2014年04月17日

●「付加価値税に対抗する米国の報復」(EJ第3773号)

 米国の立場に立って考えてみます。米国の貿易相手国である日
本が消費税の税率を5%から8%に3%上げています。そうする
と、米国製品を日本に輸出すると、それらのすべての製品には8
%の消費税がかかります。これは、米国から見ると、消費税は輸
出品に対する非関税障壁になっています。
 これに対して米国は不服を申し立てても、逆に内政干渉と批判
されるだけなので、絶対にそのことは口にしないのです。もっと
も米国はWTOでは、輸出還付金制度は不公平であるとクレーム
はつけていますが、貿易相手国に対しては表立って、増税につい
て批判することはないのです。
 しかし、米国は次のような方法によって、貿易相手国に対して
米国的ルールを受け入れるよう改革を迫るのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.付加価値税・消費税の導入や増税が成立しないようあら
   ゆる手段を講じて実現を阻止。
 2.当事国と通商交渉を行い、その規定に基づき正式にクレ
   ームをつけられるようにする。
 3.当事国の輸入業者などのミスを問題視し、それに対して
   法的措置を行うなど牽制する。
 4.当事国に対して米国的ルールで取引できるよう構造改革
   協議を呼びかけて実現させる。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国は、貿易相手国が付加価値税や消費税を導入したり、税率
を上げたりする動きがあると、それに反対する野党などに働き掛
けるなど、それが実現しないようあらゆる手段を講ずるのです。
しかし、非合法なことはできないので、この阻止手段には当然の
ことながら、一定の限界があるのです。ただ、付加価値税や消費
税を導入したり、増税した政権の多くが短命政権で終わっている
ことと米国の工作が無関係とは思えないのも事実です。
 そこで米国は、その貿易相手国と通商交渉を行い、何らかの通
商協定を結ぶことによって、相互の貿易に関して違反事項がある
と、公式に訴えられるようにします。NAFTAやTPPなどが
それに該当します。この通商交渉において、相手国が高い付加価
値税や消費税を実施していると、当然その交渉は厳しいものにな
らざるを得ないのです。
 さらに米国に進出している日本の輸出企業の行ったミスを取り
上げ、報復を行うこともあります。そのひとつに「トヨタバッシ
ング」があります。このトヨタバッシングについて、岩本沙弓氏
は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  2009年8月のことになるが、4人が死亡する急加速事故
 をきっかけに突如としてトヨタ自動車のリコール問題が発生し
 た。日本では総選挙直前の時期である。選挙結果は、消費税を
 含む税制の抜本改革を「経済状況の好転後、遅滞なく実施」と
 政権公約とした自民党に対して、消費税増税は向こう4年間は
 引き上げないとした民主党が、歴史的な大勝をおさめることと
 なった。(一部略)
  さらに、還付金付きの付加価値税か消費税を導入している国
 のメーカーに対して、トヨタの大規模リコールは実際には20
 10年1月から実施され、一連のリコール費用は総額1000
 億円との試算もされていた。ところで、消費税に付帯する輸出
 企業への還付金の額が本邦輸出企業の中で最も大きいのはトヨ
 タ自動車である。消費税が増税となれば、その分還付金額も増
 える。   ──岩本沙弓著/『アメリカは日本の消費税は許
   さない/通貨戦争で読み解く世界経済』/文春新書948
―――――――――――――――――――――――――――――
 トヨタは、このかなり理不尽なバッシングを受けることによっ
て、約1000億円を失っていますが、米国はトヨタが日本政府
から受け取る輸出還付金は5%の時点で、約1695億円出ると
計算したうえで、こういうクレームをつけているのです。米国と
しては、輸出還付金について強い不満を有しており、輸出企業の
些細なミスを衝いてこういう報復をするのです。
 今後も付加価値税や消費税を導入しようとしたり、税率を引き
上げようとする国に対しては、米国は米国的ルールで取引できる
よう構造改革協議を仕掛けるはずです。これは、これまで日本が
米国から仕掛けられた歴史があり、明日のEJで詳しく述べるこ
とにします。
 米国とカナダは、1992年12月にNAFTA(北米自由貿
易協定)を締結しています。カナダが付加価値税を導入してから
1年後のことです。実際にこの協定が実施されたのは1994年
からですが、この協定には悪名高いISD条項がついているので
す。NAFTAの発効後、カナダ政府が現在までに提訴された合
計件数は実に34件に及び、そのすべてが米国企業からの提訴で
す。内訳は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.現在も審議が継続中 ・・・  8件
     2.     審議終了 ・・・ 11件
     3.途中取り下げ/中止 ・・・ 15件
―――――――――――――――――――――――――――――
 この34件の提訴のうち、カナダが敗訴したのはわずか2件し
かないのです。しかし、この2件は、1998年と2002年に
判決が出されており、カナダが付加価値税を引き下げる以前のこ
とであり、協定締結の初期段階です。
 11件の審議終了案件のうち、カナダの敗訴は2件、6件がカ
ナダの勝訴、和解は3件です。これはきわめて常識的な結果であ
るといえます。しかし、これは、カナダが付加価値税を引き下げ
るという決断をした結果、米国がそれを評価し普通の裁判になっ
たと考えるべきです。もし、引き下げてなければ、カナダの敗訴
はもっと増えていたはずです。それが付加価値税という名の非関
税障壁への報復だからです。 ──[消費税増税を考える/71]

≪画像および関連情報≫
 ●NAFTAで起こったことを振り返る/広瀬隆雄氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に似た地域自由貿
  易協定に北米自由貿易協定(NAFTA)というものがあり
  ます。TPPが日本の経済や雇用、さらに株式市場に与える
  影響を考えるとき、参考としてNAFTA後に参加国である
  アメリカやメキシコで起こったことを振り返ることは、ムダ
  ではないと思います。本題に入る前にひとこと断っておきま
  すが、TPPやNAFTAでは条件がかなり違います。NA
  FTAの場合、カナダと米国、米国とメキシコは長い国境線
  を接しており、すぐお隣の国同士でした。これは工場移転や
  製品の輸入がカンタンであることを意味します。また米国と
  メキシコの賃金格差や経済力の差は、協定の交渉を進める上
  で大きなインセンティブとなると同時に障害となりました。
  翻ってTPPを見た場合、交渉参加国の大半の国々と日本は
  既に1対1の協定(=そのことを二国間自由貿易協定といい
  ます)が結ばれています。従って、今回のTPPは、有り体
  に言えば、日本が未だ個別の協定を締結していない、アメリ
  カ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの各国との
  間で、関税やビジネスの進め方に関する協定を結ぶことを意
  味するのです。それらの国々は、いずれの場合も安い労働力
  を目指して工場を移転するなどの投資先としてはメリットが
  少ないです。従ってNAFTAの交渉がもたらしたようなエ
  キサイティングなムードは今回はありません。
                   http://bit.ly/1eDKRz8
  ―――――――――――――――――――――――――――

NAFTA(北米自由貿易協定).jpg
NAFTA(北米自由貿易協定)
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2014年04月18日

●「消費税増税と日米構造協議の関係」(EJ第3774号)

 いわゆる日米構造協議がいつから始まったのかを調べてみると
1989年からはじまっていることがわかります。この年に竹下
内閣で消費税が導入されているのです。
 その後消費税の税率は、村山内閣で法案が成立し、橋本内閣で
3%→5%が実施されたのですが、まるでそれに歩調を合わせる
ように、米国からの構造改革の要求は厳しくなっているのです。
 岩本沙弓氏の著書に、「消費税と日米通商交渉の歴史」の表が
載っていますが、それをメルマガ用に修正し、まとめると、次の
ようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎竹下内閣/1989年 4月 1日
  ・消費税導入/3%
  ・法人税42%→40%       ←日米構造協議提案
 ◎海部内閣/1990年
  ・法人税/40%→37.5 %
 ◎村山内閣/1994年11月25日   ←年次改革要望書
  ・消費税/3%→5%(法案成立)
 ◎橋本内閣/1997年 4月 1日   ←金融ビッグバン
  ・消費税/3%→5%(実施)        ←新大店法
  ・法人税/37.5 %→34.5 %→30%
 ◎鳩山内閣/2009年 9月16日 ←年次改革要望書廃止
  ・4年間消費税上げない公約
 ◎菅 内閣/2010年 6月    ←年次改革要望書復活
  ・消費税10%を公約      ←日米経済調和対話開始
  ・法人税/30%→25.5 %
 ◎野田内閣/2012年 8月10日 ←TPP交渉参加要請
  ・社会保障と税の一体改革
       ──岩本沙弓著/『アメリカは日本の消費税は許
   さない/通貨戦争で読み解く世界経済』/文春新書948
―――――――――――――――――――――――――――――
 順を追って考えてみます。1989年4月に消費税が導入され
ます。最初の税率は3%で、竹下首相は三越で買い物をしていま
す。安倍首相も同じ三越で買い物をしましたが、かつての竹下首
相の真似をしたのです。
 竹下内閣はその直後リクルート事件が原因で退陣し、宇野内閣
が発足します。その宇野首相に米国のブュッシュ大統領(父)が
「日米構造協議」を提案しています。この協議は、後に「日米包
括経済協議」になります。
 1994年11月25日に村山内閣で消費税の税率を5%まで
に上げる法案──「税制改革関連法」が成立しています。この動
きを知った米国は、年次改革要望書を突き付けてきたのです。
 これは、日米両国が下半期に1回、規制緩和について要望を出
して協議するのですが、かたちのうえでは日本からも米国に要望
を出しているのです。しかし、日本が提案して米国が実施したも
のは皆無なのです。
 1997年4月1日、橋本内閣は予定通り税制改革関連法を実
施するのです。しかし、年次改革要望書のなかでも取り上げられ
実際に重点的な規制緩和として着手されたのが、大規模な金融制
度改革、すなわち金融ビックバンです。
 これが日本の金融界にどれほどの衝撃を与えたかについては、
1997年11月に三洋証券、山一證券、北海道拓殖銀行、19
98年10月に日本長期信用銀行、12月には日本債券信用銀行
が破綻したことによって明らかです。
 これによって、山一證券はメリルリンチ、長銀はリップルウッ
ド、日債銀はサーベラスという米系資本ががそれぞれ買収し、甘
い汁を吸っているのです。これらは、すべては竹下内閣による消
費税導入、橋本内閣による消費税増税を契機に行われており、日
本の金融分野に米国流の競争原理を導入し、米国の金融サービス
業者に新たなビジネスチャンスを提供するものなのです。
 ところが、2009年9月に自民党から民主党に政権交代する
と、米国は毎年日本政府に迫ってきた年次改革要望書を廃止して
いるのです。これについて、岩本沙弓氏は自著で次のように述べ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ米国は執拗なまでに構造改革を要求してきた手をこの時期
 に緩めたのか。年次改革要望書の廃止理由や時期について、日
 本政府もいつの時点でどういった廃止通達が米国から釆たのか
 を公表していないし、これはと氷解するような明確な説明をこ
 れまでのところ聞いたことがない。 ──岩本沙弓著の前掲書
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、菅内閣に代わると、2010年11月に米国は、今度
は「日米経済調和対話」なる対日要望書を出してきたのです。こ
の事実をもって岩本氏は、その原因は消費税増税が原因であると
いっているのです。
 鳩山内閣のとき、民主党は「4年間は消費税増税はしない」を
公約にしており、米国は少なくとも4年間は増税しないと考えて
いたのです。だからこそ、年次改革要望書は必要ないとして廃止
したのです。
 しかし、菅内閣になると、菅首相は、いきなり消費税10%増
税を掲げて参院選を戦い、大敗してねじれ現象を生んでいます。
そこで米国は、それならと年次改革要望書に代わる「日米経済調
和対話」という要望を持ち出してきたのです。明らかに消費税増
税と関係があるのです。
 そして菅内閣は退陣して野田内閣になると、野田首相は何と野
党の自民党と組んで消費税増税を前進させ、「社会保障と税の一
体改革」を成立させるのです。そこで米国は、TPPに参加せよ
という最もハードルの高い構造協議を突き付けてきたのです。こ
れには菅/野田内閣という2代の内閣からの引き継ぎで、TPP
に参加しないと明言してきた安倍首相も公約を撤回せざるを得な
かったものと思われます。  ──[消費税増税を考える/72]

≪画像および関連情報≫
 ●安倍首相はなぜTPPに参加するのか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「米国市場はオープンなのに、日本市場は閉鎖的だ」「農産
  物の関税が高すぎるし、保険・医療・公共事業などでも外資
  の参入を制限する非関税障壁がありすぎる」「貿易・投資の
  不均衡(米国の対日赤字)は、日本側に非がある」「日本は
  自由貿易と投資を阻害している時代遅れの経済構造を改革せ
  よ」・・・と、米国がいちゃもんつけ始めたのは1990年
  代のクリントン政権のとき。冷戦が終わり、ソ連という最大
  の敵を崩壊させた米国(を拠点とする国際金融資本)が、次
  のターゲットにしたのが「経済大国・日本」でした。ときの
  自民党・橋本龍太郎政権がこれを受け入れて「構造改革」路
  線に舵を切り、バブル崩壊後の景気対策として続けてきた公
  共事業をバッサリ削減する一方、財政再建のため消費税を3
  %から5%に引き上げます。さらに日銀法改正で財務省(大
  蔵省)の支配から独立した日銀が金融引き締めに転じたため
  以後の日本は15年間続くデフレに突入し、毎年、自殺者を
  3万人出す国になりました。2000年代、小泉政権は米国
  政府が提示する年次改革要望書に応じて「郵政民営化」を実
  現。経済政策を丸投げされた竹中平蔵経済財政担当大臣は、
  「景気が回復しないのは構造改革が足りないからだ」と「聖
  域なき構造改革」を推進。病人に向かって、「病気が治らな
  いのは余計な脂肪を溜めているからだ。ダイエットしろ!」
  というようなものです。      http://bit.ly/1excxFt
  ―――――――――――――――――――――――――――

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橋本元首相
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2014年04月21日

●「なぜちぐはぐな政策を重ねるのか」(EJ第3775号)

 1933年、米国は大恐慌に見舞われ、史上最悪のデフレに苦
しめられていたのです。その年の12月にジョン・メイナード・
ケインズは、時のルーズベルト大統領に公開書簡を送っているの
です。その公開書簡を立命館大学経済学部・松川周二教授は次の
ようにコンパクトにまとめています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.米国政府は(景気の)回復と改革の二兎を同時に追うので
   はなく、回復を優先させるべきであり、改革は必要であっ
   ても回復を妨げる場合があり、まず回復の成功によって政
   府自らの威信を高めるべきである。
 2.政府主導の大規模な公債支出(プロジェクト)が景気回復
   を主導しなければならない。なぜなら、自律的な回復をも
   たらす民間投資は、公債支出によって総支出が増加し、不
   況の克服が始まった後に増加し始めるからであり、最初の
   衝撃が必要なのである。
 3.低金利と潤沢な銀行信用の供給は景気回復に伴って必要と
   なってくるが、生産や雇用の増加は貨幣供給量の増加のみ
   では生じない。 ──立命館大学経済学部・松川周二教授
                      ──三橋貴明著
 『2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 ケインズは重要なことをいっています。「『回復』と『改革』
の二兎を同時に追うのではなく、『回復』を優先させるべき」と
いう言葉です。ここで「回復」とは、金融政策と財政政策とを同
時に進めるということであり、両方がセットでないと効果は出な
いといっています。なお、ここで「改革」とは規制緩和のことを
意味しています。
 ケインズは、「改革」をいい出すと、それが必要なものであっ
ても「回復」を妨げるといっているのです。したがって、ここは
景気を回復させるために、「回復」だけに集中して欲しい──こ
のようにケインズは大統領に訴えたのです。
 しかし、このときも次の2派が対立したのです。これは、リー
マンショックに対する対策でも同じことがあったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.通貨創出派
   ・金融緩和でデフレから脱却し、失業率を下げられる。
 2.通貨支出派
   ・金融緩和に加え、財政出動で総需要を創出するべし。
―――――――――――――――――――――――――――――
 結局、大恐慌はルーズベルト大統領が行ったニューディール政
策──具体的には、テネシー渓谷開発計画で米国の大量の資金を
投じ、政府機関としてテネシー川流域開発公社を作り、テネシー
川流域においてダムなどの建設を中心とした総合開発を行うなど
して、大恐慌で溢れた失業者を大量に雇い、賃金を支払い、購買
力を向上しようとしたのです。
 しかし、莫大な財政を支出するこの政策には国民からの大きな
批判があり、途中で引き締め政策に転ずるなどのちぐはぐさもあ
って、完全に不況から脱出できなかったのです。それは、財政出
動がそれでも不十分であったのが原因と考えられています。
 ポール・クルーグマン教授は、結局この大恐慌を終わらせたの
は、対日戦争(太平洋戦争)であったとして、自著で次のように
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 大恐慌を終わらせたのは戦争だった。戦争の脅威が財政保守主
 義の声を黙らせて財政支出が急増した。軍事支出は職をつくり
 失業率は11%もあったのが大幅に改善し、世帯所得が上昇す
 ると消費者支出も回復した。それであっさり不況は終わった。
 (中略)いまなら宇宙人が攻めてきたというデマがあれば何よ
 り好都合かもしれない。そうすれば対エイリアン防衛支出が大
 量に生まれて、景気は一気に回復するだろう。(中略)政府が
 労働者を雇用し、たとえ穴を掘って埋めさせようが、あるいは
 宇宙人との戦争を準備しようが、何もやらないよりははるかに
 マシだ。目的は何であれ、政府が雇用が生まれるように通貨を
 支出すれば、デフレの真因である総需要の不足が解消される。
          ──ポール・クルーグマン著/山形浩生訳
        『さっさと不況を終わらせろ』/早川書房より
                ──三橋貴明著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在のアベノミクスでは、金融政策と財政政策の第1の矢と第
2の矢はセオリー通りであり、わずかながら、景気は持ち直しを
見せつつあるものの、案の定日本でも第3の矢として、「規制緩
和」が出てきており、せっかく回復基調にある景気を冷やし兼ね
ない消費税の大増税を行うなど、整合性の取れない政策を展開し
ています。
 安倍首相は、たとえ法律は成立したといっても、なぜ実施した
のでしょうか。いろいろな説がありますが、安倍首相は本音では
やりたくなかったと思われます。
 なぜなら、これをやることによるマイナスが、あまりにも大き
かったからです。やっても次のようにいいことはないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎日本総研
  2014年度実質GDPはマイナス0.9 ポイント
 ◎ニッセイ基礎研究所
  2014年度実質GDP成長率を2.1 ポイント押し下げて
  マイナス成長になる可能性が高い
 ◎三菱UFJリサーチ&コンサルティング
  名目消費支出は、プラス1.1 %。実質消費支出は、マイナ
  ス0.9 %。実質GDPを0.5 %押し下げる
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/73]

≪画像および関連情報≫
 ●ニューディールは成功したのか/システム論アーカイブ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1929年10月の暗黒の木曜日以来、深刻さを増すばかり
  のアメリカの大恐慌を克服するために、1933年3月に大
  統領に就任したフランクリン・ルーズベルトはニューディー
  ルと呼ばれる全体主義的経済政策を実行した。公共投資を拡
  大してデフレから脱却するケインズ的財政政策は、今日の知
  識集約経済では流行おくれとなっているが、規格大量生産を
  行う当時の資本集約経済では、政府が民間に代わって生産活
  動を担ってもあまり弊害がない。ではルーズベルトのニュー
  ディールは成功したのだろうか。ルーズベルトより2ヶ月先
  に政権の座に就いたヒトラーが実行した全体主義的経済政策
  と比べると、結果は芳しいものではなかった。1933年に
  25.2 %と最悪の数字を記録したアメリカの失業率はニュ
  ーディール政策のおかげで1937年には14.3 %にまで
  下がったものの、翌年には19.1 %にまで跳ね上がってお
  り、14%になるのはアメリカが太平洋戦争を行う1941
  年以降のことである。これに対して、ヒトラーは、45%も
  あった失業率を順調に減らし、第2世界大戦前の1939年
  までに、失業者数を20分の1にすることに成功した。なぜ
  ニューディールは成功しなかったのだろうか。
                   http://bit.ly/1thlxmo
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジョン・メイナード・ケインズ.jpg
ジョン・メイナード・ケインズ
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2014年04月22日

●「消費税増税と財務省人事との関係」(EJ第3776号)

 消費税について経済学論議にまで踏み込んで、かなり幅広くこ
こまで論じてきています。既に連載は、73回(1月6日から約
3ヵ月半)を超えており、終盤に来ていると思います。そういう
わけで、今回の増税がどのような経緯で決定されたかについて、
その知られざる裏事情について書くことにします。ここからが、
EJの本領発揮です。
 現在、安倍首相が8%の消費税率を果して10%に上げられる
かどうかに関心が集まっています。首相は年内に決断するといっ
ていますが、既に財務省はプロジェクトを組んでその実現にさま
ざまな手を打っています。
 消費税増税が実施される前の2014年2月末に前財務事務次
官の真砂靖氏は、地元の和歌山県内の講演会において次のように
明言しています。さらなる増税に慎重な安倍政権に対して、早く
も釘を刺したという感じです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (消費税の10%への引き上げについては)経済がよほどの
 ことにならない限り、やらないといけない。(中略)(そう
 いうことを)専門的集団である官僚が、政治や国民に対して
 選択肢を示す必要がある。   ──真砂靖前財務事務次官
              『週刊現代』4月26日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 前半の発言はともかく、後半の発言は、政治家よりも官僚の方
が専門的集団であり、国民にその進むべき道を示すべきだという
実に思い上がった発言です。しかし、実際にこの国を動かしてい
るのは官僚であり、政治家ではないこともまた事実です。今の政
治家は官僚たちにいいように使われているのです。
 現在のところ消費税10%上げに官邸は慎重です。その中心に
いるのは、安倍首相と菅義偉官房長官。役職上では現在日本のナ
ンバー1と2です。財務省はこの2人に対して既に鉄壁の包囲網
を敷いているのです。
 まず、2人の身近に一人が配置されています。次の人物です。
―――――――――――――――――――――――――――――
        財務省主税局長/田中一穂氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 この田中一穂氏なる人物は安倍首相に近い人物であり、官邸と
財務省を結ぶキーマンになっています。安倍首相に近いというの
は田中氏が第1次安倍政権の首相秘書官を務めたからです。その
ため、首相にも信頼されていて、メールを交換する仲です。
 さらに菅官房長官の現在の秘書官の矢野康治氏は、主税局から
の出向であり、田中氏とは師弟関係にある人物です。つまり、田
中氏は、安倍首相とも菅官房長官ともコンタクトできる立場の人
間であり、2人のハラを誰よりも探れる立場にあります。
 その田中氏が請け負っているのが「官邸の切り崩し」ですが、
この2人のトップは、官僚のいうことを素直に聞くような人間で
はないのです。そこで首相に近い学者や経済人に接近して取り込
むことで、消費税10%はやむをえないということを吹き込ませ
る方針です。この工作については改めて述べます。
 ところで、財務省のトップ3のポストといえば、次の3つのこ
とです。財務省の不文律として、これらのポストに同期の者がつ
くことはないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.財務事務次官
          2.  主計局長
          3.   官房長
―――――――――――――――――――――――――――――
 勝栄二郎主計局長が財務事務次官に昇進したのは、2010年
7月30日のことです。鳩山内閣が崩壊して菅内閣が発足して約
2ヶ月が経過した時点です。幹事長を辞任したとはいえ、小沢一
郎氏にまだ力があったときです。そのときの財務省の上記の3つ
のポストは次のようになってなっていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      財務事務次官 ・・・・ 勝 栄二郎
      主計局長   ・・・・ 真砂  靖
      官房長    ・・・・ 香川 俊介
―――――――――――――――――――――――――――――
 2009年9月に民主党が政権を奪取したとき、財務事務次官
は丹後泰健氏だったのです。丹後事務次官は、藤井裕久、菅直人
という2人の財務相を洗脳し、消費税増税の必要性を叩き込んだ
後、1年後に勝栄二郎氏にバトンタッチしたのです。丹後氏は退
官後は読売新聞社顧問に転じ、マスコミをコントロールする役割
に回っています。このときの真砂主計局長は順当な人事ですが、
官房長の香川俊介氏は既に2年目であり、異例の長さですが、こ
れには深い事情があったのです。
 香川俊介氏は、大蔵省入省同時から、木下康司(現財務事務次
官)、田中一穂(現主税局長)、桑原茂裕(現金融庁)らと共に
「昭和54年組の4天王」と呼ばれるほど、評価が高い同期の桜
だったのです。
 香川俊介氏は「最後の小沢系」といわれ、「雲隠れした小沢一
郎にも会える人物」として、小沢氏が唯一心を許している財務官
僚です。そのため、2013年に真砂氏が事務次官になったとき
3年目でも香川俊介氏を官房長に残したのです。完全に小沢氏を
意識した人事であるといえます。
 かつて、小沢氏は、細川内閣時代に盟友・斎藤次郎元大蔵次官
とコンビを組んで「国民福祉税構想」をぶち上げましたが、その
2人の橋渡しをしたのが若かりし日の香川俊介氏なのです。竹下
内閣で官房副長官だった小沢氏に秘書官として仕え、小沢氏をし
て「大蔵省で最も優秀な頭脳を持つ男」と評された官僚でもある
のです。その香川俊介氏は現在主計局長に就任しており、次期事
務次官は確実といわれています。財務省は小沢シフトをまだ敷い
ているのです。       ──[消費税増税を考える/74]

≪画像および関連情報≫
 ●木下財務事務次官は1年でポストを譲るのか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  財務省は、2013年6月28日、正式な幹部人事を発令し
  た。真砂靖事務次官の退任と木下康司主計局長の事務次官へ
  の昇格、および香川俊介官房長の主計局長への昇格はすでに
  事前に報道されており、大きな驚きはない。むしろ今回の人
  事は、今後の次官レースに誰が残るのかを見極めるという意
  味で、霞ヶ関の注目を集めている。通常、事務次官は2年務
  めることが多い。だが10年に一度の大物次官といわれた勝
  栄二郎元次官が消費税増税を実現するため、異例の長期就任
  となり、現在の財務省は通常の人事シフトからズレた状態に
  ある。退任する真砂次官は1年のみの就任であり、後任の木
  下新次官と香川主計局長は同期入省(79年)である。香川
  氏が官房長から主計局長に異動したことを考えると、木下氏
  も1年で、同期の香川氏にポストを譲る可能性がある。もし
  そうなれば、従来の定常的な人事シフトが回復することにな
  る。もし木下氏の次の次官が香川氏と仮定すると、さらに次
  の次官は81年入省組から出る可能性が高くなる。81年の
  有力候補としては、中原主計局次長や浅川国際局次長らがい
  る。財務省の次官は主計局畑から出ることが多く、その意味
  では中原氏は有力候補といわれていた。
                   http://bit.ly/1hWzu5C
  ――――――――――――――――――――――

香川俊介主計局長jpg.jpg
香川 俊介主計局長
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2014年04月23日

●「なぜ木下康司氏が事務次官なのか」(EJ第3777号)

 消費税8%の増税を決めた現在の財務省の主要3ポストは、次
のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      財務事務次官 ・・・・ 木下 康司
      主計局長   ・・・・ 香川 俊介
      官房長    ・・・・ 佐藤 慎一
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍政権発足後、首相は増税を延期するのではないかという情
報が流れたのです。そこで「そうはさせない」として、財務省が
敷いた体制が上記の人事です。これは、従来の財務省の常識を破
る布陣なのです。
 どこが常識を破るのかというと、木下氏と香川氏が同期である
ことです。これら3ポストには同期がつくことはないというのが
財務省の不文律です。しかも、香川氏は前年の真砂体制のときの
官房長(勝体制のときも官房長)であり、本来であれば木下氏よ
りも先に主計局長に就くのがスジであるのに、真砂体制のときに
木下氏が国際局長から主計局長に抜擢されたのです。これは非常
に珍しいことです。
 官房長についてもふれておきます。佐藤慎一氏は、主税局畑の
人で「主税のエース」といわれた人物です。官房長は国会対応を
担うポストであり、ここにプロを配置したのです。
 それでは、この時期の事務次官が、なぜ木下康司氏なのでしょ
うか。それは木下氏がコテコテの増税推進者であるからです。つ
まり、決まっている法律は必ず実現させるという信念を持ってい
たからです。逆にいうと、それだけ大局が読めないということで
もあるのです。
 そのことは木下氏が主計官だった頃、「予算カッター」という
異名を取るほど、予算をカットしたことで知られます。とくに防
衛費の削減には異常に熱心で、2004年度予算では、前年度の
防衛費の削減幅が30億円であったのに、木下主計官は、一気に
500億円削減しているのです。
 政府が「防衛費を増やせ」という指示を出した第2次安倍政権
下における2013年度予算でも、防衛省は陸海空合わせて、約
1万8000人の増員を求め、防衛予算に1200億円の上積み
を求めたのに対し、木下主計局長は、増員は287人、予算上積
みは400億円に削ったのです。とにかく大局が読めず、省益に
邁進するタイプです。
 財務省に詳しい憲政史研究者で、希望日本研究所所長の倉山満
氏は、自著で木下康司氏について、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 こんなふうに防衛費を削る一方で、わずか数日間で約9兆円の
 国費をドブに捨てたことがあります。平成23年10月31日
 から11月4日まで、総額9兆916億円に上った為替介入の
 ときのことで、木下事務次官は国際局長として直接かかわりま
 した。当時は円高が進み、1ドル75円台になっていました。
 そのために円売り介入を行ったということなのですが、日本が
 単独で為替介入しても効果がないことは、財務官僚ならば知ら
 ないはずがありません。なんの役にも立たないことを知りつつ
 指示されるままに唯々諾々と9兆円以上もの国費をドブに捨て
 たことになります。気骨のある官僚ならありえないことです。
 実際、木下は陰の総理と呼ばれるほどだったエースの勝とは異
 なり、実力派の大物次官とみなされてはいませんでした。むし
 ろ小心翼々としながらも愚直なまでに上司に仕え、評価を得て
 出世の階段を上っていくタイプの官僚と目されていました。し
 かし、木下はみずからが勝のような卓越した豪腕ではないから
 こそ「予定どおり」の増税に向けて最強の勢力を呼び込む手を
 打ちました。大蔵元老院への働きかけです。  ──倉山満著
  『増税と政局・暗闘50年史』より/イースト新書027刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 財務事務次官は名前こそ「次官」ですが、財務省のトップであ
り、実質的には財務大臣よりも力を持っています。大臣には副大
臣と政務官しかついていませんが、事務次官は組織全部を握って
いるからです。事務次官が「うん」といわなければ、組織は動か
ず、仕事は進まないのです。これは財務省に限らず、どこの省庁
でも同じ構図なのです。
 とくに主計局は国家予算を握っており、国会議員は主計局の係
長クラス以下であり、主計局長といえば、与党三役級以上の実権
を握っているのです。
 そういう財務事務次官のなかにあって、勝栄二郎事務次官は傑
出しており、「天皇」と呼ばれていたのです。勝次官はひとつの
目標を持っていたのです。それは財務事務次官を3年間勤め上げ
ることです。一般的に次官の任期は2年ですが、勝氏は消費税増
税法を実現することによって、財務事務次官の最長記録の達成を
狙っていたのです。
 勝氏は2010年7月30日に財務事務次官に就任しましたが
念願の消費税増税法を2012年8月に成立させています。もし
勝氏がその年末まで次官を続けると、「ミスター財務省」といわ
れた武藤敏郎元次官の記録を破ることができるのです。彼はその
記録にこだわったのです。
 しかし、この勝氏の企みは実現しなかったのです。「大蔵元老
院」といわれる年寄りが動いて、増税法案可決の翌月に勝次官に
クビを申し渡したからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   君は実によくやった。だが、君にはこれで退いてもらう
―――――――――――――――――――――――――――――
 申し渡したのは元大蔵事務次官の長岡實氏です。長岡氏は大蔵
次官退官後、日本たばこ(JT)初代社長、東証理事長などを歴
任した大蔵省のOBで、現役の財務官僚に対して絶大なる権力を
今でも握っているのです。これで、勝栄二郎氏の夢は吹き飛んだ
のです。          ──[消費税増税を考える/75]

≪画像および関連情報≫
 ●財務省事務次官の木下康司氏/ブログ目覚まし時計
  ―――――――――――――――――――――――――――
  消費税実施で論議を呼んでいます。自民党首脳達は当初はと
  んでもないと言わんばかりの発言だらけでしたが、直ぐに変
  節。裏に何かの圧力があると考えた方が良さそうです。その
  圧力がどのような経路で政治家に掛るのか知りたいもの。政
  治家が如何言おうと消費税率上げは景気回復の足を引っ張る
  し、格差拡大を広げる。格差が拡大する事は経済を停滞させ
  る。消費税率上げのカギを握る一人が財務省事務次官であり
  本来なら総理大臣が事務次官の考えを否定するなら左遷すれ
  ば良く、実際、かつての田中角栄は人事に大幅に介入したと
  伝わります。やはり日本の政官界に外国勢力が入り込んでい
  ると仮定すると、それも日本国性を取得した「特定外国人」
  が暗躍していると仮定すると読めてきます。木下氏はどうい
  う人物なのでしょう?増税大魔王、木下康司財務事務次官は
  新潟市中国総領事館設立に関わっていた?疑惑は尽きない。
  現在、木下康司財務事務次官がまさに『渦中の男』だ。どう
  やら消費税増税推進派筆頭であるという疑惑があり、意味の
  無い行動で税金をドブに捨てるような真似もした様子。さら
  には中国との金融協力とも深く関わっているという噂だ。実
  は筆者、新潟県には縁が深く、中国問題にも、そこそこ詳し
  い。その私が、「木下康司」という人物の名前を聞いた時に
  真っ先に頭に浮かんだキーワードは『新潟市の中国総領事館
  問題』である。          http://bit.ly/1faoKuV
  ―――――――――――――――――――――――――――

木下康司財務事務次官.jpg
木下 康司財務事務次官
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2014年04月24日

●「財務省一丸の増税実現工作の展開」(EJ第3778号)

 財務官僚の世界は、現役でのトップを決める事務次官をめぐる
熾烈な争いで終わりではないのです。退官後のポスト争いが待っ
ているのです。現在、最も格が高い事務次官退官後のポストとは
次の2つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.    日本銀行総裁
        2.東京証券取引所理事長
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は歴代事務次官のなかで1人だけ、この2つのポストを歴任
した人がいます。森永貞一郎氏です。森永氏は1957年に大蔵
事務次官に就任、1960年に中小企業金融公庫総裁、続いて東
京証券取引所理事長、1974年に日銀総裁に就任しています。
森永貞一郎氏が大蔵元老院のドンといわれるのはこの経歴による
ものです。
 現在の大蔵元老院のドンといわれているのは、次の3人です。
3人中の最長年者者はあの勝栄二郎事務次官のクビを切った長岡
實氏です。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.長岡  實氏/1979年大蔵事務次官
    2.松下 康雄氏/1982年大蔵事務次官
    3.吉野 良彦氏/1986年大蔵事務次官
―――――――――――――――――――――――――――――
 この3人の大蔵元老院のうち、今回の増税に関係しているのは
吉野良彦氏です。吉野氏は、その名前から「ワル野ワル彦」と呼
ばれている人物です。この言葉は、官僚の世界では最高の褒め言
葉なのです。
 しかし、吉野氏は現役時代から清廉潔白の士として有名であり
仕事以外の宴会はすべて断り、地位にも執着しない人物だったの
です。実際に1994年には日銀総裁候補に推薦されたのですが
固辞し、松下康雄氏が代わりに日銀総裁になっています。
 しかし、吉野氏は積極財政を嫌い、財政均衡原理主義者であり
財政再建派なのです。したがって、増税推進論者ということにな
ります。1993年には細川内閣の下で、首相の私的諮問機関・
経済改革研究会の委員を務め、若き香川俊介氏とともに国民福祉
税を仕掛けた張本人でもあるのです。彼は増税というと、血が騒
ぐ性格のようです。
 もちろん今回の増税政局でも吉野氏は動いています。消費税を
増税するかどうかを決める直前に開催された藤井裕久元財務相の
叙勲パーティーに宴会嫌いの吉野氏が出席しているのです。藤井
氏とは細川内閣時代の同志でもあります。
 増税法案決定後の安倍政権の動きについて、佐藤慎一官房長が
大蔵元老院の連絡役を務め、逐一吉野氏に情報を入れていたとみ
られるのです。つまり、佐藤官房長は政府の官房長というよりも
元老院の官房長役のように動いているのです。
 大蔵元老院から財務省現役三羽烏(財務事務次官/主計局長/
官房長)は、今回の増税実現にさまざまな工作を仕掛けています
が、その主な工作は次の3つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.首相に近い学者などへの増税容認工作
     2.自民党内部の増税反対政治家への工作
     3.国民へ「増税やむなし」の雰囲気醸成
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は「首相に近い学者などへの増税容認工作」です。
 この工作を仕切っているのは、田中一穂主税局長です。安倍首
相に対して大きな影響力を持っているのは、浜田宏一内閣府参与
です。田中主税局長は、この浜田氏に対して、前財務官で現在ア
ジア開発銀行総裁の中尾武彦氏を使って工作を行っています。
 中尾氏は東大時代に浜田宏一教授のゼミで研究したことがあり
浜田氏の門下生だからです。財務省はこういうコネクションはフ
ルに使って工作するのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍首相が8%への増税を決断する前から中尾氏は、浜田氏の
 もとへ通い、浜田氏が増税反対派の仲間の名前を出しただけで
 「そういう人とは付き合わないほうがいいですよ」と、プレッ
 シャーまでかけていた。浜田氏も「中尾が来て困っている」と
 漏らしながらも、門下生だけに無下にできない。財務省はこう
 した人間関係をしっかり利用するわけです。 ──官邸関係者
               『週刊現代』4月26日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 財務省はとくに浜田教授に対しては、強い警戒心を持っており
マスコミを使って実に汚い工作をしているのです。2013年7
月14日のことです。時事通信は浜田氏が次の発言をしたとネッ
トのニュースサイトで報道したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の矢があまりにもいいから、(増税を)このままやってし
 まってもよいような状況になっているのは万々歳だが・・・
                  ──浜田宏一教授の発言
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、浜田氏はそんなことはいっていないのです。彼は次の
ようにいったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ・・このまま増税してもよい状態になれば万々歳だが・・・
―――――――――――――――――――――――――――――
 浜田氏は時事通信に抗議し、訂正を出させています。しかし、
時事通信はあえて次のよう文字をいじって訂正したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このまま増税してもよい状態になっているのは万々歳だが・・
―――――――――――――――――――――――――――――
 「状態になれば」を「状態になっているのは」に改竄して報道
しているのです。      ──[消費税増税を考える/76]

≪画像および関連情報≫
 ●時事通信による浜田宏一参与発言の捏造/倉山満氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ひとつは浜田参与の発言の捏造です。浜田はBS─TBSの
  インタビューで「次の四半期にも景気回復が華々しく、この
  まま増税してもいい状態になれば万々歳だが、そうでなけれ
  ば歳入を生む源である、景気回復という金の卵を産む鶏を殺
  してしまうことになる。せっかくいま、金の卵を産む鶏かわ
  からないが、大きく育っている。早く回収しようとしてそれ
  を殺してしまってはもう卵は出てこない」と発言しました。
  明らかに増税は急かず慎重に考えるべきだという趣旨の発言
  です。ところが7月14日に時事通信は浜田が、「第1の矢
  (大胆な金融緩和)があまりにもいいから、このままやって
  しまっても良いような状況になっているのは万々歳だ」と述
  べ、消費税を容認する姿勢を示したと報じました。「もしこ
  れこれであれば万々歳だが」という、仮定の部分だけを切り
  取って浜田の意図とまったく逆の意味の発言としたのです。
  浜田からの抗議と訂正要求により、時事通信はいちおう謝罪
  して記事を差し替えましたが、ニュースサイトの記事を上書
  きしたのみで、訂正があったことの記載はなく、当然ニュー
  スサイトに浜田への謝罪が載ることもありませんでした。し
  かも訂正された記事を見ると、依然として浜田の発言は歪曲
  されています。              ──倉山満著
  『増税と政局・暗闘50年史』より/イースト新書027刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

倉山満氏の本.jpg
倉山 満氏の本
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2014年04月25日

●「財務省の圧力に屈した2人の議員」(EJ第3779号)

 民主党が消費増税法案を党としてまとめようとしていたとき、
野党の自民党のなかに増税反対で民主党議員とも協調して動いて
いた有力議員がいたのです。その代表的な議員が山本幸三衆院議
員と西田昌司参院議員です。
 山本幸三議員は、元大蔵官僚ですが、国会で質問するさい、白
川日銀総裁(当時)を毎回呼んで、デフレ政策をやめるよう迫っ
たことで有名であり、今でも多くの動画が残っています。EJで
も何度も取り上げたことがあります。
 消費税増税に関して山本議員は、2011年9月15日の自身
のホームページ「去私利他(きょしりた)」の記事「復興増税が
なぜ駄目なのか」において、消費税増税について次のように主張
しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (消費税税率を上げると)毎年税率分だけ物の値段が上がって
 いくのだから消費者物価もGDPデフレーターもプラスになる
 ということなのだろうが、そんなに上手くいくのだろうか。消
 費者の財布の紐はより締まっていくのではないか。とくにデフ
 レが継続している現状の日本経済で、消費税増税で名目GDP
 が上昇し、税収が上がるとは到底信じられないのだが。199
 7年の橋本内閣の下で、デフレの兆候が現れ始めたときに強行
 した社会負担増と消費税増税で一気に不況の引き金を引いたこ
 とを忘れてはならない。その年の秋にアジア経済危機が起こっ
 たことから、不況はそのためだという説明がされることがある
 が、実はそれは財務官僚が考え出した言い訳に過ぎない。19
 97年以降、増税しても税収は97年のレベルを超えることは
 ないのである。           http://bit.ly/1kUvpyt
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、いつもの山本幸三議員らしい主張で私は高く評価して
いたのです。しかし、首相の8%への増税決断がほぼ間違いない
と思われてきた2013年9月12日の同じサイトの記事「混乱
している有識者会議の議論」では、次のようにまるで違う主張に
変貌していたのです。何と山本氏は「デフレ脱却と消費税増税は
全く関係ない」ととぼけたのです。巧妙に表現を工夫しています
が、これでは変節漢といわれてもいい訳はできないと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費税増税に絡んで有識者会議なるものが行われたが、そこで
 の議論を見ると、経済理論的には少し混乱しているように思わ
 れる。増税慎重派の主張のポイントは「消費税増税によって個
 人消費が落ち込み、需給ギャップが拡大して、デフレ脱却が遠
 のいてしまう」という点にあるが、本当にそうだろうか。こう
 した主張を、これまで日銀に積極的な金融緩和政策を求めてき
 たリフレ派と呼ばれる経済学者達までが唱え始めていることに
 私は違和感を覚えるのである。私の結論は「デフレ脱却と消費
 税増税は全く関係ない」ということである。その理由は「デフ
 レは貨幣現象であるので、金融政策がしっかりしてさえいれば
 必ず脱却できる」という点にある。リフレ派の主張は、正にそ
 こにあったのではないか。それが突然金融政策のことを忘れた
 議論を始めるのは首尾一貫性に欠けるというものだ。消費税増
 税は、財政健全化や社会保障財源確保の視点から考えればよい
 話で、しかも増えた税収はいずれ社会保障費として支出される
 ので中長期的にはGDPに対し中立的だと考えるべきだろう。
                   http://bit.ly/1eYbWx1
―――――――――――――――――――――――――――――
 西田議員で印象に残っているのは、野田政権の消費税増税を追
及したとき、古谷財務省主税局長に「デフレ時の増税は税収を減
少させる」という発言を引き出したことです。そのときのやりと
りの一部を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 西田:デフレの状況で消費税を上げるなんてあり得ないんです
 よ。そのことを野田首相は血道を上げてやっている。デフレで
 (消費税増税を)やると所得が減るんです。デフレというのは
 物価が減るだけではないのですよ、名目の所得も減るんです。
 だから事務方に、一般論として国民の所得が減ったら税収は増
 えるのか、減るのか」。
 古谷財務省主税局長:お答えします。国民の所得が減れば、課
 税ベースが所得と連動する税に関しては税収は減ります。
 西田:今端的に言っていただきました。所得が減れば税収も減
 るんですよ。国民の所得を全部合わせたものがGDPです。こ
 のGDPが減っている時に増税なんてあり得ないんです。
                   http://bit.ly/1rbJI3D
―――――――――――――――――――――――――――――
 西田議員の主張は実に明解です。しかし、2013年9月2日
にアップされた「週刊西田サテライト一問一答」の動画では、次
のような発言になっています。いつもの西田氏の発言と違い、非
常に歯切れの悪い発言に変貌しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  税率が低くしすぎているわけですから、これは財政再建とい
 うことだけではなくてですね、そもそも自分たちのですね、や
 らなきゃならない政策的経費が出ていないわけですから、当然
 これは、消費税増税も含めて税制全体の国民負担率を上げてい
 くという形で見直さなければならないと、こういうことなんで
 す。 ──上念司著『アベノミクスを阻む「7つの敵」/消費
   増税と「トンデモ経済学」を論破する』/イーストプレス
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはもちろん財務省の「ご説明」部隊の説得の成果であるこ
とは明らかです。山本幸三議員の場合は、元大蔵官僚であるので
財務省の上からの圧力があれば、ひとたまりもないでしょう。し
かし、あの田中康夫氏に「ブレない番長」といわしめた西田議員
であれば変節しないと期待したのですが、どうやら買い過ぎだっ
たようです。        ──[消費税増税を考える/77]

≪画像および関連情報≫
 ●ニャゴシャの気になる時事ブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  自民党の税制調査会は、消費税率を予定通り引き上げるかど
  うか、党所属の議員から意見を聞いた。引き上げに反対する
  意見はなかった。高市政調会長は「しっかりと実行していけ
  るようにということで、おおむねどころか、反対意見はゼロ
  でございました」と述べた。政府は2013年8月、消費税
  率の引き上げについて、有識者から意見を聞く「集中点検会
  合」を開いている。自民党内でも意見を聞く機会を設けるべ
  きとの声が上がったことから、党税調は、9日午後の会合で
  党所属の議員から聴取した。議員からは、予定通り引き上げ
  た場合、2014年度の予算で景気の落ち込みを防ぐよう、
  対策を求める意見などが出されたものの、引き上げ自体に反
  対する議員はいなかった。一方、党税調の野田会長は9日夕
  方、東京都内で講演し、消費税引き上げについて、「だいた
  い流れは、ご承知の方向に行くと思う」と述べ、変更の理由
  がないとの認識を示した。
   ふざけんなー!自民党議員たちー!デフレから脱却してな
  い時に消費税増税したらどうなるか、勉強や調査はしたのか
  い?えい?「しっかりと実行していけるようにということで
  おおむねどころか、反対意見はゼロでございました」ってさ
  ー。高市さん、あなたもBKD安倍ちゃんの立派なお仲間に
  成長なすったわね〜。しかし、誰ひとり増税反対の意志表示
  しなかったとは、駄目だこりゃー!党税調の野田会長は喜ん
  でらっしゃるみたいね、増税反対意見も出ず、規定通りに来
  年増税できるから・・・・・だって、党税制調査会って、巨
  大な利権の温床だって話だもん。 http://amba.to/1nkWpK1
  ―――――――――――――――――――――――――――

山本幸三衆院議員/西田昌司参院議員.jpg
山本 幸三衆院議員/西田 昌司参院議員
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2014年04月28日

●「マスコミは財務省の広報メディア」(EJ第3780号)

 財務省による今回の増税工作の基本方針を再現して話を先に進
めます。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.首相に近い学者などへの増税容認工作
     2.自民党内部の増税反対政治家への工作
   → 3.国民へ「増税やむなし」の雰囲気醸成
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」と「2」については既に述べています。今日は「3」に
ついて述べることにします。
 国民に増税を納得させるのに一番良いのは、マスコミを押さえ
ることです。財務省はどれほどマスコミに対して力を持っている
のでしょうか。
 このことはEJでも何回も書いてきていますが、結論からいう
と、財務省はマスコミを絶対的にコントロールできる権力を持っ
ているといえます。具体的には、次の3つのことがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.記者クラブを使ってのコントロール
     2.国税庁の税務調査を使ってのブラフ
     3.各省庁の広告などの発注を制限する
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本は官僚機構に完全に支配されている国です。その官僚機構
の中枢を占めているのは財務省なのです。その力は官邸をも凌ぐ
のです。自民党は、そういう官僚機構と権力を棲み分けしている
政党なのです。
 まず、財務省をはじめとする省庁は、記者クラブを使ってマス
コミの報道をコントロールできるのです。記者クラブの中で最も
プライドが高く、権力が強いのは、司法記者クラブと財研(財政
研究会/財務省)記者クラブなのです。財研について「るいネッ
ト」から引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財研記者クラブは、国内の主要新聞、放送、通信社のほか、海
 外メディアも所属しています。「財研」の略称で知られ、各社
 の経済部エリートが集い、経済記者の中でのステータスはきわ
 めて高いのです。彼らの主張は大蔵省時代から一貫して官僚と
 同じ財政規律至上主義が多く、財政危機や巨大公共事業反対の
 論調はここで作られるのです。業界紙などによる別の「財政く
 らぶ」という団体も財務省内に存在しています。
         ──「るいネット」 http://bit.ly/1hwHGZ7
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし仮に財研に属している新聞社が財務省にとって不利な記事
を書いたり、書こうとすれば記者クラブへの出入りを差し止めら
れ、ニュースソースを絶たれてしまうでしょう。これに抵抗する
ことはほとんど不可能です。これが「1」です。
 この場合、マスコミは単に財研への出入りを禁止されるだけで
なく、それが財務省の政策にとって重大な影響を受けると判断さ
れると、財務省は下部組織の国税庁を使ってそのマスコミに税務
調査を入れることがあるのです。もちろん税務調査は、建前上は
報道に関係なく、純粋に税務が適正に処理されているかどうかと
いう目的で行われるのです。
 税務上きちんとやっていれば、たとえ国税庁が調査にきても問
題はないではないかと思うかもしれませんが、マスコミは税務調
査を嫌がるのです。建前はともかくとして、国税庁は報復や嫌が
らせで調査に入るのですから、マスコミの一番嫌がる調査をやる
のです。それは、マスコミが一番隠したい取材先が明らかになっ
てしまうことです。現実に今回の増税でも、ほんの少し増税に慎
重な記事を書いただけでも、その新聞社に税務調査が入っている
のです。これが「2」です。
 増税を実施する場合、財務省はマスコミを使って、さまざまな
キャンペーンを行います。それには、テレビCMや新聞広告やイ
ベントの開催などの広報手段がフルに使われます。これには巨額
の予算がつくのです。もし、あるマスコミが財務省の意向に反す
る主張をすれば、確実にそれらのCMや広告からそのマスコミは
外されます。これが「3」です。
 本来マスコミは、たとえそうであっても、あくまで社会の木鐸
としてそのマスコミが正しいと信ずることを主張すべきですが、
日本にはそういうマスコミはもはや存在しないのです。それは、
小沢一郎氏の陸山会事件の報道を見れば、とうていマスコミは信
ずるに値しないとわかるはずです。
 このように、もし、マスコミが財務省に逆らうと、記者クラブ
への出入り禁止を食らうだけでなく、それに加えて不本意な税務
調査を受け、そのうえ政府のCMや広報の仕事から外される──
これでは日本ではマスコミが社会の木鐸としての役割を果たそう
と思ってもできない仕組みになっているといえます。
 それでは、木下財務事務次官率いる財務省が増税実施に当たっ
てどんな手を使ったかを見ていきます。その手法は10%への引
き上げのときも確実に実施されると思うからです。
 安倍首相が消費税増税を本当に予定通り実施しようとしていた
かどうかは、人によって意見が分かれています。しかし、本音で
はやりたくなかったことは確かです。そもそもこの増税は、前総
裁の谷垣禎一法相が決めたことであり、法律としては成立してい
ても、次の4つの選択肢があったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.予定通り2014年4月8%、2015年10月10%
 2.                  全面的に見送る
 3.     激変緩和措置として5年間で1%ずつ上げる
 4.  2014年4月は見送り、2015年10月10%
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに警戒したのは木下財務省です。そのため木下財務事務次
官は、あくまで増税を予定通り実施させるべく、官邸をがんじが
らめにしようとしたのです。 ──[消費税増税を考える/78]

≪画像および関連情報≫
 ●財務省と消費税増税/2014年4月5日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ご存知の方も多いだろうか、現在の財務省のトップ、財務事
  務次官は新潟県出身者の木下康司氏である。(中略)語弊を
  恐れずに言えば、財務省とは、現代日本の権力の中枢・霞ヶ
  関の中でもトップに位置する”省の中の省”であり、さらに
  言えば霞ヶ関を統べる地位にある。細かな理由は割愛させて
  もらうが、要は予算編成権(主計局)と徴税権(国税局)を
  有する金庫番だからである。(中略)財務省でのし上がる人
  物には共通点がある。それはとりもなおさず”省益に忠実な
  人物”であろう。(中略)さて、新潟出身の財務省職員と言
  えば、石崎の前に木下康司現財務事務次官の名前を挙げなけ
  ればいけない。現在の財務省のトップ、すなわち、霞ヶ関の
  トップは新潟人なのである。国政のトップは言わずと知れた
  内閣総理大臣だが、財務事務次官というポストに限っては、
  そのさらに斜め上に位置するような存在であり、政権に大き
  な影響力を持つのはご存知の通り。民主党最後の政権、野田
  佳彦内閣が時の財務事務次官・勝栄二郎氏にいいようにコン
  トロールされる様を指して”勝の傀儡”とまで言われていた
  のは記憶に新しい。木下氏は財務事務次官としてまことに大
  きな仕事をやってのけた。他でもない、在任期間中の消費税
  増税の実現である。──『財界にいがた』/2014年4月
                   http://bit.ly/1mJnG6z
  ―――――――――――――――――――――――――――

財務省.jpg
財務省
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2014年04月30日

●「木下財務省の怒涛のプロパガンダ」(EJ第3781号)

 2013年9月9日まで時計の針を戻してみます。その日、安
倍首相は2020年の東京オリンピック開催を決めて意気揚々と
帰国したのです。その2日後に読売新聞は、9月12日付の一面
トップで次のように報道したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    消費税 来年4月8% 首相、意向を固める
      ──2013年9月12日付、読売新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見た安倍首相は血相を変えて怒ったといわれます。実は
読売新聞社は、首相が帰国後に麻生副総理、菅官房長官、甘利経
済再生担当相を集めて4者会談を開いたという情報を入手し、間
髪を入れず、この記事を報道したと表向きいわれています。
 しかし、この12日に読売と同じ内容を報道した新聞社は、次
の4社もあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 【共同】/2013年9月12日付
  ・消費増税 来年4月8%に 首相、10月1日表明へ
 【時事】/2013年9月12日付
  ・消費税、来年4月に8%=経済対策5兆円で下支え
 【毎日】/2013年9月12日付、夕刊
  ・消費増税 来年4月8%、安倍首相「環境整う」判断
 【東京】/2013年9月12日付、夕刊
  ・消費税 来年8% 2%分 経済対策5兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 続いて、12日の5社の報道の一週間後の9月19日に次の2
社が追加報道をしているのです。いつも政府の提灯持ち報道をし
ている日経の報道が遅いことはひとつの意味を持っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 【産経】/2013年9月19日付
  ・消費税来春8%、首相決断 法人税減税の具体策検討指示
 【日経】/2013年9月19日付 夕刊
  ・消費税来春8%、首相決断 法人減税が決着
―――――――――――――――――――――――――――――
 最後は朝日新聞です。それも21日の土曜日の朝刊の報道なの
です。どちらかというと増税には一番慎重姿勢の朝日新聞が、最
後の報道になったのは、きわめて印象的です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 【朝日】/2013年9月21日付
  ・首相、消費税引き上げを決断 来年4月から8%に
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、9月12日から21日までの10日間、マスコミ
はほぼ毎日のように「首相消費税増税を決断」の情報を繰り返し
報道したのです。異常なことは、マスコミはこの件に関し、官邸
に一切取材をかけていないことです。もちろん安倍首相から直接
ウラを取ったメディアは1社もないのです。
 この報道に対して、官邸はどう対応したのでしょうか。12日
に読売新聞の第1報が出たとき、菅官房長官はすぐ記者会見で次
のように反論しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       総理が増税を決断した事実はない
               ──菅官房長官
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この菅官房長官の反論をそのまま報道したメディアは
ないのです。完全無視です。おそらくこれは木下財務事務次官か
ら、マスコミに対して「増税決断を報道せよ」という指示が出さ
れ、それにしたがった結果であると思われます。
 これについて、既出の米山満氏は「財務省のプロパガンダ」で
あるとして、次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  まさに木下の怒涛の宣伝決戦≠ナす。完全に安倍の退路を
 断とうという勢いの、すさまじい量のプロパガンダです。菅官
 房長官が会見で朝刊の記事を否定し、その日の夕刊でまた「増
 税を決断」の記事が出るのですから、いったい安倍は何時間ぶ
 りに何回目の決断をしたことになるのか。とても正気とは思え
 ない、なりふり構わないメディアの狂奔ぶりです。
  菅官房長官が記者会見で「総理は増税を決断していない」と
 真っ向から報道内容を何度も否定したのに、その言葉が報道さ
 れることは、いっさいありませんでした。また、これらの記事
 のどれひとつとして安倍自身から裏を取って書かれたものはあ
 りませんでした。              ──倉山満著
  『増税と政局・暗闘50年史』より/イースト新書027刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 「もうこれは決まったことで後に戻せない」という財務省の力
づくの官邸押さえ込みの手法なのです。彼らは相手が首相であっ
ても、そんなことは一向に意に介さないのです。
 安倍首相の怒りは凄まじいものだったといいます。首相周辺で
は、読売報道に対する安倍首相の怒りについて、次のように述べ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 様々な経済指標が上向きだったため、首相も消費税引き上げや
 むなしという方向に傾いていたが、まだ引き上げを決断してい
 たわけではなかった。にもかかわらず、増税を悲願とする財務
 省とまるで謀ったかのように、新聞各紙が外堀を埋めるような
 やり方で次々に“首相増税の意向”と報じた。報道が先行し、
 首相はカリカリしていました。        ──首相周辺
                   http://bit.ly/1tPh9v8
―――――――――――――――――――――――――――――
 このようにして、消費税増税8%は決定されたのです。このよ
うに国の大事な決定が官僚機構の意のままにされている──これ
が日本の実態です。     ──[消費税増税を考える/79]

≪画像および関連情報≫
 ●安倍首相、財務省と激突/阿修羅/2013年9月
  ―――――――――――――――――――――――――――
  安倍晋三首相がスーパー官庁・財務省に圧力をかけている。
  消費税率を来年4月から5%から8%に引き上げる際、景気
  の腰折れとデフレ圧力を防ぐため、増税分3%のうち2%分
  に相当する5兆円規模の経済対策を要求したのだ。財務省は
  財政規律を重視して消極的だったとされる。首相周辺は同省
  への警戒感を隠さず、一歩も引かない構えだ。「首相が消費
  税を引き上げると決断した事実はない。経済政策全体を掌握
  した上で判断する」菅義偉官房長官は12日の記者会見でこ
  う語った。永田町的に通訳すると「効果のある大規模経済対
  策をまとめなければ、増税には応じないぞ」と財務省に通告
  しているのだ。各種経済指標が堅調なうえ、2020年東京
  五輪招致成功で新たな経済効果も見込まれるため、安倍首相
  は消費税増税の意向を固めている。ただ、前回の消費税増税
  時に景気後退を招いたとの分析もあり、10月1日の正式発
  表と同時に5兆円規模の大規模経済対策を打ち出す方針。安
  倍首相のブレーンである浜田宏一、本田悦朗両内閣官房参与
  は、毎年1%ずつの消費税引き上げを主張していた。増税分
  3%のうち2%分を経済対策に当てれば、景気への影響は1
  %分に抑えられると計算した。これに対し、財務省が当初主
  張したのは2兆円規模。このため、甘利明経済財政担当相は
  2日、「できるだけ財政出動しないで済ませたい思惑が見え
  見えだ」と、公然と財務省を批判した。安倍首相周辺には財
  務省に対する不信感がある。第1次安倍内閣時代、閣僚スキ
  ャンダルが相次ぎ、「官邸崩壊」と呼ばれて早期退陣に至っ
  た背後に、財務省の影を感じているのだ。
                   http://bit.ly/1fkMdyE
  ―――――――――――――――――――――――――――

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消費増税8%を発表する安倍首相
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2014年05月01日

●「第1次安倍政権失敗の原因は何か」(EJ第3782号)

 安倍首相が消費税増税に不安を持っていたことは確かです。な
ぜなら、安倍政権が現在高支持率を保っているのは、経済の好調
さにあることを安倍首相自身がよくわかっているからです。
 もしそれまでの経済指標に少しでも問題があれば、増税延期も
あったと思いますが、いずれも大きな問題点はなく、これではや
らざるを得ないなと考えた矢先、財務省の策略でメディアが先行
報道をしたのです。2013年10月1日の安倍首相の増税決断
の発表について、倉山満氏は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 凄惨な光景でした。平成25年10月1日、安倍晋三総理は、
 「予定どおりの消費増税」を発表しました。よりによって午後
 6時、マスコミが連日「この日、この時間に発表する」と既成
 事実として垂れ流した時間に発表しました。安倍総理の顔面は
 蒼白。原稿は棒読みで、自分の言葉になっておらず、自信なげ
 に何度もトチっていました。デフレを脱する前に大増税などす
 れば景気は悪くなる。そんなことは子どもでもわかる経済学以
 前の知見です。総理記者会見の直後、株価は大幅に下落しまし
 た。「ナイアガラ」と呼ばれる現象です。市場は正直に増税へ
 の不安を示しました。            ──倉山満著
  『増税と政局・暗闘50年史』より/イースト新書027刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍首相がこれまでのところ順調に政権を運営できているのは
2回目の首相であるからです。それも1回目は失敗の連続で1年
で政権を降りていますので、2回目はその反省に立ってやってい
るのです。それに安倍氏は強運にも恵まれています。
 安倍首相が財務省の策略による先行報道になぜ怒りをあらわに
したのかというと、第1次安倍内閣は財務省によって潰されたと
思っているからです。
 第1次安倍内閣の組閣のさい、安倍首相は井上義行氏というノ
ンキャリア官僚を公務員制度改革担当の総理秘書官に任命したの
です。井上氏は現在みんなの党の参院議員ですが、特異な経歴の
持ち主です。井上氏は日大経済学部通信教育課程を卒業するなど
苦学して旧国鉄に就職し、ブルートレインの運転手をしていたこ
とがあるのです。
 国鉄民営化に伴い総理府(後の内閣府)に移籍しますが、就任
早々上司から「国鉄の人間に行政なんかできるか」と罵倒された
といわれます。しかし、井上氏は、官邸整備などの仕事に地道に
取り組んで実績を上げていったのです。
 なぜ、安倍氏が井上氏を総理秘書官にしたかというと、彼が独
学でマスターしたという朝鮮語が非常に堪能であったからです。
その語学力が買われて、彼は小泉訪朝のさい、通訳として活躍し
たのです。2003年に内閣参事官補佐・主査時代に拉致問題で
北朝鮮に単身で乗り込み、拉致被害者の子供達の帰国について詰
めの交渉をし、第2次小泉訪朝により子供の帰国を実現させると
いう功績を果しています。
 この仕事ぶりを買って安倍氏は、第1次安倍内閣のとき、井上
氏を総理秘書官に抜擢したのです。これを見ると、安倍氏は一応
人を見る目を持っている政治家であるといえます。
 しかし、この人事は東大出のキャリア官僚にとって大不評だっ
たのです。これは、今や名実ともに世界の一流指揮者になった小
沢征爾氏を若いころ東京芸大出身ではないとして馬鹿にし、N響
が小沢氏をボイコットした構図と全く同じです。このせいか、今
でも小沢征爾氏がN響と共演することはないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   なんで俺があいつに頭を下げなきゃいけないんだ!
              ──倉山満著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 愚かなことですが、これがキャリア官僚の考え方なのです。同
じ官僚でも、キャリアとノンキャリアのアパルトヘイトは厳然と
存在するのです。つまり、この井上総理秘書官人事はアパルトヘ
イト下で黒人が白人の上司になったようなものです。
 これによって第1次政権での安倍首相は、全霞が関のキャリア
官僚の敵になったのです。こうなると、キャリア官僚は総力を上
げて内閣の足を引っ張ります。
 まず、槍玉に上がったのは、佐田玄一郎行政改革担当相の事務
所費問題です。キャリア官僚はこういう情報を多く握っており、
これを野党議員に流して辞任を迫るのです。この佐田氏の後任が
渡辺喜美氏です。
 渡辺氏は独立行政法人の改革と天下りの根絶を宣言し、それに
加えてキャリア官僚制廃止を主張したのです。その志はよいので
すが、これは明治維新をもう一回やるほどのエネルギーが必要な
のです。この大改革をやるには、首相として地位を固め、まさに
政治家として剛腕でなければできません。安倍晋三氏や渡辺喜美
氏クラスの政治家ではとても無理です。
 もし、これをやれるとしたら、小沢一郎氏を首相にするしかな
いと思います。民主党が天下を取って、その一歩手前まで行った
ので、官僚機構が検察まで使って小沢氏を潰したのです。彼らは
今でも小沢氏への警戒を解いていないのです。
 第1次政権の安倍首相に対し、官僚機構は国民投票法を通した
ことでマスコミと手を握り、「消えた年金問題」で安倍政権を追
及したのです。本来この問題は、民主党の支持母体である自治労
が過失責任を負うべきですが、マスコミはそんなことにおかまい
なしに安倍政権を攻撃したのです。
 さらに外交面では、米国のブッシュ大統領が中間選挙で負けて
レイムダック化したこともあり、これもうまくいかなかったので
す。ついていなかったといっても過言ではないのです。
 これに懲りたのか、第2次安倍政権では、官僚機構を刺激せず
マスコミとも提携するなどの気配りをして、経済回復を目標に掲
げて政権を運営しています。財務省と対立しないためには、増税
決断が必要だったのです。  ──[消費税増税を考える/80]

≪画像および関連情報≫
 ●アベノミクスに生きている第1次安倍政権の失敗
  ―――――――――――――――――――――――――――
  安倍総理がたかじんのそこまで言って委員会のなかで移民政
  策を明確に否定したことがネットで話題になっている。この
  ブログでもそれは誤解だと何度も書いたが、もちろん何の影
  響力もなかった。こういう誤解を解くには、ご本人がテレビ
  で明言するに限る。もっとも、この事実を知って少し安心し
  た人もいるだろうが、安倍総理は新自由主義者、グローバリ
  ストと信じ込んでいる人は心配の種は尽きることはないだろ
  う。不安を煽られ「外国人」という言葉に過敏に反応するよ
  うになっている人に、いくら事実を説明しても耳に入らない
  のではないか。ところで、番組の中で印象に残ったのが、安
  倍総理自身が小泉政権・第1次安倍政権時に企業の業績は向
  上したのに賃金が上がらなかったと述べたことだ。そして、
  その原因としてデフレから抜け出せていなかったことを挙げ
  ている。そのあたりの発言について、ぼやきくっくりさんが
  書き起こしてくださっているのでそこから引用させていただ
  く。尚、ぼやきくっくりさんはいつものように、安倍総理の
  発言全部も含め、番組の内容を詳しくまとめてくださってい
  る。(引用ここから)「小泉政権、安倍政権において経済は
  だんだん、実質成長率は上がってくるんですが、デフレから
  脱却できなかったし、給料も上がらなかったんですね。企業
  は収益をすごく上げたんですが、デフレから脱却できなかっ
  た。そこで何をすべきか。これはやはり金融政策に課題とい
  うか問題があったと。今までの伝統的な金融政策では上手く
  いかなかったことが明らかになったんですが、伝統的な政策
  を変えていくのはそう簡単なことではないんですが、むしろ
  我々、野党になって、与党に戻るというこの時が最大のチャ
  ンスだというふうに考えてました」。
                  http://amba.to/1pF5jUO
  ―――――――――――――――――――――――――――

井上義行参議院議員.jpg
井上 義行参議院議員
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2014年05月02日

●「荻上チキ氏と財務省の『ご説明』」(EJ第3783号)

 財務省が今回の増税の実現に、いわゆる「ご説明」をする対象
をいかに拡大していたかを示す事例があります。それは、評論家
の荻上チキ氏に対して財務省が電話を入れ、増税の「ご説明」に
訪問しているという事実です。
 ところで、荻上チキ氏という評論家をご存知ですか。
 実は私は知らなかったのです。偶然4月25日放送の「朝まで
生テレビ」(テレビ朝日)に出演しており、そのとき、はじめて
知ったのです。テーマは「集団的自衛権」でしたが、並みいる論
客のなかでも実に堂々と自分の意見を展開し、33歳ながらその
知識は並みではないという感じで、存在感を示していました。
 ちなみに「荻上チキ」はハンドルネームで、実名は明かしてい
ないのです。彼はいわゆるネットの寵児であり、著書も多く、最
近はラジオにも毎日のように出演しているのです。ブログも出し
ており、ツイッターもやっていますが、ツイッターのフォロワー
は6万人を超えるレベルです。
 その荻上氏は、2013年11月に財務省から電話を受けたと
いっているのです。既に10月1日に安倍首相は8%の増税を決
定していたのですが、財務省はまだ「ご説明」運動を行っている
のです。10%引き上げをにらんだ工作と思われます。
 萩上氏は、何かの参考になると考えて、会うことに同意したそ
うです。その模様を「週刊現代」4/26より引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 メールで「ご著書を拝読しました。消費税について一度お話を
 させて下さい」とコンタクトをとってきました。スターバック
 スで会うことになったんですが、来たのは電通から官民交流で
 財務省に来ている広報担当者と財務省プロパーの広報担当者。
 これまではマスメディア、政党、学者などに「ご説明」に伺っ
 ていたけれど、それだけでは不十分なので、私のような個人や
 NPOなどにも対象を広げでいると言っていた。財務省側は数
 センチにもなる分厚い資料を持参、その上で荻上氏の著書に大
 量の付箋を付けて、それをもとに説明をはじめたという。「簡
 単にいえば、「いまなぜ消費税増税が必要なのか」について説
 明を受けたわけです。私がいますぐにやらなくてもいいという
 話をすると、「違う、今でしょ」という説明を繰り返していま
 した。           ──「週刊現代」4/26より
―――――――――――――――――――――――――――――
 荻上チキ氏によると、「ご説明」で財務省は、97年の増税の
さい、景気が落ち込んだのは、アジア通貨危機の影響であって、
消費税増税の影響ではないという、御用学者が口を揃えていう陳
腐なロジックを繰り返したといいます。
 これについて、三菱UFJリサーチ&コンサルティング経済・
社会政策部主任研究員の片岡剛士氏は、消費税増税の影響は明白
であると次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 96年度の実質GDP成長率は2.7 %だったのですが、民間
 消費の寄与は1.3 %でした。それが増税後の97年度に民間
 消費の寄与は―0.6 %まで下がっている。住宅投資の寄与も
 96年度は0.6 %だったのですが、97年度には―1.0 %
 になっています。消費税増税は民間消費と住宅投資に影響を与
 えるという事を念頭におけば、消費税増税の影響がなかったと
 は言えないことは確かなんですね。  http://bit.ly/1kv2Y9E
―――――――――――――――――――――――――――――
 もうひとつ片岡氏は、増税に対応する5.5 兆円の補正予算の
ことについても触れています。実はこの5.5 兆円、国債を発行
していないのです。
 実は毎年予算は使い切れず大幅に残っているのです。そのおカ
ネは本来国庫に戻すべきですが、繰越金として残され、恣意的に
使われています。金額はおよそ数兆円規模になります。このよう
にして役人の懐(埋蔵金)はどんどん豊かになっていくのです。
 5.5 兆円は、予算が使い切れずに残ったおカネと景気がよく
なったことで増えた税収をプラスしたものなのです。国の財政が
危機的状況で、消費税を増税しなければならないのなら、執行で
きない無駄な事業を減らし、その余ったお金と景気回復で増えた
税収こそ財政再建に回すべきです。矛盾しています。
 荻上チキ氏は、「なぜ消費税なのか」と聞いたところ、財務省
は次の答えを返してきたそうです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 荻上:(財務省の説明は)所得税は、現役世代が限られている
    から限界がある。相続税も同様だ。高所得者層はすでに
    多く負担しているし、これ以上を求めると海外に逃げて
    しまう。それから所得分布をみてほしい。日本人の平均
    所得は408万円。世帯収入で最も層が厚いのは200
    〜299万、300〜399万。ボリュームゾーンから
    取る手段は重要だ。控除を検討しつつも、どう理解を得
    ていくかが課題だ、と。こんな感じですね。
 片岡:酷い説明ですね。       http://bit.ly/1kv2Y9E
―――――――――――――――――――――――――――――
 これをみると、財務省という役所は、国民のことなどカケラも
考えていないことがわかると思います。彼らのアタマにあるのは
役人天国を維持することだけです。
 300〜399万円の層から税金をとっていると、これらの層
は200〜299万円の層に多く転落し、200万円以下の層が
増大することは必至です。
 大切なことは、増税に頼ることなく国全体の税収を上げること
なのです。そのうえで、所得税で税収を確保するのが正しいやり
方ですが、そういう議論は出てこないのです。だいいち、今回の
増税は財政再建のためではなく、社会保障に全額使うということ
になっているのではないでしょうか。これにはカラクリがあるの
です。これについては来週のEJで詳しく述べることにします。
              ──[消費税増税を考える/81]

≪画像および関連情報≫
 ●景気回復基調に変化なし/西村内閣府副大臣/4月17日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  [東京17日ロイター] -西村康稔内閣府副大臣は17日夕
  月例経済報告関係閣僚会議後に記者会見し、4月の経済報告
  で景気の判断を下方修正したことについて、景気の基盤は引
  き続きしっかりしており、緩やかな回復基調に変化はないと
  の認識を示した。消費などの弱い動きは想定されたことで一
  時的なものだと指摘。消費増税の駆け込みの反動も、今のと
  ころ想定の範囲内に収まっていると述べた。西村副大臣は、
  「消費増税を決めたときから反動は想定していた」と指摘。
  「住宅、自動車、家電などは基本的に売り上げが落ちている
  が、家電はパソコンの買い替え需要で少し戻している。サー
  ビスや飲食は引き続き強く、しっかりとした強い消費傾向が
  みられる。いまのところ前回(の消費増税時)と比べ、想定
  している範囲内の動きと考えている」との認識を示した。そ
  のうえで、政府としては景気対策をしっかりと進め、成長戦
  略を含めて政策を実行していきたいとした。とくに医療分野
  農業分野、雇用改革などで議論を詰めており、しっかりと6
  月の成長戦略に盛り込みたいと語った。賃上げの動きに関し
  ては一定のレベルで妥結してきていると指摘、大手企業など
  で2%前後の賃上げが実現しており、ボーナスも含めれば3
  %を超えるところまで期待できるとの見方を示した。
                   http://bit.ly/1n0BX1k
  ―――――――――――――――――――――――――――

荻上チキ氏.jpg
荻上 チキ氏
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2014年05月07日

●「社会保障財源化と財政再建の矛盾」(EJ第3784号)

 今回の消費税増税法の正式名称をご存知でしょうか。三党合意
の名称は何回も報道されているのでご存知だと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
         社会保障と税の一体改革
―――――――――――――――――――――――――――――
 この段階でもこれを「税と社会保障の・・」と間違える議員や
記者やテレビのキャスターや評論家、それにテレビ報道のさいの
フリップなどに間違った表示がよく見られたものです。
 「社会保障と税の・・」と「税と社会保障の・・」では大違い
です。それは法案の中身が実は税率を上げることが主眼であり、
社会保障を充実させる内容でないため、どうしても本音が出てし
まうのです。ところで、今回の増税の法律の正式名称は次のよう
になっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を
  行うための消費税法等の一部を改正する等の法律
 ◎社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を
  行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法
  律
―――――――――――――――――――――――――――――
 冒頭に「社会保障の安定財源の確保」という言葉が書かれてい
ますが、具体的には、基礎年金の国庫負担分(2.9 兆円)を賄
うことが当面強く意識されています。
 2009年4月から、基礎年金の国庫負担分が従来の3分の1
から2分の1に引き上げられたのです。これを決めたのはもちろ
ん当時の与党である自民党の小泉政権です。2004年に竹中平
蔵経済財政担当大臣が旗振り役になって「100年安心年金」と
称して決めたものです。
 しかし、その肝心の財源を確保していなかったのです。そのツ
ケを負わされたのは、2009年に自民党に代わって政権交代を
成し遂げた民主党なのです。民主党は鳩山内閣のときは埋蔵金か
らそれを支出させたものの、菅政権、野田政権では財務官僚の抵
抗によって毎年その支出に苦しみ抜いたのです。
 このあたりに、いずれも財務相時代に完全に洗脳されたと思わ
れる菅・野田両首相が、消費税増税まっしぐらになった原因があ
ると思われます。野田政権時代の2012年度には「年金交付国
債」なるものを発行してしのぐありさまです。まさに苦肉の策そ
のもの。完全に財務省の罠にはまっています。
 交付国債を発行したのは、安住財務相(当時)ですが、これは
明らかに消費税増税の成立が前提になっています。増税をあてこ
んで約束手形を切ったようなものです。
 ところで「年金交付国債」とは何でしょうか。
 通常の国債は、国が利子を付けて市場に売り出し、現金を得る
国の借金です。ところが交付国債は利子を付けずに公的機関や特
定の団体に発行する特殊な国債です。年金交付国債では、年金積
立金管理運用独立行政法人に対して発行することになります。
 年金交付国債の場合、年金積立金管理運用独立行政法人はおカ
ネが必要になったとき(国庫負担金を支出するとき)に政府に要
求して現金化するのです。約束手形や小切手と同じです。しかし
おカネが必要になったときは確実に現金化できるのですから、現
金と同じではないかと考える人も多いと思われます。
 そうではないのです。これは歳出や国債発行額を小さく見せか
ける財務省の国民騙しのテクニックの一つなのです。なぜなら、
おカネが必要になるまで一般会計には計上しなくてよいので、そ
の間、国債を発行したことによる国民の非難をかわすことができ
るからです。そのため、交付国債の発行は、よく粉飾決算といわ
れるのです。
 しかも、今回の消費税の増税分は全額社会保障にあてるとまで
いっています。そういわれると、国民としては、増税は嫌だが、
社会保障に使うなら仕方がないかと考えてしまいます。実際にそ
う思っている人は多いと思います。
 消費税を社会保障目的税にする──実はこれはとんでもないこ
となのです。消費税を社会保障の目的税化するということは社会
保障の財源は消費税にするというのと同じだからです。
 そうしてしまうと、社会保障費は年々増加し続けており、その
たびに税率を上げなければならないことになるからです。菅・野
田政権はそのとんでもないことをやってしまったのです。そのこ
とが国民にわかったら、民主党は生涯党勢が上向くことはなくな
るはずです。
 ところで、ここで思い出して欲しいことがあります。改めて、
消費税は何のために税率を引き上げるのかということをです。財
政再建のためではなかったのでしょうか。国の借金が巨額に達し
財政破綻する寸前といっていなかったでしょうか。
 国民の多くは「それなら仕方がないか」と思ったのではないで
しょうか。それでいて増税分は社会保障に充てるといっているの
です。矛盾していないでしょうか。増税分を社会保障に充てるな
ら、財政再建はしなくてもいいのでしょうか。
 本当のところ財務省は、今の日本の財政状況はけっして危機で
はないことを知っているからです。その証拠に日本国債の格付け
が下がると、財務省の役人は格付け会社に対して日本の有する膨
大な資産の存在を提示し、「日本は財政危機ではない」と訴えて
抗議しているからです。
 財政危機を必要以上に強調して国民を騙し、マスコミを使って
財政危機を広く訴える。その一方で、全額社会保障に使うといっ
て消費税増税を推進する──それが財務省のスタンスなのです。
彼らはどこの国の役人なのでしようか。
 ところで、増額分は全額社会保障に使うというロジックはきわ
めて問題があります。それは「おカネに色はついていない」から
です。この問題は、明日のEJで取り上げることにします。
              ──[消費税増税を考える/82]

≪画像および関連情報≫
 ●消費税増税の間違い/木下秀明氏/2012年8月
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「社会保障と消費税は『一体化』出来ない」という高橋洋一
  さんの主張も、目から鱗が落ちる感じのする明快なものだ。
  マスコミは「一体化改革」の正当性を叫ぶが、これが全く間
  違っているとしたら消費税増税の正当性も根底から崩れる。
  消費税について、「やはり日本の5%は低すぎる、と政府は
  言うわけですが…」という神保さんの言葉に対して、高橋さ
  んは次のように語っている。「いや、それは財務省が歳出の
  都合のいいところと歳入の都合のいいところを結びつけて話
  しているだけですよ。一番簡単に社会保障費を補うなら、先
  ほど言ったように「消えた保険料」12兆円の徴収をきちん
  とやればいいわけですから。(消えた保険料というのは、取
  りはぐれている法人からの保険料)そもそも、消費税で社会
  保障費を補うのはおかしい。政府は「消費税の社会保障目的
  税化」と当たり前のように言ってますが、これは海外ではま
  ずない。なぜかというと社会保障は基本的に保険料方式です
  よね。だから歳入庁を作って、保険料をきちんと取ればいい
  だけなんです。それを消費税で取るというのは制度としてお
  かしいんです。          http://bit.ly/Rcjt0s
  ―――――――――――――――――――――――――――

消費税増税実施の元凶.jpg
消費税増税実施の元凶 
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2014年05月08日

●「消費税増税分の社会保障目的税化」(EJ第3785号)

 消費税の増税分を全額社会保障に使う──これを本気で実現す
るには、一般会計に「社会保障勘定」を設けて区分経理する必要
があります。2013年度における社会保障関係費は、次のよう
になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ◎平成25年度社会保障関係費
     29兆1224億円(一般会計31.4 %)
―――――――――――――――――――――――――――――
 この社会保障関係費30兆円のうち、基礎年金給付は約20兆
円であり、国庫負担分は半分の約10兆円になります。国庫負担
分2分の1は、2009年4月から実施されていますが、財源が
手当てできていなかったのです。
 そこでその財源として消費税を増税する案が浮上したのです。
消費税を1%上げると約2兆円税収が増えるといわれます。した
がって、税率を5%上げると約10兆円の税収になります。今回
の消費税税率を5%から10%へ上げる増税案はこのことを念頭
に置いているのです。だから「増税分はすべて社会保障に使う」
といっているのです。
 社会保障関係費を約30兆円とし、シンプルに考えてみます。
消費税率の3%の増税は2014年4月から実施されましたが、
実際にその税収が入ってくるのは1年後です。さらに残りの2%
の増税がスケジュール通りに実施されたとしても、10%の税収
の約10兆円がまるまる税収として入ってくるのは、2017年
以降になるのです。
 そこで少なくとも2014年度は基礎年金を含む社会保障関係
費の約30兆円の国の負担分を所得税や法人税などの他の税収お
よび公債金収入の一部なども使って、この勘定への歳入を30兆
円にする必要があります。
 しかし、2015年には、消費税3%増税分の約6兆円の税収
が増えるので、その分だけ国の負担が軽くなります。一般会計へ
の「社会保障勘定」の歳入は24兆円で済むことになります。そ
うすると、6兆円分は社会保障以外の経費、たとえば公共事業費
に回すこともできるのです。
 この場合、消費税率を3%上昇させた結果得られた6兆円は全
額社会保障費に充てられたということは間違いではないのですが
実質的に6兆円は公共事業費に使われているのです。このことは
国民には見えないのです。これに関して、次の有名な言葉がよく
使われます。
―――――――――――――――――――――――――――――
              お金には色はついていない
    Fund is fungible. (お金は何にでも代替可能)
―――――――――――――――――――――――――――――
 公共事業費だけではありません。政府は消費税増税を当て込ん
でいろいろな支出を増加させて予算を組んでいます。そのように
されてもお金に色はついていないので、国民にはぜんぜんわから
ないのです。
 もうひとつ考えてみます。消費税を社会保障の目的税化すると
いうことは、消費税を社会保障の財源にすることを意味します。
これは財政にとって好ましからざる結果を招くのです。
 ある年度に社会保障関係費が4兆円足りなくなったとします。
この場合は、消費税を2%増税すれば足りるので、2%増税して
4兆円を得たとします。
 この場合、社会保障勘定は歳入歳出ともに4兆円増加しており
バランスしています。それに、この場合はその他の経費の勘定に
は全く影響しておらず、一見してどこにも問題がないように見え
ます。この一見何の問題がないように見えること自体が消費税の
社会保障目的税化の問題点であるといえるのです。
 社会保障は助け合いの精神による所得の再配分が基本です。日
本の場合は、給付と負担の関係が明確な社会保険方式で制度が運
営されています。とくに年金制度については、高齢者をその時点
の労働人口で支える仕組みになっているのです。
 しかし、長い間には、人口の減少や資金管理の不適切さなどに
よって制度の運営に不都合が生じ、そのため年金支給の原資が将
来不足する事態になりつつあります。そこで制度を修正し、国庫
負担金を増額することになったのです。
 本来こうした社会保障費の増大に関しては、制度の見直しだけ
でなく、その他の歳出を合理化し、削減するなどして賄う努力を
するべきです。しかし、消費税を社会保障の財源にする目的税化
すると、社会保障費の増大に合わせて消費税率は自動的に引き上
げられていくことになるのです。
 財政当局にとってこんなラクなことはないのです。しまいには
社会保障制度の見直しや合理化による経費の増加の努力すらしな
くなってしまうことになります。したがって、消費税の社会保障
目的税化をしてはならないのです。
 経済ジャーナリストの須田慎一郎氏は、消費税の税収を社会保
障目的税化することについて、「社会保障制度を維持するための
消費税増税は給付と負担の原則に矛盾がある」として、次のこと
を指摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 加えて、こんな問題もあります。今回の消費税増税による増収
 分は社会保障費に充てる名目です。ところが、たとえば現在、
 移民ではなく、留学や就労目的で日本に在住している外国人は
 大勢います。彼らは社会保障給付を受けられないにもかかわら
 ず、消費税を払っており、これは事実上、社会保障負担を負う
 ことになるわけです。そうすると、負担ばかりを強いられる一
 方で給付は受けられない、というパラドクスに陥ってしまうわ
 けです。                ──須田慎一郎著
       『国民を貧困にする重税国家日本』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/83]

≪画像および関連情報≫
 ●消費税は本当に社会保障に回るのか?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  今年の4月から消費税率が8%に引き上げられます。消費税
  を上げる最大の理由は、国と地方の借金の合計が1000兆
  円を超えていて先進国最悪という事態を少しでも和らげたい
  からです。そうでなくても国の1年分の歳入(収入)のうち
  約半分が借金です。要するに毎年毎年、借金生活をしつつ外
  側にどえらい大借金があり、少しでも返していくメドを立て
  ないとカネのやりくりがつかなくなって「国の倒産」になり
  かねないのです。借金を返そうと考えたら、(1)収入を増
  やす努力をする、(2)歳出(支出)のなかで大きなものか
  ら見直していく、が大原則なのは、家計も国家財政も同じ。
  (1)が消費税増税で(2)が社会保障費です。社会保障費
  の内訳で「大物」なのは年金、医療で8割ほどを占めます。
  人口構成比で今ですら4分の1を占める高齢化は今後さらに
  進むのが確実。年金は高齢者の命綱で、年を取るほど病気に
  なりやすいのも自明なので医療費もかさみます。近年では社
  会保障費は毎年1兆円ずつ増えてきました。2014年度予
  算案ではさまざまな抑制策を使って6000億円程度に押さ
  えつけたものの、増加傾向は止めようがありません。
                   http://bit.ly/1i8kErB
  ―――――――――――――――――――――――――――

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須田 慎一郎氏
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2014年05月09日

●「官僚に完全に支配されている日本」(EJ第3786号)

 2012年11月14日──すべてはこの日の「野田首相と安
倍自民党総裁」の党首会談からはじまったのです。会談のなかで
野田首相が解散宣言をしたからです。前代未聞のことです。
 事前に話し合いができていたわけではないのです。野田首相の
一方的な解散宣言です。それはなぜか自信に溢れているように見
えたのです。一刻も早い解散を望んでいたはずの安倍総裁も一瞬
意表を衝かれて、あっけにとられた感じの表情だったことが今で
も印象に残っています。
 実は野田首相に解散を熱心に勧めていたのは、真砂靖財務事務
次官だったといわれています。真砂事務次官は勝栄二郎事務次官
の後任ですが、彼には財務省元老院から重大な任務が与えられて
いたのです。それは、野田首相に解散を促すことです。
 というのは、11月の時点でも特例公債法案が成立しておらず
予算の枯渇が眼前に迫っていたからです。真砂事務次官が野田首
相に囁いたのは次の言葉です。
―――――――――――――――――――――――――――――
    総理!いまなら、負けを最小限にできますよ
                       ──倉山満著
  『増税と政局・暗闘50年史』より/イースト新書027刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 真砂事務次官は自民党にも接近し、もし解散なら、特例公債法
案を即日可決するだけでなく、これを3年間は政争の具にしない
という与野党合意を成立させるよう根回しをしていたのです。
 もし、年内に解散すれば民主党が大敗することは、野田首相自
身もわかっていたのです。問題は負けをどのくらい小さくできる
かが読み切れていなかったのです。
 そのときに「負けを最小限にできる」という言葉は、野田氏の
気持ちを揺さぶったのです。大負けしても少なくとも100議席
は取れると考えていたと思います。この数を確保できれば、自民
党と連立を組むことも不可能ではない。やるなら、今しかない。
そう考えて解散に踏み切ったのです。まさか50議席に落ち込む
などとは考えていなかったと思います。民主党に対する国民の怒
りがどれほど激しいものであったかを読み違えたのです。
 民主主義の基本は、立法、行政、司法の三権分立にあります。
日本にも立法府としての「国会」、行政府としての「内閣」、司
法府としての「裁判所」という3つの独立した機関があって、三
権分立の原則を定めています。
 ところが日本の場合、「国会」と「内閣」については、官庁が
強大な権限を有して支配しています。なかでも財務省はスーパー
パワーを有しており、国会議員はもとより閣僚であっても、対抗
不能な力を有しています。彼らが協力しなければ、国会議員は何
もできないのです。しかし、そのようにしてしまったのは、政治
家自身であるといえます。
 国会について考えてみます。米国では、法律も予算も議会が作
るのですが、日本では法律の作成も予算の編成も政治家ではなく
官庁がやっており、それを国会に提出しています。とくに予算に
関しては、財務省に丸投げしてしまっており、それが当たり前に
なっています。
 これでは、官僚機構は自分たちのやりたいことはすべて盛り込
んで予算を出してくるので、ムダの典型とされる高級官僚の天下
りの削減などが実現できるはずがないのです。
 もちろん議員立法による法律の国会提出もありますが、日本の
国会では、90%が政府提案であり、議員立法は10%を切る状
況です。政府提案の法律のほとんどは、本来なら行政を司る内閣
の下部機関である官庁が、作っているのです。
 内閣について考えてみましょう。行政府とは内閣のことですが
日本の行政の主体は官庁になっています。各官庁のトップは国民
によって選ばれた政治家である大臣ですが、実質的に行政業務を
差配し、政策を決定しているのは大臣ではなく官僚のトップであ
る各官庁の事務次官なのです。
 司法に関してもおかしなことは山ほどあります。このことは、
EJの「自民党でいいのか」というテーマで詳しく追及している
ので、ここで繰り返すことはしませんが、司法も官僚の手に委ね
られているといえます。
 こういうことを長い間──明治維新から現代まで──にわたっ
てやってきた結果、官僚機構が日本の事実上の支配者になってし
まったのです。別に彼らがそうしたいと思ってそうなったという
よりも、政治家がそうさせてしまったといえます。こういう政治
家の怠慢は厳しく責められるべきです。
 しかし、官僚機構に政治をまかせていけば、国民生活は豊かに
なることはないのです。これについて、元財務官僚の高橋洋一氏
は、次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もともと選挙で選ばれたわけではない官僚に「国民に対する責
 任を持て」といっても、制度的に無理がある。官僚は熱心に仕
 事をするが、それは国民のためではなく、自分が属している組
 織のためである。みずからの属する省庁の組織を大きくし、権
 限を強め、その力の及ぶ範囲を拡大することこそ、彼らの行動
 原理なのである。政治家は、そういう官僚に国のあり方を決め
 るような仕事をゆだねていてはいけない。
  ─           ─高橋洋一著/東洋経済新報社刊
     『財務省の逆襲/誰のための消費税増税だったのか』
―――――――――――――――――――――――――――――
 2014年1月4日から4ヶ月間、84回にわたって書いてき
た「消費税増税を考える」は、今回をもって終了します。既に消
費税は第1段階の5%〜8%への引き上げは実施され、2015
年10月からの8%〜10%への引き上げも結局は実施されると
思っています。もし、やらないと、アベノミクスの失敗を印象づ
けるからです。日本経済のこれからが懸念されます。
          ──[消費税増税を考える/最終回/84]

≪画像および関連情報≫
 ●10%消費税増税を巡る奇妙な不調和/極東ブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  消費税増税法で平成27年10月に予定される消費税率8%
  から10%への引き上げに関し、政府が実施の判断時期を当
  初想定していた同年4月から、27年度税制改正を取りまと
  める26年末に4カ月程度前倒しすることで調整を進めてい
  ることが2013年10月7日、分かった。政府高官は7日
  10%に引き上げるかどうかを判断する時期について「来年
  中に判断することになるだろう」と述べた。別の高官は「増
  税判断の前倒しに備えて26、27年の経済成長が維持でき
  るよう大規模な経済対策を今回取りまとめた」と指摘した。
  10%増税の是非を判断する時期は、8%への引き上げを決
  断したときと同様、景気動向を踏まえて6カ月前の27年4
  月とされていた。ただ、各年度の予算は、税収見込みを決定
  した上で赤字国債規模などを計算し、前年の12月末に閣議
  決定するのが通例だ。軽減税率の導入も税制大綱に盛り込む
  方が混乱が少ないとみて、判断時期を前倒しする必要がある
  と判断した。27年4月には統一地方選が行われるため、政
  治の混乱を回避する狙いもある。安倍晋三首相はデフレ脱却
  を最優先課題に掲げており、10%への税率引き上げを決断
  する場合は成長軌道を確保できる見通しが立つことを条件に
  する考えだ。まずは8%増税後の成長軌道を確保するため、
  規制緩和や国家戦略特区などの経済対策をさらに加速させる
  ことができるかが試金石となる。  http://bit.ly/1mtBJ3l
  ―――――――――――――――――――――――――――

野田・安倍党首会談.jpg
野田・安倍党首会談
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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