNTT持株会社としてもドコモに関しては相当気を使って
いるところがあります。持株会社は、最近になってNGNのスケ
ジュールに関する報道資料に一部修正を加えています。
 当初の報道では「移動系との一体化を実現」と記述されていた
のですが、NTTドコモの要請により、「移動系とのシームレス
化を実現」という表現に変更されたのです。
 「一体化」という表現は、バックボーン・ネットワークを固定
系と移動系を融合して一つにするという意味になります。しかし
「シームレス化」では、それが曖昧になってしまいます。それに
実施時期も「2008年以降に」となっており、これでは事実上
時期を明らかにしないことと変わりがないことになります。
 おそらく来年以降に、KDDIとソフトバンクはFMCを展開
することが予想されるので、その対応を考えて、時期についても
こういう表現になっているものと思われます。
 このようにNTTグループにとって、今後の通信戦争の環境は
一層厳しさを増すことは確かであるといえます。組織体が巨大で
あるために素早く変化に対応できない恐れがあるからです。
 しかし、NTTグループにとって明るい話題もあります。それ
は光ファイバーの売れ行きが好調であることです。2006年に
入ってからは4月から9月までの6ヵ月で、NTT東西合わせて
130万契約と、月に20万契約を超える勢いです。
 何しろ光ファイバーは、次世代ネットワークのアクセス回線と
なるだけに、今後の通信戦争の帰趨を左右します。光については
今のところNTTが圧勝なのです。・・・・ [通信戦争/28]


≪画像および関連情報≫
 ・「上位レイヤー」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  プロトコルの話をするとき使う言葉に、上位レイヤ、下位レ
  イヤという言い方があります。その説明は、例えば、人間が
  コンピュータを使って何かするとき、人間がやりたいことを
  直接取り扱う部分が上位レイヤで、もうちょっとコンピュー
  タ寄りのことをするのが下位レイヤです――のようになりま
  す。でも、これだとなかなかイメージしづらいかもしれませ
  んね。
  http://www.atmarkit.co.jp/fnetwork/rensai/tcp08/01.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月16日

ケータイにテレビ機能は必要か(EJ第2021号)

 携帯電話のテーマを取り上げて29回目です。このテーマはも
う少し続きますが、既に終盤に入っています。ここで今後のケー
タイの使い方に確実に影響を与えるワンセグケータイについて、
述べておくことにします。
 ワンセグが話題になる前にボーダフォンがアナログチューナー
を内蔵した携帯電話を販売したことがあります。しかし、満足す
べき画質が得られず、失敗に終わっています。
 しかし、一度でもケータイでワンセグ放送を見たことがある人
は、その映像の美しさ、安定さにきっと驚嘆すると思います。ア
ナログでは駄目だったのにどうしてワンセグはきれいに受像でき
るのでしょうか。「ワンセグはデジタルであり、デジタル方式の
通信を採用している携帯電話だから部品が共有できるからではな
いか」と考えている人がいるかも知れません。
 実は部品は共有化されていないのです。ワンセグ放送機能付き
携帯電話には携帯電話の通信に使う基板とは別に、デジタル地上
波チューナー用の基板が用意されているのです。ノイズを防ぐた
めに完全な独立機構になっているのです。つまり、ワンセグ付き
携帯電話はなかなかの高級仕様なのです。
 ところで、ワンセグとは一体何でしょうか。
 地上波デジタル放送は、1チャンネルを13セグメントに分け
て送信しているのですが、高画質・高品質の家庭用ハイビジョン
放送には12セグメントが使われるのです。そうすると、1セグ
メントが残りますが、これを使って移動体機器用に同じ番組を配
信することになったのです。そのため「ワンセグ放送」と呼ばれ
るのです。使用する帯域は429キロヘルツとなっています。
 ワンセグ放送の映像サイズは、かつて初期のPCで標準であっ
た解像度VGAの4分の1サイズであり、クオーターVGA(Q
VGA)と呼ばれています。音声はモノラルとステレオが用意さ
れててるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 VGA  640×480 ・・・   初期のPCの解像度
 QVGA 320×240 ・・・ ワンセグ携帯電話解像度
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、地上デジタル放送は、高画質・高音質で送信するときは
12セグメントを使いますが、通常の品質の番組であれば1つの
チャンネルにつき4セグメントしか使わないのです。したがって
3つの番組を同時に放送できるのです。
 そうすると、デジタル地上波テレビの4分の1で、ワンセグは
見られることになります。このことは重要なことです。つまり、
ワンセグは情報量が少ないのです。処理する情報量が少なければ
部品を動作させる時間が少ないので、消費電力は少なくて済むの
です。これがワンセグ放送が携帯電話に向いているといわれてい
る理由なのです。
 なお、当たり前のことですが、ワンセグ放送は電波を受信して
視聴するものですから、何時間見てもパケットなどには一切関係
はなく、NHKに届ける必要もないのです。つまり、テレビにつ
いては完全に無料なのです。
 それにワンセグケータイのテレビ放送は、別売のメモリカード
を装着すると録画できますし、予約録画までできるのです。しか
もこちらはコピーワンスは関係ないのです。そういう意味でもワ
ンセグを使わない手はないのです。
 しかし、ワンセグの普及に関しては、従来から携帯電話に搭載
されているネットアクセスの機能との兼ね合いで、「ネット接続
機能に比べれば、ワンセグは必需品ではないだろう」という人が
少なくないのです。それに呼応してか、一部の有力キャリアはワ
ンセグにはあまり熱心ではないのです。
 確かにケータイはあくまで電話であり、テレビは必需品でない
ことは確かです。しかし、ネット接続機能で便利なのは、メール
と乗り換え案内などの一部の機能であって、ウェブサイトの閲覧
は、たとえそれがケータイ・サイトであっても、もともと向いて
いないのです。それはケータイの画面サイズがあまりにも小さい
からです。それに結構お金もかかるからです。
 それに、音楽データやゲームソフトなどのダウンロードは、既
に述べたように、たとえ「パケットし放題」をつけても非常に高
く、無理してケータイでやる必要はないと思います。
 しかも、ある調査によると、「パケットし放題」をつけている
人でさえ、ネットにつなぐ頻度はせいぜい1日1回でしかないの
です。使っている人はごく一部の人なのです。
 しかし、テレビは違うのです。ケータイを持っていながら、ネ
ット接続はもちろんのこと、メールも通話さえもあまりやらない
人に私はワンセグケータイのテレビ映像を見せたら、それだけで
買いに行った人がいるのです。このように、ネット接続とテレビ
は明らかに違うことを認識すべきです。
 携帯電話にテレビは必要ないという人は、おそらく自らワンセ
グケータイを持っていないでしょう。テレビ付きの携帯電話の便
利さは持っていない人にはわからないものです。
 現在、最も情報が一番早く取得できるメディアは、テレビであ
ると思います。したがって、テレビを持ち歩いていると、即座に
情報を取得できます。ニュースから天気予報、プロ野球や相撲な
どの勝敗はネットでも知ることはできますが、テレビの方がはる
かに簡単で素早く、わかりやすく知ることができるのです。
 ワンセグケータイを持ってはじめて知ったことがあります。た
またま電車の中で、テレビでドラマを見たとき、そのセリフが画
面に文字で表示されたのです。聴覚障害者の文字放送番組ですが
番組数は結構多いのです。
 もちろん、テレビの音声はイヤーホンで聴くことができますが
そんなことをしなくても、画面だけ見ていても十分内容を掴むこ
とができます。今や携帯電話に付いている種々の機能のうち、テ
レビ機能は一番頻繁に使う機能になりつつあります。携帯電話の
常備機能になる可能性があります。 ・・・ [通信戦争/29]


≪画像および関連情報≫
 ・ワンセグに関る経費は・・?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  UHF電波を利用するため、テレビの視聴とデータ放送は無
  料である(但し、データ放送から詳しいコンテンツを受信す
  るために放送局とパケット通信する場合はパケット通信料が
  掛かる。この場合、画面にサーバー受信可否を問う画面が必
  ず表示される。)。従来のアナログ放送と異なり、移動時で
  も安定した受信が可能である事から、携帯電話などの携帯機
  器での受信や車載受像機が商品化されている。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月19日

竹中総務相対NTT和田の対決(EJ第2022号)

 今回のテーマは、業界の異端児といわれる孫社長を中心とする
ソフトバンクが日本の通信業界をどのように変えようとしている
のかについてここまで書いてきています。
 しかし、日本における通信戦争が今後どのように展開していく
か――その鍵を握るのは、やはりNTTの動向です。そこで、N
TTについての情報を整理して、話を先に進めることにします。
 NTTは、2004年と2005年の中間決算で、重大な発表
をしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪2004年中間決算での発表≫
  ・現在の固定電話回線の約半分に当たる3000万回線の光
   ファイバーを2010年までに提供し、IP技術を使う次
   世代ネットワーク(NGN)を構築する。
 ≪2005年中間決算での発表≫
  ・次世代ネットワーク(NGN)は、NTT東西地域会社と
   NTTドコモが構築して、NTTコミュニケーションズに
   は法人営業やネット事業などを集約する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、NTTグループは、東西NTT地域会社2社とNTTド
コモ、NTTコミュニケーションズの4社をNTT持ち株会社が
統括する組織体制になっています。その組織の頂点に立っている
のは、和田紀夫NTT持ち株会社社長です。
 この体制がとられたのは1997年のことなのですが、この時
点で当のNTTがその後数年の間に起こった変化を的確に予測し
ていたかどうかは大変疑わしいのです。
 数年の間に起こった変化とは、2001年9月にソフトバンク
が火をつけたADSL――それが2002年には一気に花開いた
こと。続いて、ソフトバンクが仕掛けたIP電話サービス「BB
フォン」――ソフトバンクはこれによってNTT東西の収益源で
ある固定電話に揺さぶりをかけたのです。
 そして、携帯電話の国民一人一台化への急展開――これらの動
きに対してNTTが取った対応策は、いずれも後追いにしか見え
なかったのです。
 これほどの激変にもかかわらず、NTTグループは現体制を守
ろうとしているのです。しかし、現体制のままでこれからの変化
に挑もうとすると、大きな矛盾が起こることを当のNTTグルー
プの幹部――とくに持ち株会社の幹部が理解できていないように
思います。もう少し具体的にいうと、トップがIPネットワーク
というものを理解できていないのです。
 NTTグループは、「IP技術を使う次世代ネットワーク(N
GN)」をNTT東西地域会社が中心になって構築する」といっ
ているのです。しかし、IPネットワークには距離や地域の概念
がないのです。そういうネットワークに対して現体制で臨むとい
うことは、IPの世界に強引に地域制限を設ける――そういうこ
とになりかねないのです。
 2006年1月――そのNTTグループが最も恐れていた事態
が起こったのです。時の総務大臣である竹中平蔵氏が、次の私的
諮問機関を立ち上げたのです。この委員会は後に「竹中委員会」
と呼ばれるようになります。2006年1月20日のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  総務大臣諮問機関「通信・放送の在り方に関する懇談会」
―――――――――――――――――――――――――――――
 これについて、素早く反応したのはもちろん当のNTT持ち株
会社の和田社長です。和田社長は、竹中委員会の第1回会合の行
われる直前の1月18日に急遽記者会見を開き、次のように竹中
委員会を批判し、牽制したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在のNTTグループのフォーメーションは、固定電話が全盛
 だった時代の技術やサービスを背景としていますが、グループ
 の在り方を、竹中大臣の懇談会で論じてもらおうとは全く思っ
 ておりません。われわれの中期経営戦略を、むしろ政府にバッ
 クアップしていただける議論をぜひ展開してほしいと考えてい
 ます。           ――NTT持ち株会社和田社長
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中氏は総務大臣になる前から、「通信・放送業界は既得権者
が多すぎる」として、とくにNTTの独占体制を批判していたこ
とを和田社長は知っており、そうはさせないとして、懇談会が立
ち上がる前に素早く牽制したのです。しかし、それから数ヵ月後
に和田社長は竹中大臣の凄さを思い知ることになるのです。
 この竹中平蔵なる人物は毀誉褒貶の多い人ではありますが、小
泉政権の改革の旗頭といわれるだけあって、らつ腕の政治家であ
ることは間違いないといえます。とくにNTT問題に関しては、
総務大臣に就任してわずか一年以内にきちんと仕事を成し遂げて
いるのです。
 その竹中委員会が狙っていたのは、具体的には次のようなこと
なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTT持ち株会社を廃止し、東西NTT、NTTコミュニケー
 ションズ、NTTドコモを資本分離する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTT持ち株会社の和田社長が「冗談じゃない」と怒るのは当
然のことですが、NTTグループ以外の通信事業者など通信業界
のほとんどが、竹中委員会の結論には賛成だったのです。
 そのことを熟知している和田社長は、なりふりかまわず、政治
家へのロビー活動をはじめたのです。その相談に行った先は、参
議院自由民主党幹事長、片山虎之助議員なのです。片山議員は初
代の総務大臣を務めた人物であり、通信業界には隠然たる力を有
していたのです。         ・・・ [通信戦争/30]


≪画像および関連情報≫
 ・中期経営戦略の狙いは・・・/和田社長
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「新たなネットワークを作ることで、日本が抱える問題の解
  決に貢献したい。ネットワーク作りに必要な資金は、ブロー
  ドバンド(高速大容量通信)で、どこでもつながる『ユビキ
  タス』な環境を作り、新しいサービスで利益を上げて得てい
  く。いまのグループ体制で出来るだけやっていくのが我々の
  ビジョンだ。グループ内の役割を整理することで、効率化も
  図れる。NTTコミュニケーションズは長距離・国際通信で
  稼いできたが、IP化が進むと距離の概念がなくなり、通信
  網から収入は得られなくなる。だから、今後伸びるネット事
  業や、法人営業を集約する。相乗効果も期待できる。独占回
  帰とか、競争排除という話じゃない」
           ――2005年11月22日/読売新聞
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月20日

竹中委員会はどのように運営されたか(EJ第2023号)

 竹中委員会は何もかも異例づくめだったのです。その特異性を
まとめると、次の4つになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.総務省の官僚を委員にしないで、完全事務局化
   2.利害関係のある通信・放送業界も委員にしない
   3.メンバーは座長を含めて8人を竹中大臣が選出
   4.6ヶ月以内に一定の結論を出すと竹中大臣公言
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は、「総務省の官僚を委員にしないで、完全事務局化」し
たことです。
 大臣の諮問機関を作るには、大臣の担当する省庁が事務局にな
り、委員の人選から検討するテーマ、資料づくりなどを一元的に
行うのが普通です。こうすることによって、事務局といっても会
議の主導権が握れるからです。しかし、竹中委員会ではこうした
慣例は一切無視され、総務省は会議の日程を決めて委員に連絡す
ることや委員から要請のあった客観的資料の作成をするという文
字通りの事務局の役割をさせられたのです。
 第2は、「利害関係のある通信・放送業界も委員にしない」と
いうことです。
 委員にはNHKとNTTの幹部はすべて外され、これらの業界
に詳しい御用学者――いつも政府の委員会のメンバーになってい
る――も委員になれなかったのです。利害関係者が入っていると
議論が紛糾し、まとまらないからです。これは、誰でもわかって
いることですが、大臣によほどの度胸とリーダーシップがないと
できないことです。
 第3は、「メンバーは座長を含めて8人を竹中大臣が選出」し
たことです。
 メンバーを選定する前に竹中大臣は、この委員会の座長を決め
ていたはずです。座長は、竹中大臣が郵政民営化を成し遂げたと
きの盟友である東洋大学経済学部教授松原聡氏だったのです。お
そらく竹中大臣は松原教授と相談して他の7人のメンバーを選ん
だと思います。全メンバーは次の通りです。確かにこういう問題
を検討するのにふさわしいメンバーだと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
  久保利英明 ・・・ 弁護士
  菅谷  実 ・・・ 慶應義塾大学教授
  林  敏彦 ・・・ スタンフォード日本センター理事長
  古川  享 ・・・ 元マイクロソフト会長
  松原  聡 ・・・ 東洋大学教授(座長)
  宮崎 哲也 ・・・ 評論家
  村井  純 ・・・ 慶應義塾大学教授
  村上 輝康 ・・・ 野村総合研究所理事長
―――――――――――――――――――――――――――――
 第4は、「6ヶ月以内に一定の結論を出すと竹中大臣公言」し
たことです。
 この8人のメンバーに対し、竹中大臣は次のようにいい、6ヶ
月以内に結論をまとめるよう指示したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 通信と放送の融合を妨げているものは何かを突き止め、通信と
 放送のあるべき姿を描き出して欲しい。   ――竹中総務相
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中委員会の目的が外部に伝わると、通信・放送関係者はほっ
と胸をなで下ろしたといわれます。通信・放送業界全般のあるべ
き姿を描き出すなどという大きなテーマを6ヶ月以内という短い
期間で結論を出すなんて不可能と考えたからです。
 しかし、この予測は大きく裏切られるのです。竹中委員会は驚
くべきスピードで審議が重ねられ、2006年6月に最終結論が
出されたのです。念のため、竹中委員会の14回の会議の日を次
に示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    第 1回会合(平成18年1月20日(金)開催)
    第 2回会合(平成18年1月23日(月)開催)
    第 3回会合(平成18年2月 7日(火)開催)
    第 4回会合(平成18年2月21日(火)開催)
    第 5回会合(平成18年3月 9日(木)開催)
    第 6回会合(平成18年3月13日(月)開催)
    第 7回会合(平成18年3月22日(水)開催)
    第 8回会合(平成18年3月28日(火)開催)
    第 9回会合(平成18年4月11日(火)開催)
    第10回会合(平成18年4月20日(木)開催)
    第11回会合(平成18年5月 9日(火)開催)
    第12回会合(平成18年5月16日(火)開催)
    第13回会合(平成18年6月 1日(木)開催)
    第14回会合(平成18年6月 6日(火)開催)
―――――――――――――――――――――――――――――
 それぞれの会合で何が議論されたかを知りたい方は、グーグル
で次のキーワードで検索すると、トップに表示されます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   キーワード:通信・放送の在り方に関する懇談会
―――――――――――――――――――――――――――――
 第14回会合の終了後、竹中委員会は次の結論を公表していま
す。それは、明らかにNTTの現体制の大改革を時期を付けて主
張しているといってよいでしょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2010年には通信関連法制を抜本的に見直して、NTT持ち
 株会社の廃止などを含む検討を速やかに始めるべき
―――――――――――――――――――――――――――――
 この結論が出されるまで、NTT持ち株会社の和田社長は片山
虎之助議員を何度も訪ねて裏工作を重ねたのですが、委員会の論
調を弱めることはできなかったのです。・・ [通信戦争/31]


≪画像および関連情報≫
 ・竹中委員会は「NTT解体を目指すものではない」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  松原教授は2006年2月21日の竹中懇談会の内容を受け
  て一部の新聞が「懇談会がNTTを解体方針」と報じたこと
  に「誤解が生じている。大胆な改革が必要だが,NTTの解
  体を目指すものではない」(松原教授)として議論の趣旨を
  説明した。「96年にNTTの現在の形態が決まってから既
  に10年が経過している。持ち株会社を廃止して,現在の東
  西NTT、ドコモ,NTTコミュニケーションズをそれぞれ
  個別の会社にすればいいというものでもない。県内と県外や
  固定と携帯を分けて置くことがFMCの時代に意味があるの
  か」と述べた。
  http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060222/230382/
  ―――――――――――――――――――――――――――
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2007年02月21日

竹中委員会ではどんなやり取りがあったか(EJ第2024号)

 竹中委員会は、通信・放送関係の利害関係者を委員にしなかっ
といっても、彼らの意見を聞かなかったわけではないのです。全
部で14回にわたる会合の中で、ヒアリングと称して何回も意見
を聞いているのです。
 各会合における委員たちの討議の模様は、非公開になっている
のでわかりませんが、ヒアリングは公開されています。一体どの
ようなやり取りがあったのか――2006年3月22日の第7回
会合の中でのやり取りの一部をご紹介しましょう。
 この日は通信事業者3社のトップ――NTTの和田社長、KD
DIの小野寺社長、ソフトバンクの孫社長が顔を揃えており、激
しいやり取りが行われたのです。
 小野寺、孫両社長が、「NTTの固定電話網は国民のもの」と
しきりにいうことにいらだった和田社長は、次のように反論した
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 電電公社時代の資産はすでに株式にして国に返しているし、光
 ファイバは民営化後しばらくしてから本格的に着手したもので
 す。したがって、電話網を国民のものというのはやめていただ
 きたい。今は株主のものです。        ――和田社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対してソフトバンクの孫社長は、すぐに次のように反論
したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府保証債で構築したネットワークをベースに光ファイバへ張
 り替えている以上、そのネットワークは国民のものではないで
 すか。それを「国民のものというな」というような社長が運営
 している会社に、21世紀のインフラを任せていいものでしょ
 うか。                    ――孫社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 孫社長の鋭い切り込みに和田社長が少しひるんだときに、もう
ひとつの意見が飛んだのです。それは、竹中委員会の松原聡座長
だったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 株式会社だ、株主だといわれるけれど、NTTは政府設立の株
 式会社ですからね。             ――松原座長
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTT対競合事業者の対決の構図です。竹中委員会としては、
こういう対立構図を浮かび上がらせる演出をしているのです。
 続いて、光ファイバーの話に移ります。ここでは、KDDIの
小野寺社長が次のように主張します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 光ファイバで電柱が開放されているというが、NTTグループ
 と同じ手続きのスピードでは使えず、競争性がないことは明ら
 かです。ソフトバンクやKDDI、電力系NCC、CATVの
 収益まで合わせてもNTT東日本1社に及ばないほど強大な市
 場支配力をNTTグループは持っているのです。NTTは資本
 分離すべきです。NTTは持ち株会社が司令塔として動き、暴
 挙に出ている。99年のNTT再編の法律趣旨に反しており、
 素人目に見ても脱法行為そのものですよ。  ――小野寺社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTT持ち株会社の和田社長を前にしての発言です。NTTに
とってはまさに針のむしろです。続いて、ソフトバンクの孫社長
も次のようにNTTを追い詰めます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私ども競争したがりのソフトバンクが、これほど意欲を持って
 いながらも光ファイバでは戦えない状況にあるんです。光ファ
 イバは民間が運営するユニバーサル回線会社として独立すべき
 だと思います。現在、NTTは5000円程度で光ファイバ回
 線を開放していますが、我々の計算では、ユニバーサル回線会
 社で光回線を整備すれば、1回線につき月額690円で実現で
 きますよ。                  ――孫社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 まさにNTTへの集中砲火です。さらに孫社長は、2010年
までに3000万回線を引くというNTTグループの計画に関し
ても次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTTが日本中の家庭に光ファイバを提供できるならば、それ
 は1つの選択肢だろうと思います。しかし、独走態勢にありな
 がらも2010年までに3000万回線しか敷設しない。収益
 性のある場所にしか引かない。できれば競争相手にも貸したく
 ないというNTTには任せられないです。    ――孫社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 最後に、松原座長が「NTTグループが資本分離することで、
ユーザーにデメリットが生じるのではないか」と質問したところ
小野寺社長と孫社長は次のように答えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小野寺社長:短期的にはでデメリットもあるだろうが、長期的
       に見れば、事業者間競争によって国民にも十分メ
       リットはある。
 孫  社長:短期でも長期でもユーザーにメリットはある。競
       争はより安くいい性能のものを提供すること。競
       争が困るというのはNTTだけである。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、NTTグループは一方的な袋叩きです。タフネゴ
シエーターで鳴らす和田社長もほとんど防戦一方で、サンドバッ
ク状態です。このままではいけない、潰される――片山虎之助議
員の力を借りて何とかしなければ、と和田社長は考えたのです。
 この頃から新聞各紙は、「NTT経営形態見直しで一致」(日
本経済新聞)や「完全民営化を視野にNTT組織見直し」(毎日
新聞)の記事を出しはじめたのです。・・・ [通信戦争/32]


≪画像および関連情報≫
 ・中期経営戦略についての和田社長の見解
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中期経営戦略はNTT独占体制への回帰ではないかという意
  見があるが、中期経営戦略は、ユーザーニーズへの対応の緊
  急性を考慮して、現行法の枠組みの中で最も早く次世代ネッ
  トワークを構築するための手段である。構築した次世代ネッ
  トワークに関しては、NTTグループと競争事業者でも同等
  の接続条件を担保し、オープンなビジネスモデルを推進する
  方針である。
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月22日

竹中が執念でとった政府与党合意(EJ第2025号)

 参議院自民党の片山虎之助議員は、初代の総務相ということも
あって、通信・放送分野で隠然たる力を持っていたのです。彼は
自民党の「電気通信調査会/通信・放送高度化委員会(片山委員
会」の委員長を務めており、この委員会で通信・放送分野の改革
を議論していたのです。
 竹中委員会は、総務相の私的諮問機関に過ぎず、そこでいくら
革新的な内容がまとまっても片山委員会の合意が得られないと、
単なる絵に描いた餅に終わる恐れがあったのです。
 竹中委員会ではさんざんな目に遭っているNTT持ち株会社の
和田社長も、片山議員に頼めば何とかなるという思いがあり、足
繁く片山議員のところに通っていたのです。その水面下の根回し
があったからこそ、和田社長もあれほど竹中委員会で叩かれなが
らも、次のような強気の発言ができたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTTの資本分離なんてするつもりはありません。竹中さんの
 懇談会で議論していただくのは結構ですが、われわれが受入れ
 られないものには、断固として反対意見を申し上げていく。規
 制緩和をお願いしてきたのに、こんな展開になり、戸惑ってい
 るわけです。                ――和田社長
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中平蔵総務相(当時)はこう考えていたのです。私的諮問機
関でまとめた結論に実効性を持たせるには、その内容を「骨太方
針」に反映させることである――これは閣議決定と同様の実効性
を持たせることになるからです。そのためには、同じ問題を検討
している片山委員会の合意が必要なのです。つまり、政府与党合
意という「伝家の宝刀」が必要であると考えたのです。
 竹中委員会と片山委員会では、NTTの組織問題をどうしよう
としているのか、その違いはどこにあるのでしょうか。このこと
を明らかにする必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪竹中委員会≫
  2010年には通信関連法制を抜本的に見直して、NTT持
  ち株会社の廃止などを含む検討を速やかに始めるべき
 ≪片山委員会≫
  拙速に結論を出すべきではなく、2010年ごろにNTT法
  などの関連法令の改正を検討すべき
――――――――――――――――――――――――――――−
 2つを比べてはっきりしていることは、片山委員会の方針は、
NTT組織問題は先送りしようとしていることです。時期を「2
010年ごろ」としていますが、「ごろ」が曲者なのです。この
表現なら2010年に検討をはじめなくてもよいからです。
 これに対し、竹中委員会は、通信関連法制は2010年と明確
に期限を切り、NTTの組織問題については「速やかに」行うべ
きとしています。したがって、その差は大きいのです。
 この差を埋めるために竹中総務相は信じられないパワーを発揮
したのです。それは、毎日のように片山議員のところに赴き、調
整を試みたのです。官僚から見ると、大臣は偉い存在であって、
軽々しく出向くことなどとんでもない。事前に官僚が下話をして
話を煮詰め、最後に大臣が出向くというスタイルをとるべきだか
らです。だから、決定が遅くなるのです。
 しかし、竹中総務相はそもそも大臣を偉いなどと考えておらず
問題を解決するために毎日片山議員のところに出向いたのです。
これに対して片山議員は、政治経験が豊富であり、自分が総務相
という地位にあったこともあり、大臣という地位はそれなりの重
みがあると思っていたのです。その自分よりも地位が上の総務相
が毎日のようにやってくるのですから、それによって、相当のプ
レッシャーを感じていたのです。しかし、片山議員は次のように
いっていたんです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は2つの案で合わないところは合わないままでいいと思って
 いるけどね。政策を決めるのは政府と与党で、最終的に法律を
 変えるには国会の承認が必要。大臣の私的な懇談会に過ぎない
 竹中懇談会と中身を同じものにする必要なんてないんだから。
        ――日経コミュニケーションズ編の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 「竹中大臣のいっていることにも正論の部分がある」――最終
局面において、片山議員はこのような言葉をいうようになってき
たのです。そして、遂に6月20日、何回もの折衝のすえにNT
Tの組織問題について次の合意にこぎつけたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2010年の時点で検討を行い、その後速やかに結論を得る
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府与党合意には片山だけでなく、当時の内閣官房長官の安倍
晋三、政務調査会長の中川秀直、そして自民党電気通信調査会長
の佐田玄一郎の直筆の署名と印鑑が押してあったのです。
 これによって、NTTの組織問題を含めた検討が2010年に
開始することが政治的に約束されたことになるのです。単なる総
務省の私的諮問機関で出した結論が政治的な意味を持ったといえ
ます。竹中の執念ともいえる合意の取りまとめといえます。
 このような合意がとれるとは思っていなかった松原座長は次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 正論を押し通すのか、それとも与党の主張に妥協するのか、す
 ごく悩んだけど、どうせ自民党と合意できないなら正論を通そ
 うと思ったんだよ。            ――松原聡座長
―――――――――――――――――――――――――――――
 結果として、正論で押しまくった竹中総務相の勝利というべき
結果だったのです。        ・・・ [通信戦争/33]


≪画像および関連情報≫
 ・竹中委員会の政府与党合意の全文
  ―――――――――――――――――――――――――――
  高度で低廉な情報通信サービスを実現する観点から、ネット
  ワークノオープン化など必要な公正競争ルールの整備等を図
  るとともに、NTTの組織問題については、ブロードバンド
  の普及状況やNTTの中期経営戦略の動向などを見極めた上
  で2010年の時点で検討を行い、その後すみやかに結論を
  得る。
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月23日

総務省が変身しようとしている(EJ第2026号)

 1985年から87年にかけて、政府は「3公社」を次々と民
営化していったのです。3公社とは次の3つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   日本国有鉄道   ・・・・・ JRグループ
   日本専売公社   ・・・・・ 日本たばこ産業
   日本電信電話公社 ・・・・・ NTT
―――――――――――――――――――――――――――――
 このうち、日本電信電話公社の民営化を担当したのが、「第二
行政臨時調査会」です。この調査会では、1982年の時点で、
日本電信電話公社については、組織分割が必要であるとして、次
の結論を出していたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 電電公社ほどの独占性と巨大さと併せ持った公社を民営化する
 なら分割するのが当然である。   ――第二行政臨時調査会
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、民営化する直前になって、分割は当面見送りになり、
「組織を民営化後、5年以内に見直す」という条件がNTT法に
明文化されたのです。このようにして、1985年に日本電信電
話公社は民営化されたのです。
 ところが、民営化してから5年後の1990年にはNTT分割
論は本格化せず、見直し規定は延長されたのです。そして、さら
に5年後の1955年、郵政省での大議論のすえ、1997年に
現在の組織形態になったのです。
 議論はNTTのすさまじい抵抗でなかなかまとまらなかったの
ですが、苦肉の策として持ち株会社制の導入によって決着がつい
たのです。そのとき、決着の条件としてNTT側から持ち出され
たのが、組織見直し規定の事実上の廃止です。
 どういうことかというと、今後郵政省(現総務省)はNTTの
組織問題には口を出さないという暗黙の了解です。その後、長年
にわたって、この暗黙の了解が総務省がNTTの組織問題を持ち
出すことを縛ったのです。
 その長年のタブーを破ったのが竹中総務相(当時)なのです。
彼はNTTと総務省の暗黙の了解を無視して、NTT組織改革に
向けて信じられないスピードでダッシュしたのです。
 竹中委員会発足の時点で、2006年9月には小泉首相と一緒
に引退することを決めていた竹中総務相は自分がいなくなった後
もNTT組織問題が前進する担保として次の2つのことが必要で
あると考えたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.NTT改革案を実効性のあるものにしておくこと
  2.自分の後任の総務大臣について配慮しておくこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 1に関しては、昨日のEJで述べたように、NTT改革案に関
して政府与党合意を取り付けて実効性を持たせることに成功して
います。政府与党合意は、政府の経済財政運営の基本方針「骨太
方針2006」に盛り込まれて、政府として検討することが明確
に決まったことになります。
 しかし、肝心の竹中総務相がいなくなれば、この政府与党合意
文書を生かすも殺すも、竹中の後任の総務大臣しだいということ
になります。もし、総務大臣にNTT派が選ばれると、竹中委員
会の努力は水泡に帰してしまうことになります。
 しかし、驚くべきことに竹中総務相はこれにも手を打っていた
のです。それは、竹中の下で総務副大臣を務め、すさまじいNT
T派の圧力にも屈せず、竹中総務相を助けた菅義偉副大臣を後任
の総務省としてしかるべき筋に推薦していたのです。これが2の
対策です。
 小泉政権を引き継いだ安倍首相は、小泉の改革路線を継承する
とし、菅を総務大臣に任命したのです。管総務相は、就任挨拶で
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中大臣の下で副大臣として、懇談会(竹中委員会)にも毎回
 出席して、一緒に方向性を出してきた。竹中さんが決めたこと
 は『政府与党合意』にしっかり書いてある。広範なテーマを一
 気にやるわけだから、大変なエネルギーが必要だけれども、着
 実に形にしていくつもりだ。         ――菅総務相
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここまで竹中委員会の話をしてきましたが、この委員会の発足
より前に総務省はもうひとつ、懇談会を設置し、竹中委員会と平
行して審議を積み重ねてきているのです。その懇談会は「IP懇
談会」と呼ばれてきたのですが、正式名称は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会
―――――――――――――――――――――――――――――
 この懇談会の構成メンバーは13人ですが、竹中委員会のメン
バーの林敏彦氏も入っています。この懇談会は、総務省が「通信
政策や制度の大幅見直し」のために立ち上げたもので、竹中総務
相の就任が明らかになる3日前の2005年10月28日からは
じまっています。
 IP懇談会については長くなるのでEJでは取り上げないが、
どういう内容が検討されたのかを知りたい方は、上記の長い懇談
会面をグーグルの検索窓に入れて検索すると先頭に出てきます。
 当初IP懇談会では、NTT組織問題を俎上に載せたいと考え
ていたのですが、竹中が総務相になってから、竹中委員会がスタ
ートし、そちらで組織問題をはじめたので、それに合わせるかた
ちで議論を進めてきています。
 いずれにせよ、2010年に向かって、日本の通信業界は大き
な局面を迎えます。通信事業者は従来の電話網からIPネットワ
ークへの移行を進めるからです。  ・・・ [通信戦争/34]


≪画像および関連情報≫
 ・竹中総務相の後任の菅総務相
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本の情報通信の技術力は本当に素晴らしい。GDPの成長
  分野に占める情報通信の割合は4割に上る。自動車産業と並
  ぶ産業になってもおかしくない。国際競争に打ち勝てる総合
  戦略を考えるつもりだ。          ――菅総務相
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月26日

KDDI首都圏の光ファイバー網を確保(EJ第2027号)

 このテーマになってからのEJブログの一日の総ページピュー
は上昇しています。一日1000回以下の日は1月は3日、2月
になってからも3回のみ――いずれも900回台でほとんど毎日
1000回以上を記録しています。2月21日には2510回を
マーク−−それだけ多くの方に読まれているということになりま
す。したがって、中途半端では終われなくなっています。
 ここまでソフトバンクとNTTを中心に書いてきたのですが、
今後の通信戦争を考えるとき、NTT対抗軸の最右翼に位置する
KDDIについても知っておく必要があります。NTTを追撃す
る先頭にいるといっても、NTTの連結売上高が10兆円である
のに対し、KDDIはせいぜい3兆円であり、収益規模の面では
KDDIはNTTに圧倒されているのです。
 そのKDDIの社長である小野寺正氏の口ぐせは「NTTから
自由になりたい」ということ――これは小野寺氏の夢なのです。
その意味は、NTTのネットワークに頼っている限り、われわれ
はNTTの基盤の上でしかサービスを展開できない――だから、
NTTから自由になりたいということなのです。
 そのKDDIは、2006年10月12日の夕刻、小野寺社長
のその夢の実現に一歩を大きく踏み出したのです。それは、一年
間にわたる交渉のすえ、KDDIに東京電力の光ファイバー事業
を統合することが正式に決まったからです。
 光ファイバーはユーザの自宅まで線を引き込まなければならな
いのです。しかし、KDDIはNTT東西地域会社のように電柱
をはじめ地下トンネルであるとう道や管路を持っていないため、
ユーザー宅まで光ファイバーを引こうとすると莫大な投資と時間
がかかってしまうのです。
 NTT東西の光ファイバーを借りる手もありますが、それでは
とてもNTTと勝負にならないのです。この事情はKDDIだけ
ではなく、ソフトバンクも同じ状況にあるのです。しかし、NT
T東西は目下急ピッチで光ファイバーを引いている――何か打つ
手はないかと小野寺社長は考えたのです。そして目につけたのが
東京電力の光ファイバーだったのです。
 東京電力の光ファイバー事業を統合したことによってKDDI
は、東京電力管内だけとはいえ、首都圏という日本最大の消費地
域において、膨大な規模の光ファイバー網を手に入れたことにな
ります。これでKDDIは、首都圏においてはNTTとまともに
戦える状態にになったといえます。
 KDDIは、光ファイバーと携帯電話を組み合わせた「FMC
サービス」や、家庭内の電灯線を使って通信する「高速電力線通
信」を組み合わせて、NTT東西とは一味違うサービスを提供し
て首都圏でのシェアを30%確保することを目標にしています。
 しかし、KDDIは自前のインフラを手に入れたことにより、
新たなリスクが生じたという見方があります。なぜなら、東京電
力の光ファイバー事業はこの3年間で、数百億円規模の赤字――
2004年度は306億円、2005年度は358億円――を出
しているからです。
 しかし、KDDIは業績が好調な携帯電話事業を抱えており、
それと連携するかたちで光ファイバー事業を進めれば、十分事業
を発展させることが可能です。KDDIとしては携帯電話事業に
特化させた方が高収益体質を作れることは確かですが、携帯電話
事業の今後のあり方を考えるとき、自前のインフラを持つことは
携帯電話事業を発展させるうえでも不可欠なのです。
 しかし、KDDIには別の意味のリスクもささやかれているの
です。それは、東京電力の光ファイバー事業を統合するさいの過
程で出てきたリスクなのです。
 実はKDDIは、東京電力の光ファイバー事業を統合するちょ
うど一年前に東京電力と包括提携を結んでいたのです。しかし、
そのとき決まっていたのは、東京電力の通信子会社である「パワ
ードコム」をKDDIが吸収合併することであり、光ファイバー
事業は東京電力とKDDIが協業するということだったのです。
 ところが、パワードコムの買収において、交渉は難航していた
のです。それは、パワードコムの企業価値の算定において、KD
DIの望む買収額と東京電力の売却額には大きな開きがあったか
らです。何回交渉を重ねてもこの開きは一向に縮まらず、合併は
破談寸前までいったのです。小野寺社長としては、社内には合併
反対勢力もおり、簡単に買収額を下げられなかったのです。
 この事態を憂慮した東京電力の交渉担当のトップは、東京電力
の勝俣社長に交渉の状況を説明し、援助を仰いだのです。勝俣社
長は、直ちに小野寺社長と連絡を取り、トップ同士の交渉をはじ
めたのです。そして、交渉は急転直下まとまったのです。
 トップ会談で何が交渉されたかは不明ですが、東京電力はパワ
ードコムを高めに売却する代わりに、光ファイバー事業を差し出
したのではないかといわれています。複数の証券アナリストの意
見をまとめると、株式交換の比率とKDDIの株価から算定する
と、パワードコムの株価は明らかに高く評価されていたといって
います。
 もともとKDDI社内には、東京電力との提携には消極的なグ
ループがおり、交渉は小野寺社長の社長権限による決断で決まっ
たのです。したがって、もしこれによってKDDIの業績が落ち
るようなことがあると、小野寺社長の責任問題にも発展する恐れ
があります。これが、東京電力との交渉の過程で生じたKDDI
のリスクというわけです。
 東京電力との関係強化によって、東京電力はKDDIの持ち株
比率を増やし、京セラ、トヨタ自動車に続く第3位の株主に浮上
します。この株主構成の変化がKDDIの意思決定にどのような
影響を与えるかが不透明である――こういう指摘をする専門家も
いるのです。いずれにしても小野寺氏は社長の在任期間が長く、
2005年6月からは会長も兼任しており、権力が小野寺社長ひ
とりに集中し過ぎているとの批判もあり、社内は一枚岩になって
はいないのです。         ・・・ [通信戦争/35]


≪画像および関連情報≫
 ・KDDIとパワードコムの合併比率
  ―――――――――――――――――――――――――――
  KDDIとパワードコムの合併比率は、KDDIが1に対し
  てパワードコムが0.0320で、合併に伴い発行する新株
  式数は、普通株式が18637648株。ただしKDDIが
  保有するパワードコム株式9897.34株については、合
  併に際してもKDDIの株式を割り当てない。合併終了後の
  東京電力の出資比率は4.81%となる。
  http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2005/10/13/9470.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月27日

東京電力はなぜ光事業に失敗したのか(EJ第2028号)

 電力会社にとって通信事業は長年のやるべき課題だったはずで
す。とくに光ファイバー事業は、今後の電力会社の発展の基礎と
なるべき重要なビジネスであり、20年の歳月を費やしてここま
でやってきたのです。それなのに東京電力はなぜ成功させること
ができなかったのでしょうか。
 2006年10月12日、KDDIと東京電力の緊急記者会見
の席上、東京電力の勝俣社長はそれについて見解を求められ、次
のように答えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  二点あります。一つは、最初の出だしの部分、オール電力で
 総力を挙げ、全国でサービス提供しようと思っていたが、いろ
 いろな要因で提供エリアが地域に限定された。
  二つめはやはり私どもの力のなさ、力が不足していた。技術
 革新なども含めスピードについていけなかった。
  ただ、最終的には(東京電力の通信事業への投資は)十分ペ
 イしているという認識であります。
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 どうして東京電力の光ファイバー事業はうまくいかなかったの
でしょうか。
 東京電力の競合相手は、事実上NTT東西とUSENの2社と
いうことになります。KDDIやボーダフォン(ソフトバンク)
をはじめとする他の通信事業者はNTT東西から回線を借りて営
業しているので、NTT東西陣営ということになるからです。
 2006年3月末時点の光ファイバー市場のシェアは次の通り
となっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     NTT東西  ・・・・・ 62.6%
     電力系事業者 ・・・・・ 15.8%
     USEN   ・・・・・  8.7%
     その他    ・・・・・ 12.9%
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかも、NTT東西の62.6%という圧倒的なシェアは、2
005年末から3ヶ月でシェアは約2%も増加しており、さらに
拡大する傾向があるのです。
 どうして、NTT東西が圧倒的に強いのかというと、それは、
NTTの圧倒的な資金力に基づく営業力にあります。それは、次
の3つの点に集約されます。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.業務フローや工事体制の大幅なる改善
     2.魅力的インセンティブによる販売施策
     3.豊富な資金をふんだんに使う広報施策
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は「業務フローや工事体制の大幅なる改善」です。
 現在、NTT東西は光ファイバーの工事を受けた時点で工事を
その場で決められる「即決システム」を導入しています。その期
間も申し込みから開通までは1ヶ月から1ヶ月半であり、かつて
の数ヶ月待ちはなくなっています。それに工事の初期費用が無料
は当たり前のことになっています。
 第2は「魅力的インセンティブによる販売施策」です。
 NTTは光ファイバーにすべてをかけており、量販店に支払う
光ファイバーのインセンティブは一契約10万円が相場という話
まであります。光ファイバーはいったん敷設してしまうと、他に
乗り換えにくいことから、とにかく潤沢な資金を使って契約獲得
に全力を上げているのです。
 第3は「豊富な資金をふんだんに使う広報施策」です。
 とにかくテレビCMが凄いです。NTT東日本はSMAP、N
TT西日本はイチローを使うなど大物を起用してのCM攻勢――
電力系通信事業者は手も足も出ないでしょう。テレビCMを見て
いる限り、光ファイバー事業をやっているのはNTT東西だけと
いうイメージさえできてしまいます。
 これら3つのことに加えて、これもテレビCMの効果と思われ
るものが、IP電話サービスの「光電話」のセット率が80%で
あることです。これによって、固定電話の収益は低下するのです
が、NTT東西が一番恐れているのは他社にとられることであり
それを防ぐためには仕方がないという考え方です。
 NTT東西は「トリプルプレイ」に力を入れており、それをテ
レビCMでSMAPにいわせているのですが、この「トリプルプ
レイ」は業界用語なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ≪トリプルプレイ≫
     1.インターネット接続
     2.IP電話サービス ―― ひかり電話
     3.映像サービス   
―――――――――――――――――――――――――――――
 この強力なるNTT東西に対抗するには、電力系通信事業者と
しては、最初からオール電力でやるしかなかったのです。東京電
力の勝俣社長はそれをいっていたのです。
 しかし、ここでKDDIが東京電力の光ファイバー事業を手に
入れたことにより、電力系通信事業者としてNTTに対抗する新
たな道が開けてきていると思います。東京電力以外の電力系通信
事業者はKDDIと組む気はあるのでしょうか。
 NTT東西から見れば、KDDIは強敵です。ケータイ事業に
おいても追い込まれており、少なくとも電力系事業者相手よりは
戦いにくいところがあります。したがって、何とかして早く30
00万回線を達成したい――そうしたら、もはやNTTに誰も対
抗できなくなってしまいます。現在のNTT東西の勢いで突っ走
ると光ファイバー3000万回線敷設は、しだいに現実のものと
なりつつあるのです。       ・・・ [通信戦争/36]


≪画像および関連情報≫
 ・NTT東日本のフレッツひかりのCM
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ひかり中学校、ある日の放課後。野球部が校庭で練習をして
  います。その様子を見守る野球部顧問中居先生と古田監督。
  中居先生は、フレッツ光について話す機会をうかがっていま
  す。「やっぱりパソコン買ったらすぐ光に申し込むのが便利
  ですよね」と言おうとしますが、タイミング悪く監督の熱血
  指導が入ってしまいます。結局、監督は益々指導に力が入り
  中居先生はその姿に終始圧倒され続け、フレッツ光について
  話せませんでした。その後、パソコンを買ってすぐフレッツ
  光に申し込む中居先生の姿が・・・。
  http://www.ntt-east.co.jp/gallery/tv/cm_flets.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年02月28日

地方の光ファイバーをどうするのか(EJ第2029号)

 東京電力の光ファイバー網を手に入れたKDDIは、今後どの
ようにしてNTTと戦っていくつもりなのでしょうか。
 まず、首都圏以外の地方はどうするかです。もちろん、地方に
ついては、NTTを利用する方法はあるのですが、KDDIが、
NTTを超えようと考えるのであれば、当のNTTから回線を借
りていたのでは、いつまでもそれは実現しないことになります。
 NTTに頼らないのであれば、東京電力以外の電力系通信事業
者から回線を借りなければなりません。これについて、KDDI
は既に手を打っており、法人向けの光ファイバーについては、ほ
とんどの電力会社と合意しているといいます。
 実はKDDIがパワードコムを吸収合併したとき、電力系通信
事業者で構成している「パワーネッツ・ジャパン」(PNJ)は
KDDIを警戒していたのです。それは、PNJとパワードコム
の間に交わされていた不文律の「ある約束」の履行が危ぶまれた
からです。「ある約束」とは次のようなものであり、パワードコ
ムはそれを履行していたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 パワードコムが全国でWANサービスを提供する際は、電力系
 通信事業者のアクセス回線を優先的に使う。
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 PNJが警戒したのは、パワードコムを吸収合併したKDDI
はその約束を守らないのではないかと考えたのです。なぜなら、
NTT東西の光ファイバーの料金の方が格段に安かったからで、
KDDIはコストのことを考えて、今までパワードコムが使って
いた電力系通信事業者まで、NTTに切り替えるのではないかと
危惧したのです。
 しかし、小野寺社長は、今までパワードコムが使ってきた通信
事業者は従来通り使うことを保証し、NTT東西と電力系を使い
わけるのは、新規に受注した分だけであるとする方針を出して、
PNJを安心させたのです。これで、KDDIとPNJの関係は
友好的なものになり、KDDIの地方戦略は、かなり進めやすく
なったといえます。
 しかし、電力系通信事業者は法人向けの事業ではKDDIと協
業するが、一般消費者向けの光ファイバー事業は何としても守ろ
うとする――これが基本的なスタンスです。
 関西電力の傘下に、ケイ・オプティコムという通信事業者があ
ります。関西一円に幅広く光ファイバーの提供エリアを広げてお
り、電力系通信事業者の中では、最も多くのユーザーを抱えてい
る事業者です。関西電力としては、現在のところ、KDDIに光
ファイバーをアクセス回線として卸すことはあっても、事業統合
までは考えていないといっています。
 しかし、電力系通信事業者は、このケイ・オプティコムを含め
て、親会社の支えなしでやっていけるところは皆無の状況なので
す。したがって、東京電力の決断を見て密かに統合を検討する業
者も今後出てくることは十分考えられるのです。
 電力系通信事業者の中には、ソフトバンクの持つADSL網に
関心を示すところもあります。やがて、ソフトバンクのADSL
のユーザが光ファイバーに置き換わる可能性に魅力を感じている
ものと思われます。
 このように、法人向けについては既に電力系通信事業者と良好
な関係を築きつつあるKDDIですが、一般消費者向けに関して
はどのように考えているのでしょうか。
 それは、KDDIのケーブル事業推進室長藤本勇治氏の次のコ
メントの中に答えはあると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 電力会社と協力できたとしても、光ファイバーのエリアは大都
 市の近辺に限られる。約5000万世帯に引き込んでいる東西
 NTTの電話網には及ばないとはいえ、CATV網は4000
 万世帯に行き届いている。         ――藤本勇治氏
         ――日経コミュニケーション編の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、CATV事業者は、多チャンネルテレビ放送とインター
ネット接続サービスを提供していますが、IP電話までは提供で
きないでいます。しかし、NTT東西は、光ファイバー1本で、
動画配信とインターネット接続サービス、それに光電話のトリプ
ルプレイを既にやっているのです。このNTTによるブロードバ
ンドを利用しての動画配信は、CATV会社の本来領域であり、
NTTに自分の庭への侵入を許していることになります。
 CATV業者にとってこれは重大問題です。米国のCATV事
業者は、トリプルプレイに携帯電話を加える形態――クワドロプ
ルプレイまたはグランドスラムのサービスを提供しはじめている
のです。CATV事業者として、強力な携帯電話事業auを持つ
KDDIとの提携に魅力を感じても不思議はないでしょう。
 CATV事業者として忘れてならないのは、J:COMです。
J:COMは2000年以降、CATV会社を次々と買収し、現
在、多チャンネル放送サービス加入者数シェアで35%(212
万世帯)を占める存在です。
 J:COMは今のところKDDIなどとの提携を匂わしていま
せんが、状況しだいでメリットがあればどことでも――たとえN
TTとでも組むといっているのです。ただ、もし、J:COMが
KDDIと組むという事態になると、電力系通信事業者は本気で
それに合流することを躊躇しないだろうとある電力関係者はいっ
ているのです。なぜなら、これほど強力な対NTT対抗軸はない
からです。
 当然のことですが、すべてはNTTがどう出るかなのです。N
TTが3000万回線を達成する前にNTTに対して強力な対抗
軸を作らないと、光ファイバーにおいてNTTの完全独占を許し
てしまうことになるのです。    ・・・ [通信戦争/37]


≪画像および関連情報≫
 ・J:COM/森泉知行社長
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「我々は放送、インターネット、固定電話の三つのサービス
  をやっている。こうした『トリプルプレー』のサービスが世
  界的な放送通信業者の主力になりつつある。これまではケー
  ブルテレビ局がインターネットなど通信の領域に攻めていっ
  たが、NTTのような通信会社はテレビのサービスを始めよ
  うとしているし、競争は厳しくなっている」。
  「ケーブル局は600ぐらいあり、非常に細分化されている
  が、地域独占の壁はなくなりつつある。大手通信会社が本格
  的に放送に参入する前に、ケーブル局の合従連衡(による経
  営基盤の強化)は避けられない。我々も買収を繰り返し、日
  本のケーブル局では一つだけ大きく突出しているが、まだ効
  率的ではない」。
  http://www.yomiuri.co.jp/net/interview/20050908nt05.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年03月01日

光ファイバーの接続料の現状の課題(EJ第2030号)

 ここで、NTT東西に課せられている「光ファイバーの開放義
務」について述べておくことにします。日本における今後の通信
戦争を予測するうえでの基礎になることだからです。
 光ファイバーについては、電気通信事業法という法律で総務省
はNTTに対して規制をかけています。この法律によって、NT
Tは、自ら敷設した光ファイバーであっても、KDDIやソフト
バンクをはじめとする他の通信事業者からそれを求められれば、
必ず貸し出さなければならないのです。
 NTTとしては、貸し出しにさいしてもちろん料金――接続料
を取ることができますが、NTTが勝手に決めることはできない
のです。総務省に対して根拠を付けて申請し、許可をもらう必要
があるのです。
 普通のビジネスであれば、貸し出す相手を選択できるし、自分
の商売が不利にならないような値付けができるのですが、NTT
は一切それができず、普通のビジネスで許される自由度はまった
くないといえます。
 しかも、他の通信事業者に貸し出すさいの接続料は、NTT自
体も縛るのです。というのは、NTTが自社ブランドで光ファイ
バー・サービスを提供する場合、他事業者への貸し出し料金を原
価としなければならないからです。要するに、あらゆるインフラ
を有するNTTでも他の事業者と公平な競争ができるよう総務省
は配慮しているわけです。
 したがって、NTTが料金を下げる場合も、NTTは光ファイ
バーの新しい接続料の申請を総務省にして、認可をもらう必要が
あるのです。そして、認可が出たら、他事業者に対しても値下げ
した接続料で貸し出さなければならないのです。
 これがNTTに課せられている「光ファイバー開放義務」なの
です。これだけを読むと、いかにNTTが縛られているか、何だ
か気の毒になってしまいますが、NTTもそれがイヤなら、資本
分離に応ずればいいだけのことです。
 それでは、光ファイバーの接続料はどのようにして決められて
いるのでしょうか。
 実際の敷設コストを単年で出すと非常に高くなるので、NTT
は「将来原価方式」というコスト算出方法をとっています。NT
Tは2001年から光ファイバーの開放をはじめていますが、そ
のときのコスト算出法です。
 具体的にいうと、7年間――2001年度〜2007年度の光
ファイバーの需要を予測し、その間のコストを平準化してを算出
したのです。そのとき、算出された料金は、光ファイバー1本に
つき、約5000円ということで決まっています。もちろん、こ
の金額で総務省の認可を取っているのです。
 しかし、2001年の時点におけるNTTの需要予測は次のよ
うに大幅に外れているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   2005年3月末 ・・・・・ 約1万3000円
   2006年3月末 ・・・・・ 約1万1000円
―――――――――――――――――――――――――――――
 現時点では、計算通りに需要は伸びておらず、コストは徴収額
の倍以上になっているのです。ちょうど7年目に当たる2007
年3月末についても、1万円は切っていない状況であり、NTT
としてこのマイナス分をどのようにして回収するかが問題になっ
ているのです。
 これについてNTT持ち株会社の和田社長は、2006年11
月の中間決算の記者会見で、記者の質問に答えて次のように発言
しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 光ファイバーの接続料については、7年分のコストを回収する
 という方向で検討中です。(中略)考え方を整理したい。7年
 間がもうすぐ終わってしまうので、いろいろ工夫できないか考
 えている真っ最中だ。    ――NTT持ち株会社和田社長
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言を額面通りに受け取ると、光ファイバーの値上げにつ
ながる発言であると思います。しかし、もし、軽々に値上げをす
ると、せっかくNTT東西が光ファイバーの拡販に成功している
のにストップをかけることになります。さらに、NTTが値上げ
すると、当然貸し出し料金も引き上げられることになるので、そ
の影響は甚大なものになります。
 しかし、総務省は光ファイバーをめぐる新しい競争政策を推進
するうえで、接続料を下げようとしているのです。このような状
況において、光ファイバーの接続料が今後どうなるかは不透明に
なっています。NTT東西の幹部はこの問題について次のように
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 持ち株会社は光ファイバーを値上げして、投資の回収をできる
 だけ早くしようとしているが、実際に売る側のNTT東西とし
 ては、今はまだ値上げよりも、好調な勢いに乗って拡販を続け
 る時期だと考えている。
         ――日経コミュニケーション編の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、NTT持ち株会社と傘下のNTT東西との意識は
大きく異なっているのです。光ファイバーの接続料だけでなく、
持ち株会社と事業会社の間では、次世代ネットワークをめぐって
も意見が異なるのです。
 このような状況が続いてよいはずはなく、結局問題はNTTの
組織問題に戻ってくることになります。NTTの組織問題は他に
与える影響が大きい問題であり、2010年を待つまでもなく真
剣に検討しなければならない問題であるといえます。明日はこの
問題を取り上げます。       ・・・ [通信戦争/38]

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2007年03月02日

4パターンのNTT組織問題(EJ第2031号)

 2010年に検討されることに決まったNTTの組織問題を整
理しておきましょう。竹中委員会の座長を務めた松原聡教授は、
NTTのあり方には次の4つがあることを指摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.現状組織をそのまま維持
       2.アクセス部門の機能分離
       3.アクセス部門の構造分離
       4.持ち株会社廃止資本分離
―――――――――――――――――――――――――――――
 「アクセス部門」とは何でしょうか。
 アクセス部門とは、電電公社時代から100年以上の歳月をか
けて全国津々浦々に築いてきた電話網のインフラ――電話局や電
話線、25万キロを超える光ファイバー網と電柱や地下の管路や
とう道などの敷設・管理を担う部門を意味します。現在、この部
分を担っているのは、NTT東西地域会社です。
 松原座長が示した第1の案は、現状維持――NTT東西地域会
社、NTTドコモ、NTTコミュニケーションズの4社をNTT
持ち株会社が統括する現在のNTTの組織を維持することです。
 現在、NTT東西地域会社は、アクセス部門をかかえながら営
業部隊を有し、光ファイバーの営業を展開しているのです。そし
て、競合相手である他の通信事業者に対して回線を貸し、接続料
をとっている――これでは圧倒的にNTT東西が有利です。
 既に見たように、NTT東西は光ファイバーの営業に関して販
売奨励金をふんだんに使っています。この奨励金の原資に、競合
相手の通信事業者がNTT東西に支払う接続料が入っていないと
は誰もいえないはずです。
 そのため、総務省は接続料をNTT独自には決められないよう
にして、あくまで公平な競争を図っていますが、それでもNTT
の方が有利に決まっています。とても公正なる競争とはいえない
でしょう。
 松原座長が示した第2の案は、NTT東西のアクセス部門を機
能分離することです。この例は英国にあります。BT――ブリテ
ィッシュテレコムは、2006年はじめからアクセス部門を機能
分離しています。
 BTの機能分離はかなり徹底したものなのです。会計はもちろ
んのこと、オフィスも別にし、ブランド名もBTの文字は一切使
わず、「オープンリーチ」という名前で営業しているのです。人
事交流も一切ないのです。それに第三者機関から監査役を受け入
れており、機能分離がきちんと行われているかどうかチェックを
受けています。しかし、組織は昔のままです。
 NTT東西でもこれに近いことをやろうとはしているのですが
いかんせん徹底力が甘いのです。会計は分離しているものの、人
事交流などは行われているのです。
 松原座長が示した第3の案は、NTT東西のアクセス部門を構
造分離――すなわち、資本分離して別会社にすることです。確か
にNTT東西のアクセス部門が完全に別会社になれば、NTT東
西の営業部隊と他の通信事業者のそれとは公正な競争が保証され
ることになります。
 ソフトバンクの孫社長の主張は、この第3案を発展させたもの
だったのです。NTT東西からアクセス部門を切り出して「ユニ
バーサル回線会社」を設立し、民間からも出資を受けて、全国に
光ファイバーを敷設するというものです。そうすれば、現在50
74円の光ファイバーの接続料を690円にできると孫社長はい
うのです。彼のことですから、はったりでいっているのではなく
ちゃとした根拠あっての数字とみられます。
 この孫社長の提案の重要なポイントは、あくまで光ファイバー
を全国――採算ベースに乗らない地域も含めて、全国に敷設する
というところにあります。NTT東西はあくまで採算の合う地域
にしか光ファイバーを敷設しない方針であり、孫社長はかねてか
らそれを批判していたのです。
 しかし、公益事業会社による光ファイバーの敷設は競争が働き
にくく、効率に問題があるのです。それに、全般的な「官」から
「民」への流れの中で、公益事業会社を設立するのは時代に逆行
することになってしまいます。そういう観点から、竹中委員会の
松原座長は、ユニバーサル回線会社説をとらないが、それ以外の
方法で、光ファイバーの料金引き下げは実現する方向を目指す方
針を立てたのです。
 松原座長が示した第4の案は、NTT持ち株会社を廃止し、傘
下の4会社は完全に資本分離するというものです。そうすれば当
然のことながら、NTT法は廃止され、NTT東西の業務にかけ
られているさまざまな規制は撤廃されることになります。つまり
「NTT解体」です。竹中委員会が最初から目指し、採択したの
はこの案なのです。
 EJ第2026号で、竹中委員会と平行して総務省はIP懇談
会を進めてきていると述べましたが、この懇談会は竹中委員会が
政府与党合意を取ると、直ちにそれに基づき次の改革工程ルール
を作り上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       新競争促進プログラム2010
―――――――――――――――――――――――――――――
 新聞などには出ていないのですが、竹中前総務相は2006年
6月に政府与党合意を勝ち取ると、直ちに総務省内部の人事に着
手しているのです。今までの総務省人事では、大臣の意思を反映
できるのは審議官などのトップ官僚に限られていたのですが、竹
中大臣は、通信事業者と直接やり取りする現場レベルの人事まで
介入し、NTT改革派を配置して、「新競争促進プログラム20
10」がきちんと進むような体制にしているのです。
 このままでは、NTTは2010年から解体に向けて一挙に動
くことは確実です。このことが今後の通信戦争の行方に大きな影
響を与えることになります。    ・・・ [通信戦争/39]


≪画像および関連情報≫
 ・KDDI小野寺社長のNTTに対する意見
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「光、IPの時代に入り、明らかに距離の概念がなくなる。
  ということは、中継系の事業者は基本的に成り立たないと考
  えている。そうなるとこれまで以上にアクセスラインの公正
  競争条件の確保は重要になってくる。今後、公正競争を有効
  に機能させるためには、まずNTT持ち株会社の廃止と、東
  西、地域会社、コム、ドコモ、データの完全資本分離がぜひ
  必要と考える。またNTT東西のアクセス部門の分離も考え
  てもらう必要がある」。“完全資本分離”の必要性を強調。
  完全資本分離にはNTT法等の改正が必要になるので、「当
  面の措置としては、NTTグループ内におけるヒト、モノ、
  カネ、情報の共有をきっちりと遮断するファイアーウォール
  を定め、公表すべき」。
  ―――――――――――――――――――――――――――

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2007年03月05日

ホワイトプランと端末の値上げの関係(EJ第2032号)

このテーマに関する記述は前回でほぼ終っています。しかし、
もうひとつ付け加えることがあり、明日までこのテーマは続ける
ことにします。
 それは、ソフトバンクの「ホワイトプラン」のことです。「ホ
ワイトプラン」については、EJ第2005号で述べていますの
で、その特徴を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.1時から21時まではソフトバンク携帯電話宛の通話は何
   時間話しても無料
 2.ソフトバンク携帯電話宛のメールは無料。他社へのメール
   は3円〜200円
 3.それでいて月額基本料金は980円。ソフトバンク・ユー
   ザのコース変更可
 4.ホワイトプランに新スーパーボーナスを付けると、端末の
   大幅割引き購入可
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は当初ゴールドプランに加入し、そのあとホワイトプランに
切り替え、2月11日からその適用を受けています。しかし、こ
れには少し落とし穴があったようです。
 問題点は4の「ホワイトプランに新スーパーボーナスを付ける
と、端末の大幅割引き購入可」という部分です。ソフトバンクで
は、MNPによってソフトバンクに移ってきたユーザと、既にソ
フトバンクのユーザでも新規に端末を買い替えるユーザには「新
スーパーボーナス特別割引」が適用され、端末の価格が大幅に下
がる仕組みになっているのです。
 EJ第1997号において、ゴールドプランに加入して、ワン
セグTV付きアクオス・ケータイ911SHを購入した場合の割
引額について次のように説明しました。念のため再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ・機種/ソフトバンク911SH――アクオス・ケータイ
 ・価格/72480円
  72480÷24=3020 → 本来の1ヶ月の負担分
  3020−2280=740 → 実際の1ヶ月の負担分
―――――――――――――――――――――――――――――
 この数字は違っていないのです。しかし、ソフトバンクが毎月
割り引く2280円には条件があったのです。それは、次の式が
成り立つユーザに対しては、「基本料金+実際に利用した料金」
が割引額の限度になるということです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   基本料金 + 実際に利用した料金 < 2280円
―――――――――――――――――――――――――――――
 仮にある月の「基本料金+実際に利用した料金」が2000円
の場合、その月の端末の割引額は2280円ではなく、2000
円になるのです。ゴールドプランの場合は、基本料金は2880
円であって、それだけで何も使わなくても割引額はフルに受けら
れますが、ホワイトプランになると、基本料金が980円になる
ので、月の利用料金の総額が2280円を下回るケースが出てく
るのです。そして、そのような場合は、利用料金額が割引額にな
るというわけです。
 2007年2月17日のことですが、日本経済新聞に次のタイ
トルの記事が出たのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     携帯電話機、実質値上げ/ソフトバンク
     機種変更10〜15%
     通信料下げ分補う 2007.2.17
―――――――――――――――――――――――――――――
 これまで日本では、販売奨励金を利用して端末を安く売り、後
から通信費で回収するという日本型携帯電話機販売モデルを採用
してきています。しかし、今回のソフトバンクの携帯電話機値上
げは、この慣行を破ったものとして注目されます。
 携帯電話機を値上げするといっても、毎月の端末の割引額を下
げることによる端末の実質値上げであり、しかも各月の利用料金
に応じて割引額を調整するという巧妙なやり方です。NTTドコ
モとauは、このソフトバンクの端末値上げについて、従来通り
のやり方で対応するとしています。通信基本料金だけは絶対に下
げないという姿勢でしょうか。ユーザから見ると、この方式では
端末の本当の価格が分からず、不透明そのものです。やっぱり、
まだ、水槽の中にいるつもりなのでしょうか。
 このソフトバンクの方式は、ユーザにとって納得がいく方式で
す。端末の料金がはっきりしていることと、割引額もわかる――
そして何よりも基本料金を980円にしたことは高く評価できる
と思うのです。ユーザが本当に望んでいるのは、端末を安く購入
するよりも通信料金を下げてもらうことです。端末を異常に安く
して加入させ、後から高い通信料金でそれを取り返す――これで
はとてもユーザのことを考えている姿勢とはいえないです。
 ソフトバンクの今回の端末値上げは、毎月の利用の少ないユー
ザからもきちんと利益を上げるという経営の意思のあらわれであ
り、それはそれで健全であると思います。
 しかし、ソフトバンクにも一言いいたいことがあります。私が
ゴールドプランからホワイトプランに変更するさい、ソフトバン
クに行って担当者と話し合ったのですが、その担当者は月々の利
用料金によっては割引額が変わることがあるという話を一切して
いないのです。
 「ゴルドプランとホワイトプランの違いは、午後9時から午前
1時までの月200分限度の無料通話がないだけですね」と私が
確認したところ「そうです」と明言しているのです。これには納
得がいかない気持です。
 もっとも新聞には「新規でソフトバンクに加入したり、NTT
ドコモやKDDIから移った顧客には端末の値上げを見送る」と
は書いてあるますが、・・・。   ・・・ [通信戦争/40]


≪画像および関連情報≫
 ・ソフトバンクモバイル五十嵐善夫常務のコメント
  ―――――――――――――――――――――――――――
  割賦販売方式を導入した背景について,同社の五十嵐善夫常
  務執行役法務・渉外担当は「短期解約を防ぎ,ユーザー間の
  不公平感を解消するため」と説明している。従来型の販売モ
  デルでは端末購入時に4万円前後の販売奨励金が発生する。
  そのため1年未満などの短期間で事業者を乗り換えるユーザ
  には携帯電話事業者が赤字でサービスを提供する形になる。
  「その分が他のユーザーへのしわ寄せになり,高い通信料金
  につながっている。割賦販売はこれを是正するのが狙いだ」
  (孫正義・代表取締役社長)。
  ―――――――――――――――――――――――――――

ホワイトプランのからくり
posted by 平野 浩 at 04:46| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年03月06日

これは桶狭間の戦い−−孫社長(EJ第2033号)

 ソフトバンクの戦略を中心にケータイ戦争の実態を描く――こ
れが今回のテーマであり、全体で30回程度を考えていたのです
が、41回になってしまいました。このテーマは本日をもって終
了いたします。
 孫正義という経営者は、業界の革命児であるとか、風雲児であ
るとかいわれ、社内では何事でも独断専行で進める――そういう
ようなイメージが孫正義氏には付きまといます。
 2006年6月のことです。その日、ソフトバンクの株式総会
の後で、旧ボーダフォンの社員総会があったのです。そのとき、
孫社長は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 普通にやっても勝てっこない。われわれは奇襲でいく。これは
 桶狭間の戦いなんだ。           ――孫正義社長
       ――週刊『東洋経済』2006.11/25より
―――――――――――――――――――――――――――――
 孫社長のやり方は非常に早いといわれます。即断即決でどんど
ん決めて行く。例を上げると、「ソフトバンク同士のメールはす
べて無料にしたい。できるかどうか返事してくれ!」。このよう
に何かを思いつくと、次々と幹部社員のケータイを鳴らします。
 「調べないといけないことがたくさんある。すぐには返事はで
きない」と幹部社員が返信すると、孫社長は「わかった。それな
ら、時間をやろう。5分後に返事してくれ」という具合です。
 そして、幹部社員のやりとりで納得のいく返事が得られないと
本部長を一同に集めて緊急会議が夜中に開かれるのです。そして
「その返事は朝にくれ」というのです。とても寝ているヒマはな
いのです。そのスピードは尋常なものではないのです。
 ソフトバンクモバイルでインフラを担当している宮川潤一取締
役は、孫社長の経営について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ヤフーBBのときとスピードそのものは変わっていない。孫さ
 んはボールを直球でドーンと投げて、翌日までに投げ返してこ
 いという。そのリズムを理解していない人は急にエイリアンに
 侵略されたといって、相当胃を悪くするでしょうね。正直いっ
 て辞めた人も結構いる。でも、残った人たちがまた新しい血を
 集めながら形にしていく、というのは今までもやってきている
 ので、僕らは慣れていますけど。
       ――週刊『東洋経済』2006.11/25より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、実際の孫社長のイメージはかなり違うようです。それ
は『プレジデント』/2007年2月12日号のユニクロの柳井
正社長と孫正義社長との対談を読むと、よくわかります。ちなみ
に柳井正氏は、ソフトバンクの社外取締役をしています。柳井氏
は孫社長のことを次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ソフトバンクの役員会は活発ですよ。外から見ていると、ソフ
 トバンクという会社は孫さんがひとりで全部決済しているよう
 な印象がある。だが、実際の役員会はみんなが議論して、物事
 を決めている。ソフトバンクの役員会に出ていると、孫さんは
 人の意見に耳を傾ける経営者だと感じます。  ――柳井正氏
       ――『プレジデント』/2007年2月12日号
                     プレジデント社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 孫社長は何でも即断即決といわれていますが、必ずしもそうと
はいえないのです。今回ソフトバンクがMNP制度に合わせて打
ち出したソフトバンク同士の「通話・メール料金0円」にしても
けっして思い付きの施策ではなく、相当考え抜かれており、利害
得失を練り上げた施策なのです。
 また、スタート直前まで、孫社長と数人の役員しか知らなかっ
たといわれていますが、もしそうだとしたら、システム開発がで
きるはずがないのです。今回の作戦に関与した関係者はかなりい
たはずであり、その関係者全員が秘密保持契約を結んで制度構築
に取り組んだのです。もちろん取締役会にもかけられ、柳井氏を
はじめとする社外取締役の意見も聞いているはずです。
 もうひとつソフトバンクは、NTTドコモやauに比べると、
ヨドバシカメラやビックカメラなどの量販店と太いコネクション
があるのです。ソフトバンクは1981年の創業から取り組んで
いるPC向けソフトウェアの流通で70%近いシェアを持ってお
り、携帯電話事業ではじめて付き合いのできたドコモやauとは
違うのです。
 また、ADSLサービスの「ヤフーBB」では、販売した代理
店には、その加入者が脱退するまで、継続的に手数料が入る仕組
みになっていて、ソフトバンクと量販店とは長い付き合いがある
のです。こんな話があります。MNP開始の朝、孫社長は秋葉原
のヨドバシカメラのイベントに出て挨拶するや、直ちに有楽町の
ビックカメラに行っています。この孫社長の行動は両量販店から
懇願された結果だというのです。
 今後の日本における通信戦争を考えるとき、ソフトバンクと巨
大量販店との深いつながりは、シェア戦争の行方に大きな影響力
をもつことになります。ソフトバンクが微温湯から熱湯に変わろ
うとする水槽から、いち早く飛び出すことができたのも、ソフト
バンクがこれらの強力販売店とのつながりがあり、今までとは違
う販売方法をとっても大丈夫だという確信が持てたからだと思う
のです。既にソフトバンクとドコモ、auの販売方法は、はっき
りとした違いが出てきていると思います。
 ソフトバンクの社外取締役の柳井氏は、孫社長が取締役会で提
案する案件のほとんどに否定的見解を示し、ブレーキ役を果たし
ているといわれますが、ボーダフォンの買収案件には積極的に賛
成したといいます。ボーダフォンの買収以降のソフトバンクの行
動には目をみはるものがあります。現在、日本の電話業界は大き
な転機にあるのです。       ・・・ [通信戦争/41]


≪画像および関連情報≫
 ・イー・モバイル携帯電話事業に参入
  ―――――――――――――――――――――――――――
  千本CEOは、現在の携帯電話市場が飽和状態にあるとの指
  摘を否定し、「携帯電話の普及率はまだ70%。海外では1
  人で2〜3台持つような普及率100%以上の国が少なくと
  も5カ国はある。電話モバイルでは100%が上限かもしれ
  ないが、新しい技術が出てきた時には今まで想定できなかっ
  たことがたくさん起こる」と述べて、「2年後を見ていて下
  さい」と市場開拓やシェア獲得への意気込みを語った。
  http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/26492.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:36| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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