2008年04月30日

●地理的に優位に立つウクライナ(EJ第2316号)

 ロシアとウクライナの天然ガスを巡る紛争は、次の2社の間の
紛争に置き換えることができます。しかし、両社はともに国営企
業であり、これは完全に2国間の紛争ということになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ガス供給事業者 ・・・・       ガスプロム社
  ガス需要事業者 ・・・・ ナフトハス・ウクライナ社
―――――――――――――――――――――――――――――
 最初にロシアとウクライナの紛争の結果について述べておくこ
とにします。ロシアは、ウクライナにはガスの供給を止めました
が、ガスはウクライナの領土を通るパイプラインでEU諸国にも
供給されているので、これは止めることはできないわけです。
 寒さの厳しい正月にガスを止められたウクライナは、パイプラ
インの途中に設けられている複数の取り入れ口から、EU諸国向
けのガスを不法に抜き取ったのです。このガスの抜き取り行為に
ついて、ウクライナのユーリー・エハヌロフ首相はそれを認めて
いますが、ウクライナはガスの抜き取りを前にも何回もやってお
り、それほど珍しいことではなかったのです。
 しかし、ウクライナのガスの抜き取りによって、EU諸国への
供給量は3分の1程度減ったのです。こうなると、エネルギーの
安定供給源としてのロシアの信用は毀損することになり、ロシア
としても何らかの手を打たざるを得なかったといえます。
 こういうわけでロシアはガスの供給停止から24時間後にウク
ライナと交渉をはじめ、両国は1月4日に合意に達したのです。
ウクライナのナフトハス・ウクライナ社の交渉の相手になったの
は、ロシア国営ガスプロム社が50%を出資する仲介会社ロスウ
クルエネルゴ社だったのです。
 しかし、その合意の内容としては次の通りですが、ロシア側は
非常に巧妙な仕掛けをしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.ロシア産のガスについては、1000立方メートル当たり
   230ドルの国際価格を支払う
 2.ロスウクルエネルゴ社は中央アジア産の安いガスを購入し
   てロシア産と混ぜ合わせて提供
 3.上記1と2の処置によって、ウクライナが実際に支払う値
   段は95ドルに減額されること
―――――――――――――――――――――――――――――
 この合意でロシア側が狙ったのは、あくまでウクライナに対し
て230ドルという国際価格を飲ませることにあったのですが、
これはクリアしています。これで、従来50ドルであったガス価
格を4倍〜5倍値上げすることに成功しているのです。
 しかし、価格の安い中央アジア産のガス――1000立方メー
トル当たり50ドルとロシア産を混ぜ合わせて95ドルで提供す
るというのですから、ウクライナは2倍程度の値上がりで済んだ
ことになります。
 しかし、ウクライナが勝ち得た95ドルという合意はきわめて
不安定なものです。なぜなら、この95ドルは、ロシア側が、安
い中央アジア産のガスを入手してロシア産の高いガスと混ぜ合わ
せるということが前提に立っているからです。したがって、もし
ウクライナが、ロシアがさらに嫌う政治的方向に進んだ場合は、
いつでもその前提を変える可能性がないとはいえないからです。
 その証拠にロシアは、天然ガスの価格を経済的要因というより
も自国にとって政治的にどのようなポジションを占めるかによっ
てガスの価格を決めているからです。次の表は天然ガス1000
立方メートル当たりの価格です。単位はドルです。
―――――――――――――――――――――――――――――
             2006  2007   備考
 ラトビア     145〜155   217   反ロ
 リトアニア    115〜155   210   反ロ
 エストニア        190   260   反ロ
 ウクライナ         95   130   親欧
 ベラルーシ      46.68   100   親ロ
 モルドバ     110〜160   170 反ロ共産
 グルジア         110   235 反ロ親欧
 アルメニア        110   110   親ロ
 アゼルバイジャン     110   235 
 ブルがニア    257〜258
 ルーマニア    270〜285
 欧州諸国     245〜285   293
     ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より
                        北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見ると、欧州諸国に提供するガスの標準価格は240ド
ル、これに対して親ロシアで有名なベラルーシは、約47ドルと
超優遇されています。ラトビア、リトアニア、エストニアなどの
CIS諸国の平均価格が115〜190ドルであることを考える
と、紛争を起こしてロシアともめて親欧のウクライナは95ドル
とかなり優遇されているように思います。それは、2007年の
数字を見ると歴然としています。
 それは、ウクライナがロシアに対して地理的優位性に立ってい
るからです。ウクライナはロシアの国境を接しており、欧州諸国
との間に存在するという優位性に立っているのです。
 EU加盟の27ヶ国が消費するガスの25%はロシアからの輸
入品であり、そのうちの80%はウクライナ経由で欧州諸国に届
くのです。そして、残りの20%はベラルーシ、ポーランド経由
なのです。
 つまり、ロシアが欧州諸国に送るガスに対して、ウクライナは
その地理的優位性がゆえにガスの通過料をロシアに対して請求で
きるポジションを占めています。ロシアがウクライナに本気で強
く出られないのはそういう理由があるからです。
               ―― [石油危機を読む/27]


≪画像および関連情報≫
 ●ヨーロッパの財閥と企業グループ52欧州財閥の系譜
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  政治・経済の両面でロシアの影響を大きく受けるウクライナ
  は、2005年に改革派で親米派のユシチェンコ政権の成立
  後、暗転し始めました。それまでの好調な経済は、ロシアか
  らの安価なエネルギー資源及び原料の供給、経済発展を続け
  るロシアや中国への輸出等によって支えられてきました。し
  かし、ユシチェンコ大統領は就任直後、ロシアとは距離を置
  き、EUやアメリカなどとの関係を強化する姿勢を示したの
  です。     http://fxthegate.com/2008/02/52_28.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ロシアとウクライナ.jpg
posted by 平野 浩 at 04:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 石油危機を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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