たサミット――主要国首脳会談が終わると、プーチン大統領はサ
ハリン・エナジー社に対する攻勢を一段と強めたのです。
一連の批判キャンぺーンの先陣を切ったのは、オレグ・ミトポ
リ天然資源監督局副局長です。ミトポリ副局長は批判キャンペー
ンの露払い役という役柄です。ロシアという国はこのように下の
クラスから徐々に格上げしていくのが常套手段なのです。
続いてユーリ・トルトネフ天然資源相がサハリン2について、
次のように発言したのです。
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エナジー社はロシアの森林保護の規定を侵犯し、不法伐採をお
こなっている。したがって、「サハリン2」のプロジェクトの
続行はロシアの刑法と国益に反しており、停止されるべきであ
る。 ――2006年11月1日/トルトネフ天然資源相
――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より
北星堂刊
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この発言に対して西側のメディアは、発言者たちは政権トップ
が指示する命令にしたがう忠実な官僚であり、そういう意味にお
いて己自身の信念に従う確信犯ではなく、単なる風見鶏に過ぎな
いとして、次のように述べています。
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クレムリンは、サハリン・エナジー社に圧力をかけて、モスク
ワとのあいだで「己の」協定の内容を再交渉させる目的のため
に、天然資源監督局を利用しているにすぎない。
――「ビジネスス・ウィーク誌」/木村汎著前掲書より
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しかし、ロシアは発言者を次々と格上げして、サハリン・エナ
ジー社を批判したのです。ユーリー・チャイカ検事総長はサハリ
ン・エナジー社は、ロシアの環境保護法を侵犯していると非難し
続いてゲルマン・グレフ経済発展相――当時、セルゲイ・ラブロ
フ外相まで批判を口にするようになったのです。
これらの閣僚クラスの批判発言は積み上げられて「サハリン2
計画」の取り消し要求におよび、次いでそれはエナジー社の事業
免許の停止要求に発展したのです。さらにエナジー社を環境破壊
の罪で訴追し、損害賠償金を請求する動きにつながったのです。
2006年12月8日――遂に追い詰められたサハリン・エナ
ジー社は、ガスプロムとの折衝に入ったのです。交渉はロイヤル
・ダッチ・シェルのファンデルフェールCEOとガスプロムのア
レクセイ・ミレル社長のトップ会談で行われたのです。
会談はシェル側が譲歩に譲歩を重ねて、遂に12月19日に経
営主導権がガスプロムに事実上移されることによって決着したの
です。何しろガスプロムの条件を飲まないときは事業停止を突き
付けてくるのですから、サハリン・エナジー社の全面降伏という
ことになったのです。
これによって、ロイヤル・ダッチ・シェル、三井物産、三菱商
事は、それぞれが保有している株の半分をガスプロムに移譲させ
られることになったのです。その結果、サハリン・エナジー社の
株の配分は次のようになります。ガスプロムは50%プラス1で
筆頭株主になったのです。
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ガスプロム ・・・・・・・・・ 50.0%
ロイヤル・ダッチ・シェル ・・ 27.5%
三井物産 ・・・・・・・・・・ 12.5%
三菱商事 ・・・・・・・・・・ 10.0%
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2006年12月21日――ガスプロムとサハリン・エナジー
社との調印式が行われ、シェルのファンデルフェールCEO、三
井物産の槍田松榮社長、三菱商事の小島順彦社長がモスクワ入り
したのです。
そのときプーチン大統領は、3人の社長をわざわざクレムリン
内に招じ入れ、大歓迎したのです。同席したのは、ビクトル・フ
リスチェンコ産業エネルギー相、当時ガスプロムの会長を兼務し
ていたドミトリー・メドベーチェフ第一副首相です。そのパーテ
ィーで、プーチン大統領は挨拶として次のように述べています。
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これは、ガスプロムが「サハリン2」の共同作業に参加すると
いう決定である。集団的決定である。ロシア政府はこの決定の
通告を受けた。そして、その決定にたいして、われわれは何ら
異論もない。われわれはこれを歓迎する。
―プーチン大統領/――木村汎著、前掲書より
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それでは、あれほど大騒ぎをした環境問題は一体どうなったの
でしょうか。
プーチン大統領は、12月21日のクレムリンでの会合で環境
問題について次のように述べているのです。
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さて環境問題にかんして、ロシアの環境当局ならびに監督官た
ちが、この問題を解決するための手続きに合意したことを私は
嬉しく思う。・・・問題は原則として解決されたとみなしうる
との報告を私は受けている。 ――プーチン大統領
――木村汎著、前掲書より
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ロシアではプーチン大統領の発言が最高にして最終の発言なの
です。彼がこのように述べた瞬間にロシアの環境問題は雲散霧消
してしまったことになるのです。何とも勝手な理屈というしかな
いと思います。
ちなみに、その後のサハリン・エナジー社の環境破壊は以前よ
りもずっとひどくなったそうですが、ロシア側は一切何もいって
こないということです。 ―― [石油危機を読む/31]
≪画像および関連情報≫
●問われるロシアの異質性とサミットの意味
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旧ソ連諜報機関のKGB及びその後継組織であるFSB出身
のリトビネンコ元中佐の不審死事件が注目を集めている。ロ
シアをめぐっては最近同様の事件が相次いで発生しており、
10月にはジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤ氏が
暗殺されている。いずれもプーチン政権に批判的であった人
物が殺害されたこれらの事件にプーチン政権がどこまで関与
しているのか真相は分からないが、ロシアで発生しているこ
うした事態をほとんど報道してこなかった我が国のマスコミ
も遅ればせながらリトビネンコ事件については大々的に報じ
ている。被害者がスパイであったことが関心を引いているの
かもしれないが、この問題は決して単なる興味本位から論じ
るべきではない。
http://www.gfj.jp/cgi/m-bbs/contribution_history.php?form%5Bno%5D=271
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