2008年04月25日

●エネルギーを外交手段として使うロシア(EJ第2314号)

 ロシアの石油・天然ガス戦略に話が及んできたので、いわゆる
「地政学リスク」といわれるものについて述べることにします。
なぜなら、これも原油価格高騰に大きな影響を与える要素である
からです。
 ところで、ロシアといえば最近プーチン大統領の再婚話が話題
となっています。これについて21日の日刊「ゲンダイ」紙に興
味ある記事が出ていましたのでご紹介します。
 記事の内容は、プーチン大統領の再婚騒動はクレムリンの権力
闘争だったというのです。このニュースを報道した日刊タブロイ
ド紙「モスコフスキー・コレスポンデント」が休刊したことにつ
いて、外務省元主任分析官佐藤優氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 コレスポンデント紙はクレムリンを巡る権力闘争に巻き込まれ
 たのではないか。次期大統領メドベージェフ周辺がプーチン大
 統領に対する世論の支持と国民の恐怖感がどれくらい残ってい
 るのかを政権交代前に探り、プーチンにダメージを与えようと
 仕組んだ可能性が高い。           ――佐藤優氏
        2008.4.21日付、日刊「ゲンダイ」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 次期大統領メドベージェフ氏には「プーチンの傀儡」というイ
メージがあり、とてもそんなことができるイメージはないように
みえます。しかし、プーチン自身もエリツィンから大統領の指名
を受けて大統領になったにもかかわらず、プーチンはエリツィン
の力をそいで、絶対的な権力基盤を構築しており、メドベージェ
フも同じことをきっとやると思われているのです。
 それでは、メドベージェフ周辺が今回仕掛けた謀略の成果は、
どうだったのでしょうか。
 その判断は非常に難しいですが、ロシアでは過去に大統領の女
性スキャンダルが表沙汰になったことはないのです。エリツィン
もゴルバチョフにも女性問題があったのですが、表沙汰にはなら
なかったのです。しかし、今回はニュースが世界中に流される結
果となっており、これをどうみるかです。もとよりプーチン大統
領が悪いわけではないのですが、この騒動を権力闘争と考えると
ロシアがどういう国であるかがわかります。
 このニュースをなぜ取り上げたかですが、次期大統領のメドベ
ージェフが、2000年から2002年までロシアのガス企業で
ある「ガスプロム」社の取締役会議長(会長)を務めていたこと
があるからです。彼はエネルギーの問題については熟知している
のです。
 「地政学」というのは、もともと19世紀の欧州におけるパワ
ーポリティクス――権力政治の概念であり、ドイツの政治学者カ
ール・ハウスホーファーが学問として体系化したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 地政学とは地理的な環境が国家に与える政治的、軍事的、経済
 的な影響を巨視的な視点で研究するものである。イギリスドイ
 ツ、アメリカ合衆国などで国家戦略に科学的根拠と正当性を与
 えることを目的とした。「地政学的」のように言葉として政治
 談議の中で聞かれることがある。    ――ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、この地政学の概念は拡大され、石油や天然ガスなどの資
源保有国における政治的、宗教的、社会的リスクが国際関係に与
える影響までも含む幅広い問題を取り上げるようになってきてい
るのです。具体的には、イランの核開発問題、ナイジェリアにお
ける反政府運動、ベネズエラにおける反米社会主義的政策による
石油資源の国有化などが上げられますが、いずれも原油価格高騰
に関わる地政学リスクといえるのです。
 ロシアのプーチン大統領は、ロシアにとって石油と天然ガスは
国威発揚の有力な武器になるとの信念を持っているのです。20
05年以降において、彼は石油・天然ガスを次の3つの国家企業
によって独占させることによって、国家戦略として使おうとして
いるのです。
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   石油       ・・・・・ ロスネッチ
   天然ガス     ・・・・・ ガスプロム
   輸送パイプライン ・・・・・ トランススネフチ
―――――――――――――――――――――――――――――
 2006年になると、プーチン大統領はこれを実施に移してい
ます。2006年正月早々、ロシアはウクライナに対して天然ガ
スの供給を停止したのです。かねてからロシアとウクライナは天
然ガスを巡ってもめていたのです。
 このニュースは衝撃をもって全世界に伝えられたのです。遂に
ロシアはエネルギーを外交手段として使い出してきている――世
界はこう考えたのです。どうみても「ウクライナいじめ」としか
みえなかったので、ウクライナに国際的同情が集まったのです。
 なぜ、このようなことになったのでしょうか。なぜ、ロシアは
ウクライナに対し、天然ガスの供給を止めるという措置を取った
のでしょうか。
 その原因は、ロシアのガスプロム社が2005年11月に、旧
ソ連・東欧諸国に対して、天然ガスの輸出価格の大幅値上げを通
告したことに始まるのです。
 しかし、ウクライナに対しては、1000立方メートル当たり
50ドルであった料金を160ドルに引き上げたのです。これに
対してウクライナが反発すると、ガスプロム社はさらに230ド
ルに引き上げたのです。
 当然ウクライナは拒否したのですが、そうするとガスプロム社
は2006年1月から天然ガスの供給を停止したのです。なぜ、
ウクライナにだけはこういう結果になったのでしょうか。
 これについては、双方にいろいろな事情があり、一概にどちら
が悪いとはいえないのです。この問題については、来週のEJで
述べることにします。     ―― [石油危機を読む/25]


≪画像および関連情報≫
 ●地政学リスクとは何か
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  地政学リスクとは、特定地域が抱える政治的・軍事的な緊張
  の高まりが世界経済全体の先行きを不透明にすること。米連
  邦準備理事会(FRB)が2002年9月に出した声明文で
  触れてから、多く用いられるようになった。主に中東情勢の
  緊迫を指すが、予測が極めて難しく、不確実性の増大が企業
  行動や消費者心理に悪影響を与え、外国為替相場が乱高下す
  るなど、経済活動の障害になる可能性がある。
  ―――――――――――――――――――――――――――

ドミトリー・メドベージェフ.jpg

posted by 平野 浩 at 04:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 石油危機を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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