モスクワ郊外の大統領公邸において、プーチン大統領と会談して
います。プーチン・ロシア大統領最後の日ロ首脳会談となったわ
けです。
問題は、福田首相がこの忙しい時期になぜロシアにだけは行っ
たかということです。道路特定財源の一般財源化や暫定税率の再
議決問題、後期高齢者医療問題など難問が山積しているにもかか
わらずです。おそらくそれは外交で少しでも得点を稼ぎ、支持率
低下に歯止めをかけたいという思いがあったものと思われます。
日本サイドから考えると、ロシアとの間には北方領土という領
土問題はあるものの、それ以外に大きな懸案事項はとくにないと
いえます。しかも、ロシアは領土問題を交渉する窓口を閉じてい
るわけではないのです。したがって、日本としてはこれからもロ
シアと粘り強く交渉を重ねる必要があります。
一方ロシア側としては、現在展開中のエネルギー戦略や環境の
問題において、日本の技術や資金などの協力を引き出したいと考
えています。したがって、北方領土問題という交渉材料を巧みに
使いながら、少しでもロシアに有利に目的を達したいと考えてい
るのです。つまり、両者が交渉のテーブルに着く十分な目的はあ
るといえます。
4月27日の日本経済新聞は、今回の日ロ首脳会談について次
のように書いています。
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プーチン政権は資源外交の一環としてアジア太平洋地域での影
響力の拡大を図っており、日本との経済・技術協力への期待が
高い。中国と日本で競り合っていた東シベリアのパイプライン
建設を巡り、今回、日本向けのパイプライン建設に有利になる
と見られる日ロの共同探鉱が実現したのもそのためだ。
――2008.4.27付、日本経済新聞朝刊より
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ロシアのエネルギー戦略について語るとき、知っておくべきこ
とがあります。それは「ガスプロム」についてです。
ガスプロムというのは、ロシア政府系の天然ガス独占体のこと
です。設立は1989年で、旧ソ連邦のガス工業省が改組され、
ガスプロムが設立されたのです。初代社長は、旧ガス工業大臣の
ビクトル・チェルノムイルジンです。
チェルノムイルジンは、1992年12月にエリツィン大統領
によって首相に任命され、レム・ヴャヒレフが二代目首相に任命
されたのです。
しかし、チェルノムイルジンにしてもヴャヒレフにしても絵に
描いたようなソ連時代の典型的な官僚であり、腐敗や汚職にまみ
れる閨閥人事を行い、10億ドルを超える私的財産を築いたとい
うどうしようもない社長だったのです。
プーチン大統領の時代になった2002年6月にレム・ヴャヒ
レフ社長は更迭され、アレクセイ・ミレルが三代目の社長になっ
たのです。アレクセイ・ミレルは、プーチンがサンクトペテルブ
ルグ市役所時代の部下であり、凡庸な人物ではあったものの、プ
ーチンとしては使いやすかったものと思われます。
プーチン大統領は、ガスプロムに全面的なバックアップ体制を
取り、ガスプロムをして彼のエネルギー戦略の中核的存在を担わ
せたのです。その結果、ミレルが社長になってから2005年ま
での間にガスプロムの資本金は約10倍になったのです。これに
よって、ミレルは難なく社長に再選されたのです。
現在、ガスプロムは、世界企業番付で、次のように第4位を占
める大企業になっています。エネルギー分野に絞ると、エクソン
モービルに次いで第2位であり、ガス分野では、世界一の存在に
なっています。
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1.エクソンモービル
2.ゼネラル・エレクトリック
3.マイクロソフト
4.ガスプロム
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ガスプロムは、現在ロシア政府がその株式の51%を保有して
おり、事実上の国営企業となっています。それだけではないので
す。その役員構成を見ると大臣がそのまま役員を兼務するという
驚くべきことがわかります。
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会 長 ドミトリー・メドベージェフ第一副首相
社 長 アレクセイ・ミレル
取締役 ゲルマン・グレフ経済発展相(当時)
取締役 ビクトル・フリスチェンコ産業エネルギー相
取締役 イーゴリ・ユスコフ国際エネルギー担当大統領特使
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彼らはプーチン派の中心的メンバーであり、プーチンの意のま
まに動く人物ばかりです。したがって、今年プーチン大統領が辞
任すると、首相に就任したうえガスプロムの会長職を兼務するの
ではないかと見られているのです。既出の木村汎氏は、ガスプロ
ムについて次のように述べています。
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ロシアの政治学者リリア・シェフツオーバはガスプロムを「国
家核心」であり、「クレムリンの意思の体現者」であるとさえ
名づけた。別の研究者はガスプロを「クレムリンの旗艦」と呼
ぶ。(中略) 日本のエネルギー研究家、渥美正洋によれば、
プーチン大統領の「資源外交の実働部隊」の役割をはたしてい
る。 ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より
北星堂刊
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あのウクライナとの紛争でも指令を出していたのは、ガスプロ
ムであったのです。 ―― [石油危機を読む/28]
≪画像および関連情報≫
●ガスプロムについて言及しているサイト
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ガスプロム社は、天然ガス生産量世界最大を誇る、ロシアを
代表する超巨大企業です。1989年設立で、前身はソビエ
ト連邦ガス工業省。その天然ガスの生産量は、全世界の4分
の1を占めるほどです。ロシア最大規模の財閥企業ですが、
株式の過半数をロシア政府が握っており、準国営企業なので
す。ロシアは「国内のエネルギー産業は国が統制する」と明
言しており、ガスプロムはその典型といえます。
http://www.brics-jp.com/russian/gas_purom.html
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