2008年05月27日

●なぜ、高値安定になるのか(EJ第2333号)

 原油価格は毎日のように最高値を更新し、日本経済への逆風は
一段と強まってきています。2008年4月〜6月期以降に原油
価格が次のように推移した場合、2008年度の経常利益は大幅
に押し下げられることになります。なお、この数値は原油価格が
100ドルで推移した場合との比較です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  130ドルで推移した場合 ・・・ 2.8%ダウン
  140ドルで推移した場合 ・・・ 3.7%ダウン
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、5月22日時点で1バレル当たり135.09ドルの
最高値を既に更新しており、平均しても130〜140ドルより
も高くなることは確実視されています。
 原油価格が高値で安定しているのは、ヘッジファンドなどの短
期マネーに加えて、年金基金などの長期に運用するマネーの流入
があることが影響しているものと思われます。年金基金などのマ
ネーの運用は「買いっ放し戦略」といって、買い続けるだけで基
本的に売り戻さないのです。したがって、高値が長期に安定して
しまうことになるのです。
 なぜ、年金などの長期マネーが流入してくるのかには次の2つ
の理由があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.原油価格は今後も上昇続ける可能性が高い
   2.世界的な低金利傾向がその背景にあること
―――――――――――――――――――――――――――――
 とくに米国では、サブプライム問題があって金利を下げている
のですが、その影響が大きいのです。5月22日付の日本経済新
聞は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界的な低金利を背景に、余剰マネーが決済期限の近い期近物
 からあふれ出して、超長期先物に流れ込み、8年先に決済期限
 を迎える2016年物まで140ドル台に上昇。これが相場全
 体の急騰を主導している。 
       ――2008年5月22日付の日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ヘッジファンドの短期マネーは満期の近い期近物に投資して短
期で収益を得ようとするので、通常は「期近高・期先安」になる
のですが、年金などの膨大な長期マネーが満期の遠い期先物に流
れ込んだので、5月の後半には「期近安・期先高」に構図が変化
しています。
 この「期近高・期先安」のことをバックワーデーション――逆
ざやといい、「期近安・期先高」をコンタンゴ――順ざやと称す
ることは、4月18日のEJ第2309号で述べています。EJ
第2309号もあわせて参照願います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 http://electronic-journal.seesaa.net/archives/20080418-1.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 このまま原油価格が高騰し続けると、日本経済はどうなってし
まうのでしょうか。
 三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員の芥田知至
氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの試算では、仮に07
 年の経済構造を前提として、原油の輸入が1バレル=160ド
 ルで行われたと仮定すると、貿易黒字(通関ベース)はゼロに
 なってしまう。そこまでいかなくても、原油価格と連動して他
 の国際市況商品の価格も上昇するとすれば、1バレル=125
 ドルの水準で日本の貿易収支は均衡する。今後、原油高が一段
 と進んでも日本経済はそれに対応していくだろうが、日本の所
 得水準が押し下げられるのは間違いない。  ――芥田知至氏
           ――週刊「エコノミスト」4/8特大号
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本のエネルギー自給率はわずか4%です。これは石油、天然
ガス、石炭など日本が消費しているエネルギーのうち、国内生産
でまかなっている割合です。準国産と位置づけられている原子力
発電を含めても約18%なのです。他国は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  米 国 ・・・ 71%  ロシア ・・・ 181%
  中 国 ・・・ 95%  英 国 ・・・  96%
  インド ・・・ 82%  ドイツ ・・・  50%
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見ると、日本のエネルギー自給率の低さが際立ってしま
いますが、資源のあるなしについてはそれぞれの国の事情に基づ
くものであり、仕方がないことです。しかし、そのような国では
他国で自主開発油田を獲得するなどすることができます。
 しかし、既に見てきたように、日本のエネルギー確保に関する
戦略はあまりにも場当たりであり、長期的な戦略というものがな
いのです。既出の岩間剛一氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (日本は)原油価格が上下するたびに一喜一憂し、原油価格が
 安い時に石油開発を怠り、原油価格が高値を付け石油資源の権
 益価格が高くなると慌てて資源獲得に駈けずり回る。その結果
 油田権益の高値つかみを繰り返し、原油価格下落時に損失を被
 るのである。    ――岩間剛一著/アスキー新書/025
『「ガソリン」本当の値段/石油高騰から始まる「食の危機」』
―――――――――――――――――――――――――――――
 岩間剛一氏は、こうなってしまう原因を日本の官僚組織――キ
ャリアシステムにあるとみているのです。このシステムの下では
本当の意味の石油の専門家は育たないのです。したがって、エネ
ルギーの長期戦略を立てられないのです。
               ―― [石油危機を読む/44]


≪画像および関連情報≫
 ●コンタンゴ化する原油先物価格
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  2008年6月の期近物から、2016年12月の一番期先
  物にいたるまでが、フラット化しました。中期部分が3ドル
  程度垂れ下がっているだけで、両端が同じ、というのも特徴
  的です。以前は一番の期近物に比べて中期部分はドル以上、
  16年12月物も10ドル近く低い値となっていましたがそ
  れらが均等に上昇したと言えるかと思います。見直してみる
  と、5月はじめから徐々にに期先物側が上がりだしていたよ
  うですね。いわゆるバックワーデーション状態ではなくなり
  また先高でもない状況がこのまま継続するのなら、新たな特
  徴的な要素といえるでしょう。
        http://oguogu.iza.ne.jp/blog/entry/582854/
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コンタンゴ化する先物価格.jpg
posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 石油危機を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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