2008年05月13日

●エクソン同じ仕打ちを受けたBP(EJ第2323号)

 5月9日――この日はロシアの第2次世界大戦の対独戦勝記念
日に当たるのですが、モスクワの「赤の広場」でロシア軍による
大規模軍事パレードが行われたのです。
 就任直後のメドベージェフ大統領がプーチン首相とともに観閲
し、新たに発足した「二頭体制」下のロシアの威容を誇示したか
たちになったのです。どうやら、プーチン首相はメドベージェフ
大統領とともにロシアを「ソ連」に戻そうとしているようにすら
見えます。昨今の天然ガスを中心とするプーチンのエネルギー戦
略−−外国資本の追い出しを見ていると、そう考えても不思議は
ないと思います。
 実はロシア経済は、原油1バレル当たり27ドルを基準価格と
しています。この基準価格から国際価格が1ドル上昇するごとに
そのうちの90セントがロシアの国庫収入になるのです。国際原
油価格が現在のように100ドルを大幅に超えれば超えるほど、
ロシア経済にはまるで濡れ手に粟のように余剰収入が転げ込む計
算になるのです。
 ロシアはこれによって、ソ連時代以来の西側先進諸国の金融機
関に負っていた膨大な対外債務を前倒しで完済するという奇跡を
成し遂げているのです。それどころか、ロシアの外貨準備高であ
る4451憶ドルは、台湾を抜いて中国、日本に次いで世界第3
位になっているのです。
 このままで行くと、ロシアは2020年までに国内総生産GD
Pにおいて、米、日、中、印と並ぶ世界5大経済大国の地位を占
めるようになるのは確実の情勢です。
 結局のところ、エクソンはサハリン1のガスをガスプロムと競
合してまで、中国に輸出できなくなったのです。それはパイプラ
イン建設をロシア側に封じられてしまったからです。ロシア側の
主張は、次の2つに集約されます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.サハリン1が産出する天然ガスをすべてガスプロムに譲
    渡する
  2.サハリン1のガスをサハリン2と協力しLNG化して輸
    出する
―――――――――――――――――――――――――――――
 この場合、「サハリン2と協力し」の意味は、サハリン2は既
にロシアの傘下に入っているので、サハリン2との連携に関して
は許容しているというわけです。
 要するに「どこに」輸出するのかは問題ではないのです。「だ
れが」輸出するかが問題なのです。ガスプロムがそれを行うのは
いいが、外資系会社がそれをやるのは許さない――たとえ過去の
契約にそれを可とする条項があっても許さないというのがロシア
の意思なのです。
 プーチン政権のロシアの意思によって被害を受けたのは、サハ
リン2、サハリン1だけではないのです。英系メジャーであるB
P――ブリティッシュ・ペトロリアムもその例外ではなかったの
です。BPのケースについても述べておくことにします。
 2003年のことです。BPはロシアのTNK――チュメニ石
油会社との間で50%ずつ出資し、合弁企業TNK−BPを設立
したのです。ガス田の開発は成功して、TNK−BPはロシアで
はロスネフチ、ルークオイルに次ぐ石油業界第3位の大企業とな
っているのです。そしてTNK−BPは、コビクタ天然ガス田の
開発を行うコンソーシアムであるロシア石油の62.89%の株
主になったのです。
 コビクタ天然ガス田は1987年に東シベリアのイルクーツク
州で発見されたロシア最大級のガス田なのです。このようなTN
K−BPをロシアがそのままにしておくわけはないのです。当然
強い圧力をかけてきたのです。
 TNK−BPに対してロシアは、今までとは逆に契約内容不履
行によって揺さぶってきたのです。というのは、TNK−BPは
契約によって、年間約90憶立方メートルのガスを産出すること
を義務づけられていたのですが、実際の産出量は年間わずか33
00立方メートル未満のガスしか生産していなかったのです。
 しかし、これには理由があったのです。TNK−BPの言い分
としては、ロシア側がガスを輸出するためのパイプラインの建設
を妨害しているというのです。
 既に述べたようにロシアでは、ガス輸出の権利、すなわち、パ
イプライン建設はガスプロムが握っているのです。TNK−BP
としては、対中国、韓国、アジア諸国へ輸出するためにパイプラ
インの建設をしようとしたのですが、ガスプロムは嫌がらせをし
てそれを認めなかったのです。
 そのため、TNK−BPは生産量を絞って近郊のイルクーツク
州周辺に向けて低価格で売るしかなかったのです。しかし、ロシ
アはそんなTNK−BPの言い分を認めるはずがないのです。
 パイプラインの建設を封じておいて、その一方で生産額をクリ
アしていないことを問題にする――西側では常識的には考えられ
ないことですが、ロシアではその常識は通用しないのです。
 結局のところ、2007年6月にTNK−BPはロシアの圧力
に屈したのです。ロシア石油の62.89%の権益すべてをガス
プロムに譲渡することにしたからです。価格は公表されていませ
んが、7〜9憶ドルといわれています。なんという安さでしょう
か。これはたたき売りに等しい金額です。
 コビクタ天然ガス田プロジェクトの事業価値は完成時で200
憶ドルといわれているのです。この取引が決定後、当時ガスプロ
ムのメドベージェフ副社長は次のようにコメントしたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 コビクタ天然ガス田で産出される天然ガスの潜在的な買い手の
 なかに、中国と韓国は入っている。両国との交渉は進行中。
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
               ―― [石油危機を読む/34]


≪画像および関連情報≫
 ●ロシア復活軍事パレード/2008.5.9
  ―――――――――――――――――――――――――――
  モスクワ=常盤伸――モスクワの赤の広場で九日、第二次大
  戦での対独戦勝を記念するソ連崩壊後、初の大規模軍事パレ
  ードが行われ、就任間もないメドベージェフ大統領とプーチ
  ン首相らが並んで観閲した。双頭政権が発足直後に軍事パレ
  ードを再開した背景には、大国復活を誇示し、米国による東
  欧でのミサイル防衛(MD)配備計画などで対立する欧米を
  けん制する狙いがあるとみられる。メドベージェフ新大統領
  は「戦勝記念日は国民統一の永遠のシンボルである」と強調
  した。                  ――東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2008051002010080.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ロシアの軍事パレード復活.jpg

posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 石油危機を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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