2008年04月24日

●ベトナム天然ガス事業とロシア(EJ第2313号)

 EJ第2311号で、ベトナム油田の開発について次のことを
書いたのですが、再現しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ベトナム沖では、これまで主な探鉱対象とみなされていなかっ
 た花崗岩質基盤岩を対象とする探鉱が近年活発化し、大規模油
 ガス田の発見が相次いでいます。このように、探鉱最前線では
 次々と新たな地質プレイ――従来試みられなかった、新しい地
 質概念に基づく探鉱対象にチャレンジする姿が見られ、発見効
 率が向上しているのです。      ――EJ第2311号
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、ベトナム沖では石油が出ているのですが、この海底油
田はいわく付きであり、ロシアが支援をしていることはあまり知
られていないのです。
 実はロシアは、かなり前から密かに「無機成因説」に立って油
田の探索をやってきていると思われるのです。そのため「超深度
油井」の探索・掘削について高度な技術を持っているのです。
 1970年にロシアは、40230フィートの深度に達する実
験油井を掘ることに成功しています。地球のマントルという非常
に深いところに石油があるという理論なので、深く油井を掘る必
要があるのです。
 ベトナム南部沖の海底油田は、1970年代に米国のモービル
社が開発に着手したのですが、サイゴン陥落後はソ連が引き継い
で、1986年にバクホー油田で商業生産を開始したのです。
 ロシアは、ベトナムに対してある提案をしたのです。ベトナム
に、リスクのない共同石油事業を始めたいと主張したのです。石
油技術者をモスクワから派遣して、ロシアは装備と技術を無料で
提供し、実際に石油が見つかって、その事業が商業ベースに乗っ
た際にはその利益の数パーセントを手数料としてもらえればいい
という提案なのです。
 ロシアとしてはよほど自信がなければ、こういう不利な提案は
しないはずですが、既に超深度油井の掘削に自信を持っていたの
で、ベトナムに提案したのでしょう。一方、ベトナムには失う物
は何もなかったので、ロシアに即時に同意しています。このロシ
アの提案は成功し、ベトナムの石油事業は軌道に乗ったのです。
 結果として、ロシアはベトナムの自信を回復することに助力し
ベトナムは西側諸国の過大な食糧援助への依存を石油事業の成功
によって減らすことができたといわれます。
 ベトナムでの石油採掘は、1960年にハノイトラフで開始さ
れたのですが、当初は成功の可能性が低かったのです。しかし、
当時のソビエト連邦からの技術的・経済的援助のもとでハノイト
ラフにおける採掘は行われ、1969年には初めての試掘井戸が
開坑しています。それ以来多数の油田が掘り当てられ、その過程
で天然ガスも発見されています。このように徐々に石油資源・天
然ガス資源の開発が進められ、やがてベトナムの石油産業は国の
経済を支え、かつ国家歳入の大きな割合――25%近くを占める
基幹的産業となるに至っているのです。
 少し歴史を振り返ると、もともとロシアは1980年代には原
油生産量日量1000万バレルを誇る世界最大の産油国だったの
です。しかし、1980年代後半以降は、原油価格低迷期におい
て石油収入が激減して国家財政が危機に瀕し、ソビエト連邦の崩
壊の引き金になったのです。
 ソ連崩壊後は、社会主義経済から市場経済に移行し、フランス
の石油サービス会社シュランベルジェなどの外国資本の技術を受
け入れ、ロシアの石油産業は劇的に復活を遂げているのです。そ
の結果、ロシアは天然ガス生産第1位、原油生産量はサウジアラ
ビアに次いで第2位のエネルギー大国になっています。
 このようにロシアは、天然ガスに強いのです。実は天然ガスに
強いということは、ロシアが超深度油井の掘削に強いことを証明
しているのです。これは、今後のロシアの国家戦略と深く関って
くるのです。
 天然ガスの利用は、石炭、石油に次いで3番目であり、遅れて
登場してきたエネルギーなのです。なぜでしょうか。その理由に
は次の3つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.天然ガスは運搬が困難な気体であること
   2.天然ガスは石油より深い地層に存在する
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の理由は、固体の石炭、液体の石油と違って天然ガスは気
体であって、運搬が難しく、パイプラインの敷設などでコストが
かかる点が上げられます。
 したがって、当初天然ガスは、ガス田が消費地に近い場合や所
得水準の高い地域でしか利用できなかったのです。しかし、技術
の発達した現在は、まさに天然ガスの時代といえます。
 第2の理由は、天然ガスは石油よりもさらに深い地層に存在し
ていることです。要するに、深く掘る技術がないとガス田の発見
が困難なのです。
 したがって、ロシアが天然ガス生産第1位であることは、ロシ
アが深い油井を掘る技術に優れていることを意味しています。石
油会社はどちらかというと、なるべく深く掘るのは避ける傾向が
あるのですが、ロシアは、そういう技術に長けているのです。こ
れに関連して、藤和彦氏は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 特に地層が深くなればなるほど石油より天然ガスの方が多く存
 在することが確実なので、今後資源探査の対象がより深い層に
 なればなるほど、多くのガス田が発見されてくることになる。
               ――藤 和彦著『石油を読む』
      より。日本経済新聞社/日経文庫1128/A52
―――――――――――――――――――――――――――――
 繰り返しますが、これからは石油の時代というよりも天然ガス
の時代なのです。       ―― [石油危機を読む/24]


≪画像および関連情報≫
 ●天然ガスとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  天然ガスとは、地下から噴出するガスのうちの、メタンガス
  などの可燃性天然ガスをいう。同じ化石燃料ではあるが、石
  油や石炭に比べて燃焼したときの二酸化炭素の排出量が少な
  いことから、環境負荷の少ないエネルギーとして注目され、
  利用されるようになったのである。天然ガス自動車、ビルや
  家庭の冷暖房を行うコジェネレーションなどへの活用も図ら
  れている。             ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●天然ガス自動車
  http://www.gas.or.jp/ngvj/text/ngv_str.html

天然ガス自動車.jpg
posted by 平野 浩 at 04:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 石油危機を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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