2014年11月19日

●「7〜9月の実質成長率がマイナス」(EJ第3919号)

 11月17日、午前8時50分──内閣府から、衝撃的な次の
ニュースが伝えられたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 内閣府が17日発表した2014年7〜9月期国内総生産(G
 DP、季節調整値)の速報値は、物価変動の影響を除いた実質
 で前期比0.4 %減、年率換算で1.6 %減だった。成長率が
 マイナスになるのは2四半期連続。4月の消費税増税の影響や
 夏場の天候不順で個人消費の回復が弱かったほか、企業の設備
 投資なども伸び悩んだ。景気が低迷している状況があらためて
 鮮明になった。  ──2014年11月17日付/東京新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 7〜9月期のGDP速報値が「マイナス1.6 %」と伝えられ
た17日にも、2015年10月からの消費税再増税をすべきか
どうかを判断する有識者点検会合が開かれたのです。出席者は次
の10人であり、こんな状況でも再増税は予定通りに行うべきと
いう意見は8人、再増税反対の意見は2人だったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪消費再増税に賛成≫
 深尾光洋慶大教授
 西岡純子RBS証券チーフエコノミスト
 富山和彦経営共創基盤最高経営責任者
 SMBC日興証券の末澤豪謙・金融財政アナリスト
 野村資本市場研究所の江夏あかね主任研究員
 みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミスト
 平野信行・全国銀行協会会長
 稲野和利・日本証券業協会会長
 ≪消費再増税は反対≫
 若田部昌澄早大教授
 三菱UFJリサーチ&コンサルティング片岡剛士主任研究員
―――――――――――――――――――――――――――――
 この点検会合は人選が問題なのです。有識者の人選は、増税実
現が悲願の財務省が仕切っているからです。点検に参加してもら
う有識者は、テレビなどでの発言や著書によって消費税増税につ
いてどう思っているかがわかっている人が選ばれています。
 したがって、人選に当たった財務省は、有識者を「賛成7対反
対3」の割合で点検会合に呼んでいます。官僚が民意を聞くと称
して、いつもやっている汚いやり方です。
 このようなことは考えたくはないのですが、財務省には「消費
増税説明隊」というチームがあり、点検会合に出席する有識者全
員のところに説明に行っている可能性が十分あります。これは露
骨な世論誘導であり、やってはならないことです。この会合での
賛成意見と反対意見を次にまとめておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪賛成意見≫
 消費税再増税の延期が必要なほど足元の景気が落ち込んでいる
 わけではなく、むしろ先送りで日本財政への信認が損なわれる
 ことが懸念される。今年4月の消費増税の影響は「想定よりも
 やや大きかった」ことは確かであるが、天候不順など「一時的
 な要因も多い」ので、「消費再増税の判断を左右するレベルで
 はない」との認識で、再増税賛成派の意見は一致している。
 ≪反対意見≫
 若田部氏は、消費税再増税はデフレ脱却を最重要課題と位置づ
 けているアベノミクスに矛盾しており、財政再建は経済成長に
 よってのみ可能である。むしろ消費税は8%から5%に戻すべ
 きである。ただし名目3%、実質2%の成長が2年程度安定し
 て達成できれば増税を考えてもよい。片岡氏は消費税再増税の
 延期と3兆円規模の経済対策が必要であると主張している。
―――――――――――――――――――――――――――――
 第4回の人選は、増税賛成の深尾教授と反対の若田部教授を両
極にすえ、証券会社系研究員4人、銀行関係者2人、それにWB
Sのコメンテーターも務める富山和彦氏の10人です。証券会社
と銀行には財務省の意向が強く伝わっていて、増税には反対でき
ないのです。それにテレビのコメンテーターも財務省の目が光っ
ているので、増税反対者、脱原発論者は外されることは確実で、
どうしても発言が控え目になってしまうものです。
 反対派の片岡剛士氏は、8%に上げるときの点検会合で、増税
すれば、成長率の足を引っ張ると強硬に反対を主張した人です。
それを無視して8%引き上げを実施した結果がこれです。反省の
かけらもないのです。「はじめに再増税ありき」で今回も点検会
合を儀式のように粛々とやっていた財務省にとって、安倍首相の
増税延期は寝耳に水の青天の霹靂であったと思います。
 今回の消費税増税をめぐり、許し難い財務省の謀略が飛び交っ
ています。彼らは民主党が政権を握っていたときから、今回の増
税を仕掛けてきており、「税と社会保障の一体改革」の法律を成
立させたのです。しかし、自民党は身を切る改革をやると約束し
ながら、その約束を果たしておらず、消費増税分は全額社会保障
に使うといっていますが、それも疑わしい限りです。日本の財政
は本当に危機に瀕しているのでしょうか。消費税増税は本当に必
要なのでしょうか。
 EJの読者からは、アベノミクスをテーマに取り上げて欲しい
という意見をいただいています。しかし、経済のテーマは別のタ
イトルのなかでも取り上げているので、ビットコインの後は別の
テーマを考えていたのですが、安倍政権による突然の消費増税先
送りの決定と解散・総選挙になったので、今日から次のタイトル
で短期連載で取り上げることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
    アベノミクスで本当に日本経済は復活するのか
     ──消費税増税で財政再建は進むのか──
―――――――――――――――――――――――――――――
           ──── [検証!アベノミクス/01]

≪画像および関連情報≫
 ●GDPマイナスで最大の要因は在庫調整の進展/甘利再生相
  ―――――――――――――――――――――――――――
  [東京 17日 ロイター]──甘利明経済再生担当相は、
  17日、7〜9月期国内総生産(GDP)速報値が予想に反
  してマイナス成長となったことについて「最大の要因は在庫
  調整が進展したことだ」と指摘した。そのうえで、消費税率
  10%への引き上げに関し、安倍晋三首相が帰国後に速やか
  にその可否を判断するとの見通しを示した。同日午前、速報
  値の発表を踏まえ都内で記者会見した。甘利担当相はその中
  で、在庫調整の進展が、マイナス成長に陥った背景にあると
  するのと同時に、今年4月の消費税率8%への引き上げで、
  「住宅投資と設備投資がマイナスになった」ことも理由に挙
  げた。そのうえで甘利担当相は「デフレマインドが払拭しき
  れないなかでの消費税引き上げは、想定よりインパクトが大
  きい」との認識を示し、安倍晋三首相が近く判断する10%
  への増税可否について、「消費増税で景気が失速し、デフレ
  に戻ってはいけない。あす以降、(消費増税や景気対策、解
  散などの)何らかの判断が出ると思う」と語った。消費税率
  10%への引き上げそのものは必要との認識も示した。社会
  保障の財源の半分を借金で賄っている現状では、将来にわた
  って制度そのものを維持できないためだ。甘利担当相は「安
  定、充実した社会保障には安定財源が必要」と強調した。
                   http://bit.ly/1vkfO31
  ―――――――――――――――――――――――――――

第4回消費再増税有識者点検会合.jpg
第4回消費再増税有識者点検会合
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2014年11月20日

●「野田税調会長公認外し騒ぎの意味」(EJ第3920号)

 消費税再増税を18ヶ月延期し、衆議院の解散・総選挙を決め
た安倍政権と財務省の関係を示す象徴的な出来事があります。そ
れは、官邸サイドが野田毅自民党税制調査会会長に公認を与えな
いよう党執行部に働きかけていることです。
 表向きは、野田氏が衆院比例代表の「73歳定年」の内規に抵
触するためとしていますが、本当は「見せしめ」であり、野田氏
のバックにいる財務省に対する安倍首相の牽制であると考えられ
るのです。
 野田税調会長は、安倍首相が再増税を先送りし、衆議院を解散
しようとしていることを強く批判し、安倍首相肝いりの「アベノ
ミクスを成功させる会」の向こうをはって、党の勉強会に100
人以上の同調者を集めて、おおよそ次のような趣旨のことを講演
として話しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍晋三首相が検討しているとされる消費税率10%への再引
 き上げの延期について、先延ばししたら、金利が上がることは
 間違いない。リーマンショックのような金融恐慌が再びくれば
 話は別だが、そうでない限り、再増税は来年10月に予定通り
 実行すべきである。目先の風潮に流されてはいけない。また、
 それに伴って解散・総選挙が取り沙汰されているが、まともな
 考えでいけば、常識的に解散はないだろう。大義名分のない選
 挙はよくないし、国民の声を恐れることが大事だ。人間は間違
 うことがあるが、首相が間違った判断をされないことを信じて
 いる。             ──野田毅自民党税調会長
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍首相に味方をするつもりはないが、ここまでいうのは野田
氏の思い上がりではないかと思います。首相としては何さまのつ
もりということになるでしょう。なぜ、野田氏がここまでいうの
かというと、そのバックに財務省の後押しがあるからです。
 野田氏の公認外しは、同じく財務省派の谷垣幹事長がいること
でもあり、実現するとは思えませんが、財務省への官邸の強い牽
制になったといえます。しかし、安倍首相は、18日、午後7時
10分の記者会見で、再増税を18ヶ月先送りするが、そのさい
改正法案には景気弾力条項を付けないと明言しています。これは
財務省への配慮以外のなにものでもありません。
 もし、景気弾力条項を外してしまうと、2017年4月には、
そのときの景気状況がどうであろうと、再増税は実施されること
になります。安倍首相のいうように、アベノミクスは大成功し、
経済成長が達成されるとはとても思えないのですが・・・。
 しかも、消費税の増税では、財政再建はできないのです。今ま
で世界のどこの国でも、増税で財政再建を成し遂げた例はひとつ
もないのです。それでは、何のための増税なのでしょうか。
 今回の増税は、全額社会保障に使われるのだから仕方がないと
いう増税許容論がかなりの国民の間にあります。それは、長年に
わたる財務省のプロバガンダの成功を意味しているのです。
 多くの日本人の日本経済についての現状認識は、次のようなこ
とであると思います。植草一秀氏の新刊書から引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本政府の債務残高は1000兆円に達しており、GDPの2
 倍を越えている。この水準はギリシャよりも悪い財政状況を示
 しており、財政健全化は喫緊の課題である。日本は急速な高齢
 社会への移行局面にあり、今後さらに年金、医療、介護といっ
 た社会保障支出の激増が予想され、社会保障制度を維持するた
 めには、国民の負担増加を避けられない。財政支出の無駄排除
 や景気回復による税収確保も大切ではあるが、もはや限界で、
 増税実行について猶予の許される段階ではない。歳出削減につ
 いては、2009年に発足した鳩山由紀夫政権の下で、事業仕
 分けなどの作業を通じて財政支出の無駄を切り込む作業が実行
 された。しかしながら、こうした無駄の削減措置で排除できる
 支出は限定的であり、財政事情の深刻な現状を踏まえれば、国
 民負担の増加は避けられない。所得税や法人税の増税は、勤労
 意欲や事業者の事業意欲を削いでしまい、日本経済全体にマイ
 ナスの影響を与えるため、国民負担の増加は、国民に広く負担
 を求める消費者税が好ましい。  ──植草一秀著/『日本の
    奈落/年率マイナス17%GDP成長率の衝撃の真実』
                       ビジネス社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 多くの日本人の脳には、上記の見解が刷り込まれてしまってい
ます。長年にわたる財務省によるあらゆるメディアをフルに使っ
ての訴求が功を奏してきているのです。
 ここに書かれていることのなかには真実ではないことが多く含
まれています。あらゆるメディア、経済学者、経済評論家、テレ
ビのコメンテーターなどのいわゆる有識者のほとんどが洗脳され
てしまっているのです。洗脳されていなくても、それをいうと、
メディアで発言する機会を著しく制限され、やがて外されてしま
うことになるからです。
 ここではっきりといえることがあります。日本の財政はけっし
てよくはありませんが、破綻するようなレベルではないというこ
とです。それどころか、財務省は巨額の多くの資産を隠し持って
います。何のためにそんなものを持っているのかというと、高橋
洋一氏の言葉を借りると、「それは公務員の老後を守るためであ
る」ということに尽きるのです。
 極端なことをいうようですが、消費税を増税すればするほど、
公務員の懐は豊かになり、高級官僚の天下り先を豊富にし、その
温存につながるだけです。このことは、明日以降のEJでひとつ
ずつ明らかにしていきます。
 そういえば、あれほどうるさくいわれていた公務員改革、天下
りの規制など、最近では、さっぱり誰もいわなくなっています。
自民党では、公務員関連の改革は絶対にできないのです。
           ──── [検証!アベノミクス/02]

≪画像および関連情報≫
 ●官僚利権を確実にするための増税/長谷川幸博氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  消費税を引き上げるためには社会保障を持ち出せばいい、と
  決まったのはいつか。いまから15年前だ。1999年の予
  算総則で初めて「基礎年金、老人医療、介護に係る国庫負担
  は国の消費税収(地方交付税の法廷率分29.5 %を除く)を
  充てる」と記された。それ以降「消費税引き上げは社会保障
  のため」という路線が着々と進められ、税制制度審議会(財
  務相の諮問機関)が2007年11月にまとめた08年度予
  算編成への建議では「社会保障給付費のための安定的な財源
  の確保が必要である」としたうえで「国民共通の課題として
  今後、早急に本格的な議論を進め、消費税を含む抜本的な税
  制改革を実現させるべく取り組んでいく必要がある」と書き
  込んだ。ちなみに、私自身もこの建議をとりまとめた張本人
  の1人だ。私は05年から08年まで財政審の臨時委員を務
  めていた。先の07年建議にも委員名簿に私の名前がある。
  いまでこそ増税に反対しているが、かつてはばりばりの増税
  派だったからこそ委員に収まったのだが、振り返ってみると
  05年時点ですでに「社会保障財源は消費増税で」という路
  線は完全に固まっていた。社会保障財源をいうなら保険料引
  き上げもあるし、税で賄うとしても消費税以外に所得税とか
  法人税とかいろいろある。だがそんな「そもそも論」はとっ
  くに議論の外にあったのだ。    http://bit.ly/1uJTRZd
  ―――――――――――――――――――――――――――

野田毅自民党税調会長.jpg
野田 毅自民党税調会長
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2014年11月21日

●「世界一の借金国と世界一の債権国」(EJ第3921号)

 日本の財政は危機的である──これについて、否定する人はあ
まりいないと思います。すぐ頭に浮かぶのは、「1000兆円を
超える国の借金」、それに加えて、毎年約50兆円の税収しかな
いのに、その倍の予算を組んでいるので、税収とほぼ同額の赤字
国債を発行しています。よいはずはありません。
 しかし、それなら、なぜ毎年巨額の予算を組むのでしょうか。
それは、いま国としてやっていることはすべて必要なものばかり
であり、1円も削れないという考え方に立っているからです。こ
れでは、毎年予算が増えるのは当たり前です。
 しかし、必要であるか、必要でないかの判断は、立場によって
違ってきます。一般論としては、国の予算は内閣総理大臣が必要
であると判断して決定されます。しかし、日本の場合、それは形
だけのことなのです。実際の予算は基本的には、財務省の高級官
僚の判断によって決められているのです。
 そこに政治家が入り込む余地はありません。予算編成の知識も
ノウハウもないし、歴代の自民党政権はこれまで財務省に予算編
成を基本的にまかせ、内閣としての要望は財務省のトップである
事務次官と折衝して入れさせているのです。現在の安倍内閣も同
じです。それが官僚国家である日本の実情であり、自民党政権と
官僚機構はきちんとその役割の棲み分けができているのです。
 2009年に政権交代を果した民主党が目指したのは、予算編
成を財務省の官僚に任せるのではなく、彼らを指揮して「予算を
全面的に組み換えて再編成する」ことだったはずです。当時の小
沢一郎代表は、それを目指していたのです。「政治を国民の手に
取り戻す」というのは、そういう意味だったのです。
 しかし、民主党は政権をとると、幹部議員たちは、小沢氏を政
治に関与させない幹事長に封じ込め、自分たちで予算を仕切ろう
としたのです。このバックにも財務官僚がいます。彼らは小沢一
郎という政治家の本当の実力は知っているので、一番恐れたのは
小沢首班内閣の誕生なのです。
 それでも知識も経験もノウハウもない民主党議員が小沢氏の代
わりが務まるはずもなく、財務省の勧めにしたがって「事業仕分
け」という政治ショーを演ずることしかできなかったのです。
 しかし、財務省幹部は心底ヒヤリとしたはずです。「小沢は危
険人物。彼を政権の中枢に置いてはいけない」と考えて、法務・
検察を総動員して、少々の向う傷を覚悟して、官僚が総力を挙げ
て小沢潰しに走ったのです。それが一連の小沢排除騒動です。そ
れでも、小沢氏を潰し切れなかったことはご承知の通りです。
 小沢氏と同じ、いや、それよりも、もっとひどい目に遭ってい
る植草一秀氏の新刊書に次の記述があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 問題になるのは、財政の無駄が切られているのかどうかという
 点である。日本財政の最大の問題がこの点にある。麻生政権や
 安倍政権は、買い物のついでに豆腐を買うかのように10兆円
 や13兆円の補正予算などを編成する。本当に財政危機であれ
 ば、このような大盤振る舞いをできるわけがない。しかもその
 支出先は、ほぼ100%が官僚利権と政治屋利権の公共事業ば
 かりである。       ──植草一秀著/『日本の奈落/
       年率マイナス17%GDP成長率の衝撃の真実』
                       ビジネス社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 「買い物のついでに豆腐を買うかのように」という表現はいい
えて妙です。消費税を5%から8%に増税し、それをすると景気
が失速するからと、本当にそれが当然の行動であるかのように景
気対策と称して巨額の補正予算を組むのです。
 そんなカネがあるのなら、それこそ財政再建に回せばよいので
す。それにはじめから景気が失速することがわかっているなら、
消費税を増税しなければいいのです。後から説明しますが、日本
にとって本当に必要なのは、「増税」ではなくて「増収」なので
あり、一番良い景気対策は消費税の税率を下げることです。
 1000兆円の借金といえば、日本は世界一の借金大国です。
その一方で、日本は世界最大の債権国家といわれたり、金持ち国
家ともいわれています。先進国の役割とはいえ、発展途上国に莫
大な資金援助をしたり、日本を抜いて世界第2位の経済大国の中
国に対してさえ、最近になって額は減らしたとはいえ、まだOD
A資金を出しているのです。それもいつかは返ってくる円借款だ
けでなく、後から1円も返ってこない無償援助までやっているの
です。いつ財政が破綻するかわからない国が、そんなことをする
でしょうか。
 それは、政府もウラで政治を仕切っている財務官僚も日本の財
政が破綻しないことを知っているからです。彼らがやりたいこと
は、国民から税金を搾り取ることです。それが消費税の増税の狙
いなのです。
 いま書店の経済書のコーナーに行くと、「国家破産」「国債パ
ニック」「国家財政破綻」「日本が破綻する日」「日本破綻」な
ど──いやはや、日本破綻本ばかりです。これらの本の著者の略
歴を見ると、いろいろなことがよくわかっているはずの人たちば
かりなのです。
 いろいろなこととは何かというと、日本が財政破綻をするはず
のないことをよく知っているはずという意味です。それでは、ど
うしてこんな刺激的なタイトルにするのかというと、その方がよ
く売れるからです。なかには、この手の破綻本を書いて名前を売
り、選挙に出て当選し、代議士になっている人もいます。その人
などはこの10年ほどずっとこの手の破綻本を発刊しています。
しかし、一向に日本は破綻していないではないですか。
 黒田日銀総裁は、消費税を先送りして起きるリスクには対応の
しようがないといいましたが、日本国債の信認が落ち、長期金利
が上がって国債が暴落したら、その国債を日銀が粛々と買えばよ
いのです。こんなことを日銀総裁にいわせているのも、財務省な
のです。       ──── [検証!アベノミクス/03]

≪画像および関連情報≫
 ●「2030年までに日本は財政破綻する」/渡邊正裕氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  まず大前提からお話ししますが、2030年の仕事について
  は「国家財政の破綻」を抜きにして語っても意味がないと思
  います。『10年後に食える仕事・食えない仕事』は、グロ
  ーバル化によって日本人の働く環境にどのような影響が出る
  かを語った本です。グローバル化による影響が伝わりにくく
  なってしまうため、ここにはあえて財政破綻の影響は加味し
  ませんでした。しかし実際は、このままでは国債暴落による
  財政破綻が起きることは確実です。その場合、日本人の働く
  環境が財政破綻の影響を大きく受けることは間違いありませ
  ん。国債暴落とその顛末について、私は2011年に、週刊
  誌にシミュレーション小説「老人が泣き若者は笑う」を発表
  しました。その小説では2013年に国債が暴落することに
  なっていますが、今は、東京五輪が開かれる2020年まで
  は財政出動により暴落は起こらず、Xデイは、2021年に
  やってくると考えています。現在、国の借金は1000兆円
  を超えており、絶え間なく増え続ける利子の他に、財政赤字
  によってここ2、3年は毎年40兆円ほどが積み上がってい
  ます。今後もしばらくは同程度の赤字が続く見込みですから
  消費税を仮に10%にしても到底プラスにはなりません。少
  子高齢化がさらに進みますので、GDPが増えて税収が上が
  ることも考えにくい。このままではいずれ間違いなく日本国
  債は信用を失い、私が小説に書いたように暴落して国家財政
  を破綻させます。         http://bit.ly/1xmXG7C
  ―――――――――――――――――――――――――――

植草一秀氏の新刊書.jpg
植草 一秀氏の新刊書
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2014年11月25日

●「日本を借金大国にしている財務省」(EJ第3922号)

 日本は、財政再建が目下の急務であるとか、国家の危機だとか
いいながら、実際にやっていることはかなり違います。安倍政権
は公務員給与の8%の賃上げをあっさりと認めています。企業も
賃上げしたのだから、公務員も上げるのは当然という理屈のよう
です。しかし、公務員の給与は税金なのです。
 さらに安倍首相は、国会の定数削減とそれが実現するまでの間
国会議員歳費の2割カットを続けるという野田前総理との約束を
選挙に圧勝したからと、それを平然と破って歳費の2割カットを
終了させ、身を切る改革も無視を決め込んでいます。とても財政
再建が急務の国とは思えない余裕というか大判振る舞いです。
 重要なのは、日本の国の財政をここまで悪化させたのは、自民
党の国会議員と官僚であるということです。それなのに自分たち
だけはいい思いをして、そのツケを消費税増税というかたちで国
民に払わせようとしている。とんでもないことです。
 安倍首相が再増税を延期させようとしていることを察知した財
務省の幹部たちは、議員への説明チームを組んで、自民党議員へ
の説得工作を展開しています。そのとき、議員に対して次のよう
な上から目線の言辞を弄しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 先生。毎年社会保障費が膨れ上がるなか、消費税の税率がこん
 なに低いと国民を甘やかすことになります。経済が多少厳しく
 ても再増税をすべきです。    ──財務省説明チーム幹部
―――――――――――――――――――――――――――――
 「消費税の税率がこんなに低いと国民を甘やかすことになる」
とは、財務官僚は何さまのつもりでしょうか。しかし、財務省に
嫌われたくない自民党議員は延長反対を唱え出したのです。
 ところで、「国の借金が1000兆円を超えた」という報道が
行われたのは、2013年8月のことです。2013年というと
既に安倍政権になっていますが、もっと前からいわれていたよう
な気がしないでしょうか。
 そもそも民主党がマニフェストにない消費税増税を当時野党の
自民党と組んでやった原因のひとつが「1000兆円を超える国
の借金」であったはずです。明らかにそのことは、民主党政権時
代からいわれていたことなのです。
 2013年8月の報道の根拠は、財務省の次の発表を受けての
ものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国債および借入金ならびに政府保証債務現在高は1008兆
 6281億円である             ──財務省
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、毎年公表されている政府のバランスシートによると、
政府の負債総額は、2010年3月末の時点で既に1000兆円
を超えているのです。2011年6月28日に公表された「平成
21年度国の財務書類」のなかで、国の借金の額は次のように記
載されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国の借金を包括的に表す負債総額は、1019兆173億円
 である        ──「平成21年度国の財務書類」
―――――――――――――――――――――――――――――
 それならば、なぜその時点で「1000兆円を超えた」と発表
せず、国の負債の一部に過ぎない「国債および借入金ならびに政
府保証債務現在高」が1000兆円を超えた時点で発表したので
しょうか。
 それには財務省の狡猾な計算があります。それは財務省として
は国のバランスシートに注目して欲しくないからです。2011
年の時点で発表すると、国のバランスシートを出さないわけには
いかないからです。それなら、なぜ財務省はバランスシートを隠
すのでしょうか。
 それは、バランスシートには日本政府の資産総額が記載されて
いるからです。国の負債の大きさを見るには、負債から資産(金
融資産)を引いた額でみることが常識であり、IMF(国際通貨
基金)をはじめ、どの国際機関でもやっていることです。
 政府の負債総額を「粗債務」といい、負債総額から政府が保有
している金融資産を控除したものを「純債務」といいます。つま
り、国の負債を国際比較するときは、純債務で比較するのが常識
なのです。
 しかし、財務省は粗債務を強調し、国際比較をしているようで
す。少なくとも国民にはそうしています。他国が純債務であるの
に、日本だけが粗債務で比較すれば、日本が突出するのは当たり
前です。それによって、格付機関が日本国債を下げようとすると
財務省は、日本にはそれに対応する十分な金融資産があると抗議
しているのです。
 具体的な数字で考えてみます。2012年3月末時点のバラン
スシートは、次のようになっています。こんな巨額の金融資産を
持つ国は日本だけです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 負債総額 ・・・・・ 1088兆円
 資産総額 ・・・・・  629兆円(金融資産428兆円)
―――――――――――――――――――――――――――――
これによると、負債総額から金融資産を引くと、660兆円にな
りますが、これは先進国においては、それほど問題視すべき負債
額ではないといえます。
 金融資産428兆円の内訳は、現預金18兆円、有価証券98
兆円、貸付金143兆円、運用委託金111兆円、出資金58兆
円ということになります。
 このうち、運用委託金は年金資産ですから動かせないとしても
貸付金と出資金の約200兆円は特殊法人への資金提供であって
官僚の天下り資金を支えているのです。国として真に切るべき無
駄とはこういうものをいうのです。そうすれば、債務は大きく減
少するのです。    ──── [検証!アベノミクス/04]

≪画像および関連情報≫
 ●日経マネーDIGITAL/日本国債はデフォルトしない
  ―――――――――――――――――――――――――――
  沈静化しているとは言え、日本国債の破綻論が無くなったわ
  けではない。筆者も安全確実な資金運用先の一つとして個人
  向け国債を度々あげるが、必ず受けるのが日本国債はデフォ
  ルト(債務不履行)するのではないか?という質問だ。さま
  ざまなデフォルト論が世に蔓延しているため、筆者の回答に
  対してもいろいろな反論がある。しかも筆者よりも高名(著
  名)な方の意見をそのままぶつけてくることが多いために、
  筆者の説明を納得してもらうのはとても骨の折れることであ
  る。話はそれるが、デフォルト論を論じている人に聞いてみ
  たいのが、「日本国債のデフォルトに対する備えをどの程度
  しているか」である。きっと、さまざまな対処法を施してい
  るのだろうが、筆者は資産運用における一般的な国際分散投
  資以外は行っていない。話を戻すが、筆者は、日本国債がデ
  フォルトするとは思えない理由を2つの側面から解説するよ
  うにしている。1つは日本国の貸借対照表(表1)からだ。
  財務省は毎年6月に、国の貸借対照表を公表している。6月
  には平成22年度末のものが公表されるが、現在公表されて
  いる平成21年度末の貸借対照表によれば、同年度末のわが
  国の負債合計は1019兆円だが、資産合計は647兆円も
  ある。借金は世界一と揶揄されているが、資産も世界一であ
  る。もちろん、国の全ての資産を売却することはできないが
  仮に全資産を売却したと仮定したら、647兆円−1019
  兆円で、差し引き372兆円の債務超過ということになる。
  これが国の純負債だ。      http://nkbp.jp/1vvMDcX
  ―――――――――――――――――――――――――――

歴史に残る野田/安倍党首討論.jpg
歴史に残る野田/安倍党首討論
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2014年11月26日

●「不正な数字を使って債務を嵩上げ」(EJ第3923号)

 「日本の借金は1000兆円を超えており、そのGDP比は、
200%以上になる」──耳がタコになるほど聞かされている言
葉です。しかし、日本には2012年3月末で負債総額1088
兆円に対して、金融資産が428兆円もあります。
 昨日のEJで述べたように、国の負債総額の国際比較は、負債
総額から金融資産を差し引いた数値で行われることになっていま
す。そうであれば、日本の純債務は、「1088兆円―428兆
円=660兆円」ということになり、この数字を基にすると、負
債の対GDP比は約132%になり、それほど悪い数字ではなく
なります。
 しかるに、先進国の負債総額の国際比較では、日本だけグロス
の負債総額から金融資産を差し引かない金額、すなわち、粗債務
で他国の、負債総額から金融資産を差し引く純債務と比較してい
るのです。なぜなら、「対GDP比約132%」という数字は聞
いたことはないからです。日本の債務総額を大きく見せるためで
す。基準の違うグロスの数字とネットの数字を比較しても意味が
ないことは明らかです。
 何のために財務省はそんなことをするのでしょうか。それは、
増税の必要性を明確にし、正当化するためです。まさか、そんな
ことを・・と誰でも考えますが、財務省はこういう手をよく使う
と高橋洋一氏は述べています。
 しかし、その不正にIMF(国際通貨基金)はなぜ気がつかな
いのでしょうか。
 高橋洋一氏によると、IMFは多くの財務官僚が出向していて
日本向けのデータ作成は、ほとんど出向した財務官僚がやってい
るので、どんなことでもできるといっています。
 確かにIMFは、増税の必要性をくどいほど日本に対して発信
してきます。日本人はガイアツに弱いので、海外も財務省と同じ
ことをいっていると信じてしまう可能性があります。ところが、
実際に発信しているのは、IMFに出向している財務官僚がやっ
ているのです。
 このIMFの性格について、麻布自動車会長の渡辺喜太郎氏は
高橋洋一氏と同じことをいっています。2人が同じことをいって
いるということは、やはりこのことは本当のことなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに、国際通貨基金(IMF)は、2014年5月、「財政
 規律の信頼性確立に不可欠」と、消費税引き上げを促した。そ
 れどころか、「最低でも15%への段階的な引き上げ」まで求
 めていた。さらに、10月発表の「世界経済見通し」で、15
 年の日本の経済成長率予想を0.2 ポイント引き下げ、0.8
 %と下方修正したのに、消費税率引き上げは実施すべきと強く
 言っていた。しかし、日本はIMFに多額の出資をして財務官
 僚も数多く出向、ナンバー2の副専務理事も確保している。だ
 から、IMFの日本への消費税増税要求は、日本の財務官僚が
 発信しているのだ。国際機関の衣を被れば、国民もだましやす
 いと思っているということ。姑息(こそく)だ。(中略)国会
 議員と役人は自分たちの政策ミスでバブル経済を崩壊させ、国
 の借金を1000兆円以上に増やしたのに、自分たちだけはい
 い思いをしている。いや、自分たちが作った借金をタテに「国
 の財政は厳しい」と消費税アップをもくろんだ。まさにマッチ
 ポンプ。        ──麻布自動車会長・渡辺喜太郎氏
            2014年11月19日付、夕刊フジ
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、財務省が数字を偽って、消費税増税の必要性を訴
えている証拠が高橋洋一氏の本に出ているのでご紹介します。
 野田政権時代の2011年のことです。当時、五十嵐文彦氏と
いう財務副大臣がいたのです。この人は菅内閣と野田内閣の2つ
の内閣で財務副大臣を務め、税と社会保障の一体改革成立のため
に尽力した人です。その五十嵐大臣があるテレビの番組に出演し
次のような話をしていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国と地方の借金総額が、国内の家計金融純資産額を初めて上回
 る可能性がある。        ──高橋洋一著/東洋経済
     『財務省の逆襲/誰のための消費税増税だったのか』
―――――――――――――――――――――――――――――
 「政府の債務がいくら積み上がっても、日本には1400兆円
を超える家計金融資産があるので、絶対に財政破綻は起きない」
──消費税増税は不要であることの根拠としてよく使われること
ばです。五十嵐氏は、このことばを逆手にとって、グラフを使っ
て、国と地方の借金の総額が、その金融資産に迫り、近くそれを
超えようとしていると説明したのです。
 しかし、これにはトリックがあったのです。家計金融資産の方
は金融資産と金融負債の差額のネットの純資産であるのに対して
比較する国と地方の負債総額の方は金融資産を差し引きしないグ
ロスの数字(粗債務)だったからです。これでは、正しい比較に
はならないことになります。
 このデータは、日銀が四半期ごとに発表している資金循環勘定
の「家計」の統計から持ってきたものです。この資金循環勘定は
「家計」「企業」「政府」という各経済主体のバランスシートを
推計しているものです。
 そこで高橋洋一氏は、資金循環勘定の「政府」に出ている金融
資産を国と地方の負債総額から引いて、「一般政府金融資産負債
差額(ネット)」として、五十嵐財務副大臣の作成したグラフに
加えています。添付ファイルの棒グラフ3つのうち、一番下のグ
ラフがそうです。これを見ると、まだ十分余裕があることが、読
み取れると思います。
 このように、財務省はあの手この手を使って、日本の借金がい
かに大きく深刻であり、消費税増税が必要であることを訴えよう
としているのです。しかし、不正の数字の比較は犯罪行為そのも
のです。       ──── [検証!アベノミクス/05]

≪画像および関連情報≫
 ●「財政再建をどのように進めるべきか」/原田泰氏
  ――――――――――――――――――――――――――─
  ギリシャの財政危機がユーロ圏全体を巻き込む大問題となり
  イタリアの国債利回りが急上昇し、米国債の格付けが引き下
  げられるなどの混乱が続いている。現在のところ、経常収支
  の黒字もあって、日本はまだましと認識されて資金が集まり
  円が上昇し、長期国債の金利はさらに低下している。ただし
  円高で日本の輸出企業の競争力が低下することから、株価は
  大幅に下落している。この状況で、政府と日銀は非不胎化介
  入を行ったが、その額はわずかで効果は表れていない。財政
  状況だけを見れば、日本の政府債務残高(グロス)の対GD
  P比は200%を超え、ギリシャよりも深刻だが、金利は落
  ち着いている。高齢化に対応する社会保障支出は際限なく増
  大しているが、増税の見通しはついていない。さらに、東日
  本大震災の復興費の負担ものしかかっている。日本は、財政
  赤字をどう解決していけば良いのだろうか。いくつかの考え
  があるが、2つの両極端の議論から始めよう。第1の議論は
  国債は債務だから、これは増税であれ、経費削減であれ、な
  んとしても解消しなければならないという議論である。第2
  の議論は、気にするなというものである。国債は政府の借金
  であるが、それを購入した国民にとっては資産である。国債
  は将来の世代に対する借金だというが、将来の世代は現在の
  世代から相続した国債という資産を持っている。国債の元利
  返済は将来の世代の政府と国民の間でのやり取りに過ぎず、
  国債発行で得た資金は、現在世代が未来から得たものではな
  いというのである。        http://bit.ly/1umO4DS
  ――――――――――――――――――――――――――─
 ●グラフの出典/高橋洋一著の前掲書より

家計金融資産と政府債務.jpg
家計金融資産と政府債務
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2014年11月27日

●「安倍首相はどうして解散したのか」(EJ第3924号)

 安倍首相は、消費税を延期して師走の解散を断行し、12月2
日公示、14日投開票に向けて、全国的に選挙一色になりつつあ
ります。この解散に対して野党は「大義なき解散」として批判し
それを選挙の争点にしようとしています。
 安倍首相は、なぜ解散の決断をしたのでしょうか。増税の延期
だけであれば、景気弾力条項を使って、首相が粛々と決断すれば
よいだけであり、解散などする必要がないからです。
 しかし、それは財務省の力を知らない人の考え方です。現在の
日本の政治は、政治家が前面に出ていますが、実質的に官僚に支
配されているのです。これは明治維新以来のことです。自民党政
権は、官僚機構と折り合いをつけて役割分担をしてきたのです。
 今回の消費税の増税は、財務省が仕掛けたものです。財務省は
増税は仕掛けから実現まで約5年かかるとしています。財務省は
2009年の政権交代を好機として、消費税増税を仕掛けたので
す。民主党にとって初めての政権であり、すべてに慣れていない
ので、財務省が主導権を取り易かったからです。
 実際に財務省は民主党の菅政権と野田政権の2つの政権に取り
入り、仕掛けてから約4年で今回の消費税増税を決めています。
菅・野田両首相は、財務相時代から、嘘の入った財務省のデータ
を見せられて、日本の財政は本当に危機だと信じ込み、それまで
の主張を180度変更して、これまた財務相時代に洗脳された当
時の谷垣自民党総裁と組んで、「社会保障と税の一体改革」を実
現させたのです。
 これには、国民の怒りを受けて、民主党は壊滅状態になったに
もかかわらず、彼らは、いまだにその財務省ロジックの幻想世界
から醒めていない状態です。
 これは、財務省にとって大きな成果であるといえます。計画通
りなら、2015年10月には、消費税の税率は5%から10%
に上がっていたからです。しかし、安倍首相は8%への増税は認
めたものの、10%への再増税を延期させたのです。これは財務
省にとって大きな誤算になったといえます。
 財務省としては、2015年に税率を10%にしたあと、安倍
首相には退陣してもらう段取りをし、麻生財務相か谷垣幹事長に
首相になってもらい、2020年までにさらに5%の再増税を画
策する予定だったのです。
 財務省の周到な根回しによって、麻生財務相、谷垣幹事長、野
田自民党税調会長をはじめ、自民党議員の半数以上は増税賛成に
なっています。それに消費増税是か非かを決める点検会合のメン
バーの70%は賛成です。税率を上げる人とそれによって何らか
のおこぼれに預かれる人は全部増税賛成になるのです。
 それに加えて、永田町で暮らす政治記者や政治評論家、それに
テレビのキャスターもほとんどは増税賛成なのです。すべてに財
務省の毒が回っているのです。彼らにとって、国民の暮らしなど
どうなろうと眼中にないのです。
 そのなかで安倍首相が、景気弾力条項を使って「消費再増税延
期」を打ち出し、増税をストップさせたらどうなるでしょうか。
財務省は激怒し、場合によっては安倍内閣の倒閣運動だって起き
かねないのです。
 そういう雰囲気を感じ取った安倍官邸は、先手を打って再増税
延期と同時に解散を断行したのです。まさに伝家の宝刀であり、
これだけは誰も抵抗できないのです。したがって、今回の再増税
延期解散は、自民党の権力闘争のひとこまであるといえます。
 この間の事情を東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏
は、次のように解説しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「景気条項があるから、先送りしたいならできるじゃないか」
 という議論は一見、もっともらしいが、裏に秘めた真の思惑は
 「安倍政権、さようなら」なのだ。増税先送りなら政局になる
 くらいの見通しは、政治記者ならだれでも分かる。それでもな
 ぜ景気条項のような建前論を吐くかといえば、理由は2つだ。
 まず、左派マスコミは増税賛成だろうが反対だろうが、とにか
 く安倍政権を倒したい。その思惑が一致するから、増税賛成派
 の朝日新聞も反対派の東京新聞も同じように景気条項論を持ち
 出す。次に、永田町で暮らす政治記者や政治評論家たちは、結
 局、財務省を敵に回したくない。裏で財務省が糸を引いている
 のは分かっていても、そんな「本当の話」をずばずば書き始め
 たら、財務省とその応援団に睨まれる。 ──「週刊ポスト」
    12/5日号「長谷川幸洋の半主流派宣言」コラムより
―――――――――――――――――――――――――――――
 11月22日のBS朝日の「激論!クロスファイア」はなかな
か面白かったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  「消費増税先送りでどうなる?」
   増田寛也野村総合研究所顧問/高橋洋一嘉悦大学教授
   /磯山友幸経済ジャーナリスト     田原総一朗
―――――――――――――――――――――――――――――
 増田寛也氏といえば元総務大臣で、『地方消滅』(中公新書)
のベストセラーが話題になっていますが、この対談では、今回の
増税延期を強く批判したのです。そのロジックたるや財務省と全
く同じで、あぜんとしたものです。完全に財務省色に染まってい
ます。まして元財務官僚で、財務省の裏の裏を知り尽くしている
高橋洋一氏に経済の問題で対抗できるはずがないのです。
 高橋洋一氏によると、8%のときと10%の時の両方とも安倍
首相に直接意見を求められたそうです。そこで8%を強行すれば
成長率はこうなると予想したところ、その数字は的中してしまっ
たそうです。安倍首相はそういう少数意見を採用したのです。
 財務省の増税に対する執念は異常なほどすさまじいもので、時
の首相でも手こずるものものですが、解散に大義があるかないか
は別として、再増税を18ヶ月でもよく延期してくれたものと考
えます。       ──── [検証!アベノミクス/06]

≪画像および関連情報≫
 ●消費再増税をめぐり官邸と財務省対立/産経ニュース
  ―――――――――――――――――――――――――――
  消費税率10%への再引き上げをめぐり、財務省が来年10
  月から予定通りに実施するよう固執し、自民党議員に「ご説
  明」に回った。これに対し官邸サイドは、「増税容認」で固
  めてしまおうとする動きだとして激怒、安倍晋三首相が衆院
  解散・総選挙を決意した遠因とされている。10月下旬、自
  民党有志でつくる「アベノミクスを成功させる会」会長の山
  本幸三衆院議員は、出席者が減ったことについて「財務省が
  根回しをしている」と同省への不満をみせた。財務省はとく
  に、再増税に慎重な議員に集中して押しかけた。同省幹部は
  ある若手議員に再増税をしきりに訴えたという。「社会保障
  費が膨れ上がる中、消費税率がこんなに低いのは、国民を甘
  やかすことになる。経済が厳しくても、10%に上げるべき
  だ」。若手は「景気はかなり悪い」と反論すると、財務省幹
  部は「景気は回復していきます」と楽観論を振りかざした。
  その言いぶりは、まさに「上から目線」だったという。「ご
  説明」を受けた別の若手も、「財務省はプライマリーバラン
  ス(基礎的財政収支)のことしか考えていない」と憤る。財
  務省の行状を聞いた菅義偉官房長官は、11月に入り、関係
  省庁に再増税を先送りした場合の経済への影響を調べるよう
  指示した。すると、財務省と二人三脚で再増税を訴える党税
  制調査会幹部も「政策変更をしなければならない経済状態か
  といえば、全くそうではない」(町村信孝顧問)などと発信
  を強め、官邸サイドをさらに刺激させた。
                   http://bit.ly/1t2y7Co
  ―――――――――――――――――――――――――――

増田寛也/高橋洋一両氏.jpg
増田 寛也/高橋 洋一両氏
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2014年11月28日

●「赤字国債発行額にかさ上げがある」(EJ第3925号)

 財務省の発表している数値には、いろいろな疑惑があります。
財務省の狙いは、国の負債総額を実際よりも大きく見せることに
あり、結果として日本国民に「消費税の増税やむなし」と思わせ
るのが目的です。増税で得た資金は、高級官僚たちが自分たちの
老後生活を華やかなものにするための財源になるのです。
 現在、多くの日本人が「消費税増税やむなし」と考えている根
拠は、税収が毎年約50兆円しかないのに、その倍近い予算を組
まざるを得ない現実です。こんなことをしていたのでは、近い将
来日本の財政は破綻してしまうからです。
 確かにその通りですが、これにも実はからくりがあるのです。
こういうことがいわれ出したのは、民主党が政権を奪取した20
10年度予算からであり、自民党政権のときは、それほど問題に
なっていないことです。
 2013年度の数字を例にとります。自民党が民主党から政権
を奪った最初の予算です。その2013年度の予算と赤字国債の
発行額は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     2013年度予算額 ・・・・ 92.6 兆円
       赤字国債発行額 ・・・・ 42.9 兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見ると、税収は49.7 兆円、赤字国債は42.9 兆円
で、税収の方が上回っています。これは、2012年から景気は
少し回復していることを示しています。それまでは税収より、赤
字国債の方が多かったからです。
 この時点で「42.9 兆円」の中身を疑う人はいないと思いま
す。しかし、かなり数字のかさ上げが行われているのです。海外
諸国のやり方で計算すると、この数字は「30.6 兆円」に減少
してしまうのです。約12兆円の差があります。
 2013年度の予算の歳出では「国債費」の名目で22.2 兆
円が計上されています。「国債費」という言葉から、ほとんどの
人は利払い分だろうと思い、おかしいとは考えないと思います。
しかし、からくりはここにあります。これについて、高橋洋一氏
は次のようにからくりを暴いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国債費の内訳をみると、利払費が9.9 兆円に対し、「債務償
 還費」なる項目が12.3 兆円ある。くせ者はこれだ。債務償
 還費のほとんどは、「特別会計に関する法律第42条第2項」
 に基づく「定率繰入」といわれるものである。前年度期首にお
 ける国債残高の1.6 %が一般会計から国債整理基金に繰り入
 れられるという仕組みだ。国債整理基金で国債償還のために資
 金を積み立てているのだ。この仕組みを「減債制度」という。
 「借金返済のためにおカネを積み立てるのは当然だ」と思うか
 もしれない。しかし、よく考えてみてほしい。予算では、減債
 制度の運営のために国債発行額を増やしているのだ。
                 ──高橋洋一著/東洋経済
     『財務省の逆襲/誰のための消費税増税だったのか』
―――――――――――――――――――――――――――――
 何のことはない。利払費は9.9 兆円なのです。12.3 兆円
は、借金を返すおカネのプールを作るために、新たに借金をする
ことを意味しています。高橋氏は「まるで多重債務者みたい」と
いっていますが、その通りです。財務省はこのようなからくりで
積む必要のないプール金を多く持っているのです。これが埋蔵金
と呼ばれるものです。したがって、42.9 兆円から12.3 兆
円を引くと、30.6 兆円になるのです。
 このような「減債制度」を墨守している国は、先進国では日本
だけです。当然経済学者や日本のマスコミは、このことを知って
いますが、財務省に睨まれるのが怖くて報道しようとしないので
す。知らないのは国民だけです。
 2012年の民主党政権当時のことです。次のような報道が繰
り返し、行われていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  3年連続で、租税等収入が国債発行額を下回る異常事態
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、財政収支が黒字である国は、先進国ではドイツ(201
3年度/35位)ぐらいのもので、他の先進国はいずれも赤字で
すが、赤字国債発行額が税収を上回るのは、異常事態であること
は確かです。しかも、2010年〜2012年の3年連続である
ということは、民主党政権当時の予算であるということです。
 これは、何を意味しているのかというと、この3年間は財務省
が各省庁がやりたい放題の予算を組むことを黙認したからです。
その目的は、民主党政権を早く潰すことにあり、あわせて消費税
増税を仕掛けるためです。
 添付ファイルのグラフを見ていただきたいのです。2001年
〜2012年度の「予算の歳出総額」を表しています。2001
年から2009年までは自民党が政権を担っていたのですが、リ
ーマンショックへの対応が必要であった2009年を除いて歳出
は平均で83兆円に対し、平均税収は53.5 兆円あり、国債発
行額は30兆円以内に収まっていたのです。赤字は問題ですが、
この程度であれば、なんとか対応策がとれるのです。
 しかし、民主党への政権交代後の歳出の平均は94.3 兆円で
自民党政権時よりも10.7 兆円も上回っているのです。しかも
2010年の税収は37.4 兆円、2011年度は40.9 兆円
しかなく、そのため、税収が国債発行額を下回るという異常事態
になったのです。
 これは、民主党が政権交代時に主導権争いしている間に、財務
省は民主党幹部がシーリングをかけずに各省庁の要求をそのまま
認めることを黙認したのです。そのため予算は水ぶくれになり、
税収が赤字国債発行額を下回る原因になったのです。すべては、
消費税を増税するための財務省の策略であり、それはまんまと成
功したのです。    ──── [検証!アベノミクス/07]

≪画像および関連情報≫
 ●「64年ぶり借金が税収を上回る予算」/海江田万里氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2010年度の予算では、92兆円の歳出規模に対して、税
  収は37兆3960億円で、埋蔵金を10兆6000億円取
  り崩しても、残りの44兆3000億円余りを国債の新規発
  行に頼らざるを得ない状況です。これによって2010年度
  末の国債の残高は約637兆円になり、GDP比で134%
  になります。国の借金を表すには国債の他のいわゆる長期債
  務残高があります。このケースでは地方の債務残高も結局は
  国が面倒をみなければならないために、合計して国と地方の
  長期債務残高という形で表しますが、これは2010年度末
  で、862兆円に膨れ上がって、GDP比181%にもなり
  ます。わが国の国債の発行額が急激に増えたのは1998年
  の橋本内閣の時代からです。ちょうどアジアの経済危機があ
  った直後で、この頃から毎年の国債発行額30兆円超過が当
  たり前の事態になりました(安部内閣の時期に一時的に30
  兆円以下に抑えることができたことがあります)。2010
  年度の予算では、国債が税収を上回っており、最初からこう
  した借金過多の予算は日本が太平洋戦争に敗れた翌年以来、
  実に64年ぶりのことです。その意味では、わが国の財政事
  情はまさに破たん寸前で、財務省は機会あるごとに日本の財
  政状況が危機的であることを強調し、消費税の増税を示唆し
  ています。            http://bit.ly/1uQ5uOr
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/高橋洋一著の前掲書より

予算歳出総額/2001〜2012.jpg
予算歳出総額/2001〜2012
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2014年12月01日

●「消費税増税は財務省の策略である」(EJ第3926号)

 財務省は、10%への再増税が延期されたので、あれもできな
い、これもできないといいはじめています。しかし、既に3%増
税しているのです。それは何に使っているのでしょうか。
 10%への再増税が延期されたので、車を買う時にかかる自動
車取得税(地方税)の廃止や、自治体間の税収格差を緩和する新
制度の導入などの財源が入ってこないので、制度改革は先送りさ
れるというのです。
 しかし、今回の消費税の増税は、全額社会保障に使うのではな
かったのですか。自動車取得税の廃止や自治体間の税収格差を緩
和する新制度などは社会保障に何の関係もないはずです。結局、
おカネに色はついていないので、何に使われるか、わかったもの
ではないのです。騙されてはならないと思います。
 「子ども・子育て支援新制度」は間違いなく社会保障ですが、
財務省は増税が延期になったので財源がないといっています。し
かし、安倍首相は予定通り来年4月から実施すると明言し、財源
の手当ては財政当局に「知恵を出せ」と指示しています。
 このように、財務省は巧妙に貯め込んだ巨額の資金からは、予
算へ1円も出そうとはせず、あくまで増税が延期されたので、財
源がないといい張るのです。それでいて、自分たちのための老後
の天下り先の確保や、そういう企業や団体への資金提供について
は、きっちり行っているのです。
 そういう財源に政治が切り込まないと、財政再建などできるは
ずがないのです。そういう意味で、政治家も官僚機構も「身を切
る改革」を行うべきですし、そうすれば国民も10%〜15%程
度の消費税増税に反対はしないでしょう。
 財政再建をいう前に、日本の財政が本当に危機に陥っているの
かどうかを真剣に検証する必要があります。2002年のことで
すが、高橋洋一氏は、当時猪瀬直樹氏が取り組んでいた道路公団
の民営化の仕事を手伝っていたそうです。そのとき、道路公団側
は「6兆円から7兆円の債務超過」を主張していたのです。
 高橋氏は、この道路公団の主張に疑問をもったといいます。な
ぜなら、道路公団には多額の補助金が投入されており、海外に比
べて極端に高い高速道路料金の収入があったからです。
 そこで高橋氏は、企業の資産査定で使うキャッシュフロー分析
で、将来の収入を含めて道路公団の現在価値を算出した結果、次
の結論を得たのです。実際に民営化して、バランスシートを作成
してみると、それが正しいことがわかったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   道路公団は2兆円から3兆円の「資産超過」である
―――――――――――――――――――――――――――――
 そこで高橋氏は、このキャッシュフロー分析を政府の会計にも
適用してみたのです。なぜなら、財務省は「政府は財政難」であ
り、「財政再建は不可欠」であると喧伝していたからです。その
検証結果について高橋氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 チェックしてみると、一般会計については財務省のいうとおり
 負債が大きくて資産は小さかった。しかし、いくつかの特別会
 計については、負債よりも資産が大きくなっていた。目に見え
 ないようにごまかされているが、財務省関連の特別会計に、莫
 大な額の現金が隠されていたのだ。そのうち財政投融資特別会
 計の積立金(金利変動準備金)などは、会計操作で簡単に財政
 支出に転用可能であることがわかった。私は、その計算結果を
 「資産負債差額」として、経済財政諮問会議に提出した。結果
 2005年に「特別会計改革」が行われ、「特別会計の剰余金
 は45兆円にのぼり、うち20兆円を5年間にわたり、財政健
 全化に振り向ける」ことが決定された。
                 ──高橋洋一著/東洋経済
     『財務省の逆襲/誰のための消費税増税だったのか』
―――――――――――――――――――――――――――――
 「埋蔵金」という言葉が流行り出したのは、これがきっかけで
す。財務省は危機感を感じて財務省親派の政治家や経済学者を動
員して反論を試みたのですが、バランスシートを熟知している高
橋氏にはまるで歯が立たなかったのです。
 財務省としては、このまま議論を続けて行くとさらに追い込ま
れると判断したためか、高橋氏の指摘を認め、2008年予算の
なかで、財政投融資資金特別会計の準備金を約10兆円取り崩し
さらにその後の5年間で特殊法人への出資積立金を含めて、40
兆円近い資金を一般会計に回したのですが、小泉政権が終わると
さらなる特別会計への追及は終わってしまったのです。
 そして民主党へ政権交代したとき、財務省は意図的に2010
年度予算をシーリングなしの水ぶくれ予算にし、あえて赤字国債
が税収を上回る状態を作り出したのです。民主党の不慣れを利用
したのです。2011年度からはシーリングをかけましたが、一
度水ぶくれ予算になると、それを適正化するのは大変で、結果と
して民主党政権の3年間はそういう状況が続いたのです。財務省
はこの事実を強調して消費税の増税が不可欠であることを説き、
「社会保障と税の一体改革」を実現させたのです。すべては周到
に計画された財務省の巧妙な策略だったのです。
 このように財務省は増税を説くだけで、財政再建に取り組まな
いことです。高橋氏はこれについて強く批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財務省はその年に余ったおカネを国債整理基金にしまい込んで
 翌年の財政支出には回そうとしない。翌年の支出がその年の税
 収だけで足りるならそれでもいいが、実際には足りないので、
 しまい込んだ分だけ、新たな国債を発行しているのだ。そんな
 バカなことをするぐらいなら、余ったおカネは翌年の支出に回
 し、その分、翌年の国債発行額を減らすほうが、はるかに合理
 的である。          ──高橋洋一著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
           ──── [検証!アベノミクス/08]

≪画像および関連情報≫
 ●あまりにも稚拙な財務官僚の言い訳/高橋洋一氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  特会を扱う官僚は、民間企業にたとえれば、執行役員のよう
  な存在だ。彼らが運営する日本国株式会社の株主は、血税を
  納めて出資している国民である。役員が株主である国民が頼
  んでもいないのに、勝手に運用してリスクを取る。本来、官
  僚がリスクを取って運用してはいけないのだ。しかも、それ
  で生じた剰余金を返さず、自分たちで使途を差配するのはど
  う考えても道理が通らないし、許されるものではない。株主
  たる国民に剰余金を還元し、国民が使い道を決めるべきだ。
  少なくとも、リスクが大きい小さいという前にリスクを取っ
  ていいのかどうかという議論があって然るべきだ。自分たち
  の役割と立場をわきまえていれば、「申し訳ありません。今
  まで意図せざるところでリスクがありました。今後はリスク
  をなくします。だから、貯まった分は、取り崩します。どう
  ぞお使いください」というのが普通のいい方というものだろ
  う。金融機関の専門家にこの話をすると「恐ろしいですね」
  とみんな口を揃える。各特別会計が運用した資金が、その過
  程で膨らんでいった結果、埋蔵金が出てきた。運用がよかっ
  たと評価はするが、「結果オーライ」だったからといって、
  今後もうまくいく保証はない。彼らの金利リスクに対する知
  識を見る限り、私は背筋が寒くなる。   ──高橋洋一著
     『さらば財務省!/官僚すべてを敵にした男の告白』
                        /講談社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

高橋洋一氏の本.jpg
高橋 洋一氏の本
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2014年12月02日

●「国の借金1000兆円の嘘を暴く」(EJ第3927号)

 消費税増税の議論に必ず出てくる「1000兆円を超える国の
借金」は、借金の内容を分析してみると、多くの疑問が出てきま
す。これについて少し突っ込んで考えてみたいと思います。
 1000兆円の借金のうち、国の債務は800兆円、地方の債
務は200兆円となっています。まず、地方の債務200兆円に
ついて考えてみます。
 地方の債務である200兆円は、それに対応する資産も200
兆円ほどあり、本来であれば国の負債から外すべきです。しかし
財務省は国民に増税を認めさせるため、国の借金の額を大きくし
たいので、この200兆円を借金のなかに入れているのです。
 この地方債務200兆円をなぜ借金から外していいかの根拠に
ついては、植草一秀氏が著書で明解な説明をしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この数値(国の借金1000兆円)のなかの200兆円は地方
政府の借金である。日本の場合、地方公共団体の債券発行、すな
わち地方債発行については、非常に強い制約が設けられている。
地方自治体の借金計画は、中央で集計され、一県ずつ中央政府の
審査の対象になる。それらが集計されて、地方債計画として公表
もされている。
 地方政府の借金は、それぞれの地方の金融機関などが資金の出
し手となっており、どの経済主体がいくら地方自治体に資金を供
給するかについて綿密な計画がたてられ、その計画に基づいて地
方債が発行されている。
 また、地方債を発行できる事業も限定されており、基本的には
借金返済の裏付けが確かでないものには、地方債発行が認められ
ないような仕組みが取られている。したがって、この200兆円
の地方債の残高については、基本的に大きな懸念が生じる恐れが
ないと言っても過言でない。例外的に地方政府の財政危機が表面
化するケースがあるが、巨大な地方債残高を抱えたまま地方政府
が破綻するといった事態は想定されないのである。
                 ──植草一秀著/青志社刊
  『日本の再生/機能不全に陥った対米隷属経済からの脱却』
―――――――――――――――――――――――――――――
 基本的には、きちんとした裏づけがあり、返済可能な債務につ
いては、国の借金から外して考えるべきです。国の債務を国際比
較する場合は各国の判断にまかされますが、日本と違ってどこの
国も借金は大きく見せたくないはずで、そういう債務は外してい
るはずです。
 それに「借金や赤字は悪である」という考え方が日本人には根
強くあります。さらに日本人は、国の収支を家計に置き換えて考
える人が多いので、1000兆円に及ぶ国の債務を必要以上に深
刻に考えてしまう人が多いのです。財務省は日本人のそういう潔
癖さにつけこんで、国の借金を家計の借金にあえて譬えているの
です。その方が財務省にとって都合がよいからです。
 個人と違って国は永遠に続くものとして考えられています。し
たがって、国の債務についても年々GDP比が増加して行くのは
問題ですが、少しずつでも減少していけば、どのように長期間か
かろうとも、それは大きな問題ではないのです。そのため基礎的
財政収支(プライマリーバランス)を均衡させることが必要にな
るのです。
 少しデータは古いが、2011年度末のデータを使って考える
ことにします。2011年度末の政府の債務合計は894兆円で
すが、そのなかの地方政府の債務は201兆円です。この当時、
日本の債務は対GDP比185%といわれていたのです。
 しかし、地方政府の債務は返済が確実なので、201兆円を差
し引くと、政府の債務は693兆円になるのです。この債務の内
訳は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       建設国債 ・・・・ 251兆円
       赤字国債 ・・・・ 391兆円
        その他 ・・・・  51兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府の債務693兆円のうち、251兆円の建設国債について
は、その返済のめどが立っている負債であり、差し引きしてよい
と考えられるのです。そうすると、赤字国債の391兆円が純粋
の債務ということになります。
 それでは、なぜ、建設国債は問題がないのでしょうか。
 建設国債と赤字国債の根拠法は「財政法」です。財政法ではそ
の第4条において、政府支出の財源は税収によって行うことを定
めています。つまり、借金を認めないということです。
 しかし、財政法第4条の但し書きとして、公共事業費、出資金
及び貸付金については、国会の議決を経た金額の範囲内で、国債
の発行ないし借入れをすることができると定めています。これが
建設国債の発行根拠です。インフラを整備するなどの投資的な支
出について許される国債が建設国債です。
 6000億円の建設国債を発行し、同額のインフラ資産を建設
したとします。そのため10年国債を発行したとすると、10年
後に6000億円全額を返済し、また5000億円の10年国債
を発行します。さらに10年後に全額返済し、4000億円を調
達する──このやり方を60回繰り返して、60年後に全額の返
済が完了するのです。これを「60年償還ルール」といいます。
 この場合、建設国債には、それに見合う資産が存在することに
なり、健全そのものといえます。したがって、国の借金を国際比
較する場合、これを引いても問題はないのです。
 これに対して赤字国債は、発行するための特例法を定めなけれ
ばならないのです。そのため、これを「特例国債」とも呼ぶので
す。これによって調達した資金は、国の経常的な支出に充てられ
るため、借金に見合う資産がないのです。したがって、将来への
ツケ回しとされる負債です。これは、2011年度末で約400
兆円存在するのです。  ─── [検証!アベノミクス/09]

≪画像および関連情報≫
 ●「借金1000兆円に騙されるな」/高橋洋一氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  それでも、どうしても国債暴落、財政破綻という言葉の恐怖
  から逃れられない人のために、頭の体操を兼ねた馬鹿馬鹿し
  いシミュレーションをしてみよう。『借金1000兆円に騙
  されるな』の第1章の終わりで、歴史上イギリスがネットの
  債務残高が2度もGDPの250%前後になったのに、いず
  れも破綻しなかったことを述べた。日本のネットの債務残高
  のGDP比は70%だから、往年のイギリスと同じ段階まで
  債務残高をふくらませるとしたら、あと900兆円も国債を
  発行しなければならないということになる。実際にそんなこ
  とをする必要はないのだが、もし、900兆円国債を発行し
  て、一気に財政出動したらどんな世の中になるか、ちょっと
  想像してみよう。さすがに1年では賄いきれないだろうから
  9年に分け、年間100兆円ずつ使っていくことにしよう。
  民間金融機関の消化能力を考えて、全額日銀引き受けにしよ
  う。そうすると、毎年政府は日銀が刷った100兆円を手に
  入れられる。日本中のおカネが1年間で100兆円増える。
  政府も投資先が思いつかないので、とりあえず国民全員に配
  ることにしたとすると、国民1人当たり70万円が分配され
  ることになる。4人家族なら、300万円近い札束が、宅配
  便か何かで届くのかもしれない。これには長年デフレに慣れ
  てきた人たちも、さすがに驚くのではないだろうか。隣の家
  にも、向かいの家にも何百万円も配られているのだ。
                   http://bit.ly/1pyF0QM
  ―――――――――――――――――――――――――――

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1千兆円の借金が心配な人が読む本
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2014年12月03日

●「日本のバランスシートを分析する」(EJ第3928号)

 2013年度末の国の負債総額は、1107兆円になっていま
す。昨日のEJで分析した2011年度末に比べて213兆円増
加しています。数字だけを見ると厳しい数字であり、これによっ
て安倍政権は8%の消費税増税決断に追い込まれたのです。
 しかし、驚くことはないのです。この数字には本来国の債務と
はいえないものが多く含まれているからです。まず、返済の道筋
のついている地方債務の約200兆円と建築国債の256兆円は
昨日のEJで述べたように、国の負債総額からは外すべきです。
そうすると、日本の負債総額は651兆円になります。
 このうち、赤字国債は452兆円であり、これこそ本当の債務
です。残りの約200兆円は政府短期証券などです。この国債は
為替介入をするさいに発行されるものですが、そのために外国為
替特別会計にはGDPの20%に当たる約100兆円を超える外
貨準備があり、これも債務総額から外すべきです。
 先進国でこんな巨額の外貨準備を持つ国はありません。日本の
次に大きな外貨準備を持つカナダでさえ、せいぜいGDPの2%
程度のものです。まさに桁が違うのです。
 そうすると、日本の本当の債務は452兆円になります。耳に
タコができるほどいわれる1000兆円ではなく、その半額以下
の債務になります。対GDP比は約90%。これは米国並みの数
字であり、財政危機というレベルではないのです。
 それに452兆円はグロスの数字なのです。日本には200兆
円を超える金融資産もあり、赤字国債に対応する十分な資産を有
しています。ただし、税収が増えないと100兆円に近い予算を
組んでいれば、赤字国債の残高は増える一方です。したがって、
本当のムダを切る歳出削減と経済成長による税収増加が不可欠に
なります。消費税増税などは、それに逆行する政策です。増税で
財政再建に成功した国はないからです。
 ここで、日本という国家のバランスシートについて考えます。
日本国のバランスシートは、元財務官僚の高橋洋一氏が理財局資
金企画室長のときにはじめて作成したといわれます。これは財務
省からみると、きわめて迷惑な話だったのです。なぜなら、バラ
ンスシートを作られると、隠しておきたい国の資産が白日の下に
晒されていまうからです。
 日本国のバランスシートを添付ファイルにしてあります。これ
は、政治評論家の三橋貴明氏が、2010年6月の速報値に基づ
き、日本銀行の資金循環統計から作成したものです。以下は、三
橋氏の論説を参考にして解説することにします。
 三橋貴明氏は、バランスシートを見る場合、次の2つの原則を
知っておくべきであるといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  【原則1】
   誰かの負債は誰かの資産。誰かの資産は誰かの負債
  【原則2】
   国=政府ではなく、政府の借金は国の借金にあらず
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀は、統計をとるさいに、国の経済主体を次の5つに分類し
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.          政府
       2.        金融機関
       3.       非金融機関
       4.          家計
       5. NPO/民間非営利団体
―――――――――――――――――――――――――――――
 バランスシートを見ていただきたい。借方(左側)には資産、
貸方(右側)には負債が計上されています。これを見ていえるこ
とは、日本は総資産が総負債を上回っていることです。
 その証拠に、貸方の一番下に純資産268・1兆円計上されて
います。米国では、この関係が逆になっていて、借方に純負債が
計上されているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   資産合計        負債合計
   5590兆6000億円>5322兆5000億円
―――――――――――――――――――――――――――――
 借方の一番上の数字「481・9兆円」は日本の金融資産の数
字です。この資産は金融資産だけで、不動産などの固定資産は含
まれていないのです。これはダントツで世界最大です。世界2位
は米国ですが、連邦政府と地方政府を合わせても約350兆円に
過ぎないのです。これでも十分に巨額の資産ですが、日本の資産
は、それをはるかに上回っているのです。
 貸方を見てください。冒頭の「1001・8兆円」が、財務省
が強調する「1000兆円を超える国の借金」です。しかし、こ
れは、政府の負債に過ぎず、すべての負債を合計すると5000
兆円を超えるのです。
 しかし、それに見合う資産は借方にあるのです。【原則1】に
あるように、誰かの負債は誰かの資産なのです。日本国債の債権
者の多くは国内金融機関で、政府が過去に発行した国債のほとん
どは借方に金融機関の資産として計上されています。そしてその
国債を購入する資金源は金融機関の貸方の2744・4兆円であ
り、そのほとんどは日本国民や企業の預金なのです。
 「1000兆円を超える国の借金」の正体は、日本国民や企業
が貸している政府の負債なのです。財務省やその御用学者たちは
それを人口で割り、「国民一人当たり○○○円の借金」と喧伝し
ているのです。きわめて悪質なミスリードであるといえます。
 なお、純資産の268兆円は、日本の対外資産約565兆円か
ら対外負債を差し引いた額なのです。これほどの純資産を持って
いる国は日本だけであり、日本は国としてみると、大変な金持ち
の国家なのです。そんな国に、どうして消費税の増税が必要なの
でしょうか。      ─── [検証!アベノミクス/10]

≪画像および関連情報≫
 ●現代ビジネス「ニュースの深層」/高橋洋一氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  参院選後の世論調査で消費税増税に58%が反対している。
  消費税増税について、2012年12月の衆院選でも、今回
  の参院選でも、直接国民に信を問うていないが、間接的には
  反対だろう、消費税増税へ道筋をつけた民主党は、衆院選、
  参院選それぞれで惨敗している。消費税増税について、「増
  税しないと国債暴落になる」、「増税を先送りすると株価が
  下がる」、「増税しないと国際公約違反になる」、「増税し
  ないと社会保障ができなくなる」、「増税しないと財政再建
  できない」とかいう意見については、8月5日付け本コラム
  (http://bit.ly/1FGBdTM) などで、ウソであると書いてき
  た。それでも、財務省は必死に「国の借金が酷い」と増税を
  訴えてくる。「日本には1000兆円の借金がある。国民一
  人当たりに換算すると800万円にもなる」「債務残高GD
  P比200%は世界一だ」――こんな話をメディアを通して
  聞いたことがある読者も多いだろう。国の借金が初めて10
  00兆円を超えたと報道された。財務省が8月9日「国債及
  び借入金並びに政府保証債務現在高」の数字が1008兆6
  281億円と発表したからだ。しかし、なぜ、国のバランス
  シート(B/S)を見ないのか。それをみると、負債合計は
  国の借金を包括的に表しており、それが「国の借金」にふさ
  わしい数字だ。          http://bit.ly/1w5qQch
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフの出典/「日経ビジネス」http://nkbp.jp/1A2mK3e

日本国のバランスシート/2010年10月.jpg
日本国のバランスシート/2010年10月
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2014年12月04日

●「自国通貨建ての国債は破綻しない」(EJ3929号)

 「1000兆円を超える国の借金」という悪意のあるウソの問
題にそろそろ決着をつけるときがきていると思います。財務省、
御用学者、メディアの要職にある人が、このようなウソとわかっ
ていることを繰り返しいい続けることは、国民を馬鹿にしている
と思います。
 「財政破綻」とは何を意味するのでしょうか。それは、次のこ
とを意味しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財政破綻とは「外貨建て国債」が返済不能になることである
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の国債はすべて「円建て国債」なのです。これをもって日
本の財政破綻はあり得ないのです。ところが「日本もギリシャの
ようになる」といって大騒ぎをした菅元首相とそれを受け継いだ
野田前首相が財務省の口車に乗って消費税増税を決めたのです。
彼らは総理大臣の職にありながら、この程度のことすら知らない
知識レベルの持ち主であったことが明らかになったのです。おそ
らく現在でも間違いに気がついていないと思います。
 破綻したギリシャの国債はユーロ建てであり、事実上の外債な
のです。2001年に財政破綻したアルゼンチンの場合も、ドル
建て国債であり、それを返せなくなって破綻したのです。
 消費税再増税延期が決まる前の話です。「アベノミクスを成功
させる会」の会長・山本幸三議員が取材記者と次のやり取りをし
ていますので、再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
記者:黒田日銀総裁は、増税を実施して起きる事態には日銀とし
   て対処する方法はあるが、確率は低いだろうが、増税を延
   期して国債の信認が低下し、長期金利が上がるなどの事態
   が生じたときには、日銀として打つ手がないといわれてい
   ますが、会長はどうお考えでしょうか。
山本:そのようなときは、その暴落した国債を日銀が粛々と買い
   入れればよいじゃないですか。そんなこと、日銀では通常
   業務ですよ。
―――――――――――――――――――――――――――――
 黒田日銀総裁の発言は、あくまで出身官庁である財務省の省益
を代弁しています。たすきがけ人事がなくなったあとの久々の財
務省出身の日銀総裁ですから、黒田氏は、そのようにいわざるを
得なかったのでしょう。
 山本幸三議員は、ジャーナリスト塩田潮氏とのインタビューで
も同じことをいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
塩田:増税を延期すれば、国債価格の下落や金利の高騰が起こる
   という懸念の声もあります。
山本:私は全くないと思っています。日銀が大量に国債を買って
   います。日銀という大きな買い手がいて、金利が急騰する
   なんてあり得ない。最近は財務省の人たちも「そんなこと
   は言いません」と話しているから、心配がないことは、わ
   かっています。国債の価格が下がるのは、日本政府に対し
   て信用がない場合ですが、最近の海外の見方は、逆に日本
   経済の失速が最大の心配材料で、経済を立て直し、成長軌
   道に乗せることをやったほうが信頼感は上がると思う。ア
   メリカのジェイコブ・ルー財務長官は「消費税増税は慎重
   に。延期したほうがいい」と、内政干渉に当たるくらいの
   ことを言っています。いま世界経済はヨーロッパ、中国、
   ロシア、新興国とも、みんな悪い。いいのはアメリカだけ
   で、そこで日本がこけたら大変だから、踏み止まってくれ
   と言っているわけです。     http://bit.ly/1HOs13y
―――――――――――――――――――――――――――――
 自国通貨建て国債では国の財政は破綻しないのです。フランス
のナポレオン軍と戦った後の英国は、国債残高がGDP比の3倍
近くに達したのですが、破綻していないのです。それは、自国通
貨ポンド建ての国債だったからです。英国の中央銀行がそれを買
い入れればよいからです。
 しかし、第2次世界大戦後の英国は、事実上財政破綻に陥って
いるのです。GDPの60%以上を戦費に投入し、それを米国か
らの借金で賄ったからです。その借金のほとんどはドル建てであ
り、戦後英国は海軍の大艦隊を解体して空母や艦船を売り払って
やっとの思いで借金を返したのです。
 もうひとつ考えてみるべきことがあります。日銀が金融機関な
どが保有している国債を大量に買い入れることは、政府の借用証
書である「国債」が、銀行から日銀へと渡ることを意味します。
 結果的に、政府は銀行ではなく、日本銀行からお金を借りた形
になります。しかし、日本銀行は、日本政府の子会社です。日本
銀行の株式の55%は日本政府に保有されているからです。
 つまり、理屈では日銀が買い入れた国債は国の借金にはならな
いのです。異次元緩和のはじまる前の2013年3月末の日銀保
有国債は125兆3千億円でしたが、2014年9月時点では、
232兆6千億円になっています。この先追加緩和でさらに保有
国債は増える一方です。理屈上は、その分、国の借金は減ってい
ることを意味します。三橋貴明氏は、日銀の国債買い入れについ
て、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本銀行が国債を保有した場合、政府は借金を返済する必要も
利払いをする必要もなくなります。一応、政府は日本銀行が保有
する国債に対し、律儀に金利を支払っていますが、日銀の決算終
了後に「国庫納付金」として返還されています。というわけで、
日銀の国債保有が量的緩和で増えている以上、現在は政府の借金
が実質的に減り続けているというのが真実なのです。
                   http://bit.ly/1ywr5fG
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/11]

≪画像および関連情報≫
 ●「再増税は延期?」/経済コラムマガジン
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2014年10月24日に藤井裕久元財務相の出版記念(政
  治改革の熱狂と崩壊)パーティーが開かれた。藤井氏は、消
  費税増税を推進した元大蔵官僚であり、筆者が史上最低と思
  う政治家の一人である。新生党時代に大蔵大臣になって「財
  政支出をしなくとも構造改革や規制緩和で経済成長は可能」
  と主張し、「地ビールで経済成長」と間抜けなことを言って
  いた。あまりにも小物なので筆者も無視してきたが、民主党
  政権時代、消費税増税に奔走し勲章(旭日大受賞)をもらっ
  た。半ば引退状態の藤井氏を政界に引き戻したのがあの鳩山
  元首相である。鳩山氏の父親が大蔵官僚(事務次官)だった
  ので、大蔵省出身者を異常に信頼していたからという話であ
  る。ただこの鳩山氏に関しては、筆者も最早コメントをした
  くない。この出版記念パーティーには消費税推進派と安倍政
  権打倒派が集結した。民主党だけでなく、自民党関係の政治
  家も発起人となって、この最低政治家の出版を祝ったのであ
  る。ちなみに自民党関係者とは、古賀誠氏、野中広務氏、野
  田聖子氏、野田毅氏らである。出席メンバーを見てこのパー
  ティーの性格がわかる。まさに安倍政権打倒の決起集会であ
  る。したがって安倍総理の再増税回避は大正解である。筆者
  には、安倍総理にもっと長く政権を維持しやってもらいたい
  ことが沢山ある。具体的には安全保障・外交と年金改革など
  である。年金については定額年金制度の導入である(定額年
  金は民主党が打出した唯一価値のある政策)。
                   http://bit.ly/1B2ARZt
  ―――――――――――――――――――――――――――

山本幸三自民党議員.jpg
山本 幸三自民党議員
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2014年12月05日

●「消費税増税で財政再建はできない」(EJ第3930号)

 12月1日のことです。米格付け会社ムーディーズ・インベス
ターズ・サービスは日本国債の格付けを「Aa3」から「A1」
に1ノッチ格下げしています。格下げは2011年8月24日に
それまでの「Aa2」から「Aa3」に下げて以来、3年3ヵ月
ぶりのことです。
 このニュースにきっと財務省をはじめ増税賛成派の学者や経済
評論家は「それ、いわんこっちゃない」と少し溜飲を下げたので
はないでしょうか。
 理由は、1000兆円も借金があるのに、消費増税を延期した
からであるというのです。どうやら財務省が発表している日本の
負債の数字を丸ごと信用しているようです。それに格付け会社に
よる格付けは、けっして公平・公正ではないのです。
 格付け会社は一民間企業であり、株式を上場しています。米S
EC(証券取引委員会)が公認する格付け会社は10社あります
が、ムーディーズ、S&P、フィッチが市場の95%のシェアを
押さえています。この3社寡占に関しては、世界から強い批判が
出ているのです。これら3社は、「投機筋を暗躍させる鬼っ子」
ともいわれています。
 ムーディーズの親会社であるムーディーズ・コーポレーション
の株の15%を保有する筆頭株主は、世界最大の投資家ウォーレ
ン・バフェット氏のバークシャー・ハザウェイであり、投機筋の
動きと無関係ではないといえます。
 それに、ムーディーズは、EUでは非常に評判がよくないので
す。2011年7月のことですが、ムーディーズは、ポルトガル
の信用格付けを投資不適格のジャンク級に下げたことにより大問
題になったのです。これに関してドイツのショイブレ財務相と、
欧州委員会のバローゾ委員長(当時)は、次のようにムーディー
ズを痛烈に批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎ドイツのショイブレ財務相
  格付け会社の影響力を抑制しなければならないと私は以前か
  ら言ってきた。格付け大手3社の独占的な支配を切り崩す。
 ◎欧州委員会のバローゾ委員長(当時)
  ムーディーズによるポルトガルの格下げは透明性を向上させ
  ない。むしろ投機的要素を加えるものだ。欧州に格付け機関
  が1社もないのも奇妙だ。欧州に特有な問題を評価するに当
  たり、ある種のバイアスが市場にあるように見受けられる。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費税増税を延期すると、格付け会社が日本国債を格付けして
国債が大量に売られる。そうすると、国債の価格が暴落して長期
金利が跳ね上がる──これは、増税推進派がさかんにいっていた
ことです。果たしてそうなったでしょうか。
 このニュースが伝わると、すぐ反応が出たのは円相場です。対
ドルで1円近く乱高下したのです。一時「1ドル=119円15
銭」と円安に振れ、すぐ買い戻されて118円台前半に戻ってい
ます。国債が大量に売られることはなく、格下げによる大きな影
響はまったく出てはいないのです。
 日本国債は、今のように日銀による金融緩和をしていないとき
でも、格付けが下がるのを嫌気して海外投資家が売ると、市場の
大半を占める国内投資家がすぐ買ってしまうので、長期金利には
ほとんど影響がないのです。まして現在は日銀が月間10兆円も
買い上げているので、まったく影響はないのです。この月間10
兆円は国債発行額のほぼ全額に該当します。
 しかし、赤字国債は毎年かなりの割合で増え続けています。こ
れを何とかしなければならないことは、誰でもわかっていること
です。消費税の増税が必要なのか、それとも他に方法があるので
しょうか。
 若田部昌澄早稲田大学政治経済学術院教授は安倍内閣の消費再
増税点検会合の委員で、少数派の増税反対派です。若田部教授は
2014年11月17日、「消費税増税で財政再建は可能か」の
テーマでインタビューを受けているので、その一部をご紹介する
ことにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
記 者:若田部さんは、なぜ消費税増税に反対しているのでしょ
    うか。財政再建のために、増税は仕方ないと思ってしま
    うのですが。
若田部:財政再建は目標として正しいとしても、このタイミング
    での増税には反対です。アベノミクスの第一の矢による
    金融緩和で、景気が良くなったとはいえ、まだまだ長年
    の不況を吹き飛ばすほど解決しているとは言い難い状況
    です。そんな中、増税すると、景気が悪くなり、成長が
    鈍化し、税収が上がらなくなってしまう可能性がありま
    す。実際に、景気の悪い時に増税して、財政再建が成功
    した例は世界的にみてもありません。仮に、消費税収が
    上がっても、他の部分の税収が下がってしまったら本末
    転倒です。          http://bit.ly/1pKCR4w
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここまで検討してきたように、日本は国内外に豊富な資産を保
有する債権大国です。増税をする前にそういう資産で売れるもの
は売って債務処理に充てるべきです。これは、倒産に瀕している
企業なら当然のように行われることです。
 しかし、日本の官僚はそれを絶対に認めず、必死になって守ろ
うとします。なぜかというと、そういう資産を売却してしまうと
高級官僚の天下り先がなくなるからです。彼らはこれだけは、何
としても守ろうとします。そのために、消費税増税で国民から搾
り取ろうとします。国民のためでなく、自分たちの華やかな老後
のためです。こんなことが許せるでしょうか。
 そういう意味でも、アベノミクスによって経済再生ができるか
どうかは、財政再建の鍵を握っているといえます。
            ─── [検証!アベノミクス/12]

≪画像および関連情報≫
 ●「消費税=社会保障目的税」は変な独創性/若田部昌澄教授
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ◎消費税という手段そのものについては、どう思いますか。
  「消費税収は安定しているので、福祉の財源に優れている」
  という声もあります。
  若田部:今アベノミクスで伸びているのは消費です。設備投
  資はほとんど増えていないですし、純輸出はマイナスです。
  最大のエンジンである消費に直撃する税を導入する必要はあ
  るのかと感じてしまいます。消費税そのものが悪いか、とい
  われると、ものの使いようによっては悪くないと思います。
  ただ、何を目的にするのかですよね。社会保障の目的税とし
  て消費税を使うのは、あまり適していないですね。消費税は
  薄く広くとる性質があります。負担は広範に薄くなっている
  のに、社会保障は限られた人たちに行くわけです。負担と給
  付のバランスが崩れています。実際に、他国で消費税だけを
  社会保障の目的税にしているところはありません。社会保険
  料のような形でやっていて、足りない分を他の税金で補充す
  るのはまれです。やろうとしていることが出来なくなったか
  ら、税金で補おうとしている。そこにねじれがあります。本
  来ならば税制の改正や社会保障改革をやってからやるべきで
  すよね。日本の政策全体に言えるんですが、海外で成功して
  いることはあまりやらないで、海外でやっていないことをあ
  えてやる。変な独創性があるんですよね。たいがいそれは裏
  目に出ています。         http://bit.ly/1pKCR4w
  ―――――――――――――――――――――――――――

若田部昌澄早稲田大学教授.jpg
若田部 昌澄早稲田大学教授
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2014年12月08日

●「注目される小沢一郎生活の党代表」(EJ第3931号)

 選挙に突入する前後からメディアで「ある現象」が起きていま
す。「ある現象」というのは、これまで話題にもならなかった小
沢一郎氏の動向やその言説が、メディアで急に伝えられるように
なったことです。
 これまで小沢氏は生活の党代表として毎日のように記者会見を
していたにもかかわらず、メディアでそれを取り上げることはほ
とんどなかったからです。せいぜい出てもベタ記事です。
 このように書くと、EJの読者に「また小沢か」と思われるか
もしれません。先日はツイッターにもそのことをツイートしたら
「今どき小沢さんを支持する珍しい人」という書き込みをされた
のです。今や小沢氏は完全に過去の人扱いです。
 私は、小沢一郎氏に会ったことも、演説を聞いたこともなく、
いわゆる小沢信者ではありません。しかし、小沢氏自身の執筆さ
れたものはもちろんのこと、「小沢本」のほとんど──悪口を書
いたものを含めてすべて持っていますし、読んでいます。
 そして私のブログでも2010年の「小沢一郎論」(72回)
をはじめ小沢関連の論説を執筆してきています。それは、小沢一
郎という政治家が、現時点でも政治の閉塞状況を改革できる唯一
の人物であると思うからです。現在でも改革を訴える政治家はお
りますが、いずれも力不足です。
 その点小沢一郎氏は、今まで誰もできなかった自民党長期政権
を2回にわたって倒し、政権交代を成し遂げた政治家です。その
剛腕の怖さを一番よく知っているのは自民党であり、そのバック
にいる官僚機構です。
 官僚機構は明治維新のときに天皇の官僚機構としてつくられ、
日本の発展を担ってきたのです。しかし、敗戦によって、天皇は
象徴天皇になりましたが、官僚機構はGHQによってそのままの
かたちで残されたのです。つまり、このときから、官僚機構が日
本国の事実上の支配者として君臨をはじめたのです。
 その後長い間にわたって官僚機構と自民党は棲み分けをはかり
セットで政権運営をしています。前面に出ているのは政治家です
が、実質的に政治家を動かしているのは官僚機構です。なぜなら
官僚の人事と国のカネを握っているのが官僚機構だからです。そ
れに加えて官僚機構が絶対有利なのは、選挙がないことです。政
治家はいずれ代わるが、官僚機構は生き続けるのです。それに大
臣は1人であり、官僚機構は大勢のスタッフを擁しています。通
常であれば、政治家が勝てるはずがないのです。
 しかし、官僚機構としては、2009年の民主党による政権交
代には肝を冷やしたと思います。「何としても小沢政権はつくら
せてはならない」として、検察を中心にありとあらゆる手段を駆
使して小沢政権を阻んだのです。彼らは自分たちの権益が侵され
ると感じたときは、手段を選ばないのです。
 カルフ・ヴァン・ウォルフレン氏は、『誰が小沢一郎を殺すの
か』という本で、官僚機構による小沢潰しのことを次のように呼
んでいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      character assassination /人物破壊
―――――――――――――――――――――――――――――
 12月3日の報道ステーションで面白いことがあったのです。
この日、最後の各党党首による討論が報道ステーションで行われ
たのです。この日は維新の党からは橋下共同代表が登場していた
のです。各党の党首全員が公約などを表明したあとで、古館キャ
スターは、「ムダを切る改革」について各党党首に質問を入れは
じめたのです。しかし、官僚機構によるムダに言及する代表がい
ないまま、古館氏は小沢代表に質問を振ったのです。それに対し
て小沢氏は次のように返しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いろいろな無駄があるが、権力もカネもすべてが官僚機構に握
られている現状を変えない限り、真の改革は行われない。政治を
官僚から国民の手に取り戻すことが何よりも必要である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 古館キャスターは、小沢代表にこのようにいわせておいて、次
の質問を小沢氏にぶつけたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 それならば、2009年の政権交代のときにあなたはなぜそれ
をやらなかったのか。          ──古館キャスター
―――――――――――――――――――――――――――――
 この質問に対し、小沢氏は苦笑いをし、「あなたもご存知のよ
うに、あのとき身に覚えのない容疑で訴追されるという旧体制派
からの迫害を受け、政治力を発揮できる状況ではなかった」と述
べたのです。
 つまり、古館キャスターは、どの党首も口にしない「諸悪は官
僚機構にあり」と小沢氏にいわせ、その改革が官僚機構による迫
害によって頓挫したことをあえて強調したかったと私は感じたの
です。そのとき、私はそれをツイートに書いたところ、930回
(12月7日現在)を超えるリツイートにつながったのです。
 おそらく党首の誰もがそのように感じているのに、官僚機構に
遠慮してか、公開の席で口に出さないので、古館キャスターはそ
れをいわせるために小沢氏に振ったのです。
 ところが、これとほぼ同じやり取りが、『週刊ポスト』12月
12日号に出ているのです。この号は、「小沢一郎独占激白」と
して、ジャーナリストの武富馨氏が、小沢一郎氏に迫る大特集を
6ページにわたって組んでいるのです。この内容のエッセンスに
ついては、明日のEJでご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 自民党独裁による「新55年体制」を止めなければ国民生活は
 永久に立ち直れない/「俺は一人でいい。野党結集で日本再生
 を進めよ」       ──『週刊ポスト』12月12月号
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/13]

≪画像および関連情報≫
 ●異分子を抹殺する検察、メディア、日本というシステム
  ―――――――――――――――――――――――――――
  民主党政権を誕生させるにいたった最大の立役者・小沢一郎
  という政治家に対して、検察と新聞がなにをなしてきたかは
  日本の人々なら当然よく知っているだろう。しかし、我々が
  目撃している状況に、どれほど大きな意味が秘められている
  かを理解している人というのは、はとんどいないのではない
  だろうか。メディアと検察の行動を奇妙でうさんくさい、と
  感じている人々はもちろん大勢いる。またそんなメディアや
  検察に対して公然と異議を唱えての抗議デモも、日本各地で
  繰り広げられている。それなのに小沢氏の問題は、これまで
  この国のメディアを長年にわたって賑わせてきたお馴染みの
  政治スキャンダルとして、まるでエンターテインメントさな
  がらの扱いしか受けていない。だが小沢氏をめぐる問題が、
  民主党政権の命運にかかわるという事実が持つ意味はきわめ
  て重い。それは日本が将来、国際社会のなかで意義ある地位
  を占めることができるかどうか、そして日本の経済的な繁栄
  さらには近隣諸国との秩序ある政治関係を築けるかどうかに
  もかかわる重大事である。ところが大多数の日本人にはそれ
  が見えていないと、私には感じられる。
       ──カルフ・ヴァン・ウォルフレン著/井上実訳
   『誰が小沢一郎を殺すのか/画策者なき陰謀』/角川書店
  ―――――――――――――――――――――――――――

報道ステーションでの古館対小沢.jpg
報道ステーションでの古館対小沢
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2014年12月09日

●「野党統一戦線ができなかった理由」(EJ第3932号)

 安倍政権が解散に踏み切る判断をするのにさいして、一番気に
していたのは、小沢一郎生活の党代表の動きだったといいます。
何しろ295議席を放り出しての解散です。野党が結束されたら
大幅に議席を減らすことが十分考えられるからです。
 「バラバラの野党に何ができる。まとめ切れる剛腕なんていな
い」と官邸はタカをくくっていたのですが、一抹の不安もあった
のです。それは「小沢一郎」の存在です。「オザワならやるかも
しれない」と考えたからです。
 しかし、今や小沢氏の率いる生活の党は1ケタの弱小政党であ
り、民主党とは絶縁状態、維新の党の江田・橋下共同代表とは意
見が合わないと考えられ、小沢氏が水面下で動いていたことはあ
る程度わかっていたものの、どうせまとまらないと見て安倍首相
は解散に踏み切ったのです。
 しかし、事実は自民党の思惑とは異なっていたのです。小沢氏
は、民主党や維新の党と何回も接触し、新党結成の必要性を説い
ていたのです。そして、誰かが既成政党の枠から飛び出して「こ
の指とまれ」といったら、大同団結、統一戦線ができるはずだと
強調したのです。自民党に代わる受け皿を作るために、統一戦線
がどうしても不可欠だったからです。
 実際に維新の党の橋下共同代表は、民主党の前原、細野両氏ら
を念頭に、小沢氏の使った「この指とまれ」という言葉を使って
新党結成を呼び掛けています。私は橋下氏の街頭演説をテレビで
聞いて驚いたのです。しかし、民主党の若手は、既成政党から飛
び出す決断ができず、新党作りは失敗に終わっています。
 だが、その副産物としてかなりの選挙区で野党の候補者調整が
進んだのです。それは、民主党、維新の党、生活の党、社民党の
間で野党が共倒れしないための調整です。それは、バックで小沢
氏が動いたからこそ実現したのです。もっともそれによって自民
党に勝てるかどうかは別の問題ですが、この経験はきっと次の選
挙で生きてくると思います。
 『週刊ポスト』12月12日号における武富薫氏による小沢氏
とのインタビューにも野党統一戦線の事情が小沢氏によって語ら
れています。
―――――――――――――――――――――――――――――
武富:民主党内には「小沢抜き」で大同団結をやろうという意見
もあった。
小沢:僕がどうかっていうのは問題じゃない。「新しいひとつの
傘」で大同団結するときに、ほかの人たちが「小沢は嫌だ」って
いうなら、俺は無所属でいい。一人でいいんです。ところが、民
主党はそうじゃない。来たい奴は「民主党の枠」に入れてやって
もいいけれど、小沢だけは駄目っていう話なのよ。だけれども、
「民主党」という傘では国民の支持は得られない。一度失敗して
「敗れ傘」になっちゃったわけだから、新しい傘を用意すること
が必要なのです。   ──『週刊ポスト』12月12日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党の幹部たちは、いまだに自分たちのしたことがどれほど
国民の怒りを買ったかということがわかっていないのです。「小
沢が悪い」と思っているフシもあります。小沢氏のお陰で政権を
担わせてもらったことが分かっていないのです。それは、14日
の投票で結果が出ると思います。
 武富薫氏は、12月3日の報ステの古館キャスターと同じよう
な質問を小沢氏にぶつけています。
―――――――――――――――――――――――――――――
武富:あなたは二大政党制にもとずく政権交代可能な枠組みを提
唱しているが、定着していない。
小沢:要するに「官僚主導から政治主導、国民主導」と唱えてい
る政治家自身が明確にそれを認識していないところに民主党政権
の失敗があった。一党独裁の政権が続くと、必ず腐敗と癒着を生
むんです。与党が国民生活を害する政治を行えば、野党にとって
代わられる。その取って代わる野党が常に存在するのが民主主義
の基本のあり方です。油断したら政権交代になるぞと、緊張感を
持って政治活動するのが、民主主義の本来の目的にかなった機能
でしょう。だけど、それがあまり日本では定着せず、現在のよう
な経過をたどってしまって、「新たな55年体制」みたいな雰囲
気になっているのは非常に危険です。
武富:「民主党政権ができたときに小沢一郎はやれなかったじゃ
ないか」という国民の声にはどう答えるか。
小沢:忘れないでほしいのは、僕はあのとき、どれほど旧体制権
力の迫害を受けていたかということ。党内からでさえ排除の論理
に晒され、あの状態じゃ、まともに政治に参加できなかった。
武富:旧体制派にとっては自民党政権が都合がいいのか。
小沢:旧体制の中心である官僚機構は自民党歓迎です。大きなメ
ディアも同じなんでしょう。
           ──『週刊ポスト』12月12日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 旧体制の手先であるメディアには大きな責任があります。彼ら
は、体制の小沢排斥の手先になり、ありもしない疑惑を小沢氏に
被せるのに協力し、多くの国民を騙すことに一役買っています。
 しかし、体制側が総力を挙げても小沢氏を潰し切れず、無罪に
なると、今度は徹底的にメディアに小沢氏を無視させる作戦に出
て、国民との公約に反する消費税増税に反対して党を割った生活
の党の議員も民主党と一味として、選挙で大敗させてしまったの
です。最後に小沢氏は国民に対し次の警告をしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 特定秘密保護法は、政治行政の権力が政治家ではなく、官僚の
手にあるからこそ危険である。僕なんか、特定秘密保護法がなく
ても官僚組織にあんな攻撃を仕掛けられた。この法律は官僚が個
人情報のすべてを握るわけだから、これほど怖いことはない。
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/14]

≪画像および関連情報≫
 ●国民の「09年の経験」に望み/小沢一郎氏は語る
  ―――――――――――――――――――――――――――
  武富:首相が操り人形でも、アベノミクスが失敗でも、それ
  を変えようという動きには力がない。あなたは以前から「日
  本の改革が進まないのは、国民に飢餓感が少なく、変わらな
  きゃいけないという危機感がないからだ」と語っていた。
  小沢:本質的には変わってないでしょう。日本はまだまだ豊
  かに食べている。だけれども、徐々に苦しくなり、今の生活
  が維持できないのではないかという意識は広がっていると思
  う。日本は太古の昔以来、豊かな国だった。戦後もアメリカ
  の傘の下で過ごして平和だった。けれども、やっぱりそれだ
  けじゃ駄目だと。「自立した国家」「自立した国民」になる
  という意識が育たなければ民主主義は育たない。要するに、
  お上頼みでは駄目っていうことです。残念ながら、日本人に
  はまだその性癖が残っている。ただし、以前と違う状況もあ
  る。僕は「09年」にそれなりの意味を見出している。自分
  たちの一票で、長期政権の自民党を倒せた。その意識は日本
  人の頭の中に植えつけられたと思う。あのときは、清水の舞
  台から飛び降りるような気持ちで、おっかなびっくり民主党
  に一票を入れたのでしょう。だけれども、「結局、駄目だっ
  た」「やはり寄らば大樹」といったもとの体質に、戻ってし
  まった。それでも当時の経験が国民の頭の中にはあるから、
  僕はそこに一縷の望みを託しています。政治の個が受け皿を
  用意できれば、国民は必ず応えてくれると思う。
           ──『週刊ポスト』12月12日号より
  ―――――――――――――――――――――――――――

『週刊ポスト』12月12日号.jpg
『週刊ポスト』12月12日号
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2014年12月10日

●「小沢一郎氏最後の衆院選になるか」(EJ第3933号)

 小沢一郎生活の党代表に対し、メディアによる執拗なバッシン
グが続いています。小沢排除のいつも先頭に立つ夕刊フジは選挙
が始まる前から、ほぼ連日のように「小沢落選危機」を報道して
います。フジサンケイグループは安倍晋三氏の親派であり、小沢
批判の急先鋒に立っているメディアです。
 確かに今回の選挙は、小沢氏にとって厳しい選挙になっている
のです。ほぼ3年間にわたる検察と検察審査会による強制起訴で
イメージが悪化していることに加えて、日本中のメディアはこの
機会に「小沢を潰せ」とばかり、あることないこと小沢氏を徹底
的に叩きまくったからです。
 しかし、裁判の結果は無罪判決。検察官役の指定弁護士によっ
て控訴されたものの、控訴審も無罪判決。だが、体制側の仕組ん
だ陰謀によって、自らが主導して成し遂げた政権交代の民主党政
権で、小沢氏は何も政治力を発揮できなかったのです。これは政
治力を発揮されては困る勢力の仕組んだものであることは明らか
であるといえます。
 それから立ち直る間もなく、2012年の年末の野田首相によ
る突然の衆院解散──これは、マニフェスト違反の消費税増税に
反対し、スジを通して離党した小沢氏率いる小沢グループが立ち
直る時間を与えない「小沢潰し」を狙った解散であるといわれて
います。当時の民主党6人衆のバックには財務省がついており、
彼らがバックアップしたものとみられています。
 この抜き打ち解散は、民主党政権の壊滅的敗北をもたらしまし
たが、スジを通した小沢グループまで民主党と一緒にされ、小沢
グループも大幅に議員を減らしたのです。そして、参院選でも支
持は戻らず、生活の党は議席1ケタの弱小政党になったのです。
 そして今回の選挙です。小沢氏が出馬している岩手4区は、自
民党の藤原崇氏が対抗馬です。藤原氏は31歳と年は若く、自民
党はその若さをアッピールしてこの選挙戦を挑んでいます。前回
選挙では小沢氏にとっては珍しく、3万票差まで詰め寄られ、藤
原氏に比例復活を許しているのです。小沢氏の集票力が落ちた証
拠であるといえます。このEJ執筆時の8日現在、小沢氏が大き
くリードはしていますが、8日付けの毎日新聞が世論調査と取材
に基づいた結果として、次の記事を掲載したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 生活の党は沖縄の小選挙区で1議席を確保する見通しだが、小
沢一郎代表が苦戦。比例代表も伸びず、公示前勢力(5議席)の
維持は困難だ。    ──2014年12月8日付、毎日新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 この記事の意味することは大きいのです。生活の党は比例代表
で「0」になる可能性を示しているからです。今回、小沢氏は今
まで一度もやったことのない比例での重複立候補をしていますが
比例代表が「0」ということになると、岩手選挙区で勝利しない
限り、政界には生き残れないことを意味します。
 しかし、今回の選挙は前回とは違い、民主党と生活の党が選挙
区を棲み分け、協力体制を組んでいます。そして小沢氏の遊説に
は、民主党の県連幹事長がベタ付きで同行しています。負けるこ
とはないと思いますが、緊張感の漂う選挙戦になっています。
 小沢氏は、先週の週末の2日間、選挙区に入り、雪の降るなか
30ヶ所を回っています。さすがに人の集まりは小沢氏の場合は
市街地ではどこでも百数十人、山間部でも70〜90人と、40
人前後の藤原氏に比べて圧倒しています。
 小沢氏は、雪が舞い、気温が氷点下になるなか、コートや手袋
は身に付けず、熱心に次のように訴えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 自由競争と安倍さんはいいます。しかし、自由に好き勝手やら
せておいて、強い者が生き残り、弱い者は切り捨てる。これでは
もはや政治とはいえません。政治は日本国中どこに住んでいても
どのような職業についていても、それなりのしっかりとした安定
と暮らしを約束する。それが政治であります。
 かつての自民党は、その考えを持っておりました。「地方に甘
い。農村を大事にしすぎる。そっちにお金を使いすぎだ」と、い
ろんな批判をいただきながらも、「やはりみんなが、良くならな
きゃダメだ」。そういう意識の中で政治を行ってきた。しかし、
いまの内閣、いまの政治はどうですか。このまま安倍政治が続い
たら、国民生活はダメになってしまいます。
        ──2014年12月8日発行/日刊ゲンダイ
―――――――――――――――――――――――――――――
 12月8日の昼ごろのことですが、衝撃のニュースが飛び込ん
できたのです。今年7月〜9月までのGDPの改定値は、最新の
データを反映した結果、企業の設備投資が先月の速報値の時点か
ら下方修正されたことなどで、年率に換算した実質の伸び率がマ
イナス1・9%となり、速報値のマイナス1・6%から下方修正
されたというニュースです。
 7月〜9月のGDPの改定値については、多くのエコノミスト
がかなり大幅に改善するとしており、なかにはプラス成長になる
と予測していた人もいたのです。それが、マイナス1・6からの
大幅な下方修正です。
 これによって4月の消費税増税がいかに日本経済にダメージを
与えたかが、改めて認識されますが、増税の影響だけでなく、ア
ベノミクスの成果についても疑問が出てきています。しかし、円
安は進行し、株価は高いままです。小沢代表はアベノミクスにつ
いて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アベノミクスは安倍さんと取り巻き、それから役所、経済団体
の利害が一致した政策です。このまま続けば、日本社会の不安定
化は増して行く。そろそろ国民も肌で感じ始めている。その正体
がバレないように解散したのだと思う。 ──小沢生活の党代表
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/15]

≪画像および関連情報≫
 ●小沢一郎氏31年ぶり地方行脚/今回選挙に危機感
  ―――――――――――――――――――――――――――
  生活の党の小沢一郎代表(72)が6日、異例の地元遊説を
  敢行した。岩手4区の奥州市、花巻市、北上市内の計16カ
  所を訪問。気温0度で雪が降る中、計111キロを走り回っ
  た。盤石な「小沢王国」で選挙期間中に本格的な遊説をする
  のは31年ぶり。対抗する自民党前職(比例東北)の藤原崇
  氏(31)への支持が広がり、小沢氏の陣営に危機感が漂っ
  ている。共産党の高橋綱記氏(67)も出馬している。小沢
  氏は午前9時過ぎ、最初の遊説地、奥州市役所江刺総合支所
  に到着した。地元の選挙活動は長年、秘書や家族に任せてき
  たため、本人の参加は異例。待ち受けた約200人の支援者
  からは歓声がわき上がった。小沢氏はビールケースに乗り、
  「地方は安倍政治の影響を受けて、日に日に衰退している。
  国民の生活が第一という理想を実現するために、もう1度、
  政権交代を目指したい」と力説。16度目の当選に向けて、
  支持を訴えた。約10分の演説、支援者との握手、そして移
  動の繰り返し。午後5時ごろまでに16カ所を訪問した。気
  温0度の寒さの中、終盤はせき込む場面もあったが、無事に
  完走した。「頑張ってくれ、と励ましてもらった。ありがた
  かった。議員になって十数年は、地元をよく回っていた。そ
  の後は党の仕事で来られなくなったけど」と話し、遊説が信
  条であることを強調した。     http://bit.ly/1AR6G4C
  ―――――――――――――――――――――――――――

辻立ちで演説する小沢生活の党代表.jpg
辻立ちで演説する小沢生活の党代表
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2014年12月11日

●「増税の影響で設備投資が伸びない」(EJ第3924号)

 12月8日放送の「ここがポイント!!池上彰解説塾3時間ス
ペシャル」(テレビ朝日系)をご覧になったでしょうか。
 ここで、池上彰氏は「日本の借金」について話しています。私
の知る限り、池上氏はこれまでこのテーマは取り上げていないの
ですが、なぜこの時期に取り上げたのかは疑問です。
 おそらくそれは選挙中であるからではないかと思います。推測
ではありますが、財務省としては、増税実行が原因で、与党が敗
北しては困るので、ここで池上氏にこのテーマを取り上げて欲し
いと要望したのではないかと思われます。
 これまで財務省は、テレビの影響力の強さを重視して、巨額な
広報予算を使い、さまざまな介入を行っています。その結果、財
務省の考え方とは違う意見のキャスター、評論家、解説者は慎重
に時間をかけて、テレビに出さないようにしているのです。
 池上氏は現在ナンバーワンの解説者です。その池上氏の口から
「1000兆円の国の借金」の深刻さが語られると、多くの国民
は納得すると思います。効果絶大です。財務省の狙いはそこにあ
ると思います。それにどうしてもタイミングとしては、選挙中に
話してもらいたかったのでしょう。
 池上彰氏の解説がなぜわかり易いかというと、きわめて論旨が
明解であることです。そのため、解説には強い説得力があり、多
くの人を納得させます。しかし、「1000兆円の国の借金」の
解説に関しては、いつもの明解さは失われていたと思います。
 もちろん池上氏はこの問題のからくりを熟知しています。しか
し、それをあからさまにいうことはできないのでしょう。そこで
池上氏は話の冒頭で、1000兆円の借金というけれども政府の
資産を考慮すると、実際は400兆円くらいであると断っている
のです。確かに赤字国債はEJの試算では452兆円であり、正
しい数字です。しかし、説明については400兆円ではなく、あ
くまで1000兆円の借金で押し通しています。
 この問題は、EJがやったように、国のバランスシートを使っ
て説明するのが一番分かり易いのですが、池上氏はそれをしてお
らず、そのことも池上氏らしくないです。
 一番気になったのは、「1000兆円の借金は国民の預金を没
収すれば一瞬でゼロになる」という話をしたことです。これはき
わめて乱暴な解決策です。その言葉のウラに、このまま国の借金
が積み上がると、そういう解決策が取られることもあるのだよと
視聴者に一種の脅しをかけたとも取れるのです。
 それにしても日本政府はなぜこれほど巨額の債務──1000
兆円ではなく、赤字国債の452兆円であるとしても、これほど
の額の借金ができてしまったのでしょうか。この問題について考
えていきます。
 添付ファイルに、経済評論家の三橋貴明氏作成の2つのグラフ
を付けています。グラフ@は、日本の民間企業の設備投資と政府
支出を比べたものです。グラフAは、日本政府の負債と非金融法
人企業の負債の推移を比較したものです。
 2つのグラフには共通点があります。それは、グラフ@の民間
企業の設備投資とグラフAの非金融企業の負債の推移が非常によ
く似ていることです。
 企業の設備投資も負債も1980年代は、ともに増加していま
す。そのときは政府の負債は資産とほぼ同規模であり、増加して
いなかったのです。しかし、それが1990年代に入ると、減少
をはじめるのです。原因は資産バブルの崩壊です。それに応じて
政府支出は増加しています。これは経済政策として当然のことで
す。民間が消費支出を抑えたので、それに代わって政府は国債を
発行して支出を増やしたのです。
 ところが時の橋本政権は、バブル崩壊後に民間は借金の返済を
はじめ、銀行預金を増やしているのに、大蔵省の役人の口車に乗
り、消費税を2%増税し、5%まで引き上げたのです。ただでさ
え、民間企業が90年代に入るとすぐ設備投資をストップし、借
金返済を始めているのに、さらに民間の消費・投資の減少を加速
させる増税という緊縮財政を行ってしまったのです。それを機に
企業は借金の返済を目に見えて加速させていることがグラフAか
ら読み取れます。
 日本と同様に、2007年に不動産バブルが崩壊し、その後、
政府が緊縮財政を実施した南欧諸国──イタリア、スペイン、ポ
ルトガル、ギリシャはたちまちデフレに突入しています。
 実は、アベノミクスで経済成長を推進しようとする安倍政権は
橋本政権の失敗を参考にせず、財務省の口車に乗って増税を強行
し、橋本政権時よりもひどい状態になりつつあります。
 実は今回も設備投資が増えていないのです。2014年7〜9
月期GDPの実質成長率が下方修正され、年率換算で1・9%減
になった原因も設備投資の不振です。これについて、12月9日
付の朝日新聞は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 大きな押し下げ要因となったのは、設備投資。1次速報が出た
あとに推計をし直したところ大企業の投資だけでなく、個人事業
主など規模の小さな事業者の投資も弱くなった。大企業は製造業
を中心に好業績がめだつが、海外で稼ぐ構造が定着しつつある。
計画通りに投資は増えているかは、まだ見えていない。
 公共事業も、より詳しいデータで推計をやり直したところ、下
方修正になった。4〜6月期の実績が上ぶれし、反動で7〜9月
期は伸び悩んだ。人手不足や資材の高騰なども指摘される。
         ──2014年12月9日付、朝日新聞朝刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このような民間の投資と借金返済の動きに対して、政府支出は
大幅に増加したのです。そうしないと、日本経済はさらに疲弊し
失速してしまうからです。すべては消費税増税の影響なのです。
デフレの原因を作った消費税をさらに増税すれば、こうなること
は最初からわかっていたことです。
            ─── [検証!アベノミクス/16]

≪画像および関連情報≫
 ●GDP下方修正、アベノミクス巡り与野党応酬
  ―――――――――――――――――――――――――――
  7〜9月期の国内総生産(GDP)改定値が下方修正された
  ことは、投票日まで1週間を切った衆院選の論戦にも影響し
  ている。与党は安倍首相の経済政策「アベノミクス」の継続
  こそ景気回復への道と訴え、野党はアベノミクスへの批判を
  強めている。安倍首相(自民党総裁)は8日、愛知県豊田市
  での演説で、「(アベノミクスで)雇用も収入も増えている
  のは間違いないが、まだ実感できない方がたくさんいること
  は知っている。暖かい風をしっかり届けていくのが私たちの
  使命だ」と述べ、アベノミクスをさらに進めることが重要だ
  との考えを示した。世耕弘成官房副長官は8日の記者会見で
  「企業収益は高水準で、雇用者報酬が増加するなど前向きな
  動きが続いており、緩やかな(景気)回復基調には変わりな
  い」との認識を強調。その上で、「アベノミクスは途上で、
  経済の好循環を完全に実現するところまでいっていない。途
  中でやめるのか、引き続きやっていくのか(衆院選で)国民
  にお伺いしている」と述べた。
                   http://bit.ly/1wYQGPI
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/http://nkbp.jp/1ujpu84

三橋貴明氏作成のグラフ.jpg
三橋 貴明氏作成のグラフ
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2014年12月12日

●「強者を更に富ませるアベノミクス」(EJ第3935号)

 アベノミクスを問う衆議院選挙の投票は、いよいよ14日の日
曜日に行われます。アベノミクスとは何か、それは正しい方向に
進んでいるかなどについては、これから書いていきますが、同志
社大学教授の浜矩子氏は、アベノミクスについて、次のように述
べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アベノミクスは強い者をより強く、弱い者はそのままにしてお
く政策だと言わざるをえません。株高などの恩恵に浴した富裕層
から富がしたたり落ちる「トリクルダウン」が効くのだと称して
熱い部分をどんどん熱くしている。
 その結果が人手不足です。おかげで中小企業は人手が足りずに
増産もできない。富はしたたり落ちてはいないのです。そんな状
態では、想像力豊かな面白い発想が生まれるはずもありません。
         ──2014年12月2日付、朝日新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 アベノミクスを「強い者をより強く、弱い者はそのままにして
おく政策である」と捉えることは、アベノミクスの本質に迫って
います。アベノミクスは、国民のどの層を利する政策であるかに
ついて考えてみましょう。
 それを明らかにするグラフがあります。添付ファイルにそのグ
ラフはあります。経済評論家の三橋貴明氏の近著に出ていたグラ
フですが、これを見ると、日本経済がなぜ活況にならないのかが
よくわかります。このグラフは、次の3つのデータを示していま
す。説明順に並べます。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.民間企業設備
          2.企業の現預金
          3.対外直接投資
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」の民間企業設備(設備投資)は、一番の背の低い棒グラ
フです。企業の設備投資は1980年〜1990年までは右肩上
がりで増加しています。40兆円台からはじまって、90兆円ま
で上昇しています。高度成長期であり、当然の伸びです。
 しかし、1990年代に入ると、設備投資は一転して減少をは
じめます。バブルが崩壊したからです。1992年〜1996年
にかけて70兆円ぐらいまで下がり、その後、少し上昇に転じた
のですが、1997年の消費税増税の影響で、またしても、19
99年まで設備投資は減少するのです。
 そして2003年頃から景気は持ち直し、2007年までは上
昇に転じますが、2008年のリーマン・ショックで設備投資は
ガクンと大きく下がります。しかし、平均すると設備投資は50
兆円を割り込むことはありませんが、平均して60兆円台で低迷
しているのです。
 安倍政権になってからは、2013年は、トータルで前年を下
回ったものの、四半期ごとに増加に転じ、そして2014年1〜
3月期は、71兆円(年率換算)に戻していますが、4〜6月期
は68兆円に落ち込んでいます。もちろん、これは消費税増税の
影響です。
 このように1990年〜2012年までは、企業の設備投資は
長期にわたって低迷しているのです。それは、バブルが崩壊して
日本企業が一斉に借金返済に邁進し、設備投資は最小必要限度に
とどめたからです。
 「2」の背の高い棒グラフを見てください。これは非金融機関
法人の現金・預金の推移を示しています。1980年〜1990
年は、右肩上がりで170兆円まで伸びています。もっともこの
期間は設備投資も右肩上がりです。
 しかし、バブルが崩壊すると、企業は一斉に借金返済をはじめ
現預金が増加します。それが2005年ぐらいまで続き、企業の
バランスシートはきれいになったのですが、心理的影響もあって
超低金利にもかかわらず、借金して設備投資をする企業は、少な
かったのです。
 さらに、リーマンショックが起きると、企業は再び銀行預金を
増やしはじめ、2009年には企業の現預金の額は200兆円を
超えて、2013年には実に243兆円に達しているのです。こ
の額はもちろん史上最大です。
 このリーマンショック直後の2009年に民主党が自民党を下
野させ、政権交代が起きます。これは政治的には意義のあること
ではあったのですが、日本経済にとってはマイナスの出来事だっ
たといえます。企業がバブルの崩壊後に自社のバランスシートを
きれいにしようとして投資をしなくなることを原因とする不況を
「バランスシート不況」と命名したリチャード・クー氏は、その
ときの日本経済の状況を次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 リーマン・ショックで生産が世界で最も落ちたのは、日本だっ
た。リーマン・ブラザーズが潰れたのが9月15日だが、そのわ
ずか5ヶ月後の2009年2月の日本の鉱工業生産は、1983
年の水準まで落ち込んでしまった。実に25年分の生産が5ヶ月
で吹き飛ぶというとんでもないことが起きたのである。震源地の
アメリカでさえ、鉱工業生産は1997年の水準で下げ止まり、
そこから回復していくが、日本はなんと1983年の水準まで落
ちてしまった。     ──リチャード・クー著/徳間書店刊
            『バランスシート不況下の世界経済』
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党政権になってから「3」の対外直接投資が急激に増えて
います。経済の低迷とともに激しい円高になり、大企業を中心に
生産工場を海外に移す企業が増えたからです。それは「3」の折
れ線グラフに明確にあらわれています。結局アベノミクスで潤っ
ているのは、生産拠点を海外に移したごく一部の大企業だけであ
り、彼らは巨額の内部留保を抱えながらも、日本に投資しようと
はしていないのです。  ─── [検証!アベノミクス/17]

≪画像および関連情報≫
 ●「強者だけ生き残る社会は滅ぶ」/浜矩子氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  アベノミクスは崩壊しつつあると思います。金融の異次元緩
  和で円安、株高を導き出したけれど、輸出数量は期待したほ
  ど伸びず、輸入価格が上昇して生活と生産のコストが上がっ
  ている。家計や中小企業は圧迫されています。株価が上がれ
  ば、経済がよくなるという考え方は本末転倒です。本来は、
  実体経済がよくなって株価が上がるものです。しかも上がっ
  たといっても、日経平均は2万円に届かない。株をたくさん
  買っているのは外国人投資家で、彼らは売るために買うから
  長続きしない。円安と株高の2つの芸だけでは経済政策の限
  界は明らかです。世論調査の結果をみても、多くの人が景気
  がよくなったと感じていません。何をやってもなかなか思っ
  た通りにいかず、衆議院を解散したのではないか。下手な将
  棋士が将棋盤を眺めて「もう、いやっ」とひっくり返すよう
  に。最大の眼目が成長戦略だというのも時代錯誤です。確か
  に発育過程には成長が必要でしょう。でも日本経済はもう大
  人。成熟しているのにまだ成長戦略ですか。お年寄りにドー
  ピングして、100メートルを9・9秒で走れ、と言うよう
  なものです。副作用どころの話ではない。格差が広がってい
  るのに重点政策の視点が違っています。
         ──2014年12月2日付、朝日新聞より
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/三橋貴明著『2015年を爆走する世界経済と
  日本の命運』/徳間書店

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企業の現預金・民間企業設備・対外直接投資
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2014年12月15日

●「安倍首相の解散決断の本当の理由」(EJ第3936号)

 このEJ第3936号は、14日の第47回衆院選の投票日に
書いています。列島各地で大雪に見舞われており、投票率の低下
が懸念されています。もっとも期日前投票に関しては、1018
万人で、2012年のときよりも93万人増えているのです。そ
こにいささかの希望がありますが、結果は自民党、公明党の圧勝
の予測は変わらないでしょう。
 11月18日の衆院解散を受けて開かれた安倍首相の記者会見
ですが、その内容は冷静に聞くと、支離滅裂というか、矛盾に満
ちたものです。なぜ、そういう結果になったのかについて、考え
てみることにします。
 安倍内閣は「デフレ脱却」を公約に掲げて発足しています。し
かし、確実にその足かせになるものとして民主、自民、公明の3
党合意による「社会保障と税の一体改革」が決まっており、20
14年4月に消費税率を8%、2015年10月に10%に上げ
ることになっていたのです。
 つまり、2014年と15年に連続して、当時5%の消費税率
を倍増させることが決まっていたのです。2年連続で消費税率を
引き上げた政権は今までにありませんし、今までのように痛みを
和らげる減税などの措置を一切も行わずに実施されるので、大不
況になることは最初からわかっていたことです。
 安倍政権の任期は、2012年〜2016年末までの4年間で
あり、その間に2回で5%の消費税率引き上げをして、なおかつ
日本経済を活性化させ、デフレから脱却させる──そんなことは
最初から無理であることはわかっていたのです。
 安倍晋三という政治家は、自民党内でも「社会保障と税の一体
改革」を積極的に進めようとする谷垣総裁(当時)とは一線を画
しており、疑問を持っていたのです。安倍首相を取り巻く議員や
経済学者などのブレーンたちのなかにも、消費税増税に反対する
人は大勢いたのです。
 安倍首相がどのような心境で10%への増税判断を見送ったか
については、「週刊ダイヤモンド」12/13の特集で、政治コ
ラムニストの後藤謙次氏が書いていますが、解散権を行使した直
後に安倍首相は次のように述べたといわれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費増税を18ヶ月(1年半)先送りするのは大変なことだ。
財務省や自民党税調は命懸けで増税すると言っていた。これをつ
ぶすには解散しかなかった。解散しなかったら、大政変になって
いた。       ──「週刊ダイヤモンド」12/13より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言でわかることは、安倍首相が警戒している「仮想敵」
は、野党などではなく、自民党内の反安倍勢力と財務省だったこ
とです。安倍首相による今回の消費税再増税の延期、解散総選挙
の決断の裏側を民間シンクタンクの独立総合研究所所長の青山繁
晴氏は次のように語っているのです。青山氏の音声もありますが
内容をEJ風に要約します。
 財務省は安倍首相が消費税再増税を延期したがっていることは
かなり早い時点で掴んでいたのです。そのため、財務省が考えた
ことは、安倍政権の倒閣です。しかし、その時点では、安倍首相
がまさか解散するとは財務省も考えていなかったのです。
 それでは、どのようにして倒閣するのかというと、次のことを
実現させればよいと考えたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     消費税再増税延期の法改正をさせないこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに首相が「消費税再増税を延期する」と公表し、そのため
の法改正が成立しなかったら、安倍首相は退陣せざるを得なくな
るでしょう。それでは、どのようにして法改正を成立させないよ
うにするかです。そのために、財務省は次の3つの工作を総力を
上げて実施したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.自民党議員への工作
         2.学者有識者への工作
         3.新聞社に対する工作
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」については、自民党議員で、選挙に弱い議員を中心に手
を打っています。その中心は、選挙基盤の弱い若手議員になりま
す。実は、自民党の古参の有力議員のほとんどは既に財務省の配
下にあるので、改めて手を打つ必要はないのです。
 工作員は絶対に言質はとらせませんが、財務省の要求を飲んで
くれるなら、選挙区に予算をつけるというようなことを匂わせる
のです。議員が一番望んでいることをささやくのです。
 「2」については、財務省の常套手段ですが、審議会委員への
推薦とか、東大で教鞭をとれるようにするとか、研究テーマに予
算をつけるとか、テレビでのコメンテーターへの推薦など、学者
が望んでいることを匂わせるのです。
 「3」については、10%増税時に新聞を軽減税率の対象にす
ることを匂わせるのです。それも8%に据え置くのではなく、5
%か、場合によっては3%もあり得ると匂わせるのです。
 この工作は、6月頃からはじまっており、テレビなどに出演す
る学者やコメンテーターなどは、しきりに再増税延期はリスクが
多いことを述べていたはずです。そして自民党内では、増税延期
反対論が盛り上がりつつあったのです。
 これについては、青山繁晴氏の音声があります。完全なもので
はありませんが、十分聞きとれるので、ぜひ聴いていただきたい
と思います。この話は明日のEJでも述べます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      解散総選挙はクーデター対策だった
            http://bit.ly/1IP3c7Z
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/18]

≪画像および関連情報≫
 ●安倍首相「不意打ち解散」の内幕/日経ビジネスオンライン
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「税制こそ議会制民主主義と言っても良い。その税制におい
  て大きな変更を行う以上、国民に信を問うべきであると考え
  た」。18日の記者会見。安倍晋三首相は2015年10月
  に予定していた消費税率の10%への引き上げを1年半先送
  りする方針を正式に表明。政策変更について国民の審判を仰
  ぐことを大義に21日に衆院を解散すると宣言した。消費増
  税の延期と解散――。長期政権をにらむ安倍首相や菅義偉・
  官房長官らはこの夏ごろから解散・総選挙のタイミングを模
  索していた。関係者によると増税延期を理由とした解散戦略
  に安倍首相が舵を切ったのは、小渕優子前経済産業相らがダ
  ブル辞任に追い込まれた10月20日前後だった。2006
  〜07年の第1次安倍内閣では「政治とカネ」の問題などで
  閣僚の進退問題が続出。「辞任ドミノ」に陥り、内閣支持率
  は急落した。その反省から早期の事態収拾に動いたものの、
  一部の閣僚への野党の攻撃が継続。自民党内でも「これで安
  倍1強体制は変わる」といった空気が広がり始めていた。改
  造失敗を帳消しにし、政権基盤を立て直す。安倍首相はその
  最も有効な手段である「解散カード」を早期に切る意向を固
  めたのだ。後はタイミングと大義が問題だったが、答えはほ
  どなく「年内」と「消費増税先送り」に絞り込まれた。
                  http://nkbp.jp/132kYU5
  ―――――――――――――――――――――――――――

青山繁晴氏.jpg
青山 繁晴氏
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2014年12月16日

●「増税実現に財務省は何をやったか」(EJ第3937号)

 もし、安倍首相が消費税再増税の延期を決断し、年末選挙を見
送った場合、どうなったかについて考えてみます。何よりも1月
の通常国会において、再増税延期のための改正法案を成立させる
必要があります。しかし、財務省の工作が実を結び、党内をまと
めるのは困難化するでしょう。
 しかも、通常国会では、原発再稼働、集団的自衛権の行使容認
に伴う安全保障法整備など、国論を二分する問題の審議が目白押
しです。これに消費税延期の法改正がからむと、安倍首相の懸念
する大政変もありうると思います。
 そうかといって、消費税再増税の実施を決めたら、景気の失速
は確実になり、アベノミクス自体が瓦解してしまうことになり、
それだけは絶対に避けたかったのでしょう。
 さらにもうひとつ難問があるのです。それは、衆院の定数削減
問題です。2012年末の衆院解散のとき、野田前総理との約束
の実行です。この問題は現在、政党間の協議は完全に暗礁に乗り
上げており、衆院議長の諮問機関「衆議院選挙制度に関する調査
会」の検討に委ねられているのです。
 安倍首相はそこで決まったことに従うと公表しており、諮問機
関の答申が最終結論になります。答申は2015年秋に出ると思
われますが、結論が出れば国会は定数削減のための法整備に着手
することになり、その間の首相の解散権の行使は法改正が実現す
るまで封じられます。要するに、安倍首相にとって解散できる機
会は、今回の師走選挙しかなかったのです。
 「まさか解散するとは!」──財務省の幹部は絶句したそうで
す。安倍首相が消費再増税を延期するのはわかっていたのですが
まさか解散するとは思っていなかったのです。財務省はすぐ次の
手を打っています。安倍首相が18日の記者会見で勝敗ラインを
「自公で過半数」と述べたことに対し、谷垣幹事長に「自公で、
270議席以上が勝敗ライン」とあえていわせています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 自民党の谷垣禎一、公明党の井上義久両幹事長らは11月19
日午前、東京都内で会談し、次期衆院選(12月2日公示、14
日投開票)で与党で270議席以上を目指す方針を確認した。首
相は18日の記者会見で「与党で過半数を得られなければ退陣す
る」と述べていた。      ──11月19日付、毎日新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはきわめて異例のことです。安倍首相が「自公で過半数/
238」と記者会見でいっていることを幹事長がそれより32議
席多い「270」という数字に変更し、公表したからです。
 これは、もし自公が270議席を下回ったら、「敗北」を宣言
したに等しいからです。つまり、勝敗のハードルを上げたことに
なります。このような重要な決定を幹事長が行うのは異例のこと
であり、バックに財務省の後押しがあると独立総合研究所所長の
青山繁晴氏が述べています。
 青山氏によると、財務省のある大物OBは、今回の解散につき
次のように述べたといいます。このOBは複数の人に対して同じ
ことを述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回の解散劇は、安倍グループがしょせん自分のことだけを考
えてやった。改めて自覚したのは、この国を守るのは、われわれ
財務省だという事実だ。今回は完敗だが、安倍政権はしばらく継
続すると考え、やり直す。  ──青山繁晴氏作成のパネルより
                   http://bit.ly/1IP3c7Z
―――――――――――――――――――――――――――――
 「この国を守るのはわれわれ財務省」とは、何という傲慢ない
い方でしょうか。彼らは選挙で選ばれることのない安全地帯にい
て国の資金を使い、日本を事実上仕切っています。彼らは時の総
理大臣を超える力を持っています。そういう彼らにとって国民の
生活など、どうなろうと、知ったことではないのでしょう。
 数字にウソが多い1000兆円の借金を国民への脅しとして使
い、処分できる資産を多数持ちながらも、自分たちの天下り場所
がなくなるという理由でその売却には応ぜず、国民から消費税と
いうかたちで搾り取ろうとする──この体制を壊さない限り、日
本は再生しないと思います。しかも、その借金は自民党の失政に
より、生まれたものなのですから・・・。
 しかし、財務省を中心とする官僚機構を壊すには、自民党では
だめなのです。今回安倍氏は、自民党の首相としては珍しく増税
を延期しましたが、そのために解散しなければならないところに
追い込まれていることでわかるように、彼らの権力は強大であり
危険です。
 今回の安倍首相による解散計画を最初からサポートしていたの
は、菅官房長官です。政治コラムニストの後藤謙次氏は、その菅
官房長官について次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 菅は8月の初めには消費増税の先送りと解散のワンセット論に
言及していた。「もともと消費税を毎年上げるのは無理がある。
やらないとなったら、なるべく早く国民に知らせた方がいい」。
 それから3ヵ月、緻密な解散シナリオは極秘のうちに練り上げ
られた。自民党内でさえ知らされないのだから、野党側の準備が
間に合うはずはない。自民党内には30議席減の可能性を指摘す
る声もあるが、各メディアの情勢調査で自民党の堅調ぶりが続い
ている。安倍の続投は動かない。
 安倍と二人三脚でここまでのシナリオを動かしてきた菅はこう
語っている。「この選挙の結果、残り任期4年が確保できたら、
首相は自らの信念に従って思う存分に仕事ができることになる。
多少支持率が落ちてもいいじゃないか」。その上で菅は周辺にこ
うも漏らしているという。「残りの任期は韓国の朴大統領よりも
長くなる」。    ──「週刊ダイヤモンド」12/13より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/19]

≪画像および関連情報≫
 ●財務省の屈辱と安倍総理のリップ・サービス
  ―――――――――――――――――――――――――――
  しばしばテレビや新聞で訳知り顔のコメンテーターが、今回
  の衆議院解散には大義がないという言い方をする。解散せず
  に増税を先送りするだけでいいなどと、トンチンカンなこと
  を平気で言っている。あまりに無知すぎて、その無知ぶりを
  見なければいけない視聴者や読者は気の毒である。消費増税
  は財務省の悲願だ。その理由は財政再建ではなく、財務官僚
  たちの歳出権拡大。要は集めたカネを配りたいだけである。
  そのカネに群がるのが、国会議員、地方議員、地方の首長、
  経済界、マスコミ、さらには有識者・学者。そうした財務省
  の「ポチ」たちは、もちろん、増税賛成派である。増税先送
  りは、総理の一存ではできない。増税賛成派の中に国会議員
  がいて、増税先送りの法律が成立しないためだ。新聞業界も
  軽減税率が欲しくて財務省の「ポチ」に入っているので、ま
  るで世間も増税賛成のように報道されてしまう。そうした中
  で安倍総理が解散に踏み切ったのは、国民の意見がどうなの
  かを聞きたい―それが理由だろう。国会議員は財務省の増税
  レクと増税後のカネの配分で籠絡されているので、解散して
  衆院議員を全員クビにする。その上で、財務省の意見ではな
  く国民の声を聞こうとしている。  http://bit.ly/1zSn1Hg
  ―――――――――――――――――――――――――――

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奇襲衆院選で大勝利の安倍首相
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2014年12月17日

●「野党の敗因は何か/民主党の責任」(EJ第3938号)

 今回の衆院選──新聞は「自公圧勝」と書いていますが、もと
もと自公両党は、2012年の選挙で圧勝していたのです。与党
の公示前と公示後の勢力を比較すると、まったく同じなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
            公示前  選挙結果
        自民党 295   291
        公明党  31    35
        ─────────────
            326   326
―――――――――――――――――――――――――――――
 「326」という数字は、2005年の郵政選挙で自公が獲得
した「327」に1議席足りないだけであり、与党としてこの数
字があれば、何でもできる数字です。もちろん衆院で憲法改正の
発議もできますし、参院で否決された法案の衆院での再可決も可
能です。「326」は何でもやれる数なのです。
 一般的に2年間政権を運営して選挙になれば、もっと議席は減
るのが普通です。まして第2次安倍政権では、閣僚に政治とカネ
の問題が発生し、支持率も下がっていたのです。そういうなかで
突然選挙が行われたにもかかわらず、疑惑の閣僚は全員当選し、
獲得議席もほとんど変化がないのです。
 その原因は、野党第一党の民主党に大きな責任があると思いま
す。問題は3つあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.自公両党の増税の延期を受け入れている
    2.アベノミクスに代わる案を示せていない
    3.受け皿の新党作りに消極的であったこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は、民主党が自公両党が決めた増税延期に賛成したことで
す。そもそも今回の「社会保障と税の一体改革」は、民主党が与
党のときに主導したものです。それは、日本の財政再建のために
は、消費税の増税は一日も早く行うべきであり、それだからこそ
あえてマニフェスト違反を冒し、当時野党の自民党と公明党と組
んで成立させたはずです。それが原因で小沢グループが大量離脱
し、党勢にも大きなダメージを受けているのです。
 それなのに、民主党はなぜ安倍政権が決めた増税延期に賛成し
たのでしょうか。身を切る改革をやっていないからだというが、
それは昨日のEJでも述べたように、衆院議長の諮問機関が現在
検討しており、安倍首相はその内容を受け入れるといっているの
で、それが本当なら、延期容認の理由にならないと思います。
 本来は、財務省の口車に乗って、民主党はマニフェスト違反を
冒してまで消費税の大増税などやるべきではなかったのですが、
やってしまった以上、選挙は「増税延期反対」で戦うべきであっ
たと思います。その方がスジが通っているし、国民にはずっとわ
かりやすかったはずです。
 しかし、それをすれば選挙戦は厳しくなると思って増税延期を
受け入れてしまったのでしょう。「増税延期」を争点として選挙
を戦うつもりの自公両党と、それに同調する民主党では、民主党
の争点は完全にぼけてしまいます。
 第2は、民主党はアベノミクスに反対する立場をとり、それを
批判していることです。自民党は今回の選挙をアベノミクスの是
非を問う選挙と位置づけ、「この道しかない」と強調し、批判す
るなら代案を出せと反論しています。
 これに対して、民主党はその代案を出せているとは思えないの
です。しかし、この問題はまさに今回のEJのテーマであり、こ
れから詳しく検討するので、そちらに譲ります。
 第3は、民主党は新党づくりに極めて消極的であったと思われ
るのです。これについては、12月9日のEJ第3932号で述
べた通り、民主党は新党づくりに見向きもしなかったのです。あ
くまで「民主党の枠」にこだわり、「民主党に入りたい人は基準
に合えば入れてやるが、小沢はダメ」といっているのです。
 小沢代表のいうのは、自民党に対抗できる勢力を作らないと、
自公との戦いには勝てない。だから、1つの傘の下に結集する必
要がある。しかし、民主党は既に国民の支持を失い、「破れ傘」
になってしまっている。だから、新しい傘が必要だといっている
のです。特定の人の好き嫌いをいうべきではないし、そんなこと
をいっていたら、新党はできないと小沢氏はいいます。
 これに関して、小沢生活の党代表とジャーナリスト武富薫氏は
次のように対談しています。自民党が選挙を急いだのは、小沢氏
が水面下で動いていたのを警戒したという説があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
武富:生活の党の現職議員に「政治生活を続けるために一番いい
と思う方向に進め」と離党を認めた。党にとっては捨て身の戦術
だとと思うが・・・。
小沢:野党がみんな政党の枠を取っ払えばいい。そうすれば「一
つの傘」の下で動くことができた。だから、僕は所属議員全員に
どこでも生き延びるところに行けといったんです。
武富:しかし、野党第一党の民主党は政党の枠を取り払うところ
まではしなかった。
小沢:自分を捨てないと、できることではないですね。党でも個
人でも。大同団結は絶対できない。
武富:維新も同じだったか。
小沢:いや、維新はそうではない。維新は「この指とまれ」で、
誰かが旗を掲げるなら、全員参加するっていっていた。民主党の
中にも、そうなったら、新党に行こうという人はいる。
武富:それなのに統一戦線ができなかったのはなぜか。
小沢:前原誠司君や細野豪志君など若い人たちが、最終的に決起
できなかったのですね。
           ──『週刊ポスト』12月12日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/20]

≪画像および関連情報≫
 ●衆院選・アベノミクス効果について考える/大前研一氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  投票したい政党がないのが事実。橋下氏の不出馬は、ビッグ
  ミステイク/日本経済新聞社とテレビ東京が先月(11月)
  21〜23日に実施した世論調査で、衆院選で投票したい政
  党や投票したい候補者がいる政党を聞くと、自民党が35%
  で最も多かったことがわかりました。また、安倍首相が衆院
  選の争点とする経済政策「アベノミクス」については「評価
  しない」が51%で、「評価する」の33%を上回ったとの
  ことです。今、日本の国民がどれほど今回の選挙に「憤慨」
  しているか、このアンケート結果からも伺えます。実施機関
  によっては、直近の結果ではついに内閣支持率も不支持が上
  回りました。内閣に対する不信感があっても、民主党も相変
  わらず低迷しているのは情けないところです。政権枠組みに
  ついての世論調査を見ると、自公連立を希望する人が34%
  自民独立が20%、野党中心が18%となっていて、ここで
  も野党への期待感は、まるでなく盛り上がりようがありませ
  ん。そもそも、野党の数が多くなり過ぎて国民にとって非常
  にわかりづらい状況です。正直に言えば、自民党もその他野
  党も投票したいところがない、というのが実態でしょう。お
  そらく投票率は下がるだろうと私は見ています。維新の会の
  橋下氏が出馬を見送ったことが話題になっていましたが、こ
  れは大きな判断ミスだと私は思います。一部には、衆院出馬
  によって「大阪都構想」を投げ出す形になる批判を避けたの
  では?と言われていますが、大阪府知事から大阪市長になる
  ときに同じことをやっていますから、それは考えられないで
  しょう。             http://bit.ly/1zTSHw4
  ―――――――――――――――――――――――――――

自公両党圧勝/2014年12月衆院選.jpg
自公両党圧勝/2014年12月衆院選
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2014年12月18日

●「野党再編を念頭に置いた小沢戦略」(EJ第3939号)

 今回の衆院選は、メディアは伝えないものの、はっきりとした
「ある特徴」が見られます。それは野党再編と深く関係していま
す。さらに民主党の海江田代表が落選したことで、民主党では代
表選が行われますが、これにも深い関係があるのです。
 それは、小沢一郎生活の党代表と亀井静香衆院議員が水面下で
仕掛けている野党再編の動きです。この動きを安倍官邸は掴んで
おり、今回の解散・総選挙は、それが大きく動く前に潰す目的も
あって行われたのです。
 それだけに、安倍首相はこの選挙で小沢代表を落選に追い込む
計画を立て、実行に移しています。それに全面協力したと思われ
るのが、産経新聞と夕刊フジです。とくに夕刊フジにいたっては
公示日前から連日「小沢落選危機」を報道し続け、そのネガティ
ブ報道は、選挙の終わった現在でもなお続いています。
 12月8日には、菅官房長官が小沢氏の地元である岩手4区に
入り、続く9日には安倍首相、11日には小泉進次郎氏も入って
自民党公認候補の藤原崇候補を持ち上げるというよりも「小沢の
時代を終わらせよう!」と徹底的な小沢攻撃を行っています。こ
のように選挙の対抗相手を罵倒するアジ演説は実に見苦しいもの
であり、自民党の体質を如実に物語っています。
 「小沢苦戦!」「大接戦!」「藤原氏追い上げ!」「小沢屈辱
のドブ板選挙!」「小沢王国崩壊!」とメディアが報道しました
が、結果は次のように小沢氏の勝利に終わっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ≪岩手4区≫
    【当】小沢一郎(生活の党)  75293
   【比当】藤原 崇 (自民党)  57824
       高橋綱記 (共産党)  24421
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢氏は往時に比べれば票は伸びなくなっているものの、それ
でも1万7000票以上の票差はあり、苦戦とはいえないでしょ
う。今回の選挙に当たって、小沢氏はある決断をしています。彼
の目的は、政権交代可能な2大政党の実現です。そのため、少な
くとも100人を超える野党を作る必要があります。
 当初小沢氏は、民主党を中心に野党再編を仕掛けようとしたの
ですが、民主党には根強い小沢アレルギーがあり、どうしても民
主党の枠にこだわったので断念した経緯は既に述べています。
 しかし、民主党は小沢氏とともに民主党を離脱した議員のうち
本人が復帰を希望する場合は、一定の条件はあるものの復帰を認
め、公認を与えることと、選挙区候補者については、共倒れを防
ぐ候補者調整には同意しています。小沢氏は民主党と同様なこと
を維新の党との間でも話をつけています。
 そのうえで小沢氏は、生活の党に所属する議員が希望する党が
あれば離党し、その党の公認として生き残りを図るよう勧めたの
です。これは今回の選挙には間に合わなくても、野党再編は不可
避であると読んでおり、そのとき結集できればよいと考えたから
こそ、そういう決断をしたのです。これについて小沢氏は次のよ
うに生活の党所属議員に話しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回は生き残ることを優先したらよい。生き残っていれば、
 いずれまた一緒にできる。     ──小沢生活の党代表
―――――――――――――――――――――――――――――
 その成果は、次の通りです。かつての小沢氏の側近は党は違っ
ても、ほとんど当選しています。これを見ると、維新の党が多く
の生活の党の議員を受け入れています。
 生活の党のような小さい政党では、比例はあまり集まらないの
で、民主党や維新の党に移れば、もともと選挙は弱くないので、
比例復活できる可能性は高くなるのです。実に巧妙な小沢戦略で
あるといえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 【比当】松木 謙公(維新) (北海道2区) 56375
 【比当】太田 和美(維新)  (千葉8区) 69667
 【比当】木内 孝胤(維新)  (東京9区) 65809
 【比当】初鹿 明博(維新) (東京16区) 56701
 【比当】牧  義夫(維新)  (愛知4区) 47291
 【比当】小宮山泰子(民主)  (埼玉7区) 73513
 【比当】鈴木 克昌(民主) (埼玉14区) 62103
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍政権にとって一番落選させたかった小沢一郎氏と亀井静香
氏の2人を選挙区で勝利させたことは、自民党にとっては彼らが
次の野党再編の核になって動く可能性があり、痛恨の極みであっ
たといえます。
 海江田民主党代表が落選させることに貢献したのは、東京21
区で、自民党の小田原潔氏が民主党の長島昭久元防衛副大臣と大
接戦を演じて、1600票差で勝ったことが原因なのです。長島
氏が選挙区で当選していれば、海江田代表は最後の当選者として
比例復活していたのです。比例順位と惜敗率は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    長島 昭久 (東京21区) 惜敗率 98%
    松原  仁  (東京3区) 惜敗率 96%
    菅  直人 (東京18区) 惜敗率 84%
    海江田万里  (東京1区) 惜敗率 83%
―――――――――――――――――――――――――――――
 海江田代表が落選したことによって、民主党は代表選をやるこ
とになります。今のところ、岡田克也氏、細野豪志氏、前原誠司
氏が出馬するものと思われています。岡田氏は「自主再建派」で
あり、細野、前原両氏は「野党再編派」です。
 自主再建とは、あくまで労組系議員を中心とする独自再建であ
り、野党再編は維新の党などとの合併による野党再編です。そう
すると、最悪の場合、民主党はまた分裂する可能性が出てくるの
です。         ─── [検証!アベノミクス/21]

≪画像および関連情報≫
 ●民主党の代表選はどうなるか/時事ドットコム
  ―――――――――――――――――――――――――――
  民主党次期代表をめぐって同党は、与党圧勝を許した衆院選
  結果を踏まえ、自主再建か野党再編か、党の在り方を左右す
  る選択を迫られる見通しだ。自民党の「1強」体制が続く中
  維新の党には民主党の一部と連携した野党再編を主張する声
  があり、野党陣営の立て直しと絡み、民主党の次のリーダー
  選びが活発化しそうだ。辞任する海江田万里代表は、労組系
  議員に支えられていたこともあり、維新などとの野党再編に
  はかねて否定的だった。衆院解散前、再編に前向きな姿勢を
  示す前原誠司元外相らが第三極との新党結成を求めてきたが
  取り合わなかった経緯もある。他党からこぼれてきた個別議
  員は積極的に受け入れたが、「民主党中心」の路線は変えな
  かった。これに連なるのが、岡田克也代表代行や枝野幸男幹
  事長ら執行部メンバーだ。最大の支持団体である連合を置き
  去りにし、維新などと新党を旗揚げして有権者の目先を変え
  たところで、展望はないというのが岡田氏らの状況認識だ。
  幹部の一人は15日、維新の橋下徹共同代表が民主党の一部
  と組んだ新党に言及したことついて、「そういう『瞬間芸』
  に付き合う必要はない。民主党が自分より小さい政党と一緒
  になる必要があるのか」と一蹴。党内には岡田氏や枝野氏を
  次期代表に据え、党の再建を委ねたいとの声がある。
                   http://bit.ly/1wVDBqU
  ―――――――――――――――――――――――――――

小沢潰しを仕掛ける安倍首相.jpg
小沢潰しを仕掛ける安倍首相
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2014年12月19日

●「アベノミクスは成功しているのか」(EJ第3940号)

 安倍政権が「この道しかない」として進めているアベノミクス
は経済政策として正しいのでしょうか。これを続けていくと日本
経済は本当にデフレから脱却できるのでしょうか。これから景気
はよくなっていくのでしょうか。
 疑問はたくさんあります。現在、誰の目にも明らかであるのは
株価が上がっていることと、急激な円安が進んでいることです。
確かに2年前──民主党政権時代は株価は8000円〜9000
台と低迷し、ドル円相場は「1ドル=80円〜90円」という激
しい円高に見舞われていました。
 現在はそれと真逆の状態になっています。株価は1万7000
円〜1万8000円を窺う状況ですし、ドル円相場は「1ドル=
117円〜120円になっています。明らかに経済の状況は大き
く変化しています。
 株価が上がっていると、何となく景気がよくなりつつあるので
はないかという雰囲気になるものです。それを指して、安倍首相
は国会答弁でよく次のようないっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アベノミクスについての賛否はいろいろありますが、民主党政
権当時、日本全体を覆っていたあの重苦しい雰囲気は自民党が政
権をとった2013年以降、円安になり、それに連動して株価が
上がることによって、一変したではありませんか。──安倍首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに安倍政権になって、経済に関する雰囲気が一変したこと
は事実です。景気は「気」という文字を使うように人の「気分」
ですから、株高になることは、たとえ自分が株を持っていなくて
も、景気が上向いているような感じになるものです。
 しかし、本当のところはどうなのしょうか。安倍政権の2年間
のアベノミクスの評価について、『週刊ダイヤモンド』では、政
権発足の前後で景気や経済指標がどのように変化したのかをエコ
ノミスト22人に、4つの観点から通信簿をつけてもらっており
それを添付ファイルにしてあります。4つの項目についてのそれ
ぞの評価は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1. 総合評価 ・・・・・ 平均61点
     2.デフレ脱却 ・・・・・ 平均70点
     3. 財政再建 ・・・・・ 平均38点
     4. 成長戦略 ・・・・・ 平均49点
   ──『週刊ダイヤモンド』/2014年12月13日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 エコノミスト22人の評価では、アベノミクスの最大の目標で
ある「デフレ脱却」については、70点と比較的高い点が与えら
れています。しかし、3本目の矢である「成長戦略」については
49点と合格点に達していないのです。
 実は、エコノミストによってアベノミクスの評価は180度異
なることは珍しくないのです。そこで、評価が対照的な2人のエ
コノミスト──みずほ総合研究所チーフエコノミスト/高田創氏
とBNPパリバ証券チーフエコノミスト/河野龍太郎氏に対し、
「アベノミクスは成功しているか」という同じ質問をぶつけてみ
たときのコメントをご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎高田 創氏
  第2次安倍政権ができたのは2012年の12月であるが、
実際の転換点は安倍晋三自民党総裁と民主党代表である野田佳彦
首相との11月14日の党首討論だ。そこから株価は倍になって
いる。不動産などその他の資産も含めると、国内総生産/GDP
分ぐらいの国富が増えているのはすごいことだ。為替も「1ドル
=79円」から118円と5割ほどの円安になっている。
 バブル崩壊後の1990年代以降の日本は、国富がほとんど変
わらず、『アナと雪の女王』になぞらえれば、氷の世界のような
状況だった。日本企業は氷河期でも生きられるように、円高でも
販売価格を上げず、人件費を減らすことで財務諸表を圧縮するし
か道はなかった。
 アベノミクスが、円高と資産デフレの2つを溶かしたのは大き
い。20年間で、肉食系から草食系へと進化してしまった企業の
心理を変える最初のステップとしては、第1の矢である金融緩和
と第2の矢である財政出動しか方法はなかった。
 ◎河野龍太郎氏
 アベノミクスは機能しなかった。今年4〜6月期と7〜9月期
のマイナス成長に焦点があたっているが、実は過去1年間、プラ
ス成長だったのは(消費増税前の)駆け込み需要がおきた今年1
〜3月期だけだ。2013年10〜12月期からまったく経済が
回復していない。
 日本経済の実力である潜在成長率がゼロ近くまで下がっていた
のが大きい。大規模な金融緩和を支えにした大規模な追加財政で
一気にスラック(未稼働の経済資源)が解消された。昨年末の段
階でほぼ完全雇用に近い3・6%まで失業率は下がっている。ア
ベノミクスが1年で機能しなくなっていたことを消費増税の駆け
込みとその反動で多くの人が見逃していた。
 費用対効果を考えると、最初の1年もうまくいっていない。財
政面では12年度補正予算は10兆円超、13年度補正は5・5
兆円と合計でGDPの3%強を費やし、一時的に景気が良くなっ
はのは当たり前で、将来世代の所得の先食いをやってしまった。
      ──2014年11月30日付、日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、2人のエコノミストの評価は真逆なのです。経済
に関する考え方というか、見方によってその評価は大きく分かれ
てしまうのです。
 しかし、どちらのエコノミストも間違ったことはいっていない
ような気もします。そもそも、アベノミクスとは何なのでしょう
か。来週から検証します。─── [検証!アベノミクス/22]

≪画像および関連情報≫
 ●伊東光晴京大名誉教授による「アベノミクス全批判」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ――異次元緩和で投資や消費が増えるもくろみでしたが、う
  まくいっていませんね。
   根拠なき政策効果への期待です。日銀の岩田規久男副総裁
  は異次元緩和をすると、人々は物価が上がるだろうと考え、
  設備投資が増加し、景気浮揚の力が働くとしていますが、人
  々の期待は多様なのです。物価が上がれば、生活が困ると考
  え、生活を切り詰める人もいるかもしれない。金利が低くな
  ったところで設備投資をするかというと、過去に経済企画庁
  の企業行動調査は否定的な調査結果を出しています。
  ――株価が上がったことで、人々は幻想に惑わされている。
   安倍首相は政権に就いた時に、「15年間の長期の不況か
  らの脱却」と言ったでしょう。これにカチンときました。こ
  の前提からしてウソだからです。汚染水コントロール発言も
  そうでしたが、彼は平気でウソをつく。なぜだかわかります
  か?すべてが聞きかじりだからですよ。学者の間では、20
  02年からリーマン・ショックまでは好景気だったのは常識
  です。15年不況と言っていたのは岩田氏だけですよ。それ
  に日本株が上がったのは政権交代やアベノミクスとは全く関
  係がないメカニズムが働いたからです。外国人投資家には分
  散投資に代表される投資原則があって、米国枠、EU枠が決
  まっている。米国株が上がり、その枠を超えれば、その分は
  第三国、つまり日本市場に流れてくる。分岐点は2012年
  6月で、日本株の上昇は、野田政権が続いても起こりました
  よ。              http://on.fb.me/1AbcEOX
  ―――――――――――――――――――――――――――

エコノミストによるアベノミクスの評価.jpg
 
エコノミストによるアベノミクスの評価
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2014年12月22日

●「アベノミクス評価はABEである」(EJ第3941号)

 安倍首相は非常に運の強い政治家です。それは、2回も総理大
臣を務めることができている事実によっても明らかです。日本で
2回総理大臣を経験した政治家は吉田茂元首相以外におらず、実
に64年ぶりのことです。
 自民党がまだ野党だった2012年9月26日の自民党の総裁
選にしても、1回目の投票では石破茂氏に58票の大差をつけら
れたにもかかわらず、決選投票では19票差で石破氏を破って自
民党総裁に就任し、3ヵ月後の衆院選で2回目の総理に就任して
います。やはり、強運の持ち主です。
 誰でも総理就任は初めての経験で、知らないことばかりだと思
います。しかも肝心なことは官僚機構に牛耳られてしまうので、
思うようにできないことが多いものです。しかし、2回目なら経
験があるので、1回目にできなかったことでもやることができま
す。安倍首相の自信に満ちた行動はそれを感じさせます。
 今では「アベノミクス」の名称は、日本のみならず、世界中に
知られています。したがって、この名称は安倍晋三首相が第2次
政権のときの経済政策の総称として名づけたものであると誰でも
考えていますが、実は違います。
 「アベノミクス」は、第1次安倍内閣の経済政策を総称するも
のとして命名されたのですが、第1次安倍内閣のときは、この名
称を知る人はほとんどいなかったはずです。しかも、その経済政
策の中身も現在のアベノミクスとはまるで違うものなのです。そ
の違いをまとめておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎第1次政権におけるアベノミクス
  財政支出を削減し、公共投資を極力縮小させ、規制緩和によ
  る成長力が高まることを狙ういわゆる「小泉構造改革」路線
  を継承する経済政策
 ◎第2次政権におけるアベノミクス
  デフレ経済を克服するためインフレターゲットを設定し、こ
  れが達成されるまで日本銀行法改正も視野に、大胆な金融緩
  和措置を講ずる政策
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに経済政策というものは、そのときどきの経済状況によっ
て異なるのは当然ですが、第1次政権(2006年9月26日〜
2007年8月27日)のときも、第2次政権のときも、日本経
済はともにデフレだったのです。しかるに、その経済政策の根本
思想において、第1次と第2次のアベノミクスはまるで違うもの
であり、首相自身が確固たる思想に基ずく経済政策を持っていた
とは思えないのです。
 安倍晋三という政治家は父の晋太郎氏と同様に経済政策よりも
外交政策を得意としており、財務省との関わりはあまりないよう
です。第1次政権においても、とくに庶民に幅広く税をかける消
費税の増税には反対であり、増税によらなくても財政健全化は可
能であると考えていたのです。
 安倍第2次政権のアベノミクスは、3つの矢によって表現され
る政策パッケージです。3本の矢は、それぞれ別個の経済学的基
礎を持っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の矢「大胆な金融政策」 ・・・ ニューケインジアン
 第2の矢「機動的財政政策」 ・・・   ケインズ経済学
 第3の矢「持続的成長戦略」 ・・・  新自由主義経済学
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在の一般的な評価では、アベノミクスの主役は第1の矢であ
り、脇役が第2の矢、第3の矢はアイデアは出ているが、まだ飛
んでいないといわれています。この第3の矢である成長戦略に第
1次安倍政権の経済政策が入っているように見えますが、財政支
出の削減、公共投資の縮小とは矛盾しています。
 アベノミクスの指南役といわれる浜田宏一教授にアベノミクス
の評価を聞くと、第1の矢は「A」、第2の矢は「B」、第3の
矢は「E」というそうです。3つあわせると「ABE」(アベ)
になるというオチがついています。
 アベノミクスの評価については、これからていねいに述べてい
きますが、浜田教授は、民主党の野田政権が主導し、自民党と公
明党を巻き込んで実現させた「社会保障と税の一体改革」には一
貫して反対しており、安倍首相も野党時代には、増税の動きとは
距離を置いていたのです。増税はアベノミクスの考え方とは根本
から矛盾するものであり、別物です。安倍首相がアベノミクスを
打ち出す前にそれは決まっていたのです。
 したがって、安倍首相は消費税率の8%への引き上げは決断し
たものの、10%への再増税を延期したのは経済政策としては正
しいことなのです。しかし、2017年4月には景気がどうであ
れ、間違いなく上げることになります。
 それにしても野田元首相の2012年年末の解散決断には大き
な疑惑があります。これについて、植草一秀氏は小沢潰しがウラ
にあると次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 野田政権が解散・総選挙に進めば、民主党は大敗を免れない状
況にあった。議席が大幅に減れば、民主党が受け取る政党助成金
は大幅に減少する。負けることがわかっている選挙であるなら、
選挙の実施日を年明け後にずらし、政党交付金の激減を回避する
行動に出ると考えたのである。ところが野田佳彦氏は、年内の選
挙日程を選んだ。年内選挙を実施すれば、政党交付金の受け取り
金額は大幅に減少する。野田佳彦氏があえて年内の選挙日程を選
んだ最大の理由は、生活の党の受け取る政党交付金を減少させる
と共に、生活の党の資金が最も枯渇するタイミングを選んで選挙
日程を決めたことにあると考えられる。    ──植草一秀著
       『日本経済撃墜/恐怖の逆噴射』/ビジネス社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/23]

≪画像および関連情報≫
 ●「安倍首相はツイている」/月刊誌「WiLL」より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  月刊誌「WiLL」の名物コーナー「蒟蒻問答」は、元文藝
  春秋の堤堯氏と元産経新聞の久保紘之氏が云いたい放題云い
  合う対談で毎回面白い。11月号では冒頭で東京オリンピッ
  ク招致成功の話題。そこで安倍晋三首相はツイていると云う
  話になった。堤:「たしかに安倍はツイてる。しかし、ツキ
  を呼ぶのは努力なんだ。かつて川上哲治が、巨人が九連覇し
  た時にこんな言葉を残した。『これほどの努力を人は運と言
  い』とね。安倍は就任後、世界各国を歴訪した。その数二十
  数ヶ国に及ぶ。まさに東奔西走だ。その都度、現地のIOC
  の連中に会って票集めをちゃんとやっていたんだ。その努力
  があってツキが生まれたんだよ。それを忘れちゃいけない」
  編集部:「自身のツキもさることながら、『安倍さんが首相
  だった』ということは、つくづく日本はツイていたと思いま
  す。だって、IOC総会で演説したのが野田や菅、鳩山だっ
  たらどうですか?」堤:「もちろん落選だ!(笑)」久保:
  「僕が心配するのは、『安倍の運に頼りすぎちゃいないか』
  ということです。与党しかり、野党しかり、日本また、しか
  り。堤さんは前々から、安倍はどこか悲劇性を宿していると
  指摘していたけど、僕も同感です。たしかに安倍は強い運勢
  を持っているけど、第一次安倍政権のように、突如ポキッと
  折れてしまうような脆さも付きまとっている。ここは注意し
  ないといけない。         http://bit.ly/1x6GEwm
  ―――――――――――――――――――――――――――

集団的自衛権について説明する安倍首相.jpg
集団的自衛権について説明する安倍首相
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2014年12月24日

●「滑り出しはなぜ順調に運んだのか」(EJ第3942号)

 安倍政権が進めているアベノミクスという経済政策パッケージ
は果して正しいかどうかについて検証していきたいと思います。
アベノミクスの3つの矢を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
        第1の矢「大胆な金融政策」
        第2の矢「機動的財政政策」
        第3の矢「持続的成長戦略」
―――――――――――――――――――――――――――――
 アベノミクスの政策を分解すると、金融政策、財政政策、成長
戦略の3つになるのですが、これ自体は何も目新しいものはない
のです。とくに金融政策や財政政策に関しては、日本ではどの内
閣でもやっているのですが、効果を上げているとはいえないので
す。それは、3つの政策の関係性を考えて実施していないことに
失敗の原因があります。これらの3つの政策は、バラバラにやっ
たのでは効果がないのです。
 財政政策とは、政府が国債を発行し、それを売ることによって
資金を作り、行われるものです。公共事業はこの財政政策によっ
て行われます。しかし、「国債を売る」というのは、市場からお
金を吸い上げるので、円が少なくなり、円の価値が上がって「円
高」になります。円高は輸出の減少をもたらしますので、景気の
上昇にはつながらないのです。
 これに対して金融緩和(金融政策)はお札を刷って円を増やす
政策ですから、財政政策と金融緩和を同時に行えば、財政政策で
生ずる円高を抑えて、円安に誘導することが可能になります。ア
ベノミクスはこれをやったことになります。
 3本目の矢である成長戦略が成功するには、企業をしてお金を
銀行に預けておくよりも設備投資を増やして生産を拡大するか、
新規事業を起こそうという気持にさせる必要があります。そのた
めにも適切な金融政策が必要になってきます。金利の低い状態が
相当程度続くという予想をもたらす必要があるのです。
 安倍首相は首相に就任するや否や、次の4つのことを次々と実
行に移しています。それは見た目には実にテキパキと政策を実行
しているように見えたのです。多くの国民は、そこに何事におい
ても物事がスピーディーに決められない直前の民主党政権の菅、
野田政権と安倍政権の際立った違いを見たのです。それはあまに
にも民主党政権とは違っていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.自民党総裁時代のインフレ・ターゲット宣言
   2.「2%物価安定目標」の政府・日銀共同声明
   3.13兆円規模の2012年度補正予算の編成
   4.日銀新体制の下での量的・質的金融緩和実行
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍晋三氏は、自民党の総裁になるや、スタッフに命じて政権
奪取後の経済政策の策定をはじめたのです。そして、2012年
11月13日に、安倍自民党総裁は次の発言をしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 自民党が政権をとった暁には、2%〜3%のインフレターゲッ
トを設けて、円高是正、デフレ脱却ができる政策を総動員する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍総裁はこのとき次のように国民に訴えたのです。物価がど
んどん下がる、企業利益が悪化する、株が下がる、給料が下がる
物が売れない、景気が悪いというデフレ状況下では何もできない
ではないか。何はともあれ、デフレから脱却することが不可欠で
ある。自民党に政権を返してもらえれば、デフレ脱却のために何
でもやる──このように宣言したのです。
 「インフレターゲット」という言葉を使ったのも新しい響きを
生んだのです。それは、もし安倍政権ができれば、今度こそデフ
レ脱却に向けて動き出すかもしれないという期待感を国民に与え
たことは確かです。これが「1」です。
 それまでの白川日銀総裁は、日銀の独立性を盾に、政府が金融
緩和を迫ってもそれに協力しようとせず、日銀法改正を求める声
が高まっていたのです。そういうわけで安倍政権ができると、さ
すがに、日銀内部も「このままではヤバイ」と考えるようになり
つつあったといえます。
 そういう状況のなか、政権を奪取した安倍政権がまずやったこ
とは、日銀総裁選びだったのです。白川日銀総裁とも話し合い、
安倍首相はかなり強硬な姿勢で、経済政策への協力を求めたので
す。その結果、2013年1月22日に日銀と政府は、インフレ
ターゲットを設けて、政府も日銀も一丸となって頑張るという共
同声明を出したのです。これは白川日銀の完全な敗北であるとい
えます。これが「2」です。
 さらに追い打ちをかけるように、安倍政権は、2012年度補
正予算として「日本経済再生に向けた緊急経済対策」を国会に提
出し、2013年2月26日に成立させているのです。これがい
わゆる第3の矢であり、「3」ということになります。
 そして、安倍政権は、黒田東彦氏を日銀総裁に選ぶのです。そ
して副総裁にも「インフレを起こしてデフレから脱却する」とい
う考え方を持つ岩田規久男氏を選んだのです。インフレを起こす
ということは、通貨の価値が下がっていくということですから、
日銀がどんどん量的緩和を拡大していくと、円が大量に市場に供
給され、円安が進むことになります。
 そのとき市場では、日銀は、元本割れの可能性があるリスク資
産も積極的に買い入れるという期待を折り込んで動いていたので
2013年はじめから、円安は進行し、日経平均も上昇をはじめ
たのですが、黒田日銀総裁は4月4日に市場の予測をはるかに上
回る「異次元緩和」を打ち出したのです。これが「4」です。
 ここまでの安倍政権の動きは、国民の方から見ると、とても鮮
やかに見えたのです。安倍首相の言葉通り、第1次政権のときと
はまるで異なり、何もかも安倍首相の狙い通りにコトは進行した
のです。        ─── [検証!アベノミクス/24]

≪画像および関連情報≫
 ●黒田日銀総裁就任/2013年3月22日の関連記事
  ―――――――――――――――――――――――――――
  海外紙は黒田日銀総裁就任会見の模様を報じている。安倍政
  権は大胆な金融緩和を謳って昨年の総選挙に勝利したが、白
  川前総裁も含め、過剰な緩和が、80年代のバブルの原因で
  あったとして警戒する声も多い。しかし黒田氏は、現在バブ
  ルが発生する兆候はないと否定した。ウォール・ストリート
  ・ジャーナル紙はまた、「インフレ喚起のために市場の期待
  をコントロールしようとか、デフレ克服のために円安に依存
  しようとするのは危険」という白川氏の主張を、黒田氏が否
  定したと伝えた。黒田氏は、日本の輸出産業のための意図的
  な円安誘導を否定しつつ、「我々は、期待や予測の効果を無
  視することはできません。金利がゼロで立ち往生している状
  況にあっては、期待の効果は大きいです」と発言した。だが
  この日、黒田氏らは特に目新しい発表をしなかった。市場は
  日銀に、本来来年から予定されている資産購入プログラムの
  前倒し実施などを期待しており、4月3日からの最初の定例
  政策委員会前を待たずに臨時会合を開くとの期待もあった。
  しかし、黒田氏らがそれらについて明言を避けたため、為替
  市場の値動きは小さかった。また各紙は、「このデフレは構
  造的なもの」「人口の高齢化、世界最大の政府債務の負担、
  労働市場の柔軟性の制約」といった理由を挙げて、2年間で
  2%という目標には実際届くまいと考える見方も多く伝えて
  いる。              http://bit.ly/1zK3qrN
  ―――――――――――――――――――――――――――

黒田日銀総裁/白川前日銀総裁.jpg
黒田日銀総裁/白川前日銀総裁
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2014年12月25日

●「3本の矢は経済にどう影響するか」(EJ第3943号)

 片岡剛士氏という人がいます。三菱UFJリサーチ&コンサル
ティング経済社会政策部主任研究員です。片岡氏は、今年4月の
消費税率8%の増税も、10%への再引き上げにも強く反対した
数少ないエコノミストとして知られています。
 しかし、片岡氏はアベノミクス自体は評価しています。片岡氏
の著書に出ている「3本の矢の関係」を添付ファイルにしている
のでみてください。
 片岡氏は、2012年末の日本経済について、潜在GDPが実
質GDPを17兆円上回る状態にあったことを指摘しています。
潜在GDPというのは、その国にある「人とモノ」が十分に活用
されれば、達成されるとみられるGDPの推定値のことです。
 潜在GDPが実質GDPを17兆円上回るということは、本来
市場に出回っているべきお金が17兆円も不足していることを意
味しています。このように、実質GDPが潜在成長率を下回って
いる状態を「デフレギャップ」といいます。つまり、2012年
末の日本経済はデフレであったことを表しています。
 経済に関する考え方というのは、学者によってまるで違うこと
がいくらでもあります。きわめて常識的に正しいと考えられるこ
とに対しても正反対の論説を掲げてそれが正しいと主張する学者
もいます。だから、非常にわかりにくいのです。
 ここで思い出すべきことがあります。EJでは、何度も述べて
いる原則ですが、再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済がデフレ下にあるとき ・・・ 財政赤字を増やすこと
 経済がインフレであるとき ・・・ 財政黒字を増やすこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 2012年の日本経済は、大きなデフレギャップがあるのです
から、明らかにデフレです。こういうときに野田政権は消費税の
大増税を企み、同じように増税を主張する当時の谷垣自民党総裁
と本来増税には一貫して反対してきたはずの公明党の山口代表も
一緒になって増税を決定したのです。上記の原則にしたがうと、
明らかに間違っていることを財務省の口車に乗った御用学者たち
は「正しい」と主張するのです。経済の考え方にはどのようにで
も変えられるいい加減なところがあります。
 ところが安倍政権は、「デフレからの脱却」を目標に掲げ、一
応正しい方向を目指したのです。まず、現在の経済状況がデフレ
であるとして、その脱却を目指すことを目標にします。続いて、
その実現策として、第1の矢の金融緩和と第2の矢の財政政策を
同時に実施しています。
 上記の原則における「財政赤字を増やすこと」とは、国債を発
行して公共事業を行うことですが、それを第1の矢と第2の矢を
同時に行うことによって実施したのです。これは経済政策として
は正しいことです。
 これについて、片岡剛士氏は次のようにわかりやすく解説して
いるのでご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済を人間の身体にたとえれば、病気を治す薬が第1の矢、薬
で回復した身体に体力を与える食事が第2の矢であり、元気にな
った身体の能力をさらに高める筋力トレーニングが第3の矢であ
るといえばわかりやすいでしょうか。3本の矢のこのような関係
性が理解できれば、長年続いたデフレという病にさいなまれてい
た日本経済が強い身体を取り戻すために、金融政策が必要条件で
あったという意味がおわかりいただけると思います。
──片岡剛士著、『日本経済はなぜ浮上しないのか/アベノミク
            ス第2ステージへの論点』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 片岡氏は、デフレから脱却するには、第1の矢と第2の矢を組
み合わせることが大事であることを説いています。第2の矢であ
る「大胆な」金融政策は、人々の予想に働きかけて予想インフレ
率を高め、それによって総需要を高める政策ですが、間接的で即
効性に乏しい欠点があります。
 それに対して第2の矢は、公共投資など政府部門が支出するこ
とで、デフレ・ギャップを埋める政策ですが、即効性はあるもの
の、持続性に乏しいのです。
 したがって、第1の矢と第2の矢を組み合わせることによって
まず、第2の矢の影響が働き、その後に第1の矢と第2の矢の合
わさった影響によってデフレギャップの解消に成長を押し上げ、
そこから第1の矢の影響によって成長経路が加速されるのです。
第3の矢の影響が現れるのはその後です。添付ファイルのグラフ
はそのように描かれています。
 片岡氏は第1の矢である金融政策は、人々の予想に働きかけて
予想インフレ率を高めるといっています。しかし、「予想」とい
うものは、漠然としたものです。そんなものが果して消費行動に
影響を与えるものなのでしょうか。事実関係だけをみると、日経
平均については、次の数字があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    2012年11月14日 ・・・ 8664円
    2013年 5月22日 ・・・15627円
―――――――――――――――――――――――――――――
 2012年といえば、民主党政権の稚拙な政権運営に国民の多
くが閉塞状況にあったのです。それに対して安倍政権は、インフ
レ目標を打ち出し、「アベノミクス」という経済政策や「異次元
金融緩和」の金融政策のネーミングの目新しさもあって、人々が
そこに漠然としたものではあるが、「もしかすると、景気がよく
なるのではないか」期待を抱いたことは確かです。
 その人々の期待が株価上昇になってあらわれのです。何しろ上
昇幅は6963円、上昇率は80%です。わずか半年で80%も
上昇したのです。確かに2013年の半ばまでは、国民は安倍政
権よる景気回復に期待を抱いたのです。
            ─── [検証!アベノミクス/25]

≪画像および関連情報≫
 ●「アベノミクスの総合評価」について/片岡剛士氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  金融政策は80点、財政政策は50点、成長戦略は10点。
  平均すると40〜50点になる。金融政策を評価していると
  しながら80点となったのは、追加緩和が遅過ぎたからだ。
  今はデフレからマイルドな2%の物価安定目標を目指してい
  る状況なので、金融緩和はよりアグレッシブに行う必要があ
  る。予想インフレ率や市場のマインドが落ち込みつつあった
  ところで手が打たれたが、ぎりぎりのタイミングだった。2
  013年の日本経済はアベノミクスの当初のシナリオ通り、
  おおむね、景気回復基調となった。物価上昇率は持ち上がり
  失業率は改善。株価も大幅に上昇した。ただ、14年に入る
  と予算規模が縮小され、財政政策が拡張から緊縮の方向に向
  かった。消費増税も相まって、持ち上がった日本経済が方向
  感を失った状況になった。財政政策は半分くらいしか評価で
  きない。アベノミクスは3本の矢で経済をとにかく拡張させ
  てデフレから脱却し、最終的に成長軌道に戻すというのが本
  義。ところが、消費増税という方向性の違う政策を景気浮揚
  の途上で混在させ、それまでの効果をほぼ全て打ち消してし
  まった。             http://bit.ly/1JLZdcZ
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●片岡剛士著の前掲書より

アベノミクス3本の矢の関係.jpg
アベノミクス3本の矢の関係
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2014年12月26日

●「日銀のレジーム・チェンジの効果」(EJ第3944号)

 トーマス・サージェント氏という経済学者がいます。ニューヨ
ーク大学教授で、2011年のノーベル経済学賞を受賞していま
す。サージェント教授は経済活動を次の2つに区分しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.アクション
           2. レジーム
―――――――――――――――――――――――――――――
 「アクション」は、人々の行動のことです。「レジーム」は、
そのアクションを規定する政策についての基本原理──具体的に
は、法律や省令、政府や中央銀行によって表明された基本方針の
ことです。
 サージェント教授は、第1次世界大戦の敗戦国──ドイツ、ハ
ンガリー、オーストリア、ポーランドで生じたハイパーインフレ
がなぜ起こったか、何によって終焉したかを分析した結果、政府
から独立した中央銀行の創設や金本位制へ復帰などの基本政策の
変化などのレジーム・チェンジが起こると人々が実感したことが
理由であると結論づけたのです。
 このサージェント教授の理論を世界恐慌からの脱却過程の分析
に応用したのは、ピーター・テミン・マサチューセッツ工科大学
教授であり、次の結論を得ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 大恐慌からの回復の開始は、経済状況に対して期待が大きな役
割を果すこと、そしてこれらの期待の形成に政府が重要な役割を
演ずることを強く示している。──ピーター・テミンMIT教授
──片岡剛士著、『日本経済はなぜ浮上しないのか/アベノミク
            ス第2ステージへの論点』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 1930年の昭和恐慌のさい、浜口内閣や若槻内閣では解決で
きず、犬養内閣になって蔵相の高橋是清が、金本位制を放棄し、
国債の日銀引き受けという2段階のレジューム・チェンジをやっ
て昭和恐慌から脱却しています。
 このサージェント教授やテミン教授の考え方を研究していたの
が、岩田紀規久男日銀副総裁なのです。岩田教授を中心とする一
派のことを「リフレ派」と呼んでいます。考えてみると、アベノ
ミクスは、これをそっくり実践しているといえます。
 現在日銀のやっている「異次元緩和」は、政府の発行した国債
を市場からとはいえ、日銀がそのほとんどを買っているので、日
銀の国債引き受けに近く、一種のレジーム・チェンジといえるの
ではないかと思います。
 ポール・クルーグマン教授は、かねてから日本経済について次
のようにいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本経済における大きな問題点は少子高齢化にある。その結果
投資需要は縮小し、それが実体経済に多大な影響をもたらす。し
かし、そうした条件下の経済はデフレになるのは必然であるとい
う考え方は間違いだ。むしろ、だからこそ実質金利を大きく引き
下げ、あるいはマイナスにしなければならない、と考えるべきで
はないか。──ポール・クルーグマン著/山形浩生/大野和基訳
     『そして日本経済が世界の希望になる』/PHP新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 クルーグマン教授は何をいっているのでしょうか。
 日本経済は長きにわたってデフレなので、先進国のなかで最低
の金利(長期金利)を続けてきたのですが、この金利は「名目金
利」です。しかし、実質金利は米国よりも高いのです。実質金利
は次のように計算されます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      実質金利=名目金利―期待インフレ率
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国の長期金利が3%前後のときでも、期待インフレ率が2%
あったので、実質金利は1%です。これに対して日本は名目金利
が1%のときでも、デフレによって期待インフレ率はマイナス1
%なので、実質金利は2%であり、米国よりも高いのです。
 こういうときは、一国のリーダーが「デフレは絶対止める」と
いい続け、「目的を果たすまでアクセルを踏み続ける」という印
象を国民に与えることが必要であるとクルーグマン教授はいうの
です。しかし、それが今までの日本ではできなかったとクルーグ
マン教授はいうのです。
 しかし、安倍首相はインフレ目標を設定し、「デフレから脱却
する」と宣言し、日銀は世界が驚くほどの金融緩和を続けていま
す。クルーグマン教授は、安倍首相を「非日本人的決断力」を持
つ宰相として、次のように称賛しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私がいま期待するのは、安倍首相の非日本人的な決断力が、人
びとの「期待」を変えるのではないか、ということだ。もちろん
のこと、私の専門は日本政治ではない。しかしその私にとっても
彼の決断は驚くべきものだった。来歴をみるかぎり、安倍氏は古
いタイプの政治家であり、アメリカの言葉でいえば「マシーンポ
リティシャン」のようにみえる。「マシーン」とは利権や猟官制
に基づく集票組織のことで、アメリカの多くの都市ではマシーン
ポリティクスが存在し、現在まで続いているものもある。だから
こそ、利権政治のなかで育ってきた政治家が突然、恐れを知らな
いリーダーになったかのような印象を私は安倍氏に感じるのだ。
          ──ポール・クルーグマン著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、クルーグマン氏は安倍首相が2014年4月の消費税
増税を決断したときは「信じられない」といったそうです。そし
て、首相が再増税について決断する前にクルーグマン氏は直接安
倍首相に会って、「再増税は絶対にやってはならない」と説得し
たのです。これも再増税延期の重要な決断に寄与したのではない
かと思います。     ─── [検証!アベノミクス/26]

≪画像および関連情報≫
 ●「まさかのマイナス成長はなぜ起きたのか」/片岡剛士氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  本で詳細に分析していますが、まずは2013年からのアベ
  ノミクスによる好循環を整理してみましょう。アベノミクス
  の「三本の矢」は金融政策、財政政策、成長戦略なのですが
  実体は一本の矢なんですよね。大胆な金融緩和の力によって
  まだ十分とはいえないまでも、景気回復の糸口が見えてきた
  のが2013年の1年間でした。回復の糸口を掴んだという
  だけですので、まだまだ国民全員の収入が上がるという段階
  ではありません。「私には恩恵が来ていない」「庶民には無
  関係だ」という批判はこれからもついて回るのでしょうが、
  データを見ている限りでは、所得階層の一番上と一番下の層
  には、着実に景気回復の恩恵が遡及していることをこの本で
  も指摘しています。その恩恵が今後、中間層に行き渡ってい
  くかどうかが問われる、それが2014年の1年間だったの
  です。この流れのなかで気の早い方は、経常収支や貿易収支
  が赤字になっているのを見て「円安で日本は貧しくなる」、
  「日本の競争力が失われている」といった批判を強めていっ
  たわけですが、この本では貿易赤字と我々の豊かさとはまっ
  たく関係ないことも、国際収支統計の基礎から噛み砕いて解
  説しています。          http://bit.ly/1zeFbzl
  ―――――――――――――――――――――――――――

片岡剛士氏の最新著書.jpg
片岡 剛士氏の最新著書
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2014年12月29日

●「レジーム・チェンジは成功したか」(EJ第3945号)

 岩田規久男日銀副総裁は、2014年12月25日付、日本経
済新聞「経済教室」で次の論文を発表しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪経済教室≫
  量的・質的金融緩和の論点/『レジーム転換』が効果発揮
       ──2014年12月25日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 この論文は、12月26日付のEJ第3944号の内容に深く
関係しています。岩田副総裁は、この論文で「評価が分かれる3
つのポイント」について述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
≪第1のポイント≫
 ・政策レジームチェンジを重視するかどうかの違いである。
≪第2のポイント≫
 ・消費税率引き上げを外して物価上昇を考えることである。
≪第3のポイント≫
 ・金融政策が実体経済に影響するには相当な時間がかかる。
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1のポイントの「政策レジーム転換」について述べます。こ
れは、トーマス・サージェントニューヨーク大学教授やピーター
・テミンMIT教授が唱えるレジーム・チェンジの論に基づいて
います。岩田副総裁はこの理論の信奉者であり、アベノミクスの
金融政策はこれに基づいて行われています。岩田副総裁は、これ
について、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 レジームチェンジの視点からみようとしなければ、「予想(期
待)に働きかける」という政策効果の波及メカニズムは、その出
発点から否定されてしまう。レジームチェンジの視点からみた波
及メカニズムの出発点は、人々のデフレ予想(デフレマインド)
が緩やかなインフレ予想(インフレマインド)に変わることであ
る。 ──2014年12月25日付、日本経済新聞/経済教室
―――――――――――――――――――――――――――――
 「予想に働きかける」という以上、尋常なことでは人々はそう
思ってはくれないはずです。重要なことは本気度というか、不退
転の覚悟を示すことです。
 2013年度以降に安倍政権と日銀が何をやったかを振り返っ
てみると、まず、デフレから脱却するために、2年間で2%の物
価安定値目標を示し、その目標が達成できるまで追加金融緩和を
含め、あらゆることを実施すると宣言しています。
 目的は実質金利を下げることです。実質金利とは、名目金利か
ら期待(予想)インフレ率を引いたものですから、期待インフレ
率が上がれば上がるほど実質金利は低くなります。
 それでは、実際に期待インフレ率は上昇しているでしょうか。
結論からいうならば、それは間違いなく上がっているのです。添
付ファイルをご覧ください。これは、片岡剛士氏の本に出ている
グラフです。このグラフでは、次の4つの指標がグラフ化されて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.            予想インフレ率
    2.    ブレーク・イーブン・インフレ率
    3.    消費者物価指数/生鮮食品を除く
    4.消費者物価指数/食料・エネルギーを除く
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」の「予想インフレ率」は、内閣府「消費動向調査」で毎
月公表されています。「2」の「ブレーク・イーブン・インフレ
率」は、元本がインフレ率に応じて変動する物価連動債と、国債
との金利差から計算される値のことです。
 例えば、同じ期間の利回りが物価連動債で2%、国債が1%と
すると、差し引き1%の物価上昇が見込まれていることになるの
で、これを予想インフレ率とみなすのです。
 消費者物価指数とは、消費者にわたる段階でのモノ、サービス
価格の総合的な水準を示す指数です。一番多く使われるのは、天
候などの影響を受けやすい生鮮食品を除いた全国ベースでの指数
である「3」であり、それからさらに海外市況の動向で変化する
エネルギーを除いた「4」も使われます。
 添付ファイルを見ると、上記4つの指標がともに2013年1
月以降上昇しており、これについて、片岡剛士氏は次のようにコ
メントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、インフレ率の高まりが天候や海外市況の動向といった
非経済的・海外要因によるものではなく、金融政策の効果が作用
した結果であることを示唆しています。    ──片岡剛士著
              『日本経済はなぜ浮上しないのか
      /アベノミクス第2ステージへの論点』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 2013年のGDP成長に最も寄与したのは民間消費です。そ
れは、家計が保有する金融資産の動きを見ることによって知るこ
とができます。
 家計が保有する金融資産については、2013年に入って伸び
ており、2013年10〜12月期の前年比は5・9%増になっ
ています。家計が保有する金融資産の増加に寄与したのは、株式
・出資金、投資信託、保険・年金準備金です。これに大きく影響
を与えたのは、やはり株高と円安です。
 株高や円安は、家計が保有する金融資産の増加につながり、こ
れが2013年の民間消費を増加させる原動力になったことは確
かなことです。しかし、所得が増えたことによる民間消費への寄
与は、資産効果よりも小さいのです。つまり、一部の人の消費が
拡大したに過ぎないのです。今年のEJの配信は今日で終了しま
す。来年は1月5日から配信を開始します。どうか良いお年をお
迎えください。     ─── [検証!アベノミクス/27]

≪画像および関連情報≫
 ●立場の異なる2人の指揮者によるアベノミクスの評価
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ■高橋洋一・嘉悦大教授(経済政策)
   生活保護や年金といった問題の多くは、経済成長すれば解
  決する。経済要因の自殺も景気が良くなったら大幅に減る。
  お金持ちから貧しい人にお金を渡す所得再分配の問題は解決
  しにくいが、成長して全体のパイが大きくなるほど解決は簡
  単になる。格差が広がっても文句が出ないやり方が成長だ。
  日本の成長率は、ほぼ世界でビリだが、先進国の中で20位
  程度であれば簡単に達成できる。ただ、消費増税の悪影響は
  金融緩和の好影響を上回るので、税率を10%に再引き上げ
  すれば政策としては落第だ。
  ■橘木俊詔・京都女子大客員教授(経済政策)
   日本は少子高齢化で労働力不足と家計消費の減少が起きて
  おり、ゼロ成長がせいぜいである。『成長しないと中国にや
  られる』という批判もあるが、日本は成熟社会だから、これ
  以上の成長を求めなくていい。成長を求めるとますます長時
  間労働になり、エネルギーももっと使わないといけない。環
  境問題も深刻になる。成長の効果が、地方や中小企業に及ぶ
  『トリクルダウン』は日本では起こらないだろう。東京や大
  企業は潤うが、地方の中小企業が恩恵を受けるのは、遅くな
  る。それまでに大企業が息切れして縮小均衡に向かう。
                   http://bit.ly/1vBBItv
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/片岡剛士著の前掲書より

予想インフレ率/消費者物価指数の推移.jpg
予想インフレ率/消費者物価指数の推移
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2015年01月01日

●「新年ご挨拶/2015.1.1」

 EJ読者の皆様、明けましておめでとうございます。EJをい
つもご愛読いただき心より御礼申し上げます。本年もよろしくお
願いいたします。
 2014年のEJは、1月6日の第3703号から12月29
日の第3945号までの242本を営業日の毎日、一日も欠かさ
ず、お届けしました。その間、同じ内容のコンテンツをブログに
投稿しています。つまり、ブログは年に242回更新したことに
なります。2014年は次の4つのテーマについて書きましたが
現在執筆中の「検証!アベノミクス」についてはまだ未完です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.消費税増税を考える ・・・・・・・・・・・ 83回
 2.新自由主義の正体 ・・・・・・・・・・・・ 79回
 3.ビットコインについて考える ・・・・・・・ 53回
 4.検証!アベノミクス(未完) ・・・・・・・ 27回
                        242本
―――――――――――――――――――――――――――――
 今年のEJは毎日どのくらいの人に読まれたでしょうか。
 EJと同じコンテンツを掲載しているブログの毎日の来訪者数
の月平均数値の推移をとってみると次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪消費税増税を考える≫
             UU     PV    FW
    1月 ・・ 1911人  5847人 19048
    2月 ・・ 1789人  5156人 19177
    3月 ・・ 1726人  5311人 19306
    4月 ・・ 1703人  5283人 19542
    5月 ・・ 1842人  5436人 19628
 ≪新自由主義の正体≫
    6月 ・・ 1648人  5462人 19687
    7月 ・・ 1775人  6297人 19731
    8月 ・・ 1606人  5395人 19775
 ≪ビットコインについて考える≫
    9月 ・・ 1422人  5331人 19854
   10月 ・・ 1472人  4916人 19965
   11月 ・・ 1542人  5025人 20108
 ≪検証!アベノミクス≫
   12月 ・・ 1820人  5957人 20590
―――――――――――――――――――――――――――――
 「UU」は「ユニーク・ユーザー」といって、最新の記事を読
むためにブログを訪れた正味の数であり、毎日のUUの月平均数
値です。同じ人がもう一度ブログに訪れても「1」としかカウン
トしないのです。つまり、重複はカウント(1日単位)しない数
字です。
 「PV」は「ページビュー」といい、毎日のPVの月平均数値
です。「PV」の数字は、実際にブログを訪れた人の1日単位の
総数を表しています。これは重複訪問を含んだ数字です。
 UUはテーマによって影響を受けます。今年は「新自由主義の
正体」や「ビットコインについて考える」という専門的なテーマ
を取り上げているので、全体的な傾向として2013年よりも数
値は低くなっています。テーマによって、200人〜300人の
数値が動きます。
 それでも新規テーマの平均的訪問数は毎日「1700人」、ブ
ログへの訪問総数は毎日「5000回」は確保しています。1日
に5000回というと月間15万回、年間で180万回であり、
年間50万回のPVがあれば有力サイトといわれていますので、
プログとしては合格ラインに入っていると思います。昨年の暮れ
にはある企業から広告の申し入れもきており、EJブログもやっ
と広告対象サイトになりつつあるのかなと思っています。
 私は2010年1月4日からツイッターを開始し、毎日ツイー
トを配信してちょうど5年になります。こちらは土日祝日を含む
365日毎日発信しています。ツイッターでもEJブログへ誘導
しており、ブログのアクセス数と無関係ではないと思うので、今
年はフォロワーの数値を「FW」として示しておきます。
 フォロワーは2014年11月に2万人を突破し、現在順調に
伸びています。フォロワーは簡単にフォローをやめること、アン
フォローができるので、フォローする人の数がアンフォロー数よ
りも多くなければフォロワーの数は増えないのです。やった人は
わかりますが、なかなか増えないものです。それだけにメッセー
ジが瞬時に2万人に届く影響力は少なくないと考えています。
 今年のEJは、昨年の「ビットコインについて考える」のよう
な30〜50回のテーマを多くしていきたいと考えています。こ
のテーマは、あるロータリークラブから、演題自由の講演を依頼
されたのがきっかけで、取り上げたものです。
 テーマの後半になってから、楽天が海外での取引に採用したり
海外でビットコインやペイパルによる送金が増えてきたことから
日本の銀行の振込時間の延長の検討が進むなどの大きな変化につ
ながってきて、ブログのアクセス数が急に増えてきています。
 ビットコインについては、貨幣論に詳しい気鋭の英国エコノミ
スト、ライオントラスト・アセット・マネジメントパートナー兼
エコノミストであるフェリックス・マーチン氏のコメントを「画
像および関連情報」でご紹介します。
 ビットコインへの対応に関しては、日本が世界で一番遅れてい
ると思います。まだ円天などと一緒のように考えている人が多い
し、マウントゴックスの破綻によって、ビットコインは終わった
と思われています。しかし、海外では急速にビットコインは普及
しているのです。ビットコインが普及すると、金融機関は送金シ
ステムを中心に大きなダメージを受けます。そして、経済にも大
きなインパクトを与えることになります。
 EJは、2014年12月29日現在、第3945号に達して
います。あと55回で4000号です。到達日は、2015年3
月24日です。今年は、1月5日よりEJを配信します。本年も
EJをよろしくお願いいたします。

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコインについて/フェリックス・マーチン氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ビットコインには二つの側面があります。一つは、国家や中
  央銀行の発行によるものでない「民間通貨」という点です。
  同じイデオロギーの下に集まったグループが発行する民間通
  貨は歴史上、これまでにも数多くありました。ビットトコイ
  ンには、国家の金融制度にとらわれまいとするイデオロギー
  があります。ビットコインのような「暗号仮想貨幣」は、何
  ら問題なく流通し続けることができます。幅広い支持は得ら
  れなくても、存在を阻むものは皆無です。こうした「交換価
  値の自己増殖」、つまり、民問通貨の創造・流通の制御は不
  可能であり、通常は好ましくありません。民間通貨が国家の
  金融秩序に脅威をもたらしうるのは、国家の通貨と大々的に
  競合できる状況に限られます。たとえば超インフレなど、国
  家の通貨が本来の役割を果たせないときです。二つ目はビッ
  コインに組み込まれた支払いツール「分散型パブリックレジ
  ャー(公開台帳)」が新奇で、興味深い点です。この電子公
  開台帳には、ビットコイン使用者の信用履歴などが記録され
  ます。専門家によれば、「極めて廉価で安全、迅速で効率的
  な記録方法」です。ビットコインの問題点は、まず、匿名性
  がないこと。紙幣などが歴史的に大成功を収めた理由の一つ
  は、身元が明らかにならないことにあります。次に、非常に
  デフレ効果の高い貨幣本位制であることです。ハードコード
  (動作環境の決め打ち)によって、発行量が厳しく制限され
  ているからです。  ──「週刊東洋経済」新春合併特大号
  ―――――――――――――――――――――――――――

年賀状/2015年元旦.jpg
年賀状/2015年元旦
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2015年01月05日

●「どうして円安/株高になったのか」(EJ第3946号)

本号は今年はじめてのEJです。今年もEJをよろしくお願いい
たします。
 「アベノミクスをこのまま続けて良いか。信を問いたい」と安
倍首相は宣言して解散し、総選挙で勝利しています。しかし、ア
ベノミクスの方向性が正しいかどうかについては、エコノミスト
や学者によって意見が大きく異なります。したがって、安倍首相
に「これでいいのか」と問われても、国民としては正しい判断を
することは困難です。
 しかし、誰の目にも明らかなのは、民主党の野田政権のときよ
りも円安が進み、株価が上昇していることです。それは、安倍政
権が発足すると同時に起こっているのです。円安が進行すれば輸
出が増大し、株価が上がり、この状態が持続されれば、日本経済
は長く続いたデフレから脱却できるではないかと多くの人が感じ
たことは確かです。
 しかし、株価や為替レートはしばしば実体経済の動向から乖離
することがあります。ところで、このような文脈で「実体経済」
というときは、それは「ファンダメンタルズ」と呼ばれることが
多いのです。
 株価や為替レートは資産価値であり、何らかの予想というか期
待によって、将来への見通しが好転すると考えると、ファンダメ
ンダルズに何の変化もないにもかかわらず、その価値が上昇する
ことがあります。資産価値が上昇すると、需要が増加し、それに
投機的な取引が加わると、ファンダメンタルズに乖離した価格上
昇が続くことになります。つまり、バブルの発生です。
 確かに、将来の資産価値の見通しを大きく変化させる「期待」
を多くの人に抱かせた人物がいます。それは、2012年11月
13日に自民党総裁になったばかりの安倍晋三氏の発言です。こ
れについては、12月24日のEJ第3942号に書きましたが
再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 自民党が政権をとった暁には、2%〜3%のインフレターゲッ
トを設けて、円高是正、デフレ脱却ができる政策を総動員する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは「日銀を変える」というメッセージでもあるのです。な
ぜなら、インフレターゲットを設けるということは、基本的には
日銀が大量に通貨を発行して、日本国債を大量に購入することを
意味しています。日銀がマネタリーベースを劇的に増やせば、円
の価値が下落するので、物価上昇=インフレが起こるからです。
 それに、その頃から自民党幹部から「日銀法改正」の発言が相
次いだのです。これによって、投資家は自民党がもし政権を取れ
ば、リフレ派の日銀総裁が誕生し、インフレ目標が設定され、相
当規模の金融緩和が行われることは容易に予想できたのです。そ
れなら、株とドルを安いうちに購入しようと考える投資家があら
われても当然です。
 もっともこの時点では、解散総選挙がいつ行われるかはわから
なかったのですが、いずれ近いうちに選挙があることは予想され
ていたのです。そしてもし総選挙になれば、自民党が勝利するこ
とは誰の目にも明らかであったのです。そういうわけで、実際に
安倍首相の発言直後から、実際に円安が進み、株価が向上しはじ
めたのです。
 実際の数字を正確にチェックしてみます。添付ファイルの「円
安・株高の推移」を見てください。2012年11月14日から
2013年11月14日までの動きを見ると、ドル/円は25%
の円安、株価は実に72%も上昇しています。
 貿易相手国の物価の変化の違いを考慮した実効為替レートでみ
ると、2012年11月から2013年12月までの1年間で、
22%の円安が進行していますが、この間の下落率は主要国のな
かで突出しています。
 ちなみに、リーマンショックが生ずる前の2008年8月から
2012年10月までの4年間では21%の円高が進んでいたの
ですが、安倍総裁就任後の2012年11月からの1年間で、そ
の円高は打ち消されたことになります。
 株価に関しては、「買い越し」と「売り越し」について知って
おく必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   株式の買いが売りを上回る状態 ・・・ 買い越し
   株式の売りが買いを上回る状態 ・・・ 売り越し
―――――――――――――――――――――――――――――
 買い越しが進めば、株価には上昇圧力が働き、売り越しが進め
ば、株価には下落圧力がかかります。2012年1月の外国人投
資家の買い越し額は1586億円でしたが、11月以降に大幅に
増加して、2013年4月は2兆円を超えています。これは、海
外投資家の買い越しが株価上昇に大きく貢献したことを意味して
いるのです。これは日銀がデフレ脱却に向けて本格的なレジーム
チェンジをはじめたものと受け止められ、海外投資家の積極的な
買いを呼んで、株価の上昇に結びついたのです。
 ところで、期待(予想)インフレ率を上げることは、実質金利
を下げ、企業が投資しやすい環境を作ることにつながるはずです
が、実際に実質金利は下がっているでしょうか。
 添付ファイルの下のグラフ「予想実質金利の推移」を見てくだ
さい。このグラフは、片岡剛士氏が既存研究を参照して2000
年以降の予想実質金利を推計したものですが、これをみると20
13年に入り、予想実質金利は急速に低下が進んで、直近時点で
の予想実質金利は、2000年以降で最低レベルに下がっている
ことがわかります。
 しかし、予想実質金利が下がってはいるものの、肝心の企業の
設備投資の動きは緩慢なのです。これは、製造業の設備投資が、
2013年以降低迷しているからです。これは、製造業が長引い
たデフレや円高に対応するため、海外に拠点を移すなどして生き
残ってきたため、予想実質金利が下がっても国内生産にすぐには
シフトできないのです。 ─── [検証!アベノミクス/28]

≪画像および関連情報≫
 ●「円安株高の本当の原因は何か」/プレジデントオンライン
  ―――――――――――――――――――――――――――
  プロと称される市場関係者の目は、衆議院の解散から安倍政
  権発足以降の円安株高に対して意外と冷ややかだったのでは
  ないか。不思議なもので、お金でお金を生むエゲツない世界
  にいながらも、ディーラーというのは、相場そのものに対し
  ては畏敬の念に似た感覚を抱いている。それは人智を超えた
  何かを感じるからなのだが、安倍首相が「私の発言によって
  円安となり株高になった」と語ったことで相場参加者は引い
  てしまったのではなかろうか。気分が高揚しすぎて勇み足に
  なっている、といった指摘も見られたが、市場へのリスペク
  トを欠いた口上はやはり国際金融取引の最前線近くにいる人
  ほど受け容れ難いのだろう。中央銀行の役目であって、一国
  の首相の役割ではないとおっしゃるかもしれないが、各国当
  局が市場との対話を重視しているように、せっかくであれば
  国際金融市場の参加者をも味方につけたほうが、安倍首相の
  今後の政策運営もぐっと楽になるはず。使えるものは何でも
  有効に使えばよいわけで、不用意なコメントはいかにも勿体
  ないと思ってしまうのだ。冷ややかな反応の裏には、今回の
  円安株高が本当にアベノミクスだけでもたらされたのか、と
  いう疑問がある。         http://bit.ly/13OklOx
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/片岡剛士著、『日本経済はなぜ浮上しないのか
  /アベノミクス第2ステージへの論点』/幻冬舎刊

円安・株高の進展/予想実質金利の推移.jpg
円安・株高の進展/予想実質金利の推移
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2015年01月06日

●「金融政策は『まじない』ではない」(EJ第3947号)

 2013年8月28日のことです。岩田日銀副総裁は、京都商
工会議所で次の講演を行っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「『量的質的金融緩和』のトランスミッション・メカニズム
 ──『第一の矢』の考え方」  ──岩田規久男日銀副総裁
                  http://bit.ly/1Bv0gIn
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍政権の進めるアベノミクスは、この講演で述べられている
岩田理論に基づいています。岩田氏は、この講演において、次の
2つのことを述べていますが、それはアベノミクスにおける「第
1の矢」の効果を強調しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.日銀が大量の通貨の供給を続けると、人々は物価が上が
   ると考えるので、予想インフレ率が上昇する。そうする
   と、予想実質金利が低下するので、企業は設備投資を増
   加させるので、景気浮揚の力が働く。
 2.予想インフレ率が上昇すると、それは予想実質金利を引
   き下げることになる。そうすると、それは手持ちの資産
   の価値を増加させることになるので、それによって消費
   支出が増大し、景気浮揚の力が働く。
―――――――――――――――――――――――――――――
 岩田副総裁は、企業が設備投資を増やしたり、人々が消費支出
を増大させるには実質金利が下がることが必要であることを強調
し、そのためには、人々の「期待」に働きかけて予想インフレ率
を高める必要があるというのです。この「人々の期待に働きかけ
る」ということについて、岩田氏は、次のように話しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「人々の期待に働きかける」という私の説明を聞いて、『おま
じないのような話』だと思われた方もいらっしゃるかも知れませ
ん。しかし、金融政策というのは、本来「人々の期待に働きかけ
ること」を通じてその効果を発揮するものなのです。過去15年
近く続くデフレの中で定着してしまったデフレ予想を「緩やかで
安定的なインフレの方向」に変えていくことが、私たちが現在取
り組んでいる金融緩和政策の、最も重要なポイントだというのが
私の考えです。──岩田日銀副総裁の講演より/『』部分は筆者
―――――――――――――――――――――――――――――
 アベノミクスに対しては、多くの懐疑派というか否定派の学者
がたくさんいます。その筆頭ともいうべき学者の一人に京都大学
名誉教授の伊東光晴氏の存在があります。伊東教授は岩田日銀副
総裁がこの講演で金融政策が『おまじないのような話』と述べた
ことを重視し、次のように批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この波及経路を明言した日銀副総裁岩田規久男氏は、金融政策
は、人々の期待に働きかけるもので、おまじないのように思われ
るかもしれないとも言っている。日銀の政策がそのようなもので
あることを、私ははじめて聞いた。ケインズ理論が登場し、財政
政策や有効需要政策が前面に出るまで、金融政策は、経済政策の
中心であり、確たるものであり、決して、おまじないのようなも
のではない。このような不確かな理論にもとづく政策の登場は、
レーガノミクスと同じである。(中略)アベノミクスもレーガノ
ミクスと同じ推測にもとずく人々の行動を前提としており、実証
に欠け、無理論の上に立つものという点では同様である。
                      ──伊東光晴著
      『アベノミクス批判/4本の矢を折る』/岩波書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 伊東教授は岩田氏のいう政策の波及経路は、すべてあやふやな
ものであって、実証されていないと批判しています。「物価が上
がるだろう」はあくまで「だろう」であって「上がる」ではない
というのです。そして、「供給過剰な社会で物価が上がることは
ない」と断言しています。
 そして伊東教授は、利子率が下がったときに投資が増えるか否
かを検証したものとしては「オックスフォード調査」があるのに
岩田氏はそれを無視しているといっています。
 本来「利子率低下が投資を増加させる」と説いたのは新古典派
であり、ケインズはこれを受け入れましたが、実証が必要である
と考えていたといいます。この検証をしたのが「オックスフォー
ド調査」であり、1930年代に行われたのです。その調査結果
は次のようなものであったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 調査の結果は次のようなものである。利子率について言えば、
長期利子率が低下しても投資に直接影響はない。「長期利子率」
の低下は債券価格を引き上げるけれども」というものであった。
                ──伊東光晴著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、経済学の考え方は千差万別です。この世界では、Aと
いう学説とBという学説の内容がまったく逆のものであっても両
方とも成り立ってしまうのです。自然科学のように、白黒つけら
れない世界であるともいえます。
 アベノミクスが正しいか間違っているかは別にして、現実に円
安と株価上昇は起きています。しかし、伊東教授はアベノミクス
の批判書を上梓した理由について、「週刊ダイヤモンド」新春合
併特大号で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 株価上昇や円安は、安倍政権の経済政策とは無関係だ。それを
明らかにするのが、1つの目的である。第2に、人口減少の影響
を考慮した、マクロ分析による政策科学で論ずることである。こ
れが本書の理論的な新しさだと思う。     ──伊東光晴氏
          「週刊ダイヤモンド」新春合併特大号より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/29]

≪画像および関連情報≫
 ●『アベノミクス批判──四本の矢を折る』書評
  ―――――――――――――――――――――――――――
  伊東光晴は、『ケインズ』(岩波新書)の翻訳もあり、長き
  にわたる雑誌『世界』の論客であるが、そのためか、「岩波
  文化を代表する」などと形容されることもあるようだ。「岩
  波文化の凋落」などと、本書を批判しているレビュアーもあ
  るが、だいたい、「岩波文化」などと言うこと自体、歳がわ
  かる(笑)。かつてそのようなものがあったとしても、その
  ようなものは、とっくに凋落していて、なにも本書とは関係
  がない。まっとうな(資料を駆使して、科学的に分析するス
  タイルの)経済学者ではあるが、本書は、経済学ばかりの本
  ではない。「アベノミクス」という、知識のない庶民、ある
  いは、あってもテキトーな政治家向けの、便利な言葉の胡散
  臭さを、とくに、「アベノミクスの三本の矢」(金融政策、
  国土強靱化政策、成長政策)という経済政策がいかに「不可
  能か」を実証的に分析しかつ、「隠された四本目の矢」をあ
  ぶり出すものである。四本目の矢というのは、ズバリ、憲法
  改正である。氏に言わせると、自民党内の右派は、中曽根、
  小泉、安倍。リベラルは、田中角栄、池田勇人、大平正芳で
  ある。そして、小泉は、「戦術上靖国参拝を利用した」。し
  かし、安倍は、心から靖国に祀られているA級戦犯を尊敬し
  ているゆえに、靖国に参拝した。そういうことをありがたが
  る右翼の年寄りは、どんどん死んでいくが、だが、大丈夫、
  ネット界、出版界には、新しい右翼が育っている(合掌)。
                  http://amba.to/1DiW7IV
  ―――――――――――――――――――――――――――

伊東光晴京都大学名誉教授jpg.jpg
伊東 光晴京都大学名誉教授
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2015年01月07日

●「円安株高はアベノミクスと無関係」(EJ第3948号)

 アベノミクスについて書いた本はたくさんあります。このテー
マを書くとき、どの本を選ぶか迷ったのです。そこで、ジュンク
堂池袋店に行き、椅子に座って時間をかけて本を選択した結果、
次の3冊を中心にして書くことにしたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.片岡剛士著/『日本経済はなぜ浮上しないのか/アベノミ
   クス第2ステージへの論点』/幻冬舎刊
 2.伊東光晴著/『アベノミクス批判/四本の矢を折る』
   /岩波書店刊
 3.服部茂幸著/『アベノミクスの終焉』/岩波新書1495
―――――――――――――――――――――――――――――
 アベノミクスに関する書籍は、アベノミクスを肯定的に受け止
めるものと批判的にとらえるものに分けられます。タイトルを見
てもわかるように、「2」と「3」は後者です。それも「2」は
アベノミクスというよりも安倍政権を明確に批判しているのに対
し、「3」はアベノミクスを「日銀と政府の物語」としてとらえ
それに騙されてはいけないと説いています。つまり、批判本です
が、感情的に批判しているわけではないのです。
 アベノミクスを肯定的にとらえる本はたくさんあります。その
なかにあって「1」は、あくまで豊富な実証データに基づいてア
ベノミクスを客観的に検証している点が好感が持てます。そして
その方向性の正しいことは認めています。ここまでのEJの記述
は、主として「1」に準拠しています。
 これら3冊の本には「消費税増税」について際立った違いがあ
ります。それは、「1」と「2」が消費税増税についてはほとん
ど言及していないのに対し、「3」は2つの章を設けてその悪影
響について述べています。つまり、「3」は、アベノミクスの方
向性については是とするものの、消費税増税は余計であり、延期
すべきであると説いています。
 偶然ですが、「1」と「2」の著者──伊東氏と服部氏はいず
れも京都大学の出身であり、「3」の片岡氏は慶応義塾大学商学
部の出身です。年齢的には伊東氏は88歳、京都大学名誉教授で
あり、雑誌『世界』の論客の一人です。服部氏は50歳台であり
現在福井県立大学経済学部教授です。これに対し、片岡氏は40
歳台で、三菱UFJリサーチ&コンサルティング経済・社会政策
部主任研究員です。
 これら3氏の所論を参考にしながら、アベノミクスを検証して
いくことにします。第1次安倍政権が発足したときからアベノミ
クスがスタートしたと考えると、アベノミクスは、丸2年が経過
したことになります。
 しかし、2013年と2014年は、状況はまるで異なるので
す。2013年は、アベノミクスの成否がそのままあらわれた年
ですが、2014年は、4月に消費税増税が行われており、増税
のダメージがモロにあらわれた年であるからです。
 消費税増税は、アベノミクスがはじまる前にその実施が決まっ
ており、常識的に経済政策としては、増税をアベノミクスに含め
て考えるべきではないのです。本来であれば、安倍首相は経済弾
力条項を使って3%の増税こそ延期すべきだったのです。
 しかし、法律通りに3%の増税を決断したことによって、1〜
3月の駆け込み需要と、4〜6月の実質GDP成長率の大幅な落
ち込み、7〜9月期と10〜12月期のマイナス成長と、アベノ
ミクスは表面上は失敗に終わっています。しかし、円安と株高は
10月の追加緩和もあって、2014年も大きく伸びています。
 したがって、アベノミクスを批判的にとらえる向きは、消費税
増税を含めてとらえますが、真にアベノミクスの成果を検証する
には、2013年の成果を中心に見るべきです。
 伊東光晴氏は、2013年の円安と株高はアベノミクスには関
係がないと次のように断言しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 株価上昇も円安も安倍政権の経済政策がもたらしたものであろ
うか。財政出動一つをとって見てもよい。安倍政権の三本の失の
うちの一つ、人からコンクリート、つまり南海トラフ地震の被害
予想220兆円と、首都直下型地震の被害予想112兆円のため
の対策費、10年間で200兆円の公共投資、国土強靭化政策は
いまだ動いていない。私は株価の上昇も円安も別の要因に基づく
ものであると断言できる。          ──伊東光晴著
      『アベノミクス批判/4本の矢を折る』/岩波書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 伊東氏は、株価については、2012年11月13日から上昇
に転じ、2013年5月7日には1万4180円になり、リーマ
ンショック前の水準に達していますが、黒田東彦氏が日銀総裁に
就任したのは2013年3月20日のことであり、異次元金融緩
和を宣言した金融政策決定会合は4月4日のことなのです。つま
り、政策が決定するはるか以前から、株価の上昇は起こっている
と伊東氏は主張しています。
 服部茂幸氏も伊東光晴氏とほぼ同主旨のことを次のように自著
で述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 リフレ派の主張にしたがい、安倍晋三首相がデフレ脱却のため
に日銀による無制限の金融緩和を訴えたのは首相になる前の12
年11月のことだった。直ちに株価上昇と円安が進行した。13
年3月にはリフレ派の黒田東彦が日銀総裁、岩田規久男が日銀副
総裁に就任した。4月にはリフレ派の主張にそって、異次元緩和
が始まった。(中略)皮肉なことに、異次元緩和が始まると、日
本経済は失速した。きっかけは5月23日の株価大暴落である。
その後時期によって多少の違いはあるが、全体的には株価上昇も
円安もストップした。13年後半の経済成長率も低迷している。
 ──服部茂幸著/『アベノミクスの終焉』/岩波新書1495
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/30]

≪画像および関連情報≫
 ●高度成長期の幻想にとらわれる安倍首相/浜 矩子氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「安倍政権の経済政策はアベノミクスではなく、『アホノミ
  クス』です」。浜氏は挑戦的な言葉でこう切り出したうえで
  「問題点は大きく分け3つあります。それは、@『成長』に
  とらわれすぎている点、A人間に対する関心が少ない点、B
  金融政策がお粗末な点です」と指摘した。「成長」にとらわ
  れすぎているとは、いったいどういうことだろうか。浜氏は
  次のように表現する。
  「アベノミクスは、高度成長期の幻想にとらわれすぎている
  のです。今の日本経済の問題は、成長がないことではなく、
  むしろ再分配がうまくいっていないこと。つまり、貧困・格
  差こそが、一番の政治的課題なのです。日本の『相対的貧困
  率』は16%(2009年)ですが、我々のような洗練され
  た経済環境にある国家にとって、この数字は高すぎます。た
  とえばデンマークは6%(2010年)程度です」。ここで
  浜氏が指摘している「相対的貧困率」とは、国内の所得格差
  に注目する指標で、国民の所得中央値の半分以下の所得しか
  ない人の割合だ。OECDによると2010年のOECD平
  均が11・1%、アメリカは17・4%、フランスは7・9
  %となっている。         http://bit.ly/13S9Vx6
  ―――――――――――――――――――――――――――

服部茂幸福井県立大学経済学部教授.jpg
服部 茂幸福井県立大学経済学部教授
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2015年01月08日

●「円安/株高は偽薬効果ではないか」(EJ第3949号)

 2012年12月26日に安倍政権が発足してから、少なくと
も2013年5月までは、株価は上昇し、急ピッチに円安が進ん
だことは確かな事実です。
 日本といえばデフレの国と思われていただけに、この日本の円
安/株高の動きは、世界に大きな驚きで受け止められたのです。
英誌「ザ・エコノミスト」は、その5月18日〜23日号の表紙
で、スーパーマンに扮した安倍首相を取り上げ、コミカルな表現
ではあるものの、次のように驚きを表明しています。添付ファイ
ルをご覧ください。
―――――――――――――――――――――――――――――
   Is it a bird ? Is it a plane ? It is JAPAN !
    「鳥か?、飛行機か?、いや・・・日本だ!」
  「彼の計画が半分しか成功しなくても、彼は偉大な首相
   として数えられるだろう」
    「The Economist」/2013年5月18〜24日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ザ・エコノミスト」誌だけではないのです。米国の外交専門
誌「フォーリン・アフェアーズ」は、2013年5月16日に安
倍首相のインタビューをウェブサイト上に掲載し、次のように評
価しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 首相復帰当初は、投資家や有識者を心配させた。だが、安倍首
相はすぐに日本経済復興のための野心的なキャンペーンに着手し
た。およそ半年が経って、彼の努力は成果が出つつあるようだ。
             ──「フォーリン・アフェアーズ」
―――――――――――――――――――――――――――――
 米ニューヨーク・タイムズと香港の「サウス・チャイナ・モー
ニング・ポスト」は、やや批判的に次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
◎「ニューヨーク・タイムズ」/5月20日付
 アベノミクスによって多くの日本人は、物価が上がりだしたに
もかかわらず、賃金は下がる一方だと不満を漏らしている。
◎香港のサウス・チャイナ・モーニング・ポスト/5月17日付
 最近は北アジアの隣国との関係は冷え込んでいるが、国際投資
家にとっては、安倍首相はスターだ。いずれにせよ、金融政策だ
けでは日本の問題は解決できない。安倍首相の2本目、3本目の
矢が的に当たらないという心配がある。
―――――――――――――――――――――――――――――
 大胆な金融緩和や財政出動が株価上昇と円安につながった──
これはメディアも伝えているし、アベノミクスの批判者も認めて
いる事実ですが、伊東光晴氏と服部茂幸氏はそれすらもアベノミ
クスとは関係ないといっているのです。
 なぜなら、円安と株価上昇の兆しは安倍政権がはじまる以前か
ら起きており、皮肉なことに黒田氏が日銀総裁に就任して、異次
元緩和をはじめたとたんにそれがストップしているからです。
 それなら、なぜ円安/株価は起きたのでしょうか。
 これについて、服部茂幸氏は「偽薬(プラシーボ)効果」とい
う言葉を使って次のように説明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 初期の段階での円安と株価上昇の原因も改めて考え直す必要が
あろう。円安は2012年秋から徐々に進行していた。その背景
には、アメリカとヨーロッパの経済情勢の改善という外的要因も
あったといわれている。それでも、12年11月の安倍の発言が
円安と株価上昇を加速させたことは事実である。
 けれども、異次元緩和の効果、特に予想に働きかけるという効
果は、偽薬効果であるという主張がある。偉い医者がよく効く薬
だと偽って、薬でないものを患者に与えても、患者がよく効く薬
だと信じていると、本当に病気が治ることがある。そこまでいか
なくても、症状が改善することがある。これが偽薬効果である。
 ──服部茂幸著/『アベノミクスの終焉』/岩波新書1495
―――――――――――――――――――――――――――――
 この偽薬効果と関連するものに有名な「ケインズの美人投票」
があります。ここでいう美人投票は、一番得票の多い女性を選ん
だ投票者には賞金が与えられることになっています。
 美人かどうかの判断は、本来それぞれ個人の好みで決まります
が、この場合、賞金を勝ち取るためには、自分の好みではなく、
投票者の好みを推測して投票することになります。
 アベノミクスも美人投票と同じなのです。株式や外貨の投機で
利益を得ようとすれば、アベノミクスが経済政策として正しいか
どうかではなく、他の投資家がアベノミクスをどのように捉えて
行動するかを推測して投資判断を決める必要があります。この場
合、本当はアベノミクス自体に効果がなくても、投資家が効果が
あると思い込めば、株価上昇と円安が生ずるのです。このように
アベノミクスの最初の6ヶ月は、偽薬効果であると服部氏はいう
のです。
 このほか、アベノミクスの最初の6ヶ月の成功は、ハネムーン
といってよいほどのさまざまな幸運が重なった結果であると主張
する人がいます。バランスシート不況論の野村総合研究所チーフ
・エコノミストのリチャード・クー氏です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 実際にアベノミクスが2012年の年末に始まってからの最初
の5ヶ月カ月は、ハネムーンと呼べるくらい多くの幸運が重なっ
て日本経済の風景が大きく変わることになった。このハネムーン
は2013年5月には終わったが、まだこの経済政策には多くの
重要な可能性が残されており、それらを活かすことができれば、
日本は本当に20数年来のバランスシート不況とその後遺症から
脱却できると思われる。       ──リチャード・クー著
       『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/31]

≪画像および関連情報≫
 ●『アベノミクスの終焉』書評/根井雅弘京大教授
  ―――――――――――――――――――――――――――
  アベノミクスは、ここにきて当初の期待感とは違って、それ
  に対する批判的な論調が目立つようになった。著者は以前か
  らアベノミクスに批判的な言論活動をしてきたが、本書は、
  タイトルに表れているように、それに引導を渡そうとする野
  心作だ。著者は、アベノミクスの三本の矢をひとつずつ総括
  していく。第一の異次元緩和(量的・質的金融緩和)につい
  ては、一時政府や日銀によってその効果(株価上昇と円安)
  が大々的に宣伝されてきた。だが、著者によれば、低迷する
  経済を実際に支えていたのは、政府支出、民間住宅投資、耐
  久財消費であり、しかも政府支出以外は消費税増税前の駆け
  込み需要によるところが大きい。つまり、日銀の異次元緩和
  とは関係がないという。第二の矢、つまり政府支出が確かに
  効果を発揮したことは著者も認める。しかし、財政主導型の
  経済回復が建設業に偏っていては、これから本当に重要な医
  療、福祉、教育の分野での政府支出が犠牲にされている。し
  かも、一部の論者が言うように、異次元緩和が財政ファイナ
  ンスを目的にしていると疑われるならば中長期的には問題に
  なるだろう。第三の矢は成長戦略なのだが、よくいわれると
  ころの「トリクルダウン」(企業の利益増大が賃金上昇に結
  びつく)効果は生じていない。   http://bit.ly/1yvTBA1
  ―――――――――――――――――――――――――――

安倍首相を取り上げた英誌「ザ・エコノミスト」.jpg
安倍首相を取り上げた英誌「ザ・エコノミスト」
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2015年01月09日

●「アベノミクスのメカニズムを解明」(EJ第3950号)

 アベノミクスの最初の6ヶ月について、リチャード・クー氏は
「ハネムーンと呼べるくらい多くの幸運が重なった結果」と述べ
ていますが、具体的にはどういうことでしょうか。
 現象的には、日本経済の雰囲気が変わったことです。今まで重
苦しく空を覆っていた雲がなくなり、何となく明るい日ざしが見
えてきたというところでしょうか。これを否定する人はあまりい
ないと思います。民主党政権のときの経済政策があまりにもお粗
末だったからです。
 このハネムーンについて、東京財団上席研究員の原田泰早稲田
大学政治経済学術院教授は次のように表現しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 円が下落し、企業の採算が好転し、株価が上昇している。生産
も増加している。雇用も拡大し、失業率は低下し、有効求人倍率
も上昇している。消費も民間企業設備投資も拡大している。消費
者物価上昇率も1%を超え、日本はデフレから脱却しつつある。
予想物価上昇率も上昇している。ただし、輸出数量は円安にもか
かわらず伸びていない。            ──原田泰著
   『日本を救ったリフレ派経済学』/日本経済新聞出版社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 リチャード・クー氏によると、この円安/株高を演出したのは
日本の投資家ではなく、海外の投資家だったことです。数値とし
ては次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ◎2012年12月〜2013年10月の期間
   ・外国人投資家 ・・・ 12・2兆円の買い越し
   ・日本人投資家 ・・・  5・3兆円の売り越し
   ・日本金融機関 ・・・  6・5兆円の売り越し
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは何を意味しているのでしょうか。
 ここで海外の投資家というのはニューヨークのヘッジファンド
のことですが、安倍首相のアベノミクスの宣言を聞いて巨額の資
金を日本に持ち込み、円を売って日本株を購入したのです。円安
/株高になるのは当然です。
 しかし、日本経済を熟知している国内の投資家や機関投資家の
大半はそれに乗らず、国内の債券市場にずっととどまっていたの
です。つまり、行動を変えなかったわけです。なぜ、行動を変え
なかったかといえば、彼らは日銀が金融緩和をいくらしてもイン
フレにはならないことを知っていたからです。
 こうした国内投資家たちの行動は、外国投資家たちを利するこ
とになったのです。なぜなら、日本の機関投資家たちが債券市場
にとどまっていてくれたおかげで、長期金利が上がらなかったか
らです。だから、外国人投資家たちは安心して円を売り、日本株
を買うことができたのです。
 しかし、少しずつ雰囲気が変わり始めます。それは国内の個人
投資家が参入してきたからです。そういう気持ちにさせたのは、
ワイドショーにおける経済評論家たちのあおりです。クー氏はこ
れについて次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 テレビのワイドショーでも、もしかしたらインフレになるぞと
いう声が出てきたのである。ウソも100回言えば人は信じると
言った人がいるが、あれだけマスコミがインフレになるかも知れ
ないと言い出すと、人々のマインドももしかしたらという発想に
なってくる。その意味で、アベノミクスのハネムーンで人々のマ
インドが変わるという効果は間違いなくあった。ワイドショー効
果と言うべきか、そういうものは確かにあったのである。これは
日本経済にとって顕著な変化であったと言えよう。
                  ──リチャード・クー著
       『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 その当時10年国債の利回りは0・8%です。もし黒田日銀総
裁がいうようにインフレ率が2%になったら、いやなるかもしれ
ないと思ったら、利回りが0・8%しかない10年国債は暴落す
ることになります。2013年4月に黒田東彦氏が日銀総裁に就
任するまでの約3ヶ月の間に国内の機関投資家たちは「もしかす
ると、本当にインフレになるかも」と考えはじめたのです。
 そこに飛び出したのが、黒田日銀総裁の異次元金融緩和発言で
す。このタイミングで国内の投資家たちも一挙に国債の大量売り
を仕掛けたのです。そのため、当時0・3%台まで低下していた
長期金利が一気に1%にまで跳ね上がったのです。
 そうなると、外国人投資家たちも株と為替相場の調整を強いら
れるようになり、円を買って日本株を売る展開になったのです。
そのため、当時「1ドル=103円」まで進んでいた円安が90
円台の円高になり、株も20%程度下落したのです。これが5月
の日経平均の暴落です。
 この5月の日経平均の暴落は、当時のバーナンキ米FRB議長
が2012年9月から導入した金融緩和(QE3)を縮小すると
発言したのが原因といわれていたのですが、それだけが原因では
なく、それまで動かなかった債券市場が反応しはじめたことの影
響が大きかったのです。
 それでは、なぜ、当初日本の機関投資家たちがインフレにはな
らないと判断して債券市場にとどっていたかというと、日本では
日銀がいくら金融緩和して金融機関の日銀当座預金に資金を積み
上げても、企業からの資金需要がなく、マネーストック(マネー
サプライ)は増えないことを知っていたからです。つまり、マネ
タリーベースがいくら増えても、マネーストックは増加しないこ
とを熟知していたからです。
 このことに関しては反論もあります。マネーストックは着実に
増えているという意見があることです。これに関する議論は、来
週のEJで論ずることにします。
            ─── [検証!アベノミクス/32]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の機関投資家が動かなかった理由/リチャード・クー氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  現時点で日本の民間が貯蓄しているGDP比8%の貯蓄のか
  なりの部分が金融機関に入ってくるが、これを国内で運用し
  ようとしても民間に借り手がいない。国内で唯一おカネを借
  りているのが財政赤字を出している政府であり、そうなると
  彼らも民間に借り手がいないなかで国債を買うことになる。
  日本の投資家はこのような行動を20年間も強いられてきた
  のである。彼らにしてみれば、日銀が量的緩和を再開して、
  今度はスピードを速めて大胆にやると言ったところで、民間
  に借り手がいなければ、この種の金融緩和はマネーサプライ
  を増やすことができず、またマネーサプライを増やすことが
  できなければ景気が良くなる理由もないことをよく知ってい
  るのである。金融媛和が効くためには、マネーサプライが伸
  びなければいけないが、マネーサプライが伸びるには、お力
  ネを借りる人がいなければいけない。ところが、おカネを借
  りる人がいない日本では、どんなに日銀が量的緩和で流動性
  を供給しても、その資金は銀行から外へ出られず、そこで止
  まってしまうことになる。このように貨幣乗数が限界的にゼ
  ロかマイナスの状態ではマネーサプライは増えない。マネー
  サプライが増えなければ、景気が良くなる理由はないしイン
  フレが加速する理由もない。
            ──リチャード・クー著の前掲書より
  ―――――――――――――――――――――――――――

原田泰著/『日本を救ったリフレ派経済学』.jpg
原田 泰著/『日本を救ったリフレ派経済学』
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2015年01月13日

●「アベノミクスの実体経済への影響」(EJ第3951号)

 2013年の実質GDP成長率を四半期ごとにその推移を見て
いきます。添付ファイルをご覧ください。四半期ごとの実質GD
P成長率は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1〜 3月期 ・・・・  5・1%
      4〜 6月期 ・・・・  3・4%
      7〜 9月期 ・・・・  1・8%
     10〜12月期 ・・・・ −0・5%
     ──片岡剛士著/『日本経済はなぜ浮上しないのか/
       アベノミクス第2ステージへの論点』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 1〜3月期は5・1%、4〜6月期は3・4%と高率で推移し
ていますが、これに貢献しているのは、民間消費、公共投資、輸
出です。2013年全体の実質GDP成長率は1・5%ですが、
これを支えたのは、年前半の成長率であるといえます。しかし、
これは、日銀の異次元緩和のはじまる前のことです。
 民間消費支出が伸びたのは、家計が保有する金融資産が伸びた
ことが原因です。2013年10〜12月期の金融資産の伸びは
対前年5・9%と高率に伸びているからです。この金融資産残高
の増加に貢献したのは、株式・出資金、投資信託、保険・年金準
備などです。この消費支出の中身について、片岡剛士氏は、自著
で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 円安や株高は家計が保有する金融資産残高の増加につながり、
それが2013年の民間消費を増加させる原動力となったという
ことです。他方で所得効果による民間消費への寄与は、資産効果
よりも小さいことがわかります。筆者の推計結果によれば、20
13年の民間消費の増加の8割が資産効果に基づくものであり、
残り2割が所得効果によるものです。(中略)
 名目家計消費支出の前年比と世帯主の年齢階級別・所得階層別
消費の寄与度をみると、世帯主の年齢階級別では、40歳以上、
所得階層別では上位20%層(第5分位)が主に消費を増やして
いることがわかります。逆にいえば、世帯主の年齢が39歳未満
の年齢の若い世帯や低所得世帯の消費はあまり増えていないとい
うことです。          ──片岡剛士著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、伸びた民間消費支出の中身は、円安/株高で資産価
格が上がって儲けた富裕層が、ハンドバッグ、アクセサリー、宝
飾品、高級時計などの奢侈品の消費を伸ばしている──高額消費
額の百貨店の販売高の推移を分析した結果がそうなっています。
このように2013年の消費支出の増加は、幅広い年齢層・所得
階層には及んでいないのです。この層が伸びないと、実体経済が
改善したとはいえないのです。
 さて、企業の設備投資はどのように動いたのでしょうか。
 既に1月5日のEJ第3946号で、予想実質金利は2000
年以降では、最低レベルの水準まで大きく低下していることを確
認しています。そうであれば、設備投資は伸びていなければなら
ないのですが、どうなっているのでしょうか。
 結論からいうならば、設備投資はとても伸びているとは、いえ
ないのです。設備投資は2000年以降、平均60兆円台で低迷
しています。ソフトウェアを除く全産業の四半期ごとの伸び率を
示すと、次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1〜 3月期 ・・・・  0・2%
      4〜 6月期 ・・・・  2・6%
      7〜 9月期 ・・・・ −0・2%
     10〜12月期 ・・・・ −0・3%
                ──片岡剛士著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 本来であれば、予想実質金利の低下や円安/株高は、設備投資
を拡大させる要因なのですが、2013年の設備投資の増加は、
非製造業が中心であって、製造業は伸びていないのです。これが
全産業の設備投資の伸びが低くなっている原因です。
 製造業は、長引くデフレと円高に対応して海外に拠点を移すな
どしてして生き残ってきており、アベノミクスによって急に円安
/株高が進んだからといって、直ちに国内投資の拡大や国内生産
にシフトできないのです。
 まして、企業側はこの円安/株高が、海外投資家の投機で進ん
だという分析をしており、その継続性を疑問視しているので、そ
れも設備投資が思ったより伸びない原因になっています。
 安倍首相はなんとか設備投資を70兆円台に乗せようとしてい
ますが、これはかなり困難な目標です。なぜなら、現在設備投資
を増やしているのは非製造業ですが、これらの企業は内需型なの
で、円安はメリットにならず、大きなコスト増につながってしま
うからです。
 最後に公共投資(公的固定資本形成)です。公共投資は、20
11年および2012年には20兆円台で推移していたのですが
2013年4〜6月期に22兆円、7〜9月期に24兆円と拡大
し、その後も高水準で推移しています。しかし、公共事業の手持
ち工事高は、建設業の供給制約──人手不足ということもあって
次のように増加しています。これも実体経済が思うように改善し
ない原因のひとつにもなっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ◎公共事業の手持ち工事高/未消化工事高
       2011年 ・・・・・ 10兆円弱
       2012年 ・・・・・ 11兆円超
       2013年 ・・・・・ 13兆円超
                ──片岡剛士著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/33]

≪画像および関連情報≫
 ●『虚構のアベノミクス』/野口悠紀雄著/書評
  ―――――――――――――――――――――――――――
  民主党政権の時は、日経平均が8000円ぐらいで低迷して
  いた。それが、安倍政権になってから一時は2倍の1万60
  00円間近になっていたのだから、アベノミクスを批判する
  声は、株高にかき消されてしまった。アベノミクスと言って
  も、目新しいのは、黒田日銀総裁による大規模な量的緩和と
  それによって引き起こされてきた円安効果である。円安にな
  ると、円で見る株価は名目で上昇するし、また輸出企業を中
  心に円で見る企業業績も改善するので、これも株高につなが
  る。アベノミクスは、円安バブルと株価バブルを引き起こし
  それによって人々のセンチメントを改善することが狙いだっ
  た。そして、それは概ね上手くいってきたといえる。問題は
  これから実体経済が本当によくなるのかどうかだ。野口悠紀
  雄氏は、昔から、強い円が日本の国益である、という円高論
  者で、規制緩和による構造改革でのみ日本経済を成長させら
  れる、という考えの学者である。その点で、安易な円安誘導
  で、生産性の低い産業を温存させ、産業構造の転換を遅らせ
  るアベノミクスには非常に懐疑的であった。また、アベノミ
  クスが、日銀による国債引き受けで、政府の財政赤字をファ
  イナンスさせるという性質を強く帯びていることから、この
  ことによる財政破綻のリスクに警鐘を鳴らしてきた。
                   http://bit.ly/1zZ9mLc
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/片岡剛士著の前掲書より

実質GDP成長率と各項目の寄与度.jpg
実質GDP成長率と各項目の寄与度
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2015年01月14日

●「金融緩和で銀行の貸出は伸びたか」(EJ第3952号)

 「異次元金融緩和政策によって市場に大量のお金が供給されて
いる」とよくいわれます。市中に大量のお金が供給されると、通
貨の量そのものが増えるので、円安になります。円安になると輸
出が増えて株価が上昇し、景気が回復する──これは一般的な景
気回復のロジックですが、アベノミクスは果してこれに当てはま
るのでしょうか。
 2003年3月に黒田東彦氏が日銀総裁に就任して打ち出した
異次元金融緩和政策の中身について考えてみます。それは、日銀
が毎月国債を約7・5兆円購入して、年間でその保有額を80兆
円増加させるというものです。
 日銀が発行する国債は月間約10兆円ですから、その大半を日
銀が買ってしまうということになるので、大変なことです。これ
まで日銀は、残存期間の長い10年物、20年物は価格変動リス
クが高いとして、残存期間が3年未満のものしか、買うことはな
かったのです。
 なぜなら、価格変動リスクの高い国債を買うと、もし価格が下
がるようなことがあると、日銀は不良債権をかかえることになり
円の信用が失われ、金融不安が起きる危険があるからです。しか
し、月に7・5兆円も買うと、残存期間の長い国債も買わざるを
得なくなるのです。実際に日銀はそういう国債も買い続けていま
す。そういう意味でまさに異次元金融緩和であるといえます。
 日銀が国債の保有を増やすというのは、その代金分のお金を市
場に流すことを意味しています。しかし、直接市場に流すのでは
なく、各金融機関が日銀に設けている当座預金に振り込みをする
のです。金融機関がこのお金を引き出して企業などに貸し出して
使ったとき、はじめて市場にお金が流れることになります。
 このようにして、各金融機関の日銀当座預金口座に積み上がっ
たお金の総合計を「マネタリーベース」といいます。マネタリー
ベースは、「ベース・マネー」や「ハイ・パワード・マネー」と
も呼ばれます。つまり、日銀が直接コントロールできるのはこの
「マネタリーベース」だけなのです。日銀当座預金は、民間金融
機関が日銀や他の金融機関、あるいは国と取引するさいの決済な
どに使われます。
 これに対してその日銀当座預金のお金が銀行によって引き出さ
れ、企業などに貸し付けられると、そのお金は、市中に流通する
マネーの総量の一部になります。これを「マネーストック」と呼
ぶのです。この呼び方は日本独自であり、多くの国では「マネー
サプライ」と呼んでいますし、日本でも2008年6月まではマ
ネーサプライと呼んでいたのです。
 なぜ名称を変更したのかというと、ゆうちょ銀行(2007年
10月に業務開始)が国内銀行として扱われるようになったこと
や、金融商品が多様化したことが原因といわれています。それに
しても世界中で使われている用語を日本独自に変更してしまうこ
とは混乱の原因になります。念のため、マネーストックの定義を
示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マネーストックは、日本銀行を含む金融機関全体から、経済全
体にお金がどの程度供給されているかを見るのに利用される指標
で、民間部門(金融機関と中央政府を除く、一般法人、個人、地
方公共団体)の保有する通貨量残高を集計したものです。
          ──金融用語辞典 http://bit.ly/1xaRif2
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀当座預金についてもうひとつ覚えておくべきことがありま
す。日銀当座預金に民間金融機関は、最低限預け入れなければな
らない金額があります。これを「法定準備預金」といいます。こ
の法定準備預金を超えるお金は「超過準備」と呼ばれますが、こ
の超過準備には現在「0・1%」の利息が付くのです。このこと
を覚えておく必要があります。
 さて、ここでもう一度冒頭の「異次元金融緩和政策によって市
場に大量のお金が供給されている」に戻って考えてみることにし
ます。確かに日銀の異次元金融緩和によって、市場に供給される
お金の量は巨額になります。
 そのお金は金融機関の日銀当座預金に積み上げられますが、果
してどの程度の額が銀行によって引き出され、企業などへ貸し出
されているでしょうか。異次元金融緩和によって、マネタリーベ
ースは劇的に増えるものの、多くはそこにブタ積みされるだけで
マネーストックになっていないのではないかと疑う識者も多くい
るのです。
 片岡剛士氏はこれに反論します。彼はマネーストックは増加し
銀行貸出はちゃんと増えていると主張しています。これについて
は、添付ファイルをご覧ください。
 このグラフは、「マネーストック統計」に基づいて作られてい
ます。この統計は、流動性──資産の交換しやすさの度合いに応
じて、次の3つの指標に分けて公表されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.広義流動性 ・・・ 最も流動性の低い資産を含む指標
 2.M3    ・・・ 1に続き流動性が低い資産を含む
 3.銀行貸出  ・・・  最も流動性の高い現金の伸び率
―――――――――――――――――――――――――――――
 一口にマネーといってもいろいろあります。M3というのは、
現金通貨と預金通貨、それに準通貨のCDを含む概念です。この
M3に金銭信託、投資信託、金融債、銀行発行普通社債などを含
むものが広義流動性という指標です。なお、銀行貸出は銀行だけ
ではなく、信用金庫を含みます。
 広義流動性の伸び率は4・3%であり、1997年以来の高さ
です。M3の3・4%は2002年以来の高さ、銀行貸出につい
ても、2009年7月以来の高さになっています。いずれにして
も安倍政権発足直後の2013年になってから、マネーは大きく
動き出していることは確かです。
            ─── [検証!アベノミクス/34]

≪画像および関連情報≫
 ●「銀行の貸出が増加している」/「ニュースの教科書」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  全国銀行協会は、2013年4月9日、3月末の全国銀行預
  金・貸出金速報を発表した。全国の銀行117行の貸出残高
  は前年同月比2・4%増、前月比1・7%増の436兆14
  84億円だった。伸び率は前月より0・1%拡大しており、
  2009年7月以来の高さとなった。市場関係者は、アベノ
  ミクスの成果がどの程度、実体経済に反映されているのかに
  ついて強く意識しており、銀行の貸出残高や小売店の販売動
  向などに注目している。今回の貸出残高の増加は確かに従来
  よりも大きな伸びとなっているが、アベノミクスの効果が表
  れたと判断するにはまだ少々早い。意外なことだが、銀行の
  貸出残高は2012年の前半からかなりのペースで伸びてき
  ている。伸び率に加速がついてきている面はあるが、このト
  レンドは今に始まったことではないのだ。銀行の貸出が昨年
  から伸びてきたのは、個人向け住宅ローンを銀行が強化した
  ことと、自治体向けの融資が増えていることが主な原因であ
  る。住宅ローンについては、消費税の増税前に住宅を購入し
  てしまおうという層が増えていることや、低金利が背景とな
  っており、いわば官が作りだした需用といえる。自治体向け
  の融資は、国からの借金を民間に振り替える制度による特需
  という面が大きく、こちらも官製需要である。
                   http://bit.ly/1B1X6xO
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフの出典/片岡剛士著/『日本経済はなぜ浮上しないの
  か/アベノミクス第2ステージへの論点』/幻冬舎刊

マネーストックと銀行貸出の推移.jpg
マネーストックと銀行貸出の推移
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2015年01月15日

●「金融緩和と銀行貸出は関係するか」(EJ第3953号)

 異次元金融緩和のはじまる前の2013年3月31日時点の日
銀の貸借対照表と2014年11月10日の貸借対照表を比較す
ると、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎2013年 3月31日時点
  資産合計/164兆8127億円
    国債/125兆3556億円
  当座預金/ 58兆1289億円 http://bit.ly/1y3AdLb
 ◎2014年11月10日時点
  資産合計/286兆9553億円
    国債/241兆3801億円
  当座預金/165兆5647億円 http://bit.ly/1BWZEez
―――――――――――――――――――――――――――――
 資産合計の数値を大きく押し上げているのは国債の増加です。
約116兆円も増えています。日銀の進める異次元金融緩和政策
によって、マネタリーベースを2年で2倍にするといっているの
ですから、国債の残高が増えているのは当然です。
 一方、日銀当座預金は約107兆円増えています。日銀にとっ
て当座預金は負債になります。国債を買い取った代金として金融
機関が日銀に対して持っている当座預金に振り込んだ結果です。
 この数字を見ると、日銀が民間金融機関から国債を買い取り、
当座預金残高を増やすことで、マネタリーベースを膨らませてい
ることが鮮明に読み取れます。
 実は、黒田総裁が就任する前の日銀には、「日銀ルール」とい
う暗黙のルールがあったのです。それは次の2つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.保有国債の量は日銀券発券残高を超えないこと
   2.残存機関3年未満の国債しか買い取らないこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 これらのルールは、今回の異次元金融緩和によって、一時的に
停止されていることになります。そこまでして、日銀が金融緩和
をする目的は、市場に流通するお金の量を増やし、経済を活性化
させるためです。そのためには、マネーストックが増えなければ
ならないのです。
 昨日のEJにおいて、異次元金融緩和政策のはじまる前よりも
マネーストックは明らかに増えています。しかし、この程度の増
え方では増えたことにはならないと主張する経済学者がいます。
一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏です。野口教授は最新刊の著書
において次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀が国債を大量に買い上げるため、日銀当座預金が増え、マ
ネタリーベースは増える。しかし、そこで止まってしまい、貸出
しが増えるという動きが生じていない。このため、マネーストッ
クはほとんど増えない。つまり、金融緩和政策は「空回り」して
いるわけである。(中略)ところでこの結果は意外なものではな
い。あらかじめ予測されていたことだ。日本では01年から量的
緩和政策が実行されており、十分なデータが蓄積されている。そ
のデータは、マネタリーベースが大きく増加したにもかかわらず
マネーストックはほとんど増えず、量的緩和政策が実体経済に影
響しないことを、はっきりと示しているのだ。
          ──野口悠紀元雄著/日本経済新聞出版社
       『金融政策の死/金利で見る世界と日本の経済』
―――――――――――――――――――――――――――――
 野口教授は、このことを自著で2つのグラフによって説明して
います。その2つのグラフを添付ファイルにしてあります。添付
ファイルをご覧ください。
 上のグラフは、マネタリーベースとマネーストックを対前年比
で比較したものです。これを見ると、マネタリーベースは突出し
て増えていますが、これに比べると、マネーストックはほとんど
影響を受けていないことがわかります。
 これに対して下のグラフは、スケールを変えてマネーストック
の伸びを見たグラフです。ここで、「M2」と「M3」について
簡単に説明します。
 マネーストックは、現金通貨と各種の銀行預金とを組み合わせ
て、M1、M2、M3と呼んでいます。銀行預金には、顧客の申
し出があれば即座に支払う「要求払い預金」と、一定期間銀行に
預けておいて金利を稼ぐ「定期性預金」があります。
 「M1」は、現金通貨と「要求払い預金」を組み合わせたもの
です。「M2」は、M1に定期性預金を加えたものです。ただし
ゆうちょ銀行はここから除かれるのです。
 「M3」は、M2にゆうちょ銀行が加わり、それにCD(譲渡
性預金)を加えたものです。CDというのは、途中で売買できる
預金証書のことです。
 これに加えて、M3に金銭信託、投資信託、金融債、銀行発行
普通社債、金融機関発行のCP、国債、外債を加えて「広義流動
性」と呼ぶことは、昨日のEJで述べています。なお、M3の金
融機関には、M3に国内銀行信託勘定、中央政府、保険会社など
が加わるのです。
 マネタリーベースとマネーストックの関係について、野口教授
は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マネーストックの増加は、マネタリーベースの動向に左右され
るよりも、むしろ実体経済の動きに左右されていることを示唆す
る。13年以降マネーストックの伸びが高まったのは、実体経済
において公共事業と住宅駆込み需要によって需要が増加したこと
による。13年末に高まったのは、駆込み需要がピークになった
からであり、その後に伸び率が落ちたのは、駆込み需要が消滅し
たからと解釈できる。    ──野口悠紀元雄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/35]

≪画像および関連情報≫
 ●銀行貸出が順調に増加/ザ・リバティー・ウェブ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  大手銀行の貸出しが順調に増えている。2013年4月1日
  付日本経済新聞によると、大手銀行の国内貸出残高は、3ヵ
  月連続で前年同月を上回り、198兆円となった。同紙の分
  析では、企業のM&A(合併・買収)が盛んになり、その資金
  が必要となったことと、アベノミクスの影響で円安になって
  輸入代金の必要額が増していることにあるという。今後、こ
  の流れが一時的なものにとどまるか、あるいは本格的な景気
  回復につながるかは、企業が設備投資をするために銀行から
  の借り入れを増やす流れができるかどうかにかかっている。
  金融緩和政策のキモは、巷間言われるような円高対策やデフ
  レ対策の側面もあるが、最も重要なのは、資金繰りに苦しん
  でいる企業にお金が行きわたるかどうかにある。
                   http://bit.ly/1DznDVB
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/野口悠紀元雄著の前掲書より

マネタリーベースとマネーストックの伸び率.jpg
マネタリーベースとマネーストックの伸び率
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2015年01月16日

●「日銀はマネタリー・シャーマンだ」(EJ第3954号)

 加藤出(いずる)氏という人がいます。東短リサーチという会
社の取締役です。短資会社というのは、金融機関相互間で資金の
運用や決済を行う市場(銀行間取引市場/コール市場)において
主として1年未満の短期的な資金の貸借またはその媒介を業とし
て行う会社です。東短リサーチは、東短グループの調査・研究部
門を担う独立したシンクタンクです。
 加藤出氏は、『日銀、出口なし!』という近著において、日銀
の金融緩和政策について、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀は、中央銀行がマネタリーベースを増やすと、通貨安にな
る、インフレになる、株が上がる、と誤解している人がいるなら
その誤解を利用してしまおう、という戦略をとっている。世界で
もっともアグレッシブなマネタリー・シャーマンは日本銀行だ。
        ──加藤出著『日銀、出口なし!』/朝日新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 「日銀はマネタリー・シャーマンである」とはよくもいったり
です。シャーマンとは、トランス状態に入って超自然的存在(霊
神霊、精霊、死霊など)と交信する現象を起こすとされる職能・
人物のことです。つまり、日銀の異次元緩和政策は「偽薬効果」
でしかないし、おまじないのようなものであるというのです。
 これに近いことを服部茂幸福井県立大学経済学部教授も次のよ
うにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「雨乞いは雨を必ず降らせることができる」というジョークが
ある。「なぜならば、雨が降るまで続けるからだ」。これを異次
元緩和に置き換えると、「異次元緩和は必ず日本経済を復活させ
ることができる。なぜならば、日本経済が復活するまで続けるか
らだ」となる。
 ──服部茂幸著/『アベノミクスの終焉』/岩波新書1495
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、国民の多くはアベノミクスを信じています。なぜなら
何をするにも危なっかしく、稚拙な政権運営を展開した民主党政
権の重苦しい3年間の雰囲気を吹き飛ばすような現象が安倍政権
になって起きたからです。
 その点、安倍首相は2度目の首相就任であり、何事についても
慣れています。その点が民主党の政権運営と際立った違いを見せ
つけたことは確かです。安倍政権の方が安定感があるのです。
 それに、経済政策について、消費税増税以外ほとんど何もでき
なかった民主党に比べて、安倍氏の首相就任とほぼ同時に起きた
円安と株高の急速な進行によって、株価が久しぶりに1万円台に
乗ったときは、何かが変わるという変化を実感した国民は多かっ
たと思うのです。
 ところが、アベノミクスは何も効いていないという専門家の意
見も少なくないのです。それでも誰でも認めるのは、安倍政権発
足後約半年間の経済の好調さです。実際に2013年第1・四半
期の経済成長率は年率で5・1%、第2・四半期は3・4%でき
わめて高い成長率です。
 しかし、安倍政権が誕生したのは2012年12月であり、異
次元緩和が始まるのは2013年4月であり、2013年前半の
経済の高成長は、異次元緩和の成果ではあり得ないのです。これ
について、服部教授は次のことを指摘します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそも景気動向指数によると、日本の景気の谷は12年11
月(暫定)である。経済の回復は、安倍政権の誕生とほぼ同時期
に始まっている。経済の回復期には、一時的に高い成長率がでる
ことがある。13年前半の高成長は景気回復期の一時的なものだ
とみなすべきである。
 皮肉にも、異次元緩和が始まると、経済成長率は低迷する。第
3・四半期の経済成長率は年率で1%、第4・四半期にはほとん
どゼロである。14年第1・四半期の成長率は6%と極めて高い
が、消費増税前の駆け込み需要によるところが大きい。
                ──服部茂幸著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 服部教授は、安倍政権のスタート時期が景気回復期と重なって
いるというのです。それに危ないといわれていた欧州が何とか持
ち直したということで、2012年の秋頃から、景気は少しよく
なってきていたのです。
 関連する数値を検証することにします。添付ファイルをご覧く
ださい。このグラフは、実質GDPとその各項目を示したもので
す。アベノミクスが始まった12年度4・四半期の数値を100
とする指数です。耐久財消費、民間住宅投資は右目盛り、他は左
目盛りです。
 耐久財消費と民間住宅投資は自民党の麻生政権時代の2009
年から急増していますが、これは、エコカー減税やエコ・ポイン
トなどの政策によるものと考えられます。アベノミクスが始まる
と、再び耐久財消費と民間住宅投資は急増していますが、これは
2014年4月の消費税増税の駆け込み需要と無関係ではないと
思われます。
 政府支出も急増していますが、これは第2の矢の効果であり、
異次元緩和とは無関係です。耐久財消費、民間住宅投資、政府支
出を合計すると、GDPの4割を占めているのです。アベノミク
スの経済成長を支えたのは、間違いなくこの部分です。
 それ以外の6割の部分は「その他」として表示されています。
この6割部分は、GDPと連動して増減していますが、アベノミ
クスが始まると連動しなくなっています。そして、2013年前
半はわずかに増加したものの後半は減少しています。2014年
第1・四半期はわずかに増加していますが、これは消費税増税の
駆け込み需要の結果と考えられます。つまり、2013年後半を
支えたのは、政府支出、耐久財消費、民間住宅投資の3つなので
す。          ─── [検証!アベノミクス/36]

≪画像および関連情報≫
 ●アベノミクス効果とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  アベノミクス信者は、株価が上がるとどんな要因でそうなっ
  たのかも全く検証&言及せずに、ひたすら呪文のように「ア
  ベノミクス効果だ!韓国経済大打撃!韓国破綻!」と騒ぎ立
  てますが、株価が急落すると「外国経済が原因だ!アベノミ
  クスとは関係ないぞ!」と言うのが一種のおまじないのよう
  なものに成っていますが、冷静になって現実を見ませんか?
  信者さん。もともとアベノミクスの本質は知らず知らず国民
  の資産を収奪するためのものです。アベノミクスはほとんど
  の国民に恩恵はありませんよ。素晴らしいと言っている人は
  おそらく特殊事情で自分だけ得をするから事実を捏造してい
  る人です。あるいは国民の資産収奪政策であることがわから
  ないのです。情勢を考えられる人なら防衛策を考えますが、
  そうでない人は資産を失い茹でガエルになります。アベノミ
  クスが素晴らしい政策であるためには、以下の3条件が必要
  です。@日本の国債を買っているのが日本の金融機関ではな
  く外国人投資家だった場合、A日本国民の個人金融資産が株
  などが大半で預金が少ない場合、B増税を一切しないと明言
  した場合、アベノミクスのインフレ政策は金融政策で市場に
  銀行券を流すことです。このようなインフレで得をするのは
  金を借りている人、損をするのは貸している人です。(もし
  借金が変わらずいきなり物価が2倍になれば金を借りている
  人の借金は半分になったも同然なのはお判りでしょう)。
                   http://bit.ly/1INyEkh
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/ ──服部茂幸著の前掲書より

実質GDPとその各項目jpg.jpg
実質GDPとその各項目
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2015年01月19日

●「バーナンキの金融政策は正しいか」(EJ第3955号)

 服部茂幸福井県立大学経済学部教授は、宮沢喜一元首相とバー
ナンキ前FRB議長について、次のように興味深いことを語って
います。
 1990年代のはじめ、バブルが崩壊したとき、日本の銀行は
不良債権を抱えることになることを誰よりも早く気づいたのは宮
沢喜一氏です。しかし、彼はその解決に失敗します。こういう人
を世間では、「経済的センスは一流だが、政治的センスは三流で
ある」と評するのです。
 危機にいち早く気づくのは凡人には理解できない先見性がある
からです。しかし、こういう先見性のある指導者は、それが理解
できない凡人のあいだで孤立し、解決に失敗するものなのです。
 これに対して、バーナンキ元FRB議長は、米国の住宅バブル
の最中に、その住宅バブルも、そのなかで返済できない負債の存
在も否定し、認めようとはしなかったのです。しかも、バブルが
崩壊しても一切認めず、不況は認めながらも、あくまで一時的現
象であることを繰り返し強調したのです。経済の世界では、どの
ようにでもいい逃れが出来るからです。こういう指導者は経済的
センスは三流であるが、政治的センスは一流というのです。
 2008年8月下旬のことです。世界銀行元総裁のジェームズ
・オルフェンソンは、その日、カンザス・シティ連邦準備銀行主
催のシンポジウムの出席者を夕食会に招待したのです。この夕食
会は、後に「オルフェンソンの夕食会」として歴史に名が残るこ
とになります。
 その夕食会でバーナンキ議長(当時)は、「また大恐慌が起き
ると思うか。それとも日本のように失われた10年になるだろう
か」と出席者に問いかけています。リーマン・ショックについて
書いた自著のなかで、アンドリュー・ロス・ソーキン氏は、これ
について、次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対する招待客の一致した見解は、おそらくアメリカ経済
は日本のように長期的な不況に陥るというものだった。しかし、
バーナンキはどちらのシナリオもありえないと発言して、まわり
を驚かせた。「われわれは、世界大恐慌と日本から充分学んでい
る。どちらも起きません」と彼は断言した。
 ──アンドリュー・ロス・ソーキン著「リーマン・ショック・
    コンフィデンシャル」(上)/加賀山貞朗訳/早川書房
 ──服部茂幸著/『アベノミクスの終焉』/岩波新書1495
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、それから一ヶ月もたたないうちにリーマン・ブラザー
ズは破綻します。破綻の翌日の2008年9月16日、FRBの
金融政策会合が開かれたのですが、政策金利はそのまま据え置か
れたのです。バーナンキ議長をはじめ、FRBの関係者は一時的
に不況になるが、翌年の前半から回復すると発表しています。
 ここでなぜバーナンキ前FRB議長のことを取り上げるのかと
いうと、彼がリフレ派であるといってよいかどうかはわからない
が、リフレ政策を容認する経済学者であることは明らかです。実
際に彼はアベノミクスを支持すると明言しています。
 しかし、リーマン・ショックによって米国経済は大恐慌にはな
らなかったものの、FRBとしては、それが世界金融恐慌に発展
するとは予測していなかったし、その深刻さをまるで理解してい
なかったのです。だが、何らかの言い訳を発表せざるを得ないと
ころに追い込まれたのです。これについて、服部福井県立大学教
授は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融危機後、住宅バブルの原因は、FRB元議長グリーンスパ
ンの過剰な金融緩和と金融の規制緩和にあるという批判が広がっ
た。バーナンキに対する批判もある。しかし、グリーンスパンも
バーナンキも、金融緩和がバブルを引き起こしたことを認めてい
ない。代わりに世界的な貯蓄過剰(とウォール街の過剰な投機)
にその責任を帰した。
 それは次のような理屈である。貯蓄過剰とは、その国が稼ぐ所
得よりも支出が小さいということである。差額の資金があまるこ
とになる。このあまった資金がアメリカや一部のヨーロッパに流
入し、住宅バブルを生み出したのである。貯蓄が過剰な国とは、
日本、中国などの東アジア諸国や、ロシア、サウジアラビアなど
の産油国、ドイツである。責任を外国に押しつけることによって
自らの責任を回避しているのである。
 ──服部茂幸著/『アベノミクスの終焉』/岩波新書1495
―――――――――――――――――――――――――――――
 起こらないといってしまったことが起こってしまった場合、人
は多くの場合、それが人知を超えるもの、想定外の事態であると
して、責任を回避しようとします。東日本大震災のとき量産され
たのが、この想定外です。
 米国も、グリーン・スパン元FRB議長が2008年10月に
米下院の監視・政府改革委員会の公聴会において、次の発言をし
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国は、100年に1度の信用の津波に見舞われており、消
 費と雇用への影響は避けられない。  ──グリーンスパン
―――――――――――――――――――――――――――――
 「100年に1度の信用の津波」という表現は、「想定外」と
同じです。予期せぬ大地震や大津波が地震学の敗北ではないよう
に、金融危機が起きることは、経済学の敗北ではないという理屈
なのです。
 逆に金融危機が起きても大恐慌のような事態を引き起こすこと
を防いだのは、バーナンキの政策が優れていたからである──と
いうようにして、明らかな失敗が成功に置き換えられてしまうの
です。自然現象の津波が起きたことは人間の責任ではないでしょ
う。しかし、その津波の被害を少なくすることは人間の努力でや
れるのです。      ─── [検証!アベノミクス/37]

≪画像および関連情報≫
 ●書評/「リーマン・ショック・コンフィデンシャル」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  リーマン・ブラザーズ倒産からほぼ2年を経た。金融経済危
  機はいまだ完全には終息していないものの、そのおおよその
  姿は判明してきている。危機の原因は、米国政府の中低所得
  者層向け住宅ローン促進策が経済的合理性を欠いた住宅ロー
  ンを急成長させた一方、長引いた金融緩和環境の下で規律の
  低下した世界中の金融機関が、関連金融商品を大量に組成し
  また自らも自己資本規制等を巧妙に逃れる形でそれらを大量
  に保有したことである。危機は2008年3月のベアー・ス
  ターンズ破綻(はたん)で深刻化し、同年秋にクライマック
  スを迎えた。本書は、この約半年間に危機の渦中にあった金
  融機関経営者、危機対応を迫られた政策担当者の一挙一動を
  ニューヨーク・タイムズのトップ記者が、彼らに対する詳細
  なインタビューに基づいて克明に記録したものである。技術
  的になりがちな金融危機というテーマを扱って、推理小説を
  読ませるような迫真の出来栄えに仕上げている。本書の中心
  は、この時期にリーマンがどのように追い込まれていったか
  であるが、最後の最後に英国政府の出方次第では、同社の倒
  産は避けられたかもしれないこと、一方で破綻不可避と見ら
  れたAIGが救済されていった経緯、またメリル、モルガン
  ・スタンレー等が破綻寸前で、ぎりぎりの生き残り策を画策
  した様子などが、よくここまで聞き出せたと思われるくらい
  に詳細に語られる。        http://bit.ly/15mmbaj
  ―――――――――――――――――――――――――――

アンドリュー・ロス・ソーキンの本.jpg
アンドリュー・ロス・ソーキンの本
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2015年01月20日

●「円安株高はアベノミクスと無関係」(EJ第3956号)

 アベノミクスは「政治的レトリック」ではなかったかという人
がいます。そもそも経済政策というものはそういう曖昧なもので
あるといえなくもないのです。
 ある経済政策が正しかったかどうかを検証するには、政策が行
われた場合と行われなかった場合の差を比較しなければならない
のですが、シミュレーションならともかく、実際にそういう比較
はできないのです。
 そういう経済政策の曖昧さについて、服部茂幸教授は次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 例えば、日本の経済成長率がゼロだったとしても、異次元緩和
が行われなかった場合、成長率がマイナス3%になっていたとす
れば、異次元緩和は成長率を3%引き上げたことになる。逆に4
%という高い成長率であつても、異次元緩和が行われなくても4
%の成長率だったならば、政策効果はゼロである。しかし、異次
元緩和が行われなかったら、日本経済がどうなっていたかは正確
には誰にも分からない。そのため、政策評価は曖昧なものとなら
ざるを得ない。    ──服部茂幸著『アベノミクスの終焉』
                     岩波新書1495
―――――――――――――――――――――――――――――
 服部茂幸教授は、安倍政権と日銀は、アベノミクスで「ある物
語」を作ろうとしているといっています。それは、民主党政権の
3年間で低迷している日本経済を安倍政権が目の醒めるような大
胆な経済政策を実行して、かつての経済成長華やかなりし頃の日
本を取り戻すという「物語」です。
 まず、政権発足前の安倍晋三自民党総裁が「日本経済を再生す
るために無制限の金融緩和を行うべきである」と主張します。そ
うすると、直ちに円安と株価上昇がはじまったのです。これに呼
応して、安倍氏周辺の政治家や経済学者が「市場はアベノミクス
を支持している」と訴えたのです。
 しかし、安倍政権が発足し、黒田日銀総裁が異次元金融緩和を
実施したとたん株式市場の大暴落が起きたのです。安倍総裁が無
制限の金融緩和を訴えたとき市場がそれを支持したという論法に
したがえば、2013年5月の株価大暴落は「市場はアベノミク
スを拒否した」ことになります。
 しかし、安倍首相周辺の政治家や経済学者は「株は上がったり
下がったりするもの。株価には一喜一憂すべきではない」という
のです。その代わり「有効求人倍率は順調に上昇しているじゃな
いか」とデータを示して反論します。つまり、悪いデータは無視
し、良いデータを示して反論しているのです。
 それでは、アベノミクスが安倍政権発足後に起きている円安/
株高の原因でないとしたら、何によってその現象が起きたのでし
ようか。アベノミクス懐疑派の論説をまとめると、次のようにな
るのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.12年秋以降の円安は、ユーロ危機により買われていた円
   が危機が去るにつれて売られたことと、海外投資家による
   円安投機によるものである。
 2.異次元緩和が始まる前の経済成長は、主として政府支出の
   増加(第2の矢)による効果が中心で、一部に消費税増税
   による駆け込み需要がある。
 3.異次元金融緩和が始まると、円安が止まり円高に振れ、株
   価が下がり、経済成長率は低迷する。消費者物価の上昇も
   輸入インフレが原因である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これから1つずつ実証していくことにしますが、まず、「1」
について考えます。
 添付ファイルをご覧ください。このグラフは、イタリア10年
国債利回りと円/ドルレート関係を示したものです。これらの2
つは強く相関しています。
 このグラフの作成者である野口悠紀雄氏は、グラフについて次
のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 イタリア10年国債の利回りは、11年11月から12年1月
までは、7%を超える水準だった。しかし、12年1月初めから
急低下し、3月には一時5%を割り込んだ。これと並行して円安
が進展した。この時の円安は一時的なものにすぎなかったのだが
イタリア国債の利回りはその後再び上昇し、7月には6・3%に
なった。これに対応して円高が進展した。しかし、イタリア国債
の利回りはこの後はほぼ下落を続け、13年1月には4・1%に
なった。この過程と急激な円安の進行がほぼ一致している。
          ──野口悠紀元雄著/日本経済新聞出版社
       『金融政策の死/金利で見る世界と日本の経済』
―――――――――――――――――――――――――――――
 このグラフが示している重要なポイントは、円安が進行した時
期と、イタリア国債の利回りが低下した時期が一致していること
です。つまり、ユーロ危機が深刻になると、安全資産である円が
買われ、円高になりますが、危機が去るにつれて資金は引き上げ
られ、円安になるのです。
 2012年は秋から円安になっていますが、イタリア国債の利
回りの低下は10月中旬から生じています。つまり、その頃から
ユーロ危機は遠ざかり、安全資産の円にシフトしていた資金は引
き上げられ、円安になり、それは加速しつつあったのです。これ
は、安倍晋三氏が自民党総裁になり、「無期限金融緩和」を宣言
する前からの傾向であり、安倍晋三氏によるアベノミクス宣言と
は何ら関係はない──これが野口悠紀雄氏の考えです。
 これを機に、「ユーロ崩壊」に賭けていたニューヨークのヘッ
ジファンドを中心とする海外投資家の資金が、日本に流れ込み、
円安投機を仕掛け、日本は円安/株高が進むことになるのです。
これが「1」です。   ─── [検証!アベノミクス/38]

≪画像および関連情報≫
 ●欧州債務危機と円高/羽田 亨教授
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2011年11月21日のニューヨーク外国為替市場で円相
  場が一時1ドル=75円78銭をつけ2ヶ月ぶりに戦後最高
  値を更新したのに続き、その翌週には連日最高値を更新して
  31日のオセアニア市場で一時1ドル=75円32銭まで上
  昇しました。対ユーロでも円高が続いています。31日の政
  府・日銀の市場介入により東京市場で円は一時、79円台半
  ばまで急落したが、円高圧力は依然として強く日本の景気や
  企業業績への悪影響が心配されています。円高の要因のひと
  つに欧州の債務危機があり、安全な資産とされる円に資金が
  流れ込んでいることがその背景にあります。欧州債務危機は
  2009年に発生したギリシャ財政危機に端を発しているの
  です。2009年10月にギリシャでは政権交代があり、新
  政権が2009年の財政赤字は対GDP比で12・7%に達
  すると発表したことで、前政権が財政赤字をかなり低く見積
  もっていたことが明らかになりました。市場では、ギリシャ
  の財政破綻懸念とこの粉飾疑惑から、ギリシャ国債の大量の
  売りが発生して国債価格が暴落しました。
                   http://bit.ly/1yycDmP
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/──野口悠紀元雄著の前掲書より

イタリア10年国債利回りと円/レートの相関.jpg
イタリア10年国債利回りと円/レートの相関
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2015年01月21日

●「なぜ12年から株価が上昇したか」(EJ第3957号)

 アベノミクス懐疑派の論説を紹介し、検討しています。3つの
まとめのうち、「3」を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 3.異次元金融緩和が始まると、円安が止まり円高に振れ、株
   価が下がり、経済成長率は低迷する。消費者物価の上昇も
   輸入インフレが原因である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 異次元金融緩和がはじまったとたん円安が止まり、株価が下落
したのですから、この事実からみると、それにアベノミクスが関
わっていないことは明らかです。
 しかし、株価は2012年11月13日の日経平均8661円
から上昇に転じ、2013年5月7日には1万4180円になり
リーマンショック前のレベルに達しています。伊東光晴京都大学
名誉教授は、円安も株高も、アベノミクスには何の関係もないと
いっています。それなら、株価はなぜ上昇したのでしょうか。
 伊東教授は、これを明らかにするには、日本の株式市場の特異
性について知る必要があるというのです。伊東教授は、日本の株
式市場には次の2つのグループがあるといいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.株式をほとんど売買しないグループ
     2.株式の売買を頻繁に行なうグループ
―――――――――――――――――――――――――――――
 「株式をほとんど売買しないグループ」とは、事業会社、都市
銀行、地方銀行などです。これに対して「株式の売買を頻繁に行
なうグループ」とは、海外投資家──それも非居住者の海外ファ
ンド、個人投資家、生命保険会社、損害保険会社、投資信託など
が該当します。2の株式保有比率は、次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1. 海外投資家 ・・・・ 25%
      2. 個人投資家 ・・・・ 20%
      3.生損保・投信 ・・・・ 10%
―――――――――――――――――――――――――――――
 海外投資家の背後には、投資ファンドがあり、1日にもの凄い
回数の売買を繰り返すのです。いうまでもなく彼らの狙いは日本
への投資ではなく、利益を出して儲けることです。したがって、
一定の投資基準を示して、資金を複数の運用会社にまかせ、業績
を上げようと虎視眈々と狙っているのです。
 伊東教授によると、2012年10月になると、海外投資家と
日本の投資家とは、投資のやり方に際立った違いが出てきている
ことを指摘して次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2012年10月から海外の投資家の行動が変わる。それまで
(2012年4月から9月)売り越しであったものが、一転、買
い越しに変わる。10月、1585億円の買い越し。解散以前に
すでに外国人筋の買い越しの動きが始まっている。11月、49
75億円の買い越し。したがって11月13日からの株価上昇は
政権交代と何の関係もない動きから始まっている。
 他方、個人株主、生損保、信託銀行、投資信託は、いずれも売
り越しである。したがって11月13日からの株価上昇は外国人
筋の買い以外の何ものでもない。
     ◎海外投資家買い越し
      12月 ・・・ 1兆5448億円
       1月 ・・・ 1兆2379億円
       2月 ・・・   8542億円
       3月 ・・・ 1兆8553億円
 他方、個人は、1、2、3月と売り越し。生損保も投資信託も
同じく売り越しである。こうして基本的には外国人の買いが4月
まで続き、その他の人は売り越していく。その動きが5月に株価
が1万5000円を超えてから、乱高下へと変わっていく。当然
である。                  ──伊東光晴著
      『アベノミクス批判/4本の矢を折る』/岩波書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 海外投資家は日本株を買い越し、日本の投資家は逆に売り越し
ている──これは、リチャード・クー氏も同じことを指摘してい
ます。彼らは、「ユーロは崩壊する」という前提で勝負に出てい
たのですが、ドラギECB総裁の「必要なら何でもやる」のひと
言によって、崩壊が回避される状況になってきたのです。
 その結果、海外投資家が目をつけたのは日本なのです。リチャ
ード・クー氏は安倍総裁の「インフレ目標の設定」と「無制限金
融緩和」発言を聞いて、ターゲットがユーロから日本になったと
いっていますが、伊東教授は、海外投資家の日本シフトは、安倍
氏が自民党総裁になる前にはじまっており、安倍総裁の発言に触
発されたわけではないと分析しているのです。そこがクー氏とは
違うのです。クー氏も「物語」を作っているように思えます。
 現在日本で起きている株高は、明らかに海外投資家によって起
こされています。彼らは儲けるために株を買っているので、外部
条件が少しでも動くとすぐ売買を仕掛けるので、株式相場が非常
に不安定になっています。彼らの狙い通りです。これについて、
伊東教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もちろん海外投資家は、日本株を所有するとはいえ、企業経営
を行おうなどとは、つゆほども思ってはいない。だから上場され
ている回転寿司の会社までもが購入対象となっているのである。
(中略)安倍内閣の「大胆な金融緩和」と株式市場の活況とを直
結する人は多い。だが株価上昇への力は、民主党が衆議院で多数
を占め、解散の声が起きる以前に動き出したのである。新聞が書
き、当事者たちが自負する安倍政権とは何の因果関係もない。
                ──伊東光晴著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/39]

≪画像および関連情報≫
 ●「安倍・黒田は何もしていない」/鈍想愚感
  ―――――――――――――――――――――――――――
  岩波書店の雑誌「世界」8月号で、伊東光晴京都大学名誉教
  授が「安倍・黒田氏は何もしていない」と題してアベノミク
  スの実態を理論的に解き明かしている。円安にしろ、株高に
  しろ、たまたま時期が一致しただけで、アベノミクスによる
  ものでもなんでもない、と喝破している。アベノミクスに対
  する世間の評価は高く、来たる参院選でも自公の圧勝に終わ
  る、とされているが、一部のマスコミはアベノミクスなるも
  のに鋭い矢を放っている。伊東論文はその最たるもので、経
  済学の重鎮である伊東教授のご託宣は重みがある、といって
  いいだろう。伊東論文ではトヨタ自動車の2013年3月期
  決算で、営業利益が1兆3288億円となったことをあげ、
  その内訳は販売増が49%にあたる6500億円、コスト削
  減が34%の4500億円、そして円安効果はわずか11%
  の1500億円である、と分析し、利益の大半は自己努力に
  よるもので、アベノミクスとはほとんど関係ない、としてい
  る。そして注目すべきは豊田社長が決算発表時に「日本の国
  内市場は縮小している」と語ったことと指摘している。利益
  に一番貢献している販売増は実は海外市場からもたらされた
  ものである、ということが今後の日本経済の動向に大きく関
  わってくる。国内市場の縮小は通貨政策ではいかんともしよ
  うのないものである、としているのである。
                   http://bit.ly/1sVFd2a
  ―――――――――――――――――――――――――――

伊東光晴京都大学名誉教授.jpg
 
伊東 光晴京都大学名誉教授
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2015年01月22日

●「円安の原因は為替介入によるもの」(EJ第3958号)

 円とスイスフランは「安全資産」といわれます。しかし、日本
には1000兆円を超える借金があり、財政面の不安があるはず
です。それなのになぜ安全資産といわれるのでしょうか。
 それは、日本が相場に影響を与えるリスクが最も少ない国であ
るからです。相場に一番影響を与えるのは戦争です。政権交代に
もリスクがあります。
 世界の国々を見ると、平和な国というのはあまりないのです。
日本では戦争はまず起こらないし、政情も安定しているため、突
然のクーデターやテロで相場が暴落するなどという危険性はほと
んどない国なのです。そういうわけで、海外の通貨と経済に強い
不安材料が出た場合は円が安全資産として買われ、そのため、円
高となる傾向がよくあるのです。
 通貨であれば、スイスフランも安全資産として有名です。しか
し、円はスイスフランに比べて流動性が高く、すぐに換金できる
ため、いつでも好きなときに退避させたり、元に戻すのに便利で
あり、安全資産として選ばれることが多いのです。
 スイスフランといえば、現在「スイス・ショック」というもの
が起きています。スイスでは2001年9月から、「1ユーロ=
1・2スイスフラン」を上限と定め、このラインを超えそうにな
ると、即座に介入を行い、1・2スイスフランになるまで無制限
に続けることで有名です。
 しかし、1月15日にスイスは、対ユーロでのこの無制限介入
を突然やめると宣言し、証券業界に大ショックを与えたのです。
これによってスイスフランは急騰しています。これはギリシャの
ユーロ離脱などEUの情勢不安が背景にあると思われます。
 いわゆるアベノミクスが関係ないとすれば、円安はどうして起
こったのでしょうか。
 2012年11月13日時点で「1ユーロ=100円」だった
のです。ユーロ圏の銀行経営の不安定や複数国の財政危機によっ
て、ユーロに滞留していた大量の資金が安全資産である円に流れ
円の国際的価値を異常に高めたのです。
 それが5ヶ月後の2013年4月10日になると、「1ユーロ
=130円」の円安になっています。
 対ドルで見てみます。同じ2012年11月13日、「1ドル
=79円」だったものが、2013年5月3日、「1ドル=99
円」になり、円は20%以上安くなっています。問題は、なぜそ
うなったのかです。
 海外投資家は、どのようにして日本株を買っているのでしょう
か。彼らはドルなりユーロなりを持ち込んで円にし、10倍から
20倍の株式購入に充てています。外資系銀行はそういう海外投
資家に対して円資金を用意しています。
 つまり、株式投資の下では、円買いが行われているのです。こ
ういう動きのなかでは、円売りの動きはなく、円安になるはずが
ないのです。伊東光晴京都大学名誉教授は、こういう状況で考え
られることは為替介入が行われていると指摘しています。これは
伊東教授以外、他の誰も指摘していない新事実です。
 かつての為替介入は、一切公表されなかったのですが、これま
でにわかっている有名な介入に次の2つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.榊原介入       4兆9589億円
   1995年2月17日〜1995年9月22日まで
 2.溝口/テイラー介入 32兆8694億円
   2003年5月 8日〜2004年3月16日まで
―――――――――――――――――――――――――――――
 「榊原介入」は、その名の通り、榊原英資氏が国際金融局長時
代に行っています。そのとき、榊原氏の下にいたのが、現日銀総
裁の黒田東彦氏なのです。本来為替介入は財務官がやるのですが
榊原氏の場合は国際金融局長のときにやっています。
 榊原氏は「ミスター円」と呼ばれ、1997年に財務官に昇進
しています。その2年後に黒田東彦氏が後任の財務官になってい
ます。黒田氏は為替介入の専門家なのです。
 「溝口/テイラー介入」は、黒田氏の後任の財務官、溝口善兵
衛氏と時の米ジョン・B・テイラー財務次官との合意の下で行わ
れています。ちなみに溝口財務官は「ミスタードル」と呼ばれて
いるのです。
 「溝口/テイラー介入」でわかることは、日本の為替介入は少
なくとも米国の何らかの合意がないとやれないということです。
したがって、今回(2012年〜13年)為替介入が行われたと
いうことは、「溝口/テイラー介入」のときと同じような条件が
生じて、米国が容認せざるを得なかったものと思われます。
 為替介入は、外国為替資金特別会計で政府短期証券を発行して
円資金を調達します。この円で外貨を買うのです。榊原介入では
「円売りドル買い」であり、溝口・テイラー介入の場合は「ドル
・ユーロ買い円売り」なのです。
 長期国債の発行額は毎年の予算で決まっており、国会の決定事
項です。しかし、政府短期証券は国会の議を経ないで臨機応変に
財務官の判断で行うことができます。
 為替介入は、われわれが考えている以上に頻繁に行われている
ようです。1991年以降の介入に関しては、財務省の「外国為
替平衡操作の実施状況」を見ればわかります。
 これによると、円高が一定以上進行すると、必ず介入している
ことがわかります。日銀が量的金融緩和をしているときも介入は
行われます。財務省関連の論文に「量的緩和時期の外為介入」と
いうのがあり、財務省は介入の効果についていろいろ研究を行っ
ているのです。
 民主党政権下においても介入は頻繁に行われています。「外国
為替平衡操作の実施状況」によると、8回行われており、その額
は16兆4320億円になっています。しかし、その効果はほと
んどなかったのです。為替介入については、明日のEJでも継続
して検討します。    ─── [検証!アベノミクス/40]

≪画像および関連情報≫
 ●「円安進行なら市場介入も」/藤井裕久元財務相
  ―――――――――――――――――――――――――――
  民主党顧問の藤井裕久元財務相(82)は、円安がさらに進行
  すれば政府・日本銀行などが円買い介入に踏み切る選択肢も
  あるとの認識を示した。日銀が大規模な金融緩和を行ってい
  ることで結果的に円安をもたらす政策は「間違い」とも指摘
  した。2014年10年1日のブルームバーグ・ニュースの
  インタビューで語った。藤井氏は1ドル=110円台をつけ
  るなど円安は日本銀行による質的・量的緩和で金融の「ばら
  まき」が行われているのが原因と指摘。このまま進行した場
  合は「言いにくいけど誰かが介入する」と述べ、通貨当局に
  よる円買い介入の選択肢も「あり得る」と語った。東京外国
  為替市場では1日、円が一時6年1カ月ぶりとなる1ドル=
  110円台に下落した。日銀の黒田東彦総裁はドル円相場が
  109円台に乗せた9月19日、20カ国・地域(G20)
  財務相・中央銀行総裁会議が開かれていたオーストラリアの
  ケアンズで、「今の動き自体について何か大きな問題がある
  ように思っていない」と記者団に述べた。藤井氏は円安進行
  による国民生活への影響について、「これからはマイナスだ
  け」と言明。エネルギーや食品の価格が上昇していくとして
  「それがいいとはとても思えない」と語った。2日午前の円
  相場は1ドル=109円を挟む展開。
                   http://bit.ly/1yHU5AM
  ―――――――――――――――――――――――――――

榊原英資氏と溝口善兵衛氏.jpg
榊原 英資氏と溝口 善兵衛氏
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2015年01月23日

●「時期をずらした実質的な為替介入」(EJ第3959号)

 2012年末から2013年の春にかけての円安は、何らかの
為替介入が行われた結果である──伊東光晴京都大学名誉教授は
そのように指摘しています。
 しかし、財務省の「外国為替平衡操作の実施状況」で調べると
2012年から2013年5月までは「介入ゼロ」になっている
のです。為替介入には、政府短期証券の発行が前提になりますが
この期間において外国為替特別会計で政府短期証券は発行されて
いないのです。
 伊東教授は、専門家にしかわからない複雑にして特殊な介入を
金融機関を使って行っているとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 外為特別会計で短期証券を発行し、これによって得た円資金を
もとに先物の円を売り(これをショートという)、同時に、同じ
ショートの円を買う。これと、この円資金で買えるドルの先物の
売り買いを組み合わせる。期間がくると、それぞれを相殺すると
同時に、再び同じことを繰り返し1年数か月たって、ショートの
取引をやめ、ロングの取引──つまり、円を売ってドルを買う。
こうして、2011年に調達した円資金を2012年末以降にず
らして使い、形式上と実質上の介入を分けたのである。
                      ──伊東光晴著
      『アベノミクス批判/4本の矢を折る』/岩波書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、ある時点で為替介入を行うために発行した政府短期
証券をそのときは実質的には使わず、形式的介入にとどめ、時期
をずらして2012年末に使ったのではないかということです。
こういう手法に関しては、伊東教授自身、最近になってわかった
ことがあるとして次のようにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ある投資銀行の人から、形式的介入の時期と実質的介入の時期
をずらすのは他でも行われていることと、投資銀行は、直接では
なく、さらに金融機関を使ってこれを行っているということが寄
せられた。           ──伊東光晴著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 2012年末から2013年春にかけての財務省によって行わ
れたとみられる為替介入は、かつての溝口/テイラー介入のとき
のように、米国の合意があったとみられるのです。実際に当時の
バーナンキFRB議長は、アベノミクスについて質問されたとき
「安倍首相の3本の矢のアプローチを支持する」と発言し、次の
ように述べています。2013年6月20日のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレは長年にわたり日本の問題であり、日銀は極めて困難か
つ定着したデフレと戦っている。デフレ見通しを打ち破り、イン
フレ率を日銀が定めた2%の水準まで上昇させるには非常に積極
的な政策が必要だ。だからこそ非常に難しく、積極的でなければ
ならない。積極的な政策の初期段階においては、投資家がまだ日
銀の反応関数を学んでいるため、ボラティリティーが生じても格
段予想外ではない。また日本国債市場は、例えば米国債市場と比
べて流動性が低いこともある。    http://huff.to/1uvZ8Wo
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、財務省は円安を狙って円を売り、ドルを買うのです
が、そのドルはほとんどの場合、米国の長短期の国債に換えられ
るのです。これは米国政府にとっては歓迎すべきことであり、そ
のために日本の為替介入に暗黙の合意を与えたことは十分考えら
れることです。
 とくにバーナンキ前議長は、空前の規模の量的金融緩和──Q
E1、QE2、QE3まで行っていましたが、このとき自らの退
任を決めていたのです。辞めるときは「飛ぶ鳥跡を濁さず」で、
自分の庭はきれいにしておきたかったと思われます。これに関し
て伊東教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカの中央銀行(連邦準備制度理事会)総裁バーナンキは
2014年春に退任を予定していた。もちろんマネタリストであ
るバーナンキは日本にならって不況対策として通貨供給量の増加
を実施してきた。2013年は期限を決めず、月850億ドル、
約83兆円の国債などの資産を買い入れている(『毎日新聞』2
003年6月7日夕刊)。その結果買い入れた国債が累積する。
これを退任前に減少させたいと思っている。財政当局とて同じで
ある。この間まで、中国がこれを買ってくれていた。いま日本が
これを買うのであれば、アメリカの望むところである。日本の円
高是正のための円売りドル買いがアメリカ国債購入となるならば
アメリカも日本の為替介入を黙認してゆくことになる。溝口テイ
ラー介入時と同じである。もちろんこの円高是正の介入は現財務
官が行うのであって、黒田氏とは何の関係もない。
                ──伊東光晴著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 何のことはない。伊東教授の主張によると、安倍首相、黒田日
銀総裁によるアベノミクス/異次元金融緩和政策は、彼らが自画
自賛するのとはまるで異なり、株価上昇や円安には何も関係はな
いということになります。おまけに、米国FRBの出口戦略に日
本は利用されていることになります。
 そもそも金融政策は、例えば行き過ぎたインフレにブレーキを
かけて止め、正常化させることはできても、銀行貸出を増加させ
て、マネーストックを増やし景気を上昇させるような、こちらか
らプッシュする政策には不向きなのです。
 これは「紐のたとえ」といって、犬のリードを引いて犬の動き
を止めるように、紐を引くことは意義がありますが、紐を押して
も何もできないのです。伊東教授は、安倍/黒田両氏は、紐を押
しているに過ぎないといっているのです。強烈なアベノミクス批
判です。リフレ派の経済学者は、これに対してどのように反論す
るのでしょうか。    ─── [検証!アベノミクス/41]

≪画像および関連情報≫
 ●「聞きかじりだから安倍首相は嘘をつく」/伊東教授直撃
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ――世間ではさまざまな専門家がアベノミクスを評価してい
    ますが。
  伊東/エコノミストは理論を知らない。経済学者は現実を知
    らない。そんなのが新聞社で御用を務めている。理論も
    現実も知っている日本人はいない。
  ――アベノミクスには異次元緩和という第1の矢、国土強靭
    化を大義にした財政出動という第2の矢、成長戦略とい
    う第3の矢があるわけですが、全部ダメ?
  伊東/これに戦後の政治体制の改変という第4の矢が隠され
    ている。アベノミクスはすべてを壊そうとしています。
  ――まず、第1の矢ですが。
  伊東/本質的には日銀の国債引き受けです。それをやらない
    と、予算が組めない。これ以上国債を出すと、国債金利
    が上がってしまうからです。金利が1%上がれば予算編
    成ができなくなる。財務省の役人のクビが飛んじゃう。
    そこで言うことを聞く人物を日銀総裁にしたのです。
  ――異次元緩和で投資や消費が増えるもくろみでしたが、う
    まくいっていませんね。
  伊東/根拠なき政策効果への期待です。日銀の岩田規久男副
    総裁は異次元緩和をすると、人々は物価が上がるだろう
    と考え、設備投資が増加し、景気浮揚の力が働くとして
    いますが、人々の期待は多様なのです。物価が上がれば
    生活が困ると考え、生活を切り詰める人もいるかもしれ
    ない。金利が低くなったところで設備投資をするかとい
    うと、過去に経済企画庁の企業行動調査は否定的な調査
    結果を出しています。     http://bit.ly/1vleBYc
  ―――――――――――――――――――――――――――

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ベン・バーナンキ前FRB議長
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2015年01月26日

●「量的金融緩和を支える経済学理論」(EJ第3960号)

 1月22日の理事会で、遂に欧州中銀(ECB)も量的金融緩
和に踏み切ると発表しています。ECBの指揮下で、各国の中銀
が今年の3月から国債を含めて毎月600億ユーロ(約8兆円)
の資産を買い取り、市場に資金を供給するのです。当面2016
年9月まで続けると声明をしています。その結果、ECBのバラ
ンスシートは現在の2兆ユーロから3兆ユーロに拡大することに
なります。
 いうまでもなく量的金融緩和とは、政策金利を引き下げる余地
がなくなったときの緩和政策のことをいいます。今まででもEU
では何度か導入議論されたのですが、ドイツやオランダが「財政
赤字の穴埋めになりかねない」として猛反対したことにより、実
現にいたらなかったのです。
 ところで、中央銀行が金融機関などが所有する国債などを買い
上げ、市場に資金を供給することがどのようにして物価の上昇や
景気回復につながるのでしょうか。
 これに関しては、いわゆるリフレ派の経済学者の本を読み漁り
調べてみたのですが、どうしても納得がいかないのです。これに
ついて、検証していくことにします。
 リフレ派の主張を裏付けているものに「ワルラスの法則」とい
うのがあります。ここでワルラスというのは、スイスのローザン
ヌ・アカデミー(後のローザンヌ大学)で経済学の教鞭を執ったフ
ランス生まれの経済学者であるレオン・ワルラスのことで、ヨー
ゼフ・シュンペーターによって次のように称賛された優れた業績
を持つ経済学者です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 すべての経済学者の中でレオン・ワルラスは最も偉大である
              ──ヨーゼフ・シュンペーター
―――――――――――――――――――――――――――――
 このワルラスの法則は、経済学部に在籍する学生が、早い機会
に学ぶ経済学の重要な法則です。この法則は、いくつかの市場の
同時均衡についてのルールです。一応その法則自体を紹介してお
くことにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 たとえば、2つの市場、A、Bだけが存在するという簡単な設
定を考えよう。一方の財の市場において「超過需要」が生じてい
る時にはもう一方の財の市場において「超過供給」が必ず生じて
いる。ワルラスは、「超過需要」や「超過供給」が生じたままの
状態で経済取引が実行されることはなく、経済取引はまず、相対
価格の調整によって需給が2つの市場で同時に均衡してから行わ
れるものと考えた。相対価格の調整がなされ品不足、売れ余りが
同時に解消した後に、初めて経済取引が実行されることになる。
                   http://bit.ly/1BZMIZg
―――――――――――――――――――――――――――――
 これだけを読んでも非常にわかりにくいと思われます。一言で
いうと、次のようにまとめられます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  全ての財の総供給の価値額=全ての財の総需要の価値額
―――――――――――――――――――――――――――――
 若田部政治経済学術院教授は、ワルラスの法則によると「経済
は全体から見ると、閉じている仕組みである」といっています。
ここでは、貨幣を1つの財、財・サービスを1つの財と考えて、
式を書き直します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財・サービスの総供給+貨幣の総供給=
           財・サービスの総需要+貨幣の総需要
              ↓
 財・サービスの総供給−財・サービスの総需要=
               貨幣の総需要−貨幣の総供給
―――――――――――――――――――――――――――――
 左辺と右辺がゼロになるというのがワルラスの法則です。この
場合、左辺は「需給ギャップ」として捉えることができます。需
給ギャップがあるということは、貨幣の総需要が貨幣の総供給を
上回っていることになり、この場合は、財・サービスの価値は下
がることになります。デフレ状態がまさにそれです。デフレとい
う現象は、貨幣に対する需要が、供給よりも大きい場合に起こる
のです。
 若田部教授によると、こういう事態に対する対策としては次の
3つの方法があるというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.      自然の調整にまかせる。
     2.財・サービスの総需要を増加させる。
     3.    貨幣の総供給を増加させる。
           ──若田部昌澄著/日本経済新聞出版社
        『解剖/アベノミクス/日本経済復活の論点』
―――――――――――――――――――――――――――――
 ワルラス自身は「1」が正解としているのです。デフレが起き
ると、いずれは需給は調整されると考えています。物価が下がる
と、実質的な資産価値が上がって消費が増えるので、総需要は増
えると考えます。しかし、この考え方は大恐慌が起きて、現在で
は採用されていないのです。
 「2」は、財政政策によって政府が直接需要を増やすという考
え方です。しかし、変動相場制の世界に移行したことにより、そ
の効果は小さくなっています。
 そこで需給ギャップが生じたときは「3」の金融政策によって
中央銀行が貨幣の総供給の増加策をとる方法が正解とされている
のです。貨幣の総供給を増やすと貨幣の価値が下がり、財・サー
ビスの価値が上がります。これがインフレ効果です。これは、現
代の貨幣数量論の基本的な考え方になっています。量的金融緩和
を支える経済学理論はこれだといわれています。
            ─── [検証!アベノミクス/42]

≪画像および関連情報≫
 ●レオン・ワルラス「一般均衡理論」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1870年代に誕生した新しい経済学の考え方、今日の用語
  法でいえば新古典派の経済理論をもっとも整合的な形で展開
  し、現在にいたるまでもっとも基礎的な理論の枠組みを提供
  しているのは、レオン・ワルラスの一般均衡理論である。
  (宇沢弘文著『経済学の考え方』/岩波新書)ということで
  今日はタイトルの通り、ワルラスの「一般均衡理論」につい
  て。「一般均衡理論」を説明する前に、まずは「均衡論」と
  は何か?を整理してみます。右上がりの供給曲線と右下がり
  の需要曲線。交差した点で価格と量が決まる。高校の政治経
  済の授業でも習ったような気がしますが、経済学と言えば、
  たぶん多くの人はこれを思い出すのではないでしょうか?そ
  してこの需要と供給による価格決定論が「均衡論」です。競
  争市場では、需要と供給が一致することにより市場価格と取
  引数量が決定される。以下で示す需要・供給分析は、ある財
  (物品)・サービスの市場に注目した分析となるため、部分
  均衡分析と呼ばれる。(すべての市場を同時に分析するもの
  を一般均衡分析と呼び、対照的に扱われる)。この有名な需
  要と供給による価格決定のお話は、ある一つの財での価格を
  説明する際に使われるものです。これは「一般均衡理論」と
  分ける意味で「部分均衡理論」とも呼ばれ、ミクロ経済学の
  の基本中の基本になるわけです。  http://bit.ly/1yY0R5k
  ―――――――――――――――――――――――――――

若田部昌澄早稲田大学政治経済学術院教授.jpg
若田部 昌澄早稲田大学政治経済学術院教授
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2015年01月27日

●「『流動性の罠』について検証する」(EJ第3961号)

 昨日のEJで取り上げたワルラスの法則の式の部分に誤りがあ
りました。読者からご指摘がありましたので、お詫びして、次の
通り修正させていただきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財・サービスの総供給−財・サービスの「総供給」=
               貨幣の総需要−貨幣の総供給
 上記の式の「総供給」のところは「総需要」です。したがっ
て正しい式は次のようになります。
 財・サービスの総供給−財・サービスの総需要=
               貨幣の総需要−貨幣の総供給
―――――――――――――――――――――――――――――
 リフレ派の経済学者の主張をご紹介していきます。「マネーを
増やす」といっても通常の金融政策では、名目金利を下げて対応
するのですが、名目金利がゼロになってしまうと、それより下に
下げることができなくなります。
 ここに出てきたのが「流動性の罠」という考え方です。これに
は次の2つの考え方があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.元来ケインズ経済学で主張されているもの
    2.クルーグマンの論文で主張されているもの
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」では、名目金利がゼロになると、金融政策は無効になり
財政政策に頼るしか方法がなくなると考えます。現在でもこの考
え方に立つ人経済学者は多いのです。
 「2」はポール・クルーグマン米プリンストン大学教授の19
98年の論文では「1」とはかなり考え方が異なるのです。これ
について、若田部教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 クルーグマンは、2つの利子率を区別します。1つは自然利子
率とでもいうべきもので、資本の期待収益率と考えられます。あ
るいはマネーを財・サービスの購入に振り向けるときの見返りと
考えられます。それに対して、資本のコストが実質利子率です。
ここで何らかの理由で自然利子率が非常に低くなったとしましょ
う。クルーグマンの想定は、日本経済の少子化などの構造的要因
ですが、別のところでは金融危機などで一時的に下がる状態でも
よいとしています。こうなるとマネーへの超過需要が起こり、デ
フレになります。   ──若田部昌澄著/日本経済新聞出版社
        『解剖/アベノミクス/日本経済復活の論点』
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、経済がデフレに陥って名目金利がゼロになると、いく
ら金融緩和をしても景気に対しては効果がなくなります。しかし
やみくもに財政政策をうっても事態は改善しないのです。
 通常であれば金利が低下すると、お金が借りやすくなり、民間
投資が増えるものです。しかし、それがあまり低くなりすぎると
投資資金の需要に対する供給の弾力性が無限大になってしまうの
です。そうなると、中央銀行がお金の供給をいくら増やしても、
投資意欲を刺激することはできなくなるのです。
 クルーグマン教授は、こういう流動性の罠──ゼロ・ローワー
バウンドになったとき、それから脱却する方法として、次のよう
な方法を提案しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そこで中央銀行が非伝統的な経済政策、すなわちインフレ期待
を高め、実質金利をマイナスにすれば「流動性の罠」から脱却で
きる。インフレ目標やマイナス金利の導入に現実味がないという
なら、期待インフレ率を高めるため、減税などの財政政策と、ゼ
ロ金利などの金融緩和を組み合わせた政策を打ち出すことが有効
である。            ──ボール・クルーグマン著
              山形浩生監修・解説/大野和基訳
  『そして日本経済が世界の希望になる』/PHP新書887
―――――――――――――――――――――――――――――
 この本でクルーグマン教授は、安倍首相が「非日本人的決断力
を持つ宰相」であるとして激賞しています。「2%のインフレ目
標」を掲げてデフレ脱却に乗り出しているからです。その決断力
こそが、多くの人々の「期待」を変えるといっているのです。し
かし、増税は論外であるとして反対しています。
 具体的なインフレ目標を掲げるだけでなく、さらにインフレ予
想をさらに醸成するために、補助手段として財政政策を第2の矢
としてやっている──これはきわめて有効な策であるといってい
るのです。
 実はリフレ派の経済学理論である貨幣数量理論は、すこぶる評
判の悪い学説のようです。とくに政府寄りの論述を張る吉川洋東
京大学教授などはその筆頭です。嘉悦大学教授の高橋洋一氏など
は、貨幣数量理論の話をすると、「まだそんな理論を信じている
のか」といわれることも多々あるようです。こと経済に関しては
東京大学の教授は少なくとも私は信用しておりません。
 ノーベル賞のノーベル経済学賞──実はこの賞は、受賞式など
は他のノーベル賞と同じように行われますが、アルフレッド・ノ
ーベルの遺贈したものではなく、スウェーデン国立銀行が設立し
た賞であることをご存知だったでしょうか。この賞の正式名称は
次のようにいうのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜこの賞が設立されたかというと、1931年にスウェーデ
ンを襲った経済危機に対して、敢然とインフレ目標を導入し、大
恐慌からいち早く抜け出すことに成功した中央銀行だからです。
時の総裁は、ステファン・イングブス氏です。そのとき、総裁が
何をやったのかについては明日のEJで説明します。それは貨幣
数量理論に基づいていたのです。
            ─── [検証!アベノミクス/43]

≪画像および関連情報≫
 ●日本のガラパゴス経済学を解剖する/吉松崇氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「生産年齢人口の減少が不況とデフレの原因」(日本総研の
  藻谷浩介氏)、「名目賃金の下落がデフレの原因」(吉川洋
  東大教授)、「お金が究極の欲望の対象となる成熟社会では
  金融緩和は効果を持たない」(小野善康大阪大学教授)。私
  の見るところ、黒田日銀の大胆な金融緩和を批判する言説の
  中で、これは日本特有のものだと思われるのは、以上の3つ
  である。このほかにも、大胆な金融緩和を批判する言説には
  実物的景気循環論(リアルビジネスサイクル仮説)に立脚し
  て、金融緩和で名目変数を動かせても実質変数は動かせない
  つまりデフレがインフレになっても実体経済に影響を与えな
  いとの主張があるが、これは日本特有の言説とはいえない。
  もともとこの学派は、エドワード・プレスコット、ロバート
  ・ルーカスといった1970〜80年代にアメリカ経済学会
  を席巻した合理的期待形成学派の流れを汲む人々である。少
  なくともアメリカでは、1990年代半ばから2008年の
  リーマン・ショックまでの、多くの人々が未曾有のマクロ経
  済安定が永遠に続く!と考えた、いわゆる大中庸の時代には
  この学派はアカデミズムでも政策形成の場でも大きな影響力
  を持っていた。ところが、そもそも実物的景気循環論のモデ
  ルに従えば、金融市場は合理的・効率的なものと想定されて
  おり、実体経済(リアルビジネス)に対して中立的である筈
  だった。             http://bit.ly/1D8eWhA
  ―――――――――――――――――――――――――――

ポール・クルーグマンプリンストン大学教授.jpg
ポール・クルーグマンプリンストン大学教授
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2015年01月28日

●「貨幣数量式理論では説明できない」(EJ第3962号)

 スウェーデン国立銀行のステファン・イングブス総裁は、次の
貨幣数量式が頭にあり、1931年の大恐慌のさい、消費者物価
指数年率2%プラスマイナス1%のインフレ目標を導入し、国を
危機から救ったのです。マネーと物価の関係についてよくわかっ
ていた中央銀行総裁だったからできたことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    M(貨幣ストック)×V(流通速度)
           =P(価格)×Y(取引量)
―――――――――――――――――――――――――――――
 この式は何を意味しているのでしょうか。式を次のように書き
直して考えてみます。
―――――――――――――――――――――――――――――
          V=(P×Y)÷M
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、あるGDPを生み出すのに、貨幣が何回転しているか
を示しています。経済危機が起きると、経済活動が不活発になり
Vは小さくなります。
 取引は、貨幣が仲介しています。たとえば、Pが100円の商
品を10個(Y)取引すると、取引額(PY)は1000円とな
ります。ここに貨幣が500円玉1枚(M)しかなかったとする
と、この500円が2回(V)使われると、うまく取引できるこ
とになります。
 フィッシャーの交換方程式(MV=PY)は、「500円玉1
枚×2回=100円×10個」となり、「ある期間中に取引に使
われる貨幣流通量」と「財貨の取引額」とが等しいことを表して
います。
 この同じ貨幣数量式について、経済学者の野口悠紀雄氏は同じ
式を示して次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    マネーストック×流通速度=物価水準×取引量
 「流通速度」とは、「一定期間内において、貨幣が取引のため
に用いられた回数」と解釈することができる。この逆数を「マー
シャルのk」と呼ぶこともある。マネーストックが増えれば、物
価水準の上昇か、取引量の増加(あるいは両方)が起きるという
ものだ。しかし、実際はそうならなかった。
          ──野口悠紀元雄著/日本経済新聞出版社
       『金融政策の死/金利で見る世界と日本の経済』
―――――――――――――――――――――――――――――
 野口氏が「実際はそうならなかった」といっているのは、次の
ような理由からです。右辺の代理変数として「名目GDP」をと
ります。そうすると、式は次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      マネーストック×流通速度=名目GDP
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本のリーマンショック前の名目GDPは500兆円〜510
兆円の範囲です。しかし、リーマンショックによって、470兆
円程度にまで落ち込み、2013年7〜9月期までは、年換算で
480兆円未満の状態が続いたのです。
 ところがM2(マネーストック)は、2008年8月の737
兆円から2014年8月の875兆円まで、伸び率約2%で上昇
しているのです。つまり、この場合、式の「流通速度」が低下し
てしまっているのです。
 これによって、野口教授は、貨幣数量説が経済分析に使えるの
は、流通速度が一定である場合だけであって、変化してしまった
のでは使えない。したがって、貨幣数量説に依拠して量的緩和措
置を支持する人はいないといいます。
 ワルラスの法則にしても、この貨幣数量理論にしても、中央銀
行が金融緩和をすることによってなぜ景気を押し上げるのか、今
ひとつわからないのです。経済学の理論はどうもまわりくどくて
曖昧なことが多く、スッキリとしないのです。とくにリフレ派の
経済学というのは、反対意見の持つ学者が多く、双方の意見を聞
いていると、明確な結論を出せなくなってしまいます。
 ここで、根本的な疑問にメスを入れることにします。日銀によ
る金融緩和によって市中に多くのマネーが流れるのであれば、そ
れは間違いなく景気に影響することはわかります。
 日銀は戦後の一定時期に「日銀窓口指導」をやっていたことが
あります。これは、昨年のテーマ「新自由主義の正体」のところ
で詳しく述べています。要するに、日銀の窓口指導とは、各金融
機関に貸出先を確保させたうえで資金を提供する方式で、これな
ら確実に資金は市中に流通します。景気に影響するのは当たり前
のことです。つまり、マネタリーベースはそのままマネーストッ
クにつながることになるわけです。
 日銀が金融緩和でいくらマネタリーベースを増やしても、それ
は日銀当座預金に資金が積み上がるものの、金融機関がそれを引
き出して企業などへの貸出に回さなければ、お金は日銀当座預金
に積み上がるだけで、市中には流れないのです。それを防ぐひと
つの提言として、高橋洋一氏は次のようにも述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は「日銀が量的緩和をしないならば、政府が政府通貨を発行
してもいい」という政策提言を行なった。これに対して、不謹慎
な話だと批判をいただいた。もちろん、今の制度で政府にも通貨
の発行権はあるから、現行法の枠内でも可能な話だ。シニョレッ
ジ(通貨発行益)によって、量的緩和をすれば、必ず物価が上が
ることを言いたかっただけだ。政府通貨なら、シニョレッジがそ
のまま財政収入になって、物価を押し上げることを想像するのは
容易だからだ。長い目でみれば、政府通貨も日銀券も同じ経済効
果になるので、政府通貨の発行も日銀券が増刷される量的緩和も
効果は同じはずだ。          http://bit.ly/1Bimhsr
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/44]

≪画像および関連情報≫
 ●マネタリーベースを増やせば物価は上がるか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2014年7月2日に日銀は6月のマネタリーベースを発表
  した。マネタリーベースとは日本銀行が供給する通貨のこと
  であり、市中に出回っているお金である流通現金(日銀券発
  行高と貨幣流通高)と日銀当座預金の合計値となる。現在の
  日銀の金融政策の目標値としているのが、このマネタリーベ
  ースである。たとえば金融政策決定会合の公表文を確認する
  と、昨年4月の量的・質的緩和以前は「無担保コールレート
  (オーバーナイト物)を、0〜0・1%程度で推移するよう
  促す」となっていた部分が、量的・質的緩和以降は「マネタ
  リーベースが、年間約60〜70兆円に相当するペースで増
  加するよう金融市場調節を行う」に変更されている。そのマ
  ネタリーベースが6月末に243兆4305億円となり、5
  か月連続で過去最高を更新した。これはもちろん日銀が金融
  政策の目標に向けて、大量の国債買入などにより資金供給を
  行っていることが主因である。また6月は国債の償還月にあ
  たることや、四半期に一度の貸出増加を支援するための資金
  供給があったことも増加要因となった。今更ではあるが、で
  は日銀は何のためにマネタリーベースを増加させているので
  あろうか。それはむろん、消費者物価の前年比上昇率2%の
  「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、で
  きるだけ早期に実現するためである。
                   http://bit.ly/1Eoaqzh
  ―――――――――――――――――――――――――――

スウェーデン国立銀行本店.jpg
スウェーデン国立銀行本店 
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2015年01月29日

●「日銀は自身の使命をどう考えるか」(EJ第3963号)

 2013年2月7日午前の衆議院予算委員会において、安倍首
相は、民主党の前原誠司委員の「人口が減少するなかで、構造問
題を解決しないとデフレから脱却できないのではないか」という
質問に次のように答えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 人口減少とデフレを結びつける考え方を私はとらない。デフレ
は貨幣現象であり、金融政策で変えられる。人口が減少している
国はあるが、デフレになっている国はほとんどない。 安倍首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 この「デフレは貨幣現象である」という言葉は、マネタリズム
の巨匠のミルトン・フリードマンの言葉を真似ていったものなの
です。もっともフリードマンの言葉は正確には次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         インフレは貨幣現象である
―――――――――――――――――――――――――――――
 高橋洋一氏によると、日銀には昔から「日銀理論」というもの
があり、それは「日銀はインフレをコントロールできない」こと
を意味しているといわれます。
 かつての米FRB議長のポール・ヴォルカー氏は「インフレ・
ファイター」として知られており、インフレには敢然として戦う
ことこそFRBの務めであることを標榜していたのです。そのた
め、日銀理論は、物価の安定をつかさどることを使命とする日銀
が戦わずしてインフレに降伏しているような印象を与えます。日
銀はどうしてこのように弱気なのでしょうか。
 なぜ日銀理論がいわれるようになったのかというと、その端緒
は、1990年はじめのバブル潰しに対して日銀の執った政策を
デフレ経済政策の第1人者である岩田規久男学習院大学経済学部
教授が批判したことにはじまります。
 具体的には、三重野総裁の金融引き締め策によって、マネーサ
プライが急激に低下したことを岩田教授は批判したのです。日本
の多くの経済学者は日銀の顔色を見て正面切って批判しないなか
で、日銀側はこれに猛烈に反論し、遂に日銀は次のことをいうよ
うになったのです。これが日銀理論に結びついてくるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  日銀はマネーサプライをコントロールすることはできない
―――――――――――――――――――――――――――――
 考えてみると、この日銀の最大の批判者である岩田規久男氏を
日銀副総裁に迎えているのですから、日銀の完敗といっても過言
ではないことになります。
 ここで「マネーサプライ」という言葉を使いましたが、これは
そのまま訳すと「通貨供給量」になります。これは世界に流通し
ている金融用語です。日本も2008年までは、この言葉を使っ
ていたのですが、日銀はこれを「マネーストック」に突如変更し
ています。これに日銀対岩田論争が関係するのです。そうすると
「マネーサプライ」と「マネーストック」では、その意味は微妙
に違ってきますが、それにしても、世界でポピュラーな金融用語
を日銀のメンツのために変更するとは、まことに乱暴な話です。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ◎マネーサプライ ・・・・ 通貨供給量
     ◎マネーストック ・・・・  通貨残高
―――――――――――――――――――――――――――――
 このことについては、2014年3月4日付のEJで取り上げ
ていますが、要点を再現しておきます。要するに「日銀がマネー
サプライをコントロールできるかどうか」の問題ですが、ある東
大教授が中に入っての裁定で、「短期的にはできないが、長期的
にはできる」ということに落ち着いたというのです。長期的であ
れ、できるのであれば、それは「できる」というのが常識なので
すが、詳細は次を参照してください。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2014年3月4日付/EJ第3742号「なぜマネーストッ
 クに変更したか」          http://bit.ly/1c2js8n
―――――――――――――――――――――――――――――
 これについて高橋洋一氏は、きわめて興味深いことを指摘して
います。それは、当時から日銀では「マネーストックは2年後の
インフレ率を決める」という事実がわかっていたことです。添付
ファイルのグラフは、1969年〜2011年でマネーストック
とインフレ率の関係をグラフにしたものです。マネーストックは
2年前のものです。
 日銀は、何もかもわかっていて、自ら果すべき役割を果たして
いないようです。少なくとも白川前日銀総裁まではそうであった
といえます。こういう日銀理論について、高橋洋一氏は次のよう
にコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀は、マネーストックをコントロールできないという言い方
をしていたが、実のところ、これは「日銀がインフレ率をコント
ロール出来ないということ」と同義である。というのは、回帰式
を考えれば、インフレ率はマネーストックでコントロールされる
のが明らかなので、マネーストックをコントルール出来るか、出
来ないかは、インフレ率をコントルール出来るか、出来ないかと
完全に対応しているからだ。
 さすがに、日銀がインフレ率をコントロールできないというと
日銀法などの規定に抵触するのが誰の目にも明らかになるので、
あえて、専門用語のマネーストックをコントロールできないと論
点そらしをしたのだろう。本音では、日銀はインフレ率をコント
ロールできないといいたいわけだ。これを皮肉を込めて「日銀理
論」といっている。これは、頑なにインフレ目標を拒否してきた
日銀の本性だ。それは外部から見れば、単に責任回避、組織保身
とみえなくもない。          http://bit.ly/1zvLtAD
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/45]

≪画像および関連情報≫
 ●「日本が陥ったデフレ経済の原因」とは/逝きし世の面影
  ―――――――――――――――――――――――――――
  経済学の常識の範囲ならば日銀からの資金供給量(マネタリ
  ーベース)が増えると、市中に出回る通貨総額のマネーサプ
  ライ(マネーストック)も増加し、銀行からの企業向け融資
  も増加する。通常ならマネタリーベースとマネーサプライと
  銀行融資とは連動していて、この3者には密接な相関関係が
  存在している筈なのです。ところが、我が日本国だけに限れ
  ば、1997年の消費税増税前後からは三者の動きが一致し
  なくなっている。経済がデフレになるかインフレになるかは
  マネタリーベースの増減ではなくて、マネーサプライの増減
  が決定的に影響する。日本はバブル崩壊後の20年間、マネ
  ーサプライは一定であり経済規模の拡大以下の水準なので、
  今のように必ずデフレになって当然であったのです。日本の
  経済全体がデフレで縮小していれば当然銀行融資も減額され
  るので、今の状態は何の不思議も無かったのであった。20
  01年の小泉純一郎首相の時代に日銀の福井俊彦総裁は、今
  回の黒川日銀総裁の『異次元金融緩和』策に類似した、デフ
  レ脱却の『量的緩和拡大』を行って大幅にマネタリーベース
  を拡大、円相場は120円に下落し円高が緩和し株価も1万
  8千円まで上昇している。日本経済を根本的に破壊した小泉
  ・竹中構造改革を今でも支持している(期待している)多く
  の日本国民が存在している原因とは、この時のマネタリーベ
  ースの拡大による株高と円安効果による一時的な景気の良さ
  である。             http://bit.ly/18sPjP1
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/高橋洋一氏論文/http://bit.ly/1zvLtAD

マネーストック対前年比(2年前)とインフレ率推移.jpg
マネーストック対前年比(2年前)とインフレ率推移
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2015年01月30日

●「異次元緩和でM3は増えていない」(EJ第3964号)

 日銀による2013年4月の異次元緩和と、2014年10月
の追加緩和によって、日銀券と日銀当座預金の合計──つまり、
マネタリーベースはどんどん膨張しています。マネタリーベース
は、日銀がコントロールできるマネーのことです。
 しかし、これはあくまでマネタリーベースであって、マネース
トックではないのです。マネタリーベースは日銀当座預金に積み
上がりますが、金融機関がそれを引き出して企業への貸し付けな
どに回さない限り、市中にお金は流れないのです。つまり、単に
金融緩和をしてもマネーストックは増えないわけです。
 そういう情報は、月曜日の日本経済新聞の「景気指標」に出て
います。直近の1月26日の数値から、「銀行貸出残高」「M3
増加率」「マネタリーベース」を抜き出して比較してみます。
―――――――――――――――――――――――――――――
       銀行貸出残高  M3増加率 マネタリーベース
        (前年比)  (前年比)    (前年比)
 13年度数値    2.3     3.1      44.0
 14年01月    2.5     3.5      51.9
    02月    2.4     3.2      55.7
    03月    2.2     2.9      54.8
    04月    2.4     2.8      48.5
    05月    2.4     2.7      45.6
    06月    2.5     2.5      42.6
    07月    2.3     2.5      42.7
    08月    2.3     2.5      40.5
    09月    2.4     2.5      35.3
    10月    2.4     2.6      36.9
    11月    2.8     2.9      36.7
    12月    2.7     2.9      38.2
     ──2015年1月26日付、日本経済新聞朝刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで「M3増加率」という指標は、現金通貨とゆうちょ銀行
を含む市中銀行の預金残高を合計したもので、マネーストックそ
のものです。本来好景気時には、M3はどんどん増加し、マネタ
リーベースの10倍程度まで増えるのですが、景気が低迷すると
その倍率は大きく下がるのです。
 したがって、安倍政権が進めるアベノミクスが本当に景気を刺
激しているかどうかを見るには、「マネタリーベース」によって
日銀がマネタリーベースを増やしている状況を確認したうえで、
企業の貸出を示す「銀行貸出残高」が伸びているかをチェックし
「M3増加率」の状況を調べることになります。
 「マネタリーベース」の前年比の伸び率を見ると、前半は50
%台の大幅な伸び率を示しています。2014年5月以降は伸び
率が40%台から3O%台と小さくなっていますが、これは異次
元緩和が2013年4月からはじまったことによるものです。既
に資金を相当積み上げている前年との比較ですから、当然伸び率
は小さくなります。
 しかし、「マネタリーベース」の大きな伸びにもかかわらず、
「銀行貸出残高」にしても「M3増加率」にしても、特段大きな
変化は見られないのです。これでは、金融機関が保有していた国
債の変動リスクを日銀が肩代わりしているだけといわれても、仕
方がないでしょう。これを見る限りにおいて、アベノミクスがう
まく機能しているとは思えないのです。
 とはいっても、マネタリーベースにせよ異次元と呼ばれるほど
大量のお金を日銀が増加させると宣言すれば、円は売られ、円安
になります。しかも、黒田日銀総裁の金融緩和宣言は多分にサプ
ライズがあったので、市場の反応が早かったのです。
 円安になると、輸出が増大するという思惑などから株価には上
昇圧力が加わり、株高になります。そして、この傾向が顕著にな
り、それが継続すると、それまで国債などの債券に投資していた
投資家も株を購入するようになり、株価はさらに上がる──ここ
までは間違いなくいえるのです。しかし、円安になって株価が上
がっても、肝心の景気回復には結び付かないのです。だが、日本
は長く、円高、株安、経済の低成長という陰鬱なデフレの時期が
続いたので、アベノミクスによって「もしかすると、景気回復す
るかも」と期待する人々が増えたことも確かなのです。
 それでは、2014年10月の追加緩和は何のために行われた
のでしょうか。
 表向きは、黒田日銀の目指す「2015年4月に2%の物価目
標の達成」が難しくなったからであるといわれます。それに国内
景気が、消費税増税の影響が深刻で、きわめて思わしくなかった
こともあります。これに加えて、経営コンサルタントの小宮一慶
氏は、黒田日銀総裁は、政府が政策のフリーハンド(自由度)を
高められるよう配慮したのではないかといっています。
 ここで政策のフリーハンドとは2つあり、1つは消費税増税の
判断についてであり、もう1つは当時巷で囁かれていた解散総選
挙の実施判断です。いずれも、この時点で一挙に円安が進み、株
高になれば、安倍首相のフリーハンドは高まります。
 結果として、安倍首相はこのフリーハンドによって、10%の
消費税増税を先送りし、衆議院解散総選挙に打って出て大勝利を
収めたのです。果たして本当であるかどうかの確証はありません
が、日銀総裁としては本来やってはならない禁じ手を使って安倍
政権を助けたといえます。これについて、元朝日新聞記者で、デ
モクラTV代表、山田厚史氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 妖怪は倒れそうなアベノミクスを抱き起そうというのだ。今よ
りきつい劇薬を飲ませ「国債をすさまじく買うぞ」「株や不動産
も買い上げるぞ」と宣言した。こんなことをいつまでやるつもり
なのか。               http://bit.ly/1qqB5AI
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/46]

≪画像および関連情報≫
 ●「異次元緩和の限界」/五十嵐敬喜のページ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「お金、マネー」(以下、「マネー」と言う)とは、預金の
  ことである。もちろん現金(銀行券と硬貨)もお金には違い
  ないが、経済や金融を考えるときに「お金、マネー=現金」
  というイメージを持ってしまうと本質が見えなくなる。現金
  は、企業や家計等が必要に応じて自らの預金を引き出したも
  のだ。現在はおよそ84兆円の現金が市中で流通している。
  支払いや決済の多くは、それが高額であるほど現金では行わ
  れない。市中に流通している現金の総量は大きくは変わらな
  いし、キャッシュレス化が進めばその分はむしろ不要となろ
  う。日銀が(マネーの供給を増やす目的で)大胆な量的・質
  的緩和を実施しても、現金が増えることはない。現金が増え
  る理由はただ一つ、預金者が自らの預金を現金で引き出すこ
  とだけだ。日銀が輪転機を回すから世の中で現金が増えるの
  ではなく、日銀は預金者が現金を引き出すのに見合って「受
  動的に」輪転機を回しているに過ぎない。ところで預金には
  2種類ある。企業や家計が銀行に預けている預金と、銀行が
  日銀に預けている預金だ。後者は日銀当座預金と呼ばれてい
  る。企業や家計が現金を引き出す場合、銀行は日銀当座預金
  から現金を引き出してその支払いに充てる。したがって、現
  在84兆円の現金が市中にあるのだとすると、民間の預金も
  日銀当座預金も、元々の金額よりも各々84兆円だけ少なく
  なっているわけだ。この元々の金額にはそれぞれ呼び名があ
  る。日銀当座預金はマネタリーベース、民間の預金はマネー
  ストックだ。前者は「日銀当座預金の現在残高+流通現金残
  高」、後者は「民間の銀行預金の現在残高+流通現金残高」
  と言い換えることもできる。    http://bit.ly/1zEIxli
  ―――――――――――――――――――――――――――

異次元金融緩和を説明する黒田日銀総裁.jpg
異次元金融緩和を説明する黒田日銀総裁
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年02月02日

●「中央銀行当座預金マイナス金利に」(EJ第3965号)

 先進国による量的金融緩和のリレーが行われています。そのよ
うに感じないでしょうか。
 リーマンショックでペシャンコになった景気を立て直すため米
国のFRBが先行して実施し、2013年から日銀がその後を追
うように実施し、欧州のECBも準備を進めるなか、FRBが出
口戦略を行って撤退した後を追うように、遂にECBも今年の3
月からの実施を決定──量的金融緩和政策のリレーです。
 2013年から安倍首相がアベノミクスをはじめたとき、いち
早く賛成したのは時のバーナンキ米FRB議長です。日本という
バトンタッチすべき理想的な相手が現われたからです。
 2008年からFRBは量的金融緩和を3次にわたって波状的
に行い、そこに注ぎ込んだ資金は実に4兆8000ドル、当時の
日本のGDPをしのぐすさまじい額になっているのです。これに
よってNYダウは史上最高を謳歌していますが、果して本当に景
気が好転したのでしょうか。
 これは疑問です。しょせんは、バブルで空いた穴をバブルで埋
めているだけではないのでしょうか。これについては、いずれ検
証することにします。
 2014年の夏頃から「ジャクソンホールの密約」という噂が
流れはじめたのです。8月下旬、米国のワイオミング州の保養地
ジャクソンホールで金融セミナーが開かれ、ランチタイムに隣同
士に座ったドラギ欧州中銀総裁とイエレンFRB議長が何やら真
剣に話し合っていたというのです。
 その席で、「米国が量的緩和を終えた後、不足する資金を日本
とEUが埋めるという密約が交わされたのではないか」という噂
が流れたというのです。そして2014年10月にFRBは量的
緩和を終了しますが、間髪を入れず、黒田日銀による追加の金融
緩和が宣言されています。あまりにも話が出来過ぎているといわ
ざるをえないのです。
 ここで、「金融緩和」について知識を整理して、アベノミクス
の検証を進めることにします。
 「金融政策」とは何でしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融政策とは、日銀が利子率を変更することで通貨供給量を調
節し、経済の動きを調整する政策である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 基本は「利子率(金利)の変更」なのです。大前提として、市
場に供給されている通貨供給量(マネーストック)と経済活動の
間には密接な関係があることはわかっています。
 必要以上のお金が市場に供給されると「カネ余り」の状態にな
り、通貨価値が下がって物価が高騰するインフレ現象を起こしま
す。逆に、市場に供給されるお金が不足すると、物価が下落する
デフレ現象を起こします。
 どちらの現象も経済活動を崩壊させてしまうため、日銀は通貨
供給量の動向を監視して、市中に出回る通貨量がつねに適量とな
るように調整しています。
 ところが、金利をゼロないしその近くまで下げてしまうと、通
貨供給量の調節ができなくなってしまいます。金利はゼロ以下に
は下げられないからです。
 そこで登場したのが量的金融緩和政策です。2001年3月に
ゼロ金利になったときに、時の速水優日銀総裁が取った金融政策
のひとつです。つまり、日本がはじめたのです。
 具体的には、当座預金(民間金融機関が日銀内に開設している
預金口座)の残高を増やすこと──それが量的金融緩和政策なの
です。日銀が『当座預金残高を増やす』ということは、民間金融
機関が自由に使えるお金を増やすことを意味します。
 実はこのとき、日本の金融機関は不良債権が積み上がり、危機
的状況にあったのです。時の速水日銀総裁は、それによる不測の
事態も想定して、金融機関の当座預金の残高を増やしたともいわ
れています。それが後に「量的金融緩和政策」と呼ばれるように
なるのです。
 これに関連して知っておくべきなのは、「準備預金制度」とい
う制度です。金融機関が受け入れている預金などの一定比率(準
備率)以上の金額を無利子で日銀に預け入れることを義務づける
制度のことをいいます。これは、1957年(昭和32年)に施
行された「準備預金制度に関する法律」によって、金融政策の手
段として導入されたものです。
 この準備率の調整も金融政策の手段となります。中央銀行はこ
の準備率を操作して、金融機関の現金準備を直接的に増減させ、
その信用創造機能をコントロールする調節手段となっているので
す。預金準備率操作といいます。日銀の量的緩和は、日銀が金融
機関の有する国債などを買い取り、その金額を金融機関の日銀当
座預金に積み上げるかたちを取ります。そうすると、日銀当座預
金の金額には次の2つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.必要準備 ・・・ 無利子の法定準備金額
    2.超過準備 ・・・ 必要準備を上回る金額
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在のところ、「超過準備」の部分については、0・1%の利
息がついています。しかし、EUの場合は、ECBの当座預金の
金利はマイナス金利になっているのです。つまり、当座預金に預
けているとマイナス金利によって預金が減少するのです。そのた
め、金融機関が資金を引き出して貸し付けに回す可能性もあると
いえます。
 EUはそれに加えて量的緩和に踏み切ることになるので、量的
緩和とマイナス金利が果して同時に機能するかどうかが注目され
るところです。問題は、この状態でEUの金融機関が、国債をE
CBに素直に売却するかどうかは疑問です。貸出をするにしても
マイナス金利分のコストを誰が負担するのでしょうか。
            ─── [検証!アベノミクス/47]

≪画像および関連情報≫
 ●ECBマイナス金利導入/近藤駿介氏のブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  欧州中央銀行(ECB)は2014年6月5日の定例理事会
  で追加の金融緩和策を決めた。指標となる政策金利を0・1
  %引き下げ、過去最低の年0・15%とする。主要国・地域
  で初めて、民間銀行が中央銀行に預け入れる余剰資金の金利
  をマイナスにする政策も導入する」(6日付、日本経済新聞
  「欧州中銀、初のマイナス金利」)前回の定例理事会で、追
  加の金融緩和を実施することは予告されていましたので、E
  CBが金融緩和に踏み切ることは想定の範囲内と言えます。
  注目を集めていたのは、金融緩和の中身です。個人的に感じ
  ることは、今回の金融緩和は期待通りの効果を生むかどうか
  とは別に日本の金融緩和を反面教師にして、欧州の「金融」
  を担う中央銀行らしい、慎重に検討された「金融」政策だと
  いうことです。政策金利を0・15%にしたのは、もう一回
  利下げ余地を残したのと同時に、「民間銀行が中央銀行に預
  け入れる余剰資金の金利をマイナスにする」という「マイナ
  ス金利」を導入するからだと思われます。「マイナス金利」
  を簡単に言えば、これまで民間銀行の資金を「預金」という
  形で預かってくれていたECBが、今後は民間銀行の資金は
  「貸金庫」に入れるようにすると宣言したイメージです。E
  CBが「預金」として預かってくれるのであればECBから
  「預金利息」が貰えますが、ECBの「貸金庫」に預けるこ
  とになったことで、ECBに対して「貸金庫代(保管料)」
  を支払わなければならなくなったという感じです。
                   http://bit.ly/1EWSwRI
  ―――――――――――――――――――――――――――

ECBドラギ総裁.jpg
ECBドラギ総裁
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2015年02月03日

●「ECBの量的緩和は成功するのか」(EJ第3966号)

 欧州中央銀行(ECB)の採用した「マイナス金利」──通常
であれば、お金を借りる側が貸す側に利息を支払うのですが、マ
イナス金利の場合は、お金を貸す側が借りる側に金利分を支払う
ことになるのです。
 ECBがマイナス金利を適用したのは、2014年6月11日
のことです。ECBはユーロ圏17ヶ国の銀行から預かるお金に
付ける金利を、それまでのゼロから「0・1%のマイナス」にし
たのです。あわせて、政策金利をそのとき、年0・25%から、
過去最低の0・15%に引き下げたのです。
 2014年6月の時点で、ECBはまだ量的金融緩和は考えて
おらず、このマイナス金利で、どのくらいの効果が期待できるか
を試そうとしていたものと思われます。
 それでは、量的金融緩和とマイナス金利は、実体経済にどのよ
うなかたちで影響を与えるでしょうか。整理してみます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎量的金融緩和
  マネタリーベースを増加→インフレ率に働きかける→予想イ
  ンフレ率の向上→実質金利の低下→実体経済の刺激
 ◎マイナス金利
  中銀当座預金にマイナス金利→当座預金の減少→民間銀行の
  ポートフォリオバランス貸出増加→実体経済の刺激
―――――――――――――――――――――――――――――
 ECBの当座預金にマイナス金利を導入すると、ユーロ圏諸国
の銀行は、長く預けておくと、手数料を取られることになるので
引き出して、企業への貸し出しなどに使おうとするなど、お金を
回しやすくなる効果が期待できるのです。
 また、ドルや円などの通貨より魅力が薄れることで、ユーロ安
を招き、輸入品の価格上昇などを通じて、インフレ率が高まると
いう効果も見込めることになります。それによって、景気を浮揚
させようという狙いです。
 なぜ、ECBがその時点で、マイナス金利を選択したかについ
て、高橋洋一氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ECBが量的緩和でなく、名目金利マイナスを選択したかとい
えば、量的緩和は国債の買い取りを伴うので、EUのどこの国の
国債を買うかでもめるからだ。
 表向きの理由は、財政ファイナンスの禁止である。具体的には
ECBは各国国債の直接引受(買い入れ)をマーストリヒト条約
で禁止されている。これは、日銀でも財政法、FRBも連邦準備
法によって同じように原則禁止となっている。
 日米の中央銀行は、政府からの直接引受ではなく、市中から国
債買入という形でその条項に反しないように国債オペをやってい
るが、ECBだけは各国の思惑の違いがあり、国債買入が政治的
にはやりにくいのだ。なお、ECBにはこうした政治的な弱点が
あるために、財政ファイナンスの禁止をことさら強調しすぎるき
らいがある。             http://bit.ly/1ExFU5X
―――――――――――――――――――――――――――――
 結局のところ、ECBは、2015年1月22日の理事会で、
「量的金融緩和」の導入を決定したのです。ECBの指揮下にお
いて、ユーロ圏各国の中央銀行が国債を含めて毎月600億ユー
ロ(約8兆円)の資産を買い取り、2016年9月末まで続ける
としています。その19ヶ月間の買い取り総額は、1兆ユーロを
超す見通しです。
 一応期限は切っているものの、目標として「2%に近い中期的
な物価上昇目標」というインフレ目標を掲げており、その達成が
見通せるまで続けることに言及しているので、目標達成が見通せ
るまで量的金融緩和政策を続けることになります。しかし、日本
のケースを考えても、その目標が19ヶ月程度の期間で達成でき
るとはとても思えないのです。
 日銀と違う点は、ECBの場合は、量的緩和であげたターゲッ
トが買い入れる国債などの資産規模であり、日銀のようなマネタ
リーベースにはなっていない点です。
 日銀は、マネタリーベースをいくら量的に増加させても、それ
が必ずしも大量に貸出に回るとは考えておらず、マネタリーベー
スを思い切って大きくすれば、そこにインフレ期待が強まり、2
%の物価目標が達成できると考えているのです。したがって、超
過準備の0・1%の付利をした意味はあるといえます。
 しかし、ECBはマイナス金利のままにしています。これは、
ECBの量的緩和の目的が、国債買入による通貨ユーロの下落を
誘い、それによって物価の下落を食い止めるところにあるためで
はないかと考えられます。
 反リフレの主張のなかには、日銀が超過準備に付利しているこ
とを批判する向きがありますが、むしろ超過準備に付利すること
によって、日銀の当座預金に資金が積み上げられ、それが期待イ
ンフレ率を高めるという反論もあります。それに、マネタリーベ
ースの増加がマネーストックの増加に結び付くには、ある一定程
度のタイムラグが必要であるといわれます。
 添付ファイルをご覧ください。上のグラフは、マネタリーベー
スの増加率とマネーストックの増加率を比較したグラフです。マ
ネタリーベースの増加にあわせてマネーストックも増加している
ことがわかると思います。ただマネタリーベースを30%以上も
増加させて、ようやくマネーストックが3%増えているという状
況を考えると、マネーストックを増加させることが決して容易で
はないことが分かります。
 下のグラフは、マネーストックの増加率と、預金および貸し出
しの増加率を比較したグラフです。マネーストックの増加に合わ
せて、貸し出し、預金ともに増えていますが、預金の増加率の方
が高くなっています。これを見ると、供給されたお金は預金とい
うかたちで金融機関に滞留しており、必ずしも貸出に回っていな
いことがわかります。  ─── [検証!アベノミクス/48]

≪画像および関連情報≫
 ●量的緩和策はマネーストックに影響を与えているか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  量的緩和が経済成長に結びつくルートはそれだけではない。
  マネーの総量が増え続けることが予想される場合、世の中に
  はインフレ期待が出てくることになる。実質金利は名目上の
  金利からインフレ率を引いたものなので、インフレ期待が出
  てくれば、実質的に金利を引き下げることができる。実質的
  な金利が下がれば、貸し出しが増え、設備投資の活性化が期
  待される。そうなれば名目上の物価上昇であっても、実質的
  な経済成長を伴うことになる。現時点では株価が上昇してい
  ることや円安になっていること以外には、明確に期待インフ
  レ率が上昇しているという兆候は見られない。ただ、マネー
  サプライの増加傾向が確実になってくれば、円安による輸入
  物価上昇との組み合わせで、ある程度のインフレ期待が醸成
  されてくるかもしれない。ここまで来れば、いよいよ量的緩
  和策の実体経済への波及メカニズムを具体的に検証すること
  ができるようになってくる。来月以降のマネーストックの数
  値は要注目といえそうだ。     http://bit.ly/1ExT56R
  ―――――――――――――――――――――――――――

マネタリーベースとマネーストックの関係.jpg
マネタリーベースとマネーストックの関係
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2015年02月04日

●「株価を政権支持率とする安倍政権」(EJ第3967号)

 ここまで、安倍政権が「この道しかない」として進めるアベノ
ミクについて、肯定派と反対派のそれぞれの立場に立って、予断
を交えず、その検証を進めてきました。しかし、この方向で正し
いとする答えはまだ見つからないでいます。
 その一方で、このままでいいのかと懸念されることはたくさん
あります。安倍政権は、異常なほど「株価」を気にする内閣であ
るといえます。まるで株価が安倍内閣の支持率であるかのように
気にする内閣です。
 1月30日のテレビ東京のWBSを見ていたときのことです。
不敵な笑顔を浮かべる黒田日銀総裁の顔の大写しと、次のタイト
ルとともにニュースが流れたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     過去最大の買い/日銀過去最大の株買い!
       WBS動画/ http://bit.ly/18G7kta
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀は、2014年10月末の追加金融緩和のさい、年間3兆
円のETF=上場投資信託を買い入れると宣言しているのです。
問題はその実績です。2005年1月は3443億円と過去最大
の規模になっています。この額は、年間の買い入れ総額3兆円の
1割以上の金額であり、単月では過去最大になります。
 さらに問題は買い入れる日です。買い入れのタイミングは主に
日経平均が下落した日で、金額としては5日の374億円の買い
入れが最大だったのです。何のことはない。日銀が日経平均を買
い支えている構図です。もちろん、こんなことは、世界でも極め
て異例の措置であり、株価を押し上げる効果を持つ一方、市場の
役割を歪めているとの批判も出ています。
 ETFというのは「上場投資信託」のことです。証券取引所に
上場されていて、株式と同じように取引される投資信託のことで
日経平均株価などの指数などに連動することを目標に作られてい
るのです。つまり、投資信託と株式、両方の性質をあわせ持つ金
融商品のことです。
 もうひとつ、気になることがあります。それは、昨年の秋に厚
生年金や国民年金の積立金の約130兆円を運用する年金積立金
管理運用独立行政法人(GPIF)の新資産構成への移行がいつ
の間にか決まったことです。確かに、そういう話はニュースとし
ては出ていたのですが、いつそれが発表になったかを明確に覚え
ている人は少ないと思います。
 それは、日銀の追加金融緩和の発表が行われた2014年10
月31日に同時に発表されているのです。添付ファイルの「GP
IF新資産構成」をご覧ください。
 このグラフは、2014年6月末時点の資産構成に比べ、国内
債券(主として国債)の比率を54%から35%に大きく減らし
その分、国内外の株式や、外国債券の比率を大きく増やす内容に
なっています。
 とくに国内株は単純計算で約10兆円の買い増しになり、この
発表後に市場が開いた11月4日の日経平均株価は、448円の
急騰になっています。しかし、これによって国内債券の売却額は
24兆円にも上がり、国債価格下落(金利上昇)にもつながりか
ねない状況になります。
 しかし、日銀は同時発表の追加緩和で、長期国債の購入額を年
間30兆円増額しており、GPIFの国債売却を買い支えた体制
になっているのです。これは、日銀と政府が十分に打ち合わせの
うえで行っていることを示しています。
 といっても、GPIFは、株式市場の需給に配慮して、新資産
構成への移行完了期間を示していないのです。したがって、一気
呵成に新資産構成にシフトするのではないようです。株価が上昇
している局面で、一時的に株価が下落したタイミングを見計らっ
て買いを入れる──押し目買いをしていくことが予想されます。
株価が下落することを相場用語で「押す」と表現するので、この
手法は「押し目買い」と呼ばれるのです。
 心配なのは、この新資産構成は「アベノミクスの成功」を前提
にしていることです。ここまでの検証でもわかるように、アベノ
ミクスには、不透明感が多々あるのです。仮にアベノミクスが不
調に終われば、株価下落によってGPIFには何10兆円もの損
失が発生することも否定できないのです。
 GPIFでは、現在運用のプロの人材を募集しています。転職
支援会社コトラによると、2月にそのための採用セミナーを企画
して応募したところ、セミナーへの参加者が150人と当初の倍
以上集まったので、あわててセミナー会場を変更したほどの盛況
ぶりであるといいます。
 こういうGPIFのやり方について、運用業務20年以上の実
戦経験を持つ評論家で、前国会議員政策顧問でもある近藤駿介氏
は、次のように批判しています。そして、今回のGPIF改革は
間違いだらけであるといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 GPIFは既に運用のほとんどを外部委託しています。その運
用委託先は、国内外の有名運用機関ばかりです。つまり、国内外
の優秀な運用機関に預けて来たにも関らず、公的年金の問題は運
用では解決出来なかったということです。
 こうした現実があるなかで、どこから「運用の現場に金融のプ
ロ」を採用するというのでしょうか。GPIFが委託していない
組織の中に「プロ」が埋もれているというのでしょうか。
 また、GPIFが「運用の現場に金融のプロ」を採用できたと
しても、運用はこれまでと変り映えしない運用機関に外部委託す
るわけですから、GPIFが「金融のプロ」を採用したことで、
運用委託先の運用が「リスクをとりつつ損失を避け、安定かつ高
い利回りを実現する高度な運用」に変化するなどということはあ
り得ない話でしかありません。     http://bit.ly/1CQCjhj
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/49]

≪画像および関連情報≫
 ●GPIF改革は間違っている/小幡 績慶応義塾大学准教授
  ―――――――――――――――――――――――――――
  私は、2014年4月21日まで、公的年金の運用機関であ
  るGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用委員
  というものを4年間務めた。運用委員とは、簡単に言えば、
  社外取締役みたいなものである。現在、「安倍政権の官邸が
  主導して、GPIF改革が行なわれようとしている」という
  報道が盛んになされている。私だけでなく、多くの運用委員
  が4月22日から入れ替えとなり、2名を除いては新しいメ
  ンバーで運用委員会が行なわれることとなった。そして、今
  後は、いわゆる有識者会合で議論された、ガバナンスなどの
  変更が行なわれることになるだろう。しかし、GPIF改革
  のニュースは日本国内よりも海外投資家に注目されており、
  私に対する取材も、ほとんどが外資系メディアと海外投資家
  である。そして、彼らの注目は、アセットアロケーションの
  変更がどのように行なわれるかである。つまり、彼らは、G
  PIFが今後何を運用対象資産とするのか、どの資産を買っ
  てくるのかということにしか関心がない。要は、「日本国債
  を売って、株を買うのかどうか」ということである。これは
  誤った議論であり、誤った改革である。今回のコラムでは、
  現在議論されているGPIFの改革のどこが誤りか、本質は
  どこにあるのか、本当はどのような改革が望ましいのかにつ
  いて議論したい。         http://bit.ly/1tTc9ZC
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/「週刊東洋経済2015大予測」P95

GPIF新資産構成.jpg
GPIF新資産構成
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2015年02月05日

●「量的金融緩和とジョン・ローの話」(EJ第3968号)

 今日のEJは少し怖い話をします。前にもご紹介したことのあ
る野口悠紀雄一橋大学名誉教授の新刊書に出ている話ですが、内
容をやさしく要約してお伝えしようと思います。この回のテーマ
で私が読んだ本のなかで、一番参考になっている本です。ご一読
をお勧めします。
―――――――――――――――――――――――――――――
        野口悠紀元雄著/日本経済新聞出版社
   『金融政策の死/金利で見る世界と日本の経済』
―――――――――――――――――――――――――――――
 フランス革命前のフランス──ルイ15世の時代の話です。ル
イ14世の治世は、乱費の限りを尽くし、フランスの国家財政は
ほとんど破産状態にあったのです。
 1715年にルイ14世が死去したとき、フランスの国庫債務
残高は30億リーブルだったといいます。それに対して、そのと
きの財政収入は1・45億リーブルしかなかったといわれます。
つまり、当時のフランスは、財政収入の20年分を超える莫大な
債務を抱えていたのです。
 20年分の債務というと莫大ですが、日本でも2012年度末
の公債残高は780兆円で、税収の16年分に相当します。日本
は当時のフランスを笑えないのです。
 そこにあらわれたのがジョン・ローという人物なのです。彼は
スコットランド人ですが、ルイ15世の摂政であったオルレアン
公爵に取り入って、財務総監の地位に出世するのです。
 ジョン・ローは、フランス政府の財政赤字を解決する方法があ
るとして、オルレアン公爵を説得したのです。そして、その仕掛
けとして次の2つのことをやったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.銀行を設立し銀行券を発行する
      2.ミシシッピ株式会社を設立する
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」は、銀行の設立と銀行券の発行です。1716年にこの
銀行は設立されています。発行された銀行券は、法貨としての地
位が与えられたので、この銀行は、現代の中央銀行と同じ権限を
与えられていたことになります。
 「2」は、1717年のミシシッピ株式会社の設立です。当時
フランスの植民地であった米国のミシシッピ川流域の開発を行う
という触れ込みの会社設立です。しかし、ジョン・ローは本気で
事業をやる気などなかったのです。しかし、本気度を見せるため
オルレアン公爵の名を冠した町を作っています。それが、現在の
ニューオルリーンズなのです。
 さて、これで2つの仕掛けができたのです。ジョン・ローは国
債をミシシッピ株式会社の株式に転換できるようにしたのです。
これがローのやった一番重要なことであるといえます。
 当時のフランスの国債は、すでに信用を失っており、その市場
価格は額面価格を大きく下回っていたのです。それでも政府は国
債を発行せざるを得なかったのです。一方、ミシシッピ株式会社
は、ローの巧みな宣伝により、巨額の利益を生む事業であると期
待されていたのです。
 こういう状況においてローは、国債の額面価値でミシシッピ株
式会社の株式を購入できるようにしたのです。これによって人々
が争って国債を株式に交換したことはいうまでもありません。何
しろミシシッピ株式会社の資本金は1億ルーブルで、これは当時
フランスの国家予算と同規模だったのです。
 ここで重要なポイントは、国債は政府の借金であり、返却義務
がありますが、株式には返却義務がないことです。国民が国債と
株式を交換すればするほど、フランスの王室は、巨額の債務から
解放されることになっていったのです。
 これによってミシシッピ株式会社にはザクザクとお金が入って
きたのです。株価はどんどん上昇を続けたのです。当然配当は支
払わなければなりませんが、ジョン・ローの銀行は大量の紙幣を
刷って配当の支払いに充てたのです。
 さらにローは、ミシシッピ株式会社として王室に12億リーブ
ルを貸し付けています。これは、当時のフランスの国家予算とほ
ぼ同規模なのです。これは驚くべき額であり、当時のフランスの
人々の目にはその額はおそらく「異次元」と映ったに違いないと
いえます。
 野口悠紀元雄教授は、ここまでのジョン・ローのやったことを
次のようにまとめています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ミシシッピ会社の株式の価値を支えていたのは、その事業に対
する人々の期待と、紙幣に対する信頼である。形のあるものとし
て現実に配当として支払われていたのは紙幣だから、結局のとこ
ろ、ミシシッピ会社の株式の価値は紙幣によって支えられていた
と言える。したがって、国債という形の国の債務が、紙幣という
形の債務に置き換えられたことになるわけだ。つまり、これは、
「国債の貨幣化」である。紙幣を増発することによって、国債を
償還したのだ。       ──野口悠紀元雄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、こんなことが成功するはずがないのです。ミシシッピ
株式会社は投機の対象となり、バブルが生じ、フランスはまさに
熱狂状態になったのです。
 1720年になると、さすがのフランス国民もこれは少しおか
しいぞと思うようになったのです。そして紙幣の正貨への返還要
求が起きるようになります。不安が増幅し、貴金属などの価値の
あるものの、国外への流出が起きたのです。
 ローのシステムに対する信頼は急落し、銀行は破綻し、ミシシ
ッピ株式会社の株は暴落したのです。既に市中には大量の紙幣が
残っていたので、インフレが発生したのです。金融緩和の行きつ
く先は、これとたいして変わらない──野口教授はこのように警
告しているのです。   ─── [検証!アベノミクス/50]

≪画像および関連情報≫
 ●「ミシシッピ株式会社とは何か」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  フランスで立てられたこの計画は、開発バブルを引き起こし
  会社の業績が極端に悪いのに発行価格の40倍にまで株価が
  暴騰する事態を招いた。チューリップ・バブル(オランダ)
  や南海泡沫事件(イギリス)とともに、3大バブル経済の例
  えとして知られる。ミシシッピ会社の発行済株式の量は17
  20年には50万株程度だった。すなわち株価が1万リーブ
  ルだった時の会社の時価評価額は50億リーブルとなる。株
  価が500リーブルまで崩壊した1721年9月時点では、
  時価評価額は2億5千万リーブルにまで下がった。ちなみに
  当時のフランス政府の歳出規模は1億5千万リーブルで、政
  府の負債額は16億リーブル(1719年)であった。政府
  とジョン・ローは16億リーブルの政府負債の全てを会社の
  株式で買い上げることにした。この計画は成功した。政府の
  負債の債権者達は、債権や手形でこの株を購入し、1720
  年には政府の全負債はこの会社に移った。これによって、元
  の政府に対する債権者が今度はこの会社の所有者(株主)と
  なったが、会社経営は、政府によってコントロールされてい
  た。政府は毎年3%にあたる4千8百万リーブルの利息を支
  払った。これによって、政府は歳入の10倍(GDPの約2
  〜4倍)もの多額の債務の返済を一時的に免れ、債務免除さ
  れたような状況になった。この成功によって株価は高騰した
  が、その後1720年から1721年にかけて、この会社の
  市場からの資本調達が破綻した。  http://bit.ly/1CTKlGm
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジョン・ロー.jpg
ジョン・ロー
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2015年02月06日

●「日本の国債はバブルに陥っている」(EJ第3969号)

 今日は昨日よりももっと深刻な話をします。ジョン・ローの経
済政策は非常に現代の量的金融緩和政策に似ています。これは、
1710年代から20年代の話ですが、現存する中央銀行のなか
で最古の歴史を有するのは、1668年に設立されたスウェーデ
ン国立銀行です。
 しかし、今日見られるような典型的な中央銀行制度に最大の貢
献をしたのは1694年に設立されたイングランド銀行です。当
初は銀行券を独占して発行はできなかったものの、1844年に
銀行券発行の独占権を認められています。
 さて、「ビットコイン」のテーマのところで、紙幣というもの
が、金匠の発行する預かり証から発達したものであることについ
て述べましたが、ジョン・ローは、スコットランドの首都、エジ
ンバラ近郊で、金細工師・銀行家のウィリアム・ローと、その妻
ジャネットの第5子として出生しているのです。彼は金匠の息子
なのです。そのため、小さいときから、銀行というものについて
よく知っていたのです。
 ジョン・ローは、「紙幣はほとんどコストなしに増発できる」
という事実に目をつけ、「市中に紙幣が増えれば経済は活性化す
る」ということを人々に信じ込ませ、政府の債務を巧みに紙幣に
転換したのです。
 ジョン・ローの場合は、ミシシッピ株式会社の株価がバブルを
起こしたのですが、日本の場合は、国債がバブルを起こしている
といえます。どこがバブルなのかというと、それは、金利が異常
なほど低くなっているからです。
 この原稿を書いている2月3日時点の長期金利は、0・285
%です。ある専門家が「0・3%」を切ることは絶対ないといっ
ていたこのラインをあっさり割ってしまっています。
 2014年末の時点では、残存年数が4年以下の国債利回りが
マイナス0・02〜0・4%、5年国債が0・03%、10年国
債が0・33%、20年国債が1・09%、30年国債が1・3
%となっています。驚くべきことに、残存年数が4年以下の国債
利回りはマイナスになっていることです。
 どうしてこんなに金利が低くなってしまったのでしょうか。
 それは日銀が、2013年4月から「長期国債」を毎月7・5
兆円買い入れることをコミットメントする異次元量的金融緩和を
継続して行い、さらに2014年11月から買入れ額を毎月8〜
12兆円に拡大して、その保有残高を年間80兆円増加させる狂
気の量的追加緩和を始めたからです。
 大雑把にいうとこうなります。今や日銀は市中で新規発行され
る長期国債のほぼ全額を買い入れています。しかし、そうしても
年間32兆円程度しか残高は増えないのです。もちろん償還があ
るからです。
 しかし、日銀は80兆円の長期国債の保有残高を増加させなけ
ればならないので、そのためには、民間保有の「長期国債」を年
間50兆円ほど吸い上げることになります。
 それでも「物価目標2%」の達成は無理なのです。完全にアベ
ノミクスは現在空回りしています。それにもかかわらず、この超
異次元緩和を消費税が10%に増税される2017年4月まで日
銀は続けようとしています。まさかやらないとは思いますが、さ
らに超・超異次元追加緩和をやる可能性だってあるのです。
 長期金利が低下し過ぎると何が起きるでしょうか。
 それは、日本全体において投資収益水準全体の低下が起こり、
投資意欲が減退し、それによって景気が減速し、デフレが加速し
ます。何のことはない。デフレから脱却するためにやっている量
的金融緩和がかえってデフレを加速させることになるのです。
 そして、円安がさらに加速し、既に起きつつある輸入物価の高
騰が起こり、消費者の生活や、中小企業の活動を損ない、さらな
る景気減速を招く恐れがあります。そして、デフレの様相がさら
に深刻化すると考えられます。そして2017年4月には、否応
なしに消費税が10%まで増税されるのです。日本経済は、これ
で完全に沈没してしまいます。
 現在、銀行は日銀の異次元金融緩和によって、非常に安直に収
益を得ている状況にあります。既に述べているように最近の国債
利回りの急低下で、残存年数が4年以下の国債利回りが軒並みマ
イナスとなっており、発行額の多い5年国債利回りが0・03%
7年国債でも0・09%の低さになっています。つまり、0・1
%を切っているのです。
 したがって銀行は、残存年数7年以下の国債をすべて日銀に売
却してしまい、その代金を日銀当座預金に積み上げておけば、大
変安直に収益が上がることになります。日銀当座預金の超過準備
分に対しては、0・1%が付利されているからです。皮肉なこと
に、この0・1%付利が、資金が外に流れ出すことを止める際ど
い滑り止めになっているのです。
 これほどの低金利になると、国内資金が流出を始めることは時
間の問題です。いや、それはもう始まっており、そのため円安に
なっているかもしれないのです。日銀当座預金は、要求払い預金
ですから、銀行がそれを引き出して外債に投資を始めることを止
めることはできないのです。
 そうすると、何が起きるでしょうか。
 それは、これまで国内資金で支えてきた1000兆円を超える
公的債務をファイナンスできなくなることを意味します。財政赤
字がいくら大きくても、それが1000兆円を超えていようと、
それは民間の需要不足を公的需要で補っている結果で、それだけ
ではあまり深刻になる必要はないのです。怖いのは、その公的債
務を国内資金でファイナンスできなくなる事態です。
 日銀の超異次元金融緩和によって、その危機は刻々と近付いて
きています。これ以上、長期金利の低下が続くと、国内資金の海
外流出が起きる可能性が高まっています。それはそんなに先のこ
とではない可能性が高いのです。
            ─── [検証!アベノミクス/51]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の長期金利が過去最低を更新した背景
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2014年12月25日に日本の10年国債の利回り(長期
  金利)は0・310%に低下し、2013年4月5日につけ
  たこれまでの最低となっていた0・315%を下回り、過去
  最低を記録した。26日には、0・003%まで低下した。
  25日には2年国債の入札があり、そこでの平均落札利回り
  は0・003%となり、利付国債の入札としては初めてのマ
  イナス金利が発生した。ここまでの日本の金利低下の背景に
  はいくつかの要因が考えられる。最も影響力があるのが、日
  銀の異次元緩和による新規発行額に相当する国債の買入であ
  る。これにより、需給面ではほとんど不安なく、マイナスで
  あろうが、需要があれば買われる状況となっている。その国
  債への需要であるが、日本でのマイナス金利の背景には海外
  投資家の存在がある。今年の夏以降、為替スワップ市場にお
  いて、ドルの超過需要が強まったことを背景に、円投ドル転
  コストが上昇し、その分がジャパンプレミアムのようなもの
  となった。ドルを保有する外国投資家が、為替スワップを通
  じて非常に安いコストでドルを円に転換できるため、外国投
  資家は、レートがマイナスの国債に対して、マイナスのコス
  トで調達した円を投資したのである。為替スワップによる円
  の調達コストが大きなマイナスであれば、マイナス金利であ
  っても利鞘は取れる。これが日銀の追加緩和の影響も手伝い
  3か月物から1年物におよび、ついに残存4年近くにまでマ
  イナス金利が波及しつつある。   http://bit.ly/18JA0l3
  ―――――――――――――――――――――――――――

超異次元緩和を続ける日銀総裁.jpg
超異次元緩和を続ける日銀総裁
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2015年02月09日

●「スイス銀の次に問題は日銀である」(EJ第3970号)

 アベノミクスにより、「円安株高」の傾向が定着しつつあった
1月半ばのことですが、突如「円高株安」という光景があらわれ
たのです。何が原因でそうなったのでしょうか。
 その原因は、スイスの国立銀行の次の宣言があったからです。
1月16日の朝日新聞デジタルは次のように伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 スイス国立銀行(中央銀行)は15日、欧州政府債務(借金)
危機をきっかけに、通貨スイスフランが高くなるのを抑えるため
に導入した対ユーロ相場の上限目標を撤廃すると発表した。これ
を受けて、金融市場ではスイスフランが買われ、ユーロに対し、
一時30%の急騰となった。
 スイス国立銀は、2011年9月、危機でユーロ安が進み「安
全資産」としてのスイスフランが上昇していたため、1ユーロ=
1・2スイスフランを上限に設定。それを超えて値上がりしそう
なときはスイスフラン売り、ユーロ買いの為替介入を無制限に実
施することを決めた。これにより為替相場は、1ユーロ=1・2
スイスフラン前後で推移していた。
       ──2015年1月16日付、朝日新聞デジタル
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそもスイス国立銀行は、どうして1ユーロ=1・2スイス
フランの上限を設けたのでしょうか。それには、スイス国立銀行
がこの決断をした3年前の状況について知る必要があります。
 その原因は、当時のギリシャ危機に端を発した欧州財務危機が
PIIGS諸国(ポルトガル、アイルランド、イタリア、スペイ
ン、ギリシャの各国)全般に広がっており、各国の国債価格が急
落しつつあったことです。このままでは国債の借り換えが困難化
し、放置すると、投資家がそれらの国々から資金を引き揚げ、よ
り安全な避難先を探すことになります。
 その安全な避難先として選ばれたのがスイスフランなのです。
スイスフランは「堅い」イメージがあり、世界の退避資金がスイ
スフランめがけて一斉に流れ込んだのです。当然スイスフランは
強くなり、スイスの輸出業者は苦しむことになります。
 そこでスイス当局としては考えたのです。スイスフランを「ダ
メな通貨」であるユーロと連動させると宣言し、安全な避難先と
しての魅力をわざと奪い去ってしまえば、スイスフランへの怒涛
の投機資金流入が避けられると考えたのです。そしてその結果行
われたのが、無制限為替介入です。
 しかし、この考え方には問題があります。ある国の通貨を他の
国の通貨──ここではユーロに連動させるということは、その金
融政策も同じにしなければならないことを意味します。そうでな
いと、金利差などに代表される、通貨間での魅力の差が生じてし
まい、無制限為替介入の労力がその分、増えてしまうからです。
 それでもスイス国立銀行の無制限為替介入はそれなりの効果を
発揮したのです。それにこの3年ほど、いわゆる欧州危機はドラ
ギ総裁の采配によって少しずつ収まりつつあったのです。しかし
この3年の間に投資家たちは、スイス当局の無制限為替介入の方
針を前提として投資を行うようになっていたのです。
 そして2015年、再びユーロ圏の経済は悪化し、ギリシャも
総選挙の結果、緊縮反対派が勝利し、ギリシャのユーロ圏離脱の
危機も懸念されている状態です。このままでは、デフレの懸念も
あるので、ECBのドラギ総裁は、1月の政策決定会合で量的金
融緩和を決断する可能性が確実視されていたのです。
 これによって、スイス当局は完全に追い込まれたのです。そう
でなくても現在スイス国内では不動産バブルの兆候が生じており
これ以上ユーロ圏が緩和すると、スイス国立銀行は、それに調子
を合わせてさらに緩い金利政策は取れないからです。
 そこでスイス当局が決断したのが無制限為替介入の突然の終了
です。この発表に大混乱になった投資家たちは、株などのリスク
資産を売る一方で、安全資産である円や日本国債への資産逃避に
なだれを打ったのです。メディアはこれを「有事の円買い」と呼
んでいます。
 これによって、投資家の間では中央銀行をどこまで信用してい
いものか疑念が広がりつつあるといわれます。そして、スイスに
続いて、日本も中央銀行である日銀が、先進国の中央銀行として
は、極端な金融政策を取っており、何かが起きたとき、次に危な
いのは日本だと思われているのです。
 クレディ・スイス証券チーフエコノミストの白川浩道氏も次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本銀行が異次元緩和を始めてまもなく3年目に突入しますが
大量に国債を買い続けるこの政策は限界が近づいてきました。ス
イスの例を見てもわかるように、無理のある異常な政策はどこか
でやめなければいけない時が来るのです。
 そして中央銀行が降りる決断をした際には、副作用は避けられ
ない。このほどスイス中銀がギブアップすると、スイスフランは
対ユーロで一気に3割ほど急騰しました。日本に置き換えれば、
1ドル=120円から85円になったわけで、日本でも同様の事
態になれば、これほどの急激な円高シフトが起きかねないといえ
ます。                http://bit.ly/1xF9Apw
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、円安に振れているのは米国の利上げの観測があるからで
す。この6月にもイエレンFRB議長の判断で利上げが行われる
という観測が行われています。しかし、米国での賃金の上昇は遅
れているのです。このままであると、米国の利上げは6月よりも
もっと後にズレ込む可能性もあるのです。
 世界のメディアでは、イエレン議長は簡単には利上げに踏み切
れないと予測しています。それは、急激に進行している原油安が
あるからです。もし、「1バレル=35ドル」前後まで下がると
円安のシナリオは崩れる可能性が濃厚であり、事態を注視する必
要があります。     ─── [検証!アベノミクス/52]

≪画像および関連情報≫
 ●「スイスショックはなぜ起きたか」/窪田真之の時事深層」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  スイス国立銀行(中央銀行)が1月16日、2011年以来続
  けてきた無制限の為替介入を突然やめると発表し、スイスフ
  ランが1日で一時30%もの急騰(対ユーロ)を演じたことが
  世界中に波紋を広げている。「中央銀行は嘘をついていいの
  か?」。スイスフラン急騰で大きな損失をこうむった投資家
  からは恨み節が聞こえる。スイス中央銀行が1ユーロ=1・
  2スイスフランを上限として無制限のスイスフラン売り介入
  をすると宣言していたことを信じて、スイスフランを売り建
  てていた投資家は、一瞬にして大きな損失をこうむることと
  になった。中央銀行の介入は、為替市場に大きな影響を及ぼ
  すが、それにも限度はある。スイスは、国土面積では日本の
  九州とほぼ同じ面積の小さな国だが、経常収支で黒字を稼ぎ
  続ける「高信用国」である。放っておけばスイスフランは対
  ユーロで上昇を続けることになる。スイスは国内の輸出産業
  の競争力を維持するため、無制限のスイスフラン売り介入を
  宣言してスイスフラン上昇を抑えてきた。ところが、欧州中
  央銀行(ECB)が追加金融緩和に踏み込む公算が高まり、
  ユーロ売り・スイスフラン買いの市場エネルギーが増大して
  きたために、スイス国立銀行は介入でスイスフランの上昇を
  抑えることを断念せざるを得なくなった。かつて日本円は、
  スイスフランと同じ「高信用通貨」とみなされ、絶え間ない
  買い圧力に悩まされていた。為替介入だけでは円高を止めら
  れないという、スイスと同じ経験をしている。
                   http://bit.ly/1zHBcyf
  ―――――――――――――――――――――――――――

スイス国立銀行本店.jpg
スイス国立銀行本店
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2015年02月10日

●「円安シナリオが崩れる2つの要素」(EJ第3971号)

 アベノミクスには賛否両論が渦巻いています。「日銀が国債な
どを従来では考えられないほどの量を買いまくる」ということに
何となく危うさを覚える人は少なくないでしょう。
 しかし、このようにアベノミクスの金融政策である量的金融緩
和を批判する人はたくさんいるものの、「それなら、代替案を示
せ」といわれると、批判だけでなく、こうすべきであると明確に
代替案を示した人は、私の知る限りいないのです。
 このように、アベノミクスの成否がいろいろ取り沙汰されてい
るなかで、アベノミクス以前と以後の変化を比較すると、次のこ
とは間違いなくいえると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
     「アベノミクス以前」 ・・ 円高・株安
     「アベノミクス以後」 ・・ 円安・株高
―――――――――――――――――――――――――――――
 そのキーになるのは「円安」か「株高」かということです。ア
ベノミクス以前は1ドル=80円台、以後は110円台で推移し
ています。30〜40%の大きな違いです。このことを影響して
日経平均も2月6日現在、1万7500円台をつけています。ア
ベノミクス以前は株価が約8000円程度だったので、大変化で
す。円が高いか安いかによって、その恩恵を受ける人は違ってき
ます。しかし、国の経済や景気のことを考えるのであれば、やは
り「円安」であることが求められるのです。車や家電などの大型
製造業の業績が良いか悪いかは、国の景気に大きな影響を与える
からです。
 アベノミクスによる円安になってから丸2年が経過しますが、
製造業の一部──シャープ、パナソニック、キャノン、ダイキン
ホンダなどが生産拠点を国内に戻す動きが始まっています。これ
などは確実に経済に影響を与える動きです。1ドル=120円ぐ
らいが国内回帰のメドになるようですが、為替は動くので、ある
程度安定することが求められるのです。
 しかし、アベノミクスがうまくいったとしても、その円安、株
高を脅かす要素として、現在次の2つがあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.原油安の拡大
          2.欧州危機拡大
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」の原油安は、既に終息したという人もいますが、これか
らさらに低下するという意見が支配的です。この原油安は、米国
のシェールガスを意識したサウジアラビアが仕掛けた戦略であり
サウジアラビアは「1バレル=30ドル」まではやるという説も
あるからです。これに関して、証券アナリストの植木靖男氏は、
この原油安はサブプライムローン問題よりも大きな経済危機を招
くと次のように警告しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国のシェールガス関連企業の破綻ラッシュです。原油安です
でに倒産した会社も出てきましたが、さらに後が続けば資金の出
し手である金融機関が莫大な不良債権を抱えることになる。すで
に米国では数10兆円の不良債権があるとも言われ、サブプライ
ムローン問題より大きな危機に発展しかねないという声も出てき
た。仮に米国の大手銀行が破綻することになれば、急激なドル売
り・円買いが起きて、1ドル=100円割れまで急騰する可能性
があります。             http://bit.ly/1zjT3I3
―――――――――――――――――――――――――――――
 もしこのように、原油安がこのまま続くと、イエレン米FRB
議長は簡単に利上げに踏み切れなくなります。これについて、株
式評論家の渡辺久芳氏は、「原油が35ドルまで下がると円安の
シナリオは崩壊する」として、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国が利上げをするには、インフレになっていることが条件で
すが、原油価格が下げ止まらないことで、インフレになりにくく
なっています。原油価格は下げ止まったという楽観論を語る人も
いますが、まだまだ低下するリスクは十分にある。現在1バレル
=40ドル台の水準ですが、これが35ドル前後まで下がれば、
円安のシナリオが崩れるのは当然。そこまでいけば、産油国を中
心に新興国経済が大打撃を受けて市場全体が一気にリスクオフに
傾き、短期的に円が買われやすくなるという、パターンになるで
しょう。               http://bit.ly/1A3PACD
―――――――――――――――――――――――――――――
 「2」は欧州危機の拡大です。欧州中央銀行のECBは、3月
から量的緩和政策を取ることを決定していますが、これによって
欧州危機が解決される可能性は低いのです。なぜなら、量的金融
緩和だけをやっても効果は低く、同時に財政政策を実施すること
が必要ですが、ドイツが猛烈に反対しており、実現する可能性が
低いからです。それに加えて、SMBC日興証券シニアエコノミ
ストの渡辺浩志氏は、リーマンショックのような予測不能の事態
が起きることが一番怖いと次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 たとえば、欧州危機が再燃してスペインやイタリアの銀行が破
綻する。5月に総選挙が行われる英国でEUからの離脱を主張す
る政党が大勝して、英国がEU離脱を決める。仮にそんなことが
起これば、リーマン級の衝撃がマーケットを駆け巡るでしょう。
リーマン時には、半年足らずで約2割も円が急上昇しています。
 現在に置き換えれば、1ドル=90円台前半になる可能性があ
るということです。そうした急激な円高が進む際には、企業収益
は悪化し、このところやっと上昇の兆しが見えてきた賃金が減る
どころか、リストラで職を失う人も出てくるでしょう。アベノミ
クスがスタートする以前の振り出しに戻るということです。
                   http://bit.ly/1zjT3I3
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/53]

≪画像および関連情報≫
 ●「ECBが遂に量的金融緩和」/岡田晃氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ECBも昨年から量的緩和導入を議論してきましたが、ドイ
  ツなどの強い反対で実施に踏み切れないでいました。反対の
  理由は、量的緩和によって大量のお金がじゃぶじゃぶ状態に
  なり、インフレやバブルを生む心配があるからです。これに
  は歴史的な背景があります。ドイツは第1次世界大戦後に敗
  戦と戦後賠償金の支払いなどの影響で物価上昇率1万%以上
  という超インフレに見舞われました。パン1個が1兆マルク
  になったとか、コーヒー1杯を飲んでいる間に値段が何倍に
  もなったというウソのような実話が残っているほどです。フ
  ランクフルトにあるドイツ連邦銀行(ユーロ発足前のドイツ
  の中央銀行)の通貨博物館には、その頃発行された100万
  マルク札や100兆マルク札などの紙幣が展示されてありま
  す。以前にこれを見た時「あの悲惨な超インフレを二度と繰
  り返してはならない」というドイツの強いメッセージを感じ
  ました。このような歴史からドイツ連銀は「インフレを絶対
  起こさない」という強い使命感を持って金融政策を進めてき
  ました。ユーロ統合によって発足したECBもその精神を受
  けついでいるのです。そのような精神は中央銀行としてきわ
  めて重要なことですが、そのことから金融緩和には慎重にな
  る傾向がECBには見受けられました。従来からの利下げも
  スローペースでした。       http://bit.ly/1A42dhe
  ―――――――――――――――――――――――――――

シェールガス採掘現場.jpg
シェールガス採掘現場
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2015年02月12日

●「ドイツの緊縮財政は水責めである」(EJ第3972号)

 ここで、欧州連合(EU)の諸問題について考えてみることに
します。なぜEUかというと、現在、EUの深刻な危機が再び囁
かれているからです。
 2月8日のロイター通信によると、ギリシャのバルファキス財
務相はドイツのショイブレ財務相との会談が不調に終わったこと
を受けて、イタリア放送協会(RAI)のインタビューで、次の
ような爆弾宣言を行っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もしギリシャがユーロ圏を離脱すれば、他の国が追随し、ユー
ロ圏は崩壊する。ユーロ圏はぜい弱で、カードで城を作っている
ようなものだ。ギリシャのカードを取り除けば全体が崩れる。
             ──ギリシャ/バルファキス財務相
―――――――――――――――――――――――――――――
 このバルファキス財務相の発言は、もしECBがギリシャの要
求を受け入れないのであれば、ギリシャのユーロ圏離脱はあり得
るという宣言です。そうすれば、他の国も追随し、ユーロ圏は崩
壊することになるぞ──このようにECBとそれを主導するドイ
ツに脅しをかけたのです。
 今回のギリシャの総選挙で勝利したチプラス首相は、その足で
アテネ郊外のケサリアニを訪れています。ナチスの占領時代に、
ナチス親衛隊に殺害された同胞へ花をたむけるためです。このよ
うに、チプラス政権はドイツに対して強い不信感を持っており、
とくに、この新政権で財務相に就任したバルファキス経済博士は
ドイツ主導の緊縮財政に対し、「間違っている」として、次のよ
うに表現し、批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ドイツの緊縮財政は財政上の水責めそのものである
―――――――――――――――――――――――――――――
 かつての欧州債務危機は、確かにEUとIMFによる巨額の金
融支援によって表面上は収束したものの、その代わりに支援を受
けた国々は厳しい緊縮財政が課せられたによって、EU全体の経
済成長は停滞し、2012年、2013年とマイナス成長が続き
2014年も0・8%の回復にとどまっています。このようにし
て、EUはデフレの入り口まで追いつめられてしまったのです。
 このドイツの経済に対する考え方について、遠藤乾北海道大学
教授は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドイツと、仲間であるオランダやフィンランドなどは、勤労・
倹約・契約に価値をおく。国ごとに財政を均衡させ、賃金を抑制
し、借りた債務は返済する。ドイツ自身が財政出動などを通じて
内需を拡大し、欧州全体の経済を活性化する意識は乏しい。
 ましてや、すでに再編済みの債務をさらに棒引きするなどあり
えない。世論の後押しもある。独大衆紙ビルトは「ユーロの怪物
を選出!」とギリシャ総選挙の結果を伝えた。
    ──2015年2月3日付、日本経済新聞「経済教室」
       遠藤乾北海道大学教授論文「激動ユーロ下」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ユーロ圏に属するそれぞれの国の国民性や価値観の違いが鮮明
にあり、何回話し合っても、議論しても、交わることのない哲学
のようなものをそれぞれ抱えていると思います。
 ドイツはかつてハイパーインフレに見舞われ、塗炭の苦しみを
経験した国です。そのため、インフレを非常に警戒します。した
がって、今回のECBのドラギ総裁によるインフレ目標を掲げて
の量的金融緩和などはもってのほかでしょう。そのため、ドイツ
は最後の最後までECBの方針に反対したのです。
 しかし、債権国家であるドイツは、自国の利益だけではなく、
ユーロ圏全体の経済のことをもっと考えるべきです。なぜなら、
ユーロ圏によって何よりもドイツ自身が一番利益を得ている国だ
からです。EUはドイツによるドイツのためのEUであるという
面も多くあるからです。
 遠藤乾北海道大学教授はEU主要国の各国への印象に見る「ス
テレオタイプ」を表にしています。ステレオタイプとは、判で押
したように多くの人に浸透している先入観、思い込み、認識、固
定観念やレッテル、偏見、差別などの類型・紋切型の観念のこと
をいいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪欧州各国民の各国への印象/ステレオ・タイプ≫
       最も勤勉  最も信頼  最も怠惰  最も不信
    英国  ドイツ   ドイツ  ギリシャ  フランス
  フランス  ドイツ   ドイツ  イタリア  ギリシャ
   ドイツ  ドイツ   ドイツ  ギリシャ  ギリシャ
                         イタリア
  イタリア  ドイツ   ドイツ ルーマニア  イタリア
  スペイン  ドイツ   ドイツ  ギリシャ  イタリア
  ギリシャ ギリシャ  ギリシャ  イタリア   ドイツ
 ポーランド  ドイツ   ドイツ  ギリシャ   ドイツ
    ──2015年2月3日付、日本経済新聞「経済教室」
―――――――――――――――――――――――――――――
 これによると、ドイツは多くの国で「勤勉で信用できる」と思
われています。EUはドイツあってのEUであり、EUの中心は
やはりドイツです。
 「最も信頼」は、ほとんどの国がドイツを上げていますが、ギ
リシャだけは勤勉で信用できるとしたのは、本人たち以外にはお
らず、ギリシャでドイツはまるで信用されていないのです。
 そのドイツは、ギリシャを「最も怠惰」な国としており、そし
て「最も不信」に感じている国はギリシャとイタリアです。ドイ
ツはイタリアについても強い不信感を持っているのです。
 このような状態で、そもそもEUはうまく行くのでしょうか。
3月からECBによって行われる量的金融緩和はユーロ圏に春を
もたらすのでしょうか。 ─── [検証!アベノミクス/54]

≪画像および関連情報≫
 ●「日本だけが出口なき金融緩和を実施」/小幡績の視点
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ついに、ECB(欧州中央銀行)が量的緩和に踏み切った。
  ここ数年、市場や政治の要求に屈せず、量的緩和からは一線
  を画してきたECBまでが量的緩和を行うことで、金融市場
  はついに歯止めを失った。では、世界は超金融緩和の世界に
  入り、金融市場はマネーに溢れ、バブル突入、世界金融市場
  崩壊、となるかというと、そうでもない。量的緩和に対して
  原理的にも実践的にも強く反対している私にとっては、その
  方が、わかりやすく原稿を書けるのであるが、現実はそうで
  はない。なぜなら、堕落したのは日本と欧州だけだからだ。
  米国の中央銀行(FED)、あるいはFRBのバーナンキ議
  長(当時)が、もっとも量的緩和の正当性を強く主張し、信
  じ、愛し、実行してきた。心の底から正しいと思って、ある
  意味、前向きに実行してきた。世界で唯一の「明るい金融計
  画」ならぬ「明るい量的緩和」を行ってきた。一方、日本と
  ECBは、市場と政治とエコノミスト世論の量的緩和の催促
  に、抵抗を続けてきた。日本銀行の白川前総裁は、理論で量
  的緩和に抵抗してきたが、政治の力に屈せざるを得ず、最後
  はアコードを結び量的緩和を行った。しかし、それでも、量
  的緩和を行うに際して、副作用だけ説明する「辛気くさい量
  的緩和」であり、そのせいで、せっかく量的緩和を行っても
  効果がなくなってしまったと、揶揄された。
                   http://bit.ly/1ANfqMG
  ―――――――――――――――――――――――――――

バルファキス/ギリシャ財務相.jpg
バルファキス/ギリシャ財務相
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2015年02月13日

●「ドイツの財政均衡政策とユーロ圏」(EJ第3973号)

 現在のEUが「ドイツの、ドイツのための、ドイツによる共通
通貨ユーロである」ことを知る必要があります。ドイツは、20
01年に崩壊したITバブルの影響を受け、国内の企業が投資不
振に落ち込み、経済が悪化して、雇用環境が深刻化したのです。
 これによってドイツは失業率が上昇し、2005年には10%
を超えるまでになります。当時フランス、スペイン、イタリア、
ギリシャの失業率はそこまで行っておらず、ドイツの失業率がダ
ントツで高い状態だったのです。
 このドイツを一貫して助けたのがECBです。ドイツに有利な
低金利政策を取り続け、結果的にスペインやアイルランドにおい
てバブルを膨張させてしまうことになります。当時、ユーロの為
替は高水準に推移していたので、ドイツがユーロ圏以外の国に輸
出するのは困難でしたが、ユーロ圏内への輸出を拡大させること
により、何とかデフレを回避することに成功します。そして、ド
イツの失業率も改善の一途をたどったのです。
 しかし、2008年のリーマンショックによって、EUでもア
イルランド、イギリス、スペインなどの不動産バブルが次々と崩
壊し、変動しない為替レートがかえって災いして、いわゆる「P
IIGS/ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、ス
ペイン」諸国の財政危機が深刻化するのです。
 しかし、PIIGS諸国が財政危機に落ち込み、圏内が混乱す
ればするほどユーロは安くなるので、ドイツの輸出は大きく伸び
てドイツだけがトクをする状況が現在も続いています。2005
年には10%を超えていた失業率はどんどん下がり、2010年
以降は7%を切るところまで改善したのです。まさにドイツがい
まあるのは、EUのおかげといってよいのです。
 そして現在ドイツですが、2014年9月9日にショイブレ財
務相は次の宣言を行っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ドイツ政府の新規国債発行額は2015年にゼロになる
             ──ショイブレ/ドイツ財務相
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在ドイツは、EUのなかで最もGDP成長率が高く、失業率
も低いのです。そして、長期金利(10年物国債金利)は1%を
割り込んでいる状況にあります。これによって、ドイツは、日本
スイスに続く長期金利1%割れ国になったのです。なぜ、そこま
で長期金利が低下したのでしょうか。
 既に述べているように、ドイツは国の財政の歳入や歳出を通じ
て総需要を管理し、経済に影響を及ぼす財政均衡政策をとってい
ます。政府の支出拡大による財政政策は拡張的財政政策といって
最も嫌うのです。そして、EU全体の財政収支の均衡を2015
年には実現させようとしているのです。そのための新規国債発行
額のゼロ宣言なのです。
 この財政均衡政策をドイツほど厳格ではないものの、黒田現日
銀総裁以前の日銀はとってきたのです。そのため、日本は現在も
デフレから脱却できていないのです。そしてこの政策とは対照的
なリフレ政策によって、デフレ脱却を試みています。
 ただ、注意しなければならないことがあります。この財政均衡
政策にはそれなりの説得力があることです。「財政を均衡させ、
賃金を抑制し、できる限り借金はせず、借りた金は返済する」と
いうように、経済の素人にもとてもわかりやすいからです。どう
してかというと、国家財政を家計にたとえているからです。
 しかし、EJでは何度も強調しているように、国家財政と家計
は似て非なるものであり、同一に論ずるべきではないのです。国
家には危機のさいには「お札を刷る」ことができますが、家計で
はそんなことはできないからです。
 聞くところによると、ドイツのアウトバーンは通行できないと
ころが増えているそうです。コンクリートが腐食し、危険で通行
できなくなっているのです。しかし、ドイツでは財政出動には法
律上の厳しい縛りがあって容易にはできないのです。
 2014年10月時点で、EU全体の経済が停滞し、景気後退
(リセッション)危機が強まるなかで、ドイツ自体が財政均衡路
線を一時棚上げにし、財政支出を拡大すべきであるという要請が
出ていることに対し、ドイツのガブリエル経済相は次のように反
論し、ドイツ政府として拒否しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 予想成長率の下方修正はしたが、修正は「警戒すべき要因」で
は全くない。なぜなら、ドイツ国内雇用は拡大を続けており、一
連の経済指標も不十分とはいえ、リセッション(景気後退)の前
触れとなるようなものではない。
 また、経済政策や財政政策、また社会・労働政策についても変
える理由は全くない。政府はじたばたして債務を膨らませるよう
な形でドイツ経済を下支えするつもりはない。
  ──ドイツ/ガブリエル経済相 http://on.wsj.com/16VFCav
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドイツはEUという経済圏のなかの一国であり、EUのエンジ
ンともいうべき重要な存在です。現在、EU全体の経済が停滞し
リセッションの危機に瀕しているので、それを避けるために、ド
イツ自体もこのさいは財政均衡路線を一時棚上げして、財政支出
を拡大させて欲しいというEU参加国からの要請を冷たく拒否し
たかたちになります。
 かつてITバブル崩壊の危機に、EUにドイツはどれほど助け
られたかを忘れ、宗教のような財政均衡路線を頑なに守り、他国
へもそれを強制する──少し身勝手ではないかというのがドイツ
の姿勢です。
 それでも2015年に入って、ECBによる量的金融緩和策を
ドイツも承認したということは、もはやそれ以外の方法はないと
いう結論に達したのでしょうか。EUというメカニズムをもう一
度考え直してみる必要があると思います。
            ─── [検証!アベノミクス/55]

≪画像および関連情報≫
 ●「ユーロ圏、デフレの前に行動せよ」FT/1月12日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ユーロ圏のデフレは原油価格とは無関係だ。デフレの原因は
  ここ数年の一連の政策ミス、つまり、2011年の利上げ、
  2013年にインフレ率が崖から落ちた際に行動しなかった
  こと、そして景気後退の最中に緊縮財政を推し進めたことな
  どだ。欧州中央銀行(ECB)が「2%に近いが、2%を下
  回る水準」というインフレ目標を達成できていたら、原油価
  格の急落は無害だったろう。インフレ率はせいぜい2%から
  1%まで下がる程度だったはずだ。中央銀行はこれを無視し
  てよかった。だが、ゼロに近いところから始めると、デフレ
  に陥ってしまう。今から1年前、ユーロ圏はショックが1度
  起きただけでデフレに陥ると言われていた。それ以来、我々
  は2つのショックを経験した。ロシアによるウクライナ侵攻
  と原油価格の下落だ。ショックは起きるものだ。また、ユー
  ロ圏のような石油純輸入国・地域にとっては、原油安は通常
  なら恩恵となる。しかし、遅れてやって来る二次的な効果は
  警戒しなくてはならない。すでに、ドイツの賃金交渉担当者
  が賃金計算式で2%というECBのインフレ目標を引き下げ
  ている兆候が見られる。担当者らは概して、ECBのインフ
  レ目標とドイツの生産性拡大の一部を合算して賃上げ幅を算
  出する。だが、インフレ率がゼロで推移すると、この計算式
  に残るのは生産性だけで、その生産性も大して拡大していな
  い。インフレ予想が低下すれば、賃上げ率も低下することに
  なる。              http://bit.ly/1IEMzuC
  ―――――――――――――――――――――――――――

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ドイツ/ガブリエル経済相
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2015年02月16日

●「ギリシャのユーロ圏離脱はあるか」(EJ第3974号)

 ギリシャ問題は今日──2月16日が「Xデ−」といわれてい
ます。2月11日に行われたユーロ圏財務相会合では、ギリシャ
はEU側と合意にいたらず、16日に財務相会合が行われること
になっているのです。
 もし、16日もまとまらないと、2月末で切れる支援延長に議
会決議が必要な国もあるので、事実上のタイムリミットは本日と
いうことになります。
 EU側がギリシャに求めるのは、あくまで現行の支援計画の延
長です。しかし、支援延長には、現在の緊縮財政の実行が前提条
件になります。ギリシャ新政権としては、それだけは絶対に飲め
ないのです。なぜなら、それをやると、選挙公約を翻すことにな
るからです。
 ギリシャのチプラス新首相は、2月8日に次の趣旨の議会演説
を行っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 EUなどによるギリシャ支援は明らかに失敗である。2月末に
期限切れを迎える現行の支援制度の延長は、失敗の延長であり、
これを拒否する。しかし、新たな支援策について話し合う間、資
金不足を賄うための「つなぎ措置」を欧州各国に求めたい。
                ──ギリシャ/チプラス首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 11日のユーロ圏財務相会合では、現行の支援計画を延長し、
その計画終了の可能性を探るために、ギリシャとEU側は協議を
重ねるということでいったん合意に達しているのです。バルファ
キス財務相は一度は合意しているのです。
 要するに、EU側は、ギリシャがあくまで緊縮計画を継続する
こととが前提の支援計画の延長を受け入れたうえで、若干の返済
猶予などを検討するという考え方なのです。
 ところが、バルファキス財務相が本国に共同声明案を電話した
ところ、その合意を翻したのです。おそらくチプラス首相が反対
したものと思われます。
 しかし、最終的にチプラス政権は支援延長を受け入れざるを得
ないと思われます。「ユーロ離脱」というが、そんな簡単なこと
ではないし、チプラス首相もバルファキス財務相も口ではいうも
のの、その気はないと思われます。
 もし、ギリシャがそれでもユーロ離脱を敢行した場合、何が起
きるかについて、ジャーナリストの鷲尾香一氏は、次のように述
べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はユーロには離脱規定がない。しかし、離脱できないわけで
はない。ギリシャがEUを脱退することで、ユーロからの離脱は
可能になる。だが、結論から言えば、ギリシャがユーロ=EUか
ら離脱する可能性は、ほぼゼロに近いだろう。その理由をいくつ
か挙げてみよう。
 まず、ユーロから離脱するということは、ギリシャは新通貨に
切り替えることになる。そもそもギリシャ経済に対して信頼性が
低いため、新通貨の価値は非常に低いものとなる。ギリシャ国民
はユーロで預金を行っているわけで、そのユーロが紙くず同然と
なるかもしれない新通貨に切り替わることを望まない。当然、預
金を引き出し、ドルや円、あるいは金などに避難させようとする
だろう。
 これに対して、ギリシャ政府は預金凍結措置を取るだろうが、
それ以前に、例えばユーロ離脱の話が真実味を帯びた時点で、パ
ニック的な預金解約が発生する。ギリシャ全土の銀行で、「取り
付け騒ぎ」が起き、銀行が破綻し、ギリシャ経済も完全に破綻す
る可能性がある。これは、決して悪夢ではない。
                   http://bit.ly/1A5XOZq
―――――――――――――――――――――――――――――
 ギリシャ側が強気になっているのは、世界的ベストセラーズと
なっている『21世紀の資本』(みすず書房)の著者、トマ・ピ
ケティ氏の心強い後押しです。海外メディアでのインタビューで
ピケティ氏は次の発言をしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ギリシャなどでの反緊縮政党の躍進は欧州にとってよいニュー
スである。緊縮政策は市民に深刻な影響を与えている。
                   ──トマ・ピケティ氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 ピケティ氏がいうまでもなく、経済学的に見ても、緊縮政策を
やっている限り、経済の展望は開けないのです。経済が疲弊して
いるのに、年金カット、公務員削減、消費税増税などの緊縮政策
を続ければどうなるのでしょうか。ドイツ式財政均衡主義には大
きな疑問があるのです。
 白川浩道クレディ・スイス証券チーフ・エコノミストは、ユー
ロの現状に関して次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 各種報道では、ギリシャのユーロ離脱はない、それほど深刻な
状況にはない、というものが多いようですが、問題はもっと根深
いと思います。
 ギリシャをユーロ圏に残すべきかどうか、「出ていく!」「出
ていけ!」といった夫婦喧嘩のような話が現実味をもって議論さ
れるでしょう。最終的には、ユーロの崩壊というテーマも出てく
る。もはや単なる「危機」という段階は過ぎた。そもそもユーロ
という枠組が正しかったのかどうかという歴史的な転換点にきて
しまった。         ──『週刊現代』2/21号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ギリシャ問題は日本と無関係ではないのです。米経済学者のバ
リー・アイケングリーン氏は、ギリシャのユーロ圏離脱を「リー
マンショックの2乗」と予測し、全世界に大きな影響を与えるこ
とになると警告を発しています。
            ─── [検証!アベノミクス/56]

≪画像および関連情報≫
 ●ユーロ圏離脱は財政緊縮よりも「いばらの道」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  [アテネ 12日 ロイター]ギリシャのユーロ圏離脱、い
  わゆる「グレグジット」は、起きるとすれば恐らく電撃的な
  形で実行されるだろうが、それは同国にとって長くつらい道
  のりの始まりともいえる。ある面では、国際支援プログラム
  の下でこれまで歩んできたよりも厳しい状況が見込まれる。
  急進左派連合(SYRIZA)を中心に誕生した新政権は、
  ユーロにとどまりたいと考えている。だが2月末に期限を迎
  える現行の支援プログラムを延長するか、あるいはそれに代
  わる支援の枠組みを設定することで欧州連合(EU)側と合
  意できなければ財政破綻やデフォルト(債務不履行)によっ
  て、いやでもグレグジットに追い込まれかねない。もしも、
  ユーロから離脱すれば、ギリシャ経済に対して残っている信
  頼感は消滅するので、迅速な政策対応が必要になる。制御で
  きない資金逃避を食い止めるためには資本規制の導入は不可
  避だろう。銀行や金融市場が閉鎖された場合、そうした規制
  が発動されるとみられる。次に政府が必要になるのは新通貨
  だ。この新通貨は歴史的にみれば導入時から非常に弱く、既
  に資金難に苦しむ多くのギリシャ国民や地元企業が多額の貯
  蓄を失うかもしれない。それに伴って物価上昇率は急激に跳
  ね上がる。EUと国際通貨基金(IMF)が課した緊縮政策
  で、国民の4人に1人が失業する事態になった。だがグレグ
  ジットは、少なくともしばらくの間はそれよりもひどい痛み
  をもたらす可能性がある。     http://bit.ly/1yA1Zca
  ―――――――――――――――――――――――――――

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ギリシャ・チプラス首相
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2015年02月17日

●「政治家から金融政策を奪うユーロ」(EJ第3975号)

 ロバート・マンデル氏というカナダの経済学者がいます。19
32年生まれですので、現在82歳ですが、コロンビア大学経済
学科教授を務めています。サプライサイド経済学の権威として知
られています。
 ロバート・マンデルコロンビア大学教授の功績を上げると次の
ようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.「最適通貨圏理論」の構築/最適通貨理論の父
   2.     ユーロの構築への貢献/ユーロの父
   3.別の時代の金本位制の運用に関する歴史的研究
   4.1970年代に起きたインフレーションの予測
   5.       マンデル=フレミング・モデル
   6.          マンデル=トービン効果
―――――――――――――――――――――――――――――
 マンデル教授といえば、「マンデル=フレミング・モデル」が
有名ですが、彼はユーロの設計者として知られ、「ユーロの父」
とも呼ばれているのです。
 このマンデル教授について、2012年7月26日に、英国の
大手新聞「ザ・ガーディアン」に次のような衝撃的な記事が掲載
されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   「ロバート・マンデル、ユーロの邪悪なる天才」
             ──「ザ・ガーディアン」
              グレッグ・パラスト記者
―――――――――――――――――――――――――――――
 少し長いですが、そのエッセンス部分を三橋貴明氏の著作から
引用します。驚くべき内容が記述されています。一人称(私)は
米国人ジャーナリストのグレッグ・パラスト記者です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 選挙で選ばれた政治家からマクロ経済政策を奪い、規制緩和を
強制することは、ユーロ構築にさいした計画の一部だった。ユー
ロが失敗しているという考え方は、あまりにもナイーブ(幼稚)
である。ユーロは、1%の富裕層が当初から計画していたとおり
予定どおり正しく機能している。
 その始祖は元シカゴ大学の経済学者ロバート・マンデル教授で
ある。供給サイドの経済学(サプライサイド経済学)の権威は、
現在はコロンビア大学の教授である。しかし、私は通貨と為替レ
ートに関するマンデルの研究がヨーロッパにおける通貨統合と共
通通貨の青写真となる前から、シカゴ大学のミルトン・フリード
マン教授を通して彼を知っていた(中略)。
 ユーロは危機のときにこそ真価を発揮する、とマンデルは説明
した。為替レートに対する政府の干渉を排除すると、不況期にケ
インズ的な金融、財政政策をとりたがる厄介な政治家を妨害する
ことができる。「政治家の手が届かないところに、金融政策を置
くんだ」彼は言った。
 金融政策と財政政策が使えないとなると、雇用を維持する唯一
の解は、競争力を高めるために規制を緩和することのみになる。
彼はもちろん(規制として)労働法、環境規制、税制をあげてい
る。すべてはユーロによって洗い流されるだろう。民主主義が市
場価格に干渉することは許されなくなるだろう。(中略)
 マンデルは私に説明した。事実、ユーロはレーガノミクスの断
片である、と。「金融規律が政治家に財務規律をも強制するのだ
よ」。危機が起きると、経済的に武装解除されてしまった国々は
政府の規制を撤廃し、国有産業をそっくり民営化し、税金を下げ
てヨーロッパ型の福祉国家をドブに捨てるしかないのだ。
                ──三橋貴明著/徳間書店刊
     『2014年/世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ユーロ」は、ヨーロッパの平和的統合、強いヨーロッパ連合
の実現であるとよくいわれますが、ユーロの設計者の本音はそん
な高邁な思想に基づくものではなく、「1%の富裕層のビジネス
を拡大するための実験的規制緩和手法」ということになります。
 重要な指摘は「政治家の手が届かないところに、金融政策を置
く」という部分です。普通の国は、経済危機に陥ると、現在の日
本のアベノミクスのように、金融政策と財政政策を駆使して乗り
切ることができますが、EUに属する国家は金融政策をECBに
委譲しており、ECBが金融政策のすべてを握っているのです。
 財政政策については各国が有していますが、EU全体にドイツ
的な厳しい財政規律が要求されており、財政政策も自由に使うこ
とは事実上できないのです。
 金融政策と財政政策が使えないとなると、雇用を維持するため
には、規制を緩和して競争力を高めるしかないことになります。
財政危機が生じているギリシャでは、規制を緩和し、公共サービ
スの民営化をさせられ、国有財産の売却まで行われています。そ
れしか方法がないからです。
 これによってトクをするのは、ユーロ圏のグローバル資本なの
です。彼らにとってそれらはおいしいビジネスとなります。ギリ
シャが歯を食いしばって緊縮財政を続けたとしても、おいしいと
ころはすべてグローバル資本に持って行かれるのです。
 このグローバリズムについて経済評論家の三橋貴明氏は、次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 グローバリズムにとって最大の敵はその国の民主主義なのであ
る。だからこそ、グローバリズムは規制緩和に反対する第3層に
「既得権益」とレッテルを貼り、「既得権益をぶち壊せ!」と、
革命チックな攻撃を(マスコミを通じて)行う。ときには、ユー
ロのように、民主主義が機能しにくい構造も設計する。その最大
の犠牲者は、各国の国民である。 ──三橋貴明著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/57]

≪画像および関連情報≫
 ●本当に怖いユーロの話
  ―――――――――――――――――――――――――――
  金融政策と財政政策を同時に実施すると、インフレ率は上昇
  するが、現在のギリシャは日本以上に物価上昇率が低迷して
  いる状況にある。日本がアベノミクス効果により、物価上昇
  率が何とか「ゼロから上」に顔を出そうとしているのに対し
  ギリシャは8月時点でもマイナス幅を拡大している。現在の
  ギリシャは、日本以上に深刻なデフレーションに苦しめられ
  ているのだ。元々、国内のモノやサービスを生産する能力、
  つまりは供給能力が不足気味で、国民の需要を満たすことが
  できず、高インフレや貿易赤字が常態化していたギリシャが
  「デフレ」なのである。バブル崩壊後のギリシャ国内の需要
  の縮小たるや、恐るべきペースとしか言いようがない。現在
  のギリシャが失業率を押し下げ、経済を成長路線に戻すため
  には、前述のように金融政策と財政政策のパッケージ以外に
  ありえない。すなわち、普通のデフレ対策をすればいいので
  ある。ところが、ギリシャは「構造的」に正しいデフレ対策
  を実施することが不可能になっている。何しろ、ギリシャ政
  府は独自の金融政策を採ることができない。全てのユーロ加
  盟国は、金融政策の権限をECB(欧州中央銀行)に委譲して
  いる。さらに、ギリシャ政府は財政的な主権も奪われつつあ
  る。EUやIMFから緊急融資を受けた代償として、公務員
  削減などの緊縮財政を強要されているのだ。ゆえに、現在の
  ギリシャには金融政策、財政政策の主権はない。
                   http://bit.ly/1EqImI4
  ―――――――――――――――――――――――――――

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ロバート・マンデル教授
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2015年02月18日

●「ドイツはやがて発展途上国になる」(EJ第3976号)

 ドイツが頑なに遵奉する財政均衡主義──それは基本的にいう
と、財政の支出と収入が均衡していることをいいます。つまり、
財政均衡主義は、小さな政府による新古典派経済学的発想に立脚
した経済の考え方です。日本の財務省も同じ考え方に立っていま
す。ただ、ドイツの場合問題なのは、これをEU全体に広げよう
としていることです。
 2013年6月のことです。ドイツ経済研究所があるレポート
を発表したのです。その内容を経済評論家・三橋貴明氏の本から
引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1990年以降、ドイツでは国内インフラの維持などに必要な
投資額が、毎年平均750億ユーロ(10兆円弱)足りず、経済
成長率が押し下げられているというのである。
 速度無制限で有名なドイツの高速道路ネットワーク、すなわち
アウトバーンで、もっとも交通量が多いA1号線のライン橋では
速度が時速60キロに制限されている。橋が老朽化し、速度無制
限にすると危険であるためだ。
 また、アウトバーンのA52号線は、一部の片側路線が閉鎖さ
れた。ベルリンでは一般道路の傷みが激しく、制限速度が10キ
ロに下げられ、市バスが路線変更せざるをえない区間もある。ド
イツの自治体連盟のウベ・ツインマーマン副事務局長は、「アウ
トバーンで完全通行禁止になる橋が出てくるのは時間の問題」と
語っている。          ──三橋貴明著/徳間書店刊
     『2014年/世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、こんなことになるのでしょうか。それは、ドイツは憲法
(基本法)において、歳入と歳出を均衡させなければならないよ
う定められており、対GDP比で0・35%の国債発行しかでき
ないのです。そのため、どんなにインフラが老朽化しても、国債
を発行できないのです。
 前にも述べたように、ドイツは家計レベルの論理を国家財政に
当てはめようとしています。なるべく借金をしないよう倹約する
ことは家計の常識としては大切なことですが、それを国家財政に
もあてはめようとするのは間違っています。まして憲法に書いて
それを縛ろうとするのは異常です。
 かつて昭和前期に日本が深刻なデフレ不況に陥ったとき、時の
大蔵大臣・高橋是清は大胆な金融政策を実施してデフレ脱却を成
し遂げていますが、そのとき高橋是清は次のように国民に話しか
けているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 年に5万円の生活をする余力のある人が倹約して3万円で生活
して残り2万円を貯蓄に充てた場合、その人個人は毎年それだけ
の蓄財2万円ずつが増えていって誠に結構なことであるが、これ
を国の経済から見るときは、その倹約によってこれまでその人が
消費していた2万円分の物質の需要がどこかに消えてしまう。当
然生産もされない。             ──三橋貴明著
           『真説日本経済』/KKベストセラーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 高橋是清は、実にわかりやすく家計と国の財政の違いを説明し
ています。そういう意味でドイツは経済というものがわかってい
ないと思います。自分たちの作ったルールに縛られて、道路など
の危険な場所を放置し、事故が起きて人命が失われたらどうする
のでしょうか。それよりも憲法が優先するのでしょうか。
 それだけではないのです。ドイツはこの愚かな財政均衡主義を
EU諸国に押し付けようとしています。EU諸国は新財政協定に
より、近い将来、EUが崩壊しなければの話ですが、この財政均
衡主義をEU各国の憲法に書くことになるのです。
 その矛盾が現在のギリシャに出ています。ギリシャはこれまで
に何回もデフォルトをするなど、財政規律の甘い国ですが、そう
かといってカネを出してやったのだから、ドイツと同レベルの緊
縮財政政策をやれと強制した結果、ギリシャの経済は一向に回復
しないのです。チプラス政権のいうように、ギリシャ支援は失敗
だったといえます。
 ドイツほど日本はひどくありませんが、日本の財務省も財政均
衡主義に立っており、これまで増税をしてはならないタイミング
で増税をして、せっかく立ち直りかけた景気を何回も潰してきた
「実績?」があるのです。財務省も平気で国の財政を家計にたと
えて増税の必要性を説いています。増税の必要性を国民に認識さ
せる手段なのか、財務省が経済というものがまるでわかっていな
いかのどちらかです。
 添付ファイルを見てください。日本は小泉政権以降、公共投資
を一貫して減らし続けてきています。1996年を100とする
と、半減させています。これまで「公共投資=悪」と考えてきた
のです。その落差はドイツを上回っています。
 三橋貴明氏は、このままでは「ドイツは遠からず発展途上国に
になる」として、次のように述べています。現在、ドイツの経済
が良いのは財政均衡主義とやらのおかげではなく、ユーロによっ
て多大の恩恵を受けているからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府(というか国民)が新古典派経済学的な財政均衡主義に傾
注し、インフラのメンテナンスすら、「借金が増えるからやらな
い」を続けていくと、いずれは発展途上国化する。道路がボロボ
ロで通れない。橋が危なくて渡れない。それにもかかわらず、自
国で修繕できない、というのが(理由はどうあれ)発展途上国と
いうものだ。インフラが財政均衡主義という魔物に魅入られ、ボ
ロボロに朽ち果てていけば、当たり前だが、その国の経済成長力
は落ちていく。物流や人の移動がスムーズにいかない国が、成長
率を高められるはずがない。   ──三橋貴明著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/58]

≪画像および関連情報≫
 ●ユーロ崩壊は悪性インフレから始まる/土居丈朗慶大教授
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ユーロが崩壊する前に、前兆現象として起こりうるのはユー
  ロ圏で制御困難な悪性インフレでしょう。ユーロが崩壊する
  とは、ユーロという通貨を大半の人が信用できず、ユーロを
  経済取引で使いたくなくなることです。ユーロがそれなりの
  通貨価値を何とか保ち続けられるなら、強いてユーロを崩壊
  させる動機は生じないでしょう。ユーロ圏経済の現状は、財
  政危機に端を発した金融危機、金融市場の機能不全が強く懸
  念される状況です。金融市場での混乱からマクロ経済へと悪
  影響が波及することも起こりえます。ただ、金融危機が起こ
  った後の経済は、世界大恐慌、1997年の日本、リーマン
  ショックを見てもわかるように、信用収縮が起こりデフレ圧
  力が生じます。金融危機が起こった後は、流動性不足から、
  決済資金を必要とする企業や個人の現金需要がむしろ高まる
  可能性があって、ユーロの崩壊の元となりうる通貨価値の大
  幅な毀損には直結しません。ただ、決済資金の需要は、国際
  的な経済取引を念頭に置けば、何もユーロでなければならな
  いという必然性はありません。ユーロ以外の通貨に資金需要
  がシフトするなら、ユーロの需要が減少するので、ユーロの
  価値が他の通貨と比べて下落することはありえます。
                   http://bit.ly/1zEhJuO
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/三橋貴明著の前掲書より

公共事業を減らし続けた災害大国.jpg
公共事業を減らし続けた災害大国
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2015年02月19日

●「ドイツはなぜ財政を均衡できたか」(EJ第3977号)

 ところで、ドイツはなぜ財政均衡を達成できたのでしょうか。
また、フランスの現況はどうなのでしょうか。EUの2つの中心
国、ドイツとフランスの現状を探ってみることにします。
 既に述べたように、ドイツはITバブルの崩壊によって経済が
悪化し、2005年には失業率が10%以上とEU加盟国のなか
では一番高かったのです。当時ドイツは「ヨーロッパの病人」と
呼ばれるほど、一人負けの状態が続いていたのです。
 このドイツの苦境を救ったのはECBです。当時、EU加盟国
の経済はバブル気味であり、こういう時期こそ経済を引き締める
べきだったのですが、ECBはドイツを助けるためにあえて低金
利政策をとったのです。これでは、ドイツ以外の国はバブルが過
熱することになります。
 当時ユーロの為替レートは「1ユーロ=169円」と高水準で
推移しており、ドイツはEU圏外に輸出を伸ばすのは困難な状況
にあったのですが、ECBが低金利政策を取ってくれたおかげで
バブルに沸くEU圏内に貿易黒字を大きく拡大することによって
何とか危機を脱したのです。
 そして、2008年のリーマンショックでバブルが崩壊し、政
府の税収が減り、財政が悪化したのです。例によってEUは緊縮
財政を強行したので、EUの一部において、物価上昇率(インフ
レ率)がマイナスになってしまったのです。南欧諸国が軒並みマ
イナスになっています。これはデフレ状態です。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ≪EU加盟国のインフレ率(対前年比)≫
       スペイン ・・・・・・ −0・5%
       ギリシャ ・・・・・・ −0・2%
       イタリア ・・・・・・ −0・2%
      ポルトガル ・・・・・・ −0・1%
―――――――――――――――――――――――――――――
 普通の国であれば、政府が国債を発行し、中央銀行が金利を抑
制するなどの景気対策が取れるのですが、EUの場合、共通通貨
であるし、金融政策はECBに委譲しており、財政政策も事実上
とれないのです。要するに、手も足も出せない状況です。
 実は、この状況はドイツにとってきわめて好都合なのです。ド
イツは2008年には既に不況から脱出していましたし、失業率
も4%台にまで下がっていたのです。これは、EU圏への輸出を
拡大して景気回復に成功したのです。
 デフレになると、民間の資金需要が低迷し、長期金利が下がり
ます。金利が下がると、国債利払いの支出を減らすことができま
すが、低金利の環境下で、GDPを伸ばすのは困難化します。と
くに名目GDPはなかなか伸びにくいのです。しかし、名目GD
Pは、税収とほぼ比例するので、伸ばす必要があります。
 ところで、名目GDPは支出面で見ると、次の式であらわすこ
とができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 名目GDP=民間・政府の消費+民間・政府の投資+純輸出
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレになり、ましてEU全体で緊縮財政をとっているので、
「民間・政府の消費」、すなわち内需も、「民間・政府の投資」
も当然のことながら低迷します。こういう状況で名目GDPを伸
ばすには、「純輸出」を伸ばすしかないのです。純輸出とは次の
式であらわすことができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
          純輸出=輸出−輸入
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドイツの場合、日本と同様に輸出すべき工業製品を多く持って
おり、しかも対外債権国家であって、海外資産を豊富に持ってい
ます。そのため、純輸出は大幅な黒字になり、名目GDPの増大
に貢献することになったのです。
 もともとドイツはEUの加盟国であり、最大市場であるユーロ
圏に対しては、為替レートの変動や関税などのリスクなしに輸出
を拡大することができるのです。実は、これにもうひとつ、ドイ
ツの経済成長に影響する重要な要素があるのです。それは当時の
史上まれにみるユーロ安です。
 ちょうどギリシャなどの南欧諸国の危機が深刻化し、ユーロは
一時的に「1ユーロ=100円」を割り込むところまで下落して
いたのです。つまり、ドイツは最大市場のユーロ圏に対しては有
利な条件の下で輸出攻勢をかけることができるのに加えて、折か
らのユーロ安で、ユーロ圏以外の国に対してもユーロ安の恩恵を
生かして輸出を拡大することができたのです。
 このようにしてドイツはデフレ下にもかかわらず、ユーロ圏内
外に輸出を拡大して名目GDPを伸ばし、財政均衡を実現させた
のです。それは同一通貨のユーロ圏という特殊な経済圏があって
初めて可能なことであったのです。これについて、経済評論家の
三橋貴明氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経常収支黒字国が黒字幅を拡大したとき、必ず反対側に赤字を
拡大させた国がある。ドイツの経常収支が黒字化したぶんを赤字
として引き受けたのが、スペイン、イタリア、ギリシャ、ポルト
ガルといったユーロ圏の南欧諸国、それにフランスだった。
 ドイツが南欧諸国などで稼いだ所得(貿易黒字)は、現地の不
動産バブルに投資された。結果的に、ドイツは南欧への輸出を拡
大し、南欧諸国は不動産を中心とする投資を拡大するかたちで、
ユーロ経済は全体的な成長を達成できたのである。貿易黒字であ
ろうが、不動産投資(GDP上の民間住宅)であろうが、GDP
を拡大させるという点では、なんら変わりはない。
                ──三橋貴明著/徳間書店刊
       『2015年/暴走する世界経済と日本の命運』
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/59]

≪画像および関連情報≫
 ●減速するドイツ経済/財政均衡よりインフラ整備を!
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ドイツはここ数年間、低迷する欧州経済の中で例外的に輝い
  ていた。ところがここに来て突然、頑丈なはずの同国がトラ
  ブルに陥っている。今年4〜6月期(第2四半期)にはGD
  P(国内総生産)が前期比マイナスとなった。そしてさらに
  恐ろしいデータが相次いで発表されている。8月の鉱工業生
  産及び輸出高は急落。欧州経済研究センター(ZEW)が発
  表した、投資家心理を示す独景況指数(ZEW指数)はほぼ
  2年ぶりの最低水準となった。ドイツ経済は恐らくリセッシ
  ョン(景気後退)に入ったのだろう。これらの弱い経済指標
  を見て、ドイツ国外の多くの人々は強い懸念を抱いている。
  だが国内の反応は冷静で無関心だ。ドイツ政府は10月14
  日、2014年の成長率見通しを1・8%から1・2%に、
  2015年の見通しを2%から1・3%に下方修正した。た
  だし、来年に財政均衡を実現するという長年の目標は維持し
  ている。シグマール・ガブリエル経済相は、「成長鈍化は大
  変動ではない」と述べ、「経済政策を変更しなければならな
  い根拠はない」とした。政治的に見れば、この立場には明白
  な根拠がある。2015年に政府債務をゼロにすることは、
  アンゲラ・メルケル首相の選挙公約の中核だった。公約を忠
  実に実行することは、ドイツの有権者にアピールする。彼ら
  は債務を危険で効果がなく、恐らく道義に反するものと考え
  ている。            http://nkbp.jp/1AH2Q0y
  ―――――――――――――――――――――――――――

メルケルドイツ首相.jpg
メルケルドイツ首相
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2015年02月20日

●「緊縮政策に苦しむフランスの現況」(EJ第3978号)

 フランソワ・オランド氏が大統領選に出馬したのは、2012
年5月のことです。そのとき、オランド氏は次のように演説して
いたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 われわれの敵には、名前がなく、顔もなく、政党にも属してい
ません。立候補も、選挙の洗礼も受けたことがありません。それ
でもわれわれを支配しています。その敵とは金融界です。
                ──フランソワ・オランド氏
                ──三橋貴明著/徳間書店刊
       『2015年/暴走する世界経済と日本の命運』
―――――――――――――――――――――――――――――
 オランド氏は、演説ではグローバル金融を敵として批判してい
ます。この時点でフランス政界の流れは、反グローバリズム、反
自由主義であり、その担い手としてオランド氏は、第24代フラ
ンス共和国大統領に選ばれたのです。
 しかし、反グローバリズムを掲げてみたものの、何一つとして
うまくいっていないのです。2010年から2013年1〜3月
期までのフランスの実質GDPは次の通りで、オランド政権以後
かえって悪化しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
           2010年   1・6%
           2011年   2・0%
           2012年   0・0%
     ――――――――――――――――――
     2012年 7〜 9月   0・3%
          10〜12月  ▲0・6%
     2013年 1〜 3月  ▲0・6%
               ──フランス政府
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように経済がよくないので、失業率は10%台に高止まり
しています。2012年第1四半期にユーロ導入後はじめて失業
率が10%を超え、その年の5月にオランド大統領が就任しまし
たが、その後も一向に改善していないのです。2014年8月時
点でフランスの失業率は10・5%です。とくに若者の失業率は
20%を超えており、今やオランド政権の支持率は30%を大き
く下回っている状況です。
 ここで、フランスとドイツの経済構造の違いについて知ってお
く必要があります。フランスは個人消費型の経済であり、ドイツ
は輸出型の経済です。経済の構造のタイプが異なるのです。
 フランスの場合、景気の良し悪しによって経済が左右されるの
です。景気が悪いと内需が伸びないので、ますます経済が落ち込
んでしまう傾向があります。オランド大統領就任後の2012年
10〜12月期以降、2四半期連続のマイナス成長になり、景気
の良くない状況が続いています。
 本来であれば、フランス政府はただちに景気対策を実施すべき
ですが、フランスはEU加盟国であり、金融政策をECBに委譲
しているので、通貨の発行権はなく、財政政策は一応保有してい
るものの、EUの盟主のドイツやEUからの厳しい規制があって
事実上使えないのです。つまり、フランスは不景気になっても、
通常の景気対策を実施できないことになります。
 このようにEU加盟国では、EUの設計者であるロバート・マ
ンデル教授がいうように、金融政策と財政政策──つまり、ケイ
ンズ政策が政治家の手の届かないところに棚上げされ、事実上使
えないようになっているのです。EUの設計がそのようになって
いるからです。これでは、EUは構造的不況に陥ってしまうこと
になります。
 オランド大統領は、ケインズ政策を打てないので、反自由主義
の旗を降ろし、いまどこかの国がやっている「成長戦略」という
名の構造改革と大企業優遇に舵を切ることにしたのです。そして
2014年8月下旬に内閣改造を断行し、左派色の強い閣僚を更
迭しています。
 オランド大統領は、新内閣で規制を緩和し、大企業の利益を拡
大させる政策を行うことによって経済成長につなげる方針を鮮明
に打ち出したのです。しかし、それでも経済は一向に改善する兆
しを見せていないのです。
 これに加えてフランスは、社会保険料が非常に高いのです。日
本の場合は社会保険料は労使折半ですが、フランスでは、雇用側
が従業員に支払う給料の50%程度を社会保険料として負担しな
ければならないのです。そして従業員は給料の25%を負担する
ことになっています。相当の高負担です。
 給料を100とすると、従業員は社会保険料として25を引か
れます。そして雇用者は「従業員の給料100+社会保険料50
=150」を負担しなければならないのです。こうした社会保険
料の高負担が、企業経営を圧迫しているというのです。
 これに加えてフランスでは、正社員を解雇をすることが非常に
困難です。解雇するには、退職金のほかに2年程度の給料を支払
う必要があるからです。これでは事実上解雇はできないのです。
 そこでフランス政府は、解雇手続きの簡素化や、景気低迷時の
労働時間の短縮などの実現を目指していますが、法律で決めるの
ではなく、あくまで話し合いでの改革なので、相当時間がかかる
ことになります。
 このように、ユーロの仕組みには問題が山積です。ロバート・
マンデル教授は、1961年から1965年までIMFに在籍し
1965年から1972年までシカゴ大学でミルトン・フリード
マン教授とも一緒にやっていたことがあります。
 そのため、IMFやEUの政策には、新自由主義経済主義を採
用せざるを得ない巧妙な仕組みが仕掛けてられているのです。ア
ベノミクスにおいても労働改革が進められており、新自由主義の
罠は世界中に仕掛けられているといえます。
            ─── [検証!アベノミクス/60]

≪画像および関連情報≫
 ●「失われた10年」の処方箋求める/WSJ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【ベルリン】ドイツとフランスの経済閣僚は、欧州の景気低
  迷の長期化への対処法を経済学者に求めた。両国は、経済活
  性化のための方策をめぐって意見が対立しているが、今回の
  試みはこれに橋を渡そうとするもの。ウォール・ストリート
  ・ジャーナルが確認した書簡により、ドイツのガブリエル経
  済相とフランスのマクロン経済相は最近、フランスの経済学
  者、ジャン・ピザニフェリ氏とドイツの経済学者、ヘンリク
  ・エンダーライン氏に助言を求めた。両氏ともにベルリンの
  ヘルティー公共政策大学院で教べんを取っている。両経済相
  は、欧州が低成長、物価の低迷、債務の拡大、高い失業率と
  いった「失われた10年」に瀕しているとした上で二人の経
  済学者に対し、2017年までに経済を改革し欧州の成長を
  後押しするため取るべき方策を尋ねた。最近ユーロ圏のリー
  ダーはドイツに対し、ユーロ圏の景気低迷に対処するために
  投資と消費を活性化させるべきだとの要求を強めている。こ
  うした圧力は特にフランスとイタリアから強いが、国際通貨
  基金(IMF)や欧州中央銀行(ECB)からも見られる。
  フランスとイタリア政府は、公的債務が拡大しているところ
  から欧州の厳格な財政ルールの例外を求めている。一方、ド
  イツはここ数ヶ月、成長鈍化の兆しが顕著になりつつあるが
  政府支出拡大の要求を拒絶し、予定通り来年も均衡予算を組
  む方針だ。その上、フランスとイタリアが求める例外措置に
  は否定的で、両国に経済改革を進め公的支出を削減すべきだ
  と繰り返し述べている。    http://on.wsj.com/1Djiyk8
  ―――――――――――――――――――――――――――

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メルケル独首相/オランド仏大統領
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2015年02月23日

●「どのような原因で円安になったか」(EJ第3979号)

 このテーマも60回を超えてきているので、そろそろ締めくく
りに入ることにします。ネット上では「アベノミクス是か非か」
という論争が続いています。経済のとらえ方にはいろいろあって
結果が出ていることであっても、この世界では真逆のとらえ方が
できるのです。
 「失われた20年」の原因であるデフレから脱却することに対
しては、大方の人は当然だと思うはずですが、「デフレのままの
方がいい」と正反対の意見を本にする経済学者もいるのです。こ
の世界ではそういうことが許されてしまうのです。
 2014年の名目GDPは488兆円ですが、この数字は19
92年の名目GDPとまったく同じなのです。つまり、22年間
日本経済はまったく成長していないことになります。もちろんデ
フレが原因でそうなったのです。
 1月にトマ・ピケティ氏が来日したとき、民主党幹部がいち早
く動いて、ピケティ氏と連絡を取り、1月30日の夜、岡田代表
をはじめ、幹部がピケティ氏と会っています。経済政策が必ずし
も強いとは思えない民主党の幹部としては異例のすばやい行動で
あり、少し驚いたのです。
 しかし、これは経済に関する論議というよりも、ピケティ氏が
格差問題を批判しているので、言葉は良くないですが、ピケティ
の名声を利用して、国会質問などで安倍政権を追い詰めてやろう
という考え方のようです。
 民主党の経済に対するとらえ方のレベルの低さについては、ア
ベノミクスがはじまる2012年11月末に、当時の野田首相が
金融緩和強化を訴える安倍自民党総裁を次のように批判している
ことからよくわかります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍さんのおっしゃっていることは極めて危険です。なぜなら
インフレで喜ぶのは誰かです。株を持っている人、土地を持って
いる人は良いですよ。一般の庶民には関係がありません。それは
国民にとって大変迷惑な話だと私は思います。
             ──野田佳彦内閣総理大臣(当時)
―――――――――――――――――――――――――――――
 かつての日本のリーダーである野田首相の経済に対するとらえ
方がこの程度のレベルなのです。この言葉を聞くだけで、野田氏
が経済について勉強していないことがわかります。
 安倍政権のアベノミクスの指南役とされる浜田宏一イエール大
学/東京大学名誉教授は、1月末に新刊書を発刊して、アベノミ
クス批判派の学者に対して反論しています。
 その批判の対象は慶応義塾大学教授の池尾和人氏であり、同教
授の2013年4月7日付の東洋経済オンラインのインタビュー
記事についての反論です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍政権の発足はタイミングがよかった。円高から円安に修正
される動きは(安倍政権発足前の)2012年11月ごろから起
きていた。欧州の信用不安が小康状態になったことに加え、米国
の景気がかなり手堅いとの認識が広がり、投資家の態度が、いわ
ゆる「リスクオフ」(リスク回避的な姿勢)から「リスクオン」
(リスク志向的な姿勢)に変わったからだ。
                   http://bit.ly/1JsQ3o2
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに池尾教授は円安になった事実は認めているのですが、
それはたまたまタイミングがよかっただけであり、アベノミクス
とやらには何も関係はないといっているのです。
 池尾教授の考え方はこうです。2011年11月以前は、ギリ
シャ問題などに端を発するユーロ危機が深刻になり、世界中の投
資家たちは、ユーロ圏から資金を引き上げ、日本を含めた安全な
国に投資を増やしていたのです。これが「リスクオフ」の姿勢と
呼んでいるのです。
 したがって、ユーロ圏から投資をシフトされた国では、自国通
貨高現象が起きます。具体的にいうと、海外から日本への投資が
増えるということは、海外投資家が円を買っていることと同じに
なるので、円高になります。
 しかし、ユーロ危機はECBのがんばりで収束したので、投資
家たちは、ユーロ圏以外の国にシフトしていた資金を再びユーロ
圏に投資をはじめたのです。これが「リスクオン」の姿勢です。
その結果、資金が引き上げられた国は自国通貨安になっていった
のです。
 2012年後半からの日本の円安はそれが原因で起きており、
アベノミクス宣言は、たまたまそれとタイミングよく重なっただ
けであるというのです。これについて、浜田宏一教授は、グラフ
(添付ファイル)を示して、次のように池尾和人教授の主張に反
論しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (添付ファイル)を見れば、スイスフラン高局面が終わり、円
安に向い出した時期は確かに近い。そのため「スイスフラン」と
円が自国通貨安方向に向かい出したのは、この時期にユーロ危機
が一息つき、それにより、ユーロ圏以外に向っていた世界の資金
がユーロ圏へ戻っていったからだ」と後づけで言えなくもない。
しかし、その後1年後の2012年11月、日本は突如して、そ
れまで以上の円安局面に転じている。一方、スイスに大幅なスイ
スフラン安局面は訪れていない。仮に池尾氏の主張が正しいなら
ば、この時は日本やスイスへの投資資金がいっきにユーロ圏へと
集中したはずである。そして当然、日本だけでなく、スイスへの
投資資金もユーロ圏に向っていたはずだ。つまり一層スイスフラ
ン安がもたらされていたはずである。
                ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/61]

≪画像および関連情報≫
 ●シティバンク銀行・尾河眞樹氏に聞くアベノミクス
  ―――――――――――――――――――――――――――
  安倍首相が首相になる前の2012年11月15日、「自民
  党が政権をとった暁には、2%〜3%のインフレターゲット
  を設けて、円高是正、デフレ脱却に向けてできる政策を総動
  員する」と発言しました。この意味するところは、物価がど
  んどん下がる、企業利益が悪化する、株が下がる、給料が下
  がる、物が売れない、景気が悪い、という状況から脱却する
  ためには、何でもやるということをおっしゃったわけです。
  当時、日米の金利差で見るとそこまで円安が進む状況ではな
  かったのですが、想定外の円安トレンドが始まりました。さ
  らに衆院選後の12月16日、安倍政権が発足。1月はまだ
  日銀総裁は白川方明さんでしたが、日銀と政府がインフレタ
  ーゲットを設けて、政府も日銀も一丸となって頑張るという
  共同声明を出しました。インフレターゲットをそこまで明確
  に協調して進める体制ができたというのは初めてだったので
  す。白川総裁の退任表明後の総裁人事では、インフレを起こ
  してデフレから脱却していこうという黒田東彦さんが総裁に
  また、副総裁にもそういった考えを持つ方が就任しました。
  基本的に、インフレを起こすということは、通貨の価値が下
  がっていくということですから、日銀がどんどん量的緩和を
  拡大していくということになると、円が大量に市場に供給さ
  れ、円安が進むことになります。  http://bit.ly/1Ec2uQx
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/浜田宏一/安達誠司共著の前掲書より

円、スイスフラン、ユーロ、ポンドの対ドルレートの推移.jpg
円、スイスフラン、ユーロ、ポンドの対ドルレートの推移
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2015年02月24日

●「量的金融緩和とインフレの関係性」(EJ第3980号)

 浜田宏一イェール大学名誉教授によると、民主党の馬淵澄夫衆
院議員は数少ないリフレ派の政治家であるそうです。池尾和人慶
応義塾大学教授は、その馬淵氏のブログに次の書き込みを行い、
反論を展開しています。池尾氏は、なかなかアクティブで、アン
チリフレ派の筆頭として活躍する学者の一人です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 インフレ目標の設定や量的緩和などによるマネタリーベース拡
大を行うとどうしてインフレになるのかについては、是非、その
トランスミッション・メカニズムを(馬淵氏以外の方でも結構な
ので)教示してもらいたい。(略)ゼロ金利下の世界は、いわば
アリスの迷い込んだ『不思議の国』である。したがって、金利が
正の世界では常識であることについても、ゼロ金利下でも同様に
成り立つというためには、その理由を説明する必要がある。
                ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで池尾氏のいう「トランスミッション・メカニズム」とは
何を意味しているのでしょうか。これは、量的金融緩和をすると
どうしてインフレになるのか、そのプロセスを明確に示して欲し
いということをいっているのです。トランスミッション・メカニ
ズムは、「金融政策の波及経路」または[金融政策の伝達経路」
と訳されています。
 池尾教授は、量的金融緩和をいくらやっても、それによって物
価が上がり、インフレにはならないと考えています。したがって
否定的な意味で、量的金融緩和をしたら、どのようにしてインフ
レになるのか、その波及経路を示せといっているのです。「示せ
るものなら示してみよ」ぐらいの強い意味です。
 2010年のことですが、池尾氏は「アゴラ」というブログに
おいて、「量的緩和という物語」というタイトルで、日銀が量的
金融緩和をしても、金利がゼロの状態では必ずしも市中の通貨の
量は増えないとして次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 金利がゼロの(正確には、短期金融市場金利と準備預金に付く
金利水準に差がなくなった)状況では話は基本的に違ってくる。
というのは、資金を日銀当座預金口座に寝かせておいても、とく
に損になるということはなくなるからである。もちろん、貸出を
増やせば利益を見込めるという機会があれば、民間金融機関は資
金を使おうとするであろう。しかし、そうした機会が見出せない
ということになると、民間金融機関は日銀が供給した資金をその
まま日銀当座預金口座に寝かせておく行動をとることになる。
 そうした行動(これを俗には「ブタ積み」と呼ぶ)を民間金融
機関がとる限り、資金は日銀の外に出て行かず、金融緩和にはな
らない。この意味で、日銀の外に資金が出ていくかどうかの鍵を
握っているのは、民間金融機関である。そして、金利が正の状況
では、中央銀行が民間金融機関の行動を誘導することは比較的可
能であるとしても、金利がゼロになった状況では、誘導する手立
てはほとんど存在しない。       http://bit.ly/1zSGVhl
―――――――――――――――――――――――――――――
 量的緩和をしてインフレにするには、市中の通貨量(マネース
トック)を増やす必要があります。これに成功すると、明らかに
それまでの状況が変わってくるので、人々はインフレ期待を持つ
ようになるといえます。
 しかし、何度も述べているように、日銀が量的緩和でいくら金
融機関の日銀当座預金口座に資金を積み上げても、銀行がそれを
引き出して貸し出しに回さない限り、マネーストックは増加しな
いのです。要は金融機関の意思にかかっているわけです。
 現在、日銀当座預金に積み上がっている資金のうち、預金に応
じて積み立てる「必要準備」を超える「超過準備」には0・1%
の金利が付いており、金融機関としては超過準備を引き出さなく
ても別に損にならない状況です。
 これに加えてさらに池尾教授は、2013年4月7日の日本経
済新聞の「経済教室」において次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 リフレ論争は「特効薬だ」と告げて偽薬を与える治療を認める
べきかどうかという問題に似ている。効果を信じれば、ただの小
麦粉でも効くケースはある。一方で、「気合いを入れれば効く」
といっているに過ぎない。         ──池尾和人教授
          ──浜田宏一/安達誠司共著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対して浜田教授は、量的金融緩和を続ければ、銀行の貸
し出しが増えなくてもマネーストックは増やせるし、実際に増え
ているとし、池尾氏の求めるトランスミッション・メカニズムは
示すことはできると、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはつまり、「ゼロ金利では、それ以上金利を下げられない
ので、銀行の貸し出しは増やせない」「だから銀行の貸し出しを
増やす以外に、インフレを生じさせる経路を説明できないリフレ
派の議論には穴がある」というのである。
 この論を否定するには、「銀行貸し出しが増えずともマネーサ
プライ(マネーストック)を増やすことはでき、その結果として
緩やかなインフレを起こし、景気を回復させることもできる」こ
とを示せればよいのだろう。実際に今現在、アベノミクスの金融
緩和政策の発動後、銀行貸し出しはあまり増えていないのに、マ
ネーサプライが増え、物価も上昇し始め、景気も回復してきてい
る。(中略)それは企業の経営者がデフレ期に自社に溜め込んで
いたフリーキャッシュフローを投資に回し始めたことで、日本全
体のマネーサプライが増えているからである。
          ──浜田宏一/安達誠司共著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/62]

≪画像および関連情報≫
 ●金融政策だけで「デフレ脱却」はできない/池尾和人教授
  ―――――――――――――――――――――――――――
  消費者や企業のマインド改善は景気が回復する前提条件にな
  る。いろんな機会をとらえて、消費者や企業のマインドが前
  向きになるよう働きかけていくことは、経済政策を運営して
  いくうえで大切なことだ。(中略)デフレから脱却した将来
  において、物価水準が必要以上に高くなることを日銀が放置
  する、と人々に信じ込ませることができれば、インフレ期待
  を高めることができる、という議論がある。しかし、少し考
  えれば、そんな無責任な政策を日銀が取ることはありえない
  とわかる。根拠のない、いわば偽薬(プラシーボ)のような
  政策であっても効くことは一時的にはありうるかもしれない
  が、持続的なものではありえない。多くの人を一時的に、あ
  るいは少数の人を長期間だますことは可能でも、多くの人を
  長期間だまし続けることはできないからだ。デフレとは、物
  価が持続的に下落することだ。しかし、デフレ脱却のために
  とにかく物価が上がればよいのかというと、そうではない。
  世間でいうデフレ脱却というのは景気がよくなることを指し
  ている。賃金が上がらないのに物価は上がるのは困る、とい
  うのが一般的な考え方だ。物価指数で除した賃金を実質賃金
  というが、金融政策で仮に価格の持続的な下落を止められた
  としても、金融政策だけで実質賃金を引き上げることはでき
  ない。              http://bit.ly/1JsQ3o2
  ―――――――――――――――――――――――――――

池尾和人教授/浜田宏一教授.jpg
池尾 和人教授/浜田 宏一教授
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2015年02月25日

●「経済論議には3つの不思議がある」(EJ第3981号)

 2月20日付の日本経済新聞のコラム「大機小機」に次の記事
が出ていたので取り上げることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
      【大機小機】『経済論議の三不思議』
        ──2015年2月20日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 「大機小機」は、匿名ですが、一流のコラムニストが持ち回り
で執筆する日経の有名なコラムです。「大機小機」は仏教用語で
本来は「大乗仏教を理解実践できる人」という意味なのですが、
それから転じて優れたものと劣ったものという意味になります。
 2月20日付「大機小機」は、『経済論議の三不思議』と題し
最近の経済論議の3つの不思議を指摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.アベノミクス第1の矢の低評価である。日銀の金融緩和
   政策に誤解や低評価が絶えない。   →第1の不思議
 2.論壇での消費増税の論じ方である。まるで腫れ物にさわ
   るかのごとき取扱いをしている。   →第2の不思議
 3.普通の経済学がごく普通に経済を説明できることがない
   がしろにされていることである。   →第3の不思議
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」は、アベノミクスの第1の矢である「大胆な金融緩和」
の意外な低評価です。これは経済論議の不思議の第1であるとい
うのです。
 量的金融緩和は、2OO1年3月に当時の日銀審議委員の中原
伸之氏によって提案され、採用された金融政策ですが、世界で初
めての実施なのです。速水優日銀総裁時代のことです。
 バブルが崩壊し、日本経済が深刻な不況に陥ったとき、当時の
日銀の速水総裁はゼロ金利政策を採用し、それを2000年8月
に解除したのです。日銀としては、ゼロ金利という異常な状態を
1日も早く抜け出したかったからです。
 しかし、2000年秋にITバブルが崩壊し、それによる設備
投資の後退で景気が急速に悪化したのです。ゼロ金利政策を解除
した直後のことであり、明らかな日銀の政策ミスであったという
ことができます。
 この量的金融緩和の採用は、日銀にとって不安そのものだった
ようです。何しろ前例がないので、その作用・副作用はわからず
どうしても恐る恐るの実施になってしまうからです。しかし、名
目金利はゼロ近くに誘導されており、そこにデフレが進行したの
で実質金利が上がり、量的金融緩和以外にそれを引き下げる手段
がなかったのです。
 ここで思い出すべきは、実質金利を下げるには「期待インフレ
率」を上げることですが、そのときは十分期待インフレ率を上げ
ることができずに終わっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      実質金利=名目金利―期待インフレ率
―――――――――――――――――――――――――――――
 その後日本経済は足取りは遅いものの、少しずつ回復し、20
07年にはデフレ脱却の一歩手前までいったのです。2002年
度の基礎的財政収支は28兆円の赤字だったのですが、2007
年には6兆円の赤字まで減少しています。
 それは、速水総裁の後任である福井俊彦日銀総裁は、5年間に
わたって量的金融緩和を継続実施したからであるといえます。し
かし、またしても日銀は出口戦略を誤るのです。
 2006年3月9日に福井日銀総裁は量的金融緩和政策を解除
し、同年7月には約8年間に及んだゼロ金利からも脱却すると宣
言し、一転金融引き締め政策を実施したのです。しかし、これで
日本経済は再びデフレへと逆戻りしてしまうことになります。
 そういう日銀の失敗の歴史のなかで、黒田日銀総裁は、世界を
驚かす「大胆な金融緩和」を実施し、円安/株高の状況をつくり
出すのに成功しています。速水、福田日銀総裁のときは掲げてい
ない「物価目標2%」のインフレ目標を掲げ、思い切った大量の
国債買い取りを行っています。まさに「大胆な」の実践です。
 確かに消費税増税と原油の価格下落の影響を見誤ったのは日銀
の責任ですが、それは追加緩和したことによって取り戻しつつあ
ります。したがって、日銀にもっと高評価をあげてもいいのでは
ないかというのが「1」の不思議です。
 「2」は、まるで腫れ物にさわるような論壇での消費増税の論
じ方です。誰に遠慮しているのか、消費税増税の負の効果に正面
から論ずる解説は少ないのです。これは経済論議の不思議の第2
であるというのです。
 安倍首相はもともと消費税増税には慎重姿勢です。したがって
消費税増税の負の効果について書くことに躊躇するのは、財務省
の目を意識しているからと思われます。2月16日に発表された
国民経済計算の第1次速報では、内需の遅れが顕著だった一方で
輸出は伸びています。円安が効いてきたのです。
 内需では、消費、設備投資、住宅投資の回復が遅れており、そ
れは明らかに消費税増税の影響ですが、それについては明確に書
いていないのです。英フィナンシャル・タイムズ紙の17日付け
の記事は、消費の弱さの原因として消費税増税の影響を明確に指
摘しているのです。
 「3」は、普通の経済学がごく普通に経済を説明することがな
いがしろにされているのではないかというものです。これは経済
論議の不思議の第3であるというのです。
 日本は政治など各方面に気を遣い、普通の経済論議ができない
国になっているのではないかという指摘です。確かにその通りで
あり、このコラムでは次の言葉で結んでいます。「金融緩和の正
の効果は否定しながら、緊縮財政の負の効果を否定する。こうい
う議論にはかなりの無理がある。論壇の不思議が消えるのはいつ
の日だろうか」。
            ─── [検証!アベノミクス/63]

≪画像および関連情報≫
 ●日本経済新聞・喜多恒雄社長に聞く
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ──日経の強みは何か
  やはり経済を中心にした経済紙という点だろう。経済現象を
  丹念に追う「ファクト主義」の伝統がある。私も入社以来、
  「数字に基づく客観的な報道を心がけろ!」と指導されてき
  た。日経には一つのテーマをチームで追いかけるという特徴
  がある。ある企業がテーマになったとき、直接担当する産業
  部の記者だけではなく、メーンバンクを担当する経済部の記
  者、株式を担当する証券部の記者など、複数の記者が多面的
  に取材する。たとえば日経が特報した「AIJ投資顧問」の
  年金消失問題も、部署を横断した取材チームの成果だ。一部
  の記者が特ダネを集めるのではなく、取材、分析、報道をチ
  ームで手がけるのが強みだ。
  ──-売上高、社員数が減っているが
  新聞をとりまく環境が厳しいのは事実。だが記者の数は減っ
  ていない。むしろ私が現場にいたときより多いはずだ。従業
  員の削減は、印刷工場などの制作部門が中心。間接部門でも
  合理化を進めたが、新聞社の一番の根幹であるコンテンツに
  直接関わる人員は減らしていない。社員3200人のうち、
  編集・取材の人員は1400人強になる。社員の半数が編集
  ・取材とは歪(いびつ)に感じるかもしれないが、われわれ
  はコンテンツ企業だから、そこは絶対に手抜きをしない。今
  後も一定水準の記者採用は続けていく。
                   http://bit.ly/1AtPXoU
  ―――――――――――――――――――――――――――

喜多恒雄日経社長.jpg
喜多 恒雄日経社長
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2015年02月26日

●「安倍首相と黒田総裁の微妙な関係」(EJ第3982号)

 2月12日に行われた経済財政諮問会議において、黒田日銀総
裁は自ら発言を求め、「この発言は議事録から外して欲しい」と
前置きして5分以上にわたり、財政再建についてオフレコで重要
な発言をしています。
 出席者からの情報を集めると、おおよそ次のような発言であっ
たといわれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融機関の国際ルールでは、自国通貨の国債はリスクをゼロと
規定しているが、海外では国債もリスク資産とみなし、規制を強
化すべきだという議論が始まりつつある。議論が本格化すれば、
大量の国債を持つ日本の金融機関が国債を手放し始める。その結
果、国債が暴落し、金利が急上昇する。まして日本の国債は20
14年に民間の格付け会社がランクを下げており、日本の銀行経
営に対する影響が懸念される。事態はきわめてリスキーであると
考えている。               ──黒田日銀総裁
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済財政諮問会議で黒田日銀総裁が自分から発言することはあ
まりないそうです。ところが12日は総裁自ら発言を求めており
きわめて異例なことです。
 この発言に関して安倍首相は「民間の格付け会社と話し合って
みたらどうか」とややピンボケな発言をしたそうです。これに対
して黒田総裁は、かつて格付け会社のトップと国債格付けの件で
話したことがあるが、格付けを変えることはできなかったとした
うえで、安倍首相に対し、財政健全化に本腰を入れるよう強く訴
えたというのです。
 この発言についてはいろいろなことがいわれています。見方と
しては、次の2つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.黒田日銀総裁は、金融機関の国際ルールの見直しの動き
   を把握し、政府に警告したものである。
 2.黒田日銀総裁は、財政再建をめぐって安倍政権と距離を
   置こうとし、蜜月が転機を迎えている。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」は、日銀総裁が自らの職務として、経済財政諮問会議の
場を借りて、安倍首相に国債の現状を報告し、財政再建への姿勢
をもっと強めて欲しいと要望したものという見方です。
 なぜかというと、安倍政権としては2020年までに基礎的財
政収支の黒字化を目指す方針は変えていないものの、自民党議員
の一部に、「2020年までの黒字かなんて無理」という声が出
てきていることを黒田日銀総裁は懸念し、クギを刺したというの
が「1」です。
 しかし、本当のところは「2」であるという見方が支配的なの
です。2月21日付の日本経済新聞の朝刊では、第2面に次の記
事を掲載し、そのことを伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ≪真相深層≫
   政府と日銀、転機の蜜月/17年消費増税、再び試練
       ──2015年2月21日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 「首相と黒田さんの距離が広がっている」──首相周辺はこの
ように証言しています。それは黒田総裁が2014年10月31
日に官邸に対して何の根回しもなしに追加緩和を打ち出したこと
にあるのです。
 アベノミクスによる物価目標2%の達成は、人々の期待に働き
かける政策であり、そのためにサプライズが必要であると考える
黒田総裁は、内輪の人にもサプライズを与える意味で官邸に根回
しをしなかったとも考えられます。
 しかし、官邸は別の意味にとったのです。もしかすると、財務
省は日銀と組んで何が何でも消費税10%増税を既成事実化しよ
うとしているのではないかと疑心暗鬼になったのです。追加緩和
以前にも、安倍首相は「増税は計画通りに実施すべき」と繰り返
す黒田総裁に少しずつ疑念を持っていたのです。
 そのとき、安倍首相は消費税10%増税の先送りをほぼ決めて
おり、そういう憶測は当時世間に広がりを見せていたのです。も
ちろん黒田総裁の耳にも届いていたものと思われます。
 「首相は迷っている」と考えた黒田総裁は、ここで追加緩和を
行うことによって、一層の円安が進み、株価を高騰させれば、安
倍首相は増税決断がしやすくなるのではないかと考えて、追加緩
和を実行したのです。つまり、追加緩和はあくまで10%増税を
前提とするものだったのです。
 しかし、日銀が追加緩和を行い、実際に円安/株高が起きると
安倍首相はそれを増税を延期し、解散を強行する絶好のチャンス
ととらえて、増税延期宣言をし、解散総選挙行ったのです。
 これによって黒田日銀は追いつめられることになったのです。
黒田総裁が国債の発行額全量を買い取る追加緩和を決めた直後に
増税が延期されたため、日銀の「量的・質的緩和」による国債買
い入れが財政の穴埋め──マネタイゼーションの色彩が強くなり
急激な円安や資本逃避の可能性も出てきたからです。これで日銀
側も安倍政権に不信感を持つようになったのです。
 そして、1月23日、政府は月例経済報告で、「2%の物価目
標を『できるだけ早期に』実現」としてきた表現を「経済・物価
情勢を踏まえつつ」に変更したのです。一見すると、原油安など
で物価低迷に悩む黒田総裁に助け舟を出したように見えますが、
日銀はこれを「首相サイドの意趣返し」と受け取ったのです。
 「異次元緩和は、人びとの物価上昇への期待に働きかける政策
だ。政府があっさり『早期』の旗を降ろしたことは、日銀からみ
ればはしごを外されたに等しい」と日経の「真相深層」は書いて
います。このようなことがあって、黒田総裁の2月12日のオフ
レコ発言になったものと思われます。
            ─── [検証!アベノミクス/64]

≪画像および関連情報≫
 ●日本経済新聞/「真相深層」より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  黒田氏と首相のすれ違いが目立つのは、財政健全化や物価を
  めぐってだけではない。1月にスイスのダボスで開いた国際
  会議の討論会。「第3の矢(成長戦略)が今ひとつですね」
  と突っ込まれた黒田氏は、苦笑いするしかなかった。ある日
  銀幹部は「第1の矢である金融政策でやれることはやるが、
  そろそろ政府にバトンを引き継いでもらわないと」と本音を
  漏らす。(中略)首相は昨年11月に衆院を解散する際、景
  気の良しあしに関係なく17年4月には消費税率を必ず上げ
  ると約束した。同じタイミングで日戯が異次元緩和の出に向
  かえば、財政と金融は同時に引き締められる。景点は腰溺れ
  しかねない。長期政権をめざす首相は、黒田氏に18年4月
  の任期まで異次元緩和を続けるよう求める可能性がある。そ
  のとき黒田氏は「日銀総裁として物価安定への姿勢を問われ
  る。(BNPパリバ証券の河野龍太郎氏)脱デフレに向けて
  首相と黒田氏の連携を維持しつつ、日銀の独立性をどう確保
  するか。古くて新しい問題に向き合う時期にさしかかってい
  る。──2015年2月21日付、日本経済新聞/「真相深
  層」より
  ―――――――――――――――――――――――――――

黒田日銀総裁/安倍首相.jpg
黒田日銀総裁/安倍首相
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2015年02月27日

●「黒田総裁の警告の真の意味を探る」(EJ第3983号)

 世界中で量的金融緩和をしているのに、日本の異次元緩和は財
政赤字の穴埋めのためにお札を刷るマネタイゼーションではない
かと非難する国が少しずつ出てきています。
 そういう状況のなかで、国債をリスク資産とみなして、金融機
関の国際ルールの見直しを仕掛ける動きが出てきているといわれ
ています。もともと自国国債は「リスクゼロ」ということになっ
ており、金融機関がいくら自国国債を保有しても、何の問題もな
かったのです。
 しかし、海外では国債もリスク資産とみなし、規制を強化すべ
きという議論が始まりつつあるのです。もし、そういう議論が本
格化すれば、金融機関の保有する国債の量が規制される可能性も
出てくると思われます。
 かつてのバーゼル合意のように、国際的に活動する銀行の自己
資本比率や流動性比率などに関する国際統一基準のようなものが
国債についてもいわれるようになったらエライことになります。
もっともそういう規制が簡単に決まるとは思えませんが、議論が
海外ではじまるだけでも、現在大量に国債を保有している日本の
金融機関のなかには国債を手放すところが出てくるはずです。
 まして日本国債はランクが低く、ますます売られる可能性が高
いのです。そうすると、国債価格は暴落し、長期金利が跳ね上が
る可能性があります。したがって、黒田日銀総裁は、物価目標2
%を達成するために異次元緩和を継続して行うかたわら、消費税
増税を行うなど財政再建に力を入れる必要があることをオフレコ
発言で安倍首相に強く進言したのです。
 黒田日銀総裁は、追加緩和の後で消費税再増税が延期されたこ
とについて、「追加緩和が間違っていたとは思わない」として、
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 追加緩和はあくまで2%の物価目標を早期に実現するためであ
り、増税延期で追加緩和が間違っていたとか、緩和時期を待つべ
きだったとは考えない。財政への信認が失われるリスクは実際に
起きる確率は非常に低いが、そのリスクは無視できるほど小さい
とは思わない。もし財政規律が失われれば、公共サービスや所得
の再分配機能、景気の調整機能に障害が生じる。
          ──黒田日銀総裁 http://bit.ly/1z80ylq
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の国債は現在でもほとんど国内で消費されています。確か
に最近では、外国人投資家が保有する日本国債が2014年末で
約46兆円になり、7年ぶりに過去最高を更新しています。欧米
の金利低下で、政府系ファンドやヘッジファンドが日本国債を投
資先として見直す動きが広がっているからです。
 日銀によると、2013年末の外国人の国債保有額(短期国債
を除く)は34兆3千億円。財務省の集計では2014年末には
保有残高は12兆円増え、年末ベースで過去最高だった2007
年の41兆円を上回り、過去最高になっています。しかし、日本
国債全体から見れば、その割合は5%弱に過ぎず、現在でもほと
んど国内で消費されているのです。
 2014年第3四半期(暫定値)の日本国債、860・7兆円
の保有者別内訳(国債・財融債合計)は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   民間銀行 ・・・・・・・・・・・・ 32・8%
   保険・年金基金 ・・・・・・・・・ 26・6%
   その他金融機関 ・・・・・・・・・ 21・5%
   社会保障基金・地方自治体など ・・  7・5%
   投信・証券など ・・・・・・・・・  3・4%
   海外(外国人) ・・・・・・・・・  4・8%
   家計 ・・・・・・・・・・・・・・  2・2%
   非金融法人企業 ・・・・・・・・・  0・8%
   非営利団体 ・・・・・・・・・・・  0・4%
                http://bit.ly/1wchsF1
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、国債がリスク資産とみなされ、それによって金融機関
が規制されるようになると、金融機関は国債を手放さざるを得な
くなるので、国債を国内資金でファイナンスできなくなってしま
います。そうなると、「財政破綻」が現実味を帯びてくることに
なります。
 つまり、国の借金が1千兆円あろうと2千兆円あろうと、それ
が国内資金でファイナンスされてさえいれば、財政破綻の心配は
ないのです。要するに財政赤字の額ではないということです。た
だ、それができなくなると、リスキーな状態になるのです。黒田
総裁が安倍首相に「財政再建に取り組む姿勢を見せて欲しい」と
要請したのは当然のことであり、そのいわんとすることは安倍首
相に通じていると思います。
 しかし、昨年12月22日の経済財政諮問会議で安倍首相は次
のような発言をしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財政再建を進めるうえで、政策経費を税収などでどのくらいま
かなえるのかを示す基礎的財政収支だけでなく、債務残高のGD
P比にも着目すべきではないか。        ──安倍首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍首相はどうしてこのような発言をしたのでしょうか。
 安倍首相は基礎的財政収支を黒字化する財政均衡主義には反対
なのだと思います。安倍首相はアベノミクスの成長戦略を成功さ
せることによって名目GDPを上げようとしています。そうすれ
ば、債務残高がGDPに占める割合が小さくなります。これを積
み上げて行けば、財政は自然に健全化するという考え方です。
 安倍首相がこのように発言したのは、それを推進するよう勧め
る一派が自民党内にいるからです。これは「国土強靭化」を目指
すグループであり、そのグループの主張に首相は傾いていること
を意味しています。   ─── [検証!アベノミクス/65]

≪画像および関連情報≫
 ●「追加緩和」に否定的な発言をする黒田総裁の本音
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2015年2月17日から開かれている日銀の金融政策決定
  会合の結果が、今日発表される予定だ。「政策変更なし」と
  発表される公算大で、株式市場への影響は限定的だろう。市
  場の注目は、その後の黒田総裁の記者会見で、先行き追加緩
  和の可能性を匂わす発言があるかに向かっている。楽天証券
  経済研究所のチーフストラテジスト窪田真之氏は、市場の追
  加緩和期待を高めるような発言があれば、円安、株高が進む
  可能性があるが、今回はそうした発言は出ないと予想される
  という。FRB(米国の中央銀行)や、ECB(欧州中央銀
  行)は、金融政策の方針について、市場と対話することを重
  視している。金融政策の変更で市場にショックを与えないよ
  うに、政策変更の可能性を少しずつ市場に織り込ませる努力
  をしている。2014年10月、米FRBはQE3(量的緩
  和第三弾)を終了した。これは、2年以上前から、何度も市
  場との対話を通じて市場に伝えてきたことなので、市場に驚
  きを与えることはなかった。ECBは今年の1月に量的緩和
  を導入した。これも、事前に市場と対話しながら方針を伝え
  ていたので、市場に驚きを与えることはなかった。日銀も、
  欧米の中央銀行を見習って、市場と対話していく方針を打ち
  出している。ただし、実態は、必ずしもそうなっていない。
  日銀は、かつて金融政策の方向性について、完全な秘密主義
  を貫いていた。近年は、昔に比べると政策に関する情報を出
  すようになってはいるが、それでもFRBやECBに比べる
  と、秘密主義の側面が強いと言わざるをえない。
                   http://bit.ly/1BAjPmx
  ―――――――――――――――――――――――――――

経済財政諮問会議/2015年2月12日.jpg
経済財政諮問会議/2015年2月12日 
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2015年03月02日

●「トービンq効果というものがある」(EJ第3984号)

 株価が上昇しています。2月27日午前に日経平均株価は1万
8800円台半ばに達しています。この株価は2000年4月以
来、実に15年ぶりの高値水準なのです。
 ここで「株価はなぜ上がるのか」について考えてみる必要があ
ります。株価というのものは、上がったり、下がったりするもの
です。なぜ、そうなるかというと、投資家がさまざまな経済情報
によって売りと買いを判断しているからです。
 投資家は、ある企業の株が上がると判断すれば買うし、下がる
懸念があれば売ります。つまり、株価は「期待の世界」であると
いえます。景気が良くなるか、悪化するかについても期待の世界
です。どのような「気」を持つかによって「景」は変わると考え
るのです。
 大塚家具の親娘ケンカ騒動のさい、株価はストップ高になるほ
ど上がったのです。普通このような出来事は企業業績については
マイナスですが、投資家は「これによってトップの経営方針が安
定し、かえって業績は伸びる」と判断したのでしょう。
 同様に予想インフレ率が上昇すると、株価は上がるのです。予
想インフレ率が上がり、実際にインフレ率が──平均的ではある
が──上がると、企業の商品やサービスの単価が近い将来上がる
ことが予想されます。これは企業にとっては増収を意味しますが
投資家は増収が予想される企業の株を買うのです。
 投資家は経済がデフレであることが問題があると考えており、
予想インフレ率の向上によってデフレ脱却が期待される状況にな
ると、投資家は企業の業績が改善されると考えて株を買うので、
株価が上がるのです。
 まして安倍首相は、首相になる前の自民党総裁のときから、金
融緩和を宣言しており、それに反応してすぐ円安の動きが出て、
株価が上昇しています。これはやはり近い将来インフレ率が上が
るという期待で株価が上昇したと考えてよいと思います。トップ
の発言でも株価は上がると浜田宏一教授はいっています。
 株価が上がると何が変化するのでしょうか。
 かつて野田総理が国会の答弁で「株価が上がっても株を持って
いる人はよいが、持っていない人は関係がない」という総理らし
からぬお粗末な発言をしたことをご紹介しましたが、株価が上が
ると経済は好循環を始めるのです。
 金融緩和の是非論については改めて述べますが、金融緩和は予
想インフレ率が低い状況でいくらやっても効き目はないのです。
それは多くの人々がデフレが続くと考えているからです。
 しかし、今回は少し予想インフレ率が上がっており、デフレ脱
却期待も生まれているのです。ゼロ金利のデフレ下では、銀行に
お金を置いておいても雀の涙程度の金利しか付かないことに不満
を持っている人は大勢います。
 ところが、現在は緩やかなインフレ予想が生まれており、株価
が上がっているので、銀行にお金を寝かせている人の一部が、株
式投資にお金を回すことは十分考えられることです。まさに現在
はそれが起きているのです。人々が将来インフレになると考える
と株価は上昇するのです。
 ここで、「トービンのq効果」というものについて知っておく
必要があります。「トービンのq」というのは、米国の経済学者
であるジェームズ・トービンが提唱した投資理論です。トービン
はケインズの考え方を支持しているノーベル賞受賞経済学者で、
財政・金融政策でさまざまな論争を展開した人物です。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ≪トービンのq効果≫
    トービンのq=株式の時価総額÷実物資産の価値
   株式の時価総額=1株当たりの株式時価額×発行数
―――――――――――――――――――――――――――――
 ある企業の株式時価総額は、株価の終値に株の発行数を掛けれ
ば簡単に算出できます。これは、その企業の「金融的な価値」を
あらわしています。もっと具体的にいうと、その企業を現在買収
するために必要な資金ということもできます。
 これに対して実物資産の価値とは、その企業が持つ生産設備の
総額です。仮に、その設備をすべて買い替えるとした場合のかか
る総額のことです。整理すると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   「株式の時価総額」 ・・・・ 企業の金融的価値
   「実物資産の価値」 ・・・・ 企業の物的な価値
―――――――――――――――――――――――――――――
 「トービンのq」は、企業の金融的な価値をその企業の物質的
価値で割ったものです。つまり、企業の金融的評価が、その企業
の物的な評価の何倍あるかをあわわす指標が「トービンのq」と
いうわけです。実はトービンのqが1を大きく超えて大きくなれ
ばなるほど、企業の設備投資が増加するのです。
 時価総額で示される企業の金融的価値は、投資家のその企業へ
の期待をあらわしたものです。これに対して企業の物的な価値は
現在におけるその企業の価値をあらわしています。これについて
浜田宏一教授は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 仮にその企業の株式の時価総額(金融的価値)が、現在の企業
の物的価値を上回っていたら、その企業が新株を発行して投資す
ることで、利益を上げられることを意味する。企業の生産設備の
総額よりも、株式の時価総額のほうが高いということは、投資家
が、「その企業は、その企業の現在の生産設備(物的価値)を利
用することで、これからも利益を出せる」「だから将来有望なそ
の会社に投資をしておこう」と考えていることになるからだ。そ
の結果、その企業の株は買われ、時価捻額が上がり、同時にトー
ビンのqは高くなつていく。   ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/66]

≪画像および関連情報≫
 ●「トービンのq」について考える
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「トービンのq」とは『資本ストックの総市場価値を資本ス
  トックの再取得価格で除した値のことをいい、「q>1」の
  とき投資は実行される』というもので、著名なケインジアン
  であるジェームズ・トービンが提唱したものである。「トー
  ビンのq」は「(株価総額+負債総額)÷現存の資本ストック
  の買替に必要な費用」と置き換えることができる。「トービ
  ンのq」について考えてみたい。「トービンのq」はケイン
  ズの『資本の限界効率』を応用したものと思われる。そして
  「平均のq」と「限界のq」に分けることができる。「平均
  のq」は上記に示した値のことで、「限界のq」は追加資本
  ストック1単位あたりの費用に対する市場価値の比率と定義
  される。本来、『事業投資』における意思決定の際に用いら
  れるべき「トービンのq」は「限界のq」の方であるが、追
  加資本からの将来収益性を評価することは不可能と考えられ
  ていることから「平均のq」で代用されているといわれてい
  る。ここで少し考えてみたい。あくまで個人的な意見となる
  が『ブラック=ショールズ・モデル』を「限界のq」に応用
  できるのではないかと考える。ブラック=ショールズ・モデ
  ルはヨーロピアンタイプのオプションの価値を算定するもの
  として1974年にフィッシャー・ブラックとマイロン・シ
  ョールズによって考案されたものであり、後に他の資産価格
  を算定することに応用されている。ブラック=ショールズ・
  モデルは、市場で得られる数値をもとに比較的容易に資産価
  値が算定できるとして実務でも応用されているといわれてい
  る。              http://amba.to/1ADu9Zg
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジェームズ・トービン教授.jpg
ジェームズ・トービン教授
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2015年03月03日

●「リフレ派経済学者の攻勢が強まる」(EJ第3985号)

 最近書店の経済書の書架に行くと、異変が起きていることがわ
かります。2013年後半から14年にかけて、大量に出版され
ていたアベノミクス批判本は、一部の極端な国家破綻論を除いて
少なくなり、アベノミクスの正当性を訴える本が多くなりつつあ
ります。その代表的なものは次の2つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.浜田宏一/安達誠司共著
   『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
   2015年1月30日/第1刷
 2.若田部昌澄著
   『ネオアベノミクスの論点/レジームチェンジの貫徹で
   日本経済は復活する』/PHP新書973
   2015年2月27日/第1刷
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」に関しては、既にEJで何回も取り上げています。アベ
ノミクスの設計者といわれる浜田宏一教授の本はこれで3冊目で
す。1冊目の『アメリカは日本経済の復活を知っている』(講談
社刊)において浜田氏は、当時の白川方明日銀総裁を名指しで、
次のように痛烈に批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は白川氏が日銀総裁となったとき、心から喜んだ。「これで
真っ当な経済論理に即した金融政策が発動されるだろう」と考え
た。長い間日銀の調査研究畑のリーダーとして、銀行内で支配的
だった企画畑出身者と奮闘してきた鈴木淑夫氏は、「初めて調査
畑から総裁が出た。きちんとした理論、数字の裏づけをもって、
外国語で世界のリーダーと対等に話ができる総裁が出たことは画
期的なことなのです」と語ってくれた。私も白川総裁誕生のとき
まさにそう思った。しかし、実際には・・・。白川総裁には、何
度となく落胆させられた。彼は出世への道を進むと同時に、世界
でも異端というべき「日銀流理論」にすっかり染まってしまって
いったのだろう。(中略)(白川氏は)日銀という組織で生きる
ため、日銀の昔からの政策観やしきたりに無理に合わせようとし
てきたのではないか。あるいは、経済学の学習者として経済論理
をつかむ力と、事態に応じて臨機応変に、しかも自分の責任のも
とで、国民のために経済政策を司る力には違いがある、と考える
ことでしか、彼の変貌は理解できない。    ──浜田宏一著
    『アメリカは日本経済の復活を知っている』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 浜田氏は、白川氏が日銀総裁になってからも深刻なデフレに手
を打とうとしない日銀に失望し、若田部昌澄氏と勝間和代氏との
共著『伝説の教授に学べ!本当の経済学がわかる本』に日銀総裁
への公開書簡を載せて、白川総裁に本を謹呈したのです。そこで
は、白川日銀総裁を「歌を忘れたカナリヤ」と表現し、次のよう
に書かれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 若者の就職先がないことは、雇用の不足により、単に現在の日
本の生産力が失われるだけではありません。希望に満ちて就職市
場に入ってきた若者の意欲をそぎ、学習による人的能力の蓄積、
発展を阻害するのです。日本経済の活力がますます失われていき
ます。(中略)白川君、忘れた「歌」を思い出してください。お
願いです。           ──浜田宏一著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 浜田氏によると、この本は白川総裁と日銀審議委員全員に謹呈
されたのですが、白川総裁からは「自分で買います」という返書
とともに送り返されてきたそうです。
 これでわかるように、経済学者は自分の理論にこだわり、状況
が変化し、内容に大きな矛盾が生じても訂正し、変更することが
できない人が多いようです。
 「2」の若田部昌澄早稲田大学政治経済学術院教授は、浜田宏
一教授が「畏友」と呼ぶリフレ派の経済学者です。この本の出版
には、リフレーション政策の元祖といわれるポール・クルーグマ
ン米プリンストン大学教授から推薦文が寄せられています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    低成長と格差の時代は終わらせることができる
             ──ポール・クルーグマン
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、浜田氏の新刊書の「あとがき」には、最近の白川氏
とのあつれきが次のように記述されています。白川前総裁はアベ
ノミクスによって、日本経済に活力が出てきている事態になって
も、まるで反省をしていないようです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2014年の秋にソウルで行われた「世界知識フォーラム」で
私は久しぶりに日銀の白川前総裁とお会いした。国民のためとは
いえ、これまで表の中央銀行総裁に対して私の言葉が過ぎていた
かもしれないので、できたら仲直りをしたいと思って出かけたの
だ。ところが、フォーラムでのパネルディスカッションで白川前
総裁は現役時代と同じく、「金融政策は時間稼ぎにすぎない」と
繰り返した。さらに、デフレ傾向にあるのに利上げしてユーロ圏
の沈滞をもたらしたと思われるジャン・タロード・トリシュ欧州
中央銀行前稔裁、そして韓国のウォン安政策を転換し、金融引き
締めで韓国経済を低迷させた韓国銀行(中央銀行)のキムジュン
ス金仲秀前総裁とのパネルディスカッションでは、量的緩和の問
題点や危険性ばかりを強調した。アベノミクス的政策に対する真
正面からの挑戦であった。そこで一聴衆であった私は思わず「こ
れでは日の目を見られない韓国国民がかわいそう」と前置きして
話をしてしまったので、白川さんとの仲直りは達成できずに終わ
ってしまった。         ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/67]

≪画像および関連情報≫
 ●クルーグマンが教えてくれる経済学の驚き/山形浩生
  ―――――――――――――――――――――――――――
  『クルーグマン教授の経済入門』は、山形浩生にとっても経
  済学理解の原点となる名著だった。そしてまたそれはクルー
  グマンの名コラムニスト的なスタイルを確立するという意味
  でも、記念碑的な本だ。その価値は現在もなお変わっていな
  い。ぼくの訳した『クルーグマン教授の経済入門』は、原著
  はもう20年も前の本だ。昨年ノーベル経済学賞を受賞した
  ポール・クルーグマン若かりし日の名著となる。テーマは、
  アメリカ経済。ぼくの訳が初めて出たのも、十年以上前にな
  る。にもかかわらずこの本は未だに古びていない。もちろん
  時事ネタは仕方ない。でも本書は時事ネタそのものの話より
  も、それをどう見るかという経済学的な考え方にこそ価値が
  ある。そしてぼくを含む多くの経済学素人は、かれの教えて
  くれる経済学、特にその限界についての記述に心底驚かされ
  たのだった。特にみんながびっくりしたのは、生産性がなぜ
  上がるかよくわからない、という話だ。素人の多くは、生産
  性くらいすぐに上げられると思っている。ITを入れれば、
  教育をよくすれば等々。でもそうじゃないという。多くの人
  は、これをはっきり言ってもらったことで救われた。やり方
  がわかっているのにそれができないなら、単なる無能だ。で
  もそうでないなら――やり方がわかっていないなら――見当
  違いなところでで犯人捜しをして時間を無駄にすることもな
  くなる。             http://bit.ly/1E53APa
  ―――――――――――――――――――――――――――

浜田宏一教授の近刊書.jpg
浜田 宏一教授の近刊書
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2015年03月04日

●「なぜ日本はデフレが長期化したか」(EJ第3986号)

 日本の経済学者の多くは、表面はともかくハラのなかでは、実
はアベノミクスに反対です。どうしてかというと、もしそれが正
しいのであれば、20年前からそういう主張をしていないとおか
しいですが、そういう気配はなかったからです。
 私は安倍政権にはいろいろな問題があると思っていますが、こ
とアベノミクスに関しては一定の評価をしているのです。それは
ある意味において、安倍政権が財務省のポリシーに強い抵抗をし
ているフシがあるからです。その点は評価できます。
 2014年4月の消費税増税の実施に関して、反対した経済学
者は、いわゆるリフレ派といわれる学者に限られています。アベ
ノミクスの設計者である浜田宏一イェール大学名誉教授、消費税
を実施すべきかどうかを議論する財務省主催の会議において、委
員のほとんどが予定通りの実施に賛成であるなか、「増税の実施
は絶対反対」を貫いた若田部昌澄早稲田大学政治経済学術院教授
は、いずれもリフレ派の経済学者です。リフレ派の元祖といわれ
るクルーグマンプリンストン大学教授も、もちろんメディアを通
じて増税に反対を表明しています。
 ところでアベノミクスの目的は何でしょうか。
 一般人からすると「景気の回復」でしょうが、安倍首相は「デ
フレからの脱却」を主張しています。確かにデフレから脱却でき
れば景気は回復するというのであれば納得できます。黒田日銀総
裁は「物価目標2%の達成」を掲げています。しかし、景気が良
くなれば物価が上がるというのはわかりますが、経済政策で強制
的に物価を上げると景気が回復するというのは、一般人にはなか
なか腑に落ちにくいと思われます。
 そもそもデフレとは何でしょうか。デフレは良くないことなの
でしょうか。
 デフレは必ずしも悪いことではないという意見があります。日
本がデフレから20年以上も脱却できないでいるのは、そう考え
ている論者──経済学者や政治家や官僚など──が少なからずい
るからです。
 デフレとは物価が下がり続けることであるといわれますが、そ
れ自体は悪いことではないはずです。むしろ、かつてはインフレ
の方が怖いと考える人の方が多かったはずです。
 この点について、竹中平蔵氏は次のようにわかりやすく説明し
ているので、ご紹介しましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレは、ある意味ではインフレよりももっと怖いんです。商
売をしている人を考えてみましょう。例えばパンを売っている人
の場合、100円のパンの単価が10円、10%下がったとしま
す。パンを買う人にとっては10円安くなってうれしいかもしれ
ません。でも、仕入れのコストも10%下がり、経費も人件費も
もちろん売上も全部10%下がるんです。
 その程度だったらあまり影響がないと思われるかもしれません
けれども、例えばすでに契約していた住宅ローンなどは絶対に下
がらないわけですよ。数ヶ月前に仕入れた小麦粉の料金を払う場
合も「いまは安くなったから」と10%値引きしてもらえること
なんてあり得ません。収入は減っても、過去の借金は下がってく
れないんです。だからデフレの見えない怖さというのは、借金が
相対的にどんどん重くなっていくということです。
   ──田原総一朗/竹中平蔵著/『ちょっと待って!竹中先
生、アベノミクスは本当に間違ってませんね?』/ワニブックス
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、モノの値段は下がっても、借金は下がらないというこ
とです。給料が今後少しずつ下がり続ける状態が続いたら、誰も
怖くて住宅ローンなんか組めないはずです。ですから、投資も消
費も伸び悩み、経済が停滞してしまうのです。そういう意味で、
経済停滞の諸悪の根源はデフレなのです。
 日本のデフレが長期化しているのは、それを国や政府が放置し
ていたことです。ここで「国」とは公務員や官僚のことであると
いう立場に立つと、彼らは自身が経済停滞が原因で職を失う心配
がないうえに、所得は景気によって左右されず一定なので、物価
が下がり続けるデフレの方が都合がよいのです。だから、そこか
ら真剣に脱却しようとは考えなかったのです。
 その点政府には責任があります。政治家、とくに与党の政治家
には選挙があるので、デフレが深刻化して雇用情勢が悪化すると
当選できなくなる恐れがあるのです。しかし、日本の政治はEJ
で何度も述べているように、国民の手にはなく、公務員や官僚に
握られています。政府がデフレから脱却しようとするには、公務
員や官僚の巣窟である財務省と戦う必要があります。それには強
い信念と政治力、それに日銀を味方に加えることが必要です。そ
れとデフレから脱却するための正しい経済に関する知識が必不可
欠です。それが今までの政権にはなかったのですが、安倍政権は
それをやろうとしています。現時点では、それが成功するかどう
かはわかりませんが、そこは大いに評価できるところです。
 ここで大事なことがあります。デフレが日本経済に与える影響
を「個人」の視点だけで考えてはならないということです。浜田
宏一教授は、これについて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレの是非を考える場合、「個人とは、モノを購入する主体
(消費者・需要者)であると同時に、モノを生産する主体(労働
者・供給者)でもある」ことを考えて、判断しなければならない
のだ。             ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレについて考えるとき、忘れてはならないことは、世界で
デフレになっているのは日本だけであるということです。どこの
国もデフレにだけはならないように、周到な手を打ってそれを防
いでいるのに、日本はこれまでデフレをそのまま放置してきたの
です。         ─── [検証!アベノミクス/68]

≪画像および関連情報≫
 ●アベノミクス、広がる懐疑的評価とデフレ待望論
  ―――――――――――――――――――――――――――
  異色の経済本が出版された。『99%の国民が泣きを見るア
  ベノミクスで貧乏くじを引かないたった一つの方法』(増田
  悦佐/マガジンハウス)だ。著者の増田悦佐氏はニューヨー
  ク州立大学助教授を経て世界的金融グループのHSBC証券
  など外資系証券会社で勤務した経歴を持ちながら、米国の経
  済政策を徹底批判してきたエコノミストだ。増田氏は本書の
  中で、そもそもアベノミクスのインフレ政策に決定的な錯誤
  があると指摘している。「(インフレは)借金のし放題とい
  うひと握りの恵まれた連中だけがますます儲けて、ふつうの
  庶民にはちっとも恩恵が及ばない、まさに国民の99%が泣
  きを見るような経済状態なのだ」(本書より)「物価の上昇
  と通貨価値の下落が継続的に続く状態」であるインフレでは
  借金をしても実質負担が減る。儲けられるのは、多額の借金
  があって、その借金の元本の目減り分が非常に大きい人たち
  政府や一流企業、金融機関、個人でいえば一部の金持ちに限
  られるというわけだ。それはインフレを目指してきた米国を
  見ればわかるという。一部の富裕層へ富が集中し、所得上位
  1%の所有分が2割近くに及ぶ。一方で、飲食業界などの勤
  労者は低賃金。医療サービスや大学の授業料は値上がりし、
  貧富の格差を示すジニ係数は日本よりかなり高い。インフレ
  で勤労者の所得が増えるわけではないのだ。
                   http://bit.ly/1wHOI1D
  ―――――――――――――――――――――――――――

デフレは諸悪の根源と説く竹中平蔵氏.jpg
デフレは諸悪の根源と説く竹中 平蔵氏
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2015年03月05日

●「デフレを過小評価するプロもいる」(EJ第3987号)

 デフレは必ずしも悪いものではない──素人だけではないので
す。専門家でもそう思っている人が日本では少なくないのです。
浜田宏一教授が指摘する2人の専門家の主張を参考に考えてみる
ことにします。第1の例は、佐々木融氏の著書の次の主張です。
佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行債券為替調査部長と
いう金融のプロです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレであれば多少それが続いたところで、個人にとっては購
買力が高まるので、実は幸せなことである。さらに、普通に会社
に入って勤務を続けていれば、多少賃金制度などが変わってきた
とはいえ、歳をとっていくなかで昇給等によりそれなりに名目賃
金は増える。デフレで物の価格が下がるなかで、賃金はそれなり
に増えるのであるから、実質的な購買力は結構上がっている。
 ──佐々木融著『弱い日本の強い円』/日経プレミアシリーズ
                ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで佐々木氏が想定している普通の会社とはどういう企業な
のでしょうか。大企業とはいわないものの、相当業績が安定した
企業を前提にしていると思われます。そうでなければ、定時昇給
があり、名目賃金は増えないからです。
 添付ファイルは、日本人の現金給与総額と消費者物価指数の推
移を示したものです。これをみると、「それなりに名目賃金が増
える」どころか、1996年を頂点として現金給与総額は年々減
少を続けているのです。つまり、佐々木氏のいうような賃金がそ
れなりに増える状況は少なくとも日本では起きていないのです。
 定職があり、年功序列に支えられた人だけでないと、「実質的
な購買力は結構上がり」はしないのです。佐々木氏に対し、浜田
宏一氏は、次のように厳しく批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 佐々木氏は重要なことを見落としている。それは「デフレ下に
おいて雇用は伸び悩み、賃金も減り続けてきた事実である」。
          ──浜田宏一/安達誠司共著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレが進行すると、商品の値段が下がり、それを購入する人
にとっては多少ハッピーかもしれないが、企業の収益も減るので
従業員の賃金が減り、最悪の場合、解雇される可能性もあるので
す。一家の大黒柱が職を失う恐れもあるということです。
 第2の例として浜田宏一教授は、池尾和人慶応義塾大学教授の
2010年10月5日付のダイヤモンドオンラインの発言を取り
上げて次のように批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレを最重要視する人々は、時に戦前の恐慌時をたとえに持
ち出す。そのときのデフレは確かに大問題だった。だが、今は2
つの点が違う。第1に相対価格が非常に大きく動いている。平均
値はマイナス1%程度だが、30%も下落している商品もあれば
上昇している商品もある。戦前は一律に低下した。第2は、当時
のデフレは物価の下落率が2ケタ以上の異常事態だった。だが、
現在は1%程度の下落が続き、スパイラルに加速しているわけで
はない。      ──池尾和人氏  http://bit.ly/1wFqhau
―――――――――――――――――――――――――――――
 池尾氏のいいたいことは、要するに「デフレ、デフレと大袈裟
なんだよ」ということではないかと思います。デフレといっても
「たかだか年率1%程度で物価が下落する程度のデフレ」に過ぎ
ないので、大騒ぎをするレベルではないというのです。
 こういう経済学者が日本では多いので、今まで長い間にわたっ
てデフレが放置されてきたといえます。しかし、その「年率1%
程度のデフレ」が問題であると浜田教授はいうのです。なぜなら
その程度のデフレでも継続すると、日本の雇用状況を確実に悪化
させるからです。
 フィリップス曲線というものがあります。ニュージーランド生
まれの経済学者、A.W.フィリップスが、1958年の論文の
なかで発表したものです。
 フィリップス曲線とは、縦軸に「インフレ率」、横軸に「失業
率」をとって描くグラフです。このグラフを見ると、インフレ率
が高くなるほど失業率が減少し、デフレ(インフレ率がマイナス
になる)が進行するほど失業率が増加することがわかります。
 浜田宏一氏は、池尾氏のいう「年率1%程度のデフレ」につい
て、デフレになっていない1992年〜1993年の数値とデフ
レが最も深刻化した2010年の数値を比べてみることを勧めて
います。
 デフレではない1992年〜1993年はインフレ率が2%程
度でしたが、完全失業率は2年間平均で2%です。失業率は非常
に低く、ほとんど完全雇用といえます。
 これに対してデフレが最も深刻化した2010年は、平均マイ
ナス1・25%のデフレになっていますが、完全失業率は5・1
%まで上昇しています。最もよかったときから完全失業率が約3
%悪化したことを意味しています。しかし、この3%の悪化は、
約86万人の失業者が増えることを意味しており、これが年率1
%程度のデフレの恐ろしさです。
 また、浜田教授によると、完全失業率が3%のときの若年層失
業率は10・8%以上にまでなっているのです。若年層とは15
歳〜24歳の年齢層のことです。これは、同世代の若者のうち、
10人に1人が職についていないという凄惨な状況を意味してい
ます。このような悲惨な若年層失業率は、年率1%程度のデフレ
から起きているのです。
 このように、デフレは年率1%程度なら大したことはないとす
る人は、日本の高名な経済学者のなかにもいる──浜田宏一教授
は怒りをもってこう訴えているのです。
            ─── [検証!アベノミクス/69]

≪画像および関連情報≫
 ●フィリップス曲線について/三橋貴明氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本の場合、実に美しいフィリップス曲線が描けます。19
  80年以降のデータを見ると、インフレ率が上昇すると失業
  率が下がり、「インフレ率(GDPデフレータベース)2%
  で、失業率が2%前半に接近することになります。興味深い
  ことに日本は、インフレ率が、2%、3%、5%と上昇して
  いったとしても、失業率は2%を切りません(1980年以
  降は)。すなわち、我が国にとって失業率2%とは「完全雇
  用」である可能性が高いのです。逆に、インフレ率がマイナ
  スとなり、デフレが深刻化していくと失業率は上昇します。
  もっとも、日本の失業率は「今回のデフレーション」の期間
  ついに6%を超えることはありませんでした。日本の失業率
  は2%から6%の間を推移し、インフレ率と極めて強い相関
  関係を保ちながら動くのです。それに対し、アメリカは「一
  応」フィリップス曲線が成り立っているように見えないこと
  もないのですが、日本ほど美しい曲線にはならないのでござ
  います。フィリップス曲線が「美しくなる」ためには、「イ
  ンフレ率が上昇し、景気が良くなると、国民が働き始める」
  必要があります。当たり前のことですが、国民が働こうとし
  ない、厳密には「労働市場に参加し、職を得ようとしない場
  合、インフレ率と失業率のトレードオフの関係は成り立たな
  くなります。すなわち、インフレ率が健全で好景気に見え実
  際に職があるにも関わらず、国民が労働市場で職を得ようと
  しない場合、フィリップス曲線の「美しさ」は消滅します。
                   http://bit.ly/1M470D0
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/浜田宏一/安達誠司共著の前掲書より

物価よりも給与のほうが下がっている.jpg
物価よりも給与のほうが下がっている
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