2001年04月27日

謎のロシア人が語る39年前の真実(EJ606号)

 昨年の12月25日のEJ525号からEJ528号まで4回
にわたり、映画『13デイズ』について書きました。このほどロ
シアでは、5月に『13デイズ』を一般公開しますが、それに先
立って米カーネギー財団による試写会がモスクワで行われ、旧ソ
連軍関係者などが招待されたといいます。
 これに関連して「AERA」4.30〜5.7日号は、「ソ連
の13デイズ」という特集を組んでいます。お読みになった人も
いるでしょうが、大変興味深いので、2回にわたってこれをテー
マとして取り上げることにします。
 映画の中でこういうシーンがありました。米国とソ連の間で核
戦争の緊張が高まる中で、ソ連からの裏ルートを通して、フルシ
チョフの提案なるものがケネディのところに届けられます。ソ連
の有名なスパイの1人といわれるフォーミンという男からの情報
です。ソ連の時間稼ぎではないかという意見もあったのですが、
大統領の意を受けてケネディ家と親しいABCテレビの記者、ジ
ョン・スカーリが交渉役となります。
 1962年10月26日、米国の海上封鎖から5日目のこの日
スカーリは、フォーミンとあるレストランで会い、両国の運命を
決める交渉をするのです。このレストランは、ワシントンに現在
もある「オクシデンタル」という店です。この店の壁には金属の
プレートが飾ってあり、次のように書かれています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 『キューバ危機の緊迫した時期に、謎のロシア人「ミスター
 X」がキューバからミサイル撤去の提案書をABCテレビの
 記者ジョン・スカーリに手渡した。この会合が、核戦争の脅
 威の解消に貢献した』。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この謎のロシア人「ミスターX」はフォーミンのことですが、
フォーミンは通称で、当時ワシントンのソ連大使館に駐在してい
た国家保安委員会(KGB)諜報員、アレクサンドル・フェクリ
ソフ氏のことです。肩書きは駐米ソ連大使、ドブルイニン氏の顧
問だったのです。フェクリソフ氏は現在も健在で、モスクワのア
パートに住んでいますが、スカーリ記者は1995年に死去して
います。(添付ファイルはフェクリソフ氏の近影)
 フェクリソフ氏によると、スカーリ記者と10月26日にオク
シデンタルで会ったのは事実であり、自分の方から招待したもの
であるといっているのです。そのときワシントンでは、パニック
が起きつつあり、核戦争を恐れた多くの米国人が街を出て内陸部
に移動しつつあったそうです。
 オクシデンタルでのスカーリとの話で、フェクリソフ氏は核戦
争は「互いに恐怖」があり、やりたくない。そのためには何らか
の妥協が双方に必要であるというのがクレムリンの意向だという
ことをスカーリ記者に伝えたのです。
 この話は、スカーリ記者からラスク国務長官に伝えられ、ケネ
ディ大統領の耳に入ります。そして米政府は実に素早く行動を起
こしたのです。フェクリソフ氏がクレムリンに会合の内容を伝え
る報告書を書き終える前に、ドブルイニン大使の補佐官がやって
きて「スカーリが緊急に会いたがっている」と伝えてきたという
のです。そのときのスカーリ記者は、「上の責任者」の代理とし
て来ているといったそうです。
 これが正しいとすると、映画『13デイズ』と異なります。映
画では、ラストにドブルイニン大使とロバート・ケネディが会う
のですが、実際はフェクリソフ氏とスカーリ記者が会っているか
らです。提案は、次の3つです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ●ソ連は武装解除し、キューバからミサイル基地を撤去する。
 ●アメリカは海上封鎖を解除する。
 ●アメリカはキューバには、侵攻しないことを公に宣言する。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ここでフェクリソフ氏は「上の責任者」とは誰か特定して欲し
いとスカーリ記者に聞いたそうです。このシーンは映画でもドブ
ルイニン大使とロバート・ケネディの間でかわされました。フェ
クリソフ氏はこういったのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 『彼は一語一語はっきりといいました。「ジョン・フィッツ
 ジェラルド・ケネディ」』と。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 それでは、映画ではこの最後の会談をなぜドブルイニン大使と
ロバート・ケネディにしたのでしょうか。
 それは、その方がわかりやすいからです。少し正確にいうと、
あのときケネディとフルシチョフは、電報(テレックス)で私信
をやりとりしていたのです。このことを映画ではほとんど描いて
はいません。10月26日の午前、フルシチョフは、ケネディに
私信の電報を打ちます。それが上記の提案内容なのです。
 ケネディはそのフルシチョフの私信を受け取って迷っていると
きに、フェクリソフ氏がスカーリ記者と会うのです。そこで語ら
れた内容はフルシチョフの私信と同じだったので、フルシチョフ
が本心からそう考えていると判断して、受け入れることを決断す
るのです。しかし、映画の場合、ソ連のスパイと新聞記者が会っ
て国家の一大事を決める背景を説明すると冗長になってしまうの
で、大使と大統領の弟という設定にしたのだと思います。
 フイリップ・ブレナー・アメリカン大学教授は、映画『13デ
イズ』の間違いとして、キューバにミサイル基地だけでなく、戦
術核兵器もあることをあたかも熟知していたように描かれている
点を指摘しています。
 当時米国側でこのことを知っている人は、実は誰もいなかった
からです。キューバには、広島型の核兵器が162発もあったの
ですが、それを察知できなかったのです。マクナマラ元国防長官
はあとでこのことを知って、ワナワナと膝が震わしているのをブ
レナー教授は目撃しているのです。

606号.jpg
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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