2008年04月22日

●「無機成因説」の信憑性(EJ第2311号)

 「石油とは何か」――実はこの基本的なことが現在でもわかっ
てはいないのです。石油は一般的には「化石燃料」といわれます
が、化石燃料とは、古代の動物や微生物の屍骸が変質して、石油
に変化したもの――そこから化石燃料というのです。
 地中奥深く行けば行くほど、マントル層の熱を受けやすくなる
ので、屍骸に高熱が加えられ、そこに地殻の重みも加わって、強
い圧力がかかるのです。この高温と高圧によって屍骸が変質して
石油になるというわけです。
 しかし、石油には、次の2つの説があり、科学的にどちらが正
しいか、結論が出ていないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.生物由来説
          2.無機成因説
―――――――――――――――――――――――――――――
 科学的には「生物由来説」で決まりなのですが、それを裏付け
る証拠というか、根拠は意外に弱いのです。
 ジョージ・メイソン大学のロバート・アーリック教授が上げる
「生物由来説」の根拠を示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.石油の成分には生物由来の炭化水素が含まれていること
 2.しばしば「光学活性」を示し、生物が取り込みやすい回
   転方向の分子が多く混入している
 3.生物が取り込みやすい奇数の数を持つ炭素化合物が多い
―――――――――――――――――――――――――――――
 それぞれが専門的な根拠なので、あえて説明は省略しませんが
「生物由来説」を裏付けるというほど決定的な根拠とはいえない
ように思います。
 これに対して「無機成因説」の根拠は実にたくさんあります。
コーネル大学のトマス・ゴールド教授の意見を基に他の意見を加
えて列挙すると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.採掘してしまった油田から石油が再び同量まで自然に回
   復することがある
 2.地域により石油成分は大きく変わるはずだが、一定成分
   に落ち着いている
 3.生物起源では説明つかぬ成分の含有、地殻深部の石油に
   生物の痕跡がない
 5.生物が生息していた特定地層だけでなく、どんな深さに
   も炭化水素がある
 6.本来生物活動とは関係のない花崗岩の隙間に石油がある
   という事実がある
 7.ペルシャ湾の油田分布を見るとプレート境界に沿って線
   上に配列している
 8.石油中にはダイヤモンドの微粒子が含有――ダイヤンモ
   ンドは無機物由来
     http://www.bekkoame.ne.jp/~mineki/petroleum.htm
―――――――――――――――――――――――――――――
 「無機成因説」は、もともと地球深部に大量に存在する炭化水
素が、地殻の断裂を通じて地表に向けて上昇し、油田を形成した
ものと考える説です。
 地球の深部から地表に上昇してくるプロセスにおいて動物の屍
骸を巻き込んだとすれば、「無機成因説」で「生物由来説」の説
明もできてしまうことになります。
 実は、最近「無機成因説」を裏付ける数々の事実や現象が続出
しているので、その1つが「生物由来説」では探鉱対象になり得
ない地点――深さが5千メートル以上のところで、相次いで発見
された油ガス田の存在です。
 堆積盆地を掘り進んだ基盤岩の内部に垂直方向に広がる油田、
基盤岩が地表まで盛り上がった「楯状地」で発見された油田など
いわゆる「基盤岩油田」は世界で450以上も商業化されている
のです。
 米国科学アカデミーが2004年9月に発表した興味ある論文
があります。その論文は、人工ダイヤモンドで密閉した微少な空
間に方解石、ウスタイト、水という地殻に豊富に存在する物質を
入れ、上部のマントルに相当する高温高圧条件下に置いたところ
容易に油ガスが生成されたというのです。生物が関与せず、水と
岩石の反応だけで生成されることを実証したという内容です。
 最近になって新規発見油田に目を向けると、かつて探鉱が困難
であった大水深部――西アフリカ、ブラジル、メキシコ湾、東南
アジアにおける水深500〜2000メートルの大陸棚の斜面で
近年数億バレル規模の大油田が極めて高い成功率で次々と発見さ
れているほか、カザフスタンのカシャガン油田やイランのアザデ
ガン油田など、1980年代に発見されなかったような超巨大油
田も新たに発見されているのです。
 さらに、ベトナム沖では、これまで主な探鉱対象とみなされて
いなかった花崗岩質基盤岩を対象とする探鉱が近年活発化し、大
規模油ガス田の発見が相次いでいます。このように、探鉱最前線
では次々と新たな地質プレイ――従来試みられなかった、新しい
地質概念に基づく探鉱対象にチャレンジする姿が見られ、発見効
率が向上しているのです。
 これだけの根拠があるのに、「無機成因説」は科学的には一顧
だにされていないのです。AとBという2つの説があって、A、
すなわち「生物由来説」ですべてが説明できない状態にあるのに
もうひとつの説であるB、すなわち「無機成因説」をなぜ積極的
に解明しないのでしょうか。
 日本の学界にはこういうことがよくあるのです。まして日本は
資源が乏しい国といわれているのですから、騙されたと思って予
算を付けて、「無機成因説」を本気で研究してみるべきではない
でしょうか。案外日本列島の下からとんでもない油田が眠ってい
るかも知れないのです。    ―― [石油危機を読む/22]


≪画像および関連情報≫
 ●原油無機起源説に脚光か/電気新聞より
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  「石油・天然ガスは地球内部で無機的に生成され続ける」と
  する無機起源説を見直す動きが出始めている。従来の有機起
  源説では説明が難しい油ガス田の発見が世界各地で相次いだ
  ことに加え、米国科学アカデミーが上部マントルを再現した
  環境で無機的に油ガスを生成する実験に成功するなど、妥当
  性を裏付けるような事実が明らかになってきたためだ。仮に
  妥当ならば資源量は無限に近く、エネルギー情勢、世界経済
  は劇的に変わる。日本エネルギー経済研究所総合戦略ユニッ
  トの中島敬史・主任研究員は「資源開発の可能性が格段に広
  がる。常識にとらわれないオープンな議論を」と話す。
http://www.shimbun.denki.or.jp/backnum/news/20050715.html
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製油所の風景.jpg
posted by 平野 浩 at 04:26| Comment(1) | TrackBack(0) | 石油危機を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
無機成因説(石油鉱物説とも言った)の方が、理解しやすい。石炭は、その起源となる木の種類まで解っているのがあるが、また深さも数百mまでだが。
 石油は、地下5000mでも出てくる。天然ガスも考えると、どうしても生物の化石とは思えない。
Posted by 久枝 克則 at 2012年08月12日 12:34
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