増税法案は閣議決定され、国会に提出されました。しかし、法案
審査は増税反対派の反発で大荒れになり、前原政調会長は途中で
審査を打ち切って、年度内に法案提出となったのです。
しかし、この党内審査はけっして無駄ではなかったのです。野
田首相は、月内の国会提出の最終日である27日にソウルからと
んぼ返りして、自分が出て直接説得するつもりだったのです。首
相が出てくると、中間派の多くは首相になびくことを昨年末の素
案の取りまとめのときの経験から知っていたからです。
しかし、前原政調会長と輿石幹事長は首相の出席を強く拒んだ
のです。前原氏は、法案の付則に数値を入れることを決めており
それは輿石幹事長の強い要望でもあったのです。しかし、野田氏
はこれに不満だったといいます。なぜなら、数値を入れると金融
市場の理解が得られないと財務省幹部にいわれていたからです。
財務省はかなり前から、市場関係者として複数の証券会社系の
評論家をテレビのほとんどの経済番組に出演させ、次のメッセー
ジを発言させているのです。
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万が一、消費増税法案が否決されると、格付け会社は日本国
債を格下げする。そうすると、長期金利が上がり、国債費が
跳ね上がり、国債破綻が起きかねない。
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私が確認しただけでも、新報道2001、報道ステーションサ
ンデー、ワールドビジネスサテライト、BSプライムニュースな
ど4番組に登場しています。財務省はこのようにして、増税法案
を否決したらとんでもないことになるぞということを国民に刷り
込んでいるのです。
さらにその市場関係者は、増税しても景気には影響ないばかり
か、景気回復もできると発言しています。橋本政権の1997年
のときの経済の落ち込みは消費増税が原因ではなく、アジア通貨
危機の影響が大きいと発言しています。この主張は藤井元財務相
も同じ発言をしており、明らかに財務省トークそのものです。
しかし、結果として法案の付則には経済成長の数値が入ってい
るのです。そのため、野田首相と前原政調会長の間にはスキマ風
が吹き始めているといわれています。3月30日の日本経済新聞
には次の見出しが出ているのです。新聞がこのように書くことは
珍しいことです。
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首相、前原氏を不安視/検証・消費増税の民主審査
──2012年3月30日付、日本経済新聞
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本来法案の「付則」は強制力はないのですが、入れると実施段
階で必ず議論になります。野田首相は「条件ではない」というか
たちにしてくれと注文をつけたようですが、次のように入ってし
まっています。
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その他(付則関係)
2.消費税率の引き上げに当たっての検討
(1)消費税率の引き上げに当たっては、経済状況を好転させ
ることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状
況からの脱却及び経済の活性化に向けて、11年度から20年
度までの平均において名目の経済成長率で3%程度かつ実質の
経済成長率で2%程度を目指した望ましい経済成長の在り方に
早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置
を講じる。 ──消費増税関連法案より
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テレビに出演した上記の市場関係者は、「日本で名目3%成長
なんか無理」と明言し、数値を入れると増税はできなくなると発
言していましたが、数値はちゃんと入っています。
デフレからの脱却についても「物価が持続的に下落する状況か
らの脱却及び経済の活性化」と明記されていますし、11年度か
ら20年度の平均で「実質2%/名目3%」程度を目指すと書い
てあります。これを見ると、前原政調会長は「数値は入れない」
といっていたわりには、よくがんばったといえます。
しかし、日本経済は本当に「実質2%/名目3%」の成長は無
理なのでしょうか。
そんなことはないと思います。しかし、現在、日本の経済状況
は必ずしも褒められたものではないし、日本を取り巻く世界の情
勢も不安材料がたくさんあります。とくに欧州危機は深刻であり
今後の状況推移では日本も大きな影響を受ける恐れがあります。
国内のことばかりにかまけていないで、世界に目を向ける必要が
あると思います。そこで、本日からEJでは次のテーマで書いて
いきたいと考えております。
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欧州危機と日本の対応について考える
──日本は経済成長できるのか──
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今まで日本は、米国の動きには多大の関心をもっていますが、
欧州連合(EU)には比較的無関心であったと思います。今回の
消費増税をめぐる動きも、ギリシャ危機に端を発していわれるよ
うになったのであり、EUについてもっと関心を持つべきである
と思います。
果たしてEUは大丈夫なのでしょうか。ポルトガル、アイルラ
ンド、ギリシャ、スペインの4ヶ国──PIGS諸国は出口のな
い状態に陥っており、先が見えない状況になっています。果たし
てこの先どうなるのでしょうか。
この解を得るためには、EUについて詳しく知る必要がありま
す。明日から少しずつEUの世界に入っていくことにします。
──[欧州危機/01]
≪画像および関連情報≫
●付則関係の後半(2の部分)
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(2)の法律の公布後、消費税率の引き上げに当たっての経
済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟
に対応する観点から、上記二及び三の消費税率の引き上げに
係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転につい
て、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指
標を確認し、(1)の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合
的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ず
る。 ──消費増税関連法案より
【解説】「経済財政状況の激変にも柔軟に対応」とあるのは
経済状況は好転しているとはいえない場合でも、経済財政状
況の激変するような場合では法律を施行することもできると
定めている。いずれにしても、経済成長条件が入ったことは
一歩前進といえる。
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消費増税法案閣議決定を受けての首相会見