に対して攻撃を強めています。同年1月に行ったウクライナへの
ガスの供給停止はそのスタートの号砲であるかのようでした。
このことはロシアという国は、いざとなると命綱であるガスの
元栓を平気で閉める国であることを世界に知らしめたのです。そ
して最初に着手したのはサハリン2であり、それは同年7月から
12月までに決着をみたのです。ガスプロムは、サハリン・エナ
ジー社の筆頭株主になり、同社の乗っ取りに成功しています。
同じ2006年の中間ではロシアはサハリン1のガスを中国に
輸出する動きを止めています。これによってエクソンはガスの輸
出計画を断念せざるを得なくなったのです。
そして、2007年6月になってTNK−BPがガスプロムに
屈伏してしまいます。これで、シェル、エクソンモービル、BP
の「スリー・シスターズ」は、すべてロシアによって主導権を奪
われてしまったことになります。
しかし、もともとロシアがプーチン時代に明らかに自国にとっ
て不利なPSAを締結した理由は、資金が不足していたことに加
えて、石油やガスの生産や輸送の技術において、ロシアが未熟で
あったからです。つまり、資源はあるが、それを取り出して製品
化できなかったからこそ、そういう不利な契約を結んだのです。
それなら、現在はどうなのでしょうか。既にロシアは石油やガ
ス価格の高騰によって資金には不足はしないでしょうが、技術の
面はどうなのでしょうか。
実はロシアは、石油・天然ガスの生産技術については、まだ十
分ではないのです。とくに、シェル、エクソンモービル、BPの
3大メジャーの石油・ガスに関する生産技術は高度であって、ロ
シアとしては3大メジャーを敵に回すことは得策とはいえないと
いわれるのです。
このことに関して、露営商工会議所所長であるステファン・ダ
ンジェル氏は、次のようにいっています。
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ロシア側がサハリンやコビクタ天然ガス田のプロジェクトから
外国専門家を閉め出すことは「近視眼的」で「愚かな」行為で
ある。ロシア側はこれらのプロジェクトをみずから「実行に移
すノウハウも設備ももっていない」ので、欧米企業の「助けを
必要とする」からである。
木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
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それならば、なぜ、プーチン政権は石油専門家である外国資本
を閉め出したのでしょうか。そこに、何か別の意図があったので
しょうか。
クレムリンウォッチャーによると、閉め出された英蘭系のシェ
ル、米系のエクソンモービル、英系のBP――最近ロシアとオラ
ンダ、米国、英国とロシアの関係は必ずしも芳しいものではなく
そういうことに関係があるのではないかというのです。
もともとBPがロシアに進出できたのは、トニー・ブレア前英
国首相とBPのCEOのジョン・ブロウニーとプーチンの関係が
良好であったからといわれていますが、すでに2人とも引退して
おり、関係は切れています。
また、外国資本だからといってすべて閉め出されるわけではな
く、フランス系のトタル、イタリー系のENI、ドイツ系のエー
・オンは残っているし、ドイツの前首相であるゲハルト・シュレ
ーダーが常務取締役を務める「北欧天然ガスパイプライン」は、
目下前途洋々なのです。
どうやらプーチンには敵と味方がはっきりしているのです。と
くに米国は敵なのです。しかし、エネルギーの需給に関して密接
な関係にあるEU諸国に対してロシアはそれなりの配慮をしてい
ることが読み取れるのです。
しかし、EU諸国としてはロシアに対して強い警戒感を抱いて
います。とくに2006年冒頭のウクライナに対するガスの供給
停止には震え上がったといいます。なぜなら、EU諸国は平均す
ると約25%のガスをロシアに依存しているからです。
EUのエネルギー担当委員であるアンドリ・ピエバルグスは次
のようにいっています。
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ロシアが独自のエネルギー戦略をもつことは当然で、われわれ
側にはそれを止める権利はないかもしれない。もし、そうだと
するならば、われわれ「ロシアからエネルギーの供給を受けて
いるヨーロッパ諸国」の側もまた、それに対抗する戦略を形成
せねばならない。これは、当然の防衛措置であろう。
木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
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それでは、EUとしてどのような防衛措置が考えられるでしょ
うか。エネルギーを武器として利用しようという国に対しては消
費者サイドのEUも結束・連携して対抗するしかないのです。
そのひとつの方法として検討されているのが、既存の「オデッ
サ・ブロディ」原油パイプラインをヨーロッパまで延長するプラ
ンです。
「オデッサ」というのは、ウクライナの西部の黒海沿岸にあり
ます。アゼルバイジャン産の原油をグルジアを経由して黒海のピ
ブデン港に運び、黒海をタンカーでオデッサまで運ぶのです。オ
デッサからブロディまでは、2001年にウクライナが作ったパ
イプラインがあるので、それでプロディまで運ぶのです。
ポーランド国内のプロックを経てバルト海沿岸のグダンスク港
まで新設のパイプラインで運び、同港からバルト3国まで運搬す
るという計画なのです。もし、これが成功すれば、ウクライナ、
ポーランド、バルト3国は、ロシア原油に対する依存度をある程
度減少させることは可能になります。このようにロシアのエネル
ギー政策が加速するにつれて、それに防衛線を張る動きも加速し
つつあるのです。 ―― [石油危機を読む/35]
≪画像および関連情報≫
●オデッサと映画『戦艦ポチョムキン』について
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第一次ロシア革命前夜。戦艦ポチョムキンでは、水兵が士官
にウジの湧いた食事を与えられていた。ワクリンチュクを中
心に水兵らは立ち上がり、反乱は成功するが、ワクリンチュ
クは殺されてしまう。ポチョムキンはオデッサ港へと入り、
ワクリンチュクの死体に人々が群がり、やがて一般の人々の
反乱心をも掻き立てる。政府軍の一斉射撃が始まり、オデッ
サの階段で右往左往する人々。凄絶な惨劇が繰り広げられ、
その後ポチョムキン内では、再び襲ってくるであろう政府軍
に少々怯えながら朝を迎える。水平線を見渡すと、そこには
政府軍の艦隊が。遭遇により緊張は頂点に達するが、しかし
政府軍が攻撃することはなく、ポチョムキンはその間を進ん
でゆく。
http://www6.plala.or.jp/khx52b/movie/file_s/se0001.html
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