2014年09月01日

●「誤解を生むマウントゴックス破綻」(EJ第3866号)

 今日からテーマを改めて「ビットコイン」について書くことに
します。ビットコインは、「仮想通貨」とか「暗号通貨」とか日
本語に訳されていますが、その正体は何でしょうか。
 ビットコインといえば、誰でも「マウントゴックス/MTGO
Xの2月破綻」のニュースを思い浮かべます。当日のWeb版日
本経済新聞の記事を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 インターネット上の仮想通貨ビットコインの取引所「マウント
 ゴックス」を運営するMTGOX(東京・渋谷)が28日、東
 京地裁に民事再生法の適用を申請し、同日受理されたと発表し
 た。債務が資産を上回る債務超過に陥っていた。顧客が保有す
 る75万ビットコインのほか、購入用の預かり金も最大28億
 円程度消失していたことが判明した。MTGOXのマルク・カ
 ルプレス社長は28日夕の記者会見で、「ビットコインがなく
 なってしまい、本当に申し訳ない」と謝罪した。消失したのは
 顧客分75万ビットコインと自社保有分10万ビットコイン。
 金額にして「114億円程度」としているが、他の取引所の直
 近の取引価格(1ビットコイン=550ドル前後)で計算する
 と、470億円前後になる。流動負債の総額は65億円で「債
 務超過の状態にあると判断した」という。同社は25日昼ごろ
 からサービスを停止していた。顧客12万7000人の大半は
 外国人で、日本人は0.8 %、約1000人という。
     ──2014年2月28日付、Web版日本経済新聞
                http://s.nikkei.com/VWuGnD
―――――――――――――――――――――――――――――
 一体何が起きたのでしょうか。ビットコインが何であり、その
仕組みを知らないほとんどの人は、ビットコインというシステム
そのものが破綻したととらえたと思います。これがとくに日本に
おいて大きい誤解を生むことになるのです。
 この報道を受けて麻生財務大臣は、次のような発言をしている
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインなんか長続きしないし、いつかは破綻すると思っ
 ていたが、意外に早かった。早急に対策を詰める。
                    ──麻生財務相発言
―――――――――――――――――――――――――――――
 麻生財務相の発言を聞くと、ビットコインシステムが破綻した
ように解釈できますが、結論からいうなら、これは麻生財務相が
ビットコインについていかに何も知らないかを見事に示している
と思います。
 どうしてかというと、マウントゴックスは、ビットコインの取
引所──というよりも、円やドルをビットコインに両替したり、
その逆のビットコインを円やドルに替える「両替所」のようなも
のに過ぎないからです。
 これについて、ビットコインに詳しく、その著作もある経済学
者の野口悠紀雄氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 重要なのは、「両替所はビットコインの維持システムの外にあ
 る」ということである。両替所はビットコインシステムの利用
 者であり、運営者ではない。だから、マウントゴックスが破綻
 しても、ビットコインの運営そのものには影響が及ばない。シ
 ステムの外で起きたことがシステムの運営に影響を与えないと
 いうのは、日本銀行券についてつぎの事例を考えれば、明らか
 だ。いま銀行強盗があって日銀券が盗み出されたとしよう。こ
 の場合、「銀行は広い意味での通貨制度の一部だから、日銀券
 の脆弱性が明らかになった」と言うだろうか?普通はそうは言
 わない。ガードが甘かったのは、被害にあった銀行である。日
 銀はそこまでは責任を持てない(ましてや、個人が自宅で保管
 している日銀券の盗難までは、到底責任を持てない)。「これ
 は、日銀券維持システムの外で起きた事件であり、日銀券の信
 用が失われたわけではない」と考えるのが普通だ。
            ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     『仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない』
―――――――――――――――――――――――――――――
 誤解の原因をつくったのは何といってもマスコミです。「ビッ
トコインの脆弱性の露呈」と大々的に報道したのです。テレビで
わかったような説明をする識者とやらも、「ビットコインなんて
円天と同じ」とか、「中央銀行なしに通貨制度を維持できるわけ
がない」とコメントし、誤解を日本中に拡散したのです。また、
ビットコインを企業通貨──ポイント制のようなものと同じであ
ると誤解している人も少なくないと思います。
 ビットコインのシステムを理解するのはけっして容易なことで
はないのです。理解しにくいので、誤解が生ずるのです。マウン
トゴックスの破綻があっても、ビットコインのシステム自体は何
も問題はないのです。むしろ、今後世の中を変革するツールにな
る可能性があります。
 そこで、ビットコインとそのシステムを正しくとらえ、それが
世の中にどのような変革をもたらそうとするのかについて、EJ
のテーマとして明らかにしていきたいと思います。タイトルは、
次の通りとします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ビットコインとは何か/何が社会に変革をもたらすのか」
   ── 第3のIT革命の衝撃/ビットコイン ──
―――――――――――――――――――――――――――――
 マウントゴックスが破綻してから丸6ヶ月が経過しましたが、
その間に3つの取引所が日本国内に新設されています。この事実
をもってしても、マウントゴックスの破綻がビットコインそのも
のに影響を与えていないことがわかると思います。明日からビッ
トコインの解明を行っていくことにします。
       ──── [ビットコインについて考える/01]

≪画像および関連情報≫
 ●マウントゴックス倒産後に浮上した「疑惑」/東洋経済OL
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2014年3月11日付けで東京地裁に対し、倒産後のマウ
  ントゴックスの動向が不可解だとして、債権者の代理人から
  「上申書」なるものが提出されたのだ。上申書の中にはビッ
  トコインの取引履歴を示す「COINSIGHT(コインサ
  イト)」というウェブサイトの資料が添付され、3月7日〜
  10日にかけて、マウントゴックスで少なくとも53万ビッ
  トコイン(約300億円相当)の取引の形跡があったと表示
  されている。これについて、「再生債務者(マウントゴック
  ス)の代表者(カルプレス氏)らビットコイン交換所への特
  別なアクセス権を有する者以外がなし得ないはずの、大量の
  ビットコインの引出しに関するリクエストが行われておりま
  す」と書かれている。”特別なアクセス権を有する者以外が
  なし得ない”とするのは、民事再生の申請で同社の財産処分
  が禁じられているほか、ビットコイン交換所のアクセスが遮
  断され、一般ユーザーは取引できない状態にあるからだ。マ
  ウントゴックスは経営破綻にあたり、ユーザーと同社自身が
  保有していた合計約85万ビットコインについて、「ほぼ全
  てがなくなっていることが判明した」と説明している。その
  ため、上申書は「消えたはずのものが、どうして取引できる
  のか」と言いたいわけだ。     http://bit.ly/1qPWRRf
  ―――――――――――――――――――――――――――

マウントゴックス破綻会見.jpg
マウントゴックス破綻会見
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2014年09月02日

●「取引所はBTCの運営者ではない」(EJ第3867号)

 まず、言葉の問題です。「両替所」なのかそれとも「取引所」
なのか──一般的には「取引所」とか「取引仲介所」と呼ばれて
いますが、正確な表現は「両替所」であると思います。重要なこ
とは、野口悠紀雄氏のいうように、両替所はビットコインシステ
ムの利用者であって、運営者ではないということです。
 円やドルやユーロを使ってビットコインを手に入れたり、ビッ
トコインを円やドルやユーロに換金するときにこれらの取引所を
使うのです。マウントゴックスの破綻後も、取引所は世界で80
以上存在しています。
 ところが、取引所ではビットコインの売買も行っているので、
「両替所」という表現は若干抵抗があり、EJでは「取引所」と
いう言葉を使うことにします。しかし、ビットコインの最大のメ
リットともいうべき「ビットコインの送金」には、取引所は何も
関係がないことを覚えておいていただきたいと思います。
 慶應義塾大学SFC研究所上席所員で、ビットコインの著作も
ある斎藤賢爾氏は、取引所について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界最大手の取引所だったマウントゴツクスが経営破綻したこ
 とで、ビットコインの「取引所」ないし「取引仲介所」という
 言葉が世間の注目を浴びることになりました。もしかすると、
 ビットコインで取引をするときには、取引所を介するのだとい
 う誤解が生まれているかもしれませんが、BTCの送金に取引
 所は不要です。取引所は、BTCそのものを商品としてあつか
 い、法定貨幣にて売り買いするための市場であり、円やドル、
 ユーロの世界で置き換えれば、外貨両替所にあたります。マウ
 ントゴックスが経営破綻したことにより、日本でのBTCの購
 入は、ちょっと厄介になりましたが、海外で存続しているその
 他の取引所を利用すれば十分に可能です。(EJ註:BTCと
 は、ここではビットコインそのものを意味している)
           ──斎藤賢爾著/太郎二郎社エディタス
  『これでわかったビットコイン/生きのこる通 貨の条件』
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、破綻したマウントゴックスは、世界で最も高いレー
トでビットコインを売っている取引所だったのです。2013年
12月にはビットコインの市場最高値である「1ビットコイン=
1200ドル」をつけたのも、このマウントゴックスだったので
す。これと同じ日に別の取引所のビットスタンプでは1000ド
ルだったといいます。
 それにマウントゴックスは、2009年からビットコイン事業
をスタートし、渋谷に事務所を構え、日本語による取引画面も用
意していたので、日本のビットコインユーザーにとっては身近な
取引所であったといえます。
 ここで大事なことがあります。ビットコインのレートは取引所
ごとに違うということです。つまり、ビットコインには株式市場
のように統一的な市場がないのです。つまり、マウントゴックス
の1ビットコインとビットスタンプの1ビットコインでは、価格
が異なることになります。
 それから取引所はそれぞれ独立しており、相互の連携はないの
です。したがって、ビットスタンプで購入したビットコインを、
そのままマウントゴックスで売却できないのです。もし、やる場
合は、ビットスタンプからビットコインを引き出し、それを改め
てマウントゴックスに預け入れ(デポジット)し、そのうえで売
却という手順を踏むことになります。
 それでは、どうしてマウントゴックスはレートが高いにもかか
わらず、世界最大の取引所になれたのでしょうか。ここで「世界
最大」とは、ビットコインを売買する会員数を一番多く有してい
ることを意味しています。
 ビットコインを売るということは、その取引所の会員のなかで
欲しい人に売ることを意味します。ビットコインを買う場合も同
様です。ということは、会員数が少ない取引所よりも多い取引所
の方がビットコインの売買は成立しやすいことになります。
 それに会員数の多い取引所でのビットコインの売買は「マッチ
ングが速い」というメリットがあります。マッチングが速いとい
うのは、売るタイミングを外さないということです。ビットコイ
ンのレートはかなり頻繁に上下します。1ビットコインが500
ドルのタイミングで買うボタンを押したのに、実際に買えたのは
700ドルのときだったというのでは困ります。会員数が少ない
取引所では、そういうことはよく起きるのです。マッチングが遅
いということです。
 しかし、マウントゴックスは会員数が多いので、買いたいタイ
ミング、売りたいタイミングで、即売買が成立していたのです。
つまり、マッチングが速かったわけです。そのため、会員はさら
に増えたのです。このように、どの取引所よりも多くの会員を持
ち、どこよりも多くのビットコインを保有していたがゆえに、マ
ウントゴックスはハッカーに狙われたのです。
 ビットコインの普及促進団体として、「ビットコイン・ファン
デーション」というのがあります。米国の技術者らがビットコイ
ン普及のために設立した団体です。その団体が、今回のマウント
ゴックス破綻事件に関して、次の共同声明を出しています。20
14年2月26日のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マウントゴックスがユーザーの信頼を裏切ったのは、マウント
 ゴックスという1社だけの行為の結果であり、ビットコインの
 復活力や価値、デジタル通貨業界には影響しない。このマウン
 トゴックスの失敗で失われてしまったビットコインへの信頼を
 回復するために、共同でビットコインの将来と顧客のファンド
 の安全を守る。 ──ビットコイン研究所著/佐々木健二監修
                  ATパプリケーション刊
―――――――――――――――――――――――――――――
       ──── [ビットコインについて考える/02]

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコイン、世界的には普及の流れ?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  インターネット上の仮想通貨「ビットコイン」をめぐって、
  新しい動きが活発化しています。様々な課題を抱えたビット
  コインですが、普及に向けて進み始めているようです。20
  14年7月23日、ビットコインが大量に消失し経営破たん
  したビットコイン取引所「マウントゴックス」の債権者集会
  が東京地裁で行われました。同社は今年2月、85万ビット
  コイン(114億円相当)が消失したと発表、一部は回収で
  きたものの、多くが回収不能となり、破たんしてしまいまし
  た。この破たん騒動をきっかけにビットコインに対する批判
  が高まり、ロシアなど一部の国はビットコインを禁止する措
  置を講じています。日本政府は禁止こそしませんでしたが、
  基本的にモノと認定し、通貨あるいは準通貨としては認めな
  い方針を明らかにしています。しかし米国や英国では、ビッ
  トコインを有効活用しようという動きが活発になっており、
  政府も通貨もしくはそれに準じる存在として容認する方向で
  検討を進めています。米国ではネット上の旅行予約サイト大
  手エクスペディアがすでにビットコインでの支払いに対応し
  ていましたが、7月にはパソコン大手のデルが、ビットコイ
  ンによる支払いの受け付けを開始しました。ビットコインは
  手数料が安いため、高額商品については10%値引きをする
  としています。          http://bit.ly/Y27N3Z
  ―――――――――――――――――――――――――――

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ビットコインATM
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2014年09月03日

●「ビットコインはウォレットで管理」(EJ第3868号)

 ビットコインは、コンピュータとインターネットのなかだけに
ある暗号通貨です。しかし、それを使う人が世界各国で着実に増
えています。現在のところ、じわじわという感じですが、近い将
来一挙に利用が拡大する可能性があります。
 しかし、日本ではマスコミの間違った報道によって、いかがわ
しいもの、詐欺的なもの、リスクのあるものと捉えられ、利用は
拡大していません。必要なのは、ビットコインを正しく捉えるこ
とです。EJでは、その周辺から正体に迫ります。
 老舗にして最大の取引所であったマウントゴックスの破綻で巨
額のビットコインを失った人の多くは、自分のビットコインをマ
ウントゴックスに預け放しにしていたようです。ちょうど銀行に
お金を預金しておく感覚でそうしていたと思われます。
 しかし、取引所は銀行ではないのです。取引所は、単なる両替
所であり、ビットコインの売買所に過ぎないのです。そのことは
ここまでの説明でわかっていただけたと思います。
 それでは、どうしたらよかったのでしょうか。
 一般的に人は現金を財布に入れて持ち歩き、必要に応じてそれ
を使います。現金が少なくなると、銀行から必要な現金を財布に
補充します。ところが、近年はカードの時代であり、少額の買い
物は現金で支払いますが、それ以上の買い物になると、カードを
使うようになっています。銀行の機能が発達しているので、そう
いうことが可能になっているのです。
 しかし、ビットコインは歴史が浅く、そういう周辺システムの
整備がまだ十分整っていないのです。しかし、財布──ウォレッ
トはあります。本来ビットコインはウォレットに入れて管理すべ
きものなのです。
 ウォレットがあれば、ビットコインを保管したり、送金したり
することができます。これは、実際の財布というよりも、「自分
の銀行」と考えた方がわかりやすいと思います。ビットコインを
使う手順を考えてみます。
 最初に、ネットからダウンロードして、ウォレットという財布
をPCかスマホに作るのです。そのうえで、ウェブ上にある取引
所で、円やドルを払い、ビットコインを手に入れます。このビッ
トコインはウォレットに格納されます。このようにビットコイン
はウォレットに入れて管理すべきものなのです。自分銀行に預金
するという感覚です。
 ビットコインを取引所で売買するときは、あらかじめ取引所を
決めて、そこのアカウントを取得します。そのうえでウォレット
から手持ちのビットコインを取引所内のアカウントにデポジット
します。そして取引きが終わったら、ビットコインをウォレット
に戻して管理するのです。
 このようにして管理していれば、ビットコインを失うことはな
かったのです。マウントゴックスでビットコインを失った人たち
は、ビットコインをマウントゴックスのアカウントに置いたまま
にしていた人たちです。ビットコインの売買だけを目的にする人
は、ウォレットを作らず、ビットコインを取引所にデポジットし
たままにしたのです。その方が売買に便利だからです。ところで
ウォレットには次の2つのタイプがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.アプリタイプ
           2.ウェブタイプ
―――――――――――――――――――――――――――――
 「アプリタイプ」は、ネットからアプリをインストールするタ
イプのウォレットです。しかし、このタイプには、大きな難点が
あるのです。とくに初期に用意されたウォレットアプリは、ビッ
トコインのこれまでのすべての取引データを含めてインストール
しなければならず、相当の容量になるからです。このタイプの代
表的なウォレットは「ビットコインQT」です。したがって、こ
のウォレットは敬遠した方がよいと思います。
 しかし、最近ではデータはインストールするものの、自分が保
有するビットコインと関連するデータだけの軽量化された「マル
チビット」というウォレットもあります。
 「ウェブタイプ」は、文字通り、ウェブページにアクセスする
タイプのウォレットです。これなら、データをインストールする
必要がないのでスマホにも使えます。このタイプの代表的なウォ
レットは、「ブロックチェーン・インフォ」があります。アンド
ロイド版のアプリもあるので、スマホでも使えます。
 さて、ビットコインを管理するウォレットには、次の2つの鍵
があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.公開鍵 → 口座番号
        2.秘密鍵 → 暗証番号
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで、「公開鍵」と「秘密鍵」、そして「アドレス」の関係
を覚える必要があります。
 「公開鍵」は銀行でいえば「口座番号」に当たります。みだり
に人に公開する必要はありませんが、仮にそれが知られたとして
も大きな問題はありません。そういう意味での「公開」です。
 「公開鍵」から作られるのは「アドレス」です。アドレスは、
「ウォレットID」ともいわれますが、いくつも作ることができ
ます。したがって、セキュリティのために、取引ごとにIDを変
えることが推奨されています。
 誰かにビットコインを送るときは、ウォレット上で相手のID
と金額を入力して送信することになります。このさい、取引デー
タは、送信者の暗証番号である「秘密鍵」で暗号化(デジタル署
名)されるようになっているのです。一方、受信者は、送信者の
「公開鍵」を利用して、受信データの暗号を解くのです。
 このことは、後で詳しく述べることになりますが、「公開鍵」
「秘密鍵」、「アドレス」の関係はこのようになります。
       ──── [ビットコインについて考える/03]

≪画像および関連情報≫
 ●「株式日記と経済展望」の著者によるコメント
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ビットコインの問題は、わけが分からないからこそ政府当局
  の規制を受けないのであり、ビットコインを理解できる人だ
  けが使えるマネーだという事です。日本にある交換所が突然
  閉鎖されたという事ですが、これは交換所自身がハッカー攻
  撃を受けてビットコインが盗まれた事であり、システム運用
  がずさんだったことだ。すでにセキュリティーの問題が2年
  前には指摘されていたのにマウントゴックスは対策を打って
  いなかった。盗まれたビットコインは400億円相当だとい
  う事ですが、マウントゴックスの過失であり、ビットコイン
  に根本的なシステム自体が破壊されたわけではない。いずれ
  マウントゴックスに代わる交換所が作られるだろう。ビット
  コインは監督する官庁が無く全く自主的なものであり、通貨
  であるのかも金融庁は判断が出来ない。ビットコイン自体は
  インターネット上における決済手段であり相対取引でP2P
  で決済されて取引所や銀行口座は必要が無い。今回のように
  交換所が閉鎖されてもビットコインの所有者は相手が見つか
  ればいつもと同じように決済ができる。問題はビットコイン
  が円やドルなどとの交換価値において変動があるから、為替
  投機のような形で参加していた人が多いようだ。だからビッ
  トコインをマウントゴックスに預けっぱなしにしておいて、
  ビットコインと円やドルとを交換しながら為替投機していた
  のだろう。その分がハッカーによって盗まれてしまってマウ
  ントゴックスの前で外人が騒いでいるのだ。
                   http://bit.ly/1lvnvyF
  ―――――――――――――――――――――――――――

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ビットコイン硬貨
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2014年09月04日

●「ペーパーウォレットで守る秘密鍵」(EJ第3869号)

 ウォレットの「公開鍵」「秘密鍵」「アドレス」の関係を復習
しておきます。ウォレットには2つの鍵があります。「公開鍵」
と「秘密鍵」です。一番重要なのは「秘密鍵」、これは暗証番号
のようなものであり、絶対に人に教えてはならないのです。この
「秘密鍵」から「公開鍵」が生成されるのです。
 この「公開鍵」に「ハッシュ関数」というものをかけるとアド
レス(ウォレットID)ができます。アドレスはいくつでも作る
ことができます。アドレスは、数字やアルファベットの組み合わ
せた次のようなものです。「公開鍵」「秘密鍵」「アドレス」の
いずれも、QRコードでもあらわすことができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アドレス(ウォレットID)=「公開鍵」×「ハッシュ関数」
       I
       I──→ 14WtTxFrXWu8UoQ7zRiiRzDsHh76zNhdCm
―――――――――――――――――――――――――――――
 問題は「ハッシュ関数」です。「ハッシュ関数」とは、暗号化
や誤り・改ざん検出などに使われる、あるデータからそのデータ
を要約する数列を生成する演算手法のことです。
 「秘密鍵」は暗証番号のようなものと書きましたが、暗証番号
と違って利用者が意識して使うものではないのです。しかし、こ
れがウォレットに保存されているデータのなかにないと、自分の
アドレス宛に送信されてきたビットコインが使えないのです。
 したがって、「秘密鍵」は厳重に保管する必要があります。し
かし、よく仕組みが理解できないで、それをQRコードにしてテ
レビ放送中に公開してしまった失敗例があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカのニュース番組が、ビットコインを取り上げていたと
 きのことだ。「ビットコインはQRコードにして印刷すること
 であなたへのクリスマスプレゼントにすることもできるんだ、
 こんなふうに──」と、レポ一夕ーが番組内で司会者にクリス
 マスカードをプレゼントした。その直後、司会者はクリスマス
 カードに印刷されたQRコードをカメラの前に示したのだ。す
 ると数時間もしないうちに、ある掲示板に、一本のスレッドが
 立った。「ブルームバーグでビットコインを取り上げていたん
 だ。司会者がHD画質で、10秒以上もQRコードを写してた
 よ。大笑いだね」。これに対してすぐに返信がついた。「あれ
 オレが盗ったよ。20ドルしかなかったけど。もし、あのレポ
 一ターが新しいビットコイン・アドレスを作ったら送り返すつ
 もりだよ。プライベートキーは見せちゃダメって大事だよね。
                  ──高城泰著/扶桑社刊
    「ヤバイお金/ビットコインから始まる真のIT革命」
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウォレットを使ってビットコインを送金するのは簡単です。送
金する相手のアドレスをメールなどで教えてもらい、それからコ
ピーするか、QRコードから読み込むことで、送信先のアドレス
にセットし、送金するビットコインの額面を入力して「送信」ボ
タンをクリックするだけでよいのです。
 アドレスを間違って入力して別の人に送金してしまう恐れはな
いのかということを心配する人がいます。結論からいうと、その
心配はほぼゼロといっても過言ではありません。間違ってアドレ
スを入力して、別の人の正しいアドレスを打ち込んでしまう確率
は、約40億分の1以下です。
 「秘密鍵」は自分のPCのウォレットに入れて管理することに
なりますが、ネットにつながっていると、ハッカー攻撃を受ける
こともあるので、PCに残すのであればオフラインのPCに入れ
ておくなど、慎重を期す必要があります。これを「コールド・ス
トレージ」といいます。これに対して、ネットにつながっている
ウォレットのことを「ホット・ストレージ」というのです。
 「コールド・ストレージ」のひとつとして、紙に記録して残す
方法があります。これを「ペーパー・ウォレット」といいます。
このペーパー・ウォレットについて、ビットコインに詳しい経済
学者の野口悠紀雄氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ハッカー攻撃などでPCに保存してあった秘密鍵が盗まれると
 それに対応したビットコインが、ハッカーの持つアドレスに送
 金されてしまう。つまり、ビットコインが盗まれてしまう。紛
 失や盗難を避けるために、ペーパーウオレット(紙の財布)の
 作成が推奨されている。これは、秘密鍵を紙に印刷し、それを
 厳重に、かつ秘密に保存するという方法だ(手書きで紙にメモ
 してもよいが、51個の数字と記号のメモは大変だろう)。最
 先端のコンピュータ技術を使うビットコインが、最終的な安全
 のために紙に頼るというのは一見すると奇妙な感じもする。し
 かし、これが最も安全な保存法であることは間違いない。最低
 限、オフラインのバックアップが必要だろう。
            ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
 現時点で、とくに日本においてビットコインが今ひとつ見えな
いのは、クレジットカードやポイントカードのように、商店で何
かものを買ったり、レストランなどでの支払いに気軽に使えない
ことです。
 しかし、送金──とくに国際間の送金においてビットコインは
効率的に送金できるので便利です。現在、ビットコインの取引手
数料「0.01 BTC以上の取引は無料」になっているのです。
仮に「1BTC=460ドル」とすれば、約5ドル以上の取引な
ら無料になるのです。
 もし、ビットコインでの送金が一般化し、普及すると、それは
爆発的なインパクトをもたらすことになるはずです。ビットコイ
ンにはそういう可能性が秘められているのです。
       ──── [ビットコインについて考える/04]

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコインへのマネーロンダリング温床疑惑について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ビットコインに詳しい大石哲之さんのブログに書かれていた
  『ビットコインにまつわる5つの誤解』について、もうちょ
  いと踏み込んで考えてみましょう。分かっている人には、分
  かるのでしょうけど、なかなかビットコインがなんじゃろか
  いな?って人には分かりにくいと思うので・・・。5つの誤
  解/その1『ビットコインは円天と同じ(で詐欺だ)』──
  この勘違い、多いです。以前にもブログで書いたのですが、
  円天=電子マネーってことで、怪しげな電子マネーとかは、
  すべて円天と同じじゃん!みたいなことを言われています。
  ツイッターとかで円天で検索すると、そういうツィートが多
  いのですが、そもそも円天はどんな事件だったのかが、誤解
  されてるのですよね。多くの人は円天という怪しげな電子マ
  ネーを作って、でもって、それを売ってだましたんじゃね?
  みたいに思っているようです。まあ、当たらずも遠からずな
  のですが、円天を売ったのではなくて、会費とか出資すれば
  円天ポイントがもらえて、でもって、円天市場で買い物がで
  きるってことだったのです。その円天の配当(?)がすさま
  じく多くて、毎年、最初に出した金額と同じ分の円天がもら
  えるだの、出資では三カ月ごとに配当があるだの、すごいこ
  とを言っていました。これが実現できていれば、問題になら
  なかったのでしょうけど、そんなことはできるはずもなく、
  お金が回らなくなって、おかしくなったんですね。これが円
  天の事件。            http://bit.ly/1nVqv3b
  ―――――――――――――――――――――――――――

ペーパーウォレット機.jpg
ペーパーウォレット機
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2014年09月05日

●「ナカモト・サトシとは一体何者か」(EJ第3870号)

 ここまで「ビットコインとは何か」について明らかにしないで
書いてきています。そこで今回はビットコインそのものについて
書くことにします。
 ビットコインは、そもそも誰が開発したかです。現在でも開発
者は特定されていませんが、「中本哲史」と名乗る日本人とされ
ています。本名であるかどうかも含めてわからないにせよ、開発
者が日本人であることは確かなようです。
 2008年10月31日のことです。世界を変える一通の英文
メールがあるメーリングリストに発信されたのです。そのタイト
ルと発信者は次のようになっています。URLをクリックすれば
誰でもそれを入手できます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System
                  Satoshi Nakamoto
           https://bitcoin.org/bitcoin.pdf
―――――――――――――――――――――――――――――
 この論文に書かれている内容を箇条書きにすると、次のように
なります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎P2Pネットワークによる二重支払いの回避
 ◎造幣局や中央機関の不在
 ◎匿名による参加
 ◎ハッシュキャッシュ型グループ・オブ・ワークによる新規コ
  インの発生
 ◎新規コイン発生のためのプルーフ・オブ・ワークは二重支払
  いの回避手段ともなる
                  ──高城泰著/扶桑社刊
    「ヤバイお金/ビットコインから始まる真のIT革命」
―――――――――――――――――――――――――――――
 このメールを受信したメーリングリストの参加者の何人かが中
本氏にメールで質問し、中本氏はそれに答えています。しかし、
2008年11月17日を最後に中本氏からのメールはしばらく
途絶えます。そのメールは次のように書かれていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインのソースコードはもうすぐできる。メインファイ
 ル必要なら送るよ。フルバージョンのリリースはもうすぐだ。
                 ──高城泰著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 2009年1月8日に中本氏から「ビットコインをリリースし
た」というメールが届きます。調査すると、1月3日に初めての
ビットコインが生まれたことが判明したのです。
 2009年1月9日以降、事情を知る者たちが後で述べるビッ
トコインの「採掘」作業を始めています。この時点でビットコイ
ンは価値はなく、ビットコインという名のコインを得るゲームを
している感覚だったのです。
 2009年1月12日にビットコインの最初の取引が行われた
のです。本来であれば、匿名のはずのビットコインの取引ですが
最初の取引であるためか、明確にされているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ナカモト・サトシからハル・フィニーへ10ビットコイン
                 ──高城泰著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 中本氏のメールにあるハル・フィニー氏は、暗号の研究家とし
て知られ、国が管理する暗号技術の解放を求める「サイファーパ
ンク」という団体に属していたのです。
 中本氏とこのハル・フィニー氏とは親交があり、中本氏がビッ
トコインの論文を送ったメーリングリストは、この団体のメーリ
ングリストであると思われます。中本氏はビットコインの構想の
段階から、おそらくハル・フィニー氏をはじめ、このメーリング
リストの参加者から力を借りていたものと思われます。
 実は、この記事を書いている9月4日の時点で偶然知ったこと
ですが、ネットの伝えるところによると、このハル・フィニー氏
は奇しくもビットコインのはじまった2009年にALS(筋萎
縮性側索硬化症)にかかり、2014年8月末日に亡くなってい
るのです。死の直前まで、唯一動く目を使ってプログラミングを
していたといわれます。
 ハル・フィニー氏は、中本氏がビットコインの論文を発表した
直後と、ビットコインのソースコードを公開した翌日に中本氏に
対し、次のようなメールを送っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎ビットコインは非常に有望なアイデアに思える。善良な利用
  者のCPUパワーが不正利用者のCPUパワーを上回ること
  でセキュリティを確保しようとするアイデアはいいね。
 ◎アルファー版のリリース、おめでとう、サトシ!試すのを楽
  しみにしているよ。
                 ──高城泰著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このような経緯でビットコインには「RSA」という高度な暗
号技術が使われているのです。「公開鍵」と「秘密鍵」を使った
暗号技術であり、ビットコインのベースになるものです。
 高城泰氏の解説によると、サイファーパンクのサイファーとは
「暗号」を意味し、パンクは1970年代のパンクバンド、セッ
クス・ピストルズなどに代表される反体制的な心のありようであ
るとしています。
 新しい技術を覚えるのは、その技術が開発された歴史について
知ることが一番であると思います。ビットコインは2009年に
はじまったのです。その開発者である中本哲史氏は未だに明らか
にされていませんが、ビットコインのシステムは、サイファーパ
ンクの暗号技術のプロたちの協力によって開発されたのです。
       ──── [ビットコインについて考える/05]

≪画像および関連情報≫
 ●「ドリアン・S・ナカモト」は別人である
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【2014年3月7日AFP】米誌ニューズウィークは、6
  日、幾年にもわたり謎とされてきた「中本哲史」として知ら
  れる仮想通貨ビットコインの考案者の正体を特定したと報じ
  た。この名前はこれまで「偽名」と考えられてきたが、なん
  と本名であることが分かったという。同誌の記者は、ロサン
  ゼルス郊外の質素な2階建て邸宅で暮らす鉄道模型が好きな
  「ドリアン・S・ナカモト」という名の64歳の日系米国人
  物理学者にたどり着いた。だが、ナカモト氏はビットコイン
  の考案者であることは直には認めず、記者が玄関のドアをノ
  ックした際には、警察に通報したという。だが、同誌による
  と、ナカモト氏は「もうそれには関与していない。話すこと
  はできない」、「既に他の人々の手に渡っている」と述べ、
  ビットコインの発明に貢献したことを暗に認めた。同誌によ
  ると、ナカモト氏は1949年に日本で生まれ、10年後に
  米国に移住した。カリフォルニア州立技術専門大学で物理学
  を学び、米政府や政府の下請け企業でシステムエンジニアと
  して機密職務に従事するなどしたが、2002年からは定職
  に就いていないという。2009年に立ち上げられたビット
  コインは違法薬物取引や資金洗浄に利用されて問題にもなっ
  ているが、金融界に革命をもたらしたとして、称賛されてい
  る。だがニューズウィーク誌によると、一方のナカモト氏は
  余暇の大部分を趣味の鉄道模型に費やし、ビットコインのコ
  ンピューターコードを開発したことから得られる莫大な富を
  享受しているようには見えないという。
                   http://bit.ly/1u2jVxG
  ―――――――――――――――――――――――――――

高城泰氏の本.jpg
高城 泰氏の本
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2014年09月08日

●「ビットコインが値づけされた経緯」(EJ第3871号)

 中本哲史氏が開発したビットコインは、まず、サイファーパン
クのメンバーたちによってビットコインを獲得するゲームとして
「採掘」が行われたのです。開発したばかりのビットコインに価
値はなく、知る人もマニアに限られていたので、その時点では単
なるビットコインという暗号通貨を獲得するゲームに過ぎなかっ
たのです。
 そういうビットコインに最初の値づけをしたのは、「ニューリ
バティスタンダード」というサイトなのです。2009年10月
のことです。そのつけたレートは次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1ドル=1309.03BTC
             0.00076ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 何を基準にしてこの値づけをしたのでしょうか。その根拠につ
いて、高城泰氏は次のように明かしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 高性能なCPUを積んだパソコンを1年間動かすのに必要な電
 力量、アメリカの家計の平均的な電気料金、それにニューリバ
 ティスタンダード運営者が過去30日で“採掘”できたビット
 コインの量の3つの要素から、その価値を算出したのだ。最初
 のビットコイン価格は、「ビットコインを採掘するのに必要な
 電気料金」だったわけだ。     ──高城泰著/扶桑社刊
    「ヤバイお金/ビットコインから始まる真のIT革命」
―――――――――――――――――――――――――――――
 根拠は「採掘」のための電気代であるというのは、採掘につい
て説明していないのでわかりづらいと思いますが、採掘は、コン
ピュータを使った計算なのです。それは膨大な繰り返し計算であ
り、相当の時間を要するのです。したがって、その間の電気代と
いうのは理解できます。
 最初の値づけの行われた6ヶ月後の2010年2月6日、世界
ではじめてのビットコイン取引所「ビットコイン・マーケット」
が誕生したのです。ビットコインをドルに換えたり、ドルをビッ
トコインに換えることのできる取引所です。これによってビット
コインは通貨として流通をスタートさせたのです。
 しかし、この取引所は約1年半で閉鎖され、2010年にマウ
ント・ゴックスがビットコインの取引所をはじめたのです。その
頃、ビットコインに目をつけたのは、ゲームオタクたちです。オ
ンラインゲームで使うバーチャルアイテムの取引にぴったりであ
ることに気が付いたからです。
 実は、マウント・ゴックスの前身は、当時流行していたトレー
ディング・カードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」のカー
ドの交換所だったのです。マジック:ザ・ギャザリングは「M:
tG」とよく略されるので、そのまま読むと「マウント・ゴック
ス」になるのです。
 トレーディング・カードゲームというのは、各プレイヤーがコ
レクションしたカードの中から、自由に、あるいはルールに則し
て組み合わせたカードの束(デッキ)を持ち寄り、2人以上で対
戦を行うゲームです。米国の「マジック:ザ・ギャザリング」か
ら始まり、「ポケモンカードゲーム」「遊戯王OCG」「デュエ
ル・マスターズ」などによって日本で大きく広まったのです。
 ゲームオタクに続いて、ビットコインに目を付けたのは、アン
ダーグラウンドの住人です。匿名で、巨額なマネーを無料で確実
に送金できる──こんな都合のよい話はないのです。情報セキュ
リティ会社ラックの最高技術責任者である西本逸郎氏はこういっ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 犯罪者が目をつけたものほど、有望なんです。ビットコインも
 そう。「シルクロード」で使えるようになってから価格も高騰
 していきました。極論ではありますが、犯罪者が標的にするも
 のほど魅力的だということ。        ──西本逸郎氏
                   高城泰著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで「シルクロード」とは何でしょうか。
 「シルクロード」は、違法薬物をはじめ法律で禁止されている
あらゆるものを仲介する闇サイトです。サイト自身が売り手では
なく、あくまで仲介者です。売り手はこのサイトに登録して商品
と価格を掲載します。これを見た買い手は、買うことを申し出る
と、あとは当事者同士の交渉になるのです。
 これにビットコインが使われているのですが、サイトにはドル
建てで表示されています。ビットコインの価格は日々変動します
が、その変動価格が表示されているのです。ビットコインの価格
を自動的にドルに換算して表示するようになっているのです。
 このサイトは「ディーブ・ウェブ」といい、一般のネットから
は見られないようになっています。もちろんグーグルの検索にも
ヒットしないのです。事前に修正が加えられた特別なファイヤー
フォックス・ブラウザを使い、複雑な経路を使って身元が分から
ないよう工夫された特殊なソフトを使って到達できるようになっ
ているのです。ネットの世界には、こういう闇サイトはたくさん
存在するのです。
 こんなサイトに身元のわかるクレジットカードや銀行振り込み
は使えわけがありません。しかし、ビットコインであれば匿名で
確実にマネーの受け渡しができるのです。犯罪者にとってこれほ
ど都合のよい通貨はないといえます。
 2011年2月からFBIの摘発により、サイトが閉鎖される
2013年7月までの売り上げは「951万BTC」になったの
です。当時のビットコインのレートは「1BTC=6万円」だっ
たので、約5700億円ということになります。シルクロードは
その手数料として6%──340億円をとっていたのです。しか
し、これによってビットコインのイメージは悪化したのです。
       ──── [ビットコインについて考える/06]

≪画像および関連情報≫
 ●サイバー・ドラッグ密売市場「シルク・ロード」に重い腰
  ―――――――――――――――――――――――――――
  インターネットを利用したドラッグ市場「シルク・ロード」
  は、売り手と買い手が商談を交わし、ウェブサイト運営者に
  「ショバ代」を払う仕組みで、アクセスもインターネット・
  アドレスをくらます独自のソフトウエアを使い、決済もバー
  チャル・キャッシュで、現金のやり取りはこのウェブサイト
  の外で済ませるという念の入ったシステム。しかも、支払っ
  た後で商品が届くという保証もない犯罪なのに客は満足度で
  5点満点の5点をつけるという「良心的商売」。この市場の
  取引額は年間2200万ドルにもなると推定されるが、これ
  までアドレスが外国であることなどから「シルク・ロード」
  取締りには消極的で、郵送されてきたドラッグを税関が摘発
  する程度だったが、オーストラリアでもこのウェブサイトで
  購入する事件が増えているため、ようやく警察と税関が合同
  で取締りに乗り出した。「シルク・ロード」は、昨年2月に
  ドレッド・プライベート・ロバーツなる人物が開設したとさ
  れており、イー・ベイや、ヤフー・オークションとほぼ同じ
  フォーマットで運営されている。コカインやエクスタシーの
  場合、オーストラリア国内市場価格の4分の1程度の値段で
  大麻や処方薬も世界中に発送する。ただし、この「シルク・
  ロード」利用者の弱点は税関で、ドラッグが国内に入る際に
  は通関検査があるが、毎日大量に入ってくる郵便物や小包を
  すべて完全に検査することはできない。捕まる危険を冒すユ
  ーザーも多い。最近にも連邦警察(AFP)がメルボルン在住
  の男を逮捕し、麻薬と禁制武器輸入など10件の容疑で起訴
  した。              http://bit.ly/1AlgiCS
  ―――――――――――――――――――――――――――

トレーディングカードゲーム.jpg
トレーディングカードゲーム
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2014年09月09日

●「2つの出来事によるBTCの急騰」(EJ第3872号)

 2010年からスタートしたビットコインは、値づけが行われ
たからといっても、2013年までは大きな価値を生まなかった
のです。しかし、2013年の次の2つの出来事によってその価
値が暴騰したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.キプロスにおける金融危機の勃発
      2.中国でのビットコイン投資の拡大
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の出来事は「キプロスにおける金融危機の勃発」です。
 キプロスの金融危機とは、ユーロ圏に属し、地中海東部に位置
する四国の半分程度の大きさのキプロス共和国で発生した金融危
機のことです。
 キプロス共和国は、そのGDPがユーロ圏全体の0.2 %の小
国なのですが、この国の銀行資産はきわめて異常だったのです。
というのは、銀行資産はGDPの約8倍もあり、預金残高は約4
倍に達していたからです。
 どうしてこういう事態になったかというと、キプロスはかつて
観光以外に主要産業がなかったので、高金利と低税率を武器とし
た金融立国(オフショア金融センター)を目指したことが成功し
ロシアなどの海外から「タックスヘイブン(租税回避地)」とし
て多くの資金が集まったからです。
 そこにギリシャ危機が発生したのです。歴史的にキプロスは住
民の大半がギリシャ系であり、公用語もギリシャ語であることか
らギリシャとの結びつきが強く、キプロスも直接危機に陥ること
になったのです。つまり、ギリシャ危機により、キプロスの銀行
の融資や債券投資に大きな損失(不良債権)が発生し、銀行経営
が立ち行かなくなってしまったのです。
 2012年6月にキプロスは、EUに支援を要請したものの、
しばらく棚ざらしの状態が続き、2013年3月に資金ショート
が迫るにおよんで、EUとIMFは、100億ユーロを貸し出す
条件として、キプロスの預金者に対して58億ユーロを負担させ
ることを求めたのです。もとより預金者に負担を求めるのは異例
であり、キプロス議会で否認され、大混乱になったのです。
 結局合意されたのは、キプロス銀行とライキ銀行という大手2
銀行を整理・再編し、10万ユーロを超える大口預金者に破綻処
理費用の負担を強いる厳しい内容だったのです。このほかにも、
1000ユーロ以上の国外持ち出しを禁止し、1日の引き出し上
限額を300ユーロに制限したのです。
 これは事実上の預金封鎖そのものです。しかし、これによって
キプロスは、金融破綻は回避されたものの、金融立国としての経
済モデルは破綻することになったのです。
 この事態を見ていたキプロスの国民は、銀行に預金することに
不安を感じ、誰がはじめるともなく、ビットコインへの投資が拡
大したのです。ビットコインであればどこの国の通貨でもないの
で課税されず、国外への持ち出しも自由であり、「避難通貨」と
して人気が集まり、その価格は急騰したのです。その結果、20
13年2月には、30ドル程度であったビットコインはその2ヵ
月後には一時250ドルまで上昇したのです。これが、キプロス
の金融危機に起因するビットコインの急騰です。
 第2の出来事は「中国でのビットコイン投資の拡大」です。
 日本でも中国人の富裕層が不動産を購入していますが、日本だ
けでなく、米国をはじめ世界中でそうしているのです。海外移住
を考えている富裕層が多いからです。
 米コンサルティング大手のペイン&カンパニーと中国・招商銀
行による2013年の「中国人資産報告」によると、この3年間
で資産1000万元(約1億6000万円)以上の富裕層──中
国共産党幹部を含む──の60%が海外移住を完了したか、検討
中であるといいます。中国は、大気汚染もひどく、水にも食にも
不安があり、多くの国民は中国経済の先行きにも不安を抱いてい
るので、海外に逃げ出そうとしている人が多いのです。
 しかし、中国では資本規制があるため、自由にお金を海外に持
ち出すことができないのです。それに不動産の所有権は国にある
ので、借地権しか購入できないという事情もあり、国外の土地を
購入しようとしているのです。
 そういう中国の富裕層にとってビットコインは、実に魅力的な
通貨にみえたのです。なぜなら、ビットコインであれば資本規制
に引っかからないので、いくらでも海外に資産を持ち出せるから
です。あらかじめ、キプロスのようなタックスヘイブンに口座を
開設しておき、中国内の取引所で人民元を大量にビットコインに
換金し、それらのビットコインを海外の取引所でドルやユーロに
交換し、タックヘイブンに開いた口座に資金を送金する──こう
しておけば、中国当局からの追及を逃れることができるのです。
 中国人にとって願ったり叶ったりのビットコインには買いが殺
到し、ビットコインの価格は上昇しはじめたのです。需要が大き
くなれば、レートは当然高くなり、2013年11月末にはマウ
ントゴックスのレートで、「1BTC=1200ドル」という市
場最高の高値をつけたのです。これについて高城泰氏は、別の要
因もあったことを次のように指摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 背景には2013年10月に、中国の検索エンジン最大手バイ
 ドゥ(百度)が、一部サービスでビットコインを決済通貨とし
 て採用した好材料があった。ビットコインが1200ドルを突
 破して史上最高値をつけたのは、まさにその直後の11月29
 日のこと。11月初頭のビットコイン価格が200ドルだった
 ことを考えれば、1か月もたたずに6倍にまで値上がりさせた
 中国マネーの底力たるや恐るべし・・・。
                  ──高城泰著/扶桑社刊
    「ヤバイお金/ビットコインから始まる真のIT革命」
―――――――――――――――――――――――――――――
       ──── [ビットコインについて考える/07]

≪画像および関連情報≫
 ●中国禁止令引き金/ビットコイン大暴落
  ―――――――――――――――――――――――――――
  インターネット上で流通し、投資商品としても取引が過熱し
  ている仮想通貨「ビットコイン」の取引価格が中国人民元と
  ドルに対して大暴落している。中国人民銀行(中央銀行)が
  今月上旬に金融機関に通知した仮想通貨に対する利用規制が
  引き金となり、2013年11月30日に付けた最高値75
  88元(約12万9800円)が、18日午後には約70%
  安の2245元(約3万8000円)にまで下落した。ほぼ
  同時に、中国人民銀行のホームページが一時的に閲覧しにく
  い状態になり、規制に怒った投資家らが報復にサイバー攻撃
  をしかけたとの見方も出ている。ビットコインの信頼は一気
  に揺らいでいる。ビットコインは「ナカモト・サトシ」と名
  乗る正体不明の人物が2008年、電子通貨の通信規約とプ
  ログラムを公表したのがきっかけで、翌年2月から利用が始
  まった。世界各地の民間業者によるネット上の「取引所」に
  口座を開設し、手持ちの現実通貨と交換したり、取引所を介
  して第三者に送金したりできる。ネット上で取引するため国
  境を越えて瞬時に送金でき、手数料もかからない。最近は、
  ネット上だけでなく、飲食店などで使える国もでてきた。一
  方で、ビットコインの取引は匿名性が高く、マネーロンダリ
  ング(資金洗浄)など犯罪に悪用されるケースも指摘されて
  いる。            http://on-msn.com/1pFLGpr
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/高城泰著/扶桑社刊/「ヤバイお金/ビットコイ
  ンから始まる真のIT革命」

「2013年11月に1200ドルを突破」.jpg
「2013年11月に1200ドルを突破」
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2014年09月10日

●「ビットコインと金は共通性がある」(EJ第3873号)

 ビットコインの正体をもっと明確にするために、ビットコイン
と「金」(ゴールド)を比較してみることにします。この記述に
ついては、次の書籍を参考にしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
         ビットコイン研究所著/佐々木健二監修
  『はじめてのビットコイン』/AVパブリケーション刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインと金──その共通点を整理すると、次の5点にな
ります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   【金との共通点1】採掘される総量が決まっている
   【金との共通点2】政府や銀行に支配されていない
   【金との共通点3】インフレが起きる可能性がない
   【金との共通点4】とても高い換金性を有している
   【金との共通点5】現在その価値が上昇傾向にある
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の共通点は「採掘される総量が決まっている」ことです。
 世界中の金の埋蔵量は約23万トンといわれていますが、既に
16万6600トンが採掘されています。したがって、未採掘分
は約5万トン〜6万トンということになります。しかし、未採掘
分は地中あるいは海底深くにあって、採掘には相当困難性があり
時間がかかると思われます。
 これに対してビットコインも総量が決まっています。生成され
るビットコインの総量は、「2100万BTC」です。これはプ
ログラムによってそのように決められており、これ以上生成され
ることはないようになっているのです。
 既に発行されているビットコインは、約1100万ビットコイ
ンであり、半分以上が流通していることになります。このペース
で生成されると、すぐなくなってしまうのではないかと心配する
向きもありますが、ビットコインも金と同様にこれからは生成さ
れるペースは落ちて行き、その全てが生成されるのは、2140
年になるようプログラミングされています。
 第2の共通点は「政府や銀行に支配されていない」ことです。
 金とビットコインには、円やドルと違って発行体というものは
なく、政府や金融機関にも支配されず、独立しています。ビット
コインは流通量もプログラムによって管理されており、そこに第
3者が介入できる余地はないのです。ビットコインのそういう特
色を堀江貴文氏はブログで次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 電子マネーやオンラインポイントは企業などの発行体が存在し
 て中央集権的だ。これらも勿論国民国家の通貨とは別に存在し
 うる。これから国民国家の通貨VSオンラインマネーの戦いが
 始まっていく。しかし、これらは所詮その発行体によって管理
 される従来型の通貨である。発行体が国民国家の中央銀行から
 グローバル企業に取って代わるだけのことだ。しかしビットコ
 インは違う。発行体が存在しないのにそのよく考えられたアル
 ゴリズムによって通貨として成立するように作られている事が
 画期的なのである。         http://bit.ly/1tEkFKC
   ──ビットコイン研究所著/佐々木健二監修の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 金は「有事の金」といって、何かが起きたときに安全資産とし
て買われますが、ビットコインもキプロスの金融危機のときに安
全資産として買われており、そういう意味では金とビットコイン
には共通性があります。
 第3の共通点は「インフレが起きる可能性がない」ことです。
 金にしてもビットコインにしても埋蔵量や生成量が限られてい
ます。金よりも通貨に近いビットコインは「2100万BTC」
しか生成されないので、原理上インフレを起こすことはありえな
いのです。ビットコインの生成のペースはプログラムで定められ
ており、急激にビットコインの供給量が増えることはないので、
インフレを起こすことはありません。
 第4の共通点は「とても高い換金性を有している」ことです。
 金の換金性の高さについてはいうまでもないことですが、ビッ
トコインも世界中で高い換金性を持っています。とくにビットコ
インは、本質的に無国籍であり、どのような国や制度にも縛られ
ず、移動は素早く行われ、しかも必要なときにすぐ現金化できる
ので、きわめて便利です。現在、取引所の数は世界中で増加して
おり、「ビットコインATM」も登場しています。
 第5の共通点は「現在その価値が上昇傾向にある」ことです。
 金もビットコインも上限が決まっているので、希少性は高くな
り、価値は上昇傾向にあります。マウントゴックスの破綻はビッ
トコインの価値を急落させるニュースであり、実際に価値は急落
したのですが、それによってかえってビットコインの認知度が上
がり、再認識させる機会になったことによって、現在ではその需
要が高まってきています。
 これからビットコインの生成のスピートはどんどん落下し、そ
の一方でビットコインへの需要は高まっているので、希少性が高
まりつつあります。現在価値は上昇傾向にあるのです。
 ビットコイン研究所では、今後のビットコインの価格の予測に
ついて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私たちはこう予測しています。多少の浮き沈みはあるにせよ、
 ビットコイン価格はやがて埋蔵量の全てが採掘されるまで、長
 期にわたって伸び続けていく。手もとにある少量のビットコイ
 ンが、やがて数倍、数十倍、数百倍の価値を持つようになる。
 金と数多くの類似点を持つビットコインが、その成長過程も金
 と似るはずだと考えるのは、ごく自然なことではないでしょう
 か。──ビットコイン研究所著/佐々木健二監修の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
       ──── [ビットコインについて考える/08]

≪画像および関連情報≫
 ●金とビットコインが運命の出会い/ブルームバーク
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2014年7月28日(ブルームバーグ):それをビットゴ
  ールドと呼ぶことにしよう。ビットゴールドは、世界最新の
  通貨の1つとなる可能性のある仮想通貨ビットコインと、最
  古の通貨の1つである金との融合体だ。中央集権化された当
  局への不信感やちょっとした反抗心、利益を求める多少の動
  機があれば「インディペンデンス・コイン」と呼ばれるビッ
  トゴールドを手に入れようと思う人がいるかもしれない。こ
  れは金に裏付けされた初の暗号通貨で、今月開かれるフリー
  ダム・フェストの会議でお披露目される。会議が開かれる場
  所は米ラスベガス。初披露にふさわしい場所はここ以外にな
  いだろう。「金本位制の忠実な支持者は、ビットコインは無
  価値でねずみ講の一種だと主張する。一方、金を採掘したこ
  とはないが、ビットコインを手に入れた人は、金はただの金
  属だと考えている。両者は争う必要はない。2つは融合でき
  る」。インディペンデンス・コインの導入に携わったアンセ
  ム・ボールトのアンセム・ブランチャード最高経営責任者は
  インタビューでそう語る。懐疑的な見方をよそに、ビットコ
  インと金は、子猫とミルクのように自然に調和している。古
  代から価値の保存手段の1つとされている金は、安全な投資
  先を求める投資家や、中央銀行が大量に印刷する紙幣を拒否
  する悲観論者たちの間で長い間、人気を博してきた。一方、
  プログラマーらが6年前に開発したビットコインは、流行に
  敏感な無政府主義者や従来の通貨の制約を回避し、オンライ
  ンでの取引を強く望む人々が利用している。両者が最終的に
  うまく融合する兆しが示されている。
                   http://bit.ly/1rub03o
  ―――――――――――――――――――――――――――

ビットコイン研究所の本.jpg
ビットコイン研究所の本 
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2014年09月11日

●「ビットコインに無関心な日本政府」(EJ第3874号)

 9月9日のことです。大阪のコンビニで恐喝事件が起きたので
す。数人で店に入って店長とオーナーに難くせをつけ、土下座を
させ、たばこのカートンを脅しとったのです。理解できないのは
彼らがその模様を動画に撮り、ネットに公開したことです。
 ネットでは、この動画が多数回視聴され、ちょっとした騒ぎに
なったのです。これに驚いた犯人たちは、怖くなって自ら警察に
名乗り出て逮捕されたというジケンです。
 ビットコインに関係のない話のように思えますが、実は関係が
あるのです。この犯人たちは動画を撮影して、それをネット上で
公開するノウハウを有していますが、インターネットというもの
がどういうものであるか、そのメカニズムについての知識がない
のです。だから、犯人たちは、そういう恐喝映像をネットで流せ
ばどういうことになるか知らなかったからこそ、そういうばかな
ことをやってしまったという訳です。
 しかし、こういう犯人たちを日本人は笑えないと思います。日
本では、インターネットがこれほど普及し、多くの人が使ってい
るにもかかわらず、インターネットがどういうネットワークであ
るか知らない人があまりにも多いからです。そういう教科が学校
のカリキュラムにないからです。
 私は今でもIT企業の内定者教育や新人教育でIT技術を教え
ていますが、ほとんどの大学で「ネットワーク概論」などのIT
関連講座を設けていないのです。インターンシップの講義を担当
したとき、多くの有名大学の学生が参加してきましたが、この講
座があると答えたのは、東京電機大学だけだったのです。
 日本の技術力の高さは世界でも一流ですが、ITに関する教育
は、その使い方を指導するだけで、その技術の歴史やメカニズム
についての指導をしていないのです。
 ビットコインについて、いま世界でもっとも関心のない先進国
は日本ではないかと思います。ビットコインは、その概要を理解
するだけでも、ネットワークの基礎知識が必要であり、暗号の知
識もいるので、全体として非常に難解です。メディアも間違って
解釈していますし、政府がどれほどビットコインを正確に把握し
ているのか、麻生財務相の見当外れのコメントを聞いても疑わし
いものです。
 とくに財務省は課税のためにもビットコインについて早く見解
を出すべきですが、消費税の再増税の実現に忙しいせいか、この
問題に関しては完全にスルーしています。財務省自身がわかって
いないからです。
 こういう状況について、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は、
怒りをこめて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインについて、「騒ぎすぎ」と「騒がなすぎ」が見ら
 れる。ビットコインの外にある一両替所の破綻を大々的に報じ
 るのは、明らかに「騒ぎすぎ」だ。しかし、「騒がなすぎ」も
 ある。それは、ビットコインが社会に与えうるインパクトの巨
 大さが認識されていないことだ。税に対する影響を強調するの
 は、「騒ぎすぎ」だろうか?ビットコインが大きな影響を与え
 ていない現時点では、そう思われるかもしれない。しかし、税
 制の対応はすぐにはできず、時間がかかる。だから、早く準備
 を始める必要がある。麻生太郎財務大臣は、マウントゴックス
 破綻に際して、「こんなものは長くは続かないと思っていた。
 どこかで破綻すると思っていた」と述べた。「こんなもの」と
 は、文脈からしてビットコインだ。この発言からは、税制など
 国の基幹制度が深刻な挑戦を受けているという危機意識は、み
 じんも感じられない。 ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインでの取引に課税するかどうかは、それぞれの国で
対応が異なっています。シンガポールやドイツでは課税する方向
ですが、デンマークでは課税しないことを決めています。
 日本はどうするのでしょうか。マウントゴックスの破綻を受け
て、2014年3月7日、政府は現在の法律の枠組みのなかで、
ビットコインをどう扱うかについて示した「回答書」を閣議決定
しています。
 これによって、ビットコインは通貨ではなく、それ自体が何か
の権利を表すものではないので、銀行や証券会社などの金融機関
では口座を開設したり、円との交換を行うことは、できないこと
になっています。しかし、取引所を開設することは自由です。パ
チンコの景品と金銭を交換する景品交換所と同じ扱いをとるので
しょうか。景品交換所は実際に存在しているのに、警察はあくま
で存在しないという立場です。
 バチンコは風営法第23条で、客に提供した賞品を買い取る行
為はできないことになっています。つまり、パチンコ店は景品交
換所を経営できないのです。
 しかし、パチンコの景品交換を警察は容認しています。それは
「古物の買取」という建前で、それを容認しているのです。古物
の売買であれば、換金は法律上はできるという理屈です。そのた
め景品交換所は、各都道府県の公安委員会に古物商の許可を受け
ているのです。パチンコの景品交換行為を事実上認めるための苦
肉の策なのです。これでは、警察はパチンコ業者とつるんでいる
といわれても仕方がないでしょう。
 ビットコインで取引されると、すべての現金取引を税務署が捕
捉できないと同様に捕捉できないのです。取引所でビットコイン
に換えるとき、いくら身元確認をしても、ビットコインを保管す
るウォレットは、公開鍵からいくらでもウォレットのアドレスが
作れるので、第3者が捕捉するのは困難です。
 このように今のところビットコインを報酬などの対価にするこ
とを禁ずる法律はないのです。いくら規制しても暗号通貨はなく
ならないので、財務省は本気でそれを前提とする税制の改革に取
り組むべきです。─── [ビットコインについて考える/09]

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコインと税制/インターナショナルビジネスタイムス
  ―――――――――――――――――――――――――――
  世界の各政府が、デジタル通貨「ビットコイン」の扱いを決
  めかねている中、シンガポールがビットコインでの商品・サ
  ービス購入に対し課税すると決めたことは、重要な意味を持
  つ。自由で、革新的で、ビジネスに優しいアプローチをとる
  市場経済として世界に知られるシンガポールの税務当局が、
  ビットコインへの課税方法について明確なガイドラインを提
  示した。これはそのデジタル通貨の規制への大きな一歩とな
  るだろう。ビットコインを課税対象とした国はシンガポール
  が初めてではないが、その明確な税規定が世界標準となるか
  もしれない。それはビットコインを取り巻く世界にとって良
  いこととなりそうだ。昨年は、ビットコイン相場の急上昇が
  話題となった。ただし、名前ばかりが聞かれ、その実体につ
  いてはよく理解されていない印象も受ける。このデジタル通
  貨は5年以上前から出回っており、人気が爆発したことで、
  世界中の政府の関心を引いた。しかしネット上だけに存在す
  る通貨について、誰も規制したり、課税したりする方法を本
  当には理解していないようだった。昨夏、ドイツはビットコ
  インを個人のお金とみなすとの立場を明らかにした。それは
  つまり、個人の売上やキャピタルゲイン税を通してビットコ
  インに課税するという意味をもつ。 http://bit.ly/1BqRvzM
  ―――――――――――――――――――――――――――

野口悠紀雄一橋大学名誉教授.jpg
野口 悠紀雄一橋大学名誉教授
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2014年09月12日

●「ビットコイン・システムとP2P」(EJ第3875号)

 ここで話を9月4日のEJ第3869号に戻します。ビットコ
インを手に入れたら、ウォレットを登録し、そこにビットコイン
を入れて管理する必要があります。
 ウォレットには、「アプリタイプ」と「ウェブタイプ」があり
ますが、「アプリタイプ」がよいと思われます。とくにダウンロ
ードするデータ量が少ない「マルチビット」がお勧めです。どう
してかというと、「アプリタイプ」であれば、ウォレットの「秘
密鍵」を自分で管理できるからです。
 「ウェブタイプ」を選ぶ場合は、「秘密鍵」も預けることにな
るので、信用のおける提供会社を選ぶことが必要です。最大手の
「ブロックチェーン・インフォ」なら「ウェブタイプ」の代表的
なウォレットですから、問題はないと思います。
 ウォレットには、「公開鍵」と「秘密鍵」があり、「秘密鍵」
は厳重に管理し、他の人に教えてはならないことは既に述べた通
りです。「秘密鍵」から「公開鍵」が作られ、「公開鍵」にハッ
シュ関数をかけると、ウォレットIDである「アドレス」を生成
することができます。これは復習です。
 ところで、ウォレットは通信アプリでもあるのです。というよ
りも「ビットコインアプリ」といってもよいと思います。仕組み
はまったく違いますが、LINEを利用するとき、LINEのア
プリをインストールして登録するとネットワークにつながるよう
に、ビットコインをはじめるとき、ネットワークに接続するため
に、ウォレットの登録が必要になるのです。
 ビットコイン利用者のなかには、ウォレットを持たず、ビット
コインを取引所に預けっ放しにしている人がいます。ビットコイ
ンを投機に利用しようとしている人たちです。しかし、これでは
マウントゴックスのような事件があると、ビットコインをすべて
盗まれてしまうことになります。取引所は銀行ではないのです。
 ウォレットを持つと、ビットコインを送信したり、受け取った
りすることができます。ビットコインの最大の特徴はその送金に
あるので、通信アプリでもあるウォレットは必要です。そういう
ウォレット利用者で構成するネットワークを「P2Pネットワー
ク」というのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   P2Pネットワーク/ Peer to Peerネットワーク
―――――――――――――――――――――――――――――
 P2Pネットワークとは何でしょうか。
 インターネットを通信に使うことには変わりはないのですが、
通信にはいろいろなタイプがあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.クライアント・サーバーシステム
      2.   ピア・ツウ・ピアシステム
―――――――――――――――――――――――――――――
 一般的にインターネット上で通信を行う場合は「1」の「クラ
イアント・サーバーシステム」を使っています。ウェブサイトを
見る場合などはそうです。自分のPCが要求を出すクライアント
であり、そのクライアントの要求を受けて仕事をするサーバーと
いうコンピュータが存在しています。そのため、「クライアント
・サーバーシステム」といわれています。
 しかし、「ピア・ツウ・ピアシステム」は、中央に管理するコ
ンピュータがないのです。「ピア」(Peer)とは、仲間や同僚を
意味する言葉であり、そういう仲間同士によって構成されるネッ
トワークが「ピア・ツウ・ピアシステム」(以下、P2Pネット
ワーク)なのです。ビットコインはこのP2Pネットワークで送
られるのです。本当にビットコインは、安全に送ることができる
のでしょうか。
 実は、このP2Pネットワーク──あまりイメージはよくない
のです。2000年代のはじめ、「ウイニー」という音楽流通ソ
フトが違法に使われ、PCの情報が流出してしまう事件が起きた
ことを覚えておられると思います。そのとき使われたネットワー
クがP2Pネットワークだからです。
 これについて、ITジャーナリストの西田宗千佳氏は、次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の場合には、2002年から2003年頃に話題となった
 「ウィニー」があります。違法コピーコンテンツの流通や個人
 情報の流出といったネガティブな話題とセットで語られること
 が多かったために、ウイニーを違法で危険なもの、と考える人
 もいそうです。「よくわからないけれど、報道を耳にしただけ
 だと恐ろしそう」な印象を受ける点は、ビットコインも同じで
 す。しかし、P2P型ネットワークは、決して危険な要素と不
 可分なわけではありません。ウイニーの本質は、大きなデータ
 を低コストで流通させるしくみにありました。
                ──吉本佳生/西田宗千佳著
 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり/「良貨」に
           なりうる3つの理由』/ブルーバックス
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ウイニー」はもともと音楽のデータを送るために考えられた
システムなのです。音楽データは大容量なので、クライアント・
サーバーシステムでこれをやろうとすると、高性能のサーバーと
高速通信回線が必要になるのです。
 ところが、P2Pネットワークでは、ネットでPC同士がつな
がってネットワークを構築しているので、どこか一点に需要が集
中しないので、低コストで大容量のデータでもスムーズに送るこ
とができるのです。「ウイニー」はそういう目的のために開発さ
れたソフトなのです。
 ビットコインシステムは中央にコンピュータのないこのP2P
ネットワークをきわめて巧妙に使っています。最近のPCは高性
能であり、高性能なP2Pネットワークが可能になっています。
        ─── [ビットコインについて考える/10]

≪画像および関連情報≫
 ●P2Pって何だろう/P2Pの基礎
  ―――――――――――――――――――――――――――
  P2Pとは(Peer to Peer)の略でPeerとは「対等の」とい
  う意味があります。明らかにクライアント・サーバーモデル
  ではサーバーの方が処理が重いことがわかるでしょう。P2
  Pではすべてのコンピューターの立場が等しく、コンピュー
  ターはある時にはサーバー,ある時にはクライアントと立場
  を変化させることが可能です。すなわちP2Pでつながって
  いるパソコンは両者が「対等」の立場なのです。ではなぜ、
  P2Pが流行したのでしょうか?それにはいろいろな意見が
  ありますが、私たちの持っているコンピューターの質が大幅
  に向上したことが挙げられます。20万円のコンピューター
  でも一昔前のスーパーコンピューター並の性能を持ち,自分
  のパソコンでサーバー処理ができるようになたのです。しか
  し起爆剤は後で述べる「ナップスター」が大きな役割を果た
  しています。実生活で考えてみましょう。今,中華料理のコ
  ックと日本料理の板前がいます。お昼ご飯の時間になりまし
  たが、お互い自分の料理を作って食べるのに飽きたので出前
  をすることになりました。板前はコックにラーメンを、コッ
  クは板前にカツ丼を頼みました。すなわち,どちらも命令を
  するので「クライアント」と呼べるでしょう。ここで、板前
  はカツ丼を作り、コックはラーメンを作り,お互いのところ
  にとどけます。すなわち板前もコックも「サーバー」の働き
  をしています。すなわちコックも板前も「クライアント」か
  つ「サーバー」なので、まったく同等の立場すなわちP2P
  であることが わかるでしょう。  http://bit.ly/1uvK8Uw
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/http://bit.ly/Ywkvbn

P2Pネットワーク.jpg
P2Pネットワーク
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2014年09月16日

●「ウイニーの開発者金子勇氏の悲劇」(EJ第3876号)

 ビットコインのネットワーク「P2Pネットワーク」について
もう少し述べることにします。なぜなら、このネットワークに懐
疑的な人は少なくないからです。それは、「ウイニー」の開発者
にまつわる悲劇が原因になっています。
 P2Pネットワークは、インターネット上でサーバーを介すこ
となく、アプリをインストールしたPC同士で直接ファイルをコ
ピーするシステムです。この手のシステムの開発は1999年に
開発された「ナップスター」が最初です。しかし、ナップスター
は、米国では著作権法違反であるとして禁止されたのです。しか
し、その後もP2Pネットワークを利用するアプリは世界中で開
発されたのです。
 そして2002年に開発されたのが「ウィニー」です。開発者
は、当時東京大学大学院情報理工学系研究科特任助手をしていた
金子勇氏です。彼は「ウイニー」を開発し、身分を隠して2チャ
ンネルに「47」というハンドルネームで投稿したのです。
 9月12日のEJ第3875号で述べたように、P2Pは大量
のデータをコピーし、送付するのに適したシステムです。「ウイ
ニー」はそれに加えて、多くの中継点に部分的なコピーを残して
おき、次にコピーするときは、それらの部分コピーを回収してコ
ピーの速度を上げるなどの工夫がこらされており、当時としては
きわめて先進的な技術を使っていたのです。
 しかし、「ウイニー」の匿名性を利用した犯罪が多発し、それ
に乗じてアンティニーというウインドウズ上でワーム活動を行う
ウィルスが「ウィニー」に仕込まれ、大量のファイルが流出する
事件が起きるようになったのです。
 2003年11月27日、「ウィニー」の利用者としてはじめ
て松山市の少年と高崎市の男性の2人を京都府警ハイテク犯罪対
策室が著作権法違反の容疑で逮捕したのです。しかし、コトはそ
れで終わらなかったのです。
 2004年5月9日、開発者の金子勇氏がこの事件の著作権侵
害行為を幇助した共犯の容疑を問われ逮捕されたのです。このと
き自宅と大学の研究室が家宅捜索を受け、証拠品として開発に使
用されたノート型PCや「ウイニー」のソースコードが押収され
たのです。
 この手の事件で開発者が逮捕されるというのは異例ですあり、
世界的な話題になったのです。これについて、ハーバード大学の
ローレンス・レッシグ教授は、次のように反論しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 違法コピーの道具の開発者が逮捕されるなら、銃の製造・販売
 業者はすべて殺人の幇助で逮捕すべきである。P2Pは、ネッ
 トワークの発展を促進させる、デジタル革命の重要な核心。P
 2Pの違法な利用を取り上げて開発者を攻撃することは、技術
 の発展を阻害し、後退させることにつながる。非常に残念な事
 件だと思う。──ローレンス・レッシグ教授/ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 京都地裁の一審では、金子勇氏は有罪になったのですが、二審
は逆転無罪、2011年の最高裁でも検察側の上告は棄却され、
無罪が確定しています。
 しかし、日本という国では、一度でも逮捕されるとたとえ無罪
になっても悪いイメージは消えないのです。「ウイニー」は違法
であるというイメージは、P2Pも違法というように思われ、日
本のP2Pの研究は止まったのです。それに、中継サーバーに部
分的なコピーを残す金子氏の独特の技術も違法と認定され、日本
のP2P技術は壊滅してしまったのです。ITに無知な日本の警
察の実に愚かな逮捕であり、日本の貴重な先進技術を台なしにし
た裁判だったのです。
 金子氏は無罪になった後、東大の特任講師になり、再起をかけ
ていたのですが、2013年7月6日、急性心筋梗塞のため亡く
なっています。金子勇氏の死について経済学者池田信夫氏は次の
ようにその死を悼んでいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (金子氏が無罪になるまでの7年間に)世界では、P2P技術
 を利用したIP電話、スカイプが普及し、今では国際通話のほ
 とんどはスカイプで行なわれるようになった。これで使われた
 のが、金子氏の開発した(中継サーバーに部分コピーを残す)
 キャッシュ技術だった。他にもこの技術はサーバ間の転送など
 に使われており、もしウイニーが合法的に改良されていれば、
 日本から革新的なビジネスが出たかもしれない。
                   http://bit.ly/1qv21n6
―――――――――――――――――――――――――――――
 この金子勇氏の悲劇によって、P2Pの技術は日本では依然と
してイメージは良くないものの、昨今のPCの機能強化に伴い、
非常に有効なネットワークになっているのです。そのP2Pを同
じ日本人(と思われる)中本哲史氏がビットコインで使っている
のですから皮肉なものです。
 このようにP2Pを使うビットコインのシステムには中央にコ
ンピュータ(サーバー)がないのです。日本の通貨の「円」では
日本銀行があるのに対して、ビットコインのシステムでは信頼性
のある主体がないのです。これは「信頼性がおけない」ことにつ
ながるのですが、P2Pのネットワーク自体は上記の説明でもわ
かるように十分信頼のおけるネットワークなのです。
 ビットコインのP2Pのネットワークは、ウォレットのソフト
をインストールしたPC(スマホを含む)同士で構成されるネッ
トワークです。
 今まで日本では「P2Pで経済取引を管理するのは不可能であ
る」と思われてきたのです。しかし、ビットコインの中本論文で
は、「プルーフ・オブ・ワーク」という巧妙な手法によって、デ
ータの改ざんを防いでいるのです。しかし、これを理解するには
もう少し前提となる知識が必要になります。
        ─── [ビットコインについて考える/11]

≪画像および関連情報≫
 ●P2Pの歴史/ARPANEもP2Pである
  ―――――――――――――――――――――――――――
  最近注目されているP2Pネットワークですが、実はかなリ
  昔から存在していたものなのです。インターネットの原点と
  も言われているARPANETは、ネットワークの一部が損
  傷を受けても稼動するネットワークの構築を目的として19
  69年に開発されました。このARPANETは、当時主流
  だった中央集中型ではなく、分散型のネットワークであり、
  全てのコンピュータが対等に相互通信/ピア・ツウ・ピァが
  可能な形態をとっていました。また、その後に出現したUS
  ENETはP2Pの形態をとっていました。USENETは
  電話回線を利用してコンピュータを接続し、データをやり取
  りしていました。データのやり取りの多くは夜間に一括で行
  われており、ユーザの要求があったときにサービスを提供す
  るようなことはできなかったためP2Pの形態をとる必要が
  あったのです。1991年にWWWが広く一般に公開された
  のをきっかけに、インターネットが普及し始めると、相互接
  続形態は失われ始めました。なぜなら、ほとんどのコンピュ
  ータはクライアントとして動作すればよく、サーバとしての
  機能は必要なかったからです。1999年に発表されたP2
  Pベースのファイル共有アプリケーションが脚光を浴び、こ
  れによって、P2Pがインターネット上でも機能すること、
  また大規模な運用が行えたということで、P2Pの可能性を
  認識することになりました。    http://bit.ly/1wjqISY
  ―――――――――――――――――――――――――――

ウイニーの開発者金子勇氏死亡.jpg
ウイニーの開発者金子 勇氏死亡
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2014年09月17日

●「電子データの所有権移転の困難性」(EJ第3877号)

 このあたりで、ビットコインの定義を明らかにしておきたいと
思います。実はビットコインは定義することがとても難しいので
す。EJの記事を書くために9冊のビットコインの対象書籍を購
入しましたが、いずれも「ビットコインとは何か」が冒頭に出て
こないのです。それほど定義するのが、難しいものであるという
ことです。実際にEJを書いていてそう感じます。そういうわけ
でEJではブルーバックスの定義を採用したいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインは、コンピュータ上に記録されたデータを暗号化
 し、その「一意性」を保証することで通貨になりうる属性をも
 たせたデータであり、それはコピーしても読めないよう工夫さ
 れている。          ──吉本佳生/西田宗千佳著
 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり/良貨になる
               3つの理由』/ブルーバックス
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインは、一般的には「仮想通貨」と表現されるケース
が多いようです。しかし、暗号化してコピーされるのを防ぐこと
が不可欠という意味で、「暗号通貨」と表現する方が、ビットコ
インの本質に近いと思うのです。
 ビットコインのことを「コピーできないようになっている電子
データ」と表現しているケースもありますが、本質的に電子デー
タは、コピーされることを防ぐことはできないのです。したがっ
て、「コピーできない」という表現は厳密には誤りです。そのた
めの対策としては、次の2つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.仮にコピーされても読めないようにする →  暗号化
 2.データの正当性を確認しながら動作する →システム化
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は「仮にコピーされても読めないようにする」ことです。
 電子データがコピーされるのを防げないとすると、コピーされ
ても読めなくするしか方法はないのです。これを可能にするには
電子データを暗号化することです。これが「1」の暗号化です。
暗号化については改めて詳しく解説します。
 第2は「データの正当性を確認しながら動作する」ことです。
 ビットコインのシステムには、中央にコンピュータが存在しな
いP2Pネットワークを利用します。先端技術ジャーナリストの
西田宗千佳氏は、P2Pネットワークのイメージについて、次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 回覧板は、回覧対象となる近隣の家庭へと順々に受け渡して情
 報を伝えます。P2P型はそれに近い概念です。誰かが一括管
 理するのではなく、利用者全体が情報伝達のためのシステムの
 一部になります。「ビットコインアドレス『A』からビットコ
 インアドレス『B』へ、何BTC送る」という情報が回覧板の
 ように伝わっていく、と考えてください。ですから、あなたが
 ビットコインを熱心に取引していた場合、あなたのパソコンも
 他人の決済情報の回覧に使われます。といってももちろん「パ
 ソコンを勝手に他人が使う」わけではなく、「自分がおこなう
 ビットコインの通信の中に、他人の決済情報もふくまれる」と
 いうのが正しい理解です。
          ──吉本佳生/西田宗千佳著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインのシステムは、このP2Pネットワークを使いな
がら、そのネットワークを構成するPCがそれぞれデータの正当
性を検証し、確認するする「プルーフ・オブ・ワーク」というシ
ステムがその中核を担っています。これが上記「2」のシステム
化ということになります。
 電子データを「お金」として使うためには、非常に困難なこと
をクリアしなければならないのです。アマゾンからAという電子
書籍を購入するケースについて考えてみます。Aを販売してもア
マゾンにはAという書籍の原本は残っています。あらゆるデジタ
ルコンテンツはすべてそういう性格を有しています。
 しかし、紙の書籍の場合、一冊売れると、その分はアマゾンの
手元からなくなります。その書籍は購入者のところに所有権が移
転されるからです。ところが、電子書籍の場合は何冊売っても、
原本はアマゾンの手元に残るのです。したがって、電子書籍の購
入者は書籍の閲覧権を購入しているだけなのです。
 この電子データを「お金」として使う場合について考えてみま
す。AからBに1BTCを送金したとすると、Aのウォレットの
残高が1BTC減って、Bのウォレットの残高が1BTC増える
ことになります。当たり前のことですが、これを電子データでや
るのは簡単なことではないのです。どのようにして所有権を移転
させるかが難しいのです。
 イリノイ大学在学中に世界初のブラウザである「モザイク」を
開発して事業家のジム・クラークに目をつけられ、ネット時代に
先駆けて「ネットスケープ・ナビゲーター」というブラウザを開
発した天才プログラマー・マーク・アンドリーセンは、ネット上
でデジタルコンテンツの所有権が移転できるビットコインのシス
テムの素晴らしさについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインは、初めてひとりのインターネット・ユーザーが
 別のインターネット・ユーザーに固有のデジタル・プロパティ
 を譲渡することを可能にしたという点だ。その譲渡は安全かつ
 セキュアーであることが、システム上保証されており、全ての
 ユーザーが「所有権がAさんからBさんに移ったのだ」という
 ことをたちどころに認知でき、誰もこの委譲の正統性に疑問を
 挟むことは出来ない仕組みになっている。このブレイクスルー
 の持つ意味は深遠だ。        http://bit.ly/1s2qlIs
―――――――――――――――――――――――――――――
        ─── [ビットコインについて考える/12]

≪画像および関連情報≫
 ●「パソコンの未来に賭ける」/マーク・アンドリーセン
  ―――――――――――――――――――――――――――
  スマートフォンやタブレットのユーザー増加が続くなかで、
  PCの売上は大幅に減少している。しかし、そんな状況のな
  かでもマーク・アンドリーセンと彼が投資するロックメルト
  社は、PCの可能性に賭けているという。例えば、タブレッ
  トとスマートフォンだけが、利用されている世界があるとす
  る。そこにある日、27インチの液晶ディスプレイとそれに
  接続したPCを手にした人物が現れたとしよう。このPCを
  使えば、タブレットやスマートフォンでできることはもちろ
  ん、それ以外にもいろんなことができる。このPCでは何か
  をダウンロードしたり、アップロードする必要も無い。あら
  ゆる部分が最新かつ最高の状態になっており、どんなことを
  するにも1度クリックするだけでいい。ソフトウェア開発者
  なら、自分のつくったアプリをリリースするのに、誰かの審
  査を受ける必要もない。「『おお、これはすごい』となるは
  ずだ」とヴェンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウ
  ィッツの共同創業者であるアンドリーセン氏は語る。「だか
  らこそ長い目で見れば、モバイルウェブはネイティヴアプリ
  を従える存在になる。そして同じ理由から、PCの世界でも
  ウェブはアプリを支配する。ウェブで物事が済ませられるな
  ら、それはダウンロードするアプリよりもあらゆる面で優れ
  ているからだ」。         http://bit.ly/1tQ1fPm
  ―――――――――――――――――――――――――――

若き日のマーク・アンドリーセン.jpg
若き日のマーク・アンドリーセン
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2014年09月18日

●「2人の共通のパスワードを決める」(EJ第3878号)

 P2P(ピア・ツウ・ピア)ネットワーク──中央にサーバー
がなく、ウォレットというアプリによって構成されるネットワー
ク──を使って電子データを間違いなく送るには、次の2つの難
問があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.改ざんされずに正しい内容の電子データを確実に届ける
 2.P2Pネットワークにおいて正しい合意形成を獲得する
―――――――――――――――――――――――――――――
 どちらも大変な難問ですが、驚くべきことは、中本哲史論文で
は、その両方ともクリアしていることです。かなりややこしいこ
とですが、ひとつずつていねいに考えていくことにします。
 「1」から考えます。これは電子メールでも起きることですが
なりすましや改ざんや否認があってはならないということです。
もっとも仲間同士でやり取りする電子メールであれば問題にはな
りませんが、送るものが契約書であったり、ビットコインのよう
な通貨の場合は、改ざんや否認は絶対に起きてはならないことで
す。問題はそれをどのようにして防ぐかです。
 ここには「暗号理論」が深く関係してくるのです。これを理解
しない限り、ビットコインの本質は理解できないのです。そうで
あるからといって高等数学が必要なわけではないのです。そのロ
ジックは意外にもシンプルなのです。
 ビットコインの場合、署名で受け渡しをしています。一見する
と、約束手形の裏書譲渡に似ています。しかし、約束手形は負債
ですが、ビットコインは負債ではないなど、いくつかの点で約束
手形とは異なります。
 ビットコインでその所有権が移転される場合、次の3点が確認
される必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.送金したのは確かに署名者であって他の者ではないこと
 2.通信の途中で金額などが何者かに書き換えられないこと
 3.ビッコインの送付者は送付の事実を後で否認しないこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは「電子署名」という技術ですでに解決されています。こ
の電子署名を理解するためにはいくつかの前提的な知識が必要に
なります。以下、野口悠紀雄氏の説明を参考にして解説すること
にします。
 従来の暗号は「鍵」を秘密にする方式だったのです。例えば、
メッセージが入ったファイルをメールに添付して送るのですが、
パスワードがないと開けないようにしておきたいのです。この場
合、パスワードが「鍵」になります。
 このさい、パスワードをどのようにしてメールの受信者に伝え
るかが問題になります。個人の場合は、電話で知らせる方法があ
りますが、Eコマースでこれをやったら、ネットショップは大量
の電話を顧客から受け付けなけねばならなくなるので、現実的な
方法ではないのです。それに電話は盗聴される恐れがあるし、聞
き取るさいにミスも多く発生します。この問題を解決したのが、
次の2人です。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ウイットフィールド・ディフィーMIT卒業生
    マーティン・ヘルマンスタンフォード大学教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 花子と太郎が共通のパスワードを決めるケースについて考える
ことにします。3つのステップがあります。
 まず、「第1ステップ」です。
 「N」と「n」という2つの整数を決め、電話ないし、メール
で連絡して共有します。Nを「11」、nを「5」とします。
 続いて「第2ステップ」です。
 花子と太郎は、それぞれ秘密の数「a」を決めて、次の計算を
行います。「a」について花子は「3」、太郎は「6」と設定し
たとします。この数は絶対に相手に知らせてはなりません。
―――――――――――――――――――――――――――――
    nをa乗し、それをNで割った余りbを求める
―――――――――――――――――――――――――――――
 花子の場合を計算すると、5を3乗し11で割ると「4」にな
ります。太郎の場合は、5を6乗し11で割ると「5」となりま
す。これらの答えをそれぞれ相手に伝えます。
 最後に「第3ステップ」です。
 各自(花子と太郎)が相手の答え、すなわち「b」を聞き、そ
れに自分の秘密の数「a」を使って次の計算をします。
―――――――――――――――――――――――――――――
      bをa乗し、Nで割った余りを求める
―――――――――――――――――――――――――――――
 花子の場合、太郎の答え5を3乗し11で割った余りは「4」
になります。太郎の場合、花子の答え4を6乗し11で割ると、
答えは「4」となり、花子と太郎の答えは同じになります。
 したがってこのケースでは、「4」を花子と太郎の共通のパス
ワードにすればよいのです。仮に電話が盗聴されたり、メールが
読まれてしまったとしても、秘密の「鍵」である「a」が知られ
ない限り、パスワードは安全なのです。なぜ、安全なのかについ
て、野口悠紀雄教授は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「5を三乗し、11で割った余りが4になる」というのは誰で
 もできる簡単な計算だが、その逆の計算は大変なのだ。「5を
 a乗し11で割った余りが4になる。ではaはいくらか?」と
 いう問題の答えを得る効率的な手続き(アルゴリズム)は、発
 見されていないのである。このようなものを「一方向性関数」
 と言う。       ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
        ─── [ビットコインについて考える/13]

≪画像および関連情報≫
 ●ディフィー・ヘルマン鍵共有とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ディフィー・ヘルマン鍵共有(DH)、あるいはディフィー
  ・ヘルマン鍵交換とは、事前の秘密の共有無しに、盗聴の可
  能性のある通信路を使って、暗号鍵の共有を可能にする暗号
  プロトコルである。この鍵は、共通鍵暗号方式の鍵として使
  用可能である。1976年にスタンフォード大学の2名の研
  究員、ホイットフィールド・ディフィーとマーティン・ヘル
  マンは、公開鍵暗号の概念を提案し、その具体的な方式の一
  つとして、ディフィー・ヘルマン鍵共有(DH鍵共有)プロ
  トコルを提案した。この鍵共有方式は共通鍵暗号方式におけ
  る鍵の受け渡しを安全に行うために提案された方式である。
  このプロトコルは、通信を行いたい2者が各々公開鍵と秘密
  鍵 (私有鍵ともいう) を用意し、公開鍵のみを公開する。そ
  して、お互いに秘密の値から作成されるデータを相手に送信
  し、各自、自分の秘密鍵と受信したデータから共通鍵を作成
  できる方法である。第三者が送受信されるデータを盗聴して
  も鍵を生成することができない所に特徴がある。アメリカ合
  衆国とカナダで特許が取得された。1997年4月29日に
  両国でアルゴリズムの特許期限が切れたため、現在では誰で
  も自由に利用できる。        ──ウィキペディア
                   http://bit.ly/1geEmlH
  ―――――――――――――――――――――――――――

マーティン・ヘルマン教授.jpg
 
マーティン・ヘルマン教授
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2014年09月19日

●「鍵を公開する独特の電子署名方式」(EJ第3879号)

 今や世の中は暗号の時代です。ネットでものを買うときは、当
たり前のように暗号が使われています。アマゾンで書籍を買う場
合を考えてみます。アマゾンの公式サイトを表示し、「マイスト
ア」をクリックすると、アドレスが次のように変わります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 http://www.amazon.co.jp
              → https://www.amazon.co.jp
―――――――――――――――――――――――――――――
 「http://〜」が「https://〜」 に変化して、鍵のマークがあ
らわれます。これはアマゾンのサイトが「公開鍵証明」のシステ
ムに対応していることを示しています。
 このシステムは公開鍵暗号の技術を使っており、「SSL」と
呼ばれ、次の2つのことを保証しています。これは、「セキュリ
ティ証明書」といわれる身元証明書です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.サイトへの通信は暗号化されるので、途中で盗み見され
   ることはない
 2.情報の受け取り先はなりすましではなく、確かにアマゾ
   ンであること
              SSL=Secure Sockets Layer
―――――――――――――――――――――――――――――
 SSLの認証は、公開鍵証明書認証局が他の当事者に対して、
公開鍵証明書を発行することによってなされますが、これは公的
機関ではなく、民間企業です。
 認証局には「ルート認証局」と「中間認証局」があります。ル
ート認証局は上位の認証局による認証を受けず、自分の正当性を
自ら証明するのです。他の認証局に対してデジタル証明書を発行
し、認証局に対する信頼の拠り所になります。
 それでは、ルート証明書の信頼性はどう担保するのかというと
厳しい監査を受けることや、認証業務運用規程を公開すること、
運用実績や知名度など、デジタル証明書以外の方法で示されるの
です。ルート認証局以外の認証局が中間認証局で、ルート認証局
など上位の認証局からデジタル証明書を発行してもらうことで、
自らの正当性を証明する仕組みになっています。
 さて、昨日のEJに続いて、電子署名の仕組みについて考えて
みます。添付ファイルに図を付けていますので、それを見ながら
解説を読んでいただきたいと思います。
 電子署名とは、電子文書に付ける電子的な徽証のことであり、
紙の文書におけるサインや押印に該当するものです。電子署名の
仕組みとしては、公開鍵暗号方式に基づくデジタル署名(電子署
名)が一般的であり、有力です。
 添付ファイルの図を見ていただきたいと思います。太郎が「4
987」という内容の文書を花子にメールで送るケースです。花
子の立場としては、受け取ったメールの発信者が本当に太郎であ
るかどうか、途中で改ざんされていないかどうか、後になって太
郎が「そんなメールは出していない」と否認するような事態にな
らないようにしたいのです。
 太郎は「ハッシュ値」というものを決めます。電子文書「49
87」の各桁の数字を合計します。そして得られた数「28」の
下1桁を取ると「8」になります。このような演算を「ハッシュ
関数」といい、それにより得られた数値を「ハッシュ値」といい
ます。ハッシュ値はメールで花子に伝えておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      4+9+8+7=28 ─→ 「8」
―――――――――――――――――――――――――――――
 太郎と花子の共通パラメータ「N」を15とし、太郎の公開鍵
は「3」、秘密鍵も「3」とします。公開鍵については事前に花
子に伝えるか、文書につけて送ります。
 続いて太郎はハッシュ値の「8」を秘密鍵の「3」で暗号化し
ます。具体的には、次の計算をするのです。なぜ、「N」が15
なのかについては少しややこしい話なので後述します。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ハッシュ値8を3乗して15で割って余りを算出する
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記の計算の答えは「2」になります。これが電子文書「49
87」の太郎の「電子署名」になります。太郎は文書にこの電子
署名「2」を付けて花子に送信します。なお、この場合、文書は
暗号化していないのです。暗号化するには、文書を花子の公開鍵
で暗号化すればよいのです。
 太郎の電子文書を受信した花子は、太郎の署名「2」を太郎の
公開鍵「3」で複号します。具体的には次の計算をします。
―――――――――――――――――――――――――――――
    署名2を3乗して15で割って余りを算出する
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記の答えは「8」になり、事前に伝えられていたハッシュ値
の「8」に合致します。このケースは割る数の方が多いので、2
の3乗が答えになるのです。
 これによって、この電子文書は途中で改ざんされていないこと
がわかります。なぜなら、もし改ざんされていれば、花子が算出
したハッシュ値は8にならないし、この文書を送ったのは太郎で
あるとわかります。ハッシュ関数には次の性質があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.同じデータからは同じハッシュ値が得られる
   2.違うデータからは違うハッシュ値が得られる
   3.ハッシュ値からは元のデータを推測できない
―――――――――――――――――――――――――――――
 電子署名とはこのようなものです。ビットコインにおける取引
は、この電子署名を取り入れ、もう少し複雑な仕組みを加えて二
重使用を防いでいるのです。
        ─── [ビットコインについて考える/14]

≪画像および関連情報≫
 ●◎暗号入門/公開鍵暗号方式
  ―――――――――――――――――――――――――――
  鍵を第三者に知られることなく安全に送る方法が有るのであ
  れば、その方法を用いて情報を送れば良いのですから、情報
  を暗号化することに意味は無くなります。実際には、そんな
  方法が無いからこそ暗号化するのですから、鍵をどうやって
  安全に手渡せば良いのかは、紀元前から遥か数千年に渡って
  解決できない問題でした。「悪意ある第三者が監視している
  可能性のある通信経路において当事者が事前に何らかの合意
  をすること無しに安全に通信を行う方法が有りえるのか?」
  ・・・これが、研究者達にとって長年の命題でした。この命
  題に対して、1976年に暗号史上最大のブレークスルーと
  言われるアイデアが、スタンフォード大学の研究者、ウィッ
  トフィールド・デフィーとマーチン・ヘルマンから発表され
  ました。このアイデアは、それまで「鍵は絶対に秘密」と考
  えられていた常識を覆し、鍵を公開してしまおうという、画
  期的なものでした。早くも翌1977年、当時MITに所属
  していたリベスト、シャミア、エーデルマンの3名が、この
  アイデアを実現化する初めての現実的な数学的手法を発明し
  ました。この世界初の暗号は3名の名前から「RSA暗号」
  と名付けられました。       http://bit.ly/1p1MdTJ
  ―――――――――――――――――――――――――――

電子署名/公開鍵暗号.jpg
電子署名/公開鍵暗号
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2014年09月22日

●「大きな素数の積は暗号に利用可能」(EJ第3880号)

 かなり複雑な話が続いているので、電子署名の仕組みをここで
整理して先に進むことにします。「電子署名」はサインには違い
ないですが、サインのイメージとは少し異なります。具体的にい
うと、次のようになるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 電子署名(デジタル署名)とは、送信者の秘密鍵で文書のハッ
 シュ値を暗号化することである。受信者はこれを送信者の公開
 鍵で復号し、ハッシュ値と参照することにより、文書の送信者
 が本人であり、文書の内容に改ざんがないことを確認できる。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで覚えておくべきことがあります。それは「公開鍵」で暗
号化したメッセージは、それに対応した「秘密鍵」でしか復号で
きず、「秘密鍵」で暗号化したメッセージはそれに対応した「公
開鍵」でのみ復号することができるということです。
 「4987」という内容の文書を送る場合について考えます。
まず、所定の方法で文書のハッシュ値を求め、それを何らかの方
法で、受信者に伝えます。メールで送信してもいいし、電話で伝
えても構わないのです。そして送信者は、そのハッシュ値を自分
の秘密鍵で暗号化します。これが電子署名です。そのうえで文書
と電子署名を相手に送信するのです。
 受信者は、電子署名を送信者の公開鍵で復号、すなわち、暗号
を外す計算をします。その結果、得られた数値を事前に伝えられ
ていたハッシュ値と照合し、その数が一致すれば、送信者がなり
すましでない本人であること、文書の内容が改ざんされていない
ことがわかるのです。これが電子署名システムです。9月19日
のEJ第3979号の計算では、次のようになっていました。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪前提≫
  ・送信者の秘密鍵3/公開鍵3/共通パラメータ15
 ≪送信者の暗号化≫
  ・ハッシュ値8を秘密鍵3で3乗して15で割り、余り2を
   求める
 ≪受信者の復号化≫
  ・電子署名の2を送信者の公開鍵3で3乗して15で割り、
   余り8を求める
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで疑問なのは、共通パラメータのN「15」はどこから出
てきたのかということです。そのためには「モジュラ演算」につ
いて知る必要があります。
 「素数」というものをご存知でしょうか。定義を示すと、次の
ようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 素数とは、「1より大きい整数で、1とその数以外で割り切れ
 ない数」のことである。
―――――――――――――――――――――――――――――
 例えば「5」について考えてみます。「5」は、1より大きい
整数であり、「1」と「5」でしか割り切れないので素数という
ことになります。「6」の場合は、「2」や「3」でも割り切れ
ますので、素数ではないのです。「50」までの素数を上げると
次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  2、3、5、7、11、13、17、19、23、29
  31、37、41、43、47
―――――――――――――――――――――――――――――
 50ぐらいまでなら、素数かどうか調べることができますが、
大きな数字になると素数であるかどうか調べるのは難しくなって
きます。また、大きな素数と大きな素数をかけ合わせた数を見て
も、いったい何と何をかけた数なのかを調べるのは非常に困難で
あるため、数10桁から数100桁の大きな素数は暗号に使われ
ているのです。
 なお、これまでの計算では1ケタか2ケタの数字を使っていま
すが、それは話を分かり易くするためであって、実際は大きなケ
タの数を使うのです。
 2つの大きな素数「Q」と「R」の積として「N」を設定しま
す。そして、「xのp乗をNで割った余り」を「y」とするので
す。「x」は任意の整数、「p」は「N」より小さい任意の整数
です。Qを3、Rを5とすると、Nは15(3×5)となり、そ
のときのいくつかの「x」と「p」に対応する「y」の値の表を
添付ファイルにしてあります。
 数字の並びを見ると、一見デタラメのように思えますが、よく
見ると、一定の周期で規則的に並んでいるのです。これを「モジ
ュラ」と呼んでいます。
 野口悠紀雄氏は、自著でこの数字の並びについて次のように述
べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (添付ファイルの表は)一定の周期で、yの値は元のxに戻る
 のだ。周期wは、(Q−1)と(R−1)の最小公倍数uに1
 を加えたもの」である。この数値例では(Q−1)は2、(R
 −1)は4なので、uは4となり、周期wは5になる。実際添
 付ファイルのpが5、あるいは9となったとき、数字の列(縦
 の並び)が、元のxの列と同じになっている。そして、pが6
 の場合の数字の縦の並びはpが2の場合と同じになり・・・・
 というように繰り返す。──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
    「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
 なお、表計算ソフト「マイクロソフト・エクセル」には、割り
算の余りを求める「MOD関数」が用意されており、誰でも簡単
にモジュラ演算をおこなうことができるのです。共通パラメータ
「N」の正体は理解できたでしょうか。
        ─── [ビットコインについて考える/15]

≪画像および関連情報≫
 ●「素因数分解」の難しさが暗号を支える
  ―――――――――――――――――――――――――――
  素因数分解とは、ある正の整数を素数の積のかたちで表すこ
  とです。たとえば、180は2と3と5の組み合わせ、29
  575は5と7と13の組み合わせで表せます。しかし、そ
  の組み合わせを見出すには、どうしたらいいのでしょうか?
  実際にやってみていただければわかりますが、意外と面倒な
  ものです。素因数分解は中学生のときに習いますが、問題集
  やテストで困らされた・・・という人も少なくないのではな
  いでしょうか。RSA暗号では、公開鍵と秘密鍵を算出する
  ために「n」という値が重要になります。n2つの素数pと
  qをかけたものです。pとqがどういう数字なのかを知って
  いれば求めるのは簡単ですが、求めるのは簡単ですが、nし
  か知らない場合、元のpとqがなにかを推定するのは困難で
  す。平文化に使う秘密鍵の生成には、「p−1」「q−1」
  という値が必要なので、正確なpとqがわからないと解読は
  できません。pとqを求めるには、基本的に「順にかけてn
  になるかを確かめる」作業をくり返すことになります。nの
  の値(桁数)が小さいうちは、対象となる素数の数も限られ
  ていますから、さほどむずかしくはありません。3桁くらい
  までなら手作業でも不可能ではないはずです。
                ──吉本佳生/西田宗千佳著
 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり/「良貨」に
           なりうる3つの理由』/ブルーバックス
  ―――――――――――――――――――――――――――

モジュラ演算の数値例.jpg
モジュラ演算の数値例
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2014年09月24日

●「ビザンチン将軍問題は解けるのか」(EJ第3881号)

 9月18日のEJ第3878号において、ビットコインシステ
ムのネットワーク──中央にサーバーのないP2Pネットワーク
(ピア・ツウ・ピアネットワーク)において、電子データを間違
いなく送るには、次の2つの難問があると述べました。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.改ざんされずに正しい内容の電子データを確実に届ける
→2.P2Pネットワークにおいて正しい合意形成を獲得する
―――――――――――――――――――――――――――――
 そのうち「1」については、電子署名という暗号システムが使
われているとして、2回にわたって説明しました。そこで今回は
「2」について考えてみることにします。
 ビットコインは、「発行主体も管理者もない通貨」といわれま
す。これに関して多くの人は次のように考えると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 取引記録は、銀行などの信頼できる主体が管理しなければなら
 ない。どこの誰が参加しているかわからないP2Pに管理させ
 るなど、正気の沙汰ではない。
            ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
 「AからBに1BTCを送金」したとします。ビットコインシ
ステムでは、この取引記録をネット上の「ブロック」というもの
に記録することになっています。それもその時点で発生した複数
の取引記録をブロックにまとめるのです。もう少し具体的にいう
と、約10分の間に発生したビットコインの取引をまとめて、ひ
とつのブロックを形成するのです。
 問題は、その取引記録に改ざんが行われたらどう対処するかで
す。何しろP2Pネットワークには中央で管理するコンピュータ
がないので、どのようにしてその取引記録が正しいものであるこ
とを証明するかです。
 それは、P2Pネットワークを構成しているコンピュータがそ
れぞれチェックを行い、それが「正しい」という合意に達すると
ブロックが成立するのです。
 つまり、P2Pネットワークを構成している各コンピュータが
それぞれの意思を統一して合意に達することが求められているこ
とになります。そんなことが可能なのでしょうか。
 結論からいうと、ビットコインシステムはそれを実現している
のです。ビットコインの開発者である中本論文には、次の記述が
あるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  The proof-of-chain is a solution to the Byzantine
  Generals Problen.
  プルーフ・オブ・ワークのチェーンはビザンチン将軍問
  題に対する解答である。      ──中本論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここに記述されている「プルーフ・オブ・チェーン」というの
は、ビットコインシステムのキモなのです。つまり、約10分間
のビットコインの取引記録をP2Pネットワークを構成している
コンピュータが「ある計算」をして、その答えが正しいことを承
認するワークが「プルーフ・オブ・ワーク/POW」であり、そ
れがそれまでのブロックにまるで鎖(チェーン)のように接続さ
れた状態が「プルーフ・オブ・チェーン」、あるいは「ブロック
・チェイン」というのです。イメージが描けるでしょうか。
 それでは、「ビザンチン将軍問題」とは何でしょうか。
 この問題そのものの説明は後にして、その本質について先に明
らかにしておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 グループの一部に裏切り者がいる場合、あるいは、情報伝達
 が信頼できない場合、どのようにして正しい合意に到達でき
 るのか?         ──野口悠紀雄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はP2Pネットワークは、これまでは経済取引には使えない
と思われていたのです。その理由は、上記のことができないから
です。しかし、中本論文はそれを説いたのです。それがビットコ
イン・プロトコル(ビットコインシステム)なのです。
 「ビザンチン将軍問題」というのは有名な問題なのです。ウィ
キペディアから引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビザンチン将軍問題は、東ローマ帝国(ビザンチン帝国)の将
 軍達がそれぞれ軍団を率いてひとつの都市を包囲している状況
 で発生する。将軍達は都市攻撃計画について合意したいと考え
 ている。最も単純な形では、将軍達は攻撃するか撤退するかだ
 けを合意決定する。一部の将軍達は攻撃したいと言うだろうし
 他は撤退を望むかもしれない。重要な点は将軍達はひとつの結
 論に合意しなければならないということで、一部の将軍だけで
 攻撃を仕掛けても敗北することは明らかで、全員一致で攻撃か
 撤退かを決めなければならないのである。また、彼らはそれぞ
 れ離れた場所に各軍団を配置しており、メッセンジャーを相互
 に送ることで合意を目指す。問題を複雑にさせるのは、一部の
 将軍が反逆者であって、時折最適でない戦略に票を投じたりし
 て混乱させるのである。例えば、9人の将軍が投票して4人が
 攻撃で4人が撤退に票を投じたとすると、9人目の(反逆者で
 もある)将軍は一部の将軍達には撤退票を送り、他の将軍達に
 は攻撃票を送るかもしれない。9人目から撤退票を受けた将軍
 達は撤退するだろうし、残りの将軍達は攻撃を開始して敗走す
 ることになるだろう。        http://bit.ly/1ulP5Op
―――――――――――――――――――――――――――――
 インターネットは信頼のおけないネットワークと考えると、ビ
ットコインシステムではこの問題の解決は不可欠になります。
        ─── [ビットコインについて考える/16]

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコインの可能性と限界
  ―――――――――――――――――――――――――――
  Suica のような電子マネーというのは厳密には銀行などに円
  の現金を預けている状態で、その円の決済を電子的に仲介す
  る機能を提供するサービスに過ぎません。現金を預かる業者
  が存在して初めて成立する仕組みなので円そのものを肩代わ
  りすることは出来ません。また通常のお金は国の中央銀行が
  偽造困難な形で発行し流通量を調整するため、その価値が保
  証されていると皆が信じています。対するビットコインは、
  ネットワーク上に散らばる大量のコンピュータの膨大な計算
  能力を使って生み出され(採掘され)続けており、採掘結果
  とその取引はそこに参加しているプレイヤー達のリアルタイ
  ムな多数決によって正しさが検証されます。コンピュータ同
  士は情報を集中管理しないで相互に平等につながるピア・ツ
  ウ・ピア(P2P)という仕組みでやりとりをしているので
  政府のような権力機関、管理者がいる訳ではなく、いわば、
  「善意の参加者による民主的な多数決」によりその価値を保
  証していると言っていよいでしょう。このP2Pという仕組
  みは、インターネットのもつ本質的な性質でもあります。基
  本的な通信規格であるIPというのは集中的な情報管理なし
  で分散ネットワークにおける通信を実現するための仕組みで
  す。P2P技術で従来から存在する代表的なサービスといえ
  ばスカイプやビットコイン、昔騒ぎになったウィニーなどが
  挙げられます。          http://bit.ly/1p51P8Y
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/高城泰著/扶桑社刊「ヤバイお金/ビットコイン
  から始まる真のIT革命」

P2Pネットワークとプルーフ・オブ・ワーク.jpg
P2Pネットワークとプルーフ・オブ・ワーク
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2014年09月25日

●「ハッシュ関数とマイニングの正体」(EJ第3882号)

 ビットコインの送金などの世界中の取引記録は約10分間ずつ
のブロックに収められますが、それはどのようなメカニズムで、
改ざんなどの不正を防いでいるのかについて考えていきます。
 これを理解する前提として、電子署名の説明のところで出てき
た「ハッシュ関数」についてもっと知る必要があります。何も難
しいことはないので、気軽に読んでいただきたいと思います。
 「関数」というのは、ある変数に依存して決まる値、あるいは
その対応を表す式のことです。簡単なものを示すと、次のように
なります。高校時代に習ったはずです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          Y=X2(Xの2乗)
―――――――――――――――――――――――――――――
 この式の場合、Xに「3」を入れれば「9」、「4」を入れれ
ば「16」になります。ハッシュ関数もまったく同じなのですが
答えは必ず「0」と「1」だけで構成される256桁の数になる
のです。これは、米国のNASAが開発した「SHA─256」
というアルゴリズムが採用されているからです。
 つまり、ハッシュ関数の場合は、どんなに桁数の多い数を入れ
ても、数だけではなく、ひらがな、カタカナ、英語の単語を入力
しても、それに対応する256桁の「0」と「1」を返すという
ところにあります。
 例えば、「bitcoin」 と入力したとすると、256桁の「0」
と「1」になりますが、256桁を全部書くのは大変なので、そ
れを16進数に縮めて示すと、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「bitcoin」=
 6b88c087247aa2f07ee1c5956b8e1a9f4c7f892a70e324f1bb3d16
 1e05ca107b
―――――――――――――――――――――――――――――
 この場合、この数字列は「bitcoin」 と入力したときだけ上記
のようになるのであり、他のいかなるデータを入れても絶対にこ
の数字列にはならないのです。ハッシュ関数というのは、そうい
う特殊な関数なのです。ハッシュ関数は、最後の1ビットまで確
実に送れたかどうかをチェックするのに最適なのです。
 添付ファイルにブロックチェーンの図解があります。図を見る
と、複数の取引がまとめられ、一つのブロックが形成されていま
すが、「前ブロックのハッシュ(値)」と「ナンス」がブロック
のなかに入っています。ブロックのハッシュ値は、次の3つから
計算されるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.  約10分間の取引記録
       2.前のブロックのハッシュ値
       3.     ナンス(nonce)
―――――――――――――――――――――――――――――
 新しくブロックをまとめる手順について説明します。
 まず、承認済みの前のブロックのハッシュ値を得ます。そして
付け加えたい新ブロックに含まれる取引記録と、ナンスと呼ばれ
る32ビットの任意の数の3つをハッシュ関数に入れて256桁
の値を得るのです。これがハッシュ値になります。そのハッシュ
値は次のような数字列になるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  2014年5月
  00000000000000005fd146bfd8ccf2b08cd13eecca39ce49f
  3d69f7e7e5
―――――――――――――――――――――――――――――
 先頭の「ゼロ」の数は、2010年12月には11個だったの
ですが、2014年5月には16個に増えています。「ゼロ」の
値が増えれば増えるほど、計算に時間がかかるようになっている
のです。上記のケースは先頭に「ゼロ」が16個並ぶようなハッ
シュ値が得られるナンスを見つけたとき、そのブロックは承認さ
れることになります。
 ハッシュ値で、先頭に「ゼロ」が16個並ぶというのは、とん
でもなく低い確率なのです。しかし、それができるまで、ひたす
らナンスの値をランダムにハッシュ関数に入れて、ゼロが16個
並ぶかどうかを計算していくのです。
 「ナンス」の本来の意味は次のようなものです。
 現在では、ネットで買い物をするときは、注文データは暗号化
されるのは常識ですが、その暗号化された注文データそのものを
不正に入手して、解読しないままでそれを繰り返し送り、注文を
繰り返すネット攻撃があります。
 そこで注文データのなかに、一度ごとに使い捨てとするナンス
を加えることで、複数回の注文を繰り返しても、それぞれデータ
として異なるものになります。したがって、注文を受け付ける側
は、同じナンスで送られた注文データは不正なものとして無視で
きるので、攻撃を防ぐことができます。
 既に述べたように、ハッシュ関数は一方向性関数であり、ハッ
シュ値から効率的に逆算するアルゴリズムはないと考えられてい
ます。したがって、考えられる値を総当たり式で入力して、試行
錯誤計算をするしかないのです。この計算は、数学的に困難なの
ではなくて、計算の量が膨大になるだけのことです。
 さて、この作業を行うのは誰なのでしょうか。
 それはP2Pネットワークを構成しているコンピュータのうち
それをやろうとするコンピュータ──マイニング・アプリをイン
ストールしているコンピュータがやっているのです。それらのコ
ンピュータがやっていることは、ブロックの内容が正しいかどう
かの検証作業です。
 そして、一番早く正しいナンスを見つけたコンピュータには報
奨金として25ビットコインが与えられるのです。そのため、こ
の作業を金の採掘になぞらえて「マイニング」というのです。
        ─── [ビットコインについて考える/17]

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコインマイニングは軍拡競争である
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中央集権的な通貨発行組織がない仮想通貨「ビットコイン」
  は、交換所で手に入れる方法以外にも、自分のPCを使って
  専用プログラムを走らせる「マイニング」という方法で「採
  掘」できることに大きな特徴があります。しかし、この無か
  ら「金」を生みだす錬金術は、もはや一般ユーザーが気軽に
  参加できるものではなく、魑魅魍魎がうごめく修羅の世界に
  なっているようです。ビットコインは、専用ソフト「ビット
  コイン・マイナー」を走らせることで新たなビットコインを
  発掘できるシステムをとっており、採掘作業はマイニングと
  呼ばれています。ビットコインシステムは、マイニングをす
  る人(マイナー)のマシンパワーによって維持されており、
  その見返りとしてビットコインが与えられるという仕組みで
  す。謎の人「中本哲史」によって生み出されたビットコイン
  は、中央集権的な通貨発行組織を持たない自由さと、極めて
  高い匿名性に加えて、自分で発掘できるというユニークな仕
  組みもあって、人気を高めていきました。中本は、ビットコ
  インの埋蔵量に限界を設定した上で発掘ペースを一定にする
  という巧妙なアルゴリズムを採用したため、マイニング作業
  をおこなうマイナーの数が増えれば増えるほど、新規発掘が
  難しくなるという特徴があります。 http://bit.ly/1cqqTGQ
  ―――――――――――――――――――――――――――

ブロックチェーン.jpg
ブロックチェーン
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2014年09月26日

●「さらにマイニングについて考える」(EJ第3883号)

 ビットコインの採掘「マイニング」について、もう一度詳しく
説明します。ごくシンプルに考えてみます。ビットコインを手に
入れるには次の2つの方法があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.取引所で円やドルやユーロと交換する
     2.自分でビットコインをマイニングする
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」については説明は不要でしょう。「2」が具体的に何を
意味するかです。それは昨日のEJ第3882号で示したように
約10分間の世界中のビットコインの取引記録をまとめるブロッ
クを承認する作業に参加することを意味するのです。
 それはコンピュータを使った計算業務ですが、話がかなり複雑
なので、もう一度おさらいしておくことにします。これについて
は、多くの人が書籍やネットで説明していますが、ネット上で見
つけた次のサイトが一番わかりやすいと思うので、これを参考に
して説明します。
―――――――――――――――――――――――――――――
       大石哲之の
       ビットコインの仕組み入門(1)
            http://bit.ly/1mz92Tm
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインの取引記録──例えば「AからBへ1BTC送っ
た」というような取引記録自体は暗号化されておらず、ウォレッ
トIDさえわかれば、誰でも見ることができるのです。
 ここに2009年1月3日の取引記録があります。これはビッ
トコインの最初の取引記録であると思われます。おそらく中本哲
史氏の記録でしょう。この取引記録を添付ファイルにしておきま
すが、不鮮明なので要点をまとめておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎取引番号 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
 ◎合計出力 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 50BTC
 ◎受け取り時刻 ・・ 2009年1月3日18時15分5秒
 ◎難易度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
 ◎ウォレットID   1A1zPleP5Qgefi2DMPTfTL5SLmv7DivfNa
―――――――――――――――――――――――――――――
 この取引記録にある「50BTC」は、マイニングの報酬であ
ることは確かです。ビットコインの取引開始当初は50BTCで
あったからです。現在はマイニングの報酬は、25BTCに半減
されています。約4年に1回減額されるシステムです。
 ビットコインでは、世界中の約10分間の取引──少ないとき
で100、多いときで1000程度の取引が一つのブロックに収
録されるのです。これらは正しいという承認が得られると、直前
の承認済みのブロックの前につなげられ、チェーンのようになっ
ています。したがって、これを「ブロックチェーン」と呼んでい
るのです。
 ブロックとブロックをつなげるためには「キー」が必要になり
ます。この「キー」を見つける作業がマイニングであるといって
よいと思います。これを技術的にいうと、次の3つをハッシュ関
数に入れて、256桁の値を得ます。これが新規ブロックのハッ
シュ値になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.  直前ブロックのハッシュ値
      2.新ブロックに含まれる取引記録
      3.          ナンス値
―――――――――――――――――――――――――――――
 このハッシュ値の先頭に個定数のゼロ(現在は17)が並ぶ解
が得られるまで、ナンスの値を何回も変えて計算をするのです。
この試行錯誤計算で一番早く解に達したコンピュータは、それを
ネットワークに知らせます。このことを「放送する」という表現
を使うのです。
 もし、誰かがこの取引記録を改ざんしたとすると、新しく作る
ブロックには、「直前ブロックのハッシュ値」が入っているので
過去のすべてのブロックの数値も改ざんし、つじつまの合うよう
にしなければならないのです。大石哲之氏はこれについて次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 改竄者が「キー」を改竄するために再計算する時間と、正規の
 人(つまり全世界の採掘者)が正しい「キー」を見つけるのと
 どっちが早いかという競争になります。全世界のひとが参加し
 ている発掘者のコンピューターパワーには、改竄者はとうてい
 追いつかないという形になるのです。これがビットコインの安
 全を担保する仕組みです。また、改竄者が、仮にそれほどまで
 のコンピューターパワーを持っているとしたら、むしろ改竄な
 どをするよりも、正規の発掘に協力してビットコインを手に入
 れたほうがむしろ儲かるということもあります。このインセン
 ティブの仕組みにより、改竄の動機が失われるのです。
     ──大石哲之のビットコインの仕組み入門(1)より
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、マイニングという作業は、ブロックの内容の正しさを
チェックするための世界中のコンピュータによる競争なのです。
この作業を通じて、取引記録の元帳に当たるブロックチェーンの
内容が正しく維持されることになります。実に巧妙な仕組みであ
るということがいえます。
 このマイニングは、最初のうちこそ普通のPCで参加しても十
分報奨金が得られる可能性があったのですが、現在ではその計算
量は膨大になっており、PC単体で太刀打ちできるレベルではな
くなっています。そのため、ビットコインを手に入れるには、取
引所において円やドルやユーロと交換するしかないことになりま
す。本稿執筆時点の価格は、「1BTC=45950円」です。
        ─── [ビットコインについて考える/18]

≪画像および関連情報≫
 ●ネット上の「富」を採掘する現場/WIRED
  ―――――――――――――――――――――――――――
  インターネット上の採掘の対象となるのは、ビットコインだ
  けではない。ライトコインをはじめとする、その現場を取材
  した。ジェレミー・マルティネスは、新世代のコインコレク
  ターだ。彼はビットコインやライトコイン、ラッキーコイン
  やツァイトコイン、リーフコイン、そしてインフィニットコ
  イン、いずれも、ピア・ツウ・ピア型の仮想通貨を集めてい
  る。自宅リビングにあるテレビセットのうしろには、99個
  の小さなUSBデヴァイスが設置され、それぞれカスタマイ
  ズされたコンピューターチップに繋がれている。あるチップ
  は世界的に有名なビットコインを、また、別のチップはその
  ほかにある大量の「模倣ビットコイン」を掘り出すよう設計
  されている。USBデヴァイスは無数の計算を行い、世界中
  のデジタル通貨を運営するインターネットソフトウェアを動
  かし、また、マイニング用チップの上で150Wの冷たい風
  を送る6インチ長のファンを稼働させる。そのセットアップ
  には、とにかく感嘆させられる。しかし、マルティネスはな
  にも趣味でこうした活動をしているわけではない。膨大な計
  算と引き換えに、自らもデジタル通貨を手にしているのだ。
  ここ何年かの間に、ビットコインの価値は、$100から、
  $450に高騰し、ビットコイン採掘はプロの仕事と化して
  きた。そして、こうした行く末を辿るのはなにもビットコイ
  ンだけではない。ライトコインやその他デジタル通貨も、そ
  れぞれ独自の競争に直面しているのだ。
                   http://bit.ly/1sgQ6uL
  ―――――――――――――――――――――――――――

最初のビットコインの取引記録.jpg
最初のビットコインの取引記録
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2014年09月29日

●「ビットコインマイニングと報奨金」(EJ第3884号)

 ビットコインの取引は世界中で行われています。約10分間で
1つのブロックが承認されるので、1年間には約5万2560個
のブロックが生成され、現時点では約32万個のブロックができ
ているのです。
 一番最初のブロックは、2009年1月3日に生成され、現在
まで約32万個のブロックが鎖状に接続されているので、それは
「ブロック・チェーン」と呼ばれています。
 未承認のブロックの内容に改ざんがないか、不正がないかを検
証する計算作業がP2Pネットワーク上のマイニングに挑戦する
コンピュータによって行われています。
 そして、その苛烈な計算競争に勝ち抜き、一番早く正解に達し
たコンピュータは、ネットワークに対してそれを伝え、承認を求
めます。これを「放送」というのです。そして「正しい」という
承認が受けられると、勝利したコンピュータには「25BTC」
が報奨金として与えられます。
 この報奨金は、4年ごとに半減される決まりになっています。
2009年1月3日から2013年1月頃までは50BTC、4
年後の2013年1月頃から2016年1月頃までは半減の25
BTCというように、約4年ごとに半減することになっているの
です。したがって、現時点では、計算に勝ち抜くと、25BTC
がもらえるのです。
 こういうビットコインの入手法を金の採掘に喩えて「マイニン
グ」と呼ぶのです。ビットコインの金(ゴールド)との比較のと
ころで述べたように、金はその埋蔵量23万トンの約7割は既に
採掘されており、残りの金の採掘には、相当の時間と技術的な手
間がかかるのです。
 実はビットコインも同じことがいえるのです。ビットコインの
上限は「2100万BTC」と決まっており、既に約1100万
BTCがマイニングされています。わずか6年で既に半額が採掘
されているのです。
 しかし、ビットコインは2140年にちょうどなくなるようプ
ログラミングされているのです。あと126年後です。つまり、
その間にビットコインは1000万BTCしかマイニングされな
いことになります。なぜ、そんなにかかるのかというと、ブロッ
クの計算の難易度が急速に困難になるからです。
 しかも、その間にコンピュータの性能はさらにレベルアップす
ることを考えると、いかにブロックの計算が困難化するかがわか
ると思います。
 何しろ6年間で1100万BTCが流通したのに対して、あと
126年もかけて、1000万BTCしか流通しないのです。し
たがって、ビットコインの価値は、次の3つの理由によって、上
がっていくことになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.マイニングの困難性が増すと、高性能コンピュータの投
   入は不可避で、マイニングのコストが高くなる。
 2.さらにマイニングの報奨金が4年ごとに半減されるので
   マイニングへのモチベーションが大幅に下がる。
 3.コストがかかって報酬が減るので、マイニングをする人
   数は減少し、ビットコインの生成はダウンする。
 3.そうすると市場に流通するビットコインの量は抑えられ
   ビットコインの希少性が増加し、価値が上がる。
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は、約4年ごとに報奨金が半減されるのは、経過年数ではな
く、ブロックの生成の数によって決められています。
 最初は50BTCからはじまって、210000ブロックごと
に半減する仕組みになっているのです。設計者の中本哲史氏がそ
のように設計したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1〜210000ブロック        50.0 BTC
 200001〜420000ブロック   25.0 BTC
 420001〜640000ブロック   12.5 BTC
―――――――――――――――――――――――――――――
 この「210000」という数は、1ブロックが作成される時
間を10分とすると、年間に5万2560個、それが4年ですか
ら、210240となります。
 ビットコインの単位は、最低位が少数第8位まで自由に割って
使えるのです。少数位によって、次のように、センチ、ミリ、マ
イクロなどの単位で呼ばれることもあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1BTC・・・・・・・・・・・     1ビットコイン
 0.01BTC ・・・・・・・・  1センチビットコイン
 0.001BTC ・・・・・・・   1ミリビットコイン
 0.000001BTC ・・・・ 1マイクロビットコイン
 0.00000001BTC ・・        1Satoshi
―――――――――――――――――――――――――――――
 小数第8位の最低単位は開発者の名前をとって 「1Satoshi」
と呼ばれています。要するに、マイニングから得られる報奨金が
「1Satoshi」 以下になると、それ以上は報奨金を与えられなく
なり、ビットコインの発行はそこで終わりになります。ブロック
の数でいうと、6929999番目のブロックです。これについ
て、大石哲之氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1ブロックごとに50コインからはじめて、210000ブロ
 ックごとに得られるビットコインを半減させる。そして、69
 29999番目のブロックが、報酬がビットコインの最小単位
 0.00000001 (1Satoshi) を上回る最後のブロック
 で、そこで最後のブロックが発掘される。
                   http://bit.ly/1qEMfQK
―――――――――――――――――――――――――――――
        ─── [ビットコインについて考える/19]

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコインの採掘とは何か/2014年1月/SPA!
  ―――――――――――――――――――――――――――
  昨年、最も価値の上がった「通貨」は何だったか?量的緩和
  縮小で買い戻しが進んだ米ドルなどではもちろんなく・・・
  その正体は「ビットコイン」。「暗号通貨」などとも呼ばれ
  るネット上の仮想通貨の一つだ。2013年10月には中国
  検索エンジン大手の百度が決済通貨として採用することが報
  じられ、一気に急騰。昨年初頭1ビットコイン=12〜13
  ドルで推移していたものが、11月には1200ドルにも達
  したのだ!その後、2週間で半値まで急落する場面も見られ
  たため、「バブルが弾けた」などとも報じられたものだが、
  依然、ビットコイン熱は冷めやらないという。「ビットコイ
  ンはドルや円と違って中央銀行や造幣局があるわけではあり
  ません。アルゴリズムに基づいて、ネットワーク上で新たな
  ビットコインが生まれていきます。新たに生まれるコインを
  手に入れるためには「採掘」(マイニング)という作業が必
  要なんです。その発掘作業への投資が本場アメリカなどでは
  盛んに行われています」。
  こう解説してくれたのはビットコイン事情に詳しいノマド研
  究所主宰の大石哲之氏だ。その「採掘」方法は後述するとし
  て、現在、ビットコインの採掘に成功すると25ビットコイ
  ンが手に入るという。直近では1ビットコイン=800ドル
  程度だから2万ドル、つまり200万円だ。採掘を通じて発
  行されたビットコインの流通量は現在約1200万枚。「時
  価総額」は実に1兆円以上にもなる。採掘に参加すれば、元
  手ゼロでその一部を得られた可能性があったわけだ。
                http://nikkan-spa.jp/573285
  ―――――――――――――――――――――――――――

ビットコイン採掘システムの現場.jpg
ビットコイン採掘システムの現場
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2014年09月30日

●「コインを生成するマシンはどれか」(EJ第3885号)

 ビットコインの取引はオープンであり、すべての取引を見るこ
とができます。日本人の多くは、マウントゴックスの破綻をビッ
トコインシステム自体の破綻と考えて、「ビットコインは終わっ
た」と勘違いしています。
 しかし、今もビットコインの取引は絶え間なく、続いているの
です。その様子を誰でもリアルタイムで見ることができます。次
のサイトをクリックしてください。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ≪ビットコイン・ブロック・エクスプローラ≫
            https://blockchain.info/ja/
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見ると、ビットコインの現況を詳しく把握することがで
きます。簡単に説明します。「Latest Transactions」 を見ると
取引が間断なく続いていることがわかります。
 「ブロック高」というのはブロックの番号です。一番上の数値
が最新のブロックの数を表しています。本稿執筆時点では、32
万2764ブロックとなっています。2009年1月3日以来、
約32万のブロックが出来ていることを示しています。
 「Transactions」の数値は、そのブロックに含まれている取引
の数です。32万2764ブロック内の取引数は187個の取引
が入っていることを示しています。「合計送信額」は、158万
2022BTCになっています。これに加えて、右サイドの「さ
らに・・・」をクリックすると、日付と時間、ハッシュ値を見る
ことができます。
 最初のページは「Home」ですが、続いて「Charts」をクリック
していただきたいと思います。ここには、25項目にわたる情報
をグラフで見ることができます。このなかから、次の2つの数値
をご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
      ◎市場に出回っているビットコイン数
           1331万6225BTC
      ◎ビットコイン「財布」のユーザー数
              225万5821人
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、市場に出回っているビットコインは、「1331万62
25BTC」であり、総額2100万BTCの63.4 %が流通
していることがわかります。
 ビットコインの財布(ウォレット)のユーザー数は「225万
5821人」であり、これらの人たちがP2Pネットワークを構
成していることになります。
 このように、ビットコインシステムは中本哲史氏の手になる巧
妙なプログラムによって動いています。このプログラムのことを
「ビットコイン・プロトコル」というのです。これに関して野口
悠紀雄氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインには信頼性のある発行・管理主体が存在しない。
 「信頼性がある・ない」どころではない。そもそも発行・管理
 主体が存在しないのだ。この点において、ビットコインは、政
 府貨幣や日銀券とも、また銀行預金とも、さらに電子マネーと
 も、本質的に異なる。もちろん「ビットコイン・プロトコル」
 と呼ばれるコンピュータ・プログラムはある。そのプログラム
 を書いた人々はもちろん実在し、プロトコル自体もときどき書
 き換えられる。だから、ビットコインが人間の手をまったく離
 れて存在しているわけではない。しかし、ビットコイン・プロ
 トコルとはルール集であって、それを実行する(マイニングを
 行なう)のは、全世界に何千と存在するコンピュータの集まり
 である。その作業に入るのも離脱するのも自由だ。入るために
 特別の審査をされるわけでもない。そのような意味において、
 「特別の管理主体はいない」のである。ただし、だからといっ
 て「ビットコインが頼りない」とは言えない。
            ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
 野口氏の記述で注目すべきことがあります。「もちろん「ビッ
トコイン・プロトコル」と呼ばれるコンピュータ・プログラムは
ある。そのプログラムを書いた人々はもちろん実在し、プロトコ
ル自体もときどき書き換えられる」と述べている部分です。
 ウォレットのソフトをインストールした約226万人で構成さ
れるP2Pネットワークにおいて、マイニングソフトをインスト
ールしたコンピュータによって、ブロックの内容が正しく自動的
に保たれていることはわかりますが、一番早く解を算出したマイ
ナーに対して、報奨金の25BTCはどのように生成されるので
しょうか。
 この点に関しては、ビットコインのことを書いたどの本にも書
かれていないのです。したがってこれは私の推測ですが、P2P
ネットワークを構成しているコンピュータの一つが、ビットコイ
ンの生成を行っていると考えられます。
 そのコンピュータは、ネットワークを構成している226万台
のコンピュータのひとつであり、他のコンピュータとは対等に存
在しています。しかし、このコンピュータは、一番早く解を見つ
けたマイナーのコンピュータに対して、所定の報奨金のビットコ
インを生成したり、ビットコインを送金するさいの手数料を徴収
したりする役割を担っているのです。
 かといって、サーバーのようにネットワーク全体を管理する役
割を負っているわけではないのです。あくまで、ピア・ツウ・ピ
アの状態──他のコンピュータと対等に存在しているのです。し
かし、ビットコインのプロトコルはそのコンピュータが管理して
います。そのプロトコルにしたがってそのコンピュータは、ビッ
トコインを生成したり、手数料を徴収しているのです。
        ─── [ビットコインについて考える/20]

≪画像および関連情報≫
 ●決済システムの革新/ビットコイン
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ビットコイン・プロトコルは、単にAからBへお金を送るこ
  とではありません。それには、様々な機能があり、コミュニ
  ティーがまだ探索中の多くの可能性を秘めています。現在、
  調査が進められている、あるいは、実際の商品やサービスと
  なったテクノロジーには以下のようなものがあります。ビッ
  トコインを使ったもので最も興味深いものは、おそらくまだ
  見出されていないかもしれません。
  【詐欺に関する管理】ビットコインを使えば、前例のないほ
  どの安全性が可能となります。このネットワークは、支払い
  取り消しや不必要な手数料といったよくある詐欺の多くを防
  ぐだけでなく、ビットコインの偽金を作ることも不可なので
  す。ユーザーは、バックアップを取ったり、自分のウォレッ
  トを暗号化することができ、ハードウエア・ウォレットを使
  えば、お金を紛失したり、盗まれたりすることが困難になり
  ます。ビットコインは、ユーザーが自分のお金を完全にコン
  トロールできるように作られています。
  【国際化】世界中の支払いは完全に相互運用できます。ビッ
  トコインは、すべての銀行、企業、個人が、銀行口座を持っ
  ているかどうかに関わらず、いつでも、どこででも、安全に
  支払いを送り、受け取ることを可能にします。ビットコイン
  は、何らかの限界があり、まだほとんどの決済システムが使
  えない多くの国でも使うことができます。ビットコインは、
  商業へのグローバルアクセスを広げ、世界貿易の繁栄に役立
  ちます。       https://bitcoin.org/ja/innovation
  ―――――――――――――――――――――――――――

ビットコイン・ブロック・エクスプローラ.jpg
ビットコイン・ブロック・エクスプローラ
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2014年10月01日

●「中央機関なきイノベーション実現」(EJ第3886号)

 ビットコインは、経済と技術の両面から議論ができるテーマで
あると思います。しかし、ビットコインの本質は技術──とくに
暗号技術にあります。暗号技術がわからないと、ビットコイン自
体が理解できないからです。
 ところが、暗号理論はかなり複雑で難解です。そのため、多く
の誤解が生まれています。ビットコインに詳しい大石哲之氏のブ
ログに、日経電子版の次の記事が取り上げられています。なお、
この時点ではマウントゴックスはまだ破綻していないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 こうした採掘の仕組みも上限額も誰かが保証しているわけでは
 なく、永続するとは言い切れない。記者が試しに2000円を
 出して購入した0.026 ビットコイン。スマホを見ながら、
 「あした、このビットコインが消えていたら」と、少し不安に
 なった。     ──『発行者なき通貨ビットコイン世界で
     「採掘」続々』/2014年2月5日付/日経電子版
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインに対する最大の不安は、中央に中央銀行や特定の
発行会社などの信頼性のある主体が管理していないことです。し
かし、ビットコインシステムは、決められているプロトコル通り
に動いているのです。これは、ロボットと同じです。そういう意
味において、ビットコインは経済的な資産の取引を行うロボット
であるということができます。
 それにこれは「イノベーション」なのです。従来では実現でき
ないと考えられていたことが、可能になっているからです。この
点について、大石哲之氏はブログで次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインとは、信頼できる権威付け機関が全くない環境に
 も関わらず、AからBへの所有権の移動を、ネットワーク参加
 者全員が疑いなく検証できる形で取引を実現する仕組だ。それ
 は安全でセキュアであり、偽造が不可能だ。誰も保証しないと
 いうのも間違いで、ビットコインは、P2Pを利用するネット
 ワークであり、だれか中央の一つの機関が保証するのではなく
 ネットワーク参加者全体の多数決によって、保証されている。
 だから、信頼できる中央機関がないという指摘はトートロジー
 だ。所有権の移動を、信頼できる中央機関をなくして実現した
 ことに、イノベーションの本質がある。
                   http://bit.ly/YsSQrg
―――――――――――――――――――――――――――――
 この大石哲之氏の指摘を理解できるでしょうか。
 本来であれば、信頼できる中央機関がない状態では実現できな
い経済取引をイノベーションによって実現したといっているので
す。前記の日経の記者は、ビットコインについて一応の説明を聞
いているはずです。それは本人が「採掘の仕組みも上限額も」と
述べていることからも明らかです。仕組みの説明を受けたにもか
かわらず、不安を口にするのは「トートロジーである」と大石氏
はいうのです。
 トートロジーとはわかりにくい言葉ですが、同義語を反復する
ことをいうのです。例えば、同じ意味の言葉を不用意に重ねるこ
とです。例えば、「新しい新入社員」とか「馬から落馬する」と
か「頭痛で頭が痛い」などです。
 トートロジーについては、面白いパズルがあります。頭の体操
になるので、考えてみてください。
―――――――――――――――――――――――――――――
 あなたは分かれ道にさしかかったとする。一方の道は正直村に
 もう一方は嘘つき村に通じているが、あなたはどちらが正直村
 であるかは知らないとする。分かれ道には一人の村人が立って
 いる。正直村の住人は常に真実を話し、嘘つき村の住人は常に
 嘘をつくことはわかっているが、この村人がどちらの村の住人
 かはわからない。この場合、あなたが正直村に行くためにはど
 うすればよいか?          http://bit.ly/YvROul
―――――――――――――――――――――――――――――
 ちょっと考えると解けない問題のように思えるかもしれません
が、少しロジックを働かせれば解けるのです。それは、その村人
に次のように尋ねればよいのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      あなたの村は、どちらにありますか?
―――――――――――――――――――――――――――――
 すなわち、正解は「その村人が指した道を行けばよい」ですが
どうしてかわかりますか。
 村人が正直村の人間であれば、自分の村への道を正直に教える
でしょうし、もし嘘つき村の住人であれば、自分の村である嘘つ
き村を教えず、正直村を指すに決まっているからです。したがっ
て、その村人がどちらの村の住人であっても、村人の指す方向に
行けば正直村に行けるのです。
 ビットコインのシステムについて話を聞いても、それでもビッ
トコインは不安だという人は、暗号技術やハッシュ関数、マイニ
ング、ブロックチェーンなどの仕組みが理解できていないからで
あると思われます。なかでもとくに重要なのは、暗号技術なので
す。暗号技術については、ここまでも一応の解説はしてきていま
すが、十分ではないと思われます。
 そこで「電子署名」の基礎になる「公開鍵暗号方式」について
次回からその基礎についてわかりやすく説明することにします。
現在、多くの企業から重要情報の流出が頻発し、セキュリティの
問題が問われています。そのため、セキュリティ関連の資格を取
得しようとする人も増加しています。そういう試験では、暗号技
術が中心になるのです。
 ビットコインがなぜ改ざんに強いのか、どうして中央機関がな
いのに確実に情報が届けられるのか、なぜ所有権が確実に移転で
きるのか──これらについて明日のEJから考えていきます。
        ─── [ビットコインについて考える/21]

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコインに管理者がいない理由/大石哲之氏のブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ビットコインは「管理している人がいない」という意味はど
  ういうことでしょうか?これは、かなり誤解されていると思
  います。管理者がいないというのはやり放題、不正し放題と
  いうイメージを想起しますが、これは誤解です。実はビット
  コイン自体には、管理データベースが存在しています。「ブ
  ロックチェーン」と呼ばれるもので、ビットコインの取引の
  全部の履歴を記録した元帳的なデータベースです。いつ、誰
  から、誰にいくらのコインを送ったかということが、「すべ
  て」記録されています。すべて、ですよ。5年前にビットコ
  インが生まれた時の最初の取引から、すべての取引が、その
  データベースに収まっています。ブロックチェーンは、ビッ
  グバンの時点までさかのぼれるのです。重要なのはこの取引
  元帳データベースです。これを参照すれば、あらゆる不正が
  わかります。コインを二重に使用しようとしたりしても、過
  去のデータを参照すれば不正がバレます。実をいうと、銀行
  やペイパルなどのシステムも、不正防止のためには、厳重な
  セキュリティに管理された自社のデータベースをもっていま
  す。そしてそのデータベースのなかで、数字を書き換えて送
  金を実現したり、不正利用を監視しています。この場合、銀
  行がそのデータが正しいことを保証しているといえます。銀
  行が信頼できるかぎり、これは成り立ちます。しかし、銀行
  がデータに手を加え勝手に数字を書き換えたり、勝手に送金
  したり、もしくは外部の攻撃にあって、数字が書き換えられ
  てしまうかもしれません。     http://bit.ly/1yvpvgt
  ―――――――――――――――――――――――――――

大石哲之氏.jpg
大石 哲之氏
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2014年10月02日

●「身近なところで使われる暗号方式」(EJ第3887号)

 インターネットを使って通信をする場合、セキュリティとして
次の3つを確保する必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.機密性 ・・・・ 公開鍵暗号方式の技術
    2.真正性 ・・・・ 公開鍵暗号方式の署名
    3.完全性 ・・・・ ハッシュ値を使い確保
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は「機密性」です。
 これは、通信の途中でデータが盗まれても、中身を読み取られ
ないようにすることです。これは公開鍵暗号方式の技術を使って
防ぐことが可能です。
 第2は「真正性」です。
 これは、送信者が間違いなく本人であるかどうか、なりすまし
でないかどうかです。これは公開鍵暗号方式の電子署名を使えば
防ぐことが可能です。
 第3は「完全性」です。
 これは通信経路上でデータの中身が改ざんされていないかどう
かです。この完全性の確保には、ハッシュ値を使うことによって
防ぐことが可能です。
 なお、現在、暗号方式には「ハッシュ値」は必ず使われており
暗号方式の基本になっています。もちろん、「1」と「2」の公
開鍵暗号方式にもハッシュ値は使われます。ハッシュ値について
は、9月25日のEJ第3882号でも説明しましたが、身近な
例によってもう一度説明します。
 コンピュータを使う情報処理の世界では、どのようなデータで
あっても、必ず「0」と「1」の数字列に変換されるのです。つ
まり、数値として扱うことができるのです。このことがわかって
いると、「ハッシュ関数」と「ハッシュ値」の関係は次のように
解しやすくなります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 あるデータ(数値)をハッシュ関数に入れて演算した結果が
 ハッシュ値である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ちなみに、暗号化されていないデータのことを「平文」(ひら
ぶん/プレーン・テキスト)といい、暗号のアルゴリズムによっ
て変換されたデータのことを「暗号文/サイファー・テキスト」
といいます。
 ハッシュ値は、アルゴリズムによって128ビットから512
ビットの「0」と「1」になります。ここでアルゴリズムとは、
任意の長さの平文から、固定長の特徴的な値であるハッシュ値を
求める計算手順のことをいいます。
 ビットコインのシステムで使われているアルゴリズムは「SH
A256」です。このアルゴリズムは、米国家安全保障局(NS
A)が開発し、米国立標準技術研究所(NIST)が、ハッシュ
関数の国家基準の一つとして採用したもので、「SHA─2」の
うちの1つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           ≪SHA─2≫
           SHA─224
         ⇒ SHA─256
           SHA─384
           SHA─512
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここである企業が重要な指示を幹部にメールで発信する場合を
考えてみます。そのための図を添付ファイルにしてあるので、参
照しながら読んでください。
 送信者は、送付する平文をハッシュ関数に入力して、ハッシュ
値を計算します。入力データがテキストであっても256桁の数
値として扱われるので演算ができるのです。なぜ、256桁かと
いうと、アルゴリズムがSHA─256であるからです。
 送信者はその演算で得られたハッシュ値を幹部に送付しておき
ます。それと同時に平文のデータも幹部に送信します。
 つまり、幹部は平文のデータとハッシュ値を手に入れることに
なります。幹部は送信者が使ったものと同じハッシュ関数に平文
のデータを入力して、ハッシュ値を計算します。そして、出てき
たハッシュ値が送付を受けたハッシュ値と一致するかどうかを確
かめるのです。このハッシュ値が一致すると、幹部に送付された
平文の情報には改ざんがないことがわかります。
 もし、平文のデータが通信途中で盗まれ、内容が改ざんされた
とします。その場合、受信者はその改ざんされた平文をハッシュ
関数に入れてハッシュ値を求めることになります。しかし、その
ハッシュ値は送信者から送付されたハッシュ値と一致することは
ないのです。したがって、改ざんされたことがわかります。
 また、送信者が幹部に送ったハッシュ値を盗んだとしても、そ
こから元のデータ(幹部への指示の平文)を算出することはでき
ないのです。ハッシュ関数は「一方向性関数」であり、それから
元のデータを割り出せないのです。
 こんなケースもあります。あるサイトにアクセスするさい、パ
スワードの入力を求められることがあります。普通に考えると、
そのサイトを管理するサーバーは、入力されるパスワードそのも
のを管理しており、アクセスのさい入力されるパスワードとそれ
を照合し、一致すれば入る許可を与えていると考えます。
 しかし、そうすると、そのサーバーが悪意の攻撃を受けた場合
パスワードが流出してしまう恐れがあります。そのため、多くの
場合、サーバーはパスワードそのものは管理せず、そのパスワー
ドをハッシュ関数に入れてハッシュ値を求め、そのハッシュ値と
それが誰のものであるかを管理しているのです。ハッシュ値化し
ておけば、それから元のパスワードを知ることはできないので、
安全を確保できるからです。
        ─── [ビットコインについて考える/22]

≪画像および関連情報≫
 ●ハッシュテーブルについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ハッシュ(hash)というのは、文字列などの任意のデータか
  ら、そのデータを要約して得られる固定長の値のことです。
  得られた値のことをハッシュ値(hash value)、値を得る操
  作をハッシュ関数(hash function)といいます。 ネットワ
  ークなどを通してメッセージを送る際、通信路でエラーが混
  入していないかどうかを確かめるために、送信元と受信先の
  双方でハッシュ値を計算し、値を比較するのに使われたりし
  ます。Hash という言葉は、料理のハッシュドビーフなどに
  ついているハッシュと同じで、「細切れ」という意味です。
  「送信したメッセージを細切れにした一部分」というような
  感じの意味合いで、元のメッセージと同じだけの情報は持っ
  ていませんが、メッセージの真偽などの確認に使える値とい
  うことです。元のメッセージよりも持っている情報量が少な
  いということは、 原理的に不可逆で、 ハッシュ値から元の
  メッセージを再生することはできません。このような性質か
  ら、パスワード認証に使われたりもします。(認証サーバ内
  では、パスワードのハッシュ値が記録されている)。ちなみ
  に、このような、メッセージの真偽確認やパスワード認証の
  ために使われる場合には、ハッシュ値のことを「メッセージ
  ダイジェスト」と呼ぶ場合もあります(文字通り、メッセー
  ジの要約という意味で用いるので)。これに対して、「ハッ
  シュ値」という呼び方をする場合、「任意のデータから固定
  長の値(ほとんどの場合整数値)を得る」という部分に意味
  があります。           http://bit.ly/1rAmvsI
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/http://nkbp.jp/1qRw5DL

ハッシュ値の使い方.jpg
ハッシュ値の使い方
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2014年10月03日

●「公開鍵暗号方式と共通鍵暗号方式」(EJ第3888号)

 公開鍵暗号方式で暗号をかける場合、次の2つのケースが考え
られます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.データの中身を隠して秘密を守るケース
    2.送信者を証明する署名として使うケース
―――――――――――――――――――――――――――――
 公開鍵暗号方式とは、一人の利用者に対してペアになる次の2
つの鍵を使うのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
            1.公開鍵
            2.秘密鍵
―――――――――――――――――――――――――――――
 既に述べたように、「公開鍵」は文字通り公開しても差し支え
のない鍵です。これに対して「秘密鍵」については、絶対に人に
教えてはいけない鍵──つまり、実印のようなものです。
 重要なことは、この暗号方式の利用者(ノード)ごとに上記2
つの鍵をペアで持つということです。暗号に関して次の2つの言
葉があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.暗号化 ・・・ 暗号をかけること
     2.復号化 ・・・ 暗号を平文に戻す
―――――――――――――――――――――――――――――
 暗号化は、公開鍵でも秘密鍵でもできます。しかし、それを復
号化するには、次の原則があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.公開鍵で暗号化したデータは、そのペアである秘密鍵で
   しか復号化できない。
 2.秘密鍵で暗号化したデータは、そのペアである公開鍵で
   しか復号化できない。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで冒頭の1である「データの中身を隠して秘密を守るケー
ス」について考えます。
 AさんからBさんに平文を送信するケースです。しかし、Aさ
んは文書を隠したいのです。そのため、Aさんは、Bさんの公開
鍵で暗号化します。これについては、「原則1」によって、Bさ
んの秘密鍵でしか復号化できないのです。
 したがって、この暗号化された文書を第三者が盗み見したとし
ても、その人はAさんとBさんの公開鍵しか持っていないので、
中身を見ることはできないことになります。
 文書を受け取ったBさんは、自分の秘密鍵で復号化すると、平
文を読むことができます。これについては、添付ファイルの「図
1」を参照してください。なお、この図は、秘密鍵のことを「個
人鍵」と呼称していますが、同じ意味です。
 続いて冒頭の2である「送信者を証明する署名として使うケー
ス」について考えます。
 この場合、送信者のAさんは、自分の秘密鍵で署名文「送信者
はAです」を暗号化して、それを受信者Bさんに送ります。Bさ
んはそれをAさんの公開鍵で復号化します。Aさんの公開鍵で正
しく復号化できたとすると、その公開鍵のペアであるAさんの秘
密鍵を持つAさんに間違いないということになります。
 この署名文を送る過程で悪意の第三者がなりすましを企てたと
します。しかし、その第三者はAさんとBさんの公開鍵しか持っ
ていないのです。どちらの鍵で暗号化したとしても、Bさんの持
つAさんの公開鍵では復号化できないので、たちまち、なりすま
しであることを見破られてしまいます。これに関しては添付ファ
イルの「図2」を参照していただきたいと思います。
 ここでもうひとつ「共通鍵暗号方式」というものを理解する必
要があります。
 共通鍵暗号方式は、暗号化と復号化をするさい、同じ鍵を使う
暗号方式のことです。ひとつ例を上げます。「ABC」が平文で
あるとして、これをアルファベットの3文字後ろにずらして「D
EF」という暗号文をAさんがBさんに送ったとします。この場
合、3文字の部分が鍵になります。
 受信者のBさんは、送られてきた暗号文「DEF」を3文字戻
して「ABC」に復号し、平文にするという方式です。3文字と
いう鍵は、送信者と受信者がお互いに知らせ合っていることはい
うまでもないことです。
 仮に通信の途中で悪意の第三者が暗号文を盗み取ったとしても
「DFF」では、正しい平文の「ABC」にたどりつくことは困
難です。もちろん実際はこんな簡単な鍵ではなく、複雑な鍵を使
うので、解読は困難です。まとめると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.送信者 ・・・・・・ 3文字ずらす
     2.受信者 ・・・・・・ 3文字もどす
―――――――――――――――――――――――――――――
 この暗号方式を「共通鍵暗号方式」というのです。公開鍵暗号
方式と比較しての長短は次の通ります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ≪共通鍵暗号方式≫
     「長所」 ・・・・・ 処理が高速である
     「短所」 ・・・・・ 鍵の管理が難しい
    ≪公開鍵暗号方式≫
     「長所」 ・・・・・ 鍵を知らせやすい
     「短所」 ・・・・・ 処理時間がかかる
―――――――――――――――――――――――――――――
 それぞれの方式には長短があるので、実際の暗号方式はこれら
の共通鍵暗号方式や共通鍵暗号方式にハッシュ値を組み合わせて
行われています。その組み合わせについては、来週のEJで取り
上げて、解説します。
        ─── [ビットコインについて考える/23]

≪画像および関連情報≫
 ●共通鍵暗号方式について/ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
  共通鍵暗号方式では、暗号化に用いる鍵と同一、または、暗
  号化鍵から容易に導出可能な値を復号鍵として用いる。代表
  的な共通鍵暗号は、DES、AESである。それに対し、公
  開鍵暗号方式では、暗号化鍵と復号鍵として非対称な鍵を用
  いる。復号鍵は、秘密の知識なしには暗号化鍵から容易には
  導出不可能な値を用いる。古典的な暗号方式は全て共通鍵暗
  号方式であるので、公開鍵暗号方式が登場するまでは暗号と
  言えば共通鍵暗号方式のことであった。公開鍵暗号方式が登
  場した時、公開鍵暗号方式と区別する為に公開鍵暗号方式で
  はない暗号方式を秘密鍵暗号方式と呼ぶようになった。後に
  「秘密鍵暗号」と呼ぶ代わりに「共通鍵暗号」という言葉を
  使うようになった。        http://bit.ly/1mTEKdI
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/http://nkbp.jp/1xEIVxS

公開鍵暗証方式.jpg
公開鍵暗証方式
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2014年10月06日

●「堅牢性高いハイブリッド暗号方式」(EJ第3889号)

 共通鍵暗号方式は、公開鍵暗号方式に比べて処理が高速である
という利点がある一方、その「共通鍵」をどのようにして相手に
知らせるかということや鍵の管理が難しいのです。
 共通鍵は、AとBの2人でそれをやり取りするときは、1個で
すみますが、A、B、C、Dの4人でやり取りするときは、次の
ように6個必要になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
        A⇔B  A⇔C A⇔D
        B⇔D  B⇔C C⇔C
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを10人でやると45個、100人だと、4950個が必
要になるのです。これでは管理が大変です。つまり、メンバーの
組み合わせの数だけ、鍵が必要になるのです。N人でやり取りす
るときの鍵の数を算出する式は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      必要な鍵=【N×(N−1)】÷2
―――――――――――――――――――――――――――――
 仮に100人の部署があって、部員全員で、共通鍵暗号方式を
使っているとします。ここに新入社員が1人入ってきたとするの
です。公開鍵暗号方式では、その新入社員のキーペア──公開鍵
と秘密鍵を作成して、公開鍵を全員に配付するか、公開鍵を管理
するサーバーに登録すれば終わりです。しかし、共通鍵暗号方式
の場合、4950個の鍵が必要になるのです。これでは、鍵の管
理に相当気を配らなければならないことになります。
 この共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式の2つをうまく組み合わ
せた暗号方式をご紹介しましょう。これを「ハイブリッド暗号方
式」と呼んでいます。添付ファイルの図を参照しながら、読んで
いただきたいと思います。
 まず、送信者は平文を作成します。平文とは、暗号化されてい
ないテキスト──プレーン・テキストのことをいいます。これは
第三者に見せたくないデータです。これが「1」です。
 続いて、平文を暗号化するための共通鍵を作成します。これが
「2」です。送信者はこの共通鍵を利用して平文を暗号化するの
です。ここでは共通鍵暗号方式が使われています。テキストを暗
号化するので、容量が大きくなりますが、共通鍵暗号方式では、
処理を高速化できるのです。これが「3」です。
 問題はこの共通鍵をどのようにして受信者に伝えるかです。そ
こで、ここから公開鍵暗号方式を使うのです。送信者はあらかじ
め入手しておいた受信者の公開鍵を使って共通鍵を暗号化するの
です。これが「4」です。
 ここまでの処理で送信者によって次の2つのものが作成されて
いることになります。そこでこれらの2つを受信者に対して送付
します。これが「5」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.共通鍵で暗号化された平 文
       2.公開鍵で暗号化された共通鍵
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここからは受信者の処理になります。受信者は、暗号文を平文
化するため、受信者の秘密鍵──これは受信者だけが知っている
──を使って暗号化されている共通鍵を復号化します。ここで思
い出していただきたいのは次の原則です。この原則に基づいて、
受信者は共通鍵を入手します。これが「6」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 公開鍵で暗号化したデータは、そのペアである秘密鍵でしか
 復号化できない
―――――――――――――――――――――――――――――
 受信者は復号化した共通鍵で、送付されてきている暗号文を復
号化して平文にします。これが「7」です。
 ここまでの解説は、株式会社タケキIT教育事業部、出口雄一
氏の「情報セキュリティ入門」に基づいています。出口雄一氏は
この「ハイブリッド暗号方式」の特徴について、次のように述べ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ハイブリッド暗号方式を実現するための1つめのポイントは、
 「送信者が任意に共通鍵を作成する点」です。もちろん、仕組
 み全体の約束事,どんな共通鍵アルゴリズムを使うかといった
 大枠の取り決めは必要ですが,決められた枠内で,送信者が任
 意に共通鍵を作成します。さらに,この共通鍵は,1回使った
 ら次回以降は同じものを使用しません。この約束事を守ること
 により,悪意のある第三者が共通鍵の盗聴に成功したとしても
 これを再利用することを防いでいます。1回の通信(セッショ
 ン)に限って有効なことから,この共通鍵のことをセッション
 鍵とも呼びます。(一部略)ハイブリッド暗号方式において、
 処理に時間がかかる公開鍵暗号方式を使用しているのは,セッ
 ション鍵(共通鍵)の暗号化と復号の部分だけです。データ量
 の大きい本文に対しては,高速な共通鍵暗号方式を使っている
 ため、全体の処理を考えた時、パフォーマンス向上に寄与して
 いることがわかります。      http://nkbp.jp/1oHyul4
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、あまねく使われている電子メールは、完全にプレーン・
テキスト(平文)で送られています。これでは、メールの転送経
路やメールサーバー(SMTPサーバー/POPサーバー)がウ
イルスに侵入されたり、サーバーの管理者がその気になれば、内
容を「盗み見」される危険性があります。
 中身を見られても問題がないメールがほとんどでしょうが、契
約書や機密文書などの場合は、見られると困るメールもあるはず
です。そういうとき、このハイブリッド暗号方式は、きわめて合
理的であり、通信し合う同志が基本ルールだけを知っていれば、
使える方式であるといえます。
        ─── [ビットコインについて考える/24]

≪画像および関連情報≫
 ●電子メールのセキュリティ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「電子メールの機密性はかなり低い」ということを認識して
  おく必要があります。また、スパムメールの「踏み台」にさ
  れる危険性や、改ざん、なりすまし、ウィルス感染の危険性
  もはらんでおり、プライバシー以外の危険性があることも認
  識しておかなければなりません。例えば、商取引などで、電
  子メールや添付ファイルの数字や金額が改ざんされてしまっ
  たら、もう訂正できないかもしれませんし、なりすましによ
  る詐欺で、不正に取得したIDやパスワードが悪用されて情
  報やお金が盗まれる可能性もあります。とはいうものの、取
  引に便利な電子メールを使うなというわけにもいかず、機密
  性は低くウィルス感染の危険もあるけれど、それでも納得し
  て使ってくださいというわけにはいかない場合があります。
  IT化とグローバル化が進み、インターネット抜きにはビジ
  ネスが成り立たなくなった現在では、電子メールの存在はか
  なり大きいものです。重要な機密情報であっても、リアルタ
  イムでやり取りしなければならない場合もあるでしょう。先
  ほどのような企業間での商取引や個人情報を含むデータのや
  り取りなど、その情報がインターネット上に漏えいした場合
  や、悪用された場合に被害を被るような情報をやり取りする
  場合は、何らかの対策が必要になります。したがって、郵便
  の「書留」のように、完全に機密性や安全性、確実性が保障
  された電子メールのやり取りを行う方法が求められました。
                   http://bit.ly/1rJUdwb
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/http://nkbp.jp/1oHyul4

ハイブリッド暗号方式における処理.jpg
ハイブリッド暗号方式における処理
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2014年10月07日

●「電子署名の重要性について考える」(EJ第3890号)

 9月19日のEJ第3879号で「電子署名」について説明し
ています。電子署名は「デジタル署名」ともいいます。ビットコ
インを確実に流通させるための不可欠な暗号方式です。
 ここまで、「ハッシュ値」「公開鍵暗号方式」「共通鍵暗号方
式」について説明してきましたが、これだけの暗号の知識があれ
ば、その応用によって、どのような暗号方式も作り出すことが可
能になります。
 電子(デジタル)署名について、その処理の流れを説明するこ
とにします。これは、共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式を組み合
わせた「ハイブリッド暗号方式」であることは、すぐわかると思
います。例によって添付ファイルにその処理の流れの図を付けて
おきますので、参照しながら読んでください。
 まず、送信するデータを作成します。「1」です。ビットコイ
ンの取引では、送信内容を秘密にする必要はないので、データそ
のものは暗号化しないのです。しかし、注意しなければならない
のは、なりすましとデータの改ざんです。そのため、「ハッシュ
値」を利用して、それを防ぎます。
 作成したデータ(平文)をハッシュ関数を使って、ハッシュ値
を算出します。ビットコインでは「SHA─256」を使うので
ハッシュ値は256桁の0と1になります。これが「2」です。
 ここまでは共通鍵暗号方式の処理ですが、ここから公開鍵暗号
方式を利用します。算出したハッシュ値を送信者の秘密鍵を使っ
て暗号化します。これが「3」です。ここまでに次の2つのもの
ができています。これら2つのものを受信者に送信します。これ
が「4」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.  送信するデータ(平文)
       2.暗号化した平文のハッシュ値
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここからは受信者側の操作です。受信者は、2つの操作を行い
ます。その第1が、受信したデータを送信者が使ったものと同じ
ハッシュ関数に入れてハッシュ値を算出することです。第2は、
暗号化されたハッシュ値を復号化することです。
 ハッシュ値の算出は「5」です。これが暗号化されたハッシュ
値と一致すると、データに改ざんがないことがわかります。暗号
化されたハッシュ値を復号化するには、あらかじめ入手していた
送信者の公開鍵を使って行います。ここでは次の原則を思い出し
ていただきたいと思います。これが「6」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 秘密鍵で暗号化したデータは、そのペアである公開鍵でしか
 復号化できない
―――――――――――――――――――――――――――――
 受信したデータをハッシュ関数を使って算出したハッシュ値と
送信者の公開鍵で復号したハッシュ値を比較し、もし一致すると
次の2つのことが確認できます。これが「7」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.受信データには改ざんはない
       2.送信者がなりすましではない
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず、「受信データには改ざんはない」という点ですが、ハッ
シュ値が一致したことによって、それは証明されるのです。受信
データは、発信者の使った同じハッシュ関数によってハッシュ値
が算出されており、それが一致するということはデータに改ざん
がないことを意味します。
 なぜなら、もし、データに改ざんが行われると、その改ざんさ
れたデータをハッシュ関数に入れて得られるハッシュ値と、改ざ
んのないハッシュ値とは違う値になるからです。ハッシュ値は、
256桁の0と1のデータになりますが、それが一字でも異なる
と、まったく違うハッシュ値になるからです。
 続いて、「送信者がなりすましではない」という点ですが、も
しなりすましが行われたとすると、暗号化されたハッシュ値を送
信者の公開鍵では復号化できないのですぐわかります。したがっ
て、復号化できたということは、そのハッシュ値が発信者の秘密
鍵で暗号化したことになり、これは、なしすましがないというこ
とを意味するのです。
 電子署名には、もう一つの効能があるのです。それは、「否認
の防止」です。ひとつの例を上げて説明します。
 ある企業に大口の発注がメールで入ったとします。こういうこ
とはよくあることです。この場合、発注企業に電子署名を施した
発注書を送ってもらうことが必要です。
 受注企業は発注企業の公開鍵を使ってハッシュ値を復号化し、
発注書をハッシュ関数に入れて算出したハッシュ値と一致するこ
とを確認して、発注書にしたがい、生産を開始したのです。
 しかし、納品のさい、この発注企業は「そんな発注をしていな
い」といってきたとします。これが「否認」です。実際問題とし
て、電子署名入りの発注書を送っておいて、否認するケースはな
いでしょうが、単なるメールでの発注では、そういうことはしば
しば起きるのです。
 電子署名入りの発注書を送っている場合は、発注企業は発注の
事実を否認することはできないのです。なぜなら、受信した発注
書のハッシュ値が、発注企業の公開鍵で復号化したハッシュ値と
一致するということは、そのハッシュ値が発注企業の秘密鍵で暗
号化していることを意味するからです。
 秘密鍵は発注企業しか知り得ない鍵であるからで、その発注書
の発行者は、間違いなく発注企業自身であることを証明している
のです。このように、電子署名は「否認の防止」にも役立つので
す。これにより、自分ではないと否認できないのです。
 以上の「ハッシュ値」と「公開鍵暗号方式」と「共通鍵暗号方
式」は、暗号の3つの基礎技術といわれています。
        ─── [ビットコインについて考える/25]

≪画像および関連情報≫
 ●電子署名フレームワークの提案/高田直有幸氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2001年4月1日に施行された電子署名法によって、電子
  署名には、民事訴訟法における押印や手書き署名と同等の効
  がもたらされた。しかし、現在の電子署名の基盤となってい
  るPKIには、署名鍵の不正使用に起因する「なりすまし」
  や「署名行為に対する否認」といった脅威があることも否定
  できない。我々は、こうした脅威を回避するための要件とし
  て、@バイオメトリック認証などを利用し署名時に確実に本
  人確認を行なうことだけではなく、A本人確認の事実を証拠
  として署名検証者に伝達すること、B本人確認の事実は事後
  的に検証可能とすること、が重要であると考え、電子署名フ
  レームワークの検討を行っている。その成果として、例えば
  認証手段や認証装置のセキュリティレベルといった、署名者
  の本人確認に関係する情報の記述を可能とした電子署名フォ
  ーマットを考案し、関連する学会、業界団体に対して提案を
  行った。提案フォーマットは電子署名データの標準的なフォ
  ーマットであるRFC3852・CMS署名データタイプに
  準拠しており、既存の電子署名基盤との親和性が高いことも
  特徴となっている。本稿では我々が提案する電子署名フォー
  マットおよびフレームワークを紹介するとともに、実装上の
  課題を述べる。          http://bit.ly/Z3lvTY
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/http://nkbp.jp/1pCil0g

電子(デジタル)署名における処理.jpg
電子(デジタル)署名における処理
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2014年10月08日

●「ビットコインは預金通貨といえる」(EJ第3891号)

 ビットコインは果たして「通貨」でしょうか。通貨というと、
一般的には「法貨」(法定通貨)イコール通貨と考える人が多い
ようです。法貨とは、法律によって強制通用力が与えられたもの
であり、次の2つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1. 日銀券
           2.政府貨幣
―――――――――――――――――――――――――――――
 この「日銀券」と「政府貨幣」は、合わせて「現金通貨」と呼
ばれています。政府貨幣というのは、硬貨(1円、5円、10円
50円、100円、500円)のことです。硬貨は日銀ではなく
政府が発行しているのです。
 これと合わせて、「支払い」と「決済」の違いについても知っ
ておく必要があります。
 「支払い」というのは、現金、小切手、手形などを相手に渡す
ことをいいます。これに対して「決済」は、貸し借りなどの関係
を終わらせることをいうのです。
 現金での買い物は、支払いと決済は同時に行われますが、クレ
ジットカードで支払った場合は、預金口座から引き落としされる
までは、支払いは終わっても決済は終わっていないのです。
 「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」というのがあり
ます。この法律による通貨の定義は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  通貨とは、貨幣及び日本銀行が発行する銀行券等をいう
  ──「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この法律では「現金通貨」が通貨とされていますが、クレジッ
トカードや電子マネーが普及している現在、支払いや決済手段に
使われる現金通貨は激減しています。ここで重要になってくるの
が「預金」です。預金とは、銀行など、預金取り扱い機関に預け
られたお金のことですが、これは分類上は通貨ではないのです。
しかし、「預金」という言葉の英語訳は「bank money」であり、
これもれっきとした通貨のはずです。実際に「預金通貨」という
言葉もあるのです。
 「預金通貨」と呼ばれるのは、預金のうち、流動性の高い預金
(要求払預金)のことであり、支払い要求のあったときは支払わ
れる預金のことです。当座預金、普通預金、通知預金、別段預金
納税準備預金などがそれに該当します。
 2014年2月現在では、現金通貨は81.5 兆円、預金通貨
は492.2 兆円ですから、預金通貨は現金通貨の約6倍もある
のです。したがって、預金通貨は現金よりも決済手段として頻繁
に使われるのです。
 AとBが同一銀行に預金を持っているとします。Aが何かの決
済のためにBに送金するとします。その場合は、支払額だけAの
預金残高が減り、その分だけBの預金残高を増やす処理を行えば
よいのです。もちろん、同一銀行でなくても、相互に提携してい
る銀行同士であれば、同じことができます。
 この場合、重要なことは、当たり前のことですが、AからBへ
実際に現金が送金されるわけではないことです。預金の振り替え
をするだけです。この決済方式は、現代社会では銀行を通じての
送金の主要な手段になっています。しかも、これによって銀行は
割高な手数料が稼げるのです。
 このように考えると、ビットコインは預金通貨に非常に近いこ
とがわかります。いや、それどころではない。ビットコインであ
れば、同じ方法で世界中に振り替え送金ができるからです。しか
も送金手数料はほとんど無料でそれができるのです。
 これに関して、野口悠紀雄氏は、次のようにビットコインの仕
組みを絶賛しています。なお、野口教授は、ビットコインを「仮
想通貨」と呼んでいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインの保有を示す情報は、送金者から受取人に送られ
 るわけではない。「ブロックチェーン」と呼ばれる記録簿に、
 その取引が記載されるだけである。この仕組みを初めて聞いた
 ときには、その斬新さに驚く。しかし、実は500年も前(見
 方によってはもっと前)に発明されたものなのだ。ビットコイ
 ンは「仮想通貨」であると言われる。しかし、貨幣が「仮想」
 であるというのは、すでにこのときからのことなのである。
            ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインにも若干の手数料がかかります。しかし、金額の
低い送金にのみかかるのですが、それは次のようにきわめて微々
たるものものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    @0.01BTC(約5ドル)以上の取引
     ──→ 送信コストは無料
    Aそれ以下の取引
     ──→ 0.0001BTC(約0.5セント)
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見るとわかるように、金額の大きいほど送金は無料なの
です。しかも、国境を越えて世界中に送金できるのです。ビット
コインは国際送金に強いといえます。
 しかし、日本ではビットコインはほとんど使われてはいないの
です。現在、ビットコインを受け付けるリアル店舗は、全世界で
約4000ありますが、日本ではたったの26です。これは韓国
の32、台湾の30よりも少ないのです。米国の602分の1で
しかないのです。
 ほとんどの日本人がビットコインは終わったと間違って考えて
いるのです。ITの利用に弱い日本を象徴していると思います。
        ─── [ビットコインについて考える/26]

≪画像および関連情報≫
 ●実生活でのビットコインの使用実験/2014年2月時点
  ―――――――――――――――――――――――――――
  インターネットの規制されていない弱点の深部にある秘密の
  仮想通貨とでも言うべきビットコイン。このビットコインは
  匿名性を求める犯罪者の間での人気の高さと同じくらい、変
  動の激しい相場についてもしばしばニュースになっている。
  これだけでも大半の人々が避けるのに十分な理由だろう。し
  かし、ビットコインは合法的な日常の商品の支払い方法とし
  てますます多くの場所で利用されている。したがって私はこ
  の仮想通貨を1週間使ってみて、その経験に驚いた。ビット
  コインの使用は匿名でもなければなぞに包まれてもいなかっ
  た。私がビットコインを使える所を探してみたところ、いか
  がわしいマッサージパーラーも見つかったが、インターネッ
  トのうさんくさい奥まった場所に、足を踏み入れる必要はな
  かった。私は近くの店でカップケーキやすしを買うために、
  ビットコインを使用し、米ネット通販会社オーバーストック
  ・ドット・コムでグランピーキャットのスウェットシャツを
  購入した。ビットコインは、クレジットカードやネット決済
  サービスのペイパルに置き換わるところまでは来ていない。
  広範な流通や消費者保護、安定性にも欠ける。また、ハッカ
  ーからのサイバー攻撃で最大の取引所2ヶ所が引き出し停止
  などを経験し、価値が3分の1ほど下がり、ビットコインは
  現在、危機的状況にある。私が実験した1週間の間でも、私
  自身のビットコインの価値は最大7%下落した。
                 http://on.wsj.com/ZlSROg
  ―――――――――――――――――――――――――――

ビットコインのリアル店舗.jpg
ビットコインのリアル店舗
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2014年10月09日

●「ビットコインの送信のメカニズム」(EJ第3892号)

 ビットコインはどのようにして送金するのでしょうか。そのイ
メージについて考えてみます。そのイメージが分かると、ビット
コインの全体像が具体的に把握できると思うからです。
 ビットコインを送金するには、ウォレットを入手する必要があ
ります。ウォレットは自身の「財布」というよりも、銀行口座の
ような存在なのです。これを見るとビットコインの残高もわかり
ますし、そこに入金を受けることができます。
 しかし、ウォレットには鍵のデータがあるだけであり、残高な
どの取引データはすべてブロックチェーンにあるので、そのつど
ブロックチェーンからダウンロードする必要があります。
 AからBへ10BTCを送付する取引を考えてみます。その取
引情報は、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ≪取引情報≫
   ◎Aの取引前BTC残高 ・・・・ 50BTC
   ◎Bへ10BTCを送金
    取引後のBの残高 ・・・・・・ 10BTC
    取引後のAの残高 ・・・・・・ 40BTC
―――――――――――――――――――――――――――――
 このデータは、実はAからBへ送られるのではなく、ビットコ
インの維持ネットワークであるP2Pネットワークに送られるの
です。しかし、P2Pネットワークに送信すると即座にAとBの
ウォレットには上記の取引情報が記録されるのです。
 ただし、送金されたビットコインが第三者に対し使用可能にな
るのは、ビットコイン維持ネットワークで承認される必要がある
のです。これには、約10分程度の時間がかかります。
 もちろん、この取引情報は悪意の第三者から改ざんされたり、
なりすましが起きないよう、送信者の手によって公開鍵暗号方式
を使って暗号化されます。送信者は自分のウォレットから取引情
報をP2Pネットワークに送信すると、自動的に暗号化が行われ
るようになっているのです。つまり、具体的にいうと、以下の処
理が送信のプロセスのなかで自動化されているのです。
 それは、取引情報をハッシュ関数に入れてハッシュ値を求め、
そのハッシュ値をAの秘密鍵で暗号化し、次の3つをP2Pネッ
トワークに送信することになります。つまり、公開鍵暗号方式を
使うのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.    平文/取引情報
        2.      Aの公開鍵
        3.暗号化されたハッシュ値
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記の3つを受け取ったビットコイン維持ネットワークは、取
引情報(平文)をハッシュ関数に入れて、ハッシュ値を計算しま
す。そうして得られたハッシュ値を、送付されてきた暗号化され
たハッシュ値をAの公開鍵で復号化したハッシュ値と照合し、一
致するのを確認します。そして、その取引記録を含むブロック全
体に不正がないかをチェックする特殊な計算(マイニング)を施
し、間違いがないことを確認のうえ、そのブロック全体を承認す
るのです。そして、そのマイニング競争の勝者1人に対しては、
現在は25BTCが報奨金として支払われるのです。
 ビットコインの経済取引で不正を働くことは事実上不可能であ
るといえます。繰り返しになりますが、その理由を述べることに
します。新規のブロックは、次の3つから計算することは、既に
9月26日のEJ第3883号で述べていますが、再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.  直前ブロックのハッシュ値
      2.新ブロックに含まれる取引記録
      3.          ナンス値
―――――――――――――――――――――――――――――
 このなかでわかりにくいのは「ナンス値」です。これは任意の
整数です。これらの3つをハッシュ関数に入れてハッシュ値を求
めるのです。その結果として256桁の0と1の値を得ます。
 注目すべきは、「直前ブロックのハッシュ値」がハッシュ関数
の入力値のひとつになっていることです。こうすることによって
このブロックだけを改ざんしても、直前のブロック、いやさらに
その直前のブロックというように、すべてのブロックのハッシュ
値を変更しないと辻褄が合わなくなります。その計算たるや、ブ
ロックの数が32万個以上もあるので、ほとんど不可能であると
思います。
 それでは、マイニングでは、どのような計算をするのかについ
て述べておきます。上記の3つの数値(直前ブロックのハッシュ
値、新ブロックに含まれる取引記録、ナンス値)をハッシュ関数
に入れて計算した結果が次の数になるナンス値を求めよという計
算です。参考までに解も示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ハッシュ値=00000000000000003a02aa5954023583a4b538
         c916d179789c0106Cdba0ea615
 正解のナンス値=444453493
―――――――――――――――――――――――――――――
 このナンス値の計算は、おそらく数10億通りのパターンがあ
り、膨大な計算が必要になります。そしてこの数値が一致するこ
とは、改ざんやなりすましがないことを示しています。
 なお、ハッシュ値は64ビットになっていますが、これは16
進数です。本来ビットコインのアルゴリズムのSHA─256で
は256桁の0と1になるのですが、長いので、数値を4分の1
に縮めて16進数にしてあります。
 新規ブロックに承認を与える時間は約10分になっていますが
なぜ約10分なのでしょうか。現在のコンピュータの演算能力な
ら10分なのでしょうか。これについては明日のEJで考えるこ
とにします。  ─── [ビットコインについて考える/27]

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコインの『採掘』は儲かるか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ビットコインを『発掘』するのは誰にでもできることです。
  無料で配布されている『発掘プログラム』をコンピュータに
  インストールして、起動するだけ。後はコンピュータが延々
  金脈を見つけるまで計算し続けます。どんな計算をしている
  のかというと、ある条件に合う数字を見つけるために、いろ
  いろと数字を変えて計算するの繰り返しです。また、見つけ
  た数字が条件に合うかどうかは、他の人が簡単にチェックで
  きるようにスマホでさえも計算できるようになっています。
  そんな不思議な数学の問題があるのかと思うかもしれません
  が、例えば、「掛け算した結果が187になる数字の組み合
  わせは?」という問題と似ています(素因数分解ですね)。
  この問題の答えを見つけるには、割り切れる数字を探してい
  くので、数字を変えて何回も何回も割り算を繰り返す必要が
  あります。答えは『11×17』ですが、これが合っている
  かどうかは、掛け算をすればいいだけなので1回の計算で誰
  でもチェックできます。このような問題が、ビットコインの
  『発掘』でも出題されます。ただ、一気に『発掘』されてし
  まうと、世の中にビットコインが溢れてしまって、価値が無
  くなってしまいます。そこで、ビットコインのシステムでは
  10分に1回出題されるようになっていて、先着1名にだけ
  ビットコインが与えられるようになっています。先着1名な
  ので、より速く計算できるコンピュータを利用する方が有利
  になります。これがビットコインの『採掘』競争を激化させ
  ている原因です。         http://bit.ly/1q2truV
  ―――――――――――――――――――――――――――

ビットコイン・マイニングの現場.jpg
ビットコイン・マイニングの現場
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2014年10月10日

●「なぜ『約10分間』が必要なのか」(EJ第3893号)

 ビットコインは、世界中でウォレットのソフトをインストール
しているコンピュータによって構成されるP2Pネットワーク上
で、中本哲史氏の構築したビットコイン・プロトコルにしたがっ
て、システムが自動的に動作しています。
 本稿執筆時点でのウォレットのユーザー数は、約230万人で
あり、それらのコンピュータによってP2Pネットワークが形成
されているのです。
 マイニング──ビットコインの採掘作業は、それに加えてマイ
ニングソフトを入力したコンピュータによって行われるのですが
採掘の困難性を知ってやめたコンピュータも多数あるので、実際
にマイニングに参加しているコンピュータがどのくらいあるのか
はわかっていないのです。
 マイニングという作業が、新規ブロックの記載内容が正しいか
どうかの検証作業であることは何度も述べていますが、ひとつの
ブロックの承認に「10分」という時間をかけているのはどのよ
うな意味があるのでしょうか。
 昨日のEJで述べたように、そのブロックに含まれる取引記録
は承認を受ける前に、送付と同時に実行されるのです。例えば、
「AからBに10BTCを送金する」という内容は、P2Pネッ
トワークへの送信と同時に、Aの残高から10BTC減って、B
の残高が10BTC増える処理が実行されるのです。
 しかし、承認されるまでは、それを第三者に対して使うことは
できないのです。しかも未承認の状態でも相手が了承すれば、他
への送金は可能です。このあたりはビットコインシステムの問題
点といえると思います。
 それでは「10分間」は何のために必要なのでしょうか。
 普通に考えると、コンピュータがブロック内容の正否を調べる
のに要する時間ということになりますが、それは違うのです。こ
の「10分」間は、このシステムの開発者である中本哲史氏がこ
だわっている時間であり、改ざんを防ぐためにはどうしても10
分間が必要であるという前提に立っているのです。
 しかし、計算への参加者が少なかったり、コンピュータの能力
が向上すると、10分かからずに解けてしまうこともあります。
そういうこともあるので、2週間の解答時間の平均を取り、10
分以内のときはそれに応じて問題の難易度を上げ、逆に10分を
超えるときは、難易度を下げるというように、難易度調整が自動
的にできるシステムになっているのです。
 難易度は、ハッシュ関数で演算の結果、得られるハッシュ値の
先頭に並ぶ「0」の数で調整されています。現時点では、0の数
は16個か17個になっています。0の数が多いほど、解答を見
つける時間は長くなります。
 「ビットコインは一種のネズミ講である」と主張する安岡孝一
京都大学准教授は、この「10分」という時間について、次のよ
うに述べています。なお、文中の「A>1」の意味は、ビットコ
インを得るために計算量を投じる魅力が強い状態であることをあ
らわしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインが設計に仕込んでいる10分間という長さは、人
 間の心理において、かなり巧妙な長さだと思える。1分間だと
 ほとんど待たずに次々と結果が出てしまうため、結果に対して
 思いを巡らせる時間がない。60分間だと普通の人間は結果を
 待つことができず、別のことをやりながらになるだろう。10
 分間は勝ち負けに一喜一憂するのに十分な時間であり、A>1
 となるインセンティブが強く働くのである。しかもこれは、勝
 負そのものに対するインセンティブであり、得られる結果に対
 する価値とは無関係に、純粋に勝負そのものに熱中してしまう
 人々が一定数出てくる、という点で注意を要する。
               ──安岡孝一/京都大学准教授
 「ビットコインは計算量理論から見て『無限連鎖講』である」
                  http://nkbp.jp/1saxhbV
―――――――――――――――――――――――――――――
 決済に約10分間かかるということになると、スーパーでの買
い物や、飲食店での支払いなどのように即時決済を必要とされる
取引には一定の制約がかかることになります。しかし、ビットコ
インを預金通貨としてとらえ、国内・国際送金として使うのであ
れば、10分間の待ち時間は問題にならないといえます。
 ブロックの計算に要する10分間を前提としてビットコイン・
プロトコルは設計されています。
 ビットコインの採掘の本質は、通貨の発行そのものです。20
09年1月3日当初は、10分ごとにトップの正解者には50B
TCが発行されています。しかし、21万回(約1458日)発
行した時点で、半分の25BTCに減少しています。そして、次
の21万回が終わると、10分ごとに12.5 BTC、さらに次
の21万回終了後は6.25 BTC、以下、3.12 BTCとい
うようにビットコインの発行量は減少し、その総量が2100万
BTCに達すると、それ以上発行されることはないのです。
 問題は、ビットコインを発行するために必要な計算量がこのま
までは、ますます増加する傾向にあります。これに関して、安岡
孝一准教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 新規に発行された通貨1BTCを得るために、必要な計算量を
 考えてみよう。たとえパズルの難易度が変わらないとしても、
 約1458日(21万回)発行するごとに発行単位が半減する
 から1BTCを得るために必要な計算量は約1458日、ざっ
 と4年で倍に増加する。それ以降、8年で4倍、12年で8倍
 16年で16倍、20年で32倍、24年で64倍、とスピー
 ドは遅いものの、指数関数的に増加していく。
             ──安岡孝一准教授の前掲論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
        ─── [ビットコインについて考える/28]

≪画像および関連情報≫
 ●紙と鉛筆でマイニングに挑戦/動画あり
  ―――――――――――――――――――――――――――
  仮想通貨ビットコインはPCや専門ハードウェアを使って計
  算することで新しいビットコインを生み出せます。このビッ
  トコインを発掘する行為は「マイニング」と呼ばれ、ハイス
  ペックなマシンと膨大な時間が必要となっているのですが、
  そのマイニングに「紙」と「鉛筆」と「頭脳」だけで挑む強
  者が現れました。ビットコイン決済ではすべてのビットコイ
  ンのやりとり(取引)は、「ブロック」という単位で管理され
  ており、このブロックとブロックをつないだ「ブロックチェ
  ーン」と呼ばれる「帳簿」に記載されています。マイニング
  ではブロックとブロックをつなぐために「ハッシュ値」と呼
  ばれる値を計算しており、この計算によって取引の正当性・
  公正が担保されています。そして、ハッシュ値を計算するの
  に必要なエネルギーはマイニングする人(マイナー)から提供
  され、マイナーにはエネルギーを提供した対価として新しく
  「発掘」されるビットコインが与えられるというメカニズム
  で運営されています。マイニングはすでに素人が手出しでき
  る次元を超え、軍拡競争のごとくマシンの性能アップ競争が
  繰り広げられた結果、マイニング専用チップを搭載したハイ
  スペックマシンが必須となっているのですが、ケン・シュリ
  ッフ氏は「紙」と「鉛筆」と「頭脳」を使って人力によるハ
  ッシュ値計算に挑んだ様子をブログで公開しています。
                   http://bit.ly/ZdlFZ1
  ―――――――――――――――――――――――――――

安岡孝一京都大学准教授.jpg
安岡 孝一京都大学准教授
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2014年10月14日

●「ビットコインへの2つの攻撃手法」(EJ第3894号)

 ここまでビットコインの仕組みに重点を置いて解説してきてい
ますが、この基本メカニズムにおいてデータを改ざんしたり、別
人になりすまして不正を働く余地は相当腕の良いハッカーでも無
理であると考えられます。
 そのため、システムの外である取引所や、ビットコインの利用
者のウォレットに攻撃を仕掛けて不正を行うハッカーが登場して
います。その攻撃手法には次の2つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.取引所のログイン情報を盗み出し、ユーザーのビットコ
   インを根こそぎ奪取する
 2.ウォレットやマイニングの偽ソフトを使い、ユーザーの
   ビットコインを奪取する
―――――――――――――――――――――――――――――
 マウントゴックスの破綻は「1」のケースです。このほかオー
ストラリアの取引所も同様に被害にあっています。マウントゴッ
クスの場合は、おそらくマウントゴックスが顧客のビットコイン
を管理していたと思われるウォレットの「秘密鍵」が漏洩したの
が原因ではないかと考えられます。
 これに関して、ビットコインに詳しい大石哲之氏は、マウント
ゴックスのセキュリティについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 取引所のように大量のビットコインを扱う場合は必ずその大半
 を外部からアクセスできない、ネットワークから切り離された
 「コールド・ストレージ」に分散して保管するもの。ハッカー
 たちが取引所を狙っているのは公然の事実ですから、それが当
 然あるべきリスク管理です。ところが、マウントゴックスの場
 合は顧客から預かっていたほとんどのビットコインを紛失して
 います。それが意味するところは、引き出しシステムが自動的
 にアクセスできるオンライン上の1つの「プール」で、すべて
 のビットインを管理していたという事実です。仮に秘密鍵まで
 漏洩していたのだとしたら、信じられないほど、ずさんな管理
 体制だったといえるでしょう。       ──大石哲之氏
                  ──高城泰著/扶桑社刊
    「ヤバイお金/ビットコインから始まる真のIT革命」
―――――――――――――――――――――――――――――
 取引所が狙われたのは、そこには大量のビットコインが集まる
からです。ましてマウントゴックスは世界で最大の取引所であっ
たので、狙われて当然であり、そのセキュリティに問題があった
とすれば、とんでもないことです。
 しかし、取引所のセキュリティが厳しくなると、今度はビット
コインのユーザーが狙われます。これが「2」です。ビットコイ
ンには、中央銀行のような管理主体がないので、ユーザーは自分
のビットコインを自分で管理しなければならないのです。
 とくにセキュリティを厳重にすべきなのは、ウォレットの管理
なのです。既に述べたように、ウォレットには「公開鍵」と「秘
密鍵」という2つの鍵があります。秘密鍵から公開鍵が生成され
その公開鍵をハッシュ関数を入れると、ウォレットIDができ上
がるのです。したがって、秘密鍵をいかにして外部の攻撃から守
るかが、セキュリティのポイントになります。
 しかし、ビットコインの仕組みがよくわかっていない人がビッ
トコインを扱うのは多くのリスクがあります。そういう意味でも
仕組みをしっかりあたまに入れる必要があります。
 秘密鍵の管理に関しては、9月4日のEJ第3869号で書い
ているので、参照していただきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
      2014年9月4日付/EJ第3869号
        「ペーパーウォレットで守る秘密鍵」
               http://bit.ly/WcuYGW
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本では、マウントゴックスの破綻がビットコインのシステム
の破綻であると勘違いしている人が多く、世界で最もビットコイ
ンに関心の薄い国になっています。しかし、マウントゴックスの
破綻は、システムの外である「1」の破綻なのです。
 もちろん顧客のビットコインを扱う取引所は、セキュリティを
もっと厳重にしてもらう必要はありますが、取引所が攻撃された
からといって、ビットコインのシステム自体がだめになったわけ
ではないのです。
 米国のビジネス・インサイダー誌では、「世界に大変革をもた
らすかもしれない10のテクノロジー」という企画を毎年行って
います。その2014年版が今年の6月に発表されたのですが、
10のテクノロジーの1つに「デジタル通貨」という表現でビッ
トコインが取り上げられています。ビットコインの仕組みが従来
の金融システムの変革をもたらす可能性を指摘しているのです。
 参考までに、10のテクノロジーと「デジタル通貨」に付けら
れているコメントをご紹介しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.4Dプリント          6.エネルギー貯蔵
 2.インターネットバンキング    7.免疫療法
 3.デジタル通貨          8.保険の証券化
 4.デジタルマーケティング     9.精密農業
 5.電気自動車          10.産業ロボット
 『デジタル通貨』のコメント
 少し前に「ビットコイン」のニュースが流れていたのを覚え
 ているだろうか。「ビットコイン」に将来を見出し大きな投
 資をしていた人からすれば爆発的な打撃であっただろうが、
 それでもアイチューンズカードなどを考えてみると、デジタ
 ル通貨の利便性や需要、大きなポテンシャルを秘めていると
 考えられる。           http://bit.ly/1t0sAm4
―――――――――――――――――――――――――――――
        ─── [ビットコインについて考える/29]

≪画像および関連情報≫
 ●マウントゴックス破綻後の疑惑/東洋経済記者/福田淳氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  取材で新たな事実が明らかになった。2014年3月11日
  付けで東京地裁に対し、倒産後のマウントゴックスの動向が
  不可解だとして、債権者の代理人から「上申書」なるものが
  提出されたのだ。上申書の中には、ビットコインの取引履歴
  を示す「COINSIGHT(コインサイト)」 というウェブサイト
  の資料が添付され、3月7日〜10日にかけて、マウントゴ
  ックスで少なくとも53万ビットコイン、(約300億円相
  当)の取引の形跡があったと表示されている。これについて
  「再生債務者(マウントゴックス)の代表者のカルプレス氏
  らビットコイン交換所への特別なアクセス権を有する者以外
  がなし得ないはずの、大量のビットコインの引出しに関する
  リクエストが行われております」と書かれている。「特別な
  アクセス権を有する者以外がなし得ない」とするのは、民事
  再生の申請で同社の財産処分が禁じられているほか、ビット
  コイン交換所のアクセスが遮断され、一般ユーザーは取引で
  きない状態にあるからだ。マウントゴックスは経営破綻にあ
  たり、ユーザーと同社自身が保有していた合計約85万ビッ
  トコインについて、「ほぼ全てがなくなっていることが判明
  した」と説明している。そのため、上申書は「消えたはずの
  ものが、どうして取引できるのか」と言いたいわけだ。
                   http://bit.ly/1qPWRRf
  ―――――――――――――――――――――――――――

マウントゴックス代表/ガルブレイス氏.jpg
マウントゴックス代表/ガルブレイス氏
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2014年10月15日

●「預金通貨はどのように誕生したか」(EJ第3895号)

 「ビットコインは預金通貨である」──これについては既に述
べていますが、「預金通貨」についてはもう少し考えてみる必要
があります。そこで預金通貨とは何かを知るために、お金の歴史
を簡単に振り返ってみることにします。
 原始社会では、共同体内で生産される食物や家畜が「お金」と
して利用された時期があったのです。米、小麦、塩、油、布、皮
牛、羊などがそうです。これらを「商品貨幣」と呼んでいます。
しかし、商品貨幣には、時間の経過によってその品質が劣化する
という難点があり、また、家畜は細分化して決済できないので、
少額の取引には不便です。
 そういうわけで、この欠陥を補って登場したのが「金属貨幣」
なのです。はじめは金属ではなく、変わった貝殻であるとか、珍
しい石とかなども使われましたが、その希少性から数量が不足す
るなどの問題もあり、いろいろな金属を貨幣として使うようにな
るのです。
 青銅器時代には、鉄、銅、錫、青銅、金などが重量で価値が決
められたのです。しかし、それらの金属そのものが、お金として
の機能を持ったため、取引のたびに、いちいち重量を計測すると
いう面倒さがあったのです。
 この不便さを救ったのは商人の知恵です。鋳造した商人が一定
の重さを示す刻印を押すようになり、取引のたびにいちいち測る
ことはなく、その数字を数えればよいようになったのです。しか
し、商品に対する信用不安や、金属そのものの純度などについて
疑いや争いが絶えなかったのです。
 やがて時代が進んで、権力が国家というかたちをとるようにな
ると、貴族や豪族や国王などの権力者が国を治めるようになると
国家として金属貨幣を作り、その純度と重量を保証する刻印を押
すようになったのです。これが「鋳造貨幣」すなわち、コインな
のです。
 お金がコインのような鋳造貨幣のかたちになると、価値尺度が
強化され、お金を貯蔵することができるようになったのです。こ
れについて、大手銀行の出身で長年金融市場関連部門でのキャリ
アが豊富な安西正鷹氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 金属はお金としてのみならず、それ自体に価値があるうえ、腐
 ったり使いものにならなくなることはない。自然界に存在する
 物質はみな、時間の経過とともに劣化する。とりわけ穀物や野
 菜、魚や肉といった食料品は保存がきかず、すぐ劣化してしま
 う。貝殻も使用し続けているうちに摩耗して、やがて当初の価
 値を維持することが困難となる。一方、金属の場合は、劣化が
 非常にゆっくりと進行するため、長期間お金として使うことが
 できる。特に金は熱、湿気、酸素など、ほとんどの化学的腐食
 に対して非常に強い。自分の持つ品物を交換する相手方を見つ
 けるまでの時間的余裕だけでなく、物理的・心理的な余裕もで
 きる。一時的なつなぎ決済手段として鋳造貨幣を用いるのであ
 れば、これほど便利なものはない。     ──安西正鷹著
 「国際金融資本がひた隠しに隠す/お金の秘密」/成甲書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本におけるはじめての公的な鋳造貨幣は、「和同開珎(わど
うかいちん)」であるといわれています。708年に現在の秩父
地域で初めて銅が産出されたことから、当時の政府は元号を「和
銅」に改めるとともに、この年に貨幣の鋳造をはじめたのです。
 鋳造貨幣──とくに金貨の時代は、18世紀から19世紀にか
けてきわめて長い期間にわたって、他の形態の貨幣と並んで使わ
れたのです。そして、「預証貨幣」、すなわち現在の預金通貨の
前身が登場することになるのです。
 鋳造貨幣になってからは、国のリーダーたちは、財政資金が必
要になると、専門的な技術を持つ者たちに命じて悪貨を鋳造させ
たのです。悪貨とは混ぜ物の多い貨幣です。貨幣を国民から定期
的に回収し、金属を削り取ったり、他の金属と混ぜたりして貨幣
の数を増やし、国民に返却することもしたのです。こういうこと
をするエンジニアは、金細工師と呼ばれていたのです。
 現代では、国が多くの財政資金を必要とする場合、国債を発行
してそれを売るか、あるいは、中央銀行がその国債を直接引き受
けることによって資金集めをしますが、これと基本的に同じこと
です。これは、「国債の貨幣化」などと呼ばれます。
 鋳造貨幣の時代になると、貨幣が劣化しないので、それを多く
貯め込む富裕層が増えてきたのです。とくに貨幣の発行権を握る
国王の側近などのお金に日常接する人たちは、貨幣に対する執着
が強くなり、お金を大量に貯め込もうとしたのです。
 そういう富裕層は、自分が保有している貨幣が強盗などに遭っ
て、それを喪失してしまうのではないかと不安に思う者が増加し
たのです。いわゆる「金持ちの悩み」です。
 「ドン・キホーテ」の作者であるスペインの文豪セルバンテス
は、こういう「金持ちの悩み」について、次のような味わい深い
言葉を遺しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 金貨は心労をもたらすが、金貨の欠如もまた然りである。しか
 しながら、後者の場合の心労はある程度の金額を手にすれば軽
 減できるが、前者のそれは、多く持てば持つほどいっそう募る
 という点に違いがある。       ──文豪セルバンテス
                ──安西正鷹著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう「金持ちの悩み」というニーズに対応するために現れ
たのが英国の「金匠」──ゴールドスミスなのです。もともとゴ
ールドスミスとは、17世紀において、英国のロンドンで両替商
を営む金細工師であったのですが、しだいに貨幣、貴金属の保管
から貸出し業務を行うようになったのです。そしてこの金匠は、
まさに現代の銀行の前身になっていくのです。
        ─── [ビットコインについて考える/30]

≪画像および関連情報≫
 ●「銀行券」の発展を見る/林 紘義氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  現代の通貨は紙券である、すなわち内在的な価値をもつ貨幣
  (鋳貨等々)ではなく、“銀行券”である。しかも単なる銀
  行券ではなく、中央銀行券である。それは確かに直接に紙幣
  ではないが、紙幣と同様に減価し、インフレをもたらすので
  あり、もたらしてきた。銀行券とは何であり、そしていかに
  して、銀行券は現代におけるほとんど唯一の“通貨”となっ
  たのであろうか、またなり得たのであろうか。それを明らか
  にし、またさらに中央銀行券が通貨となっている、現代資本
  主義の頽廃した本性の一端を暴露する。もちろん、現代の中
  央銀行券は、かつての(本来の)銀行券とはある意味で全く
  別のものであり、十八、九世紀にもっていた、信用貨幣とし
  ての性格はほとんど失われているといっていい。むしろ、そ
  れは実際には一種の紙幣であるといった方がはるかに真実に
  近いのである。しかしにもかかわらず、それは直接に紙幣で
  はなく、銀行券の母斑を引きずっているのであり、それがま
  た現代の中央銀行券の本性――事実上の紙幣であること――
  を見抜くことを困難にしているのである。現代の通貨つまり
  中央銀行券と、その本性を確認するには、銀行券の性格とそ
  の“発展”もしくは、“進化”の歴史を知らなくてはならな
  い。すなわち、いかにして、商業信用の発展の中で生まれた
  銀行券が、中央銀行券に成長し、さらにそれが事実上の紙幣
  にまで転化してきたかを知らなくてはならないのである。
                   http://bit.ly/1qdUCDX
  ―――――――――――――――――――――――――――

安西正鷹氏の本.jpg
安西 正鷹氏の本
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2014年10月16日

●「金匠手形という名前の通貨の流通」(EJ第3896号)

 金貨が中心の鋳造貨幣の時代における資産家が頼りにしたのが
「金匠」なのです。金匠はもともとは金細工師であり、鋳造貨幣
の真贋の見極めができる専門家です。それに、金匠自身が多くの
金貨を持つ資産家であったのです。
 そういう金匠の家には、商売柄頑丈で大きな金庫があったので
す。そこで金匠は、資産家から金貨を預かり、保管料を取るビジ
ネスを考えたのです。
 金匠は資産家から金貨を預かると、その預かり証(預証)を発
行し、金貨が必要になったとき、その預証と引き換えに金貨を返
却したのです。しかし、一度金匠に金貨を預けた資産家は、めっ
たにそれを引き出すことはなかったのです。
 これに関して経済学者のジョン・ガルブレイズは、次のような
言葉で資産家たちの気持ちを伝えています。預金の本質を見事に
表現している言葉です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 人々は、引き出すことができるとわかっている限り、もはや
 引き出すことを欲しない。   ──ジョン・ガルブレイズ
                      ──安西正鷹著
 「国際金融資本がひた隠しに隠す/お金の秘密」/成甲書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 当時金匠は地位も名誉もある資産家であり、信用が絶大だった
のです。そういう状況の下で、ある経済取引で、取引相手に金貨
を支払うさい、いちいち金匠から金貨を引き出して支払わなくて
も、預証の名義を書き換えて、それをもって支払いを済ます方が
便利であり、安全であると考えるようになったのです。それは、
預証という紙切れが金貨に代わる紙幣としての機能を持つように
なったことを物語っています。
 この預証の名義書き換えを依頼する紙──つまり、金貨を預け
た人が自分に代わって金貨を支払うことを依頼する金匠宛の紙は
「金匠宛手形」というのです。これは「預証紙幣」と呼ばれ、現
代でも支払い手段として流通している「小切手」の原型になった
のです。
 この金匠宛手形は、本物の金貨といつでも交換できるので、そ
れは金貨と同等の価値を持つという認識が共有されるようになる
と、金匠宛手形は決済手段として、ごく当たり前のように使われ
るようになっていったのです。
 金匠の立場に立って考えてみます。金庫には資産家から預かっ
た大量の金貨があるのです。それらの金貨は保管料を徴収して預
かっているだけなので、預証を持ってくれば引き出しに応ずるこ
とになります。しかし、それはせいぜい全体の10〜15%程度
に過ぎず、ほとんどが金庫のなかに眠っているだけです。なぜな
ら、当時金匠に金貨を預けるのは資産家だけであり、めったに引
き出すことはなかったからです。
 「この金貨を眠らせておくのはもったいない。これを貸し出せ
ば、大儲けができる」──このように金匠が考えても不思議はな
かったのです。しかし、これは他人の金貨を無断で貸し出すこと
になるので、犯罪行為です。
 そのため、最初は慎重だったのです。貸出期間はできる限り短
期にして、万一の貸し倒れのことも考えて、高い金利を取り、貸
出額は、損失の埋め合わせのできる範囲にとどめたのです。しか
し、それがうまくいくようになると、金匠は大胆になり、資産家
から預かった金貨のほとんどを貸し出すようになります。
 しかも金匠はそこに巧妙な仕掛けを施したのです。貸し出した
金貨は、そのほとんどが保管を委託されるかたちで再び金匠の金
庫に戻ってきたのです。金貨での取引は持ち運びが不便であり、
つねにリスクが伴うからです。
 そのため、貸し出しと同時に金貨を再び預かることにして、預
証を発行したのです。この預証を「金匠手形」というのです。こ
うすれば、預かっている金貨は、預かった当初と変わらないまま
その預証である金匠手形は何倍も発行できるのです。もし、突然
の払い戻し要求があっても、それが同時に何件も連鎖して起きる
可能性は低いので、金匠は払い戻しに何食わぬ顔で応ずることが
できるのです。
 さて、「金匠宛手形」と「金匠手形」の違いがわかるでしょう
か。その違いを整理すると、次のようになるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     金匠宛手形 ・・・ 顧客が金匠宛に発行
     金匠 手形 ・・・ 金匠が顧客宛に発行
―――――――――――――――――――――――――――――
 話が複雑なのですが、金匠が銀行、預かっている金貨が金本位
制時代の金、金匠手形が紙幣と考えると、この2つの関係がよく
わかると思います。この金匠宛手形と金匠手形の関係について、
安西正鷹氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 借手がお金を借りる際に受け取るのは金貨ではなく、金匠手形
 だった。しかし、このようなトリックで発行されたものであれ
 ば、それは金貨との兌換を確実に保証するものではなくなる。
 「確実に戻ってくる」ということと、「戻ってくる可能性があ
 る」こととは似て非なるものである。しかし、借手は金貨その
 ものを借り受けたかのような錯覚に陥り、すんなり受け入れて
 しまう。このようなごまかしは貸手方の金匠の信用が高い(と
 思わせている)からこそ可能なのだ。こうなると、金匠には怖
 いものはなく、やりたい放題になる。
                ──安西正鷹著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 金匠は気が付いたのです。より多く儲けるためには、預金者を
増やせばよい──そのためには、保管のための手数料を取るので
はなく、逆に利子を与えて預金量の獲得に全力を挙げる。この巧
妙な手法のことを「信用創造」というのです。
        ─── [ビットコインについて考える/31]

≪画像および関連情報≫
 ●銀行の本質は「信用創造」と言う名の「詐欺・だまし」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  当時は、紙幣に該当するものは存在せず、商品取引は金貨を
  通して行われていた。しかし、金貨は重く扱いにくく危険性
  が高い。そこで権力者や商人は金庫を保有している金匠(金
  細工業)や両替商に金貨を預け、その預かり証を受取り、そ
  れを保管するようになった。商品の代金を払うときには、預
  かり証を金貨に換えて相手に支払う。その相手は、受け取っ
  た金貨を同じように金匠に預けて預かり証をもらうことにな
  る。同じ町ならば、預ける金匠が同じである確率が高く、そ
  の場合、預かり証を渡しても結果として同じになる。そうす
  るうちに、預かり証が金匠に戻らず人々の間を流通するよう
  になり、むしろ金貨より預かり証での支払いが一般的になっ
  てくる。この預かり証を金匠手形と呼んだ。この金匠手形は
  銀行券(紙幣)の原型であるが、金匠ごとにその書式は違っ
  ており、今日の通貨のように統一されたものではなかった。
  金貨より金匠手形での支払いが一般的になると(預けた金貨
  を交換に来る人は少ないので)、金匠は預かった金貨を貸す
  ことによって儲けることができるのに気づき、金貨を利子付
  きで貸し出すことを始める。金貨を貸し出すことによって貨
  幣量は当然増える。預かった100の金貨の内90を貸し出
  したとすれば、流通している貨幣は、金匠手形100と金貨
  90で合計190となる。このことは、金匠手形の総額に相
  当する金貨の現物が存在していない=”架空のお金”が創造
  されることを意味する。      http://bit.ly/ZWmk21
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジョン・ガルブレイス.jpg
ジョン・ガルブレイス
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2014年10月17日

●「銀行送金制度は大きく改革される」(EJ第3897号)

 「金匠手形」には、そこに記載されている名宛人──金貨を支
払う相手と、その名前の下に「または持参人」という文字が書か
れています。これによって、その金匠手形を金匠に持っていく人
であれば、誰でも金貨が受け取れることになります。
 そうであるとすると、金匠手形は人から人へ転々流通すること
になります。これによって金匠手形は、現在の銀行券に限りなく
近い存在になります。
 このようにして年数が経つと、金匠は銀行になり、折からの商
工業などの産業の発展によってお金の需要はますます増大し、銀
行の数は続々と増えて行ったのです。銀行はこぞって多くの預金
を集め、その大半を貸し出すことによって、産業の発展を加速さ
せることに貢献したのです。このような経過について、安西正鷹
氏は自著で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 西欧諸国では資本主義の発展とともに多くの銀行が誕生した。
 どの銀行も預証として「銀行券」を発行するようになり、それ
 はしだいに「お金」として社会の中で受け入れられていった。
 こうして銀行が発行する預証がお金に変わっていくと、ひとつ
 の問題が浮き彫りになってくる。これまでのように国家がお金
 をコントロールすることができなくなったのである。そこで、
 政府と銀行との間でひとつの取引がなされた。銀行は政府がお
 金を必要とする時は必ず供給する一方、銀行がお金を発行して
 管理する権利を得るというものだった。   ──安西正鷹著
 「国際金融資本がひた隠しに隠す/お金の秘密」/成甲書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、通貨発行権を持つ銀行が増え過ぎた結果、中央銀行が
登場し、19世紀後半から通貨発行権は中央銀行だけが持つ現在
のスタイルになったのです。
 ここで考えてみるべきことがあります。それは、金匠の発行す
る「預証」とは何かということです。ここには金貨をいつ預かっ
て、取引によって残高がどのように変化し、現在の残高はいくら
あるかの情報が記載されています。つまり、預証は取引の情報の
記録簿です。これは、ビットコインの「ブロックチェーン」と同
じです。預金通貨というマネーは情報であるといえます。
 銀行は預金者ごとにお金を保管しているのではないのです。預
金された現金は、まとめて金庫に保管されています。そして個人
ごとの預金残高を示す帳簿(預金口座元帳)が用意されており、
預金や引き出しの要求があれば、それらは預金口座元帳に反映さ
れることになります。
 AとBが同一銀行内に預金を持っている場合、AからBへ送金
するときは、Aの預金残高を減らし、Bの預金残高をその分増や
し、送金の記録を残すだけです。現在では、銀行はオンライン化
されているので、AとBが別々の銀行に預金口座を持っていても
同じことができます。これは「振込」と呼ばれます。自分の管理
する預金口座の間で資金を移し変える取引は「振替」といい、区
別されています。
 中世イタリアの都市国家では、両替商間でこれと同じ送金がで
きたのです。野口悠紀雄氏は、14世紀以前の銀行について、次
のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 14世紀以前の銀行とは、街頭にテーブルを置いてベンチに腰
 かけて行なう、屋台のような存在にすぎなかった。そうではあ
 っても、ここで生じた右の変化は重要だ。貨幣はモノから情報
 になったのである。テーブルの上に金貨を並べる必要はない。
 帳簿さえあればよい。預金元帳がすべてだ。金貨や銀貨は、モ
 ノに化体されている。しかし預金通貨は銀行に記録された「情
 報」なのである。預金の口座元帳こそが、個人の預金残高を保
 証するものだ。「預金の振り替えによって送金を行なう」とい
 う方式は、現代の社会で銀行を通じる送金の主要な手段になっ
 ている。ビットコインも、その方式を受け継いでいる。
            ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
 「振込」は、コンピュータのない時代には、両当事者が銀行に
出向いて口頭で伝えていたそうです。しかし、口頭よりも文書に
すべきだという意見が出て、そのための手段として登場してきた
のが「小切手」です。
 現在では銀行が交付する小切手用紙を使うことになっています
が、法的には必要な要件がすべて記載されていれば、どんな紙に
書いてもよかったのです。
 もともと「振込」は、同一銀行の預金口座間でしかできなかっ
たのです。現在、銀行──とくに日本の銀行はかなり早くからオ
ンライン化されていたので、送金者と受取人が別の銀行に口座が
あっても問題なくできますが、オンライン化される前は主として
小切手が使われていたのです。
 米国では、州境を越えた銀行営業が禁止されていたので、大規
模銀行が生まれず、統一的オンライン化は遅れたのです。その代
わり、スーパーマーケットでの買い物、家賃の支払いなどの決済
には小切手が使われたのです。
 ただし、銀行を使う送金は、当然のことながら、手数料がかか
ります。とくに他行宛に送る場合、なかり割高になります。ある
大手銀行の場合、3万円未満はATMは270円、窓口は648
円、3万円以上はATMは432円、窓口は864円です。した
がって、利益率が手数料率よりも低いビジネスは成立しないこと
になります。これは大きな制約です。
 しかし、ビットコインの場合、5ドル以上の取引については送
金料は無料です。それ以外の取引でも0.0001 BTCしかか
からない。約0.5 セントで済んでしまいます。これはとてつも
なく大きな意味を持ちます。今後銀行送金は大きく改革される可
性があります。──── [ビットコインについて考える/32]

≪画像および関連情報≫
 ●銀行送金時間帯拡大へ/全銀協検討「24時間化」へ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  全国銀行協会(全銀協)が、銀行や信用金庫などで当日中に
  送金ができる時間帯を広げる方針を固めたことが10日、分
  かった。金融機関同士がお金をやりとりしているシステムの
  稼働時間を延長する。振り込みができる時間を平日の午後4
  時まで一時間延長するか、段階的に24時間化を目指すかは
  検討を続け、12月をめどに結論を出す。早ければ2015
  年度中にも開始する。実現すれば、仕事が終わった後に銀行
  やインターネットで送金できるなど利用者は便利になる。た
  だシステムを変更する場合には多額の費用が必要で、規模の
  小さな金融機関には経営の重荷となる可能性がある。全国の
  銀行や信用金庫などは、資金決済に全国銀行データ通信シス
  テム(全銀システム)を使用。現在、即時決済ができるのは
  平日の午前8時半から午後3時半までに限られている。他行
  にお金を振り込む際、平日の午後3時までに手続きすれば当
  日中に入金されるが、午後3時以降や土、日曜、祝日に振り
  込めば、入金は翌営業日になる。政府・与党は成長戦略の一
  環として、銀行業界に経済の重要なインフラである金融サー
  ビスの向上を求めており、全銀協は検討部会を設置し、時間
  延長が可能か議論していた。全銀協が近く公表する中間報告
  には、休日も含めて24時間決済が可能なシステムを新たに
  構築する案と、簡易的に現行システムの平日の稼働時間を延
  ばす案を盛り込んだ。さらに具体的な議論を進め、年末まで
  に最終報告をまとめる。      http://bit.ly/1oc1xCw
        ──2014年10月10日「東京新聞」夕刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

全国銀行協会の当日送金延長案.jpg
全国銀行協会の当日送金延長案
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2014年10月20日

●「全銀協が送金時間を変更する理由」(EJ第3898号)

 2014年10月17日付の日本経済新聞に、次の見出しの記
事が掲載されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    銀行振り込み便利に/全銀協が時間延長表明
               企業の資金繰り恩恵
     2014年10月17日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在銀行間で振り込みなどの送金ができるのは、平日の午前8
時30分から、午後3時30分までとなっています。したがって
手形の決済などでは、午後3時を過ぎると原則受け付けないとい
う商習慣があります。しかし、具体的には、今回の全銀協の表明
は、次の2つのことを宣言しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.平日午後から夜まで時間延長する
      2.土日祝日も含めて対応可能にする
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」については現行システムでも実施可能ですが、午後の時
間延長は、システムができた1973年以来のことです。「2」
については、それに対応した新システムを構築する必要があり、
銀行にとって巨額のシステム経費がかかります。
 そこまでして、全銀協はなぜこの時期にあえてこの改革を宣言
したのでしょうか。
 まずいえることは、英国やシンガポールでは24時間、365
日送金できる仕組みがあることです。リアルタイム決済は世界の
常識になろうとしているのです。これについて、上記の日本経済
新聞は、その動機について次のように報道しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界的には、米ペイパルやビットコインなど非銀行による決済
 手段が広がりつつある。英国の大手行は相手の携帯電話番号を
 指定するだけで、送金できるサービスを始めた。日本でもネッ
 ト専業のじぶん銀行や楽天銀行が携帯番号やフェイスブックの
 友達に送金できるサービスを手掛けているが、まだ一部だ。平
 野氏(平野信行全銀協会長)は「IT(情報技術)を活用する
 さまざまな事業者との競争を念頭に置く必要がある」と危機感
 を示す。   ──2014年10月17日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 注目すべきは、競合相手に「ペイパル」と「ビットコイン」が
入っていることです。日本の国民は、ビットコインはもう終わっ
たこととして、何ら注目していませんが、銀行はちゃんと意識し
ていることがこの対応でわかります。
 それにしても不思議なのは報道機関のビットコインについての
報道姿勢です。2014年2月のマウントゴックスの破綻以前は
NHKだけを取り上げても、「クローズアップ現代」、「NHK
ニュース7」、「NHKニュース9」などで盛んに報道していた
にもかかわらず、破綻直後の「あんなものは終わった」という麻
生財務相の発言を契機に一切報道をやめてしまったのです。
 そのため日本国民は、「ビットコインは終わったこと」と信じ
ているのか、世界で一番ビットコインに関心の薄い国になってし
まっています。もしビットコインが活性化して一番困るのは金融
機関、とりわけ銀行なので、財務省の意向で報道機関は取り上げ
るのを控えているのでしょうか。それとも密かに財務省からの圧
力があったのでしょうか。
 ところで、上記日本経済新聞が伝えている「ペイパル」とは何
でしょうか。
 「ペイパル」は世界最大規模の海外オークションサイト「イー
・ベイ」の膨大な取引を支える非銀行の決済サービスです。米国
を中心に世界中に広く普及しています。190の国と地域で利用
でき、21通貨に対応しており、2011年2月現在、世界中に
2億2000万アカウントが開設されています。
 「ペイ・パル」による送金の仕組みを簡単に説明すると、こう
なります。準備としては、次の3つが必要です。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.ペイ・パルのアカウントを取得して口座を開設
   2.その口座にクレジットカードの番号を登録する
   3.銀行口座からペイ・パルの口座に対し入金する
―――――――――――――――――――――――――――――
 AからBに送金する場合について考えます。この場合、AとB
の双方がペイ・パル口座を持っており、お互いのメールアドレス
を知っていることが条件になります。
 利用者は送金先のメールアドレスを指定して、ペイ・パル口座
から指定額を送金できます。送金料は無料ですが、受け取る側は
は所定の手数料がかかります。もし、送金者の残高が足りないと
きは、クレジットカードおよび登録している銀行口座から引き落
としされ、送金されるのです。なお、銀行口座からペイ・パル口
座への入金は、米国でのみ利用できるサービスです。しかし、ク
レジットカードを利用しないペイ・パル口座間の送金は、日本国
内でも無料で行うことができます。
 通販サイトで何かを購入する場合、その通販サイトがペイ・パ
ルに対応していれば、利用者にとってこの準備は不要です。ペイ
・パルの決済ページでクレジットカード番号と若干の個人情報の
入力をするだけです。
 今回、全銀協が唐突に銀行振り込みの利便性を高めようとした
のは、ビットコインやペイ・パルなどのIT技術による送金が普
及しつつあることが原因であることは明らかです。とくにビット
コインの場合、匿名で巨額の金額を無料で確実に送金できるので
普及すると、銀行にとって大きな脅威になります。
 しかし、ビットコインに対応しようとすると、税制のしくみを
根本的に改正することが必要です。これには根本的な発想の転換
が不可欠になるのです。
       ──── [ビットコインについて考える/33]

≪画像および関連情報≫
 ●ソフトバンクとペイ・パルが合弁会社設立/2012年5月
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ソフトバンク株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長
  :孫正義、以下「ソフトバンク」)とPayPal (ペイパル、
  本社:米国カリフォルニア州サンノゼ、代表:デイヴィッド
  ・マーカス、以下「ペイパル」)は、本日、日本でデジタル
  決済を推進する合弁会社「PayPal Japan」を設立する計画を
  発表しました。また、米国、カナダ、香港、オーストラリア
  に続いて、日本が、グローバルモバイル決済ソリューション
  「PayPal Here」 の5番目の導入地域となることも発表され
  ました。PayPal Here は、スマートフォンに挿す親指大のカ
  ードリーダーと無料のモバイル・アプリケーションを使って
  クレジットカードや、デビットカード、ペイ・パルによる支
  払いを受け付けできるサービスです。これまでコスト等の問
  題でクレジットカードの導入が難しかった中小規模事業者も
  PayPal Here を利用することで、スマートフォンを使ってい
  つでもどこでもクレジットカードなどの決済を行うことがで
  きます。ペイパルとソフトバンク(または両社の関連会社)
  は、それぞれ10億円(12.5 百万米ドル)ずつ出資し、
  合弁会社への出資合計額は、20億円(25百万米ドル)と
  なります。役員は両社3名ずつ、計6名となり、ソフトバン
  ク側からCEOとして、ソフトバンクモバイル株式会社取締
  役常務執行役員 喜多埜裕明(きたの ひろあき)が就任予定
  です。              http://bit.ly/1wcYius
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/http://nanapi.jp/702/

ペイ・パルでの送金システム.jpg
ペイ・パルでの送金システム
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2014年10月21日

●「お金は『信用』を数値化したもの」(EJ第3899号)

 中本哲史なる謎の人物が作りあげたとされるビットコイン・シ
ステム──2009年1月3日にその中本哲史氏自身によるマイ
ニングによって最初のビットコインが生成されましたが、それか
らの数ヶ月間は単なるゲームのなかの通貨に過ぎず、ビットコイ
ン自体には何の価値もなかったのです。そういうビットコインに
どのようにして値がつけられたのでしょうか。
 2009年10月5日のことです。「ニュー・リバティ・スタ
ンダード」なるサイトが次の値をつけたのです。このサイトは現
在もあるので、URLを示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
       New Liberty Standerd
       1BTC=0.00076 ドル
           http://bit.ly/1FkxsG8
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、このサイトは何を基準として最初の値づけを行った
のでしょうか。それは、次の3つの要素をベースとして、算出し
たものなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪第1要素≫
 高性能なCPUを積んだPCを1年間動かすのに必要な電力量
 ≪第2要素≫
 アメリカ家計の平均的な電気料金
 ≪第3要素≫
 30日間で採掘できたビットコインの量
―――――――――――――――――――――――――――――
 「0.00076 ドル」は、ニュー・リバティ・スタンダード
の運営者が、30日間のビットコインのマイニングに要した電気
料金だったのです。つまり、30日間に要した電気料金をその期
間中に獲得したビットコインの量で割った数値なのです。このは
じめての値づけ以後、ビットコインは需要と供給の関係によって
値が上下するようになったのです。
 ここで通貨、すなわちお金とは何かについてその原点から考え
てみる必要があります。これについては、堀江貴文氏が自著で次
のように書いています。なぜ、堀江貴文氏なのかといえば、堀江
氏こそ中本哲史氏ではないかと巷間話題になったことがあったか
らです。もちろん、本人は否定しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそもお金とは何なのか?
 この問いに対して、僕はいつも次のように答えている。「お金
 とは『信用』を数値化したものである」。抽象的でわかりにく
 い言葉だろう。簡単に説明していきたい。
  たとえば、あなたの財布に入っている一万円札。これは日本
 銀行が国の中央銀行として発行する「日本銀行券」だ。もちろ
 ん印刷物としての原価から考えると、この紙切れにはとても一
 万円分の価値はない。せいぜい数十円程度だろう。それではな
 ぜ、福沢諭吉の肖像画の入った紙切れが一万円分の価値を持つ
 ものとして成り立っているのだろうか。これはひとえに、国や
 日本銀行への「信用」のおかげなのである。国が定めた法定通
 貨だから間違いない、日本銀行が発行しているのだから間違い
 ない、まさか日本国や日本銀行が潰れることはないだろう、と
 いう「信用」だ。つまり、「お金=通貨」とは、価値なきもの
 に信用(クレジット)を付与した「しるし」に過ぎないのであ
 る。もちろん日本国や日本銀行への信用が失われたら、一万円
 札の価値は紙切れ同然になる。       ──堀江貴文著
     『ゼロ/なにもない自分に小さなイチを足していく』
                     ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 堀江氏は重要なことをいっています。「お金とは価値なきもの
に信用を付与した『しるし』に過ぎない」と。ビットコイン・シ
ステムは、その全体のシステムを完全に理解するのは、かなり困
難なことです。経済学者でビットコインに詳しい野口悠紀雄氏は
ビットコインの理解について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインを理解するのは容易ではない。その基礎になって
 いる暗号理論やコンピュータ・サイエンス上の知見は1970
 年以降に発展したもので、まだ一般に馴染みがないからだ。
            ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコイン・システムは、野口氏のいうように理解するのは
困難ですが、システムが緻密に組み立てられており、そこで不正
を働くことが非常に困難なことがわかってくると、ビットコイン
・システムに関して信用が付与されてきます。そうすると、そこ
に自然に価値が生まれてくるのです。
 堀江氏の話を紹介したので、同氏の信用にかかわる興味あるこ
とばをご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 10の信用があれば、100のお金を集めることができる。け
 れども、100のお金を使って10の信用を買うことばできな
 い。特にソーシャルメディアの誕生によって、この流れは一気
 に加速している。以前、「評価経済社会」を唱える評論家の岡
 田斗司夫さんとイベントで対談させていただいたとき、岡田さ
 んはこんなたとえ話をされていた。ツイッターで100万人の
 フォロワーがいる人にとって、1億円の資金を集めることはな
 んらむずかしい話ではない。しかし、どこかの誰かが1億円の
 資金を投じても、決して100万人のフォロワーをつくること
 ばできない、と。お金よりも「信用」が価値を持つ時代は、す
 でにはじまっているのだ。   ──堀江貴文著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
       ──── [ビットコインについて考える/34]

≪画像および関連情報≫
 ●「お金とは何か」/中務たずみ氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「お金とは何か」私はこの問いかけを読んだとき、なぜかは
  っと思った。お金とは何だろうか。私は少しの間、深く考え
  こんでしまった。お金には次のような機能がある。モノやサ
  ービスを「○○円」と表すことによって、あらゆる商品の価
  値を同じ尺度で表すことが可能になる価値尺度。貨幣はどん
  な物にでも交換することができるので、交換が円滑に行われ
  物々交換をしなくてもすむ交換手段。将来の支払いに備えて
  長い間貯めておいても腐ったりせず、いつまでもその価値を
  保ち続けられる貯蔵手段。「ツケ」で商品を買ったときや損
  害賠償の支払いなど、後で貨幣によって支払いを行うことが
  できる支払い手段にもなっている。例えば今、お金をただの
  モノとして考えた場合はどうなるだろうか。1万円札は1枚
  を発行するのに21円かかる。ただのモノとして考えた場合
  1万円札はただの紙切れにすぎない。21円でできるただの
  紙切れ1枚を、私たちは1万円という値打ちをもつものとし
  て使っていることになる。なぜ、紙切れでしかないのに、信
  用されてお金として流通するのだろうか。それは、かつて日
  本が金本位制を採用していたからなのです。金本位制とは、
  一定量の金を貨幣一単位とする貨幣制度で、発行される通貨
  は、金との兌換が約束された兌換紙幣であるため、通貨の発
  行量は金の保有量によって決められていました。しかし19
  31年の金輸出再禁止によって、金本位制から離脱した日本
  は、今日まで続いている管理通貨制度を採用しました。金と
  の兌換が約束された兌換紙幣でなくなり、信用の根拠がなく
  なっている今、紙幣がお金としての役割を果たしているのは
  お金を発行している政府などを信用しているから・・と言わ
  れている。            http://bit.ly/11PBp6r
  ―――――――――――――――――――――――――――

堀江貴文氏.jpg
堀江 貴文氏
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2014年10月22日

●「ビットコインは通貨に該当するか」(EJ第3900号)

 通貨がどのように生まれたかについて考えてみます。通貨のな
いときは、「物々交換」を行っていたのですが、これによる交換
が成立するには、次のように需要と供給の二重の一致が必要にな
るのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.自分が保有していて提供できるものと相手の欲求を満たす
   ものが一致する
 2.自分の欲求を満たすものと相手が保有していて提供できる
   ものが一致する。
                ──吉本佳生/西田宗千佳著
 「暗号が通貨になる『ビットコイン』のからくり/『良貨』に
           なりうる3つの理由」/ブルーバックス
―――――――――――――――――――――――――――――
 添付ファイルをご覧ください。「主体A」は、魚を保有し、芋
を求めています。これに対し「主体B」は、芋を保有しているが
肉を求めており、2つの一致のうち、一つしか一致していないの
です。これでは物々交換は成立しません。しかし、芋を保有し、
魚を求めている人を探すのは容易なことではないのです。しかも
早く見つけないと、魚の鮮度が落ちてしまいます。
 しかし、「主体C」は銀を保有し、魚を求めています。「主体
A」は銀を求めているわけではありませんが、魚の鮮度が落ちな
いうちに取引をする必要があるので、魚と銀を交換することにし
たのです。銀であれば、長く価値を保存できるし、何にでも交換
できるからです。
 銀を手に入れた「主体A」は、「主体B」に対し銀を支払って
肉を手に入れる交渉をまとめたのです。これで「主体A」は目的
を果したことになります。
 さて、芋と銀を交換した「主体C」は、肉を保有している「主
体D」を探し出し、銀と肉を交換する交渉を行い、交渉を成立さ
せたのです。これによって「主体C」は求めていた肉を入手でき
たことになります。
 このように銀であれば、長く価値を保存できるので、受け取っ
てくれる人は多く、これによって物々交換はスムーズに運ぶよう
になったのです。つまり、この場合、銀は通貨に非常に近い機能
を果していたことになるのです。通貨には、次の3つ機能がある
といわれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.決済手段
           2.価値尺度
           3.価値保蔵
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の機能は「決済手段」です。
 通貨というからには、ある程度以上の範囲の経済取引の決済に
一般的に使えることが条件になります。通貨とは一般的な決済手
段に使える資産であるからです。
 第2の機能は「価値尺度」です。
 われわれは「一台200万円のスピーカー」とか「年俸10億
円のサッカー選手」とかいうように表現しますが、これは通貨が
価値尺度としての機能を果たしているからです。
 第3の機能は「価値保蔵」です。
 経済活動によって生み出された価値をある程度の期間、蓄えて
おくことも通貨に求められる重要な機能です。ノーベル経済学賞
受賞者で、英国最後の大経済学者といわれるジョン・R・ヒック
ス卿は、この通貨の3つの機能では「価値保蔵」が一番重要であ
るといっています。
 ビットコインがこれら3つの機能を備えているかどうかについ
て考えてみます。
 まず、「決済手段」としての機能ですが、日本は別として、世
界レベルで見た場合、ビットコインで対価の支払いのできる店舗
や通販サイトは増えてきています。まだ、限定された範囲ではあ
り、一般的とはいえないものの、一応決済機能は果たしつつある
といえます。
 続いて「価値尺度」としての機能です。ビットコインは、いろ
いろな国家通貨と交換レート(為替レート)がリアルタイムで公
表されており、ものなどの価格を換算してビットコイン表示をす
ることができるので、価値尺度の機能も果たしています。
 最後に「価値保蔵」としての機能ですが、投機目的でビットコ
インを大量に保有し、価値の上昇を期待している人も多数おり、
そういう意味において価値保蔵機能も人々に認められています。
 このように考えると、今のところ限定された範囲ではあるが、
ビットコインは通貨としての機能を果たしています。
 もともと通貨は物々交換の不便さを解決するために作り出され
たものですが、やがてそれが人々が渇望するものを獲得するため
の手段となってしまっています。
 英国の小説家にしてジャーナリストのジェームス・ブキャンは
「お金は凍った願望である」という絶妙な表現を使って、人々が
お金に対して権力を与え、そこに自分の夢や欲望を詰め込む理由
について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 交換媒体という意味では、「言葉」も「お金」も同じだが、お
 金は言葉と違って、一人ひとりに全く違った意味を持つ。ある
 人にとってお金はバーでの飲み代を意味するかもしれないし、
 またある人にとっては遊園地のジェットコースターのチケット
 代を意味するかもしれない。また、お金は別の人にとっては、
 ダイヤの指輪、寄付金、保釈金にもなり、そしてある人にとっ
 ては感動や安全を意味している。つまり、お金とは「凍った願
 望」なのである。             ──安西正鷹著
 「国際金融資本がひた隠しに隠す/お金の秘密」/成甲書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
       ──── [ビットコインについて考える/35]

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコインは通貨かモノか/「ザ・ページ」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  政府はインターネット上の仮想通貨「ビットコイン」につい
  て通貨ではないとする正式見解を決定しました。ビットコイ
  ンは、貴金属と同様「モノ」として取り扱われることになっ
  たのですが、これはどのように考えればよいのでしょうか?
  政府としては、基本的に通貨は国家や中央銀行の裏付けがな
  ければならないというスタンスです。ビットコインは国家や
  中央銀行の信用を背景にしたものではなく、発行主体もあり
  ません。したがってビットコインは通貨には該当しないとい
  うことになります。通貨ではありませんから、法律に基づい
  て銀行がビットコインを取り扱ったり、他の通貨と交換する
  こともできないという解釈になります。一方で、ビットコイ
  ンの利用を制限する法律が存在しているわけではありません
  から、国民がそれをどのように取り扱うのかは自由というこ
  とになります。ただし貴金属と同じ「モノ」という扱いです
  から、その売買で利益が出た場合には、課税の対象になりま
  す。とりあえず政府はビットコインが存在しているという現
  状を追認したものの、法的には通貨として扱わず、利用者の
  自己責任で対処するというところに落ち着きました。しかし
  こうした政府の対応は今後、状況次第では変化していく可能
  性もあります。          http://bit.ly/1Drhpob
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/吉本佳生/西田宗千佳著の前掲書より

通貨の誕生.jpg
通貨の誕生
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2014年10月23日

●「錬金術にとりつかれたニュートン」(EJ第3901号)

 昨日のEJで検討したように、ビットコインは一応通貨の3つ
の機能──「決済手段」「価値尺度」「価値保蔵」を満たしてい
ます。しかし、ビットコインをどのように扱うかについては、国
によって違います。
 日本政府は、2014年3月7日、マウントゴックスが経営破
綻したことを受けて、ビットコインをどのように扱うのかについ
ての「回答書」を閣議決定していますが、これについて慶応義塾
大学SFC研究所上席所員の斎藤賢爾氏は、日本は中国と同じス
タンスであるとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 BTCは通貨ではなく、それ自体が何かの権利を表すものでも
 ないため、銀行や証券会社が、BTCを通貨や証券としてあつ
 かって、預かる口座を開設したり円との交換をおこなうことは
 できないとしています。ですが、その一方で、BTCを対価と
 することを禁止する法律はないともしています。いまのところ
 総論としては中国に近い立場だと思います。
           ──斎藤賢爾著/太郎二郎社エディタス
  『これでわかったビットコイン/生きのこる通 貨の条件』
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、政府は、ビットコインを売って実現した譲渡益につい
ては課税するとしています。これは、現行の税制でやるという意
味なので、そういう譲渡益が出たときは、「申告して税金を納め
よ」というわけです。
 この場合、正直に申告する人もいるし、譲渡益があっても申告
しない人もいるはずです。といって、ビットコインの取引は匿名
であるので税務署は捕捉できず、結局税金を徴収できないことに
なります。これでは不公平です。
 このように、国として、通貨として認めていないものが果して
価値を生むのでしょうか。
 もともと通貨には具体的な価値の裏づけなど、必要ではないと
いう意見があります。多くの人がそれを通貨と信じて使っていれ
ばそれは通貨なのです。
 アイザック・ニュートンといえば、誰もが知る世界的に有名な
数学・物理学者ですが、彼は科学者としての輝かしい研究業績の
ほとんどを生み出した後、あまねく知られていないことですが、
イングランド銀行の造幣局長官をやっていたことがあるのです。
 現在の英国の中央銀行であるイングランド銀行は、1694年
に設立されたのですが、ニュートンは1696年に王立造幣局の
監事になり、1699年には同局の長官に就任しています。
 当時英国では、贋金づくりが横行していたのですが、ニュート
ンはその組織と対決し、それを激減させています。贋金づくりは
国家に対する反逆であるとして、首謀者を死刑にすることで、国
家通貨の価値と威信を守ったのです。
 その一方でニュートンは、お金の魔力にとりつかれ、錬金術師
のようなことをしていたのです。彼は、造幣局勤務において、高
額の給料と特別手当で2000ポンドを超える年収を得て裕福に
なり、個人で1720年までに南海株式会社株に1万ポンドの巨
額の投資を行い、大損をしているのです。
 これは「南海泡沫事件」と呼ばれ、英国史上もっとも悪名高い
投機ブームのことであり、ニュートンはそれに乗ろうとして大失
敗をしたのです。
 英国の生んだ偉大なる経済学者であるジョン・メイナード・ケ
インズは、晩年のニュートンについて調査を行い、ニュートンの
実像とはほど遠い実体に驚き、ニュートンをして「片足は中世に
置き、片足は近代科学への途を踏んでいる」と評し、次のように
ニュートンの実像を伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ニュートンは、合理主義の理性にしたがう近代化学者の最初に
 して最大の人とみられているが、そうではなく、何千年も前の
 バビロニア人やシュメール人と同じように錬金術に魅入られた
 「最後の魔術師」だ。     ──吉本佳生/西田宗千佳著
 「暗号が通貨になる『ビットコイン』のからくり/『良貨』に
           なりうる3つの理由」/ブルーバックス
―――――――――――――――――――――――――――――
 「錬金術」というと、いかにもおどろおどろしい感じがします
が、300年を経た現代において、やはり世界の天才数学者たち
はニュートンと同じようなことをしているのです。「錬金術」に
は、いつの時代にも魂を奪われる人がいるものです。
 天才数学者たちは、確率微分方程式などの高等数学を駆使した
「金融工学」なるものをウォール街に持ち込み、金融取引で巨額
の富をつくり出そうとしていたのです。これは2008年のリー
マンショックを引き起こして、世界経済を混乱に陥れ、失敗に終
わっています。
 そしてリーマンショック後の2009年に姿をあらわしたのが
ビットコインです。これについて、「暗号が通貨になる『ビット
コイン』のからくり」の著者は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界中の天才数学者たちが協力して今回つくり上げたしくみは
 まさに「計算作業がそのまま通貨を生む」ものです。金融工学
 のように数学が間接的にカネを生むのではなく、ビットコイン
 では、数学が直接カネを生み出します。また、ニュートンが、
 「死刑の恐怖」で贋金づくりを防止したのに対し、いまの数学
 者たちは、「洗練された暗号理論」で、電子データでできた通
 貨の偽造を防止します。
          ──吉本佳生/西田宗千佳著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインの正体は単なる数字列に過ぎないものです。それ
がなぜ価値を持ってくるのかについては、もう少し考察を進める
必要があると思います。
       ──── [ビットコインについて考える/36]

≪画像および関連情報≫
 ●「ニュートンと錬金術と『科学』」/あるブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ユリウス暦1642年のこの日(グレゴリオ暦1643年1
  月4日)アイザック・ニュートンが生まれました。1600
  年代はすでに新暦であるグレゴリオ暦が使われているのに、
  どうしてユリウス暦の誕生日になってるんだろうと思ったら
  日本の改元などと同じで、やはり暦がひろまり浸透するには
  時間差があったのですね。ウィキペディアによれば、この時
  代、イギリスではまだユリウス暦が使われていたため、ニュ
  ートンの誕生日も旧暦になっているのだそうです。わたしは
  最初にこの日付を見たときとても面白いと思ったのですよ。
  ニュートンの誕生は、人類へのクリスマスプレゼントではな
  いかと思ったからです。ニュートンなかりせば、今のこの世
  界はないのではないか。いくつかくつがえされる部分はあっ
  ても、彼の事績は今の科学文明の基礎になっているといえる
  でしょう。とはいえ、寺田寅彦先生の記事同様、わたしには
  とてもニュートンの事績をご紹介する力量はありませんで。
  ただ、そのニュートンの事績について後世の人間がおこなっ
  たことが面白いと思うので、そのへんを書いてみたいと思い
  ます。わたしがこどもの頃あたりまで、ニュートンといえば
  天才科学者で、合理的で、先進的で、いわゆる「科学的」な
  人のお手本みたいに言われていました。しかし、実際のニュ
  ートンは神学者でもあり、錬金術者でもありました。錬金術
  とは「卑金属から金を精錬する技術」「鉛など、価値の低い
  金属を黄金に変える技術」のこと。ただし、本質的にはこの
  定義は誤りで、より正しくは、物質のエッセンス、もっとも
  根源にある「精」=エリクシルを取り出すこと。
                  http://amba.to/1wj0G35
  ―――――――――――――――――――――――――――

アイザック・ニュートン.jpg
アイザック・ニュートン
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2014年10月24日

●「金融とは交換のタイミングのずれ」(EJ第3902号)

 現代では、紙幣を刷るのは中央銀行の仕事ですが、かつては、
一般の銀行が行っていたのです。ただ、何を根拠にして紙幣を発
行するのでしょうか。
 それには「金融」について考えてみる必要があります。一般的
に金融には、広義と狭義の2つの意味があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      【広義】 ・・・ お金の流れである
      【狭義】 ・・・ お金の貸借である
―――――――――――――――――――――――――――――
 「お金の貸借である」という観点に立つと、「金融は交換のタ
イミングのずれである」ということができます。これに関しては
添付ファイルの図に基づいて説明します。
 主体Aが主体Bから芋を手に入れるいちばん簡単な方法は、A
がBに対し、芋の購入に関して借用証を書いて渡すことです。も
ちろんBがそれに同意すればの話ですが。もし、同意したとすれ
ば、芋と対価を同時に交換するのではなく、芋をもらうタイミン
グと対価を渡すタイミングがずれることになります。この交換の
タイミングのずれこそ「金融」なのです。
 さて、この借用書ですが、当然のことながら、対価と支払い期
日、金利が記載されています。この借用書は、主体A以外から見
ると「金融資産」、Aから見ると「負債」になります。
 主体Bは、この借用書を発券銀行に持ち込み、それに見合う紙
幣を発行してもらいます。銀行としてはこの金融資産を買い入れ
ることによって、金利や手数料を手に入れることができます。こ
れを通貨発行益──シニョリッジ(seigniorage) といいます。
 紙幣を手にした主体Bは、肉を保有している主体Dに紙幣を支
払って、肉を手に入れることができますし、同様に主体Dは主体
Eに紙幣を支払って、欲しかった麦を入手できるのです。
 このように、人々が紙幣を支払うと、国内の通貨量が増加し、
経済活動は活況化します。そこにお金の流れができてきますが、
それはまさに金融なのです。これは、中央銀行も同じであり、世
の中に流れるお金の量を増やそうとすると、銀行などから金融資
産を買い取って、紙幣を発行するのです。このことを中央銀行の
「買いオペレーション(買いオペ)」といいます。
 それでは、ビットコインのシニョリッジとは何でしょうか。
 それはマイニング(採掘)による発行金額──現在は25BT
Cから、マイニングの電気代を含む作業コストを差し引いたもの
が、シニョリッジになります。
 しかし、「暗号が通貨になる『ビットコイン』のからくり」の
著者は、シニョリッジは現金通貨の発行に限ったものであるとし
て、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いまの日本の場合、通貨発行はさほど大きな利益をもたらしま
 せん。日本政府が国債を発行して借金をするときの金利が、歴
 史的にみて相当に低いことが大きく影響しているのです。また
 注意点として、このシニョリッジは「現金通貨発行にかぎった
 利益」であることを覚えておくべきです。現代の通貨の大部分
 を占める預金は、国家とは直接関係がありません。おまけに、
 預金を集めるのに金利を支払うのがふつうで、その金利を稼ぐ
 のに貸出をおこなうと、損失が生じるリスクがありますから、
 預金という通貨の発行が自動的に民間銀行にシニョリッジをも
 たらす、とは考えないほうがいいでしょう。
                ──吉本佳生/西田宗千佳著
 「暗号が通貨になる『ビットコイン』のからくり/『良貨』に
           なりうる3つの理由」/ブルーバックス
―――――――――――――――――――――――――――――
 中央銀行は、銀行をはじめとする金融機関が保有する金融資産
を買い取って、紙幣(中央銀行券=現金)を発行しますが、この
お金は複式簿記のルール上、発行者である中央銀行の貸借対照表
の負債勘定に記載されます。
 しかし、この紙幣は中央銀行にとっては負債ですが、中央銀行
はこの負債を返済する必要はないのです。したがって、表向きは
「負債」になっていますが、返済する必要はないので、実質的に
は「資産」なのです。
 日本の場合でいうと、人々は日銀券(現金)でいろいろな買い
物をしますが、それはものと等価で交換するのではなく、不等価
交換をしていることになるのです。これについて、既出の安西正
鷹氏は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中央銀行券を受領した者はこれを保有している間、損失を抱え
 た状態にある。だが、自分が欲しいモノを得るべく取引の相手
 方に銀行券を渡せば、抱えていた損失は相手方に移転して解消
 する。とはいえ、人々は生活必需品や欲求を充足するモノを得
 るために、自らの労働力と引き換えにお金を得て、これを支払
 いに充てるという行為を死ぬまで繰り返す。将来の支出に備え
 て貯蓄もする。銀行券が手許になく損失がゼロである状況など
 片時たりともあり得ないのだ。       ──安西正鷹著
 「国際金融資本がひた隠しに隠す/お金の秘密」/成甲書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 少しわかりにくい話ですが、日銀券を保有している状態は、そ
の人は損失をかかえているのです。しかし、ある商品を日銀券で
購入したとします。この商品と日銀券とは不等価交換をしている
ことになります。しかし、日銀券を商品の販売者に渡したとたん
自分の損失は販売者に移転するのです。
 こういう取引の決済を何回も繰り返していると、そこに一種の
安心感が生まれ、紙幣に対して信用が生まれてきます。しかし、
将来いつの日か、パイパーインフレなどによって、悲劇のXデー
が訪れ、ほとんどの人が不等価交換の被害者になるのです。これ
は阿鼻叫喚の地獄絵図の様相を呈するのです。
       ──── [ビットコインについて考える/37]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀の国債引受けはなぜ「悪魔的手法」なのか/熊野英生氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  思考実験として、増税をすることを止めて、政府の必要資金
  をすべて日銀からの資金供給で賄うことにしたとする。皆さ
  んは、「消費税の増税をせずに、日銀が国債発行分を全て引
  き受けて、税収不足を補えばよいのではないか」と問われた
  ならば、その可否をどう答えるか。筆者がその問いかけに回
  答するならば、「政府がお札を勝手に印刷すると信用を失う
  から、止めた方がよい」と答える。極端な例として、もしも
  紙に「1000000円也」とペンで書いて、自動車購入の
  代金に充てればどうなるか。もちろん、それは詐欺的行為で
  ある。なぜならば、100万円と書かれた紙と、自動車を交
  換しようとすれば、間違いなく不等価交換になるからだ。で
  は、100枚の1万円札と、自動車の交換はどうか。それは
  等価交換だからOKである。    http://bit.ly/1ynrgZj
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/吉本佳生/西田宗千佳著の前掲書より

金融とは何か.jpg
金融とは何か
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2014年10月27日

●「信用創造/幻想が創る仮想の世界」(EJ第3903号)

 24日のEJ第3902号で述べた「金融」の定義を再現して
おきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
     金融とは、交換のタイミングのずれである
―――――――――――――――――――――――――――――
 わかったようでわからない定義ですが、金匠の例で考えてみる
ことにします。金匠は、単なる金貨の保管と出入の事務を委託さ
れているのに過ぎない代行業者です。
 しかし、元来金細工師であった金匠は頑丈な金庫を持っており
そういう意味で富裕層が安心して金貨を預けられる信用性を有し
ていたのです。そのため、金匠が発行する預証は、それが金貨保
管を証明する単なる紙の記録に過ぎないものであっても、紙幣に
相応しい価値を持つにいたったのです。
 なぜなら、経済取引で、金匠から預証と引き換えに金貨を引き
出し、相手にそれを渡し、相手が再びその金貨をどこかの金匠に
預ける煩わしさが、預証の書き換えで済ますという利便性を生ん
だのです。ましてや、取引の両者が同じ金匠を利用している場合
は、預証の書き換えの方が便利であり、安全であるからです。当
時の金匠は金匠同士で連携しており、利用している金匠が異なっ
ても預証の書き換えだけで取引はできたのです。
 こうした経済取引をしていると、金貨はつねに金庫に眠ってお
り、引き出されることはほとんどなかったのです。そうしている
うちに、金貨の預け主の多くが、一斉に金貨を回収するようなこ
とは滅多に発生しないことが経験上わかってきたのです。
 既出の安西正鷹氏は、金匠のたくらみと人々の錯覚について、
自著において、次のような印象的な文章で表現しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (人間の)利便性を追求する怠惰な性癖と、軽率で安易な他者
 依存が、寄生者が宿主に憑依する隙を与える。金匠はこの仕組
 みの旨みに味を占めるや、たちまち寄生者に豹変した。そして
 人々が保有するお金の価値と自らに対する信頼、つまり経済的
 主権を、人々が自らの意志で他人に明け渡す絶好の機会を逃さ
 なかった。やがて人々は、お金の価値はその素材である金属そ
 のものではなく、その価値を記号に置き換えた紙に価値がある
 と錯覚するようになった。つまり、この時を境に、人々は実体
 に基づく現実世界を主体的に生きるのではなく、幻想が創り上
 げる仮想世界を他者の描いたシナリオに従って生きるようにな
 ったのだ。                ──安西正鷹著
 「国際金融資本がひた隠しに隠す/お金の秘密」/成甲書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 考えてみると、金匠が発行する預証は「将来の支払いを約束す
る」交換の媒体であるといえます。預証の受取者は実質的に金匠
に金の支払いを猶予しているのです。つまり、この「交換のタイ
ミングのずれ」は金融なのです。金匠に貸付を行っているのと同
じなのです。
 しかし、このとき預証は単なる紙切れではあっても金貨という
裏づけがあったのです。しかし、現代の紙幣にはそのような裏づ
けはなくなっています。現代では、銀行の信用と預金に基づく、
情報としてのお金が流通しているだけなのです。
 錬金術というのは、無からお金を生み出すことをいいます。そ
れを端的にあらわしている言葉が「信用創造」です。これは現代
の中央銀行と銀行が合法的に行っている仕組みです。あえて「創
造」という言葉を使っていることにより、文字通りお金を無から
生み出していることを表しています。
 「信用創造」については、前回のテーマ「新自由主義の正体」
でも詳しく書いていますが、その核心部分を簡単に述べます。
 Xという企業がA銀行に事業資金として100万円のローンを
申し込み、承認されたとします。ローンの契約書にサインすると
A銀行は、X社が開設したA銀行の預金口座に100万円を入金
します。これは実際にお金を振り込むのではなく、会計上の操作
で100万円をX社の預金口座に記帳するだけです。
 そうすると、世の中に突如100万円が生み出されるのです。
重要なことは、A銀行は保有しているお金を元手に融資している
のではないことです。X社が100万円借りても銀行が保有して
いるお金は減らず、預金が100万円増えるだけです。
 それだけではないのです。X社の預金口座の100万円は、や
がて引き出されて支払いに使われるでしょうが、多くの場合、全
額引き出されることはなく、預金口座に残っています。A銀行は
その預金の99%(預金準備率が1%の場合)をさらに融資に回
せるのです。仮にX社から支払いを受けたY社が、B銀行の預金
口座にそれを預金したとすると、B銀行はその預金の99%も貸
し出しに回せることになります。
 このようにして、X社が借り入れた100万円は、理論上、預
金として100倍──つまり、1億円まで膨らむ可能性があるの
です。この1億円はまさに無から創り出された実体のない幻のお
金であり、錬金術そのものといえます。
 ところで、この預金準備率1%の根拠は、平時であることが条
件ですが、何らかの事情で預金の引き出しを依頼する人は全預金
者の1%以下であるという経験則に基づく数字です。
 もし、金融危機や戦争などで、取り付け騒ぎが起きたときは、
銀行相互で助け合うか、それができないときは、最後の貸し手で
ある中央銀行が貸し付けて救うことになっています。この預金準
備率について、安西正鷹氏は次のように表現しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 預金準備率は金融村の運営者によって、詐欺的な金融村の掟を
 隠蔽するための仕掛けである。永久的寄生を保証してくれる生
 命線だけに彼らは死に物狂いでその意味を覆い隠そうとするの
 である。           ──安西正鷹著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
       ──── [ビットコインについて考える/38]

≪画像および関連情報≫
 ●通貨、金利と信用創造の特殊な性質/あるブログより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  先に「国際金融資本の成立」にて、「金利」、「信用創造」
  「無記名有価証券」の一体となった拡大が国際金融資本成立
  の契機であり、産業革命を起こし、軍事力の増大と帝国主義
  を生み出す原動力として作用したことを書きました。また、
  「信用創造と言えば聞こえは良いが」、「信用創造とは」に
  て、与信による信用創造が金融資本による流動性の濫発、詐
  欺的利益そのものであること。これが投機不安定と循環恐慌
  を作り出すことを述べました。つまり、紙幣通貨の不安定性
  投機性と信用創造による恐慌の循環でです。荒っぽい説明で
  恐縮ですが、ここで、通貨と言われる「無記名有価証券」が
  国の徴税権を担保に、絶対的に流通していること。この事実
  がなければ、つまり暴力装置をもつ国家権力に裏打ちされた
  「通貨の流通」がなければ、信用創造自体が流通しないとい
  うことになります。通貨の流通が不十分なら、帳簿上の通貨
  などはとてもありえない話になってしまいます。暴力装置を
  もって強制力のある国家権力が、この民間金融資本の信用創
  造に裏付けを保証し、限界的利益と循環恐慌までをも保証し
  ていると言う、巨大な制度的矛盾があることに、ご注意頂き
  たいのです。開発独裁型または計画経済型国家を除く国家の
  金融は、独立した民間中央銀行なるものを経て、直接あるい
  は、IMF、世銀などをとおって国際金融資本に収斂してい
  るのが現実である。国家を保証とする、彼らの極めて特殊で
  テクニカルな発明と言って良いでしょう。
                   http://bit.ly/1tSxHFB
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/http://bit.ly/1pK9lGS

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銀行が行っている「信用創造」
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2014年10月28日

●「国際送金には大きな問題点がある」(EJ第3904号)

 ビットコインに対する疑問や批判はいろいろありますが、次の
ような批判もあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 庶民が日常の買い物で気軽に使えなければ通貨の資格はない。
 だから、ビットコインはまだ通貨といえないのではないか。
  ──「ニューズウィーク日本版」/2014年2月25日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに日本では、まだビットコインで買い物ができる店は少な
いし、ビットコインには決済までに約10分間かかるという問題
点もあります。しかし、だからといって「通貨とはいえない」と
いう指摘は違っていると思います。
 このことは「預金」についてもいえるのです。預金は「預金通
貨」という言葉があるにもかかわらず、通貨とはみなされていな
いのです。そうでありながら、国家通貨の90%以上は預金なの
であり、そういう意味でメインの通貨であるといえます。
 預金にもいろいろあって、解約手続きに時間のかかる「定期預
金」などは通貨とはいえないと思います。定期預金の通帳を見せ
ても買い物はできないからです。「普通預金」にしてもそのまま
では買い物ができない点は同じことです。
 「デビットカード」という方法があります。買い物と同時に普
通預金を取り崩すシステムです。これなら、現金と同じであり、
取扱店が増えれば買い物に使えます。
 デビットシステムは、ビットコインにも応用できます。自動的
にビットコインを円に換算して普通預金に振り込む操作をし、デ
ビットカードで買い物をするシステムです。これができればビッ
トコインの利便性は大きく向上します。しかし、日本では銀行で
ビットコインは扱えないので、今のままでは、こういうシステム
ができる可能性は少ないといえます。
 しかし、預金は送金において高い利便性を発揮するのです。
日本国内の銀行に預金口座を持つ同士間の送金は、国内銀行が日
銀に有している預金口座の数字の書き換えだけで、簡単に送金で
きるのです。これを「日銀ネット」といいます。日銀ネットを利
用するコストは安いですが、送金手数料はしっかり取られます。
 問題は、国際送金です。国際送金は問題山積です。これについ
ては、添付ファイルを使って説明します。
 送金人Yが日本のJ銀行を通じて、ヨーロッパに住む受取人Z
にお金を送るケースについて考えます。Yは日本のJ銀行に預金
口座を持っており、Zはヨーロッパで中規模の銀行であるF銀行
に預金口座を持っています。J銀行とF銀行との間には取引がな
いのです。
 こうなると、J銀行と銀行同士のつながりの輪が問題になって
きます。友達の友達を探す感覚です。受取人Zが預金口座を持つ
ヨーロッパのF銀行とつながりの深い同じヨーロッパのG銀行と
いうのがあります。そのG銀行にドル口座を有する米国のU銀行
があるのですが、日本のJ銀行はそのU銀行にドル口座を持って
いるのです。これでやっとつながったことになります。送金人Y
の受取人Zへの送金は次のようにして行われます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.送金人YがJ銀行に持ち込んだ日本円をJ銀行がドルに換
   算して、米国のU銀行に送金する。
 2.ドルを受け取った米国のU銀行は、ドル口座を有するヨー
   ロッパのG銀行にドルで送金する。
 3.ドルを受け取ったヨーロッパのG銀行はドルをユーロに換
   算し、F銀行にユーロで送金する。
 4.受取人Zが口座を持つF銀行にYからのユーロが入金され
   たので、Zは引き出して受け取る。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このような送金は、民間の銀行を経由して行われるので、それ
ぞれの銀行を通るときに手数料がかかります。それもけっして安
くはないのです。それに円をドル、ドルをユーロにしているので
為替手数料もかかるのです。
 このようにコストがかかるだけでなく、手続きが大変であるだ
けではなく、送金の完了までに相当日数がかかるのです。手数料
については、送金時点ではいくらかかるのかわからず、手数料が
送金額を超えることもありうるのです。
 このように、国際送金には非常に困難が伴いますが、送金人Y
と受取人Zが、ともに自分のPCにビットコインのウォレットの
ソフトをインストールしておくと、送金はあっという間に終了し
てしまいます。
 送金人Yは、送金額に見合う分のビットコインを手に入れ、そ
れを受取人Z宛に送ります。ビットコインのレートは変化します
が、事前にYとZは連絡を取り合い、時間を決めて送金すれは、
約10分間で送金は完了します。しかも、送金額が5ドル以上で
あれば、送金額がいくらであっても送金料は無料であり、為替手
数料などはいっさいかからないのです。
 国際送金で重要なのはむしろ「少額送金」なのです。具体的に
いうと、手数料よりも低い額の送金です。移民や出稼ぎ労働者の
本国への送金やウェブでの買い物でこれが問題になります。つま
り、送金料以下の少額送金が前提のビジネスは現在は成立しない
ことになります。
 最近銀行は、かつてあれほど熱心だった公共料金や税金の納付
をコンビニなどに任せるようになっています。それは超低金利時
代になったので、儲からないからです。
 そうであるとすると、ビットコインが少額の送金サービスを担
うことに関して、銀行はあまり抵抗はしないと思います。国際決
済の場合、もともと銀行は少額の送金サービスを放棄してきたか
らです。この場合、ビットコインはクレジットカードとは競合し
ますが、クレジットカードは店側の手数料が高すぎる点がネック
となり、ビットコインに勝てないと考えられます。
       ──── [ビットコインについて考える/39]

≪画像および関連情報≫
 ●インターネット金融に広がる想定外の可能性/慎泰俊氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本発のイノベーションともいえそうなデジタル通貨である
  「ビットコイン」がここのところ、世界の新しいモノ好きの
  間で注目を集めている。ビットコインはインターネット上で
  流通する通貨だ。日本の通貨が円(JPY)であるのと同様
  ビットコインの単位はBTCという。電子マネーの一種とも
  いえるが、一般的な電子マネーとの決定的な違いは、通貨そ
  のものであるのにもかかわらず、国家権力が発行に一切かか
  わらないことである。発行元国家を持たないこの通貨は、今
  のところアングラで、一部のギーク(オタク)や、あまり表
  沙汰にしたくないような取引をする人の間で使われているだ
  けの様子だが、少しずつ一般の人々の間でもその利用者数を
  増やしている。ブログサービスの世界最大手の一つであるワ
  ードプレスも、2012年にはビットコインを一部の決済手
  段として受け入れるようになった。近代史上では恐らく初め
  てとなる無国籍の、オンライン上の通貨が本格的に流通する
  ようになれば、国際送金手数料や為替手数料がほとんどゼロ
  になるだけでなく、国の経済政策そのものを根底から覆す可
  能性がある。これから詳しく述べるが、そのシステムに根本
  的な欠陥を抱えているうえに、国家の通貨発行権との衝突が
  あることから、現状のままではビットコインが既存の通貨を
  駆逐することはできない。とはいえ、インターネット金融は
  ようやく始まったばかりであるし、無限に広がる分野でもあ
  る。今回はこのビットコインについて書きたい。
                  http://nkbp.jp/1t4yfoe
  ―――――――――――――――――――――――――――
●図の出典/吉本佳生/西田宗千佳著/「暗号が通貨になる『ビ
 ットコイン』のからくり/『良貨』になりうる3つの理由」/
 ブルーバックス

国家通貨での国際送金の原理.jpg
国家通貨での国際送金の原理
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2014年10月29日

●「少額の国際送金は現実的ではない」(EJ第3905号)

 ビットコインが国際送金にいかに強いかについて知っていただ
くために、国際送金の問題点について書いています。国際送金の
現状に関しては、世界銀行が次のような報告書を出しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    The World Bank Remittance Prices Worldwide
―――――――――――――――――――――――――――――
 この報告書は、送金国32、受け取り国89の間での送金コス
トを集計したものです。200ドルと500ドルを送る場合につ
いて計算されています。日本円で、21600円〜54000円
(1ドル=108円のとき)ぐらいの少額送金の統計です。
 添付ファイルの「G20諸国からの送金コスト」は、200ド
ルの送金コストを示しています。グラフは、2014年第1四半
期の平均数値をグラフ化していますが、2013年第4四半期の
平均数値と比較すると、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    2014年第1四半期 ・・・・ 7.73 %
    2013年第4四半期 ・・・・ 8.20 %
―――――――――――――――――――――――――――――
 G20のなかでは、南アフリカ共和国からの送金コストが20
%とダントツで高いが、G8のなかでは日本からの送金が15%
は切ったものの、G20平均よりも高くなっています。同じG8
では、ドイツ、イタリア、イギリス、アメリカはいずれもG20
平均を下回っています。
 送金コストが高いということは、途上国からの移民や出稼ぎ労
働者が少ないことにつながっています。彼らは、所得の一部を本
国に送金しなければならないので、送金コストが高い日本は敬遠
されてしまうのです。人手不足が深刻化している日本では、送金
コストの高いことは今後大きな問題になるといえます。
 なお、日本から韓国や中国に送金する場合のコスト率は、実に
30%を超えるのです。これは世界でも最もコストの高い送金経
路であるといえます。送金手段別で見ると、銀行の口座間振込み
(他行を含む)はかなりコストが高くなっています。銀行振込に
よる決済を「電信送金」といい、「T/T」と呼んでいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
     T/T=電信送金/Telegraph Transfer
―――――――――――――――――――――――――――――
 問題は、この銀行振込の手数料です。銀行によって若干の差は
ありますが、あるメガバンクの場合、窓口現金扱いの場合の手数
料は5500円です。この他に円為替取扱手数料が0.05 %/
最低2500円かかるのです。これは最低手数料といって、仮に
0.05 %が2500円以下の場合でも、2500円かかるとい
う意味です。つまり、5500円+2500円で、最低8000
円かかるのです。
 もっとも貿易決済の場合は、金額が大きいので、最低8000
円の手数料はあまり苦にならないですが、例えば、1万円を送金
する場合でも手数料は8000円かかることになります。そのた
め、この程度の少額送金の場合、銀行振込は現実的な送金手段で
はないのです。
 こういう少額送金には、国際送金業者を使う方法があります。
国際送金業者の世界最大手はウェスタンユニオンで、日本でも利
用できます。ウェスタンユニオンの場合、手数料は1万円までは
990円であり、平均して送金額の1〜2%程度です。しかし、
これに「スプレッド」がかかるのです。
 「スプレッド」とは何でしょうか。
 これを理解するには、次のような専門用語を少し覚える必要が
あります。これはあるメガバンクの為替レート(建値)を意味し
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ドルTTS(電信売り) ・・ 103.95
    ドルTTB(電信買い) ・・ 101.95
―――――――――――――――――――――――――――――
 この場合の「売り」と「買い」は銀行を中心にいう言葉です。
銀行がドルを売る(顧客が買う)場合は103.95 円、ドルを
買う(顧客が売る)場合は、101.95 円であることを示して
います。スプレッドというのは、TTSとTTBの差です。
―――――――――――――――――――――――――――――
        TTS―TTB=スプレッド
―――――――――――――――――――――――――――――
 スプレッドは国際送金の場合のコストになります。それにして
も銀行は、買ってくれといってくるドルを買い、それを他の人に
売れば、スプレッド分利益が出ることになります。銀行では取引
に応ずるためのコストであるといっています。確かに取引に応ず
るためには複数の外国通貨をつねに一定量用意しておく必要があ
るので、そのためのコストであるというのです。
 国際送金業者を使って国際送金する場合も手数料に加えてスプ
レッドがかかります。ウェスタンユニオンの国際送金約款には、
次の記載があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 全ての通貨は、その時点におけるウェスタンユニオンの為替レ
 ートにより換算されます。(中略)適用される為替レートは、
 銀行及び他の金融機関間の取引に用いられる、公表された取引
 為替レートより不利な場合もあります。お客様に適用される為
 替レートとウェスタンユニオンが調達する為替レートとの差額
 は、送金手数料に加えて、ウェスタンユニオン(または場合に
 よっては取扱店)の収益となります。
          ──ウェスタンユニオン国際送金約款より
            ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
       ──── [ビットコインについて考える/40]

≪画像および関連情報≫
 ●楽天銀行の海外送金の問題点/日本→タイ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  この2〜3年、三菱東京UFJを使い、日本からタイのSC
  B銀行(タイの3番手で有名な銀行)に円建送金。既に5回
  送金し、いずれも即日入金となり、まったく問題無し。少し
  円高になったタイミング、2014年3月14日に楽天銀行
  で円建送金依頼。三菱東京では即日入金になったが、楽天は
  なかなか入金にならないので、3月20日に問い合わせした
  ところ、「送金できなかったので組戻しになります」との回
  答。3月24日に返金されたが、手数料約4千円が徴収。要
  は「楽天銀行の個人向け海外送金サービスは2013年に開
  始したばかりで、三菱東京UFJ銀行のように海外中継銀行
  に関する豊富な知識を持っていません。今回の件は楽天銀行
  ではどの海外中継銀行を使ったらいいかわからず、送金でき
  ませんでした。お客様の方で海外中継銀行をご存知であれば
  教えてください。その中継銀行経由での送金を試みます。こ
  の度は楽天銀行の致命的知識不足が原因で海外送金できませ
  んでしたが、手数料は徴収しますので、ご承諾願います」。
  銀行員でもない客に海外中継銀行を調べてくれと言われても
  わかるはずがない。        http://bit.ly/1xtaqa5
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/──野口悠紀雄著の前掲書より

国際送金の現状.jpg
国際送金の現状
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2014年10月30日

●「米クラケン取引所日本で業務開始」(EJ第3906号)

 ビットコインに関して日経コンピュータ「ITpro」 からホット
ニュースが飛び込んできましたので、お知らせします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコイン取引所大手の米「クラケン」(Kraken)が、20
 14年10月30日をめどに、国内でサービスを開始すること
 が本誌取材で明らかになった。日本語による取り引きが可能で
 円とビットコイン間での取り引きが可能になる。サービス開始
 に合わせ日本語でのサポート業務も開始する。クラケンにとっ
 ては英語以外の初の言語対応となり、欧州に続き日本市場の開
 拓を進める。クラケンは2011年創業で、2013年9月に
 取引所を開設した。現在、185ヶ国に約10万人の利用者を
 抱えている。日本ではマウントゴックス破綻の影響を鑑み、他
 国よりもアカウント作成のハードルを高くする。閲覧は、電子
 メールの登録で可能だが、実際に取り引きするためには本人確
 認を義務づける。手数料は、取り引きのボリュームに応じて、
 0.1 〜0.35 %となる。クラケンのサービス開始に先駆け
 日本ではビットコイン関連事業者の初の団体となる一般社団法
 人の日本価値記録事業者協会(JADA)が10月23日に活
 動を開始した。クラケンもJADAに所属し、ガイドライン作
 成などに協力している。(中略)ビットコイン市場は取引所に
 加え、ウォレットや決済、マイニング事業などサービス領域は
 多岐にわたる。コンプライアンス、およびセキュリティに定評
 のあるクラケンが日本市場で取引所を開設することで、今後、
 国内でも関連サービスやスタートアップ企業が生まれる可能性
 がある。──10月23日付も、日経コンピュータ 「ITpro」
                  http://nkbp.jp/1yGYKC7
―――――――――――――――――――――――――――――
 既に述べたように、ビットコインに関しては、日本人のほとん
どは「怪しげなもの」としてとらえ、「もう終わったもの」と考
えています。メディアもマウントゴックスが破綻するまでは、盛
んに報道していたのに、破綻後は一切報道しなくなっています。
そのため、ことビットコインに関しては日本が世界で一番遅れて
いるといえます。
 今回の報道は、日経コンピュータの登録サイト(無料であるが
登録しないと全文は読めない)に出ていたもので、ほとんどの人
は知らないままであると思います。
 いずれにせよ、クラケンができることで、日本語によるビット
コインの取引ができることは一歩前進であると思います。クラケ
ンについてはまだ情報が不足のため、調査のうえお知らせするつ
もりです。
 ビットコインを「怪しげなもの」としてみる原因の1つに「匿
名性」があります。しかし、その一方で、日本国としては、今後
ビットコインが通貨として機能する可能性があるとして、その残
高を把握しておこうという気持はあるようです。
 既に述べたように預金は量的にはメインであるにもかかわらず
通貨としては認められておらず、他にも通貨に近い機能を発揮し
そうなものはたくさんあります。国債、株式なども通貨としての
機能を発揮する可能性はあります。
 匿名性が高いから通貨としては認められないというのは、おか
しいと思います。皮肉な話ですが、通貨として認められている現
金は匿名性が高いのです。医薬品をネットで購入するときに匿名
性が問題になったことがあります。一見ネットで医薬品を買う方
が匿名性が高いように思えますが、それは錯覚です。
 直接店頭に出向くと、薬剤師が出てきて、最初にこの薬を使っ
たことがあるかどうかを聞くのです。使ったことがある場合は、
そのまま売ってくれますし、使ったことがない場合は、薬剤師は
一応説明はするものの、氏名などを聞いたりはしないのです。し
かし、相手に顔をさらしています。
 ネットで医薬品を購入する場合は、自分の氏名などを明らかに
したうえで、いろいろな質問にアンケートで答える必要があるの
です。それにネットでものを購入する以上、クレジットカードの
番号なども登録する必要があります。ネットで医薬品を購入する
方がはるかに面倒なのです。これでわかるように、現金払いの方
がネットよりは、はるかに匿名性が高いといえます。
 「匿名で決済したい」という要望には、次の2つの側面がある
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.自分の個人情報を伝えないで決済する
     2.ID/パスワードを教えず、決済する
―――――――――――――――――――――――――――――
 現金はこれら2つの要望に合致しています。この点はビットコ
インも同様です。したがって、匿名だから問題であるということ
はないのです。
 既出の日本デジタルマネー協会フェローの大石哲之氏は「ビッ
トコインは『匿名』ではなく、『仮名』」であるとして、ビット
コインを2ちゃんねるにたとえて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2ちゃんねるは「匿名掲示板」と言われるが、一部の板では書
 き込むとIDが自動的に付与される。ID自体はランダムな文
 字列だから個人が特定されることはないが、書き込むごとに同
 じIDが記載されるから、「また同じ人が書いているんだ」と
 閲覧者にはわかる。2ちゃんねるでは「自作自演」を防ぐため
 に導入されているIDだが、ビットコインのウオレットIDも
 同じようなイメージだ。すなわち「持ち主が誰であるかはわか
 らないが、その人がどんな取引をしたかはわかる」という仕組
 みである。                ──大石哲之氏
                  ──高城泰著/扶桑社刊
    「ヤバイお金/ビットコインから始まる真のIT革命」
―――――――――――――――――――――――――――――
       ──── [ビットコインについて考える/41]

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコインの匿名性について/Gigazine
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ビットコインはP2Pという仕組みでシステムが維持されて
  おり、ビットコインシステムを運営する中央組織は存在しま
  せん。中央組織の代わりに「ビットコインQT(ビットコイ
  ンクライアント)」と呼ばれるソフトウェアをインストール
  する世界中の人たちのコンピュータ・リソースによってビッ
  トコインネットワークは維持されています。ビットコインク
  ライアントをインストールしているコンピュータは、ネット
  ワークを通じて相互に通信することで、常にあるデータを更
  新し続けています。そのデータは「ブロックチェーン」と呼
  ばれるもので、これこそがビットコインそのものといっても
  過言ではないものです。ブロックチェーンは、すでにマイニ
  ング(試掘)されて世に存在するビットコインのやりとりの
  すべてを記録した「ビットコインの取引記録」です。ビット
  コインはマイニングによって誕生するとブロックチェーンに
  登録され、その後、取引によって送信され所有者が変わる度
  にその履歴がブロックチェーンに記録される仕組みになって
  います。つまり、ブロックチェーンを見れば、ビットコイン
  が誰から誰へと送信されたのかがすべて分かるというわけで
  す。この履歴をたどれることが、ビットコインの信頼性を支
  えています。ビットコインが増える度に、取引が行われる度
  にブロックチェーンの内容は書き換えられ、現在、そのデー
  タサイズは約9GBとなっています。
                   http://bit.ly/10xQ5H0
  ―――――――――――――――――――――――――――

JADA加納代表理事の会見 .jpg
JADA加納代表理事の会見
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2014年10月31日

●「電子マネーとビットコインの違い」(EJ第3907号)

 ところで「電子マネー」──スタンプ、ポイント、マイルなど
は、マネーという名前が付いていますが、果して通貨といえるの
でしょうか。
 そもそも電子マネーは、どのくらいの額が決済に使われている
のでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ≪電子マネー決済件数≫
    ・2010年 ・・・・・ 19億1500万件
    ・2011年 ・・・・・ 22億3700万件
    ・2012年 ・・・・・ 27億2000万件
   ≪電子マネー決済金額≫
    ・2010年 ・・・・・  1兆6363億円
    ・2011年 ・・・・・  1兆9643億円
    ・2012年 ・・・・・  2兆4671億円
  日銀「決済システムレポート/2012〜2013」
                http://bit.ly/1E0tNM8
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように電子マネーの決済件数と金額は年々増加しており、
それだけ現金決済が減少していることを意味しています。なお、
クレジットカードの決済金額は、2000年に約20兆円であっ
たものが、2011年には約50兆円に拡大しています。
 現在、電子マネーといわれるものは、次の3つの系統に分ける
ことができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.専業系 ・・・   楽天Edy など
    2.交通系 ・・・ PASMO、Suicaなど
    3.流通系 ・・・ nanaco、WAONなど
―――――――――――――――――――――――――――――
 カードは種類が増えており、消費者は多くのカードを持たされ
ています。そのため、カードの統合が望まれるところですが、現
在のところ統合は少しずつしか進行していないのです。
 それでは、電子マネーは通貨といえるかどうかですが、結論か
らいうなら、ほとんどの電子マネーは通貨とはいえないのです。
電子マネーには次の2つの方式があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.クローズドループ型
         2.オープン・ループ型
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は「クローズドループ型」です。
 使用される電子マネーをその都度発行者に戻すことによって、
発行者がその正当性をチェックする方式です。つまり、利用者が
使えるのは、新規に発行された額だけであり、転々流通はできな
いのです。したがって、これでは通貨といえないのです。ほとん
どの電子マネーはこのタイプです。
 第2は「オープン・ループ型」です。
 これは、発行機関を経由せず、何度でも支払いに使用できるタ
イプです。つまり、転々流通ができるのです。しかし、今のとこ
ろこれに対応しているのは「楽天Edy」 だけなのです。楽天Edy
には「Edy to Edy」というサービスがあるのです。割り勘の清算
やオークションの支払いなどに利用できます。しかし、楽天Edy
の場合、送信金額分の1%の手数料がかかります。
 インディアナ大学テレコミュニケーション学部准教授であるエ
ドワード・カストロノヴァ氏は、企業ポイントが通貨としては使
えない事実を次のように指摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これらのバーチャルなお金を通貨と呼べなくしているのは「ほ
 かの人に直接移転できない」という点だ。私は、自分のアマゾ
 ンコインやアマゾンのポイントをあなたにあげることはできな
 い。一方、アマゾンで何かを買ってほかの人にあげることはス
 ムーズにできる。私の自宅の代わりに、その人の家に送るだけ
 だ。私のポイントを使って、あなたにモノを買ってあげられる
 のである。私のアカウントヘのログイン情報をあなたに売って
 私のポイントとコインをドルに換えることもできる。
  ──エドワード・カストロノヴァ著/伊能早苗・山本章子訳
     「『仮想通貨』の衝撃」/株式会社KADOKAWA
―――――――――――――――――――――――――――――
 お中元やお歳暮にもの自体を贈るのではなく、複数の商品のな
かから欲しいもの選べる金券を送ることがあります。この金券は
他の人に譲渡することができるので、転々流通が可能です。それ
なら商品券はどうでしょうか。これなら、品物を購入することも
金券ショップに行って現金化することもできます。それができる
のであれば、企業ポイントも「Edy to Edy」のように、転々流通
させるようにしてもいいではないか──エドワード・カストロノ
ヴァ氏はそういいたいのです。しかし、企業ポイントはビットコ
インと比較すると次のような問題点があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.電子マネーは、楽天Edy を別とすれば、1回限りの利用し
   かできないが、ビットコインは、企業や個人の間を転々流
   通する。これは現金通貨と同じである。
 2.電子マネーは管理が必要なので、その運営にコストがかか
   るが、ビットコインは管理・運営主体がなく、銀行などの
   仲介機関を通さず、経済取引ができる。
 3.電子マネーは、カードの盗難、紛失などのリスクがあるの
   で、入金額には限度がある。そのため巨額の保有や送金が
   できないが、ビットコインならできる。
 4.電子マネーは、特定通貨にリンクしている。そのため国際
   送金に用いることはできない。これに対してビットコイン
   は無国籍で国境を越える送金ができる。
―――――――――――――――――――――――――――――
       ──── [ビットコインについて考える/42]

≪画像および関連情報≫
 ●「楽天Edy」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  名称はユーロ(E/ユーロ)、米国ドル(d/ドル)、日本
  の円(y)に次ぐ第4の通貨にしたいという願いから、各々
  の頭文字を取る形で付けられた。ソニーが開発した非接触I
  Cチップ、フェリカを搭載したカードや、携帯電話(おサイ
  フケータイ)などで利用できる。Edy カード、おサイフケー
  タイには1枚(台)ごとに16桁の固有番号が付与されてい
  る。現在「プロパーカード」と呼べるカードは、発行母体で
  ある「楽天Edy株式会社」自身が、楽天Edy オフィシャル・
  ショップで販売している「楽天ポイントクラブEdyカード」
  (300円、楽天スーパーポイント機能付き)である。かつ
  てのビットワレット時代には、表面に「Edy」 の旧ロゴとブ
  ルーを基調としたデザインが施されたシンプルなカード(裏
  面は白無地)があった。また、過去に日本国内に存在したコ
  ンビニのam/pmにて2010年2月28日まで販売され
  ていた旧ロゴのカードが存在した。これらの旧カードは、現
  在は販売を終了している。なお、この旧am/pmのカード
  は、バリューイシュアの1社である「株式会社ソニーファイ
  ナンスインターナショナル」が発行元となっていた。
         ──ウィキペディア http://bit.ly/1nRMhKB
  ―――――――――――――――――――――――――――

カストロノヴァ氏の本.jpg
カストロノヴァ氏の本
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2014年11月04日

●「ケニア通貨革命エムペサの仕組み」(EJ第3908号)

 ビットコインを利用するには、当たり前のことですが、PCか
スマホが必要です。しかし、それらのマシンは高価であり、まだ
普及していない国は地球上にはたくさんあります。しかし、それ
らの国々でも通貨革命ともいえる動きが起きているのです。
 それは東アフリカのケニアの話です。アフリカでは、銀行口座
を持つ人の割合は人口の10%以下ですが、携帯電話の保有率は
60%に達しているといわれています。ところが、ケニアでは、
携帯電話の普及率は70%を超えているのです。
 ケニアでは携帯電話は1500ケニアシリング(1ケニアシリ
ングは約1円)ですが、アフリカの所得水準では高くて使えない
人も多いので、個人はそれぞれSIMカードを持っていて、10
人ぐらいのグループで携帯電話1台を共有するという使い方をし
ているのです。必要なときに順番にその携帯電話に自分のSIM
カードをセットして使うのです。
 携帯電話は中国製であり、携帯電話の充電はやはり中国製の太
陽光発電パネルを使っているのです。これなら発電網がカバーし
ていない地域でも携帯電話が使えます。
 こういう状況において、ケニアでは「M-Pesa(エムペサ)」と
いうサービスが普及しています。普及している携帯電話を利用し
て送金を行うサービスです。ビットコインとは違うシステムです
が、少額送金ができるシステムになっています。
 「エムペサ」は、英国の携帯電話の大手であるボーダフォン・
グループが、ケニアの携帯電話会社サファリコムに出資して20
07年2月からはじめたサービスです。
 「エムペサ」の仕組みはきわめてシンプルです。仕組み図を添
付ファイルとして付けてあるので、それを見ながら読んでいただ
きたいと思います。
 利用者はサファリコムの代理店に行き、自分の携帯電話番号を
エムペサ用に登録します。手続きはこれだけです。送金する場合
利用者は代理店に出向いて送金する現金を渡します。代理店は、
利用者の携帯電話番号を照会し、氏名と身分証明書に間違いがな
ければ、預かったお金を利用者のエムペサ口座に送金します。エ
ムペサ口座は銀行口座のようなもので、口座に送りたい金額の残
高があれば、代理店に現金を預ける必要はないのです。
 続いて利用者は、自分の携帯電話で送金メニューを選択し、送
金先の携帯電話番号と金額を入力し、送金するのです。
 送金を受ける本人には、サファリコムからSMS(ショート・
メッセージ・サービス)でメッセージが送られてきます。メッセ
ージの内容を読むには暗証番号が必要です。受取人は近くの代理
店に行ってそのSMSを見せると、送金された金額を送金者のエ
ムペサ口座から引き落として受け取れる仕組みです。
 重要なことは、エムペサ口座に預金された金額がサファリコム
が管理しているのではないことです。これらの資金はプールされ
いくつかの商業銀行に預けられており、信託されているのです。
ですから、サファリコムが仮に倒産しても、債権者は資金に手を
つけることはできないのです。つまり、エムペサのシステムには
ケニア中央銀行が関与しているのです。
 送金できる額は、100〜3万5000ケニアシリング(日本
円に換算すると約120〜4万2000円)までであり、手数料
は送金額によって異なり、30〜400ケニアシリング(約36
〜480円)となっています。
 サファリコムは、エムペサを通して預金や借入ができるサービ
スをはじめており、給与振り込みなどにも利用しています。また
2008年には、ボーダフォン、ウェスタンユニオンと組んで国
際送金もはじめています。2013年にボーダフォンは国際的な
送金システムをエムペサに接続させているので、エムペサを使っ
て一部の国とは国際送金ができるようになっています。
 このエムペサと類似のサービスは、ケニアだけではなく、全世
界の発展途上国に拡大しつつあります。すでにタンザニア、イン
ド、アフガニスタンが導入しており、アジア太平洋地域や南米に
も拡大しつつあります。
 このように、エムペサは、ビットコインとはまったく異なるシ
ステムですが、野口悠紀雄氏は、エムペサからは、次の3つのこ
とが学べると、自著において指摘しています。野口氏の本から要
約します。
―――――――――――――――――――――――――――――
  第一は、現在のITは、通貨革命を引き起こしうるような段
 階にまで進歩しているということだ。通貨や貨幣は情報なのだ
 から、情報技術が進めば、原理的には変化しうる。従来の通貨
 は完全なものとは言えないのだから、大きな変化が生じてもお
 かしくない。
  第二は、通貨に変革が生じたり、送金方法が改善されれば、
 社会は大きく変わるということだ。支払いが容易になれば、そ
 れまでできなかった活動が可能になる。そのネックが新しい技
 術によって克服されると、非常に大きな変化が起きる。エムぺ
 サは、そのことを示した典型例だ。
  第三は、「ネットワーク効果」の重要性だ。利用者が増える
 ほど便利になるのである。ビットコインは、まだクリティカル
 マス(臨界量)に達していない。利用が進んでいるアメリカに
 おいてさえ、そうである。エムペサは、利用者数で見れば、す
 でにクリティカルに達している。
            ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
 いわゆる通貨でないこのような仮想通貨が使われるのは、現行
の金融システムが万全のものではないからです。ケニアでエムペ
サが普及したのは、銀行システムが未発達で、不便であったから
です。ITが発達すると、現行のシステムを変革しようとする動
きが加速するのです。ビットコインも同じです。
       ──── [ビットコインについて考える/43]

≪画像および関連情報≫
 ●「ケニア・エムペサ」/菊池雅都氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  われわれの世代で経済学を学んだ者は、『近代欧州経済史序
  説』という大塚久雄の名著を記憶しています。なぜ、イギリ
  スで産業革命が、また近代資本主義を確立できたのかが明快
  に説かれています。その中のキーワードが周辺です。中心で
  はありません、周辺から変革が始まると。ポルトガルからス
  ペイン、さらにオランダからイギリスへと。イギリスは当時
  ヨーロッパの中心国ではありませんでした。なぜ、中心国で
  もないヨーロッパの田舎の国が近代資本主義を確立できたの
  かという問は、周辺国だから出来たのだという解答に帰結し
  ます。今まさに、そのことを実証するような出来事が進行し
  ています。アフリカ諸国の経済発展です。そこで行われてい
  るイノベーションは素晴らしいものです。その一つが携帯電
  話を使った金融取引のサービスです。日本でもドコモ口座が
  あって、携帯を利用しての送金システムがあります。どこが
  ちがうのでしょうか。「ケニアでは、人口のかなりの部分は
  まだ銀行のサービスを受けていない。その分、エムペサの需
  要がある。エムペサを通じて行われる資金移動は年間120
  億米ドルに達する。ケニアのGDPの31%に相当する規模
  だ。現在、75カ国を対象に、国際送金も始めている」。銀
  行サービスが無い地域でエムペサが使われている、つまり、
  銀行抜きで送金ができるのです。ドコモ口座は銀行口座に依
  拠しています。          http://bit.ly/1znB7BG
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ●図の出典/「日経ビジネスオンライン/『120円送金』
  が出稼ぎを助ける」 http://nkbp.jp/1wQcgnx

エムペサの仕組み.jpg
エムペサの仕組み

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2014年11月05日

●「ビットコインに続くオルタコイン」(EJ第3909号)

 ここまでビットコインの話をしてきましたが、ビットコインに
類似した暗号通貨は実はたくさんあるのです。こういう類似コイ
ンのことを「オルタコイン(altcoins)」といっています。オル
タコインは、2011年には6つ、2012年には3つでしたが
2013年になると、186種類に急増しています。2014年
になると、6月時点で既に959種類に達しています。
 ビットコインは、世界レベルでみると、取引所やウォレットな
どの関連サービスが多くできており、「先行者の有利性」を有し
ているのは確かですが、今後ともビットコインがトップランナー
であるとは限らないのです。ハル・ヴァリアン・カルフォルニア
大学名誉教授は、ビットコインの将来について次のように述べて
います。ちなみにハル・ヴァリアン教授は、グーグルのチーフエ
コノミストでもあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 仮想通貨は、将来も続く技術だろうが、ビットコインの将来に
 については、あまり楽観的ではない。
       ──ハル・ヴァリアン・カルフォルニア大学教授
            ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は後述するように、グーグルも暗号通貨を作っており、ビッ
トコインに挑戦している立場であり、コメントはその点を考慮し
て吟味する必要があります。
 ビットコインに詳しい既出の大石哲之氏もビットコインの将来
については懐疑的な意見です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインのような暗号通貨は将来有望ですが、ただ5年後
 に暗号通貨の中心になっているのがビットコインとは限りませ
 んよ。まったく別のコインが主役になっているかもしれないの
 です。        ──大石哲之氏/高城泰著/扶桑社刊
    「ヤバイお金/ビットコインから始まる真のIT革命」
―――――――――――――――――――――――――――――
 この世界では、先行した者が勝利するとは限らないのです。か
つてクレジットカードは、ダイナースクラブカードが世界初のク
レジットカードでしたが、その後シティコープ(現シティグルー
プ)に買収され、その後他の会社に売却されています。
 「2014 CoinMarkerCap」によると、2014年の時点での暗号
通貨の時価総額のうち、残高が1億ドルを超えているのは、次の
3つだけです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    第1位:ビットコイン ・・ 63.0 億ドル
    第2位:  リップル ・・ 10.0 億ドル
    第3位:ライトコイン ・・  3.7 億ドル
           ──野口悠紀雄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ライトコイン」から説明します。
 ライトコインは、多くのオルタコインがそうであるように中本
哲史氏のソースコードに基づいています。ライトコインの特徴は
その名の通り「軽さ」にあります。『ヤバイお金/ビットコイン
から始まる真のIT革命』の著者である高城泰氏は、ライトコイ
ンはビットコインに比べて3つの「軽さ」があるとしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.取引の認証にかかる時間が短い ──→第1の軽さ
  2.コイン総発行量が著しく大きい ──→第2の軽さ
  3.POWのアルゴリズムが異なる ──→第3の軽さ
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の軽さは、「取引の認証にかかる時間が短い」ことです。
 ビットコインは取引の認証に約10分間かかりますが、ライ
トコインは約3分程度と早くなっています。
 第2の軽さは、「コイン総発行量が著しく大きい」ことです。
 ビットコインの総発行量は2100万枚に定められていますが
ライトコインは8400万枚であり、4倍の発行量になるので、
理論的には1コイン当たりの価値もそれだけ軽くなります。
 第3の軽さは、「POWのアルゴリズムが異なる」ことです。
 ビットコイン技術の中心である「プルーフ・オブ・ワーク」の
アルゴリズムはSHA─256ですが、ライトコインはそのアル
ゴリムを使わず、「スクリプト」を使っています。スクリプト系
マイニングといわれていますが、詳細は省略します。
 このように3つの「軽さ」があるだけに、価格もビットコイン
と大きな差がついています。2014年の現時点で、1ビットコ
インが5万円台であるのに対して、1ライトコインは1000円
台に過ぎないのです。
 野口悠紀雄氏は、ライトコインについて次のように述べており
ビットコインと必ずしも競合するものではないとしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ライトコインはビットコインの変形であり、ビットコイン・プ
 ロトコルに基づいて運営されている。送金確認が平均2・5分
 とビットコインより速く、一般のコンピュータを用いてマイニ
 ングできる。総発行数もビットコインの4倍(8400万枚)
 が予定されている。これらは必ずしも競合するわけではない。
 互いに交換できる場合が多いので、補完的な役割を果たすこと
 もある。結局は、どれだけの店舗が受け入れるかで価値が決ま
 るだろう。         ──野口悠紀雄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これでわかるように、ライトコインはビットコインのあくまで
亜種であり、将来的にビットコインを抜く存在ではないというこ
とです。高城泰氏は、ライトコインは「永遠の二番手」であると
いっています。それでは、ビットコインを追う本命の暗号通貨は
何でしょうか。明日のEJで考えることにします。
       ──── [ビットコインについて考える/44]

≪画像および関連情報≫
 ●ライトコイン生みの親/チャリー・リー氏に聞く
  ―――――――――――――――――――――――――――
  レポーター:少し広い視点からお伺いするのですが、改めて
  ライトコインとは何かについて教えてもらえますか。
  リー氏:はい。ビットコインが何であるかはご存知ですね。
  レポーター:はい。
  リー氏:ライトコインは、ビットコインに対する代替通貨で
  す。ビットコインが金に例えられるのに対してライトコイン
  は「銀」としてよく例えられます。私はライトコインがその
  「金」を補強する役割を果たすように設計しました。ライト
  コインは、より多くのコインをもち、より速く処理を行いま
  す。ビットコインの処理が1つのブロックに対して約10分
  程度であるのに対して、ライトコインは約2分半です。つま
  り、4倍速いわけです。ライトコインはより使いやすく、低
  い手数料に設計されており、「金」が貯蔵価値があるのに対
  して「銀」が普段の生活で使いやすい通貨であることに似て
  います。これが私が行おうとしたことです。
  レポーター:なぜ4倍速いのですか。
  リー氏:実のところ、それは設計における決定です。ナカモ
  トサトシ氏(ビットコインの創設者と言われる)は、ビット
  コインのブロックが10分ごとに作られるように設計しまし
  た。これはある意味妥協の産物です。なぜならブロックをあ
  まりにも速く作られるように設計すると、マイナーが前のブ
  ロックを採掘するのに費やした努力を無駄にすることになり
  ます。              http://bit.ly/1uikcPr
  ―――――――――――――――――――――――――――

ライトコイン開発者へのインタビュー.jpg
ライトコイン開発者へのインタビュー
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2014年11月06日

●「暗号通貨リップルとビットコイン」(EJ第3910号)

 ビットコインを追う二番手のオルタコインは、時価総額でみる
と、「リップル」ということになります。しかし、リップルは、
ビットコインとはまったく発想が異なるのです。
 最初にリップルの正体をある程度明らかにしておく必要があり
ます。野口悠紀雄氏によるリップルの概要です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 リップル(Ripple)は、ビットコインとは構造が大きく違う。
 円、ドル、金、ビットコイン、その他のいかなる通貨や資産で
 も送金できる。例えば、「円で残高を持ち、ドルで送る」とい
 うことができる。しかも、瞬時に(数秒で)、コストがほとん
 どゼロで、送金できる。──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
 リップルは、グーグルが投資したことによって、がぜん注目を
浴びるようになったのです。リップルの運営者はクリス・ラーセ
ン──リップル・ラボのCEOですが、この人は10月20日の
EJ第3898号で説明した少額決済サービスの「ペイパル」の
創業メンバーの1人なのです。また、これまで数々の電子決済ビ
ジネスを成功させてきた人物です。
 リップル・ラボの出資者が凄いのです。まず、グーグルのベン
チャーキャピタル部門であり、米投資会社のアンドリーセン・ホ
ロウィッツ氏です。インスタグラム、スカイプ、グルーポン、ピ
ンタレストなどの有名企業に投資してきた著名のベンチャーキャ
ピタリストです。
 リップルの開発者はジェド・マケーレブ氏という人物ですが、
この人は、ビットコインにも深い関係があるのです。それは彼が
マウント・ゴックスの創業者でもあるからです。もっともその当
時のマウント・ゴックスは、人気カードゲーム「マジック・ザ・
ギャザリング」の取引所だったのですが、後にビットコインの取
引所にビジネスを変更しています。ただ、その直後にジェド・マ
ケーレブ氏は、マウント・ゴックスを売却しています。このいき
さつについては、9月8日のEJ第3871号で詳しく述べてい
るので、ご参照ください。       http://bit.ly/1ursYr5
 ジェド・マケーレブ氏には、もうひとつ触れておくことがあり
ます。それは彼がP2Pファイル交換ソフト「eDonkey」 の開発
者であるということです。これだけの技術実績があれば、ビット
コインのシステムを構築することは十分可能であり、そのため、
「ジェド・マケーレブ氏こそ中本哲史ではないか」と疑われたの
です。彼は、現在のビットコインについて、次のように述べてい
るのでご紹介しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私がマウント・ゴックスを売却したとき、ビットコインはまだ
 1ドルもしなかった。今ビットコインは新たな環境にある。私
 はビットコインにとって、そしてあなたにとって有益な何かを
 つくろうとしている。      ──ジェド・マケーレブ氏
                  ──高城泰著/扶桑社刊
    「ヤバイお金/ビットコインから始まる真のIT革命」
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、リップルとはどういうものなのでしょうか。ビット
コインとは、どこが違うのでしょうか。重要なポイントとして次
の4つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.  ウォレット
          2. ゲイトウェイ
          3.取引記録の合意
          4.    XRP
            ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は「ウォレット」を作成することです。
 リップルを利用するには、まず「ウォレット」を作成します。
これによってP2Pネットワークが形成されるのは、ビットコイ
ンと同じです。そして、公開鍵と秘密鍵を獲得し、公開鍵からア
ドレスを作成します。取引はアドレス間で行われるので、匿名性
が保証されます。
 第2は「ゲイトウェイ」を選ぶことです。
 ゲイトウェイは、円やドルなどの通貨とリップルネットワーク
との出入り口、つまりビットコインの取引所と同じです。これを
選定するのです。ビットスタンプというビットコインの取引所が
ありますが、ここはリップルのゲイトウェイもやっています。
 第3は「取引記録の合意」を得ることです。
 リップルでの取引は電子署名されてP2Pネットワークに送ら
れます。P2Pは取引記録を維持し、公開されます。これはビッ
トコインと同じですが、このプロトコルはリップル・ラボから提
供されています。
 ビットコインの場合は、取引の承認はPOWが要求されるので
すが、リップルの場合はPOWではなく、「コンセンサス」とい
う手続きで行われます。これは、ビットコインが約10分間かか
るのに対して数秒で終了します。
 第4は「XRP」という特殊通貨が使われることです。
 「XRP」は「リップルズ」と呼称されます。XRPがなぜ存
在するのかというと、ネットワークの安全性のためと、通貨間の
ブリッジの役割のためです。
 ネットワークを使って取引するには、少額ながらXRPが必要
なのです。使われたXRPは転々流通するのではなく、破棄され
るのです。最初に1000億XRPが作られ、そのうち800億
XRPがリップル・ラボに渡され、そこから配られるのです。
 以上でリップルの大体のイメージは把握できたと思います。明
日のEJで、さらに詳しく述べていくことにします。
       ──── [ビットコインについて考える/45]

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコイン、最大の“ライバル”の実像/リップル
  ―――――――――――――――――――――――――――
  リップル・ラボは、これまでにグーグル・ベンチャーズの他
  米投資会社のアンドリーセン・ホロウィッツやファウンダー
  ズ・ファンド、中国のIDGキャピタルパートナーズなどか
  ら合計650万ドル(約6億5000万ドル)を調達した。
  金融サービスを受けられない「アンダーバンク」と呼ばれる
  人々の問題解決に特化した米コアイノベーションキャピタル
  も重要な投資家の1つだ。
  ──決済プロトコルとしてのリップルについて、もう少し詳
  しく説明してほしい。
  CEOのクリス・ラーセン氏:リップルは、P2Pの仕組み
  に基づいて、分散型の金融取引を実現するための決済プロト
  コルだ。オープンソースのプロトコルであり、もとは我々の
  技術チームが開発した。このプロトコルを使うと、ドルや円
  ユーロなどの既存通貨、ビットコインなどの仮想通貨、航空
  会社のマイルやゲームのポイントなどの「価値」をグローバ
  ルでやり取りできるようになる。現在は国ごとに異なってい
  る決済プロトコルをグローバルで統合し、あらゆる「価値」
  をあたかもEメールや情報のように基本的に無料で、世界中
  どこへでも動かせるようにする。これがリップルの目標だ。
                  http://nkbp.jp/1lyWOZN
  ―――――――――――――――――――――――――――

リップル・ラボ/クリス・ラーセンCEO.jpg
リップル・ラボ/クリス・ラーセンCEO
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2014年11月07日

●「リップルは借用書を送るシステム」(EJ第3911号)

 昨日のEJで「リップル」について説明しましたが、ビットコ
インとリップルの最大の違いは、ビットコインではコインを直接
送るのに対して、リップルでは「IOU」を送る点です。
 「IOU」とは何でしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
   IOU= I owe you.(私はあなたに借りがある)
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、IOUとは「借用証書」のようなものです。送るのは
IOU、つまり負債を送るのです。しかし、送るにはXRPが必
要です。XRPはビットスタンプのようなゲイトウエイで、ドル
円、ユーロ、ビットコインなどと交換できます。
 ところで、「IOUを送る」とは、具体的にはどういうことを
意味しているのでしょうか。
 A、B、Cという3人がいます。この3人は友人同志であり、
お互いに信頼している間柄です。100ドルぐらいのお金であれ
ば、貸し借りする関係であるとします。
 AはBから100ドル借りていたとします。この状況において
BはCから100ドル分のものを購入したとします。このときB
はCに対して100ドルを支払うのではなく、「支払いの100
ドルはAから受け取って欲しい」と伝えます。これはBからCに
その旨のIOUを送ったことを意味します。一見IOUという通
貨がBからCに移動したように見えます。
 これによって100ドルを上限とした円やドルを使わない通貨
圏が成立することになります。それなら、この3人の通貨圏はど
のようにして拡張していくのでしょうか。
 このABCの3人にDが加わるケースについて考えます。Dは
Cの友人ですが、AとBについては知らない仲です。CはDに対
して、AとBと同様に、100ドルぐらいなら貸してもよいと考
えていたとします。
 ある日DはAから100ドル分の買い物をしたとします。仮に
Dは外国人であるとします。AとDは知り合いではないので、D
はAに現金を支払う必要がありますが、Dは外国に住んでいるの
で、支払にコストがかかってしまいます。
 そこでDは、AがCの友人であることを知って、Cに次のよう
に依頼したのです。「君に100ドルを返すので、君からAに支
払ってくれないか」と。Cはこれを了承し、Aに対して、自分の
100ドル分のIOUを発行し、Dから100ドル分のIOUを
受け取ります。このようにしてネットワークに新しい人が加わっ
てきます。
 IOUについては、英語の説明が多く、あまり詳しく説明して
いる本はないので、ネット上の「支払い手段の革命」というコン
テンツからリライトしているのですが、このサイトではリップル
というシステムを次のように説明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 リップルというシステムは、リップルのP2Pネットワーク上
 で、自分が信頼できる人物を探して彼らに与信枠を設定すると
 ネットワーク上にIOUのトポロジーができるので、これをも
 とに買い手と売り手の間にある最短のノードを作り、買い手側
 のノードから売り手側に向けて、IOUを発行するシステムで
 ある。               http://bit.ly/1zxtmZV
―――――――――――――――――――――――――――――
 もうひとつ、リップルではビットコインのPOW──プルーフ
・オブ・ワークに代わる仕組みとして、「コンセンサス」という
ものを採用しています。これに関しては、ネット上に次の説明が
あります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 リップルは、ビットコインとは完全に別物の仕組みだ。取引を
 承認するための方法も、ビットコインとは全く異なる。ビット
 コインは採掘(マイニング)によって取引を承認するが、リッ
 プルは「コンセンサス」という手法を使う。コンセンサスは、
 ビットコインの採掘とは根本的に異なる仕組みだが、不正取引
 を防ぐ能力については我々は自信を持っている。コンセンサス
 は採掘のように大きな電力を消費することもなく、承認にかか
 る時間も(ビットコインの約10分に対して)5秒と短い。ビ
 ットコインとリップルは競合しているわけではない。全く別物
 だ。ビットコインは既存通貨に代わって人々が使うような通貨
 を作ろうとしている。一方、リップルは新しい通貨を作ろうと
 は考えていない。我々が作りたいのは、いわば「価値取引のた
 めのインターネット」だ。      http://bit.ly/1zxui0i
―――――――――――――――――――――――――――――
 あまり詳しい情報がある訳ではありませんが、リップルの概要
をまとめると以下のようになります。
 リップルを利用するには、ウォレットを入手し、リップルのP
2Pネットワークの一員になる必要があります。そのうえで、ゲ
イトウエイを選定します。リップルの両替所がゲイトウエイです
が、その仕事は銀行の窓口そのものであり、そこに自分の持つ通
貨を預金しておく必要があります。通貨はドルでも円でもユーロ
でも、ビットコインでも構わないのです。
 リップルのネットワークでの取引ではいくつかのIOUを入手
することになりますが、それをゲイトウエイに持ちこむと、指定
の通貨と交換できるのです。したがって、ゲイトウエイは銀行そ
のものが行えばよいのです。しかし、通常の銀行では振込送金で
稼いでいるので、リップルなどを受け入れないと思います。
 しかし、どこかのネット銀行が採用すれば、振込手数料はほぼ
ゼロで、リップルの仕組みで通貨が送金できることになります。
このシステムは、11月4日のEJ第3908号を説明した「エ
ムペサ」に似ているところがあります。メール(IOU)を送っ
て、現金を受け取れるところがです。もちろん、仕組みはもっと
複雑ですが、グーグルが採用する以上、消えてなくなることはな
いと思います。──── [ビットコインについて考える/46]

≪画像および関連情報≫
 ●「リップル」について/大石哲之氏のブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  (リップルのような)こんな借金の付け替えなんて、ありえ
  ないとおもっているが、実はもっとも身近なところで起きて
  いる。銀行だ。銀行は貴方のお金をあずかって、代わりに通
  帳に記録された数字というある種の預り証を発行している。
  貴方の預けたお金は、実際には貸出にまわっていたりして跡
  形もなくなっているが、借用書上はのこっている。銀行預金
  というは実は預り証であって、現物のお金ではない。そして
  銀行内で、誰かに送金したいとき、その預かり証の数字を書
  き換えれば、銀行は実際のお金の現物をうごかさなくても付
  け替えができ、送金が実現したように見える。これが銀行の
  振替というシステムである。実は世の中のほとんどの送金は
  このような銀行への預り証の付け替えで実現しており、現物
  のお金を動かすということは実際には殆ど無い。リップルの
  送金も、このような預り証なり借金の付け替えによって実現
  する。なので、実際にJPY(日本円)なり、USD(米ド
  ル)は動かない。動いているのは、貸借のバランスであって
  それを付け替えたり、相殺したりして、精算する。もういち
  どまとめると、ビットコインは、現物だ。実際にお金が動き
  送金したら、ビットコインの所有権が相手に渡る。リップル
  は借金の付け替えと精算システムでありお金ではない。でき
  るのは付け替えと精算であり、現物を送ることはできない。
  貸し借りをしているひとの間で付け替えや精算をすることで
  送金したように見える。      http://bit.ly/1qqRXXW
  ―――――――――――――――――――――――――――

仮想通貨「リップル」.jpg
仮想通貨「リップル」
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2014年11月10日

●「米で決済が拡大するビットコイン」(EJ第3912号)

 2014年11月4日付の日本経済新聞は第4面において、次
の見出しとリード文で、ビットコインに関するかなり大きな記事
を掲載しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎米、ビットコイン決済拡大/安い手数料デルなど相次ぎ採用
  決済大手ペイパル、IT(情報技術)大手デルなど米国の有
 力企業で仮想通賃ビットコインを決済手段に採用する例が相次
 いでいる。対応する会計ソフトやレジなどを開発・投入する動
 きもある。2月の大手取引所「マウントゴックス」の破綻で世
 界的に一時信用が揺らいだ。しかし米当局が課税対象資産と認
 めたことに加え、クレジットカードに比べ決済手数料が安い点
 が魅力となっている。
         ──2014年11月4日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 記事によると、決済大手のペイパル──10月20日のEJ第
3898参照──は、2014年中にスマホでの決済を中心に、
ビットコインを受け付けることを決めています。PC大手のデル
では、既に今年の7月から同社の全製品でのビットコイン決済が
可能になっています。
 米ネット旅行予約大手エクスペディアは、6月からホテルの予
約にビットコインが使えるようになっていますし、航空券やレン
タカーの予約にも使えるようにサービスを拡大する予定であると
いいます。
 それだけではないのです。米会計ソフト大手のイントゥイット
はビットコインにも対応した会計ソフトの開発を進めています。
また、ビットコインの法的リスクを回避するための不正取引監視
ソフトを提供するベンチャーも増えています。これらのソフトは
規制機関である金融犯罪取締執行ネットワーク(FinCEN)の指針
に対応したものであり、ソフト導入で企業は指針に従いやすくな
るといわれています。
 日本企業のなかにも米国での事業でビットコインに対応する企
業が出てきています。楽天の米物流管理受託子会社は、今年の8
月からビットコイン決済を受け付けています。そうしないと、ビ
ジネスに対して支障が出るからです。また、東芝では、ビットコ
インに対応したレジシステムを開発中です。
 米国でこのような動きが加速化しているのは、他国に先駆けて
ビットコインの会計上の扱いを決めたことにあります。2014
年3月、米税務当局はビットコインの取り扱いについて、次の方
針を出しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインを株式や債券と同様の「課税対象資産」とみな
 し、規制は財務・税務当局および各州に委ねる。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに先陣を切ったのは、米ニューヨーク州です。ニューヨー
ク州では、仮想通貨関連ビジネスを認可制とし、金融機関に近い
条件を課す方針です。一定の内部留保、リスク説明の義務化、法
令順守担当者の決定、顧客対応窓口の設置、不正取引に対する予
防策、財務報告の義務化などです。
 しかし、米国でのこうした動きに対照的に日本においてはビッ
トコインはサッパリです。マウントゴックスの破綻直後に日本政
府は「ビットコインは通貨に該当しない」という公式見解を出し
自民党の委員会でも「既存の法規制は適用しない」という方針を
確認しただけであとは何もしていないのです。完全な様子見の姿
勢です。メディアも報道せず、話題にもなっていないのです。ど
うしてこのような差が生まれるのでしょうか。
 日本はハードウェアについては優れた技術を持つ国ですが、こ
とソフトウェア──とくにITの分野では、米国に大きく遅れを
とっています。その象徴はソニーの凋落です。20世紀に家電の
分野において世界を席巻したあのソニーが、ITの分野ではこの
ところ連戦連敗であり、苦境に立っています。
 日本では、とくに新しい通信メディアが登場すると、その技術
を取り入れる努力をするよりも、マイナス面を強調して排除しよ
うとする傾向があります。インターネットについても、そんなも
のが普及すると、教育上よくない動画が誰でも見られるようにな
り、好ましくないというように、それによるプラスの面よりもマ
イナス面を強調してそっぽを向くのです。
 ビットコインに関しても「匿名であり、マネーロンダリングに
利用される恐れがある」というように、マイナス面を強調してそ
の危険性を訴えています。しかし、ビットコインをはじめとする
暗号通貨は通貨の革命なのです。野口悠紀雄氏はその著書の冒頭
で、フランス革命を例にひいて、次のような逸話を紹介し、ビッ
トコインをはじめとする暗号通貨(野口氏は仮想通貨と表現)に
よる通貨革命は不可避(革命)であると訴えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1789年7月14日の夜である。バスティーユ監獄での国王
 軍敗北の知らせをヴェルサイユで受けたフランス国王ルイ16
 世は、「これは反乱だ」と言った。その意味は、事態を収拾す
 る手段を王が持っているということである。知らせを伝えたリ
 アンクール公爵は、直ちに王の誤りを訂正し、「これは革命で
 す」と言った。その意味はこれは一国王の力を超えるものであ
 り、天体の運動を抑えられないのと同じように抑えられないと
 いうことだ。同じことが通貨革命についても言えるのである。
 この動きを押しとどめることはできない。なぜなら、仮想通貨
 はコンピュータ技術の進歩によってもたらされたものであり、
 従来の通貨より優れているからである。そして、優れているも
 のは、劣るものをいつかは駆逐するのである。
            ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
       ──── [ビットコインについて考える/47]

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコイン金融商品として承認/米国のしたたかな戦略
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米内国歳入庁(IRS)は2014年3月25日、仮想通貨
  ビットコインに関する税務指針を公表しました。内国歳入庁
  は日本でいえば国税庁に相当し、税の徴収などを実施する機
  関です。指針では、ビットコインについて株や債券と同様の
  商品とみなし、譲渡益に課税するとしています。ビットコイ
  ンを売買して利益が出た場合には、株の売買と同様、課税の
  対象となります。ビットコインの金融商品的な位置付けが米
  国の政府機関によって明確になったわけですから、今後は、
  ビットコインの取引が一気に広がる可能性が出てきたといっ
  てよいでしょう。しかし、今回の指針がもたらすインパクト
  はこれだけにとどまりません。指針では、家賃や給料の支払
  いにビットコインを使用した場合の取り扱いについても言及
  しています。これは決済用の通貨としてビットコインを認め
  ていることの裏返しであり、最終的にはビットコインが正式
  な通貨として認定される可能性を示したものといえるでしょ
  う。またニューヨーク州では、当局の監督を受けた公認取引
  所の開設を検討しているとの報道もあります。当局の規制の
  下で取引が行われるようになれば、ビットコインの透明性が
  一気に拡大することになります。もし実現すれば、やはり、
  ビットコインの普及に大きく貢献することになるでしょう。
                   http://bit.ly/1AFwUuw
  ―――――――――――――――――――――――――――

フランス革命/バスティーユ襲撃.jpg
フランス革命/バスティーユ襲撃
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2014年11月11日

●「ITの革新性がわからぬ経済学者」(EJ第3913号)

 米国でのビットコインの決済は、今後必然的に拡大せざるを得
なくなると思われます。なぜならば、それが問題山積の国際送金
の現状の有効な解決策になるからであり、ほとんど無料で送金で
きることと、これまで困難だった100円程度の少額送金も可能
になるからです。簡単で、便利で、低コストであれば、必ず普及
するものです。
 今のところ米国が一番熱心で、ヨーロッパは懐疑的、日本は無
関心の状態にあります。問題は、懐疑的や無関心が、ビットコイ
ンのシステムがよく理解されている前提でそうであるかどうかで
す。もし、懐疑的や無関心が、システムがよく理解されていない
結果であるとしたら、それはきわめて問題です。
 ビットコインのシステムの理解は、ここまでのEJを読んでい
ただくと分かるように、暗号理論を理解しない限り、その本質的
理解は困難といわざるを得ないのです。マウントゴックスが破綻
したときの麻生財務相の発言を聞く限り、彼がビットコインを正
しく理解しているかどうかは疑問です。
 もし、米国でのビットコインの決済がさらに拡大してくると、
インターネットがそうであったように、日本は、前言を翻して、
一転して積極的に取り入れに動き、結果として日本での普及・拡
大に努めることになると思われます。
 実は、インターネットを基盤として使うIT技術もその初期に
おいては、世界に名だたる米国のノーベル経済学賞受賞の経済学
者たちは、こぞって否定的にとらえていたのです。
 経済成長論でノーベル経済学賞を受賞したロバート・ソローマ
サチューセッツ工科大学教授は、IT革命について次のように述
べるなど懐疑派であったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ・われわれは、コンピュータ時代の到来をあらゆる所で目撃し
  ており、IT革命を見ることができるが、経済データのなか
  には存在しない。
 ・IT革命によって、アップルのような弱小企業が、モトロー
  ラやフェアチャイルドなどの大企業から有能な技術者を引き
  抜いてしまうために、米国経済は衰弱する。
              ──ロバート・ソローMIT教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 インターネットは1970年代に作られ、全米に広がっていっ
たのですが、ソロー教授のいうように、1990年代前半のイン
ターネットは、電話回線を利用しているので速度は遅く、常時接
続はできず、コストがかさむ代物であり、とても将来社会を変貌
させる技術には見えなかったのです。
 しかし、当初からインターネットでは、パケット通信によって
通信が行われており、そこに革新性を見出していれば、それが社
会を変える起爆剤になることは予想できたはずです。だが、その
ためには、インターネットはなぜつながるのかという技術的分野
に立ち入って理解することが必要になりますが、偉い経済学者で
あっても技術に弱く、表面だけの理解にとどまったのです。
 同じことはビットコインにもいえるのです。ビットコインの中
核的技術であるPOW(プルーフ・オブ・ワーク)が理解できれ
ば、その技術が他に応用できる可能性が十分あり、やはり社会を
変革する力を見抜くことはできるはずです。したがって、ビット
コインの可能性を把握するには、暗号理論にまで立ち入って、理
解する必要があるのです。
 このように、新しい技術が登場してきたときは、たとえ時代を
代表するような高名な学者であっても、その経済的意義を過小評
価してしまうことが枚挙にいとまがないのです。それはインター
ネット以前にもたくさんあったのです。野口悠紀雄氏が自著で取
り上げているその事例のひとつとして、ウエスタンユニオンとベ
ル社の争いについてご紹介します。
 電話がグラハムベルによって発明されたのは19世紀後半──
1876年のことです。まだ電話がなかった当時は、電信(テレ
グラフ)が発達していたのです。電信とは、電気によって、有線
・無線を含めた電気通信全体の総称です。
 当時の米国では、8500の電信局と21万マイルを超える電
信線が海底ケーブルで全世界が結ばれようとしていたのです。そ
れは、ニュースの伝達や株式市況の速報などに使われ、軍事面で
も幅広く活用されていたのです。トップ企業はウェスタンユニオ
ン(WU)であり、当時の米国最大の企業だったのです。
 そんなときに電話が発明されたのですが、その注目度は低かっ
たのです。何しろ雑音は激しいし、通信記録は残らないし、交換
機がなかったので、専用線が使える一部の人としか話せない──
既に完成度の高かった電信技術に比較できるレベルではなかった
のです。グラハム・ベルと出資者たちもそう考えており、電話に
関する権利の一切をウェスタンユニオンに買ってもらえないかと
売り込んだのです。しかし、ウィリアム・オートンWU社長は、
次のように電話を酷評して、断ってしまったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 電話はあまりに欠点が多いので、通信手段としては真剣に検討
 するに値しない。この装置(電話)は、われわれによって何の
 価値もない。     ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
 そこで、ベルは1877年にベル電話会社を設立し、普及を始
めたのです。そのときになって、WUはベル社が電信事業の妨げ
になることを懸念し、1879年にWUの提案で、ベル社は電信
に参入せず、WUも電話に参入しないという協定を結ぶのです。
 ところが電話事業は急発展し、1900年にAT&Tになり、
その後一世紀にわたって電話産業に君臨したのです。そして、第
2次世界大戦後にAT&Tが世界最大の企業になったのです。電
話の革新性を見抜けなかったWUの完全敗北といえるのです。
       ──── [ビットコインについて考える/48]

≪画像および関連情報≫
 ●電話の歴史/発明にまつわる話
  ―――――――――――――――――――――――――――
  電話の発明に深く関わった人間が3人います。一人は、現代
  でも電話発明者として名を知られるグラハム・ベル。もう一
  人は誰もが知っている発明王エジソン。そして最後の一人が
  あまり名を知られることが無いエリシャ・グレイです。3人
  は、電信技術の究極の改良として、あるいは、聴覚という医
  学的な観点からのアプローチで電話の発明に迫っています。
  ベルの父親は聾唖者のための「視話法」の発明者であり、ベ
  ルもそれを受け継いで聴覚障碍者のための教育に力を注いで
  いましたが、やがて音声学方面からのアプローチから「多重
  電信」開発へ傾倒していき、その中で電話のアイディアを得
  ます。電気学はブリッジ回路や電信機で有名なホイートスト
  ン博士に学んでいるものの、3人の中では一番のど素人でし
  た。エジソンは、ほぼ独学で電信士となり、電気技術を身に
  付けていった人物です。電話発明の頃には既に、通信方面で
  の多彩な活躍を見せていた時期でもありました。彼は電球の
  発明を始めとする強電分野の活躍イメージが強いですが、そ
  の発明人生は電信技術の改良から始まっています。電話発明
  の2年前には1本の通信線で4重通信が可能な多重装置を発
  明していました。奇しくも彼自身が聴覚障碍者であり、ベル
  との因縁が深いと言えるでしょう。事実、同い年でもあり、
  生涯にわたってベルと張り合うことになります。
                   http://bit.ly/1ykUHKO
  ―――――――――――――――――――――――――――

電話を発明した3人.jpg
電話を発明した3人
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2014年11月12日

●「楽天/ビットコイン参入への衝撃」(EJ第3914号)

 日本の企業でビットコインに一番早く対応したのは楽天です。
といっても米国向けのビジネスにおいてですが、楽天の米物流管
理受託子会社「楽天スーパーロジスティクス」が8月からビット
コインに対応したのです。これは、11月10日付のEJ第39
12号で述べた通りです。
 実は、楽天会長兼社長の三木谷浩史氏は、マウントゴックスの
破綻以来、何回か節目ごとに、ビットコインについて的確な発言
をしているのです。日本でビットコインについて知る人の多くは
投機の対象としてビットコインをとらえていますが、三木谷氏は
さすが通販事業をやっているだけあって、最初からビットコイン
をEコマースの決済手段として考えていたのです。
 マウントゴックスの破綻の直後に三木谷社長は、IT企業を中
心とした経済団体「新経済連盟(新経連)」の代表理事として、
政府がビットコインの取り扱いルールの明確化を検討しているこ
とに関し、次のように発言しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 拙速に動かないほうがいい。規制の是非はもう少し状況を見極
 めて、深い議論をしてからにすべきである。日本国内だけでど
 こまで規制できるか実効性の問題がある。財務省や日銀などと
 連絡を取りながらしっかり議論したい。─三木谷浩史代表理事
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに、2014年7月14日、三木谷氏は福岡市内で講演し
ビットコインについて次のように発言しています。このときは既
に「楽天スーパーロジスティクス」のビットコイン対応を終えて
いたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今年はインターネット革命が加速する。恐らく楽天も早晩──
 ネット上の仮想通貨、ビットコインでのお金を受け付けるよう
 になると思う。         ──三木谷楽天会長兼社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は楽天グループがビットコインに関心を示していることは、
大いに注目すべきことなのです。なぜなら、楽天グループは、楽
天銀行、楽天生命、楽天証券などの金融会社を傘下に有している
からです。とくに銀行業務を有していることは重要です。
 ビットコインの国際送金については、既に述べていますが、こ
こで整理しておくことにします。添付ファイルを見てください。
 ビットコインの国際送金はシンプルです。預金を前提とすると
送金人Aが円預金をビットコインに交換して受取人Bに送金し、
そのビットコインをすぐにユーロに交換してもらえればいいだけ
です。これでBはユーロ預金を得ることになります。
 為替リスクに対しては、AとBがタイミングを合わせて行えば
ほとんど問題はないと思います。しかも、取引コストはほとんど
かからないで送金でき、100円程度の少額送金も可能です。
 クレジットカードでやればもっと簡単ですが、クレジットカー
ドのなかには安全性に問題のあるものも多く、不正が行われる可
能性もあるため、その分店側に割高な手数料がかかるのです。
 もし、銀行がビットコインを扱ってくれると、預金から送金分
をビットコインに交換して送金し、受取人がそれを自国の通貨に
交換するというかたちで送金ができることになります。
 ところが、日本政府はビットコインを金融機関が扱うのを禁じ
ています。しかし、米国をはじめ多くの海外の国で、ビットコイ
ンを金融機関に扱わせることを認めるようになった場合、日本だ
けやらないというわけにはいかなくなります。まして、楽天は銀
行を持っているのです。政府委員をやったことがある三木谷社長
はその解禁に猛然と動くことは十分考えられます。
 もっとも金融機関がビットコインを扱わなくても、楽天が子会
社として、ビットコインの取引所を運営することは可能です。も
し、楽天がやれば、アマゾン、ヤフー!なども次々と進出する可
能性が大です。
 もちろん銀行は猛烈に反対すると思います。したがって、ビッ
トコイン推進派は、少額送金から入るべきです。最近銀行はかつ
てはあれほど熱心だった公共料金や税金の納付サービスをコンビ
ニにまかせるようになっています。超低金利時代になったので、
儲からなくなったからです。
 まして国際送金の場合は、少額の送金サービスを放棄している
に等しいのです。クレジットカードとは競合しますが、ここなら
十分突破口になるいえます。
 金融ベンチャー「Finatext」CEOの杉良太氏は、2014年
10月29日付「東洋経済オンライン」で、今後のビットコイン
について、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインへの注目が再び集まる中、現在、続々とビットコ
 イン関連のベンチャーが立ち上がり、ベンチャーキャピタルの
 投資も急増している。2014年9月末時点の投資額は330
 億円以上と推測されるが、これは1995年時点でのインター
 ネットベンチャーへの投資額を上回っている。ビットコインベ
 ンチャーの領域は財布、取引所、ATM、金融サービス、デー
 タ分析、マイニングなど多岐にわたるものがあり、これから継
 続して投資額が上昇することも予想される。筆者は国家(特に
 先進国)の信用が、近い将来、地に墜ちるような可能性は低い
 とみているが、相対的には、国家の信用が低下すると考えてい
 る。こうした環境下で、仮想通貨が通貨の代替になるのではな
 く、米ドルと並ぶような「新たな基軸通貨」になりえるとみて
 いる。通貨と「競合」するのではなく、「共存」することによ
 って現在の金融システム全体に新たな「厚み」をもたらしてく
 れるということだ。決済・送金への応用、投機・投資・ヘッジ
 対象、技術の応用など、その「範囲」は広い。そして、われわ
 れはちょうどその転換期にいる。   http://bit.ly/1yJ3t60
―――――――――――――――――――――――――――――
       ──── [ビットコインについて考える/49]

≪画像および関連情報≫
 ●再来!ビットコイン/B+(ビー・プラス)
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2014年10月21日、あるニュースが発表された。ビッ
  トコインのデジタル決済プラットフォームの米ビットネット
  社が1450万ドルの資金を調達し、日本から楽天も出資に
  加わったというのだ。それどころか、ビットネットのサービ
  スを自社の決済手段として導入することが決定しているとい
  う。加盟店舗4万1800、ユーザー1500万人の国内最
  大級のオンライン通販会社がビットコインを採用するインパ
  クトはとても大きい。2014年2月、ビットコインの両替
  所マウントゴックスがハッカーのサイバー攻撃を受けて破綻
  して以降、日本ではビットコインは危険なもの、胡散臭いも
  のというイメージが拭い切れないでいる。ただ、あの事件は
  マウントゴックスという一取引所が破綻しただけであって、
  ビットコインの通貨システムには何の影響もない。ビットコ
  インは今でも生きており、アメリカを中心に急速に勢力図を
  拡大している。使える場所は、ネット通販、ゲームなどソフ
  トの購入、飲食店の支払い、貿易金融など。弁護士事務所や
  ラスベガスの老舗カジノでも使えるようになった。実は、楽
  天グループの流通事業会社である楽天スーパーロジスティク
  スもすでに米国で導入済みだ。日本でもこの数ヶ月間にビッ
  トコインに関するニュースが続いた。6月には自民党のIT
  戦略特命委員会からガイドラインが公表された。それによる
  と、ビットコイン技術を「価値記録」として、通貨、電子マ
  ネー、モノでない新たな分類に属すると定義。ビジネスにイ
  ノベーションを起こす要素として前向きに評価している。
                   http://bit.ly/1sqedB6
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ●図の出典/吉本佳生/西田宗千佳著/「暗号が通貨になる
  『ビットコイン』のからくり/『良貨』になりうる3つの理
  由」/ ブルーバックス

ビットコインによる国際送金.jpg
ビットコインによる国際送金
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2014年11月13日

●「ビットコインとはネット上の帳簿」(EJ第3915号)

 ビットコインの中核は「POW/プルーフ・オブ・ワーク」に
あります。それは奇想天外の方法であり、これを応用することに
よって、多くの制度などが変革される可能性があります。
 POWは中央に管理コンピュータのないピア・ツウ・ピアネッ
トワーク(P2P)で取引を行い、そこに不正がないことを証明
するとともに、P2Pネットワーク参加者の多数決で取引を承認
するシステムです。それは、インターネットにおける「パケット
通信システム」のようなものです。もし、このシステムがなかっ
たら、インターネットはこれほど普及しなかったはずです。
 しかしながら、ビットコインのシステムのなかで一番わかりに
くいのもPOWであると思います。それは、難解な「ビザンチン
の将軍問題」としても有名です。ビットコインのPOWは、それ
に解を与えたことに意義があります。
 世界初のウェブブラウザ「モザイク(後のネットスケープ・ナ
ビゲーター)」の開発者であるマーク・アンドリーセン氏は、ビ
ットコイン(POW)について、多くの的確なコメントを発信し
ていますが、その一部をご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ビットコインは、「インターネット上に広がった帳簿」であ
 る。現金を払ったり、又は製品やサービスを売ったりして、あ
 る定められた帳簿の枠を買うことで、あなたはその帳簿に自分
 の名を連ねられる。
  その帳簿に加わりたい人にビットコインをトレードすること
 で、逆にあなたはその帳簿から売り抜けることができる。誰で
 も好きな時に売買できるのだ。承認もいらないし、手数料もほ
 とんどかからない。
  ビットコインの通貨自体は単にその帳簿上の枠に過ぎず、現
 実世界の取引にもっと広く適用可能であることをのぞけば、証
 券取引所の会員権のようなものだ。
  ビットコインは新しい決済システムである。その帳簿の枠の
 所有権をトレードするだけで、世界中の誰でも、他の誰かに好
 きな額のビットコインを支払うことができる。送信者が額を打
 ち込み送る。受信者がその額を受けとる。承認はいらない。そ
 してほとんどの場合、手数料もかからない。
     ──マーク・アンドリーセン http://bit.ly/1wQkJHv
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ビットコインはインターネット上に広がった帳簿である」と
いう言葉は、ビットコインの本質に迫っています。ここで帳簿と
は、ブロック・チェーンのことです。あえて「通貨」と呼ばず、
「帳簿」といっている点が素晴らしいと思います。「帳簿」は預
金口座と考えると、もっとわかりやすいと思います。
 さらに「人はその帳簿の枠を買うことで、帳簿に参加すること
ができ、それをトレードすることで、帳簿から抜けられる」と述
べていますが、これも見事にビットコインシステムの本質を衝い
ている言葉です。
 あなたがビットコインをはじめたいと考えたとします。そこで
日本語対応をはじめた米大手のビットコイン取引所「クラケン」
から、円と引き換えに若干のビットコインを入手したとします。
ビットコインを手に入れたあなたは、ウォレットを入手してビッ
トコインをそこに入れることによって、P2Pネットワークを構
成する利用者の1人になります。
 この行為と帳簿とは、どういう位置付けになるのでしょうか。
この場合、クラケンはP2Pネットワークを構成する1利用者で
あり、あなたに円と引き換えにビットコインをトレードした取引
を帳簿に記載して審議にかけます。審議(マイナーによる計算)
の結果、そこに不正がないことが確認されると、多数決で取引は
承認され、その取引はブロックチェーンに接続されます。これが
POWというものです。
 このビットコイン・プロトコルは、いろいろなものに応用がで
きます。そのひとつに「スマート・コントラクト」というものが
あります。ビットコインの場合は、これをお金の残高と移動と捉
えて、あるIDからあるIDへのコインの移動を中央の認証機関
なしに実現していますが、スマート・コントラクトは、いわゆる
民事の契約をコンピュータがわかるように記述しようというもの
です。つまり、POWの取引を金融資産一般に拡張するのです。
 契約書を、コンピュータのスクリプトにしてコンピュータが理
解し、処理できるようにするのがスマート・コントラクトです。
このように、人間の個別判断を要せず、コンピュータが実行でき
る契約のことを「ドライな契約」といいます。具体的にいうと、
例えば、誰が誰にいくらを借りて、いつ返す、担保はこれこれと
いったものから、複雑な権利のやりとりまでを記述することがで
きるのです。
 大石哲之氏は、スマート・コントラクトとPOWの仕組みを組
み合わせると、どのような未来が考えられるかについて、次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 例えば、ある人物が10ビットコインを借りて、1年後に返す
 という約束を作ったと考える。すると、これを、電子署名し、
 偽造できないかたちで、ブロックチェーンに書き込むことがで
 きる。その約束は、特別な認証機関なしに、ネットワーク参加
 者の全員がたちどころに認識することができ、そして、それを
 正しい・偽造されていないということを明らかにできる。そし
 て、スクリプト化されているので、期日がきたらコンピュータ
 が自動的に執行するようにもできるし、エスクロー取引も簡単
 になる。これは、デリバティブの取引にも使える。デリバティ
 ブをスクリプトで定義し、エスクローをかませてネットワーク
 に載せることもできる。そしてそのデリバティブ契約は自由に
 売買(所有権の移動)も可能だ。   http://bit.ly/1qDppdQ
―――――――――――――――――――――――――――――
       ──── [ビットコインについて考える/50]

≪画像および関連情報≫
 ●「エスクロー」とは何か/IT用語辞典
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「エスクロー」とは、取引の安全性を保証する仲介サービス
  のこと。(企業向けの)サービス自体は昔からあったが、ネッ
  トオークションの普及で個人間の物品の売買が盛んになった
  ことから、インターネット上で個人向けにエスクローサービ
  スを提供する事業者が急成長している。エスクローサービス
  事業者は売り手と買い手の間に入り、買い手から購入代金を
  預かり、売り手が買い手に商品を配送するのを待つ。配達が
  完了したことを確認すると、購入代金を売り手に送金する。
  買い手は、売り手から商品が届かなかったり、届いた商品が
  取引内容と異なる場合には、取引を破棄して事業者から返金
  を受けることができる。売り手は、買い手が事業者に入金し
  たことを確認してから配送できるため、代金を取り損ねるこ
  とがない。事業者は買い手から購入代金を預かる際に、合わ
  せてサービス手数料を受け取る。エスクローを利用するには
  料金がかかるため、取引の際にあらかじめ売り手と買い手が
  サービスの利用を同意している必要がある。
  IT用語辞典「e-Words」     http://bit.ly/10XQkdO
  ―――――――――――――――――――――――――――

マーク・アンドリーセン氏.jpg
マーク・アンドリーセン氏
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2014年11月14日

●「『スマートプロパティ』とは何か」(EJ第3916号)

 スマートコントラクトの話を続けます。Eコマースに関連する
話です。Eコマースでは、売り手と買い手にそれぞれ次の不安が
あります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  売り手:商品を送ったのに代金を払ってくれない → 1
  買い手:商品代金を送金したのに商品が届かない → 2
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」に関しては、電子認証システムなどによって、売り手の
信頼性を保証することが必要です。プルーフ・オブ・ワーク(P
OW)では電子認証システムを使っているので、この点はクリア
されています。
 「2」に関しては、信頼できる第3者を立てて、購入代金を預
託する方法があります。買い手はその第3者に対して代金を預託
します。預託を確認して売り手は商品を発送します。そして、商
品に対して問題がないことを買い手が確認すると、第3者は代金
を売り手に送金します。これが「エスクロー」です。
 しかし、エスクローには第3者が不可欠であり、その分コスト
がかかります。しかし、ビットコインのPOWを使えば、第3者
不要でコストをかけずにエスクローが実現できます。
 ビットコインに関して、「スマート・プロパティ」というもの
があります。これは、自動車や電気製品などの耐久消費財や不動
産などの所有権移転の機能をビットコインのPOWを使って実現
しようとするものです。
 わかりやすい例の一つとして、自動車に使われている「イモビ
ライザー」があります。イモビライザーというのは、次のような
技術です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 通常、車の鍵は、キーシリンダー内部とキーの鍵山が(機械的
 に)一致すればイグニッションスイッチをオンにしてエンジン
 が始動できる。これに対し、イモビライザーは専用キーに埋め
 込まれたトランスポンダと呼ばれる電子チップが持つ固有のI
 Dコードと車両側のIDコードを電子的に照合し、一致すれば
 エンジンを始動させることができる。  ──ウィキペディア
                   http://bit.ly/1Ew1KCF
―――――――――――――――――――――――――――――
 このイモビライザーの技術を使うと、合鍵を作ってもドアは開
くけれども、エンジンはかからないことになります。しかし、こ
れは自動車会社の独自の暗号技術に基づいています。
 そこで、暗号方式をビットコインと同じ公開鍵暗号方式にし、
ビットコインのシステムの取引対象を自動車にまで拡大し、PO
Wによって取引できるようにするのです。そうすれば、自動車の
販売とその所有権移転のため複雑な手続きや登録は、きわめて簡
素化され、しかも万全なセキュリティが確保されます。
 この方式なら、スマホを車のダッシュボードにかざせば、本人
と認証されてエンジンがかかります。しかし、これを実現するに
は、自動車の構造を変化させなければならないことや、自動車の
登録制度の変更も必要になり、簡単ではありませんが、その実現
の可能性は十分あります。
 このように自動車だけではなく、不動産を含めてあらゆる資産
に関して、ビットコインと同様の方法で所有権と取引の合意認証
をしようという考え方が「スマート・プロパティ」なのです。
 もし、これが実現すると、いろいろなものがとても便利になる
のです。例えば、レンタカーなどは、料金を支払った日数や時間
だけ所有権が移る契約にすればよいのです。期限が来ると、自動
的に所有権がレンタカー会社に戻って、エンジンが止まってしま
うことになります。
 アパートやマンションの賃貸にもスマート・プロパティは応用
できます。これも車と同様に、もし、契約通りに家賃が支払われ
ないと、鍵が作動しないようにすれば、貸主としては家賃未払い
のリスクがなくなります。
 このように、ビットコインのシステムはいろいろなものに使え
るのですが、それらがすべて使えるプラットフォームを提供しよ
うという考え方が「エセリウム」です。ビットコインに詳しい大
石哲之氏は、これについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ブロックチェーン技術をお金以外のものに応用したのがビット
 コイン2.0 といわれる技術とサービス群だ。たとえば、スマ
 ートプロパティでは、独自の通貨や、株式や債権など、デジタ
 ル上の資産をブロックチェーンに載せてやりとりすることがで
 きるようになっている。スマートコントラクトでは、中央機関
 なしに、契約を自動執行できる。すでにP2Pでうごく、非中
 央集権型の取引所もたちあがっている。このようにいろいろな
 2.0 の仕組みがたちあがっているが、それぞれに仕様がきめ
 られて専用のものが動いている。じゃあ、そこでさらに、もう
 一段汎用性をまして、「いろいろでてきているけど、個別にい
 ろんな仕組みをつくるんじゃなくて、なんでもできるような仕
 組みを一個つくってそっちにのっけたらいいんじゃないの?」
 という発想が「エセリウム(Ethereum)」だ。いろいろできる
 というのは、正確にコンピュータの専門用語でいうと、「チュ
 ーリング完全なプログラミング言語が実行できる」ということ
 だ。つまり、現在のコンピュータができることであれば、同じ
 く同様になんであれ、実行できるような汎用性のある処理シス
 テムをブロックチェーン上につくろうということだ。
                   http://bit.ly/1qEKOUa
―――――――――――――――――――――――――――――
 このようなものができれば、個人が債券を発行することもでき
るし、契約の内容を個人が定義することも可能になります。しか
し、日本においては、ビットコインそのものですら、現時点でも
何ら関心がないのですから、その世界的格差が心配です。
       ──── [ビットコインについて考える/51]

≪画像および関連情報≫
 ●もはや通貨ではない「ビットコイン2.0」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  エセリウムのような次世代暗号通貨が目指すのは、ブロック
  チェーンを利用した電子契約の基盤となるプラットフォーム
  であり、もはや通貨を超えている。エセリウムに注目する人
  は多い。堀江貴文氏もそうだし、著名な経済学者である野口
  悠紀雄氏もそのひとりだ。また、大石哲之氏は日本エセリウ
  ム協会を設立している。これだけの注目を集めているエセリ
  ウムだが、しかし、まだ計画段階にすぎない。それだけにイ
  メージが湧きづらいかもしれないが、通貨ではないエセリウ
  ムにこそ、ビットコインの本質があるという人は多い。実は
  エセリウムと同じような仕組みは別のオルタコインでも実装
  されようとしている。先述のネクストには取引にメッセージ
  を乗せる機能が実装されているし、ビットコインのネットワ
  ークを使って契約や財産の所有権を管理しようとする発想は
  そもそも「マスターコイン」が提唱したものだ。P2Pネッ
  トワークを使った契約の管理「スマート・コントラクト」や
  財産の管理「スマート・プロパティ」は社会の仕組みを大き
  く改編する可能性を秘めている。 ──高城泰著/扶桑社刊
    「ヤバイお金/ビットコインから始まる真のIT革命」
  ―――――――――――――――――――――――――――

イモビライザーの仕組み.jpg
イモビライザーの仕組み
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2014年11月17日

●「ビットコインに続くオルタコイン」(EJ第3917号)

 ここまで述べてきたことで、少し言葉を整理する必要がありま
す。ビットコインのシステムというときは、ビットコインを管理
するウォレットというソフトをインストールしたコンピュータに
よって構成されるP2Pネットワークにおいて、ブロックチェー
ンの形成作業全般を指すことになります。その中核的技術として
機能するのが、プルーフ・オブ・ワーク(POW)であり、不正
・改ざんがないかを検証し、全体の合意を形成します。
 ビットコインに関する書籍の多くでは、ビットコイン全体のシ
ステムのことを「ブロックチェーン方式」と呼称していますが、
EJでは、「POW」と表現しています。どちらも同じ意味であ
ることをお断りしておきます。
 先週の14日のEJ第3916号で述べた「エセリウム」につ
いて、既出の高城泰氏が株の売買を例にとってわかりやすく説明
しているのでご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 株を1000円で買いたい人がいる。このとき1000円で売
 りたい人もいる。でも、2人が直接取引することはないかもし
 れない。先にお金を渡して持ち逃げされるのが怖いし、相手は
 相手で先に株券を送って持ち逃げされるのも怖い。それに名義
 の書き換えだって面倒だ。そんなときに使えるのがエセリウム
 である。電子署名された取引情報は、ブロックチェーンに記載
 され、その書き換えられた名義はたちどころにネットワーク参
 加者に対して公表される。取引の承認作業には膨大な計算処理
 を伴うプルーフ・オブ・ワークが課されるので、改ざんされる
 心配もない。おまけに、証券会社を利用して株の取引を行うの
 とは異なり、コストはほぼゼロ。つまり、エセリウムと買い手
 と売り手をうまく仲介できるような「仮想取引所」さえあれば
 今のような取引所を介さずとも、コストゼロで株の取引ができ
 てしまう。              高城泰著/扶桑社刊
    「ヤバイお金/ビットコインから始まる真のIT革命」
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、個人が株や債券を証券会社を経ないで直接売買で
きるようになります。証券会社にとっては衝撃です。日本人が、
ビットコインに無関心なのは、これについてよくわかっている金
融機関、とくに銀行や証券会社が、導入されると自分たちが打撃
を受けるので、マウントゴックスの破綻がビットコインの終りと
錯覚を起こしているのをいいことに沈黙を貫いているのです。
 さて、ビットコインのシステム(POW)を使うオルタコイン
の一種に「ネームコイン」というものがあります。ネームコイン
が他のオルタコインと違うのは、インターネットのドメイン名を
取引することにあります。
 ドメイン名の右端にある「.jp」「.com」「.org」 などをトッ
プ・レベル・ドメイン(TLD)といいますが、これは、米国の
ICANNという団体が管理しています。インターネットは世界
中で多くの人に使われているので、自分が使いたいドメイン名が
既に登録済みであることが少なくないのです。
 そのため、既に使われているドメイン名を高価な値段で買い取
るケースもあるのです。ちなみに今までに一番高額で取引された
ドメイン名は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     「PrivateJet.com」 → 3018万ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 ネームコインでは、独自に「.bit」というTLDを作っている
のです。しかし、これを使うには、ネームコインを支払う必要が
ありますが、ビットコインと交換できます。
 もちろん、「.bit」は、普通のブラウザではでは通信・閲覧が
できませんが、それを可能にするプラグインが用意されているの
で、これを組み込めば、通常のドメイン名と変わりなく通信・閲
覧ができます。これは、ネームコインが自前のDNS(ドメイン
・ネーム・システム)を有していることを意味しています。
 DNSというのは、ホスト名の入力があるとDNSサーバーと
呼ばれるコンピュータを参照し、そのホストのもつIPアドレス
を検索するシステムのことをいいます。
 それでは、ネームコインはどのようにして手に入れたらよいの
でしょうか。それはビットコインと交換することによって入手で
きます。これは、14日のEJ第3916号で説明したスマート
・プロパティの一種であると考えることができます。
 「.bit」は、自由に企業名などが入れられるし、ハッカーから
の攻撃からも安全であり、中国政府が頻繁にやっている国家の検
閲から免れることができます。今年の5月時点で、既に8万個の
「.bit」が発行されています。したがって、逆にいうと、非合法
的なことに使われる可能性もあるということです。
 トレンドマイクロのセキュリティの専門家は、ネームコインに
ついて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 TLD「.bit」が確認されたのはかなり特殊な状況下でした。
 まず、「.bit」は弊社の監視下になく、そもそもインターネッ
 トのIPアドレスやドメイン名など管理するICANNからも
 割り当てられていなかったことがわかりました。しかし、不正
 プログラムが問題のTLDを利用して通信するのを阻止してい
 ませんでした。(中略)ネームコインは、匿名で国や国際機関
 の管理外のドメインネームを登録することができるため、一見
 すると犯罪目的には最適なものに思えます。また「sinkhole」
 を用いた「ワナ」にドメインレベルで引っかかることもありま
 せん。こうした好条件を備えるネームコインを犯罪者が見逃す
 はずはないでしょう。        http://bit.ly/1wxkBbY
―――――――――――――――――――――――――――――
 どうやら、ネームコインは犯罪に使われやすいヤバイコインの
ようであり、手を出さない方が無難です。
       ──── [ビットコインについて考える/52]

≪画像および関連情報≫
 ●堀江貴文氏、満を持してビットコインに参入!
  ―――――――――――――――――――――――――――
  堀江貴文氏ら、ビットコインをスマホで管理・送受信できる
  ウォレット「zaif」公開。仮想通貨「ビットコイン」をスマ
  ホで管理し、送金や受け取りができるサービス「zaif」のベ
  ータ版が公開となった。堀江貴文氏が技術アドバイザーを務
  めるテックビューロ・ラボが開発した。先着順でユーザーを
  募集しており、予約すると順次メールでアカウント発行の通
  知を受け取れる。ビットコイン最大の取引所だったマウント
  ゴックスが破産した後、この「通貨」に対する風当たりはき
  つかったが、将来の可能性に注目する企業は未だ多い。国内
  でも店頭でビットコインを売買できるATMから、ビットコ
  コインを支払ってデジタル同人誌を購入できるサービスまで
  新しい取り組みは続々と登場している。「zaif」もそうした
  動きの1つ。ビットコインのアカウントを開設し、スマホか
  らほかのアカウントへ同通貨を送金したり、逆に受け取った
  りすることが可能。        http://bit.ly/1x0vvLn
  ―――――――――――――――――――――――――――

堀江貴文氏ビットコイン参入.jpg
堀江 貴文氏ビットコイン参入
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2014年11月18日

●「ビットコインを発展させる4側面」(EJ第3918号)

 2014年9月1日から53回にわたって書いてきた「ビット
コインについて考える」は、今回をもって終了します。現時点で
お伝えすべきことはすべて書いたと思います。
 マーク・アンドリーセン氏は、ビットコインに参加する人たち
には、次の4つのタイプがあるとしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.ビットコインを使って支払いをする消費者
    2.ビットコインでの支払いを受け入れる店舗
    3.システムの信頼性を高め維持するマイナー
    4.システムを利用し新サービスを創る開発者
―――――――――――――――――――――――――――――
 ビットコインは多くの人が使えば使うほど、すべての利用者に
とって価値が高まってくるものです。そのためには、ビットコイ
ンを使う場面が広がる必要があります。その実現には「2」──
ビットコインを受け入れる店舗が増えることが必要です。
 実際に、ビットコインでの支払いを受け入れてくれる店舗は、
2014年5月時点で、全世界で約4000店舗ありますが、日
本では26店舗しかないのです。この数は、韓国の32店舗や台
湾の30店舗よりも少ないのです。米国は1602店舗ですが、
日本はその1.6 %しかないのです。
 両替される通貨別でみると、次の通りであり、日本円は統計に
は出てこないのです。2014年5月時点の数字です。
―――――――――――――――――――――――――――――
        米ドル ・・・・・ 85%
        人民元 ・・・・・  7%
        ユーロ ・・・・・  5%
            ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     「仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない」
―――――――――――――――――――――――――――――
 ニワトリかタマゴかの論争ですが、ビットコインを扱う店が増
えることが、結果としてビットコインの利用者を増やすことは確
かです。しかし、日本はビットコインは終わったと思っている人
が多く、ビットコインを扱う店舗は今もサッパリです。
 「3」は、ビットコインのシステムの信頼性、安全性を維持す
るために不可欠な人たちですが、2014年11月15日現在で
全世界に250万629人(ウォレットの保有者数)おり、順調
に増加しています。9月30日時点では225万人だったので、
1ヶ月半で25万人増加したことになります。
 さて、マーク・アンドリーセン氏は、上記4つのなかで一番重
要なのは「4」であるとして、次のように述べています。
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 これらネットワーク効果の4側面全てが、システム全体の価値
 を高めるために重要な役割を果たしているが、4番目が特に重
 要である。シリコンバレーや世界中のあらゆる所で、以前は不
 可能だった新しい商品やサービスのアイデアの基盤として、何
 千ものプログラマーがビットコインを使っている。我々のベン
 チャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツでも、金融
 業界で輝かしいトラックレコードを持つ少数の起業家ではなく
 ホントに沢山の素晴らしい起業家たちが、ビットコインをベー
 スに会社を作ろうとしているのを目の当たりにしている。この
 理由だけでビットコインへの挑戦者は困難な戦いに直面するだ
 ろう。もしビットコインに取って代わるものがあるとすれば、
 それは相当大きな改善があり、それは今すぐ起こらなければな
 らない。さもなくば、ネットワーク効果によってビットコイン
 は支配的な地位を築くであろう。   http://bit.ly/1wQkJHv
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 アンドリーセン氏が「以前は不可能だった新しい商品やサービ
スのアイデアの基盤」といっているのは、具体的には国際送金や
少額課金、さらにビットコインのシステム(POW)を利用する
スマート・コントラクトやスマート・プロパティのアイデアなど
を意味しています。
 アンドリーセン氏のいう「少額課金」は、マイクロペイメント
といって、送金料を下回るきわめて少額な支払い──100円、
200円の支払いが可能になることです。これが可能になると、
コンテンツを切り売りできるようになります。
 ネット上でコンテンツの多くは無料で読めますが、読者登録が
必要になったり、そのうえ膨大な広告に悩まされることになりま
す。まるで広告の海のなかに浮かぶコンテンツを拾い読みをして
いる感覚です。アンドリーセン氏はこれを「醜い広告」と呼んで
忌み嫌っています。
 しかし、ビットコインなら送金コストがほとんどかからないの
で、電子新聞、電子マガジン、電子書籍などの特定部分だけの切
り売りが可能になるのです。これは動画についても同様のことが
いえます。
 このように、ビットコインは世の中を大きく変える力を持って
います。野口悠紀雄氏は、ビットコインをPC、インターネット
に続く第3のIT革命に位置付け、日本の遅れについて、次のよ
うに懸念を表明しています。
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 ビットコインについて、「騒ぎすぎ」と「騒がなすぎ」が見ら
 れる。ビットコインの外にある一両替所の破綻を大々的に報じ
 るのは、明らかに「騒ぎすぎ」だ。しかし、「騒がなすぎ」も
 ある。それは、ビットコインが社会に与えうるインパクトの巨
 大さが認識されていないことだ。税に対する影響を強調するの
 は、「騒ぎすぎ」だろうか? ビットコインが大きな影響を与
 えていない現時点では、そう思われるかもしれない。しかし、
 税制の対応はすぐにはできず、時間がかかる。だから、早く準
 備を始める必要がある。   ──野口悠紀雄著の前掲書より
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   ──── [ビットコインについて考える/53/最終回]

≪画像および関連情報≫
 ●「少額決済がもたらすもの」/マーク・アンドリーセン
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  ビットコインの魅力的な使い道は、少額決済である。20年
  間に渡る挑戦にも関わらず、少額決済は不可能だった。なぜ
  なら既存のクレジット/デビットや銀行のシステムでは、少
  額決済をまわすことはコスト効率が悪いからだ。(1ドルや
  それ未満の額の決済を考えてみよう)現状の手数料体系では
  経済的に小額決済は不可能だ。しかし、ビットコインがあれ
  ば、それは突然超簡単になる。ビットコインは無限に割り切
  れるというシャレた性質を持っている。現状は小数点以下8
  桁だが、将来はもっと多くなる。なのでいくらでも小額のお
  金を任意に設定できるのだ。1000分の1ペニーなど。そ
  してそれを世界中の誰にでもタダ同然で送れる。例えば、コ
  ンテンツのマネタイズについて考えてみよう。新聞のような
  メディアビジネスがコンテンツに課金することに上手くいっ
  ていない理由の1つが、全てを課金するか(全てのコンテン
  ツに対して定額購読させる)、全く課金しないか(これがネ
  ット上どこにでも見られる醜い広告につながる)の選択肢し
  か無いことである。ビットコインがあれば、1記事あたり、
  1セクションあたり、1時間あたり、1動画再生あたり1ア
  ーカイブアクセスあたり、1ニュースアラートあたり、のよ
  うに、突然、小額で任意の課金が可能になる。
     ──マーク・アンドリーセン http://bit.ly/1wQkJHv
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ビットコインについて講演するマーク・アンドリーセン.jpg
ビットコインについて講演するマーク・アンドリーセン
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ビットコイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする