2008年05月15日

●危機的状況にあるロシア経済(EJ第2325号)

 原油価格が高騰を続けて高止まりしつつあるように見えます。
このような状況において、ロシアはかなり強引な手法で石油・天
然ガス資源の国有化を進めています。
 プーチンが大統領になったのは2000年9月のことです。そ
のときの原油の国際価格はそれまでの低迷から脱し、1バレル当
たり33ドルに回復していたのです。それ以来原油価格は一貫し
て上がり続けているのですから、そういう意味でプーチン政権は
幸運な政権といえます。
 ロシアはこの天然資源の国際価格が上昇したことによって、プ
ーチン政権の8年間のGDP成長率は平均7.5%になり、国際
通貨基金(IMF)、債権国会議(パリクラブ)などに対する積年の
借入金を完済しています。
 しかし、ロシアの経済は順調そのものかというと、けっしてそ
うではないのです。そこが経済運営の難しいところなのです。ロ
シア経済には問題点が多々あるのですが、原油がもたらす黒字が
大き過ぎて経済政策の欠陥を隠しているのです。
 7〜8%のGDP成長率というと高い成長率といえますが、本
来であればロシアはその倍以上成長しても少しも不思議ではない
のです。なぜなら、その程度の成長率であれば、ウクライナやト
ルコも上げているからです。
 ウクライナやトルコは、ロシアのように原油や天然ガスなどの
特筆すべき鉱業がなく、むしろエネルギー価格の高騰によって経
済に打撃を受けているにもかかわらず、ロシア並みの経済成長率
を上げているのです。そうなると、膨大な原油収入のあるロシア
経済の非効率さが見えてきます。
 最近発表された調査によると、ロシアには約10万人のミリオ
ネア――資産100万ドル以上――と、55人のビリオネア――
資産10憶ドル以上――がいるといわれます。これは、米国に次
いで世界第2位のポジションを占めています。
 しかし、あるところにはお金が腐るほどあるが、国民の生活は
豊かではなく、深刻な格差社会になっているのです。明らかにロ
シアの経済は伸び悩んでいるのです。インフレや住宅価格の高騰
に加えて労働コストの増加、官僚の汚職の蔓延、高金利などが一
体となって、ロシア経済の足を引っ張っているのです。
 ロシア経済にとって深刻なのは、ガスプロムやロスネフチなど
の国営企業が優遇される一方で、中小企業がないがしろにされて
いることです。
 ロシアでは従業員100人未満の企業がGDPに占める割合は
15%止まりになっています。ちなみに米国の中小企業の割合は
GDPの半分以上を占めています。
 なぜ、中小企業が増えないのでしょうか。
 中小企業が増えないということは、事業家になろうという人が
少ないことを意味します。なぜかというと、事業家よりも官僚の
方が儲かるからです。プーチン政権下の8年間で、官僚の数は実
に50%も増加しているのです。すなわち、52万2000人が
82万8000人になっているのです。
 昨年実施された世論調査によると、「将来どういう職業に就き
たいか」の設問に対し、回答者の70%近くの人が起業家よりも
国家公務員になることを望んでいるのです。このように、エネル
ギー価格の高騰によって国の台所が潤っているはずのロシアの経
済は深刻な問題を抱えているのです。
 米国の非営利団体「平和基金会」が決定している「破綻国家指
数」によると、ロシアは62位になっています。順位が若いほど
破綻の危険が高いことになります。
 この「破綻国家指数」は、社会的・経済的・政治的指標をもと
にして決定されます。2007年は177ヶ国が指定されている
のです。しかし、「財政が危機的状況で破綻直前」と財務省が喧
伝する日本は入っていないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1位.スーダン      74位.ベネズエラ
    2位.イラク       83位.サウジアラビア
    3位.ソマリア     106位.ウクライナ
   22位.ウズベキスタン  110位.インド
   57位.イラン      117位.ブラジル
   62位.ロシア      160位.アメリカ
   62位.中国       177位.ノルウェー
                     ――平和基金会
          「ニューズウィーク日本版」5.14号
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシア政府の2007年度の調査によると、ロシア企業の平均
生産性は米国やEUと比べると、30分の1に過ぎないのです。
航空宇宙産業の従業員1人当たりの平均生産能力をEUと比較す
ると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 EUの 1人当たりの平均生産能力 → 12万6800ドル
 ロシアの1人当たりの平均生産能力 →  1万4800ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 社会主義国家から自由主義国家になったはずのロシアですが、
プーチン政権になってからは、逆行しているようにみえます。ロ
シアのGDPに占める民間部門の比率を2004年と2007年
と比較するとそれが顕著になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      2004年 ・・・・・ 70%
      2007年 ・・・・・ 61%
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはプーチン政権のなりふりかまわぬ基幹産業の再国有化の
結果ですが、それにしても急ピッチです。今年の5月7日に大統
領に就任したメドベージェフはロシア経済の実態はプーチンより
もよく把握しているといわれますが、プーチンの強権の下で経済
を強化できるでしょうか。   ―― [石油危機を読む/36]


≪画像および関連情報≫
 ●平和財団の「破綻国家指数」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【ワシントンIPS=ジム・ローブ、5月2日】
  合計で月80億ドル以上の軍事・経済援助をもらっていなが
  ら、イラクとアフガニスタンの両国は破綻状態にあると「破
  綻国家指数2006」が明らかにした。指数を作成したのは
  ワシントンにある「平和財団」と雑誌『外交政策』である。
  全148カ国を調査した。
   http://www.news.janjan.jp/world/0605/0605074028/1.php
  ―――――――――――――――――――――――――――

「ニューズウィーク誌」のロシア特集.jpg
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 石油危機を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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