2008年05月02日

●サハリン2の特色と誤算(EJ第2318号)

 2006年9月19日のことです。日本の新聞各紙の一面に次
の見出しが掲載されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        サハリン2、工事承認取り消し
―――――――――――――――――――――――――――――
 「サハリン2」というのは何でしょうか。
 「サハリン2」とは、ロシアのサハリン州で行なわれている石
油・天然ガスの開発事業のひとつです。開発をスタートさせた時
期によって、「サハリン1」とか「サハリン2」とか「サハリン
3」などと名称がつけられています。
 「サハリン2」には、他のプロジェクトと大きく異なる特色が
あります。既出の木村汎氏はその特色について次のように述べて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「サハリン2」は、次のような特徴をもつ。第1にそれには、
 「最大」「100%」「はじめての」などの形容詞がつけられ
 るプロジェクトであること。すなわち、「サハリン2」は、世
 界「最大」の液化天然ガス(LNG)プロジェクトである。第
 2に外資「100%」のプロジェクトであり、ロシア企業は一
 切関与していない。第3に、「生産分与協定」にもとづくプロ
 ジェクトである。
      ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より
                         北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、外資100%のプロジェクトであり、ロシア企業は
一切関与していないのはどういうことでしょうか。
 サハリン2の事業主体は、サハリン・エナジー社といい、19
94年に、次の外国の3社が出資して作ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ロイヤル・ダッチ・シェル ・・・ 55%
    三井物産 ・・・・・・・・・・・ 25%
    三菱商事 ・・・・・・・・・・・ 20%
    ――――――――――――――――――――
                    100%
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう事態になったのは、ソ連が解体した1991年代当時
のロシア経済がきわめて脆弱であったことが上げられます。この
時代において、ロシアが自国のエネルギーを独力で開発すること
などできるはずがなかったのです。
 資本や技術力を持たない産油国が外国資本を取り入れる方法は
次の4つしかないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.コンセッション
           2.請負い
           3.合弁
           4.生産分与協定
―――――――――――――――――――――――――――――
 「コンセッション」とは、民間事業者に付与される事業運営や
開発にかかわる権利のことであり、2と3については文字通りの
意味です。ロシアの場合は、4の「生産分与協定(PSA)」を
採用したのです。
 PSAとは、あくまで産油国が事業主体として事業運営の責任
は持つのですが、実際の事業管理は外国企業が行い、産油国は口
を出せないのです。そして、外国企業が投入するコストは生産物
の一部によって回収されることになります。
 そのようにして投資を生産物から回収したあとに残った余剰利
益は、産油国と外国企業の間で生産物のかたちで分配されること
になるのです。
 サハリン2のPSAについて具体的に述べると、次のようにな
ります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.外国企業3社が開発費用の全額――120億ドルを負担し
   て開発を進めることとする
 2.事業主体のサハリン・エナジー社は総事業費を回収するま
   で生産物の所有権を有する
 3.事業主体のサハリン・エナジー社は開発全期間を通じて利
   益の6%をロシアに支払う
―――――――――――――――――――――――――――――
 1993年にエリツィン大統領は、PSAに関する大統領令を
発して翌年からサハリン2は動き出したのです。
 しかし、サハリン2では、次の3つの大きな誤算が生ずること
になったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.事業費が当初の120億ドルより増えて200億ドルにな
   ったこと
 2.LNGの出荷時期が大幅遅延し、2008年以降にずれ込
   んだこと
 3.サハリン2に関して、環境保護団体からのクレームが増大
   したこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はサハリン2にとって最大の誤算は、2000年5月に大統
領に就任したプーチン大統領がこのPSAの仕組みに疑問を持っ
たことであったと思われます。
 プーチン大統領にとってラッキーだったことは、彼が就任した
頃から原油の国際価格が高騰をはじめたことです。ロシアが19
98年に金融危機に見舞われたときの原油国際価格は1バレル当
たりわずか11.80ドルと底値を記録しているのに対し、20
00年9月には、1バレル当たり33ドルに高騰しはじめたから
です。            ―― [石油危機を読む/29]


≪画像および関連情報≫
 ●「サハリン2」の鉱区について
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  鉱区は樺太東北部沖のオホーツク海海底に存在する。原油は
  約11億バーレル、天然ガスは約18兆立方フィートの推定
  可採埋蔵量が推定されている。鉱区は主にピルトン・アスト
  フスコエ鉱区とルンスコエ鉱区に分かれる。前者は主に石油
  が、後者は天然ガスが埋蔵されていると見られる。
                    ――ウィキペディア
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サハリン2のパイプライン.jpg

posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 石油危機を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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