入量の30%を目指していたのです。しかし、1985年に10
%を超えたものの、その後の原油の暴落と円高によって日の丸油
田の価値は暴落し、窮地に追い込まれたのです。
1998年、当時の堀内光雄旧通産大臣は、次のように石油公
団見直しを宣言しています。
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30%の自主開発油田に切り換えるという数値目標達成のため
に経済合理性を度外視し、巨額の不良債権を生み出している。
――堀内光雄旧通産大臣
「SAPIO/2008年4月9日号」
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そして、いわゆる小泉構造改革の一環として、2002年に石
油公団の廃止が決まったのです。これは、自主開発油田政策の転
換を意味しています。
結局日本は、石油公団を廃止することによって、石油を市況商
品として位置づけて対処することにしたのです。すなわち、石油
を安いときにできるだけ多く買っておき、備蓄を増やすという市
場万能主義に転換したわけです。
この政策転換の犠牲になったのが、山下太郎氏による日の丸油
田「カフジ」だったのです。というのは、カフジ油田はちょうど
その時期に油田の権益の契約更改が重なったからです。このとき
サウジアラビアとクウェート側がアラビア石油に求めていたのは
「鉱山鉄道の建設」だったのです。その必要資金は2000億円
だったのです。
アラビア石油は石油公団に融資を求めたが、拒否され、せっか
くのカフジ油田を失ってしまいます。ちょうど当時の日本は、小
泉構造改革の渦の中にあり、税金を投入して民間企業を救うなど
とんでもないという風潮に満ちていたのです。
確かにカフジ油田は民間企業の手によるものですが、本来は国
家事業としてやるべきものを国が無策のために動かなかったので
民間企業がやったのです。構造改革の名の下にその重要性を十分
に調査もせず、開発途上の貴重な油田を放棄したのです。
それだけではないのです。カフジ油田の放棄がキッカケとなり
開発中の油田は次々とバーゲンセールよろしく投売りされて日の
丸油田は壊滅してしまったのです。
ところが、まるでそれを待っていたかのように、原油が一気に
高騰しはじめたのです。しかし、その原油の値上がりは、専門家
であれば――いや素人であっても、十分読めるはずのものであっ
たといえます。なぜなら、アラビア石油がカフジ油田を諦めたの
が2000年〜2003年ですが、2003年3月にはイラク戦
争が勃発しているからです。
もちろん原油の値上がりはイラク戦争だけが原因ではないので
す。いわゆるBRICs――ブラジル、ロシア、インド、中国の
4ヶ国の経済発展に伴う石油の需要拡大があります。それに中東
情勢などの地政学的リスクが重なったのです。
2003年からはじまった原油価格の高騰は、まさに天井知ら
ずで上昇し、遂に100ドルを大きく超えているのです。お粗末
なのは、この原油の高騰に慌てた日本政府が再び自主開発油田を
口にしはじめたことです。そして、2006年5月に「新国家エ
ネルギー戦略」を公表したのです。
これは日本という国が石油という戦略物質に対する基本的な考
え方が何もないことを意味します。いったん諦めた自主開発油田
を情勢の変化を理由に3年後に再び再現させる――普通の国なら
考えられない無策です。
しかも、その内容たるやかつての石油公団のときとほとんど変
わらないのです。自主開発原油の目標を以前の30%から40%
に引き上げることを前提に、かつての石油公団に変わる独立行政
法人/JOGMEC――石油・天然ガス・金属鉱物物質資源機構
が出資金額を以前の70%を上回る75%にする――これだけの
ことであり、以前と何も変わっていないのです。
そんなに早く以前の状態に戻すなら、なぜ石油公団を廃止して
貴重な油田を投売りしたのか――これこそ究極の税金の無駄使い
以外のなにものでもにいと考えます。
しかし、このようにして自主開発原油に方針を切り換えたにも
かかわらず、イランのアザデガン油田の日本側権益が75%から
10%に削減されているのです。
アザデガン油田は、1999年にイラン国営石油会社によって
発見された油田で、推定260億バレルに及ぶ世界屈指の埋蔵量
を誇る油田なのです。戦争などで開発が遅れていたが、2004
年に採掘に日本の企業体とイラン国営企業で共同開発する契約が
できており、日本の自主開発油田の目玉になっていたのです。こ
れにブッシュ政権が待ったをかけてきたのです。
ブッシュ政権は、イランがウラン濃縮を継続する限り、イラン
の原油開発に関して、2000万ドル以上の投資を行った外国企
業を制裁するというものです。日本は簡単にこれに屈してしまい
権益を大幅に削減したのです。
そして、ほぼ同時期の2006年12月に例の「サハリン2」
もプーチン政権の強権に屈し、シェアを引き下げたことは既に述
べた通りであり、日本の外交政策のまずさが浮き彫りにされてい
るのです。
石油はメジャーから買えばよいといっていた日本政府は、石油
危機が起こると自主開発原油に切り換え、原油暴落と円高になる
と、石油公団を廃止してもとの政策に逆戻り・・。しかし、原油
が高騰すると、またしても自主開発原油に戻り、イランやロシア
ではさしたる抵抗もせず、莫大な税金を投入した権益を手放して
しまう――一体日本は何をやっているのでしょうか。
しかし、日本経済は、昨今の原油高騰に耐えられる強靭な体質
になっており、じたばたすることはないのです。もっと腰をすえ
た戦略を持つべきです。 ―― [石油危機を読む/41]
≪画像および関連情報≫
●「新・国家エネルギー戦略」について
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経済産業省・資源エネルギー庁はエネルギー安全保障を中核
とする「新・国家エネルギー戦略」を去る5月末に公表しま
した。これは中長期にわたる日本のエネルギー戦略について
まとめたものです。この背景には、原油価格の高騰は中長期
的に継続する可能性が高いことや、少子高齢化の流れの中で
エネルギー購買力が低下する懸念などがあり、これまでは市
場原理にまかせていたエネルギー資源について、国として安
全保障と地球環境問題を同時に克服する新たな戦略をたてた
ものです。 http://www.mhi.co.jp/atom/senryaku.htm
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