来事でいうと、「STAP細胞事件」があります。あの世紀の大
発見は一体何だったのでしょうか。
STAP細胞について最初に会見が行われたのは2014年1
月28日のことです。神戸市にある理研の発生・再生科学総合研
究センター(CDB)においてです。事前に「幹細胞基礎分野で
大きな発展」という案内が報道各社に配られ、それ以上どういう
内容なのかは明らかにされず、会見で「STAP細胞の発見」が
発表されたのです。当日、CDBの会場には、新聞・テレビ16
社から約50人の記者やカメラマンが集まったのです。
そして、STAP細胞発見の第1報は、2014年1月30日
の朝刊各紙で伝えられ、世界中に驚きが拡散して行ったのです。
まさに世紀の大発見であり、ノーベル賞級の業績である、と。し
かもその発見者は、30歳の無名の若い研究者で、米ハーバード
大学がえりの小保方晴子氏という女性であることがわかったので
す。そして、そのときから、いわゆる「小保方フィーバー」なる
ものが、日本中で巻き起こったのです。
しかし、発表から2週間も経過しないうちに、総合学術雑誌で
ある『ネイチャー』に掲載された論文の内容に疑惑が浮上し、理
研では調査委員会を立ち上げて、その真相解明のための調査が行
われる事態になったのです。
『ネイチャー』は、1869年に英国の天文学者、ノーマン・
ロッキャーによって創刊された総合学術雑誌で、ここに論文が掲
載されれば、それは科学として正しいというお墨付きが与えられ
たといっても過言ではないのです。それだけに、大騒ぎになって
しまったわけです。
その後、何回かにわたって理研の調査報告が行われ、論文のメ
インの執筆者である小保方氏の不正の事実を認定します。論文発
表からたった2ヵ月での不正認定です。小保方氏以外にも大勢い
る共著者は論文を十分精査したうえで、共著者に加わったのでは
なかったのでしょうか。
4月になって、理研から不正の認定を受けた小保方氏による反
論会見、その2週間後の小保方氏のメインの指導教官である笹井
芳樹氏の補足会見などがあって、遂に『ネイチャー』が7月3日
号で論文を撤回するに及んで、世界から注目されたこの世紀の発
見は、発表から5ヵ月で白紙に戻ることになったのです。
悲劇はそれだけでは終わらなかったのです。その約1ヶ月後の
8月5日のことですが、このSTAP細胞事件の中心人物の一人
である笹井芳樹氏がCDB内で自殺をしてしまったのです。
STAP細胞事件を最初から最後まで熱心に取材した毎日新聞
科学環境部記者の須田桃子氏は、笹井氏の自殺を自著で次のよう
に書いています。
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毎日新聞は5日付夕刊の一面で、笹井氏の自殺を報じた。兵庫
県警によると、笹井氏はCDBと通路でつながった先端医療セン
ターの研究棟の4階と5階の間にある踊り場で亡くなっていた。
午前11時3分、搬送先の中央市民病院で死亡が確認された。
理研によると、午前9時前に発見された際にはすでに、駆け付け
た先端医療センターの医師が「死亡している」と話したという。
52歳だった。半袖シャツにスラックス姿で、踊り場に革靴とカ
バンが置かれていた。捜査関係者によると、カバンの中に理研幹
部や小保方氏にあてた3通の遺書が残されていた。
──毎日新聞科学環境部/須田桃子著
『捏造の科学者/STAP細胞事件』/文藝春秋
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なぜ、笹井芳樹氏は自殺をしたのでしょうか。それに死に場所
が自宅ではなく、なぜ先端医療センターのなかでなければならな
かったのでしょうか。おそらく笹井氏の自殺で、最大のショック
を受けたのは、小保方氏だったと思います。
その後小保方氏も参加して、「STAP細胞は果たして存在す
るのか」についても検証実験が行われましたが、最終期限である
11月までにSTAP細胞は再現されず、その結果、このSTA
P細胞事件は幕引きになったのです。
おそらく誰もがこの結果を予想しなかったと思います。誰も納
得がいかないはずです。一般的なイメージとしては、巨額の予算
を使う理化学研究所という組織が小保方晴子氏という一女性研究
者に責任をかぶせて、幕引きをはかったというものです。
STAP細胞は本当に存在しないのでしょうか。驚くべきこと
に、この事件に登場する人物のすべてが不幸になっていることで
す。この事件には深い闇がその背景にあると思います。
その闇を探るには情報が極端に限られています。単行本として
は私の知る限り、現在のところ3冊しかありません。そのためこ
の事件をEJのテーマとして書くことは困難性が伴いますが、あ
えて挑戦することにします。テーマは次の通りです。
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STAP細胞事件をわれわれはどのようにとらえるべきか
── 事件の背後に潜む闇を解明する ──
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そもそもSTAP細胞とは何なのでしょうか。iPS細胞とは
どう違うのでしょうか。それにES細胞との違いについても知る
必要があります。
なぜ、先に発見され、先行したはずのES細胞が、後から発見
されたiPS細胞に後れを取ったのでしょうか。どちらもマウス
でもヒトでも成功している発見であり、両方ともノーベル賞を受
賞しています。これに対してSTAP細胞は、どのような位置づ
けになるのか、調べてみる必要があります。
このような化学工学の世界は、工学のなかでは、サイエンスと
いう意味での科学から最も遠い世界であるという人もいます。こ
のあたりのことについて、明日から考察を試みたいと思います。
── [STAP細胞事件/001]
≪画像および関連情報≫
●「STAP細胞疑惑」と旧石器発掘ねつ造事件
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理化学研究所の小保方晴子氏らが、2014年1月に科学雑
誌「ネイチャー」に発表した、あらたな万能細胞・STAP
細胞の生成に関する疑惑が世間を騒がしている。この事件の
構図を見ていて、著者は、2000年11月に日本で発覚し
た旧石器発掘ねつ造事件と、事件の構図が酷似していること
に気がついた。旧石器発掘ねつ造事件は、日本にも数十万年
前の旧石器時代の遺跡が存在するという、長い間実証されて
こなかった、当時の考古学界の権威の説を「実証」するもの
として、一考古学徒によって、次と次と各地の遺跡から旧石
器が発見されたが、この石器は「発見者」が意図的に地層中
に挿入した旧石器とは似てもつかない縄文時代の石器であっ
たことがあきらかとなった事件である。この事件は発見者が
プロの考古学者ではなく、熱心な一愛好家であり、当初から
この愛好家でなければ遺跡から旧石器を取り出せないので、
彼のことを「神の手」と読んで、マスメディアも含めて大い
に持ち上げた。こんな馬鹿なことがまかり通った背景には、
この遺跡ねつ造者の行為が、長らく実証できなかった学会の
権威の説を「実証」するように見えたので、その権威者およ
びその直系の著名な考古学者らがこの「発見」にお墨付きを
与えたことがあった。そして一部の考古学者から発掘された
石器が旧石器ではなく、もっと後代の技術が進捗した時代で
ある縄文の石器に酷似しているという批判があったが、この
批判は「どうして彼以外のものが石器を発掘できないのか」
というまっとうな批判とともに、学会において無視され続け
たのであった。 http://bit.ly/1JkUEEL
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小保方 晴子氏