2011年11月07日

●「財務官僚に牛耳られている日本」(EJ第3175号)

 小沢一郎を中心に2回にわたって政治の世界のことを書いてき
て気が付いたことがあります。それは次のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いったい日本という国は、誰が治めているのだろうか。その
 中心にいるのは誰か。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中心にいて日本を操っているもの──政治家か官僚かというな
ら、それは官僚であることは確かなことです。その官僚の完全支
配の国家の中枢にいるのは「財務省」です。財務省は、長年かけ
て、司法、立法、行政の三権をコントロールする存在になってお
り、実質的に日本を動かしているのは、財務省であるといっても
過言ではないといえます。
 しかし、財務省は少なくとも今までは政治家の黒子に徹し、表
には出てこなかったのですが、民主党政権になってからは、平然
と表に姿をあらわしています。とくに菅内閣と野田内閣ではそれ
が非常に目立つのです。しかし、われわれ国民は、財務省といえ
ば、国の予算を編成し、国家財政を預かる役所であることぐらい
しかほとんど何も知らないでいます。
 現在の野田政権は、典型的な財務省主導内閣であるといわれて
います。ある意味において、これほど財務省主導が剥き出しの内
閣は今までにはないとさえいわれています。
 野田佳彦氏は、財務副大臣のときから一番熱心に財務官僚のレ
クを聞く優等生であるといわれていた人です。財務相として、菅
首相のやり方を見ていて、財務省のいうとおりにやっていれば首
相にもなれるし、内閣もうまくやっていけると確信したのです。
 震災直後の3月のことです。菅政権当時の官邸では、10兆円
を超える復興財源を「日銀の国債引き受け」で賄うことが検討さ
れていたのです。
 このとき、財務省のボスである勝栄二郎事務次官は、これには
財務相として国会で反対するよう進言し、野田財務相はそれを受
けて、3月25日、衆議院財務金融委員会において、自民党・山
本幸三議員の質問に対して次のように答弁しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀の国債引き受けは財政法で禁止されている。したがって、
 検討していない。         ──野田財務相(当時)
―――――――――――――――――――――――――――――
 この答弁を受けた山本幸三議員はさらに次のように質問してき
たのです。山本議員は財務官僚OBなのです。ここで野田財務相
は大恥をかいたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 山本:日銀が毎年、相当の国債を直接引き受けていることを
    ご存知ですか。
 野田:直接?あの─、まぁ、日銀のやっていることは金融政
    策の、その・・・
 山本:知っているのですか、知らないのですか。
 野田:いや、その、知りません。
        ──「週刊ポスト」2011年10月07号
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに財政法は、第5条で日銀の国債引き受けを禁じているの
ですが、特別の事由がある場合は、国会の議決を受けた範囲内で
引き受けを認めているのです。実際に毎年、10兆円以上を日銀
に引き受けさせているのです。野田財務相は、そのことを知らな
かったのです。
 これには、さすがに温厚な野田氏も委員会後に激高したそうで
す。「なんで教えてくれなかったのか。悔しい!」と。菅首相も
やられましたが、これは財務省が大臣にいうことをきかせるよう
にするショック療法のひとつなのです。
 民主党の幹部議員である野田佳彦氏は、当然民主党として国民
と約束したことを実現する使命感を持っているはずです。しかし
もし財務省のサポートがないと、自分が大臣としてやっていけな
い現実を知ると、そういう使命感は捨ててしまったのです。野田
氏は財務副大臣になる前は増税論者ではなかったからです。おそ
らく財務副大臣時代にすっかり洗脳されてしまったのでしょう。
 今や財務省は、政・官・司・財・報のすべてを牛耳るマンモス
的存在になっています。並みの政治家ではその権力に逆らうこと
は困難であるといえます。自民党で脱官僚をするのは限界がある
ことを悟った国民は、剛腕小沢のいる民主党に政権を委ねたので
すが、まったく期待外れの状態に陥っています。
 財務省を中心とする官僚機構──霞ヶ関がきちんと日本を良い
方向に導いてくれるならよいのですが、彼らにはその能力はない
といえます。それは、「失われた20年」の経済無策や年金政策
のデタラメさを見れば十分でしょう。彼らは、国益ではなく、省
益のことしか考えていないからです。要するに自分たち官僚のこ
としか考えていないからです。
 そこで、本日より財務省について研究していくことにします。
財務省の前身は大蔵省ですが、大蔵省はどのようにして創設され
現在どれほどの権力を持っているのか──これについて考えてい
きたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政・官・司・財・報のすべてを牛耳る財務省の正体とは何か
   ── 財務省の歴史とその権力構造について ──
―――――――――――――――――――――――――――――
 財務省(大蔵省)について、何日かブックハンティングを行い
ましたが、良い本がありません。きっと本当のことを書けない雰
囲気があると思います。きっと苦労すると思いますが、明日から
この大テーマに取り組んでいきます。なお、ツイッターの方でも
関連情報を発信しますので、そちらも覗いてみていただきたいと
思います。         https://twitter.com/#!/h_hirano
                 ──[財務省の正体/01]


≪画像および関連情報≫
 ●3月25日/衆議院財務金融委員会での実際のやり取り
  ―――――――――――――――――――――――――――
  山本:20兆円規模が私は適当だと思っておりますが、まあ
  その、規模は異論があるかもしれませんが、日銀の、国債直
  接引き受けでやるしかない。と、確信をしております。で、
  ところが、この日銀の直接引き受けっていう問題については
  まあいろんな議論がありましてね、まあ与謝野さんは「法的
  にできない」なんてバカなこと言ってる。で日銀総裁はこの
  まえのこの委員会の審議では、「貨幣の信認が失われる」。
  で、五十嵐財務副大臣は「インフレになる」。というような
  話をされました。まあ私から言わせると、俗論・妄説の類で
  ありましてね(場内小笑)、それに決着をつけるために今日
  私は質問に立つのであります。(笑)でー、まずね、一番わ
  かりやすいのは実例を見るのが一番いいんですね。財務大臣
  ですね、日銀の直接引き受けというのは異常なもののように
  思ってますが、実は毎年相当やっているんですよ。この事実
  をご存知ですか」。野田財務大臣「あのー、日銀が長期国債
  の買い入れをやっているということは事実でございます」。
  山「いやいや、直接引き受け」野「直接?あのー、ま、要は
  日銀のやってることは、その、いわゆる金融政策の一環とし
  て」山「知ってますか。知ってますか知ってませんか、どっ
  ちか」野「いや直接は知りません」山「五十嵐副大臣どうで
  すか」五十嵐副大臣「あのー、借換債、乗り換えについては
  ですね、直接引き受けをしております。これは総則に基づい
  てやっております」山「あー、結構です。よく勉強しておら
  れますね。日銀総裁はどうですか知ってますか」白川日銀総
  裁「えー、日本銀行は、市場から国債を買い入れ、いわゆる
  「オペ」を行っております。
   http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110402/1301740280
  ―――――――――――――――――――――――――――

財務金融委員会での野田財務相(当時).jpg
財務金融委員会での野田財務相(当時)
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(3) | TrackBack(0) | 財務省の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月08日

●「財務省の権力の源泉は何か」(EJ第3176号)

 財務省というと、予算編成権を持っていることと、その外局と
しての国税庁を使って、政治家や企業のカネの流れに睨みをきか
せている──これが財務省の権力の源泉だと思われています。
 しかし、財務省の力はそれだけではないのです。その力はあら
ゆることに及んでいるのです。以下、「財務省の研究」と題して
特集を組んだ「週刊ポスト」2011年10月07日号を参考に
して述べることにします。
 財務省大臣官房文書課というのがあります。国の行事や天皇陛
下のご日程、国会日程を管理している部署です。しかし、単なる
スケジュール管理をしている事務屋ではないのです。
 ある法案を通す場合、そういう国の行事や天皇のご日程を事前
にスケジュールに織り込んでおかないと、法案審議に支障をきた
すことが多いのです。国会の日程などは国対委員長が野党と協議
して決めていますが、その事務方は大臣官房文書課であり、事実
上法案審議のゆくえに影響を与える力があるのです。つまり、法
案審議をコントロールできるのです。
 したがって、この部署を押えておくと、役人にとって都合の悪
い法案などは故意にスケジュールを遅らせて審議未了にするなど
さまざまなコントロールができるのです。法案がまとまらないの
は、必ずしもねじれ国会のせいとは限らないのです。
 多くの人は、まさか国会のスケジュールまでが財務省のコント
ロール下にあるとは思っていないと思います。財務省としては、
野田内閣には、まず復興増税を成立させ、そのうえで消費税増税
を実現させるという大仕事があります。そのかぎを握るのが法案
審議のスケジュールなのです。そのため、財務大臣が国対委員長
を経験していると鬼に金棒なのです。野田財務相の後任に財務省
が前国対委員長の安住淳氏の起用を進言したのはそのためといわ
れています。国会対策は、スケジューリング・ポリティクスとい
われるほど重要なのです。
 安住淳財務相は財務官僚に評判がいいのです。なぜなら、彼は
「財政通」とか「政策通」といわれたいというヘンな見栄がなく
「自分の専門は国会対策」と割り切っているところが財務官僚に
評価されているといいます。
 予算編成権と並んで財務省の力の源泉のひとつに、全国家公務
員の給与と年金──国家公務員共済年金を握っていることがあり
ます。全公務員のカネ──給与や年金はすべて財務省が握ってい
るのです。ところで、次の3つの部署があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1. 財務省主計局共済課長
        2.  人事院給与第二課長
        3.総務省行政管理局管理官
―――――――――――――――――――――――――――――
 国家公務員の給与の予算査定や共済年金を担当するのが、財務
省主計局共済課長です。公務員の課長、課長補佐、係長などの定
員──俸給別定員を管理しているのが、人事院給与第二課長であ
り、役所の定員や独立行政法人などの天下り先をチェックするの
は、総務省行政管理局管理官です。
 これらの3つのポストはすべて財務省の出向先の指定席になっ
ており、各省庁は、定員も給与も天下り先の独立行政法人の経営
審査にいたるまで、すべて財務省に握られているのです。これで
は正面切って各省庁は財務省に逆らえないのです。
 それでは司法との関係はどうでしょうか。
 司法も財務省に予算を握られているので、頭が上がらないので
す。最高裁判所の予算は国の一般会計から出されるので、財務省
との事前折衝が必要です。法務・検察も予算については同様であ
り、とくに経済事件の捜査には国税当局からの情報提供が不可欠
なのです。とくにマルサの調査能力は高く、検察にとっては、そ
こからの情報供与は欠かせないのです。
 そのため、あってはならないことですが、他の省庁に比べると
財務省のキャリアには検察の捜査の手が伸びないということがよ
くいわれます。もし財務省のキャリアにまで捜査の手を伸ばすと
予算配分などのさい、不利な裁定を受けかねないからです。その
ため、財務省は「検察捜査の聖域」といわれているのです。
 それでは、財務省は政治家に対してどのような対策を立ててき
たのでしょうか。
 財務省では大蔵省の時代から「政治家の先物買い」を組織的に
やってきたのです。与野党を問わず将来伸びると思われる政治家
に近づき、政治家と官僚の勉強会を提案し、実施してきているの
です。この勉強会の政治家としてのメリットは財務官僚との付き
合いであり、そこからもたらされる情報なのです。財務省は国内
はもとより、海外の情報も握っていて、そういう情報がもたらさ
れることは政治家として大きなメリットがあったのです。
 ひとつ例を上げると、鳩山由紀夫元首相の勉強会があります。
この勉強会は、鳩山氏が自民党の若手代議士だったときから行わ
れており、それに最初から食い込んでいたのは、現在の財務事務
次官の勝栄二郎氏なのです。実に長年の布石がものをいったわけ
です。こんなことをやっている省庁は財務省だけです。
 ところが鳩山氏は政治主導を唱えて首相になっており、財務官
僚はそれを潰す必要があったのです。そのため、勝栄二郎事務次
官は、巧妙に国家戦略室潰しを行ったのです。勝事務次官は配下
の官僚に命じて、「国家戦略局の権限が強まると、菅副総理の力
が強まる」と鳩山氏に吹き込ませ、法案を撤回させたのです。勝
氏にとってみれば、鳩山氏の性格を知り抜いており、どのように
でも操縦ができたのです。
 2009年の政権交代の最初の臨時国会であれば、与党が参院
でも過半数を握っていたので、国家戦略局を設置する政治主導確
立法案を成立させることは可能だったのです。そうなるとマニュ
フェストのほとんどは実現させることができたのです。だから、
財務省は国家戦略局を潰したのです。 ─[財務省の正体/02]


≪画像および関連情報≫
 ●迷走する国家戦略局構想/いい国作ろう!「怒りのブログ」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  動きの鈍かった菅副総理一派に比べて、財務省は迅速に行動
  した。投票前から、選挙結果の読みを固めて「民主党」サイ
  ドにうまく擦り寄っていたのは、財務省勢力だった。こうし
  た情報収集能力や、時の権力にうまく取り入り、時流に乗っ
  てゆく能力というものは流石に大蔵と思わせるものがある。
  常に全ての省庁の頂点でなければならないし、権力の中心に
  位置取りをするということも必須であるからだ。ダテに厳し
  い出世競争を経てはいないというわけである。変わり身の早
  さは他省庁に抜きん出ており、素早く損得勘定を弾き出して
  うまく立ち回る手法をよく心得ているようだ。マヌケな農水
  省とかは、事務次官さえもが民主党批判をいつまでもやって
  いて、わざわざ睨まれたいという役回りを買ってくれたほど
  だ(笑)。国交省は農水省よりもマシではあったが、自民党
  有力者(所謂”族議員”連中だ)の庇護の下に馴れすぎてい
  て、体制転換が遅れた。というよりも、単なる頭の回転速度
  の問題であるかもしれない(笑)。
  http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/cba0590964840914266235925fd8d20d
                   2009年9月26日
  ―――――――――――――――――――――――――――

安住淳財務相.jpg
 
安住 淳財務相
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 財務省の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月09日

●「財務省による政界とメディアへの工作」(EJ第3177号)

 小泉政権以来、政治の劇場化が進んでいます。世論が政局や政
策に大きな影響力を与えるようになってきているのです。そうな
ると、政も官もメディアのコントロールが重要になっています。
 財務省は、若手官僚100人規模の「メディア工作部隊」を組
織しているといわれます。この部隊はメディアだけでなく、「政
界工作部隊」としても機能するのです。それでは、彼らは具体的
に何をしているのでしょうか。
 財務省は政界工作とメディア工作として、大別すると、次の3
つのことを行っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.記者との勉強会開催
         2.質問取りと回答作成
         3.国税の税務調査実施
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の「勉強会」は、財務官僚がベテラン記者や編集幹部、評
論家などと行う勉強会です。財務官僚の守備範囲は専門である経
済や財政政策だけではなく、非常に幅が広いのです。要望の出た
ほとんどのテーマについて、その道の専門家が豊富な関連資料や
データ付きで詳しい解説をしてくれるのです。
 昔は「もらい記事」といって、記者が資料やデータ一式を役所
に用意してもらうことは恥とされていたのですが、最近ではそれ
が当たり前になってしまっているのです。
 当然そういう勉強会のあとは懇談会が開かれ、そのさいに財務
官僚は出席者に対していろいろな情報を刷り込むことができるわ
けです。こうしてマスコミを懐柔するのです。
 第2の「質問取り」というのは、国会で質問に立つ議員に質問
内容を教えてもらうため、その議員を直接訪ねて直接聞くことを
いうのです。質問を把握しておかないと、大臣は答弁できず「後
日調べて・・・」のオンパレードになってしまいます。大臣とし
ては国会で恥をかきたくないので、そのために質問取りをしてそ
の答弁書の原案を作成する──これは一般的に経験・知識が豊富
な課長補佐クラスの官僚の仕事なのですが、財務省は若手官僚の
仕事になっているのです。
 それは財務省の方針なのです。財務省が新人官僚に質問取りを
させているのは、早くから政治に接触する訓練を課し、慣れさせ
ることにあります。新人の教育訓練の一環なのです。
 そんな新人にまかせて大丈夫なのかというと、それには万全な
チェック体制が施されているのです。新人官僚は質問取りした結
果を文書にして省内の各局に配付するのです。それを課長クラス
がチェックし、おかしいと感ずると、議員に直接電話を入れて確
かめるのです。財務省の幹部であれば、そのぐらいの議員とのパ
イプを持っており、議員としても財務省の課長クラスからの問い
合わせには、ていねいに応対してくれるというのです。
 財務官僚は政権中枢の要所要所には必ず出向者がいて、彼らは
はひとつのネットワークを形成しており、親元である財務省には
それらの出向者からあらゆる情報がが集まってくるようになって
いるのです。その情報を大臣に提供し、恩を売るのです。
 しかし、このネットワークを利用すれば政権をいくらでもコン
トロールできるのです。特定の閣僚に「総理はこういっている」
という情報をリークしたり、場合によってはわざとウソの情報を
流して複数の閣僚を疑心暗鬼にさせたりすることなど、朝飯前で
何でもできるのです。
 第3の「国税の税務調査」は財務省が有している力の源泉のひ
とつです。「専属告発権」というものがあります。例えば、検察
や警察にある企業が脱税しているという垂れ込みがあっても、国
税庁しか告発できないのです。国税庁だけが税に対して専属告発
権を有しているからです。国税庁以外に専属告発権を持っている
日本の省庁は、公正取引委員会と証券取引等監視委員会がありま
す。いずれも財務省ゆかりの機関です。
 財務省はメディアをコントロールする目的で国税庁を使って、
国税の税務調査を行うことがよくあるのです。民主党が政権交代
を果たした2009年に国税庁は、大手メディアに対して大がか
りな税務調査を行っているのです。
 国税庁は、2009年2月に朝日新聞、同年5月に読売新聞に
税務調査に入っています。朝日新聞については、京都総局のカラ
出張による架空経費の計上など5億1800万円の申告漏れが摘
発され、東京、大阪、西部、名古屋の4本社編集局長と京都総局
長が処分されています。
 読売新聞については、東京本社で2億7000万円の申告漏れ
が指摘されています。また、日本テレビ、フジテレビ、NHKも
申告漏れが指摘されたのです。
 これによって、朝日新聞は財務省寄りの増税賛成の論陣を張り
読売新聞社は、税務調査後に丹呉泰健・前財務事務次官を社外監
査役に迎えて、財務省への恭順を図っています。
 このようにメディアはつねに国税当局に狙われており、経営上
も財務省には逆らえないのです。したがって、政治主導を掲げな
がらも政権運営が素人の民主党政権が、たちまちにして財務省に
屈したのは十分予測されていたのです。元財務官僚で嘉悦大教授
の高橋洋一氏は財務省について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 あらゆる面でスーパーパワーを持つ「官庁のなかの官庁」財務
 省には政権与党といえども逆らえない。長年政権を担当してき
 た自民党政権ですら財務省の意向は無視できなかった。まして
 やヨチヨチ歩きの民主党政権には、財務省を律する力はない。
 政権の財務省依存度は、自民党時代よりも増し、官僚政治なら
 ぬ「財務省政治」が進行したのだ。     ──高橋洋一著
      『財務省の隠す650兆円の国民資産』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
                 ―─[財務省の正体/03]


≪画像および関連情報≫
 ●鳩山政権発足時の「質問取り」と政治主導の矛盾
  ―――――――――――――――――――――――――――
  平野博文官房長官は(2009年10月)15日の記者会見
  で、26日召集予定の臨時国会を控え、各府省の国会担当の
  官僚に与野党議員への「質問取り」を指示していたことを明
  らかにした。鳩山政権は「脱官僚依存」を掲げ、国会論戦も
  政治主導で進める方針を示してきた。自民党政権で行われて
  きた官僚による事前の「質問取り」は、「脱官僚依存」に矛
  盾するのではないかとの指摘もある。れに対し、平野長官は
  会見で「あくまで答弁は政治家がする。矛盾することにはな
  らない」と強調。質問取りに関し、「政務官的なスタッフや
  政務官自らが質問を取るのが理想」としながらも、当面は官
  僚に当たらせる方針を示した。鳩山由紀夫首相も15日夕、
  首相官邸で記者団に対し、「官僚にそれぐらいの手伝いをし
  てもらうのはあり得る話だ」と語った。「質問取り」につい
  ては以下のサイトの記事が詳しい。ようするに官僚から答弁
  する内容を教えてもらうということ。これを「徹底的」に行
  なえば「官僚答弁禁止の法制化」を行なっても大丈夫だ??
  変なの。
    http://kasumi1998.seesaa.net/article/8158866.html
   http://www.asyura2.com/09/senkyo73/msg/388.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

高橋洋一著「財務省が隠す650兆円の国民資産」.jpg
高橋洋一著「財務省が隠す650兆円の国民資産」
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 財務省の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月10日

●「官僚主導になる仕組みがある」(EJ第3178号)

 どうして日本の政治の世界において、官僚の力がここまで大き
くなってしまったのでしょうか。
 自民党政権時代のことを少し振り返ってみることにします。当
時永田町(政治)と霞ヶ関(官僚)を結びつけていたものは各省
庁に設置されていた「専門部会」だったのです。
 政府がある政策を実施しようと考えると、首相は所管大臣に検
討を指示します。そうすると、大臣は事務次官にそれを伝え立案
を命じます。事務次官はそれを受けて専門部会を立ち上げ、専門
部会は政策の叩き台を作り、協議します。成案が出来ると首相に
報告のうえ党の総務会に上げられ、審議が行われて自民党案にな
り、政府案になります。これが国会に提出されるのです。
 この専門部会の事務局は担当省庁で、例えば総務省であれば、
総務省が事務局になります。したがって、総務省の役人が素案を
作り、それを叩き台として専門部会で討議して部会案として上に
あげるのです。
 もうひとつ大事なことがあります。自民党の国会議員の場合、
いずれかの専門部会に所属しなければならないルールになってい
るのです。新人議員はその所属する部会でもまれて、その分野の
エキスパートとして育っていくのです。こうした仕組みにおいて
は、関連業界に影響力を持つ議員が育ってくるようになり、やが
てそれが「族議員」と呼ばれる議員になるのです。
 こういう仕組みのもとでは、族議員と対応官庁の官僚は不可分
の関係になり、しかも官僚はつねに政治家よりも優位なポジショ
ンを占めることになります。
 何しろ叩き台を作るのは官僚であり、右も左も分からない新人
議員に指導して、一人前の国会議員に育てるのも官僚の仕事であ
るからです。何しろ官僚機構はすべての情報を握っており、政治
家は地位としては上でも彼らには頭が上がらないのです。
 族議員は業界から要望を受けると、自分が専門とする省庁にそ
れをつなぎ、役人が便宜を図るということになります。その見返
りとして、族議員は業界から票と政治献金を提供してもらうとい
うわけです。このような仕組みからは官僚組織にとって都合の悪
い制度などの案は絶対に出てこないし、政治家もそういう制度を
作ろうとはしないでしょう。
 しかし、国民の声として官僚にとって厳しい制度を作らなけれ
ばならないこともあります。そのような場合でも、素案を作るの
は官僚であり、法案にはさまざまな角度から骨抜きの工作が施さ
れることになります。いわゆる霞ヶ関文学によって法案が作られ
てしまうことになります。
 官僚の人事権は一応大臣の権限ということになっています。し
かし自民党時代では、大臣は事務次官が推薦する人事リストを承
認するだけであり、実質的に人事権はないに等しいのです。これ
は長い間の慣例になっているのです。
 その代り大臣がそういうしきたりを守っている場合は、事務次
官の差配によって大臣は大過なく自分の職務を遂行することがで
きるのです。それは国会での答弁──とくにテレビの中継の入る
予算委員会などでの答弁から記者会見の想定問答集の作成、マス
コミの対応にいたるまで、すべて官僚が仕切ってくれるのです。
したがって、力のある事務次官のいる役所では大臣は安心して職
務を遂行できるのです。
 そのさい、官僚はあくまで黒子に徹し、表面に出ることがない
ので、国民の目から見ると、大臣が悠然とその職務をこなしてい
るようにみえます。とくに経験のない議員の場合は、事務次官か
ら、なるべく余計なことは話さないようアドバイスされるといわ
れます。寡黙に徹すればミスが出ないし、黙っていればマスコミ
に挙げ足を取られることはないからです。野田首相の言動を見て
いると、そういう方針を守っているようにしか思えないのです。
ぶら下がり取材もいっさい受けず、安全運転に徹しています。し
かし、このような姿勢の内閣に真に国民のためになる大きな仕事
ができるはずはないと考えます。
 しかし、鳩山政権は「脱官僚依存」を打ち出し、事務次官会議
を廃止し、内閣法制局長官の国会答弁を禁止したのです。これは
小沢一郎氏の主張に沿ったものです。つまり、鳩山内閣は官僚の
嫌がることを次々と打ち出したことになります。
 実は内閣法制局長官の国会答弁の禁止は、典型的な政治主導の
実現なのです。内閣法制局は、長いこと法令解釈の主柱だったの
です。法令の解釈は、本来裁判所の仕事なのですが、法制局は行
政の官僚として立法の整合性や政策の合法性を保障してきたので
す。ですから、行政に属する官僚でありながら、あたかも中立の
裁判所のようにこれまで法解釈を示してきたのです。
 この内閣法制局長官の答弁を禁止することは大きな変化を意味
します。なぜなら、法律をどう使うかの権限が、官僚から政治家
に移ることを意味しているからです。これこそ真の意味での「政
治主導」であるといえます。
 政権発足の冒頭にこれだけ官僚の意に沿わないものをぶつけら
れると、官僚組織は当然抵抗します。それが一番顕著にあらわれ
たのが外務省なのです。外務省は一貫して鳩山政権に面従腹背の
姿勢を取り、こともあろうに外務事務次官などの要職にある高級
官僚が米国側に対し、鳩山政権が中国寄りの政権であることを強
調したり、普天間問題でも徹底的に鳩山首相の足を引っ張ったの
です。オバマ大統領との会談では、パーティーの始る前にその場
で数十分の会見をさせ、首相に恥をかかせ、遂に退陣に追い込ん
でいるのです。こういう官僚の一連の振る舞いは、ウィキリーク
スによって白日の下に曝け出されたのです。
 これは国を売る行為に等しく、公僕である官僚が絶対にやって
はならないことですが、彼らは政治家が自分たちの意に沿わない
ことをすると、ここまで売国奴的な行為をするのです。自分たち
が実質的に日本の統治者であると考えているからです。日本が官
僚国家であるゆえんです。     ―─[財務省の正体/04]


≪画像および関連情報≫
 ●ウィキリークスで売国奴が続々と暴かれている
  ―――――――――――――――――――――――――――
  内部告発サイト「ウィキリークス」で、日米間の最新の公電
  文書が次々とバクロされ、注目を集めている。そこであらた
  めて分かったのは米国ベッタリで“暗躍”する防衛・外務官
  僚の姿だ。大マスコミは詳しく報じていないが、沖縄・普天
  間基地移設問題をめぐるやりとりでは、束になって「鳩山前
  首相潰し」をもくろむ官僚のロコツな発言が生々しく出てく
  る。例えば、高見沢将林・防衛政策局長は09年10月12
  日、キャンベル国務次官補との昼食会で、普天間基地県外移
  転を模索する鳩山政権の方針について「米側が早期に柔軟さ
  を見せるべきではない」と発言。県外阻止の姿勢を鮮明にし
  ろと助言していたから驚く。一方、藪中三十二・外務事務次
  官は09年12月21日のルース大使との昼食会で「いまは
  政治的な過渡期。(普天間問題では)日米がより非公式な形
  で対話を進めるほうが、公式的な協議の枠組みを定めるより
  望ましい」として、政治家そっちのけで勝手に協議を提案。
  藪中は「世論一般やメディアの一部は安全保障問題をよく理
  解していない。テレビのコメンテーターや政治家たちを教育
  することに価値があるかも」とも指摘し、人気のあるテレビ
  コメンテーターを挙げたという。薄っぺらな薄汚い発想だ。
                ──日刊ゲンダイネットより
       http://gendai.net/articles/view/syakai/130334
  ―――――――――――――――――――――――――――

鳩山元首相.jpg
鳩山元首相
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2011年11月11日

●「米国務省北米局化している外務省」(EJ第3179号)

 前のテーマのEJ第3173号で、外務省の斎木昭隆氏(アジ
ア大洋州局長)と薮中三十二氏(外務事務次官)が米国のカート
・キャンベル国務次官補に日本の実情についてあからさまに「つ
げ口」していることを取り上げましたが、この問題は日本の高級
官僚を知るうえで重要であるので、さらにていねいに取り上げる
ことにします。
 いうまでもないことながら、このたびウィキリークスで暴露さ
れたのは、ルース米駐日大使やカート・キャンベル太平洋地域担
当国務次官補らが、日本でさまざまの人との対話を通して収集し
た情報を本国に送った機密文書なのです。
 まず、斎木アジア大洋州局長に関する機密文書です。これは、
キャンベル国務次官補が本国に送った機密文書です。期日は20
09年9月21日付になっています。政権交代して鳩山政権が発
足した直後のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎斎木局長は、新しい政権が日本の官僚機構を従わせると脅し
  をかけているのは、結局は失敗に終わるだろうと話した。
 ◎民主党政権が官僚機構の力を弱めようと脅しをかけてきたこ
  とについて心配している官僚もいるが、民主党がプロの官僚
  のプライドを打ち砕こうとしているなら、それは成功しない
  であろうと斎木は述べた。
 ◎斎木は、民主党はまだ経験のない政権与党であるだけに、自
  分たちの日本の強力な官僚機構を抑えて、米国に対しても強
  く挑戦する新しく大胆な対外政策を行う責任があると示すこ
  とで、力と確信にあふれた党というイメージを広める必要性
  を感じているのだと理論づけた。斎木はこうした考えは「愚
  か」であり、「彼らもそのうち学ぶだろう」と述べた。
  ──中田安彦著、『日本再占領/「消えた統治能力」と「第
                 三の敗戦」』/戌甲書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 鳩山政権が発足してまだ一ヵ月経っていない時点で、外交を担
当する現職の高級官僚が米国の外交関係者に鳩山政権の批判をし
ているのです。これがスパイ行為でなくて何でしょうか。
 続いてキャンベル国務次官補の2009年10月15日付の機
密文書です。キャンベル氏は10月10日に外交評論家の岡本行
夫と氏と会い、2日後の12日に外務省北米局長の梅本和義氏と
ランチ会合を行ったさいの発言について本国に次のように報告し
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪岡本行夫氏≫
 ◎中国、韓国についての鳩山発言は、強固な考えを持つ人に対
  するときの首相の弱さが出たという。岡本氏によると、鳩山
  首相はたいてい、自分が聞いた一番最後の強い意見に基づい
  て意見を述べているという。
 ≪梅本和義氏≫
 ◎鳩山首相は「相手が聞きたがっていることを言いたがる癖が
  ある」。梅本氏はまた、北京での鳩山発言は予定されたもの
  ではないとし、キャンベル氏に対し、米政府の高いレベルの
  懸念を上げて欲しいと求めた。──中田安彦著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで岡本氏と梅本氏は、自分の国の首相の性癖について、米
国の外交関係者に教えています。梅本氏にいたっては、北京での
鳩山発言について米政府は強い懸念を表明して欲しいと要望まで
しています。つまり、ガイアツを要求しているのです。
 岡本行夫氏は、現在は外交評論家ですが、元外務省官僚なので
す。1988年7月には北米局北米第一課長を務めており、ただ
の民間人ではないのです。にもかかわらず、相手を利する情報を
平然とバラシてしまうことには違和感を覚えます。まして現職官
僚の梅本氏にいたっては何をかいわんやです。
 次は、2009年12月30日に、米ルース駐日大使が本国に
送った機密文書です。ルース大使は12月21日に薮中三十二外
務事務次官とランチを行ったさいの発言を本国に次のように伝え
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎一部の民主党の指導者にとって、日米の安全保障政策の背景
  になっている詳細な事情や根拠について理解するのが難しい
  場合があることを考慮に入れれば、公式的な協議形態はより
  危険が高い、と薮中はいう。鳩山政権や連立与党の政治指導
  者たちが、同盟を巡る課題や今後の選択肢について理解が不
  十分であったり間違っていたりするのに、そうした理解を元
  に方針を決める可能性があるためだ。非公式の協議は、11
  月の大統領の訪日を見据え、来年にかけて指導者を教育する
  機会になるだろう。
 ◎新聞の論説委員や財界は(安全保障)問題をかなりよく理解
  しているが、テレビのコメンテーターや政治家たちは、安全
  保障問題をしっかりと把握していない。彼らを教育すること
  には価値があるかもしれないと、薮中は付け加えた。特に、
  薮中は、手を伸ばせばうまく応じてくれることが予想される
  影響力も人気もあるテレビのコメンテーターの何人かについ
  て言及した。        ──中田安彦著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 薮中三十二外務事務次官(当時)は、ルース大使に公式会合で
はなく、非公式会合を提案し、そのような場で民主党や連立与党
の指導者を教育すべきだと説いています。一体ナニサマのつもり
かといいたくなります。
 ましてコメンテーターについて述べた部分では、マスコミ世論
を教育して日米安保に反する報道をさせないようにする──これ
について約束するようなことをいっています。一体どこの国の官
僚なのでしょうか。        ―─[財務省の正体/05]


≪画像および関連情報≫
 ●ウィキリークスとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ウィキリークスは、匿名により政府、企業、宗教などに関す
  る機密情報を公開するウェブサイトの一つ。創始者はジュリ
  アン・アサンジ。投稿者の匿名性を維持し、機密情報から投
  稿者が特定されないようにする努力がなされている。200
  6年12月に準備が開始され、それから一年以内に120万
  を超える機密文書をデータベース化している。ウィキリーク
  スの運営には、メディアウィキに変更を加えたソフトウェア
  を用いている。ウィキメディア財団はウィキリークスとは無
  関係である。なお、ウィキリークスは2011年のノーベル
  平和賞候補として、ノルウェーの国会議員によりノーベル賞
  委員会に推薦されている。      ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ウィキリークスに登場した外務省官僚.jpg
ウィキリークスに登場した外務省官僚
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2011年11月14日

●「官僚と国務大臣まで売国奴とは!」(EJ第3180号)

 官僚機構を変革し、政治主導の日本にするために政権交代を成
し遂げた民主党──その最初の鳩山政権が発足するや否や、外務
事務次官をはじめとする外務省の高級官僚や外務省出身の外交評
論家が、次々と米国の外交関係者に鳩山首相の性癖や北京での首
相発言の真意や政権の内部事情など、明らかに米国側を利する機
密情報をペラペラとしゃべっていたことがウィキリークスによっ
て明らかになっています。このことは、11日のEJ第3179
号で取り上げてご紹介した通りです。
 外務省の高級官僚らが、鳩山政権という民主党の政権によって
自分たちの官僚機構が崩壊させられるのではないかという強い危
機感を持つのは理解できますが、だからといって、実質的に国を
売るような行為を官僚が行っていることはとうてい許すことはで
きません。それはスパイ行為そのものだからです。
 もっと情けないことがあります。ウィキリークスによって、官
僚たちのやっているのと同じ行為を鳩山内閣の国務大臣がやって
いたことが明らかになったからです。その鳩山内閣の国務大臣と
は、前原誠司国土交通大臣兼沖縄担当大臣(当時)です。
 2010年2月8日に在日米大使館から本国に送られた機密文
書には、2月2日に前原国土交通大臣兼沖縄担当大臣がキャンベ
ル国務次官補やグレッグソン国防次官補と会談したときの発言が
報告されているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎普天間移設問題については北沢防衛大臣が決定権の鍵を握っ
  ている。なぜならば、普天間の安保上の重要性を判断できる
  専門知識を持っているのは防衛省だけであるからだ。
 ◎民主党と政権を組む政党(すなわち、社民党や国民新党)に
  は拒否権をもたせない。
 ◎小沢一郎は相手によって発言を変えるから気をつけろ、米国
  と話すときは普天間移転を強力に支持する(振り)をするか
  もしれない。
   http://www.amakiblog.com/archives/2011/09/06/#002022
―――――――――――――――――――――――――――――
 普天間問題について前原氏は、2009年12月、ルース米大
使と会談を行ったさい、次の発言をし、そのことが12月10日
にルース大使から本国に伝えられているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 普天間移設の代替設置案について進展が見られなかったのは連
 立相手の社民党のせいであり、連立を解消しても、代替案を排
 除していき、最終的には現行案に戻る。   ──前原誠司氏
  ──中田安彦著、『日本再占領/「消えた統治能力」と「第
                 三の敗戦」』/戌甲書房刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 時の国土交通大臣兼沖縄担当大臣が米国側に対し、2009年
12月の時点で、いろいろ県外移設の代替案が出てきているが、
それらを次々と潰し、最後は現行案(名護市辺野古に移設)に戻
るようにすると伝えていたことは衝撃的です。そのために障害と
なる社民党との連立解消も辞さないというのです。米国側は、こ
のように前原氏がいう以上、あらかじめ伝えられていた鳩山氏の
性癖と合わせて分析し、普天間移設問題は最後にはそのようにな
ると判断し、実際にその通りになっています。
 いずれにしても一連の前原発言によって、こと普天間問題につ
いて、当時の鳩山首相が閣内・党内でいかに信頼されていなかっ
たかが、米国側は手にとるようにわかることになります。
 その中にあって、外務省と連携し、最終的には連立の組み替え
を行っても現行案に戻そうとする政治家、前原誠司氏がひときわ
目立つことになります。米国が好感度をもって前原氏を受け入れ
るのは当然であり、前原氏もそれを計算して行動し、発言してい
ると考えられます。
 鳩山元首相はこの公電が明らかになったとき、ウィキリークス
の公電には無関心を装う政治家が多い中で、唯一強い不快感を示
しています。鳩山首相にもともと敵対している外務省の高級官僚
だけでなく、内閣の一員である有力閣僚まで米国に対し、このよ
うな利敵行為をしていることは情けない限りです。
 ウィキリークスによって明らかにされた前原発言の中に小沢一
郎氏に関わるものがあります。実は、前原氏との会談後、キャン
ベル国務次官補、グレッグソン国防次官補は、ルース米大使とと
もに小沢一郎民主党幹事長(当時)と会う予定になっており、そ
のことを前原氏は知っていたので、小沢氏の性癖について、彼ら
に吹き込み、小沢氏の印象に影響を与えようとしたのです。
 2010年2月9日の在日米大使館が本国に向けた公電は、小
沢氏との会談を伝えており、JCASTニュースはそれを次のよ
うに書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 公電を見ると、前原氏の「予測」どおり小沢氏は、日米関係の
 重要性を確認。小沢氏は中国と強いパイプを持つと言われるが
 この会合では「軍の影響力が中国国内で増大している点を憂慮
 しており、(場合によっては)日米両国が強い態度で中国に臨
 む必要がある」と述べたとなっている。だが「今後の日本の政
 治の動き」というテーマについては、党幹事長という立場から
 「政府の政策を語る立場にない」とコメントを避けている。普
 天間問題についても、公電には記録されていない。前原氏の忠
 告は「空振り」に終わった感がある。
     http://www.j-cast.com/2011/09/18107252.html?p=all
―――――――――――――――――――――――――――――
 時の政権が自分たちの意に反する政策を進めているとし、米国
に自国の政権の機密情報を漏らす官僚と一部の国務大臣──何と
いうことでしょうか。それにしても誰もそのことを批判しようと
しないのはなぜでしょうか。日本は、そこまで駄目になったので
しょうか。           ── [財務省の正体/06]


≪画像および関連情報≫
 ●元駐レバノン日本国特命全権大使の天野直人氏のコメント
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本の政権の中枢にいる国務大臣がここまであからさまに日
  本政府の内情を語る。これを称して売国奴というのではない
  か。このような男が、一歩間違えばこの国の首相になってい
  たかもしれないのだ。いつか日本の首相になるのかも知れな
  いのだ。ウィキリークスが公開した情報は凄い。なにしろあ
  らゆる発言が実名入りで述べられているのだ。そのすべてが
  日本国民の広く知るところとなれば、さすがの日本国民も覚
  醒するかもしれない。また、朝日新聞などの日本のメディア
  のいかさまが暴露される。日本のメディアもまた面目を失う
  ことになる。ウィキリークス情報が日本に革命をもたらすか
  もしれない。              ──天木直人氏
  ―――――――――――――――――――――――――――

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「小沢には気をつけろ」/前原発言
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2011年11月15日

●「谷垣総裁と勝財務次官の会談」(EJ第3181号)

 脱官僚依存を掲げて政権交代を成し遂げた民主党ですが、民主
党政権になって2年が経過して、なぜか、財務省の存在が異常な
ほど目立つようになっています。
 夕刊フジに『鈴木棟一の風雲永田町』という政治コラムがあり
ます。鈴木棟一氏は毎日新聞の政治記者出身の政治評論家です。
このコラムの4328号(2011年11月10日付)に興味あ
る話が出ています。
 11月8日(火)のことです。財務事務次官の勝栄二郎氏が自
民党の谷垣総裁を訪ねたというのです。勝事務次官は「呼びつけ
の勝」といわれるほど、誰でも呼び付けて命令する人として知ら
れており、本人がわざわざ出向くことは珍しいことです。
 自民党の谷垣禎一氏は小泉内閣時代に財務相を経験しており、
勝事務次官とは旧知の間柄です。そのときの勝事務次官の用件は
次のような要請だったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 野田首相が消費税引き上げを決断したので、自民党はぜひ協
 力をお願いしたい。         ──勝財務事務次官
―――――――――――――――――――――――――――――
 勝事務次官は、そのとき自民党は2010年の参院選において
「消費税10%」を掲げて戦っており、消費税の引き上げには賛
成のはずだといって谷垣氏に協力を迫ったといいます。
 これに対して谷垣総裁は「民主党は消費税増税をマニュフェス
トに掲げていない」といって反対したのです。谷垣氏は次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2年前の衆院選で民主は300議席、自民は100議席。ウソ
 のマニュフェストで民主が圧勝し、自民は死屍累々だ。この怨
 念が残っている。自民党の協力を求めるなら、改めて消費税増
 税を看板にして選挙すべきだ。あなたは野田に選挙をさせてほ
 しい。協力するのはそのあとだ。私を甘く見ないでほしい。
                ─「鈴木棟一の風雲永田町」
             2011年11月11日付夕刊フジ
―――――――――――――――――――――――――――――
 勝事務次官が野党第一党の党首を訪ねて、それが増税の件であ
るとはいえ、民主党の政策の根回しに動くというのは、異例のこ
とであるといえます。野田政権がいかに財務省主導の政権である
かの証明でもあります。
 財務省主導といえば、こんな話もあります。野田佳彦氏が首相
に指名された8月30日のことです。財務省主計局から各省の会
計課に次のような内々の指示が出されているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     来年度予算の概算要求の作業を急ぐように
                ──財務省主計局
―――――――――――――――――――――――――――――
 いうまでもなく予算案は各省がどのような政策を行うかの基本
になるものです。しかし、この指示は本来とんでもないことなの
です。なぜなら、野田氏は首相に指名されたものの、各省の大臣
はまだ決まっていなかったからです。
 勝事務次官は、大臣なんかどうでもいいから、役人だけで予算
を作ってしまえと命令したことになります。野田氏は財務副大臣
のときから何かと面倒をみてきているので、勝事務次官としては
自分が野田氏を総理にしてやったぐらいに考えていると思われま
す。彼にとって首相もひとつのコマに過ぎないのです。
 財務省にとって「消費税増税」は悲願なのです。1989年に
竹下内閣で消費税が創設されたときも大変でしたが、1997年
に橋本内閣で税率が3%を5%に引き上げられたときも、直後の
経済低迷で経済失政との批判を受け、橋本内閣は参院選で大敗し
小渕内閣に代っているのです。
 消費税率が5%になってから14年が経過しています。財務省
としてはどうしても税率を上げたいのです。そのためには「増税
やむなし」の環境を作る必要があります。そうしているうちに、
2011年3月に東日本大震災と福島原発事故が起きたのです。
財務省はこの震災ですら利用して、増税キャンペーンを展開して
います。キャンペーンの訴求ポイントは次の3つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.日本の財政は危機的状況にある
      2.復興には増税以外の方法はない
      3.社会保障の財源がピンチである
―――――――――――――――――――――――――――――
 こんな話があります。2011年3月13日のことです。菅直
人総理と自民党の谷垣総裁が復興増税について話し合っているの
です。大震災の2日後のことであり、多数の死者が出ると予想さ
れており、総理と野党第一党の自民党の党首が会って話すことと
いえば、超党派で被害者の救命・救援対策を練ることであり、直
ちに着手すべきことが多くあったはずです。
 しかし、そのとき2人が話し合ったのは「震災増税」の話だっ
たというのです。ここにも財務省の影があります。肝心の復興構
想会議がスタートしたのはそれから1ヵ月以上経過した4月14
日のことだったからです。1923年9月1日に起こった関東大
震災のときは、その翌日に帝都復興院の設立が検討され、同じ月
の27日には帝都復興院は設置されていたのです。
 さらに5月30日には、内閣府と財務省はある報告書を作成し
それを基にして、社会保障と税の一体改革を検討する政府の集中
検討会議の討議を本格化させています。震災対策、復興対策そっ
ちのけで増税に関しては、他の問題に優先して着実に討議を進め
ているのです。
 けしからんのは、財務省の増税キャンペーンです。明日からは
そのキャンペーンのウソについて徹底的に検証していくことにし
ます。             ── [財務省の正体/07]


≪画像および関連情報≫
 ●財務省による「増税キャンペーン」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本は、1000兆円の負債を抱え、国民一人当たり800
  万円の借金を抱えている――。財務省はメディアでしきりに
  こう喧伝するが、「実際に財務省でその係」だった著者によ
  れば、それは一面的な事実でしかない。「財務省がいうこと
  は、発言の範囲では嘘はありません。ただし、全部はいわな
  いのです。都合の悪いことはいわないでおくのですが、嘘は
  ついていない。立派なものです。財務官僚たちが、あえてい
  わない「都合の悪いこと」とは、特別会計の実像であり、そ
  のさきにある特殊法人、つまり、天下り制度のカラクリであ
  る。そのために彼らが使う強力な武器は、数字だ。したがっ
  て著者もまた、類稀なる数字のセンスを駆使し、建国以来初
  めて国家財政を「バランスシート」に載せるシステムを構築
  した。結果、国民の前に浮かび上がったのが、計18種類も
  ある特別会計の不可思議な実態と「埋蔵金」の存在である。
    http://asahisyougun.iza.ne.jp/blog/entry/2167898/
  ―――――――――――――――――――――――――――

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谷垣自民党総裁と勝財務事務次官
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2011年11月16日

●「借金を大きく見せようとする財務省」(EJ第3182号)

 財務省は消費税増税を実現するために、何年も前から執拗に増
税キャンペーンを行っています。しかし、その増税キャンペーン
には多くのウソが含まれています。EJでは、何人かの識者の所
論を参考にしてそのウソを暴いていきたいと思います。
 増税を国民に納得させるには、現在の国の借金が巨大で、ギリ
シャような財政危機がいつ起きてもおかしくないという事態を知
らせることが一番効果があります。そこで、財務省は記者クラブ
メディアと連携してこれを訴求してきたのです。
 昨日のEJで、増税キャンペーンの3つの訴求ポイントを上げ
ましたが、その第1のポイントが「日本の財政は危機的状況にあ
る」──これが最も効果的な訴求ポイントになります。最近のこ
とですが、10月29日付の読売新聞に次の記事が出たのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪国の借金、3月末に過去最大の1024兆円に≫
 財務省は、28日、2011年度末の国債や借入金などを合計
 した「国の借金」が前年同期に比べ、1年間で99兆7451
 億円増え過去最大の1024兆1047億円に達するとの見通
 しを明らかにした。──2011年10月29日付、読売新聞
−――――――――――――――――――――――――――――
 新聞の見出しだけを読んで、記事を読まない人はたくさんいま
す。そういう人はこの見出しを見て、「遂に国の借金は一千兆円
を超えたか」と思ってしまいます。
 しかし、記事を読むと、国の借金が一千兆円に達するのは、来
年3月末のことなのです。たった4ヵ月先ではないかと思うかも
しれませんが、社会保障と税の一体改革について詰めが行われる
のは今年の年末なのです。そのためには、国の借金が一千兆円を
超えたと思わせるのは早い方がよいとして、絶妙のタイミングで
財務省と新聞が連携プレーで行ったものと考えられます。
 ところで「国の借金」という表現は非常に曖昧なのです。元財
務官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、財務省は「国の借金」の
数字を使い分けていることを指摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.     国の公債残高 ・・・・ 600兆円台
  2.国と地方の長期債務残高 ・・・・ 800兆円台
  3.  国債及び借入金残高 ・・・・ 900兆円台
                  ──2010年度末
―――――――――――――――――――――――――――――
 10月29日付の読売新聞にある「国の借金」は、上記の3を
使っています。つまり、1000兆円超えを強調するために、一
番大きい数字を使ったのです。このように財務省は「国の借金」
という同じ言葉でいくつかの数字を使い分けるのです。
 しかし、多くの国民は、1000兆円というのは国債発行残高
であると考えていると思います。あえてそう思わせるように仕向
けているのです。ところが、国債の残高は600兆円台でしかな
いのです。もちろん小さな額ではありませんが、一般的に考えら
れている数字から見ると、小さい数字なのです。詳しく知ってい
る者が大雑把にしか知らない人を騙すのは簡単なことです。
 これに対して、「日本の財政は危機に瀕していない」というこ
とを主張している識者は何人かいます。そのなかにあって、最新
刊の著書での植草一秀氏の解説はきわめて説得力があり、納得が
いきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
                  植草一秀著/青志社刊
 『日本の再生/機能不全に陥った対米隷属経済からの脱却』
―――――――――――――――――――――――――――――
 詳しくは上記著書を読んでいただくとして、植草氏の主張を以
下にご紹介していきます。
 植草氏は、上記でいう2の「国と地方の長期債務残高」894
兆円を取り上げます。この数字は2011年度末にそうなるであ
ろうという数字ですが、財務省はこの数字が1000兆円を超え
ると予測しているのです。しかし、以下は894兆円という数字
に基づいて説明します。これは日本のGDPの185%に相当す
る数字です。この894兆円の内訳は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.693兆円 ・・・ 中央政府分
      2.201兆円 ・・・ 地方政府分
―――――――――――――――――――――――――――――
 植草氏はこの894兆円のうち地方政府分の201兆円につい
ては、債務残高から差し引いてもよいのではないかと述べている
のです。その理由は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の場合、地方公共団体の債券発行、すなわち地方債発行に
 ついては、非常に強い制約が設けられている。地方自治体の借
 金計画は、中央で集計され、一県ずつ中央政府の審査の対象と
 なる。それらが集計されて、地方債計画として公表もされてい
 る。地方政府の借金は、それぞれの地方の金融機関などが資金
 の出し手となっており、どの経済主体がいくら地方自治体に資
 金を供給するかについて綿密な計画がたてられ、その計画に基
 づいて地方債が発行されている。また、地方債を発行できる事
 業も限定されており、基本的には、借金返済の裏付けが確かで
 ないものには、地方債発行が認められないような仕組みが取ら
 れている。          ──植草一秀著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 植草氏は以上のような理由によって、201兆円の地方債の残
高については、大きな懸念が生ずる恐れはないとして、借金残高
には含めなくてもいいのではないかというのです。
 そうすると、残りは693兆円の借金が問題ということになり
ます。しかし、ここからも外せるものがあるのです。明日のEJ
で説明します。         ── [財務省の正体/08]


≪画像および関連情報≫
 ●一般的な「日本の財政危機論」/2015年に財政破綻?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本の財政破綻を懸念する声が海外でめっきり増えてきた。
  財政破綻とは日本政府が国債(すなわち借金)を返済できな
  くなることである。何しろ日本の国債発行残高はGDPに比
  較して断トツの世界一なのだ。昨年5月に財政破綻したギリ
  シャより大きいのだ。だが日本政府は「大丈夫だ」と言い続
  けてきた。理由は二つある。日本国債の保有者の96%は日
  本の投資家だからだ。日本の投資家は日本の金融機関、ゆう
  ちょ銀行、年金基金等である。我々が銀行に預けた預金は、
  銀行が日本国債を購入することで間接的に国債を保有してい
  ることになる。もう一つの理由は、日本の貯蓄は1400兆
  円もあり、国債発行残高943兆円はその範囲内に収まるか
  らだ。それはその通りと思う。だがこの状況をいつまで続け
  られるのか。2011年度の予算を見てみよう。税収は41
  兆円しかないのに、歳出は97兆円に達する。不足分を補う
  ために44兆円の国債を発行するという。
            http://diamond.jp/articles/-/11324
  ―――――――――――――――――――――――――――

植草一秀著『日本の再生』/青志社.jpg
植草一秀著『日本の再生』/青志社
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2011年11月17日

●「日本の財政は危機的状況ではない」(EJ第3183号)

 昨日に引き続き、「日本の財政は危機的状況にある」は間違っ
ているとする植草一秀氏の所論をご紹介していきます。
 国債発行残高693兆円──これは2011年度末/2012
年3月末になることが予測される数字です。この693兆円の内
訳は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.赤字国債 ・・・・ 391兆円
      2.建設国債 ・・・・ 251兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 「建設国債」とは何でしょうか。
 建設国債の根拠法は「財政法」です。財政法第4条に次の規定
があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 第4条 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その
     財源としなければならない。但し、公共事業費、出資
     金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金
     額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことが
     できる。
 2   前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす
     場合においては、その償還の計画を国会に提出しなけ
     ればならない。
 3   第1項に規定する公共事業費の範囲については、毎会
     計年度、国会の議決を経なければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この条文を読むと、国の歳出は「公債又は借入金以外の歳入」
を財源とすること──すなわち、税収によって行わなければなら
ないとしています。つまり、借金による財政運営はしてはならな
いと定めているのです。
 しかし、但し書きがあります。特定の費用については、一定の
条件の下で借金による財政運営を認めているのです。特定の費用
とは、「公共事業費、出資金及び貸付金の財源」です。つまり、
政府支出のうち、インフラを整備するなどの投資的な支出──公
共事業費は国債発行が認められているのです。
 それでは一定の条件とは何でしょうか。それは、財政法第4条
の第1項〜第3項に次の条件があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.国会議決を経た金額の範囲内で公債を発行する
   2.公債償還の計画を国会に提出して了承を受ける
   3.公共事業費の範囲は毎会計年度国会議決を経る
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、建設国債はどのように償還されるのでしょうか。こ
れについて植草一秀氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 六〇〇〇億円建設国債を発行し、六〇〇〇億円のインフラ資産
 を作った場合、これを一〇年の国債で発行した場合には、一〇
 年後に六〇〇〇億円をいったん返済し、そのうち五〇〇〇億円
 をまた、一〇年国債を発行して調達する。一〇年の満期が来た
 ときに五〇〇〇億円を返済するのだが、そのうち四〇〇〇億円
 については、また一〇年の国債を発行して資金を調達する。こ
 のような形で返済をしていくと、六〇年後にはすべての返済が
 完了する。これを六〇年償還ルールという。つまり、借金のな
 かの建設国債については、その建設国債の借金に見合う資産が
 存在しており、この借金は健全そのものなのである。
                   植草一秀著/青志社刊
  『日本の再生/機能不全に陥った対米隷属経済からの脱却』
―――――――――――――――――――――――――――――
 建設国債は、その借金に見合う資産があり、この251兆円は
健全な借金であって、外していいのではないかと考えられます。
国際的に見ても「借金」の定義が共通しているわけではなく、そ
の国の財務当局の考え方によって異なっているのです。日本の場
合、財務省は明らかに「国の借金」の額を大きく見せるため、い
ろいろなものを借金として上積みしているのです。
 そうすると、問題にすべき借金は、残りの391兆円というこ
とになります。これは赤字国債であり、それに見合う資産がない
ので、非常に問題のある借金です。日本では、長引く経済低迷に
よって税収の足りない部分を国債発行で賄う状況が続いてきたの
ですが、遂に国債発行額が税収を上回る事態になり、2009年
度からそういう状態が続いています。赤字国債は、その発行のた
めの特例法によって認められるのですが、菅政権のさい、この特
例公債法が野党の反対で通らず、菅政権崩壊の引き金になったこ
とは記憶に新しいところです。
 このように政府債務が391兆円であるということになると、
GDP比は82・5%になり、米国の81・5%と比べて遜色は
なく、危機の様相は一変する──このように植草氏はいいます。
 しかし、赤字国債は問題です。借金で予算を賄う比率が50%
を超えている事態は改善する必要があります。しかし、どこの国
でも多かれ少なかれ借金はあるのです。それに家計の借金と違っ
て国の借金をゼロにする必要はないのです。要は適切に管理され
ていればそれでいいのです。
 それに借金があってもそれに見合う資産があれば何も問題はな
いのです。政府は2010年度末において、694兆円の資産を
保有していると発表しています。もちろんその中には使えないも
のもありますが、少なくとも391兆円に対応する資産としては
十分であるといえます。
 ですから、いま日本がやるべきことは、増税することではなく
経済を活性化させることです。それに官僚主導国家の天下りなど
の膨大なムダを削ることです。このように考えると、日本の財政
はそれほど深刻ではないことがわかると思います。ギリシャとは
違うのです。          ── [財務省の正体/09]


≪画像および関連情報≫
 ●日本国の債務状況と資産の内訳
  ―――――――――――――――――――――――――――
  今回からは、「ハイパーインフレは日本で起こるのか?」と
  いう事を本格的に考えてみたいと思います。ただ、最初に言
  っておきますと、管理人自身は、2011年1月時点におい
  て、現在の日本の状態のままならば、少なくとも2011年
  中はハイパーインフレはまず起きないと考えています。ハイ
  パーインフレの可能性が出てくるのは3〜5年先ではないか
  と考えています。それには、幾つか理由があるのですが、そ
  れを説明するためには、まずはあなたに日本の現在の姿を知
  って頂く事が必要になります!実は、現在の日本の債務状況
  と保有資産の状況をしっかり把握して整理すれば、「何処の
  "タガ"が外れた時に、ハイパーインフレにつながるのか?」
  が見えてくるようになります。また、「おおよそのハイパー
  インフレが始まるタイミングを知る糸口」も見えてくるはず
  です。
   http://on-linetrpgsite.sakura.ne.jp/cat5/post_5.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

債務残高の国債比較.jpg
債務残高の国債比較
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2011年11月18日

●「なぜ震災復興経費を増税で賄うのか」(EJ第3184号)

 財務省は、巨額の政府支出が必要となる東日本大震災の復興に
は増税するしかないという世論を作ろうとしています。これは財
務省の増税キャンペーンの第2の訴求ポイントです。
 当然ながら3月の大震災を財務省が予測していたわけではない
のです。財務省の悲願はあくまで「社会保障と税の一体改革」に
よる消費税増税なのです。その実現ですら非常に厳しい情勢であ
るのに、震災復興増税ということになると、肝心の消費税増税は
実施しにくくなるのではと普通はそう考えます。
 しかし、財務省は震災が起きるや否や直ちに政府に増税を働き
かけ、その実現が決まっているのです。これには菅首相と野田財
務相という財務省に洗脳された2人の首脳に大きな責任がありま
す。震災直後の3月13日に菅首相が自民党の谷垣総裁に増税の
話を持ちかけたのは財務省幹部にそれを説得されたからです。
 財務省としての建前はこうです。一般的に災害の復興には国債
を発行して対応すべきですが、日本は1000兆円もの国の借金
があり、既に国債を発行する余力がない。もし財源の裏付けのな
い国債を発行すると、日本国債の価格が暴落(長期金利の上昇)
しかねない。だから、増税しかない──こういう論法です。ここ
で、第1の訴求ポイントが生きてくるのです。
 しかし、既にここまで述べてきているように、1000兆円の
国の借金は心配することはないのです。東日本大震災の復興費用
は道路や橋や建物などのインフラの復旧・整備を含むので、建設
国債で対応できるのです。しかし、財務省はそれを許さず、結局
増税で対応することにしています。もはや、政府は財務省と一体
化しており、何の頼りにもならないのです。
 野田首相や安住財務相は「将来世代につけ回しをすべきではな
い」と述べていますが、これは矛盾しています。インフラの復旧
・整備は、次世代の人もそれらのインフラを利用できるので、そ
の費用は現世代と次世代が等しく分かち合うべきでしょう。
 次世代につけ回してしまうことになるのは、赤字国債の方なの
です。現在の日本経済は、税収が大幅にダウンして経常支出を賄
えなくなっており、その分国債(赤字国債)を発行して、穴埋め
をしなければならないのです。これこそ次世代のつけ回しそのも
のであるといえます。
 したがって、いま日本がやるべきことは、経済を活性化させる
ことであり、税収を増加させることです。それなのに建設国債の
60年償還で対応できる震災復興経費を臨時増税で賄おうとし、
さらに消費税増税を実施すると、設備投資や消費を一層冷え込ま
せる結果となり、経済が低迷してさらに税収が減ってしまう恐れ
があるのです。そうすると、さらに多くの赤字国債を発行しなけ
ればならなくなります。
 大災害の復興はうまくやれば、経済活性化のチャンスでもある
のですが、日本は1995年1月の阪神・淡路大震災のときもそ
れをうまく生かすことができなかったのです。高橋洋一嘉悦大学
教授によると、マクロ経済政策上のミスがあったというのです。
 高橋洋一氏の所論を以下にまとめていきます。マクロ経済政策
の2本柱は次の2つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.金融政策
           2.財政政策
―――――――――――――――――――――――――――――
 「マンデル・フレミング理論」というのがあります。1999
年のノーベル賞を受賞したロバート・マンデルとジョン・マーカ
ス・フレミングという2人の経済学者の名前をとった理論です。
これは簡単にいうと、「変動相場制の下では財政出動しても効果
がない」という理論です。公共事業への投資が景気の浮揚策にな
ったのは固定相場制の時代の話であり、変動相場制の下では、効
かないというのです。
 大規模な公共投資を行うと、内需も雇用も拡大します。しかし
国債を発行するということは、民間から資金を集めることです。
これを金融政策論的にいうと、市中のマネーを引き揚げることを
意味し、結果として金融の引き締めになるというのです。
 市中のマネーが減ると、金利が高くなり、円が買われるので、
円高になるのです。そうなると、輸出産業が打撃を受けて、公共
支出の増大の効果を相殺してしまうのです。
 阪神・淡路大震災では、当時の大蔵省は私有財産に公費は入れ
られないとして、現状を復旧するだけで十分として徹底的に経費
をケチり、小規模の予算しかつけなかったのです。そして財政支
出額を決定したのです。ところが、マンデル・フレミング理論に
よって、それを先取りするかたちでの円高が起こり、そのため、
6兆円もの円高対策費を追加することになったのです。このとき
の円高は、それまでの過去最高値の「1ドル=79・75円」に
なっているのです。
 2011年の東日本大震災でも同様のことが起きています。東
京外国為替市場のドル円相場は2011年3月17日早朝に円が
急騰し、一時「1ドル=76・25円」まで円高が進んでいるの
です。阪神・淡路大震災のときと同様です。それではどうすれば
よかったのでしょうか。高橋洋一氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マンデル・フレミング理論から見ると、もっと早く金融緩和に
 踏み出すべきだった。遅くとも財政支出の発表と同時に金融緩
 和も決定していれば、あのときの円高は阻止できただろう。こ
 うした阪神・淡路大震災の反省点を踏まえて復興対策を立てな
 ければならないが、東日本大震災に際しての民主党政権の対応
 を見ていると、とても過去の教訓を生かしているとはいいがた
 い。                   ──高橋洋一著
      『財務省の隠す650兆円の国民資産』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
                ── [財務省の正体/10]


≪画像および関連情報≫
 ●白川日銀総裁の適格性を問う/2010年9月15日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  欧米では経済を動かすのは大統領ではなく中央銀行総裁だ。
  だが、日本の白川方明(まさあき)日銀総裁は存在感がない
  ばかりか、今回の円高にまったく無策だった。先進国は現在
  中央銀行の金融政策を極めて重要視しているが、当然それに
  は理由がある。変動相場制においてマクロ経済効果は、財政
  政策より金融政策のほうが有効なのだ。これは、マンデル=
  フレミング理論といって、99年にノーベル経済学賞をもら
  った由緒正しい理論だ。いまだに、景気対策というと、財政
  支出額を競っている日本は世界の笑いものである。マンデル
  =フレミング理論は大学の経済学上級コースで習うはずだ。
  しかし、日本のマスメディアに就職した学生はサボってばか
  りいたのか、景気対策の話題になると財政支出関連報道のオ
  ンパレードだ。マンデル=フレミング理論を簡単に説明しよ
  う。変動相場制の場合、国債発行による公共投資を行うと、
  市場のカネが国債発行によって減少するので金利が上がる。
  そのため円高になって輸出が減り、公共投資のプラス効果を
  相殺するのだ。逆に金融緩和すると、市場のカネが増えるの
  で金利が下がり、設備投資が増加するとともに、円安になる
  ことで輸出も増え、景気刺激になる。こうした金融政策と金
  利の動きを知っていれば、金融政策の巧拙が通貨価格に影響
  を与える理屈もわかるだろう。
         http://gendai.ismedia.jp/articles/-/1146
  ―――――――――――――――――――――――――――

高橋洋一嘉悦大学教授.jpg
高橋 洋一嘉悦大学教授
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2011年11月21日

●「財務省はなぜ消費税増税にこだわるのか」(EJ第3185号)

 野田首相はAPECや東アジア首脳会議(サミット)の閉幕後
の記者会見で、まるで宣言するように次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 年内をメドに結論が出るように政府税制調査会を中心に議論
 を進める。法案を提出する時が閣議決定だ。その前から与野
 党で政策協議をしたい。          ──野田首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 菅前首相に野田首相──財務省からみると、これほど扱い易い
首相はいない。経済──とくにマクロ経済や国家財政についての
知識が決定的に欠けているので、簡単に騙されてしまうのです。
 官僚機構(財務省)がなぜ増税──それも消費税増税に前のめ
りになるかというと、彼らは長い間にわたって、税金が入ってく
ると、本来の目的の出費に使う以外の相当の金額を密かに貯め込
むシステムを巧妙に作り上げているからです。
 何かに備えて準備するというと聞こえはよいですが、その「何
か」は国家・国民のためというよりも、自分たちの天下りのため
の財源に流用するためにそうするのです。
 「国債費」というものがあります。2011年度予算では、約
22兆円が計上されています。「こんな巨額の予算を組まなけれ
ばならないので、財政が硬直化する」──これが財務省のいい分
ですが、これはとんでもないインチキな意見であると元財務官僚
の高橋洋一氏はいうのです。
 一般の国民は当然この22兆円全額が国債の利払いに充てられ
ると考えますが、実は違うのです。利払いには半分程度しか使わ
れていないのです。それでは残りはどうなるのでしょうか。
 残りの金額は「債務償還費」──具体的には「国債整理基金特
別会計」に積み立てられるのです。国債を償還できなくなると困
るので、そのため基金として積み立てているというのです。これ
は「減債制度」といわれています。これについては詳しく検証す
る必要がありますが、高橋氏の所論を基にして以下に述べます。
高橋氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 一般会計のかなりの部分が国債発行による国民からの借金で賄
 われている。国債償還金は、その借金で賄われている一般会計
 から支出される。つまり財務省は、将来、国債を償還するため
 に、国民から二重に借金して基金を積み立てているのだ。普通
 莫大な借金があるのに、さらに借金して積立をする馬鹿はいな
 い。積立できる余裕があるのなら、そのお力ネは借金返済に充
 てるのが、普通の人の感覚だ。そのほうが余計な金利を払わな
 くて済むので当然だ。国のレベルでも一緒で、だから普通の国
 には減債制度はない。           ──高橋洋一著
      『財務省の隠す650兆円の国民資産』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このような減債制度があるのは日本だけであり、外国にはない
のです。なぜなら、借金を返すためのお金を借金して積み立てて
いるというのはあまりにも馬鹿げていると高橋氏はいいます。ど
うしてこのような制度が残っているのでしょうか。それには、次
の2つの理由があると高橋氏はいうのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.官僚は前例踏襲主義に陥っている
      2.国債残高をより大きく見せられる
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は、「官僚は前例踏襲主義に陥っている」ことです。
 高橋氏によると、先輩の作った制度を廃止したり、変更したり
することは、先輩を批判することにつながるのです。霞が関では
先輩や上司のやった仕事の批判は御法度なのです。そのため、ほ
とんどの官僚は自己保身のため、前例踏襲主義を取り、どんなに
バカバカしい制度でも変えようとはしないのです。
 第2は、「国債残高をより大きく見せられる」ことです。
 2011年度予算で考えてみます。新規国債発行は約44兆円
──このうち、特別会計に積み立てる債務償還費は12兆円です
から、新規国債発行は32兆円で済むのです。しかし、実際には
44兆円の国債を発行するので、実際には赤字国債は12兆円多
くなっていることになります。国民へは借金が多くあるように見
せる方が増税しやすいので、減債制度を廃止しないのです。
 したがって、この12兆円を東日本大震災の復旧・復興に回す
ことは何ら問題ではなく、そうすれば復興増税など必要ではない
のです。国会でも、みんなの党の江田幹事長をはじめ野党議員が
「なぜ国債整理基金のカネを使わないのか。以前も使った実績が
あるではないか」と政府に迫ったのですが、菅政権時代の野田財
務相は「国債償還を守るために必要である」として聞く耳を持た
なかったのです。わかっていてトボケているのか、本当に知らな
いのか知りませんが、いずれにしても許せない対応です。
 野田首相は、こんなときに消費税を上げるとどんな結果を招く
のか──何もわかっていないのです。わかっていても知らん顔を
しているのであれば国民への裏切りであり、民主党は次の衆院選
で大敗確実です。50人程度になるという予測もあります。
 しかし、官僚機構にとっては、経済がどうなろうと、民主党が
選挙に負けようと、国民がそれによってどんなに困窮しようと一
向に意に介さないのです。彼らは悪いことをしてもクビにはなら
ないし、給与も年金も国民とは別建てできわめて高く、安定して
いるからです。つまり、彼らに国民の痛みはわからないし、わか
ろうともしないのです。
 野田官邸を牛耳っている財務省官僚、マスコミで増税の必要性
を説くキャスター、学者、政治評論家、そして最大野党の自民党
への硬軟織り交ぜての働きかけ、財務省はあらゆるところに手を
回し、消費税増税を実行しようとしています。その執念たるや尋
常ではないのです。しかし、元代表の小沢一郎氏は、11月19
日に増税反対を表明しています。 ── [財務省の正体/11]


≪画像および関連情報≫
 ●「中西の目チ゛カラ」/みんなの党・中西けんじ氏の主張
  ―――――――――――――――――――――――――――
  国の債券発行・償還の一連の流れの中に国債整理基金と決算
  剰余金が存在していることは前回説明させて頂きました。今
  回は、これらを復興財源として如何に活用するかについて私
  の考えをまとめたいと思います。これまで国会の場で私たち
  が主張してきているのは、国債整理基金に積み上がっている
  資金の活用と、一般会計から基金への定率組み入れの一時停
  止です。それに対して政府が提案し国会で議決されたのは、
  昨年度一般会計決算剰余金の国債整理基金への繰り入れ停止
  です。私たちの主張と政府の見解の違いを正しく理解してい
  ただく上でまずおさえておきたいのは、国債整理基金内の償
  還財源の復興財源としての利用や、定率組み入れの停止、決
  算剰余金繰り入れの停止のどれもが、国の純債務を増加させ
  ると言うことです。これらはどこかに眠っている不要の資金
  つまり埋蔵金などではなく、国が既に民間から借り入れてい
  るが返済のために取り置きしてある資金なのです。この三つ
  はすべて国債償還のために使うことを法律で定められている
  資金です。ところが政府は、決算剰余金の国債整理基金への
  繰り入れ停止を決める法律の説明の中で、「新たな国債発行
  に依存しない」ことを今回の措置の理由としています。ネッ
  トで考えれば国の債務が増えるにもかかわらず、あたかも債
  務が増加しないかのような説明を行うのはめくらましとしか
  言い様がありません。
        http://nakanishikenji.jp/blog/seisaku/4176
  ―――――――――――――――――――――――――――

消費税増税を意欲を示す野田首相.jpg
消費税増税を意欲を示す野田首相
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2011年11月22日

●「IMFの日本への増税提言のウラ」(EJ第3186号)

 2011年6月11日付の読売新聞は、IMFの提言として次
の記事を報道しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪日本は来年度、消費税7〜8%に・・・IMFが提言≫
 国際通貨基金(IMF)が、日本への財政再建圧力を強めてい
 る。IMFが8日発表した声明では現在5%の消費税率を20
 12年度から7〜8%に引き上げる案を示した。国際機関が日
 本の税制に対し、増税時期と内容まで詳しく特定して提言する
 のは異例だ。巨額の財政赤字を膨らませてきた日本が、これま
 で国際的な信認を保ってきた背景には、世界で最低水準にある
 消費税率の「引き上げ余地の大きさ」がある。IMFの踏み込
 んだ提言の裏には、政治の指導力の欠如で税率引き上げの実現
 が遠のけば、日本国債の信用不安が急速に高まるなど、国際社
 会にとっても不測の事態に陥りかねないという強い危機感があ
 る。経済協力開発機構(OECD)も、4月の「対日経済審査
 報告書」で「公的債務残高は国内総生産(GDP)比で200
 %といった未知の領域にまで急速に増加している」と懸念を表
 明。「消費税率は20%相当まで引き上げることが求められる
 かもしれない」と指摘した。
           ──2011年6月11日付、読売新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう記事を読むと、多くの国民は、遂にIMFのような国
際機関まで日本に対して増税を要求してきている──これじゃ、
増税やむなしかなと考えてしまいます。
 しかし、これは財務省と大手新聞社が組んだマッチポンプなの
です。記事にある「IMFが8日発表した声明」を見ると、消費
税のことは書いてあっても「7〜8%に引き上げ」のような具体
的な税率など、どこにも書いておらず、「適度な税率引き上げ」
という表現があるだけです。声明のプレスリリースの該当部分を
以下に示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 喫緊の政策課題は損傷したインフラの修復と速やかな回復を促
 すことである。これまでの施策に加え、被害を受けた地域の再
 活性化によく対象を定めてかつ焦点を当てた2011年度2次
 補正予算や他の予算関連法案の適時な成立は下方リスクへの対
 処に資するとともに、民間支出の引きがねとなろう。様々な税
 制上の措置が考えられるものの、国債発行を抑制するためには
 補正予算に係る資金調達を、復興が本格化する2012年にお
 ける適度な消費税率引き上げによって賄うことが可能である。
http://www.imf.org/external/japanese/np/sec/pr/2011/pr11222j.pdf
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本はIMFに対して米国に次ぐ出資国です。したがって、日
本はIMFの主要ポストを与えられており、そのポストには財務
官僚が出向しているのです。
 したがって、それらの財務官僚が財務省の指示を受けて、いか
にもIMFの提言というスタイルで、こういう声明を発信するこ
とは簡単なことなのです。日本人は「ガイアツ」に弱いので、こ
ういう声明が出ると、「増税やむなし」に傾いてしまう可能性が
高いからです。つまり、新聞社が一枚噛んでいるのです。
 これに関して、元財務官僚で、嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、
次のようなコメントを出しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 推測するに財務省の戦略はこうだ。IMFは世界の180ヵ国
 以上が加盟する国際機関だ。そのIMFが増税を提言したとな
 れば、日本国内に与えるインパクトは大きい。世論も増税やむ
 なしに傾くだろうー─財務省はそう読んで、IMFから日本に
 向け発信したのではないか。財務省には過去にも、OECD経
 由で財政再建を迫った実績もある。財務省はあの手この手で国
 民を洗脳し、増税に導こうとしている。   ──高橋洋一著
      『財務省の隠す650兆円の国民資産』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところでこういう記事を出すには、マスコミの協力が不可欠で
す。それではマスコミのメリットは何でしょうか。
 それは消費税の税率を上げると、財務省に財務省利権が生ずる
ことに関係があります。どういうことかというと、消費税の税率
がアップすると、必ず軽減税率やゼロ税率の要望が出てくるから
です。どの業界に特典を与えるかは、財務省の判断で決まるので
これが財務省の利権になるのです。
 2011年7月12日に新聞協会は、経済産業省が募集してい
た2012年度の税制改正要望について要望書を提出し、軽減税
率の適用を求めているのです。とくに新聞業界は社会的使命を主
張して、新聞に関してはゼロ税率を求めているという噂があるの
です。このような状況の下では、マスコミとしては、消費税の増
税に反対するキャンペーンは展開しにくくなります。
 新聞業界に関しては、財務省は既に軽減税率の適用を約束して
増税キャンペーンに協力させているフシがあります。その先兵は
読売新聞社です。このことは、2010年12月の前財務事務次
官・丹呉泰健氏の読売新聞社社外監査役就任と無関係ではないの
です。丹呉氏は、あの菅直人氏が財務相時代の財務事務次官なの
です。菅財務相(当時)は、この丹呉氏によって、消費税増税の
必要性を叩き込まれているのです。
 なぜ読売新聞社かというと、いうまでもなく政界に密着し、強
い影響力を持つ渡邊恒雄読売新聞社グループ会長の存在がありま
す。丹呉氏は菅前首相を説得し、与謝野馨氏と藤井裕久氏を使い
増税路線を推進させてきたのです。
 その丹呉氏が読売新聞社の社外監査役になったという事実は、
当然読売新聞社を中心とする新聞業界が、反対勢力である小沢氏
の排除や増税キャンペーンに一役買うということは十分あり得る
ことでなのです。        ── [財務省の正体/12]


≪画像および関連情報≫
 ●丹呉泰健氏について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  (丹呉氏が)財務事務次官に就任直後、政権交代。民主党政
  権が、初の予算編成を何とかこなせたのは丹呉氏がいたから
  だ。予算編成後、菅直人氏が財務相に就任。菅氏はその後、
  消費税増税の必要性や、財務省の天下りポスト拡大につなが
  る国際協力銀行の分離独立論など、財務省寄りの発言が目立
  った。振りつけ役が丹呉氏とされる。
            ──『文藝春秋』/2011年2月号
                      ──高橋洋一著
      『財務省の隠す650兆円の国民資産』/講談社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

丹呉泰健前財務事務次官.jpg
丹呉 泰健前財務事務次官
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2011年11月24日

●「消費税増税までの財務省の布石」(EJ第3187号)

 消費税の増税に財務省は実に周到です。がんじがらめというか
何年にもわたって時の財務大臣を説得しているのです。麻生内閣
から菅内閣までの財務大臣4人を列挙してみます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ◎与謝野 馨 ・・・ 麻生内閣/第11代財務大臣
   2009. 2.17 〜 2009.9.16
  ◎藤井 裕久 ・・・ 鳩山内閣/第12代財務大臣
   2009. 9.16 〜 2010. 1. 7
  ◎菅  直人 ・・・ 鳩山内閣/第13代財務大臣
   2010. 1. 7 〜 2010. 6. 8
  ◎野田 佳彦 ・・・ 菅 内閣/第14代財務大臣
   2010. 6. 8 〜 2011.09.02
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費税の増税──「社会保障と税の一体改革」は、第11代財
務大臣である与謝野馨氏から藤井、菅、野田という4人の財務大
臣に受け継がれ、着実に実現に向けて進められてきたのです。こ
れまでの流れを振り返ってみることにします。
 そもそもの発端は、麻生内閣において与謝野氏が兼務で第11
代財務大臣になったときに始るのです。与謝野氏は財務省親派で
あり、かねてから消費税の増税の必要性を説いていたのです。そ
のせいもあって、財務省が信頼する政治家の一人です。
 その与謝野氏が中川昭一財務相の突然の辞任によって、兼務と
はいえ財務大臣に就任したのです。与謝野財務相はかねてからの
持論である消費税増税を「社会保障と税の一体改革」として成案
化させようとして、財務省と成案づくりに着手したのです。
 ところが、麻生内閣は2009年8月の衆院選で民主党に惨敗
し政権交代が起きたのです。しかし、政権交代が起きても財務省
の官僚はそのままです。財務省にとって幸いだったのは、大蔵官
僚出身の藤井裕久氏が鳩山内閣の財務相に就任したことです。
 当時藤井氏は民主党の実力者小沢幹事長との関係がうまくいか
ず、4ヵ月足らずで健康上の理由で辞任してしまうのです。しか
し、藤井氏は主要ポストに就いていなかった野田氏を財務副大臣
に就任させ、財務省とともに消費税増税の重要性を野田氏に対し
て説き続けたのです。消費税の増税教育は既にこの時点で始って
いたのです。
 藤井氏の辞任で菅氏が財務相に就任したのですが、菅氏は当初
財務省に対して極めて頑なであったのです。そこで財務省は、菅
氏が金融・経済の基礎知識に弱いことに目をつけ、質問に立つこ
とになっていた自民党の林芳正氏(元経済財政担当相)に情報を
提供し、参院予算委員会で「乗数効果」について質問させたので
す。菅氏が乗数効果について勘違いしていることを知っていた財
務官僚の仕掛けた罠です。そのため、菅氏の答弁は二転三転して
混乱し、立ち往生してしまったのです。財務省がいうことを聞か
ない大臣を懲らしめる一種の洗礼なのです。2010年1月26
日のことです。
 これに懲りた菅財務相はすっかりおとなしくなり、財務省のい
うことを何でも聞くようになったのです。そして鳩山氏の辞任の
後を受けて首相に就任します。この頃になると、菅首相は完全に
財務省に洗脳され、参院選では財務省の意向を汲んで消費税10
%を掲げて選挙戦を戦い、惨敗します。その結果、衆参のねじれ
を作ってしまったのです。
 しかし、菅氏は総裁選に勝って、第2次菅改造内閣を発足させ
ます。その頃から財務省はたちあがれ日本の与謝野氏を閣内に迎
えるよう菅首相に進言していたのです。2010年12月に民主
党は、たちあがれ日本に連立参加を求めたのですが、与謝野氏以
外は反対し、与謝野氏は党内で孤立。そこで与謝野氏は2011
年1月13日にたちあがれ日本を離党、菅再改造内閣にて経済財
政政策担当大臣に就任したのです。与謝野氏は無所属議員として
衆議院会派「民主党・無所属クラブ」に入会し、再び与党議員に
返り咲いたわけです。
 ここまでは、すべて財務省の筋書き通りなのです。与謝野氏は
経済財政政策担当大臣として「社会保障と税の一体改革」に取り
組み、何事も遅れがちな菅政権の中にあって、この事案だけは順
調に成案づくりが進んだのです。
 しかし、2011年3月11日に東日本大震災が発生します。
これに危機感を持ったのは与謝野大臣と財務省なのです。大震災
となると、復旧・復興の青写真づくりと財源の確保が急務となり
消費税増税が吹き飛びかねないと考えたからです。そこで財務省
は大震災を増税に利用し、日本の財税の現状が危機的であること
を訴えようとしたのです。復興増税が出てきた理由です。
 2011年5月30日に内閣府と財務省はある報告書を提出し
たのです。これを受けて「社会保障と税の一体改革」を検討する
政府の集中検討会議は審議を本格化させたのです。このように、
大震災の復旧・復興や福島原発事故を置き去りにして、この問題
だけは何よりも優先させて検討が進められたフシがあります。
 問題はこの報告書の内容なのです。これについて、高橋洋一氏
は次のように批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この内開府と財務省の報告書の内容がインチキ極まりない。報
 告書では、消費税の増税は必ずしも景気後退を招かない、社会
 保障目的税にすれば将来不安の払拭につながる、としている。
 つまり、社会不安が減じるので、国民はいまより積極的に消費
 をするようになり、景気は悪くならないというのだ。1997
 年に消費税率を3パーセントから五パーセントに引き上げたと
 きに景気が悪化したが、これも消費税増税が主因ではなく、ア
 ジア通貨危機や金融危機の影響が大きかったと分析している。
 高橋洋一著『財務省の隠す650兆円の国民資産』/講談社刊
 ――――――――――――――――――――――――――――
                ── [財務省の正体/13]


≪画像および関連情報≫
 ●社会保障・税一体改革「2つのアプローチ」/東京財団
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2011年6月2日、社会保障改革案が公表され、15年度
  までに段階的に消費税率を10%まで引き上げることが示さ
  れた。今後この案をベースに、6月下旬ともいわれている社
  会保障・税の一体改革の成案作りに向けての検討が行われる
  予定である。これまでの政権が、なかなか具体案を出せなか
  った中で、曲がりなりにも議論のたたき台となる案を公表し
  たことについては、率直に評価したい。そもそも社会保障・
  税の一体改革を考えるには、2つのアプローチがある。一つ
  は、「赤字補填アプローチ」である。現在国の消費税収は、
  すべて医療・介護・年金の高齢者3経費に充てられることに
  なっている。3経費と国の消費税収の間には、10兆円のギ
  ャップ(平成23年度予算ベース)がある。毎年自然増が見
  込まれるので、2015年時点でそのギャップは13兆円弱
  に膨れ上がる。これは、消費税率でいえば5%分である。そ
  こで、これを増税の根拠とするアプローチである。しかし、
  国民の立場からは、今の社会保障にはさまざまな非効率があ
  り、生活保護ビジネスの横行などの恥部も見え隠れする。現
  行制度の表面づらを化粧直しして、財源がこれだけ足りない
  増税を、というのでは、納得できないということになる。
      http://www.tkfd.or.jp/topics/detail.php?id=280
  ―――――――――――――――――――――――――――

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歴代の財務大臣4人
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2011年11月25日

●「ナベツネは『日本のドン』である」(EJ第3188号)

 ナベツネ問題が世間を騒がせていますが、渡邉恒雄氏は「読売
のドン」どころか、「日本のドン」なのです。時の政権が渡邊氏
にひれ伏している感があります。
 渡邊氏は菅降ろしが公然といわれるようになった頃から、「次
は野田君だ」と公言していたようです。渡邊氏は「なぜ野田なの
か」と親しい政界関係者に聞かれて次のように答えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 彼のお父さんは自衛官だし、彼も苦労人だろう。タンゴやカツ
 も野田は素晴らしいと評価している。    ──渡邊恒雄氏
                「週刊ポスト」12/2より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでいう「タンゴ」は読売新聞社の社外監査役になった丹呉
前財務事務次官、「カツ」はいうまでもなく勝栄二郎財務事務次
官のことです。渡邊氏は2人をまとめて「タンゴやカツ」といっ
ているのですから驚きです。いかに財務省が読売新聞と密接に結
びついているかがわかります。
 渡邊氏は、「山里会」という政治家との交流会合を主宰してい
ます。「山里」というのは、ホテルオークラの料亭の名前です。
10月21日の夜、その山里会が開かれています。その日の会合
には、渡邊氏のほか、橋本五郎(読売)、芹川洋一(日経)、岩
見隆夫(毎日)、早野透(元朝日)らのマスコミの重鎮が顔を揃
えていたのです。その山里会に野田首相が招待されたのです。
 10月21日といえば、TPP交渉参加問題で首相は多忙を極
めていたはずですが、野田首相は約3時間もそこに滞在している
のです。「山里会に招待する」といえば聞こえがよいですが、野
田氏は呼び付けられたに等しいのです。
 その後官邸に戻った首相に記者が「会合は有意義だったか」と
尋ねると、野田首相は「おかげさまです」と答えたそうです。い
かにもへりくだった表現に聞こえてしまいます。山里会のような
席に呼ばれ、マスコミの重鎮から持ち上げられると、やはり舞い
上がってしまうのでしょう。こういう人たちから、TPPの推進
要望や増税容認の意見を出されると、国民のことなど忘れてしま
い、何とか彼らの支持を失わないように努めようとしてしまうも
のです。「おかげさまです」の言葉によくそれがあらわれている
と思います。こういうところに民主党の若手政治家の脆さがよく
出ています。
 しかし、渡邊恒雄氏の政治への関与はこんなものではないので
す。「週刊ポスト」12/2日号は、長谷川幸洋・東京新聞論説
副主幹の話として次の情報を明らかにしています。長谷川幸洋氏
は、テレビでの話やコラムなどを見る限り、まともなジャーナリ
ストであると私は考えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 かつて長谷川氏が首相経験者と会食した際のこと。元首相は同
 席していた当時の政権幹部に向かって「官房長官はナベツネさ
 んのところに行ってる?」と尋ねた。政権幹部が「何のことで
 しょうか」と首をひねると、元首相はこういった。「首相は月
 に1回、天皇に政情報告をする。同じように月1回、官房長官
 が政情報告をする相手がナベツネなんだよ。これは代々の引き
 継ぎ事項になっている」。政権幹部は「そうなんですか、知り
 ませんでした。早速官房長官にいっておきます」と慌てた。
              ──「週刊ポスト」12/2より
―――――――――――――――――――――――――――――
 長谷川幸洋氏は、さらに大臣が所管事項で官僚の反対が予想さ
れるような局面では、大臣自らが読売新聞社の渡邊氏のところに
出向き、それについて協力を求めることも少なくないというので
す。まさにナベツネは「日本のドン」になっているのです。
 さて財務省は、4人の財務大臣に対して何年もかかって消費増
税を説得し、何とか実現させようとしています。これは大変な努
力であり、それだけ日本にとって財政再建が重要であることを時
の政権に働きかけてきているといえます。
 本当に国のことを考えて消費増税を勧めているのであれば、そ
れは立派なことであり、その努力は称えられるべきです。しかし
財務省の本心は財政再建ではないのです。少なくとも財政再建は
二の次三の次です。
 官僚は国のために奉仕する存在のはずです。まして財務官僚は
官僚の中の官僚といわれる中心的存在であり、国のことを何より
も優先的に考えて仕事をするはずである──普通はこのように考
えます。しかし、そうではないようです。植草一秀氏によると、
大蔵省(財務省)のキャリアは、自分の省庁のことを「わが社」
というそうです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いわゆるキャリア職員と呼ばれる第一種国家公務員試験に合格
 し、大蔵省で採用された幹部候補生職員のなかで、彼らの心情
 を率直に表現する者は、大蔵省、財務省のことを、「わが社」
 と表現する。自分が勤める組織だから「わが社」と呼んでいる
 だけではない。大蔵省、財務省も民間企業と同様に、自らの組
 織の利益最大化、利潤を追求する存在であることを明確にする
 ために、「わが社」との表現を用いるのである。
                 ──植草一秀著/青志社刊
  『日本の再生/機能不全に陥った対米隷属経済からの脱却』
―――――――――――――――――――――――――――――
 このことを前提として考えると、財務省のキャリアは、消費増
税についても「それは『わが社』の利益になるかどうか」と考え
ることになります。そこには国にとってどうなのかという視点は
残念ながらないのです。
 国の政策を考えるとき、あくまでも財務省の利害得失を何より
も優先し、国の浮沈や国民生活への影響などは考慮の断片にすら
含まれることはないと植草氏はいっています。来週も消費増税の
不当さについて考えます。    ── [財務省の正体/14]


≪画像および関連情報≫
 ●長谷川幸洋氏/古賀茂明氏とインタビュー
  ―――――――――――――――――――――――――――
  9月28日のニコニコ生放送「衝撃告白!古賀茂明、経産省
  を辞職へ〜一体なぜ辞めることにしたのか?」では、そんな
  古賀氏をゲストに招き、東京新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏
  が話を聞いた。古賀氏の「皆は役所のルールがあるからでき
  ないよ、という世界にいるが、僕はできないよと思うことを
  やるのが面白い」という信条には、官僚のみならずサラリー
  マンも考えさせられるものがあるのではと長谷川氏はいう。
  以下、番組を全文書き起こして紹介する。
  http://blog.livedoor.jp/s_koga_unofficial/archives/66918768.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

渡邊恒雄氏.jpg
渡邊 恒雄氏
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2011年11月28日

●「消費増税の時期は最悪である」(EJ第3189号)

 11月24日に五十嵐財務副大臣が講演で、消費税増税のスケ
ジュールに言及しています。まず、2013年10月以降8%に
し、2015年以降に10%にするというものです。
 どうもこの人は、民主党政権のなかでもとくに増税に前のめり
の発言をする筆頭です。テレビの討論でも高圧的なものいいをし
増税しないと大変なことになるというような話法を使うのです。
それにしてもまだ正式に決まってもいないものを講演でこのよう
に話すのは財務省の作戦の一環なのでしょうか。
 ところで、消費増税の目的は何なのでしょうか。消費増税の必
要性は日本の財政赤字の大きさから説かれてきています。このま
まにしておくと大変なことになるという論法です。
 しかし、今回の消費増税は公的年金などの社会保障の財源に充
てるとしているのです。そのため、「社会保障と税の一体改革」
というタイトルで年金と消費税を結びつけてきたのです。国民の
中でも、年金の財源に使われるのであれば、増税やむなしかと考
える人が多くなってきていることも確かです。
 しかし、消費税を社会保障の目的税にすることは、ちょっと考
えると良いようでいて、大きな問題があります。なぜなら、年金
などの社会保障の財源はこれからますます増加し、たとえ消費税
率を10%にしたとしても、それで足りるはずがないのです。そ
うなると財源が足りないからという理由で、とめどもなく消費税
の税率が引き上げられる恐れがあります。おそらく財務省は税率
20%ぐらいまで上げることを考えているでしょう。
 それに消費税の使い道を社会保障に限定するといっても、お金
に色がついているわけではないのです。それが本当に社会保障の
財源として使われるかどうか確証はないのです。そもそも消費税
を国税のまま社会保障財源として目的税化するというのは、外国
ではまず考えられないやり方なのです。
 しかし、日本の財政赤字の現状から見て、いつまでも消費税を
5%のまま据え置くわけにはいかないでしょう。しかし、それを
実施する時期が問題なのです。時期を誤ると、日本経済がさらに
悪化してしまう恐れがあるからです。今回の消費増税案は、菅内
閣で経済財政担当相を務めた与謝野馨氏が「社会保障と税の一体
改革」として原案をまとめ、増税の早期実現を推進していますが
与謝野氏の経済の考え方には多くの疑問符が付くのです。
 嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、与謝野馨氏の経済理論について
疑問を持つ人の一人です。高橋氏によると与謝野氏は「逆神」と
呼ばれているとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 与謝野氏の経済に関する「迷言」は数知れない。与謝野氏が経
 済に対する見通しを示すと、現実には逆方向に進むので、ネッ
 トの世界では「逆神」──常に逆方向を示すので、逆向きの神
 のように正しいという意味──と呼ばれている。
        ──「2011/日本の解き方/387」より
             2011年8月29日付、夕刊フジ
―――――――――――――――――――――――――――――
 いくつか例を上げてみます。2006年3月のことです。その
とき日銀は、それまで続けてきた量的緩和を解除しようとしたの
ですが、上げ潮派と呼ばれる竹中平蔵総務相や中川秀直自民党政
調会長たちは、物価上昇が事実上マイナスになっており、解除は
時期尚早であると主張し、大議論になったのです。そのとき、与
謝野氏は次のようにもいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済成長で財政が健全化するというのは霊感商法のようなも
 のである。             ────与謝野馨氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、与謝野経済財政担当相は量的緩和解除に賛成し、日銀
福井総裁は金融引き締めを行ったのです。与謝野氏にしても日銀
にしても、不可解なのは、デフレを一向に気にしないことです。
デフレに肯定的なのです。与謝野氏にいたっては、「1%ぐらい
の物価のマイナスはむしろ働く人や年金生活者にとってプラス要
因である」という迷言を述べている始末です。
 しかし、日銀が量的緩和を解除した半年後には景気は減速し、
下降局面に入ったのです。最大の問題は、与謝野氏にしても日銀
にしても、そのことを反省しないのです。デフレというものの考
え方が違うし、景気が悪化したのは自分たちのせいではないと考
えているからです。
 さらに2年後にはリーマンショックが襲い、景気の足をさらに
引っ張ったのです。ところが、そのとき自民党の総裁選に立候補
してした与謝野氏は、後にリーマン・ショックとして世界経済に
大ダメージを与えることになる米証券大手リーマン・ブラザーズ
の経営破綻について、何といったでしょうか。多くの人は、次の
与謝野氏の言葉を覚えていると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 リーマン・ブラザーズの経営破綻は、日本経済にとってハチ
 が刺した程度の影響しかない。      ──与謝野馨氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、これは与謝野氏の経済に関する考え方がおかしいとい
というよりも、与謝野氏のバックにいる財務省や日銀の考え方が
間違っているのです。与謝野氏は単なる財務省の代弁者に過ぎな
いからです。
 多少の物価のマイナスは生活者にプラスという与謝野氏の発言
は日銀のいう「良いデフレ論」そのものであり、経済成長に注力
せず、というよりどうしていいのかわからないのであろうが、開
き直って、デフレ状況をむしろ増税のチャンスとしてとらえる考
え方は財務省の企みそのものといえます。
 増税は実際に実施する時期よりも政府がそれを口にした時期が
重要なのです。そういう観点から考えると、財務省幹部の増税発
言は最悪です。         ── [財務省の正体/15]


≪画像および関連情報≫
 ●良いデフレ論/悪いデフレ論
  ―――――――――――――――――――――――――――
  こうした議論が発生した背景は、1980年代後半の日本経
  済では急速な円高によって国内の価格が海外に比べて異常に
  高くなるという、内外価格差が広い範囲で発生し、その解消
  が課題となっていたことがある。貿易を通じて国際競争にさ
  らされる電気製品のように海外との価格差がほとんどないも
  のもあるが、農産物や規制業種の価格は海外での価格に比べ
  て高かったので、こうした財やサービスの価格下落は望まし
  く、1990年代以降に起こった日本の物価下落は内外価格
  差の解消によるものであるという考え方である。2000年
  8月に当時日本銀行が実施していたゼロ金利政策を解除した
  際には、消費者物価の下落が続いていたが、良いデフレ論の
  立場からは、当時の物価の下落は国内需要の弱さに起因する
  ものではなく、安価な中国製品の輸入増加など海外要因によ
  るものであるという主張が展開された。──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

与謝野氏と当時の福井日銀総裁.jpg
与謝野氏と当時の福井日銀総裁
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2011年11月29日

●「消費税は地方税にすべきである」(EJ第3190号)

 消費税を社会保障目的税化する──財務省はなぜこのことにこ
だわるのでしょうか。
 これには財務省なりの戦略というか理由があるのです。それに
は、消費税について基本的なことを考えてみる必要があります。
消費税は、1954年にフランス大蔵省の官僚モーリス・ローレ
が考案した間接税の一種です。消費税を定義すると、次のように
なります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費税は、財貨・サービスの取引により生ずる付加価値に着目
 して課税する仕組みであることから、欧米では、VAT──バ
 リュー・アッデド・タックス/付加価値税、もしくは、GST
 ──グッズ・アンド・サービセズ・タックス/物品税と呼ばれ
 る。                 ──ウィキペディア
 ・VAT──Value-Added Tax
 ・GST──Goods and Services Tax
―――――――――――――――――――――――――――――
 嘉悦大学教授の高橋洋一氏によると、消費税は海外では地方の
財源にするのがオーソドックスであると述べています。消費税は
受ける行政サービスの対価として課せられる「応能税」的な性格
を持つ税金なのです。
 そのため、応能税である消費税は、細かなところまで住民への
サービスが行える地方に納められるのがスジであるといえます。
つまり、基礎的なサービスをするのは地方なので、地方税にする
のが最も合理的なのです。
 現在、日本が当面しているさまざまな難問を解決するには、権
限や財源が中央に集中している明治維新以来の中央集権国家その
ものを改造する必要があるのです。2008年4月に自民党のま
とめた道州制案などもその国家改造計画のひとつです。すなわち
地方分権国家への改造です。
 高橋氏によると、地方分権に伴って国から地方への財源委譲は
15兆円〜20兆円かかるといわれます。これほどの巨額の財源
を委譲できるのは、消費税以外には考えられないのです。つまり
真の地方分権を実現するまで可能な限り、消費税の低い税率──
上げたとしても7〜8%を維持して、道州制の基幹税として消費
税を国から地方へ税源移譲すべきだというのです。
 これを一番恐れているのが財務省なのです。地方への税源委譲
などとんでもないし、消費税を地方税にするなど絶対に認められ
ないというわけです。そこでそうさせない仕掛けを「社会保障と
税の一体改革」の中に仕組んだのです。それが「消費税の社会保
障目的税化」なのです。
 ところでこの「社会保障と税の一体改革」ですが、肝心の社会
保障の中身がほとんど議論されず、はじめから消費増税ありきで
進んでいるのです。そのせいか、民主党議員で、とくに消費増税
賛成議員の中には「税と社会保障の一体改革」と言い間違えする
議員が多いのです。
 2011年11月27日の「新報道2001」(フジテレビ)
では、増税推進派の筆頭である民主党の五十嵐財務副大臣は「税
と社会保障の・・」と何回も間違えています。それに田原総一朗
が司会する「激論!クロスファイア」では、説明に使うパネルが
「税と社会保障の・・」になっていたのです。
 看板はあくまで「社会保障と税の・・」であるものの、社会保
障を議論しないで、増税だけを推進する──そういう本音が増税
推進派の口から洩れてしまっているのです。
 消費税は徴税コストが安いにもかかわらず、巨額の税収が安定
的に得られるので、財務省にとって夢のような税金なのです。し
かも消費増税をスタートさせた後で、一部の物品に関しては軽減
税率を適用する計画であり、それを決める権限を財務省が握れる
といううまみもあるのです。
 情報によれば、新聞購読料金の消費税に関しては英国のように
税率をゼロにするという確約を既に与えて、増税やむなしの世論
づくりに新聞社を協力させているという話もあります。そのため
か、新聞の増税やむなしの論調は、本当の意味で国民の声を反映
しているとはいえないのです。
 そういうわけで財務省が考え出したのが、「消費税の社会保障
目的税化」なのです。そうすることによって、将来税率をさらに
上げるとき、社会保障の財源が足りないことを理由にできるので
引き上げやすいということに加えて、何よりも消費税を国税とし
て固定化できるという大きなメリットがあるのです。
 したがって、民主党が「社会保障と税の一体改革」を進めると
いうことは、地方分権はやらないということをアッピールしてい
るのと同じなのです。
 本来であれば、「社会保障と税の一体改革」検討チームは増税
の前に増大する社会保障費をいかに軽減するかについて、真剣に
検討すべきだったのです。この社会保障の軽減について、高橋洋
一氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 社会保障の財源問題を軽減するためには、社会保障の運営を効
 率化することが必要だ。そのためには国と地方の役割分担が重
 要で、年金は保険としての機能を生かすためには全国をカバー
 するほうがいい。一方、医療・介護など他の社会保障では、人
 口1000万〜2000万人程度の「道州」を単位とするほう
 が、地域特性を生かして効率的な保険が運営できる。しかし、
 政府の「社会保障改革案」では、地方分権と社会保障改革の関
 係について、ほとんど言及されていない。  ──高橋洋一著
      『財務省の隠す650兆円の国民資産』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 自分の属する財務省を「わが社」と呼ぶ財務官僚──公務員な
のだから、省益ではなく真に国のことを考えて行動して欲しいも
のです。            ── [財務省の正体/16]


≪画像および関連情報≫
 ●「社会保障と税の一体改革」年明けに先送り論
  ―――――――――――――――――――――――――――
  消費税率引き上げの手法などを盛り込む「社会保障と税の一
  体改革」の大綱取りまとめについて、一体改革を担当する古
  川元久経済財政・国家戦略担当相は25日の記者会見で、政
  府・民主党が予定している年内から年明けに先送りすべきだ
  との考えを示した。民主党で消費税率の引き上げ幅と時期を
  大綱に明記することに反対論が強いためだ。同時に、消費増
  税に反対する民主党の小沢一郎元代表らが年内に新党結成に
  動くのを押さえ込むためとの見方も出ている。古川氏は大綱
  取りまとめの時期について「必ずしも12月31日にこだわ
  るものではない」と述べた。安住淳財務相も25日の会見で
  「臨時国会の会期が2週間延長されたら、議論のスタートは
  12月24日となり、年内は物理的に無理だ」と指摘した。
      ──2011年11月26日付、産経ニュースより
  http://sankei.jp.msn.com/politics/news/111126/stt11112600050000-n1.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

五十嵐財務副大臣.jpg
五十嵐財務副大臣
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2011年11月30日

●「消費増税には3つの壁がある」(EJ第3191号)

 野田内閣は、来年1月の通常国会に消費増税準備法案を提出す
るつもりでいます。そのためには、年内に消費税率引き上げ幅と
時期を書き込んだ社会保障と税の一体改革の大綱を決定する必要
があります。
 しかし、政権中枢幹部から年内の決着無理という声が出てきた
のです。TPPのときは表立って発言しなかった小沢一郎元代表
の消費増税反対宣言もあり、TPPのとき以上に党内をまとめ切
れないとの判断があるからです。
 これに対してなぜか強気なのは、藤井裕久党税調会長です。消
費増税反対の声を上げた小沢氏に対し、「そういう政治信条であ
るなら離党すればよい」とケンカを売り、「除夜の鐘を聞く頃に
はまとめる」と豪語しています。藤井氏にしてみれば、今回は財
務省がバックにいるので、強気になっているのでしょう。
 しかし、消費増税をまとめる側の戦略としては、非常に稚拙で
あったといえます。ここでネックになってくるのは「復興増税」
をやったことです。財務省の立場に立つと、その狙いは、復興増
税をしなければならないほど、現在の日本の財政状況が厳しいも
のであることを国民に知らせることにあったと思われます。
 しかし、国民の側からは、復興増税の後に消費税も上がること
は相当の重荷として受け止めることになります。それだけではな
いのです。先ほど行われた提言政策仕分けで、物価スライド制の
年金制度なのに、物価が下がっても高いままの年金給付をしてい
るのは問題で、引き下げるべきだという提言があったのです。
 この提言を行ったのは、慶応義塾大学教授の土居丈朗氏なので
す。この人物はテレビに出てくるときは、慶応義塾大学教授の肩
書ですが、もともとは財務省財務総合政策研究所主任研究官を務
めていた財務省寄りの人物であり、財務省の増税キャンペーンの
一翼を担っているのです。悪くいえば「御用学者」といってよい
でしょう。やさしい語り口でフジテレビの「知りたがり」などに
頻繁に登場するので、増税が必要といわれるとそうかなと思って
しまうものです。もっとも土居氏本人も自分が「御用学者」と呼
ばれていることを承知していて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (子どもの頃)単に増税が嫌だという感覚だけで何ら論拠もな
 く反対している大人を見て、大いに呆れ、賛成にせよ、反対に
 せよ真っ当な論理を持って是非を議論できる大人になりたいと
 思った。増税反対派から「御用学者」と揶揄されても、こんな
 人気のない主張を続けるのは、真っ当な経済理論に基づくもの
 であり、政治家や官僚に媚びるつもりは決してない。
                      ──土居丈朗氏
  http://d.hatena.ne.jp/nyankosensee/20110612/1307821900
―――――――――――――――――――――――――――――
 問題なのは、この提言を受け小宮山厚労相は、2012年度か
ら3年間で、給付水準を段階的に引き下げる意向を示したことで
す。復興増税に消費税、それに加えてこの年金給付の引き下げ、
「国民の生活が第一」という党のスローガンを無視することを平
然と行う「冷たさ」が民主党にはあるとつくづく思います。
 確かに年金の給付は正しい水準に戻さなければなりませんが、
増税を連発しようとする今やろうとする──時期とかタイミング
を完全に無視しているのです。こういう給付の調整は、デフレを
克服して物価が上がるようになった時点で、本来なら給付を引き
上げる状態になったとき、それをしないで調整して行うというの
が正しいのです。なぜ、そのように考えないのでしょうか。民主
党議員の正体見たりという感じです。
 とにかく増税で対応する必要のなかった復興増税という愚策を
やってしまったため、消費増税をやるときにそれが大きなネック
になってくるのです。それが野田内閣首脳部にわかっていないの
です。自分の省益だけを考えている財務官僚の提案を受け入れた
ので、党首脳部は、全体として、国として、国民としての視点を
すっかり忘れてしまっているのです。
 経済学では「課税の標準化」ということがあります。100年
に1回の大震災なら、その負担を100年間で平準化すればよい
のです。それを増税でやろうとする財務省の意向をそのまま受け
入れた結果が現在の状況なのです。これについて、高橋洋一氏は
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国債発行によって、地域的にも時間的にも分散処理すれば、対
 応コストが平準化できる。具体的には100年国債を発行し、
 100年間で償還し、時空を超えて国民全体で負担をする。裏
 を返せば、この経済原則からいえば、増税という手段は災害と
 いうショックに対応する政策としてはまったく根拠がない。と
 ころが、増税が公平だという論議にいつの間にかすり替わって
 いる。ちなみにショックの平準化という観点からいえば、「つ
 なぎ国債」は、時間の分散が不十分なので増税と変わりない。
 これまたショックの平準化の大原則を踏み外している。
                      ──高橋洋一著
      『財務省の隠す650兆円の国民資産』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 11月28日のロイター電では、消費増税は次の3つの壁があ
り、実現は困難との見通しを示しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.    デフレの壁
         2.国と地方の配分の壁
         3.     政局の壁
―――――――――――――――――――――――――――――
 野田首相は何が何でも消費増税を進める考え方のようですが、
もし強行突破すれば党が割れかねない。首相は党の調整は党(輿
石幹事長)にまかせてあるとつねにいいますが、自ら説明する姿
勢をなぜ見せないのでしょうか。 ── [財務省の正体/17]


≪画像および関連情報≫
 ●消費増税に「3つの壁」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  [東京 28日 ロイター] 消費税引き上げ論議が本格化
  している。野田佳彦首相は年内に税率と増税時期などの具体
  案を大綱にまとめ、来年3月までに関係法案を国会に提出す
  る段取りを描くが、年内の大綱とりまとめにこだわらないと
  の声が閣内からも飛び出すなど、政府・与党内に方針の揺ら
  ぎがみえる。消費税引き上げの前提となる経済情勢は欧州債
  務問題を契機に先行き不透明感が増しており、国と地方の配
  分をめぐる協議も難航が予想される。経済、政局、そして国
  と地方の配分という3つのハードルは高く、野田政権は正念
  場を迎えている。
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK067241420111128
  ―――――――――――――――――――――――――――

土居丈朗慶大教授.jpg
土居 丈朗慶大教授
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2011年12月01日

●「許されないウソの数字による増税説得」(EJ第3192号)

 EJにも何回も登場していますが、最近五十嵐財務副大臣の増
税への発言がさらに強まっています。また、野田首相も自分を本
部長にする「社会保障改革推進本部」を設置し、消費税率の引き
上げ幅や時期などを盛り込んだ「社会保障と税の一体改革大綱」
を年内にまとめるよう指示しています。信じられないほどの増税
への前のめりの姿勢です。何がそうさせているのでしょうか。
 野田内閣の重要閣僚は次のように発言して、年内の取りまとめ
の先送りを示唆していたのです。しかし、野田首相の指示はこの
先送り論を無視したかたちになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎古川元久経済財政・国家戦略担当相
  「必ずしも12月31日にこだわらない」
 ◎安住財務相
  「臨時国会の会期が2週間延長されたら、議論のスタートは
  12月24日となり、年内は物理的に無理だ」
          ──2011年11月29日付、夕刊フジ
―――――――――――――――――――――――――――――
 執行部は12月9日をメドに社会保障分野の具体的な改革案を
決定し、12日以降に消費税に関する議論を開始し、20日前後
には推進本部で消費税率の引き上げ幅や時期を明記した「大綱」
を決定する──こんなスケジュールを描いているのです。
 これまで、財務省は五十嵐財務副大臣などを頻繁にテレビに出
演させ、いわゆる増税キャンペーンを展開してきています。日本
の財政の状況がどんなに厳しいものかということを手を替え、品
を替え説得してきているのです。
 しかし、財務省の説明には明らかなウソがあるのです。事実と
違うことを告げたり、数字を誤魔化して借金額を大きく見せたり
ありとあらゆる手法を使って増税やむなしの民意を作ろうとして
いるのです。
 豊富な知識を持っている人がほとんど常識的な知識しかない人
を騙すぐらい簡単なことはありません。赤ん坊の手をひねるよう
なものです。関係閣僚や政府高官の中には、財務省のレクをその
まま信じている人が多いですが、五十嵐副大臣はご自身もよく勉
強していて、何でもよく知っているのです。したがって、五十嵐
氏は、それがウソであることを知ったうえで、増税の根拠に使っ
ているフシがあるのです。
 11月27日のフジテレビの「新報道2001」に五十嵐財務
副大臣が出演したのですが、江田憲司みんなの党幹事長が国の財
政の状況を貸借対照表をで説明し、日本の財政はけっしてよくは
ないが、いま取り急いで増税しなければならないほどわるいもの
ではないと話したとき、五十嵐副大臣の目が一瞬ですが泳いだの
です。おそらく彼もその事実を認めていたのです。
 2011年9月18日に五十嵐財務副大臣がテレビ朝日の番組
に出演して、日本の財政状況の悪さについて説明したことがあり
ます。高橋洋一氏はそのときの五十嵐氏の説明のウソを夕刊フジ
のコラム「『日本』の解き方/407」で指摘しているのでご紹
介します。
 この番組で五十嵐氏は、国と地方の借金総額が、国内の家計金
融資産額を初めて上回る可能性があるとの見通しを数字で示し、
日本の財政状況が危機的状況にあることを強調したのです。
 このとき五十嵐氏が「国の借金の総額」として上げた数字は、
財務省が公表している国と地方の借金残高に国の短期証券残高と
借入金残高を加えた数字なのです。この数字は国の借金を一番大
きく見せることができるのです。これらの数字を次の会計年度別
に示します。
―――――――――――――――――――――――――――――
    2000年度末 ・・・・・・  750兆円
    2005年度末 ・・・・・・  915兆円
    2010年度末 ・・・・・・ 1028兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対して、国内の家計金融資産を示したのですが、この数
字は日銀が公表している資金循環勘定ストック編の家計の金融資
産負債差額なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    2000年度末 ・・・・・・  975兆円
    2005年度末 ・・・・・・ 1150兆円
    2010年度末 ・・・・・・ 1115兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 それぞれの数字を比較してみるとわかりますが、家計金融資産
と国の借金残高との差は、それぞれ、171兆円、235兆円、
87兆円と急速に縮まっていることがわかります。これによって
国の借金は確かに大きいが、巨額の個人金融資産があるから大丈
夫であるといってきた根拠が崩れることになります。
 この五十嵐財務副大臣の説明にそのとき出演していたコメンテ
ーターは納得していましたが、これには大きなウソが隠されてい
るのです。それについての高橋洋一氏の説明をご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国・地方の借金総額は、国・地方の持っている金融資産を引か
 ない「グロス」の数字だ。一方、国内の家計金融資産は、家計
 の金融資産から家計の住宅ローンなどの金融負債を引いた「ネ
 ット」の数字なのである。こうした基準の違う数字を比較して
 も意味がない。
   ──高橋洋一著、「2011/『日本』の解き方」407
―――――――――――――――――――――――――――――
 腹立たしいのは、国民が詳しいことがわからないのをいいこと
にして、国の借金を大きく見せ、基準の違うウソの比較をして国
民を騙していることです。この事実をもっても現在が増税すべき
ときではないことがわかるはずです。ウソやペテンの数字を使う
ことはやめるべきです。     ── [財務省の正体/18]


≪画像および関連情報≫
 ●2011年9月18日/読売新聞の記事
  ―――――――――――――――――――――――――――
  五十嵐文彦財務副大臣は18日、テレビ朝日の番組に出演し
  日本銀行が20日発表する6月末の統計で、国と地方自治体
  の借金の総額が、国内の個人の金融純資産額を初めて上回る
  可能性があるとの見通しを示した。五十嵐氏は「今年の(個
  人)金融資産は伸びていない」と指摘し、双方の数字が「ク
  ロスする可能性がある」と述べた。五十嵐氏が指摘したのは
  日銀が発表する2011年4〜6月期の資金循環統計(速報
  値)で、個人の金融資産から負債を引いた「純資産」と、国
  ・地方の中長期債務残高に政府短期証券などを加えた「借金
  の総額」についてだ。個人金融純資産と国・地方の借金の差
  は縮まっている。3月末時点では個人金融純資産(1110
  兆円)に対する中長期債務残高(894兆円)と政府短期証
  券などの合計は1045兆円だった。
       http://rand.ldblog.jp/archives/4912123.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

増税説得に活躍する五十嵐財務副大臣.jpg
増税説得に活躍する五十嵐財務副大臣
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2011年12月02日

●「なぜ、財政危機を煽るのか」(EJ第3193号)

 昨日のEJをフォローをする必要があります。財務省は、20
10年度末には、国と地方の借金残高と家計の金融資産負債差額
はわずか87兆円になっていると発表しているのです。これを私
は「ウソ」と書きましたが、言葉ずらだけを見るとウソではない
のです。五十嵐財務副大臣がもしそれを指摘されたら、きっとい
うでしょう。「ウソではない。事実を申し上げている」と。しか
し、これは霞ヶ関文学そのものなのです。
 五十嵐財務副大臣がここで対比させているのは、次の2つの項
目です。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.  国と地方の借金残高  1028兆円
    2.家計の金融資産負債差額  1115兆円
    1115兆円 − 1028兆円 =87兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 多くの人は、ここでいう「家計の金融資産負債差額」を「家計
の金融資産残高」としてとらえると思います。五十嵐氏はそれを
計算して言葉のトリックを仕掛けたのです。五十嵐氏は「家計の
金融資産負債差額」といっているだけです。
 「家計の金融資産負債差額」というのは、金融資産から住宅ロ
ーンをはじめとする借入金や負債を引いた差額のことです。つま
り、家計の金融資産残高の「ネット」の数字なのです。これが、
2010年度末に1115兆円になっているというわけです。
 しかし、「国と地方の借金残高」の方は、最大限負債を積み上
げています。中央政府と地方政府の借金の上に国の短期証券残高
などわかりにくい借金まで積み上げて、それが2010年度末ま
でに1028兆円になると予測したのです。
 しかし、この「国と地方の借金残高」である1028兆円の方
は国の資産を差し引かない「グロス」の数字なのです。ネットの
数字である1115兆円から、グロスの数字である1028兆円
を引いた数字が87兆円しかないといいたいわけです。財務省側
は、この数字を少しでも小さく見せたかったのですが、基準の違
う数字を比較しても、まったく意味のないことが財務省はわから
ないのでしょうか。
 ちなみに、財務省が出しているパンフレット「日本の財政を考
える」平成20年(2008年)9月」には国と地方の借金(長
期債務残高)と家計の金融資産とを比較して、次のように書いて
いるのです。これは両方ともグロスの数字です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国と地方の借金(長期債務残高)は家計の金融資産の約半分
 である。   ──「日本の財政を考える」平成20年9月
―――――――――――――――――――――――――――――
 高橋洋一氏によると、2009年からは、こういうグロスの比
較数字は出ていないそうです。増税キャンペーンには使えないと
思って外したのでしょうか。
 ところで、日銀の資産循環勘定ストック編をよく見ると、国と
地方などを合わせた一般政府の金融資産負債差額というネットの
数字が出ているのです。次に示します。
―――――――――――――――――――――――――――――
    2000年度末 ・・・・・・ 277兆円
    2005年度末 ・・・・・・ 424兆円
    2010年度末 ・・・・・・ 563兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 2010年度末を例にとって考えてみます。財務省によると、
2010年度末に国と地方の借金残高は1028兆円になってい
るといいます。しかし、同じ2010年度末の国と地方の一般政
府の金融資産負債差額は563兆円もあるのです。
 しかも、金融資産はネットであり、そのすべてが処分可能なわ
けではありませんが、借金に対する資産の額としては十分である
といえます。さらに家計の金融資産負債差額も1115兆円もあ
るのです。どうして緊急に消費増税をしなければならないほど日
本は財政危機なのでしょうか。
 既にEJ第3183号で述べたように、2010年度末の国の
純粋な借金の額は391兆円(赤字国債)なのです。これに対し
ても563兆円の一般政府の金融資産負債差額があるので、少な
くとも日本は財政危機ではないといえます。
 また、これとは別に財務省が公表している政府のバランスシー
トによると、2010年度末に政府は、694兆円の資産を保有
していることになっているのです。どうしてこれが財政危機なの
でしょうか。
 このように考えていくと、財務省はあえて財政危機を演出する
ために四苦八苦しているように見えるのです。このような数字は
ネットを調べてみればだれでもわかるのです。
 メディアにしても、経済評論家にしても、テレビのコメンテー
ターにしても、そんな単純なことがわからないはずはないと思う
のですが、ほとんどの人が財政危機で意見が統一されているので
す。財務省はメディアと一体となって、財務省の増税キャンペー
ンに協力し、口裏を合わしているとしか思えないのです。
 テレビの政治番組を見ていると、出演しているコメンテーター
や解説者、経済評論家などはほとんど「日本の財政は危機的状況
にあり、消費増税はやむをえない」という財務省の主張に沿った
発言をする人がほとんどです。それに真っ向から反対する人は最
近では非常に少なくなっています。
 どうしてかというと、財務省の主張と真っ向から対立する意見
を述べる人を巧妙にテレビから外しているからです。既に述べた
ように、記者クラブメディアは財務省に牛耳られており、財務省
にとってマイナスになる発言をする者をテレビに出すなといわれ
ると、それには抗しきれないのでしょう。その結果、日本の財政
は危機的であり、消費増税はやむなしになってしまうのです。日
本は民主主義国家ではないのです。── [財務省の正体/19]


≪画像および関連情報≫
 ●経済コラムマガジンの印象的な記事/05/1/31
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2005年1月16日、日曜日の深夜、TBSの時事放談に
  宮沢元総理と塩川前財務大臣がゲスト出演していた。両人は
  大蔵大臣・財務大臣の経験者である。今回、特にこの番組を
  取上げたのは、両人から聞き捨てならない発言があったから
  である。司会の岩見隆夫氏が、両人にフリップを示し「いま
  日本の国債発行残高が530兆円と巨額になっているが、財
  政は心配ないのか」という質問をした。ところが両人ともに
  即座に「今は心配ない」と答えた。さすがに岩見氏も、「え
  っ」と驚いた。日頃から日本の財政は危機とさんざん聞かさ
  れているのに、大蔵大臣・財務大臣の経験者の宮沢、塩川氏
  が日本の財政は大丈夫と言っているのだから、びっくりする
  のは当たり前である。岩見隆夫氏の反応を見て、今度は宮沢
  塩川氏の方が慌てた。宮沢元総理は「今は大丈夫ということ
  で、今後はどうなるか分からない」と苦しい言い訳をしてい
  た。塩川氏も「私も今すぐに日本の国債が問題になることは
  ないと言ったのであって、今後はどうなるか分からない。と
  にかく2013年までにプライマリーバランスをとるように
  財政を健全化して行く必要がある」と答えていた。
             http://adpweb.com/eco/eco375.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

元財務官僚/高橋洋一氏.jpg
元財務官僚/高橋 洋一氏
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2011年12月05日

●「デフレをどの程度認識しているか」(EJ第3194号)

 現在の日本の経済状況は「デフレ」です。このデフレを何とか
しないと日本経済は回復しない──この20年間ずっといわれ続
けてきており、「失われた20年」とまでいわれているのにデフ
レは深刻化する一方です。どうしてなのでしょうか。
 それは政治家に大きな責任があります。常識的には日本は一刻
も早くデフレを脱却して経済成長を目指すべきです。かつては池
田内閣の所得倍増政策のように明確に成長を目指す政策も推進さ
れたのですが、それが1990年以降になると、ほとんど経済成
長は口先でいわれるだけで、政策課題となっていないのです。こ
れは自民党に大きな責任があります。
 しかし、自民党には「上げ潮派」と呼ばれる経済成長を目指し
て国を発展させるという考え方の人も少なくなく、橋本政権下で
の消費増税による経済悪化に懲りて、少なくともデフレをさらに
悪化させる政策はとってこなかったといえます。
 しかし、民主党政権、とくに菅政権以降は増税に前のめりにな
り、デフレを脱却させるどころか、一層悪化させる政策を取るよ
うになったのです。政権が財務官僚に占領されてしまったからで
す。官僚中心の政治を国民の手に取り戻そうと訴えて政権交代を
成し遂げた民主党が官僚に制圧されてしまった結果なのです。
 それは民主党議員には経済のわかる人が少なく、経産省や財務
省の経済官僚に頼らざるを得なかったからです。この点について
嘉悦大学教授の高橋洋一氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党政権は政党の成り立ちから「格差」を問題にして、「成
 長」をやり玉にせざるをえない。経済成長は、格差を含む諸問
 題を全部とはいわないが、本コラムで指摘してきたように財政
 問題を含めてかなり解決できるのに、「成長」に集中してリソ
 ースを注げないのは日本の不幸としかいいようがない。
   ──高橋洋一著/『2011「日本」の解き方』422号
            2011年10月20日付、夕刊フジ
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在野田政権が推し進める「社会保障と税の一体改革」──こ
れは与謝野馨氏が原案をまとめたものです。ところが、この与謝
野前経済財政担当相はデフレを肯定的にとらえているのです。そ
して次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1%ぐらいのマイナス物価は、むしろ働く人や年金生活者に
 とってはプラスの要素である。  ──与謝野前経済財政相
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言には唖然とします。与謝野馨氏といえば、自民党にお
いて経済に強い議員といわれ、財務大臣にまでなった人の発言な
のです。どうしてこのような経済の基礎的なことがわからないの
でしょうか。
 デフレになって物価が下がれば、確かに一時的には消費者は喜
ぶかも知れませんが、その一方で賃金も下がってくることになり
ます。企業としては安くしないと売れないので、経営が圧迫され
るからです。この状態が長く続くと、消費者の財布の紐は一層固
くなり、企業はリストラすらも敢行せざるを得ない状況に陥って
しまうのです。現在の日本の経済状況はそうなっています。とに
かく、与謝野、藤井、菅、野田、安住──財務大臣の劣化はます
ますひどくなっています。
 デフレについて少し調べてみました。デフレと一口にいいます
が、実は1992年までデフレのはっきりした定義はなかったの
です。それまで「マクロ経済学」のテキストといわれていたのは
スタンレー・フィッシャーとドーン・ブッシュ著の『マクロ経済
学』ですが、その中には「デフレーション」という言葉は一度も
出てこないのです。
 1992年になって、マンキューの『マクロ経済学』が出版さ
れ、インフレーションについて論じている第10章で、やっとデ
フレーションという言葉が登場するのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   スタンレー・フィッシャー/ドーン・ブッシュ著
        『マクロ経済学』/マグロウヒル出版
             グレゴリー・マンキュー著
 『マンキュー経済学2/マクロ編』/東洋経済新報社
―――――――――――――――――――――――――――――
 マンキューは、インフレーションと対比してデフレーションに
ついて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 物価の上昇のことをインフレーションと呼ぶが、19世紀には
 物価が下落するデフレーションと呼ばれる現象が長期間にわた
 って生じた。つまり、デフレーションとはある期間にわたって
 物価が下落することである。 ──グレゴリー・マンキュー著
     『マンキュー経済学2/マクロ編』/東洋経済新報社
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、物価の監視人といわれる日本銀行は、デフレをどの
ように定義しているのでしょうか。
 日本銀行法第2条には次のように規定されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当っては物価の安定
 を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもっ
 てその理念とする。         ──日本銀行法第2条
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中で「物価の安定」とは何を指すのかについては規定がな
いのです。それではデフレの定義はないのでしょうか。デフレに
ついては『日本銀行調査月報』/2000年10月号に掲載した
「わが国の物価動向」という論文に「デフレとは物価の全般的か
つ持続的な下落を指す」と示されているに過ぎないのです。デフ
レは定義されていないのです。  ── [財務省の正体/20]


≪画像および関連情報≫
 ●「株式日記と経済展望」──デフレとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  デフレとは何か。経済学上の定義では、物価の下落が将来に
  わたって続く状態を指すのだが、その程度の認識ではデフレ
  が日本の国難という切迫さが生まれない。その典型例が、デ
  フレ対策の鍵を握る日銀の白川方明総裁である。お公家集団
  といわれる日銀の生え抜きエリートだけあって、まるで世俗
  に疎い。たとえば、2009年12月にテレビ東京の報道番
  組に登場したとき、司会者から「デフレを実感したことがあ
  るか」と聞かれると、「奥さんと一緒に食事に行ったりする
  と、これだけの内容のものがこれだけの値段で食べられるの
  かと驚くこともある」と素っ頓狂な返事。何しろ首相の給与
  をはるかにしのぐ年収3400万円以上の超高給取りで「セ
  レブ」族である。庶民には縁遠い高級レストランで、こんな
  いいものが安いね、おいしいね、と奥さんと屈託もなく会話
  しているわけだ。デフレを深刻に受け止める機会もない。あ
  るのは、経済学上の知識だけだから、白川日銀は何ら有効な
  政策をとらない。08年9月の「リーマン・ショック」のと
  きも、白川総裁らは「物価の上ぶれリスク」つまり、インフ
  レを心配して何もせず、米欧の金融緩和に同調しなかった。
  これを機に、円高局面に突入した。逆に韓国はウォン安政策
  をとり、中国は人民元をドル安に合わせる。日本の輸出は激
  減し、景気の落ち込みぶりは米欧をしのいだ。需要も減るの
  で、デフレはさらに悪化していく。
  http://blog.goo.ne.jp/2005tora/e/147ccc62e98e606c0037c62a1c42b5ae
  ―――――――――――――――――――――――――――

白川方明日銀総裁.jpg
白川 方明日銀総裁
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2011年12月06日

●「なぜ日本はデフレから脱却できないか」(EJ第3195号)

 野田政権が推し進める「社会保障と税の一体改革」は、菅政権
時代に与謝野馨前経財担当相が中心となってまとめられているの
ですが、問題なのはその前提になる考え方です。
 与謝野氏は「デフレは別にわるいものではない」という前提に
立っているのです。これは「良いデフレ論」といい、同じ考え方
の学者もいます。日銀の白川総裁も同じ考え方のようです。
 経済にはいろいろな考え方があります。学者であれば、どのよ
うな説を唱えてもそれは自由ですが、それによって国の政策を決
めるとなると、大きな問題になります。
 こんなことがあったのです。7月5日に行われた与謝野経財担
当相の記者会見です。少し長いですが、再録します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 記 者/大臣、前回の記者会見の中で1%ぐらいのマイナス、
     物価下落は何でもないと、プラス要素だということを
     仰いましたけれども、今政府はデフレの脱却を重要政
     策として掲げているわけですけれども、この政策を見
     直すおつもりはあるのですか。
 与謝野/勿論、私は見直したのです。私が前回経済財政担当大
     臣のときにデフレという言葉を政府の言葉から削除い
     たしました。定義のない言葉を使ってはいけないと。
     それを私が申し上げたいと思っています。
 記 者/今の政権でも同じことをやるのですか。あとデフレの
     定義は、政府はそれなりにきちんとやっていると思う
     のですけれども。
 与謝野/デフレは、政府の定義は物価下落が数年続く世界をデ
     フレと言っているのですけれども、1%程度の物価下
     落で驚いて自己暗示にかかるようなことをやってはい
     けないと、今でもそう思っております。
 記 者/ということは、デフレ脱却という政府の政策課題は取
     り下げるということでいいのですか。
 与謝野/そんなことはありません。政府の課題は、日本の経済
     を成長させることであります。
 記 者/矛盾しませんか。
 与謝野/何故矛盾するのですか。
 記 者/政府はデフレを脱却するということで、今の1%程度
     の下落が続いている状況をそういう状況から脱しよう
     というのを政策目標として出しているわけですよね。
     それは大臣の仰るのは、そういう状態はかえって望ま
     しいのだということを仰っているわけで、根本的に違
     うと思うのですけれども。違うのだったら違うで、き
     ちんとそこは改めるべきなのではないかなと。
 与謝野/私の記者会見をもう一度読んでいただければ、1%程
     度の物価下落は労働所得を得ている人、年金所得者に
     とってはむしろプラスになっているということを申し
     上げたはずなので、そこのところが重要なのです。
   http://d.hatena.ne.jp/Baatarism/20110718/1310960213
―――――――――――――――――――――――――――――
 この与謝野氏の話は支離滅裂です。それに何ということでしょ
うか。与謝野氏は「デフレ」という言葉を政府の言葉から外した
というのです。日銀にも「デフレ」という言葉はないので、デフ
レを脱却できるはずがないのです。しかし、「良いデフレ論」な
ど考えられないことです。与謝野氏は「フィリップス曲線」とい
うものをご存知ないのでしょうか。
 フィリップス曲線は、経済学においてインフレーションと失業
の関係を示したものです。アルバン・ウィリアム・フィリップス
が1958年の論文の中で発表しています。
 縦軸にインフレ率(物価上昇率)、横軸に失業率をとったグラ
フの曲線であり、次の関係を表しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   インフレと失業率は、トレード・オフの関係にある
―――――――――――――――――――――――――――――
 「トレード・オフの関係」というのは、どちらかを良くすれば
どちらかが悪くなるという関係のことです。つまり、失業率を下
げようとすれば、インフレ率が上がるし、インフレ率を下げよう
とすれば失業率が上がってしまうというわけです。
 物価が持続的に下落するのがデフレですから、デフレになると
失業率が高くなるのです。高橋洋一氏は、これについて次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 与謝野経済財政担当相(当時)の「良いデフレ論」は、政府が
 雇用の確保をやらないと宣言するに等しい暴言だ。今のデフレ
 のために数十万人の失業者が余計にいると思われるので、その
 まま放置されるわけだ。失業者放置のまま増税すれば、大震災
 以上の経済破壊になるだろう。       ──高橋洋一著
      「2011『日本』の解き方」/353/夕刊フジ
―――――――――――――――――――――――――――――
 いろいろ調べてきてわかってきたことですが、日本では政府も
日銀もこの長く続く慢性デフレから脱却しようとしていないし、
それは自分たちの仕事ではないと考えているようです。むしろ現
状のままの方がよいと考えているのです。その証拠はこれから出
していくつもりです。
 このデフレのために、1世帯当たりの可処分所得は、10年前
に比べて月当り4万4000円も減っているのです。野田政権は
そのやせ細る家計から、復興増税、消費税増税、B型肝炎訴訟の
和解金の支払い、福島原子力発電所事故の補償費についても税と
してむしり取ろうとしているのです。
 どうして日本人は平然としているのですか。まるでかつての悪
代官顔負けの異常な政策が、これから平然と実施されようとして
いるのです。          ── [財務省の正体/21]


≪画像および関連情報≫
 ●日本のフィリップス曲線から見えるデフレと失業率の関係
  ―――――――――――――――――――――――――――
  かつて日本は、1億総中流とも言われ、世界一安全で平和な
  国であった。それは、もう20年近く前の話である・・・。
  総務省統計局の最新の労働力調査によると、日本の就業者数
  は6271万人、完全失業者数は331万人、完全失業率は
  (季節調整値)5.2%、非正規の職員・従業員:1743
  万人とのことらしい。今や日本は、5%を超える社会不安一
  歩手前の高失業率の中、かつての中流層は貧困層へ転落し、
  希望の見いだせない疲弊した国になり果ててしまった。学校
  を出ても就職難の憂き目に遭い、働けどワーキング・プアで
  サービス残業に代表される過酷な労働環境でうつ病になり、
  失業率の増加に比例するように自殺率も増加している。
   http://boony.at.webry.info/201009/article_12.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

フィリップス曲線.jpg
フィリップス曲線
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2011年12月07日

●「亡国の御用学者が巣食う野田政権」(EJ第3196号)

 与謝野前経財担当相は、「社会保障と税の一体改革」を作成す
るに当って、特定の何人かの学者を活用しています。その中心は
東京大学大学院経済学研究科教授の吉川洋氏です。「社会保障と
税の一体改革」には、次のペーパーが添付されているのですが、
これは吉川教授が作成したものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    消費税増税のマクロ経済に与える影響について
―――――――――――――――――――――――――――――
 与謝野氏は、大震災直後でデフレ下での増税に批判が集中する
ことを予測して、吉川教授にそれに対する対抗話法を作成させた
ものと思われます。
 以下は、このペーパーを読んだ産経新聞の編集委員・田村秀男
氏によるレポートに基づいてご紹介します。このレポートについ
てを田村氏は、重要な課題から故意に目をそらし、見事なまでに
現実から遊離している内容と述べています。
 まず、第一にいえることは、橋本政権下の1997年の消費税
増税をきっかけにして、日本が長期的な慢性デフレ局面に突入し
た事実を直視せず、次のように決めつけています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費税増税は1997〜98年の景気後退の『主因』であっ
 たとは考えられない。          ──吉川洋教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように「デフレ」という言葉は一切使わず、「景気後退」
と逃げているのです。このペーパーのどこにも「デフレ」や「デ
フレーション」という言葉は出てこないのです。
 さらに問題なのは、東日本大震災の衝撃についての真摯な考察
が欠如していることです。このレポートは、震災直後の5月30
日付で書かれているのですが、これについての田村氏のコメント
を紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費税増税のタイミングについては、景気の上昇局面が適切だ
 と論じている。大震災後は、いわゆる復興需要の影響で見かけ
 上は経済指標が来年は好転するとの見方が多いが、それを増税
 のタイミングだと言わんばかりである。多くの企業が円高や電
 力不足を背景に国内向け投資をあきらめ、海外投資に走ってい
 る。生産と消費の反転はあるとしても一時的で、増税実施後に
 は急速に減退しよう。           ──田村秀男著
     「日曜経済講座」/2011.7.3/産経ニュース
―――――――――――――――――――――――――――――
 増税実施のタイミングは、一応景気の上昇局面でと断っている
のですが、大震災の復興で一時的に経済指標は上向くので、それ
を「景気の上昇局面」として増税を実施してしまえというきわめ
て乱暴な話なのです。
 この吉川洋東大教授とはどういう人物なのでしょうか。
 吉川洋氏は、小泉内閣の経済財政諮問会議のメンバーであり、
当時、社会保障費の毎年2200億円の抑制をとりまとめた人物
なのです。自公の御用学者といわれていた人物ですが、いつの間
にか、民主党に潜り込んで消費増税推進のシナリオを書いている
のです。立派な肩書のある学者ですが、その評判はけっしてよい
とはいえないのです。とくにネットでは最悪です。
 吉川洋氏は財務省の御用学者であると思います。現在シンクタ
ンク日本金融財政研究所所長である菊池英博氏は、「吉川氏は何
度も主張を変えた人」と評しています。「日本はギリシャよりも
ひどい状況」と菅、仙谷、野田3氏に吹き込み、増税に前のめり
させたのも吉川氏なのです。
 あるブログの「御用学者の立ち居振る舞いの厚顔無恥」の一文
をご紹介しておきましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アホな経済学者や殆どの政治家は日本の財政状態が最悪と言う
 認識しか持っていない。それに踊らされてマスゴミが嘘の踊り
 (財政悪化)を繰り返し煽りたてる、だから多くの国民が「嘘
 も百回言えば真実」だと思わされて、国民も「仕方がない、消
 費税アップもやむを得ない」とその気にさせられているのであ
 る。アホな経済学者の代表として、吉川洋東大教授をあげてお
 きます。特定の人物の名前をあげて批判をすべきではないが、
 時の政権に結びついて、日本経済を背後で動かし、日本経済に
 災厄(不況)をもたらしている。それによって、苦しい生活を
 強いられている多くの人や、生活苦のために自殺している人が
 増えている現実があるからである。
 http://blog.goo.ne.jp/ikariyax/e/d59c17abd983ddd7a92bfc08e14fcb5f
―――――――――――――――――――――――――――――
 学者が自分の研究テーマとして、どのような考え方を持とうと
それは自由です。しかし、政権与党と結びついて後ろから国策を
コントロールするようなことは絶対に許せないことです。
 既に何度も述べてきているように、日本の財政はけっしてよく
はありませんが、危機的状況にはないことは、少し資料を調べて
みれば誰でもわかることです。それをウソのデータまで使って、
東大教授などの権威ある肩書を持つ人が自己の主張を曲げてまで
間違った政策に肩入れするのは犯罪的行為です。しかも、財務省
はマスコミをフルに使って日本の財政が危機的状況にあることを
過度に喧伝するのですから、ウソも百回繰り返せば、本当になっ
てしまっているといえます。
 しかし、何といっても一番責任があるのは政治家です。民主党
が政権与党の経験がないのはわかりますが、ベースになる知識が
あまりにも薄っぺら過ぎる──しかも、政権与党になって2年以
上経過しているのに、基礎的勉強すらできていないのです。だか
ら、財務省につけ込まれれてしまうのです。その結果、野田政権
は「直勝内閣」と揶揄されるようになってしまったのです。
                ── [財務省の正体/22]


≪画像および関連情報≫
 ●与謝野への怒りを吉川教授にぶつけた尾辻秀久
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2010年3月11日のこと、自民党参院議員会長、尾辻秀
  久氏が突っ立ったまま怒り狂っていた。「いいかげんにしろ
  どの面下げて出てきたんじゃ、ばかもの」、「いやいや、言
  わないかん、絶対言わないかんよ、こいつには」、目の前に
  座っているのは東大大学院教授、吉川洋氏と、自民党の与謝
  野馨氏だ。与謝野が会長になっている自民党の安心社会研究
  会の初会合。会場に入った尾辻が彼らの前に歩み寄り、いき
  なり罵声を浴びせると、会場を後にした。一瞬流れたテレビ
  映像。普段、温厚そうな尾辻がいったいどうしたんだろう。
  与謝野は右手をあげて「まあ、まあ」となだめるような仕草
  を見せていた。この出来事についての産経新聞の解説はこう
  だ。「吉川氏は小泉内閣の経済財政諮問会議のメンバーで当
  時、社会保障費の毎年2200億円の抑制をとりまとめた。
  尾辻氏は厚生労働相経験者として社会保障費抑制に反対して
  きた経緯から、主張が相いれない吉川氏を研究会に招いたこ
  とに、怒りを爆発させたとみられる」。主張が相容れない吉
  川氏を「招いたこと」に怒ったという。だとすれば「誰が」
  招いたのかということになる。いまさら、吉川氏と意見が違
  うからと言って、いい大人が失礼千万な怒声を発することは
  ない。つまり、尾辻の怒りの根っこには、「吉川氏を招いた
  人」への激しい憎悪があったとみるべきだろう。
   http://ameblo.jp/aratakyo/entry-10479766754.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

吉川洋東京大学大学院教授.jpg
吉川洋東京大学大学院教授
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2011年12月08日

●「日銀の赤字決算──どこが問題か」(EJ第3197号)

 11月28日に日銀は、2011年(平成23年)9月の上半
期決算は、最終損益に当たる当期剰余金が1362億円の赤字に
なったと発表しています。これによって、上半期は3年連続の赤
字ということになります。
 この日銀の赤字決算については、次の2つの点に注目する必要
があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.外国為替関係の損失額が3904億円
     2.上場投資信託の評価損が 442億円
―――――――――――――――――――――――――――――
 1については、歴史的な円高が背景にあります。その責任は日
銀にあると思います。しかし、白川総裁の発表を聞いていると、
現在の円高の責任は日銀とは無関係と考えているのではないかと
思えるのです。
 原因は日銀の金融緩和不足にあります。別に難しい話ではない
のです。小学生でもわかることです。リーマンショックを契機と
して、世界中が金融緩和をして通貨量を増やしているときに日銀
だけが通貨を増やさなければ、相対的に円高になるのは当たり前
です。この日銀無策の結果が3904億円の外国為替関係の損失
を生んだのです。なぜ、日銀は金融緩和を躊躇うのでしょうか。
これについては改め述べることにします。
 2の上場投資信託とは何でしょうか。
 上場投資信託とは、証券取引所に上場されて取引される投資信
託で、ETFといわれています。ETFは次の略語です。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ETF ・・ Exchange-Traded Fund
―――――――――――――――――――――――――――――
 何のために、日銀はETFを買っているのでしょうか。
 結論からいうと、株価を買い支えるためであると思われます。
というのは、ETFは、「株価指数連動型上場投資信託」といっ
て、東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価などの株価指数
や金などの商品価格に連動した値動きをするのです。
 例えば、午前にTOPIXが1%超下落したとします。そうす
ると、午後に日銀が動いて買うと、相場が反発するというわけで
当初はそれなりに効果があったようです。
 しかし、この日銀のパターンが「1%ルール」として知られる
ようになると、効果が薄れてきています。ETF購入は、これま
でに41回実施しており、8000億円近くを買い入れているの
ですが、年末までに枠として1兆4000億円を用意しているの
で、現在も継続中です。
 最近の効果はどうでしょうか。2011年4月〜8月にETF
購入があったのは14回であり、そのうち午後に相場が反発した
のは10回です。70%ぐらいの確率です。しかし、9月以降に
なると、14回中4回と30%台まで下がっています。
 もともとETF購入は異例の政策なのです。為替と株価は連動
しており、円高をそのままにしてこのようなことをやっても効果
は薄いと考えられます。本来なら国債を買うべきなのです。その
方が正統であり、国債の買いオペをやって十分な金融緩和をすれ
ば、日銀の赤字問題などあり得ない──このように高橋洋一氏は
いうのです。高橋氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 通貨の相対量で円ドルの9割が説明できれば、これまでのデー
 タからドルの供給量が変わらないとして円を30兆円程度増や
 せば5円程度は円安にできることがわかる。 ──高橋洋一著
           「2011『日本』の解き方」/371
              2011年8月5日付、夕刊フジ
―――――――――――――――――――――――――――――
 一般の人にはわかりにくいが、どうやら日銀のやっていること
は他の先進国とは違うらしいのです。違うのは別にわるいことで
はありませんが、日本はこの20年間ずっとデフレであり、日本
経済の状況は一人負けをしているのです。
 ОECD加盟30ヶ国の国民1人当たりのGDP比較のデータ
によると、日本は2000年には3位であったのに、2007年
には実に27位まで後退しているのです。その後円高によって少
し持ち直したものの、経済は一向に好転していないのです。
 金融政策を行うのは中央銀行の役割であるのに、日銀は世界と
は正反対の政策を行い、デフレから脱却できないでいます。これ
では日銀は無策といわれても仕方がないと思います。どうやら、
日銀総裁の白川方明氏はデフレについて独特の考え方を持ってい
るようで、現在の日本のデフレは、日銀では解決できないと考え
ているようです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 90年代末以降における緩やかながらも長期に亘るデフレ傾向
 は、短期・循環的な要因だけでは説明ができません。より根源
 的な原因は、日本経済の成長力の趨勢的な低下傾向にあると判
 断しています。成長率が長期に亘って低下する状況の下では、
 人々の所得増加期待は低下し、企業や家計の支出活動が抑制さ
 れてしまうため、物価下落圧力が続きます。 ──白川方明氏
 高橋洋一著『財務省の隠す650兆円の国民資産』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融政策のかぎを握る日銀の白川総裁が「わからん!」といっ
ているようではとても日本はデフレから脱却できないはずです。
高橋洋一氏によると、日銀は2000年以降、物価上昇率をマイ
ナス1〜0%になるよう見事にコントロールしており、「デフレ
ターゲット政策」を実施しているといっています。
 まさにその通りです。デフレから脱却しないように、かといっ
て、ひどいデフレにならぬようコントロールし、日本の不況を維
持してきています。「デフレでも問題ではない」──とんでもな
い中央銀行総裁です。      ── [財務省の正体/23]


≪画像および関連情報≫
 ●白川日銀総裁/日銀批判に反論/2011.3.1
  ―――――――――――――――――――――――――――
 【東京】日本銀行は長い間、瀕死(ひんし)の状態にある日本
  経済への対応が不十分だとして非難されてきた。その日銀が
  今反撃に出ている。細身の学者風の風ぼうをした日銀の白川
  方明総裁はこのところ、同氏を批判してきた向きが驚くよう
  な断固たる反論が目立つ。その趣旨は、次のようなものだ。
  日銀は、デフレ対策として革新的な金融政策を他に先駆けて
  実施してきたが、それが正しく理解されていない。現在他の
  主要中央銀行が試している、ゼロ金利政策や積極的な債券買
  い入れ策などがそうだ。今後も、従来の枠を超えた金融政策
  を推し進めることによって、日本のアニマルスピリットを再
  び呼び起こす。だが、白川総裁は、同時に、そうした政策は
  必ずしも有効ではないとも述べている。総裁は長引くデフレ
  に対するエコノミストの見方を変えようとしているようだ。
  日銀ができることには限界があると述べ、ぜい弱な個人消費
  や企業投資にはマネーサプライ(通貨供給量)だけでなく、
  日本の人口減少が大きくかかわっており、前者は日銀が統制
  できるが、後者はその範囲外であるとした。「一面だけを捉
  えた批判があることに失意を感じる」。白川総裁は、順序ど
  おり丁寧に並べられたメモを傍らに、自らのオフィス近くの
  会議室で長時間に及ぶインタビューに応じてこう答えた。
           http://jp.wsj.com/Economy/node_189811
  ―――――――――――――――――――――――――――

記者会見する白川日銀総裁.jpg
記者会見する白川日銀総裁
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2011年12月09日

●「白川日銀総裁の主張にも一理ある」(EJ第3198号)

 日本の中央銀行、すなわち日銀は、他の先進国の中央銀行に比
べて異なる政策をとっているようです。それは先進各国のインフ
レ率の推移をみるとはっきりします。
 添付ファイルを見ていただきたいのです。これは、高橋洋一氏
が先進各国の2000年代のインフレ率の推移を分散分析という
統計手法で分析したものです。はっきりしていることは、フラン
ス、カナダ、ドイツ、イタリア、イギリス、アメリカについては
その動きが非常によく似ていますが、日本だけがほとんど「0以
下」というレベルになっています。
 インフレ率というのは、昨年に比べてどのくらいインフレにな
ったかをあらわす指数です。昨年と変わらない場合はインフレ率
は0%です。昨年より3パーセント物価が上昇すれば、インフレ
率は3%になるのです。インフレ率が上がると、物価が上がり、
インフレ率が下がると物価は下がります。
 高橋洋一氏によると、日本をのぞく各国は一定の水準を目標と
したインフレ・ターゲット政策をとっているとし、逆に日本はま
るでデフレ・ターゲット政策をとっているようだというのです。
これに対して日銀はもちろん反発を強めています。
 日銀側の主張に立ってみましょう。今回のテーマの主眼は財務
省ですが、日銀も国の経済を担う公的機関ですので、合わせてメ
スを入れていくつもりです。しかし、日銀は、財務省とは少し違
うものを私は感ずるのです。
 1990年代初頭に日本はバブルが崩壊し、戦後はじめて金融
危機とデフレ経済に直面したのです。これに対して日銀は直ちに
金融緩和を行い、それを繰り返して、90年代初頭には8%台で
あった短期金利を2000年には実質ゼロに引き下げたのです。
さらに2001年からは量的緩和政策を導入し、2006年まで
続けているのです。その結果、日本経済は何とか最悪期を脱し、
景気は少しずつ上昇したのです。しかし、デフレからは依然とし
て脱却できていないのです。なお、デフレ状況であっても景気回
復はするのです。
 ところで「金融緩和」とは何でしょうか。
 金融緩和策というのは、一般には金利を下げること──専門的
には、GDPの潜在成長率よりも金利を下げることをいいます。
日銀は1990年代は段階的にこれを行い、2000年には金利
を実質的にゼロにまで下げたのです。ここで潜在成長率というの
は、その経済が本来持っている実力の成長率のことです。
 しかし、金利をゼロまで下げてしまうと、それ以上下げられな
いので、資金供給をすることで同様の効果を狙います。日銀がと
った方法は「量的緩和策」です。これは、「日本銀行の当座預金
残高」の量の調節によって金融緩和を行う異例の金融政策のこと
です。これを2006年まで続けたのです。
 2000年当時白川氏は、日銀の金融市場局審議役をしていま
したが、当時『週刊ダイヤモンド』/2000年1月29日号に
論文を書いて発表しているので、その内容を次の7ポイントに要
約します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.90年代の金融緩和は日本経済を復帰させるほどの効果
   を発揮できていない
 2.しかし、経済が何回かのデフレスパイラルに陥る危機を
   回避できていること
 3.金融政策と財政政策はマクロ経済教科書からは考えられ
   ないほど行っている
 4.それでも日本経済の停滞が続いているのは、潜在的経済
   成長能力低下が原因
 5.潜在的経済成長能力を引き上げるには社会全体に変化対
   応能力が必要である
 6.市場メカニズムの有効利用と、法律、税制、会計、規則
   の制度改革が不可欠
 7.金融政策には限界があり、構造改革実施までの「時間を
   買う」しかできない
  ──白川方明著「金融政策は構造改革まで代替できない」
      『週刊ダイヤモンド』/2000年1月29日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は、白川方明総裁は日本の国内外におけるリーダーシップを
代表する存在として世界で注目を集めつつあるのです。厳しい批
判は受けているものの、日本の弱体化した政府においては最も安
定した政策担当者であるからです。約3年に及ぶ任期において、
これまで4人の首相と7人の財務相と共に仕事をしており、その
仕事ぶりには一定の評価があるのです。
 その証拠として上げられるのは、国際決済銀行(BIS)が昨
年、白川総裁を理事会副議長に任命したことです。日本人がBI
Sにおいて、それほどの大役を任されるのは1930年代以来の
ことなのです。
 白川総裁は、伝説的なエコノミストといわれるミルトン・フリ
ードマン氏がインフレについて「中央銀行がどれだけ資金を経済
に循環させるかという仕組みに過ぎない」と述べていることに関
連して、デフレについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレは、現金の経済への大量注入だけでは対処できないとい
 うことを日本の経験が示している。これによって、フリードマ
 ン氏の命題は日本の事実によって反証されている。
           http://jp.wsj.com/Economy/node_189811
―――――――――――――――――――――――――――――
 白川氏は、日本は他国とは事情が違い、潜在的な経済成長能力
の回復が必要であり、そのためには根本的な構造改革が必要であ
ること──金融政策は、その構造改革が行われるまでの「時間を
買う」効果くらいしかないというのです。フリードマン派の考え
方とは大きく異なるのです。   ── [財務省の正体/24]


≪画像および関連情報≫
 ●白川総裁の主張と一致する意見/藤沢数希氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本の経済の停滞を救うには潜在成長率を高めることしかあ
  りません。それができなければグローバリゼーションにより
  日本の多くの単純労働者の賃金が中国などの途上国にサヤ寄
  せされていくだけです。そして物価もそれぐらいの給料で生
  活できるぐらいになるまで下がるでしょう。究極的にはこの
  ままほっといていてもそこまで物価も賃金も下がれば日本の
  デフレは止まります。政治的に移民政策は難しいでしょうし
  日本の高齢者の社会保障費を負担するために日本に移住した
  いという奇特な外国人はあまりいないでしょう。ということ
  は日本の労働人口は今後も減り続けるわけです。つまり成長
  率を上げるには生産性を上げるしかないということです。そ
  のためには民間企業が創意工夫をして新しいモノやサービス
  を生み出していかなければいけません。国民一人一人が起業
  家精神を持ち切磋琢磨しないといけないのです。それはなに
  かあるとすぐに補助金をたかったり、規制を作って新規参入
  者をつぶしたりするような堕落した経営者の精神とは相反す
  るものです。すぐに格差是正などと叫び国に再分配を求める
  堕落した国民と、そういった国民に阿る堕落した民主党政権
  とも相反するものです。http://blogos.com/article/23980/
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/高橋洋一著/『財務省の隠す650兆円の国民
  資産』/講談社刊

主要各国インフレ率の推移.jpg
主要各国インフレ率の推移
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2011年12月12日

●「なぜ、名目GDPの増加に注力しないのか」(EJ第3199号)

 日本の財政の何が問題なのかというと、税収よりも、実際に必
要な経費である「経常経費」がその倍以上あるということです。
これは、1975年度以降に日本経済の成長率が大幅に低下した
ことと連動して、経常経費についての借金を年々重ねてこざるを
得なくなったのです。
 このようにして積み上げられた借金──赤字国債は2011年
度末において、391兆円に達する見込みです。この借金だけは
何としても早く返済する必要があります。これを返済するには、
どうすればよいでしようか。
 それは「税収」を上げること──これしか方法はないのです。
問題は税収を上げるにはどうすればよいかです。ところで、日本
の税収は何によって決まるのでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
   税収 = 名目GDP × 税率 × 税収弾性値
―――――――――――――――――――――――――――――
 最初はごく大雑把に考えます。税収は名目GDPによって支え
られています。GDPというのは、経済活動のすべて──自動車
を購入したり、家を建てたり、タバコを買ったり、タクシー代を
支払ったりするなどの生産性を示すもので、日本国内で日本人が
使ったお金の総合計を指します。このGDPの増減が経済の成長
率を示すことになります。
 そうだとすると、税収は名目GDPの多寡によって決まってく
るのです。日本の経済状況は目下デフレですが、デフレは名目G
DPを減少させるのです。さて、増税をするということは、上記
の式で税率を上げることに相当します。
 この場合、税収が伸びるのは、名目GDPが変化しないときだ
けです。しかし、増税すればデフレは一層深刻になり、名目GD
Pはさらに減少してしまいます。そうすれば税収は今よりも減少
し、赤字国債の額はさらに積み上がってしまうのです。何のため
の増税なのでしょうか。野田首相はなぜこのような簡単な理屈が
わからないのでしょうか。本当に税収を増やしたいなら、増税を
しては駄目なのです。
 ついでに名目GDPと実質GDPの違いについても触れておき
ましょう。名目GDPと実質GDP、どちらも国が経済成長をし
ているかどうかを測るためのものさしです。この場合、名目GD
Pは「金額」、実質GDPは「数量」と考えるとわかりやすいと
思います。
 よく使われる例ですが、日本という国をみかんだけを売ってい
る店であると考えてみます。そうすると、その店の売上高がGD
Pということになります。
 ある年にその店でみかんを100個売ったとします。そして次
の年には105個売ったとします。これを数量と金額で考えるの
です。まず、数量について考えます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  (105円−100円)/100=0.05 →  5%
―――――――――――――――――――――――――――――
 この5%が実質GDP成長率ということになります。次に金額
について考えます。ある年にみかんは1個100円であるとしま
す。それが今年物価が下がって1個50円になったとします。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ある年 →  100円×100個=10000円
   次の年 →   50円×105個= 5250円
   (5250円−10000円)/10000=
   −0.475→−47.5% ─→ 名目成長率
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府はなるべく名目GDPに触れないようにしています。名目
はなかなか伸びないからです。サラリーマンのケースでいうと、
給料が減ったというのは名目の考え方ですが、デフレで物価が下
がっているので買い物はできるというのは実質の考え方です。
 「税収」の式に戻ります。税収を増やすには、名目GDPを上
げればよいのです。所得税は累進課税であり、年収が増えると税
率も上がるのです。そして消費も活発になります。
 ものが売れると、企業の利益も増えるので、法人税も増えるの
です。企業の場合は、赤字になると法人税はゼロなので、名目G
DPが増えると、法人税は大幅に増加します。
 ここで式の最後の項目である「税収弾性値」について知る必要
があります。「税収弾性値」とは、名目GDPが1%の場合に税
収が何%伸びるかを示す数値です。高橋洋一氏は、過去15年間
の税収弾性値は「4」であるとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 過去15年間の税収弾性値は、税制改正を無視すると、平均で
 4。財務省はいつも「1.1」 という低めの数字で計算してい
 る。財務省の連中は、みんな本当は税収弾性値がこれより高い
 ことを知っている。なぜなら、成長率が高まると、実は法人税
 収がすごく増える、赤字から黒字になって、税金を納めるよう
 になる企業が増えるから。それをみんな知っているのだけれど
 黙っているのですよ。           ──高橋洋一氏
                   上念司著/徳間書店刊
          『日本再生を妨げる/売国経済論の正体』
―――――――――――――――――――――――――――――
 2010年度における日本の名目GDPは総額で475兆円で
成長率は0・4%です。もし、名目GDP成長率を4%にするこ
とができると、増加分の3・6%に4をかけると、税収は14・
4%増えることになります。税額でいうと、約6兆円であり、消
費税2・5%分の増税で得られる額と同じです。
 消費増税という発想ではなく、なぜ野田政権は名目GDPを増
やすことに注力しないのでしょうか。財務省は確実性のない経済
成長よりも税金で取ろうとしているのです。経済がどうなろうと
その方が確実だからです。    ── [財務省の正体/25]


≪画像および関連情報≫
 ●財政危機はいつまで続く/税収弾性値「1・1」の功罪
  ―――――――――――――――――――――――――――
  国や自治体の財政見通しには、しばしば「税収弾性値」が用
  いられます。「弾性値」とは「ある指標の1%の増加が他の
  指標の何%の増加につながるのか?」を意味します。(「あ
  る指標の1単位の増加が、他の指標の何単位の増加につなが
  るのか?」を意味する「弾力性」とは異なることに留意!)
  よって、税収(の対名目GDP)弾性値とは、「名目GDP
  の1%の増加に対し、税収が何%増加するのか(ただし、税
  目ごとの動向などを見る場合は、法人所得や雇用者所得とい
  ったケースもあります)」を示すものです。また、とくに政
  府の財政見通しにおいては、この税収弾性値に「1・1」と
  いう数字が用いられます。これは、ある程度長期の税収とG
  DPの関係(75年以降、近年までを推計期間とした場合の
  値らしい・・・)から導かれたもののようです。しかし・・
  「景気が良いときは税収が見積もりを上回って、景気が落ち
  込むと下回る」という昨今の傾向であり、思い浮かぶのは、
  この1・1という数字が「小さすぎるのではないのか?」と
  いう疑問です。
  http://blogs.yahoo.co.jp/kazu_kitamura_jp/28634224.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

上念司著/「売国経済論の正体」.jpg
上念司著/「売国経済論の正体」
posted by 平野 浩 at 03:22| Comment(1) | TrackBack(0) | 財務省の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月13日

●「簡単なモデルでデフレを知る」(EJ第3200号)

 なぜ日本はデフレから脱却できないのでしょうか。
 この問題を考えるには、「デフレとは何か」について正確な知
識を持つ必要があります。最近話題になっている上念司氏の著作
を参照して、デフレについて考えてみましょう。
 世の中に存在する「お金」と「モノ」はつねに交換されていま
す。ここで仮定のモデルについて考えます。世の中に存在してい
る「モノ」の量が10個、「お金」の総額が1000円であると
します。この場合、「モノ」1個の価格は100円です。
 次の年に「モノ」の個数が10個から9個に減り、「お金」の
総額は1000円から810円に下がったとします。このときの
「モノ」1個の価格は90円になります。これを次のような表に
まとめます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    「お金」の総額 「モノ」の量 「モノ」1個の価格
 ある年  1000円    10個      100円
 翌 年   810円     9個       90円
 増加率   −19%   −10%
                      ──上念司著
    『日本再生を妨げる/売国経済論の正体』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 「必要商品が品薄になると価格が上がる」──これは常識です
が、上記のモデルについて見ると、「モノ」が1個減って品薄に
なっているのに、価格も100円から90円に下がっています。
どうしてこうなるのでしょうか。
 実は「モノ」の個数と「お金」の総額の両方に目を配る必要が
あるのです。もし、「お金」の総量が変わらず「モノ」が減った
のであれば「モノ」の価格(111円)は上がりますが、モデル
の表の増加率の欄を見ると、「モノ」と「お金」の両方が減って
いるなかで、「お金」の減り方が、「モノ」の減り方の倍近くに
なっています。そのため、「モノ」が品薄になったにもかかわら
ず、その価格も下がっているのです。
 以上のケースは「モノ」が減り、「お金」の総額も減った場合
ですが、両方が増加しても同じことが起きるのです。そのケース
を示します。
―――――――――――――――――――――――――――――
    「お金」の総額 「モノ」の量 「モノ」1個の価格
 ある年  1000円    10個      100円
 翌 年  1010円    11個       92円
 増加率    +1%   +10%
                ──上念司著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このケースは、「お金」の総額が1000円から1010円に
増加し、「モノ」の量も10個から11個になって、両方が増加
したケースです。この場合、1年前には100円出さないと買え
なかった「モノ」が、8円も安い92円で買えるようになってい
る点に注目すべきです。「お金」の品薄状態がこの結果をもたら
しているのです。
 どうしてこうなったのでしょうか。
 それは、「モノ」の増加率(10%)に「お金」のそれが負け
ているときに起きる現象なのです。その結果、「お金」の価値が
上がり、「モノ」の価値が下がるのですが、こういう現象が2年
以上持続することを「デフレ」というのです。
 したがって、デフレから脱却するには、「お金」の総額を増や
し、「モノ」の増加率を上回るようにすればよいのです。中央銀
行──日銀はその役割を担っているのです。ところが日銀は「モ
ノ」の量に対して「お金」の量が不足する事態──すなわち、デ
フレを長年続けてきています。そのため、名目GDP成長率の停
滞が続き、日本経済に悪影響を与えているのです。
 ここで注意すべきことがあります。ここで「モノ」というのは
具体的な商品を指すのではなく、モノ全体の価格(一般物価)の
概念──マクロ的数字であるということです。岩田規久男氏の著
作から説明します。
―――――――――――――――――――――――――――――
   基準年 マーケットバスケット   購入額    指数
 1990年 食パン     1Kg   300円   100
       ワイシャツ   1枚  3500円   100
               合計  3800円   100
  ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 
 1991年 食パン     1Kg   400円  133.3
       ワイシャツ   1枚  4000円  114.3
               合計  4400円  115.8
   ──岩田規久男著、『デフレの経済学』/東洋経済新聞社
―――――――――――――――――――――――――――――
 基準年を90年とします。「モノ」とその数量の組み合わせを
「マーケット・バスケット」と称しています。これが90年に食
パンとワイシャツで構成されるとします。90年のマーケット・
バスケットの価格は3800円です。
 91年になると、食パン、ワイシャツともに値上がりしてその
価格は4400円になります。90年より15.8 %上昇してい
ます。90年のマーケット・バスケットの価格である3800円
を100に基準化します。そうすると、91年のマーケット・バ
スケットの価格4400円は、約115.8 と表すことができま
す。これが消費者物価指数です。
 つまり、消費者物価指数は、ある年のマーケット・バスケット
の価格を100として、それを基準にして指数化したものであり
その指数の変化が問題になるのです。この例では、91年の消費
者物価指数は90年の100から115.8 へと15.8 %上昇
しているのです。つまり、消費者物価は15.8 %上昇したこと
になるのです。         ── [財務省の正体/26]


≪画像および関連情報≫
 ●消費者物価指数の推移について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  消費者物価指数は2011年9月に生鮮食品を除く総合で対
  前年同月比プラス−0.1%と4ヵ月ぶりにマイナスとなっ
  た。生鮮食品を含む総合は-0.2%だった。海外の物価動向と
  比較すると日本の物価上昇率は相対的に低く、日本のデフレ
  的体質からの脱却は容易ではないことが分かる。2011年
  4月については、平成22年4月から導入された高校授業料
  無償化(公立高校の授業料無償化・私立高校への高等学校等
  就学支援金制度)の影響がマイナス1.5%のうち0.54
  %分(寄与度)と計算されている。もし高校授業料無償化が
  なかったとしたらマイナス1.0%と若干の改善となってい
  たと見なせる。http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4720.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

岩田規久男著「デフレの経済学」.jpg
岩田規久男著「デフレの経済学」
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2011年12月14日

●「白川日銀総裁発言の論理矛盾」(EJ第3201号)

 デフレは、「お金」の価値が上がり、「モノ」の価値が下がる
現象のことです。「モノ」の量に対して「お金」の量が不足する
ことです。この「お金」の量をコントロールしているのが中央銀
行、すなわち、日銀です。
 日本がデフレに陥ったのは、バブル崩壊以降に日銀が金融引き
締めを行ったからです。つまり、日銀が日本をデフレ状態に陥れ
以後その状態を20年にもわたってかたくなに守っている──そ
のようにいっても過言ではないと思います。少なくとも、必死に
デフレから脱却しようとしているようには見えないのです。
 デフレを脱却するには、日銀は「お金」──通貨量を増やせば
よいのです。つまり、実体経済で必要としている通貨量を供給す
る必要があります。しかし、なぜか、日銀はそうしていないので
す。やってもアリバイ的に金融緩和をやるだけで、すぐにやめて
しまうのです。どうしてなのでしょうか。
 2008年9月15日、米国の投資銀行リーマン・ブラザーズ
が破綻したことが原因で世界中に波及したリーマンショック──
それ以降世界各国の中央銀行が大量の「お金」を市場に投入して
対応したにもかかわらず、日本だけはやっていないのです。
 中央銀行が通貨量を増やすには、市場で資産を買い入れること
でその対価として「お金」を市場に供給するのです。そうすると
多くの資産を買い入れることになるので、バランスシートが拡大
することになります。
 添付ファイルを見ていただきたいのです。このグラフは各国の
中央銀行のバランスシートの変化率を示しています。イングラン
ド銀行、FRB、欧州中央銀行は、リーマンショックが起きると
同時にバランスシートを拡大させて対応しているのに、日本だけ
は何もしていないのです。その差はまさに歴然です。
 2010年12月10日の日本経済新聞のインタビューにおい
て白川日銀総裁は次のように応じています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 Q:日本経済はなぜ長い間、デフレから抜け出せないのでしょ
   うか。
 A:根本的な要因は需要の低迷だが、大きな背景は国民が将来
   の成長期待を持てないことだ。そうしたなかでは消費が増
   えず、投資も伸びない。
 Q:デフレは金融政策で解決すべきだという声も根強くありま
   すが・・・。
 A:(前略)デフレが先行して改善することは基本的にない。
   経済の力が底上げされ、需給ギャップが改善して初めて物
   価が上がる。     Q=日経記者/A=白川日銀総裁
                       ──上念司著
     『日本再生を妨げる/売国経済論の正体』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 聞き逃せない言葉があります。「国民が将来の成長期待を持て
ないこと」という部分です。20年間もデフレが続いていれば、
どこの国の国民でもそういう気持ちになります。
 企業経営者に対しても白川総裁は、「潜在的経済成長能力」の
低下が根っこにあり、金融緩和をしても効き目がないといってい
るのです。これは、EJ第3198号で述べた日本経済は特殊な
環境にあるという考え方に基づく主張ですが、何となくデフレの
責任を企業経営者や一般国民に押し付けているように感じます。
 『日本再生を妨げる/売国経済論の正体』(徳間書店)の著者
である上念司氏は、白川日銀総裁の言葉には論理矛盾があると指
摘しています。2009年11月3日に白川総裁は、次のように
いっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本銀行の白川方明総裁は3日、都内での講演後に参加者との
 質疑に応じ、国債の大量発行が続く日本の財政について「世界
 的に見ても悪い状況。健全なバランスを回復する必要があり、
 財政再建が必要である。
   ──YOMIURI ONLINE/2009.11.3
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで白川総裁は「日本の財政は世界的に見ても悪い状況」と
述べているのです。しかし、2011年9月22日、20ヶ国・
地域財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見では日本経済につい
て次のにように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 震災直後の厳しい供給制約がほぼ回復し、経済活動は着実に持
 ち直している。世界経済については先行きをめぐる不確実性が
 高まり、国際金融資本市場の緊張が高まっている。世界経済の
 不確実性の増大というもとで安全資産選好が生じ、そのことが
 日本の円高の原因にもなつている。その円高が日本経済に悪影
 響を及ぼしている。           ──白川日銀総裁
                 ──上念司著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 白川日銀総裁は、2009年には日本の財政は世界的に見ても
悪いとしながら、とくに何の手も打っていないのに2年間は変化
なく経過しています。危機的状況は変わっていないのです。
 ところで、2011年9月になると、円高の原因は「日本の財
政が安全なので円が買われている」と述べているのです。確かに
これらの言葉をつなげてみると、そこに明らかに論理矛盾があり
首尾一貫していないのです。
 しかし、白川総裁ともあろう人が「円は安全資産」などという
のは疑問です。円高の要因は日銀が他国の通貨に比べて、品薄に
なっていることによるものであり、安全資産だというのはいい過
ぎであると思います。日本の財政は、2009年に白川総裁が指
摘したように、けっしてよくない状況にあり、改善を図るべきは
当然であるといえます。白川総裁は円高の本当の理由を述べたく
なかったのではないでしょうか。 ── [財務省の正体/27]


≪画像および関連情報≫
 ●白川方明日銀総裁の「円は安全資産」発言
  ―――――――――――――――――――――――――――
  [ワシントン 22日 ロイター] 日銀の白川方明総裁は
  22日、投資家の安全資産志向が最近の円高をもたらしてい
  るとの見解を示した上で、世界経済の不確実性を解消するこ
  とが重要と指摘した。同総裁は記者団に対し「現在の円高は
  世界経済全体の不確実性が高まる中で、グローバルな投資家
  の相対的な安全資産選好から起きている」と述べた。「世界
  経済の不確実性を取り除いていくことが非常に大切」と強調
  し、欧州の債務問題は欧州だけでなく、世界経済や日本経済
  にも重要との認識を示した。白川総裁はまた日本経済は3月
  の東日本大震災前の水準を回復したと指摘。震災による供給
  制約がほぼ解消し、経済は需要に左右される通常の状態に戻
  ったと分析し、世界経済の不確実性が日本経済にも影響し得
  るとの見方を示した。その上で日本経済の先行きが世界経済
  動向からどの程度影響受けるか注意して見ていくと語った。
  http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-23316020110922
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ参照/上念司著、『日本再生を妨げる/売国経済論の
  正体』/徳間書店

i各国中央銀行バランスシートの変化率.jpg
i各国中央銀行バランスシートの変化率
posted by 平野 浩 at 03:11| Comment(1) | TrackBack(0) | 財務省の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月15日

●「財務官僚に翻弄される野田首相」(EJ第3202号)

 野田政権は、消費増税の成立に向けてますます前のめりになっ
ています。野田首相の後にいる財務官僚が煽っているからです。
それは、五十嵐財務副大臣の発言からよくわかります。五十嵐副
大臣が消費税の具体的な税率に言及したとき、安住財務相から叱
責されましたが、これは完全に財務省演出によるサル芝居なので
す。五十嵐副大臣に先行発言させて、周囲の反応を探っているの
です。そこには政治主導のカケラもないのです。
 五十嵐財務副大臣は次のような発言をしていますが、いずれも
も数字が入って具体的であり、素案はとっくの昔に完成している
ものと思われます。それに五十嵐氏の発言は素早くメディアが報
道するので、多くの国民の耳に入ってきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.消費増税の引き上げ時期に具体的に言及
    2.軽減税率は税率10%までは考慮しない
    3.自動車重量税などの減税財源確保は困難
    4.一体改革の素案は28日までにまとめる
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、消費増税の実現は困難であると考えられます。記者ク
ラブメディア各社は、消費増税を後押しするため世論調査を行い
ましたが、消費増税への反対はいずれも50%を超えています。
 財務省に牛耳られているテレビの報道番組でキャスターは、次
のようにいい繕っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費税増税には反対が賛成を上回っていますが、増税が好き
 な人はいないわけで、40%台の賛成があるというのは、大
 変なことだと思いますね。 ──12日の報道ステーション
―――――――――――――――――――――――――――――
 野田首相は「不退転の決意」といっていますが、世論調査では
約6割の人が野田首相の「実行力」に疑問を抱いています。また
半数を超える人が「野田首相は国の支出を見直す努力をしていな
い」としており、公務員給与の引き下げを先送りしたことで「身
を切る覚悟が足りない」と感じているのです。
 一方小沢元代表も「国民への説明が不十分だ」と政権批判する
など年末の取りまとめに向けて党内の反発が日に日に強まってい
る情勢にあります。何よりも深刻なのは、消費税の引き上げに欠
かせない内閣支持率の下落に歯止めがかかっておらず、いかに党
内をまとめられるかに政権の命運がかかっているといえます。
 政権にとって気をつけなければならないことは、財務省は国の
ことを考えてアドバイスしてくれないということです。彼らは自
分たちの組織を守ることだけを第一義に考えて、なるべく手元に
ある資金を使わず、国民から税金で取りたいのです。それが彼ら
にとってベストな方法であるからです。
 増税強行によってデフレがさらに進行し、景気が深刻化して国
民がどんなに困ろうと、それによって民主党が選挙に大敗しよう
と、彼らにとっては一向に困らないのです。しかし、野田内閣は
財務省を中心とする官僚と一体になって前のめりで、増税路線を
推し進めているのです。
 消費増税の実現を一層難しくしているのは、東日本大震災の復
旧・復興財源を増税でやったことです。これほどの大災害に、そ
の復旧・復興資金を増税で賄う国はないのです。まして日本の財
政は、既に述べてきているようにそのぐらいの資金は簡単に捻出
できるのです。何しろ日本は世界一の債権国家なのです。
 それでは、なぜ増税になってしまったのでしょうか。それは首
相をはじめ閣僚の経済に関する無知がそうさせたのです。もっと
はっきりいうと、経済についての議員の無知に財務官僚が付け込
んだのです。このような災害の復旧・復興資金の調達は、復興国
債を発行して日銀がそれを直接引き受ければいいのです。
 このことは、今回のテーマの第1回(第3175号)で取り上
げたことですが、野田首相が財務相のときに日銀の直接引き受け
に関して質問され、答えられず恥をかいたことがあったのです。
そのとき、財務官僚は、そういう質問が出ることを知っていなが
ら、あえて野田財務相に教えなかったのです。
 野田氏は「国債の日銀直接引き受けは禁じ手である」と思って
いて、財政法をよく研究していなかったのです。財政法第5条に
は次のことが定められているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 第五条 すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引
 き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれ
 を借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合におい
 て、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財務省は自分たちにとって都合のわるいことは大臣には絶対に
教えないのです。実は、2011年度予算の「予算総則」におい
て、次のように書かれていることについて、民主党の議員はどの
くらい知っているのでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀保有国債分については「財政法第5条ただし書き」の規定
 により、政府が平成23年度において発行する公債を日本銀行
 に引き受けさせることができる。
            ──2011年度予算の「予算総則」
―――――――――――――――――――――――――――――
 一般的には、日銀による国債の直接引き受けは禁じ手とされて
いますが、毎年それはごく当然のように行われているのです。禁
じ手とされてきた理由は、通貨の信認が失われるというものです
が、実際にはそのような事実はないのです。問題があるなら、毎
年行われるはずがないからです。
 財務省がこのことを隠したというより、当時の野田財務相自身
が何とかして増税を避けたいと知恵を絞らなかった結果であるか
らです。            ── [財務省の正体/28]


≪画像および関連情報≫
 ●日銀の国債引き受けについて/「岩本康志のブログ」より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  財政法第5条の第1文で,国債引き受けを原則として禁じて
  いる。理由は,政府が日銀の国債引き受けに頼り,過度のイ
  ンフレが起こることを抑止するためである。同時に,放漫財
  政の歯止めでもある。では,第2文のただし書きは何のため
  につけられているのか。小村武著『三訂版 予算と財政法』
  (新日本法規)は,以下のように説明している[2011年
  5月24日追記:同書四訂版でも同じ記述である]。
  「この特別の事由については,現在,日銀が保有する公債の
  借換え(いわゆる乗換え)のために発行する公債の金額につ
  いてはこの要件に該当するものとして,特別会計の予算総則
  に限度額の規定が設けられている。これは,借換債の性質上
  日銀が現に保有しているものの引き受けであり,通貨膨張の
  要因となるものではないからである」。
   http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/33213494.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

消費増税に黄色ランプ.jpg
消費増税に黄色ランプ
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2011年12月16日

●「予算書も勉強していない財務大臣」(EJ第3203号)

 100年に一度の大震災です。本来であれば「100年国債」
を出せばよいのです。しかるに財務省は野田政権を裏から操って
日本の財政が明日にも崩壊するようなウソを執拗に宣伝して、こ
ともあろうに増税で財源を捻出させることにしたのです。そこで
今回も財政法第5条のただし書きで認められている「日銀直接引
き受け」についてさらに検討していくことにします。
 これに関しては、2011年3月25日の衆議院財務金融委員
会における自民党山本幸三議員と当時の野田財務相、五十嵐財務
副大臣、日銀の白川総裁とのやりとりを映像でご覧いただきたい
と思います。該当部分は映像スタートから22分10秒までの部
分です。野田財務相の答弁の頼りなさ、白川日銀総裁の抜け目の
ない答弁が見てとれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    衆議院財務金融委員会/2011年3月25日
    http://www.youtube.com/watch?v=845f2lzTeE4
―――――――――――――――――――――――――――――
 詳しくは映像を見ていただくとして、簡単にそのやり取りを以
下にまとめます。
 山本議員は、当時の野田財務相に国債の日銀直接引き受けが毎
年行われていることを知っているかと聞き、野田財務相から「知
りません」という答弁を引き出しています。まず、山本議員は野
田財務相の無知を明らかにしたのです。しかし、五十嵐財務副大
臣はさすがに知っていて山本議員は称賛しています。野田財務相
はこれで一層みじめな気持ちになったことと思います。
 その上で、財政法第5条で国債の日銀直接引き受けが認められ
ていることを白川日銀総裁に確認しています。総裁がそれを認め
ると、山本議員は国債の日銀直接引き受けは毎年行われているこ
とを強調し、その上限は特別会計の予算総則第5条に「国債整理
基金特別会計において、財政法第5条ただし書きの規定により、
政府が平成23年度(2011年)において発行する公債を日本
銀行において引き受けさせることができる金額は、同行の保有す
る公債の借り換えのために必要な金額とする」と定められている
と説明。その上で山本議員は日銀総裁に対し、「それで通貨の信
認は失われたか」と聞いています。
 しかし、白川総裁はなかなか素直に認めず、のらりくらりの答
弁を重ねて最後にやっと認めています。それを受けて山本議員は
「直接引き受けは普通のことである」と強調し、今度は五十嵐副
大臣に対して「それでインフレになったか」と聞いています。そ
れが五十嵐副大臣の主張だからです。
 これに対し五十嵐副大臣は、「インフレにならないとの確認を
取ってやっているので、なっていない」と答弁しています。この
あと、山本議員は白川総裁に「通貨の信認とは何か」と問い、そ
の上で、日銀の国債の直接引き受けが円高にならない一番よい方
法であり、なぜこれをこの非常時に使わないのかと迫っているの
です。これに対して白川総裁は日本の国債発行額は巨大化して限
界という例の国債危機論を展開してなかなか認めない──そうい
うやり取りが約20分続いたのです。
 2011年度に満期償還される国債は約30兆円であり、その
額が日銀が直接引き受けられる借り換え国債の上限になります。
これは2011年度の予算総則に載っているのです。ことは20
11年度の予算書の問題であり、トップである財務相がそれを知
らないのは財務相失格といわれても仕方がないでしょう。
 しかし、日銀はこのうちの12兆円しか借り換えをせず、残り
の18兆円分の国債は償還されて日銀の金庫に戻ってしまうこと
になります。
 18兆円ものお金が市場から日銀の金庫に入ってしまうという
ことは、市場からそれだけのお金の量が減って、デフレの要因に
なります。デフレを放置して多くの国民が苦しんでいるのに、こ
の18兆円を復旧・復興財源として提供しようとする気は日銀に
はまるでないことは確かです。これは、白川日銀総裁の答弁を聞
けば、よくわかると思います。
 この18兆円の枠を使って、復旧・復興国債を出し、それを日
銀に直接引き受けさせるのです。この場合、国会の議決が必要に
なりますが、これによって18兆円の資金が確保できるのです。
もちろん増税など必要はないのです。
 これについて、高橋洋一氏は国債整理基金にある12兆円も使
えるので、30兆円資金が誰にも迷惑をかけることなく、すぐ確
保できるとして次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この程度の日銀引受なら、市中消化の原則は守られて通貨の信
 認を失うはずがない。これに日銀総裁が反対だというが、既に
 国会で認められていること。これに反対するのは国会議決を無
 視することで、公的立場にある日銀総裁としては許されざるこ
 とだ。日銀直接引受は、日銀がマネーを出すことになり、その
 分日本円が相対的にドルより多くなり、相対的に多いモノの価
 値は下がるので、円安要因になる。     ──高橋洋一著
      『財務省の隠す650兆円の国民資産』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 財務省は、東日本大震災を増税の好機としてとらへ、長期にわ
たってデフレを放置し、日銀は日銀で特別会計の予算総則第5条
で認められている日銀の国債引き受けを拒否して、復旧・復興財
源を増税で調達することを決めているのです。
 さらに野田政権は、それに加えて消費税の増税までやろうとし
ているのです。しかも、公務員自らの身を切る努力をいっさいし
ないでやろうとしているのですから、滅茶苦茶な話です。
 このように増税などしなくても、財源を確保できる方法がある
のです。とくに日銀の罪は重い。これほどの大震災に遭遇してい
るのに、デフレ脱却に熱心でなく、出せる金を出さないのは犯罪
的ですらあります。       ── [財務省の正体/29]


≪画像および関連情報≫
 ●山本幸三議員のホームページ/アピール3
  ―――――――――――――――――――――――――――
  私が提言している「20兆円規模の日銀国債引き受けによる
  救助・復興支援を」という案は、未だ採用されていない。こ
  れについて与謝野経済財政相は「法的にできない」、白川日
  銀総裁は「通貨の信認を失う」、五十嵐財務副大臣は「イン
  フレになる」とそれぞれ発言し、否定的だ。私から見ると、
  これらの批判はいずれも俗論、妄説の類に過ぎず、そのこと
  を証明するために3月25日、衆議院・財務金融委員会で質
  問に立った。以下は、その質疑を通じて得た結論を踏まえ、
  改めて訴えたいことである。まず上記のような誤解を解くた
  めには実例を示すのが一番なので「日銀の国債直接引き受け
  は毎年行われている」という事実を紹介した。このことは国
  会議員を含めほとんどの国民が知らないことだと思うので、
  是非よく聞いて頂き認識を改めてもらいたいと願うものであ
  る。     http://www.yamamotokozo.com/news/20110328.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

衆院財務金融委員会での白川日銀総裁.jpg
衆院財務金融委員会での白川日銀総裁
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2011年12月19日

●「かつての軍部を思わせる財務省」(EJ第3204号)

 先日「タケシのTVタックル」を見ていたら、出演していた民
主党の若手議員が次のようにいっていました。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財務省の官僚が「先生、テレビにお出になるそうですが、少し
 ご説明に伺いたいのですが・・・」という電話をかけてきて、
 資料を持って2、3人で説明にやってきました。
―――――――――――――――――――――――――――――
 彼らは財務省が組織している「増税説明部隊」であり、メディ
アに出演する政治家を中心に説明に回っているのです。彼らの増
税説得話法は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.復興国債の発行はこのさいやむをえない
     2.復興国債は国の借金、返済が必要である
     3.復興国債財源については増税で行いたい
     4.日銀直接引受はリスク大なので絶対回避
―――――――――――――――――――――――――――――
 財務省の増税話法はすべてこの流れで統一されています。五十
嵐財務副大臣などはこの話法にしたがって発言しています。彼は
独特の表情で深刻にいうので、つい信用する人が多いのです。
 震災の復興財源はとりあえず国債を発行して賄うことはやむを
えないが、日本の国債は周知のように危機的状況にあり、それに
見合う財源を確保する必要があることを強調します。もし、財源
を確保しておかないと、市場がそれを許さない恐れがあって国債
暴落が起こりかねないというわけです。
 これは、災害の復旧・復興資金調達の定番である建設国債をい
いだせなくするのが狙いです。復旧されるインフラは次の世代の
人も使う長期的なものであり、60年償還の建設国債が一番理に
かなっているので、それを潰す話法なのです。
 まして「100年国債」や「コンソル債」などはこういう論法
でこられると提案しにくくなります。コンソル債というのは、英
国で発行されている永久に一定額の利子(クーポン)が支払われ
る債券公債のことです。償還しない代わりに、永久に利子が払わ
れる契約に基づく永久債の代表的な例の一つで、しばしば、経済
学で利子率と債券や流動性選好説、流動性の罠を説明する際に用
いられるものです。
 これらの増税説得話法は、かつて日本を米国との戦争に駆り立
てたときに軍部が国民に対して展開した話法に似ており、消費増
税に前のめりになっている財務省にかつての軍部を思わせるもの
を感じ、むしろそちらの方に強い危機感を覚えます。
 財政再建に成功した国では、経済成長と歳出の抑制の両方をコ
ントロールして実現しています。これについて、早稲田大学の若
田部昌澄教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財政が破綻するという危険性があまりにも誇張されているとい
 うのが私のイメージ。900兆円の粗債務もあるが、日本は資
 産を持っている。それと差し引きで考えなければいけないのが
 ひとつ。それともうひとつは、どうしてわれわれがこういう状
 況に陥ったのかと考えると、基本的にはデフレが続いて名目成
 長率が伸び悩んで税収が落ち込んでいたところで、社会保障関
 係費を中心としたところの政治の歳出が非常に増え続けたとい
 うところがある。経済成長をアテにするなと言うが、それがな
 いと、財政の再建と言っても他のところを言っても不可能。私
 はデフレの下で増税として成功した国を見たことない。
                       ──上念司著
     『日本再生を妨げる/売国経済論の正体』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 既に述べているように、財務省の息のかかった政治家、学者、
報道関係者、コメンテーター、政治評論家はたくさんいます。今
や史上最強の軍団化している財務省は、今回の消費増税ではこれ
ら人材を総動員して一斉に消費増税の実現に動いているのです。
それはかつての軍部そのものです。
 その中には、消費増税に慎重なスタンスをとっているように見
えながら、実は財務省寄りの人物も多くいるのです。ひとつその
例を上げましょう。
 自民党の参議院議員に林芳正氏という人がいます。年齢は50
歳で、穏やかな語り口の落ち着いた人です。東大法学部の出身で
ハーバード大学ケネディスクールを修了しています。防衛相の経
験もあるが、金融・経済に強く、自民党のシャドウ・キャビネッ
ト財務大臣を務めるほどです。国会でもあくまで正攻法で相手を
論破する。経済・金融の知識が豊富でないとできないことです。
したがって、今や民主党の閣僚は林芳正氏が国会で質問に立つと
戦々恐々としているそうです。
 この林芳正議員の質問の鋭さに対し、民主党の閣僚の知識の薄
さ、能力の低さは信じられないほどです。それは与党経験の不足
というよりも、能力そのものが問われるレベルです。
 次の「ジュルジュサンド」のブログにある7本のユーチューブ
は、林芳正議員が民主党の閣僚に質問している映像です。とくに
蓮舫大臣と岡崎トミ子国家公安委員長とのやり取りはぜひ見てい
ただきたいものです。菅内閣時代のものですが、民主党政権は同
じ人が何度でも閣僚を務めるので、現在の野田政権と同じです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ジュルジュサンド」のブログ
 http://ameblo.jp/hidemasahououji/entry-10713244658.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はこの林芳正議員──一一見現在の野田政権が進める前のめ
りの消費増税に反対の姿勢をとっているように見えますが、彼は
徹底した財務省寄りの人なのです。ところがそれとみせないほど
知識は豊富であり、言葉の言い回しは絶妙です。明日のEJで検
討することにします。      ── [財務省の正体/30]


≪画像および関連情報≫
 ●林芳正氏の「単刀直言」/MSN産経ニュース
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「菅さんの下では約束が実行されない」という状況が続けば
  何をやっても無駄になる。「ペテン師」とか「だまされた」
  とか情けない言葉が飛び交う状況を本気で整理してもらわな
  いとね。これらの条件が整えば、われわれは「菅さんが首相
  だから」という理由だけで協議を断るようなまねはしません
  よ。自民党は震災の復興・復旧に必要なことには全面的に協
  力している。さらに協力をスムーズに進めるアイデアとして
  自民、公明、民主3党の政調会長会議の定例化を提案したい
  ですね。テーマを絞り政府で案を作る段階からチェックすれ
  ば非常に効率的です。でも自民党の協力はほとんど注目され
  ず、内閣不信任決議案とか政局絡みのことばかりが注目され
  て「政治がダメだ」とお叱りを受ける。自民党が与党だった
  ときは「政府・与党はダメだ」とお叱りを受けたが、なぜか
  野党も共同責任を負わされてしまった。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110705/stt11070500330001-n1.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

林芳正議員/自民党.jpg
林 芳正議員/自民党
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2011年12月20日

●「隠れ増税派の財務省系議員もいる」(EJ第3205号)

 林芳正参院議員は、復興債について次のように述べています。
東日本大震災のほぼ一カ月後の2011年5月のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 復興の財源についてわれわれは、既存の予算のなかの4Kのよ
 うな不要不急のものを削ったうえで、「復興再生債」を発行す
 ればいいと考えている。それはいままでの赤字国債、建設国債
 とは別勘定とし、償還にあたっても別途、資金を調達する。た
 とえば10年償還だとすれば、これから10年のあいだにそれ
 を返す資金を調達すればいい。これだけの大きなショックで経
 済が落ち込んだ直後に増税をするようなことをせずともいいの
 だ。その場合、個人的な意見を申せば、いずれかの段階で所得
 税や法人税を臨時的に割増して、毎年決まった額を返還資金と
 して貯めていく。発行段階から償還への道筋を描き、いままで
 の国債とは別の枠組みで、そこで完結するように設計する。こ
 うすれば、年金財源にも手を付けずに済み、急な消費税大幅増
 税といった事態も避けられる。        ──上念司著
     『日本再生を妨げる/売国経済論の正体』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 林議員は非常に慎重なものいいをしています。まず、「復興再
生債」の発行を提案していますが、「いままでの赤字国債、建設
国債とは別勘定」といい、意識的に建設国債を外しています。こ
れは財務省の増税説得話法と同じです。
 続いて、ひとつの例と断わって、「10償還」という言葉を出
し、その間に返していけばよいといっています。10年というと
長い期間のように思えますが、復興債の償還期間としては非常に
短いのです。そして「これだけの大きなショックで経済が落ち込
んだ直後に増税をするようなことをせずとも・・」と述べていま
す。これで誰でも林氏は増税反対だと思ってしまいます。
 しかし、「所得税や法人税を臨時的に割増し」という表現で増
税という言葉を避け、しっかりと実質的な増税を主張し、発行段
階から償還への道筋を描き、毎年決まった額を返還資金として貯
めることを提案しています。何のことはない。増税によって復興
再生債を償還する提案なのです。
 復興債の発行は仕方がないが、増税で財源を確保してきちんと
計画的に返済する必要がある──ここまでは財務省の増税説得話
法そのものです。それでは、「日銀の国債直接引受」はどうなの
でしょうか。林芳正氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 復興財源を日銀が直接引き受ければよいとの議論もあるが、そ
 れを主目的にした政策形成や国債発行は避けた方がよい。「日
 銀の直接引き受け」という側面が強調されることで、逆に、日
 本国債の需給状態がよくないとの誤解を与えてしまう恐れがあ
 る。要は、国債が安定的に消化されることが大切なのだ。いま
 でも日銀は、市場を通じて国債を引き受けている。現在のよう
 に1.2 〜3%という低い金利で国債が消化されているあいだ
 は、まだそこまで考える必要はない。     ──上念司著
     『日本再生を妨げる/売国経済論の正体』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 林芳正氏の話を聞くと、国債の日銀直接引き受けはきわめて特
殊なもので、きわめてリスキーなものというイメージを持ってし
まいます。まして林氏のような経済の専門家からいわれると、本
当にそうなかなと思ってしまうものです。
 しかし、既に述べたように、日銀直接引き受けは必ずしも特殊
なことではなく、毎年のように行われているのです。まして今回
のように100年に一度の大震災で、非常時でもあるので、特別
会計の予算総則第5条に定められている金額の範囲内であれば、
復興再生債を引き受けても何ら問題はないはずです。
 それにしても野党である自民党の林芳正氏がなぜこのように財
務省と同じ趣旨のことを主張するのでしょうか。
 それは、林芳正氏が元自民党衆議院議員の林義郎氏の子息であ
ることに関係があります。林芳正氏は2世議員なのです。父の林
義郎氏は、第1次中曽根内閣で厚生大臣、宮沢改造内閣で大蔵大
臣を歴任しているのです。
 1992年12月に父の義郎氏が大蔵大臣に就任したとき、芳
正氏はハーバード大学に在籍していたのですが、急遽休学して帰
国し、父の大臣秘書官を務めたのです。このとき、大蔵省の官僚
と深い接点ができているのです。大蔵省でも財務省でもそうです
が、将来財務相になれそうな有望株が出てくると、財務省として
情報提供したり、財務官僚をコンタクトさせて囲い込みを行うの
です。林芳正氏などはまさに逸材であり、財務省人脈の一人とし
て財務省が目をつけて育成した人材であると思われます。
 このように意外な人物が財務省の代弁者であることが多いので
す。そういう政治家は与野党に幅広く存在するのです。したがっ
て、今回の消費増税では財務省はそういう核になる政治家にはす
べてコンタクトし、増税擁護で論陣を張ってもらうように依頼し
ているのです。
 ところで林芳正氏といえば、菅前首相が財務相だったとき「乗
数効果」で1本取った人物として知られています。そのときのや
り取りは「画像および関連情報」をご覧いただくとして、菅財務
相(当時)が、経済の基本的な知識に弱いことを林氏に近い財務
官僚が知らせていたという話は有名です。
 現在の野田内閣が完全なる財務省主導になってしまった原因も
首相をはじめ、閣僚の勉強不足にあるといえます。内閣全体が、
財務省の論理に完全に乗ってしまっており、正しくないことも正
しいといいくるめられているのです。
 ウソも何回も繰り返されると、本当になってしまうのです。日
本の財政は危機的状況にある──このフレーズは多くの日本人の
アタマの中に刷り込まれてしまっています。ウソが本当になって
いるのです。          ── [財務省の正体/31]


≪画像および関連情報≫
 ●乗数効果をめぐるやり取り/お粗末の一言
  ―――――――――――――――――――――――――――
  菅 財務相:1兆円の予算を使って1兆円の効果しかない公
        共事業はだめだ。
  林 芳正氏:では子ども手当の乗数効果はどれぐらいか。
  長妻厚労相:子ども手当は実質GDPを0.2 %押し上げる
        が、乗数効果はわからない。
  林 芳正氏:GDPの増分を財政支出で割れば乗数効果は出る
        だろう。
  仙谷 大臣:1以上であることは間違いない。幼保一体化すれ
        ば・・(ヤジで意味不明)(中断。3分後再開)
  菅 財務相:子ども手当の消費性向は0.7 程度。定額給付
        金は0.3 ぐらいだった
  林 芳正氏:消費性向と乗数効果の違いを説明してください。
        (中断。3分後再開)
  菅 財務相:乗数効果の詳細な計算はまだしていない。
  林 芳正氏:計算すればわかるだろう。消費性向と乗数効果
        の関係は?
  菅 財務相:1兆円の事業に金を使ったとき1.3 兆円の効
        果があれば、乗数効果は1.3 。
        (中断。1分後に再開)
  林 芳正氏:消費性向が0.7 ということは、1を切ってい
        る。財政支出より低いのだから、財政支出を切
        って子ども手当にしたら、景気への効果はマイ
        ナスになるのではないか?
        (中断。1分後に再開)
  菅 財務相:子ども手当の効果は1以下だが、その他の効果
        がある。子育てで働けない人が働けるとか少子
        化が防げるとか・・・
  林 芳正氏:市場が暗くなるといけないので、もうやめる。
   http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51353169.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

林 義郎氏.jpg
林 義郎氏
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2011年12月21日

●「高橋是清の財政金融政策に学べ」(EJ第3206号)

 12月16日のEJ第3203号は、自民党の山本幸三議員が
衆議院財務金融委員会において、国債の日銀直接引き受けについ
て、野田首相、白川日銀総裁、五十嵐財務副大臣に質問した件を
取り上げましたが、その後半で山本議員は当時の野田財務相に対
して次のように要請しいているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 昭和恐慌のときの高橋是清の歴史をよく勉強してほしい。高橋
 は日銀の直接引き受けを行い、殺されるまでの間に日本経済は
 活況を呈している。物価は安定し、上がるといっていた金利は
 下がり、株価はどんどん上がったのである。それをやるのが財
 務大臣としてあなたの仕事である。    ──山本幸三議員
―――――――――――――――――――――――――――――
 高橋是清の思い切った財政金融政策によって、日本は昭和初期
の深刻なデフレを脱却し、経済の活性化を取り戻したのです。と
にかくデフレを脱却することがいま一番の課題なのです。
 しかし、これに対して野田財務省は、山本議員に対し、「議員
のおっしゃることもわかるが、それとは違う意見を持つ専門家も
多数いる。それを総合判断するのが私の仕事だ」と答弁しただけ
なのです。そもそも国債の日銀直接引き受けが毎年行われている
ことすら知らなかった財務相の知識レベルでは、高度の政治判断
など下せるはずがないのです。変化の時代にこのような人が首相
では日本は衰退する一方です。
 国債の日銀引き受けは、国が災害などで緊急に巨額の資金が必
要なとき、復興債を発行し、それを日銀が直接引き受ける、いわ
ゆる国債のマネタイゼーション(貨幣化)であって、やってはな
らない異常な方法だと思われています。しかし、高橋是清は国債
のマネタイゼーションなど行っていないと池尾和人慶応義塾大学
経済学部教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 高橋財政期における日銀引き受け比率は、国債発行額の80%
 以上を占めていた。ここで留意すべきは、国債の日銀引き受け
 は「発行方法」の1つだという点である。換言すると、国債の
 日銀引き受けは、引き受けた国債を日銀がずっと保有し続ける
 ことを自動的に意味するものではない。それとは反対に、高橋
 財政期における日銀引き受けは、売りオペ──民間金融機関へ
 の売却を前提として行われたものであった。日銀は、速やかに
 引き受けた国債の市中売却を進め、高橋財政期中は、総引受額
 のほぼ90%を売却している。このように実態的には国債は市
 中消化されていたので、国債の日銀引き受けにもかかわらず、
 国債のマネタイズ(貨幣化)は抑制され、ベースマネーの増加も
 それ以前の緊縮政策によって収縮していた分を回復させた程度
 にとどまっている。       blogos.com/article/9942/
―――――――――――――――――――――――――――――
 山本議員が野田財務相に「高橋是清の歴史に学べ」と迫ったの
は、ちゃんと史実を検証すれば、高橋是清が単なるマネタイゼー
ションを行ったのでないことはわかるはずである──このことを
いいたかったのだと思います。
 まして、未曽有というレベルさえ超えた東日本大震災のような
ときに、日銀の国債直接引き受けという発行方法を使わず、増税
するとは!?日銀総裁も高橋是清の財政を本当に研究しているの
でしょうか。勉強家の白川総裁ですから、知っているとは思いま
すが、大いに疑問のあるところです。
 年内に消費増税の素案を作るスケジュールはいささかも揺るが
ないと明言した野田首相が苦境に追い込まれつつあります。なぜ
かというと、公務員給与削減、議員定数削減など自らの身を切る
改革に何も手がついていないことが問題になっているからです。
公務員制度改革など最近は話題すらなりません。
 かつて野田首相はこのようにいっていたのです。2009年6
月17日の衆議院本会議での発言です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私どもの調査によって今年の5月に、平成19年度のお金の使
 いかたで分かったことがあります。2万5000人の国家公務
 員OBが、4500法人に天下りをし、その4500法人に、
 12兆1000億円の血税が流れていることが分かりました。
 その前の年には、12兆6000億円の血税が流れていること
 が分かりました。消費税5%分のお金です。先の首都決戦の東
 京都政の予算は、一般会計、特別会計合わせて3兆8000億
 円でございました。これだけの税金に、一言で言えば、シロア
 リが群がっている構図があるんです。そのシロアリを退治して
 働きアリの政治を実現しなければならないのです。残念ながら
 自民党、公明党政権には、この意欲がまったくないと言わざる
 を得ないのであります。渡りも同様であります。年金が消えた
 り消されたりする組織の社会保険庁の長官。トップは辞めれば
 多額の退職金をもらいます。6000万、7000万かもしれ
 ません。そののちにはまた、特殊法人や独立行政法人が用意さ
 れて、そこでまた高い給料、高い退職金がもらえる。また一定
 期間行けば、また高い給料、高い退職金がもらえる。またその
 後も、高い給料、高い退職金がもらえる。6回渡り歩いて、退
 職金だけで3億円を超えた人もいました。まさに天下りをなく
 し、渡りをなくしていくという国民の声にまったくこたえない
 麻生政権は、不信任に値します。 ──植草一秀著/青志社刊
  『日本の再生/機能不全に陥った対米隷属経済からの脱却』
―――――――――――――――――――――――――――――
 このときの勢いはどこへ行ったのでしょうか。国民はそういう
発言をしていた民主党を支持し、政権交代させたのです。ところ
が、首相の地位に就くと、公務員改革などどこへやら、ひたすら
財務官僚の手のひらで踊っているように見えます。そしてひたす
ら自らの地位にしがみついているようにしか見えません。まさに
民主党の危機的状態です。    ── [財務省の正体/32]


≪画像および関連情報≫
 ●ライオン宰相と高橋是清/晴耕雨読のブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  昭和恐慌は、第一次世界大戦時の好況の反動が発端である。
  1914年第一次世界大戦は起ったが、日本は戦場にならず
  輸出の増大で日本経済は大いに潤った。しかし大戦が終わり
  列強が生産力を取戻すにつれ日本経済は落込んだ。1920
  年以降、日本経済はずっと不調が続いた。特に27年には金
  融恐慌が起り、取り付け騒ぎや銀行の休業が到るところで見
  られた。ところがこのような経済が苦境の最中の29年に発
  足したのが、浜口幸雄内閣であり、蔵相が元日銀総裁の井上
  であった。なんとこの浜口・井上コンビはデフレ下で緊縮財
  政を始めたのである。ところが浜口首相は「ライオン宰相」
  として国民から熱狂的な支持を受けていた。前の田中義一首
  相が、腐敗などによって国民から反感をくっていた反動と思
  われる。    http://sun.ap.teacup.com/souun/104.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

大蔵大臣/高橋是清.jpg
大蔵大臣/高橋 是清
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2011年12月22日

●「崩壊の危機に瀕する特捜検察」(EJ第3207号)

 今年も残り少なくなってきました。EJは12月28日(水)
まで配信し、新年は4日からはじめます。今回のテーマ「財務省
の正体」は年を越して継続します。
 そこで22日〜28日までの4回は「小沢裁判に見る検察の陰
謀」について述べることにします。現在のテーマに密接に関連す
るからです。今回はその第1回で予告編のようなものです。
 小沢一郎という政治家は毀誉褒貶の多い人物です。しかし、そ
の正しい姿が伝えられていないと思います。それは全官僚組織と
メディアが手を組んで、小沢氏についてあることないことを書き
立てているからです。しかも、最初から意図的に「小沢=悪人」
ときめつけ、それを前提に記事を書いています。そのため、「小
沢は悪い奴だ」というイメージが定着しています。多くの人々は
そのイメージをそのま受け入れ、小沢批判を行っています。
 私は小沢一郎という政治家と一度も面識はないし、ファンでも
支持者でもありません。しかし、一政治家個人に対する批判があ
まりにも度を過ぎて執拗であるので、多くの情報や資料や文献を
通して小沢像を探ってみると、全然異なる小沢像が浮かび上がっ
てきたのです。おそらく政治家の中で、検察を含む全官僚組織と
記者クラブメディアから、これほど悪意に満ちた執拗な攻撃を受
けながら、依然として強大な影響力を持ち続けている政治家はい
ないと思います。
 どうして小沢氏はこれほど攻撃を受けるのでしょうか。
 それは小沢氏が民主党のトップリーダーになってしまうと困る
向きが多いからです。とくに全官僚組織と記者クラブメディアは
おそらく存亡の危機に立たされるでしょう。そのため、あらゆる
手段を講じて「小沢潰し」に狂奔しているのです。
 現在、小沢裁判が続いています。「小沢つぶし」の最終決着は
この裁判になるでしょう。何しろ裁判所まで検察と結託している
ので、どういう判決が出るか予想することは困難です。証拠がな
いのに、すべてを推認して小沢氏の秘書3人を有罪にするような
裁判所ですから信用できないのです。
 しかし、12月15日の公判でとんでもない事実が発覚したの
です。例によって記者クラブメディアは、小沢氏に有利なことは
少なめに書き、不利なことは大々的に報道するのが通例であるの
で、詳細な報道は避けています。それは今後の特捜検察を揺るが
す大問題であるにもかかわらずです。
 そのため、終始一貫十年一日のごとく小沢批判を執拗に続けて
きた大新聞の読売新聞でさえ「小沢氏無罪の可能性」と報道せざ
るを得なくなったのです。他の記者クラブメディアも、いずれも
小沢氏無罪の可能性に言及しています。そんなことがかつてあっ
たでしょうか。しかし、その詳細の報道はないのです。小沢氏に
有利なことは報道しないからです。
 一体何が起こったのでしょうか。水谷建設からの献金のウソ八
百などに関しては詳細に書くメディアも、この件については、必
要最小限の報道にとどめています。いつもなら、詳細に取り上げ
る週刊誌までもなぜか沈黙したままです。そういうわけで、EJ
が取り上げることにしたのです。
 いま民主党が迷走しています。しかし、現在、その民主党を動
かしている幹部は、自由党が加わる前の旧民主党の幹部です。首
相も鳩山、菅、野田とすべて旧民主党の幹部です。小沢氏は依然
として、党員資格を停止されており、座敷牢に入ったままです。
野田首相が真に党内融和を望むのであれば、小沢氏の党員資格停
止処分を解くべきでしょう。
 もし、小沢氏の率いる自由党が民主党に加わらなかったら、小
沢氏が民主党の代表になっていなかったら、おそらく政権交代は
起きていないでしょう。小沢氏が主導権を取る民主党が誕生する
と困る全官僚組織や記者クラブメディアは、政権交代の起きる直
前に小沢事務所の大久保隆規秘書をいきなり逮捕してその勢いを
止めようとしたのですが、政権交代は実現してしまったのです。
しかし、小沢総理の実現だけは水際で阻止したのです。
 民主党──旧民主党の幹部はむしろこれを喜んだのです。小沢
氏に主導権を取られないように、小沢氏を政策に関与させない幹
事長にし、経験も能力もないのに、自分たちだけで勝手気ままに
拙劣な政治を繰り返し、民主党の支持をどん底まで落とし、ドロ
にまみれさせています。
 鳩山、菅、野田というように政権をたらいまわしにして、国民
との約束である主要なマニュフェストをすべて反故にし、逆に、
マニュフェストにないTPPや消費増税に前のめりになって、国
民の強い不信を買っているのが現状です。
 12月15日の公判で何が起こったのでしょうか。
 その日、小沢弁護団の「隠しダマ」が炸裂したのです。それは
検察側の捜査報告書の「捏造」です。具体的にいうと、2010
年5月17日に保釈後の石川知裕氏を呼び出し、任意で聴取した
のです。そのときの担当検事は、田代政弘検事です。
 問題の捜査報告書は当日の調書とは別に、それを補う目的で記
述された書面であり、当時の佐久間達哉・特捜部長に提出されて
います。この報告書に「大きな捏造」があったのです。
 郷原信郎氏によると、その日の調書があるのですから、それに
加えてわざわざ捜査報告書を書いて提出することは、担当検事が
自発的に行うことはあり得ないそうです。あるとすれば、何か特
別の意図を持って、上司から指示を受けて作成する場合であると
して、郷原氏は次のように述べています。問題は、その捜査報告
書が検察審査会に提出されていることです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 特捜検察にとって極めて重大な問題、その深刻さの度合いは、
 大阪地検特捜の前田検事事件以上かもしれない。田代検事個人
 がやったことではなく、組織的な背景がある。──郷原信郎氏
―――――――――――――――――――――――――――――
                ── [財務省の正体/33]


≪画像および関連情報≫
 ●田代検事の虚偽報告の本質を隠蔽する朝日新聞社説
  ―――――――――――――――――――――――――――
  今日の朝日新聞社説は、陸山会事件で石川元秘書の捜査を担
  当した田代検事の虚偽報告のことを論評した社説であった。
  そのタイトルは『うその報告書―検察は経緯を検証せよ』と
  一見まともな題だが、何をいまさら白々しいことを書いてい
  るのか。白々しいと書いたのは、検察が虚偽の報告をするな
  んて信じられないとびっくりしたような表現であることだ。
  何を言っているんだと言いたい。詳しくは以下に掲載してお
  くので読んで頂きたいが、社説の中の表現を抜き出して批判
  する。朝日新聞の陸山会事件に対する態度は、小沢氏が代表
  選挙に出馬したとき「開いた口が塞がらない」と選挙妨害を
  したように、小沢氏は水谷建設からお金を貰ったという検察
  側のストーリーに立っていた。ことある毎に、世論調査など
  で小沢氏を攻撃してきた。しかし、ネット社会や日刊ゲンダ
  イ紙などは、検察の不当な捜査について追及してきた。今回
  裁判における検事自身の証言として、これ以上無視すると、
  マスコミとしてこれまでの責任を問われる恐れがあるので、
  ここで検察を批判して辻褄をあわせようとしていると見てい
  る。
   http://31634308.at.webry.info/201112/article_19.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

「検察にとって深刻」と郷原信郎氏.jpg
「検察にとって深刻」と郷原 信郎氏
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 財務省の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月26日

●「田代検事の虚偽の捜査報告書」(EJ第3208号)

 事実関係を整理しておきます。2010年5月17日、陸山会
事件の石川知裕被告は、東京地検特捜部から任意の取り調べを受
けたのです。そのときの担当検事は田代政弘氏だったのです。
 この取り調べは、2010年2月4日にこの事件の共同正犯の
疑いで取り調べを受けた小沢一郎氏に対する東京地検特捜部の不
起訴処分について、第5検察審査会が「起訴相当」を出したこと
を受けての再捜査の一環だったのです。
 そのとき、石川被告は作家の佐藤優氏の助言を受けて密かに、
ICレコーダーを隠し持って取り調べを受け、すべての取り調べ
のブロセスを録音したのです。しかし、再捜査の結果、東京地検
特捜部は新たな事実は出ないとして、再び小沢一郎氏に対して不
起訴処分を下したのです。
 普通このケースの再捜査の場合、検察としては取り調べはする
ものの、不起訴処分を覆す新たな証拠はないとして、同じ不起訴
処分を出すのが通例です。なぜなら、もし、検察が処分を覆して
起訴処分を出せば、検察の捜査怠慢を自ら認めることになってし
まうからです。
 しかし、小沢一郎氏を裁判にかけて有罪にする東京地検特捜部
の陰湿きわまりない計画は、このとき着実に進められていたので
す。彼らにとって秘書の大久保隆規被告、石川知裕被告、池田光
智被告への起訴・有罪判決は、あくまで小沢一郎氏を有罪にする
ための布石であったのです。あくまで最終のターゲットは小沢氏
に絞られていたのです。
 このことは、2011年12月16日の小沢公判で、証人とし
て出廷した前田恒彦元検事(実刑確定服役中)の次の証言によっ
て明らかになっています。元特捜部検事の郷原信郎氏は、次のよ
うにレポートを書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (2010年1月に東京地検特捜部から応援を要請されて大阪
 地検特捜部から上京したさい)主任検事から「この件は特捜部
 と小沢の全面戦争だ。小沢をあげられなければ特捜の負けだ」
 といわれた」「検察が不起訴と判断した資料として検審に提出
 されるもので、証拠になっていないものがある」などと証言し
 東京地検特捜部の陸山会事件捜査を厳しく批判した。証拠隠滅
 事件で実刑判決を受けて受刑中の前田元検事は、特捜部の問題
 とは利害関係がなくなっており、その供述の信用性を疑う理由
 に乏しい。そのような前田検事による、陸山会事件の捜査の内
 幕の暴露も、その捜査に一層疑念を生じさせるものとなった。
                      ──郷原信郎著
   「陸山会事件を『平成の盧溝橋事件』にしてはならない」
           2011年12月19日付レポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢氏に対するこの東京地検特捜部のこの異常な対応は、小沢
氏が過去に何かをしたというよりも、これからやると思われるこ
とについて著しく警戒し、事前にそれを葬り去る動きとしてしか
考えられないことです。
 実は、12月22日のEJで述べたように、前田元検事が証人
として出廷した前日の2011年12月15日の公判で、石川知
裕被告を取り調べた田代政弘検事は、当日の供述調書とは別に捜
査報告書を上司に提出し、そこにウソの記載があることを小沢弁
護団から指摘され、彼はそれを認めたのです。
 ここで重要なのは、供述調書というのは必ず被疑者の署名があ
るのに対して、捜査報告書は検事自身が書くものであって、被疑
者の署名などなく、単なる報告書に過ぎないものです。もちろん
それが上司への報告書に留まっているのなら問題はないのですが
2回目の第5検察審査会に捜査資料として提出され、議決に影響
を与えた疑いがあるのです。そうなると、この捜査報告書は公文
書となり、そこにウソの記載があったとすれば、田代検事は虚偽
公文書作成という犯罪を犯したことになるのです。
 それではどうして田代検事は虚偽記載を認めたのでしょうか。
それは動かぬ証拠があったからです。それが石川知裕被告が取り
調べの全プロセスを録音していたからです。
 ところが田代検事の作成した捜査報告書には次の記述があるの
ですが、石川氏の録音記録にその部分は一切なく、田代検事のウ
ソの創作であることが判明したのです。田代検事は、石川知裕被
告の証言とてして次のように書いているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私が「小沢先生は一切関係ありません」と言い張ったら、検事
 から「あなたは11万人以上の選挙民に支持されて国会議員に
 なったんでしょ。小沢一郎の秘書という理由ではなく、石川知
 裕に期待して国政に送り出したはずです。それなのに、ヤクザ
 の手下が親分を守るためにウソをつくのと同じようなことをし
 たら、選挙民を裏切ることになりますよ」。と言われたんです
 よね。これは結構効いたんですよ。堪えきれなくなって、小沢
 先生に報告し了承も得ましたって話したんですよね。
          ──2011年12月16日付、読売新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 このことからわかることは、特捜部は最初から自らの手で小沢
氏を起訴しようと考えておらず、検察審査会で2度にわたる「起
訴相当」の議決をさせようと工作したと思われるのです。
 そこで1回目の「起訴相当」が出た後で、小沢氏の関与を決定
づける証拠として田代検事の捜査報告書を検察審査会に提出して
いたのです。検察審査会の審査員は素人であり、議決をその方向
に誘導するのは不可能ではなかったのです。
 そしてそれは見事に成功し、検察審査会は2度にわたって「起
訴相当」を出し、小沢氏を強制起訴したのです。しかし、少なく
ともその2回目の議決にウソの捜査報告書が影響を与えていたと
すれば、強制起訴の裁判そのものが無意味化してしまうことにな
ります。            ── [財務省の正体/34]


≪画像および関連情報≫
 ●小沢弁護団と田代政弘検事とのやり取り
  ―――――――――――――――――――――――――――
  証人として出廷したのは「特捜部は恐ろしいところ」と石川
  議員に迫ったとされる田代政弘検事。焦点になったのは、昨
  年5月17日に、石川議員がICレコーダーで隠し録音した
  取り調べの内容だった。田代検事は、その内容をまとめた報
  告書に、石川議員が小沢元代表の関与を認めた理由を「11
  万人以上の有権者に選ばれた国会議員が、やくざの手下が親
  分を守るようなうそをついてはいけない」と言われたのが効
  いたと供述した、と記した。ところが隠し録音にこのやりと
  りはなかった。「内容虚偽の報告書を作ったのでは」と問わ
  れた田代検事は「思い出しながら作成したので記憶が混同し
  た」と釈明。この報告書が提出され、小沢元代表を起訴相当
  とした検察審査会への影響を指摘されると、「可能性は(あ
  る)」と、認めた。
  http://blog.goo.ne.jp/kanayame_47/e/d97c23c47744fe3f127d2f759c2b7e2f
  ―――――――――――――――――――――――――――

虚偽捜査報告書を作成した田代検事.jpg
虚偽捜査報告書を作成した田代検事
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2011年12月27日

●「国政調査権を使って検察を調査せよ」(EJ第3209号)

 小沢一郎氏に対して繰り返し、執拗に行われる特捜検察の捜査
は、2009年からはじまっています。それまではそういうこと
はいっさい起きていないのです。世間の評判とは逆に小沢氏は、
政治資金の扱いについて非常に厳しい管理をしており、他の政治
家以上にきちんとしている政治家であるからです。
 ところで2009年といえば、小沢氏が民主党の代表として民
主党を着々とパワーアップさせ、時の自民党の麻生内閣が衆院選
挙に踏み切れば、政権交代は間違いないことは誰の目にも明らか
になっていたのです。
 既に参議院の方は過半数には達していなかったものの、他党と
の連携で与党を逆転していたのです。したがって、もし民主党が
衆院選で勝利すれば政権交代は実現し、小沢一郎氏が総理大臣に
なることは間違いなかったのです。
 そういうときに、小沢氏に対して検察は襲いかかってきたので
す。それも選挙がいつあるかわからない大事な時期に、小沢事務
所の筆頭秘書の大久保隆規氏をいきなり逮捕するという乱暴なや
り方で「小沢バッシング」がはじめられたのです。
 その後も検察によるバッシングは執拗に続けられ、大久保氏だ
けでなく、石川、池田両氏も逮捕・起訴される事態になり、遂に
小沢氏は幹事長を辞任せざるを得なくなったのです。さらに3人
の秘書に不可解きわまる有罪判決が出るとともに小沢氏自身も検
察審査会の2度の起訴相当議決によって強制起訴され、刑事被告
人の立場に置かれています。
 少し異常だとは思いませんか。ひたすら検察は小沢氏が政権与
党の民主党で復権し、総理になることを何よりも恐れており、か
なり乱暴な手法で、それを阻止しようとしています。その結果、
小沢氏の評判は最悪になっています。
 しかし、これほどやっても小沢氏は依然としてパワフルであり
政治において強い影響力を持っています。小沢氏は明治維新以来
日本を支配してきた体制を根こそぎ壊し、国のかたちを変えるこ
とを政治目標としている政治家です。その点において大阪のかた
ちを根こそぎ変えようとする橋下徹大阪市長に似ているところが
あります。
 ところがここにきて検察の手法に批判が集まり、多くのボロが
出てきています。それが前田恒彦元検事の証拠隠しであり、前号
で取り上げた田代政弘検事の捜査報告書の捏造です。とくに田代
検事の虚偽捜査報告書は、それが強制起訴の前提となる2度の起
訴相当議決に強い影響を与えたことは間違いないことであり、こ
のまま裁判を続けること自体が、ほとんど意味を失っていると思
います。裁判を中止すべきであります。
 この田代検事の捜査報告書の虚偽記載は、公文書偽造に該当し
罪になる可能性があります。これについて、郷原信郎氏は次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 虚偽公文書作成という犯罪は形式上犯罪に該当する行為であっ
 ても、可罰性の幅は非常に広い。公文書の内容に事実に反する
 点があったとしても、それが官公庁内部に止まるものであれば
 実質的な処罰価値はない場合も多い。しかし、本件のようにそ
 の報告書が司法作用に重大な影響を及ぼすというのは、最も悪
 質・重大な虚偽公文書作成の事実と言えよう。(中略)被疑者
 の供述を内容とする捜査報告書をめぐる今回の問題は、検察官
 の供述調書をめぐる問題とは性格を異にする。供述者の署名が
 あって初めて書面として成立する供述調書とは異なり、捜査報
 告書は、検察官側が一方的に作成できる書面だ。あくまで捜査
 の状況を報告するための文書であり、その分、被疑者の供述内
 容を立証する証拠としての価値は低い。一般の刑事事件におい
 ては、捜査報告書によって被疑者の供述が立証され事実認定が
 行われることはほとんどない。
   「陸山会事件を『平成の盧溝橋事件』にしてはならない」
   2011年12月19日付郷原信郎氏作成のレポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
 この虚偽の捜査報告書は、小沢氏との共謀を認める石川被告の
供述調書(陸山会裁判では任意性がないとして証拠不採用)と一
緒に起訴相当議決による再捜査資料として検察審査会に提出され
検察審査会の判断の根拠になったことは明らかです。したがって
最初から検察審査会の審査員を騙す目的で捜査報告書が作成され
小沢氏を強制起訴するとともに有罪に持ち込む根拠のひとつとし
て作成されたとすると、前田事件以上の検察の大汚点になり、東
京地検特捜部の存亡にかかわる大問題になります。
 もうひとつ大きな問題は、この捜査報告書が田代検事の意思で
作成されたものではなく、上司の指示によって作成されたもので
はないかという疑いがあることです。これについて、郷原信郎氏
は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに重大な問題は、この虚偽捜査報告書の作成が意図的なも
 のであったとすれば、それが田代検事個人の判断で行われたも
 のとは考えにくいということだ。(中略)石川氏の供述調書の
 信用性を補強する虚偽の捜査報告書を作成してまで、検察審査
 会に小沢氏の犯罪事実を認めさせようとする行動は、田代検事
 個人の意思によって行われたとは考えられない。検察組織全体
 の方針に反して、検察審査会の議決を検察の処分を覆す方向に
 向け、それによって小沢氏を政治的に葬ろうと考える一部の集
 団が検察組織内部に存在していて、田代検事はその意向に従っ
 て動いたとしか考えられない。
   2011年12月19日付郷原信郎氏作成のレポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
 今のところ検察は田代検事の捜査報告書の虚偽記載に関しては
何の動きも見せていません。しかし、これでこの裁判の方向は見
えたといえます。        ── [財務省の正体/35]


≪画像および関連情報≫
 ●田中良紹の「国会探検」ブログより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  検察審査会によって強制起訴された小沢一郎氏の裁判で、陸
  山会事件を担当した二人の検事が重大な証言を行なった。そ
  の証言を聞いて、検察組織をいったん解体して作り直さなけ
  ればならないと痛感した。この裁判が終ったら、結論が有罪
  だろうが無罪だろうが、立法府は国政調査権に基いて検察組
  織を徹底調査し、民主主義国家にふさわしい捜査機関に作り
  変える必要がある。日本が民主主義国家たらんとすれば、そ
  れは立法府の当然の使命である。一昨年の3月に私は『予言
  が現実になった』というブログを書いた。小沢氏の大久保隆
  規公設第一秘書が西松建設事件で突然東京地検に逮捕された
  からである。07年の参議院選挙に自民党が惨敗した時、私
  は「自民党は民主党の小沢代表をターゲットにスキャンダル
  を暴露するだろう」と予言した。それが私の知る自民党のや
  り方であり、それ以外に政権交代を阻止する手立てはないか
  らである。その予言が現実になったのである。
http://www.the-journal.jp/contents/kokkai/2011/12/post_285.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

田中良紹氏.jpg
田中 良紹氏


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2011年12月28日

●「解体の危機に瀕する特捜検察」(EJ第3210号)

 本号は2011年最後のEJになります。2012年は1月4
日から配信します。
 一人の政治家──それも与党の有力な政治家である小沢一郎氏
を失脚させるために国家権力の象徴である特捜検察が総力を上げ
て挑んでから2年半が経過しようとしています。
 これは検察にとって非常にリスキーな賭けです。失敗すれば、
組織の崩壊に繋がるからです。もし、小沢氏がこの裁判で無罪に
なって復権すると、おそらく国政調査権を使って検察組織を徹底
的に調査し、民主国家にふさわしい捜査機関に作り換えるぐらい
の荒療治はやると思われます。
 確かに小沢事務所の秘書は全員起訴され、有罪の判決を受けて
います。小沢氏自身も検察審査会の強制起訴による裁判の被告に
なっています。しかし、ここまでの裁判の経過は検察側にとって
きわめて不利になりつつあり、現在、検察組織はその崩壊の一歩
手前まで追い詰められているといっても過言ではないのです。
 2009年3月3日に小沢事務所の第一秘書である大久保隆規
氏がいきなり逮捕されたとき、小沢氏のことをよく知る人たちは
「これは自民党の仕業だな」と考えたのです。自民党にとって、
小沢民主党の勢いを止めるには、そのぐらいしか有効な方法が思
い浮かばなかったからです。
 しかし、当時の自民党に検察を動かして小沢氏にゆさぶりをか
けるような力は既になかったのです。むしろ官僚組織の危機感が
そうさせたのだと思います。なぜなら、小沢氏は「政治主導で官
僚中心の政治を国民の手に取り戻し、国のかたちを変える」こと
を政治目標にしている政治家だからです。それは小沢氏の著書や
演説、テレビなどでの話において、明確に打ち出されています。
したがって、小沢氏は官僚組織にとって、きわめてリスキーな政
治家のひとりなのです。橋下大阪市長も同様の存在です。
 「その小沢が天下を取り、総理になったら・・」──官僚組織
が危機感を持つのも当然です。小沢氏なら、ひ弱い他の民主党の
幹部と違って腕力があり、本当にやりかねないからです。「壊し
屋小沢」の異名がそれを何よりも物語っています。
 とんでもないことですが、特捜検察は一度逮捕すればたとえそ
の人が真犯人でなくても、有罪にできるノウハウを持っているの
です。犯罪のストーリーを検察が組み立て、そのストーリーを補
強するものは証拠として採用するが、それと矛盾するものはたと
えそれが真実であっても証拠にしないのです。これは12月16
日の小沢公判で、証人として出廷した前田恒彦元検事が明確にそ
う証言しているのです。これはとんでもないことです。
 それに裁判所も、とくに特捜検察の組み立てたストーリーにつ
いては、ほぼそのまま受け入れて有罪判決を出しており、検察と
裁判所は繋がっているといっても過言ではないのです。その典型
が陸山会裁判の3元秘書の有罪判決です。証拠はなくても裁判官
の推認によって全員有罪にされてしまっています。こうなると、
日本は冤罪地獄に陥ってしまうことになります。とにかく逮捕さ
れたら、一巻の終りなのです。どこかの独裁国家と何も変わらな
いのです。検察ファッショそのものです。
 小沢氏は政治とカネの元凶のようにいわれていますが、少なく
とも私の調べた限りにおいては、そういう疑惑はまったく存在し
ないのです。これは、大久保、石川、池田の元秘書3人を逮捕し
て取り調べた検察が一番よく知っているはずです。
 小沢氏もいうように、国家権力が2年9ヶ月もかけて徹底的に
調べ上げても何も出てこないのですから、それはないというのが
正しいのです。だから、検察は小沢氏を不起訴にしたのです。そ
うせざるを得なかったのです。
 むしろ、特捜検察の大きな成果は、小沢氏に「稀代の悪徳政治
家」のレッテルを貼ったことです。何しろ世論調査をすれば80
%の人が小沢氏に否定的な判定をするのです。小沢氏自身が何も
していなくても「やっているに決まっている。うまく隠している
だけだ」として、小沢氏を一方的に批判します。小沢氏が何も反
論しないので、そう信じている人が少なからずいます。
 これは、記者クラブメディアに大きな責任があります。もし、
裁判で小沢氏が無罪になり、復権すると記者クラブは今度こそ廃
止され、報道メディア各社は厳しい報復を受けるはずです。彼ら
はまさにウォルフレン氏のいう「人物破壊」を小沢氏に行ってお
り、メディアとしては絶対にやってはならないことです。もし、
小沢氏に名誉毀損で訴えられたら、どうするのでしょうか。
 既に述べたように、特捜検察は、小沢氏を起訴できないと初期
の段階で判断していたと思われます。そこで検察審査会を使って
小沢氏を強制起訴に持ち込む戦略を立てたものと思われます。小
沢氏に不起訴処分が出たとき、テレビ朝日の「サンデープロジェ
クト」(当時)で、有力な検察ОBの宗像紀夫氏が、「今度は検
察審査会で小沢氏は裁かれる」というような趣旨の発言をしてい
たのを私は聞いています。
 問題はいかにして2回の起訴相当を出させるかです。それは検
察にとってそれほど難しくないのです。というのは、検察は検察
審査会の審査員に対し、「不起訴にした理由」について資料を提
出して説明する機会が与えられるからです。これは、本音では小
沢氏を起訴したい検察にとって絶好の機会です。
 その説明のさい検察は、あくまで小沢氏は共謀していると思う
が、諸政治判断で起訴できないというニュアンスを匂わせればよ
いのです。さらに正式な証拠ではないが、付属資料として田代検
事の作成した虚偽の捜査報告書を提出すれば、素人の審査員でも
あり、本当だと思ってしまうでしょう。つまり、検察審査会の制
度を特捜検察は悪用して、小沢氏を強制起訴させたのです。
 まして検察のリーク情報に基づく記者クラブメディアの報道で
「小沢=悪人」のイメージが定着しているので、小沢氏に起訴相
当議決を出すのは簡単なことです。あなたはこのような特捜検察
を許せますか。         ── [財務省の正体/36]


≪画像および関連情報≫
 ●小沢弁護団、虚偽捜査報告書を証拠申請へ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  資金管理団体「陸山会」の土地取引を巡り政治資金規正法違
  反(虚偽記入)に問われた小沢一郎民主党元代表(69)の
  公判で、当時の東京地検特捜部検事が作成した捜査報告書に
  虚偽があった事実が発覚した問題で、小沢被告の弁護側は、
  来週、この報告書を根拠にした東京第5検察審査会の起訴議
  決は無効だとして、報告書を東京地裁に証拠申請することを
  決めた。同審査会に提出された捜査資料のリストの開示も求
  め、報告書などが起訴議決に与えた影響を明らかにしたい考
  えだ。この捜査報告書は、元特捜部の田代政弘検事(44)
  が昨年5月、保釈された同会元事務担当者・石川知裕衆院議
  員(38)の再聴取後に作成。昨年1月の勾留中の取り調べ
  で小沢被告の関与を認めた理由として、石川被告が「検事か
  ら、ヤクザの手下が親分をかばうようだと言われたことが効
  いた」と述べたと記載している。
           ──2011年12月24日/読売新聞
  ―――――――――――――――――――――――――――

検察庁.jpg
検察庁
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2012年01月04日

●「財務省のパペット/野田政権」(EJ第3211号)

 本号は本年はじめてのEJです。今年もEJをよろしくお願い
いたします。野田政権は昨年末の30日に実施時期を半年先送り
して、「社会保障と税の一体改革」の素案をまとめています。ど
うやらこの半年先送り案は、早い段階から野田首相は持っていた
ようです。おそらく財務省の勝財務事務次官の入れ知恵であると
思われます。
 この消費増税の半年先送りを受けて、財務省の指示を受けた各
御用学者たちは、一斉にもっともらしいコメントをメディアに発
信しています。新聞も「半年も遅らせて大丈夫か」といったトー
ンで「増税やむなし」の世論づくりをはじめています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費増税の時期はこれ以上先送りできない。政府・民主党が半
 年遅らせたことは財政収支改善の遅れにつながり、軽く考える
 べきではない。与野党協議では早急に合意してほしい。不調に
 終われば、市場の失望につながり、長期金利の上昇を呼び込む
 リスクもある。         ──土居丈朗・慶応大教授
          2011年12月31日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 もともと日本の政治体制は、明治維新のときから官僚──とく
に国のカネと国税庁を握る財務省(大蔵省)の力が突出しており
事実上日本の政治を支配しているといえます。
 しかも彼らは、内閣のバックにいて極力表に姿を現さず、自分
たちにとって不利益なことは徹底的に反対し、国益ではなくあく
まで省益を考えて行動するのです。しかし、政治家としては政策
を進めるには予算がないとできないので、嫌でも財務省には頼ら
ざるを得ないのです。
 自民党政権の時代は長かったので、その間に政治家と官僚の棲
み分けができていたのです。どのように役割を分担するかが決め
られていたのです。したがって、自民党では公務員改革などの官
僚の嫌がることは、絶対にできないのです。
 その代わり経験や知識が乏しい政治家がいきなり大臣になって
も少なくとも国会の答弁などで恥をかくことがないよう十分サポ
ートしてくれるのです。実質的には官僚組織が実権を握っている
ものの、表面上はあくまで政治家を立てるというシステムという
か体制が自民党政権時代ではでき上がっていたのです。
 しかし、小沢一郎元代表が率いる民主党は、そういう長年にわ
たる官僚中心体制を根こそぎ壊して改革し、政治家中心の体制を
構築することを目標に掲げて選挙を勝ち進んだのです。当然のこ
とながら、官僚組織は強い危機感を抱きますが、彼らは民主党の
本質を正確に見抜いていたのです。「民主党は小沢さえ潰せば大
丈夫である」と。このようにして官僚組織による執拗にしてすさ
まじい小沢一郎氏への「人物破壊」がはじまり、それが2012
年を迎えてもまだ続いているのです。
 白鴎大学法学部教授で、テレビ朝日の「TVタックル」などに
もよく出演する福岡政行氏が近著で、早くからポスト菅の筆頭は
「財務省のパペット政権には野田佳彦が最適」と予測していたと
述べたうえで、次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 改めて書いておく必要もないはずだが、パペットとは操り人形
 のことで、パペット政権とは「傀儡政権」を意味する。しかし
 野田政権樹立に向けて財務省が動いていた7月、霞ヶ関の住民
 の一人から、ここでいうパペットとはそういう意味ではないと
 聞かされた。「福岡先生、パペットとは操り人形のことではあ
 りません。財務省に言わせれば、パーのペットということです
 から」。アルコールが入っていたために口が滑ったともいえる
 のだろうが、あまりにも痛烈な言葉に愕然とさせられた。
        ──福岡政行著『財務省解体論』/角川書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 「パーのペット」──これが財務官僚の野田佳彦首相に対する
評価なのです。心の底では馬鹿にしていながら、彼らにとって悲
願でもある消費増税を実現させる立役者として野田氏をかついで
いるのです。それによって民主党が次の選挙に負けようと、彼ら
にとってそれはどうでもよいことなのです。
 このように、内閣のバックに隠れて政権を操り、自らの省益を
豊かにする財務省──彼らには選挙もなく、自らが内閣に推した
政策が失敗しても責任を取らず、公務員の特権でクビになること
もないのです。このような連中に国を託してよいのでしょうか。
 今回の消費増税にしても、表向きは年金などの社会保障の財源
確保であるといいながら、年金に回る分はたったの1%分に過ぎ
ないのです。そもそも現在の国民の年金制度が破綻に瀕している
原因は、年金受給者が今後激増することだけではないのです。厚
労省による年金制度の管理自体がなっていないことにあります。
資金運用として無駄な施設を建築して大損をしたり、きちんと保
険料を払っているのに年金がもらえない消えた年金など、そのず
さんな管理によって巨額の資金を失っているのです。
 しかし、彼らの年金である共済年金には手をつけず、大事に管
理しているのです。国民の年金は、自分の年金でないからと、勝
手気ままな浪費をしておきながら、それによって制度が破綻しそ
うだから消費税を上げるとは何事でしょうか。彼らがこういうこ
とを平気でいえるのは、公務員が国民とは違う年金制度を有して
いるからです。
 とにかくこうした官僚中心の政治体制を打破し、国を作り換え
る必要があります。それを政治目標として掲げ、政権交代をした
のが民主党ではないのですか。それが手もなく財務官僚に取り込
まれ、目が見えなくなっている民主党──もはやこの政党の明日
はないし、次の選挙できっと消えてしまうでしょう。
 問題は財務省が後押しする野田政権が消費増税を実現できるか
どうかです。前途は多難ですが、自民党に強い財務省のこと、成
立の可能性は高いのです。    ── [財務省の正体/37]


≪画像および関連情報≫
 ●消費税10%発言の重み/福岡正行氏の著作から
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2010年6月、総理大臣になった菅直人は記者会見で「自
  民党が提案する消費税10%案をひとつの参考にする」と、
  突然の発言をしたことで物議をかもした。財政再建の観点で
  日本の借金状況や財政状況を考えたなら、消費税を10%に
  引き上げるというのは自然な発想ではある。自民党も早くか
  らそれを訴えていたわけだが、自民党総裁の谷垣禎一も財務
  大臣の経験者であり、財務省の意向を強く体現するタイプの
  人間であるのは確かだ。ここで菅直人がこのような発言をし
  たことにしても、〃財務省による作・演出″だったといわれ
  ている。それはもちろん、菅内閣を長期政権として、そのあ
  いだに消費税増税を実現させることを狙ってのことである。
  それから間もない7月、民主党は参院選で敗北した。一人区
  では8勝21敗という惨憺たる結果になり、得られた議席は
  わずか44議席である。199人(平成10)年の参院選で
  自民党が惨敗した際、当時の総理大臣、橋本龍太郎は即座に
  退陣したが、そのときの議席数が、皮肉なことに同じ44議
  席だった。民主党は2009年の衆院選で308議席を獲得
  して政権を獲り、菅内閣が発足した2010年6月にも60
  %台の支持率があったが、わずか1か月でこれだけ国民の信
  頼を失ってしまった。原因はひとつだけではないものの、消
  費税10%発言はそれほどの爆弾だったわけである。
        ──福岡政行著『財務省解体論』/角川書店刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

福岡政行著/「財務省解体論」.jpg
福岡 政行著/「財務省解体論」
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2012年01月05日

●「財務省のプロガパンダを斬る」(EJ第3212号)

 「プロパガンダ」という言葉をご存知でしょうか。
 「プロパガンダ」とは、特定の思想・世論・意識・行動へ誘導
する宣伝行為のことであり、きわめて政治的行為です。問題なの
は、そこで行われる宣伝の内容には必ずしも「本当でない」こと
があっても構わないという考え方があることです。
 今回、野田政権が消費増税の実現に向けてやってきたことにつ
いても数々のプロバガンダが行われているのです。問題はそれを
表面上は野田内閣がやっているのですが、実際はバックにいる財
務省が工作していることです。この財務省がやっているプロパガ
ンダをいくつか取り上げて、ひとつずつていねいに検証していく
ことにします。
 財務省がホームページまで使って一番強く国民に訴えているプ
ロパガンダは、「国の財政を家計にたとえる」ことです。具体的
には、次のようなかたちの訴えになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在日本の財政は40万円しか収入がないのに借金によって、
 90万円を支出する生活をしている家庭のようなものである。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この訴えは非常に分かりやすいので、メディアが好んで取り上
げており、テレビのコメンテーターを含めて多くの識者が使って
います。しかし、基本的には「国の財政を家計に例える」のは、
間違っているのです。
 これは財政悪化を火の車の家計に置き換えているので、国民に
対して「増税しないと財政が破綻する」という恐怖感を植え付け
るのに効果的なプロパガンダになっています。
 産経新聞社編集委員兼論説委員の田村秀男氏は、これについて
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 こうしたたとえ話が間違っているのは、国の財政というものは
 家計と違って主婦が節約すればするほど黒字が増えるようには
 できていないということだ。経済を刺激するような積極的な財
 政政策を行なうことで税収を増やすこともできるという意味で
 国家は家計よりもむしろ企業に近い存在である。しかも、国と
 家計が決定的に異なるのは、通貨の発行権を持っていることで
 ある。国は中央銀行による金融政策を行使することで、「借金
 が雪だるま式に増えないように」金利水準や物価上昇率などを
 コントロールする手段を持っている。「借金が雪だるま式に」
 というプロパガンダの裏には、徴税権という自らの権力を失い
 たくない財務官僚の思惑が透けて見える。  ──田村秀男著
        『財務省「オオカミ少年」論』/産経新聞出版
―――――――――――――――――――――――――――――
 40万円しか収入がないのに、借金によって90万円を支出す
る生活の家庭──常識的に考えてもこのような家庭は存在しない
はずです。そのような家庭はすぐ破綻しており、だからこそプロ
パガンダとして利用価値があるのです。
 しかし、国の場合は課税権や通貨の発行権を有しており、そう
いうことがあっても不思議ではないし、直ちに破綻にはならない
のです。解決する方法が多くあるからです。
 よく「財政破綻」といいますが、どういう状況を指して財政破
綻というのでしょうか。昨日のEJで取り上げた土居丈朗慶応大
教授の言葉を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府・民主党が半年遅らせたことは財政収支改善の遅れにつな
 がり、軽く考えるべきではない。与野党協議では早急に合意し
 てほしい。不調に終われば、市場の失望につながり、長期金利
 の上昇を呼び込むリスクもある。  ──土居丈朗慶応大教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中で「長期金利を呼び込むリスク」とありますが、これは
「国債の暴落」を意味しています。長期金利というのは10年物
国債の金利のことです。現在日本国債の長期金利は1%台ですが
もし日本国債が土居教授のいうように市場の信認を失って、一挙
に5%になったとすると、国債価格は25%以上低下する──こ
れを国債の暴落というのです。
 つまり、金利を高くしないと国債が売れないので、長期金利が
上がる──つまり、国債価格が下がるのです。また、金利が上が
ると日本のように国債依存度が高い国の場合、利払いが一挙に高
額になり、支払うのが困難になる可能性があります。
 しかし、これで財政破綻かというと必ずしもそうとはいえない
のです。なぜなら、仮に25%の国債価格低下を暴落というなら
日本経済が回復すると、この程度の暴落はいくらでも起こるから
です。もし、日本経済が名目成長率で4〜5%になると
国債金利も4〜5%になるのは自然なことであるからです。もっ
ともこの場合は、GDPが増えて税収が上がるので、財政問題は
改善しているのです。
 現在日本経済は依然としてデフレ状態にあり、名目GDPがゼ
ロないし、マイナスになっているので、少しでも長期金利が上が
ると大変なことになると敏感に考え過ぎる人が多いのです。よく
長期金利が7%になると危険水域といわれますが、仮にそうなっ
たとしても打つべき手段があり、直ちに財政が破綻というわけで
はないのです。
 すなわち、長期金利が上昇してそれによって利払いが困難にな
ったとしても、国には徴税権や通貨の発行権を有しており、それ
を使えば、直ちに財政破綻ということにならないのです。
 このように「財政破綻」にしても「国債暴落」にしても「国の
借金(債務残高)」にしても、いずれも定義もしないで使ってい
ます。プロパガンダを仕掛ける方は、それぞれ自分たちにとって
都合の良い数字を使っているのです。だから、プロガパンダとい
うのです。騙されないようよく事実を調べる必要があります。
                ── [財務省の正体/38]


≪画像および関連情報≫
 ●日本が財政破綻するって本当なの?/10.11.17
  ―――――――――――――――――――――――――――
  今の状態で増税は、ぜーーーーーーたいダメ!デフレで増税
  したら経済が悪化するだけ。そもそもIMFというのは国際
  ヤクザの金貸し屋です。IMFの狙いは日本を崩壊させて日
  本の財産を買い漁りたいだけです。ただのヤクザのゴロツキ
  です。とりあえず日銀がジャブジャブ円を刷ればいいんだけ
  ど日銀や財務省はFRBやIMFの手先でしかないから何も
  しない訳なんです。増税は特別会計を0ベースから見直して
  インフレにして天下り無くして無駄がないと判断されてから
  だね。日本が財政破綻するなんてアホらしい番組を流し無知
  な国民を誘導(笑)。公務員の給与削減した場合にはどうな
  るか理解出来ない奴が書き込みしているので反論する。そも
  そも公務員は給与は決して高いわけではない。景気がいい時
  には民間企業が公務員よりもはるかにいい。今は景気が悪い
  から民間企業の給料が落ち込んでいるだけなのだ。公務員は
  民間企業が潤い税収が上がり財政が健全になり、やっと最後
  に給料アップする〔簡単要約するとこんな仕組みです〕、そ
  もそも民間企業よりも安い給料なのだから安定した職業でな
  ければ誰も公務員なんかになるなんて考えない。そんなこと
  も知らないで公務員の給料カットとか吹聴すると、この国は
  益々有能な人員が育たずに無能集団の溜まり場になってしま
  う。そんなことにも理解出来ずに無責任な事をいうのはやめ
  よう。公務員が悪いのではない、政治家や国民の無関心無責
  任無知がいけないのだ。このようないい加減な経済評論番組
  もある。政治家だって馬鹿な輩が多い。しかし、そんな政治
  家を国会におくっているのは我々国民である。
        http://www.youtube.com/watch?v=R9pBDwS2sJs
  ―――――――――――――――――――――――――――

年頭所感を述べる野田首相.jpg
年頭所感を述べる野田首相
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2012年01月06日

●「野田首相はもっと経済を勉強せよ」(EJ第3213号)

 国民の無知に付け込んでデタラメの経済理論で増税の必要性を
強調し、何が何でも消費税を上げる──まるで昔の悪代官そのも
の。野田首相は完全に財務省に洗脳され、増税を不退転の決意で
やり抜くことが自分の使命だと思い込んでいます。その程度の人
物なのです。菅なにがしと何も変わらないのです。
 今のところ野党は反対の姿勢をとっていますが、自民党は最終
的には増税に合意すると考えています。なぜなら、自民党の谷垣
総裁は財務大臣を経験しており、既に洗脳されているからです。
増税法案を通すことを前提とする「話し合い解散」でしょう。し
かしここで増税が行われると、日本経済の致命傷になり、財政再
建どころか、歯止めのない増税地獄に陥ってしまいます。
 私は頻繁に書店に通い、日本の経済状況を正確に掴んでいると
思われる識者の本を慎重に選んで読んでいます。それらの所説は
十分納得できるものが多いですが、そういう識者はテレビなどに
は登場しないのです。財務省がテレビ局に圧力をかけ、そういう
人をテレビに出さないようにしているのでしょう。
 財務省は国のカネを握っているので広告の出稿などで、メディ
アに圧力をかけるぐらい何でもないのです。2〜3月前に出た政
府の増税キャンペーンの新聞一面広告などをちらつかせれば、メ
ディアはしたがいます。そのため、テレビに頻繁に出演し、新聞
や雑誌に所説をよく発表している識者は、ほとんど財務省の息が
かかっているといっても過言ではないでしょう。
 そのよくテレビに出演する一人である土居丈朗慶応義塾大学教
授の言葉の中に次の一節があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (もし消費増税の野党との合意が)不調に終われば、市場の失
 望につながり、長期金利の上昇を呼び込むリスクもある。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中の「市場の失望」とは何でしょうか。
 それは「増税が行われない」ことに対する失望であり、そんな
ことが起こると、日本国債はさらに格下げされ、長期金利が上昇
して国債価格が暴落し、財政が破綻(デフォルト)する──こう
いうことをいいたいのだと思います。
 本当にそうなったでしょうか。ここから先は、経済評論家の三
橋貴明氏の所説を基にして書いていきます。
 日本国債は米国債よりもさらに低い位置づけであり、日本国債
がデフォルトする確率は米国債よりも高いといわれています。し
かし、過去に何度か行われた日本国債の格下げでも、長期金利が
少し上昇すると、一斉に国債は買われ、わずかの間に長期金利は
今までよりも下がってしまうのです。
 米国債の場合も同様です。2011年8月5日にS&Pが米国
債を最高ランクのAAAからAA+に引き下げたのですが、長期
金利はかえって低下しています。なぜ格下げされたかですが、米
政府の債務上限引き上げ問題をめぐる政治的ゴタゴタがあったか
らです。これを受けて日本のメディアの一部は、米国のデフォル
トにまで言及したところがあるのですが、暴落どころか長期金利
は低下しているのです。
 なぜ、そんなことになるのかというと、これはごく当たり前の
ことなのです。ここに2002年に財務省がムーディィーズやS
&Pなどの格付け機関に対して出した意見書があります。そこに
は次のように書かれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えら
 れない。   ──財務省「外国格付け会社宛意見書要旨」
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、デフォルトなど考えられないかというと、国には「徴税
権」や「通貨発行権」があるからです。自国通貨建て国債価格が
下落し、長期金利が上昇した場合は、中央銀行がその国債の買い
取りを行えばよいだけの話だからです。
 もちろん中央銀行による国債の買い取りを何回も行うと、イン
フレになるリスクはありますが、日本や米国など先進国の中央銀
行は、そういうリスクに陥らないよう適切な手を打つので、安全
であるといえます。まして日本はデフレなのです。
 それにしても財務省は、国民には「国債暴落」や「財政破綻」
と脅すくせに、外部に対してはこのようなまともな意見書を出し
ているのです。経済に関する国民の無知に付け込んで煽っている
のです。現政府首脳も完全に騙されているといえます。
 ここでひとつ覚えておくべき言葉があります。それは「ソブリ
ン債」という言葉です。ソブリン債とは、各国の政府関係機関が
発行し、保証している債券、つまり国債のことをいいます。ソブ
リン債は、国や政府関係機関の信用を引当てとしているため、と
くにOACD加盟国などのものは信用格付けが高く、したがって
利率が低いのです。
 しかし、同じソブリン債でもギリシャ、ポルトガル、アイルラ
ンドの場合は、土居教授のいう通り、格付け機関が格下げするた
びに長期金利は上昇し、国債価格は下落して、危機が深刻化して
いったのです。しかし、土居教授は、日米のような先進国のソブ
リン債はそうなっていないという事実を十分知りながら、国民に
は「ギリシャのようになるぞ!」といっているのです。
 かつて菅前首相が、2010年の参院選で「ギリシャのように
なってもいいのか」と絶叫していましたが、ものの見事に騙され
てしまっています。野田首相や安住財務相も同様です。責任ある
地位の人は、もう少し経済を勉強して欲しいものです。
 しかし、日本の経済の状況が問題がないといっているのではな
いのです。大きな深刻な問題をかかえています。しかし、その問
題は、増税などして緊縮財政を行うと、さらに深刻な事態になっ
てしまうのです。問題の本質を知りながら、増税が解決策である
と思わせている財務省やそれに盲従する識者は「売国奴」といわ
れても仕方がないでしょう。   ── [財務省の正体/39]


≪画像および関連情報≫
 ●三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは
  2011年8月24日(菅内閣時)、日本国債の格付けを従
  来の「Aa2」から「Aa3」に1段階引き下げたと発表し
  た。政局の不安定化で財政赤字の削減が困難と判断したため
  で、同社による日本国債の格下げは約9年3カ月ぶり。今回
  の格下げは同社以外の大手格付け会社による格下げを誘発す
  る懸念が強く、欧米に加え日本の財政不安が世界の金融市場
  の混乱に拍車をかけるリスクもある。Aa3は21段階の格
  付けのうち上から4番目で、中国などと同じ。欧米の大手格
  付け会社が、東日本大震災後に日本国債を格下げするのは初
  めてとなる。
  http://www.gci-klug.jp/mitsuhashi/2011/09/07/013702.php
  ―――――――――――――――――――――――――――

三橋貴明氏.jpg
三橋 貴明氏
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2012年01月10日

●「歴史に学ばない野田政権と財務省」(EJ第3214号)

 日本の財政は大きな問題をかかえています。なぜなら、税収で
その年の歳出を賄えない状態にあるからです。毎年赤字国債で穴
埋めをしなければならず、財政の健全化を図る必要があります。
しかし、政府がいうようにきわめて危機的であり、デフォルトの
危険性があるかといわれると、必ずしもそうであるとはいえない
のです。解決する方法はあるからです。
 現在、野田政権は「消費増税」でそれを解決しようとしている
のですが、実はそれこそ最悪の方法なのです。どうして最悪なの
でしょうか。これについて考えてみることにします。
 これについては、いろいろな所説があるのですが、経済評論家
の三橋貴明氏の解説が大変わかりやすいと思います。三橋氏の次
の近著が参考になります。同書をベースとして、以下に解説をし
ます。詳細は本を読んでいただきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
              三橋貴明著/徳間書店刊
    『2012年/大恐慌に沈む世界/甦る日本』
―――――――――――――――――――――――――――――
 添付ファイルを見てください。これは主要国の政府の負債残高
の推移を示したものです。これを見ると、日本の政府負債残高は
少なくともここ数年は急激には増えているわけではないことがわ
かると思います。
 このグラフは「2000年=1」としたとき、政府の負債残高
がどのくらい増えているかを示しています。これによると、日本
の政府負債残高は、2000年対比で1.5 倍になっていますが
これはイギリスやフランスよりも低く、イタリアやドイツとほぼ
同じ増加率であるといえます。
 これに対して韓国や中国の政府負債残高は激増しています。と
くに中国の伸びは群を抜いています。しかし、誰も中国や韓国は
財政破綻するとはいいません。どうしてでしょうか。
 それは、中国や韓国は政府負債残高が激増しているものの、G
DPもその分だけ大きく拡大しているからです。経済の規模が拡
大していれば、政府負債残高が増えてもそれは当然ですし、何ら
問題はないからです。
 そもそも資本主義は、国の経済主体──企業、家計、政府など
が借金を増やして投資を拡大していくことが、成長の基本なので
す。したがって、負債残高の増大に焦点を当てて批判することは
資本主義における成長そのものを否定することになります。とこ
ろが現在、これを意図的にやっているのがほかならぬ日本の財務
省なのです。
 添付ファイルにも見るように、日本の政府負債残高の伸びは抑
制的です。しかし、対GDP比率でみると200%を超えており
年々悪化しつつあります。そのため、財務省は対GDP比率の悪
化を強調し、それが問題であるとして、増税に結び付けようとし
ているのです。
 それでは、対GDP比率はなぜ悪化しているのでしょうか。
 いうまでもなく、GDPが伸びていないことが原因です。いつ
から伸びていないのかというと、1997年から2011年まで
の15年間にわたってその伸びはゼロなのです。
 その15年間の名目GDPを示しておきます。スタートの19
97年は橋本政権が消費税を3%から5%に2%上げた年なので
す。その結果が15年間の経済低迷につながったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪名目GDPの推移≫
 97年 516兆円 橋本 I 04年 498兆円 小泉
 98年 505兆円 小渕 I 05年 501兆円 小泉
 99年 498兆円 小渕 I 06年 507兆円 小泉
 00年 503兆円  森 I 07年 516兆円 安倍
 01年 498兆円 小泉 I 08年 504兆円 福田
 02年 491兆円 小泉 I 09年 471兆円 麻生
 03年 490兆円 小泉 I 10年 479兆円 鳩山
        http://ecodb.net/country/JP/imf_gdp.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 1997年から実に15年、名目GDPは515兆円からはじ
まって、2010年の479兆円、まったく伸びていない。平均
値は465兆円です。ちなみに2011年の予測値は470兆円
です。原因がデフレであることははっきりしています。
 このデフレ──その原因を作ったのが橋本政権の消費増税であ
ることと、そのうちの13年間は自民党政権であり、その経済運
営に大きな責任があります。もちろん自民党時代も財務省が牛耳
っており、自民党の経済失政の責任は財務省・日銀にあります。
しかし、彼らは反省も責任も何ら感じていないのです。
 しかし、国民の大きな期待を背負って政権交代を果たした民主
党は、積年のデフレからの脱却を果たして経済回復に取り組むど
ころか、菅、野田政権にいたっては、財務省の傀儡政権に成り果
て、こともあろうに不退転の決意で大増税をやろうとしているの
です。あの橋本政権の経済失政に何ら学ぶことなく、またしても
消費税を上げようとしているのです。
 目的は「税収」を増やすことなのです。野田政権は、財務省か
ら吹き込まれ、日本は既に成熟国であり、大きな経済成長は望め
ないという前提に立って、税収を増やすためには増税しかないと
考えているのです。何しろ自民党以上に経済学の基礎に欠けてい
る内閣で、財務省のいいなりです。
 しかし、その前提からして間違っています。財務省と日銀は、
15年間もデフレを放置し、挙句の果てにまたしても増税をやろ
うとしている。そして、いうに事欠いて「日本経済のケースは他
国と違い特殊」のようなことをいっています。「愚者とは歴史に
学べない人である」という言葉かありますが、それはそっくり野
田首相、財務省の高級官僚、日銀総裁に贈りたいと思います。日
本を潰す気なのでしょうか。   ── [財務省の正体/40]


≪画像および関連情報≫
 ●世耕弘成自民党議員のブログ/消費税増税に反対の弁
  ―――――――――――――――――――――――――――
  私は自民党麻生政権末期に消費税増税論議が行われた際も、
  明確に反対の立場に立っていたが、今もそれは変わらない。
  最大の理由は今回の消費税増税は「財政再建」を最大の目標
  に行われようとしているが、消費税を増税しても消費が冷え
  込むので財政再建には必ずしも貢献しないからである。平成
  10年の橋本内閣の当時に消費税は3%から5%に増税され
  た。消費税1%は2兆5000億円に相当するので、単純計
  算すると税収は5兆円増えるはずだが、実際には景気回復の
  腰折れが発生して税収減が続き、今日に至るまでに平成10
  年の税収を上回ったことは一度もないのだ。財政再建を真剣
  に進め、財政健全化の一歩手前まで行ったのは小泉・安倍両
  内閣だ。小泉内閣発足時の基礎的財政収支(プライマリーバ
  ランス)28兆円の赤字だった。しかし安倍内閣退陣時には
  6兆円まで赤字は圧縮されていて、2011年(今年!)に
  は収支が均衡する予定、すなわちこれ以上借金は膨張しない
  というところまで行く予定だったのだ。小泉・安倍内閣の間
  消費税増税はもちろん、大規模な増税は行っていない。にも
  かかわらず財政赤字を22兆円も圧縮できたのはなぜか。ま
  ず歳出面では公共事業を大幅に削減したこと(民主党政権が
  やっている規模とは比べものにならない10兆円から5兆円
  への圧縮)。さらに社会保障費の伸びを圧縮したこと。そし
  て歳入面では構造改革の効果が出てきて税収が大幅に増えた
  ことである。このように行革で歳出を削り、景気を良くして
  税収を増やすことこそが財政再建の近道なのだ。官僚がどん
  な理屈をこねようとも、小泉・安倍内閣の実例が示している
  のだ。http://blogos.com/article/28207/
―――――――――――――――――――――――――――――

主要国の政府の負債残高の推移.jpg
主要国の政府の負債残高の推移
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2012年01月11日

●「名目GDPを成長させて財政再建」(EJ第3215号)

 結論からいうなら、日本の財政を健全化するには名目GDPを
成長させるしかないのです。それをやらないで増税をしたらどう
なるでしょうか。
 それがどういう結果を招いたかは、1997年から2011年
までの日本の名目GDPの推移に鮮明にあらわれています。経済
はデフレの状態になり、まったく経済成長が止まってしまったの
です。野田政権はこれをもう一度やるつもりなのでしょうか。
 添付ファイルの図は、経済評論家の三橋貴明氏が作成したもの
ですが、以下はこの図を使って説明します。名目GDPがどうい
うものかについて理解する必要があるからです。
 三橋貴明氏によると、政府の税収は「GDPから政府に分配さ
れた所得」としての性格を持つといいます。政府はGDPから税
金を徴集し、それを消費および投資として支出します。
 ここでいう投資には公共投資を含みますが、税収だけでは足り
ないときは、国債を発行して「過去のGDPから生まれた貯蓄」
からお金を借りて使うことになります。「貯蓄」とは、GDPか
ら支出に回らなかったものを意味しているのです。
 さて、政府には消費や投資のほかに、もうひとつお金を使うケ
ースがあります。たとえば、「子ども手当」とか「生活保護」と
かのように、政府が一方的に国民にお金を渡すタイプの支出であ
る「所得移転」がそれです。この場合、所得移転が行われた時点
では、GDPには何の変化もないのです。それからお金が支出に
回ったときにはじめてGDPが増加するのです。
 さて、政府が増税をしたとします。1997年には橋本政権が
消費税を2%増税し、税率を5%に引き上げたのです。そうする
と、GDPから政府に分配されるお金(税収)が増える一方で、
国民(企業を含む)の側は、自らの可処分所得として使えるお金
が減ることになります。国民は可処分所得のうち、一部を貯蓄に
回し、残りを消費または投資に使います。
 この場合、増税は人々の気分を冷え込ませるので、可処分所得
の多くは貯蓄に回り、消費をするにしても住宅建築や自動車購入
などの大型消費は抑制され、必要不可欠なものしか消費しなくな
ります。そうなると、常識的に消費は大幅に落ち込むことは必至
です。これに関連して、三橋貴明氏は増税のさいの国民の行動に
ついて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 自らの可処分所得が減ったからといって、その分を丸々「貯蓄
 を減らす」ことで凌ごうとする人も少数派だろう。無論ある程
 度、貯蓄を減らすことはあり得るだろうが、普通の家計は「支
 出(消費、投資)も貯蓄も減らす」ことで対応しようとする。
 あるいは、可処分所得が減ったことで将来不安が醸成され、以
 前よりもかえって貯蓄を増やすという経済行動を取ることにな
 る。減少した可処分所得から貯蓄に回る分が増えると、消費や
 投資はますます減ってしまう。すなわち、「次の投階」のGD
 Pが縮小してしまうわけだ。        ──三橋貴明著
  『2012年/大恐慌に沈む世界/甦る日本』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 財務省が「国と地方の借金」のみをクローズアップし、それを
ことさら強調するようになったのは1997年以降のことです。
財務省はウェブサイト上に「借金時計」を作り、借金が刻々と増
えて行く状況をビジブルに国民に見せるようになります。
 また、政策で何かをしようとするとき、必ず「財源はあるか」
を問い、とくに「所得移転」の政策(「子ども手当」など)に対
しては「バラマキ」と称して非難するようになったのです。こう
いうムードが10年以上続くと、本当に必要な支出であっても、
それが実現しにくくなり、バブルが崩壊していくなかで、政府ま
でが必要な支出すらしにくくなっていったのです。
 かくして日本経済はデフレに陥り、国民は塗炭の苦しみを味わ
うようになってきています。しかし、財務省・日銀は基本的には
デフレを放置し、さりとてデフレが最悪の状況にはならないよう
に十分配慮しながら、増税しやすい環境を意図的に作ってきてい
るのです。まさに日銀は高度な「デフレ・ターゲッティング・コ
ントロール」をやってきているのです。
 日本の経済状況がデフレ化するキッカケになったのは、橋本政
権がバブル崩壊後の深刻な環境を読み誤り、消費税を増税したこ
とです。これによって、消費税自体は増えたのですが、それによ
る景気の急収縮で所得税と法人税が激減し、消費税、法人税、所
得税の3大税の税収が4兆円も減ってしまったのです。
 それに加えて橋本政権は、事実上の増税になる定率減税を廃止
し、公共投資を一挙に3兆円も削減したのです。つまり、増税に
より国民の可処分所得を減らし、あわせて自らの支出も削減した
のです。つまり、緊縮財政政策をとったわけです。
 名目GDPがまったく伸びないことによる景気後退が深刻にな
るなか、医療費や所得移転の生活保護費などの削れない支出が大
幅に増加し、政府の負債残高は増え続け、その借金の総額は、G
DPの200%を超えるという事態になってしまったのです。す
べては最悪のタイミングのなかで、消費増税をやったことが今日
の事態をもたらしたのです。
 野田政権は、デフレ下にある日本の経済状況をまるで考慮しな
いまま、財務省の策略に乗って、またしても消費税を引き上げよ
うとしています。しかも、その前には復興増税が実施することが
決まっており、それに加えて、消費税率を2014年には8%、
2015年に10%という大増税をやろうとしています。想像す
るだけでも恐ろしいことです。
 しかし、野田首相は不退転の決意とやらで増税を強行しようと
し、記者クラブメディアや御用学者のテレビでの解説キャンペー
ンによって、国民の間には「増税やむなし」の雰囲気はできつつ
あるように感じます。他のことはともかく、これだけは止めない
と、日本は大変なことになります。── [財務省の正体/41]


≪画像および関連情報≫
 ●消費増税をするとどうなるか/三橋貴明氏
  −――――――――――――――――――――――――――
  現在の日本のように名目GDPが全く成長していない環境下
  において、政府が一方的に増税を実施した場合、結果は悲劇
  的なものになりかねない。可処分所得が減った国民が支出を
  絞り込み、翌年のGDPが減り(すなわち、マイナス成長に
  なり)、政府の税収はかえって減少してしまうことになるわ
  けだ。もちろん、名目GDPが順調に成長していっているので
  あれば、政府は増税をしても構わない。というよりも、想定
  以上に名目GDPが成長している場合は、政府はむしろ積極
  的に増税を行い、財政黒字を増やさなければならないのであ
  る。                  ──三橋貴明著
  『2012年/大恐慌に沈む世界/甦る日本』/徳間書店刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

GDP拡大/縮小メカニズム.jpg
GDP拡大/縮小メカニズム
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2012年01月12日

●「プライマリーバランスとは何か」(EJ第3216号)

 「基礎的財政収支/プライマリーバランス」という言葉があり
ます。その定義は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 基礎的財政収支(Primary balance) とは、政府会計において
 過去の債務に関わる元利払い以外の支出と、公債発行などを除
 いた収入との収支である。       ──ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 この基礎的財政収支がプラスになるということは、国の新たな
借金が積み上がっていない状態であることになり、その国の財政
は健全であるとするひとつの考え方です。
 国の借金は、家計の借金と違ってすべてを返済しゼロにする必
要はないのです。日本の政府の負債残高は巨額ですが、それは日
本が世界第3位の経済大国であることを考えれば当然のことであ
るともいえます。国は永遠に続くという前提に立っており、基礎
的財政収支がプラスの状態が続いていけば、政府の負債残高も長
い間に少しずつ減少し、やがてはなくなると考えるのです。
 しかし、財務省にとっては、国民にそのように考えられるのは
困るのです。そこで「国の財政を家計にたとえる」プロガパンダ
を行うことによって、国民に借金を返さないと国が破綻すると思
わせて増税しようとするのです。これで「国の財政を家計にたと
える」ことが正しくないことが理解できたと思います。
 この基礎的財政収支と財政黒字(財政赤字)との関係について
知っておく必要があります。財政黒字(財政赤字)の場合は、次
のように定義されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      「税収」−「歳出」=「財政黒字(赤字)」
      +のケース ・・・・・・ 財政黒字
      −のケース ・・・・・・ 財政赤字
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、財政黒字(財政赤字)は基礎的財政収支とは異な
る定義であることを知っておく必要があります。基礎的財政収支
というのは比較的新しい概念なのです。一般会計に限定し、20
10年度一般会計当初予算具の数字を使って説明しましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
 [2010年度一般会計当初予算]
 ≪歳出≫          ≪歳入≫
 一般歳出 ・・ 54兆円     税収 ・・ 37兆円
 交 付 税 ・・ 17兆円  その他収入 ・・ 11兆円
 国 債 費 ・・ 21兆円    公債金 ・・ 44兆円
 (国債費21兆円=元本分/11兆円+利息分/10兆円)
―――――――――――――――――――――――――――――
 2010年度一般会計当初予算の数字を基にして基礎的財政収
支を計算すると次のように23兆円の赤字になります。歳出から
は「国債費」を除いていますし、歳入からは「公債金」を外して
おります。
―――――――――――――――――――――――――――――
(54兆円+17兆円)−(37兆円+11兆円)=23兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 2010年度当初予算といえば鳩山政権の予算です。民主党が
政権を取ってはじめて組んだ予算です。その基礎的財政収支が最
悪の23兆円の赤字なのです。
 赤字がこの規模になった責任は、財務省の「悪魔の囁き」に簡
単に乗ってしまった菅直人氏にあります。そのとき予算編成の任
務を負っていたのは菅国家戦略相だったのです。前政権の麻生政
権の作った予算編成方針(骨太の方針)に基づく各省の概算要求
を破棄し、新しく予算編成方針を作るには時間がなかったという
のが菅氏のいい分です。
 2011年12月27日に放映されたNHKスペシャルによる
と、前政権の予算をあまり切り込むことなく、マニュフェスト予
算をそのまま上乗せするようアドバイスしたのは、勝栄二郎財務
省主計局長(現財務事務次官)だったというのです。勝局長は次
のようにいったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 骨太の方針を作る必要はありません。衆院選のマニュフェスト
 に沿った形で、A4一枚を出してもらえば、年内予算編成をや
 り遂げます。            ──勝栄二郎主計局長
―――――――――――――――――――――――――――――
 そのとき勝局長がやったことは、前政権の予算を十分切り込ま
ないまま、子ども手当など民主党がマニュフェストで約束した政
策を予算案に盛り込んだことです。何のことはない。最初から財
務省の軍門に下っているのです。このNHKスペシャルについて
「日々坦々」資料ブログでは次のように述べています。NHKと
しては異色の報道であると話題になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この番組は2つの意味で衝撃だ。津村を筆頭に菅側近が真相を
 語りだしたこと、これまでは小沢批判一辺倒だったTVが批判
 の矛先を菅に向け始めたこと。これはすなわち、菅路線を引き
 継ぐ野田への批判に通じるのだ。番組を見た政治ジャーナリス
 トの角谷浩一氏はこう言った。「番組を見れば、民主党のテイ
 タラクは、予算編成ができずに焦っていた菅前首相が財務省に
 魂を売った瞬間に始まり、その延長線上に消費税増税があった
 ことがよく分かったと思います。その年の予算編成は、財源が
 工面できず、最後は小沢幹事長(当時)が出てきた。番組には小
 沢シンパの議員も数多く登場した。このタイミングでNHKが
 このような番組を報じたのは意味深です。最近政権批判のトー
 ンを強めている小沢氏の復権と無関係ではないと思います」。
              http://asumaken.blog41.fc2.com/
―――――――――――――――――――――――――――――
                ── [財務省の正体/42]


≪画像および関連情報≫
 ●PBは財政健全化目標として不適切である
  ―――――――――――――――――――――――――――
  本ブログでは、日本の財政赤字と累積債務の持続可能性につ
  いて、過去に何度もとりあげてきました。しかし、リーマン
  ショックの後、ここ1年半ほどの間は累進税制などの話が中
  心で、財政赤字と累積債務の問題からは遠ざかりました。そ
  のわけは、政策目標が転換したので安心していたからです。
  リーマンショックの後、麻生内閣のもとで、累積債務のGD
  P比を発散させない、あるいは抑制していくという適切な目
  標が選択されました。2011年度までのプライマリーバラ
  ンス(利息の支払や受取、および国債の発行や償還を除いた
  財政収支)の黒字化という(あとで説明しますが)あまり意
  味のない不適切な目標が、賢明にも放棄されました。鳩山内
  閣にも、累積債務のGDP比を基本とする考えは引き継がれ
  ました。適切な目標が選択されているかぎり、大きな間違い
  は起こらないであろう、と安心していました。
http://waveofsound.air-nifty.com/blog/2010/06/post-b614.html

 ●グラフ出典/プライマリーバランスで読む2010年度予算
  http://voiceplus-php.jp/opinion/one_minute/070/index.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

当初予算と補正予算を含むPBの推移.jpg
当初予算と補正予算を含むPBの推移
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2012年01月13日

●「増税か名目GDPアップかの論争」(EJ第3217号)

 「財政の健全化」と一口にいいますが、同じ基礎的財政収支の
改善方針でも、政権によって大きく異なります。2006年の小
泉政権と2009年の麻生政権の経済財政改革を比較してみるこ
とにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪骨太の方針/2006年≫ ・・・・・・・・・ 小泉政権
 「プライマリーバランス(基礎的財政収支)の均衡」を、20
 11年度に達成する。公共事業費の削減や社会保障費の抑制な
 どで、11・4〜14・3兆円の歳出カットを断行する。消費
 税増税の理解を得るため、社会保障目的税化を検討する。
 ≪経済財政改革の基本方針/2009年≫ ・・・ 麻生政権
 国・地方の債務残高対GDP比を指標と位置付け、2010年
 代半ばにかけて少なくとも安定化させ、2020年代初めには
 その比率を安定的に引き下げる。今後10年以内に国・地方の
 プライマリーバランス黒字化の確実な達成を目指す。
                      ──三橋貴明著
  『2012年/大恐慌に沈む世界/甦る日本』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これによると、2006年の「骨太の方針」で小泉政権は、教
科書通りの基礎的財政収支の均衡を掲げ、かなり前進させている
のです。小泉政権の次の政権である安倍内閣の2007年には、
4・4兆円の赤字にまで基礎的財政収支を縮小・改善させている
のです。しかし、それによって、大幅な公共事業費の削減や社会
保障費の抑制が行われており、これは経済にとって大きなマイナ
ス要因になっています。
 しかし、福田内閣を引き継いだ麻生政権は、2008年にリー
マンショックに直面し、一時的に基礎的財政収支の均衡をあきら
め、国・地方の債務残高対GDP比の改善を経済財政改革の基本
方針として掲げています。そして、10年以内に国と地方の基礎
的財政収支の黒字化を目標にしたのです。
 この麻生政権の経済財政改革の方向は間違っていないのです。
「膨張する累積債務のGDP比を発散させない」ことを狙ってい
るからです。「発散」というのは、政府がコントロールできなく
なって手がつけられなくなる状態のことをいうのです。
 これは「ドーマーの定理」──1940年代にドーマー教授に
よって提唱された定理に関係があるのです。ドーマーの定理は次
のことを意味しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国債発行(財政赤字)がGDPの一定割合であれば、国債残高
 の対GDP比は一定の値に収束し、財政破綻は生じない。
                    ──ドーマーの定理
―――――――――――――――――――――――――――――
 「一定割合」とか「一定の値」ということばでは漠然としてい
るのでもっと具体的にいうと、「名目GDPの成長率が国債のコ
スト(長期金利)よりも高ければ、国債残高は自然に減少してい
く」ということになります。
 この政府債務残高の対GDP比の発散について、高橋洋一嘉悦
大学教授は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 債務残高対名目GDPの動きを決めるのは、プライマリー収支
 対名目GDPの動きと、名目GDP成長率と国債金利の大小関
 係にあるからだ。後者の名目GDP成長率と国債金利の大小関
 係は、短期間にはいろいろな条件で変わるが、長い目で見れば
 だいたい同じくらいになる。だから、プライマリー収支対名目
 GDPが改善していけば、債務残高対名目GDPはあまり大き
 くならないという理屈になる。       ──高橋洋一著
      『財務省の隠す650兆円の国民資産』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉政権時代に「与謝野VS竹中論争」というのがあり、前に
EJでも書いたことがあるのですが、これは「ドーマーの定理論
争」だったのです。添付ファイルをご覧ください。このグラフは
OECD諸国の中でドーマー条件を満たす国の数を示しているの
です。次の式で計算してグラフ化しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「条件を満たしている国数」−「条件を満たしていない国数」
http://electronic-journal.seesaa.net/article/14557131.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、こういうことです。ドーマーの条件を満たしている国
が、満たしていない国よりも多いときはプラス、そうでないとき
はマイナスということになります。グラフによると、1961年
〜1979年まではプラス、1981年〜1999年まではマイ
ナスとなっています。
 1960〜1970年代は名目成長率は金利を上回っていたの
ですが、1980〜1990年代になると、名目成長率は金利を
下回っているのです。このグラフを見る限り、ドーマーの定理が
正しいことがわかります。
 竹中平蔵総務相(当時)は、名目成長率を4%程度にすれば、
成長率は長期金利を上回ると予測しています。この考え方に立て
ば税収は増えるので、増税しなくても基礎的財政収支の黒字化は
可能であると主張したのです。当時この主張をする自民党のグル
ープを「上げ潮派」と呼んだのです。
 これに対して与謝野経財相(当時)は、成長率4%など楽観的
であるとし、長期金利は名目成長率を上回るのが常識的であると
主張して、竹中氏を中心とする「上げ潮派」と対立したのです。
考えてみると、与謝野氏はこの頃から増税一本槍だったことがわ
かります。とにかく与謝野氏は「私はドーマー教授なんか信じな
い」と日頃から主張していたのです。この人物はその後菅政権で
再び経財相として復活し、消費増税を突き進めたのです。まさに
財務省寄りの議員です。     ── [財務省の正体/43]


≪画像および関連情報≫
 ●ドーマー条件/3つの謎/畑農鋭矢氏のブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ドーマー条件を知っているだろうか?なに知らない?それで
  は財政学の単位が危ない。早速ググって探してみよう。「ド
  ーマー定理」でも「ドーマー命題」でも「ドーマー法則」で
  も同じことだ。一例として、証券用語辞典に「ドーマーの定
  理とは」という説明が見つかる。ほかにも多くの解説を見つ
  けることができるが、要約すれば次のようになるだろうか。
  ドーマー定理は、1940年代にドーマー教授によって提唱
  された。その定理によると、プライマリーバランスが均衡し
  ているとき、経済成長率が利子率を上回れば財政は破綻しな
  い。(中略)ただし、プライマリーバランスとは利払い費を
  除く収支尻のこと、財政が破綻しないとは政府債務の対GD
  P比が安定的に推移することを意味する。実は、この要約に
  は理論的な誤りが含まれている。ドーマー条件の成立のため
  にプライマリーバランスの均衡は必要ない。プライマリーバ
  ランスが赤字でもいいのだ。しかし、ここでは、そのような
  理論的・技術的な誤りについて議論することはしない。そう
  ではなく、ドーマー条件の出自に関する謎を追う。なぜなら
  ドーマー教授は、ドーマー条件を提唱していないからだ。そ
  こで、3つの謎が浮かび上がるのだが・・・。
http://hatano1113.blogzine.jp/blog/2011/06/post_e2ca.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ドーマー条件を満たす国.jpg
ドーマー条件を満たす国
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2012年01月16日

●「デフレ下の消費増税は犯罪である」(EJ第3218号)

 昨年の暮れのことです。野田首相の後ろ盾といわれる細川元首
相は野田首相に公邸に招かれ、消費増税など現在の政治状況につ
いて意見を交わす機会があったということです。そのさい、野田
首相は、細川氏に次のようにいったといわれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は首相の座に延々ととどまり続ける気は毛頭ない。ただ、消
 費税率の引き上げは任期中に必ず成し遂げたい。もし不成立と
 なった場合は総辞職をすることはない。衆院解散・総選挙で国
 民の信を問いたい。             ──野田首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 野田首相は消費増税は現在の日本経済の喫緊の課題だと思い込
んでいるようですが、これは大間違いです。間違った目標に不退
転で突き進むので、「前のめり」と批判されるのです。
 野田首相は、早稲田大学の政治経済学部を卒業し、政権交代後
は財務副大臣を経て財務大臣を2年間経験するという恵まれた環
境で仕事をしたうえで首相に就任しているのに、経済というもの
がまったくわかっていない政治家であると思います。
 また、野田首相は消費増税について、「この問題はどの政権で
あっても先送りできない問題」ということをよく口にしますが、
完全な間違いです。まるで菅政権を除く今までの政権が消費増税
に挑んでも実現できなかったようなもの言いですが、それは財務
省がそう思っていることであって、野田首相がそのように財務省
官僚に洗脳された以外考えられないことです。
 私は野党時代の民主党の野田氏を含む幹部議員(現在の政権中
枢にいる議員)のテレビでの発言をよく聞いていた人間の一人で
すが、彼らが日本の財政について自分の意見なり、提言を聞いた
記憶がないのです。少なくともそのために増税が必要だなどとい
うことは一度もいっていないのです。
 したがって、こういうのは洗脳ではなく、財務官僚にいわれた
ことを一も二もなく受け入れて、それにしたがっているだけのよ
うです。洗脳というのは、その対象者がたとえば日本の財政の現
状について自分なりの認識があり、その解決の方向に関する自分
の意見を持っていることが前提になるのです。
 それが非増税であるなら、官僚側はレトリックを駆使して、そ
れが間違いであり、増税が必要であることを説得して、考え方を
変えさせるのが洗脳です。そこにはかなりの議論があってしかる
べきですが、野田首相には失礼ながら、その前提になる知見がな
いとしか思えないのです。基本的に菅前首相と同じです。
 まず、マクロ経済を「家庭の家計簿」にたとえる財務省のレト
リックから脱却するべきです。そのうえで、政府はデフレからの
脱却に全力を傾ける必要があります。そのためには政府は何をす
るべきなのでしょうか。
 財務省と一体化した野田政権は、消費増税が喫緊の課題だと思
い込んでいますが、もしこれをやると、デフレは一層深刻さを増
します。物価は下落し、消費は抑えられ、企業収益は減少して多
くの雇用が失われる──これが一層深刻化するのです。
 橋本政権が2%の消費増税をした傷が15年も経過しているの
にぜんぜん癒えていないのです。にもかかわらず、2014年に
8%、2015年に10%の消費増税をするというのですから、
その結果は想像するだに恐ろしいことになります。それでも野田
首相は不退転でやろうとしています。そんなことより、選挙で公
約したことを不退転の決意でやって欲しいものです。
 さすがに財務省もこの増税をすると、こんな良いことがあると
いうようなプラスの展望をまるで述べていないのです。ひたすら
「もしやらないと財政が破綻する」というマイナスの展望──一
種の脅しを繰り返すだけなのです。
 消費増税をすると何が起きるか財務省は分かっているのです。
経済が収縮して雇用が失われ、失業者が街にあふれることも認識
しているはずです。しかし、公務員は雇用が守られているので、
財務省としては痛くも痒くもないのです。おまけに財務省の念願
である消費増税という安定財源が十分確保できるので、現在の官
僚体制を安定的に維持できるのです。つまり、自分たちは安全地
帯にいて国民だけが苦しむことになる──それがわかっていてや
ろうとしているのですから、実に恐ろしい話です。
 それでは、本当は国としては、どうするのが正しいのでしょう
か。一般論としていうならば、次の方策が考えられるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ◎デフレ下の国 ・・・・ 財政赤字を増やす政策
   ◎インフレの国 ・・・・ 財政黒字を増やす政策
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は「財政の健全化」には財政赤字を増やしてデフレを脱却し
名目GDPを増加させることが必要なのです。前にも述べたよう
に「自国通貨建て」の政府負債の場合は、国債がデフォルトする
ことはあり得ないのです。実際に財務省もそういっています。日
本も米国もほぼ100%自国通貨建ての国債なのです。
 したがって、デフレ期に国債発行や財政赤字拡大にためらうの
はナンセンスなのです。それがわかっているので、財務省は何年
も前から「日本の財政は危機的状況にあり、このままでは破綻は
避けられない」という世論づくりに腐心してきたのです。
 日本の財政はけっしてよくありませんが、現在はまだそういう
財政政策がとれる余地が十分あります。しかし、それをやると官
僚組織が抱え込んでいるカネが大幅に減ってしまうのです。しか
し、財務省の口車に乗って、こんなときに増税するという愚を犯
すと、そういう余力自体が失われてしまうのです。
 日本の政府負債残高の対GDPの大きさを過剰に心配する必要
はないのです。既に述べているように、この計算には大きなイン
チキがあるからです。政府がまるで信用できないので、国民が経
済に強くなり、騙されないようにする必要があります。日本の財
政は危機的ではないのです。   ── [財務省の正体/44]


≪画像および関連情報≫
 ●「特集/消費税増税は必要ない!」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本の借金を語る際、必ず出てくるのが「政府債務の対GD
  P比」というものです。2010年時点で、日本のGDPは
  年間およそ500兆円、それに対して日本の借金(国と地方
  の債券発行残高)はおよそ1000兆円です。国債発行残高
  がGDP比2倍もあるのは、先進国では日本だけです。日本
  政府の借金は、債務の金額やその増加ペースが問題なのでは
  なく、借金の対GDP比が年々増加していることが問題なの
  です。実は、世界中どこの国の政府も、多かれ少なかれ必ず
  借金があります。左下のグラフは、先進6カ国の政府債務の
  増加率を表しています。2001年を起点とすると、実は日
  本の債務残高の伸び率は、他の先進国よりも少ないのです。
  グラフはOECDの公式データから作ったもので、嘘偽りで
  はありません。
       http://rh-guide.com/tokusyu/syohizei_gdp.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

細川護煕元首相.jpg
細川 護煕元首相
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2012年01月17日

●「日本の財政を巡る3つの考え方」(EJ第3219号)

 「経済コラムマガジン」と題する著名なウェブサイトがありま
す。経済問題に関して的確なコンテンツが満載されています。そ
の新年最初の号は「バーチャルな話」(692号)というタイト
ルとなっており、とても興味深い記事が出ています。その部分を
ご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の財政についての考え方で3つのグループに別れる。まず
 筆者達のように日本の財政には大きな問題はないという者は少
 数派であるが一つのグループといえる。我々は政府紙幣の発行
 という手段があり、またそれが無理としても日銀が国債を買え
 ば良いと考える。後の2つのグループは本当に日本の財政が悪
 いと思い込んでいる。1つのグループは純粋に財政再建には大
 きな増税が必要と考えている。おそらく20〜30%の消費税
 増税が必要と思っている。もう1つのグループは小さな政府を
 指向するグループであり、彼等は増税ではなく歳出のカットで
 財政を再建することを主張している。特にこのグループは、公
 務員の給与カットと議員の定数削減を唱えて増税派を牽制して
 いる。給与カットと議員の定数削減ぐらいでは、たいした歳出
 カットにはならないが、両者は空中戦を始めている。
           ──「経済コラムマガジン」/692号
                  http://adpweb.com/eco/
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在の日本の財政をどう考えるかは大きな問題です。主張を整
理すると、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.財政には問題はない/名目GDP増加で対応
   2.財政には問題がある/消費税増税で財政再建
   3.財政には問題がある/歳出カットで財政再建
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在の野田政権──すなわち財務省の考え方は、2に該当する
と思います。日本国債の長期金利が低いのは、消費税率が低く相
当増税余地があることもその要因のひとつであり、その消費税率
を引き上げることによって市場の信認を保つという考え方です。
 これに対して3は、自民党の小泉政権の経済グループのそれで
あり、小さい政府を志向し、歳出カットに重点を置いて経済成長
を図りながら、プライマリーバランスを早期に達成させることに
よって、財政再建を成し遂げるという考え方です。
 1のグループは、日本の財政には特別問題はないという考え方
に立っており、危機に対しては国債を発行し、それを日銀が直接
引き受ければよいという考え方です。「経済コラムマガジン」の
著者はこの考え方に立っていますが、そういう考え方の識者も少
なからず存在します。しかし、2と3のグループに比べると、非
常に少数派であるといえます。
 しかし、1のグループと3のグループは、日本経済をデフレか
ら脱却させる必要があるとする点では一致しており、名目GDP
成長率を向上させる点では一致しています。
 実は2と3のグループはもともと一体であり、自民党の経済グ
ループの考え方なのです。しかし、時の政権の力の強弱によって
2になったり、3になったりしてきたのです。すなわち、財務省
の力が強いときは増税が行われ、政権の力が強いときは景気対策
に力を入れたのです。しかし、景気対策によって少しでも景気が
上向きになると、すぐ財政再建が行われ、成長の芽を何度も摘ん
で、「空白の15年」を作り出したのです。
 前回述べたように、セオリーとしては、取るべき政策は次の通
りなのです。しかし、ちょっと考えると常識とは逆の政策のよう
に感じられて、2と3のグループは思い切って「財政赤字を増や
す政策」をとれないので、デフレから脱却できないのです。2の
グループにいたっては、デフレのままでも問題はないという考え
方すら持っているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ◎デフレ下の国 ・・・・ 財政赤字を増やす政策
   ◎インフレの国 ・・・・ 財政黒字を増やす政策
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、現在の日本はデフレであって、「財政赤字を増やす政
策」を思い切って取るべきです。もし、仮に1のグループが政権
を取ったら、思い切って国債を発行してそれを日銀に引き受けさ
せると同時に日銀に適切な規模の金融緩和を行わせることによっ
て、日本経済をデフレから一挙に脱却させるはずです。
 日本では、財政の健全化とは、いつでも「財政黒字を増やすこ
と」であると考えている人が多いのですが、これは明らかな間違
いです。デフレ下の日本で増税をするということは、「財政黒字
を増やす政策」であり、セオリーに反しています。
 逆にインフレ率が高い環境下では、積極的に増税をし、緊縮政
策をとることによって経済を引き締める必要があります。しかし
日本金融当局はここでも、真逆の政策を取ってバブルを崩壊させ
てしまっています。こういうときは、政府はもちろんのこと、民
間(家計と企業)に分配されるGDP──つまり可処分所得を削
り、国民が支出しにくくする必要があるのです。そして中央銀行
は金利を上げることによって、お金の流れを抑制するのです。
 常識的に考えてしまうと、つねに「財政黒字」を求めることが
正しく、「財政赤字」は悪であると考えてしまうものですが、経
済状況がデフレであるときは、たとえ累積政府債務残高が大きく
ても、思い切って国債を発行し、それを中央銀行に引き受けさせ
てでも、経済をデフレから脱却させなければならないのです。
 リーマンショック後に米国のFRBがやっているのは、経済が
デフレ化しないよう財政赤字を拡大させているのです。しかし、
日銀は自分の庭先を汚したくないというエゴによって、デフレを
放置し、日銀総裁の独特の理論によって、日本の成長をストップ
させているのです。       ── [財務省の正体/45]


≪画像および関連情報≫
 ●日本の財政構造/「経済コラムマガジン」600号
  ―――――――――――――――――――――――――――
  人々は日本の財政が危機と簡単に決めつけている。専門家と
  呼ばれる人々も同じ発言を繰返している。しかし筆者に言わ
  せれば、この根拠が極めて薄弱である。これまで根拠にされ
  ているのは主に以下の二つである。一つは単純に政府の債務
  残高が大きいということである。もう一つはちょっと科学的
  で、名目GDPに比べ日本政府の債務残高が大きいというこ
  とである。最近では、この比率が188%(07年IМF算
  出)にも達しているとマスコミは警告している。先進各国の
  比率が100%前後なのに対して、日本の比率が突出して大
  きいことを問題にしているのである。しかし本誌は、ずっと
  04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」などで指摘
  してきたように、国の債務を問題にするなら単純な債務残高
  の合計ではなく、純債務残高を用いることを主張してきた。
  純債務残高は総債務残高から政府が持っている金融資産など
  を差引いたものである。特にОECDの基準では、純債務残
  高を金融資産に加え、社会保障の基金も差引いて算出してい
  る。GDP比率もこの純債務残高で算出すべきであり、国際
  比較にもこれを用いるべきである。これは当然の話である。
  借金があっても、一方に預金などの金融資産があれば、本当
  の財政状態を見るには借金から金融資産を差引くのが当たり
  前のことである。ところが日本における財政論議は、ほとん
  どの場合、純債務残高ではなく総債務残高で行われてきた。
  なぜか日本のマスコミなどは常に大衆を騙そうとしているみ
  たいである。     http://adpweb.com/eco/eco600.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

三橋貴明氏の本.jpg
三橋 貴明氏の本
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2012年01月18日

●「財務省増税シナリオの前提のウソ」(EJ第3220号)

 野田内閣は、岡田克也氏を副総理・一体改革・行政改革担当に
迎えて、消費増税推進体制を築いたつもりでいます。ところで、
この時期に消費税を大幅に上げるという狂気のシナリオを書いた
のは間違いなく財務省です。
 実はこの岡田副総理・一体改革・行政改革担当の人事案を進言
したのは、勝栄二郎財務事務次官であると思われます。つまり、
財務省は、岡田氏をポスト野田と想定しているのです。もし、野
田首相でうまくいかないときは、岡田総理で実現させることを考
えているものと思われます。自分たち(官僚組織)の利益のみを
考えて、国民を不幸にする「悪いやつら」です。この仲間には日
銀も入っていることを強調しておきます。
 しかし、この財務省のシナリオには、次の2つの前提条件があ
るのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.日本の政府負債残高は対GDP比で2倍もあり、このま
   までは財政は破綻する
 2.日本の名目GDPは成熟国家であるがゆえにもはや0%
   程度しか成長できない
―――――――――――――――――――――――――――――
 財務省は、経済成長によって財政が安定する国家というものを
目指しておらず、あくまで消費税を世界の先進国並みに引き上げ
て、国民が不幸に陥る重税国家を理想としているようなのです。
 しかし、このシナリオの前提は2つとも間違っています。以下
これについて考えていくことにします。
 今回は第1の前提に絞って考えます。
 確かに政府負債残高が対GDP比で2倍になっていることは事
実です。しかし、政府負債に積み上げられている負債にはきちん
とした対応資産のある建設国債をはじめ、負債から外してもよい
ものも入っています。どれを負債とするかについては、国の判断
で決めており、日本の財務省は借金を大きく見せるため、あらゆ
る負債を全部負債残高として積み上げています。
 これについては、本テーマの8回目と9回目で詳細に述べてい
るので、ご一読願いたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 EJ第3182号/借金を大きく見せようとする財務省
http://electronic-journal.seesaa.net/article/235351150.html
 EJ第3183号/ 日本の財政は危機的状況ではない
http://electronic-journal.seesaa.net/article/235577749.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 もうひとつあります。政府負債残高はグロス(粗債務)ではな
く、グロスから資産を差し引くネット(純債務)で見るのがOE
CD各国の常識であるのに、日本ではグロスで比較しています。
 これについて、既出の高橋洋一氏は、自著で次のように指摘し
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 債務をバランスシートで包括的に、かつネットで見ると、ネッ
 ト債務額は、これまで政府がいってきた数字よりはるかに小さ
 い。私のような見方は、政府のいうグロス(総額)の数字を鵜
 呑みにしてきた人にとって都合悪いのか、国が保有する資産は
 すぐには売れないので間違っているなどと、いろいろケチをつ
 けられる。しかし、本当に国が破綻するとなったらどうだろう
 か。国の資産のうち大半は金融資産であり、しかも役人の天下
 り先である特殊法人等の、つまり国の子会社である。民間の場
 合、親会社が破綻となったら、子会社は売却するなり処分され
 る。民間が国に変わっても、破綻となれば、特殊法人等が売却
 されるのは当然の話だ。実際に売却できなくても、国の国債と
 のスワップもあるだろう。と考えれば、ネット債務額が実質的
 な債務額と見るのが、やはりグローバル・スタンダードだ。日
 本でグロスの債務残高の数字が大きいのは、グロスの資産が大
 きいことの裏返しだ。具体的には資産の大半は特殊法人等への
 資金提供である。             ──高橋洋一著
      『財務省の隠す650兆円の国民資産』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、財務省が作ったシナリオはその前提条件自体が間
違っているのです。したがって、政府負債残高は対GDP比で2
倍あるというのは、グロスの数値であって、必ずしもそれは危機
を意味していないのです。しかし、メディアは財務省の圧力に屈
して財務省のシナリオ通りの報道しかしないのです。
 現在、財務省から狙い撃ちされているのは、テレ朝の報道番組
のキャスターになった古賀茂明氏と嘉悦大学教授の高橋洋一氏な
のです。その言論封殺の指揮をとっているとされるのは、増税の
総本山である財務省の香川俊介官房長です。これについて『週刊
ポスト』(1.27)は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 最初に標的にされたのが、政府の原発事故処理や公務員宿舎問
 題を厳しく批判し、「増税こそがギリシャヘの道」と消費増税
 に反対論を展開する元経産官僚の古賀茂明氏だった。古賀氏は
 最近になって、香川官房長が某テレビ局幹部に電話を入れ「古
 賀を出演させているような局にうちの(安住淳)大臣は出せな
 い」と圧力をかけたことを明らかにした。財務省現職幹部によ
 る言論封殺行為という大スキャンダルが当事者の口から明らか
 になったのである。当然、言論機関は報道の自由を守るために
 真相究明に動き、事実が裏付けられた段階で政府に処分を求め
 るべきだが、新聞・テレビは古賀証言を黙殺し続けている。
              ──『週刊ポスト』1.27より
―――――――――――――――――――――――――――――
 12月4日付の全国紙と地方紙71紙に政府は増税キャンペー
ンの全面広告を出していますが、これは、財務省の新聞各社に対
する現金給付(3億円)なのです。── [財務省の正体/46]


≪画像および関連情報≫
 ●メディアに露骨に圧力をかける財務省
  ―――――――――――――――――――――――――――
  昨年末、高橋洋一氏は、民放テレビの討論番組で、増税派の
  財務省OBらと「国家経済破綻」をテーマに議論を戦わせた
  が、オンエアを見て驚いた。「収録で私が増税派の人たちに
  『では何年後に財政破綻すると思うか』と尋ねると『3年』
  だという。しかし、実は、市場では日本国債のリスクをはか
  るCDS金利は1・3%と低い。世界の金融のプロは日本の
  財政状況は数10年に1回の低い確率でしか破綻しないと見
  ている。ギリシャのCDS金利は60%以上だから全く評価
  が違うわけです。もし、本当に日本が短期間で財政破綻する
  というなら、政府が自らCDSを買えば大儲けできる。その
  ことを指摘すると彼らは誰も反論できなかった。また、震災
  復興などの財源は増税ではなく、国債の日銀引き受けで十分
  できる。私が小泉・安倍政権で官邸にいた時は、実際にそう
  やったと指摘して増税論を論破したが、その議論はほとんど
  カットされていました」(高橋氏)その裏には何があるか。
  別の民放テレビのディレクターが明かす。「高橋氏や古賀氏
  を番組に出すのは勇気がいる。財務省に睨まれて『あの発言
  の根拠は何か』と抗議が来るからだ。局の上層部はそれが怖
  いから、せっかく出演してもらっても収録後に発言やデータ
  をチェックし、財務省の心証が悪くなりそうな部分はカット
  して自主規制する傾向にある」。言論機関の自殺である。
              ──『週刊ポスト』1.27より
  ―――――――――――――――――――――――――――

財務省がマークする古賀茂明氏.jpg
財務省がマークする古賀 茂明氏
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2012年01月19日

●「日本は本当に経済成長しないのか」(EJ第3221号)

 財務省の増税シナリオの2つの前提条件を再現します。前回は
1について考えたので、今回は2について考えます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.日本の政府負債残高は対GDP比で2倍もあり、このま
   までは財政は破綻する
 2.日本の名目GDPは成熟国家であるがゆえにもはや0%
   程度しか成長できない              ←
―――――――――――――――――――――――――――――
 昨日の検討で、日本の「政府負債残高は対GDP比2倍」とい
う事実は、けっして褒められたことではないが、負債の積み上げ
に疑問があることや、負債総額の大きさだけを問題視して強調し
危機を煽っており、プラスの金融資産を差し引きしたネットで見
る必要があります。
 OECD諸国ではすべてネットで債務残高を計算しているので
す。そういう計算をすると、日本の負債残高は対GDP比で米国
並みの80%を少し上回る程度なのです。これが、昨日検討した
事柄です。繰り返しますが、日本の財政はよくはないものの、危
機的ではないと申し上げておきます。
 それでは、第2の前提について考えます。
 財務省のシナリオでは、「日本の名目GDPはもはや成長しな
い」と考えているようですが、これは大間違いです。確かにバブ
ル崩壊後に15年間も名目GDPがまったく増えていないのは事
実ですが、その原因はデフレにあり、政府や日銀が本気になって
デフレを克服しようとはしないで、放置したことがその結果を招
いているのです。まるで、消費増税をする環境を整えるためにそ
うしているのではないかとさえ思えるほどです。それも日銀はデ
フレを維持し、しかしそれがより深刻化しないよう巧妙にコント
ロールしているようにすら見えるのです。財務省や日銀はきっと
デフレが好きなのでしょう。
 少し話が外れますが、今回の消費増税について、前原政調会長
がある雑誌で次のように話しているので、ご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ある金融機関の頭取から伺った話ですが、普通なら消費税を上
 げたら、景気が悪くなると予想され、円が下がり、金利が上が
 り、株価が下がる。しかしこれまで日本は、政治が財政再建の
 意思を示さなかった。一方で、税率5%は世界的にも低い水準
 で、それを引き上げた場合には、むしろ政治決断を評価し、円
 が上がり、金利が下がり、株価が上がる可能性もある、と。
      ──「Voice/ボイス」2012年2月号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言には異論があります。しかし、野田政権の消費増税推
進の考え方がこれにあることは確かです。それにこの対談にはい
ささか違和感を覚えたのです。このときの対談相手は竹中平蔵氏
なのですが、2人の意見がまるで噛み合っていないし、竹中氏も
いつもの主張を妙に抑えたところがあって、スッキリしない対談
になっていると思います。
 前原氏は「政治が財政再建の意思を示さなかった」といってい
ますが、そんなことはないと思います。自民党時代にも何度か財
政再建に取り組んでいます。それよりも問題なのは、経済政策が
間違っていることです。景気が悪化して景気対策を行っても、少
しでも景気が上向くと、すぐ緊縮財政政策を取り、それを潰して
しまうことを何度も繰り返していることです。
 なぜそういうことになるのかというと、経済政策の実権を財務
省が握っていることにあります。それは、橋本内閣による中央省
庁再編によって、2001年1月から、経済企画庁の機能が内閣
府に吸収されたことと無関係ではないのです。
 経済企画庁は経済問題を所管する専門部署ですが、そんなに強
い権限があったわけではないものの、これによって外から国の経
済運営が見えたのです。しかし、内閣府に入ってしまうと、経済
運営の司令塔が外部から見えにくくなり、その事実上の実権が財
務省に握られてしまったのです。このように、官僚主導は経済運
営にまで及んでいるのです。
 したがって、経済に弱い首相や経済閣僚が就任すると、経済運
営の主導権は財務省の思うがままになります。彼らは勝手にやっ
てたとえ失敗しても、責任は政治家に取らせることができるので
安心して自由に何でもやれるのです。自分たちの身は安全地帯に
置いて、勝手な考え方で国を事実上運営しているのです。今回の
野田政権の消費増税の推進が財務省のシナリオに乗って動いてい
るのはそのためです。
 確かに日本のような先進国になると、現在の中国のように高度
成長は無理ですが、4%〜5%の成長は可能なのです。リーマン
ショックに遭い、いまだ失業率が9%台であえぐ米国ですら20
10年度の名目GDPは14兆5265億ドルであり、前年比で
4.2 %の経済成長をしているのです。
 もし、日本の名目GDPが平均して年4%成長していれば19
92年度の名目GDP483兆円は、2010年には980兆円
になるのです。20年でほぼ2倍になるわけで、世界一の経済大
国の米国と肩を並べる存在になっていたのです。
 このようにいうと、名目GDP成長率4%なんか夢のまた夢と
いう人が多いと思われるが、これまで米国や欧州ではごく普通の
成長率であり、けっして異常ではないのです。むしろ、15年間
にわたってデフレを放置して、意図的に経済成長を抑えているよ
うに見える日本の経済運営の方がはるかに異常です。
 現在日本にとって深刻なのは、赤字国債が年々増えていること
です。これを解決するには税収を向上させることです。そのため
に何をするべきでしょうか。それは名目GDPを向上させること
なのです。そのためには、何よりも早く日本経済をデフレから脱
却させることであり、消費増税ではないのです。デフレからの脱
却は不可能ではないからです。  ── [財務省の正体/47]


≪画像および関連情報≫
 ●竹中平蔵氏VS前原誠司氏の激論
  ―――――――――――――――――――――――――――
  前原/もちろん、財政政策と・・・税制だけでは「3%の名
  目成長、2%の実質成長」というような目標は果たせない。
  そこでは政府と日銀がアコード(協定)を結び、財政政策と
  金融緩和を協調して行なう姿勢も必要になる。そのような姿
  勢なくしては竹中さんがど指摘のとおり「ワニのロが広がっ
  たままで、いくら増税してもムダ」でしよう。
  竹中/そこで留意したいのは、現政権は日本の名目成長率を
  1%強に置いて財政再建計画を組んでいるということです。
  しかし諸外国をみると、たとえばアメリカの計画は名目成長
  率3・5%。イギリスは5%。日本は人口が減っていきます
  から、アメリカやイギリスよりは低いにしても、やはり3%
  ぐらいを実現しないと成果は出てこない。まずは名目成長率
  の目標をきちんと設定し、なおかつ水ぶくれしている約10
  兆円の歳出をしっかり削る。これが不可欠です。
      ──「Voice/ボイス」2012年2月号より
  ―――――――――――――――――――――――――――

「Voice/2月号」.jpg
「Voice/2月号」
posted by 平野 浩 at 03:07| Comment(3) | TrackBack(0) | 財務省の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月20日

●「いまは増税すべきではない/クルーグマン」(EJ第3222号)

 『Voice』/2012年2月号に、プリンストン大学教授
のポール・クルーグマン氏のインタビュー記事が掲載されていま
す。取材は、国際ジャーナリストの大野和基氏です。クルーグマ
ン教授は、2008年にノーベル経済学賞を受賞しています。そ
のごく一部をご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ──先進国の国家債務が膨張しつづけるなか、安易に財政出動
 という選択をとるわけにもいきませんね。
 クルーグマン/日本は総額、GDP(国内総生産)の2倍に当
 たる借金があります。それでも1%の金利で資金を借りること
 ができる。先進国の歴史をみれば、現在のレベルよりはるかに
 多くの借金を抱えたことが、過去には何度もありました。そも
 そも、(日本の財政が)債務危機に直面している、という考え
 方は間違っているのです。もちろんユーロ危機は目前のものと
 して存在しますが、それはユーロ圏だけの問題です。自らの通
 貨をもっていて、そこまでの現実的な問題に直面している国は
 ありません。
 ──ならばそこで、最も望ましい財政政策と金融政策のベスト
 ミックスはどのようなものでしょう。
 クルーグマン/完全雇用に近いかたちにまで経済を戻せるよう
 にかなりアグレッシブな財政拡張政策をとるべきです。さらに
 は次の5年間に2〜3%のインフレ率になるよう、金融緩和を
 組み合わせなければならない。そうすることで個人投資に対す
 る真のインセンティブを提供し、ある程度、借金を削ることも
 できる。うまくいけばそこで、自律的回復を生み出せる可能性
 があります。    ──『Voice』/2012年2月号
―――――――――――――――――――――――――――――
 冒頭で大野和基氏が、日本の経済の状況はデフレなので、本来
なら財政出動をして経済を回復させるべきなのでしょうが、膨大
な政府負債残高をかかえている状況では、とてもそんなことはで
きませんねとクルーグマン氏に聞いたところ、クルーグマン氏は
その答えとして次の3点を上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.日本の場合は、巨額の政府負債残高はあるが、金利は1%
   なので、積極的な財政拡張政策を取るべきである。
 2.先進国の歴史を見ると、日本のように膨大な借金を抱えた
   ケースは何度でもあるので、心配する必要はない。
 3.円という自国の通貨を持つ現在の日本が、債務危機に直面
   しているという考え方は、基本的に間違っている。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1に関しては、クルーグマン教授は経済学のセオリーを述べて
いるのです。すなわち、既に述べたように「デフレ下の国は、財
政赤字を増やす政策をとるべきである」といっているのです。具
体的には、「アグレッシブな財政拡張政策をとり、さらには次の
5年間に2〜3%のインフレ率になるよう、金融緩和を組み合わ
せる必要がある」と述べているのです。
 「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えら
れない」──これは財務省自身も外国に対して公言していること
ですが、これと同じことをクルーグマン教授は3として述べてい
ます。そして、日本の借金の額は大きいが、それが危機的である
とは考えない方がよいといっているのです。
 そのうえで、クルーグマン教授は、現在の日本が取り組むべき
方策について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ──日本に対し、いま政策上のアドバイスを送るとすれば、ど
 のようなものになるでしょうか。
 クルーグマン/インフレ目標は正しい。いまでも私はそう考え
 ています。日本がいま必要としているものは、他国が必要とし
 ているものと同じです。いま重要であるのは、最後になるだろ
 う、あと一回の財政拡張です。日本はずっとスポイト式、つま
 り一回に一滴垂らすというようなやり方をとってきたわけです
 が、ほんとうに経済を完全雇用の状態に戻すには、大きなプッ
 シュが必要になる。そのあとにインフレ目標を定め、実質金利
 がマイナスになるようにすれば、個人消費を促進する環境が生
 まれます。それができれば、公共の負債も減る。
           ──『Voice』/2012年2月号
―――――――――――――――――――――――――――――
 教授のいう「経済を完全雇用の状態に戻す」ということは、デ
フレから脱却するということです。ところが野田政権や日銀は、
デフレを放置して、見当違いの不退転の覚悟とやらで、大増税を
しようとしゃかりきになっています。セオリーとは真逆であり、
デフレを一層深刻化させ、それこそ日本経済を本当の危機に追い
込んでしまう恐れがあります。
 国の借金が膨らんでいるときにアグレッシブな財政拡張政策を
とる──常識的にはあり得ないと思ってしまうものですが、それ
は国の財政を家計に喩えているからそう思うのです。何かという
と、財源を気にするのもその喩えのレトリックから脱し切れてい
ないのです。
 大借金の赤字の家計は、生活費を切り詰めるしかありませんが
国は国債発行という借金ができる手段があり、しかも日本の場合
は金利がわずか1%であってそれが十分可能なのです。デフレを
脱却するには、クルーグマン教授のいうように財政政策をとるの
がベストなのです。もっとも国は家計と違うので、消費増税のよ
うに徴税権を使う方法もありますが、それをやるとデフレが一層
深刻化し、かえって危機に陥ってしまうからです。野田首相はそ
れがまるでわかっていないのです。
 このことを納得するには、歴史に学ぶことです。来週は歴史を
振り返ってみることにします。最近の政治家はつくづく歴史を勉
強していないと思います。    ── [財務省の正体/48]


≪画像および関連情報≫
 ●いまは増税をするべきではない/クルーグマン教授
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ──国家債務への対策として、野田政権は増税志向を強く打
  ち出しています。目下の経済状況で増税を選択するのは正し
  いやり方ですか。
  クルーグマン/いまはそれを勧めません。まずは、経済を先
  によくすることが必要です。そのあとに増税するのは賛成で
  す。あなたは1997〃という映画を観たことがありませ
  んか。私の記憶が正しければ、消費税を上げたら、それが、
  「98年リセッション」の引き金になったというストーリー
  だったはずです。財政的に責任を取りはじめようとする時期
  尚早の努力は、回復をかえって弱らせる、ということを知る
  べきでしょう。  ──『Voice』/2012年2月号
  ―――――――――――――――――――――――――――

ポール・クルーグマン教授.jpg
ポール・クルーグマン教授
posted by 平野 浩 at 02:55| Comment(5) | TrackBack(0) | 財務省の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月23日

●「間違って認識されている日銀独立性」(EJ第3223号)

 国会召集前に野田首相のとんでもない二枚舌街頭演説が発覚。
その要旨は次の通りです。URLで動画を試聴できます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マニフェスト──イギリスで始まりました。ルールがあるんで
 す。書いてあることは命懸けで実行する。書いてないことはや
 らないんです。それがルールです。消費税1%分は2兆500
 0億円です。(中略) 消費税5%分のみなさんの税金に、天
 下り法人がぶら下がってるんです。シロアリがたかってるんで
 す。それなのに、シロアリ退治しないで、今度は消費税引き上
 げるんですか?消費税の税収が20兆円になるなら、またシロ
 アリがたかるかもしれません。鳩山(由紀夫元首相)さんが4
 年間消費税を引き上げないといったのは、そこなんです。シロ
 アリを退治して、天下り法人をなくして、天下りをなくす。そ
 こから始めなければ消費税を引き上げる話はおかしいんです。
   ──高橋洋一著「『日本』の解き方/480」/夕刊フジ
http://www.youtube.com/watch?v=PmwJ0DrsXNw&feature=youtube_gdata
―――――――――――――――――――――――――――――
 新聞では「野田首相はブレない男である」と書いていますが、
これをブレといわずして、何をブレというのでしょうか。
 それはさておき、日本は早急に税収を増やす必要があります。
何しろ税収よりも赤字国債の額の方が多いという状況が続いてい
るからです。増税主義者は、だからこそ増税が必要だというので
すが、それをやるとかえって税収が減る恐れがあるのです。その
歴史的事実は後で述べることにします。
 それでは、どうすればこの事態を解決できるのでしょうか。
 それははっきりしているのです。添付ファイルのグラフを見て
ください。これは、1981年度から2010年度までの30年
間の名目GDPと所得税・法人税の対前年比の伸び率を示してい
るのです。GDPには、物価変動を考慮しない「名目GDP」と
それを考慮する「実質GDP」の2つがありますが、税収は名目
GDPに大きな影響を受けるのです。
 グラフを見ると、一見してわかることは、名目GDPと税収に
は明らかな相関があることです。名目GDPが前年度比で伸びれ
ば税収が増加し、落ち込めば税収が減っていくことが確認できる
と思います。
 したがって、政府が税収を上げる最も効果的な方法は、積極的
な景気対策──それも中途半端な政策ではなく、クルーグマン教
授のいうようにアグレッシブな財政拡張政策を講じてデフレから
の脱却を果たし、景気を浮揚させることによって、名目GDPを
増加させることが必要なのです。
 本当は、東日本大震災の復旧・復興を軸にして、大胆にして緻
密な計画によって景気回復を果たし、デフレからの脱却を実現で
きるのですが、現在の民主党内閣にはそんな力量はなく、デフレ
期に増税(財政黒字策)をするという真逆の政策を前のめりに進
めようとしているのです。
 こういうことをいうと、現在の日本の世論からすると「そんな
バカなことを」と袋叩きに遭う可能性があります。もう聞き飽き
ましたが、日本にはGDPの2倍の過大な政府負債残高があり、
そんなことをすれば国債破綻するというものです。本当の事情を
知らない多くの国民は、財務省と記者クラブメディア上げての増
税キャンペーンを通じて、そう思い込まされているのです。
 しかし、ここで大幅な消費増税を行うと、デフレは一層深刻化
し、企業収益が減少して失業者が増加し、消費が落ちみ、結果と
してかえって税収が減少してしまうのです。
 ポール・クルーグマン教授は、日本に対して次のようにアドバ
イスしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本は国家債務についてヒステリカルになりすぎない、という
 ことです。(中略)歴史をみれば、借金を大幅に減らした国を
 見つけることができます。イギリスがそうです。過去200年
 のイギリスの国家債務とGDPの割合を見てください。いまの
 日本よりも高いときが、一時的にしろあったのです。しかし、
 デフォルトはしなかった。その状況を頑張って、切り抜けたの
 です。 ──    ──『Voice』/2012年2月号
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の財務省と日銀は、日本経済をデフレから脱却させる力が
ないわけではないのです。やろうと思えばできるはずです。それ
なら、なぜやらないのでしょうか。
 バフル崩壊から15年も経つのに、依然としてデフレから脱却
できないというのは異常です。リーマンショックや欧州危機のさ
い、バランスシートを倍増させてまで、デフレにならないよう手
を打ったFRBのバーナンキ議長のようなマクロ経済運営の積極
さが日銀にないのは確かです。
 日銀は2000年以降、物価上昇率を1〜0%になるよう巧妙
にマクロ経済運営を行ってきています。これはデフレを容認し、
その状態を維持し、コントロールしているように見えます。
 ポール・クルーグマン教授は、日本に対してインフレ目標を勧
めているのに、日本では日銀が真逆のデフレ・ターゲッティング
をやっているように見えるのです。まさか財務省とともに増税環
境を整えているわけでもないでしょうが、とにかく金融緩和策を
異常なほど嫌うのです。そのため、上場投資信託(ETF)や不
動産投資信託(REIT)などの資産買入れによる金融緩和策を
やってアリバイ作りをしているのです。日銀は自分の庭を汚した
くないというか、思い切りの良さがないのです。
 クルーグマン教授は「日銀のやり方をスポイトで水を数滴たら
すようなやり方」と批判しています。もし、民主党がデフレを本
気で克服することを望んでいるなら、日銀に対して成果目標を求
めるべきです。         ── [財務省の正体/49]


≪画像および関連情報≫
 ●日銀の独立性に関する高橋洋一氏の意見
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本では中央銀行の「独立性」に関して長らく誤った認識が
  続いており、いまも正されていない。中央銀行の「独立性」
  といった場合、「手段の独立性」と「目的の独立性」の2つ
  がある。細かい金利の上げ下げといったところにまでは踏み
  込んではならない、つまり中央銀行の「手段の独立性」を侵
  してはならないというのが世界の考え方だ。ところが日本で
  は、中央銀行は「目的の独立性」をも有しており、政府が一
  切口出ししてはならないという誤った解釈がまかり通ってき
  た。そのため日銀は自分たちのやりたいようにやっている。
  自ら数値目標を挙げるわけでもないので、日銀には政策の失
  敗も成功もない。したがって、失敗の責任を追及されること
  もない。日銀はいわば政府の子会社で、政府が子会社に目標
  を指示するのは世界の常識だ。現行の日銀法では具体的な数
  値目標を政府が指示できないというのであれば、日銀法を改
  正すればいいだけのことである。それが国会でまともに議論
  されないのでは、政権も国会議員も、日銀官僚と財務官僚に
  いいようにやられているとしかいいようがない。高橋洋一著
      『財務省の隠す650兆円の国民資産』/講談社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

名目GDPと税収の伸び率.jpg
名目GDPと税収の伸び率
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(4) | TrackBack(0) | 財務省の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月24日

●「経済学者はデフレをどう考えているか」(EJ第3224号)

 国の経済や財政問題、その他さまざまな経済現象をどのように
とらえるかは、まさに経済学の問題ですが、経済にはいろいろな
とらえ方があります。経済学者によっても大きな意見の違いがあ
ります。哲学のようになっていることも多くあります。
 経済は数学のようにひとつの答えが出るものではないので仕方
がないですが、ひとつ気になることがあります。それは、日本で
バブル崩壊以来、約15年間にわたって、日本経済の足を引っ張
っているデフレからの脱却について、正面から言及する経済学者
や経済評論家が少ないことです。とくにテレビや新聞に頻繁に登
場する経済学者や経済評論家のほとんどが、デフレへの言及を何
となく避けているように思えるのです。
 そもそも「デフレ」の定義がはっきりしていないのです。この
問題については、昨年の12月13日と14日のEJ第3200
号と3201号でも書いていますので、そちらも参照していただ
くとして、ここでは別の例を取り上げることにします。
 今ネット上で話題になっている学者は、浜矩子同志社大学大学
院教授のデフレ論です。浜教授は、テレビや新聞に頻繁に登場す
る学者の一人です。問題になっているのは、浜矩子教授の提唱す
る「ユニクロ型デフレ論」です。関係書籍は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    浜矩子著/「文藝春秋」/2009年10月号
             「ユニクロ栄えて国滅ぶ」
    浜矩子著/ 「ユニクロ型デフレと国家破産」
              文春新書/文藝春秋社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 浜教授の主張の趣旨を簡単にまとめると次のようになります。
ユニクロという国民にとって身近な話題であるので、かなり多く
の人に読まれているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ユニクロが3月に990円のジーンズを売り出したかと思えば
 イオンは8月に880円のジーンズを発売した。イオンとセブ
 ン&アイ・ホールディングスが1缶100円の第3のビールを
 出せば、ダイエーは1缶89円で対抗した。テレビなどのマス
 メディアは、過熱する安売り競争を大不況下で家計を救う救世
 主扱いで連日のように紹介している。経済専門誌でさえも、そ
 うした安売りを弛まぬ経営努力と徹底したコスト管理の成果だ
 と称賛する傾向が強い。ユニクロを筆頭として、格安商品を実
 現し利益を上げている企業の戦略を見習え、という論理が支配
 的なのである。しかし、それでいいのだろうか。この過激なま
 での安売り競争は、さらに一段の不況地獄の先触れではないだ
 ろうか。
http://blog.goo.ne.jp/n-mayuzumi/e/9b40c2f4ca7434571035bf3804983a77
―――――――――――――――――――――――――――――
 浜教授はこの現象を「ユニクロ型デフレ」と呼んでいるのです
が、このデフレの考え方には疑問があります。浜教授は、こうし
た安売り競争ができるのは、極端なコストの圧縮の結果であると
し、それは労働者の賃金切り下げと直結する──そして多くの企
業がこうした安売りに参入すれば、自らの首を締めることに他な
らず、競争が激化することによって、デフレスパイラルに陥ると
説いているのです。
 この論法でいくと、多くの人が安いものを買うのでデフレにな
る。だから、それをやめようというのでしょうか。人が安くて良
いものを求めるのは当然ではないでしょうか。とくに「企業は激
しい安売りという大出血サービスを行うことによって、販売量を
確保している」ということについては完全に間違っています。
 浜教授の考え方については、さまざまな反論があります。その
ひとつをご紹介しましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
 乱暴な議論だと感じます。書かれている前提に、ユニクロが賃
 金を圧縮し、体力を削って安売りをしているという思い込みが
 あるのではないでしょうか。現実は違います。2009年のフ
 ァーストリテーリング売上高経常利益率は、18.9 %で、体
 力を削るどころか立派な高収益企業です。ニトリはどうでしょ
 うか。2010年2月期の経常利益率は、16.6 %です。体
 力を削っているでしょうか。スエーデン企業といえば、H&M
 やイケアを思い浮かべますが、いずれも、価格はとことん安い
 ですが、高売上、高収益型企業です。それらの企業に共通して
 いるのは、製造小売で、企画、原材料調達、販売は自ら行い、
 生産は海外の安い国で行っていること、情報システムで武装し
 業務が標準化され、効率化されていることです。つまりビジネ
 スのしくみで低価格を実現し、高収益を実現しているのです。
     http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-280.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに問題なのは、浜教授は経済ジャーナリストの萩原博子氏
との対談では、デフレの脱却策について次のようにも述べている
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 荻原/景気が上向いてもデフレから脱却できるとか、財政出動
    をすれば、デフレが解消されるというものではありませ
    んね。
 浜 /そうなんです。(中略)かといって、「事業仕分け」など
    で財政を縮小すれば、さしあたりはデフレに拍車をかけ
    ることになってしまうかもしれません。むしろ思い切っ
    て国民に国債大量増発を納得してもらうことも必要かも
    しれません。その上でそのカネを従来型とは違う21世
    紀グローバル時代型デフレへの対応に使っていく。
―――――――――――――――――――――――――――――
 驚くべき発言です。これほどの学者にしてこの主張の不整合さ
は何でしょうか。        ── [財務省の正体/50]


≪画像および関連情報≫
 ●池田信夫氏の批評/池田信夫blog
  ―――――――――――――――――――――――――――
  今月の『文藝春秋』に出ている浜矩子氏の「ユニクロ栄えて
  国滅ぶ」という記事が話題を呼んでいる。日本経済のスーパ
  ースターと目されるユニクロが日本経済を滅ぼすと主張して
  いるので、私も見出しに引かれて読んでみたが唖然とした。
  彼女はこう書く。「この過激なまでの安売り競争は、さらに
  一段の不況地獄の先触れではないだろうか。少し落ち着いて
  考えてみればいい。250円の弁当で1食すませる生活が当
  たり前になれば、まともな値段の弁当や食事は「高すぎる」
  ということになってしまう」。もう少し落ち着いて考えてみ
  よう。「まともな」値段とは何だろうか。浜氏は原価に「適
  正利潤」を乗せた価格を想定しているようだが、これは誤り
  である。少なくとも経済学でいうまともな価格(均衡価格)
  は、限界費用と等しい水準であり、利潤はゼロになることが
  効率的なのだ。そういう競争をしたら「経済がどんどん縮小
  してゆき、デフレの悪循環に陥っていく」と彼女は書くが、
  そんなことは起こらない。ユニクロや弁当の値下げは貨幣的
  なデフレではなく、相対価格の変化なので、価格が限界費用
  と均等化すれば止まる。そして価格が下がれば需要は増える
  ので、ユニクロのように高い利益が上がる場合も多い。この
  値下げ競争を防ぐために浜氏が提言するのは「限度を超えて
  安いモノは買うな」という政策(?)だ。具体的には「日本
  経済のために日産の人はトヨタの車を買い、トヨタの人は日
  産の車で通勤」すべきだという。こういう「国産品奨励」を
  保護主義というのだ(彼女は別の部分で保護主義を批判して
  いるが、その意味も知らないようだ)。これは「デフレを止
  めるために安売りを規制しろ」と主張する後藤田正純氏と同
  じレベルである。
    http://ameblo.jp/kouryu1093/entry-10342958816.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

浜矩子同志社大学大学院教授.jpg
浜 矩子同志社大学大学院教授
posted by 平野 浩 at 03:09| Comment(2) | TrackBack(0) | 財務省の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月25日

●「1930年代の米国経済を振り返る」(EJ第3225号)

 デフレに関する見解がおかしいのは、浜矩子教授だけではない
のです。藻谷浩介氏──こういってわからなければ、『デフレの
正体』(角川書店/2010年6月)の著者といえばご存知の人
も多いと思います。この本は、人口減少がデフレの要因であると
主張するユニークな本です。
 『デフレの正体』はベストセラーになり、いまだに売れている
のですが、この本が発刊されるやネット上では批判が続出し、裁
判沙汰になる騒ぎもあったのです。札幌在住の某氏が自分のブロ
グでこの本を取り上げ、経済的バックボーンがないと批判したと
ころ、著者の藻谷氏自身が相手を侮辱するような暴言のコメント
をブログにを書き込んだのです。札幌在住の某氏は名誉を傷つけ
られたとして札幌地裁に告訴し、同地裁は藻谷氏に対して10万
円の支払いを命ずる判決を出したという事件です。
 現在日本で話題になっている真のデフレとは、既に述べたよう
に、財の平均であるマクロ物価の下落のことですが、藻谷氏の主
張は、このマクロの「物価」とミクロの「価格」──具体的にい
うと、耐久消費財の価格低下をデフレと混同しているのです。
 世界のどのようなデータを見ても、一般物価の増減は、人口の
増減とは関係がなく、あくまで通貨量と関係があることを示して
います。しかし、日銀はこの世界の常識を認めたくないようなの
です。日銀の白川総裁は、デフレに関しては実に頑固であり、聞
く耳を持たない人物です。
 したがって、日銀としては、藻谷氏のような通貨量に関係のな
いデフレ論の書籍が出て、売れる──多くの人に読まれることは
歓迎なのだと思います。うがった見方かもしれませんが、藻谷氏
は日本開発銀行(現日本政策投資銀行)の出身であり、官の側の
主張を代弁する人物であるとみる人もいます。実際にその藻谷氏
は日曜のフジテレビの政治番組「新報道2001」にもしばしば
登場しているのです。
 デフレからどのようにしたら脱却できるのでしょうか。米国発
の世界恐慌の歴史を振り返ってみます。第1次世界大戦が終わっ
たのは1918年のことです。添付ファイルの上のグラフを見て
いただきたいと思います。
 米国は1921年に一時的に不況に陥りますが、短期間で回復
し、その後「狂騒の20年代」と呼ばれる長期好況期に突入する
のです。T型フォードに代表される車社会、大量消費社会がはじ
まったのです。それがどれほどのものであったかを示す数字がこ
こにあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ≪NYダウ指数≫
     1920年 ・・・・・  63・9ドル
     1929年 ・・・・・ 381・2ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 1920年時点のNYダウ指数は63・9ドルであり、それが
1929年に500%増の381・2ドルに達したのです。しか
し、1929年10月24日、突如ウォール街で株式の大暴落が
起こったのです。世界恐慌のはじまりです。
 こういうときは、直ちに財政赤字を拡大させる対策を打つべき
だったのですが、ときのハーバート・フーバー米国大統領は何も
しなかったのです。正確にいうと、フーバー大統領は何とか事態
を改善しようとしたのですが、財務長官のアンドリュー・メロン
氏がそれをさせなかったのです。
 メロン財務長官は、「市場原理主義経済学」に基づくレッセ・
フェール(自由放任主義)の信奉者であり、すべてを市場にまか
せる方策をとったのです。その結果、何が起こったでしょうか。
 米国の経済環境はまるで坂道を転がり落ちるように悪化して、
1933年には失業率は最悪の24.7 %に達したのです。添付
ファイルの下のグラフを見ると、1931年から失業率が急増し
ている様子が見てとれると思います。
 レッセ・フェールを主導するアンドリュー・メロン氏とは、ど
ういう考え方を持つ人物だったのでしょうか。フーバー大統領の
回顧録に残されているアンドリュー・メロン氏の語録があるので
ご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 労働を清算しよう。株式を清算しよう。農民を清算しよう。不
 動産を清算しよう。そうすれば、システムから不健全なものが
 一掃され、人々が勤勉に働き、道徳的な生活を送るようになる
 だろう。価格は調整され、より少なく、有能な人々から企業家
 が生まれてくるだろう。     ──アンドリュー・メロン
                      ──三橋貴明著
  『2012年/大恐慌に沈む世界/甦る日本』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このメロン氏の考え方は、その後「新自由主義」にかたちを変
えて現在でも生き続けています。具体的にメロン氏がやったこと
は、1930年にホーリー・スムート法を成立させ、2万品目以
上の輸入品に高率の関税をかけたことです。つまり、メロン氏は
国内産業の保護政策をとったのです。これに対して多くの国は、
米国の商品に高い関税率をかけて報復したため、米国の輸出入は
半分以下に落ち込んでしまったのです。
 その結果、米国は現在の日本をはるかに上回るデフレに突入し
名目GNP(GDPにあらず)は、1930年から3年連続でマ
イナス10%を割ってしまったのです。これをもっと生々しくい
うと、1933年に生きる米国国民は4年前と比較して半分以下
の所得で生活せざるを得なくなったのです。明らかな政府の経済
失政であるといえます。
 しかし、1933年3月にフランクリン・ルーズベルト氏が大
統領に就任し、ケインズなどの提言によるニューディール政策が
スタートすると、米国経済は急激に回復していったのです。しか
し大きなミスも冒しているのです。── [財務省の正体/51]


≪画像および関連情報≫
 ●財政改革論者/アンドリュ−・メロンのやったこと
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1921年、メロンはウォレン・ハーディング大統領によっ
  て組閣された内閣の一員として、財務長官に任命された。組
  閣直後からハーディング大統領はメロンに対して関税や戦争
  税などの税制改革と連邦予算の作成を矢継ぎ早に指示したが
  メロンは銀行家としての長い経験を活かし、それらの要求に
  対して迅速に応えた。しかしながら、メロンは保守的な共和
  党員として、また資本家として、現状の政府の予算管理の手
  法に満足していなかった。当時の政府の財政は、歳出の増加
  に対して歳入が追いついておらず、貯蓄が減少している状況
  であった。メロンは危機的状況に向かいつつある合衆国の財
  政を立て直すため、税制改革を推進した。まずメロンは物価
  の高騰の原因が高い税金にあると判断し、物価の上昇を抑え
  るために減税措置を執った。続いてメロンは政府の固定費用
  を削減するよう連邦議会に繰り返し働きかけ、その剰余金を
  国庫借入金の返済に充当した。そして政府の出費が節減され
  たことにより、さらに税金を下げることができるようになっ
  た。                ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

米国名目GDP推移/失業率推移.jpg
米国名目GDP推移/失業率推移
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 財務省の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月26日

●「ルーズベルト恐慌とは何か」(EJ第3226号)

 フランクリン・ルーズベルト氏が大統領になった1933年の
米国は狂騒の20年代のバブルが崩壊して、デフレの真っ只中に
あったのです。この時期にやるべきことは「財政支出を拡大させ
る政策」であり、それが大統領自身が命名した「ニューディール
政策」というかたちで展開されたのです。
 ルーズベルト氏が1933年3月4日に大統領に就任してはじ
めにやったことは、当日が土曜日であったにもかかわらず、「対
敵通商法」に基づき、国内の全銀行を休業させ、ラジオ演説で1
週間以内に全ての銀行の経営実態を調査させ預金の安全を保障す
ることを約束して、銀行の取り付け騒ぎを収めたことです。
 そのうえで議会では、矢継ぎ早に景気回復や雇用確保の新政策
を審議させ、大統領就任100日間で関連法案をことごとく成立
させています。さらに、1935年には、ニューディールの第2
弾として、WPA(公共事業促進局)を設立し、失業者の大量雇
用と公共施設建設や公共事業を全米に広げているのです。
 その電光石火の取り組みによって、1934年から4年連続で
名目GNP成長率が2桁に達し、25%近くにも達していた失業
率も1936年には16%に低下したのです。これにより、米国
経済はデフレからの脱却を果たしたのです。
 1937年にルーズベルト大統領は圧倒的な支持で再選されま
すが、ここで大きな問題が起きるのです。この4年間でルーズベ
ルト政権は「財政支出を拡大させる政策」を取ってきたので、当
然のことながら、財政赤字が膨らんでいます。
 これに対して当時の米国の政治家や評論家、経済学者たちが口
を揃えて次のようなことをいい始めたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        ・財政的は無責任ではないか
        ・財政規律が守られていない
        ・このままでは財政破綻する
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、日本で起こっている財政に対する批判とまったく同じ批
判が当時の米国で起きたのです。ルーズベルト大統領もそういう
批判に対応して「財政赤字半減」を政権公約にしていたので、直
ちに財政再建(緊縮財政)に取り組んだのです。
 その結果はどうであったかというと、米国経済は実質GDPマ
イナス10%成長という、どん底に落ち込み、再びデフレに舞い
戻ってしまったのです。この1938年のデフレ不況を「ルーズ
ベルト恐慌」(添付ファイル参照)というのです。
 ここで考えるべきことがあります。それは、デフレから脱却し
て景気が上向きになったときは、セオリーとしては「財政黒字を
増やす政策」に転換すべきなのです。ルーズベルト大統領は、デ
フレからの脱却を果たしたとみられる1937年から財政再建、
すなわち「財政黒字を増やす政策」に取り組んでおり、まさにセ
オリー通りといえるのですが、どうして再びデフレに逆戻りして
しまったのでしょうか。
 これに関して経済評論家の三橋貴明氏は、時期が「バブル崩壊
後であるかないか」の見極めが、1937年の米国も60年後の
日本も共に欠けていたとして次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1937年のアメリカも、60年後の日本も同じだが、政府の
 財政赤字を批判する人々は、両国が「バブル崩壊後」であるこ
 とを失念してしまっている。すなわち、「バブル崩壊後ではな
 い」国の財政赤字と、バブル崩壊後の国の財政赤字は同じ土俵
 で比較してはならない性質のものなのだ。バブル崩壊後の国で
 は民間が負債返済に走り、国民経済が急収縮の危機に見舞われ
 る。そんな状況で政府までもが、「政府は財政赤字を増やし過
 ぎだ!ムダを削れ!」などの声に押されて、緊縮財政を始める
 と国内からお金の「借り手」と「使い手」がいなくなってしま
 う。そうなると、国民の支出・所得の合計であるGDPが激減
 し、「国民全員がそろって貧乏になる」という悲惨な結末を迎
 えることになるわけだ。          ──三橋貴明著
  『2012年/大恐慌に沈む世界/甦る日本』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 バブル崩壊後に何が起きるかというと、民間企業が債務返済を
はじめることです。これについては、同様のことを野村総合研究
所主任研究員・リチャード・クー氏も主張しており、「バランス
シート不況」とネーミングしています。
 添付ファイルの下のグラフは、米国の大恐慌期の民間銀行のバ
ランスシートの推移をあらわしていますが、1929年以降貸付
金が急激に減少しているのが読み取れます。これは民間企業が銀
行の融資を受けるどころか、過去の借入金の返済を行っているこ
とを示しています。
 こういう状況で、政府まで財政再建を始めると、経済は一挙に
収縮し、再びデフレに戻ってしまうのです。民間企業の借入金返
済の動きは止められないので、こういうとき政府は財政拡大政策
を継続し、経済の収縮を防ぐ必要があるのです。
 1997年の橋本政権もルーズベルト大統領とまったく同じ過
ちを冒しています。当時90年代初頭のバブル崩壊後の回復過程
で、橋本政権は、消費増税などの財政再建路線への転換を行って
いるのです。つまり、大恐慌期のルーズベルト氏と同様に、日本
の平成大不況でも同じ財政再建路線への政策転換が行われたので
す。主導したのはもちろん大蔵省です。
 ただ、ルーズベルト政権と橋本政権の大きな違いは、米国では
速やかに財政拡充政策に戻し、その後の太平洋戦争によって財政
支出の拡大が続いたのに対し、日本の場合はそのまま緊縮財政が
続いていることです。
 そのため日本経済は、15年後の2012年の現在にいたって
もデフレから脱却できておらず、またしても消費増税をやろうと
しているのです。        ── [財務省の正体/52]


≪画像および関連情報≫
 ●緊縮財政が招いた「ルーズベルト恐慌」の二の舞か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ルーズベルト大統領によって、財政赤字を縮小させるために
  緊縮財政が執行されました。ルーズベルト大統領と言えば、
  ニューディール政策という公共投資中心の景気対策で世界恐
  慌から米国経済を救った人物として知られています。けれど
  も、実はその景気対策を止めるのが速すぎたために、大不況
  を再来させてしまったのが1938年のルーズベルト恐慌で
  す。1938年3月のギャロップ社の世論調査では『景気の
  落ち込みを防ぐために政府支出を拡大すべきか』という問い
  に対し、63%がノーと答えたといいます。国民全体で緊縮
  を支持したのです。1937年から緊縮財政が始まり、19
  38年まで続きました。その結果はてき面!1938年には
  成長率はマイナス3.4%にまで下がり、株価はほぼ半値に
  暴落しました。クルーグマンは警告しています。
  「この経験(ルーズベルト恐慌)からの教訓は、経済が大き
  く落ち込んだときは、借金を減らす努力を棚上げし、徹底的
  に景気対策をやらなければならない。世界大恐慌の際には、
  戦争という巨大な景気対策により経済は完全復活し、国の借
  金も消えた。現代は戦争という景気対策は望めないのだから
  それに相当するような巨大な景気対策をやらない限り、経済
  は復活しない。          武捨ゆうた氏のブログ
    http://ameblo.jp/misatoyuta/entry-10973222873.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ルーズベルト恐慌/1937.jpg
ルーズベルト恐慌/1937
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2012年01月27日

●「正しい政策を提案できない雰囲気」(EJ第3227号)

 「まず、何はともあれデフレから脱却すること」──そのため
にやるべきことは、クルーグマン教授の言を借りれば「アグレッ
シブな財政拡充政策と金融緩和の実施」なのです。おそらくそれ
しかないと考えられます。
 あの浜矩子教授でさえ「国民に国債大量増発を納得してもらう
ことも必要かも」といっているのです。これは本音です。当事者
である政府や日銀はどうでしょうか。政府はどうだかわかりませ
んが、バックにいて政府を動かしている財務省はよくわかってい
るし、日銀もわかっています。それなら、どうして日本はデフレ
から脱却できないのでしょうか。
 それは財務省と日銀がそれをやりたくないからです。なぜなら
「アグレッシブな財政拡充政策」をとれば国の負債残高が急増す
るし、日銀はその国債の直接引き受けを担わされることになるか
らです。彼らはそれを絶対にやりたくないのです。
 そこで財務省と日銀は、政府や国民からそういう声(デフレか
らの脱却)が出ないよう、相当の年月をかけて、次のような対策
を行ってきたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.政府に「消費税増税」路線を打ち出させる
    2.政府内で使う用語から「デフレ」をなくす
    3.国の借金の巨額さをつねに国民にPRする
    4.メディアを政府側の御用メディア化させる
    5.特定学者を使い消費増税の啓蒙を強化する
―――――――――――――――――――――――――――――
 これら5つのことについては、EJは今回のテーマで既に取り
上げてきています。消費税の増税路線は、自民党の麻生政権の時
代に与謝野財務相兼経財担当相が「社会保障と税の一体改革」を
主張し、その成果が自民党の「消費税10%アップ」につながり
2010年の参院選で自民党はそれを公約にしています。
 さらに民主党の菅政権の時代に、同じ与謝野氏が経財担当相と
して招聘され、民主党内で「社会保障と税の一体改革」の細部を
固めています。そして、野田政権はそれを引き継ぎ、今度は強く
「消費税増税」路線を政府として前面に打ち出したのです。これ
が、上記対策の「1」です。
 増税を進めるためには、「デフレ脱却」という声が強くならな
いことが必要なのです。消費増税をすれば、デフレが一層深化し
てしまうことが明らかであるからです。
 その対策としてやったことは、「デフレ」が話題にならないよ
う「デフレ」という言葉を政府の言葉から削除したことです。も
し、国会などでデフレについて質問が出ると「それはどういう定
義に基づくものか」といい返すことができますし、実際に日銀は
現在の経済状況をデフレとは認識していないようです。
 これについては、12月6日のEJ第3195号で既に述べて
いますが、与謝野氏は自民党の経財担当相のときにそれをやった
と誇らしげにいっているのです。詳細はEJ第3195号を参照
していただくとして、肝心な部分だけ再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 記 者/大臣、前回の記者会見の中で1%ぐらいのマイナス、
     物価下落は何でもないと、プラス要素だということを
     仰いましたけれども、今政府はデフレの脱却を重要政
     策として掲げているわけですけれども、この政策を見
     直すおつもりはあるのですか。
 与謝野/勿論、私は見直したのです。私が前回経済財政担当大
     臣のときにデフレという言葉を政府の言葉から削除い
     たしました。定義のない言葉を使ってはいけないと。
     それを私が申し上げたいと思っています。
http://electronic-journal.seesaa.net/article/238908562.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 産経新聞社・編集委員の田村秀男氏は、政府の文書ではデフレ
という言葉が使われていない例として東日本大震災復興構想会議
の資料を取り上げ、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 東日本大震災復興構想会議(議長・五百旗頭真防衛大学校長)
 による「復興への提言」付属の資料には「阪神淡路大震災との
 マクロ経済環境の違い」編が挿入されている。そこでは、名目
 GDP(国内総生産)について、阪神・淡路大震災時の489
 兆円(1994年度)と東日本大震災時の479兆円(201
 0年度見通し)と対比している。だが、16年前よりも10兆
 円も経済規模が小さいその異常さに何の説明も加えていない。
 その代わり、国・地方の長期債務残高、国債の格付けの悪化ぶ
 りなど、財源の制約ばかり盛り込んでいる。報告書のどこにも
 「デフレ」あるいは「デフレーション」が一言も出てこない。
 その代わり、「再生」という言葉は77回、「復興」は258
 回も繰り返し出てくる。内容のない言葉だけが呪文のように唱
 えられている。              ──田村秀男著
        『財務省「オオカミ少年」論』/産経新聞出版
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記「3」「4」「5」は、既にこれまでに何回も述べている
ので省略しますが、これらは日本経済をデフレから脱却させるた
めの正しい方策の実施を阻むものです。
 デフレがさらに深刻化すると、物価が上がらなくなり、企業の
利益は減少し、失業者が増大します。しかし、そうなっても官僚
たちは法律によって解雇されることはなく、給与も下がることは
なく、安定して生活していけるのです。結局、国民だけが塗炭の
苦しみを受けることになるのです。
 しかし、日本国民の多くは、この政府(財務省)と日銀による
増税キャンペーンに完全に騙されています。そういう意味で日本
は限界状況に追い込まれています。こんなことを続けていくと、
それこそ日本は再生不能になります。─ [財務省の正体/53]


≪画像および関連情報≫
 ●「経済コラムマガジン」/2012.1.23/694号
  ―――――――――――――――――――――――――――
  20年も不況が続く日本でも、唐突に消費税増税による財政
  再建が推進されようとしている。当然、増税は経済に影響を
  与えるが、ほとんどこの事は考慮されていない。野田首相に
  とっては「ブレ」ない事の方が大切らしい。しかし、「ブレ
  る」とか「ブレない」といったことは問題ではない。状況が
  変わったり、新しい情報や別の知識に接することによって政
  治判断を変えることは、政治家にとって必要な資質であり常
  識である。「ブレる」とか「ブレない」といった事に政治家
  としての価値を見い出すこと自体が異常である。ところが最
  近の政治家には「ブレない」ことを政治的テクニックの一つ
  と考えている者が多い。おそらく小泉首相をマネているので
  あろう。たしかに、政策や意見を変えることによって支持を
  失った政権が続き、また政治生命を断たれた政治家も多い。
  さらに意見を変えることがマスコミや野党に格好の攻撃材料
  を与えることになっている。しかし、政治家にとって一番大
  事なことは、正しい情報と知識を基にした正しい政治判断を
  下すことである。日本は、今日、金利がさらに低下傾向にあ
  り、新卒者の就職状況は最悪の状態が続いている。この経済
  状況で「増税に不退転の決意」なんて正気の沙汰ではない。
  増税を急がなければならないほど日本の財政が悪化している
  わけではない。その根拠は、日本の長期金利がまた1%を割
  込んで、これが世界で断トツの低い金利であることである。
  ところが増税を推進する財政再建原理主義者は、卑怯にもこ
  れには一切触れようとしない。  http://adpweb.com/eco/
  ―――――――――――――――――――――――――――

田村秀男氏と著書.jpg
田村 秀男氏と著書
posted by 平野 浩 at 02:55| Comment(4) | TrackBack(0) | 財務省の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月30日

●「橋本政権の失敗に学ぶべきである」(EJ第3228号)

 橋本首相が政権を担っていた1997年の消費税国会で、当時
新進党の鈴木淑夫議員と橋本首相との間で次のやり取りがあった
のです。鈴木議員は元日銀理事であり、当然経済に詳しい議員で
あったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 鈴木議員/金利のコストがこれだけ低いのだから、財政赤字の
      削減を急ぐ必要はないのではないか
 橋本首相/財政赤字はこのままでは拡大し続ける。そうすれば
      クラウディングアウトになる可能性を心配している
 鈴木議員/民間資金が市場で遊んでいるときにクラウディング
      アウトを心配して財政再建を優先するのは、見当違
      い。むしろ民間市場を活性化するために財政出動を
      するべきだ
 橋本首相/・・・・・。          ──三橋貴明著
  『2012年/大恐慌に沈む世界/甦る日本』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 増税を急ぐ必要はないのではという鈴木淑夫議員の質問に対し
て、橋本首相は「クラウディングアウトになる可能性を心配して
いる」と専門用語を使って応酬しています。現在の国会答弁より
もかなり高度なやり取りをしているようにみえます。
 橋本元首相はなかなかの勉強家で、政策に詳しい議員として定
評のあった政治家ですが、やはり大蔵省の影響を強く受けている
のです。1989年8月から1991年10月まで大蔵大臣を務
めているからです。
 橋本元首相の蔵相時代の答弁や首相時代の受け答えをテレビで
よく試聴して知っていますが、専門用語を好んで使うものの、表
層的な感じがします。それが「クラウディングアウトになる可能
性を心配している」という答弁によくあらわれています。
 クラウディングアウトとは何でしょうか。定義は、次のように
なっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 クラウディングアウト(crowding out)とは、行政府が資金需
 要をまかなうために大量の国債を発行すると、それによって市
 中の金利が上昇するため、民間の資金需要が抑制されること。
                    ──ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 たとえば、失業対策などを目的として国が大量の国債を発行し
公共事業や福祉政策を拡充させようとすると、新規国債の発行に
よって市中金利が上昇し、民間の経済活動──投資のための資金
調達や住宅購入などの消費行動を抑制してしまうことをいうので
す。クラウディングアウト本来の意味は「押しのける」という意
味なのです。
 鈴木議員のいう「民間資金が市場で遊んでいるとき」というの
は、銀行にはたくさんお金があるのにその運用先に困窮している
こと、すなわち、デフレの状態を意味しているのです。鈴木議員
は、そのようなときにクラウディングアウトなど起きるはずがな
いし、このような時期に財政再建を優先するのは見当違いだと断
じているのです。
 普通の議論であれば、完全に橋本氏の負けですが、彼はそのと
きの経済の状況とクラウディングアウトとの関係が十分理解でき
ていなかったので、消費増税を強行したのです。ルーズベルトと
まったく同じ間違いをやってしまったのです。何が何でも消費増
税をしたい大蔵省の洗脳が功を奏したのです。
 その結果何が起こったでしょうか。増税を実施した1997年
度についていえば、消費税収は4兆円増えているのですが、2年
後の1999年度には1997年度対比で所得税収と法人税収の
合計額が6兆5000億円の税収減になってしまったのです。
 このことを知って橋本氏は愕然とします。彼はその時点で自分
のやったことの間違いに気が付いたのです。そして、2001年
4月の総裁選に出馬するとき、自らの冒した間違いを率直に国民
に詫びています。あのプライドの高い橋本氏にしては考えられな
いことです。総裁選では、小泉氏に敗れたものの、その態度は立
派であるといえます。産経新聞・編集委員の田村秀男氏によると
橋本氏は、財務官僚の言いなりになって間違った政策を取ったこ
とを亡くなる間際まで悔いていたそうです。
 それに比べて、菅直人前首相と野田佳彦首相の薄っぺらなこと
──橋本元首相の失敗に何ら学ぶことなく、財務官僚にいちころ
に洗脳され、財務省の宣伝マンに成り下がっています。
 田村秀男氏は、菅氏が財務相のとき、有識者代表とともに日本
の財政について1時間余り議論したことがあるそうです。そのと
き、田村氏は、民間金融機関の持っている政府短期証券100兆
円を日銀に買い取らせて、建設国債を出してその100兆円を吸
い上げるとともに、その100兆円を新成長戦略用の財源にして
使ってはどうかと提案したそうです。
 それに対して、菅前首相は「そんなことをしたら、政府の債務
が増えるじゃありませんか」の一点張りであったというのです。
完全に骨の髄まで洗脳されてしまっています。田村氏はそのとき
のことを2010年6月15日に「カンノミクスの勘違い」と題
してネット上で書いています。その内容は大変興味深いので、ご
紹介しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   「カンノミクスの勘違い」/田村秀男氏
   http://tamurah.iza.ne.jp/blog/entry/1653758/
―――――――――――――――――――――――――――――
 菅前首相はそれでも必ずしも自分と意見の合わない人も含めて
招集し、議論するだけマシ(?)ですが、野田首相は財務官僚の
説明にほとんど発言しないままメモを取り、あとは人が変わった
ように「不退転の決意」で強行突破ですから、まったく打つ手な
しです。         ――――─ [財務省の正体/54]


≪画像および関連情報≫
 ●橋本龍太郎元首相の人物像について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「見識はあるが、人望はない」が党内での一般的な評価。政
  界随一の政策通として知られ、いささかの揶揄を込めて「課
  長補佐」などといわれるほど、各政策部門の細かな部分まで
  精通していたが、何かわからないことを聞いたりすると「お
  や、そんなこともおわかりにならない?」、「あなたが知ら
  ないことを、どうして私が知っていると思うのです?」など
  と必ず嫌味な返答をしたとされる。花街で最も嫌われている
  政治家という不名誉な噂もあった。橋本の兄貴分である竹下
  登は、「怒る、威張る、拗ねる」が橋本になければとっくの
  昔にアイツは総理になっていた」と評した。田中角栄は「橋
  龍は、こまっちゃくれた風切り小僧だ。備前長船の出身。切
  れそうだけど、あの手は人様に好かれない。親父の龍伍は切
  れ味抜群だったが、仲間がいなかった」と評した。梶山静六
  は「橋龍というのは遠くで見ている富士山」と評したことが
  ある。つまり近くに寄って接していくと理論に走りすぎたり
  白黒をはっきりさせないと気のすまない性格で欠点ばかりが
  目立つというのである。 小沢一郎は「龍ちゃんは一人で遊
  ぶ。だから友達ができない」と述べている。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

橋本龍太郎元総理.jpg
橋本 龍太郎元総理
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2012年01月31日

●「埋蔵金論争と消費税増税との関係」(EJ第3229号)

 財務省はたくさんのお金を握っています。日本という経済大国
の予算を管理している役所ですから、当然のことですが、ここで
いうお金とは、表から見えないように隠蔽されているお金のこと
です。それは「埋蔵金」といわれています。
 埋蔵金はもう全部出したのでもうない──このように財務省は
いいますが、それは違います。とくに特別会計の埋蔵金は財務省
の施した巧妙なからくりによって、毎年生まれてストックされる
ようになっているのです。
 官僚だけでなく政治家や評論家も「埋蔵金は使ってしまえばな
くなる」とよくいいますが、実はなくならないのです。この官が
隠蔽した埋蔵金を次々と発掘したことで有名な元財務官僚・高橋
洋一氏は、埋蔵金について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 埋蔵金論争ではしばしば埋蔵金はストック(バランスシート)
 の話で使えばなくなると矮小化する人がいる。しかし、言い出
 しっぺの私からすれば、フロー(毎年予算)もストックも密接
 に関連しているのだから、あえて区分けすることは特別の意味
 はない。毎年の予算で無駄遣いしても、まだおカネが余るから
 ストックになるのである。ストックの問題とわざと限定するの
 はフローに手を入れさせないための官僚の言い方でしかない。
 つまり、埋蔵金を使えば一時的になくなるが、数年経てばまた
 溜まり、掘り起こせる。もし、財源として限りがあるというな
 ら、年数を区切って財源といえばいい。   ──高橋洋一著
      『財務省の隠す650兆円の国民資産』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党は、特別会計を廃止して、官が握っている埋蔵金を残ら
ず発掘するといって政権をとったのですが、財務官僚との戦いで
は最初から負け続けています。この埋蔵金を巡るやり取りをひと
つの具体的な例で説明します。
 それは、基礎年金国庫負担割合の2分の1への引き上げを巡る
財源論争です。国民年金から給付が行われる基礎年金の負担割合
は、「保険料2、国庫1」の割合であったのですが、少子高齢化
の影響によって、保険料が3分の2を負担することは困難になっ
たのです。そこで政府は2009年度より、国庫負担を50%に
引き上げたのです。必要な財源は、2.5 兆円です。しかし、財
源の確保はされていなかったのです。
 そのため、2010年度から財源確保が大きな問題になったの
です。困ったのは、担当閣僚である菅財務相と長妻厚労相(とも
に当時)です。こういうとき、財務官僚は関係閣僚をさんざん困
らしておいて、最後に助け舟を出すのが通例です。しかし、必ず
条件を付けるのです。
 2010年度については、財政投融資特別会計の埋蔵金が充て
られたのです。そのとき、きっと消費増税の話が出ているはずで
す。菅氏が2010年の参院選で唐突に「消費税増税10%」を
掲げたのもこれに関係があると思います。
 しかし、2011年度では基礎年金2分の1の財源が予算編成
上の大問題として浮上したのです。このときの財務相は野田佳彦
氏なのです。財務官僚としては、これを消費増税の絶好の機会と
して、菅首相と野田財務相に働きかけたのです。しかし、「財源
はない」という姿勢はぎりぎりまで崩さなかったのです。
 2010年11月29日になって、五十嵐財務副大臣は記者会
見を開き、次のように述べたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在50%になっている基礎年金支給額の国庫負担割合を財源
 捻出困難のため、2011年度予算案でいったん36.5 %に
 引き下げる可能性がある。      ──五十嵐財務副大臣
―――――――――――――――――――――――――――――
 この財務省の記者会見について、高橋洋一氏は次のように分析
しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 当時の財務省の腹の内を忖度すればこうなる。そもそも国庫負
 担引き上げの際、安定財源確保のために、消費税増税と税制抜
 本改革が前提になっていた。だからこそ、財務省も国庫負担の
 引き上げに応じた。つまり、2010年度はなんとか埋蔵金で
 捻出したが、2011年度はもうない。早く、消費税増税と税
 制抜本改革に踏み切らないと、国庫負担50パーセント維持は
 できない!これが財務省のスタンスである。国民の関心が高い
 年金を人質にとって、消費税増税に持ち込みたい。それが財務
 省の狙いだったと推測される。       ──高橋洋一著
      『財務省の隠す650兆円の国民資産』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 いったん決めた負担割合50%を36.5 %に戻すのは、当時
の菅首相や野田財務相にとって屈辱ものです。おそらく必死に勝
財務事務次官と交渉したと思われます。
 その結果政府首脳は「社会保障と税の一体改革」の実現によっ
て、消費税の税率の引き上げを実現させると約束したと思われま
す。さらにそのさい、たち上がれ日本の共同代表の与謝野馨氏を
通常国会前の内閣改造で、経財相として入閣させ、「社会保障と
税の一体改革」を担当させるという約束もしているはずです。
 そして実際に2011年1月14日に与謝野馨氏は経財相とし
て入閣しているのです。うがった見方をすれば与謝野氏の起用も
財務省の提案ではなかったかと思われます。
 それでは財源はどうなったのかというと、独立行政法人鉄道建
設・運輸施設整備支援機構の埋蔵金を使っているのです。あれほ
どないといっておきながら、条件が果たされると、埋蔵金を出し
てくる──これが財務官僚なのです。
 野田首相が「社会保障と税の一体改革」を不退転で進めるウラ
にはこういういきさつがあったものと思われます。驚くべき財務
省の悪辣さです。     ――――─ [財務省の正体/55]


≪画像および関連情報≫
 ●遥香の日記/基礎年金、国家負担割合引き下げも・・・
  ―――――――――――――――――――――――――――
  基礎年金の国(税金)の負担分が約3分の1ほど足りないよ
  うです。財務省では2011年度の基礎年金における税金の
  負担を36.5%(約3分の1)に引き下げることを提案し
  ています。基礎年金の国の負担3分の1から2分の1への引
  き上げは10年ほど前から提案されていましたが、財源の目
  途が立たず延び延びになっていたもので埋蔵金をあてること
  で取りあえず国負担2分の1が達成されましたが、ここにき
  て充てられる財源がなく3分の1負担に戻すしかなくなって
  きたようです。恒久的な財源を見つけられなかった民主党の
  失態は批判されて当然ですが、消費税の増税の追い風になっ
  てきそうです。ちなみに、国の負担の不足の2.5兆円は消
  費税約1%分にあたります。このようなところにも作為を感
  じてしまうのは私だけでしょうか。近いうちに民主党は消費
  税1%だけでも増税させてくれと国民に泣きつくか、将来支
  給される年金額を維持したいなら1%だけでも増税に同意し
  ろと恫喝をかけてくることも予測されます。しかし、現時点
  では、厚生年金の積立金を取り崩して不足分の2.5 兆円を
  穴埋めして、後年消費税の増税でその補てんをおこなうこと
  で落ち着くことになるのではないかと予測しています。
    http://d.hatena.ne.jp/i-haruka/20101202/1291263127
  ―――――――――――――――――――――――――――

高橋洋一氏(嘉悦大学教授).jpg
高橋 洋一氏(嘉悦大学教授)
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2012年02月01日

●「政府短期証券という借金がある」(EJ第3230号)

 2012年1月24日、政府は2012年度予算案を閣議決定
しています。一般会計総額で約90兆3000億円となる予算案
です。前年度は、92兆4116億円でしたので、前年度より予
算を圧縮したことになります。2兆1116億円の圧縮です。
 実は、これにはからくりがあるのです。圧縮した2兆1116
億円は、昨日のEJで述べた基礎年金国庫負担割合の50%分の
財源──約2.5 兆円にほぼ該当するものです。2010年度と
2011年度は埋蔵金を充てて凌いだのですが、2012年度の
2.5 兆円はどうしたのでしょうか。
 それは国債を発行して対応させたのです。しかし、国債を発行
したなら、それが一般会計総額の中に入っていなければならない
のですが、一般会計総額に含めなくてもよい特殊な国債を発行し
たのです。その国債の名称は「交付国債」というのです。
 「交付国債」とは何でしょうか。
 交付国債というのは、政府が発行するいわば「先付け小切手」
のような借金です。具体的にいうと、年金積立金を運用する独立
行政法人に交付国債を引き受けてもらい、その独立法人はその都
度積立金を取り崩して年金給付に充てるのです。
 交付国債は、受け取った側が必要なときにその都度現金化でき
るもので、利子が付かず、発行時に全額予算計上する必要がない
ため、国の財政悪化を隠すために使われることがあります。今回
はまさにそうです。
 それでは、その交付国債の財源はどうするのかというと、消費
税の増税分を充てることにしているのです。つまり、まだ決まっ
ていない消費税の増税分を充てるつもりなのです。「取らぬ狸の
皮算用」そのものです。
 財務省は、年度ごとに埋蔵金を出していたら自分のたちの手持
ちの資金(と彼らが勝手に思っている税金)が減る一方なので、
交付国債を持ちかけたものと思われます。そのため、この国債に
は「年金交付国債」という名前がつけられているのです。
 しかし、年金交付国債も借金には違いなく、もしその分を一般
会計に加えると、92兆8000億円と2011年度を上回って
しまうのです。これが誤魔化しでなくて何でしょうか。
 これに関連して、「国債の発行枠44兆円以下」という何の根
拠もない、政府のメンツを保つための目標はやめるべきです。そ
ういう枠を設けても、ウラでこのようなことをしていたのでは何
にもならないからです。交付国債は借金の先延ばしにすぎず、国
債発行の政府目標を守るための「見せかけの財源確保」という批
判が高まっています。
 さて、1月30日のEJ第3228号でご紹介した田村秀男氏
の「カンノミクスの勘違い」──この中で、田村氏が当時の菅首
相に提案した内容を振り返ってみることにします。田村氏の提案
とは次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.民間金融機関が持つ政府短期証券(FB)100兆円を日
   銀資金で買い取らせる
 2.政府は建設国債を発行、この100兆円を吸い上げ、新成
   長戦略用の財源にする
―――――――――――――――――――――――――――――
 野田政権は、消費増税などよりも田村氏の提案を採用するぐら
いの勇気を持って欲しいところですが、首相ご自身のマクロ経済
に関する決定的な知識不足によって、財務官僚にあっという間に
洗脳され、かつて橋本元首相のたどった間違った道を不退転で進
もうとしています。
 ここで注目すべきは「政府短期証券」です。これは一体どうい
うものでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本政府が一時的な資金不足を補うために発行する国債の一種
 で、期間60日程度の割引債券のこと。償還までの期間が短く
 安全性の高い投資対象といえる。1999年に、一般会計が発
 行する大蔵省証券、食糧管理特別会計が発行する食糧証券、外
 国為替資金特別会計が発行する外国為替資金証券の3種類が統
 合されて政府短期証券となったのである。  ──マネー辞典
―――――――――――――――――――――――――――――
 もう少し詳しくいうと、これは割引債なのです。政府短期証券
は、額面から利子相当分を割引いた価格で発行され、期限に額面
で償還される債券なのです。短期間で確実に利息分が儲かるので
金融機関にとっては安全性の高い投資です。
 短期償還の国債──ちょこっと借りて、ちょこっと返すを繰り
返しているのですが、これも借金の一種です。しかし、この政府
短期証券は他の国債とは違う面があります。それはこれによって
調達した資金の使途と関係があるのです。
 その使途のほとんどは政府の為替介入の資金なのです。円高を
是正するために政府が円資金でドルを買いますが、そのための円
資金を政府短期証券を出して調達しているのです。
 政府短期証券の発行で調達した円資金を財務省が管轄する「外
国為替資金特別会計」の歳入とするのです。そして、外国為替資
金特別会計は、この円資金を元手に円売りドル買い(外貨買い)
の為替介入を行い、そこで得たドルを米国債などの資産に変えて
運用しているのです。これが外貨準備です。
 つまり、政府短期証券は、借金に見合う外国国債が資産として
残るのです。したがって、田村秀男氏の提案は現実味のある提案
なのですが、菅氏はきっと政府短期証券の意味がわかっていない
のでしょう。100兆円の資金が成長戦略に使えると、確実にデ
フレから脱却できるのです。
 しかし、菅政権と野田政権は増税を行おうとしています。増税
は家計や企業から富を強制的に奪取し、政府に移転させますが、
国債は政府の借金であり、民間の富は減らないのです。政府短期
証券についてはさらに考えます。――─ [財務省の正体/56]


≪画像および関連情報≫
 ●「外貨準備」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  外貨準備とは、中央銀行あるいは中央政府等の金融当局が外
  貨を保持すること。保持している外貨の量を外貨準備高とい
  う。政府や日銀が、為替レートの安定や公的な外国への支払
  いのために保有している外貨である。仮に日本が経済危機に
  陥った場合、円は人気がなくなり、急激に円の価値が下がる
  (=円安)。放っておくと外国からモノが買えなくなったり
  外国への支払いができなくなってしまう。これを防ぐために
  政府・日銀は市場で外貨を売って円を買ったり、手持ちの外
  貨を支払いに充てる。このときに使う外貨を事前に準備して
  おくのが外貨準備、つまり急激な円安に対する万一の備えな
  のである。財務省は、2009年度末の日本の外貨準備高が
  1兆427億ドルに達したと発表した。日本円にしてざっと
  100兆円である。
       http://www.nissay.co.jp/enjoy/keizai/05.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

日本の外貨準備高.jpg
日本の外貨準備高
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2012年02月02日

●「国民の知らない40兆円の損失」(EJ第3231号)

 2011年9月27日の衆議院予算委員会で江田憲司氏(みん
なの党幹事長)が次のような質問をしているのです。植草一秀氏
の本に出ていたものですが、少し長いので、2つに区切って解説
していきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国民が知らない間にとんでもないことが起こっているというこ
 とを説明します。まず、今の外国為替資金特別会計にある、い
 わゆる外貨資産高、外貨準備と言っているんですが、2010
 年末の統計で、日本は1.06 兆ドル、84兆円も持っている
 んですね。これは今、直近でいいますと8月末で1.22 兆ド
 ルですから、大体97兆円、およそ100兆円ですよ。ただ、
 ほかの先進国はどうかと言いますと、英国は0.08 兆ドル、
 米国は0.13 、イタリアは0.26 というように、大体先進
 国は日本の十分の一です。日本だけが突出して多いというのが
 一点目。では、その100兆円になんなんとする外貨準備をど
 ういう形で持っているかというと、そのほとんどは米国債で保
 有している。これが2011年7月現在で9148億ドル、こ
 れは史上最高まで行きまして、80円で換算すると73兆円程
 度になる。これも、中国がトップで、ほかの先進国とはもう比
 べものにならないぐらいの莫大なお金を持っているわけです。
              ──衆議院予算委員会会議録より
           植草一秀著、『日本の再生』/青志社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 外貨準備の主目的は、為替リスクに対処するためのものですが
為替に介入して円高を是正しようとすると、巨額の資金が必要に
なります。そのため、100兆円規模の金額になってしまったの
です。この金額は中国に次いで第2位です。
 それでは、日本と中国以外の国は、なぜ外貨準備が少ないので
しょうか。それは、国際金融では為替介入は禁じ手であるからで
す。高橋洋一氏によると、国際金融の理想は次の3つの要素を満
たすことにあるとしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.   固定相場制
         2.独立した金融政策
         3.自由な資本の移動
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、これら3つの要素はすべてを満たせないのです。どれ
か1つを犠牲にしないと、後の2つが成り立たないからです。そ
こで世界の国々の大多数は固定相場制を捨て、変動相場制を採用
することによって、他の2つを満たそうとしているのです。
 この場合、為替リスクは金融政策で安定を図るとが常識なので
す。なぜなら、変動相場制では、為替に介入してもほとんど効果
が得られないからです。円高になったので、ドル債を円で大量に
買えば、確かに円高は一時的に冷やされますが、そのドル債を売
ると円高になるので、意味がないからです。
 しかし、日本はなぜ為替介入を繰り返すのでしょうか。それに
ついては後で述べます。それでは、続いて江田みんなの党幹事長
の質問の続きをご覧ください。
―――――――――――――――――――――――――――――
 では、この莫大なお金を持っている結果どうなっているのかと
 いうと、何とこれが、国民の皆さんはほとんど知らないことな
 んですが、40兆円の為替差損が出ているわけです。40兆円
 ですよ、皆さん。しかも民主党が政権交代をしたのが(平成)
 21年ですから、この直近の3年間。この3年間で為替評価損
 は、26兆、35兆、40兆と、もう急激にこの円高に伴って
 伸びているわけですよ。そして、それまでの為替評価損と質的
 に違うところは積立金というのはこういった為替リスクに対応
 するために積み立てているものなんですけれども、この20兆
 円レベルの積立金をはるかに上回る規模で為替評価損を出して
 いるわけです。わかりやすく、これは、政府短期証券という国
 債を出して国民から借金をしてそれで投資しているわけですか
 ら、これは100兆円ですから、言ってみれば、国民一人当た
 り100万円の外貨預金というか外貨投資をして、40万円の
 損失を出しているということなんですよ。こんなことが民間会
 社であったら、即刻、社長は首ですよ。しかも、この3年間、
 一番責任が重い人はだれか。野田総理ですよ。財務副大臣、財
 務大臣としてこういう莫大な外貨準備を放置して、結果として
 この為替評価損が出た。急激な円高も食いとめられなかった。
 この結果、40兆円の評価損。本来なら、民間会社なら首にな
 るような人が何と総理大臣に出世しているというのが、この今
 の日本の政府の現状なんですね。その一環として、外為特会が
 ありますね。外国為替資金特別会計、ここに20兆円の積立金
 があるんですが、これを使えという議論がございますけれども
 なぜ使えないんでしょうか。──衆議院予算委員会会議録より
           植草一秀著、『日本の再生』/青志社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 円高になると、政府短期証券で調達した巨額の資金を使い、国
際金融では禁じ手の為替介入をしても、その米国債を売らないで
保有している──これではまるで米国へのプレゼントをしている
のと同じ。100兆円もあるのですから、活用すべきです。
 その国民の財産が、江田氏のいうように、直近の3年間で40
兆円という巨額の為替差損が出し、その間、財務副大臣、財務大
臣の職にいた野田首相は知らん顔をしている──こんなことは許
せないという江田氏の主張はもっともです。案外ご本人は、そう
いう事実すら知らなかったのではないでしょうか。
 国民の知らないところで財務省は、これほど巨額の損失を出し
ながら、そういう損失の穴埋めも含めて首相に増税をけしかけて
実施させようとしている。まさに財務省は日本国のシロアリその
ものであります。      ―――─ [財務省の正体/57]


≪画像および関連情報≫
 ●外貨準備に関する植草一秀氏の意見
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本政府は2011年8月末時点で、1兆2185億ドルの
  外貨準備を保有している。世界のなかで現在、最大の外貨準
  備保有国は中国である、中国は何と日本の三倍近い2.88
  兆ドルの外貨準備を保有している。しかし中国は、完全な変
  動為替相場制を採用しておらず、中国人民元の上昇を抑制す
  るために政府が人民元を売り、ドルなどを買う為替防衛策を
  採っているため、必然的に外貨準備高が膨張するのである。
  これに対し日本は、1973年以降、変動為替相場制を採用
  しており、基本的には変動相場制の場合、対外収支の不均衡
  は為替レートが変動することによって調整されるとのメカニ
  ズムが期待されており、そのなかで1兆ドルを超す外貨準備
  を保有することば極めて不自然であると言わざるをえない。
           植草一秀著、『日本の再生』/青志社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

みんなの党/江田幹事長.jpg
みんなの党/江田幹事長
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2012年02月03日

●「外貨準備を取り崩し復興資金にする」(EJ第3232号)

 財務省の官僚は霞ヶ関ではトップの秀才が揃っているといわれ
ています。しかし、彼らは単年度でしか物事を考えない習慣がつ
いています。今年どうする、来年どうするということしか考えら
れないのです。長期的に物事を計画的に進めるということはでき
ない人種なのです。霞ヶ関はそういうところです。
 したがって、増税よりも経済成長が必要だといっても成長戦略
の成果が出るにはある程度年数がかかり、成否は不確実です。し
かし、増税なら確実に税収が取れると考えるのです。本来であれ
ば、政治家が中長期の視点に立って、そういう近視眼的な官僚を
使うべきなのですが、菅内閣や野田内閣など民主党政権は、官僚
以上に視野が狭く、知識量も絶対量が不足しているので、官僚の
いいなりになってしまうのです。
 筑波大名誉教授の宍戸麟太郎氏は、「松下政経塾では経済を教
えていないから、ヘンな倫理観だけ強い経済オンチの政治家が多
い」(2月1日付、日刊ゲンダイ)といっています。経済に弱い
人が総理になっては国民が不幸になるだけです。
 さて、100兆円規模の外貨準備を活用する田村秀男氏の提案
をもう一度取り上げて考えてみたいので、再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.民間金融機関が持つ政府短期証券(FB)100兆円を日
   銀資金で買い取らせる
 2.政府は建設国債を発行、この100兆円を吸い上げ、新成
   長戦略用の財源にする
―――――――――――――――――――――――――――――
 最初に強調したいことは、外貨準備は現代では必要ないという
ことです。まして巨額な外貨準備など不要です。外貨準備は、固
定相場制の時代に、レートを維持するために必要だったので、変
動相場制の下では仮に外貨準備がゼロでも、何ら問題は起きない
のです。なぜなら、為替レートが変動することによって、国際収
支を調整するからです。
 今や中国と日本だけが巨額の外貨準備を保有しています。中国
は、完全に変動相場制に移行していないのでまだ理解できますが
日本が100兆円規模の外貨準備を持つ必要などまったくないの
です。このことだけでも財務官僚が経済というものをいかに知ら
ないかがわかります。
 ところで、2月2日のEJ第3231号で取り上げた江田憲司
氏の質問の意味について説明します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 外国為替資金特別会計、ここに20兆円の積立金があるんです
 が、これを使えという議論がございますけれども なぜ使えな
 いんでしょうか。             ──江田憲司氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 菅政権では、震災の復旧・復興の資金を最初から増税で対応す
ることにし、復興増税で押し切ってしまったのですが、みんなの
党は外国為替資金特別会計にある20兆円を使うべきであると主
張していたのです。しかし、菅政権や野田政権は、聞く耳を持た
なかったのです。
 これについて、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は、近著で次
のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 外国為替資金特別会計が保有する資産から生じる利子収入は円
 ベースで見れば負債である政府短期証券に対する利払いより多
 いので、剰余金が発生する。その累積額(10年度末で約20
 兆円)は、取り崩して使用することができる。09年度は2兆
 4000億円を、10年度は2兆9000億円を積立金から取
 り崩して一般会計に繰り入れた。ただし、円評価した外貨準備
 高は円高によって減価しているので、同特別会計は債務超過に
 なっており、無制限に取り崩せるわけではない。10年12月
 に、剰余金の一般会計繰り入れルールが定められた。ここで考
 えているのは、剰余金ではなく、外貨準備そのものの取り崩し
 である。                ──野口悠紀雄著
    『消費増税では財政再建できない』/ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 野口悠紀雄氏は、外国為替資金特別会計にある20兆円を使う
のではなく、外貨準備そのものを取り崩して復興資金に充てるこ
とを提案しているのです。野田首相も財務官僚のいうことばかり
聞かないで、野口氏の著書を読んで勉強すればもっとマシな政権
運営ができると思うのですが、菅氏にしても野田氏にしてもまる
で勉強していないと痛感します。
 野口氏によると、外貨準備を取り崩して復興資金に使う手順は
次のようになります。
 まず、海外に保有している資産──そのほとんどは米国債です
が、それを売却するのです。そしてその売却代金を国内に持ち込
んで、外貨購入の原資である政府短期証券を償還するのです。し
かし、そのままでは国内金融市場に影響が出るので、長期国債を
発行します。復興支出は道路や橋などの社会インフラになるので
建設国債を発行すればよいのです。
 しかし、野口提案には難点があります。そんなことをすれば、
安全保障に依存している米国との関係がおかしくなってしまうか
らです。まして震災直後に米国には「トモダチ作戦」で助けても
らっているので、野田首相にはそうする勇気はないでしょう。
 しかし、震災後の支援や安全保障と日本が所有する資産の処理
は別問題です。真の政治家であればそれを堂々と米国に主張すべ
きですが、そういっても野田政権では現実的にはできないので、
田村秀男氏は、民間金融機関が所有している外貨準備の原資であ
る政府短期証券を日銀に買いとらせ、建設国債を発行してこれを
吸収する提案をしたのです。これなら米国債を売らず、復興資金
として巨額の資金を活用できるのです。それを復興に使えば経済
成長戦略にもなるのです。   ――─ [財務省の正体/58]


≪画像および関連情報≫
 ●野田、“恩師”松下幸之助を冒とく!/江口克彦参院議員
  ―――――――――――――――――――――――――――
  野田佳彦首相が「増税路線」を正当化するため、恩師である
  パナソニック創業者の松下幸之助氏の遺訓を勝手に解釈して
  いる。これに激怒しているのが、松下氏の秘書を務め、野田
  首相も卒塾した松下政経塾創立の立役者でもある、みんなの
  党の江口克彦参院議員。野田首相を「肉の入っていない肉ま
  んだ」と指弾し、「首相として不適格。早く辞めてもらいた
  い」と言い切った。2011年11月21日の衆院財政金融
  委員会。野田首相は、公明党議員に「松下氏の無税国家構想
  についてどうお考えか?」と質問されて、「松下氏がそう考
  えた時と今の状況は違う。今や天上の人となった松下氏も増
  税を理解してくれると思う」と答弁した。私は唖然とした。
  松下氏が無税国家論を提唱したのは、税金が安い方が国民の
  可処分所得が増えるから。政治家の職責は国民を豊かにする
  こと。そのために必要なのは成長戦略だが、野田首相は税金
  を上げて消費を冷やそうとしている。
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20111124/plt1111241154000-n1.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

野口悠紀雄氏の本.jpg
野口 悠紀雄氏の本
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2012年02月06日

●「GDPに匹敵する日本の対外資産」(EJ第3233号)

 引き続き外貨準備を取り崩して復興資金を作るプランについて
その実現可能性を検証していくことにします。この外貨準備につ
いては、リーマンショックのさい、米国政府が当時の福田首相に
1兆ドルの提供を迫り、福田首相がそれを蹴って辞任したという
のは、知る人ぞ知る有名な話です。2009年1月6日のEJ第
2484号にそのことを書いたところ、私のブログに非常に多く
の書き込みが殺到し、今でもそれは続いています。浜田和幸氏の
著書の一部の再現と、当日のEJのURLを示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 思い出されるのが、2008年9月1日の、福田康夫首相の突
 然の辞任である。「あなたたちとは違うんです」との名(迷)
 セリフを残して記者会見場を後にした「のび太総理」だが、じ
 つは、アメリカ政府から、しつこく「ドルを融通してくれ」と
 の圧力を受けていたようなのだ。しかも、それは半端な金額で
 はなかった。じつに、日本が保有する全外貨準備高にあたる1
 兆ドル(約100兆円)の提供を求められたという。これは、
 アメリカ政府が今回の金融パニックを封じ込める目的で投入を
 決めた7000億ドルを上回る金額である。要は、自分たちの
 失敗の尻拭いを日本に押し付けようとした、アメリカのムシの
 よすぎる話に福田前首相はキレてしまったというのである。
                 ――浜田和幸著/光文社刊
    『「大恐慌」以後の世界/多極化かアメリカの復活か』
http://electronic-journal.seesaa.net/article/112214327.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 円高によって円ベースでは大幅に減価したといっても、1兆ド
ル近い巨額の日本の外貨準備ですが、なぜこんなに巨額になった
のかというと、為替介入のために購入したドル資産を米国に配慮
してその後も保有し続けてきているからです。そのため、その円
資金を調達した政府短期証券はまだ償還されず、その後も繰り返
し借り換えが行われ、現在にいたっているのです。
 この状態を政府のバランスシートで見ると、負債に政府短期証
券、資産として米国債があるのです。野口悠紀雄一橋大学名誉教
授は、海外で保有している資産(主として米国債)を売却し、そ
の売却代金を国内に持ち込み、外貨購入の原資である政府短期証
券を償還する──そのうえで長期国債を発行し、それにより得た
資金を復興資金として使うというものです。それは日本経済の成
長戦略の資金にもなるのです。
 しかし、政府(財務省)が米国との関係悪化を恐れて米国債の
売却を躊躇うことは確実です。これに対して、産経新聞編集委員
である田村秀男氏は、民間金融機関が保有している政府短期証券
を日銀が買い取り、政府はそれに見合う規模の建設国債(60年
償還)を発行し、それを復興資金として使うプランを提案してい
るのです。これなら、米国債をそのまま保有できます。このプラ
ンが実現されたときのバランスシートは負債は長期国債(建設国
債)、資産としては国内の社会資本になるのです。
 2つのプランを比べると、田村氏の案の方が現実的ですが、政
府短期証券を日銀が買い取ることについては、日銀は反対するで
しょうし、財務省はこのプランが実現すると消費増税ができなく
なるので、絶対反対のはずです。当然野田政権も借金がまた増え
るということで、反対の姿勢を貫くはずです。とにかく彼らは消
費増税以外は考えられなくなっているので始末がわるいのです。
 日本の財政が破綻寸前であるとか、ギリシャのようになるとか
さまざまな危機的情報が流れていますが、これは増税不可避の環
境を作るために意図的に流されているデマ情報です。
 その理由はいろいろありますが、忘れてはならないことは、日
本が20年連続の世界一の債権大国であることです。つまり、日
本は、巨額の対外資産を保有しているのです。その規模は総額で
2009年末で545兆円。その内訳は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     直接投資 ・・・・・・  68.2 兆円
     証券投資 ・・・・・・ 262.0 兆円
     金融派生商品 ・・・・   4.3 兆円
     その他投資 ・・・・・ 123.6 兆円
     外貨準備 ・・・・・・  96.8 兆円
     ―――――――――――――――――――
                 544.8 兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 債券の比率が高くなっているのは、米国債が多いからであると
思われます。つまり、流動性が高い形態であり、いつでも処分で
きる金融資産であることを示しています。なお、上記データは、
2009年末ですが、一年後の2010年度末では、対外資産は
564兆円に増加しているのです。
 日本が海外に対して持つ負債は、2009年については266
兆円であり、したがって、差し引き純資産は279兆円というこ
とになります。なお、2010年度末では、負債が312兆円に
増えた関係上、純資産は251兆円に減少していますが、それに
しても巨額の資産を日本は海外に保有しているのです。
 今回の東日本大震災による資産の損失は16.9 兆円程度──
2011年6月24日の内閣府推計──であり、対外純資産の1
割を使うだけで、十分な損失補填ができることになるのです。そ
うであるのに、なぜ、増税で対応したのでしょうか。
 「負担を次世代に先送りしない」と強調しながら、増税期間を
25年に設定し、事実上の恒久増税になってしまっています。そ
れなのに「臨時増税」と謳い、最初のうちは10年程度の償還を
目指すべきといいながら、次に本番である消費増税をする関係上
批判を恐れて増税期間25年で野党と政治的に妥協してしまった
のです。そこには、増税のための大義は何もなく、大震災を口実
に増税したかっただけといわれても政府や財務当局は反論できな
いはずです。        ―――─ [財務省の正体/59]



≪画像および関連情報≫
 ●「復興増税に反対するこれだけの理由」/河村たかし
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ──ついに復興財源法が成立しました。
  河村たかし:とんでもにゃあことです。庶民にばかり負担を
  押しつけて。始めにやるべきは徹底した経費削減でしょう。
  なんで日本の国会議員は衆院参院合わせて722人、みなさ
  ん2200万円も歳費をもらっているんですか?なんで公務
  員のみなさん、冬のボーナス満額なんですか?これ全部、税
  金そのものから出ているんです。カットすべきところが手つ
  かずで、何が増税ですか。
  ──でも、日本の債務が1000兆円では、ある程度の増税
  はやむなしでしょうか。
  河村たかし:それもとんでもにゃあ話です。テレビや新聞が
  毎日のように日本の借金1000兆円、世界一の借金大国な
  どと繰り返すもんだから、なんとなく「増税やむなし」と思
  い込まされてしまってるんです。これは銀行と財務省と政府
  にとって非常に都合のいいデマ。それをマスメディアや経済
  コメンテーターとかが鵜呑みにして垂れ流してきたんです。
  実際は、日本の銀行には金が余っているんです。企業や個人
  に融資する金が預金の7割ぐらいしかなくて、あと3割の金
  が余っている。銀行は金を貸してナンボの商売だから、それ
  では困るわけ。しょうがないから国へ貸し出す。つまり国債
  を買いまくるんです。言い換えれば、国が銀行に余っている
  金を借り上げてやっているようなものです。銀行は金利を確
  実に手にしたいから、財務省に「増税しましょう」と働きか
  ける。「借金大国だから増税やむなし」論は、金利を確実に
  払ってもらいたい
http://tf.digital-dime.com/lifestyle/trendextreme/11/12/post_283.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

福田康夫元首相.jpg
福田 康夫元首相
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2012年02月07日

●「復興財源を税に求めるのは誤りである」(EJ第3234号)

 昨年大震災に見舞われた日本には、次の2つの財源が緊急的に
求められています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.  復興財源 ・・・・ 一定期間限りの経費
   2.社会保障財源 ・・・・ 永続的な性格の経費
―――――――――――――――――――――――――――――
 これら2つの資金に関して、復興構想会議と社会保障と税の一
体改革に関する集中検討会議の提言は、ともに税──復興経費は
基幹税の増税、社会保障は消費税増税で対応することを打ち出し
ています。
 これに対して野口悠紀雄教授は、対象経費の経済的、会計的な
性格を十分に理解していない不適切な財源を提案しているとして
批判しています。2つの財源は、上記のように、復興財源は「一
定期間限りの経費」であり、社会保障財源は「永続的な性格の経
費」という対照的な性格を持っているのです。
 さらに野口悠紀雄教授は、復興財源は他の経費と切り離して独
立させることができるのに対して、社会保障財源は他の経費と密
着しているので、財政全体の中でとらえなければならないとして
いるのです。
 2011年9月27日、政府・民主党は、復興財源の大枠を次
のように決定しています。「所得税を中心に9兆円規模の臨時増
税を行い、法人税減税を凍結する」という内容です。こんなこと
が震災後、実に半年も経過してやっと決まったのです。
 そのさいのキーワードは「後の世代に負担を転嫁してはならな
い」ということです。しかし、この理由づけは、誰が考えても間
違っています。なぜなら、財政支出の大部分は、道路や橋などの
社会資本であり、後の世代の人も使うので、将来世代も応分の負
担をするべきであるからです。
 もうひとつ大きな誤りがある──野口悠紀雄教授は、国債であ
れ、税であれ、負担は現世代の人が負うことになり、負担を将来
に移すことはできないとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この2つの財源調達手段の違いは、犠牲にされるものの違いで
 ある。国債に頼る場合には、主として投資が犠牲にされる。そ
 れに対して、税が用いられる場合には主として消費が犠牲にさ
 れる。したがって、「財源として国債に頼るか税に頼るか」と
 いう選択は、「現時点で負担するか将来時点で負担するか」の
 選択ではなく、「投資を犠牲にするか消費を犠牲にするか」の
 選択である。              ──野口悠紀雄著
    『消費増税では財政再建できない』/ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、後の世代に本当に負担を負わせたくないと本気で考えて
いるのであれば復興国債の償還期限を10年程度にすべきです。
当初政府は、10年償還を宣言していたのですが、野党との話し
合いの結果、25年に変更されたのです。復興増税に続いて消費
増税の実施を考えている財務省としては、復興国債を10年償還
にして国民に重税感を感じさせると、本命の消費増税が難しくな
ると考えたものと思われます。
 しかし、25年償還では事実上の恒久増税であり、後の世代に
も負担を負わせる結果になっています。民主党は、野党が反対す
るからという理由で当初約束していたことを後から変更したり、
断念したりすることが多くなっていますが、きわめて無責任な態
度であると思います。「後の世代に負担を転嫁してはならない」
という宣言は、一体どこに行ったのでしょうか。
 野口教授は、これでは国債償還のルールの整合性がとれなくな
るといっています。もともと復興財政支出の大半は、社会資本投
資であり、建設国債の対象経費なのです。公共事業で建設される
道路や橋は、60年程度の耐用年数を持つとして、建設国債の償
還期限は60年となっているのです。
 したがって、復興国債の償還ルールの整合性を保つには、償還
期限を25年に変更する必要があります。かつて赤字国債の償還
期限は10年だったのですが、1985年度から60年になって
いるのです。そういう国債の償還ルールの整合性を壊してまで、
復興増税をやった財務省の意図はどこにあるのでしょうか。
 私は、復興財源まで税に求めたことは、財務省の大失敗であっ
たと考えます。国民は復興財源を税に求めるのは仕方がないと考
える人が多く、これを税以外の財源で賄っていれば、「消費増税
やむなし」と考える人はもっと増えたと思うのです。これについ
て野口教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 社会保障費の増加に起因する財政収支のアンバランスは、消費
 税だけで解決がつく問題ではない。所得税・法人税の基本構造
 や、年金給付に関する抜本的な見直しが不可欠である。ところ
 が、復興増税によって、それは困難になつた。復興のために所
 得税の増税と法人税減税の凍結を行ない、それに加えて社会保
 障のためにこれらを増税するというのでは、国民の理解は到底
 得られないであろう。復興は1回限りのものであるから、基幹
 的な税には手をつけるべきではなかった。復興財源としてそれ
 を使ってしまうのは、財政再建に大きなマイナスだ。これこそ
 が復興財源としての増税のもたらす最大の問題である。財務省
 は、短期的増収に固執するあまり将来に大きな禍根を残した。
               ──野口悠紀雄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 野口教授の主張する、外貨準備を取り崩し復興財源に充てるア
イデアは、復興は一回限りのものであり、その分だけ独立して管
理できるという点できわめて実現性があったのです。すぐにも処
分できる多額の金融資産を保有しながら使わない。そのままにし
ておくと、円高で減価していくだけなのです。これほど愚かなこ
とがあるでしょうか。    ―――─ [財務省の正体/60]


≪画像および関連情報≫
 ●くまさんの自立/『消費増税では財政再建できない』書評
  ―――――――――――――――――――――――――――
  野口悠紀雄教授がまもなく発売される新刊『消費増税では財
  政再建できない』は的を射ている。というか、ドジョウ首相
  は知っていて当然嘘を言っているのだ。財務相も5%消費税
  増税では財政再建は出来ないことは知っているはずだ。にも
  かかわらず、消費税増税をするこの意味のなさを、この本で
  は的確に指摘している。民主党内閣、財務相は国民をいかに
  欺くかしか考えていない。簡単に言えば、こんな買いの増税
  では数年しか持たないということだ。つまり歳出削減をして
  いない以上、まさに焼け石に水だ。バカな政治家と財務省が
  歳出を絞ることなく予算が肥大化しているというか、させて
  いるからだ。景気の悪さが、税収を増やしていないからだ。
http://shigemaro.cocolog-nifty.com/kumasan/2012/01/post-85b4.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

野口悠紀雄教授.jpg
野口 悠紀雄教授
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2012年02月08日

●「日本の財政はそんなに危機的なのか」(EJ第3235号)

 2月2日のことです。朝日新聞朝刊の一面トップに次の記事が
掲載されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    日本国債急落シナリオ/三菱UFJ銀が対応策
        ──2012年2月2日付/朝日新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 実に衝撃的な見出しです。それでなくても大手新聞やテレビは
日本は1000兆円の借金があり、それはギリシャやイタリアよ
りも悪いという報道が目白押しですから、この朝日新聞の記事で
やっぱりと思った人は多いと思います。
 しかし、なぜこの記事がいまこの時期に大新聞のトップを飾る
のでしょうか。もちろん、日本の財政状況はけっしてよくはあり
ませんが、現在のところ、期間10年の長期国債の金利は約1%
の超低金利で安定しており、当の三菱UFJ銀行も「当面国債下
落はない」と記事の中で述べているのです。
 国民としては自ら対処する方法がないだけに、何か煽られてい
る感じがしないでもないのです。このタイトルだけでも見た人は
「消費増税やむなし」と考えてしまうのではないでしょうか。消
費増税の環境作りと思われても仕方がないと思います。
 国会でもこの問題は取り上げられています。中でも注目すべき
は、2011年11月9日の衆議院予算委員会で安住財務相に対
し、江田幹事長は、政府負債残高の対GDP比が200%という
が、それに見合う資産があるので、ネット(純債務)で見るべき
であり、それに日本国債のCDS(クレジット・デフォルト・ス
ワップ)は「1%」であってデフォルトにはほど遠いと説明した
あと、次のようなやり取りがあったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 江田/何度も申しますが、われわれも財政規律は重要だと考え
    ています。しかし、この国難のときに、デフレで景気が
    わるいときに、財政再建を最優先して増税をするのは世
    界の常識に反しますよといっているのです。われわれは
    まずデフレを脱却し、経済を成長路線に乗せて税収を上
    げる。そしてそれに平行して、わが身を切る改革、無駄
    遣いを解消していく。これを数年間やるのが先決なんで
    す。増税はもし必要ならその後でいい。それがわれわれ
    の立場です。
 安住/まず、政府資産、純資産をどれくらい見込むかというこ
    とですが、公式には484兆円とわれわれは思っていま
    す。ですから、先生仮にですね。百歩譲ってといっては
    ヘンですが、その額を差し引いた額でGDP比を見ます
    と、日本の政府債務残高は先進国中最悪の130%であ
    ることも事実なのです。これ、イタリアよりもわるいの
    です。それから、個人金融資産のことですが、それは銀
    行が預かっていて、その銀行が国債を買っているという
    ことです。その事実を無視できないのです。最後にCD
    Sのことですが、ある日突然発散することもありうるの
    であって、日本がいま1%だから大丈夫だというのであ
    れば、なぜイタリアは6.6 %になったのでしょうか。
    そういうわけで、財政再建は必要なのです。
        2011年11月9日/衆議院予算委員会より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このやり取りで、江田憲司氏の主張は、EJで述べていること
と同じであり、きわめて納得のいくものです。それに対する安住
財務相の答弁は財務省の役人作成の文書の棒読みです。したがっ
て、財務省の考え方そのものです。
 しかし、政府負債残高の対GDP比が200%といい続けてき
たのに、はじめて政府資産──484兆円と財務相は明言──を
数字で示し、それを債務残高から差し引いた額でGDP比をとっ
ても130%であることを明言したことは大きいと思います。し
かし、この数字が先進国中最悪であり、イタリアよりもわるいと
強調している点には異論があります。
 先進国といっても各国それぞれの事情があり、ましてEUの加
盟国であるイタリアと日本とは違うのです。これについては、改
めて述べますが、強調したいことは、日本の国債は自国通貨建て
であるのに対し、イタリアは事情が違うということです。
 もうひとつCDS──クレジット・デフォルト・スワップにつ
いて述べる必要があります。CDSはデリバティブ取引の一種で
あり、国債デフォルト(債務不履行)に対する保険料なのです。
日本国債は昨年暮れの時点で「1.3 %」であり、問題にならな
い低さなのです。
 11月9日の衆院予算委員会における江田幹事長の安住財務相
へのしめくくりとして、江田氏は、2002年に国債の格付けが
下げられたさい、ムーディーズなどの米格付け3社に対して財務
省・黒田財務官が送付した「外国格付け会社宛意見書要旨」を取
り出し、安住財務相に対して「いいですか。財務省がこんなこと
をいっているのですよ」と読み聞かせて質問を終っています。そ
こにはおよそ次のようなことが書かれていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考え
   られない。デフォルトとして如何なる事態を想定している
   のか。
 2.格付けは財政状態のみならず、広い経済全体の文脈、特に
   経済のファンダメンタルズを考慮し、総合的に判断される
   べきである。以下の要素をどう評価されておられるのか。
    A.マクロ的に見れば日本は世界最大の貯蓄超過国
    B.国債は国内できわめて低金利で、安定的に消化
    C.世界最大の経常黒字国、債権国、外貨準備最高
―――――――――――――――――――――――――――――
              ―――─ [財務省の正体/61]


≪画像および関連情報≫
 ●クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)とは、クレジ
  ットデリバティブの一種で、債権自体を移転することなく信
  用リスクのみを移転する取引である。最も取引が盛んなクレ
  ジットデリバティブのひとつ。銀行の自己資本比率を高める
  対策の一環としても利用される。CDSは、クレジット・デ
  フォルト・スワップは、定期的な金銭の支払と引き替えに、
  一定の国や企業の債務の一定の元本額に対する信用リスクの
  プロテクションを購入する(すなわち、信用リスクを移転す
  る)取引である。具体的には、プロテクションの買い手は、
  仮想元本額に対する一定の割合の金額を定期的に支払い、一
  方、プロテクションの売り手は、参照組織についての倒産そ
  の他の信用リスクの顕在化を示す一定の事由が発生した場合
  に、一定の方法で特定された参照組織に対する債権について
  予め合意したところに従って、買い手から参照債務を元本額
  で購入するか、参照債務の価値の下がった部分を補う金額を
  買い手に支払う(「現金決済」)か、いずれかの方法によっ
  て決済を行う。           ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

質問する江田憲司幹事長.jpg
質問する江田 憲司幹事長
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2012年02月09日

●「日本の国債破綻は80年に1回の割合」(EJ第3236号)

 昨日のEJに掲載した安住財務相がみんなの党の江田幹事長に
対して答弁した次の言葉に注目します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安住:最後にCDSのことですが、ある日突然発散することも
 ありうるのであって、日本がいま1%だから大丈夫だというの
 であれば、なぜイタリアは6.6 %になったのでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安住財務相は何をいおうとしているのでしょうか。ここでいっ
ているCDSとは何でしょうか。
 CDSとはクレジット・デフォルト・スワップといい、ごく簡
単にいうなら、債務を保証する保険のようなものです。この場合
債権者は債務者の支払い能力に不安を感じたとき、第三者に一定
の保険料を支払い、債務者の信用を保証してもらうのです。債務
不履行が起こったとき、第三者が代理弁済することになります。
 しかし、これだったらただの保険です。保険の場合は、保険料
を支払うのは債権者ということになりますが、CDSの場合は債
権者とは限らないのです。つまり、保険料を支払うことで債権者
の権利を買うことができるからです。
 ソブリン債、すなわち、各国の政府または政府関係機関が発行
し、または保証している債券──国債のことです。これにもCD
Sがあります。ソブリンCDSです。ソブリン債は、国や政府関
係機関の信用を引き当てにしているので、とくにOECD加盟国
などのものは信用格付けが高く、したがって利率──長期金利が
低いのです。
 CDSでギリシャは、2011年10月の時点で51.9 %で
す。これは「100÷52=1.92 」、つまり2年以内に破綻
する可能性があることを示しています。当然保険料は高く、この
保険料を2年間支払うと、破綻したときに保証してもらっても足
が出てしまうのです。
 しかし、日本を含む先進国6国のCDSは次のようになってい
るのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       アメリカ ・・・・・ 0.5 %
       イギリス ・・・・・ 0.9 %
       ド イ ツ ・・・・・ 0.9 %
       日  本 ・・・・・ 1.2 %
       フランス ・・・・・ 1.8 %
       イタリア ・・・・・ 4.5 %
              ──2011年10月14日現在
―――――――――――――――――――――――――――――
 これによると、日本のCDSは「1.2 %」となっていますが
それは東日本大震災があったからで、現在は0.8 %〜0.9 %
に下がっているのです。1.2 %でということは、83年で1回
デフォルトが起きる可能性(100÷1.2 =83.3 %)を意
味しているのです。つまり、破綻など考えられないということを
示しているのです。
 安住財務相は、「日本がいま1%だから大丈夫だというのであ
れば、なぜイタリアは6.6 %になったのでしょうか」といって
いますが、イタリアは昨年の10月の時点で既に4.5 %になっ
ているのです。
 もうひとつイタリアについていえることがあります。いうまで
もなく、イタリアはEUの加盟国です。どこの国にも金融政策と
財政政策の2つの政策を取ることができますが、EUの国はそう
いうわけにはいかないのです。EU各国は、それぞれ財政政策は
持っているものの、金融政策は統合して、共通通貨ユーロを導入
しているのです。つまり、国債危機にさいしても、財政政策は使
えるが、金融政策は放棄しているので、自由にならないのです。
 財政政策とは、徴税、国債発行、所得移転および政府支出(消
費・投資)などの政府の主要機能については各国の事情に応じて
実施できるのですが、金利調整や通貨発行などの金融機能はEC
B(欧州中央銀行)が行うのです。このECBの実権は事実上ド
イツが握っているといわれています。
 しかし、金融政策と財政政策は一体のものであるはずです。既
に述べているように、政府としては、そのときの経済の状況に応
じて次のように政策を使い分ける必要があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ◎デフレ下の国 ・・・・ 財政赤字を増やす政策
   ◎インフレの国 ・・・・ 財政黒字を増やす政策
―――――――――――――――――――――――――――――
 例えば、経済状況がインフレであるときは、政府は財政黒字を
増やすため、金利を引き上げ、増税をするなど国内の需要を抑制
する必要があるのですが、金融政策が使えないので、それが思う
ようにできないのです。
 逆に経済状況がデフレであるときは、中央銀行は利下げを行い
国債購入を積極的に行い、財政赤字を増やす政策を取る必要があ
るのです。そうしないと失業率が上昇してしまうのです。もっと
も日本のように中央銀行がわざわざデフレターゲッティング政策
をとってデフレを維持している不思議な国もありますが、金融政
策は使えるので、いつでも危機に対処できます。
 金融政策が使えない国のひとつであるイタリアと日本を比較す
ること自体がナンセンスなのです。昨日のEJでご紹介している
ように、当の財務省が次のように述べているからです。イタリア
は自国通貨建てでは事実上ないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えら
 れない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか
                       ──財務省
―――――――――――――――――――――――――――――
             ――――─ [財務省の正体/62]


≪画像および関連情報≫
 ●CDSや長期金利から日本の国債破綻はあり得ない
  ―――――――――――――――――――――――――――
  国債破綻を強調する人は「3年以内に破綻する」という人が
  たくさんいるが、高橋洋一氏はいう。もし、本当に日本の国
  債が3年で破綻するなら、日本のCDSは1.2 %なので、
  CDSを買うべきである。なぜなら、3年で4%(1.2 ×
  3=3.6 %)近く保険料を払うことになるが、本当に破綻
  すれば、100%の「保険」がもらえるので、25倍の高率
  配当になるからである。しかし、誰も買わない。日本国債が
  破綻するなどあり得ないと考えているからである。当の財務
  省も海外にはそういっているではないか。政府負債の対GD
  P比ばかり強調しないで、CDSの数値や長期金利について
  は誰も新聞やテレビでは言及しない。このようなデマで国民
  を騙すのはもういい加減でやめてもらいたい。
  ―――――――――――――――――――――――――――

答弁する安住財務相.jpg
答弁する安住財務相
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2012年02月10日

●「4次補正予算は年金のカネである」(EJ第3237号)

 2月6日発売の『週刊ポスト』2/17号に、第4次補正予算
にからんで、財務省がとんでもないことをしていることが暴かれ
ています。少し内容が複雑であるので、EJでその内容をていね
いに分析し、わかり易くご紹介することにします。今回のテーマ
である「財務省の正体」が浮き彫りになると思います。
 2月8日、平成23年度(2011年)第4次補正予算案が成
立しています。ところで、この4次補正予算は何となく唐突に出
てきたように思えるのですが、その真の狙いは何でしょうか。
 そんなこと決まっているじゃないか、復興予算に決まっている
──きっと多くの人はそう思うでしょう。しかし、結論から先に
いうと、4次補正予算には、復興関連費用はほとんど含まれてい
ないのです。
 もっと不思議なことは、あれほどカネが足りない、財政は危機
的状況で、消費増税は不可避だと訴えている財務省が、抵抗しな
いで、この予算を認めていることです。
 ちなみに政府が一年間に4回も補正予算を組むのは、終戦直後
の昭和22年(1947年)以来のことなのです。通常であれば
財務省はそのことを持ち出して、強く反対したはずです。どうし
て4次補正予算を財務省は認めたのでしょうか。
 それには明確な理由があるのです。実は今年度はカネが余り、
約2兆5000億円の財源が浮いたのです。今年度の税収は、当
初予想よりも1兆1030億円も多かったからです。これに国債
利払い費も1兆2923億円も余ったので、総額で2兆5000
円の財源──ちょうど消費税1%分が浮いたのです。
 カネがない、財政が破綻して年金が払えなくなるとさんざんい
いながら、予算が2兆5000億円も余ったのでは、これまでの
ウソがバレてしまいます。財務省が本当に日本の財政が危機的状
況だと認識しているのなら、剰余分でそれを埋めて、少しでも基
礎的財政収支を改善させるはずです。しかし、彼らはそうしない
のです。なぜなら、財務省は財政再建などまったく考えていない
からです。その証拠はたくさんあります。
 財務省の中堅官僚は、この2兆5000億円についてつぎのよ
うにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは本来、年金のカネだが、財務省は「年度内に使ってしま
 え」と大盤振る舞いした。各省とも、来年度予算で認められな
 かった事業をこの際とばかりに付けてもらった。
              ──『週刊ポスト』2/17より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この官僚のいっていることを理解するには、少し説明が必要で
す。2004年に小泉政権は、基礎年金の国庫負担割合をそれま
での3分の1から2分の1に引き上げることを決定し、2009
年から実施したのです。
 そのため、政府は毎年2.5 兆円ずつの追加財源が必要になっ
たのです。恒久財源を決めないで国庫負担割合を引き上げたので
毎年特別会計の埋蔵金を探し出し、それに充てていたのです。
 ところが、2011年5月に政府は総額4兆円の復興予算(1
次補正)を組んだのですが、財務省は予算不足を理由に2011
年分として確保してあった国庫負担金の増額部分である2.5 兆
円分を復興財源に回したのです。
 このこと自体は、震災後2ヶ月後のことであり、緊急に少しで
も多くの復興資金を作る必要があったので、やむをえない措置で
あったといえます。しかし、ここから先が許せないのです。その
2.5 兆円の穴埋めをどのようにしてやったかというと、それを
復興国債に含め、所得税と住民税のアップ分で回収することにし
たのです。
 しかし、歳入が増加して基礎年金の国庫負担分の2.5 兆円が
そっくり余ったのです。それなら、その分を国庫負担分として年
金資金に戻して穴埋めすべきです。ところが、財務省は何をした
のでしょうか。
 財務省は野田首相に次のようにアドバイスしているはずです。
2.5 兆円もの金額が余ったことが国民に知られると、これから
増税しようとするときにきわめてまずい。復興資金を装って、4
次補正を出して年度中にすべて使ってしまう必要がある、と。ど
うせ2.5 兆円は復興増税で回収できるのだから、と。
 野田首相はこの財務省のアドバイスに一も二もなくのったので
しょう。その代わり野田首相にも小遣いが与えられています。復
興には何の関係もない予算です。多くの問題があるこの4次補正
の内容については、13日のEJで述べます。このように4次補
正は国民から騙し取った年金のカネで編成されているのです。野
田政権だけでなく、この4次補正にメスを入れることもなく了承
した共産党を除く野党にも重大な責任があります。
 もうひとつ絶対許せないことがあります。財務省は今回のやり
方に味をしめたのです。彼らは巨額の埋蔵金をまだ持っており、
それを減らされるのを恐れています。今回の消費増税は埋蔵金を
死守するため、いいなりになる政権を操って実現させようとして
いるのです。
 財務省は来年度の年金財源の国庫負担分を120兆円ある年金
積立金から取り崩して使う方法を編み出したのです。財務省と厚
労省は、今年の4月からの年金支給に必要な国庫負担金分を積立
金から立て替え払いさせ、代わりに年金積立金を運用する「年金
積立金管理運用独立行政法人」に「交付国債」を交付することに
したのです。
 普通の交付国債は必要なときにすぐ現金化できるのですが、こ
の交付国債は条件が付いているのです。その条件は「消費増税が
実施された後に払う」というものです。もし、消費増税が実現さ
れないと、国庫負担分は年金積立金からどんどん取り崩されてし
まうのです。まさに悪知恵のかたまり。とても同じ日本人とは思
えない人たちです。      ――─ [財務省の正体/63]


≪画像および関連情報≫
 ●年金交付国債についてのニュース
  ―――――――――――――――――――――――――――
  安住淳財務相は、7日の参院予算委員会で、2012年度の
  基礎年金の国庫負担割合を50%に維持するために発行する
  「年金交付国債」について消費税率を8%に引き上げる14
  年度から20年かけて償還する方針を明らかにした。安住氏
  は、13年度も年金交付国債の発行を想定していると表明。
  12、13両年度で合計約6兆円の交付国債を発行し「毎年
  3千億円ずつ、20年かけて支払うことになる」と述べた。
  公明党の草川昭三氏への答弁。政府は国庫負担割合の維持に
  必要な2兆6千億円の追加財源がないため、12年度は消費
  税増税で償還する年金交付国債で穴埋めすることを昨年末に
  決定。現金で賄っていた場合に得られるはずだった4千億円
  の運用収入相当額を含めて、12年度は3兆円程度の交付国
  債を発行する方針だ。      ──МSN産経ニュース
  ―――――――――――――――――――――――――――

安住財務相/勝財務事務次官.jpg
安住財務相(右)/勝財務事務次官(左)
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2012年02月13日

●「消費増税を前提とした年金交付国債」(EJ第3238号)

 税収が足りなくて毎年赤字国債を発行している日本。その赤字
額は年々大きくなっています。まさに財政危機そのものです。し
かし、ときとして予想していたよりも税収が増えるときがあるの
です。そういうとき普通の感覚であれば、それを使って当年度の
借金である赤字国債を減らすことを考えるはずですが、財務省は
そういうことはしないのです。
 これは、元財務官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一氏の話ですが、
2006年10月に財務省主計局が大型補正予算の編成を検討し
ているという情報が入ってきたというのです。安倍内閣が誕生し
て1ヵ月後のことです。
 2006年度は、小泉政権になってはじめての景気回復により
5兆円の税の自然増収が見込まれていたのです。主計局はそのう
ち1.5 兆円で補正予算を組んで、それを使ってしまおうとして
いたのです。
 2006年度の財政赤字は当初予算で、約30兆円だったので
す。常識的には自然増収で5兆円も余ったのですから、それを全
額赤字減らしに使えば2006年度の赤字は25兆円に減ること
になります。財務省が財政破綻を本当に心配しているのであれば
そうするはずです。
 しかし、財務省はそうしないのです。余ったものは赤字減らし
に使わず、各省にばらまいて使ってしまうのです。財務省や日銀
にとって税の自然増収は必ずしも自分たちの利益にならないので
す。彼らは、足りなくなれば、国民に税でお願いすればよいと簡
単に考えており、自然増収でカネが余ったのなら、臨時ボーナス
として全部使ってしまおうとするのです。
 もし、余った5兆円で赤字国債を埋めて25兆円にすると、安
倍内閣は翌年の赤字国債は25兆円を上限にしろといってくるに
決まっているので、それが嫌なのでしょう。
 しかし、今年度の場合は年金積立金から2.5 兆円を取り崩し
て復興資金に回し、その資金をちゃっかり復興国債の中に入れて
賄うことにしているのです。さらに2012年度の基礎年金国庫
負担分については、またしても年金積立金を取り崩し、年金交付
国債なるものを発行し、まだ決まっていない消費増税分で戻すと
いう措置を取っています。完全な先送りです。
 もし、増税がまとまらないと、毎年年金積立金から2.5 兆円
が取り崩されるということを財務省は国民への脅しとして使うつ
もりなのでしょう。つまり、国民の年金資産を人質にして、増税
を迫る布石が打たれたのです。
 つまり、財務省は2年分の基礎年金の国庫負担分を復興国債と
年金交付国債で賄ったので、2.5 兆円の余って当然なのです。
余ったものは年金積立金に戻すべきなのに、復興にかこつけて4
次補正予算を組んで使ってしまおうというのです。これはまさに
犯罪に等しい企みです。
 2月10日の衆議院予算委員会で自民党の茂木敏充政策調査会
長はこれについて野田首相に質問し、「財政規律の粉飾予算では
ないか」と批判したのに対し、野田首相は色をなして反論すると
いう一幕があったのです。まさしく粉飾予算です。
 それでは4次補正予算はどのような内容なのでしょうか。
 テレビでは「4次補正は被災地の2重ローン対策などの財源に
するための・・」と報道していますが、震災対応はこの5000
億円ぐらいしかないのです。あとは2012年度予算で認められ
なかったものが続々と4次補正に盛り込まれているのです。
 エコカー補助金3000億円の復活──これは経産省が当初要
求していた「自動車重量税の廃止」が実現しなかったことの見返
りなのです。後から付けた理屈では、経済成長に寄与するといっ
ていますが、たまたまカネが余ったので復活したに過ぎないので
す。経済成長戦略はこんな場当たりなやり方ではデフレの脱却な
どできないのです。
 財務省は今回の消費増税の推進の立役者である野田首相にも配
慮しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 野田佳彦首相にも、「お小遣い」が与えられた。政策面での実
 績がほとんどない首相にとって、野党時代に宇宙基本法検討プ
 ロジェクトチーム座長として「宇宙基本法」をまとめたことが
 唯一の自慢。4次補正には内閣官房の情報偵察衛星(165億
 円)、文部科学省の陸域観測技術衛星(102億円)、経産省
 の先進的宇宙システム研究(24億円)など、351億円の宇
 宙開発費が盛り込まれ、この予算案を閣議決定した3日後、首
 相は官邸を表敬訪問した2人の宇宙飛行士に「宇宙開発を重点
 的に考えている」と胸を張った。
              ──『週刊ポスト』2/17より
―――――――――――――――――――――――――――――
 復興資金に関係ないものはたくさんあります。文科省は「国際
熱融合実験炉」に122億円、農水省は農業土木予算を810億
円復活、法務省は在留外国人管理の作業用として、334市町村
にPCを2347台配付する費用5.2 億円、PCの価格が大幅
に下がっているのにPC1台当りなんと22万円、環境省は桜田
門と祝田橋の石垣補修などに5億円、小笠原の観光客に自然保護
を呼びかける費用として7.3 億円などなど、復興資金に関係の
ない不要不急の費用がたくさん計上されているのです。
 財務省は、「二重ローン対策」を名目に2月に設置される「東
日本大震災事業者再生支援機構」に対し、5000億円の政府保
証をつけるなどやりたい放題のことをしています。
 年金の資金を取り崩しておいて、このようなバラマキをしてい
るのですが、民主党のひどさは当然として、野党の自民党、公明
党はなぜこの4次補正予算に賛成したのでしょうか。こんなこと
ばかりしているから、既成政党は信用が失墜してしまうのです。
次の選挙では民主党はもちろん、自民党も公明党も大幅に議席を
減らすことは確実です。    ――─ [財務省の正体/64]


≪画像および関連情報≫
 ●年金国債法案を閣議決定/消費増税が財源
  ―――――――――――――――――――――――――――
  政府は10日、基礎年金への税金投入割合を2分の1に維持
  するための「年金交付国債」発行を盛り込んだ国民年金法改
  正案を閣議決定し、国会に提出した。過去の物価下落時に特
  例で据え置いた年金額を10月から段階的に引き下げる措置
  も、この法案に入れた。ただ、野党側は対決姿勢を強めてお
  り、今国会で争点になりそうだ。年金交付国債は、政府が将
  来の返済を約束する約束手形のようなもの。返済の財源とし
  て消費税の増税分を当て込み、増税実施までの間は、年金積
  立金から年約2.6兆円を実質的に取り崩してまかなう。会
  計処理上は積立金が減らない扱いになるものの、増税できな
  ければ返済計画も宙に浮き、実態としては積立金が目減りす
  ることになる。野田政権が複雑な手法をとったのは、通常の
  国債発行額を抑える方針を守るためだ。しかし、野党は「粉
  飾的」「その場しのぎ」などと批判し、法案成立の見通しは
  立っていない。          ──朝日新聞デジタル
  安住財務相は10日の衆院予算委員会で、基礎年金の国庫負
  担を2分の1に維持するために発行する年金交付国債につい
  て、「いい選択だとは私も思っていない。大変申し訳ないと
  思う。ただ、(国庫負担)2分の1を維持しなければ、現行
  の国民年金制度の維持は厳しいという認識なので、こういう
  手法を使った」と説明した。年金交付国債は、国庫負担で不
  足する財源約2・6兆円を将来の消費増税での返済を当て込
  んで一時的に賄う仕組みで、野党からは「負担の先送りだ」
  との批判が出ている。──2010年2月10日/読売新聞
  ―――――――――――――――――――――――――――

10日衆院予算委/安住財務相.jpg
10日衆院予算委/安住財務相
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2012年02月14日

●「これでも日本は破綻するのか」(EJ第3239号)

 「日刊闇株新聞」というブログが話題になっています。開設は
2010年10月ということですが、非常に多くのアクセス数が
あるそうです。
 まず「日刊」というところが異色です。EJも日刊ですが、ブ
ログで日刊というのは少ないのです。「闇株新聞」というのは、
「闇から暴く相場の真実・・・」というサブタイトルが付いてお
り、株式投資をしている人を読者ターゲットにしているような感
じです。サイトのURLは次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     「日刊闇株新聞」
       http://yamikabu.blog136.fc2.com/
―――――――――――――――――――――――――――――
 私がこのブログの存在を知ったのは、『週刊朝日』2/10増
大号で紹介されていたからです。『週刊朝日』は、この「日刊闇
株新聞」とジョイントで、「財務省のトリックをすべて暴く!」
という連載企画をはじめたのです。
 サイトの運営者は「X氏」として氏名を明かしていませんが、
業界では「知る人ぞ知る」存在のようです。そうでなければ『週
刊朝日』がジョイントなどしないでしょう。
 EJのテーマはたまたま「財務省の正体」なので連載企画を読
んだのですが、主張がほぼ一致していることと、内容がとても興
味深いので、EJでも取り上げてご紹介することにします。
 私は可能な限り政治経済のテーマを取り上げるテレビ番組は見
るようにしており、「朝まで生テレビ」のような長時間ものは知
人に頼んでDVD化してもらい、時間のある時に視聴するように
しています。
 そういう番組を見ると、財務省側に立つ人とそうでない人に明
確に分かれます。財務省と同じ考え方に立つ人の中でも、財務省
のいっていることを心底信じ込んでいる人と、本当はそうでない
と思っているが、立場上、利害上それに合わせた発言をしている
人がいます。しかし、圧倒的に多くの人が、財務省のいうことは
正しいと刷り込まれているのです。
 12月2日のEJ第3193号で取り上げましたが、五十嵐財
務副大臣のレトリックには唖然とさせられます。日本の金融資産
と負債を比較するときに、負債の方は国と地方の持ってる金融資
産を引かないグロスの数字であるのに、金融資産の方は、総額か
ら家計の住宅ローンなどの金融負債を引いたネットの数字で比較
しているのです。
 基準の違う数字を比較しても意味がないことは五十嵐副大臣は
十分ご存知のはずですが、これは少しでも日本の負債を大きく見
せようと意図しているのです。しかし、この発言を基にして新聞
は一斉に次のように書き立てたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    国と地方の借金、個人資産1110兆円上回る?
http://electronic-journal.seesaa.net/article/238175666.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 「日刊闇株新聞」は、純粋にネットで日本の金融資産と負債を
比較しています。データは2011年9月末時点の数字です。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ≪資産≫
          一般家計 ・・・・ 1471兆円
       民間非金融法人 ・・・・  754兆円
   中央政府と地方公共団体 ・・・・  483兆円
   ―――――――――――――――――――――――
                    2708兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず「資産」の数字です。「非金融法人」というのは、銀行以
外の一般企業を意味しています。日本の資産の合計は2708兆
円ということになります。続いて、「負債」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ≪負債≫
          一般家計 ・・・・  354兆円
       民間非金融法人 ・・・・  992兆円
   中央政府と地方公共団体 ・・・・ 1093兆円
   ―――――――――――――――――――――――
                    2439兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の負債が1000兆円を超えていると喧伝されているのは
この1093兆円の数字です。しかし、中央政府と地方公共団体
には483兆円の金融資産があり、ネットでは610兆円なので
す。1000兆円を超えたと騒いでいるのはグロスの数字です。
銀行をのぞく一般企業の資産は992兆円もあるのです。
 まとめるとこうなります。日本全体としては2708兆円の資
産を持つ一方で、2439兆円の負債を負っていることになりま
す。これでどうして日本が破綻するのでしょうか。
 しかも、EJ第3182号〜EJ第3183号で述べたように
国の負債の中の建設国債には、その負債に見合う資産があるし、
地方公共団体の負債である地方債は、その発行には非常に厳格な
制約が課せられており、固い借金であるといえます。それに日本
は世界一の債権国でもあるのです。
 既に述べているように、日本の国債は米国のそれと同様に、自
国通貨建てであり、破綻はあり得ないのです。当の財務省が米国
の格付け会社に対して公式に質問状を出し、「自国通貨建ての国
債の破綻はあり得ない」と明言しているのです。どうして財務省
は国内では破綻を煽るのでしょうか。
 国内に増税環境をつくるためにやっているなら、十分できてい
ると思うので、もうやめるべきです。こんなことを繰り返してい
ると、世界に知られ、海外ヘッジファンドに狙われて、本当に日
本が破綻する恐れがあります。 ――─ [財務省の正体/65]


≪画像および関連情報≫
 ●「日刊闇株新聞」/日本の財政について考える その3
  ―――――――――――――――――――――――――――
  最近の消費税増税論議のなかでいろんな意見が出ているので
  すが、もう少し原点に立ち返って考えてみましょう。まず、
  国や地方公共団体の行う行政サービスの非効率さとか、官僚
  の利権や天下りとか、銀行の貸し渋りだとかを一旦横に置き
  ます。日本国全体を1つとして考えると、経済活動を行って
  いくうちに、資金が足りない部門と余る部門が必ず出てきま
  す。ここで資金が余った部門から資金が足りない部門に資金
  がうまく流れるように金融仲介機関(とりあえず銀行と思っ
  てください)があります。日本国全体を1つの貸借対照表と
  して考えると、資産として家計が1471兆円(預金771
  兆円・証券164兆円・保険と年金準備金421兆円)、民
  間非金融法人が754兆円(預金183兆円・証券155兆
  円)、中央政府と地方公共団体が483兆円を保有しており
  総合計が2708兆円となります。
   http://yamikabu.blog136.fc2.com/blog-entry-350.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

「日刊闇株新聞」が紹介されている週刊誌.jpg
「日刊闇株新聞」が紹介されている週刊誌
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2012年02月15日

●「日本国債売り崩し狙うヘッジファンド」(EJ第3240号)

 最近書店に行くと、経済書のコーナーで、2種類の本が山積み
されています。「日本が財政破綻する」という内容のいわゆる破
綻本と、「日本は世界経済の最後の希望」といった真逆の内容の
本の2種類です。その割合は80対20であり、圧倒的に破綻本
が多くなっています。
 どちらも読んでいますが、20%の本の方が真実を伝えている
ような気がします。しかし、80%の破綻の本のなかに、少し気
になる内容の本を見かけるのです。それは、ヘッジファンドの関
係者と見られる外国人の著者による本です。これらの本では、日
本の破綻が非常に近く起きることを煽っている内容です。
 昨日のEJでご紹介した『週刊朝日』と「闇株新聞」ブログの
追及第2弾では、金融情報誌『日経ヴェリタス』1月29日号の
あるインタビュー記事を取り上げています。
 これは、米国ヘッジファンド「ヘイマン・キャピタル・マネジ
メント」の創業者のカイル・バス氏のインタービュー記事です。
バス氏は「日本国債はあと18カ月内に崩壊する」と断言してい
るのです。『週刊朝日』よりも少し詳しくインタビューを再現す
ることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎日本国債に以前から警告を発しています。いつ日本の危機が
   顕在化するとみていますか。
 私は国債バブルの崩壊が今後18カ月以内に起きるとにらんで
 います。詳しいことはお話しできません。しかし、日本の長期
 金利の上昇と為替の円安に備えたポジションをすでにとってい
 ます。
 ◎なぜ今なのでしょうか。
 これまでにない深刻な構造変化が起きているからです。震災後
 の原発停止で割高な液化天然ガス(LNG)の輸入が急増し、
 日本は昨年、31年ぶりに貿易赤字になりました。今年も状況
 の好転は期待しにくいでしょう。自動車や電機などの製造業は
 拠点をアジアに移しています。生き残りを賭けた企業の動きは
 もう後戻りできません。私は14年半ばには日本が経常収支で
 も赤字になるとみています。
 ◎日本政府の「12年度予算案に対しても、ずいぶん厳しい見
  方をしているようですね。
 これほどの茶番はありません。社会保障費は一般会計ベースで
 約26兆3900億円と前年度から8%減っていました。一般
 会計の総額も90・3兆円と前年度を下回り、一見すると立派
 な予算案です。ただこれには看過できないトリックがあったの
 です。
 ◎どういう意味でしょう。
 一般会計から切り離し、『年金交付国債』なる耳慣れないもの
 が登場していたのです。これは基礎年金の国庫負担分2・6兆
 円を、将来の消費税増税で償還して穴埋めする仕組みです。ま
 だこの世に存在せず、実現する保証もない増税をあてにして交
 付国債を発行する。こんなことが許されていいのでしょうか。
             http://ameblo.jp/torisukiyonori/
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ヘイマン・キャピタル・マネジメント」というのは新興ヘッ
ジファンドにしか過ぎません。その代表のカイル・バス氏がこの
ようにいったとしてもほとんど信用されないのです。また、カイ
ル・バス氏は昨年の11月にも「数ヵ月以内に日本国債が危機に
陥る可能性がある」というメールを発信するなど、危機を煽って
しますが、今のところ、この発言は無視されています。
 それに、カイル・バス氏の指摘は、日本政府が年金交付国債を
出した本当の意味を間違ってとらえています。EJの読者は既に
ご存知のように、2011年度予算は税収が2.5 兆円余ったの
に、財務省はそれを年金積立金に戻さず、不要不急の4次補正予
算にしたことや、財務省が年金積立金を人質にとって、増税が不
可避であることを国民に思わせようとして年金交付国債を出した
という事実を知らないようです。
 しかし、日本の主要金融情報誌『日経ヴェリタス』までもが、
カイル・バス氏の発言を取り上げると、日本国民に国債危機意識
が刷り込まれてしまいます。さらに2日後の2月2日付の朝日新
聞朝刊の「日本国債の急落を想定/三菱UFJが危機対策」の記
事によってそれは一層真実味を増します。まさにとどめのタイミ
ングであるといえます。
 これらはすべて財務省の画策であると思われます。政府だけで
なく、メディアも完全に財務省にコントロールされています。三
菱UFJ銀行も主務省の要請があれば、発表せざるを得ないと考
えられます。財務省も死に物狂いなのです。
 しかし、既に何度も述べてきているように日本の財政はけっし
てよくありませんが、危機的状況にはほど遠い状態です。しかし
海外のヘッジファンドが危機を煽り、一攫千金を手にしようと手
ぐすねを引いているのです。それを政府と金融当局が裏付ける間
違った情報をメディアで流し続けると、本当に国債破綻が起きか
ねないのです。「闇株新聞」は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 怖いのは、本来は国債の価値を守るべき日本政府が増税のため
 に国民に財政危機を宣伝することで、ヘッジファンド側に「加
 勢」してしまっていることだ。政府が「日本国債が紙クズにな
 る」と言い続けるため、国民は金利が上昇し始めたとき、「国
 債が暴落する」という不安にかられ、一斉に売りに出る危険が
 ある。最大の国債保有者である銀行も政府の意向を真に受けて
 おり、パニックになるだろう。そして資金に余裕のある日本で
 起きるはずのない「国債暴落」が現実のものになる──これで
 はヘッジファンドの思うつぼだ。 ──『週刊朝日』2/17
 ――――――――――――――――――――――――――――
               ――─ [財務省の正体/66]


≪画像および関連情報≫
 ●さっそく持ち出した貿易収支赤字/「闇株新聞」ブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  財務省は、1月25日に発表された昨年の貿易収支が31年
  ぶりに赤字になったことも、さっそく消費税増税の宣伝使っ
  ている。このままだと貿易赤字がもっと膨らみ、そのうち貿
  易以外の項目も加えた経常収支までもが赤字化する。赤字に
  なると日本から資金が流出し、国内の資産が減るため、結果
  的に国債を安定的に引き受ける余力がなくなる。だから、今
  のうちに増税をしなければならない──という理論らしい。
  これを大新聞も声高に論じているが、果たして正しいのだろ
  うか。本来、貿易収支が赤字になったということで真っ先に
  議論すべきなのは、国内産業の空洞化をいかに防ぐかという
  ことのはずで、歴史的な水準となつている円高対策、高い法
  人税の引き下げ、そうでなくても高い電力料金のさらなる値
  上げの回避などのはずだ。国民にとって重要なことは無視し
  て、増税のための議論にすり替えている。あるエコノミスト
  は12年の貿易赤字が5兆円(11年が2兆5千億円)、3
  〜4年後に10兆円になり経常収支も赤字になるというご
  託宣″まで出していたが、これも増税推進論の格好の材料に
  されている。         ──『週刊朝日』2/10
  ―――――――――――――――――――――――――――

カイル・バス氏.jpg
カイル・バス氏
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2012年02月16日

●「日銀遂にインフレ目標導入」(EJ第3241号)

 2012年2月2日付の朝日新聞のトップ記事「日本国債の急
落を想定/三菱UFJが危機対策」について、いろいろな情報が
入ってきています。2月13日発行の夕刊フジに掲載された須田
慎一郎氏の「金融コンフィデンシャル」/2456号をベースに
ご紹介することにします。
 このトップ記事はかなり派手に出たので、何となくスクープ記
事を思わせたのですが、それに続く他のメディアからの後追いは
一切なく、異様な感じがしたものです。
 実はこの「危機管理計画」は「アウトライヤーリスク」といっ
て、2007年3月以降、新BIS規制(自己資本比率規制)に
よって義務付けられているものなのです。つまり、新BIS規制
の影響下にあるすべての大手銀行が作成しているものであって、
三菱UFJ銀行だけが作成しているものではないのです。
 しかし、この記事を読むと、日本最大の銀行で日本国債を一番
多く引き受けている三菱UFJ銀行が、きたるべき国債暴落の日
に備えて「危機管理計画」を策定したというように読めると思い
ます。何しろ、1月29日に金融情報誌『日経ヴェリタス』にカ
イル・バス氏の「日本国債の18ヵ月以内の暴落」を伝えるイン
タビュー記事が出た直後のことであり、ギョッとした人は多かっ
たと思います。この記事について、経産省の有力幹部は次のよう
にコメントをしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 朝日新聞はいつから財務省の手先になったんだ?朝日新聞の意
 図するところは、現在日本国債は価格急落リスクにさらされて
 いる、ということをアピールすることにあったのだろう。つま
 り、だからこそ増税は必要なのだ、という方向に持って行こう
 としている。だとしたら、それはある種の世論誘導だ。そうし
 た意味で言えばこの記事を最も喜んでいるのは、ほかならぬ財
 務省だろう。            ──経産省の有力幹部
       須田慎一郎/金融コンフィデンシャル/2456
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに財務省は、大きな増税キャンペーンを展開しています。
2012年2月12日付の日本経済新聞「日曜に考える」がそれ
です。テーマは「一体改革どう進めるべきか」で、増税派の急先
鋒の2人──民主党税調会長の藤井裕久氏と東京大学教授の吉川
洋氏の対談です。これは野田政権のPR記事です。
 とくに問題のあるやりとりは次の部分です。橋本元首相が消費
税の税率を2%上げたことが主な原因で経済が悪化したことは、
多くの専門家が認めていることであって、増税が主犯ではないと
いっているのは、このお2人だけです。
 何しろ、GDPデフレーターは、橋本増税後の1998年度に
マイナス0.5 %に転落。その後、現在にいたるまで一度もプラ
スに回帰することはなかったのです。
 とくに吉川教授は、つねに政府側について政府側の政策を進め
やすくしている御用学者の一人です。これについては、12月7
日のEJ第3196号を参照してください。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ──経済への影響を懸念する声がある。
 吉川/誰もが1997年に税率を3%から5%に引き上げた時
   日本経済が悪くなったことを思い出している。だが、97
   年秋から98年に最も落ち込んだのは設備投資と輸出。国
   内の金融危機による信用収縮とアジア通貨危機の影響の方
   が大きかった。
 藤井/97年の経済の落ち込みは消費税が「主犯」でないのは
   明らかだ。増税の直前に駆け込み需要があって、次に反動
   で落ちて、後は平常に戻る。
            ──2月12日付、日本経済新聞より
http://electronic-journal.seesaa.net/article/239047725.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、14日のことですが、日銀がデフレ脱却に向けて少し動
いたのです。増税に突き進む政府とは違う行動です。日銀は金融
政策決定会合で、10兆円規模の追加金融緩和の実施と、金融政
策で目指す望ましい物価水準として「物価安定のめど」を導入す
ることを全員一致で決め、そして具体的な水準として「消費者物
価の前年比上昇率で当面1%を目指す」と数値を上げたのです。
これは今までになかったことです。
 これは誰が考えても「インフレターゲット」です。これについ
て日銀は今まで一貫して拒んできたのですが、それが、なぜ、急
なこの決定になったのでしょうか。
 確かに日銀としては画期的な決断であるといえます。しかし、
これは米国のFRBが1月25日に「2%のインフレ目標」の姿
勢を明確にしたからです。FRBもこれまで「ゴール」という言
葉を使ってこなかったのですが、今回はじめて使ったのです。
 これは日銀にとってきわめて大きかったと思います。それでも
日銀は「目標」といわず、「めど」としかいっていませんが、や
らないよりマシです。しかし、どうせやるなら、2%ぐらいの目
標を設定すべきであったと考えます。
 日銀としては、インフレ目標の導入と追加金融緩和を「合わせ
技」で示すことで、企業の設備投資や家庭の消費拡大を促すとと
もに円高抑制の効果も見込んでいます。
 しかし、白川方明日銀総裁は、14日の会見で次のようにクギ
を刺しています。これはデフレを脱却できないのは日銀だけの責
任ではないと言い訳しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレ克服には潜在的な成長率を高めることが必要であり、そ
 れには企業、銀行、政府、日銀が協力して役割を果たすことが
 必要である。            ──白川方明日銀総裁
―――――――――――――――――――――――――――――
               ――─ [財務省の正体/67]


≪画像および関連情報≫
 ●日銀は?!米国がインフレ目標導入/高橋洋一氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  FRB(米連邦準備制度理事会)が1月25日、2%インフ
  レ目標を導入したことについて、日銀の反応が面白い。これ
  まで国会議員などに、FRBもやっていないからインフレ目
  標を導入しない、と安直な説明をしてきた日銀にとっては不
  都合な事実だ。私は、バーナンキ議長がFRB理事になった
  2002年から、FRBはインフレ目標を導入すると言い続
  けてきたが、いよいよ日銀も年貢の収め時だ。この期に及ん
  で日銀は国会議員などに「ご説明」の絨毯爆撃をしているよ
  うだ。その趣旨は「あれはインフレ目標ではない。バーナン
  キもそう言っている」というものだ。前原誠司民主党政調会
  長などは日銀の言うことをうのみにして発言している。バー
  ナンキ議長の発言というのは、25日の記者会見のことだ。
  「インフレ目標か」と聞かれ、「すばらしい質問だ」と前置
  きしながら、「もし“インフレ目標”を物価を最優先して雇
  用などを二次的なものとするということを意味するのであれ
  ば、その答えはノーだ。というのは、FRBは2つの目標を
  持っているからだ」と述べた。要するに、FRBには「物価
  の安定」と「雇用の最大化」の2つの責務があるので、物価
  “だけ”を目標とするインフレ目標ではないと言っただけで
  ある。その証拠に、バーナンキ議長は、「物価安定の目標達
  成を遅らせた方が雇用に良いなら、喜んでそうする」と言い
  切っている。それなのに、雇用の最大化という責務もなく物
  価の安定をもっぱら行えばいい立場の日銀が「インフレ目標
  でない」とのバーナンキ発言の一部のみを取り上げるのはお
  笑いだ。
http://www.zakzak.co.jp/economy/ecn-news/news/20120211/ecn1202110838002-n1.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

インフレ目標を発表する日銀総裁.jpg
インフレ目標を発表する日銀総裁
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2012年02月17日

●「銀行が国債を購入する理由」(EJ第3242号)

 日銀が中途半端であるとはいえ、金融緩和に踏み切ったことは
デフレ脱却に向けてひとつのささやかな前進であることは確かで
す。しかし、その一方において消費増税をしたのでは何にもなり
ませんが、日銀が何もしないよりはマシです。
 しかし、こうなってくると、問題なのは銀行なのです。不況が
根強く居座っている現在の経済状況に銀行は一枚加担しているの
です。今回はその問題を考えてみることにします。
 銀行のビジネスモデルとは何でしょうか。
 銀行は実質預金──表面預金から他行払いの小切手・手形を差
し引いたもの──としてお金を借り入れ、貸出金として民間企業
などに貸し付け、金利差を稼ぐのがビジネスモデルです。この場
合、銀行にとって「貸出金」は資産、「実質預金」は負債という
ことになります。もし、銀行が預金として集めたお金を貸し出し
に回せないと、預金者には金利を払わなければならないので、銀
行のビジネスモデルは揺らいでしまうことになります。
 添付ファイルの上のグラフを見てください。これを見ると、橋
本政権が消費税を上げ、緊縮財政を開始した1997年をピーク
として、その後は下落傾向が6年ほど続いたものの、リーマンシ
ョック(2008年9月)までの好況期には回復の兆しをみせて
いたのです。しかし、リーマンショック後は再び減少傾向になり
現時点まで横ばいの状況が続いているのです。
 「実質預金」から「貸出金」を引いた額を「預金超過額」とい
うのですが、2011年6月の時点で176兆円に達しているの
です。これを「過剰貯蓄」と呼んでおり、これを抱えているのは
銀行だけでなく、生損保会社なども同様です。つまり、国内に借
り先のない自国通貨が膨大な量余っているので、政府は超金利で
国債を発行できるのです。
 全国銀行協会の最新の統計調査によると、2011年12月末
現在では次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     実質預金残高 ・・・・ 584兆円
        貸付金 ・・・・ 421兆円
     ―――――――――――――――――
                 163兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 この163兆円を銀行は何で運用しているのでしょうか。それ
が国債です。およそ預金超過の80%が国債で運用されているの
です。あのブログ「闇株新聞は」は、これには大きな問題がある
ことを指摘しているのです。
 貸すところがないから国債を購入する──しかし、これは絶対
確実な投資なのです。銀行はプロですから、日本の国債のような
自国通貨建ての国債が絶対破綻しないことを知っているので、リ
スクなしの安全投資であるといえます。
 超低金利である現在、預金者への利息は0.03 〜0.05 %
ほどです。しかし、国債を購入すると次のように高い利息が得ら
れるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       5年債 ・・・・・ 約0.35 %
      10年債 ・・・・・ 約1.00 %
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、預金には年利0.084 %の保険料がかかるのです。
仮に銀行が預金で10年国債を購入したとします。そうすると、
次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.00 −0.03 =0.97 %
      0.97 −0.084 =0.886 %
―――――――――――――――――――――――――――――
 預金で10年国債を購入すると、0.89 %儲けがあることに
なります。つまり、銀行は国債金利の大半を預金者からピンハネ
しているのと同じなのです。しかも、国債は企業への貸付と違っ
て与信審査が必要なく、人件費を含むコストは非常に低くて済む
のです。しかも、企業への貸付に比べると、ほとんどノーリスク
なのです。
 そうなると、少しでも経済状況が悪くなると、銀行としてはリ
スクの高い企業への貸出金を抑制し、ノーリスクで確実に儲かる
国債投資に傾斜してしまい勝ちになります。これでは日銀がいく
ら金融緩和で通貨量を増やしても企業への貸付金は増加しないこ
とになります。
 そこで経済の状況と銀行の貸出金の関係を調べてみることにし
ます。これは「銀行の貸出態度判断DI」というものを調べれば
よいのです。これは、銀行がお金を貸したがっているかどうかを
判断する指標です。
 添付ファイルの下のグラフを見てください。これは、日本の企
業を大企業、中堅企業、中小企業の3つに分けて銀行の貸出態度
判断を見たものです。
 バブル期に高止まりをしていた貸出態度判断DIはバブル崩壊
でとくに大企業に対して絞り込まれ、その後総合経済対策によっ
て大きくプラスに戻ったのですが、1997年の橋本政権の緊縮
政策によって再び大きくダウンしたのです。これを見るとわかる
ように、やはり橋本政権は経済失政を冒しているのです。
 その後小渕政権の財政拡大政策によってプラスに戻った貸出態
度判断DIは、今度は小泉政権の緊縮財政によって再びマイナス
に向かったのですが、米国の不動産バブルに基づく世界同時好況
によってプラスに戻っています。
 そこに襲ったのは、あのリーマンショックです。これによって
貸出態度判断DIは4たびマイナスに落ち込んだのですが、20
10年〜2011年とプラスに転じつつあります。このように経
済情勢と銀行の貸出態度判断DIはリンクしているのです。ある
意味銀行は正直なのです。   ――─ [財務省の正体/68]


≪画像および関連情報≫
 ●英国に求められる懸命な政策立案
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「債務危機から抜け出す唯一の方法は、債務を処理すること
  だ。家計がクレジットカードや店舗のカードの請求書を払っ
  ているのはこのためだ。これは銀行が帳簿をきちんと整理す
  ることを意味する。そして、世界中の政府が歳出を削減し、
  収入の範囲内で生活していくことを意味する」──デビッド
  ・キャメロン首相の演説。キャメロン首相が提言しているこ
  とは、ほとんど不可能でさえある。なぜか?お金を借り過ぎ
  たら、借金を返さなければならないというのが常識ではない
  か?悲しいかな、個人にとって筋が通っていることは、経済
  にとっては意味をなさない。ある人の支出は別の人の所得だ
  からだ。閉ざされた経済を考えてみるといい。所得と支出は
  一致しなければならない。もし民間部門が債務を返済するた
  めに所得よりも支出を少なくすることにし、政府も借り入れ
  をやめることにしたら、もう当初の目的が達成できなくなる
  まで総所得が落ち込む。キャメロン首相の助言に従うことで
  手に入るのは、経済のどん底を目指すレースなのだ。
        http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/25963
  ―――――――――――――――――――――――――――

銀行の貸出金/預金/預金超過額の推移など.jpg
銀行の貸出金/預金/預金超過額の推移など
posted by 平野 浩 at 03:54| Comment(7) | TrackBack(0) | 財務省の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月20日

●「朝日新聞はなぜ部数が激減したか」(EJ第3243号)

 2月17日の小沢裁判で、石川・池田元秘書が小沢氏に報告し
了承を得たとする調書が、ほとんど証拠として採用されなかった
という大きなニュースがあったのです。しかし、当日夕方のテレ
朝の番組「スーパーJチャンネル」は、このニュースを完全に無
視し、何も報道しなかったのです。おそらくこれは、政治に関す
るテレビ朝日の報道姿勢であると思います。
 しかし、同じ日のNHKの「ニュース7」では、天皇陛下ご入
院のニュースに続く2番目の重要ニュースとして報道しているの
です。もともと「スーパーJチャンネル」は、小沢氏にとって不
利なことについては必要以上に詳細に報道するくせに、小沢氏に
有利なことについては報道しないか、小さく扱うのがつねです。
これは「報道ステーション」でも同じ報道姿勢です。
 こうなると、「スーパーJチャンネル」は、もはや不偏不党を
標榜するテレビの報道番組とはいえないと思います。ニュースを
恣意的にチョイスして報道することは、世論を特定の方向に誘導
しているといわれても仕方がないでしょう。日本の報道機関はこ
れほどまでに劣化してしまっているのです。
 もし、大新聞・テレビメディアがこういう報道を続けると、近
い将来誰も紙の新聞やテレビのニュースを信用しなくなり、ネッ
トメディアにシフトすることは確実です。既にその傾向は明確に
出ており、当の朝日新聞の部数はこのところ大幅に減っており、
これはその報道姿勢を反映していると考えられます。
 これについて、「文藝評論家・山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇
山荘日記』」の記事をご紹介します。2010年10月18日時
点の記事です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 朝日新聞発行部数が激減。朝日の星浩クン、おめでとう(笑)
 キミの御影だ。朝日新聞の購読者が激減、めでたく朝刊発行で
 八百万部を割ったそうであるが、これは、なかなか微笑ましい
 ニュースではないだろうか。毎日新聞が、一年か二年前、海外
 向けの「エロ記事」騒動以来、経営危機にあるらしいというこ
 とはよく知られているが、ついに朝日新聞も経営危機の仲間入
 りというわけだ。朝日の看板記者・星浩クン、おめでとう。キ
 ミの鋭い「小沢一郎批判と罵倒」が、おそらく今回の部数激減
 に大いに貢献したのだろうと思う。それとも、部数激減と同時
 に早期退職者を応募したところ希望者が殺到ということだから
 そろそろ星浩クンも、早期退職に応募かな。
  http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20101018/1287333011
―――――――――――――――――――――――――――――
 山崎行太郎氏のいう通り、2010年の時点で朝日新聞は朝刊
で800万部を切り、最新の2011年では、778万5884
部となっています。添付ファイルは、2007年(平成19年)
〜2011年(平成23年)までの5年間の朝刊部数の推移をあ
らわしています。
 なぜ部数が激減したかですが、それは2010年頃から朝日新
聞が露骨にはじめた小沢一郎追放キャンペーンが明らかに原因で
800万部を切っていることです。これについては「関連情報」
をご覧いただきたいと思います。
 ネットでは、山崎行太郎氏のブログのように小沢氏を批判する
記者クラブメディアに対する反発が強く盛り上がっており、紙の
新聞やテレビ報道とはまるで違う議論がそこに展開されているの
です。つまり、リアルの世界の新聞やテレビとは、まるで真逆の
論調でニュースが伝えられているのです。
 現代はリアルの世界のメディアだけの情報だけでは、事実の認
識を誤ることになりかねない時代になっており、リアルとネット
の両方の情報を合わせないと、ものごとの正しい判断ができなく
なっています。とくに記者クラブメディアの劣化は明らかであり
正しいことがまともに伝わらない時代になってしまっています。
一連の小沢問題の報道などはまさにその典型です。
 先日書店で次の本を見つけたのです。元日本経済新聞記者の牧
野洋氏の著作です。
―――――――――――――――――――――――――――――
                 牧野洋著/講談社
    『官報複合体/権力と一体化する新聞の大罪』
―――――――――――――――――――――――――――――
 「官報複合体」とは何でしょうか。
 「官報複合体」──ジャーナリスト上杉隆氏がよく使う言葉で
す。官報複合体については、著者の牧野洋氏自身が本書のP33
〜34に次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 本書のタイトルに「官報複合体」を選んだのは日本の官僚機構
 と報道機関が実質的に連合体を形成しているのではないかとの
 認識からだ。アメリカの軍隊と軍需産業の結び付きを示す「軍
 産複合体」をもじった表現。『ジャーナリズム崩壊』などの著
 作があるジャーナリスト・上杉隆がよく使う言葉だ。個々の新
 聞記者の次元では「世の中のために働いている」と信じている
 人は多い。「会社のために」と思っている人もいるが、少なく
 とも「官僚機構のために」と思っている人はまずいない。個々
 のアメリカ兵士の次元で、「軍需産業のために働いている」と
 思っている人がいないのと同じである。しかし、個々の新聞記
 者の思いとは裏腹に官報複合体的システムは動いている。個々
 の兵士の思いとは裏腹に、軍産複合体体制下でアメリカの軍隊
 が軍需産業に多大な利益をもたらしてきたように、である。官
 報複合体は第二次大戦中の「大本営発表」で批判され、解体さ
 れたかのように見えるものの、実はいまも権力の中枢にある官
 僚機構を支えている。        ──牧野洋著/講談社
        『官報複合体/権力と一体化する新聞の大罪』
―――――――――――――――――――――――――――――
               ――─ [財務省の正体/69]


≪画像および関連情報≫
 ●読者離れを呼んだ朝日新聞の惨状
  ―――――――――――――――――――――――――――
  朝日新聞が最近2年間で急激な読者離反を招いているようで
  す。昔から右からは、”反日偏向報道機関”として忌み嫌わ
  れていた朝日新聞ですが、ここに来ての急激な販売部数の減
  少は、ニュートラルな知識層の離反が多いようです。”殺小
  沢”の世論誘導のために露骨な偏向報道をくりかえしたこと
  で、マーケティング的にはコアな支持層とすべき、”フェア
  な報道を求める情報感度の高い読者層”の不信をかったこと
  が影響しているのではないでしょうか。昔ならば、どんなに
  朝日新聞編集部が偏向報道を繰り返しても、その論調を盲信
  してくれた読者層が多かったはずです。そのため戦後から最
  近まで、”日本の否定”が蔓延してきたわけですが、一般市
  民もネットで真実の情報に接することが可能になったため、
  ようやく”朝日新聞編集幹部の偏向振り”が、多くの読者に
  見透かされるようになったということだといえます。編集幹
  部の思いこみを屁理屈で正当化する・・・朝日新聞特有の独
  善的な”気持ち悪さ”に気づいた瞬間・・・これまでの愛着
  が、猛烈な憎悪に急変した人が多かったのか・・・、固定読
  者の多さで販売部数を支えられていた朝日新聞にしてみたら
  異常な販売数の激減です。
http://blog.goo.ne.jp/atelier-waain-kobe-japan/e/ccca1642d51482029a977609f23bbdb4
  ―――――――――――――――――――――――――――

朝日新聞販売部数推移(平成19年~23年).jpg
朝日新聞販売部数推移(平成19年~23年)
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 財務省の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月21日

●「日本国債暴落はあり得ない」(EJ第3244号)

 今回のテーマである「財務省の正体」は本日で70回、牧野洋
氏のいう「官報複合体」のひとつである官僚機構の司令塔、財務
省の正体について、ここまで述べてきています。
 野田政権は消費増税の実現を目指して、2月17日に与党案を
閣議決定しましたが、現在の情勢を分析する限り、消費増税法案
が成立する可能性はほとんどなくなっています。
 今回の消費増税が実現しないと、市場の信認が得られなくなり
日本国債は格下げされ、長期金利の上昇によって、国債が暴落す
るという人がいます。また、ヘッジファンドに仕掛けられるとい
う人もいますが、本当にそういうことが起きるのでしょうか。
 これに関して、青山学院大学教授の榊原英資氏は、2月14日
のBSフジプライムニュースで、司会者の質問に対して、次のよ
うに述べています。そのときのテーマは、「国債暴落はあり得る
か」だったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 八木/榊原さん。国債暴落の可能性をどう見ていますか。
 榊原/国債暴落の可能性は100%ない。ただし、このままの
    状態が続けば5年〜10年先にその可能性はある。今は
    日本国債に対する需要はたくさんある。
 八木/こういうメールがきているんです。日本の財政事情を改
    善するには、日本がとるべき政策は緊縮財政政策でしょ
    うか。財政出動政策でしょうか。
 榊原/中長期には消費税の増税(緊縮財政政策)でしょうね。
    短期的には今景気が後退する可能性がきわめて高いので
    財政出動の可能性がある。この短期と中長期を分けると
    いう財政運営をしなければならない。大変難しいが、そ
    れをやらなければならない局面にある。
 反町/日本の累積債務がどんどん増えて行き、海外からどのよ
    うなアタックを受けるのかを考えたときに、短期では財
    政出動しながも、中長期で増税するという2本のシナリ
    オを世界に対して見せなければいけない──そういうこ
    とでしょうか。
 榊原/そういうことです。だから、中長期の財政再建計画を策
    定して発表すればよい。しかし、そこにはいつ消費税を
    何%上げるなどということまで書く必要はない。
    ──BSフジプライムニュース/2012年2月14日
―――――――――――――――――――――――――――――
 この日のプライムニュースには、自民党の林芳正氏と東大ビジ
ネススクール教授の小幡績氏が出席しており、次のようなやり取
りがあったのです。なお、小幡績氏は大蔵省の出身です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小幡/国債暴落の可能性がひとつあるのは、円安、インフレで
    ある。円高のときはよいが、円安に振れると、海外投資
    の方が有利になる。
 榊原/日本人は円安になったからといって、円資産を海外資産
    に換える人はごくわずかである。
 小幡/でも銀行や生保会社はやるのでは・・・?
 林 /日本国債を一番保有しているのは、かんぽとゆうちょで
    ある。これらの会社が円安になったからといって、日本
    国債を海外資産に換えるとは思えない。
    ──BSフジプライムニュース/2012年2月14日
―――――――――――――――――――――――――――――
 林芳正氏と榊原英資氏の話を聞く限り、日本の財政の状況は、
政府負債残高が対GDP比200%以上であっても、まだ十分余
裕があり、国債暴落など現時点では100%起こり得ないことが
わかると思います。
 むしろ銀行や生保会社にとって、国債保有が最も安全で確実に
儲かる投資なのです。したがって、財政が危機的状況にあるとい
うのは、財務省の増税キャンペーンの一環なのです。
 このような国債問題や増税の話題が出るようなテレビ番組に対
して財務省は最低でも次の3つの対策を実施しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.財務省の関係者を番組に出演させるようにする
   2.財務省寄りの発言をする学者などを出演させる
   3.出演する人に対して事前に出向いてレクをする
―――――――――――――――――――――――――――――
 1に関しては、このBSプライムニュースに大蔵省出身の小幡
氏が出席していることからも明らかです。
 増税を成就させるためなら何でもする──こういう財務省の姿
勢ですが、そういう努力を省益のためでなく、公務員であれば、
国益に生かすようにしてもらいたいものです。
 当面国債の暴落があり得ないのであれば、何としても経済を成
長させる必要があります。そのためには、デフレからの脱却は必
要条件です。ところが財務省は、ここにもちゃんと政治家に対し
て手を打っているのです。
 2日10日の衆議院予算委員会で仙谷由人政調会長が次のよう
に財政再建は急務であるといっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国債の金利が2%に上がったら、利払いはどうなるのか。財
 政再建は焦眉の急である。     ──仙谷由人政調会長
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはどういうことかというと、経済成長すると長期金利は上
昇しますが、金利が2%になったら財政は破綻するという驚くべ
き考え方なのです。つまり、これは財政破綻論者の口にする「経
済成長すると破綻する」という奇妙なロジックなのです。
 財務省はこのロジックを使って経済に弱い野田政権の閣僚に吹
き込み、経済成長論を唱えて増税に反対する意見を封じ込めよう
としているのです。この奇妙なロジックの間違いについては明日
のEJで述べます。      ――─ [財務省の正体/70]


≪画像および関連情報≫
 ●消費増税は「信用される政治」の王道なくして実現困難
  ―――――――――――――――――――――――――――
  野田首相の大方針は今国会での消費税増税法案の成立だが、
  成否は不透明だ。というよりも、普通に考えれば成立は困難
  と映る。野党側は与野党協議に応じない。3月末までに法案
  を国会に提出する計画だが、民主党内の反対論も根強い。提
  出できたとしても、衆参ねじれで成立の見込みが立たない。
  結局、民自大連立や民公連立、政界再編を仕掛けるか、野党
  に総選挙実施を約束して成立を図る「話し合い解散」か、退
  陣覚悟で一点突破を狙う玉砕戦法といった非常手段しか手は
  なさそうだが、いずれも壁は高い。仮に法案が成立しても、
  道は遠い。実施前に総選挙で国民の信を問うと野田首相は言
  明しているが、13年夏には参院選もある。衆参の選挙で国
  民が「増税ノー」という答えを出せば実施時期の14年4月
  の前に増税の中止法案や凍結法案が成立する可能性がある。
            ──ノンフィクション作家・塩田潮氏
  ―――――――――――――――――――――――――――

BSプライムニュースに出演中の榊原英資氏.jpg
BSプライムニュースに出演中の榊原 英資氏
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(3) | TrackBack(0) | 財務省の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする