2013年01月17日

●「どう読む!習総書記のハラのうち」(EJ第3467号)

 日本が抱える3つの領土問題のうち、日本が実効支配をしてい
るのは尖閣諸島だけです。その尖閣諸島は、まさに一触即発の危
機に陥っています。毎日のように中国の公船が日本の領海を侵犯
し、日中お互いにその領有権を主張する事態になっているからで
す。これに加えて、今年に入ってからは中国の航空機が日本の領
空を侵犯するようになっています。
 もし、尖閣諸島付近の海域において不測のトラブルが発生する
と、日中間で、尖閣沖海戦が起きても何ら不思議はないのです。
まさか戦争なんてと考える人が多いかもしれませんが、それはい
つ起きても不思議ではないほど、事態は逼迫しているのです。
 日本と同様に中国も政権交代が行われ、最高権力者が交代して
います。中国の習近平政権は、どういう考え方を持っているので
しょうか。習近平というのはどういう人物なのでしょうか。
 一般的な観測では、前任の胡錦涛総書記は、西側に近く、反日
姿勢もそれほどではない穏健派といわれています。それに対して
新しい総書記の習近平氏は強い反日派であり、尖閣諸島の国有化
が原因で中国全土に巻き起こった反日デモを裏側から指揮してい
たとまでいわれている人物です。
 また、習近平氏を支える6人の政治局常務委員も反日の権化で
ある江沢民氏に近い人物でほとんど占められているのです。おそ
らく尖閣問題では相当きついことをやってくるはずであると思っ
ている人が多いと思います。
 しかし、そうでない見方もあるようです。石平(せき・へい)
氏という中国評論家がいます。現在、拓殖大学客員教授をしてい
ますが、中国の四川省成都で生まれた中国人です。1988年に
来日し、民間研究機関の勤務の後、評論活動に入っています。そ
して、2007年に日本に帰化し、最近ではよくテレビにも出演
していますので、顔を知っている人も多いと思います。
 この石平氏の習近平氏の見方は少し違うのです。石平氏は、野
田政権が尖閣諸島を国有化したときの次の中国首脳の発言を比較
しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   温家宝/領土問題に関しては1ミリたりとも譲らない
   習近平/    日本の尖閣国有化は「茶番」である
―――――――――――――――――――――――――――――
 温家宝首相は、領土問題については一切譲らない、話し合いも
しないといっています。これでは取りつくシマはありません。こ
れは強硬発言です。
 これに対して習近平氏の発言は「茶番」。茶番というのは「底
の見え透いた下手な芝居」のことであり、それから転じて、「ば
かげた振る舞い」という意味になっています。石平氏は、この習
近平発言について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 習近平氏が、日本側の国有化の動きを指して、「茶番」だと批
 判した点も実に興味深い。だいたい、相手のやっていることを
 「茶番」だと嘲笑うのには、「真面目に受け止める必要のない
 ただの茶番だ」というニュアンスが含まれているのが普通であ
 る。つまり、習近平氏は、日本側の動きを「茶番」だと壊小化
 することによって、「われわれとしては過剰反応しなくてもよ
 い」という姿勢を暗に示している、とも考えられるのである。
      ──石平著『尖閣問題。真実のすべて』/海竜社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 習近平氏がこの茶番発言をしたのは、パネッタ米国防長官(当
時)との会談のときで、習氏がまだ国家主席の座についていない
ときのことです。そのとき習氏は、パネッタ国防長官に米国は中
日の間の領土問題には介入しないで欲しいと要請し、それに続い
て「茶番」発言をしています。
 実際にその後、中国外務省の洪磊副報道局長は、習近平総書記
の意向を受けて、次の発言をしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本側との交渉によって領土問題を解決する軌道に戻るべき
 である。              ──洪磊副報道局長
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、習近平総書記の考え方は、日本側は中国との間に尖閣
諸島問題という領土問題があることを認めて、交渉によって解決
するべきであるといっているのです。しかし、日本はこの誘いに
絶対に乗ってはならないのです。
 習近平氏の「茶番」発言には、別の解釈もあるのです。野田首
相は、尖閣諸島の実効支配のレベルを上げようとして、石原都知
事を動かして、尖閣諸島の東京都購入を宣言させ、それを収拾さ
せるかたちで国が国有化をするという芝居をしている──このよ
うに、習近平氏は考えて「茶番」と発言したというのです。
 これが事実でないことは日本人なら誰でも分かります。突然石
原東京都知事(当時)が尖閣購入発言をし、地権者と交渉をはじ
めたので、野田首相が慌てて国有化に動いたことは間違いないか
らです。かねてアンチ中国派で鳴る石原都知事が尖閣諸島を手に
入れると、測量のため上陸したり、港を作ったりするに決まって
いるので、大変なことになると野田首相が考えたからです。
 中国では、国のトップが、地方の一行政の長をコントロールで
きないなどということは考えられないことであり、野田首相が一
芝居打ったと考えても不思議ではないのです。
 それでは、どのように解決すべきなのでしょうか。
 尖閣諸島問題に関して多くの識者が提案していますが、大別す
ると、次の3つになると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.尖閣諸島棚上げの継続
        2.国際司法裁判所で決着
        3.海域の利用制限で対処
―――――――――――――――――――――――――――――
 これら3つの解決策について、明日からひとつずつ検証してい
きます。             ―─ [日本の領土/71]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平氏の「領土問題は平和的解決」の意味するもの
  ―――――――――――――――――――――――――――
  尖閣諸島(中国名・釣魚島)領有権をめぐり日本と「戦争も
  辞さない」と述べていた中国が、突然、「平和」カードを持
  ち出した。中国の習近平国家副主席は2012年9月21日
  広西チワン族自治区南寧で開かれた中国・東南アジア諸国連
  合(ASEAN)博覧会のビジネス首脳会議基調演説で「国
  家主権と安保・領土を断固たる姿勢で守っていくが、隣国と
  の領土・領海・海洋権益紛争問題を友好的な交渉を通じて平
  和的に解決する」と述べた。また「中国は発展するほど、よ
  り安定的かつ平和的な国際環境を必要とする」とその理由を
  説明した。習副主席は2日前の19日、パネッタ米国防長官
  に会った席で、日本に向けて「危険に直面した後に目を覚ま
  す(懸崖勒馬)愚を冒すな」と警告していた。中国の外交で
  この言葉は軍事行動直前の最後通告と変わらない意味だ。共
  産党機関紙の人民日報は、1950年の韓国戦争参戦と19
  62年のインド国境戦争の直前の社説で、米国とインドに対
  してこの言葉を使っていた。中国が突然態度を変えた背景に
  は、米国の確固たる意志が影響を与えたと分析される。(最
  後まで読む)
     http://japanese.joins.com/article/025/160025.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

習近平中国共産党総書記.jpg
習近平中国共産党総書記
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月18日

●「棚上げ合意を破ったのはどちらか」(EJ第3468号)

 尖閣諸島問題をいかに解決するかについて、各方面の識者がい
ろいろな提案をしています。しかし、提案にはそれぞれ一長一短
があり、決め手に欠けるのです。おそらく日本にとっていちばん
無難な対処方法は「棚上げ合意」の継続であると思われます。
 棚上げ合意は、中国の周恩来氏とケ小平氏の提案ではじめられ
日本は忠実にそれを順守してきています。島の実効支配はしてい
るものの、自国民でも上陸させないし、島に建造物を建設せず、
いわゆる実効支配のレベルを上げていないのです。
 しかし、「棚上げの合意」は当事国の一方がそれを破れば、そ
の時点で終止符が打たれます。最初に尖閣諸島について、それを
破ったのは中国です。中国は、1992年に領海法を制定し、尖
閣諸島を自国領に設定しています。これは、明らかなる現状の変
更であり、「棚上げの合意」の破棄といってよいと思います。
 現在、日本政府は尖閣諸島について、まるでオウムのように繰
り返し次のように表現しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 尖閣諸島は、歴史的にも国際法上もわが国固有の領土であり
 どこの国に対しても領土問題は存在しない ──日本国政府
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、1995年以前は、必ずしもそのようにはいっていな
かったのです。1978年8月に日本は中国と平和条約を締結し
ています。そのさい、ケ小平氏の提案によって、尖閣問題は「棚
上げ」したことは既に述べた通りです。つまり、尖閣諸島は日本
固有の領土ではないが、無主の地を先占している立場にあり、日
本は中国との間に尖閣諸島問題という領土問題を抱えていること
を認識していたのです。その証拠に、1979年5月31日付の
読売新聞の社説には、尖閣諸島について次の表現があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日中双方とも領土主権を主張し、現実に論争が存在することを
 認めながら、この問題を留保し、将来の解決を待つことで日中
 政府間の了解がついた。
        ──1979年5月31日付、読売新聞の社説
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、1995年頃になると、尖閣諸島に関する表現が一変
し、現在日本政府がいっているような表現に変わるのです。そこ
にどんな変化があったのでしょうか。
 1993年という年が重要なのです。この年に細川政権が誕生
しています。38年ぶりに誕生した非自民政権なのです。この細
川政権について多くの日本人は、多くの国民が期待したのにあっ
という間につぶれた政権であり、小沢一郎氏が牛耳った政権ぐら
いの印象しかないでしょうが、実は新しい日本を再構築しようと
した重要な政権だったのです。
 2012年9月16日に、アサヒビールの元会長である樋口広
太郎氏が逝去されたのですが、それについて元駐レバノン特命全
権大使の天木直人氏のブログに次の記述があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 樋口広太郎氏は、歴代の内閣で特別顧問や各種の政府諮問会議
 懇談会などの議長、座長をつとめ政策づくりに貢献した。ネア
 カの人柄で皆をひきつけた、などなど。しかし、そのような樋
 口氏の功績の中で決して書かれないものがある。それは樋口氏
 が94年、細川護煕首相(当時)の私的諮問会議「防衛問題懇談
 会」の座長となり、防衛計画の大綱見直しに着手し、『樋口レ
 ポート』と呼ばれる報告書を出したことだ。これについて書い
 たのは私の見るところでは朝日だけだった。ところがその朝日
 さえ決して書かない事がある。それはこの樋口レポートが、日
 本の安全保障を確保するには日米安保よりも東アジアの集団安
 全保障体制の構築を優先させたという事実だ。これが米国を刺
 激した。日本政府を狼狽させた。      ──天木直人氏
       http://www.amakiblog.com/archives/2012/09/18/
―――――――――――――――――――――――――――――
 「樋口レポート」とは何でしょうか。
 それは、東西冷戦後の新たな日本の安全保障のあり方を探る重
要なレポートだったのです。細川首相は、冷戦が終結すれば日本
の安全保障の枠組みは変化し、日米安保条約の見直しを含めて検
討する必要があると考えて、日本の安全保障のあり方を検討する
防衛問題懇談会を立ち上げ、その座長にアサヒビール会長の樋口
広太郎氏を指名したのです。懇談会の実質的責任者は、西廣整輝
元防衛次官と畠山蕃防衛次官だったのです。
 この動きを警戒したのは米国です。そして密かにこの政権を潰
しにかかるのです。その懇談会では、日米安保条約を基軸とする
冷戦的防衛戦略から脱皮し、「多角的安全保障戦略」に転換する
ということが検討されているのです。多角的ということはアジア
にシフトするという意味です。
 また、細川首相という日本の総理大臣は、米国から見ると、こ
れまでの自民党の総理とは違う、新しいタイプのリーダーだった
のです。細川首相について孫崎亨氏は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 過去の歴代首相たちは、日米間に摩擦がある場合、それを極力
 回避しようとしました。しかし細川首相は対立があることをそ
 のまま受けとり、これをなんとか回避しようとする動きは示し
 ていません。この動きも米国は警戒しました。ここから細川政
 権つぶしの動きが出てきます。        ──孫崎亨著
      『戦後史の正体/1945─2012』/創元社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 「樋口レポート」の内容に衝撃を受けた米国は、東アジアの位
置づけの再定義と日米同盟の重視を盛り込んだ「ナイレポート」
を発表し、それが、1995年の防衛大綱に盛り込まれることに
なったのです。この頃から尖閣諸島は「日本固有の領土」という
ように表現が変化したのです。近隣国と協調を図るよりも、米国
の力で日本の安全保障を守るという方向が一段と明確化されたの
です。              ―─ [日本の領土/72]

≪画像および関連情報≫
 ●小沢氏が背後にいる政権は米国が潰しにかかる
  ―――――――――――――――――――――――――――
  鳩山氏と細川氏に共通するのは、@バックに小沢氏が控えて
  いる点、A日本の対米従属からの脱却に挑戦した首相である
  点、B米国の成り上がり寡頭勢力の一目置く、由緒正しい出
  自の首相(毛並みが良い)である点です。確かにこれらの点
  が一緒なのはここに書かれている通りだと私も思います。細
  川政権の時代に細川首相は、アサヒビール社長樋口氏に冷戦
  後の日本の安全保障を考察するようにしましたが、残念なが
  ら樋口リポートは村山首相時代になってできあがりました。
  その内容はアメリカとの同盟よりも国連を重視したもので、
  当然アメリカの納得が得られるわけも無くほどなくしてジョ
  セフ・ナイ教授のアジアに10万人の米軍を置くという東ア
  ジア・レポートが樋口レポートをつぶしにかかりました。ま
  た、細川首相時代には北朝鮮に近い武村官房長官を切れとの
  命令があったと小池百合子女史が『正論』に書いていたこと
  もありました。結果的に細川政権は佐川急便の献金問題でつ
  ぶれたのですが、裏には明らかにアメリカとの対立がありま
  した。そして今回も鳩山政権は母親からの献金問題と基地問
  題においてのアメリカとの対立が辞任の引き金になったので
  した。(最後まで読む)
   http://ameblo.jp/mintelligence/entry-10554114610.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

樋口氏と細川氏.jpg
樋口氏と細川氏
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月21日

●「米国が日中間に仕組んだとげとは」(EJ第3469号)

 東西冷戦が終了したのは1991年のことです。ソ連という今
までの最大の脅威が消えて、米国が次に脅威と感ずるものは何か
ということについての調査があります。1991年に実施された
シカゴ外交評議会による世論調査です。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ≪米国にとって死活的脅威は何か≫(複数回答)
             一般人       指導者層
    日本の経済力   60%        63%
    中国の大国化   40%        16%
    ソ連の軍事力   33%        20%
    欧州の経済力   30%        42%
                     ──孫崎亨著
    『戦後史の正体/1945─2012』/創元社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 なんと米国が最大の脅威と感じていたのは、日本の経済力だっ
たのです。その日本が冷戦後の1993年8月9日に誕生した細
川政権において、樋口レポートをまとめ、そこには日米同盟より
アジアを中心とする「多角的安全保障」が必要であることが謳わ
れていたのです。
 この樋口レポートは、米国の危機感を増幅させる内容だったの
です。経済力の脅威に加えて安全保障の面でも日本がアジアにシ
フトしたら米国はどうなるという危機感です。そういうわけで、
米国はこの細川政権は米国にとって望ましい政権ではないと判断
し、潰しにかかるのです。
 それ以前にも米国が危険と感じて潰した日本の政権があるので
す。そのひとつが田中角栄内閣です。米国は田中内閣を次の2つ
の点で脅威と感じていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.田中角栄の非凡な政治力
        2.中国を先取りされた怒り
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国が田中角栄氏の非凡な政治力を認めたのは、総理就任以前
の日米間の懸案であった繊維交渉の問題──日本の繊維製品を一
定期間輸出制限をするというもので、沖縄返還の密約といわれて
いる──この問題を当時通産大臣であった田中氏が、持ち前の行
動力と馬力で大蔵省を説得し、繊維業界の損失補填の財源を捻出
させることであっさりと解決してみせたことで、その手腕を評価
したのです。「若いのになかなかできる。油断は禁物!」と。
 もうひとつは、首相に就任するや田中角栄首相は米国に事前通
告なく中国に飛び、あれよあれという間に日中国交正常化を実現
させてしまったことです。もともと田中氏はキッシンジャー国務
長官(当時)が日本に何の事前通告もせず、中国に行ったことに
腹を立てており、その意趣返しの意味もあったといいます。
 そのとき、キッシンジャー国務長官は、大いに怒り、次のよう
に汚い言葉で日本を罵ったそうです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 汚い裏切り者ども(bitehes)のなかで、 よりによって日本野
 郎(Japs)がケーキを横取りしたんだ。    ──孫崎亨著
      「アメリカに潰された政治家たち」より/小学館刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このような経緯で米国は、田中内閣に危険なものを感じ、この
内閣を潰しにかかるのです。これとほぼ同じようなことが民主党
政権の鳩山内閣のときも起きています。あのとき、米国が危機感
を感じていたのは、民主党政権で小沢一郎氏が首相になる事態で
す。米国はそうならないように事前に周到な手を使って、それを
潰しています。こういう恐るべき米国の謀略については別のテー
マで詳しく述べるつもりです。
 米国は、沖縄諸島を日本に返還するとき、尖閣諸島の領有権を
わざと曖昧のままにしています。施政権は返還するが、領土の帰
属について明確な表現を避けたのです。もし、このとき尖閣諸島
は日本の領土といってくれていれば、尖閣諸島をめぐる現在のよ
うな事態にはならなかったと思われます。
 米国の意図は、そうすることによって、日本と中国の間にくさ
びを打ち込んでおくという戦略です。米国はソ連との北方領土の
ときも同じ手を使っています。米国は、日本と中国が過度に仲良
くならないように領土問題というとげを残しておいたのです。こ
のとげが現在効いてきているわけです。
 ここで話を「尖閣諸島棚上げの継続」に戻します。中国は日本
が尖閣諸島の国有化を決めたことは、日本は「棚上げ」の合意を
変更したと考えて、攻勢を強めてきています。しかし、日本は相
変わらず、「領土問題は存在しない」の一点張りです。中国はこ
れに反発し、毎日のように尖閣諸島に公船を繰り出して領有権を
主張する始末です。これは完全なチキンレースです。こんなこと
をしていると、いつ武力衝突が起こっても不思議はない非常に危
険な状態といえます。
 日本が尖閣諸島の国有化をした後の2012年9月26日の日
中次官級協議で、張志軍・筆頭外務次官は、次のように発言して
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 両国指導者が合意した共通認識に戻り、両国関係を安定的に発
 展させる正しい道に早く戻さなければならない。
       日経ビジネス「新国境論」掲載の孫崎亨氏の論文
     「『棚上げ』は今も有効/見習うべきは独と仏」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、中国としては棚上げ合意に戻るのは構わないというサ
インのようにみえます。しかし、国有化を戻すわけにはいかない
のです。そうなると、中国は国有化は中国にとっては非常に不利
になるので、せめて「日中間には解決すべき領土問題がある」こ
とを認めよといってくると思われます。これを認めるべきだと主
張する人は多いですが、これを認めると、一転して日本は不利に
なってしまうのです。       ―─ [日本の領土/73]

≪画像および関連情報≫
 ●宮家邦彦/尖閣「棚上げ論」に代わる新ルール
  ―――――――――――――――――――――――――――
  最近、日中関係者は、「(尖閣は)日中間の地雷であり、現
  状を変えてはならない」「棚上げしないと日中関係に重大な
  危機が訪れる」と警鐘を鳴らす。では、一体「誰」が「何」
  を「いかに」「棚上げ」せよというのだろう。今回はこの点
  を検証したい。中国側「棚上げ論」の根拠は有名な1978
  年のトウ小平発言。尖閣について、「中日国交正常化の際も
  双方はこの問題に触れないということを約束した。・・こう
  いう問題は10年棚上げにしても構わない」などと述べた。
  中国側は、当時日本各界がこのトウ小平発言に共鳴した「棚
  上げ論」は日中間の了解事項だったと主張する。2010年
  日本政府が中国漁船船長を公務執行妨害罪で「送検」したこ
  とは、この日中「了解」に反すると言いたいのだろう。一方
  日本政府は日中間に尖閣を「棚上げ」する了解や合意など一
  切存在しないと主張する。1972年、国交正常化の際、当
  時の周恩来総理は「棚上げ」論に言及しておらず、かのトウ
  小平発言も彼が「一方的に言った言葉」であり、「合意」で
  はないという。確かに法律上はその通り。尖閣「棚上げ」に
  ついて法的拘束力ある国際約束などあるはずがない。だが、
  行政府ではなく、「政治レベル」ではどうか。日本側が尖閣
  について主権行為を自制する「一方的慣行/プラクティス」
  は本当になかったのか。(最後まで読む)
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120906/chn12090611070005-n1.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

孫崎亨氏.jpg
孫崎 亨氏
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月22日

●「話し合いで領土問題は解決しない」(EJ第3470号)

 「尖閣諸島問題の棚上げ」と「日中間には領土問題はない」と
いう主張は、明らかに矛盾しています。問題があるから棚上げに
するのであって、もし、問題が存在しないのなら、棚上げはあり
得ないからです。
 ところが、中国を訪問している鳩山元首相は、次の発言をして
物議をかもしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      尖閣諸島は日中間の「係争地」である
             ──鳩山由紀夫元首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 実際に尖閣諸島周辺の海域には、毎日のように中国の公船が出
没し、海上保安庁の巡視船が出て中国船に退去を命じています。
そのとき、中国の公船もまるでおうむ返しのように、日本の巡視
船に退去を要求するのです。
 これを執拗に何回も繰り返すことによって中国側は、尖閣諸島
という自国の領土を警備パトロールしているというスタンスを国
際社会に印象づけようとしているのです。さらに最近では、航空
機まで繰り出して、日本の領空を侵犯し、空からも圧力を加えよ
うとしています。
 こういう状況を見れば、国際社会は尖閣諸島周辺は「係争地」
そのものという印象を持つはずです。鳩山氏は、現在の状況を見
たままにそのように発言したのでしょう。日本は尖閣諸島を「係
争地」として認め、外交的な話し合いによって、問題の解決を図
るべきであると主張しているのです。
 鳩山元首相と同じような考え方を持つ人は実はたくさんいるの
です。しかし、日本政府は「日中間には領土問題はない」の一点
張りです。この基軸は民主党政権でも、自民党政権でも変わって
いないのです。なぜ、領土問題があることを日本政府は認めない
のでしょうか。
 それは、領土問題というものは、話し合いでは解決しないもの
だからです。まして相手は中国なのです。尖閣諸島を自国領にす
ることによって、軍事的にも経済的にも得るものがあまりにも大
きく、魅力的であるからです。だから、尖閣諸島を中国は核心的
利益と位置づけているのです。
 孫崎亨氏は、尖閣諸島を「係争地」であることを認めて、中国
と話し合うべきであるとしています。それには、フランスのアル
ザス・ロレーヌ地方に学べるとして、次のように述べています。
アルザス・ロレーヌ地域とは、フランス北東部、ドイツ系住民が
多いアルザス地方とロレーヌ地方をまとめた呼び名です。仏独間
の歴史的係争地で第二次大戦後はフランス領になっています。ド
イツ名はエルザス・ロートリンゲンといいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (アルザス・ロレーヌ地域)を巡って、ドイツとフランスは激
 しい領土紛争を繰り返しました。第2次世界大戦後はドイツの
 敗戦によって、フランスが獲得しています。これ以降、ドイツ
 は、奪われたものを奪い返すという選択肢を取らず、奪われた
 ものを欧州全体のものとする制度を求めました。それにフラン
 スが呼応、紛争の火種だったルール地方は欧州石炭鉄鋼連盟の
 管理になり、アルザス・ロレーヌ地方の中心都市、ストラスプ
 ールは「欧州の都市」になりました。敗戦でドイツは大幅に領
 土を失いましたが、欧州連合(EU)の盟主として存在感を発
 揮しており、名より実を取ったと言うことができる。
        ──日経ビジネス「新国境論」掲載の孫崎亨氏
  の論文「『棚上げ』は今も有効/見習うべきは独と仏」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、アルザス・ロレーヌ地域については、ドイツとフラン
スであるからこそできた解決策であり、相手が中国では無理では
ないかと考えられます。
 仮に日本政府が領土問題があることを認めて、中国と話し合い
に入ったとします。しかし、おそらくこの話し合いは決裂し、尖
閣諸島問題は最終的には、国際司法裁判所に持ち込まれることに
なると思います。
 状況は中途半端にせよ実効支配をしている日本にとって有利で
あり、日本領であると認定されたとします。しかし、それで問題
解決にはならないのです。どうしてでしょうか。
 山田吉彦氏の意見によると、中国は絶対に裁定に同意しないか
らです。国際司法裁判所の裁定を拒否すると、中国は国連の制裁
対象になります。そのとき日本はどうするでしょうか。
 国連安全保障理事会に提訴することになります。そうすると、
中国は拒否権を使うに決まっています。つまり、中国やロシアに
関する限り、日本に勝ち目はないのです。中国はそこまで読んで
いますから、話し合いとなったら国際司法裁判所提訴を要求して
くると思います。日本は受けざるを得ないでしょう。
 国際司法裁判所に提訴するともうひとつ不安なことがあると山
田吉彦氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (国際司法裁判所では)双方痛み分けの裁定が出ることも考え
 られます。国際的な判例でペドラ・ブランカ島の判例というの
 があって、これはマレーシアとシンガポールで領有権を争って
 いた島です。マラッカ海峡の東の入り口に位置し、そこに灯台
 が立っでいます。灯台はシンガポールが管理しています。その
 周りの座礁した船などに対する許認可は全部シンガポールが出
 しているということで、島自体はシンガポールのものになりま
 した。ただ少し離れたところに岩が2つあるのです。ミドルロ
 ックスといいます。これは距離的に近いという理由でマレーシ
 アのものになりました。国際機関というのは、加盟国の両方の
 顔が立つようにしてしまうのです。
      ──石平著『尖閣問題。真実のすべて』/海竜社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 尖閣諸島でもそうなる可能性があります。中国としては1つの
島でも十分なのです。       ―─ [日本の領土/74]

≪画像および関連情報≫
 ●ペドラ・ブランカ島ICJの判決について/山田冬樹の部屋
  ―――――――――――――――――――――――――――
  韓国が拒否しているため、実現はしないであろうが、もしI
  CJで竹島の帰属が日韓で争われた場合、どちらが勝訴する
  のであろうか。この点について、2012年8日25日付朝
  鮮日報は2008年5月23日のICJの判決を引用し、I
  CJは、実効支配を安定的に維持した国家に有利な判決を下
  している、として韓国有利と断じている。この判決は、シン
  ガポールとマレーシアが、ペドラブランカ島の帰属を争った
  事例についてのものであるが、同島が元々はマレーシアの領
  土だったことを認めながら、シンガポールが1963年以降
  島に灯台を設置する等物理的に占有してきた事実を認め、シ
  ンガポール勝訴の判決を下した」というものである。同紙は
  ここから単純に「同判決からすれば、防波堤や海洋基地など
  の構造物を段階的に設置することが実効支配を強めてきた韓
  国に有利」と主張するが、ご都合主義的な解釈に過ぎない。
  (最後まで読む)
   http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20120825/1345881457
  ―――――――――――――――――――――――――――

山田吉彦東海大教授.jpg
山田 吉彦 東海大教授
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月23日

●「尖閣諸島はわが国の安全保障の要」(EJ第3471号)

 国際司法裁判所(ICJ)では、昨日のEJでご紹介したペト
ラ・ブランカ島の判例に見られるように、痛み分けの裁定を出す
ことが多いのです。
 このペトラ・ブランカ島の判例を尖閣諸島に当てはめると、魚
釣島や久場島などの大きな島は日本のものになるでしょうが、そ
の間に入っている沖の北岩、沖の南島、飛瀬などは登記もされて
いないし、台湾にも近いので、中国領(台湾)になる可能性があ
ります。まさに痛み分けの裁定です。
 もしこの裁定が出ると、中国は表面上は不満を表明するでしょ
うが、最終的には受け入れると思います。中国は1つでも島を取
れば十分だからです。なぜでしょうか。
 それを説明するには、尖閣諸島周辺の海について知る必要があ
ります。琉球列島の西に沿って沖縄トラフという深い海底がある
のです。中国は大陸棚がずっと続いていて、その沖縄トラフまで
が中国の海であると主張しているのです。この場合、もし尖閣諸
島が中国領であると、尖閣諸島はこの沖縄トラフの南西側に位置
しているので、その主張をする場合に強い説得力を持つのです。
 しかし、これは、無茶苦茶な主張であり、もし、これが認めら
れると、東シナ海は全部中国のものになってしまうのです。これ
が中国側が尖閣諸島にこだわる重要な理由です。
 これに対して日本は大陸棚の中間線を境界として主張している
のです。この境界線について日中は対立しています。これについ
ては、添付ファイルの図を参照してください。
 実はこの沖縄トラフは、日本の安全保障に重要な意味を持って
いるのです。これについて、海上自衛隊で海将補を務めた川村純
彦氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 南シナ海を潜水艦の聖域にしたいと考える中国にとって、台湾
 は地理的に重要な位置にある。その台湾を中国が軍事的に攻略
 しようとした場合、尖閣諸島は重要な意味を持つ。沖縄トラフ
 は水深が2000〜3000メートルと深く、台湾の北端近く
 まで延びている。平時から沖縄トラフ内に潜水艦を待機させて
 おけば、日本や米国、台湾の潜水艦監視網をかいくぐり、台湾
 を攻略することが容易になる。さらに、中国は排他的経済水域
 における権利を拡大解釈し、平時でも他国の軍艦などを排除し
 ようとしている。尖閣諸島の周辺でも同様の措置を取り、自国
 の潜水艦の航行を補助したり、台湾に向かう米海軍の艦船の航
 行を妨害したりする可能性がある。     ──川村純彦氏
    ──日経ビジネス「新国境論/チキンレース制御不能」
―――――――――――――――――――――――――――――
 もっとわかりやすくいうと、東シナ海は水深が浅く、そこを中
国の潜水艦が通って来るので、海上自衛隊や米海軍はよってすべ
て発見されてしまうのです。しかし、沖縄トラフの深い海に潜ら
れると、その把握は極めて困難になります。
 沖縄トラフは尖閣諸島の3キロ東ではじまるのです。したがっ
て、もし、面積が0・05平方メートルしかない沖の北岩を中国
に取られただけで、中国海軍は潜水艦を縦横に動かすことができ
るのです。沖縄トラフの1000メートル以上の海底に潜む潜水
艦を発見することは不可能だからです。そうすると、ある日突然
沖縄本島の目の前にポッカリと中国の潜水艦が浮かび上がること
も起きる可能性があります。したがって、尖閣諸島を中国に取ら
れると、東シナ海全部を失うのに等しいのです。
 残念ながら日本政府は、尖閣諸島のそういう戦略的な重要性が
わかっていないのです。とくに民主党政権時では、防衛大臣を何
回も変えています。しかも、非適任者が多いのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   北澤俊美
   2009年 9月16日〜2011年 9月 2日
   一川保夫
   2011年 9月 2日〜2012年 1月13日
   田中直紀
   2011年 9月 2日〜2012年 6月 4日
   森本 敏
   2012年 6月 4日〜2012年12月26日
―――――――――――――――――――――――――――――
 政治家はこの問題をどのように考えているのでしょうか。
 山田吉彦氏によると、海を考える国会議員は少ないといってい
ます。なぜなら、海には人は住んでおらず、選挙権がないので、
海のことを考えても当選できないからです。それに日本人という
のは概して領土意識が薄い国民なのです。もっと海のことを真剣
に考える国会議員を育てる必要があります。
 一番困るのは、国会議員のなかに中国に肩入れする人が多くい
ることです。この媚中派については改めて述べます。中国の出方
について、山田吉彦氏と石平氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 石 :最近の中国の動きとしては、経済制裁もできない、実力
    行使もできない。では、どうするかというときに、彼ら
    の考える次の手は、日本政府に領土問題の存在を認めさ
    せること。それができたら一歩前進ですが、次はどうい
    う手を打ってくるか。山田先生からみてどうですか。
 山田:この流れのなかで政府が「中国が領有権を主張している
    ことは認識している」というようなことをいい出したの
    は、あれはもうやめさせないと。中国にとっては、それ
    でも一歩前進です。領土問題が存在しているとなったら
    周辺海域で漁をしているのはみんな中国人だ、しっかり
    と管理態勢も敷いている。さあどっちのものだという話
    になります。
      ──石平著『尖閣問題。真実のすべて』/海竜社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 とにかく中国は本気です。必ず尖閣諸島を取りにきます。日本
はどう対応すべきでしょうか。   ―─ [日本の領土/75]

≪画像および関連情報≫
 ●中国、大陸棚拡張案を国連に申請 沖縄トラフまで
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【北京=林望】中国は2012年12月14日、東シナ海の
  中国沿岸から沖縄トラフまでを自国の大陸棚であると主張す
  る大陸棚拡張案を国連の大陸棚限界委員会に申請した。日中
  が対立を深める尖閣諸島(中国名・釣魚島)を含む東シナ海
  一帯での権益拡大を図る動きだ。 中国外務省が明らかにし
  た。中国沿岸から沖縄トラフに至る東シナ海の大陸棚は、地
  形や地質的にみて中国大陸の自然な延長だと主張した。中国
  の大陸棚と認定されれば、中国は沿岸から200カイリの排
  他的経済水域(EEZ)を超え、海底資源の探査・開発など
  を独占的に行えるようになる。同委員会は中国の申請を来年
  7月以降に検討する見込みだが、他国の大陸棚と重なり合う
  場合などには当事国同士の協議が必要。同委員会が実際に検
  討に入るかどうかは不透明だ。(記事全文)
  http://www.asahi.com/international/update/1215/TKY201212150256.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

沖縄トラフに関する日中の主張の違い.jpg
沖縄トラフに関する日中の主張の違い
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月24日

●「中国に媚を売る日本人が多くいる」(EJ第3472号)

 2013年1月22日、公明党の山口那津男代表が中国を訪問
し、習近平総書記との会談を要請しているそうです。山口代表は
21日の夜の会談で次のように発言しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日中双方の主張を力づくでぶつけ合うことを避ける意味で、将
 来の世代に解決を委ねるのはひとつの知恵だ。 ──山口代表
             2013年1月22日付、朝日新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここまでEJを読んできて下さった読者には、この時点でこの
主張をすることが、いかに問題であるか、わかっていただけると
思います。ちなみに本稿は22日に書いており、中国側との会談
がどのようになったか、本稿執筆時点ではわかっていないことを
お断りしておきます。
 山口代表はかつて「領土問題は存在しない」とも発言しており
棚上げ論に言及するのは問題があります。これまでの日本のスタ
ンスは「棚上げ合意はない」という前提に立ち、民主党政権でも
尖閣諸島に関する主張は「日中の間に領土問題は存在しない」な
のです。それを日本側から「棚上げ」を持ち出すと、「領土問題
はある」ことを認めることになります。
 日本が尖閣諸島を国有化したあと、中国がどのように考えてい
るかについて、東洋学園大学人文学部教授・朱建栄氏は次のよう
に述べています。朱建栄氏の発言は中国政府の考え方を正確に伝
えていると考えてよいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 島の「国有化」という野田内閣の決定の背後に、「領土紛争の
 棚上げ」というかつての共通認識を日本側は「完全に否定し、
 すべてを帳消しにし」、今後、尖閣問題で完全に「フリーハン
 ド」を握ることになる、という深刻な危機感を中国側が持ち、
 そのことを絶対容認しない方針を決めた、ということである。
 中国側がそのような判断に至った重要な背景は、民主党政権に
 なってから「中国との問に領土間題は存在しない」という表現
 が公式に、繰り返しなされていたことだ。日本が「領土問題は
 存在しない」と言えば言うほど、中国は「存在する」と声高に
 言わなければならない。  ──『世界』2012年11月号
      所載朱建栄氏論文「中国側から見た『尖閣問題』/
            対立を越える『知恵』はどこに」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、中国は日本の「領土間題は存在しない」という発言を
嫌がっているのです。中国は領土問題があることを日本に認めさ
せようとしているわけです。しかし、そういうことがわかってい
ない日本人があまりにも多いのです。
 日本には、媚中派と呼ばれる政治家や元政治家、実業家がたく
さんいます。その一人が経団連の米倉弘昌会長です。米倉会長は
昨年9月に尖閣諸島が原因で勃発した大規模な反日暴動に対して
「日中の関係改善のため」と称して訪中し、「尖閣に領土問題は
存在せず、妥協する考えはない」と発言していた野田首相を次の
ように批判しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 相手が問題と言っている以上、それを解決するのがトップと
 しての役割である。       ──経団連米倉弘昌会長
―――――――――――――――――――――――――――――
 経団連会長といえば、財界総理といわれるほど日本経済に大き
な影響力を持つ地位の人です。単なる住友化学株式会社のトップ
ではないのです。そういうエライ人が、相手国の首都に行って、
自国の首相を公然と批判する──こんなことは他の先進国では考
えられないことです。
 尖閣国有後の中国の反日暴動に対する日本政府の対応について
京都大学名誉教授の中西輝政氏は、次のように疑問を呈している
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 あの反日暴動では、日本企業は痛烈な打撃を受けたはずだ。損
 害は「100億円」とも言われているが、青島のイオンだけで
 も営業再開までに2ヵ月を要し、営業利益を含めて3億円は下
 らない損失を被ったと報じられている。なかにはトヨタ、パナ
 ソニックなど放火されて全焼した工場もあり、いまだに営業の
 目途が立たない企業、工場もある。100億円程度の損害額で
 済むはずはない。実際、保険業務の関係者も「あまりに被害を
 少なく見積もりすぎている」と指摘していた。日本企業全体を
 考えれば、どれほどの損害があったか分からない。しかし、経
 団連をはじめマスコミも、なぜか問題を小さく見せようとして
 いるのである。11月15日には、中田商務省国際貿易経済協
 力研究院柏松金副主任が、反日暴動について「中国政府は違法
 行為を働き掛けたことは一切ない。日系企業の損害を中国政府
 が賠償する必要はない」と述べたことについても、抗議すらし
 なかった。    ──『WiLL』/新春超特大号/2月号
                所載・中西輝政氏の論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本は企業進出の面でも欧米の先進国と比べて不利な条件を押
し付けられており、「クイックイン・クイックアウト」ができな
いのです。常識で考えても、反日暴動であれほど不当な被害を被
れば、先行きのことを考えて、中国から引き上げる企業が多く出
ても不思議はないのですが、驚いたことに、引き上げた日本企業
はほとんどないのです。
 どうしてでしょうか。引き上げるに引き上げられない不当な条
件を背負わされているからです。その一つが労働者の「退職金」
問題で、引き上げるとなると法外な金額を要求されるのです。も
し、これでトラブルと、中央政府も地方組織も労働者側に立って
払わなければ撤退は認めないのです。なかには撤退の噂だけで、
経営陣が監禁されたことすらあるのです。そんなとき、外務省は
何の力にもなってもらえないのです。日本だけこういう不利な条
件を負わされているわけです。   ―─ [日本の領土/76]

≪画像および関連情報≫
 ●米倉経団連会長昨年末極秘中国訪問/MSN産経ニュース
  ―――――――――――――――――――――――――――
  経団連の米倉弘昌会長は11月26日の会見で「11月22
  日から北京を訪問し、中国外務省や中日友好協会などと日中
  間の相互信頼の再構築について話し合ってきた」と明らかに
  した。尖閣諸島の国有化以来悪化している日中関係打開のた
  めに「極秘」で訪中し、中国の官民要人らと民間外交を行っ
  たという。会談は双方の民間団体の働きかけで実現。米倉会
  長は23日午後に北京市内で唐家旋中日友好協会会長、李小
  林対外友好協会会長、中国外務省の張志軍次官、傅瑩(ふえ
  い)次官と相次いで会談した。双方は日中経済関係の現状を
  確認したうえで、来年が友好条約調印35周年にあたること
  から新たな記念事業の実現へ向けた民間協議の継続で合意し
  た。今回の訪中が日中関係の雪解けになるかどうかについて
  米倉会長は「わからないが政治と民間では世界が違うので民
  間としてできることはやっていく。問題が起こった場合に民
  間同士の話し合いが、抑止力として作用するようになればい
  い」と語り、民間外交の強化に意欲を示した。
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/121126/biz12112619090023-n1.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

米倉弘昌経団連会長.jpg
米倉 弘昌経団連会長
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月25日

●「棚上げ発言を巡る日中の同床異夢」(EJ第3473号)

 公明党の山口代表は、22日に中国に入っています。今回の山
口氏の訪中は、中国のメディアが強い関心を寄せて報道していま
すが、予定が次々と変更され、本稿執筆時点の24日午前中には
習近平総書記には会えていないようです。
 中国との重要な会談の前に公明党の代表が中国入りするという
のは、これまでにもあったことです。1月9日のEJ第3462
号でも述べたように、日中国交正常化交渉の前に当時の公明党の
竹入委員長が訪中し、周恩来氏に会っています。
 なぜ、習総書記は会おうとしないかというと、山口代表が持参
している安倍首相の親書の内容は何かということと、山口代表が
何を話すかということです。今回の尖閣問題は、日本による尖閣
諸島国有化が原因であり、日本が譲歩すべきだと中国側は考えて
いるからです。日本は何を譲歩するのか。その中身は何か。中国
首脳部は日本の真意を探っているのです。
 中国が求めているのは、日本が尖閣諸島を領土問題として認め
ることです。山口代表も中国への出発前には、次のように発言し
ていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 現代になってもわれわれの世代は知恵が足りないので、尖閣諸
 島の問題はしばらく静かにしておくべきである。それが当面の
 不測の事態を回避する方法である。   ──山口公明党代表
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言は、明らかに1978年10月のケ小平氏の発言と酷
似しており、「棚上げ論」そのものです。領土問題のないところ
に棚上げはないので、結局は領土問題があることを日本が認める
ことになるのです。
 したがって日本政府は、一貫して「日中の間に領土問題は存在
しない」ということで通してきているのです。そこにきての山口
代表の事実上の棚上げ発言を聞いて、中国側は、山口代表は、領
土問題があることを認めて伝える日本の特使ではと一瞬思ったの
でしょう。だから香港メディアが山口氏にインタビューを申し入
れるなど、強い関心を示したわけです。
 しかし、これに対して石破幹事長は、次のように山口発言に対
して反論しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 棚上げを日本政府として是認したことはない。尖閣諸島は日本
 固有の領土であり、棚上げする理由はどこにもない。
     ──自民党・石破幹事長/1月22日配信/産経新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 同じ22日夜の報道ステーションに出演した安倍首相は、山口
代表の発言について古館キャスターに問われると、次のように言
葉を濁したのです。再現してみましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
 古館:安倍総理に伺います、山口さんがね、「将来の知恵に任
    せるというのは一つの賢明な判断」というようなニアン
    スのことをハッキリとおっしゃいました。これは棚上げ
    論に戻ったのかという印象も持つわけですが、総理どう
    お考えでしょうか?
 安倍:あの・・後でですね、山口代表は「棚上げ論ではない」
    ということをはっきりと・・申されています。そして、
    尖閣問題は・・尖閣はですね、日本の固有の領土であり
    これは全く議論する対象ではないという認識は持ってお
    られると思います・・あの全く一緒だと思います。
 古館:はい、(山口氏の発言は)領土問題が存在するかのよう
    な印象持った方も多いと思うんですが、後でご本人も訂
    正されているんで、それはないと思うんですが・・・。
    三浦さん、こういう発言っていうのはですね・・ある意
    味においては公明党が中国とうまくやってくれることは
    安倍政権にとっても、とってもいいという見方もあると
    思うんですが・・。
 三浦:公明党は中国とのパイプを重視していますし・・で一方
    最近はやはりいろんなレベルで日中間のパイプがうまく
    動いていない、詰まっているといっているので、総理と
    しては公明党にですね、そういうところを補うような役
    割を期待されているんですか。どんなふうに考えてらっ
    しゃるんでしょうか、公明党の役割を。
 安倍:あの・・中国との間ではですね、様々な課題もあるし、
    国境を接していますから、ぶつかる事もあります。しか
    し、その中においても、だからこそですね、対話は常に
    していく必要が私はあると思いますし、パイプも必要で
    す。ですから今回、山口代表が訪中をされるにあたって
    ですね、私の親書を山口代表に託した・・わけです。
           ──1月22日/「報道ステーション」
―――――――――――――――――――――――――――――
 明らかに安倍首相の言葉にはいつもの明快さはなく、言葉を濁
しています。山口代表ははっきりと尖閣問題の棚上げに言及して
おり、石破幹事長の反論を聞いて、慌てて訂正したのです。
 これでは、この訪中は目的を果たせないと思います。山口氏は
25日に帰国するそうですが、果たして習近平総書記とは会える
でしょうか。24日の現時点では不透明です。
 棚上げには、中国と日本では解釈に違いがあるのです。つまり
中国と日本は同床異夢なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎中国の考える「棚上げ」
  ・両国に紛争はあるが、その紛争を一時棚上げにしようでは
   ないか。
 ◎日本の考える「棚上げ」
  ・尖閣は日本の領土であるが、この問題についていま議論は
   しない。
―――――――――――――――――――――――――――――
                 ―─ [日本の領土/77]

≪画像および関連情報≫
 ●公明代表「尖閣棚上げ」発言 石破氏反論、与党に“溝”
  ―――――――――――――――――――――――――――
  石破幹事長は、山口氏が尖閣周辺での日中両国による軍用機
  飛行の自重を求めたことにも「わが国固有の領土にわが国の
  飛行機、軍用機が近づかないことは極めて難しい」と述べ、
  山口氏の主張を否定した。一方、政府側の反応は抑制的だ。
  菅義偉官房長官は記者会見で「領土問題は存在しないことが
  政府・与党の共通認識だと山口氏は明快に表明している」と
  述べ、問題視しない考えを示した。自民党内に「与党党首の
  発言としては軽率だ」(中堅)との声がある中、政府として
  は参院選を前に与党内の混乱を避けたい思惑ものぞく。しか
  し、山口氏は棚上げに触れた21日放送の香港フェニックス
  テレビで「日本固有の領土」との表現を使わなかった。中国
  への配慮とみられるが、同行筋によると中国共産党の習近平
  総書記との会談は23日も行われないという。公明党は海外
  の紛争に巻き込まれた邦人保護のための自衛隊法改正にも一
  定の理解は示す。ただ、山口氏は22日、滞在先の中国・北
  京市内で記者団に対し、海外の邦人救出のための自衛隊法改
  正について「従来の憲法解釈のもとで政府が責任をもって検
  討していくことが重要だ」と述べ、海外における武力行使を
  禁じる憲法の現行解釈を変更しないよう求めた。(酒井充、
  北京 力武崇樹)       ──「ヤフー!ニュース」
  http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130123-00000092-san-pol
  ―――――――――――――――――――――――――――

「報道ステーションでの安倍首相」.jpg
「報道ステーションでの安倍首相」
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月28日

●「尖閣棚上げ論における2つの解釈」(EJ第3474号)

 1月26日(土)のBS朝日「激論!クロスファイア」の前半
で、尖閣問題が取り上げられ、議論が行われています。出席者は
森本敏前防衛大臣、ジャーナリストの長谷川幸洋氏、司会は田原
総一朗氏です。
 3人のなかで田原総一朗氏は、尖閣諸島は明らかに紛争地であ
り、中国と外交的交渉をするべきであると主張しましたが、森本
前防衛相は、あくまで「日中間には領土問題はない」と主張すべ
きであると反論しました。
 田原氏の考え方は、かつて田中角栄首相は周恩来首相が提案す
る「尖閣諸島棚上げ」に同意しており、そこに領土問題があるこ
とを認めているのだから、現在のようになった以上、外交的な話
し合いをすべきであるというものです。
 田原氏の意見は一見すると正しいように思えます。しかし、田
原氏は、田中首相が棚上げに同意したと述べましたが、田中首相
の考える「棚上げ」と周恩来首相のそれとは「棚上げ」の中身が
異なることに田原氏は気がついていないようです。
 周恩来氏の考え方は、尖閣諸島をめぐって日中間に領土問題が
あるが、今はそれを取り上げるのはやめようという提案です。領
土問題の争いは主権をめぐる紛争です。それを棚上げにしようと
中国側は提案したのです。
 これに対して田中角栄氏は、尖閣諸島は明白な日本の領土であ
り、争う余地はないが、今それについて中国が議論しないように
しようというのであれば、それで結構であるというものです。
 EJ第3473号で述べたように、「尖閣棚上げ」には2通り
の解釈があり、日中双方がそれぞれ都合のよい解釈をしているの
です。つまり、同床異夢です。
 孫崎氏の近著に、「棚上げ」の2つの意味についての議論が出
ています。議論に参加している人は次の3人です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  天児 慧:早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授
  小寺 彰:   東京大学大学院総合文化研究科教授
  孫崎 亨:外務省元国際情報局長、元防衛大学校教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 天児慧氏は、中国政治や現代中国論が専門の学者であり、小寺
彰氏は国際法の専門家、孫崎亨氏は今や著名な外務省出身の外交
評論家です。3人の議論の「棚上げ」に関連する部分を孫崎氏の
著書から要約抽出します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小寺:棚上げには実は2種類の理解があって、日中間で同床異
    夢だったのではないかということです。中国は、紛争は
    あるけれども、その紛争を棚上げにしようと。これがい
    わゆる棚上げ論だと思います。日本政府はそうは思って
    なくて、尖閣諸島は日本のものだが、この問題について
    議論するのはもうやめようと考えていたと思います。今
    中国政府外交部は紛争のあることを認めろと盛んにいっ
    ているわけですね。
 天児:その紛争は「主権」をめぐる紛争です。
 小寺:棚上げ論というのが、紛争を前提にした棚上げ論なのか
    それとも紛争を前提にしないでとにかく現状を維持しよ
    うという話なのかが「同床異夢」だった。でもここにき
    て、その問題が強くクローズアップされたがゆえに、日
    本政府として棚上げ論はとれないと言っていると私は理
    解をしています。
 天児:そうですね。
 小寺:と同時に、棚上げというのは一体何を棚上げにするのか
    ということの明確化を迫られてきたので、話がますます
    複雑化してきている。このように思います。
 孫崎:私は棚上げは、もともとから主権の問題だと思っていま
    す。園田外務大臣(当時)が言っているせりふの中で、
    これ以上喋るとお互いが自分のものだということを喋り
    始めてしまい、収まりがつかないから、ケ小平が絶対に
    これ以上喋らないでおいてくれということですから。主
    権の問題を棚上げにしようということも日本も了解して
    いたし、もちろん中国も了解しています。
 天児:中国側は主権の問題だと思うんだけれども、日本側はそ
    れに対して明確には反応しないわけですね。
 孫崎:主権が異なれば、いつの時点か、どこかにおいて紛争に
    なるわけですから、紛争の問題と主権の問題は切り離せ
    ないわけです。
 天児:そこは完全に切り離しはできないですよ。ただ、要する
    に立場として日本側は主権は論争する余地がないと言っ
    ているわけですから、主権の問題を棚上げにするという
    話には乗れないわけです。ですから、これ以上いったら
    その間題でグチャグチャになるからやめようということ
    で、だから主権をめぐる論争はやめようということで、
    一応は矛をおさめているという解釈だろうと思います。
 小寺:私も天児先生と同じ意見です。
        ──孫崎亨編『検証・尖閣問題』/岩波書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 小寺氏によると、「紛争」と「見解の対立」は分けて考えるべ
きであるといいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
     紛争(Dispute)/見解の対立(differece)
―――――――――――――――――――――――――――――
 ある国が四国は自分の領土だと主張したとします。とんでもな
いいいがかりですが、そこには、「見解の対立」があるといえま
す。しかし、その主張を裏付ける根拠がない場合、「見解の対立
はあっても、紛争はない」というように、国際法的にはいうので
す。紛争があれば、それを平和的に解決するには話し合いが必要
ですが、尖閣諸島の場合は単なる中国のいいがかりなので、見解
の対立であると小寺氏はいうのです。―─ [日本の領土/78]

≪画像および関連情報≫
 ●領土問題の処理を急ぐな/小寺彰氏/経済産業研究所
  ―――――――――――――――――――――――――――
  尖閣諸島の帰属を巡って日中間の議論の応酬が続いている。
  日韓の竹島問題も8月と比べるとやや落ち着いてきたが、依
  然収拾からは程遠い。最近、米倉弘昌経団連会長が尖閣諸島
  について「領土紛争」があることを認めるべきだと主張した
  ほか、橋下徹大阪市長が法にのっとって国際司法裁判所で解
  決すべきだと発言した。尖閣諸島や竹島の日本領有の正当性
  の議論から一歩進んで、日中、日韓が角を突き合わせている
  現状にどう対処すればよいか、という議論が登場するように
  なった。ただ、領土紛争の存在を認めることが何を意味する
  か、ICJによる国際法にのっとった解決とはどういうもの
  かについて、十分に理解しているのかはやや疑問だ。(一部
  略)領土紛争の存在を認めることは、相手方の領土の主張に
  一定の正当性を認めることである。領土紛争の存在を認める
  と、両国はその領土紛争の解決のために話し合いを始めるこ
  とが求められる。「紛争」を「国際紛争」と呼ぶ場合もある
  ため、国際紛争(conflict)と紛争(dispute) が混同され
  ることがある。国際紛争とは武力衝突のある状態を意味し、
  それに至らない状態を対立とよぶ。紛争が元で対立や武力衝
  突が生まれることはよくあるが、紛争の有無にかかわらず対
  立や武力衝突は起こりうる。日米安保条約が関係するのは武
  力衝突であって紛争ではない。尖閣諸島を巡って武力衝突が
  起きれば米軍は動くことになろうが、尖閣諸島の帰属を巡っ
  て米国が日本の味方をしてくれると考えるのは早計だ。
  http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/kotera/09.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

小寺彰、天児慧、孫崎亨3氏.jpg
小寺彰、天児慧、孫崎亨3氏
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月29日

●「孫崎氏の主張はどこまで正しいか」(EJ第3475号)

 昨日のEJで取り上げた天児慧、小寺彰、孫崎亨3氏の座談会
は、尖閣諸島をめぐる日中両国の主張の核心に迫っていてなかな
か興味深いので、もう少し続けます。
 小寺氏と孫崎氏の主張は完全に対立しており、天児氏はどちら
かというと、小寺氏に近い意見です。それが孫崎氏の次の本に掲
載されている事実も知っておく必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
     孫崎亨編『検証・尖閣問題』/岩波書店刊
       座談会「棚上げによる解決は可能か」
―――――――――――――――――――――――――――――
 この座談会は、実に34ページに及ぶもので、尖閣問題に興味
がある人には一読の価値があります。孫崎氏は、尖閣諸島は無主
の地を日本政府が先占して日本領に入れたことについて、日清戦
争のからみで日本領にしたものと考えているようです。さらに、
歴史的に見ても、中国の管轄下にあったことを示す資料が多いと
も述べており、中国側の主張に近い意見の持ち主です。
 しかし、小寺氏は国際法の専門家ですが、孫崎氏とはまったく
違う意見を持っており、どちらかというと、日本政府の考え方に
近いといえます。2人のやり取りを次に示します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 孫崎:(尖閣諸島は)中国がカイロ宣言をもとにして自分たち
    のものであるということは、十分過ぎるくらいに根拠が
    あると思います。
 小寺:孫崎さんのお立場からすると、カイロ宣言、さらには沖
    縄返還協定での主張というものが一定の正当性を持つと
    いうようにお考えになるから、紛争はあるということに
    な りますし、私は、そんなのは別に関係ない、だから
    紛争はないというように考えているのです。
 孫崎:では中国側が「日本国ガ清国人ヨリ盗取シタル一切ノ地
    域」に尖閣は入るという論拠を出した時に、それはあま
    りにもレファレンスが弱い、あまりにも根拠のないもの
    だとおっしゃるんですか。
 小寺:そう思います。盗取したということであれば、無主地で
    あるかないかということについて、やはりきちんと論拠
    を示す必要がある。1895年の段階で日本政府はこれ
    を無主地であると判断したが、これは無主地ではなくて
    きちんと権力作用を行使していたんだというように中国
    が証拠を出し議論して初めて、紛争かどうかを考えるベ
    ースができてきます。つまり、単に盗取したとか、地図
    上でどうのとかいう話だけでは、これは単なる言いがか
    りです。
 孫崎:たぶん、その議論は国際的に全然通じません。
 小寺:いや、これは国際法上の議論です。
 孫崎:国際法的であるか政治的であるかは別にして、この間、
    玄葉大臣がヨーロッパに行ってイギリスへ行き、フラン
    スヘ行き、ドイツへ行き、我々の立場を支持してくださ
    いと言ったって、誰もそれを支持していないんだから。
 小寺 そんなことは別に、どちらでもいい話です。
          孫崎亨編『検証・尖閣問題』/岩波書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 孫崎氏がこだわるカイロ宣言には、尖閣とは特定していないも
のの、「日清戦争により日本が獲得した植民地は中国に返還させ
る」という表現があります。中国側は尖閣諸島もそのなかに入る
として「清国人から盗取した」と主張しており、孫崎氏はこの主
張は重いと考えているのです。
 これに対して小寺氏は、1895年に無主地であることを調査
のうえ尖閣諸島を日本領としており、これが違うというなら、中
国は尖閣諸島が無主地ではなく、このように権力を行使して尖閣
諸島を管轄していたことを示す必要があるといっているのです。
 しかし、カイロ宣言とヤルタ会談の2つの文書は、単なる戦勝
国の合意文書に過ぎないことも事実です。日本はこの合意文書に
参加しているわけではなく、まして合意などしていないのです。
小寺氏が「そんなのは別に関係ない」といっているのはそのため
です。これにも一理あります。
 しかし孫崎氏は、日本の領土問題を考えるときは、1945年
のポツダム宣言からスタートすべきであると述べています。なぜ
なら、ポツダム宣言には次の記述があるからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 カイロ宣言ノ条項ハ履行セラルヘク又日本国ノ主権ハ本州、
 北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラル
 ベシ                 ──ポツダム宣言
―――――――――――――――――――――――――――――
 これによると、日本の主権が及ぶ領土は、本州、北海道、九州
及び四国であり、その他は「局限セラルヘシ」となっています。
問題はこの「局限セラルヘシ」のなかに、果たして尖閣諸島が入
るかどうかです。
 それに加えて孫崎氏は、尖閣諸島は台湾の属島ではないかと考
えているのです。これに対する日本側の主張は、尖閣諸島は沖縄
諸島に属する島のひとつと主張しています。しかし、尖閣諸島が
沖縄に属していることを裏づける決定的な資料はないのです。
 まして、サンフランシスコ平和条約で日本は台湾を放棄させら
れています。この場合、尖閣諸島が台湾の属島であるなら、尖閣
諸島も放棄したことになる──孫崎氏はこのように主張している
のです。これにも一理あります。
 いずれにせよ、「日中間に領土問題はない」という日本の主張
はいつまでも通るわけではなく、いずれ何らかのかたちで話し合
いをする必要が出てくるというのが孫崎氏の主張です。そうであ
るなら、日本としては「争いがある」と考えて、主張の裏付けを
できる限り集める必要があります。しかし、公明党の山口代表の
訪中を通じて、中国が尖閣問題の棚上げを求めているらしいこと
がわかってきたのです。      ―─ [日本の領土/79]

≪画像および関連情報≫
 ●国際裁判所で「先占」で日本は勝てるか/孫崎亨氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  先占によって国際裁判所が領土の権原、領土の帰属を考えた
  ケースというのは非常に少ない。ほとんどないと言ってもい
  いと思います。それは、要するに無主地であるかどうか、無
  主地であったとしても、それに対してどちらが先占したか、
  この点の検討によって決着がつかないからで、そうなつてく
  ると、その後両国がどういう形で権力行使をしてきたか、さ
  らにはどのような条約を締結したかというような様々な点を
  考慮して、領土の帰属を決定してきました。そもそも、18
  95年の段階で尖閣が無主地であったかという点を問題にす
  るのであれば、それはその当時の日本政府が行なつた調査が
  きちんとしたものであったか否かを点検すれば済む話です。
  もし、どうもその段階で無主地であったかどうかはっきりし
  ないとなつたら、その前後の事情を見るという可能性が出て
  きます。    孫崎亨編『検証・尖閣問題』/岩波書店刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

孫崎亨編/「検証・尖閣問題」.jpg
孫崎亨編/「検証・尖閣問題」
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月30日

●「中西/手嶋/孫崎3氏の朝生激論」(EJ第3476号)

 1月25日深夜(正確には26日)、テレビ朝日の「朝まで生
テレビ」を視聴しました。テーマは今回のテーマとピタリです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  「朝まで生テレビ」
   激論!脅かされる安全保障/テロ、尖閣、日米同盟
   出演者:孫崎亨、辻元清美、長谷川幸洋、中西輝政
       手嶋龍一、佐藤正久
―――――――――――――――――――――――――――――
 議論は、「孫崎亨VS中西輝政+手嶋龍一」のかたちで展開さ
れたのです。孫崎氏は、昨日のEJ第3475号で述べたように
次のように持論を展開したのです。
 尖閣諸島は台湾の属島であるという前提に立ち、カイロ宣言の
文書では、日本が日清戦争の戦利品として奪った台湾など諸島は
返還しなければならないとされている。日本は、カイロ宣言を遵
守するとするポツダム宣言を受託し、台湾を返還した以上、その
属島である尖閣諸島は日本の島ではないと孫崎氏はいうのです。
 これに対して中西輝政氏と手嶋龍一氏はこう反論したのです。
尖閣諸島は1885年に古賀辰四郎の申し出によって尖閣諸島が
無主の地であるかどうか島嶼について調査を開始し、他国にも照
会しているが、どこの国も異論の申し出はなかったので、10年
後の1895年に閣議決定をしたうえで、日本領に編入したので
ある。したがって、尖閣諸島は断じて日清戦争の戦利品ではない
というものです。これはEJで論じた通りです。
 これに対して、孫崎氏は、尖閣諸島は無主の地ではなく、明の
時代から中国領であることを示す史料がたくさんあると主張した
のです。中西、手嶋両氏はそんな史料があるなら出して欲しいと
いったところ、孫崎氏は、1556年に清国は倭寇討伐に乗り出
しているが、そのさいの記録のなかに、魚釣島が中国の管轄下に
あったことを示すものがあると答えています。
 これについても既に1月11日のEJ第3464号で、明政府
が、倭寇を迎え討つために5つの海防区域のひとつとして無人島
の魚釣島を指定したに過ぎないことを指摘しています。それはと
ても魚釣島が中国領であることを示す史料とはいえないのです。
 そんなことは、EJでも指摘しているぐらいですから、孫崎氏
ほどの人であれば、その史料が尖閣諸島が中国領であることを裏
づけるに足るものでないことは百も承知で反論していると思いま
す。孫崎氏はなぜか中国側の立場に立って、尖閣諸島は中国領で
あることを説得しようとしているように聞こえるのです。
 中西氏と手嶋氏は、孫崎氏のこの態度にはさすがにキレて、次
のようにいったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 外務省の局長の地位を務めた人が中国を利する主張をするの
 は納得できない。そんな主張をすれば喜ぶのは中国だけじゃ
 ないですか。        ──中西輝政、手嶋龍一両氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 EJでは、歴史的な事実も極力ていねいにチェックしています
が、決定的なものは何もないのです。それよりも、日本領になっ
た1895年から1918年までは、古賀辰四郎をはじめ相当の
人数の日本人が魚釣島や久場島で一定期間居住した記録が残って
いるのです。
 また、1919年には既に見てきたように、尖閣諸島周辺の海
で中国福建省の漁民31人が遭難し、魚釣島にいた古賀家と石垣
島村役場が漁民全員を救助し、中国まで送り届けているという事
実があります。中国政府はその行為に関し、感謝状を贈っている
のですが、その感謝状には、「日本帝国沖縄県八重山郡尖閣列島
内和洋島」とはっきり書かれているのです。
 しかし、孫崎氏は、このような尖閣諸島が日本領であることを
示す事実はいっさい無視し、中国側を利するような発言や記述を
多くしていることは確かであり、こういう姿勢に中西氏や手嶋氏
は強く反発したのです。
 もうひとつ、孫崎氏が前提とする「尖閣諸島は台湾の属島であ
る」という主張にしても、尖閣諸島が沖縄群島の属島であること
を示す証拠がないということからそう主張しているだけで、尖閣
諸島が台湾の属島である証拠があるわけではないのです。そうな
ると、尖閣諸島はやはり「無主の地」であり、日本が先占したと
主張するのは当然のことといえます。
 既に述べているように、日本にはどんなことでも中国側につく
政治家や学者や経済人が多いのです。孫崎氏がそうであるとはい
いませんが、その主張は井上清氏のそれによく似ています。とく
に外務省には、外国語として中国語を専攻する「チャイナ・スク
ール」というグループがあり、彼らは中国のことをけっして悪く
はいわないのです。
 このことに関連して最近気になる動きがあります。それは沖縄
県内で、尖閣諸島を日本と中国、台湾の共同管理地にしようとい
う意見が出ていることです。この意見が沖縄県内でジワジワ広が
りつつあるのです。実は、これは中国共産党政府が昨年決定した
対日工作方針と合致しているのです。いうまでもなくこんなこと
は、日本の主権放棄に等しく絶対に受け入れることはできないこ
とです。どうやら、中国の工作隊が沖縄県内に潜入し、そういう
宣伝活動をしているらしいのです。
 沖縄県出身のジャーナリストの仲村覚氏はこれについて次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 メディアや識者が「尖閣を共存・共生の場に」とか、「共同開
 発」「日本、中国、台湾の協議機関設置」と主張している。日
 中衝突を避けるという理屈だが、日本政府の「尖閣は日本固有
 の領土」という基本姿勢を後退させるものである。
          ──2013年1月29日/「夕刊フジ」
―――――――――――――――――――――――――――――
 この主張は孫崎氏の主張にも通じるところがあり、現在沖縄県
内でかなり浸透しつつあります。  ―─ [日本の領土/80]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の工作か/沖縄の世論は誘導されていないか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  元公安調査庁第2部長の菅沼光弘氏は「中国共産党は、日本
  のあらゆる分野に工作員や協力者を浸透させ、世論誘導を狙
  っている。本人にまったく意識がなくても、結果的に、政治
  家やメディア、学者がこうした影響を受けている可能性は十
  分ある」という。中国はかつて「人民解放」という大義を掲
  げてチベットに侵攻した。最近、中国国内では「日本は琉球
  (沖縄)を中国から強奪した」という主張も聞かれるが、沖
  縄県民に危機感はないのか。前出のジャーナリスト・仲村覚
  氏は「県民の中にも、危機感を持っている人は多い。オスプ
  レイ配備反対を含め、メディアの報道は必ずしも県民意識と
  一致していない。安倍政権は幅広い県民の声を拾い上げるべ
  きである」と語っている。
          ──2013年1月29日/「夕刊フジ」
  ―――――――――――――――――――――――――――

「朝まで生テレビ」での中西、手嶋、孫崎の3氏.jpg
「朝まで生テレビ」での中西、手嶋、孫崎の3氏
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月31日

●「尖閣問題の棚上げを模索する中国」(EJ第3477号)

 中国の習近平総書記は、総書記就任前後は対日強硬派とみられ
ていたのです。昨年9月の反日デモのさいは、習近平氏は一時姿
を隠して話題になりましたが、これは反日デモを指揮していたと
もいわれているのです。
 2013年1月14日付の中国軍の機関紙「解放軍報」による
と、中国人民解放軍を指揮する総参謀本部は2013年の軍事訓
練に関する指示で次のように書いているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 戦争準備をしっかりと行い、実戦に対応できるよう部隊の訓
 練の困難度を高め、厳しく行うこと。  ──「解放軍報」
―――――――――――――――――――――――――――――
 何と「戦争準備」を指示しているのです。この時期にこの指示
を出している以上、それは尖閣有事を想定したものであることは
間違いないと思われます。そして、この「戦争準備」指示は習近
平総書記からの重要指示であるといいます。
 それだけではないのです。中国の主要メディアは今年に入って
「尖閣戦争」を想定した番組を連日のように放送しています。中
国軍事科学学会の副秘書長、羅援少将や、元海軍戦略研究所長の
尹卓少将ら多くの軍関係者が出演し、主戦論を繰り広げているの
です。そのほとんどは習総書記と同じく太子党(元高級幹部の子
弟)のメンバーで、習総書記の意向が反映している可能性はきわ
めて高いのです。
 はっきりしていることは「中国は尖閣を絶対にあきらめない」
ということです。したがって、取れないとわかれば、軍事的手段
に訴えても取りに来ることは間違いないことです。したがって、
日本は、それに備えて防御しなければならないのです。
 もうひとつはっきりしていることがあります。それは、たとえ
中国が尖閣諸島を武力で奪いにきても、日本の自衛隊と米軍が連
携作戦を取れば、尖閣諸島は防御できるということです。それだ
けに、日米関係はきわめて重要です。
 この場合、米軍が尖閣諸島を守るのは、日本のためだけではな
いのです。もし、尖閣諸島が中国に奪われると、中国が台湾を攻
めるとき、米海軍の動きが封じ込められてしまうのです。
 海上自衛隊で海将補を務めた川村純彦氏によると、現在、中国
は南シナ海に、およそ20隻の核ミサイル搭載潜水艦を配備して
います。搭載している核ミサイルはSLBM(潜水艦発射弾道ミ
サイル)ですが、射程は7400キロ程度であり、米国本土には
届かないのです。中国は射程を延ばそうとしていますが、これは
簡単なことではないのです。
 したがって、米国としては中国の潜水艦を南シナ海に封じ込め
てさえいれば、中国海軍は思うように動けないので、米本土は安
泰であるといえます。そのため中国は南シナ海を聖域化したいの
ですが、そのためには台湾が必要になります。そして、その台湾
を攻めるためには尖閣諸島が不可欠なのです。だから、中国は尖
閣諸島を自国の核心的利益と位置づけているのです。
 中国から見ると、尖閣諸島は太平洋の出口である宮古海峡の喉
元に当ります。宮古海峡は、沖縄本島と宮古島の間の海峡です。
したがって、尖閣諸島を押えることは、宮古海峡の航行を確保す
るうえで重要です。もし、尖閣諸島のたとえ一島でも中国領にな
ると、中国はそこに潜水艦基地を構築し、中国の潜水艦は宮古海
峡を抜けて、西太平洋に出てきます。そうなると、米国本土は中
国潜水艦のSLBMの射程に入るのです。
 このように、尖閣諸島は日本だけではなく、米国の安全保障に
とっても重要な島なのです。だからこそサンフランシスコ平和条
約において、米国は尖閣諸島を沖縄とともに日本の領土の範囲に
入れて確保したのです。
 しかし、野田政権による尖閣諸島の国有化に対して、中国の日
本に対する挑発は度を越しています。米国が危機感を感じたのは
中国が領空を侵犯するようになってからです。領空侵犯の場合は
日本の航空自衛隊機がその都度スクランブルをかけるので、一触
即発の事態は十分起こり得るからです。
 かつてモンデールという駐日米大使は「尖閣諸島が中国によっ
て攻撃されたら、米軍は日米安保条約に基づいて救援してくれる
か」という質問に対して「ノー」と答えて問題になり、米政府は
大使を更迭したことがあるのです。
 しかし、今回の中国の動きには米国は真剣に対応しています。
2012年11月29日、米上院は、尖閣諸島に関して「日米安
保条約第5条に基づく責任を再確認する」ことを国防権限法案に
追加修正する案を全会一致で可決しています。
 さらに、1月18日、クリントン国務長官は、岸田文雄外相と
の会談で、尖閣諸島付近の領海や領空に接近を繰り返す中国の挑
発行為について、相当踏み込んだ表現で強く警告しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  日本の施政権を一方的に害するいかなる行為にも反対する
  We oppose any unilateral action. クリントン国務長官
―――――――――――――――――――――――――――――
 これには、中国は相当驚いたようです。なぜ、米国はここまで
日本に肩入れするのか想定外であったからです。そのためか、こ
の発言から1日半も経過して中国は次のように反論しています。
なぜ1日半も要したのでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
      強烈な不満と断固たる反対を表明する
                ──中国外務省
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は中国は米国の本心が読み切れず、どこまで強い不満を表明
すべきかについて政府内で調整したため、すぐには、談話を出せ
なかったのです。
 中国は日本だけならいいが、米国とまで対峙する事態はなるべ
く避けたいのです。したがって、公明党の山口代表の棚上げ発言
に乗る構えを見せたのです。中国としては、このままエスカレー
トするのは避けたいようです。   ―─ [日本の領土/81]

≪画像および関連情報≫
 ●日中戦わば/膨大な犠牲で尖閣上陸した後、米軍に敗北
  ―――――――――――――――――――――――――――
  新華社系のニュースサイト「新華網」は2012年20日年
  9月、ロシアの軍事専門家による「中国が軍事的手段により
  尖閣諸島奪取を図った場合」の戦況シミュレーションを掲載
  した。中国は膨大な犠牲を出した上で尖閣諸島に上陸できる
  が、日米安保条約にもとづき出撃した米軍に敗れるという。
  ロシア戦略技術分析センターのワシリー・カーシェン高級研
  究員の見方を掲載した。海上兵力について、数量の面で中国
  が日本を圧倒しているが、質の面では日本よりはるかに劣っ
  ている。中国側の潜水艦部隊は日本にとって一定の脅威にな
  るが、日本の対潜水艦作戦能力は極めてすぐれている。「経
  験、装備、戦術のどれをとっても、米軍より優れている」と
  認める米国の専門家もいる。中国の潜水艦部隊は訓練の回数
  も極めて不足している。ロシア地縁政治学院のカスダンディ
  ン・シフコフ第一副院長は、中国の海空軍能力を比較的高く
  評価した。まず、中国は数量の面で日本を圧倒している。島
  を奪取する目的があれば、中国は戦闘機400〜500機を
  出動させる。ディーゼル潜水艦は20隻、原子力潜水艦は3
  隻までを動員できる。大陸から距離があるため、大量のミサ
  イル艦を出動させる可能性もある。日本が動員できるのは、
  戦闘機など150機、ディーゼル型潜水艦、護衛艦など5〜
  10隻で、兵力は中国の3分の1程度にすぎない。ただし中
  国空軍は旧型機が主体で、日本の戦闘機は能力面で決定的に
  優勢。中国は、早期空中警戒機も不足しており、日本側は制
  空権を確保できる。数と質の両面を考えれば、日中の戦力は
  拮抗しているという。(続きを読む)
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?d=0920&f=politics_0920_012.shtml&y=2012
  ―――――――――――――――――――――――――――

中国原子力潜水艦.jpg
中国原子力潜水艦
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(1) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月01日

●「中国は『超限戦』を展開している」(EJ第3478号)

 中国政府は尖閣諸島について「棚上げ」の意思を持っているの
は確かです。米国のこの問題に対する姿勢が中国が考えているよ
りもはるかに強いものであることがわかったので、少し時間を置
こうと考えたものと思われます。それには「棚上げ」しか方法は
ないのです。
 しかし、中国側からそれを要請したくはなく、日本側からいわ
せたいのです。そこに公明党の山口代表が「棚上げ」を明確に口
にして訪中してくる雰囲気があったので、中国はこれを利用しよ
うと考えたのです。
 しかし、山口氏は政府筋の反対を受けて主張を修正したので、
中国側は方針の若干の変更を迫られたのです。実は習近平総書記
は最初から山口氏とは中国滞在最終日に会う予定でいたのです。
山口氏は安倍首相の親書を持参しているので、これをトップが受
け取らないのは好ましくないという考え方だったようです。
 しかし、最後の最後まで、そのことを日本側に伝えなかったの
です。その間、中国側は山口氏に何人もの幹部と会談させ、事実
上の「棚上げ」の言質を取ろうとしたのです。「棚上げ」とは、
尖閣諸島を「係争地」であることを認めさせ、その解決を先送り
させることを意味しています。
 中国政府はこれと並行して、日本の親中派の大物に訪中を促し
要人と会談させています。事実鳩山由紀夫元首相、村山富一元首
相、加藤紘一前衆院議員などの親中派は中国政府から招待され、
訪中しています。中国側の狙いは、彼らが尖閣諸島が「係争地」
であることを発言させることにあります。鳩山元首相はまさに中
国の意向に沿う発言をしています。
 中国は、ある国家目標を達成するさい、「三戦」といって、次
の3つのステップを踏んでくるのです。「超限戦」といいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.「心理」戦
           2.「世論」戦
           3.「法律」戦
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の立場に立って尖閣問題を例にとって考えてみます。まず
尖閣問題をクローズアップさせ、日本人にこの問題の存在を認識
させる必要があります。
 方法はいろいろあります。漁船で尖閣周辺海域に入り、一部の
漁民を島に上陸させたりして、日中の間でトラブルを起こすので
す。そしてそれを原因にして反日デモを起こします。日本は実際
にこれをやられています。
 2010年に起きた尖閣諸島海域における中国漁船と海上保安
庁巡視船との衝突事件、それに船長を逮捕したことによる反日デ
モ。これだけやれば、日本人のほとんどは尖閣問題を認識するで
しょう。これはまさしく「心理戦」なのです。
 さらに野田政権の尖閣諸島国有化を原因とする激しい反日デモ
と尖閣諸島周辺海域への中国公船の領海侵犯の執拗な繰り返し。
さらに今度は航空機での領空侵犯。これには航空自衛隊によるス
クランブルが繰り返されています。これだけやれば、日本人は嫌
でも尖閣問題を認識せざるを得なくなります。これが「心理戦」
なのです。戦争は始っているのです。
 この心理戦に並行して中国は「世論戦」も仕掛けてきているの
です。現在沖縄には多くの中国工作員が潜入し、さまざまな工作
を仕掛けているといわれます。彼らは実際に沖縄に住み、県民と
も交流し、自然に県民レベルから、普天間基地県内移設反対、オ
スプレイ配備反対などの世論が形成されつつあります。中国の狙
いは、この基地反対運動をさらに拡大させ、沖縄から在日米軍基
地を撤退させることにあるのです。
 確かに沖縄から米軍が出て行っていちばん利益を得るのは中国
であることは明らかです。なかでもオスプレイの配備反対はヒス
テリックであり、何となく意図的なものを感じます。つまり、沖
縄の米軍基地反対の声は、必ずしも県民の声だけとは限らず、中
国の工作員によって仕掛けられている面もあるということを認識
すべきです。これが「世論戦」です。
 その後に控えるのは「法律戦」です。既に中国は、外交交渉を
通じて中国の立場を各国に訴えています。また、国際機関に尖閣
諸島が中国領であることを示す史料であるとか、地図であるとか
を提出し、来るべき国際司法裁判所での法律戦に備えています。
 もちろん、それらの史料や地図などが正しいとは限りませんが
日本も尖閣諸島が「無主の地」であったことを裏づける調査資料
や島に定住していたことを示す証拠資料などを整備し、法律戦に
備える必要があるのです。
 中国の狙いは、まず日本に尖閣諸島が「係争地」であることを
認めさせることにあります。「日中間に領土問題なし」という日
本の主張では物事が進まないからです。しかし、日本は係争地で
あることを認めると、不利になります。ジャーナリストの福島香
織氏は、棚上げの行きつく先について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今、棚上げが何とか継続できても、数年も経てば、また同じこ
 とが起きる。その頃の中国の軍事力・国力は今より強くなって
 いるのではないか。棚上げを継続して得するのはむしろ中国の
 方ではないか。日本にとって、棚上げ論の行きつく先は、最善
 の結果で「共同開発」だろう。いっそのこと、尖閣諸島は係争
 地域であると認めてしまって国際法廷に提訴するか。人民解放
 軍の理論派、羅少将は意外なことに「国際法延への提訴」も支
 持している。多くの日本人は国際法廷で勝てると思っているか
 もしれない。私も日本側の主張の方に理があると思っている。
 だが、世界は腹黒く、正義は欺瞞に満ちている。正直、外交力
 や国際社会での存在感や影響力で結果が変わることもあるので
 はないか。 ──日経ビジネス「新国境論」所載の福島香織氏
    論文「棚上げ論はもう限界/国際社会を日本の味方に」
―――――――――――――――――――――――――――――
                 ―─ [日本の領土/82]

≪画像および関連情報≫
 ●日本なくして中国人の生活は成り立たない/福島香織氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  地球最後の巨大市場と呼ばれる中国では、日本製以外に米国
  製、ドイツ製、フランス製、スペイン製と世界各国の製品が
  ひしめく。そして、それらの製品はグローバルサプライチェ
  ーンのなかで製造され、部品や素材が各国から集められ、多
  くは中国の工場で中国人によって仕上げられている。日本製
  品はシェアからいえば、米国やドイツ、フランスに負けてい
  る分野も多々あるが、商品に付随する日本的ライフスタイル
  らしさ、などの付加価値はかなりはっきり意識されている。
  もちろんルイ・ヴィトンやディオールなどのブランドは、そ
  のような付加価値が付随しているもので、消費者はその付加
  価値を好んで買うわけだが、日本製の場合、そのような付加
  価値など必要ない普通の実用品でも、日本らしさをブランド
  としてまとう。たとえば日本の家電や自動車に付随する「耐
  久性」や「エコ」は日本らしさで、ライフスタイルだ。日本
  の家電製品は「耐久消費財」だが、この言葉は中国製や米国
  製に使用されることはない。米飯のおいしさを劇的に変えた
  日本製炊飯器、高級住宅でじわじわ普及したウォシュレット
  のような洗浄便座なども、一部の中国人のライフスタイルに
  影響を与えた人気商品だ。(続きを読む)
             http://blogos.com/article/51095/
  ―――――――――――――――――――――――――――

山口代表/習近平会談.jpg
山口代表/習近平会談
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月04日

●「中国寄りの日本経済人が多い理由」(EJ第3479号)

 このテーマも今回で第83回、そろそろしめくくりをするとこ
ろにきています。日本は尖閣諸島の問題をどのように解決すべき
でしょうか。中国は尖閣諸島を絶対にあきらめないはずです。最
終的に何を仕掛けてくるでしょうか。
 そのヒントになると思われるのが、「WiLL」/新春超特大
号所載の中西輝政氏の次の論文です。
―――――――――――――――――――――――――――――
          中西輝政・京都大学名誉教授
       『中国の奥の手は「敵国条項だ」』
    ──「WiLL」/新春超特大号所載論文
―――――――――――――――――――――――――――――
 中西氏はこの論文で実に恐ろしいことを指摘しています。テー
マを見れば、年配者であればおおよその見当がつく人もいると思
いますが、論文を読み進めると、そういうことが起こっても不思
議はないと思えてきます。
 中西氏自身もこの論文を発表するに当って、相当悩み、それで
も発表することにした理由を次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「中国が敵国条項を使って日本を危機に陥れようとしている」
 ──実は、このことを活字にすることにはこの数ヵ月、大いに
 悩んだ。第一に、中国に逆利用されはしないか、と危倶したた
 めである。第二に、中国だけでなく、かねてより「尖閣は日本
 固有の領土ではない」「アメリカは尖閣問題では決して動かな
 い」と言い続けてきた孫崎享氏ら、親中派に論拠の補強材科を
 与えることにもなりかねないからだ。だが十一月以降、ここま
 であからさまに中国が動いてきた以上、もはや一刻の猶予もな
 い。事ここに至っては、日本の新政権誕生の直後にもわが国の
 存立を脅かしかねないこの懸念を明るみに出し、予め警鐘を鳴
 らす必要があると考えるに至った。
     ──「WiLL」/新春超特大号所載中西輝政氏論文
―――――――――――――――――――――――――――――
 中西輝政氏の主張の背景的事実から述べていきます。小泉政権
時代の2005年、日中間で小泉首相の靖国参拝が原因で、大規
模な反日デモが起こったことがあります。
 このとき中国は、当時の経団連会長の奥田碩氏──トヨタ自動
車会長を中国に招いたのです。奥田氏は公式訪問をしたあと、急
遽日本に戻り、次の4人と一緒に再び中国に引き返したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  三村明夫新日本製鉄社長 ・・・      中国委員
   森下洋一松下電器会長 ・・・      中国委員
   宮原賢次住友商事会長 ・・・ 国際関係担当副会長
  和田龍幸経団連事務総長
―――――――――――――――――――――――――――――
 奥田会長以下4人が会談した相手は、胡錦涛国家主席であり、
胡主席は、日本との経済関係を発展したいのだが、小泉首相が靖
国神社に参拝したことがネックになって困っていると打ち明けら
れたというのです。
 これと同じようなことが尖閣問題を契機に発生した反日デモの
さい起きています。米倉弘昌経団連会長は2012年11月22
日〜24日に北京を訪問し、中国の要人と面会しているのです。
そして、今回の訪中の意義について、尖閣の問題で損なわれた日
中両国の相互理解や信頼を民間同士で再構築することにあると強
調したのです。
 これは明らかに「二重外交」です。ここは外務省が前面に立っ
て解決すべき外交問題であるのに、中国から招聘されたとはいえ
経済人が政府に先行して中国のトップとの根回しをする動きは、
他の先進国では到底考えられないことです。それなのに外務省は
これを黙認しているのです。
 これに関して中西輝政氏は前出の論文で、経団連を中心とする
経済人を次のように批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このような危機の時における国際会談は本来、外務省、少なく
 見ても、与党政治家の仕事である。それを国益以上に自らの企
 業への影響を考慮する可能性のある経済人が、政府や政治家に
 なり変わって先頭に立ち、外交を取り仕切るなどということは
 近代国家、いや民主的な法治国家としてあってはならない事態
 である。                 ──中西輝政氏
     ──「WiLL」/新春超特大号所載中西輝政氏論文
―――――――――――――――――――――――――――――
 これら親中派経済人は、自分の事業への影響を気にするあまり
日本の国益をないがしろにしているのです。それにしても、こう
いういわゆる一流企業の経営者は、なぜそうやすやすと中国に使
われてしまうのでしょうか。
 これは中国の外交戦略のひとつなのです。まず、どこの企業も
中国に進出していない時期に、中国サイドはそういう日本企業の
トップに中国市場の魅力を訴えて、特別の条件で中国への進出を
許してきたのです。しかし、契約上は「進出できるが簡単に抜け
られない条件」を飲まされているのです。
 他国、他社に先駆けての進出ですから、多少不利な条件も容認
していたものと思われるのです。その筆頭ともいうべき企業のひ
とつに伊藤忠商事があります。伊藤忠は1950年代ぐらいから
中国共産党政権の「政治的同盟者」と位置付けられ、日中国交正
常化のさい、中国から悲願の友好商社として認められたのです。
総合商社でははじめてのことです。伊藤忠は、それほど長い間に
わたって中国ビジネスに力を入れてきたのです。
 1950年代からの付き合いであり、それは伊藤忠がいかに中
国に信頼されていたかを物語っています。民主党政権は、その企
業の元会長である丹羽宇一郎氏を中国大使に任命したのです。こ
れに関しては、当時多くの識者から危惧と不安と批判が当時の岡
田外相に集中したのです。モラルハザードだけではなく、多くの
懸念の声が寄せられたのです。   ―─ [日本の領土/83]

≪画像および関連情報≫
 ●伊藤忠商事の歴史/1970年代
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1970年代に入り、伊藤忠商事は、実りの季節を迎えてい
  た。長年にわたる悲願でもあった「非繊維部門の拡大―総合
  化」が実現し、総合商社として躍進していった。日中貿易に
  ついても伊藤忠商事は先鞭を切った。昭和46年12月14
  日付で「日中貿易4条件」を遵守することを正式に発表。社
  内に「中国室」を設け、中国との貿易促進に積極的に取り組
  み始めた。そして47年3月には、当時の越後社長を団長と
  するミッションが訪中、このとき中国から友好商社に指定さ
  れ、その後の日中友好、日中貿易の推進に一役買った。田中
  角栄首相が日中国交正常化を実現したのはその後昭和47年
  9月29日のことであった。
         http://www.itochu.co.jp/ja/about/history/
  ―――――――――――――――――――――――――――

丹羽宇一郎氏.jpg
丹羽 宇一郎氏
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(5) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月05日

●「丹羽前中国大使は何をやったのか」(EJ第3480号)

 伊藤忠商事の元会長の丹羽宇一郎氏を中国大使に任命すること
については大きな批判が巻き起こっていたのです。結果としてそ
れは、不幸にも的中したことになります。
 まず、佐々惇行氏が次のように発言し、櫻井よしこ氏がそれを
紹介したところ、当時の岡田外相から、抗議文が送られてきたと
いいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 佐々:中国大使の職務は商人(丹羽氏)には務まらない
 岡田:佐々氏や櫻井氏の言論は、官尊民卑、第三次産業に従
    事する人たちを侮辱している
    ──「WiLL」/新春超特大号所載中西輝政氏論文
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに、丹羽前中国大使の2年4ヵ月を振り返ってみると、そ
の批判は当っているといわざるを得ないのです。任命当初は「脱
官僚」などの官僚バッシングが激しさを増しており、民主党政権
としては、民間大使の起用はそれなりの意義があると考えていた
と思います。
 丹羽前中国大使は、中国日本大使勤務を振り返り、雑誌『文藝
春秋』2月号に次の特別手記を寄せています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  創刊90周年記念
  特別手記/『丹羽宇一郎前中国大使/日中外交の真実』
―――――――――――――――――――――――――――――
 この特別手記に関して、元自衛官の宇佐静男氏が、「JBプレ
ス」というサイトで論評を加えているので、その内容も参照しな
がらこの特別手記をご紹介していきます。丹羽前大使は、尖閣諸
島をめぐる日中の衝突のほぼ全期間にわたって中国日本大使を務
めていたのですから、その視点は参考になると考えられます。
 思えば、2012年という年は、日中国交正常化40周年に当
る記念すべき年であり、丹羽氏もそれに賭ける強い思いがあった
と思われます。しかし、それをすべてをぶち壊したのが、石原慎
太郎前東京都知事による尖閣諸島購入計画発表であったと丹羽氏
は述べています。
 しかし、東京都の購入計画発表に関して中国は予想したほど強
い反発を示さなかったのです。なぜなら、それは一地方自治体の
首長の発表であり、そんなことは日本政府が阻止するだろうと考
えていたからです。
 しかし、中国の外交部(外務省)としては、相当神経質になっ
ていたことは確かなのです。ところが、丹羽大使はそれから2ヵ
月後に「フィナンシャル・タイムズ」紙のインタビューで応じて
次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし(東京都の)計画が実行されれば、日中関係にきわめて
 深刻な危機をもたらすだろう。      ──丹羽前大使
―――――――――――――――――――――――――――――
 問題は、丹羽大使によるこの発言の真意はどこにあるかという
ことです。本来こういう発言は、丹羽大使が日本政府に対して行
うか、石原慎太郎都知事と会い、直接知事に対していうべきこと
です。それを外国メディアを使ってメッセージを出した真意は何
かということです。それはまるで評論家のやる仕事であり、日本
の中国大使のやるべきことではないのです。これに対し、宇佐静
男氏は、「JBプレス」で次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで釈然としないのは、中国側が神経質になっているという
 認識があれば、プロの外交官ならこういう発言を公にするだろ
 うか、しかも外国メディアを使って・・・という疑問である。
 氏の目的は何だったのだろう。大使ともなれば、片言隻句、一
 挙手一投足に至るまで意図があり、国益への深慮遠謀がなけれ
 ばならない。この発言により都に対し購入をやめさせようとし
 たのだろうか。もしそうであれば、国内の問題であり、アンダ
 ーテーブルで動くべきものである。まさかこの発言で中国側を
 宥めようとしたのでもあるまい。いずれにしても、この評論家
 的発言の意図が分からない。──「JBプレス」における宇佐
 静男氏の論文「何に怯えている丹羽宇一郎・前中国大使」より
        http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36937
―――――――――――――――――――――――――――――
 丹羽氏は、この特別手記のなかで、尖閣問題の解決策について
も論じていますが、それは明日のEJで述べるとして、丹羽氏と
日本の外務省の行ったきわめて重大な、かつまずい対応について
述べておきます。
 それは、2012年3月に明らかになった新潟市の県庁近くの
1万5千平方メートルの土地が中国総領事館と売買契約されてい
たことが明らかになったあの事件です。この事件にはウラがある
のです。
 2011年7月、日本政府は北京に新しい日本大使館を完成さ
せたのですが、中国政府は申請のなかった吹き抜けが建築されて
いるとして、大使館の使用を認めなかったのです。
 丹羽大使は、自分の力では解決できず、外務省に解決を委ねた
のですが、そのさい中国側は、新潟と名古屋の土地の買い取りに
ついて、日本政府に便宜をはかるよう要求してきたといいます。
明らかに中国は大使館の使用に難くせをつけ、それを許す見返り
としてバーター取引を要求してきたのです。
 通常の国であれば、このような不当なことに屈するはずはなく
出るべきところに出て決着をつけるでしょうが、野田政権は中国
のこの不当な要求に屈し、屈辱的な対応をとったのです。弱腰外
交の典型そのものです。
 現在、日本国内にある中国大使館・総領事館は7か所ですが、
すでに東京・大阪・福岡・札幌・長崎の5か所は中国政府に土地
を所有されてしまっています。そして残る2か所が、新潟と名古
屋なのです。しかし、新潟については反対運動が起きており、現
在も解決にいたっていないのです。 ―─ [日本の領土/84]

≪画像および関連情報≫
 ●丹羽宇一郎在中国日本大使の恥ずべき事なかれ主義外交
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「Voice」3月号に2010年7月より在中国日本大使
  を務める丹羽宇一郎氏へのインタビュー記事が掲載された。
  私はしばし呆れた。氏について、赴任当初から気にかかるこ
  とがあった。氏が著書『新・ニッポン開国論』(日経BP)
  で老人は退くべしとして、「極端なことを言えば、70歳を
  過ぎたら全員一線を退くという法律を作った方が良いくらい
  だ」と書きながら、自身は71歳で大使に就任したことだ。
  それから1年半が過ぎたいまなお、70歳以上の排除を法制
  化せよといった氏は、「日中友好に尽くしたい」と現職にと
  どまる意向だ。自分以外の70歳以上は引退させるべきだが
  自分だけは例外と考える自己愛の驕りの人物に大使職が務ま
  るのか。大使は、日本の国益を最前線で担う。強い意志と国
  家観、広い視野、洞察力、熱い祖国愛を備えていなければな
  らない。氏がそうした資質に決定的に欠けることは、赴任後
  間もない10年9月7日に発生した尖閣諸島領海侵犯事件へ
  の対応にも明らかだ。事件発生当初から中国政府は丹羽大使
  を呼びつけた。7日に続いて10日には中国外相が12日深
  夜には外相より格上の戴秉国国務委員が呼びつけた。「Vo
  ice」の同件についての問いに、丹羽氏はまともに答えず
  山本五十六の言葉を引用した。「苦しいこともあるだろう。
  腹の立つこともあるだろう。これらをじっとこらえていくの
  が男の修行である」。      ──櫻井よしこのコラム
         http://yoshiko-sakurai.jp/2012/02/18/3470
  ―――――――――――――――――――――――――――

丹羽前中国大使の記事の出ている「文藝春秋」.jpg
丹羽前中国大使の記事の出ている「文藝春秋」
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月06日

●「尖閣が係争地と認めるべきか否か」(EJ第3481号)

 「文藝春秋」90周年記念2月特大号において、前中国大使・
丹羽宇一郎氏は、尖閣問題をめぐる日中関係解決の方向について
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 尖閣諸島をはじめとする領土主権にかかわる問題に日本はどの
 ように対処すべきか。これまで日本政府は、尖閣諸島について
 「歴史的経緯、国際法に照らし合わせても、我が国固有の領土
 であり、領有権をめぐる問題はない」という主張を貫いてきま
 した。しかし、北京に渡れば、尖閣諸島をめぐつて、日中間で
 「係争」となっています。もはや、尖閣諸島をめぐる領土主権
 で、「問題」、「係争」のどちらで呼ぶかなど、言葉の使い方
 にこだわることなく、「外交上の争いがある」と、両国は認め
 る時期ではないでしょうか。そうしないと中国との交渉のテー
 ブルに着くことすらできません。
     ──『文藝春秋』2月特大号所載の丹羽宇一郎氏論文
             「独占手記/日中外交の真実」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 「日中の間に領土問題はない」──これは日本側の主張です。
なぜ、そのようにいうのかというと、日本が尖閣諸島を実効支配
しているからです。しかし、実効支配のレベルは低く、島への定
住者もいないし、もし島に近づく船があると、海上保安庁の巡視
船が出動して領海から出るよう警告するだけです。つまり、警察
行動を行っているわけです。
 竹島は現在韓国が実効支配をしています。しかも武力によって
実効支配をしているので、日本はその海域には近づけません。つ
まり、実効支配のレベルが尖閣よりも高いのです。そのうえで韓
国は「日韓の間に領土問題はない」といっていますし、日本が国
際司法裁判所で決着をつけようといっても、「領土問題はないの
だから、そんなことをする必要はない」といって、国際司法裁判
所への提訴を拒否し続けています。
 日本と同様に「尖閣はわが国固有の領土」と主張する中国はど
のようにして日本の実効支配を覆そうとしているのでしょうか。
竹島の場合と違って、尖閣諸島には軍隊が常駐しているわけでは
ないので、中国は毎日のように公船を繰り出して、日本と同じ立
場を取ろうとしているのです。
 つまり、現在中国の公船と海上保安庁巡視艇は、お互いに「こ
こはわが国の領土だから、領海の外に出なさい!」といっていま
す。中国の狙いは、日本に「日中間には尖閣諸島という領土問題
があることを認めさせる」ことです。
 もうひとつ厄介なことがあります。それは、中国が領海だけで
はなく、領空侵犯もはじめていることです。詳しいことはわかっ
ていませんが、中国は、陸上は警察があることは当然のこととし
て、海と空にも海上保安機関があることです。海の保安機関とし
ては次の2つがあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.    国家海洋局海監総隊 ・・ 海監
    2.農業部企業局・中国漁政総隊 ・・ 漁政
―――――――――――――――――――――――――――――
 尖閣諸島の海域にしきりとやってくる中国の公船には「海監」
の文字があります。国家海洋局に所属する公船です。さらに中国
は、2004年から航空警察業務を開始しているのです。国家民
用航空総局に所属する部隊です。
 これに対して日本は、陸には警察庁、海には海上保安庁があり
陸と海の保安活動は万全ですが、航空警察はないのです。そのた
め、もし、領空侵犯が起きると、航空自衛隊がスクランブルで発
進します。
 仮に「海監」が尖閣付近の海域を領海侵犯したとします。それ
に対して海上保安庁の巡視船が出てくる分には、両国とも保安活
動であると主張するので、戦争に発展する恐れはありませんが、
もし、海上自衛隊の護衛艦が出てきた場合は中国も軍艦を出し、
海戦になる恐れがあります。実は中国は、それを待っているフシ
があるのです。しかし、日本は辛抱強く耐えています。
 しかし、領空侵犯の場合は事情が異なるのです。現在、尖閣諸
島の領空を侵犯してきているのは、国家海洋局に属するプロペラ
機です。中国側にいわせると、これは空の保安活動であると主張
するでしょう。
 ところが日本の場合は、航空警察はないので、航空自衛隊の要
撃機がスクランブルをかけます。つまり、中国側にいわせると、
空の場合は「航空警察機VS航空自衛隊要撃機」の対決になるの
です。これは自衛隊法第84条に基づく「対領空侵犯措置」であ
り、国際的にどこの国でも認められている措置です。今のところ
領空を侵犯してもすぐ出ているので、問題になっていませんが、
トラブルの起きる恐れは十分にあります。
 中国は、あくまで保安活動であるとして、領海と領空の侵犯を
繰り返していますが、その狙いは「尖閣諸島が係争地であること
を日本に認めさせる」ことにあります。それに近い発言を公明党
の山口代表は今年に入って訪中し、中国要人に述べていますし、
前中国大使の丹羽宇一郎氏も『文藝春秋』誌上で同じ趣旨の主張
をしています。両者のいっていることは、次のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 尖閣諸島は日本固有の領土であり、日中両国間に領有権をめ
 ぐる争いはないが、外交上の争いはある。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、日本が外交上の争いがあることを認めたら、中国は尖閣
棚上げを提案してくると思います。「争いがある」から棚上げで
きるのであって、「争いのない」場合は棚上げなどする必要がな
いのです。
 しかし、棚上げはいつまでも続かないのです。仮に棚上げをし
たとしても中国は必ず今回の規模をはるかに上回る攻勢を日本に
仕掛けてくるはずです。そのときは、きっと日本は現在よりも不
利になる恐れがあります。     ―─ [日本の領土/85]

≪画像および関連情報≫
 ●丹羽前中国大使の主張に強い違和感を覚える/宇佐静男氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  (丹羽前中国大使は)そもそも中国との領有権問題について
  交渉のテーブルで解決できると考えているのであろうか。も
  しそうであれば、あまりにもナイーブ過ぎる。(中略)「係
  争の存在」を認めてテーブルに着けという交渉の目的は何で
  あるのか。このままでは中国の軍事力行使がやがて生起する
  と情勢を判断し、それを防ぐためと考えたのか。もしそうで
  あれば、低い軍事的知見によって情勢判断を誤っていること
  になる。「歴史的経緯、国際法に照らし合わせても我が国固
  有の領土」であると述べる尖閣諸島について「係争の存在」
  を認めることは、日本側の譲歩であるに違いない。記者会見
  で、「日本が係争の存在を認めれば中国の挑発行動は治まる
  か」との問いに対して丹羽氏は「それ以外、道はない」と述
  べた。相手のブラフに怯えて展望なく譲歩するのは外交の敗
  北であり、まさに中国の思う壺である。
        http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36937
  ―――――――――――――――――――――――――――

海と空からの日本領土侵犯.jpg
海と空からの日本領土侵犯
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月07日

●「日本の取るべき策は限られている」(EJ第3482号)

 2013年1月30日に日中の間でとんでもない事件が発生し
たのです。東シナ海を航行中の中国のフリゲート艦から、約3キ
ロ離れた場所にいた海上自衛隊護衛艦「ゆうだち」にレーダーが
照射されたのです。
 レーダーといってもいろいろあるのです。目標を捜索するため
の対空用レーダーと対水上用レーダー、自艦の位置や針路を決め
るために使われる航海用レーダーなどです。これらとは別にミサ
イルなどを発射する前に目標との距離、針路、速度、高度などを
正確に把握するためのレーダーもあります。このレーダーを「火
器管制レーダー」というのです。
 実は、海自護衛艦「ゆうだち」に照射されたのはこの火器管制
レーダーなのです。これを照射されると、軍艦などでは、電波探
知装置を使って相手を識別し、自艦がミサイルなどの攻撃対象に
なっていることがわかります。この場合、直ちに回避行動をとる
か、国際法上は反撃してもよいことになっています。
 したがって、火器管制レーダーは相手を威嚇のために使うもの
ではないのです。なぜなら、これを照射するということは相手を
攻撃するためであり、照射される方から反撃される可能性がきわ
めて高いからです。米軍なら瞬時に反撃します。
 この問題をめぐって、誰が指示を出したかが問題になっていま
す。中国首脳が出したのか、それとも現場の指揮官が出したのか
です。テレビなどで中国の専門家は、現場の指揮官ではないかと
述べていましたが、これが最も危ないのです。
 現在、人民解放軍では日本との開戦論が高まっており、総参謀
部が全軍に「戦争の準備をせよ」と指示し、軍の高官が自衛隊機
や艦船への攻撃に「賞金を出す」などのげきを飛ばしているとい
われます。
 おそらく中国は日本の反撃を誘っているのだと思います。また
こういう挑発的行動を行い、「領土問題の存在」を世界に向かっ
て訴えようとしているのだと思います。こういう事態が頻発する
と、東アジアの安定を望む国際社会が仲裁に乗り出してくる可能
性があります。そうなると、日中間には領土をめぐる紛争がある
ことが世界各国の共通認識になる恐れがあります。
 したがって日本としてはこれには冷静に対処し、あくまで「日
中間には領土問題はない」という姿勢を貫くしかないのです。間
違っても国内世論として、尖閣諸島を係争地であることを認める
意見や、棚上げ論が浮上するのは好ましくないのです。少なくと
もこの時点では好ましくないのです。
 外交問題として対話で解決する──このようにいう人は多いで
すが、領土問題は対話では解決しないのです。習近平総書記は、
山口公明党代表に対し、対話で解決すべきだといったそうですが
それなら、尖閣を海と空から威嚇する恫喝を直ちにやめるべきで
す。威嚇や恫喝の下では、対話など成立しないからです。
 対話しても解決しない場合、国際司法裁判所に提訴すればよい
という意見を述べる人がいます。しかし、これは既に述べている
ように、全く意味がないことです。中国は尖閣諸島が中国領であ
るという裁定が出ない限り、それに従わないでしょう。
 国際司法裁判所の裁定に従わないと、国連の制裁対象になりま
すが、中国は常任理事国の一つですから、拒否権を使ってそれを
潰すに決まっているからです。
 これには前例があるのです。1986年のことですが、ニカラ
グアから撤退するよう国際司法裁判所から命令された米国は、そ
れに従わず、安保理における米国非難決議で、拒否権を発動させ
て潰しています。したがって、国際司法裁判所の裁定など、問題
の解決にはならないのです。
 対話とか、国際司法裁判所の裁定を主張する人は、そこまで考
えて、そういう発言をしているのでしょうか。このように考えて
いくと、日本の取るべき方策は自ずと限られてくるのです。それ
は次の3つに絞られます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.「領土問題はない」という主張をあくまで貫く
   2.可能な限り尖閣諸島の防衛体制の強化をはかる
   3.米国との連携を強め日米安保体制を強化させる
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」に関しては、現在日本政府はこの主張をしており、何が
起きても、引き続きこの主張を貫くことが必要です。このさい、
間違っても、国内世論として「棚上げ」論などが出ないようにす
る必要があります。
 「2」に関しては、安倍政権はこのための対策を取りつつあり
ます。まず、防衛予算の増額を決めています。防衛関係費は対前
年度比400億円(0・8%)増の4兆7538億円。在日米軍
再編の地元負担軽減分の経費などを除くと、4兆6804億円に
なっています。尖閣諸島周辺で活動を活発化させている中国に対
応するため、11年ぶりの増額になっています。
 巡視船12隻体制で、乗務員になる職員400人規模の尖閣専
従チームを結成します。新規採用枠では足りないので、定年延長
の枠組みを検討します。また、宮古島(沖縄県)と高畑山(宮崎
県)の地上レーダーを最新型のFPS7に89億円で更新し、捕
捉範囲や精度を向上させるなど、尖閣諸島の防衛体制を固めつつ
あります。
 「3」に関しては、2月に予定されている安倍首相とオバマ大
統領との会談が重要なカギを握ります。オバマ大統領の外交姿勢
はどちらかというと中国寄りですが、クリントン前国務長官によ
る「日本の施政権を損なおうとするいかなる一方的な行為にも反
対する」との発言以来、米軍による尖閣周辺の守りは強化されつ
つあります。
 米軍は、抑止力と万一に備える目的を兼ねて、沖縄・嘉手納基
地(嘉手納町など)に最強のステルス戦闘機を配備し、かなり頻
繁に東シナ海に空中警戒管制機(AWACS)を投入し、情報を
収集しており、中国をいらだたせています。こういう事態になる
と米国の存在は大きいのです。   ―─ [日本の領土/86]

≪画像および関連情報≫
 ●尖閣奪取で戦争するのか/外交部の洪磊報道官
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国政府・外交部の洪磊報道官は1月21日の定例記者会見
  で、「(尖閣諸島奪取のため、日本と)一戦を交える準備を
  すべきだとの報道がある」との指摘を受け、「われわれは一
  貫して、対話と交渉で領土問題の争いを解決したいと主張し
  ている」と説明した。出席した記者から「中国の一部メディ
  アは、釣魚島(尖閣諸島の中国側呼称)について、日本と一
  戦を交える準備をすべきだとの報道があるが、中国政府はど
  のような立場か」との質問が出た。洪報道官は、尖閣諸島の
  主権について「中国の国家領土の主権を防衛する意志は固く
  変わることはない」と述べた上で「われわれは一貫して、対
  話と交渉で領土問題の争いを解決したいと主張している」と
  説明。日本に対しては「釣魚島の問題について、適切に冷静
  に対応し、誠意を明らかに示してほしい。中国側と歩調を合
  わせて、交渉によって妥当な解決策と問題を大きくしない方
  法を探してほしい」と述べた。
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2013&d=0122&f=politics_0122_008.shtml
  ―――――――――――――――――――――――――――

海自護衛艦「ゆうだち」.jpg
海自護衛艦「ゆうだち」
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(4) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月08日

●「尖閣について日本は『待つ』べき」(EJ第3483号)

 日本の護衛艦への中国軍艦からの火器管制レーダー照射問題に
ついて、中国外務省報道官は「知らなかった」と答えています。
そんなことが本当にあり得るのでしょうか。
 2月6日のBSプライムニュースに出演した元海上幕僚長古圧
幸一氏は「そんなことはあり得ない」と答えています。元海上自
衛隊海将補の田口勉氏は7日のテレビ朝日の番組で、「これは戦
争の一歩手前の状況であり、現場が勝手に判断できることではな
い」と述べています。
 しかし、中国側が予想していなかったのは、日本政府がその事
実を公表したことです。中国としては事実を認めるわけにはいか
ないので、報道官のああいうコメントになったのです。つまり、
「現場の暴走」であることを匂わせるコメントです。しかし、本
当に現場の暴走であったとすれば、中国は日本に対して謝罪する
必要がありますが、謝罪など絶対にしないでしょう。
 民主党政権時代にもこの火器管制レーダー照射は、尖閣国有化
以前も含めて複数回あったという報道が相次いでいます。野田首
相や岡田副総理は、中国との関係を悪化させたくないという判断
で、最悪の場合、武力衝突に発展しかねない中国の挑発行為を国
民に隠蔽していたのです。どうしようもない政権です。
 中国側からみると、今まで一度も公表されていないので、今回
も公表はないだろうと考えていたら、いきなり公表されたので、
うろたえたというのが真相でしょう。
 中国は、尖閣諸島については軍事力を行使しないと自国領にで
きないと考えています。しかし、米国の存在があり、それをやる
には時期を選ばなければならないとも考えています。それが、習
近平総書記が山口公明党代表に話したという「対話での解決」の
真意であると考えられます。
 「時期を待つ」ということは意義のあることです。時間が経つ
と中国の事情が変わります。もちろん日本も同様です。ここで事
情とは、経済の状況、指導者の交代、世界に占める位置づけなど
いろいろあります。現在よりももっと事態が厳しくなることも考
えられますし、逆の場合もあり得ます。そういう意味で日中とも
に「時間を稼ぐ」ことは意義のあることです。
 前中国大使の丹羽宇一郎氏も、次のように「時期を待つ」に近
いことを述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 相場の世界には「森羅万象、売りか、買いか」という言葉があ
 ります。情報を集めて、売った方がいいのか、買った方がいい
 のか判断するという二択の考え方です。しかし、本当の相場の
 プロは、この二つの選択肢だけでなく、「待つ」「休む」とい
 うカードをもっている。今の尖閣諸島をめぐる日中の状況を考
 えると、この「待つ」という判断が必要なのではないかと私は
 考えています。そうすると、大使や外交官に対して、「何も動
 いていないじゃないか」と短絡的になる人もいますが、すぐに
 拙速な行動をとり、相手国を刺激する外交官は、相場の世界と
 同様、決してプロとはいえません。どのタイミングで自国の主
 張をするべきか。各方面から情報を集め、分析する時間も外交
 には求められます。その情報を入手し、分析するのは、外務省
 の現場です。      ──『文藝春秋』2月特大号所載の
     丹羽宇一郎氏論文「独占手記/日中外交の真実」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この丹羽氏の主張には一理あります。ここは中国の挑発に乗ら
ず、辛抱して「待つ」のはひとつの方策であると思います。しか
し、これは宇佐静男氏も指摘していることですが、丹羽氏はその
一方で、「尖閣が係争地であることを日本は認めよ」と述べてい
るのです。これは絶対にやってはならないことです。
 中国側の戦略は、日本に対して尖閣諸島は日中の係争地である
ことを認めさせ、そのうえで話し合いに持ち込もうとしているの
ですが、日本としてはそれには乗れないのです。なぜなら、係争
地であることを認めると、中国に尖閣諸島について大幅に譲歩す
ることになるからです。
 日本は、これまで通り「日中間に領土問題はない」を貫き、冷
静に、辛抱強く、海保による実効支配を維持した今の状態を継続
することが必要なのです。これに関して、ジャーナリストの福島
香織氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本政府にできることは限られている。中国は政治、経済、社
 会の全方位的圧力を日本にかけるだろうが、その圧力に右往左
 往しないことだ。当面は忍耐をもってしのぐ。同時に反日デモ
 の本質は中国内政に原因があると国内外に訴えることだ。
       ──日経ビジネス「新国境論」所載の福島香織氏
    論文「棚上げ論はもう限界/国際社会を日本の味方に」
―――――――――――――――――――――――――――――
 2月7日付の日本経済新聞夕刊によると、米国政府は、中国海
軍の艦船が海上自衛隊の護衛艦に火器管制レーダーを照射した問
題について、中国政府に直接説明を求めているそうです。
 尖閣諸島周辺での挑発行為を再三要請しているにもかかわらず
無視するかたちで挑発レベルを跳ね上げたことを問題視したから
です。これに関して中国外務省は「事実関係を調査する」と述べ
るにとどめています。
 これは、日本にとって心強い支援になります。中国が軍事力を
使って、今回のようなあまりにも常軌を逸した乱暴な行動を取り
続けていると、やがて国際社会から批判や指弾を受けるようにな
り、国家として大きなマイナスになります。パネッタ国防長官も
この問題について次の発言をしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国と日韓両国は強固な同盟関係である。地域の安全確保にあ
 らゆる努力を払うつもりである。このことを中国の指導部に言
 たい。              ──パネッタ米国防長官
―――――――――――――――――――――――――――――
                 ―─ [日本の領土/87]

≪画像および関連情報≫
 ●「中国を変えるのは革命しかない」/福島香織氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  北京の中国人フリージャーナリストは「辛亥革命100周年
  記念で、辛亥革命当時に思いをはせると、今の中国が驚くほ
  ど清朝末期に似ている、ということに気づいてしまう」とい
  う。官僚の腐敗と汚職の状況しかり。改良主義運動(政治改
  革)の停滞しかり。経済の「国進民退(国有中央企業が擁護
  され、民間企業が衰退する)」の状況しかり。しかも、政府
  系シンクタンクの非公式統計によれば昨年の集団事件(暴動
  官民衝突)は18万件を超えている。その前の年は10万件
  などという数字を挙げていたことを考えれば倍増近い。彼は
  さらにこう言った。「ちょうど、六中全会(第17回共産党
  中央委員会第6回全体会議)が開催され、来年の政権交代に
  向けた人事が話し合われているのに、実は知識分子たちが以
  前ほど、政権の人事に興味を持たない。以前は次の体制の人
  事についての予測と分析が我々の関心事だった。でも、もう
  政権内部から中国を変えてくれるなどと、少しでも期待する
  のがばかばかしくなった。今は中国を変えるのは革命しかな
  い、という気分になってくるね」。
  http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20111017/223248/?P=2
  ―――――――――――――――――――――――――――

中国・小野寺防衛相発言に反発.jpg
中国・小野寺防衛相発言に反発
posted by 平野 浩 at 03:17| Comment(5) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月12日

●「敵国条項まで利用して尖閣を獲る」(EJ第3484号)

 中国海軍の火器管制レーダーの照射問題は、日本の安全保障に
とって深刻な問題になりつつあります。習近平総書記は一体何を
考えているのでしょうか。
 習近平氏は、日本の尖閣諸島国有化後の2012年9月19日
に人民大会堂で米国のパネッタ国防長官と会見していますが、そ
のときの発言をもう一度検討してみることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪パネッタ米国防長官に対する習近平氏の発言≫
 1.米国は平和と安定の大局から言動を慎み、釣魚島の主権
   問題に介入しないよう希望する。
 2.日本の軍国主義は中華民族に深刻な災難を引き起こした
   だけでなく、米国を含むアジア太平洋国家に巨大な傷跡
   を残した。
 3.国際社会は、反ファシスト戦争勝利の成果を否定する日
   本の企みや、戦後の国際秩序に対する挑戦を絶対に認め
   ない。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このとき、習近平氏はまだ総書記に就任していませんが、既に
事実上の総書記であり、その発言は注目に値します。
 「1」は、中国がかねてから主張していることです。中国とし
ては局地戦を展開して、尖閣諸島を奪取したいが、米国の出方が
気になるので、米国に対し、このような発言をして、さまざまな
牽制をしてきています。「2」は満州事変のことをいっているの
です。江沢民元総書記がいつもいっていたことをそのまま踏襲し
て述べています。
 「3」の「反ファシスト戦争」とは、第二次世界大戦のことで
す。気になるのは、中国が現時点になっても日本をファシスト呼
ばわりし、日本がその戦争の敗者であることを強調していること
です。それにしても、日本が戦後の国際秩序を乱しているような
表現は失礼な話であり、その言葉をそのまま中国にお返ししたい
と考えるのは私だけではないでしょう。
 2012年9月19日時点の習近平氏のこの発言とそっくりの
発言が、11月6日のラオス・ビエンチャンで開催されたアジア
欧州首脳会議(ASEM)において、中国の楊外相によってなさ
れているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪ASEMにおける中国楊外相の発言≫
 1.尖閣問題に関する中国政府の立場は、私が国連総会で明
   確にしたとおりであるが、重ねて次の点を強調しておき
   たい。尖閣国有化によって日本は、中国の侵略を行って
   いる。
 2.日本は反ファシズム戦争の結果を否定してはならない。
   日本の行動は、戦後の国際秩序と原則への重大な挑戦で
   ある。
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに中国は、尖閣国有化は中国領土に関する日本の侵略行
為であるといいたいのです。そのために「2」のフレーズを必ず
繰り返すのです。
 この発言ではっきりしたことがあります。中国は、野田政権が
尖閣国有化をしたことによって、これを尖閣諸島を奪い取る絶好
のチャンスととらえたのです。しかし、米国の存在がうるさい。
ただ、ひとつだけ、米国を押える方法があるのです。それは、国
連憲章の「敵国条項」を使うことです。これは、中西輝政京都大
学名誉教授が指摘していることです。国連憲章の関連部分を次に
示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 第53条
 1.安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のため
   に、適当な場合には、前記の地域的取極または地域的機関
   を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会
   の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関に
   よってとられてはならない。もっとも、本条二に定める敵
   国のいずれかに対する措置で、第百七条に従って規定され
   るもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域
   的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基い
   てこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を
   負うときまで例外とする。
 2.本条一で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの
   憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される。
 第107条
   この憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中にこの憲章
   の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について
   責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可し
   たものを無効にし、又は排除するものではない。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国連憲章第53条第2項でいうところの「第二次世界戦争中に
この憲章のいずれかの署名国の敵国」とは、日本とドイツのこと
を意味しています。
 要するに中国は、尖閣国有化の行為を中国への侵略行為である
といいたいわけです。中国が日本のことを戦後国際秩序を乱す国
というのもこれを指しているのです。
 国連憲章の「敵国条項」は、日本とドイツが、戦後において他
国の侵略を行うなど、国際秩序を乱す行為を行ったときは、国連
憲章第53条の規定にもかかわらず、その該当国の政府は独自の
判断にしたがって、安全保障理事会にはかることなく、軍事的制
裁を行うことができるということを規定しているのです。
 もし、中国がこの敵国条項を使うと宣言して日本に対して軍事
行動に出た場合、米国はどう動くでしょうか。米国の立場として
は日米安保条約を守らなければなりませんが、国連憲章を無視す
るわけにもいかないという理屈も成り立つのです。少なくともひ
るむことは確かです。       ―─ [日本の領土/88]

≪画像および関連情報≫
 ●国連の「敵国条項」かざす中国の危険/MSN産経ニュース
  ―――――――――――――――――――――――――――
  京都大学名誉教授の中西輝政氏は中国がこの敵国条項を「日
  米安保を無効化する“必殺兵器”であると考えている可能性
  が高い」と見る。国連憲章の53条と107条は、日独など
  旧敵国が侵略行動や国際秩序の現状を破壊する行動に出たと
  き、加盟国は安保理の許可なく独自の軍事行動ができること
  を容認している。日本の尖閣国有化を憲章の「旧敵国による
  侵略政策の再現」と見なされるなら、中国の対日武力行使が
  正当化されてしまう。中国はこの敵国条項を援用して、日米
  安保条約を発動しようとする米国を上位の法的権威で封じ込
  めようとする策謀だ。この敵国条項については、1995年
  12月の国連総会決議で、日独が提出して憲章から削除を求
  める決議が採択されている。憲章の改定には3分の2以上の
  賛成が必要なために、決議によって条項を死文化することに
  した。確かに、この決議はいつの日か憲章を改定するときが
  あれば「敵国条項を削除すべきだと決意された」のであって
  厳密にはいまも残っている。
  http://sankei.jp.msn.com/world/news/121212/chn12121207530002-n2.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

中西輝政京都大学名誉教授.jpg
中西 輝政京都大学名誉教授
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月13日

●「尖閣沖海戦で日本は勝利できるか」(EJ第3485号)

 中国が国連憲章第53条の「敵国条項」を使って尖閣諸島を軍
事的に獲りに来る──そんなことをほとんどの日本人は意識した
ことはないと思います。しかし、中国は本気です。昨年来の習近
平氏や楊外相の発言は明らかにそれを念頭に置いています。
 それにしても、なぜいまだに「敵国条項」が存在しているので
しょうか。日本の外交当局は、なぜこの問題をそのままにしてお
いたのでしょうか。
 実は日本もドイツも機会を狙っていたのです。機会とは、19
95年、国連創設50周年です。この年に削除を求める決議案を
出そうというわけです。そして実際に1995年12月の国連総
会決議において、日本とドイツが共同提案国になって提出された
「敵国条項の削除を求める決議案」が決議されたのです。しかし
憲章の改定には3分の2以上の賛成が必要なために、決議によっ
て条項を死文化することにしたのです。
 それなら、いいじゃないかと思うなかれ、この決議はいつの日
か国連憲章を改定するときがあれば、敵国条項を削除するという
ことであって、条文はそのまま残っているのです。中国はそんな
ことはまったく気にしないでしょう。条文が残っていれば、国益
であると称して何でもやってくる国です。
 中西輝政氏は「外交は機先を制すべし」として、次のように政
府に対し、警告しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここまであからさまに中国が動いてきた以上、もはや一刻の猶
 予もない。事ここに至っては、日本の新政権誕生の直後にもわ
 が国の存立を脅かしかねないこの懸念を明るみに出し、予め警
 鐘を鳴らす必要があると考えるに至った。外交は機先を制さな
 ければならない。外務省、政府、そして官邸が一体となつて、
 早急に敵国条項の実質的空文化を再確認する決議を国連の場で
 強力に推進し、あわせてアメリカ政府や国際社会に対し、「敵
 国条項を中国が持ち出す可能性がある。総会で、撤廃に向けた
 より強い失効決議に賛成してもらいたい」と働き掛け、「この
 ままでは中国に国連憲章を悪用されることになり、アジアの平
 和は瓦解する」と広く、そして大きな声で国際世論に訴えるべ
 きだ。多くの欧米紙に一面広告を出してもいい。「常任理事国
 入り」などという幻想を追うのではなく、この条項の削除にこ
 そ、何百億円をつぎ込んでも無駄にはならないはずだ。繰り返
 すが、それは日々、日本の存立を脅かし続けているのだから。
     ──「WiLL」/新春超特大号所載中西輝政氏論文
―――――――――――――――――――――――――――――
 果たして安倍首相は、中西輝政氏の論文に気がついているので
しょうか。日米首脳会談でも安倍首相はオバマ大統領に直接訴え
る必要があると思います。
 しかし、果たして中国が敵国条項を盾に戦争を起こしたとき、
国際社会がそれを認めるかというと、それはかなり困難であると
思われます。なぜなら、敵国条項を死文化するための決議までし
ているからです。
 しかし、相手は中国です。何をしてくるか予断を許さないので
す。いずれにせよ、このような事態になると、尖閣沖海戦がいつ
起こっても不思議はないのですが、大事なことは中国から戦いを
仕掛けられたとき、最初に戦うのは日本の自衛隊であるというこ
とです。ここは大事なポイントです。
 なぜなら、尖閣に対して中国から攻撃が加えられたとき、尖閣
諸島は日本の領土なのですから、日本が守らなければ、日本の施
政権下にあるとはいえないからです。これを確認してはじめて米
軍が動くことになります。その日本単独で中国と戦うとき、日本
が勝てるかどうかです。これについてロシアの軍事専門家は、中
国が尖閣諸島奪取を図った場合の戦況シミュレーションの結果と
して、次のように結論づけています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国は膨大な犠牲を出したうえで尖閣諸島に上陸可能だろう
 が、日米安保条約によって出撃する米軍に破れるだろう。
  ──宮崎正弘著『習近平が仕掛ける尖閣戦争』/並木書房
―――――――――――――――――――――――――――――
 島嶼上陸作戦の場合、上陸するのだけが目的ではないのです。
上陸部隊に対して継続して物資を補給するルートを確保しなけれ
ばならないからです。これが難しいのです。当然日本としては、
上陸されたら、補給路を断つ作戦に出るからです。そうなると、
かぎを握るのは制空権を日中どちらが握るかです。
 これについて、ロシア地政政治学院のカスダンディン・シフコ
フ第一副院長は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国は数量で日本を圧倒しており、島を奪取する目的ならば、
 戦闘機を400から500機出動させ、ディーゼル潜水艦20
 隻、原子力潜水艦3隻を動員可能。さらに大量のミサイル艦も
 出動できる。ところが日本はといえば、戦闘機など150機、
 ディーゼル潜水艦、護衛艦など数隻であり、兵力は中国の2分
 の1でしかない。中国空軍は旧型機が主体で、日本の戦闘機は
 能力面で決定的に優勢なうえに、中国はAWACS(早期空中
 警戒機)を欠き、日本側は制空権を確保できるだろうから、数
 と質の両面を勘案すれば日中の戦力は拮抗している。中国空軍
 は戦闘機150機程度が撃墜され、日本側は航空機数10磯が
 撃墜されるだろう。したがって米軍が日米安全保障条約にもと
 づき全面介入すれば、中国軍は撃退される。米国が介入する可
 能性は極めて高く、中国側は軍事行動に出ることを控えると見
 られる。むしろ中国は日本に対して経済制裁などの強い措置を
 とるだろう。         ──宮崎正弘著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、こう結論づけているのです。もし、中国軍が尖閣に上
陸すると、大きな犠牲を払うことになり、短期間の局地戦では日
本が実質的に勝利するといっているのです。しかし、長期的には
もたないことは明らかです。    ―─ [日本の領土/89]

≪画像および関連情報≫
 ●海戦では圧勝だが、沖縄が日本から分離していく/佐藤優氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  本誌連載「ニッポン有事!」でおなじみの佐藤優氏は「尖閣
  を巡る最悪シナリオ」について、特別手記を寄せてくれた。
  尖閣諸島をめぐる日中間の最悪シナリオは、武力衝突後にお
  ける日本の国際的孤立と沖縄の分離傾向の加速化だ。尖閣諸
  島周辺の日本領海に中国の漁業監視船などの政府船舶が侵入
  を繰り返すと、いずれ激しい衝突が起き、軍艦が出動してく
  ることになる。尖閣沖海戦が起きれば、装備も古く乗員の訓
  練も高くない中国のおんぼろ艦隊に対して、わが海上自衛隊
  は圧勝する。中国の地上部隊が魚釣島を強襲した場合、本格
  的な局地戦争になるが、最終的にはわが自衛隊が中国軍を放
  逐できると思う。尖閣で敗北した中国軍が、報復で沖縄の嘉
  手納基地や東京・市ヶ谷の防衛省をミサイル攻撃し、日中全
  面戦争に発展する可能性はない。日中全面戦争になれば、日
  米安保条約が発動し、米中戦争に発展するからだ。そうなれ
  ば壊滅的打撃を受けることを中国指導部は認識している。
                ──「アサ芸+(プラス)」
                http://www.asagei.com/8500
  ―――――――――――――――――――――――――――

宮崎正弘著「習近平が仕掛ける尖閣戦争」img868.jpg
宮崎 正弘著「習近平が仕掛ける尖閣戦争」
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(4) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月14日

●「尖閣諸島は占領されても奪還可能」(EJ第3486号)

 2012年2月9日のことです。米カリフォルニア州沖合のサ
ンクレメンテ島において、陸上自衛隊と米海兵隊が敵に奪われた
離島を奪還するシナリオの日米共同訓練を行い、報道関係者に公
開したのです。
 これは、中国の海洋進出をにらんだ南西諸島防衛強化策の一環
であり、米本土での陸自と海兵隊の訓練は2006年に始まり、
今回が8度目になります。陸自からは、離島防衛が主任務の西部
方面普通科連隊(長崎県)など過去最多の約280人が参加した
のです。
 実は国有化宣言後にも日米合同の離島奪還演習の予定があった
のですが、このときは中国を刺激したくないという理由で、野田
内閣は急遽中止させています。これに対して安倍内閣はレーダー
照射問題の直後であるからこそ、あえてこの演習を予定通り実施
したのです。内閣の姿勢に大きな差があります。
 ところで、離島奪還作戦といえば、離島が占領されることが前
提の作戦ですが、島を占領させない作戦の訓練をなぜやらないの
でしょうか。
 それは、日本の場合、領海に侵入してくる中国船に対しては、
海上保安庁が対処しなければならないからです。尖閣諸島に一番
近い海上保安庁の基地は石垣海上保安部ですが、そこに常駐して
いるのは、「はてるま」型巡視船──「はてるま」「よなくに」
「いしがき」──の3隻と、小型巡視船「みずき」、巡視艇「な
つづき」だけです。
 ところで、巡視船と巡視艇の違いをご存知ですか。巡視船と巡
視艇は、活動の範囲と船型の大きさで次の違いがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ◎巡視船
   外洋の広範囲な海域での活動に適した比較的大きい船型
  ◎巡視艇
   港内や沿岸の限定海域の活動に適した比較的小さい船型
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国との尖閣諸島をめぐる騒ぎで、最近では海上保安庁の巡視
船や巡視艇をテレビ上で見る機会が多いですが、知っておいて損
のない知識があります。それは巡視船についているマークです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      PLH ・・・・・ ヘリ搭載型巡視船
       PL ・・・・・ 1000トン以上
       PM ・・・・・  350トン以上
       PS ・・・・・  130トン以上
―――――――――――――――――――――――――――――
 「はてるま」型巡視船は、1000トン型の巡視船で、尖閣諸
島を守る任務を負っています。2008年からの3年間で竣工し
た新型高速船ですが、武装としては30ミリ単装機関砲一門と放
水銃しか持っていないのです。もっとも通常の海上保安業務とし
てはこれで十分ですが、尖閣諸島周辺のような状況が起きると、
新しい対応が必要になってきています。
 米国の沿岸警備隊巡視船では、76ミリ単装速射砲一門、高性
能20ミリ機関砲、遠距離の敵艦を攻撃するハープーン対艦ミサ
イルなどを標準装備しているのです。しかも、その乗員は「はて
るま」の30人の4倍の120人なのです。
 日本の尖閣周辺海域に侵入している中国の公船「海監50」と
「海監66」は重装備なのです。「海監50」は、2011年に
登場した排水量3980トンのヘリコプター搭載型の最新鋭船な
のです。これは、海上自衛隊の護衛艦「あさぎり」に匹敵する装
備なのです。つまり「海監50」は準軍艦であるといえます。
 これら重装備の「海監50」や「海監66」は日本の領海に侵
入すると、日本の巡視船が「この海域から退去せよ」と指示して
も、「ここは中国の領海であり、そちらこそ出て行け」といい返
してきています。これは、中国としては万一撃ち合いになっても
負けないということで居丈高になっているのです。
 かつて「海監」から飛び立った中国のヘリコプターが、日本の
海上自衛隊の護衛艦に異常接近したことがあったのです。水平距
離で70〜90mといった軍事の常識からいえば信じられないく
らい接近してきたのです。
 こういうようなわけで、もし中国側が最初から尖閣諸島を占領
する目的でやってくると、海上保安庁の巡視船ではそれを阻止す
ることが困難であり、島を占領されてしまうことがあり得るので
す。そのため、離島奪還作戦によって占領された島を取り戻す訓
練をしているわけです。
 さらに中国の場合は、漁船ですらただの漁船ではなく、特殊工
作船である可能性が高いのです。それを一番如実にあらわしてい
るのが、2010年9月に中国の漁船が日本の巡視船に体当たり
したあの事件です。
 これについて、軍事ジャーナリストの井上和彦氏は自著で次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2010年9月、外見上は漁船に見える中国船が尖閣諸島沖で
 追いかけてきた日本の海上保安庁巡視船に体当たりするという
 前代未聞の事件が起きた。だが、そもそも漁を生業とする漁民
 が、20ミリ機関砲を備えた海保巡視船に、果敢に体当たりす
 る捨て身の行動をとれるだろうか?しかもこの中国漁船は、初
 めてとは思えない巧みな操船技術で巡視船の後方から回り込ん
 で上手に体当たりしている。訓練を積まなければあのような危
 険な行為ができるはずはなく、ただの漁船とは到底思えない。
 ──井上和彦著「尖閣武力衝突/日中もし戦わば」/飛鳥新社
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ロシアの軍事専門家も指摘するように、もし中国が強
引に尖閣諸島を占領しようとすると、莫大なる犠牲を払わなけれ
ばならないことは確かです。そのようなことは、戦争というもの
をよく知っている中国の司令官ほど、無謀な試みであることがよ
くわかっています。        ―─ [日本の領土/90]

≪画像および関連情報≫
 ●尖閣防衛で優位に立つ自衛隊/古澤襄氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「SAPIO」の12月号に「中国尖閣占領も最後は陸上自
  衛隊の島嶼防衛部隊が奪還の予測」という軍事専門家の予測
  記事が出ている。尖閣諸島をめぐる日中の軍事衝突が発生し
  ても、短期間で日本の自衛隊の勝利で終わるという予測だが
  欧米の軍事筋も同様の見方をしている。私見だが中国も彼我
  の軍事的な実力差を承知しているから、軽々に尖閣諸島の軍
  事行動に出ないとみる。だが10年後を予測すると増大する
  中国の軍事力には、日本単独では勝てない。したがって日本
  は日米安保条約に基づく集団的な防衛体制を背景にして、政
  治外交面で中国の野心を押さえ込むことが必要になろう。そ
  のためには逆説になるが、日本は経済面で中国とは良好な関
  係を再構築する外交努力が必要になる。同時に日中の軍事面
  での交流が必要である。いたずらに中国を敵視せず、また中
  国を怖れる後ろ向きの態度をとるべきではない。漁民を装っ
  た人民軍兵士が上陸するなどして尖閣諸島が中国に占領され
  た場合、日本の自衛隊はどのように動くのか。魚釣島を奪還
  できるのか。    http://blog.kajika.net/?eid=1002176
  ―――――――――――――――――――――――――――

米本土での離島達観作戦.jpg
米本土での離島達観作戦
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(3) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月15日

●「武力での解決を望んでいない中国」(EJ第3487号)

 12日の「夕刊フジ」の加賀孝英氏の情報によると、中国は軍
のなかに「釣魚島奪還特殊作戦部隊」を創設したといわれます。
そして、日米首脳会談の行われる2月の下旬か、習近平総書記が
国家主席に就任する3月の中旬が実際行動を起こすXデーと報道
しています。
 しかし、これはあり得ない話です。この時期に中国が行動を起
こすことは考えられないからです。おそらく火器管制レーダーの
照射は、共産党のトップからの指示ではなく、現場に近い軍の判
断ではないかと考えられます。
 それに中国海軍は火器管制レーダー照射だけではなく、普通の
海軍では考えられないことを何回もやってきており、レーダーの
照射も日本を牽制する方法のひとつとして実施したと思われるの
です。昨日のEJでお知らせした「海監」から発信したヘリコプ
ターが海上自衛隊の護衛艦に異常接近するなども通常では考えら
れない異常な行動なのです。海軍としてのマナーがきちんとでき
ていない国であるといえます。
 火器管制レーダーのことが問題になったとき、それが外務省に
伝えられていなかったり、数日間の沈黙があったりするところか
ら類推すると、党のトップが「これは国際的にまずいこと」と判
断して、急に日本の捏造であるといい出したのです。日本が証拠
を開示しないと判断したからです。つまり、水掛け論に持ち込む
考え方です。普通の国であれば、謝罪するのが当然のことですが
中国は謝らない国なのです。
 しかし、さすがは米国です。2月11日にヌーランド米報道官
は次のようにコメントし、火器管制レーダーの照射はあったとの
認識を示したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 火器管制レーダー照射について日本側から説明を受けている
 が、われわれは照射があったと確信している。なお、クリン
 トン国務長官の「日本の施政権を一方的に害するいかなる行
 為にも反対する」とする発言は、後任のケリー国務長官も同
 じ考えである。         ──ヌーランド米報道官
―――――――――――――――――――――――――――――
 新聞などのメディアは、中国人民解放軍の対日強硬派の発言を
好んで取り上げる傾向がありますが、中国ウオッチャーの宮崎正
弘氏は、「彼らは『はぐれ狼』的状況にある」と述べています。
つまり、反日強硬派は出世しないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 9月の反日暴動に際して、軍の最強硬派となったのは羅援少将
 である。「尖閣で軍の演習をやれ、空母は『釣魚島』と命名せ
 よ」「三沙(南沙、中沙、西沙)に軍区を作り、1師団を配備
 せよ」など、次々と強硬発言を繰り出したが、羅少将は軍内で
 の評判は芳しくない。第一にどの国の軍隊も、プロの軍人ほど
 戦争を望まないからである。タカ派的発言は国防予算獲得と装
 備近代化の合法性を得るための計算という場合が多い。羅援は
 「いずれ中国軍の力が備わったら釣魚島を奪う」と豪語したが
 これと同じように対日過激強硬発言を繰り出す軍人に大将(中
 国語は上将)はいない。(中略)中国軍縮協会理事の徐光裕少
 将は「日本は軍事衝突が起きれば、米軍が来援すると思ってい
 るようだが、それは願望にすぎず、米国が日本を守る意欲は低
 い。そもそも米国が中国とまともにぶつかる危険を冒すだろう
 か」と米軍への牽制球を投げる。強硬発言をする軍人はほぼ少
 将、中将どまりであることに注目されたい。 ──宮崎正弘著
         「習近平が仕掛ける尖閣戦争」/並木書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 以前の中国の「軍功」は、勇ましいことをいったり、反日を強
調する行為もその範疇でしたが、現在では新兵器の開発であると
か、ハイテク・エンジニア分野での業績、宇宙航空分野での成功
が重視されるようになっているのです。あからさまな反日強硬派
は表面では讃えられますが、巧妙に第一線から外されています。
 それではどのように解決するのが、一番よいのでしょうか。こ
れについて、大阪大の坂元一哉教授は、棚上げには次の2つがあ
るとしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.「良い」棚上げ
          2.「悪い」棚上げ
―――――――――――――――――――――――――――――
 「悪い」棚上げから最初に説明します。尖閣をめぐる双方の意
見対立を「領土問題と認め、その解決を将来の世代に託す」とい
うのは「悪い」棚上げなのです。なぜなら、この棚上げは「領土
問題はない」としてきた日本が一方的に中国に譲歩して、領土問
題を認めることになるからです。
 これに対して「良い」棚上げとは、日中関係の大局をふまえて
いまは領土問題にしないという棚上げです。1972年の日中国
交回復交渉において、中国の周恩来首相が田中角栄首相(いずれ
も当時)に対し、尖閣は「今回は話したくない」と述べたのは、
まさしく「良い」棚上げであるといえます。
 最近日本では、「棚上げ」論者が増えています。そういう人た
ちの主張を聞くと、「悪い」棚上げの推奨をしているように思え
るのです。いわゆる尖閣が係争地であることを認めて、棚上げに
するというのです。そして最終的には国際司法裁判所に持ち込む
という考え方です。
 しかし、ここまでみてきたように、国際司法裁判所において日
本の主張が認められても、中国は了承しないし、中国が国連安保
理の常任理事国であることを考えると、日本としてはとても勝ち
目はないと思われます。
 そうなると、ここは外交交渉を重ねて「良い」棚上げの成果を
勝ち取る努力をする必要があります。しかし、習近平総書記が軍
を本当にコントロールできるのかどうかがかぎを握っています。
もし、コントロールが甘いと、現場が暴走して、局地戦に突入す
る恐れは十分あります。      ―─ [日本の領土/91]

≪画像および関連情報≫
 ●尖閣問題/米国の支持で「棚上げ」解決の流れか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【ワシントン時事】1月26日付の米紙ワシントン・ポスト
  は社説で、安倍晋三首相に沖縄県・尖閣諸島をめぐる中国と
  の緊張緩和を模索するよう求めた上で、米国の支援で尖閣問
  題を棚上げすべきだと主張した。社説は、尖閣問題で中国が
  挑発行為を強めていることや、安倍政権の対中強硬姿勢に懸
  念を表明。こうした中で、公明党の山口那津男代表が安倍首
  相の親書を携えて訪中したことを、緊張緩和の兆しとして歓
  迎している。その上で、2月に訪米する安倍首相に対し、緊
  張緩和の方策を模索するよう要請。米国が尖閣をめぐる日中
  の軍事衝突に巻き込まれる危険が高まっているとし、尖閣問
  題の棚上げを支援すべきだとの見解を示している。
  http://blog.livedoor.jp/nikoniko_news777/archives/23334585.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ヌーランド米報道官.jpg
ヌーランド米報道官
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(6) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月18日

●「そのとき艦長はどうに対応したか」(EJ第3488号)

 このところ週刊誌などでは、「日中もし戦わば」的な記事が多
くなっています。これらの情報を踏まえて、中国が現在何を考え
ているのか整理してみることにします。
 2001年4月1日のことです。南シナ海北部の島である海南
島上空の公海上を米海軍所属の電子偵察機EP3Eが飛行してい
たのですが、中国の人民解放軍海軍航空隊の戦闘機J─811が
異常接近し、空中衝突する事故が発生したのです。
 このときブッシュ米大統領は、ホットラインで江沢民国家主席
と直接連絡を取ろうとしたのですが、江主席は逃げ回り、約8時
間にわたって電話に出なかったのです。
 現場の暴走に上層部がパニックになり、思考停止に陥ったので
す。おそらく江主席は、問題をどう処理してよいか分からず、幹
部を集めて対応を協議して、時間がかかったものと思われます。
 実はこのとき米中間では緊張が高まっていたのです。1999
年のコソボ紛争でNATO軍の一員として武力制裁に参加してい
た米軍機が、ユーゴスラビア連邦共和国(当時)の首都ベオグラ
ードにあった中国大使館をユーゴ政府の政府機関と誤認して爆撃
する事件があったのです。
 中国国内では「ユーゴを支援する中国政府に対する意図的な報
復行為である」として、国内で反米暴動が起きていたのです。さ
らに当時のブッシュ政権は、軍事拡張路線を進める中国を冷戦後
の軍事的脅威になりうる存在として牽制する発言をしており、米
中間に緊張が高まっていたのです。
 こういう事態になると、人民解放軍は熱くなり、通常では考え
られない行動を起こすのです。したがって、今回の火器管制レー
ダーの照射事件も、現場の判断のもとに行ったものと考えられる
のです。シビリアンコントロールが効いていないのです。
 中国に詳しいジャーナリストの富坂聰氏は、中国人民解放軍の
関係者からの情報として、今回のレーダー照射を指示したのは、
海軍の副司令官・徐洪猛氏であると述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回の射撃レーダー照射を主導したのは海軍です。その上級機
 関は海軍の行動を知りませんでした。具体的には、作戦を担当
 する海軍ナンバー2の副司令・徐洪猛が、その部下で、海軍参
 謀長の杜景臣を通じて命令したことです。杜は徐が海軍副司令
 に昇進した2009年に徐によって引き上げられ、徐の後任と
 して東海艦隊司令に就いた。いわば2人は師弟関係です。つま
 り現場から副司令のレベルまでには、明らかに日本との危機を
 高めてやろうという意図があったということです。(中略)い
 ずれにしても解放軍の上級機関と実際に海で自衛隊と向き合っ
 ている海軍とは緊張感も士気も発想も違っているのです。海軍
 は圧倒的に過激ですから。          ──富坂聰氏
               『週刊文春』2月21日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 海自の護衛艦「ゆうだち」では、中国のフリゲート艦に火器管
制レーダー照射を浴びせられたとき、どのような行動をとったの
でしょうか。
 このとき、「ゆうだち」と中国のフリゲート艦の距離は、約3
キロ、海軍の常識では目と鼻の距離です。レーダーが照射された
とき、艦内には警告音が鳴り響いたのです。電波探知分析装置に
は、近距離から発射される高周波の強い火器管制レーダーが探知
されたのです。
 この電波探知分析装置では、レーダーの探知方位、周波数、パ
ルスの繰り返し周波数などのデジタルデータが表示されると同時
に、自動的にハードディスクに保存されるのです。小野寺防衛相
のいう証拠とはこれらのデータのことであると思われます。
 このとき「ゆうだち」の艦橋では、フリゲート艦の艦橋の真上
にあるパラボラ式の「火器管制方位盤」と呼ばれるアンテナを、
8倍と20倍双眼鏡を使ってそれが動いていることを確認してい
るのです。火器管制方位盤が動いているということは、レーダー
が照射されていることを意味しています。
 さらにフリゲート艦の100ミリ主砲がこちらに向けられてい
るかどうかをチェックしています。しかし、その位置はストーポ
ジション(定位置)にあって、こちらに向けられていないことを
確認しています。
 以上のことを「ゆうだち」の艦長は、てきぱきと部下に命じて
迅速に行っており、中国側はレーダーを照射しただけで、撃って
はこないことを確認しているのです。中国海軍は日本が反撃して
こないことをいいことにレーダーの照射をしてきているのです。
 しかし、レーダー照射は3分以上にわたって続いたのです。も
ちろん「ゆうだち」はレーダー照射を受けると同時に回避行動を
取っています。「両舷停止、面舵一杯!」──このように艦長は
航海指揮官に命じています。
 回避行動といってもフリゲート艦から距離を取ること、すなわ
ち逃げることではなく、艦首をフリゲート艦に向ける操艦を行い
艦のレーダー被照射面積を最小にするなどの処置をとっているの
です。このように海上自衛隊は沈着冷静に対応し、けっして中国
の挑発に乗っていないのです。
 ところで、フリゲート艦とは、どういう軍艦なのでしょうか。
 フリゲート艦は、巡洋艦と駆逐艦の中間クラスの軍艦であり、
主に、比較的小型にして高速の、哨戒や偵察などの任務を主とす
る艦艇のことです。
 フリゲート艦は、歴史が古く、帆船時代からある名称で、小型
の艦艇のような意味合いです。対空、対潜、対艦、護衛全てを兼
ね備えたのがフリゲート艦で、世界各国でその基準ははっきりし
ていなく、曖昧です。なお、フリゲート艦より小さいのは、コル
ベット艦といわれています。
 もっとも、近代ミサイルの発達や命中率の向上により、小型艦
でも重武装が可能なため、昔の戦艦のような大型艦は不要になっ
てきているのです。「ゆうだち」は強力な中国のフリゲート艦に
堂々と大人の対応をしたのです。  ―─ [日本の領土/92]

≪画像および関連情報≫
 ●中国海軍フリゲート火器管制レーダー照射事件について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  海上自衛隊の護衛艦「ゆうだち」に火器管制レーダーを照射
  したのは中国海軍ジャンウェイU級(053H3型)フリゲ
  ート「連雲港(リェンユンガン)」、また、護衛艦「おおな
  み」搭載ヘリコプターへ火器管制レーダーを照射したのは、
  ジャンカイT級(054型)フリゲート「温州(ウェンジョ
  ウ)」と発表されました。中国フリゲートはどちらも主に東
  シナ海を担当する東海艦隊(浙江省寧波)の所属です。この
  うちフリゲート「連雲港」が火器管制レーダーを照射した件
  については、その証拠となる電波情報収集やレーダーパネル
  指向のビデオによる撮影を護衛艦「ゆうだち」側で行ってお
  り、小野寺防衛大臣は記者会見で公表も検討していると語り
  ました。一方で中国政府は火器管制レーダーは使用しておら
  ず通常のレーダーを使っていたと反論しています。火器管制
  レーダーの照準用電波によるロックオンは攻撃の直前段階に
  行うもので、平時にこれを行うことはあからさまな挑発行為
  と受け取られます。冷戦時代のアメリカ海軍とソ連海軍でも
  よく行われた行為でしたが、挑発がエスカレートして偶発的
  な戦闘に至らないよう両者は話し合い自制するようになりま
  した。 http://obiekt.seesaa.net/article/320827821.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ベンガルを航行る「ゆうだち」.jpg
ベンガルを航行る「ゆうだち」
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(3) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月19日

●「照射問題公表のタイミングの是非」(EJ第3489号)

 海自護衛艦や海自ヘリが中国海軍から、火器管制レーダーの照
射を受けたことは一度や二度のことではないのです。「週刊ポス
ト」の調査によると、2010年からそれは8回もあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎2010年4月 8日
  中国艦艇の艦載ヘリが海自護衛艦「すずなみ」に接近飛行
 ◎2010年4月13日
  P─3C哨戒機が中国艦艇から速射砲の照準を向けられる
 ◎2010年4月21日
  中国艦艇の艦載ヘリが護衛艦「あさゆき」周囲を2度旋回
 ◎2012年4月 某日
  P─3C哨戒機が中国艦艇からFCレーダー照射を受ける
 ◎2012年8月下旬
  海自護衛艦が中国艦艇から突如FCレーダー照射を受ける
 ◎2012年9月 某日
  海自護衛艦がFCレーダー照射を受けた可能性が十分ある
 ◎2013年1月19日
  海自ヘリが中国フリゲート艦にFCレーダー照射を受ける
 ◎2013年1月30日
  海自護衛艦が中国フリゲート艦にFCレーダー照射受ける
           「FCレーダー=火器管制レーダー」
              ──『週刊ポスト』3/1より
―――――――――――――――――――――――――――――
 何のことはない。今までさんざん中国海軍にやりたい放題やら
れているのです。民主党政権時代の2010年と2012年に6
回も中国海軍に危険な目に遭わされながら、それが防衛大臣にす
ら報告されていないようなのです。
 問題があるのは、防衛官僚と外務官僚です。それにしても今回
はなぜそれが公表されたのでしょうか。「週刊文春」2/21号
の情報を参考に発表までのプロセスを追ってみることにします。
 2013年1月19日午後5時頃のことです。海自ヘリSH─
60Kは、中国フリゲート艦ジャンカイ1級の監視任務を遂行し
ていたところ、フリゲート艦から火器管制レーダーが照射された
のです。
 SH─60Kは、高度と速力を落とし、海面スレスレを飛行し
急旋回を繰り返すなど回避行動を取ったのです。しかし、執拗に
レーダー照射は続き、10分近く続けられたのです。
 SH─60Kから至急報を受けた母艦「おおなみ」は、神奈川
県横須賀の自衛艦隊司令部へと急報したのです。そして第一報が
東京市ヶ谷の海上幕僚監部に届いたのです。
 海上自衛隊幹部は、本当に火器管制レーダーか、証拠はあるか
証拠の保全はしたか、国連憲章違反はあったかなど事実関係を確
かめたのです。そして、午後8時頃、小野寺防衛相に自衛隊のヘ
リコプターに対し、火器管制レーダーの照射があったという内容
の報告を上げています。そのとき、小野寺防衛相は、次の指示を
出しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 事柄の性質上、重大な影響を与え得ることなので、精査し、
 慎重な分析をしてください。      ──小野寺防衛相
―――――――――――――――――――――――――――――
 そのとき、小野寺防衛相がどんな表情で、どんな口調でこの指
示を出したかはわかりませんが、防衛省側は次のように受け止め
たのです。テレビなどで話す小野寺氏の話し方からすると、考え
るられないことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.大臣は激しく苛立っている感じだ
      2.正確な情報以外聞く耳を持たない
―――――――――――――――――――――――――――――
 どうしてこのように受け止めるのでしょうか。これが日本の官
僚の発想なのです。小野寺防衛相は上記の指示を出す前に防衛官
僚の意見を聞いています。しかも、指示を出しただけで、防衛官
僚に具体的な対応を何も指示していないのです。
 かつてこういうことがあったのです。日中が協議中の東シナ海
の海底油田において、中国の船舶が日本に無断で採掘を開始した
ことがあったのです。その情報を海自のP3─C機が探知したの
ですが、外務省はその公表を止めているのです。
 もし、海自のヘリの問題を小野寺防衛相が公開していたとした
ら、どうなったか考えていただきたいのです。確かにヘリにはレ
ーダーを詳細に解析し、記録する装置はなく、証拠は提示できな
いことはわかります。しかし、どちらにせよ、どうせ水掛け論に
なるのですし、実際に照射されたことは事実なのですから、公表
して抗議すればよいのです。10分間という異常な長時間照射さ
れたのですから、公表していれば、相当戦略的に中国を追い詰め
ることはできたはずです。そうすれば、護衛艦「ゆうだち」への
照射はなかったと思われます。それに、もし、1月30日の2度
目の火器管制レーダーの照射が起きなければ、その件はそのまま
になったに違いないのです。
 1月30日、護衛艦「ゆうだち」は、尖閣周辺海域における監
視警戒任務のため、「合戦準備」の体制で出港しているのです。
というのは、1月になってから中国の東海艦隊が、日中中間線海
域に頻繁に出没し、尖閣周辺海域でプレゼンスを誇示していたの
で、それにカウンタープレゼンスで応じる任務を負っていたので
す。軍艦同士ですから、国と国のつば競り合いです。単なる監視
ではなかったということです。
 この護衛艦「ゆうだち」のプレゼンスに苛立ったのは中国のフ
リゲート艦なのです。中国側にすれば、火器管制レーダー照射は
いつもやっていることであり、日本は抗議してきていないので、
軽い気持ちで威嚇のつもりでやったに違いないのです。
 しかし、たとえ公開されてもこんなことで攻勢を緩める中国で
はないのです。しかし、それはあまりにも日中にとって危険な賭
けになると思います。       ―─ [日本の領土/93]

≪画像および関連情報≫
 ●火器管制レーダー照射問題/現代ビジネス
  ―――――――――――――――――――――――――――
  首相は、外交ルートを通じて中国側に抗議し、再発防止を要
  請したことを強調。「日中両国で対話に向けた兆しが見られ
  るなかで、一方的な挑発行為が行われたことは、非常に遺憾
  だ」と批判した。──2月6日/産経ニュース
  安倍首相は言葉を選んでいるが、「不測の事態を招きかねな
  い危険な行為であり、極めて遺憾だ」という表現は、外交的
  にかなり強い懸念の表明だ。火器管制レーダーを照射すると
  いうことは、平たく言って「いつでも攻撃する用意がある」
  ということである。中国は、挑発のレベルをどこまであげれ
  ば日本が実力行使に出るかを慎重に見極めている。今回の中
  国側の挑発行為に対して、政府と国民が一丸となって反撃し
  ないと、中国はさらに挑発のレベルをあげ、そう遠くない将
  来に偶発的な日中武力衝突に発展しかねない。事態はかなり
  緊迫している。(略)本件に関し、2月8日、ロシア国営ラ
  ジオ「ロシアの声」が、中国による火器管制用レーダーの照
  射は事実で、尖閣諸島をめぐる日中の力関係を変化させよう
  とする中国の戦略に基づくものであるというワシーリー・カ
  ーシン記者の論評を掲載している。この論評は、ロシアのイ
  ンテリジェンス機関の評価を踏まえてなされたものと見られ
  る。    http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34861
  ―――――――――――――――――――――――――――

中国海軍フリゲート艦.jpg
中国海軍フリゲート艦
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(5) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月20日

●「中国首脳が抱えている2つの怯え」(EJ第3490号)

 現在、中国国民は尖閣諸島の問題をどのようにとらえているの
でしょうか。その一端がわかる人民日報系の「環球時報」が報道
した記事をご紹介します。「環球時報」は、数百万人の購読者を
持つ中国有力紙の1つです
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の一般大衆は、東シナ海の緊張に慣れており、多くの人々
 は、すでに日中間の「開戦の最初の銃弾」に対する心の準備が
 できていて、釣魚島危機を平和的に解決できるという希望を抱
 く人はますます少なくなっている。──2013年2日7日付
            「環球時報」/「週刊新潮」2/21
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国は何とかして日本に最初の銃弾を撃たせようとしているよ
うです。そして、戦いがはじまればまったく問題なく勝利し、尖
閣諸島を奪還できると考えています。メディアにあらわれた解放
軍関係者の発言をまとめます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎(もし戦争になれば)我々は瞬間的に日本の戦闘機F15を
  撃墜する力を持ち、開戦から30分で日本を制圧し、始末す
  ることができる。中国という戦闘機関は、ついに日本によっ
  て起動された。(1月3日の張召忠海軍少将)
 ◎戦争をけしかけているのは安倍の方だ。安倍の言い分は、戦
  争したくないなら、中国が妥協しろというわけだ。我々の選
  択は安倍の妄言には付き合わず、軍拡あるのみ。(1月3日
  香港フェニックステレビ「中国と日本はどうしても開戦せね
  ばならないか」での唐淳風・商務部研究員の発言。
               ──「週刊新潮」2/21より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはマスコミを使った国民に対する洗脳です。中国には「忍
無可忍」という言葉があって、これが尖閣諸島に対する中国人の
気持であるというのです。忍無可忍の意味は、今までさんざん我
慢し、耐えてきたが、もはや我慢の限界に達しているという意味
なのです。
 つまり、中国はあくまで平和的解決を望んでいるのに、日本の
安倍首相は強硬な態度を取り、武力で中国を威嚇しているという
マスコミによる刷り込みが、とくに今年に入ってから、一層激し
くなっているのです。日本とは真逆の考え方であり、そっくり中
国にお返ししたい気持ちです。日本人の方が「忍無可忍」の状態
になっているのです。
 日中のどちらが銃弾を最初に撃つかは別として、もし尖閣沖海
戦が始まったら、どちらが勝利できるのでしょうか。習近平総書
記は、軍に対して「戦争準備」を宣言し、軍人の報奨金の額を上
げるなど待遇改善を指示し、こまめに各地の軍事施設の訪問を重
ねています。
 しかし、習総書記は「2つの怯え」を抱えているといわれてい
るのです。「2つの怯え」とは何でしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.軍の暴走で日本との間に尖閣沖海戦が勃発し、尖閣諸島
   奪取に失敗する
 2.中国経済が失速し、共産党政権が崩壊の危機に瀕する可
   能性がありうる
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、尖閣沖海戦が勃発し、中国が尖閣諸島を獲れなかったら
どうなるでしょうか。
 中国国民はマスコミを使った共産党の宣伝によって、戦争にな
れば100%勝つと信じています。「小日本、何するものぞ!」
というわけです。したがって、もし敗北すると、共産党政権は持
たないと思われます。
 もちろん、日中の戦力は比較にならないほど中国が日本を圧倒
しています。したがって、もし中国が尖閣沖海戦で敗れると、中
国は日本に対し、全面戦争を仕掛けようとするでしょうが、それ
は起こり得ないことです。日米安保条約が発動され、米軍が出動
するので、それ以上の戦争にはならないと考えられます。
 「2」に関しては、いずれ別のテーマで取り上げたいと思って
いますが、ありうることなのです。現在、中国はかつての清国に
酷似しているといわれます。経済格差がひどくなり、腐敗が横行
し、各地でデモが多発しており、中央の統制が効かなくなりつつ
あります。日清戦争当時の中国はそういう状況だったのです。
 実際に現在中国共産党では、まるで沈没する船からねずみが逃
げ出すように、党幹部の米国などへの脱出がはじまっているので
す。すでに脱出者は1万8000人にも達し、持ち出された資産
は、3000億ドルにのぼると見られています。現在の党幹部の
なかには、「習総書記はラストエンペラーになる」と予想する者
もおり、今や中国共産党は政権維持に必死なのです。
 中国ウオッチャーの宮崎正弘氏は、懸念されている中国バブル
について、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国経済が全国規模でどかんと沈没する懼れがある。(中略)
 それも史上空前の規模を伴いそうで、2009年9月のリーマ
 ン・ショックの規模を超える超奪級の衝撃が世界を駆け抜ける
 可能性さえ予測されるのである。もし人民元がローカル・カレ
 ンシーのままであるのなら、世界的規模の激震は起こりえない
 が、ロンドンで、香港で、東京で、人民元オフショア市場が稼
 働し始めた以上、しかも日本も中国国債を7800億円も保有
 し、邦銀は中国で日本企業に1兆円前後の貸し出しをしている
 ため、中国のバブル自爆が起きると被害が及ぶことは避けられ
 そうにない。
   ──宮崎正弘著『習近平が仕掛ける尖閣戦争』/並木書房
―――――――――――――――――――――――――――――
 そういう国内の社会不安から国民の目をそらさせるために、中
国上層部は「反日」を仕掛けているのですが、「2つの怯え」は
確実に存在するのです。      ―─ [日本の領土/94]

≪画像および関連情報≫
 ●株バブル崩壊と共に萎む中国人の夢/日経ビジネスOL
  ―――――――――――――――――――――――――――
  今は、どうなっているだろうか。一ヵ月ほど前。久しぶりに
  訪れた中国のいくつかの街で、証券会社に足を運んでみた。
  どこも閑散としていた。店舗のレイアウトは以前と大きな変
  更はないようだったが、上海でも湖南省・長沙でも数人が気
  だるげに端末の前に腰をかけているだけだった。携帯での取
  引が普及した影響もあるだろうが、店頭の活気のなさは現在
  の株式市況と無関係ではない。2012年11月27日、中
  国株の代表的な指数である上海総合指数は1991.165
  と、節目となる2000を終値ベースで割り込んだ。リーマ
  ン・ショック後の急落局面以来、ほぼ3年10カ月ぶりだ。
  この指数は2007年秋に6000を超えていた。最高値か
  らの下落率は70%に迫り、日本のバブル崩壊とそれほど大
  差ない暴落ぶりだ。どうしてこうなったのか。中国経済の成
  長が鈍化している、インフレを恐れて中央銀行が金融を引き
  締め気味にしている、海外からのホットマネーが流出してい
  る・・・。人によって様々な解釈がある。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20121129/240325/?P=1
  ―――――――――――――――――――――――――――

宮崎正弘氏.jpg
宮崎 正弘氏
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月21日

●「尖閣防衛には自衛隊法改正が前提」(EJ第3491号)

 習近平総書記の本心は、おそらく現時点では尖閣諸島において
日本とコトを構えたくないはずです。中国の面子の立つかたちで
の「棚上げ」で合意できるなら、それで一時休戦してもよいと考
えていると思います。
 ここで「中国の面子の立つかたちでの棚上げ」とは、尖閣諸島
が係争地であることを日本が認めることが、基本的条件になりま
す。しかし、この棚上げは、日本にとっては「悪い棚上げ」とい
うことになり、絶対に飲めない条件です。
 日中どちらも飲めない条件があり、棚上げができないとすれば
もし中国が引かない場合、日中間はきわめて危険な状況になりま
す。加えて、習総書記は海軍を完全にコントロールできていると
は思えないフシがあるのです。
 そういう状況の下で、現在のように尖閣諸島の領海と領空で日
中の船舶や航空機が角突き合わせていると、一触即発の事態がい
つ起こっても不思議はないのです。
 1月に2度にわたって行われた中国軍による火器管制レーダー
照射事件についても中国海軍はその歴史が浅いため、国際感覚が
欠如しており、他国の船舶に対するマナーに欠ける点があると指
摘する防衛駐在官を務めた経験のある自衛隊幹部は「中国海軍は
強いストレスを溜めている」として、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国海軍はここ数年で外洋に出るようになった軍隊だけに外国
 の軍隊と向き合うことに慣れていない。それだけにお上りさん
 的な反応をしてしまう。例えば、日本の近くで軍事演習をすれ
 ば日本の自衛隊が近くでそれを監視するのは当然のことなので
 すが、彼らは「なぜしっこく追い回すのか」と被害者意識を高
 めるのです。その意味では、日本が当たり前のことをしている
 のに、彼らが日々フラストレーションを溜めているといった問
 題があるのです。      ──「週刊文春」2月21日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回の火器管制レーダーの照射は、公海上で起きています。古
庄幸一元海幕長の話によると、公海では各国の船が互いに監視活
動を行っているのです。
 中国だけではなく、韓国や台湾の軍艦もおり、3キロ程度の距
離に接近することは、ごく通常のことなのです。3キロの距離で
あれば、双眼鏡で顔が見える程度の距離であり、こんな近距離で
火器管制レーダーを照射することは異常なのです。照射する必要
のない距離だからです。砲撃するつもりであれば、そのまま砲撃
すれば3秒以内に着弾します。
 したがって、中国海軍のやったことは、日本が反撃してこない
ことを知った上での嫌がらせであると思います。しかし、これは
やってはならないことであり、危険な嫌がらせです。しかも、こ
の海軍の行動を中国共産党のトップはとめられないのです。彼ら
が「愛国無罪」を主張するからです。
 しかし、いま中国が日本と戦争をするとは考えられないことで
す。日本と戦争をすれば、日米安保条約が発動され、日米両軍を
相手にすることになります。中国が世界第二の経済大国であるこ
とを考えると、国際社会に占める立場から考えても、中国がそん
な無謀なことをするとは思えないのです。
 しかし、尖閣沖周辺海域での武力衝突なら、あっても不思議は
ないのです。米国は「尖閣問題は日米安保の対象範囲」と述べて
いますが、尖閣沖海戦自体に米軍が乗り出してこないことを中国
は、よくわかっています。
 中国は、米国が出動しない尖閣沖海戦なら、日本の自衛隊に勝
てると思っています。確かに中国の戦力は、自衛隊とは比較にな
らないほど強大であるからです。参考までに「自衛隊と中国人民
解放軍の戦力比較」をすると、次のようになります。数で比較す
ると、日本は中国に比べてあまりにも劣勢です。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ≪自衛隊と中国人民解放軍の戦力比較≫
             自衛隊  中国人民解放軍
    海軍兵力   4.6 万人     24万人
    ・艦艇数    143隻    1090隻
    ・潜水艦     16隻      60隻
    空軍兵力   4.7 万人     33万人
    ・作戦機    420機    2070機
    陸軍兵力  15.2 万人    160万人
    ・戦 車    760両    8200両
             ──「週刊ポスト」3/1
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在中国は、いかにして米国が出て来れない状況で尖閣諸島を
占領するか作戦を練っています。中国は、米軍さえ出てこなけれ
ば、問題なく尖閣諸島は奪還できると考えていると思います。少
なくとも海軍の現場ではそう考えています。
 当然自衛隊としても、どのようにして尖閣諸島を守るかについ
て周到な計画の下に訓練を重ねてきています。ただ日本にとって
不利であるのは、自衛隊は平時では撃たれない限り、反撃できな
いのです。警察と同じで、正当防衛しかできないのです。
 その反撃も撃ち過ぎて相手側の船員が何人か死亡すれば、日本
の法律では過剰防衛とみなされ、反撃をした自衛隊員には刑法が
適用され、殺人罪になる可能性もあります。
 それに現行法では、海上保安庁の巡視船が中国軍に撃たれ、そ
れを海上自衛隊が監視していたとしても、自衛隊は何もできない
のです。それが今の自衛隊法なのです。中国軍はそのことをよく
知っており、そういう自軍にとって有利な状況を巧みに使って尖
閣諸島を獲りにくると思われます。
 そのことを強く訴えていたのは、自民党の石破幹事長です。安
倍首相も同じことをいっています。現在は自民党が与党なのです
から、ぜひこの自衛隊法の改正に取り組んでほしいものです。そ
うでないと、尖閣沖海戦ですら、日本は満足に戦えないことにな
るからです。           ―─ [日本の領土/95]

≪画像および関連情報≫
 ●あまりに酷似する「尖閣」と「西沙」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「出ていけ!」「おまえこそ立ち去れ!」。中国が領有権を
  主張する島の沖合で、中国漁船と警戒にあたる艦艇が衝突し
  た。実はこれ、尖閣諸島の話ではない。南シナ海の北方海域
  にある西沙諸島は、第一次インドシナ戦争により旧宗主国の
  フランスを破ったベトナムが領有したが、その後、同諸島の
  東半分は中国が占領し実効支配された。1974年、中国は
  西沙諸島全体の領有を目指し、積極的な行動(ベトナム側か
  ら見れば侵略。中国側から見れば領土回復)を開始した。中
  国の進出に対抗するために当時の南ベトナム政府は艦艇4隻
  ・兵員約200名を派遣したが、中国は漁船2隻を「尖兵」
  として、同海域で南ベトナム艦艇と衝突を繰り返し、陸上で
  は中国民兵との戦闘も発生。同年1月19日には海上でも両
  軍が戦闘し、南ベトナムは、砲艦「ヌータオ」が撃沈され西
  沙諸島の島々は中国により完全に占領された。冒頭の衝突は
  そのとき起きたものだ。 ──来栖宥子★午後のアダージォ
  http://blog.goo.ne.jp/kanayame_47/e/9450e2ba5f3c9e903abd76d1db61b35e
  ―――――――――――――――――――――――――――

海自P3C.jpg
海自P3C
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月22日

●「中国軍の西沙諸島実効支配に学ぶ」(EJ第3492号)

 今後中国が尖閣諸島に対してどのようなかたちで関与してくる
かを予測する貴重な資料があります。それは、西沙諸島をめぐる
ベトナムと中国の争いを元海上自衛隊海将補の川村純彦氏らが中
心になってまとめた資料です。
 西沙諸島とは、南シナ海北方海域に浮かぶ多数のサンゴ礁の小
島です。西沙諸島は1954年の第一次インドシナ戦争によって
旧宗主国のフランスが去り、西部(永楽群島)は、ベトナム共和
国(南ベトナム)、東部は中国が実効支配をしていたのです。
 しかし、1971年になると、中国軍が西沙諸島に艦隊を派遣
し、多数の施設の建築を行ったことにより、ベトナムと中国の間
で軍事的緊張が高まったのです。
 当時南ベトナムでは、ベトナム戦争が末期になっており、かな
り追い詰められていたのです。1973年には、パリ協定に基づ
き米軍が南ベトナムから全面撤退し、わずかな軍事顧問が残る程
度になっていたのです。中国から見れば、米軍の脅威がなくなっ
たことになります。
 果たせるかな、このときを待っていたかのように、中国軍が動
き出したのです。当時の南ベトナム海軍は、米軍から供与された
旧式艦を主体とし、護衛駆逐艦など、比較的に大型の艦艇は保有
していたのですが、いかんせん実戦経験は乏しく練度も高いとは
いい難い状態にあったのです。
 現在、西沙諸島は中国によって完全に占領されています。この
1974年から現在までのプロセスを川村純彦氏は8つのプロセ
スに分け、尖閣諸島と対比する表を作成し、「プレジデントオン
ライン」に掲載しています。
 EJでは、若干の解説を加えて、中国とベトナムに起こった出
来事を整理して示すことにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「第1段階」です。
 1974年1月11日、中国外交部は、西沙諸島の領有権は中
国あり、いかなる国もこれを踏みにじることは許さないという声
明を発表します。
 「第2段階」です。
 1974年1月15日、ベトナムはこの中国の声明に反発し、
南ベトナムの戦艦「リー・チャン・チュ」が、甘泉島の中国国旗
を砲撃し、漁船を追い払ったのです。
 「第3段階」です。
 1974年1月17日、中国武装民兵2個小隊が南ベトナム領
有の3つの島に急襲上陸し、占領します。
 「第4段階」です。
 1974年1月18日、中国漁船「407号」と南ベトナム哨
戒艦「チェン・ビン・チョン」が甘泉島沖で衝突します。
  「第5段階」です。
 1974年1月18日、中国南海艦隊の駆逐艦4隻と掃海艇艦
2隻が西沙諸島沖海域に進出し、南ベトナム艦隊と対峙し、にら
み合いを続けます。
 「第6段階」です。
 1974年1月19日、中国が占領した広金島に南ベトナム軍
が上陸し、戦闘を開始します。海上でも海戦が行われ、南ベトナ
ム砲艦「ヌータオ」が撃沈されてしまいます。
 「第7段階」です。
 砲艦「ヌータオ」が撃沈され、一挙に南ベトナム軍は劣勢にな
ります。中国軍は永楽島に三個歩兵中隊と一偵察中隊が上陸。戦
闘前から占領した島を含めて西沙諸島に中国の五星紅旗が立てら
れます。
 「第8段階」です。
 現在西沙諸島の中国軍の実効支配は強化され、1988年には
南沙諸島においても南ベトナムと中国の武力衝突が繰り返され、
中国は南沙諸島の一部も占領しています。
  ──「尖閣諸島『人民解放軍シミュレーション』ベトナムと
 同じように日本も領土を奪われる」/プレジデントオンライン
            http://president.jp/articles/-/7356
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中国による西沙諸島を占領する8段階のプロセスを占領さ
れる側に立って整理すると、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  第1段階「声  明」     第5段階「挑  発」
  第2段階「進出阻止」     第6段階「武力衝突」
  第3段階「領海侵犯」     第7段階「占  領」
  第4段階「漁船衝突」     第8段階「奪  還」
―――――――――――――――――――――――――――――
 尖閣諸島に当てはめてみましょう。中国が「尖閣はわが国固有
の領土」という声明を出したのは、1971年12月のことです
が、最近では「尖閣は中国の核心的利益」という一段と強い表現
に変わっています。第一段階は既に終わっているのです。
 その後中国は、漁業目的ではない漁船が尖閣諸島周辺海域に出
没し、一部は島に不当上陸する者もあらわれます。日本側はこれ
に海上保安庁が対応し、その都度追い払っています。これは「第
2段階」です。
 2010年以降になると、漁船だけではなく、中国国家海洋局
の公船が漁船と一緒に尖閣沖周辺にあらわれ、領海侵犯を繰り返
すようになります。これは「第3段階」です。
 2010年9月に、漁業目的ではない中国の漁船が海上保安庁
の巡視艇「よなくに」に衝突するトラブルが発生します。船長・
船員全員が逮捕されますが、後に強制送還が行われます。これは
「第4段階」といえます。
 その後、頻繁に中国の公船が尖閣諸島に接近し、領海侵犯を繰
り返しますが、そのつど海上保安庁の巡視船が領海を出るよう警
告します。また、中国軍ヘリが日本の護衛艦に異常接近したり、
中国軍艦が日本の護衛艦に火器管制レーダーを照射するなどの挑
発行為を行います。「第5段階」です。─ [日本の領土/96]

≪画像および関連情報≫
 ●南シナ海領有問題(南沙諸島問題)/やわらん.net
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ご存知の通り、第二次世界大戦中、日本が南シナ海を占領し
  領土としていた。しかし大東亜戦争に敗れて1951年サン
  フランシスコ平和条約で領有権を放棄。その後は公海になれ
  ばよかったし、或いはしっかりと領有権を定めればよかった
  のに、なにもせず放置・・。結果として沿岸国が領有権をそ
  れぞれ主張することになる。各国は競ってスプラトリー諸島
  (小さな島だけ100個以上ある)の小さな島を早い者勝ち
  で占領していった。しかしあるとき、中国は一方的にスプラ
  トリー諸島の領有を宣言する。もちろん他国はだまっていな
  い。それが南シナ海に膨大な資源があるとわかってから領有
  問題は激化する。南シナ海には200億トンを超える油田と
  ガス田があるといわれている。各国が争うのも無理はない。
  いま大きな問題となっているのは3カ国、中国とベトナムと
  マレーシア。中国がマレーシアの探査船を妨害したり(なに
  かのケーブルを切断したとかいう嫌がらせ)、実践演習を行
  ったりと緊張が高まっている。いつ戦争に発展するか、気が
  気ではない。概して領土問題と言うのはこういうものだ。決
  して穏便に終わることはないだろう。人間と言うのは欲深い
  生き物なのだから・・・。  
    http://www.yawaran.net/news/southchinasea.shtml
  ―――――――――――――――――――――――――――

西沙諸島の争い.jpg
西沙諸島の争い
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(9) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月25日

●「中国の民兵に一日で上陸許す日本」(EJ第3493号)

 中国が西沙諸島を占領し、支配する8段階を再現します。尖閣
諸島に当てはめると、既に5段階に達しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  第1段階「声  明」   → 第5段階「挑  発」
  第2段階「進出阻止」     第6段階「武力衝突」
  第3段階「領海侵犯」     第7段階「占  領」
  第4段階「漁船衝突」     第8段階「奪  還」
―――――――――――――――――――――――――――――
 次の段階は「武力衝突」ということになります。中国はどのよ
うにして尖閣諸島の奪取を行うのでしょうか。日本はそれに対し
て、どのように尖閣諸島を守ればよいでしょうか。
 尖閣沖海戦のひとつのシミュレーションをご紹介しましょう。
海上自衛隊元海将補の川村純彦氏による尖閣沖海戦のシミュレー
ションをベースにしてご紹介します。日中両国による尖閣諸島を
めぐる9日間にわたる攻防です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  川村純彦著
  『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力』/小学館新書101
―――――――――――――――――――――――――――――
 西沙諸島や南沙諸島における中国軍の動きから類推すると、尖
閣諸島にも、特殊漁船で船団を組んでやってくると思われます。
もちろん、ただの漁船ではなく、漁民を装った人民武装警察特殊
部隊に所属する武装民兵が乗り、船底には、小銃、機関銃、肩撃
ち式対空ミサイル、迫撃砲、機関砲などの武器を隠し持っている
全長30メートル、約200トンの鋼鉄製漁船です。
 ≪第1日目≫
 午前5時15分、尖閣諸島魚釣島の西南西約85キロの海上で
中国漁船10隻が船団を組んで、時速約10ノットで魚釣島に向
かって航行しているのを石垣海上保安部に所属する巡視船「はて
るま」がレーダーで捕えたのです。
 午後7時51分、中国漁船団は、魚釣島の西南西から接続水域
(魚釣島西南西約44キロ)に侵入してきたのです。日本側には
事前通報は一切なく、そのまま魚釣島に向かっているので、巡視
船「はてるま」は、領海に入らないよう無線で警告を発し、航行
目的を聞いたのです。
 漁船団からの返事は「漁業調査のため」。「はてるま」は「事
前通報のない調査は認められない」と警告し、漁船団と並走を開
始し、繰り返し警告を続けたのですが、聞き入れず、あくまで魚
釣島を目指して航行を続けたのです。
 午前9時21分、遂に中国漁船団は魚釣島の西南西から領海内
(魚釣島西南西約22キロ)に侵入したのです。「はてるま」は
領海から出るよう無線で警告しますが、応答はなく、そのまま漁
船団は魚釣島を目指したのです。もはや魚釣島に上陸を意図して
いることは明らかです。
 魚釣島まで約18キロの時点で、応援の巡視船「よなくに」と
「いしがき」の2隻が到着し、「はてるま」と3隻で、中国漁船
団に圧力をかけたのです。そうすると、漁船の1隻が巡視船に体
当たりを仕掛けてきたのです。
 巡視船は接触を避けようとしたのですが、間に合わず、激突し
巡視船に穴が開いて、両船は停船したのです。中国漁船の装甲は
固く厚いので、こういうことは起こりうるのです。しかも、漁船
は約200トン程度なので小回りが利くのに対し、巡視船はすべ
て1000トンクラスで小回りが利かず、そのうえ漁船10隻対
巡視船3隻では多勢に無勢だったのです。
 中国漁船団は衝突騒ぎの間隙を衝いて、魚釣島西側の船着場の
ようなところに接岸し、漁船に乗り込んでいた民兵と思われる中
国人が次々と魚釣島に上陸をはじめたのです。その数ざっと90
人です。そして食料に加えて武器らしいものも次々と陸揚げされ
たのです。
 巡視船はただそれを見守ることしかできなかったのです。しか
し、その様子を警備本部に知らせるため、ビデオに収録し、警備
本部に送信したのです。
 上陸した中国人民兵は、琉球政府によって1970年に設置さ
れた「魚釣不法入域防止」の警告板を破壊し、2000年に創建
された尖閣神社を爆破、さらにその模様の一部始終をビデオでイ
ンターネット動画にして、全世界に発信したのです。
 午後4時35分、日本の外務次官は中国の駐日大使を外務省に
呼び出し、強く抗議したのです。上陸の一部始終をビデオにより
大使に示し、明らかに民兵らしき者が武器を持って上陸している
ことを指摘し、直ちに撤退するように求めたのです。中国側の回
答は、魚釣島に上陸すると同時に日本に宣戦布告していないこと
を強調し、事実を早急に精査するが、「反日過激派の独断による
上陸」とし、善処することを約束したというのです。
 日本としても中国からの宣戦布告がない以上、海上自衛隊の出
動はできず、海上保安庁による警察活動を強化するとともに、魚
釣島に上陸した約90人の中国人を出入国管理法違反の容疑で逮
捕する作戦を展開することになったのです。
 しかし、魚釣島に上陸したのは明らかに民兵であり、武器を保
有しているのです。しかも、肩撃ち式対空ミサイルまで持ってい
るので、ヘリコプターで魚釣島に近づくことはきわめて困難な状
況なのです。
 それでも中国が宣戦布告してこない以上、日本は自衛隊を動か
すことはできないのです。つまり、海上自衛隊は見ているだけで
何もできないことになります。中国はそのあたりのことを十分計
算したうえで、漁民を装った民兵を巧みに魚釣島に上陸させたの
です。中国の常套手段です。
 中国が宣戦布告しないのは、自衛隊が出てこれないようにする
と同時に、日米安保条約を発動させないためです。既成事実を積
み上げて、成し崩しに島を奪取するのは中国の巧妙なやり方なの
です。このあとどのような展開になるでしょうか。明日のEJで
述べます。            ── [日本の領土/97]

≪画像および関連情報≫
 ●田母神俊雄氏/漁民偽装で尖閣占領する中国作戦を予測
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2012年10月19日に中国海軍は東シナ海で漁業監視船
  や海洋監視船などとともに合同演習を実施。いつ尖閣を奪い
  にきても不思議ではない状況になりつつある。元航空幕僚長
  田母神俊雄氏が中国の侵略のシナリオをシミュレートする。
  中国が力ずくで尖閣諸島を取りにくる場合、どのような事態
  が想定されるのか。結論から言うと、正規軍がいきなり正面
  から攻撃を仕掛けてくる可能性はかなり低いと思っている。
  中国にとって自衛隊との真っ向勝負はリスクが大きすぎる。
  さらに先に武力行使すれば、国際的な批判を浴びるのは避け
  られないからだ。そこで可能性として考えられるのが、魚釣
  島に漁民を装った人民解放軍兵士や民兵、警察官などを不法
  上陸させ、“漁民”の保護や救出を大義名分に正規軍が出動
  そのまま占領して実効支配を進めるというシナリオである。
  実際にフィリピンやベトナムとの領有権紛争では、こうした
  狡猾なやり方で相手国から領土を掠め取ってきた。また最近
  では尖閣周辺に無人機を飛ばし魚釣島などに不時着させ、そ
  の修理、本国送還準備のために中国軍を上陸させるというこ
  とも考えているようだ。これらに対して果たして日本は対処
  できるのか。
  http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20121109-00000005-pseven-int
  ―――――――――――――――――――――――――――

「尖閣を獲りに来る中国海軍の実力」/川村純彦著.jpg
「尖閣を獲りに来る中国海軍の実力」/川村純彦著
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(4) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月26日

●「海上警備行動を出せない日本政府」(EJ第3494号)

 たった1日で、中国偽装漁民の乗る10隻の中国漁船によって
魚釣島を占領されてしまった日本政府──海上保安庁が法律に基
づく警察行動で尖閣諸島を守っている限り、こういうことは起き
て当然なのです。
 ≪第2日目≫
 午前5時15分、第11管区海上保安本部石垣海上保安部は、
他の管区から応援を得て、巡視艦艇20隻以上を石垣島周辺海域
に配備したのです。
 日本では全国を11の「管区」に分け、担当水域を決めている
のです。それぞれの管区にはその地域の状況に合わせた役割が与
えられています。第11管区海上保安本部は、沖縄県那覇市にあ
り、管区の特徴は次のようになっています。配備巡視船艦艇数は
18隻です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「第11管区」:中国や台湾と国境を接し、とくに尖閣諸島
         周辺の領海を警戒監視する
―――――――――――――――――――――――――――――
 沖縄県警は30人の警察官をヘリコプターに乗せ、魚釣島に上
陸させ、上陸している偽装漁民全員を出入国管理法違反で逮捕し
ようというのです。
 午前7時15分、海上保安庁の巡視船「いなさ」が魚釣島に接
近しようとしたところ、隊列を組んで待っていた中国の偽装漁船
から銃撃を受けたのです。これで、日本側ははじめて応戦できる
ようになるのです。
 午前7時40分、中国船発砲の報告は直ちに官邸に伝えられ、
国土交通大臣は、警察官職務執行法に基づく威嚇射撃の許可を第
11管区海上保安本部に伝達します。しかし、これはあくまで威
嚇射撃であって、相手の出方にもよりますが、あまり過激にこれ
を行って相手に死者が出ると、その程度に応じて射撃者に殺人罪
が適用されかねないのです。このあたりに日本の武器使用の制限
についての問題点があるのです。
 午前8時30分、巡視船「いなさ」は上空に向けて威嚇射撃を
したところ、中国船はカラシニコフ自動小銃で反撃してきたので
す。これに対して「いなさ」は20ミリ機関砲で、中国船のエン
ジンルームを狙って応戦します。
 しかし、中国船は肩撃ち式ロケットランチャーを持ち出してき
て、「いなさ」に発砲したのです。肩撃ち式ロケットランチャー
というのは、第二次世界大戦後に使われ出した兵器で、対戦車兵
器だったのですが、最近ではこれは多目的化して、船舶やヘリな
どに対しても発射できるようになってきています。
 とくに上陸・外征部隊である米海兵隊は、その性格上、歩兵が
十分な火力支援を得られないことが多いので、歩兵部隊自身が携
帯できる火力支援兵器が開発されたのです。中国船が「いなさ」
に対して撃ってきたのは、それに近い武器と考えられます。
 そのロケットランチャー弾を「いなさ」は回避したものの、近
くにいた巡視船「あまみ」に命中し、死者3人、負傷者4人を出
す惨事になったのです。さらに「いなさ」もカラシニコフ自動小
銃の銃弾を受け、死者2人、負傷者3人を出すという悲惨に結果
になったのです。
 午前10時45分、沖縄近海で作戦行動中の海上自衛隊の護衛
艦「あしがら」が、第2護衛隊群司令の命によって、魚釣島に針
路を変更し、全速で向かったのです。しかし、護衛艦は魚釣島に
到着しても防衛大臣による海上警備行動が出されないと、護衛艦
は見ているしかないのです。
 午後6時20分、尖閣周辺海域で海上保安庁の巡視船と中国偽
装漁船との銃撃戦で、海上保安庁の保安官の死傷者が出たという
報告があり、首相官邸別館にある危機管理センターに官邸対策室
「不審船に関する関係省庁局長会議」が設置されたのです。
 官邸対策室では、魚釣島周辺の現状は、明らかに海上保安庁の
対応能力を超えていると判断され、海上警備行動発令へと事態は
動きつつあったのです。
 海上警備行動とは、防衛大臣が、海上における人命もしくは財
産の保護または治安の維持のため特別の必要があると判断した場
合に命ぜられるもので、自衛隊の部隊による海上における必要な
行動をいうのです。1999年の「能登半島沖不審船事件」に際
し、初めて発動されています。
 航空自衛隊は、三沢基地所属のE─2C早期警戒機を発進させ
尖閣諸島海域上空に派遣したのです。情報収集のためです。海上
自衛隊も特別警備隊をヘリで石垣島に搬送し、海上警備行動発令
に備えたのです。しかし、この事態になっても官邸は中国と全面
的にコトを構えたくないという考え方で、決断に踏み切れないで
いたのです。
 午後6時30分、中国の農業部漁業局は、魚釣島に上陸した自
国漁民を保護するという名目で、艦載ヘリを搭載した最新鋭の漁
業監視船「漁政301」、「漁政311」、「漁政21」を広東
省広州から出港させ、尖閣諸島に向かわせたのです。
 「漁政311」や「漁政21」は、ただの監視船ではなく、軍
艦を改良したものなのです。「漁政311」は南海艦隊に所属し
ていた潜水艦救難艇「南救502」に手を加えた船であり、軍艦
を改造したものなのです。「漁政21」は、中国海軍のかつての
輸送艦904型であり、その後部甲板にはヘリ発着のスペースま
で持っているのです。
 午後7時00分、中国の漁業監視船を所管する農業部は日本に
対し、「尖閣諸島に上陸した過激派の保護を行うため、漁業監視
船を派遣する」と通告し、日本は一方的な行動をとるべきではな
いと日本の動きを牽制したのです。
 これは中国がよく使う手なのです。自国民を保護するといって
公船である軍艦同様の「漁政」を出動させ、時間を稼いで、占領
体制を強化してしまうのです。これに対し、日本政府は「中国の
介入はあくまで拒否する」として、中国側に行動しないよう通告
したのです。           ── [日本の領土/98]

≪画像および関連情報≫
 ●軍事や政治や歴史やらについてたらたらと語るブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  報道の通り「中国漁政301」は最新鋭の漁業監視船です。
  この漁業監視船、排水量は約2500t、航続距離6000
  マイル、最大速力は22マイル。そして、Z−9A型のヘリ
  コプター1機を搭載できます。今回のニュースで見る限り、
  就役のニュースの時にはついていなかった機銃が最低二門、
  船橋の前に付けられていますね。まあ、この甲板に乗せてい
  るということは、最初から積む設計だったのだと思います。
  日本の海上保安庁もヘリコプターや機銃を搭載してはいます
  が、国境警備軍を実質的にかねている海上保安庁と漁業監視
  船の中国漁政では意味あいが全然違います。やはりこの船に
  対しては、「表向きに与えられている任務よりもはるかにオ
  ーバースペック」という見方をするべきであると考えなくて
  はいけないでしょう。そして、「表向きではない」任務が何
  かと言うと、やはり、中国がすでに南シナ海で見せているよ
  うに、漁船団をこいつらが護衛しつつ漁を実施することで、
  まずは経済活動、そして出来うるならば法執行活動を行い、
  領有に向けた実績を積み上げていくのが目的であるとみられ
  ます。そういう意味で、中国人船長に法の裁きを与えずに本
  国に帰してしまったのは、今から考えても、本当に本当に痛
  恨の極みでした・・・。そういうところまでちゃんと考えて
  釈放したのか、と訊いて回りたいですわ、本当。
  http://blog.livedoor.jp/whitelion_1a/archives/1200271.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

漁業監視船「漁政311」.jpg
漁業監視船「漁政311」
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月27日

●「釣魚島の中国兵力は砲兵一個中隊」(EJ第3495号)

 尖閣諸島有事のシミュレーションでは、2日目までに海上保安
庁の保安官の死者は既に5人、負傷者7人も出ています。しかし
中国側には死者は出ていないのです。なぜなら、なるべく人を傷
つけないように撃っているからです。なぜ、そのようなことにな
るのでしょうか。
 それは、日本のROE──ルールズ・オブ・エンゲージメント
/交戦規定が厳し過ぎるからです。誰でも知っている交戦規定は
相手が撃ってこない限り、反撃できないし、その反撃にしても過
剰にならないよう歯止めがかけられているということです。過剰
と認められると、刑法で殺人罪になりかねないのです。
 日本の護衛艦が中国のフリゲート艦から火器管制レーダーの照
射を受けたとき、米軍のROEなら、照射だけで直ちに反撃をし
てよいことになっていますが、日本は相手から撃たれてからでな
ければ、反撃はできないのです。
 しかし、約30キロの距離からミサイルが発射されたら、確実
に護衛艦に命中するし、沈没する可能性も十分あります。何人も
の死者が出るのです。それから反撃というのでは、あまりにも間
が抜けていないでしょうか。控え目に書いているシミュレーショ
ンでさえ、2日で13人の死傷者が出ているのです。
 それは、戦争を放棄している日本国憲法に根本的な問題があり
ますし、自衛権は認められているといっても、そのROEはあま
りにも非現実的です。それは、日本を相手にする戦争など絶対に
起こらないし、どの国も日本を攻めてこないという、現実離れし
た前提に立っているからです。
 シミュレーションを続けます。
 ≪第3日目≫
 午後2時00分、中国の「漁政301」「漁政311」「漁政
21」は、尖閣諸島久場島から北西約37キロの接続水域内に到
着、海上保安庁の巡視船の警告を無視して、領海内に深く侵入し
てきたのです。そして、釣魚島沖合に停泊します。
 既に銃撃戦で日本側に多くの死傷者が出ているのに、海上警備
行動が出されていないので、日本側としては領海外に出るよう警
告するしかないのです。
 午後3時45分、釣魚島沖合に停泊している「漁政301」な
どからRHIB(リブ)と呼ばれる複合艇が何隻も出て、何やら
島へ多くの物資が運び込まれているのです。
 複合艇というのは、2種類の素材を組み合わせて作られている
硬質船底膨張式艇のことであり、巡視船には2〜4艇が搭載され
ているのです。一見すると、大型のゴムボートのように見えます
が、船底はV字型で床面はアルミ合金などの軽量素材でできてお
り、周囲はブイヤンシー・チューブと呼ばれる硬質ゴムで囲まれ
ています。尖閣諸島のような島に上陸するには適しています。
 その複合艇で釣魚島に運び込まれているものは、弾薬、燃料、
食料と兵器──対空ミサイル、対艦ミサイル、RPG(対戦車ロ
ケット弾)などであることが確認されたのです。
 釣魚島では、100人以上の武装中国兵が戦闘準備を進めてお
り、釣魚島の西側に位置する旧鰹節工場跡地には五星紅旗を掲揚
し、ヘリコプター基地の建設まではじめていたのです。
 中国外務省は、中国農業部農業局の漁業監視船を釣魚島に向か
わせたのは、あくまで過激派の自国民保護のためと日本側に通告
してきましたが、完全なウソであったのです。
 午後6時00分、中国共産党が正式にテレビで尖閣諸島の統合
を世界に向けて発表し、釣魚島は中国人民解放軍によって完全に
実効支配されたと伝えたのです。中国本土では、この出来事を快
挙と讃えて、沸き返ったのです。
 午後7時40分、既に釣魚島周辺海域は、海上保安庁や警察が
容易に近づけない状況になっていたのです。そういう状況にあっ
て、巡視船「やしま」は果敢にも釣魚島5キロの地点まで接近し
中国軍に対して退去を迫ったのです。
 巡視船「やしま」の後方には海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」
が後ろ盾としてついています。「さざなみ」には艦対艦ミサイル
(90式艦対艦誘導弾)と哨戒ヘリ1機を搭載していますが、先
に攻撃を加えることはできず、あくまで「やしま」のサポートが
任務なのです。
 巡視船「やしま」が、釣魚島からの退去を迫ったのは、日本の
海上保安庁としてこの命令を伝達しないと、島への不法占拠を認
めてしまうことになるので、その当然の職務を遂行しようとした
わけです。
 しかし、島に上陸している中国兵はそれを聞き入れるどころか
島の西側に配備していた対戦車ロケット弾のRPGを「やしま」
に対して発射したのです。RPGは「やしま」の船尾に命中し、
船体の一部では爆発が起き、これによって乗組員20人以上が死
傷する悲惨な結果になったのです。
 巡視船「いなさ」は、「やしま」の乗組員を救助すると、いっ
たん沖縄基地に引き上げています。ここにいたっても自衛隊はま
だ動くことはできないのです。これに関連して、古圧元海幕長は
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍首相は自衛隊のROEの見直しに言及しましたが、現在の
 事態に見直すのは当然のことです。日本の領海を守るために平
 時から許可された武力を行使していいという形にしなければな
 りません。さらにその前提として自衛隊法などの法整備にも着
 手すべきです。また、自衛隊が領海警備を行うことを可能にす
 る領域警備法を制定することも重要です。
               ──「週刊文春」2/21日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 その時点で釣魚島には、対空ミサイル発射機×2基、対戦車ミ
サイル×8基、対戦車砲×4門、追撃砲×6門、特殊部隊100
人という体制が整っていたのです。この兵力は、砲兵1個中隊に
匹敵するといえます。これほどの事態になっても官邸の決断は行
われていなかったのです。     ── [日本の領土/99]

≪画像および関連情報≫
 ●武器使用で日本は独自に制約/編集委員・谷田邦一、豊秀一
  ―――――――――――――――――――――――――――
  自衛隊による「武力の行使」や「武器の使用」には、憲法上
  の判断から数々の歯止めや制約が設けられている。軍事力へ
  の抑制的な姿勢は日本の特徴だが、国連などの集団安全保障
  措置が重視されるようになると、活動への積極的な参加に立
  ちはだかる壁にもなっている。日本の基準は他国とどのよう
  に違うのか。なぜそうなったのか。「警察権を行使する場合
  などの例外を除き、軍隊の実力行使を『武力行使』と『武器
  使用』とに区別する国は、日本だけ」。海上自衛隊出身の安
  保(あぼ)公人・拓殖大教授(国際法)は、そう指摘する。
  日本国憲法が武力行使を認めるのは、日本が武力攻撃を受け
  た場合に限られる。しかし自衛隊が海外に出て活動をする場
  合、自らの安全を確保するために武器を使う必要が生じるこ
  とは大いにありうる。それを、どういう理屈で認めるのか。
         http://www.asahi.com/strategy/0416a.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

護衛艦「さざなみ」.jpg
護衛艦「さざなみ」
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月28日

●「防衛出動の発令はいつ行われるか」(EJ第3496号)

 尖閣有事のシミュレーションをお届けしていますが、釣魚島が
中国軍によって占領され、その過程で日本側は何人もの死傷者が
出ているのです。さらに、釣魚島の中国軍の軍備が強化されつつ
ある状況においても日本の自衛隊は、ほとんど何もすることがで
きないでいます。法律で自衛隊を縛っているからです。
 ≪第4日目≫
 午前6時00分、釣魚島不法占拠事件を受けて緊急関係閣僚会
議が開催されたのです。閣僚の意見としては、「明らかに中国に
よる侵略である」として、海上警備行動を発令すべきであるとい
う意見や国連安全保障理事会に提訴すべきであるという意見など
さまざまな意見が出されたのです。
 なかには、もはや事態はその段階を超えているとし、一挙に防
衛出動を発令すべきであると主張する大臣もいたのです。しかし
外務省はこの事態にいたっても、「強硬手段を避け、事態を静観
すべきである」という信じられない主張をしているのです。
 さすがに危機感を募らした首相は、防衛相の主張する海上警備
行動を取ることを決断します。海上警備行動は、海上保安庁を預
かる国土交通大臣から「海上保安庁の対処能力を超えている」と
防衛大臣に連絡があり、持ち回り閣議が開かれて発令されます。
 午前6時50分、自衛隊法第82条に基づく海上自衛隊行動命
令が発令されたのです。同時に日本政府は国連安全保障理事会に
中国による侵略であるとして提訴したのですが、中国が拒否権を
盾にして抵抗したので、安保理は機能しなかったのです。
 しかし、この時点で海上警備行動を許可しても実質的に海上自
衛隊は何もできないのです。既に釣魚島は占領され、武装化が進
められている以上、中国の漁業監視船が出てくる前に海上警備行
動が取られてしかるべきであったのです。そして、中国が釣魚島
の「奪還と実効支配宣言」の時点で、直ちに防衛出動を発令する
必要があったのです。ツー・レイトです。
 作家の門田隆将氏は、海上警備行動について、次の疑問を呈し
ているので、ご紹介しましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (海上警備行動)の議論の中心は、海上警備行動で出ていった
 場合、極端な話、「大砲ひとつ撃てない」ということである。
 そもそも海上保安庁では対応できない時に自衛隊が出動するも
 のでありながら、あくまで「治安維持」が前提である以上、自
 衛隊の艦船が大砲をぶっ放すことは「許されない」のだ。すべ
 て相手の出方次第という「手足を縛られた状態」で出ていくの
 が「海上警備行動」である。私は、命をかけて現場に出動する
 自衛官たちの心情を思うと、たまらない。言いかえれば、交戦
 権のない状態で紛争地帯に現れる自衛官たちほど哀れなものは
 ない、ということだ。           ──門田隆将氏
             http://blogos.com/article/49275/
―――――――――――――――――――――――――――――
 既に述べたように、海上警備行動の発令は1999年3月24
日に当時の野呂田芳成防衛庁長官から発令され、一度経験してい
ますが、防衛出動の発令は誰も経験していないのです。そのため
はじめて発動する内閣総理大臣には、相当のプレッシャーがかか
るものと推測されます。
 しかし、威嚇射撃の容認、海上警備行動の発令、防衛出動の発
令とひとつずつ順を踏んで行くやり方では、タイミングを誤る恐
れがあるのです。
 午前7時30分、中国は、大型爆撃機「H─6」第1陣10機
を南京空軍基地から発進させたのです。この第1陣は、尖閣諸島
上空の制空権を取るのが目的ではなく、南シナ海を航行中の日本
船籍の貨物船「日航丸」に接近し、威嚇するなど、日本にプレッ
シャーをかけるのが目的なのです。
 ここは、中東から輸入する90%の原油や多くの貿易品が通る
重要なシーレーンなのです。それが中国に逆らうと、大変なこと
になるぞと脅しであると思われます。
 午前8時00分、再び大型爆撃機「H─6」第2陣10機が南
京空軍基地から飛び立ったのです。この10機は中国大陸から東
シナ海上を抜けて、西太平洋海域に至る特異な長距離飛行をして
いるのです。
 何のための飛行なのかというと、この爆撃機の編隊は、太平洋
を西に航行しつつある原子力空母「ロナルド・レーガン」を威嚇
するのが目的であったようなのです。レーダーの探知を避けて、
あえて低空を飛び、空母の直前で急上昇して飛び去るなど、明ら
かに米国空母を威嚇したのです。
 おそらくこの飛行は、もし、尖閣問題に米軍が介入すると、人
民解放軍は、米西海岸に核兵器を撃ち込むぞという威嚇であると
思われます。中国が米軍の介入をいかに警戒しているかをあらわ
すものです。
 午前8時15分、第1次と第2次の大型爆撃機「H─6」の発
進に続き、今度は中国製早期警戒管制機「KJ・2000」を伴
う主力戦闘機「J─10」30機の福建省の水門基地への配備が
完了したのです。まさに危機迫るです。
 この水門基地は、中国が尖閣を奪取するために作った飛行場な
のです。したがって、ここから発進する中国の戦闘機は、那覇基
地から迎撃のため飛来する航空自衛隊の戦闘機を要撃し、東シナ
海の制空権を確保するための飛行隊なのです。
 午前9時00分、首相官邸では事態対処専門委員会が開催され
内閣官房長官、内閣危機管理監、防衛省防衛政策局長、統合幕僚
長などが集まり、釣魚島に上陸した中国軍を制圧し、直ちに島を
奪還する必要があるとの意見が大勢を占めたのです。
 そしてその後開かれた安全保障会議で、激しい議論が行われた
結果、やっと次の結論が出されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           防衛出動が適当である
―――――――――――――――――――――――――――――
                ── [日本の領土/100]

≪画像および関連情報≫
 ●防衛出動とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  防衛出動とは、日本に対する外部からの武力攻撃が発生した
  事態または武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると
  認められるに至った事態に際して、日本を防衛するため必要
  があると認める場合に、内閣総理大臣の命令により、自衛隊
  の一部または全部が出動することをいう。防衛出動は、自衛
  権行使の一態様であり、現行法で最もハイレベルの防衛行動
  とされる。防衛出動には国会の承認が求められるなど、様々
  な制約がある反面、武力攻撃を排除するため、自衛権に基づ
  き必要な「武力の行使」が認められ、多くの権限が定められ
  るなど、内閣総理大臣の指揮監督の下、自衛隊の幅広い活動
  を可能にする。日本国憲法下において過去に防衛出動が行わ
  れたことは一度もない。       ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

H─6大型爆撃機.jpg
H─6大型爆撃機
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月01日

●「尖閣沖空戦で日本が制空権を握る」(EJ第3497号)

 尖閣諸島の釣魚島を中国軍によって占領された日本──これは
中国による日本の領土への侵略であり、主権の侵害です。もし、
将来こういう事態が起きると、日本は最終的には「防衛出動」を
とらざるを得なくなります。この防衛出動は、具体的にいうと、
次のことを意味しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 わが国固有の領土である尖閣諸島を不法占拠し、日本の主権
 を侵犯した中国軍に対し、国際法の範囲内で必要な措置と武
 器使用を含む作戦行動を取り、釣魚島を奪還する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪第5日目≫
 午前6時00分、遂に内閣総理大臣は「防衛出動」を発令した
のです。自衛隊発足後はじめての防衛出動になります。防衛出動
には国会の承認が必要ですが、事態が差し迫っているときは事後
承認でもよいのです。
 午前7時00分、防衛大臣による防衛出動に関する「行動命令
(行防命)」が発令されます。これにより、この釣魚島奪回作戦
では、海上自衛隊が中心になり、統合部隊司令官には海上自衛隊
自衛艦隊司令官が任命されたのです。
 午前8時00分、日本の防衛出動に対応して、米太平洋軍も動
き出したのです。米軍は、もともと中国の進出に備えて、保有す
る6隻の原子力航母のうち、2隻──「ジョージ・ワシントン」
と「ジョン・C・ステニス」を第2列島線以西の海域に配備した
のです。第2列島線とは、伊豆諸島を起点に、小笠原諸島、グア
ム・サイパン、パプアニューギニアに至るラインのことです。
 これは、中国にとっては大変な脅威であり、たとえ中国の爆撃
機が太平洋に飛来してきても、米機動部隊はそれを迎撃するだけ
の十分な能力を確保したことになります。
 それに米軍は、沖縄に駐留している2万人の海兵隊の半分をグ
アム、インドネシア、オーストリアに分散配置していて、中国か
らのミサイル攻撃に対して、どこからでも反撃できる体制を整え
ているのです。
 これに対して第1列島線とは、九州を起点に沖縄、台湾、フィ
リピン、ボルネオ島にいたるラインを指します。このラインは、
中国海軍および中国空軍の作戦区域・対米国防ラインなのです。
中国海軍にとっては、台湾有事のさいの作戦海域であり、同時に
対米有事において、南シナ海・東シナ海・日本海に米空母・原子
力潜水艦が侵入するのを阻止せねばならない国防上の必要のため
有事において、このライン内においては、制海権を握ることを目
標として、戦力整備を行っているのです。また作戦活動もそれに
準じています。
 午前10時00分、政府は、従来なら第1列島線に沿って航行
する日本国籍の貨物船とタンカーに対し、この海域を回避し、第
2列島線に沿って航行するよう指示を出しています。中国の「H
─6」爆撃機からの攻撃を避けるためです。
 中国の潜水艦が西太平洋に出てきて日本の船舶に攻撃を加えよ
うとしても、海上自衛隊の対潜水艦作戦能力は世界一であり、絶
対に西太平洋には入れさせない鉄壁の守りを誇っています。
 川村純彦氏によると、日本のシーレーン防衛のための戦力は次
のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ●第1護衛隊群
  「むらさめ」「いかづち」「あけぼの」「さわぎり」「ひゅ
  うが」「しまかぜ」「こんごう」
 ●第2潜水艦群
  「やえしお」「せとしお」
 ●第1航空群
  哨戒機「P─3C」20機
 ●第 5航空群
  哨戒機「P─3C」20機
 ●第31航空群
  哨戒機「EP─3C」3機、哨戒機「OP─3C」2機、救
  難飛行艇「US─1A」2機、「US─2」2機
                      ──川村純彦著
   『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力』/小学館新書101
―――――――――――――――――――――――――――――
 護衛艦7隻と艦載ヘリ7機、潜水艦2隻が海上を守り、空は哨
戒機45機で、シーレーンを守っているのです。これは、盤石の
体制であるといえます。
 午後2時30分、中国はこうした日本の動きを日本による宣戦
布告と受け取ったのです。直ちに待機させていた早期警戒管制機
「KJ・2000」を中心とする戦闘機「J─10」30機の編
隊を尖閣諸島に向けて発進させたのです。尖閣諸島周辺空域の制
空権を握るためです。
 これを沖縄本島西方沖で警戒中の日本の早期警戒管制機「E・
767」がキャッチしたのです。この「E・767」に搭載され
ている「AN/APY・2レーダー」は、8000キロの探知能
力を持っており、中国の「KJ・2000」搭載レーダーの比で
はないのです。
 日本は「E・767」と宮古島分屯基地のレーダーサイトの能
力を最大限に生かし、これと主力戦闘機「F─15J」と組み合
わせ、強固な防空体制を築いているのです。
 この情報を受けて、航空自衛隊那覇基地の南西航空混成団は、
直ちに第204飛行隊と第304飛行隊に迎撃命令を下し、30
機を発進させたのです。さらに支援戦闘機として、福岡県の築城
(ついき)基地から24機が沖縄を目指して発進します。
 「F─15J」は中国の「KJ・2000」を探知し、あっと
いう間に接近し撃墜。目を奪われた「J─10」は統制がとれず
次々と撃墜され、壊滅状態になったのです。日本の被害は2機。
かくして尖閣沖空戦は日本の圧倒的勝利に終わり、制空権は日本
が確保したのです。       ── [日本の領土/101]

≪画像および関連情報≫
 ●日中開戦すれば中国は1〜2週間で全面敗北/ロシアの分析
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2012年9月19日、日本と中国が尖閣諸島(中国名・釣
  魚島)をめぐって大規模な軍事衝突となった場合、中国空軍
  は米国の全面介入により大損害を被ることになるとロシアの
  ニュースサイト「ブズグリャド」が複数の専門家の意見とし
  て報じている。20日付で新華社通信(電子版)が伝えた。
  以下はその概要。日中の海軍力について、中国はある程度の
  脅威を日本に与えられる潜水艦を所有してはいるものの、海
  上自衛隊は一貫して対潜能力の向上に力を入れており、米軍
  事専門家が「米国より優れている」と評価するほど。中国の
  海軍力は数・質・経験・戦術のいずれをとっても、日本には
  かなわない。日中が開戦すれば、中国空軍は尖閣諸島(釣魚
  島)を奪い取るために戦闘機400〜500機、ディーゼル
  ・エレクトリック潜水艦を少なくとも20隻、原子力潜水艦
  を1〜3隻送り込むことになると予想される。だが、別の専
  門家は「日本は兵器の質も個人の戦闘能力も中国より高い」
  と指摘する。これらの意見を総合すると、日中の戦闘能力に
  大差はないともいえるが、日本にはなんといっても盟友・米
  国という力強い存在が控えている。米軍が参戦すれば、中国
  は1〜2週間で重大な損害を被ることになるだろう。中国対
  日米という図式になれば、中国に勝ち目はない。
                      ──日本の将来
  http://cahotjapan.blog103.fc2.com/blog-entry-1952.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

第1列島線と第2列島線.jpg
第1列島線と第2列島線
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月04日

●「対軍艦対潜水艦に高い能力の日本」(EJ第3498号)

 尖閣有事シミュレーションを続けます。
 中国福建省の水門基地から発信し、尖閣諸島方面に飛来しつつ
ある中国軍の戦闘機30機をたちまちキャッチしたのは、航空自
衛隊の早期警戒管制機(AWACS)「E・767」です。
 「E・767」は浜松基地をホームベースとして4機保有して
いますが、この日は沖縄本島西方沖で警戒に当っていたのです。
「E・767」は高度9000メートルの高空を飛び、機体の背
中に乗せた大出力レーダーで、直径8000キロの探知能力を有
しているのです。
 「E・767」は、遠くから飛来する国籍不明機を探知すると
ともに、空中で味方の飛行機の管制・誘導を行うのです。人間の
身体にたとえると、戦闘機は武器を振るう両手であり、輸送機は
物資を運ぶ両足であるのに対して、「E・767」は敵を探知す
る目と手足を制御する脳との両方の機能を持っているのです。手
足は脳からの指令があってこそ初めて役に立つもので、「E・7
67」は日本の空の司令塔であり、守護神であるといえます。
 したがって、戦闘機が空中戦を行うとき、その管制・誘導を行
う司令機が早期警戒管制機なのです。この日本の「E・767」
に対して中国も「KJ・2000」という早期警戒管制機を有し
ていますが、性能的には「E・767」に遠く及ばないといわれ
ています。
 いずれにしても空中戦では司令塔の早期警戒管制機を叩くとい
うのがセオリーなのですが、「E・767」はたちまち「KJ・
2000」を探知し、それに航空自衛隊の戦闘機「F─15J」
が襲いかかって撃墜したのです。これによって、中国の戦闘機群
は目を失い、次々と撃墜されてしまったのです。
 ≪第6日目≫
 制空権を握った日本軍がやることは、尖閣諸島周辺海域にひし
めいている中国軍東海艦隊の軍艦の一掃です。実際にどのように
してやるのかについて、川村純彦氏の次の記述をご紹介し、解説
していきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.海上自衛隊のAIP潜水艦「そうりゅう」のパッシブソナ
   ーが、航行する「ソブレメンヌイ」級駆逐艦1隻の音を捕
   らえた。「そうりゅう」の1番管から89式長魚雷1発が
   発射され、目標に命中。
 2.哨戒機「P・3C」搭載の対艦ミサイルが威力を発揮し、
   「ソブレメンヌイ」級駆逐艦1隻と「旅洋U」型駆逐艦1
   隻、補給艦1隻を撃沈。      ────川村純彦著
   『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力』/小学館新書101
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで活躍しているのは、日本のAIP潜水艦と哨戒機「P・
3C」です。AIP潜水艦のAIPとは、「非大気依存推進」と
いう意味であり、水中排水量4200トンは現代の通常動力潜水
艦としては世界最大です。日本は原子力潜水艦こそ持っていませ
んが、きわめて静かな通常動型潜水艦を運用しているのです。
 通常の潜水艦は電気を得るために、シュノーケルを海上に突き
出し、そこから取り入れた空気でディーゼル機関を動かして電気
を得るのです。そしてその電気をモーターに送って、スクリュー
を回しているのです。
 しかし、敵と遭遇する可能性の高い海域ではシュノーケルは使
えず、蓄電しておいた電気を使うのですが、電池の消耗は激しく
長時間の潜航はできないのです。これが通常動型潜水艦の弱点で
あるといえます。
 原子力潜水艦はそのために開発されたといえます。原子炉の動
作には酸素を必要としないため、長期間の連続潜航が可能になり
外洋を含めての作戦遂行が可能になったのです。
 しかし、AIP技術を使うと、動力型潜水艦でも、深く潜行し
たまま発電し、ある程度の期間作戦を遂行できるのです。AIP
は液体酸素タンクから供給される酸素とケロシンという物質を燃
焼させ、その結果生じた800度の熱を熱交換器でヘリウムガス
に伝え、ヘリウムガスの膨張力とそれを海水冷却するさいに生ず
る圧縮力を利用して発電する仕組みです。AIPは、スウェーデ
ンで開発されたスターリングエンジンを使うのです。
 AIP潜水艦は、このスターリングエンジン4基と通常のディ
ーゼル機関2基を装備しており、これらを組み合わせて航行する
のです。それに日本の潜水艦はきわめて音が静かなのです。ある
米国の高官が日本の潜水艦について、次のようにいってため息を
ついたといいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 われわれの潜水艦はクワイエット(quiet)だ。 だが日本の
 潜水艦はウルトラ・クワイエット(ultra quiet)だ。
               ──川村純彦著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対して、中国の潜水艦は音がうるさく、まるで鐘を鳴ら
しながら潜航しているようなものだといわれます。中国にとって
潜水艦隊は南シナ海や東シナ海を制するために不可欠なものです
が、日本の対潜水艦対応能力は世界一といわれており、他国が潜
水艦で日本に接近し、攻撃することはきわめて困難なのです。
 それに「P・3C」による対潜水艦哨戒レベルは高度で、日本
は「P・3C」を90機保有しています。これは米国に次いで第
2位の台数です。「E・767」と「P・3C」の哨戒の下に中
国の軍艦は次々と撃沈されていったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 3.第4護衛隊群が「ソブレメンヌイ」級2隻を攻撃。
 4.早期警戒管制機「E・767」の管制下で「F・2」がフ
   リゲート「江衛T」型、「江衛U」型(計4隻)を撃沈。
 5.第3護衛隊群が対艦ミサイルを発射し、「江凱T」型(0
   54型)3隻を撃沈。   ──川村純彦著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
                ── [日本の領土/102]

≪画像および関連情報≫
 ●「E・767」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ボーイングが開発した民間旅客機B─767を母体に開発さ
  れた。胴体の上部にそびえる巨大なロートドームが特徴で、
  常に回転しながら中のコンクリートを固めないようにしてい
  る。また、回転で得られた電力を使った高出力の戦略レーザ
  ー(通称:TLS)発射機を搭載。主翼には大量の対空ミサ
  イルを搭載可能なほか、120センチ対地対空両用磁器火薬
  複合加速方式半自動固定砲(通称:ストーンヘンジ)を小型化
  し、特殊弾頭を用いた大口径レールガンをそれぞれ4機ずつ
  搭載し、胴体下のウェポンベイには燃料気化爆弾や炸裂散弾
  巡航ミサイルやニンバス巡航ミサイルが搭載可能である。ま
  た、戦闘機を2機収容でき、空中空母としても運用が可能に
  なる。新開発の放射線を出さない熱核パルスエンジンを搭載
  し、半永久的に空中に滞在することも可能であるが、搭乗員
  の精神衛生上そのような運用はまずないとされる。そして、
  E・767最大の武器がロートドームの回転力を一気に上げ
  た後、ロケットブースターで弾き飛ばすサンダーブーメラン
  である。このサンダーブーメランは一説によれば戦術核にも
  匹敵するほどの威力を持つとされているが、詳しいことは不
  明である。             ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

早期警戒管制機/E・767.jpg
早期警戒管制機/E・767
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月05日

●「釣魚島奪還作戦に成功した自衛隊」(EJ第3499号)

 尖閣有事のシミュレーションを続けます。ここまでのシミュレ
ーションの展開を読んで「そんなに簡単に行くのかな」と考えた
読者も多いのではないかと思いますが、日本の自衛隊は意外に強
いのです。知らないのは日本国民だけです。
 EJでは、元海将補の川村純彦氏によるシミュレーションをご
紹介していますが、ネット上では他に多くのシミュレーションが
載っています。そのなかで、中国サイドの分析をご紹介します。
 2012年9月4日付の香港紙「亜州週刊」は、台湾の軍事評
論家・黄銘俊氏の「人民解放軍は日米といかに戦うか」という記
事を掲載しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 最初の戦闘は「電磁権」「制空権」「制海権」を争う戦いにな
 る。米軍の情報ネットワークは攻撃に弱く、人民解放軍は優位
 に戦いを進められると評価している。一方で米空母、そして沖
 縄やグアムの陸上基地を活用できる日米のほうが制空権では有
 利だ。制海権についても人民解放軍は劣勢と分析している。制
 海権と制空権を相手に握られた以上、人民解放軍は奇襲作戦で
 尖閣諸島に上陸するしかない。空挺部隊がその有力な候補とな
 る。占領後の戦いだが米国本土での戦いではない以上、米国で
 「なぜ戦わなければならないのか」との議論が起きることにな
 る。中国は米軍に犠牲者などコストを強いることで、反戦の声
 を高めさせる作戦に出る。こうした戦いではミサイルなどの遠
 距離攻撃兵器が重要だが、その意味で科学技術の差異は注意が
 必要だ。ミサイルの誘導には衛星利用測位システムが必要とな
 るが、中国独自の北斗システムはまだ未完成で、米国のGPS
 に頼っているのが現状だ。現段階で戦いを挑めば、中国にとっ
 ては大きなリスクとなる。
     http://news4int.blog.fc2.com/blog-entry-290.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 この軍事専門家は、仮に空挺部隊で釣魚島を占領しても制空権
と制海権を取られたら、捕虜になるしかないと述べ、占領しても
意味はないと述べています。つまり、人民解放軍が、現在の日米
から制空権と制海権を取るのは難しいといっているのです。
 とくに制空権では、日本の哨戒能力と戦闘機の性能、戦闘能力
のどれをとっても人民解放軍は、日本には勝てないと冷静に分析
しているのです。しかし、中国サイドとしては、日本に負けると
はいえないので、あえて「日米」という表現を使っています。
 中国軍東海艦隊は制空権を失い、簡単に釣魚島には接近できな
くなっています。「E・767」の管制下で航空自衛隊の「F・
2」戦闘機が、中国のフリゲート艦「江衛T」型と「江衛U」型
など4隻を撃沈しています。江衛型フリゲートとは、「ジャンウ
ェイ型」ともいい、中国海軍のフリゲートとしてはじめて、NA
TO諸国の汎用フリゲートに比肩しうる、バランスのとれた装備
を備えているものの、排水量は2000トン台と船体は小型であ
り、航洋性能に問題があるフリゲートです。
 さらに、日本の哨戒機「P・3C」搭載の対艦ミサイルが「ソ
ブレメイヌイ」級駆逐艦1隻と「旅洋U」型駆逐艦1隻、補給艦
1隻を沈めています。ソブレメンヌイ級駆逐艦とは、ソ連および
ロシアが開発・建造した艦隊水雷艇、ミサイル駆逐艦です。
 さらに海上自衛隊の第3護衛艦群に所属する「しらね」などの
護衛艦が対艦ミサイルを発射し、「江凱T」型フリゲート艦3隻
を撃沈しています。
 江凱型フリゲートは、ステルス性を考慮した新設計の艦体に、
西側諸国やロシアのテクノロジーを導入した兵装を搭載していま
す。さらに、対空・対潜・対水上にバランスの取れた兵装を備え
ており、それらの武器とレーダーやソナーなどのセンサー類は、
フランスのテクノロジーに基づく国産の戦術情報処理装置を中核
として連結され、高度にシステム化されている軍艦です。
 ≪第7日目≫
 このようにして、尖閣諸島周辺海域にいた中国東海艦隊は、潜
水艦をのぞいて、釣魚島周辺から排除されたのです。これによっ
て、釣魚島を占拠していた中国軍は孤立してしまったのです。
 あとは潜水艦です。「商」型攻撃型原子力潜水艦1隻と通常型
潜水艦は釣魚島に近づこうとしますが、自衛隊の鉄壁の対潜警戒
網を突破できないでいたのです。
 午前6時30分、哨戒機「P・3C」は慎重に中国潜水艦の動
きを探知していますが、釣魚島に接近する動きはないことを確認
し、釣魚島への補給を絶った状態を持続させ、占領部隊を弱体化
させていったのです。
 釣魚島奪還作戦の先頭に立つのは、陸上自衛隊の特殊作戦群で
す。陸上自衛隊唯一の特殊部隊です。
 午前10時15分、陸上自衛隊特殊作戦群隊員200人とSA
T(特殊急襲部隊)10人を乗せた輸送艦「おおすみ」が沖縄ホ
ワイトビーチを出港。空には早期警戒管制機「E・767」が空
中を監視し、海上は海上自衛隊哨戒機「P・3C」が海上哨戒を
開始するなか、輸送艦「おおすみ」は、釣魚島の北東5キロ沖ま
で接近したのです。
 午後7時45分、周囲に脅威がないことを確認した輸送艦「お
おすみ」は自衛艦隊司令官にこれを報告。司令官は南西航空混成
団司令に釣魚島攻撃を命令したのです。
 上空で待機していた戦闘機「F・2」2機が直ちに釣魚島に設
営されていた基地を爆撃したのです。島からはロケット砲などの
火器による抵抗はあったものの、これにより、釣魚島の中国軍陣
地は壊滅したのです。
 それを機に特殊部隊200人と10人のSATは、ヘリとエア
クッション艇に乗って釣魚島に上陸。多少の抵抗はあったものの
釣魚島全島を制圧し、偽装漁民は全員降服したのです。
 午後11時45分、特殊部隊の手によって、釣魚島に日の丸国
旗が掲揚されたのです。これにより、釣魚島奪還作戦は目的を達
して終了したのです。そして、このニュースは全世界に発信され
たのです。           ── [日本の領土/103]

≪画像および関連情報≫
 ●陸上自衛隊特殊作戦群隊員とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  特殊作戦群は千葉県船橋市の習志野駐屯地に駐屯する、中央
  即応集団の隷下部隊です。陸上自衛隊唯一の特殊部隊であり
  イラク戦争にも情報収集と警備のため派兵された自衛隊最精
  鋭部隊です。いったん、特殊作戦群に所属すると自分の所属
  は家族であっても一切、口外できない内部規則になっていま
  す。指揮官は素顔をさらすものの実際に作戦を行う隊員はネ
  クタイを締めた通常の制服姿の上に顔にバラクラバを被せる
  という今までの自衛隊からは考えられない異様な姿。部隊の
  主任務は対テロおよび対ゲリラ戦闘です。特殊戦におけるほ
  ぼすべての任務を達成できる実力を有しており、重要な特殊
  任務が与えられます。特殊作戦群はアメリカ陸軍の特殊部隊
  であるグリーンベレー、デルタフォースを編成・装備・訓練
  の手本として発足しており、現在の隊員数は、戦闘要員が約
  200人、後方支援隊員が100名とされています。研究意
  欲旺盛な隊員が多く、自分の資金を使ってアメリカのPMC
  (傭兵派遣会社)に研修へ出向いて技術を習得する者が多く
  います。産経新聞社の報道では、隊員を的の両脇に立たせ、
  10メートル以上離れた場所を移動しながら拳銃の弾を標的
  に命中させる特別な訓練を行っています。防衛省でも特殊作
  戦群についての写真や情報は「中央即応集団」編成式典以外
  でほぼ公開しておらず実態はベールに包まれています。
       http://jieitaisaiyou.web.fc2.com/tokusyu.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

「亜州週刊」誌.jpg
「亜州週刊」誌
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月06日

●「尖閣有事に日本が勝つとどうなる」(EJ第3500号)

 ここまで述べてきた尖閣有事のシミュレーションは、元海将補
の川村純彦氏の所説をご紹介したものです。シミュレーションは
もう少し続くのですが、自衛隊が釣魚島を奪還したところで終わ
ることにします。
 他のシミュレーションもいくつかチェックしましたが、川村純
彦氏のそれと大差はないのです。いずれも日本が圧勝するという
内容なのです。しかも、川村氏と同様に日本単独で戦うという想
定で日本が圧勝するのです。
 もし、川村氏の想定のように日本が圧勝したら、中国はどのよ
うに反応するでしょうか。川村氏は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 自衛隊による魚釣島奪還のニュースはあっという間に全世界に
 広がった。その結果、中国本土ではふがいない中国人民解放軍
 特に海軍に対する非難が爆発し、魚釣島の領土奪回を求める国
 民世論が急激な高まりを見せた。インターネットを中心に政府
 に対する抗議のデモが呼びかけられ、主要都市ではデモ隊と治
 安部隊とが激しく衝突し、死傷者を出す騒ぎとなった。事態の
 収拾を図る中国共産党政権にとって尖閣再奪還のために再び軍
 隊を出す以外に騒ぎを鎮める策はなかった。中国共産党として
 は対日反撃措置をとって、少なくとも海上自衛隊の1、2隻は
 沈めないと面目を保てないというわけである。──川村純彦著
   『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力』/小学館新書101
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国が力づくで尖閣諸島を獲りに来て、それを日本に奪還され
てしまったのです。中国国民は、米国にはかなわないかもしれな
いが、小日本には負けるはずがないと思っているはずです。しか
し、防衛出動が出てからは、自衛隊の艦艇、航空機の損害は軽微
なのです。それに対して、中国は空軍では虎の子の早期警戒管制
機「KJ・2000」を撃墜され、海軍も主力艦をほとんど失う
という大損害を被っています。国民の怒りはとても収まらないで
しょう。川村氏もいうように、「海上自衛隊の軍艦の1、2隻は
沈めないと面目を保てない」と思われます。
 それに、頼みの空軍も簡単に撃墜され、たちまち制空権を奪わ
れてしまっています。その原因は、中国軍は本格的な空中戦を経
験していないことにあります。
 その点、日本の自衛隊は、国土防衛のために兵器の近代化に努
め、それらの兵器による米軍と一体になった軍事演習を何十年も
重ねてきているので、実戦の経験こそないものの、近代的な空中
戦の戦い方を熟知しているのです。
 それが海上自衛隊が哨戒機「P・3C」を80機を保有してい
るのに対して、中国はたったの4機しか持っていないことによく
あらわれています。索敵能力に大きな差があるのです。近代戦で
勝利するのは、戦闘機の数ではなく、戦闘機の質と的確な索敵能
力に優れていなければならないのです。
 それにこの川村氏によるシミュレーションでは、尖閣有事に日
本が単独で立ち向かうという想定ですが、今回の日中の争いで、
尖閣諸島の軍事上の重要性に改めて気が付いたとみられる米軍が
尖閣諸島の戦いを傍観しているはずはないのです。
 元海将補で、軍事技術コンサルタントの田口勉氏は、次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 尖閣で日中の軍事衝突が起きれば米軍も動く。米軍は空母を
 3隻は出すでしょう。これは中国にとってはとてつもない脅
 威で、それを考えても自衛隊が中国に負けることはない。
             ──「週刊新潮」2月21号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 もともと米軍空母は、第2列島線に2隻体制で配備され、中国
軍が日本の米軍基地をミサイル攻撃する可能性があれば、その前
に米の原子力潜水艦が中国のミサイル基地を波状的に攻撃する体
制をとっているのです。
 元国務省で日本部長を務めたケビン・メア氏は、もし、尖閣有
事で日本が防衛出動を発令した場合の米軍の動きについて次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 公海上で日中両軍が衝突した場合、米軍は日本側と即時に協
 議に入ります。そして、本格的な攻撃であれば、日米安保条
 約の拡大発動で、ただちに日本側を支援するでしょう。アメ
 リカは同盟国が撃たれるのを黙って見ていない。
             ──「週刊文春」/2月21日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、シミュレーションのような事態が起きると、中国が日本
に反撃しないと、国民の暴動は激しくなり、中国共産党は深刻な
危機に陥ります。しかし、中国が日本をミサイル攻撃する事態に
なると、日米安保条約が発動され、中国は米軍からの反撃を受け
ることになります。したがって、中国はシミュレーションのよう
な事態に陥ることを絶対に起こさないはずです。
 ネット上の中国系の専門家や中国の軍事筋からのレポートを読
むと、現時点で中国は、日本の自衛隊と戦っても勝てないことを
よく認識しています。したがって、そんな暴挙には出ないと思い
ますが、中国海軍が暴走する事態はあり得るのです。
 もともと中国人民解放軍は、ゲリラ戦を重視した陸軍部隊が中
心で、海軍力を有していなかったのです。中国人民解放軍に海軍
組織が設置されたのは1949年4月のことであり、その正式名
称は、中国人民解放軍海軍となっています。
 つまり、あくまで海軍は人民解放軍という陸軍の下に位置付け
られており、低い位置づけだったのです。これに海軍の幹部クラ
スは不満を抱いていたのです。ところが、最近中国が海洋権益に
目覚めたことにより、海軍に多くの予算が付くようになって士気
が上がっているのです。そのため、火器管制レーダー照射のよう
な乱暴なことをやる恐れがあり、先走って日本と衝突することは
十分あり得ることです。     ── [日本の領土/104]

≪画像および関連情報≫
 ●中国海軍は大部分が時代遅れの旧式艦艇/古沢襄氏
  −――――――――――――――――――――――――――
  中国海軍の艦艇10隻が南西諸島の公海を西太平洋に向かっ
  て現れたと写真入りで報じられていた。中国脅威論が叫ばれ
  たが、私は別のことを考えていた。大陸国家である中国はも
  ともと陸軍主体の戦力強化に努めてきた。海軍が沿岸海軍か
  ら外洋海軍を目指して強化されてはいるが、近代化されてい
  る日本の海上自衛隊に比較すれば、保有艦船数、航海時間や
  訓練の練度でまだ差がある。ほんの10年くらい前までは、
  中国海軍は外洋に出ると船酔いする水兵が続出して、海上自
  衛隊では見下す風潮があった。それが、ようやく縦列で艦隊
  を組むところまできた、という程度の印象でしかない。米国
  海軍に次ぐ実力を有している海上自衛隊は、いぜんとしてア
  ジアで最強の海軍なのである。米第七艦隊の幹部は中国海軍
  を評して大部分が時代遅れの旧式海軍と歯牙にもかけていな
  い。数年後には中国初の航空母艦が就航するであろうが、そ
  れを以って中国海軍が飛躍的に近代化、強化されると思うの
  はどうであろうか。中国の軍事力の主体はあくまでも厖大な
  陸軍兵力と400発といわれる核兵器にある。中国海軍の強
  化は中東からのシーレーンの確保に主眼があるといわれてい
  る。日本のような海洋国家は、海上通航路であるシーレーン
  の安全確保が国防政策の最重要課題なのだが、大陸国家であ
  る中国も経済の発展に伴って石油消費国としてシーレーンの
  確保が緊急課題となったのは事実である。
            http://blog.kajika.net/?eid=997927
  ―――――――――――――――――――――――――――

中国海軍/ソブレメンヌイ級駆逐艦.jpg
中国海軍/ソブレメンヌイ級駆逐艦 
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月07日

●「中国の『A2AD』海洋戦略とは」(EJ第3501号)

 「どこかの国が日本に戦争を仕掛ける」──そんなことをこの
50〜60年の間、日本人は考えもしなかったと思います。いわ
ゆる平和ボケです。
 何かが変わったのは、2009年頃からなのです。その頃から
中国の他国に対する姿勢が急に強硬になったのです。それは20
10年の中国の名目GDPが日本のGDPを抜いて世界第2位に
なり、中国が世界第2位の経済大国になったことと無関係ではな
いはずです。そんな中国が現在、尖閣諸島の領有権を巡って戦争
を仕掛けかねない状況になっています。
 中国は何を考えているのでしょうか。
 中国の海洋戦略に「A2AD」というのがあります。中国は、
「排他的経済水域」(EEZ)というものを独自に勝手に解釈し
ています。少し海洋法を勉強しましょう。海洋は、国際的に次の
4つに分類されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.領海       ・・  領海の基線から 12海里
 2.接続水域     ・・  領海の基線から 24海里
 3.排他的経済水域  ・・  領海の基線から200海里
 4.公海       ・・ 各国が自由に航行できる海域
―――――――――――――――――――――――――――――
 「海里」というのは1852メートルであり、12海里は22
キロメートル、24海里は44キロメートル、そして200海里
は370キロメートルです。
 ここで、排他的経済水域とは、沿岸国に経済的な管轄権が与え
られていますが、他国の航海に際しては自由通航となっている海
域のことなのです。つまり、排他的経済水域であっても通過する
だけであれば、公海と同様に自由に通行できるのです。
 しかし、中国は排他的経済水域を独自に解釈しており、南シナ
海がそうであるように、外国船を寄せつけないなど、数々のトラ
ブルを起こしています。
 中国は、明らかに他国の実効支配が及んでいるところに武力で
侵攻し、「ここでは争う余地のない主権」を中国が有していると
平気で主張するのです。国際的には絶対に認められないことです
が、中国がそれを改める可能性はゼロに等しいのです。そして現
在、同様なことを東シナ海でもやろうとしているのです。
 さて、「A2AD」とは何でしょうか。「A2」と「AD」は
次の意味があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      A2 ・・・ 接近阻止/ Anti-Access
      AD ・・・ 領域拒否/ Area Denial
―――――――――――――――――――――――――――――
 「A2」──アンタイ・アクセスは、日本、グアム、ニューギ
ニアを結ぶ線、すなわち、第2列島線内に米軍が作戦展開するこ
とを許さないという戦略のことです。
 これに対して「AD」──エリア・ディナイアルは、日本、台
湾、フィリピンを結ぶ第1列島線の内側は中国の主防御海域とし
て、絶対に米軍を入れないという戦略です。
 この戦略が設定されたのは、1982年のことです。そのとき
の中国の最高指導者はケ小平だったのです。当時、ケ小平は中国
人民解放軍の近代化計画を推し進めようとしていたのです。中国
人民解放軍海軍司令官の劉華清は、「A2AD」戦略を策定し、
それにしたがって、人民解放軍の近代化計画を進めようとしたの
です。要するに、米軍を中国本土に近づけない、中国領に入れず
追い出すという軍事戦略なのです。
 1990年代に入ると、この戦略が一層重要になったのです。
それまでは、長大な国境線を接しているソ連が中国にとって最大
の脅威であり、中国人民解放軍は国境線を守る陸軍中心の軍隊で
あったのです。
 そのソ連が冷戦の崩壊で消え、ロシアとの間の国境問題が解決
すると、中国にとって米国が最大の敵になったのです。エネルギ
ー資源輸入ルート、すなわちシーレーンの保持を目的とし、海洋
権益に中国は目を向け始めたからです。
 これに関して、中国は1996年に米国の力をいやというほど
味合わされたのです。同年に行われた台湾総統選挙のときです。
中間で李登輝優勢の観測が流れると、中国人民解放軍は選挙への
恫喝として、軍事演習と称して、台湾北部の基隆(キールン)沖
海域にミサイルを撃ち込んだのです。そして、人民解放軍副総参
謀長の熊光楷中将は、アメリカ国防総省チャールズ・フリーマン
国防次官補に次のようなメッセージを出し、恫喝したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 台湾問題にアメリカ軍が介入した場合には、中国はアメリカ西
 海岸に核兵器を撃ち込む。アメリカは台北よりもロサンゼルス
 の方を心配した方がよい。         ──熊光楷中将
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、そんなことに米国は動じなかったのです。米海軍は、
中国が「AD」として領域拒否する台湾海峡に太平洋艦隊の通常
動力空母「インデペンデンス」とイージス巡洋艦「バンカー・ヒ
ル」などから成る空母戦闘群、さらにペルシャ湾に展開していた
原子力空母「ニミッツ」とその護衛艦隊を派遣し、中国軍と対峙
したのです。
 これは中国にとって大変なショックであったのです。主防御海
域「AD」をやすやすと破られ、米海軍に踏み込まれからです。
結局中国は、米海軍の「AD」からの撤退を条件として、軍事演
習を中止せざるを得なかったのです。
 そのときから17年が経過しています。中国人民解放軍海軍の
拡大・近代化は量質ともに進んでいます。その膨大な武力を背景
に南シナ海では中国軍は、武力を使ってさまざまな問題を起こし
ています。そして、それが現在、中国軍は東シナ海でも同じこと
をやろうとして、尖閣諸島に対してプレッシャーをかけてきてい
ます。それに対して同盟国である米国は、1996年のような熱
意が感じられないのです。    ── [日本の領土/105]

≪画像および関連情報≫
 ●台湾は日本の生命線!/2010年12月26日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  朝日新聞が2010年12月24日に発表した日米両国民の
  安保の考え方に関する世論調査結果によると、日本では「軍
  事的に脅威を感じる国」として中国を挙げた回答者が、05
  年の13%から32%に激増したのが「以前の調査に比べて
  大きく変わったこと」だという。「日本の平和と安全に大き
  な影響を与えるような事態が起きる不安」についても「感じ
  ている」が72%に達した。そのためか「安保条約に対して
  も肯定的な見方が強まっている」そうだ。条約の維持につい
  て「賛成」が95年の64%、01年の74%から、今回は
  78%へと増えたし、またそれが「日本のためになっている
  か」でも、「なっている」が95年の42%から70%にま
  で達しているようにだ。そしてもうひとつ注目したいのは、
  次の設問への回答だ。「仮に、中国と台湾との間で軍事衝突
  が起きて、アメリカ軍が軍事介入したとき、自衛隊がアメリ
  カ軍のために物資を輸送するなどの後方支援をすることに賛
  成ですか」。これに対して「賛成」は57%で、「反対」は
  30%だった。「賛成」が過半数を超えたということに注目
  したのが台湾各紙だ。「台湾海峡でもし戦争が起これば米軍
  支援を望む」(聯合報)、「多くが台湾支援に賛成」(自由
  時報)といった見出しで報道したのは、日本国民がこれほど
  「賛成」すると思っていなかったからだろうか。
  http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-1379.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

台湾有事を想定した日米の合同演習.jpg
台湾有事を想定した日米の合同演習
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月08日

●「米国は本当に日本の頼りになるか」(EJ第3502号)

 中国は2013年の国防予算が7405億元(約11兆1千億
円)と発表しました。日本の防衛関連予算の約2倍であり、AS
EAN10ヶ国の総軍事費の約4倍に当ります。
 しかも、その予算の多くを海洋権益保護に使うというのですか
ら、日本にとって大変な脅威になります。2012年度は、「列
島線突破訓練」と称して、沖縄本島と宮古島の間を抜けて西太平
洋に出る軍事訓練を7回も実施して、近くに基地を持つ日米を牽
制しているので、今年はもっと派手にやる可能性があります。
 実は中国にとってはこの海峡がかなめなのです。尖閣諸島はそ
の喉元に位置しているのです。ここを中国に取られると、中国の
原潜はゆうゆうと西太平洋に出てこれるので、米国の安全保障に
大きな影響を及ぼすのです。
 もし、中国が本気でこのあたりの海洋を押えようと思ったら、
釣魚島のような岩礁の占領ではなく、宮古島、石垣島、下地島に
同時侵攻するはずです。この3つの島には、米軍も自衛隊の戦闘
部隊も駐屯していないのです。
 この3つの島を取られると、そこに潜水艦基地ができ、中国の
核弾頭搭載の原潜がノーチェックで太平洋に出られるのです。し
かも、下地島には、3000メートルの滑走路があり、日本の南
西航路帯を完全に押え込むことができるのです。
 中国がそんな明らかな侵略をするはずがないと考える日本人は
少なくないでしょう。しかし、中国は沖縄も中国領だといってい
るのです。したがって、これらの3つの島を侵略することぐらい
平気でやると思われます。
 しかし、沖縄に米軍基地があり、米軍の力が強大である限りは
中国はすぐには仕掛けてこないでしょう。そのための尖閣諸島へ
の揺さぶりなのです。尖閣にプレッシャーをかけて、日本がどう
対応するか、米国がどう出てくるかを試しているのです。
 日本にとって頼みは同盟国である米国です。米軍が強い間は中
国は手を出してこないでしょう。しかし、その米国のオバマ政権
は、大統領をはじめ、国務長官も国防長官も中国寄りなのです。
 ケリー国務長官は、オバマ大統領のアジア戦略について記者に
聞かれ、次のようにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ大統領のアジアへの旋回戦略は支持するが、日本の米
 軍基地は多過ぎる。         ──ケリー国務長官
―――――――――――――――――――――――――――――
 国防長官のチャック・ヘーゲル氏は、議会の猛反対でやっと就
任を承認されたのですが、米国の代表的な保守系週刊誌「ウイク
リー・スタンダード」のフレッド・バーンズ編集長は、ヘーゲル
氏について、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ヘーゲル上院議員は反ペンタゴン、反米軍派だ。朝鮮戦争が
 始まったときのジョンソン国防長官と同じように、米国の国
 防政策を混乱させる恐れがある。   ──バーンズ編集長
―――――――――――――――――――――――――――――
 それに加えて「sequestration」 問題があります。「政府予算
を一律10%カットする」あの措置のことです。そもそもこれが
実行されると、とくに国防予算においては「ヒト・モノ・カネ」
すべての面において、現場で大混乱を招く恐れのあるとんでもな
い仕組みになっているのです。
 なぜ、この措置が設けられたのかは、この措置の「トンデモナ
サ」が、きっと共和党と民主党の双方から一定の譲歩が引き出せ
るだろうとの思惑のもとに設けられたものだったのです。
 もっとも昨年の暮れまでは、とくに国防費について、パネッタ
国防長官やカーター国防副長官が先頭に立って、「強制削減が起
きると、米軍の能力や抑止力にとって壊滅的な影響が出る」「軍
の能力が空洞化してしまう」というメッセージを出していたのが
功を奏し、政府予算削減はやむを得ないものの、国防費への影響
は最低限に抑えようという雰囲気が出ていたのです。
 それが今年に入って雰囲気が一変します。受け入れムードに変
化したのです。そして、遂にオバマ大統領は「sequestration」
にサインしています。これが覆る可能性は、ほとんどないといえ
ます。米国は、どうして変わってしまったのでしょうか。
 オバマ大統領は、第1期目の4年間で、大幅に防衛費を削減し
ている大統領です。彼はそれを福祉費に投入するという、きわめ
て内向きの政治をやってきています。そのため、外交には熱心な
大統領ではないのです。そういうことから、大方の予想ではオバ
マ大統領の2期目はないといわれてきたのです。ところが大きく
支持を落としたものの、2期目もオバマ政権になったのです。こ
れは日本にとって最悪の情勢です。
 2期目の大統領は、選挙をしなくてよいので、自分がやりたい
と思っていたことをやるのが通例です。そうすると、防衛費から
福祉費へのシフトはさらに大きく進むと思われます。それに対し
て、中国は毎年防衛費を増大させていますので、米中のパワーバ
ランスは大きく変化することは間違いないのです。
 一方の中国は、2017年にもGDPで米国を抜き、世界第1
位の経済大国になるといわれています。米国が今回の歳出カット
で経済が低迷すれば、さらにそれは早まる可能性もあります。日
本はどのように対処すればよいでしょうか。
 2012年10月1日から、5ヵ月8日106回にわたって書
いてきた今回のテーマは、本日で終わります。しかし、来週から
は、中国をテーマとして書くことにします。というのは、中国経
済にいくつも変化のサインが出ているからです。
 なかには、「中国がGDPで米国を抜く日は来ない」というこ
とまでいう人が出ています。中国は今後どうなるのでしょうか。
米国や日本は、中国に対してどのように向き合って行くべきなの
でしょうか。そういうテーマについて書くつもりです。長い期間
にわたって今回のテーマのご愛読を心から感謝いたします。11
日からの新テーマもよろしくお願いします。
            ── [日本の領土/最終回/106]

≪画像および関連情報≫
 ●「中国がGDPで米国を抜く日は来ない」/津上俊哉氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国人はいま「GDPで米国を抜く日は来ない」といわれて
  もすぐには納得できないだろう。だがいまの中国経済が「成
  長市場」の化粧を落としたら、何ほどの魅力と優位性が残さ
  れるのか、胸に手を当てて考えてみてほしい。中国は未だに
  国民の3分の2に満足な公共サービスを提供できていない。
  また少子高齢化が迫り来るのに、年金原資の積み立てもほと
  んどないではないか。日中いずれも軍拡競争などをやってい
  る時間も経済的余裕もないのであり、尖閣「国有化」を巡っ
  て両国が互いに外交・経済関係を傷つけ合っている現状は、
  愚かのきわみというほかはない。     ──津上俊哉著
         「中国台頭の終焉」/日経プレミアシリーズ
  ―――――――――――――――――――――――――――

ケリー国務長官/ヘーゲル国防長官.jpg
ケリー国務長官/ヘーゲル国防長官
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。