2008年05月20日

●重質油をサルファーフリーにする技術(EJ第2328号)

 今回のテーマ「石油危機を読む」も今回で39回――そろそろ
最終章に入ります。ロシアのエネルギー戦略の話はこのぐらいに
して、最後に日本の取るべきエネルギー戦略について考えてみる
ことにします。
 この連載を続けている間も原油価格は最高値を次々と更新し、
米大手投資銀行のゴールドマンサックスは、原油価格は今後2年
以内に1バレル=200ドルまで上昇するという予測を発表して
います。実はゴールドマンサックスは、3年前に原油が100ド
ルまで上昇することを正確に予測していたことがあって、今回の
発表は世界の経済界に衝撃をもたらしたのです。
 この油価高騰に米国やヨーロッパでは悲鳴が上がっています。
もちろん日本でも油価高騰はあらゆる物価上昇に影響を与えるの
で歓迎されざる事態ですが、日本経済のコア部分からの悲鳴は、
あまり聞こえてきてはいないのです。これほどの油価高騰である
にもかかわらず、けっして良くはないものの、日本経済全般は意
外に堅調なのです。
 もともと日本という国は、油価高騰に一番脆弱であるといわれ
ていた国です。しかし、1970年代の2度にわたる石油危機に
よって日本人は石油危機――「油断」の恐ろしさを知り、きちん
と学習してきているからです。
 今回の油価高騰の背景には、世界的な石油製品需要の構造変化
があることを読み取る必要があります。一口に原油といっても、
その性格によって次の3つの種類があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.軽質油 ・・・ ガソリン、ジェット燃料
   2.重質油 ・・・ 重油/中小型船舶の燃料
   3.硫黄油 ・・・ 高硫黄油/低硫黄油など
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは原油の性格による分類ですが、原油の産出国によって分
類すると次のようになります。日本が一番多く輸入している原油
は、中東産原油であるドバイ原油なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.WTI原油 ・・・・ 軽質・低硫黄原油
   2.ドバイ原油 ・・・・ 重質・高硫黄原油
―――――――――――――――――――――――――――――
 はっきりしていることは、軽質油の消費量が急増する一方で、
重油の消費が減る現象が起こっていることです。つまり、石油の
需要は、自動車、航空機などの輸送用燃料と家庭の暖房用に中心
が移っており、産業用、発電用の消費は天然ガスに奪われて減少
しているのです。これは明らかに石油製品需要の構造変化である
といえます。
 その結果、軽質原油のWTIは、重油原油であるドバイよりも
1バレル当たり20ドル以上も価格差がついているのです。これ
は、同じ量の原油から採取できるガソリンの比率が、WTIはド
バイよりも6ポイント程度高いからなのです。
 さらに石油需要について、米国と日本とでは石油需要に占める
ガソリンの割合は次のように異なるのです。軽質油の価格が高騰
しているので、その面で日本は有利といえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
        米国 ・・・・・ 50%
        日本 ・・・・・ 15%
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、日本が主として輸入しているのはUAE産のドバイ
原油です。重質で高硫黄であることが難点の原油ですが、日本の
石油会社は脱硫などの二次装置などに対して既に十分な投資を行
っており、重質油を輸入しても製品の品質を十分に補うことがで
きる技術とノウハウを持っているのです。
 これは、国産原油の代表格であるアラビア石油が採掘するサウ
ジアラビアのカフジ油田(重質油)に対して取り組んできた努力
がいま実っているといえるのです。アラビア石油は、「アラビア
太郎」と呼ばれた山下太郎氏が設立した石油や天然ガスの開発事
業を行う会社です。
 アラビア石油は、日本の自主開発油田――日の丸油田をサウジ
アラビアやクウェートなどから獲得し、日本の自主開発油田の約
50%を占める採掘を行い、石油の安定供給に貢献してきのです
が、2000年にサウジアラビア、2003年にクウェートの採
掘権を失い、以降は中東を中心に米国、メキシコなどでオペレー
ターを務める企業などに技術者を派遣するなど共同操業という形
で事業の継続を行っているのです。
 現在日本は、「サルファーフリー/低硫黄化」に関して世界を
リードする存在になっています。サルファーフリーとは、ガソリ
ン、軽油に含まれる硫黄分を10ppm以下まで低減することを
意味しています。もともと硫黄分の多い原油を使って、どこより
も硫黄分の少ないガソリンに精製するのですから、大変高度な技
術であるということができます。
 さらに日本は1970年以降にくる石油危機に備えるため、次
の2つの政策を推進してきているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.エネルギー源の多様化
         2.省エネルギー政策推進
―――――――――――――――――――――――――――――
 「エネルギー源の多様化」については、主として原子力発電の
大幅導入によって、1973年には77%であった石油依存度を
2001年には49%までにダウンさせています。原子力には、
いろいろ問題はあるものの、石油依存度の低下には有効です。
 「省エネルギー政策推進」については、1979年に「エネル
ギーの使用の合理化に関する法律」ができています。省エネなん
てといいますが、1980年代末までに産業部門を中心に大幅な
省エネが進んだのです。1973年を100とすると1990年
は53になったからです。   ―― [石油危機を読む/39]


≪画像および関連情報≫
 ●サルファーフリーについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ガソリン、軽油をサルファーフリーにすることによって、自
  動車排ガスのクリーン化と燃費の向上につながります。サル
  ファーフリーガソリンやサルファーフリー軽油は、現在ガソ
  リン車やディーゼル車に取り付けられている排ガス処理装置
  の性能を充分に発揮させることができるため、より一層排ガ
  ス中の有害物質を削減することが出来ます。また、サルファ
  ーフリーの特性を活用した新型の排ガス処理装置を装備すれ
  ば、有害物質のさらなる削減に加え、新型エンジンの燃費性
  能を最大限引き出すことが可能となり、燃費の向上を通じて
  CO2排出量を削減して、地球温暖化対策にも役立ちます。
     http://www.paj.gr.jp/eco/sulphur_free/index.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

カフジ油田/アラビア石油.jpg

posted by 平野 浩 at 04:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 石油危機を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。