2014年01月06日

●「消費増税は真に日本に必要なのか」(EJ第3703号)

 本号は今年はじめてのEJです。今年もEJをよろしくお願い
いたします。2014年4月1日から消費税が今までの5%から
8%にアップします。さらに計画では、2015年10月から8
%が10%に引き上げられます。無茶苦茶な暴挙です。
 普通であれば、そういう無謀な増税を決めようとすると与党に
強い批判が行き、政権がひとつやふたつ崩壊するのは不思議では
ないのです。5%を2倍の10%に引き上げるのですから、世紀
の大増税といえます。
 そもそも消費税増税10%を掲げて2010年の参院選を戦い
勝利したのは自民党なのです。衆参のねじれはこのとき生じてい
ます。しかし、増税を公約に掲げて勝利したといっても、そのと
きの自民党は野党だったのです。
 野党の公約というものは、政権交代の可能性のあるときは別と
して、国民はあまり重視しないものです。実現する可能性が少な
いからです。もし、民主党が菅政権ではなく、鳩山政権のままで
あったなら、民主党は参院選で議席は減らしても、ねじれを生じ
させるような負け方はしていないはずです。
 確かに鳩山政権にもいろいろ問題はあったものの、国民はこの
時点では民主党にまだ期待を持っていたのです。まして鳩山政権
であれば、選挙は小沢幹事長が仕切っていたはずであり、大敗は
していないと考えます。それでは、なぜ増税を掲げた自民党が勝
利し、菅民主党は負けたのでしょうか。
 それは、政権幹部ですらあっけにとられた菅首相の「消費税増
税を選挙公約にする」という発言です。その言葉は、首相になっ
たばかりの菅直人首相が、2010年6月17日に開いた参院選
のマニフェスト発表会の席上で突然発表されたのです。
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 もう少し、私の言葉でかみ砕いて言いますと、消費税について
 あるべき税率や逆進性対策を含む改革案を、今年度中にとりま
 とめていきたい。なお、当面の税率については、自由民主党が
 提案をされている10%という、この数字を一つの参考にさせ
 ていただきたい。         ──菅直人首相(当時)
    ──伊藤裕香子著(朝日新聞記者)/プレジデント社刊
        『消費税日記/【検証】増税786日の攻防』
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党は「増税しない」ことを公約にして2009年の衆院選
を戦い、政権交代を成し遂げた政党です。その民主党が政権交代
後1年も経たないうちに、やらないといった消費税を実施すると
いうのですから、国民への裏切り以外の何ものでもないというこ
とになります。
 実は自民党は「消費税10%」を公約にしたものの、党内に反
対者は多かったのです。そんな公約を掲げたら、参院選に勝てな
いという議員が多かったからです。しかし、時の自民党総裁は元
財務相の谷垣禎一氏であったので、公約になったのです。谷垣氏
は財務省に既に洗脳されている一人であるからです。
 ところが、与党の民主党が堂々とマニフェスト破りを宣言し、
自民党と同じ公約を掲げたので、事情は変わったのです。批判は
与党である民主党に向い、自民党は批判を免れたのです。民主党
には次の批判が集中し、参院選に惨敗することになります。自民
党から見ると、これが思いがけない「敵失」になったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党はやると約束したことをやらず、やらないといったこ
 と強行しようとしている。明確なマニフェスト違反である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いくら凡庸な政治家でも選挙に惨敗すれば、少しは反省するも
のですが、菅元首相はそれでも増税の実現を目指したのです。そ
の理由は、次の3つであると考えられます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.消費税増税に反対する小沢一郎グループへのさや当て
 2.日本の財政への認識や判断に決定的誤りがあったこと
 3.増税問題の争点化で普天間基地問題は争点から外れる
―――――――――――――――――――――――――――――
 結局、菅元首相はその第2次政権において、かねてからの消費
税増税の主張者である与謝野馨元財務相を民主党の経財担当相に
招き増税のプランニングと準備をさせることまでして、増税実現
を目指したのです。
 しかし、東日本大震災や福島原発事故の対応をまずさによって
菅氏が退陣させられると、今度は野田佳彦氏が首相になって、菅
氏の路線を継承し、こともあろうに野党の自民・公明両党と組ん
で、「税と社会保障の一体改革」として大増税の実現を図ったの
です。これによって、民主党は小沢氏を含む大量の離党者を出し
党の分裂までを招くことになったのです。
 その結果、民主党は2012年の衆院選と2013年の参院選
に続いて惨敗し、増税強行の批判は民主党だけが負って、ねじれ
なしで自民・公明両党が政権を担うことになったのです。
 しかし、消費税増税は本当に必要なのでしょうか。民主党が党
を壊してまで実現に執着すべきものだったのでしょうか。また、
必要だとしても今やるべきなのでしょうか。やることによってデ
フレ脱却はうまく行くのでしょうか。疑問がたくさんあります。
 そこでしばらく消費税増税について考えてみることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
    消費税増税はなぜ必要かについて改めて考える
     ─ そのデフレ脱却に与える影響は? ─
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費税増税については、賛否両論があります。社会保障のため
には不可欠であるという賛成論から、官僚が自らの懐具合を豊か
にするだけという反対論まであります。また、必要論でもデフレ
脱却を目指す今はやるべきでないという意見もあるのです。アベ
ノミクスとの関係についても述べていきます。明日からスタート
です。          ── [消費税増税を考える/01]

≪画像および関連情報≫
 ●消費増税首相決断!/産経新聞/2013年9月19日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  安倍晋三首相は18日、現在5%の消費税率について、来年
  4月に8%に引き上げることを決断した。消費税増税の判断
  材料になる各種経済指標は、景気回復を裏付けているものの
  首相周辺には引き上げによる景気腰折れを心配し、増税幅を
  2%に抑えるべきだとの声もあった。だが、党内調整や今後
  の国会運営を考慮し、3%の引き上げが避けられないと判断
  した。首相は同日、麻生太郎財務相に法人税減税の具体策検
  討を指示。低所得者への現金給付などを合わせた経済対策の
  総額は、5兆円超になる見通し。首相は、10月1日に日銀
  が発表する9月の企業短期経済観測調査(日銀短観)や、8
  月の有効求人倍率などを分析して最終判断し、消費税率引き
  上げを発表する方針だ。消費税率引き上げは、4〜6月期の
  国内総生産(GDP)改定値が、重要な判断材料になると注
  目されていた。これに対し、9日発表された改定値は名目が
  年率換算3.7%増、物価の影響を除いた実質が3.8%増
  を確保し、消費税増税法の付則で目安とされる名目3%、実
  質2%の成長率を上回った。8月下旬に、有識者60人から
  その是非をヒアリングした消費税率引き上げの集中点検会合
  でも、7割が増税に賛同。2020年の東京五輪開催が決定
  し、インフラ整備などの経済効果が見込めることも後押しし
  た。               http://bit.ly/19HUhog
  ―――――――――――――――――――――――――――

消費増税を発表する菅元首相.jpg
消費増税を発表する菅元首相


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2014年01月07日

●「なぜ菅元首相は増税を決意したか」(EJ第3704号)

 菅元首相が消費税増税に目覚めたきっかけは、一体何だったの
でしょうか。野党の時代に菅氏が消費税増税を口にしたことはな
いし、「4年間増税せず」を打ち出した2009年の衆院選のマ
ニフェストにも反対を唱えていないのです。
 そうであるとすると、藤井財務大臣の辞任を受けて就任した財
務相時代──2010年1月7日〜6月8日──に変心したとい
うことになります。そのときの財務副大臣が後に菅氏の次に首相
になる野田佳彦氏です。
 それにしても「洗脳」のされ方が非常に早い。就任して約1ヶ
月後の2月5日〜6日、菅氏はカナダのイカルウィットでの主要
7ヶ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)に出席し、次の発言を
しているのです。菅氏にとってはじめての国際会議です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 我が国の国債残高は、オリンピックであれば金メダルが間違い
 なくもらえる水準である。      ──菅財務相(当時)
    ──伊藤裕香子著(朝日新聞記者)/プレジデント社刊
        『消費税日記/【検証】増税786日の攻防』
―――――――――――――――――――――――――――――
 ちょうどこのG7では、開催直前に市場を直撃したギリシャな
どの財政問題をめぐる懸念緩和を狙った発言が相次いでおり、菅
財務相としても、表面数字的にはギリシャよりも悪い日本の財政
事情を頭においての発言です。
 帰国直後、菅財務相は、神野直彦東大名誉教授を副総理室に呼
んで、次のようにいっています。神野教授は、そのとき政府税務
調査会・専門委員会の委員長をしていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         消費税の増税は俺がやる!
―――――――――――――――――――――――――――――
 そのとき、神野教授は、マニフェストとの整合性を指摘してい
ますが、菅氏は聞く耳をもたなかったといいます。神野氏は、専
門委員会で方向性を出すので、しばらく時間が欲しいと説得し、
その場を引き取ったといいます。つまり、この時点で菅氏は消費
増税の実行を決めていたようなのです。
 おりしも鳩山首相は沖縄問題をめぐる発言と母親からの献金問
題で検察に追及されて窮地に立っており、小沢幹事長も3人の秘
書が逮捕され、自身も検察から事情を聞かれるという深刻な事態
に陥っており、菅氏としては「次は俺だ」と確信していたので、
それを意識しての発言であったと思われます。
 それ以前にも菅氏は、消費増税に関しては次の発言を繰り返し
ていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎鳩山政権は普天間問題で迷走しているけれど、もっと大きい
  争点である消費税の増税を出せば、この問題は消える。鳩山
  さんには、そういっているんだけどもね。
 ◎消費税とTPPを持ち出せば、自民党も割れるよ。
               ──伊藤裕香子著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言を聞くと、菅氏が消費税増税を日本の財政問題解決の
方策として考えていたというよりも、政局運営や選挙の戦術とし
て使おうと考えていたことがわかります。
 その一方で菅氏にとって消費税増税が必要なものとして強く感
じられたのは、ギリシャ危機だったのです。ちょうど鳩山政権発
足当時にギリシャでも政権交代があり、前政権の粉飾決算が発覚
し、それが原因で財政破綻による社会的な混乱が起きていたから
です。さらにそれを身に沁みて感じたのは、前記の財務相になっ
た直後のG7への出席です。
 当時の財務省としては、民主党の「4年間消費税の増税をしな
い」というマニフェストを苦々しく思っており、民主党内でそれ
を撤回させる工作をしていたのです。おそらく菅氏の前任者であ
る藤井裕久元財務相もその一味であったと思われます。藤井氏は
勝財務事務次官とも相談し、鳩山政権で閣僚のポストが得られな
かった野田佳彦氏を財務副大臣に任命して、反小沢勢力の核にし
ようと考えていたのです。
 菅氏と野田氏に共通していたことは、経済的知見が劣っている
ことです。財務官僚にとってこういう政治家は御しやすく、「日
本もギリシャのようになる」と2人に吹き込んだものと思われま
す。ちなみに、最近の菅元首相に、「4年間は消費税増税をしな
い」という民主党のマニフェストの方針変更について朝日新聞・
伊藤裕香子記者が尋ねたときの菅氏の発言をご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 鳩山さんは当時、沖縄の普天間基地移設問邁で苦労されていま
 した。一方で、ギリシャ危機という、民主党への政権交代後に
 起きた新しい危機に対しては、2009年衆院選のマニフェス
 トになくても、対応しなくてはいけないと考えました。財政破
 綻を回避することは、極めて重要な課題です。ですから、「財
 政再建の方向性を、総理としても言われたらどうですか」とい
 う話を、何度か鳩山さんに話したことはあります。大きな政治
 課題として取り組む姿勢は、私は、もっとあっていいと思って
 いました。         ──伊藤裕香子著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言を聞く限り、菅氏は今でもギリシャ危機のようなこと
にならないように消費税を増税するという判断には誤りはないと
考えているようです。
 ギリシャは、2006年頃から経済が悪化してきており、日本
と同じ理屈で無理な消費税の増税を重ねてあの経済危機を引き起
こしています。ギリシャ危機に学ぶのであれば、無理な増税をす
るのではなく、増税をしない選択なのです。ギリシャと日本の違
い、ギリシャ危機の本質を調べれば、そんなことはわかるはずで
す。そんなことを今でも気がついていないとは、元首相ともあろ
う人としては驚きです。  ── [消費税増税を考える/02]

≪画像および関連情報≫
 ●消費増税で日本はギリシャのようになる/2012年8月
  ―――――――――――――――――――――――――――
   消費税増税法案が2012年8月10日、参院本会議で可
  決成立しました。これによって消費税は2014年4月に8
  %、2015年10月に10%へと段階的に引き上げられま
  す。法案には、経済環境の急変時に増税を見合わせる「景気
  条項」と、名目3%、実質2%の経済成長率の「努力目標」
  を明記しましたが、増税実施に向けた環境整備に向け、政府
  は「政策の総動員をしなければならない」(野田総理)とし
  て、今年度補正予算と25年度予算に景気対策を盛り込むこ
  とも検討するそうですから、何がなんでも増税したいという
  ことでしょう。したがって、「努力目標」としての名目3%
  実質2%の経済成長率は、増税したい政権のもとでは、無視
  されるとみて間違いないでしょう。
   自民党は早期解散をしたいという願望から、3党合意を反
  古にする構えをみせた挙句、谷垣総裁と野田総理の会談で一
  転、採決合意に至りました。この空騒ぎは、自民党の谷垣総
  裁が、野田総理とのチキンレースに負けたということでしょ
  う。「近いうち」の解散がいつかはわかりませんが、民主党
  は野田総理を交代させれば、これを堂々と反故にするそうで
  すから、自民党は喧嘩の仕方を知らないと言われてもやむを
  えません。(12日になって輿石幹事長は、「党首の合意だ
  から、党と党の公約にもなる」と修正していますが。)
  (最後まで読む)        http://amba.to/1bD7hYU
  ―――――――――――――――――――――――――――

イカルウィットG7(2010年).jpg
イカルウィットG7(2010年)
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2014年01月08日

●「財政健全化=財政黒字化にあらず」(EJ第3705号)

 安倍首相は、2013年10月1日に2014年4月から消費
税を現行の5%から8%にすることを決めましたが、それについ
て、FNN(フジニュースネットワーク)の世論調査によると、
国民の反応は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       支持する ・・・・・ 51.0 %
      支持しない ・・・・・ 43.7 %
―――――――――――――――――――――――――――――
 メディアの世論調査など信用できませんが、一応支持する国民
の方が多くなっています。支持する国民に意見を聞くと、「増税
はいやだが、国にお金がないのじゃ仕方がない」とか、「すべて
を社会保障に回すならいいんじゃないか」という意見がほとんど
です。日本人は大変物わかりのよい国民だと思います。
 しかし、この政策は間違っているのです。財政を健全化すると
いうことは、一般的には、財政赤字を減らして財政を黒字化する
ことであると考えられていますが、その国の経済の状況によって
財政健全化の政策はそれぞれ違ってくるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済がデフレ下にあるとき ・・・ 財政赤字を増やすこと
 経済がインフレであるとき ・・・ 財政黒字を増やすこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、日本人は日本の財政は最悪で、早急な財政健全化が必要
であると思っています。それは、税収以上に政府支出が多く、そ
れを埋めるため、毎年国債を発行しているので、そういう政府債
務が巨額に達していることをメディアを通していやというほど刷
り込まれているからです。
 国債といえば政府の借金であり、それは少なければ少ないほど
よいに決まっていますが、世界中に財政赤字のない国なんかない
のです。世界には193の国があります。これらの国の財政収支
を合計すると、大幅な赤字になるのです。
 したがって、政府債務が巨額であるからといって、日本国民が
心配することはないのです。まして、日本は世界最大の債権国の
地位を2012年度現在、22年連続で維持しているのです。と
ころが日本人の多くは、日本は世界一の借金国であることは知っ
ているものの、日本が世界最大の債権国であることは知らない人
が多いのです。これもマスコミの報道のせいです。
 それはマスコミというより、正確にいえば、それを動かしてい
る官僚機構がそうさせているのです。なぜでしょうか。政府の借
金が多いことを強調しておく方が、増税しやすいからです。
 上記の「財政赤字を増やす政策」とは、中央銀行が積極的な通
貨発行(金融緩和)を行い、政府は財政出動を続けることです。
これによってなんとか経済をデフレから脱却させる──これが最
終の目的です。これについては、現在の安部政権が「アベノミク
ス」として取り組んでいます。
 これに対して「財政黒字を増やす政策」とは、増税または新税
を創出することです。インフレが過熱して暴走しないように一時
的に財政を冷やすために増税が必要なのです。
 インフレになると、供給が不足し、需要が過多になりますから
そういう時期に政府まで支出を増やすと需要が膨らんでしまいま
す。とくにインフレ率が高いときには、政府はもとより、民間の
支出を抑える必要があるのです。
 そのために中央銀行は金利を引き上げ、政府は増税によって民
間の支出、すなわち需要を抑える必要があるのです。増税はそう
いうときに行われるべきです。そうすると、財政は黒字化し、健
全化してきます。つまり、このようなインフレ対策をとると、自
然に財政黒字が増えるのです。
 このように、一般的には「赤字=悪/黒字=善」というイメー
ジがあるので、財政健全化というと、財政を黒字化することであ
ると考えてしまうのです。その結果、下手をすると真逆の政策を
とってしまうのです。
 思えば、民主党政権時代において、デフレであるにもかかわら
ず、白川日銀総は金融緩和を躊躇し、政府は国債発行に上限を設
けてを発行を抑制し、公共事業を削減するなどの間違った経済政
策を実施してデフレを一層悪化させています。
 加えて、菅政権と野田政権は、財務省に完全に洗脳され、消費
税増税に異常にこだわり、自民党や公明党と一体になって「社会
保障と税の一体改革」という名の消費税大増税をスケジュール化
させています。これなどは、完全に経済政策としては間違ってい
るのですが、当事者たちはまだ分かっていないようです。
 政権を取り戻した安倍政権のアベノミクスは、その逆のことを
やっただけのことです。日銀総裁を黒田総裁に交代させ、異次元
の金融緩和を継続実施することによって通貨量を増やし、長期国
債の多額購入を長期的に継続することによって、インフレ率を上
昇させ、2年間をめどに物価の上昇を図るのです。この金融政策
がアベノミクスの「第1の矢」と呼ばれるものです。
 以上の日銀の政策に加えて、政府は国債を発行して公共事業を
増加させることによる財政政策を実施します。これは13兆円の
補正予算で具体的に示されています。この財政政策はアベノミク
スの「第2の矢」と呼ばれています。
 さらに、経済を安定的な成長の波に乗せる「成長戦略」を展開
させ、雇用を増やすことが求められていますが、その成長戦略に
ついては、これはというものが出てきていない状況です。これが
アベノミクスの「第3の矢」と呼ばれています。
 これら、第1の矢と第2の矢は、両方とも「財政赤字を増やす
政策」であり、経済がデフレの状況にある経済政策として正しい
といえます。
 しかし、そうであるなら、2013年10月1日に安倍首相は
なぜ消費税増税8%の実施を決断したのでしょうか。これは「財
政黒字を増やす政策」であり、経済をデフレから脱却させる政策
ではないのです。     ── [消費税増税を考える/03]

≪画像および関連情報≫
 ●菅直人政権のときのあるブログの随想
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本の財政赤字は改善のめどが立ちません。菅首相が「社会
  保障と税の一体改革」というのは、結局のところ、消費税率
  の引き上げをしたいということです。きょうは、政府の財政
  赤字のことを考えてみたいと思います。現在、主要な先進国
  で、財政赤字でない国は、ちょっと見当たりません。いうま
  でもなく、日本は赤字です。アメリカの財政も大幅な赤字で
  す。アメリカは、もともと、財政と貿易の双子の赤字でした
  が、2008年9月のリーマンショックに対応するため、財
  政支出を拡大し、一挙に赤字が拡大しました。欧州を見ると
  ギリシャは赤字のために政府財政が破たんしました。アイス
  ランドも同じように破たん状態です。イギリス、ドイツ、フ
  ランス、イタリア、スペインも軒並み赤字となっています。
  中東の産油国サウジアラビアも財政は赤字だったりします。
  もっとも、ここは石油を増産すれば収入が増えますから、そ
  う心配はないかもしれません。南米諸国も赤字がひどく、ア
  ルゼンチンなど、一時は破たんの危機に瀕していました。こ
  の21世紀に、財政が赤字ではない国、財政黒字の国は、非
  常に少ない。           http://bit.ly/1e1IccU
  ―――――――――――――――――――――――――――

アベノミクス.jpg
アベノミクス
  
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2014年01月09日

●「財政を家計にたとえるレトリック」(EJ第3706号)

 安倍首相の進めるアベノミクスは、第1の矢である金融政策、
第2の矢である財政政策までは、デフレ脱却のための経済政策と
しては間違っていないと思います。しかし、4月からの消費税率
8%のアップは最悪の選択であったといえます。
 安倍首相としては本音ではやりたくなかったのでしょうが、自
公民3党で決めたことでもあり、総裁の前任者の谷垣禎一法相が
その成立に深くかかわっていたので、意思決定せざるを得なかっ
たものと思われます。しかし、これは安倍政権にとって今後深刻
な火種になる可能性があります。
 何しろ、この「社会保障と税の一体改革」は、4人の財務大臣
の協力で実現したもので、4人それぞれ実現したことを誇りに感
じているはずです。4人の財務相とは、谷垣禎一氏に始まり、与
謝野馨氏に受け継がれ、民主党になってからは、菅直人氏、野田
佳彦氏とバトンリレーされ、成立しています。なかでも与謝野氏
は、財務相を務めた後に自民党を離党し、菅首相の求めに応じて
民主党に入り、経財担当相として増税の実現に協力しています。
財務省から見れば、表彰ものの4人ということができます。
 国にとっては、国債を発行してお金を集めるのも、増税して税
金として集めるのも同じなのです。しかし、国の立場から見ると
国債の場合は、国としての借金ですから、買ってもらう必要があ
り、もちろん返さなければならないのです。それにとくに最近で
は、国債の大量発行には厳しい国民の目があります。
 しかし、税金の場合は国民から徴収すればよいし、返す必要も
ないのです。国から見ればこの方がラクに決まっています。しか
し、増税法案を成立させるのは与党の政治家を説得するのが大変
であり、時間もかかります。しかし、一度決まってしまえば、永
遠に徴収できるので、担当する有力な政治家には、こまめに説得
を繰り返すしかないのです。
 政治家は選挙で選ばれるので、増税に対する国民への啓蒙も非
常に重要になります。場合によっては、そのためにウソも含めて
さまざまなレトリックを駆使するのです。その最大のレトリック
は、国の財政を家計にたとえることです。かつて財務省のホーム
ページには、次のようなたとえ話が出ていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の税収は40兆円しかない。しかし、使っているのは90
 兆円。50兆円の赤字である。月収40万円しかない家庭が、
 月に90万円の生活をしている。足りない部分はサラ金から借
 りているのだ。これなら、やがて、家計は借金の山となり、破
 綻する。日本の現状はこれと同じであり、やがて破綻する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このようにいわれると、「こりゃ大変だ」と誰でも思ってしま
いますね。家計にたとえられていますから、話はきわめてわかり
やすいのです。
 この家庭の場合、破綻から逃れるためには、何よりもサラ金か
らの借金することをやめることです。そして極力収入に見合う生
活をするよう無駄な出費を切り詰めるしかないのです。それがで
きないなら、収入を増やすしかないのです。財務省は、この「収
入に見合う生活をする」ことを強調することによって、国におい
ても財政均衡主義を徹底させようとしているのです。財政均衡主
義については改めて述べます。
 しかし、国と家計はまったく違うものであり、このレトリック
にひっかからないようにする必要があります。これについて、産
経新聞特別記者・編集委員・論説委員である田村秀男氏は次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の財政をあたかも一般の家計と同じようなたとえ話で論じ
 ることで、財政悪化の恐怖感と増税の必要性を訴えることがで
 きる。プライマリーバランスは増税路線をプロパガンダするの
 に便利な経済概念といえるだろう。話を家計に置き換えている
 ので、マスコミもこぞって取り上げている。そして財政悪化を
 火の車の家計になぞらえて報じることで、国民に「増税しない
 こと」への危機感や不安感を植え付けることに一役員っている
 のだ。こうしたたとえ話が間違っているのは、国の財政という
 ものは、家計と違って主婦が節約すればするほど黒字が増える
 ようにはできていないということだ。経済を刺激するような積
 極的な財政政策を行なうことで税収を増やすこともできるとい
 う意味で、国家は家計よりもむしろ企業に近い存在である。し
 かも、国と家計が決定的に異なるのは、通貨の発行権を持って
 いることである。国は、中央銀行による金融政策を行使するこ
 とで、「借金が雪だるま式に増えないように」金利水準や物価
 上昇率などをコントロールする手段を持っている。
 ──田村秀男著『財務省「オオカミ少年」論』/産経新聞出版
―――――――――――――――――――――――――――――
 そうなんです。国は通貨の発行権を持っており、借金が累積し
て増加しないように、金利や物価をコントロールすることができ
るのです。家計ではそんなことはできませんから、国の財政を家
計にたとえることはすべきではないのです。
 しかし、財務省は増税するためには手段を選ばないのです。増
税に反対の論陣を張る経済評論家はテレビ局に圧力をかけて出演
回数を減少させ、その代わり財務省御用建の経済評論家を送り込
むのです。私はそういう評論家やコメンテーターの発言を注意深
く聞き、経済に関する御用学者をほぼ特定しています。
 また財務省はこんな手も使うのです。東京・中日新聞は当時の
民主党政権が推進していた消費税増税に反対の論陣を張っていた
のです。財務省は2011年夏から半年近くの長きにわたり国税
庁に同新聞社の税務調査を行わせ、反対の論陣を張る論説委員の
飲食費などの伝票に虚偽記載がないか徹底的に調べています。
 こんなことをされれば、新聞やテレビで増税の反論をするのを
控えてしまうようになります。そうしなければテレビに出られな
くなってしまうのです。  ── [消費税増税を考える/04]

≪画像および関連情報≫
 ●国の財政を家計に例えるのはナンセンス/あるブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  12月24日、安倍政権が来年度の一般会計予算案を閣議決
  定し、総額は95兆8823億円と過去最大となりました。
  こういう国の予算がニュースになると決まってメディアで取
  り上げられるのが、国の財政を家計に例えるというもの。こ
  れは財政健全化に燃える財務省がHPで紹介している有名な
  例えで、メディアの側は何の疑問も持たず、財務省に踊らさ
  れるがままに垂れ流しているようです。今日の各新聞社のニ
  ュースサイトを見ると、読売と毎日が早速、家計に例えて報
  じていました。いずれも単位を1兆円から10万円に置き換
  え、一家の年収を500万円と想定して、支出を賄うには、
  413万円の借金をしなければならず、家計は「火の車」だ
  としています。しかし、経産省出身で最近「結いの党」を結
  成し、同党代表を務めることとなった江田けんじ衆議院議員
  も解説しているように、日本の場合、国の借金に当たる国債
  の95%は日本国民(より正確には銀行や保険会社が国民か
  らの預金や保険料の運用先として国債を買っている)が負担
  しています。要は、家計に例えた場合の年収に当たる税収も
  日本国民、借金に当たる国債費も日本国民が負担していると
  いうことで、一般の家庭における銀行などの外部からの借り
  入れとは根本的に違うわけです。したがって、ここでいう借
  金は家庭内でほぼ完結しており、江田議員も指摘しているよ
  うに夫が妻から借りているようなものなのです。この点が、
  国債の約7割を海外の投資家に買ってもらっていたギリシャ
  とは違うところです。       http://bit.ly/19SO6uw
  ―――――――――――――――――――――――――――

田村秀男氏/産経新聞特別記者.jpg
田村 秀男氏/産経新聞特別記者
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2014年01月10日

●「借金千兆円に対応する資産がある」(EJ第3707号)

 今回の消費税増税を国民に聞くと、「増税は嫌だが、政府が莫
大な借金を抱えているなら、仕方がない」という人が少なからず
います。また、年金生活者では「増税分がすべて社会保障に回る
ならしょうがない」という人がいます。実は政府のいっているこ
とはどちらもウソです。財務省のプロパガンダによって国民は洗
脳されているのです。つまり、「国の莫大な借金」も「全額社会
保障費に回す」も真実ではないことを意味しています。
 しかし、記者クラブ所属の大新聞やテレビに常時出演している
経済評論家やコメンテーター、経済学者はいずれも財務省のいっ
ていることに対して肯定的な発言しかしませんから、国民は自然
にそうなんだと思い込んでしまうのです。いわゆる「刷り込み」
が国民に浸透してしまっているのです。
 何が何でも増税をやり遂げたい財務省の立場に立って考えてみ
ましょう。彼らにとって、大新聞や政治問題を扱うテレビ番組に
出演する識者が増税に関して反対する発言や論説を発表する影響
力はけっして小さくはないのです。しかも、継続的にそれをやら
れると、ダメージはかなり大きくなります。
 だから「番組から外してしまえ!」という結論になるのです。
財務省は新聞やテレビ局に対して広告ひとつとっても、絶大な権
力を持っているのです。「外さないと、広告からお宅を外すよ」
とでもいわれれば、ひとたまりもないでしょう。しかし、すぐは
外さない。少しずつ出演回数を減らして行き、最後は完全に外し
てしまう。そして、そういう識者は以後絶対に番組には復帰させ
ないのです。このようにして外された識者は数多くいます。
 「デイリー・オリーブ・ニュース」という日刊メールマガジン
があります。その「特集コラム」を担当する徳山勝氏の評論はい
つも参考にさせていただいていますが、2014年1月5日号の
徳山氏の「首相年頭所感」の冒頭に次の記述があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  元旦夜のテレビドラマ「相棒」を視た。その中で警視庁公安
 部長が取調室で、殺人未遂と殺人教唆の罪で問い詰められて吐
 いた台詞(せりふ)がある。録画をしなかったので正確な台詞
 を再現できないが、おおよそ次のような趣旨のことを述べた。
 生活保護費を減らし、その分を国家の安全を守るエリートたち
 の処遇を厚くするために使う。そのために情報を改竄した。そ
 れのどこが悪いのだ、と。
  たかがテレビドラマの一台詞である。それがどうしたと思う
 だろう。だが今のテレビ局では一部の脚本家とかディレクター
 がドラマの中で、こういう形でしか権力を批判することしかで
 きなくなったのではないだろうか。何故、そう言うか。それは
 ジャーナリストとして、権力を批判していた鳥越俊太郎さんや
 江川紹子さんなどに次いで、作家の室井佑月さんまでが、6ヶ
 月前にテレビ番組を降板させられたからである。
  その室井さんが、週刊朝日のコラムに、「近頃、本の出版依
 頼がこなくなった」と書いている。思い当たることとして、福
 島第一原発事故以来、マスコミをだらしなく思い、マスコミ批
 判を続けてきたことを挙げている。フリージャーナリストから
 は、テレビという発言の場を奪い、作家からは作品発表の場を
 奪う。これが今、権力が行なっている「表現の自由」「言論の
 自由」への圧迫ではないかと思うからだ。   ──徳山勝氏
 ──「デイリー・オリーブ・ニュース」/2014年1月5日
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府にとって都合のよいことしか伝えない──大メディアでこ
ういうことが行われると、国民へは少しずつ刷り込みが行われ、
多くの国民が政府によって洗脳されてしまうことになります。
 日本の財政にとって消費税増税が必要であることの根拠として
日本の政府債務が1000兆円あるということがあります。これ
は確かに「莫大な借金」であり、その表現自体は正しいのです。
しかし、借金はあくまで資産との対比でみる必要があります。借
金の額の大きさだけでは何もいえないのです。
 植草一秀氏は、近著で日本の1000兆円の借金について次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本政府の資産と負債の現況は、内閣府が公表している国民計
 算統計で確認できる。現在、2011年末の数字まで確認でき
 る。この数値を見ると確かに日本の一般政府の債務は1000
 兆円をわずかに超えている。日本のGDPが、500兆円を下
 回っている。したがって日本政府の債務残高はGDP比の2倍
 を超えている。諸外国と比べても、日本の財政状況が突出して
 悪いということを示す数値として、これがいつも用いられてい
 る。ところが、この統計の資産の側を見ると、実は日本政府の
 資産も1000兆円を超えている。2011年末になって初め
 て負債が資産をやや上回ったが、両者はほぼ同水準である。政
 府債務1000兆円というが、資産を差し引くとほぼプラスマ
 イナス0である。米国の財務省が発表している米国連邦政府の
 バランスシート統計によると、米国連邦政府の資産負債状況で
 は、負債が資産を1400兆円程度上回っているのである。つ
 まり米国政府は債務超過の規模が1400兆円ということなの
 である。                 ──植草一秀著
     『日本経済撃墜/恐怖の政策逆噴射』/ビジネス社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 個人であれ、国であれ、借金は返済しなければなりませんが、
国は個人とは事情が違うのです。個人が銀行でローンを組む場合
その返済期限はその人の収入のある期間に限定されます。
 しかし、国の場合はどうでしょう。国は永遠に存続するという
前提に立っているので、どんな長期ローンだって組むことができ
るのです。100年ローンでも、500年ローンでも、1000
年ローンでも返済が継続できるのであれば、超長期ローンを組む
ことは可能なのです。ここが個人とは全然違うのです。一緒に論
ずるべきではないのです。 ── [消費税増税を考える/05]

≪画像および関連情報≫
 ●借金1000兆円は誇大表現!/元大蔵官僚内幕暴露
  ―――――――――――――――――――――――――――
  安倍晋三首相が来年4月に消費税率を予定通り8%に引き上
  げる方針を固めたと相次いで報じられた。財政再建や社会保
  障のために増税やむなしとのムードが強まっているが、これ
  に待ったをかける元大蔵官僚がいる。財務省が旧大蔵省時代
  に始めた増税キャンペーンの内幕を暴露し、「国の借金が、
  1000兆円というのは過大な表現だ」と訴える。消費税を
  めぐっては国際通貨基金(IMF)も13日に20カ国・地
  域(G20)首脳会合に提出した報告書で、消費税増税など
  財政健全化の取り組みを加速するよう訴えた。IMFは日本
  の財政問題や増税の必要性について言及することが多いが、
  その裏側を告発するのは、大蔵官僚から衆院議員を務め、現
  在は東北福祉大特任教授の宮本一三氏(82)。1966年
  から6年間、大蔵省からIMFに出向した宮本氏は「当時の
  対日勧告文は私が作成していた」と語る。その内容について
  「大蔵省の局長から直接命じられることはなかったが、意向
  は配慮していた」。現状についても「財務省の意見はIMF
  にも反映されているだろう」とみる。財務省はウェブサイト
  上で「国の財政は大赤字」「日本は厳しい財政状況」と強調
  するが、宮本氏は渡辺美智雄蔵相の大臣官房審議官当時「財
  政危機」キャンペーンの基本政策を作った張本人でもあると
  いう。              http://bit.ly/1ibTyOu
  ―――――――――――――――――――――――――――

植草一秀著『日本経済撃墜』.jpg
植草 一秀著『日本経済撃墜』
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2014年01月14日

●「経済弾力条項はどう決まったのか」(EJ第3708号)

 安倍首相は消費税増税を決断し、4月から消費税率は現行5%
から8%に引き上げられます。しかし、安倍氏は政権を奪還する
前の2012年6月27日にメールマガジンで次のように発信し
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  昨日、社会保障・税一体改革関連法案が、衆院を通過しまし
 た。3党合意についての私の考え方は、すでにメールマガジン
 でご説明した通りです。
  報道等ではあまり触れていませんが、現在のデフレ下では消
 費税を引き上げず、法案には引き上げの条件として名目経済成
 長率3%、実質成長率2%を目指すという経済弾力条項が盛り
 込まれています。
  つまり現在のデフレ状況が続けば、消費税は上げないという
 ことです。しかし、野田総理のこれまでの委員会答弁は、この
 点があいまいであると言わざるを得ません。
  要は民主党政権を倒し、デフレからの脱却を果たし、経済成
 長戦略を実施して条件を整えることが大切です。そして、「そ
 の条件が満たされなければ消費税の引き上げは行わないこと」
 が重要です。──2012年6月27日付、安倍晋三「メール
 マガジン」/三橋貴明著『2014年世界連鎖破綻と日本経済
                 に迫る危機』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このメールマガジンで安倍首相は、「デフレ状況が続けば消費
税は上げない」と書いています。消費税増税法では、経済弾力条
項として、名目成長率3%、実質成長率2%という数値が入って
います。これによると、GDPデフレータは次のようにプラスに
なるので、デフレから脱却したとみなすことができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  名目成長率3%―実質成長率2%=GDPデフレータ1%
―――――――――――――――――――――――――――――
 名目成長率というのは、物価変動の影響を排除していないGD
Pであり、実質成長率はそれを排除したGDPです。その差をと
るGDPデフレータというのは、物価変動の程度を表す物価指数
ということになります。この数値の値がプラスであれば、一応イ
ンフレーション、マイナスであればデフレーションであるとみな
すことができるのです。
 実際問題として、GDPデフレータが1%になったとしても、
デフレから脱却したとはいえませんが、現実のデータは―0.1
%なのであり、ぜんぜんデフレから脱却していないのです。それ
にもかかわらず、安倍首相は8%への増税を決断したのです。自
身のメールマガジンでいったことと矛盾しています。
 この経済弾力条項は、民主党内の法案の事前審査で決められた
のですが、増税反対派としては、ぎりぎりの妥協であったといえ
ます。数値の設定について、朝日新聞記者の伊藤裕香子氏は次の
ように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 反対派にとっては、「増税反対」だけを叫び続けていても、首
 相である野田の決意が固いだけに、増税法案の提出にブレーキ
 がかけられない。そこで、3月の事前審査では、再び「景気条
 項」に照準を合わせた。増税の前提条件に、具体的な経済成長
 率の数値を法案に書き込むよう、強く求める戦略だ。それが、
 「名目成長率3%程度、実質成長率2%程度」だった。この数
 字は、民主党政権が2009年と2010年にともに閣議決定
 している新成長戦略の目標で、「2011年度から2020年
 度までの10年間の平均値」として設定した。増税反対派は、
 「政府の目標として公表されているし、それを条件にしても矛
 盾しない」と主張した。のちに首相になる安倍晋三も、経済目
 標として「名目成長率3%以上」を掲げる。だが、日本で名目
 成長率が3%を超えたのは、バブル経済が終わろうとしていた
 1991年度の4.9 %が最後で、その後20年以上も達して
 いない水準だ。そうした数字を増税の「条件」にすれば、「実
 態的には増税ができない法律」となりかねない。
    ──伊藤裕香子著(朝日新聞記者)/プレジデント社刊
        『消費税日記/【検証】増税786日の攻防』
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党における法案の事前審査は、2012年3月から8日間
にわたって行われましたが、当然のことながら難航を極めたので
す。野田首相は、成長率の目標数値を書く込むことに「禍根を残
す」として、最後まで一貫して反対し続けたのです。
 しかし、交渉の責任者である前原政調会長は「条件にしない形
で、何らかの数値は入れざるをえない」と考えていたのです。そ
こで財務官僚に対し、数値を入れるものと入れないものの2つの
案を持ってくるよう指示したのです。そして8日目の3月27日
に前原氏は2つの案を持って、野田首相と会っています。輿石幹
事長と岡田一体改革担当相も同席したのです。ここで前原政調会
長は次のように野田首相を説得しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 条件をつけることは、マーケットに間違ったシグナルを与える
 と思っています。数値は入れますが、条件ではありません。
               ──前原誠司政調会長(当時)
―――――――――――――――――――――――――――――
 反対派の強硬さを知っている輿石幹事長は前原氏に同調したの
ですが、岡田担当相は無言で、野田首相は「うん」といわなかっ
たのです。同じ日、事前審査会議を中断して前原氏は幹事長と一
緒に再び野田首相に会って再度説得したとき、首相は「輿石さん
がそこまでおっしゃるなら」と数値入りを受け入れたのです。
 会議を再開した前原氏は「首相決断」を伝え、まとめようとし
ましたが、まとまらず、午前2時過ぎに一方的に会議を打ち切り
8日間の法案事前審査会議は終了したのです。
             ── [消費税増税を考える/06]

≪画像および関連情報≫
 ●「私なら消費税を上げていなかった」/前原誠司氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ──反対派の意をくむ形で、法案の景気条項に政府の成長戦
  略にあった「名目成長率3%程度、実質成長率2%程度」と
  いう数字を入れました。これは、必要だったと思いますか。
  野田さんは経済成長率の目標数字を入れることに、ひじょう
  に否定的でした。だけど、あと5%、いまの倍の消費税をお
  願いするわけですから、政府の身を削る努力、景気をよくす
  る努力が、やっぱり必要だと思っていました。あと、金融緩
  和。私も(増税に反対していた)その人たちに意見が近い面
  もあったから、開く耳は持っていた。「条件にまでするのは
  とんでもないけど、景気の努力目標は絶対に入れたほうがい
  い」と思っていました。それで、輿石さんにお願いして、首
  相との協議に一緒に行ってもらいました。野田さんは岡田副
  総理を連れてきて、お互い、神経戦をやっていましたね。も
  し、僕と野田さんの1対1だったら、成長率の数字は法律に
  入っていなかったかもしれません。
  ──どうしてですか?
  総理以上の偉い人は政治家にいませんから。最後に総理が決
  めたら、「わかりました」としか言えないではないですか。
    ──伊藤裕香子著(朝日新聞記者)/プレジデント社刊
        『消費税日記/【検証】増税786日の攻防』
  ―――――――――――――――――――――――――――

民主党における消費増税法案の事前審査会・最終日.jpg
民主党における消費増税法案の事前審査会・最終日
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2014年01月15日

●「安倍首相は増税をいつ決断したか」(EJ第3709号)

 安倍政権は、就任直後から「経済再生」を旗印にして、政権運
営に取り組み、就任後1年経ってみて、それなりの成果を上げて
いるといえます。
 その安倍首相が2013年10月1日に臨時閣議後に記者会見
し、2014年4月からの消費税の税率を8%に引き上げると表
明したのです。17年ぶりの消費税引き上げ決定になります。
 消費税増税と経済再生は、明らかに矛盾しています。アベノミ
クスは、アクセルとブレーキを同時に踏み込むのと同じで、せっ
かく上昇しかけている経済再生を潰してしまう危険性をはらんで
いるのです。
 ところで、安倍首相は、消費税増税を最初から決めていたので
しょうか。それとも経済指標などを分析し、熟慮しながら決定し
たのでしょうか。これによって、安部政権の姿勢というか、考え
方がわかりますし、10%への引き上げについてもある程度見通
せると思うからです。
 安倍首相の増税決定後に出版された経済に詳しい識者の2冊の
本から、この点について引用してみることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎中丸友一郎氏(元世界銀行エコノミスト)
  10月5日に報道されたNHKスペシャル「ドキュメント消
  費増税」によれば、消費増税の難しさ、重要経済政策の決断
  に際しての困難さなどの認識が、安倍首相には存在したよう
  だ。それだけでも、せめてもの救いだったというべきかもし
  れない。安倍首相が今回の8%への消費税率引き上げ問題を
  最初から白紙で考えていたという点は、安倍氏の政治家とし
  ての率直さを裏付けるものだったといえる。特に、菅義偉官
  房長官は番組の中で終始、「成長なくして財政再建なし」に
  近い立場を堅持していて、その聡明さが光っていた。
         ──元世界銀行エコノミスト・中丸友一郎著
           『円安恐怖がやってくる!』/徳間書店
 ◎植草一秀氏(TRI代表取締役・金融・経済エコノミスト)
  (今回の消費税増税法には景気条項がある)安倍首相は、こ
  の景気条項をクリアするために、あらかじめ「工作」をして
  いた。それは、2013年4〜6月期のGDP成長率の統計
  を見て、消費税増税を判定するとしたことである。(中略)
  安倍政権は2012年度末、すなわち2013年3月に13
  兆円規模の巨大な補正予算を成立させた。この補正予算は、
  2012年分の補正予算だが、年度末に成立したので、実際
  に予算が執行されるのは2013年度に入ってからになる。
  (中略)つまり、2013年4〜6月期のGDP成長率は高
  い数値になるはずのものであり、このことを念頭に置いた上
  で、2013年4〜6月のGDP統計を見て、消費税増税を
  判定するというシナリオが作られたのである。
                      ──植草一秀著
     『日本経済撃墜/恐怖の政策逆噴射』/ビジネス社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は17年前の橋本首相のときと現在の安倍首相の置かれた状
況は似ている点があります。それはともに増税法が成立していた
ということです。首相にできる決断は、実施するか、延期するか
の2つしかないのです。
 この点菅義偉官房長官はよくわかっていたと思います。安倍首
相が高い支持率とアベノミクスの出足の好調さに気をよくして暴
走しないよう経済再生に専念するようブレーキをかけていたので
す。「成長なくして財政再建なし」という言葉は、今は増税する
なと安倍首相に戒めていたと思います。
 安倍首相にとって、消費税増税の選択肢としては、次の4つが
あったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.              予定通り実施する
  2.               全面的に見送る
  3.激変緩和措置として5年間で1%ずつ引き上げる
  4.今回は見送り、2015年10月に10%にする
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済ジャーナリスト・須田慎一郎氏によると、安倍首相は当初
から、2014年の「8%」は実施するしかないと考えていたと
いいます。しかし、表向きは増税そのものの判断は「白紙」とい
い、熟慮しているポーズをとっていたのです。この点は、上記の
植草一秀氏の考え方と同じです。
 その安倍首相が怒りをあらわにしたときがあります。2013
年9月12日付の読売新聞の「首相、意向固める」という見出し
の記事です。これにはいきさつがあるのです。読売新聞グループ
本社会長の渡邊恒雄氏が政治家を含む親しい関係者に巨人戦の券
と一緒に送った次の残暑見舞状の文章です。これは、安倍首相に
対する直接的な提言そのものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本経済の最重要課題はデフレからの脱却である。消費税率引
 き上げで、ようやく上向いてきた景気を腰折れさせてしまえば
 元も子もない。今回は見送った方がいい。景気の本格回復を実
 現したうえで2015年10月に5%から10%に一気に引き
 上げるべきだ。そのために私も尽力したい。 ──渡邊恒雄氏
  須田慎一郎著『国民を貧困にする重税国家日本』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はこのとき、安倍首相は、麻生財務相率いる財務省と消費税
増税と一緒にパッケージで打ち出そうとしていた法人税減税をめ
ぐってバトルを繰り広げていたのです。
 それに渡邊氏の提案は、消費税増税と一緒に軽減税率を実施し
新聞にそれを適用してもらいたいという野心があり、それが官邸
には見え見えであったので、安倍首相は激怒したというわけなの
です。やはり、安倍首相は8%に関しては最初からやるつもりで
あったのです。      ── [消費税増税を考える/07]

≪画像および関連情報≫
 ●話題呼ぶ「ナベツネ書簡」消費税増税は政局化/高橋洋一氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ナベツネの書簡が話題になっている。マスコミには報じられ
  ないが、渡辺恒雄・読売新聞グループ本社代表取締役会長が
  8月上旬、政治家宛に書いた暑中見舞いの手紙だ。前半は、
  東京ドームのジャイアンツ戦のチケットを同封するので使っ
  てもらいたいとか、軽井沢で7日連続のゴルフをしたとかほ
  のぼのとした話題である。しかし、後半では「なお、年末に
  向けての政府の最大課題の一つは、消費税の実施時期の問題
  です」ではじまり、「アベノミクスの失敗は許されません」
  「伝統的な財務省の早期財政再建至上主義よりも、異次元の
  方策があります」とし、「8%を中止し、10%に上げる時
  に、軽減税率については生活必需品は5%に止めること」が
  提案され、「近く小生としても詳細な具体策を報告するつも
  りです」と結ばれている。渡辺氏が政界に多大な影響力があ
  るのは周知の事実だ。その渡辺氏が広く知られることを前提
  にした手紙を政治家に出すのだから、ただ事ではない。渡辺
  氏が率いる読売新聞は、消費税増税の積極グループの一番手
  だ。2010年11月、読売新聞は元財務次官の丹呉泰健氏
  を社外監査役として受け入れている。読売新聞としては異例
  のことだ。そのとき巷で噂されたのは、マスコミは消費税増
  税を応援するが、軽減税率の対象として新聞を入れるという
  ものだ。             http://bit.ly/KZAJDl
  ―――――――――――――――――――――――――――

中丸友一郎著『円安不況がやってくる!』.jpg
中丸 友一郎著『円安不況がやってくる!』
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2014年01月16日

●「国家危機になると増税を仕掛ける」(EJ第3710号)

 消費税増税を決断した安倍首相が今一番心配しているのは、消
費税を上げる2014年4月以降の経済の落ち込みです。これに
ついては、誰でも知っている今回のケースと酷似している格好の
事例があるのです。いうまでもなく、17年前の1997年、橋
本政権が消費税の税率を3%から5%に上げた後の急激な経済の
落ち込みです。
 このケースと今回のケースが酷似しているのは、当時の橋本首
相も安倍首相も消費増税法を決めたのは、自分の内閣のときでは
ないという点です。橋本首相の場合は、村山内閣のときに決めた
スケジュールにしたがって実行したのに対し、安倍首相の場合は
野田内閣が主導して、民主党、自民党、公明党の3党合意で増税
法案を成立させている点です。
 村山内閣は、自民党、日本社会党、新党さきがけの3党による
自社さ連立政権です。このとき、増税の必要性を説いたのは、当
時新党さきがけの党首だった武村正義蔵相だったのです。橋本政
権での増税失敗を論ずる人は多いですが、その原因を作ったのが
武村正義氏であったことを知る人は少ないのです。
 これについて、経済評論家の三橋貴明氏は、近著で次のように
書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1995年、武村蔵相(当時)は、11月国会において事実
 上の財政危機宣言を行い、消費税増税路線が事実上のコンセン
 サスを得ることになった。そういう意味で、橋本首相は間違っ
 た情報に踊らされ、致命的なミスを犯したわけで、正直、気の
 毒である。その武村蔵相が1996年、橋本政権の成立直前、
 「このままでは国が滅ぶー私の財政再建論」という刺激的なタ
 イトルの一文を「中央公論」(96年6月号)に寄稿した。そ
 のなかで、氏は、「現在の国家財政はまったく不健全であると
 いう以上に、すでに破綻している」という主旨のことを述べて
 いる。武村氏が「財政破綻宣言」をした1996年当時と比較
 すると、現在の日本政府の債務は2倍以上に拡大している。と
 ころが、長期金利は、逆に3分の1未満で推移しているのだ。
 要するに、橋本政権の時点から「わが国には財政問題はない」
 が真実だったのである。          ──三橋貴明著
 『2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 野田首相が増税を決断し、推進しようとしたのは首相に就任し
た2011年のことですが、その年に東日本大震災と福島原発事
故が起きており、多くの日本人が等しく身に迫る危機を感じた年
であったのです。
 武村蔵相が国会において財政危機宣言をした1995も、1月
に阪神淡路大震災、3月に地下鉄サリン事件が起こっており、そ
の年の11月に財政危機宣言がなされ、それが消費税率を3%か
ら5%への引き上げる法案の成立につながったのです。日本の財
政危機論はこれを契機にはじまっています。
 これは偶然ではないのです。国家の危機に乗じて増税を企む財
務省の許されざる手口です。考えてみると、財務省は、武村、菅
野田、安住氏らの素人財務大臣を手玉にとって、増税法を成立さ
せてきたということがいえます。財務官僚にとっては日本の景気
がどうなろうと関係がないのです。
 国にとって金を集める方法は増税か国債発行しかないのです。
国債発行は何かと監視の目が厳しいですが、税金なら有無をいわ
せず取り立てることができるので、なるべく増税したいのです。
そのために財務省は手段を選ばないのです。したがって、彼らに
とっては、国が危機に瀕しているときが一番税金を取りやすいと
いえます。けっして騙されてはならないのです。
 消費税増税が決定される前の2013年8月22日、財務省と
内閣府は、ある資料を公明党の会議で配付していますが、その資
料には、1997年に消費税率を3%から5%に引き上げたこと
によって日本のデフレが深刻化したのではなく、アジア通貨危機
と国内の金融危機が原因であったことを示すことが書かれていた
のです。
 思えば、増税が決まる前に財務省のお眼鏡にかなってテレビに
出演が許されている経済評論家、証券会社研究員、経済学者、コ
メンテーターなどの識者といわれる人たちは、ほとんどすべて同
じことをいっていましたから、彼らは財務省のこの手の資料に基
づいての発言であることは確かです。しかし、内容は正しくはな
いのです。
 添付ファイルの棒グラフを見ていただきたいのです。このグラ
フは、三橋貴明氏の著書に出ていたものですが、三橋氏は「民間
需要」とは、次の3つであると述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.民間最終消費支出→個人消費
       2.       民間住宅投資
       3.     民間企業設備投資
                ──三橋貴明著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 注目すべきは日本の民間需要がピークを打ったのは、1997
年の第1四半期であり、その後四半期ベースで見た民間需要が、
1997年の第1四半期を上回ったことはないのです。そのくら
い当時経済は回復しつつあったのです。
 ところが、1997年の第2四半期の最初の月に増税が行われ
たのです。それ以降、わが国の物価下落は需要を収縮させ、需要
の収縮が国民の所得水準を引き下げ、さらなる物価下落を生むと
いう悪循環に入ってしまったのです。つまり、デフレです。需要
の縮小は4月からはじまっているのです。
 タイのバーツ危機が生じたのは1997年7月のことであり、
山一證券が破綻したのは11月のことです。これらがデフレに追
い打ちをかけたのです。したがって、デフレの引き金を引いたの
は消費税増税なのです。  ── [消費税増税を考える/08]

≪画像および関連情報≫
 ●日本のデフレは1997年の消費税増税が原因/三橋貴明氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  現在の日本は1997年よりも状況が悪化している。なにし
  ろ、デフレの深刻化によって、法人企業のうち7割超が赤字
  状態なのだ。すなわち、法人税を支払っていないのである。
  さらに、デフレにより価格競争が激化し、国内企業はこぞっ
  て値下げや低価格を売りにビジネスを展開しているありさま
  である。こうした状況で消費税を5%から8%に上げたとし
  て、政府は、企業が普通に商品価格を上げることができると
  思っているのだろうか。業界全体でいっせいに値上げをして
  くれればともかく、現実には必ず裏切り者が出る。そんなこ
  とは企業側もわかっているので、結局は増税分を企業(バリ
  ューチェーンのどこかの企業)が呑むかたちになり、赤字企
  業がこれまで以上に増え、法人税の減少が消費税増税分を打
  ち消してしまうだろう。下手をすると、消費税を増税した以
  上に法人税や所得税が減り、政府の税収は結局は減少するこ
  とになる。実際に増税後の日本が減収になったとき、財務省
  は何と言い訳をするつもりだろうか。おそらく、顔色1つ変
  えずに、税収減と赤字国債の発行が増大したことを理由にあ
  げて、「財政が悪化した。さらなる増税が必要だ」と言うに
  決まっている。財務省の口車に乗せられ、政府が再び増税を
  実施すると、国民の支出という需要が減り、所得も腐小し、
  税収はさらに小さくなってしまう。
                 ──三橋貴明著/徳間書店
      『2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』
  ―――――――――――――――――――――――――――

日本の民間消費・投資の四半期別推移.jpg
日本の民間消費・投資の四半期別推移
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2014年01月17日

●「第1の矢と第2の矢は正しい政策」(EJ第3711号)

 国の経済をよくするために、何をどのようにすればよいか──
これに対して正しい答えを出すのは、「経済学」ということにな
ると思います。しかし、経済学の考え方には、いろいろあり、経
済学によって、国の経済をよくするための方策がまるで異なるこ
とはいくらでもあるのです。
 自然科学においては原理は動きませんが、経済は生き物であっ
てつねに動いており、人間自体もそれぞれ自らの行動原理によっ
て動いています。そういう人間が複雑に絡み合い、集合体を形成
している社会も市場もまた動いています。そこに原理らしいもの
を確立するのはきわめて困難なことです。
 国家を統治するトップである内閣総理大臣は、そのいろいろあ
る経済学の考え方に基づいて政策を進言する多くの補佐官の意見
を聞いて、自ら方策を決断する必要があります。総理自身がしっ
かりとした経済についての考え方を持っていないと、正しい方策
を判断できなくなります。
 ところで経済学において米国は世界を牛耳っています。その証
拠に、2010年までに、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者
66人中51人が米国人であり、米国以外の学者は15人しかい
ないのです。しかも、この15人のほとんどは米国で生活し、米
国人と変わらない人たちばかりなのです。このようにこの学問分
野では米国が世界を圧倒しているのです。
 現在一番力を持ちつつある経済理論は「新古典派経済学」であ
るといわれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  2013年11月現在、1匹の魔物が世界を徘徊している
                      ──三橋貴明著
 『2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 その魔物とは何か。それは「新古典派経済学」という経済学な
のです。新古典派経済学とは、経済に関する国家の関与をできる
限り減らし、市場原理に委ねることによって経済は成長するとい
う考え方です。
 この経済に対するこの考え方が、リーマンショックを引き起こ
したし、ユーロの没落を招いているのですが、一向にそれを認め
ようとせず、世界中に経済に関するこの考え方を広げようとして
います。日本にもこの考え方に立つ人はたくさんおり、安倍首相
のアドバイザーのなかにもたくさんいるのです。
 安倍首相が進めるアベノミクスを例にとって考えてみることに
します。安倍首相は、首相に就任するや、第1の矢と第2の矢を
を矢継ぎ早やに打ち出し、就任後1年を経過してそれなりの成果
を上げたといえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    第1の矢 ・・・・・ 量的緩和(金融政策)
    第2の矢 ・・・・・ 財政活動(財政政策)
―――――――――――――――――――――――――――――
 アベノミクスの最大の目標は、デフレから脱却することです。
そのための政策としては、第1の矢と第2の矢の政策は経済運営
としては正しいし、定量的な裏付けもあり、実際にそれによって
日本経済は円安になり、株価は上昇し、経済に活況をもたらしつ
つあります。
 これは、経済に関してはほとんど何ら有効な手を打てなかった
民主党政権とは大きく違います。安倍首相は2回目の首相であり
前回の反省に立ってやるべきことを次々と、しかもスピーディー
に実施に移していて見事であるといえます。
 定量的な裏付けの一つとして安倍首相は、2013年1月に日
銀と政策協定を結び、3月20日に日銀総裁になった黒田東彦氏
は次のように明言しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マネタリーペースを1年間で60兆〜70兆ずつ増やし、20
 12年末のマネタリーベース残高138兆円を、14年度末ま
 での2年間で2倍の270兆円にする。そして物価目標で2%
 のインフレを実現する。       ──黒田東彦日銀総裁
                 ──渡邊哲也著/徳間書店
      『これから日本と世界経済に起こる7つの大激変』
―――――――――――――――――――――――――――――
 黒田日銀総裁の宣言は、前任者の白川総裁の発言が終始曖昧な
表現だったのと対照的に、数値目標を前面に出してきわめて具体
的であり、市場に強いインパクトを与えるのに成功しています。
これが第1の矢です。
 第2の矢としての財政政策は、2013年2月に約10兆円の
平成24年度の補正予算、5月には平成25年度予算92兆61
15億円を成立させています。目標は「国土強靭化」、具体的に
は、東日本大震災などをふまえて災害に強い国土づくりの建設に
10年間で200兆円規模のインフラ整備などに集中投資すると
いう大プロジェクトが動き出すことになると思われます。
 これら第1の矢と第2の矢が定量的であるのに対して、第3の
矢はきわめて抽象的であり、いまだに具体的に見えてきていない
のです。第3の矢の目的は、第2の矢の財政出動の効果をより即
効性のあるものにする成長戦略にあります。安倍首相は、この成
長戦略を担当させる大臣、経済再生相を新設し、甘利明氏を任命
しています。成長戦略については次の2つの側面があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      第1の側面:海外向け政策
       ・水道や原発、郵便システムの輸出など
      第2の側面/国内産業政策
       ・国家戦略特区、新産業育成など
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の側面は、安倍首相自らのトップセールスによって成果を
上げていますが、第2の側面については大いに問題があります。
来週考えます。      ── [消費税増税を考える/09]

≪画像および関連情報≫
 ●「アベノミクス悲観論」/伊藤元重氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  どのような政権の政策でも、それを好意的に受け止める勢力
  と、それを批判的に見る勢力がある。国民の支持率が高いと
  はいっても、アベノミクスを批判的に見る人たちも少なくな
  い。安倍内閣の発足当時は、大胆な金融政策に対する批判の
  声を多く聞いた。「あまりに乱暴な金融緩和策を行えば、日
  本は深刻なインフレになって大変なことになる」「政府が大
  量に国債を購入することは、財政規律を損なうことになる。
  近い将来、国債価格の暴落が心配だ」「金融緩和策だけでデ
  フレを脱却しようとすれば、物価が上がるだけで国民の生活
  はけっしてよくならない。悪性のインフレよりもデフレのほ
  うがまだましだ」「金融緩和で一時的に株価や為替レートを
  動かしても、それは持続的な経済回復にはつながらない。半
  年もすれば日本経済は失速するだろう」・・・。以上、今年
  の初めごろによく聞こえてきた、アベノミクスへのいくつか
  の批判を列挙してみた。今でもこうした主張を続けている人
  がいないわけではない。ただ、最近はこうした批判がめっき
  りと減った。アベノミクスがスタートしてからもう少しで1
  年。日本経済の回復ぶりは多くの人が想定した以上に順調な
  ものである。当初聞かれたアベノミクス批判は影が薄れてし
  まったのだ。ただ、批判勢力は常に次の批判の種を求めるも
  のだ。最近は、第一の矢よりも第三の矢への批判が多くなっ
  てきた。             http://bit.ly/KgCxX8
  ―――――――――――――――――――――――――――

三橋貴明著『2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』.jpg
三橋 貴明著『2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』
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2014年01月20日

●「デフレは果たして貨幣現象なのか」(EJ第3712号)

 安倍首相は「デフレから脱却する」ことを重要な目標として掲
げてアベノミクスを推進しています。つまり、日本経済の諸悪の
根源はデフレであると見抜いたのです。問題は、デフレからどの
ようにして脱却するかです。それには、デフレをどうとらえるか
がカギを握ります。
 実は、経済学の世界では、デフレの原因や対策について意見が
完全に2つに分かれているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1. 貨幣現象派
          2.総需要不足派
―――――――――――――――――――――――――――――
 「貨幣現象派」と「総需要不足派」を分けるものは、「セイの
法則」が成立するかしないかです。成立するとするのは「貨幣現
象派」、しないとするのは「総需要不足派」です。
 「セイの法則」というのは、フランスの経済学者、ジャン=バ
ティスト・セイが著書『政治経済学概論』に記述したことで知ら
れる有名な次の経済学の法則のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       供給はそれ自体の需要を創出する
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、供給能力を増やせば、それに応じて需要が自動的に創
出されるという法則です。これによって経済の強化のためには、
経済の供給側の制約を可能な限り取り払い、その効率を高めるサ
プライサイド(供給側)を重視する経済学が、それまでのケイン
ズ経済学に対抗して1980年代以降に台頭してきたのです。こ
れが新古典派経済学です。
 この「貨幣現象派」と「総需要不足派」の違いについて、経済
評論家の三橋貴明氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (貨幣現象派の考え方は)銀行を中心にマネーの量を増やせば
 自動的におカネが借り入れられ、必要なところに向けて支出さ
 れるはずだ。借り入れと支出が増えれば、国民の所得は必ず増
 えるため、経済は成長するはずと提言しているのだ。なぜなら
 セイの法則により供給はそれ自体の需要を生み出すからであり
 「需要を制約する要因は生産だけだ」というデビッド・リカー
 ドの説に基づいている。これに対し、「デフレの原因は総需要
 の不足である」と主張する論者(筆者を含む)は、「通貨の創
 出」ではなく、「通貨の支出」を提言している。金融政策の有
 効性は否定せず、財政政策に基づく景気刺激策の拡大を主張し
 ているのである。             ──三橋貴明著
 『2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、どうして日本はデフレに陥ったのでしょうか。
 きっかけはバブルの崩壊です。バブルがはじけると、民間は借
金返済や銀行預金を増やすのです。総需要とは、消費と投資の合
計ですが、この行為は、消費でも投資でもないのです。
 これをそのままに放置すると、民間の消費や投資が減ると、他
の誰かの所得が減り、その人が消費を減らし、それによって別の
誰かの所得が減り、消費を切り詰めるという悪循環に陥る。デフ
レ現象です。消費と投資を詳しくいうと、次のようになります。
つまり、総需要とは名目GDPのことなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  消費 ・・・ 民間最終消費支出 + 政府最終消費支出
  投資 ・・・ 民間住宅、民間企業設備、公的資本形成
              ──三橋貴明著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 1997年のQ1(第1四半期)において、民間の需要(民間
消費と投資の合計/個人消費)はピークに達しており、それ以降
現在まで、日本の個人消費はそれを上回ったことはないのです。
このことは1月16日のEJ第3710号で指摘しています。
 当時バブルが崩壊して民間が支出を抑制している状況の下でも
景気が回復しつつあったので、政府は国債を発行して支出を増や
す政策をとるべきだったのに、橋本首相は財務省を信じて真逆の
政策を断行し、デフレを一層深めてしまったのです。
 何をやったかというと、消費税の税率を3%から5%に上げて
国民の支出を減らす政策を実施しただけでなく、政府自らの投資
である公共投資を削減したのです。これは、デフレを促進させる
最悪の政策以外の何ものでもないのです。
 総需要を増加させるためには、日銀に通貨を発行させ、政府は
国債を発行してそれを借り入れ、インフラ整備などの公共事業を
立ち上げ、雇用と所得を生み出すように支出すべきなのです。つ
まり、金融政策と財政政策を同時に実施するのです。これは安倍
政権がアベノミクスとしてやっている政策と同じです。したがっ
てこれは正解なのです。第1の矢と第2の矢を同時に、しかも速
やかに実施したのです。
 しかし、心配なことがあるのです。それは、安倍首相がデフレ
を貨幣現象ととらえていることです。そのために第3の矢がおか
しくなっています。2013年2月7日、安倍首相は衆議院予算
委員会で、民主党の前原誠司委員の「人口が減少するなかで、構
造問題を解決しないとデフレは脱却できないのではないか」との
質問に次のように答弁しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 人口減少とデフレを結びつける考え方を私はとらない。デフレ
 は貨幣現象であり、金融政策で変えられる。人口が減少してい
 る国はあるが、デフレになっている国はほとんどない。
                       ──安倍首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 この安倍首相の答弁は竹下平蔵氏の主張と酷似しています。も
しそうなら、自民党は新古典派経済学の立場に立って政策を進め
ていることになります。  ── [消費税増税を考える/10]

≪画像および関連情報≫
 ●セイの法則とケインズ経済学/植草一秀氏の書籍より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ケインズの経済学を、ひとつだけ経済学の用語を使って説明
  すると、古典派経済学が「セイの法則」と呼ばれる考え方を
  ベースとしたのに対し、ケインズは「セイの法則」が働かな
  い局面を想定し、その局面での有効な経済政策を提示したと
  いえる。「セイの法則」とは、「供給はそれ自体の需要を生
  み出す」という見方である。価格が需要と供給をバランスさ
  せるように変動することによって、供給に見合う需要が市場
  メカニズムを通じて生み出されると考えるわけだ。仕事をし
  たいという人がいれば、その人がなんらかの仕事につけるよ
  うに賃金が変動する。時給1000円であれば人を雇おうと
  思わない企業が、時給が800円になれば人を雇うかもしれ
  ない。この場合は、労働力の価格、すなわち賃金が下落する
  ことにより、仕事を欲する労働者に仕事が行き渡るわけであ
  る。これに対し、たとえば、賃金などがそれほど自由に変動
  しない局面では、働きたいと思う人が手を挙げても、誰も雇
  う企業が現れない状態が長期化してしまうことがあるのだと
  ケインズは考えるわけだ。この場合には、供給量は需要の水
  準によって制約を受ける。つまり、供給能力をフルに生かす
  ためには政府が人為的に需要を追加してやることによってそ
  の遊休化してしまった供給力を生かせると考えるのである。
  いわゆる裁量的な政府支出の追加=有効需要の追加によって
  失業問題を解消するという処方箋が生まれてくる。
       ──植草一秀著「日本の再生/機能不全に陥った
            対米隷属経済からの脱却」/青志社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

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ジャン=バティスト・セイ 
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2014年01月21日

●「サプライサイド経済学の経済成長」(EJ第3713号)

 いわゆる新自由主義理論のひとつとして、供給側を強化するサ
プライサイド経済学というものがあります。これは、「需要」と
「供給能力」のうち、供給能力の方を強化することによって経済
成長を促進させるという経済学の考え方です。
 国家の役割を縮小し、なるべく市場原理に委ねることによって
個人や企業の経済活動を自由にし、供給能力を高めようとするの
です。そして、国家としては「小さい政府」を志向します。
 1981年に発足した米国のロナルド・レーガン政権には、サ
プライサイド経済学を志向する経済学者や通貨供給や金利操作な
どの金融政策を重視するマネタリスト、市場原理重視の経済学者
が多く政策ブレーンとして参加し、レーガノミックスを推進して
一定の成果を収めたのです。そしてこれらの経済政策は、それ以
降の米国経済政策の主流を占めるようになっていったのです。
 サプライサイドの能力を高める具体策について、三橋貴明氏は
次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 まずは法人税減税で企業に投資させ、供給能力を増やす。さら
 には、国営企業は基本的に競争をしないため、民営化を促進し
 て市場競争を激化させる。ただし、民営化を進めても、競争相
 手がいなければ、供給能力は増えないため、外資を積極的に導
 入する。すなわち外国の資本を受け入れる。各種の関税や「非
 関税障壁」を撤廃すれば、外資系企業が一気に参入し、競争激
 化により民営化された旧国営企業の供給能力が上がっていく。
 簡単に書けばこのような理論だ。もちろんサプライ・サイド経
 済学では各種規制緩和や投資の自由化もセットになっている。
 「規制やルールが多すぎて、供給能力が上がらない」という、
 基本的な発想があるのである。       ──三橋貴明著
           『真説日本経済』/KKベストセラーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見るとすぐわかることは、かつての小泉内閣や現在の安
部内閣がやっていることにそっくりであることです。これら2つ
の内閣には、いずれも竹中平蔵氏が深く関与しています。小泉内
閣では経済財政担当相として、安倍内閣では産業力競争会議の委
員として、竹中氏は強い影響力を発揮しています。
 安倍首相としては、本当は竹中氏を経済財政諮問会議の委員に
したかったのですが、麻生財務相の根強い反対によって、産業力
競争会議の委員にせざるを得なかったのです。そのため、産業力
競争会議では、第3の矢である成長戦略に竹中氏の主張する規制
緩和が色濃く打ち出されているのです。
 ところで、竹中平蔵氏はデフレについてどのような立場に立っ
ているのでしょうか。竹中氏は2013年7月3日の「ITジャ
パン/2013」で、デフレについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレの原因は、人口減少でも需給ギャップでもなく、マネー
 の量が少ないということ。         ──三橋貴明著
 『2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 これによると、竹中氏はデフレについて「貨幣現象派」に立っ
ていることは明らかです。ここで「人口減少」といっているのは
藻谷浩介氏の説(藻谷浩介著、『デフレの正体/経済は「人口の
波」で動く』/角川書店)のことをいっているのですが、これに
ついて竹中氏は田原総一朗氏との対談で、次のように明確にその
説を否定しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中:確かに人口が減ると、よく考えればわかるように、需要
    が、つまり、モノを買う力がそんなに増えないから、デ
    フレ的になる可能性はあるのです。
 田原:もうちょっと具体的にその本の内容を言いますと、実は
    人口が減っているというよりも、仕事をしている現役世
    代の人口が減って、仕事をしない年寄りの人口が増えて
    いる、という言い方でしたね。
 竹中:はい、それも含めてなんですけど、実は世界で日本だけ
    がデフレと申しましたけれども、世界中を見ると、人口
    が減っている国は24ヵ国あります。その24ヵ国のう
    ち、例えばロシアは人口が減っています。ウクライナも
    人口が減っています。でも、ロシアもウクライナも物価
    の上昇率はプラスの6%です。だから、人口が減るから
    デフレになるというのは間違いです。
  ──田原総一朗×竹中平蔵/『ちょっと待って!/竹中先生
   アベノミクスは本当に間違ってませんね?/ワニブックス
―――――――――――――――――――――――――――――
 この本のなかで竹中氏は、デフレと需給ギャップ(総需要の不
足)を否定してはいないのです。不況が長く続くと、需要不足が
起こり、モノの価格が下がることを認めています。しかし、デフ
レの真の原因は「マネーの不足」であるとして、次のように主張
しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉政権下では「需給ギャップ」をなくしたんですけど、その
 ときもまだデフレだったのです。でも、2006年になって、
 「あ、これでデフレは克服できる!」と私たちは自信を持って
 いたのです。ところが、何を思ったのか。2006年3月に日
 本銀行は、それまで5年間行ってきた量的緩和をやめちゃうわ
 けです。これはもう、絶対に間違いだと私、思いました。
           ──田原総一朗×竹中平蔵の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに、添付の「日本政府と民間の収支推移」のグラフを見る
とわかるように、基礎的財政収支は2006年〜2007年には
ゼロに限りになく近づいています。竹中氏は、日銀が量的緩和を
やめたこと、マネーを足りなくすることがデフレの原因であると
主張しているのです。   ── [消費税増税を考える/11]

≪画像および関連情報≫
 ●日本のデフレは人口減少が原因なのか/高橋洋一氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  かなり多くの人々が「デフレ人口原因論」に共感していてい
  るようなので、このコラム「俗論を撃つ!」にふさわしい話
  題だ。まず2つの主張であるが、その代表的な出典を明らか
  にしておこう。「デフレ人口原因論」は藻谷浩介著『デフレ
  の正体』(角川書店)、「デフレ金融政策原因論」は、私の
  『日本経済のウソ』(ちくま新書)である。その上で、両書
  を読み比べると、驚くことに肝心要の「デフレ」の意味が異
  なっている。異なった「デフレ」をそれそれで分析対象にし
  ているので、異なった政策的インプリケーションがでてくる
  のだ。そもそもデフレとはdeflation の日本語訳で、その意
  味は一般的な物価水準の持続的下落である。国際機関などで
  は、GDPデフレータが2年続けてマイナスの場合をいう。
  ここで一般的な物価水準というのは、個別品目の価格ではな
  く全品目の加重平均である「物価指数」を指す。この意味で
  「deflation」 は、一般物価というマクロ経済現象の話だ。
  「日本経済のウソ」では、この国際標準の「デフレ」の意味
  で、一貫して書かれている。その上で、デフレの問題は、デ
  フレが雇用喪失や設備投資減少を引き起こすことが書かれて
  いる。そのロジックは、マクロ的な意味での名目賃金や名目
  利子率には下方硬直性があるために、一般物価の下落に対し
  て、名目賃金や名目利子率がうまく対応できず、結果として
  実質賃金や実質利子率(それぞれ名目値から物価上昇率を引
  いたもの)が高くなるからだ。   http://bit.ly/1bm1aNh
  ―――――――――――――――――――――――――――

政府の基礎的財政収支の推移.jpg
政府の基礎的財政収支の推移
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2014年01月22日

●「細川小泉連合は舛添氏に勝てるか」(EJ第3714号)

 報道によれば、本日夕刻に元首相の細川護煕氏が、2014年
度東京都知事選への正式出馬表明と公約を発表することになって
います。そこで、本日と明日のEJは、消費税のテーマから離れ
て、細川出馬による政治動向について書くことにします。間接的
には、消費税増税問題にも関係してくると思うからです。
 1月14日に小泉元首相と一緒に細川氏は出馬会見をしました
が、その後メディアからはこの件に関して多くの情報が流れてい
るものの、いずれも真実を伝えていない情報ばかりであるので、
あえて特集を組むことにしたのです。メインの情報は、1月20
日発売の「週刊ポスト」1月31日号の記事に基づいています。
 現在、メディアは「細川氏出馬でも舛添要一氏圧勝」という情
報をしきりと流しています。それは、次の2つの世論調査の数字
に基づいているようです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ◎東京新聞の世論調査/1月10日〜12日に実施
   ◎「新報道2001」世論調査/14日以前に実施
―――――――――――――――――――――――――――――
 これらの調査はいずれも報道されておらず、正確なことはわか
りませんが、東京新聞の調査では「舛添19ポイント/細川9ポ
イント」で、舛添氏がダブルスコアで勝利するとしています。
 「新報道2001」の世論調査の実施期日は、はっきりしてい
ないのです。東国原氏も含めて調査していることからして、14
日以前の調査である可能性もあります。調査結果については、次
の通りとなっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
        舛添要一 ・・・・・ 38%
       東国原英夫 ・・・・・ 16%
        細川護煕 ・・・・・ 15%
       宇都宮健児 ・・・・・ 10%
       田母神俊雄 ・・・・・  7%
         ──『週刊ポスト』2014年1月31日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 いずれも舛添氏の圧勝です。「新報道2001」の調査では、
たとえ細川陣営が宇都宮陣営と一本化しても、舛添氏に勝てない
という結果になっています。しかし、これらの調査は、小泉元首
相がどの程度細川氏を支援するかが、見えていない時期の調査で
あり、結果を予測する調査としては不十分です。
 『週刊ポスト』によると、自民党幹部が大手紙ベテラン政治部
記者と都知事選を情報分析し、票読みした数字があるです。有権
者総数を約1080万人とし、投票率55%を前提とした予想数
値です。細川・小泉両氏が連携して戦った場合の結果です。
―――――――――――――――――――――――――――――
       細川護煕 ・・・・・ 250万票
       舛添要一 ・・・・・ 230万票
      宇都宮健児 ・・・・・  60万票
      田母神俊雄 ・・・・・  40万票
         ──『週刊ポスト』2014年1月31日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 この数字に自民党は驚愕したのです。なぜなら、投票率55%
でも勝てないからです。過去2回の都知事選の投票率は、11年
は58%、12年は62%であって、前提の55%よりも高いか
らです。しかも、東京新聞の調査によると、今回の選挙は「必ず
行く」と「多分行く」とあわせると、93%に達しており、投票
率が高くなるほど、細川氏に有利と考えられるのです。
 この数字を小泉・細川陣営も掴んでおり、財界、労組、既成政
党の支援はすべて断るという方針が決まったといわれます。徹底
的に無党派層に訴える戦略を取るものと思われます。
 そこで自民党陣営は、細川氏の佐川急便からの借金問題や政権
を8ヶ月で投げ出したことを蒸し返し、メディアを巻き込んで、
細川陣営の足を引っ張る作戦に出ているのです。
 1月19日のフジテレビ「新報道2001」のときの話です。
このとき、平井文夫フジテレビ解説副委員長は、おおよそ次のよ
うに細川氏を批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 細川氏は佐川急便からの1億円の借金という政治とカネの問題
 について、何の説明責任を果たさないまま、突然政権を投げ出
 したのです。今度はこれについて、しっかりと説明責任を果た
 してもらいたいものです。  ──平井文夫フジ解説副委員長
―――――――――――――――――――――――――――――
 この人は小沢一郎氏のときと同じです。自民党は、「猪瀬5千
万円/細川1億円」のキャンペーンを展開するそうですが、細川
氏が佐川急便から1億円の借金をしたのは、首相のときでも熊本
県知事のときでもなく、31年前のことです。
 しかも、猪瀬氏の場合と違って、きちんとした借用書があり、
保証人も担保もついており、もちろん利息の記載もあります。使
途も自宅の山門の修理費となっており、既に完済されています。
細川氏は国会の求めに応じ、それらの資料を提出し、きちんと説
明責任を済ませています。しかし、騒ぎが大きくなるだけであっ
たので、細川氏は自ら身を引いたのです。
 あのとき、この問題を厳しく追及した元自民党の白川勝彦氏は
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 あの問題はそもそも闇献金問題ではない。借入金をマンション
 や自宅修復にあてたのは所得税法上問題がなかったかというこ
 とだったが、総理を辞職したことで政治責任は果たしている。
 私は都知事選で細川さんを応援します。
         ──『週刊ポスト』2014年1月31日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、細川氏の借金問題は、ためにする疑惑そのもので
あったのです。      ── [消費税増税を考える/12]

≪画像および関連情報≫
 ●細川・小泉連合の圧勝は加速する/天木直人氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  あとから振り返れば2014年1月14日が日本の政治が大
  きく変わる始まりの日であったということになるだろう。な
  にしろ小泉元首相があそこまではっきりと細川氏の東京都知
  事立候補を応援すると国民の前で明言したのだ。日本は原発
  なしでやっていけると考える者たちと原発維持を唱える者た
  ちとの戦いであると断じたのだ。そして東京都知事選では脱
  原発を唱える細川氏を全面的に応援すると言い切ったのだ。
  小泉さん、あんたは偉い。それだけで安倍自民党政権に与え
  る衝撃は十分であるのについに小泉進次郎が宣言した。安倍
  自民党が支持する舛添候補を認めないと。これで決まりだ。
  街頭で進次郎が応援演説をすることで細川・小泉連合圧勝の
  流れがダメ押しとなった。いっそのこと進次郎は名護市長選
  挙でくだらない自民党候補者を応援するような馬鹿なマネを
  止めて、いまから東京都知事選における細川候補支援を宣言
  したらどうか。父子で自民党をぶっ壊し、分裂させ、東京都
  知事選のあとに間違いなく起きる解散・総選挙に向けた細川
  ・小泉新党結成に加わるんだ、と表明したらどうか。舛添や
  宇都宮は候補を取り止めるしかない。とりやめて細川・小泉
  の応援にまわるべきだ。細川・小泉連合と安倍の代理人であ
  る田母神との一騎打ちにさせるべきだ。そうすれば安倍自民
  党のおろかさが浮き彫りになる。安倍自民党政権のあらゆる
  いかさまがはっきりしてくる。   http://bit.ly/1hF0mEr
  ―――――――――――――――――――――――――――

都知事選に出馬表明する細川氏と小泉氏.jpg
都知事選に出馬表明する細川氏と小泉氏
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2014年01月23日

●「投票率が細川氏当選のかぎを握る」(EJ第3715号)

 本日東京都知事選が公示されます。22日発売の「夕刊フジ」
は、トップに「都知事選/衝撃世論調査」という見出しを打ち、
次の記事を掲載しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      細川/三重苦/「3位以下の可能性も」
        記者クラブ会見欠席「逃げている」
―――――――――――――――――――――――――――――
 「三重苦」とは、「1億円借り入れ」「五輪辞退発言」「民主
党の応援」の3つです。それにしても「出馬する」といっただけ
で、夕刊紙とはいえ、このすさまじいネガティブ・キャンペーン
の理由は何なのでしょうか。それは、小沢バッシングを想起させ
るえげつなさです。
 それは、フジサンケイグループにとっては、細川氏が都知事に
なると困る事情があるのです。産経新聞や読売新聞も同じ事情が
あります。フジサンケイグループの事情について『週刊ポスト』
は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 フジサンケイグループは、新聞の部数は頭打ちの上、フジテレ
 ビの視聴率もガタガタ。そこで、安倍政権が推進するカジノ解
 禁に社運をかけ、お台場にカジノを併設する総合レジャー施設
 の建設計画に参加している。細川氏はそのカジノ解禁に否定的
 だから、細川都知事が実現すると、元も子もなくなりかねない
 と危機感を募らせ、なりふり構わぬ小泉・細川叩きに走ってい
 る。      ──『週刊ポスト』2014年1月31日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 自分たちの利益に合わない政治家は葬り去る──これはメディ
アとして最低な対応です。それも利害が合致する政権党の自民党
と手を組んで、借金、昔の女性、スキャンダル探しを必死に行い
人物とか政策と関係のないことで選挙に勝とうとするのです。か
つての自民党の得意わざです。
 ところで「3位以下」という想定をしている緊急調査とは何か
を調べてみましたが、「某政党」の調査となっているので、自民
党の独自調査であると思われます。これによると次のようになっ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
        舛添要一 ・・・・・ 40%
        細川護煕 ・・・・・ 16%
       宇都宮健児 ・・・・・ 15%
       田母神俊雄 ・・・・・  6%
         ──『夕刊フジ』2014年1月21日発行
―――――――――――――――――――――――――――――
 「3位以下」の根拠は細川氏支持の票は無党派層のそれであり
選挙に行かない可能性が高いのに対し、宇都宮氏の票は共産党の
組織票であって固いというものです。
 この他に『サンデー毎日』が1月15日に都民1018人に対
して行った電話調査の結果があります。細川氏は14日に会見を
しているので、細川出馬を知っての都民の反応です。
―――――――――――――――――――――――――――――
        舛添要一 ・・・・・ 44.1%
        細川護煕 ・・・・・ 20.3%
       宇都宮健児 ・・・・・ 14.5%
       田母神俊雄 ・・・・・  3.0%
             ──『サンデー毎日』/2月2日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 どうやら、公示日前の情勢は倍スコアで舛添氏有利です。だか
らこそ、細川事務所のスローガンは「桶狭間」なのです。これは
14日に記者会見を行う前、ホテル・オークラの山里で、小泉氏
が「今回の都知事選、私は桶狭間の戦いだと思っているのです」
と細川氏に話したとされているのです。舛添氏を2万5000人
の大軍を率いて尾張に侵攻した今川義元に見立てて、それを打ち
破った織田信長が細川氏というわけです。
 しかし、60代以上は舛添支持ですが、年齢が若くなればなる
ほど、細川支持になるというのです。これについて「アノン世論
調査センター」の野沢高一社長は次のように解説しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 年配の方は投票に行く人が多く、若者は少ない。そうなれば投
 票率は40%台で舛添氏が有利です。若者も多数投票に行って
 50%を超えれば、大接戦でしょう。    ──野沢高一氏
             ──『サンデー毎日』/2月2日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、選挙は今日からなのです。既に水面下では、小沢一郎
氏の懐刀といわれる平野貞夫氏が細川氏の相談に乗っており、小
沢氏の秘書軍団も動いています。おそらくどこで街頭演説を行う
かなど、細かな選挙戦術は決まっているものと思われます。
 それに細川氏には勝手連として多数の有名人が支持を表明して
います。瀬戸内寂聴、茂木健一郎、吉永小百合、広瀬隆、湯川れ
い子などなど。小泉首相は、フル回転で積極的に選挙戦を戦うと
思いますし、これらの著名人も応援に駆け付けると思います。都
民は「原発ゼロ」に47%が賛成です。これに火をつけることが
ができれば投票率は上がり、局面は大きく変わります。
 もうひとつかぎを握るのは、自民党からの応援です。今回は党
議拘束はかけられないので、自民党からかなりの数の細川支援者
が駆けつける可能性があります。自民党の河野太郎副幹事長は明
確に「細川支持」を表明しています。小泉氏は、自民党内部に手
を入れ、支援の要請をしていると考えられます。
 日本新党を立ち上げてからの細川氏の選挙戦は、いずれも圧勝
であり、彼は組織のない無党派層に訴える選挙を得意としていま
す。小泉元首相という強力な支援者を持っているので、当選の可
能性は高いと思います。これに勝利すれば「一強多弱」の政治的
岩盤は崩壊します。    ── [消費税増税を考える/13]

≪画像および関連情報≫
 ●舛添氏を応援し権力のパシリとなった連合幹部/溝口敦氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
   連合東京が都知事選で舛添要一氏を支援する方針を決めた
  という。連合東京の大野博会長は東電労組出身のため、原発
  の即時廃止を主張する細川護煕氏を推すわけにはいかないら
  しい。情けない話である。(一部略)
   全国の原発に貯蔵される使用済み核燃料など核のゴミは、
  1万7千トンにも及ぶ。核のゴミばかりか、高レベル放射性
  廃棄物も埋設場所が決まらず、福島原発に見るように日々タ
  ンクに注ぎ込んでは漏出させ、陸と海と魚を汚染し続けてい
  る。大野会長が言う「自然エネルギーなどと組み合わせて、
  徐々に原発を減らす考え」とは、「子供にツケを残さない」
  方策ではなかろう。ゴミ捨て場さえ決まっていない現状で原
  発という排出源を止めず、稼働を続けることは子々孫々、放
  射性廃棄物にまみれて死ねということを意味する。
   そのくせ連合は「子供にツケを残さない」として消費税増
  税を含む社会保障・税の一体改革関連法の成立に同調してき
  た。核のゴミを残すことは、未来への最も底意地が悪いツケ
  のはずだ。連合は東電ばかりか、暗愚の安倍内閣と一体とな
  って舛添都知事を実現し、原発を再稼働させる腹なのだ。労
  働組合運動は単に組合員の待遇や地位を守り、向上させるだ
  けでなく、その主張に社会的大義を含まなければならない。
  労働組合の言い分が利己主義だけなら、社会は組合運動に理
  解を示さない。賃上げだけで電車を止めれば、利用者は怒る
  のだ。   ──2014年1月20日、ゲンダイ・コラム
  ―――――――――――――――――――――――――――

細川護煕氏と「桶狭間」.jpg
細川 護煕氏と「桶狭間」
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2014年01月24日

●「国家戦略特区法を知っていますか」(EJ第3716号)

 昨年の暮れの12月6日に「国家戦略特区法」という法律が成
立したことを知っているでしょうか。
 12月6日といえば、特定秘密保護法案が深夜の参院本会議で
可決・成立した日であることは、テレビであれほど報道されたの
で、誰でも知っています。その採決のしかたの乱暴さを巡って自
民党に非難が集中したのです。
 しかし、その同じ日に国家戦略特区法が成立したことを知る人
はほとんどいないはずです。しかも、この国家戦略特区法案は、
委員長が審議継続を求めたことから、自民党は委員長を解任し、
強制可決したのです。問答無用の無茶苦茶なことをやっているの
ですが、メディアが報道しないので、知る人は少ないのです。こ
れには野党ではみんなの党が賛成しています。
 この「国家戦略特区」を創設するための法案は、総理大臣を議
長とする「国家戦略特区諮問会議」を内閣府に設置することや、
特区ごとに「国家戦略特区会議」を設け、新たに任命される特区
担当大臣と関係自治体の長、それに民間事業者の3者が事業計画
を作成することなどが盛り込まれています。
 この国家戦略特区──これはアベノミクスの第3の矢といわれ
安倍首相はこれを「成長戦略の一丁目一番地」と強調しています
が、一体何のことか、多くのことはまだ見えていないのです。そ
してこれを仕切っているのが、あの竹中平蔵氏なのです。
 安倍首相は、2012年9月の時点では、第1の矢と第2の矢
のことしかいっていなかったのです。政権党がまずやるべきこと
は、デフレの脱却であり、そのためには、第1の矢である金融政
策と第2の矢である財政政策を実施すべきであるといっており、
第3の矢のことは何もいっていないのです。
 安倍氏の宣言に選挙前から市場は強い反応を示し、円安/株高
の流れができたのです。選挙に勝って首相になった安倍氏は、第
1の矢と第2の矢を実行に移し、円安/株高の流れを確かなもの
にしたのです。あとは放っておけばよかったのです。
 さらに欲をいえば、浜田宏一特別参与のアドバイスを入れ、消
費税増税を延期していれば大正解であったのです。そうすれば、
日本経済はデフレから完全に脱却できたはずです。
 安倍首相は本当はそうしたかったと思います。しかし、首相に
そうさせない2つの勢力があったのです。1つは財務省であり、
もう一つは竹中平蔵氏です。
 財務省としては、消費税増税のスケジュール通りの実施は一歩
も譲る気はなかったのです。そこで、日本は民主党の歴代政権が
G7などの国際会議において、財政健全化のための消費税増税を
国際公約にしてきていることを強調したのです。といってもそう
させたのは、ほかならぬ財務省なのです。
 したがって、もし、増税を見送ると国際的にマイナスの評価を
受けるとして、不退転の覚悟で実施すべきであることを首相に説
いたのです。つまり、やるリスクよりもやらないリスクの方が大
きいと説得したのです。財務省のレトリックです。財務省の御用
学者も一斉に増税すべきであることをテレビなどで発言していま
す。結局安倍首相は財務省に屈したのです。
 もうひとつは、第1の矢と第2の矢に加えて第3の矢が必要で
あるとする竹中平蔵氏の意見を安倍首相が取り入れたことです。
これによって、安倍首相は第3の矢のことをしきりにいい出すよ
うになったのです。これについて、三橋貴明氏は自著にこう書い
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2本の矢だけでは不足ですよ。もう一つ、成長戦略も追加して
 3本の矢と称しましょう。山口県(旧長州藩)出身の安部総裁
 が3本の矢と言えば、フレーズとして受けますよ。
                      ──三橋貴明著
 『2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はこのあたりから、アベノミクスは少々おかしくなっていく
のです。竹中氏が所属する産業競争力会議は、政府の成長戦略を
策定する会議であり、有識者の委員には有名一流企業の経営者が
多く参加しています。
 しかし、彼らは経営者としては一流であっても、閣僚などの経
験はないので、そういう意味で小泉内閣で経財担当相、総務相の
経験があり、経営者としてもパソナの会長でもある竹中平蔵氏の
影響力は相当大きなものがあると思われるのです。
 しかし、もうひとつの経済財政諮問会議の方が、格は上のよう
に思われます。この会議には、安倍首相はもとより麻生財務相、
菅官房長官、甘利経済再生相、黒田日銀総裁などがメンバーとし
て常時参加しています。
 当初、安倍首相は竹中氏を経済財政諮問会議の委員にする予定
でしたが、麻生財務相の強い反対でできなかったのです。もとも
と小泉政権で経済財政諮問会議を作って、それを最大限に生かし
たのは竹中氏であり、竹中氏としては表面上は平静を装ってはい
たものの、内心忸怩たるものがあったと思われます。
 産業競争力会議で竹中氏は、徹底して「規制緩和」を説いてい
ます。そしてその実験装置として打ち出したのが、「国家戦略特
区」なのです。経済評論家の渡邊哲也氏は、これを評して次のよ
うにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     新自由主義に染まった危険な「3本目の矢」
                  ──渡邊哲也氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中構想は、昨年12月に「国家戦略特区法」の成立を受けて
この1月21日には自民党総務会に「産業競争力強化の実行計画
案」が提出されています。安倍首相としては、これをスイスの世
界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で発表する予定だった
のですが、総務会は「性急過ぎる」として計画案の了承を見送っ
ているのです。      ── [消費税増税を考える/14]

≪画像および関連情報≫
 ●自民党:官邸主導でギクシャク 官房長官「手違い」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  菅義偉官房長官は22日、自民党の石破茂幹事長と党本部で
  会談し、21日の党総務会で政府の産業競争力強化実行計画
  の了承が見送られた問題について、「党への説明が十分でな
  かった。今後はできるだけ早く説明して進めていきたい」と
  伝えた。政府は党幹部らに改めて説明し、了承を取り付けて
  閣議決定する考えだ。ただ、この日の党会合でも再び批判が
  出るなど、「政高党低」の現状に対する党側の不満はくすぶ
  りそうだ。菅氏は会談後の記者会見で「今回は政府の手違い
  だった。(政府と党側の)そごでも何でもない」と強調。同
  党は、党内審査が必要な対象に、法案や条約▽予算・財政の
  重要案件▽計画や戦略など党政調会長が必要と判断した閣議
  決定案件──を挙げている。一方、22日の党厚生労働部会
  では、政府の産業競争力強化実行計画について「厚労省も関
  係するのに(厚労部会に)説明がない」「国民の代表より計
  画を作った民間議員の方が上なのか」などと異論が噴出。政
  府に改めて説明を求めることを決めた。党三役経験者の一人
  は「今は官邸主導で何でも物事を回そうという空気で、丁寧
  さを欠いた。(閣議決定が遅れたことで官邸サイドは)結果
  的に安倍晋三首相のメンツをつぶしてしまった」と話した。
        ──毎日新聞【横田愛、鈴木美穂、中島和哉】
                   http://bit.ly/LSSnJb
  ―――――――――――――――――――――――――――

竹中平蔵氏.jpg
竹中 平蔵氏
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2014年01月27日

●「第3の矢のどこに問題があるのか」(EJ第3717号)

 自民党安倍政権の進めるアベノミクスを「3本の矢」で整理す
ると、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
       第1の矢 ・・・・・ 金融政策
       第2の矢 ・・・・・ 財政政策
       第3の矢 ・・・・・ 成長戦略
―――――――――――――――――――――――――――――
 問題は、第3の矢の「成長戦略」なのです。これは、産業競争
力会議が策定しているのですが、ここに竹中平蔵氏の影響が強く
及んでいるのです。
 経済評論家の植草一秀氏によると、経済政策の基本は、金融政
策と財政政策と構造改革の3つであり、アベノミクスの第3の矢
である成長戦略は「構造改革」に該当します。構造改革とは、制
度の変更、規制の撤廃といった中長期の成長をもたらすための各
種制度変更策を指しています。
 さて、アベノミクスの成長戦略ですが、植草氏によると、そこ
には次の5つが含まれているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.農業の自由化
          2.医療の自由化
          3.解雇の自由化
          4.経済特区創設
          5.法人税の減税
                      ──植草一秀著
     『日本経済撃墜/恐怖の政策逆噴射』/ビジネス社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように整理すると、安倍政権がやろうとしていることがよ
くわかると思います。「農業の自由化」や「医療の自由化」は、
TPP交渉によって実施しようとしている課題です。「経済特区
創設」は、昨年末に国家戦略特区法が与党の強行採決で成立して
おり、既にその実行計画も策定されていて、総務会に提出されて
います。もし、成立すると、その特区において「解雇の自由化」
などが実現する可能性があります。
 そして「法人税減税」は、安倍首相が1月22日(日本時間)
にスイスのダボス会議において国際公約化しようとして発言して
います。今や安倍政権は、成長戦略(構造改革)にシャカリキな
のです。何が狙いなのかというと、安倍首相はとにかく株価を上
昇させ、「経済が回復した」と訴えることが支持率を上昇させる
かぎになると考えているからです。
 しかし、経済が成長すると、果たして国民は幸せになれるので
しょうか。これは大いに疑問です。これについて、植草一秀氏は
次のように安倍政権のやり方を批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 成長戦略として安倍政権が掲げているものは、中期的に重大な
 弊害を伴うものである。安倍政権は成長重視であり、日本のG
 DP成長率を引き上げることを是としている。確かに全体とし
 て日本経済の効率が高まるとしても、それがすべての国民の幸
 福につながるとは限らない点に問題がある。株価への影響だけ
 を考えるのであれば、資本に優しく労働に厳しい政策は、短期
 的には株価にプラスに作用する。資本と労働は、経済活動の成
 果として生まれた所得を分かち合う、あるいは奪い合う関係に
 ある。資本の取り分を増やすことは、すなわち労働の取り分を
 減らすことを意味する。経済活動の成果であるパイを拡大させ
 そのパイの拡大を資本も労働も共に享受できるのならば、それ
 が望ましい姿であるが、現在安倍政権が進めている政策は、そ
 うではなく、資本の取り分を増やすが、労働の取り分は減らす
 傾向の強いものである。    ──植草一秀著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、間違いなく新自由主義の発想に基づく政策です。した
がって、「第3の矢は新自由主義に染まっている」というのは、
こういうことを指していっているのです。
 いま東京都知事選に挑戦している細川護煕元首相は、その出馬
に当たっての記者会見で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今の国の目指している方向、その進め方に何か危ういものを感
 じる。成長がすべてを解決するという傲慢な資本主義から幸せ
 は生まれない。原発がなくても日本は発展していけると信じて
 いる人々の先頭に立って闘う。     ──細川護煕元首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 「成長がすべてを解決するという傲慢な資本主義」とは、アベ
ノミクスの基本的な考え方を意味しています。この考え方に立っ
ているから、原発が必要だということになるのです。そもそも法
人税を大幅に下げ、日本のインフラを激安で売り渡すような国家
戦略特区を作ってまで、なぜ海外投資家やグローバル企業などを
日本に呼び込む必要があるのだろうか。経済評論家の渡邊哲也氏
はその政策に、次のように疑問を呈しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 忘れてはいけない。日本は世界一の金主なのである。GDPの
 8割以上を内需が占め、国富は3000兆円以上あるという国
 である。これほど豊かな国が、なぜ海外からの資金に頼らなく
 てはいけないのか。また世界最高水準の技術を持つ国である日
 本がなぜ海外からの技術に頼らないといけないのか。(中略)
 日本には十分なお金がある。わざわざ海外から資金を呼び込ま
 なくても、日本人のお金を使えばよいのである。もし、海外に
 投資しているお金があるのだとしたら、それを日本企業への投
 資に回せばよい。それで何の問題があるのだろうか。
                 ──渡邊哲也著/徳間書店
      『これから日本と世界経済に起こる7つの大激変』
―――――――――――――――――――――――――――――
             ── [消費税増税を考える/15]

≪画像および関連情報≫
 ●安倍成長戦略が打ち出す“規制緩和”の恐ろしい側面
  ―――――――――――――――――――――――――――
  アベノミクスは第1の矢が「異次元の金融緩和」、そして第
  2の矢が「公共事業への財政支出」であるが、それに続く第
  3の矢として、仰々しく打ち出されているのが「安倍成長戦
  略」である。各ジャンルにわたる成長戦略を、数値目標を上
  げて説明する賛成派はいるが、その前に成長戦略自体が何で
  あるのかという、基本的な部分を政府が国民に周知させてい
  るとは到底思えない。それどころか肝心な部分をはぐらかし
  たまま、いきなり規制緩和至上主義に踏み込んでいる。ここ
  にこの政権が体現する暴政が、特定秘密保護法だけではない
  という話になってくる。安倍政権が唱える規制緩和万能論に
  は何が抜けているのだろうか。それは「規制緩和」の出力が
  どこをめがけているのかという部分である。簡単に言えば、
  彼らがやろうとする規制緩和が企業のためなのか、国民のた
  めなのかという単純な話に行きつく。おかしいとは思わない
  だろうか。弱者保護や、公益性を保証するために設けられた
  様々な規制が、時代のニーズや社会に合わなくなって内容を
  変える場合、その変更によっは、現在の弱者層の保護機能が
  残るのか、あるいは公益性などがきちんと担保されるのかな
  ど、基本的な部分を慎重に配慮しなければならないはずであ
  る。ましてや安倍成長戦略で行う規制緩和の目的は時代の二
  ーズではなく、企業のニーズオンリーなのである。これがど
  れほど異常なことか分るだろうか。 http://bit.ly/1e0zWfL
  ―――――――――――――――――――――――――――

ダボス会議で演説する安倍首相.jpg
ダボス会議で演説する安倍首相
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2014年01月28日

●「産業競争力会議成長戦略の問題点」(EJ第3718号)

 2014年1月24日、「産業競争力強化の実行計画案」が自
民党の総務会で了承されたのです。根回し不足として保留になっ
ていた計画案の了承です。
 この実行計画というのは、医療研究の司令塔になる「日本版N
IH」の設立法案や、電力小売りを自由化する電気事業法改正案
など約30本の法案を今国会に提出する内容になっています。こ
れで自民党として、今国会で国家戦略特区法に基づく政策の法的
措置を講ずることになります。
 問題は国家戦略特区法なのです。竹中平蔵氏は本気で日本とい
う国を変えようとしています。それは多くの日本人にとっては好
ましい方向ではない改革になる恐れがあります。
 安倍首相と竹中平蔵氏は、小泉政権のとき、官房長官と経財担
当相という立場で、銀行の不良債権処理や経済・財政の立て直し
政策に取り組んできているので、気心が知れている仲です。その
さい、安倍氏は竹中氏の考え方に相当感化されているはずです。
 したがって、安倍首相は、第2次安倍内閣では、竹中氏を経済
財政諮問会議のメンバーにしようとしたのですが、麻生財務相の
反対で果たせなかったのです。麻生氏は「彼とは顔を合わせるの
も嫌だ」といって拒否したといわれます。
 そういうわけで竹中氏は、産業競争力会議のメンバーにならざ
るを得なかったのですが、そこで規制改革を推し進めるとともに
そのための政治装置ともいうべき国家戦略特区法を昨年末に成立
させています。その国家戦略特区法において竹中氏は、ある仕掛
けを施しています。それによって、経済財政諮問会議のメンバー
になれなかったリベンジを果そうとしているようにみえます。
 国家戦略特区法によって内閣府には「特区諮問会議」が設置さ
れることになっています。問題なのは、この会議が経済財政諮問
会議と同格の位置づけになっていることです。竹中氏は当然その
メンバーに収まっています。ジャーナリストの佐々木実氏は、こ
れについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 特区諮問会議の設置を主導してきたのは竹中氏です。麻生太郎
 副総理らの反対で経済財政諮問会議のメンバーになれなかった
 竹中氏は、産業競争力会議のメンバーになって、特区構想を推
 し進めてきた。そのうえで、特区の法制化の段階で、特区諮問
 会議と同格にして、自分がメンバーになったのです。
        ──2014年1月21日発行/日刊ゲンダイ
―――――――――――――――――――――――――――――
 この特区諮問会議には大きな問題点があります。その会議のメ
ンバー(諮問会議議員)と出席大臣には次の条件が設けられてい
るからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 諮問会議議員:構造改革の推進による産業の国際競争力に関し
        優れた見識を有する者
 会議出席大臣:首相が指定する国務大臣
        ──2014年1月21日発行/日刊ゲンダイ
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず、諮問会議議員はこの条件によって、構造改革反対派はメ
ンバーになれないことです。そして、大臣も首相が任命するので
反対する大臣は外されます。構造改革推進派だけの議論になって
しまうので、何でも決まってしまうことになります。
 昨年「解雇特区」でもめたときに、最終的には厚労相が憲法に
抵触するとして反対し、実現しなかったのです。今回は反対する
大臣は確実にメンバーから外されてしまいます。こんなとんでも
ない法律がその内容が十分吟味されないまま、国民の知らないと
ころで、安倍政権の強行採決によって決まっているのです。
 経済評論家の渡邊哲也氏は、世の中には、「作る人」と「売る
人」の2つにわけることができ、日本では「売る人」ばかりが優
先されてきたことを指摘しています。流通業界が寡占化すること
で、メーカーが苦しみ、それがデフレを加速させる要因になって
いるともいっています。そして同じことが産業競争力会議という
狭い世界でも起きているとして、この会議のやっていることに対
し、次のように強い批判を展開しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 産業競争力会議のメンバーのバックグラウンドを、昔の産業名
 に読み替えてみると、彼らの正体がよくわかる。人材紹介会社
 パソナ会長の竹中平蔵氏は、口入れ業である。楽天などは口銭
 取り以外の何ものでもない。お祭りのときにテキ屋の親分がテ
 キ屋を集めてきて、縄張りに店を出させるかわりに場所代を取
 るのと一緒。要はインターネット・テキ屋である。それが「新
 しい産業」と言えるだろうか。しかもこうした「声の大きい」
 人たちは、モノづくり企業ではない。彼らの主張にばかり沿っ
 た計画を立てても、まともな国づくりができるとは思えない。
 かつての「士農工商」ではないが、商人よりも、職人や農家と
 いった生産者のことを、もっと考えのベースに置かないと、国
 家を支えるインフラは強く豊かなものにはならない。このこと
 をもう一度強く思い出すべきだろう。
                 ──渡邊哲也著/徳間書店
      『これから日本と世界経済に起こる7つの大激変』
―――――――――――――――――――――――――――――
 渡邊哲也氏は「クールジャパン機構」にしても、「作る人」が
置き去りにされているといいます。クール・ジャパンとは、ジャ
パン・ブランドを海外に売り込むための官民ファンドですが、商
社や流通など売る側の人間ばかりがクローズアップされ、実際に
アニメや漫画を作っている人間が置き去りにされているといいま
す。渡邊氏はこれが成長戦略最大の問題であるというのです。
 「作る」人が安心して仕事ができる環境を作り、暮らしていけ
る基盤を作るのが国として政治家がやるべき仕事なのです。売る
人はとくに専門性の必要はなく、外資がそれにとってかわること
が可能な分野なのです。  ── [消費税増税を考える/16]

≪画像および関連情報≫
 ●産業競争力強化法案は「劇薬」となるのか?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「産業競争力強化法の中心に据えられている規制緩和は、積
  極的事業展開を目指す企業の足かせを外すことで、産業の成
  長を加速化します。しかし反面、規制によって守られていた
  消費者や労働者などに対する保護が弱くなり、これまで以上
  に自己責任が強調される社会になってしまう可能性がありま
  す」──舛田弁護士はこう指摘する。産業が成長するという
  メリットの反面、消費者・労働者保護という観点からは、そ
  れがマイナスに働く場面も出てくるようだ。「また、この法
  律は、競争力の低下している事業分野においては、企業再編
  や事業からの撤退を促すことも目的としています。そのため
  それらの事業分野に従事している人たちが廃業や転職を迫ら
  れることになるという、痛みを伴う改革でもあります」。そ
  うなると、競争力が低い分野では、廃業や転職を余儀なくさ
  れる人が出てくることになるだろう。政府の方向性に、問題
  はないのだろうか。「国家における限られた人的・物的資源
  を、停滞している事業分野から成長が見込める事業分野にシ
  フトするよう誘導し、国全体の競争力を強化するという方向
  性は間違っていないと考えています。ただし、やり方を誤る
  と、格差拡大などの副作用を招く恐れのある『劇薬』になり
  かねないということも認識しておく必要があるでしょう」。
                  http://huff.to/1ivYsJ2
  ―――――――――――――――――――――――――――

渡邊哲也氏の本.jpg
渡邊 哲也氏の本
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2014年01月29日

●「ローマ法王による新自由主義批判」(EJ第3719号)

 マルハニチロHDの冷凍食品へのマラチオン混入事件は、食の
安全を揺るがす許し難い犯罪ですが、犯人の動機は「企業への不
満」にあるといいます。
 事件が発生したアクリフーズ群馬工場で作業する従業員のほと
んどは「契約社員」であり、雇用は6ヶ月ごとの更新制です。最
近になって、早番と遅番の社員に支給されていた手当とボーナス
が廃止され、大幅な減収になっており、従業員の不満が高まって
いたというのです。もし、会社側に抗議すると、会社側は次の更
新をしないので、文句がいえないのです。
 ここにも雇用に関する規制緩和の悪影響が出ており、事件が起
きた根底には、不正規雇用制度があります。この制度の下では、
企業は利益を追求するためなら従業員の給与を一方的に削減する
ことができるのです。こんなことをしていたら、世界に誇る日本
製品の信頼は地に落ちてしまいます。
 しかし、安倍政権はこの雇用の自由化については執念を持って
推し進めようとしています。「雇用特区」はそれを具体化する手
段のひとつなのです。その目的は、企業を儲けさせる──サプラ
イサイドを強化することです。法人税の減税も企業、それも一握
りの大企業を儲けさせる政策です。
 しかし、それでは国民の生活はどうなるのでしょうか。企業だ
けが儲かっても国民の生活は豊かにならず、国民の幸せには結び
つかないのです。これに対して、安倍首相や甘利経済再生相は、
企業の利益が増大すれば、それはやがては従業員の給与の増額と
いうかたちで反映されると強調しています。彼らの考え方は「法
人優遇/個人冷遇」なのです。
 安倍首相や甘利経済再生相のこの発言は、「トリクルダウン理
論」に基づいています。これは米国の新自由主義者の間でよく使
われるレトリックであり、安倍首相や甘利経済再生相はこの考え
方に立って発言しています。
 それでは「トリクルダウン理論」とはどのような考え方なので
しょうか。ネットの「証券投資用語辞典」を引くと、次の解説が
あります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 トリクルダウン理論では、いかに大企業が経済活動をしやすい
 ような方策を提供することができるかが、国民全体の経済状況
 の引き上げにつながると主張している。大企業が経済活動をし
 やすくなれば、景気が活況を呈し、結果的には国民全体の利益
 が再配分されるという経済思想である。
                   http://bit.ly/1eTHSyM
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、「金持ちを儲けさせれば貧乏人にもおこぼれがあず
かれる」ということであり、「おこぼれ理論」と揶揄されている
のです。
 2013年11月26日に、ローマ教皇フランシスコは、使徒
的勧告「エヴァンジェリ・ガウディウム(福音の喜び)」を公布
しましたが、そのなかでこのトリクルダウン理論を批判していま
す。ローマ教皇が資本主義を批判することは異例のことですが、
なぜか新聞ではそのことが大きく取り上げられていないように思
われます。
 そこで、2013年12月3日付の「赤旗」から、その重要部
分を引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
  どうして高齢のホームレスが野ざらしにされて死亡すること
 がニュースにならず、株式市場が2ポイント下がっただけで、
 ニュースになるのか。飢えている人がいる一方で食べ物が廃棄
 されているのが見過ごし続けられるのか。
  市場にまかせればすべてうまくいくという「トリクルダウン
 (おこぼれ)理論」は、事実によって裏付けられたことは一度
 もない。経済力を振るう人々は善良で、支配的な経済制度の働
 きは神聖だと未熟で単純に信頼するものだ。
  少数の所得が急上昇する一方で、多数を繁栄から切り離す格
 差も広がっている。市場と金融投機の絶対的な自立を守ろうと
 いうイデオロギーであり、それが国家による支配を拒絶する新
 たな専制体制を生み出している。
  あくなき利潤追求に潜んでいるのは「道徳と神の拒絶」であ
 り、金融の専門家や政府指導者には、自らの富を貧しい者と分
 かち合わないのは、貧しい者から盗み、彼らの生活を奪うのに
 等しい。     ──2013年12月3日付「赤旗」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、現在の資本主義に対する痛烈な批判です。安倍首相に
はぜひ読んでいただき、自分が何をしようとしているのか、よく
考えて欲しいものです。
 現在のグローバリズムの世界では資本移動の自由化が実現して
おり、投資家や企業家は国内に投資しない自由があるのです。そ
のため、余裕のある企業まで国内投資を増大させず、対外直接投
資や内部留保を増やそうとしています。貧乏人には何も還元され
ず、格差を拡大させるだけなのです。
 これまでの自民党政権で、新自由主義的経済理論を持つ小泉・
竹中路線によって、雇用に関する規制が撤廃され、不正規雇用が
拡大したのです。これによって、多くの国民が安定した職を失い
中流階層が減少して格差が拡大する結果を生んでいます。
 民主党による政権交代はそういう経済の歪みを修正する絶好の
機会だったのです。しかし、民主党政権はその期待に何ら応える
ことができず、またしても自民党政権に戻してしまったのです。
 そして、安倍政権が誕生し、またしても竹中平蔵氏を擁して新
自由主義的政策を推進させようとしています。竹中氏は、国家戦
略特区法を駆使して、またしても雇用の規制をさらに自由化し、
正職員まで解雇できるようにし、企業をさらに富ませようとして
いるのです。既に法律は制定されており、実行計画もできている
のです。         ── [消費税増税を考える/17]

≪画像および関連情報≫
 ●解雇特区をごり押しする政治の論理と常識への疑念
  ―――――――――――――――――――――――――――
  このコラムが掲載されるときには、いったいどんな議論がな
  されているのだろうか?キーワードは「解雇」。それとペア
  で登場しているのが成長であり、流動性。はい、そうです。
  臨時国会が開幕してから、毎日のように賛成派と反対派の、
  全くかみ合わない議論が報道された「雇用特区」構想につい
  てである。雇用特区を巡っては一部メディアの記者は、「こ
  んなものを許したら、『遅刻をすれば解雇』といった条件で
  契約し、実際に遅刻をすると解雇できる」と攻撃。民主党の
  海江田万里代表も、「働く者を使い捨てにする企業を大量生
  産する『解雇特区』など断じて認められない」と、“解雇”
  にこだわった。一方、安倍晋三首相は「『解雇特区』といっ
  たレッテル張りは事実誤認で、不適切。基本方針は成熟産業
  から成長産業への失業なき円滑な人材移動」と反論。自民党
  副幹事長の河野太郎衆院議員もブログで、「解雇のルールを
  明確にすれば新産業の育成や海外企業の活動がすすむ。『強
  い立場の企業が弱い労働者に不利な条件を強要する』と懸念
  する声があるが限定された専門的な人材が対象であり、こう
  した人材がそもそも弱い立場の労働者だろうか」と記してい
  る。              http://nkbp.jp/1dFpaqJ
  ―――――――――――――――――――――――――――

教皇フランシスコ.jpg
教皇フランシスコ
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2014年01月30日

●「竹中平蔵氏は新自由主義者か否か」(EJ第3720号)

 竹中平蔵氏は新自由主義者である──ここまでそういうトーン
で書いてきていますが、田原総一朗氏は本人に直接そのことを聞
いているので、ご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 田原:竹中さんの悪口というか、必ず竹中さんを批判するのは
    「あの人は新自由主義者である」と。ね。新自由主義と
    は何か。要するに競争だと。ね、新自由主義の人は競争
    なんだよ。競争ばかりやっていると格差がどんどん出て
    くる。しかも勝てる人はごくわずか。そして敗者がいっ
    ぱい出てくる。(中略)しかも、新自由主義者は「小さ
    い政府」といって、あまりマーケットに政府が介入しな
    い。もっといえば、規制とか、あるいは社会保障とか、
    自己責任でやれという考え方であると。まさしく竹中さ
    んは新自由主義者だとね。この辺、どうですか。
 竹中:よく言うんですけど、小さな政府か大きな政府か、新自
    由主義者かどうかっていう「レッテル貼り」はですね。
 田原:レッテル貼り。
 竹中:これはもう、典型的なレッテル貼りですよ。レッテル貼
    りというのは議論において何を意味するか・・。「問答
    無用」ということを意味するんですよね。小泉さんに対
    しても議論がありましたけども、「小泉さん経済わかっ
    ていない」と一度レッテルを貼ったら、いくら反論して
    も、もう問答無用なのです。中身の話、何にもしていな
    いんですよ。だいたい、「新自由主義」って何言ってい
    るかよくわからないですよね。
 田原:強いて言えばね、竹中さん、レーガンやサッチャーがや
    ったような、ハイエクに学んだような政策をとり入れて
    これがまあ、新自由主義といわれて───。
 竹中:ところが小泉内閣ではそんなことやっていないのです。
    「小さな政府」って言いましたけども、小泉内閣で政府
    小さくなりましたか?なってませんよ。(中略)「小さ
    な政府にして混乱が起きた」とか、「格差を生んだ」と
    か、まったく事実と反します。それと「規制緩和ばかり
    やった」というのも全然違います。例えば、私が不良債
    権を処理したとき、何をやったかというと、実は「規制
    強化」したんです。規制を強化しないと、不良債権処理
    はできませんから。
  ──田原総一朗×竹中平蔵/『ちょっと待って!/竹中先生
   アベノミクスは本当に間違ってませんね?/ワニブックス
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中平蔵氏はとても話術は上手です。このやり取りは田原さん
の突っ込みが甘いせいもあって、竹中氏は巧みに問題をすり替え
て話しています。質問としては、新自由主義者かどうかではなく
「供給側を強化すればどうして経済が活性化するのか」という点
に絞って問い詰めたら、竹中氏の経済に関する考え方をもっと鮮
明にできたと思うのです。
 田原総一朗氏は「法人税減税」についても、竹中氏に聞いてい
る部分があるので、引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 田原:(法人税減税について)でも、国民はあまりピンと来て
    いない。何で全国民から消費税を取るのに、企業は減税
    なんだって。しかも、日本企業の約7割が法人税を払っ
    ていないともいわれ、法人税減税の効果を疑問視する声
    も少なくありません。どうですか?
 竹中:それは違うと思いますよ。法人税を下げて企業が強くな
    ったら、庶民にメリットがあるんです。企業が収益を上
    げ、日本の経済が上向きになったら、必ず、庶民にも恩
    恵が来ますよ。結局、「生活が一番」といって子ども手
    当をバラまいても、庶民のためにならないんです。庶民
    の生活はそんなもんで良くならないんですよ。
         ──田原総一朗×竹中平蔵共著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで竹中氏は「トリクルダウン理論」、すなわち「おこぼれ
理論」を展開しています。この言葉が竹中氏が何よりも新自由主
義者であることを物語っています。政治は「国民の生活が第一」
としている小沢一郎生活の党代表の哲学と100%相容れないこ
とがこれでわかります。
 竹中氏の考え方は、大企業が潤えば、それはやがて中小企業に
波及し、一般庶民にも利益をもたらすというトリクルダウン理論
を臆面もなく主張しています。竹中氏は、教皇フランシスコの福
音をどのように受け止めるのでしょうか。
 経済評論家の渡邊哲也氏によると、産業競争力会議に、帰属す
る地域のない人々──グローバリストが多く集まっているといっ
ています。竹中氏も三木谷氏もそのグローバリストの1人である
というのです。共産主義者、社会主義者、新自由主義者は、この
国家を持たない、帰属地を持たないという点で一致しています。
 彼らは、国家・国民に根ざすことなく、国にあれこれ注文をつ
けるところがあるのです。「日本はガラパゴス化している」とか
「日本は構造改革が遅れている」とか「日本の仕組みは古い」な
どと注文をつけるのです。
 しかし、経済政策というものは、国家・国民に根ざして考える
べきなのです。日本経済は良い悪いはあるにしても、多様性に根
ざしています。中小零細企業が多数あって、産業分野も分散して
いるという特性があります。これを底力として、日本は豊かな国
になったのです。
 しかし、グローバリストは、そういう日本の特性である多様性
を無視して、特区だ、競争だといって、それを否定し、国の仕組
みを変えようとするのです。安倍政権は、こういうグローバリス
トたちに、産業構造、企業構造、生産構造の変革を委ねているこ
とになります。      ── [消費税増税を考える/18]

≪画像および関連情報≫
 ●成長戦略改定を議論 政府の産業競争力会議/1月20日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  政府は1月20日午前、年明け初めての産業競争力会議(議
  長・安倍晋三首相)を首相官邸で開き、6月の成長戦略の改
  定に向けた議論を始めた。同日に決める検討方針には、法人
  実効税率の引き下げに向け、法人税を納める企業を増やす課
  税ベースの拡大などを明記。専業主婦を優遇する配偶者控除
  の見直しの検討などを掲げ、女性の就労促進策も柱の一つに
  据える。検討方針には雇用・人材、医療・介護、農業を中心
  に、昨年の成長戦略「日本再興戦略」で踏み込み不足との指
  摘が出た項目が並ぶ。関係する省庁や団体などの抵抗が強い
  テーマが多く、安倍政権がどこまで実行できるかが焦点。民
  間議員を交えて具体策を練る。医療分野では、複数の医療法
  人や社会福祉法人をまとめて運営できる制度の創設などを議
  論。持ち株会社の仕組みの解禁で病院や介護施設を一体運営
  できれば、経営の効率化が見込める。環太平洋経済連携協定
  (TPP)交渉に関する農業分野では、農協や農業生産法人
  の改革も対象だ。競争力会議では、今後3年間で実施する成
  長戦略の実行計画もまとめ、21日に閣議決定する。産業の
  新陳代謝を促す企業支援や、地域を限って規制を緩める国家
  戦略特区などに関する具体的な内容や実施時期、担当閣僚を
  明記。計画の実行に向け、24日召集の通常国会で約30の
  関連法案の成立をめざす。毎年1月に計画の達成具合や進捗
  状況を確認する。           ──日本経済新聞
                http://s.nikkei.com/MeAAwn
  ―――――――――――――――――――――――――――

竹中平蔵氏と田原総一朗氏.jpg
竹中 平蔵氏と田原 総一朗氏
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2014年01月31日

●「2014年はマイナス成長になる」(EJ第3721号)

 共同通信社の実施した世論調査によると、安倍政権の支持率は
55.9 %と相変わらず高止まりしています。この高支持率は何
といってもアベノミクスによる円安/株高が支えていると思われ
ます。つまり、安倍政権の支持率は株価が支えているといっても
過言ではないのです。
 問題は、どうして株価が上昇したかということについて、安倍
首相自身がどこまで正しく理解しているかです。なぜなら、その
理解のレベルによって、今後起こり得る株価の下落とともに政権
の支持率も急降下しかねないからです。
 懸念されるのは、安倍首相の施政方針演説の中身があまりにも
自画自賛に終始し、楽観的であり、空疎であったからです。それ
に加えて懸念されることは、週明けから連続して日経平均株価が
下落していることです。世界同時株安や新興国の通貨下落が原因
で、円高/株安が起きているのです。
 これは、中国が震源地であり、場合によっては中国発の金融破
綻が起きる可能性があります。そのひとつのきっかけが、シャド
ウ・バンキング(影の銀行)を通じて販売された金融商品の一つ
が、本日31日に満期を迎え、デフォルトを引き起こす可能性が
あるからです。中国は社会主義の国ですから、何とか防ごうとす
るでしょうが、これが蟻の一穴になって、中国経済の信用不安が
噴出する恐れがあるのです。
 多くの専門家が中国経済の破綻リスクについて警鐘を鳴らして
いますが、中国経済の的確な分析で知られる企業文化研究所理事
長の勝又壽良氏は、最近の中国経済について、次の指摘を行って
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国経済はすでに借金まみれになっており、影の銀行問題が破
 裂すれば、一巻の終わりだ。生産能力が過剰な企業で債務リス
 クが発生する確率は極めて高く、「沈没」の危険に見舞われて
 いることが、白日の下にさらされつつある。
         ──2014年1月27日付、「夕刊フジ」
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういうときに日本は、消費税の税率を5%〜8%に上げるこ
とを決めています。実はこれについてもうひとつ不安な予測があ
るのです。それは、早大ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀
雄氏の分析によるものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費増税の影響力を考えなくても、2014年度はマイナス成
 長になる。               ──野口悠紀雄氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 2013年の7〜9月期の実質GDP成長率は1.1 %でした
が、これには公共投資の寄与度が1.2 %あり、公共投資に支え
られたものであったのです。
 ところが、2014年度の公共投資が前年比マイナスになるの
です。「15ヶ月予算」で見ると、2014年度の公共事業予算
は前年度よりも3兆円下回ります。もちろん政府もそのことは承
知しているのですが、アベノミクスの効果を実際よりも高く判断
し、設備投資や輸出について、野口氏の言葉を借りると、「非現
実的なほど高い成長率が仮定されている」といっているのです。
 もし、こんなときに消費税の増税をすると、日本経済は「奈落
の底に落ちる」ことになります。なぜなら、税率を8%に引き上
げると、名目GDPは14.7 兆円減少してしまうのです。これ
は年率に換算すると、マイナス3%に匹敵します。
 確かにアベノミクスという名の金融緩和によって、株価は引き
上げられ、円安によって輸出企業の利益を一時的に膨らませるこ
とに成功していますが、輸出数量は2.6 %減少しています。こ
れでは設備投資は増大しないし、雇用も賃金も増えないのです。
 そもそもアベノミクスによってなぜ株価は上昇したのでしょう
か。植草一秀氏によると、安倍首相は「1つの正しいことと2つ
の幸運」に恵まれたといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.前任者の経済運営が最悪であったという幸運
   2.経済運営の基本姿勢は正しかったという評価
   3.米国長期金利が上昇波動を描いたという幸運
                      ──植草一秀著
   『日本経済撃墜/恐怖の政策逆噴射』から/ビジネス社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の幸運は、前任者である野田政権の政権運営、とくに経済
運営が最悪であったことです。こういう前任者に恵まれると、後
任者はトクをします。まして安倍首相は2回目の首相就任であり
政権運営に慣れており、それだけでも大きな差がついてしまった
のです。財務省に洗脳され、国民を裏切り、やる必要のない消費
税増税を成し遂げることに全力を上げたのが菅、野田政権だった
のです。これには自民党にも大きな責任があります。
 ただ、安倍首相が就任直後に日銀総裁を黒田総裁に交代させ、
大胆な金融政策(第1の矢)──インフレ目標を導入し、デフレ
脱却を目指したことと、さらに大型補正予算編成を推進し、その
金融政策に合わせて財政政策を実施に移したこと(第2の矢)は
評価に値します。「何よりも経済を優先する」姿勢が明確に見え
たからです。
 しかし、これは国の経済立て直しの政策としては、いろはのい
なのです。その当たり前のことをこれまでの政府は中途半端にし
かやれなかったのを安倍政権はセオリー通りやったことが評価さ
れるのです。
 ただ、金融緩和については、これまでの政権でもかなりの量を
日銀はやっているのですが、成果が出ていないのです。それがな
ぜ今回はうまくいったのでしょうか。それは、安倍氏の力の及ば
ないところで、米国の長期金利が上昇波動を描くという幸運に恵
まれたからです。これが第2の幸運ですが、詳しくは来週のEJ
で説明します。      ── [消費税増税を考える/19]

≪画像および関連情報≫
 ●安倍首相の施政方針演説/2014年1月24日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  第186通常国会が24日召集され、安倍晋三首相は午後の
  衆参両院本会議で施政方針演説を行った。今国会を「好循環
  実現国会」と位置付け、4月の消費税増税対策について「経
  済対策により持続的な経済成長を確保する」と力説。経済再
  生と財政再建の両立させる決意を示した。第2次安倍政権発
  足後の国会演説としては「集団的自衛権」の文言を初めて明
  確に使用するなど、首相が意欲を示す「積極的平和主義」の
  意義も強調した。首相は演説で成長戦略について、成長著し
  い新興国へのインフラ投資に官民一体で取り組む「インフラ
  輸出機構」創設を表明。イノベーション(技術革新)にも力
  を入れるため、新たな研究開発法人制度を新設、「経済社会
  を一変させる挑戦的な研究開発を支援する」と打ち出した。
  外交・安全保障政策では「積極的平和主義」を掲げ、日米同
  盟を基軸に世界の平和と安定に貢献する方針を強調。首脳会
  談を拒む中国や韓国とは関係改善に努める考えを示した。中
  国による防空識別圏の設定や尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺
  の領海侵犯には「力による現状変更の試みは決して受け入れ
  ることはできない」と牽制(けんせい)した。
                 http://on-msn.com/1f5JqUW
  ―――――――――――――――――――――――――――

野口悠紀雄氏.jpg
野口 悠紀雄氏
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2014年02月03日

●「米長期金利上昇は円安株高の要因」(EJ第3722号)

 安倍晋三という政治家は極めて運の強い人であると思います。
だいいち病気のためとはいえ、途中で政権を投げ出した政治家が
再び総理大臣に復帰すること自体が強運の証ですし、総理に復帰
してからも強運に恵まれ続けています。
 安倍政権は、いわゆるアベノミクスによる株価回復に支えられ
ています。といってもアベノミクス自体が株価上昇をもたらした
わけではないのです。アベノミクスはあくまで副次的要因であり
原因は別のところにあります。
 添付ファイルを見てください。このグラフは、植草一秀氏の著
書に掲載されている2010年から2013年の「円・ドルレー
トと日経平均株価」を表したものです。上のグラフは「円・ドル
レート」、下のグラフは「日経平均株価」です。2つのグラフは
まるで同じものであるかのようによく似ています。これによって
わかることは、次のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  円・ドルレートが円安になると、それに応じて株高になる
―――――――――――――――――――――――――――――
 2つのグラフによると、2012年11月から2013年5月
にかけて、円は24円安くなっていますが、それに伴い日経平均
株価は6963円上昇しているのです。
 しかし、問題は、何によって「円安/株高」が引き起こされる
かです。これについて植草一秀氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 先走って結論を出すが、近年の円ドルレート変動の最大の要因
 は米国長期金利の変動である。(中略)米国長期金利が低下の
 トレンドから上昇のトレンドに転じることは、すなわち、円ド
 ルレートのトレンドが、円高=ドル安から円安=ドル高に転じ
 ることを意味することになる。この関係を捉えることが何より
 も重要であった。2012年秋以降の日本の金融市場での激変
 すなわち円安株高大変動の伏線を形成したのが、実は米国長期
 金利の方向転換だったのだ。この下地があるところに、追加的
 な要因が加わった。それが安倍政権の誕生に伴う日本の金融緩
 和政策の推進、巷に言うところの、アベノミクス第一の失であ
 る。安倍政権が誕生し、追加的な金融緩和措置が実行される。
 この影響で日本の長期金利が低下して株安が加速される。その
 時、為替に連動する日本株価は大幅に上昇する。
                      ──植草一秀著
     『日本経済撃墜/恐怖の政策逆噴射』/ビジネス社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国の長期金利は、2012年7月に「1.38 %」になりま
したが、植草氏はこれをもって米国の長期金利がボトムに達し、
以後相場が堅調に上昇する可能性があると判断したのです。
 植草氏は、新政権による金融緩和政策がそれに加われば、「円
安/株高」になる可能性は十分あると、2012年10月29日
付の自身のレポートで予測しています。この時点では、野田首相
と安倍総裁の党首討論で、年内選挙は決まっていたのです。
 しかし、2013年5月から6月にかけて、10円幅の円高と
3182円の株安が突然に生じたのです。安倍政権としては7月
21日に参院選を控えていたので、その直前の「円高/株安」は
最悪のタイミングだったといえます。
 原因は、2013年5月の米国バーナンキFRB議長の「金融
緩和縮小」の発言だったのです。これに中国の経済状況の不振が
加わり、「円高/株安」は一挙に加速したのです。これを機にア
ベノミクスに疑問を持つ経済学者たちが一斉に安倍政権を批判し
はじめたのです。安倍政権にとって最大の危機の到来です。
 しかし、安倍政権にとって思わぬ幸運が訪れたのです。バーナ
ンキ議長の金融緩和縮小の発言が、日経平均を押し下げる原因と
なったのですが、その結果、米国長期金利が上昇に転じて、再び
「円安/株高」のトレンドに戻ったからです。これについて、植
草氏は、次のように解説しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 バーナンキ議長はひるむことなく量的緩和政策縮小の方針を示
 し続けた。そこにはバナンキ流のしたたかな計算があったと思
 われる。いずれ金融緩和政策は縮小せざるを得ない。そうであ
 るなら、ある程度早めに、その方針を打ち出し、金融市場が時
 間をかけて重大な政策転換情報を消化できる環境を整える。極
 めて賢明かつ巧みな政策運営手法が採用されたものと評価する
 べきだと思う。この、米国の金融政策運営が安倍首相へのビッ
 グプレゼントになった。米国金融媛和政策の縮小方針提示が米
 国長期金利上昇の原因になり、この金利上昇がドル高=円安を
 もたらしたのだ。このドル高=円安が急落した日本株価を一気
 に引き上げた。そして、その株価反発のおかげで、安倍政権は
 参院選勝利を獲得したのである。──植草一秀著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は、これとほとんど同じトレンドが第1次安倍政権誕生の前
後にもあったのです。小泉政権の末期のことですが、2005年
1月から12月にかけて19円幅の円安が生じたのです。それに
連動して日系平均株価が6738円上昇したのです。
 ところが、2006年の前半に円・ドルレートは11.5 円の
幅で円高になり、日経平均株価は3345円も急落したのです。
その原因は、福井俊彦日銀総裁が金融緩和政策を縮小したことに
あります。福井日銀総裁としては、2005年から景気回復基調
が明確になっていたので、もはや有事ではないと判断して、金融
緩和政策を縮小したのです。実際には経済、為替、株価はそれに
よって一時大きく落ち込んだものの、短期間で収束し、元のトレ
ンドに復帰したのです。ちょうどそのタイミングの2006年9
月26日に第1次安倍政権が発足したのです。
 このときの日銀の対応について竹中平蔵氏は間違いであるとし
て批判していますが、植草氏は日銀の判断は間違いではないとす
る立場を取っています。  ── [消費税増税を考える/20]

≪画像および関連情報≫
 ●福井日銀総裁(当時)の金融緩和政策縮小について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  福井俊彦日銀総裁(当時)は、前任者速水優の路線を踏襲す
  るのではないかと予想する向きもあったが、そうした予想に
  反して金融の量的緩和政策をより積極的に進めた。その後、
  日本経済ことに輸出部門は2004年から回復に向かったが
  本格的なデフレ脱却にはいたらなかった。しかしながら20
  06年3月9日には、5年超続いた金融の量的緩和政策を解
  除、同年7月には実質的に約8年間に及んだゼロ金利政策か
  らも脱し、短期誘導金利を0.25 %(ロンバート金利は、
  0.4 %)へ引き上げた。3月9日の決定は意外と受け止め
  られると共に、ここまで回復してきた日本経済に冷や水を浴
  びせかけるのではないかと危惧する声が出た。また、当時第
  3次小泉内閣において官房長官であった安倍晋三は、民主党
  の野田内閣の下で2012年12月16日に行われた第46
  回衆議院議員選挙を前に自由民主党総裁として選挙運動中、
  この決定をした福井が誤っていたと名指しで批判、安倍自身
  は反対であったことを明らかにした。
        ──ウィキペディア  http://bit.ly/1eFAMLA
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/              ──植草一秀著
     『日本経済撃墜/恐怖の政策逆噴射』/ビジネス社刊

円・ドルレートと日経平均株価(2011〜2013).jpg
円・ドルレートと日経平均株価(2011〜2013)
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2014年02月04日

●「幸運に恵まれていたアベノミクス」(EJ第3723号)

 アベノミクスが成功しつつあるように見えるのは、いくつもの
幸運が重なっているからです。何といっても最大の幸運であった
のは、2012年秋以降に米国の長期金利の低下が底を打って、
上昇に転じた時期に政権が安倍政権に交代し、アベノミクスが実
施され、異次元の金融緩和が行われたことです。
 アベノミクスがスタートして最初の5ヶ月は非常に順調だった
のです。しかし、2013年5月に米バーナンキFRB議長によ
る金融緩和縮小宣言によって、状況は一変して円高になり、日経
平均は一時1000円近く下落したのです。
 しかし、これが原因で米国の長期金利は上昇基調になり、日本
経済は前のトレンドに復帰したのです。これは安倍政権にとって
第2の幸運であったといえます。この株価上昇ムードに乗って、
安倍政権は参院選でも圧勝したからです。
 安倍首相はその後、2020年のオリンピックの招致にも成功
し、その強運ぶりを見せつけることになります。その勢いに乗っ
たのか、安倍首相は2013年10月1日に、2014年4月か
らの消費税増税を決断し、公表しています。経済の再生に自信を
持ったからこそこの決断をしたと思われます。
 ここまでは、植草一秀氏の主張をベースに述べてきていますが
植草氏と同じように安倍首相は幸運であったといっている人がい
ます。それは、野村総合研究所主席研究員でチーフエコノミスト
のリチャード・クー氏です。クー氏は、久しぶりに昨年末に著書
を上梓して、そこでアベノミクスについて論じています。
 EJでは、リチャード・クー氏の経済論を2回にわたって取り
上げています。クー氏は昨年末の近著において、アベノミクスの
最初の5ヶ月間を「ハネムーン」と呼び、そこには幸運なコンビ
ネーションが働いているといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  一部の人たちはこの変化を見て、アベノミクスは理論通りに
 機能したと発言しているが、実際にその内容を詳しく見てみる
 と、実は非常に幸運なコンビネーションが作用して、こういう
 世界がもたらされていた。この円安と株高を演出したのは日本
 の投資家ではなく、海外の投資家だったからだ。実際に、20
 12年12月から2013年10月までの期間で外国人投資家
 は12.2 兆円もネットで日本株を買い越したが、日本の投資
 家は個人が522兆円の売り越しで、金融機関も6.5 兆円の
 売り越しになっているのである。
  海外の投資家、特にニューヨークのヘッジファンドが、アベ
 ノミクスの発表を受けて巨額な資金を日本に移してきた。彼ら
 は円を売って日本株を買うという大きな行動に出たが、その間
 日本経済のことをよく知っている国内の投資家、特に機関投資
 家の大半はそれに乗らず、国内の債券市場にずっととどまって
 いた。日本をよくわかっている投資家は債券市場にいて、海外
 の投資家は円売り、株買いに向かったのである。
                  ──リチャード・クー著
       『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 クー氏の指摘は、現在日経平均を押し上げているのは、海外の
投資家であって、日本の投資家、それも銀行や生保会社などの機
関投資家の大半はそれに乗らず、国内の債券市場にとどまってい
るというのです。これなら、長期金利は低位に安定し、上がるは
ずがないのです。
 一方、昨年末まで海外の投資家、とくにニューヨークのヘッジ
ファンドの連中は、ユーロ危機に賭けていたのです。つまりユー
ロが崩壊するという方向に賭けていたわけです。英米のマスコミ
が次のニュース一斉に伝えていたからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       ユーロの崩壊は時間の問題である
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、マリオ・ドラギ欧州中銀総裁は「必要な措置は何でも
取る」と明言し、ユーロの崩壊は起こらなかったのです。そのと
き彼らは日本には何の関心もなかったのですが、安倍首相の次の
は発言に注目したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 インフレ・ターゲットを設定して、一気に大胆な金融緩和を
 実施する。              ──安倍晋三首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 ヘッジファンドたちは、ユーロの国債市場で追い詰められてお
り、起死回生を狙って安倍首相のこの発言に飛びついたのです。
日本の首相がこれほど明確に「インフレ・ターゲット」を口にす
ることはなかったし、何かが変わると期待したからです。
 クー氏は、「もし、彼らがユーロで追い詰められていなかった
ら、あれほどアベノミクスに反応しなかったであろう」といって
います。彼らは切羽詰まっていたのです。そして彼らは円を売り
日本の株を買いまくったのです。これによって、「円安/株高」
になり、ハネムーンがもたらされたというわけです。
 しかし、ここにきて市場に異変が起きています。1月27日か
らの週は、日経平均は凄まじい乱高下を繰り返しています。それ
に外人投資家の売買動向がおかしいのです。昨年までは13兆円
の「買い越し」だったのに、1月に入ると、3週連続で「売り越
し」ています。投資顧問会社のエフピーネットの松島修代代表は
次のようにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 短期売買で利益を得ようとする投資家の売りだったら、相場の
 持ち直しはあるでしょうが、年金基金など長期投資を前提にす
 る海外ファンドの売りだとしたら、海外勢が本格的に日本市場
 から逃げ出し始めたと判断できます。
       ──2014年1月31日発行「日刊ゲンダイ」
―――――――――――――――――――――――――――――
             ── [消費税増税を考える/21]

≪画像および関連情報≫
 ●相場牽引力を失っているアベノミクス/斎藤洋三氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  名目国内総生産(GDP)が470―480兆円程度で横ば
  いに推移する中で、需要と潜在的な供給力の差を示す需給ギ
  ャップ(GDPギャップ)は、内閣府の発表によれば、13
  年7―9月期でマイナス1.6%(名目年率8兆円程度の需
  要不足)と、09年1―3月期のマイナス8.1%(同40
  兆円程度)から大幅に改善しているが、需要不足による物価
  下落の圧力が依然根強いことを物語っている。このような需
  給ギャップは主に国債増発による公共事業により対処されて
  きたことから、国債と借入金などを合計した国の債務残高は
  90年代後半の400兆円台から膨れ上がり、14年3月末
  には1100兆円を超える見込みだ。一方、内閣府の「国民
  生活に関する世論調査」(13年6月調査)によると、現在
  の生活に満足している人は前年の67.3%から71.0%
  へ上昇し、95年以来の70%越えとなった。また、14年
  の春季労使交渉が始まり、経団連は6年ぶりにベースアップ
  を容認する見込みだ。これらの点はアベノミクス効果が国民
  生活へ浸透しつつある現れと高く評価する向きがある。しか
  し、国税庁が実施している「民間給与実態統計調査」(12
  年分)によれば1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与
  は408万円と、97年の467万円以来の減少傾向に大き
  な変化は見られない。さらに、厚生労働省の「毎月勤労統計
  調査」によれば、11月の実質賃金指数は、前年比マイナス
  1.4%と5カ月連続で低下している。消費者物価の上昇に
  対して、実質賃金そして家計は一段と圧迫されていることを
  示している。           http://bit.ly/1j0JCe1
  ―――――――――――――――――――――――――――

リチャード・クー氏の近著.jpg
リチャード・クー氏の近著
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2014年02月05日

●「米FRBの量的緩和縮小の影響度」(EJ第3724号)

 米FRBバーナンキ議長が、1月31日、2期8年の任期を終
えて退任しました。バーナンキ議長は、2008年9月のリーマ
ンショックが起きたさい、異例ともいえる大規模な量的金融緩和
政策を実施して市場に大量の資金を供給し、それを継続したので
す。その結果、現在米国経済は順調に回復しつつあり、立派な仕
事をやり遂げての退任といえます。
 もし、あのときバーナンキ議長が量的緩和をしていなければ、
米国経済は2度目の大恐慌に苦しんでいたはずです。なぜなら、
量的緩和には「副作用が大き過ぎる」とか「効果がない」とか反
対する経済学者が多いからです。しかし、それが間違いであるこ
とはバーナンキ議長の仕事の結果が示しています。
 それに加えてバーナンキ議長は、2012年1月に「インフレ
目標」を導入しています。このことが、黒田日銀総裁がインフレ
目標2%の導入と、異次元の金融緩和政策をやるさいの格好のお
手本になったことは間違いないと思われます。
 インフレ目標は、わかりにくい中央銀行の金融政策をわかりや
すく対外的に説明し、中央銀行が市場とコミュニケーションを取
る手段です。前任の白川日銀総裁はインフレ目標に近い「目途」
などを導入したものの、それが出来なかったときの責任を曖昧に
し、明確なかたちでのインフレ目標は導入しなかったので、デフ
レは深刻化するばかりだったのです。
 しかし、量的金融緩和政策はあくまで恐慌になることを防ぐた
めの「有事の対応」です。量的金融緩和政策の目標は失業率を低
下させることにあります。FRB議長は、失業率を下げる責任を
負っているのです。リーマンショック直後の米国の失業率は10
%を超えていましたが、バーナンキ議長の適切な政策実行によっ
て徐々に下がり、現在では6.7 %になっています。量的緩和に
よって景気が良くなり、失業率が下がったのです。
 あくまで「有事対応」である量的金融緩和政策は、目的が達成
できたときは、それを終了させる必要があります。これが「出口
戦略」です。バーナンキ議長は、2014年1月末にFRB議長
を退任することになっており、出口戦略を実施するためには、あ
る程度時間をかけてやる必要があったのです。そこで2013年
5月に、量的金融緩和を縮小する方針を明らかにしたのです。
 これによってアベノミクスの「ハネムーン」が終り、最大の危
機を迎えることになったことは既に述べた通りです。しかし、米
FRBがその後量的金融緩和継続を宣言したことや、米国の長期
金利の上昇という幸運に恵まれ、アベノミクスは「円安/株高」
のトレンドに回復したのです。
 しかしながら、その後の経済指標の改善により、米FRBは、
昨年末に今度は明確に量的金融緩和縮小を実行し、今年の2月か
らは証券買い入れ額をさらに100億ドル(約1兆円)減らし、
月額650億ドルとすることを決めたのです。自分の退任に合わ
せて、金融政策の正常化──ノーマライゼイションを行ったこと
になります。
 ところが、この米国の量的緩和縮小は日本だけでなく、アルゼ
ンチンやトルコなどの経常赤字を抱える新興国に大きな打撃を与
えたのです。緩和縮小によってリスクを避けたい投資マネーが新
興国から一斉に流出しているからです。
 これに対してインド準備銀行(中央銀行)のラジャン総裁は、
粛々と緩和縮小を進めるとのFRBの方針に対して、次のように
強い不満を述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 先進国が危機対応を勝手に収束して、「あとはそれぞれで」
 というのでは・・・。  ──インド準備銀行ラジャン総裁
           2014年2月2日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 これについては、2月22日〜23日にシドニーで開催される
20ヶ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で議題に取
り上げられ、議論されることになると思います。
 2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマ
ン・プリンストン大学教授は、近著のなかで、このバーナンキ議
長の量的緩和縮小の実施を次のように批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2013年6月19日のFОMC(米連邦公開市場委員会)後
 に行った記者会見で、バーナンキは13年度内の緩和縮小に言
 及し、これがタカ派的な発言と受け止められて、新興国株の下
 落を招くことになった。雇用などの状況を鑑みれば、日本は当
 然のこと、アメリカも出口戦略を口にする段階ではない。まだ
 まだ出口の時期は先である。なぜいまバーナンキが非伝統的な
 金融政策をとめたい、という気持ちになるのか、私には見当が
 つかない。長期の国債を保有しているならば、むしろ、それを
 売ったときの悪影響を心配すべきではないか。いま買い入れて
 いる長期国債は満期まで保持し、期限が来たら清算すればよい
 だけだ。現時点ではその可能性はかなり低いが、もしインフレ
 率が高くなりすぎる事態を心配するのなら、短期金利を上げれ
 ばよい。中央銀行が多額の長期国債を保有することと、短期金
 利を上げることは矛盾しない。政策的にはそれが最善の戦略と
 いえる。     ──ポール・クルーグマン著/大野和基訳
     『そして日本経済が世界の希望になる』/PHP新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国の量的緩和縮小によって新興国の通貨安などの不安が広が
ると、1997年のアジア通貨危機に近い状態になるのではない
かとの不安があります。もっとも当時と比べると、新興国はより
多くの外貨準備を持つようになってきているので、多少のショッ
クには耐えられるとの指摘もありますが、予断を許さない状況に
なりつつあります。とくに日本は4月から消費税増税が控えてお
り、1997年の橋本内閣の失敗の轍を再び踏むことが心配され
ます。経済の状況は、1997年のときと非常によく似てきてい
るからです。       ── [消費税増税を考える/22]

≪画像および関連情報≫
 ●バーナンキ議長が新興国市場に残した暗黙の助言
  ―――――――――――――――――――――――――――
  [29日 ロイター]──「君たちは自力で頑張れ」──。
  退任するバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長が別れ
  際、新興国市場に残したものは、最初から理解されておくべ
  き暗黙の助言だった。連邦公開市場委員会(FOMC)の結
  論として、FRBはテーパリング(緩和策の規模縮小)の継
  続を決め、月額の債券買い入れ額をさらに100億ドル削減
  するが、今まさに起きようとしている新興国危機への影響に
  ついては何の言及もなかった。FOMC声明はある程度の景
  気上向きを示す内容となったが、最近の新興国市場の混乱に
  ついては、考慮すべき要素として触れていないのだ。声明で
  は、労働市場の指標は「まちまち」だが「一層の改善」を示
  しているとして、景気は「上向いた」と指摘したほか、家計
  支出と企業の設備投資は「より急速に」伸びたとしている。
  声明の表現は、全体をみると12月と同水準か、あるいは緩
  やかな景気見通しの引き上げか、その中間のどこかに相当す
  る判断だった。反対票がなかったことも併せて考えると、F
  RBは新興国のみならず、リスク資産投資を行う人々一般に
  対してとんでもないシグナルを送っていることになる。新興
  国市場で現在起きていることに対してFRBはどうやら何も
  恐怖感を抱いていないようで、市場全般に対するマイナスの
  波及効果にも慣れ切っているようにすらみえる。それも正し
  い判断ではあるが、リスクの高い株式の買いポジションを保
  有していたら、そんなことは言われたくない。しかも現実に
  は、FOMC声明の発表後は新興国通貨と他の資産が相場下
  落に見舞われただけでなく、米株も下げ足を速めた。
                   http://bit.ly/1dW9YFZ
  ―――――――――――――――――――――――――――

ポール・クルーグマン教授の最新著.jpg
ポール・クルーグマン教授の最新著
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2014年02月06日

●「世界は異次元緩和になぜ驚いたか」(EJ第3725号)

 2013年4月4日、日銀新総裁になった黒田東彦氏は、次の
発言をしています。これが「日銀の異次元緩和」宣言です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を2年程
 度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する。このた
 め、マネタリーベースおよび長期国債・ETFの保有額を2年
 間で2倍に拡大し、長期国債買入れの平均残存期間を2倍以上
 に延長するなど、量・質ともに次元の違う金融緩和を行う。
―――――――――――――――――――――――――――――
 リチャード・クー氏によると、この黒田発言に欧米の金融関係
者は腰を抜かさんばかりに驚いたというのです。なぜ、驚いたか
というと、日本のマネタリーベースは、GDP比で見れば、福井
俊彦総裁や白川方明総裁の時代から欧米よりも遥かに大きかった
からです。これを2倍にするというのですから、仰天したわけで
す。これについては、添付ファイルのグラフを見てください。
 ここで「マネタリーベース」について、その概念を明らかにし
ておく必要があります。日銀は通貨をコントロールできるといわ
れますが、実はコントロールできるのは、マネタリーベースに限
られるのです。日銀のホームページに解説されているマネタリー
ベースの定義は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マネタリーベース=
 「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」
―――――――――――――――――――――――――――――
 マネタリーベースは「日銀が発行する現金の量」のことですが
これには「日銀当座預金」が含まれるのです。日銀当座預金とは
各銀行が日銀に預けている預金のことです。日銀は、この口座を
使って銀行に資金を供給することはできますが、それをどれだけ
使うかは銀行の判断によって決められます。マネタリーベースは
ベースマネーとか、ハイパワードマネーとも呼ばれます。
 マネタリーベースとよく似た言葉に「マネーサプライ」という
のがあります。マネーサプライとは市中に流通する現金通貨と預
金通貨の合計です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  マネーサプライ=「現金通貨の量」+「預金通貨の量」
―――――――――――――――――――――――――――――
 量的金融緩和政策というのは、デフレなどで政策金利がゼロに
しても十分な景気刺激を実施できないとき、中央銀行が銀行の日
銀当座預金の残高量を増やすことによって銀行に資金を提供し、
融資を促す政策なのです。市中銀行は、日本銀行に置いてある当
座預金残高の額に比例して融資を行うことができるので、その当
座預金の残高を増やすことで、市中のマネーサプライを増やそう
とする政策なのです。
 さて、日本のマネタリーベースに話を戻します。日本のマネタ
リーベースは、米国のFRBが量的緩和政策を「QE1」「QE
2」「QE3」の3次にわたって実施していますが、それでもG
DP比でみれば、日本の白川総裁時代の水準に遠く及んでいない
のです。日本のマネタリーベースはそれほど大きいのです。
 それでは、どうして日本のマネタリーベースはこんなに膨れ上
がったのでしょうか。
 これについて、リチャード・クー氏は、日本と欧米の文化の違
いがあるとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  なぜ日本の方が何倍もあったかというと、日本の場合は個人
 も企業も現金や銀行預金をたくさん持っているからだ。現金は
 まさにマネタリーベースそのものである。しかも、クレジット
 カードが普及している欧米に比べ、日本ではまだ現金による取
 り引きが大きなシェアを占めている。(中略)この日本と欧米
 の違いには文化的な要因も背景にあるのだと思われる。欧米、
 特にアメリカの企業は収益が増えて手元の預金や現金が増える
 と、すぐにそれをどこかの金融市場や株で運用して、高い利回
 りを取ろうとする。そういう意味では彼らは非常に貪欲なとこ
 ろがあるのである。(中略)一方、日本の企業は手元の現金や
 銀行預金が増えてもすぐそれを高利回りの金融商品で運用して
 高い収益を上げようという行動はとらない。
  一方、日本の会社は、自分たちにはきちんとした本業がある
 のだから、たまたま増えた預金の利回りを上げるために限られ
 た経営資源を資金運用に投入するわけにはいかないという判断
 をするからだ。これは決して悪い判断ではないし、本業に最優
 秀な人材を投入してきたからこそ、日本企業はここまで優れた
 製品を作ることができたのである。 ──リチャード・クー著
       『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 問題は、量的緩和政策をとって市場にジャブジャブの資金を供
給すると、なぜ景気がよくなるのでしょうか。
 このようにいうと、実際にアベノミクスがはじまってから、株
価は上昇したではないかという人がいるかもしれません。しかし
それはたまたま海外の資金が大量に日本に流れ込み、円を売って
株を買ったからであり、日本の機関投資家は債券市場にとどまっ
ていて動いていないのです。
 しかし、それも終わりを告げているようです。この原稿は3日
の昼に書いていますが、日経平均は212円下落しています。ド
ル/円は102円です。今後どのように変化するかはわかりませ
んが、これで4営業日連続で、株は下落しているのです。
 米FRBの量的緩和縮小の実施によって、海外の資金が日本か
ら引き上げられ、アベノミクスは一つの終わりを迎えている可能
性があります。だが、第2の矢と第3の矢が残っています。これ
をどのように使って、株価を押し上げる政策を展開すればよいの
か。それはすべて安倍政権の今後のやり方にかかっています。
             ── [消費税増税を考える/23]

≪画像および関連情報≫
 ●海外投資家はアベノミクスに失望?今後の行方は?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  慶應義塾大学の竹中平蔵教授が、2日に開かれた講演会で、
  「アベノミクス」に対する「海外投資家の失望感は非常に高
  まっている」ことを指摘したことが注目を集めている。先月
  31日におこなった記者会見では、2013年における消費
  者物価指数の平均が前年比0・4%上昇と5年ぶりにプラス
  に転じたことについて麻生財務相が経済政策の成果と述べ、
  また昨年12月の月例経済報告では、「デフレ」の表現が削
  除されているが、一方で4月の消費増税後に景気の動向がど
  のように変化するかは不明であり、6月に示される新たな成
  長戦略の道筋に失望感が集まれば、事態は停滞局面を迎える
  可能性もある。こうした中でアベノミクスの「期待感」がい
  つまで続くかという問いかけが現実味を帯びてきたからだ。
  竹中教授が指摘する様に、アベノミクスの行方を占う声は海
  外でも分かれている。ウォール・ストリート・ジャーナルは
  最近アベノミクスの懸念事項について貿易赤字と絡めた形で
  立て続けに記事を公開したが、その中では2013年の日本
  の貿易赤字が1985年以来で最大になったこと自体は問題
  ないものの、このことがアベノミクスと現実に格差をもたら
  していると指摘し、警戒を求める声が見られた。また、昨年
  末の靖国参拝以降、海外メディアの目がアベノミクスから、
  「危険なナショナリスト」としての安倍首相の動向へとシフ
  トしていることは、決してポジティブな材料ではない。
                   http://bit.ly/1ibj6uT
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/            リチャード・クー著
       『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店

日本のマネタリーベースと欧米比較.jpg
日本のマネタリーベースと欧米比較
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2014年02月07日

●「量的緩和策とバランスシート不況」(EJ第3726号)

 昨日のEJで見たように、福井日銀総裁時代から日銀は量的緩
和を行ってきたのです。しかし、事態は少しも改善しなかったの
です。これをいい換えると、マネタリーベースをいくら増やして
も、マネーサプライは一向に増えないということになります。マ
ネーサプライが増加しなければ、景気が良くなることはなく、イ
ンフレにもならないのです。
 さて、金融政策によって景気を刺激しようという試みが成功す
るには次の条件が成立することが必要です。
―――――――――――――――――――――――――――――
     民間部門においてつねに借り手がいること
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでいう「民間部門」とは、政府を中心とする「公共部門」
以外を意味しています。私的な諸個人や企業が民間部門です。現
代の経済機構は、この公共部門と民間部門の混合経済体制である
といえます。
 実はバブル後の日本にはこの条件が成立しないのです。「失わ
れた20年」といわれる日本の不況の原因は、この「民間部門に
借り手がいない」ことに尽きるのです。長年にわたる日本経済の
研究から、この事実を発見し、従来の経済学にない新種の不況と
もいうべき日本の不況を「バランスシート不況」と命名したのが
リチャード・クー氏なのです。リチャード・クー氏は、2003
年と2007年に上梓された次の2つの著書において、「バラン
スシート不況」について、その全貌を詳述しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ◎リチャード・クー著/楡井浩一訳(2003年)
   『デフレとバランスシート不況の経済学』/徳間書店
  ◎リチャード・クー著(2007年)
   『「陰」と「陽」の経済学/我々はどのような不況と
           戦ってきたのか』/東洋経済新報社
―――――――――――――――――――――――――――――
 EJでは、このリチャード・クー氏の経済に関する斬新なとら
え方に注目して、上記2冊の本の出版の直後に詳細な解説を行っ
ています。『デフレとバランスシート不況の経済学』については
2003年11月17日EJ第1233号〜12月12日EJ第
1251号の19回にわたって取り上げています。
 『「陰」と「陽」の経済学』については、2007年に「日本
経済回復の謎」というタイトルで45回にわたって取り上げてお
り、興味があれば参照していただきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎「日本経済回復の謎」/EJ第2092号〜EJ第2136
                   http://bit.ly/1dlg1nv
―――――――――――――――――――――――――――――
 民間部門に借り手がいるという前提に立つと、経済が過熱すれ
ば、中央銀行が金利を引き上げれば、一部の借り手はおカネを借
りて使うのをやめ、それによって需要は減少します。逆に経済が
弱ければ、中央銀行が金利を下げると、借り手が増えるので需要
を高めることができるのです。
 しかし、バブル崩壊後の日本はそういう経済学上の常識が成立
しないのです。これについてリチャード・クー氏は次のように説
明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 バブル崩壊後の日本では、借り手が激減しただけでなく、既存
 の借り手は金利がゼロになっても、借金を返済していた。全国
 的な資産価格の急落で、債務超過となり、借金の返済とバラン
 スシートの修復に悪戦苦闘していた民間は、中央銀行がいくら
 金利を引き下げても、おカネを借りようという気にならなかっ
 たのである。このような状況にあっては、金融政策はなんの効
 果も生まないのである。しかし日本内外の多くの経済学者や政
 治家たちは、これまでの経済学がバランスシート問題からくる
 民間の行動変化をこれまで取り上げてこなかったためこの点に
 気付かず、日銀がさらに流動性を供給することでマネーサプラ
 イを増やしさえすれば、経済は回復すると主張して、日銀に大
 いに圧力をかけた。だがこうした主張は、彼らが長期にわたる
 不況の本当の原因を理解していなかったという事実を示したに
 すぎない。            ──リチャード・クー著
       『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 リチャード・クー氏によると、倒産には2種類のパターンがあ
るというのです。
 1つは、その企業の製品やサービスが相当の広告費を注ぎ込ん
でも売れず、債務超過に陥るケースです。このケースの倒産は、
その企業が世に問うた製品やサービスが社会に評価されなかった
のですから、やむをえないものであるといえます。
 2つは、製品の販売と技術の開発という事業の中核は健全で、
キャッシュフローは堅調であり、利益も確保できているものの、
バブルの崩壊により、国内の資産価値が暴落したことで、企業の
バランスシート上に大きな穴が空き、純資産がマイナスになって
しまったケースです。つまりバランスシート上の倒産というケー
スです。
 この場合は、本業が健全でキャッシュフローがあるので、それ
を使ってバランスシートの修復を行うことになります。この場合
企業の最優先課題は、「利益の拡大化」ではなく、「債務の最小
化」になるのです。このケースでは、企業はたとえ金利がゼロま
で下げられてもおカネを借りようとはしなくなるはずです。「民
間部門に借り手がいない」というのはこのケースの企業のことを
指しています。これは日本だけではなく、どこの国の企業にもこ
ういうケースはあるのです。
 しかし、このようなバランスシート上の穴をふさいで修復に成
功しても、その後遺症みたいなものが残り、積極的な投資には慎
重になってしまうのです。 ── [消費税増税を考える/24]

≪画像および関連情報≫
 ●「デフレとバランスシート不況の経済学」の書評
  ―――――――――――――――――――――――――――
  過去10年にわたる日本経済低迷の根本原因は、経済全体に
  おける構造改革の欠落よりも、企業レベルにおけるバランス
  シート問題に起因するところがずっと大きい。現在、日本の
  企業の70〜80%は、ゼロ金利であるにもかかわらず、借
  金返済を急いでいる。結果として、日本の企業部門は今、銀
  行と資本市場に対し、年間総額20兆円、国内総生産(GD
  P)の4%におよぶ資金純供給者となっている。しかも、こ
  の借金返済への動きは何年も前、日本がまだインフレ状態に
  あった時に始まっているのである。さらに重要なのは、時と
  して大多数の企業が利益の最大化ではなく債務の最小化を目
  指すことがあるということになれば、従来の経済理論とその
  政策的含意を、そのような状況に対応できるように改めなけ
  ればならないということだ。経済学全体からみれば、大多数
  の企業が利益の最大化ではなく、債務の最小化に走るという
  可能性は、ケインズ理論でずっと抜け落ちていた重大な論理
  の隙間を埋めることになる。同時にこの可能性は、マネタリ
  ズムの明らかな限界を示すものである。またバランスシート
  不況論は、従来から「流動性の罠」を説明するために使用さ
  れてきたケインズの「投機的貨幣需要」論よりも、はるかに
  高い説明力を持つ。        http://bit.ly/MpYHaY
  ―――――――――――――――――――――――――――

リチャード・クー氏.jpg
リチャード・クー氏
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2014年02月10日

●「麻生副総理とリチャード・クー氏」(EJ第3727号)

 リチャード・クー氏の「バランスシート不況論」──現在の世
界の経済を説明するのに最も説得力のある経済理論であると思い
ますが、経済学者や評論家の多くは認めていないのです。
 リチャード・クー氏が盛んにテレビに登場していたのは橋本政
権と小渕政権のときだっと思います。そのとき、橋本政権の消費
増税の強行には強く批判し、構造改革についてもその問題点を鋭
く指摘していたのです。
 小渕政権以降の財政再建に凝り固まる自民党政権や民主党政権
時では、熱心に財政出動を説くクー氏を嫌って財務省がテレビ局
に圧力をかけたので、クー氏のテレビ出演機会は減り、最近では
ほとんどテレビに出演することはなくなっていたのです。
 しかし、自民党では唯一麻生太郎氏だけは、クー氏の理論を認
め、首相になる直前の幹事長時代に「サンデー・プロジェクト」
に出演し、テレビでクー氏の理論に基づく主張をさかんにしてい
たのをよく覚えています。
 司会者の「どういう理論か、幹事長、説明してください」とい
う求めに応じ、麻生氏は説明していましたが、それは紛れもなく
クー氏の経済論であったのです。それはクー氏の著作を読んでい
ないと説明できないもので、「麻生氏は経済に関してはよく勉強
している」と感心したものです。
 EJでは、リチャード・クー氏と麻生幹事長(当時)のことに
ついて書いたことがありますので、興味があれば、参照していた
だきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎2008年9月19日付、EJ第2414号
 「財政出動は果たしてバラマキか」 http://bit.ly/1fNfUDY
―――――――――――――――――――――――――――――
 リチャード・クー氏の最近刊書のオビによると、バーナンキ前
FRB議長とノーベル経済学賞受賞のクルーグマン教授、オバマ
政権時の国家経済会議(NEC)委員長のサマーズ氏も認めたと
書いてありますが、日本の経済学者や評論家から寡聞にしてクー
理論のことは聞いたことはありません。認めると、自説と整合性
がとれなくなるからだと思われます。経済学の世界は、そういう
ドロドロしたところがあるのです。
 リチャード・クー氏自身も最近刊の著書で、麻生氏のことを次
のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この民間がGDP比で8%も貯蓄している事実を知らない内外
 の大半のエコノミストや評論家は、これまでも巨額の財政出動
 で日本経済は回復しなかったのに、また同じことをやるのかと
 この政策を非難しているが、実際は、政府がこのような政策を
 とってきたからこそ、民間がこれだけ貯蓄に走ったにもかかわ
 らず、日本経済は大恐慌に陥らずに済んだのである。麻生太郎
 財務大臣はこの経済の仕組みをよく理解している数少ない政治
 家の一人である。安倍首相から経済は頼むと言われて、彼が財
 務大臣を務めているのはそういう理由からだ。麻生氏は日本の
 民間がゼロ金利下でも巨額な貯蓄をしていることをよくわかっ
 ているから、彼自身が総理大臣だった時も今回のアベノミクス
 でも、まず財政出動を打ち出したのである。
                  ──リチャード・クー著
       『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでクー氏のいう「民間がGDP比で8%も貯蓄している事
実」が重要なのです。このことは新聞などにも出ないし、発言す
る人はあまりいませんが、事実なのです。ここでいう民間には企
業と個人を意味しています。
 ゼロ金利なのに民間が巨額の貯蓄をしているのです。金利がい
くら低くても民間がおカネを借りようとしないのです。それどこ
ろか、企業は借金の返済に注力したのです。バランスシートを修
復しようとしたわけです。
 これは、民間の所得循環からおカネが8%ずつ漏れていること
を意味しており、こういうときは政府がその分を政府が借りて、
積極的に使わないと、不況はますます深刻になるばかりです。積
極的な財政出動が必要だということです。
 橋本政権以降、小渕、森、小泉、安倍、福田、麻生と自民党6
政権が続いたのですが、小渕、麻生の2政権を除いて、財政再建
の重しに負けて中途半端な財政出動に終始し、不況を引きずって
しまったのです。これが日本のデフレの原因です。
 第1次安倍政権では、構造改革一辺倒で財政がおろそかになり
経済は復活しなかったのです。しかし、今回は「第2の矢」とし
て、財政出動を入れているのは正解です。
 実は、日本の企業の場合、2005年頃までに借金返済は終わ
り、バランスシートはきれいになっていたはずです。にもかかわ
らず、人類史上最低の金利でも、企業はおカネを借りようとしな
かったのです。その理由としては次の2つのことがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.借金に対する一種のトラウマがある
     2.成熟した日本経済に投資機会はない
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の「借金に対する一種のトラウマがある」とは、あんな嫌
な思いは二度としたくないという借金に対する心理的な嫌悪感で
す。物理的に借りたくないということではないという点が、民間
のバランスシートが本当に壊れて、債務超過のようになっている
米国、英国、スペインとは大きく異なっています。
 第2の「成熟した日本経済に投資機会はない」とは、そういう
傾向は事実であり、政府として手を打つ必要があります。それが
安倍政権が進めようとしている「第3の矢」の成長戦略です。農
業、エネルギー、環境、医療といった「岩盤」に規制緩和という
ドリルを入れてマーケットを開放し、投資機会を作ろうというの
です。          ── [消費税増税を考える/25]

≪画像および関連情報≫
 ●リチャード・クー氏の麻生総理称賛論/2008/12/16
  ―――――――――――――――――――――――――――
  麻生首相は、もともと経営者なので、バランスシートの問題
  を理解している。借金返済の苦しさもその恐ろしさも理解し
  ている。また、民間が債務の最小化に向かっているときは中
  央銀行の金融緩和が効かなくなることも分かっている。だか
  らこそ、麻生首相は財政出動の必要性を訴えているのだ。し
  かも外需が激減した今の日本は、少なくとも真水10兆円の
  政府支出の拡大が必要だ。減税をしても、借金返済や貯蓄に
  回って景気対策にならないからだ。11月に行われた主要国
  と新興国20カ国による緊急首脳会合(金融サミット)でも
  麻生首相は日本の経験を訴え、財政出動に反対だった米国の
  スタンスを変えた。首脳声明にも財政出動の必要性を明記し
  た。麻生首相は極めて重要な日本の成功例を必死で海外に伝
  えているのである。海外もようやく日本の成果に気付き始め
  日本から学ぼうとしている。以前はあれだけ日本の公共事業
  と銀行への資本投入をたたいていた欧米諸国が、今やすべて
  これらの政策を採用している。中国も57兆円もの景気刺激
  策を決めた。われわれは、ずっと正しいことをやってきたの
  だ。麻生首相は国内で、失言したとか、字を読み間違えたと
  か、想像もできない低次元の問題でたたかれているが、海外
  では中国の胡錦濤主席も米国のブッシュ大統領も必死に麻生
  首相の話を聞いて参考にしようとしている。日本の総理の話
  がこれだけ世界で注目されたことが過去にあっただろうか。
  ──12月16日付産経新聞朝刊2面「日本の経験伝え恐慌
  防げ」より            http://bit.ly/1aIJFbx
  ―――――――――――――――――――――――――――

リチャード・クー氏と麻生太郎氏.jpg
リチャード・クー氏と麻生 太郎氏
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2014年02月12日

●「3つのマネー関連指標と金融政策」(EJ第3728号)

 国の金融政策がうまくいっているかどうかを見る3つのマネー
関連指標があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.マネタリーベース
          2. マネーサプライ
          3. 国内銀行貸出金
―――――――――――――――――――――――――――――
 1の「マネタリーベース」とは、既に述べたように中央銀行が
どのぐらい資金(流動性)を銀行に供給したかを表すものです。
中央銀行は、民間の金融機関から国債や社債を買うことによって
いつでもマネーを供給することができますが、それらの資金が貸
出金のかたちで、金融機関の外に出ないと、実体経済に影響を与
えることはできないのです。
 2の「マネーサプライ」は、民間が使えるおカネがどのくらい
あるかを表すものです。エコノミストはこのマネーサプライに注
目します。なぜなら、その動向がインフレ率や名目GDPの動き
と連動しているからです。いくら中央銀行がマネーを銀行に供給
してマネタリーベースを増やしても、マネーサプライが増えなけ
れば、インフレ率や名目GDPに影響を与えることはできず、景
気は良くならないのです。
 3の「国内銀行貸出金」は文字通り銀行の貸出金です。これが
マネーサプライの量を決めることになります。マネーサプライと
いうのは、次のように「現金通貨」と「預金通貨」の合計であり
「預金通貨」には、「M1」〜「M4」まであります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マネーサプライ=「現金通貨」+「預金通貨」(M1〜M3)
        M1 ・・・・ 要求払預金
        M2 ・・・・ 定期性預金
        M3 ・・・・  郵便貯金
        M4 ・・・・ 譲渡性預金
―――――――――――――――――――――――――――――
 従来の経済学では、これら3つの指標は、同じように動くもの
とされてきたのです。すなわち、マネタリーベースが10%増え
ると、最終的にはマネーサプライも10%増加し、銀行の貸出金
も10%増えると考えられていたのです。
 実際にリーマンショック前の世界では、3つの指標はそのよう
に動いていたのです。しかし、日本については、1990年にバ
ブルが崩壊すると、3つの指標はそれぞれ独立した動きを示すよ
うになったのです。
 この現象に対して世界の経済学者は、日本の金融政策の失敗と
してとらえたのですが、リーマンショック後は世界も日本と同様
に3つの指標は独立して動くようになったのです。
 日本については、バブル崩壊の1990年第1四半期を100
とし、米国と英国とユーロ圏については、リーマンショック発生
時の2008年8月を100として、3つのマネー指標を比較し
た数値は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
            日本  米国  英国 ユーロ圏
  マネタリーベース 380 433 464  138
   マネーサプライ 184 141 113  106
     銀行貸出金 106  99  85  100
                  ──リチャード・クー著
       『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 添付ファイルを見てください。これは、日本における3つのマ
ネー関連指標の関係を示したグラフです。これによると1994
年までは3つの指標はほぼ同じであったことが読み取れます。
 量的緩和については、1990年第1四半期を100とすると
2013年3月の白川日銀総裁の任期終了時で380、黒田総裁
の異次元緩和で505まで一挙に増加しています。つまり、日銀
はこの20年間で、金融システムにおける流動性(資金)を5倍
に増やしています。
 しかし、マネーサプライは20年間で84%しか増えず、銀行
の貸出金はほとんど増えていないのです。これらが増えなければ
インフレにもならないし、景気も20年間冷え込んだままの状態
になったのです。
 この傾向は、米国も英国もユーロ圏も時期がずれただけで同じ
ような傾向を示しているのです。とくに英国の中央銀行は、リー
マンショック後に、大幅な量的緩和に踏み切り、同行のポール・
フィッシャー氏という幹部は次の暴言を吐いたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 我々は日本のような真似はしない。量的緩和を早く大胆にやっ
 て、一気にマネーサプライを増やし、イギリス経済を復活させ
 てみせる。      ──リチャード・クー著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、量的緩和によってマネタリーベースを464まで増や
したものの、マネーサプライはほとんど増えず、銀行の貸出金に
ついては85に減少してしまったのです。この傾向は2013年
央まで続き、その後回復の兆しを見せはじめています。
 日本では1990年代にバフルが崩壊し、資産価値の暴落が起
きています。クー氏の理論によると、これにより、マネーフロー
のある企業は借金の返済をはじめ、バランスシート不況に突入し
たということになります。
 金利がほぼゼロのときに、多くの企業が資金を調達して事業を
拡大せず、一斉にそれを中止し、借金返済をはじめたら、経済は
2つの需要を失うことになって失速します。
 1つは、企業がキャッシュフローを投資に使わなくなったこと
で失われる需要であり、もう1つは、企業部門が家計部門の貯蓄
を借りて使わなくなったことで失われる需要です。これらの需要
が失われ、不況になります。── [消費税増税を考える/26]

≪画像および関連情報≫
 ●マネタリーベースを増加させると円安になる/竹中正治氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  本日(2013年)4月6日の日経新聞朝刊に「円安効果を
  強く意識企業心理好転に狙い」のタイトルで滝田洋一編集委
  員が、ドル円相場に関するソロスチャートを引用して、次の
  ように述べている。引用:「日米で出回るおカネの量の比率
  を計算し、日本の円が(ドルよりも)余計に増えれば円安、
  反対に米国のドルの方が増えればドル安となる――。為替相
  場を2つの国の通貨の流通量から読む手法は、投資家のジョ
  ージ・ソロス氏が愛用したことから「ソロス・チャート」と
  呼ばれる」。「回答はマネタリーベースと呼ばれるおカネの
  量を、毎年60兆〜70兆円増やす緩和策。ソロス・チャー
  トからはじいた円の適正相場は1年先に1ドル=95円、2
  014年末には105〜110円となる。牧野潤一SMBC
  日興証券チーフエコノミストはそんな試算を示す」。マネタ
  リーベースとは、今回、黒田日銀総裁が「倍増させる」とし
  て金融政策の操作目標にしたもので、日銀券の総発行残高+
  民間銀行が日銀に保有する当座預金残高の合計値のことだ。
  日銀が民間銀行から国債を買い上げて、対価としてマネーを
  払うとそのマネーは、民間銀行の日銀当座預金に入金される
  ので、マネタリーベースはその分増える。供給される円マネ
  ーがドルマネーに対して増えれば、円は相対的にインフレで
  価値が目減りするので、その分だけ円安になるというのがソ
  ロスチャートの原理だ。      http://bit.ly/1d8pPpp
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/──リチャード・クー著の前掲書より

バブル崩壊で崩れたマネー関連指標の関係/日本.jpg
バブル崩壊で崩れたマネー関連指標の関係/日本
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2014年02月13日

●「貸し手側ではなく借り手側の改革」(EJ第3729号)

 かつての小泉政権と現在の安部政権の経済政策は明らかに違う
と思います。それは「構造改革」の位置づけの違いです。
 小泉政権は「構造改革なくして景気回復なし」というスローガ
ンを掲げ、経済は、構造改革派の竹中平蔵氏が、経財相として仕
切っていたのです。しかし、小泉首相自身は「郵政民営化」のワ
ンイッシューの実現を目指したのです。
 それに対して、現在の安部政権は、第1の矢として「異次元の
金融緩和」、第2の矢として「財政政策」を推進し、既にこれら
2つの矢は実行されているのに対し、構造改革は、第3の矢とし
ての「成長戦略」という位置づけになっています。
 それに現安倍政権において竹中平蔵氏は、産業競争力会議の委
員として政策立案に参加しています。安倍首相としては竹中氏に
はもっと重要な役職で活躍してもらいたかったのでしょうが、麻
生財務相の強い反対により、実現できなかったのです。
 リチャード・クー氏のいうように、「失われた20年」で一番
足りなかったのはおカネの「貸し手」ではなく「借り手」、民間
の借り手なのです。ところが、小泉政権が進める「郵政民営化」
は民間への貸し手を増やす政策なのです。金利がゼロでも借り手
がいない状況であるのに、貸し手を増やす政策をとったのです。
 どうして、小泉政権の時期に郵政民営化がいけないのか──こ
れについて、リチャード・クー氏の説明は実に明解です。その要
点をご紹介します。
 郵政には、もともと民間におカネを貸すノウハウは何もなく、
これまでは、せいぜい国債を購入するしかなかったのです。そう
いう郵政を民営化して銀行と同様におカネを貸せるようにするに
は郵政としては、金利を下げて勝負するしかないのです。しかも
その時点で郵政には民間向けの不良債権はないので、かなり積極
的に金利を下げることができます。
 ところが、小泉政権以前から日本の貸し出し金利は非常に低く
なっていて、リスクに見合うリターンを得るのはとても期待でき
なかったのです。これに対して民間金融機関は、郵政に対して何
も対抗手段を持っていないのです。そのため、民間金融機関は貸
出しをさらに厳格化し、国債を購入してしのぐしかないのです。
そうすると、そこには実に奇妙な構図ができ上がるのです。
 民間に貸すノウハウを有している金融機関が国債を買うしかな
い状況に追い込まれるのに対して、貸し出しノウハウを持ってい
ない郵政が、金利を大幅に下げて民間に貸し出しをすることにな
るからです。
 これは完全にアベコベです。それに、当然郵政には貸し出しミ
スが頻発し、やがて多くの不良債権を抱えることになります。そ
の結果、低金利では貸し出せなくなることは必定です。
 おカネの貸し手を増やすのではなく、借り手を増やす政策が必
要なのですが、政策を推進する側がそのことをきちんと理解して
いるとはとても思えないのです。
 それでは、どのようにすれば、おカネの借り手を増やすことが
できるのでしょうか。
 アベノミクスによって起こった変化は、「第1の矢」によって
もたらされています。しかし、この第1の矢には大きなリスクが
潜んでいるのです。したがって、これに過度に依存することには
慎重であるべきです。これについて、リチャード・クー氏は、次
のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 外国人投資家がこの矢(第1の矢)に乗ったことで大きな株高
 と円安がもたらされたわけだから、確かにこの矢でハネムーン
 が発生したことは間違いない。しかし、これからどうあるべき
 かと考えた時に、英語で「Don’t push your luck too far.」
 (これ以上の強運に賭けるべきではない)という表現があるが
 これ以上、強運を期待するべきではないと私は言いたい。20
 12年12月から2013年4月までのあの成果は、おそらく
 誰も期待できなかった。まさかアメリカのヘッジファンドたち
 が、あんな行動をあそこまでとってくれるとは、誰も思ってい
 なかったからである。       ──リチャード・クー著
       『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでクー氏のいっている第1の矢のリスクについては、改め
て述べることにします。
 続いて「第2の矢」です。これについては、既に5.5 兆円の
経済対策が決まっています。しかし、この4月から消費税が3%
上がって8%になるので、その対策のためのものです。バランス
シート不況下での増税などもってのほかですが、決まってしまっ
たものは仕方がありません。それに民間の借り手がいないので、
政府が借りて使うことは必要です。それにオリンピックもあるの
で、資金を上手に使うことによって、経済に良い効果をもたらす
努力を政府はするべきです。
 「第3の矢」は成長戦略といわれています。構造改革はここに
位置づけられています。現在、話に出ている農業、エネルギー、
環境、医療などの分野は、規制緩和によって市場が開放されれば
投資の対象になります。
 確かにこれによって市場が開放されれば、民間の借り手を増や
す政策になる可能性があります。安倍首相が参加を表明している
TPPも、本当にそれによって市場が開放されれば、借り手を増
やす政策といえます。
 しかし、構造改革は、その効果があらわれるのには時間がかか
るのです。米国のレーガン大統領は、1980年代初頭から大胆
なサプライサイドの改革を推進しましたが、その効果があらわれ
たのは、次のブッシュ(父)政権ではなく、12年後のクリント
ン政権になってからです。構造改革にはそれほど時間のかかるも
のなのです。そうなると、第2の矢の財政政策いかんが、日本経
済再生の重要な鍵を握っているということがいえます。
             ── [消費税増税を考える/27]

≪画像および関連情報≫
 ●アベノミクス第3の矢の本気度/IT分野の成長戦略
  ―――――――――――――――――――――――――――
  アベノミクスの第1、第2の矢が奏功している中、我が国の
  今後の継続的成長のためには第3の矢である「成長戦略」の
  実効性が問われている。ОECD事務局長が訪日した際にも
  アベノミクスへの支持とともに「成長戦略」の成功が鍵であ
  ると述べるなど、海外からの期待も大きい。成長戦略の中で
  インターネットビジネスを展開している私たちが最も強い関
  心を寄せているのは「世界最高水準のIT社会の実現」だ。
  ◎「成長戦略」より「利用規制」?/成長戦略では、「IT
  を活用した民間主導のイノベーションを推進」や「世界最高
  水準の事業環境を実現する規制・制度改革の徹底」が掲げら
  れているにもかかわらず、成果目標が「2015年度中に、
  世界最高水準の公共データ公開内容──データセット1万以
  上を実現」と小粒だ。公共データの公開については内閣府を
  中心に準備が進みつつあるが、公開されるデータセットにつ
  いて民間で積極的な利用をしたいという声は少ない。「世界
  最高水準の事業環境を実現する規制・制度改革の徹底」とい
  う点では、民間企業が保有するビッグデータの利用を促進す
  るための事業環境の整備について、具体的目標が示されてい
  ない。それどころか、「成長戦略」という名目の下で「利用
  規制」をもたらしかねない検討が進んでいる。
                   http://bit.ly/1eHGUs5
  ―――――――――――――――――――――――――――

リチャード・クー野村総研主席研究員.png
リチャード・クー野村総研主席研究員
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2014年02月14日

●「反ケインズのアレシナ教授の学説」(EJ第3730号)

 アベノミクスの第2の矢は「機動的な財政出動」です。日本で
「財政出動」というと、日本はGDPの2倍以上の政府債務があ
るのにまだ債務を増やすのかと非難されます。
 しかし、日本では民間全体でGDPの8%も貯金しているので
す。こういう状況で財政再建などやると、日本経済のデフレスパ
イラルはますます深刻化することになります。
 機動的な財政出動というケインズ流の景気刺激策に対して、反
対の立場をとる学説は少なくないのです。そのなかで最近最も有
名な学説は、アルベルト・アレシナ米ハーバード大学教授の「ナ
ナサンの法則」と呼ばれる論文です。
 この論文は、1998年に発表されたものですが、当時はほと
んど注目されなかったのです。しかし、景気刺激策と緊縮財政の
バランスをどのようにとるかという論点が、経済学者の論ずる重
要なテーマになり、この論文は、緊縮財政派の錦の御旗になった
のです。さらに、アレシナ氏の論文は、2012年に米ブルーム
バーグビジネスウィーク誌に次のテーマで掲載されたことで、一
般に知られるようになったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   「ケインズVSアレシナ」/アレシナとは何者だ?
          Keynes vs. Alesina. Alesina Who?
―――――――――――――――――――――――――――――
 アレシナ教授によると、緊縮財政には経済成長を促す効果があ
るいうのです。政府が思い切った歳出削減をすると、財政再建の
成功確率が高まると同時に、政府がそういう政策に取り組むこと
が、国民に安心効果をもたらし、その後の経済回復に資する可能
性があるというのです。
 なぜなら、政府が財政再建に成功すると、より大きな痛みを伴
う厳しい財政再建の苦労から解放され、先行き不安がなくなるの
で、消費が活性化するというのです。
 アレシナ教授の論文の「ナナサン」とは、歳出削減と歳入拡大
の比率のことで、これを7対3にすることを意味しています。さ
らに、公共事業の削減ではなく、社会保障と公務員人件費の削減
に切り込むこと、法人税と間接税を中心にした歳入拡大を図るこ
となどが論文の骨子になります。
 この論文の数値の根拠に関しては「日経ビジネスオンライン」
の次の記事を参照してください。
―――――――――――――――――――――――――――――
   財政再建と経済成長を両立させる「ナナサンの法則」
   ケインズに比され、注目されるアレシナ教授の提言
   小川光著/「日経ビジネス・オンライン」
                http://nkbp.jp/1daTONm
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに関して、ポール・クルーグマン・プリンストン大学教授
は、アレシナ教授の論文を痛烈に批判しています。最近刊書では
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  アレシナの主張には二種類の根拠がある。その一つは経済的
 なケーススタディだが、近年の経済状況に当てはまらないもの
 が多い。もう一つの回帰分析も、緊縮政策として取り上げる事
 例が実際の政策と一致していないという欠陥がある。
  たとえば、1990年代末、アメリカは財政赤字から財政黒
 字へと移行したが、この動きは好景気に連動していた。はたし
 てそれは、緊縮財政の強化を証明するものになるだろうか。
  当時の好景気と赤字削減はITバブルのせいで生じていたの
 だ。それが株価の高騰を導き、税収増を成し遂げたにもかかわ
 らず、「緊縮財政が財政赤字を減少させた」と結論づけるのは
 間違いだ。財政赤字と経済の強さに相関関係があるからといっ
 て、緊縮財政が経済成長をもたらすという因果関係が必ず存在
 する、ということにはならない。
          ──ポール・クルーグマン著/大野和基訳
     「そして日本経済が世界の希望になる」/PHP新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 もちろんケインズ派や新ケインズ派のエコノミストらは、アレ
シナ教授の意見にきわめて懐疑的です。米ニューヨーク連銀のエ
コノミスト、ガウティ・B・エガートソン氏は、ゼロ金利下にお
ける正しい方策は積極財政であって、緊縮財政ではないと主張し
ています。
 元財務省官僚で現在嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、早稲田大学
政治経済学術院教授の若田部昌澄氏との特別対談で、アレシナ論
文に言及し、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財政再建の話だけでいっても、みんなが各国の財政再建の事例
 を研究したハーバード大学のアルベルト・アレシナを持ちだし
 て、財政再建がうまくいくのは歳出カットが7割で、増税が3
 割だとか、自分の主張に都合のよい部分だけを使っている。し
 かし、アレシナの研究の本当の根っこの部分には、財政再建に
 一番、影響力があるのは経済成長だというのがある。それを前
 提としつつ、その中で歳出カットと増税のどっちがいいのかと
 いう議論なんですね。逆に、経済成長しなくなると、何をする
 にも本当に苦しくなる、だから、経済成長を高めて財政再建し
 ようというのは、けっこう簡単です。はっきり言えば、放って
 おいてもなんとかなってしまう。   http://bit.ly/1geZt55
―――――――――――――――――――――――――――――
 やはり、財政再建にいちばん必要なのは、何だかんだといって
も「経済成長」なのです。そのための第1の矢であり、第2の矢
なのです。財政政策を景気循環の波にうまく乗せて、経済の成長
をはかることが必要なのです。
 日本人は国の借金を家計の借金と同じように考える人が少なく
ないのですが、こういう人は、長年にわたる財務省のプロパガン
ダに洗脳されているのです。 ──[消費税増税を考える/28]

≪画像および関連情報≫
 ●若田部昌澄VS高橋洋一/特別対談
  ―――――――――――――――――――――――――――
  若田部:経済成長でGDPが増えて、税率は同じでも税が増
  収になるからですね。
  高橋:そう。増収でなんとかなる。日本でいえば、簡単な計
  算をすると、5%強の名目成長すると、実はプライマリー収
  支はゼロになる。だから、歳出を少しカットするとすれば、
  名目成長率が4%程度で財政再建は達成できる。こんなに簡
  単な話は、めったにない。しかし、経済成長しなかったら、
  何をやってもほとんど効果がない。
  若田部:与謝野(馨・前経済財政担当大臣)さんが、菅政権
  の最後のころにいくつか報告書を出しましたね。その際に、
  景気が回復してきたら、増税に踏み切るべきだというような
  話があった。その時に、内閣府の人が民主党の議員さんたち
  のところに来て、レクチャーがあったということなんですが
  ある議員さんが「じゃあ、デフレのもとでも増税をしてもい
  いんですか。成功例はあるのですか」と聞いたら、「いや、
  そんな例はありません。というのは、戦後、デフレに陥った
  先進国はこれまでないから」と。(笑)。
  高橋:デフレに陥ったときに、増税を考える必要はない。経
  済がノーマルになってからでないと、増税は考えられない話
  です。              http://bit.ly/1eMQ455
  ―――――――――――――――――――――――――――

高橋洋一氏と若田部昌澄氏.jpg
高橋 洋一氏と若田部 昌澄氏
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2014年02月17日

●「ラインハート&ロゴス教授の主張」(EJ第3731号)

 経済というものをどのようにとらえるかは、経済学者によって
それぞれ違うのです。そのため、ある経済の現象について、景気
刺激策をとるのか、財政緊縮策を取るのか、学者によって意見が
大きく分かれるのです。
 現在の日本経済にとって、それは当てはまると思います。景気
刺激策をとるのか、それとも政府債務がGDPの200%を超え
ている財政の危機に対応して財政緊縮策を取るのか、学者や評論
家によって意見が異なります。アベノミクスに対して、賛否両論
があるのはそのためです。
 その場合、学者や評論家たちは、自分の経済に対する考え方が
正しいことをアカデミックな立場から裏付けてくれる学説を求め
ているのです。権威づけが欲しいわけです。
 公共事業を行うことによって景気刺激を行い、経済を回復させ
る考え方に関しては、ケインズ経済学という理論的支柱が既にあ
ります。しかし、ケインズ主義に対しては、多くの批判がありま
すが、かといって、財政緊縮策に関しては、理論的支柱になる有
力な学説が乏しいのです。
 それだけに1998年に発表されたアルベルト・アレシナの緊
縮財政に対する論文に緊縮主義者は飛びつき、錦の御旗にしたの
です。しかし、その統計的な結論や歴史的な事象を子細に分析し
たとき、それはとても検証に耐えられるようなものではなかった
ことがわかったのです。
 アレシナの学説と同じく、緊縮主義者の錦の御旗になっている
学説があるのです。それは2010年に発表されたラインハート
&ロゴフ教授の次の論文です。2人はともにアレシナ氏と同様に
ハーバード大学の教授です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  カーメン・ラインハート&ケネス・ロゴフ教授による
  「債務時の経済成長」(Growth in a Time of Debt)
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに緊縮財政派は飛びついたのです。ラインハート&ロゴス
両教授の主張の骨子は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府の債務残高がGDPの90%を超えると、経済成長が大
 きく停滞する。   ──ラインハート&ロゴス教授の主張
―――――――――――――――――――――――――――――
 この論文は、欧州、とくに英国での経済政策の錦の御旗となっ
たのです。なぜなら、緊縮財政を推進したい政治家にとって、こ
れほど都合のよい論文はなかったからです。
 とくにここでいう「90%」という数字は、先の米国の大統領
選において、共和党の副大統領候補として立候補したポール・ラ
イアン氏や、欧州委員会のトップ・エコノミストであるオッリ・
レーン氏にいたるまで、さまざまなところで引き合いに出される
ことになったのです。
 しかし、ラインハート&ロゴス教授が主張するデータが、20
13年4月に、マサチューセッツ大学のアマースト校の博士課程
に在籍するトーマス・ハーンドンという大学院生によって間違い
であることが発表され、世界中で話題になったのです。
 この論文の間違いが公表されたとき、それまでこの論文を金科
玉条のごとく使っていた緊縮政策推進派の著名な学者や評論家や
政治家が冷笑の的になり、大恥をかいたのです。
 トーマス・ハーンドン氏は「ビジネスインサイダー誌」に投稿
を求められ、論文のミスについて書いているので、その一部をご
紹介します。詳細については、URLを付けておくので、それを
読んでいただきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロゴフとラインハートが意図的にデータを除外したり軽く扱っ
 たという事を私が指摘したかったのではない。私の研究の意図
 は単に彼らの研究結果と結論が検証可能であるかどうかを再現
 してみただけで、彼らの動機などについては一切、私の研究で
 は触れていない。(中略)われわれが「選択的な」とか「非伝
 統的な」という言葉を用いてロゴフとラインハートの論文のも
 つ問題点を論じたのは、それが正確な表現だと思ったからだ。
 特定のデータが「選択的に」かれらの計算から除外されたのだ
 から、それを「選択的だ」と形容することは中傷ではない。な
 ぜ特定のデータを除外したのか、その足切り基準を論文の中で
 明示する必要が彼らにあっただけだ。そうでないと他の研究者
 が、かれらの研究を再現できなくなる。(中略)ロゴフとライ
 ンハートは私の計算結果を使っても、国家の負債が90%を超
 えると成長が著しく鈍化するという結論には変わりは無いと主
 張しているが、それは私の解釈とは違う。私の解釈では負債が
 90%以上になっても統計学上明らかな成長の鈍化は認められ
 ないというものである。       http://bit.ly/1iY7oVs
―――――――――――――――――――――――――――――
 アベノミクスの功罪に関して、日本でも緊縮派の学者や評論家
がテレビなどで、ラインハート&ロゴス教授の論文を引き合いに
出してその危険さを批判していたものですが、2013年4月以
降さっぱり口にしなくなってしまったのです。
 ポール・クルーグマン教授は、「なぜ、このような論文がまと
もに取り上げられたのか、理解できない」としたうえで、この現
象について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 最近読んだある本に学ぶなら、それは「政治」と「心理学」に
 関係しているかもしれない。すなわち、緊縮政策は多くの権力
 をもつ人たちが「正しいと信じたい」と感じるような政策であ
 る。だからこそこの論文が出てきたとき、彼らは「これだ!」
 とばかり飛びついたのだ。   ──ポール・クルーグマン著
     「そして日本経済が世界の希望になる」/PHP新書
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/29]

≪画像および関連情報≫
 ●ラインハート&ロゴフ教授/検証結果に重大な誤り?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  エコノミストや実証系経済学者なら実は承知のことですが、
  データによる検証って、実はちょっとした設定の違いで黒が
  白になったりすることがあるんです。引用:「ラインハート
  とロゴフ両氏の論文「債務時の経済成長」では、公的債務の
  国内総生産(GDP)に対する割合が90%を上回っている
  諸国は景気拡大ではなく、経済が年率約0・1%縮小する傾
  向があると指摘した」。「しかし、ハーンドンさんと、アシ
  ュとポーリンの両教授は、ロゴフ・ラインハートの計算を再
  現するなかで、GDPに対する債務比率が90%を超える諸
  国のGDP成長率は2・2%となっていて、GDPに対する
  債務比率がそれ以下の国々の成長率を1ポイント下回ってい
  ると結論付けた」。「批判はアシュとポーリンの両教授が教
  える経済学のコースで始まった。ハーンドンさんは実証的経
  済学との融通を立証するため、経済論文での優れた研究の計
  算を再現するよう求められた。同氏はラインハート・ロゴス
  論文を選んだ。これはアシュ教授が「単刀直入な方法で非常
  に魅力的」だと称賛していた。ハーンドン氏は一般公開され
  ているデータを使用し、秋の学期中この宿題に取り組んだ。
  しかし、アシュ教授によると、ハーンドンさんは「何度やっ
  ても得られる結果が、公表されている研究の結果と一致」し
  なかった。アマースト校の研究者たちのグループは4月初め
  ハーバード大学の2010年の研究論文の執筆者たちに連絡
  し、この論文の「実際のスプレッドシート」を受け取った。
  彼らの計算では引き続き、0・1%の縮小ではなく、2・2
  %の景気拡大が示された。     http://bit.ly/1c8BQuj
  ―――――――――――――――――――――――――――

ポール・クルーグマン教授.jpg
ポール・クルーグマン教授
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2014年02月18日

●「アベノミクスに関する国会公聴会」(EJ第3732号)

 2013年5月2日のことです。この日の午前、参議院予算委
員会の公聴会が開かれたのです。このとき、公述人として招待さ
れたのは、次の3人です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小幡  績・慶應義塾大学大学院准教授
 永濱 利廣・第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト
 上念  司・経済評論家
―――――――――――――――――――――――――――――
 2013年5月2日といえば、アベノミクスが盛り上がって最
高潮のとき、リチャード・クー氏のいうところの「ハネムーン」
の時期に当たります。もちろん安倍政権は消費税増税をまだ決断
していない時期です。公聴会はこのとき開かれたのです。
 公述人のメンバーの選定は、よく考えられていると思います。
 小幡 績氏は、いわゆるリフレ反対派の学者です。著書に『リ
フレはヤバい』(ディスカヴァー携書)があります。永濱利廣氏
は、アベノミクス賛成派で、どちらかというと、政府寄りの見解
を述べる人です。小幡、永濱両氏はいずれもテレビでお馴染みの
有名人です。
 上念 司氏は異色の経済評論家です。アベノミクス賛成派です
が、政府寄りではありません。2010年に、浜田宏一イエール
大学名誉教授に師事しています。『「アベノミクス亡国論」のウ
ソ』(イースト・プレス)など、経済に関する多くの著作があり
ます。最近では、テレビにもよく出演しています。
 実はこのときの衆議院予算委員会の動画があるのです。収録時
間は約1時間と長いのですが、聞く価値のある動画であると思い
ます。ただし、なぜか、小幡 績公述人の発言はカットされ、永
濱公述人と上念公述人の全発言が収録されています。
 話のわかり易さは上念公述人が圧倒的です。主張が明解ですし
説得力もあります。上念公述人の話は動画の「15分30秒」く
らいからはじまります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   2013年5月2日/参議院予算委員会・公聴会
               http://bit.ly/1bSMkL3
―――――――――――――――――――――――――――――
 上念公述人の話で注目すべきは、昨日のEJでご紹介したライ
ンハート&ロゴス教授の論文が間違いであったことに言及してい
ることです。この論文の間違いが明らかになったのは、2013
年4月のことですが、上念氏は公聴会の行われた5月2日にはそ
の情報をキャッチし、資料化して言及しています。その時点では
非常にホットな情報であり、タイミングの良い指摘です。
 その上念公述人は、冒頭にクルーグマン教授の言葉を借りて、
「国の財政を家計に例えるのは間違いである」ことを最初に指摘
し、おおよそ次のようなことを述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ノーベル経済学賞受賞経済学者であるポール・クルーグマン
 教授の2013年4月28日付、ニューヨーク・タイムズ紙の
コラムをご紹介したいと思います。
  クルーグマン氏いわく「国の経済を家計で考えてはなりませ
 ん。なぜなら、国の経済は『誰かの支出は誰かの所得になる』
 からです」。そうであるなら、すべての人が、支出をやめてし
 まったら、すべての人の所得がなくなってしまうということな
 んです。いま英国やヨーロッパでは緊縮財政をやっていますが
 大失敗しています。英国では、金融緩和を一生懸命やったので
 すが、途中から緊縮財政に転じて消費税を増税したのです。そ
 の結果、失業は減らない。実質GDPも伸びない。これが現実
 です。私たちももしデフレを脱却する前に増税したら、英国の
 轍を踏む可能性があります。
  しかも、緊縮財政派が根拠にしていたラインハート&ロゴス
 教授の論文「債務時の経済成長」が間違っていたことが、4月
 にわかったのです。これで緊縮財政派はその理論的根拠を失っ
 たのです。緊縮財政の正しいことを示す唯一の論文です。
  誰かの支出は誰かの所得になるなら、代わりに政府がお金を
 使って、国民の所得にしていくということ(財政政策)が重要
 なのです。           ──上念司公述人の話から
―――――――――――――――――――――――――――――
 たかが論文といいますが、このラインハート&ロゴス教授の論
文はギリシャ危機を一層ひどいものにしてしまったのです。20
10年にギリシャに新政権が誕生し、前政権が債務をごまかして
いたことが発覚したのです。ちょうどそのとき、ラインハート&
ロゴス教授の論文が発表されたのです。
 そもそも経済が弱っているときに歳出削減を行えば、その経済
はさらに弱くなることは必定です。しかし、この論文があまりに
も衆目を集め過ぎたため、まるでケインズ学派の考え方の方が間
違っているように当時のヨーロッパでは思われたのです。
 借金に借金を重ねるということはしてはならない──真面目な
人ほど、借金に対するトラウマは強いものです。したがって、国
であってもできる限り借金はしない方がよいと考える人が多いの
です。しかし、個人の家計と国の財政は違うものです。
 上念氏が指摘するように、クルーグマン教授は「国においては
誰かの支出は誰かの所得になる」といっています。不況になると
個人消費は抑えられ、企業は設備投資を控えます。「誰かの支出
は誰かの所得になる」なら、民間の所得は減少します。そういう
ときは、政府がお金を使って国民の所得を増やす努力をする必要
があるのです。機動的な財政政策がそれに該当します。
 こういうときに国も歳出を削減したら、どうなるでしょうか。
ますます不況になってしまいます。そういうときに緊縮財政こそ
正しいと主張する論文が出てくると、緊縮財政派はそれに飛びつ
くのです。しかし、それが違っていたというのですから、話にな
りません。しかし、緊縮派の学者や評論家はそれでも己の考え方
を改めないのです。     ──[消費税増税を考える/30]

≪画像および関連情報≫
 ●「アベノミクスは失敗する」/小幡績准教授が断言
  ―――――――――――――――――――――――――――
  批判論者、慶応大大学院経営管理研究科の小幡績准教授はソ
  ウル市内で取材に応じ「アベノミクスはまやかしだ。絶対に
  成功しない」と断言した。今年に入り、『リフレはヤバい』
  『ハイブリッド・バブル』という2冊の著書でアベノミクス
  批判を展開した小幡准教授は最近韓国科学技術院(KAIS
  T)、慶応大、清華大が共同で開いたMBA(経営学修士)
  セミナーに出席するため、韓国を訪れた。日本社会でアベノ
  ミクスが支持される理由について、小幡准教授は「経済学で
  はなく、社会心理学的な分析が必要だ」と述べた。「これま
  で日本国民は気がふさぎがちだった。全ての心配を一気に解
  消してくれる神風でも吹いてくれればという気持ちだ。うそ
  でもよいから夢を見たがっているということだ」。小幡准教
  授は「興味深いことに『アベノミクスを支持する』という回
  答が6〜7割に達する半面、『生活が良くなったか』『消費
  を増やすか』という質問に『はい』との回答は1割だけで、
  『変わりない』との回答は8割だった」と指摘。「それでも
  アベノミクスの支持率が高いのは、『自分の給料が上がらな
  くても、日本の雰囲気が明るくなれば以前よりはまし』と考
  える日本人が多いという意味だ」と続けた。小幡准教授は、
  「日本の世論の主流がアベノミクス批判を恐れているため、
  最近はテレビ出演もできない。代わりにコメディーショーや
  週刊現代によく出ている」と苦笑いした。小幡准教授は東大
  経済学部を首席で卒業し、大蔵省(現財務省)に入省したが
  8年で退職。米国に渡り、ハーバード大で経済学博士号を取
  得。2003年から慶応大大学院で教壇に立っている。
                   http://bit.ly/1dyDgiF
  ―――――――――――――――――――――――――――

小幡/永濱/上念3氏.jpg
小幡/永濱/上念3氏
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2014年02月19日

●「IMFの謝罪でアレシナ学説崩壊」(EJ第3733号)

 緊縮財政の有効性を説くアルベルト・アレシナ教授の論文とラ
インハート&ロゴス教授の論文「債務時の経済成長」に関して、
後者の論文の間違いは決定的ですが、アレシナ教授の論文に関し
ては、それに対する批判や反対は多いものの、決定的に間違いで
あるとはいい切れないのです。
 アレシナ教授の論文では、1960年〜1994年のOECD
諸国で緊縮財政が行われた国を調査したところ、プライマリーバ
ランスが1年で1.5 %以上、2年連続で1.25 %改善した国
を62例抽出して調査しています。
 その結果、緊縮財政後の3年間、プライマリーバランスが2%
以上改善するか債務残高が5%以上削減した国を成功例とし、調
査すると、成功例は16ヶ国であったというのです。その成功例
と失敗例を比較すると次のことが判明したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      ≪成功事例≫
       ・歳出削減:72% ・・・ 7
       ・増  税:28% ・・・ 3
      ≪失敗事例≫
       ・歳出削減:44%
       ・増  税:56%
―――――――――――――――――――――――――――――
 アレシナ教授の学説が「ナナサンの法則」といわれるのは、歳
出削減と増税の比率のことをいっているのです。このアレシナの
学説を信奉している学者としては竹中平蔵氏がいます。竹中氏は
田原総一朗氏との対談でアレシナに触れています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 実例を挙げると、アルベルト・アレシナというハーバード大学
 の教授が行った調査があります。彼は、戦後に財政再建に取り
 組んだOECD加盟20ヶ国を対象に調査を実施し、財政再建
 に失敗する例として、「何もやらないで増税だけをする」ケー
 スを挙げています。結局のところ、歳出を抑えに抑えて、事務
 的経費はもちろん、人件費や社会保障までも抑えた国が財政再
 建に成功しているんです。でも、これって当然ですよね。すご
 く常識的な結論だと思いますよ。実際、常識的なことが各国で
 起きてきたということです。いままでの歴史の中で。
  ──田原総一朗×竹中平蔵/『ちょっと待って!/竹中先生
   アベノミクスは本当に間違ってませんね?/ワニブックス
―――――――――――――――――――――――――――――
 アレシナの学説は、歳出削減の努力「7」にプラスして、増税
「3」をするというので、完全な財政緊縮策です。常識から考え
ると、歳出削減と増税を行えば、全体的な需要の減少をもたらし
それが生産高や雇用の減少につながるのです。クルーグマン教授
にいわれるまでもなく、そんなことをすれば、経済はさらに弱く
なってしまうのは必定です。
 しかし、アレシナの学説はそういう常識的な判断を否定し、次
の考え方によって経済は成長するというのです。こうなると、宗
教とはいわないものの、心理学の分野です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 断固として財政緊縮を実行すれば、民間部門に信用が生まれ
 この信用が財政緊縮のマイナス面を相殺する。
          ──ポール・クルーグマン著/大野和基訳
     「そして日本経済が世界の希望になる」/PHP新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 ヨーロッパの多くの国で注目されて調子に乗ったアレシナ教授
は、求められるままにEU経済・財務相理事会で講演し、その主
張は受け入れられたのです。2010年4月のことです。そして
この考え方がそのまま欧州委員会の公式見解になったのです。
 2010年6月には、当時のECB総裁であるジャン=クロー
ド・トリシェ氏は、イタリアの新聞「ラ・レプブリカ」で、緊縮
政策が経済成長を阻むという懸念を一蹴し、次のように述べてい
るのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (デフレの危険があるのではという記者の質問に対し)そんな
 リスクが実現するとは思いません。それどころか、インフレ期
 待は驚くほどわれわれの定義したもの──2パーセント以下、
 2パーセント近くにしっかり固定されていますし、最近の危機
 でもそれは変わっていません。経済についていえば、緊縮財政
 が停滞を引き起こすという考えは間違っています。(中略)じ
 つはこうした状況にあっては、家計、企業、投資家が財政の持
 続可能性について抱く安心感を高めることはすべて、成長と雇
 用創出の実現に有益なんです。私は現状において、安心感を高
 める政策は経済回復を阻害するどころか促進すると固く信じて
 います。今日では、安心こそが重要な要因だからです。
    ──ポール・クルーグマン著/大野和基訳の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この間違ったEUの経済財政政策の最大の犠牲になったのは、
何といってもギリシャです。ギリシャは歳出削減と増税を実行さ
せられ、その財政赤字はGDPの15%に相当する額に達したの
です。アイルランドやポルトガルでも緊縮財政策は行われ、激し
い経済の下降を余儀なくされたのです。
 ところが、これまでアジア諸国に対して、厳しい財政緊縮策を
強いてきたIMFがその過ちを認めたのです。2010年当時の
ストロスカーンIMF前専務理事は、調査報告書において、厳し
い財政緊縮策による経済への打撃は以前想定していた規模の3倍
に及ぶ可能性があることを指摘したのです。
 これは、厳しい財政緊縮策を強いられているEU諸国に衝撃を
与えたのです。それはEUでの緊縮政策の悲惨な結果が表面化す
る前のことです。これによって、アレシナの学説の評価は地に落
ちてしまったのです。しかし、緊縮財政派はそれでも反省という
ものをしないのです。    ──[消費税増税を考える/31]

≪画像および関連情報≫
 ●IMFが緊縮策の過ちを認めた!/岐路に立つ日本を考える
  ―――――――――――――――――――――――――――
  IMFのプログラムの妥当性は、その当時にすでに明らかに
  なっていたはずです。それなのに、こうしたプログラムに関
  する過ちに、どうしてIMFは最近まで気がつかなかったと
  言っているのでしょうか。この問題を考える際にヒントとな
  るのが、歴代のIMFの専務理事(IMFのトップ)の出身
  国です。正式な理事は初代専務理事から現在の第11代専務
  理事のラガルド女史まで、11人全員が欧州勢です。(欠員
  による代行で2〜3ヶ月間だけ米国人がなっていることが2
  回ありますが、それを除けば全員欧州勢です)実は、世界銀
  行の総裁はアメリカが決め、IMFの専務理事は欧州が決め
  るという「棲み分け」が成立してきたのです。そして今、こ
  のIMFのお膝元である欧州でとてつもない事態が進行して
  いるのは、皆さんご承知のところです。南欧の各国で緊縮策
  を求められているのは、欧州で最も経済力のあるドイツにと
  って利益があり、ドイツに逆らいにくい状態になっていると
  いう事情もありますが、IMFとしても従来とのダブルスタ
  ンダードを指摘されないために、緊縮を求める方針を継続し
  てきたのでしょう。ですが、この方針ではもはや欧州を守る
  ことができなくなってきたので、過去の過ちを認める方針に
  転換したのではないかと思います。ノーベル平和賞にEUが
  選ばれたことも、欧州が現在の危機を軟着陸させるのに必死
  であることを示しているように感じられます。このIMFの
  方針転換は、レーガン・サッチャー時代から急激に進んでき
  た新自由主義的な流れが、世界的に転換点に達したことを如
  実に物語るマイルストーンにもなっていると思います。
                   http://amba.to/MZtg7s
  ―――――――――――――――――――――――――――

前ECBトリシェ総裁.jpg
前ECBトリシェ総裁
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2014年02月20日

●「緊縮策を採用したキャメロン政権」(EJ第3734号)

 日本は政府債務が対GDP200%を超える国です。財務省が
「消費税増税やむなし」という環境をつくるため、大宣伝をした
ので国民の誰もがそのことを知っており、国のこととはいえその
ことを心配している国民は多いのです。
 「借金はできるだけ少ない方がよい」──一般の家計ではそれ
が常識です。そのため、「国の借金も少ない方がよい」と思って
しまいます。これが財務省の狙いなのです。この時点で「国の財
政=家計」と考えてしまっているからです。これは、見事なレト
リックであるといえます。しかし、国の財政と家計とは全く違う
ものであり、「国の財政=家計」と考えるべきではありません。
 よく政府債務が対GDP200%以上もあると、どこかのヘッ
ジファンドから日本国債を大量にカラ売りされ、売り崩しを仕掛
けられる恐れがあるということをいう人がいます。そして、そう
なったら日本はひとたまりもないといって、危機感を煽る経済評
論家は日本にはたくさんいます。
 しかし、そういう場合、日銀は断固として国債をがんがん買い
上げて対抗すればよいのです。そうすれば、カラ売りを仕掛けた
連中をすべて殲滅することができます。そのうえで、市場が安定
したら、日銀は少しずつ国債を日本の機関投資家に戻していけば
よいのです。黒田総裁なら、敢然とそれをやるでしょう。
 これについて経済評論家の上念司氏は、最近刊の著書で次のよ
うに「国家財政=家計」は間違いであるといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本政府の寿命は何歳でしょうか。一般的な大人が住宅ローン
 などの借金をする場合、せいぜい35年ローンぐらいが限界で
 す。それは本人が元気に働いてお金を稼げるのはあと何年かと
 いうことをベースに算出される期限です。寿命という概念が存
 在しない政府の場合、仮に国債の償還期限を迎えても、再び借
 り換えることによって返済をいくらでも先延ばしすることがで
 きます。また、やろうと思えば、政府は人頭税や資産課税など
 を導入して強制徴収をすることで国民から無理やり財産を取り
 上げることもできます。さらにインフレになることを覚悟すれ
 ば、紙幣を大量に印刷して国債を償還することもできます。こ
 の状況を無理やり家計にたとえると、お父さんの寿命は無限大
 で、ご近所を恐喝してお金を巻き上げることができるうえ、お
 母さんは偽札づくりの名人という話になります。政府は永久に
 死なないわけですから、政府債務がいくら積み上がったところ
 で、少しずつ返していく見込みがあるなら債務を維持すること
 が可能です。                ──上念司著
    「アベノミクスを阻む『7つの敵』」/イーストプレス
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、そのことがわかっていても財政再建を図るために、緊
縮策を採る国が多いのです。ギリシャ、アイルランド、スペイン
などのEUの諸国は、自ら負債の借り換えができないので、緊急
融資をしてくれるドイツの顔色をうかがって、支出を削減して増
税をせざるを得なかったのです。
 しかし、そういう差し迫った事情もないのに、あえて緊縮策を
採用した国があります。デヴィット・キャメロン首相の率いる英
国がそうです。もともとキャメロン氏は政権を取る以前から、保
守党党首として、緊縮策を公約として掲げていたのですが、国民
は、自由民主党と保守党の連立政権であったので、キャメロン氏
が首相になっても、自由民主党が少しはブレーキをくれることを
期待していたのです。
 しかし、自由民主党は、ほとんど狂信的なキャメロン首相に説
得されてしまったのです。キャメロン氏は首相に就任するや大幅
な「支出削減プログラム」を発表し、実行に移したのです。英国
の場合は、トップの決める政策を阻止する仕組みがないので、そ
のプログラムは直ちに実行に移されたのです。
 そのさい、ジョージ・オズボーン財務相は、国民に次の声明を
出しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 高金利、多くの倒産、失業の急増、そして安心感の壮絶な喪失
 と、回復の終わりを迎える。我々はそんなことを許すわけには
 いかない。我が国の負債に対処するためにはこの予算案が必要
 である。この予算案は我々の経済に安心感をもたらすために必
 要である。これは避けがたい予算案なのである。
              ──ジョージ・オブボーン財務相
          ──ポール・クルーグマン著/山形浩生訳
          「さっさと不況を終わらせろ」/早川書房
―――――――――――――――――――――――――――――
 オズボーン財務相のいう「安心感」という言葉に注目すべきで
す。これは、もし緊縮策を取らなければ、高金利、多くの倒産、
失業の急増から免れることによる「安心感」のことをいっている
のです。明らかにアルベルト・アレシナの論文の影響を受けてい
ることは確かです。
 それに加えて、キャメロン政権がスタートしたのは、2010
年5月11日であり、同時期にラインハート&ロゴス教授の論文
も発表されており、キャメロン政権は、明らかにアレシナ、ライ
ンハート&ロゴスの両論文の影響を受けています。それから4年
経過していますが、英国の経済はどうなったでしょうか。クルー
グマン教授は、英国について次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安心感の妖精はいかがだろう?消費者や企業は、イギリスが緊
 縮財政に向ったことで安心しただろうか。実はその正反対で、
 事業の安心感は金融危機最悪の時期以来、類を見ない水準にま
 でまで下がり、消費者の安心は2008年から2009年すら
 下回る水準まで下がった。
    ──ポール・クルーグマン著の前掲書/山形浩生訳より
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/32]

≪画像および関連情報≫
 ●英国経済が抱える深刻な問題/2013年10月28日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  英国の民間部門の生産性が5年間にわたって低下したのは、
  1800年代後半以降でわずか3回しかない――しかも、今
  回を除く2回は世界大戦の直後だった。この生産性低下が、
  失業率が低くとどまっている理由だ。これは経済停滞が3年
  間続いても連立政権が持ち堪えられている理由でもある。正
  常な状態なら、失業率は今ごろ15%を超えていただろう。
  だが、この経験はいくつかの問題を提起する。英国の経済見
  通しはどうなのか、政策は何をすべきか、という問題だ。今
  年第2四半期には、労働者1人当たりのGDPと時間当たり
  GDPが危機以前のピーク水準を5%近く下回っていた。ま
  た、1987〜2007年のトレンドが続いていた場合の推
  計値と比べても、労働者1人当たりのGDPは17%、時間
  当たりGDPは19%低かった。英国の企業と労働者は20
  07年にできたことを忘れてしまったのだろうか?国際的な
  比較も目を見張るものだ。雇用とGDPに関するコンファレ
  ンス・ボードのデータ(GDPは購買力平価=PPP=で測
  定)を見ると、2007年から2012年にかけて英国の労
  働者1人当たりのGDPが3%、時間当たりGDPが2.2
  %減少したことが分かる。だが、労働者1人当たりのGDP
  は、スペインでは11%、米国では5.6 %、カナダでは、
  1.5 %、日本では0.9 %、フランスでは0.2 %増加し
  た。ドイツでは0.7 %減少した。先進7カ国(G7)の中
  で英国より悪かったのは、1人当たりGDPが4.2 %減少
  したイタリアだけだった。時間当たりGDPでは、英国はイ
  タリアより悪く、最下位だった。  http://bit.ly/MuBFjr
  ―――――――――――――――――――――――――――

キャメロン英国首相.jpg
キャメロン英国首相
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2014年02月21日

●「外国投資家対日銀黒田総裁の勝負」(EJ第3735号)

 2014年1月22日の午後のことです。スイス・ダボスで開
かれた世界経済フォーラムにおいて、安倍首相は稀代の投資王・
ジョージ・ソロス氏と会談したのです。添付の写真はそのときの
ものです。今日のEJは、『週刊現代』3月1日号の巻頭大特集
の記事をベースにして書きます。
 1月24日になって市場が開くと、怒涛の売りが殺到し、東京
株式市場ではほぼ全面安になり、東証一部の90%を超える銘柄
が値下がりしたのです。週明けの27日もこの傾向は変わらず、
28日には、日経平均株価は終値で1万5000円を割る事態に
なったのです。一体何があったのでしようか。
 それまでヘッジファンドを中心とする海外投資家たちは、ひた
すら円を売り、日本株を買っていたのです。それが、円安・株高
の相場を作っていたのです。ところが、安倍・ソロス会談を境に
どうやら彼らは投資のスタンスを変更したらしいのです。
 ジョージ・ソロス氏は、その巨大な資金力を背景に、ここぞと
いうときには、国家に対しても果敢に投資戦を挑みます。有名な
のは1992年に英国政府に対して仕掛けた投資戦です。このと
きソロス氏は、巨額なポンド売りを徹底的に行い、それを買い支
えようとした中央銀行のイングランド銀行を最後には屈服させ、
勝利を収めているのです。
 世界の投資家が1月22日の安倍・ソロス会談を注目したのは
わけがあるのです。それは、ソロス氏がチェコ共和国のプラハに
本拠地を置くNPO法人「プロジェクト・シンジケート」のウェ
ブサイトに寄稿文を寄せていたからです。2014年1月2日の
ことです。
 「プロジェクト・シンジケート」のサイトは、世界中の著名人
が寄稿している知る人ぞ知る世界的な言論機関です。ジョージ・
ソロス氏をはじめとし、バリー・アイケングリーン氏、ノリエリ
・ルービニ氏、ブラッドフォード・デロング氏、ロバート・スキ
デルスキー氏など、著名な研究者、コラムニストによる論評を発
信しています。その「プロジェクト・シンジケート」にソロス氏
は次のような寄稿文をアップロードしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (黒田東彦総裁率いる日本銀行が昨年から姶めた)大規模な量
 的緩和は、リスクのある実験。成長が加速すれば金利が上昇し
 債務支払いのコストが維持できないものになる。しかし、安倍
 首相は日本を緩やかな死に処すより、そのリスクを取ることを
 選んだ。人々の熱狂的な支持から判断すれば、普通の日本人も
 同じように考えているのだろう。
           ──「週刊現代」2014年3月1日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 この寄稿文を読むと、ソロス氏は黒田総裁の異次元緩和策を評
価していないようにみえます。これを読んでソロス氏が「日本株
売り」をするのではないかと考えた投資家は多いと思います。
 もうひとつ気になるニュースがあるのです。それは、ブレバン
・ハワードの動きです。ブレバン・ハワードは、ブレバン・セッ
ト・マネジメント──ロンドンに拠点を置く、欧州最大級のヘッ
ジファンドです。クレディ・スイス出身のアラン・ハワードが、
2003年に立ち上げたヘッジファンドで、リーマン・ショック
の起きた2008にも2ケタの運用実績を上げています。しかし
ブレバン・ハワードは逃げ足の速いことで知られています。
 そのブレバン・ハワードは、昨年暮れから猛烈に日本株を買っ
ていて、この時期の日経平均株価を支えていたキー・プレーヤー
の一人であるといわれています。それが日本株売りをはじめたと
すれば、相場は大きく動くことになります。
 実際に2013年始からヘッジファンドを中心とする外国人投
資家は、この1年で15兆円という巨額のカネを日本株に注ぎ込
んでいるのです。しかし、リチャード・クー氏によると、日本の
機関投資家の大半は債券市場にとどまっていて、大きく動いてい
ないのです。そのため、長期金利は低位に安定し、外国人投資家
は安心して円を売り、日本株を買うことができたのです。その結
果、日経平均株価はわずか1年で56%も上昇したのです。
 それならなぜジョージ・ソロス氏は、日本から引き上げようと
したのでしょうか。
 それはおそらく安倍首相が靖国神社参拝を強行したことにある
ようです。現在、海外投資家が一番懸念しているのはチャイナリ
スクなのです。中国は成長と債務のジレンマを抱えていて、その
先行きがどうなるかによって、世界経済に大きな影響を及ぼすこ
とが懸念されているのです。世界中が腫れものに触るように気に
しているのに、安倍首相は中国との緊張を高めることばかりして
いるという不信感があるようです。
 確かに外国人投資家は1月から4週連続売り越していますが、
その総額は2兆円程度であり、少し引き始めたという程度に過ぎ
ないのです。ここからは、外国人投資家対日銀の腹の探り合いに
なっています。つまり、本当の勝負はこれからなのです。
 ヘッジファンドは3ヵ月ごとに決算をするので、大量に日本株
を売る機会は次の3つと考えられます。
―――――――――――――――――――――――――――――
            ◎3月決算
            ◎6月決算
            ◎9月決算
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本から逃げ出そうとしている海外投資家が気にしているのは
黒田総裁の追加緩和です。しかし、黒田総裁は「金融緩和は十分
な規模であり、日本経済は軌道に乗っている」として、追加緩和
の期待をかわしていますが、それを信じている海外投資家はいな
いのです。黒田総裁は、現物株を買うというサプライズを心に秘
めているといわれます。そうなると、海外勢も引くに引けないの
です。そのため、2月の日経平均はまさに上がったり、下がった
りの繰り返しです。     ──[消費税増税を考える/33]

≪画像および関連情報≫
 ●経済時計は今「10時」?/山崎元/ホンネの投資教室
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1年半くらい前を振り返ると、「人口が減る国の株価は上が
  らない」とか「低成長な国の株価は上がらない」といったこ
  とを言う人が複数いたように思うが、これらの意見は、そも
  そも理論的に正しくないし、事実の上でも誤りであることが
  立証された。さて、以下の図1(文末のURLクリック)は
  過去に本連載で紹介しているが、筆者が経済循環と相場につ
  いて考える際によく使う「山崎式経済時計」だ。資産価格と
  景気循環を、主に金融政策との関連で眺めたものだ。「・・
  バブルは『高すぎる資産価格』なのでやがて崩壊し、バブル
  が崩壊すると資産価格が下がり、不良債権問題が起こり、金
  融政策が緩和に傾く中、資産価格が徐々に回復し、やがて景
  気も回復するが、資産価格の上昇=担保価値の上昇を背景に
  金融機関が信用を拡大しすぎるために、また(ほぼ必ず)バ
  ブルが形成される・・」というのが、典型的な経済循環のス
  トーリーだ。現在の先進国では、景気対策の中心は金融政策
  だし、バブル形成の原動力となっているのは金融ビジネスの
  インセンティブ構造だが、まだ我々の社会は金融ビジネスを
  適切に制御することに成功していないので、このストーリー
  は頻繁に繰り返される。筆者の考えでは、日本経済は、おそ
  らく「10時」くらいの位置にある。十数年来金融緩和が不
  十分で「9時」を回ることことができなかったが、一昨年か
  ら昨年にかけて、やっとはっきり9時を回ったと見ていいの
  ではないか。日銀短観(昨年12月調査は大企業製造業で+
  14)などから見た景況感も「好況」の範囲に入ったといっ
  て良さそうだし、有効求人倍率も、ついに1・0倍まで回復
  した。              http://bit.ly/1e67yEV
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジョージ・ソロス氏と安倍首相.jpg
ジョージ・ソロス氏と安倍首相
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2014年02月24日

●「白川君忘れた歌を思い出してくれ」(EJ第3736号)

 黒田総裁の異次元金融緩和によって、ドル/円相場は「ドル高
/円安」基調になり、日経平均株価の上昇傾向が続いています。
そして、安倍政権はスタートして既に1年2ヶ月が経過しつつあ
る現在でも政権は高支持率を維持しています。
 ところで、黒田日銀総裁の異次元金融緩和に、市場はなぜ「仰
天のサプライズ」をしたのでしょうか。実際に欧米の金融関係者
は、黒田宣言に腰を抜かさんばかりに驚いたのです。
 これには2つの理由があると思います。
 1つは、日本のマネタリーベースは、既に欧米を圧倒していた
からです。米国のバーナンキ前FRB議長が3次にわたる巨額の
金融緩和をやったといっても、GDP比でみれば白川総裁の実施
したレベルに達していなかったからです。これは、既に2月6日
のEJ第3725号でも述べた通りです。
 黒田総裁は、その日本のマネタリーベースを2年で倍増すると
いったのです。これなら腰を抜かしても不思議ではないのです。
このように市場に対してサプライズを与えることは、中央銀行と
してとても大切なことなのです。
 2つは、その金融緩和が明確なインフレ目標を伴っていたこと
です。「2年程度で物価を2%にする」と明言しています。これ
も市場にとって大きなサプライズになったのです。なぜなら、こ
のように「2%」という具体的な数字が出ると、物価が2%にな
るまでは金融緩和を続けると市場は判断できるからです。
 これら2つのサプライズによって、ヘッジファンドをはじめと
する海外投資家は、日銀が従来の「日銀流理論」を変更したもの
と受け止め、一斉に円を売り、日本株を購入したのです。
 ところで、「日銀流理論」とは何でしょうか。
 アベノミクスの理論的支柱といわれる浜田宏一イエール大学名
誉教授の本に、早稲田大学若田部昌澄教授による解説が出ている
のでそれを引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私のみるところ、それは「一連の限定句」、平たくいうと「で
 きない集」である。つまり、原則として日銀は民間の資金需要
 に対して資金を供給しているので、、物価の決定についても限
 定的であり、とりうる政策手段も限定的であり、政府との協調
 関係も限定的であるべきというものである。たとえば、長期国
 債の購入によって貨幣供給量を増やすということは、それが財
 政政策の領分に入るので、禁じ手であるとされる。
               ──早稲田大学若田部昌澄教授
  ──浜田宏一著『アメリカは日本経済の復活を知っている』
                         講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は白川方明前日銀総裁は、浜田氏が東京大学経済学部の教授
時代の教え子であり、その聡明さはひときわ群を抜いていたとい
うのです。浜田氏にいわせると、経済学者には、数理的能力とそ
こで得た洞察を政策問題に適用して考える能力が必要とされるの
ですが、白川氏はその2つとも持っていたというのです。
 しかし、その聡明な学生である白川氏は日銀に入ると、なぜか
「日銀流理論」に染まってしまったのです。浜田氏は次のような
エピソードを語っています。
 浜田氏は2001年当時、内閣府経済社会総合研究所所長とし
て、経済財政諮問会議に出席していたのです。あるとき当時の日
銀総裁・速水優氏の補佐役の日銀審議役として、白川氏も会議に
出席したのです。
 そのとき、経済財政諮問会議で速水総裁は政策に関して浜田氏
と意見が衝突したのです。浜田氏は「白川ならわかる」と考えて
白川氏と別室で話し合ったのですが、白川氏は速水氏の意見を支
持して議論はかみ合わず、真っ向から対立してしまったのです。
そのとき浜田氏は、「白川も日銀流理論に染まってしまった」と
考えたそうです。
 白川氏は、福井総裁のあと、日銀総裁に就任しますが、政策は
従来の日銀流理論から一歩も出ないものであり、日本経済のデフ
レ色は濃くなる一方だったのです。これに危機感を抱いた浜田宏
一氏は、白川日銀総裁に対して公開書簡というかたちでメッセー
ジを送ったのです。それは、次のような内容です。浜田氏の本か
ら引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎総裁の政策決定の与える日本経済への影響の大きさ、しかも
 それによって国民がこうむる失業等の苦しみを考えると、いま
 申し上げておくことが経済学者としての責務と考えたので、あ
 えて筆をとった次第です。
 ◎私はいままで、貴兄の個人的な聡明さ、謙虚さなどをいっさ
 い疑ったことはありません。しかし、いま重要なのは、いかに
 論理的に明晰な貴兄が誠実に信じて実行されている政策でも、
 それが国民生活のためになっていないのではないかということ
 です。いま起こっている疑問は「貴兄のような明晰きわまりな
 い頭脳が、どうして『日銀流理論』と呼ばれる理論に帰依して
 しまったのだろう。
 ◎若者の就職先がないことは雇用の不足により、単に日本の生
 産力が失われるだけではありません。希望に満ちて就職市場に
 入ってきた若者の意欲をそぎ、学習による人的能力の蓄積、発
 展を阻害します。日本経済の活力がますます失われます。
 ◎日本銀行は、金融政策というこれらの課題に十分立ち向うこ
 とのできる政策手段を持っているのです。しかし、日本銀行は
 それを認めようとせず、使える薬を国民に与えないで、日本銀
 行が国民と産業界を苦しめていることを自覚していただきたい
 と思います。
 ◎白川君、忘れた「歌」を思い出してください。お願いです。
                ──浜田宏一著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/34]

≪画像および関連情報≫
 ●円高/株安は日銀の責任である/浜田宏一氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  私は今、「どうしてこんなに経済政策は長い間、間違えるん
  だろうか」と非常に興味を持っています。米国の銃規制など
  を見ていると、普通の人が正しいと思うことが政治の過程で
  はなかなかうまくいかないことがあるわけですが、日本の金
  融政策がこれほどまでに長く、どちらかというと緊縮の方に
  15年間も続いてしまったということが非常に不思議に思え
  ます。その理由の1つとして、政治家のいろんな利害などが
  妨げていたという考え方がありますが、もう1つに本当はみ
  んなが理解していないんじゃないかということがあります。
  私は、安倍晋太郎元外相ゆかりの安倍フェローというものに
  なったのですが、そこで調べていたのは「どうして金融政策
  は間違えるか」ということです。学者とすればアイデアが重
  要だ、自分のやっていることがちゃんと理解してもらえるこ
  とが一番重要だと思いたいのですが、なかなかそうはいきま
  せん。「インフレーションをわずかに起こすことが重要なん
  だ」といくら説いても、なかなか理解していただけない。日
  本のメディアはもちろんのこと、外国の新聞を見ても「日本
  銀行のデフレはいいことだ」とたくさん出てくる状況です。
  経済成長のために、人口増は絶対必要です。しかし、「人口
  減がデフレの要因である」と言ったまともな経済学者はいな
  いのですが、日本ではそれが盛んになって、日銀の白川方明
  総裁までそれに乗って喋っていた状態です。
                   http://bit.ly/1bQx2vR
  ―――――――――――――――――――――――――――

浜田宏一イエール大学名誉教授の本.jpg
浜田宏一イエール大学名誉教授の本
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2014年02月25日

●「日銀総裁はなぜ主張を曲げたのか」(EJ第3737号)

 アベノミクスは現在岐路に立っているといえます。株価は一進
一退の状況ですが、4月の消費税増税開始によって大きく局面が
変わると思います。
 失われた20年──これはどのように取り繕うとも日本銀行の
失敗の結果です。しかし、白川前日銀総裁は何も反省していない
のです。今後アベノミクスがどうなるのかを占うためにも、アベ
ノミクスの理論的支柱になったとされる浜田宏一教授の経済の考
え方について知る必要があります。
 浜田宏一教授が白川前日銀総裁に「忘れた『歌』を思い出して
ください」と訴えたのには理由があります。「金融政策の効果は
限定的である」というのが日銀のスタンスですが、かつての白川
氏はそういう考え方ではなかったのです。
 今から30年ほど前のことですが、白川氏は日銀入行後にシカ
ゴ大学に留学しています。そのとき、シカゴ大学のハリー・ジョ
ンソン教授の説に共鳴し、日本においても為替変動などの経済現
象には、日本銀行による金融政策が有効であるという論文を書い
ているのです。これは、金融政策を重視するハリー・ジョンソン
教授の説と同じ考え方であるといえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国際収支の不均衡は貨幣市場の不均衡によってもたらされ、
 調整は金融政策が有効である。──ハリー・ジョンソン教授
 ──浜田宏一著『アメリカは日本経済の復活を知っている』
                        講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これが白川氏の「歌」なのです。それだけに浜田教授は、白川
氏が日銀総裁になったとき、大いに期待したのです。なぜなら、
そのとき、外国人の著名な経済学者のほとんどは、潜在成長率の
はるか下で運営されている日本経済を「ナンセンス」と批判して
いたからです。
 しかし、彼はまったく聞く耳を持たなかったのです。ですから
浜田氏は白川氏に対して、「『歌』を思い出してください」とい
う公開書簡を送り、それが収録された著書を白川総裁と日銀審議
委員全員に献本したのです。
 ところが、白川氏は本を送り返してきたのです。「自分で買い
ます」という返書をつけてです。ずい分失礼な話です。これは、
浜田氏のメッセージは受け入れられないという白川氏の断固拒否
のメッセージです。「これではいかん」と思った浜田氏が書いた
のが昨日のEJでご紹介した『アメリカは日本経済の復活を知っ
ている』(講談社刊)なのです。
 浜田氏はこの本で「弟子が師に反抗することはよい傾向であり
健全なこと」として奨励してきたが、ただしそれは「新しく、よ
り正しい理論で行うべき」として、古めかしい日銀流理論に戻っ
た白川氏を批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 正統的な金融理論から日銀理論への回帰は、経済学発展の流れ
 からすると逆噴射である。最も困るのは、それが稼働率の低下
 や失業、そして倒産を生む、国民を苦しめる方向への退歩でも
 あるからだ。日銀やその総裁に対してではなく、自分のメッセ
 ージが届く範囲を広げなければいけない。私が一生かかって研
 究してきた成果を、一般の人々にこそ知ってほしい。そのため
 にあるのが、本書なのだ。   ──浜田宏一著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 白川総裁は、浜田氏のいうようにあくまで日銀流理論に基づい
て金融政策をとらえていることは確かです。それは、日銀審議役
当時の2000年1月の次の論文からも明らかです。これは『週
刊ダイヤモンド』/2000年1月29日号に掲載されたもので
同じ内容が日銀のウェブサイトにも載っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    「金融政策は構造政策までは代替できない」
     白川方明氏論文  http://bit.ly/1faOpBY
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでは、「金融政策と財政政策はマクロ経済教科書からは考
えられないほど行っている」とし、「金融政策には限界があり、
構造改革実施までの「時間を買う」程度のことしかできない」と
強調しています。白川氏は既にこの時点で金融政策限界論を唱え
ていたのです。
 白川氏のいい分としては、常識を超えた金融緩和も日銀はやっ
ているが、効果が出ないのは構造問題の改革ができていないから
であるといい、成果が上がらない責任を明らかに政府に押し付け
ているのです。
 これは、1998年に新日本銀行法が施行されたのと無関係で
はないと思います。それ以降日本経済はほとんど最悪のマクロ経
済のパフォーマンスを続けてきているのです。その原因は、日銀
が責任を持って金融政策に取り組まず、デフレや超円高をもたら
すような緊縮政策を続けてきたからです。実は白川時代の日銀の
金融緩和は「包括緩和」といい、真の金融緩和ではないのです。
これについて経済評論家の上念司氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 具体的には、これまでの輪番オペとは別に65兆円程度の基金
 を用意して、この基金の枠を増やしたり減らしたりすることで
 金融緩和をやったふりをするという巧妙なものです。65兆円
 のうち長期国債にあてられた金額というのはごくわずかで、そ
 の他のものはほとんど短期の債券と交換していただけです。デ
 フレに陥った日本のような状況において短期の債券と貨幣を交
 換しても、お金とお金を交換しているのとほとんど変わりませ
 ん。つまり、わざと効果がないように巨額のお金を使うという
 のが日銀の包括緩和の実態でした。      ──上念司著
    「アベノミクスを阻む『7つの敵』」/イーストプレス
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/35]

≪画像および関連情報≫
 ●金融の量的緩和と円安/アダム・スミス2世の経済解説
  ―――――――――――――――――――――――――――
  金融の量的緩和を強化して為替を円安に誘導すべきである、
  という意見を持つ人は多い。私もその中の1人である。しか
  し、量的緩和の強化は円安の進行につながらない、と考えて
  いる人に、説得力のある説明をするのは、かなり困難なこと
  である。為替レートの決定理論の1つにマネタリーアプロー
  チというものがある。マネタリーアプローチの考え方では、
  日本がアメリカよりマネーストックをより増やせば円安にな
  り、日本がアメリカよりマネーストックをより減らせば円高
  になる。この、マネタリーアプローチの考え方が、1970
  年代の変動相場制の下で、為替レートの決定理論として有効
  であるという論文を1979年に書いたのが、現日銀総裁で
  ある白川方明氏である(日銀HPに掲載)。この論文で、白
  川氏は、「為替レート変動はすぐれて貨幣的現象である」と
  いうマネタリーアプローチの基本命題を実証的に明らかにし
  た、と記している。当時の白川氏は、マネタリスト強硬派か
  貨幣万能主義者と思えるくらい、貨幣の経済や為替レートへ
  の影響力を重視していたように見える。もっとも、現在の白
  川氏は、すっかり変身してしまったようであるが。
                   http://bit.ly/1hceftT
  ―――――――――――――――――――――――――――

白川方明前日銀総裁.jpg
白川 方明前日銀総裁
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2014年02月26日

●「日銀の事実上のインフレ目標導入」(EJ第3738号)

 黒田日銀総裁以前の日銀の金融緩和がなぜ効かなかったのかと
いうと、本気でやる気がなかったという一語に尽きます。まさに
「やったフリ」をしてきたわけです。
 米国のFRB議長は雇用の改善に責任をもっており、長期にわ
たって景気が回復せず、雇用が低迷する事態が続くと、確実に責
任問題になります。しかし、白川総裁は日銀のやれることは限ら
れているとして、成果に関しての責任を政府にゲタを預ける態度
をとっているのです。
 そのため、金融緩和もどきのことはやったのですが、インフレ
目標は絶対に掲げようとはしなかったのです。それどころか、白
川総裁は金融政策に効き目がないことを自らの講演や論文で何回
も訴えており、とくにインフレ目標に関しては、日銀スタッフを
動員して、「米国のFRBでもインフレ目標を導入していない」
ことを国会議員に対して「ご説明」に回らせていたのです。
 ところが白川総裁にとって困ったことが起きたのです。それは
2012年1月25日のことです。米連邦公開市場委員会(FO
MC)で、FRBは2%のインフレ目標の導入を決断したからで
す。日銀は慌てて、「あれは『インフレ目標』ではない。バーナ
ンキ議長もそういっている」として見苦しいいい訳を繰り返した
のです。「バーナンキ議長もそういっている」というのは、25
日の会見で、バーナンキ議長がいった次の発言に基づいているも
のと思われます。バーナンキ議長は「これはインフレ目標か」と
いう記者の質問に対して、次のように答えているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 すばらしい質問だ。もし、「インフレ目標」を物価を最優先し
 て雇用などを2次的なものとするということを意味するのであ
 れば、その答えはノーだ。というのは、FRBは2つの責務を
 もっているからだ。   ──バーナンキFRB議長(当時)
―――――――――――――――――――――――――――――
 これがインフレ目標を否定するものでないことは、誰でもわか
ると思います。あくまで、2%の物価目標を達成するとともに、
雇用も改善させると語っているからです。
 これを聞いてさすがの白川総裁も「これはまずい」と思ったの
でしょう。2012年2月14日のバレンタインデーにインフレ
目標らしきものをはじめて口にします。具体的に白川総裁は次の
発表を行ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費者物価の前年比上昇率1%を目途として、それが見通せる
 ようになるまで実質的なゼロ金利政策と金融資産の買い入れな
 どの措置により、強力に金融緩和を推進していく。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2月14日の昼過ぎにこの日銀発表が伝わると、いちばん驚い
たのは東京市場なのです。これまで、円買いを仕掛けてきた海外
ヘッジファンドなどの投機筋は、一斉に円売りに動いて、一気に
為替相場は円安に振れたのです。
 発表から一夜明けた15日も円安・株高が継続し、ドル/円相
場は78.67 円まで上昇、日経平均は2011年10月31日
の高値9152円39銭を抜いて、一時9300円台を回復して
いるのです。海外の投資家は、これを日銀の政策変更としてとら
えたからです。これについて、浜田宏一教授は著書で次のように
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀の新政策によって、日経平均株価は一時的にせよ、1万円
 を上回った。円安も1ドル80円を超えて進んだ。日銀自身が
 主張し、多くのエコノミストや学者たちが主張していた「金融
 政策は効かない」という見解が、明白に反証されたのである。
 金融緩和は、ただ量だけで効くのではない。このときのように
 「期待」を通じての効果が大きいのである。繰り返して強調し
 たい。過去数年間、さまざまな経済要因のなかで、それがたと
 え中途半端なものであったとしても、2012年2月のインフ
 レ・ゴール宣言以外、ここまで株価や為替レートに影響を与え
 たものがあっただろうか?         ──浜田宏一著
    『アメリカは日本経済の復活を知っている』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このとき、市場は白川日銀総裁(当時)は、黒田日銀総裁が異
次元金融緩和を打ち出したように、次の日銀政策決定会合で大規
模な金融緩和を打ち出すであろうと読んでおり、それに大きな期
待をかけたのです。
 しかし、それは見事に裏切られるのです。まるで自分の発言で
円安/株高の流れができたことをくやむように、少しずつ元の状
態に戻してしまったのです。
 確かに日銀がインフレ目標らしきものを導入し、それによって
円安/株高になったとしたら、それまで白川総裁が発言してきた
ことと完全に矛盾します。おそらく彼はそれにこだわってその後
ほとんど何もせず、多くの人の期待を裏切りながら、もとの円高
/株安の状態に戻してしまったからです。
 これについて、浜田氏は、バレンタインデーにチョコレートを
くれるといいながら、実際には「1%」の義理チョコだったばか
りか、結局何もくれなかったのに等しいといっています。さらに
浜田氏は白川総裁が「低金利は企業の脆弱さを招く」という理論
を繰り返していることについて、次の懸念を表明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 シカゴ大では、まず経済の名目量と実質量の混同を戒めると聞
 いているが、秀才であるはずの白川総裁は、長い日銀での生活
 のなかで、大学院教育すら忘れてしまったのだろうか・・・。
 「新しい政策は政治的配慮によるものではない」といいながら
 「金融政策はデフレ解消に効くとは限らない」という世界孤高
 の「日銀流理論」もちらつく。 ──浜田宏一著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/36]

≪画像および関連情報≫
 ●<日銀>インフレ目標導入 政策効果に限界も
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日銀は実質的なインフレ目標の導入と追加金融緩和の「合わ
  せ技」でデフレ脱却に向けた強い意志を示した。しかし、既
  に日銀の実質ゼロ金利などの緩和策は長期化しており、市場
  では「政策効果はもはや限界」との指摘もある。日銀は10
  年に始めた包括的な金融緩和策を当面は継続する姿勢を明確
  に打ち出した。日銀は国債などの買い入れ基金を10兆円積
  み増して市場の資金をジャブジャブにし、企業の設備投資や
  一般家庭の消費を促すことでデフレ脱却に結びつけたい考え
  だ。しかし、国内ではこれまでの緩和策で、長期金利の指標
  となる10年物国債の利回りが、既に1%を割り込む超低水
  準に下落。これ以上の金利低下は難しく、政策効果は限られ
  ている。また、欧州債務危機など世界経済の先行きに不安が
  ある中では、たとえ低金利で借りられても、企業の設備投資
  意欲は高まらない。そもそも日本でデフレが長期化している
  のは、少子高齢化による国内の需要減少など構造的な要因が
  大きいとの指摘もある。白川方明・日銀総裁は14日の会見
  で「デフレ克服には潜在的な成長率を高めることが必要。そ
  れには企業、銀行、政府、日銀が協力して役割を果たすこと
  が必要だ」と述べ、日銀の金融政策だけでは限界があるとの
  考えを示唆した。  ──毎日新聞/2012年2月14日
                   http://bit.ly/1bY8Pns
  ―――――――――――――――――――――――――――

バーナンキ前FRB議長と白川前日銀総裁.jpg
バーナンキ前FRB議長と白川前日銀総裁
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2014年02月27日

●「庶民の生活が意識にない日銀総裁」(EJ第3739号)

 白川前日銀総裁の「バレンタインデー緩和」は、一時的にせよ
なぜ効いたのでしょうか。
 それは、「目標」とはいわないものの、事実上の「インフレ目
標」を宣言したことにあります。白川総裁は、つね日頃から日銀
流理論に基づいて、金融政策の限界を強調してきています。その
日銀総裁が「目途」という曖昧な表現ながら、「消費者物価指数
で前年比+1%」という数字を出して、これを達成するまでゼロ
金利と金融緩和を推進すると宣言したのです。
 この「前年比+1%」の難易度ですが、消費者物価指数(総務
省)の3ヶ月移動平均を前年比で見ると、過去10年で1%の水
準を上回ったのは、資源価格高騰の影響を受けた2008年5月
から12月のみしかなく、相当困難な目標であることがわかりま
す。しかし、日銀はその「目途」が達成できるまで、ゼロ金利と
金融緩和を推進することを市場にコミットメントしたのです。こ
れが重要なのです。
 したがって、市場は日銀が従来のスタンスを変えたのだと確信
したのです。インフレ目標を宣言するのとしないのとでは、市場
に対するインパクトがこれほど違うのです。しかし、日銀の「目
途」には、いろいろな抜け穴があることがわかってきたのです。
 インフレ目標で一番厳しいのは、英国の中央銀行のイングラン
ド銀行です。イングランド銀行のインフレ目標は、目標数値だけ
でなく、達成期間の明示が求められ、理由分析などの報告義務も
あります。これに比べると、FRBのインフレ目標には、それが
達成できなかったときの報告義務はなく、緩やかなように見えま
す。むしろ日銀のそれに近いといえます。
 しかし、FRBは「物価上昇率は金融政策でコントロールでき
る」と明確に打ち出していて、目標達成に失敗すれば、義務では
ないが、それについて議会で説明するのは当然のことになってい
るのです。
 しかし、日銀の場合は、日頃から「金融緩和だけで物価を上昇
させることは困難であり、政府の成長戦略や企業努力も必要であ
る」との考えを示しており、最初から腰が引けて、逃げをうって
いるように見えます。目標は打ち出しても、達成できなかったと
きの責任をコミットメントしていないのです。
 これに比べると、黒田現日銀総裁のインフレ目標は「2年程度
で物価目標2%を達成する」と明言し、「もし達成できなければ
日銀総裁を辞任する」とまで、踏み込んだ発言をしています。こ
こまでいえば、ストレートに市場に伝わるのです。白川前総裁の
「目途」とは大きく異なります。
 それでも市場は日銀の「バレンタインデー緩和」に大きく反応
したのです。しかし、市場の期待に反して日銀はなかなか追加緩
和をせず、米国のFRBが2012年9月に、第3次の金融緩和
「QE3」を実施するにおよんで、やっと追加緩和を発表したの
です。いつも米国の後追いの金融緩和です。
 これについて、浜田宏一教授は、「バレンタインデー緩和」は
評価しつつも、日銀の対応を次のように批判したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は2012年2月14日の日銀決定を見て、日銀が改心した
 可能性があると思っていた。ところが片岡剛士氏に指摘され、
 9月の日銀の新決定をFRBの決定と比較してみた。すると、
 日銀の諸決定は、金融緩和を装いながら、約束だけして、なん
 ら実行を伴わない、あるいは実行を徹底的に先延ばしにする、
 いってみれば批判逃れの政策に過ぎないことが分かった。(中
 略)「バレンタインデー媛和」は、日銀が市場の期待に働きか
 けようとした新機軸だった。しかし、実際の貨幣供給、そのも
 ととなる資産の買い上げのフォローアップを、その後ほとんど
 しなかった。実際にはチョコレートを配らなかったわけだから
 これでは、義理チョコ以下、いわば空手形だ。そのため、20
 12年9月13日、アメリカのQE3の決定に合わせて、19
 日に日銀が緩和を宣言しても、株価、円レートに対する影響は
 きわめて弱いものになってしまった。FRBの行動をやむを得
 ず追従しながら、日本ではなく世界に向って「金融政策でデフ
 レは解消しません」と講演して回った総裁のおかげで、効くは
 ずの緩和政策も効かなくなってしまったのである。浜田宏一著
    『アメリカは日本経済の復活を知っている』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 浜田宏一氏は日銀の意識に「庶民の生活はない」といいます。
円高政策がいかに庶民を苦しめているか、わかっていないといい
ます。確かにそう思います。白川氏は日銀のバランスシートをき
れいにして名総裁といわれる道を選んでいるように思います。そ
ういう人に庶民の苦しみはわからないでしょう。
 浜田氏は数学者の藤原正彦氏の『週刊新潮』のコラム「管見妄
語」の次の一文を例に引き、専門家でない藤原氏にわかることが
専門家の日銀はなぜわからないのか、疑問を呈しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今もっとも責められるべきは、財務省や財界や政府と言うより
 日銀であろう。デフレ不況を十数年も放置してきた責任の大半
 は日銀にあるのだ。リーマン危機以来、アメリカは通貨供給量
 を3倍に増やすなど、米英中韓その他主要国の中央銀行は猛然
 と紙幣を刷り景気を刺激した。日銀は微増させただけで静観を
 決めこんでいる。ここ3年間で円がドル、ユーロ、ウォンなど
 に対し3割から4割も高くなつたのは主にこのせいだ。今すべ
 きことは、日銀が数十兆円の札を刷り国債を買い、政府がその
 金で震災復興など、公共投資を大々的に行い名目成長率を上げ
 ることだ。札が増えるから円安にもなる。工場の海外移転にも
 歯止めがかかる。ここ14年間、経済的困窮による自殺者が毎
 年1万人も出ている。日銀は動かない。
                ──浜田宏一著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/37]

≪画像および関連情報≫
 ●国民を苦しめた白川前日銀総裁/浜田宏一氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ――日本銀行は2013年1月22日、政府との連携強化を
  目的とした共同声明と、自由民主党が政権公約に掲げた「物
  価上昇率の目標2%」を取り入れた金融緩和策を発表しまし
  た。どう評価されていますか。
  浜田:これまで日本銀行はいろんな理由をつけてやらないと
  いうことが続いてきた。共同声明で合意を得られたのは評価
  すべきだ。物価目標2%は国際的に見ても標準的なインフレ
  目標で、これも進歩だ。日銀の方向転換として第1の驚きは
  昨年2月14日の“バレンタイン緩和”(「物価上昇率は当
  面1%をメド」とする金融緩和の推進)と呼ばれる動きだっ
  た。当初、株価が反応したものの、結局、日銀が「デフレ脱
  却に向けた金融政策をするようには思えない」と見られ、長
  続きしなかった。一方、アベノミクスでは、まだ何も政策を
  やっていないうちに、「デフレを脱却する政権ができるのだ
  ろう」と国民が思っただけで、円安や株高になっている。こ
  れは岩田規久男(学習院大学教授)さんや高橋洋一(嘉悦大
  学教授)さんのいう、「期待」の効果が金融政策には重要だ
  ということを実証している。    http://bit.ly/MT8zdD
  ―――――――――――――――――――――――――――

数学者/藤原正彦氏.jpg
数学者/藤原 正彦氏
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2014年02月28日

●「金利の基礎を勉強する必要がある」(EJ第3740号)

 2月26日のEJ第3738号の巻末に、浜田宏一イエール大
学名誉教授の次の言葉を引用しましたが、何を意味しているので
しょうか。再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 シカゴ大では、まず経済の名目量と実質量の混同を戒めると聞
 いているが、秀才であるはずの白川総裁は、長い日銀での生活
 のなかで、大学院教育すら忘れてしまったのだろうか・・・。
                     ──浜田宏一教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは「白川君はもしかしたら、金融政策当局としての日銀に
とって重要なのが『実質金利を下げること』であることを忘れて
いるのではないかという浜田氏の皮肉なのです。秀才の白川氏が
そんな経済の基礎知識を知らないはずがないからです。
 ここで、金利について考えてみることにします。実際の経済に
深く関係する金利は、企業がカネを借りるときの金利であり、個
人が住宅を買うときのローン金利です。企業や個人が意識してい
る金利はこれらの金利です。
 企業はカネを借りる調達コストである金利よりも、そのカネを
使って事業をして得られる平均的リターンが高いと考えれば、企
業はカネを借りて事業を展開するので、市中に出回るカネ──マ
ネーサプライは増加します。
 ここでいう事業の平均的リターンと経済成長率はほぼ同じもの
と考えることができます。その国で企業が生み出す付加価値の合
計がGDPであり、そのGDPの増加率が経済成長率であるから
です。これから次のことがいえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ◎金利 < 成長率 ・・・・ 金融緩和
     ◎金利 > 成長率 ・・・・ 金融引締
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは「ゼロ金利」というときの金利はどういう金利なので
しょうか。
 この金利は、日銀が直接操作する「短期金利」のことです。短
期金利とは、大手銀行同士が1日のカネの貸し借りをするときの
金利のことですが、これは一般の人々にほとんど関係のない金利
なのです。しかし、これは中央銀行が唯一操作できる大元の金利
ということになります。
 銀行は、日銀の決めるこの大元の金利に適切な儲けなどを乗せ
て企業への貸出金利や住宅ローン金利を決めるのです。しかし、
現在この大元の金利が「ゼロ」になってしまっているのです。コ
ントロールすべき金利がゼロでは、金利に関しては何もできない
ということになります。
 ゼロ金利になったときに中央銀行として日銀のやるべきことは
次の2つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.     量的金融緩和
        2.インフレ期待の引き上げ
―――――――――――――――――――――――――――――
 量的金融緩和というのは、日銀が、銀行が持つ日銀当座預金口
座にひたすら現金を積み上げることをいうのです。これは日銀が
民間の銀行が有する短期国債などを買い上げることによって実現
することができます。
 このままであれば、いわゆるマネタリーベースが増えるだけで
すが、この口座には金利はつかないので、銀行は結局は口座から
現金を引き出して貸し付けなどに使うことになるので、マネーサ
プライが増えていくという考え方です。
 インフレ期待の引き上げというのは、それが実現すると、実質
金利が下がるのです。仮に1年に物価が3%上がるとすると、現
在の100円は3%の価値を失うことになるので、この分を補正
しなけれればならないのです。実質金利は次の式で求めることが
できます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    実質金利 = 名目金利 ― 期待インフレ率
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融緩和によって一般的には金利は下がりますが、これは名目
金利です。米国の長期金利(名目金利)が3%前後のときでも、
期待インフレ率が2%あれば、実質金利は1%になるのです。
 これに対して日本の場合は、長期金利は1%でもデフレなので
期待インフレ率はマイナス1%と考えると、実質金利は2%にな
るのです。実質金利が低いほど、投資が行い易い環境ができて、
景気が刺激されるということになります。
 それでは、期待インフレ率を上げるにはどうすればよいかとい
うことになります。そのためには、中央銀行はインフレ目標──
具体的な物価上昇目標を掲げ、国民がそれを信ずることです。期
待インフレ率は、国民が「インフレになりそうだ」と思わない限
り、そうならないからです。
 ところで、「期待インフレ率」は、どのようにして計測するの
でしょうか。
 それは、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)という市
場金利の変化を観察することによって、知ることができます。B
EIというのは、市場で取引されている物価連動債をもとに算出
する予想インフレ率の一種です。つまり、物価連動債の利回りは
実質金利ということになるのです。
 現在、アベノミクスの効果についていろいろいわれていますが
そのなかには、名目金利と実質金利を混同した意見がとても多い
のです。それも、専門家といわれる経済学者やエコノミストのな
かにも、そうした混同をしている人がいて、間違った議論が横行
しているように思います。
 浜田教授のいう「経済の名目量と実質量の混同を戒める」とい
うのはそういうことをいっているのです。これについては、来週
のEJで考えます。     ──[消費税増税を考える/38]

≪画像および関連情報≫
 ●実質金利は事業計画の世界には存在しない/近藤駿介氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「実質金利の低下には企業の投資を刺激する効果がある」。
  理屈上では、こうした見方は成り立つものかもしれません。
  しかし、「企業が設備投資に動くには、実質金利の低下とい
  う資金の調達環境の好転だけでは不十分。中期的な期待成長
  率が上がり、需要拡大が続くという見通しを企業が持つこと
  が必要」というのが現実です。経済学を知っている人達の中
  には、「名目金利から物価の影響を除いた実質金利」という
  概念を重要視される方も多くいらっしゃいます。しかし「実
  質金利」という概念は企業の事業計画においては存在しない
  ものです。日本経済新聞のこの記事は「実質金利の低下」を
  「資金調達環境の好転」と説明していますが、これは正しい
  説明だとは言えません。事業計画の基本は、「売上」と「経
  費」、そして「売上」から「経費」を引いた「収益」で成り
  立っています。ここで「売上」は「単価×数量」に分解され
  この「単価」の部分に「物価の影響」が反映されます。国内
  景気がよく、価格の上昇によっても「数量」が減らなければ
  「単価」の上昇に伴い「売上」も上がっていくことになりま
  す。そして、金利は「経費」の部分に含まれますが、使われ
  るのはあくまで「名目金利」です。つまり、「実質金利=名
  目金利ー物価上昇率)」というのは、「売上」の想定に使わ
  れる「単価」の上昇と「経費」を見積もる際の「名目金利」
  を通して間接的に事業計画に反映される形になっています。
  したがって「実質金利」の低下、マイナスというのは、「収
  益」が拡大するためのひとつの要素に過ぎないということで
  す。               http://bit.ly/1edlXnB
  ―――――――――――――――――――――――――――

日本のインフレ率(年平均値).jpg
日本のインフレ率(年平均値)
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2014年03月03日

●「混同しやすい名目金利と実質金利」(EJ第3741号)

 前号のEJで「名目金利」と「実質金利」の違いについて述べ
ましたが、世の中で横行している議論のなかでは専門家でもこの
2つを混同しているケースが多いのです。ひとつ、例を上げるこ
とにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アベノミクスで物価上昇(インフレ)期待が進めば、国債の利
 回りである「長期金利」が上がっていくだろう。「長期金利」
 がいまの1%から2%程度に上がっただけで、政府債務の金利
 負担は膨れ上がり、財政運営は大変なことになる。
―――――――――――――――――――――――――――――
 一見もっともな議論のように思います。「消費税増税は是か非
か」の議論のときも、「消費税増税をしないと日本国債の信任が
低下し、長期金利が高騰し、財政運営が危機に瀕する」と耳にタ
コができるほど、聞かされたものです。こういう論法で来られる
とほとんどの人は「大変だ」と思ってしまうでしょう。
 しかし、これは正しくないのです。それはこの議論では「長期
金利」を「名目値」でとらえていると考えられるからです。思い
出していただきたいのは、次の式です。
―――――――――――――――――――――――――――――
    実質金利 = 名目金利 ― 期待インフレ率
―――――――――――――――――――――――――――――
 このケースでは、「物価が上がると長期金利は上がる」といっ
ているので、ここでいう金利は「名目金利」です。もし「実質金
利」と考えているならば、物価が上がるということは、期待イン
フレ率が上がることですから、実質金利は下がるからです。
 安倍政権が発足するときは、名目金利は1%程度、物価上昇率
はマイナス0.5 %程度だったので、実質金利は1.5 %という
ことになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1―(―0.5 %)=1.5 %
―――――――――――――――――――――――――――――
 名目金利が上昇するということは、実質金利は下落することを
意味していますが、これは果たして政府の財政運営を難しくする
でしょうか。
 結論を先にいうと、それは逆なのです。名目金利が上昇すると
国債の利払い費を増やすことは確かですが、既に発行されている
国債の利払いが影響するわけではなく、それを借り換えるとき、
今までよりも高い金利になるので、国債利払費が増えるのです。
これは、「政府債務/GDP」の分子である「政府債務」が増え
ることを意味しています。
 政府の債務状況を見るときは、絶対額を見るのでなく、GDP
比で見るべきです。現在日本の公的債務の対GDP比は200%
を超えており、危機的状況にあることは確かです。
 しかし、物価が上昇するということは、名目GDPを増やすこ
とを意味します。名目GDPが増えると、これは「政府債務/G
DP」の分母を増やすことを意味するのです。もし、名目金利が
1%上昇しても、物価が2%上昇するなら、分子は1%増えるも
のの、分母も2%増えるので、全体としては政府の債務負担は軽
減されることになるのです。
 確かに「実質金利」はわかりにくい概念です。前回のEJで、
「実質金利が低いほど、投資が行い易い環境ができて、景気が刺
激される」と述べましたが、これについて資金を調達して、不動
産投資をするケースで考えてみます。
 アベノミクスがうまくいって、名目金利が1%から2.5 %に
上昇し、物価が2%で上昇すると仮定します。この場合、一般物
価と不動産価格や株価は連動するので、物価が2%上がれば、不
動産価格や株価も2%程度上昇します。
 このときの調達金利は名目金利ですが、負債の実質的な負担は
実質金利なので、名目金利が2.5 %になっても、物価が2%で
上昇していく限り、実質金利は下がり、借金の実質額も2%で減
少していくことになります。
 要するに、実質金利が低下していれば、名目金利が高くなって
も不動産投資をする人には有利な環境になっているのです。これ
は住宅ローンを利用して住宅を購入する人にとっても同じことが
いえます。つまり、実質金利が低下する環境では、不動産投資は
行い易いのです。
 安倍政権発足以来続いている円安/株高の現象について、岩田
規久男氏(現日銀副総裁)は次のように述べています。これは岩
田氏が日銀副総裁になる直前の発言です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 期待実質金利の低下が(足元の)円安や株高の要因になってい
 る。金融緩和が強化されるとの思惑から名目金利が低下する一
 方で将来のインフレ率を織り込んだ予想インフレ率が上昇して
 いるからだ。名目金利から予想インフレ率を引いた「期待実質
 金利」が下がっている。安倍晋三首相が主張する大胆な金融緩
 和への期待などを背景に金融政策の枠組みが大きく変わるとの
 見方が広がり、予想インフレ率が上昇している。多くの人が抱
 くデフレ予想をインフレ予想に変えなければデフレ脱却はでき
 ない。この場合、金融政策だけがデフレ予想をインフレ予想に
 変えられる。          ──2013年3月4日付
             日経QUICKニュース(NQN)
―――――――――――――――――――――――――――――
 岩田氏は、そのさい市場が注視しているのは、日銀の当座預金
やマネタリーベース(資金供給量)との考えを示し、「当座預金
残高が10%増えると、予想インフレ率は0.44 ポイント上が
る」と述べているのですが、これには、いろいろな議論があるの
です。これについて明日のEJで考えることにします。
 いずれにせよアベノミクスを分析するのは、名目金利と実質金
利の違いを正しく理解しておく必要があります。
              ──[消費税増税を考える/39]

≪画像および関連情報≫
 ●岩田日銀副総裁インタビュー/2013年6月24日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ──「量的・質的金融緩和」(異次元緩和)導入後の効果の
  波及度合いをどのようにみているか。
  岩田日銀副総裁:2%の物価安定目標をできるだけ早く達成
  することに日銀がコミットしているという重要な柱がある。
  これを大前提にして量的・質的金融緩和でマネタリーベース
  を増加させていくことで、予想インフレ率が高まっていく。
  (予想インフレ率の上昇で)実質金利が下がれば、ある程度
  の時間はかかるが、設備投資や住宅投資が増える。株価と円
  相場にも影響を与え、株と外貨資産の価値が上がる2つの資
  産効果が消費を押し上げる。円高修正によって、輸出も増え
  てくる。このように設備投資、住宅投資、個人消費、輸出と
  いう民間需要が拡大し、需給バランスが改善していく。需給
  バランスが改善すれば生産が増えるので雇用も増えてくる。
  その結果、少しずつ賃金や物価が上昇する。そうなれば予想
  インフレ率が一段と上がり、実質金利が下がって設備投資な
  どを刺激する効果を繰り返す好循環の過程に入っていく。
  ──緩和効果に対する現状の評価は。
  岩田日銀副総裁:予想インフレ率の上昇によって、マインド
  が改善する効果はすでに出ている。消費が先行して動き、生
  産もすでに増加している。有効求人倍率が上昇し、雇用も改
  善するとの見通しの中、いろいろなところで緩和効果があら
  われ、前向きな行動がでてきている。現状は実体経済に影響
  を及ぼす芽が出始めている段階といえる。
                   http://bit.ly/1kzy1jA
  ―――――――――――――――――――――――――――

岩田日銀副総裁.jpg
岩田日銀副総裁
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2014年03月04日

●「なぜマネーストックに変更したか」(EJ第3742号)

 「異次元金融緩和」といいますが、日銀は何をしているのかと
いうと、ひたすら金融機関が保有している国債──短期だけでは
なく長期国債も含めて買いまくっているのです。
 日銀が国債を買ったおカネはどこに行くのかというと、700
ほどある金融機関が日銀にに預けている無利息の当座預金に行き
積み上げられているのです。この日銀当座預金は、金融機関が顧
客からの預金の一定割合を預け入れなければならない決まりであ
る「準備預金制度」によって成り立っています。
 日銀当座預金は、原則として利息は付きませんが、日銀がとく
に必要と認める場合には、利息を付けることができるようになっ
ています。現在は、2008年10月に「補完当座預金制度」が
導入され、必要準備額を超える準備預金の保有に対して、日銀は
利息を支払うようになっています。
 日銀が金融機関の国債を購入して金融機関の日銀当座預金に積
み上げているおカネは「マネタリーベース」と呼ばれていること
は既に述べた通りです。日銀はこのマネタリーベースをひたすら
増加させようとしています。つまり、日銀は金融機関に対して、
おカネの供給量を増しているのです。
 ここで基礎的なことですが、経済学でいうおカネ、マネーとは
「現金」ではなく「預金」のことです。現金は企業や家計が必要
に応じて預金から引き出したものです。現在はおよそ84兆円の
現金が市中で流通していますが、現金の総量は大きく変化しない
のです。なぜなら、高額な取引になるほど、現金では行われない
し、クレジットカードなどによるキャッシュレス化も進んでいる
からです。
 日銀が大規模な量的・質的緩和を実施しても現金が増えること
はないのです。日銀は別に輪転機を回してはいないのです。現金
が増える唯一の理由は、預金者が自分の預金を現金で引き出すこ
とだけなのです。日銀は預金者が現金を引き出す度合いに合わせ
て、輪転機を回しているのです。
 「マネー=預金」と考えると、預金には次の2つがあり、それ
らの預金から、市中に流通している現金84兆円分だけ、少なく
なっていると考えることができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.企業や家計が金融機関に預けている預金
               ─→マネーサプライ
    2.            日銀当座預金
              ─→マネタリーベース
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで、企業や家計が金融機関に預けている預金はマネーサプ
ライと呼ばれますが、これにはもちろん、原則として市中に流通
している現金も含まれます。あくまで現金は預金から引き出され
たものという考え方に立っています。
 ところが、現在日本では、「1」をマネーサプライとはいわず
「マネーストック」と呼ぶようになっています。2008年のこ
とです。金融機関の日銀当座預金をのぞく預金の残高合計額のこ
とです。どうして日本では名称を変更したのでしようか。
 それをいい出したのは実は日銀なのです。日銀がインフレ目標
を認めたくないので、そう呼ぶようになったのです。これはいわ
ゆる「日銀流理論」のひとつとなっています。
 日本の学者は権威に弱いのか、こういう日銀流理論に対しては
それがおかしいと思っても、ほとんど批判をしないのですが、た
だ一人それを痛烈に批判した人がいます。それは、現在日銀副総
裁の岩田規久男氏です。この人が日銀の副総裁になったのですか
ら、日銀内部は大変だったと思います。
 もともと岩田氏は、1990年代はじめのバブル潰しのための
三重野日銀総裁の金融引き締め策とマネタリーベースの急激な低
下を痛烈に批判したのです。日銀もそれに反論し、日銀は次のよ
うなことをいい出したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   日銀は、マネーストックをコントロールできない
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは実におかしな話です。中央銀行は「物価の番人」といわ
れる存在です。物価を上げるというのは、インフレにすることで
あり、そのためにはマネーストックをコントロールする必要が
あります。それができないというのは、ものの役に立たないとい
うことを意味するからです。
 長い論争が行われ、植田和男東大教授(専門はマクロ経済学/
金融論)が両者の仲裁に入り、両者の意見を裁定して次のように
まとめたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マネーストックのコントロールは、短期的にはできないが
 長期的には可能である。   ──植田和男東大教授の裁定
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで「長期的」といっているのは、「1年以上」ということ
なのです。1日とか1ヶ月とかの短期的にコントロールできない
のはむしろ当然のことであり、1年ならできるというのは「でき
る」のと同じなのです。いずれにせよ、この騒ぎがあって日銀は
マネーサプライを「マネーストック」に名称変更したのです。し
かしEJでは従来通り、マネーサプライを使うことにします。
 確かに日銀は、量的金融緩和策により、マネタリーベースは金
融機関の日銀当座預金にマネーを積み上げればよいので、その総
量を自由にコントロールできます。しかし、いくら、マネタリー
ベースを増やしても、それがマネーサプライになるには、銀行が
日銀当座預金から、おカネを引き出して使ってくれないと不可能
であり、それでコントロールできないといったのだと思います。
 実は、これについては大きな議論があるのです。黒田日銀総裁
の異次元の量的緩和策により、マネタリーベースは積み上がって
いますが、その多くはストックされたままになっていることも事
実です。          ──[消費税増税を考える/40]

≪画像および関連情報≫
 ●マネーストックの伸びは順調/絶対値では横ばい
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日銀は2013年10月11日、9月のマネーストック(マ
  ネーサプライ)速報を発表した。代表的な指標であるM3は
  前年同期比3・1%の増加となった。6月に3・1%という
  2004年3月以降最大の伸びを記録して以来、毎月3%台
  という順調な伸びが続いている。ただ前年同月比ではなく、
  マネーストックの絶対値で見ると量的緩和開始以降、伸び悩
  んだ状態となっており、量的緩和の効果がどの程度寄与して
  いるのかはまだ不透明だ。マネーストックは金融機関から市
  中に提供されるマネーの総量のことを指している。これに対
  して日銀が金融機関に提供しているマネーの量はマネタリー
  ベースと呼ばれる。日銀による異次元の量的緩和策では、政
  策目標をマネタリーベースに設定しており、マネタリーベー
  スを年間70兆円分増やすことを確約している。マネタリー
  ベースが増えれば、銀行は理論上、貸出を増やすことになり
  信用創造が膨らみ、最終的にはマネーストックの増加につな
  がってくる。これが量的緩和策の狙いである。だが日銀が国
  債を大量に買い取り、その代金を当座預金に振り込んだとし
  ても、金融機関がそのお金を市中に提供しなければ、マネタ
  リーベースは増えてもマネーストックの量は増えない。実態
  経済に直接影響を及ぼすのは、現実に市中に出回るお金なの
  で、量的緩和策が効果を上げているのかは最終的にはマネー
  ストックの数値を見る必要がある。 http://bit.ly/1kjXyQS
  ―――――――――――――――――――――――――――

植田和男東大教授.jpg
植田 和男東大教授
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2014年03月05日

●「量的金融緩和は果たして効果的か」(EJ第3743号)

 日銀の異次元金融緩和で積み上がるのは、金融機関の日銀当座
預金の残高──マネタリーベースです。日銀が金融機関の保有し
ている国債などを買い上げて、その代金として日銀当座預金に振
り込んでいるのです。
 これを銀行の側から見ると、保有していた国債が日銀当座預金
に移動するだけであり、日銀から振り込んでもらっても資産が増
えるわけではないのです。低利の国債がこれまた低利の当座預金
に入れ替わるだけです。現在、日銀の当座預金には「0.5 %」
の金利が付いています。
 少しわかりにくいですが、銀行にとって預金(日銀当座預金も
含む)は負債なのです。したがって、量的金融緩和とは銀行の負
債を増やしていることになります。銀行が資産を増やすには、民
間(企業+家計)に対してそのおカネを貸し出し、貸付金を増や
さなければならないのです。
 資金の貸し出しが行われると、その分だけマネーサプライ(マ
ネーストック)が増加することになります。したがって、これが
活発に行われるようになると、インフレ率が上昇し、景気が刺激
されるのです。
 しかし、貸し出しを増やすには、銀行の思うようにはいかない
のです。民間の資金需要が増加しないと貸付金は伸びないからで
す。リチャード・クー氏にいわせると、経済がバランスシート不
況に陥っていると、企業は借金を返済して、バランスシートの修
復を行うので、どのような良い条件でも銀行からおカネを借りて
事業を拡大しようとしないのです。
 現在国債は銀行の大きな資産を形成しています。政府が国債を
発行すると、銀行は積極的にそれを購入します。そのときのおカ
ネの流れをたどってみることにします。
 銀行は日銀当座預金から資金を引き出し、政府が日銀に保有し
ている当座預金口座に振り込みます。この場合は単なる資金の移
動ではなく、実体経済に影響を与えます。なぜなら、政府はその
資金を財政支出に充てるからです。その結果、財政支出を受け取
る国民の預金が増加します。つまり、銀行が国債を購入すると、
その分だけ預金──マネーサプライ(マネーストック)が増加す
ることになります。
 このように銀行が資産を増やして預金の増加をもたらすことを
「信用創造」といいますが、マネーサプライ(マネーストック)
はこの信用創造によって増加するのです。
 問題は、黒田日銀総裁による異次元金融緩和の狙いがどこにあ
るのかということです。推測されることは次の2つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.マネーサプライ(マネーストック)が不足していること
   がデフレの原因である。
 2.マネタリーベースを増やせば、マネーサプライ(マネー
   ストック)は増加する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この2つの考え方に関連して、三菱UFJリサーチ&コンサル
ティング研究員で、コンサルタントの五十嵐敬喜氏は、この金融
政策は間違っているとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 皮肉と言うほかない。今の金融政策は二重の意味で適切的では
 ない。1つは、マネタリーベースを増やせばマネーストックが
 増えると考えていることだ。もう1つは、マネーストックが増
 えればデフレが克服できると考えていることだ。しかし、日銀
 が銀行からせっせと国債を購入してマネタリーベースを増やし
 ても、マネーストックは増えない。何よりマネーストックが不
 足しているからデフレに陥っているという認識は正しくない。
 経済規模(GDP)対比で見た日本のマネーストックの残高は
 すでに欧米の2〜3倍ある。日本のデフレの原因は、あり余る
 マネーストックが一向に動こうとしないことなのだ。
                     ──五十嵐敬喜氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 このマネタリーベースをいくら増やしても、それは各金融機関
の日銀当座預金に積み上げられるだけで、マネーサプライ(マネ
ーストック)は増えないという主張に対しては、さまざまな反論
があるのです。
 現在日銀副総裁としてアベノミクスを担っている岩田規久男氏
は、これについて次のように反論しています。まず、この主張か
ら読んでください。
―――――――――――――――――――――――――――――
  私が日銀副総裁就任前から受けてきた批判に対して反論して
 おきたいと思います。その批判とは、「日銀がマネタリーベー
 スを大量に供給しても、銀行の超過準備が積み上がるだけで、
 貨幣は増えないため、インフレには寄与しない」という主張で
 日銀が供給した超過準備がいわゆるブタ積み(無駄積み)にな
 っているのではないか、という批判です。要は、量的緩和は無
 駄だという主張です。この批判の妥当性を実際のデータから確
 かめてみましょう。添付ファイルの図表は2005年から20
 07年までの邦銀の超過準備と予想インフレ率の推移を表して
 います。日銀が2006年3月に量的緩和を解除したあとに超
 過準備が急激に減り予想インフレ率は急落しました。民間投資
 家たちは銀行に超過準備が急減したのを見て、日銀はデフレ脱
 却にコミットしていないと判断したのでしょう。つまり、市場
 参加者は中央銀行のスタンスを見極めるために、超過準備の動
 きを注視しているのです。「超過準備は無駄である」と断定す
 るのは早計ではないでしょうか。   http://bit.ly/1mNIX23
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この岩田日銀副総裁の反論は、マネタリーベースを増
やしてもマネーストックは増えないことへの十分な反論にならな
いと思います。アベノミクスが成功するかどうかの問題であり、
明日のEJでも考えます。  ──[消費税増税を考える/41]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀当座預金の秘密を探る/金融アナリスト・久保田博幸氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  大胆に違う金融政策と言うものの、新総裁候補の黒田氏や副
  総裁候補の岩田氏の発言を確認する限り、現在と次元はあま
  り違うものではなさそうである。あえていえば白川総裁がや
  や控え気味であったアナウンスメント効果を意識し、期待に
  働きかけようとしている点が大きく異なる程度とみられる。
  金融政策についてはすでに日銀は2%の物価目標を導入して
  おり、それを達成するための手段が求められる。その手段と
  して、日銀が基金により買い入れている国債の年限長期化、
  通常の買入と基金による国債買入の統合、それに伴う銀行券
  ルールの廃止、買入資産のうちのリスク資産の購入増額、超
  過準備の付利撤廃、スワップなどのデリバティブの活用など
  が指摘されている。これらを個別に検討する必要もあるが、
  かなり専門的な部分もあり、今回はそれよりももっと基本的
  なところから大胆な金融政策なるものの矛盾点を導き出して
  みたい。日銀は日本で唯一の発券銀行であり、日銀の当座預
  金口座を通じて民間の銀行と資金のやり取りをしており、銀
  行の銀行である。また政府も日銀に当座預金口座を設けてお
  り、いわばこの口座が政府の金庫の役割をしている。ちなみ
  に、昔は大蔵省と呼ばれた財務省には政府のお金が詰まった
  蔵は存在しない。また地方公共団体は日銀に当座預金口座は
  設けられず、こちらは主に地方銀行などの口座を利用してい
  る。               http://bit.ly/1jJABE0
  ―――――――――――――――――――――――――――

超過準備とインフレ予想(日本)/岩田日銀副総裁資料.jpg
超過準備とインフレ予想(日本)/岩田日銀副総裁資料
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2014年03月06日

●「アベノミクスはリフレ政策である」(EJ第3744号)

 「超過準備」という言葉があります。この言葉の意味をはっき
りさせておきましょう。
 預金を受け入れている金融機関は日銀に当座預金をつくり、そ
こに預金の一定割合を積み立てることが義務付けられています。
これを「必要準備」といい、それを上回る部分を「超過準備」を
いうのです。日銀が量的金融緩和を行うときは、この超過準備を
劇的に増加させることになります。
 岩田日銀副総裁は、量的金融緩和によって超過準備を積み上げ
ることがインフレ率を高め、実質金利を低下させて投資しやすい
環境を作り、結果としてマネーサプライ(マネーストック)を増
やすと主張しているのですが、それを裏付ける事実として、20
13年5月22日のバーナンキFRB議長の次の議会証言を上げ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     買い入れ資産の増加ペースを若干抑制する
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言によって、米国の量的金融緩和QE3において、FR
Bによる資産買い入れが近いうちに縮小されるという憶測がマー
ケット全般に広がったのです。バーナンキFRB議長のこの発言
後、米国では予想インフレ率の低下とともに、名目金利も一挙に
2%を超え、予想実質金利が急上昇するという事態に発展してし
まったのです。
 岩田副総裁は、この事実を指摘し、量的金融緩和で中央銀行の
当座預金に積み上がる超過準備は市場関係者に大きな影響を与え
ており、けっして「ブタ積み」されているわけではなく、インフ
レ率に大きな影響を与えていると主張しているのです。
 岩田副総裁のようなマクロ経済学の理論を主張する一派を「リ
フレ派」といいます。「リフレ」とは「リフレーション」の略語
で、「再膨張」を意味しています。
 リフレが目指すのは、経済学的には景気循環においてデフレー
ションから脱却して、マネーサプライが再膨張し、加速度的なイ
ンフレーションになる前段階にある比較的安定した景気拡大期な
のです。
 リフレ派の主張は、政府・中央銀行が数パーセント程度の緩慢
な物価上昇率をインフレターゲットとして意図的に定めるととも
に、長期国債を発行して一定期間これを中央銀行が無制限に買い
上げることで、通貨供給量を増加させて不況から抜け出すことが
可能だとするものであり、安倍政権がアベノミクスとして目指し
ているものはまさにコレなのです。
 このリフレに関しては、多くの反対意見があります。その反対
意見を述べる経済評論家の一人に池田信夫氏がいます。池田氏は
自身のブログ「アゴラ」において、2012年11月18日付で
『安倍晋三氏のためのインフレ入門』と題する記事を書いていま
す。安倍政権が誕生する以前のことです。
 この時点では安倍氏が推進しようとしている経済政策はほぼ明
らかになっていましたが、そういう考え方はすべて間違いである
として、添付ファイルのグラフを使って、次のように解説してい
ます。このグラフは、緑がマネタリーベース、赤がマネーサプラ
イ(マネーストック)をあらわしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 一般論としては、マネタリーベースを増やせばマネーストック
 も増えることが多い。グラフでも、金利が高かった1980年
 代後半から90年代前半にかけてはマネタリーベースの動きと
 マネーストックの動きはかなりパラレルになっている。しかし
 デフレでゼロ金利になった2000年代には両者の動きには、
 まったく相関がない。これは流動性の罠に入ったためだ。・・
 と言ってもわからないと思うので、たとえ話で考えよう。日銀
 の供給する資金をバナナと考えると、金利はその値段だ。値段
 がついているうちはバナナの量を増やせば売れ行きも増えるが
 バナナが増えすぎて値段がゼロになったら、それ以上増やして
 もバナナは売れず、店に「ブタ積み」になるだけだ。
               ──池田信夫ブログ「アゴラ」
 『安倍晋三氏のためのインフレ入門』 http://bit.ly/1mOyxPP
―――――――――――――――――――――――――――――
 解説のなかに出てくる「流動性の罠」とは何でしょうか。
 経済が「流動性の罠に陥った状態」というのは、名目金利がこ
れ以上下がらない下限に到達した状態のことです。つまり、ゼロ
金利の状態がそれに該当します。
 この状態においては、マネーサプライ(マネーストック)の増
加は、定義上これ以上の金利の低下をもたらすことができなくな
り、単に貨幣需要の増加に吸収されてしまうだけであるため、金
融政策の有効性が完全に失われてしまう状態です。
 確かに、グラフでは、池田氏のいう通り、ゼロ金利になってい
ないときは、緑と赤は相関し、ゼロ金利になってからは緑は上下
しているものの、赤はほとんど変化がなくなっています。いくら
中央銀行が量的緩和をやっても投資意欲を刺激することはできな
い状態です。これが流動性の罠です。
 問題は流動性の罠からどのようにして脱出するかです。ノーベ
ル賞受賞経済学者、クルーグマンプリンストン大学教授は次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中央銀行が非伝統的な経済政策、すなわちインフレ期待を高め
 実質金利をマイナスにすれば「流動性の罠」から脱却できる。
 インフレ目標やマイナス金利の導入に現実味がないというなら
 期待インフレ率を高めるため、減税などの財政政策と、ゼロ金
 利などの金融緩和を組み合わせた政策を打ち出すのが有効だ。
                ──ポール・クルーグマン著
     「そして日本経済が世界の希望になる」/PHP新書
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/42]

≪画像および関連情報≫
 ●安倍総裁の提唱する自民党の「焼け跡」政策/池田信夫氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  衆議院が解散された。前回2009年の総選挙は、「政権交
  代」がテーマだったが、今回の総選挙は経済政策になりそう
  だ。野田首相はTPP(環太平洋パートナーシップ)参加と
  「脱原発依存」を掲げる一方、自民党の安倍総裁は日銀法改
  正とインフレ目標を掲げた。特に市場に大きなインパクトを
  与えたのは、安倍総裁の「2〜3%のインフレ目標を設けて
  日銀に無制限に緩和してもらう」という発言だ。これを受け
  て円相場は半年ぶりに1ドル=81円台になり、日経平均株
  価は9000円台に乗せた。安倍氏は解散後の記者会見でも
  「日銀法改正を視野に入れ、大胆な金融緩和をする。かつて
  の自民党とは次元を変えた経済政策をとってデフレ脱却に挑
  む」と語った。これについて記者会見でコメントを求められ
  た野田首相は「中央銀行の独立性の問題が出てくるのではな
  いか」と疑問を呈した。日銀法では日銀の独立性が保証され
  ており、政府が「緩和しろ」とか「引き締めろ」ということ
  は許されない。法的に日銀を拘束する目標は「物価安定」だ
  けで、そのために金融調節をどうするかは日銀にゆだねられ
  ている。これは政治家には、つねに金融緩和を求めるインフ
  レバイアスがあるからだ。(中略)もし安倍氏のいうように
  2%のインフレ目標を設けて、政府が「目標が達成されるま
  で無制限に緩和しろ」と命令すると、何が起こるだろうか。
  安倍氏は物価上昇率が0.1 %、0.2 %・・・というよう
  に徐々に上がっていくと思っているのだろうが、そういうこ
  とは起こらない。         http://bit.ly/1i57FZI
  ―――――――――――――――――――――――――――

マネタリーベースとマネーストックの前年比.jpg
マネタリーベースとマネーストックの前年比
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2014年03月07日

●「量的金融緩和は確実に効いている」(EJ第3745号)

 昨日のEJで、「流動性の罠」に陥ると、マネタリーベースを
いくら増やしてもマネーサプライ(マネーストック)は反応しな
いことを示すグラフについて説明しました。
 ところが、これに対する反論があるのです。あのグラフは一種
のレトリックであるというのです。グラフは、マネタリーベース
とマネーサプライ(マネーストック)を比較しているのですが、
規模が違うものを同じスケールで比較しているというのです。
 マネタリーベースとは、日銀が量的金融緩和策などで金融機関
の日銀当座預金に積み上げる「超過準備」の総額のことであり、
マネーサプライ(マネーストック)は、民間の銀行預金の現在高
と市中に流通する現金の総額です。当然ですが、マネタリーベー
スよりもマネーサプライ(マネーストック)の方が総量としては
圧倒的に多いのです。実際の数字で示すと、2013年12月時
点では次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マネタリーベース         ・・・  193兆円
 マネーサプライ(マネーストック)・・・・ 1174兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 これで見ると、マネーサプライ(マネーストック)は、マネタ
リーベースの約6倍の規模であることがわかります。したがって
この2つの指標を同じスケールでグラフにすると、どうしてもマ
ネーサプライ(マネーストック)の方の動きがよく見えないのは
当然のことです。
 添付ファイルを見てください。2つのグラフのうち、【グラフ
1】は昨日のEJに添付したスケールを調整していないグラフで
あり、スケールを調整したものが【グラフ2】です。これを見る
と、マネタリーベースとマネーサプライ(マネーストック)は相
関していることがわかります。
 実はこの指摘をしたのは『アベノミクスを阻む「7人の敵」』
(イーストプレス刊)の著者の上念司氏であり、グラフの製作者
は三菱UFJモルガン・スタンレー証券・景気循環研究所長の嶋
中雄二氏です。
 嶋中氏はこのグラフについて次のようにコメントしています。
ちなみに、このレポートは、2012年7月11日付けであり、
民主党野田政権のときのものです。福井・白川日銀総裁時代の金
融緩和もちゃんと効いているというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いずれにしても、日銀が日銀当座預金と日銀券を供給して、貸
 し出しに全く影響しないことなどあり得ない。そのことは【グ
 ラフ1】を見れば明瞭にわかる。なるほど、マネタリーベース
 でマネーストック(M3)を割った信用乗数の値が低下してい
 るが、伸び率に直して見るとマネタリーベースの前年比を10
 %増やせば、マネーストックの前年比が1%伸びるという安定
 的な関係が1990年以降、今日まで一貫して続いている。
           ──「嶋中雄二の景気サイクル最前線」
                   http://bit.ly/1kpnoTC
―――――――――――――――――――――――――――――
 嶋中雄二氏によると、量的金融緩和がどのように波及していく
かについては、まず為替に影響を与え、続いて株価に作用が出て
しかる後にインフレ期待の高まりに比例して長期金利が上がり、
住宅需要や実需の資金需要が出てくるといっています。
 このように中央銀行が量的金融緩和をすれば、そのやった分だ
けは、確実に経済に影響を及ぼし、効いてくるということが嶋中
氏のレポートでわかります。日銀当座預金に無駄に「ブタ積み」
されるわけではないのです。
 ところで、金利はゼロでも銀行の民間(企業+個人)への貸し
出しは一向に増えず、民間は借りようとしないので、日銀がいく
ら超過準備を積み上げても無駄であるという指摘について、浜田
宏一氏はそれは二重の意味で間違っているといっています。
 第1は、デフレ下では、たとえ金利はゼロであっても実質の利
子率はゼロではなく、民間としては借り入れの決断がしにくいと
いうことです。
 デフレの世の中では、金利はゼロでも物に対して貨幣の価値が
上がっているので、借り手は物価下落分まで含めて多くを返さな
ければならなくなっており、借り手としてはなかなか借りられな
いのです。この借り手の負担のことを「実質利子率」といい、そ
の値はゼロではないのです。
 第2は、おカネはジャブジャブあるのに借り手がいないわけで
はなく、金利がゼロなら借りたいが、借りたくても手が出ない事
情があるのです。
 銀行としてはおカネを貸す以上、確実に返してもらう必要があ
るので、担保を取ることになります。しかし、デフレ下では資産
価値が下落し、担保価値が下がってしまうので、担保を提供でき
ず、借りたくても借り入れができないのです。
 政策当局としては、もし貸出金が増えないなら、その実態を把
握し、貸し出しが増える政策をとる必要があります。そのさい、
超過準備は増やさなければならないのです。これについて、バー
ナンキ前FRB議長も次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 貨幣が経済にうまく効くためには、貸し出しがうまく行われ、
 スムーズな借り入れができるようにならなければならないが、
 貨幣量を増やすことも必要だ。  ──浜田宏一著/講談社刊
         『アメリカは日本経済の復活を知っている』
―――――――――――――――――――――――――――――
 浜田氏は、国民生活に多くの苦しみをもたらしているのは、デ
フレと円高であるといっています。デフレは円という通貨の財に
対する相対価値であり、円高は外国通貨に対するそれである──
すなわち、貨幣的な問題なのであり、いずれも適切な金融政策で
解決できるものであり、それを実行するのは日銀の務めであると
いっています。       ──[消費税増税を考える/43]

≪画像および関連情報≫
 ●クルーグマン教授の経済入門/壺斎閑話
  ―――――――――――――――――――――――――――
  筆者が手にしている日経ビジネス文庫版の「クルーグマン教
  授の経済入門」にはおまけがついている。「日本がはまった
  罠」と題する小論だ。この小論の中でクルーグマンは、90
  年以降に日本が陥った深刻で長引く不況について、その本質
  や原因、そしてそこから脱出するには何が必要かについて論
  じている。何しろクルーグマンがこの小論を書いた90年代
  末の時点で、日本はすでに10年近い不況にあえいでいて、
  それ自体が経済学の常識を超えた異常な事態だったのに、そ
  の後も日本の不況は延々と続き、2012年になった現在で
  も、デフレ不況は収まる様子が見えない。なぜそんなことに
  なるのか。日本は流動性の罠にはまっている、というのがク
  ルーグマンの診断だ。それは簡単にいえば、「短期の名目金
  利がほぼゼロなのに、総需要が常に生産能力を下回っている
  ことだ」という。         http://bit.ly/1hWNHvR
  ―――――――――――――――――――――――――――

マネタリーベースとマネーストックの関係.jpg
マネタリーベースとマネーストックの関係
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2014年03月10日

●「日本のデフレの定義を変えた学者」(EJ第3746号)

 ここまで検討してきたように、経済にはいろいろな考え方があ
ります。これまでEJで取り上げたアルベルト・アレシナ教授の
緊縮財政の考え方、公的累積債務を問題にするカーメン・ライン
ハートとケネス・ロゴフ両教授の論文、リチャード・クー氏のバ
ランスシート不況論などはいずれも主観的な考え方であり、デー
タはその正当性を裏付けるものが集められているといえます。
 しょせん経済学はそういうものであり、どの考え方が正しいか
は客観的に決められないのです。したがって、政府が経済政策を
決める場合、多岐にわたる経済についての考え方のどれを取り上
げるかを選択する必要があります。
 アベノミクスの最大の目標は「デフレからの脱却」です。とこ
ろが、その「デフレ」にもいろいろな考え方があるのです。既に
1月20日のEJ第3712号で述べたように、経済学の世界で
は、デフレの原因、デフレの対策をめぐって、学者たちの意見は
真っ二つに分かれているのです。再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1. 貨幣現象派
          2.総需要不足派
        http://bit.ly/1bbPN6F
―――――――――――――――――――――――――――――
 浜田宏一氏によると、世界の経済学の常識では、「デフレ」は
「物価水準が下がっている状態」と定義されていますが、日本で
は2001年3月までは次のようにとらえていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  デフレは物価水準の下落をともなった景気の低迷である
―――――――――――――――――――――――――――――
 この定義に異を唱えて変更させたのは、元日銀副総裁の岩田一
政氏です。当時内閣府政策統括官をしていた岩田氏は、日本のデ
フレの定義は世界の常識に合わないとして、それまでの定義を次
のように2つに分割させたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.    物価水準が下がっている状態
     2.景気が悪くなって生産が停滞すること
―――――――――――――――――――――――――――――
 浜田宏一氏は、岩田一政氏を安倍首相に日銀総裁の候補として
推薦していたといいます。岩田氏が体制のなかから改革のできる
人物であるからです。浜田宏一氏は、岩田氏について次のように
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 東大教授を務めたこともある岩田一政氏は、その後、日本銀行
 副総裁に就任し、さらに内閣府経済社会総合研究所の所長も歴
 任した。岩田一政氏は、私が経済企画庁に客員として在籍して
 いたときの共同研究者であり、『金融政策と銀行行動』(東洋
 経済新報社)や、英文の論文の共著者でもある。絶えず経済学
 のフロンティアをわきまえながら、日銀政策委員会でも、正し
 い金融の論理に基づいて少数票を投じるたいへん貴重な存在。
 日銀総裁の有力候補だ。     ──浜田宏一著/講談社刊
         『アメリカは日本経済の復活を知っている』
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレを2つに分けて考えることは意義があります。デフレは
「物価水準が下がっている状態」であり、貨幣現象であるので、
金融政策で解決することができます。そのために安倍首相は、第
1の矢として、黒田東彦氏を日銀総裁を任命し、「異次元金融緩
和」で「物価水準が下がっている状態」から脱却させることを目
指しています。これは「通貨の創出」です。
 そのうえで「景気が悪くなって生産が停滞すること」にも手を
打つ必要があります。そこで安倍首相は第2の矢として財政政策
を推進しています。これは、総需要の不足を解決しようとしてい
るのです。つまり、「通貨の支出」です。
 これら第1の矢と第2の矢については、定量的な裏付けもあり
デフレ期の日本の経済政策としては正しいといえます。当初安倍
氏はこの第1の矢と第2の矢しかいっていなかったのです。安倍
首相は、誰が何といおうと徹頭徹尾第1の矢と第2の矢で、日本
経済をデフレから脱却させ、数年をかけて、景気再生を図るべき
だったのです。
 ところが、こと経済再生にかけては諸悪の根源である財務省と
それを取り巻く識者と称する烏合の衆の学者たちの画策によって
安倍首相は、2014年4月からの消費税増税を決めたのです。
これはせっかく正しい第1の矢と第2の矢を潰してしまい兼ねな
い大失策です。
 今まで日本は、せっかく再生しかかっている経済をうんざりす
るくらい財政再建という名の増税で潰してきたのです。少し経済
が回復しそうになると増税という緊縮政策を取り、経済回復の芽
を摘んでいるのです。何度失敗を繰り返しても、それを失敗と認
めず、彼らは一切反省しないのです。
 経済失策による「失われた20年」によって多くの自殺者が出
ていることを考えると、何回も同じ失敗を繰り返すことは犯罪行
為に等しいことです。それでいて、財政再建は一向に進まず、経
済の失速により、かえって財政赤字は拡大しています。
 首相を取り巻く財務省や学者、評論家などの識者のやったこと
を今週のEJでは振り返ります。そして、今回の消費増税が日本
に何をもたらすかを検証します。
 もうひとつ、政府が日本経済の再生に取り組もうとすると、必
ず出てくる構造改革派の動きです。既に彼らはアベノミクスに第
3の矢を追加させ、動き出しています。そもそも構造改革とは何
をするのか、安倍首相は岩盤規制といっていますが、改革すべき
「構造」とは何でしょうか。そして彼らは構造改革をしないと日
本経済は復活しないといい続けています。それに構造改革派は、
現在安倍政権の進めているリフレ政策には反対の立場です。この
問題にもメスを入れます。  ──[消費税増税を考える/44]

≪画像および関連情報≫
 ●デフレ脱却のための2条件/岩田一政氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  政府は、デフレ克服のための閣僚会議の設置を決定した。野
  田総理は10年におよぶデフレを克服することは、全力を挙
  げて取り組むべき最重要課題であると述べた。古川経済財政
  政策担当大臣は、デフレの背景として(1)需給ギャップの
  存在(2)デフレ予想の定着(3)予想成長率の低迷を指摘
  した。私は、日本が1990年代半ば以降の持続的なデフレ
  傾向、すなわち、「デフレ均衡」からの脱却を図るには、2
  つの条件を満たすことが重要と考えている。第一は、根強い
  円高傾向(円高期待)を円安傾向(円安期待)へと方向転換
  することである。第二は、一人当たり名目賃金が安定的に上
  昇するようになることである。また私は、1970年代から
  の持続的な円高傾向(円高期待)が、1990年代半ばに一
  つの頂点に達し、日本経済を「デフレ均衡」へと導いた主要
  な要因であったと考えている。「デフレ均衡」という用語は
  物価上昇率が正で財市場・金融市場・労働市場の需給が等し
  くなる「正常な均衡」とならんで別の均衡(複数均衡)が経済
  に存在することを暗黙の前提にしている。複数均衡を想定す
  ることは、日本のデフレは正常均衡からの一時的な乖離では
  なく、構造的な性格をもっていることを意味している。従っ
  て経済が一時的にデフレに陥った場合よりも、デフレ克服が
  一層困難であることを意味している。他方で、戦前1930
  年代のようなスパイラル的な物価下落が生ずるわけでもない
  ことも意味している。     ──2012年4月17日
                   http://bit.ly/1dB2FI6
  ―――――――――――――――――――――――――――

岩田一政氏.jpg
岩田 一政氏
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2014年03月11日

●「首相はなぜ消費増税を決断したか」(EJ第3747号)

 安倍首相はなぜ消費税増税を決断したのでしょうか。今回の増
税は5%を8%に引き上げる大増税であり、しかも、2015年
10月からは税率をさらに10%に引き上げることが予定されて
いるのです。
 経済再生と消費税大増税は明らかに矛盾します。アベノミクス
はせっかく好調に走り出したのに、2014年4月から税率を8
%にすれば、それに急ブレーキをかけるに等しいからです。アク
セルとブレーキを同時に踏み込んで、アベノミクスならぬアベコ
ベミクスに転落する確率がきわめて高くなっています。
 安倍首相が増税の決断をしたのは、短期的な経済成長の好調さ
と東京オリンピックの招致決定などに加えて、「こんな良い条件
が揃っているときに増税できなければ、日本は政府債務がGDP
の2倍以上ある国なのに、増税の決断ができない国であると海外
から思われるという首相の周りを取り巻く識者からの意見があっ
たからであると思われます。
 ここで「こんな良い条件」とは、足元の経済の好調さと、直前
の参院選挙でも勝利して衆参のねじれが解消できたことを指して
います。しかし、そうであるからこそ、安倍首相は消費税増税を
思いとどまるべきであったと思うのです。なぜなら、安倍政権の
支持率の高さは、経済の好調さ──「円安/株高」が支えている
からです。
 なぜ、やるべきでなかったかについて、考えてみることにしま
す。前回の消費税増税が行われた橋本内閣の1997年1〜3月
期は、名目GDPの水準は約522兆円(年換算)もあったので
す。これは、日本の潜在的名目GDP水準で、ほぼピーク時の名
目GDPであり、2013年4〜6月期の約479兆円よりも、
43兆円も高いのです。この43兆円分のGDPギャップがデフ
レギャップにほぼ相当するのです。この約43兆円の溝は、過去
のピーク時のGDP水準の8.2 %に相当します。デフレギャッ
プがそれだけあるということです。
 アベノミクスが開始される直前の2012年10〜12月期の
名目GDP水準は約473兆円。それ以降、3四半期連続で経済
成長したが、2013年4〜6月期までGDPはたかだか約6兆
円増加しただけなのです。成長率で見ると、3四半期の間でたっ
た1.3 %しか成長していないのです。
 このように1997年は日本経済は好調だったのです。しかし
3%の消費税の税率を2%上げただけなのに、経済は急落して日
本は長期不況に突入し、2014年の現在もいまだにデフレから
脱却できないでいるのです。
 その1997年当時よりもはるかに厳しい現在の経済状況にお
いて、前回よりも1%多い3%もの税率を引き上げることの危険
がどれほどのものか、安倍首相自身が早晩身をもって知ることに
なると思います。
 この約43兆円のデフレギャップを埋めるには、少なくとも経
済成長を3〜4年は継続する必要があります。これをクリアする
ことによって、やっと1997年当時のGDP水準に戻ることが
できるのです。これがデフレからの脱却であり、安倍政権の公約
であるはずですが、なぜ、この時期に経済成長に大ブレーキをか
ける大増税を決断したのか、理解に苦しみます。デフレ不況下の
消費税大増税は「狂気の沙汰」であるからです。
 浜田宏一氏は、消費税を2倍にすると、社会的損失は4倍にな
るとして次のように警告しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 価格メカニズムはたとえばハンバーガーを生産して販売するの
 にどれだけかかり、それに消費者がいくら払うかを媒介として
 資源の配分を能率的にしようとするものである。ところが消費
 者の払った10パーセントが政府の懐に入るとなると、消費者
 のシグナルが生産者につながらなくなる。同様に、生産者のコ
 ストも10パーセント増しでしか消費者に伝わらなくなる。こ
 のように、税、たとえば消費税は、需要のシグナルと供給のシ
 グナルとの間に楔を設けるのである。消費税の税率が2倍にな
 ると、社会的な損失は2倍でなく、その2乗、つまり4倍とな
 るのだ。            ──浜田宏一著/講談社刊
         『アメリカは日本経済の復活を知っている』
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそもこの時期に消費税の増税をせざるを得ない状況になっ
たのは、次の5人の財務省の傀儡政治家のせいです。いずれも財
務大臣を経験しており、財務省に完全に洗脳されています。今回
の増税は官僚組織に軍資金を与えるだけに終わります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.谷垣 禎一(自民党)
      2.与謝野 馨(自民党/民主党)
      3.藤井 裕久(民主党)
      4.菅  直人(民主党)
      5.野田 佳彦(民主党)
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本では明治維新以来一貫して官僚主導政治が続いています。
かつては、この政治体制が機能して奇跡ともいうべき戦後復興を
成し遂げた功績もあるのですが、最近ではきわめて劣化し、官僚
組織は国益よりも省益を優先するようになっており、日本のさら
なる成長の足を引っ張っています。
 民主党は、そういう官僚政治を打破して国民の手に政治を取り
戻そうとして、小沢一郎氏のリーダーシップによって政権交代を
成し遂げたものの、上記5人のなかの藤井裕久元財務相、菅直人
・野田佳彦元首相らの大勢の裏切りによって実現が阻まれ、逆に
官僚の手先になって、公約違反の消費税増税を敵である自民党と
組んでまで強行したのです。それによって、政権交代の恩人であ
る小沢一郎元代表を官僚と手を組んで謀略で離党させ、再起困難
な情勢に追い込んでいます。許すことのできない5人の戦犯政治
家です。          ──[消費税増税を考える/45]

≪画像および関連情報≫
 ●「社会保障の充実なき増税」/2013年9月13日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  安倍総理は2013年10月1日に会見を開き、消費税を現
  行の5%から8%に引き上げることを、正式に発表した。総
  理は会見で、「最後の最後まで考え抜き、熟慮した」「ほか
  に道はない」と強調したが、果たして本当に、「熟慮」した
  結果の決断なのか、「ほかに道はない」のかどうかは、甚だ
  疑問である。一方で総理は、復興法人税の前倒しでの撤廃と
  法人税の引下げについては、「検討」していくという。庶民
  を増税で圧迫し、財界は法人税引下げで潤わせる。総理が掲
  げる「経済の再生」と、真っ向から矛盾する結果を生むので
  はないだろうか。9月17日に植草一秀氏(政治経済学者)
  斎藤貴男氏(ジャーナリスト)、醍醐聰(東大名誉教授)、
  鶴田廣己氏(関西大学教授)の4人の財政の専門家が政府の
  拙速な増税への動きに対し、異議を申し立てる緊急アピール
  を発表。昼過ぎから参議院議員会館で記者会見を行った。専
  門家らは、そもそも「消費税」自体が、一部の大企業だけの
  利益につながる愚策であると指摘する。この日取材に訪れた
  報道関係者は、東京新聞、読売新聞など約10名のみ。また
  明けて9月18日現在、この緊急アピールに関する報道は一
  切行われていない。会見のすべてを報じたのは、IWJだけ
  である。NHKや民放テレビはもとより、大手新聞が一斉に
  「黙殺」した格好となり、この消費税増税の問題の根深さが
  改めて浮き彫りとなっている。   http://bit.ly/1dBJHkD
  ―――――――――――――――――――――――――――

浜田宏一イェール大学名誉教授.jpg
浜田 宏一イェール大学名誉教授
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2014年03月12日

●「5兆円規模経済対策では足りない」(EJ第3748号)

 4月からの消費税引き上げ(5%→8%)によって、経済の下
押し圧力が必ず発生します。その規模は、どのくらいになるので
しょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
    消費税8%で経済の下押し圧力は9兆円に上がる
―――――――――――――――――――――――――――――
 この経済下押し圧力の9兆円については、増税賛成論者も認め
ています。経済がダウンすることは認めているのです。しかし、
政府の説明では、そのために5兆円規模の経済対策を実施するの
で大丈夫であるといっています。本当でしょうか。
 新聞やテレビの報道も基本的には政府の方針に異を唱えていな
いのです。このマスコミ報道の政府寄り姿勢は、日本に深刻な事
態をもたらします。官僚は国益よりも省益を目指し、マスコミは
社会の木鐸であることを放棄し、自社利益を追及する──これら
は国が滅びる原因になります。
 さて、9兆円の経済下押し圧力に対して5兆円の経済対策を実
施すれば、景気の落ち込みは4兆円に緩和される──これが政府
の論法ですが、経済が落ち込むことに変わりはないのです。
 しかも、増税は4月1日から実施されますが、経済対策の効果
が効いてくるにはある程度時間がかかります。タイムラグがある
のです。被災地の復興も自治体のマンパワーが不足して復興予算
を使い切れず、基金化する有様です。
 それにもっと大切なことがあります。それは、経済対策はすべ
て一時的──1年限りであるのに対し、消費税率引き上げは今後
恒久的に続くのです。つまり、9兆円の景気の押し下げ圧力は法
律が改正されない限り、恒久的に続くのです。つまり、2015
年以降は、消費税引き上げの負のインパクトだけが持続すること
になります。
 それだけではありません。2015年10月には、8%の税率
が10%にさらに引き上げられるのです。この経済押し下げ圧力
は次の式により、6兆円になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   500兆円 × 60% × 2% = 6兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、2015年度にはおそらく経済が混乱し、税率10%
上げを実施するには、新たな経済対策が不可欠になるはずです。
そうでなければ、日本経済は大不況に突入する恐れがあるからで
す。そんなことになれば、何のための増税かわからなくなってし
まいます。そういう事態になれば、安倍首相は10%の税率上げ
は見送らざるを得なくなるものと思われます。
 金融アナリストの植草一秀氏によると、2013年度の景気回
復を支えた13兆円の補正予算の効果が2014年度には剥落す
るうえ、増税による9兆円の負担が加わるので、2014年度は
約22兆円の超緊縮予算になってしまうとして、自著で次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本経済はバブル崩壊始動後、4度目の上昇局面に差しかかっ
 たのであるが、この景気回復初期に、安倍首相は10月1日、
 消費税の税率を2014年4月に8%に引き上げる方針を発表
 した。なんと言っても見落とせないことは、2014年度の緊
 縮財政の規模が、増税等による9兆円の負担増にとどまらない
 ことである。2013年度に流れ込んだ13兆円の補正予算効
 果が剥落するため、2014年度の緊縮財政規模は22兆円に
 達する。日本のGDPのほぼ4%にあたる史上空前の財政デフ
 レ政策が予定されている。このまま2014年度に突入するの
 であれば、これは「第三次政策逆噴射」が実行されることにほ
 かならない。               ──植草一秀著
     『日本経済撃墜/恐怖の政策逆噴射』/ビジネス社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費税増税によって景気が後退すると、所得税と法人税が落ち
込み、消費税率を引き上げて消費税収入が増えても、全体では税
収はかえって落ち込む可能性が高くなります。そのうえ歳出が5
兆円膨らむのですから、財政収支はさらに悪化します。どちらに
転んでもよいことはないのです。
 デフレギャップが約43兆円もあるデフレ下の日本で、大増税
をすれば、その結果は火を見るよりも明らかです。あの「失われ
た20年」の原因になった1997年の消費税増税の痛い教訓か
ら何も学んでいないのです。
 安倍首相は、増税決断の根拠を聞かれて、1997年当時より
も現在は企業業績が良いことと金融システムが安定しているから
だと答弁していますが、これは事実を見誤っているといわざるを
得ないのです。どうやら1997年の経済の落ち込みは増税のせ
いではなく、アジア通貨危機が原因と考えているらしいのですが
これは大間違いです。これについて、元世界銀行エコノミストの
中丸友一郎氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレギャップがまだ極めて大きい中で、財政再建を優先して
 経済成長にブレーキをかけることは、実に愚かで危険な賭けと
 いわざるをえない。雇用と経済成長を優先して、今後3年間程
 度、財政刺激のアクセルを踏み続けるべきだったのだ。小出し
 で一時的な景気対策を前提にアクセルを軽く踏みながら、思い
 切ってブレーキを踏み込むというちぐはぐな経済政策の矛盾。
 (中略)だが、(1997年に比べて)株価も地価も現在の方
 がはるかに低水準にある。現在の経済規模(名目GDP)も約
 43兆円も低下したままだ。失業率もはるかに悪い。好調なの
 は国債価格と、そのコインの裏側としての国債利回りの歴史的
 な低水準だけといっても過言ではない。  ──中丸友一郎著
          『円安恐慌がやってくる!』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/46]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ97年の歴史的大失敗の反省をしないのか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  内閣府と財務省は1997年の消費増税を行った後の深刻な
  不況は増税が主因でなく、アジア通貨危機や金融危機が主因
  だと分析した資料を2013年8月22日の公明党の会議で
  配ったそうだ。1997年、橋本内閣の緊縮財政・消費税増
  税とアジア通貨危機が重なり、日本はデフレに突入した。万
  一、消費増税が来年4月から強行されたとしたら、97年の
  失敗を繰り返すのは間違いない。あの失敗の反省は無いのだ
  ろうか。97年の景気落ち込みの主因はアジア通貨危機であ
  り消費税は関係ない、もしくはほとんど関係ないという説は
  明らかな矛盾がある。デフレは16年後の今日まで続いてい
  るがアジア通貨危機も金融危機もとっくに終わっているから
  だ。実際あの通貨危機で、経済が大きく落ち込んだアジアの
  国々は確かに存在する。タイ、韓国、インドネシア、フィリ
  ピン、香港、マレーシア等である。しかし、それらすべての
  国が1999年〜2001年までにすべて景気回復に成功し
  ており、日本以外デフレに陥った国はない。それから考えて
  も、97年の日本の景気悪化の主因がアジア通貨危機だとい
  う主張には無理がある。      http://bit.ly/1dHHG6F
  ―――――――――――――――――――――――――――

中丸友一郎氏.jpg
中丸 友一郎氏
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2014年03月13日

●「増税翼賛会的記事を書く有力新聞」(EJ第3749号)

 今回の消費税増税は、何のために行うのでしょうか。「全額社
会保障に使う」といっていますが、法律にはどこにもそんなこと
は書いていないのです。おカネには色はついていないので、実際
には何に使われるかわからないのです。
 実は財務省は野田政権にそのようにいうようアドバイスしたの
です。なぜなら、国民は「社会保障に使う」といわれると、「そ
れなら仕方がないか」と思ってしまうからです。それに社会保障
は、8%ぐらいの税率ではカバーできないことは明らかなので、
後から税率を上げるとき好都合だからです。
 もうひとつ国民は、今回の増税を財政再建のためには仕方がな
いと漠然と考えています。日本の財政は最悪で、ギリシャのよう
にいつ破綻しても不思議はないということを国民は刷り込まれて
います。それは、財務省のプロパガンダのせいであることは、こ
れまでEJではさんざん書いてきています。
 しかし、日本の財政が破綻しないことを一番よく知っているの
も財務省なのです。何しろ、借金の額だけを強調して、資産のこ
とは一切口にしないからです。もし、本当に財政危機であるなら
財務省は率先して経済成長に結びつく政策を進めるはずです。財
務省が何よりも関心があるのは、自らの「歳出権の拡大」なので
す。これについて、嘉悦大学教授の高橋洋一氏は近著で次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ財務省は増税にこだわるのか。
 それは、みずからの権力を強めるためである。財務省の権力と
 は、財政支出を差配する力であり、これを「歳出権」と呼ぶ。
 歳出権とは、国会が政府に「この目的のために、いくらいくら
 のおカネを使っていいですよ」という権限を与えることだ。個
 々の項目への支出許可をまとめた一覧表が、予算である。つま
 り予算は歳出権のかたまりだ。歳出権こそが予算の本質であり
 財務省の権力の源なのである。       ──高橋洋一著
     『財務省の逆襲/誰のための消費税増税たったのか』
                     東洋経済新報社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は今回の消費税増税は、周到な計画の下に4つの政権をまた
いで実現されたのです。4つの政権とは、自民党の麻生政権、政
権交代後の鳩山政権、菅政権、野田政権です。そのすべてに財務
省が深くかかわっています。
 具体的には、それぞれの政権下の財務相に対して財務省が工作
したのです。麻生政権の与謝野財務相、鳩山政権の藤井財務相と
菅財務相、菅政権の野田財務相、野田政権の安住財務相の5人で
す。いずれも完全に財務省に洗脳され、消費税増税の実現にひた
走ったのです。
 とくに菅政権のときに財務事務次官に就任した勝栄二郎事務次
官は、野党時代の自民党総裁谷垣禎一氏にも接近して、この増税
実現に全力を尽くしたのです。谷垣氏は、かつて財務相の経験が
あり、勝氏とは旧知の間柄です。
 「増税翼賛会」というものがあります。マスコミや経済学者を
はじめとする識者たちによる増税賛成の論陣を張る一派のことで
す。彼らはテレビなどの経済番組に頻繁に出演し、経済誌に論文
を書いたりして、増税の正しいことを主張しています。
 典型的な例があります。日本経済新聞社の記事です。日本経済
新聞社は経済紙としては一流であり、ビジネス関係者にとっては
必須の新聞です。このことは否定できませんが、その主張はきわ
めて時の政権寄りなのです。
 2013年8月26日付の日本経済新聞の第1面に次の見出し
の記事が出たのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    内閣支持率上昇、68%/消費増税7割超が容認
―――――――――――――――――――――――――――――
 問題は「消費増税7割超が容認」の根拠です。それは次の世論
調査です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎消費税率をいまの5%から2014年4月に8%、15年
  10月に10%へ引き上げることについて・・・
  ●「予定通り引き上げるべきだ」・・・・・・・ 17%
  ●「引き上げるべきだが、時期や引き上げ幅は柔軟に考え
   るべきだ」 ・・・・・・・・・・・・・・・ 55%
  ●「引き上げるべきではない」 ・・・・・・・ 24%
―――――――――――――――――――――――――――――
 「7割」という数字は、「予定通り引き上げるべきだ」と「引
き上げるべきだが、時期や引き上げ幅は柔軟に考えるべきだ」の
数字を足した72%に基づいています。しかし、条件付き賛成ま
でも「増税容認」としてしまうのはあまりにも乱暴です。見出し
しか見ない読者もたくさんいるからです。
 2014年3月3日付の日本経済新聞夕刊にも問題のある見出
しがあるのです。読売、毎日、朝日の夕刊も同様です。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ◎設備投資4%増/10〜12月製造業もプラスに
―――――――――――――――――――――――――――――
 アベノミクスが成功するかどうかは企業の設備投資と個人消費
が伸びるかどうかです。この記事は設備投資が「4%」も伸びた
ことを伝えています。したがって、見出しだけ見ると、アベノミ
クスは効いていると考えます。
 しかし、この数字にはカラクリがあります。この数字は「前年
比」なのです。設備投資は前年同時期と比べると伸びていますが
この半年間で見ると、減少しているのです。「前期比」で見ると
2四半期連続で減少しているのです。それに「前年」の2012
年後半は復興需要やエコカー減税が切れて、設備投資は大幅に下
がっていたのです。前期比を使わず、数字の低い前年比を使って
数字をカサ上げしたのです。 ──[消費税増税を考える/47]

≪画像および関連情報≫
 ●政府に迎合する記事を書く有力新聞
  ―――――――――――――――――――――――――――
  財務省が2014年3月3日発表した2013年10〜12
  月期の法人企業統計によると、金融機関を除く全産業の設備
  投資は、9兆4393億円と前年同期に比べて4.0 %増え
  た。増加は3四半期連続。自動車をはじめとする製造業の投
  資が5四半期ぶりに増加に転じた。円安による輸出採算の好
  転や底堅い消費を追い風に企業の収益も改善が続いている。
  製造業の設備投資は前年同期比0.7 %増えた。増加への貢
  献が最も大きかった業種は自動車などの輸送用機械業で、同
  17.3 %増だった。国内や北米での自動車販売が好調だっ
  たため、「新型車の生産や新技術の開発に向けた投資が増え
  た」(財務省)という。建材の売れ行きがよかった金属製品
  業の投資も同19.8 %増えた。非製造業は同5.7 %増。
  円安を背景に外国人観光客が増えたことを映し、ホテルの改
  修などが多かったようだ。一方で卸売・小売業は同6.4 %
  減。13年に入ってからは今年4月の消費増税に備えた投資
  の動きが目立っていたが、足元では一服感が出ている。
  季節要因をならした設備投資(ソフトウエアを除く)は前期
  比0.3 %減と、2四半期続けて前期を下回った。輸出の伸
  び悩みなどから、国内での大型投資にはなお慎重な企業も多
  いとみられる。       http://s.nikkei.com/1i6Urcl
  【註】最後の4行に「前期比」の数値が紹介されている。経
  済紙としての良心からであろうか。なお、読売、朝日、毎日
  にはこの部分はない。
  ―――――――――――――――――――――――――――

企業の業績・設備投資/日本経済新聞.jpg
企業の業績・設備投資/日本経済新聞
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2014年03月14日

●「学者はなぜ増税に反対しないのか」(EJ第3750号)

 今回の消費税増税の決定には、「経済学者」の論説の影響力が
大きく働いたのです。学者の立場に立つと、やはり「社会の役に
立ちたい」という思いがあります。そのためには、公的な仕事に
何とかかかわりたいと思っています。その思いが強いと、政府の
政策への批判はどうしても鈍ってしまいます。
 金融の分野の学者は、日銀の審議委員や副総裁になることを目
指します。なぜなら、そういう地位に就けば、その分野の専門家
として認められるからです。そうであるとすると、あからさまに
日銀を批判できなくなります。
 財政分野の学者の場合は、ほとんどは財政審(財政制度等審議
会)や税調(税制調査会)のメンバーになりたがっています。こ
こは財務省が仕切っているので、何かにつけて財務省にゴマをす
ることになります。
 嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、そういう公的な仕事に就きたが
る学者は、東京大学出身の学者に多いとして、東京大学教授につ
いて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「東京大学教授」という肩書を見ると誰もが「学問の最高峰」
 と思っている。メディアはもちろん、ほかの大学の学者先生方
 にも、その傾向はある。私にいわせれば、それは幻想だ。そも
 そも、国家公務員養成所が、政府の政策を批判的に検証できる
 のだろうか。国家公務員養成所が学問の最高峰ということがあ
 りうるのだろうか。だが、そういう幻想に基づいて、御用学者
 村が形成されている。  ──高橋洋一著/東洋経済新報社刊
     『財務省の逆襲/誰のための消費税増税だったのか』
―――――――――――――――――――――――――――――
 高橋洋一氏は、東京大学理学部数学科・経済学部経済学科の出
身で、1980年に大蔵省(現財務省)に入省した秀才です。私
は、彼がそれほど有名でない頃から、雑誌に掲載される論文を読
んで、EJでもたびたびその所論を紹介してきています。彼は数
学者でもあるので、論旨明快で分かりやすいからです。
 今回の消費税増税ほど、財政学者からの反論が少なかったこと
はないといわれています。反論が少なかった理由について高橋氏
は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 学者先生から消費税増税に異論が出てこない一つの理由として
 「反論できるほどの知識を持ち合わせていない」という現実が
 ある。日本の財政関係の学者先生の大半は不勉強だ。数学がわ
 からず、基本的な経済分析すら自分ではできない。また日本の
 財政を外野から見て研究している学者先生は、当事者として財
 政に取り組んでいる役人たちに、情報、知識でまったくかなわ
 ない。それは、日銀の業務について、外野の人間が知識ではか
 なわないのと同じかそれ以上だ。──高橋洋一著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 実際に学者にとって財務省に反論することは、非常に困難なこ
となのです。ある学者が今回の消費税増税への反論を書籍か雑誌
などに書いたとします。論文を書いた学者の知名度によっても違
いますし、掲載されたメディアによっても対応は異なりますが、
世論に影響を与えかねないと判断すると、財務省は動くのです。
 たとえば、日本経済新聞の平日に連載されている『経済教室』
に載った反対論文は影響が大きいので、財務省は対策に乗り出す
ことになります。もっともメディアは財務省に牛耳られているの
で、正面切った増税反対論文やレポートは事前にチェックされ、
掲載されないことになります。
 それでは、財務省は反論を書いた学者に対して具体的にどのよ
うな手を打つのでしょうか。高橋氏の書籍を参照して以下に要約
してご紹介します。
 まず、財務省はその論文を分析して誤りを探します。それも決
定的な誤りを徹底的に探すのです。そんなに都合よく誤りがある
のかと思うかもしれませんが、誤りは必ずあるのだそうです。制
度に関してはとても複雑であり、外部の学者が理解していないこ
とはたくさんあるからです。
 論文のチェックが終わると、財務省の課長補佐クラスが学者の
ところに電話を入れます。これが「ご説明」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 先生のご所説につきまして、ご説明申し上げたいことがござ
 います。関連資料を持って伺いますがよろしいでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 何しろ相手は財務省です。その財務省からいわれて断る学者は
皆無だそうです。自分の反論を一応読んでくれ、そのうえで意見
があるという。話くらい聞いてやっても損はないと考えるからで
す。そして「ご説明」を受け入れるのです。
 課長補佐は、学者に会うと、慎重に言葉を選んで間違えを指摘
し、ていねいに説明します。多くの情報と資料を基にしての説明
なので、学者としては反論の余地はないのです。そして、最後に
課長補佐は次のようにいって引き揚げるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 本日はお忙しいなか、時間をとっていただき、ありがとうご
 ざいました。必要なとき、いつでもお呼びください。ご説明
 参上します。必要なデータや資料がありましたら、遠慮なく
 お申し付けください。今後ともよろしくお願いいたします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 まさに慇懃無礼なのですが、隙はなく、実に見事な対応なので
す。これをやられると、どんな学者もそれ以降は、財務省に楯突
くようなことはしなくなるといいます。どう議論しても財務省に
勝てるはずがないし、今後とも付き合っておいて損はない──こ
のように考えるからです。
 実際に論文の事前チェックも求めてくる学者は少なくないそう
です。これは財務省はウエルカムで、反論を事前に封じ込めるこ
とができるからです。    ──[消費税増税を考える/48]

≪画像および関連情報≫
 ●学者先生は海外出張が大好き/高橋洋一氏の本より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  財務省から見れば、自分たちに逆らう学者先生を「折伏」す
  るのは簡単だが、逆に意中の学者先生を持ち上げて、御用学
  者に仕立てることも簡単だ。学者先生を「飼い慣らす」ため
  の仕掛けはいろいろある。財務省の覚えがめでたければ、研
  究費や委託調査費は優先配分してもらえるし、内部資料を見
  させてもらうなど研究のサポートもしてもらえる。研究者志
  望の弟子の就職斡旋でも力になってもらえる。いいことずく
  めである。なかでも効果的なのが、審議会や勉強会の委員に
  選んであげること。勉強会に呼ぶときには「ぜひ先生のご意
  見をお聞きしたい」とおだてるのがコツだ。審議会は1回あ
  たり2時間程度。そのうち半分は役所からの説明で、委員1
  人あたりの発言時間は数分しかない。それでも出席すると報
  酬が出て、地方から上京する委員には旅費も払われる。いく
  つもの審議会を掛け持ちする学者先生もいて、それなりの収
  入になる。ある程度、名前の売れている学者先生の場合、審
  議会に入ってもらったうえで、勉強という名目で海外出張に
  連れていくことも多い。出張は「アゴアシ」つきで、アテン
  ドの役人が同行する。学者先生はみな海外出張が好きだ。観
  光旅行がしたいというよりも、まじめに海外の事情を勉強し
  たいのだろう。中央省庁、なかでも財務省は海外にさまざま
  なコネクションがあるため、役所関連の審議会で出張すると
  普通ではまず会えないような世界的な学者にも会うことがで
  きるからだ。     ──高橋洋一著/東洋経済新報社刊
     『財務省の逆襲/誰のための消費税増税だったのか』
  ―――――――――――――――――――――――――――

高橋洋一氏の本「財務省の逆襲」.jpg
高橋洋一氏の本「財務省の逆襲」
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2014年03月17日

●「伊藤元重教授とはどういう学者か」(EJ第3751号)

 伊藤元重氏という学者がいます。東京大学大学院経済学研究科
の教授です。テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト(WB
S)」などのコメンテーターとしての出演したり、日本経済新聞
や様々なビジネス誌や経済誌へ多くの寄稿を行っており、新聞や
テレビで何度も目にする機会の多い学者です。
 政府関係の役職も多く、小渕内閣の「経済戦略会議」、森内閣
の「IT戦略会議」で委員を務め、現在は安倍内閣の経済財政諮
問会議の委員も務めています。
 元世界銀行エコノミストの中丸友一郎氏は、安倍首相が8%増
税の決断をする直前の2013年9月4日所載の次の日経の「経
済教室」の記事について、痛烈に批判をしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ◎消費税増税の論点(下)
   「金利暴騰リスク、より深刻/財政への信認維持を」
  ──2012年9月4日付、日本経済新聞『経済教室』
                 http://bit.ly/1iLuGB9
―――――――――――――――――――――――――――――
 中丸友一郎氏は、学者としての伊藤元重氏について、次のよう
に論評しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 伊藤教授は、これまでデフレ不況を許容し続け、日本経済を持
 続的な成長軌道に復帰させることができなかった、というより
 むしろ阻害してきたといってもいい。そのことが明白な同教授
 を同諮問会議の議員、そして経済の司令塔の一人として安倍政
 権が起用していることこそ、問題というべきかもしれない。同
 政権の見識が疑われるというものだ。   ──中丸友一郎著
          『円安恐慌がやってくる!』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 伊東氏の論文のエッセンスを要約してみます。彼は、消費税増
税の推進論者です。彼は、消費税増税を先送りしても、予定通り
実施しても、両方とも大きなリスクがあると主張しています。そ
れは次の2つのリスクです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ◎増税を先送り ・・・・ 金利が暴騰するリスク
   ◎予定通り実施 ・・・・ 景気が失速するリスク
―――――――――――――――――――――――――――――
 伊藤元重氏は、そのうえでどちらのリスクがより深刻であるか
比較すべきであるといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このリスクの比較という点に、重要なポイントがある。リスク
 と一言でいうが、リスクの「質」にまで踏み込んだ議論が必要
 である。デフレ脱却の芽を潰すというリスクは、あらかじめそ
 の可能性を認識していれば対応できるリスクである。これに対
 して国債の金利暴騰ということになると、実際にそうしたこと
 が起これば取り返しのつかないことになる。政府にも日銀にも
 国債の暴落を止めることは簡単なことではないのだ。
   ──伊藤元重著/2014年9月4日の「経済教室」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 伊藤氏は、消費税増税を先送りすると、国債の信認が低下する
ことによって国債価格は暴落し、金利は暴騰するとほとんど断定
しています。この主張は日銀の前総裁の白川方明氏とそっくりで
す。実はリーマンショック後の4年間というもの、国民はこの手
の理屈を何度も聞かされてきたのです。
 これに対して中丸友一郎氏は、金利の暴騰など起こり得ないと
し、消費税増税を先送りした場合には逆に景気回復が持続すると
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 増税を先送りすれば、積極的な財政政策と金融緩和策のもとで
 景気回復が持続する可能性がある。名目GDPも今後4〜5%
 程度成長できるかもしれない。その結果、かなりの政府歳入の
 伸びが期待される。財政赤字はほぼ確実に好転するだろう。で
 あれば、国債(本来は政府債)金利が暴騰することなどまずあ
 り得ない。なぜなら、財政収支の好転を背景に、国債のリスク
 プレミアムが大きく低下するからだ。
               ──中丸友一郎著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 伊藤元重氏が心配するのは膨大な政府債務の存在です。しかし
それにもかかわらず、国債金利は非常に低い水準で推移していま
す。どうしてこういう現象が起きているかについて、伊藤氏は次
のような主張を展開します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 膨大な公的債務の存在は深刻な問題である。それにもかかわら
 ず、国債金利は非常に低い水準で推移している。これは市場が
 当面の財政危機のリスクを非常に低くみているからだ。(一部
 略)しかしこの「低い」確率というのがくせ者だ。確率が「ゼ
 ロ」でないからだ。確率が非常に低いので、その可能性につい
 て多くの人が真剣に考えないが、いざそのリスクが顕在化した
 ら大変なことになる。これをテールリスクと呼ぶ人もいる。世
 界的なベストセラーとなったナシーム・ニコラス・タレブ氏の
 著書「ブラック・スワン」は、この現象の重要性を指摘したも
 のだ。         ──伊藤元重著/「経済教室」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 伊藤氏は「国債金利は異常に低い」ことをブラックスワンに譬
えています。黒い白鳥なんて計算するのも馬鹿らしいぐらい低い
確率でしか出現しないものですが、もし一羽でも出現すると「白
鳥は白い」というパラダイムを破壊して、歴史を変えてしまうと
いうことをいっているのです。伊藤氏はこういいたいのです。国
債金利が低いといって安心していると、とんでもないことが起こ
ってしまうよ、と。この問題については、明日のEJでも引き続
き検討します。       ──[消費税増税を考える/49]

≪画像および関連情報≫
 ●御用学者(伊藤元重)の増税論を一蹴する
  ―――――――――――――――――――――――――――
  『消費税引き上げというと、すぐに震災後のこの厳しい状況
  で増税なんてとんでもない、という議論が出てくる。こうし
  た議論をする人は、パブロフの犬のごとく、「増税→景気悪
  化」という条件反射の世界にいる。なぜ消費税を引き上げた
  ら景気が悪くなるのか、そのメカニズムについて深く考えて
  いるのだろうか。消費税増税によって、3年間で累計20兆
  円前後税金をとったとしても、それはすべて復興資金として
  利用するものである。増税で人々の支出が多少は減少するか
  もしれないが、税収が歳出にまわされる金額の方がはるかに
  大きい。復興のために増税するのだから、その税収はインフ
  ラ再建、住宅建設、被災者支援など、すべて需要となるはず
  だ。理論的には、20兆円増税で20兆円公的支出を増やせ
  ば、有効需要は20兆円増えるはずである』。
   「消費税 政争の具にするな」と題する、伊藤元重氏の論
  であるが、増税以外で、復興財源と社会福祉の財源を思いつ
  かないとは、あきれるしかない。しかも、「東京大学大学院
  教授」の肩書きはブランド力がある。その影響力を思うと、
  あきれるのを通り越して、憤りさえ覚える。東大大学院教授
  ともあろう人が、いや、だからこそなおさらともいえるが、
  国富を増大させる気概も、智慧も、企業家精神も、持ち合わ
  せていないと見える。そして、それこそ「パブロフ犬」のご
  とくに、復興と社会福祉のためには、増税しかないと吠え続
  けるのである。          http://bit.ly/1glsU23
  ―――――――――――――――――――――――――――

伊藤元重東京大学教授.jpg
伊藤 元重東京大学教授
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2014年03月18日

●「なぜ金利暴騰が起きると思うのか」(EJ第3752号)

 伊藤元重東京大学教授は、2013年9月4日の日経「経済教
室」での論文で、日本の国債金利は低いが、テールリスクに陥る
こともあるいっています。ところで、この「テールリスク」とは
何を意味しているのでしょうか。金融経済用語で調べると、次の
ように解説されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 テールリスクは、マーケットにおいて、確率は低いが発生する
 と非常に巨大な損失をもたらすリスクのことをいう。確率分布
 の端っこにあり、数10年〜数100年に一度起こるかどうか
 のリスクのため、債務格付けなどでは考慮対象外とされる。
      ──金融経済用語集より/ http://bit.ly/1nrNcAE
―――――――――――――――――――――――――――――
 伊藤教授の論法では、日本にはGDPの2倍を超える巨額の公
的債務があり、本来ならば国債金利はもっと高くなるはずである
ということになります。なぜなら、日本よりもはるかに低い債務
比率で、欧州の多くの国は財政危機に陥っているからです。
 しかし日本の国債金利は異常に低い──これは「ブラックスワ
ン・イベント」であるというのです。この教授は日本と債務危機
に陥った欧州各国との違いがわかっていないようです。菅政権の
とき、「日本もギリシャのようになる」といって騒ぎましたが、
この教授も同じ発想をしています。日本の長期金利が低いのは問
題があると伊藤教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の長期金利(長期国債利回り)が低いことは、日本の財政
 への信認の強さのように解釈されることがあるが、かならずし
 もそういってばかりいられない。株式のバブルが崩壊するとき
 には、その直前まで本来有るべき水準より株価は高くなってい
 る。為替レートも同じだ。今の国債市場がバブルであるかどう
 かについてはいろいろな見方があるだろうが、国債金利暴騰と
 いうテールリスクの存在を前提とすれば、国債金利があまりに
 低くなることば歓迎すべきことではない。国債金利は低いが、
 日本国債の債務不履行(デフォルト)リスクを反映するクレジ
 ット・デフォルト・スワップ(CDS)プレミアムが高いこと
 は気になる。
   ──伊藤元重著/2014年9月4日の「経済教室」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 伊藤教授は、「ブラックスワン」まで持ち出して、どうしても
日本で「金利暴騰」が起きることを強調したいようです。これを
避けるためには、消費税増税が必要であるというのです。
 それにしても伊藤教授は、日本の公的債務は巨額であるといい
ますが、その裏側には、わが国の民間(企業と個人)が有してい
る債権を無視しています。日本では家計と企業の民間債権が公的
債務を上回っているのです。
 もっと具体的にいうと、日本経済全体としては巨額の対外純債
権(債券、株式、外貨準備など)を有しているのです。東大教授
の伊藤元重氏がこの事実を知らないはずはないのです。2013
年9月4日の「経済教室」の論文は、国民向けに増税を予定通り
進めるのが正しい決断であることを啓蒙するのが目的であるもの
と思われます。
 添付ファイルを見てください。これは2011年時点の世界各
国の対外純資産のグラフですが、日本の対外純資産は253.1
兆円であり、ダントツのトップです。日本は世界最大の債権国な
のです。これに対して米国は290兆円近い純債務があり、世界
一の借金国ということになります。
 それに日本政府は国債というかたちで大きな借金を背負ってい
ますが、その大部分は日本の民間セクター(企業+個人=国民)
が持っているのです。ということは、日本国民は外貨資産を持つ
とともに、政府債務も持つ世界一の金持ち国民ということになり
ます。そんな国がほかにあるでしょうか。
 その日本に対して、金利暴騰が起きると止められなくなるので
消費税増税が必要であるという珍妙な論説を広げる国立大学の高
名な教授がいる。その伊藤元重教授は典型的な御用学者でありな
がら、意外に強い非難は受けていないのです。しかし、彼の論説
を読むと、本当に経済学者なのかと思うことが多々あるのです。
 元世界銀行エコノミストである中丸友一郎氏は、伊藤氏の「経
済教室」の論文に対して、「国債を政府債とみるのではなく、日
本経済全体の債務と同一視している」として、次のように述べて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国債を政府債とみるのではなく、日本経済全体の債務と同一視
 している伊藤氏には、国債を増発させるような積極的な財政政
 策の必要性など思いもよらないだろう。ここに日本で著名とさ
 れている東大経済学部教授陣の決定的な誤りが存在している。
 なにせ消費税引き上げの先送りさえ否定している始末だ。(中
 略)結局、伊藤氏は、科学的根拠がなく、また客観的な基準を
 示さず、金利暴騰リスクを煽り、財政への信認維持を説いてい
 る。特に酷いのは、ブラック・スワン(黒鳥)という一種のメ
 タファー(隠喩)を持ち出して、物事にはなんでもリスクがあ
 り、その確率がゼロではない限り、いつかはその低い確率が顕
 在化するなどと指摘して、「金利暴騰」リスクを正当化してい
 ることだ。これでは、すべての経済事象をブラック・スワンと
 称して、そのリスクの存在をこじつけられるだろう。
                     ──中丸友一郎著
          『円安恐慌がやってくる!』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 伊藤氏が政府に協力しようとして主張しているのか、本来のご
自身の経済の考え方なのかははっきりしないのですが、とちらに
せよ、その論説がおかしいのは確かなことです。もう一度「経済
教室」の伊藤論文を読み直していただきたいと思います。
              ──[消費税増税を考える/50]

≪画像および関連情報≫
 ●伊藤元重教授のコラムについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  今日(2012年7月7日)の産経新聞の一面に例のどうし
  ようもない教授のコラムが載っていた。読んでみると、この
  先生、本当に大学の経済学の先生だろうかと疑問に思ってし
  まう。海外の有名な経済学者の報告を勉強し、それを学生に
  教えているだけで、実際の経済については、何もわかってい
  ないのではないかと。まずは、読んでみてほしい。
  http://bit.ly/1fZQhDV 
  日本の国債の金利が低いことに対して「イタリアやスペイン
  の国債の多くは外国の金融機関が保有しているが、日本の国
  債はその大半が国内の貯蓄資金によって支えられている。だ
  から日本は大丈夫だという怪しい議論が横行している」と。
  「怪しい議論」と言っておきながら、この後、みずからも怪
  しい議論を展開している。「家計部門の貯蓄率が下がってい
  るのには理由がある。高齢化が進んでいるからだ。人口に占
  める高齢者の割合が増えるほど、家計全体でみた貯蓄率はさ
  がってしまうのだ。」と書いているが、これは彼の分析結果
  ではなく、誰かの論を持ってきたものだろう。高齢化が原因
  というのはウソだ。デフレで景気が悪く可処分所得が減って
  いるからだ。           http://bit.ly/1lFq8tr
  ―――――――――――――――――――――――――――

世界各国の対外純資産.jpg
世界各国の対外純資産 
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2014年03月19日

●「増税促進番組化する『日曜討論』」(EJ第3753号)

 2013年8月〜9月といえば、政府にとって消費税増税を決
断する直前であり、重要な月です。推測ですが、安倍首相は「8
%増税」は早くから決断をしており、メディアに対してその「地
ならし」を指示していたとみています。
 伊藤元重東京大学教授による日経「経済教室」への論文もその
地ならしの一環です。政府はこの数ヶ月に御用経済学者をはじめ
政府寄りの識者をフル動員して啓蒙活動を展開したのです。
 そういう2013年8月18日、次のメンバーでNHKの「日
曜討論」が行われています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ◎NHK「日曜討論」/2013年8月18日
           『徹底討論/どうする消費税』
   出演者:本田悦郎/井堀利宏/熊谷亮丸/山崎元
―――――――――――――――――――――――――――――
 問題なのはその出演者です。そのときの出演者に増税反対論者
がひとりもいないことです。こういうことは、日本を代表する放
送局であるNHKが絶対にやってはならないことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  増税積極的推進論者 ・・・ 井堀利宏氏/熊谷亮丸氏
  増税時期見直し論者 ・・・ 本田悦郎氏/山崎 元氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 井堀利宏氏は、東京大学大学院経済学研究科教授であり、財政
学の権威といわれています。伊藤元重氏と同じで、テレビなどで
は、政府寄りの発言をする日本を代表する学者の一人です。ちな
みに井堀氏を師と仰ぎ、消費税増税や日本財政に関するテーマで
よくテレビ出演をしている慶応義塾大学教授の土居丈朗氏も財務
省系の御用学者の一人です。
 熊谷亮丸氏は、日本の経済学者で、大和総研のチーフエコノミ
ストです。株式会社大和総研の理事長は、元財務事務次官の武藤
敏郎氏であり、そこのチーフエコノミストが増税に反対するはず
がありません。ちなみに、武藤氏は、2020年の東京五輪に向
けての大会組織委員会の事務総長にも就任しています。
 本田悦朗氏は、安倍首相の政策ブレーンの一人で、現在は静岡
県立大学国際関係学部教授です。しかし、本田氏はもともと大蔵
官僚で、2012年まで財務省大臣官房政策評価審議官を務めて
いた人物です。そういうわけで、増税には反対しないが、いきな
り上げると、経済的ショックが大き過ぎるので、毎年1%ずつ上
げて行くことを提案をした人物です。
 山崎元氏は、著名な経済評論家であり、楽天証券経済研究所客
員研究員や一橋大学商学部国際経営戦略研究科非常勤講師を務め
ています。消費税増税については必ずしも反対ではないが、当時
の経済状況はGDPの伸びは悪くないものの、好景気だとするの
は間違いだと指摘し、先送りを勧めています。消費増税を先送り
しても国債暴落のリスクはなく、引き上げるリスクのほうが大き
いと指摘して、もしどうしても増税するのであれば、本田悦朗氏
が提案する少しずつ税率を上げるのに賛成しています。
 熊谷亮丸氏は、消費税を増税することによって景気が腰折れす
るということは海外では何も指摘されていないといっています。
むしろ増税をすることで財政健全化が進むと考える人が増えるこ
とによって、社会に安心感が広がり、そのためかえって個人消費
は増加し、景気上昇につながるといっています。
 この熊谷氏の考え方は、2月14日のEJ第3730号でご紹
介したハーバード大学教授アルベルト・アレシナ教授の学説と非
常によく似た論説です。ある意味において、熊谷氏は明解な増税
推進論者であることが評価されたのか、増税問題でテレビ各局に
多数出演を果たしています。      http://bit.ly/LY9zfG
 問題は井堀利宏教授の発言です。NHKが8月に行った世論調
査では、消費税率を予定通り引き上げるべきかという質問に「実
施すべきである」と答えた人は26%、「実施すべきではない」
と答えた人が42%だったのですが、これに対して井堀教授は、
安倍首相が消費増税に対して控えめな発言をしたことから、国民
もそれに同調したのであり、世論調査などは質問のやり方次第で
結果はどうにでもなるのではないかといっているのです。
 確かに新聞社やテレビ局のやる世論調査は、特定の結論に誘導
するよう質問を調整することが可能です。それに加えて、依然と
して固定電話に昼の時間にかけるという調査のやり方にこだわっ
ています。この時間帯は電話に出るのは老人ばかり。とてもじゃ
ないが、民意を表しているとはいえないものです。なぜ、ネット
や携帯電話も利用しないのでしょうか。「世論調査の結論など、
どうにでもなる」との井堀発言は、世論調査の政府の誘導を認め
たような発言であり、語るに落ちるとはこのことです。
 元世界銀行エコノミストの中丸友一郎氏は、この座談会での井
堀教授の発言に対し、強い反論を展開しているので、EJでは今
回を含め3回にわたって、ご紹介することにします。
 井堀教授が「日曜討論」で主張した論点を整理すると、次の4
つになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.消費税率の引き上げは、日本の景気状況とは切り離して少
   しでも早く実施すべきである。
 2.もし増税で日本の景気が落ち込むようなことになれば金融
   緩和や財政政策で対応できる。
 3.消費税率引き上げは物価を押し上げるので、インフレ的で
   あり、デフレ脱却に寄与する。
 4.現時点での財政赤字の削減は将来の債務を抑制して、将来
   世代の若者の利益になる得る。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いずれもテレビによく出演する東京大学教授の代表的発言であ
るといえます。明日のEJから、この井堀利宏氏の論点をひとつ
ずつ取り上げ、その反論を展開することにします。
              ──[消費税増税を考える/51]

≪画像および関連情報≫
 ●【上念司】消費税の偽情報
  ―――――――――――――――――――――――――――
  相変わらずマスコミは増税はもう決まったことだと思考停止
  の洗脳報道に余念がありません。安倍総理が増税については
  ずっと反対していて、増税阻止が既定路線になりつつあるこ
  とにたいして、増税派の焦りが見えてきました。増税派は連
  日、怪しげなジャーナリストやポンコツ学者(トンキン大学
  の井堀とか言う人)まで投入して、「○○さんも増税派に寝
  返った!」という偽情報を流しまくっています。正々堂々、
  政策の効果を検証して国益にかなうなら増税をやるべきだし
  そうでないならやめるべきという単純な話です。どうしてこ
  うやって議論を避けて嘘ばかり垂れ流すのでしょうか?これ
  は典型的なコミンテルン式の詐術です。「決まったことだ」
  ということを金科玉条のように振りかざして、議論をさせな
  い、喋らせないという共産主義国家にありがちな言論弾圧の
  一種だと決めつけていいと思います。
                   http://bit.ly/1e9911z
  ―――――――――――――――――――――――――――

NHK「日曜討論」出演者.jpg
NHK「日曜討論」出演者
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2014年03月20日

●「財政均衡主義は間違っていないか」(EJ第3754号)

 2013年8月18日のNHK「日曜討論」において、東京大
学教授の井堀利宏氏が主張する第1の論点を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ≪第1の論点≫
  消費税率の引き上げは、日本の景気状況とは切り離して少
  しでも早く実施すべきである。
―――――――――――――――――――――――――――――
 驚くべき乱暴な発言です。税金の税率を上げるということ、と
くに消費税の税率を上げるということは、すべての国民の生活に
影響を与える重大事です。しかし、井堀氏は、国の財政のためな
ら、そんなことに関係なく消費税の税率を上げるべきだといって
いるのです。そういう観点から、井堀氏は消費増税法案の「景気
弾力条項」などは無意味なものと述べています。
 井堀氏のこの発言について、中丸友一郎氏は、次のように厳し
く批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはまさに財政均衡優先主義にほかならない。経済を成長さ
 せ、豊かな日本経済を蘇生させる前に、財政収支均衡をまず最
 優先させるべきとの主張にすぎない。ケインズが主張したよう
 に、増税すべきときとは好況のときである。不況下で増税すれ
 ば景気が落ち込み、税収はかえって落ち込む。景気と切り離し
 て消費税率を引き上げるというのは無謀であり、危険極まりな
 い。                  ──中丸友一郎著
          『円安恐慌がやってくる!』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 財政均衡主義とは何でしょうか。
 簡単にいうと、歳入と歳出を同じにして、なるべく新たな国債
を発行しないようにする財政運営のことです。これは国の財政を
家計にたとえるのと同じ手法です。
 いつの頃からか国として何かをしようとすると「財源はありま
すか」と聞くことが流行っています。この考え方は、国の財政を
家計と同一視する考え方からきています。国の財政も家計と同じ
ように入ってくるおカネ(歳入)の範囲内で何かを行うというこ
とが常識化されようとしています。
 しかし、これは大間違いなのです。国の財政と家計は似て非な
るものだからです。国の場合は、不況のときは財政出動しなけれ
ばならないし、減税もする必要があるからです。しかし、個人と
違って、国は永遠に続くと考えられているので、借金があっても
必ず返すことはできるからです。
 日本の財務省は「財政均衡主義」に立って財政運営をしている
のです。ですから、景気が回復してさらに伸びようとするときに
緊縮財政を行い、今まで何度も、うんざりするくらい成長の芽を
摘んできたのです。
 この財政均衡主義を憲法で決めている国があります。それはド
イツです。昨年の6月のことですが、ドイツの「ドイツ経済研究
所」が驚くべきレポートを発表したのです。1999年以降ドイ
ツでは、国内インフラの投資額が足りず、それが経済成長率を押
し下げているという発表です。
 ドイツのベルリンの一般道は、速度制限が時速10キロに下げ
られてしまっているのです。バイク以下の速度です。どうしてそ
うなったのかというと、ベルリンでは一般道の傷みがひどく、バ
ス路線を変更せざるを得ない状況に陥っています。
 ドイツの有名な高速道路アウトバーンでも、最も交通量の多い
A1号のライン橋付近では、速度が60キロに制限されてしまっ
ているのです。橋に亀裂が見つかっており、危険だからです。そ
れ以外にも橋梁の危険な場所は多くなっており、完全通行禁止に
なるのは時間の問題だそうです。
 ドイツ連邦政府及び州政府は、原則として歳入と歳出を均衡さ
せなければならないことになっています。ドイツは財政均衡主義
を憲法に書いているからです。リーマンショック後の09年には
ドイツは憲法を改訂し、債務ブレーキ条項を追加しています。
 日本はドイツほどではありませんが、財務省はことあるごとに
財政均衡主義を貫こうとするのです。
 続いて、井堀利宏氏が主張する第2の論点を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪第2の論点≫
 もし増税で日本の景気が落ち込むようなことになれば金融緩
 和や財政政策で対応できる。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは現在日本政府がやろうとしている対応です。しかし、中
丸氏は、アベノミクスは失敗に終わるとみています。なぜなら、
8%の消費税引き上げだけで、9兆円の経済引き下げ圧力がかか
るのです。それを5兆円程度の1年限りの財政刺激政策でカバー
できるはずがないからです。
 さらに中丸氏は、金融政策では、紐を引っ張ること(金融引き
締め)は可能だが、紐を押すこと(金融緩和)は難しく、とくに
ゼロ金利下では困難であるといっています。それは英国の失敗を
見ればあきらかであると述べています。井堀氏の第2の論点に対
する中丸氏の反論は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費税率引き上げによる景気後退が金融緩和で相殺できるとの
 期待は、ほぼ確実に裏切られるだろう。予想インフレ率が上昇
 して、実質金利が低下したり、実質為替が下落することは起こ
 りうる。しかし、だからといって金融緩和によって設備投資や
 輸出が増え、消費税増税による大幅な景気落ち込みを相殺でき
 るとするのは現実的ではない。金融緩和をしても銀行に超過準
 備が積み上がるだけで、企業や家計向けの貸し出しにつながら
 ない可能性が大である。   ──中丸友一郎著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/52]

≪画像および関連情報≫
 ●「財政均衡主義という魔物」/三橋貴明氏ブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ドイツの場合、災害時などには例外が認められるが、それに
  しても2016年以降のドイツ連邦政府は、対GDP比でわ
  ずか0.35%の国債発行しかできなくなる。結果的に、イ
  ンフラの老朽化に歯止めがかからなくなり、国民経済が衰退
  化しても構わないのだろうか。メンテナンスコストの削減で
  老朽化するインフラの問題に、日々、悩まされているはずの
  ドイツのグロシェック交通相までもが、基本法(憲法)で決
  めた以上は、その条件でやっていくのがドイツ人気質だ」と
  語っている。決められたルールが「経世済民」に優先する。
  奇妙としか言いようがない。さらに酷いことに、ドイツは財
  政均衡主義をEU諸国(イギリスとチェコを除く)に押し付
  けようとしている。EU諸国は新財政協定により、近い将来
  財政均衡主義を憲法に書かなければならないのだ。要するに
  財政均衡主義あるいは「小さな政府至上主義」という魔物に
  襲われているのは、別に日本に限らない、という話だ。現在
  の「(デフレ期の)財政均衡主義」に関する日本国民の悩み
  苦しみ、そして戦いは実は世界的な問題でもあるのである。
  もっとも日本の「財政均衡主義」も異常で、特に96年以降
  という中期で見ると、ドイツ以上に公共投資の削減を進めて
  きている。一般政府の固定資本形成の推移を見ると、対96
  年比では、ドイツですら「若干のプラス」であるにも関わら
  ず、日本は半減状態である。    http://bit.ly/1gE5PZ6
  ―――――――――――――――――――――――――――

井堀利宏東京大学教授.jpg
井堀 利宏東京大学教授
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2014年03月24日

●「日本には国家としての債務はない」(EJ第3755号)

 NHK「日曜討論」における東京大学教授の井堀利宏氏の主張
に対する反論を続けます。第3の論点を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ≪第3の論点≫
  消費税率引き上げは物価を押し上げるので、インフレ的で
  あり、デフレ脱却に寄与する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 井堀教授は政府が物価上昇をインフレターゲットとして、「2
年後2%」の目標を設定していることについて、消費税引き上げ
は物価を押し上げるので、インフレ的政策だといっています。つ
まり、インフレになるので、デフレ脱却に寄与し、そこに矛盾は
ないじゃないかというのです。
 実はインフレには次の2つがあり、いわゆる「良いインフレ」
と「悪いインフレ」があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.ディマンド・プル型インフレ ・・ 良いインフレ
  2.コスト・プッシュ型インフレ ・・ 悪いインフレ
―――――――――――――――――――――――――――――
 需要が供給を上回れば、価格は上昇し、下回れば価格は下落す
る──経済学の大原則です。政府・日銀による経済政策に期待さ
れていることは、需要を増やして供給過剰の状態を脱却させるこ
とによって、物価を上昇させることです。
 財政・金融政策による景気刺激で、需要が拡大して起こる物価
上昇が「ディマンド・プル型インフレ」、俗に「良いインフレ」
といわれています。しかし、原油価格の高騰などの供給コストの
上昇で起こる物価上昇は「コスト・プッシュ型インフレ」、俗に
「悪いインフレ」といわれています。
 つまり、物価上昇は、需要の変化でも供給の変化でも起こりま
すが、その結果として起きる経済活動の水準が違うのです。需要
の拡大で物価の下落を止めると取引量は拡大しますが、供給の変
化では、取引量は前よりも減ってしまうのです。
 消費税増税による物価上昇は明らかに供給側の変化によるもの
であり、「コスト・プッシュ型インフレ」です。このことは「日
曜討論」では、本田悦朗氏が井堀利宏教授に対して反論していま
す。井堀教授の「インフレに貢献する」とは、東大教授らしから
ぬ主張であり、詭弁そのものであるといえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪第4の論点≫
  現時点での財政赤字の削減は将来の債務を抑制して、将来
  世代の若者の利益になり得る。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「財政再建はツケを次世代に回さないため」──財務省やこの
役所に支配されている学者の決まり文句です。しかし、これも詭
弁そのものであり、少しでも早く増税したいときにこの言葉を使
うのです。
 1997年の消費税増税(3%→5%)の失敗で日本経済はデ
フレ不況に陥り、それ以来約17年間、ずっと不況のままなので
す。その間就職氷河期が続き、若者は就職さえ満足にできない時
代が続いたのです。これこそ次世代の若者にツケを回しているで
はないですか。
 それに今回の増税は財政再建のためではなく、税率は8%と前
回よりも3%と多いのです。そしてさらに10%までの増税が法
律では決まっています。これによって、足元の景気は落ち込み、
雇用や成長が鈍化することは確実です。それに財政赤字はさらに
これによって拡大するはずです。若者にとって、何もよいことは
ないのです。
 ここで勘違いしてはならないのは、日本には本来の意味では国
の債務は存在しないのです。なぜなら、既に述べたように日本は
世界一の債権国だからです。
 それではGDPの200%を超える借金は何なのかということ
になりますが、それは「政府債」であり、貸主は日本国内の企業
と家計がほとんどなのです。このあたりのことを財務省は国民の
無知に付け込んで、騙しているのです。これについて、元世界銀
行エコノミストの中丸友一郎氏は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財政の大幅赤字は、日本政府の赤字にほかならない。(対外)
 債権大国の日本では、本来の意味での国の債務は存在しない。
 単に、国内の政府債があるだけだ。それとて、同じく国内の企
 業と家計がその政府債のほとんどを債権として保有している。
 政府債務の利払いは、単に同政府債の国内の債権者・国債保有
 者へ支払われる。そのような日本の政府債の存在が、日本経済
 成長のための制約条件であるはずがない。その何よりの証拠が
 0.5 %という超低金利水準の継続である。超低金利下では、
 我が国はむしろ財政赤字を短期的に増やして、政府債務(日本
 の民間債権)を当面増やすべきなのである。消費税率引き上げ
 どころか、日本がデフレ不況から完全に脱却するために、私は
 かなりの規模の個人消費減税を提案したい(もちろん法人税減
 税もよいだろう)。           ──中丸友一郎著
          『円安恐慌がやってくる!』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 何度もいうように現在の日本は財政再建を急ぐべきではないの
です。何としてもデフレから完全に脱却し、雇用の拡大を図るべ
きなのです。安倍政権は、消費税増税など絶対にやるべきではな
かったのです。しかし、やってしまったことは仕方がないので、
せめて10%引き上げは、安倍首相は財務省を敵に回しても絶対
にやってはならないことです。
 そういう観点から考えると、伊藤元重、井堀利宏両東大教授の
国民を惑わす詭弁は絶対に許せないことです。それに同じく財務
省に尾を振る日本経済新聞による世論誘導も許してはならないの
です。           ──[消費税増税を考える/53]

≪画像および関連情報≫
 ●アベノミクスの正体と消費増税の問題点/TSR
  ―――――――――――――――――――――――――――
  出足が好調であったことで強気になった安倍政権は、この機
  会に一気呵成に消費税増税に踏み切ろうとマスコミを抱き込
  み、その世論形成をめざしているようだが、連立与党内でさ
  え増税反対や慎重論があり、目下、景況を睨みつつ、この実
  施の時期を巡る論議が進められている。しかしその審議の実
  態は、将来の世界や日本を遠望した、国家再興や税制の構造
  はどうあるべきかの本質的な論議より、アメリカや官僚、財
  界の意向を汲んだ小手先の政策と党利・党略、目先の人気維
  持策、麻薬投与による景気浮揚策と、これを国会でいかにス
  ムーズに通すかの策略論議でしかなく、真の民主(民衆)主
  義政治の進め方である「正しい状況認識、判断、操作」とい
  う手順を間違えているように感じられる。とはいえ国民の大
  多数は、これまでのままの日本では未来に希望が持てないの
  で、何とか良い日本に変えねばならないと考えており、国際
  的には異次元の経済政策で危険な賭けと評される、タイトロ
  ープを渡るようなアベノミクスだが、既にその「三本の矢」
  は放たれてしまったのだし、そう再々短期間で政権が交代す
  ることは好ましくないので、危ぶみつつも、何とか安倍首相
  に成功させてもらわねばならないといった、淡い期待と命運
  を掛けざるを得ない切実な心境にある。
                   http://bit.ly/1jkspZK
  ―――――――――――――――――――――――――――

井堀利宏/伊藤元重東京大学教授.jpg
井堀 利宏/伊藤 元重東京大学教授
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2014年03月25日

●「日本経済新聞の政権への擦り寄り」(EJ第3756号)

 消費税増税1週間前の3月23日付、朝日新聞と日本経済新聞
の第1面トップ記事の見出しは、次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎朝日新聞/2014年3月23日付
  8%消費税、首相正念場/アベノミクスは株価で評価
 ◎日本経済新聞/2014年3月23日付
  消費増税「影響軽微」7割/なし・5%未満/反動減も楽観
  景気「9月ごろ復調」55%
―――――――――――――――――――――――――――――
 朝日新聞の記事は、安倍首相は17年ぶりの増税を果して乗り
切れるか、第2次政権発足後、最も難しい局面を迎えて正念場で
あるというトーンで書かれています。そして、アベノミクスは株
価で評価されており、もし増税によって株価が下落すると、安倍
政権の支持率に影響すると書かれています。
 増税を決めたが、その景気への影響をどのように少なくするの
か、安倍政権の真価が問われるという記事であり、新聞論調とし
ては、違和感のない内容です。
 日本経済新聞の記事は、同新聞社が3月22日にまとめた「社
長100人アンケート」の結果を報道しています。社長100人
の氏名は、同紙の第7面に出ていますが、これを見ると、すべて
一流企業のトップばかりであることがわかります。
 さて、第1面のトップ記事は、「駆け込み需要の動向」と「増
税後の年間売上高への影響」の2つを伝えているのですが、そこ
で日経独特の不思議な計算をしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪駆け込み需要の動向≫
  1.ほぼ想定通り         ・・ 39.9 %
  2.想定をやや下回る       ・・  2.0 %
  3.駆け込み需要は発生していない ・・ 25.7 %
  4.想定をやや上回っている    ・・ 10.8 %
  5.大幅に上回っている      ・・  1.4 %
 ≪増税後の年間売上高への影響≫
  5%未満+なし          ・・ 70.2 %
     ──2014年3月23日付/日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 「駆け込み需要の動向」についてですが、駆け込み需要があっ
たかなかったかを調べるのは「1+2+4+5=54.1 %」の
合計を求めるのが普通です。しかし記事によると、「1+2+3
=67.6 %」の合計を求めています。いったい何を調べたいの
でしょうか。記事の表現は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費増税前の駆け込み需要が想定通りかそれを下回っていると
 の回答が全体の3分の2に達した。
       ──2014年3月23日付/日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 「増税後の年間売上高への影響」については、アンケート結果
の詳細を伏せて、「5%未満となし」の合計が70.2 %に達し
ていると報道しています。記事は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 駆け込み需要や、増税後の反動減による年間売上高への影響は
 「5%未満」と「なし」の回答が合計で7割を超え、影響は軽
 微との見方が多い。
       ──2014年3月23日付/日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに日本経済新聞としては「消費増税『影響軽微』7割」
という記事をトップ記事にしたかったのだと思います。安倍政権
を擁護するためです。
 本当に消費増税後の売上高の影響を調べたいのであれば、一流
企業100人の社長だけではなく、中小企業を含めた幅広い企業
経営者からアンケートを集めるべきです。しかも、その集計は実
に不可解であり、一度読んだだけではわからないのです。多くの
読者は見出しだけを見て、「増税の影響は軽微」だと思ってしま
うでしょう。明らかに世論を誘導しているのです。
 いつの頃からか、日本経済新聞は、現政権寄りの記事を書くよ
うになり、安倍政権ではそれが一層ひどくなっています。そうい
うことから、私は日経はとっていますが、政府の政策に関する記
事は一切信用しないことにしています。
 2014年3月13日のEJ第3749号で取り上げた日本経
済新聞の次の記事の見出し「消費増税7割超が容認」とその手法
はまったく同じです。それにしても「7割」が好きな新聞です。
―――――――――――――――――――――――――――――
    内閣支持率上昇、68%/消費増税7割超が容認
               http://bit.ly/1gaSmHm
―――――――――――――――――――――――――――――
 新聞報道には特色があってよいのです。米国ではウォールスト
リート・ジャーナルは保守的な報道をし、ニューヨーク・タイム
ズはリベラルな報道をすることで知られています。それに英国の
フィナンシャル・タイムズが加わって激しい競争をしているので
す。それでいて、彼らは権力とは距離を置き、偏らない報道姿勢
を貫いています。
 しかし、これに対して日本の報道機関はどうでしょうか。新聞
社とテレビ局が同系列の企業であり、世界に例を見ない記者クラ
ブ制度があって、権力と結びついているのです。民主党政権のと
きに記者クラブを壊そうとしましたが、猛反発を食って結局何も
できなかったのです。
 安倍首相は、NHKに会長や経営委員に自分の腹心を送り込み
他のメディアのトップとも飲食を共にするなど、マスコミには親
密な関係を築いています。日経の政権への好意的報道は、首相の
そういうメディアとのコンタクトが効いているのでしょうか。
              ──[消費税増税を考える/54]

≪画像および関連情報≫
 ●NHKは政権に擦り寄り、メディア幹部は首相と会食
  ―――――――――――――――――――――――――――
  NHKは今度の安倍首相の靖国参拝に関しても、ひたすら安
  倍氏の擁護に走り、彼の言い分だけを伝えるという態度を徹
  底しました。直接言葉で肯定したり持ち上げるということこ
  そしないものの、細心の配慮のもとに、報じることと報じな
  いことを峻別してさりげなく報じるので、何気なく視聴する
  人たちを「洗脳」する効果はその分大きいといえます。そし
  て安倍首相は12月、内閣支持率の低下と歩調を合わせるよ
  うに、マスメディア幹部との会食を増やしています。秘密保
  護法の強行や靖国神社参拝などで国民や多くのメディアから
  強い批判が起きるなかで、メディア対策に躍起になっている
  わけです。靖国神社参拝をした2013年12月26日夜に
  もANAインターコンチネンタルホテル東京内の日本料理店
  で報道各社の政治部長らと会食しました。16日にも山王パ
  ークタワー内の中国料理店でNHK解説委員、「読売」論説
  委員長、日本テレビ報道局長、時事通信解説委員、「毎日」
  専門編集委員、「朝日」政治部長らと会食したばかりです。
  その他にも当然メディア・トップスとも会食するなど、マス
  メディアのトップスや幹部との癒着ぶりは相変わらずです。
  しんぶん赤旗の二つの記事を紹介します。
                   http://bit.ly/1h9gL12
  ―――――――――――――――――――――――――――

2014年3月23日日経のトップ記事.jpg
2014年3月23日日経のトップ記事
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2014年03月26日

●「黒田総裁はなぜ増税を推奨したか」(EJ第3757号)

 2013年9月5日のことです。この時期はメディアでも「消
費税増税は実施されるのか否か」の議論がさかんになっていたの
です。「安倍首相が増税を見送る」という声もかなりあったから
です。そういうとき、黒田日銀総裁は、金融政策決定会合後の記
者会見で、消費増税について次の発言を行ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費税率を引き上げても成長は続く。むしろ政府の財政規律が
 緩めば金融緩和の効果に悪影響がある。2013年度は駆け込
 み需要などで成長率を0.3 %ポイント程度押し上げる効果が
 あり、逆に、2014年度については、駆け込み需要の反動と
 消費税の負担増の影響で、0.7 %ポイント程度、成長を押し
 下げる効果がある。実質GDPの成長率では、2013年度は
 2.8 %、2014年度は1.3 %、さらに消費税率を10%
 に引き上げる2015年度は1.5 %とみている。
                     ──黒田日銀総裁
―――――――――――――――――――――――――――――
 この黒田発言には、何の根拠も示されておらず、単なる日銀の
期待値に過ぎないものです。それに増税は日銀マターではなく、
完全に日銀の越権行為であって、本来であれば口にすべきではな
いのです。それにもかかわらず、増税を後押ししたことは、この
人が財務省主計局出身のタックスマンであるからです。この黒田
発言に関して、中丸友一郎氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (消費税増税は)毎年続く、恒久的な増税となる。それは恒久
 的な可処分所得の減少を意味する。したがって、2014年度
 の経済成長がプラスで、しかも1.3 %の成長を遂げるとみる
 根拠は極めて乏しい。2014年度は、おそらく良くて、ゼロ
 成長がせいぜいだろう。マイナス成長となる恐れも否定できな
 い。しかも、2015年度に、10%まで消費税率が引き上げ
 られれば、さらに恒久的に家計の可処分所得はGDP比1.2
 %分も削減される。そのような厳しい緊縮策のもとで2015
 年に経済成長率が前年度よりも加速し、1.5 %の成長を達成
 できる根拠はさらに薄弱である。     ──中丸友一郎著
          『円安恐慌がやってくる!』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この黒田発言を聞いて国民は「増税やむなし」と考えた人は多
いと思うのです。何しろ黒田氏が日銀総裁になってからは、円安
/株高が加速し、雰囲気としては景気が良くなってきているよう
に感じている人が多く、総裁の発言を信じたからです。
 さらに黒田総裁は、増税が先送りされた場合の事態についても
次のようにもいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費増税が先送りされた場合の国債への信認の影響を見通すの
 は難しく、国債価格が大幅に下落した場合の対応は非常に難し
 くなる。                ──黒田日銀総裁
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、伊藤元重東京大学教授のブラックスワン発言と同じ趣
旨の発言であり、増税先送り論者への牽制です。それはブラフ以
外のなにものでもないのです。
 むしろ増税が先送りされれば経済成長の落ち込みは回避され、
景気が持続し、所得税や法人税も増収になる可能性があります。
そうなれば、国債のリスクプレミアムは低下するはずであり、国
債の信認が低下することなどあり得ないのです。まさに財務省の
話法に基づく発言なのです。
 増税で潤うのは、財務省だけです。増税によって、財務官僚が
差配する資金量が増大し、彼らの支配力が拡大するからです。彼
らは財政再建など考えていないのです。あくまで省益の追求のみ
です。そのために財務官僚は、増税のためならあらゆるところに
手を打つはずであって、もちろん、黒田総裁のところにも増税容
認の発言をしてもらうよう手が打たれていたはずです。
 黒田総裁は、何に基づいて増税を計画通りに実施すべきと発言
したのかというと、それは2013年7〜9月GDP速報値(1
次速報値)です。安倍首相もこれを判断材料にしていることは確
かです。4〜6月期と7〜9月期のそれぞれの前期比成長率を比
較してみることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
        実質GDP成長率   名目GDP成長率
  4〜6月期     0.9 %       1.1 %
  7〜9月期     0.5 %       0.4 %
―――――――――――――――――――――――――――――
 1〜3月期と4〜6月期の2期は、名目成長率が実質成長率を
上回っていたのです。しかし、7〜9月期は名目成長率が実質成
長率を下回っているのです。つまり、日本経済は7〜9月期に再
び名目成長率と実質成長率が、逆転するデフレの世界に戻ってし
まったことを意味します。
 7〜9月期は前期の4〜6月期に比べると、明らかに経済は減
速しているのです。それなのにどうして、安倍首相はこの数字を
基にして10月1日に増税を決めたのでしょうか。それは、はじ
めから、増税することを決めていたからです。
 それでは、添付ファイルの7〜9月期に何が経済に影響したの
かをみるグラフを見てください。「7〜9月期名目GDP成長率
の内訳(前年同期比)」です。
 グラフは、総需要の項目別前年同期比成長率で見たものですが
政府投資が21.2 %と爆発的に増えています。これは、いうま
でもなくアベノミクス第2の矢の貢献です。民間住宅投資も増え
ていますが、これは増税前の駆け込み需要と考えられます。
 輸入と輸出の伸びも高いですが、これは円安が要因です。問題
は輸入が輸出の増加率を上回り、純輸出の伸びが縮小しているの
です。民間消費や企業設備投資はあまり伸びておらず、本当に経
済が自立していないのです。 ──[消費税増税を考える/55]

≪画像および関連情報≫
 ●7〜9月のGDPは予想通り下方修正/小宮一慶氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  内閣府が2013年12月9日に、2013年7〜9月期の
  GDP改定値を発表しました。物価変動を除いた実質値では
  年率換算で1.1 %(速報値1.9 %)。名目値では1.0
  %(速報値では1.6 %)と、いずれも下方修正となりまし
  た。これによって、次の10〜12月期のGDPはどのよう
  に動くのでしょうか。今回は、GDP改定値の分析と、次の
  四半期から2015年10月に控えている消費税増税の判断
  材料となる来年7〜9月期の成長率の動きについて考えてみ
  たいと思います。また、米国でも第3半期(7〜9月期)の
  GDPが改定されましたが、こちらは大幅な上方修正となり
  ました。コラム後半では、米国経済は今どこまで回復してき
  ているのかを分析します。なぜ、7〜9月のGDPは下方修
  正されたのか。冒頭でも触れましたが、7〜9月期GDP改
  定値は、実質・名目ともに若干下方修正されました。201
  3年12月2日付の日本経済新聞電子版の記事「7〜9月期
  GDP改定値、民間予測1.6 %増 下方修正の公算」によ
  ると、民間9社の予測中央値は実質で1.6 %ということで
  したから、エコノミストたちの予想通りに下方修正となった
  わけです。           http://nkbp.jp/1dejAlT
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/中丸友一郎著『円安恐慌がやってくる!』
  /徳間書店刊

7〜9月期名目GDP成長率の内訳.jpg
7〜9月期名目GDP成長率の内訳
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2014年03月27日

●「増税できる環境を維持する財務省」(EJ第3758号)

 日本の経済の運営は財務省のコントロール下にあるといわれま
す。しかし、彼らは国益ではなく、「省益」に基づいて経済運営
をしているのです。政治家はそれに乗っかっているだけです。
 しかも彼らは、経済運営に失敗しても責任を取らず、そういう
ときは政治家に責任を取らせます。だから、明らかに経済成長の
阻害要因になる今回の消費税大増税(5%→10%)も安心して
やれる立場にあります。
 安倍首相は、そういうことがわかっていないわけではないので
す。首相の本心としては、今回の消費税増税はやりたくなかった
と思います。しかし、これは、財務省に飼い馴らされた民主党政
権の時代から、谷垣禎一元自民党総裁などが協力して積み上げて
きたものであり、撤回はもとより、延期ですらも実施するには手
続き的に非常に困難であったのです。
 しかし、安倍首相は、第2次政権では財務省に対して一矢報い
ています。それは、日銀総裁人事に関してリーダーシップを発揮
したことです。なぜなら、日銀が変わらないと、経済を活性化で
きないからです。どのように一矢報いたのかについては、後から
改めて述べるとして、首相を取り巻いている財務省支配の現状を
先に述べることにします。
 2013年6月のことです。経済財政諮問会議で、次の「骨太
の方針」が出されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今後10年間(2013年度から22年度)の平均で、名目
 GDP成長率3%程度、実質GDP成長率2%程度の成長を
 実現する。       ──経済財政諮問会議骨太の方針
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は、この目標からして財務省の意向に沿ったものなのです。
経済財政諮問会議は橋本行革によって2001年1月の中央省庁
再編によって設置された組織です。しかし、この諮問会議が多少
でも機能したのは小泉政権のときです。「骨太の方針」は小泉政
権のときにはじめて出されたのです。
 その狙いは、予算編成の主導権を財務省から取り上げ、官邸自
ら予算の骨格を決めることです。しかし、これを実現するには、
首相の強いリーダーシップと経済を担当する大臣が予算編成の知
識と実務に長けていることが不可欠です。
 これに危機感を感じたのは財務省です。そこで長い年数をかけ
て少しずつ主導権を取り戻したのです。これについて、元財務相
官僚の高橋洋一氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 普通の人は「経済財政諮問会議は内閣府の組織のはず。それが
 なぜ財務省の支配下にあるのか」と思うだろう。内閣府という
 ところはじつは、財務省の植民地のような組織なのである。形
 式上は内閣府が経済財政諮問会議の事務局を担当していても、
 実際には財務省出身者や、財務省出身の上司に従う内閣府の職
 員が、事務局を通じて会議を好きなように動かしている。そも
 そもいまの内閣府の事務次官にしてから、財務省出身なのだ。
             ──高橋洋一著/東洋経済新報社刊
     『財務省の逆襲/誰のための消費税増税だったのか』
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は、上記の「骨太の方針」は、掲げても掲げなくてもどうで
もよい方針なのです。どうしてか。それは、あまりにも「低い」
目標であり、とても目標とはいえないものだからです。
 データの入手可能な152ヶ国で、2000年から2008年
をみると、名目GDP成長率、実質GDP成長率のそれぞれの平
均で、名目3%以上の国は149ヶ国(98%)、実質2%以上
は129ヶ国(85%)なのです。
 先進国でみると、日本の名目GDP成長率は、2000年以降
の平均伸び率は「マイナス0.4 %」であって、OECD34ヶ
国中最下位の34位なのです。これは実質的に財務省が仕切って
いる日本の経済運営がいかに稚拙でひどいものであるかを物語っ
ているのです。
 日本の経済成長率が低い原因を白川時代までの日銀や財務省は
人口減少のせいにしようとしています。しかし、世界には日本の
ように人口が減少している国は11ヶ国ありますが、日本以外の
すべての国で名目成長率3%をクリアしているのです。
 それに仮に日本が目標通り「名目GDP成長率3%」を実現し
ても、OECD34ヶ国の順位が最下位から32位に上がるだけ
のことで、それがいかに低い目標であるかがわかると思います。
それに今まで通りの経済運営では、その低い目標ですら達成でき
ないことになります。なぜなら、日本の名目GDP成長率は20
00年以降、2010年をのぞき、高い年でも1%台で、1%以
下のマイナスになることもしばしばだからです。
 それにこの数値目標は、野田政権時代の2012年8月の「経
済財政の中長期試算」の数字と同じなのです。こういう数字を出
す財務省も財務省ですが、それを受け入れる安倍政権にも問題が
あります。異次元の金融緩和を続けていることでもあり、10年
目標なのですから、なぜ、「名目GDP成長率4%」という高い
目標を掲げないのでしょうか。
 この「4%」の目標については、財務省は絶対に認めないはず
です。これについては改めて述べますが、もし、名目成長率4%
がクリアされ、それが何年も続くと、プライマリー収支が改善さ
れ、増税する必要がまったくなくなってしまうからです。
 財務省は、増税が必要な状況を維持したいのです。財政再建が
必要である状況のままにしておきたいのです。なぜなら、経済が
大幅に改善してしまうと、増税できなくなるので、そうならない
ように成長率目標を低くコントロールしているのです。財務省が
国益のためでなく、省益を目標にしているというのはそのことを
指しています。財務省はそのためにさまざまな面でいろいろな工
作をしているのです。このことを知るには少し経済について勉強
する必要があります。    ──[消費税増税を考える/56]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の経済社会をどこに導こうとしているのか/森永卓郎氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  名目経済成長率と長期金利は、財政再建に当たって、どうい
  う意味をもってくるのだろうか。まず、プライマリーバラン
  スがプラスマイナスゼロだと仮定して、話を進めてみよう。
  その場合、政府は、いま支払う支出のために、新しく借金を
  する必要がない。とはいえ、借金の返済もできないので、過
  去の借金は残っている。そして、借金には金利が付くので、
  その分だけ借金の残高は増えていくわけだ。もし、金利が3
  %ならば、借金は年に3%ずつ増えていくことになる。とこ
  ろが、このとき、名目経済成長率が3%以上伸びていたらど
  うか。GDPが拡大するので、GDP全体に占める借金の比
  率は下がっていくことになる。借金の重みが少なくなってい
  くわけだ。たとえてみれば、同じ100万円の借金をしても
  年収500万円ならば相当きつい財政状態だが、年収が50
  00万円の人にとってはたいしたことではないというのと同
  じ理屈である。こうして、経済全体のパイを大きくしていけ
  ば、あとはプライマリーバランスを黒字化しさえすれば、借
  金の返済も楽である。もちろん、逆に名目経済成長率が金利
  を下回れば、経済全体に占める借金の比率は高まり、借金が
  重くのしかかってくることになる。このように、名目成長率
  と長期金利の関係をどう予測するかが、財政再建を考える上
  で、非常に重要な問題になってくるのだ。
                  http://nkbp.jp/1ggSYjR
  ―――――――――――――――――――――――――――

嘉悦大学教授/高橋洋一氏.jpg
嘉悦大学教授/高橋 洋一氏
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2014年03月28日

●「日本のフリードマン岩田規久男氏」(EJ第3759号)

 安倍首相は一度首相を経験しています。首相はやってみないと
わからない仕事といわれます。安倍首相は第1次政権では身体の
ことだけでなく、いろいろ壁にぶつかることが少なくなかったよ
うです。その最大の壁は財務省だったといいます。
 内閣としてどれだけ仕事ができるかは、財務省という役所とど
う付き合うかにかかっているといわれます。なぜなら、財務省は
国の膨大なおカネを握っているからです。財務省は国の予算の差
配権を握っているので、あらゆる役所に大きな影響力を持ってお
り、敵対していると仕事にならないのです。
 民主党が官僚機構の打破を掲げて選挙に勝利し、政権交代した
とたんに財務省に洗脳されたように見えるのは、財務省と対決し
て何もできないよりも、財務省と協調してひとつでも多くの仕事
をした方が内閣として得策と考えたのだろうと思います。もちろ
んこの考え方が違っていることはいうまでもないことです。
 その点安倍氏の場合は、二度目の登板なので、ある程度事情が
分かっています。そのため、最初に手を打たないと駄目であると
思っていたのです。とくに今の日本は、経済の立て直しが急務で
あることがわかっていた安倍氏は、それには日銀総裁人事が鍵を
握ると考えたのです。
 そういうわけで安倍氏は、早くから総裁候補を慎重に選び、腹
案をもったうえで首相に就任したのです。その日銀総裁候補者選
定の相談に乗ったのは複数いたでしょうが、イェール大学名誉教
授の浜田宏一氏が中心になっていたことは確かです。それは、浜
田氏が自著において、複数の日銀総裁候補を推薦している記述が
あることでわかります。現黒田東彦日銀総裁と岩田規久男日銀副
総裁に関する記述を抜き出してみます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎金融論が専門で、日銀のデフレ志向の金融政策を長年批判し
  続けたのが学習院大学の岩田規久男教授である。私は、徹底
  した貨幣重視の論調を、いわば四面楚歌のなかで続けてこら
  れた岩田氏の忍耐強い姿勢には尊敬の念でいっぱいである。
  日本のミルトン・フリードマンが誰かといえば、間違いなく
  彼だ。「法と経済学」でも大きな業績があり、次期日銀総裁
  の有力候補に挙げられる人である。
 ◎円高が各産業にどれほどの負担をかけているのかについては
  ハーバード大学のデール・ジョルゲンソン教授と慶応大学の
  野村浩二准教授が詳細に研究し、論文を書いている。両教授
  の研究が示しているのは、為替介入をしない口実に使う、財
  務省国際局の「過去20年の実質為替レートはもっと高かっ
  たから大丈夫だ」という主張が、まったくの間違いだという
  ことだ。はるか昔に財務官だった黒田東彦氏(アジア開発銀
  行総裁)は、「円高になると企業が苦しんで製品の価格を下
  げるので、デフレがゆるやかに進行する」事実をデータで示
  している。黒田氏も日銀総裁候補に挙げたい。
  ──浜田宏一著『アメリカは日本経済の復活を知っている』
                         講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 浜田教授による黒田東彦氏と岩田規久男氏の紹介記述を読むと
明らかに黒田氏よりも岩田規久男氏を強く推薦しているように思
えます。浜田氏の著書には岩田氏をめぐるエピソードが頻繁に出
てくるからです。とくに次の記述は印象に残ります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本のミルトン・フリードマンが誰かといえば、それは間違
 いなく岩田規久男氏である。       ──浜田宏一氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 これでわかるように、現在の黒田日銀総裁と岩田日銀副総裁の
コンビは、明らかに今までの日銀のトップとは異なる政策の持ち
主なのです。安倍首相は首相になる前にあらかじめ日銀トップの
人事を胸に秘め、首相になるや否や、電光石火にそれを実施した
のです。財務省に一矢報いたといったのはそのことを指している
のです。
 岩田規久男氏について少し書く必要があります。岩田氏は、当
時東大経済学部教授だった小宮隆太郎氏の門下生なのです。前日
銀総裁の白川方明氏も、もう一人の日銀副総裁である中曽宏氏も
小宮ゼミに属していたのです。浜田教授が白川氏のことを「教え
子」と呼んでいるのは、浜田氏が東大経済学部で教鞭をとってい
たとき、ひときわ、聡明さが光っていたのが白川氏であり、学問
の世界に残るよう声をかけたことがあるからです。
 ところがミルトン・フリードマンを始祖とするシカゴ学派の本
拠地に留学したのは白川氏のほうであり、フリードマンの最後の
講義も受講したといわれています。それにもかかわらず、浜田教
授が、白川氏ではなく、岩田氏を「日本のフリードマン」と称賛
するのは、白川氏が若いときの自説を日銀理論に合わせて変えた
のに対し、岩田氏は現在「リフレ派」といわれる貨幣重視の論調
を、四面楚歌のなかでも変更せず、守り通していることを評価し
たのです。岩田規久男氏について、あるブログライターは次のよ
うに書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 岩田新副総裁が日銀にもたらすのは金融政策に対する「自信」
 だろう。よくも悪くも近年の日銀の金融政策は「金融政策の限
 界」と「金融緩和の弊害」を強く意識した運営となっていた。
 リフレ派の中心的人物だった岩田氏にはそのような迷いは感じ
 られない。このあたりの雰囲気をみると筆者には岩田氏を「日
 本のフリードマン」というより「日本のバーナンキ」と呼ぶほ
 うが、ぴったり来るように感じられる。両者ともマネタリスト
 的であり、金融政策の効果・限界を非常に高く評価し、一方で
 その弊害を低く、かつある程度コントロール可能なものとみな
 している。             http://bit.ly/1eH1Kqh
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/57]

≪画像および関連情報≫
 ●アベノミクス実体経済に波及/岩田規久男日銀副総裁
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本銀行はこの2013年4月、2%の「物価安定の目標」
  をできるだけ早期に実現するために民間に供給するお金(こ
  のお金は現金と金融機関が日銀に預けている当座預金の合計
  で、マネタリーベースと呼ばれる)の量を大幅に増やし続け
  るというこれまでとは次元の異なる「量的・質的金融緩和」
  を導入した。この政策は、次のような波及経路で、日本経済
  を15年近く続くデフレから脱却させることを狙っており、
  これまでのところ一定の成果があがっている。量的・質的金
  融緩和は、国債や株式、外国為替を取引する投資家たちが予
  想する将来のインフレ率(予想インフレ率)を引き上げるよ
  うに作用する。インフレになると、現金や預金、利息が一定
  の国債などの債券の購買力は減少する。そのため、インフレ
  を予想した投資家たちは、手持ちの現金や預金で、あるいは
  国債などの債券を売って得た資金で、インフレに強い株(株
  式投資信託を含む)や土地・住宅(Jリートなどの不動産投
  資信託を含む)、日本の金利よりも高いドルなどの外貨建て
  資産を購入しようとする。その結果、株価が上昇し、円安・
  外貨高になる。株高と外貨高により、株や外貨建て資産を持
  っている家計の資産価値は増加する。資産価値が増加した家
  計は消費を増やす。株価の上昇は家計の気分(マインド)を
  明るくする。このマインドの改善も家計の消費を増やす要因
  である。実際に、家計の消費は最近3四半期連続して増加し
  続けている。         http://on-msn.com/1fcu2Wj
  ―――――――――――――――――――――――――――

日本のミルトン・フリードマン.jpg
日本のミルトン・フリードマン
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2014年03月31日

●「新古典派経済学についての大論争」(EJ第3760号)

 EJで経済学の学問的議論をするつもりは一切ありませんが、
少しミルトン・フリードマン(故人は敬称略)について書くこと
にします。フリードマンは、1976年にノーベル経済学賞を受
賞している経済学者です。
 なぜかというと、フリードマンはかなり誤解されている経済学
者であるからです。それにフリードマンの考え方は、現在、各国
の経済政策にいろいろな影響を与えています。また、フリードマ
ンを知ることによって、現在の経済政策を理解する一助にもなる
と思うからです。
 数学者の藤原正彦氏が自著のベストセラー『国家の品格』で、
フリードマンにふれている部分があるので、引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカの経済がうまくいかなくなってきた1970年代から
 ハイエクやフリードマンといった人々がケインズを批判し、再
 び古典派経済学を持ち出しました。もし経済がうまく行かなけ
 れば、どこかに規制が入っていて自由競争が損なわれているか
 らだ、とまで言う理論です。時代錯誤とも言えるこの理論は、
 新自由主義経済学などと言われ、今もアメリカかぶれのエコノ
 ミストなどにもてはやされているのです。  ──藤原正彦著
               「国家の品格」/新潮社141
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように考えている日本人は多いと思います。しかし、この
藤原氏の論説に対して、経済学者にして経済評論家の池田信夫氏
は、自身のブログで次のように痛烈に批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは徹頭徹尾でたらめである。ハイエクやフリードマンは、
 当時の主流だった新古典派に挑戦したのであって、「古典派経
 済学を持ち出した」のではない。おまけに藤原氏は、シカゴ学
 派と新古典派を混同している――と私が編集者(『電波利権』
 と同じ担当者)に指摘したら、新しい版では「新自由主義経済
 学」と訂正されたが、そんな経済学は存在しない。
                   http://bit.ly/1k1YO7H
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに藤原氏の主張にはいくつか誤りがあります。しかし、藤
原氏は数学者ですし、経済学者ではないのです。それを専門家で
ある池田氏が特定部分を切り取って、激しい言葉で非難するのは
いささか大人げないと思います。
 実は、藤原正彦氏は、『国家の品格』において、上記の記述の
前に次のようにいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 市場原理が猛威をふるっています。各自が利己的に利潤を追求
 していれば、「神の見えざる手」に導かれ、社会は全体として
 調和し豊かになる、というものです。自由競争こそがすばらし
 い、国家が規制したりせず自由に放任する、すなわち市場にま
 かせるのが一番よい、というものです。これは、アダム・スミ
 スが『国富論』で示唆し、続く古典派経済学者たちが完成させ
 た理論です。これがあっては、現代に生きる人々が金銭至上主
 義になるのは仕方ありません。金銭亡者になることが社会への
 貢献になるのですから。    ──藤原正彦著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、古典派経済学のことを述べています。古典派経済学と
は、18世紀後半から19世紀前半におけるアダム・スミス、デ
ヴィッド・リカード、トマス・ロバート・マルサスおよび、ジョ
ン・スチュアート・ミルなどの英国の経済学者に代表される経済
学の学説のことです。
 自由主義思想を基礎にすえており、経済については国家による
統制や干渉を排除し、個人の自由な利益追求活動に任せるべきで
あるとするレッセ‐フェール(放任主義)という考え方に立つの
です。もっと具体的にいうと、政府による国民経済への統制と干
渉を排除して、個人や企業の自由競争にまかせて経済を営むべき
であるとするのです。
 藤原氏はこの経済に対する考え方を「呆れるほどの暴論」と切
り捨て、「神の見えざる手」が何も解決しないことは、アダム・
スミス以来の、戦争、植民地獲得、恐慌に明け暮れた2世紀がそ
れを証明して余りあるといっています。市場原理主義はその流れ
をくんでいるといっているわけです。
 この古典派経済学に対して批判を加えた人物として、藤原氏は
ケインズを上げ、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 イギリスの経済学者ケインズが、これを1930年代になって
 初めて批判しました。当然です。それまで正面から批判する者
 のいなかったことの方が驚きです。ケインズは、国家が公共投
 資などで需要を作り出すことの重要性を指摘したのです。これ
 は、「ケインズ革命」と呼ばれるほどの驚きで迎えられました
 が、これに従ったアメリカのその後の成功があって定着しまし
 た。             ──藤原正彦著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 そしてその後に前記のアメリカの経済がうまくいかなくなって
きた1970年代から」の文になるのです。これなら話は通るは
ずです。古典派経済学の次にケインズ経済学が登場し、さらにそ
れを批判する新古典派経済学が出てくるのです。
 新古典派経済学は、1870年代以降の欧州において発展し、
第2次大戦後の米国で体系化された学問で、市場価格を通した需
給調整機能を重視する自由主義的経済体制を目指す経済学です。
ケンブリッジ学派とも呼ばれるA.マーシャルがその代表的な学
者のひとりであって、ハイエクやフリードマンではないのです。
 しかし、それが古典派経済学の伝統を受け継いでいることは確
かなのです。藤原氏が「古典派経済学を再び持ち出した」といっ
ていることは必ずしも間違いではないのです。この論争は、明日
のEJでも続けます。    ──[消費税増税を考える/58]

≪画像および関連情報≫
 ●「神の見えざる手」とは何か/ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
  市場経済において、各個人が自己の利益を追求すれば、結果
  として社会全体において適切な資源配分が達成される、とす
  る考え方。スミスは個人が利益を追求することは一見、社会
  に対しては何の利益も齎さないように見えるが、各個人が利
  益を追求することによって、社会全体の利益となる望ましい
  状況が「見えざる手」によって達成されると考えた。スミス
  は、価格メカニズムの働きにより、需要と供給が自然に調節
  されると考えた。元々はキリスト教の終末思想に由来し「人
  類最後の最終戦争には信徒は神の見えざる手により救済され
  天国へ行くことができる」などの教えからくるもので、これ
  を経済論に比喩として用いたものである。『国富論』には1
  度しか出てこない言葉であるが、多くの経済議論に用いられ
  非常に有名となっている。また、神の見えざる手ともいわれ
  るが、『国富論』には「神の」という部分はない。「人は自
  分自身の安全と利益だけを求めようとする。この利益は、例
  えば「莫大な利益を生み出し得る品物を生産する」といった
  形で事業を運営することにより、得られるものである。そし
  て人がこのような行動を意図するのは、他の多くの事例同様
  人が全く意図していなかった目的を達成させようとする見え
  ざる手によって導かれた結果なのである。
   ──『国冨論』第4編「経済学の諸体系について」第2章
                   http://bit.ly/1k8tqEy
  ―――――――――――――――――――――――――――

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池田 信夫氏と藤原 正彦氏
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2014年04月01日

●「現代経済学の主流は新しい古典派」(EJ第3761号)

 藤原/池田論争を続けます。池田信夫氏の藤原正彦氏の文章へ
の反論の一部を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ハイエクやフリードマンは、当時の主流だった新古典派に挑戦
 したのであって、「古典派経済学を持ち出した」のではない。
 おまけに藤原氏は、シカゴ学派と新古典派を混同している。
                   http://bit.ly/1k1YO7H
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで池田氏は、「ハイエクやフリードマンは新古典派に挑戦
したのであって」と表現していますが、正しくいうと挑戦したの
は「新古典派総合」なのです。おそらく池田氏は、それはわかっ
ていたのでしょうが、素人に「新古典派総合」といってもわから
ないので、そういう表現を使ったものと思われます。
 それでは、新古典派総合経済学とは何でしょうか。
 米国にポール・サミュエルソンという経済学者がいたのです。
彼は、ケインズ経済学と新古典派経済学を総合する新古典派総合
の理論を確立することによって、1970年にノーベル経済学賞
を受賞した経済学者です。このサミュエルソンの著書『経済学』
は、長く大学の経済学の教科書になっていたのです。
 しかし、1970年代に起きた不況下のインフレ──スタグフ
レーションに対してサミュエルソンは有効な対策を提唱できず、
多くの気鋭の経済学者から批判されたのです。
 それらの経済学者とは、マネタリストのミルトン・フリードマ
ン、合理的期待形成学派のロバート・ルーカス、成長論のロバー
ト・ソロー、さらに『赤字財政の政治経済学』の著者ジェームズ
・ブキャナン、ポストケインジアンのジョーン・ロビンソンなど
の経済学者たちです。
 したがって、ハイエクやフリードマンが挑戦したのは、その当
時主流であった新古典派総合理論であり、藤原正彦氏のいう新古
典派でないことは明らかです。
 ところで池田氏は「藤原氏は、シカゴ学派と新古典派を混同し
ている」といっていますが、シカゴ学派とは何でしょうか。
 シカゴ学派について説明する前に、新古典派経済学についても
う少し詳しく知る必要があります。新古典派経済学といっても一
枚岩ではなく、新古典派と新しい古典派という紛らわしい次の2
派があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1. ネオ・クラシカル ・・・・   新古典派
               Neoclassical economics
   2.ニュー・クラシカル ・・・・ 新しい古典派
               Newclassical economics
―――――――――――――――――――――――――――――
 紛らわしい話ですが、日本語で書く「新古典派」と「新しい古
典派」とは違うのです。「新古典派」はアルフレッド・マーシャ
ルが起こした学派であり、一般的に「新古典派経済学」というと
きは、これを指しています。
 これに対して「新しい古典派」は、新古典派の枠組みを前提と
してはいますが、一方で代表的個人モデルなどマクロ経済学が多
用してきたモデルを導入するなど、名前は似ていますが、両者は
見解を一にするものではないのです。そういう意味で「ニュー・
クラシカル」なのです。実は「シカゴ学派」は、このニュー・ク
ラシカルのことなのです。
 シカゴ学派とは、シカゴ大学の経済学部を中心に受け継がれて
きたことから、この名で呼ばれています。原理的な市場原理主義
を信奉する経済学の一団であり、経済学においてシカゴ学派とい
えば右派(市場主義的)と認識されています。
 シカゴ学派の創設者は、元シカゴ大学経済学部教授のフランク
・ナイトという経済学者です。彼は、アルフレッド・マーシャル
の経済学を継承し、道徳哲学に裏付けられた自由主義と自由企業
制度の改革と社会進歩の考えを深化させたのです。
 シカゴ大学において、フランク・ナイトの下で学んだ自由主義
者のミルトン・フリードマンやジョージ・スティグラーはシカゴ
学派の第2世代と呼ばれているのです。しかし、このフリードマ
ンやスティグラーによって、シカゴ学派は世界的に有名になった
といえます。しかし、ナイトは、自由競争に全幅の信頼を置くフ
リードマンらとは違い、政府による政策的な介入をある程度は是
認する立場を取っていたのです。
 池田信夫氏は、藤原氏は「シカゴ学派と新古典派を混同してい
る」といっていますが、専門的、厳密にはそうであってもシカゴ
学派──ニュー・クラシカルとネオ・クラシカルは一般的には新
古典派経済学に分類されるのです。
 ここ30年ほどの日本の経済政策では、「小さな政府」論を口
にする経済学者や政治家が増えています。これらの人々がどれほ
ど理解してそれを唱えているかわかりませんが、彼らはニュー・
クラシカルといってよいと思います。これは現代経済学の主流が
ニュー・クラシカルになりつつあることを示しているのです。
 ニュー・クラシカルは、かつて主流であったケインズ経済学と
は徹底的に対立します。ノーベル賞の選考委員もニュー・クラシ
カルが増えているので、当然ニュー・クラシカルの学者ばかりが
受賞するようになっています。
 この傾向は日本でも同じであり、ケインズ主義的論文は全く相
手にされなくなっているのです。ニュー・クラシカルの学者たち
は間違いなく「排除の理論」を実践しているといえます。
 政権では、橋本政権、とくに小泉政権は間違いなく、ニュー・
クラシカルに染まった政権であり、ケインズ主義的な財政支出を
唱えようものなら、「改革への抵抗勢力」のレッテルが張られ、
ほとんどのエコノミストから袋叩きに遭うことになります。今や
「ケインジアン」は、軽蔑の対象ですらあるのです。それでは、
現在の安倍政権のアベノミクスはどうなのでしょうか。それはこ
れから述べていきます。   ──[消費税増税を考える/59]

≪画像および関連情報≫
 ●小さな政府論と大きな政府論/2012年3月30日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  (小さな政府)政府の市場への介入を最小限にし、個人の自
  己責任を重視し、国家による経済政策・社会政策を最小限に
  する考え。要するに、民間で出来ることは民間に任せ、規制
  がなければ、個人や企業が思う存分力を発揮できるため、良
  いサービスが提供され、全体としても経済が活性化する。所
  謂、アメリカを中心に展開している新自由主義経済というも
  ので、小泉、竹中が目指したものである。小さな政府を徹底
  した体制は夜警国家あるいは最小国家ともいう。基本的に、
  より少ない歳出と低い課税、低福祉-低負担-自己責任を志向
  する。小さな政府を志向するならば、子供手当てなど必要は
  ない、老人医療なども個人の責任で解決させればよい(アメ
  リカのように)。高校教育の無料化なども必要ない。年金制
  度も国家の負担の必要はない。そうすれば、消費税など上げ
  なくても40兆円の税収で賄える。
  (大きな政府)政府・行政の規模・権限を拡大しようとする
  思想または政策である。主に広義の社会主義(社会改良主義
  ・社会民主主義・民主社会主義・スウェーデンモデル・日本
  型社会主義・集産主義)に立している。そう、戦後、日本が
  歩んできた道である。高福祉、高負担、社会的義務などを元
  に、歳出の策定や高負担税率はもちろん、巨大事業の国営化
  企業活動に対する規制強化なども含まれる。公共事業インフ
  ラ投資強化(失業者の救済、地方経済の救済という側面も持
  つ)といった施策もとる。如何でしょうか。
                   http://bit.ly/1h807hU
  ―――――――――――――――――――――――――――

フランク・ナイト/ミルトン・フリードマン.jpg
フランク・ナイト/ミルトン・フリードマン
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2014年04月02日

●「ニュークラシカル派が増えている」(EJ第3762号)

 日本でいうところの「新しい古典派」、すなわちニュー・クラ
シカル・エコノミクス──小さな政府とか構造改革とかいってい
る人のほとんどはこのニュー・クラシカル派と考えられます。
 私が愛読している「経済コラムマガジン」というメルマガがあ
ります。2002年の小泉政権のときですが、この「経済コラム
マガジン」で、ニュー・クラシカル派のことを取り上げたことが
あります。
 そこにこんな話が出ていたのです。蜜蜂の話です。蜜蜂を見る
と、多くの蜂がいつも慌ただしく働いています。だから、働き蜂
というのでしょうが、よく観察すると、20%ぐらいの蜂は仕事
をしているフリをしてサボッているのだそうです。
 そこでその20%ほどの不届きな蜂を駆除してみたところ不思
議なことが起きたのです。やはり、20%の蜂が仕事をサボるよ
うになったというのです。人間でもそうですが、多くの蜂が集ま
ると、どうしても20%ぐらいはサボる蜂がおり、そういうバラ
ンスで仕事が行われているのです。その意味では、20%の蜂は
必ずしも不要の存在とはいえないのです。
 2002年当時、次のような言葉が政権サイドからよく聞こえ
てきたものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎悪い銀行は市場から退場させるべきだ
 ◎建設・土木のような生産性の低い産業は淘汰が必要である
 ◎整理されるべき流通業者は早く整理せよ
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、仕事をしない蜜蜂の駆除と同じ発想です。これを進め
れば、日本の構造改革は前進し、企業の生産性は高くなり、日本
はデフレから脱却できるという考えたのです。
 小泉内閣は「改革なくして成長なし」というスローガンを掲げ
ましたが、その改革を進めるために、財政支出を削減し、規制緩
和を推進する必要があるとして、市場への政府の関与をできるだ
け減らし、文字通り小さな政府の実現を目指したのです。
 その結果、日本経済はどうなったでしょうか。
 相当の数の中堅ゼネコンや大手流通業者が破綻し、銀行や証券
会社、保険会社も何行かは退場し、証吸収合併されています。労
働市場の規制緩和によって、正職員が減少し、不正規雇用者が激
増したのです。これによって雇用の不安定化が進んでいます。
 しかし、これだけの構造改革とやらをやったにもかかわらず、
成長率はマイナスであり、デフレから脱却するどころか、かえっ
て事態は悪化したのです。効率の悪い企業も市場から退場させて
も一向に企業は成長していないのです。どうやら蜂の世界も人間
の世界も同じようです。
 それにもかかわらず、ニュー・クラシカル派は増える一方であ
り、メディアの論説委員などもすべてニュー・クラシカル派に染
まっています。何しろ彼らは「排除の論理」を進めているので、
ニュー・クラシカル派は増える一方です。彼らは、一貫してケイ
ンズ政策を批判するのですが、今やテレビなどに出演して、ケイ
ンズ的政策を唱えようものなら、経済学者やコメンテーターなど
から袋叩きに遭う可能性があります。
 「経済コラムマガジン」の筆者によると、とくに日経新聞の論
説委員、編集委員のほとんどはニュー・クラシカル派になってし
まっているといいます。同メールマガジンの筆者は、今やケイン
ジアンは「福神漬」のような存在になってしまったとして次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日経新聞はとくに極端である。日経のコラムの執筆者の全部が
 「小さい政府」論者と言って過言ではない。例外は頑固にケイ
 ンズ政策を主張している金森久雄氏だけである。テレビに登場
 する例外的なエコノミストも、リチャード・クー氏ぐらいであ
 る。確かにこの両者以外で、ときどき「小さな政府」論に反す
 る意見に接することがあるが、本当に稀である。今日、これら
 のケインズ主義的な意見は、カレーライスに例えるなら「福神
 漬」のような存在である。
         ──「経済コラムマガジン」(第246号)
        2002年3月25日 http://bit.ly/1hS6Dds
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ケインジアンはカレーライスの福神漬」とはよくもいったり
ですが、2002年当時、さかんにテレビ出演を果たしていたリ
チャード・クー氏は、最近ではテレビからは完全に排除されてし
まっています。「排除の論理」が効いているのです。
 しかし、この「経済コラムマガジン」が書かれた2002年の
前年にはニューヨークで同時多発テロがあり、これによって世界
経済は急速に悪化しています。そのとき、米国はITバブルが崩
壊し、金利引き下げや減税で経済を支えていたのですが、そこに
テロが起こったのです。貯蓄率は一挙に跳ね上がり、FRBは緊
急利下げを決め、米政府は大型の財政政策を実施しています。何
のことはない。ケインズ政策を実施しているのです。同マガジン
の著者による強烈なニュー・クラシカル派批判です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 筆者はニュークラシカルの経済学にはまるっきり興味はない。
 こんなものは経済学以前の「ケイザイガク」と言うくらいの認
 識しかない。端的に言えば「子供の屁理屈」である。もしこの
 ような奇妙な経済学が少しでも有効としたなら、「蟹工船」や
 「女工哀史」、つまり小林多喜二時代の資本主義の社会であろ
 う。少なくとも世界が今日直面する経済問題の解決には何の役
 にもたたない。実際、米国政府始め、どの国の政府も彼等をま
 るで相手にしていないのである。筆者は、早晩このようなカル
 ト的な経済学は世の中から消え去ると思っている。
         ──「経済コラムマガジン」(第246号)
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/60]

≪画像および関連情報≫
 ●同時多発テロとITバブル崩壊/小宮一慶氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米国では1990年代後半にインターネット関連のベンチャ
  ー企業が次々に登場し、華々しい成長を遂げていました。こ
  れらは「ドットコム」企業と呼ばれてマーケットでもてはや
  され、1999年から2000年にかけて株価が急騰しまし
  た。なかでもネット関連銘柄が多いナスダック市場の盛り上
  りはすごくて、1996年には1000前後で推移していた
  株価指数が2000年3月には5000を超えました。この
  頃には「今後は大きな景気後退が起こりにくい」というよう
  な「ニューエコノミー論」もまことしやかにささやかれまし
  た。(一部略)ところが2001年に入ると、多くのドット
  コム企業が、実は売上も利益も伴わない会社だったというこ
  とが世間に知れるようになり、株価は急落し、バブルが弾け
  てしまいました。そして、2001年9月11日に、米国で
  同時多発テロが起きました。ご記憶の方も多いと思いますが
  テロの直後は株価が乱高下して、数日間はニューヨーク証券
  取引所が取引停止になるなど、金融市場は大混乱しました。
  けれども、その後のイラク戦争に伴う需要拡大などもあり、
  世界経済は中長期的には回復へと向かいました。日本経済へ
  の直接的なダメージも限定的でした。というより、日本経済
  は97年からの金融危機の処理に手一杯でそれどころではな
  かったと言ったほうがよいかもしれません。
                  http://nkbp.jp/1i75kJ6
  ―――――――――――――――――――――――――――

小泉・竹中政権.jpg
小泉・竹中政権
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2014年04月03日

●「ケインズ経済学と新古典派経済学」(EJ第3763号)

 ネオ・クラシカル派(新古典派)とニュー・クラシカル派(新
しい古典派)は、学術論的には異なる学派ですが、基本的な部分
では、まとめて「新古典派経済学」と称しても、何も問題はない
のです。
 現代における経済政策をめぐる議論は、次の2つの経済学をめ
ぐる議論といっても過言ではないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.新古典派経済学
          2.ケインズ経済学
―――――――――――――――――――――――――――――
 この2つの経済学を分けるものは「セイの法則」が成立するか
どうかなのです。「セイの法則」が成立することを前提にする新
古典派経済学に対して、「セイの法則」は成立しない局面がある
とするケインズ経済学の対立です。
 「セイの法則」というのは、「供給はそれ自体の需要を創出す
る」というもので、2014年1月年20日のEJ第3712号
で詳しく述べていますので、そちらも参照していただきたいと思
います。 http://bit.ly/1bbPN6F
 「セイの法則」は、価格が需要と供給をバランスさせるよう変
動し、供給に見合う需要が市場メカニズムによって生み出される
という考え方です。経済エコノミストである植草一秀氏の本の例
を使って説明します。雇用について考えてみます。仕事をしたい
と考える人がいるとします。これは「供給」の側面です。しかし
人が欲しいと考える企業がいないと雇用は成立しないのです。こ
れは「需要」の側面です。
 そうすると、その人がなんらかの仕事につけるように市場で賃
金が変動するのです。時給1000円なら人を雇おうとしない企
業でも、時給800円なら雇おうとするかもしれない。この場合
は、労働力の価格である賃金が下落すれば、仕事を求める労働者
に仕事が行き渡ることなります。
 正職員なら雇おうとしない企業も、賃金が安く、使い勝手の良
い非正規労働者なら採用する可能性があるのです。逆に、特殊な
技能を持つエンジニアであれば、企業がそういうエンジニアを必
要とすれば、多少高い賃金でも企業は雇用することになります。
 しかし、賃金などがそれほど自由に変動しない局面もあるので
す。そういう場合は、働き手がいくら職を求めてもどこも雇う企
業があらわれない状態が長期化することになります。これが「セ
イの法則」が効かない側面ということになります。ケインズ経済
学では、そういう局面を考えているのです。
 こういう場合のケインズ経済学の考え方について、植草一秀氏
は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (「セイの法則」が効かない局面では)供給量は需要の水準に
 よって制約を受ける。つまり、供給能力をフルに生かすために
 は、政府が人為的に需要を追加してやることによって、その遊
 休化してしまった供給力を生かせると考えるのである。いわゆ
 る裁量的な政府支出の追加=有効需要の追加によって、失業問
 題を解消するという処方箋が生まれてくる。
                 ──植草一秀著/青志社刊
  「日本の再生/機能不全に陥った対米隷属経済からの脱却」
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ケインズ経済学には大きな問題点もあったのです。ケ
インズ政策は、不況のさいにその脱出の方策として、政府による
裁量的な支出を拡大して有効需要を追加する方策です。しかし、
選挙に勝つために、景気の好不況に関係なく、政権党が選挙受け
の良いこの政策を行うことによって、必要以上に政府債務を増加
させ、財政赤字のコントロールが困難になる事態が生ずることで
す。日本の巨額な政府債務もこういう理由でできたのです。
 そのケインズ政策のアンチテーゼとして登場したのが、ミルト
ン・フリードマンを中心とする新しい自由主義的な経済政策の台
頭です。フリードマンの経済政策については、植草一秀氏の解説
を参照することにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ミルトン・フリードマンが唱えたマネタリズムは、金融政策の
 運営を裁量からルール(あらかじめ決定したルールを基に金融
 運営を行うこと)に転換することを提言するものであった。ま
 た長期的な経済の強化のためには、需要を追加して経済活動を
 高めるケインズ政策よりも、経済の供給側のさまざまな制約を
 取り払う、あるいは経済の供給側の効率を改善することのほう
 が重要であるというサプライサイド(供給側)を重視する経済
 学、あるいは消費者などの経済主体がさまざまな経済政策の長
 期的な帰結をも正確に予測して行動するとの前提──これを合
 理的期待と呼ぶが、合理的期待を前提に置く経済学などの諸勢
 力が台頭し、ケインズ経済学を否定する風潮が一気に広がって
 いったのである。       ──植草一秀著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ミルトン・フリードマンは、誤解されやすい経済学者ですが、
次の動画はフリードマンについてそういう誤解を払拭してくれま
す。約15分ずつ5回連載です。時間のあるときにぜひ視聴して
いただきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ◎『フリードマンって悪い人なの?』
      出演:田中秀臣/上念司/塚本ひかり
      第1回/  http://bit.ly/1dJdnOZ
      第2回/  http://bit.ly/1e3j714
      第3回/  http://bit.ly/1e3jdpq
      第4回/  http://bit.ly/1hqBUrA
      第5回/  http://bit.ly/1pFttsV
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/61]

≪画像および関連情報≫
 ●ミルトン・フリードマンについて/池上彰
  ―――――――――――――――――――――――――――
  市場の原理を「見えざる手」にたとえ、自由放任を主張した
  アダム・スミス。公共事業など、政府が市場に介入すること
  で経済はうまくいくと主張したケインズ。そのケインズの理
  論を批判し、再び自由主義に光を当てたのが、アメリカの経
  済学者ミルトン・フリードマンです。彼はシカゴ大学の教授
  として、多くの経済学者を育てました。彼とその弟子たちは
  「シカゴ学派」と呼ばれ、政治に強い影響力を持つことにな
  ります。フリードマンは「新自由主義」の旗手と言われてい
  ます。アダム・スミスの自由放任の考え方をさらに徹底的に
  推し進めたのがフリードマンでした。人間にとって何よりも
  大事なことは自由である、自由に行動することが最もすばら
  しいことなんだ、これが彼の考え方です。このような人のこ
  とを「リバタリアン」と言います。人を殺したりものを奪っ
  たりしてはいけないけれども、人に迷惑をかけなければ何を
  やっても自由じゃないかという考えです。かつてアメリカで
  は禁酒法が施行され、お酒をつくることも飲むことも禁止さ
  れた時代がありました。ところが当時のマフィア、アル・カ
  ポネが酒の密売を行い、闇の世界が大きく拡大してしまいま
  した。禁止をすると裏で金儲けをしようという者が現れて、
  逆に闇世界がはびこる。だから全部自由にしてしまうほうが
  いい、これがフリードマンの考え方です。
                   http://bit.ly/P9wreh
  ―――――――――――――――――――――――――――

池上 彰氏.jpg
池上 彰氏
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2014年04月04日

●「公共事業を毛嫌いするシカゴ学派」(EJ第3764号)

 遂に4月1日から予定通り消費税増税が実施されました。10
%への引き上げも、安倍首相は経済状況を見て慎重に実施するか
どうか考えるといっていますが、おそらく予定通り行われること
になると思います。法律は成立していますし、これを延期するに
は、政権として大変なエネルギーを要するからです。
 実は、この増税は新古典派経済学の考え方と無関係ではないの
です。財政の危機、規制緩和、構造改革、民営化、消費増税、T
PP、小さい政府など──現在行われつつあることは、すべて新
古典派経済学と関係があるのです。EJはこれからそのことを追
及して行くことにします。
 ミルトン・フリードマンの弟子たちは、異口同音に公共事業を
批判します。経済評論家三橋貴明氏の著書から、そのいくつかを
上げてみることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎ゲイリー・ベッカーシカゴ大学教授/1992年ノーベル経
  済学賞受賞
  公共事業は真の価値が低いだろう。急いで立案されるし、利
  益誘導などの非効率的な事業が多数入る可能性が高い。
 ◎ユージン・ファーマシカゴ大学教授/2013年ノーベル経
  済学賞受賞
  政府債務(国債発行)が増えれば、民間の投資に使われたは
  ずの貯蓄が吸収される。結局のところ、遊休の資源がある状
  況(デフレ・ギャップの状況)でも、救済策と景気刺激策で
  使われる資源が増加することはない。ある目的から別の目的
  に資源が移るだけだ。
 ◎ジョン・コクランシカゴ大学教授
  政府が支出を増やせば同じ額だけ、民間の支出が減ることに
  なる。景気刺激策で創出される雇用は、民間支出の減少によ
  る雇用の喪失で相殺される。工場を建設する代わりに道路を
  作ることはできるが、財政出動によってどちらも増やすとい
  うわけにはいかない。  ──ロバート・スキデルスキー著
    『なにがケインズを復活させたのか』/日本経済新聞社
                      ──三橋貴明著
 『2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 それにしてもシカゴ大学の教授は、よくノーベル経済学賞を受
賞するものです。経済学賞の選考委員にシカゴ学派の学者が多く
シカゴ学派的主張を論文に盛り込まないとノーベル賞は受賞でき
ないのです。「排除の論理」を働かせているのです。
 しかし、日本のバブルの崩壊にせよ、リーマンショックにせよ
いずれもケインズ流の財政政策で乗り切っているのです。それに
もかかわらず、シカゴ学派の経済学者たちに一貫して公共事業を
批判するのです。
 こういう風潮に日本も染まりつつあります。今では日本で「公
共投資を拡大する」などと主張すると、日本のマスコミや経済学
者や政治家は、たちまちレッテルを貼って批判します。「バラマ
キ路線」、「土建屋優遇」、「土建国家復活」、「利益誘導型の
非効率事業」などです。これは、日本が中途半端に新古典派経済
学に染まっていることのあらわれです。
 バブルが崩壊すると、民間──企業と個人は借金返済をはじめ
るので、それは銀行預金を増やすのです。既に述べたように、借
金返済は消費でも投資でもないのです。したがって、消費と投資
の合計である総需要は増加しないのです。
 しかし、日本の場合、バブルが崩壊したあと、民間は10年以
上にわたって借金の返済を続けていたのですが、同時期のマネー
サプライ(マネーストック)は縮小していないのです。
 添付ファイルを見てください。これは、1998年12月末と
2007年12月末の日本にある銀行全体のバランスシートを示
したものです。以下は、リチャード・クー氏の分析です。
―――――――――――――――――――――――――――――
       民間向け信用  公共向け信用      預金
1998年 601.6 兆円 140.4 兆円 501.8 兆円
2007年 501.8 兆円 247.2 兆円 744.4 兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 既に説明したように銀行預金はマネーサプライ(マネーストッ
ク)をあらわしています。「預金」を見ると、2007年は19
98年よりも122.9 兆円も増えています。年に2〜4%の割
合で増加していることになります。
 銀行預金が増えれば、銀行の資産も増えるはずです。ところが
「民間向け信用」は99.8 兆円も減少しています。これは民間
が借金返済を行ったことをあらわしています。それでは、なぜ、
マネーサプライ(マネーストック)は増えたのでしょうか。それ
は「公共向け信用」、すなわち、政府への貸し出し(国債発行)
を見ればわかります。これを見ると、106.8 兆円も増加して
いるのです。
 民間部門が借金を返済すると、銀行におカネが戻ってきます。
銀行としては貸し出ししようとするのですが、民間は借金返済を
しているので、借り手がいないのです。
 一方、政府は財政赤字を出しているので、国債を発行してそれ
で賄おうとします。そうすると、銀行はおカネの借り手がいない
ので、その国債を大量に購入します。これは、結果として、銀行
が政府におカネを貸したのと同じです。
 政府は国債の販売収入を道路や橋の建設などの公共投資資金と
して使い、その財政支出は建設会社やそこで働く労働者の収入に
なり、その分銀行預金が増加します。こうして、民間が借金返済
をしておカネを借りないなかで、政府が代わりに借りて使ったの
で、恐慌になることはなく、マネーサプライ(マネーストック)
は増加したのです。日本のGDPの2倍以上の政府債務はこのよ
うにして積み上がったのです。しかし、それは経済を支えるため
には必要だったのです。   ──[消費税増税を考える/62]

≪画像および関連情報≫
 ●新自由主義というカジノ/キー・クエッション
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「リスク回避」という視点からアプローチしてきたが、ここ
  では視点を変えて「新自由主義」について見てみたい。そも
  そも新自由主義という用語には、きちっとした定義がないそ
  うである。諸説あるものの、もともとの起源は反自由主義的
  な雰囲気が濃厚になった1930年代にあるらしい。東では
  共産主義のロシアが台頭し、西ではドイツによる国家社会主
  義が広がりを見せていた時期に当たる。既存の資本主義では
  なく、共産主義でもない「第三の道」を模索する試みが新自
  由主義と考えられた。結局、アメリカは大規模な公共事業で
  景気を浮揚させるという道を選択し、世界はそのまま第二次
  世界大戦に流れ込む。その後、シカゴ学派と呼ばれる「政府
  の介入に反対する」人々があらわれる。ケインズのような公
  共投資による景気刺激策を否定し、通貨供給によって経済を
  コントロールする方法を支持した。新自由主義の特徴は、市
  場化・規制緩和・金融化と証券化・そして小さな政府だ。つ
  まり、政府の介入を減らして市場に全てを任せれば、自ずと
  繁栄するという理論である。アメリカ政府が日本に対して要
  求する内容を見ていると、新自由主義がどのようなものかよ
  く分かる。TPPもこの考え方に基づいた協定だと考えるこ
  とができる。           http://bit.ly/1gmSKms
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/リチャード・クー著/『バランスシート不況下
  の世界経済』/徳間書店

日本の銀行全体のバランスシート.jpg
日本の銀行全体のバランスシート
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2014年04月07日

●「大恐慌のさい消費増税をした米国」(EJ第3765号)

 いささか古い話ですが、1929年10月24日のことです。
その日は木曜日でしたが、ニューヨーク株式市場が大暴落したの
です。「暗黒の木曜日」と呼ばれていますが、1週間で株式時価
総額で、300億ドルが失われたのです。
 この300億ドルという金額ですが、当時の米国連邦年間予算
の10倍に当たり、米国が第1次世界大戦で費やした戦費をも上
回ったのです。1933年までに9000の銀行が倒産、失業者
は1300万人、全労働者の25%に達したのです。
 特筆すべきは、名目GDPは半減し、株価は80%以上下落し
たことです。名目GDPが1929年の水準に回復したのは19
41年であり、ダウ平均株価は、1954年まで1929年の水
準に戻ることはなかったのです。まさしく大恐慌です。
 この大恐慌のことを知らない人はいないと思いますが、大恐慌
の原因のひとつとされているものに、「消費税導入」があること
を知っている人は多くないと思います。消費税は、それほどに恐
ろしい税金なのです。
 時の米国大統領はハーバード・フーヴァーです。彼は大恐慌の
起きた1929年3月4日に大統領に就任しているのです。彼の
大統領選でのスローガンは次のようなものだったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   どの鍋にも鶏一羽を、どのガレージにも車2台を!
―――――――――――――――――――――――――――――
 大統領選に圧勝したフーヴァーは、それに加えて3月4日の就
任式に次のような現実離れしたことを就任演説として話している
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今日、われわれアメリカ人は、どの国の歴史にも見られなかっ
 たほど、貧困に対する最終的勝利日に近づいている。
               ──フーヴァー大統領演説より
―――――――――――――――――――――――――――――
 当然のことですが、米国経済はデフレに突入したのですが、そ
のときフーヴァー大統領は、今でいう市場原理主義者、財政均衡
論者であり、相次ぐ銀行倒産を放置し、「潰れる銀行は潰せばよ
い。破壊のなかから新しい創造がある」とうそぶいていたといわ
れます。
 このフーヴァーの考え方は「創造的破壊」といわれますが、こ
れはヨーゼフ・シュンペーターというオーストリア・ハンガリー
帝国出身の学者が主張していたのです。
 おまけにフーヴァーは財政均衡主義者であり、激減した税収に
対しては増税を実施すべしという考え方を持っていて、1932
年に米国史上はじめて連邦税として消費税を導入したのです。こ
れが決定的に効いて、不況はさらに深刻化するのです。
 実は、このことを知っている人はあまりいないと思います。日
本の増税論者はこの事実を隠しており、これについてはだんまり
を決め込んでいます。それどころか、現在米国では消費税が導入
されていないという事実も知らない人はたくさんいます。
 これについて金融コンサルタントで、大阪経済大学経営学部客
員教授である岩本沙弓氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 付加価値税・消費税は今や世界の約140ヶ国で採用されてい
 る税制度である。ただし、その中に米国は含まれていない。日
 本国内では米国が州ごとに採用している小売売上税を消費税と
 すっかり混同しているために、この州税を指して米国も消費税
 を採用しているとどうも誤認されているようだ。世界の常識か
 らすると、米国の小売売上税は全く別物という扱いで、消費税
 と同等などと指摘すれば、恐らく税制に対する基本的な知識が
 欠如していると見なされるだろう。 ──岩本沙弓著『アメリ
 カは日本の消費税は許さない/通貨戦争で読み解く世界経済』
                      文春新書948
―――――――――――――――――――――――――――――
 増税を決断した野田佳彦前首相は、質問趣意書で、米国のデフ
レ時の消費税導入のことを国会で問われ、「十分承知している」
と答えていますが、質問内容の事前通告があったら調べただけの
ことで、とても本当に知っていたとは思えないのです。野田前首
相は消費増税の真の怖さを知らないで、実施しています。これは
安倍首相も同じであると思います。
 なお、フーヴァー大統領は、消費税を新設しただけでなく、石
油税、食品税など、国民の生活に直結した取引全般に税を課し、
実体経済を極度に疲弊させてしまったのです。現在の安倍政権が
やっていることときわめてよく似ています。
 ところで、米国はどのようにしてこの大恐慌から脱出したので
しょうか。
 通説とされていることは、フーヴァーに代わって大統領になっ
たフランクリン・ルーズベルトの「ニューディール政策」という
名の政府の財政政策が回復の主因であるということです。
 しかし、当時からミルトン・フリードマンらは異説を主張して
いたのですが、少なくとも1970年代の中ごろまでは、ニュー
ディール政策の財政出動による景気回復が常識化され、大学の経
済学の授業でもそのように指導されてきたのです。
 ところが、1980年代に入ると、一部の経済学者から次のよ
うな事実が指摘されるようになったのです。それは、1933年
から1936年の間に、GDP比で見た米国の財政赤字はそれほ
ど増えていないのにもかかわらず、同時期のマネーサプライ(マ
ネーストック)が急激に増えており、フーヴァー時代のFRBの
政策が一変したことと関係があるのではないかという指摘です。
 その学者というのは、クリスティーナ・ローマー、ベン・バー
ナンキ、ポール・クルーグマン、ジェフリー・サックスといった
錚々たる経済学者たちです。実は、このことは、ミルトン・フリ
ードマンがいっていた異説と同じなのです。
              ──[消費税増税を考える/63]

≪画像および関連情報≫
 ●フーヴァーの別の一面/フーヴァー大統領の再評価
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「フーバー元アメリカ大統領の再評価」として、世界大恐慌
  で政府の経済介入政策で景気が好転できず、32代の大統領
  選でフランクリン・ルーズベルトに大敗した。フーバー大統
  領の真珠湾攻撃に関し、ルーズベルト大統領を批判した発言
  は「歴史的な検証に値する」ものだと遺族が一部資料を公開
  した。それによると、日本軍による真珠湾攻撃の際、大統領
  だったルーズベルトは「対ドイツ参戦の口実として、日本を
  対米戦争に追い込む陰謀を図った「狂気の男」として批判を
  していたことが分かった。(フーバーのメモによる)真珠湾
  攻撃に関しては、ルーズベルトが対独戦に参戦する口実を作
  るため、攻撃を事前に察知しながら放置、ドイツと同盟国だ
  った日本を対米戦に引きずり込もうとした。今月(2011
  年12月)に「ルーズ  ベルトの責任・日米戦争は何故始
  まったか」(藤原書店)が刊行される。ルーズベルト大統領
  が、巧妙な策略によって日本を対米戦争へと追い込んでいっ
  た過程が米側公文書によって浮き彫りにされている。ソ連の
  意向も受けていたようだ。この著書が今でも米国の英雄とさ
  れているルーズベルト大統領への歴史評価を見直すきっかけ
  となるだろう。フーバーが「米国から日本への食糧供給がな
  ければ、ナチスの強制収容所並みかそれ以下になるだろう」
  とマッカーサーに食料支援の必要性を説いたことも詳細に綴
  られており、フーバーの対日関与の功績に光を当てるものに
  もなっている。          http://bit.ly/1kdv1gM
  ―――――――――――――――――――――――――――

ハーバード・フーヴァー大統領.jpg
ハーバード・フーヴァー大統領
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2014年04月08日

●「大恐慌はFRBの政策ミスなのか」(EJ第3766号)

 ミルトン・フリードマンは大恐慌が発生したときから、FRB
は金融緩和を行うべきであると説いていたのです。しかし、この
提案に対して、多くの地区の米連銀のトップたちは、きわめて冷
淡だったのです。このときの様子をリチャード・クー氏は次のよ
うに書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  フリードマン=シュワルツの著書を読むと、当時のアメリカ
 に資金需要がなかったということが、フリードマンが批判する
 人たちの発言のなかに数多く出ている。例えば、フリードマン
 が、金融政策が最も有効であったはずだとする1929〜30
 年の間に、当時のニューヨーク連銀のハリソン総裁が、流動性
 の供給を大幅に増やそうと1930年の6月に地区連銀の総裁
 全員に書簡を送る。ところが、それに同調したのはアトランタ
 とリッチモンド地区の総裁だけで、他の9地区はすべて反対し
 その多くは強烈に反対した。例えば、当時アメリカの第2の金
 融センターであったシカゴ連銀のマクドゥーグル総裁は、「市
 場には十分な資金があり、市場が必要としていないときに準備
 金を注入すべきではない」と反論している。
 ──リチャード・クー著『「陰」と「陽」の経済学/我々はど
     のような不況と戦ってきたのか』/東洋経済新報社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、フーヴァーに代わってルーズベルトが大統領になると
FRB議長が交代し、金融緩和を行ったのです。そうすると、マ
ネーサプライ(マネーストック)が劇的に増加したのです。それ
は、添付ファイルの図──これは米国全加盟銀行のバランスシー
トですが、そこの「預金」を見ると明らかです。重要な点を数値
で表すと次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
       民間向け信用  公共向け信用      預金
1933年  158.0 億   86.3 億  223.6 億
1936年  157.1 億  163.0 億  341.0 億
                        単位=ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 大統領がルーズベルトに代わった1933年から1936年の
3年間を見ると、銀行の負債である「預金」は223.6 億ドル
から341億ドルへと約117億ドルも増えています。これは、
マネーサプライ(マネーストック)が増えたことを意味している
のです。これをクリスティーナ・ローマーやベン・バーナンキ、
ポール・クルーグマン、ジェフリー・サックスらの経済学者たち
は、FRBが政策を変更し、金融緩和を実施したためであると考
えたのです。
 かつてフリードマンの直系を自認していたバーナンキ前FRB
議長は、フリードマンの90歳の誕生日に次のメッセージを贈っ
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 やはりあなたは正しかった。大恐慌があそこまでひどくなった
 のは、FRBの政策ミスが原因だった。──ベン・バーナンキ
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、リチャード・クー氏はこの考え方に異論を唱えたので
す。銀行の預金が増えるということは、銀行の資産も増えるはず
です。ところが、多くの経済学者たちは、マネー・サプライ(マ
ネーストック)の動向に目を奪われて、銀行の資産サイドがどの
ようにして増えたかについては完全に見落としている──リチャ
ード・クー氏はこのようにいっているのです。
 「民間向け信用」、すなわち、民間(企業と個人)向け貸し出
しを表していますが、1933年の158億ドルと1936年の
157億ドルですが、ほとんど変わっていないのです。貸し出し
が増えていないのです。
 しかし、「公共向け信用」、すなわち、政府向けの貸し出しで
すが、これは、1933年の86億ドルが1936年には163
億ドルへ激増しています。つまり、民間が借りなかった分を政府
が借りて使っていることを意味しています。
 どうして民間への貸し出しが伸びないのか──この理由につい
て、リチャード・クー氏は次のように説明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見ると民間が、1929年の株暴落を受けて借金返済に
 回った結果、民間向け貸し出しは1929年から33年の間に
 激減し、それはそのまま銀行の負債である銀行預金(=マネー
 サプライ)の減少につながっている。次に1933年から36
 年の期間だが、ここで銀行預金はローマーが注目したように大
 幅に増えるが、バランスシートの問題をかかえた民間への貸し
 出しはビタ一文増えていない。ここで増えたのは政府向け貸し
 出しであり、それが増えたのはルーズベルトのニューディール
 政策をファイナンスするために政府は民間からの借り入れを大
 幅に増やさなければならなかったからである。
                  ──リチャード・クー著
       『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 クー氏によると、バーナンキやクルーグマン、ローマーやテミ
ンらの経済学者たちはクー氏の論文『「陰」と「陽」の経済学』
を読んで不況時の財政出動に言及しはじめています。彼らは、日
本のバブルが崩壊したとき、日銀が金融緩和の限界を口にすると
さかんに金融緩和の必要性を説いていたのですが、クー氏の論文
を読んで考え方が変わったようです。
 しかし、日本の経済学界でクー氏の理論は、まったく受け入れ
られていないのです。安倍首相の経済ブレーンを務める浜田宏一
教授もその一人であるとクー氏はいっています。しかし、クー氏
の「バランスシート不況」理論はきわめて説得力があります。素
人が読んでも理解できる理論──それはきっと本物の証であると
私は考えます。       ──[消費税増税を考える/64]

≪画像および関連情報≫
 ●リチャード・クー氏について/代替案のための弁証法的空間
  ―――――――――――――――――――――――――――
  私は本ブログで、リチャード・クー氏に関しては一方で評価
  しながら、他方で批判もするというアンビバレントな対応を
  とってきました。私は、基本的にクー氏を応援したいので、
  「ああ、申し訳ないことしたかなあ」と若干自責の念を持っ
  ています。というのも、グーグルで「リチャード・クー」と
  検索すると、私がずいぶん前の2005年2月にアップした
  「リチャード・クーと竹中平蔵のアウフヘーベン」という記
  事が、いまだに上位に出てくるのです。いまでもその記事は
  多くの人に読まれ続けているようです。リチャード・クー氏
  の「バランスシート不況」の理論が世界中のエコノミストや
  政府の財政当局者から評価されるようになり、いまやクー氏
  は世界的に「時の人」となった観のある現時点でも、なお拙
  ブログなど批判的な記事が上位にヒットしてくるのです。こ
  れはもしかしたらクー氏の業績を貶めようとする何かの「陰
  謀」かもしれません。皆さんご注意を(苦笑)。私の記事が
  日本におけるクー批判の一翼を担ってしまっているのだとし
  たら、全く私の本意ではありません。もっとも、私はその記
  事でエコロジカル・ニューディールの観点からクー氏を批判
  しつつもコメント欄では次のようにフォローもしています。
                   http://bit.ly/1qcMbua
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/リチャード・クー著/『バランスシート不況下
  の世界経済』/徳間書店

米全加盟銀行のバランスシート.jpg
米全加盟銀行のバランスシート


posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月09日

●「消費税増税は真に国際公約なのか」(EJ第3767号)

 2014年4月1日からの消費税増税を予定通り実施するのか
延期するのかの決定が安倍首相に委ねられたとき、次のようなこ
とが盛んにいわれたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎消費税増税は既に国際公約になっており、もし見送りになれ
  ば、日本の信用が失われる。
 ◎消費税増税を見送れば日本が財政再建をやる気がないと看做
  され、長期金利が上昇する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、きわめておかしな話なのです。明らかに国内問題であ
る消費税増税の時期を日本という主権国家がいつにしようと日本
の勝手であって、他国からどうのこうのといわれる筋合いのもの
ではないのです。しかし、増税法案が成立以来2013年10月
の増税決定までこれらのメッセージは流され続けたのです。
 これは、何としても増税をしたい財務省とその財務省に飼われ
ている御用学者たちが、新聞や雑誌でそういう論説を書いたり、
テレビに出てきて吹きまくったウソの情報なのです。しかし、そ
れを本当のことと受け止めた国民も多くいたのです。
 ここに格好の例があります。日本で消費税増税論議が高まって
いた2012年5月6日、フランスで大統領選の決選投票が行わ
れたのです。ニコラ・サルゴジ氏とフランソワ・オランド氏の決
選投票ですが、争点は付加価値税(消費税)の増税をするかしな
いかだったのです。
 選挙前のフランスの付加価値税の標準税率は19.6 %だった
のですが、サルゴジ氏はそれを21.2 %に引き上げると公約し
オランド氏は増税撤回を約束していたのです。選挙戦の結果、得
票数は、オランド氏51.62 %、サルゴジ氏48.38 %でオ
ランド氏がフランスの大統領になったのです。
 大統領に就任するやオランド氏は、直ちに付加価値税の増税を
凍結し、公約を果したのです。ところで、当時フランスのトップ
であるサルゴジ氏は増税を選挙の公約にしていたのですから、こ
れは公の事実です。ましてフランスはEUの加盟国ですから、フ
ランスが増税をして財政再建に取り組むかどうかはちょうどギリ
シャ問題で欧州債務懸念が強まっていたさなかであり、同じEU
の諸国にとって、関係のない話ではないのです。
 しかし、そのサルゴジ氏は大統領選に敗れ、増税は凍結されて
しまったのです。そうだからといって、国際世論が、いやEU諸
国がフランスを非難したかというと、そんなことはないのです。
増税するかしないかは、その国の内政の問題であり、他国が干渉
すべきことではないからです。
 それでは、フランスでは、増税が見送りになって長期金利は上
昇したでしょうか。
 選挙直前の2012年5月4日の終値で2.826 %だった長
期金利は選挙直後から利回りが低下し、1年後の2013年5月
に1.6 %になったあと、2013年11月には2.1 〜2.2
%で推移しているのです。増税撤回で長期金利が暴騰することな
ど起こっていないのです。
 このように、増税をしたいがためにマスコミを通じて国民にウ
ソの情報を流して増税を受け入れさせる──こんなことは犯罪行
為です。建前上増税で得た資金は全額社会保障に使うといってい
ますが、おカネに色はついていないのです。きっと10%では足
りないので15%するといって、またしても税率を引き上げるこ
とは目に見えています。そんなことより、役人の天下りの無駄を
やめさせる方が先ではありませんか。
 それに政治家も「身を切る改革をする」と国民に約束したのに
何もしていないではないですか。そんな安倍政権に国民は現在で
も、なんと50%を超える高い支持を与えているのです。
 ちなみにオランド大統領は、就任直後に増税は凍結したものの
政権発足半年後の2012年11月6日の時点で、2014年か
ら0.4 %の付加価値税の増税を宣言したのです。フランス国民
は完全に裏切られたのです。そのため、政権発足当時60%以上
あった大統領の支持率は、増税発表後に急落し、現在では20%
以下に落ちています。もはやオランド大統領の再選は絶望的であ
るとフランスではいわれているのです。
 日本でも消費税増税はしないという公約を掲げて政権交代を成
し遂げたのに、一転して国民を裏切り、こともあろうに当時野党
の自民党と組んで、公約破りの消費税増税を実施した民主党に国
民は選挙で厳しい審判を下しています。
 しかし、それではスジが通らないとして民主党を離党してけじ
めをつけた小沢一郎氏のグループに対して国民は何をしたでしょ
うか。増税を強行した民主党と一緒にして選挙で大敗させ、少数
政党にしてしまっています。こういうことをやって喜ぶのは官僚
機構──役人たちだけなのです。
 本当に官僚機構を壊し、政治を官僚から国民の手に取り戻せる
剛腕が振るえる政治家は、官僚機構と棲み分けをしている自民党
は論外として、石原慎太郎氏でも橋下徹氏でも渡辺喜美氏でもな
く、小沢一郎氏だけです。だからこそ、官僚機構は小沢氏に対し
ていわれなき人格破壊を仕掛けて潰したのです。日本国民はもっ
と賢くなるべきです。
 ところで、私たちは消費税制度についてどれほどの知識がある
でしょうか。
 実は米国は、日本の消費税や他の各国の採用する付加価値税に
対して「非関税障壁」(関税以外の方法で貿易を制限する)であ
ると受け止めているのです。とくに米国は消費税をやっていない
ので、余計にそのことを問題視しているのです。
 今回日本は消費税率を8%にしましたが、カナダは5%と低率
です。両国とも税率は導入から20年を経過しているのに他国に
比べて低い水準です。これは欧州の高率と対照的です。これは、
日本、カナダ両国がともに親米国家であることと無関係ではない
のです。          ──[消費税増税を考える/65]

≪画像および関連情報≫
 ●フランス経済2013年の展望/日テレニュース24
  ―――――――――――――――――――――――――――
  12年5月の大統領選挙で、社会党のオランド氏が現職のサ
  ルコジ氏を破り、フランスで17年ぶりに社会党政権が誕生
  した。オランド氏は、サルコジ氏の政策を「金持ち優遇」だ
  と批判して、「富裕層への増税」「雇用の拡大」「経済成長
  重視」をアピール、若年層や低所得者の支持を集めて新大統
  領に就任した。しかし、就任から半年余りが経った現在、オ
  ランド政権は厳しい批判を浴びている。国民の間に「暮らし
  が良くなった」という実感がないためだ。フランスの経済成
  長率は12年後半にマイナス成長に転落し、13年も0.1
  %にとどまる見通し。失業率は10.7%に上昇し、失業者
  数は300万人を超えた。この数字は、サルコジ政権下より
  も悪化している。雇用の悪化を象徴するのが、フランスの自
  動車大手「プジョー・シトロエングループ(=PSA)」。
  ヨーロッパの自動車市場が低迷する中、12年7月に約80
  00人の雇用削減と一部工場の閉鎖を発表した。オランド大
  統領は「人員削減は認めない」と介入に乗り出したが、進展
  は見られない。また、付加価値税(消費税)の税率引き上げ
  をめぐり、国民の不信が募っている。オランド政権は就任後
  サルコジ氏が選挙前に発表した付加価値税の増税を「撤回す
  る」と発表した。しかし、12年11月、付加価値税率の引
  き上げ(標準税率19.6%を20.0%に)を14年から
  実施する方針を発表した。国民は「裏切られた」と感じてい
  る。               http://bit.ly/1hTjAaJ
  ―――――――――――――――――――――――――――

フランス/オランド大統領.jpg
フランス/オランド大統領
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2014年04月10日

●「輸出還付金は2兆5千億円になる」(EJ第3768号)

 4月8日付の日本経済新聞第5面によると、OECD事務総長
の発言が記事になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪日本の消費税、15%必要/法人税、適切に下げて≫
 経済協力開発機構(OECD)のグリア事務総長は7日、都内
 で日本経済新聞社の取材に応じ、「消費税は長期的に15%ま
 で引き上げてもよい」との見方を示した。法人税率引き下げの
 議論も並行して進めるべきだとも指摘した。2020年までに
 基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字にする日本政
 府の目標に対し、OECDは消費増税による財政健全化を提言
 している。グリア氏は、「OECD加盟国の付加価値税(VA
 T)は平均で20%だ」と説明。「日本は10%に引き上げて
 もまだ半分にすぎない」と話し、高齢化社会への対応として、
 15年に予定する10%を超えてさらに引き上げる必要がある
 と述べた。  ──2014年4月8日付、日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言にはきわめて違和感を感じます。余計なお世話ですし
明らかな内政干渉です。「OECD加盟国の平均は20%であり
日本は10%に引き上げてもその半分に過ぎない」──それは日
本の事情であり、国外からとやかくいわれる筋合いのものではな
いからです。
 それに現在のEUの現状をみると、消費税増税では財政健全化
ができないことは明らかです。財政健全化どころか、増税によっ
て雇用が激減し、経済状況はかえって悪くなっていることをOE
CD事務総長はどう考えているのでしょうか。
 この記事のウラには財務省がいます。OECDの事務総長が来
日する場合、財務省は何らかのかたちでからむはずです。そこで
日経の記者に指示して記事にしたものと考えられます。とにかく
日本経済新聞は政権べったりの報道をする新聞社なのです。
 財務省としては、次の10%への引き上げを何としても実現さ
せたいのです。昨日のEJで述べたように、財務省は財政危機悪
化を理由にしてさらに税率を引き上げたいと考えています。この
会見記事はそのためのひとつの布石です。彼らは国民の生活など
どうなってもかまわないと考えているのです。
 「関税」は世界最古の税金です。ところで、関税のことを英語
で次のようにいうことを知っていますか。
―――――――――――――――――――――――――――――
           関税=customs
―――――――――――――――――――――――――――――
 「customs」 は「習慣」という意味です。なぜ、そう呼ばれる
かというと、それが想像を絶するほど昔から行われていた「慣習
的な支払い」であるからです。アダム・スミスは『国富論』でそ
のように書いています。
 しかし、付加価値税や消費税は、1954年にフランスで採用
されたもので、それからわずか60年しか経っていないのです。
そういう税制にはどうしても不備は避けられないのです。それに
付加価値税をはじめて採用したフランスが債務危機に陥っている
ことを考えれば、消費税増税による財政再建がいかに難しいかわ
かるというものです。ちなみに日本については財政危機であると
は私はまったく考えていないのです。
 米国の州や地方自治体が行っている小売売上税について考えて
みることにします。これはきわめてシンプルです。店側は、顧客
に商品を提供しますが、そのさい購入者に対して一定の税を徴収
します。店側はその徴収したおカネをそのまま州や地方自治体の
当局に申告して納税する──それだけのことです。
 しかし、日本の消費税の場合は非常に複雑なのです。店側は仕
入れの段階で卸業者などに消費税を払っています。そのようにし
て仕入れた商品やサービスを店側が売る場合、購入者から消費税
を受け取ることになります。
 それではどのようにして消費税を納めるのかというと、店側が
仕入れたときに支払った消費税と、店側が購入者から受け取った
消費税を相殺して納税することになります。しかし、この場合重
要なのは、個々の商品やサービスの売り上げから仕入れを差し引
いて納税するのではないということです。
 事業者は年間の売上高から年間の仕入高を差し引いて納税額を
計算し、税務署に収めるのです。つまり、実際に消費者が負担し
た個々の消費税分と事業者の納税額との間には直接関係がないこ
とになります。
 これは、流通過程におけるすべての事業者が、仕入れのさい支
払った消費税分を控除する作業を行っていることになります。生
産→製造→卸→小売りのそれぞれの段階で、その清算作業を行っ
ているのです。きわめて複雑な話です。
 問題は輸出の場合です。輸出品には「仕向地原則」というもの
が適用されるのです。自動車のケースを例にとります。自動車が
輸出されると、消費税は原産地の日本ではなく、それを消費する
国(輸出する先の国)──仕向地で課税されることになります。
 もし現在、日本車をフランスに輸出すると、仕向け地であるフ
ランスの付加価値税20%がかかります。しかし、自動車を生産
する過程で部品などを原産地の国内で調達していると、そこで消
費税分を負担しているとして、国内で既に支払った消費税分は自
動車メーカーに還付金として渡されるのです。この還付金のこと
を「輸出還付金」というのです。
 2012年度予算で試算すると、輸出還付金の総額は2兆50
00億円になっています。そのうちの約半分は、輸出企業の上位
20社に渡されています。消費税の税収は年間10兆円ですが、
本来は輸出還付金を含めた12.5 兆円のはずなのです。
 そして、もし消費税率が10%になると、輸出量や単価がその
ままであるとすると、この2兆5000億円は5兆円に倍増され
るのです。何かおかしいと思いませんか。そのからくりは、明日
のEJで考えます。     ──[消費税増税を考える/66]

≪画像および関連情報≫
 ●消費税と税収の関係/Garbage NEWS.com
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本でも消費税が1989年に導入されてから20年以上の
  月日が経つが、昨今再び消費税周りの話題を良く耳にする。
  言うまでも無く、現行税率の5%から、さらに上乗せがされ
  る可能性があり(2段階方式で最終的には10%)、その判断
  がこの数か月の間になされるからだ。一方、消費税の税率ア
  ップの理由に「財政再建」「安定税収の確保」「不景気下で
  落ち込み気味な税収のアップ」などが語られている。ところ
  が各種シミュレーションでも「消費税を上げても総合的な税
  収増にはつながらない」との話もある。そこで今回は過去の
  税収関連のデータを基に、日本における消費税と税収の関係
  をグラフ化し、精査を行うことにした。一般会計税収の推移
  は1985年度(1985年4月〜1986年3月分)以降は
  財務省の【一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移】
  で確認、取得ができる。さらに消費税のみの税収は【統計表
  一覧】、概念の把握は【「税収について考えてみよう」解説
  記事】で探し出すことができる。そして、消費税についての
  日本における過去の出来事「1989年4月1日に新設/3
  %」「1997年4月1日に増税(3%から5%)」を盛り込
  んだのが次のグラフ。「購買力などを考慮し、消費者物価指
  数を反映すべきだ」との声もあるが、この数十年間実質的に
  消費者物価指数はほぼ横ばいなことを考慮すれば、無視でき
  るものと判断する。        http://bit.ly/1gFWaB8
  ―――――――――――――――――――――――――――

一般会計と消費税税収推移(兆円)/2013.jpg
一般会計と消費税税収推移(兆円)/2013
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2014年04月11日

●「輸出還付金は不公平な制度である」(EJ第3769号)

 「輸出還付金」の矛盾について考えていきます。「徒然日記」
というブログに出ていた例を使って説明します。消費税の税率は
5%で計算します。登場する業者は次の5つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       A ・・・・     漬物業者
       B ・・・・       農家
       C ・・・・     輸出業者
       D ・・・・     韓国業者
       E ・・・・ 国内スーパー業者
―――――――――――――――――――――――――――――
 漬物業者Aは、キムチを作るために農家Bから100万円分の
白菜を購入します。Aは消費税分5万円を加えて105万円をB
に支払います。
 漬物業者Aはその白菜で作ったキムチを輸出業者Cに200万
円で売却します。Cは200万円に消費税分10万円を加えて、
210万円をAに支払います。
 輸出業者Cはこのキムチを韓国に輸出し、韓国業者Dに300
万円で売却したのですが、そのキムチには仕向地原則が適用され
韓国の消費税かかるので、日本の消費税は受け取れません。この
場合、輸出業者Cは、漬物業者Aに支払った消費税10万円分を
国から輸出還付金として受け取れるのです。
 この場合の国の収支を考えてみましょう。国に入ってくるのは
漬物業者Aからの消費税です。Aは輸出業者に10万円の消費税
を受け取っていますが、農家Bに白菜を購入したときに5万円の
消費税を払っていますので、「10万円―5万円」で5万円を消
費税として納付します。なお、農家は、年間売上高が1000万
円以下であるので、免税になります。そうすると、国の収支は、
収入が5万円で、支出が10万円ですから、5万円の赤字になっ
てしまうのです。
 仮に、漬物業者Aがキムチを輸出業者に売らずに、国内のスー
パー業者Eに消費税込みで210万円で売却したとします。そし
てEはそのキムチを消費税込みで315万円で消費者に販売した
とします。そうすると、Eは消費者から預かった15万円から、
漬物業者に支払った10万円を差し引いて、5万円を消費税とし
て国に納付します。
 この場合、国の収支は、漬物業者の納付した5万円とスーパー
が納付した5万円の計10万円になります。輸出還付金がいかに
大きいかがよくわかると思います。
 したがって、自動車メーカーの本社のある税務署は消費税収入
が赤字のところが多いのです。添付ファイルを見てください。こ
れは、2007年分の消費税収入が赤字の税務署のランキングで
す。ベスト5を上げると、1位は、トヨタ自動車の本社や関連会
社のある愛知県豊田税務署、2位は、日産自動車の本社がある神
奈川県神奈川税務署、3位は、マツダの本社のある広島県海田税
務署、4位は本田技研工業の本社のある東京麻布税務署、5位は
パナソニックの本社のある大阪府門真税務署です。
 問題は、大手の輸出業者が、本当に消費税を部品業者などに支
払っているのかということです。経済取引では価格決定権をもっ
ているのは、親企業である輸出業者ですから、そこから「仕事は
出してやるから、消費税分は値引きしろ」といわれると断れない
のです。そのようにして輸出業者は、消費税分を値引きさせたに
もかかわらず、自身は下請け業者に消費税を支払ったとして、輸
出還付金を受け取っているのです。
 この点について、大阪経済大学経営学部客員教授の岩本沙弓氏
は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 例えば、ある製品を120円で売らなければ採算が取れない下
 請け企業があるとする。それを価格決定権の優位性から、つま
 り「まけてくれ」と取引先に言われてしまうとまけざるを得な
 いその力関係から、100円に値切られてしまったとする。と
 なれば、大企業は100円プラス消費税5%の105円を下請
 け企業に払うだけだ。輸出大企業は20円得した上に消費税分
 5%の還付金まで戻って来る。一方、大企業がいくら5%の消
 費税を払っているといっても、本来であれば本体価格120円
 +6円の消費税を下請け企業は受け取りたかったにもかかわら
 ず、20円分の収益が飛んでしまう。そこで5円の消費税を受
 け取ったとしても、実質15円の収益減となってしまっては元
 も子もない。           ──岩本沙弓著『アメリ
 カは日本の消費税は許さない/通貨戦争で読み解く世界経済』
                      文春新書948
―――――――――――――――――――――――――――――
 「輸出還付金」制度は不公平な制度です。そうでなくても税収
の足りないときに、なぜ輸出企業だけに巨額の消費税を還付する
のでしょうか。もちろん、これはGATT/WTOという国際協
定で決まっており、簡単には改正できないのは確かですが、政府
がその気になれば、改正ができないわけではないのです。
 二重課税を防ぐという趣旨であれば、患者から消費税分をもら
えない病院や診療所の社会保険診療報酬にはどうして還付金制度
はないのでしょうか。
 日本では、保険診療の対象となる医療行為には、消費税は非課
税になっているのです。これは患者にとってはよいことですが、
病院側にとって見れば、患者から消費税を取れないことは非常に
大きな負担になります。なぜなら、病院が購入する大小様々な医
療機器、治療に使う薬剤、包帯や注射などの消耗品などには全て
に消費税が掛かるからです。
 ある調査によると、1つの病院で、年間3000万円もの「損
税」が生じているそうです。この統計が正しければ消費税が10
%に上がれば、年間の損失は6000万円に膨らむ計算です。こ
のままでは、経営破綻する病院が続出しかねない状態です。
              ──[消費税増税を考える/67]

≪画像および関連情報≫
 ●消費税の税率が上がって一番喜ぶのは輸出企業である
  ―――――――――――――――――――――――――――
  こうした輸出還付金の話を持ち出すと、大企業側はきちんと
  消 費税を払っているから問題はないと反論する。もちろん
  帳簿上は支払っていることになっているし、消費税を支払っ
  たとする経理上の処理がなければ還付されない、というわけ
  でも実はない。企業側は国内の下請け企業などに消費税を支
  払っているとするが、実際に輸出企業が消費税を税務署に納
  税しているのかという点に着目すると、輸出還付金の受け取
  り額が大きければ一切消費税は納税していないことになる。
  例えば国内で自動車を購入すれば、我々消費者は当然消費税
  を支払うが、還付金の金額が大きいとなれば、我々の支払っ
  た消費税は相殺されてしまうために、メーカーを通じて税務
  署に収められることはないのである。輸出で潤っている企業
  こそ消費税の納税を期待したいのだが、そういった制度には
  なっていない。         ──岩本沙弓著『アメリ
 カは日本の消費税は許さない/通貨戦争で読み解く世界経済』
                      文春新書948
―――――――――――――――――――――――――――――
●表出典/全商連 http://bit.ly/1g3hMIa

消費税収入が赤字の税務署.jpg
消費税収入が赤字の税務署
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2014年04月14日

●「非関税障壁/消費税と付加価値税」(EJ第3770号)

 日本の消費税が5%から8%に引き上げられて2週間が経過し
ています。これが日本の国内経済にどのような影響を及ぼすのか
が懸念されるところですが、これが国際貿易に大きな影響を与え
ていることに気がついている人は少ないと思います。
 それは、日本の消費税が5%から8%に引き上げられたことに
よって、日本に入ってくる輸入品の価格はすべて5%上昇すると
いうことです。輸出元の相手国から見ると、日本の消費税増税は
自国輸出製品の値上がりを意味しているのです。
 とくに事実上消費税ゼロである米国にとっては、貿易相手国の
ほとんどが付加価値税や消費税の採用国であり、たびたび増税を
されると大きなダメージを受けるのです。まして、それらの貿易
相手国が米国に輸出してくるたびに、増税のたびに増加する輸出
還付金を受け取れるのであり、米国にとって大きな不利になるの
です。したがって、他国以上に米国は、この問題にセンシティブ
にならざるを得ないのです。
 つまり、付加価値税や消費税を導入している各国が増税すると
それは米国にとって「非関税障壁」になるのです。したがって今
回の日本の消費税増税について、米国は内心きわめて不快に思っ
ていることは間違いないと思われます。
 「消費税増税は非関税障壁である」ということを指摘してるの
は、金融コンサルタントで、大阪経済大学経営学部客員教授の岩
本沙弓氏による次の著書です。
―――――――――――――――――――――――――――――
                        岩本沙弓著
 『アメリカは日本の消費税を許さない/通貨戦争で読み解く世
                界経済』/文春新書/948
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは貿易相手国の消費税引き上げがどのくらい米国にとっ
て不利になるのかについて、考えてみることにします。岩本沙弓
氏の著書の48ページに掲載されている「表1」をEJ用に加工
して次に示します。
―――――――――――――――――――――――――――――
       米国輸出  米国以外国への輸出  国内で消費
  課税前価格 100        100    100
  原産地課税   0          0    20%
  輸出還付金 20%        20%
  輸出先課税  0%        20%      0
  消費者価格  80        100    120
    ──岩本沙弓著『アメリカは日本の消費税を許さない』
             文春新書/948掲載の表から加工
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでは、製品の課税前の価格は100ドル、付加価値税はフ
ランスの付加価値税率を意識して「20%」としてあります。そ
して、「米国以外国への輸出」というのは、フランス並みの20
%の付加価値税のかかる国を想定しています。
 フランスの製品を米国に輸出した場合、米国は付加価値税を導
入していないので、輸出先課税は「0」になります。しかし、輸
出企業には20%の輸出還付金が受けられるので、その分で値引
きをしたとすると、米国内の消費者には「80」で提供できるこ
とになります。
 これは、その分フランス製品の価格競争力が増すので、米国企
業にとっては、フランスからの輸入品は脅威になります。さらに
米国製品をフランスに輸出すると、フランスの付加価値税がかか
るので、米国製品は「120」で売らざるを得ないことになりま
す。これは明らかに米国にとっては「不公平である」ということ
になります。
 それなら、なぜ米国は付加価値税や消費税を増税したりする国
に表立って批判しないのでしょうか。この点について、岩本沙弓
氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  日本の採用する消費税、そして各国が採用する付加価値税は
 非関税障壁であるという前提に米国は立っていると指摘すると
 それではなぜ米国は表立って日本の消費税引き上げに反対の意
 向を示してこないのかと言われることがある。他国が国内税率
 として引き上げをすることについて、直接的に物を申すことは
 いくら米国とて、いや民主主義を掲げる米国であるからこそ、
 し難いという面があるだろう。仮に消費税・付加価値税に対す
 る明らかな圧力をかければこれは過剰な内政干渉となる。逆に
 そのことが批難の対象とされるがゆえ、米国の分が悪くなる恐
 れもある。
  それでは実際の対抗手段はどうするのか。あくまでも消費税
 の引き上げの報復措置としてという部分は表には出さず、消費
 税法案が通過しないように、通過しても実施されないように、
 あるいは実施されればそれを相殺する効果があるような通商政
 策を講じるなど、有形無形のプレッシャーをかけてくると考え
 るのが妥当であろう。     ──岩本沙弓著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに付加価値税や消費税の引き上げは国内問題です。これに
対して米国がクレームを付けると、明らかな内政干渉になってし
まいます。民主主義を掲げる米国としては、これだけはやりたく
ないのだと思います。
 しかし、米国は付加価値税や消費税の導入や税率引き上げに関
しては、既に対抗措置をとってきているのです。よく考えてみる
と、中国や欧州はいずれも20%近い付加価値税で足並みを揃え
ているのに対し、米国の同盟国であるカナダや日本は、これまで
5%という低い税率を長く続けてきているのです。
 このことは、けっして偶然ではなく、付加価値税や消費税の増
税が米国にとって非関税障壁になるということを意識した措置で
あるといえるのです。とくにカナダは、消費税率を引き下げてい
るのです。         ──[消費税増税を考える/68]

≪画像および関連情報≫
 ●米国が今も消費税を導入しない「もっともな理由」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  個人の主義主張とは別に、反対であれ、賛成であれ公正な議
  論こそが重要であると考えているが、今回の消費税の集中点
  検会合の人選はあまりにも偏向しすぎではないか。特に最終
  日の8月31日の第2回目の経済・金融の有識者の会合のメ
  ンバーに、増税そのものへの反対を明確に唱える人は1人も
  いなかった。参加した有識者と消費税に対する主な見解を紹
  介すると、植田和男氏(東京大学教授)「消費税25%でも不
  十分」、菅野雅明氏(JPモルガン証券)「消費税20%への
  段階的引き上げをコミットすべき」、國部毅氏─全国銀行協
  会「消費税率は計画通り引き上げることが大事」、高田創氏
  ─みずほ総合研究所「消費税引き上げ見送りで財政規律への
  不安」、土居丈朗氏(慶応大学教授)は「10%は当たり前。
  15%ぐらいの数字まで段階を踏んで上げていく」、西岡純
  子氏─RBS証券「増税自体は個人消費を抑圧する要因には
  ならない」、本田悦朗氏(静岡県立大学)「毎年1%増加」。
  永濱利廣氏(第一生命経済研究所)は景気への影響を考えるも
  渋々容認といったスタンスだ。これでは増税を実施するか否
  かの判断ではなく、増税を前提にその方法論が話し合われて
  いるだけであり、別の日程の会合では単なる陳情に終始して
  いたと言われても仕方ないような内容だった。
                   http://bit.ly/1lVgnbx
  ―――――――――――――――――――――――――――

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岩本 沙弓氏の本
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2014年04月15日

●「消費増税後の内閣退陣と米国の影」(EJ第3771号)

 かつて「GATT」(関税と貿易に関する一般協定)というも
のが1948年に発足したのです。GATTでは、国が特定企業
に補助金を出したり、税金の免除をすることは公正な貿易を阻害
するものとして、原則禁止になっています。
 現在、GATTの活動は、1995年1月に発足したWTOに
引き継がれていますが、その基本理念などは一切変更されてはい
ないのです。
 そのWTOの協定で、例外的に補助金や課税免除を認めている
項目が間接税なのです。間接税を導入している国においては、そ
の調整手段として、還付金を政府から特定企業に出すことを認め
ているのです。
 GATTの多角的貿易交渉において「ケネディ・ラウンド」と
いわれるものがあります。GATTの第6回目の多角的貿易交渉
で、1962年1月にケネディ大統領の年頭教書で提唱されたこ
とからこのように呼ばれています。
 ケネディラウンドとは、1964年5月〜1967年6月に行
われた多角的貿易交渉のことですが、この交渉の頃から、米国の
財界や政府は、GATT協定の付加価値税の規定や輸出還付金な
どに関して、その被害を訴えるようになっていたのです。
 ちょうどそのとき、欧州各国はEC(当時の欧州共同体)加盟
国の統一税制を目指し、付加価値税導入に傾いて行くのです。付
加価値税導入時期は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       ドイツ ・・・・・ 1968年
       オランダ ・・・・ 1969年
       ノルウェー ・・・ 1970年
       ベルギー ・・・・ 1971年
―――――――――――――――――――――――――――――
 欧州各国が続々と付加価値税を導入していたこの時点で、日本
は消費税を導入していないのです。したがって、欧州向けの日本
の輸出品には欧州の付加価値税がかかり、欧州から日本への輸出
に関しては輸出還付金があるのです。つまり、日本は貿易的には
現在の米国と同じように不利な立場に立っていたのです。そうい
う米国の声明に対し、日本とカナダは、米国を支持する姿勢を明
らかにしています。
 ドイツが付加価値税を導入した1968年の『通商白書』には
次の記述があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 なお、EEC各国は、70年の1月1日までに付加価値税制へ
 移行すると予定されている(ドイツは68年1月1日付加価値
 税制に移行)。その際にはEEC向け輸出品には、各国毎に一
 定率の付加価値税が賦課され、EEC各国が輸出を行なう際に
 は、付加価値税率と同率の戻し税を受取ることになる。このよ
 うな税制の改正は税率の変更のいかんによっては、わが国の貿
 易にも影響を及ぼす可能性がある。この付加価値税制の問題に
 ついては従来からOECDの場で検討されてきているが、最近
 はガットの場において長期的な観点から、検討が行なわれてい
 る。           ──1968年『通商白書』より
                  ──岩本沙弓著『アメリ
 カは日本の消費税は許さない/通貨戦争で読み解く世界経済』
                      文春新書948
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本が消費税を導入したのは、1989年4月のことです。竹
下内閣のときです。竹下内閣が消費税増税の導入を検討していた
時期、世間ではリクルート事件一色だったのです。その竹下内閣
が消費税を導入した同じ年の6月に退陣したのは、この事件が影
響しているのです。
 細川内閣も国民福祉税という名の消費税を導入しようとして発
表した直後に佐川急便事件で内閣を降り、それに強く反対してい
たはずの村山富市氏も首相になると、消費税増税を可決して退陣
しています。そして、その消費税増税法を実施した橋本内閣も経
済が失速して選挙に敗れ、退陣せざるを得なくなっています。
 さらに、公約に違反して突然消費税増税を打ち出した民主党の
菅内閣も長続きせず、これを受け継いだ野田内閣は、法案成立後
の総選挙で大敗し、民主党は政権を失っています。
 このように見て行くと、消費税導入や消費税増税に関与した内
閣のすべてが早期に退陣するという不幸に見舞われています。今
回増税を実施した安倍内閣もけっして無事で済むとは思えないの
です。そのすべてがそうであるとはいいませんが、そのウラには
米国の影が見え隠れするのです。
 今回の増税を実施した安倍内閣について、岩本沙弓氏は次のよ
うに予測しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 現実的に考えれば、2014年からの消費税増税で実際に税金
 が徴収されるのは2015年になってからということになる。
 そして2015年10月にはもう一段の消費税引き上げが用意
 されているとなれば、2015年は再度駆け込み需要が見込め
 るために、景気は表向きには堅調に推移する可能性が高い。従
 って、2014年、2015年の2回の増税の影響は、ダブル
 で2016年に日本経済に降りかかってくる、ということにな
 る。2017年以降はかなり深刻な経済状況となろうが、次の
 総選挙が2016年であることから、それまでの任期と安倍首
 相も初めから割り切ってのことか。その間米国からの政権への
 圧力をかわすつもりなら通商交渉が米国寄りとなろう。
                ──岩本沙弓著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、米国は付加価値税や消費税の増税をした国には、これ
まで制裁措置を行ってきています。もちろん日本に対しても行っ
ています。TPP交渉がどなるかについても、この問題と深い関
係があるのです。      ──[消費税増税を考える/69]

≪画像および関連情報≫
 ●欧州で付加価値税(消費税)のウエイトが高い理由
  ―――――――――――――――――――――――――――
  欧州で付加価値税(消費税)のウエイトが高い理由は簡単で
  す。欧州各国の経済主体が、帳簿を正しくつけていないから
  (嘘を帳簿につけているから)、利益に対して課税し難いか
  らです。利益は「売上−費用」ですが、利益を正しく把握す
  るためには、売上と費用を正しく帳簿につける必要がありま
  す。利益に対しての課税を潜脱したければ、売上を水増しす
  るか、費用を過小に記録するか、どちらかの手口が必要にな
  ります。いずれにしろ、帳簿には事実通りの記載をすること
  はできません。こうなると、企業の帳簿は信用できませんか
  ら、売上それ自体に課税しないと税金を徴収できないことに
  なります。だから、消費税が広まったのです。そして、この
  ことは同時に、裏社会の蔓延・定着を促進することになりま
  す。代表例はもちろんイタリアです。アンダーグラウンド経
  済が大きな規模を誇っており、そのアンダーグラウンド経済
  で得た利益を「洗濯」するために、「バチカン銀行」がおお
  いに活用されています。それに、欧州は「EU」ということ
  で、欧州内での移動(イタリアからフランスに移動、など)
  はボーダーレス状態ですから、個人の課税所得の把握も徴収
  も、日本の場合と違って、とても難しいわけです。そもそも
  徴収しようと思ったら隣の国に引っ越していた、なんてこと
  もあるわけですし。だから、売上という「外から見ても、あ
  る程度、把握し易いもの」に課税する消費税という方式、わ
  れわれ日本人にとっては不公平・不公正な税制が欧州では、
  「やむをえず」広まっているわけです。
                   http://bit.ly/1kUccv8
  ―――――――――――――――――――――――――――

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岩本 沙弓氏
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2014年04月16日

●「カナダはなぜ税率を引き下げたか」(EJ第3772号)

 いま安倍政権は法人税の引き下げをしようとして、財源がない
とする財務省とバトルを繰り広げています。しかし、消費税は一
度税率が上がってしまうと、絶対に下がることはない──普通は
そのように考えます。少なくとも財務省がほぼ国を支配している
日本では、必ずそう考えるでしょう。
 しかし、付加価値税を2度にわたって下げた国があります。そ
れはカナダです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎ブライアン・マルルーニ首相
  1991年1月/付加価値税導入 ・・・    7%
 ◎ステーヴン・ハーパー首相
  2006年7月/第1回引き下げ ・・・ 7%→6%
  2008年1月/第2回引き下げ ・・・ 6%→5%
―――――――――――――――――――――――――――――
 カナダの付加価値税の導入には、国民の80%が反対したので
すが、マルルーニ政権はこれを強引に押し切り、付加価値税の導
入を決定したのです。しかし、これによってカナダは経済不況に
襲われ、1993年になってマルルーニ政権は9年にわたる長期
政権を投げ出すことになったのです。
 その後カナダの首相は、同じ進歩保守党のキャンベル氏に代わ
り、その後2代にわたって、カナダ自由党のクレティエン氏、マ
ーティン氏が政権を担うのですが、イラク戦争やミサイル防衛を
めぐって米国のブッシュ政権と鋭く対立します。
 そして2006年2月にカナダ保守党のハーパー政権になるの
です。ハーパー首相は米国との関係修復がカナダにとって一番重
要と考えて、就任年の6月に付加価値税を7%→6%に下げるの
です。これには国民は喝采し、米国のカナダに対する関係は一気
に修復することになるのです。
 2008年にサブプライム危機が起きると、財政が苦しいにも
かかわらず、その傷が欧米よりも軽度であるとして、付加価値税
をさらに1%下げて5%にしたのです。このとき、カナダ政府が
なぜこの決断をしたのかについては深い事情があるのですが、こ
れについては改めて述べることにします。ただ、それがカナダが
付加価値税を導入した次の年の1992年に締結されたNAFT
Aに関係があることを指摘しておきます。
 2011年になるとカナダの野党各党は、米国重視の政策を続
けるハーパー政権に強い反発を抱くようになります。きっかけは
政権が景気刺激策として法人税を引き下げたことです。その結果
2011年3月25日にハーパー政権の内閣不信任案が可決され
てしまうのです。これに対し、ハーパー首相は26日に下院を解
散し、5月2日に総選挙が行われたのです。
 総選挙では与党の保守党は大方の予想に反し、過半数155議
席を大きく上回る議席を獲得し、カナダ保守党の大勝利となった
のです。なぜこの結果になったのでしょうか。ここにも米国の深
い影が感じられます。
 ここではっきりしていることは、ハーパー首相がカナダの付加
価値税導入が米国の不信を買っていることをよく承知しているこ
とです。そのため、付加価値税の引き下げを断行することによっ
て、米国に関係修復のサインを送ったのです。
 安倍首相はこのことがわかっているでしょうか。わかっていな
いと思います。なぜなら、安倍政権ほど米国との同盟関係強化を
願っている政権はないからです。もし、わかっていたとしたら、
消費税を8%に上げなかったと思います。5%までの付加価値税
や消費税であれば、米国はあまり問題にしないからです。これに
ついて岩本沙弓氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 実際のところ、2〜5%の範囲の付加価値税・消費税の水準に
 ついて米財務省では、relativety low rate.(相対的に低い)
 という判断がされている。導入当時から10〜20%の欧州の
 標準税率からすれば確かに2〜5%は相対的に低い水準ではあ
 る。公文書が書かれた1970年前後は高インフレに突入して
 いく時代であるから、現在のそれは、単純に数値だけでほ比較
 はできないにしても、6%を超えてくるようであると、米国に
 とっては目に余るとも読み取れ、報復措置はより厳しいものに
 なってもおかしくあるまい。        ──岩本沙弓著
 『アメリカは日本の消費税は許さない/通貨戦争で読み解く世
                 界経済』/文春新書948
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、財務省や外務省の役人は知っていたのではないかと思
います。ただ、知っていてもそれを首相には進言しなかったので
しょう。少なくともケネディ・ラウンドのときの高級官僚はその
ことを認識していたことは間違いないと思われます。しかし、現
在の高級官僚が、少なくとも外務官僚が、どう考えているかはわ
かっていないのです。
 7%を5%に戻し、米国の許容ラインに税率を置いたカナダと
許容ラインの5%から8%、さらにそれを10%に上げようとし
ている日本。明らかに米国は日本に対し、制裁を課してくること
は間違いないと思われます。そのひとつでないかと思われるのが
TPP交渉における米国の一歩も引かない姿勢です。
 さらにオバマ大統領は、23日に来日の予定ですが、23日到
着は遅くなると日本に連絡してきたといいます。これは、「安倍
首相との夕食会はキャンセルする」という意味であり、実質訪問
は2日になるということを意味しています。
 実は、TPPは消費税大増税と大きく関係するのです。カナダ
はNAFTAのISD条項で米国にひどい目にあわされているの
です。カナダのハーパー首相があえて付加価値税を5%まで下げ
たのもこの問題と無関係ではないのです。
 消費税導入と税率アップと日米通商交渉──この間にはどのよ
うな関係があるのでしょうか。明日のEJで検証してみることに
します。          ──[消費税増税を考える/70]

≪画像および関連情報≫
 ●米国が今も消費税を導入しない「もっともな理由」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  例えば法人税がなぜ有効で、消費税・付加価値税と代替させ
  るべきではないと考えるのか。1960年代の米財務省の報
  告書には、すでにこんな記述がある。消費税は売り上げにか
  かるために赤字の企業でも支払いの義務が生じるが、「赤字
  企業が法人税を支払わなくて済むことは、その企業にとって
  も経済全体にとっても有効である。たとえどんなに効率的で
  革新的な新規ビジネスであっても、収益構造が確立するまで
  はある程度の時間がかかる」とし、さらに仮に、赤字の繰り
  越し機能付きの法人税をなくし付加価値税を導入するほうが
  付加価値税なしで高い法人税を設定するよりも企業を助ける
  という前提について「これでは急激な景気後退局面では、た
  とえ効率的な企業であったとしても、単に一般需要が落ち込
  んだという理由だけで、多くの企業が赤字企業となってしま
  う」と記す。こうした記述を見るにつけ、米国はやはりフロ
  ンティア精神の国家なのだと認識を新たにする。新しい挑戦
  の芽を潰すことはしない、それが消費税・付加価値税採用を
  見送り、法人税に依存する理由とするのはいかにも米国らし
  いではないか。          http://bit.ly/1m4vQsa
  ―――――――――――――――――――――――――――

付加価値税を導入した首相/税率を下げた首相.jpg
付加価値税を導入した首相/税率を下げた首相
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