本が消費税の税率を5%から8%に3%上げています。そうする
と、米国製品を日本に輸出すると、それらのすべての製品には8
%の消費税がかかります。これは、米国から見ると、消費税は輸
出品に対する非関税障壁になっています。
これに対して米国は不服を申し立てても、逆に内政干渉と批判
されるだけなので、絶対にそのことは口にしないのです。もっと
も米国はWTOでは、輸出還付金制度は不公平であるとクレーム
はつけていますが、貿易相手国に対しては表立って、増税につい
て批判することはないのです。
しかし、米国は次のような方法によって、貿易相手国に対して
米国的ルールを受け入れるよう改革を迫るのです。
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1.付加価値税・消費税の導入や増税が成立しないようあら
ゆる手段を講じて実現を阻止。
2.当事国と通商交渉を行い、その規定に基づき正式にクレ
ームをつけられるようにする。
3.当事国の輸入業者などのミスを問題視し、それに対して
法的措置を行うなど牽制する。
4.当事国に対して米国的ルールで取引できるよう構造改革
協議を呼びかけて実現させる。
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米国は、貿易相手国が付加価値税や消費税を導入したり、税率
を上げたりする動きがあると、それに反対する野党などに働き掛
けるなど、それが実現しないようあらゆる手段を講ずるのです。
しかし、非合法なことはできないので、この阻止手段には当然の
ことながら、一定の限界があるのです。ただ、付加価値税や消費
税を導入したり、増税した政権の多くが短命政権で終わっている
ことと米国の工作が無関係とは思えないのも事実です。
そこで米国は、その貿易相手国と通商交渉を行い、何らかの通
商協定を結ぶことによって、相互の貿易に関して違反事項がある
と、公式に訴えられるようにします。NAFTAやTPPなどが
それに該当します。この通商交渉において、相手国が高い付加価
値税や消費税を実施していると、当然その交渉は厳しいものにな
らざるを得ないのです。
さらに米国に進出している日本の輸出企業の行ったミスを取り
上げ、報復を行うこともあります。そのひとつに「トヨタバッシ
ング」があります。このトヨタバッシングについて、岩本沙弓氏
は次のように述べています。
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2009年8月のことになるが、4人が死亡する急加速事故
をきっかけに突如としてトヨタ自動車のリコール問題が発生し
た。日本では総選挙直前の時期である。選挙結果は、消費税を
含む税制の抜本改革を「経済状況の好転後、遅滞なく実施」と
政権公約とした自民党に対して、消費税増税は向こう4年間は
引き上げないとした民主党が、歴史的な大勝をおさめることと
なった。(一部略)
さらに、還付金付きの付加価値税か消費税を導入している国
のメーカーに対して、トヨタの大規模リコールは実際には20
10年1月から実施され、一連のリコール費用は総額1000
億円との試算もされていた。ところで、消費税に付帯する輸出
企業への還付金の額が本邦輸出企業の中で最も大きいのはトヨ
タ自動車である。消費税が増税となれば、その分還付金額も増
える。 ──岩本沙弓著/『アメリカは日本の消費税は許
さない/通貨戦争で読み解く世界経済』/文春新書948
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トヨタは、このかなり理不尽なバッシングを受けることによっ
て、約1000億円を失っていますが、米国はトヨタが日本政府
から受け取る輸出還付金は5%の時点で、約1695億円出ると
計算したうえで、こういうクレームをつけているのです。米国と
しては、輸出還付金について強い不満を有しており、輸出企業の
些細なミスを衝いてこういう報復をするのです。
今後も付加価値税や消費税を導入しようとしたり、税率を引き
上げようとする国に対しては、米国は米国的ルールで取引できる
よう構造改革協議を仕掛けるはずです。これは、これまで日本が
米国から仕掛けられた歴史があり、明日のEJで詳しく述べるこ
とにします。
米国とカナダは、1992年12月にNAFTA(北米自由貿
易協定)を締結しています。カナダが付加価値税を導入してから
1年後のことです。実際にこの協定が実施されたのは1994年
からですが、この協定には悪名高いISD条項がついているので
す。NAFTAの発効後、カナダ政府が現在までに提訴された合
計件数は実に34件に及び、そのすべてが米国企業からの提訴で
す。内訳は次の通りです。
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1.現在も審議が継続中 ・・・ 8件
2. 審議終了 ・・・ 11件
3.途中取り下げ/中止 ・・・ 15件
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この34件の提訴のうち、カナダが敗訴したのはわずか2件し
かないのです。しかし、この2件は、1998年と2002年に
判決が出されており、カナダが付加価値税を引き下げる以前のこ
とであり、協定締結の初期段階です。
11件の審議終了案件のうち、カナダの敗訴は2件、6件がカ
ナダの勝訴、和解は3件です。これはきわめて常識的な結果であ
るといえます。しかし、これは、カナダが付加価値税を引き下げ
るという決断をした結果、米国がそれを評価し普通の裁判になっ
たと考えるべきです。もし、引き下げてなければ、カナダの敗訴
はもっと増えていたはずです。それが付加価値税という名の非関
税障壁への報復だからです。 ──[消費税増税を考える/71]
≪画像および関連情報≫
●NAFTAで起こったことを振り返る/広瀬隆雄氏
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TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に似た地域自由貿
易協定に北米自由貿易協定(NAFTA)というものがあり
ます。TPPが日本の経済や雇用、さらに株式市場に与える
影響を考えるとき、参考としてNAFTA後に参加国である
アメリカやメキシコで起こったことを振り返ることは、ムダ
ではないと思います。本題に入る前にひとこと断っておきま
すが、TPPやNAFTAでは条件がかなり違います。NA
FTAの場合、カナダと米国、米国とメキシコは長い国境線
を接しており、すぐお隣の国同士でした。これは工場移転や
製品の輸入がカンタンであることを意味します。また米国と
メキシコの賃金格差や経済力の差は、協定の交渉を進める上
で大きなインセンティブとなると同時に障害となりました。
翻ってTPPを見た場合、交渉参加国の大半の国々と日本は
既に1対1の協定(=そのことを二国間自由貿易協定といい
ます)が結ばれています。従って、今回のTPPは、有り体
に言えば、日本が未だ個別の協定を締結していない、アメリ
カ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの各国との
間で、関税やビジネスの進め方に関する協定を結ぶことを意
味するのです。それらの国々は、いずれの場合も安い労働力
を目指して工場を移転するなどの投資先としてはメリットが
少ないです。従ってNAFTAの交渉がもたらしたようなエ
キサイティングなムードは今回はありません。
http://bit.ly/1eDKRz8
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NAFTA(北米自由貿易協定)