2013年03月11日

●「中国の台頭はどこまで拡大するか」(EJ第3503号)

 EJはこのところ年間4テーマという状態が続いています。年
間の送信数は約250回ですから、1テーマにつき63回という
ことになります。
 「長くて、重たい」という意見を何人もの方からいただいてい
るので、2013年度のEJは、20回、30回という短いテー
マも取り上げていくつもりです。
 中国脅威論が高まっています。中国経済がこのまま成長を続け
たら、経済力においてはもちろん、軍事力においても米国とのパ
ワーバランスが逆転し、日本にとって深刻な事態を引き起こすこ
とが懸念されています。
 尖閣問題については、現状では自衛隊は中国にけっして劣るこ
とはないという分析もご紹介しましたが、今後5年後、10年後
になると、中国の軍事力はさらに強大化し、日本は尖閣諸島を防
衛できなくなるという悲観論が拡がっています。
 ところがです。2013年3月1日(金)のBSフジプライム
ニュースを見て少し考え方が変わったのです。津上俊哉氏という
現代中国研究家が「中国台頭はもう終わり?」という話をしたの
です。津上俊哉氏は、通産省出身で、中国日本大使館経済部参事
官を務めたこともある現代中国の研究家であり、専門家です。
 今まで書店に行くと、多くの中国隆盛論、中国脅威論の本が多
く出ているのに、中国経済の先行きを不安視する本はほとんどな
かったのです。しかし、最近は少しずつ中国の深刻な未来予測の
本が出てきています。
 現在の中国の隆盛は、何といっても7%を大きく超える経済の
活況にあります。2012年の実質経済成長率は「7.8%」に
なっていますが、津上氏によると、この数字の信憑性は低いとい
われます。これについては後で詳しく述べますが、中国という国
家が世界に発表している経済に関する数字は信用できないといわ
れているのです。数字が操作されているということです。
 そういうことをいう人が増えたのは、習近平政権で首相を務め
る李克強氏が、駐中国米国大使に「中国のGDP統計は作為的で
信用できない」といったという情報が、ウィキリークスで暴露さ
れたからです。
 それからもうひとつ気になるのは、第2期のオバマ政権の中国
寄りの姿勢です。2月に行われた日米首脳会談でオバマ大統領は
異常なほど尖閣諸島をめぐる日本と中国のトラブルを懸念してい
たといわれます。
 オバマ大統領は当初安倍首相を警戒していたようです。選挙前
後の発言から、安倍氏を右寄りの政治家ではないかと判断してい
たようです。そのため、1月の日米首脳会談に即座に応じなかっ
たといわれています。中国との間で尖閣沖海戦でも起こされると
米国として対応に苦慮するからでしょうか。
 そのせいか、安倍首相はオバマ大統領との会談で、「日本はあ
くまでも中国とは自制的に対応している」と述べたところ、大統
領は安心していたといわれます。
 それに加えて米国では、回避できると信じられてきた「財政の
崖」のひとつ、「歳出の強制削減」が実施されることになったの
です。これによって米国の国防費は大幅に減額され、空母の運用
にも大きな影響が出るといわれています。日本の安全保障にも重
要な影響が及ぶことは必至の情勢です。
 もともとこの財政の崖、とくに「歳出の強制削減」は、リーマ
ン・ショックへの対応とはいえ、オバマ政権の失政に基づくもの
といわれています。オバマ大統領は、2010年12月にリーマ
ン・ショック後の景気低迷に対応するため、ブッシュ減税を2年
間延長したのです。
 しかし、これにより米政府の財政赤字が積み上がり、2011
年5月16日に米連邦債務は法定上限額に到達し、米財務省は、
デフォルト回避のために特別措置を行い、2011年8月2日に
民主・共和両党は政府の歳出を削減する内容を含んだ債務上限引
き上げ法案に合意・可決しているのです。
 この法律によって、2013年2月末に米国の財政赤字の総額
が16兆3000億ドルを超えた場合は、自動的に政府の支払い
が停止されることが決まったのです。その結果、強制的に削減さ
れる予算の額は10年間で1兆2000億ドル(約110兆円)
そのうち、国防費は4920億ドル削減されるのです。ちなみに
今年度分は約850億ドル(約7.8兆円)です。
 しかし、この取り決めはきわめて政治的なもので、話し合いで
回避できる可能性が十分あったのですが、オバマ大統領はそれに
も失敗し、歳出の強制削減が決まってしまったのです。
 それに加えて、2期目のオバマ大統領は「50%大統領」とい
われているのです。それは、2012年の米大統領選でオバマ大
統領は勝利したものの、2008年のときに比べて500万票も
得票数を減らし、多くの重要な州で50%をほんの少し上回るぐ
らいの票しか取れなかったからです。だから、「50%大統領」
といわれるのです。これによってオバマ政権の政権運営に大きな
影響が出るのは避けられない情勢になったのです。それもあって
米政権はますます内向きの政治になりつつあります。
 もし、中国がさらに経済で力を伸ばし、軍備拡張が続くと、日
本は苦しい情勢に立たされます。頼みの米国もさまざまな問題を
抱えており、変質しつつあるからです。
 したがって日本は、中国と米国の動きには細心の関心を払って
観察し、分析する必要があります。とくに第2期のオバマ政権が
中国とどう向き合うのかについては、さまざまな情報を集め、日
本としての行動を決める必要があります。
 そこで、明日からのEJのテーマを次のように設定し、考えて
いきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
      中国の台頭は今後も継続・拡大するか
       ─日米はそれにどう対応すべきか─
―――――――――――――――――――――――――――――
                  ── [新中国論/01]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の経済指標/さまざまなリスクを隠す可能性も
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国の景気回復は世界市場の上昇を下支えする助けとなって
  きた。しかし、実情は公式統計が示すほど好調ではないかも
  しれない。同国政府の資料は、過去2年にわたる緩やかな景
  気減速を示している。中国国家統計局が発表した中国201
  2年の国内総生産(GDP)成長率は7.8%となり、10
  年の10.4%から減速したが、同年の公式目標の7.5%
  を上回った。しかし、スタンダード・チャータードの中国エ
  コノミスト、スティーブン・グリーン氏は、これらの統計で
  はインフレが過小評価されており、その結果実際の成長率が
  過大評価されている可能性があると指摘した。グリーン氏は
  家賃や医療および教育などのサービス価格の上昇をよりよく
  反映する別のインフレ指数を利用した上で、12年のGDP
  成長率は5.5%にとどまると算出している。
  http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887324838304578326651468588948.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

日米首脳会談/安倍・オバマ.jpg
日米首脳会談/安倍・オバマ
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2013年03月12日

●「ウラジオストックと中国との関係」(EJ第3504号)

 2013年3月9日、北京人民大会堂で、ヤンチェチー外相が
記者会見を行い、尖閣諸島について次のように発言しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 尖閣諸島は日本が中国の領土を不当に盗み取って占拠した。
 目下の状況は日本側が一方的につくりだしたものだ。日本側
 はこれ以上事態がエスカレートして制御不能になることを防
 ぐべきだ。  ──2013年3月10日付、朝日新聞朝刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ヤンチェチー外相の漢字表記は最後の文字「チー」の漢字が非
常に難しく、ワープロにその漢字がないので、ネットでは「ち」
とひらがな表記しています。「楊潔ち」というようにです。
 ヤンチェチー外相は、父ブッシュ元米大統領の通訳を務め、大
統領に高く評価されたのです。その後、駐米大使を務めた米国通
で米国には強いパイプがあり、大変なインテリなのです。そうい
うわけで当初私は好印象を抱いていたのですが、同外相が国連演
説で、「尖閣問題を盗み取った」という汚い表現を使うのを聞い
て幻滅したのです。中国人はどうしてこうなのか、と。
 しかし、中国の要人の発言はその裏事情を考慮して聞く必要が
あるのです。実はヤンチェチー外相は山口公明党代表が訪中した
とき、積極的に山口氏に会い、現在の日中の危険な事態をエスカ
レートさせてはならないと説いて、その関係改善に意欲的であっ
たというのです。それが例のレーダー照射問題でオジャンになっ
てしまったのです。
 そのヤンチェチー外相が今回、国連演説と同じ「盗み取った」
という表現を使ったのは、その記者会見がテレビで生中継されて
いたからです。つまり、日本に対して発言しているというよりは
中国国民が聞いていることを意識しての発言と思われます。しか
し、その一方で、今後の習近平体制でも尖閣については妥協しな
いぞというメッセージを日本に送っています。
 なお、ヤンチェチー外相は次期外相を王毅氏に譲り、国務院国
務委員(外交担当)に就任する予定です。本稿執筆時点の10日
ではまだ発表されていません。
 中国では、「中国歴史五千年」とか「白髪三千丈」というよう
な誇大妄想的表現がよく使われます。「中国歴史五千年」では根
拠のない伝説の王である黄帝を生み出し、それをでっちあげるた
めに、巨大な陵墓までコンクリートで作った国なのです。歴史問
題での嘘は平気で行う国柄です。
 中国研究家の宮崎正弘氏は、中国人の歴史の嘘に関して次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 誇大妄想と嘘が作った国家に生きる中国人が死んでも認めたが
 らない真実とは、「1」中国歴史は嘘の固まりであり、「2」
 その嘘が次の嘘を作り出し、「3」自らが嘘に酔って、何が嘘
 で、どれが嘘の嘘かの判定ができない、ということである。
                      ──宮崎正弘著
          「習近平が仕掛ける尖閣戦争」/並木書房
―――――――――――――――――――――――――――――
 2012年のAPECは、9月8日〜9日にロシアのウラジオ
ストックのルースキー島で行われ、野田首相と胡錦濤国家主席が
尖閣諸島の国有化について立ち話の会談を行ったことは記憶に新
しいことです。
 そのさい、胡錦濤主席は「国有化は認められない」と反発した
ものの、翌日の10日に野田首相が尖閣諸島の国有化を決めたの
で、中国が猛然と反発し、尖閣を巡って日中が角突き合う現在の
状態になっています。
 ところがウラジオストックはもともと中国の領土なのです。清
朝末期にロシアは極東シベリアの侵略をはじめ、フランス、ロシ
ア、英国によって「北京条約」という不平等条約を押し付けられ
清の領土だった沿岸部がことごとくロシア領に編入されてしまっ
たのです。これこそ文字通り強奪そのものです。1860年のこ
とです。それから35年後に日清戦争が起きています。
 第2次世界大戦が終わって1946年に、ときの中華民国政府
は、スターリンと領土交渉をし、そのとき占領していた大連と一
緒にウラジオストックを50年後に返還することを約束する密約
を中国と結んだのですが、1951年に大連は戻されたものの、
ウラジオストックは返還されなかったのです。明らかなるソ連の
約束違反です。当時中国でウラジオストックは「海参威(ハイサ
ンウェイ)」と呼ばれ、日本では「浦塩」と呼んでいたのです。
 そうすると、胡錦濤国家主席はかつて自国領であったウラジオ
ストックで開催されたAPECに出かけ、領土をめぐる発言をロ
シアに対してしていないということになります。これについて、
宮崎正弘氏は次のようにいいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (中国国内の)「愛国無罪」の無法者たちよ。反日、反米と
 言って尖閣を奪えと言うのなら、なぜ、「ウラジオストック
 を奪還せよ」とは言わないのか。
               ──宮崎正弘著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はウラジオストックについては、2001年に時の江沢民国
家主席は、「中ロ善隣友好条約」を結び、それに伴い密約で旧領
土でロシアに編入された土地の主権を放棄しているのです。もち
ろんこのことは国民に知らせていないのです。
 ウラジオストックと尖閣諸島では、その価値は比べものになり
ません。もし、中国国民がこの真実を知ったら、大変なことにな
ります。尖閣諸島は、そのあて馬に使われている感じがします。
批判の目をロシアから日本に向けさせるためです。
 しかし、その一方で中国は、最近の歴史教科書に「極東の中国
領150万平方キロが、不平等条約によって帝政ロシアに奪われ
た」との記述を登場させています。軍事力でロシアに勝てる日が
きたら、ロシアに領土の返還を要求するつもりなのでしょうか。
                  ── [新中国論/02]

≪画像および関連情報≫
 ●ウラジオストックは「中国固有の領土」か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  9月にアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合を開
  催したロシア極東のウラジオストクは、2年前の2010年
  市の創設150周年を盛大に祝った。ウラジオストクはもと
  もと中国領で1860年の北京条約によりロシア領に移管。
  帝政ロシアはこの天然の良港に、「極東を制圧せよ」を意味
  するウラジオストクという名前を付けた。だが、中国の新し
  い歴史教科書には「極東の中国領150万平方キロが不平等
  条約によって帝政ロシアに奪われた」との記述が登場した。
  中国はある日突然、ウラジオストクを「中国固有の領土」と
  して返還を要求しかねない。中露間で歴史的なパワーシフト
  が進む中、ロシアにとって、尖閣問題は他人事ではない。未
  解決はグルジアと日本のみ。プーチン大統領は2004年ご
  ろから周辺諸国との国境画定を重視し、次々に成果を挙げて
  きた。ロシアは14カ国と陸上国境を接し、ソ連崩壊後国境
  画定問題が積み残されたが、プーチン政権はこれまでに、中
  国、カザフスタン、アゼルバイジャン、ウクライナなどと国
  境を画定。バルト諸国ともほぼ合意した。ノルウェーとも懸
  案の海上国境を画定させたし、北朝鮮との17キロの国境線
  も画定した。
  http://blog.libertytimes.com.tw/kang1021/2012/11/21/131270
  ―――――――――――――――――――――――――――

APECでのプーチンと胡錦濤両首脳.jpg
APECでのプーチンと胡錦濤両首脳
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2013年03月13日

●「経済制裁で打撃を受けるのは中国」(EJ第3505号)

 中国共産党幹部による尖閣にからむ強い日本批判にもかかわら
ず、全人代(全国人民代表大会)が終了し、習近平体制が発足す
れば、中国は日本と中国が面子を保つかたちでの手打ちがしたい
と考えていることは確かです。安倍訪中がいつになるかです。
 なぜなら、尖閣諸島をめぐる日本とのトラブルで、中国は経済
面やビジネス面において、大きなマイナスが出てきているからで
す。しかし、中国メディアは、中国進出日本企業にどんなに圧力
をかけても、次の5点があるので、脱中国という手段はとれない
と多寡をくくっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.日中貿易で日本の中国市場への依存度は30%である
 2.日本のレアアースの対中依存度は、49.3%である
 3.中国と韓国の間でFTAが成立すると日本企業は不利
 4.日本への中国人旅行者は今後も激減すると考えられる
 5.中国は日本国債18兆円分保有する最大投資国である
―――――――――――――――――――――――――――――
 本当にそうなのでしょうか。以下に、ひとつずつ検証していく
ことにします。
 第1に関する反論です。
 確かに日本の中国への依存度は30%かも知れないが、日本か
ら中国への輸出は、製造機械、ロボット、原材料などで、もし中
国がこれを止めると、中国の生産がストップしてしまうものが少
なくないのです。
 たとえば、JUKIなどのミシンの輸出を止めると、数千、数
万のアパレル、繊維工場の生産がストップし、数百万人以上の失
業者が出ることになります。
 第2に関する反論です。
 レアアースの禁輸は、2010年の中国漁船の海上保安庁巡視
船への体当たりで、船長以下の漁民の逮捕に抗議して、突如とし
て中国が発動したものです。確かにこれには、日本のハイテク産
業はショックを受けたのです。自動車のハイブリッド・エンジン
やスマホの部品には欠かせないものだったからです。日本は危機
感を感じて、レアアースの供給源を中国から、南米、米国、カザ
フスタン、マレーシアなどに一気に多角化させたのです。
 この動きを中国は予想していなかったのです。これによって中
国は言い値で買ってくれた大事な顧客を失い、レアアースシテイ
といわれるパオトウ(包頭)の輸出業者は、悲鳴を上げることに
なったのです。何しろ、日本はレアアースの80%をここから輸
入していたからです。
 しかも、日本は技術革新で、レアアースを使わなくてもいい磁
石を開発することに成功したのです。これによって、レアアース
は別に中国に依存しなくてもよい状態になりつつあるのです。
 第3に関する反論です。
 たとえ中韓がFTAを結んでも、その影響は軽微であると考え
られます。日本の企業が韓国の工場で生産し、韓国製として中国
に迂回輸出すればよいからです。
 第4に関する反論です。
 確かに中国客は大幅に減少しましたが、中国客はマナーがよく
ないので評判が悪いのです。必ず値切るし、旅館では設備、備品
が盗まれるので、観光業界の一部を除き、あまり歓迎していない
のです。日本だけではないのです。フランスの高級ホテルなどは
「中国人観光客お断り」というところもあるほどです。なお、大
量の団体のキャンセルが出て、巨額損失を被った旅館やホテルの
多くは、中国人経営がほとんどてあるといわれます。
 それよりも、逆に日本人の中国観光が大幅に減り、中国の旅行
業界が悲鳴を上げているのです。中国幹部が尖閣で強硬発言をす
ればするほど、中国への観光客が減る一方なのです。この傾向は
韓国でも起こりつつあります。
 昨年11月に内閣府が実施した外交に関する世論調査によると
中国や韓国嫌いが大幅に増えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   中国に親しみを感じる  ・・・・・ 18.0%
   日中関係は良好だと思う ・・・・・  4.8%
   日中関係は良好ではない ・・・・・ 92.8%
   韓国に親しみを感じる  ・・・・・ 39.2%
   日韓関係は良好だと思う ・・・・・ 18.4%
   日韓関係は良好ではない ・・・・・ 76.8%
       ──2012年11月25日/内閣府調査
―――――――――――――――――――――――――――――
 「中国に親しみを感じる」という人は、1980年の78・6
%がピークであり、以降下落傾向が続き、1995年には50%
を割り込んでいます。そして漁船衝突事件で20%まで落ち、今
回はさらに2%ダウンしています。
 日韓関係については「良好でない」と答えた人は実に43%も
増えて76・8%になっています。ちなみに米国に対して「親し
みを感じる」と答えた人は84・5%であり、欧州諸国は68%
といずれも増えているのです。
 第5に関する反論です。
 中国が日本国債を購入しているのは、その国債が金融商品とし
て有利だからであり、別に日本を助けるために購入しているので
はないのです。したがって、中国が市場でそれを売却したとして
も、日本国債の人気は世界的規模で陰りはなく、大きな影響には
ならないのです。
 ここまで見たように、中国が日本に対して経済制裁をしようと
すると、ダメージを被るのは日本ではなく、中国の方なのです。
したがって、中国メディアがいかに的外れな指摘をしているかが
わかると思います。
 それにあの反日デモに懲りて、アディダスが中国工場を閉鎖し
たし、ヤマダ電機が出店計画を見直し、コンビニの出店加速もブ
レーキがかかっています。これによって、多くの雇用が失われる
ことになります。          ── [新中国論/03]

≪画像および関連情報≫
 ●日本人の中国観光意欲が低下/中国業務の旅行社破産増大
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本の時事通信社はこのほど、中日間で釣魚島問題が発生し
  てから両国関係は冷え込み、中国を観光する日本人観光客の
  数は大幅に減り、中国観光業務をメインに行う旅行社は次々
  と破産していると伝えた。東京商工リサーチによると、岡山
  市の日東トラベル株式会社は2012年12月26日に営業
  を停止し、破産手続きを開始した。同旅行社は北京に事務所
  を開設し、中国市場の開拓に積極的に取り組んでいた。20
  11年、東日本大震災の影響で業績が悪化し、今年は釣魚島
  問題によって中国を訪れる日本人の数が大幅に減少したため
  巨額の赤字を抱えることになった。そのほか、日本の信用調
  査会社である帝国データバンクによると、東京千代田区にあ
  る中国観光を専門に扱う21世紀旅行も12月20日に休業
  し、1月に破産を申請する予定だ。同旅行社は中国の旅行社
  と業務提携し、ビジネスツアーを専門に扱っていたが、今年
  9月以降に業務が急激に減り、資金チェーンは断裂状態とな
  っていた。  ──「中国網日本語版(チャイナネット)」
                 /2012年12月31日
  http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2012-12/31/content_27557078.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

中国人観光客.jpg
中国人観光客
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2013年03月14日

●「尖閣反日デモは中国内の権力抗争」(EJ第3506号)

 東日本大震災の発生から2年となる3月11日、政府主催の追
悼式に中国と韓国の代表者が出席しないという残念な出来事があ
りました。
 追悼式には、およそ140の国や国際機関などの代表が、出席
しましたが、中国と韓国の代表は、去年は出席したものの、今年
は出席しなかったのです。
 中国が出席しなかった理由は、追悼式で国名を読み上げて献花
する「指名献花」の対象に台湾が入っていたからです。台湾を対
象に入れると、中国が反発することは分かっていたのですが、台
湾からは震災にさいして破格の支援を受けているので、日本とし
ては、その礼を尽くしたのです。
 一方、韓国の欠席の理由は「事務的なミス」。つまりうっかり
して忘れていたというのです。大使のスケジュールを管理してい
るはずの駐日韓国大使館がこんな大事なスケジュールを忘れると
はとても思えないのです。したがって、韓国は中国に歩調を合わ
せたと見られても仕方がないと思います。
 1978年、当時副首相だったケ小平氏は、わざわざ大阪府茨
木市の松下電器のテレビ工場を訪れ、出迎えた松下幸之助氏(当
時相談役)に次のように頼んだのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      中国の近代化を手伝ってくれませんか
               ──ケ小平副首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対し、松下相談役は快諾し、翌年の1979年に北京に
駐在員事務所を開設したのです。さらに1987年にブラウン管
製造の合弁会社を北京に設立し、日本企業では戦後初めて中国に
工場進出したのです。
 2008年に来日した胡錦濤国家主席は、予定にない行動に出
たのです。大阪府門真市の松下の本社を訪れたのです。そして、
出迎えた松下正治氏(当時名誉会長)に歩み寄ると、次のように
感謝の言葉を述べたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  中国の発展に尽くしていだたき、ありがとうございます
                  ──胡錦濤国家主席
―――――――――――――――――――――――――――――
 このときの胡錦濤主席の対応を見て多くの日本人は、中国は、
「井戸を掘った人を忘れない国」であることを強く印象づけられ
たはずです。また、天安門事件において中国が、国際社会で孤立
したときも松下の工場は操業を続けたのです。当時の李鵬首相は
自ら松下の工場を訪れ、謝意を述べたといわれます。中国と松下
とはそういう親密な関係なのです。
 ところが、昨年、中国の反日デモが暴徒化し、パナソニックの
山東省と江蘇省の工場が襲撃され、焼き討ちに遭ったのです。し
かも、中国政府は「全ての責任は日本側にある」として、いっさ
い補償には応じないと明言したのです。
 中国に進出している日本の財界人は表面的には何も語っていま
せんが、この出来事を見て、おそらく腹を固めたと思われます。
「中国から撤退の時期が来た」と。中国では、既に「井戸を掘っ
た人を忘れない」という世界に誇るべき慣習というか精神は、風
化されてしまったようです。
 ところで、中国人とはどういう人たちなのでしょうか。
 戦前の中国研究家の長野朗氏は、次のように中国人の特性を指
摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 かの利害打算に明らかな支那人も、時に非常に熱して来る性質
 を有って居る。支那人の民衆運動で野外の演説等をやって居る
 のを見ると、演説して居る間にすっかり興奮し、自分の言って
 居ることに自分が熱して来る。その状態はとても日本人等には
 見られない所である。彼等は何かで興奮して来ると、血書をし
 たり果ては河に飛び込んだりするのがある。交渉をやって居て
 も、話しが順調に進んだかと思って居る時に、何か一寸した言
 葉で興奮して、折角纏まりかけたのが駄目になることがある。
 支那人の熱情は、高まり易いが又冷め易いから、支那人は之を
 「五分間の熱情」と呼び、排日運動等の時には、五分間熱情で
 はいけない。之の熱情を持続せよと云ったやうなことを盛んに
 激励したものである。            ──長野朗著
                 「支那の真相」/千倉書房
   ──宮崎正弘著「習近平が仕掛ける尖閣戦争」/並木書房
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国について論ずるとき、中国には大別すると、次の3つのグ
ループがあることを知っておく必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.共産主義青年団 ・・ 胡錦濤を中心とするグループ
 2.    上海派 ・・ 江沢民を中心とするグループ
 3.左翼原理主義派 ・・ 現在も毛沢東礼賛のグループ
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本による尖閣諸島国有化によって引き起こされた反日デモは
上海派が左翼原理主義派を巻き込んで、主流派の共産主義青年団
(団派)を党大会前に窮地に追い込むために仕掛けたものである
ということができます。権力抗争に反日を利用しているのです。
 胡錦濤政権は穏健派で、西側諸国とは協調路線を取っていたの
で、本当は日本とはコトを構えたくはなかったのです。そのため
日本側に尖閣諸島の国有化は断固反対するという姿勢を伝えたの
ですが、野田政権の稚拙な外交によって、団派としても強い反日
姿勢を取らざるを得なくなったのです。
 それを上海派は利用して、反日デモを強化させたのです。その
結果、湖南省長沙、山東省青島、陳西省西安、広東省広州などで
はデモは暴徒化したのです。これらの場所はいずれも団派が治め
ている地域なのです。長沙の平和堂、青島の日本の自動車の販売
店、バナソニック、キャノン、ミツミ電機の工場などが焼き討ち
にされたのです。          ── [新中国論/04]

≪画像および関連情報≫
 ●不安定なトロイカ体制/太子党・共青団・上海閥
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【北京=山本勲】中国共産党の新指導部体制は、習近平総書
  記らの太子党(高級幹部の子弟)、胡錦濤派の共産主義青年
  団(共青団)と江沢民前国家主席派の上海閥の3派が並存す
  るトロイカ体制となった。最高指導部内では少数派となった
  胡錦濤派だが、中央・地方に配した豊富な人材が今後への強
  みとなっている。最高指導部の政治局常務委員会(7人で構
  成)では、太子党と上海閥が連合して多数派を構成できる一
  方、政治局全体(25人)では共青団を中心とする胡派がほ
  ぼ半数を占めた。習近平体制は通常の党務は常務委で処理で
  きるものの、政治局にはかるべき重要問題では、胡派の同意
  を得なければ決定できない不安定さをはらむ。上海閥と太子
  党は江沢民・曽慶紅の前国家主席・副主席コンビを後ろ盾と
  しており、その関係はもともと緊密だ。常務委内の太子党は
  習総書記、王岐山副首相、上海閥は兪正声・上海市党委書記
  張徳江・重慶市党委書記、張高麗・天津市党委書記の面々。
  胡派は李克強副首相、劉雲山・党中央宣伝部長の両氏だが、
  劉氏は江主席時代に同部副部長として中央政界に抜擢され、
  江氏との関係も良好な“中間派”。胡氏直系の常務委員は李
  克強氏のみとなる。
  http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/china/606998/
  ―――――――――――――――――――――――――――

尖閣国有化/反日デモ.jpg
 
尖閣国有化/反日デモ
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2013年03月15日

●「薄熙来事件と中国の3大グループ」(EJ第3507号)

 胡錦濤前総書記は「和諧社会」を唱えて西側諸国と協調し、前
江沢民政権とは大きく異なる政権運営をしてきたのです。しかし
そこにはきわめてドロドロした権力抗争があったのです。
 2012年3月15日のことですが、次期政権のトップ9人の
なかに入ることが確実視されていた薄熙来重慶市党委員会書記が
電撃的に解任されたのです。さらに4月10日になると、中国指
導部は、薄熙来氏を党政治局員(トップ25人)からも外す決定
をしたのです。
 なぜ、中国指導部は薄熙来氏を解任したのでしょうか。それは
表面的には、重慶市の王立軍副市長兼公安局長が、2012年2
月6日に突然四川省の成都にある米国総領事館が逃げ込んで、政
治的亡命を図った責任を取らされたのです。
 このことはニュースとして大々的に報じられたので、ご存知だ
と思いますが、いったいなぜ王立軍氏は、こともあろうに米国総
領事館などに駈け込んだのでしょうか。話がきわめて複雑なので
整理してお話しすることにします。なお、この話は次の本を参考
にしています。敬称は省略します。
―――――――――――――――――――――――――――――
                  副島隆彦/石平共著
   『中国崩壊か繁栄か!?/殴り合い激論』/李白社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 2007年のことですが、薄熙来は中国共産党の高級幹部の子
弟の集まりである「太子党」の一員であり、その頃は江沢民の率
いる上海派からも支持されていたので、共産党指導部の後継人事
リストに入ることは確実視されていたのです。
 しかし、胡錦濤総書記や温家宝首相に疎んじられて、後継人事
入りはかなわず、重慶市の党委員会総書記に任命されたのです。
2007年10月のことです。このポストは重慶市のトップでは
ありますが、中央の政治局常務委員に比べると、完全に左遷人事
そのものであったのです。飛ばされたのです。
 薄熙来の代わりに後継リスト入りしたのは、上海派の習近平と
共青団(団派)の李克強氏です。習近平は国家主席、李克強は首
相候補としてです。この李克強は、若い頃小沢一郎邸に住み込み
政治の勉強をしています。
 しかし、薄熙来はあきらめなかったのです。重慶市で大きな実
績を上げ、中央に復帰すると決意して全力で取り組んだのです。
その志や良しです。
 薄熙来は、重慶市で取り組むべきテーマとして、次の2つのこ
とを取り上げたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         「1」.中国黒社会の撲滅
         「2」.革命歌の普及運動
―――――――――――――――――――――――――――――
 当時重慶市では、富める者と貧しい者の格差はかなり大きく、
貧しい者の不満は頂点に達していたのです。富裕層に対する恨み
を多くの人が持っていたのです。
 なぜ、そういう格差が生じたのでしょうか。
 それはケ小平元総書記の改革開放政策にあったのです。それは
社会主義を捨てて資本主義に走った結果そうなったのだと考える
人たちが多くなったのです。ケ小平の政策は誤りであり、中国は
再び正しい社会主義を取り戻す必要があると考える人たちが多く
なっていったのです。つまり、貧しくても平等であった毛沢東の
時代に戻そうという考え方です。こういう考え方をする人を「新
左派」、あるいは「左翼原理主義派」と呼ぶのです。
 薄熙来は、新左派の知識層と豊かさから取り残された労働者や
貧困層の支持を得るためには、地位を利用して富を稼ぐ不正役人
や一部の悪徳商人を撲滅する政策を推進しようとしたのです。こ
れが「1」です。
 また、毛沢東時代に戻そうという流れを利用して、革命歌(紅
歌)を歌うキャンペーンを展開したのです。これは成功し、重慶
市では新左派の勢力が強くなったのです。これは「2」です。
 「1」の推進のために昔薄熙来の部下であり、遼寧省の公安の
仕事をしていた王立軍を重慶市に呼び、副市長のポストを与え、
権限を持たせて、「悪の撲滅」の仕事をやらせたのです。薄熙来
は重慶市の警察や公安をまったく信用していなかったのです。
 重い任務を背負わされた王立軍は、いわゆる黒社会と癒着して
いる幹部を一網打尽にし、処刑していったのです。これは、重慶
市の市民から大喝采を浴びたのです。しかし、とくに地位を利用
して金儲けをしていた上海派や黒社会と癒着していた役人は王立
軍のやり方を震え上がったのです。
 しかし、薄熙来は少しやり過ぎたのです。それは、重慶市の司
法局長だった文強という人物を逮捕し、死刑に処してしまったこ
とです。この文強は共産主義青年団(共青団)の要員であり、胡
錦濤が最も信頼している汪洋という高官の腹心だったからです。
汪洋は薄熙来の前任者であり、文強処刑のときは広東省の党書記
をしていたのです。
 そのため、共青団と薄熙来との確執は最悪となり、胡錦濤前国
家主席や温家宝前首相との仲も悪化したのです。さらに上海派は
警戒心を強めたのです。上海派は金もうけ主義な地元の上海で連
携し、政治権力と民間資本を癒着させていたからです。その既得
権益の代表者が江沢民です。薄熙来の改革はこの腐敗の構造にメ
スを入れようとしたから、上海派は緊張したのです。
 このように薄熙来は、中国共産党内部では孤立しましたが、重
慶市では大変な人気を誇っていたのです。
 薄熙来の処置については、日頃は仲が悪い共青団と上海派は連
携したのです。両派とも薄熙来は邪魔な存在だったのです。王立
軍の米国総領事館駆け込みはそういうときに起こっています。
 薄熙来事件については、彼の妻の殺人容疑までからんで非常に
ややこしくなっていますが、以上で基本的な流れは理解できたと
思います。中国の動きを知るには、これらの3つの勢力について
知ることが大切なのです。      ── [新中国論/05]

≪画像および関連情報≫
 ●支配層は腐敗とは無縁という「神話」/日本経済新聞
  ―――――――――――――――――――――――――――
  共産党は過去30年間にわたり、下位の役人の間では腐敗や
  不正行為があるかもしれないが、体制を支配するのは大衆に
  仕える潔癖で無私無欲のエリートだという認識を注意深く育
  んできた。何億人もの国民を赤貧から救った中国の目覚まし
  い発展と、政府高官を取り巻く秘密主義が相まって、公正で
  慈愛に満ちた皇帝が北京から采配を振るうとするこの見方を
  大勢が受け入れた。今から1年前、中国・烏坎村の住民が地
  元の腐敗した役人に対して反乱を起こし、機動隊を相手に長
  期戦を繰り広げた時も、住民は国の指導者への永遠の忠誠を
  強調し続けた。中国各地で次々沸き起こる小規模な反乱では
  デモ参加者は必ずと言っていいほど、中国の賢明な指導者が
  地方の腐敗を知りさえすれば、「機械仕掛けの神」のように
  舞い降りて裁いてくれると信じている。今は引退しているが
  30年近く中国が専門だった西側の上級外交官はフィナンシ
  ャル・タイムズに対し、薄氏の事件を機に高級官僚も下っ端
  の役人と同じくらい汚れていることに自分もようやく気づい
  たと打ち明ける。
  http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM0502P_V01C12A0000000/
  ―――――――――――――――――――――――――――

薄熙来と王立軍氏.jpg
薄熙来と王立軍氏
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2013年03月18日

●「薄熙来はなぜ失脚させられたのか」(EJ第3508号)

 中国の全人代/2013で、閣僚人事が明らかになってきてい
ます。しかし、本稿執筆中の17日午前時点ではすべてが判明し
ていないので、これについては改めて述べるとして、薄熙来事件
についてさらに述べることにします。
 薄熙来はもともと上海派の江沢民の支持は取り付けていたので
すが、胡錦濤主席からは疎まれていたのです。そこで、胡主席を
追い込むために、汪洋の腹心である重慶市の司法局長の文強を王
立軍に命じて逮捕し、死刑に処したのです。司法局長というポス
トは、検察官と裁判官の上なのです。それを死刑にしたのですか
ら、凄いことであるのです。
 しかし、これが裏目に出たのです。既得の利益集団の頭目であ
る江沢民が薄熙来に距離を置きはじめたことです。さらに最大の
誤算だったことは王立軍が米国領事館に亡命したことです。これ
を理由として中国共産党は薄熙来を切ったのです。
 それでは王立軍はどうして米国領事館に亡命することになった
のでしょうか。
 まず、中国共産党は、薄熙来を切るために、王立軍副市長兼公
安局長の捜査を開始したのです。その捜査の目的のなかに、薄熙
来の妻の谷開来の殺人容疑がからんでいたのです。
 中国共産党の捜査を知った王立軍は薄熙来にそのことを打ち明
けたのです。これを知った薄熙来は非常に残酷な処置を下したの
です。それは、王立軍の役職である副市長兼公安局長から公安局
長職を解任し、副市長のまま教育を担当させたのです。これは事
実上解任されたのと同じであり、このままだと、中国共産党に逮
捕され、汚職や谷開来の殺人疑惑まで押し付けられると、命が危
ないと考えたのです。
 王立軍としては命の保証が欲しかったのです。そのためには、
何らかの事件を起こして世界中のニュースにすることです。そう
すると、事件は大きく報道されて国際問題になります。そうする
と、中国は簡単に王立軍を処分できなくなります。そこまで考え
た王立軍は、成都にある米国総領事館に亡命したのです。
 果たせるかな、中国の要人が米国総領事館に亡命するなど前代
未聞の出来事であり、国際問題になったのです。これで、中国は
王立軍を処分できなくなります。
 実際に王立軍は総領事館から1日で出されています。当然亡命
申請を受けた米国は、徹底的に王立軍から事情を聴取して、中国
と交渉しています。その結果、米国と中国との合意ができたから
こそ、領事館を出されたのです。しかし、王立軍にとっては、命
の保証はとれたものの、中国での政治活動はできなくなることは
必至です。
 習近平副主席(当時)はそれから8日後に訪米しています。お
そらく王立軍は、習近平訪米のスケジュールを計算に入れたうえ
で、亡命したのだと思います。
 それでは、薄熙来の妻の殺人疑惑とは何でしょうか。薄熙来の
一家は、ニール・ヘイウッドという英国人のビジネスパーソンと
親しく、薄熙来が遼寧省にある大連市長のときからの知り合いな
のです。薄熙来の長男が英国のオックスフォード大学に留学する
さいにもヘイウッドの世話になっているのです。
 ところが突然ヘイウッドは亡くなるのです。当初死因は過度の
アルコール中毒ということで火葬されたのですが、後から、彼に
飲酒の習慣がないことが明らかになったのです。そうなると、殺
人の疑いが出てくるのです。
 そこで英国政府は、中国共産党に調査要請を出したのです。さ
らに、英国政府も重慶にある米国領事館を通じてヘイウッド殺人
事件の調査をはじめています。薄熙来一家の周辺は、俄かに騒が
しくなったのです。そういうときに王立軍が四川省の成都の米国
総領事館に駆け込んだのです。
 2012年4月10日付の「新華社通信」は、中国の警察当局
が、英国人実業家ニール・ヘイウッドを殺害した容疑で、薄熙来
の妻の谷開来と使用人張暁軍が逮捕されたことを伝えています。
薄熙来に共産党当局の捜査が身近に迫っていたのです。
 結局判明したことは次のことです。薄熙来・谷開来夫妻は60
億ドル(約4800億円/当時)という不正蓄財を行い、海外送
金をしていたことが発覚したのです。そのさい、ヘイウッドが送
金先の口座開設などを手伝っています。
 その後谷開来とヘイウッドの間で何らかのトラブルがあって、
谷開来は秘密を知るヘイウッドを殺害したというものです。真相
のほどは不明ですが、今のところこういう説が有力になっている
のです。これによって、薄熙来の中央政界への返り咲きはほぼ絶
望になったのです。しかし、こういう不正蓄財は共産党の多くの
幹部がやっています。既に中国は終りとみて、海外に脱出した共
産党幹部も大勢いるのです。
 胡錦濤はケ小平の教えを受けており、それを忠実に実行してい
る思慮深い人物です。彼が今回のトップ交代でも忠実に守ったの
は、ケ小平の次の教えです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        我慢せよ。ナンバー2でもよい
                 ──ケ小平
―――――――――――――――――――――――――――――
 蓮舫議員の「2位はじゃ駄目なんでしょうか」とはまるで違う
意味ですが、ケ小平がいうのは、「一番は相手にとらせよ。二番
目を取ればよい。それで国が安定する」ということです。
 今回の習近平体制でも胡錦濤はケ小平の教え忠実にを守ってい
ます。見た目はほとんど上海派の江沢民寄りの人物が圧倒的に多
いですが、要所は押えています。
 国の最高意思決定機関である常務委員会の構成人数が9人から
7人に削減されましたが、その7人のなかの共青団は李克強ただ
一人ではあるものの、首相に押し込んでいます。胡錦濤が期待し
ている汪洋は4人いる副首相の1人に就任しています。これもか
たちを変えたケ小平式の2位戦略であると思われます。
                  ── [新中国論/06]

≪画像および関連情報≫
 ●薄熙来の妻 政変計画で重要な役割/大紀元
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2012年2月、元重慶市副市長の王立軍が成都市の米国領
  事館に駆け込む事件が発生し、米国メディアにより、重慶市
  トップの薄煕来と中央政法委トップの周永康の政変計画が暴
  露された後、4月、薄煕来が解任された。その後の中共内部
  の通達では、薄煕来は「深刻な汚職問題」「殺人関与」「政
  変計画」に関与していたことが伝えられた。薄熙来の件は未
  遂に終わった政変である。本紙(中国語版)情報筋によると
  法輪功を積極的に弾圧してきた江沢民や周永康、薄煕来らは
  如何にして中共次期トップの習近平を2年以内に倒すかを企
  んだ。中共18大でまず先に政法委書記のポジションを確保
  して武装警察部隊の兵力を強化し、世論を作り、所謂「重慶
  モデル」の政治綱領などを宣伝し、各方面で「機が熟した」
  後に習近平を降ろして逮捕するというものだった。この政変
  はすでに半分の過程まで進んでいたが、王立軍の米領事館駆
  け込み事件ですべてが水泡に帰した。最近本紙(中国語版)
  が独自に入手した情報によると、谷開来はこの政変計画の中
  で重要な役を担当し、またイギリス人のヘイウッドも彼女に
  協力し、海外で関連の仕事をしていたという。
   http://www.epochtimes.jp/jp/2012/08/html/d34902.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

薄熙来/谷開来夫妻.jpg
薄熙来/谷開来夫妻
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2013年03月19日

●「常務委員9人が7人になった理由」(EJ第3509号)

 中国の3つのグループについて、その輪郭が少し見えてきたと
思います。以下、まとめておきます。
 胡錦濤を中心とする共産主義青年団(以下、共青団)は、経済
成長を優先路線とするグループですが、大きな格差を生み出した
という批判があります。習近平新体制では、首相の李克強と副首
相の汪洋でこの路線を支えることになります。
 これに対して左翼原理主義派(以下、新左派)は、格差の拡大
を問題視し、富の再分配を通じて弱者救済を訴えています。そし
て、貧しかったが、平等だった毛沢東の時代に回帰すべきである
と訴えているのです。薄熙来はこのグループを率い、さらに最貧
層の幅広い支持を取り付けていたのです。しかし、薄熙来の失脚
により、このグループの力は相当弱まると思われます。
 上海派は江沢民の率いるグループですが、一口にいうなら、既
特権益擁護派です。習近平体制にはこのグループが多くの役職を
押えています。以上をまとめると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.共産主義青年団 ・・   改革開放路線
    2.    上海派 ・・ 既特権益擁護路線
    3.左翼原理主義派 ・・ 平等弱者救済路線
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在の中国は共産党一党独裁ですが、総書記の独裁ではなくな
りつつあります。中国情勢に詳しい宮崎正弘氏によると、その独
裁度は時代によって次のように変化しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       毛沢東時代 ・・・・・ 90%
       ケ小平時代 ・・・・・ 70%
       江沢民時代 ・・・・・ 50%
       胡錦濤時代 ・・・・・ 30%
―――――――――――――――――――――――――――――
 胡錦濤時代になると、独裁性が大きく落ち、政治局常務委員9
人の合意で物事決めていたのです。とくにチベット問題、ウイグ
ル問題、内蒙古問題、外交問題、北朝鮮問題などはこの9人で投
票して決めています。なお、習近平体制では、この9人が7人に
減らされています。新メンバーは次の7人です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.習近平 ・・・ 総書記/国家主席ほか
 2.李克強 ・・・ 首相
 3.張徳江 ・・・ 全国人民代表大会常務委員長
 4.兪正声 ・・・ 中国人民政治協商会議全国委員会主席
 5.劉雲山 ・・・ 中国共産党中央書記処常務書記ほか
 6.王岐山 ・・・ 中国共産党中央規律検査委員会書記
 7.張高麗 ・・・ 副首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 中央政治局には常務委員会と委員会があり、25人で構成され
ているのです。今まではその25人から9人が選ばれて常務委員
を務めてきたのです。
 もともとは7人だったものが、胡錦濤体制のときから2人増え
て9人になったのです。それが習近平体制で再び7人体制に戻さ
れたのです。「文化担当」と「政法担当」を外したからです。そ
の理由は何でしょうか。
 狙いは「政法担当」外しです。「政法」とは政治と法律、公安
と司法を仕切る「政法委員会」というのがあるのです。この委員
会は、中国警察・警察力の総元締めであり、150万の武装警察
を掌握する重要なポストなのです。そのため、権力が大きくなり
過ぎて、場合によっては総書記の権限も凌ぐほどです。
 実は「政法委員会」のポストについては、あの薄熙来事件が影
を落としているのです。これまではこのポストに周永康という常
務委員が務めていたのですが、大変な権力を持ち、一時は胡錦濤
の力をも凌ぐほどの力があったのです。それに周永康は、江沢民
元国家主席の姪婿に当たり、筋金入りの江沢民派として知られて
いたのです。
 周永康は、かねてから自国の法律を無視する薄氏主導で行われ
た暴力団一掃キャンペーンを賞賛したり、薄氏が解任後、政治局
常務委員として唯一、同氏を支持する発言をし、温家宝首相と対
立しています。
 また、王立軍元公安局長が米総領事館に駆け込んださい、四川
省の武装警察を動員し、総領事館を包囲する指示を下し、あわや
外交問題に発展しかねない状況を生んだとして厳しく批判されて
もいたのです。そういうわけで、「政法委員会」の解体も視野に
入れて、このポストを常務委員から外したのです。
 ここでわかってきたことがあります。薄熙来が弱者の味方を標
榜しながらもやっていたことは、重慶市を孤立させ、重慶イコー
ル薄熙来王国にしようとしていたのに、胡錦濤総書記が手が出せ
なかったのは、周永康が凄い権力を持って立ちはだかっていたか
らです。
 考えてみると、中国の政治体制は非常に問題があります。現在
中国では汚職や腐敗が横行し、それが国を危機に陥れる事態にな
っています。仮に政治局常務委員が汚職をして賄賂を受け取って
もそれを裁くのも政治局常務委員会であり、しかもここだけは投
票でものごとを決めているからです。ここだけ奇妙に民主化され
ているのです。薄熙来の処分のときも、常務委員会で、「賛成8
反対1」で決まっているのです。
 とくに「政法委員会」の場合、ここのトップでは将来総書記も
首相も望めないので、自分の握っているポストの帝王になろうと
してしまうのです。そこで周永康のような人物が強い権力を持っ
てしまうのです。
 この周永康の失脚は、「政法委員会」の解体につながったばか
りではなく、上海派の勢力を削ぐ結果になっています。何のこと
はない。中国の中央政治局というのは、事実上の2大派閥、共青
団と上海派の権力抗争そのものであり、政治システムとして大き
な問題を抱えているのです。     ── [新中国論/07]

≪画像および関連情報≫
 ●【評論】重慶事件にみる江沢民派の苦境/大紀元/文・程静
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2012年2月25日、米国政府関係者はメディアを通じて
  中国重慶市の王立軍副市長により、薄煕来・重慶市委書記と
  周永康・政治局常務委員が次期中共トップと目される習近平
  ・国家副主席をつぶす謀略などの情報が提供されたことを暴
  露した。中共上層部に近い北京の情報筋によると、派内の核
  心的人物の一人である周永康に疑惑が及んだことで、江沢民
  派は大いに慌てたという。実は、重慶事件は当初、薄煕来の
  後ろ盾とされる江沢民派が自らを守るために、トカゲのしっ
  ぽ切りのように薄煕来を切り捨てようという動きがあった。
  しかし今では、しっぽどころでは済まされず、腕を切り捨て
  る覚悟をしなければならないだろう。従来の中共上層部の内
  紛では、これまでは「駒」の犠牲によって「ボス」が保たれ
  ていた。例えば最近の薄煕来と汪洋(中共広東省トップ)の
  権力闘争の中で、元の重慶公安局局長・文強が見捨てられて
  処刑された。しかし、今回の事件では、王立軍は意外にも破
  れかぶれになって米国領事館に駆け込み、中共上層部内のス
  キャンダルを国際社会に暴露した。情報筋によると、王はす
  でに自身の米領事館での全過程のビデオを北京に提供したと
  いう。
   http://www.epochtimes.jp/jp/2012/02/html/d32538.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

周永康前中国政治局常務委員.jpg
周永康前中国政治局常務委員
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2013年03月21日

●「知日派の李克強中国首相の対日観」(EJ第3510号)

 李克強氏が習近平体制でのナンバー2になる首相に就任したの
です。中国の首相は日本と違って主に経済政策に責任を持つこと
になっており、その手腕が注目されています。
 さらに、胡錦濤政権のときの温家宝首相がそうであったように
外交においても李克強首相が前面に出てくることが多いので、ど
ういう人が首相になるかは、日本にとって大変な関心事であった
のです。
 そのため、李克強首相が決まったとき、大メディアは李首相の
プロフィールを詳しく伝えていましたが、意識的に伝えていない
情報があるのです。それは、李首相が若いときに小沢一郎氏の私
邸に書生としてホームステイしていた事実です。
 この情報はEJでは数回お伝えしていますので、読者はご存知
ですが、なぜ、その事実を紹介しないのでしょうか。中国のナン
バー2の政治家が、今でも現役の日本の有力政治家の私邸にかつ
て書生として住み込んでいたことがあるのです。大きなニュース
であり、日中関係改善のカギになる可能性があります。そうであ
れば、事実なのですから、伝えるのがメディアの使命なのではな
いでしょうか。
 これは伝えないのではなく、伝えたくない、伝える気がないの
です。日本のメディア──とくに記者クラブメディアは、小沢一
郎氏にとってマイナスなことは、たとえそれがうそのことであっ
ても針小棒大に書き立てるくせに、逆に少しでもプラスのことは
絶対に伝えないのです。これはもはやメディアではなく、自民党
の応援メディアと化しているとしかいう言葉がありません。
 そういうメディアにあって、『週刊ポスト』3/29はこの事
実を取り上げています。新聞やテレビが一切伝えないのですから
EJが代わってご紹介することにします。
 李首相は、学生時代から日本から多くの学ぶべきことがあると
して、何回も来日しています。小沢氏の私邸に書生として住み込
んだ経緯についてはよくわかりませんが、政治の勉強のためにそ
うしたものと思われます。
 しかし、これほどの知日派でありながら、李首相の対日観はあ
まり伝わってきていないのです。2010年10月31日のこと
です。日本の尖閣国有化宣言の直後のことですが、日中国交回復
40周年記念パーティーがホテルオークラで開かれたのです。
 そのとき、招待客の一人に謝恩敏氏という人がいたのです。謝
氏は北京大学在学中に寮で李克強氏と同室だったのです。その謝
氏が、1982年に神戸大学に留学するさい、李克強氏から手紙
をもらったのです。日本に留学するさいのアドバイスです。
 挨拶を求められた謝恩敏氏は、李氏の了解を得て、その30年
前の手紙を読み上げたのです。その時点で、李氏が首相になるこ
とはほとんど決まっていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本人は向上心に富んだ民族です。日本に行ったら、専門分野
 ばかり学ぶのではなく、日本の民族精神と文化背景について学
 ぶことに更に多くの時間を割くべきです。日本人は常々、東西
 の文化を有機的に結び付けたことを誇りにしていますが、日本
 人はどのようにしてそれをやったのでしょうか。これについて
 は理性的に研究するばかりではなく、感性を持って知ることが
 大切です。     ──李克強氏/『週刊ポスト』3/29
―――――――――――――――――――――――――――――
 とても素直な対日観であり、日本を高く評価しています。この
会合には、駐日大使館の関係者や福田康夫元首相、海江田万里現
民主党代表らも出席していたのです。
 また、謝氏がこの手紙を紹介することについて了解を求めたと
き、李氏は謝氏に対し、「私の気持ちは、この手紙のときと変わ
らない」と断わっているのです。そういう意味で現在でも大変な
知日派であるといえますが、それでも歴史問題に次のように釘を
刺しています。手紙は次のように続くのです。李氏自身が述べて
いるように、彼はこのことも忘れていないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、民族を絶滅しようとしたあの戦争のことを忘れてはい
 けない。歴史の教訓を汲み取ることは決して復讐のためではな
 く、歴史が繰り返されることを防ぐためです。
           ──李克強氏/『週刊ポスト』3/29
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党の失敗は、2010年の中国漁船の海保の巡視艇への衝
突事件、石原慎太郎前東京都知事の尖閣諸島買い取り宣言のとき
も、菅首相も野田首相もごく少数の幹部で対応を決めてしまって
いますが、なぜ、中国に強い小沢元代表に相談しなかったのでし
ょうか。尖閣諸島買い取り宣言のときは既に小沢氏は離党してい
ましたが、衝突事件のときは民主党にいたのですから、どんなに
意見が対立していても相談はできたはずです。首相としての能力
に欠けるところがあったといわれても仕方がないでしょう。
 ところで、李克強首相は就任の記者会見で次のように注目すべ
きことを述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これからの中国の改革は既得権益に切り込むという難しい問題
 を解決する時期となる。しかし、既得権益に手をつけることは
 非常に難しい。しかし、これは国家の命運と民族の将来にかか
 わる問題で、ほかの選択肢はない。どんなに困難だとしてもや
 り遂げる。                ──李克強首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 李首相は「既得権益に切り込む」といっています。これはある
意味において、多くの既得権益を持っている上海派に対する牽制
と取ることもできます。
 なお、李首相は持続的な経済成長を達成するためには、たとえ
小さな戦争であってもこれを行うべきではないとも発言しており
尖閣諸島との紛争がこれ以上拡大しないようにしたいともとれる
メッセージを出しているのです。いずれにしてもこれ以上トラブ
ルを拡大して欲しくないものです。  ── [新中国論/08]

≪画像および関連情報≫
 ●共産党人事は「コップの中の嵐」/富坂 聰氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  そもそも、日本のメディアは、少し前まで、習近平を江沢民
  派ではなく太子党(共産党幹部子弟のグループ)と分類し、
  薄煕来(元重慶市書記、政治局委員)の同志と位置付けるこ
  とで、胡錦濤国家主席派(共青団閥)と江沢民派、そして太
  子党の「3派鼎立(ていりつ)」という構図で共産党の政策
  決定を描いてきた。しかし、こうした派閥争いの構図と現実
  の政治展開(例えば、薄煕来の失脚)との整合性がいつの間
  にか失われていることを考えれば、「江沢民派が優勢」など
  と報じることは、あまりにも無責任だと言わざるを得ない。
  その意味でも、ここからは「派閥がすべて」の中国分析から
  距離を置いて、あらためて共産党という組織が現在置かれて
  いる状況と向き合ってみたい。もちろん人事が動く以上、そ
  こに何らかの利害衝突や摩擦が起きるのはつきものだ。だが
  重要なのは、それが中国の未来を語る上でどれほど大きなウ
  エートを占めるか、なのだ。5年前ならいざしらず、この国
  の主役が共産党から民意へと移ってしまった現状を考えれば
  共産党内の人事問題などしょせん「コップの中の嵐」でしか
  ないというのが筆者の考えだ。
         http://www.nippon.com/ja/currents/d00061/
  ―――――――――――――――――――――――――――

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李克強中国首相
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2013年03月22日

●「経済に強い李克強と王岐山の関係」(EJ第3511号)

 今回のテーマは中国ですが、経済の問題に絞って述べていくつ
もりです。そのために、今後の中国経済に関わる主要人物という
か、重要人物をチェックしていきます。
 21日のEJで李克強氏のことを取り上げましたが、彼は昨年
の11月に中央政治局常務委員7人のうちの1人に決まり、首相
間違いなしといわれていたのです。ちなみに、胡錦濤政権のとき
の9人の常務委員で、習近平政権の常務委員に残ったのは、習近
平氏自身と李克強氏の2人のみです。
 李克強氏は本当は首相をやりたくないと考えていたのです。な
ぜなら、もし2013年から首相をやると、バブルが崩壊し、経
済がダメージを受けると考えたからです。中国の現在の経済の状
況ではバブル崩壊は必至の情勢だからです。
 2012年のはじめの頃の中国の経済状況について、石平氏は
次のように述べています。この時期の経済のコントロールは、首
相の温家宝氏が行っていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 温家宝が在任中の経済政策は、問題を先延ばしにすることでし
 た。その場しのぎの経済政策をとることばかりしました。経済
 (景気)の指標が悪くなると、すぐに財政出動を行い、経済の
 先行きが危うくなると、すぐに金融の緩和を行なう。そしてイ
 ンフレになればまた、金融の引き締めを行なうという具合に、
 後のことを考えていません。温家宝のやっているこの金融の緩
 和とか財政出動という政策は、かえって中国社会に大変なイン
 フレを起こす原因になっています。また彼の金融政策によって
 不動産バブルが脹らみました。   ──副島隆彦/石平共著
     『中国崩壊か繁栄か!?/殴り合い激論』/李白社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 石平氏の情報によると、2012年のはじめの時点の中国の経
済はこういう状況なのです。李克強氏の分析では、もし、不動産
バブルを今のうちに潰さないと、自分の代になって大変だと考え
て、当時の胡錦濤国家主席に金融引き締めを訴えたのです。しか
し、温家宝氏にとってこれは大いに不満だったのです。彼は自分
の任期中にもう一度経済を活性化させたいので、金融緩和を訴え
たのですが、胡錦濤主席がそれを許さないのです。胡主席は、李
克強氏の進言の方に信を置いていたと思われます。
 そして2013年の全人代で、李克強氏は首相に就任し、20
13年以降の中国経済を担う存在になったのです。果たして彼は
どのようにして中国経済を立て直すのでしょうか。中国の首相は
経済がすべてであり、これをおかしくすると、すぐ失脚してしま
うリスクの多いポジションです。しかし、ナンバー2です。
 もう一人今回の政治局常務委員のなかに経済に強い常務委員が
います。王岐山という人物です。この人は、中国農村信託投資社
長などを経て、1993年から中国人民銀行副総裁、1996年
に中国建設銀行行長(頭取に相当)を経て、2004年に北京市
長、2007年に党政治局員になり、2008年から経済担当の
副首相として、リーマン・ショック後の4兆元景気対策や金融政
策の大胆な緩和を主導した金融のプロなのです。
 王岐山氏は、リーマン・ショック後の経済の処理を通じて、当
時のヘンリー・ポールソン米財務長官と親しくなり、米国の経済
界の要人との付き合いの広い米国通です。王岐山氏は、中国経済
の構造改革を進めた朱鎔基元首相と関係が深く、構造改革派とさ
れています。
 これだけの人物ですから、王岐山氏としては、首相になれると
信じ、温家宝前首相に協力してきたのですが、李克強氏が首相に
なったことにより、王氏は政治局常務委員ではあるものの、経済
担当から外れることになったのです。これも一種の権力闘争の結
果なのです。王岐山氏はそれに破れたのです。
 そうなると、今後の世界経済においても李克強氏の存在は大き
なものになっていくことになります。国家戦略家の副島隆彦氏は
李克強氏を次のようにとらえています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 李克強は「隠れ民主派」です。私はこのように考えています。
 李克強の北京大学時代の同級生たちは天安門事件の前には民主
 化運動をやっていたはずなのです。ですから天安門事件(「六
 ・四事件」という)のあと、学生たちは弾圧されて厳しく一人
 ずつ、思想と言動を調べられたはずです。李克強はここでボロ
 を出していない。きわめて慎重に行動した秀才であったはずで
 す。だから今の彼があるわけです。それでも李克強の内心では
 激しく中国の民主化を求めているはずなのです。これは私の当
 てズツポウと贔屓目かもしれません。だけれども、私はどうし
 てもこのように考えてしまいます。その反面からの証拠があり
 ます。李克強に対しては人民解放軍がものすごく警戒している
 と言われ続けました。軍は民主化運動を弾圧した側ですから。
            ──副島隆彦/石平共著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、王岐山氏は今回中央規律検査委員会書記として仕事
をすることになるのですが、このポストは、きわめて重要な役職
なのです。
 毛沢東時代の中国共産党では政治闘争として「路線批判」とい
うものが中心を占めたのです。これは「お前の考え方は違ってい
る」というようにイデオロギーで相手を叩くのです。
 しかし、現代の中国では路線批判などはしないのです。現在の
党内闘争は、相手の汚職──たとえば、金融スキャンダルを摘発
して攻撃するのです。この幹部の汚職の摘発の総元締めが中央規
律検査委員会書記なのです。このポストを握ったのが王岐山氏で
あり、中国の政界を動かすことらなると思われます。
 胡錦濤政権では、この中央規律検査委員会書記と中央政法委員
会書記の2つのポストが政治局常務委員のポストとしてあったの
ですが、既に述べたように、中央政法査委員会書記は常務委員の
ポストから外れており、それだけ中央規律検査委員会書記の力が
強くなることを意味します。     ── [新中国論/09]

≪画像および関連情報≫
 ●中国共産党中央規律検査委員会とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国共産党中央規律検査委員会は、中国共産党の路線の実行
  や党紀の整頓、党員の腐敗などを監督する機関。略称は中規
  委。委員は中国共産党全国代表大会で選出され、書記、副書
  記、常務委員は中規委全体会議で選出される。規律検査委員
  会は各地方に存在し、通常は政府の監察部と合同で動く。な
  お、中国での名称は中央紀律検査委員会であるが、日本では
  外務省においても、規律と紀律の両方を使用している。創設
  は1927年に設立された中央監察委員会にまで遡る。19
  49年の中華人民共和国成立時に中央規律検査委員会と改め
  られる。1955年、中央監察委員会に再改称したが、文化
  大革命勃発時に消滅。1978年の第11期3中全会におい
  て中央規律検査委員会として復活。陳雲が第一書記に任じら
  れ、劉少奇など文化大革命の被害者の名誉回復を行うと共に
  四人組問題を処理した。       ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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王岐山中国政治局常務委員
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2013年03月25日

●「中国のGDP統計にはウソが多い」(EJ第3512号)

 中国には「保八」という言葉があります。この言葉の直接の意
味は「8%を保つ」です。何の8%であるかはいうまでもないで
しょう。実質経済成長率で、前年比8%を切らないようにすると
いう意味です。
 中国ではこの数字が8%を切ると、雇用などに重要な影響が出
るので、この数字を切らないよう経済を運営するということが、
ひとつの節目になっています。
 2008年からの中国のGDP成長率を日本と比較すると、次
のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
               中国     日本
      2008年  9.6%   −1.0%
      2009年  9.2%   −5.5%
      2010年 10.5%    4.5%
      2011年  9.2%   −0.8%
      2012年  7.8%    2.2%
     http://www.brics-jp.com/china/gdp.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 2011年まではなんとか「保八」は守られてきたのです。し
かし、2012年2月に温家宝首相は、目標を7.5 %に引き下
げると表明しました。この時点では、とても8%乗せは困難との
予測があって、目標を大幅に落としたのです。結果は、2012
年は7.8 %になっています。
 それでは、政権が交代した2013年度はどうなるのでしょう
か。2013年2月22日付の日本経済新聞は、次のように報じ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 【ニューヨーク=伴百江】米格付け会社スタンダード・アンド
 ・プアーズ(S&P)は21日発表したリポートで、2012
 年に7.8 %だった中国の実質経済成長率が2013年には6
 %程度に低下するリスクがあると指摘した。近年の過剰な設備
 投資がたたり、投資収益率が低下しており、新たな設備投資を
 抑制する傾向が強まると見ている。
         ──2013年2月22日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 S&Pによると、6%台という予測です。しかし、6%でも大
変な成長率です。ところが、中国のGDP統計にはウソが多いと
いうことがよくいわれるのです。
 なぜ、そういうことがいわれるのかというと、今回の全人代の
人事で首相に就任した李克強氏の発言にあるのです。李克強氏が
遼寧省書記をしていた2007年頃のことですが、駐中国米国大
使に「中国のGDP統計は『人為的』で、参考程度にしかならな
い」と告げていたことが、ウィキリークスで暴露されたのです。
 大和総研チーフエコノミストの熊谷亮丸氏は、中国の統計作成
者について、自著で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 筆者が中国の専門家から入手した情報によれば、中国では経済
 統計作成担当者は閣僚級のポストであるという。通常の先進国
 ではせいぜい数ランク下の局長級であるのとは対照的である。
 その理由は、「中国における経済統計の作成には『高度な政治
 的判断』が要求されるから」であるらしい。つまり、その数字
 を発表したときに、グローバルな金融市場参加者やエコノミス
 トがどういつた反応をするかを見極めたうえで──要するに、
 この専門家の言葉を借りれば、「鉛筆をなめながら」統計を作
 成する必要があるというのだ。──熊谷亮丸著「パッシング・
   チャイナ/日本と南アジアが直接つながる時代」/講談社
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の経済は強いといわれますが、それは為替市場の調整など
のために、外貨準備高を多く持っているということがあります。
その大半は米国債なのです。日本も2004年頃までは、多くの
米国債を保有していましたが、それ以降は20%程度減らしてい
ます。そして今や中国の外貨準備高は世界一になっています。
 中国は輸出によって多くの外貨を稼いでいますが、外貨は国内
では使えないので、外貨と同じ量の人民元を中国国内で流通させ
ているのです。こういうこと続けていると、中国国内では不動産
や株のバブルが生み出されることになります。
 輸出を伸ばそうとするには、為替市場をコントロールして人民
元を低く抑える必要があります。しかし、人民元が安いと、その
分中国が輸入品を買う力が弱くなります。
 輸出が増加し、経済が成長して給与が10%増えたとしましょ
う。しかし、同じ期間に人民元が20%安くなったとすると、お
金の価値は実質的に下がることになります。これでは中国人は、
海外の通貨を持つ人に比べると、それだけ貧しくなるのです。
 それに中国は、日本と違って付加価値の高いものを輸出してい
るわけではないので、それをカバーするために輸出量を増やそう
としています。つまり、質よりも量で勝負しているわけです。
 中国は「13億人市場」といわれ、凄い個人消費を生み出す市
場というのが売りです。しかし、輸出を促進するために中国人民
の所得水準を低く抑えてきているので、GDPに占める個人消費
の比率は非常に低いのです。
 国家統計局によると、1990年代以降、GDPに占める個人
消費の比重は低下傾向を辿っているのです。そして現在、中国の
個人消費は世界平均を下回っており、2006年には38%とい
う非常に低い水準になっています。
 この数字は、日本や米国など先進国はもちろんのこと、インド
ブラジル、ロシアなど他の新興国のそれよりも低い数字です。こ
れでは13億人市場が色あせてしまいます。
 なぜ、個人消費が低いかにはいろいろな理由がありますが、社
会保障制度が十分でないこともその原因のひとつです。もし、病
気で入院すると、多額の医療費がかかるので、貯蓄をして消費を
抑えているのです。         ── [新中国論/10]

≪画像および関連情報≫
 ●中国GDP統計は信頼できない/李克強氏/ロイター
  ―――――――――――――――――――――――――――
  内部告発サイト「ウィキリークス」が公開した米外交公電に
  よると、李克強副首相(当時)が、遼寧省党委書記を務めて
  いた2007年、中国の国内総生産(GDP)統計は「人為
  的」であるため信頼できない、との見解を示していたことが
  明らかになった。当時のクラーク・ラント駐中米国大使が李
  氏と食事をした際の発言として記録されていた。これによる
  と、李氏は遼寧省の経済評価の際、電力消費、鉄道貨物量お
  よび銀行融資の3つのデータだけに注目すると発言。公電は
  「李氏は、これら3つの数字を見るだけで、経済成長の速さ
  の相対精度を測ることができる、と述べた。他のすべての数
  字、とくにGDP統計は『参考用にすぎない』と李氏は笑顔
  で語った」と伝えている。中国外務省の広報担当者は特定の
  外交文書へのコメントを拒否するとし、公電流出に関連した
  問題について米国に「適切な処理」を求めた同省の洪磊報道
  官のコメントを繰り返した。在中国米国大使館の広報担当者
  からのコメントは得られていない。中国の経済統計、とくに
  省やそれ以下のレベルの地方政府の経済統計については、ア
  ナリストが以前から疑わしいと指摘していた。
  http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-18493420101206
  ―――――――――――――――――――――――――――

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熊谷 亮丸氏の近刊書
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2013年03月26日

●「何かが隠されている中国経済数字」(EJ第3513号)

 中国の経済統計がどういうものか、具体的に見ていくことにし
ます。現代中国研究家の津上俊哉氏によると、中国のGDP統計
には、次の2つの問題点があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.地方のデータの水増し
        2.デフレーターが未公表
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の問題点は「地方のデータの水増し」です。
 中央には「保八」のような目標があって、中央から地方へ相当
強いプレッシャーをかけるので、地方がデータを水増しして報告
してくる可能性があります。とくに景気後退期の数字はその傾向
が強いのです。
 2009年の第1四半期の上海市と広東省のデータを比較して
みることにします。2009年といえば、リーマン・ショックで
世界中が深刻な景気後退局面に陥った年です。
―――――――――――――――――――――――――――――
                    上海     広東
 2009年1QのGDP成長率   3.1 %   5.8 %
 外需GDPシェア(2008年)  5.4 %  19.9 %
 成長率(2009年)     −45.3 % −27.1 %
  ──津上俊哉著「中国台頭の終焉」/日経プレミアシリーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 上海市は成長が3.1 %まで落ち、全国でも最も深刻な影響を
受けた都市です。これに対して広東省は5.8 %と上海市の2倍
の成長率を保っています。
 しかし、これは不可解なのです。GDPにおける外需のシェア
で見ると、上海市の5.4 %に対して広東省は19.9 %と外需
依存度が約4倍高いのです。それなのに、なぜ、上海市の倍の成
長率を維持できるのでしょうか。
 実際に広東省では、2008年の暮れから空前の数の出稼ぎ農
民工が職を失って、郷里に帰っているのです。輸出の落ち込みに
加えて、消費への影響も大きかったはずであり、上海市よりも広
東省の経済の落ち込みが小さかったということはあり得ない現象
なのです。
 第2の問題点は「デフレーターが未公表」です。
 中国国家統計局は毎年はじめに前年のGDPを公表し、これが
世界中に報道されます。2012年のGDP成長率はは7.8 %
であり、公表されるGDPは次の通りとなっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
        金 額 ・・・・・ 名目値
        成長率 ・・・・・ 実質値
―――――――――――――――――――――――――――――
 問題はGDPデフレーターが公表されないことです。GDPデ
フレーターとは、名目GDPから実質GDPを算出するために用
いられる物価指数のことです。
 そのため、実質値を名目値からどのように導いたのかがブラッ
クボックスになっています。なぜ、公表しないのかはわかりませ
んが、国家統計局がデフレーターを使って何らかの操作をしてい
る可能性が考えられるのです。
 2006年〜2009年までの中国のGDPのデータを次に示
しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
        名目GDP  実質GDP 実施GDP伸び率
 2006 215884元  10.7 %    12.7 %
 2007 266411元  11.4 %    14.2 %
 2008 315275元   9.0 %     9.6 %
 2009 341401元   8.7 %     9.2 %
  ──津上俊哉著「中国台頭の終焉」/日経プレミアシリーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 GDPの名目値、実質値、デフレーターの関係について、誰で
もわかるやさしい説明をご紹介しておきます。
 ある国の国民がAとBの2人だけだとします。Aは小麦を栽培
し、BはAから小麦を買ってパンを作って売っているとします。
 2000年にAがBに売った小麦代は総額50円とします。こ
の小麦を使ってBの作ったパンの売上総額は100円だったとし
ます。この場合、2000年のこの国のGDPは、Aの付加価値
とBの付加価値を合計した数字になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 A(50円)+B(100円−50円)=100円→GDP
―――――――――――――――――――――――――――――
 2001年のGDPはどうなるでしょうか。2001年は生産
量や取引量は同じですが、Aは小麦を値上げしたので、その総額
は80円になります。これに伴いBもパンを値上げし、売上総額
は150円になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  GDP=80円+(150円−80円)=150円
―――――――――――――――――――――――――――――
 2000年のGDPは100円、2001年は150円であり
1.5 倍になっています。この物価上昇率をGDPデフレーター
というのです。しかし、2001年は物価が上がっただけであり
取引量は同じなのです。したがって、もし物価が同じだったとす
れば、実質的なGDPは100円で変化はないのです。これが、
GDPの名目値、実質値、デフレーターの関係です。
 中国の経済統計数字が信用できないもう一つの要因は途中でよ
く変更が行われることです。2009年1月のことですが、中国
は、2007年通年の実質成長率が11.4 %と発表したのです
が、実は13%であったと訂正しているのです。
 もうひとつ中国では2008年に北京オリンピック、2010
年には上海万博という景気浮揚効果の大きいイベントが行われて
いることも中国の経済統計の数字を考えるとき、頭に置く必要が
あります。             ── [新中国論/11]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の経済統計はねつ造だらけ?/レコードチャイナ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2012年7月10日、米外交専門誌フォーリンポリシーは
  クリストファー・ハリソン氏の署名記事「中国の経済データ
  に深刻なねつ造の疑い」を掲載した。以下は、その内容であ
  る。米連邦準備制度理事会(FRB)の地区連銀経済報告書
  「ベージュブック」をモデルとした中国経済に関する民間調
  査報告「チャイナ・ベージュブック」が発表され、中国の公
  式統計がそれより1〜3ヵ月ほど遅れをとっている可能性が
  指摘された。筆者はそれを出版した会社の共同創設者。米国
  や日本の経済が衰退するなか、中国が世界第2の経済大国に
  なったことは決して悪いことではない。経済成長が中国人民
  に自由をもたらすことを願う。少なくとも、ファイヤウォー
  ルを突破するソフトが買える国民が増えればよいのではない
  か。だが、最悪なことに中国経済データの透明性は全く進ん
  でいない。すべてのデータは国家統計局が出し、中国指導部
  が最終チェックを行う仕組みだが、なぜかどの数字も非常に
  シンプルだ。たとえそれが正しいものだとしても、これほど
  複雑な中国経済を分析するのにこんな大雑把な数字でよいの
  か。考えてみてほしい。13億という人口を抱える中国の四
  半期統計が、わずか2週間で集計されている。米国は同じよ
  うなデータを集計するのに1ヵ月は必要だ。中国の規模と統
  計局の作業効率を考えるとこれは驚くべきスピードである。
  http://news.guideme.jp/kiji/ab269b774d5359c468b24cff4e91ae70
  ―――――――――――――――――――――――――――

津上俊哉氏の本.jpg
津上 俊哉氏の本
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2013年03月27日

●「ハードランディングする中国経済」(EJ第3514号)

 中国のGDP統計は信用できない──現職の中国の首相李克強
氏自身の言葉です。もちろんこの発言は、李克強氏が遼寧省の書
記時代の発言であり、ウィキリークスによって暴露されたもので
す。本人はもちろん中国共産党もこの発言については、一切無視
していまが、内心穏やかではないと思われます。
 その李克強氏が「GDP統計よりも信用できる」としたのは次
の2つのデータです。これらのデータは改ざんするのが困難だか
らと思われます。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.電力消費量の推移
         2.貨物輸送量の推移
―――――――――――――――――――――――――――――
 これら2つの統計データは、添付ファイルにしてあるので、以
下、それを参照しながら、説明を読んでください。なお、この分
析は津上俊哉氏によるものであることをお断りしておきます。
 2011年の前半においては、中国のGDPは9.5 %前後の
伸びを示していたのですが、その頃の電力消費量は10〜15%
貨物輸送量は15〜20%の伸びを示していたのです。
 しかし、2012年の第2、第3四半期になると、電力消費量
は5%以下、貨物輸送量は10%以下にダウンしています。つま
り、伸び率が2分の1から3分の1に減っているのが分かると思
います。いずれもマル印の部分です。
 しかし、同じ時期のGDPは、7.9 %、7.4 %と、電力消
費量や貨物輸送量にリンクしているとはいえないのです。これら
が2分の1から3分の1に減少したのであれば、2012年の夏
頃は、実質GDPの伸び率は5%を切っても何ら不思議ではない
のです。それが7.9 %〜7.4 %というのは、整合性がとれな
いということになります。
 もっとも中国のGDPの伸び率の低下を欧州向けの輸出の不振
を原因としてとらえる考え方もあります。しかし、2012年1
月〜9月の輸出額を見ると、前年同期比7.4 %、貿易黒字は実
に36.1 %も伸びているのです。また、外需低迷は2011年
からはじまっており、GDPを押し下げてはいるものの、その押
し下げ幅は、同時期のGDPのせいぜい0.4 %程度に過ぎず、
景気減速の原因とはいえないのです。
 津上俊哉氏は、2013年3月1日(金)に「BSフジ・プラ
イムニュースに」に出演され、2時間にわたりこの問題について
話をしています。私は、この番組を見て、津上氏の本を購入して
今日のEJを書いています。
 この番組は、たとえ見逃しても10日間は動画が残されており
それ以後については、文章でサマリーが長期間残されています。
津上氏の話の動画は既にありませんが、サマリーは次のURLを
クリックすると読むことができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  2013年3月1日放送:BSフジ・プライムニュース
  ◎津上俊哉氏/現代中国研究家
  「中国台頭はも終わり?少子高齢化で急減速か」
  http://www.bsfuji.tv/primenews/text/txt130301.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の経済統計数字が操作されていることはあるにしても、公
開されている数字を分析するだけでも、そこに驚くべき中国経済
のハードランディングを読み取ることができるのです。とくに北
京五輪の行われた2008年のGDPの数字に注目する必要があ
ります。中国経済に何が起きているのでしょうか。
 中国の2008年通年の実質GDPは9.0 %ですが、この数
字だけを見ていても中国の経済情勢は把握できないので、四半期
ごとの数字を見て分析することにします。
 いうまでもないことですが、第1四半期は1月〜3月、第2四
半期は4月〜6月、第3四半期は7月〜9月、第4四半期は10
月〜12月です。
―――――――――――――――――――――――――――――
    2008年第1四半期 ・・・・ 10.6 %
    2008年第2四半期 ・・・・ 10.1 %
    2008年第3四半期 ・・・・  9.0 %
    2008年第4四半期 ・・・・  6.8 %
    2008年通年GDP ・・・・  9.0 %
     ──石平/三橋貴明著「中国経済がダメになる理由/
         サブプライム後の日中関係を読む」/PHP
―――――――――――――――――――――――――――――
 2008年は、第2四半期までは2桁成長だったのです。しか
し、北京五輪開催中の8月をはさんだ7月〜9月の第3四半期に
成長率は1桁の9.0 %になり、その年の最後の3ヵ月間は、成
長率が9.0 %から2.2 %ダウンして6.8 %になってしまっ
たのです。6%成長は2002年以来6年ぶりのことです。
 この第1四半期の10.6 %と第4四半期の6.8 %の落差は
3.8 %です。たった1年で3.8 %も下がるというのは、尋常
ならざることです。
 昨日のEJでご紹介したように、中国は2007年通年の成長
率を11.4 %から13%に訂正しています。そうすると、20
07年の13%から、2008年第4四半期には6.8 %にダウ
ンしたことになり、まさに半減です。
 この2008年における中国経済のハードランディングを裏付
ける数字があるのです。新華社通信によると、2008年の中国
の自動車販売台数は前年比6.7 %増の938万500台になっ
ているのですが、その伸び率は2007年の21.84 %から実
に15.14 %減って、6.7 %になっているのです。たった1
年で3分の2以上も下落しているのです。
 これは自動車産業だけではなく、多くの関連産業にとって大打
撃であったはずてあり、同時に国内消費の急激な落ち込みも意味
しています。明らかに中国経済に何かが起きていることは確かで
あると思われます。         ── [新中国論/12]

≪画像および関連情報≫
 ●楽観論と悲観論が交錯する中国経済/コラム/DIR
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国経済は、現在、多すぎる統計とコンセンサスの欠如に悩
  まされているが、少なくとも今回は、2008年のリーマン
  ショック後に打ち出された4兆元規模のような大型財政刺激
  策はなく、また適当でもないという点では、当局も含めて大
  方の共通認識があるようだ。その理由は、第一に、リーマン
  ショック後の大型財政刺激は景気を急速に回復させはしたも
  のの、過剰流動性からインフレや不動産のバブル的状況、さ
  らには地方融資平台を通じる地方政府債務の積み上がり、そ
  の不良債権化が懸念されるといった深刻な副作用をもたらし
  たという反省があること、第二に、すでに低い投資効率をさ
  らに低下させるおそれがあること、第三に、財政刺激を通じ
  て引き続き投資主導の成長を図ることは、中期的に成長パタ
  ーンの転換を図ろうとしている政策に逆行すると考えられる
  ためだ。http://www.dir.co.jp/library/column/120706.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

「電力消費量の推移/貨物輸送量の推移」.jpg
「電力消費量の推移/貨物輸送量の推移」
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2013年03月28日

●「深刻な超格差社会を形成する中国」(EJ第3515号)

 中国のテーマに入って難航しています。あまりにも日本と事情
が異なるからです。そういう諸事情を踏まえないと、経済の問題
に踏み込めないようです。
 中国では、都市と農村の戸籍が区分されています。既に「農民
工」という言葉を使いましたが、単に農村から都市に出稼ぎに行
く労働者ということではなく、彼らは身分的に戸籍が分離されて
いるのです。
 しかも、農民工による都市戸籍の取得は制限されており、彼ら
は、中小零細企業で最低賃金以下の劣悪な労働条件で働くケース
が多いのです。中国の国家統計局によると、農民工は2011年
の時点で約2億5000万人も存在するというのです。
 また、農村部の青年が都市部の大学の入学試験に合格するため
には、都市戸籍所有者よりも高い点数が求められるという不平等
が現実に存在するのです。つまり、農村部の人は、本人の努力で
はどうすることもできない巨大な政治的、社会的な壁があるので
格差は固定化し、彼らにとって将来に希望が持てない社会になっ
ているといえます。
 中国は深刻な格差社会を形成しているといいますが、これにつ
いて、大和総研チーフエコノミストの熊谷亮丸氏は自著で次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国における貧富の格差を、実際のデータで確認しておこう。
 世界銀行の統計によれば、中国では上位1%の富裕層が四割以
 上の富を独占している。また、2012年10月に、中国の人
 事社会保障省が公表した「中国報酬発展報告」によれば、20
 07年のある保険会社トップの年収は6616万元(約8億2
 700万円)と、会社員平均の2751倍、農民工の4553
 倍に達する。2011年の中国の1人当たりの国内総生産(G
 DP)は5400ドルと、世界183ヶ国中、90位に過ぎな
 ない。中国では総人口のわずか4分の1の富裕層が、総所得の
 4分の3を占める一方で、「貧困ライン」以下で生活を送る人
 は一億人を超えている。   ──熊谷亮丸著「パッシング・
   チャイナ/日本と南アジアが直接つながる時代」/講談社
―――――――――――――――――――――――――――――
 一般労働者の平均月収が3万円程度であるのに対し、国営企業
の経営者や共産党幹部は、年収10億円クラスはザラであり、共
産党の指導者になると、財産の規模は数千億円にも達するという
のです。まさに超格差社会であり、これでは不平等是正のために
いつ暴動が起こっても不思議はないのです。
 もうひとつ知っておくべきことがあります。日本と中国の不動
産の概念の違いです。中国では土地そのものは日本のように所有
できないのです。個人には所有権がないからです。土地そのもの
を所有しているのは、国家と集団の2つです。これを土地の社会
主義公有制と呼んでいるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   都市部の土地 ・・・・・・・・・・・ 国家所有
   都市部以外の農村・郊外の土地 ・・・ 集団所有
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、中国国内で土地を利用するには、土地そのものを所有
するのではなく、期限付きの「土地使用権」を取得するのです。
 これまで中国の経済成長を支えてきたのは、輸出拡大と固定資
産投資──機械設備や建物などへの不動産投資の増加なのです。
輸出が拡大するには、そのための設備投資が増加するのは当然の
ことですが、住宅建設などの不動産投資はGDPの20%を占め
ています。したがって、もし不動産バブルが崩壊すると、GDP
から20%分が消えてしまうので、中国経済のアキレス腱といわ
れているのです。
 この中国の住宅建設について、石平氏と経済評論家の三橋貴明
氏が興味あるやり取りをしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 石平:中国の不動産バブルには、もう1つの事情があります。
    不動産開発が始まった1998年より前は、中国都市部
    では不動産という概念が浸透していなかったのです。政
    府から人民は家を「福祉」として配給されていました。
    ようやく、98年から福祉としての住宅配給制度が廃止
    された。この結果として、みんなが家を持つことが可能
    になり、この10年間で不動産が次々と開発されて、爆
    発的に住宅などが増えたのです。
 三橋:それは、すごいインパクトでしょうね。例えば、土地を
    1000万円で売買する場合、原価がゼロのものを10
    00万円で売るのですから、中国経済はその分丸ごと大
    きくなります。国が私有財産を認めるとは、そういうこ
    とでしょう。こう考えると、中国経済は急速に成長して
    当たり前なのです。     ──石平/三橋貴明共著
           「中国経済がダメになる理由」/PHP
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は不動産バブルを煽り立てているのは地方政府なのです。石
平氏によると、朱鎔基首相のときに税制改革をやって、税金はほ
とんど中央政府の方に持っていかれる仕組みになってしまったの
で、地方財政は土地で支えるしか方法がなくなったのです。
 そこで地方政府は、不動産開発業者たちに土地の使用権を譲渡
してカネを作り出したのです。その総額は三兆元に及ぶといわれ
ています。農村や地方の土地は集団所有であり、地方政府がその
使用権を譲渡できるのです。
 これによって、三橋貴明氏のいう「1000万円で売買する場
合、原価がゼロのものを1000万円で売る」わけで、中国経済
はその分丸ごと大きくなり、高度成長を遂げたのです。
 中国はこれを繰り返しやってきたのです。しかし、このような
ことが、いつまでも続けられるはずがないのです。その結果、中
国に何が起きたのでしょうか。それが生み出したものが「鬼城」
(グイチェン)なのです。      ── [新中国論/13]

≪画像および関連情報≫
 ●中国ビジネスの法律知識/著者:何連明
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  中国の『土地管理法』(1998年8月29日第二次改正、
  1999年1月1日施行)及びその関連法規の規定により、
  外商投資企業の土地使用権の取得方法として、払下げ方式を
  取り上げることができます。土地使用権の払下げ(以下「払
  下げ」と言います)とは、国が国有土地使用権を土地使用者
  に期限を限って払下げ、土地使用者が国に土地使用権払下げ
  金(以下「払下げ金」と言います)を納付する行為を言いま
  す。払下げ金の金額の確定方法として、当事者による交渉、
  入札、競売等の三つの方法がありますが、政策上では、入札
  と競売の方式を勧めています。払下げによって、取得した土
  地使用権の年限は、その用途により以下の通りです。1)居
  住用地は70年、2)工業用地並びに教育、科学技術、文化
  衛生及び体育用地は50年、3)商業、観光、娯楽用地は、
  40年です。払下げ方式において充分留意すべき点として、
  以下の二つの問題が挙げられます。1)払下げの対象になり
  うる土地は、法律上、国有土地に限られ、集団所有土地の直
  接払下げは違法です。集団所有土地を払い下げるためには、
  先ず、国が当該土地を収用して、その所有権性質を国有に変
  更させなければなりません。係る手続を経ず、集団所有土地
  の直接払下げを内容とする払下げ契約は無効であり、法的保
  護を受けることができません。2)国を代表して、払下げ契
  約を締結する権限を有する部門は、県級以上の土地管理部門
  (又は国により適法な授権を受けている経済技術開発区管理
  委員会等の部門)に限られています。これ以外の如何なる政
  府部門又は企業と締結した払下げ契約は、当事者の欠格事由
  により、無効な契約でとなります。
  ―――――――――――――――――――――――――――

熊谷亮丸氏.jpg
熊谷 亮丸氏
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2013年03月29日

●「投資の失敗で中国中に鬼城が増大」(EJ第3516号)

 リーマンショックは2008年9月15日にリーマンブラザー
ズが破綻したことによってはじまったのです。これは中国経済が
グローバル経済に密接に組み込まれるようになってはじめて遭遇
した未曽有の世界経済の大異変であったといえます。
 これによって中国では、沿海の輸出産業で、少なくとも、20
00万人近い農民工が職を失い、中国人もまるで空が落ちて来る
ような恐怖感を味わったのです。
 これに対して中国は直ちに4兆元(当時のレートで57兆円)
の途方もない財政出動を決めて、経済景気刺激策を導入したので
す。額が巨大であるだけに、従来どちらかというと、重厚長大産
業に設備投資して、後で過剰設備問題が深刻化したものですが、
その轍を踏まないように、次の3つに重点を絞って資金を投入す
ることに決めたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.都市インフラ ・・ 鉄道、道路、空港など
 2.  民生関連 ・・ 農村インフラ、医療衛生、文化教育
 3.    環境 ・・ 省エネ、環境保護
―――――――――――――――――――――――――――――
 4兆元の調達内訳は、中央財政から30%に当る1兆1800
億元を拠出し、残る財源は地方政府の金融借り入れによって調達
したのです。そして、この資金需要を賄うために、2009年か
ら空前の規模の金融緩和措置がとられたのです。
 このとき、中国の4大国有銀行──中国銀行、中国工商銀行、
中国建設銀行、中国農業銀行を中心に、合計17の国有金融機関
が、一斉に土木工事の巨大プロジェクト、マンション建設などに
対し、貸し付けを行ったのです。何しろ党から命令が出ているの
で、採算を度外視してジャンジャン貸し付けを行ったのです。
 経済性や効果などを無視し、とにかく「ハコモノを先に作れ」
ということで、これによって、空前の規模の不動産投機ブームが
到来したのです。これは実に劇的な効果を及ぼし、先進国経済が
苦しんでいるのを尻目に、中国だけがひとり勝ちの回復を成し遂
げたのです。
 しかし、その後遺症も深刻なのです。それは当然です。膨大な
数のデベロッパーが現れ、それらの会社のほとんどは、党幹部の
何らかの息がかかっている企業なのです。銀行は、党のコネがあ
ると、要求通りに資金を貸し出し、デベロッパーは、その資金を
使って採算性を度外視してハコモノを作る。これを繰り返すと、
何が起きるでしょうか。
 その結果、膨大な数の廃墟と化したハコモノが林立するゴース
トタウンが中国中にたくさんできたのです。このゴーストタウン
のことを中国では「鬼城」(グイチェン)と呼んでいます。建物
が林立しているが、住民のいない街や進出企業のない工業団地な
どを意味しています。鬼の棲む城というわけです。
 なかでも2011年4月5日号の「タイム」誌が写真入りで報
道した内蒙古オルドス郊外にあるカンバシ地区の鬼城が大変有名
ですが、それを実際に見学した中国研究家の宮崎正弘氏は、その
様子を次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 機内からパオトウ市全体を概観できた。いやはや飛行場付近は
 幽霊都市の趣きが強く、誰も入居していないマンション群が、
 ニョキニョキと林立している。鳥肌が立つほどに恐ろしい風景
 である。筆者は毛沢東の「大躍進」のネガフィルムを見ている
 ような錯覚を抱いた。そうか、中国のバブル破裂は飢餓が実態
 だった「大躍進」の裏返しか。オルドスからタクシーを雇い、
 草原の大地に忽然として開発されたカンバシヘ。中国各地の不
 動産バブル破裂状況のなかでも、このカンバシこそは世界中に
 報道された悪名高きゴーストタウン。ともかく砂漠に蜃気楼の
 ごとく突然、百万都市が出現したのだ。区役所、党委員会ビル
 学校、商店街、医院、ショッピング・アーケード街に映画館、
 豪華ホテル。人工首都ブラジリア並みと騒がれた。「経済急発
 展の中国、さすが実際にカンバシ新区の現場に立つと中国全土
 から「観光客」がうじゃうじゃと「廃墟」を見に来ているでは
 ないか。             ──石平/宮崎正弘共著
  「2013年の『中国』を予測する」/WAC BUNKO
―――――――――――――――――――――――――――――
 こうなったからくりを整理します。銀行はデベロッパーにお金
を貸すのですが、デベロッパーに直接貸すのではなく、○○開発
公社というのができて、銀行はそこにお金を貸すのです。
 公社はデベロッパーに命じて建設をするので、党にからんでい
るデベロッパーはあまりリスクはないのです。当然売れないので
不良債権は開発公社にストックされることになります。
 この開発公社はおよそ1万社あり、その99%は赤字経営で、
経営が成り立っていないのです。しかし、金を貸した国有銀行と
この1万社の開発公社は潰したくても潰せないのです。
 ある欧米系のシンクタンクの予測によると、中国の銀行の抱え
る不良債権は、最低でも邦貨換算で160兆円、最悪の予測では
260兆円といわれます。現在売れ残っているマンションだけで
も投資金額残高は70兆円もあり、これらは回収不能です。
 問題は、これをどのようにして処理するかです。現在、中国政
府は、固定資産税の導入を考えて、温州、上海、重慶などで実験
をしているのです。ヒントは日本です。日本の税収に占める固定
資産税の割合はかなり大きいので、思い付いたのです。
 しかし、本来中国では土地は国のものであり、固定資産税を取
るのはおかしいのです。その考え方を捨てるわけにはいかないの
で、使用権を現在の50年から75年にするのです。きっとそれ
を100年にするでしょう。
 さらに不良債権は、不良債権処理機関を作って、銀行に溜まり
に溜まっている不良債権をすべてそこに移動する方法です。しか
し、この手は朱鎔基首相のときに一度やっていますが、もう一度
やるのです。しかし、日本の国鉄の場合は民営化したのですが、
中国の場合、それはできないのです。 ── [新中国論/14]

≪画像および関連情報≫
 ●内蒙古省はゴーストタウンだらけに/パッピーブログ
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  中国バブル破綻の象徴=オルドスの鬼城(ゴーストタウン)
  の隣も。パオトウ東河区の開発区もバブル破裂、責任者ふた
  りが自殺の悲惨。内蒙古省オルドスに現れた「鬼城」(ゴー
  ストタウン)は世界のマスコミが報じた。百万都市ができて
  役所、学校、商店街、医院、ショッピング・アーケードに映
  画館。ブラジリア並みと騒がれて、世界の取材陣が飛んだ。
  「ところが住んでいる人はいない」と『タイム』誌がカラー
  グラビアで特集・報道した。オルドスは人口が150万。新
  開発区は、隣接する砂漠に建設した新造都市で、カンバシ区
  (康巴什区)。旧市内からバスで一時間ちかくかかる。もと
  もと高度成長にともなって需要がのびた石炭で、内蒙古省の
  パオトウからオルドスの景気が沸騰し、おまけにレアメタル
  相場が三十倍に跳ね上がり、「石炭成金」と「レアメタル成
  金」。「さぁ、次は新都心建設で儲けよう」とかけ声も勇ま
  しく、地元の起業家や行政側が強気の読みをしたのも無理は
  なかった。2003年頃から建設が始まり、07年頃までの
  地盤改良と造成期間だから土地の価格が上昇し続けていた。
  http://mituo-sangakukai-happy.at.webry.info/201206/article_109.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

中国/オルドス市の鬼城.jpg
中国/オルドス市の鬼城
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2013年04月01日

●「資本主義の毒で資本主義を制する」(EJ第3517号)

 3月29日付の日本経済新聞夕刊と、翌30日付の日本経済新
聞にそれぞれ次の見出しの記事が出ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎2013年3月29日付/日本経済新聞夕刊
 中国製IT機器 調達制限/米政府サイバー攻撃に対抗
 ◎2013年3月30日付/日本経済新聞朝刊
 ソフトバンクのスプリント買収/米政府、条件付き認可方針
―――――――――――――――――――――――――――――
 この記事は何を伝えているのかというと、3月26日に成立し
た暫定予算法において、「中国製のIT機器の政府調達を制限す
る」という条項を盛り込んだという内容です。
 30日の記事は、ソフトバンクの米携帯電話会社第3位のスプ
リント・ネクステルの買収を条件付きで認めるという内容です。
ソフトバンクはネクステルを買収したのですが、米政府から一時
ストップをかけられていたのです。それを「米国では、中国メー
カーのネットワーク機器を使わない」ことを条件にネクステルの
買収を認める方針というのです。
 それは中国によるサイバー攻撃に中国製のIT機器が関わって
いると判断しているからです。もちろん中国は、サイバー攻撃を
否定し、中国企業を差別するのは、米中の相互信頼のためになら
ないと強く抗議していますが、オバマ大統領も中国の関与を明言
しているのです。
 このように、中国は米国や日本をはじめとする西側諸国にとっ
て確実に脅威になりつつあります。それはサイバー攻撃を含む軍
事面のみならず、経済の面でも脅威になってきています。
 2000年当時、中国のGDPは日本のわずか4分の1に過ぎ
なかったのです。しかし、10年後に日本を抜いて世界第2位に
なるや、2011年には米国のGDP規模の48・4%と半分近
くに達したのです。そして、早ければ2017年には米国をも上
回って世界一の経済大国になるといわれているのです。おそらく
習指導部は最初の任期5年のうちに「世界1位の経済大国」の座
を得るシナリオを描いているはずです。
 しかし、中国の経済成長は習政権の描くシナリオ通りに果たし
て進むでしょうか。
 このテーマになってから、中国経済に関する本を多く読んでい
ますが、それを読む限りにおいて、中国経済の現状は非常に厳し
いものがあり、とても4〜5年後に米国経済を抜いて世界一の経
済大国になれるとはとても思えないのです。
 ところで、石平氏が副島隆彦氏との対談で、とても興味あるこ
とを述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 石平:中国人はこのことを正当化するためのよい理論を持って
    います。昔、西欧列強が外国に出て植民地をつくって、
    植民地から搾取して原始資本を蓄積したのです。今や、
    中国は外へ出て、植民地をつくれません。唯一できるこ
    とは、外国資本を中国の中に誘い込んで、徹底的に搾取
    することです(笑)。そもそも、「外国が持っている資
    本は、われわれ中国人から搾取して儲けたものだ」と、
    中国人は考えているのです。大体、マルクスの経済学理
    論をよく勉強しているのも中国人です。
 副島:それはそうですね。中国人がいちばんマルクスを勉強し
    ていると思います。
 石平:中国の市場を誘い水にして、世界中の資本を中国に誘い
    込みました。「中国の中に入ったら、もう、お前たちの
    自由にはならない。もうこちらの思うままになるしかな
    い」というのです。要するに、「囲い込み」による搾取
    です。           ──副島隆彦/石平共著
     『中国崩壊か繁栄か!?/殴り合い激論』/李白社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の成長を信じる人は、量の拡大を求めた成長パターンには
限りがあっても、中国には13億人の人民がおり、それらに向け
て内需拡大政策を取れば、中国は長期間にわたって成長を継続で
きると考えていると思います。
 しかし、「13億人市場」といっても、中国のGDPに対する
個人消費の寄与度は30%台と低く、それに深刻な所得格差問題
が中国の内需拡大を阻んでいるのです。
 多くの国は中国の「13億人市場」に魅力を感じています。こ
れだけの巨大な市場があれば、進出企業は潤うはずです。日本の
巨大企業などは真っ先に中国に誘い込まれましたが、今やがんじ
がらめに押え込まれ、抜け出せなくなっています。まさに石平氏
のいう通り、中国に囲い込まれ、搾取されている状態です。
 李克強首相も「巨大な内需が中国経済にとって有利な条件を作
る」と明言していますが、そのためには中国の個人消費のレベル
を日米並みのGDPの60〜70%にする必要があるのです。し
かし、それを実現することはきわめて難しい状況です。
 とくに共産党や政府の幹部と家族ら、20%の既得権益層が富
の80%を握るとされる超格差社会においては、国家の成長を支
えるほど大衆の個人消費が爆発的に伸びる段階にはほど遠い状況
なのです。
 中国人民銀行などが2012年12月に公表した所得格差を示
す「ジニ係数」は、2010年に0.61 なのです。世界平均の
0.44 を大きく超えているのです。1に近いほど格差が大きく
0.4 を超すと社会不安の要因にもなっているのです。
 中国経済について考えるとき、注意しなければならないことは
中国が共産党一党支配の独裁国家であることです。しかし、われ
われは、そのことがわかっていても、どうしても欧米先進国の経
済と比較してしまうものです。
 ヒラリー前国務長官はこういっています。「中国は20年以内
に最貧国になる」、と。中国の現況を調べてみると、この言葉が
非現実的であるとはいい切れないものがあります。それほどの不
合理が中国にあるのです。      ── [新中国論/15]

≪画像および関連情報≫
 ●中国経済の現状は輸出減で崩壊から破綻へ?GDPの嘘
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国政府が発表する経済成長率は、このブログでも何度か投
  稿してきたが、本当にデタラメも甚だしい。もっとも解りや
  すい例を言えば、日本より2倍も輸出に頼っている国が、こ
  の経済危機の中、6%程度の経済成長を発表しているのだ。
  2009年の春先に日本が年率換算でマイナス12%の大幅
  な落ち込みを記録したのに、中国はプラス6%台???中国
  と同程度の輸出率の韓国ではマイナス20%。同じく台湾で
  もマイナス19%を記録してしまったのだ。欧米諸国や日本
  で、急激な消費落込みの事実があるにもかかわらず、日本が
  誇るハイテク品より、安価な日常生活品のほうは影響なかっ
  たというのか?貿易黒字の8割を占めてきた米国の消費衰退
  にもかかわらずだ。普通に考えると、おかしいと思うのが当
  然だろう。中国の経済数字は、GDP成長の増減比較につい
  ても先進国で一般に出される前期比ではなく、前年同期比を
  発表している。欧米の研究機関や国際機関が、電力などのエ
  ネルギー需要の落ち込みとGDPプラス成長の矛盾を指摘し
  ている通り、中国の数字は矛盾に溢れ返っている。
           http://yaplog.jp/hillser/archive/247
  ―――――――――――――――――――――――――――

中国評論家/石平氏.jpg
中国評論家/石平氏
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2013年04月02日

●「実質経済成長率で日本は世界2位」(EJ第3518号)

 中国の経済統計、とくにGDP統計には問題がある──現職の
李克強首相がいっている言葉です。これについては既に検証して
いるように、電力消費量や貨物輸送量の推移データと矛盾するの
です。つまり、数字に何らかの操作が加えられているのです。
 2010年に日本は、その疑問の残るGDPデータで世界2位
の経済大国の座を奪われているのです。順位を決めるのは名目G
DPです。名目GDPは物価変動分を入れた数字ですから、イン
フレの中国では有利であり、デフレで物価が下落している日本は
不利になります。2010年はそういう年であったのです。
 したがって、真の経済力を比較するには、日中の物価変動分を
差し引いた実質GDPのドル換算値で比較すべきです。そこで、
2000年のドル価格をベースとし、物価変動分をのぞいて実質
経済成長率で比較すると、日本は中国に対して相当大差をつけて
います。つまり、日本は現在も実質経済成長率で世界第2位の経
済大国のままなのです。(添付ファイル参照)
 もし、中国が実質経済成長率でも日本を抜くには、年7%の成
長を続けたとしても6年以上かかる計算になります。日本は現在
でも、経済では中国に負けていないのです。
 これまで中国は、次の2つのことで、実質成長率を上昇させて
きたのですが、現在では2つとも赤ランプが灯っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.輸出政策
           2.投資主導
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の「輸出政策」ですが、現在大きく減速しています。最大
の原因は欧州経済危機が影響しています。それに人民元の対ドル
高も輸出促進にブレーキをかけています。
 第2の「投資主導」は、今までそれを担ってきた地方政府は、
不動産バブルの崩壊に伴う巨額不良債務によって、身動きが取れ
なくなってきており、投資は失速気味です。
 このように輸出と投資が不振では、中国は現在の経済統計が仮
に正しくても、中国が日本を実質経済成長率で抜くのは、容易な
ことではないのです。
 産経新聞特別記者の田村秀男氏は、日中の順位逆転に関して次
のようにそのからくりを明らかにしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国のドル換算GDPは名目と実質でどうしてこうも開きが出
 るのだろうか。答えは中国のインフレと人民元の対ドル高であ
 る。GDP全体の物価指数である「GDPデフレーター」は、
 11年までの10年間で58%上昇し、人民元の対ドル相場は
 28%強、切り上がった。これだけで中国の名目GDPは86
 %も膨らむことになる。逆に日本の場合、GDPデフレーター
 はこの間で13%も下がった。その分、日本の名目GDPが縮
 小する。2000年当時の名目GDPは中国の4倍もあったの
 に10年後に追い抜かれてしまったのである。
   ──2012年11月2日付、ZAKZAK/田村秀男氏
                   「お金は知っている」
―――――――――――――――――――――――――――――
 戦後日本経済が急速に伸びたのは、国民全員が一生懸命働いた
からです。しかし、中国の人の考え方は日本人とかなり異なるの
です。石平氏によると、中国人には次の考え方があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      人の上に立つ人間は肉体労働をしない
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国には「科挙制度」という制度が隋の時代から清の時代まで
行われていたのです。この制度は、高級官僚登用試験のことであ
り、古典の教養、経学、文学、政治などの学力がチェックされ、
合格者は高級官僚になれたのです。
 しかし、この制度は厳しい身分社会が出現するとして、清の時
代の1905年に廃止されています。日本でも科挙に似た公務員
試験制度があり、それが官主導社会の一因になっています。
 この考え方があるので、中国の場合は、大学を卒業し、自分が
能力があると思い込むと絶対に人の上に立とうとするのです。し
たがって、民間企業に入社しても、その企業に長くいて、会社を
発展させようとせず、経営者になろうとする人が多いのです。
 しかし、起業で成功する人はほんの一部なのですが、自分で能
力があると信じている人は、人の上に立とうとし、日本でいうと
ころの「宮仕え」をしようとする人が少ないのです。
 そのせいか、中国人の行動様式をみると、ひとつのところに落
ち着いて、同じ産業に従事する人が少ないことがわかります。そ
のため、企業の歴史が浅いのです。日本では200年以上続いて
いる企業は2500社もあるのですが、中国では150年以上続
いている企業は5社しかないそうです。中国の企業の平均寿命は
わずか2年半であるといわれています。創業が古い3社を上げる
と、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.「六必居」 ・・・    16世紀創業の漬物屋
  2.「張小泉」 ・・・ 17世紀創業のハサミ製造業
  3.「同仁堂」 ・・・         漢方薬店舗
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国では、たとえ大企業の社長であっても、オーナーでない社
長は評価されないのです。オーナーでない雇われ社長は「打工」
と呼ばれるのです。打工というのは、アルバイトと同じという意
味です。
 中国では、国営企業が企業の多数を占めますが、国営企業には
コネがないと入れないのです。中国人にとって国営企業は特別の
存在なのです。そこで、本当に実力のある学生は外国企業に行き
ますが、その他の企業といえば、非常に条件が悪い環境で働かざ
るを得ないのです。しかし、大学卒の若者は自分はエリートだと
思っているので、肉体労働をしてまで働こうとしないのです。
                  ── [新中国論/16]


≪画像および関連情報≫
 ●中国における大学生の就職現状/富士通総研
  ―――――――――――――――――――――――――――
  寒さが増している中、日本では就職シーズンが始まった。先
  日発表された来春卒業予定の大学生の就職内定率は63・1
  %で(2012年10月1日の時点)、2年連続で上昇した
  ことが分かった。日本経済の長期停滞と景気不況で、就職氷
  河期と言われている中、明るい兆しが見えてきている。しか
  し、隣の中国の大学生の就職事情を見ると、実は経済の高度
  成長にも関わらず、2003年から大学生の就職難が続いて
  いる。中国では大卒者の就職率が大体7割前後と公表されて
  いる。2013年の大卒者は700万人近くと言われ、修士
  進学や海外留学等を除いて考えると、来年仕事が見つからな
  い大卒者はその15%前後で、約100万人に上る。本当に
  恐ろしい数字である。去る11月25日に中国国家公務員試
  験が行われた。就職難も背景にあり、この国家公務員試験は
  2004年から8年間で申込者も受験者も10倍までに拡大
  した。今年での受験者は110万人を超え、前年比で15%
  %増となり、過去最高になった。一方、採用可能なポストは
  2万人に過ぎず、競争は非常に厳しい。
http://jp.fujitsu.com/group/fri/report/china-research/topics/2012/no-162.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

日中のドル換算実質GDP比較.jpg
日中のドル換算実質GDP比較
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2013年04月03日

●「国家資本主義の国営企業の近未来」(EJ第3519号)

 現在の中国の経済モデルは「国家資本主義」といわれています
が、どのような特色を持っているのでしょうか。現代中国研究家
の津上俊哉氏の本からまとめると、3つの特色があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.政府および国有企業(広い意味での官)が多くの経済資源
   と富を支配・所有している。
 2.政府に広範かつ強力な許認可権限と莫大な予算が集中して
   資源の配分を制御している。
 3.政府は審判であると同時に執行者であり、多くの基幹産業
   を国有企業が独占している。
  ──津上俊哉著「中国台頭の終焉」/日経プレミアシリーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は2010年頃から西側先進国の間では、国家資本主義が大
きな関心の的になっていたのです。なぜなら、資源エネルギー、
メディア、金融、インフラ開発などの分野では新興国を中心に国
営企業の進出が激しいからです。なかでも中国の国営企業のプレ
ゼンスは目立っていたのです。
 英エコノミスト誌は、株式市場においても国営企業のプレゼン
スが大きくなっていることを伝えています。中国株式市場では時
価総額の80%、ロシア市場でも時価総額の60%を国営企業が
占めているのです。
 リーマンショック後において、カバナンスやコンプライアンス
によってがんじがらめにされた先進国の企業のCEOは、中国を
はじめとする国営企業の怒涛のような進出に、一種の「羨望感」
すら抱いていたのです。
 前参議院議員の田村広太郎氏は、先進国の民間企業の悩みにつ
いて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 先進国の民間企業は、新興国の国営企業を真似することはなか
 なかできない。執行役と取締役が分離され、強力なガバナンス
 の下にある。株式市場は短期での業績向上を求めるため、目先
 の損失を気にすることなく、長期戦略を考えるのは難しい。世
 界の英語メディアの中には、「先進国の純粋な民間企業は、も
 はや新興国の国営企業にかなわないのではないか」との論調も
 ある。なぜなら、先進国の民間企業はリーダーシップをどんど
 ん失っているからだ。数々のスキャンダルが明るみに出て、そ
 の対処療法としてガバナンスを強化した結果、欧米の大企業は
 民主的になりすぎた。この結果、経営者はリーダーシップとオ
 ーナーシップを同時に失いつつある。
    ──「国家資本主義に“羨望”を感じる欧米CEO」/
 田村耕太郎の「経世済民見聞録」/日経ビジネス・オンライン
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに西側先進国企業のCEOは、企業経営に窮屈感を感じて
いることは確かなようです。何かというと、コンプライアンスの
遵守が叫ばれ、執行役と取締役の分離によるガバナンスの強化、
それに透明性の向上と、四半期ごとの厳しい業績のチェックをク
リアしなければならないからです。
 さらに多くの企業では、社外取締役がいて、それが外国人であ
るケースも多いのです。企業のCEOは、そういう社外取締役を
含めて、強いリーダーシップを発揮しないと、意図する経営が困
難になるという事態も考えられるのです。
 しかし、田村耕太郎氏は、新興国の国家資本主義は、曲がり角
にきていることを指摘しています。その理由として3つのことを
上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.国営企業で国際ブランドを構築できた企業は存在しない
 2.国営企業には非効率な資金の運用や腐敗の可能性がある
 3.国営企業の待遇は破格であるが、優秀な人材がとれない
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は、「国営企業で国際ブランドを構築できた企業は存在し
ない」ということです。
 国営企業の場合、技術や人材を買って、一気に製品をコピーす
るのは上手なのですが、次のブランドにつながるイノベーション
が起こせないのです。イノベーションは、機動的な小さい組織の
方が生まれるのです。
 第2は、「国営企業には非効率な資金の運用や腐敗の可能性が
ある」ということです。
 ロシアのプーチン大統領の個人資産は実に5兆円といわれてい
ます。これだけの巨額な個人資産は、国営企業を通じて作られた
ものといわれます。独裁には腐敗がつきものなのです。なぜなら
国営企業は国民のチェックを受けない企業なのです。
 国家資本主義の国では、欧米の自由主義国で経験を積み、高度
なスキルを持つ人材と、政府高官との間で経営をめぐる深刻な対
立が生まれているといいます。これは、中国だけでなく、中東や
シンガポールでも見られる現象です。
 第3は「国営企業の待遇は破格であるが、優秀な人材がとれな
い」ということです。
 優秀な人材は自由な環境において育つものです。そういう意味
において、何かと制約の多い環境に好んで長くいる人材は少ない
のです。したがって、外部からどんなに優秀な人材を連れてきて
も、その能力をフルに発揮できないのです。
 また、国営企業を重視する国は、国営企業に低利で融資する関
係上、国民が受け取る利息が低く抑えられており、配当すらしな
い企業も少なくないのです。そのため、国営企業がどんなに利益
を上げても、国民には直接の恩恵はないのです。
 また、中国のように、生産を過熱させるために大気汚染の酷い
環境になったりして、国民が豊かさを実感し、安心して住める環
境ができにくいのです。こういう国では優秀な人材が定着せず、
流出してしまう可能性が高いのです。このように、国家資本主義
は明らかに大きなかべに突き当たっているのです。そのため、内
需を増進させられないのです。    ── [新中国論/17]

≪画像および関連情報≫
 ●国家資本主義の中国/地場・旬・自給
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国が世界の経済の牽引に成っている。ということが言われ
  る。中国14億の人口の動向が世界に大きな影響を与える。
  インド、パキスタン、バングラデッシュは中国を凌駕する人
  口で、これから世界経済に強い影響を与え始めるだろう。そ
  れはどちらかと言えば、負の影響だと考えられる。今膨れ上
  がる人口を背景に消費が増加する。その需要と、より安い労
  働力を期待して、進出するグローバル企業。資本主義経済が
  崩壊する過程で、自国を空洞化しながら、発展途上国に進出
  する企業形態。遠からずその構造も崩壊すると考えておいた
  方がいいだろう。エネルギー使用の増大。食糧生産の限界。
  近い将来全体の経済構造が大きく変わると見ておかなければ
  ならない。経済が下り坂になれば競争はさらに深刻に激しく
  なる。韓国のように、グローバル企業を絞り込み、国家とし
  て一体化して競争を勝ち抜く方法を取る国は増えるだろう。
  韓国は様々な国内の問題を、切り捨ててこの先鋭化に突き進
  むことを選んだようだ。そして、一定の成功と、国内には深
  刻な問題を内包しているはずだ。
  http://blog.goo.ne.jp/sasamuraailand/e/b61a442cde7dd9f1871cd45f3287005f
  ―――――――――――――――――――――――――――

田村耕太郎氏.jpg
田村 耕太郎氏
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2013年04月04日

●「北京コンセンサスの終わりの始り」(EJ第3520号)

 民主主義というのは、何かを決めるとき、時間がかかるものな
のです。しかし、それが大切なのです。それが民主主義のコスト
なのです。
 野田内閣のときに「決められる政治」という言葉が流行したの
です。これもひとつのことを決めるのに時間がかかることにイラ
ついて、野田首相率いる民主党は、敵方の自民党と「消費増税」
で手を結び、この法案を強引に成立させ、民主党という党を台な
しにするという信じられない愚かな決断をしてしまっています。
 ところで中国では、国家資本主義を取るに当り、1997年の
共産党第15回党大会では次の方針を立てていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国家安全や自然独占のような業種では国有企業を残すが、競
 争産業からは国有資本を退出させる。
 ──津上俊哉著「中国台頭の終焉」/日経プレミアシリーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国は、この時期に経済を計画経済から市場経済に切り換えつ
つあり、国有企業の改革に本気で取り組んでいたのです。そのた
め、この党大会ではかなりまともなことを宣言しています。これ
を「国退民進」といいます。
 もっともこの時期は、税収がさっぱり増えず、中央政府の財政
は逼迫し、カネがなかったのです。経済を成長させるには投資が
必要ですが、その肝心の資金がなかったのです。そのため、「国
退民進」をするしかなかったといえます。
 しかし、それから15年が経過して、とくに10%以上の成長
が続いた過去数年間で、政府には潤沢な税収や土地の払い下げ収
入が入ってくるようになったのです。国有企業も株式上場で、資
本市場からの資金調達ができるようになって、内部留保も増大し
つつあったのです。
 ちょうどこの時期、とくに2008年のリーマンショック以来
欧米経済は退潮し、中国をはじめとする新興国の国家資本主義が
台頭し、市場経済を押えて優位に立ったかに見える論調があらわ
れるようになったのです。なお、この論調のことを、それまでの
「ワシントンコンセンサス」に代わって、「北京コンセンサス」
というのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ブリュッセル現代中国研究所のジョナサン・ホルスラグ研究主
 任の定義によれば、北京コンセンサスとは、経済発展を国家の
 至上課題とし、国家の安定を保ちながら政府が積極的に成長促
 進策を取ることを指す。その考えの下では、経済運営の手綱は
 政府が握り、特に金融セクターは厳しい監督下に置く。エネル
 ギーセクターの研究開発も政府の指導のもとに実施される。ま
 た、貿易による国際市場からの恩恵は受けつつも、場合によっ
 ては輸入制限も辞さず、政府の調達対象も限定する。これらは
 自由市場ならびに金融の自由化を旨としたワシントンコンセン
 サスとは対極の考え方と言える。
 http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20090507/beijing_consensus
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、中国共産党は、カネが入って来るようになると、豹変
したのです。第15回党大会の理念であったはずの「国退民進」
は完全に忘れ去られ、「国進民退」になってしまったのです。
 とくにリーマンショック対応の2009年の4兆元投資の膨大
な資金のほとんどが国有企業の懐に収まってしまってからは、も
はや歯止めの効かない官の増殖がはじまったのです。
 中国の企業は生産性を高め、付加価値を増大させていかなけれ
ばならないのに、「親方日の丸」ならぬ「親方五星紅旗」をはび
こらせている──津上俊哉氏は自著のなかで、このように述べて
います。また、中国の国有企業について、津上俊哉氏は次の問題
点を指摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国有企業は共産党組織部の人事でトップが決まる、周囲に情実
 がつきまとっているせいでコスト管理が甘い、中央直轄企業は
 巨大すぎてガバナンスが働かない等々、利益水準が低い理由は
 枚挙に逗がない。そういう効率の低い国有企業セクターが肥大
 化する中国経済の先にはいかなる結末が待っているかは中学生
 でも分かる。次第に成長力を失って失速し始めるはずだ。
  ──津上俊哉著「中国台頭の終焉」/日経プレミアシリーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 米エール大学の陳志武教授は、116兆元と推定される中国の
国富の実に4分の3が、政府の手にあると指摘しています。つま
り、国富増大の資産効果のほとんどを政府が独占していることに
なります。つまり、分配という観点から中国経済を見ると、最大
の勝ち組は政府なのです。
 それは、国有の土地の資産価値が急激に増大したことに加えて
銀行をはじめとする国有企業が続々と上場を果たし、莫大な上場
益が政府の懐に入ったからです。
 陳志武教授は、中国経済は投資が過剰で、輸出に過度に依存し
サービス産業は発育不全で、消費が弱いと指摘していますが、こ
のままでは、今後数年の間に中国経済はハードランディングせざ
るを得ないと警告しています。もし、ハードランディングすれば
GDPは大幅に減少することになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2012年4月25日、アメリカイェール大学の陳志武教授は
 数年後に中国経済がハードランディングする可能性は非常に高
 いと指摘した。陳志武教授は、中国経済が2012年にハード
 ランディングする可能性は低いとしながらも、今後5〜10年
 以内にハードランディングする可能性は8割から9割に達する
 と予測している。仮にハードランディングが発生した場合、金
 融危機に発展する可能性が高く、その場合はGDPも大幅に減
 少すると警告した。       ──ライブドア・ニュース
―――――――――――――――――――――――――――――
                  ── [新中国論/18]

≪画像および関連情報≫
 ●「北京コンセンサス」の終わり/Foreign Affairs Update
  ―――――――――――――――――――――――――――
  一般に途上国の一人当たりGDPが3000〜8000ドル
  に達すると、経済成長は頭打ちになり、所得格差が拡大して
  社会紛争が起きがちとなる。中国は、すでにこの危険水域に
  入っており、すでに厄介な社会兆候が現れている。要するに
  国の経済は拡大しているが、多くの人々は貧しくなったと感
  じ、不満を募らせている。特権を持つパワフルな利益団体や
  まるで企業のように振る舞う地方政府が、経済成長の恩恵を
  再分配して、社会に行きわたらせるのを阻んでいるからだ。
  経済成長と引き替えに共産党の絶対支配への同意を勝ち取る
  中国共産党(CCP)の戦略はもはや限界にきている。CC
  Pが経済成長を促し、社会的な安定を維持していくことを今
  後も望むのであれば民主化を進める以外に道はない。
  http://www.foreignaffairsj.co.jp/essay/201003/Yao.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

陳志武イェール大学教授.jpg
陳志武イェール大学教授
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2013年04月05日

●「中国国有企業の実態はどうなのか」(EJ第3521号)

 津上俊哉氏の本から、中国の国有企業のデータの一部をご紹介
します。中国の国有企業の富の配分の一端を示すデータです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           社数 資産総額    売上  利益
      全企業           1121429 73714
    全国有企業 144700  854000   392500 25800
   中央直轄企業   117  608048   342653 20821
              資産総額/売上の単位:億元
 ─津上俊哉著「中国台頭の終焉」/日経プレミアシリーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の国有企業の中心に、国有資産管理監督委員会──国資委
が直轄する117社の中央直轄企業があります。この117社の
中央直轄企業の企業業績は上記の通りですが、全国有企業に対す
る割合を示すと、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
        資産総額 ・・・・ 71%
        売上総額 ・・・・ 87%
          利益 ・・・・ 81%
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、この117社は「国有企業のなかの国有企業」といわ
れ、全国有企業の富の大半を占める典型的なロング・テール構造
になっている──このように津上俊哉氏は述べています。
 この中央直轄企業は、1990年代までは中国経済の弱点であ
るといわれていたのです。赤字経営、債務の返済不能、経営効率
の悪さと余剰人員、社会的負担などさまざまな問題を抱え、どの
ようにして、社会的動揺を招かないようにこれに大ナタを振るう
かが課題とされてきたのです。
 ここで、ちょっと話が横道にそれますが、イアン・ブレマーと
いう米国の経済学者をご存知でしょうか。
 イアンの頭脳明晰さは際立っていて、24歳のときに、名門ス
タンフォード大学で政治学の博士号を取得したのです。天才経済
学者といわれるローレンス・サマーズ氏ですら、ハーバード大学
で博士号を取ったのは27歳のときなのです。
 イアン・ブレマー氏が「世界経済フォーラム(ダボス会議)」
について、面白いことをいっているのです。ダボス会議には、米
国と中国が顔を出していないのですが、その理由について、次の
ようにいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国は、国際会議にノコノコ出てきて、そこでヨーロッパ人に
 民主主義や資本主義について説教されるのが嫌なんです。アメ
 リカは、自分でルールを作るのが大好きなので、ヨーロッパ人
 が主催する舞台にわざわざ参加する気があまりない。今年の会
 議では、日本が大きな存在感を示しましたが、世界で最も影響
 力を持つ中国とアメリカのプレゼンスがない場所だということ
 は覚えておいた方がいいでしょう。 ──イアン・ブレマー氏
     http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35113?page=2
―――――――――――――――――――――――――――――
 そのブレマー氏は、これまで中央直轄企業の課題解決に四苦八
苦していた中国について、西側陣営に次のように警告を発してい
るのです。中国の「国家資本主義」が西側自由主義陣営の脅威に
なりつつあるという指摘です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国は国家の利益を追求するために国有企業を経済に関与する
 手段として使っているとして、中国の体制を「国家資本主義」
 と名づけた。そして「国家資本主義」のモデルがロシア、中東
 アフリカにも広まりつつあり、アメリカなど西側自由主義陣営
 の脅威になりつつある。      ──イアン・ブレマー氏
            ──丸川知雄東京大学教授の論文より
 「中国の国有企業/「問題」から「パワー」に転換したのか」
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、中国が1990年代後半からの実施した国有企業改革の
理念を忘れずに「国退民進」を現在も続けていれば、イアン・ブ
レマー氏が指摘するように、その経済モデルは西側陣営の脅威に
なっていたと思われます。欧米諸国の経済が好調でないため、余
計にそれが目立ってしまうのです。
 しかし、企業業績が好調になり、多くのカネが入って来るよう
になると、国有企業の経営陣がお手盛りで高給を取るなどの無駄
遣いや、公費を私物化するなどの腐敗が進み、それが社会の批判
を浴びるようになっているのです。
 今年の全人代で「腐敗の防止」が何回も強調されていましたが
全人代に集まっている共産党幹部自身がそういう腐敗を起こして
いる当事者なのです。彼らまたはその家族は、国有企業に何らか
のかたちで関わっており、甘い汁を吸っている幹部が多くいるの
です。したがって、それができなくなる改革を進んでやるはずが
ないのです。つまり、既得権益を守ろうとするからです。
 国有企業を所管する国有資産管理監督委員会(国資委)は、最
初のうちこそ「国退民進」を行っていましたが、現在では「国家
企業権益」の代弁者として、国有セクターのダウンサイジングに
反対する存在になっています。
 しかし、どこの国にもいえることですが、国有企業というもの
は、効率の良くない企業なのです。マサチューセッツ工科大学ス
ローン・スクールの華人教授である黄亜生氏によると、国有企業
が借り入れている銀行融資の利息を民営企業の水準まで引き上げ
たらどうなるかという試算をしているのです。
 それによると、国有企業の利潤はほとんど消えてしまうといわ
れます。特権や市場独占に擁護されている国有企業は、銀行利息
程度の利益しか出せないことを意味しているのです。中国は今こ
そ「民」でできることは「民」にやらせる民営化を進め、「国退
民進」を進めないと、収入分配が悪化し、国を衰退させる要因に
なると思われます。         ── [新中国論/19]

≪画像および関連情報≫
 ●国有企業の負の遺産を清算できるか/日経ビジネスO
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国の大手国有企業が抱える「負の遺産」に関する記事をお
  届けします。1990年代後半に市場経済が本格的に導入さ
  れるまで、中国の国有企業は従業員とその家族の教育、医療
  年金などを政府に代わって丸ごと面倒を見ていました。そこ
  に改革のメスを入れたのが朱鎔基前首相です。90年代末か
  ら2000年代初めにかけて、営利事業と非営利事業の分離
  や地方の国有企業の民営化などが大幅に進みました。しかし
  「国有企業の中の国有企業」と呼ばれる中央企業(中央政府
  直轄の大手国有企業)では、抜本的な改革が今日まで先送り
  にされてきました。政府の保護で経営基盤が安定していたこ
  ともありますが、中国経済の急成長とともに業績がどんどん
  拡大し、危機感に乏しかったことも大きいと思います。中央
  企業を所管する国資委が、今このタイミングで負の遺産の精
  算加速を打ち出した狙いはどこにあるのか。ことによると、
  中央企業のなかには経営が見かけよりもずっと脆弱で、ひと
  たび景気が減速すればたちまち窮地に陥るところが少なくな
  いのかもしれません。今や世界中で資源や企業を買いあさっ
  ている中国の国有企業ですが、その実態を慎重に見極める必
  要がありそうです。
  http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110218/218487/
  ―――――――――――――――――――――――――――

イアン・ブレマー氏.jpg
イアン・ブレマー氏
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2013年04月08日

●「中国のバブルは既に破裂している」(EJ第3522号)

 中国経済に何が起きているのでしょうか。今回は、経済評論家
の三橋貴明氏の所説を中心にその核心に迫ることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 石平×三橋貴明著
 『中国経済がダメになる理由/サブプライム後の日中関係を
 読む』/PHP
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国経済は、そもそも何によって発展をはじめたのかといえば
1998年7月の住宅建設の加速宣言です。このとき、中国の国
務院は、次の告知を行ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  都市住宅制度改革をさらに進化させ住宅建設を加速する
                 ──中国国務院の公表
―――――――――――――――――――――――――――――
 それまで中国では自分で住宅を持つことが基本的に許されてお
らず、政府や国有企業から住宅を賃貸の形式で分配されていたの
です。これを「住宅分配制度」といいます。
 1998年7月の中国国務院の公表は、この住宅分配制度を廃
止し、個人でも住宅を取得することを認めたのです。ただし、都
市住民に限っての話です。
 今まで制度によって持てなかった住宅を取得することが認めら
れたのですから、中国で爆発的な住宅ブームが起こったのは当然
のことです。これによって、不動産投資は活性化し、それが10
年間続いたのです。
 もうひとつ中国経済を活性化させたのは「純輸出」です。純輸
出とは、輸出から輸入を差し引いたものをいいます。中国の場合
は、その差がプラスになる貿易黒字の状態が続いたのです。
 このように、これまで中国の経済成長を支えてきたのは、次の
2つなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.    純輸出(貿易黒字+サービス収支の黒字)
  2.総固定資本形成(住宅投資や企業の設備投資など)
―――――――――――――――――――――――――――――
 添付ファイルに2つのグラフがあります。上の棒グラフ「中国
の名目GDP増加分百分比」を見てください。2004年までは
総固定資本形成(住宅投資など)が圧倒的で、純輸出は10%程
度にしか過ぎなかったのです。この時期は住宅投資や企業の設備
投資を中心とする投資が経済を牽引していたのです。
 しかし、2005年以降は明らかに純輸出が増えています。投
資と純輸出でGDP増加分の60%を占めています。つまり、中
国経済は、2007年までは投資と純輸出という2本の柱がうま
く噛み合って、経済を支えていたのです。
 整理してみましょう。まず、住宅分配制度の廃止によって、住
宅建設がブームになり、不動産投資が活性化したのです。これに
伴い、企業の設備投資が増えて、GDPが拡大し、経済成長率を
高めることによって、株価の上昇が始まったのです。株価上昇は
企業にマネーを提供し、それがさらに投資の拡大をもたらすこと
によって、経済は急速に成長したのです。
 設備投資が拡大したことによって、企業の生産力が増強され、
これによって、主として欧米向けの輸出が拡大します。輸出の拡
大は純輸出を押し上げ、GDP経済成長率をさらに高めるこにと
になります。
 このように経済成長率が高まると、海外からの中国への投資が
増えて、それが不動産価格と株価を押し上げる要因になり、それ
によって得られたマネーがさらに不動産投資と設備投資に費やさ
れることになります。
 この不動産投資が株価を押し上げ、それによるマネーで企業の
設備投資が進み、その設備をフル稼働させて純輸出が進み、それ
が株価を押し上げ、経済成長率が伸びる──この良い循環が20
07までは続いたのです。
 しかし、2008年になってその良い循環のすべてが吹き飛ぶ
大異変が起きたのです。リーマンショックです。経済評論家の三
橋貴明氏は、これを「4つのバブルの崩壊」と称しています。4
つのバブルとは、不動産、株式、輸出、成長率の4つです。
 しかし、リーマンショックによって米国を中心に世界中の経済
主体が打撃を受けて苦吟するなかにあって、中国だけは「ひとり
勝ち」の様相を呈していたのです。その格好の隠れ蓑になったの
は、2008年に開催された北京オリンピックであり、2010
年の上海万博です。
 この隠れ蓑によって、世界中の人々が中国の恐るべき成長力に
目を見張ったのです。そういう中国が日本を抜いて世界第2位の
経済大国になり、尖閣諸島に牙をむいて迫ってきた。これは大変
なことになる──このように多くの日本人はとらえていますが、
そのとき中国の経済は大変なことになっていたのです。
 まず、2007年10月に株価に大きな異変が生じます。中国
の代表的な株価指数が大暴落をはじめたのです。それは「雪崩を
打つ」という言葉に相応しいほどの大暴落だったのです。
 添付ファイルの下の線グラフを見てください。これは日経平均
と上海総合株価指数について、それぞれのピークからの下落率を
示したものです。日経平均は、1989年12月の3万8915
円、上海総合株価指数は、2007年10月の6124ポイント
からの下落の状況を示したものです。
 日経平均は、比較的緩やかなペースで下落し、30ヵ月目にし
て下落率が60%に達したのです。これに対して上海総合株価指
数は、1ヶ月目からマイナス22%、そして1年も経たない20
08年9月の時点で、下落率70%に達しているのです。それは
まさに真っ逆さまの下落です。
 この下落率の差は、日本がそのとき既に先進国としての歴史が
長く、経済も社会も成熟化が進んでいたのに対し、中国は新興国
であり、2007年時点でも1人当たりの名目GDPが、わずか
2500ドルにも達していないのです。── [新中国論/20]

≪画像および関連情報≫
 ●上海総合株価指数とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  上海総合指数は、中華人民共和国の上海市浦東新区にある上
  海証券取引所が公表している、人民元建てA株と外貨建てB
  株の両方に連動する日中価格パフォーマンスを表すインデッ
  クスをいう。1990年12月19日を基準日とし、その日
  の時価総額を100として時価総額加重平均方式で算出され
  る。本指数は、中国(本土)の株式市場の上場銘柄の値動き
  を示す代表的なインデックスであり、世界中で注目される株
  価指数の一つである。──「専門家の金融ナビゲーション」
   http://www.ifinance.ne.jp/glossary/index/ind065.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典
  石平×三橋貴明著『中国経済がダメになる理由』/PHP

中国経済統計.jpg
中国経済統計
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2013年04月09日

●「輸出と輸入の両方が落ち込む中国」(EJ第3523号)

 北京五輪──普通であれば、経済効果を高める一大イベントに
でなるはずであり、株価の上昇が見込めるものです。中国で株を
やっていた人は「北京五輪特需」に期待したと思います。
 しかし、中国の株価はペースを緩めることなく下落を続けたの
です。中国だけではないのです。ロシアでは中国を上回る速度で
株価は下落したのです。
 ロシア連邦の代表的株価指数RTS──ロシアン・トレーディ
ング・システムでみると、2008年5月の2500ポイントを
ピークとして、それから8ヵ月後には、その80%も下落してし
まったのです。
 そのとき、日本の経済評論家たちは、BRICs とか、デカッ
プリング論とかを展開し、米国経済が停滞しても、中国やインド
やロシアなどの新興国が高成長を維持しながら、世界経済を牽引
していくだろうという予測を立てていたのです。しかし、そうし
た幻想は、リーマンショックで一瞬にして吹き飛んでしまったと
いえるのです。
 株価の崩壊だけでなく、それは不動産価格にも及んでいたので
す。当初不動産価格は、北京、上海、深セン、広州などの主要都
市で対前年比で30%程度下落したのですが、2008年末には
全国的な不動産バブル崩壊が本格化したのです。
 2009年1月10日付の日本経済新聞は、「中国の不動産価
格、前年割れ」の見出しで次のように報じています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の不動産市況が一投と悪化している。国家発展改革委員会
 が9日発表した2008年12月の主要70都市の不動産販売
 価格は、前年同月に比べ0.4 %下落し、05年7月に現在の
 調査形式になってから初めてマイナスに転じた。景気減速で販
 売量が急減しているためだ。価格の下落が止まらなければ、不
 動産開発投資に急ブレーキがかかりかねず、中国政府は警戒を
 強めている。主要70都市の不動産販売価格の上昇率は、前年
 同月比で、08年1月に11.3 %のピークを付けたあと急速
 に落ち込み、前月比では8月以降、マイナスに転じていた。
         ──2009年1月10日付、日本経済新聞
   石平×三橋貴明著『中国経済がダメになる理由』/PHP
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、輸出はどうなったでしょうか。
 2008年12月の中国の貿易統計によると、中国の輸出は、
前年同月比で2.8 %減少し、2ヵ月連続のマイナスになってい
るのです。中国の輸出の2ヵ月連続マイナスは、1999年4月
以来、10年ぶりのことだったのです。
 ちなみに、2008年11月の米国の輸入は全体で12%減少
しています。中国からの輸入に絞ると、対前年比で57億ドル減
少しており、その減少率は16.8 %になっています。これは、
相当大幅な落ち込みであるといえます。
 これに加えて中国の場合は、輸出だけでなく、輸入も大幅に減
少しているのです。それにもかかわらず、純輸出は増大している
のです。純輸出とは「輸出−輸入」のことであり、これが増大す
るというのは、輸出額の減少以上に輸入額が大幅に減少している
からです。これは、中国の輸出産業全体が急速に縮小しているこ
とを意味しています。
 これによって中国の輸出企業は大打撃を受けたはずです。これ
までの輸出する製品を製造するための資本財の輸入を止め、生産
調整をせざるを得なくなるからです。輸入減少の主因はこれであ
ると考えられます。
 とくに中国の輸出全体の34%を占めている広東省では、膨大
な数の企業の倒産が相次いだのです。2008年1月から9月ま
でに7148社、10月以降は約67000社が倒産したといわ
れています。
 問題はこれによる失業者の数です。広東省や上海などの中国の
沿海都市周辺には輸出製造企業が多くあり、約2億人の農民工が
出稼ぎに来ていますが、それらの企業が輸出不振に陥ることによ
り、少なくとも2000万人以上の農民工が失業したものと思わ
れます。しかし、その正確な数は把握できていないのです。
 この結果を受けてですが、既に述べたように2008年第4四
半期の経済成長率は6.8 %に落ち込んでいます。しかし、20
08年の通年のGDPは9.0 %なので騙されてしまいますが、
中国の6%成長は衝撃的数字なのです。
 サププライム危機を予測したことで知られる米ニューヨーク大
学のヌリエル・ルービニ教授は、その数字にはこの時期の生産の
大幅な落ち込み分を含んでおらず、「世界に誤解を与える」と述
べています。この時期の電力生産の減少を考慮に入れると、実際
の成長率はマイナスの可能性があるというのです。
 このルービニ教授は、2011年6月に中国経済について次の
ように警告しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国は現在、純輸出だけでなく、固定資産投資への依存をます
 ます強めている。固定資産投資は国内総生産(GDP)の半分
 程度にまで拡大している。将来的に中国は2つの問題に直面す
 ることになる。銀行システムが抱える莫大な不良債権という問
 題、そして深刻な生産能力の過剰が2013年よりも後にハー
 ドランディングを引き起こすだろう。
                  ──ブルームバーグより
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国にとって失業率の高さは悩みの種なのです。中国は高度成
長をしている時期にも失業率は4%台であり、日本の高度成長期
の1%と比べると、非常に高いのです。
 しかも中国は農村部に1億人を超える余剰労働力を抱えていて
もし彼らを失業者にカウントすると、失業率は15%前後に跳ね
上がってしまうのです。したがって、最低でも8%以上の成長を
成し遂げないと、失業者が増えて、それが政府打倒のデモに結び
つく恐れがあるのです。       ── [新中国論/21]

≪画像および関連情報≫
 ●中国経済、ハードランデングする「有意な確率」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  著名エコノミストのヌリエル・ルービニ氏は中国経済につい
  て、ハードランディングする「有意な確率」があるとの見解
  を示した。同氏は当地で開かれた金融会議で、中国は世界的
  な信用危機下で経済のハードランディングを回避したものの
  「2013年より後にハードランディングする有意な確率が
  ある」と述べた。中国の国内総生産(GDP)に占める投資
  の比率は既に50%に達しているとし、過去60年のデータ
  で過剰投資がハードランディングにつながることが示されて
  いると指摘した。米金融市場の見通しについては、株式に対
  して慎重な見方を維持すると述べる一方、ユーロ圏の債務問
  題や世界経済減速への懸念から大きく上昇している米国債の
  価格に関しては適正との見方を示した。欧州周辺国が債務問
  題への正面からの対処に消極的なことも世界経済へのリスク
  だとし、「問題を先送りにして何とか切り抜け、ギリシャの
  状況は改善すると言い張って時間稼ぎをすれば、より混乱し
  た破たんを招く可能性がある」と述べた。
              2011年6月13日/ロイター
  ―――――――――――――――――――――――――――

ヌリエル・ルービニ教授.jpg
ヌリエル・ルービニ教授
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2013年04月10日

●「経済を根治しようとしない共産党」(EJ第3524号)

 輸出を何とかして立て直す必要がある──このように考えた中
国政府は次の2つの措置をとったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.輸出時の増値税還付率を引き上げる
      2.為替管理強化で人民元安を維持する
―――――――――――――――――――――――――――――
 「増値税」とは何でしょうか。
 中国では、商品の売買やサービス提供の取引高に応じて納税す
る「流転税」というものがあります。増値税は、営業税、消費税
とともに流転税のひとつです。
 増値税は、性格としては日本の消費税のようなものと考えれば
よいのです。この税金の納付者は、年間の売上金額に応じて「小
口納税義務者」と「一般納税義務者」に分けられます。
 小口納税義務者の税率は3%ですが、一般納税義務者になると
少し複雑になります。簡単な例を上げます。
 A社はB社から、800元の原材料を仕入れて、加工して10
00元で販売したとします。その場合の増値税は次のように計算
されます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  売上税額(1000元×17%)
         −仕入税額(800元×17%)=34元
―――――――――――――――――――――――――――――
 増値税は中国政府にとって重要な税収源なのです。2009年
における中国税収の30%が増値税だからです。輸出の場合は、
製品輸出時に一定比率の増値税を還付してもらえるのですが、中
国当局は、増値税の還付割合を3回も引き上げて、輸出企業の支
援を行ったのです。これが「1」です。
 これに加えて、中国共産党は、為替レートの管理を強化して、
輸出に有利な人民元安を仕掛けたのです。ところで、中国の為替
管理はどうなっているのでしょうか。
 中国人民元は、もともと「ドル・ペッグ制」だったのですが、
2005年7月から「管理フロート制」に移行しています。簡単
に説明しておきます。
 「ドル・ペッグ制」とは、ある国の政府や中央銀行などが金利
調節や為替介入を行い、自国の通貨とアメリカドルの為替レート
を一定割合で保つようにする制度です。つまり、自国通貨と米ド
ルとの固定相場制を図る政策です。
 これに対して「管理フロート制」とは、為替相場を決定するた
めの制度の一つです。自国の通貨の変動幅を固定し、その幅の範
囲内で各国通貨が自由に取引される制度のことです。なお、通貨
の変動幅は中央銀行によって管理されます。
 添付ファイルを見てください。これは人民元が対ドル為替レー
トを示したグラフです。これによると、2008年夏までは、人
民元は対ドルで上昇を続けています。
 しかし、2008年7月以降の人民元相場は、半年以上も「1
ドル=6・8元」台を維持し続けています。まるで「ドル・ペッ
グ制」に戻したかのようです。こういうことをやっていると、中
国は世界中から非難を浴びることになります。真に世界第2位の
経済大国であろうとすれば、変動相場制を実施すべきです。
 まして中国の輸出不振の原因は、人民元高による輸出製造業の
競争力低下にあるのではなく、輸出先の需要縮小にあり、人民元
安にしても問題は解決しないのです。
 このように輸出が問題を抱えている場合、内需拡大を図るのが
国としての通常の政策です。しかし、中国の場合、ここまで述べ
てきているように、個人消費は非常に弱いのです。中国はまるで
2つの国があるような深刻な格差社会になっていることや、失業
率が高く、社会保障制度も弱いため、消費に十分なお金を回すこ
とができないでいるのです。
 こういう中国の経済の現状について、著名な中国ジャーナリス
トである富坂聡氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今の中国経済は「体調不良」だが、中国共産党はそれを根治し
 ようとせずに、栄養ドリンク剤を飲ませて無理矢理元気にしよ
 うとしている。これまで輸出と投資を中心に経済発展してきた
 が、欧州経済は金融危機で冷え込み、アメリカも高い失業率で
 消費が落ち込んだままだ。今まで中国製品を大量に買っていた
 上客が、途端に買わなくなった。中国共産党の焦りは相当なも
 のだ。毎年、誕生する1000万人もの新規雇用の要請に応え
 られなければ、共産党の存在意義がゆらいでしまう。共産党は
 「経済を発展させて豊かな生活を提供する」ことでかろうじて
 支持を得てきたからだ。前政権は過度の輸出依存型の経済成長
 から脱却し、内需主導型へ転換することを目指したが、中国の
 個人消費は非常に弱いため実現は難しい。   ──富坂聡著
 『間違いだらけの対中国戦略/日本人が知らない中国の弱点』
                      新人物往来社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 個人消費の拡大が難しいとなると、残っているのは公共事業、
それもインフラ整備しかないのです。中国は日本と違って財政は
強いので、これをフルに使って強引に内需を拡大するしかないと
いうことになります。
 そこでやったのが総額4兆元(当時のレートで57兆円)の財
政出動です。これが栄養ドリンク剤です。これは一定の効果は収
めたものの、すべてがインフラ整備に回らずに、役人や彼らと結
託した企業家たちの懐に資金が流れ込み、中国経済のハードラン
ディングを一時的に先延ばししたに過ぎなかったのです。
 そして現在、あの日本の尖閣諸島国有化をめぐる反日デモなど
のチャイナ・リスクの高まりで、これまで中国に投資してきた多
くの国が資金の引き上げを図っています。香港や台湾の企業まで
中国に見切りをつける動きも加速しているのです。
 そういう状況の下で、習近平新政権がスタートしたのです。そ
の前途は険しいものがあります。   ── [新中国論/22]

≪画像および関連情報≫
 ●新民元改革について/「管理フロート制」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2005年7月21日に中国人民銀行により発表された人民
  元の切り上げは、温家宝首相が2005年3月の全国人民代
  表大会の閉幕後の記者会見において、「いつ、どんなやり方
  をするかは意表をつく事になる」と明言していたものであっ
  た。また、温家宝首相は2005年6月に天津で開催された
  アジア欧州会合(ASEM)財務相会議において、中国自身
  によって決断する、為替の乱高下を防止のための「制御可能
  性」、改革を徐々に進める「漸進性」、という人民元改革の
  3原則を表明しており、それに合致する形での改革に至った
  のである。これら一連の動きは、世界経済への影響の大きさ
  などから、1971年のニクソンショックと1985年のプ
  ラザ合意に次ぐ「国際通貨史の第3の転換点」として注目さ
  れるものであった。         ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

人民元の対ドル為替レート推移.jpg
人民元の対ドル為替レート推移
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2013年04月11日

●「ルイスの転換点を超えている中国」(EJ第3525号)

 中国は名目GDP成長率で日本を抜くことを目標にして投資に
重点を置いてやってきたのです。投資をすればGDPを押し上げ
ることができるからです。
 中国の不動産業者が投資をして、テナントビルを建てたとしま
しょう。仮にそのビルに一人のテナントも入らず、まったく収益
が上げられなくても、GDP上は投資の増加としてカウントされ
その分GDPを押し上げるのです。
 中央の共産党指導部は、地方政府に対し、どれだけ投資をして
GDPを押し上げることに貢献したかによって評価するので、地
方政府としてはなり振りかまわず、ハコモノに投資をして自分の
成績を上げようと必死になります。そこにテナントが入って利益
を上げるなどということは関係ないのです。
 これが誰も住まないマンションや都市、すなわち「鬼城」──
グイチェンがあちらこちらにできた理由なのです。それでも名目
GDPは伸びますから、それが積み重なって、日本を抜いて世界
第2位の経済大国の地位を手に入れたのです。
 しかし、これは、不動産のバブル化や深刻な環境破壊、設備投
資の行き過ぎの供給過剰状態(産能過剰)を生み出したのです。
そのため、中国では、2002年以降、衣服や家電製品、自動車
や通信機器などの工業製品の国内小売価格が継続的に下落してい
るのです。
 高度成長期には、仕事はいくらでもあるので、多くの人が職に
就き、失業率は低く、需要過多で、供給過少の状態になって、工
業製品の物価は上昇する──これが本来の姿なのです。
 ところが、中国の場合、高度成長しているにもかかわらず、失
業率は4%台で高止まりしており、需要過少で供給過剰になって
いるのです。これは本当に「経済が高度成長していない」のでは
ないかと疑われても仕方がないのです。
 問題は、中国が「GDPの50%を開発に投下している」こと
です。これは、4月8日のEJ第3522号の添付ファイル「中
国の名目GDP増加分百分比」を見ていただくと、2001年か
ら2004年までは、総固定資本形成(投資)が50%を占めて
いることが一目瞭然でわかると思います。
 この異常な経済構造は、ソ連の末期と同じであり、このまま行
くと、ソ連と同じように中国経済も崩壊する可能性があるとルー
ビニ教授は指摘しているのです。教授は、実際に中国の新幹線に
乗車して、次のように感想を述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国が鳴り物入りの新幹線に乗った。上海から杭州へ50分で
 つながる新幹線の乗客は半分だった。新駅は三分の一が空っぽ
 だった。平行して走るハイウェイは、じつに三分の二ががらが
 らだった。これは何を意味するか。60年代のソ連、97年通
 貨危機に直面する前までのアジアと今の中国の状況は酷似して
 いる。            ──ヌリエル・ルービニ教授
      http://kei007.blog24.fc2.com/blog-entry-97.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ルイスの転換点」という言葉があります。農業を中心として
きた低開発国が、高度成長期になったとき、農村の未活用の余剰
労働力が都市部に移動して製造業などに投入されるため、人件費
は上昇しないのです。
 中国も外資系大手企業の間で「魔法のような国」といわれたこ
とがあります。人を雇おうと思って広告を出すと、広告枠の何倍
もの内陸の若者たちが次から次へと出稼ぎに来るので、いくら人
を雇っても人件費が上がらない国という意味で、「魔法の国」と
呼んだのです。
 しかし、労働力移動が峠を越えて完全雇用に近づくと、人件費
は向上し、人出不足になってくるのです。それに既に職に就いて
いる労働者たちは賃金値上げのためのストを頻繁に行い、人件費
が高騰してくるのです。そのターニングポイントを「ルイスの転
換点」と呼んでいます。
 ルイスの転換点は、英国の経済学者でノーベル経済学賞受賞者
のアーサー・ルイス氏が人口流動モデルのなかで提唱した理論で
す。日本では1960年代後半ごろにこの転換点に達しています
が、中国の場合、国が広いので、完全雇用とはいえないものの、
2006年頃にはこの転換点に達しているはずです。
 ルイスの転換点を過ぎると、求人難が起こり、それは人件費の
高騰を招きます。全国各地で法定最低賃金が引き上げられ、もは
や現在の中国では、「ものを安く作れない」状況が生まれてきて
いるのです。
 そうなると、中国に進出している日本をはじめとする外国企業
にとっては、中国の生産工場としての魅力は失われてきており、
少なくともそれ以上過大な投資はしなくなります。
 まして、2012年に尖閣諸島国有化宣言に抗議する反日デモ
で、多くの日本企業が破壊され、焼き討ちにされるさまを見せつ
けられた中国に進出している各国企業は、チャイナ・リスクを感
じて、中国への投資を控えるようになるのは当然のことです。
 実はこの暴動が起きるまでの1年ほどの間に、欧米諸国の対中
投資額は軒並み減少しており、米国の場合、暴動前で実に16%
減少しているのです。欧州危機の影響もあるでしょうが、本当の
理由は、中国市場のピークの時代は終わったと判断しての撤退で
あると思われます。まして、あの反日暴動を見せられると、ます
ます投資を控えるようになるはずです。
 なかでも中国に一番投資しているのは日本なのです。日本から
中国への直接投資は、年間約5000億円〜6000億円のペー
スであり、その残高は6.5 兆円にも達するのです。フローベー
スの直接投資額を見ると、香港、台湾といった中国の身内をのぞ
くと、日本は実質的に世界一なのです。
 中国における日本企業の数は2万2800社、米国系企業を抜
いて世界一の企業数であり、1000万人以上の中国人を雇用し
ているのです。その日本企業ですら、今回の尖閣問題では撤退の
検討をはじめているのです。     ── [新中国論/23]

≪画像および関連情報≫
 ●中国市場はまだ魅力的なのか/直接投資16.2 %増
  ―――――――――――――――――――――――――――
  外国企業による中国への直接投資が減っている。中国商務省
  が、2012年12月18日に発表した11月の対中直接投
  資の実行額は前年同月に比べて5・4%減の82億9000
  万ドル(約6950億円)。6ヵ月連続でマイナスとなって
  いる。海外からの投資が経済成長をけん引してきた中国にと
  って、大きな痛手になりそうだ。ただ、日本からの投資は増
  え続けている。外国企業の対中直接投資が減少している背景
  には、世界的な景気の先行きへの不透明感がある。なかでも
  「震源地」の欧州企業は財務の悪化から投資を控えざるを得
  なくなった。加えて、中国では人件費の高騰や消費の伸び悩
  みなどの問題が浮上。日本にとっては、9月に起こった尖閣
  問題をきっかけとした大規模な反日デモの影響もある。これ
  らを契機に外国企業に対中投資を見直す動きが広がってきた
  のである。ところが、2012年11月の日本からの直接投
  資は、前年同月比16・2%増の5億3000万ドル(約4
  40億円)と2か月ぶりにプラスに転じた。反日デモの影響
  が薄らいだことで、それ以前に決定していた投資案件が実行
  されたようだ。
     http://www.j-cast.com/2012/12/19158916.html?p=all
  ―――――――――――――――――――――――――――

中国の新幹線/CRH380A.jpg
中国の新幹線/CRH380A
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2013年04月12日

●「小沢氏に接近する習主席と李総理」(EJ第3526号)

 尖閣諸島問題がこじれて多くの日本人が心配していることは、
中国軍が尖閣諸島に攻め込んでくることは現実的ではないものの
最大の貿易相手国である中国とのトラブルで、日本経済にとって
深刻な悪影響が及ぶのではないかということです。
 大和総研チーフエコノミストの熊谷亮丸氏は、日中関係悪化に
よる日本経済の悪影響について、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日中関係悪化に伴う日本経済の悪影響は大した話ではなく、
 最悪のケースでも470兆円程度の経済規模を有するわが国
 にとって、「蚊の刺した」程度の影響しかない。
              ──熊谷亮丸著「パッシング・
  チャイナ/日本と南アジアが直接つながる時代」/講談社
―――――――――――――――――――――――――――――
 熊谷亮丸氏によると、2013年度も2012年度のような状
態が続いたとしても、日本の国内総生産(GDP)を2012年
度と2013年度にそれぞれ、約0.2 %程度押し下げる程度の
影響しかなく、まさに「蚊の刺した」程度のダメージしか受けな
いというのです。
 しかし、逆に中国の方は、経済的に大きな打撃を受けるはずで
あると熊谷氏はいいます。それは次の3つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.国際社会で「チャイナ・リスク」への警戒感が高まり、中
   国向けの直接投資が減少する恐れがある。
 2.日本から中国向けの部品の輸出が止まってしまうと、中国
   は最終製品を作れなくなる可能性がある。
 3.日中の関係悪化で中国の経済がダメージを受けると、中国
   国内で政治体制が動揺する恐れが強まる。
                ──熊谷亮丸著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、発足したばかりの習近平体制は日中の関係悪化に
実は困惑しているのです。しかし、中国はきわめて頑なであり、
安倍首相とのトップ会談に応じようとしないのです。
 3月30日に中国から中国人民対外友好協会の李小林会長が来
日したのです。李会長は李先念元国家主席を父に持つ中国の要人
で、1月に公明党の山口代表が中国を訪問したさい、習氏との会
談の労をとった人物です。
 それだけに、李会長が安倍首相と会談し、習国家主席との会談
の道が開けることを外務省筋は期待したのですが、李会長は「中
日現代書画名人展」の開会式を行うと、政治的な動きをいっさい
しないで、4月3日に帰国してしまったのです。
 安倍首相は、4月に麻生太郎副総理兼財務相を中国に派遣し、
習国家主席か、李克強首相と会談させようと外務省に指示したの
ですが、失敗に終わっています。
 次に外務省が動いたのは、4月6〜8日に中国海南省で開催さ
れた「ボアオ・アジアフォーラム」で理事長を務める福田康夫元
首相と中国代表の習国家主席との会談です。福田氏に関しては中
国側はこれを受け入れ、4月7日に福田・習会談が、約20分間
行われたのですが、習国家主席は日中関係に触れることはなく、
ごく一般的な話に終始したといわれています。
 もともと同じ自民党であっても安倍首相と福田康夫氏は疎遠で
あり、中国側が現職の副総理の麻生財務相を拒否し、政界を引退
した福田康夫氏を受け入れたこと自体が、現在の安倍政権を牽制
する一環であるといえるのです。
 それでは、習国家主席が日本の政治家でいま一番会いたがって
いるのは誰でしょうか。
 それは、小沢一郎生活の党代表なのです。「サンデー毎日」4
/21号によると、習近平氏は国家主席になる前から、再三にわ
たって小沢氏に電話を入れています。その最初の電話は、尖閣諸
島国有化騒ぎの後の昨年11月中旬にかかってきたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢先生、選挙の前に中国に来てください。お目にかかりた
 いのです。     ──習近平中国共産党総書記(当時)
―――――――――――――――――――――――――――――
 そのとき、日本語の話せない習総書記に代わって小沢氏と電話
で話したのは李克強副首相(当時)だったのです。既に述べてい
るように、李克強氏はかつて書生として小沢邸に住み込んでいた
ことがあるのです。これは大変なことです。既に国家主席に就任
することが決まっていた習総書記と、ナンバー2の首相に内定し
ていた李克強氏が、野党の党首に過ぎない小沢氏に直接電話を入
れ、ホットラインを築こうというのですから。
 しかし、そのとき小沢氏は一歩引いたのです。もし誘いに乗っ
て訪中すれば二重外交になると考えたからです。「次の機会にし
たい」と。そして、衆院選が行われ、小沢氏は惨敗します。
 ところが選挙結果が確定した12月下旬に、李克強首相から小
沢氏に2回目の電話が入ったのです。電話の目的は習国家主席の
次の言葉を伝えてきたのです。「今回の選挙は大変残念でしたが
小沢先生なら必ず復活できます。がんばってください」と。
 今年に入った2月上旬、「習・李」コンビはまた小沢氏に電話
しています。小沢氏は民主党の幹事長時代に来日した習氏を天皇
陛下と会見させています。これで習氏の総書記の座が約束された
のです。習国家主席、李首相ともに小沢氏には恩があるのです。
 実は、この動きには米国も同調しています。米国は小沢氏を警
戒していますが、中国の2トップと親しい日本の政治家は小沢氏
しかいないのです。そこで、小沢氏に何らかの権限を持たせ、中
国や北朝鮮との政治交渉に当ってもらえないかと考えているので
す。東アジアの和平を実現するための特使として、小沢氏の剛腕
を米中が期待しているといえます。
 中国は安倍政権とその中枢とは接触を避ける一方で、小沢氏を
担いで復活を支えるシナリオがあるようです。しかし、その前に
日本人は小沢氏にまつわる悪意のある誤解を解消する必要がある
と思います。            ── [新中国論/24]

≪画像および関連情報≫
 ●米中の剛腕復活を望む声/外務省関係者の分析
  ―――――――――――――――――――――――――――
  外務省の関係者は、中国側の狙いを推測する。習国家主席は
  人民解放軍と違い、尖閣諸島周辺の緊迫化を避けようと考え
  ているフシがあります。ところがトップ就任から間もないこ
  ともあり、軍を完全にコントロールできていない。海軍が共
  産党中央の意向を拡大解釈し、統制が不十分な現場レベルで
  非常識な挑発行為に及んだ、というのがレーダー照射事件の
  真相と思われます。習国家主席が事件直後に小沢氏と接触を
  図ったのは、日本側に水面下で釈明する機会をうかがったの
  でしょう。小沢氏が習国家主席とのパイプを明らかにしなが
  ら安倍政権への「メッセンジャー役」を引き受ければ、対中
  改善のキーパーソンとして復権の芽が出る。習国家主席にと
  って、小沢氏への「恩返し」にもなります。
            ──「サンデー毎日」4/21号より
  ―――――――――――――――――――――――――――

小沢一郎氏と習国家主席.jpg
小沢 一郎氏と習国家主席
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2013年04月15日

●「政治家・小沢一郎への国民の誤解」(EJ第3527号)

 尖閣諸島国有化をめぐり日本と中国との関係が冷え込んで半年
が過ぎようとしています。極度に冷え込んだ日中関係は、安倍政
権になってからも、首相の意気込みにもかかわらず、日本の首脳
は習近平国家主席はおろか、中国のキーマンにすら会えていない
状況が続いています。
 知日派といわれる王毅外相は、就任に当って各国の外相に電話
をかけて挨拶をしましたが、日本の岸田文雄外相には電話をして
いないのです。完全無視の姿勢です。
 そんな状況で4月に入ったある日、「サンデー毎日」4/21
日号に、12日のEJでお知らせした次のスクープ記事が掲載さ
れたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          安倍政権を揺さぶる米中の謀略外交
    習近平が小沢一郎にかけた「3回の電話」全真相
          ──「サンデー毎日」4/21日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 久々の小沢報道です。昨年末の衆院選で小沢氏は惨敗を喫し、
その後生活の党の代表に就任しましたが、それ以来、テレビはお
ろか、新聞にも夕刊紙にもいっさい取り上げられない状態が続い
ています。あの連日小沢報道を繰り返してきた「日刊ゲンダイ」
紙も小沢氏を完全に終わったものとみなし、報道をやめているの
です。ゲンダイよ、お前もか・・・という感じです。
 もはや過去の人であり、終わった人である──この手の報道は
小沢氏に関しては今までにもあったと思います。しかし、今度ば
かりは完全に終わったと思われているのです。
 そこにこの報道です。この「サンデー毎日」のスクープ記事に
どのメディアもフォローせず、完全無視の構えです。しかし、こ
れはそんな小さな問題ではないはずです。この記事のことを紹介
した4月12日のEJ第5236号に対するブログのユニューク
ユーザー数は前日の1746人より約500人増加し、2234
人に跳ね上がったのです。同一人の複数回来訪者を含むページビ
ューは、前日よりも1000人増えて、6141人になっていま
す。これは大変な関心があるということです。
 小沢一郎という政治家は、中国や北朝鮮とどういう接点を持っ
ているのでしょうか。この問題について、しばらく書いていくこ
とにします。
 断わっておきますが、私はいわゆる「小沢信者」ではない。政
治家について書くときは、必ずその政治家について徹底的に調べ
上げたうえで評価することにしています。
 EJでは2010年1月4日から「小沢一郎論」をテーマに取
り上げましたが、そのときは、72回にわたって小沢一郎氏につ
いてさまざまな調査をしながら書いています。2012年7月9
日から52回にわたってEJで橋下徹論を書いたときも、同様の
調査を行い、橋下氏の評価を下しています。
 小沢一郎という政治家について、日本国民の多くは大きな誤解
をしたままです。実に多くの人は、小沢一郎氏を悪の政治家とし
てとらえています。本人も検察審の強制起訴という、極めて疑わ
しい手法で容疑者にされ、長い裁判結果、無罪になったものの、
秘書の3人は何の証拠もないのに有罪にされ、2審の判決でも有
罪になっています。3人のうち、石川知裕氏は最高裁に控訴した
ものの、他の人は資金も気力も続かず、控訴を降りて有罪が確定
しています。
 とくに小沢氏が民主党代表で、2009年の衆院選にのぞんで
いたとき、官の代表ともいえる検察は、小沢氏の秘書3人を逮捕
したのです。「このままでは、小沢は総理大臣になる。何として
もこれを止める必要がある」として、その暴挙に及んだのです。
 そのとき以来、官僚組織、大メディア、大企業、自民党そして
米国の連合体は結束して小沢包囲網を作り、総力を上げて、足を
引っ張ったのです。もちろん民主党のアンチ小沢勢力にも手を伸
ばし、政権交代後の小沢氏の処遇にも条件をつけ、小沢氏を幹事
長ではあるが、党務専任の幹事長に押し込んだのです。
 しかし、ありもしない事件をでっち上げてムリ筋で秘書を逮捕
した検察は、その他の事件での証拠改ざんなどでボロボロになり
権威が失墜したのです。しかし、今度は司法が検察の意思を引き
継ぎ、証拠がゼロにも関わらず、秘書3人を有罪にしたのです。
 つまり、連合体はこういう罠を小沢氏に仕掛けたのです。強制
起訴の裁判で小沢一郎氏が無罪になっても、秘書の裁判では有罪
にする。そうすれば、小沢の政治生命は奪える──こういう構図
であり、それが現実のものになっています。
 しかし、私は小沢氏は復権すると思っています。小沢氏は次の
衆院選で再び政権交代は可能だといっています。自民党は今や得
意絶頂ですが、しょせんは既得権を守る政党であり、国民は少し
経つとそれに気が付くと考えています。
 現在、民主党は国民の支持を失っています。それは、国民にや
ると約束したことを行わず、やらないと約束したことを実施した
からです。なかでも敵方である自民党と組んで消費増税を成立さ
せた菅・野田政権は万死に値します。
 それに反発し、離党してスジを通したのは小沢氏と行動を共に
した数人の政治家だけです。本来であれば称賛されるべき行為で
あるにもかかわらず、スジを通さなかった民主党の連中と一緒に
して、小沢グループを貶め続けたのはメディアであり、それに乗
せられた有権者であると思います。
 既得権益を打破して日本を変えることのできる政治家は、小沢
一郎しかいないと私は考えています。自民党はもちろんできない
し、橋下徹氏率いる日本維新の会もできないと思っています。
 日本の与党の首脳が中国要人との会見を求めていても頑として
応じない一方で、その中国のトップとナンバー2が小沢氏に接近
し、会いたがっています。小沢氏の評価は中国では高いのです。
どうしてこういうことになるのでしょうか。それは、小沢氏の外
交に対する基本的な姿勢にあります。それについては明日のEJ
で書きます。            ── [新中国論/25]

≪画像および関連情報≫
 ●検察権力不正利用は狂気の沙汰である/植草一秀氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  問題は小沢一郎氏の個人の問題ではなく、日本の政治構造の
  問題である。米・官・業による日本政治支配構造を小沢一郎
  氏が打破しようとしていた事実が決定的に重要である。この
  事実を踏まえて、主権者国民が立ち上がらなければ、日本は
  この先も長く、米・官・業による支配を強いられることにな
  る。(中略)米・官・業のトライアングル、米・官・業・政
  ・電の悪徳ペンタゴンは、自らの権力喪失をもたらす最重要
  危険人物が小沢一郎氏であると見定め、2006年4月の小
  沢氏の民主党代表就任以来、小沢氏に対する集中攻撃を展開
  して、現在に至った。しかし、民主党の小沢体制はこれらの
  攻撃をはねつけて維持された。そこで、ついに2009年3
  月以降、検察権力の不正利用という禁断の領域にまで足を踏
  み入れたのである。最大決戦の揚が2010年9月の民主党
  代表選になり、悪徳ペンタゴンは勝利を確保し、さらに検察
  審査会の不正利用に侵攻したのだ。主権者国民と悪徳ペンタ
  ゴンとの死闘はいよいよこれから佳境を迎えることになる。
  悪徳ペンタゴンが勝利の祝杯をあげるのは時期尚早である。
                      ──植草一秀著
   『日本の独立/主権者国民と「米・官・業・政・電」利権
                複合体の死闘』/飛鳥新社刊
―――――――――――――――――――――――――――――

小沢一郎・生活の党代表.jpg
小沢 一郎・生活の党代表
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2013年04月16日

●「政治家・小沢一郎の思想と外交論」(EJ第3528号)

 小沢一郎という政治家と中国の関係といえば、小沢氏が政権交
代後の2009年12月10日、143人の議員を含む630人
の大訪中団を編成し、彼らを引き連れて中国に行き、議員たちに
は胡錦濤国家主席(当時)と写真を撮らせるという派手なパフォ
ーマンスを演じたシーンがおそらく目に浮かぶと思います。
 メディアはこれを「小沢の中国詣」と称し、中国に媚を売る政
治家として批判し、報道したのです。しかし、この中国訪問は、
小沢氏が田中角栄政権の頃から続けているもので、政権交代した
ので、舞い上がって実施したものではないのです。例年は数人で
訪問するのですが、政権交代を果たした2009年に応募を募っ
たところ、この人数に達したに過ぎないのです。
 これについて、小沢氏の側近の一人である平野貞夫氏は自著で
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそも小沢さんは基本的に対中外交と同様に対米外交も非常
 に重視している政治家だ。それと同時に、権力者同士が互いに
 仲よくしただけでは外交はうまくいかないということも見抜い
 ていた。だから常日頃から「草の根市民レベルでの友好関係が
 大事だ」と説き、実際に20歳前後の若い中国人を日本でホー
 ムステイさせたりなど、個人レベルでも友好関係を築こうと努
 めていた。現に、中国共産党の幹部・李克強氏は、かつて岩手
 の小沢邸にホームステイした経験がある。そして中国から招い
 た彼らと現職国会議員が議論をする。私も西村眞悟氏らと一緒
 に彼ら中国人と尖閣問題や台湾問題を論議したものだ。
       ──平野貞夫著/『小沢でなければ日本は滅ぶ/
    「政治の悪霊」と戦い続ける男』/イースト・プレス刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この本が発行されたのは2012年11月ですが、その後李克
強氏は、ナンバー2の首相に就任しています。田中角栄元首相は
外交というのは、トップ同士の関係だけではなく、政治家たるも
の、草の根レベルの交流を行う必要があることを説いたのです。
小沢氏はそれを万里の長城にちなんで「長城計画」と名付け、ラ
イフワークとして1989年からやっているのです。
 もちろん中国だけでなく、米国に対しても行っています。米国
については多くの政治家が行っていますが、米国にも小沢氏の知
己は多く、けっして中国べったりの政治家ではないのです。
 今でも小沢氏は、ワシントン在住の元米紙記者で元新進党国際
局長の岡孝氏に、米国政治について、とくに米国の権力構造につ
いて定期的に情報を送ってもらっています。これは米国を重視し
ている証拠です。現在、岡孝氏は英語で「小沢一郎の外交論」を
執筆しているそうです。
 李克強氏が小沢邸にホームスティしたことについては、元小沢
氏の秘書の石川知裕氏も自著で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の次期首相が有力視されている李克強は、自民党と共産主
 義青年団が交流していた時に岩手・水沢の小沢の自宅にホーム
 スティしたことがある。(小沢は)彼とも、くっついたり離れ
 たり。野党時代は李克強もあまり会いたがらず、小沢の「知恵
 袋」の一人である中塚一宏さんに確認してもらうと「ちょっと
 おかしいですね」と報告を受けることもあった。2007年に
 小沢が民主党代表になり、参院選で勝つと李克強はまた近寄っ
 て来た。こちら側も習近平が頭角を現すと、その側近に連絡を
 取った。それでも李克強とは中塚さんを通じていまでもパイプ
 を保っている。そもそも、中国は誰か特定の人間とべ夕べタ付
 き合うということはしない国だ。      ──石川知裕著
         『悪党/小沢一郎に仕えて』/朝日新聞出版
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢氏が幹事長のときに湾岸戦争が起きていますが、自衛隊派
遣をめぐって小沢氏は官僚の壁にぶつかっています。これによっ
て彼が官僚支配の政治構造(官僚主権)を打破し、日本を改造し
なければならないと痛切に感じたのです。それに関してはEJの
「小沢対官僚機構対立の原点/小沢一郎論」をご一読ください。
―――――――――――――――――――――――――――――
 EJ第2738号「小沢対官僚機構対立の原点」
 http://electronic-journal.seesaa.net/article/138995647.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 軍の派遣は国のかたちが問われる基幹の問題です。ところが日
本の外務省は、もはや世界と時代の変化について行けなくなって
いるのに、政治の究極の決定事項まで自分たちでやれると勘違い
している──小沢氏はこのことを痛感したのです。
 これについて政治ジャーナリストの渡辺乾介氏は次のように述
べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢は派閥の部屋住みの身から自民党幹事長になって、初めて
 官僚支配の壁に突き当たった。仮にである。「小沢総理大臣」
 が実現したら、優先度の高い政策として外務省改革に取り組む
 だろう。湾岸危機の自衛隊派遣をめぐつて、外務省が「韓国、
 中国、アジア諸国が反発する」と震え上がって派遣に反対しな
 がら、イラク戦争では日米同盟重視に転じて自衛隊派遣に方針
 転換するまでの、省内の政策協議の全過程を検証し、国民に情
 報開示するべきなのである。自衛隊=軍隊を海外にまで動かす
 ということに何の原則もなく、一握りの官僚集団に事実上の決
 定権が振られている国家のあり方であっていいはずがない。国
 の進路を左右する政策決定に重大な誤りがあったとするなら、
 内容によっては抜本的な業務の見直しと大規模な組織の改変ま
 でやるべきなのだ。            ──渡辺乾介著
             『小沢一郎嫌われる伝説』/小学館
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように小沢一郎氏は、外交に通じたベテランの政治家なの
です。また、彼は日朝の交渉にも通じている政治家であるといわ
れています。            ── [新中国論/26]

≪画像および関連情報≫
 ●日米中正三角形に対する疑問/中西輝政氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  あゝ、やっぱりこういうことだったのか。2009年12月
  民主党の小沢一郎幹事長に率いられた総勢600人以上(う
  ち国会議貝は約140名)の訪中団が大挙して北京を訪れた
  のである。日本のTVニュースでは連日、中国の胡錦濤国家
  主席とのツーショット写真の撮影に列をなして順番待ちし、
  一瞬のショットに収まる民主党国会議員たちの姿を映し出し
  ていた。一方、そのころ東京では、沖縄の米軍・普天問基地
  の移設問題の紛糾が連日ニュースで伝えられ、11月の日米
  首脳会談で合意を見たとされる「年内に結論を出す」という
  期限が迫っているのに、鳩山政権はなぜこれほど先延ばしを
  繰り返すのか、といぶかる声が日米双方から、しきりに発せ
  られていた。そこへ次のような報道が日本に伝わってきた。
  一足先に韓国経由で帰国した小沢氏と別れ、訪中団の団長を
  務めていた山岡賢次国会対策委員長は、上海市で開かれたシ
  ンポジウムに出席して次のように語ったという。「日米関係
  が基地問題で若干ぎくしゃくしているのは事実だ。そのため
  にもまず、日中関係を強固にし、正三角形が築けるよう米国
  の問題を解決していくのが現実的プロセスだと思っている」
  山岡氏はこう語ったあと、さらに続けて、「12月10日の
  小沢幹事長と胡主席との会談でも確認されたが、日中米は正
  三角形の関係であるべきだ。それがそれぞれの国と世界の安
  定につながる」と強調したという。
  http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/adagio/nakanishi-ozawa.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

小沢訪中団(2009年12月).jpg
小沢訪中団(2009年12月)
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2013年04月17日

●「日朝交渉での実績を誇る小沢一郎」(EJ第3529号)

 小沢一郎氏は日朝交渉にも一役買っているのです。北朝鮮は核
による恫喝を繰り広げ、国際社会の顰蹙を買っており、さすがの
中国も北朝鮮に対し、不快感を表明していますが、裏では石油の
輸出を継続し、支援していることは明らかです。
 湾岸危機の渦中の1990年9月、自民・社会両党代表団によ
る訪朝が行われたのです。金日成体制下の北朝鮮訪問です。金丸
信自民党副総裁が団長で、田辺誠社会党副委員長が同行し、朝鮮
労働党、自民党、社会党の三党労働宣言が締結されたのです。
 しかし、共同宣言には、日朝の国交樹立のための政府間の交渉
を行うことに加えて、日本の植民地支配と戦後45年間の損失に
対する謝罪と償いが必要との文言が盛り込まれたことにより、日
本国内では大きな批判が巻き起こったのです。
 それよりも実はもっと大きな問題があったのです。当時北朝鮮
の核開発問題は国際問題になっていましたが、日朝間には第18
富士山丸事件が懸案事項としてあったのです。
 第18富士山丸事件とは何でしょうか。
 複雑な事件なのですが、拉致問題にも深く関係するので、わか
り易く事実を解説します。簡単にいうと、第18富士山丸事件と
は、日本の貨物船の船長と機関長が北朝鮮にスパイ容疑で拘束さ
れた事件なのです。
 第18富士山丸という船は、日朝間を交易のため往復していた
日本の冷凍貨物船なのです。1983年11月1日のことですが
富士山丸は北朝鮮の南浦港を出港した2日後に1人の朝鮮人民軍
兵士が船に乗り込んでいるのを発見し、所属会社の富士汽船と海
上保安庁に連絡し、指示を仰いだのです。
 本来であれば、密航者を連れてきた船は、密航者を元の国に送
り届ける法律上の義務があるのです。しかし、当局の指示で福岡
県北九州市門司で密航者の身柄を引き渡したのです。当局として
は取り調べて、本国に強制送還すればよいと考えたからです。
 しかし、取り調べ中にその密航兵士が日本政府への政治亡命を
申し出たので、それができなくなってしまったのです。そんなこ
ととは知らずに11月11日に富士山丸は南浦港に入港したとこ
ろ、乗組員5人が北朝鮮当局に抑留され、3人はすぐ釈放された
ものの、船長と機関長の2人は、密航の幇助及び継続的なスパイ
行為の容疑ありとして裁判にかけられ、「強化労動15年」の刑
に処せられたのです。1988年4月のことです。
 問題は、このときの日本の外務省の対応です。「国交がないか
ら民間ベースで話し合え」として国交がないことを理由にして、
何もしなかったのです。また北朝鮮の友好国などの第三国を仲介
しての解放交渉もまったく行われなかったのです。日本人の拉致
問題の対応もこれと同じであり、それを主導したのは他ならぬ自
民党政府であることを忘れてはいけないのです。
 この問題の解決に立ち上がったのは日本社会党です。1987
年に土井たか子委員長が金日成主席と会談し、「乗組員の釈放・
帰還」を強く切り出し、「政府間交渉に委ねる」との返答を得た
のです。1990年の金丸・田辺訪朝団は富士山丸の船長と機関
長の2人の解放の任務を負っていたのです。
 しかし、金丸・田辺訪朝団は、2人の釈放を実現させることが
できなかったのです。窮地に陥った金丸副総理は、平壌から小沢
幹事長に電話を入れ、訪朝を求めたのです。そのとき、小沢幹事
長は、金丸副総理に次のように念を押したといいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 行くのはいいが、北朝鮮の言いなりになるわけにはいかない。
 こっちが一方的に謝って、富士山丸の2人を連れて帰るわけに
 はいかない。理不尽な要求は拒否するがそれでもいいですか。
                      ──渡辺乾介著
             『小沢一郎嫌われる伝説』/小学館
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対して金丸副総理は「すべてお前に任す」と伝えたので
小沢幹事長は副幹事長と一緒に訪朝したのです。小沢氏は実務の
交渉は副幹事長にまかせ、金日成側近ナンバーワンの労働党国際
部長の金溶淳と会談を行っています。
 小沢氏が平壌に入ると、金正日配下から、極秘の連絡があった
というのです。既にそのとき北朝鮮は、金日成から金正日への権
力の移行期に入っており、すさまじい権力闘争が渦巻いていたと
小沢氏は述懐しています。しかし、これは小沢氏にとって現地入
りしないと掴めない重要な情報だったのです。
 交渉は一進一退したのですが、小沢氏は夜中に副幹事長から起
こされ、北朝鮮側は2人を返す条件として、2人が法律を破った
ことを文書にすることを要求してきたことを知らされます。
 小沢氏は即座に「自分が責任を取るから突っぱねろ」と指示し
たのです。副幹事長はその通り北朝鮮側に伝えると、北側は一転
して折れてきて、船長と機関長は1990年10月11日に帰国
したのです。
 小沢氏はこのように考えたのです。北朝鮮は旧体制と新体制の
権力抗争の渦中にあり、金日成側は小沢が金正日側と連絡を取っ
たと疑心暗鬼になっている。こういうときは、強気に出るのが一
番であるとして、要求をつっぱねたのです。同じような手法を小
沢氏は、日米保険協議でも行って成功しており、そういうやり取
りには慣れていたのです。
 さらに小沢幹事長は、2人が帰国するや、外務省に対して、核
開発疑惑をはじめ、日本人拉致問題など、日朝間の解明すべき問
題が多くあり、それが最優先であるとして、その進展がない限り
国交正常化交渉も、援助も一切やらないと通告するよう指示して
いるのです。共同宣言で謳っているので、日朝協議は数回行われ
たものの、進展がないまま中断されています。
 このように小沢一郎氏は外交交渉においてもなかなかのタフネ
ゴシエーターであり、妥協はいっさいしないのです。日本にはこ
れだけのことができるベテラン政治家が現役でいるのです。日本
では小沢氏を抹殺しようとしていますが、米中がその力を活用し
ようと考えても不思議はないのです。 ── [新中国論/27]

≪画像および関連情報≫
 ●日本と中国の首脳陣は事実上の「国交断絶」状態にある
  ―――――――――――――――――――――――――――
  このような最悪事態に陥らせたのは、菅直人元首相と野田佳
  彦前首相である。これはまぎれもない事実だ。この延長線上
  に、安倍晋三首相がいる。誠に気の毒な限りである。読売新
  聞2013年2月11日付朝刊「1面」で、「内閣支持率上
  昇71%」という見出しをつけて、全国世論調査の結果を報
  じているけれど、中国から「猛毒襲来」という非常事態が生
  じているのに対して、全くお手上げ状態では、安閑とはして
  いられない。こんな「日中外交無能力」な安倍晋三内閣に高
  支持率を与えている日本国民は、どうかしている。外務省は
  「チャイナスクール」という高級外務官僚を多数抱えていな
  がら、これもまた、「無能外交官」ばかりである。中国にゴ
  マをすってきたツケが、こんな非常事態に露呈している。し
  かし、日中関係をこんなにも最悪事態に陥らせた最大責任者
  は、米国CIA対日工作者(ハーバード大学のジョセフ・ナ
  イ教授、リチャード・アーミテージ元米国務副長官、マイケ
  ル・グリーンCSIS日本部長ら)なのである。「日中離間
  工作」を最も熱心に行ってきた策士たちだ。日中関係をこじ
  らせて「戦争の危機」を煽り、日本の防衛予算を増額させよ
  うと策動して、まんまと実現させてきたのである。日本は、
  「憲法9条」により戦争できない国であるのを知っているの
  であるから、そんなに戦争したければ、「米中戦争」でも勃
  発させればよいのである。だが、軍事関係は、「日中戦争」
  に突入させる前に「寸止め」させれば回避できるけれど「猛
  毒襲来」は、そう簡単にはいかない。
             http://blogos.com/article/56008/
  ―――――――――――――――――――――――――――

金丸訪朝団/1990年9月.jpg
金丸訪朝団/1990年9月
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2013年04月18日

●「沖縄の地から沖縄の問題を考える」(EJ第3530号)

 生活の党の小沢一郎代表(70)が、沖縄県宜野座村に所有し
ている土地に、「太平洋を一望できる豪華別荘を建築している」
という報道が行われています。
 なぜ、小沢氏は故郷の岩手県から遠く離れた沖縄に別荘を建て
たのでしょうか。これに対してメディアは例によって「小沢の沖
縄利権」とか、カネがどこから出たのかと騒いでいるようですが
次元の低い話です。
 実はかねてから小沢一郎氏は、沖縄について次のように考えて
いたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米軍基地の7割が集中していて、国の安全保障が依存している
 にもかかわらず、沖縄県民の痛みを分かち合おうという段にな
 ると、他の地域はどこも自分のところだけには基地を持ってき
 て欲しくないと言う。こういう国民、国のあり方は異常ではな
 いか。そこから意識を変えていかなければならない。
                      ──渡辺乾介著
             『小沢一郎嫌われる伝説』/小学館
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢氏には「自立と共生」という理念があります。個人と個人
が自立し、それぞれが互いの自立を認め合い、助け合う共生社会
をつくる──これが小沢氏の考え方です。この考え方に立つと、
今の国民、国のあり方は異常であるというのです。
 政治家はいつも中央にいて、そこから沖縄を見ています。小沢
氏は、その視点と発想から脱却しなければならないと思ったので
す。そのためには沖縄に住居を置いて、沖縄の地にあって沖縄の
問題を考える必要があると考えたのです。これは、小沢氏が自由
党の党首だったときからの考え方であり、今回の別荘建築はそれ
を実行に移したに過ぎないのです。余生を沖縄でのんびり過ごそ
うと考えて実行したわけではないのです。
 小沢氏のインタービューアーとして知られる渡辺乾介氏は、小
沢氏の改革衝動を毛沢東の「不断革命」になぞらえて、次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 毛沢東の「不断革命」は、絶えず革命を連続しなければ権力は
 腐敗し、富が偏在するようになり、民衆が疲弊するという思想
 だが、小沢も似たところがある。強い地位を得るほど、そこで
 得られるはずの利権の果実をたぐり寄せようとせず、その地平
 で見える新たな理念を発見したり、生み出したり、まもなく次
 の改革もしくは停滞を打破する衝動に駆られ、一点に留まろう
 としない。多くの人は地位に安住したいと思うから、やがて離
 反する。壊し屋とは、言葉の響きとは別に、小沢の本質の一部
 を形状的に言い表している。  ──渡辺乾介著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢一郎という政治家に対しては、これまでよくぞここまで悪
くいえるものだなと感心するくらいメディアでは罵詈雑言が浴び
せられています。しかし、そのほとんどは事実に基づかない悪意
ある中傷なのですが、そういうメディアの論調によって多くのア
ンチ小沢論者が生み出されているのです。
 つまり、小沢氏を批判する人々は2種類あるのです。小沢一郎
という政治家のことをよく知っていて、その考え方、政策の実行
力に脅威を感じ、意図的に潰そうと画策している組織やそれに連
なる人々と、小沢氏についてはロクに知らないくせに、長年にわ
たる執拗なメディアによる「小沢=悪人」の宣伝に洗脳された多
くの人々が「アンチ小沢」勢力を形成しているのです。
 しかし、その一方で小沢氏の政治理念を知り、これまでの政治
実績を正しく評価し、どのような悪宣伝にもかかわらず、小沢氏
を支持する大勢の人々がいます。だからこそ「もう小沢は終り」
とさんざんいわれながらも、いつも政治の中心にいるのです。
 そういういわれなき報道に関して、小沢一郎氏自身は一切いい
わけをしないのです。これは小沢家の家訓であり、彼はそれを守
り通しています。メディアはそのことを知っているからこそ、名
誉棄損に該当するような中傷報道でも平気で仕掛けるところも多
いですが、それでも小沢氏は泰然自若としているのです。その点
がメディアのお蔭で今の地位と人気があるのに、そのメディアか
ら少しでも自分のことを悪く書かれると、逆ギレして「告訴する
ぞ!」と恫喝する大阪の政治家と大きな違いです。
 しかし、小沢氏へのそういう偏向報道を長年続けてきたメディ
アがいま大きく失いつつあるものがあります。それは報道に対す
る信頼性が地に落ちつつあることです。それは報道に関して疑い
の目で見る読者や視聴者が増えていることです。
 テレビの政治番組では、小沢氏を擁護するコメンテーターを計
画的に外して世論誘導したり、複数ある小沢氏の写真のうち、最
も印象の良くないものをあえて選んで掲載したり、国会の廊下を
歩くかつての小沢幹事長に執拗にコメントを求める記者を振り払
う映像を何回も流して、その傲慢ぶりを印象づけようとする──
メディアにとってこんなことは朝飯の前なのです。
 しかし、それにしても現在小沢氏の率いる生活の党の人数は、
衆院議員7人、参議院議員8人の15人です。「今度こそ小沢は
終り」という人は多いです。しかし、党の現状について小沢氏は
「民由合併の直前に戻っただけ」といい、3年半後の衆院選で3
度政権交代を実現するゴールを敷くといっているのです。
 これに関して渡辺乾介氏は、最近のインタビューで、民由合併
当時のあなたは50代だったが、今は既に70代になっていると
いうと、小沢氏は次のように答えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国のケ小平さんが3度目の復帰を果たしたのは73歳。3度
 追放されて3度復帰して、それで改革開放のレールを敷いた。
 僕も年だから、たぶん3年半後の衆院選が最後の決戦になる。
 それまでに自民党に対峙できる政党をつくる。──小沢一郎氏
―――――――――――――――――――――――――――――
                  ── [新中国論/28]

≪画像および関連情報≫
 ●3年半後、最後の決戦/自民党と対峙できる政党をつくる
  ―――――――――――――――――――――――――――
  渡辺:あなはかねて、明治の元勲の中で人間としては西郷隆
  盛が好きだが、政治家としては近代国家の礎をつくった大久
  保利通の合理主義を評価すると言っていた。今西郷隆盛の心
  境ではないか。明治維新の立役者となりながら、下野して反
  乱を起こし、最後は・・・。
  小沢:城山(西郷自決の地)には、まだちょっと早いな。西
  郷さんは城山の前に、中央政府とうまくいかなくて、故郷に
  帰った。僕も自分が先頭に立って政権まで取ったのにどうし
  ようもない状況で政権を失ってしまった。もう馬鹿馬鹿しい
  から故郷に帰ろうという気持ちが去来するけれど、ここで放
  棄したのでは思ってくれている皆さんを裏切ることになる。
  議会制民主主義を定着させて軌道に乗るところまで持ってい
  かないといけない。このままだと夏の参議院選挙でも自公が
  勝って、そこにプラスどこがくつつくのか知らないけれども
  大政翼賛会的な大勢力ができて、他は雲散霧消するという恐
  れを皆が持っているし、僕もそう思う。だから、明治維新で
  言えば薩長連合を中心にした雄藩連合をもう一度つくつて、
  維新を断行する方向に持っていきたい。
              ──「SAPIOインタビュー」
            /サピオ/2013年4月号/小学館
  ―――――――――――――――――――――――――――

渡辺乾介氏.jpg
渡辺 乾介氏
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2013年04月19日

●「中国からの3回の電話と小沢特使」(EJ第3531号)

 安倍政権に衝撃が走っています。5月下旬開催で韓国が調整中
の日中韓首脳会談が中止になる可能性が濃厚になったからです。
中国が日程に難色を示したからです。
 単なる日程調整の問題でないことは明らかであり、背景には尖
閣諸島の領有権をめぐる問題があることは明らかです。安倍政権
誕生以来、5ヵ月になろうとしていますが、安倍首相はもちろん
のこと、安倍政権の閣僚で中国首脳に会ったことのある人は一人
もいないことになります。まさに国交断絶の状態です。
 一方、4月16日に訪中した日本国際貿易促進協会の河野洋平
会長(元衆院議長)は、中国の汪洋副首相と北京で会談したさい
汪洋副首相は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 率直に言って中国の今の発展は日本の協力、経済界・企業の協
 力があったからこそだ」と述べ、日中経済交流を強化する必要
 性がある。また日中韓3国による自由貿易協定(FTA)交渉
 についても「今まで以上に積極的に取り組み、早期に交渉の成
 果を出したい」。       ──汪洋副首相(北京時事)
―――――――――――――――――――――――――――――
 この違いは何でしょうか。それはずばり中国の本音は、日本と
の経済関係を正常化したいと考えているということです。そうし
ないと、中国の経済がもたない状況に来ているからです。汪洋副
首相はそういうメッセージを出しているのです。
 もし、5月の日中韓首脳会談が流れると、日本では参院選が7
月にあるので、秋まで中国首脳と接触できないことになります。
これは日中双方にとって大きなマイナスになります。しかし、外
務省はどうすることもできないでいます。無能なのです。
 中国統計局の発表によると、今年1月〜3月期の実質GDP成
長率が予定の8%増に達せず、前年同期比7.7 %増と予想外の
減速になっています。しかもこの数字は信憑性に欠けるのです。
粉飾疑惑は3つの点から指摘することができます。
 第1は、今年の2月に中国紙・新京報によると、中国の省や直
轄市など地方政府が発表した昨年のGDPを合計したところ、中
国の名目GDPを5兆7600億元(91兆4700億円)も上
回ったというのです。その差額は、広東省のGDPに相当する規
模になったのです。したがって、地方政府の上げてくる数字には
相当の水増しがあり、それを中央で適当に減らしてGDPを発表
しているのです。
 第2は、中国経済の実態を表しているとみられる鉄道貨物輸送
量は、このところ前年割れや横ばいを繰り返しており、前年同期
比7.7 %増と整合性がとれないことです。
 第3は、中国税関総署による貿易統計の矛盾です。香港向けの
輸出額の伸びは中央の発表によると、大きくプラスであり、3月
に至っては92.9 %増です。
 しかし、香港側の貿易統計では数字が合わないのです。1月の
香港の中国からの輸入量は34.2 %増で半分以下、2月は18
%のマイナスになっているのです。3月分はまだ発表になってい
ませんが、大きく下回るのは確実です。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1月      2月      3月
  中央 88.3 %増  35.6 %増  92.9 %増
  香港 34.2 %増  18.0 %減   ―――
                ──4月16日付、夕刊フジ
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、このようなデタラメが起きるのかというと、中国本土の
業者(中央)は輸出額が多いと、輸出税の還付が受けられるから
です。したがって、前年同期比7.7 %増といっても信用できず
本当はゼロ成長ではないかといわれているのです。
 中国経済低迷の原因は、日中関係の悪化で両国間の貿易や投資
が低迷したことも大きいのです。中国としては尖閣問題で日本と
もめているときではないのです。しかし、振り上げた拳は大きく
建前としては、そう簡単に下ろせないのです。何かきっかけが必
要なのです。
 そこでいま囁かれているのが小沢一郎氏なのです。小沢氏を特
使として中国に派遣し、問題の解決を図るのです。中国側はそれ
を望んでいるのです。それが昨年暮れから今年にかけて、小沢事
務所に中国がかけた3回の電話の真相なのです。
 「月刊日本」2012年11月号において、地政学者の白馬崇
峰氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本政府が(尖閣諸島の)領土問題を認めずに、日中関係を振
 り出しに戻す起死回生の一手が残されている。それこそは、小
 沢一郎の特使派遣だ。小沢一郎は習近平の恩人である。習近平
 にとって今上陛下と謁見した意味は、権力を掌握する上で極め
 て大きかった。小沢一郎に頼まれれば、習近平は必ず国内を鎮
 静化させる。むしろ習近平は小沢一郎の出番、花道を用意して
 いるのではないか。   http://blogos.com/article/50495/
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢特使については、あの渡辺乾介氏も小沢一郎氏とのインタ
ビューで、「あなたには中国に友人が多い。訪中して事態打開に
動く気はないのか」と尋ねています。これに関する小沢氏は次の
ように答えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 不可能ですね。私は日本政府としての結論を出せる立場でも何
 でもない。自分で決められるならいくらでも話し合うが、今の
 立場で中国に行っても向こうも困るし、日本政府も困っちゃう
 でしょう。中国側も表面は強気でも政治家は心配していると思
 う。非常に心配な状況になっていますね。  ──小沢一郎氏
              ──「SAPIOインタビュー」
            /サピオ/2013年4月号/小学館
―――――――――――――――――――――――――――――
                  ── [新中国論/29]

≪画像および関連情報≫
 ●「小沢一郎と習近平」/地政学者の白馬崇峰氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  習近平と言えば、2009年12月に行われた天皇陛下との
  会見を思い出す人も多いと思います。この会見は、当時民主
  党の幹事長だった小沢一郎氏が「30日ルール」(外国要人
  が天皇陛下と会見する場合には30日前までに文書で申請す
  るというルール)を破って無理矢理セッティングしたものだ
  として、多くの議論を巻き起こしました。(中略)天皇陛下
  と習近平の会見の日程調整が難航したのは、習近平の訪日日
  程がなかなか決まらなかったからだと言われています。事前
  におおよその日程さえわかっていれば、「30日ルール」を
  守ることもできたはずです。これに関しては、習近平と天皇
  陛下を会見させないようにするために、胡錦濤一派がわざと
  習近平の訪日日程の決定を遅らせたという説も流れているの
  です。中国の(次期)国家主席にとって、天皇陛下と会見す
  ることには極めて重要な意味があります。それゆえ、天皇陛
  下と面会できないということになれば、習近平の権威が大き
  く傷つくことは避けられません。胡錦濤一派の狙いもそこに
  あったと思われます。ところが、小沢氏の「剛腕」により、
  本来であればとん挫するはずだった会見が実現することにな
  りました。そのため、習近平は小沢氏に恩を感じていると考
  えられます。
  http://blog.goo.ne.jp/kanayame_47/e/beffe2e02480696efc407582be2f6b7a
  ―――――――――――――――――――――――――――

白馬崇峰氏の論説/「月刊日本」.jpg
白馬 崇峰氏の論説/「月刊日本」
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2013年04月22日

●「ケ小平の改革解放路線と和平演変」(EJ第3532号)

 米国のケリー国務長官が日本にやってきたのは4月14日のこ
とです。12日に韓国、13日に中国を訪れた後に日本にやって
きたのです。
 先の2ヶ国と異なり、岸田外務大臣との会談は、午後5時30
分からです。外交の常識として、通常この時間帯の会談では、晩
餐会のかたちにして行うものです。会談の場合は、あまり時間は
とれないが、晩餐会なら時間がとれるし、晩餐会の雰囲気のなか
でないと話せないこともあるからです。
 日本の外務省は、一週間前から、最高級の和食でケリー長官を
もてなそうと、準備を進めていたのです。しかし、突然米国務省
から、「今回は食事なしの会談にして欲しい」との要請が入った
のです。外務省は慌てて何回も国務省と交渉したのですが、結局
晩餐会は実現しなかったのです。
 これは明らかにケリー国務長官が国務省に命じて断わらせたこ
とは間違いないと思われます。これに関して、外交評論家の宮崎
正弘氏は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 会食に招待されたにもかかわらず、断るというのは、外交の常
 識でいえば、非常に非礼な行為です。    ──宮崎正弘氏
               「週刊新潮」4月25日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 自民党政権が米国側から食事の誘いを拒否されたのはこれが初
めてのことです。ケリー長官は、「私は日本と親睦を深めたくな
いし、日本を重視していない」というメッセージを日本側に送っ
たに等しい非礼の対応をとったのです。
 安倍首相の訪米でもオバマ大統領は、最初は日程が合わないと
いって断り、訪問したときも、どちらかというと、冷たい対応を
しているのです。野田前首相の訪米のときは晩餐会を用意するな
ど、安倍首相よりよほど丁重に扱っているのです。
 今年の1月のことです。国務長官に就任する前にケリー氏は、
上院公聴会でアジア外交の方針について述べています。彼は、米
中関係の強化については多くの時間を割いて話しましたが、話の
なかで日米関係には言及しなかったばかりか、「日本」という単
語を一回も使わなかったといいます。
 これに比べると、前任のヒラリー国務長官は「日米同盟はアジ
ア地域における米外交の礎石」といい、初の外遊先に日本を選ん
だのとは大違いです。
 中国では、1989年4月に国内の一党独裁に反対する国民の
抗議を6月4日に天安門で鎮圧するという「天安門事件」があっ
たのですが、その直後に中国共産党幹部の心胆を寒からしめる出
来事があったのです。東ドイツ、ソ連の「亡党亡国」です。
 これに衝撃を受けた中国共産党が以後盛んに使うようになった
のは次の言葉です。
―――――――――――――――――――――――――――――
        和平演変(わへいえんぺん)
―――――――――――――――――――――――――――――
 和平演変とは何でしょうか。
 和平演変について、異色の中国研究家で最近亡くなった鳥居民
氏は次のように説明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「和平演変」とは平和のうちに政権を転覆させることだ。もう
 少しはっきり言うなら、戦争を仕掛けることなく、民主主義や
 人権といった価値観を社会主義国に押しつけ、浸透させ、社会
 主義国を転覆させようとすることだ。直接の軍事干渉に失敗し
 たあとのアメリカの新しい戦略なのだ。こんな具合に中国共産
 党は説いてきた。          ──鳥居民著/草思社
 「それでも戦争できない中国/中国共産党が恐れているもの」
―――――――――――――――――――――――――――――
 当時の江沢民総書記と李鵬首相は、「和平演変に警戒せよ」、
「社会主義を守れ」、「社会主義はわが道」とメディアを通じて
演説し、市場経済や私有化、外国企業の中国進出などもってのほ
かとして、ケ小平が進めようとしている経済改革・解放は、西側
の「和平演変」の罠であるとして反対運動を盛り上げようとした
のです。
 この当時ケ小平は、国家中央軍事委員会主席のポストを江沢民
に譲り、天安門事件の後の中央委員会の集まりで引退をほのめか
していたのですが、自分の敷いた経済改革・解放路線に反対する
首脳陣を許すつもりはなかったのです。ケ小平は、広州、深せん
珠海を視察し、自信を持ったのです。彼が主導してそこで行われ
ている工業生産は、海外からの資本と技術に農村地帯からの労働
力を得て、きわめて順調に発展していたからです。そして、有名
な「南巡講和」と呼ばれる政策談話を行ったのです。1992年
2月のとです。そのなかでケ小平は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 和平演変の主要な危険は経済分野から来ると考えるのは左で
 ある。                   ──ケ小平
                ──鳥居民著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 「左」というのは教条派という批判です。ケ小平は、いまだに
社会主義を唱え、毛沢東モデルにしがみついている江沢民一派を
「左」として批判したのです。
 ケ小平は、社会主義は「独裁の隠れ蓑」として利用するだけの
ものと見抜いており、社会主義だ毛沢東回帰などの世迷い言の主
張を繰り広げている江沢民一派に脅しをかけたのです。
 これに江沢民総書記と李鵬首相は、震え上がったのです。これ
に伴い、党中央宣伝部は力を失い、中国の新聞や雑誌は「和平演
変」を取り上げないようになったのです。
 ケ小平はそれでいて、自身は密かに「和平演変」に対する警戒
と強い恐怖を持ち続けていたといいます。何度も失敗して権力者
の地位を追われているケ小平は、当時とくに米国の出方を慎重に
探っていたのです。         ── [新中国論/30]

≪画像および関連情報≫
 ●ソ連崩壊の教訓を生かせ/南巡講話と習近平総書記
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国共産党の習近平総書記が、就任直後の昨年12月に南部
  の広東省を視察した。同じく広東省などを1992年に視察
  したケ小平氏は、「南巡講話」と呼ばれる政策談話で市場経
  済のエンジンに火をつけたのだが、習氏もこれに倣ってか、
  昨年末の視察で「改革は停頓せず、開放も歩みを止めること
  は絶対あり得ない」と、ケ小平路線の旗振り役に任じること
  をアピールしていた。国営新華社通信が報じた習氏の発言は
  この通り常識的な内容に終始していた。もっとなにかあるだ
  ろう?そう思っていたら、この1月下旬あたりから、公式に
  は報じられていなかった習氏の詳細な「発言内容」なるもの
  が、中国のインターネットで流れ始めた。補足すると、中国
  では、首脳クラスの要人発言がそのままタイムリーに報じら
  れることはまずない。発言記録のオリジナルは大体秘密扱い
  であり、若干の整理を加えた発言録が、ヒエラルキーに従っ
  て共産党内で伝えられるのが普通だ。今回はその党内バージ
  ョンが流出した、という触れ込みのようだ。
  http://sankei.jp.msn.com/world/news/130205/chn13020510130003-n1.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

ケ小平/江沢民.jpg
ケ小平/江沢民
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2013年04月23日

●「経済と国防のバランスが崩れる時」(EJ第3533号)

 中国のGDP統計には多くのウソがあることはどうやら動かし
難い事実のようです。とくに景気低迷期の数字は信用できないと
いわれます。客観的に検証しようにも、すべての経済数字が公表
されているわけではないので、そういう嵩上げされた経済数字を
国際社会はそのまま受け取るしかないわけです。
 しかし、そういうことを続けていれば、どこかで行き詰まるこ
とは明らかです。普通の西側の国であれば、銀行の不良債権が増
大したり、財政が破綻したりとか、いろいろな兆候が明らかにな
るので、比較的早い段階で国家破綻が明らかになりますが、社会
主義国の場合、ほとんどのことを先送りできるので、表面上の平
静を保つことができます。もちろん限界はあるのですが、行きつ
くところまで行って、ハードランディングすることになります。
 これに関して、大和総研チーフエコノミストの熊谷亮丸氏は次
のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 筆者は、中国経済が純粋な「資本主義経済」ではなく「社会主
 義・市場経済」であることが、当面の景気を下支えする要因に
 なり得ると考えている。「社会主義・市場経済」という中国の
 経済システムは、本質的に矛盾した体制である。中国経済の根
 底には「社会主義」が厳然と存在するため、政治指導者の意向
 を反映する形で「政治的ビジネスサイクル」が働きやすいもの
 と考えられる。端的にいえば、中国は純粋な「資本主義」では
 ないので、少なくとも1〜2年程度、もしかすると4〜5年程
 度は、いかようにでも、問題を先送りすることが可能なのであ
 る。            ──熊谷亮丸著「パッシング・
   チャイナ/日本と南アジアが直接つながる時代」/講談社
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、たとえ嵩上げされたGDPであっても、その一定割合
が国防費に計上され、軍備は強化されることになります。今年度
の中国の国防費は7406億元(約11兆4500億円)と過去
最高額が計上され、今世紀になって4倍化しているのです。
 鳥居民氏の本に、これに関連のある興味あるトークが出ていた
ので、ご紹介します。櫻井よしこ氏と、30代〜40代の2人の
中国エリート官僚XYとのやり取りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国X:この「平和的」というキーワードは、単に外交上の戦
     略だけでなく、中国が経験した「反省」に基づいた本
     音でもあるのです。
 櫻 井:何を「反省」したのですか?
 中国Y:一例をあげれば、ソ連崩壊。中国指導部がここ30年
     間で学んだ最大の教訓です。ソ連崩壊の根本的な原因
     は、「国防建設」と「経済建設」のアンバランスとい
     う覇権戦略の誤りでした。つまり巨大な軍事力の発展
     を、経済システムが充分に支えられず崩壊してしまっ
     た。冷静に考えれば、崩壊は起こるべくして起こった
     こと。ですから、将来、中国が軍拡競争に参加するこ
     とはありません。
 櫻 井:それが中国政府の今後の政策であれば理想的ですが、
     現実は違います。そのギャップをどう埋めていくので
     すか。軍事力に関しても、中国はソ連崩壊の轍は踏ま
     ないといいながら、現実には19年連続の2ケタ成長
     という軍拡が続いている。それが他国に対して脅威を
     与えた結果、覇権国家を目指していると受け止められ
     るのは当然です。
 中国X:ただ、それは毛沢東時代の認識です。冷戦後の現在で
     は状況や認識は180度変わりました。国家レベルで
     の基本概念の改善があったのです。結論をいえば政府
     や国家権力は国民一人ひとりに奉仕するという、概念
     の転換でした。かつてのような古いタイプの国家運営
     から、相当にリベラルな手法に変化してきたのです。
                   ──鳥居民著/草思社
 「それでも戦争できない中国/中国共産党が恐れているもの」
―――――――――――――――――――――――――――――
 このXとYという2人の中国エリート官僚がいっているように
ソ連崩壊の根本的原因は、覇権国家を目指すあまり、「経済」と
「国防」のバランスが崩れたことにあります。XYはそれをちゃ
んと把握していて、中国はそうはならないといっていますが、実
際はソ連と同じ道を歩いているように思います。櫻井よしこ氏も
鋭くそこを衝いているのです。
 ソ連の瓦解の多くの要因は、長期にわたり先送りされ、蓄積さ
れたものが行き詰まり、それが限界に達して、一挙に崩壊してし
まったのです。しかし、そういう内部の崩壊は外からは想像する
べくもなかったのです。
 あれほど、強大にして永遠につづくと信じられていたソビエト
連邦が、ある日突然跡形なく崩れ去ったのです。そのことに一番
衝撃を受けたのは、ほかならぬ中国共産党の幹部たちです。なか
でも一番の恐怖を味わったのは、ケ小平その人であったのです。
1989年6月16日、ケ小平は政治局業務委員たちに対して、
次の訓示をしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 われわれの最大の目的は、穏定した環境をつくりだすことに
 ある         ──ケ小平/鳥居民著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この訓示を受けて、中国共産党幹部の間では「穏定圧倒一切」
──穏定が一切を圧倒するという言葉が流行したのです。安定こ
そがすべてのものに優先するという意味です。
 これは毛沢東時代とは大きな違いなのです。毛沢東は絶えず新
しい旗を立て、国民を馳せ参じさせ、つねに緊張を押しつけ、持
続させようとしたからです。「穏定圧倒一切」とはまるで違う考
え方です。ケ小平にしてみれば、反日運動などは絶対にやっては
ならないことなのです。       ── [新中国論/31]

≪画像および関連情報≫
 ●中国は反日運動が反政府へ転化するのを怖れた/2008年
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2005年4月は、中国共産党指導部にとってインターネッ
  トの伝言板と携帯電話、そして人口の三分の一から四分の一
  を占める出稼ぎ労働者を抱える都市で、絶対にしてはいけな
  いことを知った月だった。10月11日の産経新聞・正論、
  鳥居 民氏の評論から。「中国における最後の反日運動から
  2年半がたつ。中国共産党の指導部は、それを忘れようとし
  ても忘れられないはずだ。不注意に踏み出せば落ちてしまう
  目の前の深い深淵を知ったからである。05年3月21日、
  国連事務総長が安保理常任理事国を拡大する計画をたて、日
  本を加えたいと言ったとき、中国共産党指導部は国民のすべ
  てがそれに反対だという形を作り上げるため、学校に命じて
  署名活動をやらせよう、集会とデモをやらせようと決めた。
  だが、実際にそれをやらせてみて、たちまち手に負えなくな
  った。4月9日の土曜日には、北京で4000人が日本大使
  館を包囲して、投石した。翌10日には広州市の日本総領事
  館前に3000人が集結、日系デパート前には、2万人が集
  まって気勢を上げた。次の週末は、更にひどくなるのが目に
  見えていた。週末だけにデモを制限することも出来なくなっ
  た。そのエネルギーが、反党運動の街頭化、組織化に転化し
  てしまったら、それは更に恐ろしい悪夢、都市内の出稼ぎ農
  民たちの抗議行動を誘発してしまう。
           http://yaplog.jp/navoca947/archive/12
  ―――――――――――――――――――――――――――

櫻井よしこ氏.jpg
櫻井 よしこ氏
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2013年04月24日

●「未富先老の暗示するものとは何か」(EJ第3534号)

 「和平演変」に続いて「未富先老」──ウェイフウシェンラオ
という言葉が、最近中国でよく使われます。文字を見れば見当は
つきますが、その意味は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      未富先老
      いまだ富むことがないまま、先に老いる
―――――――――――――――――――――――――――――
 この「未富先老」について、野村資本市場研究所のC・H・カ
ーン氏は、インタビューに対して次のように答えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国社会は、1980年代のはじめに導入した一人っ子政策に
 よって、国民全般が富裕となる前に年老いることになります。
 そうなるなら、中国はこの問題に直面する世界で最初の国にな
 ります。              ──鳥居民著/草思社
 「それでも戦争できない中国/中国共産党が恐れているもの」
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の実施している政策には、普通の国が理解できないものが
いくつかあります。そのひとつが「一人っ子政策」です。今や日
本をはじめとして、韓国、台湾、ASEAN諸国と周辺東南アジ
ア諸国が少子高齢化対策で苦慮しているのに、中国だけが子供の
数を制限しているからです。
 なぜ、一人っ子政策を続けているのでしょうか。現代中国研究
家の津上俊哉氏は、その原因として次の2つを上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.マルサスの「人口論」的考え方が中国で支配的である
  2.一人っ子政策の維持が実施部門の既得権益化している
―――――――――――――――――――――――――――――
 マルサスの「人口論」とは何でしょうか。
 イギリスの経済学者であるロバート・マルサスは、1798年
に「人口の原理関する一論」を著しています。この理論を簡単に
まとめると、次の3つになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.人口は、生活資源が増加するところでは常に増加する。逆
   に生活資源が足りないところでは人口は制限される
 2.人口は幾何級数的に増加し、生活資源は算術級数的に増加
   するから、人口は生活資源の水準を越えて増加する
 3.不均衡が発生すると人口集団にはそれを是正しようとする
   力が働く。「積極的制限」と「予防的制限」の2つ
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界人口を10億とします。それは25年ごとに倍増し、その
比率は1,2,4,8、・・・となります。それに対して土地か
らの農産物の収穫量は算術級数的なスピード、すなわち、1、2
3、4、・・・でしか増加しないのです。そうなると、人口の増
加率が食糧の生産増加率を上回り、やがて人口を養うだけの食糧
よりも、人口そのものの方が上回ってしまうことになる──マル
サスはこのように指摘しているのです。
 人口の数とそれを養う生活資源の量は前者が後者を大きく上回
り、不均衡化することは避けられないのです。そのため、行われ
るのが、貧困、飢饉、戦争、病気、退廃といった「積極的制限」
であり、晩婚化、晩産化、非婚化による出生の抑制などの「予防
的制限」の2つです。
 中国は、このマルサスの人口論を基にして、「一人っ子政策」
を実施したと考えられるのです。これが第1の原因です。
 第2の原因は、一人っ子政策を堅持することがそれを管理する
部門の既得権益になっていて、やめることができないことです。
これは一体どういうことなのでしょうか。
 一人っ子政策を担当するのは、計画生育委員会(以下、計生委
と省略)という大きな組織です。それは、中央レベルから全国津
々浦々まで広がり、最基層レベルの「村」にいたるまで、きちっ
としたビラミット型組織が形成されているのです。
 そこで何が既得権益になっているのかというと、一人っ子政策
違反者に課せられる罰金徴収の経済利益なのです。これは、とく
に農村地帯の党政府機関にとって、貴重な収益源になっているの
です。したがって、一人っ子政策廃止の議論が起きると、計生委
は猛然と政策堅持を主張するのです。米国で銃規制がなかなか実
現できないのと同様に、中国では一人っ子政策をやめることは、
計生委がある以上、もはや不可能であるといえます。
 この問題と密接に関係するのは、都市農村二元機構問題です。
中国では、戸籍を「都市住民」と「農民」に分けており、戸籍の
移動を認めないのです。現在は仕事を求めて、多くの農民が都市
部に出稼ぎにきており、都市に住んでいるのですが、農民は都市
の戸籍を取得することはできないのです。
 それだけではないのです。都市住民と農民の間には多くの格差
があります。例えば、農民は都市で働いていても、農民の就ける
職業には制約があり、失業保険や年金なども適用されず、医療
費の公的補助もない。おまけに賃金は不当なほど低く、満足に暮
らしていけないほどなのです。
 中国では「戸籍」のことを「戸口」といいます。この条例が制
定されたのは、1958年のことで正式名称は「戸口登記条例」
というのです。
 中国共産党の体制を批判する人は、この条例は憲法よりも強固
であるといいます。なぜなら、中国共産党50年の歴史において
憲法は4回変わり、中国共産党の党章は8回書き換えられていま
すが、この条例は不変だからです。
 なぜ、この条例ができたのでしょうか。
 中国の都市、例えば北京は中国という大海に浮かぶ小さな島の
ようなもの。そこにある日、農民という大波が襲ってきたら、ひ
とたまりもない──毛沢東はあるとき、こう考えたのです。
 つまり、毛沢東は農民が急増して、都市に押し寄せてくること
を危惧したのです。しかし、皮肉なことに、中国の経済成長はこ
の条例のお蔭なのです。       ── [新中国論/32]

≪画像および関連情報≫
 ●押し寄せる高齢化の波 「未富先老」にどう対処する?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「未富先老」とは先進国になる前に高齢化社会に入るという
  意味である。これは社会問題、経済問題であるだけでなく、
  国民の生活そのものに大きな影響を及ぼす。「未富先老」は
  「十二五(2011〜2015)」期間における課題である
  だけでなく、中国の将来に関係してくる大きな問題である。
  経済的な観点からいえば、「未富先老」が意味するところは
  人口ボーナスをまもなく享受できなくなるということで、廉
  価な労働力にたより続いてきた経済成長がストップするとい
  うことだ。また、今のところ、経済の立て直しや産業の高度
  化をすぐに実現することは難しいので、中国経済の将来の継
  続的な成長には黄信号がともっているといえる。それに「未
  富先老」は資金力のない若者に高齢者の世話をする負担を負
  わせるもので、高齢者もまた、「頼れる人がいない」という
  局面が生じるだろう。政府は高齢者援助のための予算を捻出
  しなければならず、市民も大きな経済的負担を負わなければ
  ならない。先進国の多くが高齢化社会を迎えているが、それ
  ら国家の高齢化社会への対応力は中国を大きく上回る。中国
  の経済力と先進国とではまだまだ大きな差があり、国民一人
  あたりの経済力にも違いがある。これらの点をふまえると、
  「未富先老」は将来の経済的な競争力に大きな影響をもたら
  すといえる。
   http://www.insightchina.jp/newscns/2011/03/04/15479/
  ―――――――――――――――――――――――――――

鳥居民氏の本.jpg
鳥居 民氏の本
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2013年04月25日

●「改革すべき都市農村二元構造問題」(EJ第3535号)

 中国の都市・農村二元構造問題の話を続けます。農村部は改革
・開放前の中国でも中国の経済建設に大きな貢献をしているので
す。当時農民は生産した農作物をすべて国家に強制的に売り渡す
専売制が行われていたのです。
 しかも、売り渡し価格は工業製品価格に比べると非常に低く、
そこで生まれる差益は、国の経済開発に使われるという趣旨の制
度なのです。この専売制の下で、農民から政府に移転した所得は
総額6000億元に及んだのです。
 それに加えて、農民に対しては「租庸調」と呼ばれる農民課税
が課せられるのです。この農民課税は、春秋戦国時代以来実に、
2600年にわたって続けられたすえ、新中国でも存続しており
最近になってやっと廃止されたのです。
 その税収は累計で4000億元であり、これに農作物専売制の
差益を加えると、ちょうど1兆元になります。この数字は、物価
水準が現在とは比較にならないほど低かった時代の1兆元であり
いかに過酷なものであったかがわかると思います。
 さらに、中国が日本を抜いて世界第2の経済大国になれたのは
ケ小平が進めた改革・開放路線にしたがって、農村部から沿海部
の大都市部に進出した大量の安い賃金の労働力が、中国の経済建
設に大きく貢献したのです。
 しかるに中国経済に対するこれほど大きな貢献にもかかわらず
農民は都市住民とは差別されているのです。都市の一般市民の下
に、下級市民を置く──このような制度を残しているようでは、
中国は真の一流国家にはなれないと思います。
 都市の一般市民の大半は、そういう差別制度を当たり前のこと
としてとらえ、他人の苦しみに対してあまりにも無関心であると
いえます。それどころか、そういう都市市民と役人たちは、あら
ゆる悪をこういう「外地人」のせいにして見下し、嫌っていると
いわれます。
 さらに、この制度が完全な身分差別制度であることを否定でき
ない規則があるのです。これについて鳥居民氏は「奸智に長けた
というしかない規則」であるとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに好智に長けたというしかない規則がある。農村戸籍の者
 と都市戸籍の者が結婚した場合、生まれた子供の「常住戸口」
 は母親の「常住戸口」に従うという決まりがある。もしも都市
 戸籍の青年が内陸部から出てきて工場で働いている娘と結婚し
 ようものなら、それこそ生まれた子供は公立の小学校へも行け
 ないばかりか、就業、医療などの差別を生涯受けねばならなく
 なるのだ。             ──鳥居民著/草思社
 「それでも戦争できない中国/中国共産党が恐れているもの」
―――――――――――――――――――――――――――――
 これによって明らかであるように、この制度は結婚の自由をも
冒しているといえます。なぜなら、こんな規則があれば、都市住
民の青年は結婚相手として、都市住民の女性しか選ばなくなるこ
とは明らかであるからです。
 もちろん改革がぜんぜん進んでいないわけではないのです。こ
の10年で失業保険や就労に対する保護制度が都市部に住む農民
に一部適用になっているし、一部の都市、例えば北京に住む農民
は北京の病院で保険が適用されるようになってきています。
 しかし、差別を撤廃し、農民と都市住民を一元化するところま
ではとても行っていないのです。なぜなら、それを大きく進める
には、莫大な財政負担を伴うからであり、大きく一歩が踏み出せ
ないでいるのです。
 そういうことにもあって、最近農民たちは、沿海部への出稼ぎ
を嫌うようになってきています。どうしてかというと、都市に住
もうとすると物価の上昇で生活は苦しくなっており、住宅費も高
騰しています。そのうえ就学、医療、失業、就職などさまざまな
差別を受けるので、都市部に住むメリットが少なくなっているか
らです。
 それなら、郷里のある省内の出稼ぎの方が、給与は沿海部より
は安いが、物価も低いし、差別を感じることもないので、その方
がよいと思い始めており、沿海部への出稼ぎをやめる農民が多く
なりつつあります。
 この傾向は、中国の経済に大きなダメージを与えることになり
ます。農民が出稼ぎにきてくれなくなると、沿海大都市の労働者
の賃金はさらに高騰し、中国は今までの売りであった「安い労働
力をベースとする世界の工場」のポジションを維持できなくなっ
ているのです。なぜなら、中国は高騰した賃金を上回るスピード
で生産性と付加価値を向上させないと、実質の経済成長を見込め
なくなってしまうからです。
 中国の「都市・農村の二元構造問題」の解決の必要性について
現代中国研究家の津上俊哉氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国が沿海部の不必要な賃金高騰を回避し、また、所期どおり
 都市化を進め、そこで得られる外部経済効果を経済成長の牽引
 力にしていくためには、農民差別を生む「都市・農村の二元構
 造問題」を抜本的に解決する必要がある。総体としてみて13
 億国民の半分を占める農村居住者と都市に在住する2億人の農
 村戸籍者、つまり中国国民の約3分の2は依然として公共サー
 ビス面で差別を受けており、国民の社会階層の固定化、つまり
 貧しい家庭の子供が上の社会階層に上がる可能性も狭くなって
 いるといわれる。このような社会的不公正を放置することは、
 「共産党」の名折れである。        ──津上俊哉著
         「中国台頭の終焉」/日経プレミアシリーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、中国経済の勢いの衰えが目立ってきています。今までは
都市・農村の二元構造を利用して経済成長を成し遂げてきたので
すが、今後はその身分制度がネットになって、経済が鈍化しつつ
あります。この身分社会の改革することが現在の中国に強く求め
られているのです。         ── [新中国論/33]

≪画像および関連情報≫
 ●2030年中国はどうなる/ちきゅう座
  ―――――――――――――――――――――――――――
  振り返れば、1979年12月最高指導者ケ小平が20世紀
  末までに一人当たり国民総生産(GDP、250ドル)を2
  倍の2倍、つまり4倍の1000ドルにしたいといったとき
  多くの中国通はこれを「ケ小平の夢だ」といった。私もまた
  半信半疑であった。だが、中国は、1978〜1990年の
  間に貧困状態から「温飽(衣食が足る生活)」水準になり、
  1990〜2000年は「小康(いくらかゆとりのある)」
  水準になった。そして本書は、「2020年には中国は世界
  第一位となり、世界最強の国家になる」「2030年には世
  界の五分の一、十数億の人口を擁する国の現代化はほぼ完成
  する」「国家のライフサイクルという点で見ると、この流れ
  は100年以上続く」と高らかに宣言する。こういえるのは
  2010年に中国はGDPレベルで日本を追い越し、なお経
  済成長を見通せるからだ。2011年夏に中国での長期滞在
  から帰国したとき、ある人は中国の技術は依然として遅れて
  いると語った。だが、私が住んだ青海省はともかく、大都市
  にはすでに国産の高級電化製品があった。
           http://chikyuza.net/n/archives/28627
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典
  http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2007/2007honbun/html/i1320000.html

中国における都市部と農村部の所得格差.jpg
中国における都市部と農村部の所得格差
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2013年04月26日

●「投資中毒で自滅の恐れのある中国」(EJ第3536号)

 このところ日中、日韓の間がぎゃくしゃくしています。日中両
国とも「過去最大の応酬」をやっています。4月23日、尖閣周
辺海域に中国の海洋監視船8隻が領海侵犯をしています。この8
隻という数が過去最大なのです。
 同じ23日、習近平国家主席は、訪中している米軍首脳のデン
プシー統合参謀本部議長と会談しています。このタイミングで中
国が尖閣周辺に8隻という過去最大の公船を送り込んだのは偶然
ではなく、米軍の反応をチェックしたものと思われます。
 これに対し、日本では同じ23日、靖国神社の春季例大祭に麻
生副総理ら3閣僚と超党派の議員168人(自民党132人)が
参拝したのです。これが過去最大の人数なのです。
 これによる政治的影響は深刻です。今月末、日本開催で調整し
ていた韓国の尹炳世外相の訪日と岸田文雄外相との会談が突然中
止になったのです。
 また、超党派の日中友好議員連盟の訪中も中止に追い込まれ、
5月8日から11日まで派遣する予定だった米倉弘昌会長参加の
経団連による訪中も延期になっています。習国家主席と李首相の
中国のトップ2に会えないことがはっきりしたからです。あらゆ
るチャンネルが塞がってしまった感じです。日中韓ともに政権が
交代したのに、いまだに、首脳同士の交流が実現していないので
す。これは異常な事態といえます。
 とくに韓国とは、麻生副総理が訪韓して朴槿恵大統領と会見し
ており、日中韓の首脳会談が中止になった後でも、日本と韓国は
話し合う約束が整っていたのです。それを麻生副総理自身が靖国
を参拝することによってブチ壊したのです。
 政治評論家の後藤謙次氏は、麻生副総理が靖国を参拝したこと
を知ったとき、「ウソだろう」と思ったといいます。副総理の地
位にある政治家が、いま靖国を参拝すれば韓国がどういう反応を
示すかわからないはずがない。それほど「外交音痴」ではないと
後藤氏は思ったといいます。しかし、現在安倍内閣で麻生副総理
は別格で、安倍首相に何も相談せずに靖国に参拝したものと思わ
れます。ちなみに、この内閣で麻生氏があまりボロを出さないよ
うに見えるのは、ポスト安倍の第一人者として、財務省がメディ
アに圧力をかけて麻生氏をガードしているからです。
 いったい安倍政権はかかる事態をどのように解決するつもりで
しょうか。中韓ともに安倍政権は、保守色の強い政権と見ており
米国のオバマ政権もそれを懸念しているといわれます。
 一方、日銀の異次元金融緩和によって、円が「100円」に近
付いており、100円超えは2回チャンスがあったのですが、2
回とも中国リスクによって円が買い戻されています。
 第1回目は4月11日です。このときは、99円95銭まで円
安が進んだのですが、15日に発表された中国の1〜3月の実質
経済成長率が7・7%と予想以上に減速したので、一転して96
円まで円高になっています。
 第2回目は23日です。前日は99円81銭まで円安が進行し
た円相場だったのですが、英HSBCが昼過ぎに発表した中国の
製造業活動の拡大ペースが事前予想よりも鈍かったということを
受けて、円は買い戻され、円相場は98円台半ばまで円高が進行
したのです。このように、日中は経済面でもデリケートな関係な
のです。世界第2と第3の経済大国が、いがみ合っていては、世
界経済にとって大きな損失になることは明らかです。
 ちなみに中国の製造業活動の動きを示す中国製造業購買担当者
指数(PMI)は、指数が50を超えると製造業活動の拡大を表
すのですが、23日の速報値では50.5 と50をクリアしてい
たものの、予想中央値の51.5 を下回ったことで、円が買われ
たのです。
 現在、中国は明らかに経済で行き詰まりを見せています。抜本
的な手を打たないと立ち直りは困難です。中国の李克強首相の目
指そうとするキーワードは「都市化」なのです。
 どういうことかというと、農村に都市をつくり、農村人口を都
市に住まわせることによって、都市の拡大により、インフラ投資
や不動産投資、公共事業投資を促そうとしているのです。しかし
李首相の目指す都市化は、相変わらず投資を続けようとするもの
で、従来の中国のやり方とあまり変わりはないのです。この都市
化に関して、津上俊哉氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 最近、北京で開かれた都市化に関するシンポジウムに参加した
 のですが、印象的だったのは、「都市化」とは、『土地の都市
 化』なのか、『人の都市化』なのか」という議論があったこと
 です。「人の都市化」とは、要は都市の農民工への差別をやめ
 ようというもの。いま都市の農民工は、教育、医療、失業保険
 年金など、さまざまな面で公共サービスの受け手として扱われ
 ていません。これを正すことがいちばん大事というわけで、そ
 の認識は正しいと思います。政府のなかにもそれに気付いてい
 る人は少なくないはずですが、一方で「来年もこのくらい建設
 工事をわが市で発注しないと、みなが収まらないだろう」とい
 う思いがある。いわば、「投資中毒」に侵されている中国全体
 が、「土地の都市化」ではなく、「人の都市化」に転換できる
 のか。     ──「中国経済は『投資中毒』で死滅する」
     津上俊哉/石平両氏/「Voice」5月号/PHP
―――――――――――――――――――――――――――――
 津上氏は、中国では経済成長の果実を官が取り過ぎているとい
うのです。税金は他国並みであるし、土地の含み益もそのかなり
の部分が政府のものになる。国有銀行は預金と融資の利ざやを3
%も取るのに、国有銀行は利益のほとんどを国庫に上納していな
いのです。
 これでは民間企業が育たないのは当たり前であり、民間消費が
伸びないのです。現在、民間貯蓄の75%が社会の上位10%の
家庭によるもので、格差が拡大しているのです。もはや内需拡大
による経済成長など、到底望めない状況なのです。そこには強い
経済リスクが存在します。      ── [新中国論/34]

≪画像および関連情報≫
 ●“見かけだけ”の「都市化」政策/大きな欠陥に批判
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国の都市化は急速に進み、昨年には都市化率(全人口に占
  める都市人口の割合)が51.27%となり、初めて50%
  を超えた。それでも先進国に比べれば、まだ低い。今後さら
  に都市化を進め、消費を拡大させていこうという戦略であろ
  う。だが、これまで進めてきた都市化には大きな欠陥があり
  各方面から批判の声が出ていた。2011年の都市人口は約
  6億9000万人。だがこのうち都市の戸籍を持っているの
  は、約4億2000万人しかいない。つまり、残りの約2億
  7000万人の都市住民は農村部から転入してきたものの、
  いまだに都市戸籍を得られずにいる。しかも彼らは、賃金や
  住居、子女の教育などあらゆる面で差別を受けている。都市
  化率が50%を超えたと言っても、それは見かけだけで、実
  際にはとても都市住民とは言えない人たちが大勢いるという
  ことである。
  http://sankei.jp.msn.com/world/news/121226/chn12122609470002-n1.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

麻生副総理兼財務相.jpg
麻生副総理兼財務相
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2013年04月30日

●「中国地方政府の債務残高が問題化」(EJ第3537号)

 中国はどのくらいの債務を抱えているのでしょうか。
 中国が公表している中央政府と地方政府の債務残高は2012
年末で、約7兆7600億元(約122兆円)です。国内総生産
(GDP)比で15%です。中国は健全財政の目安を「60%以
下」としており、15%なら何も問題はないというわけです。
 しかし、中国の発表している数字をそのまま信じている国や機
関はありません。相当の隠れ借金があると見ているからです。少
なくとも、中央政府と地方政府の債務残高は、中国政府のいう健
全財政の債務の上限であるGDPの50〜60%はあると考えら
れ、格付け会社は格付けの見直しを行っています。
 問題は地方政府の抱える隠れ借金なのです。これがどのくらい
あるかが問題なのですが、2010年末で10兆7000億元に
もなるといわれているのです。
 ここで中国の地方政府がどうなっているのかについて、知る必
要があります。中国の地方政府は次の4つに大別されます。数値
は、2011年末時点のものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.省 級 ・・・・・    33
      2.市 級 ・・・・・   332
      3.県 級 ・・・・・  2853
      4.郷鎮級 ・・・・・ 40466
―――――――――――――――――――――――――――――
 頂点に位置する「省級」の33の内訳は、次の4つに分かれて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.直轄市 ・・・・・  4
      2.省 ・・・・・・・ 22
      3.自治区 ・・・・・  5
      4.特別行政区 ・・・  2
―――――――――――――――――――――――――――――
 「直轄市」は、最高位の都市であり、省と同格の一級行政区画
なのです。現在、北京市、上海市、重慶市、天津市の4市があり
ます。直轄市は、一般的には省よりも面積が小さく、人口も少な
いのが普通ですが、そのなかで重慶市は、面積も人口も最大の都
市になっています。
 「省」は22ありますが、中国政府は「台湾」を省としている
ので、23と表記しています。「自治区」は、チベット、内モン
ゴルなど5つあり、そのほか、香港とマカオの特別行政区は2つ
です。これが省級33のすべてです。
 香港とマカオについては、返還された年(香港:1997年、
マカオ:1999年)から50年間は返還される前と同じ行政体
系をそのまま維持することが認められています。そのため、オリ
ンピックなどの国際スポーツ競技会では、香港、マカオは独自の
チームを編成しているのです。地方政府は、そういう省級の都市
の下に、ピラミッド状に市、県、郷鎮級という構成になっている
のです。それでは、地方政府のトップは誰なのでしょうか。直轄
市の市長や省長ということになるのでしょうか。
 そうではないのです。地方政府のトップは、各地区の共産党委
員会書記が務めることになっているのです。共産党中央委員にな
ると、地方政府の党委員会書記──日本の場合の首長を経験して
から、中央政治局委員になる人が多いのです。
 現在の習近平共産党総書記は、淅江省党委員会書記を務めてい
るし、李克強首相も河南省党委書記を経験しています。失脚した
薄熙来氏は重慶市党委員会書記を務めていたのです。このように
地方政府のトップを務めた人が政治局常務委員になるということ
は非常に意義のあることであるといえます。
 大阪の橋下市長がよくいう言葉に「地方の首長をやったことの
ない人に国会議員など務まるはずがない。私の方が国会議員より
能力を持っている」というのがあります。彼がというと、どうし
ても傲慢に聞こえますが、真実を衝いているともいえます。
 政治局常務委員といえば、日本の閣僚級の政治家ですが、そう
いう政権中枢を担う政治家のなかに地方の首長の経験者は極めて
少ないのです。米国でも州知事経験者が大統領になるケースが多
く、その点日本の政治体制には問題があるといえます。
 さて、こうした地方政府のトップの評価は、域内総生産(GD
P)成長率をどれだけ高めたかによってなされるのです。そのた
め、地方政府間では成長のテコ入れ競争が起きやすいのです。
 しかし、中国の中央政府は、財政規律を重視するため、地方政
府が銀行から資金を借り入れることも、地方債を発行することも
原則として禁止しているのです。それでは、どのようにして資金
をつくるのかというと、地方政府が出資して「地方融資平台」と
いう資金調達のためのプラットフォーム会社を設立して、その会
社が銀行から地方政府の保証付きで融資を受けるのです。公共事
業などは、このようにして調達した資金で行うのです。
 ところがリーマン・ショック後、中国政府が4兆元にのぼる公
共事業などの景気刺激策を打ち出したことで、その借入額が一挙
に拡大したのです。問題は、この額が正確には把握できていない
ことです。この債務額について、2013年4月26日付、朝日
新聞は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国は11年、総額を「10月末で10.7 兆元」と公表した
 が、「実態より少ない」と批判が起きた。今年4月には、項懐
 誠・元財務相が「20兆以上」という私見を示し、欧米系大手
 格付け会社フィッチ・レーティングスは「12.8 兆元」と見
 積もった。いずれの試算も、借金が増え続けていることでは一
 致する。経済紙「第一財務日報」は、毎年の利払いだけで2兆
 元程度にのぼり、返済には地方政府が毎年20%以上収入を増
 やすことが必要になる、とする研究を報じた。一部の借金は既
 に焦げつき始めているという。
          ──2013年4月26日付朝日新聞より
―――――――――――――――――― ─ [新中国論/35]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の銀行、地方政府の債務返済で難題に直面も/WSJ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  4月23日付の第一財経日報によると、中国銀行業監督管理
  委員会(CBRC)の尚福林・主席は「中国の銀行が実行し
  た地方政府系資金調達会社向け融資の3分の1以上が3年以
  内に返済期限を迎えるとみられ、これが銀行システムに難題
  をもたらす恐れがある」との見方を示した。尚主席は「地方
  政府系資金調達会社向け総融資残高は2012年末時点で9
  兆3000億元(約150兆円)だった。うち、35.5 %
  (3兆4900億元)が3年以内に返済期限を迎える見通し
  だ」と語った。資金調達会社が返済不能となれば、国内銀行
  の不良債権が増加する可能性がある。尚主席はさらに「この
  総融資残高は地方政府の12年の財政収入の1.5 倍に相当
  する」と述べた。地方政府は債券償還などのために、別の資
  金調達手段を通じて作った借金も抱えている。
  http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887324289404578442253476776108.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

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中国の行政区分地図
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2013年05月01日

●「地方政府による土地集用と都市化」(EJ第3538号)

 中国の土地制度はきわめて特殊です。国有であるのは「都市用
地」だけであり、農村の土地は「集体所有」、すなわち、農民に
よる集団所有というかたちになっているのです。この集団所有の
農村用地は、次の2つに分かれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.耕作用農地
           2.  農宅地
―――――――――――――――――――――――――――――
 農民は農地を借りて耕作したり、住宅を建てることはできるの
ですが、農地の集体所有権はきわめて弱い権利なのです。なぜな
ら、第三者への譲渡は認められないし、マンション、ビル、工場
店舗などのビジネス用の建物は建てることができないからです。
これらの建物は「都市用地」に限られるのです。
 農村用地は地方政府がそれを収用して払い下げることによって
「都市用地」に転換できます。ここで「払い下げる」とは、競売
を意味しています。例えば、日本の企業が農村部に工場を建てる
場合は、地方政府による競売によって都市用地を取得し、そこに
工場を建てることになります。
 つまり、地方政府は都市用地市場の供給サイドを独占しており
農村用地は地方政府の重要な財源になるのです。このように中国
では、人だけではなく、土地についても「都市」と「農村」とい
う異質な空間で仕切られていることになります。
 そのため、どこかの国の大企業が中国に進出するような話にな
ると、地方政府には巨額のお金が入るので、農民がそこに住居を
建てていようと、耕作していようと、容赦なく土地を取り上げ、
その土地を都市用地に転換するのです。一応原則としては、農宅
地は除外して耕作用農地だけが収用の対象なのですが、実際には
住居の建っている農宅地まで、僅かな補償金で取り上げてしまう
のが実情です。
 その土地を使っていた農民に対しては、農業収入を算定基礎と
する安い価格とわずかな補償金だけで土地を取り上げ、それを競
売することによって、外国企業には高い価格で買い取らせるので
す。その差益は、地方政府と一定の割合が中央政府の懐に入りま
す。日本企業などは莫大なお金を支払って中国の農村部で土地を
入手しているので、地方政府の長である共産党委員会書記の懐に
は莫大な資金が入ることになります。だから、地方政府は外国の
企業誘致には力を入れるのです。
 しかも、土地の場合、経済が成長すると、莫大な含み益が発生
します。その差益のほとんどが地方政府と中央政府の懐に入るの
で、一財産築けることになります。
 まして10年ほど前までは農地収用に対する規制が緩やかだっ
たので、その莫大な開発差益に目が眩んだ地方政府は、農民の生
活を顧みないひどい収用を繰り返し、「失地農民」という社会問
題まで派生させているのです。
 こういう農民の不満が中央政府に向けられることを憂慮する中
央政府は、2007年度以降からは、地方政府が土地を収用する
場合、代替地として同面積の土地を確保しないと収用枠が得られ
ないように改正したので、この面については若干改善されてきて
いるといえます。
 西側自由社会では、土地の売り買いは自由で、需給は市場メカ
ニズムによって調整されますが、中国では土地供給を地方政府が
独占しているので、収用と競売で生ずる差益が大き過ぎ、市場メ
カニズムが働かないのです。そのため、中央政府は収用を制限し
その農地を利用していた農民を立ち退かせるための補償金を引き
上げて対応せざるを得なくなっています。
 しかし、そこで困った事態が生じたのです。補償金を引き上げ
ると、以前それ以下の補償金で土地を手放した農民が不満を持つ
ようになることです。農民の不満を何よりも恐れる中央政府とし
ては、こういう事態は好ましいことではないのです。
 需給が市場メカニズムによって行われていれば、土地が値上が
りし、それによる補償金が増えても誰も文句はいわないのですが
中国ではその分まで政府の責任にされてしまうことになります。
それもこれも中国が社会主義国の体制をとっており、土地の私用
を認めないから起きる現象なのです。
 要は、土地開発益の分配の問題なのですが、これがなかなか難
しいのです。土地収用を厳しく運用しているので、それによって
都市用地は値上がりし、新興都市では住宅用の土地が不足する事
態になっています。
 都市用地の供給サイドを市場化する方法もありますが、下手に
市場の仕組みを変えると、不動産バブルの崩壊を早める恐れもあ
り、リスクが多いのです。これをやるのは、不動産を高騰させる
前に行う必要があり、既に時期を逸しているといえます。
 李克強首相は改革の一環として、「都市化」を推進させようと
しています。しかし、津上俊哉氏は、「都市化の流れは難しい」
として、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 都市・農村二元構造問題は、用地面でも都市化を制約する要因
 になっているのである。先に「二等公民」扱いされている農民
 への公共サービス水準を高めて、都市住民と農民の二元構造を
 解消しないと都市化の流れが阻害されることを述べた。同じよ
 うに、農村用地→都市用地の転換プロセスと、そこで生まれる
 差益分配の問題をうまく解決しないと、やはり都市化の流れは
 阻害されることになる。いずれの対策にも、変わることを嫌が
 る制度自身の慣性抵抗や既得権益グループからの抵抗が予想さ
 れる。                  ──津上俊哉著
         「中国台頭の終焉」/日経プレミアシリーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 以上で、地方政府が都市用地の供給サイドを独占し、それを地
方財政の重要財源にしていることは理解できたと思います。しか
し、その体制も限界に近づきつつあるようです。明日のEJでも
地方政府の財政問題を続けます。  ─── [新中国論/36]

≪画像および関連情報≫
 ●経済改革への期待を担う李克強/日経ビジネス・オンライン
  ―――――――――――――――――――――――――――
  諸外国から見れば、中国はこの10年で驚異的な成長を遂げ
  経済大国となった国だ。だが、国内、特に中間層の都市住民
  の間では「失われた10年」が問題にされている。不動産価
  格の高騰や環境汚染、高圧的な国の締めつけで、現状への幻
  滅が広がっている。新指導部がこの問題を解決しない限り、
  これまでおおむね平穏に進んできた中国の発展も、今後は容
  易に進まなくなる。李氏は変革の必要性を認識しているよう
  だ。3月20日に開かれた初の全体閣議で、すべての官庁が
  「一体となって改革を進め、現実の成果を上げ続けることで
  国民に実績を見せる」べきことが確認された。米国の新財務
  長官ジャック・ルー氏は3月20日に李首相と会談後、中国
  が「改革の課題への明確な取り組みを行ってきたことは明ら
  かだ」と述べ、続けて、難しいのは「具体的な進展」を実現
  させることだろうとつけ加えた。
  http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130405/246257/
  ―――――――――――――――――――――――――――

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会談する李克強首相
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2013年05月02日

●「中国の再生策は重慶モデルにある」(EJ第3539号)

 中国の改革開放政策がはじまったのは1978年のことです。
政権を握ったケ小平は、毛沢東時代の大躍進や文化大革命で疲弊
した経済を立て直すため、「4つの近代化」を掲げて、市場経済
体制への移行を図ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.  「工業」の近代化
        2.  「農業」の近代化
        3.  「国防」の近代化
        4.「科学技術」の近代化
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、その結果、税財源の多くが地方政府に帰属してしまう
ので、中央政府の財政力が相対的に弱体化したのです。その結果
1990年になると、中央財政は深刻な財政難に陥ったのです。
 具体的にいうと、国家財政における「2つの比率」に低下の傾
向がみられるようになったことです。ちなみに、国家財政とは、
中央財政と地方財政の合計、2つの比率とは次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.   GDPにおける国家財政収入比率
    2.国家財政収入における中央財政収入比率
―――――――――――――――――――――――――――――
 「GDPにおける国家財政収入比率」は、1980年の25%
から1993年には12%、「国家財政収入における中央財政収
入比率」は、1980年の24.5 %から1993年には22%
に落ち込んでしまったのです。
 このことを憂慮した中国政府は、税目を次の3つに分けて、中
央政府と地方政府の機能分担を明確にしたのです。この改革のこ
とを「分税制」というのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.  中央税
           2.共通配分税
           3.  地方税
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この「分税制」は本来地方政府に入るべき税源を中央
政府に委譲する性格を持っているので、中央と地方の妥協の産物
になったのです。具体的には、中央が地方の既得権を認めて保証
するなど、その運用について多くの問題点がみられたのです。
 しかし、この分税制によって中央財政は息を吹き返すのです。
何よりも税を分けたことによって徴税行政が強化され、大幅な税
収増に結びついたことと、おりからの経済成長がそれを加速させ
たので、中央財政はみるみる財力をつけたのです。
 しかし、分税制は、公債を発行する権限のない省レベルは、中
央が省から財源を引き上げたのだから、中央にならって下の市や
県レベルから財源を公然と吸い上げるようになり、中央集権的な
体制になっていったのです。そうなると、下級レベルの郷・鎮レ
ベルは、慢性的赤字にならざるを得ないのです。
 その結果、下層レベル──とくに農村部は、財源確保のため、
本来やるべきではないことをはじめたのです。津上俊哉氏はその
弊害を3つ上げ、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 第一は、「一人っ子政策」違反の名目で(それも政策に違反し
 て出産した「超生」だけでなく、検査の不受診など様々な名目
 を勝手に立てて)農民からむやみに罰金を徴収する行為、第二
 は、上級政府から「治安維持(維穏)」の予算を下付してもら
 うため、「危険分子」をみつけて報告、監視する行為、そして
 第三は、土地の処分益を巡る村幹部の専横・不正である。前二
 者は、いずれも役人が必要な食い扶持を得るために、罰金徴収
 の名目を勝手に拡大する、「『危険分子』何人仕立てて来い」
 式の本末転倒を招いている。土地の処分益を巡る村幹部と住民
 の諍いも後を絶たない。そういう「体制」が全国無数の群衆暴
 動事件を引き起こし、共産党の統治に対する信任を傷付けてき
 たのである。               ──津上俊哉著
         「中国台頭の終焉」/日経プレミアシリーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 この事態に対して、中央政府は手をこまねいていたわけではな
いのです。中央政府の財政は豊かになっているので、急速な勢い
で、地方財政に対する所得移転を増加させています。
 しかし、それは、下から上に陳情して下付するタテ割りの補助
金のかたちで行われるところに大きな問題があるのです。省から
市、市から県、いくつものプロセスを重ねるごとに腐敗が増殖す
るのです。日本でも同じですが、そのようにして下付された補助
金の使い方には、上の政府の意向に沿って行わなければならない
ので、財政自主権が欠如してしまうのです。
 この難問を解決する方法がないわけではないのです。それは李
克強新首相の目指そうとしている「農村の都市化」にあります。
これによって生ずる開発差益を、年金、医療、教育など、農民を
都市住民化するための財政需要の財源として使うのです。
 そのためには、都市住民と農民が別戸籍という問題を解決する
必要があります。これについては、農民が都市住民になるには、
農村での農宅地や耕作用農地の権利を放棄することを条件に、都
市戸籍を付与するとによて、年金などの都市サービスを与えよう
という構想です。
 この構想に基づく実験に着手した直轄市(省級)があります。
あの薄熙来が党委書記を務めていた重慶市です。薄熙来は都市戸
籍のない、都市に長期定住している農民とその家族に対し、都市
在住の実績を十分考慮して都市戸籍を与える「重慶モデル構想」
を打ち出したのです。
 重慶モデルは、3年間で3千万平方メートルの低廉賃金住宅を
建設して供給するとともに人口規模20万人以上のコミュニティ
を21ヶ所建設し、そこに500万人を収容するなどの壮大な構
想です。財源が問題ですが、現状を改革するという姿勢に多くの
農民は支持したのです。      ─── [新中国論/37]

≪画像および関連情報≫
 ●薄熙来が目指す「重慶モデル」/加藤嘉一氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「重慶模式」を代表する政策のツートップはなんと言っても
  「公営賃貸住宅の大規模建設」と「戸籍制度改革」にある。
  安価な公営賃貸住宅は中国語で「公租房」という。重慶政府
  は今後3年以内に、4000万平方メートル分の住宅を公的
  資金で建設し、100〜200万人の住居問題を解決する。
  筆者が重慶市内を走り回って集めた現場の声を総括すると、
  現在重慶市中心部の不動産価格は、最も高くて1平方メート
  ル当たり1万元。平均は6000〜7000元くらい。中心
  部を少し外れれば3000〜4000元くらいに落ち着く。
  全国平均がいくらなのかは知る由もないが、沿岸部、内陸部
  を含め、筆者が日ごろ中国各地を回っている皮膚感覚からす
  ると、重慶の住宅価格は決して高くない。むしろ、意図的に
  安く抑えられていると感じる。それでも、大学卒業生や農民
  工を含め、家をレンタルすることすら困難な人たちが数多く
  存在するということだ。だからこそ、重慶政府は社会的弱者
  への優遇政策として、「公租房建設計画」を実施する。ただ
  し、住宅建設を促進する一方で、商業住宅への規制を緩和し
  ている。お金を持っていて、不動産を購入したい人の欲望は
  抑制しないということだ。
  http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110614/220770/
  ―――――――――――――――――――――――――――

重慶モデルの薄熙来.jpg
重慶モデルの薄熙来
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2013年05月07日

●「一党独裁なのに8つの野党の存在」(EJ第3540号)

 中国はきわめて特殊な国です。中国について理解するには、中
国共産党について知る必要があります。現在、多摩大学大学院の
MBAコースで中国共産党について教えている沈才彬客員教授の
講座は満員の盛況のようです。
 中国経済は今後どうなるかについては、中国共産党──それも
習近平氏を総書記とする中国共産党の新政権が、今後10年間に
わたってどのような政治をするかにかかっています。そこで、沈
才彬(しん・さいひん)氏の著書を基にして、中国共産党につい
てご紹介していきます。
 中国共産党の組織構造はピラミッドのかたちをしています。そ
の底辺には「一般党員」が位置しています。2012年のデータ
によると、一般党員は8260万人もいるのです。
 中国共産党の一般党員になるのはなかなか大変なのです。日本
では党費さえ支払えば、自民党でもどこでも入党できますが、中
国共産党の場合は入党条件が相当に厳しく、そう簡単に入党でき
ないのです。習近平総書記も青年時代に申請して11回目にやっ
と一般党員になることができたといいます。
 しかし、中国で出世するには共産党に入党すると有利になるこ
とは確かであり、賄賂という不正な手段を使って入党する人も少
なくないといわれます。
 一般党員になってからも大変なのです。例えば、大地震などの
不慮の災害などが起きると、党員は率先して救援・支援活動を行
うことが義務付けられています。もし、こういう活動を怠ると、
党籍を剥奪されることもあるそうです。
 一般党員になって一定の年月を経て実績を積むと、幹部として
出世する人が出てきます。この場合、実績の他に、学歴やその人
の評判、共産党に対する忠誠心などが判断材料とされます。
 ここで知っておくべきは、中国の企業と共産党との関係です。
中国の企業には、社長をトップとする組織系統の他に、共産党の
書記をトップとする党の組織系統があるのです。そうすると、社
長と書記とはどちらが上なのかが問題になります。つまり、二重
権力構造になっているわけです。沈才彬氏はこれについて次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 わかりやすい例がある。清華大学の先端企業に、清華同方とい
 う上場企業がある。この会社の書記に、私の高校時代の同窓が
 就任した。彼は書記であると同時に、筆頭副総裁でもある。実
 は、彼の前任の書記は社長とウマが合わなかった。そのせいで
 経営が混乱し、業績も悪化した。そこで、社長と気の合う私の
 同窓が書記に任命されたのである。その後、この企業は混乱を
 解消し、再び経営は成長軌道に乗っている。  ──沈才彬著
          「大研究!中国共産党」/角川SSC新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 国営企業の場合は、書記のポストがあり、事実上書記が社長よ
りも実権を握っています。私営企業の場合は、従業員のなかに党
員が3人以上いれば、企業内党支部が組織されるのです。
 もし、党員が20〜50人いると、企業内党総支部が立ち上が
るし、さらに大規模になると、企業内党委員会ができるのです。
しかし、私営企業の場合は、党組織は経営には干渉できないこと
になっています。企業内の組合と同じような存在です。
 このように中国共産党は企業内にも組織があり、強大な権力構
造を有しています。しかし、このような二重権力構造は組織の発
展を阻害し、非効率であり、中国共産党が将来解決しなければな
らない課題のひとつであるといえます。
 ところで、中国は共産党一党支配の国だといわれており、それ
は間違いないのですが、中国には共産党以外に8つの政党がある
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.共産党 ・・・・・・・・・・ 8260万人
   2.中国致公党 ・・・・・・・・・・・ 3万人
   3.中国農工民主党 ・・・・・・・・ 10万人
   4.中国民主同盟 ・・・・・・・・・ 11万人
   5.中国民主建国会 ・・・・・・・・ 11万人
   6.中国民主促進会 ・・・・・・・・・ 2千人
   7.九三学社 ・・・・・・・・・・・ 10万人
   8.台湾民主自治同盟 ・・・・・・   2千人
   9.中国国民党革命委員会 ・・・・ 8万2千人
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、なぜ中国は「共産党一党支配の国」といわれるので
しょうか。それは次のような事情が考えられます。
 はっきりしていることは、これら8つの野党は、すべて中華人
民共和国の樹立以前に結党している政党であり、それ以後に発足
した政党はひとつもないということです。
 これら8つの野党の党員は、8000万人を超える共産党に比
べると、非常に小さい政党であり、数の面において、実質的に共
産党の一党支配になっているということです。
 さらに、これら8つの政党は野党ではないのです。各政党には
政府の大臣、副大臣、または全人代の副委員長、政治協商会議の
副議長といったポストが配分されるからです。つまり、これらの
野党は共産党と連立を組んで与党になっているのと同じです。
 本来野党は、与党と対立し、政権奪取を至上命題とする政治組
織です。しかし、8党すべてが与党では野党とは名ばかりの存在
なのです。しかるに、もし、今後共産党以外に新しい政党を作ろ
うとすれば、たちまち逮捕されてしまうでしょう。そういう意味
で、中国は共産党一党独裁の国といわざるを得ないのです。
 しかし、現在では、一般党員から上の階級に昇進するには、選
挙が行われ、政権には10年という任期があるのです。独裁なの
ですが、きわめて民主的に集団体制で大きな戦略や体制方針など
が決められるのです。単なる個人独裁ではなく、規則に基づく集
団独裁体制なのです。ここが他の独裁国家と中国が根本的に異な
る点であるといえます。      ─── [新中国論/38]

≪画像および関連情報≫
 ●独裁者としての共産党員/21世紀中国総研
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国政治をウオッチするに際しての、イロハのイの字を確認
  しておきたい。中国共産党は中国を独裁していて、国家機関
  司法、軍隊、行政を掌握している。その独裁党の目標は共産
  主義の実現にある。「中国共産党は中国労働者階級の先鋒隊
  であり、同時に中国人民と中華民族の先鋒隊であり、中国の
  特色をもった社会主義事業の指導核心であり、中国の先進的
  生産力発展の要求を代表し、中国の先進的文化の前進方向を
  代表し、中国の最も広大な人民の根本的利益を代表する。党
  の最高の理想と最終目標は共産主義の実現にある」──中国
  共産党章程」総綱。しかし、共産主義はあまりに遠ければ、
  過渡期の目標として社会主義市場経済社会の実現を目指して
  いる。共産党員になる資格は、満18歳以上の中国の労働者
  農民、知識分子、その他社会階層の先進分子で、党の綱領・
  章程を承認して、党組織に参加して積極的の活動し、党の決
  議を執行して、党費を納入することにある。共産党員の本務
  は献身的に人民のために服務することにある。「真剣にマル
  クス・レーニン主義、毛沢東思想、ケ小平理論と「三つの代
  表」思想を学び、党の路線、方針、政策および決議を学び、
  党の基本知識を学び,科学・文化・業務知識を学び、人民に
  服務する本務のレベルアップに努める」──「中国共産党章
  程」第一章 党員。
  http://www.21ccs.jp/china_watching/KeyNumber_NAKAMURA/Key_number_14.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

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沈才彬多摩大学大学院客員教授
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2013年05月08日

●「中国でも差額選挙は行われている」(EJ第3541号)

 多くの人は中国は共産党の一党独裁の国であり、国民による選
挙もない独裁国家であると思っています。しかし、既に述べたよ
うに、共産党の他に8つの野党──といっても事実上の与党です
が──もあるのです。
 それでは選挙はどうでしょうか。実は国民投票ではないですが
選挙も行われているのです。そのため、有力者の子弟で作る太子
党のメンバーでも、共産党の幹部になるには選挙の洗礼を受けな
ければならないのです。
 といっても以前はそうではなかったのです。選挙とはいってい
ますが、定数枠に対して、候補者も同数しか立候補しない選挙な
のです。これでは事実上の信任選挙です。これを「等額選挙」と
呼んでいます。
 昨日のEJで述べたように、中国共産党の一般党員は8260
万人います。その上のランクは「全国代表大会代表」です。定員
は、2270名ですが、そこに上がるには選挙があるのです。
 どういう選挙かというと、代表100名に対して115名が立
候補し、15人が落選する選挙です。定員よりも必ず15%多い
候補者を立てるのです。これを「差額選挙」というのです。
 この全国代表大会代表2270名の中から、その上のランクで
ある中央委員205名を選ぶことになりますが、ここでも差額選
挙が行われ、9.3 %の候補が淘汰されます。
 選挙は、一般党員から全国代表大会代表を選ぶ選挙、全国代表
大会代表から中央委員会委員を選ぶ選挙の2つであり、そこから
上のランクである中央政治局委員25名と政治局常務委員7名の
選出は選挙ではなく、決められるのです。
 それでは、どのような基準で選出されるのでしょうか。沈才彬
氏はこれについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 極めて根源的なのだが、まずはその人物の誠実さと、党組織と
 国民に対する忠誠心の強さが選出の基準となる。次に、実務家
 であることも重要な要素だ。空論ばかりを述べる人物は絶対に
 指名されない。実績も重視される。このことは、ほとんどの政
 治局委員、特に政治局常務委員たちが地方トップ経験者である
 ことからもよく理解できるはずだ。地方政府のトップを1〜3
 度経験してから執行部入りするというプロセスは、非常に重要
 である。(中略)一方、歴代のアメリカの大統領を振り返ると
 州知事経験者が大統領に選出されるケースが多く、この点は中
 国と非常によく似ている。          ──沈才彬著
          「大研究!中国共産党」/角川SSC新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 以上は中国共産党の組織構造であり、共産党の全国代表大会は
中国共産党の最高指導機関です。この他に全国人民代表大会(全
人代)があります。これは立法権を行使するほか、国家の最高権
力機関として、行政権・司法権・検察権に優越するのです。日本
の国会と考えればよいと思います。
 しかし、中国の政治は共産党が行うので、全人代よりも中国共
産党全国代表大会の方が権限が上なのです。全人代は、共産党の
提案を否決できないのです。
 2012年11月8日〜14日まで、第18回全国代表大会は
北京で開かれ、中央政治局常務委員7人が選出され、習近平氏が
中国共産党中央委員会総書記に決まったのです。いわゆるチャイ
ナ・セブンは次の7人です。3月19日のEJ第3509号でも
述べましたが、再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
        習近平総書記    劉雲山
        李克強       王岐山
        張徳江       張高麗
        兪正声
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この時点では、国家主席、首相、副首相などの役職は
決められておらず、それは2013年3月5日の全国人民代表大
会(全人代)ではじめて決まったのです。といってもポストは既
に内定しており、全人代での変更はあり得ないのです。
 ネットを見ると、新聞社でも共産党の全国代表大会を全人代と
混同して記事を書いているケースが多く、混乱しました。全国人
民代表大会、いわゆる全人代の任期は5年で、毎年1回、3月頃
に開催されることになっているのです。今年の第18回全人代は
2013年3月5日から開催されたのです。全人代には共産党員
でない人も参加しますが、代表の定数は3000人を超えてはな
らないという決まりがあります。
 このチャイナ・セブンのうち、中国のトップ3は、次のように
なっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       トップ1:     習近平総書記
       トップ2:張徳江全人代常務委員長
       トップ3:   李克強国務院総理
―――――――――――――――――――――――――――――
 全国人民代表大会(全人代)は、各省・自治区・直轄市・特別
行政区の代表および軍の代表から構成されており、少数民族や衛
星政党である「民主党派」の党員などの非中国共産党員も含まれ
ていますが、代表の約70%が共産党員なのです。
 なお、全人代では、全人代常務委員会の主催で、全人代代表選
挙が行われます。選挙といっても、既に内定している人事は間違
いなく通るのですが、反対票の割合が注目されるのです。
 2003年の全人代では、胡錦濤氏の国家主席就任について、
2937の賛成票が投じられた一方で、反対は4票、棄権は3票
でした。支持率は99.8 %で、習近平氏もほぼ同様の賛成票で
国家主席に選出されています。
 しかし、江沢民氏の中央軍事委員会主席留任は、賛成2726
票、反対98票、棄権122票で、支持率は92.5 %であった
のです。             ─── [新中国論/39]

≪画像および関連情報≫
 ●李源潮が国家副主席になった意味/日経ビジネスオンライン
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2013年3月14日、全人代では国家副主席などの重要な
  ポストの選挙が行われたが、国家副主席に当選したのは李源
  潮。昨年の党大会で「チャイナ・セブン」(中共中央政治局
  常務委員)に抜擢されるだろうと早くから期待されていた共
  青団のホープだ。利益集団に果敢に切り込み、あちこちから
  恨みを買っている。幹部を断罪するか否か、実際に決定して
  きたのは胡錦濤時代のチャイナ・ナインで、その指示を受け
  て中共中央紀律検査委員会が取り調べを行うのだが、処罰に
  関する宣言をするのは中共中央組織部の長である李源潮だっ
  たため、利益集団は彼を嫌った。その結果が投票数にも如実
  に表れている。たとえば習近平の国家主席就任に関する票決
  は2956票中、「賛成:2952票、反対:1票、棄権:
  3票」に対して、国家副主席にノミネートされた李源潮に対
  する投票結果は、「賛成:2829票、反対:80票、棄権
  37票」と、議場に軽いどよめきが起きるほどに反対票が多
  かった。胡錦濤が李源潮を推し、習近平が支援していなけれ
  ば、ノミネートさえされなかっただろう。李源潮は政治局常
  務委員ではなく、単なる政治局委員だ。通例は常務委員でな
  ければなれない国家副主席に李源潮がなった意義は大きい。
  http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130318/245168/
  ―――――――――――――――――――――――――――

胡錦濤から習近平へ.jpg
胡錦濤から習近平へ
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2013年05月09日

●「中国はトップをどう決めているか」(EJ第3542号)

 中国で共産党中央委員会の205名の中央委員になるには、2
回の差額選挙を勝ち抜く必要があります。1回目は15%が落選
する差額選挙、これで一般党員から全国代表大会代表2270名
のなかに入ることができます。
 2回目は9.3 %が落選する差額選挙、この選挙で全国代表大
会代表から中央委員会委員の205名が選出されます。ここまで
は選出メカニズムが公開されています。
 しかし、中央政治局委員の205名から25名がどのように選
出されるのかはわかっていません。選出プロセスは公開されてい
ないからです。ましてやその25名の政治局委員から政治局常務
委員の7人(胡錦濤時代は9名)がどのようにして、誰が選ぶの
か、完全にブラックボックスのなかです。
 はっきりしていることは、江沢民と胡錦濤の2人までは長老の
指名を受けて総書記になっているということです。
 張良という人の書いた『天安門文書』(文藝春秋)という本が
あります。かつての中国共産党総書記の胡燿邦と趙紫陽について
叙述しています。その訳者である山田耕介氏の「訳者あとがき」
に次の記述があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ケ小平邸での四度目の八老会議を記録した・・・メモは本書の
 白眉をなす。趙紫陽後継と政治局常務委員の補充人事を決める
 会議で、公式には何の権限もない老人たちが自分の息のかかっ
 た者をそれぞれ推す世にも奇妙な場面はどうだ。江沢民登用は
 ケ小平と李先念、陳雲の三スーパー長老の事前談合で決められ
 ていて、残りのメンバーにはいわせるだけのセレモニーだった
 場面はどうだ。           ──鳥居民著/草思社
 「それでも戦争できない中国/中国共産党が恐れているもの」
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見ると、本来何の権限もない長老が集まって、次は誰に
しようと、決めていたことがわかります。この八老会議では、ケ
小平、李先念、陳雲の3人で江沢民を総書記に指名することが決
まっていたようです。しかし、このとき既にケ小平は江沢民の次
は、胡錦濤をトップにすることを密かに決めていたのです。
 それまでの政権交代は、クーデターか前任者の失脚によって行
われてきたのです。1976年の毛沢東から華国鋒への政権交代
は、毛沢東の側近の文革の推進者である四人組逮捕というクーデ
ターの結果であったのです。
 1981年の華国鋒から胡燿邦への交代、1987年の胡燿邦
から趙紫陽への交代、1989年の趙紫陽から江沢民への交代は
いずれも前任者の失脚によるものであって、平和的な交代ではな
かったのです。
 しかし、2002年の江沢民から胡錦濤への政権委譲は、はじ
めて平和的なかたちで行われたのです。そういう意味では中国と
しては画期的なことなのです。
 しかし、江沢民は胡錦濤に対し、中央軍事委員会の主席の地位
は離さないと通告していたのです。つまり、院政を敷いたわけで
す。そのため、胡錦濤は、なかなか自分のカラーが出せずに苦労
することになるのです。
 胡錦濤総書記は、後継者の選出は一部の長老が集まって決める
というスタイルではなく、できる限り、民主的な方法で決めるよ
う努力しています。これについて、沈才彬氏は総書記選出のプロ
セスの前に行う「予備選挙」について、次のように明かしていま
す。大変貴重な情報であると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 07年10月に、第17回共産党代表大会が開催されたが、そ
 れより4ヵ月前の6月25日に党内で秘密裏に推薦選挙が行わ
 れている。推薦選挙への参加資格者は、現役の閣僚、現役の地
 方政府の首長、現役の軍高官、引退した党と国家の指導者らで
 構成され、合計400人に上る。この400人に候補者200
 人の名前が記載されたリストが配られた。200人に選ばれる
 には、中央官庁では副大臣以上、地方政府では、副省長、副市
 長以上を務めた経歴が求められる。さらに60歳以下であるこ
 とが条件となり、当然、共産党貝でなくてはならない。この推
 薦選挙で最多の推薦を得たのが習近平だった。その結果、10
 月の党代表大会で常務委員に抜擢されることが決まり、習近平
 が胡錦涛の後継者であるという空気が党内に広がった。
   ──沈才彬著/「大研究!中国共産党」/角川SSC新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は、胡錦濤政権の10年間は、江沢民一派との権力闘争に終
始したのです。胡錦濤はケ小平の教えをよく守り、つねに冷静に
対応したのです。胡錦濤が国家主席になった直後の2003年3
月に中国を新型肺炎SARSが襲ったのです。しかし、その対応
は最悪で、国際的な問題になってしまったのです。
 そのとき、胡錦濤は衛生部の大臣を務めていた張文康を更迭し
ています。張文康は江沢民の元主治医で側近ですから、江沢民と
しては、内心穏やかではないはずです。しかし、このことを熟知
している胡総書記は、バランスをとるため、自分の腹心である北
京市長の孟学農にも責任を取らせたのです。
 問題は北京市長の後任人事です。もし、胡総書記が自分の派閥
である団派のだれかを任命すれば、江沢民派は黙っていないし、
江沢民の上海閥を選べば、上海閥に迎合したことになってしまい
ます。ここで、総書記が選んだのは、太子党の王岐山だったので
す。太子党は団派でも上海閥でもないのです。
 2006年に上海でまた問題が起こります。上海閥の重鎮で、
上海市書記の陳良宇が汚職によって失脚したのです。当然胡総書
記は陳を更迭したのですが、その後6ヵ月間、後任を誰も任命せ
ず、空席にして、上海市長の韓正を書記代行にしたのです。その
うえで、任命したのはまたしても太子党の習近平だったのです。
このあたりの胡錦濤の人事は、非常に巧妙であり、このように少
しずつ胡錦濤カラーを出していったのです。太子党は都合のよい
存在だったのです。        ─── [新中国論/40]

≪画像および関連情報≫
 ●陳良宇失脚!世継ぎ消滅で上海閥はお家断絶の危機
  ―――――――――――――――――――――――――――
  言うまでもありませんが、これはいわゆる「失脚」というや
  つです。陳良宇失脚。・・・上海閥の現地大番頭格で次代の
  ホープと目されていただけに、今後の指導部人事に大きな影
  響を与えることになりそうです。陳良宇はすでに中央入りを
  果たしており、中央委員ばかりでなく中央政治局委員まで兼
  任していたのですが、この2つのポストは停止扱い。「立案
  ・検断」作業が完了すれば、このうち少なくとも中央政治局
  委員を解任されるのは確実でしょう。当ブログでいう「擁胡
  同盟」(胡錦涛擁護同盟)と綱引きを繰り返してきた「反胡
  連合」(反胡錦涛諸派連合)、その「反胡連合」の主軸とも
  いうべき上海閥が次世代を仕切るべき有力者を射落とされた
  のですから、ただごとではありません。具体的にいきましょ
  う。「擁胡同盟」におけるポスト胡錦涛と目されているのが
  遼寧省のトップである李克強・遼寧省党委員会書記で、その
  ライバルとなるのが「反胡連合」の陳良宇、あるいはやはり
  上海市同様に独立王国然とした広東省のトップである張徳江
  ・広東省党委員会書記です。
  http://blog.goo.ne.jp/gokenin168/e/5532b7328ddf738c7782477574527926
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陳良宇元上海書記
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2013年05月10日

●「習近平新政権における3つの特徴」(EJ第3543号)

 中国にはさまざまな難題があります。習近平新政権はそれを解
決できるでしょうか。ところで、新政権はどのような政権なので
しょうか。沈才彬氏は特徴として次の3つを上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.豊富な実務経験者ぞろいである
       2.順当な人事でサプライズがない
       3.メンバーはいつも低姿勢である
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の特徴は「豊富な実務経験者ぞろいである」ことです。
 7人の常務委員のうち、劉雲山を除く6人全員が、地方政府の
トップを経験しています。劉雲山の場合は、内蒙古自治区の副書
記を経験しています。
 地方政府のトップといっても、日本の地方自治体の首長とは少
し意味合いが異なるのです。中国の地方政府──省や直轄市、自
治区の面積や人口は、日本よりもスケールが大きく、中規模の国
家レベルです。今回のチャイナ・セブンは、そのレベルの国を統
治した経験を積んだメンバーであるというのです。
 第2の特徴は「順当な人事でサプライズがない」ことです。
 中国の政権は10年で交代ですが、5年ずつ前期と後期に分か
れるのです。習近平と李克強は前政権から常務委員であり、国家
主席と首相になることは周知の事実だったのです。
 チャイナ・セブンの残りの5人は政治局委員から昇格していま
すが、胡錦濤率いる団派と江沢民率いる上海閥との妥協の産物と
もいうべき人事になっています。それに年功序列も考慮されてい
るように見えます。
 7人中団派は李克強首相だけです。それに対して上海閥は、張
徳江、兪正声、張高麗の3人、どちらにも属さないのが、習近平
劉雲山、王岐山の3人です。なお、習近平総書記は習近平派を率
いることになると思います。
 中国共産党の内規には、「7上8下」というものがあり、政治
局委員選出の場合、67歳までは職務を継続できますが、68歳
以上になると、現役引退になるのです。
 そうなると、上海閥の張徳江(66)、兪正声(67)、張高
麗(66)は、習近平政権の前期(2018年)には全員が68
歳以上になってしまうのです。現在のチャイナ・セブンで、20
18年の時点で68歳以下の常務委員は、習近平と李克強の2人
だけになります。
 これにより、習近平政権後期のチャイナ・セブンは、残りの政
治局委員18人のなかから選ばれる可能性が高くなります。その
18人を派閥別に見ると、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
        団派   ・・・・・ 7人
        上海閥  ・・・・・ 3人
        習近平派 ・・・・・ 1人
        その他  ・・・・・ 7人
―――――――――――――――――――――――――――――
 この団派7人中に習政権の役職に就いている人が2人います。
国家副主席の李源潮(62)と副首相の汪洋(57)です。汪洋
については、常務委員入りが確実視されていたのですが、権力抗
争の結果、常務委員にはなれなかったのです。しかし、5年後の
常務委員入りは間違いないと思われます。
 今回全人代で唯一のサプライズであったのは、常務委員でない
李源潮が国家副主席になったことです。関係筋の情報によると、
影響力の強い江沢民・元国家主席が党政治局常務委員の劉雲山を
国家副主席に起用しようとしたのですが、習近平によって拒否さ
れたといわれます。国家副主席のポストは、象徴的な地位に過ぎ
ず、実際の権力は限定的ではあるものの、李源潮には外交面での
役割が期待されているのです。
 第3の特徴は「メンバーはいつも低姿勢である」ことです。
 これについて沈才彬氏は次のように述べています。これも年齢
に関係があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の民間企業の例で考えてみると、わかりやすいかもしれな
 い。日本の大手企業で新社長が選ばれるとき、社長よりも年上
 の世代もしくは同世代の幹部たちは、多くが子会社や関連会社
 などに移っていく。こうして新社長がリーダーシップを発揮し
 やすくするのだが、習近平新体制ではそうなっておらず、トッ
 プである習近平よりも上の世代の人間が5人もいる。習近平が
 控えめに見えるのはこのためでもある。
   ──沈才彬著/「大研究!中国共産党」/角川SSC新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 10年に及ぶ胡錦濤体制下で、中国の名目GDPは人民元建て
で約4倍、ドル建てで約5倍に成長しています。そして2010
年に中国は、ドル建ての名目GDPで日本を抜いて米国に次ぐ世
界2位の経済大国になったのです。しかし、そういう高度成長の
影の部分である格差の深刻な拡大に今の中国は直面しています。
 これに対して習近平政権は、昨年11月の党大会で次の2つの
倍増計画を打ち出しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.2020年までにGDPを倍増
      2.2020年までに国民所得倍増
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、これが達成できると、10年後には中国の名目GDPは
約20兆ドル以上に達し、中国は米国を上回り、世界一の経済大
国になれると計算しているものと思われます。しかし、このダブ
ル倍増計画──本当に達成可能でしょうか。
 現在の中国の経済の状況は深刻そのものです。この2週間ほど
の間に、中国の不動産バブル崩壊、金融破綻などのニュースがあ
ちこちから出てきています。なかには「中国経済はこの7月に破
綻する」というものまであります。この問題については、来週取
り上げて検証する予定です。    ─── [新中国論/41]

≪画像および関連情報≫
 ●中国版「国民所得倍増計画」/CRIオンライン
  ――――――――――――――――――――――――――─
  中国共産党は第18回全国代表大会で「小康社会(いくらか
  ゆとりのある社会)」の実現について、「2020年までに
  国民平均所得を2010年の倍にする」という目標を掲げま
  した。中国メディアはこれを「中国版国民所得倍増計画」と
  称し、高い注目を寄せています。中国共産党が党大会の報告
  で、国民所得の具体的な数字目標を掲げたのは、今回が初め
  てです。これまでの党大会における「小康社会」の実現につ
  いてを見ると、第16回党大会は、「GDP(国内総生産)
  を2000年より倍増させる」とした一方、国民所得は「家
  庭の財産が満遍なく増加し、人々がより豊かな暮らしができ
  るようにする」としていました。続いて、第17回党大会で
  は、「1人あたりGDPを倍増させ」、国民所得については
  「合理的で秩序ある所得配分システムの初歩的形成、中所得
  層が大多数を占めるようにし、絶対的貧困をほぼ撲滅する」
  という抽象的な内容しかありませんでした。
   http://japanese.cri.cn/918/2012/11/14/141s200975.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

李源潮副主席/汪洋副首相.jpg
李源潮副主席/汪洋副首相
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2013年05月13日

●「中国経済はこの7月に自壊する?」(EJ第3544号)

 5月に入ってからというもの、急に中国に関する情報が増えて
います。それも中国にとってあまりいい情報ではないのです。
 「週刊現代」5/11・18号での「中国経済は7月に自壊す
る」という論文にはじまり、日経ビジネス・オンラインでの倉都
康行氏の「中国のマネーの流れは正常でない」というレポート、
「文藝春秋」6月号の「中国知られざる異形の帝国」など、続々
と中国の緊急レポートが登場しています。
 この現象をどう見るかです。それは、中国の経済が明らかに正
常ではないからです。5月10日付の日本経済新聞によると、中
国経済の成長率がこのところ8%を下回る事態が続いていること
に対し、中国共産党の機関紙「人民日報」が経済成長率について
次のコメントをしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2015年までの第12次5ヶ年計画の期間中の潜在成長率は
 7.2 %前後。それを下回らなければ大きな問題はない。
                  ──9日の「人民日報」
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、中国政府が大規模な経済対策に動き出す防衛ラインと
して「7.2 %」を設定したと考えてよいと思います。もしこれ
を下回る事態が起きると非常事態です。
 「中国経済は7月に自壊する」──「週刊現代」の衝撃的な論
文を取り上げます。7月といえばもうすぐです。
 問題は、この論文を誰が書いたかですが、中国の発展研究セン
ターのL副所長が執筆者といわれています。発展研究センターと
いうのは、国務院傘下の組織で、国営の経済シンクタンクのこと
です。センターの内部には、12の研究部や研究所があり、中国
経済の分析を行っている権威ある組織です。なお、国務院という
のは、北京にある中央官庁の総称です。
 論文の執筆者であるL副所長は、「人民日報」に100篇以上
の論文を掲載している中国経済分析の第一人者であり、習近平国
家主席や李克強首相の有力な経済ブレーンの一人です。
 この論文では、中国の経済危機が起きる原因として、次の2つ
を上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   第1の原因/不動産バブルの崩壊と地方政府債務危機
   第2の原因/国際的、政治的要因によるバブルの崩壊
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の原因ですが、中国企業の業績が低迷していることです。
中国企業の決算期末は12月末となっており、上場企業は4ヵ月
以内に決算を開示することになっています。
 4月27日までに2012年12月期決算を発表した2469
社の合計純利益は、1兆9600億元(約31兆3600億円)
ですが、2011年12月期実績の11.6 %増から2.6 %増
に激減しているのです。
 これらの上場企業の業績低迷は、株式相場に鮮明にあらわれて
います。上海総合指数の4月26日の終値は2177であり、終
値ベースの年初来安値を更新しています。上海総合指数の過去最
大は、2007年10月の6124であるので、3分の1になっ
てしまっています。
 4月26日現在における米中日3大経済大国の平均株価指数を
2012年末と比較すると次のようになります。中国の一人負け
は鮮明です。
―――――――――――――――――――――――――――――
     米ダウ平均株価 ・・・・・・ 12%高
     上海総合指数 ・・・・・・・  4%安
     日経平均株価 ・・・・・・・ 34%高
―――――――――――――――――――――――――――――
 こうした中国企業の業績不振は、地方政府の税収の激減を招く
ことになります。そうなると、地方政府は土地を払い下げて収入
を得るしかないのです。
 しかし、今年に入ってからその肝心の土地が大きく減少してし
ているのです。数年前の半分にも満たず、3割から4割くらいの
水準まで減少しています。
 地方政府は、地方債が発行できないので、政府が出資する資金
調達会社を通して、政府保証をつけて銀行から融資を受けるので
す。つまり、迂回融資です。現在、その借金が積み上がっている
のですが、その借金の総額が正確に把握されていないのです。
 北京市を例にとると、この1年で2500億元(約4兆円)も
負債を増やしているのです。北京の商業地区である朝陽区が毎月
支払っている利息は、1000万元(約1億6000万円)を超
えています。この利息のプレッシャーは相当なものです。それに
担保の土地が少なくなってきているので、プレッシャーはますま
す拡大しつつあります。
 しかも中国政府の支出は増える一方です。新航空母艦の建造、
3600万戸もの低所得者用住宅の建設、全国民に対する社会保
障制度の充実、水利施設の増設などに加えて新たな成長産業への
投資も必要です。それに治安維持のための費用も莫大です。
 これに加えて、リーマンショックに対応するために行った4兆
元の緊急財政支出の返済が昨年の下半期からはじまっているので
す。2年後までに4兆6000億元(約73兆6000億円)を
償還しなければならないのです。
 第2の原因には国際的要因と政治的要因があります。国際的要
因とは、中国の経済成長を支えてきたのは、海外のホットマネー
が中国に流入し、投資バブルを生み出してきたからです。しかし
中国経済がひとたび傾きはじめたとたん、海外の投資は一斉に引
いてしまう恐れがあります。
 中国の経済は明らかにバブル化しています。いつ崩壊しても不
思議ではないのです。そこで新政権が発足したので、なるべく早
くバブルを崩壊させてしまおうという驚くべき選択肢が検討され
ているのです。これが政治的要因ですが、これについては明日の
EJで述べます。         ─── [新中国論/42]

≪画像および関連情報≫
 ●「パッシング・チャイナ」という選択/熊谷亮丸氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  かねてより筆者(熊谷亮丸)は、中国に対して日本は「バッ
  シング」ではなくて「パッシング」、すなわち「非難」する
  のではなく、もう「通過」「素通り」してもいいのではない
  かという主張をしている。日本のすぐ近くには、タイ、イン
  ド、インドネシア、ミャンマー、ベトナムなどの国々を筆頭
  とする「南アジア」という巨大な潜在市場がある。彼らは、
  戦後の焼け野原から不死鳥のように立ち上がり、アジアから
  初めて先進国の仲間入りを果たした日本人に対して、ある種
  の憧れを持っている、極めて「親日的」な国が多いのだ。今
  後、日本企業にとっては、中国に固執せず「チャイナ・プラ
  ス・ワン」、つまりは中国以外にもうひとつ海外拠点を作る
  ことこそが喫緊の課題になるだろう。もちろん、筆者の見解
  に対して、「中国経済を通過あるいは素通りして、日本経済
  は本当に大丈夫なのか」と疑問を呈する向きもあるだろう。
  事実日中関係の悪化がわが国の実体経済に及ぼす直接的な影
  響としては、3つのルートが考えられる。日本からの対中輸
  出の減少、中国にある現地法人の売上高の落ち込み、そして
  日本を訪れる中国人観光客の減少である。
  http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPTYE93T03H20130430
  ―――――――――――――――――――――――――――

講演する熊谷亮丸氏.jpg
講演する熊谷 亮丸氏
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2013年05月14日

●「10年ごとに景気が底を打つ中国」(第3545号)

 中国が経済危機を起こす原因として、前回2つの要因を上げま
したが、再現しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   第1の原因/不動産バブルの崩壊と地方政府債務危機
   第2の原因/国際的、政治的要因によるバブルの崩壊
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の原因は前回述べたので、第2の原因について考えます。
ここで注目すべきは、政治的要因によるバブルの崩壊です。具体
的にいうと、政治的にバブルを崩壊させることです。
 実は胡錦濤時代に経済を担当していた温家宝首相は、2012
年度にさらに財政出動をして、景気のテコ入れをしたかったので
すが、胡錦濤国家主席は絶対にそれを許さなかったのです。
 当時中国政府は、金融の引き締めをしており、景気が低迷して
いたのですが、これは次期首相が事実上内定していた李克強副首
相(当時)が胡錦濤国家主席に進言して実施していたといわれて
います。この副首相時代の李克強の考え方について、石平氏は次
のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 李克強には見えているのです。不動産バブルを今のうちに潰さ
 ないままにしておけば、自分の代になって必ずバブルが崩壊す
 るだろうと。だから、どうせ不動産バブルが崩壊するのなら、
 今のうちに、自分が首相に就任する前に、全部膿を出し切って
 おきたいと考えているのでしょう。ですから、今、政府が金融
 の引き締めやバブルを崩壊させるという政策を取っているのは
 私の見る限り副首相の李克強のほうです。また、李克強は胡錦
 涛に直訴して、「私の考えていることを認めてくれなければ、
 もうやっていけません」と。こうやって胡錦濤の支持を取り付
 けて、金融の引き締めの方向に走っているのです。
                  ──副島隆彦/石平共著
     『中国崩壊か繁栄か!?/殴り合い激論』/李白社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、胡錦濤時代にバブルは崩壊せず、習近平政権は発足し
たのです。もしバブルが崩壊すれば、当然のことながら、中国経
済に強い衝撃をもたらします。多くの中小企業は倒産し、銀行は
破綻し、地方政府も破綻することになりますが、政治的には誰の
責任であるかが問われることになります。
 したがって、この7月か8月に中国経済のバブルが崩壊すれば
旧政権の責任になるのは明らかです。そういう背景から、7月の
中国経済の自壊説が出てきたのではないかと思われます。
 中国経済の歴史を見ると、これまで大体8年〜10年で景気が
底を打っていることがわかります。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.   建国時期/1949年
       2.  大躍進運動/1957年
       3.  文化大革命/1966年
       4.  毛沢東死去/1976年
       5.  天安門事件/1989年
       6.アジア金融危機/1998年
―――――――――――――――――――――――――――――
 アジア金融危機から10年というと、2008年になりますが
ここで世界的金融危機(リーマンショック)が起こっています。
しかし、中国は、4兆元の緊急財政支援を行い、これをしのいで
います。つまり、先送りしたわけです。
 しかし、これ以上先送りはできないのです。建国以来の60年
に一度の大不況が襲ってくる恐れもあります。それが今年の7月
に起きる可能性が高いというのです。
 これに加えて、発展研究センターのL副所長の論文は、現在の
中国には次の5つの「熱」が生じており、それが深刻な社会危機
を形成していることを伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1. 公務員「熱」
          2.国有企業「熱」
          3. 不動産「熱」
          4.  投機「熱」
          5.  移民「熱」
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国では誰もが公務員になろうとします。現在ではその倍率は
数千倍だそうです。なぜなら、公務員になると、カネと権力と勢
力と保障があるからです。しかし、公務員熱が高まると、国家の
改革は後退するのです。
 中国では、企業といえば国有企業です。1つの国有企業の売上
高が、民間企業上位500社の売上高の総計と同じというのはザ
ラです。国有企業がこれほどの力を持つと、当然のことながら改
革は遠のくことになります。
 また、現在中国では不動産ブームが起きています。中国の白物
家電のハイアールや電機メーカーのTCLといった不動産業でな
い企業までが不動産開発に熱を上げているのです。日本のバブル
時代とまったく同じ現象が起きているのです。
 これに伴い投資ブームが起きています。投資対象は不動産だけ
ではなく、株式にも投資熱が起きています。株式に投資しない者
は、農産品でも何でも投資の対象とします。しかし、中国の株は
政府幹部が情報を独占しており、一般投資家のほとんどは損する
ことになります。
 このようにして投資で富を築いた成功者──とくに共産党幹部
の場合は、国を捨てて国外に高跳びするのです。これが中国の現
実なのです。
 この経済危機と社会危機の到来──いずれこれは近いうちに現
実のものになると論文には書いてあるのです。これらの指摘は敵
国の批判ではなく、習近平国家主席のブレーンの手による論文な
のです。論文は34ページにわたるもので、週刊現代編集部はそ
の全文を入手したのです。     ─── [新中国論/43]

≪画像および関連情報≫
 ●「中国不動産バブル崩壊」説は大げさ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【新華社スイス・ダボス/2013年1月29日】 スイス
  のダボスで世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出
  席している中国不動産大手、万科集団の王石董事長がこのほ
  ど、「中国不動産市場にバブルが存在するのは確かだが、バ
  ブルが崩壊するほどまでにはなっていない。国が不動産市場
  へのマクロコントロールを行っており、不動産価格は一定程
  度、抑えられている」と述べ、中国の「不動産バブル崩壊」
  説は大げさな表現だとの見方を示した。王董事長は中国不動
  産市場にバブルが存在すること自体は否定せず、「バブルが
  あるためそれを抑える必要がある。抑えずにバブルが崩壊す
  れば、不動産市場だけでなく国民経済の健全な発展にも影響
  が及ぶ」と話した。中国不動産市場でバブルが崩壊するとこ
  ろまで来ているとの見方について王董事長は、「それは大げ
  さだ」と主張。「日本のバブル経済の時期となった1970
  〜80年代、住宅ローンを完済するには家族3代での返済が
  必要だったが、中国の不動産価格がそれほどに至っていない
  ことは明らかだ」と話した。王董事長はまた、「国が不動産
  市場に対してマクロコントロールを実施し始めた10年以降
  大都市と一部中規模都市の不動産価格は抑えられている。全
  国で平均価格がまだ上昇しているとは言え、1人当たりの収
  入がそれ以上に増えていることを考えれば、不動産価格は相
  対的に下がっていると言える」と指摘。また、「不動産市場
  にとって不動産価格を抑えることは必要だ。この視点からす
  れば、中央政府の政策は非常に効果がある」と話した。
  http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130129-00000000-xinhua-cn
  ―――――――――――――――――――――――――――

大手企業・万科/王石董事長.jpg
大手企業・万科/王石董事長
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2013年05月15日

●「薬物依存症の如き投資依存の中国」(EJ第3546号)

 中国の経済発展研究センターのL副所長の論文の意図はどこに
あったのでしょうか。この研究センターの所長は大臣と同格の地
位を与えられており、副所長はそれに次ぐ存在です。そして、こ
の論文は、習近平国家主席はもちろんのこと、李克強首相も読ん
でいるはずです。
 それに加えて、なぜ中国はこのような重要なことを論文のかた
ちで発表したかです。もし、中国政府に対するレポートであれば
論文のかたちはとらないでしょう。むしろ、中国政府がなかなか
事実を認めないからこそ、外に知られても構わない、いやあえて
外に知らせるという意図をもって論文のかたちにしたとも考えら
れるのです。このL副所長のレポートについて、津上俊哉氏は次
のようにコメントを出しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このL博士の論文には、経済学で言う当たり前のことが書いて
 あるに過ぎないのに、これまで中国政府は危機を認めて来ませ
 んでした。L博士が述べているように、薬物依存症のような投
 資依存の悪循環をここで断ち切らないと、数年後には習近平体
 制を揺るがす真の危機が、中国に到来するでしょう。
              ──「週刊現代」11・18より
―――――――――――――――――――――――――――――
 津上氏のいう「薬物依存症のような投資依存の悪循環」とは、
具体的には何を指しているのでしょうか。それは、中国の地方自
治体による金融機関からの過剰な借り入れを通じての「ハコモノ
行政」を指しています。このハコモノ行政の展開によって、いた
るところに、人が誰も住まないゴーストタウンを次々と建設して
いることについては既に述べた通りです。
 そんなことを続けていれば、潜在的な不良債権を山のごとく積
み上げる結果になることは周知の事実です。中央政府はそのこと
を知りながら、GDPで日本を追い越すために地方政府にはっぱ
をかけたのです。それに加えて、地方政府からの報告には相当の
水増しが含まれており、地方政府の債務が本当のところどのくら
いの額になるのかわからなくなっているのです。
 ごく最近の話ですが、このことを裏づける話があるのです。そ
れは、中国公認会計士協会の張克副会長──著名な公認会計士の
次の発言です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 地方政府の財務は管理不能である。いずれ米国の金融危機より
 も大規模な危機を引き起こすことになるかもしれない。(債券
 発行についての監査依頼があったので)いくつかの地方自治体
 の財務監査を行ったが、とても債券を発行できるような状況で
 はないことがわかった。そのため、私の事務所では、債券発行
 に関わる監査の依頼を断ることにした。
  ──「日経ビジネスオンライン」掲載の倉都康行氏論文より
 http://business.nikkeibp.co.jp/article/NBD/20130507/247612/?ST=pc
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言は衝撃的です。中国の著名な公認会計士が、市場で囁
かれていた時限爆弾の存在を認めたからです。もうひとつ地方政
府の債務を増加させたのは、いわゆる「影の銀行」──シャドウ
バンキングを通じての資金調達です。これについては、大きな問
題であるので、明日のEJで取り上げます。
 経済発展研究センターのL副所長は、この問題はもはや隠し切
れない問題であると見ているようです。そのため、論文の最後に
は、次のような経済崩壊危機に備えての中国の心構えのようなこ
とが記述されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済危機と社会危機の到来は、必ずしも暗澹となることではな
 い。人には禍福があり、月には満ち欠けがあるものだ。暴風雨
 の後には美しい虹がかかるではないか。逆説的だが今年、中国
 が経済危機に見舞われることは、吉事と思いたい。なぜなら、
 短期的なウミを出すことによって、長期的な発展に向かう機会
 となるからだ。そして再び、改革を加速化させるだろう。
              ──「週刊現代」11・18より
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに、L副所長は、胡錦濤政権の10年間の政権運営に対す
る反省のようなことも述べています。そして、「中国の高度成長
時代の終焉」を宣言しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 加えて、中国を取り囲む国際環境も、険悪になりつつある。周
 辺諸国で中国の友人は、ますます減っているではないか。(胡
 錦濤時代の)10年間、政府は「調和のとれた社会」だとか、
 「科学的な発展を成し遂げる」などとしきりに強調してきた。
 だが、実際は貧富の格差が拡大した10年だった。そのため、
 改革を先延ばしにしてきたツケが出てきているのだ。もはや中
 国の高度成長の時代は終わった。2015年には7%成長とな
 り、20年には5%まで落ち込むだろう。経済成長の減速で、
 多くの問題が噴出し、企業はバタバタと倒産するに違いない。
 これが中国の近未来の現実なのだ。
              ──「週刊現代」11・18より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、中国の過剰投資は誰の目にも明らかですが、そう
かといって、投資をやめることはできないのです。もし、それを
やると、経済成長率に危険信号が灯ります。何しろ、8%を少し
切っただけで大騒ぎになる国だから大変です。
 外国からの投資を求めるにしても、いわゆる「チャイナ・リス
ク」があって、諸外国も投資を控える傾向にあります。しかも最
大の投資国である日本との関係は今や最悪です。まして、政権内
部からのこのような論文が出れば、外国からの投資は縮小せざる
を得なくなると思われます。そうかといって、内需型経済へのソ
フトランディングをしようにも、経済格差のひどい状況では困難
であるといわざるを得ないのです。中国は個人消費が非常に低い
国だからです。          ─── [新中国論/44]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の銀行膨張/地方巨額債務が背景/産経ニュース
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【北京=山本勲】中国の金融リスクへの警戒感が強まってき
  た。中国全体の経済成長が鈍る中にあって、見せかけの高成
  長を目指す地方政府が「影の銀行(シャドーバンキング)」
  を通じた高利資金で公共事業を拡大し、債務不履行の連鎖が
  金融危機を招く可能性が心配されているためだ。「わが国の
  経済運営は困難に直面している。世界的な(通貨)流動性の
  急増で国際金融危機が頻発しており、金融分野のリスク対策
  を強化せねばならない」。習近平国家主席は、4月25日の
  党政治局常務委員会議でこう強調した。最高指導部がこの時
  期、経済情勢を討議するのはまれで危機感を物語っている。
  3月末には銀行の元締めである中国銀行業監督管理委員会が
  「一部の銀行は融資管理を怠り、投資リスク対策がおろそか
  になっている」と、影の銀行によるリスクの高い信託や債券
  業務の急拡大を厳しく批判し、透明性向上を求めた。影の銀
  行には、(1)既存銀行の貸借対照表に記載されない商業手
  形や信託融資(2)銀行以外の高利貸金融(3)ノンバンク
  などがある。有力経済誌「財経」によれば総融資額は約24
  兆元(約384兆円)にのぼり、国内総生産(GDP)のほ
  ぼ半分に匹敵する。
  http://sankei.jp.msn.com/world/news/130505/chn13050521170003-n1.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

張克公認会計士.jpg
張克公認会計士
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2013年05月16日

●「中国版サブプライム問題が深刻化」(EJ第3547号)

 中国が未曽有の金融危機に直面しています。しかし、中国の銀
行の不良債権は、中国の規制当局によると、2012年度末時点
で0.95 %と前年比で0.05 %低下しているのです。この数
字を見る限り、金融危機など起こらないように見えます。
 しかし、2012年12月に開催された中央経済工作会議では
2013年の主要任務の1つとして次のリスクを重視し、それを
防ぐことを決めています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      財政金融分野に存在する隠れたリスク
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の金融危機の高まりを理解するには、シャドウ・バンキン
グについて知る必要があります。既に述べたように、中国の地方
政府は原則として地方債を発行する権限がない。それに直接銀行
から融資を受けることもできないのです。
 そこで、地方政府は融資平台という投資会社を設立し、そこを
通して銀行から融資を受けるのです。しかし、銀行はその債権を
証券会社や信託会社に譲渡しています。
 これらのローンをベースにして、証券会社と信託会社が商品の
組成を行い、「理財商品」として一般の投資家にこの商品を売っ
ています。「理財商品」とは、高利回りの金融商品の総称です。
シャドウ・バンキングというのは地方政府の第3セクター向けの
銀行融資を証券化(オフバランス化)した高利回り運用商品(理
財商品)の総体を指しているのです。
 このようにいうと、中国の理財商品は、サブプライムローン担
保証券に似ていることがわかると思います。あの著名な投資家で
あるジョージ・ソロス氏も、海南島で開かれた国際会議で、理財
商品について次のようにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の理財商品は、金融危機を招いた米国のサブプライム住宅
 ローンと類似性がある。      ──ジョージ・ソロス氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 まさに中国版サブプライム問題です。中国の銀行はいろいろ規
制が厳しくなっているので、融資平台向けの融資だけでなく、リ
スクの高いローンを証券会社、信託会社、保険会社に移転し、自
分の身をきれいに保っているのです。中国の銀行の不良債権が減
少したのもこれで納得できると思います。リスクの高いローンを
他の機関に移転する(飛ばす)仕組みが中国にはあるのです。
 中国の銀行預金の利回りは1%ぐらいで低く、投資家としては
多少リスクがあっても高利回りの金融商品には手が出るのです。
まして融資平台の融資のバックには地方政府がいるというのも投
資家にとっては安心の材料になります。
 それに理財商品がどこで売られているのかというと、銀行の支
店で堂々と売られているのです。もちろん通常の銀行業務とは関
係なく、裏ルートの業務としてです。しかし、銀行で売られてい
れば、銀行業務に関係ないといっても商品に対して偽りの信頼性
を帯びさせる効果はあると思います。
 しかし、この理財商品で謳っている高利回りには何の裏づけも
ないのです。サブプライムローンでは「高いランクの格付け」が
ありましたが、理財商品には格付けなどない。したがって、購入
者にとっては、一か八かの丁半賭博のようなものです。
 ある信託会社の幹部は、ロイターの記者に対して、次のような
ことをいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 リスクも責任もないカネだ。誰もが稼ぎたいと思うだろう。最
 も熱心なのは信託会社だ。書類を作って、会社の印を押し、カ
 ネを受け取る。それで終わりだ。     ──信託会社幹部
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは実に恐ろしいことです。なぜなら、本元の借り手である
融資平台(地方政府)が債務を返済できる状況にないからです。
これについて、企業文化研究所理事長の勝又寿良氏は次のように
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 地方政府は金融会社(融資平台)を作っては破綻させており、
 債務の返済を繰り延べてもらっている状態。企業の債務も過去
 5年間で3倍に増えているうえ、成長率が下がっているため借
 金を返すのは困難。そして肝心の不動産市場もすでにバブルは
 崩壊してしまっている。 ──2013年5月7日/夕刊フジ
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、こういう裏ルートの借金が返済不能になると、個人投
資家の購入した理財商品は紙くずになってしまうのです。
 問題はこれらのシャドウ・バンキングの融資残高がどのくらい
になるかです。正確な規模は不明ですが、最大で25兆人民元は
あるといわれています。25兆人民元は日本円で約402兆円と
いう巨額なものになります。中国のGDPは820兆円ですから
ゆうにGDPの半分の規模になるのです。
 すでに欧州系格付け会社フィッチ・レーティングスは、中国の
人民元建ての長期発行体格付けを「AAマイナス」から「Aプラ
ス」に引き下げています。中国の銀行部門がシャドウ・バンキン
グに極めて深く関与しているという疑いがあるというのが格下げ
の理由です。
 2012年には中堅の華夏銀行が販売した理財商品がデフォル
トを引き起こしていますが、今後続々とデフォルトが起きる可能
性があります。
 もっともシャドウ・バンキングや理財商品は、中国固有の問題
ですが、これによって中国の成長率がさらに下落し、不動産バブ
ルの崩壊によって、銀行の不良債権が拡大すれば、深刻な消費低
迷を招くことになるので、日本をはじめ中国に進出し、投資して
いる企業のリスクは拡大することになります。
 これによって、中国版「失われた10年」がはじまる恐れは十
分にあると思います。習政権にとってこのシャドウ・バンキング
は頭の痛い問題です。       ─── [新中国論/45]

≪画像および関連情報≫
 ●「理財商品」口座と自己勘定めぐる銀行の慣行を禁止
  ―――――――――――――――――――――――――――
  [上海/10日/ロイター]中国の債券市場監督当局は5月
  10日、「理財商品」(ウェルス・マネジメント商品)と呼
  ばれる高利回りの金融商品を販売している銀行に対し、銀行
  が管理する顧客の理財商品口座と、銀行の自己勘定の間にお
  ける資金の移動を禁止すると通知した。複数の市場関係者が
  明らかにした。中国の4銀行の債券トレーダーらによると、
  中央国債登記結算(CDC)と上海清算所は共同で、商業銀
  行に対し、銀行の自己勘定と顧客の理財商品口座の間におけ
  る債券取引はできなくなると通知した。10日午後から適用
  されるという。CDCからはコメントを得られなかった。ト
  レーダーらによると、各行は理財商品投資家に約束した配当
  を行うため、自行のバランスシートと、管理している顧客の
  理財商品口座の間で債券のやり取りをしていたが、新規制に
  よりこうした慣行を認めなくする。こうした慣行は、商品の
  新規販売による流入資金を既存の投資家に対する配当に充て
  ることを容認するものだとして、ねずみ講まがいの手法だと
  の指摘が出ている。仕組みが複雑なこともあり、銀行を流動
  性リスクにさらすものだとの懸念も浮上していた。
  http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPTYE94907B20130510
  ―――――――――――――――――――――――――――

金融危機が迫る中国.jpg
金融危機が迫る中国
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2013年05月17日

●「習近平はラストエンペラーになる」(EJ第3548号)

 中国という国は、経済成長率が1%落ちると、500万人の失
業者が出るといわれています。現在は、10%台だったのが7%
台に落ちているので、1500万人の失業者が出ている計算にな
ります。1500万人というと、東京都の人口は約1300万人
ですから、それ以上の失業者ということになります。
 中国の失業に関しては、2つのデータからそれが非常に深刻で
あることがわかっています。
 2012年12月12日に中国のメディアから出た話ですが、
西南財経大学の最近の調査によると、中国の実際の失業率は政府
が公表した数字の倍であるというのです。政府の数字は4.1 %
ですから、8%以上ということになります。これが1つ。
 もう1つは、資源指数研究院が同じ2012年12月の数字に
よると、2012年の第1四半期から第3四半期、つまり、1月
から9月までの中国製造業の雇用者数が、前年に比べると20%
減少しているというのです。
 このことは、世界の工場として世界経済を支えてきた中国経済
は、完全に失速したことを意味しています。実際に中国の沿海部
の広州のまわりの東莞、順徳、番愚には、ホンダや電機メーカー
の部品工場があるのですが、それらは2年前から工場が閉鎖され
てしまっているのです。つまり、工場団地全体がゴーストタウン
化しているのです。
 中国に詳しい評論家の宮崎正弘氏は、中国のアパレル工場の現
状について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 浙江省の温州なんかは、企業倒産が20万社ぐらいあって、百
 万人ぐらいがあの都市だけで失業しているんですよ。だからこ
 れは大変な問題だろうと思う。もうひとつはアパレルですね。
 アパレルはミシン工の人件費だけが問題です。だからこれは台
 湾がもの凄い投資をして中国で繊維産業を立ち上げて、その後
 悪徳華僑らもドッと進出し、奴隷工場のように女工たちを閉じ
 込めて、工場から出さないで生産してきた。まるで鉄格子のな
 かのような工場ですよ。そういう工場がたくさんあったけれど
 も、2年前から閑古鳥が鳴いている。みんなどこへ行ったか?
 ベトナム、ラオス、カンボジアあるいはバングラデシュに行っ
 たんですよ。            ──石平/宮崎正弘著
     「2013年後期の『中国』を予測する」/ワック刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように中国の経済の現状は厳しいものがあります。ところ
で、習近平政権が誕生してからさかんによくいわれていることが
あります。それは次のことばです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       習近平はラストエンペラーになる
―――――――――――――――――――――――――――――
 習近平とはどのような人物なのでしょうか。日本人にはこの人
物について、よく見えていないところがあります。
 2012年11月に総書記に就任すると、早速着手したことが
あります。それは軍部を把握することです。問題は彼がそれをど
のようにしてやったかです。
 江沢民は軍を押え込むのに5年の年月をかけているのです。そ
のやり方は、軍の腐敗には目をつむって好き放題にやらせ、総書
記の持っている大将の任命権を活用して軍の幹部を取り込み、軍
にどんどん予算を付けたのです。つまり、軍を買収したようなも
のです。しかも、その仕上げのために、胡錦濤時代になっても、
2年間は軍事委員会主席のポストを離さなかったのです。
 その江沢民のあとを継いだ胡錦濤は、軍事委員会主席になって
からの8年間、結局何もできなかったのです。最後まで軍を掌握
できなかったのです。なぜなら、軍のトップがほとんど江沢民派
だったからです。
 2012年11月15日、習近平は軍事委員会主席に就任する
や軍事委員会のメンバーをガラリと入れ替えています。派閥では
なく、ハイテク重視で近代兵器に通暁したメンバーを選んだもの
と思われます。
 それから習総書記は、軍事委員会と軍に対し、次の命令を出し
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      軍の軍規を粛清し、戦争の準備をせよ
―――――――――――――――――――――――――――――
 この命令によって尖閣諸島への公船の出入りが活発化し、日中
間の緊張が一気に高まったのです。火器管制レーダーの照射もこ
れによって行われたものと思われます。
 これに加えて出したのは「禁酒令」です。これは軍にとって衝
撃的な話だったのです。軍は贅沢であり、高級酒の茅台酒(マオ
タイチュウ)を飲んでいたのに、それが禁止になったので、茅台
酒などの酒造メーカーの株価が下がったほどです。
 続いて習近平は、広東省に視察に行っているのです。この視察
には、軍事委員会のメンバー全員を連れていっているのです。陸
海空のトップ、第二砲兵のトップも同行しています。
 陸海空を全部視察して、とくに海軍では、南海艦隊のフリゲー
ト艦「海口」に乗船しています。この広東省視察は、軍全体に対
する一大パフォーマンスになったのです。
 ここで習近平総書記は「新南巡講和」を行っています。かつて
のケ小平の「南巡講和」を真似たのです。1992年1月18日
──当時の中国の最高指導者であるケ小平は北京から南に向けて
出発したのです。その後、湖北省、広東省、上海市を約1ヵ月か
けて視察し、各地で改革・開放の加速を呼びかけたのです。これ
が、いわゆる「南巡講話」と呼ばれるものです。習近平はそれを
再現したのです。
 習近平は2013年1月になっても軍学校をすべて回っていま
す。総書記に就任したばかりの中国共産党のトップが行う行動と
しては、異例の行動であるといえます。習近平は一体何を狙って
行動したのでしょうか。      ─── [新中国論/46]

≪画像および関連情報≫
 ●「習近平はラストエンペラーか」/日々是口実
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国の全人代(全国人民代表者会議)が行われ、習近平が政
  権トップである国家主席に就任した。意外なことに「習近平
  は中国最後の指導者になるのではないか」という声が、複数
  の識者から聞こえてきた。中国は世界第2の経済大国となり
  年間8%もの高い経済成長率を誇っている。国民の所得は飛
  躍的に上がり、生活水準も向上した。また「世界の工場」と
  言われているように、今や国際的なビジネスは中国を中心に
  回っている。その点だけを捉えれば、中国は繁栄の一途にあ
  ると言えよう。しかし、一方で中国は国内外で問題を引き起
  こしている。国内では汚職、環境破壊、少数民族の抑圧、言
  論弾圧、海外では領土問題をめぐる強引な行動、環境破壊、
  自然資源の掠奪的な搾取、そして、外国の政治への不正な介
  入。政府や企業へのサイバー攻撃。かほど無法な行為を行う
  国が経済力、権力を持つことに世界は警戒心を抱いていた。
  それは、1930年代のナチスドイツに似ているのかもしれ
  ない。ヒトラー率いるナチ党は1933年に旧来のワイマー
  ル憲法を停止し、独裁体制を確立。以後、第一次世界大戦な
  どで奪われた領土を回復したり、軍備を拡張したりした。
   http://59s-hibikor.doorblog.jp/archives/24650493.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

独自路線の習近平政権.jpg
独自路線の習近平政権
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2013年05月20日

●「習近平国家主席発言の本音を探る」(EJ第3549号)

 習近平総書記が昨年広東省に視察に行ったとき、報道されてい
ない次の3つの発言があったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.旧ソ連はスターリンなど過去の偉人を批判したことで共産
   主義に対する信仰が薄れたのである。
 2.旧ソ連は党から軍を引き離し、政治的中立を守らせたこと
   によって共産党が消滅したのである。
 3.民主化が進んでいないことは政治改革の後退ではない。中
   国独自の民主化を進めるべきである。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この3つのことがなぜ中国メディアで報道されなかったかです
が、これは習総書記自身の意向で発言から削除されたのです。そ
れは胡徳平ら右派勢力からの反発を避けるためです。習総書記は
敵を作ることに過敏な政治家なのです。
 簡単にソ連の歴史を振り返ってみましょう。レーニンの後継者
である元ソ連共産党書記長のスターリンは、政敵の大粛清を行い
個人独裁の体制を敷いたのです。
 スターリンの生存中は何もいえなかったフルシチョフは、スタ
ーリンが死ぬと、その専制政治を批判したのです。そのため、ス
ターリンを評価する中国との間で激しい論争が起き、国家間の対
立に発展しています。
 習総書記は、このソ連の例を引き、過去の偉人の批判を強く戒
めているのです。具体的には「毛沢東を批判するな」といってい
るわけです。
 ソ連では80年代後半からゴルバチョフ書記長が出てきて、一
党独裁の放棄や国会議員の直接選挙などの大改革を実行します。
90年代に入ると、改革に不満を持った党保守派がクーデターを
起こしたのですが、軍が中立的立場を取ったため、クーデターは
中途半端で終わります。一党独裁を廃止しているので、ソ連の軍
は共産党から独立し、中立的存在になっていたのです。習総書記
は、これを戒めているのです。今後も共産党の一党独裁体制を強
化し、軍は共産党の軍隊としての位置付けをあくまで維持すると
しているのです。
 中国政治と外交が専門の毛利和子氏は、旧ソ連と中国の違いに
ついて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ソ連の経済システムは、1930年代からほぼ半世紀にわたっ
 てつくり上げられたものである。中国のいわゆるスターリン型
 の集権システムがはげしい政治変動と恣意的な経済運営で実際
 には言われるはど機能していなかったのと違って、ソ連では固
 いシステムができ上がってしまっている。それを抜本的に変え
 るには相当のエネルギーと観念の転換が必要である。
         ──毛利和子著「中国とソ連」(岩波新書)
                ──加藤隆則/竹内誠一郎著
             「習近平の密約」/文春新書911
―――――――――――――――――――――――――――――
 ゴルバチョフは、経済を改革するには政治改革が必要であると
して政治改革を先行させています。これに対して中国は、政治と
経済を分離し、経済改革を先行させ、それに対して一定の成果を
収めていますが、政治改革は先送りしています。つまり、習総書
記は西側モデルを目指さず、中国独自の民主化を進めればよいと
考えているのです。
 このように報道で伏せられた上記3つに習近平総書記の本音が
よくあらわれているのです。つまり、彼は毛沢東式の中央集権に
よってケ小平の提案した経済発展を進めようとしているのです。
 ソ連が崩壊したとき、習近平は福州市の党委書記をしていたの
です。彼はソ連解体に強い関心を示し、同市の課長以上の幹部を
500名を集めて次のことを述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 前年に党の視察団の一員としてソ連を訪問した。ソ連人民は自
 家用車を持ち、広い家を持ち、中国人民よりも良い生活をして
 いたが、今は貧困の中にいる。民主化の代償だ。ソ連共産党の
 解体は偶然ではなく、欧米など外部の介入に加え内部からの崩
 壊もあった。我々はソ連と同じ道をたどってはならない。
          ──加藤隆則/竹内誠一郎著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 習近平のイメージは一見すると、庶民派のそれです。しかし、
総書記就任直後からの発言を聞いていると、強軍が強国を作ると
し、強国の夢の実現として、富国・強軍を説いています。習総書
記は広州軍区で「強軍の夢」を実現させるために、次の3つの心
得を兵士に説いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ≪習総書記が説いた3つの心得≫
  1.断固として党の指揮に従うことこそ強軍の魂である
  2.戦って勝利することができることが強軍の要である
  3.法によって軍を厳格に治めることが強軍の基である
        ──加藤隆則/竹内誠一郎著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 軍に対して共産党の絶対的指導──これは毛沢東の軍事思想で
す。1997年制定の国防法により、「中華人民共和国の武装団
体は中国共産党の指導を受ける」と明記されています。習総書記
は、この毛沢東の軍事思想を守ることを宣言しています。
 胡錦濤と習近平の考え方は大きく異なります。人民に対しても
次の違いがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      胡錦濤 ・・・・・・ 「親民」路線
      習近平 ・・・・・・ 「統民」路線
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、両者の考えるところは基本的に同じなのです。胡は親
民でないと人民が爆発すると考え、習は統民しないと暴発は防げ
ないと考えているからです。    ─── [新中国論/47]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平体制/「平和発展」から「富国強兵」へ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【北京=山本勲】3月5日開幕した第12期全国人民代表大
  会を機に、中国は胡錦濤体制から習近平体制への10年に1
  度の政権交代を行う。2003年春発足した胡錦濤政権は外
  には「平和発展」、内では「調和社会の構築」を唱えた。多
  くはかけ声倒れに終わったが、努力の跡もうかがえた。対照
  的に今大会で国家主席を兼任する習近平共産党総書記は「中
  華民族の偉大な復興」を唱えて民族主義を鼓吹し、富国強兵
  路線を邁進しようとしている。国際社会は対外強硬姿勢をあ
  らわにする習政権を前に、新たな対応を迫られている。新政
  権の鮮烈なデビューは、「胡温新政(胡錦濤・温家宝の新政
  治)」と内外の期待を集めた。「調和社会の構築」を唱えて
  社会格差是正に取り組み、農業関連諸税を全廃するなど一定
  の成果も挙げた。外交面では江沢民前政権の反日民族主義路
  線を改め、「善隣友好、平和発展」政策を打ち出した。08
  年には東シナ海のガス田共同開発で暫定合意するなど、日本
  重視の姿勢は随所にうかがえた。
  http://sankei.jp.msn.com/world/news/130306/chn13030608570003-n1.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

『習近平の密約』/加藤隆則/竹内誠一郎著.jpg
『習近平の密約』/加藤隆則/竹内誠一郎著
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2013年05月21日

●「毛沢東とはどういう人物だったか」(EJ第3550号)

 毛沢東というのはどういう人物だったのでしょうか。中国の貧
困層には、根強い毛沢東信者がたくさんいます。それは毛沢東の
時代を「貧しいけれど平等だった時代」と懐かしくとらえており
同じ貧しいのなら、あの時代に回帰したいと考えているのです。
しかし、毛沢東には次の「2つの顔」があったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.強い指導者
           2.専制の暴君
―――――――――――――――――――――――――――――
 毛沢東は、大衆が生活と生産の労苦を共にする人民公社を作り
平等なユートピア社会を築こうとしたのです。そして当時の強国
である米国やソ連を敵に回して戦う英雄というイメージを作り上
げたのです。これが大衆と共に歩む「強い指導者」としての毛沢
東のオモテの顔なのです。
 しかし、その一方で毛沢東は自分の政治的野心を満足させるた
め、法を無視し、政敵を容赦なく弾圧したのです。そういう毛沢
東を一般大衆は「強い指導者」として肯定的にとらえていたので
す。これが「専制の暴君」としての毛沢東のウラの顔です。
 毛沢東は「人民のために奉仕する」という大衆路線を強力に推
進したのですが、結局大衆は政治闘争に動員され、利用されたに
過ぎなかったのです。しかし、一般大衆は、毛沢東一派による自
らの暗部を隠蔽する教育や宣伝に騙され、改革開放から取り残さ
れ、貧困であっても、それを「貧しくても平等」と美化する路線
を支持するようになっていったのです。それは社会にそれなりの
一定の安定をもたらしていたといえます。
 当時の中国の一般大衆は、共産党に造反するとか、暴動を起こ
すとか、抗議デモをやるとか、そんなことはあり得ないほど従順
だったのです。皆が毛沢東マジックにひっかかってしまっていた
のです。それでも、毛沢東は一般大衆が少しでも不満を持つ状態
が起きると、闘争などを起こしてそういう芽を摘んでいったので
す。文化大革命などは毛沢東が自ら作り出したものなのです。
 ジニ係数というものがあります。ジニ係数とは、社会における
所得分配の不平等さを測る指標であり、0〜1までの数値で、数
値が1に近づくほど格差が大きく、警戒ラインの0.4 を上回る
と社会不安が広がるとされています。
 2013年1月18日、中国は久しぶりに2012年度のジニ
係争を発表したのです。0.474 です。昨年11月の中国共産
党大会の政治報告で、所得倍増計画が明示されたのを受けての公
表と思われます。このように中国は国の都合で数字を公表したり
しなかったりするのです。
 しかし、上海の中欧国際工商学院の許小年教授は、発表された
ジニ係数について「偽りの数字だ」とコメントし、実際の格差は
もっと大きいとの見方を示しています。許小年教授は昨年12月
には中国人民銀行(中央銀行)などの調査によると、中国のジニ
係数は「2010年に0.61 に達した」とされており、公式統
計との乖離が問題となっています。
 「0.61」 がもし本当だとすると、北朝鮮よりもひどいとい
うことになります。この中国のジニ係数について石平氏と宮崎正
弘氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 石 :むしろいまの北朝鮮が中国の毛沢東時代とよく似ている
    んです。ひとにぎりの高級幹部がかなり裕福だという社
    会構造ですね。金一族と一部の軍人だけが賛沢に暮らし
    ている。国民大半は平等に貧困です。平等に貧困、だか
    らジニ係数はむしろ低い。むしろ中国より低いです。み
    んなが同じように飯を食えない。国民の90パーセント
    が飯をちゃんと食えていないんです。
 宮崎:だから中国のジニ係数もずっと今まで0.43〜0.44
    ぐらいだったのが、いきなり0.62 というのは、本当
    に特権階級だけが富をカジっちゃっていることの表れな
    んですね。          ──石平/宮崎正弘著
     「2013年後期の『中国』を予測する」/ワック刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 問題なのは、毛沢東が大変贅沢していたことです。別荘を何十
軒も持っていて、愛人が何百人といたそうです。しかし、贅沢を
していたのはほんの一部で、学者などの知識人や労働者も等しく
貧乏だったのです。しかも階級史観からいえば、知識人よりも労
働者の方が上であり、圧倒的多数の労働者はそんなことで優越感
を持っていたといいます。
 毛沢東がおかしくなったのは、1950年代後半からです。自
信過剰になり、徐々に冷徹なリアリズムを失い、空疎なイデオロ
ギーに凝り固まってしまったのです。そして、毛沢東の壮大な愚
行といわれる大躍進政策の実行に続いて、文化大革命を引き起こ
したのです。
 少しでも中国の経済を良くしようとする劉少奇国家主席やケ小
平総書記などの指導者を毛沢東は「資本主義の道を歩むもの」と
して断罪し、大衆運動による打倒の対象として失脚に追い込んだ
のです。そして空疎なイデオロギーに基づく文化大革命が10年
もの長きにわたって続き、中国共産党は崩壊寸前のところまで追
いつめられたのです。
 そういう中国を救ったのは、3度の失脚を経験したケ小平だっ
たのです。ケ小平は文革終了後の1977年に復権すると、中国
共産党を空疎なイデオロギーから脱却させ、徹底的な現実路線に
導いたのです。
 復権したケ小平は3つの国を訪問したのです。それは自分の頭
を切り換えるためであり、それによって中国を再生させようとし
たのです。その3つの国とは、第1に日本、第2にシンガポール
そして第3に米国です。
 しかし、ケ小平が3つの国から学んだ経済重視の改革開放路線
によって経済的に成長した中国は、現在、再び大きな危機を迎え
ているのです。          ─── [新中国論/48]

≪画像および関連情報≫
 ●毛沢東の光と影/ユン・チアン
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本でも、一時評判になった「ワイルド・スワン」(上下)
  という本を読んでみた。この本はロンドン大学で教鞭を執っ
  ているユン・チアン女史が著した、祖母、母、娘三代に及ぶ
  女性の目で見た中国現代史である。著者は、この本の中で毛
  沢東の政策が、中国の民衆にどれほど大きな犠牲を強いたか
  歯に衣着せぬ調子で詳述している。例えば、毛沢東はその詩
  人的着想から大躍進政策をスタートさせた。全国の農村に原
  始的な溶鉱炉を築かせて、製鉄事業に着手させたのだ。農民
  は農作業を放棄して、鉄の生産を競い合いあったから、農業
  生産物は激減した。燃料の薪を手に入れるために樹木は切り
  倒されて、山は丸坊主になった。この結果激しい飢饉が起こ
  り、中国全体で3000万人もの餓死者が出たといわれる。
  幼児を誘拐して来て殺し、その肉をウサギの干し肉と偽って
  売るような悲惨な事件も起きている。これほどの犠牲を払っ
  て生産した鉄は、粗悪でとても使い物にならなかった。大躍
  進政策の失敗もあって、実権を劉少奇一派に譲らざるを得な
  かった毛沢東は、雌伏数年の後に紅衛兵を道具に使って文化
  大革命を起こす。当時、中学生だった著者も紅衛兵になって
  毛沢東崇拝の日常を送っている。紅衛兵は「旧思想・旧文化
  ・旧風俗・旧習慣」の四旧打破をスローガンに荒れ狂い、中
  学生は担任の教師にリンチを加え、大学生は、毛沢東に批判
  的態度をとる知識人、大学教授、党幹部を広場に引っ張り出
  して吊し上げた。
        http://www.ne.jp/asahi/kaze/kaze/kizi9.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

毛沢東元中国国家主席.jpg
毛沢東元中国国家主席
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2013年05月22日

●「海外に逃亡を図る中国共産党幹部」(EJ第3551号)

 2010年の日本のジニ係数は、0.336 でしたが、同じ年
の中国のジニ係数は0.61 (公表値は0.474/2012)
であって、北朝鮮よりも悪い数字になっています。それだけ格差
が拡がっているということです。
 西南財経大学の研究センターの調査によると、中国の全家庭の
55%は貯金がゼロ。世界第2の経済大国がこの有様です。中国
の富はどこへ行ってしまったのでしょうか。
 同じ研究センターの調査によると、大体75%の金融資産の貯
蓄が、上位1割の人々に集中している。このように富は偏在して
います。その資金が中国に止まっていれば、内需拡大の起爆剤に
なりうるのですが、そうはならないのです。なぜなら、その資金
の多くは海外に逃げ出しているからです。
 2012年8月のことですが、中国の北京空港でちょっとした
騒ぎがあったのです。1機の旅客機を100人以上の警官が取り
囲むという騒ぎです。実はこの飛行機は、中国国際航空の北京発
ニューヨーク行きの便で、約7時間のフライトの後、急遽北京へ
引き返してきたのです。
 表向きの理由は、同機が脅迫を受けたというものですが、本当
の理由は海外に逃亡を図った中国の高官が搭乗していることを国
家安全部が情報をキャッチし、北京への帰還を命令したのです。
他の乗客もいるのに随分乱暴な話ですが、中国はそのようなこと
を平気で行う国です。
 なぜ、中国の高官が海外に逃げ出すのかというと、汚職の摘発
を恐れて高跳びするケースが多いのです。とくに政権の交代直前
にはこういうことはよく起きるのです。
 それもいきなり身辺に危険が迫ってから慌てて逃げ出すという
よりも計画的に逃亡するケースが多いのです。この逃亡手順につ
いて、拓殖大学・華僑研究センター長の渋谷司氏は、次のように
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 一般的な海外逃亡の手順はこうだ。まず自分の息子か娘を留学
 させる。次に妻が出国する。地下銀行などを使って資産を海外
 に移転するといった準備を進め、最後に本人が中国を脱出し、
 逃亡が完了する。各省や直轄市幹部の子女の75%がアメリカ
 のグリーンカード(永住権)、あるいはアメリカ国籍を取得し
 ているとされる。自分の子供がアメリカ国籍を持っていれば、
 本人も永住権を取りやすいからだ。子女の留学が本人の逃亡の
 布石になるのである。  ──SAPIO/2013年6月号
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国社会科学院の調査によると、海外に逃亡した中国高官の数
は、1990年代以降、1万6000〜1万8000人であると
いいます。しかし、中国の統計は信用できないので、その数はこ
れよりもはるかに多くなると思われます。
 中国の司法や警察の総元締めは、政治局常務委員の管轄下にあ
る次の2つの委員会なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.中央規律委員会 ・・・・・党内部の汚職や犯罪の摘発
 2.中央政法委員会 ・・・・・社会全体の犯罪全般の取締
―――――――――――――――――――――――――――――
 中央規律委員会は、共産党内部の汚職や犯罪の摘発を担当する
委員会です。これに対して中央政法委員会は、党内も含めて社会
全体の犯罪全般を取り締まる委員会です。そのため、警察力も有
しているのです。
 これら2つの委員会は政治局常務委員の管轄下にあったのです
が、習近平政権では中央政法委員会は政治局業務委員の管轄から
は外れています。薄熙来事件でミソをつけたことが原因とされ、
いずれ解体される運命にあります。
 実は、胡錦濤前政権の時代にはこの2つの委員会は、上海閥の
江沢民派が握っていたのです。中央規律委員会は賀国強、中央政
法委員会は周永康がそれぞれ書記を務めているのです。賀国強は
上海閥に属し、江沢民の子分といわれた人物ですし、周永康も江
沢民にきわめて近い人物です。とにかくこの2つのポストを握っ
ていれば、上海閥としては強大な権限を駆使できたのです。
 とくに賀国強の役割は胡錦濤派(団派)を上海閥に寝返らせる
ことと、上海閥に属する者の汚職や犯罪の摘発・逮捕をさせない
ようにすることの2つです。
 ところが、習近平体制になると、中央規律委員会には団派でも
上海閥でもない王岐山副首相が書記に就任し、習主席は「腐敗防
止」を政策として強く訴えているので、これからは中国から逃亡
することは困難になると思われます。しかし、あまりこれを厳し
くやると、自分へ跳ね返ってくることも多く、果たして習近平主
席がどこまでやれるか注目されます。
 1995年〜2005年の統計ですが、子女を海外に定住させ
た中国高官は既に約118万人もいるのです。この状態は彼らの
海外脱出の準備が完了しているともいえるので、自分の身に少し
でも危険が迫れば、いつても身ひとつで逃げ出すことができるの
です。そのため、彼らは「裸官」と呼ばれるのです。
 このような「裸官」は、中央政府だけでなく、地方政府にも多
くの裸官がいます。これらの裸官の動静について、華僑研究セン
ター長の渋谷司氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国国内に残っている「裸官」たちはどのタイミングで動き出
 すのか。これまで同様に収賄の疑いをかけられることをきっか
 けに逃げ出す者が出てくるだろう。さらにこれから増えるのは
 中国という国家の未来に希望を失った逃亡だ。一斉逃亡のトリ
 ガーとなるのは経済成長の減速・停滞であろう。国家の危うい
 バランスをなんとか見せかけの成長で支えていることを裸官た
 ちは知っている。遅かれ、早かれ、その時はやってくる。
             ──SAPIO/2013年6月号
―――――――――――――――――――――――――――――
                 ─── [新中国論/49]

≪画像および関連情報≫
 ●幹部の国外逃亡にみる中国共産党の内部崩壊の兆し
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国商務部が先日発表した調査報告によると、ここ30年来
  中国から逃亡した官吏の人数はおよそ4千人で、約500数
  億ドルを持ち逃げしたという。これらの逃亡官吏の大多数は
  権力があり、金もありのナンバーワンまたは銀行で働いてい
  た官吏である。彼らの中には、国有企業の理事長や社長、銀
  行支店の頭取、支店の主任、共産党の副市長、庁長、甚だし
  きに至っては部長級の官吏さえもいた。更に驚いたのは、こ
  れらの官吏の大部分は、逃亡する前からいわゆる「裸官」で
  あった。つまり、その配偶者や子女をすでに海外に出国させ
  ており、自分一人が国内に残っているのである。適当な時機
  を見つけて、これらの官吏は正規の証明書で堂々と出国する
  か、偽の身分証を使ってパスポートを作り、旅行団を通じて
  出国して第三国へ出る。これらの逃亡官吏が一番気に入って
  いるのは独立した司法体系を持つ国、例えば米国、ヨーロッ
  パ、カナダ、オーストラリアなどであり、これらの国は通常
  北京政権の圧力があっても彼らを引き渡さないからである。
  http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=226508
  ―――――――――――――――――――――――――――

賀国強/周永康.jpg
賀国強/周永康
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2013年05月23日

●「中国にフランス革命が起きる恐怖」(EJ第3552号)

 中国の高官らが資産とともに海外に逃亡していることは実に深
刻です。なぜなら、海外に移籍する高官のなかには、汚職や犯罪
などに手を染めている人たちだけでなく、そういうことをしてい
ない高官も多くいるからです。
 なお、ここで「高官」とは、中央政府や地方政府で要職に就い
ている共産党の幹部のことです。ここで重要なのは、中国経済の
先行きに不安があるというよりも、中国という国そのものの近未
来が心配だから逃げるという点にあります。
 中国人の心配は、近いうちにフランス革命に匹敵するような大
革命が起こって中国共産党が倒されることです。なぜ、フランス
革命なのかというと、原因は次の本にあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      アレクシ・ド・トクヴェル著/小山勉訳
         『旧体制と大革命』/筑摩書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、この本が中国でよく読まれているのかというと、中央規
律委員会の王岐山副首相が、中央委員全員にトクヴェルの本を読
めと推奨したからです。この事実は、「人民日報」の海外版に記
事として掲載されてわかったのです。この事情について、石平氏
は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そう。『旧制度と大革命』という本です。フランス革命前夜、
 フランスの社会状況はどうなっているかをいろいろ書いている
 んです。実は「人民日報」の海外版が、この本に対する論評を
 出しています。この論評は何を書いているかというと、どうし
 てこの本は王岐山同志が推薦して、しかも中国で大きな反響を
 呼んだかというと、わが国のいま置かれている社会的現状が、
 フランス革命の前の、フランスの状況とそっくりそのままじゃ
 ないかという話(笑)。中国人は、場合によっては、フランス
 革命のような大革命が起きるんじゃないかと思っている部分が
 あるんです。とくに特権階級にはその意識というか、恐怖感が
 強い。               ──石平/宮崎正弘著
     「2013年後期の『中国』を予測する」/ワック刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 アレクシ・ド・トクヴェルは、フランスの政治思想家で、裁判
官、後に国会議員から内閣外務大臣まで務め、3つの国権──司
法・行政・立法の全てに携わった政治家です。
 民衆が貧乏で苦しんでいるのに、特権階級だけが贅沢してうま
い汁を吸い、民衆の苦しみを無視する。そういう民衆の苦しみが
限界に達したとき、民衆の不満が爆発して革命が起きる──フラ
ンス革命はこういう経緯で起きているのです。トクヴェルはその
ことを本で克明に書いています。
 現在の中国では、共産党員は特権階級です。まして中央委員や
地方政府の幹部は、当時のフランスでいうと貴族と同じで、状況
がよく似ています。もし、革命が起きると、そういう特権階級は
家族ともども皆殺しにされると考えているわけです。そうならな
いように、万一の場合を考えて、海外に逃げる準備をしていると
いうわけです。これが移民ブームにつながっているのです。
 中国の高級幹部がトクヴェルの本を読んで、今の中国はフラン
ス革命の起きる前の状況とそっくりだと感じているとすれば、そ
れは特権階級がそれだけよい思いをしていることの何よりもの証
拠なのです。ジニ係数0.61 がそれを物語っています。ジニ係
数が本当にこのレベルになると、いつ社会騒乱が起きても不思議
ではないからです。
 しかし、そういう危機感を背景にして、習近平政権は「反腐敗
キャンペーン」に取り組んでいます。習国家主席は「虎もハエも
叩く」と、たとえ高級幹部でも許さないというメッセージを発信
しています。しかし、実際にやっていることは、いささかピント
が外れており、逆効果になっていることも多いのです。
 贅沢を禁止しようと、共産党幹部の高級ホテルでの宴会を禁止
したところ、酒造メーカーの株が暴落し、レストラン、ホテルで
は今や閑古鳥が鳴いており、かえって経済を冷やしてしまってい
るのです。これは大きなマイナスといえます。
 さらに中国政府が最近になって始めたことがあります。これに
ついて、宮崎正弘氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 何を始めたかというと、私立探偵の盗聴や尾行を禁止するとい
 うことを始めた。中国に私立探偵があったということも初めて
 知ったのですが、この人たちは何を探っているかというと、幹
 部の電話機に盗聴器を仕掛けて、それから幹部を尾行して、愛
 人との密会現場の写真を撮る。これをいままでの正義感の強い
 探偵たちならば、その写真をネットに公表して腐敗幹部を失脚
 させたのですが、いまの悪質な私立探偵は何をやっているかと
 いうと、これを強請りの材料にして金を稼ぐ。それで2500
 人の私立探偵を逮捕したんです。個人データの売買は禁止され
 ているという名目でですね。その経緯が中国語の新聞に出てい
 ました。経済政策、金融政策も相矛盾したことを同時にやって
 いるように、またこの反腐敗キャンペーンも同時に、相矛盾し
 たことが、末端における政策変更で起きている。
             ──石平/宮崎正弘著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう状況において、ある軍幹部の不正に対してどういう処
断を下すかが注目されています。昨年1月の胡錦濤体制下で起き
た不祥事です。軍用地や兵站を担当する谷俊山中将が軍用地を転
売した疑いで中央規律委員会に拘束されたのです。転売した資産
の評価額は約20億元(約260億円)ともいわれています。
 結局胡錦濤主席は自ら最終処断を下せず、習近平主席に委ねた
のです。本来であれば死刑になってもおかしくない犯罪ですが、
陸軍で死刑になった軍人は皆無なのです。習主席がそういう経緯
のなかで、谷中将を死刑にできるかどうかに注目が集まっている
のです。             ─── [新中国論/50]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平は谷俊山中将を死刑にできるか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  習近平は、軍内部に見られる「官位の売買、結託、汚職・腐
  敗」を批判し、「このままで本当に戦争ができるのか」と下
  問したという。特に軍幹部の腐敗には目に余るものがある。
  昨年1月には軍の次期指導者と目されながら、軍用地を勝手
  に転売して私腹を肥やした後勤部副部長の谷俊山中将が解任
  された。習近平派の劉源大将の意向だとされる。規律の乱れ
  は士気の低下に繋がる。そもそも私利私欲しかない烏合の衆
  というのが中国の軍隊の伝統的な姿だということもできる。
  軍の腐敗にしても、やはり伝統的な軍人文化だ。
  http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2017.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

トクヴェルの本/谷俊山前人民解放軍中将.jpg
トクヴェルの本/谷俊山前人民解放軍中将
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2013年05月24日

●「習近平政権が直面する4つの課題」(EJ第3553号)

 「習近平はラストエンペラーになる」──習政権ははじまった
ばかりです。しかもこれから10年も続くのです。それがこの政
権で中国共産党は終るというのですから、ことは穏やかではない
のです。しかも2020年までの10年も持たず、前期の5年で
中国共産党は終るという人さえいるのです。
 一般論として、習近平新政権の抱える課題には次の4つがある
といわれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.「政経乖離」
          2.「国進民退」
          3.「外強内弱」
          4.「官腐民怨」
   ──沈才彬著/「大研究!中国共産党」/角川SSC新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の課題である「政経乖離」は、経済改革が先行し、政治改
革が遅れることを意味しています。
 ケ小平は改革開放路線の実施によって、経済改革を政治改革よ
り優先させたのです。そのため、経済はもの凄い勢いで発展した
のですが、政治改革の方は置き去りにされたのです。とくに天安
門事件が起こってからは、政治改革を口にすることは一切タブー
になってしまったのです。
 しかし、その結果として、経済と政治のギャップが拡大し、こ
のギャップを解消しないと、肝心の経済の持続的成長が困難にな
り、共産党の一党支配も崩壊することになります。これが、「政
経乖離」です。
 第2の課題である「国進民退」は、国有企業が躍進し、民間企
業が後退することを意味しています。
 中国の国有企業については、4月5日のEJ第3521号で述
べましたが、中国では圧倒的に国有企業が多く、民間企業の影が
薄いのです。リーマン・ショックのさいの4兆元投資の景気対策
資金のほとんどは、これら国有企業に投入されたのです。米誌の
「フォーチュン」は、世界の企業の上位500社を選んでランキ
ングを発表しています。2012年の「フォーチュン500」の
ランキングによると、中国企業は73社、はじめて日本企業68
社を上回ったのです。ここでも中日逆転が起きています。
 しかし、国有企業がこれほど突出すれば、その分民間企業が後
退するわけです。民間企業が伸びなければ、真の経済成長の持続
は期待できないわけです。まさに「国進民退」です。
 第3の課題である「外強内弱」は、外需に強く依存し、内需が
きわめて弱いことを意味しています。
 これまで中国の経済成長を支えてきたのは輸出です。その主な
対象は日米欧の先進3地域です。しかし、これら3地域はいずれ
も長引く不景気にあえいでいて、今後のさらなる伸びが期待でき
ない状況です。とくに中国の最大の輸出先である日本との関係は
現在悪化しており、これが中国の経済発展に大きな足かせになっ
ています。もはや輸出依存は限界に達しているのです。
 しかし、そうかといって、既に述べているように、中国の内需
はあまりにも弱いのです。なぜなら、一部の富裕層が富を独占し
格差が拡大しているからです。
 第4の課題である「官腐民怨」は、役人が腐敗し、格差で国民
の不満が募ることを意味しているのです。
 役人──中国共産党高官の腐敗は止まるところを知らないので
す。胡錦濤も習近平も「腐敗根絶」を訴えていますが、それは中
央委員会委員以上の高官に集中しているのです。したがって、腐
敗を根絶させるということは彼ら自身の問題なのです。そして、
それを裁くのも彼ら自身なのです。こういう政治的な仕組みも民
衆の怒りを買っているのです。
 腐敗のほとんどは収賄罪なのですが、問題はその金額が巨額で
あることです。沈才彬氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 腐敗現象が蔓延する特徴の1つに、腐敗幹部による収賄金額が
 巨額であるということがある。5年前、中国のマスコミが、腐
 敗で逮捕された局長・課長クラス30人に関するアンケート調
 査を行った。この調査では、1人あたりの腐敗金額の平均がど
 れくらいかが判明している。驚くことに平均3000万円であ
 る。しかし今、この額は数倍に跳ね上がっている。
                 ──沈才彬著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 本当に腐敗を根絶するには、共産党一党支配という政治の仕組
みそのものを変える必要があります。したがって、この問題はど
んなに真剣に取り組んでも成功しないのです。しかし、これをや
らないと、民衆の怒りを止められなくなる。これが一番中国高官
にとって怖いわけです。だから、フランス革命的革命を恐れ、海
外に高跳びしようとするのです。
 石平氏によると、中国の収賄は「官民」間で行われるだけでは
なく、「官官」の間の収賄もあるとして、次のように述べていま
す。まさに底知れない腐敗の蔓延です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もうひとつ深刻な問題があります。官僚はただ収賄して自分た
 ちが金持ちになるだけじゃないんですね。幹部になると、上に
 上がるために幹部もお互いに賄賂を贈るんですよ。賄賂という
 のは、幹部と商売人の間の関係だけじゃないんです。いわゆる
 買官ですね。幹部の地位を買う。いまはもう公然と行なわれる
 事態になっているんです。地方に行ったら、官職はだいたいの
 ところ値段が付けられているんです。財政局長とか国土管理局
 長は、いちばん値段が高い。何故なら利権が大きいからです。
 いちばん安いのは教育局長みたいな閑職(笑)。
                   ──石平/宮崎正弘著
     「2013年後期の『中国』を予測する」/ワック刊
―――――――――――――――――――――――――――――
                 ─── [新中国論/51]

≪画像および関連情報≫
 ●調べなければ、調べたら/中国の反腐敗運動/BLOGOS
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国の習近平指導部は、官僚の腐敗撲滅を重要な政治課題に
  している。そこで、失脚した薄熙来がかつてトップをつとめ
  た重慶市を切口に、官僚たちの腐敗状況を調査したところ、
  中国の官僚の腐敗の特色は以下の通りであった。調べなけれ
  ば、人民には党が樹立した清廉潔白の模範人物「孔繁森」に
  見えるが、調べたら、全員が汚職問題で自殺した元北京市副
  市長の「王宝森」のようであった。調べなければ、腐敗は会
  議場の最前列に坐っている幹部たちのように見えるが、調べ
  たら、すべて壇上に坐っている共産党指導層に根源があるこ
  とが分かった。調べなければ、共産党幹部はみんな真面目く
  さった顔をしているが、調べたら、一人もまともなものがい
  ないことが分かった。調べなければ、道路はどこでも美しい
  花草に飾られた立派なものだが、調べたら何処も彼処も「お
  から工事」(手抜き工事)だと判明した。調べなければ、誰
  も革命のために職場で勤勉に働いているように見えるが、調
  べたら、共産党幹部はみんな海外に移住するためのグリーン
  カードを所持していた。調べなければ、共産党幹部はみんな
  「人民」に奉仕しているように見えるが、調べたら全員「人
  民元」に奉仕していることが分かった。
             http://blogos.com/article/56377/
  ―――――――――――――――――――――――――――

石平/宮崎正弘共著の中国本.jpg
石平/宮崎正弘共著の中国本
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2013年05月27日

●「国家の再建よりも海外に逃亡する」(EJ第3554号)

 5月23日における東京株式市場の日経平均株価の急落の原因
の一つに中国の5月の製造業購買担当者景気指数(PMI/速報
値)の下落が上げられています。
 具体的にいうと、PMIの数値が、好不況の判断の境目となる
「50」を切って、前月比で0.8 ポイント減り、「49.6 」
になったことです。「50」を切るのは、2012年10月以来
7ヵ月ぶりのことであるというのです。
 数ポイントの下落です。景気指数が下がったことは確かですが
中国の政府統計の信頼性が揺らいでいることや、このところ中国
経済の良くない情報が多く出ていることで、PMIの50切りが
深刻なニュースになったものと思われます。
 それではPMIの50切りの原因は何でしょうか。
 この原因は明確です。生産の不振です。それは次の2つの事実
が示しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.宝鋼集団の在庫減らしによる鋼材価格の値下げ
   2.主要炭鉱が軒並み操業停止に追い込まれている
―――――――――――――――――――――――――――――
 上海市にある宝鋼集団は鉄鋼の大手企業ですが、6月出荷分の
鋼材価格を1トン当り100〜180元(1650円〜3000
円)に引き下げています。需要が低迷し、在庫が膨らんでいるた
めです。人民元高による輸出競争力の低下もその一因です。
 中国の産炭地といえば狭西省北部ですが、ここでは主要炭鉱が
軒並み操業停止に追い込まれているのです。狭西省の楡林市には
99の炭鉱がありますが、2013年1月〜3月に操業したのは
わずか7ヶ所だけなのです。
 これに加えて、内需の伸び悩みや輸出の不振がPMI押し下げ
の要因としても働いています。とくに中国では輸出の伸びが景気
の持ち直しの主役とされています。しかし、中国の貿易統計には
重要な疑惑があるのです。
 それは「偽輸出」の疑いです。実態のない輸出を利用して投機
基金を国内に持ち込もうとしているのです。詳細は、次のブログ
の記事を参照してください。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国による2013年1〜4月の輸出は前年同期比で17.4
 %増加。4月の輸出も前年同期比で14.7 %増。「8〜12
 %増になるだろう」との市場での予測を大幅に上回る結果とな
 り、実態のない「偽輸出」を利用した水増しではないかと指摘
 する声が出てきている。そのように指摘したのは大和総研経済
 調査部シニアエコノミストの齋藤尚登氏。今月発表した中国経
 済の動向を分析するレポートで、ほぼ連動するはずの中国側の
 対香港輸出と香港側の対中国輸入の金額の差に着目。1〜3月
 の間に495億ドルもの開きがあったことから、香港への「偽
 輸出」が行われているのではないかと分析した。中国の1〜3
 月の貿易黒字は431.3 億ドル。仮に495億ドルのズレが
 実態の伴わないものであったのなら、中国の貿易黒字はすべて
 吹き飛ぶことになる。    ──IROIRIO/嶋嘉祐氏
            http://irorio.jp/cb/20130524/59966/
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国は13億人市場といわれます。明らかに中国は経済発展の
曲がり角にさしかかっています。普通なら13億人の人口があれ
ば、内需拡大型経済を構築できるのですが、格差がひどく、消費
が伸びないことは既に指摘した通りです。
 日本はかつて経済発展の曲がり角にさしかかったとき、技術革
新やコストカットによって産業の強さを維持・向上させる努力を
重ねてそれを乗り越えています。
 しかし、中国では、そういう構造改革を行うべき政治の中心に
いるエリートや一部の富裕層が、国の経済を建て直す努力をする
よりも、国を捨てて海外に逃げ出そうとする方向にエネルギーを
向けているとしか思えない動きをしているのです。
 その証拠といえる事実があります。それは、中国から流出する
不正資金です。中国に詳しい富坂聰氏によると、2010年に途
上国から欧米の銀行に流出した不正送金の総額は8588億ドル
なのですが、その約半分を中国から流出した不正資金が占めてい
るというのです。その総額は2010年までに2兆7400億ド
ルに上り、2011年度にはさらに6002億ドルが流出してい
るといわれているのです。
 この天文学的な数字には当然人の流れを伴っており、2011
年に海外に移住した中国人は約15万人、その半数の8万人は米
国に移住し、永住権を獲得しているのです。なぜ、踏み止まって
国の再建に取り組まないのでしょうか。
 現在、中国の大卒新卒の4分の1には職がないのです。そうい
う無職の大学生が毎年量産されています。これについて、宮崎正
弘氏はその悲惨な実態を次のように伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いま中国で、大学は3300ぐらいある。去年の新卒が710
 万人。ということは掛ける4で2800万人、いまそれだけの
 大学生がいるんですね。そして毎年、700万人がトコロテン
 のように押し出されて社会に出て、このうちの半分はまともな
 職がない。あぶれたうちの半分くらいは何とか、アルバイトで
 糊口をしのげるんだけれども、卒業した連中の4分の1はまっ
 たく職がないわけです。       ──石平/宮崎正弘著
     「2013年後期の『中国』を予測する」/ワック刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 共産党員は人口の7%といわれますが、共産党員でも末端の人
は貧乏なのです。したがって、共産党のエリートは1%であり、
この1%が中国を支配しているのです。この層とその周辺にいる
富裕層ないし多少金を持っている人は約1億人。これ以外の人は
すべて貧乏であるというのです。大変な格差社会です。
 習近平主席は、中国のこの現在の事態をどこまで把握している
のでしょうか。          ─── [新中国論/52]

≪画像および関連情報≫
 ●大卒でも就職できず、就職しても農民工より給与低い
  ―――――――――――――――――――――――――――
  清華大学中国経済社会データセンターが発表した大卒者の収
  入に関する報告では、2011年大卒者の平均初任給は27
  19元(約3万3443円)で、具体的には大卒者69%の
  初任給が2000元未満、最低は500元で最高は10万元
  だった。初任給が5000元以上の大卒者はわずか3%とい
  う結果になった。一方、「アルバイト不足」を背景に農民工
  の給与水準は上昇傾向にある。国家統計局発表の2011年
  平均給与データによれば、2011年の出稼ぎ農民工の平均
  月給は始めて2000元の大台を突破、2049元と前年比
  で359元増になり、21.2 %の伸び幅を記録した。一部
  の大卒新入社員と比較しても農民工の月給は高く、技術を持
  つ農民工では稼ぎ時に1万元を超える収入を得るものもあり
  一部の会社員より多いほどだ。十数年も苦しい勉強に耐え、
  激烈な大学受験を勝ち取って、4年間あるいはそれ以上の高
  等教育を受けて卒業しても、農民工たちと収入を争わなけれ
  ばならず、しかも給料は彼らより少ない。まるで大学生のた
  め息が聞こえるようだ。長い間、中国人は労働の最下層にい
  る農民工の給料は少なくて当たり前だと思ってきた。これが
  明らかに長い間、社会の農民工に対する差別を生み出してき
  た。事実、農民工の労働環境や貢献度を考えると、彼らの収
  入はもっと早く上げるべきだったのだ。
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2012&d=0729&f=national_0729_052.shtml
  ―――――――――――――――――――――――――――

北京大学.jpg
北京大学
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2013年05月28日

●「尖閣諸島をめぐる米での石原発言」(EJ第3555号)

 現在、日本と中国はお互いに大使こそ本国に召喚していないも
のの、ほとんど国交断絶に近い関係になっています。両国とも新
政権ができているのに、両国首脳は電話会談すらできない関係に
なっています。その原因は、いうまでもなく、日本の尖閣諸島の
国有化に2012年9月11日に日本が尖閣諸島を国有化したこ
とにあります。
 これが原因で中国国内では激しい反日デモが勃発し、中国の公
船が毎日のように尖閣周辺海域に出没し、日本の領海を侵犯して
まさに一触即発の緊張状態を作り出しています。いつ局地戦が起
こっても不思議ではない危機的状況です。
 尖閣諸島問題に火を点けたのは石原慎太郎東京都知事(当時)
です。尖閣諸島を東京都が買い取ると宣言したからです。しかも
日本ではなく、米国でその宣言を行ったのです。米ワシントンの
ヘリテージ財団主催のシンポジウムにおける講演の場で、尖閣諸
島を地権者から買い取る方向で基本合意したことを明らかにした
のです。しかもそのことを政府に対しては一切相談していないの
です。2012年4月16日のことです。
 中国に詳しいジャーナリストの富坂聡氏は、むしろ東京都が、
一切秘密裏に島の所有者から尖閣諸島を買い上げ、必要な手続き
を行ってしまうのがいちばんよかったといっています。日本とし
ては、尖閣諸島の棚上げに同意したわけではないのですから、日
本国内の土地の所有権を東京都に変更しても何ら問題はないはず
です。富坂氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回のことで私が残念に思うのは、さっさと黙ってやってしま
 えばよかったのに、ということ。ある日突然、都が一年前から
 所有者となっていたと発表する。これなら中国は怒りようがな
 い。ところが今回のように、やるぞ、やるぞ、と騒いだら、当
 然中国はそうはさせじと反応してくるわけですね。(中略)今
 後、摩擦が高まった時に、アメリカが得策でないと判断した場
 合、日本は退かざるを得なくなる、ということにもなりかねま
 せん。国内で行う売買さえも中国がノーと言ったらできないと
 いう悪しき実績をつくってしまったら、それこそ取り返しがつ
 かない。そうなった場合の外交的敗北は非常に大きい。東京都
 はそんなリスクの高いことをやって、いったい責任がとれるの
 かと私は問いたい。あまりにも軽率だったと私は思うのです。
         ──富坂聡著/「間違いだらけの対中国戦略
    /日本人だけが知らない中国の弱点」/新人物往来社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 石原都知事(当時)の発言に中国はほとんど反応しなかったの
です。なぜかというと、石原氏によるこの種の発言ははじめてで
はないし、東京都の知事といえども中国の感覚からいえば、地方
政府であり、日本政府が善処するだろうと考えていたのです。
 しかし、野田前首相に石原氏を説得する力はなかったし、東京
都に尖閣諸島を買い取らせる選択肢もなかったのです。それどこ
ろか、東京都が買い取ってしまうと、公然と島に上陸し、測量を
したり、灯台を建てたり、港を作ったりして、中国との間に深刻
な対立が生まれることを懸念し、東京都と争うように地権者と交
渉し、強引に国が買い取ったのです。
 石原氏は、東京都知事時代から沖縄や尖閣諸島の日本の領土に
関しての発言を米国で何回もやっているのです。
 その1つは、いささか旧聞に属しますが、2005年11月に
ニューヨークの外交政策協会での石原氏の講演があります。この
講演の内容は「文藝春秋」2006年2月号に全文が掲載されて
いますが、その概要は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国が意図している東アジアにおける軍事的なヘゲモニーにと
 って、もっとも目障りなバリアは日米安保条約だろう。その日
 米安保体制を保障している重要な戦略基地の一つが沖縄だが、
 ここに原爆なり水爆が一発落ちたら、アメリカが抱えている基
 地は全滅するだろうし、沖縄も全滅する。そういう事態に対し
 てアメリカがどう対処し、報復するかということについて、私
 はあまり楽観できない。アメリカは大きくたじろぐだろうし、
 場合によっては安保体制が崩れるかもしれない。中国は、そう
 いうものを可能にするための戦略の展開をいくつかおこなって
 いる。その一つが潜水艦の数を急速に増やしっつあること。毎
 年ロシアから10ずつディーゼル型の潜水艦を買っている。こ
 のまま5年経つと中国の抱える潜水艦の数は130隻。アメリ
 カが太平洋で有する潜水艦の数は37隻、これは致命的なこと
 になる。              ──鳥居民著/草思社
 「それでも戦争できない中国/中国共産党が恐れているもの」
―――――――――――――――――――――――――――――
 講演の第2弾が2012年4月16日のワシントンのヘリテー
ジ財団主催のシンポジウムでの講演であり、それに駄目を押すよ
うに東京都は2012年7月27日付の米紙「ウォールストリー
ト・ジャーナル」紙に、尖閣諸島を東京都が購入することへの理
解と支持を求める意見広告を掲載しているのです。意見広告の要
旨は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 成長著しい中国が東シナ海で、歴史的に日本の領土である尖閣
 諸島への圧力を強めている。アジアの海域が不安定な状況にな
 れば、アメリカにとっても経済的な面などに影響を及ぼす。こ
 の問題で中国と対峙するアジア諸国を支持しなければ、アメリ
 カは太平洋の全てを失いかねない。─2012年7月27日付
        の米紙「ウォールストリート・ジャーナル」紙
―――――――――――――――――――――――――――――
 この意見広告には、国内では、東京都が買い取りを予定してい
る尖閣諸島3島しか記載しておらず誤解を招くという批判や、東
京都がなぜそのための莫大な広告費(約1600万円)を払わな
ければならないのかといった多くの不満が噴出したのです。
                 ─── [新中国論/53]

≪画像および関連情報≫
 ●東京都の米紙掲載意見広告に対する疑問
  ―――――――――――――――――――――――――――
  昨夏、東京都が米紙に出した「尖閣」意見広告をめぐり奇妙
  な事実が明らかになった。「尖閣諸島」は8島全体をさす総
  称であるにもかかわらず、意見広告では石原都知事(当時)
  が購入を表明した3島だけを地図に載せて「尖閣諸島」と説
  明していたのだ。米軍に貸与中の久場島(現在も民有地)と
  大正島の2島は、米国領と勘違いしているためか、特に説明
  もなく地図から省かれ、本文でも「尖閣諸島は3島」とも誤
  解されかねない表現。残りの領土は放棄したいという意見表
  明なのか。都は「紙面の制約」と釈明するが、1600万円
  もの税金で「理解と支援」を求めた意見広告にしてはお粗末
  で、むしろ「米国のために尽くしたい」という石原氏の卑屈
  な精神ばかりを伝える内容にも見える。当該広告を全訳とと
  もに検証する。 http://www.mynewsjapan.com/reports/1759
  ―――――――――――――――――――――――――――

東京都が米紙に掲載した意見広告.jpg
東京都が米紙に掲載した意見広告
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2013年05月29日

●「オバマ新政権は親中国政権である」(EJ第3556号)

 現在、日本は中国だけでなく、韓国とも新政権同士の対話がで
きない状況にあります。当の韓国は歴史認識の面で中国と連携し
ようとしています。そして、米中韓で組んで「日本外し」すら企
んでいるのです。
 オバマ政権、とくに2期目のオバマ政権は、日本にとってあま
り頼りになる存在ではなくなっているように見えます。ハドソン
研究所主席研究員、日高義樹氏はオバマ政権の本質について次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ政権は、基本的には親中国政権である。反日とまではい
 かないものの、中国共産党の革命的でリベラルな政策や姿勢を
 支持してきた。オバマ大統領の支持グループである『ニューヨ
 ーク・タイムズ』などのジャーナリストたち、学者たちは、ビ
 ジネス一筋の日本をあまり快くは思っていない。しかも歴史的
 に日本が侵略国家であったという認識を持っているため、侵略
 された中国や朝鮮に同情的である。     ──日高義樹著
    「アメリカの新・中国戦略を知らない日本人」/PHP
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍首相の「侵略の定義は国際的にまだ定まっていない」とい
う発言や、橋下徹日本維新の会共同代表の慰安婦発言で、米国務
省が一貫してお仲間の「ニューヨーク・タイムズ」紙を巻き込ん
で韓国を支持し、日本を非難しているのは、現在のオバマ政権が
中韓寄りの政権であることを示しています。
 今年2月の訪米で安倍首相は、「日米同盟の信頼と絆が戻って
きた」と胸を張りましたが、実際は逆であったといえます。野田
前首相のときよりも、朴槿恵韓国大統領のときよりも安倍首相の
扱いは冷たいものだったのです。首相に同行した外務省関係者は
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 首脳会談でオバマ大統領に笑顔が出たのは安倍総理の祖父・岸
 信介元首相とオバマ大統領が尊敬するアイゼンハワー大統領と
 のゴルフ談義のときだけ。総理は大統領に来日を要請したが、
 それにも色よい返事はなかった。さすがの総理も会談後、同行
 筋に『こちらは遠くから来たっていうのに、笑顔もなかった。
 冷たいなァ』と気落ちした様子で愚痴をいったそうです。
              ──「週刊ポスト」5/31より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、そうだからといって、悲観することはないのです。そ
れは2012年の大統領選におけるオバマ大統領の勝ち方を見れ
ば明らかです。
 2012年の大統領選で結果を左右すると見られた州は、コロ
ラド、フロリダ、アイオワ、ネバダ、ニューハンプシャー、ノー
スカロライナ、オハイオ、バージニア、ウィスコンシンの9州で
す。これらの州はその年によって民主と共和両党の得票が入れ替
わる州であり、「スイングステーツ」といわれているのです。
 オバマ大統領は、ノースカロライナ州を除く8つの州で勝つに
は勝ったのですが、多くの州で50%をやっと超える票しか取れ
なかったのです。その結果、オバマ大統領は、2008年に比べ
て500万票も得票数を減らしているのです。大雑把にいうと、
米国民の50%、投票率を勘案すると、わずか25%の国民に支
持されるだけの大統領になってしまったのです。
 米国の大統領は2期目は自分のやりたい政策を遠慮なくやるも
のです。多くの米国民が心配していたのは、もし、オバマ大統領
が勝つと、社会主義的な経済政策や財政政策を推し進めるのでは
ないかと心配していたのです。2期目のオバマ大統領について、
全米商工会議所のトム・ドナヒュー会長はかなり強い調子で、次
のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマが50%政権であることは、我々が議会の数でオバマ大
 統領を押し潰せることを意味している。50%の政権に勝手な
 ことをさせるわけにはいかない。オバマ大統領は、結局何もで
 きない。           ──日高義樹著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 尖閣諸島の買い取りに関して支持を求める、米「ウォールスト
リート・ジャーナル」紙への東京都の意見広告は、日本国内では
いろいろ批判があったのですが、米国の海軍筋には、強いインパ
クトを与えたといわれています。
 日高義樹氏は「オバマ大統領は石原前知事に破れた」と題して
自著で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 石原前都知事がアメリカの新聞に「尖閣列島を守ろう」という
 大きな広告を出した時、彼はこう述べた。「尖閣列島が中国に
 占領されれば、船舶の自由航行が阻害される」。この広告を読
 んだアメリカ海軍の首脳が私に電話をかけてきてこう言った。
 「石原知事の行動は、戦略的に見て素晴らしいものだ。新聞広
 告も強い説得力があった」。アメリカ海軍の首脳は総じて言え
 ば石原前都知事に同情的である。表立っては言わないものの、
 心の中で拍手している。アメリカ海軍の首脳たちは、中国が国
 際ルールを無視して南シナ海や東シナ海で帝国主義的な行動を
 強めていることを苦々しく思い、何らかの形でチェックする必
 要があると考えてきたのである。──日高義樹著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 尖閣諸島周辺海域は、日本だけでなく米国にとっても重要な海
域なのです。石原氏はそのことを意見広告で米国人に訴えたので
すが、かなり高い関心を持って見てくれたようです。
 日本人は尖閣諸島でもし不測の事態が起きたとき、本当に米国
は助けてくれるのか心配していますが、日高義樹氏によると、も
しそういう事態が起きれば、オバマ政権の姿勢のいかんにかかわ
らず、米防衛省には尖閣諸島を守る緊急計画が既に用意されてお
り、発動できるようになっているのです。尖閣をめぐる海戦では
日本と中国では相当の戦力差があります。─ [新中国論/54]

≪画像および関連情報≫
 ●やはり安倍はオバマに嫌われている
  ―――――――――――――――――――――――――――
  やっぱり安倍首相は、オバマ大統領に嫌われているのか。7
  日に行われた「米韓首脳会談」を見た政界関係者が衝撃を受
  けている。安倍首相が2月に訪米した時と比べて、明らかに
  朴槿恵大統領を厚遇したからだ。外交官だった天木直人氏が
  言う。「オバマ大統領が朴大統領を厚遇したのは間違いあり
  ません。昼食を挟んでたっぷりと2時間以上も会談し、会談
  と昼食の合間には通訳を抜いて2人だけでホワイトハウスの
  庭園を散策している。しかも、朴大統領に上下両院でスピー
  チまでさせています。アメリカ議会での演説は、日本の首相
  は誰も実現していない、非常に名誉なことです」。オバマ大
  統領が朴大統領を特別扱いしたのは、個人の好き嫌いよりも
  もちろん外交上の狙いがあってのことだろう。しかし、安倍
  首相への対応とあまりにも差がある。「オバマ大統領の安倍
  首相に対する対応は、ビジネスライクそのものでした。そも
  そも、安倍さんは1月に訪米したかったのに2月に先送りさ
  れ、昭恵夫人を同行したかったのに、ミシェル夫人の都合が
  悪いと断られた。共同記者会見も開かれなかった。驚いたの
  は、記者懇談のあと、安倍さんと握手もせずに退席しようと
  したことです。日本人記者から「握手を!」とせっつかれて
  慌てて握手していた。さすがに安倍さんもガッカリしたよう
  です」(政界関係者)
   http://ninjyaoh.blog.fc2.com/blog-entry-3733.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

日高義樹氏.jpg
日高 義樹氏
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2013年05月30日

●「石原前都知事の中国脅威論の警告」(EJ第3557号)

 沖縄や尖閣諸島に関する石原慎太郎前東京都知事の発言をもう
少し追ってみることにします。一般的に石原氏は「過激発言」で
知られますが、都知事を務めながらも国防、とくに対中国の脅威
に関しては執拗にメッセージを発信し続けています。
 多くの日本国民が中国を脅威と感じたのは、中国漁船が海上保
安庁の巡視艇に体当たりしてきたとき以降だと思います。さらに
日本政府が尖閣諸島を国有化してからは、毎日のように中国の公
船が尖閣周辺海域を侵犯したり、中国海軍の軍艦が出没してたり
中国の潜水艦が日本の領海の接続海域を浮上しないで、潜航する
に及んで、戦争勃発の危険性すら感ずるようになっています。
 私が評価するのは、石原氏が多くの日本国民がこのように中国
を脅威と感ずるようになるはるか以前から、中国に関して警告を
発していることです。
 5月28日のEJ第3555号でご紹介した石原氏のワシント
ンのヘリテージ財団での2005年11月の講演──沖縄に原発
が一発落ちたら沖縄は全滅する──には伏線があったのです。
 2005年4月のことです。中国の軍の大学の学長である朱成
虎少将が台湾をめぐる紛争について語り、もし、米国が中国と台
湾の争いに介入するなら、中国は米国に対して核による先制攻撃
を仕掛けるだろうと発言したのです。
 これに関して中国軍首脳(江沢民軍事委員会書記)は何の言い
訳もせず、朱少将を批判することもなく、この発言に触れること
すら嫌がったのです。もちろんメディアも批判などしていないの
です。石原氏のワシントンでの講演は、明らかにこのことを踏ま
えてのものだったと思われます。
 石原氏は、2005年の講演のあと、続いて2006年1月刊
行の「別冊正論」で次の主張をしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は冒頭に触れた講演で、『日米安保を叩くためにもし(中国
 が)核を落すならまず沖縄に落すだろう。広島の何倍もの破壊
 力を持った現代の原爆なら、一発で全土は崩壊する』と述べ、
 日本国民に対しても重大な警告を発したつもりなのだが、この
 部分をも含めて記事にした日本の新聞はわずかに沖縄県の『琉
 球新報』(平成17年11月4日付夕刊)だけだったのです。
 朝日や読売などの主要新聞が、『アメリカは中国に負ける』と
 いう私の発言の一部だけを取りあげ、中国がアメリカと事を構
 えようとした瞬間にまず日本が標的とされるということを取り
 上げないのは不可解というしかない。沖縄だけでなく首都東京
 さえ中国は核の標的とするかもしれないという現実の危機が、
 国内の反中世論を刺激し、中国を怒らせる結果になってはまず
 いという「自粛」がメディアの当事者たちに働いたのでしょう
 かね。               ──鳥居民著/草思社
 「それでも戦争できない中国/中国共産党が恐れているもの」
―――――――――――――――――――――――――――――
 昨年石原氏が突如東京都知事の地位を投げ出し、橋下徹大阪市
長を共同代表にかついで日本維新の会に合流したのは、危機が目
前に迫っているのに有効な手を何も打てない当時の民主党政権を
倒し、安倍自民党と連携して、憲法改正を成し遂げようとの思い
であることは確かです。
 事態は石原氏の思い描いたようには進展していませんが、民主
党は惨敗し、安倍政権が誕生しています。まだ、安倍政権につい
ての評価は定まらないものの、少なくとも就任以後の外交に関し
ては、明らかにしっかりとした意図を持って、中国を牽制する構
図を築きつつあり、評価できます。
 5月26日に安倍首相はミャンマーを訪問し、テインセイン大
統領と会談し、共同声明を発表しています。約5000億円の延
滞債務を免除し、今年度内に910億円のODAを供与するとい
う破格の内容です。その狙いは工業団地の造成です。
 安倍首相は政権を握ると、1月に麻生財務大臣をミャンマーに
派遣してこのことを大統領に伝えているのです。そして、2月に
は経団連が140人の派遣団を編成し、ミャンマーに乗り込んで
います。そして、今回の安倍首相の訪問はそれを踏まえてのもの
なのです。
 続いて安倍首相は岸田外務大臣をブルネイ、オーストラリア、
フィリピン、シンガポールに派遣しています。そしてフィリピン
には巡視艇を10隻供与することを約束しています。中国の脅威
に日本以上に晒されているフィリピンがいまのどから手が出るほ
ど欲しいものが巡視艇だからです。
 そして、安倍首相自身は、1月16日から、タイ、ベトナム、
インドネシアを訪問しています。そしてインドネシアでは、ユド
ヨノ大統領との会談で、アジア外交の5原則を発表しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ≪アジア外交の5原則≫
     1.思想・表現・言論の自由の十全な実現
     2.海洋における法とルールの支配の実現
     3.オープンにして自由な経済済関係追求
     4.文化的なつながりの一層の充実と拡大
     5.未来を担う世代の交流の積極的な促進
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに、安倍首相は3月にはモンゴル、5月にはロシアにも訪
問し、精力的に動いています。日本のマスコミは、いわゆるアベ
ノミクスに目を取られ、安倍政権の外交の狙いをあまり報道しま
せんが、これは見事な中国牽制の構図そのものであり、現時点で
適切な外交姿勢といえます。
 これには、中国も相当神経をとがらせていると思います。この
ままの状態が続くと、日本に中国の外堀を埋められている感じが
するからです。それに中国にとって日本は、経済の相手国として
は重要なポジションを占めている国であり、どこかで手打ちをし
なければと考えているからです。しかし、領土問題が存在し、そ
う簡単には振り上げた手を下ろせないのです。安倍外交はそれな
りに成果を上げつつあります。   ─── [新中国論/55]

≪画像および関連情報≫
 ●日中衝突劇を演出したヘリテージ財団とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ヘリテージ財団は、1980年代から1990年代前半にか
  けてのレーガン・ドクトリンの主要な立案者かつ支援者だっ
  た。米国政府はこれによりアフガニスタン、アンゴラ、カン
  ボジア、ニカラグアなどで、反共主義を掲げて公然、非公然
  諸々の介入を行い抵抗運動を支援した。また冷戦の期間中全
  世界的に反共主義を支援した。ヘリテージ財団の外交政策分
  析者はその活動を研究に限定せず、むしろ、アンゴラでのア
  ンゴラ全面独立民族同盟(UNITA)への兵器供与、カンボ
  ジア、ニカラグア、モザンビーク民族抵抗運動への支援、イ
  ラン・コントラ事件での資金提供など、政治的或は軍事的な
  支援を反政府勢力や東側諸国とソ連における反体制派に与え
  るための工作に力を注いだ。財団はソ連が「悪の帝国」であ
  るとして、単なる封じ込めではなく、その敗北を現実的な外
  交政策目標としたレーガン大統領の信念を実現させるように
  支援した。また、ヘリテージ財団はレーガンの掲げた弾道ミ
  サイルに対する「戦略防衛構想」の立案においても重要な役
  割を果たした。スチュアート・バトラー
  http://velvetmorning.asablo.jp/blog/2012/09/20/6579303
  ―――――――――――――――――――――――――――

石原慎太郎日本維新の会共同代表.jpg
石原 慎太郎日本維新の会共同代表
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2013年05月31日

●「ワシントンの中国関連3グループ」(EJ第3558号)

 5月29日のEJ第3556号で「オバマ大統領は中国寄りで
ある」と述べましたが、これについて、もう少し正確に述べる必
要があると思います。なぜなら、オバマ大統領が中国派であると
すると、日米同盟に影響を与えることが懸念されるからです。
 日高義樹氏によると、ワシントンには中国に関連して、次の3
つのグループがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.イデオロギー的にリベラルなグループ
     2.中国をビジネス相手と考えるグループ
     3.共産党は滅ぼすべきと考えるグループ
                      ──日高義樹著
  「アメリカの新・中国戦略を知らない日本人」より/PHP
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は、「イデオロギー的にリベラルなグループ」です。
 これは文字通り、リベラルなグループであり、労働組合や進歩
的な学者や「ニューヨークタイムズ」の記者など、思想的に中国
に近いと思っている人たちのグループです。
 第2は、「中国をビジネス相手と考えるグループ」です。
 これは、思想的なことは問題外で、中国をビジネス上不可欠な
パートナーと考えるグループであり、また、世界を動かすには中
国との連携が必要であると考える現実主義的なグループです。
 第3は、「共産党は滅ぼすべきと考えるグループ」です。
 このグループは「共産党は悪である」と考えて、中国も共産党
の一部であるので、滅ぼしてしまわなければならないと考えてい
る過激なグループです。
 それでは、オバマ大統領は3つのグループのうち、どのグルー
プに属しているのでしょうか。これについて、日高義樹氏は、オ
バマ大統領は第1グループに属する政治家であるとして、次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ大統領がこの第1のグループ、中国派であると言い切る
 のをためらっている人々は、オバマ大統領がシカゴの現実的な
 政治家で、イデオロギーで敵と味方を決めるのを嫌がる政治家
 のグループに属しているのを知っているからだ。オバマ大統領
 の属するシカゴのグループは労働組合やマフィアにも近く、ア
 メリカの良識派からは嫌われている。(中略)オバマ大統領が
 中国派であると私が位置づけるのは、オバマ大統領のホワイト
 ハウスが、シカゴのグループよりも労働組合とリベラルな評論
 家、それに『ニューヨーク・タイムズ』などのリベラルのマス
 コミに取り囲まれているからだ。──日高義樹著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 考えてみると、オバマ政権は発足以来、有力な政権スタッフが
次々と途中で退任するケースが多いのです。元FRB議長のボル
カー氏、サマーズ元財務長官、エマニュエル元主席補佐官も途中
で辞めています。なぜ、辞めてしまうのでしょうか。
 日高氏によると、彼らは、オバマ大統領の周りを取り囲んでい
る選挙専門家や若い労働組合員と意見が合わず、ホワイトハウス
を去って行くそうです。一般的に労働組合の人たちというのは、
仲間同士の結束力が強く、情報を外には漏らさない閉鎖的なとこ
ろがあるといいます。
 もともと労働組合はイデオロギー的に中国の共産党に近く、ど
うしても中国寄りになるのです、新国務長官のケリー氏もリベラ
ルな学者たちとの付き合いが多く、「ニューヨーク・タイムズ」
などのリベラルなジャーナリストを大事にしています。そういう
わけで、ケリー国務長官は親中国派であるといえます。
 橋下徹日本維新の会共同代表の慰安婦問題についての発言で、
「ニューヨーク・タイムス」紙や国務省がかなり強いトーンで日
本を批判したのはそのためです。第2次世界大戦では中国と米国
は同盟軍で、日本は敵であったのですから、そういう意味でも日
本よりも中国に親しみを感ずるのは仕方がないことです。
 第2のグループ──中国をビジネス相手と考えるグループの中
心は、キッシンジャーグループです。もともとキッシンジャー氏
は、ニクソン大統領とともに中国との国交を開始したという経緯
もあり、中国を理解できるグループです。思想的なことは別とし
て中国を重要なビジネスパートナーと考えているのです。
 キッシンジャー派には、ガイトナー前財務長官、ゲイツ元国防
長官、キャンベル国務次官補などが属しますが、いずれも政権を
去っています。
 第3のグループ──共産党は滅ぼすべきと考えるグループは、
共和党保守派のブッシュグループなどが中心であり、ラムズヘル
ド元国防長官、ダグラス・フェイス元国防次官などが属しており
彼らは中国共産党勢力を敵と考えています。しかし、日高氏によ
ると、昨年の大統領選でオバマ大統領と戦ったロムニー候補は、
対中強硬政策を主張していたものの、第3グループではなく、ど
ちらかというと、キッシンジャーグループに近い存在です。
 このように、ワシントンには日本よりも中国にシンパシーを感
ずる米国人が多いのですが、第2期オバマ政権になってからは、
少し様相が変わってきているのです。マスコミの論調が中国に厳
しくなっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2012年11月6日に行われたアメリカ大統領選挙の3日前
 『ニューユーヨーク・タイムズ』は中国が通貨の人民元を操作
 していると批判し、続いて『ウォール・ストリート・ジャーナ
 ル』は、中国政府が人道主義者の弾圧をやめようとしないと厳
 しく批判した。(中略)『ニューヨーク・タイムズ』はさらに
 欧米諸国に評判のいい温家宝首相の母親が不正な手段で膨大な
 資産をつくりあげていると厳しく非難し、共産党大会について
 も、中国が政治的に後ろ向きに動いていると厳しく指摘した。
                ──日高義樹著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
                 ─── [新中国論/56]

≪画像および関連情報≫
 ●オバマ政権よ、同盟国の日本をもっと支持せよ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米国の有力研究機関「ハドソン研究所」は尖閣諸島をめぐる
  日本と中国の対立へのオバマ政権の姿勢に対し「敵対的行動
  で緊張を高めているのは中国なのに中国に遠慮しすぎる政策
  を取り、かえって危険を増している」と批判する報告を20
  13年2月23日、発表した。2期目のオバマ政権の外交・
  安保布陣がとくに危険だという。同報告は「米国は中国の日
  本威嚇を止めねばならない」と題され、共和党ブッシュ前政
  権の高官で現在はプリンストン大学教授のアーロン・フリー
  ドバーグ氏らにより執筆された。同報告はオバマ政権が昨年
  からアジア旋回(ピボット)と名づけた中国の勢力拡大に対
  するアジア・太平洋での抑止力増強策も最近、中国の機嫌を
  損ねないという方向に軟化し、ピボットという政策用語も会
  計用語のような「リバランス(再均衡)」へと薄められた、
  とまず述べている。
  http://blog.goo.ne.jp/kanayame_47/e/cdce538fc74050e46f2bc9d3bd09604d
  ―――――――――――――――――――――――――――

中国に関する3つのグループ.jpg
中国に関する3つのグループ
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2013年06月03日

●「オバマ大統領が中国に弱腰な理由」(EJ第3559号)

 米国では、2009年から民主党政権がこの4年間続いていま
す。そして2012年の大統領選でオバマ大統領が勝ったので、
あとさらに4年間は民主党政権が続くことになります。
 2期目の米国の大統領は再選の心配がないので、自分のやりた
いことをやるのが通常なのですが、既に指摘しているように、第
2期のオバマ政権は50%政権で、大統領の思うようにはできな
くなっています。民主党は強気であり、2016年の大統領選に
はヒラリー・クリントンが出て大統領になると考えています。
 この民主党の長期政権によって大きく変わってきたことがある
のです。それは国防というものに対する考え方の変化です。米国
という国は、歴史がはじまって以来、戦うことを基本としてきた
国家です。これによって国防と軍隊は予算上も特別扱いを受けて
きたのです。
 国防費には赤字という概念はないのです。いかに財政黒字を積
み上げても、もし戦争が起こってその戦争に破れれば、国がなく
なるので、何の意味もないからです。しかし、米国では女性の労
働者が増えるにしたがって、女性の政治家も増えています。民主
党にはとくに女性の政治家が多いですが、彼女たちによって国防
よりも生活が優先されるようになってきているのです。
 そのため、オバマ政権になってからの米国は一貫して国防費を
減らしてきています。これは、添付ファイルのグラフを参照して
いただければよくわかると思います。さらに、昨年末の財政の崖
を完全に処置できなかったことにより、オバマ新政権は大幅な国
防費の削減が必至となっているのです。
 これに対して中国は、2013年度の国防予算はどうかという
と、前実績比10.7 %増の7406億2200万元(約11兆
1100億円)であり、実績比では3年連続の2桁の伸びになる
のです。中国の国防費は米国に次ぐ世界第2位であり、過去6年
で2倍以上の急ペースの増えているうえ、実際の軍事費は公表金
額を大きく上回るものといわれています。
 ハドソン研究所主席研究員の日高義樹氏は、強い軍事力につい
て次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界は国内とは違う。国連のような組織を除いて、絶対的な権
 威と権力が存在していない。このため、国際社会のルールは実
 力、つまり軍事力によって決定されることになる。強い軍事力
 をつくるためには、経済力が必要であり、政治力がなくてはな
 らない。軍事力という能力は、あらゆる国家の力を総合したう
 えでつくられ、発揮されるものである。だが女性重視というア
 メリカが出現した場合には、想像できない変化が起きることは
 避けられないと思われる。         ──日高義樹著
  「アメリカの新・中国戦略を知らない日本人」より/PHP
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国は中国に対して要求しなければならないことがたくさんあ
ります。2011年に中国の国内総生産(GDP)が日本を抜い
て米国に次ぐ世界第2位になり、2030年には米国をも上回る
といわれています。
 しかし、そのベースになる中国の経済データ自体が政治的まや
かしであり、信用できないという声が高まっているのです。米議
会の専門家や保守的な評論家は、これについて口を揃えて次のよ
うに批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の経済データが信用できない最大の原因は、通貨の管理体
 制にある。中国が人民元を高くするといっても、外貨、つまり
 ドルを国家が管理して値段を決め、国民の生活をコントロール
 している限り、通貨について正確な情報はあり得ない。
                ──日高義樹著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界の基軸通貨になっているドルの流通については、ウォール
街の金融機関はそのすべてを把握しています。しかし、いったん
中国に入ったドルは中国政府が勝手に管理しており、市場のシス
テムが介入する余地はまったくなく、外部からはすべてがブラッ
クボックスになっているのです。
 米国はこのような通貨のコントロールを非常に嫌います。日本
でも民主党政権のとき、政府は円切り下げのための介入を試みた
ことが何度かありますが、米国はこれに対して公然と抗議し、そ
のための特使を送ってきたほどです。
 しかし、オバマ大統領は日本に厳しい態度をとる一方で、中国
に対しては次のようにいい、何も抗議していないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 人民元のドルに対する交換レートは、市場の趨勢に従っており
 ほぼ世界の市場の交換レートに近づいている。
                ──日高義樹著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このオバマ政権の姿勢に業を煮やして、米議会の下院では20
12年の大統領選の前に中国の通貨制度の改革と人民元の切り上
げを求める決議を行っているのです。この決議は、もし中国が決
議に従わない場合は、中国製品に対する関税を60%引き上げる
という厳しいものになっています。
 しかし、オバマ大統領は中国に対して厳しい態度を取れないで
いるのです。日高義樹氏によると、その理由は、中国からの借金
がなければ、米国の経済が成り立たず、借金漬けの財政が成り立
たないからです。
 オバマ大統領は、米国の歴史上最もひどい借金をつくった大統
領といわれています。その中心になっているのは、生活保護費と
「エンタイトルメント」といわれる社会保障費の支出です。その
ための赤字を中国からの借金で埋め合わせてきたのです。
 なお、エンタイトルメントとは、「与えられた権利」という意
味で、福祉受給権──社会保障、公的年金、メディケア、メディ
ケイドなどの経費を意味しているのです。民主党政権によって、
かつての米国は変質しつつあるのです。── [新中国論/57]

≪画像および関連情報≫
 ●米共和党、大幅支出削減求める/2010年11月8日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【ワシントン】幾人かの米共和党議員は、早ければ2011
  年1月にも連邦支出の大幅削減を求める構えだ。民主、共和
  両党とも2011年の連邦予算の大枠作りを目指す中で、民
  主党やオバマ政権との対立が直ちに表面化しそうだ。先週の
  中間選挙で、ティー・パーティー(茶会党)運動の強力な支
  持を受けて上院議員に当選したケンタッキー州選出のランド
  ・ポール氏と、ペンシルベニア州選出のパット・トゥーミー
  氏は7日、ワシントンでの第1の努力目標は政府債務への取
  り組みと支出削減だと述べ、共和党の他のメンバーと袂(た
  もと)を分かっても遂行していく決意を表明した。ポール氏
  はABCテレビ番組で、国防総省を含めあらゆる連邦省庁予
  算の一律5%の即時削減を主張すると語った。同氏はまた、
  連邦公務員の10%削減と連邦職員の給与の10%削減も求
  めると述べた。トゥーミー氏はCNNテレビ番組で、「政府
  の支出は著しく過剰だ」と語った。オバマ大統領も支出削減
  を支持すると述べているが、何をどの程度削減するかで民主
  党と共和党の見解の違いは大きいとみられている。(最後ま
  で読む)
  http://jp.wsj.com/public/page/0_0_WJPP_7000-145379.html?mg=inert-wsj
  ―――――――――――――――――――――――――――

戦費を含む米国防予算.jpg
戦費を含む米国防予算
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2013年06月04日

●「海の下では中国対日米の攻防激化」(EJ第3560号)

 かつて中国の温家宝首相(当時)が、公式の場で次のように発
言し、米国人を驚かせたことがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカは軍事費を増やすことはできない。軍事費を増やせ
 ば我々から金を借りられなくなる。──温家宝首相(当時)
―――――――――――――――――――――――――――――
 昨日のEJ第3559号で、「中国からの借金がなければ、米
国の経済が成り立たず、借金漬けの財政が成り立たない」と述べ
ましたが、これは中国政府が無制限で米国債を買い上げたことに
より、2011年のはじめに、2.5 %から3.5 %だった米国
の長期金利が1年後には1.56 %まで下がったからです。
 その結果、米政府はインフレ率よりも安い1%台の安い金利で
ふんだんに資金を借り受けられるようになったのです。ちなみに
2011年の米国のインフレ率は3.14 %です。
 なぜそんなことができたかというと、中国政府は、コマーシャ
ルベースを無視して、金利や値段に関わりなく、米国債を大量に
買い入れ、政府による独自のドル中央管理体制でコントロールで
きるからです。
 皮肉な話ですが、米議会は中国政府のその独自のドル中央管理
体制を批判しているのですが、オバマ政権にとってはそれがある
からこそ、中国に米国債を大量に買い上げてもらっていることに
なります。オバマ政権が中国に何もいえないのも当然です。これ
について、日高義樹氏は次のようにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ大統領の中国寄り政策の裏には、安い中国の資金を借り
 続けるという暗黙の約束があった。そのお返しとしてオバマ大
 統領は、中国に政治的な注文はいっさいつけてこなかった。中
 国の人道活動家に対する弾圧についても目をつぶり、マスコミ
 の注目を浴びた陳光誠の実質上の亡命についても、中国政府の
 メンツを守るための努力を怠らなかった。「陳光誠事件(≪画
 像および関連情報参照≫)で中国の非人道的な行動が政治問題
 化すれば、中国の立場は一挙に悪くなったはずだ」。保守系の
 雑誌『ウイークリー・スタンダード』などがこう厳しく批判し
 たが、オバマ政権にとっては、人道主義よりも中国から資金を
 借りることのほうが重要だったのである。  ──日高義樹著
  「アメリカの新・中国戦略を知らない日本人」より/PHP
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう事情があれば、お世話になっている中国政府の手前、
オバマ大統領としては、日本の安倍首相と親密ぶりを演出するわ
けにはいかなかったのです。そのためオバマ大統領は安倍首相に
は極端に冷たくあしらい、その後にやってきた韓国の朴槿恵大統
領とは親密演出をせざるを得なかったものと考えられます。
 このようにいうと、オバマ大統領がそういう考え方では、尖閣
諸島の防衛の問題でも米国は知らん顔をするのではないかと心配
する人もいると思います。この点について日高義樹氏は、日米安
保条約に関わる問題では、米国はオバマ大統領の態度いかんに関
わらず、米国は条約を守ると述べています。なぜなら、尖閣諸島
は米国にとっても太平洋の自由を守る軍事上の重要拠点であると
いうことがわかっているからです。
 2012年10月に日高義樹氏は、沖縄の普天間基地の取り決
めをし、長期間にわたって沖縄基地に関わってきた元国防次官の
ダグラス・フェイス氏と会談していますが、そのなかで尖閣諸島
について、次のやりとりをしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日  高:尖閣列島について、お聞きしたい。中国は何をする
      か分からない国だと私は思うが、実際に戦争をしか
      けてくる危険があるでしょうか。
 フェイス:アメリカは尖閣列島を守るという態度をはっきりと
      表明しています。日米安保を遵守するつもりで、中
      国もそのことは分かっているはずです。戦争を始め
      れば高いものにつくということは十分に理解してい
      ると思う。     ──日高義樹著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国は調子のよいことをいっていると思うかもしれませんが、
そうではないのです。実は、尖閣諸島をめぐる中国海軍対日米の
潜水艦艦隊との攻防は海面下で既に始まっているのです。5月の
上旬に中国の潜水艦が尖閣諸島の接続水域を潜航して航行してい
ることを防衛省が公表していますが、日米の潜水艦もそれに対し
て活発に活動しているのです。
 その証拠に普段はグアムにいる米国の潜水艦母艦「エモリー・
S・ランド」が5月初旬に佐世保基地に姿を現しています。そし
てその佐世保港において、米ロサンゼルス級原潜「サンフランシ
スコ」が横付けされたのです。
 潜水艦母艦とは、海軍における補助艦艇の一つで、前進根拠地
などにおいて潜水艦を接舷させ、食料、燃料、魚雷その他物資の
補給を行うことを目的とする艦艇のことです。潜水艦母艦は米海
軍には2隻しかないといわれています。なお、日本の海上自衛隊
にも潜水艦母艦機能と潜水艦救難艦機能を持つ「ちよだ」を保有
しています。
 5月の中旬には、沖縄県久米島沖の東シナ海で、潜水艦によっ
て日本漁船のはえ縄が切られる事件が起こったのですが、これは
沖縄県近海を潜航してきた中国潜水艦を海上自衛隊と米海軍の潜
水艦が追跡しているときの事故であることがわかっています。
 日米安保があるから守るとか守らないの議論どころではなく、
既に海面下では、日米の潜水艦が中国の潜水艦を追い詰めている
のです。そのことを当の中国海軍は百も承知なのです。そのため
中国としては、もし尖閣諸島で戦端を開けば、確実に米海軍が出
てくることがわかっているので、まず中国は尖閣諸島には手を出
してこないと考えられます。
 中国の経済にはかなり問題が出てきています。今後も今までの
ようなことができるかどうか疑問です。── [新中国論/58]

≪画像および関連情報≫
 ●米中による人権問題の異例な交渉プロセス/陳光誠事件
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国の「盲目の人権活動家」陳光誠氏が中国当局による軟禁
  を脱し米国大使館に保護された問題は、2012年5月3〜
  4日北京で開催された米国と中国の閣僚が経済や安全保障上
  の課題について話し合う第4回「米中戦略・経済対話」の直
  前に発生した。人権問題は、米中間における極めて機微な事
  案となっているので、双方とも細心の注意を払って処理に臨
  んだと思われるが、米側は、特別なやり方(ロック米大使に
  よれば「ミッション・インポッシブル」を実施)で陳光誠氏
  を米大使館で保護した際、同氏は安全が保障されるなら中国
  に留まりたいとの意向を米側に示していたことを踏まえ、中
  国側に対し米大使館による保護行為を不問に付すよう交渉し
  中国側も外交部報道官が米側のやり方は、明らかな内政干渉
  だと不満を述べつつ了解を与えた様子であった。しかし、そ
  の後、陳光誠氏が中国にとどまるとの当初の意向を翻し、米
  国への出国を希望することを外国記者に表明したことから事
  件はさらに複雑化し、上記米中対話会合の進行中も舞台裏で
  米中間で鋭意交渉が行われるという異例な展開を見せた。
      http://blogs.yahoo.co.jp/ksmgsk66/30580796.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

米国長期金利推移チャート.jpg
米国長期金利推移チャート
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2013年06月05日

●「中国はプロガパンダを強めている」(EJ第3561号)

 もともと米民主党はクリントン大統領時代から親中国です。中
国が当時開発していた中・短距離の弾道ミサイルやロケットを野
放しにして、中国が軍事力の近代化を図るのをここまで許してき
たのです。
 それどころか、クリントン政権は平和利用という名目の下で、
核開発を許し、中国がどうしてもできなかった弾道ミサイルの弾
頭部分を地球を回る軌道に乗せる技術を売り渡してしまったので
す。この政権は、北朝鮮に対しても再三にわたって騙され、同国
の核開発がここまで進むのを放置しています。
 オバマ政権になると、その傾向が一段とひどくなっています。
単なる親中国ではなく、中国傾斜、中国依存の姿勢です。事実上
中国に金融面で助けてもらっているので、中国が何をしようと何
もいえないのです。したがって、中国が南シナ海でやっているこ
とを無視し、尖閣諸島への再三にわたる領海侵犯にも、同盟国た
る日本に曖昧な態度を取り続けています。
 何よりも不思議なのは、あれほど中国の経済統計がいい加減で
あるといわれているにもかかわらず、その出してくる統計データ
を米国のIMFをはじめとする経済諸機関が鵜呑みにしているこ
とです。この点について、日高義樹氏は、それは中国の政治プロ
パガンダであるとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 通貨について正しい情報が中国から出てこないのは、中国の外
 貨の中央管理制度のせいであるが、その結果、中国のあらゆる
 政治プロパガンダが野放しで世界中に横行している。中国は通
 貨についての情報をブラックボックスの中で操作する一方では
 経済力に対する恣意的宣言を続けている。その結果、アメリカ
 政府機関ですら中国が世界最大のGDPを持つようになると発
 表するようになっている。中国が膨大な資金を投じて世界中に
 流している誇大宣伝は、世界に大きな影響を与えている。世界
 中の人々が、アメリカの時代が終わり、中国の時代がやってく
 ると思い込んでしまうほどである。もともと中国のマスコミは
 全て政府の宣伝機関である。尖閣列島問題、中古の空母の配備
 新しい潜水艦の性能や数などについて、中国政府は公式に発表
 していない。宣伝機関である中国マスコミの発表だけが独走し
 ている。                 ──日高義樹著
  「アメリカの新・中国戦略を知らない日本人」より/PHP
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国は社会主義国家ですから、政治的宣伝がきわめて巧妙なの
です。米国には大勢の中国ロビイストがいて、それに影響される
米メディアは多いのです。「ニューヨーク・タイムズ」などはそ
の典型であるといえます。
 ロビイスト(Lobbyist)とは、特定の政府の政策に影響を及ぼ
すことを目的として、ある特定の主張をもってロビー活動を行う
私的人物、あるいは集団のことです。
 こういう中国ロビイストは世界中にいます。先般中国は「沖縄
はもともと中国領である」という論文を発表しましたが、沖縄に
も中国のロビイストは大勢いて、住民に紛れて反政府活動に力を
貸しています。それが一定の成果を上げてきたから、そういうプ
ロパガンダを行ったのです。
 自民党の沖縄県連は「普天間基地の県外移設」を掲げて参院選
を戦うことを決定しています。自民党本部とは正反対であり、ね
じれです。そういう矛盾を積み上げて、非現実的ではあるものの
沖縄で独立運動を起こさせ、中国はそれをバックアップするとい
うつもりなのでしょう。
 中国にとって一番の気がかりは沖縄の米軍基地です。この米軍
基地に反対する住民をサポートして、米軍基地を県外に移設させ
る運動を後押ししようとしているのではないか。沖縄問題を考え
るとき、内部から崩そうとするそういう中国の動きもあることも
念頭に置くべきであると考えます。
 6月3日の日本経済新聞は、中国に関して次の記事を大きく報
道しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     中国統計、強まる不信/実態とかい離の声
     ──2013年6月3日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 指摘されているのは、深センの輸出額です。いずれも前年同月
比で、1月は82.6 %増と突出しています。2月と3月も70
%台の伸びを示し、4月は30.9 %と半分以下になったものの
全国の伸び率平均14.7 %を大きく上回っています。
 しかし、海運業界関係者の話によると、欧米向けのコンテナ船
が出入りする深センの塩田港の荷動きは今年に入ってから横ばい
であり、83%増、70%増という伸びとは明らかに矛盾してい
るのです。おそらく意図的に輸出額の水増しが行われているもの
と推測されるのです。税関当局や金融機関の協力者がいるともい
われています。
 なぜ、このようなことが行われるのでしょうか。
 それは、景気回復が遅れるなかで、成長率を上げたい地方政府
の思惑があり、深センだけでなく、他の地方政府全般に見られる
現象であるといえます。
 それに加えて、貿易決済を装っての外貨流入も考えられます。
中国では、実需を伴わない外貨取引には制限がありますが、貿易
決済なら、輸出入の手続き書類さえあれば、中国本土の銀行口座
に外貨を簡単に振り込めるのです。
 現在人民元は先高観が強いのです。そのため国内銀行口座に振
り込まれた外貨を人民元に換金すると、利ざやを稼ぐことができ
ます。つまり、金儲けとしても行われているわけです。
 こういう不正なかたちでの外貨流入は実体経済に間違いなく悪
影響を与えています。さすがに中国政府もその対策に乗り出して
います。国家外貨管理局は、貿易決済を装った資金取引の監視を
強化し、深センでは前年に比べて輸出額や外貨から人民元への換
金量が多い業者を摘発しています。  ── [新中国論/59]

≪画像および関連情報≫
 ●米在住中韓ロビイストが安倍政権転覆工作!?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国と韓国が在米ロビイストなどを駆使して、安倍晋三政権
  の転覆工作に着手したという衝撃情報が飛び込んできた。歴
  史問題などを理由にしているが、実際は、アベノミクスで自
  国経済が打撃を受けて、追い込まれたことが背景にあるよう
  だ。「日本たたき」「安倍政権潰し」の卑劣な動きに、何と
  日本国内の反日勢力も協力しているという。日本が致命的に
  弱い情報戦と広報戦(=世論工作)。ジャーナリストの加賀
  孝英氏が、知られざる実態に迫った。「あの気難しいロシア
  のプーチン大統領に、『実は日本が大好きだ。日本に行きた
  い』といわせ、トルコでは原発輸出を大きく前進させた。外
  遊の狙いは『資源外交』と『対中包囲網の形成』だったが、
  大成功だ」。安倍首相のロシア・中東歴訪を受け、官邸関係
  者はこう語った。GW明けから、永田町は参院選モードに突
  入した。景気指標や世論調査の好調を背景に、政府与党の一
  部には「楽観ムード」も漂っているが、実は今、米国内で大
  変なことが起こっている。以下、米政府や韓国政府の関係者
  から、私(=加賀)が得た情報だ。「訪米中の韓国の朴槿恵
  大統領とオバマ米大統領は7日(日本時間8日未明)、初め
  ての首脳会談を行った。朝鮮半島危機を念頭に米韓協力体制
  の進展が話し合われたが、韓国側が水面下で迫っているのは
  従来の米韓日体制から米中韓体制への見直し。つまり『中国
  重視』と『日本外し』だ」。「韓国系ロビイストを大量動員
  して米政府に工作している。
     http://bororon.doorblog.jp/archives/26682357.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

日高義樹氏の本.jpg
日高 義樹氏の本
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2013年06月06日

●「中国から借金することの怖さ知れ」(EJ第3562号)

 第1期のオバマ政権は、2009年1月〜2013年1月まで
の4年間です。オバマ大統領は、最初の2009年の予算で3兆
2700億ドルの財政赤字を出しています。
 以来、2013年まで毎年3兆ドル以上の財政赤字を積み上げ
て、合計16兆ドル(約1600兆円)の赤字に達しているので
す。この16兆ドルの借金は、赤ん坊も含めて、3億人の米国民
一人当たり5万3000ドルの借金になるのです。5万ドルとい
えば、米国の中流家庭の年収に該当します。
 この借金を米国は、中国から約2兆ドル弱、日本から約1兆ド
ル、その他ヨーロッパや企業からも合計で4兆ドル以上の借金を
しているのです。この莫大な借金の利子はすべて外国人に支払わ
れることになります。
 このようにいうと、「日本だってGDPの4年分の借金がある
じゃないか」と指摘されるかもしれません。その通りですが、米
国と根本的に違うことは、日本の場合は日本国民が国債を買うこ
とによって国のほとんどの借金が埋められていることです。つま
り、日本の場合は利子は日本国民が受け取れるのです。
 2012年の米大統領選において、オバマ大統領の対抗候補に
なった共和党のミット・ロムニー氏は、中国からお金を借り過ぎ
るのは危険であることを強調し、選挙戦で国民に訴えていたので
す。しかし、選挙には惜しくも敗れています。
 ブルームバーグのコラムニストに、ウィリアム・ペセック氏と
いう人がいます。ペセック氏は、2012年10月、すなわち大
統領選の前に、このロムニー候補の主張に関連して、面白いコラ
ムを書いています。以下、このコラムについて、解説を交えなが
らご紹介することにします。コラムは次のような興味ある書き出
しから始まります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国民は近く、金を借りる相手を中国から日本に戻すかもしれ
 ない。日本は長い間、米国に対する最大の貸し手だった。20
 08年9月に中国が日本に代わって外国勢として最大の米国債
 保有国になった。ワシントンでは、野心満々の共産主義大国よ
 りは友好的な民主国家の方が債権者としてまだましだと考える
 大勢の人々が懸念を抱いた。その一人である共和党大統領候補
 のミット・ロムニー氏は、米国が中国に借りをつくり過ぎてい
 ると主張している。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ペセック氏は、国債のほとんどを国民が買っている日本を見習
うべきであるという主張を展開します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 誰が米国債を保有しているかは実は問題ではない。本当の問題
 は米国のような経済大国が借り入れの半分以上を海外に頼って
 いていいのかということだ。米国債を国内で保有してくれる投
 資家ベースを開拓するべきではないか。つまり、もっと日本の
 ようになるべきではないか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 欧米人は反射的に日本を批判するところがあるとペセック氏は
指摘します。確かに、日本はバブル崩壊後に未だにデフレから脱
却していないし、日本の経済運営に問題があることは認めながら
も、欧米諸国が日本のようになれたら幸せであると説くのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、欧米諸国の多くが日本になれたら、日本のようなやり
 方ができたら、どんなに幸運かという点にはほとんど目が向け
 られていない。確かに、20年にわたる低成長とデフレは何兆
 ドルもの富を消失させたし、多くの銀行を支払い不能のゾンビ
 銀行にした。日経平均株価は最高を記録した1989年の4分
 の1である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ペセック氏は、日本はデフレに苦しみながらも、一度もたりと
も国が崩壊の危機に瀕することがない点を指摘し、他の先進国よ
りもはるかに安定していることを強調しています。
 2011年には未曽有の災害に遭遇しながらも、大震災後の信
じられないほどの国民の落ち着いた対応を讃え、米アップルなど
へのサプライチェーンの乱れも短期間で解決している点を称賛し
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、その間日本は一度も崩壊の危機のようなものに直面し
 たことはない。犯罪が急増することもなく、ホームレスの数が
 爆発的に増えることもない。米国のリセッション(景気後退)
 ほど大量に雇用が失われることもなかった。パートタイムの雇
 用が増えたり、女性の就労機会が減ったり、新卒者が厳しい就
 職戦線に直面したりという調整はあったにしてもだ。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ペセック氏は、日本を1つにまとめている「接着剤」は、国内
勢による国債の保有であり、そうであるからこそ、世界最大の公
的債務を抱えながらも、10年債利回りが低い長期金利で済んで
いるとし、次のように結んでいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この自己完結型のシステムが、日本にいざとなった場合の逃げ
 道を与えている。デフォルト(債務不履行)の縁に追い詰めら
 れたら、国民と国内企業から債務減免を受ければよいのだ。も
 ちろん、そんなことは日本政府にとって考えられない話だが、
 これが他の国にはないオプションであることは明白だ。
 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MCCQ2N6KLVS501.html#
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、オバマ大統領は一段と中国への傾斜を強めようとして
います。明日、7日に行われる中国の習近平国家主席との会談で
は、安倍首相や朴韓国大統領のときよりも、一層のその親密ぶり
を世界に見せつける演出をすることが予想されています。かつて
のブッシュ・小泉会談のようにです。米国の対中国宥和戦略につ
いては明日のEJで述べます。    ── [新中国論/60]

≪画像および関連情報≫
 ●米国の借金と日本の借金/2008年11月
  ―――――――――――――――――――――――――――
  インターネットを覗いていたら、米国政府の借金は1067
  兆円で日本の公的債務は1066兆円とありました。両者ほ
  ぼ同額の借金を抱えている。人口はそれぞれ2億9000万
  人と1億2000万人であることを考えると米国は一人当た
  り368万円で日本は一人当たり888万円になる。日本は
  世界最大の借金国というわけです。しかしどこで借金をした
  か。日本人はあまり贅沢はしていません。米国の野球選手の
  トップは日本の野球選手のトップの年俸5億円の3、4倍の
  年俸をもらっている。自家用飛行機もざらである。年収2、
  3百万の低所得者も大きなうちに住んでいます。米国人は大
  きな車に乗り、たくさん食べています。毎年50兆円の国防
  費を使っています。アフガニスタンやイラクで膨大な戦費を
  費やしています。これに比べて日本は殆ど散財しませんし、
  皆質素な暮らしをしています。100円ショップがはやり、
  ユニクロで慎重に選んで買っています。防衛費は米国の十分
  の一です。米国は節約すべきと思いますが質素な暮らしをし
  ている日本人が緊縮政策をしなければいけないというのは納
  得がいきません。米国の借金は75%が外国人からのもので
  す。これに対して日本の公的債務の97%は日本人からの借
  金です。しかも27%は政府自身からの借金です。
  http://blog.goo.ne.jp/murashima_s/e/31ca6d046940061a30688c6fc970c178
  ―――――――――――――――――――――――――――

ウィリアム・ペセック氏.jpg
ウィリアム・ペセック氏
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2013年06月07日

●「オバマ・習近平会談の狙いと意図」(EJ第3563号)

 本日7日と8日、オバマ大統領と習近平国家主席の米中首脳会
談が開催されます。この時点での米中会談は異常です。なぜかと
いうと、6月17日〜18日には、英国・北アイルランドでG8
(主要8ヶ国首脳会議)が決まっているからです。10日後に会
うのに、なぜ取り急いで、会談をする必要があるのでしょうか。
 情報によると、今回の会談は非公式会談として、米ムカルフォ
ルニア州パームスプリング郊外にある元駐英大使邸を使う予定と
いわれています。
 オバマ大統領による習主席の異例の扱いは、米国が中国に対し
て完全に宥和路線を取ることを決めたことを意味します。そのた
めに、とくに安全保障面で後でトラブルが起きないように、首脳
同士で取り決めをしておきたいということだと思われます。そう
いう路線を取るに至った理由には次の2つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.米議会の強制削減法によって国防費が削減される
   2.国務長官・国防長官に腹心のスタッフがいること
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は今年の3月1日から歳出強制削減が始まっているのです。
3回の話し合いのチャンスがあったのですが、ことごとく物別れ
に終わっているので、自動的に予算カットが行われたのです。そ
の結果、向こう10年間で3兆9千億ドル(約390兆円)の歳
出が削減されるのです。
 問題は削減の内訳です。増税と予算カットという切り口で見る
と、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
     歳出の削減     ・・・・・ 65%
     増税などによる増収 ・・・・・ 18%
     金利コストの低下  ・・・・・ 17%
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに、この「歳出の削減」65%の内訳をみると、次のよう
になるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     一般歳出 ・・・・・・・・・・ 50%
     防衛関連 ・・・・・・・・・・ 44%
     医療関連 ・・・・・・・・・・  5%
      その他 ・・・・・・・・・・  1%
―――――――――――――――――――――――――――――
 問題なのは「防衛関連」の44%の削減です。もともとオバマ
大統領は、かつての世界の警察として表現される強いアメリカで
はなく、福祉に重点を置く普通の国にしようと考えています。オ
バマ大統領が2回選挙に勝利したということは、米国民の多くも
それを望んでいるということです。
 1968年の大統領選以来1988年まで、保守党である共和
党は1976年にカーター大統領(共和党)に1回負けただけな
のです。1980年と1984年はレーガン、1988年はブッ
シュ(父)が勝利し、共和党が勝っています。
 しかし、ソ連との冷戦が終わると、米国民の意識は大きく変化
したのです。冷戦が終わって5回の大統領選挙が行われています
が、そのうち3回は民主党が勝っています。そして、2008年
にオバマ大統領の時代になったのです。
 オバマ政権になってからの国防長官は次の3人ですが、オバマ
大統領は実に巧妙に人事を決めています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ロバート・ゲイツ ・・ 2009年〜2011年
   レオン・パネッタ ・・ 2011年〜2013年
  チャック・ヘーゲル ・・ 2013年〜
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党政権では、国防長官に関しては共和党系の議員を選ぶ傾
向が強いのです。かつてのクリントン政権でも、共和党のウィリ
アム・コーエンを国防長官に任命しています。
 これに対して、第1期のオバマ政権では、ロバート・ゲイツを
国防長官に任命していますが、彼は共和党員ではなく、無所属な
のです。しかし、多くの人はゲーツがブッシュ(子)政権時代か
らの国防長官なので、共和党の議員だと思っています。
 2011年から国防長官に就任したのはレオン・パネッタ、彼
は元共和党の穏健派議員でしたが、途中で民主党員になっていま
す。そして、現ヘーゲル国防長官はれっきとした共和党議員なの
ですが、ベトナム反戦をひきずりイラク戦争を批判した札付きの
共和党上院議員なのです。オバマ大統領が2期目の国防長官に彼
を任命したのは、自分の考え方に近いからです。しかし、この人
事は共和党員にとってきわめて評判が悪いのです。
 さらに問題のある人事は、ジョン・ケリー国務長官。れっきと
した民主党員で、かつての大統領候補です。ケリーは米国でも極
端な左寄りの人物であり、親中国派です。
 問題ある人物はもう1人います。それは、ジョン・ブレナンC
IA長官の人事です。ブレナンは前大統領補佐官で、2012年
9月11日に起きたベンガジ襲撃事件で事実を隠蔽して、議会か
ら総すかんをくった人物です。
 このベンガジ襲撃事件には大きな疑惑があるのです。ある情報
によると、オバマ政権こそ、テロリストを使ってベンガジの米大
使館を襲撃させ、オバマ側に都合の悪い真実を知っていた米大使
や他の職員を暗殺したなどという噂もあります。それほど事件が
起きた時のオバマ政権の対応はあまりにも遅く、まるで事件を放
置しているようだったといわれています。
 国務長官のケリー、国防長官のヘーゲル、CIA長官のブレナ
ン──こういう側近体制でオバマ大統領は、中国寄りに大きな舵
を切る──今日と明日のオバマ・習会談は、そういう会談になる
可能性が十分あります。日本にとっては、きわめて好ましからぬ
事態であるといえます。果たして何が話し合われるのか、この会
談については、来週に再度取り上げる予定です。
                  ── [新中国論/61]

≪画像および関連情報≫
 ●極東ブログ/ベンガジ襲撃事件その後/2012.10
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米国大統領選では、意外にもロムニー候補が追い上げて詰め
  の部分が見えないものの、おそらく全体の流れではオバマ再
  選ということになるだろう。どちらが勝っても、それほど米
  国の政策に大きな変化はなく、むしろオバマ氏は再選するこ
  とで歴史的にはさらにしょっぱい評価を得ることになるので
  はないか。それを前倒しにするような話が、むざんな死者を
  出した9月11日のリビアの米領事館襲撃事件である。この
  事件は当初、こんなふうに語られていた。9月13日付けC
  NN「ベンガジの米領事館襲撃で大使ら4人死亡リビア」よ
  り。今回の事件は、イスラム教の預言者ムハンマドを冒とく
  したとされる映画がインターネットに投稿されたことに対す
  る抗議行動が発端となって発生した。エジプトの首都カイロ
  の米大使館もこの映画をめぐって襲撃され、星条旗が破り取
  られている。オバマ大統領は「我々は他者の信教を中傷する
  一切の行為を拒絶する」「しかし今回のような非道な暴力は
  断固として正当化できない」と非難した。日本でもそのよう
  に報道されていた。本当だろうか。オバマ大統領は上手な嘘
  をついているのではないか。疑惑をまず、同記事で再考して
  みよう。
  http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2012/10/post-fa0a.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ケリー国務長官とヘーゲル国防長官.jpg
ケリー国務長官とヘーゲル国防長官
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2013年06月10日

●「一向に改善しない中国の大気汚染」(EJ第3564号)

 中国の大気汚染問題は実に深刻です。中国には、大気汚染、水
質汚染、食品汚染など、数えきれない環境問題があるのです。し
かも、まったく改善されておらず、むしろ深刻化しています。
 環境省(当時は環境庁)の出身で、中国の環境対策に取り組ん
だ経験を持つ横浜市立大学特任教授の井村秀文氏は、中国の環境
問題には次の3つの基本的要因があるといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.大きな国土と特殊な地理的状況
       2.中国経済の構造的問題がネック
       3.中国一般国民の衛生意識の低さ
         ──「文藝春秋」/2013年6月号掲載の
                     井村教授論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は、「大きな国土と特殊な地理的状況」です。
 中国の地理的状況の大きな特色は、長江や黄河といった大規模
河川が国土を横断していることです。そのため、これらの河川で
問題が起きると、その影響は中国全土に及んでしまうのです。
 例えば、上流域で水が汚染されると、下流域が広い範囲で影響
を受けてしまうし、上流域で水を取り過ぎると、下流域には水が
来なくなる恐れもあります。したがって、中国の水対策は大きな
流域全体でコントロールする必要があります。
 中国は広大な平野に人口が密集する大都市が多数存在していま
す。この状況では、豪雨や酸性雨や大気汚染は、発生源も被害を
受ける地域もきわめて広範囲に及ぶのです。
 日本は平野部が少ないし、大都市の面積も限られているので、
地域単位の対策を立てることができますが、中国では全体として
のコントロールが必要になるのです。
 第2は、「中国経済の構造的問題がネック」です。
 ここまで中国の経済発展を牽引してきたのは製造業ですが、製
造業は多くのエネルギーを使うのです。しかし中国の場合、エネ
ルギー全体の70%を石炭燃料が占めているのです。その年間消
費量は40億トンに達するといわれています。
 しかも、脱硫装置の付いていない発電所で石炭をがんがん燃や
しているのです。したがって、SOX(硫黄酸化物)など、大気
汚染の原因物質が大量に撒き散らされることになるのです。何を
さておいても成長を優先させるので、CO2は既に米国を抜いて
世界全体の4分の1を占めるまでになっています。
 中国で国の環境政策は、環境部で行います。日本の省レベルの
組織で300人ほどの職員が在籍しています。しかし、上からは
掛け声だけで、本気で取り組む体制にはなっていないと井村教授
はいっています。
 そういう中国でも2008年の北京オリンピックのときは、国
から地方政府や市政府へ強い指示を出しています。北京市は国か
ら大気汚染改善の指示を受け、市内にあった鉄鋼工場を閉鎖し、
天津の近くまで移転させています。しかし、これでは工場を移転
させただけですから、根本的な解決策ではないのです。
 第3は、「中国一般国民の衛生意識の低さ」です。
 環境問題というのは、国の公衆衛生が基本になります。国がど
んなに力を入れても、一般国民の衛生観念というか、公共心とい
うものが備わっていないと前進しないのです。
 もっとも一般国民だけではないのです。企業の多くは環境意識
は低く、当局がうるさいので、最小必要限度の対応しかしないの
です。政府として規制をあまり厳しくすると、規制の厳しくない
ところに移転してしまうのです。
 上海で環境規制を強化したとき、多くの企業は上海市から逃げ
出し、隣の蘇州や無錫市に移転したのです。したがって、市とし
ても強い指示を出すのを躊躇ってしまうのです。しかもそういう
逃げ出す企業のほとんどは国営企業であり、国としてのガバナン
スが効いていないのです。基本的に企業は自分のところが儲かり
さえすれば、周りの迷惑など気にしないのです。
 環境問題に限りませんが、中国では自身にとって都合の悪いこ
とは徹底的に隠蔽するところがあります。2011年に街全体を
覆う白い気体のことを中国は「大霧」と表現していたのです。こ
れについて米国大使館が、それが超微粒の汚染物質PM2・5で
あると発表すると、次のようにむ反論したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   中国の名誉を貶めようとするアメリカの陰謀である
―――――――――――――――――――――――――――――
 一向に反省しないのです。天気予報などでも「明日も大霧が発
生するでしょう」などと苦しい報道をするのです。こういう態度
を見ていると、中国は北朝鮮に似ているなと思ってしまいます。
 しかし、「大霧」といい張っていた中国も最近ではPM2・5
を認めざるを得なくなっています。それは「微博」──中国版ツ
イッターを通じて白い気体は「大霧」などではなく、PM2・5
という有害物質であることが大量に流されたからです。
 中国は国家がネットを制限しています。しかし、ネットという
ものは制限できるものではないのです。そのことは中央政府もわ
かっているのです。しかし、世界中で利用されているツイッター
でこういう政府にとって都合の悪い情報が伝わると、世界中に知
られてしまうので、国として「微博」を開発し、伝わる範囲をせ
めて国内にとどめたいという苦肉の策なのです。
 こんな話があります。ある村で工場の未処理の汚水のため、重
度の健康被害を受ける人が多く出たことがあります。村人の訴え
によって、当局が調べて、工場の汚水処理に問題があることがわ
かり、当局が工場を閉鎖処分にしたのです。そのため、その企業
は倒産に追い込まれてしまいます。
 ところがです。それによって職を奪われた労働者たちは武装し
て、告発した村を襲撃し、多くの人を殺害したというのです。つ
まり、中国では人から仕事を奪うということは、リスクの高いリ
アクトを受ける可能性があるのです。だから、国として環境問題
に本気で取り組めないのです。    ── [新中国論/62]

≪画像および関連情報≫
 ●深刻化した中国の大気汚染/人命被害1万人に迫る
  ―――――――――――――――――――――――――――
  先週テレビや新聞で大きく取り上げられたのが、過去最悪と
  いわれる大気汚染が続く中国で、市民生活に大きな被害が出
  ているというニュースであった。大気汚染については、これ
  までもたびたび本HPで取り上げてきたが、今回の汚染はそ
  の度合いが大きく、また汚染期間が1月の初から3週間近く
  続いていることが特徴的である。そのため、咳き込む子供な
  ど体調を崩したたくさんの子供や老人たちが病院に詰めかけ
  るなど、かってない混乱が発生しているようである。さらに
  汚染の被害が北京市や河北省、山東省、天津市など日本の総
  面積の3.5倍にあたる広範囲に広がっている点も被害を深
  刻にしている。被害面積は中国全土のおよそ7分の1である
  が人口密集地域であるため、被害人口はおよそ8億人に及ぶ
  というから大変である。中国の大気汚染問題の記事を読むと
  き頻繁に登場するのが、PM2.5という言葉である。これ
  は直径2.5マイクロメートル(髪の毛の40分の1)以下
  の粒子状の汚染物質のことである。つまりこのPM2.5が
  1立方メートル当たりどの位あるかによって汚染度が決まる
  わけである。
  http://www.y-asakawa.com/Message2013-1/13-message14.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

最近の北京市内の状況.jpg
最近の北京市内の状況
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2013年06月11日

●「人民反乱を最も恐れる中国共産党」(EJ第3565号)

 中国がいまいちばん恐れているのは、米国をはじめとする西側
諸国ではなく、自国の問題なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.一般人民の反乱
          2.党の軍の国軍化
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国中央政府がいかに「一般人民の反乱」を恐れているかは、
2012年11月の「18大」──第18回中国共産党大会の警
備体制によくあらわれています。
 動員した警察官の数は10万人以上、北京市の警察官だけでは
足りず、近隣市から大量増員してこの体制になったのです。この
人数は、2008年開催の北京オリンピックのときの規模を大き
く超えるのです。
 タクシーの窓から反政府勢力によるビラが撒かれないようにす
るため、窓を開閉する取っ手を外さないと営業を許さなかったり
徹底した持ち物検査を執拗に行なったりしたのです。市外から北
京に入る列車では、乗客に対して最低でも4回の身分証と持ち物
検査を実施しています。駅構内に入るとき、改札、着席後の車掌
による検査、到着後の検査の4つです。
 もう一つ中央政府が密かに懸念していることは、「党の軍の国
軍化」の動きです。中国の軍隊は、中国という国家の軍隊ではな
く、中国共産党の軍隊なのです。もし、人民パワーが爆発して、
中国共産党の転覆を図ろうとする天安門事件のような事態が発生
し、党が「弾圧せよ」と命令したとき、軍隊は果たして人民に対
して銃を向けるかどうかを心配しているのです。
 天安門事件のとき、命令を拒否した指揮官が実際にいたからで
す。本当に中国が生きるか死ぬかの瀬戸際に立ったとき、軍は党
の軍隊ではなく、国民の軍隊であろうとする可能性が十分にある
のです。そのため、そういう事態が起こらないようにするため、
人民による反乱を起こしてはならないのです。
 人民の反乱が起こらないようにするには、人民が怒りを共有で
きるようなテーマを作らないことです。そのひとつに反日があり
ます。しかし、反日デモはある程度当局がコントロールできるの
ですが、いったん起きてしまうと、コントロールできないデモも
あるのです。現在、トルコで起きているデモの何百倍もの規模で
起きるデモがそれです。いわゆる「中国の春」が怖いのです。
 現在中国では、「反日」と並んで人民が怒りを共有できるテー
マとして「格差」があります。これについて、中国に詳しいジャ
ーナリスト、富坂聡氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国は投資中心の経済発展の後遺症として「格差」という時限
 爆弾を国内に抱えてしまった。この「格差」が生み出す不満は
 社会の成功者や特権階級に対する怨嗟となって、社会に充満す
 る。社会の負け組が吐き出す不満のガスが蔓延した中国では、
 人々が怒りを共有できるようなテーマによって簡単に社会不安
 が起きるという特徴を秘めている。そして不幸にも「反日」は
 中国の人々が怒りを共有できる重要なテーマの一つになってい
 るのだ。    ──富坂聡著、「間違いだらけの対中国戦略
     /日本人だけが知らない中国の弱点」/新人物往来社
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界第2の経済大国である中国の貧富の差はすさまじい状況な
のです。こういう状況においては、とにかく失業者を減らさなけ
ればならないのです。そのためには、高い経済成長が不可欠にな
ります。しかし、現在の中国はその経済成長に陰りが生じており
最低ラインとする8%すら切っているのです。
 こういう状況の下では、環境問題などは二の次三の次になりま
す。何としても海外からの投資を増やし、輸出を伸ばす必要があ
るのですが、それに一番貢献しているのは実は日本なのです。
 中国は今や世界の工場としての魅力を失いつつあります。これ
は海外からの直接投資の減少につながることになります。今まで
中国の経済成長を支えてきた香港や台湾の企業は既に中国に見切
りをつけて、対中投資にブレーキをかけています。
 2011年の投資額は、対前年比で9.7 %増と不振でしたが
日本の投資額は対前年比で49.6 %と突出しているのです。こ
れが2012年になると、海外全体が対前年比で3.8 %減少し
ているのに対し、日本は17%増(2012年1月〜9月)であ
り、直接投資全体に占める割合も、2011年の5.5 %に対し
て6.7 %と増加しているのです。
 ところが、2012年9月の尖閣諸島国有化以来、日中関係は
一気に冷え込み、両国とも新政権ができているのに、首脳会談、
外相会談さえ行なえない状況が続いています。もちろん門戸を閉
ざしているのは中国の方です。
 本来中国にとってこの状態は最悪です。このまま事態が推移す
ると、日本企業は続々と中国から引き上げ、大量の雇用が失われ
る恐れがあるからです。しかし、日本企業の撤退は既にはじまっ
ており、そのためのセミナーも盛んです。
 2010年末現在、中国に進出した日本企業は2万2307社
であり、世界一です。こうした日系企業が創出する雇用は、直接
・間接合わせて、1000万人を上回るのです。もし、日本企業
が続々と引き上げる事態になり、この雇用が失われると、中国経
済は大ダメージを受けることになります。
 このはざまで中国は日本と対立しているのです。日本企業が中
国から引き上げるには、日本にとって不利な契約が結ばれている
ので、容易なことではないのですが、それでも、既に撤退ははじ
まっているのです。
 また、トヨタや日産などの自動車メーカー、ユニクロをはじめ
とするアパレルメーカーなどは、撤退しないまでもその生産比率
を大幅に縮小させ、生産拠点をASEAN諸国に移しています。
伊勢丹やヤマダ電機などは既に撤退を決定しています。この動き
は止まらないと思います。そして、このことが中国経済に少なか
らぬダメージを与えることは確かです。── [新中国論/63]

≪画像および関連情報≫
 ●中国からの撤退ブームの教えるもの/「誠」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国に進出していた中小メーカーの撤退が密かな「ブーム」
  の様相を呈している。ついこの間まで中国進出を煽っていた
  コンサルティング会社が主催する「撤退セミナー」が日系企
  業向けに盛況らしい(同業ながら何とも商魂たくましいと感
  心する)。かくいう小生も以前は中国進出をお手伝いするこ
  ともあったが、2010年9月の尖閣諸島中国漁船衝突事件
  とその後の反日感情のあり様、中国政府のえげつないやり口
  (レアアース禁輸など)を見て、「もう中国は日本企業にと
  って安全な場所ではない」と痛感し、それ以降は東南アジア
  を代替案としてすすめるようにしてきた。今現在、中国から
  の撤退を検討している中小企業の多くはメーカーである。彼
  らが真剣に「脱・中国」を考えるようになったきっかけは間
  違いなく2012年の尖閣諸島国有化に伴う反日デモ・暴動
  であり、日系保険会社の「暴動特約」の新規引き受け見合わ
  せ方針や最近の大気汚染なども彼らの不安や嫌気を後押しし
  ている。しかし本質的理由は中国で利益を上げにくくなって
  きたからだ。
  http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1305/15/news015.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

撤退準備が進むヤマダ電機南京店.jpg
撤退準備が進むヤマダ電機南京店
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2013年06月12日

●「暗雲が立ち込める中国の経済状況」(EJ第3566号)

 米パームスプリングスでの日米首脳会談──肝心なときにいつ
も新聞休刊日です。今どき百貨店でも休日なしなのに大新聞だけ
は揃って休刊です。まさに談合そのもの、分担を決めて交互に休
んだらどうかといつも思います。これでは、新聞社に「談合」を
批判する資格はありません。
 米中会談での注目の尖閣諸島問題では米国はいつもの二枚舌で
対応しています。二枚舌とは次の2つのことをいいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   一枚目の舌:米国は他国の領土問題には関わらない
   二枚目の舌:米国は尖閣諸島の日本の施政権認める
―――――――――――――――――――――――――――――
 一枚目の舌──「米国は他国の領土問題には関わらない」は中
国向けのメッセージです。そして二枚目の舌──「米国は尖閣諸
島の日本の施政権認める」は日本向けのメッセージです。これは
もし尖閣諸島で紛争が起きると、日米安保が発動されるという意
味です。しかしオバマ大統領は一枚目の舌しか使わないのです。
つまり、何もいっていない。ズルイのです。
 米国は中国に対して多大の借金をしており、これからもしなけ
ればならないので、負い目があるのです。しかし、日本にも同様
に借金をしているのですが、日本にはあまり感謝の念はなく、当
たり前だと思っているのでしょう。
 しかし、中国の経済には現在暗雲が立ち込めており、さまざま
な悪い情報がたくさん出てきています。6月8日のことですが、
中国の短期金利が急上昇したのです。
 短期金利とは、償還期間の短い債券など期間の短い金融資産や
負債の金利のことです。短期金融市場は、インターバンク市場と
オープン市場に分かれますが、ここでいう短期金利は金融機関だ
けが参加するインターバンク市場の金利を指しています。資金の
足りない金融機関が資金の余っている金融機関から一時的に資金
を融通し合う市場です。コール市場ともいわれています。
 中国の場合、銀行の預金金利と貸出金利は政府が金融政策とし
てコントロールしますが、短期金利は変動幅の制限がなく、銀行
の資金需要に応じて変動します。指標金利としては、上海銀行間
取引金利(SHIBOR/シャイボー)というものがあり、中国
の主要16行が提示する短期金利の平均値が毎日午前11時30
分に発表されるのです。
 短期金利と長期金利の区別は1年を境にして、長いものは長期
金利、短いものは短期金利というのです。金融機関の貸し借りは
明日までの1日だけの取引が多いので、「一晩だけ」という意味
で「翌日物」といいます。
 6月8日、シャイボー翌日物は9.581 %まで上昇したので
す。5日前の6月3日は4.623 %でしたから、4.958 %
上昇したことになります。異常な急騰で、過去最高です。何が原
因で急騰したのでしょうか。
 理由はいくつか上げられると思います。要するに市場に資金不
足感が高まっているのです。それは、投機マネーの流入が減った
からです。その原因として米国の量的緩和縮小の動きがあること
は確かです。これまでは投機マネーが間断なく流入し、市場には
資金余剰感が高まっていたのですが、米国が金融緩和を縮小する
との観測が強くなり、投機マネーの流入が止まったのです。
 これに加えて中国の場合は、いわゆる「偽輸出」に対する監視
強化によって、投機マネーが一層入りにくくなったのです。「偽
輸出」とは輸出を装って投資資金を流入させることをいいます。
「偽輸出」については、5月27日のEJで取り上げているので
参照していただきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
◎2013年5月27日/EJ第3554号
http://electronic-journal.seesaa.net/article/363650240.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の国家外貨管理局は、この6月から全国で企業の貿易取引
を厳しく監視をはじめたのです。金融監督当局も、投機資金を不
正に国内に持ち込んでいる企業への融資停止を銀行に求めている
のです。そのため、5月の輸出額は前年同月比1%増にとどまっ
ています。ちなみに4月実績は、14.7 %増ですから、大幅な
落ち込みです。
 問題は、これによって中国経済がどうなるかです。もし短期金
利の上昇が長引くと、銀行が短期金融市場から資金を調達するコ
ストの増加分を企業への貸出金利に転嫁しようとするので、企業
の資金調達コストも上昇するのです。したがって、ただでさえ回
復ピッチが遅れている中国の景気に悪影響を与える可能性が十分
あります。
 金利上昇にはもうひとつ情報があります。それは短期金融市場
で、決済できなかった銀行があるという情報が流れ、取引先銀行
の返済能力に不安を強めた銀行の資金繰り担当者が一部の銀行へ
の貸し出しを停止したため、それをきっかけに短期金利が上昇し
たという説もあります。ちなみにこの銀行は中国光大銀行ではな
いかという噂が流れていますが、同行はこれを否定しています。
 短期金利は中央銀行によってコントロールできるのです。9日
のシャイボーは翌日物で7.49 %と下落していますが、これは
おそらく中国人民銀行(中央銀行)が1500億元(約2兆40
00億円)を市場に供給して低下させたものと思われます。
 このように、中国経済にあちこちに黄色ランプが灯りはじめて
います。既に述べたように、7月に中国経済が崩壊するという説
も出ているのです。もっとも社会主義国ですから、資本主義国で
はできない方法で、切り抜けるでしょうが、不安が拡大している
ことは確かです。
 米中両国は、経済関係をより緊密にしようとし、その関係を深
化させつつあります。しかし、近づけば近づくほど、問題が増え
てくると指摘する専門家もいるのです。米国内には、中国企業に
関する強い警戒感もあるのです。中国のTPP加入など、まず考
えられないことと思われます。    ── [新中国論/64]

≪画像および関連情報≫
 ●経済的相互依存の深化と米中関係/古城佳子東大大学院教授
  ―――――――――――――――――――――――――――
  この夏、中国産食品・薬品の安全問題が各国でクローズアッ
  プされたことにより、皮肉にも中国製品がいかにグローバル
  に輸出されているか再認識させられた。中国の輸出は増加し
  続け、他国との経済的結びつきはますます増大している。特
  に、米中経済関係は急速に相互依存を深化させている。伸び
  率が9%台の対日輸出に比べ、対米輸出は20%台であるこ
  とから見ても米中経済関係の速い深化が見て取れる。また、
  対中直接投資においてもアメリカは依然として重要な位置を
  占めている。アメリカでは、米中関係について、従来から、
  経済と安全保障は関連づけて考えられてきたが、この急速な
  経済関係の深化が米中関係、特に安全保障関係にどのような
  影響をもたらすのかはますます興味深い問題となっている。
  では、アメリカでは、米中関係において経済と安全保障はど
  のように認識されているのであろうか。これを知ることはな
  かなか難しい。中国のWTO加盟に道を開いたクリントン政
  権以来、ブッシュ政権も経済的関係強化は経済的にも安全保
  障的にもメリットがあるとする関与政策を踏襲している。
  http://www.rips.or.jp/research/ripseye/2007/rips-eye-no822007105.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

米中首脳会談/尖閣問題も議題.jpg
米中首脳会談/尖閣問題も議題
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2013年06月13日

●「総勢13万人の中国サイバー部隊」(EJ第3567号)

 6月10日発売の週刊『エコノミスト』6/18は、次のタイ
トルで、中国・韓国問題を特集しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
              「中国・韓国の悲鳴」
   週刊 『エコノミスト』6/18/毎日新聞社
―――――――――――――――――――――――――――――
 この特集のなかの中国編では、次の5つのテーマを取り上げて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1. 「ニセ輸出」疑惑
         2.「影の金融」の拡大
         3.「腐敗撲滅」の余波
         4.  過剰な生産能力
         5. 格差問題のマグマ
            ──『エコノミスト』6/18より
―――――――――――――――――――――――――――――
 EJでは、ここまで65回にわたって中国についていろいろと
書いてきましたが、濃淡の差はあれ、5つのテーマにはすべて触
れてきています。
 このシリーズは来週に終了する予定ですが、それまでは、この
5つ以外のテーマについて書きます。
 先の米中首脳会談でオバマ大統領は、「尖閣諸島の主権に関し
て米国は特定の立場はとらない」という「一枚目の舌」(昨日の
EJ参照)を主張したものの、事前に相当強いジャブを中国に仕
掛けていたのです。それは首脳会談の前に米政府関係者による次
の発言です。この発言は、中国が尖閣諸島周辺の領海が自国領で
あることを示した文書を国連に提出したことに関してです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国が尖閣諸島に上陸し、測量をした実績がないにもかかわら
 ず、こうした主張をするのは未成熟国家であることを自ら露呈
 している。               ──米政府関係者
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国としては痛いところを衝かれたのです。これには中国は相
当反発したようです。そのため、中国が本気で測量のために尖閣
諸島に強行上陸しかねないとして、日米でその対応を協議するこ
とになっているといわれます。公船の数は圧倒的に中国の方が多
く、日本が対応しきれなくなる恐れがあるからです。
 この情報が事実であれば、オバマ政権もそれなりにがんばって
いるということはいえます。それにしても、最近しきりに中国が
いっている次の発言は、そっくり中国にお返ししたいものです。
挑発しているのは日本ではなく、中国ではないですか。しかし、
この声明は日本に対するものではなく、他国へのPRなのです。
事情をよく知らない他国から見ると、「話し合い」に応じない日
本の方がわるいと思うからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国は国家の主権は断固として守る。日本に挑発行為をやめて
 話し合いで解決するよう求める。       ──中国政府
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回の米中首脳会談の最大の目的は、中国による「サイバーテ
ロ」に関する警告です。これは、米コンピュータ・セキュリティ
会社マンディアント社のレポートに基づく警告です。
 実はこのマンディアント社は凄い会社なのです。同社は、20
04年、米空軍でサイバー犯罪捜査官を務めたケビン・マンディ
ア氏(42)が設立し、コンピューターへの不正アクセスを調べ
る自動システムの開発で知名度を上げたのです。
 しかし同社の名前は、中国人民解放軍のサイバー攻撃関与を指
摘するまで、業界以外ではほとんど知られていなかったのです。
マンディアント社は、2013年2月18日、中国のハッカー組
織「APT1」は、人民解放軍の「61398部隊」が主導して
いる可能性が高いとする報告書を発表したのです。
 中国国防省は直ちに報告書が「専門性に欠けている」としてそ
の内容を否定しましたが、報告書は過去にないほど詳細にわたっ
ていたことから、マンディアント社は大きな称賛を得ることにな
ったのです。これに対して中国は「中国も被害者である」ととぼ
け、首脳会談でも同じ主張を繰り返したのです。
 この人民解放軍「61398部隊」とは、どういう組織なので
しょうか。
 マンディアント社はその場所まで特定しています。この部隊は
上海の市街地から車で30分ほどのところにある12階建てのビ
ルを活動拠点にしていると特定しています。
 これには、中国は大ショックを受けたといわれています。当然
米国のメディアがその地区に殺到したのですが、カメラを向ける
だけで、警備員が追いかけてくるほど、ビリビリしています。
このビデオは報道でも流されています。おそらく今頃部隊は撤収
し、ビルはもぬけの殻になっているはずです。
 政府の情報セキュリティ政策会議の有識者構成員である慶応義
塾大学土屋大洋教授によると、この「61398部隊」は数千人
規模の部隊であり、世界中の約1000台のコンピュータを使っ
て活動していたのです。この部隊の上部組織は「ネット軍」と呼
ばれる参謀部第三部であり、その総勢は13万人といわれている
のです。驚くベき数です。
 外国人がかかわる外交・軍事国際通信の監視を行い、中国のイ
ンテリジェンス機構で最大の規模を誇っています。その四局は、
日本を担当しているのです。その能力は米国を凌ぐとまでいわれ
ています。そして、その総指揮をとっているのが他ならぬ習近平
国家主席なのです。
 米国は歳出強制削減法などで、軍事費を削っているときではな
いのです。そういう意味で中国は恐るべき帝国なのです。しかし
中国の経済には黄色ランプが点滅しています。その経済の立て直
しは容易なことではなく、本当に破綻すると、中国が最も恐れる
人民が反乱する可能性は高いのです。 ── [新中国論/65]

≪画像および関連情報≫
 ●ハッカー集団の背後には中国軍がいる/マンディアント社
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2013年2月19日(ブルームバーグ)世界中で2006
  年以後少なくとも141社をハッカー攻撃した集団の背後に
  は中国軍がいた可能性がある。米セキュリティー会社マンデ
  ィアントが19日、こうしたリポートを発表した。リポート
  によれば、主に米企業を標的とするハッカー攻撃は「政府が
  支援している可能性の高い」集団によって実行され、中国人
  民解放軍と同じような「使命、能力、リソース」を備えてい
  る。同社はこの集団を追跡し、上海にある4つの大型コンピ
  ューターネットワークにつながっていることを突き止めたと
  主張。そのうち2つのネットワークは上海の浦東新区向けで
  この地区には61398部隊と呼ばれる軍の秘密部隊がある
  という。バージニア州アレクサンドリアに本社を置くマンデ
  ィアントは「こうした脅威が中国から発せられていることを
  認識すべきときだ」と指摘。「われわれの調査と観察は、中
  国共産党が人民解放軍に世界中の機関に対してサイバー上で
  組織的なスパイ活動を行いデータを盗み出す任務を課してい
  ることを示唆している」と説明している。
  http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MIGP7U6TTDS601.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

「61396部隊」上海の拠点ビル.jpg
「61396部隊」上海の拠点ビル
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2013年06月14日

●「国家ぐるみでサイバー攻撃の中国」(EJ第3568号)

 現在最も普及しているOSといわれるマイクロソフトの「ウイ
ンドウズXP」──2014年4月9日をもってサポートが終了
されます。以下は、このウインドウズXPサポート終了のニュー
スをめぐる、ある企業でのAとBによる会話です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  A:うちのPCはXPだけど、使えなくなっちゃうの?
  B:そんなことはない。そのまま使えるさ。
  A:買い替えなくてもいいのかしら?
  B:その必要はないさ。PCが壊れるまで使うつもり。
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かにOSのサポート期間が終了しても、PCはそのまま使え
ます。そしてほとんどのケースでは、Bのいう通り、PCが壊れ
るまで使えるでしょう。しかし、AもBも「セキュリティ」とい
うものがまったく分かっていないことは共通しています。
 重要なことはAとBのPCがインターネットに常時接続されて
いるということです。そういうPCには、インターネットを介し
て世界中からアクセスが可能です。OSメーカーのサポートには
いろいろありますが、最近一番重要になっているのは、ウイルス
などの侵入を防止するセキュリティの強化です。
 とくにウインドウズには、セキュリティホールといってソフト
ウェア上の欠陥があって、ウイルスなどが侵入しやすいのです。
そのため、マイクロソフトでは、それをガードするソフトを間断
なくユーザーに送り続けてOSを守っているのです。
 「サポートの終了」というのは、そういうOSを守るサービス
をメーカーが中止するという意味なのです。したがって、XPの
サポートが終了してもそのままPCを使い続けることは可能です
が、ウイルスなどの侵入が防げなくなったり、最悪の場合、PC
を乗っ取られて、遠隔操作される危険性もあるのです。OSの防
御が脆弱化すると、何が起きても不思議ではないのです。
 なぜ、このような話をしたのかというと、サイバーテロの話を
続けたいからです。まず、専門用語を覚えてください。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.ウイルス ・・・・ 自己増殖しないもの
    2. ワーム ・・・・ 自己増殖をするもの
―――――――――――――――――――――――――――――
 コンピュータシステムに損害を与えるプログラムのことを一般
には「ウイルス」といいますが、ウイルスは自己増殖しないプロ
グラムであり、自己増殖するものを「ワーム」というのです。
 今までのサイバー攻撃は、「DoS(ドス)攻撃」といって、
サーバーなどのネットワークを構成する機器に対して攻撃を行っ
て、サービスの提供を不能な状態にしてしまうものが中心だった
のです。「DoS」とは次の省略語です。
―――――――――――――――――――――――――――――
      DoS攻撃=Denial of Service attack
      サービス拒否攻撃
―――――――――――――――――――――――――――――
 この「DoS攻撃」はさらにスケールが大きくなって、踏み台
と呼ばれる多数のコンピュータが、標的とされたサーバーなどに
対して攻撃を行うようになったのです。これを「DDoS攻撃」
といいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   DDoS攻撃=Distributed Denial of Service attack
   分散サービス拒否攻撃
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国では、かつて社会に不満を持つ若者がネット上に氾濫する
ソフトを使い、ネット掲示板で仲間を募って、米国や日本に攻撃
を加えていた時期があります。その攻撃はときどき中国政府にも
向けられるのです。こういう若者を「憤青」といいます。
 先の米中首脳会談で習国家主席は、サイバーテロについてオバ
マ大統領に「中国も被害者」と強調していますが、確かに「DD
oS攻撃」なら、中国政府も被害者になる可能性はあります。し
かし、習主席の発言は問題のすり替えであり、詭弁です。
 現在は、DDoS攻撃に関しては防御システムの開発が進んだ
ことにより、大きな被害が発生することは少なくなっています。
それにDDoS攻撃ならサービスが停止してしまうので、すぐサ
イバー攻撃を受けたことがわかり、直ちに防御策が取れるので、
被害を最小限度に抑えることが可能なのです。
 最近脅威を増しているのは、「標的電子メールによるサイバー
攻撃」なのです。これは、相手に悟られずに情報を盗むことを目
的としています。こうなると、インテリジェンス活動そのもので
あり、中国は組織を組んでこの手のサイバー攻撃をやっているの
です。オバマ大統領はかなり具体的なことまで踏み込み、習主席
にサイバー攻撃をやめるよう迫ったといいますが、習主席は「中
国も被害者」を繰り返すのみであったといいます。
 昨日のEJで、人民解放軍のサイバー部隊は総勢13万人と書
きましたが、従来型のスパイ活動を行う諜報員を多く含んでいる
数です。人民解放軍参謀部の第二部はそういう諜報員を数多く有
しており、その傘下にコンピュータを使ったインテリジェンスに
従事する科学技術局があるのです。
 この中国のものと見られるサイバー攻撃を日本はたびたび受け
ています。宇宙航空研究開発機構(JAXA)のロケット開発部
門や原子力発電プラントなどの研究・開発拠点のサーバーに侵入
して情報を盗んだり、衆議院と参議院のサーバーも不当にアクセ
スされているのです。
 米国でもCIAの公式サイトが攻撃されたり、温家宝前首相の
不正蓄財を報道したニューヨーク・タイムズの記者や従業員のパ
スワードが盗まれるなど、明らかに報復とみられるサイバー攻撃
を受けています。
 米国はやられているばかりではないのです。2010年に起き
た「スタックスネット」事件がそうです。これについては、来週
のEJでご紹介します。       ── [新中国論/66]

≪画像および関連情報≫
 ●「サイバー攻撃、中国関与」/ヘーゲル国務長官
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【シンガポール=中島健太郎】ヘーゲル米国防長官は、20
  13年6月1日、シンガポールで開かれているアジア安全保
  障会議での演説で「サイバー攻撃の一部は中国政府と軍が関
  与しているようだ」と述べ、中国を発信源とするサイバー攻
  撃に強い懸念を示した。アジア太平洋重視戦略に関しては、
  国防費の強制削減が続く中でも継続する方針を強調した。長
  官は「サイバー空間で企業や産業界が感じる脅威は増加して
  おり、米国と各国は共通の懸念を持っている」と述べ、中国
  政府と軍を名指しで批判した。「サイバー攻撃の発信源を見
  極めるのは難しく、誤算が起こりやすい」とも語り、中国政
  府に「サイバー空間での責任ある行動の国際規範を作るため
  議論を進めよう」と呼びかけた。アジア各国が直面している
  脅威としては、〈1〉北朝鮮の核・ミサイル開発と挑発行為
  〈2〉領土・海洋に関する紛争〈3〉宇宙・サイバー空間で
  の破壊的な脅威――を挙げた。こうした課題に対応するため
  には、アジア太平洋重視の戦略を続ける必要があると強調し
  た。米国の国防費は強制削減が発動され、将来的に大幅な増
  加は望めない状況だが、「アジア太平洋重視戦略が履行でき
  なくなるという結論は賢明でない上に近視眼的だ」と指摘。
  将来的には海軍兵力の6割をアジア太平洋地域に展開する意
  向も明らかにした。
  http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20130601-OYT1T00547.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

アジア安全保障会議での米ヘーゲル国防長官.jpg
アジア安全保障会議での米ヘーゲル国防長官
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2013年06月17日

●「米中首脳サイバー攻撃で意見衝突」(EJ第3569号)

 先週の6月11日頃から先の米中首脳会談の詳しい内容が会議
に同席した高官などの関係者から入ってきています。もともとオ
バマ政権は中国寄りの政権といわれており、尖閣諸島の問題など
では日本に対して厳しいものになるといわれていたのですが、ど
うやらそうではないようです。
 サイバー攻撃でも相当激しいやり取りがあったようであり、尖
閣諸島の問題でもオバマ大統領は、習近平主席が尖閣諸島は中国
の核心的利益であると主張するのに対し、次のように厳しく釘を
刺したといわれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国には日本がわが国の同盟国であることを認識してもらう
 必要がある。その同盟国である日本が中国から脅迫されるこ
 とを、われわれは絶対に受け入れない。 ──オバマ大統領
―――――――――――――――――――――――――――――
 この会談の内容は、6月13日午前にオバマ大統領から安倍首
相に電話で伝えられており、尖閣諸島問題に関して「日米安保条
約の適用範囲」との認識を共有するとともに、日米同盟関係の強
化を改めて確認したとみられます。
 これを裏付ける動きも出ています。米上院外交委員会のメネン
デル委員長(民主党)やルビオ上院議員(共和党)など超党派の
3議員は、13日までに上院に中国非難決議を提出したのです。
 この動きはオバマ大統領の耳にも入っており、50%大統領の
オバマ氏にとって、この問題で少しでも中国寄りの姿勢を見せる
とまずいという判断があったものと思われます。
 ちなみに米上院は、2011年にも南シナ海問題で、中国非難
決議を全会一致で可決しているので、今回も可決されるものと思
われます。この非難決議案に具体的な軍事挑発の例示として出さ
れたのは次の4つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.中国海軍艦艇による海上自衛隊護衛艦へのレーダー照射
 2.    中国公船8隻による尖閣諸島周辺領海への侵入
 3.        ベトナム調査船の探査ケーブルの切断
 4.    フィリピンと領有権を争うスカボロー礁の封鎖
―――――――――――――――――――――――――――――
 ちなみに下院は、議員の支持団体の要望を優先する傾向が強い
のですが、上院は外交安全保障について強い権限を有しているの
です。そこからオバマ大統領に強い圧力をかけたのです。
 習主席による中国外交の明らかな失敗といえます。サイバー攻
撃問題でも、南シナ海、東シナ海問題の領有権をめぐる問題でも
激しく米中が対立することになってしまったからです。
 しかし、中国は一向にひるんでいないのです。6月14日午前
には、尖閣諸島周辺の日本の領海内に中国の海洋監視船3隻が侵
入していますし、サイバー攻撃に関しても米国に対して強いしっ
ぺ返しとみられる行為を行っているからです。
 ここで「スタックスネット」について、ふれる必要があると思
います。これは、2010年9月に起きた事件です。スタックス
ネットとは、ウインドウズをターゲットとしたコンピュータワー
ムであり、2010年に発見されています。
 スタックスネットは、ウインドウズOSの未知の脆弱性を利用
し、感染を拡大するワームです。ここで復習ですが、自己増殖す
るものを「ワーム」、しないものを「ウイルス」と称するので、
スタックスネットはワームなのです。
 何が問題かというと、米国とイスラエルが仕掛けたとされる、
このワームによって、イランの核施設の約1000台の遠心分離
機をストップさせ、核施設の稼働をダウンさせた疑いがあるから
です。遠心分離機はウラン濃縮に不可欠なマシンです。
 一般的に核施設のような機密性の高いインフラはインターネッ
トに接続していないものなのです。そのようなシステムにどのよ
うにして侵入したのでしょうか。
 スタックスネットには、2つの特殊性があります。それは他の
ワームには見られないものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.媒体がUSBメモリである
        2.特定機械に特化するワーム
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の特殊性は、媒体がUSBメモリであることです。一体ど
のようにしてUSBメモリで、システムにワームを侵入させたの
でしょうか。
 考えられることは、核施設の内部にスパイを侵入させ、USB
メモリをシステムに直接接続させたか、施設内にわざとらしくな
くUSBメモリを落としておき、誰かが拾って施設内のPCに接
続するように仕向けたかどちらかしかないのです。つまり、サイ
バー攻撃に従来のスパイ工作を組み合わせた手法を使ったものと
考えられます。
 第2の特殊性とは、スタックスネットというワームは、ドイツ
のシーメンス社の開発した遠心分離機の制御システムという、極
めて限られた対象物をターゲットとしていることです。最初から
シーメンス社製の遠心分離機を破壊してイランの核開発を遅らせ
る目的で作られていることです。
 もし、米国とイスラエルのやったことであるとすると、どうし
てわかったのでしょうか。その詳しい経緯は不明ですが、イラン
核施設の技術者が偶然ひろったと思われるUSBメモリを核施設
のPCに接続しただけでなく、それを自宅のPCにも接続したこ
とで、ワームがネット上に流出したことが原因です。そのワーム
を分析することにより、2国の関与が明らかになったのです。
 そしてこの事実を2012年6月に、ニューヨークタイムズ紙
がすっぱ抜いたため、世界中に知られるようになったのです。中
国はこの事実をもって米国に対し、「中国も被害者である」とい
う主張を繰り返したわけです。サイバー攻撃については決定的な
証拠を特定することが困難なため、知らぬ存せずという主張がま
かり通るのです。          ── [新中国論/67]

≪画像および関連情報≫
 ●産業サイバー兵器スタックスネットの防ぎ方
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ITセキュリティの専門家に「スタックスネット」について
  語ってもらうのは、芸術評論家にモナリザの魅力を解説して
  もらうようなもの。サイバー安全保障のプロたちはこの新種
  のコンピュータウイルスに畏敬の念を抱いている。2012
  年6月に発見されて以降、世界中に感染が拡大しているスタ
  ックスネットは、かつて見たことがないほど洗練されたコン
  ピューターウイルスだ。世界中の専門家が必死で暗号の解読
  に挑んでいるが、このウイルスが作成された真の目的は今も
  わかっていない。非常に巧妙に作り込まれているため、アメ
  リカかイスラエルがイランの核開発プログラムを阻止するた
  めに作成した「サイバー兵器」ではないかと考える専門家も
  多い。スタックスネットを「兵器」と見なすべきなのは、発
  電所やパイプライン、通信インフラ、空港や船舶といった産
  業用システムに潜入し、密かにプログラムを改ざんできる初
  のコンピュータウイルスだから。イランの原子力発電所も攻
  撃を受けた。複数の従業員のパソコンが感染したという。ド
  イツの多国籍企業シーメンスが開発したソフトウエアを使用
  している少なくとも14カ所の工場でも感染が確認されてい
  る。専門家によれば、スタックスネットの作成には数カ月か
  ら数年を要し、産業用システムに詳しい人物が多数関与した
  可能性が高い。標的に到達するために、ハッカーはしばしば
  ウインドウズなどに潜むセキュリティー上の「穴」を探すが
  スタックスネットの優秀な作成者が見つけたバグは一つだけ
  ではなかった。         ──ニューズ・ウィーク
  http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2010/10/post-1683.php
  ―――――――――――――――――――――――――――

米パーム・スプリングスでの米中首脳会談.jpg
米パーム・スプリングスでの米中首脳会談
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2013年06月18日

●「イランに拿捕された米無人偵察機」(EJ第3570号)

 米国とイスラエルによるスタックスネットを使ってのイランへ
のサイバー攻撃に対して、イランはその報復攻撃のために、10
億ドルを投入して、サイバー戦力の増強を図ったのです。
 そして、1年3ヵ月後の2011年12月に、米軍の最新鋭ス
テルス無人偵察機「RQ170」の通信をハイジャックし、遠隔
操作で同機をイラン領内に不時着させることに成功します。
 RQ170は、ロッキード・マーチン社が製造し、米軍や中央
情報局(CIA)が使用する最新鋭の無人偵察機です。高高度か
ら解像度の高い映像の撮影が可能で、ウサマ・ビンラーディン容
疑者の殺害でも、潜伏先の調査に投入されたといわれている米軍
が誇る無人偵察機です。
 イランは、直ちに事実を公開していますが、関連ニュース動画
があるので、ご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ≪イランはサイバー攻撃で捕獲したRQ170を公開≫
      http://www.youtube.com/watch?v=MEJcd4b49HI
―――――――――――――――――――――――――――――
 周回軌道にある偵察衛星での対象物の監視は、1回につきせい
ぜい数分ぐらいでしかないのですが、RQ170は1万5000
メートルの上空で、数時間にわたってとどまることが可能なので
す。そのため、映像だけでなく、盗聴機器や大気中の放射線の測
定もできるのです。
 そういうわけで米国は、ここ数年間、アフガニスタン基地から
RQ170を飛行させ、イラン上空での偵察を活発化させていた
のです。そのRQ170がイランのサイバー攻撃隊によってイラ
ン領内に不時着させられたのですから、米国はショックです。
 しかも、上記の映像を見る限り、機体は破壊されておらず、ス
テルス技術の解析は十分可能であるということです。オバマ政権
はイランでの米国の利益代表部となるスイス大使館を通じて、機
体の返還を正式に要請したようですが、イランは拒否。当時のク
リントン国務長官も記者団に対し「機体が戻ることを期待はして
いない」と発言したのです。これは、米軍のサイバー攻撃技術の
敗北を意味します。
 これによってわかるように、軍事力については米国は突出して
いるものの、ことサイバー攻撃技術については、米国といえども
中国をはじめとする他国と大きな差はないのです。人民解放軍の
エンジニアによる計画書によると、中国は2050年にはこの分
野で米国に対して優位に立てるとしています。
 さて、6月7日〜8日の米中首脳会談の始まる直前に、米中央
情報局(CIA)の元職員のエドワード・スノーデン氏が、米国
の国家安全保障局(NSA)が通信記録や電子メールの情報を収
集し、とくに香港や中国本土を標的にハッキング行為をしている
と告発したのです。
 これは、どう考えても、偶然の出来事ではなく、中国側が仕掛
けた可能性が高いと思われます。現在、スノーデン氏は香港にい
るからです。これについて、元CIA高官のボブ・ベアー氏は次
のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 スノーデン氏の滞在先が中国情報機関を牛耳る上海である点
 が問題だ。この問題が発覚したことで、オバマ政権は大恥を
 をかかされた。    ──元CIA高官のボブ・ベアー氏
            2013年6月13日付、夕刊フジ
―――――――――――――――――――――――――――――
 米政府当局者は、6月12日、司法省がスノーデン氏の刑事訴
追を進めていると発表しています。これに対してスノーデン氏は
「米国の犯罪を暴くために香港にとどまり、米政府と戦う」と発
言。これでは、いくら米国が不当なサイバー攻撃をやめろといっ
てもまるで説得力がないのです。今回のサイバー攻撃のやり取り
では、明らかに中国の方が勝っています。
 このように、ステルス無人偵察機がハッキングされるというこ
とになると、宇宙空間を飛んでいる人工衛星もハッキングの対象
になる可能性があります。
 人工衛星は、宇宙空間にある本体と基地局の制御プログラムが
通信によって結びついています。したがって、その制御プログラ
ムの周波数を入手できれば、外部からのコントロールも可能にな
るのです。実際に米国の観測衛星は、過去に中国によって数分間
ハッキングされたことがあるのです。現在、中国は、GPS衛星
を止めることも研究しているといわれています。
 信じ難いことですが、こんな話があります。あの福島第一原発
(1号機〜3号機)の制御プログラムにウイルスが混入していた
という事実です。といっても福島原発がこのウイルスによって破
壊されたという意味ではないのです。あの3月11日の地震以前
にウイルスが送り込まれており、それが地震と津波のあとでシス
テムの修復作業を行うさいにウイルスが邪魔をしたのです。
 この告発をしたのは、福島原発を制御するプログラムの開発者
の一人であるA氏です。A氏は事故発生から3日後に東電と政府
関係者から呼び出され、防護服に身を固めて福島原発の制御室に
行って作業をしているのです。
 A氏の任務は、制御プログラムを再稼動させることです。その
ためには、指紋認証、網膜認証、そして数10桁の暗証番号入力
などで、そのすべてを2分間以内に終了しなくては再稼働しない
仕組みなのですが、開発者のA氏ならクリアできるのです。
 しかし、A氏はその作業に難航したものの、最終的にはシステ
ムを初期化して再稼動に成功します。しかし、そのさいにウイル
スの存在に気がついたのです。あとでA氏はそのウイルスの発信
源を解析したところ、すべてロシアからであることがわかったの
です。詳細は次のレポートを読んでいただきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 http://www.news-postseven.com/archives/20111202_72892.html
―――――――――――――――――――――――――――――
                 ――─ [新中国論/68]


≪画像および関連情報≫
 ●米人工衛星2基にハッキング/中国軍関与の疑い
  ―――――――――――――――――――――――――――
  [ワシントン 28日/ロイター] 米中経済・安全保障調
  査委員会は、米国の人工衛星2基が、2007年と08年に
  少なくとも4回にわたって、中国軍からとみられるハッキン
  グを受けていたとする議会向けの報告書案をまとめた。報告
  書案によると、中国の関与を示す直接的な証拠はなかったが
  ハッキングは「中国軍の手法と一致している」という。攻撃
  を受けた衛星は、米航空宇宙局(NASA)と米地質調査所
  (USGS)が所管するもので、気象観測や地形調査のため
  に使用されていた。1基は2007年と08年に計12分以
  上の妨害を受け、もう1基は2008年6月に2分以上、同
  年10月に9分以上の妨害を受けていた。通常ハッカーは、
  複数の地域を経由してコンピューターに不正侵入するなど、
  痕跡を分かりにくくしているため、攻撃の当事者を特定する
  ことは極めて困難。今回のハッキングは、ノルウェーの地上
  施設を経由して行われていたが、施設を所有する企業による
  と、システム上に異常は見られなかったという。ワシントン
  にある在米中国大使館からコメントは今のところ得られてい
  ない。           ──2011年10月29日
  http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-23894420111029
  ―――――――――――――――――――――――――――

エドワード・スノーデン氏.jpg
エドワード・スノーデン氏
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2013年06月19日

●「中国版ツイッター『微博』パワー」(EJ第3571号)

 中国政府はツイッターを禁止しています。もし、認めると、政
府が管理できないからです。しかし、中国の人気ポータルサイト
である「新浪/シンラン」などの運営会社が、「微博」(ウェイ
ボー)を運営しています。微博は中国版ツイッターなのです。
 中国ではブログのことを「博客」というのですが、それに「微
/マイクロ」という言葉をかぶせて、「微博」(ミニ・ブログ)
と呼んでいるのです。
 中国のメディアといえば、人民日報(中国共産党中央委員会の
機関紙)や新華社(中国国営通信社)、CCTV(中国中央電視
台)などの政府系メディアが幅を利かせているイメージが強いで
すが、既にこれらのメディアの存在感は失われているといっても
過言ではないのです。
 今や中国で人気を集めているメディアは、「南方週末」などの
民間メディアと個人メディアともいうべき微博なのです。南方週
末は、検閲ぎりぎりの政府批判や調査報道を行い、幅広い読者の
支持を有しているメディアです。
 微博は、ツイートの投稿の文字数は140字、フォロワーがリ
ツィート(転発)することによってツイートが拡散する仕組みで
あり、ツイッターと何ら変わらないのです。しかし、完全に政府
の管理下にあります。
 中国のSNSには自由はないのです。書き込みに使ってはなら
ない禁止ワードが決められていて、それらのキーワードを使うと
システムが自動的に排除する検閲システムが作動します。政府に
は数万人の規模を誇るネット警察があり、政府批判や公序良俗に
反する内容に四六時中目を光らせているのです。
 しかし、微博のフォロワーは3億人を超える規模であり、本家
のツイッターの2億人を上回っているのです。ネット警察官の目
でのチェックには限界があります。
 ある微博のユーザーは、政府を批判をするツイートを発信した
いときは、字幕の入った日本のテレビニュースの画面をカメラで
撮って微博にアップするといいます。ワードでは検索されてしま
うが、写真では検閲が目でチェックしない限り削除できないので
そのままになってしまう可能性が高いのです。
 微博は、これまで「壁新聞」や「口コミ」ぐらいでしか、自分
の意見表明ができなかった中国人民が、はじめて手にした個人メ
ディアであり、今までなら絶対に不可能であったことも実現され
てきているのです。
 2011年に浙江省温州市で起きた高速鉄道の追突事故の第1
報を伝えたのは新聞でもテレビでもなく、微博だったのです。こ
の事故では、事故車両を現場に埋めてしまうという鉄道省のやり
方に対して、微博では非難のツイートが殺到し、車両を埋める行
為をストップさせることに成功しています。
 こういう動きに内心穏やかでないのは中央政府です。何でも述
べているように、中央政府が一番恐れているのは人民の不満が限
界点に達して爆発すること──つまり、天安門事件がもう一度起
きることです。
 中国政府が恐れるのは、チュニジア、エジプト、リビア、イエ
メンなどに拡大したいわゆる「アラブの春」の中国版である「北
京の春」のような騒乱が起きることです。その場合、おそらく微
博が一働きも二働きもするのではないかと中央政府は当然考えて
いると思います。
 それなら、なぜ微博を中止しないのでしょうか。それには、次
の2つの理由があると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.微博を一斉に辞めるとかえってリスクがある
    2.政府に盾突く勢力に逆利用することができる
―――――――――――――――――――――――――――――
 第一の理由は「微博を一斉に辞めるとかえってリスクがある」
ことです。
 何しろ3億人を超える規模にまで拡大した微博です。微博に詳
しいコラムニスト、李小牧氏によると、もしこれを一斉に中止し
ようものなら、おそらく天安門事件のような暴動が中国各地で起
きるはずであるといっています。
 そうでなくても格差や環境汚染などで人民の不満は膨れ上がっ
ており、もし微博を中止すれば、そういう不満に火をつける結果
になってしまうことは明らかです。したがって、もはや微博の中
止は考えられないのです。
 第二の理由は「政府に盾突く勢力に逆利用することができる」
ことです。
 実は、微博のツイートの監視を行っているネット警察は、政府
側からも発信することによって、政府に反対する勢力の言論を封
じ込めることができるのではないかと考えたのです。薄熙来事件
のときは、人民に自由に発信させて薄熙来を葬っています。これ
に関して李小牧氏は、次のようにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ちなみに昨年の反日デモ以降、中国各地の警察は独自のアカウ
 ントを作り、デモに集まった民衆のコントロールなどに利用し
 ている。中国政府にとっても、とっくに信用されなくなった政
 府系メディアより、微博のほうが速く、しかもピンポイントで
 国民に情報を伝えられる。中国政府がこんな便利なメディアを
 手放すはずがない。             ──李小牧氏
  「週刊/エコノミスト」6/18日号所載李小牧氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 微博をめぐって政府側と人民側は、検閲強化と自由拡大のはざ
まで綱引きをやっています。しかし、最近では微博のユーザーは
大幅に増加しつつあり、少しずつですが、ユーザー側の自由度は
拡大しつつあります。
 もはや人民日報やCCTVなどの既存メディアよりも、微博の
方が、その伝達力や拡大力において、はるかに有効なメディアに
なっています。案外微博が中国の民主化への道を拓くメディアに
なる可能性もあります。      ――─ [新中国論/69]

≪画像および関連情報≫
 ●『南方週末』事件、習近平体制の揺らぎ/櫻井よしこ氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国広東省で起きた週刊紙『南方週末』の2013年1月3
  日号社説が同省共産党宣伝部によって差し替えられた事件は
  発覚以来約2週間が過ぎてもくすぶり続けている。当局の圧
  力に対して編集部がストライキを打とうとする中、10日号
  の発行に漕ぎつけたことで一応の収束が図られたといえるが
  問題がおさまったわけではない。まず事の顛末を振り返って
  みる。1月3日号に南方週末は「憲法に基づく政治を実現し
  自由・民権擁護の国家を建設する夢」を提唱する社説を掲げ
  ようとした。これは言論の自由も思想の自由も許容せず、中
  国共産党こそ「イデオロギー工作の主導権を握らなければな
  らない」と謳い上げる習近平体制の考え方に真っ向から挑戦
  するものだ。広東省の共産党宣伝部がこの社説を問題視し、
  「中華民族の偉大な復興を実現する夢」を謳い上げる内容へ
  と書き替えさせた。「中華民族の復興」は習近平氏得意の表
  現で、21世紀の中華思想鼓舞の価値観だ。社説差し替えが
  公になった4日、中国外務省の華春瑩(ホアチュンイン)副
  報道局長は「中国にいわゆる検閲制度は存在せず、報道の自
  由は保障されている」と臆面もなく断言した。
         http://yoshiko-sakurai.jp/2013/01/24/4513
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李小牧氏の本.jpg
李小牧氏の本
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月20日

●「日本の下水以下の中国上水道基準」(EJ第3572号)

 69回にわたって中国のことを調べてきてわかったことがあり
ます。この国は、世界第2位の経済大国として、国としてやるべ
きことにきちんと真摯に取り組んでいないということです。
 16日夜のNHKスペシャル『中国の激動』を見てもわかる通
り、地方の都市化をめぐって人民との紛争が頻発しており、年間
20万件の反政府デモが発生しています。最近では、人民による
抗議の自殺も増加しています。このことは、今回取り上げる環境
問題──とくに「水の問題」について知ると、それがいかに深刻
なことかよくわかります。以下、この問題を取り上げた「週刊新
潮」6/20のレポートに基づいてまとめます。
 最近、中国のネット上で、次のメッセージが出て話題になって
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 わが中国は偉大な国家だ。北京では窓を開けると、タダでタ
 バコを吸える。上海では水道の蛇口をひねると、タダで豚骨
 スープが飲める。       ──「週刊新潮」6/20
―――――――――――――――――――――――――――――
 ほとんど説明は不要だと思います。「タダでタバコを吸える」
とは、PM2・5による大気汚染のことであり、「豚骨スープ」
は、今年3月、上海の水源である黄浦江上流で、1万頭のブタの
死骸が不法投棄された事件を指しています。
 2013年5月30日、中国国内では、次の衝撃的なニュース
が報道されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 【5月31日/AFP】香港の金融街にある米コーヒーチェー
 ン大手スターバックス店舗が、トイレ脇にある蛇口から採取し
 た水道水でコーヒーを入れていた事実が判明し、利用客から怒
 りの声が上がっている。この店舗は、香港島のランドマークと
 もなっている中国銀行タワー内に入っている。2011年10
 月の開店からずっと、飲料用の水は化粧室内の水道の蛇口から
 取っていたという。香港紙「蘋果日報」は、薄汚れた化粧室内
 の便器からわずか数メートルの位置にある「スターバックス専
 用」と書かれた蛇口の写真を掲載した。同紙によると、この化
 粧室は中国銀行タワーの駐車場にあるという。
   http://www.afpbb.com/article/economy/2947117/10824459
―――――――――――――――――――――――――――――
 このスターバックス店は、連日大繁盛していたのですが、この
ニュースが出るや一夜にして閑古鳥の巣と化したのです。当然と
いえば当然のことです。驚くべきことは、このとき中国人が激怒
したのは、取水場所がトイレだったからではなく、水道水を使っ
たからなのです。
 なぜなら、中国で水道は飲むと危険な水であることが広く知ら
れているからです。首都の北京ですら、飲料水はミネラルウォー
ターの使用を原則としているのです。
 水質指標に「COD」というものがあります。水のなかの有機
物の含有量が多いほど高い数値になります。環境省の説明を以下
に示します。
―――――――――――――――――――――――――――――
    0mg/L ・・    汚濁のないきれいな水
     1以下 ・・ヤマメ、イワナなどが住む渓流
   1〜2以下 ・・      雨水と同じレベル
     3以下 ・・     サケやアユが住める
  5〜10以下 ・・ 汚濁に強いコイやフナが住む
    10以上 ・・     下水や汚水のレベル
             ──「週刊新潮」6/20
―――――――――――――――――――――――――――――
 環境省は10以下を基準とし、実際には3以下を目標としてい
るのです。これはきわめて高い数値です。なお、水の消費量の増
大や水質汚染に対応するため、上水道のための取水においても、
下水道からの排水においても、何らかの化学処理が施されること
が一般的です。
 しかし、中国の上水道のCODは「20以下」なのです。日本
では工場排水でもこれ以下です。実際に中国の水道水は茶色く濁
り、匂いがきついので、飲むどころか、歯磨きに使うことにも抵
抗があるのです。結局、中国の上水道は、皿洗いか、洗濯用が主
な用途になり、白いシャツは一回で黄色く染まってしまうといい
ます。だから中国人は、シャツは白を避けて、青や薄紫のものを
使う人が多いのです。
 それなのにスターバックスともあろう店が水道水をコーヒーの
水として使っていたので、お客が激怒したのです。しかし、他の
店で水道水を使っていない保証はないのです。2012年5月に
中国のメディアが伝えたところによると、水道水の安全基準を満
たしている上水道は50%ということです。
 それでは、どういう水を飲めばよいのでしょうか。それはミネ
ラルウォーターということになります。しかし、ミネラルウォー
ターも安全とはいえないのです。
 中国の国内シェアトップのミネラルウォーターブランドに「農
夫山泉」というのがせあります。550ミリリットルで1・5元
(約24円)です。その水源は、浙江省の森林公園にある湖であ
り、国が一級水源保護区に指定しているので、人気を博している
ミネラルウォーターです。
 しかし、この「農夫山泉」は、水質基準が水道水以下であるこ
とが、2013年4月に「京華時報」によって、スッパ抜かれた
のです。水道水では検出されてはならない大腸菌が「農夫山泉」
では検出されているからです。
 しかも、この「農夫山泉」の販売元サイドが浙江省の水質基準
の策定に関与していた事実がわかって、さらに信用を落とす結果
になったのです。販売元は反発し、紛争になっているのです。
 そうなると、エビアンなどの外国製品に頼らざるを得ないこと
になりますが、これには偽装商品が堂々と商店に陳列されていて
見分けるのは不可能です。     ――─ [新中国論/70]

≪画像および関連情報≫
 ●水と報道:見えない基準と真実/ニューズウィーク
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「京華時報」は、その「農夫山泉」が「国家基準の「生活飲
  用水基準GB5749」ではなく、浙江省が定めた「ボトル
  入り飲用ミネラルウォーター基準DB33/383−200
  5」に準じて生産、国家基準が定めたヒ素、セレン、カドミ
  ウムの含有量制限を満たしていない」と指摘した。「農夫山
  泉」側はこれに対してすぐに声明を発表。同社の製品は国、
  業界、地方、企業の基準に基づいて管理されており、京華時
  報が指摘した国家基準GB5749(同時にこれは飲用水道
  水の基準だと指摘)のみならず、やはり国家基準のDB19
  298「ボトル入り飲用水衛生基準(2003年版)」、浙
  江省のDB33/383「飲用ミネラルウォーター基準」に
  合格していると反論した。そして驚いたことに続けて同社の
  公式ブログ上で、「この報道は意図を持って練り上げられた
  ものであり、その黒幕は国有飲用水ブランド、『華潤怡宝』
  だ」と指摘、「華潤怡宝」が3月からずっと同社を狙ってメ
  ディアと組んでネガティブ情報を流してきた、と「証拠」を
  列挙した。今度は「華潤怡宝」がその日のうちに、「我々は
  農夫山泉がその声明で述べたような形で参与はしておらず、
  農夫山泉への法律的手段を取る権利を保留する」と声明を発
  表した。(最後まで読む)
  http://www.newsweekjapan.jp/column/furumai/2013/05/post-676.php
  ―――――――――――――――――――――――――――

「農夫山泉」.jpg
「農夫山泉」
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする